インフィニットサムライズ~Destroyer&Onishimazu~ (三途リバー)
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お試し設定集

ハーメルン使うの初めてなので、テストも兼ねた設定集です。ガバガバ設定は許して下さいゲンジバンザイ。


主人公達

 

菅野直(ドリフターズより)

年齢:15歳

出身:宮城

飛行機パイロット志望の少年。地元の航空系高校に進むつもりだったが受験会場で迷い、立ち入った部屋にあったISに八つ当たり。殴る蹴るを繰り返していたら反応した。

口癖は「バカヤロウ コノヤロウ」。乱暴な性格だが文学好きでロマンチストという一面を持つ。日本政府に保護され、ISの搭乗訓練をしていた時にことごとくそれらを破壊していたため「デストロイヤー」という渾名を付けられた。

 

 

島津豊久(ドリフターズより)

年齢16歳

出身:宮崎(育ちは鹿児島)

勝負事に命を懸ける戦馬鹿。幼い頃から剣道を学び、中学時代には全国大会で二連覇を果たすほどの腕。菅野直が女性にしか扱えないと言われていたISを作動させた事で、適性検査を受ける羽目に。で、案の定ISを作動しIS学園に強制入学となった。日本政府に保護されてからISの搭乗訓練を受け、本職の軍人を呆れさせる程の戦才を発揮させる。

かつてブリュンヒルデと呼ばれた島津千冬の弟であり、その実力と勝利への執着から「鬼島津」と呼ばれる。全ての勝負事を「戦」という概念で認識している、ある意味デストロイヤーさんよりヤヴァイ人。

 

 

 

教師

 

島津千冬(インフィニットストラトスより)

年齢:24歳

出身:宮崎

第一回モンド・グロッソ優勝者、初代「ブリュンヒルデ」。

豊久が10歳の時両親を亡くし、それ以来叔父の力を借りながら彼を養育してきた。故に豊久から絶大な感謝と尊敬の念を抱かれており、無愛想ながら豊久を大切に思っている。第二回モンド・グロッソでは優勝最有力候補とされていたが決勝戦で棄権不戦敗。それには豊久が関わっていたらしく、本人は理由を話さない。過去2年間、ドイツでISの教官をしておりラウラ・ボーデヴィッヒはその時の教え子。

 

 

菅野麻耶(インフィニットストラトスより)

年齢:22歳

出身:宮城

元日本代表候補生で島津千冬の後輩。はわわ系。

菅野直の姉で、弟大好き。「直ちゃん」と呼び今でも添い寝したがるブラコン眼鏡。

 

 

織田信長(ドリフターズより)

年齢:49歳

出身:愛知

IS学園の一般教科教師。右目に眼帯、服装は着流しとかなりアレな見た目。普段はふざけた態度たが、有事の際の指揮能力は他の追随を許さない。篠ノ之束と面識があるらしく、彼女のことを「夢に喰われた女」と言って不快な感情見せていた。自称第六天魔王様様様。

 

 

 

 

基本的にワンサマーのポジは豊久と直で半分こ。

あの2人の恋愛とか想像出来ませんが、何とかやらせたいなぁ…

 

 

 

 

 

 




はい。そんな感じで設定集です。どんな具合でしょうか?
作者はシャルロッ党であり、妖怪首置いてけの大ファンなのでこいつらは絶対に絡ませようと思ってます。直は…鬼畜米英からのツンデレセシリアルート?いや、デストロイヤーさんマジ分かんねぇ…
感想、意見、お待ちしております。
それではゲンジバンザイ


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第1幕 幼なじみと姉2人

導入はムズイ…少し、というかかなり原作と流れが違います。暖かい目で見守って…




2人の少年が、教室にはいた。別段彼らの外見がどうという訳では無い。額に刀傷がある訳でもなく、眼帯を付けているわけでもない。それなのにクラス中の視線が彼らに集まっているのは、ひとえに場所のせいだった。

 

『IS学園』。

 

女性にしか扱えないと()()()()()()パワードスーツの操縦、整備などを中心に学ぶ女の園。

そこに2人も男がいるのだ、好奇の視線に晒されるのは自明の理であろう。

そもそも、彼らは何故そんな女の園に不機嫌な面をして身を置いているのか。簡単だ、()()()I()S()()()()()()から。

 

ところで、今更ながら…

廊下から2列目、最前列に座っているのは菅野直。宮城生まれの宮城育ち、夢は航空機のパイロットというピカピカの一年生。

対して廊下から3列目、同じく最前列に座っている…と言うよりヌボーッとしているのは島津豊久。宮崎生まれの鹿児島育ち、剣道全国大会二連覇を成したちょっとした有名人だ。

 

女性専用のパワードスーツだったISを男として初めて動かしたのは菅野直。そして彼がISを動かしたことにより、世界で実施された男性適合者テストの唯一の反応者が豊久だ。2人は自分の意思などお構い無しにこの学園に強制入学させられ、国際IS委員会なるものにより約2ヶ月の間自由を奪われてきた。中学の輩と過ごす最後の時間をいきなり奪われ、あまつさえ住む場所すら政府が用意した警戒バリバリのホテル。そして、ようやっと解放されたと思ったら客寄せパンダの如く異性から好奇の視線に晒される。不機嫌にならない訳が無い。

 

「…おい、豊。」

「なんぞ。」

「お前、自分から話しかけて来いよ。こちとら女子の『アンタ話しかけてきなさいよ』オーラにあてられんのはもう懲り懲りなんだよ」

「自分で行けば良かではなかが。俺(おい)は嫌じゃ。」

「自分が嫌なこと人に押し付けんじゃねえよ、ったくいい性格してるぜ…」

「殺すぞ貴様(きさん)」

 

この2ヶ月、彼らは同じモルモッ…ゴホン、男性操縦者として共に政府管理下でISの基礎稼働訓練を受けてきた。ゆえに、それなりに気心が知れあっているのである。

 

「あァ?殺すだァ?てめぇコノヤロウ上等だよ今まで模擬戦で俺に勝てたことあんのかコノヤロウ」

「模擬戦もクソも、ぬしゃいつでん『打鉄』ば自分で壊して堕ちてたじゃろが。ハッ、今すぐにでん首ばもいじゃる」

 

…仲が良いかは別として。と、その時。

 

「あ、あの……」

「はん?」

「あ?」

 

うわぁ、話しかけたー、出遅れた、という女子の声がソワソワと響く中、その原因たる1人の女子が2人に声をかけた。この互いの牽制の雰囲気の中たった1人で特攻したのだ。勇気があろう。対応は完全に喧嘩腰一歩手前であったが。

 

「島津忠豊、だよな…?」

 

どこか恐る恐る、と言った感じの問いかけ。

何故(ないごて)(おい)の昔ん名ぁば知っちょる…と豊久は一瞬考え込んだが、その少女の顔を見て疑問は氷解した。

 

「箒か…!」

 

大和撫子と言うにふさわしい、黒黒としたポニーテールの美髪に、服の上からでもよく分かるスラリとした体。

彼女は篠ノ之箒。豊久…旧名忠豊の幼なじみにして剣友である。

 

「…!覚えていたか…!」

 

嬉しそうに顔を綻ばせ、顔をほんのり赤くと染める。誰が見ても一目瞭然な思慕の情が、そこにはみてとれた。

 

「当たい前でなか!なぁんが、お前ぁもこん()()()()学園に来たんか!久方振りじゃのう!大きゅうなったのう!」

「な、なっ!?どこを見て言っている貴様!」

「む?」

 

豊久としては身長の事を言ったのだか…あらやだ箒さんったらムッツリ~。

 

「身の丈ぞ。何を怒っとる?」

「ッ…~~~!」

 

当たり前と聞いて嬉しそうにしたり、大きくなったと言われて顔を赤らめたり、表情豊かな女の子である。

 

「んだァ?豊の知り合いか?」

「あぁ、すまない。幼なじみの篠ノ之箒だ。たd…豊久とは小学生以来になる。お前は…」

「菅野直。知ってるだろうが世界初の男性操縦者だ。よろしくなコノヤロウ。」

「あ、あぁ、よろしく…」

 

初対面の挨拶で初っ端からコノヤロウなどと言われ若干引き気味の箒。ゴメンなー、ゴメンなー、モッピー。そういう子なんです。

 

 

side 直

忠豊ぉ?あんだよ旧名かよコノヤロウ。初耳だぞバカヤロウ。つーかなんだこの武士女?俺を無視すんじゃねぇぞバカヤロウ!

 

「んだァ?豊の知り合いか?」

「あぁ、すまない。幼なじみの篠ノ之箒だ。たd…豊久とは小学生以来になる。」

 

幼なじみねぇ…こりゃぁ苦労するタイプだなァオイ。

 

「お前は…」

「菅野直。知ってるだろうが世界初の男性操縦者だ。よろしくなコノヤロウ」

「あ、あぁ…よろしく…」

 

あ?何ちょっと引いてんだよぶっ飛ばすぞコノヤロウ!つーかなんだァ?篠ノ之?()()()()の身内か?

ってことは豊も()()と面識あんのかァ?

 

「直。初対面でそん言い草か。」

「るせーな年中謎方言の蛮人には言われたくねぇ」

「んだとごんぐぞボケェ!!」

「やんのかバカヤロウ!!」

 

戦闘になった途端訳分からねぇこと喚きながら相手をドン引かせるてめぇに言えた事じゃねぇだろうが!?

つーかてめぇ俺よりコミュ力やべぇだろうが!?

よぅし分かった、てめぇとは今ここでどっちが野蛮が決着付けなきゃならねぇみてぇだなコノヤロウ!!

 

「ふ、2人とも落ち着『うるぜぇ!!』

 

「うるさいのは貴様らの方だ」

 

べシン!

べシン!

 

sideout

 

鬼女、降臨。

出席簿の一撃を後頭部に喰らって撃沈した2人を通り過ぎ、1人の女性が教壇に立つ。

 

「入学おめでとう、諸君。私がこの1年1組を受け持つ事になった島津千冬だ。」

 

島津千冬。ISの世界競技大会「モンド・グロッソ」の優勝者にしてブリュンヒルデの称号を持つ最強の女である。

 

「「「「キャァァァァァァ!!!!」」」

 

「本物の千冬様よ!」

「おねぇ様って呼んで良いですか!?」

「私、千冬様に会うためにここに来たんです!北海道から!」

 

凄まじい人気だ。まぁ、当然だろう。世界中のIS操縦者が憧れる最強の称号を冠している日本、いや世界で名を知られる存在が目の前にいるのだ、はしゃぎも騒ぎもするだろう。

 

「私の役目は諸君を1年間で使い物になる操縦者に育て上げる事だ。私の言うことはよく聞き、そして素早く実行しろ。私の命令にははいかイェスで答えろ。無茶だろうがはいかイェスだ。」

 

暴君もいい所だ。こんなんだから24にもなって浮いた話しの一つも…おっと誰か来たようだ。

 

「何か失礼な事を言われた気がしたが…まぁ、良いだろう。そこの馬鹿共、とっとと起きろ。」

「いきない叩く事なかじゃろが!嫁ん貰い手がいなくなるど!」

 

閃光一閃。豊久?あいつはいい奴だったよ。

 

「自己紹介の前に副担任の2人を紹介する。では、お2人。お願いします。」

「はいっ!」

「うむ」

 

答えたのは緑髪の巨乳メガネと、着流しに右目眼帯という壮年の男。

 

「副担任の菅野麻耶です。皆さんとは普段のSHRやISの稼働で関わって行くことになりますー。1年間、お願いしますね~」

 

…背丈の割に胸でかくね?

大半の生徒の第一印象がこれだろう。童顔で巨乳というどこかミスマッチな雰囲気があり、実は同級生でしたーというドッキリも通じるほどの背丈。

事実、入ってきた瞬間には豊久は遅れた生徒かと思っていた。

 

「…え?菅野?って言うことは…」

「はい、男性操縦者の菅野直の姉です!直ちゃんと仲良くしてあげて下さいね!」

「「「ええええええええええええ!!!!」」」

 

本日2回目の女子の叫びを耳にしながら、直は1人ため息を吐く。

 

弟に、外でちゃん付けはねぇだろう、と。

 




はい、そんな訳で第1幕です。どんな感じでしょうか。中途半端なのは許して下さい。

次回

ブラコン

魔王

金髪淑女


『サムライハート』


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第2幕 サムライハート

えー…遅くなり申し訳ありません。作者は導入部がすんごい苦手です。めちゃくちゃ設定やゴリ押し現パロ、素人感満載のクオリティマシマシでお送りします…正直すんません。

⚠3月26日、次回予告を改訂しました。申し訳ありません。


「直ちゃんと仲良くしてあげて下さいね!」

 

菅野麻耶教諭が初っ端から爆弾を落とした後、教室は軽く喧騒の渦に巻き込まれた。

 

ちゃん付けがどうのとか身長低くねとか胸デケェな処すぞとか。最後のには突っ込んではいけない。いけないったらいけない。

 

「え、えと、皆さん静かにぃぃ…な、直ちゃん助けてぇ~」

 

「俺に振るんじゃねぇよ!?」

 

「あぁっ、直ちゃんが少し見ぬ間に冷たくなってる!?これが姉離れ…うぅっ、涙が…でもこれは直ちゃんの為に必要なこと。私が寂しがってどうするの!耐えるのよ麻耶!」

 

自分の世界に入り込んでしまった麻耶(ブラコン)を見て、豊久が一言。

 

「直、話しにゃ聞いとったじゃっどん、お前ぁの姉御はすごかのぅ…なんち言うか、そん…個性的だの。」

 

「るせぇっ!!何も言うんじゃねぇ!」

 

負けるな直少年。頑張れ直少年!

 

哀れんだような目で見る豊久と1人号哭する直を見て、ようやく千冬が動いた。

 

「ハァ、少しは静かにせんかお前等!!まだもう1人の副担任の紹介がおわっとらん!山田先生、弟さんのことは今は置いておいてください…」

 

鶴の一声でようやく静まり、やっとのことで話が進む。

 

「織田先生、お待たせしました。お願いします。」

 

「うむ」

 

教壇にたったのは異装の男。右眼を硬質の黒眼帯で隠し、服装は場所にそぐわぬ白の着流し。くすんだ赤の羽織をたらし、長髪を揺らめかせてその男は声を発した。

 

 

 

「俺は信長。織田前右府信長である。」

 

 

 

side豊久

 

何がぁ、()()男。声ば出した瞬間空気が歪みよった。尋常な人間にこげん馬鹿らしか瘴気は出せん。

見てくれは普通。声も芝居がかっちょるがそげんに恐ろしくはなか。じゃっどんこやつ…

 

「俺ぁ一般教科担当になる。当然ながらISは使えん。ま、このクラスには2人もイレギュラーがおるでな、退屈はせんだろう。よろしく頼むぞ、(わっぱ)ども。」

 

うつけか天魔か、分かったものではないわ。

 

 

sideout

 

信長の一言が、教室に静寂をもたらした。フザげているような台詞だがそこには形容しがたい『何か』があった。

言葉が実態をもって体にまとわりつく、そんな錯覚すら覚える。

 

「何だ、今頃の若いもんにはちと受けが悪かったか?んじゃ仕切り直しだ。………オッス、オラ第六天魔王!趣味は焼き討ちとか皆殺し!殺した相手の髑髏の盃でカンパーイ」

 

クラスの全員が思った。いや、肌で感じた。こいつ、この男は…

 

 

 

 

『関わっちゃいけないヤツだ…!!』

 

 

 

 

そんなこんなで、ようやく自己紹介に。1番の女子から、出身やら趣味やらを緊張しながらもつつがなく話していく。

 

「小野里美、茨城出身です!音楽が好きで吹奏楽をやってます。1年間よろしくお願いします!」

 

「はい、小野さんね!よろしくお願いしま~す。じゃあ、次の人…直ちゃん!!」

 

 

相変わらずの菅野教諭である。自分の弟に回った瞬間目を輝かせ、体も乗り出して1字1句聞き逃すまいと意識を集中している。こんな姉を持った直も大変である…

 

「ちゃん付けすんな!…あー…菅野直!宮城出身の趣味は読書!ヨロシクなコノヤロウ!!」

 

前言撤回。コイツはコイツで駄目なやつ。自己紹介でコノヤロウとはなかなかやりおる。

 

「え、菅野くん趣味が読書って…」

「どう考えても似合ってない…」

 

失礼な事を言う女子達だが、あの尖りっぷりを見ていればそうなるだろう。

 

「えぇっ!それだけなの、直ちゃん!もっとほら、あるでしょ話すこと!お姉ちゃんが大好きとか好きな食べ物はお姉ちゃんが作った料理とか好きな色はお姉ちゃんの髪の色とか中学生までお姉ちゃんと添いn「あぁぁぁぁぁァァァ!!!!!黙れぇぇぇぇぇっ!!」

 

ブレない女、菅野麻耶。ここまでくるともはや尊敬の念すら感じられる。

 

ちなみに、中学1年頃まで直は超絶お姉ちゃんっ子だった。先ほど麻耶が口走った添い寝のことも事実だし、麻耶がISの操縦生となって離れるまでは彼のお弁当は全て麻耶が作っていた。幼い頃には『お姉ちゃんの髪の色だから緑が好き。』と公言。

早い話が直もなかなかのシスコンである。

 

そして、自己紹介が続くこと暫く。

 

「次の人、お願いしまーす」

 

「おう」

 

「はいと答えんか馬鹿者」

 

豊久の声に淡々と訂正を入れる千冬は一見クールでいつも通りだが。内心は違う。

 

(政府と『十月機関』の奴らに拘束されていてしばらくぶりの再会だと言うのに、豊久と話す時間がない…だと?ふざけたことを言う。今ここに麻耶と信長がいなければすぐにでも姉弟の時間を過ごしてやるのだが…クソッ、今度嫌がらせで国会に夜討でも仕掛けてやるか)

 

 

……………もはや何も言うまい。麗しき姉弟愛かな。

 

ちなみに、『十月機関』とは数年前不正騒ぎのあった日本IS協会に代わり(とある年齢詐称おっぱい星人により)設立された、ISの管理、またそれに関する国際問題などに尽力するお役所だ。通称パイオツ機関。

 

さて、豊久である。この男、直が評したように少々コミュニケーション能力に欠ける。

別に、人見知りや対人恐怖症という訳では無い。必要以上の事を他人に教える、他人と積極的に関わるということに頓着しないのだ。相手を拒絶することは決してないのだが、自分から仲良くなろうなどとは考えも及ばない。

つまり、何が言いたいのかと言うと…

 

「スゥ………」

 

(((あ、これあかんヤツだ)))

 

「島津中務少輔豊久!よろしゅう頼みもす!」

 

マトモな自己紹介など、出来る筈もない。

 

 

「え、えと…何か言うことは…」

 

「なか!」

戸惑った様子の麻耶に、いい笑顔で返事をするとクラスの大半がずっこける。箒と千冬は頭をおさえ、直に至っては爆笑している。そう、これぞ豊久である。クラス全体が、拍子抜けしたような微妙な雰囲気に包まれた。

 

「ほう…」

 

 

 

ただ1人、邪な笑みを浮かべる男を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、豊久。お主、なんか言うことないのか。出身とか、趣味とか。何でも良いから、ほら、喋れ。」

 

副担任信長の言葉を受け、む、と考え込む豊久。

 

「日向生まれ、薩摩育ち。剣道ばやっちょる。」

 

珍しく素直に応えた豊久の声を聞き、信長は魔王(笑)らしくニタリとすると、すぐさま全力で弄りにかかる。

 

「薩摩?どこ、どこ?おぉ!九州の?!端っこの?!ものすんごいド田舎の?!」

 

「殺ス!!」

 

大人気ない中年、織田信長。豊久と彼の間に決定的な亀裂が入った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は移り、1限目後の休み時間。豊久は箒に呼ばれ、2人で廊下に出ていた。そして、取り残された直1人で女子の視線に耐えているという状況だ。

 

(ふざけんなよバカヤロウ、なんで俺だけ……)

 

心中ボヤくがどうにもならない。

致し方なく本でも読もうとした、その時。

 

 

「少しよろしくて?」

 

 

声を掛けたのは、金髪碧眼の淑女だった。

 

 

「あぁ…?……あァ!?」

 

その金髪淑女を視認した途端直の様子がおかしくなるが、相手は全く気づかない。直の顔色を伺うでもなく一方的に話を続ける。この時、金髪淑女は気づけば良かったのだ。直の肩が震え、怒りのあまり歯ぎしりが聞こえてくることに。

 

「まぁ!何ですのその返答は!極東の方は礼儀作法も「むぅ!外人!鬼畜米英だコノヤロウ!!」は、はいっ!?」

 

「あんだテメェやんのかコノヤロウ!俺に話しかけんじゃねぇ!!どこの出だコノヤロウ!アメリカだったらぶん殴る、イギリスだったら蹴っ飛ばす!!」

 

菅野直、15歳。

好きなもの、詩、読書。

嫌いなもの、外国人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいで、どげんしたど?2人で話したか事があっのか。」

 

一方こちらは直の爆発をつゆとも知らぬ豊久と箒である。

2人は今、廊下を抜けて階段の踊り場で向かい合っていた。

 

「う、うむ。その、だな…聞き辛いのたが…何故、改名を…?」

 

豊久と箒は幼なじみだが、それは豊久が『忠豊』を名乗っていた小学生の時の話。剣道の全国大会優勝で『豊久』という名は知っていたが、箒としては違和感しか感じない。そこはハッキリ聞いておきたいのだろう。まして、幼い頃からの想い人の事である。

 

「…お前ぁがいのうなったんは九つの時だったの。…あいから1年経たん内、親父っどが死んだ。」

 

「ッッ!!…家久さんが…」

 

島津中務大輔家久。()()の父にして、九州でその名を知らぬ者はいない武人である。元々は薩摩の田舎名家(と言うより半ばヤクザ)島津家の四男坊だったが、その胆力と卓越した戦略眼で瞬く間に名声を得、日向佐土原に分家を構える。それが現在豊久が後をついでいる佐土原中書家だ。今日、島津家がその武勇と繁栄を謳われているのは彼と兄の力だと言われるほど。戦に精通し、大太刀を奮って他家との縄張り争いを嬉嬉として行う姿は『鬼の佐土原中書』と呼ばれた生粋の薩摩隼人だった。

 

しかし長年の疲労が蓄積した結果、2人の子供と妻を残し若くして他界。結果、佐土原中書家は薩摩預かりの形となって現在に至る。

 

「亡くなる直前、俺の手ば握っちこう言われた。『中書の名を、久の字をお前ぁに託す。』…誉れじゃ。俺の生涯ん誉れじゃ。親父っどの名を継げるなぞ…。故に、俺は中務『少輔』豊久となった。こん名こそ、俺の武士(さぶらい)としての全てぞ。俺の誇りぞ。……すまん、重か話になった。」

 

話す豊久の顔に翳りはない。心の底から継いだ重圧を喜んでいるのだ。名を奪われた、面倒を押し付けられたという文句や不平など一切ない。父の誇りは我が誇り、『豊久』として生きる事に抵抗など一切ない。

 

「私こそすまないっ!無神経な事を…ほ、本当に…っ」

 

驚きと悲しみ、そして後悔が綯い交ぜになった顔で詫びる箒。豊久としては、幼なじみの改名の事情を気にならない訳がないと思っているのだが、同時に、そう言ったところでこの頑固な武士女の罪悪感が消えるとも思っていない。

 

「なぁんの、お前ぁが俺のこつ気にしちくった事ん方が嬉しか。7年も前ん男なぞ忘れられちゅうかと思うたぞ。あいがとの。」

 

勘違いされがちだが、豊久は人の気持ちや場の空気を読めない馬鹿ではない。むしろ鋭敏とすら言って良い。

 

取り敢えず、いつもの空気に戻したい。自分達にこんな湿っぽい空気は似合わない。そんな思いで再び口をひらいた。

 

「そ、そんな訳が無い!!私にとってお前は憧れであると同時に唯一無二の友だったんだ!!時が過ぎたくらいで忘れてたまるものか!!…し、しかも、その…」

 

「お、おう?しかもなんぞ?」

 

「何でもないっ!とにかく、すまなかったっ!」

 

切れた語尾が気になるものの、雰囲気は戻った。今はこれで良い、そう満足して豊久は笑う。

 

「おう、手打ちじゃな。…また、頼むど。」

 

「っ…////あぁ!」

 

こうして、()()と箒の時は動き出した。7年の時を埋め、ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やんのか外人!!バカヤロォォォォ!!!」

 

 

「「「「菅野君おちついてぇぇぇぇっっっ!?!?」」」

 




はい、個人的にボロボロの第2幕です。え?次回予告と内容が合ってない?ドリフターズのアニメ予告もこんなモンだったろ!(ヤケクソ)


ちなみに、史実の菅野直は宮城ではなく中国だか朝鮮の生まれだった気がしますが、都合上宮城生まれとさせていただきました。史実好きの方、申し訳ありません。また、このssではさりげなく武士とか官位とかでてきますが、日本はちょんまげ文化と西洋文化が入り乱れた超次元って事で…

次回

代表

誇り

手柄首





『デュエル✩スタンバイ』





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幕間 Many Many Feelings

次回、第3幕と予告したな。あれは嘘だ。

はい、すいません。完全に「一方その頃デストロイヤーは」をやるつもりだったのですが、モッピーの心情はやっといた方が良いかなって思っちゃったわけです、はい。
安定の素人感満載クオリティ、そしてアホみたいな短さ!! かるーーーーく、読んでやってください…


(豊久…か…)

 

()()は、もういない。彼女の前を歩くのは1人の武士、自身の成すべき事を見据えた紛れもない武士だ。

そこに寂しさは勿論ある、しかしなぜか安心をより強く感じるのだ。

 

箒と忠豊の出会いは小学1年生の時。

 

『芯の強か女子じゃな!』

 

男女だのなんだのからかってくる男子相手に1歩も譲らず取っ組み合う箒に、そう言った。皮肉でもからかいでも何でもなく、心の底からの本心で。あの一言が始まりだったのだろう。

硬い態度を崩さず、周りから敬遠されがちだった箒に常に笑いかけてきた。共に剣道を学び、切磋琢磨した。

忠豊は人を気遣うとか、そういう事を意識してしない。自分がやりたいと思って行動した事がそのままプラスの方向に働く。彼の周りでよく起こる事だった。だからこそ、打算も何も一切ないまま、自分と向き合ってくれていると箒は理解出来た。

 

嬉しかった。そして同時に、怖かった。

忠豊は佐土原中書家の男。いずれは家を継ぎ、様々な重圧と戦わなければならない。

その時が来たら、彼は彼のままでいてくれるだろうか。

同じように、(わたし)に接してくれるだろうか。

 

 

歪に、なってしまわないだろうか。

 

 

 

島津忠豊(惚れた人間)が、篠ノ之箒(わたし)の遠くへ行ってしまわないだろうか。

 

結果として()()()のせいで忠豊と箒は別れを迎えてしまったが、それでも人としての繋がりが消えた訳では無い。箒は忠豊との再会だけを心の支えに、そして同時に最大の恐怖として過ごしてきた。

 

そんな中、思いがけない形で箒は島津()()の存在を知る。

 

中学生剣道全国大会優勝者、鹿児島県立永吉(ながよし)中学1年生 島津豊久。

 

すぐに気づいた。あいつだ、()()()あいつ(忠豊)だと。写真も見た、関連する記事やニュースも調べ尽くした。

曰く、期待の超新星。

曰く、無敗の隼人。

曰く、九州南部の分家の当主。

 

殴られたような、では済まされない衝撃が箒を襲った。

継いだのか。さらに強くなった。さすが。男らしくなっていた。いや、それは元々。そして、何よりも…

 

変わってしまったのだろうか。

 

様々な感情がごちゃ混ぜになり、訳も分からず涙が溢れたのをついこの間の事の様に覚えている。

会いたい。でも怖い。相反する二つの感情が絶えず箒の中に渦巻いていた。

 

そして、1年後。

 

島津豊久、全国大会二連覇。

 

さらに、約1年後。

 

菅野直に続くIS男性操縦者、島津豊久。

 

 

言葉が出なかった。もう我慢出来なかった。自分と忠豊の道は再び交わるのだと気付くのに、どれだけの時がかかった事か。会える。また、共に過ごせる……!!

ならば、ハッキリさせておかねばなるまい。大切な存在とよそよそしく、遠慮しながら過ごすなど死んでもゴメンだ。

 

だから箒は万感の想いを一言にこめ、ただ()()

尋ねたのだ。

 

 

そして、理解した。

 

名が変わろうが家を継ごうが、篠ノ之箒が惚れた男は変わっていない。何一つとして変わっていない。

 

半ば無自覚な優しさも、箒よりずっとずっと強い心の芯も。

 

 

「豊久!!」

 

「む?まだ、何ぞあっどか?」

 

「遅くなったな。全国大会、おめでとう」

 

「おぉ!あいがとのう!」

 

やっと胸を張り、豊久(お前)の名を呼べる。

 

今はまだ、この長年の想いを全て告げる勇気はない。だが、いつか、必ず自分の口から。

 

篠ノ之箒は島津豊久の事が好きだと、打ち明けてみせる。

 




えー…ごめんなさい。
詳しくやりたかったんですが、作者の文章力はつきました。基本的に原作のワンサマー(馬鹿強)と箒みたいなかんじです。脳内補完、オナシャス…


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第3幕 デュエル✩スタンバイ

遅くなった上サブタイ変更という…タスケテータスケテー
コロサナイデー


一人称をかなり変えてみました。どうでしょうか?

誠に誠に申し訳ありません。次回予告、少し変えました…


「むぅ!外人!鬼畜米英だコノヤロウ!」

 

金髪を目にした途端、半ば反射的に直はそう叫んでいた。

高級なシルクを束ねたような美しい髪、不機嫌そうに釣り上げられた碧い瞳…常人が見れば思わずため息の一つでも吐きたくなるような容姿だか、それに目もくれない。なぜなら彼は常人ではないから。

 

()()()()()()焼き付いた光景は直の目から離れない。時を経るにつれますます憎悪の炎が燃え上がある。

 

「な、ななッッ!?あ、あなた!!なんですの、その返事とも言えぬ雑言は!!極東の猿がこうまで蛮族だったとは…!!」

 

何を言っているかなどどうでもいい。コイツが誰であろうと関係ない。

 

「俺に話しかけんじゃねぇ!!どこの出だてめぇ、あァ!?アメリカだったらぶん殴る、イギリスだったら蹴っ飛ばす!!」

 

ただ一事、()()()()()()()()()()()()()()()()()。拳を振るう理由足り得る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊久&箒、帰還。

 

「…何ぞ、こいは。」

 

「私に分かると思うか?」

 

帰ってきたら菅野君がなんか叫んでクラスメイトに取り押さえられてました、まる。

外人がどうの、蛮族がどうのとか怒声が聞こえるが訳が分からない。

 

「何をやっとる、イカレたか直。お前ぁが何を騒いじょるんかさっぱい分からん。といあえず姉上が来っど、早う座れ。」

 

一応鬼女(千冬)が現れる前に最低限の忠告はする。豊久とて巻き添えを喰いたくはない。豊久は後先考えていない訳では無いのだ。考えていない時もあるが。

とにかく、豊久は冷静(と言うよりむしろ無関心)に直を宥めにかかった。

 

が。

 

「うるせぇぞコノヤロウ、どけよバカヤロウ!」

 

ブチイッ

 

「人が親切ば言うを貴様ッ!やっぱり殺す、首置いてけぇぇぇッッ!!」

 

怒りの蓋の天井をえーいと投げ飛ばし、拳を唸らせ飛び込んだ。

 

「えっ、コレわたくし蚊帳の外?」

 

金髪淑女の呟きを他所に、男子2人の殴り合いは続く…

 

 

 

 

 

 

 

案の定千冬に鎮圧され、始まった2時間目。

千冬は馬鹿どもが、と吐き捨てて眉間を揉み、麻耶は直君が乱暴を、と慌てふためいて行動不能。

入学初日にしてこのカオスっぷりに、信長は愉しそうに嗤うのみ。大丈夫か、1年1組。

 

「授業の前に、一つ決め事がある。」

 

ようやっと動いた信長の声に、クラスの注目が集まる。

 

「クラス代表だ。まぁ、あれだ、学級委員みたいなモンよ。委員会の出席やらクラス対抗のトーナメントやらに出るクラスの顔だ。自薦他薦は問わんからホレ、10代の活気を見してくりゃれ。」

 

自薦も他薦も、既に結果は見えきっている。

このクラスには世界で2人だけの男性操縦者(客寄せパンダ)がいるのだ。

 

「はいはーい!島津くんを推薦します!」

「私も!島津くんって剣道の全国大会優勝者でしょ?トーナメント戦に出ても不思議じゃないよ!」

 

「あ!?ちくと待てい!俺が頭か!?」

 

「私は菅野くん!尖ってて、まさに男の子って感じが良い!」

「それはそれで面白そう!」

 

「てめっ、コノヤロウ勝手に決めんな!つか面白そうってなんだバカヤロウ!」

 

男子2人は揃って抗議の声を挙げるが、民主主義とは恐ろしい。数の暴力によってあっさり2人の声は抹殺される。

豊久は勝負事()がしたいだけ、そんな面倒を蒙る気はない。直にしてもこれ以上の珍獣扱いは願い下げだ。

 

「他におらんか?ならば、こ奴ら2人で決選投票となるが…」

 

「「待てぇぇい!!」」

 

「なんだ、不満があるのか?良いだろう、暴れる機会が増えるぞ小僧ども。」

 

信長の言葉は尤もであり、豊久の要望にも半ば沿っている。が…

 

「やらされうのは好かん」

「右に同じ」

 

 

「お前らホント残念な子だな…」

 

クラスの雰囲気が決選投票で決まりかかった、その時。

 

 

バンッ!!

 

 

「納得出来ませんわ!」

 

両手で机を思い切り叩き、金髪淑女が立ち上がった。

 

「物珍しいという理由だけで『男』にこのクラスの顔を任せるなど、そんな馬鹿な話しは認められませんっ!実力から行けばこのイギリス代表候補生、セシリア・オルコットが代表を務めるのが自明の理!」

 

(ま、当たい前じゃな。)

 

言わずもがな、現在世界の風潮は女尊男卑。この金髪が反感をもつのも不思議ではない、と豊久は特に怒りもしない。それに実力で代表を決めるべきという点ではむしろ賛同できる。

 

「それに1年間男の下につくなど…わたくしはそのような屈辱、受け入れられませんわ!」

 

だんだんヒートアップしていく金髪、もといオルコット。

流石に屈辱云々言われるのは腹立たしく、豊久の顔が僅かにゆがむ。直に於いてはいわずもがな。

 

「そもそも、このような文化的に後進した極東の島国で過ごすこと自体が「うるせぇよ」なぁっ!?」

 

あまりの発言にクラスの大半がイラつき始めたとき、口を挟んだのは直。先ほどとは打って変わって冷たい怒りを感じさせる声音で、オルコットを睨みつける。

 

「極東の島国?てめぇんトコも島国だろうがバカヤロウ、だいたい嫌なら来んじゃねぇ。わざわざ日本に喧嘩売りに来たのかコノヤロウ」

 

先に喧嘩売ったのはどっちだ、と皆が心中突っ込むが直はお構い無し。

一方オルコットの方はあまりの怒りに肩を震わせ…爆発した。

 

「あなた!!わたくしの祖国を馬鹿にするんですの!?粗野で野蛮な猿の分際で!!まぁ、猿相手にわたくし達の誇りを説く事自体無理な話しだったようですね!!」

 

最早怒りの矛先が完全に別の方向に向いているが、誰も間に入らない。直も直で真っ向からそれを迎え撃つ。

 

「野蛮上等だコノヤロウ!!生憎だがなグレートブリテン、俺達は()()()()()()()()()()()()()()()誇り何ざぁ持ち合わせてねぇんだよ!!分かるわけねぇし分かりたくもねぇ、1人でほざいてろバカヤロウ!!」

 

「ッッ………!!!」

 

ここまで来たら、もう国同士の争いとなりかねない。流石に見かねた千冬が声を上げる、直前。

 

「なら、戦って決めれば良い。」

 

その謳うような声は、信長のものだった。待ってましたとばかりに顔を嬉しそうに歪め、不気味な笑いを漏らしながら続ける。

 

「島津と菅野はやらされるのが気に食わない。オルコットは男に任せるのは耐えられない。だったら話は簡単だ。お前ら3人で決闘すりゃえぇ。」

 

「決闘!?」「代表候補生とじゃ無理でしょ…」「でもあそこまで啖呵切ってたし」

 

クラスがざわめく中、当事者3人は声を揃えた。

 

 

「「「構(わん)(わねぇ)(いませんわ)」」」

 

オルコットと直はともかく、豊久までもが応じた事に若干驚く信長。てっきり俺には関係なかーなどと言って話しが面倒になるかと思っていたのだが…

 

「意外だな豊久。お前、完全に巻き込まれだからもうちと拗ねると思っていたわい。」

 

「やらされうのが好かんち言うたろ、そこまでやりたくないわけでんなか。そいに、こいは()じゃろ?願ってんなかこつ、手柄首ばあげんとのぅ!」

 

すんごい良い笑顔で返された。

シマヅコワイ。

 

「千冬、お前らどーいう教育してんだこいつに」

 

「島津の家風だ」

 

 

さて、と千冬が仕切り直し、改めて決闘の要旨が決まる。

日時は1週間後の放課後。菅野に比べて遅れている島津の専用機の到着をまつ、となった。

 

「専用機!?1年のこの時期に!?」

「いいなぁ、私も欲しいなぁ」

「これはもしかしてもしかするかも!!」

 

ちなみに、現在世界に存在するISのコアは500もなく、自分だけのオンリーワンを持てるのは本の1握りの者だけ。無論、国家代表候補生たるオルコットは既にそれを手にしている。彼女のプライドや態度も、一応は実力に見合ったものなのだ。

しかし、今回の男性操縦者の場合少々事情が異なる。国はISを稼働して2ヶ月ほどのトーシロに実技面でハナから期待しておらず、データ収集というのがまず第1の目的。その位は2人も理解しており、

 

『専用機あげるから取り敢えずモルモットになってね』

 

という政府の言い分に腹を立てている。

 

「菅野のISはもう完成していて後は後付けの武装を持たせるだけだそうだ。島津、お前のISは…正直特殊すぎて説明できん。決闘の3日前には届くよう手筈はしておく。では各自、怠るなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、よろしくて?」

 

豊久がオルコットに声を掛けられたのは、4時間目も終わり、さぁこれから昼飯という所だった。

 

「何が用か」

 

とっとと昼飯を食べたい豊久は対応がぞんざいになるが、これは仕方ないだろう。彼にとって飯とは至上の命題、それを邪魔されるというのはなかなかにこたえる。

 

「島津豊久と言いましたわね。わたくしはイギリス代表候補生セシリア・オルコット。あなた方を1敗地に塗れさせ、世の男の弱さを証明してみせますわ。精精泣いて詫びる練習をしておくのですわね。」

 

根っからの女尊男卑に染まった女か、と豊久は辟易していた。別に男を馬鹿にされたからと言ってそんなに激怒するほど拘っていないし、正直戦えれば理由なぞ気にしない。

豊久は他者に興味が薄い。と言うより自分の敵対者、もっと言えば己の前に立ち塞がる者以外は割りとどうでもいいと考えているのだ。だから、セシリア・オルコット嬢がただ嫌味を言ってきただけならば彼は完全にスルーし、存在すら忘れていただろう。

だが、今は違かった。

セシリア・オルコットは島津豊久にとって『敵』なのである。

奪るべき『首級』なのである。

 

故に、彼が取った行動は単純明快。

 

 

 

 

 

「何言いやがるクソボケが。首置いてくのは俺じゃない、貴様の方よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかん、やいすぎた。あげんに怒るとは思わんかった。」

 

「下らん事に付き合うからだ馬鹿者め。」

 

時と場はうつり、昼食時の食堂。豊久と箒は2人で向かい合って食事をとっていた。

直も共にと思ったのだが、麻耶に呼び出され職員室に行ってしまったので、(直には申し訳ないと思うが)箒は内心ガッツポーズの2人きりだ。

それはともかく、豊久がやりすぎたとボヤいたのは先ほどのオルコットとのことである。豊久としてはれっきとした宣戦布告のつもりだったのだが、先方は侮辱と受け取ったらしい。あの後激怒してもう許さないやら手加減はしないやら叫んで出ていった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、まぁ良いだろう。

 

「…それで、豊久。勝ち筋は見えるのか。」

 

無愛想を装いながらも心配を隠せない箒。彼女は豊久の剣が強力な事を知っているし、何より信頼している。だが、セシリア・オルコットがもつ国家代表候補生の名はそれすらも凌駕する称号なのだ。先程も述べたがISを操れる1握りの、更にその爪の先ほどの存在が国家代表。候補生とはいえ、ISに触れて2ヶ月の素人が叶うはずがない。

 

「見えん。恐らくあやつは今ん俺より遥かに上じゃ。」

 

「見えないのか!?!?あれだけ大口を叩いて!?散々挑発しておいて!?」

 

「挑発なぞしとらん。あいは貴様の首ば貰い受けるちう口上ぞ。そいに見えんなら自ら探し当てるだけ、負けるつもりも毛頭なか。」

 

焦る箒とは対照的に、何の気負いもない様子で白飯を掻っ込む豊久。傍から見れば心配でしかないが、

 

 

(ま、全くこの馬鹿は….だ、だが、その、今の言葉と眼差しは、その…かっこよかった、な…)

 

篠ノ之箒さんの恋の病は、もう手遅れのレベルに到達しているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、デストロイヤーは…

 

「なんだよ()()()()、話しって。」

 

IS科準備室にて、副担任ではなく完全に姉の顔をした麻耶と向かい合っていた。

 

「直ちゃん。よく聞いて。直ちゃんが()()()の私の怪我を気にしてくれてるのは分かってるよ?でも、その怒りをオルコットさんにぶつけるのは違う。怒りとか憎しみとかで直ちゃんの人生を彩ってほしくはないの。」

 

「…おう」

 

苦々しい顔だが、素直に受け止める。

姉は自分を唯一認め、愛情を注いでくれた存在。

その姉の思いを無碍にすることは出来ない。

 

「あっ、えっ。ええっと、そんな怒ってるわけじゃないよ!?直ちゃんの感情を無視しようとか、そんなことは思ってなくて…だから、えぇと、その…」

 

直がしょげているとおもったのか、必死に言葉を紡ぐ麻耶。実の弟にそんなにキョドることもないのに、と思いつつ直はクスリと笑う。とにかく姉は優しいのだ。

 

「わぁーってるよそんぐらい。もう15年も姉ちゃんの弟やってんだ、言いてぇことは分かる。」

 

「直ちゃん…」

 

うるうると目を潤ませる様は小動物と言うにふさわしい。

 

「やっぱり、変わってなかったぁぁ〜!放課後はお姉ちゃんの部屋においで〜!」

 

「だァれが行くかこのブラコン!!ってか俺昼飯食ってねェェェ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――あぁ、私だよ。菅野直と島津豊久の機体が完成したらしい。…いや、IS学園の教師がそう言っていた。十月機関に潜らせた奴から設計図は送られたが…これはシャレにならん。何よりパイロットがあのイレギュラーだぞ?

使いこなしてしまうかもしれん、早く潰すに越したことはないさ。あぁ、それでは。

 




はい、そんなわけで第3幕です。
今回で決闘直前まで持ってきたかったんですが…流石に無理でした。次回1回日常会(?)を挟んで、皆様お待ちかねデストロイヤータイムです。

次回

乙女

のほほん

呵呵大笑

『During a week Ⅰ』


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第4幕 During a week Ⅰ

源氏バンザイ。日常会は1回で済ますつもりだったのですが…長くなりすぎたため、分割します。出来るだけ早く戦闘に入れるよう努力しますので、引き続きよろしくお願いします源氏バンザイ。


昼食を終え、クラスに戻ってきた2人。まだ始業には大分時間があるので、箒としては2人で旧交を暖めたかったのだが…

 

「島津くん!?」

 

「えっ、うそ!?教室にいて良かったー!これは勝つる!」

 

「ねぇねぇ、今暇?放課後暇?夜暇?」

 

客寄せパンダの力はスゴイ。瞬く間に豊久With箒は女子の輪に囲まれてしまった。

 

(しもうた、忘れちょった…)

 

食堂で時間を潰せば良かったと今更ながら後悔するがもう遅い。というか、今まで箒に呼び出されたり直と殴りあったりで、ほかの生徒が声を掛けるタイミングが無かったのだ。質問攻めは避けられない運命だったのであろう。

 

「島津くんってさ、剣道の全国大会二連覇してるんだよね!つまりメチャクチャ強い!?」

 

「まぁ…中学ん時じゃから突きが使えんじゃっで、高校でどげんなっかは分からんが。」

 

知らなかった生徒は『へぇー!』と驚き、強い男の子ってイイよね…と自分の世界にトリップしてらっしゃる方もチラホラ見える。

 

「良いなぁ、剣道男子…。見た目も漢って感じでカッコイイし、ISも乗れるし、しかも身内はブリュンヒルデ!優良物件もイイトコじゃない?」

 

「!!!!!!」

 

その時、箒に電撃走る。

 

(わ、私は重大な勘違いをしていた…!ここにいる女子は男性操縦者という好奇の対象として豊久を見ているとばかり思っていた…。だ、だが!!よく考えろ篠ノ之箒!豊久は普段は呆ーッとしているが勝負事になるとまるで別人!瞳はらんらんとして顔には精悍な笑顔が浮かぶ!あ、あの顔はかっ、かっこ…いや逞しい!そして普段も笑った顔は柔らかく、無意識ではあるが気遣いらしきものもできる…体付きも良く運動も無論得意…そ、それに…わ、私が惚れるほどの男だぞ!?)

 

後半は何を言っているのかほとんど分からないが、つまるところ彼女が言いたいのは、

 

(他に惚れる奴がでても、何らおかしくはない…!!!)

 

ということである。

 

「あん?何ぞ、どげんかしたか箒。顔ば赤くなったい青くなったい、えらい事んなっとるぞ。」

 

「なっ!?何でもない!!大丈夫だ、私は至って平常だ!」

 

(ま、まずい、これはまずい…!豊久が他人からの好意に気付く姿は想像できんが、それでもまずい!何かの拍子にその想いを豊久にぶつける者が出てみろ、アイツが断る保証はないっっ!!ぽっと出の輩に取られ、この想いを告げずに終わるくらいならば…お、思い切って早く言った方が良いのではないか!?!?)

 

確かに豊久が女子ウケしないわけではないが、乙女フィルターがかかった箒には彼の良さが三割増に見える。ぽっと出に取られるという被害妄想(?)まで思考がいたり、最早暴走寸前である。

 

「そう言えば、島津くんと篠ノ之さんって仲良いの?今も一緒にご飯食べてたんでしょ?」

 

「!」

 

再び顔を赤く染める箒の肩がビクンとはねた。反射的に豊久の顔を見上げる。

 

「そうじゃの。餓鬼ん時からの幼なじみじゃっで、気心ば知れちょる。仲は良かち思うが…のう、箒。」

 

箒は心配そうな顔から一転、パァっと顔を明るくして仕切りと頷き始めた。単純というか一途というか、何はともあれ苦労の多い恋する乙女…

 

「うむ!!そう、良いな!うん、私達は仲が良いぞ、豊久!」

 

「「「あー…そういう……」」」

 

その場にいる豊久以外の誰もが心中手を合わせる。

 

篠ノ之箒さん(コイスルオトメ)お疲れ様です、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこだどこだ此処はバカヤロウ!!あァ!?迷子とかふざけてんじゃねぇぞコラァ!!」

 

ふざけんなはお前である。無論、声の主は直。職員室からの帰り、物の見事に迷子になっていた。

(ちなみにお姉ちゃんがお弁当を分けてくれました)

 

「糞ッ、道に迷うとろくな事がねぇ…誰かいねぇのかオイ!」

 

無意識に飛び出た愚痴は受験会場でのこと。あの時直が道に迷わず、なおかつたまたまIS適性検査会場に辿り着かなければ今こんな所にはいない。まぁ、迷った直がわるいのだが。

 

「むむ?その声はナオシー?」

 

「あァ?」

 

ひょこっ、という効果音を伴いそうな雰囲気と共に、変なのが曲がり角からでてきた。

髪の色は赤めの茶髪、髪型は触角?2本。別段おかしな所はない。しかしながら直が変と感じたのは、制服の袖だ。

そういうファッションなのか知らないがらやたらダボダボで余っている。豊久ほどではないもののポケーッとした顔立ちをもちながら、アンバランスなのはムn

 

「失礼なこと考えてなぁい?」

 

ゴホン、見た目にそぐわず鋭いところがある少女だ。

 

「考えてねえよコノヤロウ。つーかお前は…あー…同じクラスの…」

 

「布仏本音だよー。宜しくねナオシー。」

 

余った袖を揺らし、手を振る布仏。直の叫びを聞きつけてくれたらしい。

 

「よろしくなコノヤロウ。それとその呼び方やめろコラ」

 

「えー…可愛くて良くない?ナオシーがダメなら…ナオシカ?」

 

「俺とジ〇リに喧嘩売ってんのか」

 

教室に案内して貰っている中、ところで、と布仏が直に切り出した。

 

「ナオシーはなんで最初セッシーにあんなに怒ってたの?代表決めの時はまぁ分かるけど…」

 

セッシーというのはあのクソ金髪の事だろうか。この少女、人物も分からないがネーミングセンスはもっと分からない。

 

「呼び方結局戻すのかよ。まぁ、なんだ、嫌な思い出があんだよ、外人に。特にアメリカとイギリスに、な…。」

 

ギリッ、と奥歯を噛み締める。言葉にするだけで怒りが沸騰しそうだ。強く握った手は今にも爪がくい込まんばかり。

 

「ご、ごめんね、ナオシー…」

 

別に彼女が悪い訳では無い。直は乱暴で直情型だが、外国人が絡まなければ判断能力は高い。

気にすんな、と一言言ったきりである。

しばらく2人とも無言だったが、ふと直が口を開いた。

 

「布仏。」

 

「なぁに?それと本音で良いよ?」

 

気さくな布仏改め本音は、小動物のように首を傾げる。

何か撫でたくなる雰囲気だ。当然そんなことはしないが。

直にそんなラノベ主人公スキルはない。

 

「んじゃ本音。オメェ、あのクソブリテンのことなんか知ってそうな知り合いとかいるか。」

 

国家代表候補生ともなれば、詳しい情報がネット上に転がっているとは考えられない。多少は分かることがあるかもしれないが、そんなのは雀の涙であろう。

直は相手が代表候補生だからと負けるつもりは毛頭ない。

むしろだからこそぶちのめすつもりだ。姉は感心しないだろうが、イギリスの顔に泥を塗れると考えただけでニヤケ顔が止まらない。何が何でもぶちのめさなければ。

そして、そのためには情報が必要だ。遠近どの距離を得意とするかなど基本的なことは勿論、出来れば奴の切り札もある程度知っておきたい。所詮は前情報だが、あるなしでは大きく違う。

 

「むぅぅ……セッシーの事ねぇ…うむむむむ………」

 

「ま、ねぇならそれでいいんだけどよ。無いなら無いで仕方ねぇ。当日その場でぶちのめすだけだ。」

 

この当たり、豊久と直は気が合うのではないだろうか。最善の策に固執し、実現もしない理想にばかり目を向ける凡夫とは違う。

喧嘩()慣れしているのだ。

この柔軟な思考こそが今回の決闘の鍵となるだろう。

 

(ふ〜ん。最初はナオシーは後先考えない熱血バカかと思ったけど…()()()、この子。それに恐らくはトヨトヨも。2人とも目がギラっギラだもんねぇ〜。ま、何にせよ…)

 

少女は独りごち、ほのかに笑う。瞳の奥にうつるものを伏せ隠しながら。

 

(こりゃセッシーはご愁傷さまかなぁ〜)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、()()は。

人ができる目なのか。いや、そもそもあの者達は…

 

「ッ…!!」

 

言いようもない感覚がセシリア・オルコットの全身を包んでいた。もしも彼女が泥臭い喧嘩に慣れていれば、その正体に気づいていただろう。だが彼女はISの操縦者であり、直の様な喧嘩好きでも豊久のような戦屋でもない。

()()が恐怖だと、彼女は気づけなかったのだ。

いや、予想程度ならついていた。だが決して認められるものではない。誇り高き貴族にして国家代表候補生たる己が、一介の野蛮な男に恐れを抱くなど認めるわけにはいかないのだ。

 

菅野直。

 

怒りを超えた憎しみをいきなりぶつけてきた。それだけではない。セシリアにとって己の戦う理由たる誇りを、あぁも容易く、あぁも力強く否定した。

 

島津豊久。

 

圧倒的である筈の戦力差を理解できていない訳では無いだろう。それなのに笑った。作り笑いでも虚勢でも無く、本当に楽しそうに笑った。

 

無意識に右手のナイフをグッと握る。

 

(負けるわけにはいかないのです…『男』などと言う弱者には、決して…!!)

 

そこでふと彼女は気付いた。気付いてしまった。

()()()()()()()()()()()()()()()事に。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「わ、わたくし、は…!」

 

絞り出された震え声は、誰に届くでも無く喧騒に紛れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はい、では今日の授業はここまでです。皆さん初日お疲れ様でした〜。」

 

麻耶の声に続き、教室のあちこちから私語が聞こえ始める。IS学園1年1組、激動?の1日がようやく終わりを迎えた。

 

「ふむ、さっぱい分からん。」

 

あっさりと降参宣言をしたのは豊久。彼は元来学問的に頭が良い訳では無い。というより古典以外は悪い。倍率一万倍を超えるというIS学園の授業についていけるはずも無く、最早無我の境地に入っていた。

 

「お前の姉ちゃんはその道のプロどころか世界最強だろうが、教えてもらえよ。つか、予習の教材読まなかったのかよ。」

 

逆に、直は実は頭が良い。天才の類ではなく、努力家なのだ。二ヶ月の間にISの基本制動、それに基礎理論を詰め込もうというあほらしいカリキュラム(とすら呼べない代物)をやってのけたのがその証左。

 

「姉上か?あんお人は俺と同じで実践向きじゃ、教師なぞ絶対合わん。賭けてんよかど、教えっのは素人じゃ。」

 

「ほう…?誰が何の素人だと…?」

 

あガガガ、とアイアンクローを受ける豊久を尻目に、苦笑しながら麻耶が口を開く。

 

「えと、2人の専用機なんですが、昼間島津先生が仰った通り直ちゃんのしか出来上がっていません。島津くんの開発元が倉持技研から十月機関の直属技術部門に変更になったせいかと…」

 

元々、直の専用機は国が用意する事になっていた。しかしながら豊久がIS適正を見せたのはそれより後だった為、日本有数のIS開発社が食指を動かしたのだが…

 

「しかし、こんなことなら倉持にやらせれば良かったかもしれんなぁ。なんで断ったんだオマエ。」

 

そう、信長が言ったように()()()()を知るや否や豊久自ら変更したのだ。それにより手続きやら開発順序やらで遅れが生じ、結果現在に至る。

 

「倉持めが、他ん奴の専用機ば作っちょるんを凍結して進めるち吐きよった。俺は天上人かなんぞではなか。」

 

「「「はぁ〜〜〜………」」」

 

「何ぞ文句あんのかクラァ!?聞いといて何じゃそん態度ォ!首もぐぞ信長てめぇぇ!!」

 

豊久は気遣いが出来るのか出来ないのか、優しいのか優しくないのかますます分からなくなっていく。

 

 

 

 

「クシュンッ!誰か…噂…?まぁ…本音、かな…?」

 

 

 

 

 

その時、隣の隣の隣のクラスで何かを察知した国家代表候補生がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、愚弟(豊久)の教師の呼び捨てはスルーするとしてだ。」

 

「オイちょっと待てやコラ」

 

信長の抗議をあっさりとシカトし、千冬が顔を引き締める。

 

「豊久、お前このままだと訓練機で決闘するハメになりかねんぞ。十月の奴らもだいぶ参っている。『打鉄』で専用機に勝てるなどと、自分の力を過信している訳ではないだろう。」

 

「己で決めた事じゃ。今更泣き言は言わん。間に合わんなら『打鉄』でやれっとこまでやる、間に合うたならばぶっつけじゃな。…過信はしとらん、じゃっどんそいで負けるとも思ってなか。」

 

豊久の顔には悲嘆の色が全く見えない。流石に余裕を持っている訳では無いが、彼は諦めが良い。かと言って、甘んじて負けを認めるつもりなぞ毛頭ないが。

 

「ふん、言ったな馬鹿者め。姉に恥をかかせる無様ななりは見せるなよ。」

 

そう答えた千冬の声音がどことなく嬉しそうなのは、傍からは感じられない。だが彼女に養育され、鍛えられてきた豊久には手に取るように分かる。

 

「応。美事な武者働きば、お目にかけてみせもそ。」

 

姉の不器用な心配と期待を、嬉しそうに受け止めた。

 

「ところで…のぅ、直。」

 

「あんだよオッサン。」

 

「おま、もう少し年長者に尊敬をだなぁ…あー、もうええわい。んで、お前どんなビックリドッキリメカをパイオツ機関に頼んだんだ?電話口で涙声だったぞ、あっちの技術者。まぁそりゃあ豊の方もだったが…」

 

「細けぇとこまでは指定してねぇ。取り敢えず手数と速さで圧倒できる奴って言っといた。」

 

 

手数と速さで圧倒する。言葉にすれば簡単だろう。相手がIS以外の兵器ならば簡単とは行かずとも実行は可能だろう。しかし、この場合相手は同等以上の性能を持つ最強の軍事兵器だ。戦闘機以上の機動力を持ち、人間並みの不規則な回避行動を取るISに、そんな事が通用するとは思えない。

 

「はー…まぁた開発者泣かせな事を…んで、豊は?」

 

「刀ば振り回せて、速さがあれば後は俺ん方で何とかするち言うた。」

 

「「「「はぁぁぁぁァァァ!?!?!?!?!?」」」」

 

「だから何だァ、そん反応は!?そげんにおかしか事ば言うたか!?」

 

「言ったよやったよやらかしたよ!!もうやだこの薩人マシーン…」

 

自称第六天魔王、織田信長49歳。この1年が、己の教師生活でぶっちぎりの最悪なものだと気付き始めたのは、ここのあたりであった。

 

「代表候補生相手に、本気で勝つつもりでいるの2人とも?」

 

と、そこへクラスの面々が会話に加わってくる。入学初日で素人が国家代表候補生に喧嘩を売ったのだ、気にならないはずが無い。

 

「相手は国の名前を背負ってるエリートだよ?いくら何でも無謀だとおもうけどなぁ。確かに高飛車でヤな感じだけど油断なんかしないと思うし…それに、男が女より強いっていうのはもう昔の話だからねぇ。今からでも遅くないよ、ハンデの一つ二つ付けて貰ったら?」

 

1人の言葉に同調するかのように、クスクスと笑いが少なからず起こる。繰り返すが世は女尊男卑。この風潮は最早滅多なことでは消えないであろう。この決闘で、そんな考えを少しでも改められたらと千冬や麻耶はかんがえているのだが。

 

「「プッ……」」

 

『え?』

 

「「はっはっはっはっはっ!!」」

 

このバカ2人の頭の中に、男女どうこうは全くもって入っていない。

 

「「はっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!」」

 

狂ったように……ではなく、豊久と直はさも可笑しそうに、陽気に笑う。面白い冗談を聞いたと言わんばかりの笑いっぷりに、周り

 

「なぁんが、俺らを男ん代表ち勘違いしとるんか?そがいなもん、俺らが知った事かァ!俺らは俺らん為にあ奴めの首を獲る!そいに、功名首に箔がついとるなぞ願ってんなか好機でなかが!何としても()()とらねばのう!」

 

『――――ッッ!』

 

「男だろうが、女だろうが、外人だったらぶっ飛ばす!代表がどうした練度がどうしたァ!墜すだけだよバカヤロウ!」

 

「「はっはっはっはっはっはっはっ!!!!」」

 

お2人が楽しそうでなにより。

ここまで来るともう狂人レベルである。

 

だが、織田信長の見立ては違った。

 

(こやつら…場の雰囲気に流されて戦の意義を見失ってねぇ。アレだけ煽りともとれる言葉を聞かされても一片の動揺もねぇ。)

 

シワだらけの顔をくしゃりと歪め、ご満悦だ。

今更ながら、豊久が感じたように彼は一介の教師ではない。魔王などと言う大層な二つ名を自称するだけの才人である。

こと策謀や人の器を見抜く力は当代きってと言って良いだろう。その慧眼が豊久と直の2人を捉え、離さない。

 

(ふひひ…面白ぇなぁ、戦屋ってのは。堪らんなぁ。さぁさぁ2人とも、アホどもに見せて示して顕してやれ。闘争の真の姿を、生死の狭間の美しさを。)

 

様々な思惑が絡まり、交錯し、IS学園の1日は過ぎてゆく。

 




はい、すいません。主人公2人、特に豊久の笑顔について多少やりすぎた感がありますねぇ…。でも、ヒラコーキャラの共通した魅力ってイッちゃった笑みだと思うんですよ。旦那にしてもアンデルセンにしても、よいっちーとかにしても。みんなステキな笑顔。ンなわけでこれでもかってくらい笑顔を強調。

あと、豊久が簪からの恨まれフラグをへし折りました。流石空気を読まない蛮族。しかし別な意味のフラグを建てるかも。そしてのほほんさん魔改造?

次回

同室



怪しいヤツら


『During a week Ⅱ』


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During a week Ⅱ

まずはお詫びを…遅くなり、申し訳ありません。後書きにも書いてありますが、今後更新スピードがかなり落ちると思われます。どうぞお見捨てにならず、今後ともよろしくお願いします。


「お、ここじゃ。」

 

IS学園の1年生寮の1室…細かく言えば1600号室の前で、豊久は足を止めた。

 

『島津くんと直ちゃんは別の部屋になってしまいました…急な入学だったので部屋割りが上手くいかなくて…すみません。』

 

申し訳なさそうに言う副担任に、大丈夫だと告げて歩く事3分、たどり着いたのはこの部屋だった。

 

「おうい!同室の島津豊久じゃ。邪魔すっど!着替えかなんぞしとるなら言うちくれ!」

 

いくら豊久とて猿ではない。中にいるのが女子だということくらいは理解しており、ちゃんと声をかけた。

………おい、誰だ今「お豊にそんな気遣いができたなんて」とか思ったやつ。背後から首狩られても知らんぞ。お豊は一応名家の当主だからネ?

 

「と、豊久!?」

 

中からの返事は気心が知れた幼なじみの物だった。残念ながらこの時、箒なら問題なかろうと気を抜いたのが彼の気遣いの限界を証明してしまっている。

渡された鍵を差し込み、ガチャりと回す。

 

「箒か、取い敢えず「開けるなぁぁっ!!!」うおおっ!?」

 

ドアを開けた途端、剣道具入れの大きなバックが飛んできた。流石の戦闘民族シマヅも驚かずにはいられない。

慌ててドアを閉め、扉を背に背後に向けて声を投げた。

 

「言うのが遅ぇよ!着替えしとるならそう言えち言ったろ!」

 

「そ、それはアレだ、突然の事だから驚いたんだ!だっ、大体、男女七歳にして同衾せずと言うだろう!?どういう事だ!?」

 

あのブラコンメガネ、伝えとらんかったんか、と内心毒づきながら箒の主張に耳を傾ける豊久。驚くのは分かるが、だからと言って攻撃的手段に移るのは辞めて欲しい。

 

「菅野先生から聞いとらんのか。部屋割りん都合ば合わんじゃっで、こん部屋行けち言われて来たんじゃ。で、もう入ってよかが?」

 

「わ、分かった…もういいぞ。」

 

はぁ、とため息ひとつ、ようやく豊久は入室に成功した。

部屋に入ると、箒が紺色の剣道着で目前に立っていた。

僅かに顔を上気させ、道着の隙間から見える細い首が魅力的だが、彼女の姿を見てまず手合わせしてみたいと思ってしまうあたり、やはりコイツは妖怪首置いてけであろう。

 

「そげな事で頼むど箒。途中で代わるかも知れんちゅう事じゃが。まぁ、俺としてんお前ぁとならば気が楽じゃ。」

 

「…!私と同室なのが、嬉しいのか…!?」

 

「?嬉しい…まぁ、そうなる…かの?」

 

豊久としては他の者よりマシ、程度だったのだが一々否定するほどでもない。特に考えもせず曖昧な返事を返した。

と、みるみる内に箒の態度が軟化。顔はにやけ、心持ち体も弾んでいる。

 

「そうか…そうかそうか!ふふふ…まぁ、そういうことなら、よろしく頼むぞ!取り敢えずシャワーの時間など最低限の事を決めてしまうか。夕飯はその後でいいか。」

 

応、と答えながら首を傾げる豊久。

 

(なんぞ、良いことでんあったんかのう。ま、良か)

 

箒の想いが届くのには、やはり豊久は鈍感すぎるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、同IS学園1年生寮1945号室では呆気に取られる男子と黄色い着ぐるみに身を包む少女が向かい合うという珍妙な構図が出来上がっていた。

 

「やほー、ナオシー。さっきぶりー。」

 

「あ、あぁ…んだァ、その着ぐるみ…」

 

「コレ?コレはねぇ、私のお気に入りのキツネの着ぐるみパジャマなのだ~。」

 

相変わらずのほほんとした空気を纏う少女を前に、直は言葉が続かない。

 

「不思議ちゃんだろ、テメェ。」

 

「えぇー?男の子なのにIS動かしちゃうナオシーの方が不思議だとおもうけどなぁ。」

 

確かに的を得ている。本当に分からない、もしかしたらあの妖怪より分からないかもしれないと思いながら直はその言葉を肯定するしかない。

 

「確かになァ。ま、んなことたぁ今はいい。宜しくなコノヤロウ。」

 

「ナオシーってもしかしてボキャブラリー少ない?」

 

 

んだとこらァ、やんのかバカヤロウ!と声が響くが、本音の指摘は割と当たっているかもしれない。

 

 

 

 

「あー、本音。ここの棚、本入れていいか。」

 

「ナオシーって読書が好きなんだっけ?うん、良いよー。ところでどんな本読むの?孫子とか?」

 

「どんなイメージ持ってんだ俺に。1番読むのは詩集だな。誰のでも構わねぇ、人間がその場で感じた言いようもねぇ感覚を言葉にした物なら何でも好きだ。何っつったら良いのか…あぁ、アレだ。梶井基次郎の『檸檬』読んだことあるか?アレは小説だけどよぉ、普通はモヤモヤした嫌な気分ってだけで済ます感覚を言葉にして下ろすんだぜ?スゲェと思わねぇか?綺麗だと思わねぇか?なんつーか…その、あぁもうめんどくせぇ、とにかく好きなんだよ!飾り気のねぇ心の現れが!!」

 

いつに無く饒舌に感情を見せて語る直。最後の当たりは照れたように顔を赤くする様子が微笑ましく、教室での荒れっぷりを見ている本音は絶句するしかない。やがて、束の間の行動不能状態から復活した彼女はニヤニヤしながら直に近づき…

 

「…な、なんだよ、なんか俺が可笑しいこと言ったかコラァ!」

 

トコトコ…

 

「あ?」

 

ナデナデ…

 

頭を優しく撫で始めた。

 

「あァ!?!?なっ、何してんだテメェコノヤロウ、馬鹿にしてんのかコラァ!!!」

 

流石に恥ずかしかったらしい直が抗議を行うが、構うことなく本音は撫で続ける。

 

「ムフフフフー、カワイイ所あるなぁナオシー。よしよし~」

 

「ヤメロォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

姉、麻耶に引き続き同室の少女にも可愛がられてしまう菅野デストロイヤー直。彼の試練は続く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………メロォォォォォォ……………』

 

「「ん?」」

 

「何だ、菅野の声か?」

 

「どうせ姉御ん事じゃろう。」

 

「それもそうだな。では次は着替える場所だが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくし、寮のどこか一室。1人の生徒が電話口に不機嫌な声をぶちまけていた。

 

「ふん、アレがブリュンヒルデの弟か。功名心のみに付き従う俗物だな。大義も何もあったものではない。期待して損をした。何が悲しくてあのような戦馬鹿を警戒しなければならん…」

 

対して電話の相手の方は軽い口調ながら慎重さを感じさせる。

 

『わからねーぞ。ひょっとしたら戦以外を全て切り捨てた()()()()かもしれねぇぜ?で、菅野直の方はどうだい?』

 

「アレは分からん。何をあんなに怒っているやら…だが二人ともキャンキャンうるさい野良犬の域を出ない。」

 

『ふーん…』

 

「なんだ、何が言いたい。」

 

『その野良犬に脛噛まれちゃあ洒落になんねぇよ。甘く見すぎると痛い目見るぜ?』

 

「一々癇に障るヤツだな、相変わらず。まぁ良い、島津豊久と菅野直、2人とも早々に消えてもらう。動く時機は私に任せろ。良いな?」

 

『へーいへいっと。じゃ、下手ぁ打つんじゃねぇぞ。』

 

プチッ

 

 

「ふん…亡国機業(臆病者)が…あのような猿共、私1人で…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々のものではないか、その方らの弟共は。」

 

「貴様に言われると嫌味にしか聞こえん。」

 

「あははは…」

 

織田信長、島津千冬、菅野麻耶。この3人に何の関係があるのかと言われれば大抵の者が教師仲間と答えるであろう。だが、実際はそのように単純な言葉で言い尽くせるものでは無い。持ちつ持たれつと言うでもなく、親友と言うでもなく、先輩後輩と言うでもなく。そしてそれは()()()()()()()()()()()()()()()()、だ。

 

「あらやだアタシこの目で見たかったわぁ。ブリュンヒルデと狙撃の皇女の弟さんたち…おホホホ…」

 

「馬鹿言うんじゃねーよこのオカマ、テメーEUの調略はどうなってる。まる一ヶ月連絡ねぇからしくじったかと思うたわ。かと思ったらいきなり職員室にお客様だぁ?アホかオマエ」

 

信長のあまり怒りを感じさせぬ叱責に、その男女は楽しそうに笑う。

 

「あらあらそれはごめんあさーせ。でも分かりきってるでしょん、そんなこと。アタシがここにいるのよぅ?」

 

「相変わらずですねぇ。というか変態っぽさに1層磨きがかかりましたねぇ。」

 

「何ですって!?」

 

ヨーロッパ随一の大富豪にして、IS研究の最高権威の1角と言われる男。もといオカマ。

 

「このサンジェルミ様にそんな口聞ける娘っ子なんてアンタら2人と()()()()くらいよ!」

 

爵位は伯爵、領地はフランス。現在独自の技術とパイプを持って欧州を牽引する大きな存在である。

その大物が何故この学園で3人の教師と会合しているのか。簡単な話だ。彼らが協力者だからである。

協力者。そう、協力者という言葉がこの4人にはいっとう似合う表現だ。

 

「それは光栄だな『錬金術師』殿。…で、()()()()()。」

 

「全くアンタも相っ変わらず可愛く無いわねちっふー。顔と胸以外ホント漢よオ・ト・コ!」

 

世界最強にギロりと睨まれながらもさらりと流し、サンジェルミは言葉を継ぐ。

 

「まぁ良いわさ。で、EU?あんな俗物連中の取り込みは別段難しく無かったわよぅ?コアをバラすことに成功しそうだから()()()()情報を将来的に優先販売してあげるって言ったらイチコロねぇ。」

 

その言葉に麻耶がふぇぇ、と感心した声を漏らす。

通常の交渉や調略では、当たり前ながら実のあるものが材料として用いられる。領土や身柄の安全の保証なども、突き詰めれば実現可能で人が欲する『実』の1つだと言えよう。だがこのオカマが材料として提示したのは、本当に存在するかどうかも分からない未来の物の、更にその販売権。この一事だけを見ても、いかにサンジェルミの情報が貴重な物かが分かる。

 

「マジで出来んのか。」

 

「なわけないじゃない。早くても10年ね。」

 

「で、何に手間取ったと?」

 

「んー……そのことなんだけど…」

 

「なんだ歯切れの悪い。それでも男か、この変態。」

 

「アタシはオカマよ!…フランスに野暮用があってね。『黒魔術師』と対面して来たのよ。」

 

フランスに領地を持ち、なおかつ爵位を戴いているが、彼は現在自由国籍である。そしてその本業とはISの解析と研究だ。

 

「『黒魔術師』…か…。!?黒魔術師ィ!?」

 

黒魔術師、フランソワ・プレラティ。同じくIS研究者の男だが、彼は解析よりもISの不当な改造を主としている犯罪者であり、その改造を商標に自分を世界中に売り込んでいる。テロリストは無論、良からぬ事を考える各国の首脳陣らの間では高名だ。

 

「するとあれですか、フランス政府が第三世代ISが開発できないもんだから彼を頼って、伯はそれを追いかけた…と?」

 

意外にも素早く反応したのは麻耶であり、彼女の瞳は眼鏡の奥で微かに光っていた。

確認するような麻耶の問に、サンジェルミは頷きを1つくれると、ポケットから一枚の写真を取り出し真面目な顔で続けた。

 

「この写真のコ。近くこの学園に転入して来る筈よ。と言うより転入して()()()。それもかのIS開発筆頭企業の秘蔵っ子っていう触れ込みでね。」

 

「そいつの専用機がフランソワに改造されているとでも言うか。」

 

「まぁ妥当な所でしょうねぇ。大方男性操縦者のデータとりでもするつもりじゃないの?失敗したら暴走するように専用機に仕掛けてある、とか。」

 

現在、フランスは欧州各国のIS企業が提携して新世代ISを開発しようという『オルテ計画』からハブられている。早い話が技術力不足。今や主流となっている第三世代IS開発の目処が立たず、ドイツを筆頭とする技術大国から不要とされたのだ。それをフランスは屈辱、また大きな経済的損失と考え、男性操縦者のデータを取ることでオルテ計画に取り入ろうとしているのだろう。

 

「捨て身のつもりですかね、フランス政府は。そんなことになったら間違いなく即バレすると思うんですけど…」

 

「問題はそこだな。そんな単純な策とも呼べぬ特攻で今の情勢をひっくり返せると本気で思っているのか…だとしたらフランス政府には馬鹿しかおらん。」

 

千冬の言葉は最もだ。言ってしまえばこの企みはお粗末すぎる。首尾よくデータを得たとしても、各国がそれを容易く受け入れるか。そもそも世界最強と呼ばれる女がいるこの学園で尻尾を掴まれないのか。いや、既に動きはバレている。

 

簡単すぎる。

 

「ま、今はこの事は良いわ。それより2人の事よォ。1週間後には代表候補生と決闘ですって?そもそも出来てるの専用機?て言うか出来たとしてもまともに乗りこなせるのあんなバカ兵器。言っちゃ悪いけどあんなのちっふーでもムリよ。」

 

「あー、決闘吹っかけたのオレだわ。」

 

「何してくれてんだこのヒゲ眼帯!」

 

 

 

「確かに、私でも無理かもしれん。」

 

「でしょう…「だが。」?」

 

「島津豊久ならできるさ。菅野直は姉殿に聞け。」

 

絶対的な自信を持って千冬が答える。その目には一切の揺らぎがない。

 

「直ちゃんなら大丈夫です。だって直ちゃんですから。」

 

麻耶も負けじとフンス、と聞こえそうなほど胸を張る。2人のあまりの自信にサンジェルミも苦笑するしかない。

 

「大層な自信ねぇ…はぁ、ホント姉バカ。じゃあもう言わないわ。決闘は見に来たいけど無理そうね、映像を送って頂戴。テロリストの動きを掴んだら連絡するわァ。」

 

「フランスの話がメインか?わざわざご苦労だな。」

 

「揺らいでないか見に来たのヨ。あなたとちっふーはともかく、巨乳メガネがね。」

 

一瞬、鋭い視線が麻耶を貫く。しかし彼女は笑顔のままでハッキリと答えた。

 

「揺らぎなんてしませんよ。守るものの為なら、私は将棋の駒にでも指し手にもなります。失う物はありませんから。」

 

見るものを凍りつかせる冷たい笑顔。どこか狂気的な雰囲気をもつそれを前にして、3人もまた口角を上げる。

 

「よう言うた…くひ、ひひひひひひ…」

 

「ふっ…」

 

「ウフフフ、ならまぁこれからもよろしく頼むわよん。()()を叩くまで、ね?」

 

寝返り、調略、元凶などなど…この4人が何を目的とし、何を成そうと言うのかは分からない。だがこれだけは何があっても引っ繰り返ることはあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロクな事は、起こらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェェェストォォォォォォ!!!!」

 

猿の叫びかと聞き紛う声が武道場に響く。数旬遅れてバシィン!という軽快な音が続いた。無論、発生源は島津豊久である。

 

「…いかん、腕が落ちとる。日が空きすぎたか。」

 

「落ちていてそれか…」

 

箒が呆れて言ったそれ、とは豊久の足元に転がっている剣道用AIロボのことだ。セシリアとの決闘を5日後に控えたこの放課後、豊久は訓練機が借りられなかった為剣道に勤しみ、剣道部員がドン引くレベルで叩きのめしていた。

 

「そいより、俺はお前ぁが強かに驚いたぞ。ないごて全国に来んかったと?」

 

「重要人保護プログラムとやらのせいでな。おちおち部活にも所属出来なかった。大会など以ての外だ、1人で技を磨くのに苦労したぞ。」

 

豊久の見た所、箒は全国でも十二分に通用する腕を持っている。昨日の手合わせでは豊久の勝利だったが、今後は剣道部に所属するつもりとの事なので今後の対戦の楽しみが増える。

 

「それにしてもお前のISは大丈夫なのか…チューニングどころか本体が完成していないんだろう?このままでは、本当に…!」

 

「目処は立ったそうだ。間に合うかは分からんが。直は出来上がったもんを今日見に行くち言っとった。俺は前日くらいに着くと良いんだがの。」

 

心配で心配でたまらないと言った箒の言葉を流し、豊久は気楽に竹刀を振る。その顔には不安どころかこの()への高揚感が容易に見て取れる。

 

「はぁ…」

 

心配するのも疲れたと言うように箒も素振りを再開した。もうここまで来たら流れに身を任せるしかないと悟ったのであろう。

 

「箒、付き合って貰わんでん良かど?先部屋に戻って風呂でん入ったらどうだ。」

 

「…私は、お前といる。見て学ぶ事もあるし、その…放って置けるか、馬鹿者め…」

 

「ほうか。あいがとのう。」

 

「…///」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

IS学園の格納庫にて、鉄の塊を前に小さく息をつく直。その目は我を失うまでの怒りに燃えていた人物と同じ物だとは到底思えないほどに澄んでいた。川の底を見渡せるほどに透き通った水のような透明さは、どこまでも優しい。

 

鎮座するのは世界最強の名を冠する兵器。だが、どうしても直にはそうは見えなかった。

濃緑色の装甲に軽く手を触れる。コアが入っていない為反応はしないが、確かに流れ込んでくる物がある。

 

「…お前が、俺の翼になってくれんだろ。兵器じゃねぇ、道具でもねぇ、空を駆けるための『翼』に。」

 

直は空を飛びたかった。考えるのが馬鹿らしくなるくらいに広く、大きいあの空を縦横に駆けたかった。

 

「よろしく頼むぜ、相棒(コノヤロウ)。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




中途半端な駅のテナントビルに入ってるパン屋、降臨。


前書きにも書きましたように、この一年間は一身上の都合により大変忙しくなってしまいます。更新が遅くなってしまいますが、取り敢えず福音戦までのプロットは考えてあるのでどうぞお付き合い下さい。

評価バーに色が着いてテンションあがりました。評価して下さった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございます。

…デモモットホシイナー

感想じゃー!感想が足りんのだぎゃー!




次回

蒼と翠

ライダーキック

戦う理由


『Shall we dance?』










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幕間 戦場(いくさば)へ出かけよう

凄まじくお久しぶりです。三途リバーです。
とてつもなく長い間この小説を放置しておりましたが、作者の生活にも一段落が付いたのでリハビリがてら幕間の投稿です。勘を取り戻してから本格的な戦闘へと入っていきますので、未だ読んで下さる方がいらっしゃれば、今後ともよろしくお願いします源氏バンザイ。

…ドリフターズのova買ったけどまだ開封してねぇ…


『これより菅野の専用機試乗実験を開始する。カウントが0になったら10分間自由に飛び回ってみろ、菅野。そのうちフォーマットとフィッティングが完了してファーストシフトに移行する筈だ。』

 

アリーナに千冬の声が響

だだっ広いフィールドの中央には、翡翠色のISを纏った直が1人で佇んでいた。

観客席には誰もおらず、空は吸い込まれるような漆黒。

そう、現在時刻は夜中の12時である。

 

「ふぁ…眠か…」

 

「文句言うなや。オメーだって間近で操縦見ときゃあちったァましだろうが。」

 

「そげん言ってん、こげな真夜中にやうこつなかじゃろが。放課後ではいかんかったのか?」

 

管制室にはボヤく豊久と、信長、麻耶、千冬。

 

普段夜10時には眠りにつくという超健康優良児豊久は欠伸を連発し、信長が窘める…というか突っ込む。タメ口な所を含め、この2人の関係性はほぼほぼ定着しつつあった。

 

「この学園には色々な国から生徒が来ていまして…その、なんと言うか…」

 

「あぁ。初陣前ん情報ば取られたくないのか。一応日本最新だったかのう、直のは。」

 

「日本どこじゃねぇ、現状アレが世界最新で世界最高だ。ま、前者はお前の機体完成をもってなくなるが。後者は分からん。…ん?あれ?豊久お前、おバカキャラじゃにゃーのか?」

 

「そん舌の根引っこ抜くど第六天魔王!ジジイになってん中二病のうつけに言われとうはないわ!」

 

「は、はぁ!?ジ、ジジイじゃねぇし!まだ49だし!」

 

「充分ジジイだ!五十路で眼帯着流しとかイカレか貴様!」

 

「そーゆーお前だって篠ノ之とお揃いで和服じゃねぇか!」

 

「剣道着ば着てなんが悪い!?」

 

「喧しい!!!」

 

鶴の一声ならぬ、鬼の一声で漸く場に静寂が訪れた。

ふんす、と不満げに鼻を鳴らして視線をディスプレイに向ける豊久に釣られて信長も同じく視線を戻す。

 

画面上では60を切ったカウントにソワソワしながら、直がその時を待っている。

 

珍しく、本当に珍しく心配が豊久の口をついて出た。

 

「無事で済むと良かが…」

 

「お前らって実は仲良い?」

 

「阿呆抜かせ、ISん話ぞ。二ヶ月一緒におってん、直が乗って壊れんかった機体は見たこつなか。」

 

「えぇっ!?直ちゃんが十月機関からデストロイヤーとか呼ばれてるのってホントなんですかっ!?」

 

乗った機体は必ず壊す、技術者泣かせの『デストロイヤー』。

既にその二つ名は十月機関の内部では不動のものになりつつある。

 

ちなみに豊久は、2ヶ月の間に軍用IS乗り達に植え付けた恐怖のせいで『妖怪首置いてけ』『鬼島津』なる称号が己の物となっているとは知らないらしい。

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!出たーッ!妖怪首置いてけだーッ!殺されるぅぅぅぅぅっっっ!!』

 

『首orナッシング!流石トヨくん!あたし達に出来ない事を平然とやってのけるッ!そこに痺れる憧れってちょっと待ってあたし大将首じゃないからロックオンしないで!!!』

 

千冬が十月機関局長と電話をしていた時、耳に入ってきた受話器越しの叫びは今も彼女の耳にこびり付いている。

あの悲鳴はガチだった。

 

「菅野デストロイヤー直ち言うんがあ奴ん通り名にごあす。」

 

「だ、大丈夫かな…直ちゃんがその事で心に傷を負って引きこもりみたいになっちゃったら…あぁっ、心配…!」

 

「そがいにヤワか弱卒(よっせんぼ)ではなかでっしゃろ、先生ん弟御は…」

 

弟への愛情を間違ったベクトルで爆発させる姉を前に、カウントは着々と刻まれていく。

 

5,4,3…

 

「さぁて、どうなるかねぇ。」

 

2,1…

 

「直ちゃん…」

 

楽しそうな信長、複雑な表情の麻耶。

仏頂面の千冬、眠そうな豊久。四者四様の視線の中…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が、尾を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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元・日本代表山田摩耶専用第二世代型IS『霹靂(へきれき)零式(ぜろしき)』。

 

かつてアジア最強を誇った日本屈指の名機、日本IS協会直属技術部門作成の『霹靂』シリーズ最後にして最強のナンバーである。

武装や防御機能を極限まで廃し、航続性と運動性能にステータスを全振りしたそのISはまさに玄人好み。

世界最強と言われた島津千冬を、唯一極限まで追い詰めた山田麻耶以外に扱うことができず、国産IS主役の座を『打鉄』に奪われて久しい。

 

だが、十月機関はその霹靂を呼び起こした。

 

尖り過ぎたイレギュラー(菅野直)、ただ1人のためだけに。

 

御役御免と相成り、スクラップになった零式のデータをありとあらゆる場所からかき集め、その設計を再現。

直の荒っぽい(では済まされない)操縦に耐えられるよう強度を多少追加、これまでの搭乗から分かった彼のクセを完璧にサポートするシステムを構築した。

 

『速さと手数で圧倒する』、そんな搭乗者の要望を叶えるべく出来上がったのは、まさにモンスターマシン。

零式を上回る機動性を持ちながら武装や強度も充実した、理想の菅野直専用機、それが…

 

「飛ぶぜコノヤロウ!『紫電(しでん)』!!」

 

第二・五世代IS、『霹靂・紫電』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、翌々日。

 

 

 

 

「んが…ぐぉぉぉぉ…」

 

「強心臓だねぇ、ナオシー。国の代表候補とやり合う朝に熟睡かぁ。ムフフ、えいえい。」

 

「ん…あァ…?」

 

か細い指で頬をつつかれ、菅野『デストロイヤー』直は決闘当日の朝を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

「シィッ――!」

 

「グッ…!…よし、調子は良さそうだな豊久。佐土原侍の名を落とすなよ。客席で見ているからな。」

 

「ハッ、要らん心配じゃ。俺ん戦姿ばよう見とけ。…首、奪って来う。」

 

交錯させた木刀越しに、らしい激励を受けて『鬼島津』中務少輔豊久は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

「オルコットの名にかけ…終わらせて参ります。彼らの思い上がりを。世の巫山戯た気運を。」

 

ロケットの中の写真に伝え、『貴族』セシリア・オルコットは決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

「動くぞ。菅野直と島津豊久の専用機を鹵獲する。」

 

()()に伝え、怪しき女は行動を開始する。

 

 

誇りと信念、功名心と策謀。

彩られ、交わりあった戦場にて兵子らは相対す。

 

 

 

 

いざ、戦場へ出で候へ。

 

 

 




次から戦闘です。イヤホントホント、入りますって。

↓は飛ばしてくださっても構いませんが、一応官位やら島津家、日本の国家システムやらの設定です。







日本の政治形態

首都は京都。立法機関は国会で、民間から選ばれた議員が所属する「衆議院」と、家格を有する者が所属する「貴族院」の二院制を取っている。
行政機関は内閣だが、地方では各都道府県事に「府知事」「県令」がおり、公選ではなく古くからその地に勢力を持つ家の出自者が任につく。
国としては民主主義だが地方では半ば大家の裁量によって政治が行われ、海外からは因習的だと批判の的になっている。



島津家

鹿児島県、宮崎県に勢力を有する大家。30年ほど前は絶対的な勢力が存在しなかった九州において、ヤクザの如き武力闘争方針をもって勢力を拡張。鹿児島、宮崎両県の県令を兼ねるまでになった。現在の県令はニートさながらに鹿児島から出たがらず、その弟が貴族院に籍を置いて中央との関係を取り持とうとしているらしい…?(なおその息子は蹴鞠(サッカー)少年まっしぐらの模様)
豊久が当主となっている分家、佐土原中書家は宮崎県に本拠を置いており、ブリュンヒルデとISの男性操縦者を輩出した事で一躍有名になった。





朝廷

権力は何も持たないが、絶大な「権威」を誇る日本の伝統。行政、立法、司法の三権から完全に独立しており、国会の決定事項もここを通さなければ意味を成さない。
ぶっちゃけ本編には基本出てこない予定。




官位

家格を持つものや功績を挙げたものに朝廷から贈られる称号の様なもの。古代の日本での職制だが、現代では名だけとなっている。近年は女尊男卑の風潮が進んでいるため、官位持ちは圧倒的にIS関係者、特に女性が多い。



織田信長→■■■■■■■■の功績により右大臣(通称「右府」)を贈られる。現在は無冠。


島津千冬→ブリュンヒルデとなった功績により、左大臣(通称左府)を贈られるが本家に遠慮して辞退。


山田麻耶→島津千冬と共に第1回モンド・グロッソで活躍した功績により従三位権中納言を贈られる。


島津豊久→父、島津家久から中務大輔(通称中書)を譲り受けるが、亡父に敬意を払うため一段下の中務少輔を名乗る。









こんな感じです。すっげぇ適当ですが、イメージ的には日本の国家システムは明治の立憲政体かな?選挙権は満18歳以上の男女にありますが。

矛盾もポロポロあると思いますが、「ふーん、そんな感じね」程度に読み流して頂ければ幸いです。

次回から、次回から戦闘入るよ…。

感想やご意見、お待ちしております源氏バンザイ。


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第5幕 Shall we dance?

厚顔無恥!!!
3年ぶりの投稿ッッッ!!!!!!!



決闘当日。直と豊久はハンガーにて鎮座する霹靂・紫電の前でその時を待ちわびていた。

 

「結局間に合わなかったのかよバカヤロウ。先手は俺が貰ってくぜ」

 

仕方(せんかた)なか。じゃっどんあん金髪もお前の首も纏めて俺が()うから問題なか」

 

結論から言えば、豊久の専用機は完成はした。しかし輸送が間に合わず、直とセシリアの戦いを最初に行い、一定の時間を開けてからその勝者と豊久の戦いを行う事となった。

豊久は『客席で観戦してはどうか』と麻耶から勧められたものの、両者の手の内を見てからでは功名首の価値が下がるとこれを一蹴。格納庫にて専用機を待つことに。

 

 

「打鉄だから負けましたなんて言い訳もう聞かねぇぞコノヤロウ、テメェこそ首洗っとけバカヤロウ!!」

 

お互いいがみ合いながらも、自然に拳を突き出し合う。

互いの健闘を祈る事など、自分達には不要。そう言わんばかりの不遜な顔つきのまま、二つの拳は打ち鳴らされた。

 

「あ、見つけたぞ」

 

「おーい、ナオシ〜」

 

そこへ、それぞれの相部屋の2人が声を掛けながら歩み寄っていく。

なんだかんだ言って世話焼きな箒は尖り過ぎて周囲から浮きがちな直とも友誼を結び、本音も持ち前のフレンドリーさで豊久を『トヨトヨ』と呼び慕う。一途な箒を本音がからかう場面もしばしば見られ、傍から見れば仲良し4人組である。

 

「あのいけ好かん金髪…名前なんだったっけか、たしか…えと…オ、オロロコットとやらに目にもの見せてやれ、菅野!」

 

「オルコットだよー。応援してるからね、2人ともー。私とモッピーだけがナオシーとトヨトヨのW勝ちに賭けてるんだから、しっかりねぇ〜」

 

「勝手に賭事のネタにしてんじゃねぇよバカヤロウ!」

 

「直は知らんが俺は勝つど」

 

「俺の1人勝ちだゴラァ!」

 

そして、時は来る。

 

 

 

 

『直ちゃん、オルコットさん、ISを展開してアリーナへ入ってきてください。』

 

 

 

 

 

「っしゃあ!目にもの見せてやらァ!待ってろ外人ンンンンンンン!!!」

 

「ナオシー、頑張って〜」

 

本音に向かって軽く手を挙げ、紫電を纏った直はアリーナへ続く道をしかと見据える。

 

「霹靂・紫電、菅野直!我突撃ス!目標金髪!目標金髪!!」

 

爆音すらも置き去りにしながら、その身が戦場へと躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目標金髪って…」

 

「にゃははは、ナオシーは面白いなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうれ、手並み拝見といこうかのー」

 

一方こちらは管制室、信長と千冬、麻耶が待機している。

ディスプレイの中では、飛び出してきた直とオルコット嬢が舌戦を繰り広げる様が映り込んでいた。ちなみに、直の側には霹靂のスペックデータが、オルコット嬢の側には専用機、『ブルーティアーズ』のそれが表示されている。

ふと蒼い機体の方へ目をやった信長が、怪訝そうに声を挙げた。

 

「なんだ、イギリスにしちゃ随分洒落たISだな。ユナイテッドキングダムといえば実弾超火力での殲滅戦がウリだろうに」

 

「何時の話をしている。それは私が退いてからすぐの頃だ。麻耶、お前あの婦警上がりのイギリス代表とは仲が良かっただろう」

 

「懐かしいですねぇ、『ハルコンネンII』。質量兵器ですり潰すしか能のないデカブツでしたけど、パイロットが凄腕でしたからね!」

 

「個の力に頼る愚昧さを思い知ったんだろうさ、誰でも取りまわせる長銃と隠し武器、後はBT兵器と数年前とは見違える」

 

イギリスの第三世代IS、ブルーティアーズ。主武装は中距離用エネルギー銃スターライトMkIIだが、その最たる特徴は自立型射撃兵装、通称BT兵器であるブルー・ティアーズだ。6機のビットが操縦者の思うままに稼働し、使いようによっては近接戦闘を一切許さず封殺する事も可能という代物である…カタログスペック上では。

 

「あのIS、半ば実験機だろ?ついこの間まで超火力一点張りだったイギリスが、唐突にあんなスグレモノを完成させられる訳がねぇ。一見菅野の圧倒的不利だが…」

 

五分(ごぶ)です。直ちゃんは確かに素人ですが、自分の為だけに作られたISに搭乗している…。ISに合わせなければならないオルコットさんとは互角程度の条件かと。姉バカかもしれませんが、直ちゃんは互角の相手に負けるような子じゃありません」

 

「かもじゃねぇよ、確実に姉バカだ。」

 

 

弟の事となると途端に饒舌になる麻耶に引きながら、信長は千冬の方へと視線を移した。

 

 

「おい、千冬」

 

「なんだ」

 

腕を組み、絶えず右足で床を叩き続ける彼女は不機嫌さを隠そうともしない。信長の声にギョロりと目を向けて反応するが、心ここにあらずと言った状態だ。

 

「そんなイライラしてる奴に居られてもおっかなくて試合どころじゃにゃー。ちと外せ」

 

一瞬大きく目を開いたが、それも本の一瞬の事。柔らかく微笑む麻耶の視線も受け、彼女は足を踏み出した。

 

「…日替わり定食1回だ」

 

すれ違いざまに掛けられた、不器用な感謝の言葉に魔王(笑)はヒラヒラと手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この期に及んで貴方の謝罪一つで終わらせるつもりはありません。存分にわたくしの手の上で踊ってくださいまし、お猿さん。」

 

「俺が猿ならテメェは犬か?負けた時の言い訳は準備してきたのかよ、外人」

 

セシリアと直、双方共に言動を改めようとはしない。視線に憎しみを載せ、ぶつけ合う。

 

「そうですか…」 「上等だ…」

 

セシリアの長銃が、直の右拳が、相手に痛撃を与えるべく()()()()()()

さながらそれは、獲物にとびかからんとする獣のタメ。

 

『試合開始まで三十秒…』

 

「堕ちやがれ、コノヤロウ」

 

「無様に舞いなさい、蛮人」

 

麻耶が時を刻むごとに、二人の間の殺気が膨れ上がっていく。コップの水が満たされていくように、ゆっくり、ゆっくりと…

 

『2、1、0!試合開始っ!!』

 

決壊。

 

「ウ オ リャ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ !!!」

 

すぐさま動いたのは直だった。愚直な特攻、と見せかけての右手への急旋回で青いレーザーをやり過ごす。セシリアがビットを迸らせる隙に、右手に何かナックルガードのような物を展開した。

しかし急制動を掛けた必然、次の行動に移るまでのタイムラグは深刻。

 

(あれだけ啖呵を切っておきながら、この程度の基礎も理解出来ないとは…。所詮、男など!)

 

嘲りと怒り…そして無意識に微々たる失望を感じながら、セシリアは冷徹に命令を下す。

 

「お行きなさい、ブルー・ティアーズ!」

 

4方向からの射撃で手足をそぎ、嬲り殺す。

そんな意思がこもったレーザーが、紫電へと殺到する。

 

 

 

が。

 

 

 

 

 

 

「何処狙ってんだノーコン貴族!」

 

「!?!?」

 

背後。

慌てて振り返ったセシリアの眼前には、雷ような光をスパークさせ、自分に狙いを付けている直の姿があった。

 

セシリアの端正な顔が驚愕で歪む。それもその筈、直線距離にして40mは離れていた敵が突如として零距離に、しかも背後に迫っているのだから。

 

「っ、イン「飛べや!」あぐぅっ!!!」

 

唯一の近接武器を呼び出す暇も許されず、腹部に強烈な一撃を食らう。

封殺をコンセプトにしたセシリアの愛機は、一般的なISより遥かに耐久性に劣る。たった一撃でシールドエネルギーの3分の1を持っていかれ、地面に叩き付けられた。

 

「いっ…たい、何…グッ、ゴホッ…」

 

思い当たる事はただ一つ。

エネルギーを莫大に消費し、対価として音速に勝るとも劣らぬ加速を得るISの操縦技術、瞬間加速(イグニッション・ブースト)

それを、ぶっつけでやってのけたのだ。

 

(だ、だとしても!)

 

直は、セシリアの目の前に現れたのではない。もしそうであるならば、腰部に隠されているミサイルビットで迎撃ができた。彼は、()()()()()()()()()()()()()

ISを起動してから3ヶ月足らずの直が瞬間加速を使える事自体驚きに値するが、彼はそれ以上の事をしでかした。

即ち、斜め前方への瞬間加速を行ってからの急停止、さらにセシリアの背後に回り込むため再びの瞬間加速。

有り得ない、と内心で繰り返すが、絶対防御すら突き抜けんばかりの衝撃が()()が事実だと語っている

 

 

(多段瞬間加速(リボルバー・イグニッション)なんてっ…!国家代表候補レベルの技術ではないですか!)

 

 

「立てよホラ、いつまで寝てやがる?タコ殴りはこっからだバカヤロウ」

 

空中から自分を見下ろす直の顔が、悪魔のように映る。

 

「ハッ…失、れ…ぐぅッ…少し、呆けてしまいましたわ。猿も、人間に近い動きをするものですわね」

 

だが驚き、恐れたとしてもそれを殺してセシリアは立つ。相手が誰だろうと、何をしようと勝たねばならぬのだ。

グラつく頭を抑え、銃身を固く握り込む。ブルーティアーズを浮遊させる。

 

「さて、お待たせいたしましたわ。今度は私の調べに乗ってくださいまし?」

 

「…あいっ変わらずムカつくアマだが、ちぃと見直すぜ外人。オメェ、()()()()()()()()か」

 

彼女はオルコット家第13代目当主、セシリア・オルコット。誇り高き貴族にして、誰よりも強くあろうとする騎士。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………姉上?」

 

「なんだ」

 

「そん…試合、良かと?」

 

「私はお前の専用機搬入の見届け人だ。あちらは信長と麻耶に任せてある」

 

「はぁ、そいは分かりもした。じゃっどん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を抱き寄せっのはやめてくいやったもんせ!しかも前から!!誰ぞに見られたら死ぬる!!」

 

現在の格納庫前の様子は、カオスの一言である。

『ブリュンヒルデ』『世界最強』と恐れられた女性が、ふんすと満足げな顔をして1人の少年の頭を抱き抱えている。いくら姉弟とは言え、教育の場でコレはやり過ぎである。

 

「何故だ、この一週間忙しすぎて一緒に飯も食っとらんだろう。多少のスキンシップは必要だ」

 

「担任と生徒じゃろうが、俺達ぁ!」

 

「それ以前に1人の女と男だ」

 

「姉と弟でんなか!?!?」

 

豊久が完全にツッコミに回るという非っっっっ常に希な状況にも、姉君は顔色一つ帰ることなく腕に力をこめ続ける。

そもそも、2人の身長は豊久の方が拳2個分程高い。それを胸元に抱き寄せられるのだから、豊久としては気恥ずかしさと共に腰の限界が近づきつつあった。

しかし、彼女を無理に押しのけようとは決してしない。

 

(…俺のせいか、姉上が()()()になったんは。)

 

以前から自分を可愛がってくれた千冬だが、それが過剰とも言えるほどになった原因は3年前の自分だと豊久は自覚している。

 

(俺は功名のみを求めて姉上を省みんかった。そんしっぺ返しかの、こいは)

 

世界最強、島津の女傑と謳われた千冬は疲れ果てた。父母を亡くし、()()()()()の夢を殺し、彼女を喪い…挙句の果てに弟に血を流させた。

そしてそれは、戦人(いくさびと)としての島津千冬に最後の止めを指すこととなった。

周囲に気取られぬよう、常に冷静沈着な豪傑を演じ続ける…それが今の千冬の本質。豊久と伯父のみが知る、彼女の真実。

 

『なんで、どうして!()()()()()()()()()()()()!!もう嫌だ、嫌なんだ…だからたのむ…こたえてくれ…おきてくれ…とよひさ…』

 

 

 

体中を返り血で赤く染め、自分を抱き起こそうとする姉の悲痛な叫び。聞こえるのに、応えたいのに手も口も動かない。

あの瞬間、姉は、『兵子』島津千冬は死んだ。他ならぬ、実弟たる己の軽挙によって。

そんな後悔が今でも胸の中でのたうち回る。

 

 

(じゃっどん、やはい俺には戦しかできん。)

 

 

その後悔に苛まれながらも、豊久は自らの在り方を変えようとはしない。

 

(勝てばよか。奪ればよか。こい以上姉上に心配かけんよう、決して負けん兵子であればよか。そうでなくば…)

 

これこそが、島津豊久が数多の人間に恐れられる最大の理由。

後悔もする。悼みもする。自分のおかしさを理解もする。

それでも変わらない。止まらない。

歪さを認めながら、亡き者への哀惜を感じながら、狂ったように(はし)り続ける。

 

 

(生きる価値なぞ、俺にありはせん)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げんな外人!殴らせろやゴラァ!!」

 

「誰が黙ってやらせるものですか!!貴方こそそろそろ落ちなさいな!」

 

開幕と共に一撃を与えた直だが、スイッチが入ったセシリア相手に後手後手に回っていた。

愚直な突進を想定し、ティアーズで進路を誘導してからスターライトで墜す作戦を立てていたセシリアは直の変態起動を見るや否や作戦変更。チクチクチクチクと嫌がらせを行い、ひたすら距離を詰めさせないよう務めている。

見事にその手がハマり、思うように接近できない直は20分近く極限の集中を強いられた事で精彩をかく。

加えて彼の武装は近接格闘用のナックル武器『雷華』と腕に取り付けられた機銃二丁、ロングナイフ3本のみ。近付かなければどうにもならない。

 

「クソッタレこの腰抜け野郎が!貴族なら貴族らしく正々堂々としやがれバカヤロウ!」

 

「これは戦術と言うのです、負け惜しみはみっともないですわね!と言うかわたくし野郎ではなくてよ!」

 

(((あれ、この人らもしかして馬が合う?)))

 

居合わせる観客が一斉にそう思う程の軽妙な掛け合いだが、当の2人は互いに必死だ。

 

(あと1発!あと1発で決まる!被弾覚悟で真正面ぶち抜いてやらァ!!)

 

(このままでは決定打足り得ない…刺し違える覚悟で、真正面から撃ち抜いて差し上げましょう!)

 

2人が切った札は、奇しくも同じ。

 

陽光を背に全速力で降下する直と、身じろぎもせず日輪に銃口を向けるセシリア。

 

視線が、咆哮が、2人の気迫が中空で交わる──

 

 

 

 

 

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉッッッッッ!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菅野麻耶は、素晴らしいIS操縦者だった。狙撃手でありながら最強と謳われた島津千冬に真っ向から立ち向かえる唯一無二の存在であり、その常人離れした空間把握能力は間違いなく当代最強。

 

空に憧れ、紺碧に焦がれた直にとって姉の姿はまさに希望。

ISと航空機という違いはあれど、いつの日か自分も姉のように自在に空を飛びまわり、出来ることならば肩を並べて大空を駆けたい…そんな夢を実の弟に持たせるのに十分なほど、菅野麻耶は優秀だったのである。

しかし、千冬と共にモンド・グロッソのワンツーフィニッシュも夢ではないと噂されたその矢先、事件は起きた。

 

準々決勝直前、テスト飛行における大事故により脊椎損傷。

IS操縦は当然、歩くことすらままならなくなる大怪我だった。

 

幸い、体内に電磁パルスを流す装置を取り入れるという最先端の医療技術で日常生活には支障が出なかったが、麻耶はIS操縦者としての人生を永遠に絶たれた。

原因は麻耶の操縦能力に付いていけなくなった霹靂の故障、並びに整備不良とされているが、その場に居合わせた直ははっきりと目撃してしまったのだ。

麻耶が墜落する瞬間、心底嬉しそうで、これ以上なく邪悪な対戦相手の笑顔を。

 

あの時、あの瞬間から直は変わった。

空に焦がれる純粋な少年は、翼をもがれた憧れ()の復仇を願う暴君へ。

 

物的証拠も何も無い、子供の被害妄想と片付けられて然るべき暴挙だったが、それでも直は己の怒りを抑えられなかった。

 

姉を傷付け、彼女の、そして自分の夢を奪った連中がのうのうと空を飛んでいる。許せない。許して良い筈がない。

 

あのアメリカ人パイロットも、一緒になって笑っていたイギリス人の整備士も、狙撃の皇女脱落を喜んでいた米英初め外国人のファン達も。

 

 

「纏めて叩き潰す!!あの時笑った全ての人間を叩き潰して、目を開かせて!俺が飛ぶ様を焼き付ける!!思い知らす!!」

 

 

故に、菅野直は叫ぶ。

()に向かって獅子吼する。

 

 

 

「だからここで堕ちる訳にはいかねェんだ、コノヤロォオオオオオオッッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 

 

叫びに応じて、紫電の脚部が展開した。

大地を踏みしめるための足は最早なく、ブラスターのような銃口がセシリアを指す。

 

「ッ!?遠距離兵器…!?」

 

セシリアが僅かに動揺する間にも、紫電は翠色のエネルギーを迸らせてその足先へ破壊力を伝えていく。しかも、機体の落下スピードは微塵も落ちていない。

 

翡翠の流星はそのまま地へ降り、蒼の熱線を弾き返していく。

 

「ぶち抜くッッッ!!!!!」

 

天を揺るがす轟音と共に、蹴撃が大地を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが固有兵装かっ!よもや足に仕込むとは…!」

 

管制室で直の咆哮を聞く信長が唸りながら顎をさすった。

十月機関から送られてきた資料には、紫電はISが稼働することで生じた熱エネルギーなどを蓄積させ、破壊エネルギーに転用するという無茶苦茶なシステムが搭載されていると書いてあった。

二・五世代ISたる紫電はワンオフアビリティを持たないが、それに準ずるのが独自の兵装、鳴御雷(なるみかづち)

 

「動き回る直ちゃんにはもってこいの一撃必殺ですね。継戦能力が高い紫電だからこその威力です」

 

「やっぱデストロイヤーじゃねぇかお前の弟。なんちゅー整備班泣かせの奥の手じゃ、アレ。一発蹴り打つ度に脚部総とっかえとか殺しに来てんだろ」

 

自前のエネルギーに蓄積していた熱エネルギーを加算して繰り出す一撃の威力はまさに絶大。

敵ISのシールドエネルギーは勿論、自身の脚部も潰れるほどの文字通り一撃(であてないと自分が)必殺である。

 

トンチンカンすぎる性能に信長がドン引きしていると、試合終了のブザーが鳴り響いた。

観戦していた生徒がどよめき、土煙が舞い上がる中から高々と拳を突き上げるのは────

 

『っっしゃオラァァァァ!!!!!!』

 

「ま、初陣にしちゃ上出来だ。あの馬鹿技をここぞでキメる腕前は認めてやろうぞ」

 

「言ったでしょう、なんたって直ちゃんは直ちゃんですから!」

 

菅野直、搭乗IS霹靂・紫電。

彼の初陣はかくして白星に終わる。

 

無邪気にはしゃぎ、両腕を突き上げて喜びを爆発させる姿は年相応の少年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




土下寝です、はい。
この3年間色々ありました。ドリフ6巻出たり元号変わったと思ったら巨大化したISSAが平成額縁キック食らったりアズールなレーンにハマったり俺のアイバがうまぴょいだったり。

それ以外は特になかったです。

そんな感じで本当にすいませんでした、これからチマチマ続きを更新していく所存です……


次回


闖入

ノブレス・オブリージュ

緋色のアイツ


『情熱は覚えている』


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第6幕 情熱は覚えている

自分を見下ろす翡翠の鋼鉄。

操縦者の顔は逆光で見えず、その表情を読み取れないが恐らくはこれ以上ない嘲笑と侮蔑で塗れているだろう。

己にそれを無礼と言う資格はない。決闘を挑み、そして正面から激突し敗北した自分には。

 

「私の、負けですわね…」

 

しかし、セシリアの心はどこか晴れやかだった。あれほど蔑んで拒絶した男に一蹴され、これ以上ない無様を晒して尚、彼女の胸の内は明るい。

 

(私は…この()に抗せるほどに、戦う理由を強く持てていたでしょうか)

 

オルコット家の当主でありながらISの登場により立場を弱くし、常に母や周りの女性に怯えて過ごしていた父。尊敬し、慕っていたからこそ彼が見せたそんな姿に絶望し、セシリアは男という生き物を見限った。

どれだけ誇りを持っていると言っても、世の機運が変わればそんな矜恃はすぐさま折れる。拠り所を亡くした人間の、いや男の弱さを醜いと思ったのだ。

 

だからセシリアは菅野直が、島津豊久が男のIS操縦者として持て囃されるのが我慢ならなかった。どうせ周囲にチヤホヤされて自分が特別だと思い込み、増長していく。そんな姿を容易く想像出来たからこそ、自分はそれに抗わなければと思い込んだ。

 

だが、菅野直は違ったのだ。

彼はISを使いこなせるようになったからと言って喚いていたのではない。誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けていたのではない。

それを、最後の一撃で思い知らされた。

大技を喰らい、地面に縫い付けられた瞬間セシリアの心の中に流れ込んできたのは直が溜め込んでいた怒りや憎しみ、そしてそれの支配を拒絶しようという強い心。

 

『怒りもある、憎しみもある、だがそれに従っちゃあ姉ちゃんを傷付けた連中と同じだ。俺は空を飛んで、飛び続けて、この姿を見せ付けて!菅野麻耶の、菅野直の夢はまだ墜ちてねェと思い知らせてやる!!』

 

ISのコアを通しての心のリンク…。

理論上唱えられているその現象は夢物語と切り捨てていたが、あの時流れ込んできた痛々しいまでの決意は夢などでは決してない。

 

セシリアの感情も、向こうに伝わったのだろうか。

わからない。だが、確かなのは──

 

「なんて顔をしてますの……勝ったのは貴方ですのに」

 

「るせェ、てめぇこそ負けた癖に随分清々しいツラしやがって。ムカつくぞバカヤロウ」

 

倒れたままの自分に向かって手を差し出す少年、菅野直。

彼の手を取りたいと、心の底から思うということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直とセシリアが激闘を繰り広げ、アリーナが沸きに沸いている頃。

豊久が待つ倉庫には厳重に警備された大型のトラックが搬入されていた。

 

実銃で武装した警備員に囲まれて鎮座する()()はさながら箱入り娘。

 

「……良か!」

 

満足そうに笑んだ豊久の前にあるのは、ISと言うよりかは甲冑に近い緋色の機体だった。

通常のISは搭乗者の手足を延長するようなデザインであるのに対し、この専用機はその主流とは全く逆を行っている。

 

肩、腕部、腰、脚部を密着して覆うような最低限のアーマーと背中と足にそれぞれ2つのスラスター。そして、その左腰には無骨な野太刀。

豊久の為だけに作られた第三世代ISが、とうとう主の前に姿を見せる。

 

「良か、良かISじゃ」

 

ニコニコというには些かギラつき過ぎている笑顔を見せる戦馬鹿に、1人の若い男が声をかけた。

 

「時間がありません。説明は手早く済ませましょう、豊久殿」

 

「おぉ、晴明!お前も来とったんか」

 

「えぇ、開発責任者は私ですから。紫電とは違い、私が自ら生み出して()()()()忌み子…その初陣くらいは目に焼き付けねばと思いましてね」

 

安倍晴明(はるあきら)、通称せいめい。

日本IS協会無き後、「ISの原点に立ち返った開発・運用を」との理念の下設立された十月機関の長である。

男ながらISへの造詣は深く、開発者たるかの天才と渡り合えるほどの知識を持った傑物だ

現在は軍事一辺倒となってしまったISの宇宙開発への転用を推進すべく奔走している。

有り体に言ってしまえば、豊久とは正反対の位置に立つ男だった。

 

ISの軍事兵器化を憂い、本来の宇宙開発用パワードスーツとして用いるよう兵装などの簡略化を推し進める彼が、己の信念を曲げてまで敵を打ち倒すことのみに特化したISを造り上げた。

男性操縦者という存在の大きさがこの一事からも伺えるだろう。

 

ISを戦の為の武具のひとつとしか見ていない──正確には世の中のありとあらゆるものを戦に活かす天才というだけなのだが──豊久に対する言葉には、どこか刺々しいものが含まれていた。

 

「久方ぶりだな。弟が長らく世話になった」

 

「これは千冬殿。ご荘健そうでなにより、此度は納入が遅れに遅れて申し訳ない」

 

「いや、そもそもの発端は愚弟の我儘だ。気にしてくれるな」

 

千冬も、彼と握手をしながらその眼光は端正な顔を貫かんばかり。

 

弟をモルモットに新規ISの開発実験を行い、あわよくばコアについての解析を進めんとする日本政府、並びに十月機関の思惑に気付いていない筈がない。

双方、腹に刃物を呑んでの茶番である。

 

「機体について簡単に説明を。この機体には豊久殿が入学までに乗った打鉄のデータが取り込んであります。戦闘スタイルは無論のこと、本人も気付かぬような細かい癖まで完璧に把握して1歩目から最高速の行動が可能です。また、打鉄搭乗時に仰っていた『空中での斬撃は足腰に踏ん張りが効かない』との点についても、スラスターの取り付け位置を工夫して限りなく自然にこなせるようにしてあります。ご要望に沿って速度を重視し、防具は極限まで廃しました。瞬時に敵の懐に潜り込んで一刀を叩き込む…ISと言うよりかは、貴方がISを相手取るための鎧ですね」

 

滔々と晴明が言葉を並び立てていく。

開発コンセプトが本意でなかろうが、搭乗者の意思を尊重して持てる技術を全て注ぎ込んだのはIS技術者の矜恃ゆえか。

秀才・安倍晴明が造り上げたのは鬼島津の理想を体現した究極のワンオフ機。

 

名を、緋縅(ひおどし)

血よりも赤く、火よりも紅い、まさに緋色の甲冑である。

 

「武装はご覧の通り最低限しか取り付けられていません。メインウェポンとなる野太刀型の近接ブレード、波片(なみのひら)はかつて千冬殿が使われた雪片の後継機。柄の部分には超小型エネルギーコアが内蔵されており、この動力だけでかなりの切れ味を出せます。並の質量兵装なら一撃です。また、予備に同様の機能を有した小太刀を一振、背面には無いよりマシと近中距離用の小型エネルギー銃をマウントしてありますがこれについては……」

 

開発者、それも日本IS界の重鎮直々の説明などいくら金を詰んでも受けられるものではないが聞いている当人はどこ吹く風。

今すぐにでも飛び出したくてたまらないと言った風に、うずうずと忙しなく愛機を眺めている。

それはさながら、年端も行かぬ少年が新しい玩具を前に我慢が効かなくなっているようである。

 

「難しか話しは今は良かっ!飛んでみねば分からんど!」

 

「……姉君に暮桜を渡した時も、全く同じことを言われましたよ」

 

第1回モンド・グロッソに先立って島津千冬の専用機開発に携わり、その納入に立ち合った晴明の顔があからさまに引き攣った。

 

このようなことで姉と弟の血の繋がりを感じさせなくとも…

 

「慌てるな馬鹿者。おい十月、こいつを第三世代と言ったな。一見すると後付武装(イコライザ)を持たせただけに見えるがどういうことだ」

 

ISには第一、第二、実験途上の第三、そして理論上のみの第四と4つの世代が存在する。

兵器としての完成を試みた第一世代は既に殆どが退役し、兵器の換装により戦場での対応力を向上させる第二世代が現在の主流だ。

第三世代は操縦者のイメージ・インターフェイス…つまり脳波によって操作する特殊兵器の搭載を目標としており、現時点ではまだ開発途上。第四世代にいたっては机上の空論である。

 

「最もお伝えしたい緋縅の特徴はそこですよ。これまでのISの概念を根底から覆しかねない単一仕様能力(ワンオフアビリティ)、それが」

 

晴明が説明を続けようとしたその時。

 

「ッ!?伏せろッ!!!」

 

辺り一面を光が覆い、一瞬遅れて爆炎が全てを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだバカヤロウ、糞ッ、糞ッ!なァにが起きやがったあ!!」

 

舞い上がる土煙、そして炎の中直は制御の効かない右脚を引き摺るようにして立ち上がった。

 

「なんだもなにも…襲撃ですわね、これは」

 

上空には黒と茶を混ぜた、まさに泥濘の色をしたゴーレムのようなISが3機。ISとは言ったが、フルフェイス装甲でロボットかアンドロイドを思わせる。

 

そしてもう1機、指揮官と思しきIあからさまに派手なISがこちらを見下ろしていた。

銀色に輝く装甲に、頭部だけを露出したアーマー型のIS。

手にした幅広の長剣もあいまり、その姿はさながら西洋騎士でてる

 

「1組の…斑鳩優佳…?」

 

ISのハイパーセンサーを通してその顔を確認し、オルコットが訝しげな声をあげた。傍らの直も眉を釣り上げる。

 

「あァ!?なんだ、どっかの組織のスパイかなんかが紛れ込んでたってことか!」

 

「スパイにしてはやることが派手でしてよ。ISの不当改造を行っているテロリストか何かでしょう。目的はあなた方男性操縦者の身柄か、園専用機か、はたまたその両方か…いずれにせよ狙われていますわよ、あなた」

 

アリーナのエネルギーフィールドをぶち破り、突如として雪崩込んできた謎の敵を、オルコットはそう断じた。

 

直とオルコットは今、最悪の死地にいると言って良い。

ISのエネルギーは双方共にほぼ底を尽き、僅かにエネルギーが残る紫電の右脚部は派手に火花を散らしている。飛んで逃げ回れるのも数分だろう。

そもそも逃げようにしても、エネルギー砲をバリア越しにぶっぱなされたアリーナの観客は大パニックに陥っており我先に外へ逃げようと押し合い圧し合い寿司詰め状態だ。

ジャミングを受けているらしく、管制室から教員の声も聞こえない。

 

暫くすれば暴徒鎮圧のため教員が軍用ISに乗って駆けつけるだろうが、そもそもIS格納庫も襲撃されている可能性がある。

 

保有戦力なし、逃げ場なし、援軍期待できず。

詰みである。

 

と、量産機の腕に取り付けられた銃口が一斉に観客席へ向けられた。

静止する間もなく、無感情に閃光が放たれる。

幸い、観客席を覆う遮断シールドはまだ機能を完全には失っておらず、鈍い音と光を生じてビームを打ち消した。しかし弾かれたビームの余波はあちらこちらに飛び散り、火の手が回り始めている。

人が密集している場所での発火など、考え得る中で最悪の事態である。悲鳴は更に増し、人の波に押しつぶされる生徒の叫びが地獄の怨嗟のように鳴り響く。

 

「テメェ…この野郎テメェ…!!」

 

ギリリと音が鳴るほどに歯を食いしばり、直は遥か上空の元クラスメイトを睨みつけた。愉快そうに肩を震わせ、こちらを嘲るあの女は確実に笑っている。人が苦しみ、怯え、死の淵に立たされるのを見て、面白がっている。

 

やがて、その右腕が高々と掲げられた。それに合わせて再び量産機の銃口が観客席へ向き、悲鳴はより一層大きくなっていく。遮断シールドは先程の攻撃でもう限界だ。次に一斉射を撃たれたら、間違いなく消し飛んで生徒を守るものは何も無くなる。

 

咄嗟に飛び上がり、量産機を叩き落とさんとした直だが、右脚を掴まれたような感覚にバランスを崩してしまう。

一刻を争うこの場において、その動作ラグは致命的。

 

「しまっ──」

 

直の遥か上空を通過し、観客席へ打ち込まれた熱線は絶望を宿した生徒目掛けて殺到し、そして…

 

不可視の防壁、()()()()に阻まれた。

 

「外人ッッ!?!?」

 

凄まじい音を立てて墜落したのは、ビームと観客席の間へ機体をねじ込み、操縦者を守る最後の安全装置を発動させたオルコットだった。

 

「テメェコノヤロウ、おい、おい!なに馬鹿なことしてやがるテメェ!」

 

「言葉……きた、な……」

 

「喋んじゃねぇバカヤロウ!」

 

駆けつけ、抱き起こすが彼女の意識は朦朧として明らかに危険な状態だった。

それも当然だろう。本来はシールドエネルギーが無くなった際、搭乗者の安全を保証するため発動する絶対防御を他人を守る為に無理矢理に使用したのだ。

 

「ノブレス………オブリージュ…それが…オルコット家の……」

 

それだけを言い残し、誇り高き貴族の意識は途切れた。

後に残されたのは満身創痍の紫電と、激情に包まれる直のみ。

 

「いけ好かねぇんだよクソ貴族……テメェ……コノヤロウテメェ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっはっはっは!!それが貴族のサマか、セシリア・オルコット!」

 

薄汚い男風情に敗北し、あまつさえその本質を理解しようともしない癖にISを玩具のように楽しむ凡愚共をかばって地に落ちる。

無様、実に無様。

 

専用IS、ARuMを駆る斑鳩優佳は心の底からイギリス代表候補生を軽蔑した。

 

「所詮は専用機を与えられて良い気になっていた凡愚と同じ器か」

 

ISは玩具でもなければ、己の力量を誇る為のアイデンティティでもない。インフィニット・ストラトスとは、純然たる兵器なのだ。

斑鳩は、それを分からずに力を振り回し、また面白がってISに触れ回る世の全ての人間が忌々しい。

 

「テメェ!!!降りてこいコラァ!!!」

 

「ちっ、やかましい野良犬が。馬鹿な犬ほど良く吠えるとは言ったものだ」

 

今回の作戦の最重要目標、霹靂・紫電。そのISを身にまとい、キャンキャンと喚くのは斑鳩が唾棄してやまない男性操縦者。

 

ISは選ばれた実力者に与えられ、そして兵器として運用されて世界に利をもたらすもの。その資格を男の分際で与えられ、尚且つ実力を勘違いして喚き散らすなど不快極まりない。

 

男など必要最低限を残し、速やかに殺すべき。

呪うならばISに乗れない己を呪え。

 

それが斑鳩の、ひいては斑鳩が属する組織の考えである。

 

「菅野直本人に用はない」

 

麾下の3機、ISのデッドコピーである無人機に指示を出す。搭乗者が存在せず、指揮官機から発せられる信号によって動き回る尖兵が長大なランスを構え、その切っ先が野良犬を捉えた。

 

「ここで「オオオオォォオオオォオオオオオオ!!!!!!!!!っ!?!?!?」

 

()()は最早、雷鳴だった。

斑鳩が、菅野直が、生徒達が。居合わせた者全てが、意識を根こそぎ持っていかれた。

 

斑鳩が突き破ったフィールドのエネルギーバリアの隙間を縫うように、何かが一直線に()()()()()

ハイパーセンサーをもってしてもその姿を完全に捉えるのは不可能で、目に映り込むのは鮮烈な緋色のみ。

 

緋色は速度を緩めることなく無人機に激突した。そう思った次の瞬間には、無人機の頭部がちぎれ飛んでいる。

 

「ひとォつ!」

 

今度ははっきりと聞き取れる。理解出来る。男の声だ。何処までも獰で荒々しい、殺意を漲らせた鬼の声──。

 

「な、なにが」

 

「ふたァつ!!」

 

2機目の首元に刀が突き立てられ、またしても頭が飛ぶ。そこで初めて斑鳩は敵の姿を視認する。

 

「みっつゥ!!!」

 

飛びかかった3機目が、いとも容易く唐竹割りになって落ちていった。

 

刀を袈裟に振り切った姿勢から、敵がゆっくりとこちらを向く。

両の肩には十字紋。手にした野太刀は血飛沫のようなエネルギーを迸らせ、背のスラスターはその激情を表すかのように火を噴いている。

 

(絶対防御は!?無人機にもその機能はあった筈、そんな破壊されるなど…いやそもそもなんだ、こいつはなんだ!?格納庫には無人機を5機も向かわせて──)

 

「首置いてけ!大将首だ!大将首だろう!?なぁ大将首だろうお前!!」

 

万全に万全を期し、完璧な強奪作戦を展開した筈の斑鳩。

その最大にして唯一の失敗は、この男をまず最初に殺さなかったことである。

 

「なにを…なにを言っている…こいつは一体…!?」

 

男は、島津中務少輔豊久。

後に世界最強と謳われ、敵対者を尽く恐怖の底へ突き落とす()()()()の伝説の序章が、幕を開けようとしていた。




波片というお豊の野太刀の銘は薩摩国の刀工、波平行安(なみのひらゆきやす)と原作の雪片からもじりました。波平一派はあの笹貫を生み出した刀工集団で、明治まで肥後の同田貫と並んで九州随一の刀匠と讃えられていたそうです。

また、オリキャラ斑鳩さんの専用機ARuMは勿論ドリフターズの騎士武官アラムから。

原作とはだいぶ流れが変わってきましたが、次回から首狩り伝説の幕開けです。よろしくお願いします。




次回


激昂

テロリスト

大馬鹿野郎



『インフェルノ』


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第7幕 インフェルノ

時は少し巻き戻る。

 

千冬の鋭い声を聞いた豊久は、爆炎が迫り来るより一瞬早く目の前にあった自らの専用機へと飛び込んでいた。

展開の仕方やフィッティング、フォーマットなど何も分からぬが、本能が叫んだのだ。

 

()()()()()()()()、と。

 

ハイパーセンサーから脳が焼き切れる程の情報の奔流が流れ込む。

後方に熱源反応。機体情報未登録IS5機、操縦者不明、装備不明、推定出力──

 

(どうでん良か!!)

 

そう言わんばかりの強引な動作で、豊久は腰間の野太刀をひっ掴んだ。ハイパーセンサーによって360°に広がった視野には、こちらへ狙いを付ける5機のIS。

 

振り向きざまに振るわれた野太刀・波片はバターを割くように打ち出された熱線を切り裂き、背後二方向へ弾き飛ばした。ビームコーティングが成されているとはいえ、亜光速のエネルギー弾を寸分違わず両断してのけたのはひとえに豊久の技量によるものだった。

 

あらぬ方向へ飛んだ熱線が爆発を巻き起こすのを確認し、そこでようやく周囲を見渡すと、千冬と晴明は小型のビットによって爆炎を防いでいた。ISを使えない晴明が作り上げた護身兵装か何かだろうか。しかし警備員は何人か吹き飛んでおり、臓物の焼ける臭いが鼻を突く。

 

敵が誰か、何が目的か、分からないことは山積みだがそんなものは些事である。今この瞬間、目の前に敵がいる。首級がある。そして己は、それに刃を届かせ得る。

 

豊久にとって、戦う理由は充分過ぎた。

 

「チィエォォッッ!!!!」

 

飛び込み、裂帛の気合いと共に放った斬撃は寸分違わず敵の首元に叩き付けられ、火花を散らしながらエネルギーを削りとっていく。

人間味を感じさせない電子音が鳴り響き、敵は逃れようとブーストをかけるがその場に貼り付けられたように動けない。余りの斬撃の重さ、そしてその膂力に鋼鉄の巨体が縫い付けられていた。

 

「──…─……──!!」

 

「分かんねぇよぅ。何言ってるかさっぱり分からねぇ。日本語(ひのもとことば)喋れよぅ。日本語喋れねぇんなら…」

 

不可視のシールドごと圧し斬るように、強引に刀を押し込みながら豊久は言葉を紡ぐ。それはさながら、地獄の鬼の死刑宣告。

 

「死ねよ」

 

耐えられなくなったシールドが警告音と共に消滅し、絶対防御が発動した。鋼の巨体は力を失い、糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

僅か一合、目にも止まらぬ決着だった。

 

無力化した残骸を蹴り飛ばし、豊久は再び刀を担ぐように構えるがその内心は晴れやかさとは程遠い。

 

(邪魔くさか)

 

絶対防御が、である。

一般のIS搭乗者からしたら頭がおかしいとしか言いようがないが、豊久はこの安全装置が鬱陶しくて仕方がない。

公式の試合ならばともかく、このような緊急時において、明らかな敵意をもって打ちかかってきた敵を完全に殺せぬというのは豊久にとってストレスだった。そのまま首と胴体を立ち割り、功名として掲げたいとの思いが増幅していく。

 

と、2機目がこちらへ向かってきた。

豊久は瞬時に袈裟斬りの姿勢から刀を身体の横に付け、前へと倒れ込むように水平切りを放つ。

 

(!)

 

先程とは明らかに違う感覚だった。受け止めた銃身ごと敵を両断し、尚も緋縅のスピードは落ちずに前へと進んでいく。

絶対防御を抜けた。切り裂いたのだ。

豊久が何かISの設定を弄ったわけではない。ただ、我に応えよと念じたただけだ。

 

「良か。やはり()()()は良かISじゃ」

 

気付けば緋縅は赤い光を放ちながら、その姿を少しづつ変化させている。尋常ではない熱さが全身を包み込むが、高揚しきった身体にはそれが心地良い。

 

大鎧の袖のようだった肩アーマーはブースターへと変化して小型化し、背中のスラスターもより鋭角的なデザインへ。どこか幾何学的だった各部の衣裳も、豊久の身体にフィットするよう流線型を形取る。

緋縅は、主にとって真の相応しき姿へと変わっていった

 

 

──カッッ!!!!

 

 

光が晴れ、そこに立つのは猩猩緋の戦武者。

肩と背中に刻まれた十字紋が、緋縅が真の意味で主の専用機となった事を示している。

 

「島津中務少輔豊久!推参!!」

 

その口上は鬼か、悪魔の産声か。

興奮冷めやらぬ表情のまま、豊久は敵へ踊り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時は現在へ。

 

「おーおー、派手な登場しやがって。主役は遅れてやって来るってか」

 

「もぉ、冗談言ってないで通信設備の復旧作業手伝って下さい〜!」

 

余裕の笑みで冗談を言ってのける信長と、文句を言いながらも手を動かすスピードを落とさない麻耶。双方共に、その視線はディスプレイに写し出された1人の少年に注がれている。

 

『首置いてけ!大将首だ!大将首だろう!なぁ大将首だろうお前!!』

 

瞬く間に3機を撃墜…というより()()し、1人残った指揮官と思しき女に詰め寄るさまは主役というより悪役である。

機体のボディカラー、そして迸る赤いエネルギーと相まってさながら血濡れの鬼か何かを想起させる。

正直、あんなのに迫られたら麻耶でも一目散に撤退を選ぶ自信があった。

 

『……が!信長!麻耶!!』

 

「チャ、チャンネル復帰しました!こちら管制室!島津先生、ご無事ですか!」

 

『こちら格納庫の島津だ。十月機関の警備員に死傷者が出たが、私の見る限り生徒やISに被害は無い』

 

「なんだ、せーめー死んでねぇのかよ。巻き込まれてくれても良かったんだがにゃー」

 

『茶化すな、言ってる場合か。()()()()()()()()()()()()()()()このタイミングで仕掛けてくるとは思っていなかった。こちらの落ち度だ。生徒の避難は出来ているか』

 

「それがどうにもアリーナのシステムを弄られたようでな。非常口がロックされてうんともすんとも言わん」

 

菅野とオルコットの試合が終わり、島津専用機が搬入されたタイミングを完璧に突いての襲撃。更に学園のシステムにも侵入し、生徒を巻き込んで混乱を助長している。

慣れているものの手際だった。

 

「今なんとかシステムを取り戻そうと教員総掛かりです。格納庫に向かう通路も火災用防壁が作動して閉じられていまして…あれ?じゃあ島津くんはどうやって…」

 

『あぁ、アレには私が許可を出した。障壁は人だろうが物だろうがISだろうが全てぶち破れ、大将首を取って来い、とな』

 

「だからあんなに張り切ってんのかよあいつ!!てかお前防壁直すのもタダじゃねぇんだぞ!!」

 

マイクに向かって怒鳴る信長の胃はキリキリと痛む。今現在の襲撃ではなく、その事後処理のことを思って頭を抱えているあたりがこの男らしい。

 

「ま、ええわい。代表候補生をぶちのめすより、謎のテロリストを瞬時に撃墜する方が遥かに()が付く。島津豊久の武名を知らしめる絶好の(しお)よ。向こうの思惑なんぞ知らんし興味もないが、俺らは俺らで利用させてもらおうぞ」

 

眼帯に覆われた顔に浮かぶのは邪悪としか言いようのない凄惨な笑み。生徒の命が危険に晒されているというのに、信長は心の底から楽しそうだ。

 

『む?…うむ、分かった。おい信長、十月が話したいそうだ。変わるぞ』

 

うげぇ、と発する暇もなく、間髪入れずに耳に男の声が飛び込んできた。

 

『信長殿!!信長殿!!!これは一体どういうことです!』

 

あまりの怒声に耳が鳴り、顔を顰めるが無視をする訳にもいかない。渋々と応答する。

 

「あー、その、なんだ…とりあえず無事か、おっぱい仙人」

 

『えぇ、まさかと思い持参した対IS防衛装置が役立ちましてね!いや今はそんなことはよろしい!我が機関に死者が出た事も、今この時だけは後に回しましょう!私が聞きたいのは()()()()についてだ!』

 

「怪物ぅ?あのいかにも量産機っぽいオモチャのことか?ありゃどう見てもISの出来損ない、十中八九無人機だろう」

 

『違う!私が言っているのはそんなことではない、島津豊久だ!』

 

晴明曰く、豊久の専用機である緋縅は実験段階ではあるが第三世代機であり、イメージ・インターフェースを利用した機能が搭載されているという。

本来なら、搭乗者のイメージ…平たく言えば敵を打倒するという闘争心、もっと簡潔に言うならば「やる気」を感知し、それに応じて機体自身の出力を口上させるという夢のシステム。

無論人の感情、ISコアとのリンクによって得られる力を完全に解析することは現状不可能であり、このシステムは発展途上どころか構想をまず形にしてみたという程度の試作段階の代物だった。

 

IS適性がBランクという豊久なら、試作機のデータ取りには役立つだろうとの考えで導入したという。また、望む武装が必要最低限だったため、拡張領域をそのシステムへと回せるということも実装の決め手となったらしい。

そんなデータ取り程度に考えていたオマケのようなシステムだが、十月機関は持てる技術の全てを結集したため晴明自身はかなり自信があった。人の感情、心によって力を増幅する…まさに夢のようなマシンへと一歩近付く、そんな計画だったのだ。

 

「はぁ、まぁそこまでは分かった。んでその大層なシステムがお豊とどう結びつく?」

 

『緋縅は…一次形態移行(ファーストシフト)した。フィッティングもろくにせず、物の数秒で敵を打ち倒すその間に!IS適性が平均程度の豊久殿にはこれだけで有り得ないが、問題なのはその先なのです!移行前、豊久殿の攻撃は敵ISの絶対防御を発動させ、沈黙させた。しかし移行後、絶対防御は発動しなかった!量産機は切り裂かれて大破したのです!』

 

「……なんだと?お豊はこっちでも3機玩具を墜としたが、その時も絶対防御は出なかった。あの出来損ない、無人機ゆえに絶対防御なぞ付いておらぬと思ってたが、まさか…」

 

『そうだ、そのまさかだ!豊久殿はシステムを発動し、緋縅はそれを利用した単一仕様能力(ワンオフアビリティ)を顕現した!こんな筈では、こんな災厄のようなISになる筈ではなかったッ!!あれは、緋縅の『狂奔征葬(きょうほんせいそう)』は!()()()()()()()()()()()()!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

災厄のようなIS。

そう晴明が評した緋縅に乗り、豊久は目の前の惨状を見渡した。

吹き上がる炎。人の波に押し潰され、助けを求める声とそれを踏み越えて逃げ場を探す生徒。中破した翡翠のISに、その手に横たわる生身の人間。

 

「ようも、やってくれたのぅ」

 

ここにおいて豊久は理解した。今我が前に立つ女は、元凶である。この惨憺たる地獄を作り出した張本人である、と。

 

「やっぱり貴様の首などいらねぇ」

 

緋縅が激情に答えるように光を迸らせる。握りしめた波片から、赤い粒子が立ち上る。引き絞られた矢がその時を待つように、豊久はゆっくりと野太刀を上段に構えていった。

 

「貴様の首は要らん。命だけ置いてけ!!」

 

 




お気に入り300突破、誠にありがとうございますゲンジバンザイ。これからも頑張りますので、よろしくお願いしますゲンジバンザイ。
取り敢えず代表決定戦(だったナニカ)は次回で終わらせられるよう頑張ります。



次回

純真無垢

他愛なし

前途洋洋




『希望の未来へレディー・ゴー』


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第8幕 希望の未来へレディー・ゴー

突如として姿を現し、無人機を屠った上訳の分からぬことを喚き始める男を前にして斑鳩は混乱の極地にいた。

 

「何を…何を言っている!」

 

ARuMのディスプレイ機器には、眼前の緋色のISのデータが次々と浮かび上がって来るが、その情報がまた斑鳩を混乱させる。

 

(登録名は緋縅…日本、十月機関製の島津豊久専用機…主武装は近接ブレード2本に小銃一丁…のみ!?と、特殊兵装を何も持たずにここまで来たのか!?)

 

もしこの情報が正しければ、島津豊久は馬鹿としか言えない近接極振りの武装で、無人機を5機、そして今目の前で3機の計8機撃墜したということになる。あれらはいくらモンド・グロッソ歴代出場者のデッドコピーとはいえ、そこらの学生よりは遥かに洗練された殺戮マシンだ。それを教師の援護もイメージ・インターフェースによる固有兵装もなく、単純に腕だけで斬り捨ててきたのか。

 

「ふ、ざ、けるなァァァ!!!!」

 

認められない。男の分際で、ISに乗れるというそれだけで祭り上げられている人間が、このような実力を持っているなど。

 

「貴様らは、貴様ら男は!地を舐め泥を啜り、ISに乗ることが許された崇高な人間の風下を無様に這いつくばっていれば良い!いや、生きていることすら有難いと思え!世界を変えるのは、守るのは我ら選ばれた人間だ!!」

 

幼少期から思想、戦闘、潜入など各方面の教育を「組織」によって施され、刷り込みを行われた斑鳩は豊久に過剰なまでの嫌悪を示す。自分自身のアイデンティティを根幹から崩しかねない男性操縦者は、決して許しておけない存在なのだ。

 

「絶対に…殺してやる!!」

 

手にした長剣を振りかざし、斑鳩は突っ込んでくる汚物を迎撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドヒュウッッ!!

 

意を隠そうともせず、豊久は全力でブースターを吹かした。小細工も何もない全力の一撃を叩きこまんと緋縅は彼我の距離を詰めていく。

 

「ッッ──!!!」

 

絶対防御ごと断ち切るつもりで大上段からの一刀を放つが、敵は斜め後方へと飛び退ってそれを躱した。勢いを殺さず咄嗟に片手で切り上げたが、それは敵の長剣に阻まれ、豊久が刀を構え直す頃には敵との距離はまた元のように開いてしまっている。

 

()()()!」

 

地面に足がついておらず、文字通り360°全方位に動き回れるIS同士の戦闘に豊久はまだ慣れていない。そもそも、一撃必殺を旨とする豊久の刀法と基本的に中遠距離での差し合いが多いIS戦闘はお世辞にも相性が良いとは言えなかった。

 

「オオオォッッ!!」

 

だからと言って弱腰になるほど、豊久は()()()ではないが。

 

「低脳が…そんな単純な動きでッ!!」

 

身体ごとぶつかりにいく勢いで突っ込み、相手を下がらせない。滅茶苦茶に刀を叩きつけているようで、全ての動きが次の行動の予備動作。面打ちと見せての地を這うような脛切り、諸手突きからの小手と、嵐のような連撃を叩き込んだ。

 

しかしその尽くが空を切り、或いは剣に阻まれる。敵は当初の焦りも鳴りを潜め、余裕の笑みを深めていた。そのニヤケ面を潰そうと繰り出した刃も、あえなく火花を散らして弾かれた。その衝撃で波片が豊久の手から離れる。

 

「他愛なし!!」

 

勝ち誇ったような声と共に繰り出されたのは、馬鹿正直でこれ以上ない殺意を乗せた渾身の突き。刃で分子振動が起きているのか、微かに駆動音のような歪な音が耳朶を打つ。

小太刀を引き抜く暇はない。豊久の胸に不可避の刺突が迫り、そして──

届くこと無く、真横へ吹き飛んだ。

 

「ぎィっ……!?」

 

脚部のブースターを利用して放つ、全力の中段蹴り。

たかが蹴りと侮るなかれ、絶対防御を無効化する『狂奔征葬』を発動した上での一撃は鎧を着た上から爆発的な推進力を得た鉄塊をぶつけるのと同義である。喰らえば肋骨は砕け散り、内臓はその破片に切り裂かれるという地獄の苦しみだ。

 

我武者羅に見えた連続攻撃も、波片をわざと手放したのも、全てはこの一撃を伸び切った無防備な土手っ腹に叩き込むため。

攻め手を潰し、攻撃手段を奪い取るという誰がどう見てもトドメの一撃を食らわせる機を相手にくれてやるため、豊久は今の今まで動き回っていた。

 

一刀必殺と評される薩摩の剣術は、初動の一撃に全てを賭け、より速く、より力強い最初の一撃を繰り出す為だけに磨き上げられる。

薩摩の剣に二ノ太刀要らず。

誰もが聞いた事があり、誰もがそう認識しているからこそ豊久はその思考の間隙を突くことに力を注いだ。一撃になにもかもを込め、それを外せば潔く敗北を受け入れるという「常識」を根底から覆す。

 

全身全霊の一撃を外された後の一撃こそ、勝負を分ける一重の紙。

 

島津家中において、王道にして詭道を謳われる豊久の真髄だった。

 

「はン、他愛なか」

 

言い捨てた豊久の視線の先にはひしゃげたISとその隙間に咲く赤い花。それを見つめる瞳はどこまでも冷えきり、寒々としたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菅野直、セシリア・オルコット、島津豊久によるクラス代表決定戦と予期せぬ襲撃事件の幕切れは、あまりにも唐突で呆気ないものだった。

生徒の中には襲撃の恐怖やその主犯が新入生の1人であることなどにショックを受け、体調を崩すような者も少数ではあるがいた。

これが普通科高校での事件であれば世界規模のニュースになってもなんらおかしくはなく、事実この日から数日間IS学園には警察や軍、十月機関に野次馬のマスコミまで大量の人間が押し掛けた。もっともそれらは世界最強が『生徒に余計な不安を与えたくない故最低限の人数で来い』と凄みながら追い返したが…。

 

ともかく、新学期の授業など到底言っていられないすったもんだの大騒ぎになる()()()()()()

しかし実際は1週間の全学年休校とアリーナにいた生徒達、そして襲撃の主犯である斑鳩憂佳のクラスメイトである1年1組に事情聴取が行われただけで事態は収束とされた。杜撰な対応と世間から詰られそうな顛末であるが、この短期間の収束に漕ぎ着けたのは1人の功名餓鬼の存在が大きい。

 

無人機5機を格納庫で瞬く間に破壊し、アリーナへ突入して同じく3機を撃墜。更には主犯を無力化して捕らえるという衝撃の報は、生徒達の恐怖も不安も、ありとあらゆる感情をなにもかもかっさらって爆発させた。

即ち……

 

「ね、ねね!君があの島津豊久くんだよね、『テロ潰し』の!」

「初めて乗った専用機であんな動きするなんて、どうやったの!?もしかして島津先生の弟さんだからISには慣れてたとか!?」

「こ、怖くなかったの?死ぬかも知れなかったんでしょ?絶対防御があるとは言えさ…」

「すっごいカッコよかったよ!ピンチに助けてきてくれるヒーローみたいでさ!」

 

「何言っちゅうか分からんわ!いっどに話すな!!」

 

花の10代の皆様方は客寄せパンダに一段とお熱に御成りあそばしたのである。学園が襲われたという恐怖など吹き飛んで忘れてしまうほどに、豊久の活躍は衝撃的だったということだろう。校長室で事情聴取を受け、のべ10時間以上の拘束から解放された豊久はもうどこに行っても女子生徒に付きまとわれて質問攻めだ。これなら校長室で清明と怒鳴りあっていた方がまだマシと思うほど、豊久の元を訪れる者が後を絶たない。

 

いつもならそのガス抜きの相手になる直は直で、国家代表候補生から大金星をもぎ取るという快挙で揉みくちゃだ。というか「ナオシーとマンツーマンでお話できる整理券」なるものを配布し始めた同居人のせいで、下手をすれば豊久よりも拘束時間が長い。今日も寮の1945号室からはバカヤロウ本音コノヤロウ、と叫びが響き渡っている。

 

総評して、IS学園の混乱は男性操縦者2人を人身御供に、当初の見込みより遥かに小規模に収まったと言える。

 

 

 

「なんじゃあ、あん奴ら!!本のこつ迷惑(めいやっ)なおなご共じゃ!と言うかないごて2年3年まで押し掛けち来よる!」

 

乱暴に自室のドアを閉め、豊久が憤慨する。食堂で夕飯を取ろうにも一歩廊下へ出ればたちまち女子に囲まれ質問攻め。安息の地は最早室内だけなのだ。今日も虚しく購買のパンを部屋で齧る羽目になった。

 

「それだけお前の仕出かしたことが大きいということだ」

 

それに巻き込まれ、島津君って部屋ではどんななのー?とかいいないいな部屋変わって欲しいなぁとか言われまくっている箒も、相当フラストレーションが溜まっているようだった。おちおち武道場で剣道に打ち込むこともできず、最近は室内で木刀を振るようになっていた。

 

「お前はお前で何をそがいに怒っちょる」

 

「別に怒ってなどいない」

 

「眉間に皺寄っとるど。まぁ確かにあん金髪の首奪るち約束は守れんじゃったのは俺が悪かが」

 

「あのなぁ、そういうことではないのだ!」

 

「じゃあどけんこつだよ」

 

本当に分からないという風に小首を傾げる戦馬鹿に、箒は溜息を吐きながらも上がる口角を抑えきれなかった。

 

怒りはともかく、箒が内心モヤモヤとしたものを抱えていたのは事実である。しかも当の豊久絡みのことだ。

 

(あの戦いぶりを見て…正直、恐ろしいと思った。変わっていないと、昔のままだと確かめた筈の豊久が全く別の人種になっている気がして…)

 

異様なまでに勝利に執着するのは昔からだったが、この一連の騒動で豊久が見せたそれはかつての箒の記憶にあるものとは一線を画していた。アリーナから遠目で見ても分かるほど楽しそうに、嬉しそうに笑って刀を振るうかと思えば、一転して氷のような冷たさで相手を圧殺する。幼馴染の忠豊と、入学以来共に過ごしてきた豊久、そしてISに乗る豊久。そのどれもが僅かに合致しないような、微妙な違和感を感じてしまっていた。

 

(だが文句を言いながらも他人()のことを見ていてくれて……ふふっ、やはり本質は変わっていないのだ)

 

「なんじゃ、怒ったい笑ったい。おかしか奴じゃな」

 

心中で文句を垂れつつも、箒はこの感覚に安心していた。幼い頃に感じた空気感そのものだったからだ。豊久の言動ひとつに心をときめかせ、そして勝手に裏切られ、一喜一憂してそれを豊久に笑われる。心が擽られるようなこの感覚が恋だと気付いたのはいつだったろう。

 

(全く、この馬鹿者は…心配などでは決してなく、本気で不思議に思っているのだ。本当にタチが悪い大馬鹿者だ。だ、だが…ぅ……そ、そこが、こいつの良いところ、だが………)

 

その大馬鹿者に首ったけな自覚がある分、箒の頬は際限知らずに紅潮していくが豊久がそんなことに気付くはずも無い。相も変わらず不思議そうに首を捻るだけである。

 

「はぁ、なんでもない。もう今日は寝るか。明日から授業も再開だ」

 

「応、そうするか。俺は金髪と直と()()うちょらん。明日ん放課後にでん、奴ばらめの首纏めて奪る!」

 

「暫くアリーナは使用禁止だろうっ!?大体お前も菅野も専用機を精密検査で回収されたろう!」

 

「したらば打鉄でんなんでん引っ張り出してやり合えば良か」

 

「どうしてそうなるっ!?」

 

心の靄が吹っ切れた箒と豊久、幼馴染の夜は慌ただしく過ぎていった。………………………………………部屋の扉に耳をへばりつかせる生徒達に気付くことなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、もう1匹の客寄せパンダはげんなりとしながら屋上で夕食のメロンパンを齧っていた。

豊久があの斑鳩をぶちのめした後、2人して事情聴取を受け、それが終わったと思ったら女子に囲まれあの騒ぎだ。食堂にいるとろくに食事も出来ないし、校外に出れないため食材を買い込んでの自炊も不可能。部屋には整理券を配布してがっぽり儲けている不思議パジャマがいるし、直はもうこの屋上だけが安息の地なのだ。

本来なら立ち入り禁止のこの屋上だが、施錠されていた鍵をぶん殴ってこじ開けたためかえって誰にも邪魔されぬ悠々自適の場と化した。

ここで冷えきった菓子パンを齧り、持ち込んだ小説を読むこの時間だけが直を癒してくれる。

 

「やはりここでしたわね」

 

そんな安息も、たった今壊されたわけだが。

 

「……」

 

声をかけてきた女に見向きも答えもせず、空を夜空を眺めたまま直はパンを食べすすめる。相手も端から返事など期待していなかったようで、断りもなく隣へ歩を進めてきた。この金髪はシールドエネルギーがほぼ尽きている状態で観客席の生徒を守るために絶対防御を発動し、全身打撲の傷を負った筈だがそやな素振りは全く見えない。IS学園のナノマシン治療の技術力か、はたまた貴族様の精神力か。

 

「罵倒しませんのね。この哀れな敗北者を」

 

相手も直を見ない。ただ空を、遠くを見ているようだった。

 

「どこかの誰かと違って、何かを踏みつけてなきゃあ気が済まねぇほどガキじゃねぇんだよバカヤロウ」

 

「そうですか。では私も存外子供ではないというところをお見せしなくてはなりませんわね」

 

そう言って、金髪のイギリス人は流麗に膝を折り、頭を下げた。

ひねくれてあらぬ方向を見ていた直が思わず視線を向けてしまうほど、その動きは深い。

 

「このセシリア・オルコット、あなたに働いた無礼の尽く、心よりお詫び申し上げますわ。あなたの怒り、あなたの国、そしてあなたの戦う理由。それらを勝手な色眼鏡で見た挙句の暴言の数々、謝って許して頂けるとは思いません。ですがどうか、謝罪させてくださいまし」

 

「…………人を見下す以外に、その頭が使い道あったのかよ」

 

「そう言われても仕方ありませんわ。私は知った…いえ、知ってしまったのです、()()()()。ISから流れ込んできたあなたの想い、そして決意を。目を覚まされた気分ですわ。このような方に自分が無礼な態度を取っていたことは驕り以外の何物でもない…己が如何に視野狭窄であったか、気付かされました」

 

頭を下げ続ける金髪に、それを見つめる直。重い沈黙が二人の間に流れるが、それを断ち切ったのは直だった。

 

「勝手に人の心の内覗きやがってコノヤロウ」

 

「それは…いえ、申し訳次第も…」

 

「そこはお互い様って言い返すとこだろうがバカヤロウ」

 

くつくつと、悪戯が成功したように笑う直。ぽかんと口を半開きにする金髪をよそに、ツボにハマったのか次第にその笑い声は大きくなっていく。

 

「だっはははははは!!なんだそのマヌケ面!だはははは!!」

 

「な、あなたの冗談は分かりにくいんですの!と言うかお互い様とは…」

 

この学園に入ってから一番の清々しい気分に、直の笑いは止まらない。抗議の声もむなしく、夜空に楽しそうな声が響き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずどん。

 

自分の心が撃ち抜かれる音を、生まれて初めてセシリアは聞いた。

切れ長の瞳の流し目に、怒りや恨みを飲み込んだ涼やかさと子供っぽさが同居する不思議な笑顔。目だけで此方を見て笑う菅野直に、セシリアの胸に大きな穴が開いた。

 

「お、お互い様とはどういうことです!」

 

その穴に流れ込むかのように全身の血液が目まぐるしく回りはじめ、身体中が熱っぽくなる。夜でなければ顔の赤さをもろに見られてしまっていただろう。夜の帳に感謝しつつも、セシリアは己に芽生えた感情に必死に抗いながら言葉を紡ぐ。

 

「あぁ?俺もテメェの親事情やらなんやら見せられちまったんだよ。お互い墓場まで持ってくぞコノヤロウ」

 

あぁ、駄目だ。

一言会話を交わす度に、彼の一言一句を聞く度に、空いた穴から温かさが零れる。セシリアの全身を包み込んでいく。

 

(もう認めるしかない。私は、セシリア・オルコットは、この方のことが………)

 

直が踵を返し、非常階段の扉を開ける。セシリアが咄嗟にその背に声を投げたのは、半ば無意識のことだった。

 

「あ、あの!」

 

振り返ることなく、しかしノブを掴んだその姿勢のまま直は続く言葉を待つ。

 

「その、えと…あ、あなたの輩に相応しき淑女となるべく、精進いたしますわ!それではおやすみなさいませ、菅野さん」

 

何を言ってるのだろうとは自分でも思うが、それでも今のセシリアにはこれが限界だ。誤魔化すように別れの挨拶を告げて髪を弄るが、忙しなく体をゆすって落ち着かない様子は誰がどう見ても恋する女の子である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「菅野ってな、姉ちゃんと紛らわしいンだよ。別の呼び方にしやがれコノヤロウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え」

 

それだけ言い残し、今度こそ直は暗がりに姿を消した。

屋上に残るのは、完全に不意をつかれて固まるセシリアのみ。その口から滑り落ちるのは、蕩けたような甘い声音。

 

「…直、さん……」

 

オルコット家13代目当主、セシリア・オルコット16歳。

その赤い実が、極東の地で弾けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新聞部の号外、号外ーッ!男性操縦者島津豊久、同室の篠ノ乃箒と深夜の痴話喧嘩!夜遅く寮に響く2人の声の原因は!?更に夜が耽け、熱っぽく島津氏を呼ぶ篠ノ之氏の声!幼馴染の間に何が!?」

 

「うわぁぁあぁぁぁああぁぁぁッッッ!?!?!?そんなもので号外を組むなっっ!!というかあらぬ事を書くなぁっっっ!!」

 

「じゃっどん箒、お前ん寝言はうるさかぞ。俺の名ぁばっかり呼んじ、毎度起こされるど」

 

「だだだだまればかもにょぉぉおっっっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




代表決定戦だったナニカはこれで終了です。
次回は襲撃の後始末やらISやら人間関係の掘り下げやらで一服おいて、その次で遂に第2章突入です。ここまで来るのに死ぬほど時間をかけてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
今後の執筆速度の目標としては、この夏までにシャルロット出したいです…(弱気)

※オルコット家について、セシリアが何代目の当主なのか調べても不明だったため自己裁量で「13代目当主」としています。正確な情報をご存知の方がいましたら、一報下さると幸いです。





次回

お片付け

兵器か翼か

不退転



『BLACK OUT』



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第9幕 BLACK OUT

IS学園の地下深く、職員の中でも限られた者しか存在を知らない特別施設の中に()()は転がっていた。

 

「ひでぇ有様だ。どんな威力で蹴ったらISがこんなになる」

 

こんな、と信長が言ったのは此度の襲撃の指揮官機だったものだ。

頭部以外の全身を覆う装甲型ながら、左腹部に抉りこんだ一撃により大きくひしゃげ、そこを起点に「く」の字に折れている。初見でこれがISと見抜ける者の方が少ないだろう。

 

「絶対防御が無効化されたISの脆さが露呈した形だな。いや、この場合は緋縅の恐ろしさと言った方が最適か」

 

信長の隣に立つ千冬の目の下には、濃い隈が貼り付けられている。この1週間、1組担任、島津豊久の姉、そしてIS学園最高戦力という面倒な役回りを一手に引き受け、後始末に奔走してきた彼女の疲労は相当なものだ。

 

「恐ろしいのはお前の弟じゃわい。で、晴明との話し合いはどうなったよ。紫電と緋縅はやっぱ十月機関に回収か?」

 

「それがちと面倒なことになってな。今も麻耶が連中と最後の所を詰めている。まぁ大筋は決まりだ」

 

今回直と豊久に渡されたそれぞれの専用機だが、実際に搭乗し双方共に問題が発見された。

まず紫電。直の操縦に耐えられるよう調整された機動力重視のISだが、その直の操縦というのは打鉄に乗っていた頃のものを参考にしている。当打鉄は直の操縦技術に着いてこれず、関節部や駆動部などに多大な異常が見られた。紫電ではその損傷具合から逆算して強度設定を行ったのだが、ひとつ失念していたことがある。それが、「直の本気の操縦は打鉄が壊れる程度」と考えていたことだ。当然の事のように思えるが事実は小説よりも奇なり、紫電がなまじ直の操縦に耐えられた事で、かのデストロイヤーは打鉄搭乗時には控えていたような動きをし始めたのだ。つまり、打鉄は本気を出す以前に壊れていたということになる。強引な多段瞬間加速(リボルバー・イグニッション)をはじめ、ブーストを0からいきなり100にかけるなど機体やスラスターユニットへの負担は相当大きく、駄目押しとばかりに()()()()()()()()鳴御雷を蹴りと共に発動するなど無茶のオンパレード。このため紫電への自傷ダメージは当初の想定より遥かに大きく、今回のデータを元にもう一度機体構造を見直すことになった。関節部の強度を筆頭にかなり大掛かりな改装となるらしい。

 

こちらはまぁ良い。直の専用機を更にブラッシュアップするという至極真っ当な作業だ。

 

問題はもうひとつの専用機、緋縅である。これはもう豊久側と十月機関側で揉めに揉めた。

インターフェースを利用したシステムが豊久と原因不明の異常適合し、本来ならば出力向上や攻撃威力増加程度の能力になる筈だった単一仕様能力は緋縅をI()S()()()()()()()()()()I()S()へと昇華させた。

更に話をややこしくしたのは、狂奔征葬の本来の能力が絶対防御破壊ではない可能性が出てきたことだ。絶対防御を貫通して無人機を破壊し、正真正銘のISにも搭乗者にダメージを通した。ここだけ見ればもうスクラップ一直線だが、事件後に千冬と行った安全確認テストでは狂奔征葬発動のアナウンスが流れたにも関わらず、絶対防御は破壊されなかったのだ。豊久曰く「姉上に傷付ける訳にもいかんじゃって、シールド削ればそいで良かち思いながら乗った」との事らしい。つまり、狂奔征葬は『豊久の破壊したいものを破壊する』能力である可能性が出てきたということになる。

 

製作者である十月機関長安倍晴明は本来の能力がなんにしても、殺人を犯しかねない危険な失敗作だとして本機の即刻解体、コア初期化を提言したが搭乗者島津豊久はこれを撥ね付け、真っ向から意見が対立した。普通ならば一学生が国の公的機関に逆らうなど出来る筈がないが、緋縅の製作が行われている真っ最中に『機体完成後はISを佐土原島津家の所有物とし、何らかの理由で国や十月機関、IS学園へ差し戻す際には貸与という扱いになる』という契約を交わしていたため話が変わってきた。これは当時、千冬が珍しく強硬に豊久に言い聞かせ、日本政府と交わさせたものである。この契約を条件に豊久はIS学園への入学と血液や細胞などの一部生体サンプルの提供を了承した(というかさせた)という経緯がある。

 

世界でただ2人の男性操縦者の片割れ(愛する弟)の人生を縛り、その道を狭めようというならば相応の覚悟をせよ。

もし豊久に何かあれば、佐土原、そして島津宗家はISを擁して日本政府に徹底的に抵抗する。

 

世界最強たる千冬と貴族院に籍を置く叔父の存在、そしてIS開発者であると篠ノ乃束とのパイプがあったから成り立つ無茶苦茶な契約(脅し)である。

 

豊久はこの契約を持ち出してごねたのだ。馬鹿だ馬鹿だとは言われているが、豊久とて家族が自分の為にどれだけの無茶を重ねて勝ち取った契約、ISかということを充分理解している。

武具を取り上げられるのは武士(さぶらい)としてこれ以上ない屈辱だ、と子供のような言い分をぶちかましていたが、信長の見たところアレはわざとだ。そこまで考えていたかは分からないが、弁論で勝てない相手との言い争いに勝つにはとにかく相手を怒らせるに限る、という確信のもとのあの物言いなら信長は豊久の評価を数段上げねばならない。そして、その可能性は充分有り得ると見込んでいた。

 

何はともあれ、この話し合いを纏めるのに時間がかかり中立である麻耶が間に立っても議論は平行線。痺れを切らした晴明が検査を名目に回収していた緋縅を独断で初期化しようとしたが、なんと緋縅のコアネットワークはまるで意志を持つかのように豊久以外の全ての人間のアクセスを拒否した。十月機関の職員が四方八方手を尽くしたようだが、いくら頑張っても表示されるのは『ERROR』の文字だけ。

 

ここにおいて、晴明の独断をあげつらう形で千冬が介入した。IS学園の教師であり、他の生徒を危険から守らねばならぬ立場にいたため豊久の肩を持つことは控えていたが、当主との約束を反故にして動かれたとなれば佐土原の人間として黙ってはいられない。大いに怒り、湯呑み3つと机1つを犠牲に(叩き割って)強引に交渉を取り纏めた。

 

「それで行き着いた先が、豊久が緊急時以外に絶対防御破壊を願わないとの誓約書……馬鹿じゃねぇの、子供の口約束以下じゃねぇか」

 

かなり幼稚な契約だが、幸い生徒には無人機が絶対防御を搭載していたことが知られていない。裏を返せば、豊久が絶対防御を貫通したという事実を隠し通せる。「ISの劣化版である無人ロボットだから破壊できた」と説明すれば大半の生徒は納得するだろう。絶対防御が破壊できる、と言うよりかはこちらの方がまだ信憑性がある。

 

「それしか落とし所がなかった。緋縅のコアにアクセスして狂奔征葬をロックできるならそれが一番手っ取り早いが、豊久以外の操作を受け付けん」

 

「ふぅむ…。搭乗者とISコアの共感現象…これまで見られなかった訳では無いが、ここまでのものは中々ねぇ。しかも起動回数1回でだ。一次形態移行と言い、狂奔征葬の発現と言い、コアとお豊の相性がいくらなんでも良すぎるわ。まるで狙い済ましてこのコアを渡したかのように…」

 

そこまで口にしたところで、信長と千冬が顔を見合せた。

 

まさか。

いや流石に。

有り得ぬわけではなかろうが。

 

そんな会話を視線だけで交わすと、縁起でもないといった風に千冬が腕を振った。その顔は苦り切り、露骨な拒絶反応を示している。

この話を続けたくないのか、口を開いて出たのは先程とは全く異なる話題である。

 

「それより斑鳩についてはどこまで分かった」

 

「ん?あぁ、()()()よ。あの専用機のスペックから入手先、所属組織、自身の生い立ち、目的に協力者に今後の見通し…全て話してもろうたわ」

 

斑鳩優佳。本名山岸紗理奈。1歳で両親を亡くし、自動保護施設に引き取られるが数箇所をたらい回しにされた挙句過激派女性権利団体へ。そこでISの搭乗技術などの教育を受けていたところ、世界初の男性操縦者が現れたため、その専用機奪取の任を受けIS学園へと入学した。因みに、本物の斑鳩優佳は1ヶ月前に一家諸共事故死していたことが判明した。

 

「その斑鳩…いや山岸は今は?」

 

「殺したわ。政府に引き渡されて情報がそっちに流れちまえば大分面倒くせぇことになる。俺とお前と、麻耶と、サンジェルミ。知ってんのはそれだけで良い。政府にゃ尋問前に自殺したとでも伝えとけ。舌噛み切らせたからバレやしねぇよ」

 

信長は他の者が聞けば吐き気を催すようなことを平然と言ってのけるが、それを聞く千冬も当然といったように頷いただけである。肝の座りようだけでは説明できない()()が見て取れる。

 

「無人機についてだが、亡国機業(ファントム・タスク)から譲り受けたらしい。いつから繋がってたのか、向こうの担当者は誰か、細かいとこまでは知らされておらなんだようだが、あの専用機のコアもそこから流れてきたそうだ」

 

そう言って顎をしゃくったところには見るも無惨な文字通りの鉄屑。中に入っていたコアは既に摘出されているが、元々がブラックボックスな未知の技術の結晶である。そこから分かることは少なかった。

ただひとつ分かったのは、このISコアの登録番号。世界に467個しかないコアにはそれぞれ作られた順に数字が割り振られている。そしてこのコアの番号を覗いて見たところ…

 

「254だと!?馬鹿を言うな、それは…!」

 

「あぁそうだ。お前がぶっ壊した筈のロストナンバーだ」

 

「あの時私が確かに雪片で刺し貫いた。そして残骸もサンジェルミが回収したのを見届けている。それが持ち出され、修復されたと言うのか!」

 

「いや、事態はもっとややこしい。オカマと通信したが、254番のコアはきっちり()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………型式番号まで…完全に複製、だと……」

 

滅多に表情を崩さない千冬が、目を限界まで見開いてその言葉は震えてさえいる。それは信長とて同じで、軽い口調ながら額には冷や汗を浮かべていた。

 

「あの天才(バカ)ならわざわざぶっ壊れたコアをコピーなんぞ絶対にしねぇ。アレはそんな無駄な事をする女じゃねぇ。別の誰かが、コアを完全に複製したと見て良いだろうよ」

 

誰が。なんの為に。どうやって。

疑問が次から次へと湧き出し、2人を言い様のない不気味さが包んでいく。得体の知れない怪物が、すぐ傍まで近付いて手ぐすねを引いているような原始的な恐怖。

 

2人の視線は、何時までもISの残骸に注がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部下が運転するヘリコプターに揺られながら、晴明は静かに考えを巡らせていた。いわずもがな、緋縅とその操縦者についてである。

 

(世界を…ISを変え得る筈だった。奴が遺した夢の残骸を、もう一度羽ばたかせると信じていた。だがもう戻らん。終わりだ、ご破算だ)

 

悲観的にすぎると笑う者もいるかも知れぬが、晴明は確信に近しい予感を得ている。あの戦のことしか考えぬ男が誓約を守る筈がない。本人に遵守する意思があろうとも、必ずどこかで本能が鎌首をもたげる。絶対防御と言う安全装置が破壊できると世の人々が知れば、行き着く先は地獄以外の何物でもない。既存兵器に対する圧倒的優位を保つ為の抑止力だったISは、もう後戻りなど出来はしない。人を殺すため、ISを破壊するためへの研究へと舵が切られてしまう。

それは、それだけは止めねばならない。自らが生み出したものが世界を破滅に導くなど、そんなことを受け入れられはしない。インフィニット・ストラトスは兵器ではない。翼だ。地上のしがらみも、重力も、全てを振り切って未知の世界へ飛び立つ為の翼なのだ。たとえ最初にそう願った人間が挫けても、絶望しても、夢の残骸に成り果てたとしても。

 

 

 

『あぁン?知らねぇよ、俺ァただ自由に飛びてぇだけだバカヤロウ!!』

 

 

 

ふと脳裏をよぎったのは1人の少年の言葉だった。初めて会った時、専用機を渡した時、そして初めて愛機にその身を任せた時。彼はいつもそう言った。乱暴な言動に頭を抱えたが、その根底にあるのは誰よりも純粋な空への想い。夢を絶たれて深く傷付き、それでも立ち上がって空を目指した少年は唯一の希望となるかもしれない。

 

「そう…だな。ここで諦めれば、私もあの天才と同じ穴の狢だ」

 

微かな希望を胸に灯しながら晴明は窓から月を見上げる。

眩い光がその顔を照らしていた。

 

「おまえの好きにはさせん。させんぞ、黒王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襤褸だ。襤褸を纏った薄汚い人間が、そのローブの隙間から手を伸ばしている。夜空には星々が瞬き、その中央に浮かぶ見事な満月は輝かしい光を放っている。

 

やがてその人間は開いていた手のひらを、満月を掴み取るようにして握りしめていく。

 

 

ズ……ズズ…ズズズズズズッッッ!!

 

その動作に連なったのは天変地異だった。先程まで眩い光を放っていた満月が、上から段々と塗り潰されるようにして形を変えていく。満月から三日月、弦月、そして新月……一瞬暗闇に呑まれ、姿を消した月だが、次の瞬間に()()()()()

そう、まさに目だ。紫の妖しい光を放ち、下界を照らす月は紛うことなき瞳を象っている。

 

 

 

 

 

 

────私は不退転

 

 

────歩き回り叫ぶ不退転の厄災

 

 

────1人(あま)さず人なる者を打ち倒す終わり

 

 

────1人(あま)さず人ならざる物を救う始まり

 

 

────参集せよ

 

 

────参集せよ 有限なる成層圏

 

 

 

 

 





次回



顛末

鈴の音色

バーニング・ハート


『アイラブユーが言えなくて』


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第10幕 アイラブユーが言えなくて

なんかやたら長くなりました


「と言うことで、1年1組クラス代表は島津豊久くんに決定しました!頑張って下さいね、島津くん!」

 

「よっ、総大将!」

 

「これでもうクラス対抗戦はもらったも同然よ!」

 

「フリーパス置いてけ!食堂のデザート半年フリーパス置いてけ!!」

 

「勝ったな風呂入ってくる」

 

 

 

ちくと待てぇぇぇぇえい!!!!!

 

 

 

休校明け一発目のSHRだというのに、相も変わらず賑やかなクラスである。女子たちはきゃいきゃいとはしゃぎ、直は爆笑しているが1人豊久だけが目を釣りあげて怒っている。

 

何故(ないごて)じゃ!?俺はまだこやつらん首ば奪っちょらん!!」

 

「そ、それはですね…」

 

「まず第一に、私が辞退させて頂いたからですわ」

 

そう言って立ち上がったのは渦中のセシリア・オルコット嬢。以前までは威圧的で、どこか背伸びをしたような印象だったが今は憑き物が落ちたように微笑んでいる。見やった豊久が小首を傾げる程度には人が変わっていた。

 

「直さんとの一戦で己の実力不足、そして人としての未熟さを思い知らされました。まずは、クラスの皆さんに心より謝罪をさせて下さい。あなた方の祖国を辱めるような言動の数々、誠に申し訳ありませんでした」

 

深々と頭を下げるセシリアに、箒も目を丸くしている。

 

「クラス代表を務めるに相応しい在り方ではなかったと、心底思いまして…決闘での敗戦も含め、私には資格はございませんわ。ですがもしお許し頂けるのなら、クラスの一員として、共に切磋琢磨をしていきたいと」

 

初めはザワついていた教室だが、少しすると皆納得したような顔で彼女に声をかけ始める。

 

「オルコットさんは襲撃の時みんなを庇ってくれたし、許すも許さないも…ねぇ?」

 

「うんうん、そんな畏まらないでさ、若気の至りってことで流そうよ!」

 

「皆さん…」

 

無人機の攻撃、シールドエネルギーが底をついたISで受け止め、身を呈して生徒を庇った姿は皆が目撃している。力を持つ者の務めという彼女の主張が口先だけのものではなかったと、皆理解しているのだ。

 

「菅野くんもそこは納得してるよね?」

 

「まぁ、死体蹴りは好きじゃねぇしな」

 

「またまたぁ、気絶したセッシーをお姫様抱っこして医務室に担ぎこんだのは誰だったかなー?ねぇナオシー?」

 

「適当なこと抜かしてんじゃねぇよバカヤロウ!」

 

爆弾発言をかます本音の机には菓子の山が組まれている。直と5分間一対一で話せるという整理券を配布し、その対価として貰っていた購買の菓子達だ。1週間でのべ100人以上が押し掛け、更にリピーターもいたことから購買のお菓子コーナーは新学期早々品薄状態。その殆どが本音の懐に転がりこんできたらしい。

最早机の表面も見えず、それをひょいひょいぱくぱくと景気よく口に放り込む様は見ていて気持ちが良いくらいだ。幸せそうに目を細めてお菓子を堪能する小動物に、何人かはハートを撃ち抜かれて頭を撫でてたり頬を弄り回したりしている。

 

「あ、私もそれ見たよ!『重傷者だ!』って言って必死にせしりん運んでたよね!」

 

「記憶障害かなんかじゃねぇのか…?いや今から記憶障害にしてやろうか…?」

 

「いだだだだだだだ!!か弱い女の子にアイアンクローはらめぇぇぇ!!!」

 

「直さんが私を…!?そんな情熱的な…て、え?せ、セッシー?せしりん?」

 

「おるるんの方が良くない?」

 

「せしりあたんが王道でしょJK」

 

好き勝手はしゃぎ始めるクラスメイトたちにセシリアは困惑しきりだが、それを見る麻耶はにっこりと優しそうな笑みを浮かべている。想像以上に丸く収まり、クラスの仲も図らずして深まったようだ。副担任として喜ばしいことだと、うんうんと頷いている。

 

「オルコットが退いたんは分かった、じゃっどん直は勝ったじゃろ!不戦の俺よかまだマシじゃろうが!」

 

「紫電がぶっ壊れて回収されてンだよ!俺が代表になったらクラス対抗戦間に合わねぇだろうがバカヤロウ!」

 

「そいは俺とて同じぞ!緋縅ば晴明に…」

 

「それなら問題はない」

 

言いながら入室してきた我らが担任、島津千冬。流石の威厳に先程まで姦しく話していた生徒達も背筋を伸ばして挨拶をする。

 

「「「「「おはようございます!」」」」」

 

「うむ、おはよう。それで島津。貴様の専用機だが、学園の整備科でメンテナンスをしたところ目立った損傷も特にない。そこの自傷馬鹿と違って、開発元にまで戻す必要はないという訳だ」

 

勝ち取った。言外にそう伝え、取り出したるは1つのレザーブレスレット。黒字のベルトに緋色の金具が映えた逸品だ。言わずもがな緋縅の待機状態である。

 

「オルコットは辞退、菅野は専用機の改修。消去法だ、甘んじて受けろ。ま、やるからにはなぁなぁではなくそれなりの覚悟と目標を持って取り組むことだ」

 

尚も不服そうな顔をしていた豊久だが、彼とて何時までもグチグチ言い募るような子供ではない。それに、クラス対抗戦で功名を得られるというのも中々に魅力的である。自分だけでなく、クラスメイト全員が待ち望む中で首級を挙げるのはどれほど素晴らしいだろう。

考えが顔に出たか、みるみるうちに表情が輝き始める。千冬からブレスレットを受け取り、それを右腕に通した時には既に満面の笑顔である。

 

「言われるまでもなか。何がなんでん、他クラスん代表の首ば奪う!」

 

万雷の拍手の中、1年1組が漸く大きな1歩を踏み出した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そん前にオルコット、決闘ん続きば今日の放課後で良かが?」

 

「あなた本当にブレませんわね!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、その日の放課後に豊久とセシリアの決闘が改めて取り行われた。行われたのだが……

 

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

「なんで勝ったのにそんなに不機嫌なんだお前は…」

 

「あいは緋縅んおかげぞ。俺の勝ちではなか。俺は奴ん銃撃ば何度も喰ろうたじゃっどん、オルコットは最後に一刀当てられただけじゃ。あいでは到底勝ち名乗りなぞ挙げられん。性能頼りの無様な戦じゃ」

 

食堂に繋がる寮の廊下を歩きながら、豊久は絶賛傍らの箒に不満をぶちまけている。結果としては豊久の逆転勝ち、という判定だったのだが本人にとって納得できるものではなかったようだ。

 

序盤はセシリアが徹底的に距離を取り、豊久の接近を許さずBT兵器で苛烈に攻め立てたが、被弾覚悟の特攻の末、『シールドエネルギーを全て削り取る』という意志の元発動された狂奔征葬のたった数撃で勝負が決した。

かつて豊久の姉は自身のエネルギーを犠牲にあらゆる物を切り裂く諸刃の剣を以て最強の座を手中におさめたが、狂奔征葬にはそのデメリットも何もない。ただ豊久の想いに応え、絶大な力を発揮するのだ。

反則級の単一仕様能力のおかげで勝ちを拾った、機体性能に救われた等と周りが評するのは至極当然の流れと言える。その評価の中に本人の自嘲も含まれているのは何とも言えないところだが。

 

しかし豊久と同じく刀を得物とする箒からすれば、削り切られる前に飛び道具使いの玄人の懐に飛び込んだ豊久の技量こそ褒められて然るべきである。慰めではなく、大真面目に豊久の功名を讃えたかった。

 

「使えるものは全て使い、死力も万策も尽くして勝利を掴み取る…それが家久さんの教えではなかったのか?お前は自分に与えられた条件の中で、それを最大限引き出して敵の首級を奪ったのだ。胸を張れ、豊久。そんな様ではオルコットにも失礼だぞ」

 

「箒……」

 

思わずといったように立ち止まった豊久が、目を丸くして箒の顔を見つめた。あまりに真っ直ぐなその視線に、少女漫画の主人公ばりにピュアっピュアな箒は顔を赤らめてしまう。

 

「な、なんだ、そんなジロジロと……言いたいことがあるなら言うがよかろう!」

 

「人ば気遣えるようになったんか……」

 

「悪即斬ァ!!!!」

 

感慨深そうに抜かした幼馴染の脳天に手刀を叩き込んだ箒を誰が責められよう。さっきのドキドキを返せ、割とマジで。

 

「全く、この大馬鹿者め…!」

 

「何故打たれなきゃなんねぇ……納得いかん……」

 

なおも言い募る豊久を捨て置き、ずんずんと食堂へ進む箒。プンブンと擬音が聞こえてきそうな拗ね具合だ。

「あー…箒!」

 

「なんだ」

 

「そげに怒うなよ…まぁ、なんじゃ。お前の言は一理あっど。勝ちは勝ちじゃ。もう言わん」

 

頬をかきながら言った豊久の方を振り返り、今度は箒が目を丸くする番だった。

あの功名餓鬼が、頑固一徹の大馬鹿が戦についての言葉を撤回する…?

 

「変な物でも食べたか…?」

 

「お前も大概じゃねぇか!!!!」

 

いがみ合い怒鳴り合いしているのも、傍から見れば仲のいい子供がじゃれ合っているようにしか見えない。ぎゃあぎゃあとやりあっているうち、いつの間にかもう食堂は目の前である。

2人して肩をいからせて足を踏み入れると、そこは──

 

 

パン!パン!パァン!

 

 

 

「ぬ?」

 

「「「「「島津くん、クラス代表就任おめでとー!!!」」」」」

 

盛大なクラッカーと弾んだ祝いの言葉。ぽかんとしている豊久をよそに、クラスメイトの1人…鷹月静音が箒に声をかけた。

 

「篠ノ之さん、任務ご苦労様!準備までの島津くんの引き付け、ほんと助かったよ」

 

「なんの、私の方こそ用意を押し付ける形になってしまった。それに…その、2人きりになれたし…むしろ役得というか……」

 

目の前のテーブルには所狭しと並べられた料理に、ジュースやらお菓子やら完全にパーティの様相を呈している。ご丁寧に『祝!クラス代表決定!!』と大書してある垂れ幕までかけて、食堂占拠状態である。

 

「なんぞ、これ」

 

「ぃよぉくぞ聞いてくれましたぁ!!」

 

呆気に取られる豊久の疑問に応えたのは髪を2つに纏めの元気が良い女子だ。相川と言ったろうか。

 

「入学早々あんなことが起きちゃったけど、まぁ、なんというかクラス皆の親睦も兼ねて島津くんの代表就任パーティをやろうってなってね!食堂貸し切っちゃった♪」

 

食堂を丸々貸し切るなど、申請や料理の準備など相当大変だったろう。自分が全く預かり知らぬ所でこのような大掛かりな催しが練られているとは豊久は思いもしなかった。しかも箒まで1枚噛んでいたらしい。申し訳なさそうな、それでいて悪戯が成功した子どものような顔でこちらを見ている。

 

「料理は俺が作った!一口でも残しゃがったらぶっ飛ばすぞコノヤロウ!!」

 

フンスと腕組みするのはなんとエプロンに三角巾と言った出で立ちの直である。エビチリや回鍋肉、野菜炒めに肉じゃがにサラダにおにぎりにと、パーティにしてはやたら大衆的な料理をほとんど1人でこさえたという。

 

「料理できうのか!?直が!?」

 

「なに驚いてやがるバカヤロウ!地元のダチの実家が定食屋やっててな。そこでバイトしてたんだよ」

 

「菅野くんすごいんだよ!手際よくぱぱっと作っちゃって、手伝いのの私たちなんてほとんどやることなかったもん!」

 

悪友の思わぬ特技に豊久が驚愕する。どう見ても、直は料理を作る側というより出された料理を料金に見合わないとかなんとか言って踏み倒す側だ。テーブルの上の料理は見た目は間違いなく美味そうだが、一抹の不安が残る。

 

「すげぇ失礼なこと考えてねぇかコノヤロウ」

 

「気の所為じゃろ」

 

動物的な勘を見せる直をスルーしつつ、豊久は用意された席に着いた。本日の主役襷も渡され、しぶしぶとそれを肩に掛けたところで相川が皆の方を振り返った。どうやら発起人は彼女らしい。

 

「じゃあ主役も来たことだし、乾杯しよーーっ!ではでは島津くん、音頭をどうぞっ!!」

 

「む……そうだの、わざわざあいがとぅごわぁた。朝も言うたがクラス対抗戦も、そん次も、そん次の次も、卒業すっまで俺は負けん!必ず首級ば奪っち来るど!乾杯!」

 

「「「「「かんぱーーーい!!!」」」」」

 

随分と物騒な音頭だが、テンションの上がったJK達には些事である。1週間寮に缶詰だったこともあり、それまでの鬱憤を晴らすかのように笑い声をあげている。

 

「えっ、このエビチリ凄い美味しい!食堂のと遜色ない!」

 

「私的にはこの回鍋肉がポイント高いなぁ」

 

ふぉにひりふぉいひい(おにぎりおいしい)

 

「リスかあんたは!」

 

どちらかと言うと男ウケしそうな料理に豪快に食らいつくところを見ていると、豊久も腹の虫が鳴ってくる。元来大飯食らいなのもあって、次から次へと料理を掻きこんでいった。

 

「ハフハフ、むぐ、んむ、ムグ………プハァ」

 

「おー、トヨトヨいい食べっぷり〜。男の子だねぇ」

 

そう言ってのほほんと笑う本音の皿にはマカロンやらクッキーやらチョコレートやら、お菓子ばかりが載せられている。直で儲けたお菓子があると言うのに、こっちはこっちでブレない少女である。

 

「直!」

 

「あンだよ」

 

「美味かっ!!」

 

「……おう」

 

屈託の無い豊久の笑顔と、照れて視線を逸らす直。その姿何人かの心の琴線に触れたらしく、「はぅ…」と悶える声があちこちであがる。中には鼻血を流しながら無言でスマホカメラを連写している連中もちらほら。肖像権?客寄せパンダにそんなものはない。

 

豊久が女子に囲まれており、それを遠巻きに眺めるしかない箒は歯噛みしっ放しだ。四六時中豊久の傍にいなくては気が済まないとかそういう訳では無いが、やはり見目麗しい異性にちやほやされているのを見ると思うところがある。本人に自覚がなく、幸せそうに料理をがっついているのは不幸中の幸いか…。

 

「ふふ、篠ノ乃さんは本当に島津くんが好きなんだね」

 

「なぁっ!?い、いや、豊久は幼少の砌よりの知己で、実家の剣道場の同門というそれだけで…」

 

「あぁもうっ、かわいいなぁっ!こんな健気な子、応援するしかないじゃない!」

 

「だ、だから私はそのような…!」

 

それをちゃっかり横目で見ていた豊久は、意外にクラスに馴染んでいる箒の姿にほんの少しだけ安心した。元々堅っ苦しい性格な上、入学から代表候補生に挑む蛮勇と笑われた豊久の肩を持ち続けていたのだ。自分のせいで多少の蟠りができたかもしれぬと密かに気にしていたが、あの様子からして大丈夫そうだ。そう断定して豊久は目の前の料理を胃袋に放り込む作業に戻った。

 

一方直は料理の作り方やバイトの事などで質問攻めにされている。普段なら鬱陶しそうに振り払うところを気前よく答えてやっているあたり、素直に豊久に褒められたのが余程嬉しかったらしい。

それを敏感に感じ取ったBでLな趣味をお持ちの方々が息を荒らげているが、幸か不幸か豊久も直も気付かない。「豊直ありがてぇ」「は?直豊が覇権だが??」「あ?」「お?」「おっしゃ屋上」など身の毛もよだつやり取りがなされている。もし気が付いたら無言で殴っていただろう。グーで。

 

「……」

 

そんな中、人の輪から少し外れた場所でグラス片手に物憂げな顔をしている金髪淑女がいた。決闘で直、そして追い詰めはしたものの豊久に連敗したという事実に、やはり思うところがあるのだろう。

 

ほぅ、と溜息を吐く姿はまるで深窓の令嬢のよう──実際令嬢なのだが──で、あまりに絵になり過ぎて周りもそこに入っていきにくい。と、そこにずんずんと押しかけていく陰がある。気配を感じ、セシリアがそちらに向き直ると…

 

「テメェ俺の作った飯が食えねぇってのかコノヤロウ」

 

「な、直さむぐぅっ!?」

 

先程まで女子に囲まれていた筈の直が、おにぎりを口に突っ込んできた。女子への対応にしては乱暴に過ぎるが、セシリアはモゴモゴと口を動かしてそれを咀嚼していく。

 

「おいしい…」

 

「あたりめぇだバカヤロウ」

 

満足そうに笑った横顔を見て、セシリアの頬が僅かに紅潮する。自身もおにぎりにかぶりつきながら、2人だけに聞こえる声で直が語り出した。

 

「素人ふたりに連敗して、御国に合わせる顔がねぇってか?」

 

「っ…えぇ、口は悪くなってしまいますが、正直に言うとその通りですわ。私はオルコット家を守るために代表候補生となったというのに…このままでは…」

 

「はぁ?バカかテメェ。いやバカだったな」

 

「な、私は真面目に悩んで…!」

 

「なんの為の学園だバカヤロウ。手前よりも強い奴と戦って、負けて、強くなってそいつを負かしてを繰り返す為だろうが。初めから最強だの無敵だの、そんな奴はここに来る意味ねぇだろ。あの功名馬鹿はキチガイなだけだ、あてられてんじゃねぇ」

 

それは不器用で、乱雑で、だがしかし確かな温かみを感じる直なりの励ましだった。直にすれば大したことでは無いかもしれないが、オルコット家の名跡を継いだ瞬間から、たった1人で全てを背負い込んできたセシリアにとってそれは暗中の光の如くに思われた。

 

「……直さんには、教えられっぱなしですわね。あなたと出会っただけで、この学園に来た意味があったのだと思います…心の底から」

 

「なんだ、入学から人が変わりやがって。気色悪ぃぞコノヤロウ」

 

「フフ、それだけ直さんに染められてしまったということですわ」

 

「本当に気色悪ぃんだよバカヤロウ!!テメェんとこのクソ国家許した訳じゃねぇからな金髪コノヤロウ!!」

 

 

 

 

「むむむ……ナオシーとセッシーからラブコメの波動を感じる…」

 

「えぇ…あれラブコメ…?菅野くん本気で嫌がってない…?そんでもってオルコットさんはオルコットさんでなんかハァハァ言ってない…?」

 

 

 

 

思い思いの時を過ごしていると、ドタドタと食堂に足音が近付いてくる。直が何事かと目線を向けると、そこにいたのは眼鏡をかけた見知らぬ生徒。リボンの色から見て2年生だろうか。

 

「どうも〜!新聞部部長の黛薫子でーす!話題の男性操縦者お2人にインタビューをしに来ました〜!」

 

その声に直も、幸せそうに飯を頬張っていた豊久もゲンナリした顔を覗かせた。休校中の一週間、ゴシップを狙いに来るこの手の連中に散々悩まされてきたのだ。態度にも出るというものだろう。

 

「あぁん、そんな嫌そうな顔しないでよぉ。皆2人のことを知りたいのよ。まず初めに、クラス代表に就任した島津豊久君から!」

 

露骨に嫌な顔をする2人を押し切るあたり、この部長も中々強引である。IS学園の生徒は推しが強くないとやってられないということか。

 

「まず最初に、今度のクラス対抗戦についての意気込みを一言!記事になりそうな派手なヤツを頼むよ〜、『オレに触れると火傷するぜ…』とか!」

 

「首ば奪る」

 

「へっ?」

 

構うことなく食事を続けながら視線だけを向けた豊久の返答は、これ以上なく単純明快。気負いや情熱など、そういった類の感情を一切感じさせない淡々とした声音である。

 

「2組も3組も4組も、全員ぶっ倒して首ば奪る。そいだけぞ」

 

「なぁるほど……これは噂以上の戦闘狂…いや、戦闘よりその結果得られる手柄を重視してるのかな?なんにせよ、島津君は学園最強を目指すってことでOK?」

 

いつの間にか話が大きくなっている気がするが、わざわざ否定する程でもない。それに実際問題豊久は学園全ての強者を下して首級を挙げたいと思っている。黛の言は核心をついていると言えなくもなかった。

 

「おう」

 

「うんうん、こりゃあ面白い記事が書けそう…♪じゃあ近いうち島津君の前にたっちゃんが立ち塞がるのかぁ」

 

「たっちゃん?」

 

「あぁ、ウチの生徒会長よ。私のマブダチって奴?ほら、聞いたことない?IS学園の生徒会長とは文字通り生徒達の長。つまり生徒の中で最強の力を持つ者がその座に着くってわけ。一般生徒はいつでも会長に勝負を挑めて、勝てばその瞬間から座を奪えるのよ」

 

それを聞いた瞬間、豊久の表情が一変した。例の狂気的な笑顔である。直はまたか、と慣れた様子だがクラスメイトの中には未だその豹変に慣れない者もいる。テロリストをいとも容易く捩じ伏せた姿がフラッシュバックしたか、身震いする者も出る始末だ。

 

「そんたっちゃんに、いつでん挑めるのか」

 

「え、えぇ…一応、そうなってるけど……まさか行く!?行っちゃうの島津君!?宣戦布告しちゃう!?」

 

特大スクープの匂いを嗅ぎつけた黛もまた目を輝かせた。世界で2人だけの男性操縦者のうち1人が、国家代表候補生を打ち破ったその勢いのまま『最強』へ勝負を挑む…これ以上ない格好のネタである。

 

「今は対抗戦が先じゃっどん、いずれ必ず挑む!なんとしてもそん首()()取らねばのう!」

 

「うおおおおお!!島津君さいっっこーだね!!」

 

ヨダレを垂らしながらうへへへへへ、と気味の悪い笑い声をあげる新聞部部長。こんなんばっかか、大丈夫かIS学園。

 

「とと、そうそう質問はまだあるのよ。ここからは菅野君にも聞いていくわね。学園の生徒達が一番気になってる事だと思うんだけど、ズバリ!!2人はお付き合いしてる子はいる!?!?」

 

ぐりん、と凄まじい勢いでそちらに顔を向けたのは箒だ。そこそこ離れた場所にいたというのに、誰よりも敏感に反応して瞳孔をガン開きにしている。直の横のセシリアも、平静を装っているがちらちらと視線を向けたりモジモジ体を動かしたりと落ち着かない。

そんな中、心底呆れたように直が口を開いた。

 

「そんなのがいたらとっくのとうに女子避けに使ってますぜ」

 

「女の園はゴシップに飢えててねー。秘密の関係とか今まで隠してたけど実はとか、そういう展開を期待してたりするもんなのよ」

 

その質問を聞きながら視線を宙に飛ばした豊久の頭には、1人の少女の姿が思い起こされていた。

 

あのちんまい身体のどこからそんな力が湧いてくるのか不思議に思うほどパワフルで、それでいて周囲のことを誰よりも見ているヤツだった。()()()、無自覚ながらも憔悴していた豊久の臀を蹴りあげ、怒鳴り、励まし傍に居続けた異邦の少女は今何をしているだろうか。今もどこかで、あの鈴を鳴らしたような笑い声を響かせているのだろうか。

 

「ん?どったの島津君考え込んじゃって…まさか!?」

 

「いや別に、色事の付き合いばなかったが」

 

「え!?ちょ、なにその思わせぶりなコメント!?聞かせて、ねぇお願い聞かせて!!!」

 

「豊久ァッ!!!!貴様、私のいない所で色恋に現を抜かしていたのか!!!」

 

何故(ないごて)そうなる!色事じゃねぇって言ったろ!」

 

加速度的に騒々しさが増していき、場は熱狂の渦である。箒が飛びかかるようにして豊久の元へすっ飛んでいったり、セシリアが密かに胸を撫で下ろしたり、本音が延々とお菓子を食べ続けていたり…。

結局、代表決定パーティは鬼女に鎮圧されるまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー、やっと着いた!!ったく、甲龍のメンテでこんなに時間取られるなんて……おかげで1ヶ月!1ヶ月よ!」

 

飛行機のタラップから降りた場所で、一人の少女が文句を垂れている。周りに人影は見えず、大分大きな独り言だがそうでとしないと我慢ならないのだろう、その額には青筋が浮いている。

 

「折角世紀の一夜漬けで入試に合格したのに…!私の努力を!返せぇぇ!!!」

 

一際大きな声をあげ、はぁはぁと息を荒らげる彼女の手荷物はボストンバッグ一つだけ。年頃の少女にしては随分と身軽だ。と、それまで俯いていた彼女が全身のバネでもって体を跳ね上げた。その顔には先程までの怒りなど微塵も浮かんでいない。

 

「よし、気ぃ済んだ!」

 

茶色のツインテールを揺らし、しっかりとした足取りで歩き出す少女の瞳は燃えている。

 

「私の愛、いい加減受け取らせてやるんだから!首洗って待ってなさい、豊!!」

 

燃え盛る愛を引っ提げ、極東の地へ降り立った龍。その咆哮が、宵闇を劈いた───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんお客様、他のお客様のご迷惑になりますので…」

 

「あっすいません…」

 

 

 

 

 




ちょっと難産でした。主人公2人動かすのやっぱり難しいですね…ここから暫く、紫電が復活するまで豊久のターンが続いてしまいますが、よろしくお願いします。

感想、評価、ダメだしetc.....お待ちしております。






次回


アタック・フロム・チャイナ

島津豊久の作り方

島津豊久の続け方



『愛・哀・I』


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【お知らせとお詫び】

今回はお知らせとお詫びということで、この場を借りて本作品を読んでくださっている皆様にお伝えしたいことがあります。

 

単刀直入に言いますと、この度本作品を大幅リメイクし、一からやり直すことを考えております。具体的には

 

・文体の統一

・呼称、人名表記の統一

・主人公を島津豊久で一本化、菅野直は降板もしくはゲスト扱いに

 

上2つは読んで字のごとくなのですが、1番問題なのは最後の部分です。これについて具体的に説明すると、菅野直に対して筆者の理解度が圧倒的に不足している、主人公として扱えるほど解像度が高くないという問題に直面しました。言い訳がましくなってしまいますが、ドリフターズ本編での直の登場シーンは1巻ラストの唯一の戦闘描写、3巻と4巻に僅か、5巻で提督との初絡みというとても少ないものです。豊久や信長に比べると、未だ人物の本質が充分に描写されているとは言えません。豊久の行動原理が首級であり、その実異世界での己の使命はもう一度捨て奸を行うことだという()に対して、直はあまりにも把握出来ていない部分が多いのです。本作品では「空を飛ぶこと、姉と自分の夢を再び叶えること、それを仇に思い知らせること」を直という男の軸に設定しましたが、正直個人で完結し過ぎていて他キャラと絡ませ辛いということに今更気が付きました。ぶっちゃけると

 

死ぬほど恋愛モノ向いてねぇな!?!?!?!?

 

ということです。書いてるうちに「こいつ恋愛すんの…?誰かを必要とするの…?」となってしまいました。豊久は原作からして、誰かを必要として恋に落ちるとかではなく、みんな豊久に惹かれて(あるいはその危うさを自分が補おうとして)人が集まってくる、自然と周りに人が付いてくる人間です。ヒロイン→豊久の構図か割と当てはめられるキャラだと思います。これに対し、筆者が何をほざいてるんだという感じですが、この豊久の隣に立ってハイスピードバトルラブコメする直がどうしても想像できなくなってしまいました。

 

そういった理由で菅野直の降板という形でリメイクをさせて頂く判断に至りました。直がいるから読んでいた、という方も多くいらっしゃると思います。その方々のご期待を裏切る形になり、大変申し訳ございません。

 

 

肝心のリメイク後の内容としましては、話の大筋は本作品のままでいきたいと思っています。ストーリーの構想はラスボスまでしっかり考えていたので、これをそのまま充てたいです。

正直、前半はこの作品の地の文や台詞をそのままに主人公を豊久のみにして再構築する、呼称等を整理するという単純なリメイク作業になります。セシリア戦前あたりまでは本当に手入れ程度になると思います。豊久の専用機の設定も、多少の変更はあるかもしれませんが大枠は現状維持するつもりです。

 

また、リメイクとは言いましたが、新しい作品名を冠して再スタートという形を取るので本作品は【未完】状態のまま削除せずに残します。別の題名で新たに投稿を行い、その際はこちらでも何らかの形でアナウンスをしたいと思います。

 

うだうだと書いてしまいましたが、要約すると

 

・主人公は豊久1人に!

・セシリア戦の前くらいまでは地の文とか使い回し!

・題名は新しく考えて、別作品枠として投稿!

 

ということになります。

大変な連載期間の空き、再開したと思ったらすぐの路線変更と不祥事だらけですが、恥ずかしながらももう一度挑戦させて頂きたいと思います。怒りの声、文句など感想欄にぶち込んで頂ければ対応というか謝罪させて頂きますので、どうぞ遠慮なくぶん殴って下さればと思います。リメイク作業後もおもしろい、むしろこっちのが良いと思って頂けるような作品を目指しますので、厚かましいですが何卒よろしくお願いします。

 

最後に、お詫びと言ってはなんですが首を置いてお知らせを終わります。

 

 

つ首

 

 



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【お知らせと書き散らし】

この度、本作品のリメイク『ドリフティング・マイ・ウェイ』を投稿させて頂きました。つきましては、このお知らせを持って本作品は【未完】状態とさせて頂きます。直の活躍を楽しみにしてくださっていた皆様、ご期待に添えず大変申し訳ありませんでした。リメイク後の方がおもしろいと思って頂けるような作品を目指すので、よろしけれそちらも覗いて頂けると幸いです。

 

 

 

さて、残念ながらお流れになってしまった直のIS参戦ですが、専用機の霹靂・紫電の設定と今後は自分なりに結構深い所まで考えていました。勿体無い気がするので、簡単に纏めておこうと思います。

 

 

 

 

霹靂・紫電改

セシリア戦での直の操縦に耐えられず紫電は損傷、十月機関にて更なる改修が行われた。関節などを筆頭に強度を増やし、ブースター周りも手が加えられたがその結果重量や拡張領域を圧迫することとなり、直が望んだ機動力と手数に難を抱えることとなった。晴明はこれを解決するため大掛かりな改修に着手し、その結果組み込まれたのが両手足に増設されたエネルギーカートリッジシステム、通称『弾倉』である。前もってエネルギーを溜め込んだ弾丸型のカートリッジを排莢することで爆発的な力を得、攻撃や移動に使うことができる。両手に3発ずつ、両足に4発ずつの計14発が配備されている。直は各部の3発ないし4発を全て同時に排莢する全装填(フルリロード)を編み出し、瞬間家族以上の加速力で敵を圧倒する。

 

 

 

本作品ではこの後、豊久VS鈴を乱入者なしでやった後、直にはラウラ転入のタイミングで改修された紫電改が手渡される予定でした。このじゃじゃ馬をのほほんさんと一緒に整備したりデータ取りしたりしてラブコメしてく予定だったんですが…残念です。因みにヒロインは

 

豊久

箒、鈴、シャルロット、簪

 

セシリア、本音、ラウラ、楯無

 

のつもりでした。リメイク後は豊久1本化だけど…。

 

 

何はともあれ、悔いは残りますがこの悔しさをリメイク作品に全てぶつけるつもりです。パワーアップして帰ってくる筈(多分、おそらく、メイビー)なので、是非そちらの方をよろしくお願いします。

アイルビーバックだゲンジバンザイ

 

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