スレイヤーズ めぐみん! (作者B)
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Adventure! めぐみん冒険の始まり

2期開始に釣られて投稿
主人公はあの紅魔族随一の天才です。


「ぐあぁぁぁッ!!」

 

 月も見えない暗闇の中、爆発音と共に男たちの悲鳴が木霊する。獣さえも寄り付かぬ深い森。そこを火の海が、まるで昼間の様に辺りを明るく照らす。

 

「な、何事だ!この攻撃、俺たちをあの盗賊団『ドラゴンの牙』だと知っての狼藉か!?」

 

 そんな中、他よりもひとまわり体格の大きい、厳つい風貌の男が、声を上げながら必死に周りを見回している。そして、周囲の木々はそんな男たちを逃がさぬように燃え広がる。その様子を確認した私は、炎の奥から男たちの前に姿を現した。

 燃え上がる焔を背景に、腰まで届く黒い髪と黒いマントを棚引かせて立つ私。それを見て、恐らく男たちのリーダーであろう厳つい男が目を見開く。

 

「て、てめぇは……!?」

「やれやれ。私の顔も、こんなところにまで届いてしまいましたか」

 

 私は頭に被っている大きめのトンガリ帽子の鍔を軽く掴み、男たちの方へニヤリと視線を送った。

 

「あ、あたりめぇだ!盗賊団の連中で、てめぇを知らねえ奴なんざこの辺りには居やしねぇ!」

 

 この言葉を聞いて、私は益々気分を良くする。悪党相手とはいえ、有名になるというのはいいモノだ。

 

「御頭!何だってそんな驚いてんですかい!?たかが餓鬼一人ですぜ!」

 

……ん?

 

「馬鹿野郎!お前知らねえのか!?ロリで平べったい胸で頭のおかしい紅魔族のチビが、俺らも引くぐらいの容赦の無さで、盗賊団を次から次へと襲ってるって噂をよぉ!」

 

……おや?

 

「なんだって!?それじゃあ、こいつが『盗賊殺し(ロバーズ・キラー)』、『ドラゴンも跨いで通る』と言われている、あの悪名高き……!」

 

 ……おっと、今の話を聞いてたらついうっかり、右手に火炎球(ファイアー・ボール)を出現させてしまった。私ほどの実力者となれば、これで家ひとつ丸々吹き飛ばせてしまうので、扱いには重々気を付けなければいけない。

私は、そんな火炎球(ファイアー・ボール)を―――

 

「手が滑ったぁぁぁぁぁ!」

 

目の前の連中に向かって全力投球した。

 

「ぎゃぁぁぁぁッ!!」

 

そして、偶然にも男たちに被弾してしまった。おお、くわばらくわばら。

 

「ふぅ……さて、悪も滅びたことですし、お宝を頂きますか」

 

 周囲に動いている人影が居なくなったのを確認した私は、盗賊団が隠し持っていたお宝の物色を始めた。

 ほうほう、今回も中々の収穫だ。これだから、この小遣い稼ぎは止められない。ゆんゆんは一々小言を言ってくるが、相手は所詮悪人。感謝されこそすれ、誰にも咎められる謂れはない。

 

 思えば、ここまで長かった。

 やっと魔術が使えるようになったというのに、駆け出し冒険者の街『アクセル』に行こうにも、紅魔の里にそこまでテレポートできる人は居なかった。その上、最寄りの街である『アルカンレティア』へ送ってもらおうにも、代金として片道30万エリスも掛かる。さらに、そこからアクセルまで行くのにも馬車に乗らなければならない。

 そんなわけで、ちまちまと盗賊団を狩りながらお金を貯め、アルカンレティアに送って貰ってからも盗賊団から戦利品を強奪し、そうしてようやくアクセルに辿り着いたのだ。

 ……まあ、アクセルに来てからも、正直モンスター狩りより実入りの良い盗賊団狩りをしているのが現状なのだが。

 

「―――って、そういえばそうです!こんなことをしている場合ではありませんでした!」

 

 盗賊たちの金銀財宝を袋に詰めながら、思わずハッとする。

 そうだ。私がアクセルに来たのは、盗賊団をカモにするでも、金を稼ぐでもない。冒険者になるためだった。いくら、魔術の慣らしのために盗賊団を相手にしていたとはいえ、人間相手、それも半殺しじゃ経験値も入らない。

 

「……組みますか、パーティを」

 

 正直、アクセル周辺の魔物相手なら私一人でも恐らく問題ない。でも、この先どんなモンスターと遭遇するかわからない以上、今のうちにパーティを組んでおく方が賢明だろう。

 だが、問題は組む相手だ。私の魔術(・・)について変な探りを入れられるのは、勘弁してほしい。付き合いの一番長いゆんゆんにさえも、詳しいことは話していない。と言うよりも、私自身でさえ全容を把握できていないのだ。

 そんな、よくわからない術を使う低レベルの上級職という、あからさまな地雷臭のする冒険者など、果たして入れてくれるパーティはあるのだろうか。

 

「はぁ……何処かに、パーティ相手を詮索する余裕のないほど切羽詰まっていて、ついでに魔法の知識に疎いパーティは居ないものでしょうか」

 

 あと、できれば上級職が居ると尚の事いい。それなら、私だけ変に浮くこともない。

 

「まっ、そんな都合のいいパーティがあるわけないですけどね」

 

 

 

 

 

*****

 

「ぬわぁぁぁッ!」

 

 盗賊団から頂いた財宝で懐が温かくなったのを感じつつ、3日ぶりにアクセルの街へと帰っている途中、どこからか男性の悲鳴が聞こえてきた。視線を向けると、そこには、ショートソード片手に巨大ガエル『ジャイアントトード』に追いかけられている、変わった服装の少年が居た。

 態々ジャイアントトードと戦っているということは、同業者か。だったら、助けると却って面倒なことになりそうだ。冒険者の中には、他の冒険者のクエストに無理やり乱入し、助けた礼だと言って報酬をむしり取る輩も居るらしい。そう言った連中に間違われるのは勘弁願いたいところだ。それに、冒険者ならば多少のピンチも覚悟の上だろう。

 

 そこまで考えてその場を去ろうとし、足が止まる。

 ……待てよ。あの装備を見る限り、少年は如何にも最近冒険者になりましたって恰好だった。そして、本来4~5人で狩るジャイアントトードを一人で狩っているということは、大した知識も持ってないか、余程切羽詰まっているのだろう。

 

「……ふむ、お節介をかけてみますか」

 

 一度そう決心すると、私はアクセルへ帰る足をそのまま少年の方へ方向転換した。

 

「すみませーん。要らぬお世話でなければ、お手伝いしましょうか?」

「えッ!?な、何だッ!?い、いや、誰でもいい!助けてくれぇッ!」

 

 よし、これで言質は取った。私はその場で呪文を唱えると、ジャイアントトードに照準を合わせる。

 

「【炎の槍(フレア・ランス)】!」

 

 右手に現れた炎の槍をジャイアントトードへと放つ。打ち出された槍は速度を増していき、そのままジャイアントトードの頭部へと着弾する。

 そして、爆炎と共にジャイアントトードは動きを止め、その場に倒れた。

 

「た、助かったぁ~」

 

 少年はジャイアントトードが動かなくなったことを確認すると、一気に緊張感が切れたのか、その場に座り込む。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。誰だか知らないけど、ありがとう……」

 

 私が近くへ様子を見に来ると、少年は疲労しながらも私の方へ顔を向ける。どうやら、大した怪我はしていないようだ。

 

「それで、ひとつ聞きたいのですが」

 

 少年の様子を確認した私は、近寄って行った際に気が付いた、あることを彼に問いかける。

 

「あそこのジャイアントトードの口から見える人間の両足、あれは貴方の仲間ですか?」

 

 私の指さした先には、先程と別のジャイアントトードが、人間の足らしき物を咥えながら座っていた。

 

「あッ!やべぇッ!自分のことに手一杯ですっかり忘れてた!アクアを助けないと!」

 

 少年の反応からして、どうやら仲間らしい。辺りを見回しても、他に食われている人間がいないところからして、二人パーティなのか。

 救出に駆け出す少年の後ろで、私は再び呪文詠唱を行い、懐から短剣を抜く。

 

「【影縛り(シャドウ・スナップ)】!」

 

 私の手から放たれた短剣が少年を追い越しジャイアントトード、ではなくその影に刺さる。すると、食事の為に元々動きが鈍くなっていたジャイアントトードが、一切動かなくなった。

 

「な、なんだ!?」

「動きを封じました。救出は私がやるので、その間にジャイアントトードの方を願いします」

「え?わ、分かった!」

 

 私は素早くジャイアントトードに駆け寄るとそのまま背中を駆け上がり、口から飛び出た両足を掴んで一気に引き抜く。そして、咥えられていた粘液まみれの少女を担ぐと、そのまま背中を滑るように降りる。

 

「これで、どうだ!」

「ギュピィッ!」

 

 すると、少年の方も止めをさせたようで、ジャイアントトードは断末魔と共にその場に倒れた。

 

 

 

 

 

*****

 

「いやぁ、さっきは助かったよ。ありがとう!」

 

 場所は変わり、此処は冒険者ギルド。私は少年たちに付き添い、討伐したジャイアントトードをギルドに換金してもらった。そして、そのまま隣の酒場へとやってきたのだ。

 

「いえいえ、偶然通りがかっただけなので」

「謙遜することないわ。あなたの華麗な魔法捌き、カズマなんて目じゃないほど素晴らしかったもの!」

「お前は食われてて見てないだろ。そもそも、今回お前、何の役にも立ってないからな?」

 

 ぷはーっとシュワシュワを豪快に飲み干した少女を、少年は冷たい目で見つめる。

 

「いやぁ、アクアがジャイアントトードに食われ―――囮になってる間に1匹は倒せたんだけど、2匹目を倒そうとしたときに別の奴が出てきちまって。本当サンキューな。代わりって言ったらなんだけど、今晩はこっちが奢るからいくらでも食べてくれ」

「本当ですか?それでは遠慮なく……すみませーん!」

 

 少年の言葉を聞いて、私は近くにいたウェイターに声をかける。

 

「はい、なんでしょうか?」

「えっと、メニューのここからここまでを―――」

「ず、随分食べるんだな……」

 

 私はテーブルに置かれたメニュー表の上段を、ウェイターが見やすいように指差す。目の前の少年が何か言ってる気がするが、気にしない気にしない。

 

「5人前ずつ」

「かしこまり―――はい?」

 

 ん?聞こえなかったのだろうか?

 

「ですから、5人前ずつお願いします」

「そ、それはちょっと―――あっ……か、かしこまりました」

 

 一瞬躊躇したウェイターだったが、私の顔を見て何かを察したのか、そそくさとキッチンの方へ歩いて行った。すると、何故か少年が顔をひきつらせながら私の方を見ていた。

 

「何か?」

「え、えっと……あっ!アレだよな!?もしかして俺たちの分まで頼んでくれたりとかしたんだよな!そうだよな!?」

「いえ、全部自分の分です」

 

 その言葉を聞いた瞬間、少年の顔が絶望に染まる。ふっ、私に向かって奢るなどと軽々しく言うからそういうことになるのだ。そんなこんなしていると、先ほど注文したメニューが、少年たちが頼んだ料理と共に次々と運ばれてきた。

 

「ちょっとカズマ!料理来たわよ!食べないんなら私がもらうわね」

「あっ、てめぇ!だったら、その唐揚げは俺のものだからな!」

「あーっ!あんた、女神への供物を盗み取ろうなんて罰が当たるわよ!」

 

 喧々囂々と食事を食べる二人を眺めながら、私も自分の料理を口の中へせっせと運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、知ってるか?あの『ドラゴンの牙』が壊滅したって話」

「本当か!?確かあの盗賊団って、ドラゴンを飼ってるって噂だろ?」

「マジだって!騎士団が調査に行ったら、ボロボロになった盗賊団の連中が倒れてたって話だ」

「盗賊だけ?ドラゴンは?」

「さあな、知らん。もしかしたら、騒ぎに乗じてどっかに逃げちまったのかもな!」

「あっはっは!そんなわけあるかよ!大方、騎士団がついでに討伐したんだろうよ」

 

 

 

(ふーん。物騒なこともあったもんだ)

「いだたき!」

「あっ!アクア、てめぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はアクア!冒険者になったばかりなのにも拘らず、プリースト系の魔法をすべて習得している超優秀なアークプリーストよ!」

 

 食事も終わり、私の平らげた料理の皿の山を見て絶句している少年を余所に、少女が自己紹介を始めた。

 ……流石に食事代は割り勘にしてあげよう。

 

「それで、こっちはヘタレで引きニートのカズマ」

「ひ、引きニート言うなし!第一、その引きニートに助けられたのはどこのどいつだ?」

「なっ!?あ、あれはちょっと油断しただけよ!あんなカエル、私なら瞬きする間に皆殺しにできるわ!」

「おうおう!そこまでいうのなら明日見せてもらおうじゃないか!」

「もちろんよ!女神ですから!」

 

 何だか、かなり濃い人達だ。まあ、こういったタイプは幼少期から見慣れているが。

 

「それでは、私も名乗らせていただきましょう」

 

 私はその場に立ち上がると、右手で大きくマントを広げ、そのままトンガリ帽子の鍔を少し持ち上げた。

 

「我が名は"めぐみん"!紅魔族随一の天才にして、黒魔術を行使する者!」

「……」

 

 私の名乗り上げを見た二人が、まるでどう反応すればいいか分からないといった顔をしている。

 おかしい。いつもなら、この独特な自己紹介を聞いた相手は若干私から距離を取りながら「な、なるほどな」と一定の理解を示してくれるのだが……

 

「……もしかしてご両人、紅魔族を見るのは初めてですか?」

「え?こ、紅魔族?」

 

 やっぱりそうか。

 

「それは失礼しました。改めまして、めぐみんです」

「え?あ、ああ。これはご丁寧にどうも」

 

 先程の自己紹介と全然違う態度を見て、向こうは混乱しながらもこちらに向き直った。

 

「それで……さっきの挨拶、みたいなのは一体?」

「あれは私たち紅魔族がよく使う口上です。あれを言うと、私が紅魔族だと相手に一発で伝わるので」

「な、なるほどな……」

 

 取り敢えず、この少年にもある程度理解してもらえたようだ。

 すると、今まで黙っていた少女、アクアが興味深そうな目で私の方を観察し出した。

 

「ねえ貴女、紅魔族ってことはもしかしてアークウィザード?」

「その通りです」

「本当!?ちょっとカズマ!凄いわ、この娘!魔法使いの上級職よ!」

 

 私の職業を聞いたアクアが、ぱぁっと笑顔を咲かせて少年、カズマの肩を何度も叩く。どうやらアクアは、知識の上では紅魔族のことを知っていたらしい。

 

「痛っ!そんなに叩くなよアクア!それでその、紅魔族ってなんなんだ?」

「紅魔族ってのはね、生まれつき高い魔力と知力を持って生まれてくる少数部族で、その住民のほとんどが上級職であるアークウィザードの適性を持ってるのよ!」

「マジで!?そんなチート集団が居るのかよ!」

 

 ちーと?よく分からない言葉を使うな。もしかしてこの少年、カズマという名前といい、勇者候補なのか?いや、それにしては、強力なスキルを持っている様子もないし、伝説級の武器も見当たらない。

 そんなことを考えているとカズマがこちらに視線を戻した。

 

「それで、えーっと……」

「めぐみんです。因みにこれは本名です。紅魔族は皆一風変わった名前をしていますので」

「そ、そうなのか。変わってるって自覚はあるんだな」

 

 そう。私が言うのもなんだが、紅魔族は名前だけじゃなく性格も一風変わっている。魔法を使うときに格好いいだけの意味のない呪文を唱えたり、格好いいからと服装を赤や黒で統一したり、格好いいという理由だけで紅魔の里の周辺に邪神を封印したりetc...

 そういう意味では、比較的大衆寄りの感性を持っている私は、紅魔族の中では異端児ともいえる。まあもっとも、ゆんゆんと違って私は紅魔族のノリに合わせることができたので、変な目で見られることは少なかったが。

 

「ねえねえ!冒険者カード、見せて見せて!」

「こら、アクア!いきなり失礼だろ!」

「構いませんよ。はい、どうぞ」

 

 少女、アクアに催促されて、冒険者の身分証明書である冒険者カードを渡す。これには持ち主の経験値、レベル、ステータス、習得済みのスキルやスキルポイント、倒したモンスターの種類や討伐数などが記載される。

 

「確かにアークウィザードって書いてある。カードは偽造できないようになってるから、間違いないわ」

「すっげーな……あれ?なんかここ、表示がバグってるような―――」

「さあ、私のことはもういいでしょう!それよりも、二人のことを教えていただけますか?」

 

 私はカードを素早く取り上げ、懐に仕舞う。

 そして、二人に話を聞いたところ、冒険者になったは良いものの、毎日毎日が土木工事のバイトの繰り返しで飽き飽きしていたらしい。そこで、思い切って討伐クエストを受けてみたところ、先ほどの状況になったようだ。

 

「やっぱりあれね。二人じゃ無理!」

「そればっかりは同意だな……」

「あーあ、どこかに私たちの仲間になってくれる上級職の冒険者は居ないものかしらーチラッチラッ」

「おい、擬音を口で言うな。迷惑だろ」

 

 アクアはわざとらしくこちらに目配せをしながら、まるで神に祈る僧侶の様に両手を合わせている。まあ、そんなことをされなくても、こちらの答えは端から決まっているが。

 

「いいですよ」

「ほら、めぐみんだって困って―――え?」

「だから、いいと言っているのです」

「マジで!?いいの!?」

 

 向こうは、まさか了承されると思っていなかったのか、カズマが思いっきり身を乗り出してきた。

 

「はい。私もそろそろ、パーティを組もうと思っていたので」

 

 別に嘘は言っていない。私にはある目的がある。そのためには、私一人の力だけでは不十分だ。そういう意味では、私にとってもこの話は渡りに船だった。

 

「で、でもさ、めぐみんはアークウィザードなんだろ?それだったら、態々駆け出しのパーティに入らなくても」

「何を言ってるんですか。アークプリーストがいるパーティなんて、本来なら他所から勧誘されてもおかしくないですよ?」

「いや!確かにこいつはアークプリースト(そう)だけど、えっと、なんて言えばいいか―――」

「もーしつこいわよカズマ!本人がいいって言ってるんだから別にいいじゃない!」

 

 何やら頭を抱えているカズマの背中を、アクアがバシバシと叩く。

 

「それじゃあ、めぐみんが仲間になってくれたお祝いに……すみませーん!シャワシャワ1本追加で!」

「お前はいつまで飲んでんだ、この駄女神がぁぁぁ!」

 

 カズマの怒声が、酒場の喧騒の中に大きく響き渡った。

 

 

 

 

 

*****

 

 翌日、私はカズマ達が受注している、昨日のジャイアントトードー討伐の続きを行うために再び草原へとやってきていた。

 

「既に二体居ますね。どうします?」

「めぐみんは遠くの方を狙ってくれ。ほら、アクア。昨日行ってたみたいに、あのカエルをぱぱーっと倒して来いよ。それでも元なんたらなんだからさ」

「あんたねぇ……ふんっ!冒険者(さいじゃくしょく)のカズマはそこで見てなさい!あんなカエル、私に掛かれば一瞬よ!うおぉぉぉぉぉ!」

「ところでめぐみん。昨日の短剣のやつ、やらないのか?動きを止められて便利だと思うけど」

 

 ジャイアントトードへ走って行ったアクアを無視して、こちらに話しかけてくるカズマ。なんというか、ずいぶんと肝が座っっているな。

 あっ、アクアがまた食べられた。

 

影縛り(シャドウ・スナップ)ですか?あれは短剣を相手の影に突き立てないといけないので、私の投擲技術ではかなり近付かないといけません」

「なるほど、そう旨い話はないってことか。それじゃあ、どうするんだ?」

「これだけ離れていれば簡単ですよ」

 

 カズマに後ろへ下がるように手で伝え、私は右手を構えて呪文を唱える。

 

「【破弾撃(ボム・スプリッド)】」

 

 右手に出現した、火炎球(ファイアー・ボール)にも似た光球を、ジャイアントトードーに向けて放つ。

 

炸裂(ブレイク)!」

 

 そして、ジャイアントトードーの顔の近くで、その光球を炸裂させた。

 

「おお!なんかすげぇ!ってあれ?全然効いてないように見えるんだけど」

「ええ。今のは殺傷力のまったくない、ただの虚仮威しです」

「ちょ!何やってんの!?ほら!そんなことやってるからこっちに気付いちゃったよ!」

 

 カズマが指差す先には、先ほどのジャイアントトードーが私を標的に定めたようで、こちらに向かって跳ねてきている。私は慌てるカズマを余所に、再び、先ほどよりも長い詠唱を行う。

 右手に集まる魔力は、先ほどの音爆弾などではなく、殺傷力を持つほどの強力な炎。

 ……これだけ引き付ければ十分!

 

「【爆炎矢(ヴァ・ル・フレア)】!」

 

 ジャイアントトードーがこちらに向かって跳ねた瞬間、私の手から先日の炎の槍(フレア・ランス)よりも強力な一筋の炎が放たれる。そして炎は、ジャイアントトードに着弾した瞬間、周囲を巻き込みながら炸裂した。

 

「うおっ!」

 

 爆発による風が私たちの肌を撫でる。そして、舞い上がった砂塵が止むと、視線の先には丸焦げのジャイアントトードが一体倒れていた。

 

「すっげぇ……」

 

 カズマの感嘆の声を聞いて、ふふんと鼻を鳴らす。まあ、私に掛かればこんなものだ。

 次の標的を探そうと辺りを見回す。すると、視界の範囲内に居るジャイアントトードが、何故か一斉に何処かへと離れて行ってしまった。

 ……おかしい。この程度の騒ぎで逃げるようなモンスターではないのだが。すると、カズマは何か気付いた様に空の向こうを見始めた。

 

「む?どうしたのですか?」

「え?あ、いや。なんか向こうから飛んできてるような……」

「はて。この辺りで飛翔系生物といえば何でしたっけ?」

 

 私もカズマと同じ方を向き、目を凝らす。確かに、黒い何かが飛んでいるようようだ。それに、カズマの言うとおり、こっちに向かっているような気も……

 

「……なあ、めぐみん。あれ、鳥にしては首が長くないか?」

「そうですね」

「それに、尾羽じゃなくて尻尾みたいなのが見えるんだけど」

「確かに、見えますね」

「…………めぐみん。俺の気のせいじゃなければ、あれ、世間一般で言うドラゴンに見える気がしないでもないんだけど」

「正確には、手が翼と一体化しているのでワイバーンですね」

「……」

「……」

 

 私の言葉を聞いたカズマの口から言葉が途切れる。

 

「―――ふ」

「ふ?」

「ふざけんなぁッ!なんでドラゴンなんかがここに居るんだよ!ここは駆け出し冒険者の街じゃなかったのかよ!」

 

 カズマから、魂の咆哮が飛び出した。

 けど、確かにおかしい。この辺りに間違っても、ワイバーンとはいえ竜種が迷い込むことなんてありえない。それこそ、誰かが意図的に追い込んだり、持ち込んだりしない限りは。

 

「もしかしてあれか!?この間壊滅した『ドラゴンの牙』とかいうのが飼ってたやつか!騎士団が討伐したんじゃなかったのかよ!」

 

……え?ドラゴンの牙?

 

「―――おい、めぐみん。何故俺から目を逸らした」

 

 どうやら、無意識の内に私の身体が正直に反応してしまったらしい。いや、ここは私の巧みな話術で誤魔化せば……!

 

「な、何のことでしょう?私は、ここから3日ほど先にある森の中に拠点を作ってた盗賊団なんて知りませんよ」

「明らかに何か知ってるじゃねえか!」

 

 な、何故ばれた!?

 

「わ、私だってワイバーンは今初めて知りましたよ!確かに私は数日前、日課兼趣味の盗賊団狩りをして『ドラゴンの牙』から金品を巻き上げましたけど、その時はワイバーンなんて見当たりませんでしたし!」

「おい待て。ちょっと突っ込みどころが多すぎるんだけど―――いや、今はいい。それよりも早く逃げるぞ!」

 

 カズマが私の手を引っ張り、ワイバーンが飛んで来る方角と逆の方向へと逃げようとする。

 

「無駄ですよ。ワイバーンの速力だと、すぐに追いつかれます」

「じゃあどうするんだよ!この辺りは平野だから、隠れる場所なんてないし!」

 

カズマが騒いでいるうちに、ワイバーンみるみる近づいてくる。

 

「やばいやばいやばいやばい!それに心なしか、俺たちの方へ向かって来てるし!」

「あれは、完全に私たちを狙ってますね。これは隠れるのも効果が無さそうです」

「なんでそんなに冷静なんだよ!めぐみんが蒔いた種なんだから、何とかしてくれよぉ!」

「いいですよ」

「倒せとは言わないからどうにか凌いで―――今なんて言った?」

 

 信じられないことを聞いたといった表情のカズマに、私は改めて言葉を返す。

 

「だから、いいですよと言ったんです。雑種竜(デミドラゴン)程度、私の敵ではありません」

「おおぉっ!マジか!」

「マジです。ですが、カズマにも一つ手伝って貰いたいことがあります」

「おう!アイツをどうにかできるってんなら、なんだってやってやる!」

 

 私の頼みにカズマは二つ返事で答える。まあ、これだけ気合十分なら問題ないだろう。

 そうこうしている内に、ワイバーンが私たちの前に降り立った。皮膚を覆うかたい鱗、長く伸びた尾、両腕に同化した大翼。竜種の中でも比較的弱いとはいえ、こいつに掛かれば村ひとつ滅ぼすことだって容易い。間違っても、駆け出しの冒険者が戦う相手ではないだろう。そんなワイバーンが今―――

 

「グォァァァッ!!」

 

 吼えた。人間の倍以上の体長から放たれる咆哮は、私たちを身体の奥から震わせた。

 

「ち、近くで見ると迫力が……そ、それで、めぐみん。俺は何をすればいいんだ?」

「それでは、あいつの気を引いてください」

「……え?」

 

 この男は。この状況で聞いてなかったのか?

 

「ですから、私が呪文を唱えている間、あのワイバーンの気を引いてください」

「いやいやいやいや!何言ってんの!?駆け出しの、それも最弱職の冒険者に何言ってんの!?」

「大丈夫。30秒程度でいいですから」

 

 私達、というよりもカズマが騒いでいる間、ワイバーンは私達を値踏みするように見ている。問答無用で襲わない辺り、人に飼われていたという話に信憑性が出てきた。これは、飼い主から不用意に攻撃するなと躾けられているからであり、つまり、こちらが何かすれば問答無用で襲ってくるということだ。

 

「無理!無理だって!こういうのはもっと、城とかダンジョンとかを突破した先に戦うものであって!」

「【爆裂陣(メガ・ブランド)】」

「うおぁッ!」

 

 いい加減うるさくなってきたこの男を、攻撃力のない衝撃波でワイバーンの前へ吹き飛ばす。

 

「痛たたた……めぐみん!急に何を―――ん?」

 

 自らを覆う影に気が付いたカズマは視線を上げ、その先に居るワイバーンと目が合った。

 

「……えっと、ど、どうも」

「グォァァァァァッ!」

「ぬわぁッ!ちくしょぉぉぉ!覚えてろよめぐみぃぃぃん!」

 

 カズマを獲物と認識したワイバーンが、逃げるカズマを追いかけていく。ワイバーンは飛行速度こそ速いものの旋回性能は低く、人間一人追いかけるに空を飛ぶのは向かない。かといって地面を走ろうにも、本来そういう運動を想定した進化をしてないため、足はあまり速くない。つまり、短時間なら駆け出し冒険者でも時間稼ぎはできる。

 さてと。カズマの頑張りを無駄にしないためにも、私は掌を向い合せる様に両腕を前に突き出す。

 

「黄昏よりも暗き存在(もの) 血の流れよりも赤き存在(もの)

 

 両手の間に魔力が集まる。それは、今まで使用した魔法の比ではない、膨大な魔力。

 

時間(とき)の流れに埋もれし偉大なる汝の名において 我ここに闇に誓わん」

 

 悲鳴交じりの怒声を上げながら逃げるカズマを、ワイバーンは2本の足を使って追いかける。やはりあのワイバーン、飼われていた影響か、体格が小さい気がする。これならカズマでも問題なさそうだ。

 

「我らが前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに」

 

 より一層、赤い輝き放つ魔力球を、形を保ちつつゆっくりと右脇に構え直す。

 

「我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを」

 

 左足を踏み込み、目の前のワイバーンへと標準を合わせる。そして、右脇に携えた魔力球を一気に前に押し出す!

 

 

 

「【竜破斬(ドラグ・スレイブ)】!!」

 

 

 

 私の両手から放たれた魔力が、赤光の軌跡を伸ばし、ワイバーンに着弾する。

 

 刹那

 ワイバーンの周囲一帯を強烈な爆発と轟音が包んだ。すさまじい爆風により周囲のジャイアントトードも吹き飛ばされる中、私は両腕で顔を庇う。

 風が止み、舞い上がった砂が晴れたころには、ワイバーンの居た場所には半径十数メートルのクレーターが生成されていた。そしてよく見ると、クレーターの外側に緑色の服を着たカズマがピクピクしながら倒れていた。

 

「どうでしたか?我が最強呪文の威力は?」

「し、死ぬかと思った……」

 

 私が近づくと、カズマは息も絶え絶えといった様子で返答してきた。まあ、着弾位置を考えて撃ったので、カズマは爆風に煽られて吹き飛ばされただけだから、大した怪我はないだろう。

 

「……色々言いたいことはあるけど、ワイバーンは?」

「大丈夫です。ちゃんと倒しましたよ」

 

 私の視線の先には真っ黒に焦げ、力なく倒れるワイバーン。まあ、あの呪文はそもそもドラゴンを倒すために開発されたのだから、倒せて当然と言えば当然なのだが。

 

「それで、ひとつ確認したいのですが」

 

 カズマの様子を確認した私は、近寄って行った際に気が付いた、あることを彼に問いかける。

 

「あそこのジャイアントトードの口から見えるアクアの両足、あれをどうにかした方がいいのでは?」

 

 私の指差した先には、最初の頃に居た別のジャイアントトードが、アクアの足らしき物を咥えながら座っていた。

 

「げっ!そういえばワイバーン騒ぎですっかり忘れてた。めぐみん、頼む」

 

 先程の囮で余程疲れたのか、起き上がったカズマはなんの躊躇いもなく救出を私に放り投げた。しかし私は、そんなカズマに残酷なことを伝えなければならない。

 

「それはできません」

「……え?」

 

 一瞬、何を言いているのか分からないといった表情のカズマ。

 

「あれほどの大技を出したんですよ?もう魔力もほとんど残っていません」

「えっと、つまり―――」

「救出、頑張ってください」

「ちくしょぉぉぉぉぉッ!」

 

私の言葉を聞いたカズマは、涙を流しながら全力でジャイアントトードの下へと走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 




めぐみんのキャラが色々違うのは一応伏線です。



まとめると、

原作めぐみん:使用する機会が限られる魔法を1日1回しか使えない。
本作めぐみん:このすばで言う上級魔法+爆裂魔法を使える。ただし、クエストと関係ない敵が一定確率でエンカウントする。

といった感じです。果たして、どっちの方がいいのか……

因みに年齢は原作と同じ13歳です。


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Bond! 盗賊少女と聖騎士!?

前回の話だと分かりにくかったかもしれませんが、めぐみんは黒髪ロングの13歳です。


 つい昨日のこと、ワイバーンを討伐して新たにドラゴンスレイヤーの称号を獲得した私は、無事にパーティに加わることとなった。その際に、カズマが何やら私のことを死んだ魚のような目で見ていた気がするが、私のような超絶美少女天才魔道士が仲間になったというのにそんな顔をするわけないので、きっと気のせいだろう。

 

「ところでめぐみん、スキルってどう覚えればいいんだ?」

 

 そしてその翌日、冒険者ギルドに隣接している酒場兼食事処で昼食を摂っていると、隣に座っているカズマがひょんなことを聞いてきた。

 ちなみにアクアは、他の冒険者相手に宴会芸を披露している。チラリと見た限り冒険者たちの受けは良く、もういっそのこと(そっち)の道でも食っていけるんじゃないかなんて思ったり思わなかったり。

 

「スキルですか?私も詳しくは知らないのですが、確かカードに記されている『現在習得可能なスキル』の欄から―――」

 

 そこまで言いかけて、思い出す。そういえば、カズマは確か初期職業の『冒険者』だった。

 

「―――失礼。冒険者の場合は他の職業とは違って、習得には条件があるらしいのです」

「条件?」

「はい。一つは、スキルの使用方法を教えてもらうこと。もう一つは、実際にそのスキルを見ること。これを満たすと、先ほど言った『現在習得可能なスキル』の欄に項目が現れるので、あとはスキルポイントを消費すれば習得できます。多分」

「多分って……まあ、アークウィザードのめぐみんじゃ、勝手の違う冒険者のことに詳しくないのも無理ないけどさ」

 

 そう言って、カズマはなんとなしに自分の冒険者カードをボーっと眺めている。確かに、冒険者(しょきしょくぎょう)と他の職業では勝手が違うのは事実だが、私がこんなにも曖昧な知識しか持ってないのは別の理由がある(・・・・・・・)

 

「それじゃあさ、俺もその気になれば昨日のめぐみんみたいな魔法も使えるのか?」

「いやぁ、それは多分無理じゃないかと。カズマの冒険者カードには、私の使った呪文が記載されていないでしょう?」

 

 テーブルの上に置かれたカズマのカードに目をやると、予想通り、『現在習得可能なスキル』欄には何も書かれていなかった。

 

「本当だ。でもおかしいぞ?受付のお姉さんが言うには、冒険者はすべてのスキルを覚えられるはずだろ?」

「それは―――」

 

 カズマがした当然の疑問。それに対し私は、左手の人差し指を立てて自らの口の前に持っていき、片目を閉じる。

 

「―――秘密です」

「なんだそりゃ」

 

 私のはぐらかす様な態度に飽きれた様子のカズマは、そのまま食事を再開―――しようとしたところで、突然の来訪者によって再び食事は遮られた。

 

「何だか面白そうな話をしてるね」

 

 私とカズマが振り向くと、そこには頬に傷のある盗賊職風の活発そうな少女と、凛然とした佇まいのナイト職と思われる女性が立っていた。

 

「それで、えっと……そこの紅魔族の君、なんでファイティングポーズで身構えてるのかな?」

 

 おっと、無意識の内に身体が戦闘態勢に入っていた。

 

「すみません。つい盗賊というものに反応してしまって。他意はありません」

「そ、そうなんだ。なんだか変わってるね」

「よく言われます」

 

 冒険者稼業を行う冒険者とカズマのクラスである冒険者が違うように、私が日ごろ襲っている盗賊とクラスでいうところの盗賊は意味合いが全く異なる。それはわかっているのだが、いやはや、条件反射というものは恐ろしい。

 すると、カズマが盗賊少女の後ろに立っている女性を、何やら見たくないものを見てしまったような目で見ている。知り合いなのだろうか?

 そんなことを考えていると、盗賊少女が話を切り出した。

 

「そ、そうだ!そこの少年、何かスキルを覚えたいんだって?だったら、盗賊スキルがお勧めだよ!」

 

 

 

 

 

*****

 

 ところかわって路地裏。

 盗賊少女もといクリスの、シャワシャワ1本で盗賊スキルを教えてくれるという気前のよさそうな提案に対し、カズマはその条件を飲んで今に至るというわけだ。まあ実際は、ギルドに頼めば無償でスキルを教えてくれるらしいので、気前良くもなんともないのだが。ふむ、中々にしたたかな人だ。流石は盗賊。

 そして私はカズマの付き添い兼、野次馬気分でついてきた。盗賊のスキルもそうだが、何よりも初めて見る(・・・・・)スキルの習得というイベントに興味がある。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はダクネス。職業はクルセイダーだ」

 

 すると、私と一緒にやや後ろでクリスとカズマを見守っていた女性、ダクネスが話しかけてきた。

 

「ほう、上級職ですか。私はめぐみん。想像通りかもしれませんが、アークウィザードです」

 

 私も挨拶を返す。相手は既に私が紅魔族だと知っているので、あの仰々しい自己紹介はいいだろう。

 

「ところで、ダクネスはカズマと知り合いみたいですけど、何処で会ったんですか?」

「ああ、それは昨日の夜に酒場でだ。パーティ募集の張り紙を見かけてな。声を掛けさせてもらった」

 

 なるほど。大方アクアあたりが貼っていたのだろう。彼女のことだから無茶なことを書いていそうだが。ふむ、しかしそれはそれで気になることが。

 

「ダクネスはどうしてカズマのような駆け出し冒険者のパーティに入ろうと思ったのですか?私が言うのもなんですけど、上級職なら他にもいく当てがあるでしょうに」

「いや、そうでもないさ。前衛は数が多いから他のパーティでも余りがちになりやすい。それに昨日の夕方、粘液でぬちょぬちょになった君らの仲間のプリーストを偶々見かけたのだ」

 

 昨日というと、ジャイアントトード(とおまけにワイバーン)を狩った帰りのことだろう。

 

「あんな全身にべた付くほどの粘液を浴びれるなんて羨まゴホンッゴホンッ―――騎士として見過ごせないからな」

 

 ……今、不穏な言葉が聞こえたような。

 そんなことを考えていると、カズマは無事『窃盗』のスキルを覚えられたようだ。傍から見ていると、ただ冒険者カードを操作しているだけだったので、別段面白味もなかったが。

 あ、今度はクリスがカズマに窃盗スキルの勝負を仕掛けた。

 

「まったく、クリスも駆け出し相手に困ったものだ」

「まあ、本人たちは楽しそうだからいいんじゃないですか?」

 

 ベットは、手本として見せたスティールでクリスが奪ったカズマの財布。それを含めたクリスの装備の一つを、カズマがスティールして奪い返すという勝負らしい。そしてクリスは、手元に大量の小石を持って当たりの確立を下げるという鬼畜仕様。汚いさすが盗賊きたない。

 一方のカズマはというと、悔しそうにしながらもこの状況を楽しんでいるように見える。その理由がもし、この荒くれた冒険者っぽい駆け引きに憧れているとかだとしたら、カズマも中々の紅魔ソウルを持っている。

 

「やってやる!俺の幸運を舐めるなよ!『スティール』ッ!」

 

 カズマが何やら主人公っぽいことを言って、握りしめた右手を前に突き出すと、一瞬その右手に光が帯びた。しかし、お互いの見た目に特に変化はない。

 ふむ。先程二人の会話を聞いた限りでは、窃盗スキルは幸運値に左右されるらしいので、幸運値の高いカズマは1発で成功するものだと思ったが。

 すると、カズマは右手をゆっくりと開き、手のひらに収まっている物を確認した。どうやら、スティールは成功していたらしい。そしてカズマは右手に持った、三角形っぽい形のフリルやリボンが施されている布を上着のポケットに仕舞い、そのまま私たちに背を向けて歩き出す。

 

「ちょ、ちょっと待った!なんで何事もなかったかのように立ち去ろうとしてるの!?」

 

 そんなカズマの服の裾を、クリスが右手で掴んで引きとめた。

 

「何って、勝負はもう終わっただろ?財布を取り返せなかったのは残念だけど、まあ、これも俺の実力不足ってことで。じゃあな」

「じゃあな、じゃないよ!自分が何をスティールしたのかわかってるの!?私の、ぱ、パンツなんだよ!?」

「こらこら、クリス。女の子がこんな往来でパンツなんて大声で叫んで、はしたないぞ」

「パンツを持ち去ろうとしている君に言われたくないよ!お願いだから返してよぉー!」

 

 クリスが涙目になりながらカズマに手を伸ばすものの、それを無駄に洗練された無駄のない無駄な動きで躱していくカズマ。これは、自分で勝負を吹っかけておいて痛い目に合ったクリスを憐れむべきか、それとも何の葛藤もなく女性の下着を持ち去ろうとするカズマの根性を称賛すべきか。

 

「なんという男だ……野外で堂々とパンツを剥いでおきながら悪びれもせず、それどころか羞恥の女性を弄ぶなど……」

 

 そんなこんなしていると、私の横に居たダクネスが顔を俯かせて身体をふるふると震わせていた。流石に、友人の下着を盗まれたことに怒りを感じているのだろ―――

 

「やはり私の目に間違いはなかったッ!」

 

―――うん。知ってた。

 薄々感じてたが、このダクネス、どうやら紅魔族(ウチの身内)よりの人種らしい。いや、というよりもアクシズ教徒か?まあ、そんなことはどうでもいい。カズマがダクネスを見て嫌そうにしている理由はこれで分かった。まあ、紅魔の里で暮らしていた私から言わせれば、この程度は全然大したことないが。主に変人的な意味で。

 そして私は、これ以上は収集が付かなそうだと、隣で息を荒くしているクルセイダーを無視してカズマとクリスに近づく。

 

「カズマ、無駄な抵抗は止めて、それを早くこちらに渡しなさい」

「!助けてくれるんだね!」

「くっ!2対1か……ッ!」

 

 私とクリスに挟まれ、カズマは流石に焦りの表情へと変えた。そんなカズマに、私は手を差し出して言い放つ。

 

「女性冒険者の下着は高く売れます。私に任せて頂ければ、相場の倍以上の値段で売って見せましょう」

 

 あっ、クリスが盛大にこけた。

 

「な、何言ってるの!?」

「そうだぞ、めぐみん!これはウチの家宝にするんだ。そんな勿体ないこと出来るか」

「家宝!?いま家宝って言った!?」

「第一、めぐみんはそんなにお金に困ってないだろ?いざとなったら盗賊団狩りすればいいんだからさ」

「いえ、暫くはお休みです。時間をおいて、また財宝を溜め込んだ頃に狩る。そうしないと、盗賊団も居なくなっちゃいますしね」

「ちょッ!?ツッコミどころがいっぱいあるんだけど、取り敢えず盗賊団は養殖するものじゃないからね!?」

 

 クリスの発言を黙殺し、カズマと相対する。

 

「お宝を横から奪われるのも冒険者の宿命か……いいぜ、相手になってやる!」

「その意気やよし。手加減してあげますから、全力で足掻いてみなさい、カズマ!」

「他人のパンツで勝手に盛り上がらないでぇー!!」

 

 

 

 

 

*****

 

「それで、二人して何処行ってたのよ?私を置いて」

 

 再び酒場に戻ってきた私とカズマ、そして泣いているクリスと頬が高揚して息が荒いダクネス。先ほどの勝負は、結局ダクネスがクリスに加勢したおかげで「2人に勝てるわけないだろ!!」と言わんばかりに敗北した。

 

「ああ、それは―――」

「この男は野外でクリスのパンツを剥ぎ、そしてそれを返す代わりに、クリスに全財産を払わせたのだ」

「ちょっと待て!それだと俺が全部悪いみたいじゃないか!いや、半分くらいは俺のせいだけど!」

 

 そう、私はただでは転ばなかった。無力化され拘束されそうになったとき、隙をついてカズマの懐からパンツを引き抜いたのだ。そして、パンツに火炎球(ファイアー・ボール)をチラつかせて人質にし、代金と交換したというわけだ。まあ、値段に関してはカズマが「お前の言い値で払え」とノリノリに言っていたので、ダクネスの言っていることは間違いではない。

 そうして、女性冒険者の冷ややかな視線がカズマを射抜いていると、アクアが話しかけてきた。

 

「ねえねえ、めぐみん。そういえば、この女騎士は誰?もしかして、カズマが昨日行ってた加入希望の人?」

「そうみたいですよ。職業はクルセイダーだとか」

 

 それを聞いたアクアはダクネスを興味深そうに観察する。パッと見は清純な騎士なのだが、アクアからの視線に気づいて息を荒くしている姿を見ると、その面影すらない。これが噂に聞く『ギャップ萌え』というやつか。

 そんなことを考えていると、ギルド内に警報が鳴り響いた。

 

『緊急!緊急!冒険者の皆さんは至急正門まで集まってください!』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

――――――――――

―――――

 

 

 

 

 

「……で、急いで来てみたはいいものの」

 

 カズマは正門の外に居ろがる大草原、その向こう側から飛来してくる緑色の群れを見て呟く。

 

「……なんだ、あれ?」

「見て分からないのですか?キャベツですよキャベツ」

「んなことは分かってるわ!なんでキャベツが空飛んでんだよ!なんでキャベツ相手に緊急クエストなんだよ!」

 

 この男は何を言ってるんだ?キャベツなのだから空を飛ぶのは当たり前だろうに。それに、緊急クエストは急を要する場合や街に危機が迫っている場合以外にも、今回のようなとにかく人数が必要なクエストにも発令される。何もおかしなところはない。

 

「じゃんじゃん獲るわよ、カズマ!今年のキャベツは出来が良いらしいから高値で売れるわ!」

「……俺、キャベツを収穫するために異世界に来たんじゃないのに」

 

 儲かると聞いてハイテンションなアクアとは対照的にブツブツと何やら文句を言っているカズマ。だが、私もかまってあげている暇はない。燃費の悪い私にとって、お金はいくらあっても困ることはない。

 

『今年のキャベツは一玉1万エリスで買い取らせていただきます!なお、換金は後日まとめて支払わせていただくので、ご注意ください!それでは皆さん、くれぐれもキャベツに怪我を負わされない様、気を付けて下さい!』

 

 ギルド職員のアナウンスを聞いた冒険者たちが、雄たけびを上げながらキャベツの群れに突進していった。こうしてはいられない、私も続かなくては。

 そして、飛来してくるキャベツに注意しながら歩みを進めていると、冒険者たちの中にダクネスを見つけた。ふむ、こうして剣を振っている様を見ると、普通の騎士のように見える。……攻撃が一切当たっていないことに目を瞑れば。

 

「しかし、これは……」

 

 よくよく観察していると、大の男が突き飛ばされるほどのスピードで迫ってくるキャベツの直撃を食らってもなお、ダクネスは頬を赤く染めるだけで、足元がふらつくこともなく立っていた。どうやら、防御力はかなりのモノらしい。

 これは丁度よかったと、籠を抱えた私はキャベツに蹂躙されてハァハァ言っているダクネスに近づいた。

 

「め、めぐみんか……どうしたんだ?……はぁ……はぁ、魔法職が前衛に出ては……んっ……危ないぞ……」

「いえ、お構いなく。ダクネスを肉壁に使うので」

「肉壁ッ!」

 

 興奮してるところをお構いなしに、ダクネスの背中を押して草原の方へと前進していく。もちろん、その間にもキャベツがダクネスに激突するが、本人は喜んでいるので問題ない。

 

「背中を無理やり押し、キャベツにこの身を痛めつけられようとも構うことなく私を壁にするとは……んっ……中々やるな、めぐみん!」

「いいから黙って進んでください」

「はぅ……っ!」

 

 このドМは……。まあ、この方が罪悪感なく壁にできるのでありがたいが。

 ……よし、これだけ離れれば街の方へは被害が出ないだろう。あっ、そうだ。一応声ぐらいは掛けておかねば。

 

「同業者の皆さーん!巻き込まれたくない人は正門の方まで離れていて下さいねー!」

「な、なんだなんだ?」

「おい、どうしたんだよ」

「ああ。それが、あそこのウィザードの嬢ちゃんが―――」

 

 他の冒険者は何事かと此方を見る。一応警告はしたのだから、今から巻き込まれたとしてもそれは自業自得だ。

 

「全ての力の源よ 母なりしこの無限の大地よ 永久(とわ)を吹き過ぎ行く風よ 空をさまよう雷よ」

 

 私はダクネスの後ろで右手を空に掲げ、呪文を詠唱する。

 

「盟約の言葉によりて 我に従い力となれ」

「め、めぐみん?一体何を―――」

「【地霊咆雷陣(アーク・ブラス)】!」

「あばばばばばッ!」

 

 私を中心に、辺り一帯に雷撃の雨が降り注いだ。それは高速で飛翔するキャベツでさえも避けること敵わず、次々と雷に打たれていく。

 

「ぐわぁーッ!」

「なんだこれ―――うぉッ!」

「きゃぁあああッ!」

 

 ……そして、正門付近に居なかった冒険者もついでに巻き込まれていく。あーあ、この術は効果範囲が広いから態々街から離れて撃ったのになー。それに、正門の方まで離れてって言ったのになー。しょうがないなーこれは不可抗力だからなー。

 そして、電撃を食らったキャベツたち(と偶然!運悪く!巻き込まれた冒険者(きょうそうあいて))は痺れてその場に倒れこんだ。そう、地霊咆雷陣(アーク・ブラス)は効果範囲は広く避けることは難しいが、せいぜい相手を痺れさせる程度の威力しかない。だが、今回に限れば好都合だ。

 

「はぁ……はぁ……電気攻めとは……私はめぐみんを侮っていたようだ……」

 

 そんなことを考えていると、ダクネスは膝をついて起き上がった。おかしい、暫くは動けなくなるはずなのだが。流石はクルセイダーという訳か。

 というか、そんなことで見直されても困る。

 

「まあ、動けるのなら丁度いいです。ほら、ダクネスもキャベツが動き出す前に拾うの手伝って下さい」

「んっ……自分でしておいてこの仕打ち。お前と言いカズマと言い、お前たちのパーティは最高だな!」

 

ダクネスの妄言を無視しつつ、私は辺り一帯に転がっているキャベツたちを籠の中に入れていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 




・作中のダクネスの扱いについて
別にダクネスは嫌いな訳ではないです。むしろ、今回に限っては優遇すらしてる気がします。


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