テイルズオブザワールド レディアントマイソロジー3 ─そして、僕の伝説─ (夕影)
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原作本編
プロローグ


どうも初めまして+
以前『にじファン』にてこの小説を投稿していた夕影と申します+
本日から此方にも投稿させて頂きますので、皆様生暖かい目で宜しくお願いします+




 

 

 

 

「「「――ありがとうございましたーっ!!」」」

 

 

――木製の道場に、多くのそんな声が響き渡る。

此処は至って普通な高校の普通の剣道部の普通な道場であり、ちょうど今練習が終わった所であった。

 

 

「おう、乾!お前、中々今日は練習にせいが出てたじゃねぇか!!」

 

「そ、そうですか!?ありがとうございます!」

 

剣道部の部長の急な言葉に思わず礼をする。

僕の名前は乾 衛司<イヌイ エイジ>。高校二年で剣道部に所属しているんだけど…実力はそんなに高くはない。

言うなれば一般二年剣道生が剣道二段で僕が剣道一級。言ってて切なくなるレベルだ。

 

「んで、どうしたんだ?何か良いことあったのか?」

 

「いえ…あったというか今日はその…『発売』ですし」

 

「…あぁ、成る程」

 

僕の一言に、部長が納得したように頷く。そう、今日は僕が待ちに待ち望んだ『テイルズシリーズ』の最新作、『レディアントマイソロジー3』の発売日なのだ。『レディアントマイソロジー』はシリーズでは1、2の両方をしたので、今日を待ち遠しく待っていた。

 

「相変わらずお前のその…『目標があれば一直線』な性格を剣道に向けられんのか?」

 

「はは……すいません…」

 

「ったく……お前今日はもう道場の掃除いいから帰っていいぞー」

 

「……え?」

 

部長の不意のその一言に思わず留まる。それって……

 

 

「さっさと買いに行ってこい。部員想いな俺を有り難く思え」

 

「あ、ありがとうございますっ!!」

 

部長のその一言に礼をすると、更衣室に入り直ぐ様着替え、道場を出てゲーム屋へと向かった。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

―――お買い上げありがとうございましたー

 

店員さんの毎度よく聞く言葉をバックに店から出る。僕の手には勿論袋に入ったゲーム『レディアントマイソロジー3』

 

 

「あはは、楽しみだなー」

 

財布は不満足だが心は大満足な気持ちで早く家に帰って楽しもうと思い、自転車に乗ろうとする。

 

――そして気付いた。

 

 

 

「…ん?…あれは……」

 

視線の先に、横断歩道に落ちたボールと、それを拾いに行こうとする小さな子の姿が見えた。

信号の色は…ちょうど赤に点滅しかけだ。

 

 

「おーい、危ないぞー!」

 

 

 

 

 

 

流石にほおっても置けないので、とりあえず自転車を下りて子供の方に駆け寄る。大丈夫だ、このぐらいなら間に合うか。

 

――そんな時だ。

やけにスピードを跳ばした車が向こうに見えた。

 

 

「―ッ…もしかしてスピード違反っ!?くっ…、早く走って!」

 

走りながら子供に声を上げる。子供は今気付いたのか迫ってくる車に目を合わせ、停止する。

 

「くそッ……間に合えぇぇぇっ!!」

足に力を込めて、全力で走る。

間に合わないか…ならッ!!

 

「――ッ……ごめんっ!!」

 

車が子供にぶつかるギリギリ手前で、子供を突き飛ばし道路から押し出す。

力加減出来なくて謝りたいけど…なんとか間に合ったか…。

 

 

 

――ドゴンッ!!

 

 

そう思ったのも束の間、体に強い衝撃と、視点がグルグルと代わるのを感じた後、地面に叩き落とされた。

 

痛いとか、そんなんじゃない。

もっと鋭い痛覚が体を襲っていた。

 

周りから悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえる。

子供は……無事みたいだ。泣いてるけど…。

 

体を動かそうとするけど、言うことを聞かず動かない。

そして徐々に視界が暗くなってきた。

――ぁ、僕死ぬんだー。なんか…意外に馬鹿みたいに冷静だなー、僕。

死ぬんならせめて……『マイソロ』したかったなー……。

 

 

 

――そんな考えの後、僕は……意識を落とした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「――あれ…?」

 

とある世界の、とある船の甲板にて、一人の少女が何かに気付いた。

 

「……変にカモメが多いけど…ねぇー、そこに何か居るのー?」

 

そう遠くない海の上の一点にカモメが集まっているのを見ると、少女はそこが見える所まで歩み寄り、そこを確認する。

 

 

「……あれは……人…?」

少女が確認したのは…海面を浮かぶ、人の姿。思考が少し停止してしまうが、再起してからの少女の行動は早かった。

 

 

 

「…っ!?み、みんなーっ!だ、誰か人がーっ!?」

 

 

少女はそう叫びながら甲板から船内へと走っていった。

 

 

 

――巡り会う事のない筈の、出逢い。

 

――物語の幕は、開く――

 

 




良ければ感想等、宜しくお願いします+


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第一話

暫くは以前まで投稿していた分の話となります。


 

 

 

 

――あぁ…何だっけ?

 

――確か僕……車に引かれて……あれ?

 

 

――目が……開けられる……?

 

 

「――……え……?」

 

ゆっくりと目を開くと、見知らない天井だった。

何んだろう、何故かこの台詞が頭によぎった。

それにしても……此処は…?

 

「……何か…未来的…?」

 

 

「――ぁ、目が覚めましたか?」

 

ボーっとした意識の中、不意にそんな声が聞こえ、見てみると……

 

タオルを手に浮遊する青い謎の生命体がいた。

 

 

「……ゴフッ」

 

「え?えっ!?ちょ、大丈夫なんですか!?何か口から魂的な何かが出てますよ!?」

あ、危ない危ない。不測の事態に思わず魂的な何かが抜けてまた死にかけるとこだった。

少し落ち着いて、もう一度謎の生命体に目を向ける。小さな羽根に特徴的な体。よくよく見るとこの人(?)って……。

 

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

そうだ。『レディアントマイソロジー3』の新しいマスコット的存在の……確か、『ロックス』だ。

……軽く自分の頬を引っ張ってみる。

痛い。

 

 

「…………マジで?」

 

「え、あの……どうしたんですか?」

 

暫くボーっとし過ぎたせいか、ロックスさん(多分?)が此方を心配そうに見ていた。

い、いけないいけない。

 

「ぁ、えっと……多分もう大丈夫です。……ありがとうございます」

 

「いえいえ。大丈夫そうならよかったです。大変でしたよ、いきなりお嬢様が『海に人が落ちてるーっ!』なんて言っていたら、本当だったんですから」

 

「そ、そうだったんですか…」

そうかー。僕、海に落ちてたんだー。……ん……『海』?

 

 

「……あのー、すいません……今、なんて……?」

 

「え…いや、だから…あなた、海に落ちてたんですよ」

 

……はい?

…海に落ちてたって…どういう事…?

確か僕……車に引かれて…なんで海に……?

って…待って…それじゃ此処って!?

 

 

「あのっ、すいません!その…此処はっ!?」

 

 

「あ、此処はギルド『アドリビトム』が拠点を置いている船、『バンエルティア号』と言います」

 

……マジですか。

嘘、だとか思いたいけど…目の前にロックスさんが存在している以上、多分本当なのだろう。

少し周りを見回して居ると、不意にロックスさんは何か思い出したように口を開いた。

 

 

 

 

「あ、申し遅れました。私はロックスプリングス、ロックスとお呼び下さい」

 

「あぁ…僕は乾 衛司《イヌイ エイジ》。乾が姓で、衛司が名前です」

 

ロックスさんの言葉に合わせて自己紹介する。そう言えばまだだったな、うん。

 

 

「では衛司様、ですね。私は今から、あなたの目が覚めた事をこのギルドを管理している方を呼びに行って参りますね。あ、後…衛司様が着ていた服ですが…流石に濡れていたので勝手ながら私が用意した服を着させていただいてます」

 

「あ、いやそんな…すみません。ありがとうございます、ロックスさん」

 

「いえいえ。では、行って参りますね」

 

 

そう言ってロックスさんは部屋を出ていった。

ギルドを管理している人、か。今までのからチャットとかきち……じゃなくてジェイドさんかな。

 

 

 

 

 

 

とりあえずベッドから起き上がり、先程ロックスさんが言っていた今自分が着させてもらっている服を確認してみる。

「……何という服のチョイス…」

 

 

自分の着ている服を見ての第一声。まぁ、当たり前だよね。

気を失う前は学ランだったのに、今じゃこれは確か……『兵士のコート』装備だよ?

ロックスさん、何故予備服に『兵士のコート』?

まぁ、露出が多くある服よりは大分いいですけども……。

そんな事を考えながら自分の服を暫く見ていると、扉が開く音と共にロックスさんと二人、女の子が入ってきた。初対面であるが、今まで伊達に『テイルズシリーズ』のゲームは手をつけているのでパッと見ただけで分かった。

 

「目が覚めたようね。体調は大丈夫かしら?」

片方の水色の髪をした女の子が問い掛けてきたのでそう答える。

確か彼女は………

 

「私はアンジュ。アンジュ・セレーナよ。一応、このギルドを管理者でもあるわ。よろしく」

 

そうだ。確か『イノセンス』のアンジュだ。

あれ、でもアンジュが管理者って……あれなのかな。 チャットは空気なのかな。いや、まぁいるんだろうけど。

 

「?どうかしたかしら」

 

「あ、いえ。何でもないです。僕は乾 衛司。姓が乾で名前が衛司です」

 

考えこんでたらアンジュに少し不思議そうに聞かれたので慌てて自己紹介をする。

 

 

「そう。じゃあ衛司ね。…驚いたわよ。いきなり海に人が浮いていたんだから……。お礼ならたまたま見つけてくれた彼女にも言っておくことね」

 

アンジュはそう言うとアンジュの後ろに居るもう一人の桃色の髪の女の子を指差した。

…と、言うと…もしかして彼女が……。

 

 

「あ、はじめまして。私はカノンノ。カノンノ・グラスバレーだよ。よろしく」

 

そう、確か『今作』のカノンノだ。

 

「あ、うん。僕は乾 衛司。えっと…拾ってくれてありがとう」

 

「あはは、別にいいよ。でも、いきなり海に人が浮いてたんだからびっくりしたよ」

 

僕の言葉にカノンノは少し苦笑して答えた。

まぁ、当たり前だよね。いきなり海に人が浮いてるんだし。

 

 

 

「とりあえず、落ち着いたようだし…此処は船でもあるから、行きたい街があれば良かったらそこまで送るのだけど…」

 

「え……」

 

アンジュの唐突な言葉に少し戸惑ってしまう。

確かに船だから当たり前なお言葉ですけど……正直全然街について分からないし、それにいざ街に行っても元の世界に帰れる訳でもないし……でも、今それを言っても信じてもらえる事は……無いよね。

 

「……?どうかしたかしら…?」

 

「ぁ、いえ…その……気持ちは嬉しいんですけど……僕、自分の名前以外の事は上手く分からなくて…」

 

不思議そうに此方を見るアンジュにとりあえずそう答える。

一応、間違ってはない。

 

「……それってもしかして」

 

「……そうかもしれませんね、お嬢様」

 

すると、三人が何か深刻そうな表情をし、アンジュの後ろからカノンノとロックスさんの声が聞こえた。

……?どういう事だろ…。

そのままアンジュは此方を見ると、口を開いた。

 

「――あなた、もしかして記憶喪失なのかしら…?」

 

 

 

……あるぇー…?

 

 

 

 

 

アンジュの言葉と同時に後ろのカノンノとロックスさんが深刻そうな表情のまま此方を見ている。

 

記憶喪失、か…何か歴代ディセンダーと同じ扱い受けてるような……。

……でも、今はそう言うしかないのかな。

 

 

「…はい、多分……そうみたいです」

「そう。なら仕方ないわね。記憶の無い状態でどこかの街に出したら、それこそ危険ですもの」

 

僕が頷いて答えると、アンジュは溜め息を一つ漏らしてそう言う。

そして、少し考える仕草を見せると何か思い付いたように、アンジュは僕を見た。

 

 

「……そうね。なら、記憶が戻るまでこのギルドで働かない?働いてさえくれれば、ちゃんと衣食住ついた待遇をするわよ」

 

「…え……」

 

アンジュのその言葉に僕は当然だが、彼女の後ろのカノンノとロックスさんも驚いた表情をする。

 

 

「そ、そんな……でも…」

 

「そ、そうだよ!アンジュの言うとおり、一緒に働いてみない!?ギルドは基本、何でも屋だから、もしかしたら依頼場所で何か思い出すかもしれないし!」

 

「そうですね。お嬢様の言うとおりです。それに、その方が何も知らず街に出るよりは安全だと思いますよ」

 

畳み掛けるようにカノンノとロックスさんがそう言葉を出してくる。

 

ここまで言われると逆に断れないよなー…。

 

 

「……もしかしたら僕、スッゴく弱くて使えないかもしれないよ…?」

 

「あら、それを決めるのはアナタじゃなくて、私達よ。ここは実力とかじゃなくて、結果で物を言うんですもの」

 

再確認のような僕の言葉にクスクスと笑って答えるアンジュ。

適わないなぁ…わかってたけど。

 

 

 

 

「……お言葉にあまえて記憶が戻るまでの間、よろしくお願いします」

 

「えぇ、此方こそ、ね」

 

 

深々と礼する僕にクスクスと笑って答えるアンジュ。その後ろでどこか嬉しそうに笑うカノンノとロックスさん。

 

 

こうして、訳も分からずこの世界にきた僕の……『レディアントマイソロジー』が始まった。

 

 

 

 

 




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第二話

ディセンダー登場回です+


 

 

――ルバーブ連山

 

 

『クキャアァァァァッ!!』

 

 

「くぅっ…!せいっ!!」

 

 

衛司は斧のような嘴を振り落としてきた鳥型の魔物『アックスビーク』の攻撃を何とか手にした木刀で受け払い、隙ができたアックスピークの腹へと突きを放つ。

 

 

『クゲッ!?クキャキャァァァッ!!』

 

 

 

衛司の攻撃は見事にアックスビークの腹に入り、アックスビークは一旦怯み、奇声を上げると攻撃体制に入ろうと上空に飛び上がる。

 

 

 

そして攻撃に移ろうとした瞬間――

 

 

「そこだ、ライトニング!!」

 

 

声と共に上空に上がったままのアックスビークに雷が落ち、アックスビークは高い奇声の後、消えていった。

 

 

 

「――……ふぅー…ナイスアシスト、カノンノ」

 

 

「ん、ナイスサポートだよ、衛司」

 

 

カノンノに振り返ってそう言い合うと二人でハイタッチした。

 

 

 

 

――――――――

 

 

「――…よし、これで終わりかな。…それにしても」

 

 

山道を歩いていると隣を歩くカノンノから不意に声が掛かり、「ん?」と声を出しカノンノを見る。

 

 

「衛司も大分仕事に馴染んできたね」

 

 

「んー…まぁ、ね。当初が当初で酷かったから」

 

 

微笑んでそう言ってきたカノンノに小さく苦笑で答える。

そう、今でこそアックスビークに勝てたが、本当に当初は僕はダメダメであった。

 

 

「あはは……あれは…仕方ないよ。うん、記憶が無い状態だから、闘うのが初めてだったんでしょ?」

 

 

「うん。でも…だからと言って…オタオタに惨敗なんて……」

 

 

僕のその一言でカノンノも思わず苦笑いしてしまう。

そう、先程言ったように…僕は初めての依頼である『オタオタ十匹討伐』の際、オタオタ約四体に俗に言う『フルボッコ』され、痛い目にあった事がある。

流石にオタオタにフルボッコされた時は本当に死にたくなった。

 

幾ら現実で剣道を習っていたとは言え僕の実力は言うなれば『下の下』。それに幾ら抗おうと剣道はあくまで剣『道』であり、剣『術』とは違い、不殺の……此方で言うなれば所詮『叩き合い』。

 

いつもはゲームで簡単だと思っていた戦闘も、リアルでやれば恐ろしいくらい、オタオタの強さが分かった。

オタオタ苛め、ダメ、ゼッタイ。

そして、今僕が心から泣きたい理由は『コレ』だ。

 

 

「し、仕方ないよ!それに武器が……ほら……」

 

 

「……木刀だからね」

 

 

 

そう、『木刀』。『木刀』と書いて『ウッドブレード』とも呼べる代物。別に仕込み刀な訳でも、特殊な能力が着いている訳でもない、敢えて言うなら強度高めの木刀である。

 

ロックスさん曰わく、僕が海に浮かんでいる時、大事そうに握っていたそうだが、初めてみる木刀だし。どんな理由だろうと魔物相手に木刀は無いと思う。

 

 

 

「――…それでも、今戦えるのってやっぱり…」

 

 

「うん……。師匠達のおかげ、かな」

 

 

小さく首を傾げて言い掛けたカノンノに苦笑してそう答える。

師匠、とは…僕がアドリビトムに来た時点でギルドにいた、『ファンタジア』のクレス・アルベイン、『ディスティニー』のスタン・エルロン、『レジェンディア』のセネル・クーリッジ、『シンフォニア』のクラトス・アウリオンの事だ。

 

何故師匠か、というと…無論、オタオタにフルボッコされた僕を見るに耐えかねた結果である。おかげ様で、自分で言うのは何だけど…まだまだ実力は浅いがギルドで上手くやっていけるようにはなってきた。

セネルには驚いたなー…。『お前の攻撃は型になりすぎて、俺の知り合いより分かりやすい』って、避けられてフルボッコされたもん。

 

 

「……衛司、なんかかなり遠い目してるけど…大丈夫?」

 

 

「ゴメン、なんか色々思い出して泣きたくなってきた。…とにかくこの話は切り上げよう。お願いします」

 

 

「…なんかゴメン。それじゃ、早く船に戻ろっか」

 

 

二人で苦笑しあい、カノンノがそう言って再び歩き出そうとした所であった。

 

 

――…突如、僕達の上空を大きな光が飛んでいった。

 

 

「…!?今の……何だろ…?」

 

 

「まさか……とにかく行ってみよう!!」

 

 

 

不思議そうに光が飛んでいった方向を見ていたカノンノの手を取り、その方向へと走り出す。

何かカノンノが驚いてるみたいだけど、気にしない。

 

もしかしたら…あれが『今作』の……?

 

 

 

――――ルバーブ連山『ルバーブ峠』

 

 

 

光が飛んで行った場所に着くと、まるで僕達を待っていたかのように、光はその場所で止まり輝き続けていた。

 

 

 

「何だろう……あれ……?」

 

 

「とりあえず、近付いてみよう」

 

 

僕の言葉にカノンノは頷くと光が輝き続けている元へと歩みよる。

 

 

「……あれは…」

 

 

「人…、だ!?空から人が降りて…」

 

 

 

 

そう、『やはり』光の正体は人であった。つまりあれが…『今作のディセンダー』。

 

ゆっくりと降りてくる者を僕が抱き抱えるように受け止め支える。

 

流れるような長い金の髪、小さく整った顔立ち。服装はどこか和風な……ぶっちゃけると『朱雀の衣』装備。よくよく見れば……降りてきた『ディセンダー』はどうやら『少女』らしい。

 

 

 

「衛司……その子…」

 

 

「……大丈夫。ちょっと眠ってるみたい。とりあえず、目が覚めるまで待ってみよう」

 

 

心配そうに眠る少女を見るカノンノにそう言うと近くの平らな場所にゆっくりと少女を寝かせる。

……とりあえず…遂に原作スタートって訳か。

 

 

 

―――――――――

 

 

「―ぁ……衛司!目が覚めたみたいだよーっ!」

 

 

暫くして、カノンノのそんな声が聞こえ近付くと、先程の少女が目を覚まし不思議そうに此方を見ていた。

 

 

「もう大丈夫?驚いたよ、だって空から降りて来たんだもん。あれは、何かの魔術なの?」

 

 

 

「……魔、術…?」

 

 

「違うの?私、スゴイ魔術で空を飛んだのかなぁって思ったんだけど」

 

 

「はいはい、カノンノ。目が覚めたばっかりなんだし…あんまり質問攻めしないでおこう」

 

 

「ぁ、そうだね。…そうだ。私はカノンノ。カノンノ・グラスバレーだよ。それで、コッチは衛司、乾 衛司。あなたは?」

 

「…カノンノ……衛司……私……メリア」

 

 

少女、メリアはカノンノと僕を交互に見て僕達の名前を復唱した後、自分の名前を言った。

 

 

「メリア…か。中々良い名前じゃないか。…とりあえず、目が覚めたようなら早く山を降りよう。魔物出るからね」

 

「ん、そうだね」

 

 

「………?」

 

 

僕の言葉にカノンノは小さく頷き、メリアは小さく首を傾げていた。

 

 

―――――――――

 

 

 

山を降りていると案の定、橋の前を魔物『オタオタ』が一匹塞いでいた。うん……トラウマだ。

 

 

「あっちゃあ…、魔物だ」

 

 

「あの様子は……通してくれそうに無さそうだね」

 

その場から動かずに此方を見ているオタオタに僕とカノンノが苦笑いしながらそう言葉を出す。

そう言っていると、不意に服の袖を引っ張られる感覚に振り返ると、メリアが此方を見て、短剣のようなものを出した。

 

 

「……私…武器、持ってる」

 

 

「メリア…闘う、って言うの…?」

 

 

「…………(コクリ)」

 

 

メリアのその一言に僕が言うと、メリアは小さく頷く。短剣って言うと…職業は盗賊、かな?

 

 

「ホント!?じゃあ、私と衛司もサポートするから、ここは頑張ろう!」

 

 

 

「カノンノ…君って密かに戦闘狂だったりする?」

 

 

「え?何で…?」

 

 

 

「いや、いいや。じゃ、メリア。僕とカノンノも最低限サポートするから、頑張って行くよっ!」

 

 

「……ん…!(コクッ)」

 

 

 

僕の言葉とメリアの返答を合図に僕達は武器を手に取り、戦闘を開始した。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

――簡単に結果を言おう。メリアの一撃で一瞬で片が付いた。戦闘開始、確かに僕の隣を走っていたメリアが突然消え、一瞬でオタオタを切り裂いた。

 

これで判明した事は彼女の職業は『盗賊』や『海賊』ではなく『忍者』である事。

そして彼女がかなり強い事。

よくゲームでは主人公であるディセンダーは強い、と言われていてその具体性は分からなかったが今回でよく分かった。

 

 

 

正直、オタオタに苦戦している自分が泣きたくなるぐらい。

 

 

「メリア……スッゴく強いね!」

 

 

「………そう…?」

 

 

「うん、そうだよ!あ、衛司、そろそろ船が到着する時間じゃないかな?」

 

 

「ん、あぁ、もうそろそろだね。なら、少し急ごうか」

 

 

カノンノが思い出したように言うと僕は頷いてそう答える。正直言うと、もう軽くオーバーしてるんじゃないかな?

 

 

「あ、船に乗ったら、メリアの希望する場所へ送ってもらえる様に伝えるから」

 

 

「……希望する、場所……?」

 

 

「うん。どうかしたの?」

 

 

「………………」

 

カノンノがメリアを見て言うも不思議そうな表情をしたままのメリアにカノンノが首を傾げる。

此処は…僕がフォローする場所かな?

 

 

「……もしかして、だけど…メリアは何処に行けばいいか分からないんじゃないかな?」

 

 

「…………(コクリ)」

 

 

「ええっ!?それって……。そ、それじゃあ、どうしようかな」

 

 

僕の言葉にメリアも理解出来たのか頷くのをカノンノが見ると驚き、困惑する。

 

 

「……とりあえず、船まで連れて行こう。もしかしたら、アンジュが何か考えてくれるかもしれないし」

 

 

「ん……そうだね。メリアもそれでいいかな?」

 

 

「……………(コクコク)」

 

 

「ん、それじゃあ、行こう!」

 

僕の提案に少し考えた後、カノンノは頷くとメリアに問い、メリアの反応を確認するとそう言って再び山を降りる事になった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

その後、度々現れるオタオタを相手にするも、なんとか無事船の到着場所である下流へと付いた。だが案の定、船の姿はまだ無かった。

 

 

「――あれ?まだ船が到着してない」

 

 

「意外に僕達の方が先だったみたいだね」

 

 

「……ねぇ、衛司。ひょっとしたらメリアって……」

 

 

「……多分、記憶喪失だろうね」

 

 

不意にカノンノが言ってきた言葉に先にそう言葉を出す。まぁ、『あくまで』理由が分かっている僕はそう言うしかない。

 

今、『彼女はディセンダーなんだよ』なんて言って通じる訳でも無いし、それに、まだ確実に彼女がディセンダーだ、とは言い切れないからだ。その彼女は現在、下流を流れる川を物珍しそうに眺めている。

 

 

「理由は全然分からないけど……やっぱりあの時メリアを包んでいた光に原因があったりするのかなぁ」

 

 

「どうだろう、ね。……あ、船が来たんじゃない?」

 

 

「あ、本当だ!」

 

 

不意に耳に届いて来た機械音に空を見上げると、ゆっくりと僕達の乗る船兼ギルド『バンエルティア号』が降りてきていた。

 

 

――――――――――

 

 

 

「カノンノに衛司、二人共お疲れ様。あなた達が魔物を討伐してくれたお陰で、ペカン村の人達の移民は無事に済んだわよ。ところで、そちらの女性は?」

 

 

船に乗り、アンジュに依頼が終わった事を伝えた後、そう言われるとアンジュは僕達の後ろで船の中を物珍しそうに見回しているメリアを見てそう言ってきた。

 

 

「彼女とは、ルバーブ連山で出会って…」

 

 

「それじゃ、自己紹介からね。私はアンジュ・セレーナ。あなたの話を聞いてもいいかな?」

 

 

「……アンジュ…私、メリア。……その……あの……」

 

 

「ぁー。……詳しくは分かる範囲で僕達が説明するよ。実は―――」

 

 

笑顔で問うアンジュに少し困惑しながらメリアが説明しようとするも上手く説明できなかったみたいなので、僕とカノンノが何とか見てきた内容で説明する。

 

 

「―――そう。記憶が無いなら、どこに行っていいかもわからないよね。――記憶が戻るまで、ここに置くのは構いません」

 

「え、いいの、アンジュ?」

 

 

「えぇ、当たり前じゃない。それに、衛司も記憶喪失なんだし、一緒にいてあげてたら案外、衛司の記憶も戻るかも知れないでしょ?」

 

 

――あぁ、そう言えば僕そうだったっけ。最近ギルドに馴染みすぎてその事スッゴく忘れてたんですけど。

 

 

「でも、話を聞く限り体力には自信がある様だし、働いてもらいましょうか。それじゃあ、今からあなたをギルド『アドリビトム』の一員として迎えるね」

 

 

こうして、ディセンダー(であるであろう)の少女、メリアはアドリビトムへと入った。

 

 

 

―――そして、物語の歯車は廻り始めた―――

 

 

 

 




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第三話

 

 

 

「――コンフェイト大森林の調査?」

 

 

「そ、出来ればアンタにも着いてきてもらいたいんけど」

 

 

食堂でロックスさんが作ってくれた朝食を食べていると、目の前でケーキを食べている王冠を被った少女、ロッタがそのフォークの矛先を僕へと向けてそう言い放ってきた。

ロッタは『マイソロ』をやってて良くしっていた傭兵キャラクターである。今作も居るんだろうなー、とは薄々考えていた。

決して嫌いな訳ではない。むしろ好きなキャラクターである。

 

 

「いや、別に構わないんだけど……何で今更コンフェイト大森林で調査を…?」

 

 

「依頼者はあの森に住む木こりさんよ。何でも、最近コンフェイト大森林の様子がおかしいとかなんとか」

 

 

「様子がおかしいって……?」

 

 

「何でも…生息しない筈の魔物を見掛けるようになったとか、魔物が活発化してきたとか、草木の成長がおかしいとか…」

 

 

「成る程…確かヴェイグとクレアの故郷のヘーゼル村、だったけ。確か…コンフェイト大森林から近いよね?」

 

 

「えぇ、今はウリズン帝国に占拠されちゃってるけど……。つまり……星晶《ホスチア》ね」

 

 

ロッタの説明を聞き、僕が少し考え気付いた事を言うとロッタも理解出来たのかそう呟いた。

星晶《ホスチア》――教えてもらった程度だけど…ようは世界樹の《マナ》と似たような物らしい。その星晶のおかげで産業が発展してるみたいだけど…さっき言ったヴェイグ達の村のようにその星晶を巡って国が動いてるらしい。

よくある…自分の国を発展させようとする国の暴走だ。

 

 

「…アンタはもしかしたらその星晶になんかあるかも、て考え?」

 

 

「…うん、気がする程度だけど」

 

 

生憎悲しい事に、僕は原作を買って直ぐに車に当たっちゃって原作未プレイ状態だから、本当に原因がこの星晶なのかは分からない。

 

 

「…まぁ、そんな難しい事私達が考えるだけ無駄よ、無駄。そういうのはウィルや新しく入ったハロルドみたいのが考える事よ。私が聞きたいのは結局アンタが来るか来ないかよ」

 

そういう言って再度、ビシッという効果音が付きかねんばかりにフォークの矛先を僕に向けるロッタ。

何故だろう、なんか怖い。

 

 

「うーん…。いや、だから別に構わないんだけど……その調査依頼って他に誰かに声掛けてるの?」

 

 

「今んとこアンタだけ」

 

 

なにそれ、怖い。

 

 

「僕だけって…そんな危険そうな依頼に何で僕だけ…」

 

 

「しょうがないでしょ。他の人達殆ど別の依頼行ってるし。危険そうな、って言っても調査程度ならすぐ済むわよ。……それに……」

 

 

「ん……?」

 

 

 

 

苦笑いしながら言った僕にロッタがそう説明していくと、最後の方で僕から顔を逸らして何かブツブツ言っている。

 

 

「……何でもないわ。それに、なんかあったらアンタは私が守ってあげるわ」

 

 

「うーん……。それって本来男の僕が言うべき台詞だよね……」

 

 

「でも否定出来ないでしょ?」

 

 

「うん。正直否定出来ません」

 

 

あれ、何でだろう。目から汗が出てるや…。

 

そんなこんなで…何かコンフェイト大森林の調査に付き合わされる事になった。

 

 

 

「――ところでさ、ロッタ。そのケーキ一体何皿目?確か僕が食べ始める前から居たような気が………」

 

 

「…………パンが無ければケーキを食べればいいじゃない」

 

 

「いや、パン今僕食べてるから」

 

 

 

 

―――――コンフェイト大森林

 

 

 

――あの後僕達は準備を整え、現在コンフェイト大森林を探索しているのですが……

 

 

 

「――………なんでアフロ(ヴォイト)が居るのよ」

 

 

「はははっ!細かい事は気にすんなよ、ロッタ!」

 

 

同行メンバーが一人増えました。

今僕の隣で不機嫌そうな表情のロッタに対し、ニヤリと笑みを浮かべている頭のアフロが個人的過ぎる男剣士、ヴォイト。

彼も確か『マイソロ』では結構有名な傭兵キャラクターだ。

特に…頭が。

 

 

「ちょっと……何でヴォイトがついてきてんのよ?」

 

 

「いや、それが………」

 

「兄弟《ブラザー》が困ってんのを助けんのに理由がいるか?」

 

 

「………こんな感じです」

 

 

「……頭痛いわ」

 

ロッタの問いに答えようとした所、ヴォイトからのその一言にロッタは額を抑えて溜め息を吐いた。

因みに兄弟《ブラザー》とは、僕の事らしい。何故か知らないけど。

 

 

「で、でもほらっ!人手は多い方がやっぱりいいでしょ?」

 

 

「それはそうだけど……そうね、アンタはそういう奴だったわね…」

 

 

僕の言葉にロッタは何か思い出したように呟くと、呆れた様子で再び溜め息を吐いた。後、小さく「……馬鹿」と聞こえたのは気のせいだろうか…。

 

 

―――――――――

 

 

 

「………おかしいわね」

 

 

 

森の中をある程度歩いていると、不意にロッタの口からそんな言葉がもれた。

 

 

「……?おかしいって…?」

 

 

「もう大分歩いたのに今私達、ウルフやローパーはおろか、プチプリやチュンチュンにすら当たって戦ってないのよ?」

 

 

「そういやそうだな。…いくら戦闘がないとはいえ……モンスターの姿が一匹も見えないのはおかしいな」

 

 

ロッタの言葉にヴォイトも頷く。

確かに今、僕達は戦闘を行っていないどころか…魔物の姿を森に入って一度も見ていない。何時もは結構見てたり戦ってたりする筈なのに……。

 

 

 

「………こうも静か過ぎると何だか不気味ね。早く調査を済ませて帰るわよ」

 

「そう、だね…。何か嫌な予感がしそうだし…」

 

 

僕のその言葉と同時に、三人の歩く速さが自然に変わった気がした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

しばらくして着いたのは、一度ヴェイグ達に教えてもらった、ウリズン帝国が星晶を採取している場所であった。そこで見たのは……

 

 

 

「これは……一体……」

 

 

「……酷い有り様ね」

 

 

周りの草木が枯れ果て、地面には大きなひび割れ等が見えた……まるで其処だけこの森から切り離されているような姿であった。

 

 

「……こりゃ大分枯れてんな。多分こんなんじゃもう二度と花は咲きそうにねぇぞ」

 

 

「……魔物が出なかったのもこれが原因なのかな」

 

「……採れるだけ穫って後はポイッ、ね。何とも帝国らしいわ」

 

 

暫くその場を見回して僕達の口から出るそんな言葉。これが……国のやる事なんだ。

 

 

 

「……正直キツいわね。…調査は終わったわ。早く帰りましょう」

 

 

ロッタが口早にそう言った。確かに…この場所はあまり長く居たいとは思わない。

 

 

 

「……そうだね。じゃ、早く―――」

 

 

 

『帰ろう』、と言いかけて言葉が止まった。

何故か。それは至って簡単だ。

僕達の来た道に、『ソレ』は居たからだ。

 

 

青い巨躯。鋭く研ぎ澄まされた牙や爪。

僕が此方に来て、今までで一番……『勝てない』と圧倒的に知らされる姿。

 

そしてそれはまるで……獲物を見つけたかのように大きく吼える。

 

 

――凶竜『ケイプレックス』はそこに存在していた――

 

 

 

 

 

 




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第四話

ケイプレックス戦です。
かなり戦闘描写がおかしいかもしれません;;


 

 

 

『GYAOOOOOOOOOOOOOO!!』

 

 

目前で吼える青い巨躯の恐竜『ケイプレックス』。その姿はまさに今、『蹂躙』という言葉が似合うであろう。

 

 

 

「――…ねぇ、ロッタ、ヴォイト。あれ……勝てたりする?」

 

 

「はははっ……ブラザー、中々面白い事いうじゃねぇか」

 

 

「……珍しく同感ね、ヴォイト。はっきり言うわ………今じゃ『無理』よ」

 

 

木刀、剣、杖。僕達は武器を手に持つもロッタとヴォイトの言葉と同時に、此方に近寄ってくるケイプレックスに後退りしてしまう。

 

 

「……おいおい、かなり絶体絶命だな、今」

 

 

「馬鹿言ってる場合?さっさと逃げないとマジでヤバいわ……」

 

「逃げるっつっても唯一の逃げ道は奴さんが塞いでんだぜっ!?」

 

 

ヴォイトの言うとおり、僕達が来た道は今ケイプレックスが立ちふさがっている。

背後は枯れ果てた草木と大地で作られた行き止まり。正に、背水の陣だった。

 

 

「……一瞬でも隙作って逃げるか、怯ませて倒して逃げるか、なんとか頑張って倒すか、かしら?」

 

 

「おいおい、どれも簡単に言ってできる事じゃねぇーよ!!」

 

 

ロッタとヴォイト一見落ち着いているように見えるけどその表情とは裏腹に現状に混乱しているように口論になりそうになる。

 

 

何か方法を……ケイプレックスを一瞬でも怯ませて、逃げ切る方法………そうだっ!

 

 

 

「ねぇ、ロッタ!『フォトン』を結構大きめの威力で唱えたりできる!?」

 

 

「え…あ、一応、詠唱が普通よりは掛かるけど…そんなんでアイツが倒せる訳なんて……」

 

 

「ううん、唱えれるならそれでいいんだ!詠唱までの時間は僕とヴォイトが作る。フォトンを唱えた後にも考えがある。だけど……上手くいくかは――」

 

 

「いや、俺はいいぜブラザー。それしか方法はねぇんだろ?」

 

 

「……そうね、どっちにしろ死ぬかもしれないなら…やった方がマシよ」

 

 

僕の言葉に決心したように杖と剣を構えるロッタとヴォイト。

二人共……。

 

 

「……よし、それじゃ……行こうっ!!」

 

 

僕の声と同時に、僕とヴォイトが武器を手にケイプレックスへと走り出し、ロッタは詠唱を開始した。

 

 

 

 

「「うおぉおぉおぉぉぉっ!!」」

 

 

 

『GYAOOOOOOOOOOOO!!』

 

 

僕とヴォイトの接近に対し、ケイプレックスは吠え、尻尾で凪いでくる。

僕はそれを下に、ヴォイトは上に避けると、ケイプレックスに向け武器を奮わせる!!

 

 

「虎牙破斬っ!!」

 

 

「裂空斬っ!!」

 

 

僕が下から切り上げ、切り落とし、ヴォイトが跳んだまま回転し、ケイプレックスへと攻撃を直撃させる―――が……

 

 

 

 

 

―――ガキンッ!!

 

 

 

確かに決まったそれは、ケイプレックスの肉を裂くことは愚か、皮膚を傷付ける事は無かった。

 

 

「くそっ!分かり切ってたけど、やっぱり木刀じゃ無理あるか!!」

 

 

「チィッ!!ブラザー、避けろっ!!」

 

 

自分の武器にぼやき、ヴォイトの声にその場から退くと、ケイプレックスの爪が奮われ、僕が居た場所に大きな爪痕が残る。

 

 

「っ……流石ケイプレックス…まさか武器が効かないなんて……」

 

 

「ブラザー…こんなんで本当に大丈夫なのかよ…っ!」

 

 

「少なくとも…今はロッタの詠唱待ちだ、よっ!!」

 

 

ヴォイトと言葉を少し交わせた直後、今度は叩き落とすかのように振り落とされてきた尻尾を左右ずつに別れて避ける。

 

「傷一つ付かないなら……ヴォイト、脚を狙おう!!」

 

 

「脚ぃっ!?」

 

 

「いくら傷が付かなくても少しくらいダメージがある筈だよ!それなら、脚を一点集中で止めるんだっ!!」

 

 

「なるほど……OKだ、ブラザーっ!!」

 

 

二人で駆け出し、奮われる尻尾や爪をなんとか避けながら攻撃箇所を目指す。

狙うは……右脚!!

 

 

「いっけェッ!散沙雨ッ!!」

 

 

「うおぉおぉおぉぉぉっ!秋沙雨ッ!!」

 

 

手数で勝負、と言わんばかりに右脚の一点に向け、僕とヴォイトの連続突きが放たれる。

 

そして……

 

 

 

『GYAOOOO!?』

 

 

短い悲鳴の後、ケイプレックスは右脚から崩れる。だけど、これだけじゃ、すぐ戻る。

 

 

「ロッタァッ!!」

 

 

「ナイスタイミングよ、アンタ達ッ!!くらいなさい…フォトン!!」

 

 

僕の声に、ちょうど詠唱を終えたロッタの声が続く。放たれた光の魔法、フォトンは大きな円を作り、爆発し、眩い光を作る。

 

 

『GYA!?』

 

 

そう、僕の狙いはこれだ。あくまで威力大のフォトンは攻撃に使うのではなく、目眩ましのものだ。ケイプレックスが怯んでいる内に、先にロッタを逃げ道へと走らせる。

そしてこのフォトンも一つの保険のような物。僕とヴォイトはロッタが逃げてる内に走り出し、怯んでいるケイプレックスへの距離を零にする。

 

 

 

そして、僕は木刀を全力で前へと突き出し、ヴォイトは右腕に力を溜め込み、それをケイプレックスへと全力で放つ!

 

 

 

「はぁあぁあぁぁぁっ!瞬迅剣ッ!!」

 

 

「獅子ッ戦吼!!」

 

 

青い巨躯へと直撃する全力を込めた、突きと獅子型の気の塊。

ケイプレックスは悲鳴と共に吹き飛ぶと、近くの木へとぶつかり倒れる。

 

 

「ハァ…ハァ……ヴォイト、今のうちにッ!!」

 

 

 

「おうッ!逃げるぞっ!!」

 

 

ケイプレックスの様子を確認した後、来た道(逃げ道)へと向けて走り出す。

ケイプレックスは倒した訳じゃない。と、言うかあれで倒れる訳ないだろう。

 

今はケイプレックスがのびてる内に逃げるのが最優先であった。

 

 

 

 

 

―――――コンフェイト大森林入り口

 

 

「ハァ…ハァ……なんとか、逃げ切ったわね……」

 

 

「ハァ……ハァ……うん。ここまでくれば…ハァ…もう大丈夫だよね……」

 

 

「ゼェ……ゼェ……しばらくはもう来たくねぇぞ……」

 

 

入り口の前に三人でその場に座り込み、肩で息をしながらそう言い合う。

 

 

正直今回は本当に危なかった。ヴォイトの言うとおり本当にしばらくはコンフェイト大森林への依頼は受けたくない気分だ。

 

「ハァ……それにしてもケイプレックスって……本当ならもっと森の奥にいる筈なのに」

 

「……やっぱり、あの採取後になんかあるのかな」

 

 

「さぁな…。兎に角、あんなんが居た以上、長居は無用だぜ。さっさと船に戻って、アンジュに報告しようぜ?」

 

 

「ん、そうだね……」

 

 

とりあえず、僕達はコンフェイト大森林を後にし、船に戻る事にした。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「――そう、そんな事があったの」

 

 

あの後、僕はコンフェイト大森林で事をアンジュに説明した。ロッタとヴォイトは疲れたので休むから報告は任せたとの事。

あれ、これってパシりじゃない…?

 

 

「草木の急な変化に、最奥にいる筈のケイプレックスの出現……ね。とりあえず、しばらくはコンフェイト大森林の依頼は避けて、落ち着いてきたら再調査に行く必要がありそうね」

 

 

「そうだね……。うわぁ…次行くときは新しいトラウマ出来そう……。……そう言えばなんかあったの?」

 

 

「あら、よくわかったわね」

 

 

「うん。帰ってきた時やけにロックスさん忙しそうな半分、なんか楽しそうに今日のご飯の献立考えてたから」

 

 

最近分かった事の一つ。ロックスさんが上機嫌の場合、アドリビトムで何か良いことがあったと思うこと。

 

例であげるなら僕が師匠達との練習で技を覚えた事が嬉しくて話したら、ロックスさん上機嫌で、その日のメニューがシチュー(僕の大好物/教えた事は…無かった筈)を作ってくれた時とか。

 

 

「それで、結局何があったの?」

 

 

「えぇ、あなた達がコンフェイト大森林に行く少し前に、メリアとヴェイグ達がヘーゼル村に配給の依頼に行ってたの。その時に偶々、ガルバンゾ国のお姫様とその護衛の方がウリズン帝国の兵士に襲われてて、それを保護したのよ。それで、此方で暫く保護する兼、アドリビトムで働いてもらう事になったの」

 

 

さも楽しそうに説明するアンジュ。彼女で言う『此方で居るならそれなりに働いてもらう』だろう。

黒いなー…。

 

 

「あら、今何か失礼な事を思わなかった?」

 

「イエ、ナンデモアリマセン、サー。それで、そのガルバンゾ国のお姫様と護衛って――」

 

 

「――ぁ、はじめまして!」

 

 

言葉を言いかけた時、声を聞いてそちらを見ると―――

 

 

 

「アナタもギルドの方――ですよね?」

 

 

「何て言うか……あんまり期待出来なそうな顔してるわね」

 

 

「そう言ってやんなっつーの。まぁ、面倒事に巻き込まれて世話になる身だ。これから宜しくな」

 

 

ガルバンゾ国のお姫様とその護衛こと、『ヴェスペリア』のエステル、リタ・モルディオ、せしてユーリ・ローウェルがそこに、楽しげな表情を浮かべていた…。

 

 

 

 

 




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第五話

今回は若干ヒロイン回。
恋愛描写って難しいね……(´・ω・`)


 

 

あのコンフェイト大森林の出来事から数日。大分森の方も落ち着いてきたとの事で、僕達とは別にアドリビトムで調査隊が結成され、調査が行われた。

結果は案の定、星晶《ホスチア》であった。

 

それで現在、あのコンフェイト大森林の場所と同じ様な現象が起こったらしき別の場所、オルタータ火山の調査が開始されるらしい。

 

 

で、今現在、僕が行っているものは……

 

 

 

「――はぁ、メリアもご飯くらいちゃんと食べてよ…」

 

 

ロックスさん特製のお弁当を手に、オルタータ火山への調査に向かうであろうメリアを船内で探していた。

 

何でも彼女、ロックスさん曰わく朝から依頼に出て戻ってきた今現在まで食事をしていないらしい。しかも、この後直ぐオルタータ火山への調査も行くらしく、ロックスさんがせめてお弁当でも、と作り、僕に任せてメリアに渡す事になった。

 

パシりじゃない。そう、頼まれたんだからきっとパシりじゃない。ロックスさんは良い人だから。

 

 

取り敢えず、彼女の部屋の前へと向かい扉を三回ノック。いきなり扉開けて入るというラッキースケベスキルは僕には付いてない筈だ。

 

 

「はーい、どうぞー」

 

 

扉越しに聞こえてきたのはメリアではなく、よく聞くカノンノの声であった。

あ、そう言えばメリアとカノンノ、相部屋なんだっけ。

 

 

 

「すみませーん。乾衛司ですけど、再確認で入って大丈夫ですかー?」

 

 

「え……衛司?あ、ちょ、ちょっと待っててっ!!」

 

 

「………衛司…?」

 

僕と分かった瞬間、先程の声とは打って変わって扉越しでも分かるように慌てながら何かをしているカノンノ。少し遅れて確認するようなメリアの声も聞こえた。

うん、再確認しといてよかった。

 

 

「……も、もう大丈夫でーす」

 

 

「えっと……失礼します」

 

 

数分程して聞こえてきたカノンノの声に思わず恐る恐る扉を開ける。

扉を開けてみると……やけに綺麗にその桃色の髪をとかし終えた様を見せるカノンノと、いつもと変わらず不思議そうな表情をしたメリアが居た。

 

 

うん、さっきの数分で何があった。

気のせいかカノンノの表情は何かを期待しているようにも見えた。

 

「えっと……それでどうしたの?」

 

 

「あぁ、うん。実はメリアに用が……って待って、何でカノンノはさっきと一転不機嫌になるの?」

 

「別にぃ……」

 

 

何故か本来の用を言ったらさっきまでの表情とは一転、さもどこか不機嫌そうな表情となるカノンノ。いや、本当になんでさ?

 

 

「衛司…用って……?」

 

 

「うん。メリアご飯食べてないんでしょ?それで直ぐにオルタータ火山に行くんならせめてお弁当を持っていきなよ、だってさ」

 

 

小さく首を傾げるメリアに手に持っていたお弁当を渡してそう言う。

今更だけど、メリアってあんまり食べる所見たことないから少食なのかな?

 

「お弁当……あり、がとう……」

 

「うん、どう致しまして。でも、ちゃんと食べないと身体壊しちゃうかもしれないから、頑張るのも十分だけど、気をつけないと駄目だよ」

 

「ん……うん……」

 

メリアの言葉にそう言った後、そっとメリアの頭を撫でると、心地良さそうに目を細めるメリア。

最近分かったけどメリアは頭を撫でてあげると嬉しいらしい。

 

「………………」

 

 

 

――……そしてその近くにカノンノが居ると、カノンノが大層不機嫌になるのもよく分かった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

あの後、メリアはルビアやウィル達と一緒にオルタータ火山の調査に向かった。

で、僕は現在……

 

 

「いや、なんか、本当にすみません」

 

 

「別にぃ……何で衛司が謝るのかなぁ」

 

 

甲板で依然不機嫌なカノンノに全力で土下座していた。

プライド?此方の世界に来てオタオタに負けたあたりでどこかに行ったよ。

 

 

「いや、それは、その、本当にすみません」

 

 

「もう……別にいいよ。どうせ、衛司の事だから絶対分からないだろうから」

 

 

カノンノのやけに意味深なお言葉に首を傾げてしまう。……どういう事だろ。

 

 

「……むぅ。衛司のせいで今日はあんまり思い付かないや」

 

「本当に酷い言いようだね…。思い付かないって……?」

 

 

「ぁ、衛司には言ってなかったっけ。えっと、これの事なんだけど……」

 

 

そう言ってカノンノが差し出してきたのは少し大きめなスケッチブックであった。

手にとって開いてみると…此方の世界ではまだ見たことのない風景の絵が書かれていた。

 

 

「……この風景、見たことある?」

 

 

「……残念ながら、わからないよ」

 

 

「衛司もかぁ。メリアもそうだったけど、記憶の手掛かりになるかと思ったんだけど……」

 

 

僕の返答に残念そうな表情を浮かべるカノンノ。正直な話、この風景は僕が元いた世界でも此方でも見たことのない風景であった。

 

「…なんかごめんね」

 

 

「ううん、気にしないでいいよ。……私もね、この風景を実際に見た事無いんだ」

 

 

「カノンノも見た事のない風景……?」

 

 

「不思議でしょ?スケッチブックの白い紙を見てるとね、たまに見えてくるんだ。色んな風景が。その見えた風景を筆でなぞって、出来たのがこれらの絵なの」

 

 

カノンノの言葉を聞きながら、パラパラとスケッチブックに描かれている風景を捲っていく。

うん……やっぱりまだ見たことのない風景だ。

 

 

「他の人にも見せたけど、誰もこの風景を知らない。それに、作り話でしょって、笑われちゃうの」

 

 

 

そう言って少し俯くカノンノ。

確かに、誰も知らない風景なら、そんな言葉が帰ってきても当然だろう。

 

 

 

 

 

「……でも、僕は信じるよ」

 

 

「え……?」

 

 

「カノンノがこんなに綺麗に描けてる風景を、『嘘』だとか、『有り得ない』とか考えれるわけないよ。こんなに鮮明に、分かりやすく描けてるならきっと直ぐに見つかるよ。僕は『嘘』なんて言わない。ちゃんと信じて、もし良かったら一緒に探してあげるからさ」

 

 

当然の事でしょ、と付け足し、小さく笑ってそうカノンノに言った後、メリアの時と同じ様にそっとカノンノの頭を撫でる。カノンノは驚いた様子を見せた後、嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「ん、…うん。……ありがと、衛司」

 

 

「どう致しまして」

 

 

カノンノの感謝の言葉に、笑ってそう返す。

しかし、カノンノのこの風景……本当になんなんだろうか。

カノンノの頭から手を離し、再びスケッチブックを捲って見ていると、最後の絵が描かれているであろうページが前のページと二枚上手く重ねられて見えなかった。

 

 

「………?あれ、この最後のページ…」

 

 

「え……っ!ちょ、そこは見ないでっ!!」

 

 

重なったページを捲ろうとしたらカノンノに物凄い勢いで引ったくられた。

 

 

「え、ちょ……カノンノ……?」

 

 

「このページは駄目っ!!ぜぇったい駄目っ!!」

 

 

「うぅ……分かったから、落ち着いて……」

 

 

大事そうにスケッチブックを抱え、僕から退いていくカノンノに、何故か僕は落ち着いてといいながら、反射的に土下座をしていた。

 

 

……元の世界の両親や僕をよく知っている部長へ――

 

 

――僕の土下座は、本当に上達していっております。

 

 

……何故だか泣けてきた気がした。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

衛司とのそんなやり取りがあった後、カノンノは自室に戻り、抱え込んでいたスケッチブックをゆっくりと捲り上げ始める。

 

 

 

「……見せれるわけないよ」

 

 

そう、カノンノは呟いて、二枚重なっている最後のページを捲り上げた。

 

 

「……不思議だなぁ。なーんで書いたんだろ」

 

 

 

最後のページに、ふと不思議に自分が描いた『衛司』の絵を見てカノンノはそう呟くと小さく笑った。

僅かながら、その頬は若干赤く見えたのは、気のせいではないだろう。

 

 

 

 




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第六話

 

 

 

「――赤い煙?」

 

 

「あぁ。ありゃ、どっからどうみてもおかしなもんだったぜ」

 

食堂にて、僕はオルタータ火山の調査に加わっていたユーリからそんな話を聞いていた。

 

結局、オルタータ火山の星晶採掘跡もコンフェイト大森林と同じ状態になっていたらしい。

そして一番の収穫と言える話は『赤い煙』。

何でも、星晶採掘跡の原因で貴重な種であるらしいコクヨウ玉虫…とかいうのが大量に死んでいたらしい。

そしてその内の生きている一匹に、突然赤い煙が現れコクヨウ玉虫にまとわり、消えていったとか。

それで、現在その一匹はウィルさんが採取して今観察しているらしい。

 

 

「赤い煙、かぁ。なんか変な話だねぇ…。あ、チョコケーキ、もう一個追加で」

 

 

「生憎、こちとら生で見ちまったからな。信じずにゃいられねぇよ。……ったく、あんまし食い過ぎんなよ」

 

 

赤い煙についての話をしながら、ユーリの作ってくれているチョコケーキを口に運ぶ。

うん、流石ユーリ。普通に店とか開けるんじゃないだろうか。

 

「まぁ、詳しい事はウィル達が考えてるんだし、私達は私達の出来ることすればいいのよ。ユーリ、私もケーキ追加」

 

 

「それもそうだな。俺は考えるよりも、動くのが優先派だし。へいへい…ってお前、何時の間に居やがった」

 

 

「ケーキと聞いて黙っていられなかったわ」

 

 

追記。最近ユーリがケーキ調理中の時は、ロッタが神出鬼没になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「――ゴホッ…では、そういう事で……」

 

 

「――……分かりました」

 

 

依頼が何か出ていないか気になりホールに出ると、アンジュと、やけに顔色の悪い男性が話をしていて、男性がホールを出て行っていた。

 

 

 

「……アンジュ、さっきの人は?」

 

 

「依頼者の方よ。モラード村のジョアンさんで、ブラウニー坑道の奥地まで護衛をお願いしたいらしんだけど……」

 

 

「……大丈夫なのかな、あの人」

 

やけに顔色悪かったけど……何でそんな状態でわざわざブラウニー坑道に…

 

 

「なんでも医者もさじを投げた程、重い病気らしいの。それで何でもそのブラウニー坑道の奥地に、病気を直す方法があるって言っていて」

 

 

「病気を治す……?それって一体……」

 

 

「私も深くは分からないわ。でも、依頼を頼まれた以上、私達もその依頼を受ける立場なんだから断れるわけないわ」

 

 

そう言って先程のジョアンさんの依頼内容を紙に纏めるアンジュ。

『医者でさえさじを投げる病気を治す方法』、か……。

 

 

「……アンジュ。その依頼、僕受けるよ」

 

 

「あら、本当?」

 

「うん。流石にあんな状態の人を見て見ぬ振りなんて出来ないし、それに……その『治す方法』って言うのが気になるからね」

 

 

「……そう。分かったわ。じゃあ、他に依頼を受ける人が増えるまで待っててね」

 

 

アンジュの言葉に頷いた後、僕は準備の為に自室へと向かった。

『病気を治す方法』……なんか嫌な予感がするんだよなぁ。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

その後、ジョアンさん護衛メンバーも決まり、今はブラウニー坑道の中を歩いている。

メンバーは僕、メリア、ファラ、マルタといった、『あれ、男って僕とジョアンさんだけじゃん?』パーティーだった。

 

 

それで現在、先頭では僕とファラが歩き、後方ではメリアとマルタがジョアンさんを守りつつ歩いている。

歩きながら話を聞いたが、なんでもジョアンさんの友人であるミゲルさん、と言う人も同じ病気だったらしく、この道中で発作が始まり身動きが取れなくなり、死を覚悟した際、何かが起こりそのミゲルさんは病気が治ったらしいのだ。

 

 

「……ジョアンさん、大丈夫かな?さっきから後ろで気になるくらい咳き込んでるけど…」

 

 

「そうだね……。さっき聞いた話なんだけど…ジョアンさん、もう長くないみたいなの…」

 

 

先頭を一緒に歩くファラにそう話しかけると、ファラは一度、心配そうに後方のジョアンさんを確認した後、そう切り出す。

 

 

「やっぱり、か……。それにしても……『病気を治してくれる存在』…か」

 

 

「本当にいるのか分からないけど……まずは行ってみないと分からないよ。……だから、私達はそこまでしっかりとジョアンさんを護衛しましょう!大丈夫、イケるイケる!!」

 

 

先程までの重い空気を変えるように、右腕をグッと上に伸ばしそう元気に言うファラ。

……うん。なんでこのメンバーにファラが居るのか、段々分かってきた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

その後、向かい来るモンスターを撃退しながらなんとか指定された二層目の奥地まで来る事が出来た。

 

――が、そこにも案の定、魔物はいた。

 

岩で構築された独特な巨体。『ストーンゴレム』であった。

 

 

「うわぁ……すっごい硬そうなんですけど……」

 

 

 

「でも……アレを倒さないとだめみたいだね」

 

 

各々の武器を手に持ち苦笑いしながらそう言い合う。向こうのストーンゴレムは依然やる気満々と言わんばかりに腕を回している。

 

 

「……嫌だなぁ。よし、マルタとメリアはジョアンさんの護衛をお願い。僕とファラで、ストーンゴレムを叩こう」

 

 

「えっ!わ、私もちゃんと闘うよっ!」

 

 

「……衛司…何で……?」

 

 

「うん。マルタの言葉は嬉しいけど……この依頼はあくまでジョアンさんの護衛だからさ。もし僕達全員がストーンゴレムと闘ってる間に、他の魔物が現れてジョアンさんに襲いかかってきたらって考えて。マルタは後衛からでも回復魔法で援護してもらえるし、メリアは僕達が抜かれた時の最後の要だからさ。ちゃんと二人を信頼しての配置だよ」

 

 

どこか物言いたげな二人に僕の出した案の理由を説明する。これは僕なりに考えた配置である。僕達の依頼の重要点はあくまで、ジョアンさんを無事に護衛する事。その事も考えて、前衛である僕とファラでストーンゴレムに向かい、このメンバーの中で一番の実力であるメリアと回復魔法で後衛から援護可能なマルタをジョアンさんの付近に配置する。

これがあくまで僕が考えた最高の配置である。

 

 

 

「う~……分かった。でも、絶対勝ちなさいよねっ!」

 

 

「……衛司、ファイト……」

 

 

不満げながらも納得しそう言いマルタと無表情ながらもそう言ってくれるメリア。

よし、やる気出てきた。

 

 

「じゃ、ジョアンさん。もうちょっとだから、待ってて下さいね」

 

 

「……ゴホッ…すい、ません……わざわざ私の為に……」

 

 

「いえいえ。絶対、ジョアンさんを助けますよ」

 

 

顔色の悪いジョアンさんに、そう言って少しでも安心させようと笑ってみせる。

 

 

僕は武器である木刀を手にファラと共にストーンゴレムの前へと立つ。

 

 

「……間近で見るとやっぱりこう…強そうだね」

 

 

「あはは…。でも、きっと私達なら勝てるよ」

 

 

「イケるイケる、ってね。よし……じゃ、人助けの為に出来る限り頑張ってみようかっ!!」

 

 

僕が木刀を、ファラが拳を構えたと同時に、ストーンゴレムはその腕を震い上げる。

 

そして、戦闘は始まった――

 

 

 

 

 

 




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第七話

ストーンゴレム戦です。
戦闘描写が上手く書けぬ…。


 

 

 

「――――――――!!」

 

 

 

目前でその大きな腕を振り上げ、戦闘態勢に入る岩の巨人、『ストーンゴレム』。

思い切った事を言ってしまったが、その文字通り岩の肉体に対し、僕とファラの武器は木刀と拳。

うん、改めてどうしたもんか、コレ。

 

 

「衛司、向こうから来るよっ!」

 

 

「んっ……考えるよりも…まずは行くべきだよねっ!」

 

 

ファラの声に意識を前に戻すと既にストーンゴレムは腕を振り上げ此方へと向かっていた。

僕は右に、ファラは左にその場から走り出し、ストーンゴレムの攻撃をかわすとそのまま接近し、僕は木刀で、ファラは拳でストーンゴレムへと攻撃を開始する。

 

「これでっ、散沙雨ッ!!」

 

 

「ハアァアァアッ!!連牙弾っ!!」

 

 

ストーンゴレムに近付いたと同時に放たれる木刀による連続突きと拳による連続打ち。

ストーンゴレムは防御力と攻撃力が高く確かに強いが、その一撃一撃は遅く簡単に懐に入り込み、攻撃が可能である。

ストーンゴレムの弱点はそんな所である。

僕とファラの同時攻撃が効いたのかストーンゴレムは怯み、一旦体勢を崩す。

 

 

「よしっ!このまま……」

 

 

「まだ迂闊に近付いちゃ駄目だよ、衛司っ!」

 

 

「え……って、うぉぅっ!?」

 

 

追撃を仕掛けようとするとファラの声に立ち止まると、ストーンゴレムはその場から体勢を直ぐ様直し、体を回転させ両腕を振り回してくる。

思わずその場から後退すると、僕が居た場所の岩にその腕が当たり、その岩はいともたやすく粉砕される。

 

……何あれ、こわい。

 

 

「……流石はストーンゴレム…。名前の通り堅いなぁ…」

 

 

「うぅん……確かに思ってたより堅いね」

 

 

ストーンゴレムから距離を置き、苦笑いする僕と先程攻撃した手を軽く振るファラ。やっぱり拳でも痛いもんは痛いんだ。うん。

 

 

「――――――――!!」

 

 

当のストーンゴレムは叫ぶような姿を見せた後、両腕を振り回し、再度此方を睨み付けてくる。

くそ…やっぱり、ゴーレムタイプは手数もそうだけど一撃一撃で確実に決めていかないと駄目か…。

 

 

 

……それなら……

 

 

「……ファラ、一つの作戦というか、お願いがあるんですけど…」

 

 

「え、何。急に改まって……」

 

 

「僕が先攻を掛けてストーンゴレムの気を逸らすから、その合間でできる隙に協力な攻撃をアレに出来ない?」

 

 

「っ……それって!」

 

 

僕の提案に驚いた様子を見せるファラ。

それもそうだろう。僕の出した案は言うなれば『囮』。ただいつもと違うのは相手である魔物が普通の魔物に比べ一撃一撃の攻撃が非常に高いこと。一撃でも当たればそれこそさっき粉砕された岩と僕の身体が同じようになるんだろう。

 

だからこそ、ファラは驚いていた表情から一転、真剣に、怒っているような表情に変わる。

 

 

 

 

 

「衛司……そんな危ない役、衛司で大丈夫なの?」

 

 

「正直、僕の身体は先程の岩より脆いので、一撃で粉々になれる自信があります」

 

 

「っ…!それなら――」

 

 

「でも、考えたら一撃のダメージの大きさならファラの方が上だし、自慢じゃないけど僕は相手の攻撃から逃げる事なら一丁前だし……。それに――」

 

 

「それに……?」

 

 

「――僕は信じてるから。ファラならきっと上手くやってくれるって」

 

 

未だ真剣な表情のまま此方を見るファラにそう小さく笑って僕は答える。

ファラは先程とは少し違った驚いた表情を見せた後、小さく笑ってみせる。

 

 

「……分かった。そこまで言われたら、私だって頑張るよ。それに――」

 

 

「僕達ならイケるイケる、ってね」

 

 

「うん、その通りっ!言われた以上は……一撃で決めるよっ!」

 

 

そう言って構えを取る僕とファラ。それと同時にファラの周りの気圧がどこか変わっていくのを感じた。

なんとなく分かる。テイルズで一撃で仕留める方法。恐らく『アレ』だろう。

 

 

「それじゃ……行こうっ!」

 

 

言うと同時に僕は木刀を手にストーンゴレムへと走り出す。ストーンゴレムもそれを認識すると腕を大きく振り、此方に突き出してきた。

 

 

「ッ……魔神剣ッ!!」

 

 

突き出された腕に向け最近覚えたてたテイルズ定番である初級技、斬撃を飛ばす『魔神剣』を放ち、相殺して動きを止める。覚えた時は本当に感動した。

そして隙が出来た懐に、更に動きを止めるべく追撃を放つ!

 

 

「――双牙ァッ!!」

 

 

無防備な懐へと再度放たれる魔神剣の斬撃。結構効いたのかストーンゴレムの体が揺らぐ。

よし、今だ……!

 

 

「ファラッ!!」

 

 

「ナイスだよ、衛司っ!」

 

 

僕の呼び掛けに答え、僕の隣を素早く駆け抜けるファラ。その彼女の周りには様々な色の光が円を作って回っているのが見える。そう、『オーバーリミッツ』だ。

そして、その状態から放たれる強力な一撃はただ一つ。

 

「ハアァアァアッ!!」

 

 

体制の揺らいだままストーンゴレムの無防備な体へと叩き込まれるファラの連撃。

 

 

それは徐々に炎を纏っていき、ストーンゴレムの体を燃やしていく。

そしてファラ自身が炎を纏い、上空へと舞い上がり、最後の一撃をストーンゴレムへと叩き込む!

 

 

「火龍炎舞ッ!!」

 

 

龍のような炎を纏った強力な蹴りを最後に叩き込まれ、炎上していくストーンゴレム。その様子に僕や忘れていたが今まで後ろで見守っていたメリア達も目を奪われた。

 

 

「よし、一丁あがりっ!」

 

 

此方を向いてグッと親指を立て笑顔を見せるファラ。思わずつられて笑顔を作ってしまう。

 

 

 

 

 

 

――だが、まだ終わってなかった。

 

 

「――ッ!!ファラッ!!」

 

 

炎上しているストーンゴレムとは別に、その背後から現れた新たな影。恐らく、ストーンゴレムは元々『二体』いたのだ。

 

 

「え……――――」

 

 

僕の声に後ろを振り向くファラ。そしてようやく気付いたのか体を動かそうとするが、気付くのが遅かったのか対応が間に合わない。

このままじゃ……。

 

 

「ッ……やらせてたまるか…」

 

最悪な光景が脳裏を過ぎる。思わず走り出す。知らない内に体の勢いが上がっていく。

 

 

「――やらせて……」

 

 

ファラに向け徐々に振り下ろされていく岩の腕。ファラは腕を交差させ少しでもダメージを減らそうとする。

間に合わないだろう。だけど僕はまだ駆ける。

 

絶対に助ける為に!

 

 

「たまるかアァァァァッ!」

 

 

声を上げたと同時に僕の周りに様々の色の光の円が現れる。

これは……『オーバーリミッツ』?

足の勢いが上がっていくのを感じ、そのまま先程のファラよりも早く駆け抜け、ファラのストーンゴレムの前まで走り、ストーンゴレムの攻撃を木刀で防ぐ。

 

 

「――!?……衛司っ!?」

 

 

「うおぉおぉぉぉ!瞬迅剣ッ!!」

 

 

一度ファラの無事を横目で確認した後、オーバーリミッツで上昇した身体の勢いのまま強力な突きをストーンゴレムの腹へと放ち、ストーンゴレムを突き放す。

ストーンゴレムはその勢いで距離が離れるが、僕は上昇した足の勢いで再度一気に距離を詰める!

一度だけ船の模擬戦で味わったある人物の秘奥義。通常の僕の身体能力ならどう考えても不可能だけどオーバーリミッツで覚醒した今ならきっとできる筈だ!!

 

 

「閃け、鮮烈なる刃ッ!」

 

 

まずは一撃。それを直撃させるとストーンゴレムは動きを止める。

 

 

「無辺の闇を鋭く切り裂きッ!」

 

 

そのまま連続してストーンゴレムの体に一撃、一撃と確実に攻撃を与えていく。

 

 

「仇なす者を微塵に砕かんッ!!」

 

 

更に一撃、一撃と連続で攻撃を与えていく。

 

ストーンゴレムはそのダメージの為か、石で構築された体が徐々に崩れ落ちていく。

 

 

「見様見真似の――漸毅ォ狼影陣ッ!!」

 

 

そして最後に放つ強力な一撃。それが直撃すると同時に、ストーンゴレムは確実に崩れ落ち、ただの岩の山と化した。

 

 

「――ハァ……ハァ……」

 

 

ストーンゴレムを倒したと分かった瞬間、先程の漸毅狼影陣とオーバーリミッツの反動が体に襲いかかってきた。

うわ、今立つのもやっとだ……。

 

 

「――――衛司……?」

 

 

ゆっくりと視線をファラやメリア達に向けて無事を確認する。

うん……大丈夫そうだ。

 

ファラ達が無事と分かった瞬間……僕の意識は完全に黒くなった。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「――ん……此処は…」

 

 

「――ぁ、衛司!目が覚めたんだ…」

 

 

目を覚ますと意外に見慣れたバンエルティア号の医務室で、目の前には安心した表情のファラが居た。

どうやら、現在僕は医務室のベッドで寝かされているらしい。

 

 

「あれ……確か…そうだ、ジョアンさんは?」

 

 

「はいはい、落ち着いて。ちゃんと説明するから」

 

 

僕の言葉に、ファラは溜め息を吐きながらも説明を始めた。

あの後、僕はオーバーリミッツと技の反動により気絶していたらしい。

ジョアンさんの護衛は無事に完遂した。そして問題はその後だ。あのブラウニー坑道の奥地でジョアンさんが生きたい事を願うと、例の『赤い煙』が現れ、ジョアンさんの病気を完治させたらしいのだ。

結局その後、その場所に赤い煙は出なかったらしい。

 

で、その後、気絶していた僕はファラにおぶらされてこの医務室まで運ばれたらしい。

赤い煙……結局謎のままだけど、一体なんなんだろう。

 

 

「全く……あの後本当に大変だったんだよ?メリアやマルタは勿論心配してたし、ジョアンさんも自分せいだ、とか考えてたんだから」

 

 

「ははは……面目ありません」

 

ムッとした表情のまま怒っている様子を見せるファラ。うん、今回は本当に申し訳なく思っている。

 

 

オーバーリミッツと技の反動は結構大きかったのか体が上手く動かないのが現状である。

 

 

「――……でも、ありがとう」

 

 

「え……?」

 

 

「衛司が居なかったら私、今頃どうなってたか分からないもん」

 

そういって俯いてしまうファラ。その様子はどこか元気が無さそうに見えた。

僕はとりあえず、いまだあまり動けないがゆっくりと右手を伸ばして……

 

 

「――ぇ?」

 

 

そっと、ファラの頭を撫でた。此方側で覚えた僕なりの『元気の無い相手にするべき行動』の一つである。

 

 

「衛司……?」

 

 

「――僕はあくまで当然の事をしたまで。ファラも大切な仲間の一人だからさ。だから、わざわざそんなに深く思い込まないでよ。何があろうと、僕達は仲間なんだから」

 

 

「………うん」

 

 

ゆっくりとファラの頭を撫でながらそう笑って言うと、ファラも頷いた後、小さく笑い返してきた。

うん、良かった。

 

 

「……ぁ、私、皆に衛司の目が覚めた事言ってくるね。皆、心配してたから」

 

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 

そう言ってゆっくりとファラの頭を撫でていた手を離す。

 

「―――衛司」

 

 

「………ん?」

 

 

「――ありがとう」

 

 

「…どう致しまして」

 

医務室の扉の前でファラが振り返り笑って言うと、僕も笑ってそう言葉を返す。

部屋を出て行く時のファラの表情は…先程より明らかに変わっていた。

 

 

 

 




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第八話

 

 

――あのジョアンさんの依頼から数日がたった。

 

僕の体も今では完治し、普通に以前と同じように依頼をこなせるようになっていた。

 

 

ただ、現在……一つの問題が発生していた。

 

 

 

「――また来たんだ、この依頼」

 

 

「――えぇ。本当、どうにかならないかしら」

 

 

僕が手にした一枚の依頼書。それに書かれている内容に一緒に見ているアンジュと共にそんな言葉が出た。

依頼の内容は一つ。

『赤い煙の発生場所までの護衛』

今現在、この護衛の依頼が殺到しているのだ。

仕事が増えた事は確かに良いことだが、あの赤い煙の正体はいまだに不明なのだ。依頼者の事も考え、今この手の依頼は全て断っているのだ。

だがいくら断ってもこの依頼は止まる所か、増える一方なのである。

しかも、先日アドリビトムに入った『イノセンス』のスパーダの情報では『赤い煙は見るものによって姿が違う』らしいのだ。そして街の大衆は赤い煙に対する認識が『病気を治す』から、『願いを叶える』というものに変わっているらしい。

 

はっきり言って、それはどう考えても『危険』としか言いようがない。だが、それでも依頼は増える一方なのが現実である。

 

 

「……はぁ、本当どうにかならないかなぁ」

 

 

「……どうにもならないのが現実よ」

 

 

二人して思わず深い溜め息を吐いてしまう。

――そんな時だった。

 

 

 

『ギニャアァアァアァアァァっ!?』

 

 

 

「うおぅっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

突然艦内に響き渡るやけに聞き覚えのある悲鳴。

今のは……多分イリアの声だ!

 

 

「…研究室の方から聞こえてきたわね。どうしたのかしら…」

 

 

「分からないけど…とりあえず様子を見てくるよ」

 

 

研究室への扉の方を見てそう言うアンジュに言うと、僕は恐る恐る研究室の扉へと歩み寄る。

どうしたんだろ…。……またハロルドが何かやらかしたんだろうか……。

そんな事を考えると余計に入りたくなくなってしまうが、見て見ぬ振りもあれなのでとりあえず研究室の扉を開ける。

 

 

「あのー、なんかさっき此処からイリアの悲鳴g――「イヤアァアァァアァァッ!!」―げぶるぅあぁっ!!!?」

 

 

扉を開けて中を見ようとした瞬間、素晴らしい速度と悲鳴で『人間弾丸X』と化したイリアがタイミングよく僕の鳩尾向けて突撃した。

あまりの痛感に当たった鳩尾を両手で抑えて悶える僕。

うん、復帰早々これはないだろ…?

 

 

「――ぁ、ごめん…」

 

 

「――いや、うん、いいよ。気にしないで…」

 

 

当たった事に気付いたイリアが悶えている僕を上から覗き込むような形で言ってきたので、現在できる精一杯の作り笑顔でそう答える。

うん。正直、かなり気にしている。

 

 

 

 

 

 

「――あら。イリアが静かになったと思ったらアンタだったの。で、そこで鳩尾抑えて何かあったの?」

 

 

未だ悶えて居るところに上から聞こえてきた声に見上げると、やけに嫌な笑みを浮かべるハロルドが居た。

 

「……その笑みの通りこの現状の原因は十中八九ハロルドのせいとしかいいようが無いんだけど」

 

 

「あら、酷い言いがかりね。私はあくまで『コレ』を見せただけで、ぶつかったのはイリアなんだから」

 

 

そう言いながらハロルドは『ソレ』が入った入れ物を此方に見せてきた。後ろでイリアが再び変な悲鳴を上げて僕の後ろに隠れる。

……何故に僕。

……それにしても……

 

 

「……ハロルド。『コレ』って一体…」

 

 

「ウィルが持って帰ってきた赤い煙に包まれてたコクヨウ玉虫よ」

 

ハロルドのその返答に、嘘だと思ってしまう。何故なら、当初僕がウィルに見せてもらったコクヨウ玉虫は、まるでてんとう虫を思わせるような色合いの虫であったが、今ハロルドが見せているソレは、その色合いは無く、虫とは思えない程の岩のような甲殻に身を包まれたモノだったからだ。

 

 

「あぁ。先に言っとくけど、嘘じゃないわよ。ちゃんとウィルやリタも見てるし。それに面白いわよね。この虫、目や耳、口や鼻とか元々あった生物にあるべき物が無くなってるもの。まるで別の世界の生物みたいに」

 

本当にさも楽しげな表情を浮かべるハロルド。……本当にある意味マッドサイエンティストというか何というか……。

 

それにしても…『生物にあるべき物がない』、『別の世界の生物』…か。

……待てよ。このコクヨウ玉虫にそんな特性がある訳ない。あるとすれば……『赤い煙』!?

 

 

「ねぇ、ハロルド!この特性ってさ……もし人間に起こったら――」

 

 

「アンタが思ってる事はコッチも現在調査中よ。でも、もし発生すれば…害があるのは確実ね」

 

 

そう言った後「んじゃ、まだ観察は続けるから何か分かり次第言うわ」と言って鼻歌混じりに研究室に戻っていくハロルド。

 

 

コクヨウ玉虫に起こった謎の現象……もし本当に『赤い煙』が関連してるなら…ジョアンさん、大丈夫だといいんだけど…。

 

 

「………ところでさ、イリア。そろそろ離れてくんない?」

 

 

「行った!?あの虫とハロルド、本当に行ったのっ!?」

 

 

「行ったからさ、マジ離れて下さい」

 

 

別に嫌って訳じゃないけど……そろそろ爪が食い込んで痛いんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「――では、宜しくお願いします」

 

 

 

「――はい、分かりました」

 

 

ホールに戻って見るとやけに髭が特徴的な老人が依頼を頼んで出て行っていた。

――あれ、なんかジョアンさんの時とデジャヴ…?

 

 

「えっと、アンジュ……さっきの老人は?」

 

「あら、衛司。さっきの人はモラード村の村長のトマスさんといって、何でも村で捕まえた魔物をカダイフ砂漠のオアシスまで搬送して逃がして欲しいらしいのよ」

 

 

「捕まえた魔物を……?……そう言えばモラード村って確か……」

 

 

「えぇ。ご想像の通り、ジョアンさんの住んでる村よ。さっき聞いておいたけどジョアンさん、元気に村の仕事を手伝ってるみたいよ」

 

 

僕の問いにそう答えて、どこか安心した笑顔を浮かべるアンジュ。確かに、あの煙で本当に元気になったか不安だったが、元気だと分かれば安心するだろう。

…………あくまで村長の話が『本当であれば』だが。

 

 

「……アンジュ。その魔物の搬送依頼、僕も受けるよ」

 

 

「あら、本当?…でも、大丈夫?あなた、一応病み上がりでしょ?」

 

 

「うん。でも病み上がりだからこそ、リハビリ感覚で依頼をやっていかないと体が動かなくなるからね。それに……気になる事も出来たし」

 

 

アンジュにそう答えた後、先程トマスさんが出て行った方を見る。本来ならジョアンさんの無事は聞いたら普通に頷いていたが……流石に先程のコクヨウ玉虫の例を見た後じゃどうにも上手く頷けなかった。

それに……気のせいか何か嫌な予感がした。

 

 

 

――その後、まさかこの嫌な予感が本当に的中するとは僕は思ってもいなかった……。

 

 

 

 




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第九話

 

 

 

――やぁ、皆。最近、本当に実力がついてるか不安になっている僕こと、乾 衛司です。

 

何故、僕がこんな始め方をしてるかというと……

 

 

 

「――うわあぁあぁあぁぁっ!!イリア早く!スプレッドでもアクアレイザーでもいいから早くぅうぅぅっ!!」

 

 

「分かってるからあんまし動き回んないでよっ!狙いにくいっつーのっ!!」

 

 

「イヤ、僕達も動き回らないとこれ危ないから!本当に危ないからっ!!」

 

 

『グォオォォォォッ!!』

 

 

「「イヤアァアァアァァァァッ!!」」

 

 

現在、カダイフ砂漠にてクレス師匠と一緒にイリアの魔法や援護時間を稼ぐ為に、僕達の身の丈二倍以上は楽に超える『サンドワーム』から逃げ回ってます。

うん、現実逃避です。

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「――ハァ……ハァ……危なかったぁ…。依頼受けてオアシスルート入った瞬間サンドワームとか……不意打ちすぎる…」

 

 

数分後、僕達は息を整えながらなんとか倒したサンドワームを見ながらそんな言葉をもらした。

 

 

「ハァ……うん、確かに危なかったね。でもなんとか倒せたし、ケージも無事みたいで良かったね」

 

 

「まぁね。ケージに近付きそうになったらメリアが守ってくれてたし」

 

 

「そうだね…。……ありがとうね、メリア」

 

 

「……ん…」

 

クレス師匠の言葉を始めに、イリアがそう言うと、僕がそう言った後、メリアの頭を撫でる。

 

……それにしても……

 

 

 

「…このケージに入ってる魔物……本当に何なんだろ」

 

 

メリアの頭から手を離し、その近くになる大きめなケージに目を向けると、僕はそう言葉を出した。

 

今回の依頼の理由であるこのケージ。依頼者であるモラード村の村長、トマスさんの依頼内容の『オアシスへの魔物の搬送』。結局この依頼を受けたメンバーは僕、メリア、クレス師匠、イリアであった。

そして、カダイフ砂漠へつき、依頼を受け、魔物が入ったこのケージを受け取った際、受けた条件がある。

それは――『絶対にケージの中を見ない』事。

 

 

トマスさんが言うには薬で眠らせてあるから光で起きてしまうかもしれないらしいのだが……イリアが開けようとした時の反応がどうにも……何か隠しているようにも見えた。

それに理由も……若干矛盾点がある気もする。

 

僕の気のせいならいいんだけど……。

 

 

 

 

 

 

「う~っ!やっぱり面倒だし、暑いし、此処でパパっとケージを撃ち抜いて帰りましょうよ~っ!」

 

 

「駄目だよ、イリア!僕達の依頼は魔物の搬送であって、魔物の討伐じゃないんだから!」

 

 

ケージの前で繰り広げられるイリアとクレス師匠の数回目にもなるやり取り。

僕も正直、このケージの正体が気になっているが……クレス師匠はかなり真面目だから、中を見たくてもさっきのイリアのように止められてしまう。

 

――…と、言うか……今更だけど、なんで僕…こんなにケージの事を気にしてるんだろ…?

『赤い煙』のあんな生物変化を見た後に、直ぐに赤い煙を浴びたジョアンさんの住んでいるモラード村からこんな依頼が来たから…?

でも……もし本当に『そう』であるなら……あの村長は……

 

 

 

「――……衛司……?」

 

 

不意にそんな声が聞こえ、服の袖を引かれるような感覚に顔を向けると、メリアが心配そうに此方を見ていた。

 

考え過ぎてたのが顔に出ていたのだろうか。

 

「どうしたの、メリア…?」

 

 

「……大丈夫…だよ」

 

 

「……ぇ…?」

 

「……何か分からない…けど……皆居るから……衛司一人じゃないから……大丈夫……だよ…?」

 

 

メリアの唐突なそんな言葉に、思わず先程までの考えが止まってしまった。

僕ってそこまで思い込んでた表情してたんだろうか…。

でも、そんなメリアの言葉のおかげで、自分なりに大分表情が落ち着いた気がした。

 

 

 

「――…うん。そうだね……ありがとう、メリア」

 

 

「……ん……」

 

 

 

そう言った後、僕は手を伸ばすとそっとメリアの頭を撫でる。癖になってしまったのか最近、よく僕は人の頭を撫でている気がする。

落ち着け僕。よく考えたらそれは確実にセクハラだ。

 

撫でている対象であるメリア自身は目を細めて結構心地良さそうにしている。

 

 

「………………」

 

 

「……ぁ………」

 

 

なんとなく、手を引いてみるとメリアは小さく声を出した後、どこか心残りな表情をしてシュンと落ち込んだ様子を見せる。

何だろう……この子犬みたいな生物。

少し可哀想に見えたので再び頭を撫でると今度は機嫌良さげな笑みを見せた。

……本当になんだろうこの子。

いや、うん……普通にかわi―――

 

 

「「…………………」」

 

 

 

――今更だけど気付いたらイリアとクレス師匠が口論を止めて此方を見てた。

うん、ガン見で。

 

 

「――…ぁ、ご、ごめんっ!アンタらがまさか『そこまで』進んでるとは思わなくて……」

 

 

「ちょっと待ってイリア!絶対なんか勘違いしてるよねっ!?『そこまで』ってどこまでデスカっ!?」

 

 

「衛司…、メリアと一緒にしていたいのは分かるけど、今は依頼なんだからちゃんとしないと…」

 

 

「師匠っ!?アンタやけに『大丈夫、僕は分かってるから』みたいな顔してるけど色々分かってないからね!むしろ色々間違ってるからねっ!?」

 

 

 

「「はいはい、ごちそうさまごちそうさま」」

 

 

「アンタら武器構えろォオォォォッ!!」

 

木刀を持って走り出す僕とそれから逃げるように走り出すイリアとクレス師匠、突然始まった僕達の追いかけっこに小さく首を傾げてそれを見ているメリア。

 

依頼そっちのけで何やってんだろ、とか思ってしまったけど……メリアの言うとおり、こんな事のおかげで先程までの考えが一気に楽になった気がした。

うん……僕は、僕達は一人じゃないんだ。

 

 

因みにこの後、ちゃんと二人を捕まえて誤解である事を言いました。

その時の二人の疑うような表情に本当にイラッときたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「――此処がオアシス、か……さっきまでの砂漠地帯に比べて結構綺麗だなぁ…」

 

その後、僕達はなんとかオアシスまで到着する事が出来た。

目前に広がるそれは先程までのだだっ広い砂漠とは打って違う、少しの木々と小さな泉がある光景だった。

さっきまで砂ばっかり見てたせいか余計に綺麗に見えた気がした。

 

 

 

「ぁ~…もういいからさっさとケージ置いて帰りましょうっ!正直暑くて堪んないのよっ!」

 

 

「それもそうだね…。イリアの言うとおり、早くケージを置いて帰ろうか」

 

 

イリアとクレス師匠の言葉に小さく頷いて、ケージを泉の前まで運んでいく。

……こんなもんかな?

 

 

「――さて、それじゃ帰ろう――」

 

 

 

『ギシャアァァァァァッ!!』

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

ケージから離れた瞬間、響き渡った声に視線を向けると、どこから現れたのかケージの周りに四体のトカゲの様な魔物『サンドファング』が群がっていた。

 

 

「コイツ等……一体どこから……」

 

 

「でもアイツ等、ケージに群がってるじゃん!もう気にせず帰っていいでしょ!」

 

 

いきなりの出現に戸惑っていたが、イリアの言葉の通り、サンドファングはケージの周りに集まっていた。

確かに本来ならイリアの言葉の通り、此処は帰っていただろう。

――――だが、

 

 

 

『――う、うわぁあぁぁぁっ!?な、なんだ……揺れてるぞっ!?』

 

 

『な、何が起こってるんだっ!?』

 

 

「なっ……人の…声……っ!?」

 

突如、ケージの中から聞こえだす人の声。しかもこのどこかで聞いたことのある声は……

 

 

 

「……っ!まさか……ジョアンさんっ!?」

 

 

「えっ!?…それってこの間病気が治ったって言ってた……!?」

 

 

「じゃ、じゃあ今あのケージの中に居るのは……魔物じゃなくて……」

 

 

「…………人…」

 

 

 

メリアの最後の言葉で理解し、思わず舌打ちをしてしまう。

くそっ……案の定、やっぱり…ジョアンさんの身に何かあったんだ……!

 

 

「っ……皆、散開して一人一体の割合で早くサンドファングを倒そう!」

 

 

「そうだね……早くしないとジョアンさんが危ないっ!」

 

各々武器を持ってサンドファングに向けて走り出す。

くそっ……最悪の状況にはなってないでくださいね、ジョアンさんっ!

 

そして…戦闘は始まった――

 

 

 

 




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第十話

 

 

 

――武器である木刀を手に走る僕。標的はケージに群がる魔物『サンドファング』の一体。

 

 

「―――魔神剣ッ!」

 

 

ケージから意識を此方に向けるために放つ斬撃。それは見事にサンドファングに直撃し、此方を睨んでくる。

 

 

『キシャァアァアアッ!』

 

 

「っ……双牙ァッ!!」

 

 

奇声を上げながら、トカゲ特有な走り方で接近してくるサンドファングに、再び斬撃を飛ばす。

うん、正直キモかった。

 

二度の斬撃を受けたのもあってか、サンドファングの動きが止まる。

それを確認したと同時に僕は走り出し、サンドファングに接近する。

 

 

「ハァアァァァッ…双牙斬ッ!!」

 

 

怯んでいるサンドファングに対し、攻撃の手を休める事無く斬り下げから斬り上げの攻撃を与える。

 

サンドファングは石化とか色々厄介なので、此方としても手早く倒したいからだ。

此方の石化は本当に質が悪い。ゲームでは石化なんて簡単な戦闘異常かと考えていたのに、此方の石化は……あまり語りたくない。少なくとも、味方を石化させるのも自分が石化するのも嫌だというのは確実である。

 

 

 

「――これで……飛天翔駆ッ!!」

 

 

双牙斬を受けて上昇したサンドファングに対し、自分も飛び、トドメとばかりにサンドファングに向け急降下し、木刀を打ち込む。

 

度重なる連撃にサンドファングも効いたのか、僕が着地したと同時に、サンドファングは奇声だけを残して消滅した。

 

 

「――…ハァ……他の皆は…」

 

 

息を整え、他の皆に視線を移すと、皆もちょうど今倒したところであった。

 

 

「――皆、大丈夫みたいだね。……問題は…」

 

 

サンドファングの群れを退けケージの前に集まり、クレス師匠がメンバーを確認してそう言うと、ケージへと視線を向けて手を伸ばした。

 

 

 

 

「契約はどうすんのよ…?」

 

 

「…僕達の依頼は『魔物の搬送』だ。僕達の受けたのは『人間を捨てる』事じゃない」

 

イリアの質問にクレス師匠はそうはっきりと返すと、ケージの扉の鍵を開く。

僕達はそれを静かに見守る。メリアも少し不安なのか、不意に服の袖を引かれたので、そっと手だけを動かして頭を撫でた。

 

 

 

終始無言のままクレス師匠がケージを開く――と、同時に中から現れた二体のモノに思わず僕達は身構えてしまう。

 

ケージの中から現れたモノは……姿形は確かに人型であるが…それはまるで船で見た変化を起こしたコクヨウ玉虫のように…岩のような独特な皮膚に覆われた『ナニカ』であったからだ。

だが、その『ナニカ』が着ている服に僕は見覚えがあった。

 

 

「……まさか……本当に、ジョアンさん……ですか!?」

 

「は、はいぃ…。その声は…衛司君…ですかっ!?」

 

 

聞き返してきたその声はやはり、ジョアンさんのものであった。じゃあもう一人は…ジョアンさんが言っていたミゲルさん、か…?

 

 

 

 

 

「…どうしてそんな姿に……」

 

 

「そ、それが…私達にもわからないのです。

あの…赤い煙に触れてから、病は治って村で過ごしていたんですが……なぜかはわかりませんが、村の中にいる事がひどく居心地悪く感じる様になって…いえ、村…だけじゃなく、この世に生きている事自体に…。自分で、自分の存在が分からなくなって……自分が今まで知っている自分でない気がして……」

 

どこか苦しそうに、淡々と説明していくジョアンさん。『自分が自分でない』……?一体……。

 

 

「――そうして、次に意識がハッキリした時には檻の中でした。私は、この異形の姿になって暴れていたらしいのです」

 

「――俺も…ジョアンと同じです。赤い煙に触れて、病気が治った後…ジョアンと同じ様に体が変化を始めて…。もう、村には置いておけないと…。でも、確かに…俺の身体はもう人とは違う様だ…人の中じゃ、生きていけないんだろうよ。

――ああ、これから俺達はどうすりゃいい!?ここに残って死ぬのを待つしかねぇのか…!?」

 

 

淡々と説明した後、苦しそうに、どこか悔しそうに言葉を出すジョアンさんとミゲルさん。願いを叶える赤い煙。それを受けた結果とはいえ……いくらなんでもこんなのって……っ!!

 

自分の何も出来ない悔しさに思わず舌打ちをしてしまう。

 

――その時……。

 

 

 

「……………」

 

 

「……メリア…?」

 

 

隣で黙っていたメリアが歩き出し、二人の前で止まる。僕達が不思議気にメリアを見ていると…それは起こった。

 

 

 

 

「――ぇ……っ!?」

 

 

「「!?」」

 

 

突如、メリアの両手が光り出し、そのまま辺り一面が眩い光に包まれ、僕達は思わず目を塞いでしまう。

そして次に目を開くと……ジョアンさんとミゲルさんの姿は…先程の異形ではなく、元の人の身体に戻っていた。

 

 

「これは……っ!?」

 

 

 

「人の…、元の姿に!!ああ、あなた方には助けられてばかりです!ありがとうございます!!」

 

 

「凄い……メリア、これは…君がやったのかっ!?」

 

 

その場の全員が驚いた様子でメリアを見る。メリア自身はどこか疲れたのか…フラフラと此方に向き直る。……って、危なっ!

 

 

「……わからな……い…っ」

 

 

「メリアっ!!」

 

 

言い切り、崩れかけるメリアに駆け寄り、倒れる前になんとか支えた。

……眠ってるみたいだ。

 

 

「…よく分かんないわね。無意識なのか…コイツの力なのか」

 

 

「少なくとも…今は一旦船に戻ろう。メリアを休ませないと……ジョアンさん達も、僕達の船に来てください。ここに留まるのは危険ですから」

 

 

「は、はい…」

 

 

ジョアンさん達が頷いたのを見て、メリアを背中に背負い、僕達は船へと戻る事にした。

 

 

それにしても…メリアのあの力……多分、『ディセンダー』の力だろう。

じゃあやっぱり……今回の世界樹の敵は…あの赤い煙って事……なのかな。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

その後、なんとか船まで戻り、今回の事を説明した。メリアは医務室に直ぐ様休ませに行って、アニーがいうにはやはり眠っているだけらしく、身体に異常はなく、少ししたら直ぐに起きる程、らしい。

 

そして今回の事…コクヨウ玉虫の変化とジョアンさん達の変化。この二つによって、赤い煙が『生物変化の原因』であると確定した。肝心の人の治癒や生物変化を起こす過程は分からないままだが。

 

 

 

次にジョアンさんとミゲルさんの事だけど…アニーの診察の結果、二人は完全に元の人間に戻ったようだ。ただ、しばらくは元の村には戻れないので、アンジュが所属していたらしい教会で保護するらしい。

 

 

これで一応一件落着……とは言いたいけど……。

 

 

「――やっぱり……僕は気に入らない」

 

 

そう。僕は今回の事は正直気に入らなかった。

魔物化したとはいえ、同じ村の人間を捨てた事。それを…何も出来ないとはいえ捨てる此方側には何も伝えずにそうさせようとしたモラード村の村長の判断。

 

船に戻った当初、僕は直ぐにでもモラード村に向かって、あの村長に一言言いたかったけど…アンジュやミントに止められて、結局行くことはなかった。

 

自分が今いる世界は確かに…最近この世界に馴染みすぎて薄れ掛けてたけど…ゲームの世界なんだ。

元いた世界では絶対に起こる事のない今回のシナリオ。だからこそ…今、実体験したからこそ…今回の事に僕はイライラしてるんだろう。

 

 

恐らく……今回の敵であろう『赤い煙』。

それに対して…ただ一人の人間として…、この世界で戦うものとして……改めて、戦う事を心に決めた。

 

 

 

 




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第十一話

 

 

 

 

「ハァアァァァッ!!」

 

 

「く………っ!」

 

 

――目前で横凪に抜かれる剣閃。それを何とか避け、体勢を整えながら納刀したように持った木刀を素早く抜刀し、攻撃しようとするが…

 

 

「まだ抜刀仕切るのが遅い!裂震虎砲ッ!!」

 

 

「くぅっ!?ぐぁあぁぁッ!」

 

 

見切られたと分かった瞬間、振るった筈の木刀が弾かれ、そのまま、獅子のような一撃が僕の腹部を抉り吹き飛び、僕はそのまま、下へと打ち落とされた。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「――すまない…その、やりすぎた……」

 

 

「……いや、うん……僕が悪かったんです…はい」

 

甲板に横たわっている僕に、申し訳なそうな表情で言ってきた彼、『アスベル・ラント』に、僕は倒れたまま苦笑いでそう返した。

 

アスベルは皆さん知っての通り、『グレイセス』の主人公であり、騎士団に所属しているあの抜刀術使いの彼である。

此方のアスベルもガルバンゾ国の騎士団に所属していて、ガルバンゾ国の王女であるエステルを迎えに来た……みたいだったんだけど、エステルはそれを拒否。それで、結局エステル達と同じく暫く、このギルドを手伝ってくれるようになった。

 

それで、今どうしてこうなっているかと言うと……僕がアスベルに抜刀術を教わりたい、と言ったからだ。

 

何でか、って言うと…やっぱり僕はまだまだ弱いし、前の赤い煙の件もあり、それこそ少しでも戦える力が欲しいからだ。

 

前の世界でも抜刀術は少しかじってはいたけど…やっぱりそう簡単に出来る訳もなく、ちょうど抜刀術使いでもあるアスベルが加入したから、直々に彼に教えてもらおうと考えた。

それに……うん、正直言うと…アスベルの抜刀術には男子特有の憧れがあるからだ。

 

 

 

でもまぁ……結局はこの結果なんですがね。

 

 

「――…それにしても……衛司は凄いな」

 

 

「へ……?」

 

 

そんな事を考えていると、不意に言われた言葉に思わずそんな声を出してアスベルを見る。僕が凄い……?

 

 

「いや、そんな…僕は凄くなんか全然ないよ。さっきもズタボロだったし……」

 

 

 

「いや、君は十分凄いよ。なんだかんだありながらも、君は少しずつ、確実に俺の教えた通りに動けていってる。聞いてたとおり、やっぱり君は凄い実力の持ち主だよ」

 

 

「そう……かな?実感ないけど…そう言われると嬉しいや」

 

 

アスベルのべた褒めに思わず恥ずかしくなり頬をかいてしまう。僕が凄い…か…。本当、実感ないなー。

 

 

「さて…それじゃ、まだ続けるかい?」

 

 

「よし…宜しくお願いしますっ!」

 

 

 

 

アスベルの問いに僕は頷くと、再び木刀を持ち立ち上がって構えると、再び鍛錬を開始した。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

「――赤い煙は、最近じゃ色々な形に見える、って言ってたよね?

それって…もしかして、実態を持とうとしてるのかな?」

 

 

――アスベルとの鍛錬から数日…クラトス師匠との修行を終え、ちょうど食堂にてクラトス師匠と一緒に昼食を食べていると、その場にいたファラがそんな話を出した。

確かにファラの言うとおり、最近噂では様々な形をした赤い煙を見るようになったらしいけど…。

実態を持とうとしてる、か……まぁ、結局正体不明のままだからなぁ…。

 

「精霊なら、正体を知っていたりするかな」

 

 

「精霊かぁ…あってみたいなぁ」

 

ファラと同じく食堂にいたコハクの言葉に、僕は思わずそんな声を出した。

いや、前作でも精霊でセルシウスが出てたし、テイルズファンならば出来ればみたいもんだもん。

 

 

「でも、本当にいるかはわからないよ…。昔はいたって聞いた事あるけど、どこまで本当かわからないよね」

 

 

「精霊と交流を持つ、『ミブナの里』という場所がある」

 

 

コハクのそんな言葉に、先程まで静かだったクラトス師匠が不意にそう言葉を出した。

 

 

「…ミブナの里……師匠、それって…?」

 

 

「行く意志があるのなら、案内する。依頼として届けておこう。まぁ…衛司はちょうど先程の鍛錬の成果もみたいから出来る限りついてこい」

 

「ぅ……了解致しました」

 

それだけ言うとクラトス師匠はホールの方に歩いていった。

それにしても……『ミブナの里』かぁ…。

 

 

 

 

「――ミブナの里…、聞いた事があります。あそこは妙な昔話があるんです」

 

不意に、厨房にいたロックスさんが此方に来てそう言葉を出した。

 

 

「妙な昔話……?」

 

 

「えぇ、人がお化けになったり、動物になったりする昔話です。他にも、悪い事をしてカエルにされた男とか…」

 

 

「うわぁ……なんか…怖いな」

 

 

「ロックスも元々ヒトだったりしてね!」

 

 

ロックスさんの説明に思わず苦笑いしていると、唐突にファラが笑ってそう言った。

 

 

「えーぇぇぇ…ぇっと。何でしょうか、ヤブカラボーに…」

 

 

「ふふ、冗談だよ!ただ、ロックスってすごくヒトみたいだから。私達より頭がいいし、色んな事出来るし。何だかヒトとの違いを感じないもの」

 

 

「そ、そうですか。それは…、どうも……」

 

 

ファラの言葉を聞いて、どこか焦った様子から少し落ち着いた様子を見せるロックスさん。

……?どうしたんだろ…?

 

 

 

その後も少しロックスさん達と話をしてホールに向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「ん……?」

 

 

ホールに入ると、足下に一枚の何かが書かれた紙が落ちていた。誰かの捨て忘れかな…?

手に取って見ると……案の定、文字が分かりませんでした。

うん、そういや僕、まだ完全にこの世界の文字覚えてなかったね。

……自分で言ってて泣きたくなった。

 

取り敢えず、自分が分かる範囲で読んでみる。

 

 

 

「――えっと……『終末…近し』?…『今こそ…ディセンダーが降臨する時…ディセンダーをこの世に迎え…腐敗した世界を共に打ち砕き…輝ける未来を再建しよう』……『世界再建の要…、暁の従者』?」

 

 

読んでみて改めて小さく首を傾げる。ディセンダーを崇拝する団体……前作でいう『ナディ』みたいな存在だろうか…?

だとすると……危ない、かな?

こういうの場合…もし本当にディセンダーが居ると分かればどんな過激派な行動を取るか分からない。それこそ、前作で『マナ』を崇拝し過ぎ、負の感情に落ちた『ナディ』のように……。

 

 

「……しばらくはメリアと一緒に居るべき、かな…」

 

 

「――あら、それはメリアへの告白かしら?」

 

 

「―――ブっ!?」

 

 

 

 

突如、背後から聞こえた声に驚き振り向くと、そこにはまさに『ニヤニヤ』という擬音が似合いそうな笑みを浮かべたアンジュが居た。

 

 

「ぅ……いや、別に告白とかそんなんじゃないから……」

 

 

「あら、そうかしら?怪しいわねぇ……その紙は…?」

 

 

「ん……ただのゴミ」

 

 

僕の言葉に、依然と笑みを浮かべるアンジュは一度僕の手にしている紙に視線を向けた後、再度僕を見てそう聞いてきたので紙を丸めてそう答えた。

少なくとも…今はあまり気にする事はないだろうし。まぁ、一応警戒すべきだろうけど。

 

 

「――…そう言えばアンジュ。クラトス師匠から話、聞いてる?」

 

 

「えぇ、聞いてる。それにしても驚いたわ…精霊と関わりのある里が実際にあったなんて…。教会でも、世界樹と共に精霊を奉じるけど、私達の様な教会関係者でも精霊と会った人なんていなかったから…」

 

 

「そっか…。もし本当に精霊がいるなら…赤い煙についてまた一歩近付けるかな」

 

 

「そうね。さぁ、肝心のミブナの里へ行く方法なのだけれど、ブラウニー坑道を通ることになるらしいの」

 

 

「ブラウニー坑道を……?」

 

 

「えぇ。何でもこの前の奥地を更に深く行くとか…それじゃ、行く人数が揃うまで待っててね」

 

 

アンジュのその言葉に頷いた後、僕は準備の為に自室に向かった。

ブラウニー坑道の更に奥地かぁ…なんか嫌な予感しかしないなぁ…。

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

そして現在、ブラウニー坑道の三層目を魔物を倒しながら歩いている。

結局パーティーはクラトス師匠に僕、ハロルドにメリアとなった。…最近思うけど、僕よくメリアと結構一緒に依頼行きまくって本来の重要なイベントがなんなのか分かんなくなってきた。

いや、元から知らないけど。

それにしても……

 

 

「メリア…何でハロルド、あんなにノリノリなんだろ?」

 

 

「……さぁ……?」

 

 

僕とメリアは、ヤケにテンション高い(いや、まぁいつもだけど)ハロルドを見ながらそんな話をしていた。

 

 

 

クラトス師匠の話では確か…ミブナの里は忍者の住む里らしい。

忍者というと……やっぱり『シンフォニア』や『ファンタジア』のあの人かなぁ…。

 

 

多分、ハロルドはその忍者に興味津々なんだろう。

先程から絡まれてるクラトス師匠の顔がやけに疲れてる表情をしてる。

 

ただミブナの里で気掛かりなのは……ウリズン帝国がミブナの里の星晶《ホスチア》を狙っているらしい。

その事もあってこういう人知らない奥地の方を通らないといけないらしいけど……やっぱり心配だな。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「――あら…?」

 

 

 

四層目に入り大分奥まで来た辺りで、不意にハロルドが止まり何かを拾い上げ見ていた。

 

 

「何を読んでいる?それは何だ?」

 

 

「そこに落ちてた紙ー。新興宗教の勧誘チラシよ。こんな人のいない所まで布教だなんて、ご苦労な事よね~」

 

そう言って手にした紙を見せるハロルド。これは……確か船で拾った『暁の従者』の…?

 

 

「暁の従者…。ディセンダーの出現を待つ集団か」

 

 

「世界の危機が訪れた時に現れるディセンダー、ね~。まあ、危機の感じ方って人それぞれだろうけど、今が危機の最たる時なワケかしら?」

 

 

「どう…だろうね。世界の住人って……わざわざ人だけって訳じゃ無いけどね」

 

 

そう言っていると、隣を歩くメリアが少し俯く。やっぱりまだ分かってはないけど…一応ディセンダー…なんだし、不安なのかな?

そんなメリアの頭をそっと撫でていると―――

 

 

 

 

 

「わー!!待てっ!こらーーーっ!!」

 

多分、女性の声だろうか、そんな声が辺りに響いた。

 

 

「なぁに、今の声?」

 

 

「あの声は…!何か、異様な気配が流れてくる。先を急ぐぞ!」

 

 

そう言って走り出すクラトス師匠と後を追い走る僕達。

異様な気配って……一体……?

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

「――先程の気配はコイツか」

 

 

声のした奥地につくと、そこには大きな台座に乗った石像の魔物『ストーンシーサー』が此方を睨み付けていた。

 

 

 

「……戦う…の……?」

 

 

「恐らく、門番のつもりだろう。こいつを倒さねば、ミブナの里へは行けそうにないだろうからな」

 

「やっぱり~!これが忍びの技術なのね♪面白そうだから、相手しちゃうわよ!」

 

 

「面白そうって……まぁ、取り敢えず…要注意しながら倒さないとねっ!!」

 

 

―――僕達が武器を構えたと同時に、ストーンシーサーは此方に接近し、戦闘は始まった。

 

 

 

 




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第十二話

 

 

 

『―――――――!!』

 

 

独特の奇声を上げ、此方に接近してくる石像の魔物『ストーンシーサー』。

 

僕達はそれぞれの武器を構えて、ストーンシーサーの接近に対応する。

 

 

「行くぞ、魔神剣!」

 

 

「行け、デルタレイっ!!」

 

 

 

 

突撃してくるストーンシーサーに向け、クラトス師匠から放たれる斬撃と、ハロルドから放たれる光弾。

ストーンシーサーはデルタレイの二発を避けるも、避けた直後、魔神剣の斬撃に当たったと同時にデルタレイの三発目が当たり動きが止まる。

それが分かると僕とメリアはストーンシーサーに向け走り出し、攻撃を開始する。

 

 

「吹き飛べ!裂震虎砲っ!!」

 

 

「……滅掌破……」

 

 

 

ストーンシーサーに向け放たれる獅子の形の気と強力な気。

それは見事に直撃し、ストーンシーサーは吹き飛んだ――かのように見えた。

 

 

「……うわぁ…やっぱり……」

 

 

「ほぅ……分離…いや、元々二体で一体だったか」

 

 

そう、ストーンシーサーは確かに吹き飛んだ…が、吹き飛んだのは本体であったストーンシーサーであり、土台である魔物『シーサーチェスト』はストーンシーサーが上から居なくなったのもあってか興奮したかのように暴れ出す。

そして、吹き飛んだ筈であったストーンシーサーは何事もなかったかのように着地し、土台が無いためか回転しながら此方を睨み付けてきた。

 

 

 

「二体分離…グフフ、なんか浪漫を感じるわ~♪」

 

 

「余計な事を言っている場合か…。…本体の方は私と衛司が潰す。ハロルドとメリアは土台だ」

 

 

ハロルドが分離した二体をやけに輝いた目で見ていると、クラトス師匠は溜め息を吐いた後、そう指示する。

 

ストーンシーサーは僕とクラトス師匠を確認すると、転がるように移動し、此方に接近してくる。

それに対し、クラトス師匠は何か詠唱を始め、僕はストーンシーサーに向け走り出す。

 

 

「ハァッ!双牙斬ッ!」

 

 

接近してきたストーンシーサーに向け、木刀による斬り下ろしから斬り上げの攻撃を放つ。

 

 

『―――――――!!』

 

 

「っ!?」

 

だが、打ち込んだ双牙斬をストーンシーサーは腕をクロスさせ防ぎ、僕が着地した瞬間、その腕を回転させ、僕に向け殴りつけてきた。

 

 

「っ…本当…ああいうタイプは苦手だなぁ…」

 

 

「…衛司、下がれっ!――サンダーブレードッ!」

 

 

ストーンシーサーの攻撃を何とか木刀で防ぎきりそうぼやいていると、不意に後ろから届いたクラトス師匠の言葉にその場を退くと、強力な雷を纏った剣がストーンシーサーに向け落ち、直撃する。

ストーンシーサーは未だに健在していたが、サンダーブレードの効果もあり、動きがよろめく。

 

 

「衛司…今なら倒せる。…『アレ』で決めるぞ」

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

クラトス師匠の言葉に頷くと、僕はクラトス師匠から少し離れた位置で木刀を構える。そして、それに応えるようにクラトス師匠も剣を構えた。

目標は目の前で鈍く動くストーンシーサー。

それに向け、全力を叩き込む!

 

 

「タイミングを外すなよ、衛司!」

 

 

「はいっ!食らえ…っ!」

 

 

言葉を合図に、僕とクラトス師匠は武器を突きの体制にしてストーンシーサーに向け走り出す。

狙いとタイミングは確実。これなら……いけるっ!!

 

 

 

「「――衝破十文字ッ!!」」

 

 

声と同時に、その名の如くストーンシーサーを十字に貫く二つの剣閃。

ストーンシーサーを貫いた後、クラトス師匠と僕が武器を納めた瞬間、ストーンシーサーは音と共に崩れ落ちた。

 

 

 

メリアとハロルドの方を見ると特に難なく倒したみたいだ。

 

 

「――…ふぅ…勝ったぁぁ」

 

 

思わず気が抜けてそんな声がもれてしまった。

いや、だってまぁ、強かったですし……。

 

 

「――衛司、人工精霊を相手によくやったな。安心しろ、お前は十分強くなっている。まぁ……まだまだ鍛錬の必要はあるがな」

 

 

「はぁ……はい…」

 

不意にクラトス師匠からそんな声を掛けられつい苦笑いしてしまう。

それにしても……。

 

 

「師匠……人工精霊、とは…?」

 

 

「それは―――」

 

 

クラトス師匠が言い掛けた所で、不意に後ろから足音が聞こえ、振り返ると……そこには予想通りの人物がいた。

 

 

「――しいな。お前だったか…」

 

 

「クラトスだったのかい!久しぶりだねぇ。あいつを始末してくれて助かったよ」

 

 

そう、現れたのは、『シンフォニア』で忍者である藤林しいなであった。

しいなは此方を見てニッと笑うと口を開いた。

 

「あんた達が倒したのは、あたしが『光気丹術』で作ったものなんだ。それが扱いきれなくて暴走しちまってさ…。もしあれが外に出たら大変だったよ。本当、ありがとう。ところで、何の用だったんだい?」

 

「えっと…僕達はこの先のミブナの里に精霊に関わりがあると聞いて精霊と話がしたくてきたんですけど…会わせてもらえないでしょうか…?」

 

 

しいなの問いに僕が前に出てそう答える。しいなはそれに対しやや苦い表情を浮かべた。

…?どうしたんだろう…?

 

 

「ミブナの里の精霊かい…会わせたいのは山々なんだけど…今はもう居ないんだよ。…ミブナの里周辺の星晶が採取され始めてから、いなくなったんだ」

 

 

「ウリズン帝国か……」

 

 

「それ以外の国もだね…。奴ら、星晶ばかりじゃなく、土地にあるものを何でも取っていこうとする。ミブナの里が奴らに見つかるのも時間の問題だよ」

 

苦い表情のままそう答えていくしいな。

…遅かった、か……くそっ…どんだけ国って、自己満足なんだよ…。

 

 

「…だから、奴らが入って来れないようにって、人工精霊を作ろうとしたんだ。…でも、難しくてダメだったね。あたしなりの解釈だったんだけど、結局あの程度さ」

 

 

「んー、とりあえず、精霊への接触はムリって事ね」

 

 

「……引き、返す……?」

 

 

しいなの言葉を聞いてハロルドとメリアがそう言ってくる。

うーん…やっぱりそれしかないよね。

 

 

 

「そうだな。…一度戻るとしよう」

 

 

「待ちなよ!…クラトスが精霊を頼るって事は、余程の事なんだね」

 

 

クラトス師匠の言葉にしいなが反応してそう言うと、クラトスは小さく頷いて答える。

 

 

「そうかい…。ミブナの里に精霊はいないけど、他の地域にいる精霊についてだったら、何か分かるかもしれないよ。…里に文献があるから、後であんた達のギルドに届けにいくよ」

 

 

「本当ですか…!?あ、ありがとうございますっ!」

 

 

 

しいなの言葉に思わず僕は礼をしてしいなの手を握る。良かった…手掛かり無しにならなくて…!

 

 

 

「えっ!?あ、ああ、あんた達にはさっきの礼もあるからねっ!とと、当然の事だよっ!!」

 

少し驚きながら、何故か頬を赤らめて目を逸らしてそう言うしいな。……ぁ、いきなり手とか握ったら失礼だよね。

 

 

「兎に角、ありがとう。しいなのおかげで手掛かりが繋がったよ」

 

 

「い、いや……別にそれ程でもないよ」

 

 

 

 

 

改めてそう礼をして手を離すと目を逸らしたままそう答えるしいな。

うん、本当に良かった。

 

 

 

 

「――それじゃ、皆戻ろう……か…?」

 

 

僕がそう言いながら皆に振り返ると―――

 

 

 

「………………はぁ」

 

 

 

――僕に呆れたように額を抑えて溜め息を吐くクラトス師匠と――

 

 

 

「グフフフフ~♪」

 

 

――嫌に目を輝かせるハロルドと――

 

 

 

「……………………胸が(チッ)」

 

 

――やけに黒々しい気を放ち出すメリアがいた。

……というか、メリア…なんか言わなかった…?

 

 

……取り敢えず……なんでさ……?

 

 

 

――そんなこんなで……しばらくはしいなの乗船待ちになる事になった…。

 

 

――追記、メリアが帰り際…本当に怖かった。

 

 

 

 

 

 




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第十三話

 

 

 

「オラオラッ!左手がお留守だぞっ!」

 

 

「くっ!っぅ……!」

 

 

迫り来る剣閃の連撃。それを手にした木刀と剣で何とか防ぎ、直ぐ様攻撃をしようとするが……

 

 

「よっと…当たらねぇな」

 

 

ひらりと簡単に避けられ再び剣閃の連撃が始まる。

くそっ……扱いにくっ…!

 

 

 

「そらよ、右側がお留守だっ!」

 

 

「しまっ……がぁっ!!」

 

 

 

僅かに出来てしまった隙。それを突かれ、僕はその場へと崩れた。

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――…おーい、大丈夫か?」

 

 

「――は…はぁ……大丈夫です」

 

 

甲板に倒れている僕を見下ろような形でそう言ってきた、先程までの鍛錬相手であったユーリの言葉に、倒れたまま苦笑いして僕はそう答えた。

 

「まぁ…これでお前が二刀流に向いてないのはよく分かったな」

 

 

「はい……仰る通りに御座います」

 

 

笑いながらそう言ってくるユーリに苦笑いしたまま僕はそう返した。

うーん……一刀なら結構動くのに…やっぱり二刀となると両方に意識が持っていけずに、どうしても片方が開いてしまう。改めてスパーダとか凄いなぁ。

 

 

「んー……もう少し頑張ってみるかぁ…」

 

 

「おいおい、確かに頑張るのはいいが、お前、最近あんまり休んでねぇんじゃねぇか…?」

 

「え……そう、かな……?」

 

 

「そうだろうが。昨日はアスベルと一日中鍛錬やって、一昨日はクラトスと鍛錬した後、依頼行ってただろ?」

 

 

「あ、あれ………」

 

 

ユーリのそんな言葉に思わずそんな声を出してしまった。うわぁ……全然覚えてなかった…。

 

 

「ったく……やっぱりな。…いくら今手掛かりが見つかってリタの解析待ちだからって張り切り過ぎだっつーの」

 

 

「はぁ……本当にすいません」

 

 

ユーリの言葉にそう言葉を出す。

ユーリの言ったとおり、あのミブナの里の一件からしばらくして、精霊の手掛かりである文献を手にしいなやロイド達『シンフォニア』一行と『ファンタジア』のすずが、この船に来航、ギルドに所属する事になった。

 

それで、肝心の文献は暗号化されてて、解読待ち。ついでで、リタの研究だった『ソウルアルケミー』っていうのが、『光気丹術』と同じかもしれないって事でそれも解析待ち。

今のところ、赤い煙の情報も来ていない。

つまるところ、現在暇なのだ。

 

 

「……幾らその解析待ちだからって、解析終わった後にこっちが動けなきゃ意味ねぇだろ。…ったく、昼からの鍛錬は無しだ。しっかり休みやがれ」

 

 

「…はい。…ありがとうございました」

 

 

「おうよ。風邪ひかねぇ内に船に入れよ」

 

そう言って軽く手を振って船内に戻っていくユーリ。

…やっぱり凄いなぁ、ユーリって。

 

 

「――さぁて……どうしよ…」

 

 

僕は甲板に倒れたように寝転がったまま、空を見上げて思わずそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「――……あれ、カノンノ?」

 

 

「――ぁ…衛司」

 

 

やることもなくなり暇となったので、船内を歩き回り操舵室に上がると、そこには操舵室の窓から外を眺めているカノンノが居た。

 

 

 

 

 

「あれ、衛司…今日は昼から鍛錬じゃなかったの…?」

 

 

「いや、休みを貰っちゃって……カノンノはどうしたの…?」

 

 

「私は……これだよ」

 

僕の問いにそう言うと手に持ったスケッチブックを見せてきたカノンノ。ああ、成る程……。

 

 

「また絵、描いてたんだ」

 

 

「うん。今日はこういうのなんだけど、どうかな?」

 

 

そう言ってカノンノはスケッチブックを僕に渡してきた。

最近は本当に、カノンノは描いた絵を僕やメリアに記憶の手掛かりになるかもしれない、とよく見せてくれる。

メリアの場合は確かに記憶喪失……と、言うかディセンダーの初期状態みたいなもんかもしれないから、手掛かりになるかもしれないけど……僕の場合はちゃんと記憶があるので…なんか騙している罪悪感が堪らない。まぁ…それでも、カノンノの描く絵の鮮明さについつい目が行ってしまうところはある。

 

 

 

そんな事を考えながらも渡されたスケッチブックのページを捲り出す。うん…やっぱり分からないけど……結構綺麗に描けてるなぁ…。

 

 

 

「――…衛司は、凄いよね」

 

 

ページを捲り見ていると、不意にカノンノからそんな声が聞こえ、顔を上げて思わず首を傾げてしまう。

 

 

「……凄いって……僕が…?」

 

 

 

「うん。いつもクラトスさんやセネル達の鍛錬をやって、依頼をこなして、かなりキツい筈なのに、いつも楽しそうに笑ってて……凄いなぁ、って」

 

 

「はは……。…僕は別に凄くなんてないよ。クラトス師匠やセネル達の鍛錬も、僕がまだまだ皆より弱いから頑張ってるんだし、依頼も当然の事だし……全然凄くなんてないさ」

 

 

カノンノの言葉に苦笑いしながらそう言葉を返す。事実、僕の実力はきっとまだまだ低い。だから鍛錬するのも当然の事だし、それで依頼をこなすのも至って当然だと思っている。

そんな僕の言葉にカノンノは小さく首を横に振る。

 

「ううん、それでも衛司は凄いよ。それに、衛司は私たちより弱くなんてないよ。私から見たら……衛司は多分、戦い方次第でユーリと同じ…くらいだと思うよ?」

 

 

「そう……かな……?」

 

 

 

カノンノの言葉に思わずそう言って頬をかいてしまう。だって、今まで鍛錬でいい感じにボッコされてるのに、他者からそう言われるのは初めてであり、かなり意外だったから。

 

 

 

 

「そうだよ。だから…衛司は自分に自信を持とう。衛司が思っているより、きっと衛司自身には強さがあるって、私は思ってるから」

 

 

 

 

そう、僕を真っ直ぐと見て、少し頬を赤らめながら言葉を出したカノンノ。

自分に自信を持て…か…。

 

 

「そう……だね…。うん…ありがとう、カノンノ。なんか…元気貰っちゃったみたいで」

 

 

「ううん。どう致しまして、だよ」

 

 

 

そう言った後、二人して笑い合う。

そして、僕はスケッチブックをカノンノに渡す。

 

 

「……カノンノ」

 

 

「………?」

 

 

「いつになるか…分からないけどさ……僕、カノンノや皆を守れるぐらいに強くなるよ、絶対に」

 

 

そう自分の決意を言って小さく笑っておく。カノンノは少し呆然とした後、何故か顔を真っ赤にしてあわあわとし始めた。

 

そんな様子を見ていて少し楽しく思ってカノンノの頭を撫でておいた。

 

 

――この世界にいて、やっぱり不安もあるけど……それでも、この世界にきて良かったと思った。

 

 

 

 




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第十四話

今回は最後に若干オリジナル展開ありです。


 

 

 

「――……あれ…あれって……?」

 

 

――クラトス師匠との朝の鍛錬を終わらせ、甲板からホールに入ると、何やら神妙な面持ちでメリア、アンジュ、メルディ、ハロルド、リタといったメンバーが揃っていた。

 

 

「――…どうやら、ある程度の解析が終わったようだな」

 

 

「そのとーり。どうやら、光気丹術は憶測通り、ソウルアルケミーの一端だったみたいよ」

 

 

隣に居たクラトス師匠の言葉の後、ハロルドが此方に気付いたのかそう言いながら此方に近付いてきた。

ソウルアルケミー……確かリタが研究してた魔術の曙…だっけ?

 

 

 

 

 

「えっと……それで……?」

 

 

「一応調べて分かった事は、生物全てに『ドクメント』があるって事ね」

 

 

「…『ドクメント』……?」

 

 

「そね、まぁ直接見たほうが早いわね」

 

 

知らない単語に思わず首を傾げるとハロルドはそう言ってリタ達の元へと歩いていき、僕とクラトス師匠もそれについて行く。

そして少しして、リタがメルディに手を伸ばすと――

 

 

 

 

「――……ほぅ」

 

 

「――…これは…!?」

 

 

「………輪っか…出た…」

 

 

メリアが言ったとおり、突如、奇妙な音と同時に、メルディの体の周りに数個程の白色の光の輪が現れた。

 

 

 

 

 

「――これが、ドクメント。これの場合はメルディの情報、あるいは設計書みたいなものと思って。物質はまず、このドクメントというエネルギー体ありきなの。自分の設計書を持って、皆生まれてくる。これは生命の営みでもあるの」

 

 

「……こんな輪にそれ程……すごいな」

 

 

リタの説明を聞きながら思わずそんな言葉が漏れた。だって確かに大きいけど、こんな細い輪に人の情報が詰まっているなんて想像もつかない。

 

 

「驚くのはまだこれからよ。これをさらに細かく見ると……」

 

そう言って、リタは何かを呟くと、先程現れた輪の周りにもう一つ大きめな白い輪が現れた。

 

 

「これは潜在能力とか、病気になりうる要素とか、設計書のさらに細かい所ね。ドクメントと物質体は互いにフィードバックしあってるの。治癒術ってのは、実はここに干渉して傷や疲労を治したりするの」

 

 

「いわゆる『呪い』って奴も、実はこのドクメントに干渉して相手にダメージを刷り込むわけ」

 

 

リタの説明に続け、ハロルドがそう続ける。ドクメント、かぁ……本当に凄いな……。

 

 

「このソウルアルケミーはドクメントをいじったり、作り出したりする技術。ミブナの里に伝わる人工精霊もこれの応用よ」

 

「ドクメントをいじるって……大丈夫なの?」

 

 

「ドクメントの中の、ヒトをヒトたらしめている設計をいじる事が出来るんだもの。それは…ヒトの存在や形を変えてしまう事も出来るかもしれないわね」

 

それって色々ヤバいんじゃ……って……つまりそれって……。

 

 

「成る程な。つまり、今起きている生物変化は、この仕組みで起きているかもしれない、という事か」

 

 

「現段階じゃ正解って事かしら。じゃあ、ドクメントを閉じるわね」

 

 

クラトス師匠の言葉にリタが頷いてそう言った後、メルディの周りに出ていたドクメントはゆっくりと消えていった。

 

 

 

 

 

「――う~……メルディ、何か、クラクラするよ~」

 

 

「……大丈夫……?」

 

 

ドクメントが消えたと同時にフラつくメルディをメリアが支える。

それを見たリタは苦い表情を浮かべた。

 

 

「ごめん。無理をさせてしまったわね。本来、不可視のものを、今は無理矢理可視状態にしてるから、被験者には負担がかかってしまうのよ」

 

 

「細かいドクメントの展開も危険ね。本当は細かいトコまで解析させてもらいたいけど」

 

 

そう説明していくリタとハロルド。そうなんだ……それじゃ人工精霊は…?

 

 

「それじゃ…人工精霊はどうやって出来てるの…?」

 

 

「人工精霊の場合は、人工的にドクメントを作り出すところから始まるわ。ドクメントは、精妙な非物質エネルギー。術者の念、自然界の気なんかを掛け合わせてドクメントを作るの。んで、その人工ドクメントエネルギーの振動数を、濃密な状態へ落とすと実体化するってワケ。

あ、ほら。聖者が何もない所から、食べ物や衣類を出して人々に与えたって話とかあるでしょ?あれは、この技術の為と言われてるわ。マナ、自然界の気、術者の意識を持って非物質状態でドクメントを構成して。そのドクメントの振動数を落としてやると物質になっていくのよ」

 

 

 

ハロルドの長い説明に頭がこんがらがったいく気がした。ただ分かったことと言えば……それってどんだけ凄い事だよ。

 

 

「でも……実質そんな事って…」

 

 

「まあ、術者の精神力や技量によってまちまちよ。そこまでの力を持つ様な精神力の持ち主は滅多にいないと思うわ。この技術は、そうそう簡単に使えるもんじゃないわね」

 

 

 

 

「……だよね。そんな事出来る人がいればそれこそ大騒ぎだし…だからこそしいなの人工精霊も暴走したんだろうね」

 

 

シリアスな空気の中、不意に『どうせアタシなんか……』とか聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――……リタ、ハロルド…ちょっとお願いがあるんだけど」

 

 

ホールに集まっていた面々が解散した後、僕はリタとハロルドについて研究室に入り、二人の前でそう口を開いた。

 

 

「――何よ急に改まって…面倒事なら勘弁よ」

 

 

「それで、なになに~お願いって?新しい薬の実験台になってくれるなら喜んで聞いてあげるけど♪」

 

リタが面倒そうに、ハロルドが楽しげな笑みを浮かべながらそう言ってきたが、僕は真剣な表情で二人を見る。

僕のお願い……それは先程のドクメントの説明を受けて…自分自身に気になった事…。

 

 

 

「僕のドクメントを……展開して欲しいんだ」

 

 

「……アンタ、さっきの話聞いてた?どうせ、アンタの記憶の事についてだろうけど…これは、調べる対象に相当な負担が掛かるのよ?それこそ記憶なんて事になったらどんだけ深く調べるか……――」

 

 

「ううん。別にそこまで調べなくていい。ただ……展開してくれればいいんだ」

 

 

 

「……どういうこと…?」

 

僕の言葉にリタが先程までの面倒そうな表情から一気に表情が変わりそう聞いてくる。

それもそうか…いきなり現記憶喪失設定の僕がそんな事いいだしたらなぁ…。

でも………。

 

 

「……理由は上手く言えない。だけど…お願い。少しの間でいいから、展開してください」

 

 

「……アンタねぇ…」

 

 

「いいんじゃない?展開してあげれば」

 

 

僕の言葉に、どこか怒ったように見えるリタが言いかけた時、ハロルドがそう口を開いた。

 

 

 

「調べられる対象がどうなるか本人も知ってのその言葉だし。それに、衛司の場合はこうなったらだーいぶ諦めないわよ」

 

 

「……分かったわよ」

 

 

 

ハロルドのその言葉に、リタは一度深めな溜め息を吐くとそう言って僕の前に立った。

…良かった……後でハロルドに感謝しとこう。

 

 

「……先に言っとくけど、アンタも知っての通り、ドクメントを展開される対象はそれなりに疲労するから、辛くなったり、気分が悪くなったら直ぐに言うこと。分かったわね?」

 

 

 

「うん…。宜しくお願いします……」

 

 

リタの言葉に僕は頷いてそう言った後、ゆっくりと目を閉じる。自分なりの意識集中である。

因みに現在、研究室には僕とハロルドとリタしかいない。

もしも僕の考え通りなら……この事実を知るのは出来る限り少数がいいからだ。

 

そして目を閉じて数秒後、自分の周りに奇妙な音が聞こえた気がした。多分、ドクメントが展開されたんだろう。

そして――

 

 

 

「――…嘘……何よ、これ…」

 

 

「――ふぅん……成る程ねぇ…」

 

 

少しして聞こえ始めた、驚いた様子の声と、意味深に調べるような声。

そして、僕はゆっくりと目を開けると……――

 

 

「……やっぱり、か…」

 

 

僕の周りに展開されたドクメント。それは先程、メルディに展開された白く、綺麗な輪ではなく――今にも崩れそうに脆く、やや灰色に近い物であった……。

 

 

 

 

 




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第十五話

 

 

 

 

「――……それで、さっきのドクメント…あれはどういう事なの?」

 

 

 

 

――ドクメントの展開を止め、そうやや強く言ってくるリタ。その隣でハロルドは興味深そうに僕を見ていた。

 

……どう説明すればいいかなぁ…。

この二人、くさっても『天才』だから、多分曖昧な誤魔化し返答は聞かないだろう。

 

 

 

 

「……えっと…信じてもらえるか、分からないけど…これから僕が話すのは…僕自身の話だから…」

 

 

そう言って、真っ直ぐと二人を見る僕。

 

元々、この話の始まりを切り出したのは僕自身なんだ。先程のドクメントの状態も詳しくは分からない今は……ある程度話す必要があるだろう。

僕の言葉に、二人はゆっくりと頷いた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

――それから、僕はある程度の事を二人に話した。

 

僕が別の世界から何らかの方法で来てしまった事。

 

僕にはちゃんと、記憶がある事。

 

ただ、僕がこの世界に来た発端である『あの事故』の事と、この世界……『レディアントマイソロジー』の世界樹という一つのシステムの事は話していない。

 

後者の方は今までの『マイソロ』のストーリー上、きっとこれから分かっていく事だろうから僕が話すべきじゃないだろうし……前者の方は、正直…話す気にはなれないから。

 

 

 

「――この世界とは別の世界から、ね……。…普通なら俄かに信じられないわ」

 

 

「……ですよねー」

 

 

僕の話を聞いて、そう言ってきたリタに思わず苦笑いしてしまう。

まぁ、まだマシなリアクションだよね。いきなり『実は僕、この世界とは別の世界から来ました』なんて言ったら普通は痛い目で見られるかドン引かれるもん。

 

 

「……でもさっきのドクメントを見る限り…その普通じゃないって事は分かったわ」

 

 

「……と、言いますと?」

 

 

「少し前に言ったとおり、ドクメントはそのものの『情報』や『設計書』みたいなもんよ」

 

 

「つまり、アンタのドクメントからは、この『ルミナシアの世界で生まれた』、っていう情報の入ったドクメントが全く見えないって事よ。それから考えれば、アンタが『別の世界』から来たっていう話には納得出来るわ」

 

 

「そっか……良かったぁ、信じてもらえて…」

 

 

リタとハロルドの説明を聞いて、僕はそう言って一安心する。一応、信じてはもらえたようだ。

 

 

「……ただ、色々と問題も見つかったのよね」

 

 

「……問題……?」

 

 

「アンタのドクメントの状態よ。正直、ドクメントの状態が悪すぎるのよ。さっき見たように…アンタのドクメントはボロボロで、情報を見る事も、調べる事も出来ないの。下手に調べたりしたら、それこそドクメントに余計な損傷を増やして、アンタの身体に何か起こし掛けないからね」

 

 

 

 

そう言って、少し俯くリタ。確かに、僕のドクメントの状態は酷かった。メルディのような形は保ってなくて、今にも壊れそうな感じだったからなぁ…。

 

何故あんな感じになったのかは……多分……。

 

 

「何でああいう状態になったのかの詳しい理由は正直私達も分からないわ。考えうる例を上げるとすれば、このルミナシアに来た際の影響が原因、とか、このルミナシアの特殊な何かがアンタのドクメントに干渉しているか、とか…例を上げだしたらきりが無いわ。少なくとも、これからしばらくは研究室に来て、私やリタに体の状態を教えること。分かったわね?」

 

「うん……分かった。ありがとうね、色々と…。出来ればこの事は他の皆には…教えないでいてね」

 

 

ハロルドの説明を聞いた後、小さく頷くと僕はそう言って礼をした後、研究室を出ようとした。

 

 

「――アンタ……いつまで皆に隠すつもり…?」

 

 

ハロルドのその言葉に、足が止まる。扉の方を見ているため、表情は分からないけど…その声からはいつもの楽しげな様子は感じられなかった。

 

 

 

 

 

「…多分、ハロルド達の説明を聞いても、信じてくれる人はあんまり居ないだろうしね。…もうしばらくは……隠すつもりだよ」

 

 

「もうしばらく、ねぇ……。…アンタにはその『もうしばらく』は決まってるの……?」

 

「……どうだろう、ね……」

 

 

ハロルドの意味深なその言葉に、僕はそう応えて、研究室を後にした。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――『もうしばらく』、か…ハロルドには若干気付かれてるのかなー?」

 

 

――甲板に上がり、僕は海を眺めながら先程のやり取りを思い出してそう、呟いた。

ハロルドは…多分僕が、この世界の成り立ちを少し知ってる事に、薄々感ずいているんだろう。

僕の説明って若干ボロ出てたんだろうか…?でも、まぁ…実質僕はこの『レディアントマイソロジー3』の世界の事に関しては正直全く分からないので、気付かれても答えにくいんだが…。

 

 

 

 

 

ただ、一番僕が気になってるのは――

 

 

「『状態が不安定なドクメント』、かぁ……」

 

 

自分のドクメント。あまりにも不安定で、今にも壊れそうに見えたソレ。元々当初、僕自身は僕という存在に、ドクメントがあるのか無いのか。はたまたどういう形なのか。それが気になってハロルド達にドクメントの展開を頼んだのが……今回の状態は流石に予想外だった。

ハロルドはその状態の理由は例を上げれば様々ある、って言っていたが……。

 

 

「……多分……もしかしたら……っ!!」

 

 

一瞬、自分がこの世界に来た理由である『あの事故』を鮮明に思い出し、急に来た吐き気に思わず口元を抑える。

 

 

 

ドクメント。

それはものの『情報』や『設計書』、つまりは『生』に関係している。

それが崩れそうな形を保っているという事は…少なからず、僕の『生』が関係しているんだろう。

 

そしてそれを不器用なりに深く考え、考え、考え尽くした結果、行き着く答えは――

 

 

『現実の世界の僕は、僕という存在はあの事故で―――』

 

 

「っ!!……止めよう……考えるのは…似合わないし」

 

 

行き着いた自分なりの『答え』を否定するように首を振ってそう呟いた。元々、この世界に来た時点で、現実の世界に帰れるかどうか、っていう思考は半分諦めてたし…。

 

 

「……よし、止めた。頭痛いし、ロックスやユーリの作ったお菓子食べて、寝よっと」

 

再び考える思考を止めて、ぐっと両手を空へと伸ばして呟くと、僕は食堂へと向かう事にした。

 

 

 

――現実の世界で、僕が…僕という存在がどうなっているかは分からない。

だけど……今、僕は此処で生きているんだ。

 

そう、僕は自分に言い聞かせ続けるのだった。

 

 

 

 

 




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第十六話

 

 

 

「――……ルバーブ連山に…?」

 

 

「……ん……」

 

 

――食堂にて、僕の聞き返すような答えに、メリアは小さく頷いた。

 

何がどういう事か、というと…どうやら、あの『願いを叶える存在』がルバーブ連山に居る、という話が入ったらしい。

それで、これ以上一般人をソレに接触させるのは危険、と判断したアンジュが、その『願いを叶える存在』がいるルバーブ連山に数人程派遣したいらしいのだ。

 

それで、メリアがそのメンバーの一人にしたい、と現在、ロックスさんに料理を教わっていた僕を誘いに来たのだ。

 

『願いを叶える存在』が、かぁ……どうしよう。

 

「――行ってきてはどうです?メリア様もその方がいいようですし」

 

 

 

 

「え……、いいの、ロックスさん?」

 

 

「えぇ。この料理は後は味付けぐらいですし……帰ってきた時に教えてあげますよ」

 

 

「うん、…ありがとう」

 

 

ロックスさんのその言葉に、ちょっと嬉しくなってそう礼をする。ロックスさんに料理を教わるのは結構楽しみながらできるからいいんだよなぁ。

でも、何故か教えてもらえる料理は油物とか結構カロリー高めな物が多かったりする。

 

 

「……衛司……行く…?」

 

 

「うん、僕も気になるからね。僕もついて行くよ」

 

 

「……ん……」

 

小さく首を傾げながら聞いてきたメリアにそう応えると、メリアはどこか嬉しげに頷いて僕の袖を引っ張り歩き出した。

最近、やけになんというか…メリアのスキンシップがこういう感じに強くなってきてる気がするんだけど……どうしたんだろ……?

 

 

それにしても……『願いを叶える存在』か…本当、一体何なんだろか。

兎に角……行ってみれば分かること、かな。

 

 

 

――――――――――――

 

 

「――……はぁ…相変わらず、ルバーブ連山って、登りは本当にキツいなぁ」

 

 

「んー?そうかー?俺はまだまだ元気だぜ!」

 

――ルバーブ連山の山頂ルートを登っている中、ふとこぼしてしまった言葉に、隣を平然とした表情で歩くティトレイが笑いながらそう言ってきた。

 

ルバーブ連山に派遣されたメンバーは僕、メリア、ティトレイ、メルディの四人であった。

それで、当初は、今まで扉があった山頂ルートの手前までかなー、と考えていたら案の定、山頂ルートへの扉が解放されており、もしかしたら既に『願いを叶える存在』を求めて人が入ったかもしれない、との事から山頂まで向かう事になった。

流石に山道でしかも山頂までのルートなので、会話を繋げながら僕達は山道を登っていた。

例えば…『一番効率のいい練習方法』とか、『異性に作られて喜ぶ料理』とか、『ティトレイ、シスロリコン疑惑』だとか。

詳しい詳細は載せないでおこう。

 

 

けどやっぱり山道は山道。キツいもんはキツいんである。まぁ…クラトス師匠の鍛錬に比べればまだマシだが。

 

 

 

 

 

――それにしても……

 

 

 

「……さっきので何人目だっけ?」

 

 

「……六人目……」

 

 

「ったく。大層な野郎共だぜ、全く」

 

 

先程までこの山道を登る最中、無謀とも言える装備で山道を登っていた人達を思い出しメリアがその人数を言うと、ティトレイは呆れたような、どこか怒っている様子で呟いた。

登っていた皆が皆、『願いを叶える存在』に会うためにこの山道を登っているのだ。

 

 

 

 

「ティトレイ、何か怒ってるか?」

 

 

「あぁ、大して努力もせずに、夢を叶えようってヤロウを見るとムカムカするんだよ。正直、さっきまで会ってた奴ら、一発ずつ殴らせろって思ったくらいだ。ああいうヤロウ共は、何でもしてもらって当然って思ってやがる。だから、他人の大事なものを平気で踏みにじって、奪い取れるんだよ」

 

 

メルディの問いに、そう、見ていてイライラしているのが分かるように、言葉を出すティトレイ。

確かに……先程まで会っていた一般人は『億万長者になりたい』等々、自分の欲を丸出しにしていた者達ばかりだった。

 

 

「……でも…確かに、後者や、大した努力もせずに夢を叶えようって言うのは気に入らないけど……もし本当に願いが叶うのならって思うと…僕もさっきまでの人達を否定はできないかもしれない」

 

 

「……どういう事だ?」

 

 

僕のふと出した言葉に、ティトレイが少し怒った様子でそう聞いてきた。

 

 

「うん……さっきも言ったけど、確かに他者から奪い取る事や、大した努力もしない人の事は否定するよ。……でも、逆にさ……頑張って努力しても上手くいかない人や、奪い取られた側の人は、こういう話が来ると多分、…ううん、きっと望んじゃうよ。『こんな不運な自分に幸運を』って、感じにさ…」

 

 

そう、言わばそれは一種の麻薬だ。効力だけ聞いて、副作用を聞かずに服用した人間と同じ、一度入れば抜け出せず、それは服用する人間が今まで不運である程、効力は高くなる。

そして今と同じように…噂となり、広まり、服用する人間が多くなって来るだろう。

 

だからこそ……。

 

 

 

「――…だからこそ、此処で何なのかを見極めて、今流れているこの現状を少しでも止めないといけないんだ」

 

 

「……あぁ、そうだな」

 

 

僕の言葉に、ティトレイの他、メルディとメリアも頷いて、再び山頂に向け歩き出した。

 

 

そう、他の何よりも早く、『願いを叶える存在』を止めるために――。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――…ッ…霧が…」

 

 

しばらく山頂ルートを登っていると、徐々に霧が濃くなっていき、広い場所についたと思えば霧が更に濃くなってきた。

山頂……じゃ、ないみたいだけど……。

 

 

「――…おい、ありゃ何だ?」

 

 

不意に、ティトレイから出た言葉に、その視線の先を見ると、前方の濃い霧の中に、赤い何かを周りに纏った人影らしきものが見えた。

 

 

「バイバ、光ってるよ!」

 

 

「あれは……一体……」

 

 

思わず目前のそれにそんな言葉が見えた。霧が濃いためよくは分からないけど…多分、あの『願いを叶える存在』だろう。

……って事は、赤い煙が此処まで変化したって事…?

 

そう考えていると、突然それは歩き出し、此方に近寄ってきた。どうやら……メリアに歩み寄ってきたみたいた。

 

 

「………………」

 

 

「多分……大丈夫、だよ。メリア」

 

 

不安になったのか袖を握ってきたメリアに、目前に近寄ってきた赤い人影を見てそう言う。

攻撃してこないって事は……、危害を加える気はない……のかな?

 

そして、メリアが少し警戒しながら、ゆっくりと赤い人影に歩み寄ろうとした時であった―。

 

 

『いたぞ!!ディセンダー様だ!!』

 

 

突如、後ろから聞こえだした大声に全員が振り向くと、何か変わった服装をした二人組が現れた。

ディセンダー…様…だって?

思わずメリアを自分の後ろに隠すように下がらせる。

 

 

「願いを叶え、全ての者を導き給うお方。ディセンダー様!やはり、降臨されていたか!」

 

 

興奮したように大声でそう言う一人。まさかあの人達が言ってるディセンダー様って……この赤い人影っ!?

それにディセンダー様って口振りからすると…この人達、例の『暁の従者』か!?

 

 

「我々の救世主をお運びするぞ!」

 

 

「ちょっと待てよ!コイツがディセンダーだって確証はあるのか?うかつに接触しない方がいいぜ!!」

 

 

「何だ、お前達は。邪魔をするな!!」

 

「その方こそが、貧しき者を救いに導き、私欲に肥え膨れ、堕落した大国の者共を成敗する為に降臨したディセンダー様だ!!」

 

ティトレイの言葉に、強い言葉でそう言い出す暁の従者の人達。この喋り方からすると……相当、酔ってるみたいだな…。

しかもタイミングが最悪だ…こんなに崇拝に酔ってる団体が…偽物とは言えディセンダーって言える存在を見つけたとなると……ヤバいなぁ。

 

 

 

「ちょっと待って下さい!アレが本当にディセンダーっていう確証が無い今、アレを下に下ろすのは危険ですっ!!今、もしかしたらアレは、この世界の生物全てに害を成す危険な存在かもしれないんですっ!!」

 

「貴様ァっ!ディセンダー様を侮辱するか!!」

 

 

「違いますっ!まずは落ち着いて、こちらの話を聞いてくださいっ!!」

 

 

「黙れっ!さては貴様等、ディセンダー様を私欲の為に独占する気だな。ならば、これでも食らえ!!」

 

 

僕の言葉に、暁の従者がそう言葉を出したと同時に、只でさえ霧が濃い場所に、光が広がった。くそっ……閃光弾かっ!?

 

 

「――ああああああっ!!光ってる奴がいねえ!」

 

 

ティトレイのその声に目を開くと、その場には先程までの赤い人影や、暁の従者の姿はなかった。

 

 

「イナイよー。連れてかれたな!」

 

 

「急いで戻って報告だ!アレが人の手に渡ったんだ。えらい事になるぜ…」

 

 

ティトレイの言うとおりだ。…しかもあの赤い人影が、ディセンダーを崇拝する暁の従者に渡った以上……状況は最悪な方に転がり出しただろう。

 

 

そして、この事をアンジュに報告して数日後、それは案の定、最悪な事態へと転がっていた。

 

 

 

 

 

 




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第十七話

 

 

――あのルバーブ連山の出来事から数日、事態は大きく進展していた。

 

まず一つ。リタの研究で、以前から生物変化をしていたコクヨウ玉虫のドクメントが侵食されている事が分かった。

それで分かった事は、赤い煙はこの世界には存在しない『異質なドクメント』という事であった。

しかも自分も相手も、ドクメントを自在に変化させてしまう。それはまるで、『願いを叶える』事によって相手の想いに触れ、ドクメントを覗き見、学び、進化しているようにも見えるらしい。

 

 

そして、もう一つ。それは……。

 

 

 

「――国の方でそんな事が……」

 

 

「――えぇ、相当、大変みたいよ」

 

アンジュから聞いた話に僕がそう呟くと、アンジュはそれに溜め息して応えた。

 

つい先程このアドリビトムに来た、『ジアビス』で有名なジェイド、ティア、ナタリアの国、『ライマ国』で、『暁の従者』の導引による、暴動が起こったらしいのだ。

聞けば、暁の従者の信者は皆、人を超えた異様な力を持っていたらしく、国民はそれによって信者に煽られ、城を攻めたらしい。

異様な力……多分、あの赤い人影から受け取ったんだろう。

 

 

『――貴様等、ディセンダー様を私欲に使い、独占する気だな!?――』

 

 

不意に脳裏をよぎった、ルバーブ連山で暁の従者に言われた言葉を思い出して舌打ちする。

 

 

くそっ……独占して私欲に溺れてるのは…アンタ達の方じゃないかっ!!

 

 

「――それで、ジェイドから話を聞いて暁の従者の拠点が分かったわ。それで今、その場所に向かうのにメンバーを決めてるんだけど……衛司はどうする?」

 

 

僕が小さく俯いていると、アンジュがそう言葉を出した。

暁の従者の拠点……多分、あの赤い人影の正体が今度こそ分かるんだろう。

だけど……僕はそれ以前に……。

 

 

「――うん、それじゃあ、僕も行くよ。『暁の従者』に……面と向かって、はっきり…言いたい事があるから」

 

 

僕の返答に、アンジュは一言、『分かった』と言うと他のメンバーを探しに歩き出した。

そう、僕はただはっきりと、あの暁の従者に言わなきゃいけない……『国の為を思ってディセンダーの力を借りて、国を救おう』と言う言葉の『矛盾』を言ってやる為に…。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

――『アルマナック遺跡』。過去にディセンダーを祀っていた遺跡らしく、暁の従者は此処を拠点にしているらしい。

 

結局、メンバーは僕、メリア、アンジュ、ジェイドとなった。

 

 

それにしても……。

 

 

 

「…………なぁんか……イライラする」

 

 

思わず、溜め息を出すと同時にそんな言葉が漏れた。

つい先程、このアルマナック遺跡に入って暁の従者の会話を立ち聞きしたけど……『手から金を出した』、『裏切り者に罰を与えて下さいと願った』、『司祭クラスの許可がないと会えない』……どいつもこいつもふざけてるんじゃないだろうか…?

 

 

 

「――……衛司…大…丈夫……?」

 

 

ふと、そんな声の後、服の袖を引っ張られる感覚に見ると、メリアが心配そうに此方を見ていた。

…いけない、また顔に出ちゃってたかな…。

 

 

「……うん、僕なら大丈夫だよ。……ありがとう、メリア」

 

 

「……ん……」

 

 

心配そうな表情をするメリアの頭を撫でてそう言っておく。メリアもそれで分かったのか小さく頷いた後、心地良さそうに頭を撫でられていた。

と、言うか……メリアって本当、頭を撫でられるの好きだな。

 

 

「――はいはーい、そこのお二方。いちゃついてるのも構いませんが、先に進みますよー」

 

 

 

「ブッ!?」

 

 

此方をかなり悪そうな笑みを浮かべたジェイドが出したそんな言葉に思わず吹き出す。

 

 

「あのですね、ジェイドさん……僕は別にメリアとはそうそう関係じゃ…」

 

 

「おや、違いましたか?こんな場所でやけに仲良く頭を撫でていたのでそう思ったんですが……いやいや、若いとはいいですねー」

 

 

「――だから違うんですってっ!!」

 

 

いらぬ誤解を生み出しているジェイドに、それを否定する僕。クスクスとジェイドの隣で笑うアンジュに、否定している僕をどこか不機嫌そうに見ているメリア。

はっきり言おう……なんだ、このカオス。

 

そんな感じで…僕達はアルマナック遺跡を奥へと歩き続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

『――おい、これ見てくれよっ!!』

 

 

「――…今のは……?」

 

 

「――…どうやら、奥からのようですね…」

 

 

暫く歩いていると、広いエリアにつき、不意に奥から聞こえた声にそう言うと、警戒しながら奥を覗き込む。すると目に入ったのは……二人の暁の従者が居て、片方が大きな岩を浮かしている姿であった。

 

 

「……あれは……」

 

 

「恐らく、『ディセンダー様』とやらの力でしょう。我々の国で暁の従者が使っていた異様な力と似てますし」

 

 

 

「そうみたいね……とりあえず、あの人達からその『ディセンダー様』の事を聞きましょうか」

 

 

そうアンジュが言った僕達は頷くと、暁の従者の二人に歩み寄っていった。

暁の従者もそれで僕達に気付き此方を振り向く。

 

 

「んっ、何だお前達は?我々の同志になりに来たのか?」

 

 

「いいえ、そうではないの」

 

 

「じゃあ、何の目的で来たんだ?」

 

 

「あなた方がディセンダーと呼んでいるものを引き渡してもらいます」

 

 

ジェイドのその一言で、暁の従者の目が変わり、此方を警戒するように睨み付けてきた。

 

 

「あれは、ディセンダーなんかじゃないの。もっと得体の知れない何かよ」

 

「そう、危険な存在かもしれませんよ」

 

 

「危険な存在だと?バカな事を…今は誕生されたばかりで、予言通り名前以外何も記憶はない。だが、今この奥でこの世の事を学んでおられるのだ。それが終わるまで、誰もこの先へは通すわけにはいかないのだ!!」

 

 

「この腐敗した世の中を正す為に降臨されたディセンダー様だ。じきに、自ら立ち上がられ、この世界を理想郷へと造り変えられる。邪魔はさせないぞ!!」

 

ジェイドとアンジュの言葉に、暁の従者は鼻で笑い、そう言って戦闘体勢に入る。

思わずアンジュは苦い表情に、ジェイドは『やれやれ』と言わんばかりの溜め息を出した。

 

 

ただ、僕は……何故か本気で……この人達に怒りを覚えていた。『予言通り名前以外何も記憶のない』存在を…言わばこの人達は『兵器』として利用しているんだ。

 

 

だから…………。

 

 

 

「――もう、いい」

 

 

自分でも正直驚く位低いそんな声が、自分から出た。

その声にジェイド以外の皆が何か、と此方を見る。ジェイドはジェイドで意味深に此方を見てるけど。

 

 

 

「――アンタ達のそのくだらない理想も、言葉も聞くのはもううんざりだ……アンタ達は……今、此処でその矛盾した現実ごと潰してやる」

 

 

「貴様……我々の理想がくだらない…だとっ!?」

 

僕の言葉に、暁の従者が敵意を増してそう言ってくる。

ディセンダーの事を知ってんのにまだ…分からないのかよ…。

 

 

「……あぁ、くだらないよ。はっきり言ってやる…今のアンタ達は…帝国や星晶を独占する国よりよっぽど屑だよ」

 

 

「貴様……一体何を――」

 

 

 

「――分からないなら教えてあげるよ。僕が…力ずくで、全力で…!!」

 

 

――僕のその言葉を同時に、戦闘は始まった――

 

 

 

 

 




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第十八話

 

 

 

「――我々の力を見るがいいっ!!」

 

 

「――ディセンダー様を侮辱した罪は重いぞっ!!」

 

 

「チッ……一々、五月蝿いっ!!」

 

 

――アンジュとジェイドの術の詠唱を暁の従者の二人組の攻撃からメリアと一緒に守りながら、暁の従者の言葉に思わずそう呟いてしまう。

 

この二人組……元は一般人だけど、『願いを叶える存在』の力もあってか、攻撃の一撃一撃が重い。メリアも僕ほどではないけど、苦戦するような表情をしている。

 

 

「くそっ……覇道滅封ッ!!」

 

 

二人組の攻撃から一旦下がると、片方に向け、アスベル程大きめではないけど灼熱波を飛ばす。

――だが、

 

 

「ははっ……なんだその攻撃はっ!!」

 

 

当たる直前、狙ったのとは別の片方が『バリアー』を唱え、弾かれる。くそっ……相手は今までの魔物と違って生身の人間だから、力を出し過ぎても駄目なのに……抑えたら先程のように『バリアー』で防がれる。

チッ…本当に面倒くさいっ!!

 

 

「二人共、下がってっ!!」

 

 

不意に後ろからかかったアンジュの声に、僕とメリアは後ろへと下がる。それと同時に、ジェイドとアンジュが詠唱を終え、術を発現する。

 

 

「食らいなさい……スプラッシュッ!!」

 

 

「これでどうかしら…レイッ!!」

 

ジェイドとアンジュの声が響くと同時に、暁の従者の二人の頭上から滝のような水流と複数の光線が降り注ぐ。

……と、いうか……二人共手加減してなくない…?

 

 

 

見ていてそう思ってしまう程の術の勢いであったが……暁の従者の二人は多少の傷は見えたがいまだ健在していた。

 

 

「はははっ……今度はこちらから行くぞ。吹き飛べっ!!」

 

 

「ッ……皆、散って!!」

 

 

僕の声と同時に皆がその場を退くと、僕達が居た場所の石が浮き上がり、そして急降下して潰れる。あれは…『トラクタービーム』か…。

 

 

「――どこを見ているっ!!」

 

 

「――ッ!しまっ……くぅっ!!」

 

 

「……衛司……っ!!」

 

トラクタービームを認識した直後、僕が退いた位置に先行していた暁の従者が迎え撃ち、それに対応しきれず一撃貰い、あまりの重い攻撃で吹き飛ばされる。

それに気付いたメリアが途中で支えてくれ、なんとか壁に直撃する事は避けれた。

 

 

「……衛司……大丈夫…?」

 

 

「…っ……うん、なんとか。……ありがとうね、メリア……」

 

 

メリアにそう応えながら体勢を立て直し、再び暁の従者の方を向く。

くそっ……結構キツいな……。

 

 

 

「やれやれ……これは最早、異様というよりも『異常』ですね…」

 

 

「これこそディセンダー様より頂いた力だっ!!」

 

 

 

 

「我々はこの力で、ディセンダー様をお助けするのだっ!!」

 

 

ジェイドの呟きに、暁の従者達は自分達の力を自慢げにそう言う。

この人達…まだ分からないのかよっ!!

 

 

 

 

 

 

 

「――…黙れよ」

 

 

僕の口から出たその言葉に、暁の従者が此方を見ると、僕は再度、手にした木刀を構える。

 

 

「――ねぇ、なんで分からないんだよ…。確かに、アンタ達の言いたい事は分かる……でも、今のアンタ達のやり方じゃ、帝国や星晶を独占する国と変わらないって……どうして気付かないんだよっ!!」

 

 

「我々と腐敗した国は違うっ!!我々は、ディセンダー様のお力を使い、恵まれぬ民を救っているのだっ!!」

 

僕の言葉に直ぐ様否定するようにそう言ってきた暁の従者。この人達は…完全に『願いを叶える存在』に目を奪われて、周りを見失ってるんだろう…。

なら……。

 

 

「そう……なら……僕はアンタ達のやり方を……全力で否定してやるっ!!」

 

 

 

僕がそう、強く宣言したと同時に、僕の周りに様々な色の円が姿を表した。前に見たことがある…そう、限界突破《オーバーリミッツ》だ。

 

そして、オーバーリミッツが出たのを確認すると、僕は先程よりも強く走り出す。オーバーリミッツをしている為、先程とは違うスピードに、暁の従者も反応が遅れる。

 

 

「――は…ァアァァァァッ!!」

 

 

「ッ……貴様…一体何をっ!?」

 

僕は暁の従者の近くまで接近すると、手にしていた木刀を地面へと突き刺し、集中する。

突然の僕の行動に、暁の従者は勿論、後ろで僕の様子を見ているメリア達も表情が変わるのを感じる。

 

だけど、今はただ意識を集中させる。

以前、クラトス師匠とユーリが言っていた。『技はイメージだ』と。

その言葉を思い出しながら、集中し、イメージを高める。

すると同時に、僕の周りに巨大な陣が浮かび上がり、それは暁の従者の地面まで伸び、メリア達の地面の前で止まる。

 

 

「なッ…これは…一体っ!?」

 

 

「――ハァ…これで……どうだぁっ!!」

 

陣が浮かび上がると、今度は地面から突き出る氷をイメージする。そしてイメージを完成させ、強く、そして対象である暁の従者の二人に向け、発現させるっ!!

 

 

「―これが…僕なりの…大技だぁっ!!『守護ッ!大氷槍陣』ッ!!」

 

 

 

 

そう宣言した瞬間、浮かび上がっていた陣から複数の大きな氷槍が出現し、陣内の暁の従者の二人を貫き、ダメージを与えていく。

 

――『守護大氷槍陣』――

 

 

僕が守護方陣の使えるクラトス師匠やユーリ、氷を扱うヴェイグにアドバイスを教わりながら考えた僕なりの大技だ。言うなれば『守護氷槍陣』の強化版。守護氷槍陣と違うのは陣の範囲が広がり、地面から現れる氷槍の大きさだ。威力は見ての通り。先程までダメージを一切気にしてなかった暁の従者が完全に息を乱している。これでも一応、まだ抑えめな方なのだ。

 

 

 

 

 

ただ、これの難点は……。

 

 

 

「――…ハァ……ハァ……ハァ…」

 

 

ゆっくりと木刀を下ろしながら呼吸を整えていく。難点……それは…僕はオーバーリミッツやこういう大技を使った後の体力消費が半端ない。正直今、立ってるのがやっとだ。

 

 

「……衛司……」

 

 

「ハァ……大丈夫、だよ…メリア…。メリア…ジェイドさん…アンジュ…ちょっと、待ってて下さい…」

 

 

僕を心配そうに見るメリアに呼吸を整えながらそう言った後、三人にそういうと、傷付きながらもいまだに敵意を剥き出しにしている暁の従者に向き直る。

 

 

「くっ……やるな。だが、まだ屈しはせんぞ。一部の者ばかりが益を得る腐った世の仕組み。必ずやディセンダー様が打ち砕く」

 

 

「搾取のない、平等で平和な世界を望んでいる者達の声の為にも……ディセンダー様を、お前たちに渡すわけには行かない!!」

 

 

 

 

「――さっきから聞いてたら、『ディセンダー様』『ディセンダー様』、アンタ等は何様だよっ!!」

 

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

自分でも初めて出すくらいの大声で出した言葉に、その場の全員が驚く。

だけど、そんなの今は関係ない。

 

「……確かアンタ等は言ったよね…?『予言通り、名前以外の記憶が何もない』って…?」

 

 

「あ、あぁ、…そのとおりだ。だからこそディセンダー様は――」

 

 

「じゃあアンタ等はっ!言い換えれば、生まれたばかりで何も知らない子供を、兵器として扱ってるんじゃないのかよっ!?」

 

 

僕の言葉に、今気付いたような表情を浮かべる暁の従者。やっぱり、か……。

 

 

「わ、我々は、ディセンダー様を兵器として扱ってなど――」

 

 

「例えアンタ等が、そのディセンダーを兵器として扱ってなくても、アンタ等がそうやって、ディセンダーからもらった力を傍若無人に振り回してれば、周りの皆は、国は、ディセンダーを兵器として見てしまう……見ちまうんだよっ!!」

 

 

僕の言葉についに押し黙る暁の従者。だけど、まだ言い終わるつもりはない。

 

 

「それに『星晶を独占する国から星晶を奪い返して平和を取り戻す』?奪い返してどうなるの?それで本当に来るのは平和?違うだろ!?奪って、それをまた奪おうと戦いが起こって、それをまた奪おうと戦いが起こる。結局待ってるのは平和なんかじゃなくて戦争だろっ!!」

 

「それをアンタ等自身は『裏切り者に罰を与えるように頼んだ』?、『ディセンダーに会えるのは司祭クラス』?、アンタ等はふざけてんのか!?そんなくだらない事内部で作ってて本当に平和なんて勝ち取れんのかよっ!?」

 

 

僕の言葉に徐々に俯いていく暁の従者。僕はそれに向け、下ろしていた木刀をゆっくりと突き付ける。

 

 

 

 

 

「これでまだ分からないならもう一回言ってやる。アンタ等がやってる事は…何も知らない子供を兵器として扱った挙げ句、戦争を起こそうとしている……帝国や星晶を独占する国よりも、よっぽど屑なんだよっ!!」

 

 

 

何も言えなくなった暁の従者に、僕はイラついた感情をのせて、今声の出る限りそう言ってやる。

 

 

「――わ、我々は……っ!?」

 

 

しばらくして、暁の従者が何か言葉を出そうとした時、それは起こった。暁の従者の身体に、『赤い煙』が現れたのだ。

 

 

「こ、これは……っ!?」

 

 

「身体が…、身体がぁぁぁぁ!!」

 

 

突然の出来事に慌てる暁の従者。

メリア達もそれに気付き、僕の周りに集まる。

 

そして…それは起こった。

 

 

「ヒィッ!?な、何だっ、この姿は!!」

 

 

「まさか…、生物変化現象!?」

 

 

隣にいるアンジュの言葉通り、暁の従者の二人に『生物変化』が起こった。

 

 

「あぁぁ、…なぜ。なぜだ、なぜ…こんな姿に。ラザリス様…」

 

 

「ラザリス様…助けて下さい…。ディセンダー、ラザリス様ぁぁぁ!!」

 

 

そんな悲痛そうな声を上げながら、生物変化を起こした二人は奥へと走っていった。

あれが…『願いを叶える存在』に祈った人の末路、か…。

くそっ……。

 

 

思わず俯いてしまうと、不意にアンジュに肩に手を置かれた。

 

「落ち込まないで、衛司。確かにあんな事になってしまったけど……衛司はよくやってくれたわ」

 

 

「……そう…かな……」

 

 

「えぇ……本当よ。それより、身体は大丈夫…?」

 

 

アンジュの言葉に気を持ち直し、そう聞かれると、少し身体を動かしてみる。

 

 

「――……ちょっとキツいけどなんとか歩けるよ。…休んでもいられないしね」

 

 

「そう……分かったわ。それじゃ、奥に向かいましょう。あの人達を……あのままにしておけないしね」

 

 

そう言われ、僕はゆっくりと頷くと奥へと向け歩き出した。

あの暁の従者の二人と…『願いを叶える』を追うために…。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

――しばらく歩くと、また少し広い場所についた。ここで一応終わり、みたいだけど…。

そう、周りを見ながら歩いていると――『ソレ』は居た。

 

 

以前のジョアンさん達のように生物変化を起こした暁の従者の前に立つ、背は低めの結晶のような装飾品を身体の至る所から見せる少女。あれが……?

 

 

「あの子が…あの、赤い煙だったもの…?」

 

 

「誰…?」

 

 

アンジュの言葉に気付いたのか、此方を見て低めな声を出した少女。

 

 

「あなたは一体何者なの!?」

 

 

「ラザリス…。僕は、ラザリス…」

 

「あなたが人々の願いを叶えてきたの?願いを叶えるのはなぜ?」

 

 

アンジュの質問に少女、ラザリスは小さく首を傾げてみせる。

 

 

「…どうしてかな?実のところ僕にもわからない。けども、君らから少しずつ世界を知るには都合が良かったからだと思う」

 

 

「あなたが願いを叶えた生物から、学習した。こういう事ですか?」

 

 

「そうなるかな。『願いを叶えて』と、向こうから僕に接触してきたからね。この世界に出たばかりの時は、僕にも接触する能力がなかった。でも、やがてあらゆる生物が僕の方へ手を伸ばしたんだ」

 

ジェイドの問いに、ラザリスは小さく頷いた後そう言いながら説明を続ける。

 

 

 

 

 

「願いを叶えるという意志のコネクトを通じて、僕はこの世界の生命力と情報を少しずつ手に入れた。おかげで実体も思考も手に入れた。思う存分、僕の好きな様に力を振るう事が出来る」

 

 

「あなたは、さっき世界の生命力と情報を手に入れたと言ったけれど…あなたは、ヒトじゃない。…何者なの…?」

 

 

「――僕は、この世界ルミナシアの様に、誕生するはずだった『世界』だ」

 

 

アンジュの言葉に、先程まで低めだった声が、やや強くなってそうラザリスは答える。

誕生するはずだった…『世界』…?

 

 

「ああ…、ああ…。この世界にはうんざりだ!僕ならもっといい世界になるはずだった!!こんな、腐りきった世界をもたらすヒトがいる世界なんて、僕なら造らなかった!!」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

 

突如、声が荒くなり、何事かと思った瞬間、ラザリスが腕を横凪ぎ振るい、大きな衝撃が身体に当たったのを感じ吹き飛ばされ、僕はそのまま飛ばされ壁に直撃した。

くぅっ……さっきの戦闘やオーバーリミッツの消耗もあってか……意識が……。

 

 

「――…君は……へぇ……『イレギュラー』、か…」

 

 

 

そんな声が聞こえた直後……僕の意識はなくなった…。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――っ…此処は……」

 

「――……ぁ……衛司!!目が覚めたんだねっ!!」

 

 

軽く感じた痛みにゆっくりと目を覚ましていくと、そこは意識を失う前のアルマナック遺跡ではなく、見慣れたバンエルティア号の医務室であり、目の前で安心した表情を浮かべるカノンノとメリアが居た。

 

 

「あれ……カノンノ…メリア……そうだ!ラザリスはっ!?暁の従者の人達はっ!?……っ!」

 

 

「……衛司、あんまり騒いだら…駄目…」

 

 

「そうだよ、落ち着いて……今からそれはゆっくり説明するから…」

 

 

カノンノとメリアの言葉に、痛む身体を抑えながら、あの後の話を聞いた。

 

結局、あの後ラザリスは行方不明。完全に行方をくらましたらしい。

暁の従者はまたジョアンさん達の時と同じように、メリアの謎の力によって元の体に戻ったが、その後は分からない。ただ、自分達の信じた『ディセンダー』は『ディセンダー』ではなかったと、呆然として、去っていったらしい。

 

 

「――…生まれる筈だった『世界』…か…」

 

 

ラザリスが言っていた自分の正体。その言葉は深く耳に残っていた。

 

 

「…ぁ、それと…衛司、しばらくは絶対安静だって。なんでも、体力消費が激しいとかで…」

 

 

「ぅ……まぁ、そうですよね…」

 

 

カノンノの言葉に思わず苦笑いしてしまう。うん、今回は大分無理したもんな…。

 

「一応、またお見舞い来てあげるから…しばらくは医務室で安静に、だよ?」

 

 

「……また、来る……」

 

 

カノンノとメリアはそう言葉を残すと医務室を出て行った。

僕はそれを確認すると、ゆっくりと医務室のベッドに寝転んだ。

 

 

「……『イレギュラー』…か」

 

 

意識を失う直前に聞こえたその言葉。その言葉の意味からすると……ラザリスには僕のドクメントが見えたんだろうか…?

 

 

「……分からずじまい、か……」

 

 

思わず漏れてしまうそんな言葉。結局、僕はこの数分後、また睡眠的な意味で意識を失う事となった。

 

 

 

 

 




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第十九話

 

 

 

――あのアルマナック遺跡の事から数日が経った。

あのラザリスという少女が出て、何か起こるんではないのか、と思われていたけど、今の所、特に大きな事件等は起こってないらしい。

 

 

因みに、数日経っても僕は現在進行形で、バンエルティア号の医務室で絶対安静という状態でベッドに寝かされていた。

なんでも思っていた以上に僕の身体の体力消費が激しいとかなんとか……。多分、というか確実にユーリ達の忠告を気にせず一日中鍛錬or依頼の日々が多かったのが理由だったりするだろう。

でも正直、寝てばっかりじゃ身体も鈍るだろうし、何より暇だから、医務室を管理してるアニーが居ない間に目を盗んで木刀で素振りでもしよう、と思っていたんだけど……クラトス師匠が『調べたいことがある』って言って木刀を持っていかれた。木刀で調べたい事って何なんだろう…?

 

ただ暇で本当に…泣きたい。

 

 

そういえば、例の精霊の場所の暗号が解けたらしい。後はその場所を照らし合わせて向かうだけ、らしい。

 

それまでに身体も治ってるといいんだけどなー…。

 

 

――と、綺麗に現状報告兼現実逃避をしてみたんだけど……――

 

 

 

「………あーん……」

 

 

「…………………」

 

 

 

――どうしてこうなった。

よし、まずは落ち着け。落ち着いてこうなるまでの経緯を思い出せば、こうなった原因が分かるはずだっ!

 

 

僕、とりあえず医務室で横になりながら暇なので、アニーから借りた本を読んでた → 気付けばお昼になってて、お腹が減ってきた → と、いうタイミングでメリアが昼食を持って来てくれた → 僕が喜んで、メリアにお礼を言って持ってきてくれた昼食を食べようとお箸に手を伸ばすと、メリアにお箸を取られた → よく分からず首を傾げていると、メリアがお箸を使って昼食のおかずを挟んで僕に向けてきた → こうなった。

 

 

――駄目だ、全っ然分からない。

 

 

しかも、何故に『あーん』!?

 

これは、しかもかなりキツい。

この状況、他者から見たら『チッ、リア充しねよ』って思われて当然だと思うけど、代わりたい人いるなら是非とも代わってもらいたいよ!

これキツいんだよ!?やられている側、スッゴい恥ずかしくて死にたくなるんだよっ!?

 

 

いや……まだだ、まだやられんよっ!

この状況を回避する方法はまだあるんだっ!

 

 

「――えっとメリア……僕は決して腕を負傷している訳じゃないからそんな必要は……」

 

 

「……あーん……」

 

 

「ほら、メリア!僕スッゴい元気だからさ、お箸を渡して欲しいんだけど……」

 

 

「……あーん……」

 

「……あ、あれを見てメリア!あんな所にUFOがっ!」

 

 

「……あーん……」

 

 

「……メリア…僕、実はまだお腹がへってなくて…」

 

 

「……あーん……(涙目+上目遣い)」

 

 

「……あーん」

 

 

 

……負けたよ、完敗だよ。

勝てるわけ……ないじゃないか。メリアはそれが嬉しいのか満面の笑みを浮かべる。メリア、君は悪魔か……?

 

 

 

 

仕方無く、メリアがこちらに向けるおかずをゆっくりと口に含む。

正直言おう。恥ずかしすぎて全っ然、味が分からない。

 

メリアはそんな事お構いなしにお箸でおかずやご飯をつかんで僕に向ける。

はぁ……こんな所もし誰かに見られたら僕は…―――

 

 

 

「おーい、兄弟《ブラザー》!見舞いにきてやった……ぞ…」

 

 

「はいはい、寝たきりには甘い物がつき物って事でケーキ持ってきてあげたわ……よ…」

 

 

――そんな時、素晴らしいくらいのタイミングでヴォイトとロッタが入ってきて、静止した。

 

さて、問題だ。

今、二人には僕達がどう見えるだろう…?

正解…?うん、それはね……

 

 

 

「――私には衛司の事が分からないっ!」

 

 

「えっ、ちょ、ロッタさん!?どういう事っ!?かなり勘違いしてませんっ!?お願いだから走り去らないでっ!!」

 

 

「――ぁー……すまん、ブラザー……邪魔したな…」

 

「待ってヴォイトっ!そんな顔しながら出てかないでよっ!お願いだから助けてよっ!勘違いだから助けてよぉぉぉっ!!」

 

 

――こうなるのさ。

この後、なんとか二人の誤解を解くことが出来ました。

もうさ……早く医務室から出たいよ。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――そ、そんな事があったんだ……」

 

 

「……うん…泣きたくなったよ」

 

 

医務室に入ってからの出来事をある程度話すと、それに対してカノンノは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「それにしても……メリア、そんな事したんだ……(羨ましいなー…)」

 

 

「うん…そうなんだけど……どうかした…?」

 

 

「あ、ううん、何でもないよっ!」

 

僕が話した後、ボーっと僕の顔を見ていたカノンノに小さく首を傾げると慌てた素振りを見せる。

 

 

「そ、それよりどうかな?今回の風景は……?」

 

 

そう言って、医務室に来たときから僕に渡して見せてきたスケッチブックの方を見るカノンノ。

 

 

「うん……ごめん、やっぱり分からないや」

 

 

「そっかぁ……力になれると思ってたけど…ごめん。何も出来なかったね…」

 

 

スケッチブックに描かれた風景に首を振って応えるとそう言って俯いてしまうカノンノ。

確かにこの風景は分からないけど……『記憶がない』って嘘を付き続けるのって、やっぱり罪悪感が出る。

そう思うと、俯いているカノンノの頭をそっと撫でる。

 

「別に気にしないでいいよ。こっちこそ、風景の手掛かりになれずにごめん。だけど、きっと次もある。だから、一緒に頑張ろ?」

 

 

「ぁ、ありがとう…」

 

 

僕が頭を撫でながらそう言って微笑んで見せると、カノンノは頷いた後、顔を赤くして僕の顔を見た。

 

 

「……?…どうかした…?」

 

 

「うん…何だか今の顔…。お父さんとお母さんみたいだった…」

 

 

 

「えっ……?」

 

 

カノンノの唐突なその言葉に思わず驚いてしまう。いや、そりゃいきなりそんな事言われたら驚くけど、それよりも……確かカノンノの両親は……―

 

 

「…でも、実際は、お父さんやお母さんの事なんて、何一つ覚えてないんだけどね…。お父さんもお母さんも、立派な医者で…でも、私が生まれてすぐに、戦争で死んでしまったって。ロックスに、そう聞いたんだ」

 

 

そう、僕もその事はロックスさんから聞いてしまった。

彼女の両親は、前作のように…亡くなっているんだ。両親の顔を見て、覚える前に…。

 

 

「……なんか……ごめん…」

 

 

「ううん、いいの。お父さんの事もお母さんの事も何も知らないけれど、衛司のさっきの顔を見たら、こんな風に笑ってくれてたのかなって思ったの」

 

 

「そう……寂しくはない…?」

 

 

「大丈夫だよ。寂しい時もあったけどロックスが居てくれたし、それに、今は皆や衛司がいるから平気だよ」

 

 

「……そっか」

 

 

 

 

 

そう言って微笑むカノンノに、僕は一言そう言うと、再びカノンノの頭を撫でた。何故だか彼女の笑った表情を見ると、どこか安心出来るから。

 

 

「ん……ありがとう。また、何か描けたら見せて上げるから、絶対に見てね」

 

 

「…うん、分かった。約束するよ」

 

 

カノンノの言葉に頷いて応えると、僕達は指切りで、約束をしたのだった。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――…体調は大丈夫そうか?」

 

 

それから暫くして、医務室に僕以外が居なくなった頃、僕の木刀を持ってクラトス師匠が帰ってきた。

 

 

「はい……色々あったけど、至って元気です」

 

「そうか…。…お前の木刀について調べさせてもらったが…色々と分かった事がある」

 

 

僕の言葉に、クラトス師匠は小さく笑った後、真剣な表情になりそう言った。

僕の木刀について……?

 

 

「この木刀だが……恐らくこれは『世界樹』から創られている」

 

 

「『世界樹』から…っ!?」

 

 

クラトス師匠の言葉に、思わず驚いてしまう。世界樹から創られた木刀って……。

 

 

「始めはお前が此処に来てから今まで使って、どうして折れないどころか皹すら入らないのか気になって調べてみたんだが…納得出来た。いくら他の木刀より強度が高いとはいえ、今のお前の技や動きの負荷には耐えられんだろう。だが、世界樹から創られているのなら、それ程の強度があってもおかしくはないだろう」

 

 

「…そうだったんだ…」

 

 

クラトス師匠の説明を聞いてその木刀を見る。確かに『これ結構使ってるけどどうして折れないんだろ』とか気になってたけど……世界樹から創られてたのか……。

 

…何でそんなの、僕持ってたんだろ…?

 

 

「……衛司」

 

 

そう考え込んでいると、クラトス師匠に名前を呼ばれ見ると、クラトス師匠はいまだ真剣な表情で此方を見ていた。

 

 

「…今回の事に関して、私はお前の事は深くは聞かん。だが……困った時や、一人で考え込みそうになった時は相談くらい聞いてやろう。あまり、一人で考え込むな」

 

 

 

「…はい。ありがとうございます」

 

 

言った後、小さく笑って見せたクラトス師匠に、僕は小さく頷いて礼を言った。

一人で考え込むな…か……。そう…だよね。僕は……一人じゃないだ。

 

 

クラトス師匠の言葉で、改めて……僕は仲間がいる有り難みを知った。

 

 

 

 




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第二十話

 

 

 

 

――場所はバンエルティア号の甲板。そこで僕は今、木刀を構え、目前に立っている相手に踏み込む瞬間を待っていた。

 

 

「――……どうした?打ち込んでこないのか…?」

 

 

「――……ッ」

 

 

 

いや、訂正しよう。打ち込めずにいた。正直、今までよくクラトス師匠に打ち込みにいったな、と言いたいくらい、今目前に立つ人は凄まじい威圧を放っていた。

改めて……クラトス師匠達がいまだ本気でないのを再確認と、自分より遥か上に立つ人の実力差が分かった。

 

 

「来ないなら…此方から行くぞ」

 

 

「――く…ッ」

 

 

そう言って構えたと同時に更に相手から吹き上がるように出る威圧。

くっ……兎に角対応しないと…!

 

 

「――光龍槍っ!」

 

 

「っ……魔神剣・双牙ァッ!!」

 

 

相手の剣から真っ直ぐとこちらに向け放たれた光の矢をなんとか避け、そのまま斬撃を放つ。

 

 

 

 

「――ふんっ!」

 

 

だが、相手はその二つの斬撃をいとも簡単に…剣一振りで相殺した。何あれ、チートっ!?

 

――だけどそれは少なくとも予想の内だ。

 

 

「――ハァァァァァッ!!」

 

 

先程の魔神剣・双牙はあくまで相手に接近する為に先行させた囮。魔神剣が相殺される瞬間まである程度近付き、相殺された瞬間、一気に接近して木刀を力の限り奮う。

 

――だが…

 

 

「――…ほぅ……中々考えた物だ」

 

 

「――……な…っ!?」

 

 

振った木刀は相手に当たる前に、いつの間にか体勢を戻した剣で防がれる。

 

 

「くっ……ハァアァァッ!!」

 

 

 

防がれたと分かった瞬間、今動ける限りで木刀を振るい、連撃として相手に打ち込もうとする。

この距離で防がれた以上、攻めるしかない。後退の隙を見せた瞬間にやられてしまう。

 

だが、その連撃も、相手はいとも簡単に防いでいく。

 

 

「――ふむ……私のこの距離から即座に後退という判断を選ばなかったのはよし。打ち込みの箇所も、大ざっぱに見え、的確に相手の急所になりかねん場所を選んでいる。中々、いい判断だ。だが――」

 

 

相手がそう言った直後、防ぎに回っていた剣が大きく振るわれたと思った瞬間、大きな風圧を感じ、その勢いで木刀が手から離れてしまう。

ッ……しまった!

 

 

「――まだまだ、あまいっ!!」

 

「――がアッ!?」

 

 

相手のその声が聞こえた直後、腹部に何かが触れた感覚と強い衝撃を感じ、僕の身体は勢いよく吹き飛び、甲板の地面へと打ちつけられた。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――ふむ。戦ってみて分かったが、君はまだまだ強くなれる。中々、楽しみだ」

 

 

「――…はい。ありがとうございました」

 

 

 

僕は改めて、先程まで模擬戦の相手をしてくれていた、新しくアドリビトムに入った、『ジアビス』のヴァン・グランツさんに礼をする。

 

正直、この人が来たときは本当に驚いた。

それで、僕はヴァンさんに模擬戦を頼んだのだ。結果は惨敗。文字通り手も足も出なかった。

しかも多分……ヴァンさんはまだ本気じゃないだろう。

本当にチートじゃない、この人?

 

 

 

 

 

「君の戦い方は中々だと、私は思っている。それこそ来て数日だが、このギルドの皆が君の事をよく話す訳が分かった。……良ければ、ルークやアッシュとも戦ってやってくれ」

 

 

「はい……。あの……手も足も出せなかったのにこんな事言うのはアレですけど……良かったらまた、模擬戦お願いしてもいい……ですか?」

 

 

僕の言葉に、ヴァンさんは小さく笑みを見せた後頷いた。

正直、確かに手も足も出せないくらいの惨敗だったけど……これから闘っていくにはきっとこのくらいの強さが必要……なんだろう。

 

今はまだ自分にとっては遥か遠く、高い相手だけど……超えたいと思った目標がもう一つ、増えた。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「霊峰アブソール……?」

 

 

「ん……そこに精霊が居る……みたい」

 

 

僕の問うような言葉に、メリアは小さく頷いてそう応えた。

なんでも精霊が『霊峰アブソール』という場所にいる事が分かったらしく、今メリアが向かうメンバーに僕を入れようとしている所であった。

 

精霊、か……。と、言うとやっぱり氷のセルシウスだろうか…?もし、そうだとしたら……前作のように、彼女の…メリアの正体がディセンダーだと、分かられてしまう場面だろうか。

 

 

「……分かった。じゃ、一緒に行くよ」

 

 

僕の言葉を聞くとメリアは嬉しそうに一度頷いた後、アンジュにメンバーが決まった事を伝えに行った。

 

もし、メリアの正体が精霊に分かってしまうなら、僕の事ももしかしたら……分かられてしまうかもしれない。

もし、分かられてしまったのなら……その時はきっと……皆に話さないといけないのだろう。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

――霊峰アブソール…。

 

 

 

うん……精霊でセルシウスまで思い出せてたんなら、何故僕は肝心な事を忘れてたんだろう……。

 

 

「――……寒っ」

 

 

「……うん……寒いね」

 

 

 

霊峰アブソールは絶賛、辺り一面が雪景色でした。

あまりの寒さにそうぼやいてしまう僕とエミル。

 

 

「…そうか?そこまでひどい寒さじゃないと思うけど」

 

 

「……別に…寒く…ない……」

 

 

それに対して寒さなど特に気にしてない表情で僕達の前を歩くカイウスとメリア。

うん……メリアはともかくカイウス、君はその服装で何で寒くないのさ…?

 

 

「ふ、二人とも凄いね……」

 

 

「そうか?まぁ、俺の場合はいざとなったら獣人化して毛皮まとえるしな」

 

「そう言えば、カイウスは獣人に変身出来るリカンツだったね……それもあるのかな?それにしても、初めて変身した姿を見た時はびっくりしたな」

 

 

「俺は、エミルが闘う時に出る妙な人格の方がびっくりしたけどな」

 

 

「あぁ、それは僕も同意出きるかも…」

 

 

「うぅ…ご、ごめん…」

 

 

カイウスの言葉に思わず同意して言ってしまうと、エミルが申し訳無さそうにそう言って俯いた。

 

 

 

 

 

 

「いや、もう俺達は付き合い長いから慣れたけどさ。それに、アドリビトムには人間だけじゃなくて、色んな種族がいるから、誰が珍しいっていうのはないよな」

 

「…そうだね。それに、種族の差を感じないし。……精霊も、そうかな?ヒトとあまり変わらないのかな」

 

 

「どう、だろうね……。僕のイメージ的にはヒトに似てそうな気がするけど」

 

 

エミルの言葉に僕は少し考える仕草を見せてそう応えた。因みに僕のイメージしたのは言わずもがな、セルシウスである。

 

 

「ヒトと心を通わせてくれるのかな…。僕は…、不安だな。何かありそうな気がするし…」

 

 

「エミル……何か不吉な事を言うのは止めとこう。色々、不安になる」

 

 

「ぁ、ごめん……」

 

 

僕の言葉にエミルは再び申し訳無さそうにそう言って、僕達は再び歩き出した。

 

そして、 エミルのこの発言が見事に的中する事を、この時はまだ知らなかった。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

寒さと降り積もった雪と現れる魔物を抜けて、漸く山頂につくと、そこには上手くは見えないが、確かに人影があった。

 

 

「だ、誰かいるよ…」

 

 

「精霊……じゃ、無い……」

 

 

「でも、アンジュさんの指示じゃ目的地はここなんだけどな。あの人に聞いてみるか」

 

 

カイウスの言葉に全員が頷くと、その人影に歩み寄っていく。

近付いていく毎に徐々に見えてきたのは、その人影の後ろ姿と長い、赤の髪。あれ……でもあの服装……何かで見たことあるような……。

 

 

「あ、あの……すみません…。…精霊を探しているんですけど……」

 

 

「――精霊を探している、だと?」

 

 

エミルの言葉に反応し、振り返った姿に、思わず僕は少し驚いてしまう。

そうだ、この人は確か『ラタトスク』の……リヒター・アーベントだ。

 

 

「…あ……、…その、僕達は…ギルドの者で…精霊を……探していて………」

 

 

「精霊に会わせる事は出来ない。早々に立ち去れ」

 

 

リヒターさんの剣幕に、エミルは恐る恐ると要件を述べるが、リヒターさんはそれを直ぐ様その、応えた。

 

 

「でも、俺達は精霊に聞かなきゃいけない事があるんだよ。話がしたいだけなんだ」

 

 

「話だと?――そんな嘘は、今まで訪れた者は皆言っていた」

 

カイウスの言葉に呆れたような溜め息を吐いた後そう言葉を出すリヒターさん。

 

嘘って………どういう事…?

 

 

「あの、すみません。……嘘って…一体…」

 

 

「惚ける気か?お前達の目的は、精霊を捕らえ星晶がある場所を探知させる為に利用したいだけなのだろう?」

 

 

……まさか……盛大、疑われて勘違いされて……ます?

 

 

 

 

 

 

「い、いいえ……そんな事は…、絶対に……」

 

 

「精霊を知ってるんだな?あんたこそ、何者なんだよ!」

 

 

リヒターさんの威圧に、恐る恐るながらエミルが弁解しようとした所で、カイウスがそう言って前に出た。

 

ちょ、カイウス!その言い方じゃ更に勘違いされて……

 

 

「俺は、リヒター・アーベント。ここにいる精霊と契約し、この地と精霊を守る者だ。精霊に会いたくば、俺に勝ってみせろ」

 

 

そう言ったと同時に、武器であろう斧と剣を構え、此方を睨んできたリヒターさん。

うわぁ……やっぱり、こうなるのか…。

 

 

「そういう事か。よし、行くぜ!みんな!」

 

 

そして、更に勘違いさせてしまった原因の彼は、俄然やる気で武器を既に構えてた。

 

 

「あ、え、あの……」

 

 

「エミル……諦めて戦おう。カイウスの事は…後でルビア辺りに言ってたっぷり痴話喧嘩してもらおう」

 

 

「……とにかく……戦う…」

 

いまだ上手く状況を理解出来ないエミルにそう言うと、僕達は武器を構える。

うん、カイウスには絶対、後でルビアと痴話喧嘩してもらおう。

 

ただ今から闘うのは……確実に気を抜けない相手だという事だ。

 

 

――こうして、精霊を巡る戦いは始まった―

 

 

 

 

 




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第二十一話

今回はリヒター戦です。
かなり戦闘描写変かもしれません;;

気付いたら評価で9を二件も頂けていて画面を前にテンションがハイになりました←
評価して頂いた方、本当にありがとうございます+


 

 

 

「――ウォォォォォッ!!」

 

 

「――オラァァァァッ!!」

 

 

――戦闘に入ったと同時に、武器を手にリヒターさんに向け走り出すカイウスと、ラタモードに入ったエミル。

二手に別れカイウスは右から、エミルは左からリヒターさんに斬りかかる。

 

だが、リヒターさんはそれを、カイウスの攻撃を剣で、エミルの攻撃を斧で防ぐ。

 

 

「フッ………陽流・壬ッ!!」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

直後、リヒターさんが叫ぶと同時に、リヒターさんの周りから水柱が現れ、攻撃を防がれ近距離にいたカイウスとエミルに水柱が直撃する。

 

 

「エミル、カイウス!退けっ!――……魔神剣・双牙ァッ!!」

 

エミルとカイウスに向けられる更なる攻撃を避けるため、エミル達を退かせる隙を作ろうと斬撃を二つ飛ばす。

 

 

「甘いな……陰流・丁ッ!」

 

 

飛ばした斬撃を、リヒターさんは迷うことなく剣と斧を震った瞬間、大きな爆炎が上がり、斬撃を消し飛ばした。

 

そう、わかった刹那――

 

 

「陰流・葵ッ!!」

 

 

「な……っ!?」

 

 

 

爆炎が晴れたと同時に、突如、一瞬で目の前へと現れたリヒターさんに驚き、反応が遅れる。

ッ…ヤバ……ッ!

 

 

「フンッ……陰流―「……苦無閃……」――チィッ」

 

 

 

 

リヒターさんの攻撃が来る、と思った瞬間、僕とリヒターさんの間にクナイが飛び、リヒターさんが後退した。

 

「…ハァ…ありがとう、メリア…」

 

 

「……ん……」

 

 

リヒターさんが距離を置いたのを見てなんとか呼吸を整え、リヒターさんの攻撃を妨害したメリアに礼を言う。

 

それにしても……

 

 

「くっ……流石に強い……」

 

 

「あぁ…攻撃の一つ一つが重いし……中々攻撃を通させてはくれねぇな…」

 

 

体勢を戻したカイウスとエミルが、構えを崩さないリヒターさんを見ながらそうぼやく。

二人の言うとおり、リヒターさんの攻撃は一つ一つが強力で、変則的過ぎる。

 

 

 

「フン……こんな腕で俺と闘おうとは……俺も甘く見られたものだな」

 

 

「ッ……なんだと…っ!?」

 

 

「カイウス、落ち着いてっ!」

 

 

そんな僕達に、リヒターさんは挑発するようにそう言って、鼻で笑うような仕草を見せると、カイウスがリヒターさんに向け今にも飛びかからんばかりの勢いを見せるが、慌ててカイウスを静止する。

駄目だ…このままだと、リヒターさんのペースに飲まれて本当に、リヒターさんに手も足も出せずに終わってしまう。

 

 

 

 

 

「……再度、言っておく。俺はお前達を精霊に会わせるつもりはない。…無駄な怪我を負いたくなければ、早々に此処から立ち去れ」

 

 

「……嫌です」

 

 

 

僕の返答に、リヒターさんの眉が僅かに動く。

 

「……ほう。俺との力量差が分かっていながら…まだ俺に勝てる、とでも思っているのか?」

 

 

 

「いえ、正直、勝てる自信なんてないですよ。もし、僕がギルドにも何も属してない、あなたの言うような精霊を利用するような人間なら、今すぐ逃げ出すくらいの力量差ですから」

 

 

「……そこまで分かっていて、ならば何故、逃げようとしない?」

 

 

僕の言葉に、リヒターさんは武器の切っ先を此方に向け、威圧を掛けるようにそう、言ってくる。

正直、本当にこの力量差は怖い。エミルやカイウス、メリアは大丈夫そうだけど、正直な話、僕は恐怖負けして今すぐ逃げ出したい気持ちだ。

だけど…………

 

 

「……信じてもらえなくても構いません。ただ、僕達には、精霊を守るアナタを倒してでも精霊に聞きたい事がある。ただ……それだけです」

 

 

真っ直ぐと、リヒターさんに向けそう言って、僕は木刀を構え直す。カイウス達も、それに頷き、揃えるように武器を構えた。

 

 

「――……そうか。ならば…――」

 

 

僕達を見て、リヒターさんはフッ、と口元で笑って見せ……

 

 

「――その言葉……俺を倒して証明してみせろっ!」

 

 

 

 

そう言って、武器を構え一気に威圧を跳ね上げた。

見ていて分かる。アレは今度は一撃でももらおうもんなら確実に沈められる。

 

「……エミル。あの人に強力な攻撃を与えるぐらいの余力は残ってる?」

 

「ん……あぁ、まぁ残ってるが……それならオレよりもカイウスやメリアの方がいいんじゃないか?」

 

僕の言葉にエミルは一度頷いた後、少し間を開けそう聞いてきた。

 

「うん…本当ならそれがいいんだろうけど……メリアとカイウスにもちゃんと役目があるから、最後はエミルに決めて欲しいんだ」

 

「……まぁ、分かった」

 

 

 

「それで、俺達は…?」

 

 

「ん……カイウスとメリアは……―――」

 

 

 

カイウス達にある程度、僕の考えを伝えると、二人は小さく頷いて答えた。

問題はリヒターさんに上手くいくかどうかだけど……今はするしかない。

 

 

「――作戦は決まったか…?」

 

 

「はい。待っててくれてありがとうございます」

 

 

「そうか……。ならば……行くぞっ!」

 

 

 

 

リヒターさんの声を同時に、再び戦闘は始まる。

リヒターさんは武器を構え、此方に向け走り出す。

 

 

「カイウスっ!!」

 

 

「あぁ、任せろっ!」

 

 

それに対し、先にカイウスを先行させ、僕達は散り散りに走り出す。

 

 

「フン……何を考えているかは分からんが……纏めて叩き潰してやろうっ!」

 

 

「そうはさせるかっ!――目覚めろ、俺の中の野生の魂っ!!」

 

 

カイウスがそう叫んだ直後、カイウスの体が獣に変わっていく。そう、『獣人化』だ。

 

 

「ほう…。お前はリカンツだったか……。成る程、厄介だなっ!」

 

 

「うおぉぉぉぉっ!皆をやらせてたまるかあぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

声と同時に交わる拳撃と剣撃の音が響く。

 

 

『――カイウスには一番危険だけど、リヒターさんを誘導する囮になって欲しいんだ。それこそ、今のリヒターさんのあの状態ならキツいだろうけど、獣人化しないと上手く対応出来ないかもしれない。もし誘導が上手く言ったら僕が合図を出すから、その時は―――』

 

 

「―――カイウスっ!!」

 

 

「っ……おうっ!!」

 

 

「ぬぅ……っ!?」

 

 

僕の声に反応し、カイウスがリヒターさんから後退する。今リヒターさんがいる位置は、大分距離を置いているが丁度僕とメリアの中間位置にいる。

よし、いけるっ!!

 

 

 

「ハァァァァッ!裂空刃ッ!!」

 

「……風刃縛封……」

 

 

同時に放たれる真空波の多段の居合い斬りと鎌鼬のような風の檻。

両方からの広範囲の攻撃に、リヒターさんも思わず防戦に入る。

 

 

 

 

「ぐぅっ!?っ……だが、この程度の攻撃などっ!!」

 

 

「今だっ!エミルっ!!」

 

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

 

防戦のまま、リヒターさんが言う中、僕は最後にエミルに合図し、僕の隣を、光の輪を周りに出現させた、限界突破《オーバーリミッツ》したエミルが駆け抜け、リヒターさんに向かう。

そう、僕とメリアはあくまでリヒターさんに一瞬でも隙を作る役だ。後は……エミルが決めてくれるっ!

 

「なん……だとぉぉぉっ!?」

 

 

「これで……沈めぇぇぇっ!!」

 

 

オーバーリミッツの効果により、急接近してきたエミルに、先程まで僕の『裂空刃』とメリアの『風刃縛封』を防いでいたリヒターさんはそれの対応に遅れ、エミルから放たれる無数の斬撃に直撃する。

 

 

「がっ……あぁぁぁぁっ!!」

 

 

そして斬撃の最後に放たれる衝撃波を受け、リヒターさんは音と共に、後方の氷の壁まで吹き飛んだ。

 

 

 

「――…ハァ……ハァ……っ!」

 

 

「エミルっ!……大丈夫…?」

 

 

「……ぁ、う、うん……大丈夫だよ…」

 

 

氷の壁まで吹き飛んだリヒターさんの姿を確認し、限界が来たのか、片膝をついたエミルに駆け寄ると、通常時のエミルに戻っていた。多分、リヒターさんのあの様子戦闘が終わった、と認識したんだろう。

そう思って再びリヒターさんの方を見てみると……――

 

 

「――ハァ…ハァ……くっ…!」

 

 

「ま……マジ…かよ……っ!?」

 

 

多少の傷は見えるがリヒターさんは、再び立ち上がり、武器を手に持っていた。

決めた、と思っていたカイウスも思わず驚きの声を出した。

 

 

「ぐっ……中々効いたぞ……だが……まだまだ……っ」

 

 

「っ……くそ……っ」

 

 

リヒターさんの様子に思わずそんな声が漏れる。

正直形勢はヤバい。リヒターさんは多少ダメージはあるけど、俄然闘えそうたが…此方側は、僕とメリアは多少ながら健在、カイウスも一見大丈夫そうに見えるけど……『獣人化』で体力の消耗が見られる。エミルはエミルで体力は勿論だけど…ラタモードから解放されてるから確実に戦えそうにない。

くそっ……どうするっ!?

そう、思った時であった…。

 

 

「そこまでよ。闘気を収めて、リヒター」

 

「なっ……しかし……」

 

 

「大丈夫よ。そのヒト達は、敵ではないわ」

 

 

 

 

 

 

そう、女性の声が聞こえた後、何もなかった筈の場所から、一見、武道家にも見える服装の青の髪の女性が現れた。

あれは……やっぱり……

 

 

「はじめまして。私は、氷の精霊セルシウス。あなた達が知りたいことに答えるわ」

 

そう、『氷の精霊』セルシウスが、そこにはいたのだ。

 

 

―――――――――――――

 

 

「それじゃ……まず世界の始まり、創世の時について知りたいんですが……」

 

 

それから暫く、リヒターさんやエミル、カイウスの体力回復をして落ち着いた後、僕はセルシウスにそう言葉を出した。

 

 

「創世の時…ごめんなさい。それについては答えられないわ」

 

 

「ええっ!?そんなぁ…」

 

 

セルシウスからのまさかの返答に、後ろにいたエミルから思わずそんな声が聞こえた。

 

 

「だって、精霊にも世界の始まりの事はわからないんだもの。精霊という存在は、世界が創られた後に生まれた者。わたし達は、マナを自然界の現象に作用させる為に生まれたのよ。そして、星晶により封じられていた『あの存在』の事しか知らないわ」

 

 

「『あの存在』……?」

 

 

セルシウスの説明を聞きながら、その途中に出た単語に思わずそう聞き返してしまう。

 

 

「……わたし達、精霊にもわからないの。ただ、精霊が生まれる以前に、既にこの世界にいたものの様よ。精霊ですら届かない次元にいる、何か歪んだ力…そして、それが大きな災厄となる事を、本能的に察知しているだけなのよ」

 

 

「大きな災厄になる、歪んだ力…。それを、星晶が封じていたの?」

 

エミルの質問に、セルシウスは小さく頷いてみせる。

 

 

「ええ。けれど、その封印は解かれてしまったわ。星晶を人々が採り尽くした事で…。だから、世界樹は『あなた』を遣わせ……そして、『あなた』を呼び込んだのかしら?」

 

 

そうセルシウスは言った後、一度メリアを見た後……僕の方を見た。

……それって…一体…?

 

 

「あなた達はまだ気付いてないのかしら……『ディセンダー』に……『イレギュラー』さん?」

 

 

 

――その言葉は自然に、周りに響いた気がした――

 

 

 

 




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第二十二話

 

 

 

「――まさか、あなたがディセンダーだったなんて…」

 

 

――前回のセルシウスの言葉から、僕達は取り敢えず、仲間になる事になったセルシウスとリヒターさんを連れ、バンエルティア号に戻ってきた。

今目の前には、話を聞いたアンジュが驚いた表情でメリアを見ていた。

まぁ、それはそうか……今まで『伝説』と言われてた存在のディセンダーが、今まで自分達と一緒にいたのだから。

 

 

「……どうか……した……?」

 

 

「ご、ごめんなさい、何というか…、あまりにも驚いてしまって上手く言葉が出て来ないの…」

 

 

「……ですが、今思い返せば、彼女がディセンダーだと考えられる点は確かにありましたね。あなた方に聞いた民間人の生物変化、そして私達が見た暁の従者の生物変化…。そのどちらも、元に戻したのは確かに彼女でしたからね」

 

 

驚いたままのアンジュに、少し考えるような仕草をした後、そうジェイドが口を開いた。

 

因みに今居るのはホールの方で現在、彼女がディセンダーだと聞いて殆どのメンバーが此処に集まっている。

 

 

「彼女がディセンダーである事は分かりましたが……しかし、問題は彼の方ですね」

 

 

ジェイドのその一言で、周りから一斉に視線が僕に移った。

 

 

 

「『イレギュラー』……ディセンダーのような伝説や、ただの噂にしても、聞いた事が無いわ」

 

 

「私もはっきり言えば、『イレギュラー』については詳しくは知らないの。……ただ、何らかの原因によって、このルミナシアとは全く別の世界から呼び込まれた存在……と、私は世界樹から聞いているわ」

 

 

セルシウスの言葉に、その場にいる全員が、驚いたり、考える仕草を見せたりと様々な反応を見せた。

 

 

 

「『このルミナシアとは全く別の世界』……?それって一体……」

 

 

「そうね……。……それは、彼から直に聞いた方が早いんじゃないかしら?」

 

 

そう言って、視線をアンジュから僕へと移すセルシウス。流石は世界樹にまつわる精霊。案の定、気付かれてるようだった。このバンエルティア号で一応、僕の正体の事を知っているハロルドとリタの方に視線を向けると、『頑張ってね』と言わんばかりの表情である。

うん、心折れそう。

 

 

「……あの、さ…。信じてもらえるとは思ってないけど……今から話すことは、実際僕に起こった事だから……聞いて欲しいんだ」

 

 

僕は小さく一度深呼吸すると、皆の方を向いてそう、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――……そう、だったの……」

 

 

僕が以前、ハロルドとリタに説明したように、僕には元々記憶があった事、何らかの原因でこの世界に来てしまった事等、自分が事故にあった事以外や元の世界のこの世界と特に差し障りの無い部分を話した後、暫く沈黙が続き、アンジュがそう口を開いた。

 

「…しかし…『別世界』か…。俄には信じられないな」

 

 

「ま、普通ならそうでしょうね。でも、衛司が言ってる事は確かに事実よ。私とリタは一度、衛司のドクメントを見せてもらってるからね――」

 

 

徐々に皆が口を開いていくなか、キールの言葉にハロルドがそう言って、僕のドクメントの事を説明していく。

一応、話していく中で僕のドクメントの状態等については誤魔化してくれたようだが。

 

 

「――……なる程、ね……改めてドクメントって凄いわね…」

 

「――ですが、それが本当なら、衛司様が海で見つかった訳も分かりますね」

 

 

「うん……今まで皆を騙してて……本当にごめん……っ!!」

 

 

ハロルド達の説明を聞いて、皆が納得したのを見ると僕は皆に向かい深々と頭を下げてそう言う。

何はどうあれ、僕が皆に記憶の有無について騙していたのは変わりない。

 

……ただ、このまま頭を上げるのが恐い。

別に嘘をついていた事については怒られても仕方ないと思っている。

だけど僕にとって恐い事は……『皆から拒絶される事』。

 

『ディセンダー』として知られているメリアは確かに、少しぐらいは皆からの見方は変わると思うけど……果たして、『イレギュラー』と呼ばれる僕はどうだろうか……?

 

『世界樹を守護する存在』として知られる『ディセンダー』と違い……僕は言わば『異物』、『正体不明』の『イレギュラー』と呼ばれる存在だ。

 

 

『異物』である僕は、一体皆にどう見られてしまうのか……。

 

そして、それを今まで一緒に戦ったり、過ごしてきた人達から見られ、拒絶される恐怖。

 

 

――恐い。恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い――……。

 

 

自分が生み出した『負』の感情に、ただ追い込まれ、頭を上げられずにいる……――その時だった。

 

 

―――ガツンッ!!

 

 

「――ぬごぅっっ!!?」

 

――突如、下げたままの後頭部に何かが当たった音と強力な激痛が入り思わずそんな声を上げて後頭部を抑えて転げ回る。

 

痛みが走る頭を抑えながら見ると、そこには先程の激痛の正体であろうロッドを手に持って僕を睨むように見るロッタが立っていた。

 

 

「ロッタ…?一体なにを……――」

 

 

「――アンタ、バッカじゃないのっ!?」

 

 

僕が口を開くと、ロッタはキッと目を変えそう、声を上げた。

その勢いに、思わず僕は言葉が止まる。

 

 

 

 

 

「アンタ……どうせ自分は『居たらいけない存在』だから居たらいけないとか、皆から拒絶される、とか思ってたんでしょ……?」

 

「ッ……それは……」

 

「ふざけてんじゃないわよっ!!この船の、誰が、アンタを『いらない』なんて思うのよっ!?」

 

「――その通りだよ、衛司」

 

 

……ロッタの言葉に続いて、その近くいたクレス師匠が口を開く。

 

「…ロッタの言うとおり、僕達は衛司を――『拒絶』なんかしない」

 

 

「――話はよく分かんないけど…衛司には無かった記憶があったって事だろ?なら、いいじゃないか!嬉しい事なんだろ?」

 

 

「――アンタ……本当に話分かってないのね…」

 

 

そしてクレス師匠を皮切り、それに続いて今度はスタン師匠とルーティが……

 

 

「まぁ、ロッタやクレスの言うとおりだ。どうして、『仲間』のお前を俺達が拒絶なんてすんだよ?」

 

 

――ユーリが……

 

 

「僕もよく分からないけど……衛司がいなくなったりしたら、寂しいよ」

 

 

――エミルが……

 

 

「そうそう……それに、今までの船の宿賃、まだまだ払ってもらわないと足りてないのよ?」

 

 

――アンジュが……

 

 

「よくわからねぇが…兄弟《ブラザー》は俺のブラザーだ。変わりはしねぇよ!」

 

 

――ヴォイトが……

 

 

「……衛司……居なくなったりしたら……嫌……」

 

 

――メリアが……

 

 

「そうだよ、衛司…。衛司は確かに、『イレギュラー』…此処に居ない筈の存在かもしれないけど……衛司は衛司だよ!私達が今まで一緒に過ごして、一緒に依頼をこなしてきた『仲間』の衛司だよ!だから……衛司が居なくなるのも嫌だし…私達は絶対に衛司を嫌いになんかならないよっ!!」

 

 

――そしてカノンノが……皆が……。

 

そう言って、僕を引き止めてくれた。

 

 

「ッ……皆……どう、して……ッ…」

 

 

皆の言葉に、少しずつ自分の声が震えているのを感じながら、そう、言葉を出す。

どうして皆……僕を拒絶しないのか……嬉しい…だけど不安で、そう言ってしまった。

 

そんな僕に対し、皆を代表するようにカノンノが僕の前に出る。

 

 

「――そんなの決まってるよ。衛司はちゃんとした一人の人間で、私達の大事な一人の『仲間』で……私達の大切な『存在』だから…私達は絶対に、拒絶なんてしないもの」

 

 

 

「――……ッ……みん…な…っ…!!」

 

 

そう、カノンノの言葉に…皆の笑顔に……僕は壊れたように、涙が零れ出す。

そうなんだ……僕は……『此処』に居て……いいんだ…っ!

 

 

「…ぅ…っ……みん、な……あり、がとう…っ!!」

 

 

皆の優しさや言葉にただ僕は…泣くことと、そう言葉を出す事しか出来なかった。

 

 

 

 




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第二十三話

 

 

 

――あの後、僕達はセルシウスから、彼女が知っている限りの話を聞いた。

 

あの暁の従者の時に現れたラザリスが、セルシウスが言っていた『災厄』と呼ばれる存在の事。

ただ、この事に関して、ラザリス自身が言っていた『誕生する筈だった世界』。それが何故、この世界『ルミナシア』に封じられていたのかはセルシウスにも分からないらしい。

 

だが、それと同時に新しい情報が彼女から入った。

それは、『この世の創世に立ち会ったヒトでも、精霊でもない者』、そして、その存在から創世の時について聞いた『ヒトの祖』。

 

 

 

 

……詳しい事は結局分からず終いで、現在はこの『ヒトの祖』の事について、リタがセルシウスから詳しく話を聞いている。

 

 

 

 

そしてそれを待つ今現状、僕はと言えば……――

 

 

 

 

「―――九百七十八、九百七十九……ッ…九百八十っ!」

 

 

――現在、素振り中であった。

要するに詰まるところ暇なのである。

 

 

現在、クラトス師匠等、僕にとっての師匠メンバー達は皆依頼に行っており、鍛錬と言ってもこうして甲板で素振りをするしかないのだ。

え?エミルやカイウス?…エミルはマルタとイチャついてて、カイウスはルビアといつもの痴話喧嘩してるよ(チッ……リア充暴発しちまえよ)。

 

 

 

 

 

「―――九百九十八、九百九十九……ッ…千ッ!!……ふぅ…」

 

――暫くして、目安にしていた素振り千本を終わらせると木刀をゆっくりと下ろして息を整える。

 

 

「――ぁ。やっぱり此処に居たんだ、衛司」

 

 

ふと後ろからそんな声が聞こえて振り返ると、僕を見て小さく微笑んでいるカノンノがいた。よく見るとその両手には飲み物が入っているコップが二つあった。

 

 

 

「……カノンノ?どうして此処に……というかそのコップは…?」

 

 

「ロックスから衛司が鍛錬してるって聞いたから何か飲み物いるかな、って思って持って来たんだけど……駄目だったかな?」

 

 

「全然。むしろナイスタイミングだよ。ありがとう、カノンノ」

 

 

カノンノの言葉にそう僕は答えカノンノから飲み物が入ったコップを受け取り、もたれ掛かれる所まで歩いてその場に腰掛けると、カノンノも僕の隣へと腰掛けた。

 

 

そのままカノンノから受け取った飲み物を飲んでいると、不意に隣に座っているカノンノの顔が少し俯いていた。

 

 

「……?どう……したの?」

 

 

「その、ね……衛司は私たちが今居るこの世界とは別の世界から来て……記憶が…あったんだよね…」

 

 

 

「……うん。まぁね……」

 

 

「それじゃあ……改めて聞いちゃうけど…衛司のいた世界には……やっぱり私の書いた絵の風景は…なかったかな…?」

 

 

 

 

 

ゆっくりと俯いていた顔を上げ僕を見てそう聞いてきたカノンノ。彼女の書いた風景……僕が居た世界では少なくとも…それを僕を見たことはない。

僕はカノンノのその問いに小さく首を横に振った。

 

 

「そっか……少し残念だな…」

 

 

「ごめん……力になれなくて」

 

 

僕の返答に落ち込んだ様子を見せるカノンノにそう頭を下げるとカノンノは『ううん』と首を横に振った。

 

 

「衛司のせいじゃないよ。……ただ、これで衛司が私の絵を見なくなるって思うと…ちょっと寂しくて…」

 

 

「そっか……ん……?」

 

 

僕が小さく頷いていると不意に、カノンノの言葉に引っかかった。

 

 

「…カノンノ、僕がカノンノの絵を見なくなるって……?」

 

 

「ぇっ……だって……私の絵はあくまで…衛司やメリアが見て、記憶の手掛かりになればってものだったから……別の世界から来てた衛司や、ディセンダーだったメリアは……もう見る必要がないんだなって思って……それで……」

 

 

そう言いながら徐々に声が小さくなっていき再び俯いていくカノンノ。

その姿が、いつものよりどこか弱々しく見えた僕は一度溜め息を吐くと……

 

 

「――この…考えすぎっ子っ!」

 

 

「――ぁいたっ!!?」

 

 

俯いたままの彼女の額やや上に向けデコピン(ちょっと強め)を放った。

突然の事に僕の指が直撃した額を抑え、カノンノも流石に驚いた表情で顔を上げた。

 

 

 

「……僕に記憶があって、別の世界から来たからって、メリアがディセンダーだったからって…僕達がカノンノの絵を見なくなる理由にはならないよ」

 

 

「ぇ……でも……もしかしたら……本当に無い風景かもしれないんだよ…?」

 

 

僕の言葉に驚いたままの表情でいるカノンノ。だが、それは徐々に寂しげな表情となっていき、そう言葉を出す。

今まで彼女自身があると信じ続け、『この風景は無い』と一言も言った事がない彼女から出た言葉。

……それは、多分、今までこれだけ様々な場所を見て回って、その風景がいまだに一つも見つからない現実から出た彼女の不安の言葉なのだろう。

 

「……絶対ある」

 

 

「ぇ……?」

 

 

 

「初めて絵を見せてくれた時にも僕は言った筈だよ。カノンノがあんなに綺麗に、鮮明に描けてる風景を『嘘』だとか『有り得ない』だとか言わないって。だから、僕は絶対にあるって信じてるし……見つかるまで僕も一緒に手伝うって。…だから例え、言い出したカノンノが途中で諦めそうになったって、僕が絶対に諦めずに一つでも見つけて、カノンノの手を無理やりにでも引っ張ってみせるよ」

 

 

 

弱々しく見える彼女に、僕はそう思った言葉をそのまま出し、言い終わると笑って見せる。

それが僕なりに出来る、彼女を安心させるものだと思って。

 

 

 

 

そう思いながらカノンノを見ていると……

 

 

「……ぇ…っ?」

 

 

突然の事に僕はそんな言葉が出た。カノンノが不意に顔を戻したと思うと、そのまま僕の胸元に顔を埋めるように抱きついてきたからだ。

ぇ……何事っ!?

 

 

「……ッ…」

 

 

「えっと……カノンノ…泣いて…る…?まさかデコピン痛かった!?それなら今すぐ謝るけど――」

 

 

「――違うのっ!……衛司は…本当に…良い人過ぎるから……嬉しくて……私の不安だって飛ばしてくれて……」

 

 

「………カノンノ……」

 

 

「――だけど……もう少しだけ不安だから……こうしてて……」

 

僕から顔を隠すように埋めてそう途切れながらも言葉を繋げていくカノンノ。

そんな彼女に、僕は左手で抱きしめ返して、右手でそっと頭を撫でた。

 

 

「……僕で良ければ……」

 

 

 

 

例えなんだろうと……彼女の力になれるのなら、僕はなんだって良かった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

――――『オマケその1(その後の甲板の衛司とカノンノ)』

 

 

 

「……………」

 

 

「……………」

 

 

「……………//(どうしよう)」

 

 

「……………//(離れ…ずらい)」

 

 

――そのまま約数十分、彼等がこのままで居たことは、言うまでもない。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

――――『オマケその2(ホール側のその他、甲板への扉の隙間から)』

 

 

 

「――……うわー、甲板に出ずらい」

 

 

「…良い雰囲気そうねー、二人とも♪」

 

 

「…お、ぉ、おぉお嬢様ぁあぁぁぁーっ!」

 

 

「いやいやー、青春ですねー♪」

 

 

「全くね~♪グフフフフ~♪」

 

 

 

――この数十分後、甲板から戻った二人に向け彼等の視線が温かったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 




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第二十四話

今回はオリジナル話です+
未参戦作品、及びキャラクターが登場します+


 

 

「――…おーい、まだつかねぇのか…?」

 

 

「……うっさいヴォイト。聞く体力があるならさっさと歩く」

 

 

「……ははっ…」

 

 

――コンフェイト大森林のとある道を歩きながらそう言葉を出したヴォイトに、僕の隣を歩くロッタは溜め息を一つ吐いてそう返すのを見て、僕は思わず苦笑いを浮かべた。

 

まぁ、ヴォイトがそう聞いてくるのはしょうがないか……かれこれ二時間は歩いてんだし。

 

 

何故、今僕達がそれ程時間を掛けてまで歩いているかは、この先にあるとある村から依頼が来たからだ。

普通ならバンエルティア号でその村まで送ってくれるんだけど……どうもその村は周りを木々に囲まれてるらしく、バンエルティア号での着陸が無理らしく、コンフェイト大森林の入り口から入っていかないと行けないらしい。

 

そして、アンジュから渡された地図通り道を歩いて約二時間、現れた魔物との戦闘以外はずっと歩きっぱなしなのでそろそろ本気で足がきつい状態なのだ。

……早くついてくれないかなー…。

 

 

「――ぁー……?おい、アレじゃねぇのか…?」

 

 

 

 

「ん……あ、多分そうだよ」

 

 

ヴォイトの声に、ヴォイトが指差した先を見ると先に村のようなのが見え、手に持っていた地図を確認すると僕は頷いた。

 

 

「――あそこが、……『リーゼ村』か」

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――いやいや…わざわざ忙しい中、こんな所にまで申し訳ありません」

 

 

「――いえいえ、僕達も依頼を受けた以上、ちゃんとこなすのが仕事ですし。それが売りのアドリビトムですから」

 

 

「……アンジュ譲りの営業スマイルかつ、売り台詞ね(ヒソヒソ)」

 

 

「……ブラザーの将来が気になるぜ(ヒソヒソ)」

 

 

外野五月蝿い。

――あの後、僕達がリーゼ村に着くと、リーゼ村の村長が出てきて話を聞くため村長の家で今話をしている。

 

 

「……えっと、それで依頼とは…?」

 

 

「はい…。実はこの村の先にとある洞窟があるのですが……近頃のその洞窟の様子がおかしくて……」

 

 

「洞窟の様子が……?」

 

 

「はい……元々は魔物もすんでいない筈だった洞窟だったのですが……最近では魔物も出始めて……この村にいる手練れの者や、村で雇っている傭兵で対処しているのですが流石に洞窟の奥まで様子を見に行った事はなくて……」

 

 

 

「洞窟で突然、魔物が……」

 

 

村長の話を聞いていく中、僕はそう呟いて考える。今まで何にもなかった洞窟から魔物が突然現れた……正直、異例すぎる。

 

 

 

 

 

「……ねぇ、まさかとは思うけど……これも赤い煙が関係してたりするんじゃないかしら…?」

 

 

「……有り得ない、とは言い切れないね……」

 

 

考えていると、不意にそうロッタがヒソヒソ声で話しかけてきた。確かに、考え得る中ではそれが今では一番思い当たるだろう。

 

 

「――……分かりました。その洞窟の調査と、出来る限りの魔物の討伐、引き受けました」

 

 

「……ぁ、ありがとうございます!此方もある程度の人員を準備しますので、宜しくお願いしますっ!!」

 

 

「いえいえ、これもこの村の為ですから。受けた以上は、ちゃんと成果を出しますよ」

 

 

僕の言葉に、村長さんはどこか嬉しげにそう言って頭を下げてきたので、僕はそう答え小さく笑ってみせた。

 

 

「……衛司のあの受け答え方に、終わりの営業スマイル……絶対にアンジュから教わってるわね(ヒソヒソ)」

 

 

 

「……やっぱりブラザーの行き先が怖いぜ(ヒソヒソ)」

 

 

 

――だから外野、五月蝿い。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

――村長さんに教えられた通りに村の奥に抜け道を歩くと、しばらくして先に洞窟が見え、その入り口の前に男性が二人、女性が一人の三人程の姿が見えた。

あの人達が村長さんが言っていた回せる人員だろうか…?

 

男性の内一人は、僕と同じか少し下程の背の少年。もう一人はその少年よりも背は高く、なんとも大人っぽい感じの人。

そして女性の方は、少し高めでなんというか…凛とした感じで、背の高い方の男性とはまた別の感じの大人っぽさが感じられた。

 

 

向こうも此方に気付いたのか、少年が此方に頭を下げてきた。

 

 

 

「アドリビトムの方達です…よね?村長から話は聞いています。僕はジュード、ジュード・マティスです」

 

 

 

「――私はミラ。ミラ=マクスウェルだ。訳あってジュードの世話になっている。自分で言うのはなんだが、腕には自信があるぞ」

 

 

「――俺はアルヴィンだ。この村で雇われてる、一応フリーの傭兵だ。ま、宜しく頼むぜ」

 

 

そう少年、ジュードから順に、女性のミラ、もう片方の男性のアルヴィンが自己紹介をしてきた。

 

 

「ジュードさんにミラさんにアルヴィンさん…ですね。僕はアドリビトムから来た乾衛司です。姓が乾で、名前の方が衛司。それでこっちはロッタとヴォイトです」

 

 

「……自己紹介くらい自分でできるわよ」

 

 

僕が三人にそう自己紹介していきロッタとヴォイトの方を見ると、ロッタは呆れたような様子でそう呟き、ヴォイトは特に気にする事無く笑ってた。

 

 

 

 

―その後、結局皆、『さん』付け呼びは無しにして洞窟に入る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――それしても改めて言うけど、ジュード達って強いね…」

 

 

「そ、そうかな……?」

 

 

洞窟の魔物と戦いながら奥へと進むと中、僕は隣を歩くジュードにそう言うと、ジュードは少し頬を掻いてそう答えた。

 

この三人、正直かなり強い。

ジュードは拳を主とした戦い方でセネルとは違い、どちらかと言うとファラ寄りな戦い方をする。また、見た目とは裏腹に拳の一撃一撃が重いのか、魔物をダウンさせる事が多い。

 

ミラはと言うと、また珍しい戦い方を見せてくれた。武器である剣の腕もさながら、魔法を詠唱無しで剣技として利用して戦う。一体どうやってんだろう…。

 

アルヴィンはフリーの傭兵というだけあってやはり強い。戦い方は剣と銃を交互に使う『海賊』のような戦い方だが、違うのは剣の大きさ。大剣と言うようなサイズの剣を片手で軽々と奮い、銃を扱うかなりパワータイプ+テクニックタイプな戦い方である。

 

「――それで、今大分進んだ訳だが…アドリビトムの方々はこの洞窟の魔物についてなんか分かった?」

 

 

三人の様々な戦い方等の話をしながら歩いていると不意に、アルヴィンが周りを少し見回しながらそう聞いてきた。

 

 

この洞窟の魔物……そう言えばさっきから戦ってた魔物って『ウィンドスピリット』や『アーススピリット』と言った小さな精霊が何かの干渉を受けて変化した魔物ばっかりだったっけ。……もし僕の考えがあっているなら……

 

 

「……一応、あくまで僕の考えだけど……少し分かってきた」

 

 

「ほぅ…。それは気になるな」

 

 

僕の返答に周りの皆が少し驚いた様子を見せ、その中で最初に表情を戻したミラがそう、興味深そうに言葉を出した。

 

 

「うん…。まぁ、うちのギルド関係の事もあるから詳しくは話せないんだけど……多分此処に最初、魔物が居なかったのは小さな精霊達が過ごしていてそれこそ、村の人達は気付かなかった程神聖に近い領域だったんだと思う。…だけど今、この『ルミナシア』でちょっとした変化が始まって、それに小さな精霊達が干渉して、魔物に変わったんだと……僕は思う」

 

 

「……へぇー。…優等生君はさっきの説明、どう思う?」

 

 

「…もし衛司の言ってる変化っていうのが本当なら…有り得ない訳じゃないかも」

 

 

僕の説明を聞いてアルヴィンはそう、ジュードに再確認するように聞くとジュードは僕の説明の事を考え、そう答えた。ミラは少し首を傾げていたが、ロッタとヴォイトは『この変化=赤い煙(ラザリス)関係』と知っているので、理解したのか小さく頷いていた。

 

 

 

「まぁ、まだ深くは分からないから……とりあえず奥に進んでみよう」

 

 

僕の言葉に皆は頷くと更に奥へと向け、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――……此処が奥、か……あれ……?」

 

 

しばらく歩いた後、漸く最奥部であろう広い場所に着き僕はゆっくりと周りを見回すと、ふと視線が止まった。

 

 

「……?どうした、ブラザー…?」

 

「……人…しかも、女の子が居る」

 

 

「……え……?」

 

 

僕の返答に周りが驚き、僕の視線の先を見た。

そこには、黒の髪をした見た目九歳程の小さな少女が此方を見るように立っていた。少女の頬には小さな、雷を模したような模様がしてあるのが特徴的である。

 

 

「……あんな子…僕の記憶では村では見たことないよ…?」

 

 

「……いずれにしても、此処にいるのは危険だし…声を掛けてみる」

 

 

僕は少女に向けて歩き出すと、念の為警戒しながら少女と少し間を開けて前へと立つ。

 

 

「……えっと……どうしたの……?此処は――『どうして――』…え?」

 

「――どうして皆、私の場所を荒らすの。私は……私は…っ!!」

 

 

「――ッ!!衛司、離れろっ!!」

 

 

僕が声を掛けたと同時に、少女はどこか荒く声を上げ出し、後ろから聞こえたミラの言葉にすぐさまその場を後退すると、先程まで僕が立っていた場所に雷撃が落ちた。

これは……っ!?

 

 

「あの子は一体……?」

 

 

「恐らく……精霊だろう」

 

 

「分かるの、ミラっ!?」

 

 

「…いや…詳しくは分からないが…何故か私の意志がそう言っている気がする」

 

 

「んな事言ってる場合じゃねぇ……なんか来るぞっ!!」

 

 

ミラの言葉に、ジュードは驚いた様子でそう問うが、ミラはそう曖昧に答えると、アルヴィンが声を上げた。

 

 

「――私は……私はァァァァ……ッ!!」

 

 

「……やっぱり…そう言うことか…っ!」

 

 

少女が声高くそう言うと、大きな雷撃が少女に落ち、次に少女の姿が見えると、僕はそう声を出した。

 

 

周りを紫色の円のようなもので包まれた少女――精霊『ヴォルト』の周りに、『赤い煙』が纏われていた――。

 

 

 






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第二十五話

今回は暴走ヴォルト戦です。
相変わらず戦闘描写ががが←

お気に入り登録件数が100になりました+
皆様本当にありがとうございます+


 

 

 

「――アアアァアアァアーッ!!」

 

 

 

「――散れっ!!」

 

 

 

――ヴォルトの叫びと同時にミラの声が上がり、全員がその場を下がると、先程までいた場所に雷撃が落ちる。

 

雷撃が落ちた場所を確認すると、その威力の為か地面が削れ、雷撃が直に落ちたであろう位置から未だ、バチバチと音を立て小さな電撃が走っていた。

 

 

「――オイオイ、精霊ってのはこんなに気性が荒いもんなのかよ?」

 

 

「ううん、違う。……多分、暴走か何かだと思う」

 

 

苦笑を浮かべながらそうぼやきつつ武器である大剣と銃を構えるアルヴィンに、ヴォルトの様子を確認しながら拳を構えるジュードがそう答える。

まさか、あの赤い煙が何なのか情報が少ないのにそこまで絞り込むなんて……ジュードって頭良いのかな…?

 

 

「とにかく……今は彼女を倒すしかない。皆……行こうっ!」

 

 

僕の声に皆が頷くと、それぞれが武器を構え、僕、ジュード、ヴォイト、アルヴィンがヴォルトに向け走り出し、ミラとロッタが詠唱を開始する。

 

 

「ハァアァァァッ!双牙斬ッ!!」

 

 

「うおらぁっ!虎牙破斬ッ!!」

 

 

先に僕とヴォイトがヴォルトに向けて、斬り下ろしから斬り上げの『双牙斬』、斬り上げから斬り下ろしの『虎牙破斬』を放つ。

 

 

「――アアアァアアァッ!!」

 

 

「くっ!?あぁっ!!」

 

 

「ん…だとぉっ!?」

 

――だが、それはヴォルトの周りに張られた紫色の球体状の膜に防がると、同時にヴォルトの周りから電撃が出され僕とヴォイトは弾き飛ばされる。

 

 

「それなら……優等生っ!!」

 

 

「分かったよ、アルヴィンっ!!」

 

 

「「魔神連牙斬ッ!!」」

 

 

僕とヴォイトが弾かれたのを見てアルヴィンとジュードが目を合わせ合図をすると、二人が斬撃と拳撃を同時に放つ。

 

 

「――アァァァァッ!!」

 

 

「…マジかよッ!?」

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

二人が放ったソレをヴォルトは確認すると、自分の球体状の膜を利用し、高速回転を始め、ソレを避けると同時にそのまま二人に向け電撃を放ちながら走り出し、二人はなんとか避ける。

 

 

 

「なら……これでどう?――レイッ!!」

 

 

「大地よ――ロックトライッ!!」

 

 

「―――ッ!!?」

 

 

ロッタとミラがヴォルトの動きと僕達の位置に合わせ、ヴォルトに向け上空から数本の光の柱と、地面から数本の土の槍を出現させる。ヴォルトはそれに対応出来なかったのか直撃する。

 

 

「――…しゃぁっ!!これなら……っ!」

 

 

「…っ!待って、ヴォイト……まだだっ!!」

 

 

「――……『ライトニング・シェル』」

 

 

ロッタとミラの魔法で僅かに膜が割れたのを見てヴォイトが再び攻撃を始めようとするが、僕がヴォイトを止めると同時に、ヴォルトの呟きと共に再び膜が再構築された。

 

「くそ…笑えねぇっつーのっ!!」

 

 

「――アアアァァァァッ!!」

 

 

「ッ!!皆、急いで奴の周りから離れろっ!!」

 

 

 

 

 

 

再構築されたヴォルトの膜に、アルヴィンが思わず舌打ちと共に言葉を出すも、ヴォルトのより一層高い叫びに、ミラがそう言うと、ヴォルトが上空へと飛び上がる。

 

 

 

「……ロッタッ!!回復の準備をっ!!」

 

 

「え、ええっ!!」

 

 

「――来るぞっ!!」

 

 

「――アアアァアアァアーッ!!」

 

 

ヴォルトの行動が分かり、僕はロッタの前に盾になるように立ち、ロッタに指示して退かせると、ミラの声に皆が防御に入る。上空へと上がっていたヴォルトは急速で落ち、そのヴォルトが落ちた位置から無数の雷撃が放たれた。

 

 

「ぐ…っ……うぅっ!」

 

 

「ちぃっ……コイツは…痺れるぜ…っ!」

 

 

「皆ッ!――回復の光よ、集え!リザレクションッ!!」

 

 

ヴォルトから放たれた雷撃をなんとか皆防ぎきったが、やはりそれなりにダメージはもらってしまった。退いていたロッタが駆けつけ、皆の周りに回復陣を張り、ダメージを回復させてくれる。

 

 

 

「…なんとか防ぎきれたか…。礼を言う、ロッタ」

 

 

「どういたしまして…って言いたいけど、アレの攻撃に気付けたのはアナタのおかげだから此方こそ礼を言うわ。……それにしても――」

 

ミラの言葉に苦笑を浮かべてそうロッタは返しながら視線を前方のヴォルトに向ける。それに合わせ僕もヴォルトを見ると、ヴォルトは此方を睨むように見て待ち構えていた。

 

 

「……ったく。流石精霊様ってか。…この人数で俺達が劣勢だからな」

 

 

「あの膜をなんとか出来りゃいいんだが……再構築が早ぇからな…」

 

 

「……それなら再構築が間に合わない程に攻撃すれば――」

 

 

「……どういう事、ジュード?」

 

 

アルヴィンとヴォイトの言葉に、ジュードは少し考えるような仕草をするとそう言葉を出し、僕はそれを問い掛けた。

ジュードは皆を見て小さく頷くと手早く説明を始める。

 

「――至ってシンプルな事だよ。再構築が早いなら、膜を壊す強力な攻撃を連続で出して、再構築のスピードを上回ればいい。ただそれだけだよ」

 

 

「成る程、ね……。でもあの膜、それなりに堅いし…ミラとロッタの魔法だけじゃ足りないんじゃ…」

 

 

「「――なら、俺の出番だな」」

 

 

ジュードの説明を聞いて僕は納得するも、そう言葉を続け掛けると、ヴォイトとアルヴィンが名乗りを上げた。

 

 

「ヴォイト……それにアルヴィン…」

 

 

「力技なら俺に任せろ。これでも、とっておきの隠し玉があるんだぜ?」

 

 

「俺も同じく、てな。先方はミラとロッタ、中堅に俺とヴォイト……締めはお前等に任せるぜ」

 

そう言ってニッと笑うヴォイトとアルヴィンに、僕とジュードはミラとロッタを見るも、女子二人も賛成らしく頷いた。

僕とジュードは顔を見合わせお互いに再確認したように頷くと再びヴォルトに向け構え直した。

 

 

――さぁ、行こうっ!!

 

 

「いくぞ、ロッタっ!!」

 

 

「任せなさい、ミラっ!!」

 

 

「「光の雨よ、ジャッジメントっ!!」」

 

 

「―――ッ!!?『ライトニング・シェル』」

 

 

 

 

 

戦闘再開を告げるかの如く、ミラとロッタの両者の魔力を合わせ声と共に『レイ』とはまた違った無数の光の柱をヴォルトへと落とす!

ヴォルトは攻撃に当たり膜にヒビが入るも、再構築させる。

 

だが―――

 

 

「一気にいくぜっ!目ェかっぽじってよく見てな!おたくの最後の光景だっ!!――エクスペンダブルプライドッ!!」

 

 

アルヴィンが上空に飛び上がり、再構築されたばかりの膜に銃を連射しヒビを入れそのまま上空で大剣を構えると、自分の周りに炎を纏い、ヴォルトの膜に特攻する!

再構築されたばかりの膜に再びヒビが入り、それは先程のジャッジメントの際のヒビよりも遥かに大きなものだった。

 

 

「――ッ!!!?ラ、『ライトニング・シェル』ッ!!」

 

 

「――まだまだいくぜぇっ!!うおらぁっ!!」

 

 

ヴォルトは若干焦りを見せ、再び膜を再構築させるも、それに合わせヴォイトは剣を力一杯投げると、それは勢いが入り膜に突き刺さる。そして――

 

 

 

「――うぉおぉオラオラオラオラオラオラオラオラァァァッ!!」

 

 

――膜に突き刺さったまま剣の柄部に拳の乱打を叩き込む!

そして剣は徐々に膜の奥へと入っていき、剣が突き刺さった箇所のヒビが大きくなる。

 

 

「――こいつでぇ…決まりだぁっ!剣打・粉砕ッ撃ィィィィッ!!」

 

 

「――――!!!!?」

 

 

 

――ヴォイトが最後、突き刺さったままの剣を掴み、そのまま力尽くで振り上げ跳ぶと、膜は音を立てて崩壊した。

膜が破壊された事に驚愕したヴォルトの不意をつき、僕とジュードは一気に距離を詰める!!

 

 

「行くよ、ジュードっ!!」

 

 

「うん、力はなるべくセーブして……!!」

 

 

「「双狼砲虎ッ!!」」

 

 

「――ァ、ァァァァッ!?」

 

 

膜が剥がれ、無防備となったヴォルトの小さな腹部に、二人の両掌から放たれた狼と虎の頭を模した波動が直撃する。

見た目が少女の為つい力のセーブはしてしまうが、直撃位置は腹部。精霊ながらもこれは効いたのか叫びと共に、ヴォルトは吹き飛んだ。

 

 

 

「――…ハァ……ハァ…これ以上はマジでキツいぞ」

 

 

「――…ハァ…だな。……もしこれで立ち上がったら…」

 

 

「……残念ながら、まだのようだ」

 

 

全員が流石にダメージを受けた上、大技の発動で限界が近く息切れをしながらそう言葉を漏らすも、ミラがヴォルトが吹き飛んだ方を見てそう告げた。

僕達が視線をそちらへ向けると――

 

 

「――ァ…ァァァァ…!」

 

 

 

――多少のダメージを見せながらも、周りに原因である赤い煙を纏わせながら立ち上がるヴォルトの姿があった。

 

 

「……オイオイ…まだやれるのかよ…」

 

 

「……衛司、ヴォイト……まさかだけど…アレってあの赤い煙が出ている以上、何度も立ち上がるんじゃないかしら…」

 

 

「…マジかよ!?おい、ブラザー…もしそうならあの赤い煙はメリアにしか消せねぇ…此処は皆の事も考えて一旦退いた方がいいんじゃねぇか…?」

 

 

 

 

 

 

ロッタが僕とヴォイトにしか聞こえないようにそう言うと、ヴォイトは小さく舌打ちし、僕にそう言ってきた。

確かに……僕もそれは考えたけど……。

 

 

「――ァ……アアアァアアァアーッ!!」

 

 

目前で叫ぶそれを見てその考えは止まる。僕達が此処で退けば、彼女…ヴォルトは赤い煙の呪縛に取り憑かれたままなのだ。だけど…退かなければ方法は何もない。

 

 

「……くそぅっ!!」

 

 

自分が何もできない不甲斐なさに思わず、木刀を強く握りしめた時だった。

 

――突然、木刀が光り出した。

 

「ッ!?……これは……」

 

 

「…?…どうしたの衛司…?」

 

僕の反応に、小さく首を傾げる皆。まさか…この光が見えていないんだろうか…?

これって一体……?……でも……――

 

 

「――いける気がする」

 

 

「…衛司…?…ッ!!オイ、衛司!!」

 

 

僕の言葉に皆が首を傾げたままだが、僕がゆっくりとヴォルトの方に向けて歩き出すとその表情が変わり出す。

皆が静止をするような声が聞こえるが、僕はそれを聞かず、ヴォルトに向け歩き続け……ヴォルトのほぼ真正面まで歩み寄った。

 

 

「――…ァ…アアアァーッ!!」

 

「……大丈夫……今、助けるっ!!」

 

 

未だ吠えるように声を出すヴォルト。僕はそれに向けゆっくりと木刀を振り上げ――ただ《助けたい》と感情を込めて――木刀をヴォルトに振り下ろした―。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――ッ……あれ……此処は……?」

 

 

――目が覚めていく感覚に、ゆっくりと目を開くと知らない天井だった。

……あれ……?

 

 

「――…ぁ、目が覚めたみたいね」

 

 

「――おそようさん、ブラザー」

 

 

周りを見回すと、どうやら僕はベッドに寝ているらしく近くの椅子に腰掛けたロッタとヴォイトの姿があった。

…そうだ……っ!!

 

 

「僕は確かあの洞窟で……二人共、ジュード達は!?あの精霊は…!?」

 

 

「ちょっ、まずは落ち着きなさいバカッ!!」

 

 

勢いよくつい顔をそちらに近付けた僕に、ロッタは何故か顔を赤くしてロッドで頭を叩いてきた。うん、痛い。

ヴォイトはそのようにケラケラと笑ってた。

 

 

「まぁ、落ち着いたみてぇだな。とりあえず説明だが……まず皆無事だ、安心しろ」

 

 

「――…そっか、良かった。……それであの精霊は…?」

 

 

 

 

 

「……はっきり言うとよく分からないわ。…アンタがあの精霊に木刀を『精霊に当たらないように』振り下ろした後、いきなりアンタが倒れて……それでその精霊が少しアンタの事見てたけどいきなり消えたわ…。でも、赤い煙が消えてて正気に戻ってたわ」

 

 

「……そっか……」

 

 

ロッタの説明を聞いて僕は安心したように息を吐く。良かった……助けられたんだ。

 

 

「一応依頼の方は村長に上手く言っといたけど…アンタがぶっ倒れてたから一日村の宿屋の部屋借りる事になったんだけど――結局アンタ、あの赤い煙をどうやって消したのよ?」

 

 

「……自分でもよく分からないんだ。でも、木刀が光り出したて……それでなんか、行けるっ!って気がして…」

 

 

「…木刀が…?でも、俺達にはそれは見えなかったが……確かその木刀って世界樹から出来てんだったっけ……?」

 

 

ロッタの質問に思い出しながらそう返すと、ヴォイトはそう言いながら合わせて聞いてきたので、僕は頷いて応える。

 

「……世界樹って言うとディセンダー…そしてその木刀は世界樹から出来たもの……まさかディセンダーと同じ力がある、とか……?」

 

 

「……分からない。詳しくは世界樹のみぞ知る、てことかな…?」

 

 

――結局、深く分からず仕舞いで話は終了し、僕達は宿屋で休んだ翌日、ジュード達に挨拶と礼をしてバンエルティア号へと戻る事になった。

 

 

……ただ…やけになんかが自分の体の中にある感じと、アルヴィンがよくバンエルティア号が停船している場所を聞いてきたのが気になっている。

 

 

 

 




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第二十六話

今回も前回に引き続きオリジナル話です。


 

 

 

 

 

「――ん……んんー…っ」

 

 

 

ゆっくりと重いまぶたを覚ましながら、上半身を起こし、伸びをする。

うーん……よく寝たぁ。

如何せん疲れていたのか大分寝てしまっていたようだ。

 

なんでこんなに疲れていたのかというと……昨日、依頼から帰ってくると、そこにはこの『ルミナシア』とは別の世界からやってきたというカイル、ロニ、リアラ、ジューダスの『ディスティニー2』メンバーが居たからだ。なんでも…セルシウスの話を聞き、整理したリタが、ハロルドと協力し、発明した『異次元チューニング装置』で、異次元にあるというヒトの祖の遺跡『ヴェラトローパ』を呼び込もうとしたらしいのだが……それに失敗し、カイル達を呼び込んでしまったとか。

 

それで昨日はそのまま来たばかりで泊まれる場所がないカイル達の為に、元の世界に戻れるまでの間このアドリビトムの一員にしてバンエルティア号の一室を使わせる事となり、その一室の掃除を手伝う事となったのだった。

 

 

「――…お腹減ったなぁー……ご飯食べにいこうか」

 

 

大分寝たいたのか起きた時から来ている食欲に呟き、とりあえず立ち上がろうとして……気付いた。

 

 

「――……ん……?」

 

 

改めてベッドを見直すと……僕の隣の毛布がやけに『膨らんでいた』。

 

 

「……何だろう」

 

 

とりあえず、僕は恐る恐ると毛布を掴み、ゆっくりと持ち上げて―――

 

 

 

「―――すぅ…」

 

 

―――ゆっくりと下ろした。

 

 

……よし、落ち着け、冷静になれ、クールなれ乾衛司。どうして、何故、僕のベッドの毛布の僕の隣で、幼女が、一糸纏わぬ状態で眠っているんだ?あれか、僕は昨日のうちに、大人の階段を上ってしまったのか?いや、それにしても相手が幼女ってそれは絶対に上っちゃ不味い階段だろ、十八禁送りだろ。いや、落ち着くんだ僕、乾衛司。今の僕に服の乱れ等は一切ないし、特有のそういう臭い等も一切ない。イコールあれだ、これは夢だ、幻覚だ、一般の思春期男子が共通して見てしまう一種の幻なんだ。そうだ、そうに違いない。その証拠に今度こそ毛布を捲れば何も―――

 

 

 

「――ん……すぅ…すぅ……」

 

 

 

――――ゆっくりと捲った毛布を戻すことにする。

 

「……ふぅ……」

 

 

そしてゆっくりと二、三回程深呼吸すると―――

 

 

 

「あばばばばばばばΣ□@υっ◆っ!!?」

 

 

――自分でもよくわからない奇声を発しながらベッドから飛び退いた。

うん、大混乱してます。

 

 

「――ん……んんっ……?」

 

 

 

そんな僕の奇声に幼女(改めて今気付いたけど色々間違えてた)……少女は目が覚めたのかゆっくりとベッドから体を起こした。お願いだから前を隠してください……って、あれ……?

 

 

 

 

 

 

「……もしかして…君は……あの時の……?」

 

 

やや混乱しながらも改めて少女を見直すと……一糸纏わぬ状態だから上手く分からなかったが、その頬にある雷を描いたような独特の模様を見て思い出した。

彼女はあのリーゼ村で対峙した……雷の精霊『ヴォルト』だ。

彼女…ヴォルトは此方を確認したのかベッドの上でゆっくりと正座をすると……何故か僕に向けて頭を下げてきた。

 

 

「――…おはよう御座います、主《あるじ》」

 

 

「……へ…?あの……主って――」

 

 

 

「―――衛司ーっ!?大声が聞こえたんだけどなに……か……」

 

 

――この時ほど、僕は自分の部屋に鍵を閉めることをしない事を後悔する事はない。

さて……今僕を心配して来てくれたんであろうカノンノに僕達はどう見えるんだろう。

 

まぁ……言わずとも分かるよね…?

 

 

「――あの、カノンノさん…これには色々訳がありまして…」

 

 

「……うん……わかってるよ……」

 

 

「……ならせめてその膝から獅子を放ち掛けない闘気をおさめて下さい。と、とにかく話し合おう」

 

 

「……うん、そうだね、話し合いは大切だよ。だから――O☆HA☆NA☆SI☆しよう?」

 

 

――この日、彼女の膝は凶器だと、文字通り身を持って知りました。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――えっと……つまり、どういうこと……?」

 

 

目の前にいる人物、アンジュは説明を聞くとそう口を開いた。

今彼女の目の前では……右目付近に青あざを作った状態で苦笑いをしている僕と、僕のその右隣で不機嫌そうな表情を浮かべているカノンノと、僕の左隣で小さく小首を傾げる…ロックスさんが持ってきた俗に言うゴスロリ服を身に纏った雷精霊『ヴォルト』と、その隣で笑みを浮かべている氷精霊『セルシウス』が居た。

うん、何だろうこのカオス。

 

 

とりあえず、苦笑を浮かべているアンジュに、再度説明しようとセルシウスが口を開いた。

 

 

「…とりあえず、この状況であるから私が変わりに簡単に説明すると……この少女、雷を司る精霊『ヴォルト』が衛司に助けられた時、どうにも彼女が衛司の事を気に入ったらしく…衛司の中に文字通り入って、今の今まで衛司の使役となる繋がり《リンク》を作っていて、それがちょうど昨日、衛司が眠っている間に終わり、今朝のような事になっていたらしい」

 

 

 

「……簡単に説明してくれてありがとう、セルシウス。とりあえず理解はしてきたけど…衛司はまたなのね…」

 

「…理由はよく分からないけどその呆れたような表情と溜め息は止めてください。…でも『使役』って事は…僕もリヒターさんみたいに、彼女…ヴォルトを呼び出したり、ヴォルトの力を使用出来たりするの…?」

 

 

アンジュの表情に思わずそう言葉を出した後、『使役』という単語に、まず先に浮かんだリヒターさんとセルシウスの事を思い出して聞くとヴォルトは小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「はい、主。…ですが、主の場合は多少、肉体の『情報』が他者とは『違う』為、色々と制限が掛かってしまいますが…」

 

ヴォルトの言葉に僕は小さく頷く。

肉体の情報…というのは『ドクメント』の事だろう。つまり、ヴォルトも僕のドクメントの状態の事を知っていて…わざわざ言葉を分かりにくく濁してくれたんだろう。

そう思うと僕はそっと、ヴォルトの頭を撫でた。

 

 

「ううん、それだけでも…僕に力を貸してくれてありがとう。これからよろしくね…?」

 

 

「―――…主のお望みとならば」

 

 

僕に頭を撫でられ、ヴォルトは少し驚いたような様子を見せた後、どこか嬉しげな微笑を見せそう言うと、突如小さな光へと変わり僕の胸元から体の中へと消えていった。

セルシウスはその一部始終に驚いたような表情をしていた。

 

「…これは珍しいな…使役された精霊が、自由である外よりも使役者の中にいる事を望むとは……どうやら、相当気に入られているようだな」

 

 

「そういうものなのかな……でも自分の中に別の誰かが居るって、不思議な感じだなぁ……。……あとカノンノ…さん…誤解って分かったんですから、そろそろ機嫌を直して頂けませんか…?」

 

 

「……別に機嫌なんか悪くないもん」

 

 

セルシウスの言葉に苦笑を浮かべてそう言い、ヴォルトが入っていった自分の体を見ながらそう呟く。その後、いまだに機嫌が悪そうなカノンノの方を見て言葉を出すが、カノンノは顔を逸らしてそう答えてきた。

ぅー……どうしよう…。

 

 

「……全く、衛司は相変わらずみたいね。……ぁ、そうそう、衛司にお客さんよ?」

 

 

 

「え……僕に……?」

 

しばらく呆れた様子のままでいたアンジュが思い出したように出した言葉に、僕は思わず首を傾げてしまう。

僕にお客って……依頼でなんか間違いでもしてしまっただろうか…?

 

そう考えていると扉が開く音が聞こえ、そちらを見てみると―――

 

 

「――よう。久しぶりだなぁ、優等生二号君」

 

 

「――アルヴィンっ!?」

 

 

――そう、扉から出て来たのは以前、リーゼ村でヴォルトと対峙した際に一緒に戦ってくれたメンバーの一人である、リーゼ村で雇われている傭兵のアルヴィンであった。

というか『優等生二号君』て……。

 

 

 

「どうしてアルヴィンが……」

 

「ん、まぁ当然の反応だよな。話せば長くなるんだが……衛司達があの依頼を終わらせて帰って数日は洞窟は大人しくなったんだが……やっぱそこら辺、村長が不安でよ。んで、結局どうするかって話になった時、おたく等アドリビトムが『星晶』を消費せずに安心して暮らせる村を作ってるって噂を聞いた奴が居てな。それで…良けりゃリーゼ村の村人達をその作ってる村に移住させてくれないかって話をしに来たわけ。勿論、村人達全員で出来る限りの手伝いもする事も前提だぜ?」

 

 

 

 

 

アルヴィンの話を聞き、その場の全員が驚いた。『星晶』を消費せずに安心して暮らせる村……『オルタ・ヴィレッジ』を確かに僕達は一つの可能性として作っている訳だが……まさかこんな展開で一気に手伝う人員が増えてくれる事は意外だった。

 

「ほ、本当なの…アルヴィン…?」

 

 

「おう。ちゃんと、村長達の話の結果でもあるんだぜ?…で、どうだ、リーダーさん?」

 

 

「……確かに私達とっては嬉しい話だし、困ってる人達を放ってはおけないもの。分かりました、これからよろしくお願いしますね」

 

 

アンジュの言葉に、アルヴィンはニッと笑うと二人は手を出し、協力することを誓うように握手をした。

その様子に見ていたカノンノやセルシウスは嬉しげに表情を浮かべる。多分、僕も同じようになってるだろう。良かった……ただ、これからはあのリーゼ村からこの船に村人を誘導させるのが大変そうだけど。

 

 

「んじゃ……これからは俺や後でミラや優等生君も村の精鋭連れてこのギルドで働かさせてもらうことになるからな。改めてよろしく頼むぜ、優等生二号君?」

 

「うん。これから宜しくね、アルヴィンっ!」

 

 

僕とアルヴィンはそう言って笑い、誓うように握手をした。

 

 

 

 

 

 




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第二十七話

 

 

 

「――……衛司っ!!」

 

 

「――ジュードっ…!?…久しぶりだね」

 

 

 

 

――ホールにて、アンジュとリーゼ村の人達を『オルタ・ビレッジ』に無事全員送り終えた事の話をしていると、突然開いた扉の音と、僕を呼ぶ久しぶりな声にそちらを見ると、以前リーゼ村で共に戦ったジュードが立っていた。

 

その後ろにはその時に一緒に戦ったミラと、初めてみる少女が二人程いた。一人の少女は多分、ジュードと同い年くらいの子で、もう一人は大体小学生くらいの子で、肩に何かわからないけど…ぬいぐるみ?、がのってた。

 

ジュードが此方に歩み寄ってきたのをみると、僕とジュードは合わせたようにハイタッチをした。

 

 

「―うん、久しぶり。それと…リーゼ村の人達を受け入れてくれてありがとう」

 

 

「ううん、僕達は当然の事をしたまでだし…リーゼ村の人達についての事は受け入れてくれたのはアンジュのおかげでもあるから、お礼はアンジュに頼むよ。……それで、あの二人は…?」

 

 

 

 

ジュードの言葉に小さな笑ってそう答えると、僕は視線を先程から気になっていた後ろの二人に向けてそうジュードに問う。

ジュードは僕の問いに一旦視線を二人に向けた後、僕に向き直り小さく苦笑を浮かんで口を開いた。

 

 

「えっと…二人はアルヴィンが言ってたと思うけど…僕達と一緒にこのギルドに参加するのに来てくれて…名前は―――」

 

 

「――ジュードっ!別に自己紹介なら自分で出来るよ…。ぁ、私はレイア。レイア・ロランドです!よろしくっ!!」

 

 

「――え…エリーゼ・ルタス…です…」

 

 

「――ティポだよーっ!!」

 

 

「うぉわぁっ!?」

 

 

二人…レイアが元気良く、エリーゼがもじもじとしながら自己紹介をし、自己紹介し返そうとした瞬間、エリーゼの肩に乗っていたぬいぐるみ?が大きく口を開いて自己紹介をしてき、思わずそんな声を出して飛び退いてしまった。

 

近くを見ると先程まで此方を笑顔で見守っていたアンジュすらも驚いたような表情をしていた。

 

 

そんな状況にジュードが苦笑いを浮かべながら口を開いた。

 

 

「はは……やっぱり初めてだとそういう反応しちゃうよね……」

 

 

「えっと……聞きにくいけど……コレって一体…?」

 

 

「――てぃ、ティポはティポ…です!!」

 

 

「そだよー。そんで、ジュード君や、ミラ君のともだちー」

 

 

思わずジュードに苦笑いをし返しながら問うと、ジュードよりも先にもじもじとしていたエリーゼがそう声を出し、ぬいぐるみ?…ティポが僕の前を飛び回ってきてそう言ってきた。

 

 

「えっと…いや、そういう意味じゃなくて…」

 

 

「うーん…エリーゼとティポが言ってる事は、ある意味間違いじゃないよ。…僕達も、ティポがなんなのかはよく分からないから……。でも、エリーゼの実力はミラのお墨付きだから大丈夫だよ」

 

 

二人して苦笑いを浮かべたままそう言っていると、エリーゼ、ティポ、レイア、ミラが微笑を浮かべていく。

 

「とりあえず……これからよろしく、みんな」

 

 

そんな皆に向け、僕はなるべく微笑んでいうと、皆はそれに対して頷いてくれた。

 

 

――こうして、改めてリーゼ村のメンバーは、アドリビトムへと加入した。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――……カダイフ砂漠に…?」

 

 

「――えぇ、アナタにも手伝ってもらいたいの」

 

 

僕の問いに、アンジュは頷いて答えてきた。

 

話はこうだ。

――ヘーゼル村の一定の人達がウリズン帝国に、遠くにある星晶採掘地へと連行され、強制労働を強いられているらしい。

そしてその村人達を解放する為にユージーンとヴェイグは連行された場所へ、アニーとティトレイはヘーゼル村に残っている人達をリーゼ村の人達同様、建設中のオルタ・ビレッジに移住させる為、船を出た。

そして…二手とも、オルタ・ビレッジに移動する為にはカダイフ砂漠を越えなければならない為、カダイフ砂漠の周辺の魔物の討伐依頼を頼まれてしまった。

 

 

 

「一応他の所にも人員を送らないといけないからメンバーはいつもどおり四人になるんだけど……三人は決まってるから後は一人なのよ」

 

 

「うーん……分かった、僕もそっちを手伝うよ。こんな事、放ってはおけないしね…」

 

 

「そう……ありがとうね。ただ、気をつけてね。ウリズン帝国が……『サレ』が妨害してこないとは限らないから」

 

 

『サレ』……『リバース』に登場した、ヴェイグのライバル的存在の…ある意味、色々と歪んでる人物。以前、エステルを攫おうとしたウリズン帝国の人物もこのサレだったらしいけど……確かに『リバース』上のあの性格からすると、サレが妨害してこないとは限らないだろう。

 

 

「――分かった。十分用心しておくよ」

 

 

「えぇ、…気をつけてね」

 

アンジュの言葉に頷いて、僕は準備をする為、一旦部屋に戻った。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

『グモォオォオオオオーッ!!』

 

 

「――ッ、魔神剣・双牙ァッ!!」

 

 

―――カダイフ砂漠、以前来たときのオアシスルートとは別のルートにて、猪のような魔物『エレノッサス』と、僕は戦闘を行っていた。

『突進』。ただ単純ながら、当たれば強烈なダメージをいただくそれを避け、僕はエレノッサスに向け斬撃を二つ飛ばす。

 

 

 

『グモッ!?グモモォオッ!!』

 

 

「くそ……なら……っ!!」

 

 

放った二つの斬撃はエレノッサスに直撃するが、エレノッサスは怯む事無く再度こちらに向けて突進してくる。僕は小さく舌打ちしてしまうが、直ぐに次にどうするかを判断し突進してくるエレノッサスに木刀を持つ右手とは別の左手を向ける。

大丈夫だ……いけるっ!!

 

 

 

「雷よ…爆発しろ…!――『ライトニングボム』っ!!」

 

 

『グモォオォオオオオーッ!?』

 

 

僕の言葉と同時に向けた左手から数個の雷の玉が現れ、突進してきたエレノッサスがそれに触れた瞬間、雷の玉の一つが爆発を起こし、その一つから更に一つ一つと雷の玉が連鎖爆発を起こし、エレノッサスにダメージを与えて吹き飛ばす。

吹き飛んだエレノッサスは、それが効いたのか奇声を上げて動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……なんとかなったか…」

 

「――へぇー…雷系魔法か…随分、様になってんじゃねーか」

 

 

エレノッサスが動かなくなったを確認して一息ついていると、先程まで別のモンスターと戦っていた今回の同行メンバー…ユーリ、すず、メリアが此方に向かって歩み寄りながらそう言ってきた。

 

 

「うん…ヴォルトのおかげでね。始めは上手くはいかなかったけど、なれてきたら意外に上手く出来てきてね」

 

 

「なるほどねぇ…。精霊を使役したら、その精霊の魔法を使えるようになる、とは噂には聞いてたが…マジだったんだなぁ」

 

 

「慣れてきた…それだけで先程の威力とは…。衛司さんは凄いんですね」

 

 

「はは…僕は凄くないよ。ただ、ヴォルトの魔力が凄いんだよ」

 

僕の言葉に、どこか楽しげな笑みを浮かべて言うユーリと、驚いたような様子を見せるすず。

確かにヴォルトの魔法は凄いけど…ただその威力故に、体力消費がハンパない。先程の『ライトニングボム』一発だけで今軽く体が怠くなっているのがそれである。

 

一応…今僕の体の中にいるヴォルトがサポートして幾分かの疲労を減してはくれているんだけど…もしヴォルトがいなかった時に発動する所を考えるとちょっとゾッとしてしまう。

因みに一応、この雷系統は剣技にも利用出来てそっちの方は魔法に比べると全然疲労感は来ない。うーん…剣術の方が慣れてるから、かな…?

 

 

「(ともあれ……ありがとう、ヴォルト)」

 

『(――主の為ならば――)』

 

 

心の中でヴォルトに感謝すると、頭の中に響くようにヴォルトの声が聞こえた。うん、これも当初は驚いたけど、慣れれば意外と楽しかったりする。

 

 

「……衛司……はい……」

 

 

「ん……ありがとう、メリア」

 

 

「…………♪」

 

 

 

不意に、僕の様子に気付いたのかこのメンバーの中でアイテム袋を持っているメリアが僕にミックスグミを渡してきた。

グミを受け取り、食べると不思議なまでに体力や疲労感が回復してきた。

僕は小さく笑ってメリアの頭を撫でると、メリアは嬉しげに表情を緩めた。うん、普通に可愛い。こうしてみるとメリアって、兄思いな妹…かな?こういう妹がいればなんかシスコンになっちゃいそうだけど。

 

 

 

 

 

 

「――それにしても…改めて思えばこの砂漠…一般人にはかなりきついだろうね」

 

 

「まぁな…この環境じゃあ、年齢とか男も女も関係なしに厳しい砂漠越えになるだろうな。…それに加えてさっきみてぇに魔物もわんさか出やがる。命懸けもいいとこだ」

 

 

「ここまでの事態を引き起こしたのは、帝国です」

 

 

砂漠を見回して出した僕達の言葉に、すずが顔を俯かせてそう言葉を出した。それを見てユーリが小さく溜め息を吐いて口を開く。

 

「オレが、ガルバンゾのギルドにいた時は、オレの知る世界は、住んでた場所だけだったな。帝国の事は知ってたが、よその国や、世界の動きなんざまるで見えていなかった。…本当、何でも見渡せる自由のギルドだな。アドリビトムってのは」

 

 

 

 

「うん。何でも見渡せるからこそ気付くことが出来て、自由だからこそできることがある。だからこそ…今僕達は他の人達に出来ない事をして、人を助けなきゃいけないんだろうな」

 

 

「あぁ、全くだ。ディセンダーのメリアだけじゃねぇ。イレギュラーの衛司だけでもねぇ。――俺達、アドリビトムの皆でな」

 

僕の言葉に、ユーリはニッと笑うと僕とメリアの頭を少し乱暴に撫でてきた。何だか変な感じだけど…嫌な感じではなくむしろ心地良い感じだった。

 

僕達はそのまま少し笑うと、カダイフ砂漠の奥へと進んだ。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

――あの後、やけに大きめな蟻地獄に落ち掛けたり、サンドワームの群れと遭遇したりしたけど、なんとか砂漠の抜け道となる道の前まで来ることができたんだけど……

 

 

 

『キシャシャシャシャシャシャーッ!!』

 

 

「――……マジ?」

 

 

「あぁ…現実逃避してぇのは分かるが、マジだな」

 

――目の前の現状に思わず出してしまった僕の言葉に、ユーリがそう言葉を出した。

今、僕達の目の前には…抜け道への道を、一見岩のようにも見える甲殻と、大きなドラゴン系モンスターの頭の骨のような尻尾を持った巨大なサソリ型の魔物……『ティランピオン』が塞ぐように立っていた。

 

「これがティランピオン……これを倒せば、村の人達が安心して砂漠を通れるんですね」

 

 

「あぁ……んじゃま、油断せずに行きますかっ!!」

 

 

「ぁー、もうっ……行くよメリア、ヴォルトっ!!」

 

 

「……ん……っ!!」

 

 

『(――了解です、主――)』

 

 

 

僕達はそれぞれ武器を構え、ティランピオンとの戦闘を開始した。

――ただ、何者かが僕達を傍観している事には気付かずに――

 

 

 

 

 




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第二十八話

 

 

『――キシャシャシャシャシャシャーッ!!』

 

 

「――うわぉぅっ!?」

 

 

「――きかねぇなっとっ!」

 

 

 

――目前で巨大な尻尾を振り回して暴れるティランピオンの攻撃をなんとか避け続ける。

 

「っ……えいっ!!」

 

 

「……苦無閃……っ!」

 

 

ティランピオンの攻撃を避けたメリアとすずは、距離を置くと二人同時にティランピオンに向けて苦無を投擲する。

それを見て僕とユーリもアイコンタクトを取り、木刀と剣を振るう。

 

 

「これで…魔神剣ッ!!」

 

 

「おらよ、蒼破刃っ!!」

 

 

ティランピオンに向け、二人で斬撃を放つ。左右からの遠距離攻撃…これなら当たる筈…。

 

だが…

 

 

 

『キシャシャアァァッ!!』

 

 

ティランピオンは尻尾を振って苦無を弾き、斬撃を振った尻尾を利用し、勢いよく地面に叩き付け衝撃波を起こして相殺した。

 

 

「うわぁ…アレって本当に魔物…?知能高いなぁ…」

 

 

「言ってる場合じゃねぇ、来るぞっ!!」

 

 

『キシャアァァァッ!!』

 

 

ユーリの声と同時に、ティランピオンは此方に尻尾の先端にある巨大な竜の頭の骨のような物を向けると、その頭の骨の口が開き、中から炎弾を飛ばしてきた。

 

僕達はそれを避けつつティランピオンへと間合いを詰めていく。しかし……

 

 

 

『キシャシャシャシャシャシャーッ!!』

 

 

「ちぃっ!コイツまた……っ!!」

 

「っ……面倒……くさい……っ」

 

 

此方が間合いを詰めるとティランピオンは尻尾の動きを変え、尻尾を振り回し再び僕達を吹き飛ばす。

 

そう…先程からこれが問題なのだ。

ティランピオンの最大の武器である、あの巨大な尻尾。遠くにいれば炎弾を飛ばしてき、近付けば振り回され距離を置かれる。

先程からこれの連続によって、ティランピオンに一切攻撃が出来ないのだ。遠距離から攻撃しても、先程の苦無や斬撃のように無効化されてしまう。

 

ティランピオンのあの尻尾をどうにかするか、動きを止めないと正直勝算は薄いだろう。

 

 

『(――主、『あの技』は…?――)』

 

 

「…っ…駄目だ。確かにあれはアイツを効率的に倒す手段の一つだけど……倒せる時に使わないと意味がない…っ!」

 

 

「……衛司さん、何か策でも…?」

 

 

「策…じゃなくて技なんだけど……その技、威力と同時に反動も普通じゃないから絶対に倒せる時に使わないと…使いどころを間違えたら一発で僕はおしまいになっちゃうから…」

 

 

ティランピオンの攻撃を避けながら、頭の中に響いたヴォルトの提案に思わず声を出してそう答えていると、近くで同じくティランピオンの攻撃を避けていたすずに聞こえたのか、すずの問い掛けに言葉を返す。

 

 

『あの技』……ヴォルトと契約して、習得した技……。

確かにあの技なら、ティランピオンの動きを止め、絶大なダメージを与えられるけど……その威力の反面、僕はヴォルトのサポートがあっても、かなりの体力消耗をしてしまう。

あの技を使うのなら、確実にその一撃で倒せる場面で使わないと、使い所を間違えた途端、僕は行動不能になって相手の的になってしまう。

 

……どうすれば…。

 

 

 

 

 

 

「――…分かりました。私が…私達があのティランピオンの隙を作ってみせます。その瞬間に、衛司さんは『あの技』というのをお願いします」

 

 

「すずちゃん……分かった、任せる」

 

 

すずの提案に僕は思わず少し驚いてしまうも、すずの真剣な表情に、僕は肯定する。こんな表情で頼られてしまった以上……やりきってみせる。

僕の肯定の後、全員がアイコンタクトを取るとそれを合図に、メリアとすずがその場を跳んだ。

 

 

「――メリアさん…行きましょうっ!」

 

 

「……ん……っ!!」

 

 

すずとメリアがそう言い合った瞬間、二人の姿が消える――いや、かなりのスピードでティランピオンの周りを跳び回っている。

 

 

『キシャッ!?』

 

 

流石に二人共、職業が忍者なだけあってそのスピードは素早く、僕達ですら姿が確認出来ない。ティランピオンも二人の姿が確認出来ず、見事に撹乱されている。ティランピオンの意識がすずとメリアに向いている隙に、ユーリがティランピオンの懐へと先行する。

 

 

『キシャッ!?』

 

 

「遅ぇっ!幻狼斬…からの、蒼破っ牙王撃ッ!!」

 

 

ティランピオンは懐へと入ったユーリに遅れて気付くも、ユーリは素早くティランピオンへと切り込み、ティランピオンの背後へと回り込むとそのまま続けて、斬撃と拳を思い切り叩き込む!

 

 

『ギシャアァッ!?』

 

 

「よっし!今だ、衛司っ!!」

 

 

「うん!行こう、ヴォルトっ!!」

 

 

『(――はい、決めましょう主!!――)』

 

 

ユーリの攻撃を受け、ティランピオンは吹き飛び体制が崩れる。

ユーリの合図を受け、僕とヴォルトは呼吸を合わせると、その瞬間、僕の周りに様々の色の輪……限界突破《オーバーリミッツ》が発動される。

よし……行けるっ!!

 

 

「――雷の精霊よ……今此処に…っ!行って、ヴォルトっ!!」

 

 

「――参ります、主っ!!」

 

 

体制を崩したままのティランピオンに木刀の切っ先を向け僕が言うと、僕の体から雷の球体状の膜《ライトニング・シェル》を張ったヴォルトが現れ、ティランピオンに向け一撃、また一撃とライトニング・シェルを利用した突撃を連続して与えていく。そして、ヴォルトの突撃が直撃した位置から雷で形成された巨大な鎖が、体制を崩したままのティランピオンの体を拘束していく。

 

 

 

 

『(――拘束完了。主、行けます!――)』

 

 

「これが…僕の全・力・全・開っ!!ハァアァァァァッ!!」

 

 

ティランピオンの体を完全に雷の鎖で拘束し、ヴォルトが僕の体の中へと戻ってくると、ヴォルトの魔力を木刀へと集中させ、オーバーリミッツの力で上昇した脚力で一気にティランピオンへと接近する。

木刀はヴォルトの魔力を受け、刀身に雷を纏っていく。

これで……どうだぁっ!!

 

 

「『――雷・神・一・閃っ!!『ライトニングノヴァ』アァアァァッ!!』」

 

『ギシャアァアァアァァァッ!!?』

 

 

僕とヴォルトの声が重なり、拘束されたティランピオンの横を通り抜け様に一閃する。

木刀を納刀するように納めたと同時に、ティランピオンの体を斬られた位置から電撃が蹂躙し、ティランピオンは甲高い奇声を上げて、絶命した。

 

 

「―――何とか、仕留められたみてぇだな」

 

 

「これで、ヘーゼル村の皆さんも無事に砂漠を越えられますね」

 

 

「……ふぅ…良かっ――あぅ…?」

 

 

絶命したティランピオンを見てユーリがニッと笑い、すずが安心した表情でそう言うと、僕も一安心した瞬間、体の力が抜けるのを感じてその場にへたり込んでしまった。

 

 

 

 

 

「!?衛司さん…どうしたんですか…?」

 

 

「…あはは…オーバーリミッツに、ヴォルトの魔力フル活用……さっきの技の反動もあって…完全にガス欠状態みたいでーす……」

 

 

「オイオイ。……まぁ、さっきの技見りゃ納得出きるわな…。立てそうか…?」

 

 

心配そうに僕を見るすずに苦笑しながらそう答えると、呆れながらも僕に手を伸ばしてユーリがそう言う。

試しに力を入れてみるけど…うん、駄目っぽい。

 

 

「(ヴォルト…どうかな…?)」

 

 

『(――今、主の身体の状態を見てある程度治せる所は処置に掛かりましたが……暫くは自分から立つのは無理そうですね――)』

 

一応体の中にいるヴォルトに状態を聞くと、帰ってきた答えに思わず更に苦笑いを浮かべてしまった。僕のその表情から僕の状態が分かったのか、ユーリが僕に肩を貸して立たせてくれた。

 

 

「やれやれ……んじゃあ、戻るか」

 

 

「はい。そうですね……メリアさん…?」

 

 

ユーリに立たせてもらいながらユーリの言葉に頷いて帰ろうと歩き出した際、不意にすずの声に視線の先を見ると……メリアが遠くにある高い岩場をメリアには珍しく、まるで睨むようにジッと見ていた。

 

 

「……どうしたの、メリア……?」

 

 

「……何でもない……。…多分……気のせい……」

 

 

「…………?」

 

僕の問いに、メリアは岩場から視線を戻して小さく首を横に振って答えると、そのまま来た道を歩き出した。

僕達は思わず小さく首を傾げてしまったが…とりあえず船へと戻ることにした。

 

 

それにしても……体…すぐに戻るかなぁ……?

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――やれやれ…ちょっと気付かれかけたかな?」

 

 

衛司達がその場に背を向けて歩いていく中――先程メリアが見ていた岩場には、紫の髪に青白い顔をした男――サレが居た。

 

 

「……アドリビトム、ねぇ……大事な働き手を奪ってくれた報い、必ず受けてもらうよ。…でも、今日はヴェイグがいないみたいだし、僕と遊ぶのはまた今度にしようか…。楽しみにしているよ…フフフ……」

 

 

去っていく衛司達の姿を見ながら、つまらなそうにサレはそう呟いた後、小さく不気味に笑みを浮かべながらその場を後にするように、背を向け歩き出す。

 

 

「――それにしても……彼は『使えそう』だね。まぁ…彼を『使う』ならもうしばらくは離しておいてもいいか……フフフ……」

 

 

サレは思い出したようにそう呟いて笑うと、歩いていた足を止めて振り返り、去っていく衛司達を見ながら不気味に、笑みを浮かべた。

 

 

――その視線の先に……去っていくアドリビトムのメンバーの中……乾衛司の姿のみを映して……――

 

 

 

 




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第二十九話

 

 

 

 

「――ふぅー…やっと出られるようになったぁ…」

 

 

――医務室の扉から出ながら、僕はゆっくりと伸びをしながらそう言葉を出した。

 

 

ティランピオンを倒したあの後、僕達がアドリビトムに戻ると、ヘーゼル村の人達をオルタ・ビレッジへの案内を無事に開始し始めた。ヴェイグ達も無事に連行されたヘーゼル村の人達を救出、オルタ・ビレッジへと案内できたらしい。

 

ただ――あの後…僕は案の定、体の状態云々のおかげで、医務室に五日間監禁されてしまった。

僕、最近こんなんばっかだな……。アニーが戻って来た時、笑顔で『衛司さんは本当に、医務室のベッドが気に入っているんですね♪』、と言われた時は本気で泣きそうになった。

 

 

『(――…主、目から涙が……――)』

 

 

「……違うよヴォルト、これは汗なんだよ…」

 

 

『(――…お察し致しました…――)』

 

 

あの時のアニーの清々しい位の笑顔を思い出してしまい、不意に瞳がうるっと来る。頭に響いてきたヴォルトの声にそう返して置くと、ヴォルトは短くそう返してきて、静かになった。

うん、ありがとうヴォルト。

 

後、ヴェラトローパを呼び寄せる為の次元チューニング装置の方だけど…どうにも後一歩の所で止まっているらしい。

なんでもその後一歩に必要なのはヴェラトローパのドクメントらしく、そう簡単に見つかる筈もなく、研究室の皆頭を抱えていて先が進んでいない。

 

 

――とりあえず、久しぶりに依頼でも受けようと、ホールへの扉を開いた時であった。

 

 

「――ぁ……衛司…!」

 

 

ホールへと入ると、ちょうど目の前にスケッチブックを持ったカノンノが居た。彼女も此方に気付いたのか、少し驚いた表情で此方に駆け寄ってきた。

 

 

「もう体、大丈夫なの…?」

 

 

「うん、なんとかね…。カノンノは…また絵、描くの?」

 

 

「それもあるけど……実は描いた絵をセルシウスに見てもらおうと思って」

 

 

「セルシウスに……?」

 

 

カノンノの言葉に小さく首を傾げてしまう。どうしてまた…。

 

 

「うん。絵の風景に、精霊の世界とかあったりするのかなぁって。…ヴォルトの時にみたいに知らないって言われちゃうかもしれないけどね…」

 

 

「なる程……って、ヴォルトにも一回聞いてたんだ」

 

 

『(――はい。主が医務室で寝込んで居るときに……。…お役には立てませんでしたが…――)』

 

 

カノンノの理由を聞き納得していると、頭に響くヴォルトの声に小さく苦笑を浮かべてしまった。

そういえば僕、医務室に寝たきりで暇だろうからヴォルトを体から出してた時あったけど…その時か。

 

 

 

「中々依頼に行ってたりしてセルシウスに会えないから今日は居るといいんだけど…。でも、不思議だな。これらの風景がどこかにあるって思えてるのが…」

 

「そうだね……でも、ちゃんと僕は僕以外の皆が何と言おうが、本当にあるって信じてるからね」

 

 

「………ぁ……うん…、そうだね」

 

 

言いながら一瞬、どこかまた不安気な表情を浮かべたカノンノに僕がそう笑って答えると、カノンノは少し頬を赤らめて嬉しそうに頷いた。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃ……セルシウスが居るか甲板に行こっか?」

 

 

「ぇ…衛司も一緒に来てくれるの?」

 

 

「僕も気になるからね……あれ、駄目かな?」

 

 

「ううん、駄目なんかじゃないよ。…ありがとう、衛司っ!」

 

僕の言葉に、カノンノは少し驚くも嬉しげに微笑み頷いた。

うん…自分に出来る範囲の事でここまで笑顔になってもらえるって…やっぱり嬉しいな。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

――甲板に出てみると案の定セルシウスは居て、カノンノは絵をセルシウスに渡すと、セルシウスは一枚一枚じっくりと絵を見始めた。

カノンノと僕はそれを期待半分、不安半分で見守っていると、暫くしてセルシウスの手が止まった。

 

 

「――申し訳ないけど…知らないわ。精霊は、この世界の事をヒトよりはわかるけども。知らないものばかりね…」

 

 

「……そう……。精霊にもわからないなら、やっぱりただの妄想だったのかな…」

 

「カノンノ……」

 

 

「ん……大丈夫。ごめんね、衛司…セルシウスも…」

 

 

返ってきたセルシウスの言葉に、カノンノは俯いてしまう。僕は落ち込んだカノンノの頭をゆっくりと撫でると、カノンノはそう言ってセルシウスからスケッチブックを受けとろうとした。

 

 

 

「――あら、一枚落ちたわよ?」

 

 

「あ…、いけない……」

 

 

「よいしょ…っと……」

 

 

受け取ろうとした際、一枚の絵が落ちたのに気付き、風にとばされる前に僕はそれを拾った。

これもまた変わった風景だなぁ……。

 

 

「!?…これは…」

 

 

「セルシウス…?…まさかっ!!」

 

 

「この風景、知ってるの…?」

 

僕が見ていた絵を覗き込んできたセルシウスは驚いたような表情と声を上げた。その様子に僕とカノンノは思わず、驚いた表情のままのセルシウスに問いかける。

 

 

「知ってるも何も…。あなた、これがヴェラトローパよ!ヒトの祖が地上に降りるまで過ごした…」

 

 

「えっ!?…これが…ヴェラトローパの…」

 

 

「本…当に?」

 

 

セルシウスの返答に思わず驚く僕とカノンノ。これがヴェラトローパの…でも…なんでカノンノが…。

 

 

「その絵を持って、研究室の皆に見せなさい。私はディセンダーを呼んでくるから…衛司…あなたはカノンノと一緒に研究室へ…いいわね?」

 

セルシウスはそう言うと、ホールの方へと入っていった。

カノンノの方を見ると、ヴェラトローパの絵をジッと見ながら…真剣な、そして不安気な表情を浮かべていた。

 

 

「……カノンノ……」

 

 

「……うん、大丈夫。大丈夫……だけど……っ」

 

 

僕の呼びかけにいまだに真剣な、不安気な表情を浮かべたままそう言葉を繋ぐカノンノ。僕はそんな彼女に…そっと手を伸ばして、彼女の手を握った。

 

 

「衛…司……?」

 

 

「…今はこうするしか出来ないけど…行ってみよう、カノンノ…」

 

 

「……うん」

 

 

僕の言葉に、カノンノは少し間を開けながらも僕の手を握り返し、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――この風景が、ヴェラトローパ…?」

 

 

――研究室にて、カノンノが描いたヴェラトローパの絵とセルシウスの説明を聞いて、全員が驚いた表情をしていた。

因みに今研究室にいるのは僕、カノンノ、メリア、セルシウス、リタ、ハロルド、ウィルである。

 

 

「……しかし、カノンノがなぜそれを?」

 

 

「わかりません…ただ、いつもの様に紙の上に風景が見えて…」

 

 

依然、驚いた様子のままのウィルが問うと、カノンノは不安気な表情で、そう答えた。

 

 

「……これは、どういう事なの…?…カノンノ、あんたのドクメントを見てもいい?」

 

 

「っ…リタ…それは……」

 

「衛司…大丈夫だよ…」

 

 

リタの出した言葉に、思わず反応してしまう。ドクメントの展開…あれは一度体験しているからわかるけど…ただ少し展開しただけでも疲労感が凄い。それに今の不安状態のカノンノに、ドクメントを展開させたら…彼女に更に負担を掛けてしまうかもしれない。

そう思ってカノンノの前に立とうとすると…そう、カノンノに呼び止められてしまった。

顔を向けると……カノンノは真剣な表情で真っ直ぐとリタを見ていた。

…こんな表情されたら…止められやしないや…。

 

僕が道を開けると、カノンノは深呼吸をしてリタの前まで歩み寄る。リタはそれに頷くと、カノンノのドクメントの展開を始めた。

 

「……衛司……」

 

 

「…大丈夫だよ、きっと……」

 

 

ドクメントが展開されていくカノンノを、心配そうに見ながら僕を呼ぶメリアの頭をそっと撫で安心させる。

徐々に展開されていくカノンノのドクメント。それは以前見た白い輪だが…最後に展開された頭上のドクメントだけ、色が違っていた。

 

 

「――この頭上のドクメント……ハロルド、あんたのドクメントと比べたいの。いい?」

 

 

「オッケー」

 

 

リタの問いにハロルドが軽く答えると、リタはハロルドのドクメントを展開する。展開されたハロルドのドクメントの色は…カノンノの頭上のドクメントとは違い、全てが白であった。

 

「…やっぱり……カノンノの頭上に見えるドクメントは普通のヒトとは違う…」

 

 

リタの言葉に、一瞬カノンノの表情が変わったのが見えた。

 

 

「…感じるわ。この中にヴェラトローパを…どうして、カノンノの中に…?」

 

 

「ちょっと、本当なのっ!?…だとしたら、…さらに展開すればヴェラトローパのドクメントが手には入る…」

 

 

「それって……そんな事したら、カノンノの身体に負担がっ!!」

 

 

「ううん、続けて。ヴェラトローパを出現させる為に必要でしょう…?」

 

 

セルシウスとリタの言葉に思わず声を荒げてしまうも、カノンノがそう言葉を出した。

 

 

 

 

確かに今…ヴェラトローパを出現させるのに必要なドクメント…その唯一の手段が今、カノンノしか無いのだ。

くそっ……自分に何も出来ない歯がゆさに思わず舌打ちをしてしまう。

 

 

「……わかった。じゃあ、少し我慢して」

 

 

リタは頷いてそう言うと、カノンノの頭上のドクメントを更に展開しようとする。

少しして出ていた色の違うドクメントの上に更に大きなドクメントが展開された。

 

 

「これよ。ヴェラトローパのドクメント!!」

 

 

「ちょっと待ってよ。――よっし、コピー出来たっ!可視化を解除するわ!!」

 

セルシウスの言葉に、リタは現れたドクメントに手を伸ばす。すると、リタの別の手に小さめなヴェラトローパのドクメントが現れた。リタはそう言葉を出すと、カノンノとハロルドに現れていたドクメントが消えた。

そしてその瞬間……カノンノの身体が傾いたのが見えた。

 

 

 

「っ!!カノンノっ!!」

 

 

カノンノの身体が動き出した瞬間その場を走り出し、彼女の身体が床に落ちる前に何とか抱き止める。皆はそれがわかったと同時に、カノンノに駆け寄ってきた。

 

 

 

「……やっぱり、かなりの負担だったのね。肉体とドクメントにズレが生じたのかも」

 

 

「っ……とにかく早く医務室に運ばないと……」

 

「そうね、よーく休ませてあげないと……衛司、医務室まで運んで上げて…こっちはヴェラトローパへ行けるようにしとくわ」

 

 

ハロルドの言葉に僕は頷くと、カノンノを抱き上げて、医務室へと走り出した。

改めて……自分に何も出来ない事に歯がゆさを感じながら……――。

 

 

 

 

 




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第三十話

 

 

 

 

 

――あの後、再完成した異次元チューニング装置はカノンノのドクメントと共鳴し、無事に天空の宮殿『ヴェラトローパ』を呼び寄せる事に成功した。

 

今はそのヴェラトローパ探索に向けて皆が忙しくしている中……僕はただ、医務室でカノンノが眠っているベッドの横に腰掛けていた。

 

 

あの時、カノンノが倒れてから……彼女はまだ目を覚ましてないのだ。

 

 

「――衛司様。まだ、此処に……?」

 

 

不意に背後から声が聞こえ見ると、そこには心配そうな表情をしたロックスさんが居た。

 

「……うん。心配だから…ね」

 

 

「そうですか……お嬢様はまだ…?」

 

ロックスさんの問いに、僕は眠るカノンノの方を見てゆっくりと頷いて答える。

 

 

「……僕は……やっぱり弱いね…」

 

 

「…衛司様…?」

 

 

「彼女が…カノンノが苦しみながら頑張ってる時に…ただ見守る事しか出来ないなんて…」

 

 

そう、僕は言葉を漏らしながら思わず拳を作り、それを強く握り締める。

 

 

 

「…それは私も同じです。お嬢様が苦しんでいるのに、何も出来なかった。…それに決して衛司様が弱い訳ではありません。ただ…今回に関してはお嬢様にしか出来ない事であった。そしてそれは、お嬢様の意志からでもあった。だから…衛司様が悔やむ事ではありません」

 

 

「――っでも……それでも…っ!」

 

 

ロックスさんの言葉に、それでも荒げて言葉を出そうとする僕。それにロックスさんは此方に飛んでくると小さく首を振った。

 

 

「いいえ、何度でも言いますが、衛司様は決して弱くなどはありません。それに……今回お嬢様から進んでドクメントの提供に出たのは、きっと衛司様のおかげだと私は思います」

 

 

「……え……?」

 

 

 

ロックスさんの出した言葉に、思わずそんな声が出た。

それって一体……。

 

 

「お嬢様が書いた風景…それを書いているお嬢様は楽しそうで…それでいてどこか不安に私は見えていた時がありました。ですが…衛司様と絵の事で話すようになってからは、お嬢様は絵を書いている時に、とても楽しそうに見えました」

 

 

そう、ロックスさんは言葉を続けていく。

 

 

「―もし、お嬢様がアナタと会えずに…絵の事を誰にも深く話すことがなければ…あくまで私の推測ですが…お嬢様は『自分は何なのか』という不安に押しつぶされていたでしょう。…ですが、アナタが…衛司様が今此処にいたからこそ、お嬢様は前を向いて、自らの意志で前に踏み出せたんだと、私は信じてます」

 

 

「――これを聞いてまだ、自分は何の役にもたてていないと思っているのであれば……」

 

ロックスさんはそう言い掛け僕の目の前まで飛んでくると僕の顔を見て微笑を浮かべて言葉を続けた。

 

 

 

「――お嬢様の目が覚めるまで、できる限り傍に居てあげてください」

 

 

「え……?」

 

 

「きっとその方が、お嬢様もすぐに目を覚ましてくれると私は思っていますから」

 

 

上手く理解できないままの僕にロックスさんはそう言うと再び飛び、医務室の扉の前まで行くと此方に振り返った。

 

 

「―アンジュ様やメリア様には私から話をして、今回の探索には衛司様は一緒に行けない事はもう伝えてありますから。…お嬢様を宜しくお願いしますね」

 

 

「ぁ……うん」

 

 

 

 

 

 

ロックスさんの微笑ながらも何処か真剣な表情に、僕は頷くとロックスさんは一礼して医務室を出て行った。

 

 

「……僕が傍にいた方が目が覚める、か」

 

 

ロックスさんが居なくなり、再び顔を眠るカノンノへと向けると、先程のロックスさんの言葉を思い出し自然に口から出してしまう。

 

 

「……カノンノ…遠い目標かもしれないけど…僕は皆を…カノンノを守れるくらい――強くなりたい」

 

 

目の前で眠り続ける少女の手を握り、僕は言葉を漏らしていく。彼女に今届いているかは分からない。ただ、自分の目標を口に出した。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――……ん…寝ちゃってた…かな…?」

 

 

ふとゆっくりと目を開き、ぼやけた視界を目で擦る。どうやらカノンノの看病をしている間にいつの間にやら寝てしまったみたいだ。カノンノに悪い事しちゃったなー…。

そう思い、いまだに眠っているだろうカノンノへと視界を向けると…。

 

 

「――おはよう、衛司」

 

 

にっこりと笑顔を浮かべたカノンノが此方を見ていた。

 

 

「カノンノ……目が覚めたんだ…良かったぁ」

 

 

「うん。まだちょっとクラっとするけどなんとかね。衛司のおかげだよ」

 

 

カノンノの様子に僕は一安心していると、カノンノは少し苦笑を浮かべながらそう応えた。

僕のおかげ…か……。

 

 

「――衛司……?」

 

 

「ごめん…僕はキミが言うほど役に立ててないよ。だって……」

 

 

「…自分は強くない、から…?」

 

 

「っ!?」

 

 

僕の言い掛けた言葉を繋げたカノンノに驚いた表情を浮かべる。なんで……

 

 

 

「…眠ってる時にね、うっすらだけど…衛司の声が聞こえてね…。

ねぇ、衛司……『強さ』って、何?」

 

 

「え……それは……」

 

 

カノンノからのその問いかけに思わず口ごもってしまう。

 

 

「…誰かが倒れた時に落ち込む事?誰かの背中を追い越すこと?…違うよね。少なくとも…私が知ってる『強さ』は…衛司が教えてくれたから、今の私が居るんだから」

 

 

「…僕が……?」

 

「うん。それで…その『強さ』は、私が知ってる中だと多分…ううん、きっと衛司が一番だと思うよ。お人好しな衛司なら」

 

 

カノンノの言葉を聞きながら僕は考える。

彼女の言う『強さ』……それって一体…。

 

 

「分からないなら宿題。分かったら私に一番に教えてね」

 

 

「ぇ…宿題って…」

 

 

「教えなーい。衛司が本当に困ってた時に、もしかしたら教えてあげるかも?」

 

 

考えこんでいる僕にカノンノはクスクスと笑うとそう言った。

本当によく分からないけど……少し落ち着いた気がした。

 

彼女のいう『強さ』って…本当、なんなんだろう。

 

そんな事を考えながら、いまだにクスクスと笑い続けるカノンノにつられ、自然に笑みがこぼれようとした時だった。

 

 

 

―――ゴゴゴゴゴッ!!

 

 

 

「「!!?」」

 

 

突然、ヴェラトローパ探索で空に浮いている筈のバンエルティア号の船内が、まるで地震を感じたかのように大きく揺れ出した。

 

 

 

 

 

 

「ぇ、じ、地震…っ!?」

 

 

「いや、違うはずだけど…一体何が……」

 

 

「――衛司っ!!」

 

 

今バンエルティア号が飛んでいる事を知らないカノンノが出した言葉に首を振って答えていると、医務室の扉が開き、慌てた様子のアンジュが飛び込んできた。

 

 

「アンジュ!どうしたの…?」

 

 

「カノンノ!?目が覚めたみたいね……ちょうど良かったわ。二人共、大変よっ!!」

 

 

「大変って…一体何が…」

 

 

「説明するより見た方が早いわ。とにかく、甲板に来て!!」

 

 

 

慌てながら言うアンジュに僕とカノンノは頷くと、僕は上手く動けないカノンノを背中に背負い、甲板へと走り出した。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――これは……一体……」

 

 

カノンノ、アンジュと共に甲板に出ると甲板から見えた光景に思わずそんな声が出た。

 

 

地面からまるで木々が生えるかのように現れた…『白』よりも『灰』に近い色をした巨大な『ナニカ』。先程の揺れはこれの出現が原因で地面が……いや、大袈裟かもしれないけど…『世界』が震えたんだろう。

 

 

「――…まるで『キバ』ね」

 

 

「牙……?」

 

 

「えぇ、あれを『キバ』以外になんと言うのかしら?」

 

 

 

「…なんかアレ……嫌な感じがする」

 

 

アンジュの言う『キバ』を見ていると、そうカノンノが言葉を出した。

確かにカノンノの言うとおり…あの『キバ』から何か嫌な感じがした。

 

 

 

「――…おーい、皆ぁっ!!」

 

 

『キバ』を眺めていると、不意にヴェラトローパの方から声が聞こえ見ると…慌てた様子のキール、それについてメリア、ジュディス、アルヴィンがこちらに走ってきていた。

 

 

 

――この『キバ』の出現に、事態は刻一刻と最悪な状況へと進み出していた。

 

 

 

 

 




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第三十一話


今回はオリジナル成分多めな回です。
未参戦キャラクターも登場します。


 

 

 

 

――ヴェラトローパ探索から帰ってきたメリア達の口から説明された事…それは驚きの連発であった。

 

 

『マイソロ』設定の特有である、この世界『ルミナシア』は唯一無二のものではなく、別の世界から分かれた枝葉であった事。

そしてラザリスの正体は、その世界になりきれなかった存在であった事。

星晶《ホスチア》は、そのラザリスを封じておくための世界樹から生み出された力であった事。

 

そして僕が一番驚かされた事は……この世界にも『ニアタ・モナド』が居た事であった。

正確には彼の本体は別の世界にあり、この世界に居るニアタはその一部らしいけど……別の世界…恐らく『マイソロ2』のグラニデだろう。

 

僕も直接あってみたかったけど……ニアタは突如襲来したラザリスに攻撃され、破壊されたらしい。

 

 

後、『キバ』の事について。

あれは薄々考えていたけど…やっぱり、ラザリスの世界の一部であった。

 

ラザリスの目的…それは、自分の世界『ジルディア』の誕生を拒絶しながら、自ら自滅の道を歩む世界『ルミナシア』に失望し、世界樹の根幹『生命の場』のドクメントを書き換え、自分の世界へと塗り替える…というものであり、キバはその『生命の場』を守る世界樹を徐々に弱らせる物らしい。

 

 

これから何をどうするか……それは今現在、ニアタから手掛かりになる、と言って渡されたプレートを解析してから決めていくらしい。

 

果たしてこれから…どうなるのだろうか。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――それで、アナタ達は一体どういったご用件でここまでいらっしゃったのかしら?」

 

 

 

バンエルティア号のホール。いつもなら皆が楽しげな雰囲気を出していた場所が今、かなりピリピリとした空気を出していた。

まぁ、当たり前だろう。今、ここに来て、アンジュが対応している客人達は…周りで見ている僕達にとっては警戒するべき存在なのだから。

 

そう、その客人とは……――

 

 

 

「――我々ウリズン帝国は、今これより、アドリビトムに協力を願いにきました」

 

 

――ウリズン帝国現王女であり、『テイルズオブリバース』で知られる『アガーテ・リンドブロム』と、ウリズン帝国騎士団第一師団隊長であり、同じく『リバース』で知られる『ミルハウスト・セルカーク』、そしてウリズン帝国騎士団総騎士隊長であり、『ヴェスペリア』で知られる『アレクセイ・ディノイア』なのだから…。

 

 

 

 

「――『協力』ねぇ。今までの行動から、よくもまぁ此処に来て平然とそんな事言えるな」

 

 

「――っ!!」

 

 

「落ち着け、ミルハウスト」

 

 

アガーテの言葉にピリピリとした空気の中、皆の心中を代弁するかのようにスパーダが出した言葉に、ミルハウストはキッと周りを睨みつけてくるが、それをアレクセイが止める。

 

ミルハウストや周りの様子に、アガーテは顔を俯かせて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「…アナタ方の言うとおりです。我々の行動…無理やりな星晶の採取や、村人達の強制労働やその他諸々…謝って許されるとは思っていませんが今、深く謝罪します。ですが我々には…アナタ方アドリビトムの力を貸して頂きたいのです」

 

 

「…『暁の従者』の反乱に続き、あの謎のキバの出現……我々の領内の不安は大きくきている。我々も出来る限りの尽力を尽くし、協力がしたいのだ。だから……っ!」

 

 

そう言って頭を下げるアガーテ、ミルハウスト、アレクセイ。

ホール内がざわめく中、アンジュは一度溜め息を吐くと口を開いた。

 

 

「――正直な話、あなた方ウリズン帝国の今までの事を、謝っただけで『はい、そうですか』と許して簡単に協力しようとは少なくとも私は思わないわ」

 

 

アンジュの出した言葉に、頭を下げたままのアガーテが一瞬震える。

そしてアンジュはそのまま『――だから』と付け足し口を再び動かせる。

 

 

「あなた方には言葉よりも行動で見せてもらいます。本当に心から謝罪しているのか、私達が協力してメリットがある事なのか。更に条件として…あなた方が捕らえて労働させている無罪な村人達の解放、それと意味があるかは分からないけど…収集した星晶を元の場所に戻すこと。そして最後に…あなた方ウリズン帝国がこれからどうやって別の形で国を変えていくのか…それを確認出来たら、私達アドリビトムは協力します」

 

 

「――はい、分かりました。…ありがとうございます」

 

 

アンジュの繋げた言葉にアガーテはゆっくりと顔を上げそう言うと、再度深く頭を下げた。

ミルハウストとアレクセイも、アガーテの様子にゆっくりと深く頭を下げた。

 

 

 

周りのピリピリとした空気が若干穏やかになってきた…そう思った時だった。

 

 

「――ちょっと待ってくれ」

 

 

そう言って前に出たのはユーリであった。アガーテ達がユーリの方を向くと、ユーリは口を開く。

 

 

「協力願いの為に謝りにきたってんなら…なんでサレが居ねぇんだ?このアドリビトムや村に一番の被害をもたらした原因のアイツをよ」

 

 

「……それは――」

 

 

「――陛下、それは私から説明させてもらいます」

 

 

ユーリのもっともの言葉に、アガーテは顔を俯かせ口を開こうとすると、それをミルハウストが止め真っ直ぐと僕達を見た。

そして……ある意味最悪な理由が出された。

 

 

「――……ウリズン帝国騎士団第三師団隊長サレは……『暁の従者』の反乱が起きた時、その争いに紛れ、数名の兵士と研究員…そして我々が収集した星晶の一部を奪い、失踪した」

 

 

その一言は、事態を更に最悪な方向へと向ける報告であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――そっか。そんな事があったんだ…」

 

 

「――うん。皆、かなりピリピリしてて大変だったよ」

 

 

――医務室にて、いまだ全快ではなく休んでいてホールでの出来事を知らなかったカノンノに説明すると、カノンノは不安げにそう言った。

 

サレの行方…結局ウリズン帝国はそれを知る事が出来ず、サレが一体何の目的で数名の兵士と研究員、そして星晶を奪って失踪したのか謎のままらしい。

一応兵をまわして捜索はしているらしいが、姿どころか情報一つ回ってきていないらしい。

 

サレ……多分、いやきっと『リバース』でのあの性格上、此方を妨害してくる事は確実だろう。警戒はしておかないとな。

 

 

「ぁ、そうだ。ヴェラトローパの話、メリアから詳しく聞いてみたんだ。凄いよね…『ヒトの祖』って」

 

 

「うん、そうだね。…世界と共に、創造する為に地上に降りたんだっけ」

 

 

不意にカノンノが出した話題に僕は頷くと、メリア達から聞いた話を思い出しながら応える。

 

 

「私達、その『ヒトの祖』の子孫なんだなって思ったら、すごく不思議な気分。

不思議で、素敵な事だと思うけど……でも、今の世界はどうなのかな…」

 

 

「……カノンノ…?」

 

「戦争したり、奪い合ったり、欲しがったり。皆が皆、別々の方向を見てる。…世界樹は…、寂しがってないかな」

 

 

言葉を続けながら不安げな表情を浮かべ徐々に俯いていくカノンノ。その様子に、僕はそっとカノンノの頭を撫でると言葉を出す。

 

 

「…大丈夫だよ、きっと。ウリズン帝国だって、変わってくれたんだから…皆、遅くなってもきっと同じ方向を見てくれるよ」

 

 

「ん…そうだね、今悲観的になったらだめだよね。世界を良くするために、アドリビトムはあるんだもん」

 

 

僕の言葉にカノンノは一度頷くと、顔を上げてそう言う。

僕はそれを見ると、ゆっくりと頭を撫でていた手を離した。

 

 

「ん。ならカノンノも早く体調よくして依頼を手伝ってもらわないと。今もいっぱいいっぱいなんだから」

 

 

「うん!……ねぇ、衛司」

 

 

「……ん…?」

 

 

カノンノの返事を聞き医務室から出ようと後ろを向くと、カノンノが僕を呼んだ。

 

 

「……世界が良くなったら…もしかしたらメリアは、予言の通りに世界樹へ帰らないといけないかもしれないんだよね…?」

 

 

「……もしかしたら…かもね」

 

 

ディセンダーの予言。それはディセンダーは世界を救うと、再び世界樹へと眠ってしまうという結末。

定かではないけど…僕が『元の世界』で今までやっていた『マイソロ』の通りならば…きっとメリアは眠ってしまうだろう。

僕は言葉を濁しながらそう応える。

 

 

 

 

 

「……なら、衛司はどうなっちゃうの…?」

 

 

「―――っ!!」

 

 

カノンノから出た言葉に、僕は思わず顔を歪めてしまう。

僕には、メリアが世界を救った後……『僕自身』がどうなるかは分からない。

このままこの世界に居続けるかもしれないし…『元の世界』に戻るかもしれない。

 

…ただ、元の世界に戻っても

 

『僕自身が生きているかどうか』は……

 

 

 

「――……衛司…?」

 

 

「っ――なんでもない。…どうなるのかな…僕自身にも分からないよ。イレギュラーな訳なんだし」

 

思考が巡り回っていると、不意に届いた不安げなカノンノの声に、僕はカノンノの方へと振り返ると苦笑を浮かべてそう冗談混じりに答えた。彼女の不安げな表情を見たくないから。

 

カノンノはそんな僕に対し、ゆっくりと立ち上がると……僕の胸元に顔を埋めるように抱きついてきた。

 

 

「ぇ……カノンノ……?」

 

 

「衛司……私は…衛司が居なくなったら……寂しいよ」

 

 

突然の事に呆然としてしまうが、抱きついたままそう声を出すカノンノに僕はそっと頭を撫でて応える。

僕自身がどうなってしまうかは分からない。だから言葉で答える事は出来ない。

 

ただ、今この時だけでも、長く彼女と居たい。彼女を寂しがらせたくない。

…そんな思いを込めながら……ただただ、彼女の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――どうだい、全ては順調な方かな?」

 

 

「――はっ!今三割程、出来上がっております」

 

 

 

――様々な機器類が置かれた研究所のような場所。

そこで、一つの画面を見ながら青白い顔の男――サレと、研究員であろう白衣を着た男が話していた。

研究員の返答に、サレは不適な笑みを浮かべた。

 

 

「うんうん、順調でなによりだよ」

 

 

「はっ!ありがとうございます。…しかし、上手く完成するかの確率はいまだ50%ですが…」

 

「なに、失敗すればまた作り直せばいいさ。奪った星晶はまだまだ残ってるんだしね」

 

 

研究員の言葉に、サレは不適な笑みを浮かべたままそう応える。

そんなサレの言葉に、研究員は首を傾げた。

 

 

「…サレ様らしくありませんね。『失敗しても構わない』、など」

 

 

「ん?あぁ…答えは簡単さ。…『コレ』の持ち主になる人間には、もうちょっと『強く』なって欲しいからね」

 

 

「はぁ……成る程」

 

 

研究員の言葉にサレはニヤリと笑いそう言うと再び画面へと視線を移す。研究員もそれに納得したのか、同じく一つの画面へと視線を移した。

 

 

 

「――そう。彼には『コレ』が完成するまでもっともっと…強くなってもらわないとね……フフフ」

 

 

 

『コレ』と呼ばれる物が映し出された画面を見ながらそう言って、サレは不適に、不気味に笑みを浮かべ続けていた―――

 

 

 

 

 




ウリズン帝国の人員は完全に私の想像です。
『この集まりなら道間違えないんじゃね?』とか思っても気づいても言っちゃダメ←←

…一度登場した未参戦キャラクターの紹介とかオリキャラ設定とか書いた方がいいかな…。


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第三十二話

 

 

 

「――あれ……?」

 

 

――いつものように朝の鍛錬を終え、昼食を食べた気分展開に甲板に出ると、いつもは甲板では見ない先客の姿に、僕はそんな声を出して首を傾げてしまう。

 

 

甲板に居た先客……その人物はアルヴィンであった。

ただ、アルヴィンはその肩に鳩のような鳥を乗せてなにやら手紙のような物を書いていた。

 

 

「――アルヴィン…?」

 

 

「――ん……お、優等生二号君か」

 

 

僕の声に気付き、アルヴィンは此方を見てニッと笑いそう言うと書いていた手を一度止めた。

 

 

「優等生二号君って……相変わらずその呼び名なんだね。それは…手紙?」

 

 

「こっちの方が俺は覚えやすいからな。あぁ……遠い国にいる美女宛てのな」

 

 

 

 

僕の言葉にニヤニヤと笑ってそう答えたアルヴィンに思わず苦笑いしてしまう。

 

 

「そ、そうなんだ……。えっと、それじゃあその鳥って…伝書鳩みたいなものなの?」

 

 

「ん、あぁ。…『シルフモドキ』っていう種類の鳥でな、コイツがまた頭が良くてな…ちゃんと送って欲しい場所に届けてくれるんだよ」

 

 

「へぇー…シルフモドキ、か……凄いなぁ」

 

 

アルヴィンの説明を聞き、思わずまじまじとアルヴィンの肩に乗って此方を見るシルフモドキを見てしまう。

 

 

 

「――そんで、優等生二号君はどうしたんだ?何か用があって此処に来たんだろ?」

 

 

 

「ん…ぁ、いや、僕はその…ちょっとした気分転換で来ただけだよ。手紙…邪魔してごめん」

 

 

「いやいや、気にすんなよ。別にこれといって大事な事書いてた訳じゃねーし。…なんだったらこの後他のヤツ連れて依頼でも行くか?」

 

 

「ぇ……でも……」

 

 

アルヴィンのそんな気遣いのような言葉に思わず遠慮がちになってしまう。アルヴィンはそんな僕の様子にニッと笑って口を開く。

 

 

「だから別に気にすんなって。さっき言ったように別に大事な事書いてた訳じゃねーし。ちったぁ大人の気遣いに頷いとけよ」

 

 

「う、うん…ありがとう。…でも、『大人の気遣い』に頷いておく訳だから、ちゃんと手紙を書いてから来てよ」

 

 

「へいへい、ちゃーんと書いて送っておくから、報酬良さそうな依頼頼んでおいてくれよ」

 

 

アルヴィンの言葉に頷き、最後に『ありがとう』、と言って笑うと依頼を受けに行くためにホールへと歩き出した。

それにしても……アルヴィンと手紙のやり取りしてる美女ってどんな人なんだろ…?

 

 

 

「――さぁて、…どうするかな」

 

 

――ホールへと入り後ろになった扉が閉まる際、アルヴィンのそんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「――《塩水晶》…?」

 

 

「――えぇ。まず分かってるのはそれだけみたいね」

 

 

――アルヴィンとのやり取りから数日。

ジュディスはニアタから受け取ったプレートを読み終えた。

そしてそのプレートに掛かれていた事は、ラザリスとラザリスの世界《ジルディア》を封印し直す方法であった。

そしてその内容は…本来封印する材料である星晶――それが枯渇して少なくなっている今、星晶の代用品による『封印次元』に頼るしかない、というものであった。

ニアタの残した情報によると、それには……《空色の石》、《羽があって飛び回る実》、《全身から汗を流すパン》のドクメントを構築する事が必要らしい。

 

 

この暗号染みた三つの必要品に、流石のアドリビトムの天才陣も頭を抱えているらしいが、その中で一つ…《空色の石》は分かったらしい。

それが、先程僕が名を出した《塩水晶》らしい。

 

 

「それで…その塩水晶ってどこにあるの?」

 

 

「リタからの詳細を見ると…ブラウニー坑道の大分奥にあるみたい。…本当はこの素材でラザリスが封印できるのか悩んでるんだけど、他に方法が無い以上、今ある方法をするしかないからね。それで、衛司はどうする…?」

 

 

「うん…分かった、僕も塩水晶の採取に行ってみるよ」

 

 

「そう、分かったわ。それじゃ、こっちも手早く他の参加者を探してみるわ」

 

 

アンジュの言葉に頷き、僕は準備の為に自室へと向かった。

塩水晶、か……どんなのだろうかなぁ…。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

――あの後、塩水晶の採取メンバーは僕、メリア、カイル、しいな、エリーゼ(+ティポ)となった。

 

ブラウニー坑道の奥…確か前に一度行った時には塩水晶なんてなかった筈、と考えていたがその理由はよく分かった。

この坑道…伊達にしいなとすずの故郷であるミブナの里と繋がっている為、幾多のトラップや仕掛けが組み込まれている。

 

その一つに、僕もはまってしまったような、『此処が坑道の奥の行き止まりなんだ』と思わせる仕掛けがあったのだ。

 

 

その仕掛けの種明かしをされた時は、『なんで僕こんなのに引っかかったんだろ』とか思うものであった。

こういう時はなんて言えばいいか……あぁ、あれだ。

――その発想はなかった。

 

 

 

それで今現在、ブラウニー坑道の更に奥へと足を進めている訳だけど……。

 

 

「――……大丈夫、エリーゼ?」

 

 

「――は、はい…。大丈夫……です」

 

 

皆が前進していく中、エリーゼ(とティポ)が少し遅れたペースでついてきていた。

年相応の体力の問題か、このメンバーで身体年齢が低いエリーゼにとってやはり明かりがあるとはいえこの薄暗い坑道を僕達に合わせて歩くのは無理があったかもしれない。

 

 

「…エリーゼ、きつかったら引き返しても構わないんだよ?」

 

「き、きつくなんてありません!…衛司達には、村を助けてもらった恩もありますから…こういう所で少しでもお手伝いしたい…です!」

 

 

「そーだそーだ!だから何も言わずに連れてけー!!」

 

 

僕の言葉に、疲れながらも首を振ってそう応えるエリーゼと、僕の周りを飛び回るティポ。

そんな二人(?)の様子に僕は一つ吐息を漏らした後、小さく頷いた。

 

 

 

 

 

「……分かった。ただ、僕も隣をついて歩かせてもらうよ。もしエリーゼを離しちゃ、僕がジュードに怒られちゃうから」

 

 

「は、はい!…ありがとう…です」

 

 

「サンキュー、衛司君!!」

 

 

僕の言葉に嬉しそうに頷くエリーゼとティポ。

僕はそのまま皆より少し遅れながらもエリーゼとティポと同じ歩調で再び歩き出した。

 

だからカイルとしいなと一緒に前を歩くメリアさん……その黒々と見える何かをできればおさめて下さい。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

ブラウニー坑道を奥へ奥へと進んでいると、ようやく大分先に大きく薄暗い坑道内の僅かな明かりの中で煌めくものが目についた。

やっと見えてきた、か…。そう安心していた時だった。

 

 

 

『(――主、何か……嫌な気配がします――)』

 

 

「――え…ヴォルト…嫌な気配って――」

 

 

「――皆、誰かいるよっ!!」

 

先に煌めくものに歩みを進めていくと不意に、肉体内にいるヴォルトの声が響き、その言葉に問い返そうとした最中、しいなの突然の声に視界を向ける。

 

すると、その先に…近付いた事で顔は見えないが大きな後ろ姿が確認出来た。

その瞬間…カイルの表情が変わった。

 

 

「――っ!アイツは――バルバトス…!!」

 

 

「「ええ!?」」

 

 

「「?」」

 

 

カイルの出した名前に、事情を知っている僕としいなは驚きの声を上げ、上手く理解出来ていないメリアとエリーゼ、ティポは首を傾げてしまう。

バルバトスって…こんな所にっ!?

 

「アイツも此処に跳ばされて来てたのかっ!!」

 

 

「!?カイルっ!!」

 

相手の正体が分かったと同時に、カイルは剣を抜きその相手に向け走り出す。此方の声に止まらず、カイルはそのまま走り続け――

 

 

「――バルバトォォォスッ!!」

 

 

――飛び込み一閃。だが、それは直撃することなく…瞬時に反応し振り返った相手の斧に防がれる。

そしてその顔を見て…僕も認識した。

 

巨大な斧を片手で扱う姿、長い青の髪に濃い色の肌、そして……攻撃してきた相手を確認し、溢れ出していく殺気。

……間違いなく……『バルバトス・ゲーティア』であった。

 

 

 

「ほう…、死に損ないが。まぁだ生きていたのか。妙な所へ飛ばされたせいで、我が飢えを満たす相手がいなくてなぁ…っ!!」

 

「ぐあぁっ!!」

 

 

バルバトスは言葉を出しながら、カイルの剣を防いでいる斧に力を込め、カイルを弾き飛ばす。

 

 

「カイルっ!!」

 

 

「っ!バルバトス…お前なんかに…父さんを殺させてたまるかっ!!」

 

 

「カイル、待ちなって!勝てる相手なのかい?」

 

 

「心配するな。その答えは一つしかない」

 

 

体勢を立て直し再びバルバトスに突撃しようとするカイルを止める。

しいなの問いに答えたのはバルバトスであった。

 

 

「貴様達はここで骸になるだけだ。逃げられると思うなよ」

 

 

「っ!!皆、武器を構えてっ!!エリーゼは後方に下がって支援をっ!!」

 

 

バルバトスの言葉と同時に更に溢れ出す殺気に、僕は皆に戦闘体勢に入る事を告げる。

正直…本当にヤバいかもしれないっ!!

 

そして僕達の様子にバルバトスは不気味に口元で笑みを浮かべると、斧を大きく振り上げ構える。

 

 

 

「さぁ…さぁさぁさぁさぁっ!俺の渇きを癒やせえぇえぇぇぇぇっ!!」

 

 

 

此処に…最も最悪な闘神との戦いが始まった――。

 

 

 

 

 




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第三十三話

 

 

 

「――ぶるぁあぁあぁぁぁっ!!」

 

 

「――全員、散ってっ!」

 

 

――戦闘開始の合図のように、全員が武器を手にした瞬間、武器である大斧を奮い上げ、雄叫びと共にバルバトスが接近してくる。

それに対し僕がそう対処の声をあげると、全員がその場を退く。

 

僕達が退いた数秒後、そこに斧が力強く振り下ろされ、先程まで僕達が居た場所の地面はクレーターを作られた。

 

……マジすか。

 

 

 

「せいっ!!」

 

 

「……ふっ!」

 

 

 

斧を振り下ろしたまま無防備となっているバルバトスに、しいなが札を、メリアが苦無を投げる。

 

 

「――甘っちょろいんだよおぉおぉぉっ!」

 

だがそれらは、バルバトスに当たる直前に雄叫びと同時に振り上げられた斧と共に吹き上がる毒の陣《ポイゾニックヴォイド》によって弾かれる。

 

「なら……フレイムドライブっ!」

 

 

「これで……ライトニング・ボムっ!」

 

 

弾かれた札と苦無を見た瞬間、準備していたカイルが火炎弾を、僕が雷の無数の玉を発現させる。

 

 

「――はっはぁっ!!」

 

 

それに対し、バルバトスは高らかに笑うと飛ばされた火炎弾と雷の玉を『殴って』打ち消した。

 

 

「ちょ…規格外すぎじゃないかい!?」

 

 

「ははぁ…勝てる気しないね…」

 

 

「はっ。この俺に勝とうと思っているのなら…こんなちまちまとした攻撃はせん方がいいなぁ」

 

動揺する僕達にバルバトスはまるで鼻で笑うようにそう言うと、再びゆっくりと斧を振り上げ構える。

 

 

「――まさか、こんなもので終わりじゃないだろう?さぁ…俺をもっと楽しませてみろ!!」

 

 

「――それならこれですっ!」

 

 

「――くらえ、バホーっ!!」

 

 

 

バルバトスの言葉に、そう僕達の後方にいるエリーゼとティポの声があがる。

見るとエリーゼの足元からは紫の魔法陣が出現しており、今詠唱を終えた瞬間であった。

 

 

「墜ちてください…ネガティブゲイトっ!!」

 

 

「っ……ほぅっ!」

 

 

エリーゼの叫びと共に、バルバトスの足元から無数の黒い手が現れ攻撃を開始する。あれ…ネガティブゲイトってあんなのだったっけ…?

しかし、その無数の手の多種多様な攻撃に流石のバルバトスも動きが鈍る。

 

 

「よし…いくよ、カイル!」

 

 

「う、うん!…行くぞ、バルバトスっ!!」

 

 

バルバトスの様子にしいなは一度決心したように頷くとカイルにそう言った後、しいなは札を、カイルは剣を構えいまだエリーゼのネガティブゲイトに動きを鈍らされているバルバトスに走り出す。

そして……

 

 

 

「受けな…風刃縛封っ!!」

 

 

「くらえ!屠龍連撃破っ!!」

 

 

同時に放たれる二人の奥義。いまだに身動きが取れないバルバトス。

決まった。そう、思った瞬間であった…。

 

 

 

 

 

 

「――鬱陶しいんだよ、屑がぁっ!!」

 

 

 

――斧を一振り。そう、ただそれだけで……ネガティブゲイトが発動されていた地面を打ち消し、それと同時に起こされた衝撃波でカイルとしいなの勢いを止めた。

 

 

「ぶるあぁあぁぁぁぁっ!!」

 

 

「があぁあぁぁっ!?」

 

 

「く、うぁあぁぁぁっ!!」

 

 

雄叫びと共に奮われる拳。勢いの止められた二人に放たれたそれは見事に直撃し、二人は壁へと叩き付けられたら。

 

 

「……っ!カイルっ!しいなっ!!」

 

 

「エリーゼ、急いで回復をっ!!」

 

 

「は、はい……っ!!」

 

 

壁に叩き付けられた二人を見て、メリアが声を上げる。

僕はすぐにエリーゼに回復をお願いする。

 

「そうはさせんぞ、小娘。貴様ら仲良く…葬ってやろう」

 

 

だが、バルバトスはそれを許すこともなくそう言うと斧を両手に持ち切っ先を此方に向ける。

ヤバい…あれはまさか…っ!

 

 

「メリア、エリーゼは僕の後ろに下がってっ!ヤバいのが来るっ!!」

 

 

「えっ!それじゃ…衛司が……」

 

 

「大丈夫、僕の木刀はそう簡単には折れないからっ!!」

 

 

僕の言葉に迷うエリーゼだが、一度頷いた後、回復の詠唱を始める。メリアもわかってくれたのがエリーゼの前に守るように立った。

 

僕は二人よりも前に出て、木刀で防ぐように立つ。

 

 

「――ほぅ。小僧…貴様、そんな棒っきれで俺の技が防げるとでも…?」

 

 

「勿論。防いでみせるさ…じゃなきゃ、全滅だからね」

 

 

「――その自信、面白い。ならば貴様は此処で…微塵に砕けろっ!――ジェノサイドブレイバアァァァアァァッ!!」

 

 

 

雄叫びと共に向けられていた斧の切っ先から、まるで殺意の塊のような黒い砲撃が放たれる。

僕はそれを、真っ向からただ木刀で…防ぐ。

 

 

「っ!!?ぐ、っ…あぁぁぁぁっ!!」

 

 

勿論、普通にどう考えても防ぎきれる訳がない。

正直痛い。『キツい』とかではなく『痛い』。

この質量…普通の木刀だったら即折れだったろう。そこら辺は流石世界樹の木刀…この質量の攻撃に折れるような音も立てず防いでくれている。

 

 

後ろには僕を信じてくれてる二人がいる。奴《バルバトス》の後ろには早く回復させないといけない仲間が二人がいる。そして…この木刀がある。

なら…後は僕の頑張り次第だろうっ!!

 

 

「ぐ…っ……ヴォルト、…ライトニング…シェルっ!!」

 

 

『(――お任せを、主――!)』

 

 

 

ヴォルトの頭に響く声と共に前方に出現する紫色の膜。その膜によって木刀への負担が少し軽くなる。

 

――防ぐ、防ぐ、防ぎきる!

木刀から腕から、全身へと衝撃が走る。

 

 

「ぅ…っ…頑張って…みせるさ…っ!!」

 

 

 

――防ぐ、防ぐ、防ぎ続ける。

そして……砲撃が、止んだ。

 

 

「――…やった…防ぎきっ――」

 

そう、安心した瞬間であった。

一瞬の気の緩み、前方を見直した刹那――強力な衝撃が、僕の体を襲った。

 

 

「――え……」

 

 

何かを確認しようとした瞬間、衝撃によって飛ばされる筈の体が、首に痛みを感じたと同時に跳ばずに宙へと浮く。

そして、分かった…。

 

先程の衝撃の正体はバルバトスの体当たり、そして首の痛み、宙に浮く身体の正体は……バルバトスに首を掴まれ、浮き上がらされていた。

 

 

 

 

 

「ごふっ…ごふっ……が…は…っ…」

 

 

正体が分かった瞬間、身体を強烈な痛みが襲いだす。

痛い、痛い、痛い…これは…多分…軽く骨が逝ってしまっただろう。苦しむ僕を、掴まえた張本人であるバルバトスは…不気味に笑みを浮かべている。

 

 

 

「くっくっ…中々面白い小僧だ。育てれば十分、俺の渇きを癒してくれそうだ」

 

 

「がっ…ぐ…はな、せぇ…っ!」

 

 

「衛司…っ!」

 

 

 

目の前で不気味に笑いながら言葉を出すバルバトスに、そう声を出すも、身体の痛みによって抵抗する力が出ない。

ヴォルトを出そうと思ったけど、今の状態で出したらヴォルトが危険である。

後方からエリーゼの声が聞こえるが、其方見ることも出来ない。

 

 

「だが…残念だ。貴様はここで……骸になれ」

 

 

「ぅっ……ぐぅ……ぁ…」

 

薄れだす視界、そんな中ゆっくりと振り上げられる斧と、バルバトスの不気味な笑み。

殺される。そう思った瞬間に脳裏をよぎる…元の世界での交通事故。

死という恐怖が僕を襲う。

そして、振り上げられた斧はゆっくりと僕へと―――

 

 

 

「――……衛司を…離せえぇえぇぇぇっ!!」

 

 

――振り下ろされる直前、メリアのそんな声が聞こえ…僕の意識は無くなった。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

――衛司が危ない衛司が危ない衛司が危ない衛司が危ない……。

 

 

そう思った瞬間、私の反応は早かった。

 

 

「――……衛司を…離せえぇえぇぇぇっ!!」

 

 

「――ぬぅっ!?」

 

一瞬。まさにその内に……私はアイツの腹部を斬り、手から落ちた衛司を受け止めた。

――意識がない。気絶だろう。死んでるなんて認めない…認めない認めない認めない認めない。

 

 

「く、くは、くははははっ!面白い、面白いぞ小娘っ!!」

 

 

――五月蝿い。

 

 

「はははははっ!貴様こそ、俺の渇きを癒やす相手にふさわ――「五月蝿い」――ぬ…?」

 

 

 

いまだに叫ぶ相手に、私は言う。

アイツのせいで、アイツのせいで……アイツのせいで……っ!!

 

 

「……お前のせいで衛司は…衛司は衛司は衛司は衛司は衛司はぁぁぁっ!!」

 

 

高ぶる感情。…私は此処まで感情的になった事はあるだろうか?

いや、ないだろう。

どうしてこうなったの?

私は分からない。

ただ目の前で衛司が…見たくない姿をしているから。

だから、だからだからだからだからだからだからだから―――

 

 

 

 

「―――コロス」

 

 

冷えた声。その声と共に、私の体の周りに無数の様々な色の輪が現れる。

限界突破《オーバーリミッツ》。

 

私の体が、私の心が、強くなった気がした。

 

 

 

「――斬――」

 

 

一言。私はそう言うと跳び、アイツの体を一閃する。

 

 

「――ぬぅぐっ!?」

 

 

「――斬――」

 

 

手にした短刀に血液が見える。

アイツがひるむのが見える。

だけど、私の攻撃は止まらない。

 

 

「――斬――斬、斬、斬、斬、斬斬斬斬斬斬斬斬斬っ!!」

 

 

斬る、斬る、斬る、斬る、斬り続ける。

止まらない、止められない。

傷だらけになるアイツの姿。

そして私は……

 

 

 

「――終斬――」

 

 

倒れ掛けるアイツの腹部を通り過がりに一閃。

後方から倒れる音が聞こえた。

…殺してはいない。

思ってしまったけど、きっと衛司に怒られてしまうから。

だから、だから……

 

 

「――…起きてよぉ…衛司……」

 

 

私は気絶したままの彼に…そう言葉を出すことしか出来なかった――。

 

 

 

 




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第三十四話

今回からちょっとオリジナル要素が多くなってきます。


 

 

 

 

――暗い、黒い世界。僕はまるで拘束されているかのように身動きが取れずにいる。

ただただ視界で確認出来るのは……

 

――目前に迫る巨大な大斧で――

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――うわああぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

――目前に迫った恐怖に思わず声を上げて起き上がった。

…起き上がった?

 

 

「――…あれ、此処は……」

 

 

少し落ち着こうと深呼吸しながら周りを見回し呟く。

此処は…もう十数回目に入り見慣れてしまった、バンエルティア号の医務室であった。

 

 

「なんで此処に…――痛っ」

 

 

 

周りをいまだに見回しながら呟いていると、落ち着いてきたせいか、身体を痛みが襲い出す。上半身を起こした状態で自分の身体を見ると、いたる所に包帯やら何やらがされていた。

 

 

「ヴォルトは……出てる、か…」

 

 

ヴォルトの事が気になり呼んでみるが反応は無く、ヴォルトが入っている、という感覚も無いので、そう認識する。出ている、という事は少なくとも僕よりかは大丈夫みたいだ。

 

そんな事を考えていると、不意に扉が聞こえた。

 

 

 

「――…あれ…、衛司…?」

 

 

「――…!…衛司が…起きてる…?」

 

 

 

扉の方を見ると…驚いたような表情をしているカノンノとメリアが立っていた。

 

 

「えっと……おはよう」

 

 

「「衛司ーっ!!」」

 

 

「あ、ちょ、ま――痛あぁぁぁぁっ!!」

 

 

軽く冗談混じりな挨拶をすると、二人が少し泣きそうな表情になって飛び付いてきた。

二人の様子から心配させてしまったんだな、と思ってしまうけど……僕一応怪我人である事を分かって欲しい。

 

 

 

「――目が覚めたのですね、主。おはようございます」

 

 

痛みに堪えながらとにかく二人を落ち着かせてはがそうと二人の頭を撫でていると、二人が入ってきた扉からヴォルトが顔を出してきた。

二人よりも落ち着いた様子ながらも嬉しげな表情を浮かべヴォルトはそう言うと此方に歩み寄ってきた。

 

 

「うん、おはようヴォルト。…できたらこの二人を離して欲しいんだけど」

 

「心配させた主の自業自得、と言っておきます。……本当なら私が飛び付いているのに」

 

 

僕の言葉に溜め息と共にそう言葉を返してきたヴォルトに思わず苦笑いを浮かべてしまう。

心配させて自業自得…うん、言い返せない所がキツい。

 

 

 

「ははは……。…僕って、一体どれくらい寝てたの…?」

 

 

 

「そうですね…かれこれ二週間目に突入した辺りでしたかね」

 

 

「へぇー、二週間かぁ……って二週間っ!?」

 

 

ヴォルトの返答に思わず驚いてしまう。

二週間って…どんだけ寝てたんだ、僕。

 

 

「仕方ない、と言えば仕方ないと思いますが。傷数十カ所、骨折六ヶ所、それに多量出血……アニーさんやジュードさんが一目見て生きてるのが奇跡と言ってましたからね。…応急処置でエリーゼさんが回復術をかけ続けていたのが助けになったのだろう、と思います」

 

 

 

「そうなんだ…。後でエリーゼ達にお礼しとかないと……そういえば、あの後どうなったの?」

 

 

 

ヴォルトの説明の内容に苦笑しながら、徐々に痛みに慣れてきていまだに引っ付いている二人の頭を撫で続けながらそうヴォルトに聞いてみる。

 

 

 

 

 

 

「…バルバトスはディセンダーが撃退しましたが、後に逃走…。塩水晶の採取には成功、カイルさんとしいなさんは主と比べると遥かに軽傷だったので二人とも今では普通に依頼に参加しています」

 

 

 

「そっか……。良かった、皆無事で…」

 

 

「…無事という言葉はもう少し自分の身体を見て言ってください。…後、ジルディアを封印する為の残り二つの材料が分かりました。『羽があって飛び回る実』、これはツリガネトンボ草…『全身から汗を流すパン』、これはウズマキフスベというキノコだそうです。…ですが二つとも既に絶滅しているらしくて…」

 

 

「それって…完全に手詰まりじゃ…。じゃあその二つはどうしてそれだ、って分かったの?」

 

 

 

「……それなんですが…」

 

 

「……私が描いた風景の中にあったの」

 

 

ヴォルトの説明にふと思った事を聞くと、答えたのはヴォルトではなく、カノンノであった。

 

「…私が描いた風景の中にね、探さなくちゃいけない物が二つあったってジュディスが言ってた。始めは混乱しちゃったよ。なんで私にそんなものが書けたのか…私って、一体何なのかな…って」

 

 

 

「カノンノ……」

 

 

「でもね、衛司やメリア…それに皆が頑張ってて…私の描いた絵がその皆の役に立っている。そう考えると、安心もできるんだ」

 

 

そう言いながらも、どこか不安げな笑顔を浮かべるカノンノ。それは微かに…此方を心配させないように無理やり笑顔を作っているように見えた。そんな彼女に、僕はただ静かに頭を先程より少し強く撫で始めた。

 

 

「っ…衛司……?」

 

 

「カノンノ……一人で抱え込まないでね。僕が、メリアが、ヴォルトが…皆が支えたいから」

 

 

「ん……そうだね…。ごめん…ありがとう」

 

 

僕の言葉に、カノンノは少し俯いた後、顔を上げてそう言って先程とは違った、柔らかな笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

「―――サレ様。御命令されていた物、採取に完了致しました」

 

 

「――フフッ、ご苦労」

 

 

―――様々な機器類が置かれた研究所のような場所の一室。

そこで、白衣をきた研究員らしき男が手にした大きめなビンの中身を見て――サレは静かに笑みを浮かべた。

 

 

「それにしても…案外予定より早く入手出来たんだね」

 

 

「はっ。サレ様より頂いた星晶…それを《エサ》にした所、直ぐに食い付きました故。…しかし私達研究者からしたら理解出来ませんな…。こんな物が力を与える等…」

 

 

 

研究員は手にしたビンの中身を見ると溜め息と共にそう言葉を出す。

それに対し、サレは笑みを浮かべたまま研究員からビンを取った。

 

 

「分からなくていいさ、これは僕が有効利用させてもらうから。…それで、『アレ』の方は?」

 

「…失敗する事、約七回。失敗するパターンは徐々に理解出来たので、残りの星晶を全活用すれば後一、二回で完成するかと…」

 

 

サレの質問に、研究員は一つのモニターに『アレ』と呼ばれたモノを移すとそう答えた。

サレはその言葉に笑みを深めた。

 

 

「計画は順調、か。…後は『向こう』の情報次第だね…。フフッ…そろそろ動き所だ。――『アレ』の方、完成を急ぐようにね」

 

 

「――はっ」

 

 

サレはそう言って笑みを浮かべ続けると、ビンを持ったまま部屋を出て行く。

その後ろ姿を見送り、研究員は溜め息一つと共にモニターを眺めた。

 

 

「――本当にあのお方は理解し難いものだ。――『星晶剣』に『赤い煙』…一体何に使うつもりなのか」

 

 

 

――研究員はモニターを眺めたまま、そう意味深に呟いた。

 

 

 

 

 




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第三十五話

先に言っておきますが…この作品のサレはこれが仕様です←

…『キャラ改変』のタグが必要だろうか…。


 

 

「――はい、もう大丈夫みたいですね」

 

 

「――ぁ、うん。ありがとう、アニー」

 

 

――アドリビトムの医務室にて、大怪我による長い長い医務室生活からようやく解放される瞬間を僕は実感していた。

いや、今回は本当に長かった。

 

そんな僕の様子を見てアニーは呆れたように溜め息を漏らした。

 

 

「…衛司さんの『ありがとう』を聞いたのはこれで何回目ですかね」

 

 

「ぅ…。本当にすみません。自覚はあるんだけどー…」

 

 

「余計に質が悪いです。…怪我をするな、とは言えませんけど…もう少し自分の身体を大事にしてください」

 

 

 

僕の言葉にアニーはより一層深い溜め息の後、真剣な表情でそう言葉を出した。僕はそれに頷いて応えた。

 

 

「うん…わかった。…なるべく怪我をしないようには頑張るよ」

 

 

「そういう意味でも無いんですけどね…。衛司さんには言って聞かない事はもう分かってましたけど。…ただ、次大怪我して帰ってきた時には治してあげませんからね」

 

 

 

「ぅ…それは勘弁です」

 

 

アニーの深い溜め息と出した言葉に、僕は思わず苦笑いを浮かべてそう言って、アニーに一礼してから医務室を出た。

 

 

 

「――…本当に、何もなければいいんですけど」

 

 

――医務室を出た僕に、アニーのその言葉が届く事はなかった。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

――僕が寝込んでしまっている間に進展が二つあった。

 

 

まず一つは封印次元の材料の一つであるツリガネトンボ草…その化石を入手した事。

ウィルの提案で、化石とはいえ僅かにでもドクメントが採取できるかもしれない、という考えからだ。現在はその化石からドクメントを採取できるか調べてる最中らしい。

 

もう一つはラザリスのキバ、それの調査であった。

これについてもドクメントの採取には成功したようだけど…なんでもキバが出現した場所の魔物が異質な姿に変化しているのが見られたらしく、話によるとキバを通してラザリスの世界のドクメントが流れ込んでいるのかもしれない、とか。

 

そして…メリアがジョアンさん達を助けた時の力を試したらしいけど…キバはその力を使っても消すことが出来なかったらしい。

 

 

――ただそれについて一番不安だったのは……

 

 

 

「――皆、久しぶ――」

 

 

「――…衛司ーっ!!」

 

 

「――ぐべはぁっ!?」

 

 

この…元気に僕の腹部に突っ込んできたメリアが…倒れてしまったという事。

今でこそここまで元気みたいだけど…多分倒れてしまったのはディセンダーの力の使用量が今まで以上に多かったからだろう。

 

 

「…はぁ……ともあれ、大丈夫そうで良かったよ」

 

 

「……~♪」

 

 

「――あら、復活おめでとう衛司」

 

 

メリアの様子を見て一安心し、優しくメリアの頭を撫でていると、此方を見ていたアンジュからそう声があがった。

 

 

「あ、ありがとうアンジュ。見ての通りなんとか復活できたよ」

 

 

「えぇ、見て分かるわ。復活、イチャついてるものね」

 

 

「ちょ、アンジュさん…?」

 

 

始めは安心したように笑っていたが、僕のメリアの頭を撫でている、という現状を見てニヤニヤとした笑みに変わってきたアンジュに苦笑いしてしまう。

いや、別にメリアとはそういう関係じゃ……

 

 

 

 

 

「あーあー、今カノンノが依頼に行かずに此処にいたらそれはそれは面白いものが見れただろうなー」

 

「ちょ、なんでそこでカノンノが出るんですかっ!」

 

 

「あらあら、なんでかしらねー」

 

 

そう、後ろに『♪』が付きそうな様子で話すアンジュに、僕は首を振って言う。

べ、別にカノンノの名前を出す必要は無いと思うんだけど……

 

 

『(――主、初々しいですね――)』

 

 

「(ヴォルトはちょっと黙ってて)」

 

 

僕の中で、キャラが軽く壊れかけない事を言ってるヴォルトにとりあえずそう即答しといた。

 

 

 

「はぁ…もう……アンジュ、とりあえず依頼なんかある?かなり空いたから出来るだけ感覚を戻したいんだけど…」

 

「そうね……じゃあこの採取依頼でもお願いしとこうかしら。採取場所はコンフェイト大森林の入口に入って少ししたらの場所だし、ちょうどいいでしょ」

 

 

やや諦めがちに溜め息を吐いてアンジュに確認すると、アンジュは少しニヤニヤと笑った後、一枚の依頼書を差し出してきた。

うん…これならまぁ大丈夫だろう。

 

 

「それでももしもの事があったらあれだし…そうね、誰か一人でも連れて行ったら?」

 

 

「……なら私が…」

 

 

「メリアは駄目。いくら大丈夫だからって、何かあったら大変だから。んー…」

 

 

「――んじゃ、俺がついてくよ」

 

アンジュの提案にそう言い合いながら考えていると、不意に後ろから声が聞こえ見ると――アルヴィンが軽く手を上げて立っていた。

 

 

「アルヴィン…いいの?」

 

 

「おう。久々に優等生二号君と一緒に依頼したいからなー」

 

 

そう言って此方に歩み寄り、僕の肩に組んでニッ笑うアルヴィン。

うん…久しぶりでも相変わらずだなー…。

 

 

「…ならこの依頼は二人に任せたわ。二人とも、簡単だからって手を抜かないでよ」

 

 

「うん、分かった」

 

 

「へーい」

 

 

「…………むー」

 

 

アンジュの言葉に、僕とアルヴィンはそれぞれ返事をすると不満気なメリアの頭を僕は撫で、準備の為に自室へと向かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――あら、衛司。動けるようになったのね」

 

 

「――あ、ジュディスさん。えぇ、まぁなんとか」

 

 

自室へと向かう途中、ジュディスさんと会いそう言葉を交わせた。

ジュディスさんは僕を見ると、何か思い出したように口を開いた。

 

 

「そうそう、ちょうど良かったわ。衛司、あなたに話があった。…故郷とディセンダーの為に肉体を捨て、機械に宿った異世界の賢人達…そのニアタの欠片を一時的に持っていて、それにあった情報を読んでみたんだけど…聞きたい、かしら?」

 

 

そう切り出したジュディスさんの…笑みを浮かべながらもどこか真剣な表情に、僕は頷いた。

 

「…じゃあ、あなたに話しておくわ。一応メリアにも話したんだけど……欠片を読んでみたら、ニアタの故郷のディセンダーの姿が見えたわ」

 

 

 

ニアタの故郷のディセンダーの姿……それはきっと、今までの『マイソロ』のストーリー上間違いなく…。

 

 

「そのディセンダーが、カノンノにそっくりなの。信じられなかったわ。名も…カノンノと言うらしいから」

 

 

「…そう、か」

 

 

ジュディスさんの出した言葉に、僕は内心やっぱり…と思ってしまう。

多分…ジュディスさんが見たカノンノは…『パスカ』の子だろうか?

 

 

「欠片からずっと伝わってきた…故郷の世界を守り抜いた固い絆…ニアタは、ディセンダーを愛していたようよ。…偶然なのかしらね。私達の仲間のカノンノが、彼のディセンダーと、とても似たヒト、そして同じ名前だったのは…。彼自身は『この世界は、故郷パスカの情報因子を受け継いでいない』って言ってたんだけど…でも、カノンノは存在するのよ。まるで世界の記憶が受け継がれていた様に、ね」

 

 

「それは……僕には分からないよ。それにしても…なんでこの話を僕に…?」

 

 

そう淡々としたジュディスさんの説明を聞き、僕は首を振って応える。僕は確かに『マイソロ2』までの世界の成り立ちは分かっているけど…この『マイソロ3』の世界の成り立ちは分からない為、正直な話僕自身にも分からないのだ。

 

というかぶっちゃけた正直な話、今回の話や設定…色々と複雑過ぎて僕の頭で理解しきれていないのも原因の一つだったりする。

 

そして…僕の質問に対しジュディスさんはクスクスと笑って口を開いた。

 

 

「あら、だってアナタはよくカノンノの事を心配してたじゃない?だからもし、カノンノに不安が出来た時は、と思ってアナタに話してみたんだけど…」

 

 

「ぅぐ…。まぁ…そうですけども…」

 

 

クスクスと笑ってそう言ってきたジュディスさんに思わず口ごもる。

うぅ…アンジュといいジュディスさんといい…なんで僕の事って軽く筒抜けなんだろう…。

 

 

「ふふ…まぁ、頑張りなさいね。…依頼もあるみたいだし、長々とさせて悪かったわね」

 

 

「うぅ…。いえ、大丈夫ですよ。…お話、ありがとうございました」

 

 

クスクスと笑った後そう言ったジュディスさんに一礼して再び自室へと向けて歩き出そうとした時だった。

 

 

 

「――言い忘れてたけど…アルヴィン。彼には気をつけた方がいいわよ?」

 

 

「……へ……?」

 

 

ジュディスさんの言葉に振り返ってしまうも、既にジュディスさんは歩いて行ってしまった。

 

……アルヴィンに気をつけるって…一体…。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

――あの後、ジュディスさんの言葉に疑問を感じながらも準備を終え…僕とアルヴィンはコンフェイト大森林の依頼書に書かれてた採取場まで来た。

 

 

 

「――っと、これが依頼の品だったか?」

 

 

「――ぁ、うん。依頼書に書いてある位置も此処だし…多分それだよ」

 

 

入口に入って少し奥に進んだ所で、僕達は依頼されていたものを見つけ、採取を始めた。

 

 

「大量大量、と…。にしても、復帰できてよかったな、優等生二号君」

 

 

「はは…。うん、ありがとうアルヴィン…」

 

 

採取をしながらそう、僕を見てニッと笑って言ってきたアルヴィンに、少し苦笑してそう返す。

…駄目だ、やっぱりジュディスさんが言ってた事が気になってしまっている。

ただこの事をアルヴィン本人から聞くのはなー…。

 

そう、思っていた時だった。

 

 

「っ!衛司、避けろっ!!」

 

 

「え!?うわぁっ!!」

 

 

突然アルヴィンがそう声を上げ僕を押し飛ばすと、先程まで僕が居た場所を、風の刃が突き抜けた。

 

 

「っ…これは…」

 

 

「――おやおや、避けられちゃったか」

 

 

風の刃が飛んできた方向を見ていると、そんな言葉を出しながら青白い顔の男……見間違えなく、『リバース』のサレが居た。

 

 

「お前は……サレっ!どうして…」

 

「おや、君とは初対面な筈だけど……あぁ、そういえばヴェイグが居たんだっけね」

 

 

僕の疑問にサレは答える事無くそう言うと不気味に笑みを浮かべた。

 

サレのさっきの攻撃に…剣を抜いている状態。間違いなく戦闘態勢だろう。

此方は僕にヴォルトにアルヴィン……正直微妙な状況だ。

 

 

『(――主、どうします…?――)』

 

 

「(…ヴォルト、お願いがあるんだけど…僕の身体を抜けて助けを呼びに行ってくれない?正直この状況…勝てる見込みは少ないけど…僕とアルヴィンで持ちこたえるから、少なくとも救援を呼んできて欲しいんだ)」

 

 

 

『(――それは……了解しました。私が戻るまで、無事でいてくださいね――)』

 

僕の言葉にヴォルトは一瞬止まるも、僕の説明に納得したのかそう言うと僕の身体から小さな光となって抜け…空へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

「――……優等生二号、どうすんだ?」

 

 

「――…今さっきヴォルトに救援を頼んだから…出来る限り時間稼ぎ、だね」

 

 

「――了解、と」

 

 

僕の説明を聞いてアルヴィンが頷いたのを確認すると、僕たちは武器を構える。

サレは僕たちのその様子を見て依然と不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

「へぇ、逃げないんだ。なかなか優秀だね」

 

 

「それはどうも。…それにしても、あなたも暇なんですね。目的のヴェイグじゃなくて、僕達を見つけて喧嘩ふっかけるなんて」

 

「ヴェイグが目的…フフッ、残念。僕の今回の目的は…今目の前にいるから」

 

 

僕の言葉に、サレは不気味に笑ったままそう言った。

目的はヴェイグじゃなくて……僕かアルヴィン…?

 

 

「今回の目的って……」

 

 

「おやおや、いいのかい。僕ばかり気にして。後ろにも気をつけないと…」

 

 

「一体…何を…――」

 

 

笑みを浮かべたまま出したサレの言葉に僕は思わず後ろを向いてしまう。

その時だった……――

 

 

――僕の額に、『銃口』が向けられた。

 

 

 

「――ぇ……なん…で……?」

 

 

 

「―――――――」

 

 

 

――銃口を突き付けた相手は僕の言葉に、答える事はなく……

 

 

 

――――ドンッ!!

 

 

 

 

――引き金を……引いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

――その後、ヴォルトの報告を受け、駆けつけたアドリビトムのメンバー達が見たものは……

 

 

――数量の地面に落ちた血と……

 

 

――その血の中心に…地面に突き立てられた『木刀』であった。

 

 

 

 

―――この日、『乾 衛司』と『アルヴィン』は……行方不明となった…――

 

 

 

 

 




衛司を撃ったのは一体ダレナンダー(棒)

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第三十六話

 

 

 

「――私の責任ね…」

 

 

――バンエルティア号のホールにて、メンバーのほぼ全員が集まった中、アンジュがそう申し訳なさそうに…重々しく口を開いた。

 

 

 

「…私がもう少し、サレにも警戒して人数を回しておけばこんな事には…」

 

 

「…んな事行ったら俺達だって同じだ。簡単な依頼だからって、たった二人で行かせた俺達にも非がある」

 

 

アンジュがそう言って俯いていると、ユーリがそう言って周りの全員が頷く。

 

 

「…今此処に居ない人の状況は…?」

 

 

「メリアは数名を連れて衛司の木刀が残ってた周辺を捜索中、ヴォルトはセルシウスと一緒にいて……カノンノは部屋に閉じこもってる」

 

 

「…衛司とアルヴィン…二人が居なくなった事で此処まで状況が変わるなんて、ね」

 

 

アンジュはそう呟くと再び俯いてしまう。

ヴォルトは…『自分を残して船に戻れ』という衛司の命令を受けたことで起こってしまった事の責任に、カノンノは…やっと復帰して、自分の絵を信じてくれる支えの存在であった衛司の損失に、酷く追いやられてしまっているのだろう。

 

 

「…ただでさえラザリスの事で手一杯なのに…本当に、最悪の状況ね」

 

 

「…ですが、起こってしまった以上…今此処で何を言っても二人は戻ってこないでしょう。ラザリスの対策と二人の捜索…その二つを同時にやっていくしかないでしょう」

 

 

「……それしか、ないみたいね。皆、状況は最悪だけど…二人の無事を信じて、ラザリスの事と二人の捜索を続けましょう」

 

 

ほぼ全員が沈む中、ジェイドの案にアンジュは頷くとそう言葉を出し、それに沈んでいた皆は顔を上げ頷いた。

 

 

「…ただ問題はこれから、ね…。結局ツリガネテンボ草の化石からドクメントが採取出来なかったのだから…あとの材料の二つをこれからどうすればいいのか――」

 

 

「――ヴェラトローパに、行ってみない…かな…?」

 

 

 

唐突に聞こえたその声に、全員がそちらを向くと…部屋で閉じこもっていた筈のカノンノが立っていた。先程まで泣いていたのか、その瞳は充血しているようにも見えた。

 

 

 

 

 

「カノンノ……もう、大丈夫なの?」

 

 

「うん…。辛くないか、って聞かれたら正直辛いけど…でもね、思ったんだ。…皆も同じ気持ちで頑張ってるのに…私だけ背負い込んじゃうのは、って…。それにね、衛司が帰ってきた時に私がこんなんじゃあ…きっと衛司に怒られちゃうもん」

 

 

「…お嬢様……」

 

 

 

決心した表情でそう言葉を出したカノンノに、ロックスは心配そうな…それでいて安心した表情を浮かべた。

 

アンジュもその様子を見て一息つくと、口を開いた。

 

 

「……分かったわ。だけど…なんでヴェラトローパに?」

 

 

「うん。…ニアタにあってみたいの。今足りない材料の事ならきっとニアタなら分かるだろうし…それに、きっとニアタなら…私の絵の事を…私の事を知ってそうな気がするから」

 

 

 

「成る程…だがニアタはラザリスに破壊されて…それにニアタの場所に向かうにしても…ニアタの場所に向かう道は既に外されて通れないんじゃ…」

 

 

「いえ…不可能でもないわ。…取り敢えずヴェラトローパに向かう準備ね。…一旦メリア達も戻してこれを伝える必要があるから。…準備が終わるまで皆、一旦解散よ。ゆっくり体を休めて…特にカノンノ、アナタはね」

 

 

「…うん。ありがとう…アンジュ」

 

アンジュとカノンノの言葉を最後に、皆はホールから解散した。

 

 

「(…さて、問題は残っていた血痕。…確認出来たのは『衛司だけ』とは…まさかとは思いますが、ね)」

 

 

皆がホールを出て行くなか、ジェイドは一人、眼鏡を指で上げてそう考えていた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――っ……此処…は……?」

 

 

――長い長い眠りから覚めるような感覚で、僕はゆっくりと目を覚ました。

 

ぼやける視界に映ったのは…ひび割れた壁と、鉄格子と…牢屋のような部屋であった。

 

 

 

「…あれ…どうして僕は…こんな…とこに……?」

 

 

起きたばかりのせいか上手く働かない頭をなんとか起動させて思いだそうとする。

えっと……確か……

 

 

「……確かアルヴィンと依頼をしてて…その時にサレが来て…それから……そうだ…っ!!」

 

 

ようやく意識を失う前の事を思い出したと同時に、痛みが『足』と『頭』を襲った。

 

 

「…そうだ…僕…アルヴィンに『足』を撃たれて…その後に強く殴られて気絶したんだっけ…」

 

 

意識を失う前の事を思い出しながら、痛みが走る足を見ると、一応治療はされたのか痛みを感じる位置には包帯が巻かれていた。

 

 

「…でも…アルヴィン…どうして……」

 

 

「――ぉ、目が覚めたみたいだね」

 

 

 

 

アルヴィンに撃たれた位置を見ていると、不意に背後から声がかかり慌ててそちらに振り返った。

先程はこのうす暗い牢屋の影で見えなかったのか…そこには研究員のような服装で…眼鏡をかけたどこかジェイドに似たような顔つきながらも、優しそうな雰囲気を出す人が立って居た。

 

 

 

「いやー、心配したよ…。いきなりおんなじ牢屋に人が来たと思ったら、怪我の跡があったしずっと死んだように眠ってるんだもん。うんうん、良かった良かった」

 

 

「は、はぁ…ありがとう…ございます。えっと…アナタは…?」

 

 

「んー…僕かい?僕の名前はね…――」

 

 

 

 

 

 

「――…バラン。ただのしがない研究員さ」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――…で、『星晶剣』の状況は…?」

 

 

「――はっ!…完成まで残り数十%です」

 

 

――衛司が閉じ込められた牢屋から遥かに離れた一室にて、サレは不適な笑みと共に研究員と話していた。

 

 

「うんうん、なかなか上等。さて…それじゃあこっちも本格的な準備に移らないと――」

 

 

「――おい、サレ。…アイツは無事なんだろうな?」

 

 

サレが話を続ける中、そう――アルヴィンが言葉を出した。

 

 

「うん…?あぁ、安心しなよ。彼…いや今は『彼等』か。…彼等は立派な――『人質』なんだからね」

 

 

 

「……チッ」

 

 

サレの出した返答に、アルヴィンは舌打ちをする。

アルヴィンのその反応に、サレは不適に笑みを浮かべ続けた。

 

 

「そうそう、『彼等』は大事な『人質』。…だから君にはもうしばらく手伝ってもらうよ……アルヴィン君?」

 

 

「……………クソが」

 

 

サレの言葉にアルヴィンはただただ……拳を握りしめていた。

 

 

 

 

 

 




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第三十七話

先に言っておこう。
私はサレが嫌いだからこんなキャラにしたわけではない。
むしろ好きだからこうなったのだ←←


 

 

「――へぇー…あのアルヴィンがねぇ…」

 

 

 

「えぇ…まぁ…はい」

 

 

――サレに捕まって数日。薄暗い牢屋で、僕は彼…バランさんと色々な話をしていた。

サレが一体何を企んで僕を捕らえたのかは分からないけど……一応食事は持ってきてくれる。

ただ何にせよ、暇な事には変わりないので、こうやってバランさんと話をしている。

 

 

話をしていて分かった事は…まずバランさんはアルヴィンと小さい頃からの仲らしい。結構昔のアルヴィンの事を教えてくれた。

 

後バランさんは…元々は別国の研究員だったらしく、研究所から自宅に帰る途中、サレに捕まってしまったとか。

捕まった当の本人は捕まっている事は特に気にせず、こうやって僕と楽しみながら話している現状だけど。

 

そして分かった事は…サレはアルヴィンを利用する為に…バランさんを捕まえたんだろう。

そしてアルヴィンは…サレにバランさんを人質にされ、僕を捕まえる事に協力されたんだろう。

 

問題は……何故サレが僕を、捕まえたのか。

サレの性格から何かを企んでいる事は分かるけど…一体何を。

 

 

 

「――うん。何か考え事かい、衛司君」

 

 

「――ぁ、いえ…。特に何も……大丈夫です」

 

 

「ならいいや。さて、今日は何をするかい?しりとり…は、昨日やったしねぇ」

 

 

「ははは……」

 

 

「――おい」

 

 

バランさんが捕まっている事など全く気にしていないように笑いながら出した言葉に、思わず苦笑いをしていると、不意に牢屋の外から声が上がった。目を向けると…兵士が無表情で立っていた。

 

 

 

「――出ろ」

 

 

「……僕だけ、ですか?」

 

 

「サレ様からは少年だけ、と聞いている」

 

 

僕を見ながら言ってきた兵士に問うと、無表情のまま兵士はそう答えてきた。

僕はバランさんの方を見ると、バランさんは何も言わず小さく一度頷いた。

 

 

「……分かりました」

 

 

「…出す以上は一度、拘束はさせてもらう」

 

 

牢屋から出され、兵士はそう言うと僕の手を手錠のようなもので拘束する。

武器である木刀が無いうえ、アルヴィンの人質としてバランさんが捕まっていると分かった以上、僕も抵抗する事は出来ないのでされるがままに拘束される。

 

 

「……出来れば早く帰ってきてくれないかな?僕も暇でたまらないからね」

 

 

「はは……それは相手側にお願いしてください」

 

 

後ろから、バランさんなりの安心のさせ方なのか笑いながらそんな言葉を出してきた。

僕はそれに苦笑いしながらも、僅かな安心感を感じそう応える。

 

そして僕は兵士に案内されるがまま…兵士の後ろについて歩いていった。

 

――それにこの兵士…さっきから『瞬き一つしない』のは…やっぱり……。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

――兵士に案内されてついたのは、まるで会議室のような広々とした部屋であった。

そこにいたのは…不気味な笑みを浮かべるサレと、興味深そうに此方を見る研究員の風貌の男、そして…一瞬申し訳無さそうに此方を見た後、顔を逸らすアルヴィンが居た。

 

僕は一度、アルヴィンを見た後、サレに向き合った。

 

 

「やぁ、こうやってちゃんと面と向かって話すのは二回目かな、衛司君?」

 

 

「…そうですね。で、僕に何の用ですか…『サレ様』?」

 

 

話し掛けてきたサレに僕はいかにも不機嫌です、といわんばかりの表情でそう言ってやる。サレは僕の言葉に不気味に笑みを浮かべたまま口を開く。

 

「用があると言えば用はあるね。君はその為に、捕らえたんだから」

 

 

「それは……わざわざ兵士に『催眠』を掛けてまでする必要がある事なんですかね?」

 

 

 

僕のその一言に、この場にいる全員が驚いたような表情を浮かべた。…やっぱり、か……。

 

 

「へぇ……よく分かったね」

 

 

「…ずっと無表情で、瞬き一つしない人を見たら、誰だって不審がります」

 

 

表情を笑みに戻して聞いてきたサレにそう答える。

僕の言葉を聞いて、サレは一層笑みを深めた。

 

 

「フフッ…御名答。彼等は僕に協力的じゃあ無かったからね。こうして手伝ってもらうようにしたよ。…それに、催眠を掛けた理由は…これから彼等にはもう一仕事してもらいたいからね」

 

 

「…アナタは…一体何を…」

 

 

「――さて、それでアナタにしてもらいたい用ですが」

 

 

サレの深まった不気味な笑みに僕は僅かに恐怖を感じ言おうとするが…それは研究員の男の言葉に止められる。

僕に…『してもらいたい用』…?

 

「――アナタには我々が作成した『ある物』を扱ってもらいたいんです」

 

 

「…ある……物…?」

 

 

「えぇ、とても時間を掛けた、我々研究チームが作成した、最高の芸術品。アナタにはそれを……何が何でも、使ってもらいたいんです」

 

そう、僕に対して淡々と説明する研究員。研究員のその淡々とした喋り方と低い声に…思わず僕は僅かに後退りしてしまう。

 

 

 

 

 

「……嫌だ、と言いますと?」

 

 

「安心しなよ。君がOKと言おうと、言いまいと……始めから結果は変わらないから」

 

 

僕の返答に、サレは静かにそう言うと…此方にゆっくりと歩み寄り…僕の前まで来ると、僕の襟首を掴み寄せて来た。

 

 

「っ……一体…何を…っ!」

 

 

「フフッ…大丈夫さ。次に目が覚めた時は…君はぜーんぶ、終わってるからさ」

 

 

「っ…まさか…止めろ……離せえぇえぇぇぇっ!!」

 

 

 

――そうして、僕の意識は……持っていかれた。

 

 

 

 

「――……すまねぇ、衛司」

 

 

 

 

 

――アルヴィンは俯き、ただただ拳を握り締めていた。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

―――『ヴェラトローパ』

 

 

「――っ!?」

 

 

「――…?どしたの、カノンノ?」

 

 

「…アーチェ。…ううん、何でもない。何でも…ないんだけど……」

 

 

――ヴェラトローパにて、ニアタと会うために歩いていたカノンノの様子がおかしい事に気付いたアーチェの問いに、カノンノは首を横に振ると、視線を空の下へと向ける。

 

 

 

「……今、衛司の声が聞こえた気がしたけど…きっと、大丈夫だよね……?」

 

 

 

そんなカノンノの言葉に応えるものはなく……ただただ冷たい風が、周りを吹き抜けていた。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――……遅いなー…衛司君」

 

 

――牢屋にて、バランは鉄格子越しの先を見ながら、つまらなそうにそう呟く。

 

 

 

 

――結局この日以降、衛司がこの牢屋に戻ってくる事は……無かった。

 

 

 

 

 




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第三十八話

 

 

 

 

 

「――『イレギュラー』…か……」

 

 

「――うん。何か分かったりしないかな、ニアタ」

 

 

 

――バンエルティア号の甲板にて、カノンノはヴェラトローパで復活したニアタと共にいた。

ニアタがこのバンエルティア号に来た事で…悩ませれていた封印次元の残り材料の対処法等、様々な事が助かっている。

 

…だが、それでもいまだに解決しない唯一の問題……衛司とアルヴィンの行方はいまだ発見される事はなかった。

 

 

それで、不意に衛司…『イレギュラー』について気になったカノンノは、博識であるニアタに問い掛けた。

 

ニアタはカノンノのそれに暫く考えるように唸った後、首を横に振るように小さく動いた。

 

「…すまない、カノンノ。私もこれまで多くの世界を見てきたが…『イレギュラー』については今回が初めてだ。見たことも、聞いたことも今までなかった」

 

 

「…ニアタでもそうなんだ。ううん、ごめんね。私も急に聞いちゃって」

 

 

 

「いや…カノンノが謝る事ではない。…しかし……『イレギュラー』…衛司、といったかな。その少年に何か変化はなかったか…?」

 

 

不意にそうニアタが出した、どこか真剣そうな言葉に、カノンノは考えて小さく首を横に振った。

 

 

「――ううん。私が見た時はいつも元気そうだったけど…それがどうしたの、ニアタ?」

 

 

「そう、か…。…『世界を越える』。言葉で言うなら実に簡単だが、これはそう、容易に口にする程簡単な事ではない。肉体を捨て、様々な世界を見た私でさえ…到着した精神体に障害が起こる事がある。それを…肉体と精神、両方がある状態で『世界を越えた』と聞くと…何か身体に異常があったのではないか、と思ってな…」

 

 

「え……?」

 

 

ニアタの説明に、カノンノは思わず驚き、呆然としてしまう。

 

 

「そんな……でも、私が見た限りだと身体にはなんの変化も――」

 

 

「――『身体』を『見た』限りでは、な。外部ではなく、それこそ内部…もしくはドクメントに異常がある確率もある」

 

 

「…っ…それは…」

 

ニアタの出していく言葉に思わず、カノンノは少しずつ顔を俯かせてしまう。否定したい反面、ニアタの正論に否定する言葉が無くなっていく。

 

その様子に、ニアタは小さく首を横に振った。

 

 

「――いや、すまない。あくまで異常がある『かも』しれないという可能性の話なだけだ。私も今までの経験上、肉体と精神両方が無事で『超えた』と聞くのは初めてだったからな。少々、言い過ぎた」

 

 

 

「…ううん、大丈夫。少しだけど『イレギュラー』の…衛司のことが分かったから。身体に異常…かぁ…。帰ってきた時に問いたださないと…」

 

ニアタの言葉に、カノンノは首を横に振ると僅かに安心した表情でそう言い、甲板から見える景色に視線を移した。

その様子に、ニアタは表情は分からないが僅かに笑みを浮かべているであろう様子で言葉を出した。

 

 

 

 

 

 

「カノンノ…君はよほどその『イレギュラー』…衛司を気に入っているようだね。まるで…片思いの相手を待っている乙女のような顔をしているよ」

 

 

「え…!?そ、そんな顔してるかなぁ…私…」

 

 

ニアタのその言葉にカノンノは顔を真っ赤にして慌てたような様子でそう言った。

 

 

「おや…私は見て思った事を言ってみたのだが…もしや…」

 

 

「そ、それは……確かに衛司は優しくて…別段強いって訳じゃないけど頼りになって…格好いいって訳じゃないけど時たま見せる姿が凄く良くて……あれ…?」

 

 

「おやおや……」

 

 

あまり気付かれたくないのか否定する言葉を出そうとするも逆の言葉ばかり出て言った後に気付き、更に顔を真っ赤にさせるカノンノにニアタは表情があればクスクスと笑っているだろう様子の動きを見せる。

 

 

 

「――『イレギュラー』…乾衛司、か…。会えるのであれば、会ってみたいものだ」

 

 

いまだに真っ赤になって少し混乱し始めるカノンノを見ながら、ニアタはどこか楽しみを待つ様子でそう呟いた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――オイ、サレっ!!」

 

 

「――っ…やれやれ、何だい?乱暴だねぇ」

 

 

――サレの拠点である研究所にて、アルヴィンはサレの胸ぐらを掴みあげていた。

サレを掴み上げるアルヴィンの目には、明らかな憤怒の色があった。

 

 

「――ふざけんな。『アレ』はなんだ…!?俺は…衛司は操るだけと聞いて連れてきたんだ!『あんな事』になると分かって俺は連れてきたんじゃねぇっ!」

 

「ふぅん…なんだ、衛司君の事か。ま、『あぁ』する事は言ってなかったから知らないのは当然だね。でも間違った事は言ってないよ?ちゃんと衛司君は僕の催眠にかかっていて、僕の命令には聞いてくれるんだから」

 

 

「テメェ…っ!!」

 

 

飄々とした様子で応えたサレにアルヴィンは怒りとともに胸ぐらを掴んだまま銃口をサレの額へと押し付ける。

だがサレは、銃口を押し付けられながらも不気味に笑みを浮かべる。

 

 

「なに、僕を撃つのかい?別に撃って殺してくれても構わないよ。人質も助かるし、催眠も解けるっていう一石二鳥だし。ただ…『今の状態』で衛司君が目を覚ましたら…きっと彼、精神と肉体が壊れちゃうよ?それでも良かったら、撃っちゃいなよ」

 

 

「…っ…この…外道がっ!」

 

 

「ありがとう、最高の誉め言葉だよ」

 

 

 

不気味な笑みを浮かべたままそう言っていくサレにアルヴィンは舌打ち混じりに乱暴にサレを離す。

離されたサレは胸元を直しながら口を開いた。

 

 

「それに…僕は彼の『願い』を叶えただけさ」

 

 

「『願い』…だと?『あんなの』が、衛司の願いだっていうのかっ!?」

 

 

「さぁ、それは分からないけど…僕は彼の『願い』を叶えた。だから彼には暫く僕に従ってもらうのさ。世の中全てギブ&テイク。そうだろう?」

 

 

不気味な笑みを浮かべたまま、一つのモニターに映し出される映像にサレは視線を移し、アルヴィンはその様子に再び舌打ちした。

 

 

「――さて、ヴェイグにアドリビトムの諸君。君達のいう『絆の力』で、彼は元に戻せるかな?フフ…フヒャヒャヒャっ!!」

 

 

モニターに映る映像。それを見ながらサレは呟くと不気味に笑い出した。まるで…狂ったかのように…。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

――声が聞こえた気がした。

聞いていて落ち着いて…守ってあげたくなる声。

 

――でも…今はそれは『どうでもいい』。

 

 

 

――ただ、ただ今は……

 

 

 

――目の前のものを……『殺』さないと…。

 

 

 

 

 




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第三十九話

今回からサレのゲス度が(個人的には)跳ね上がります←


 

 

 

 

「――『霊峰アブソール』に…?」

 

 

「――えぇ、リタ達の調べによるとそこにあるオイルツリーがツリガネトンボ草の進化種の一つなんだって」

 

 

 

――ホールにて、カノンノはアンジュからの説明を聞いていた。絶滅してしまった封印次元を作る材料であるツリガネトンボ草とウズマキフスベ。その対象として、その材料二つの進化種をからドクメントを入手出来る事が分かり…その材料の一つ、ツリガネトンボ草の進化種である『オイルツリー』が霊峰アブソールにある、という事らしい。

 

それで、今そのオイルツリーのドクメントを取りに行くメンバーを決めていた。

 

 

「うーん…私も行ってみようかな。皆の役になりたいし…」

 

 

「分かったわ。これでメンバーは…ヴェイグ、スパーダ、ジュード、メリア…それにカノンノで決定ね。本当ならそんなに入らない任務なんだけど、場所が場所だから要注意しててね」

 

 

「うん、分かった。…そう言えばさっき、ヴェイグが不安そうな表情でホールの前をうろうろしてたんだけど…」

 

 

カノンノが思い出したように苦笑いを浮かべてそう言うと、アンジュは溜め息一つと共に、カノンノと同じように苦笑を浮かべた。

 

 

「あぁ…実はクレアが食材が足りなくなってきたから街に一人で買いに行ったんだけど…それが不安らしくてね。衛司とアルヴィンの事があったからヴェイグも不安らしいんだけど…流石に街中だからサレは早々姿を出せないだろうから大丈夫、ってクレアが言ってね。それがまだ不安なんでしょう」

 

 

「なるほど……」

 

 

アンジュの説明を聞いて苦笑いを浮かべているカノンノだが、衛司の名前に僅かに反応し、小さく首を横に振るとアンジュと話した後、部屋に準備へと向かった。

きっと、衛司は大丈夫だ…と信じながら。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――何…だ……これ…?」

 

 

「――…ひどい…」

 

 

――霊峰アブソールに到着し、アブソールに詳しいセルシウスから教わったルートを通っていたカノンノ達。

 

だがその途中……突如目に広がった光景に…カノンノ達は足が止まった。

 

 

目の前に広がった光景……それは……本来雪で白い筈である大地が真っ赤に染まったものと…それを作り出したであろう、無惨と言える程ボロボロにされた魔物の群れの死骸であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…この切り傷は……でも…こんなのって…」

 

 

「……どうしたの…ジュード……?」

 

 

「これ…多分人がやった後…だと思うんだ。傷の入り方の形が…剣の形に近いから」

 

 

魔物の死骸を見ながら呟いていたジュードにメリアが問うと、ジュードは少し考えながらそう言葉を出し、皆が驚いた表情を浮かべる。

 

「オイオイ…こんな惨状を人がやったって言うのかよ?…どんだけ異常な人間だよ」

 

 

「…少なくとも、危険な事に変わらないよ。…どうする?一旦引き返して、アンジュに報告する…?」

 

 

 

魔物の死骸を見ながら思わずそんな言葉を出したスパーダに、ジュードは考えるような仕草を見せてそう言葉を出し、皆が考えだす。

…その時だった。

 

 

「……!!」

 

 

「…?どうしたの、ヴェイグ」

 

 

「…今、風に乗って声が聞こえた気が…」

 

 

 

突然、何かに反応したように周りを見回しだしたヴェイグにカノンノが首を傾げて問い掛けると、ヴェイグはそう応えた。

 

 

「声…?空耳じゃねぇのか…?」

 

 

「いや…だが……」

 

 

『キャアァアァァァァっ!!』

 

 

『『『!?』』』

 

 

スパーダの言葉にヴェイグが首を横に振って応えようとした瞬間、響き渡った女性の…聞き覚えのある悲鳴に全員が反応する。

 

 

「…い、今のって…っ!」

 

 

「……クレアの…声…」

 

 

「そんな…クレアさんは街に買い出しに行ってる筈じゃ…」

 

 

「クレア……クレアアァアァァァっ!!」

 

 

「ぁ、オイ、ヴェイグっ!」

 

 

響き渡った突然のクレアの声に皆が驚く中、スパーダが止める間もなくヴェイグが声の聞こえた方へと走り出した。

 

 

 

「ど、どうしよう……っ」

 

 

「とにかく、ヴェイグを追うぞっ!」

 

 

スパーダの言葉に全員が頷くと、クレアの声が聞こえた道を走り出した。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

――クレアの声が聞こえた奥。そこに辿り着き、見えたのは……

 

 

「――クレア!」

 

 

「――ヴェイグ…」

 

 

「――そんな……どうして…っ!?」

 

 

「――………っ」

 

 

「――ようこそ、アドリビトムの諸君。そして久しぶり、ヴェイグ」

 

 

「――……サレ…それに…アルヴィン!」

 

 

――目的のオイルツリーの前に不気味に笑みを浮かべて立つサレと……クレアを抑えつけ銃口を突きつけているアルヴィンであった。

 

 

「…皆…ごめんなさい。街でアルヴィンさんの姿を見つけて…追い掛けたらこうなって…」

 

 

「そんな……どうしてアルヴィンが…」

 

 

「……それは――「まぁだ分からないかな?アルヴィン君は始めから…こっち側だったんだよ」――なっ…テメェ」

 

 

皆の問いに苦々しい表情でアルヴィンが応えようとするも、それより先にサレが応え、思わずアルヴィンはサレを睨む。

 

 

 

 

 

 

「そんな……っ」

 

 

「……サレ…アルヴィン…衛司はどこ…?」

 

 

サレの言葉に、全員が驚愕の表情を浮かべる中、メリアは皆より一歩前に踏み出し、静かに問い掛ける。

その様子に、サレは不気味に笑みを浮かべたまま口を開く。

 

「衛司君かい…?安心しなよ……嫌でもすぐに会えるから、さ」

 

 

「……っ……まさか…」

 

 

「サレ…サレエェエェェェっ!!」

 

 

武器である剣を構え、無気味な笑みを浮かべたままそう応えたサレに、全員が声をあげ、メリアは怒号と共に特攻する。

それにアルヴィンはクレアを離し後ろへ下げ、サレは不気味に笑みを浮かべたままでいる。

……そして…。

 

 

――ガキンっ!!

 

 

 

――それはサレとアルヴィン『以外』のものによって防がれた。

 

 

「……え…?」

 

 

「……嘘…」

 

 

 

――防いだ人物の姿…それは……

 

 

「そん……な……」

 

 

「サレ……貴様…っ!」

 

 

 

――皆が見覚えのある服装と、見覚えのある顔…。

しかしながら…身体の至る所からラザリスと似た結晶を出し、右手が結晶の剣とまさに『同化』してしまっている…

 

 

「…だから言っただろ。『嫌でもすぐ会えるから』って」

 

 

「サレ…テメエェェェェェっ!!」

 

 

――その姿の正体は…

 

 

 

「……衛……司……?」

 

 

「そんな……そんなの……っ!」

 

 

――変わり果てた……『乾 衛司』であった。

 

 

 

「――オォオォォォォォッ!!」

 

 

 

 




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第四十話

 

 

 

 

「――ォォォ……オォオォォォォォッ!!」

 

 

「――そんな…どうして…」

 

 

「――サレ…テメェ、衛司になにしやがったっ!?」

 

 

――ただ目前で敵対するように吠える…『衛司』の変わり果てた姿に、皆が驚き、怒りを表し原因であるサレを睨む。

 

睨まれた張本人であるサレは、無気味に笑みを浮かべたまま口を開いた。

 

 

「『何をした』、か…。うーん、そうだね……じゃあこう言っとこうかな。…僕は彼の『願い』を叶えただけさ」

 

 

「『願い』…まさか…っ!」

 

 

 

サレの言葉の意味を理解し、ヴェイグが声を上げてサレを睨むと、サレは口元を釣り上げさせた。

 

 

「はい、御名答。君達の想像通り……『願いを叶える存在』…彼の身体にはそれを取り込んでもらったよ。…まぁ、彼も早々願いを言わなかったから、催眠を掛けてちょっと無理矢理取り込んでもらったんだけど…結果見ての通り。これでも意外に定着具合が良いみたいでね…僕が『用意したモノ』も綺麗に取り込んでくれたよ」

 

 

「そんな…酷い…」

 

 

「このゲス野郎が……そんなもんが、本当に衛司が望んだもんだっていうのかっ!」

 

 

ケタケタと、さも面白いものを見るかのように笑みを浮かべ衛司を見ながら喋るサレに、アルヴィンの後ろで見守るクレアは声を漏らし、スパーダが怒りを露わにして叫ぶ。

 

 

「さぁね…そこら辺は彼自身に聞きなよ。まぁ…『聞けたら』の話だけど」

 

 

「――オォオォォォォォッ!!」

 

 

 

「……っ…!」

 

 

サレの言葉を合図のように、衛司は刃を交えていたメリアを押し離すように右腕と同化している僅かに白も見える赤い結晶の剣に力を込め、メリアはその力の強さに押され後退する。

 

 

 

「メリアっ!…メリア、衛司がラザリスの赤い煙に取り込まれてるのなら…メリアの力で衛司を解放出来ない…?」

 

 

「…私もそう思った…。だけど……サレの言うとおり…今の衛司にはラザリスの力が定着し過ぎて効き目が薄い…。…弱らせるか何かして動きを止めないと……多分、意味がない…」

 

 

「くっそ…!結局戦うしかねぇってかっ!?」

 

「……オォオォォォォォッ!!」

 

 

カノンノの問いにメリアは体勢を立て直しながら苦々しい表情でそう応え、スパーダは武器を構えながら舌打ち混じりに声を上げ、衛司は雄叫びを上げながら武器を構えたスパーダへと特攻する。

 

 

 

「オォ……オォオォォォォォッ!!」

 

 

「ぐっ……速ぇし…重ぇ…っ!!」

 

 

「スパーダっ!!」

 

 

特攻し、剣を振り下ろしてきた衛司の攻撃を、スパーダは両手の剣を交差させて防ぐがその重さに思わず足が下がり舌打ちする。

 

 

「スパーダっ!」

 

 

「僕達も衛司を…っ!」

 

 

 

「――そうはさせないよ、ヴェイグ」

 

 

「――……おらぁっ!」

 

 

「「!!」」

 

 

スパーダの元に向かおうと走りだそうとしたヴェイグとジュードだが、それはサレの作り出した風の刃と、アルヴィンの放った銃弾に妨害される。

 

 

 

 

 

 

「悪いね、ヴェイグ。僕の目的は…元々君だから」

 

 

「く……サレェ…っ!」

 

 

「アルヴィン…衛司がこんなめにあわされてるのに、どうしてそんな奴の手助けを…!」

 

 

「…うるせぇ、優等生!俺にだって…俺にだって理由があんだよっ!」

 

 

ヴェイグはサレに、ジュードはアルヴィンに向かい合い、言葉を出しながら構える。

 

 

「フフッ…いい表情だねぇ、ヴェイグ。…あぁ、そうだ。それならもっと面白い事を教えてあげるよ、ヴェイグ」

 

 

「面白い事…だと…?」

 

「そう、面白い事さ…。ねぇ、ヴェイグ…あの衛司君と同化している剣が分かるかい?アレは僕がウリズン帝国から頂いた星晶を利用して造った剣でね…シンプルだけど、名前は『星晶剣《セイショウケン》』っていうんだ」

 

 

「『星晶剣』…?」

 

 

サレの言う星晶剣…ヴェイグとジュードは自然に視線をそちらへと向け、アルヴィンは再びサレを睨む。

視線の先では、スパーダが衛司の攻撃を防ぎつつ、メリアとカノンノが、衛司を攻撃するタイミングを伺っていた。

 

 

「そう、『星晶剣』…これは結構特別でね…刀身にマナを送れば送るだけ形を、切れ味を変えていくんだ…あんな感じに、ね」

 

 

「――ウォォォォッ!!」

 

 

「何…っ!?うぉあぁっ!!」

 

 

「スパーダっ!!」

 

 

 

サレの言葉を合図のように、突如攻撃を奮っていた衛司の同化した剣が巨大化し、防いでいたスパーダを剣ごと吹き飛ばした。

 

 

「な…まるで剣が生きてるみたいに急に大きさが…」

 

 

「まぁあながち間違ってないね。星晶は所謂生命エネルギーみたいなものだし。…さてここでちょっとした問題。あの衛司君と同化している星晶剣…元々は真っ白だったんだけど…どうしていま真っ赤なのでしょう?ヒントは…来る途中にみたものと、今の状況かな」

 

 

不気味に笑みしたままそうサレの出した言葉にヴェイグとジュードは思考を巡らせる。

 

 

来る途中に見たものとは…恐らく先程の魔物のボロボロの死骸だろう。そして周りの状況…サレでもなく、アルヴィンでもなく、暴走する衛司でもなく…。

そして二人は以前…ミルハウストが言っていた事を思い出した。

サレは『兵を数人連れて』去った、と。

 

今…この場所に兵士の姿は無く、そしてサレの言うヒント…魔物の死骸と白だった筈の真っ赤な星晶剣。

そして…答えに行き着いた。

 

 

 

 

 

 

「――まさか……サレ…お前はっ!」

 

 

「ピンポンピンポンー、大正解ー。君達の思っている通り……兵士は彼に『殺させた』さ。催眠を掛けているから可能性が少ないとは言え、彼が人を『殺す』事に戸惑う事があっちゃったら困るからね。じっくりと『練習』してもらったよ」

 

 

「サレ…アナタって…アナタって人はぁっ!」

 

 

「フフ…良いね良いね、良い表情だねぇっ!僕はそういうのが見たかったのさ!…フフ…フヒャヒャヒャヒャっ!!」

 

 

「……ゲス野郎めが…っ」

 

 

 

告げられた言葉に、ヴェイグとジュードは怒りを露わに大剣と拳を構え、その二人の様子にサレは不気味に笑い出し剣を構える。

アルヴィンはサレを僅かに睨みながらも舌打ちと共に武器である大剣と銃を構えた。

 

 

仲間を助けようとする者と、狂気に墜ちた者とそれに利用されている者の…戦いは始まった。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――オォオォォォォォッ!!」

 

「――チッ…めんどくさくなりやがって!」

 

 

――雄叫びを上げながら尚も攻撃を続けてくる衛司に、スパーダは舌打ち混じりに捌き続ける。

 

 

「…衛司っ……行って、バーンストライクっ!」

 

 

「っ……苦無閃《嵐》……!」

 

 

スパーダが一旦衛司から距離を取ったのを見て、カノンノとメリアは一瞬戸惑いながらもカノンノは上空から火炎弾を、メリアは無数の苦無を衛司に向けて放つ。

 

 

「グゥウゥゥ……ルオォオォォォォォッ!!」

 

 

 

放たれた攻撃に衛司は雄叫びを上げると、同化した星晶剣を巨大化させ凪ぎ払う勢いで消し飛ばした。

 

 

「オイオイ……どんだけ面倒くせぇ事になってんだよ」

 

 

 

「……衛司……」

 

 

攻撃を防いだ衛司の様子に、スパーダは溜め息混じりの苦笑を浮かべ、メリアとカノンノは心配気な表情を浮かべる。

 

 

「ウゥゥ……ォォォォォ」

 

 

 

「『願い』か…あのバカやろう…一体何を願ったんだよ」

 

 

 

「『願い』……まさか…」

 

 

「…カノンノ……?」

 

 

低い唸り声をあげ睨み付けてくる衛司に、スパーダは対抗するように剣を構えて睨み返し呟くと、カノンノはその呟きにふと思い出したような表情を浮かべ、メリアは小さく首を傾げた。

 

 

 

「衛司…言ってたんだ。皆を守れるぐらいの『力』が欲しい、って。だから…もしかしたら衛司の『願い』って…」

 

 

「『力』か…。あの馬鹿やろう…だからあんな厄介な姿してやがんのか」

 

 

「グゥウゥゥ…ゥォォォォォっ!!」

 

 

 

カノンノの言葉にスパーダは納得したように頷いた後衛司を見ると、衛司は三人を睨んだまま雄叫びをあげる。

その様子にカノンノとメリアはどこか悲しげな表情を浮かべる。

 

 

「……衛司……」

 

 

「本当に…この馬鹿やろうが。衛司…嫌でも元に戻してぶん殴ってやらぁっ!」

 

 

「衛司…絶対、助けるからねっ!」

 

 

「オォオォォォォォッ!!」

 

 

三人は武器を手に衛司に向かい合いそう言うと、衛司は一層雄叫びを上げ同化した星晶剣を構える。

救うための闘いは…これから始まる。

 

 

 

 

 




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第四十一話

 

 

 

 

 

「――サレェエェェっ!!」

 

 

「――ヒャハハっ!ヴェイグゥウゥゥっ!!」

 

 

――オイルツリーの目前で、ヴェイグとサレは剣を打ち合わせる。

 

「ヒャハ、フヒャハハハっ!いいね、いいねぇヴェイグゥっ!その力の奮い方、僕を殺したくて堪らないって感じだねぇっ!」

 

 

「っ…黙れ、サレェっ!!」

 

 

 

力を込めて奮われるヴェイグの大剣を剣で防ぎ、不気味に笑いながら言葉を出すサレに、ヴェイグは更に大剣に力を込めてサレを押し放す。

サレはその力を防ぎながら退くと、剣を構え直しながら口元を釣り上げる。

 

 

「フフ…いいねぇ、その感じ。僕を殺せば衛司君が戻ると思っているのかな?まぁ、本当に僕を殺した所で、衛司君が元に戻るかは分からないけどねー」

 

 

「っ…サレ…お前はどうしてそこまでする必要がある。俺が目的なら…俺だけを狙えばいいだろうっ!」

 

 

不気味に笑みを浮かべたまま喋るサレに、ヴェイグは大剣を構え直しながらサレを睨みそう言葉を出す。

ヴェイグのその言葉を聞き、サレは僅かに緩めていた口元を歪めた。

 

 

「どうして…?そんなの決まってるよヴェイグ。僕は君が気に入らないからだよ。『仲間』の力、『絆』の力だなんて言ってる君が…アドリビトムがね」

 

 

口元を歪めたまま、まるで忌々しいものを見るかのような表情を浮かべてサレは言葉を出すと、構えられたサレの剣が風を纏っていく。

 

 

「だから決めたんだよ、ヴェイグ。君達の言う『仲間』の、『絆』の力を、君達の目の前で否定させて、殺すってねぇっ!」

 

 

「ぐぅ――っ!」

 

 

突如、サレが風を纏った剣をその場で突き出すと、剣に纏っていた風が鎌鼬のようにヴェイグに襲いかかり、ヴェイグは大剣で防ぐも風の刃が防ぎきれなかった位置を傷つける。

 

 

「だからさぁ…もっと僕を楽しませてよヴェイグぅ。君の言う『絆』の力で…この状況が変えられるかどうかをさぁ…。フヒャ…フヒャヒャヒャヒャっ!!」

 

「サレ…サレェエェェっ!!」

 

 

再び口元を釣り上げ不気味に笑い出すサレに、ヴェイグは攻撃を受けた箇所を気にする事無く大剣を構えると、再びサレに向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

――ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 

「――チッ…相変わらずちょこまかとっ!」

 

 

「――くっ…!」

 

 

目前で自分が放った銃撃を素早い動作で避け続けるジュードに、アルヴィンは舌打ち混じりに銃を撃ち続ける。

 

 

――ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 

 

 

「うわぁ…っ!」

 

 

「……チッ」

 

 

再び放たれる銃撃をジュードは避け続け、アルヴィンはそれに再び舌打ちする。

そして…アルヴィンの銃撃が止んだ。

 

 

「……アルヴィン…?」

 

 

「――…どうしてだよ、優等生。どうして、テメェは俺を攻撃してこねぇっ!?お前なら、さっきの銃撃を避けながら俺に攻撃する事が出来ただろうっ!?」

 

 

突然攻撃が止んだ事にジュードが見ると、アルヴィンはジュードに銃口を向けたまま声をあげる。

 

 

「…僕にはアルヴィンと戦う理由なんてないよ。それに…アルヴィンが今そこにいるのは、きっと何か理由があるんでしょ?…だから…僕にはアルヴィンと戦うなんて…」

 

 

ジュードはアルヴィンに向き合い真っ直ぐとそう言うと、アルヴィンは一瞬驚いた表情を浮かべるが、少し俯いた後、キッとジュードを睨み付けた。

 

 

「どうして…どうしてだよ、優等生…!お前はどうして…俺をそこまで信用出来るんだよ…!?どうしてお前はいつもみてぇに…俺が裏切った事を受け入れねぇんだよ…ジュード・マティスっ!」

 

 

 

「…っ!」

 

 

キッと睨んだ状態からアルヴィンは一撃、ジュードの足元に銃撃を放つとそう荒く声を上げる。

だが今度はジュードがそれに対し、キッとアルヴィンを睨むように見て口を開いた。

 

 

「受け入れられる訳、ないじゃないかっ!衛司が操られてる所に真剣にサレを睨んだり…クレアを守るように前に出たり…そんな事をしてくれてるアルヴィンが、本当に裏切ったなんて僕には思えないんだよ…」

 

 

「っ…!…ジュード…お前…」

 

 

「だから…アルヴィン。お願いだから…そこに居る理由を教えてよ。何かあるんなら僕は…僕達は絶対にアルヴィンを助けるからっ!」

 

 

 

真剣に向き合い、ジュードの出した言葉にアルヴィンは驚いた表情を浮かべた後、顔を俯かせる。

そして少しして顔を上げるとアルヴィンは…再び銃口をジュードへと向け、キッと睨み付けた。

 

 

「…アルヴィン……っ」

 

 

「悪いな『優等生』…『もうちょっとだけ俺に撃たせてくれ』」

 

「!……分かったよ、アルヴィン…!」

 

 

銃口を向けたままそう言葉を出したアルヴィンに、ジュードは何かに気付いたような表情を浮かべると、すぐに表情を戻し一度頷くと拳を構えた。

 

 

――そして再び銃撃が始まった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――オォオォォォッ!!」

 

 

「――チッ…オラァっ!」

 

 

 

「――…っ…!」

 

 

――右手と同化した星晶剣を振り回す衛司の攻撃を避けながら、スパーダとメリアは攻撃を繰り出す。

しかし二人の攻撃は直ぐさま星晶剣を巨大化され防がれてしまう。

 

 

「オォオォォォッ!!」

 

 

「チッ…厄介なもん取り込みやがって…!」

 

 

「――二人とも、下がって!」

 

 

「…っ…カノンノ…」

 

 

 

攻撃を防がれ、苦々し気な表情を浮かべる二人に、後方から術の詠唱を終えたカノンノが声を上げ、二人が後方へと下がる。

 

 

「グオォオォォォッ!!」

 

 

「衛司…元に戻って…!フラッシュティアっ!」

 

 

雄叫びを上げる衛司にメリアは発現すると、詠唱の足元に光の陣が現れ衛司を攻撃しようとする。

…だが……。

 

 

「ウゥ……オォオォォォッ!!」

 

 

「…オイオイ…笑えねぇぞ」

 

 

衛司が雄叫びとともに星晶剣を巨大化させ陣が現れた地面に振り下ろすと、それは地面ことかき消され、三人が驚きながらスパーダが声を漏らした。

そして…その時だった。

 

 

「オォオォォォ…!?…ゲホッ、ゴホッ…!」

 

「…え…っ!?」

 

 

「衛司っ!?」

 

三人を睨み雄叫びを上げていた衛司が突如、吐血を始めメリアとカノンノが表情を変え、その中スパーダは僅かに表情を歪めた。

 

 

「チッ…薄々思ってたが、やっぱりそうなっちまったか」

 

 

「スパーダ…一体アレって!?」

 

 

「…今の衛司はサレの催眠とラザリスの力…それで身体能力を無理矢理引き上げさせられてるようなもんだ。それにプラスして、自分のマナを送ることによって強化される星晶剣との同化…薄々考えてたが、やっぱり身体の方に限界が来ちまってんだよ!」

 

 

「…それじゃあ…っ!」

 

 

「あぁ…早くアイツを助けねぇと…身体が限界を超えて…死ぬ」

 

 

「っ!!」

 

 

「ゴホッ…ゴホッ…オォオォォォッ!!」

 

 

スパーダの言葉に表情を変える二人。そして衛司は吐血しながらも星晶剣を構え三人を睨む。スパーダはそれに対し、衛司を睨み返すと剣を構えた。

 

 

「衛司…とっとと目ぇ覚ましやがれ!そんな力が、テメェが追ってた力かよっ!俺達は…お前が死ぬことなんざ求めてねぇんだよっ!」

 

 

「ォォォ…オォオォォォッ!!」

 

 

「…チッ…バカやろうがっ!――いざ、参るっ!!」

 

 

 

 

 

 

スパーダの言葉に、衛司は依然と雄叫びを上げ続けスパーダは舌打ち混じりに声を上げ、限界突破《オーバーリミッツ》を発動する。

 

 

「スパーダっ!!」

 

 

「殺しはしねぇよ。ただ…動けなくするだけだ。衛司…行くぜぇっ!」

 

 

「オォオォォォッ!!」

 

スパーダがオーバーリミッツした事にカノンノが声を出し、スパーダはそう言うと双剣を構え特攻し、衛司はそれに迎え撃とうとする。

 

 

「行くぜ…裂空斬!」

 

 

スパーダは衛司に接近すると跳び、勢いをそのままに回転して剣を奮う。

 

 

「グゥッ!!」

 

 

「まだまだ…秋沙雨!真空千裂破!!」

 

 

攻撃を防いだ衛司に、スパーダは着地すると素早く連続突きを繰り出し、そのまま再び跳び、回転斬りを繰り出す。

 

 

「ォォォォっ!!」

 

 

「…トドメだ、馬鹿やろう!天・地・空ことごとくを制す!神裂閃光ざぁあぁぁぁんっ!!」

 

 

度重なる攻撃に衛司の防御が崩れ、スパーダは回転斬りの勢いをそのままに衛司に切りかかり、雄叫びと共に回転しながら衛司を切り上げる。

 

 

「ォォォ……」

 

 

「…っ…治るまで寝てやがれ、バカやろうが。おい、メリア…早く治してやってくれ」

 

 

攻撃を受け、地面に叩き付けられ静かになった衛司を確認し、スパーダはそう言うと衛司から離れるため背を向けた。

しかし…その時だった。

 

 

「…うん…!?スパーダ、後ろ!」

 

 

「ぁあ…?な…っ…ぐあぁあぁっ!!」

 

 

「ォォォ…オォオォォォッ!!」

 

メリアが駆けつけようとした瞬間、その声を上げスパーダが振り返ると…衛司が起き上がりスパーダに斬りかかった。

メリアの声でなんとか対応出来たが、スパーダが対応しきれなかった位置が攻撃され、その場に崩れる。

 

 

「ぐっ…後ろから…かよ…クソッタレが…っ!」

 

 

その場に崩れたまま、自分を背後から攻撃した衛司を攻撃を受けた傷口を抑えながらキッと睨み声を上げる。

それに対し衛司はゆっくりと星晶剣を振り上げ…そして……。

 

 

「ォォォ…オォオォォォッ!!」

 

 

 

――無情なまでに…星晶剣を振り下ろした。

 

 

 

 




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第四十二話

今回はヒロイン回。
上手くかけてるかの自信はない←


 

 

 

 

 

「――…なん…だと…っ!?」

 

 

――自分の目前で起こった出来事に、サレは驚きを隠せない様子で口を開いた。

近くには自分が傷つけた憎き好敵手、ヴェイグがいるというのに…それよりも、目前で起こった事が理解出来ずにいた。

 

そう、何故なら……。

 

 

「どうして……どうして殺さない!?乾衛司っ!」

 

 

 

自分が、自分の命令に従うように催眠をかけ、更に理性すら奪う為に赤い煙の力を取り込ませた相手…『乾衛司』が、振り上げていた刃を目前にいる者に振り下ろす直前で、攻撃を止めたのだから。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

「――っ…お前…何してんだよっ!?」

 

 

 

――本来、来るであっただろう攻撃に思わず目をつぶっていたスパーダであったが、いつまでたっても攻撃が来ないので目を開けると、自分の目前の出来事にそんな声を出した。

何故なら…今スパーダの前で、カノンノがスパーダを守るように両手を広げて立ち、その顔のすぐ手前で衛司の攻撃が止まっていたのだから…。

 

スパーダの声に、カノンノは僅かに震えながら顔だけ向けると口を開いた。

 

 

「…こうやったら、衛司も攻撃を止めてくれるって思って…。衛司…女の子には優しいから…」

 

 

「な…馬鹿な事言ってねぇで離れろ!今は確かに止まってるけど、またいつ剣を動かすか分かんねぇんだぞっ!?」

 

カノンノの言葉にスパーダは唖然とするが、すぐにそう声を荒げる。

だが、カノンノは首を横に振ると、キッと衛司の方に顔を向き直した。

 

 

「それは…やだよ。もし、私が離れたらきっと衛司はスパーダに攻撃すると思うから。私は…もう衛司が自分の意志じゃないのに誰かを傷つけるのも、衛司が傷つくのも見たくないから」

 

 

「カノンノ…お前…」

 

 

「…ゥゥ…ォォォォ」

 

 

両手を広げたまま衛司を真っ直ぐと見てそうカノンノが言うと、スパーダはそれに呆然とし、衛司は少しずつ剣を引き出した。

 

 

「……ねぇ、衛司。私の声…聞こえてるかな?…ううん、きっと聞こえてるよね。衛司…いつも私の話、聞いてくれたから」

 

 

「…ゥ…ゥゥゥゥ…」

 

 

衛司を真っ直ぐと見たままカノンノがそう言っていくと、衛司は話を聞いているかのように剣を離して立ち尽くす。

 

 

「何をしている、衛司っ!早くソイツを殺せと…――」

 

 

「――絶氷刃っ!」

 

 

「ぐっ!?ヴェイグゥゥウゥっ!!」

 

 

いまだに目前の者を殺そうとしない衛司にサレが声を荒げ命令しようとするが、それをヴェイグが氷を纏った大剣で妨害する。

 

 

 

 

「…ねぇ、衛司…衛司が欲しかった『力』はそんなものだったの?…ただ、目の前の物を引き裂くような力だったの…?」

 

 

「ゥゥ…グゥゥゥゥゥ…」

 

 

「違うよね…だって…今、私達が衛司を助けようとしてる『力』は…そんなものじゃないから!」

 

 

衛司を真っ直ぐと見たままカノンノはそう言うと一歩、一歩と衛司に歩み寄る。

衛司はカノンノの言葉を聞き、ただ低く声を出しながら立ち尽くしている。

 

そして……。

 

 

「…もう、一人で抱え込まなくてもいいんだよ。皆、いるから。…私も、いるから」

 

 

「ゥゥ…っ!」

 

 

カノンノは衛司のすぐ目前まで歩み寄ると、広げていた両手を前に伸ばして立ち尽くしていた衛司を抱きしめた。

衛司はそれに僅かに驚いたような様子を見せ、視線を自分を抱きしめるカノンノに向けて下ろす。

 

「だから衛司…お願いだから…元に戻ってよ。私は…そんな衛司…見たくないから…」

 

 

「ゥゥ…ゥゥゥゥゥゥ…」

 

 

「お願いだから戻ってよ、衛司っ!私は…いつも、皆と一緒に戦って、皆と一緒に笑って、…それで、私の話を聞いて、信じて一緒に居てくれる衛司が…大好きだからっ!」

 

 

「ゥゥッ…!…カノ…ン…ノ…」

 

 

 

衛司を抱きしめたまま、真っ直ぐと見上げるような形でカノンノが言葉を告げると、衛司の表情が崩れ、途切れながらもカノンノを呼んだ。

 

 

 

「……っ!メリア、今なら行けるかっ!?」

 

 

「……っ…多分いける…やってみせるっ!」

 

 

二人の様子を呆然と見ていたスパーダが衛司の様子の変化にハッとしたように気付き、近くで同じように呆然と見ていたメリアにそう声をあげる。

メリアはそれに小さく頷くとそう答え、二人の元に走り寄る。

そして……

 

 

「衛司……私も…助ける…っ!」

 

 

 

二人の近くまで駆け寄りメリアはそう言うと、メリアの両手から光が溢れ出す。

そして……その場を光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

――光が止むと、その場に居た全員が、全てが静まり返っていた。

そしてが静まり返っている中、皆の視線は一転に集中していた。

 

光が溢れ出した中心…そこで静かに二人を見るメリア。その視線の先で、衛司を抱き締めたままでいるカノンノ。そして…先程までの、身体の所々から生やした結晶が消え、右腕と同化していた星晶剣は赤から白へと色が変わり、一本の剣として右手に握り締めている衛司であった。

 

 

「――……衛司…?」

 

 

光が止み、姿が戻って静かになった衛司に不安を持ちながら、カノンノはゆっくりと顔を上げて衛司の顔を見る。

それに対して返ってきたのは……。

 

 

 

「――…ただいま、カノンノ」

 

 

そう言って微笑み、左手でカノンノの頭を撫でる…衛司の姿であった。

 

 

「……衛司…?」

 

 

「…うん」

 

 

「…元に、戻ったの…?」

 

 

「…うん」

 

 

「…わ、私の事…分かる?」

 

 

「うん、分かるよ…カノンノ」

 

 

「…良かった…良かったよぉ…う、うわぁぁぁぁんっ!」

 

 

「うん…ごめんね。本当に…ごめんね」

 

 

聞き、返ってくるいつもの優し気な声と微笑みに、カノンノは我慢していたものを止めたかのように声を出して泣き出し、衛司はそれに、申し訳無さそうな表情を浮かべた後落ち着かせようと少しカノンノの頭を撫で、カノンノをそっと抱き締め返した。

 

 

「……よくやったな、メリア」

 

 

「…私も衛司が大好きだから…戻って良かった…。…でも…カノンノがちょっと羨ましい…」

 

 

「へへ…戻っても大変そうだな、衛司のヤツ」

 

 

カノンノと衛司の様子を見ながらスパーダが二人を見守るメリアに歩み寄って言うと、メリアは二人を見ながらそう答え、スパーダは小さく笑ってそう言葉を出した。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――衛司…良かった。元に戻ったんだ」

 

 

――離れた位置で戦っていたジュードは、元に戻った様子を見て安心したように言葉を出した。

 

 

「――……優等生。俺…降参だわ」

 

 

「…アルヴィン…」

 

 

「安心しろよ。クレアも無事だし…もう裏切らねぇ。俺の目的も…叶ったからな」

 

 

ジュードの近くで、アルヴィンは『降参する』というように両手を上げてそう言うと、元に戻った衛司の姿を認識し、安心したような吐息を漏らした。

そのアルヴィンの肩には…一羽のシルフモドキが止まっていた。

 

 

 

 




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第四十三話

最後の方にオリジナル展開ありです。


 

 

 

「――馬鹿な…有り得ない。…僕の催眠は完璧だった筈なのに…」

 

 

――サレは今、ただ一人…目前で起こったことが信じられずにいた。

自分が完璧にかけた筈である催眠、そして理性を奪う為に取り込ませた赤い煙。…その全てが今、目前で…『治されて』しまったのだ。

 

 

「くそ…クソクソクソクソクソクソォっ!アルヴィンっ!今すぐ捕まえたクレア共々奴らを殺せっ!」

 

 

目前で起こされた事。それを忌々しげに見ると、アルヴィンの方へと振り返り怒気の籠もった声で叫ぶ。だが……その向いた方向では、アルヴィンがクレアを、ジュードと共に衛司達の元へと送っていた。

 

 

「なっ…アルヴィンっ!何をしているっ!」

 

 

「ぁー…悪ぃなサレ。俺、降ろさせてもらうわ」

 

 

「…貴様ァッ!人質がどうなってもいいのか!」

 

 

「人質ねぇ…『やれるもんならやってみろよ』」

 

 

「何を……っ!?」

 

 

アルヴィンの言葉にサレは更に怒気を込めて叫ぶが、アルヴィンはニッと笑みを浮かべてそう言った。

サレはアルヴィンの言葉を理解出来ずにいたが…アルヴィンの肩に止まった一羽の鳥を見てその意味が分かった。

アルヴィンの肩に止まっているシルフモドキ…それは自分も見た…アルヴィンに取っての『連絡手紙』のような物。

 

 

「…まさか…アルヴィン…貴様ァッ!」

 

「おう。オメェが居ない研究所なんて…ただの人が集まっただけの家みてぇなもんだからな。しかも、重要な兵士は衛司に殺させて、残ってるのは研究員の奴らぐらいだ。ちょうど知り合いに…王族直属の幹部が居てな。悪ぃが…バランは返してもらったぜ」

 

 

「貴様…いつの間に…」

 

 

「人から隠れてコソコソすんのが、俺の得意分野だからな。ま…これからはそんな事する必要もなさそうだけどな」

 

 

サレの言葉に、アルヴィンはニッと笑ったまま手紙を見せてそう言うと、隣にいるジュードを見る。

ジュードはその視線に小さく苦笑を浮かべた後、サレの方を睨むように視線を向けた。

 

 

「…クソ…クソクソクソクソクソクソっ!どうしてだ…明らかに優勢だった僕がどうしてこうなっているっ!?」

 

 

明らかな優勢からの…突然の劣勢。その事に、冷徹で不気味表情は消え、荒れたような声を出すサレ。

それに対し、全員がサレを睨む中、ヴェイグがサレに一歩近付き大剣を構え直すと口を開いた。

 

 

「サレ…これが、お前の否定した…『絆』の…『仲間』の力だ」

 

 

「…っ!」

 

 

サレに大剣の切っ先を向け、ヴェイグが真っ直ぐとサレが否定していた言葉を告げると、サレは表情を歪ませた。

 

 

 

 

「…五月蝿い…五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿いっ!もういいっ!どうせ此処でお前達を殺せば万事解決なんだからなっ!殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!ヒャハハハハハハッ!!」

 

 

 

表情を歪ませたまま、怒気の混ざった声でサレはそう言うと、武器である剣を構え、再び不気味に笑い出す。

そしてそれと同時に…サレの周りに様々な色の輪が出現した。

 

 

「な…限界突破《オーバーリミッツ》した…っ!?」

 

 

「あの野郎…マジで俺達殺すつもりみてぇだなっ!」

 

 

サレがオーバーリミッツしたのを見て、アルヴィンとスパーダがそう言葉を出した。それに対し、全員が武器を構えようとするが…それをヴェイグが止める。

 

 

「ヴェイグ…?」

 

 

「衛司は目が覚めたばかりでスパーダは怪我をしてるんだ…カノンノとメリアについてもらっててくれ。ジュードと…アルヴィンは、クレアを頼む。アイツとは…俺が闘う」

 

 

「…ヴェイグ…分かった」

 

 

ヴェイグの言葉にそれぞれが頷くと、ヴェイグは再び一歩前に出てサレと向き合い大剣を構える。

 

 

「…サレ…お前の望んでる…俺との闘いだ」

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すフヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」

 

 

壊れたように不気味に笑い続けるサレ。それと同時にサレの周りに膨大な魔力が集まり出す。

 

 

「サレ…来い…俺も一撃で決めてやるっ!」

 

 

「ヒャハハハハハハッ!楽に死ねるなんて思うなよォっ!吹き荒れろ、狂乱の嵐ィっ!シュタイフェエェ・ブリィイィィィゼっ!!」

 

 

ヴェイグの言葉と同時にサレは不気味に笑い続けて叫ぶ。

その叫びと共にサレの周りに集まった膨大な魔力が、巨大な暴風となりサレの背後に現れる。

 

「ヒャハハハハハハ…さぁ、さぁ、さぁ、さぁ、さぁ…死ねえぇえぇっ!」

 

 

「来い…サレエェエェェっ!!」

 

 

ヴェイグの迎え撃とうとする声に、サレは指先をヴェイグへと向けるとサレの背後に現れた巨大な暴風はヴェイグへと向けて轟音と共に放たれる。

 

ヴェイグはそれを迎え撃つように剣を構えたまま……暴風に飲み込まれた。

 

 

 

「ヴェイグっ!!」

 

 

「ヒャハ…ヒャハハハハハハ!これでおしまいだよヴェイグぅ!ヒャハハハハハハッ!」

 

 

 

暴風の飲み込まれたヴェイグを見てクレアは声を上げ、サレは勝利を確信したかのように不気味に笑う。

……だが……。

 

 

「う、おぉおぉぉぉぉっ!!」

 

 

「…な、何ィっ!?」

 

 

…それは一瞬の出来事で反転する。ヴェイグを飲み込んでいた暴風が、突然爆発したような音と雄叫びとともにかき消えると、かき消えた位置から冷気を纏ったヴェイグが、限界突破《オーバーリミッツ》を発動させて現れた。

 

 

 

 

「馬鹿な…馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁっ!」

 

 

「これで終わりにするぞ…サレっ!」

 

 

「チッ…だが、僕にはまだ…っ!?」

 

 

徐々に冷気を身体に、大剣に纏っていくヴェイグにサレは舌打ち混じりに後退しようとするが、いつの間にか足元から、ヴェイグの作り出した冷気により凍り付き、身動きが取れなくなっていた。

 

 

「なっ…馬鹿な…認めない…認めない認めない認めない認めない!こんな所で僕がぁっ!」

 

 

「認めろ、サレ。これが…俺達の力だっ!うぉおぉおぉぉぉぉっ!!」

 

 

「来るな…来るな来るな来るな来るな来るなあぁあぁぁぁっ!!」

 

 

ヴェイグの勢いに、先程までの余裕は消えサレは下がろうとするが、サレの身体はヴェイグの作り出す冷気で凍り付いていく。

そして…ヴェイグが動く。

 

 

「――絶対なる終焉、それが貴様の運命だ!絶氷の剣!」

 

 

ヴェイグの声と共に、サレの身体は完全に凍り付き、ヴェイグの大剣に集中した冷気はその巨大な氷の刃へと変わる。

そしてヴェイグはそれを構え、一気にサレへと切りかかる。

 

 

「――サヨナラだ、サレ!その身に刻め!奥義、セルシウスキャリバーっ!!」

 

 

「――ぐ…あぁあぁぁぁっ!!」

 

 

一閃。その一撃は氷付けとなったサレを切り裂き、一撃でサレを雪の地面へと倒した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――よし、オイルツリーのドクメントを回収したぞ」

 

 

「おぅ、んじゃさっさとアドリビトムに戻るか。衛司とクレアを休ませねぇといけねぇし…それに、アルヴィンから聞かなきゃいけねぇこともあるからな」

 

 

――倒れたサレを横に、ヴェイグはオイルツリーからドクメントを回収して言うと、スパーダはそう言って来た道を戻るため振り返り歩き出す。

それに全員が頷き、皆がアドリビトムに戻ろうとした時であった。

 

 

「…待てよ。どこにいく…つもりだい…?」

 

 

倒れたままのサレが、視線だけを向けてそう口を開いた。

 

「…僕はまだ…生きている。情けの…つもりかい…?こんな終わり方は…認めない。…殺せ…殺せよっ!」

 

 

忌々しげに皆に視線を向けてそう言うサレ。それに対し、メリアが短刀に手を掛け、サレに歩み寄ろうとするが…それをヴェイグが止めた。

 

 

「…サレ…俺達は今、お前に構ってられる程、時間なんてないんだ…」

 

 

「…なんだよソレ…ふざけるなよ…!」

 

 

「…戻るぞ…。後は…ウリズン帝国がやってくれるだろう」

 

 

 

いまだに後ろで呪詛のように言葉を吐くサレを見ず、ヴェイグはそう言うと皆を連れてその場を離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――チクショウ…畜生畜生畜生畜生っ!」

 

 

――誰も居なくなったオイルツリーの樹の下で、サレは倒れたまま忌々しげに言葉を漏らしていた。

 

 

「クソ…クソクソクソクソクソォ!…殺せよ…殺せって言ってるだろう!!こんちくしょうがあぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

呪詛のように言葉を吐き、叫ぶサレ。それは自分以外に誰も居なくなったその場所で、誰にも届くはずはなかった…。

 

 

 

 

 

「――それが、君の願い?」

 

 

 

 

 

 

―――『本来』であれば。

 

 

 

 

「っ!?…誰だ…お前ェ」

 

 

「僕はラザリス。…ねぇ、君の願いは…此処で朽ち果てる事?」

 

 

サレは倒れたまま、目前に現れた人物『ラザリス』に目を向け問うと、ラザリスはそう答えた後、サレに向けてそう問い返す。

その問いに…サレの顔は忌々しいものを見るような表情に変わった。

 

 

「僕の願いが此処で朽ち果てる事?…ふざけるな。僕の願いはヴェイグを…アイツらをこの手で殺してやる事だ…!」

 

 

サレの『願い』。それを聞くとラザリスは口元を吊り上げた。

 

 

「それが君の願いか。なら…僕がその願いを叶えてあげるよ」

 

「っ…何を…」

 

 

ラザリスは右手をサレへと向けてそう言うと、突如、『赤い煙』が出現し、サレの身体を包み込んだ。

 

 

「…これは…っ!」

 

 

「君に僕の力を分けてあげるよ。もし君にこれが制御出来れば…君は自分の意志で、願いを叶えられるよ」

 

 

「フ…フヒャ…フヒャヒャヒャヒャヒャッ!これだ…これこそが僕の求めた『力』だ!待っていろよヴェイグ…!それに…アドリビトムぅ!ヒャハ…ヒャハハハハハハっ!!」

 

 

 

赤い煙に包まれ、不気味に笑いながらそう叫ぶサレ。

その狂気の笑いは…霊峰アブソールに不気味に響き渡った――。

 

 

 

 

 




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第四十四話


先に言っておく。
これが彼女いない歴=年齢の限界だ←


 

 

 

 

「――で、結局また僕はこうなった訳か」

 

 

――ベッドの上で横になりながら僕は溜め息混じりそう言葉を漏らした。

僕は今現在…医務室のベッドにて絶賛、絶対安静を頂いていた。

 

あのヴェイグとサレの戦いの終了後…皆で帰っている途中、僕は気を失ってしまったらしい。

で、僕は結局そのまま医務室送りとなり、アニーから定番となった笑顔と絶対安静というお言葉を頂き数日…今現在の状態となっている。

 

 

「…はぁ…暇だなぁ…」

 

 

「――よぅ、元気そう…てか暇そうだな」

 

 

 

溜め息混じりにそう呟いていると、不意に扉が開く音とそんな声が聞こえた。

 

 

「ぁ…アルヴィン」

 

 

「よ、見舞いに来たぞ」

 

 

扉の方を見ると、ニッと笑って片手を上げるアルヴィンが居た。

アルヴィンはそう言うと此方に歩み寄り、近くにある椅子に腰掛けた。

 

 

「気分は良いみてぇだな…。いやー、良かった良かった」

 

 

「全く…誰のせいでこうなったと…。……皆とはどうなった?」

 

 

僕の様子を見て笑いながら言ったアルヴィンに、苦笑を浮かべて言うと、僕は少し不安気にそう聞いた。

 

僕が気を失ってから…アルヴィンと会うのはこれが初めてだ。

少なくとも…僕が眠っていた間に、裏切りの話や今後の事について話をしたであろう。

いくら人質が居たからとはいえ、アルヴィンのした行動は決して許される物じゃない。

 

下手したら…このギルドを辞めさせられるかもしれない。

 

 

僕の言葉に、アルヴィンは小さく吐息を漏らすと口を開いた。

 

 

「メリアやカノンノから聞いてなかったのか?」

 

 

「うん。なんかカノンノは…僕が目を覚ましてからお見舞い来なくて、メリアは来てもその辺の話はしてくれないから」

 

 

「…成る程ねぇ。俺のした裏切り行為は、絶対に許されるべき行為じゃねぇ、とよ」

 

 

「…それで…?」

 

 

「しばらく監視付きで、これから三カ月は依頼完了しても報酬無し、だとさ」

 

 

「……へ…?」

 

 

アルヴィンの出した言葉に、僕は思わず呆然としてしまった。え…それって…アルヴィンはまだこのギルドに居られるって事?

 

 

「おーおー、驚いてんな衛司。ま、結局…このギルドもお前や優等生と同じくらい、お人好しって事だ」

 

 

「そっか…アルヴィン、このギルドに居られるんだ…良かった」

 

 

僕の様子を見て笑うアルヴィンに、僕は安心した吐息を漏らして言うとアルヴィンにつられて小さく笑った。

 

 

「良かった、か。…まぁ、嫌われる奴には嫌われたけどな」

 

 

「え……?」

 

 

不意に、アルヴィンがそう言って頬を掻いたので小さく首を傾げてしまう。

僕のその様子をアルヴィンは見ると、先程かいた頬を見せてきた。その頬は、僅かに赤みが指していた。

 

 

「此処に来る途中にメリアに一発殴られた。『…私は絶対許さない』…って言われちまったよ」

 

 

「…メリア…」

 

 

「…ま、その方が当然だよ。むしろ…そんぐらいの方が俺は安心するからな」

 

 

 

「そっか…だからメリア、アルヴィンの事を話さなかったのか」

 

 

アルヴィンの言葉を聞き、メリアの事を思い出してそう呟く。

 

 

 

 

「ま、お前の元気そうな姿が見れて良かったわ。俺はそろそろ依頼でも行ってくるから」

 

 

「…無報酬なのに?」

 

 

「言うなよ、それを…強制されてんだから仕方ねぇだろ」

 

 

 

 

僕の言葉に頭を掻いて苦笑を浮かべて答えるアルヴィンに、再び小さく笑ってしまう。

でも、良かった…アルヴィンがまだこのギルドに居れて。

 

 

「あ、後…バランの事だが、アイツはオルタ・ヴィレッジで働く事になった。アイツも一応、研究員だし。…良かったら会ってやってくれよ。アイツ…またお前と話したいって言ってたからな」

 

 

 

アルヴィンはそう言って最後にニッ、と笑うと医務室を出て行った。……気のせいかもしれないけど…そのアルヴィンの後ろ姿は、どこか本当に…心から安心しているように見えた。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――また…暇になったなぁ…」

 

 

アルヴィンが出て行って暫く――僕はベッドに横になってボーッと医務室の天井を見上げて呟いた。

幾ら絶対安静と言えど、眠くなければ暇なのでそう呟いても仕方が無くなってくる。

 

 

「本当…暇だなぁ…」

 

 

「――えっと…衛司…いるかな…?」

 

 

 

天井を眺めたままそう呟いていると、不意に医務室の扉をノックする音と久しぶりに聞く声が聞こえた。

 

 

「…カノンノ…?」

 

 

「う、うん…入っても大丈夫…かな?」

 

 

「あ…うん、大丈夫だよ」

 

 

僕の問いにそう、少し戸惑いがちにカノンノが医務室の外から言ってきた。

僕が言葉を返すと、カノンノは扉を開け此方へと歩み寄ってきた。

 

 

「…久しぶりだね、カノンノ」

 

 

「うん…久しぶり。…体、大丈夫?」

 

 

「うん、今のところはなんとかね」

 

僕の様子を見ながら言ってきたカノンノに、出来るだけ微笑んでそう答える。

僕の返答にカノンノは安心したような表情をすると、近くの椅子に腰掛けた。

 

 

「そっか…良かった…本当に何にもなくて」

 

 

「うん…皆のおかげだよ」

 

 

僕の言葉を聞き、カノンノは安心した表情を浮かべ僕の顔を見るも…少しすると顔を赤くして顔を逸らした。

 

 

「?…カノンノ…?」

 

 

「ぁ、え、えっと…何でもないよ、なんでも…っ!」

 

 

カノンノの様子に少し首を傾げてしまい、カノンノは慌てた様子で手と首を横に振って言ってきた。

 

 

「…でも、なんか様子が変だけど…」

 

 

「それは……っ…ねぇ、衛司…」

 

カノンノの様子に僕は不思議そうに言うと、カノンノは少し悩むような表情をした後、決心した表情になった。

 

 

「?何、カノンノ…?」

 

 

「えっと…衛司が操られてる時…私の声、届いてた…よね」

 

 

 

不思議そうに見る僕にカノンノが真剣な表情で確認するようにそう言ってきた。

操られ、意識がまともに無かった中…確かに彼女の声は届いていた。そのおかげで僕は助かり、今此処にいるようなものだし。

 

 

 

 

 

 

「うん…確かに届いてたよ」

 

 

「じゃあ…アレも覚えてる…?」

 

 

「アレ……?」

 

 

「私が……『衛司が大好き』だって事…」

 

 

「ぁ……」

 

 

カノンノが真剣な表情のまま、少し頬を赤くして出した言葉に、あの時僕を助けてくれた時の言葉を思い出す。

……でも、あれって…

 

 

「あれって…やっぱり友達としてって意味じゃ…ないよね…?」

 

 

「……衛司ならそう聞いてくると思ったよ。…この際だから思い切って言うよ。私は…衛司が好き。『友達』とかじゃなくて『異性』として、私は衛司が好きなんだ。始めはよく分からなかったけど…衛司に頭を撫でてもらったり、絵を信じてもらったり、褒めてもらったりすると…ロックス達にしてもらう『嬉しい』とは、全然違うんだ。衛司が居なくなった時…本当に悲しくて…凄く傍に戻ってきて欲しいって心から思った。それで…今此処に戻ってきて…今凄く嬉しくて…恋しくて…。今ならはっきり言える。私は…乾衛司が一緒に傍に居てほしいくらい大好きなんだ」

 

 

僕の返答に少し呆れた表情を見せた後、僕を真っ直ぐと見てそう…所謂、『告白』をしてきたカノンノ。

言い終え、恥ずかしかったのか徐々に顔を真っ赤にしていくカノンノに、僕は思わずつられて顔が熱くなっていくのを感じる。

流石に此処まで言われて気付かない程、僕は鈍感ではない。

彼女は本当に…心から僕の事を……。

 

そこまで考えると、今…まるで僕の答えを待つように顔を赤くしながら真剣に僕を見るカノンノを上手く見れなくなってしまう。

 

 

今の僕は…多分彼女と同じくらい真っ赤だろう。

 

 

「……衛司…?」

 

 

「ぁ、その…えっと…ごめんね。…僕、こういうの初めてだから…上手く頭が働かなくて…」

 

僕を見ながら徐々に不安そうな表情になっていくカノンノに慌てながらそう答える。

僕はゆっくりと深呼吸して落ち着くと、真っ直ぐとカノンノを見て口を開いた。

 

 

「…僕、こういう経験とかないから全くわからないけど…僕もさっきカノンノと言ってた事と同じ事があるんだ。カノンノの笑った顔を見てると心から安心する時がある。カノンノが悲しんでるのを見ると凄く不安になる時がある。カノンノの声を聞くと心が休まる気がする。…操られてる時…カノンノの声を聞いて救われた気がした。あの時のカノンノを見て、戻ってきて良かったと心から思った。…それで今、カノンノの言葉を聞いて…嬉しいって思えてる。僕も…はっきりと言える。僕は…カノンノ・グラスバレーの事が…大好きなんだ」

 

 

 

自分の思い付く限りの言葉を、真っ直ぐとカノンノを見てそう告げる。

告白ってこんなに恥ずかしいものなんだ…今僕の顔は相当真っ赤だろう。

 

思わず少し頬を掻いてカノンノを見ると…僕からの返答が予想外だったのか顔を真っ赤にして驚いたような表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

「あの…衛司…」

 

 

「う、うん…」

 

 

「それはその…両想いって事…」

 

 

「…に、なるね…うん…」

 

 

 

お互い顔を赤くしながら少し途切れ途切れに言葉を出していく。

そして暫くして……

 

 

 

「……え」

 

 

「……え?」

 

 

「…衛司いぃいぃぃっ!」

 

 

「ごぅふっ!?」

 

 

カノンノが僕の腹の辺りに突っ込んできた。

あまりの衝撃に思わず何か出掛けたが…なんとか堪えた。

 

 

「え、えっと……カノンノ…」

 

 

「衛司…良かった。…私、凄く…嬉しいよぅ…」

 

 

「…うん…僕も同じ気持ちだけど…ちょっと今の体勢は…」

 

 

「ぅ…?…ぁ……」

 

 

僕からの返答が嬉しかったのか、僕に抱きつくように喜びを表すカノンノに少し戸惑いながらそう言うと、カノンノは僕から少し離れて…今の状態を理解した。

ベッドに上半身を起こした状態でのっている僕に、先ほど突っ込んできた勢いで必然的にベッドにのる僕の上に乗り、少し密着した状態のカノンノ。

お互い告白しあい、分かり合った直後という事もあり顔も真っ赤で……とりあえずもう、色々とヤヴァイ。ヤバイじゃなくてヤヴァイ。

 

 

 

「……ん……っ」

 

 

 

…そして、カノンノ。何故この状況で目を閉じる。いや、分かるけど……今はヤヴァイと…。

 

「…………っ」

 

 

そんな事を思いながらも、それに応えようと目を閉じて、顔を近付けようとする僕も、きっと同じくらい頭がショートし始めてるんだろう。

 

 

そうして、お互いに唇が触れ――

 

 

「――ぁー…悪ぃ、衛司…ちょっと忘れもんし…――」

 

 

「「!!」」

 

 

――ようとした瞬間、救世主《アルヴィン》が扉を開けて現れ、僕達は顔を離した。

 

ありがとうアルヴィン!色々残念な気持ちが多いけど、助かったよアルヴィン!

 

そう、思ってアルヴィンの方を見ると…アルヴィンが凄い、言葉では表せないような、かなり驚いてる表情をしていた。

 

何を驚いているんだろうと思って冷静に現状況を見ると…いくら顔を離したとはいえ、上半身を起こしている僕の上に乗り、そしてお互い顔が真っ赤で、近い距離にあるカノンノと僕。

 

…うん、第三者《アルヴィン》がそんな顔をするのは当たり前だろう。

 

 

とりあえず説明《言い訳》しようと言葉を出そうとした瞬間、アルヴィンはフッと、理解したような笑みを浮かべて…

 

 

「…分かった。とりあえず、小一時間、この医務室に人を近付かせなきゃいいんだろ?ま、ゆっくりやってくれや」

 

 

―そう、言ってのけた。

 

 

「「――ちょ、せめて言い訳させてえぇえぇぇぇっ!」」

 

 

 

――その後、アルヴィンの説得に小一時間かけたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 




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第四十五話

 

 

 

「――アンタ…本気で使うの?」

 

 

「――うん…僕なりに決めた事なんだ」

 

 

――前で真剣な表情で僕に問うリタに僕は頷くと手に持つ星晶剣へと視線を移した。

 

 

「別にコッチはそれの解析も終わったからいいんだけど…アンタ…それを持つって事は、必然的に人間が相手になった時…人の命を『自分の意志』で殺す事になるのよ?」

 

 

「よく分かってるよ…。正直、まだこれを持つのが怖い。でも…僕がこれを使わないと、僕が殺してしまった人達に…申し訳ないんだ。それに…もう、皆に迷惑をかけたくないから。…守りたいものを、守りたいから」

 

星晶剣からリタに視線を向け、真っ直ぐとそう自分の意志を伝える。

リタは真剣な表情でしばらく僕を見た後、溜め息を吐くと口を開いた。

 

 

「…ま、アンタならそう言うと思ったわ。それに…アンタは言い出したら止めても聞かないタイプだし。…分かったわ、アンタの好きにしなさいよ」

 

 

「…うん。ありがとう、リタ」

 

 

「…ただし、肉体のマナを利用した星晶剣を変形させる能力はあまり使いすぎないでよ。サレに無理矢理使わされてた時と違って、アンタの身体への負担も大きいんだから」

 

 

 

リタの忠告に僕は小さく頷く。確かに一度、リタ達が星晶剣を調べる為に星晶剣を使わせてもらい、自分のマナを流し込んで巨大化させたりしてみたけど…思ってる以上に体力消耗が激しかった。

アレを戦闘で使いすぎてたら確かに僕は即潰れしてしまうだろう。

 

 

「うん…分かった。なるべく気をつけとくよ」

 

 

「えぇ…まぁ、また倒れてもアニーから小言くらうのはアンタだから気にしないんだけど」

 

 

「ははは…っ」

 

 

僕の返答に、リタは呆れた表情でそう言うと僕は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「―…ふぅ…やっぱり身近にあると落ち着くなー」

 

 

――自室に入り新しく手には入った星晶剣と、手元に戻ってきた木刀を納め身に付けると僕は自然に言葉を漏らした。

 

星晶剣はいいとして…木刀はこのルミナシアに来てからずっと一緒に戦ってきたのでいわば相棒のようなものである。

 

 

「―……主、お久しぶりです」

 

不意にそんな声が扉から聞こえ見ると、ヴォルトが立っていた。

 

 

「うん…久しぶり、ヴォルト」

 

 

「はい。…お見舞い、行けなくて申し訳ありませんでした」

 

 

ヴォルトに小さく笑って言葉を出すと、ヴォルトは小さく頷いた後、僕に頭を下げてきた。

そう…彼女もカノンノと同じで、僕が目を覚ましてからは医務室には来なかった。

ただ…彼女の場合は……。

 

 

「……いいよ。僕のせいで…責任負わせちゃってごめん」

 

「…っ!…いえ、悪いのは…私です。あの時…ちゃんと主についていれば…」

 

 

そう…彼女の場合は…僕が攫われた事に責任を感じていて、僕と顔を合わせづらかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ううん…あの時、ヴォルトに命令したのは僕だから。…ヴォルトは何も悪くないよ。悪いのは…僕だから」

 

 

「主…それは…」

 

 

僕の言葉にまだ何か言いたげなヴォルトに歩み寄り、頭を撫でる。

 

 

「ヴォルト…迷惑、かけちゃったね。約束するよ…今度からはきっと、君と一緒に闘う。何があっても、君を手放しはしない。だから…もう一度…契約しよう?」

 

 

「…主…っ…。…我が身、我が心は…主と共に…っ」

 

 

僕の言葉に、ヴォルトは少し瞳を潤ませた後そう言うと、光となり、僕の身体へと入っていった。

…サレに操られていた際、僕とヴォルトの契約《リンク》は切られてしまった為、それの修復に入ったのだろう。

 

何はともあれ…僕の身体はこれで元通りになった。

 

 

――――――――

 

 

 

 

「――ほぅ…君が、衛司君か」

 

 

「あ、はい…。…えっと、カノンノ…これは…?」

 

 

「うん。ニアタだよ」

 

 

 

――甲板にて、僕は今絶賛笑顔で僕の問いに答えたカノンノの手によって、ニアタと対面させられていた。

 

カノンノに『大事な話がある』といわれて連れてこられたのだが…ニアタの事なのだろうか。

 

 

「えっとカノンノ…大事な話ってまさか…」

 

 

「うん…ニアタから衛司に大事な話があるって言ってたから」

 

僕の問いにカノンノは小さく頷くとニアタの方を見た。

ニアタ・モナド…僕の知っているランプ型のような物ではなく…人形のように見えるソレは…多分、『マイソロ2』で言っていた彼等の精神体の一部なのだろう。

 

 

ニアタは僕の方をジーッと見ると、僕の方へと近寄ってきた。

 

「えっと…何…かな…?」

 

 

「ふむ…成る程。なに、娘とも呼べるカノンノに恋人が出来たと聞いて、一目見ておきたかったのだよ」

 

 

「は、はぁ…」

 

 

 

「ちょ、ちょっと、ニアタっ!」

 

 

ニアタの様子に小さく首を傾げていると、暫く僕を見てニアタは表情があればクスリと笑ったような様子を見せそう言ってきた。

突然のニアタの言葉に僕は思わず少し混乱して顔が少し熱くなるのを感じ、カノンノは僕と同じように驚いた表情を見せた後、顔を真っ赤にしながら声を上げた。

そういえばニアタって、どの世界のカノンノも自分の娘のように思ってるんだっけ。…アレ、これ僕、俗に言う親に顔合わせさせられてる?

 

 

「え、えっと…こういう時、『娘さんを僕に下さいっ!』って言えばいいのかな…?」

 

 

「ほほう…なかなか君は面白い事を言うな。では早速、まずはカノンノのどんな所が気に入ったか聞かせてもらいたいのだが…」

 

 

「お、お願いだから二人とも落ち着いてよっ!」

 

 

混乱したまま自分でも訳わからない事言ってる僕と、僕の発言にノって来るニアタ。訳のわからない方向にヒートアップしかけた所でカノンノが顔を真っ赤にしながらそう声を上げて止められた。

 

 

「ぁ…ご、ごめん。ちょっと色々混乱して…」

 

 

「ふむ…いや、すまない。カノンノが好いた相手と聞いて、少々嬉しくなって」

 

 

「全くもう…二人して…」

 

 

僕とニアタが落ち着き謝ったのを見て、顔を真っ赤にしたまま頬を膨らませて呟くカノンノ。

ああいう所が可愛いんだよなー…、ってまた危ない方向に行きかけた。

 

 

 

 

 

「えっとそれじゃ改めて…僕に話って一体…?」

 

「そうだな…では、カノンノ。少し席を外してもらっていいかな?」

 

 

「え…なんで…?」

 

 

僕が問うと、ニアタは少し考えるような仕草を見せた後カノンノを見るとそう言い、カノンノは小さく首を傾げた。

 

 

「いやなに…彼から色々と聞きたい事があるからな。そうだな…今後のカノンノとの関係とか」

 

 

「ぅ…わ、わかったからもうそれは止めてよっ!」

 

 

表情があればまさに『ニヤリ』という表現が似合いそうな笑みを浮かべているだろう雰囲気でニアタは言うと、カノンノは再び顔を真っ赤にしてそう言って足早にホールの方に入っていった。

多分、話が終わるまで食堂にいるつもりだろう。

 

 

「ふふ…恋とは面白いものだな。カノンノがあんな表情をするとは…」

 

 

 

「うん。ああいうのを見せられると…本当に守りたくなってくるよ」

 

 

カノンノが去っていった方を見ながらニアタが出した言葉に、僕は小さく頷いた。

ニアタは少しして此方を見ると先程の楽しそうな様子から一転し、真剣な様子で此方を見てきた。

 

 

 

「…先程、君のドクメントを見させてもらったよ。衛司…こんな事を聞くのはなんだが……君は『生きている』のか?」

 

 

「……やっぱりニアタには話した方がいいかな。僕の事や…僕の世界の事を…」

 

ニアタの発した言葉に僕は少し俯いた後、そう答えた。

僕のドクメントの事はきっとニアタに気付かれるとは思っていたし……ニアタにはハロルド達以上に隠し事は通じないだろうから…真実を話した方がいいだろう。それに…僕の身体の事が分かるかも知れないから…。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

――僕はニアタに全てを話した。今まで皆に話していた事と…まだ皆に隠している事。

この世界『ルミナシア』が…そしてその全てが架空の話である事。そして…僕がこの世界に来る原因であろう事故の事も…。

 

 

 

「――…そうか。俄には考えられないが…まさかこの世界も…私ですらも架空の人物とは…」

 

 

僕の話の全てを聞き、驚きが隠せない様子でいるニアタ。

それは当然だろう…自分が架空の存在だなんて知ったら。

……でも。

 

 

「僕も始めは…此処にある全てが誰かに作られた存在なんだ、とか考えたりしてた。でも…此処で皆と一緒に居て思ったんだ。今、此処で笑ったり、泣いたりしてる皆は…ちゃんと生きて、自分の意志で感情を出してるんだ、って。例えゲームの世界だろうと…僕が元居た世界と同じ、今を生きているんだって」

 

 

 

そう、僕は自分の思いをニアタに告げる。僕の言葉にニアタは少し驚いた様子を見せた後、どこか嬉しそうな様子を見せた。

 

「そうか。…この事を他の皆は?」

 

「言ってないよ。知ってるのは今話を聞いたニアタと…僕の中にいるヴォルトだけかな。他の人に言う気は無い。もし、言ったら…多分皆、『自分が誰かに作られた存在』とか、『誰かが描いたシナリオ通りに動いてる』とかで、混乱したりすると思うから」

 

 

「…確かに、そうなる確率は高いな。…それで、もう一つの方だが…」

 

 

聞いてきたニアタに僕は小さく首を横に振って説明すると、ニアタは納得したように頷いた後、少し間を開けてそう言った。

 

 

 

 

「…僕の身体の事…だよね。僕にも正直よく分からないんだ。…あの時車に当たった感触も、痛みも確かに感じて、『死』を感じたのに…今此処にいるんだから」

 

 

「……これはあくまで私の推測なのだが…恐らく…言いにくいのだが、君は確かに『元の世界』で死んだ、もしくは生きてはいるが肉体が動けない状態になってしまったのだろう。…そして何の原因かは不明だが、君の精神のみが『この世界』に飛ばされ…そしてその精神がドクメントを元に肉体を作ったのだろう。君のドクメントがボロボロなのは、恐らくその時にドクメントの情報をフルに活用した結果だろう」

 

 

ニアタの出した言葉に、僕は思わず驚いてしまう。

僕の精神だけがこの世界に来て、それで情報のドクメントを元に体を作ったって……。

 

 

 

「そんな話…本当にあるの?」

 

「…いや、私も実際そんな事があるなど見たことはない。あくまで、『そうかもしれない』、という推測の話さ。…力になれずにすまない」

 

 

「…そう、だよね。ううん、いいよ。今まで僕が隠し続けてた事、ニアタに聞いてもらえた事でスッキリしたし」

 

 

僕の言葉に小さく頭を横に振った後、申し訳なさそうに頭を下げるニアタに、僕はそう答える。

…結局分からず終いだけど…ニアタの言っていた『推測』…正直色々と合ってそうな気がする。

でも…それだとどうして僕は『世界樹の木刀』を持っていたんだろう…?

 

 

 

「……衛司。君は…この事も誰にも話すつもりはないのか?」

 

「…うん。前の話と同じで…皆、僕が死んでるかもしれない人間だ、なんて知ったらきっと混乱するから。今はまだ、黙っておくつもり」

 

 

「……カノンノにも、か?」

 

 

ニアタの問いに、僕は首を横に振ってそう答えるとニアタは此方に近寄り、真っ直ぐと僕を見てそう、問いかけてきた。

 

 

「…正直言うとカノンノには、一番話したいけど話したくないんだ。彼女に隠し事してるって考えると、苦しい気持ちになるけどさっき言ったように混乱するかもしれないから。それに……僕が『死んでるかもしれない』って知ったら…きっと彼女の僕の見方は変わると思うから…」

 

僕はニアタにそう答えると少し俯く。正直…確かにカノンノには話したいけど…話した時の彼女の反応が怖い。

もしこの事実を話して、彼女が離れてしまったら…。そう考えると彼女に話す気にはなれなかった。

 

 

「…そうか。…君がそういうなら、私は何も言わない。ただ…これだけは覚えておくといい。隠し事というものはあくまで『隠す』だけ。いずれは見つかってしまうものだよ。その『隠し事』が大きければ大きい程、いとも簡単に、ね」

 

 

「…うん…覚えとく」

 

 

ニアタは暫く黙ったまま、僕をジッと見るとそう意味深に告げて来、僕はそう短く答えて頷いた。

 

いずれ見付かる、か……それでも、話し出せないんだよな。

 

僕は甲板から見える景色を眺めて、深く溜め息を漏らした。

 

 

 

 




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第四十六話


今回は多分賛否両論ある話です。
ただ現在、この状態で話を進め、もうある程度書いてもいるので、書き直しは出来ませんのでその事はご了承下さい;;


 

 

 

「――ハァアァアァァァっ!」

 

 

「――シェアァアァァァっ!」

 

 

 

 

――晴天の下、甲板にて僕は木刀と星晶剣を手に、双剣を持ったスパーダと模擬戦をしていた。

理由としては、僕の体調もよくなったということで久々の運動や、星晶剣と木刀の二刀流の練習として、スパーダに付き合ってもらっているのだ。

 

 

「オラオラっ!魔神剣・双牙っ!」

 

 

「なんのっ!魔神連牙斬っ!」

 

 

前方から飛ばされてきた二つの斬撃に、相殺と反撃の意味を混ぜて斬撃を三つ飛ばし返す。

以前はユーリに、『二刀流になっていない』と一蹴されてしまったが、今ではあれから数ヶ月も経ち、大分対応出来るようになってきていた。

スパーダの飛ばしてきた斬撃の二つを相殺し、三つ目の斬撃がスパーダへと向かう。

スパーダはそれを避けると剣を構える。

 

 

「へっ…なかなか上手いじゃねぇか!烈空斬っ!」

 

 

 

剣を構えたままスパーダはそう言うと跳び、剣と身体を回転させて接近してくる。

 

 

「それはありがとう…散沙雨っ!ついでに…秋沙雨っ!」

 

 

「っ!うぉっ!」

 

 

回転し、接近してくるスパーダに僕は構えると、星晶剣と木刀の二本で連続突きを放つ。

烈空斬は空中での回転攻撃である為、地上からの対応攻撃…今のような散沙雨や炎の衝撃を放つ魔王炎撃破には極めて回避が弱い。スパーダもそれに気付き、回転途中であった剣を甲板に突き抜けない程度に突き刺し、回転の勢いを止める。

だけど…その隙は見逃さないっ!

 

 

「隙ありっ!裂震虎砲っ!」

 

 

「ぐぉあぁっ!?」

 

 

星晶剣と木刀を納め、足に力を込めて跳び、スパーダの前まで行くと両掌をスパーダの腹部に向け、虎の頭を模した闘気を打ち込む。

着地したばかりで対応に遅れたスパーダにそれは直撃し、後方に吹き飛び甲板に倒れ込んだ。

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

「――いッててて……ちったぁ手加減しろよ、お前」

 

 

「ご、ごめん…ちょっとやりすぎた…よね…?」

 

――模擬戦を終え、先程甲板に落ちた身体の部分をさすりながら言うスパーダに、僕は慌てて謝罪した。

自分なりに加減はしたつもりなんだけど…まさかあそこまで綺麗に飛ぶとは……。

 

 

 

「ん…まぁ、衛司。前に一回見た時より、二刀流が遥かに上達してんのは事実だ。良かったな、これからは二刀流でも十分行けると俺は思うぞ?」

 

 

「ほ、本当…ユーリ?」

 

 

スパーダに謝っていると不意にそう、僕達の模擬戦を見ていたユーリがそう言い、僕は少し不安気に首を傾げる。

そんな僕にユーリはニッと笑うと小さく頷いた。

 

 

「おう。現に今、二刀流でスパーダに勝てたんだ。少なくとも前に比べりゃ、格段に強くなってるよ。…よっし、なんならその感覚忘れない内に、俺と一戦やっとくか?」

 

 

 

 

 

 

「それは…うん、それじゃあやろ―「――駄目に決まってるでしょっ!」―痛っ!痛い痛いっ!」

 

 

小さく笑ったまま刀を手に取りそう言ってきたユーリに、僕は頷いて武器を構えようとした所で……模擬戦をユーリと共に見ていたカノンノに思いっきり耳を掴まれ止められた。

…って痛いっ!本当に痛いっ!

 

 

 

「全く…病み上がりなんだし、もし無茶し過ぎて怪我したりしたら駄目でしょっ!今日の鍛錬はこれでおしまいっ!分かったっ!?」

 

 

「分かった、分かりましたっ!だから早く耳を…痛っ!本当に分かってるから力を強くしないでっ!?」

 

 

僕の様子に呆れながらも少し怒っている様子でそう言い、僕の耳を思いっきり引っ張るカノンノ。

ってそろそろマジで痛いっ!千切れるっ!千切れるよっ!?

 

 

 

「ぁー……あそこまで行くとまるで夫婦漫才だな」

 

 

「ユーリ…お前、ああなる事予測して言っただろ?」

 

 

「おう。じゃねぇとつまんねぇし」

 

 

「ま、そりゃ同感だな」

 

 

 

そんな僕達の様子を見ながら正に『ニヤニヤ』という擬音が似合いそうな笑みを浮かべるユーリとスパーダ。

くそ…あの二人わざとか…って痛いっ!そろそろマジで痛いってっ!

 

 

――模擬戦終了後、数時間僕の耳に痛みが残ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――おや…どうしたんです、メリア様?」

 

 

「――…ロックス……ちょっと、考え事」

 

 

 

――食堂にて、ロックスは不意にどこか悩んでいる姿を見せるメリアに声を掛けた。

メリアは少し俯いた後顔を上げるとそう応えた。

 

 

「…悩み事…ですか。…衛司様の事ですか?」

 

 

「…ん…。…最近…衛司がカノンノと一緒にいる所を見てると…なんか…うん…モヤモヤする…」

 

ロックスの出した問いにメリアは小さく頷くと、不思議そうに、そしてどこか複雑そうに自分の胸元に手を当てそう応えた。

 

 

「…それはいつ頃から…?」

 

「…いつ頃からかは分からない…けど…衛司とカノンノが一緒にいるのを見てからはずっと…。……二人が…『恋人』…になってからは凄く…モヤモヤしてる」

 

 

メリアは胸元に手を当てたまま複雑そうに言うと、ロックスは納得したように小さく頷き、口を開いた。

 

 

「…やっぱり、ですか。…メリア様は多分…いえ、きっと…衛司様が好きなんでしょう。お嬢様同様、『友人』としてではなく、『異性』として」

 

 

「…?『異性』として…?」

 

 

「そうですね…。どういうかとえば……メリア様は衛司様とお嬢様、『友人』としてどちらが好きですか?」

 

 

「…それは…どっちも同じくらい」

 

 

「そうですね。…では…衛司様とお嬢様…もし隣に居て落ち着く方は…?」

 

 

「……それは……衛司の方…」

 

 

ロックスの問いに、一つ目は小さく首を横に振って答えるが二つ目は少し俯き、どこかもじもじとしながらそう応えるメリア。

その様子に、ロックスは小さく笑った。

 

 

 

「そういう事です。メリア様にとって、衛司様はきっと…掛け替えのない大切な存在なんでしょう」

 

 

「……よく、分かった。…でも……衛司の隣にはもう…カノンノが……」

 

 

ロックスの言葉にメリアは小さく頷くも、二人の事を思い出しそう言うと顔を俯ける。

 

 

「…だからといって、何もせずに諦めるんですか?」

 

 

「……え…?」

 

 

「自分の、相手に対する想いを隠したままアナタは諦めてしまうんですか、と聞いてるのです」

 

 

ロックスは真っ直ぐとメリアを見るとそう問いかける。

ロックスのその言葉に、メリアは俯いたまま小さく首を横に振った。

 

 

 

 

「……それは…嫌…。…でも…私……こういう時…どんな事を言えばいいか…」

 

 

 

「それなら簡単ですよ。自分の想っている事を相手に伝える、行動に移すだけです。例え結果がどうなろうと…伝えさせすれば、隠すよりずっといいですから。『隠す』より『話す』ですよ」

 

 

ロックスはそう言って小さく笑い、メリアは顔を上げ少し悩んだ様子を見せると決心したように小さく頷いた。

 

「…『隠す』より『話す』…。…ん…決めた。…ロックス…私、頑張る…っ!」

 

 

「はい。私も応援してますから、頑張って下さい、メリア様」

 

 

 

ロックスの応援にメリアは「…ん」と頷くと食堂を駆け足で出て行った。

ロックスはその様子をどこか満足そうに見送ると小さく微笑んだ。

 

 

「…命短し、恋せよ乙女…ですね。例え、ディセンダーだと呼ばれても…メリア様も立派な、一人の女性ですからね」

 

 

ロックスはメリアが出て行った扉を見ながらそう呟くと、食堂の片付けに移った。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――全く…本当に衛司は油断も隙もないね」

 

 

「――うぅ…すみません…」

 

 

――ユーリとスパーダが居なくなった甲板にて、僕はカノンノに説教されていた。

いや、まぁ確かに…病み上がりで久々の鍛錬だから遂、まだ続けようとか思った僕が悪いんだけど。

 

 

 

「…全くもう…もし衛司に何かあったら私、心配なんだからね…」

 

 

「それは……うん、ごめん…」

 

 

そう言って怒りながらもどこか心配そうな表情を浮かべるカノンノに、僕は申し訳なくなりそう言うと、手を伸ばしてカノンノの頭を撫でた。

 

 

「ん…こんな事しても…別に許してあげないから」

 

 

「はは…それは残念だなー…」

 

 

頭を撫でられそう言いながらもどこか心地良さそうな表情をするカノンノに、小さく笑って頭を撫で続けながらそう返す。

 

――そんな時であった。

 

 

 

「――衛司っ!」

 

 

「?…メリア…?」

 

 

不意に少し大きめな僕を呼ぶ声に見ると、メリアが此方に駆け寄ってきた。

駆け寄ってくるメリアの表情はどこか真剣そうで…何かあったのかな?

 

 

「どうしたの、メリア…?」

 

 

「…衛司…わ…私は……」

 

 

「……?」

 

 

僕の問いにもじもじとしながら言うメリアに小さく首を傾げると、少しして決心した表情になり、真っ直ぐと僕を見て口を開いた。

 

 

「…衛司…私は……衛司の事が好き」

 

 

「え…?」

 

 

「…他の人に対しての『好き』と違う…衛司の時だけ感じる…ポカポカした別の『好き』…。今だから…よく分かる。私は…衛司の事が…本当に『大好き』…」

 

 

少し顔を赤くしてそう、真っ直ぐと僕を見て告げるメリア。

彼女の言ってる事が本当なら…今僕、メリアに告白されたのだろう。

そう考えると僕は思わず、顔が熱くなるのを感じる。

 

 

…ただ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリア…僕は…」

 

 

「…衛司。自分の思った通りに答えてあげて。…実はね、私もメリアが衛司の事が好きだった事、知ってたんだ。それでね…私が衛司とこういう関係になったけど…もしメリアが先だったら、って考えた事があるんだ。…だからね、衛司。…私は例え衛司がどんな答えを出そうと、反論するつもりはないから…メリアにはちゃんと、答えてあげて」

 

 

僕がカノンノとの事を言おうとすると、そう先程まで黙っていたカノンノが僕とメリアを交互に見て真剣な表情でそう言った。

…カノンノの言葉に、僕は二人を見ると……少し深呼吸して決心し、口を開いた。

 

 

「…メリアの気持ち、凄く分かった。…僕もね、メリアが隣にいる時、安心できたり嬉しかったり、楽しかったりするんだ。もし…カノンノより先にメリアに告白されてたら…僕はメリアを選んでたと思う。それぐらい…僕もメリアの事が好きだよ」

 

 

「…衛司……」

 

 

「…だから、ね…僕にはどっちも選べない…ううん、違う。どっちも同じくらい…僕は二人の事が好きなんだ。友達とかじゃなく…異性として。……みっともないよね、本当…僕ってさ」

 

 

 

自分なりに想いを纏めそう言うと二人に顔を合わせづらくなり、顔を少し俯ける。

そのまま少し沈黙しといると、呆れたような…それでいて安心したような溜め息を漏らす音が聞こえた。

 

 

「…やっぱりね。衛司なら、そう言うと思った」

 

 

「え…?」

 

 

「…誰も傷つけたくない衛司なら、そう言うと思ってた…。…でも表情や様子からしたら…私達二人が好きっていうのは本当みたいだから…それが聞けて満足…」

 

 

二人の言葉に僕は顔を上げると、僕を見て頬を赤く染め微笑する二人。

そして二人は僕に歩み寄って来ると……カノンノは右側に、メリアは左側に抱き付いてきた。

え…?え……っ!?どういう事っ!?

 

 

「私達二人共好きって言ったんだから…ちゃんと私とメリア、同じくらい大事に思ってね…?」

 

 

「…………♪」

 

 

「えっと…つまり…?」

 

 

僕に抱き付きながらそう言って微笑むカノンノと、嬉しそうに僕に擦り付けメリアに僕は混乱したまま首を傾げる。

二人は一度お互いに顔を見合わせ僕に向き直ると、微笑して口を開いた。

 

 

「「私達二人共、衛司の恋人でOKって事♪」」

 

 

二人の出したその言葉と笑顔に、思わず顔を熱くなるのを感じる。

恋人二人って……いや、まぁ確かに二人とも好きだけど…。

…でも…まぁ…二人が満足なら…いいのかな…?

 

 

「……出来る限り、頑張りたいと思います」

 

 

―…守りたい物が、また増えた。

 

 

 

 

 

――おまけスキット『行動こそ勝利の一歩』

 

 

メリア「…ぁ…衛司…、ちょっとこっち見て」

 

 

衛司「ん?何、メリ―「…んっ」―…んっ!?」

 

 

カノンノ「なぁ…っ!?」

 

 

メリア「ん…ふふ…こっちは私が先…だね…」

 

 

カノンノ「…そ、それは卑怯だよっ!私も…って衛司、気絶してるっ!?」

 

 

衛司「ぅ…ぁぅぁぅぁぅ…」

 

 

 

メリア「んふふ…えーいじっ♪」

 

 

カノンノ「ぅぅ…今のキスは卑怯っ!絶対ノーカンっ!ノーカンだよっ!」

 

 

 

 





衛司『お前たちが、僕の翼だっ!』


…こんな内容で本当に申し訳ない←

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第四十七話

今回で『にじファン』に投稿した分の最後となります+


 

 

 

――あのメリアからの告白から数日…物語は大きく進展した。

封印次元を作る材料のドクメント…それを持つであろう多くの進化種が、各地からの手によって集まってきていた。

まだ完全にドクメントが集まった訳ではないが…全ての材料が集まるのもそう遠くはないだろう。

 

 

そしてもう一つ…今、世界の各地で次々と戦争が終戦を迎えていっているらしい。

理由としては、まず一つに…ジルディアのキバの出現。アレの出現によって起こり出した生物変化やその他諸々を見て…各地の国々がこのままではいけない、と気付いてくれたのだろう。

そしてもう一つの理由…それはウリズン帝国が、多くの国や村から採取した星晶を元の場所へと返還した事だ。

現王女であるアガーテさんが、各地の国や村に訪れ、謝罪と採取した星晶の返還…そしていまだに戦争を続けている国の各地に行き、今の現状を伝えているという姿に…他の国の人々も胸をうたれ、自分達の行いに気付いてくれたのだろう。

 

 

世界は徐々に…本当に徐々にだけど、確実に…人々が国や種族を越えて、手を取り合いだしていた。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――次は…カダイフ砂漠の『風来草』?」

 

 

「――えぇ。その風来草のドクメントを回収してきて欲しいの」

 

 

――ホールにて、僕はアンジュから受け取った依頼書に目を通すとそう問うように言い、アンジュはそれに小さく頷いた。

 

順調に集まっている進化種のドクメントだが、それでも足りない事があったり、欲しいドクメントがもう残っていなかった事もあったりする。

なのでこうやって今現在、アドリビトムの方でも進化種の捜索を続けている。

 

 

「それにしても…カダイフ砂漠かぁ…。また、あのキツい砂漠を歩いて探し回らないといけないんだね…」

 

 

「気持ちは分かるけどね…。ぁ、そうそう…。ねぇ、衛司…メリアの事なんだけど…ちょっと辛そうなとか、大変そうな表情してなかった…?」

 

 

僕の言葉にアンジュは少し苦笑すると、ふと思い出したように僕にそう問い掛けてきた。

 

 

「メリアが…?ん…僕が見てる限りでは全然見たこと無いけど…何かあったの?」

 

 

「うーん…別に何かあったって訳じゃないんだけどね。ほら、今回のこの依頼もそうなんだけど…こういうハードな依頼は彼女、結構引き受けてるから少し心配でね。…一応彼女自身にも聞いてみたんだけど…『…私は私のやりたい事をしてるだけ』って流されちゃったから」

 

 

メリアの事を思い出しながら小さく首を傾げて聞くと、アンジュは首を横に振った後、苦笑してそう言った。

 

…そう言えばメリア…確かに最近は結構ハードな依頼ばかりしてるんだっけ。

 

つい先日は、アッシュとナタリアと一緒にドクメント採取に行って、本人曰く『巨大クラゲもどき』と闘ってきたらしいし。

…その後帰ってきた時に、『…目の前でラブ臭見せられたから私も』って言って思いっきり抱き付いて来たけど。

アッシュとナタリア…一体何したの?

 

 

 

 

 

 

「うーん…でも、まぁ…メリアが今、特に不快とかそういった感情が無いのは事実だよ。僕の見てる限りだけど…本人自身は楽しんでやってるみたいだし。…もしも何かあった時は、僕が彼女を助けるから」

 

 

「…そう。なら、今は心配ばかりしてたら逆に迷惑になっちゃうかしらね。ちゃんと、頑張ってる彼女を応援しないと」

 

 

少し考えた後そう真っ直ぐとアンジュを見て言うと、アンジュは頷いた後小さく笑ってそう言った。

 

 

「…ただし、『助ける』って言ったんだから、なにかあったらちゃんと衛司が支えてあげなさいよ?ちゃんと…カノンノとメリア、平等にね♪」

 

 

「ぅ…はい…」

 

 

アンジュの様子に安心していると、僕の方を見てまさに『ニヤリ』という擬音が似合いそうな笑みを浮かべてそう言ってきたアンジュに、僕は思わず少し頬を染め、その頬を指で掻く。

 

…僕がメリアとカノンノの二人と恋人になった事は、一日を待たずしてアドリビトムの皆に知れ渡った。

 

始めは皆にどんな目で見られるか心配だったけど、皆の反応は意外な事に笑顔で拍手された。

そして、なんか気付けばアドリビトム公認で僕達は恋人となってた。

 

いや、まぁ…嬉しいんだけど……それ以来この事を弄られると、なんだか無性に恥ずかしくなってしまうのだ。

二人には情け無いけど…なんとも悲しいもんである。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

――結局、カダイフ砂漠へ向かうメンバーは僕、メリア、ロニ、スタンとなった。

アンジュに言われた事を気にしてメリアにはある程度注意している。

…それにしても…。

 

 

「…まさかここまでラザリスの生物変化が起こってるなんて…虎牙連斬っ!」

 

 

目の前に近寄ってきた、身体の半分以上が結晶化したサボテン型魔物のカクトゥスを木刀と星晶剣を奮い切り裂く。

結晶化したカクトゥスは木刀で打たれ星晶剣で切り裂かれると、消えていった。

 

「…ふぅ…ここら辺にはキバはなかった筈だけどなぁ…」

 

 

 

カクトゥスが完全に消えたのを確認し、木刀と星晶剣を納めると僕は息を漏らして呟く。

生物変化の結晶化が起こってるって事は、ジルディアのキバが出現してる筈なんだけど…バンエルティア号で飛んできた時にキバは確認出来なかった。

 

それじゃあこの生物変化は一体…?

 

 

「――衛司、そっちは終わったかーっ!」

 

「ん…あぁ、終わったよー」

 

考えていると不意に後ろから声が聞こえ振り返ると、別方向で生物変化を起こした魔物達を倒していたスタン達が駆け寄ってきた。

 

 

「良かった良かった…そっちの方もやっぱり生物変化が…?」

 

 

「うん…ここら辺は生物変化を起こしてた」

 

 

「…おかしいな。確か、この辺にはジルディアのキバは無かった筈だろ?」

 

 

スタンの問いに僕は頷いて答えると、スタンの隣に立つロニが思い出しながらそう言葉を出す。

皆もキバを確認してないみたいだし…じゃあ、やっぱり原因は…?

 

 

 

 

 

 

 

「……っ……」

 

 

「?…メリア…?」

 

 

不意にメリアがどこか不快そうな表情をして僕の服の袖を引いてきたので、僕は小さく首を傾げる。

 

「…嫌な感じがする。…凄く…気持ち悪い感じ……」

 

 

「気持ち悪い…感じ…?」

 

 

「…先の方…多分…何かいる…」

 

 

不快そうな表情のままそう、途切れ途切れに言って先の方を指差すメリア。

メリアが此処まで不快そうな反応を見せるなんて…。

 

 

「先の方、か…まだ風来草は見つかってないから多分、奥の方にあると思うんだけどな…」

 

 

「メリア…大丈夫…?」

 

 

「…ん…少し不安……だけど…衛司が居るから、きっと大丈夫…」

 

 

メリアが指差した奥を見てなんとも言えなそうな表情をするスタンの言葉を聞き、僕は手を伸ばしてメリアの頭を撫でて聞くと、メリアはいまだに不快そうな表情ながらも小さく頷くと、僕の手を握りそう応えた。

 

…此処まで信頼されると…何が何でも守ってあげないとな…。

 

 

握ってきたメリアの手を、それに答えるように握り返す。メリアも少し安心したのか、不快そうな表情をどこか満足そうな表情に変えた。

 

メリアが落ち着いたのを見ると、僕達はカダイフ砂漠の奥に向けて歩き出した。

 

 

 

――――――――――――

 

 

「――…ッ!」

 

 

「――…何だ…これっ!?」

 

 

「――目が…霞む。喉にも…刺激が…」

 

 

――カダイフ砂漠を奥へと進んだ所で突如、急激な感覚が僕達を襲いだした。

…っ…コレって…一体…!

 

 

「…おい、向こうに何かいるぞ!?」

 

 

「…あれは……ラザリスっ!?」

 

 

ロニが前を向き、突然出した声に前を見ると…明らかにその場だけジルディアに侵された枯れ果てた大地と…そこに此方を見るように立つラザリスが…見たことの無い魔物のようなものを二匹連れていた。

 

 

「――ディセンダー…それに、イレギュラー、か。招かれざる客が来てくれたね」

 

 

僕達を認識したラザリスは、無表情にそう呟く。

 

 

「…ここの空気はどうしちまったんだ…凄く…気持ちが悪い…」

 

 

「ここの空気は僕の世界のもの。君達、ルミナシアの民が居る場所じゃない。…あまり此処に居ると、命に関わるよ」

 

 

周りの光景を見回して言うロニに、ラザリスはフッと笑うとそう淡々と言葉を出した。

 

 

 

「ラザリス…。此処は…君が侵食したのか…?」

 

 

「そうだよ。僕の世界の住人に、快適な環境が必要なんだ」

 

 

「君の世界の住人…っ!じゃあ、そこにいるのは…」

 

 

「僕が生み出した。君達の世界にとって変わる新しい世界、ジルディアの民だ」

 

 

僕の言葉に、ラザリスはどこか嬉しげにそう言うと、ラザリスの傍に居た大きめの魔物が、僕達の前に立った。

 

「…その彼は、元は君達の世界のヒトだった。でも、今は僕の世界の住人さ」

 

 

「なっ…っ!?なんて事を…」

 

 

「メリア!彼を…元の姿に戻してあげてっ!」

 

 

「……ん!」

 

 

 

 

 

ラザリスの出した言葉に驚き、僕はメリアに元に戻してあげるように頼む。

メリアはそれに小さく頷くと、ディセンダーの力を使うため、へと歩み寄るが…

 

 

「…え…っ!?」

 

 

「な…んで…っ!?」

 

 

…ヒトだったソレは、メリアが歩み寄ったのとは正反対に後ずさった。

『元の姿』に戻る事を…拒んだのだ。

 

 

「そんな…どうして…」

 

 

「何も知らないくせに、とんでもないエゴを吐くんだね。彼が、僕と共に生きたいと願ったんだ。君達の世界では、ヒトがヒトを見捨てている。国が民衆を、親が子を、友が友を、隣人が隣人を…ここにいるヒトだった者は、君達ルミナシアの民が見捨てたんだ!!」

 

 

ヒトだったソレが取った行動に僕達が驚いていると、ラザリスが声を上げてそう告げた。

それじゃあその人は…ルミナシアに絶望して…望んで、ジルディアの民に…。

 

 

「…君達に返して、どうするのさ…。彼らに豊かさと、恐れのない未来を約束出来るのか!!」

 

 

「…それは…っ」

 

 

「こんなに大地が疲弊するまで、自らのエゴの為に戦い、生き物を殺し、奪い、捨てて!」

 

 

ラザリスの言葉に、メリアが返そうとするが言葉が詰まる。ラザリスはそれを見逃さず、言葉を続け、声を荒げる。

 

 

「ラザリス。『生命の場』は、お前が手にしたところで、扱えるものじゃない!精霊がそう言っていたんだ。生命の場を扱う事で、この世界もお前の世界も滅びるかもしれないんだぞ!」

 

 

「じゃあ、諦めろって言うのか!僕に、このまま死ねとっ!!…生まれてしまった僕には、死ぬ運命しか残っていないと。そう言いたいんだね?」

 

 

スタンの出した言葉に、ラザリスは声を荒げる。そして少しして静かに口を開くと僕達を睨むように見る。

 

 

「じゃあ、こっちも死ぬ気で奪うよ。生命の場を。…死ぬかどうかなんて、僕にはどうでもいい。僕はやり尽くす事を選ぶ!…生命の場は、僕のものだ」

 

 

 

僕達を睨み付けたまま、そう淡々と言っていくラザリス。そしてその視線は…メリアの前で止まった。

 

 

「…ディセンダー、君もね。僕と、僕の世界を守るディセンダーになってくれよ。…来ないかい、一緒に」

 

 

「…ラザリス…っ」

 

 

 

 

ゆっくりとメリアに向けて手を伸ばしそう言ってくるラザリスに、メリアはラザリスを見たまま僕の手を握る。

 

 

「…そうかい…。…なら…」

 

 

『『『!?』』』

 

 

メリアの反応に、再びラザリスの表情は消え呟くと…突如地面が揺れ始めた。

これは…っ!?

 

 

「…っ…!?」

 

 

「メリアっ!?」

 

 

地震が徐々に落ち着いていくと同時に、メリアが倒れそうになり慌てて支える。

 

…そして地震が落ち着き、ラザリスの方を見ると…ラザリスとジルディアの民の姿は消えていた。

 

 

「…ラザリス…行ったのか…」

 

「そう…みたいだね…。…メリア…?」

 

 

ラザリスが消えたのを確認していると、支えていたメリアが離れ…ジルディアに侵食された大地に近寄った。

…まさか…っ!

 

 

「メリアっ!流石にこの範囲での力の使用は…」

 

 

「…きっと…大丈夫っ!」

 

 

 

そして…光がその場を包んだ。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

…メリアの力によって、カダイフ砂漠のジルディアの侵食は消え、なんとか風来草のドクメントの採取に成功した。

そして、その風来草のドクメントによって、ようやくツリガネトンボ草のドクメントは完成した。

 

…だが、メリアはジルディアの侵食を元に戻す際の力の大幅利用で倒れてしまった。

 

 

 

 

 

力の使いすぎによる疲労…。流石にこれからは彼女の力を簡単に多様出来ないだろう。

 

そして…カダイフ砂漠での地震の正体。それは…ジルディアのキバの『二本目』の出現を意味していた。

 

…残る材料のドクメントは一つ。そして、それを作る数のドクメントは未知数。…出来る限り早く、ドクメントを見つけないと…。

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――やぁ、気分はどうだい?」

 

 

「――最高だよ。上手く身体に定着してくれて…実に最高の気分さ」

 

 

――何もない、黒の空間の中でラザリスは目前に立つ男に問うと、男は自分の姿を見ながら満足そうにそう言った。

 

 

「そうかい…。なら、君もそろそろ準備をしといた方がいいよ。ヤツらとはそう遠くないうちに、戦うと思うからさ」

 

 

「了解したよ。君にもらった『命』と『力』…存分に使って、アイツらを殺してあげるよ。フフ…フヒャヒャヒャヒャヒャヒャっ!!」

 

 

 

ラザリスの言葉に男は小さく頷くとそう言い、不気味に笑い出すと、身体の一部からラザリスと同じように結晶が現れ出す。

男――『サレ』はただただ、不気味に笑い続けていた。

 

 

 

 

 





前書きで書いたように今回で『にじファン』に投稿した分の話は終わりとなります。
次回から数話は自サイトに投稿した分となりますが、更新速度は一気に下がりますのでご了承下さい;

感想、ご意見等良ければ宜しくお願いします+


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第四十八話


今回から数話は『フォレスト』に投稿した分です+
後、『にじファン』以来の方もいるので今回から後書きに補足的なものもつけたりします←


 

 

 

 

「――…衛司…お願い」

 

 

――あれから数日、メリアは無事に復帰する事が出来た。

いまだに様子見である所もあるが、依頼が出来るくらい、至って普通にメリアは復活していた。

そして今…僕はそのメリアに頭を下げてお願いされていた。

どうしてこうなってるかと言うと…彼女にとある依頼の同行をお願いされたのだ。

 

その依頼とは……

 

 

「…ディセンダーにとって最強の武具…『レディアント』との決闘か…」

 

 

そう…レディアントとの決闘だった。

本来、レディアントとの闘いはディセンダーと意志を持ったレディアントとの一対一の決闘なのだが…どうやら今回はジュディスとニアタの話に寄ると男性用と女性用…その二つが闘いを挑んでくるらしいのだ。

 

それでその話を聞いたアンジュが、『自分にとって信頼を置き、共に戦える人を連れて行きなさい』と言い、メリアは僕の元にやってきたのだ。

 

 

 

「…駄目…かな…?」

 

 

「いや、別に駄目って訳じゃないけど…そんな大事な役、本当に僕で構わないの?」

 

 

少し俯いて言うメリアに少し頬を掻くと僕はそう言葉を出した。

事実、レディアントとの決闘は言わば、ディセンダーの力を見せ、納得させなければいけないのだ。

そんな大事な相方役を…本当に僕で構わないのだろうか?

僕の問いにメリアは顔を上げると小さく頷いた。

 

 

「…当たり前…。衛司は私にとって…一番信頼出来る存在…大切な人…だから…駄目…?」

 

 

 

僕を真っ直ぐと見てそう言い、『…駄目…?』の部分でどこか不安そうな表情で小さく首を傾げるメリア。

 

ぅ…分かってはいたけど、こういうのされたら余計断れないよなー…。

いや、まぁ…断る気もなかったけど。

 

 

「分かったよ、メリア。…君の力になれるよう、精一杯頑張るよ」

 

 

「…ん…っ!」

 

 

僕の返答にメリアは嬉しそうに頷いた。

本当…僕って扱われやすいなぁ…。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

――あれから準備等を済ませ、僕とメリアはジュディスとニアタから聞いた『忍者』のレディアントが居るという、『ブラウニー坑道』の下層に向けて歩いていた。

 

 

ブラウニー坑道の下層のモンスターはスケルトンとかゾンビとかスピードが遅いタイプだから、スピード重視のメリアと協力すると簡単に倒せる敵達だけど…まだ中々レディアントは見つからない。

 

 

やっぱりまだ下層の方に居るのかな…。

……それにしても。

 

 

「……ねぇ、メリア…」

 

 

「……ん…?」

 

 

 

「どうして…急にレディアントなんて…?」

 

 

坑道を歩きながら隣りを歩くメリアに僕はそう、思っていた事を問い掛けた。

 

ニアタから聞いた話だけど彼女…メリアはディセンダーとしては珍しい部類らしい。

というのも、ニアタが今まで別の世界で見て来たディセンダー達の多くは…見るもの全てが珍しく、興味を持って見ているらしい。

ただメリアは少し違い、自分が本当に興味を持った物以外は全て平等に見ているのだ。

悪く言えば…彼女は自分が本当に興味を持った物以外、全てに『無関心』なのだ。

 

 

そんな彼女がどうして、今急にレディアントに興味を持ったのか僕は気になった。

 

 

そんな僕の問いに、メリアは立ち止まり、僕の方を真っ直ぐと見て口を開いた。

 

 

 

 

「……私…砂漠でラザリスと話してた時…実は…ラザリスに勝てないと思った…」

 

 

「え…?」

 

 

「あの時のラザリス…寂しそうだったけど…でもね…そんなラザリスを見てる半分で…私…あそこまで自分の世界の為に戦えるラザリスが…怖いって思った…」

 

 

「…メリア…」

 

 

「…私だって…世界のために闘おうって思ってるけど…今の私じゃ…多分、ラザリスに勝てないって思った…。…だから…私、レディアントと闘おうと思った…。…戦って、もっと強くなって…もっと、自分の世界の事を知って…ラザリスと向き合おうって思った…」

 

 

僕の方を真っ直ぐと見ながらそう、自分の想いを告げるメリア。

…強く、か。

 

僕はメリアの言葉を聞き、小さく一度頷くと、そっと手を伸ばしてメリアの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 

「…そっか…分かった、メリア。…君の力になれるかわからないけど…君が望むなら…僕はなんだって手伝うよ」

 

 

「…衛司……ありがとう…」

 

 

 

頭を撫でながら真っ直ぐとメリアを見て言葉を告げると、メリアは嬉しげに小さく頷いてそう言うと、僕に手を伸ばして抱きついてきた。

 

…彼女は確かにディセンダーと呼ばれる特別な存在かもしれない。

だけど彼女はディセンダーであると同時に…一人の少女で、一人のヒトなのだ。

 

だから…僕はディセンダーである彼女の力になれるかは分からないけど…せめてこの一人の少女の支えになりたい、と思っている。

 

抱きついて僕の胸元に顔を埋める彼女の頭を、僕はゆっくりと静かに撫で続けた。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

「――…あれは……」

 

 

「――……レディアント…」

 

 

――あの後少しして再び下層に向けて歩き…以前、バルバトスと戦った塩水晶がある場所に着いた。そしてその…以前バルバトスが立っていた塩水晶の前には、赤と黒を主にした忍者を彷彿とした服…『レディアント』の男性用と女性用を着た人型の人工精霊が…『二人』が立っていた。

向こうも僕達に気付いたのか、まるで機械のような動きで僕達の方を向いてきた。

 

 

「…あれに勝てば、レディアントが手にはいるのかな」

 

 

「…ん…多分…」

 

 

「よし…なら…頑張って二人でアレを倒そう」

 

 

「……ん…っ!」

 

 

二体のレディアントを見てから僕がそう言うとメリアは小さく頷く。

そして僕達は戦闘に入る為、それぞれ武器を構えた…その時であった。

 

 

 

「な…っ!?」

 

 

「……え……?」

 

 

僕達が武器を構え、少しした瞬間…僕の方を見ていた男性型のレディアントが突如…まるで粘土のように形が変わり始めたのだ。

そしてそのままようやく人型の形に戻ったと思うとそこに立ったレディアントの姿は…二本の刀のような剣を持ち、侍を彷彿とさせる服装を身に纏ったものであった。

 

 

「なっ…これって…一体…っ!?」

 

 

「……分からない…けど……来るっ!」

 

 

突然の出来事に混乱する僕達に、二体のレディアントは武器を手に、此方に襲い掛かってきた。

 

よく分からないけど……今は戦わないと…っ!!

 

 

 

――こうして、レディアントを巡る闘いは始まった。

 

 

 

 





以上、第四十八話、如何だったでしょうか?
まぁぐだぐだですよね☆←


【メリア】
嘘みたいだろ、これ、サブヒロインなんだぜ?←

メリア出すと不思議とヒロイン力がハンパない事になってしまう件←
カノンノェ…←


【レディアント魔改造】
今回のオリ展開です。

無理やり感?
ハッ、当の昔にわかってるよ←←

レディアント魔改造については多分この後も色々やっちゃうと思います、えぇ←


次回はこのままレディアント戦となります+
これから更新速度で遅くなってしまいますが…今後も良ければこの作品を宜しくお願いします+

感想、ご意見等良ければ宜しくお願いします+


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第四十九話

今回はレディアント戦です+
色々やっちゃった感あるけど仕方ないよねっ!←


 

 

 

 

 

 

『……………!』

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

――戦闘が始まったと同時に、姿が変化した男性用のレディアントが、二本の刀で僕に切りかかり、僕はそれを背中から抜き取った星晶剣で防ぐ。

女性用のレディアントがメリアの方に向かった事から、どうやらこっちは僕を『敵』と認識したようだ。

 

 

 

 

『…………!』

 

 

「っ……はぁっ!」

 

 

攻撃を防いだままの僕に、力を圧してくるレディアント。

僕はそれに対応するように力で圧し返すと、相手が動いたと同時に一旦下がる。

 

 

「っ…雷よ、ライトニングっ!」

 

『…………!』

 

 

 

レディアントから距離を置き、僕は左手をレディアントに向けると僕の中に居るヴォルトの補助で、無詠唱で雷『ライトニング』をレディアントに落とす。

 

 

『…………』

 

 

「…クソ…やっぱりそう簡単にはいかないか」

 

 

レディアントはライトニングを受けるも傷一つ見せず刀を構え、僕は思わずそう呟く。

 

 

『…………!』

 

 

「…っ……魔神剣っ!」

 

 

 

刀を構え、再び此方に迫って来だしたレディアントに僕は斬撃を飛ばす。

 

 

『…………!』

 

 

「くっ……虎牙破斬っ!」

 

 

レディアントは飛ばされた斬撃を一本の刀で弾くと、その勢いのままもう一本の刀で切りかかり、僕はそれに対応するように切り上げで刀を相殺し、その勢いのまま剣を振り落とす。

 

 

 

 

『…………!』

 

 

「おぐっ…!」

 

 

レディアントは僕の切り落としを身体を瞬時に捻り避けると、そのまま一回転して僕の腹部を蹴り飛ばしてき、僕はそれに対応仕切れず後ろに飛ばされる。

 

 

 

『…………』

 

 

「痛っ……追撃は仕掛けてこないのか…」

 

 

星晶剣を杖代わりになんとか立ち上がり次に来る攻撃にいち早く対応しようとすると、レディアントは追撃する事は無く、此方を見たまま刀を構えていた。

 

『ディセンダーの扱った最強の武具』と呼ばれるだけあって、どうやら不殺の意志は持っているのだろう。

 

 

 

「…だとしても流石レディアント…強敵なのは変わりない、か…」

 

 

『…………』

 

 

刀を構えたまま此方を見るレディアント。先程の蹴りの威力や魔神剣を刀一本で打ち消したのもそうだが、その立ち姿からは明らかに、強者の風格が出ていた。

 

…でも、だからと言って…。

 

 

「…このままただで負けたら…メリアに顔向け出来ないよねっ!」

 

 

『…………!』

 

 

…そう、メリアの力になると言った以上…ただで負けるつもりなんてないんだ!

 

僕は片手で星晶剣を構え直すと、もう片手で木刀を抜いて構える。レディアントも僕の意志が分かったのか僕に向けて二本の刀を構える。

 

さぁ…僕も本気で行くよっ!

 

 

 

 

「ハアァアァァァアっ!」

 

 

 

『…………!』

 

 

僕とレディアントは同時に地を蹴ると僕は星晶剣を、レディアントは刀を同時に奮う。

 

 

「散沙雨っ!」

 

 

『…………!』

 

 

星晶剣と刀が交わった瞬間、僕は木刀で連続突きを放つ。レディアントはそれを一歩退いて避けると、二本の刀を僕に振り落としてくる。

 

 

「なんの……ライトニング・シェルっ!」

 

 

『…………!』

 

 

 

刀が振り落とされる瞬間、僕は紫色の膜を張って攻撃を防ぐ。

レディアントは振り落とした刀をライトニング・シェルで防がれ、驚いた様子を見せる。

 

 

 

 

 

 

その隙を見逃さないっ!

 

 

「このまま…吹っ飛べ、獅子戦吼っ!」

 

 

『…………!?』

 

 

此方に驚いたままのレディアントに向け一気に踏み込むと、僕は星晶剣と木刀を前に突き出す勢いで、獅子の頭を模した闘気を放つ。

レディアントはそれを受け、後方に吹き飛ぶ。

 

 

 

「此処から…決めるっ!行こう、ヴォルトっ!」

 

 

「――準備は出来てます!行きましょう、共にっ!」

 

 

吹き飛んだレディアントを見て、僕は決めるべく限界突破《オーバーリミッツ》を発動すると、自分の隣にヴォルトを出す。

今から使う技は、ヴォルトだけに任せる技ではなく…『僕もヴォルトと共に戦う』と、自分なりに決めた技だ。

 

僕はヴォルトに、自分の木刀を渡すと僕は星晶剣を、ヴォルトは木刀を構え同時に地を蹴りレディアントに接近する。

 

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

 

「えぇぇぇいっ!」

 

 

『…………!?』

 

 

レディアントに接近した直後、僕とヴォルトは同時に前に踏み込みレディアントを斬り、その斬り込んだ位置から電撃がレディアントを襲う。

だけどまだまだっ!

 

 

「まだまだ行くよ、ヴォルトっ!」

 

 

「無論です、主っ!」

 

 

僕の言葉にヴォルトが頷いたのを見ると、僕とヴォルトの攻撃に怯んだままのレディアントに向け、更に僕らは連続して切りかかる。

 

 

一閃、一閃、一閃、一閃と…!

 

レディアントは僕とヴォルトの連続斬りを受け、その身体を雷撃に蹂躙されていく。

その様子に僕とヴォルトは星晶剣と木刀をレディアントに向け、一気に踏み込むっ!

 

 

「トドメだ、レディアントっ!」

 

 

「これが私達の雷の舞ですっ!」

 

 

「「――双雷乱舞っ!」」

 

 

『……!?!?!?!?』

 

 

踏み込みから言い、僕とヴォルトはレディアントに向け最後の斬り込みを入れる。

レディアントは斬られた様々な位置から電撃で蹂躙され、そして…倒れた。

 

 

「……ふぅ…なんとか、なったか…」

 

 

「お疲れ様です、主」

 

 

倒れたレディアントを見て、僕は深呼吸するとヴォルトから木刀を受け取り星晶剣と木刀を納めた。

 

 

「うん…ヴォルトのおかげでなんとかなったよ。ありがとう」

 

 

「いえ…私は、主と共に戦えた事が嬉しいですから」

 

 

僕の言葉に小さく頷いて微笑むヴォルト。

そう言われるとなんだか照れてしまうなー…。

 

 

――ふと、そんな時だった。

 

 

 

『…………』

 

 

「…レディアント…?」

 

 

先程まで倒れていたレディアントが不意にゆっくりと立ち上がり、僕達の方を見てきた。

ただ先程までとは違い、此方に敵意を向けてはいなかった。

一体どうしたんだろう…?

 

 

 

『…………!』

 

 

「な……っ!?」

 

「っ!?」

 

 

僕達がレディアントを見ていると突如、レディアントが光り出し、僕とヴォルトは驚いて目を瞑ってしまう。

 

そのまま僕達は、レディアントの出した光に包まれた…。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「……ふっ!」

 

 

『…………!』

 

 

――衛司達から離れた位置で、メリアと女性用服のレディアントは周りを俊敏に跳び回りながら交戦していた。

 

メリアが跳びながら苦無を数本投げると、レディアントも同じように苦無を数本投げて相殺する。

 

 

「……はっ!」

 

 

『…………!』

 

 

苦無が相殺されるとメリアは強く踏み込みその場を跳び、レディアントに向けて短刀で斬りかかるが、レディアントも同じように跳び、短刀でそれを防ぐ。

 

 

「……っ……私と同じ…」

 

 

『…………』

 

 

 

 

短刀を交えながら、自分と同じ行動を取るレディアントにメリアは僅かに苦い表情を浮かべる。

 

 

『…………!』

 

 

「……ぅっ!」

 

 

レディアントは短刀を交えながら片手でそのメリアの首元を掴むと、地面に向けメリアを投げる。

メリアはそれに対応出来ず地面に叩き付けられ声を漏らす。

 

 

 

『…………!』

 

 

「……くっ!」

 

 

地面に叩き付けられたメリアに向けレディアントは苦無を投げ、メリアはそれに気付くと瞬時にその場から立ち上がり退く。

 

「…っ…苦無閃―《嵐》―っ!」

 

 

『…………』

 

 

退き、避けたと同時にメリアはレディアントに無数の苦無を同じ勢いで飛ばす。

レディアントは飛ばされた苦無に『当たる』と思った物だけを短刀で払い、メリアに再度接近する。

 

 

『…………!』

 

 

「……くっ……!」

 

 

飛ばされた苦無を弾き、レディアントは短刀でメリアに斬りかかり、メリアはそれに短刀を奮って弾き、退く。

 

 

 

『…………』

 

 

「……っ……ならっ!」

 

 

攻撃を弾かれ、傷一つ負わせれないレディアントにメリアは僅かに舌打ちすると、短刀を逆手に持ち体勢を低く構え限界突破《オーバーリミッツ》する。

 

レディアントはその様子に…『同じように』短刀を逆手に持ち、体勢を低く構えた。

 

 

 

「(っ…まさか…!)……っ…斬…っ!」

 

 

 

レディアントの行動にメリアは一瞬驚くも、その場を一気に踏み出しレディアントへと斬りかかる。

 

 

 

 

 

 

『…………!』

 

 

「……あぅっ!」

 

 

…だがそれはメリアの思った通り…レディアントもメリアと同じように一瞬でその場を跳び、メリアに斬りかかり…そしてその一撃はメリアの攻撃より早く、メリアの身体を切り裂いた。

メリアはその一撃に、声と共に片膝を着いてしまう。

 

 

『…………』

 

 

「……っ…強い……」

 

 

ただ静かに自分の方を見るレディアントに、メリアは片膝を着いたまま声を漏らす。

メリアは再び短刀を持って立ち上がり構えると、レディアントは再度同じように短刀を構える。

 

 

 

「……苦無も届かない…『瞬斬』も届かない……どうしたら……っ」

 

 

自分と同じように構え、自分の攻撃をことごとく無効にするレディアントに思わず俯いてしまうメリア。だがメリアはその後すぐにその考えを切り離すように首を振る。

 

 

「……衛司は私の為に一緒に来てくれた…私が強くなりたいって願いを一緒に叶えてくれる為に来てくれた…。…なのに…こんな所で私が諦めたら…私は…自分の為にも…皆の為にも…衛司の為にも…強くなれないっ…!」

 

 

自分の方を見るレディアントを真っ直ぐと見、自分の想いを言い短刀を逆手に持ち低く構えるメリア。

 

 

「……レディアント…これが私の…本気っ!」

 

 

『…………!』

 

 

言葉と同時に再度限界突破《オーバーリミッツ》するメリアに、レディアントはそれ対応すべくメリアと同じように短刀を逆手に低く構える。

 

その瞬間、メリアは――消えた。

 

 

『…………!?』

 

 

突如目前から消えたメリアに驚き周りを見ますレディアント。

だが周りにメリアの姿は見えず、レディアントは体勢を戻す。

そして……

 

 

 

「……これで…終わり」

 

 

 

『…………!?』

 

 

聞こえた声に自分の後ろを振り返るレディアント。そこには短刀を納めるメリアが立っていた。

メリアの言葉の意味にレディアントは自分の身体を見ると、その身体には腹部に一つの切り傷と、『爆』と書かれた札が貼られていた。

 

 

「……しいなから貰った『起爆札』…たった一枚でも威力は上々……」

 

 

『…………!』

 

 

短刀を納め淡々と言いながらゆっくりと片手を上げるメリア。

その姿にレディアントは貼られた起爆札を剥がそうとするが剥がすことは出来ず、そして……

 

 

「……サヨナラ、レディアント…。……これぞ……『瞬獄』……」

 

 

『……!?!?!?!?』

 

 

言葉と共に、パチンッとメリアが上げた手の指を鳴らすとそれを合図にするかのように……レディアントは爆発に飲み込まれた。

 

 

 

「……これで、勝てた……衛司の方は……っ!?」

 

 

爆発した様子からメリアは一息つき、衛司の方を見ようとした瞬間、突如レディアントが爆発した位置から光が溢れ出し、メリアは思わず目を瞑る。

 

そしてメリアは衛司達同様……光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「――ただいまー…」

 

 

「――あら衛司、お帰りなさ……」

 

 

「――衛司、レディアントはどうだっ……」

 

――バンエルティア号のホールにて、僕は扉を開けて入るとアンジュとカノンノが居て、二人は言いながら僕の方を見ると止まった。

まぁそうだよね……何故なら…。

 

 

「……どうしたの、その格好…?」

 

 

「…いや、まぁ…色々ありまして…」

 

 

――今、現在…僕は男性用のレディアントが纏っていた侍のような服を着ているのだから。

あの後…光が収まったと思ったら僕はこの服…『レディアント』を纏っていた。

どういう事か分からなく、先程偶々甲板に居たニアタに聞いてみると……恐らくだが、僕の持っていた『世界樹の木刀』を見て、レディアントが僕も『ディセンダー』と判断してしまったのではないか、との事。

思わず混乱と共に、本当に僕なんかが『レディアント』を纏っていいのか不安になったけど……ニアタは『見る限り異常は無い』って言ってたし、メリアは『衛司とお揃いなら嬉しい』と言っており、結局僕が頂く事になった。

 

 

「へぇ…凄く似合ってるよ、衛司」

 

 

「あ、うん…ありがとう」

 

 

「あらあら…そう言えばメリアは…?」

 

 

僕を見て微笑みながらそう言ってくれるカノンノに思わず照れてしまい頬を掻いていると、アンジュがクスクスと笑いながらふと、いまだにホールに戻ってこないメリアに気付き小さく首を傾げてそう言った。

 

 

「ぁー…メリア…なんだけどね…。…入っておいでよ、メリアー」

 

 

「――…………ぅー」

 

 

 

「「……へ…?」」

 

 

アンジュの言葉に僕は思わず苦笑を浮かべてしまいながらも、いまだに甲板にいるであろうメリアを呼ぶと、メリアは少し俯きながら入ってき、そのメリアの姿にアンジュとカノンノはそんな声を出した。

 

何故なら今、メリアの服装は、女性用レディアントが纏っていた忍者を彷彿とさせる服装…ではなく、しいなのような『忍者』というより、『くの一』を彷彿とさせる服装だった。

以前の『朱雀の衣』とは違い、肌の露出面は少ない筈なのに…着ている事で『頑張って大人びている』という感じを醸し出しており…こういうのはなんだが…可愛い差もありながら、どことなく大人っぽ(エロ)かった。

メリアも初めての違う服に珍しく恥ずかしがっており、こういうのは惚気っぽいけど……今のところもう、ハンパないくらい可愛い。

 

 

これもどういう事か分からずニアタに聞くと、どうにも『レディアント』が着用した彼女に一番適した服装をチョイスしたとかなんとか。

まぁ確かに見た感じ…以前の『朱雀の衣』に比べて動きやすそうだけど。

 

 

「……ぅぅー…なんだか…恥ずかしい…」

 

 

「あはは…大丈夫だよ、メリア。可愛い可愛い」

 

 

 

「……レディアントって…本当、不思議ね」

 

 

「……いいなー、メリア…」

 

 

俯いたまま僕の後ろに隠れるメリアに、僕はとりあえず落ち着かせようと頭を撫でる。

そんな僕達を見て苦笑を浮かべるアンジュと、僕達を羨ましそうに見るカノンノ。

 

 

……色々あったけど……僕達は無事、『レディアント』を入手する事が出来た。

 

 

 

 




以上、第四十九話、如何だったでしょうか?

むしゃくしゃしてやった、後悔はしてない←


『衛司の第二秘奥義』
衛司の第二秘奥義『双雷乱舞』お披露目です+←
この秘奥義は当初は衛司一人でやる技だったのですが、『衛司一人で出来たらチートじゃね?』という事によりヴォルトと一緒で使用出来る事にしました+←

やったね、衛司っ!←←


『メリアの第二秘奥義』
同じくメリアの第二秘奥義『瞬獄』のお披露目です+
名前に厨二言うな←

指パッチンは作者の趣味です←←


『衛司のレディアント』
色々やっちゃった件←
一応衛司の木刀は『世界樹』産なので、レディアントもそこら辺反応すんじゃね?、とか考えたのでやってみた←←

侍のレディアント……『マイソロ4』で出ないかな←←←


『メリアのレディアント』
作者の趣味全開←←
レディアントってディセンダーが着るもんだし、それならディセンダー毎に一番似合った服装がいいんじゃね?、という訳の分からない発想からこうなりました←←

『くの一』っていいよネ☆←←


皆様、感想、ご意見等良ければ宜しくお願いします+


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第五十話

今回は聖地ラングリース…に行くとでも思ったか?←


 

 

 

 

 

――あのレディアントとの闘いから数日が経った。

レディアントから手に入れた侍服は、意外と動きやすかった。

 

何と言えばいいだろう…例えるならもう身体の一部?って言えるくらいの動きやすさだった。

 

メリアの方もメリアの方で、僕と同じみたいらしく、今では着ていた当初の恥ずかしさも消え、普通に過ごしている。

……ただメリア。あの格好でいつもみたいに抱きついてくるのは出来るだけ控えて欲しい。色々ヤヴァイから。

 

 

 

それともう一つ……今、カノンノが自分の中にある『記憶』を知る為に、メリアとヴァンさんを連れて聖地ラングリースへと向かった。

 

きっかけは以前、ロックスさんに見せてもらったカノンノが描いた『両親』の絵。彼女がまだ顔を知らない間に亡くなっているその両親を描けた事を、ロックスさんがカノンノ自身に告げ…カノンノは何故自分に描けたのか、自分の中の記憶に何があるのか。

ソレを知る為に…ドクメントの展開以外で危険ではあるがリスクが減る方法を行いに、世界樹が生み出すマナの渦巻く場所『ボルテックス』のあるラングリースに彼女達は向かった。

 

本当は僕もついて行きたかったけど、聖地ラングリースは並みのヒトにはかなり危険らしく、僕の場合だとドクメントに何らかの支障が起こりかねない、との事から同行の許可が降りなかった。

 

 

心配だけど…今はただ彼女達を信じるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

「――…オルタータ火山に異変?」

 

 

「えぇ…この依頼なんだけど…」

 

 

カノンノ達を見送った後、何か依頼を受けようとアンジュに聞くと、返ってきた言葉に小さく首を傾げながら僕はアンジュが手渡して来た依頼書を受け取った。

 

依頼書には『ある日突然、オルタータ火山の温度が上がって様子がおかしい。緊急に調査を願う』を書かれていた。

 

 

「オルタータ火山の温度が急に…どうしてまた?」

 

 

「私にも分からないわよ。…あそこには『キバ』があったからもしかしたらそれが関係してるかもしれないけど…」

 

僕の問いにアンジュは小さく首を横に振ってそう言葉を出す。

うーん…行ってみないと分からない、か…。

 

 

 

「…うん、僕が行ってみるよ。調査の依頼が来ている以上、行かない訳にはいけないからね」

 

 

「分かった。それじゃ、こっちは他の同行者を探してみるわ。…あと、一応もしもの為にセルシウスから何か強力な熱さから耐えれる物があるか聞いてみる」

 

 

 

アンジュの言葉に僕は頷くと、準備の為に自室へと向かった。

オルタータ火山…一体何があったんだろう…。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「――…うわっ…何これ…」

 

 

「…ひどい有り様ね…」

 

 

――あの後同行者はロッタ、ジュード、レイアに決まり、僕達はオルタータ火山に着いた。

オルタータ火山に入って少し進んだ所で、目前に広がった光景に僕達は思わずそんな声を出した。

 

それは…温度の変化によるものか、以前まで平然としていた魔物達が焼け焦げたり、干からびたりして死んでいる姿であった。

 

 

「……いくらなんでも、この温度の上がり方はおかしいよ」

 

 

「…私たちもセルシウスからもらった道具が無かったら、こんなになってたかもしれないんだ…」

 

 

倒れている魔物を確認しながら呟くジュードに、レイアはセルシウスから貰った所持者を高温から守る道具…『セルシウスの吐息』を見てそう言った。

 

 

……前にロイド達が持っていった『セルシウスの涙』といい、今回の『セルシウスの吐息』といい…こんなに貴重なアイテム簡単に貰ってていいのかな、僕達…。

 

 

 

 

 

 

 

「…でも…まだそれなりに熱さを感じるわね」

 

 

「……うん。長く居たら流石に『セルシウスの吐息』も保ちそうにないし、速く探索をしてみよう」

 

 

 

 

ロッタの言うとおり、多少なりとも『セルシウスの吐息』で暑さは防げているが、それでもよほどの高温なのかまだそれなりの暑さを感じる。

下手したら本当に『セルシウスの吐息』が意味を無くしてしまうかもしれない。

 

 

僕達は頷くと奥へと向けて歩き出した。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ…此処も異常無し、か」

 

 

「…そうみたいだね。…まだ先に進まないといけないのかな」

 

 

――大分下層に進んだ所。僕は周りを見回してそう言うと、ジュードは片手で額の汗を拭ってそう言った。

 

下層に進むにつれて温度が上がっていっており、僕達が持っている『セルシウスの吐息』も徐々に効力が下がっていっている。

 

因みにロッタとレイアは既に僕達の後ろの方で『暑い』を連呼している。

 

 

「…はぁ…下層に進むにつれて熱さが増してるって事は、少なくとも原因に近付いてるって事なんだろうけど……中々辛いね…」

 

「そうだね…。…まだ先みたいだけど…これからまだ大分進まないといけなくなるなら、一旦戻った方がいいかもしれないね…」

 

 

まだ続くであろう下層への道を見て僕はそう言うと、ジュードは同じように下層への道を見た後そう言ってきた。

 

…確かにこの熱さがまだ上がるなら一旦戻った方がいいかもしれないし…後ろからのロッタとレイアの『暑い』コールがハンパない。

 

うーん…ジュードの言うように戻るべきかな…。

 

 

『(……主…何か…嫌な予感がします…)』

 

 

「え…ヴォルト…?」

 

 

考えていると不意に僕の中にいるヴォルトがそう言った。

嫌な予感って……。

 

 

――その時だった。

 

 

 

 

『――ウォオォォォォっ!』

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

ヴォルトに聞こうとした時、突然奥の方から何かの雄叫びが響いた。

今の……一体…っ!?

 

 

「ど、どうするの!?ジュードっ!?」

 

 

「落ち着いて、レイア。…とにかく、行ってみるしかないよね」

 

 

「…そうね。もしかしたらこの熱さの原因かもしれないし……魔物だったら叩き潰してやるわ」

 

 

「あははは……兎に角、ジュードの言うように行ってみよう」

 

 

ヤケに不気味な笑みを浮かべるロッタに苦笑いして皆にそう言うと、僕達は下層に向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「――あ、あれって…っ!」

 

 

「……成る程……ヴォルトが言ってた『嫌な感じ』って…そういう事か」

 

 

「まぁた……面倒毎になったわね」

 

 

――オルタータ火山の下層の広まった場所。そこに…僕とロッタとジュードが以前見た光景と同じものがあった。

 

 

 

「…な…何、アレ……っ!?」

 

 

そこにいたモノを見て、レイアが驚いた様子で僕達に聞いてくる。

まぁ、当然と言えば当然か…。

 

――何故なら…そこにいたモノは…人間の上半身の姿をし、赤い炎を身に纏い、触れる全てを燃やすような熱を出す、…ヴォルトの時と違い、その身体の一部を『結晶化』させた……『火』を司る大精霊。

 

 

『(――……主…彼を…助けてあげてください)』

 

 

「…勿論だよ、ヴォルト。…レイア、兎に角戦闘準備。皆…彼を止めるよっ!」

 

 

「「「うん!(ええっ!/わ、分かったっ!)」」」

 

 

 

 

『――ウオォオォオォォォォっ!』

 

 

 

――『ジルディア』に浸食された火の大精霊……『イフリート』との闘いが始まった…。

 

 

 

 




以上、第五十話、如何だったでしょうか?

無理やり過ぎるかなー…今回…←




『聖地ラングリース』
よくよく思い返せばラングリース…あそこではカノンノが肉体と精神が離れてしまいましたよね?
もしそんな所にドクメントボロボロの衛司が行ってしまうと…まぁ、分かりますよね?
てな訳で今回は衛司アウトという事になりました。
……まぁ色々無理やりだけどな←←


『イフリートの暴走』
という訳で、今回はオリジナルで衛司君にはイフリート退治に行ってもらいました←←

…うん、色々後悔してるよ←

パーティーについては特に何も考えてないっていう←


因みに当初はこのイフリートの他に、ブラウニー坑道でシャドウ、ルナ戦とか考えてましたが、こっちの方がいいかなー、とイフリート戦となりました。

あ、別に契約とか考えてないんで、えぇ←←←


イフリート『!?』



という訳で次回は暴走イフリート戦となります。
感想、ご意見等、皆様良ければ宜しくお願いします+



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第五十一話

今回は暴走イフリート戦です+
戦闘描写ってやっぱり難しいなぁ…。

あ、後気付けばこの作品のお気に入り件数が200を越えてました+
皆様、このような作品を登録して頂き本当にありがとうございます+

期待に応えられるよう、今後も頑張っていきたいです+


 

 

 

 

 

『――グゥウゥゥ…ウォオォォォォっ!!』

 

 

 

「――うわっ、と!!」

 

 

「――わ、わわっ!?」

 

 

 

――僕達が武器を構えたと同時に、僕達に向けてイフリートは炎弾を飛ばしてきた。

僕達が武器を持った事で、僕達を敵だと認識したのだろう。

 

僕達はその場を散ってそれを回避する。

 

 

 

『ウゥウゥゥ…オォオォォォっ!』

 

 

「くっ……魔神剣っ!」

 

 

「僕も…魔神拳っ!」

 

 

避けた僕達を見て雄叫びをあげるイフリート。僕は星晶剣を構え直すと斬撃を飛ばし、ジュードもそれに合わせて拳撃を飛ばす。

 

 

『グルルゥゥ…ガアァアァァっ!!』

 

 

だがそれに対し、イフリートは雄叫びを上げながら息を吸い込み、

その息を大きな炎と共に吐き出して斬撃と拳撃を相殺する。

 

 

「っ…雷よ…ライトニング・ボムっ!」

 

 

『グゥウゥゥっ!!』

 

 

攻撃を相殺されたのを見ると僕はすぐさま右手をイフリートに向け、ライトニング・ボムを放つ。

炎を吐いた直後のイフリートにはその対応が遅れ、ライトニング・ボムが直撃する。

 

 

「…よし、当たったっ!」

 

 

「今なら…行くよ、レイアっ!」

 

 

「うん、ジュードっ!」

 

 

 

 

ライトニング・ボムを受け怯んだイフリートに僕が言うと、ジュードとレイアが頷き、怯んだままのイフリートに向けて走り出す。

 

 

『ウゥウウゥゥ…オォオォォォっ!』

 

 

イフリートに向けて走るジュードとレイア。だが、イフリートはそれに気づくと雄叫びを上げ迫る二人に向けて右腕を振り上げる。

 

 

「そうはさせないわよ…フォトンっ!」

 

 

『グゥウゥゥっ!?』

 

 

今にも二人を殴ろうと振り上げられたイフリートの右腕。それに対して先程まで詠唱をしていたロッタがそう声を上げると、振り上げられた右腕に向け光を収束、爆発させる。

イフリートはその攻撃に怯み、振り上げていた右腕を止める。

その隙にジュードとレイアはイフリートに接近し、ジュードは拳を、レイアは棍を構える。

 

 

「これで…僕が三発っ!」

 

 

「私も三発っ!」

 

 

「「これぞ、六散華っ!!」」

 

 

 

 

『グォアアァアァっ!?』

 

 

怯み、無防備となったイフリートに向けて放たれるジュードとレイアの舞うような六連撃。

その六連撃を受け、イフリートは声を上げて吹き飛んでいく。

 

 

「へっへーん、どうだ!私とジュードの力はっ!」

 

 

「全く…まだ終わってないんだから調子のらない。でしょ、衛司?」

 

 

「うん…多分…まだ元に戻せる程弱ってない…と、思う」

 

 

 

 

 

 

吹き飛んだイフリートを見て声をあげるレイアに溜め息混じりにロッタは言うとそのまま僕に問い、僕は納めたままの木刀を一度見てそう答える。イフリートを戻すには以前のヴォルトの時のように、この木刀の力が必要だとは思うんだけど……以前のように光り出す様子は無い。

多分、まだイフリートを戻せる程弱ってはいないんだろう。

 

 

 

 

 

 

『…ゥゥゥ…オォオォォォっ!』

 

 

そんな僕達の疑問に答えるかのように雄叫びを上げながら吹き飛んだ場所から再起するイフリート。

僕達はそれを見て再び武器を構える。

 

 

「…全く…本当、大精霊って厄介ね…」

 

 

「早く彼を戻したいけどこれじゃあ…また来るよっ!」

 

 

『グゥウゥゥ…ルオォオォオォォっ!!』

 

 

武器である杖を構えたままそう呟くロッタに僕はそう言っていると、イフリートは雄叫びを上げながら再び炎弾を放ってきた。

 

僕達はそれに対してその場を散り、炎弾を避ける。その時だった…。

 

 

「――っ!ロッタっ!!」

 

 

「え…きゃぁっ!!」

 

 

皆が散り散りに炎弾を避けた瞬間、イフリートは始めから標的を決めていたかのように…避けたロッタに向けて右腕を振り下ろした。

ロッタは慌てて杖を前に出して盾のようにするが、避けた直後という事もあり防ぎきる事が出来ず飛ばされ、壁に背中をぶつける。

 

「ロッタ!!」

 

 

「クッ…今すぐ回復に…っ!?」

 

 

『グルルゥゥ…ウォオォォっ!!』

 

 

壁にぶつけられたロッタを見て声を上げるレイアと、それ駆け寄ろうとするジュード。

そんなロッタに向け、イフリートは更に追撃するかのように息を大きく吸い込む。

 

っ…そうはさせるかっ!!

 

 

 

「っ…星晶剣、僕のマナをっ!!」

 

 

『(――主っ!?)』

 

 

イフリートが息を吸い込んだのを見た瞬間、僕は倒れたロッタの前に守るように立ち、星晶剣を構え、星晶剣に自身のマナを送る。

ヴォルトの声が聞こえると同時に身体にマナを吸われる感覚が走るが、それを気にせずマナを星晶剣へと送らせ星晶剣を巨大化させる。

 

 

『グォオォォォォっ!!』

 

 

「っ…防ぎきって…星晶剣っ!」

 

 

イフリートから放たれる炎の僕はそれを巨大化させた星晶剣で防ぐ。

 

 

「うっ…くっ…!」

 

 

火の大精霊、イフリートの炎の息吹。星晶剣で防いでいるとはいえかなりの熱さが星晶剣を通して伝わってくる。だけど…ここで防ぎきらないとロッタが…っ!

 

 

「ぅっ…アン、タ…星晶剣《ソレ》使ったら…アンタの…身体が…っ」

 

 

炎を防いだままの僕に、後ろから途切れ途切れにそう、ロッタの声が聞こえた。

皆は僕のドクメントの状態は知らない。だが、皆と比べて僕の体力が低い方である事は皆が知っている。そんな僕の無理な星晶剣の変形《マナの使用》。

…いつもツンツンしてるのに、こういう時は本当、僕の事を心配してくれるな、ロッタは。

 

正直、かなりキツかったりする。

だけど…。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…これくらい…ロッタを…守れるなら…どうってこと、ないっ!」

 

 

「っ!」

 

 

ロッタの言葉に答えるように、僕はそうハッキリ言う。

そう…確かにかなりキツいけど…大切な仲間を守れるなら…どうってことない!

 

 

「魔神拳っ!」

 

 

「兎迅衝っ!」

 

 

『グゥウゥゥっ!!』

 

 

 

炎を防ぐ中、不意に防いで見えない向こう側からジュードとレイアの声が聞こえた後、イフリートの声と何かがぶつかる音が聞こえ、炎が止む。

 

恐らくジュードとレイアがイフリートを攻撃して、イフリートの炎を止めたんだろう。

 

 

僕が星晶剣を戻すと案の定、向こう側からジュードとレイアが駆け寄ってきた。

 

「…大丈夫!?衛司、ロッタっ!?」

 

 

「…っ…うん、なんとか…それより、ロッタを…」

 

 

「衛司もだよっ!任せてっ!」

 

僕とロッタを見て言ってきたジュードに僕はなんとか頷いて先にロッタの回復を頼む。

僕のその言葉にレイアは首を横に振ってそう言った後、ジュードと顔を合わせる。

 

 

「――回復の光よ…」

 

 

「――加護の風を此処に…」

 

 

「「エイドオールっ!!」」

 

 

 

ジュードとレイアが両手を前に突き出しそう唱えると、二人を中心に暖かく、そしてどこか安らぐ風が僕達の周りを吹き抜ける。

その風が僕達を包んでいくと同時に、先程まで防いでいて身体に感じていた熱やマナの消費…それに倒れているロッタの傷が回復していく。

 

 

…よし、これなら…っ!

 

 

 

 

『グゥウゥゥ…オォオォォォっ!!』

 

 

 

「…やっぱり、まだそう簡単には倒れてくれないんだね」

 

 

回復し、立ち上がる僕達と同じように、イフリートは再び雄叫びを上げながら立ち上がり、それを見たジュードは呟く。

 

ジュード達が回復してくれたとはいえ、さっきのマナ消費は結構大きい。

…どうすれば…。

 

 

「―…ねぇ、衛司…。アンタの星晶剣…マナを吸収して、威力や形が変わるのよね…?」

 

 

「ロッタ…?確かに…そうだけど…」

 

 

考えていると不意に、後ろで杖を支えして立ち上がるロッタからそう聞かれ、僕は少し首を傾げて答える。

 

「そう。…なら…今から私が今残ってる魔力全部込めたマナをアンタに送るわ。それを星晶剣で吸収して…アイツに叩きつけなさい」

 

 

「えっ…!?そんな事したらロッタは…」

 

 

 

ロッタの出した提案に、僕達全員が驚く。

回復したとはいえ負傷しており、それで残りの魔力を込めたマナを渡す。

そんな事したらロッタの魔力はつき、本当に無防備となる。いや、それ以前に身体が…

 

 

「…安心しなさい。私はアンタと違ってそこまでやわじゃないわよ。…それに…『私を守る』って言ったんだから、魔力尽きてる私を、ちゃんと守ってくれるんでしょ?」

 

 

「それは……分かった」

 

 

ロッタの言葉に僕は迷いながらも、頷いてそう答える。

彼女の身体が心配だけど…此処まで言われたら、彼女の意思を止める事は出来ないだろう。

それに…彼女に遠回しなりに信頼されてるんだから…此処はちゃんと守ってみせる。

 

ジュードとレイアも迷いを見せるけど、ロッタの意思が分かったのか小さく頷く。

 

 

 

「よし…それじゃ、ジュードとレイアは私が衛司にマナを渡すまでのイフリートの足止めをお願い」

 

 

「分かった。二人とも…あんまり、無理しないでね」

 

 

「うん。皆、一緒に帰るんだよっ!」

 

 

ロッタの言葉にジュードとレイアは頷きながらそう言うと、武器を構えてイフリートに向けて走り出し、イフリートもそれに対応するように迎え撃つ。

 

 

 

 

「…衛司…チャンスは一回よ。ちゃんと、これで決めなさいよね」

 

 

「うん…分かってる。…これで…絶対に決めるっ!」

 

 

 

「なら…行くわよっ!…我が力、我が魔力を…今此処に…」

 

 

ロッタの言葉にしっかりと頷いて答えて星晶剣を持つと、ロッタも頷いて杖を構えて詠唱を始める。

ロッタが詠唱をしていくと、徐々に構えた杖の先に光が集まり出す。

 

 

「…っ…我が力よ…我が生命力よ…今此処に集いて…かの者に与えるべき力を…っ!」

 

 

 

詠唱をしながら僅かにロッタの表情が変わる。魔力とマナの消費の疲労…彼女には今、それが来ているのだろう。

だがそれでも、彼女は詠唱を止めず続け、杖に光を集めていく。

 

そして…杖に集まる光が大きくなった所で詠唱は終わり、ロッタが僕を見て口を開く。

 

 

 

「…行くわよ、衛司っ!しっかり…受けとんなさいっ!」

 

 

 

 

ロッタはそう言うと、杖に集まった光を僕の方に向けて杖を奮い、飛ばしてきた。

 

僕はロッタに一度頷き、星晶剣を飛んでくる光に向け、吸収させる。

 

 

 

「っ…う…おぉおぉぉぉっ!」

 

 

ロッタの渡してきた膨大な魔力とマナ。それを星晶剣で受け取った瞬間、かなりの重みが星晶剣に入ってくる。

っ…だけど…これぐらいっ!

 

 

「っ…変われ…星晶剣っ!」

 

 

重みを増した星晶剣をなんとか空に掲げるように振り上げ、僕は声を上げる。

そしてそれに反応するかのように、星晶剣は光を帯び、その刃を大きく、長く変えてゆく。

 

 

その変化に気付き、前で戦っていたジュードとレイア、それに暴走するイフリートが此方を見て驚きの表情を浮かべる。

 

だけど…まだまだっ!

 

 

「っ…伸びろ…伸びろ…伸びろ、伸びろ、伸びろぉおぉっ!」

 

確実に一撃でイフリートを止める攻撃。それを与える為に、光を纏う星晶剣を更に、更に大きくさせる。

そして…その大きさは遂に、このフロアの範囲ギリギリまでとなった。

これなら…行けるっ!

 

 

ジュードとレイアはそれに分かったのか、お互いに頷いた後すぐさまその場を後退する。

 

残ったのは…その星晶剣の質量に呆然とするイフリートだけだ。

 

 

 

「これで…終わりだ…っ!――星晶、閃光斬っ!!」

 

 

 

『グ…ォオ…オォオォォォォオっ!?』

 

 

 

二人が星晶剣の斜線上から放れたのを確認し、僕はイフリートに向け、光を纏い、巨大化した星晶剣を振り落とす。

その質量に、呆然としていたイフリートは逃げる事も、防ぎきる事も出来ず……その光の一閃に雄叫びと共に包み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『――ぬぅ…そうだったのか…。礼を言う、人間』

 

 

 

「ぁー…いえ、お気になさらず」

 

 

 

――あの後、イフリートを無事、元に戻す事が出来た。

結構ジルディアの浸食が進んでて不安だったけど…なんとか成功し、今、こうしてお礼をされていた。

イフリートが正気に戻った事で火山の温度も落ち着きだした。やはり、原因はイフリートの暴走だったらしい。

 

因みにジュードとレイアは今、後ろの方でロッタの回復をしている。

あの一撃の後、ロッタは魔力切れとマナの消費で座り込んでしまった。

意識はあるし、様子も安定してるから大丈夫、らしい。

 

 

「――それにしても…イフリート。まだキバは残っているとしても、此処のジルディアの浸食はディセンダーが一時的とはいえ治した筈です。…何故、浸食が…?」

 

 

『――ぬ…?ヴォルトか…人間に使役されたとは聞いていたが、まさかこの小僧だったとは。…その事なのだが……数日程、前だったか。…一人の男が此処に来て、な』

 

 

 

不意に僕の身体からヴォルトが現れ、イフリートに問うと、イフリートはヴォルトを見て少し驚いた表情を浮かべた後、思い出すような仕草を見せた後そう言い出した。

 

一人の…男…?

 

 

『身体から結晶を生やした目つきの悪い妙な男だったな…。我は少々警戒して見ていたのだが……あの男、どうやら我が居る事が分かっていたようでな…。戦ったのは覚えているのだが…それ以降の記憶は無い』

 

 

「多分その時に、ジルディアの浸食を受けたのかな…。だけど…身体から結晶を生やした目つきの悪い妙な男…?」

 

 

「……ラザリス、では無さそうですね、主」

 

 

イフリートの話を聞きながらラザリスの事を思い出すも、イフリートの出した特徴に少し悩む。

確か…ラザリスはそこまで目つきは悪くなかったと思うし…それに多分だけど、ラザリスは女の子だと思う。多分だけど。

 

 

…でも、それなら一体誰が…?

 

 

『――すまぬがこれ以上は我からはなんとも言えぬ。本当に、申し訳ない』

 

 

「いえ、気にしないで下さい。…それにしても…イフリートはこれからどうするんですか…?」

 

 

『…今回の事があって、また同じ事が起こらんとは言い切れんからな…事が落ち着くまで此処にはおれんだろう。…本来であれば我もヴォルト同様、お前に使役されて礼を返したいが…どうやらお前の身体は『特別』のようだからな。…しばらくはどこかに姿を消すとしよう』

 

 

僕の問いに、少し僕をじっと見た後イフリートはそう答えた。

…どうやら彼には僕の身体の事が分かったらしい。

 

その部分を後ろの三人に聞こえないように言ったのがその証拠だろう。

 

 

「…ありがとう、イフリート」

 

『――礼をすべきは我なのだが、な。…この礼はいつか必ず、どこかで返すとしよう。…ではな、良き…人間達よ』

 

 

 

僕の言葉にイフリートは少し驚いた表情を見せた後、どこか照れくさそうな仕草を見せてそう言うと、イフリートは少し小さい赤い光へと姿を変え、火山から空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――…全く…どうして、私がこんな…」

 

 

「…そういわないでよ。…まだ身体、上手く動かせないんでしょ?」

 

 

――火山の帰り道、僕は何故か顔を真っ赤にしたロッタを背中におぶって帰っていた。

…どうしてか、といわれると…ジュード達がある程度ロッタを回復させてくれたみたいだけど、まだ上手く歩ける程回復してはいないらしい。

それでどうやって帰るか考えているとレイアが…

 

 

『じゃあさ、衛司がロッタを背負って帰ればいいんじゃないかな?』

 

 

…と、提案したからだ。

始めはロッタは顔を真っ赤にして嫌がってたけど、レイアと何か話した後、渋々僕に背負われて帰る事に頷いた。

代わりに星晶剣はロッタに背負ってもらってるけど。

因みに、その提案であるレイアは何か機嫌良さそうにジュードと一緒に前を歩いている。

 

…やっぱり幼なじみだから仲良いんだね、あの二人。

 

 

 

 

「…ねぇ、衛司」

 

 

「ん…何、ロッタ?」

 

 

「…アンタ…まだ何か私達に隠してる事あったりする?」

 

 

「え…っ!?」

 

 

不意にロッタから呼ばれ、振り返らずに何か聞き返すと、唐突に聞かれた言葉に思わず驚いてしまう。

 

 

「…その様子だと…やっぱり何か隠してるのね」

 

 

「…えっと…どうして…?」

 

 

「…アンタ…時々研究室に出入りしてる時あるでしょ?そん時のアンタの顔…結構暗かったからね」

 

 

僕の反応に、後ろで呆れた様子でそう言われたのが分かった。

僕が恐る恐る問うと、ロッタは少しそう返してきた。

研究室…僕のドクメントの様子を見てもらう時の、か…。

 

 

「…よく見てるね、僕の事」

 

「た、偶々よ、偶々っ!…別に、アンタが話したくないなら話さなくていいよ。…どがつくほど正直者でお人好しのアンタがまだ隠してるって事は、アンタがよっぽど言いたくないって事でしょうからね。……ただ」

 

 

「…っ…ロッタ…!?」

 

 

僕の言葉に少し焦った反応をした後、そう淡々と言っていくロッタ。そして言っていく中、背負われる為に首に回していた腕を、締めない程度に強く抱きついてき、僕は少し驚く。

 

 

「…ただ、アンタは一人じゃない。…それに…アンタは『守る』だけじゃなくて…皆に『守られて』もいい存在なんだから。…そこんとこ、ちゃんと分かっときなさい」

 

 

「……うん」

 

 

 

抱きついた腕の力を緩めず、そう言って僕の肩に自分の顔を乗せるロッタ。

僕はロッタのその言葉と、抱きついた為密着した背中から伝わる彼女の暖かさを感じながら…ゆっくりと頷いて応えた。

 

 

 

 

「――…ねぇ、衛司」

 

 

「――…ん…何、ロッタ?」

 

 

「…このジルディアとの騒動が終わったら、改めてアンタに言いたい事があるんだけど…その時はちゃんと、私の前に居なさいよね」

 

 

「…?うん…分かった」

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――力の調子はどうだい?」

 

 

――暗い闇のような中、ラザリスは目前に立つ、自分と同じように身体から結晶を生やしたサレにそう問い掛けた。

 

「――フフッ…最高だよ。試しに大精霊に挑んでみたけど…まさか大精霊をあそこまで変えられるなんて…中々良い気分さ」

 

 

ラザリスの問いにサレは口元を吊り上げるとそう言い、ラザリスを見た。

 

 

「そうかい。…それなら、君にはもうしばらくしたら僕の代わりに動いてもらおうかな。僕はあのディセンダー達との来たるべき闘いの為の準備をしないといけないから」

 

 

「了解したよ。君と、ジルディアの望みとあらば…」

 

 

 

サレの返答にクスリとラザリスは笑みを浮かべてそう言うと、サレは一度と頷いた後、ラザリスの前に片膝をつき、頭を下げた。

 

 

まるで…忠誠を誓う騎士のように…。

 

 

 

 

 

 




以上、第五十一話、如何だったでしょうか?

お兄さん、自信無いや←



【VSイフリート】

書いてて本当に色々迷わされた←
やっぱり戦闘描写って難しいです;;

ジュレイの戦闘描写は特に難しく、上手く書けずに本当に申し訳ありません;

リンク技の描写悩むわー…←←


【協力秘奥義『星晶閃光斬』】

テイルズと言えば『協力秘奥義』、という訳でやってみました+
…まぁ上手く書けなかったけど←←

因みに読みは『セイショウセンコウザン』です。

イメージ的にはユーリの『天翔光翼剣』の少し小さめのバージョンです+

【イフリート】
色々考えた結果、彼は使役しない事にしました。
まぁ衛司のあの身体で二体も使役したら…ねぇ?←

ただ、彼は後々もう一度登場する予定です←


【衛司とロッタ】
自分でも書いてて分かんなくなってきた←

ロッタがツンデレてない件←
でもまぁ書きたい事書けたんで後悔はない←

そしてロッタさんが見事に告白フラグを建てました←←


【ラザリスとサレ様】
着々と裏でなんかやってる安定の二人です←

サレ様は完全にラザリス側に堕ちてます。
サレ様の忠誠の姿とか…正直自分でも書いてて想像つかない件←←


皆様、感想、ご意見等良ければ宜しくお願いします+


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第五十二話


低評価を頂くとなかなか心をえぐる物がある、と気付いた今日この頃。
この低評価をバネに今後はより上手く話を書けるよう頑張りたいと思います;;

今回はヒロイン回です+
上手く書けてるか不安だなー…。




 

 

 

――イフリートとの闘いを終え、オルタータ火山からアドリビトムに戻ると、既にラングリースに行っていたカノンノ達が戻ってきていた。

 

 

カノンノ達はそこで、様々な世界の記憶…そして、その果てで原初の世界樹となった、原初のカノンノに出会ってきたらしい。

そして、その原初のカノンノから…ジルディアとルミナシアが、理は違えど、根源を同じくした兄弟であった話を聞いた。

世界樹による、ジルディアの封印も、元々は共存できるまでルミナシアの理を変えていくと決めた、世界樹の意志によるものだったらしい。

 

星晶は封印するものである一方、ジルディアの為の『ゆりかご』でもあったらしいのだ。

 

遠い未来の話になろうとも、助け合っていける様に…共に創造していく為に、と。

 

だが…ルミナシアとジルディアの理にはまだ大きな隔たりがあるらしく…いずれにしろ、今はラザリスとジルディアを封印しなければならないらしい。

 

 

 

 

 

なんとなく、で話は分かったけど…ラザリス…生まれたばかりで、兵器として扱われ、ルミナシアを酷く拒絶している彼女を再び封印しなければならないのは…少し、不安である。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「――カノンノ…大丈夫かな…」

 

 

 

――カノンノの自室へと向かう廊下を歩き、落とさないように手にしたおぼんに乗る食事を見ながら、僕はそう呟いた。

なぜ僕がこんな事をしているかというと…カノンノが寝たきりの状態であるからだ。

 

ラングリースから戻ってきた時は大丈夫そうだったのだが、なんでもそれから食事を取った後すぐに寝込んでしまい、そのまま今まで目覚めなかったのだ。

その時、僕はアンジュにイフリートの事や、謎の男の事を報告していた為居られなかったのだが…なんでも原因は、ラングリースで高濃度のマナを浴びすぎたせいらしい。

 

 

それで今、ようやく目を覚ましたらしく、カノンノを見ていたアニーから、カノンノに何か食事を持っていくように頼まれたのだ。

 

……因みに、カノンノと同室であったメリアは、カノンノが寝込んでいる間、僕の部屋に泊まっていた。

 

 

……いや、うん…先に言っとくけど、別に何もないからね?

 

 

 

 

――まぁ、兎に角。

 

カノンノが起きたという事で、僕も心配だったので食事を渡しにいくのと同時にお見舞いに行こうと思っていた。

 

今はメリアも依頼で居ないし…久しぶりに二人でできる範囲で話をしよう、と。

 

 

 

 

 

 

 

「――っと……カノンノ、まだ起きてるかな…?」

 

 

考えていると、気付けばカノンノの部屋の前につき僕はそう思うと、確かめる為に扉をノックする。

 

 

「――ぁ…誰…かな?」

 

 

「えっと…カノンノ。僕だけど…入って大丈夫?」

 

 

「衛司…?う、うん…大丈夫だよ」

 

 

扉越しから聞こえたカノンノの声に、僕は確認するように問うと、カノンノは僕と分かったのか少し戸惑いがちにそう答えてきた。

カノンノの返答を聞き、扉を開けて部屋に入ると…カノンノはベッドから上半身だけを起こして此方を見て、心配をさせない為か小さく笑っていた。

 

 

 

 

「…おはよう、かな?ご飯持ってきたんだけど…」

 

 

「おはよう、だね…。うん、ありがとう」

 

 

 

此方を見ていたカノンノにそう言って持ってきた食事を見せると、カノンノは小さく笑ったまま頷いた。

それを見ると、僕はベッドまで近付いて食事をベッドの隣にある机に置き、僕はベッドの近くにある椅子に座った。

 

 

「…体調は大丈夫…?」

 

 

「…うん。…一応、かな…。まだちょっと…クラッてする時があるけど…」

 

 

「…高濃度のマナを浴びすぎたんだよね…あんまり、無理しないでよ」

 

 

僕の問いに、カノンノは右手で自分の額を抑え少し俯いてそう答えてきた。

その様子に僕はそう言うと、手を伸ばしてそっと、カノンノの頭を撫でた。

 

 

「…うん…ありがとう。…ニアタが言うには…高濃度のマナを浴びすぎて…肉体と意識に…ズレが出来てるんだって」

 

 

「肉体と意識にズレって…それって本当に大丈夫なの…っ!?」

 

 

 

頭を撫でられ、カノンノは少し安心した表情を浮かべるとそうゆっくりと説明してき、僕はその説明に思わず声を上げてしまう。

 

 

 

 

 

肉体と意識にズレって…かなり危ないんじゃないのっ!?

 

 

「だ、大丈夫…だよ。もう大分眠ってたし…もう、大丈…夫…っ」

 

 

「……カノンノ…?」

 

 

僕の反応に、カノンノは少し苦笑を浮かべてそう言っていく。…だけど、何故か途中で言葉が途切れだし、どこか目が虚ろになりだし、僕は不思議に思ってカノンノを呼ぶ。

 

 

「…だ、大丈夫……また…ちょっとズレが起きただけ……え…?」

 

 

 

「……どう…したの……?」

 

 

 

途切れ途切れながらも、そうゆっくりと言っていくカノンノが、不意に僕を見た瞬間、虚ろながらもどこか呆然とした表情を浮かべて声を出し、僕はその様子に思わず首を傾げる。

 

 

僕に何かついているのだろうか?

…そう、思っていた時だった。

 

 

「…え……え……?な、なに…これ…?嘘…嘘嘘…どうして…どうして…っ!?」

 

 

「カ、カノンノっ!?どうしたの、急に…っ!?」

 

 

突然、カノンノが僕の方に向けて手を伸ばし、僕に触れるか触れないかの位置で、混乱した表情で、まるで何かを確かめるかのように手を閉じたり開いたりする。

僕はカノンノの行動に驚くも、カノンノを落ち着かせようと手を伸ばして彼女を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。

 

カノンノは僕の行動に一度身体を震わせたが、頭を撫でていくと徐々に落ち着いてきているのが分かった。

 

 

「……衛、司…あ…あり、がとう…」

 

 

「…いいよ、気にしなくて。…それにしても…どうしたの、急に…」

 

 

 

大分落ち着いてきたのかゆっくりと呼吸を整えながら、途切れ途切れにそう言ってきたカノンノに、僕は優しく頭を撫でながら小さく頷いた後、そう問う。

カノンノは僕の問いに再び一度身体を震わせると、ゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「…あのね、衛司…私が今まだ…身体と意識にズレがあるって…言ったよね…?…私…そのせいかな…今ね…他の人や物の…ドクメントが見えるの…」

 

 

 

「…っ!」

 

 

 

途切れながらも出したカノンノの言葉に、僕は思わず驚きと…『まさか』、という表情をしてしまう。

他の人や物のドクメントが見える…それは、つまり…。

 

そして、そう考えている僕にカノンノはゆっくりと手を伸ばし、再び触れるか触れないかの位置…きっと、彼女には見えているであろう、僕のドクメントがある位置で手を握ったり離したりすると…ゆっくりと、そして…僕に問い詰めるかのように、言葉を出した。

 

 

 

「衛司…どうして…衛司のドクメントはこんなに…ボロボロなの…?衛司は――『生きているの』…?」

 

 

 

「っ!…ごめん…本当に…ごめん…」

 

 

カノンノの出した、僕にとっては突き刺さるような言葉。その言葉に僕はカノンノを離し、ただ俯いて…そう、謝るしか出来なかった。

 

 

 

――…一番、気付かれたくなかった人に…気付かれてしまった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

――僕はカノンノに、僕の身体の事…そして、この世界にくる原因となった事故の事を離した。

 

ただ、彼女の顔を見ることを出来ず…俯いたまま。

 

 

「…そう……だったんだ…」

 

 

話を終えて俯いたままでいるとそう、カノンノの静かな声が聞こえた。

 

 

「……顔…上げてくれないかな…?」

 

 

「…………」

 

 

静かな声でそう言ってきたカノンノに、僕はゆっくりと顔を上げる。

顔を上げると…カノンノは明らかに、怒っている表情をしていた。

 

 

 

「……どうして…この事を、話してくれなかったの…?」

 

 

 

「…それは……怖かったんだ。一度は確かに、信じてもらえた…受け入れてくれた。だけど…もし、僕が本当は…もう、『死んでる』人間だったって言ったら…また…皆やカノンノに…拒絶されるかもって――「バカっ!」――っ!」

 

 

 

カノンノの問いに僕は上手く目を合わせられず、そう言わなかった理由を言っていくと、その最後に、カノンノの怒った声と、乾いた音…頬に痛みがした。

 

叩かれたのだ…カノンノに。

 

 

 

 

 

 

「衛司のバカ…バカバカバカっ!本当にバカっ!!私達が…私が、本当に衛司を拒絶するなんて思ってるのっ!?」

 

 

「カノンノ……」

 

 

「あの時、皆が言った『衛司を拒絶しない』って言葉を信じられないのっ!?私達は…私は…衛司が居なくなるなんて嫌だよっ!」

 

 

真っ直ぐと僕を見て、怒りながら…そして、瞳から涙を流しながらそう言葉を出していくカノンノ。

その姿に、様子に…僕は何も言えなくなる。

 

 

「それに、『自分は死んでる人間』なんて…そんな事、言わないでよっ!私の知ってる衛司は…私の大好きな衛司は…今だってちゃんと『生きてる』でしょっ!」

 

 

「っ……!」

 

 

「衛司…皆を…私を…信じてよ。…自分で『自分は死んでる』なんて…言わないでよ。私…そんな衛司…見たくないよ」

 

 

「……ごめん……っ」

 

 

怒りながら、泣きながら僕を真っ直ぐと見てそう言うカノンノ。

そのカノンノの言葉に、僕は涙を流して…そう、謝罪の言葉を出した。

 

カノンノはそんな僕に手を伸ばし、その手で僕の頬に触れると、真っ直ぐと僕を見たまま口を開いた。

 

 

「…衛司…この事…ちゃんとメリアや皆に話して上げてね。きっと…皆、アナタを受け入れてくれるから」

 

 

 

「…うん…ごめん…」

 

 

 

「……いいよ。……それにね、衛司…。もし…皆が受け入れてくれなかったとしても……――」

 

 

「え……――」

 

 

 

カノンノの言葉に頷いていると、そうカノンノが言い僕を真っ直ぐと見たまま顔を近付け……僕の唇に口付けをした。

 

 

 

 

突然の事に驚く僕に、カノンノは少しして触れていた唇を離すと、頬を赤く染めて言葉を出した。

 

 

「――…もし、皆が衛司を受け入れてくれなかったとしても……私はずっと…ずっとずっと、衛司を受け入れてあげるから」

 

 

 

 

「っ……ごめん……あり、がとう……っ!」

 

 

 

「…いいんだよ。衛司が私を支えてくれたみたいに…私も…衛司を支えたいから…」

 

 

「…ありがとう…ありがとう…っ!」

 

 

 

カノンノの言葉に、僕は再び涙が溢れ出す。そんな僕に、カノンノは僕を慰めるように、僕を抱き締めて優しく頭を撫でてそう言った。

いつもカノンノやメリアに、僕がやっていた事だけど……二人もきっと、こんな気持ちだったんだろう。

 

 

カノンノの優しさと想いに……僕は抱き締められたまま、涙を流したまま、心から感謝の言葉を出していた…。

 

 

 

 

 




以上、第五十二話、如何だったでしょうか?

…内容的に結構不安が残る;




【衛司と同室のメリア】
別に深い意味も深い事もありません←←

精々同じベッドで寝た、とかそれぐらいです←

ウチの衛司はヘタレなんだよっ!←←


【衛司のドクメントを知ったカノンノ】
『にじファン』時代から声もあった衛司君のドクメントを知ってしまったカノンノの反応は、こんな感じになりました。

大切な存在である人の命がこんな事になっている、と突然知ってしまったらやっぱりこんな感じになってしまうのかなー…と考えたらこうなりました。

自信はない←←


【泣く衛司と泣くカノンノ】
色々書いてて迷った所←
やっぱりシリアスって書いてると迷って迷って、迷いまくってしまいます;;

衛司君を慰めるカノンノと、衛司君とカノンノのキスは前々から書こうと思ってたらこの所で書いてしまったけど……いまいち上手く書けたか不安です;;



皆様、感想やご意見…そして評価等、良ければ宜しくお願いします+



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第五十三話

なるべくほのぼのにしたかった。
だが結果がこれだよっ!←


 

 

 

 

 

──カノンノに僕が隠していた事を話して数日がたった。

 

あの後…僕はホールに皆を集めて、僕の身体の事を全て話した。

 

自分が死んでいる事。そして…その事で皆に拒絶されてしまうのではないか、と怖かったけど…隣にカノンノが居てくれたおかげで、皆に話す事が出来た。

 

 

 

僕が話を終えると、やっぱり皆驚いた様子だったけど……カノンノの言った通り、皆…恐れることも、拒絶することもなく…僕の事を受け入れてくれた。

 

 

その皆の優しさに…皆を信じれていなかった自分が情けなくなって、また皆の前で泣いてしまったのは言うまでもない。

 

 

こうして、僕が皆に隠していた事を話すと同時に…皆に隠し事をしていた事を許されたわけだけど……僕が皆…特に僕のドクメントを直に目の当たりにしたカノンノを心配させた事に変わりない、という事で…アンジュからちょっとした罰を受ける事になった。

 

 

 

それは……僕に二日間休暇を渡すと同時に、その二日間の間、カノンノとメリアの言うことを一日交代で何でも聞く、というものであった。

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

「──……メリア…一旦止めて良い…?」

 

 

「──……んふふ…やだ…♪」

 

 

「……ですよねー」

 

 

 

──一日目の午後。僕は自室にて一日目の命令者…メリアの命令を実行していた。

その命令の内容とは…彼女、メリアをベッドの上に胡座で腰掛けた僕の膝の上に乗せて、メリアを左手で後ろから抱き締めて、右手で頭を撫でる、という事であった。

 

午前の方では『メリアに料理を教える』、という命令で彼女と一緒に料理をしていたけど、午後に入ってからは今までずっとこの状態なので…正直足と手がヤバい事になってきている。

 

 

…そんな僕の様子を知ってか知らずか、メリアは僕のしている事が心地良いのか、目を細めて嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

「メリアって、本当…撫でられるの好きだよね」

 

 

「…うん。…衛司の手…あったかいから…私は…好きだよ…」

 

 

「…そっか…」

 

 

依然と頭を撫でながら僕はメリアに言うと、メリアは嬉しそうな表情のまま僕の方に顔を向けると、その嬉しそうな表情に笑顔をのせて真っ直ぐとそう応えてきた。

…うぅん…こう、真っ直ぐに言われると…なんか恥ずかしいなぁ…。

 

 

「……ねぇ、衛司…」

 

 

 

「…うん?」

 

 

 

「……衛司が言っていたあの…衛司がボロボロだって事…本当…なんだよね」

 

 

 

しばらくメリアの頭を撫でていると不意にメリアが僕を呼んだ。

僕はそれに小さく首を傾げると…メリアは嬉しそうな表情を止めて僕の方を真っ直ぐと向くとそう言った。

 

 

 

「…うん…まぁ、色々あってね。…やっぱり黙ってた事、怒ってる…?」

 

 

メリアの言葉に、僕は撫でていた手を止めて頷き、その後真っ直ぐとメリアを見てそう言葉を出した。メリアは僕の言葉に小さく頷くと言葉を出した。

 

 

「…うん…。…今でこそこうして衛司と話してるけど…聞いた時には…正直…怒ってた…。…皆やカノンノ…それに私も…信じてくれないのか、って…」

 

 

「…ごめん」

 

 

 

僕を真っ直ぐと見てそう、メリアの出した言葉に、僕は改めて申し訳なくなり少し俯いてそう返す。

そんな僕に対してメリアは小さく首を横に振った。

 

 

「…ううん…別にもう怒ってないから、いいよ…。…衛司は遅かったけど…ちゃんと話してくれたし…皆が衛司の事を許してるのに、私だけ許さないのは…嫌だから…」

 

 

「…メリア…」

 

 

首を振った後、再度僕を真っ直ぐと見てそう言葉を出したメリア。その言葉に、僕は少し安心して再びゆっくりと彼女の頭を撫でた。

 

 

 

「…ん…。…衛司…」

 

 

 

「…何…メリア…?」

 

 

 

再び頭を撫でられ、嬉しそうな表情を見せるメリア。

メリアはそのまま身体を僕に預けるように、僕の胸元に顔を埋めて言葉を出し、僕は小さく首を傾げる。

 

 

 

 

 

 

 

「……もう……いなくなったり…しないでね…」

 

 

僕の胸元に顔を埋めたまま…どこか寂しそうに言葉を出したメリア。

 

…ドクメントがボロボロであるという事は……それは僕がいつ、どこで死ぬかも分からないような状態である、という事でもある。

多分彼女は…以前サレにさらわれた時と同じように、僕が彼女や皆の前からいなくなってしまうと思っているのだろう。

 

 

 

「…大丈夫だよ、メリア」

 

 

 

「…ん……」

 

 

「大丈夫。…僕は絶対…メリアやカノンノ…それに、皆の前から居なくなったりしないよ。…『約束』する」

 

 

僕の胸元に顔を埋めたままのメリアに、僕は頭を撫でたままそう言う。

正直…僕が消えない、という確信は全くない。さっき言ったように…僕はいつ、どこで死ぬのか…それは僕自身にも分からないのだ。

 

 

だけど…もう皆を心配させたり、皆の前で『死ぬ』なんて言わないって…僕は決めたんだ。

 

だからこの『約束』は…メリアに…カノンノに…皆に対する『誓い』でもある。

もう絶対…皆を裏切ったりしない、という『誓い』の。

 

 

 

 

「……約束……ん…絶対…いなくならないでね…」

 

 

「うん…絶対…約束するよ…」

 

 

顔を上げてそう、真っ直ぐと僕を見てそう言うメリアに、僕はそう答えて、メリアの頭を撫で続けた。

もう…彼女達を心配させる事のないように…。

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

「──……本当にいいの、カノンノ…?」

 

 

「──…うん、これは…私のお願いだからね」

 

 

 

──二日目。僕は今、向かい合っている相手であるカノンノに確認するように聞くと、カノンノはもう決心しているような表情で頷いてそう答えた。

 

 

「…分かった。だけど、きつくなったら言ってよ

 

 

「そっちこそ」

 

 

僕の言葉にカノンノはクスリと小さく笑ってそう言ってきた。僕はそのカノンノの様子にもう止めはしないというように小さく頷いた。

 

僕達はそのまま暫く見合うと、お互い決心したように小さく頷き合い、そして……

 

 

 

「はあぁあぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

「やあぁあぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

…僕は木刀を、カノンノは大剣を手に僕達は前に立つ相手に向けて走り出した。

──バンエルティア号の甲板。二日目のカノンノからの命令は……『カノンノとの模擬戦』であった。

 

 

何故模擬戦なのかは分からないけど…カノンノがやるという以上、僕は止める事が出来ないし…それに今回は命令であるため、僕に止める権利もない。

 

 

 

 

 

「虎牙破斬っ!」

 

 

「っ…なんのっ!」

 

 

カノンノが勢いよく振り上げてきた大剣を避けると、続け様に振り上げた大剣がそのまま振り下ろされ、僕はその大剣を木刀で防ぐ。

っ…中々重いなぁ。いつも思うけど…一体あの華奢な身体でどうやってこの大剣を扱ってるんだろう…。うぅむ…意外と馬鹿ぢかr──

 

 

「──獅子戦吼っ!」

 

 

「うぉわぁっ!?」

 

 

突如僕(主に顔面)を狙って放たれた獅子の頭を模した闘気に、僕は慌ててその場を退いて避ける。前を見直すと、何やら不機嫌そうに頬を膨らませたカノンノが、先程の獅子戦吼を出したであろう膝を此方に向けたまま僕を睨んでいた。

 

 

 

「………今、なんか失礼な事思ったでしょ?」

 

 

「い、いえ、とんでもございませんっ!」

 

 

不機嫌そうに頬を膨らませ、膝を此方に向けたままそう言ってきたカノンノに僕は首を全力で横に振って否定する。僕のその様子にカノンノも分かったのか、表情を戻して構えなおした。

……今度からなるべく考えないようにしよう、うん。

 

 

「…それじゃあ仕切り直しだよ。…ファイヤーボールっ!」

 

 

「了解、と……魔神剣っ!」

 

 

言った後素早く詠唱を終え、カノンノは三つの火の玉を放つ。僕はそれに小さく頷くと、放たれたファイヤーボールの二つを避け、一つを斬撃を飛ばして相殺させる。ファイヤーボールを全て防いだと分かると、僕はカノンノに向けて走る。

…だが、カノンノは僕がファイヤーボールを防いでいる間に、次の詠唱を終えていた。

 

 

「まだまだ…フラッシュティアっ!」

 

 

 

「っ!?ライトニング・シェルっ!」

 

 

 

僕の方に手をむけてカノンノが叫ぶと、走っている僕の足場に光の陣が現れる。僕はそれに対して避けれないと思うと走りながらも受けるダメージを抑えようと、紫色の雷でできた膜を張る。

ライトニング・シェルを張った直後、足場の光の陣から光の衝撃が放たれた。

 

 

「くっ…まだまだ…っ!」

 

 

「!それなら…」

 

 

「させないよ…覇道滅封っ!」

 

 

 

光の衝撃に耐えながらカノンノに接近を続けると、カノンノは再び詠唱をしようとするが、僕はそれを妨害すべく木刀を納刀するように構え瞬時にその木刀を抜刀し、灼熱波を飛ばす。

 

 

「っぅ…!」

 

 

「このまま……四葬天幻っ!」

 

 

「っ…こっちも…空蓮華っ!」

 

 

 

僕の放った覇道滅封に、カノンノは詠唱を止めると大剣を盾にしてそれを防ぐ。

僕はそのまま再び木刀を納刀し、カノンノに接近して舞うように連続蹴りをする。

それに対してカノンノは防いでいた大剣を構え直し、僕に対抗するように三段蹴りと大剣を振り下ろしてきた。

 

 

 

 

「くっ…重っ…!」

 

 

「っぅ…女の子にそういうのは…失礼だ…よっ!」

 

 

カノンノの三段蹴りを四葬天幻の蹴りで相殺した直後、自分に大剣が振り下ろされるのが分かり、蹴りを止めて木刀を抜き大剣を防ぐ。

カノンノが跳び、体重をのせて大剣を振り下ろしている為か防いだ大剣は重くそう呟くと、聞こえていたのかカノンノはそう言って振り下ろしている大剣に更に力を込めてきた。

 

 

 

「くぅっ…それは失礼っ……烈震虎砲っ!」

 

 

 

「!?きゃぁ…っ!」

 

 

重みが増す大剣とカノンノの言葉に防ぎながらも小さく苦笑して僕はそう言うと、防いでいた木刀から手を離す。

木刀から手を離した事でカノンノは驚くも力を込めていた為そのまま僕の方に落ちてき、僕は瞬時に両手をカノンノに向けて『獅子戦吼』に似た虎の頭を模した闘気を放つ。

大剣に力を込めていた為、カノンノはそれにすぐに対応出来ず、烈震虎砲を受け後方へと吹き飛んだ。

 

 

 

「…ふぅ…ぁっ…ごめん、やりすぎた…かな」

 

 

「…ぃたた…だ、大丈夫っ……まだまだいけるよっ!」

 

 

 

手を離した為落ちた木刀を拾うと、僕は吹き飛ばしてしまったカノンノを見てそう言う。カノンノはゆっくりと立ち上がって僕の方を見ると、再び大剣を構えてそう言った。

 

 

「…分かった。なら…次は本気でいくよっ!」

 

 

「うん…私だって…っ!」

 

 

カノンノの様子を見て僕は小さく頷いてそう答えると、再び木刀を納刀するように構える。その僕にカノンノは同じように頷いてそう言うと大剣を構えたまま真っ直ぐと僕を見る。

 

お互いに構えたまま相手を真っ直ぐと見合う。そんな状態が暫く続き…そして……

 

 

「はあぁあぁぁぁぁぁっ!紫電滅天翔っ!」

 

 

「やあぁあぁぁぁぁぁっ!空蓮双旋華っ!」

 

 

…お互い、どちらが先に動いたか分からない程同時に走り出し、そして二人は自分の武器の間合いに入った瞬間、お互いが誇る技を放ち合う。

 

そして……二人の技は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

「──あ~ぁ…やっぱり負けちゃったかぁ…」

 

 

「──やっぱり、って……結構やられてたよ、僕」

 

 

 

──甲板。僕の隣に座るカノンノは甲板から見える空を見上げながらそう言い、僕は小さく苦笑した。

カノンノとの模擬戦の結果は、僕の勝利という事になった。

 

模擬戦を終えた僕達は特に大した怪我もなかったので、二人で甲板に腰掛け空を見上げていた。

 

 

 

「…それにしても…衛司は強くなったね」

 

 

「ぇ…そう…かな…」

 

 

不意に、隣で空を見上げていたカノンノが僕の方を見てそう言ってき、僕はカノンノを見て思わず少し頬を掻いてそう言った。

カノンノは僕を見ながら小さく微笑み頷いて口を開いた。

 

 

「うん、そうだよ。…此処に来た時はオタオタに苦戦してた衛司が…今じゃ私達にとって大切な存在で……皆と肩を並べるぐらい強くなってるんだもん」

 

 

「ぁー……オタオタのアレは本当によく記憶に残ってるよ。確かにあの時に比べたら…大分強くなってたんだな…僕」

 

 

カノンノの言葉に僕は苦笑を浮かべるも、その後自分の手を見てそう呟く。

この世界に来た時の自分は本当に弱かった。

だから僕は強くなりたかった。皆と一緒に闘えるぐらい、皆を…守れるぐらい。

 

 

「…ぁ、そうだ…ねぇ、カノンノ。前に言っていた『強さ』の事…大分分かったよ」

 

 

「ん…何かな?」

 

 

ふと、以前カノンノが出していた宿題…『僕の持つ強さ』の事を思い出してそうカノンノに言うと、カノンノは小さく首を傾げて聞いてきた。

 

 

「…誰かを追い越すだけの力でもなく…ただ敵を引き裂くだけの力でもなく……僕の持つ『強さ』は…皆と一緒に闘えるだけの力、それに…誰かを守れるぐらいの力…それを目標にして追う『想い』…かな。『自分の為』じゃなく、『大切なもの』の為への…『想い』。…それが上手く纏めれてないけど…僕なりの答え、かな」

 

 

カノンノを真っ直ぐと見て僕は自分なりの答えをカノンノに告げる。

僕の答えを聞きカノンノは暫く僕を見ると小さく微笑み頷いた。

 

 

「…うん、そうだね。…衛司はずっと、自分の為じゃなくて…皆の力になりたい、誰かを守れるぐらいの力が欲しいって……『誰かの為』の力を『想って』た。私はそんな…衛司の『想いの強さ』を教わったんだ」

 

 

「そう…だったんだ…」

 

 

カノンノのその言葉を聞き、僕は少し頬を掻いた。

あの頃は…ただ本当に『皆と一緒に闘えるようになるぐらい強くなりたい』と思いながら鍛錬や闘いをしてたからなぁ…。カノンノにそう思われていたと考えると、思わず少し照れてしまう。

 

 

 

「うん…。…ねぇ、衛司…衛司は確かに『想って』た通り…皆と一緒に闘えるぐらい…誰かを守れるぐらい強くなった。…でも…」

 

 

「…カノンノ…」

 

 

「…でも自分だけが守ったり、闘ったりするばっかりじゃなくて…私達にも守らせたりさせてね。…約束だよ…?」

 

 

僕の隣に座ったまま真っ直ぐと僕を見て、僕の手をそっと握ってカノンノはそう言った。

そのカノンノの真剣な…そしてどこか心配そうな表情に僕は小さく頷いて応えるようにカノンノの手を握り返した。

 

 

「…うん、分かった…。…約束する…心配させて…ごめんね…」

 

 

「うん…分かってくれたならいいよ。…もう、いなくならないでね」

 

 

僕の言葉に、カノンノは安心したような表情になってそう言うと、ゆっくりと僕の方にもたれかかってきた。僕はそれを支えると、カノンノに応えるように握る手の力を少し強くした。

 

──もう、いなくならないというように…ホールの中から呼ばれるまで僕はカノンノに手で、支えている肩で触れ続けていた。

 

 

 

 

 




以上、第五十三話、如何だったでしょうか?

これが限界だ←




【衛司に1日命令権】
最近シリアスばっかでほのぼの書けてないな、という事でこんなネタをやってみました+←
…まぁその結果がこれだよっ!←←


【メリアとイチャイチャ】
メリアに衛司への命令権があったらこんな感じなんだろうなー、と考えながら書いたらこうなった←

だがしかし結局微量程シリアスが入ってしまった件←

やはりカノンノもメリアも、衛司が突然いなくなってしまう事はいまだ不安なわけです。



【カノンノとの模擬戦】
という訳で初、衛司対カノンノでした←
暴走状態を外せば初のカノンノ戦ですが…描写こんな感じでいいのかな…←

因みに当初はカノンノともイチャつかせる予定でしたが…ほのぼのネタが思いつかずこうなってしまいました…。

カノンノ、ごめん←←


【衛司の『強さ』】
色々迷いに迷った結果、衛司の『強さ』はこんな感じになりました。

無理やり感いっぱいいっぱいで本当に申し訳ない←

カノンノの言葉については…衛司はやっぱり強くなってもどこか事故犠牲な所があるので、そういう意味も込めての言葉になっています。

本当に文で伝えにくくて申し訳ない←←



皆様、感想やご意見、評価等良ければ宜しくお願いします+



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IF閑話─男の子だった筈のキャラが実は女の子だったって分かった時、そのキャラが異様に可愛くみえるよね─

シリアスな場面が多かったので今回はギャグ回な閑話となっています+
まぁ一回『にじファン』にも投稿した話だけどねっ!←

因みにIF閑話は『もしかしたらあったかもしれない』お話です。

このお話には以下の成分が含まれているので、ご注意下さい。



※キャラクター崩壊←


※TS要素あり


※ストーリーの空気ぶっ壊し←←






 

 

 

 

――今日は本当は平和な、平和な日である筈だった。

 

 

「――ねぇねぇ、ジェイドー。こんなん作ってみたんだけど~♪」

 

 

「――おやー、中々面白そうじゃないですか~♪」

 

 

「でしょ~♪だからこれを……――」

 

 

「ふむふむ、いいですねー♪では早速やりましょうか♪」

 

 

 

――『天災』二人がこんな事をしだすまでは……。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――ん…んー…っ」

 

 

――部屋の窓から差し込んだ光に、寝ぼけながらも僕はゆっくりと目を覚ました。

 

 

「ふあぁ~…よく寝たけど……なんか怠いなぁー」

 

 

ぼやける目を擦りながらそんな事をぼやいてしまう。

確かに昨日は鍛錬に依頼もやったけど……ここまで寝起きが怠い事ってあったっけ…?

 

 

「…ヴォルトは…朝ご飯かな?…ちょうどいいし、着替えようか」

 

 

自分の身体の中にヴォルトが居ない事を認識し、取り敢えず服を着替えようと鏡の前に立った時だった。

 

 

「――へ…?」

 

 

鏡に映った姿に、思わずそんな声を上げて目が点になったのを感じた。

 

……そして……。

 

 

 

「―――――――ーっ!!」

 

 

…僕らしからぬ、悲鳴を上げた。

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

―――キャアァァァァァっ!!

 

 

 

 

『『『!?』』』

 

 

――食堂。そこで朝食をしていた全員が突然聞こえた悲鳴に手を止めた。

 

 

 

「…なんだ、今の悲鳴?」

 

 

「…女性っぽいけど…聞き覚えのあるような、ないような声…」

 

 

「…衛司の部屋の方から聞こえたような」

 

 

「…また衛司か…今度は一体誰を巻き込んだんだ?」

 

 

「……兎に角見に行こう。今はロックスが落ち着かせてるけど、カノンノとメリアがヤベェ」

 

 

 

その一言に、全員が視線を向けると…何か黒々しい物を纏ったカノンノとメリアをロックスが必死に落ち着かせようとしている姿が目に入った。

 

 

 

「……だな。取り敢えず、今日一日衛司が平和でいられる事を祈るか」

 

 

「……フラグだな、ヲイ」

 

 

 

――その会話を最後に、食堂にいるメンバーは衛司の部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――衛司ー、何かあったの?」

 

 

「――ぅ、うぅうー…ありまくり、です…」

 

 

――悲鳴を聞いてかけつけた全員が、衛司の部屋の前に集まり、アンジュが皆を代表して衛司の部屋の扉を叩いて聞くと…扉の向こうから、どこかいつもと違った衛司の返事が聞こえた。

 

 

「ありまくりって……一体何が――」

 

 

「――衛司、その前に……そこに誰か居るの?」

 

 

苦笑を浮かべてアンジュが聞き返そうとしたが、カノンノが先にそう問う。

 

 

「えっ……その…居ないには居ないんですけど…」

 

 

「……じゃあ入っても大丈夫…だよね……?」

 

 

「ちょ、今はまっ――」

 

 

 

衛司が言い切る前に、カノンノが部屋の扉を開ける。

扉が開き、そこにあったのは………。

――長い黒髪に、小柄ながらも女性を表せる体つきに…弱々しさを出しながらも美少女と言える顔をした少女が、ベッドの上で毛布で体を隠すようにしていた。

ただこの少女…顔つきをよくよく見ていくと……。

 

 

 

「…………え…衛司……?」

 

 

 

「……ぅ……うん……」

 

 

……皆が呆然とするなか、恐る恐るとカノンノが問いかけると、少女……《衛司》はゆっくりと頷いた。

 

 

『『『えぇえぇぇぇぇっ!?』』』

 

 

そしてそれを合図に…皆の驚愕が、バンエルティア号を揺らしたのだった。

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「――えっと…それで、一体なにがあったの…?」

 

 

――その後、一旦ホールに集まると、いまだに驚いたままのアンジュが衛司にそう問いかけた。

 

 

「――うぅん…それが僕にも分からないんだ。…ただ目が覚めたらこうなってて…」

 

 

 

アンジュの問いに少しオドオドとしながらも言葉を返す衛司。

 

 

「…分からないわね。…昨日衛司と一緒に依頼に行った人は何か感じなかった?」

 

 

「…いんや、何にも。普通にモンスターの攻撃を食らうことも、なんかの罠に引っ掛かる事もなかったしな」

 

 

アンジュの言葉に、衛司の依頼に同行した一人であるアルヴィンが手を横に振って応えた。

 

 

 

「……ますます分からないわね。原因が分からない以上…下手したらこのまま一生衛司はこの姿かもしれないし…」

 

 

「えぇっ!?そ、そんなのやだよぉっ!」

 

 

「まぁ落ち着けって。俺達が原因突き止めてなんとか元に戻してやるから、な?」

 

 

出された言葉に、驚いて思わず涙目になってしまう衛司を、近くにいたアルヴィンが落ち着かせようと頭を撫でそう言った。

 

 

「……ほ、本当…?」

 

 

「………っ!」

 

 

――ただ如何せん、それが駄目であった。

今の衛司は、衛司と考えなければ言うなれば『守ってオーラ』を醸し出す弱々しげな美少女である。

そんな美少女が、涙目で身長差故に見上げるようなかたちで此方を見ると……行き着く結果は一つ。

 

 

 

 

「――…うぱぁっ!!」

 

 

『『『アルヴィイィィィンっ!!』』』

 

 

「……へ……?」

 

 

 

――突如、鼻から出血し出して倒れたアルヴィンに皆の声が上がった。出血させた当の本人は何がなにやら分からず首を傾げたが。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、慌てた様子で倒れたアルヴィンにジュードが駆け寄った。

 

 

「あ、アルヴィン!しっかりして!!」

 

 

「ぁ…あぁ…優、等生…か…」

 

 

「っ…くそ…なんて出血なんだ…僕の治癒功が効かない…!?」

 

 

必死にジュードが血を止めようとするが、アルヴィンの出血(鼻血)は止まらない。

 

 

「…な…なぁ……優等生…」

 

 

「アルヴィン…喋っちゃ駄目だよアルヴィン!!」

 

 

震えながら片手を動かし、何か喋ろうとするアルヴィンをジュードが止める。しかし…アルヴィンはゆっくりと片手を動かして……

 

 

「……ギャップ萌えって…いいよ、な……?」

 

 

そう、片手で親指を立て満足そうな笑みと言うと……動いていた手が力無く落ちた。

 

 

「アルヴィン…?アルヴィン…!アルヴィイィィィンっ!!」

 

 

 

「……いや、気を失っただけなんだけどね」

 

 

未だにネタを続けるジュードに冷静なツッコミをアンジュが入れた。

 

 

「……それしても離れてみてたけど…凄い威力ね」

 

 

「…うん、私女だけど『いいなぁ』とか思っちゃった」

 

 

「あの…皆何なのこれ…?」

 

 

ホールに集まったほぼ全員が鼻の頭を抑えると行った現状に、衛司はもう首を傾げてそう言葉を出すしかなかった。

 

 

「…こうなると本格的に原因を探らないと……このままだと、アドリビトムの皆が出血多量になりかねないわね…」

 

 

「…だな。しかし原因って言ってもなぁ……」

 

 

「――ねぇ、その事なんだけど……」

 

 

 

 

鼻の頭を抑えながらも真剣な表情のアンジュの言葉に皆が頭を抱えようとしたなか、一人、リタが手を上げて言葉を出した。

 

 

「……?どうしたの、リタ?」

 

 

「いや、多分……ていうかほぼ確定に近いんだけど……私原因知ってるわ」

 

 

 

リタのその一言に、皆は真剣な表情で話を聞き始めた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「――さて、何か言いたい事はあるかしら、二人共?」

 

 

「――はははー…話を聞いてもらえれば嬉しいですね」

 

 

「――そ、そうよねー。話を聞いてもらえればねー」

 

 

――それから数分後のホール。

皆が集まっている中心には良い笑顔のアンジュ、苦笑の衛司…それに綺麗に縄で捕まったジェイドとハロルドであった。

いつもならこういう状況は飄々としながら抜け出す二人だが、流石にこの大人数では無理だったらしい。

 

 

「…分かりました、話を聞きましょう。それで…どうして衛司はこうなったのかしら…?」

 

 

「そうですねー。…言うなればハロルドの作った薬ですかね」

 

 

「…薬……?」

 

 

「そそ、薬。その名も、『カ・エールS』!材料とかは教えれないけど…飲めばその飲んだ人の性別を変えれるの。で、ちょーど、実験体として爆睡してた衛司に飲ませてみたら思いのほか大・成・功☆どう、凄いっしょ♪」

 

 

アンジュの問いに、反省の色なくむしろ『こんなん作ったんだけど凄くね!?』みたいな勢いで説明をするジェイドとハロルドに、皆が諦めたような溜め息を吐いた。

 

 

「そ、それはそれとして……結局僕ってどうなるんですか…?まさか一生……」

 

 

「ううん、それはないわ。流石にそんなんなら私も勝手に飲ませたりするわけないしー。多分今日一日過ごしたら明日にでも戻ってるっしょ」

 

 

「そ、そっか……良かったぁ……」

 

 

ハロルドの返答に、安心した息を漏らす衛司。

アンジュもその様子を見て一安心すると、ジェイドとハロルドに目を移した。

 

 

「二人とも、今回はこれで済んだから良かったけど……次からは人が眠っている間に薬を飲ます、とかそういうのは止めて下さいね」

 

 

「「えー…」」

 

 

「や め て く だ さ い ね ♪」

 

 

「「はい」」

 

 

 

 

――こうしてこの日一日、衛司は女性として過ごしたのだが……ほぼ女性陣のおもちゃにされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

――『オマケその①』

 

 

 

「うぅー……しんどいなぁ」

 

 

「ほらほら衛司。今日一日だけなんだし、元気だそうよ」

 

 

「いやだって…女の子になった、って何だか恥ずかしいし…なんか肩が重いし…」

 

 

『『!?』』

 

 

「あら、そういえば…結構なサイズよね…」

 

 

「…そうですね…服越しでも見ればC、Dくらいはあるんじゃ…」

 

 

『『!!?』』

 

 

「…ここまで女性に近づけさせるなんて…凄いわねハロルド」

 

「うぅー…肩が重いー…」

 

 

『『衛司に負けた…男なのに負けた……』』

 

 

『『胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り…………』』

 

 

 

 

 

 

―――『オマケその②』

 

 

「えへへ、それでねー…」

 

 

「……そう、なんだ……」

 

 

 

「……本当、凄いわね。ハロルドの薬」

 

 

「えぇ……本人無自覚で徐々に言葉や行動が女に近付いてるもの」

 

 

「…あれにいつも通り平然と接してるメリアも凄いわ」

 

 

「…カノンノなんて数分で貧血起こしたのに」

 

 

「…やっぱりメリアって、そんなの関係なく衛司が好きなのね」

 

 

「……でもそろそろ止めないといけないわね」

 

 

「?どうして…?」

 

 

「…だって鼻血を堪えながらもメリアが、罠に掛かった獲物を狙う獣みたいな目をしているもの」

 

 

『『『衛司、逃げてぇーっ!!』』』

 

 

 

―――『オマケその③』

 

 

「――いかんな…俺とした事が寝坊など…」

 

 

「――ぁ、リヒターさん!おはようございますっ!」

 

 

「……?あ、あぁ…おはよう…(誰…だ…?)」

 

 

「えへへ…寝坊しちゃったみたいですけど、今日も一日頑張って下さいね♪」

 

 

「――……っ!?」

 

 

 

「……あら、リヒター?どうしたの…鼻血を出しながら呆然と立ち尽くして…あぁ、成る程。リヒター、彼女…いえ、彼は――」

 

 

「――可憐だ」

 

 

 

「……ゑ?」

 

 

 

 

 

 





とんだギャグ回だよっ!←


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第五十四話

今回はギベオン回収の回です+
そして…『ヤツ』が登場です。


 

 

 

 

 

 

 

───カノンノとメリアとの休日から数日…事態は進展した。

封印次元を作る材料である一つ、ツリガネトンボ草のドクメントが漸く組み上がったのだ。

これで残す材料はウズマキフスベのドクメントだけとなった。

 

だが…進展したのは良いことだけではなかった。

増殖したジルディアのキバ。それが原因でジルディアの世界の浸食が速くなっていた。そのせいで静まっていた大地を奪い合う争いが、再び始まろうとしていたのだ。

各地の一致団結も、世界の浸食を前に脆くも崩れさろうとしていた。

 

今は一応、ウリズン帝国のアガーテ王女とその騎士団が争いが起ころうとしている各地を回って止めてくれているらしいけど…それもいつまで保つかは分からない状況であった。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──ギベオン?」

 

 

「──えぇ、なんでもそれが必要らしいわよ」

 

 

 

──一枚の依頼書を見ながら僕が聞くと、前に立つアンジュが頷いてそう応えた。

なんでも…ドクメントの転写を可能にするための機械の回路に、ギベオンという鉱物が必要らしい。

 

ドクメントの転写…その提案を出したのはソフィとしいなであった。

世界の浸食を続けるジルディアのキバ。浸食の原因であるキバはディセンダーの力であっても消すことは出来ないが…浸食はディセンダーの力で消すことが出来る。

その力が皆にあれば、というソフィの言葉と、ドクメントの転写が出来ないか、というしいなの言葉をヒントにハロルドをはじめとする研究組メンバーがドクメントの転写を可能にする機械を作ろうと動きだしたのだ。

 

ただこのドクメントの転写は…事故が起これば肉体の形態崩壊か溶解などが予想される危険なものでもあるけど…少なくとも、なにもしないよりかはいい、という事らしい。

 

 

「それで…そのギベオンって何処で取れるの?」

 

 

「なんでも隕石に含まれてるらしいんだけど…ちょうど何年か前にルバーブ連山の山頂が隕石で欠けたっていう事件があったから、もしかしたらそこにあるかもしれないってハロルドが言ってたわ」

 

 

「ルバーブ連山かぁ……前は途中で赤い煙…ラザリスや暁の従者と色々あって結局山頂まで登ってないんだっけ。…またあの長い山道を登るのかぁ……」

 

 

アンジュの説明を聞くと僕は以前の事を思い出し、思わず苦笑いをしてそう言葉を出す。アンジュはそんな僕の様子を見て同じように苦笑を浮かべた。

 

 

「確かにあの山道は大変だものね…。…そんな衛司には悪いんだけれど…できればついでに調べてきて欲しい事があるの」

 

 

「調べてきて欲しい事……?」

 

 

 

 

 

 

アンジュの言葉に僕は小さく首を傾げると、アンジュは僕に一枚の依頼書を手渡してきた。

その依頼書に目を移すと、その依頼書にかかれていた依頼者の名前は…アレクセイ・ディノイアであった。

 

「アレクセイって…確かウリズン帝国騎士団の総騎士団長で、前にアガーテさんと…後ミルハウストさんと一緒に来てた人だよね」

 

 

「えぇ、その総騎士団長さんであってるわよ。調べてきて欲しい事はその依頼書に書いてある通りよ」

 

 

アンジュの言葉に僕は小さく頷くとその依頼書に目を通す。

 

依頼書にかかれている内容はこうであった。

 

──ウリズン帝国とその付近の村で数ヶ月程前からある噂が出始めたらしい。

その噂とは、ルバーブ連山に『見たこともない魔物』が出没した、というものであった。

始めはほんの小さな噂であり、その頃各地への謝罪や協定で忙しかったウリズン帝国軍はその事は本当にただの噂だと、特に気にしてはいなかった。

 

だが、その噂は日を増す毎に大きくなり、帝国軍も討伐隊を結成し、ルバーブ連山へと向かった。

しかし結局…討伐隊は魔物を見つける事は出来ず、何かの見間違いだったのだろうと、討伐は止めとなった。

 

 

だがそれから数日…再びその魔物の噂が出だしたのだ。

帝国軍は再度討伐隊を送るが、再び見つからず…止めると再び目撃例が出…今もまだその繰り返しが続いているらしい。

 

 

 

「…それで、その調査と討伐を僕達に依頼してきた、って言うことか」

 

 

「そういう事みたい。…噂ばかりで帝国軍が討伐に行くと必ず現れない謎の魔物。帝国軍は結局また各地を回らないといけなくて忙しいみたいだから、私たちの所に総騎士団長さん直々に依頼してきたのよ」

 

 

依頼書に書かれた内容に目を通して僕が言うと、アンジュは小さく頷いてどこか真剣な表情で僕の持つ依頼書に視線を向けた。

噂だけの謎の魔物…かぁ…。

 

 

「…分かった。一応山頂まで行く道のりで探してみるよ。それで…その魔物の特徴は?大きな噂になってるんなら、姿を見てる人がいる筈だし」

 

 

「…その事なんだけど…私もそう思って向こうの人達に聞いてみたのよ。そしたら返ってきた言葉が……」

 

 

僕の問いにアンジュは小さく溜め息を吐くとそう言いながら僕を真っ直ぐと見、一旦言うのを止め間を開けると…再度口を開いた。

 

 

 

「──その謎の魔物は……なんでも身体を『結晶』で覆われた姿をしているらしいの」

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

「──いつもは山頂に霧が濃く掛かっているが、今日はそこまで見通しは悪くなさそうだ」

 

 

「…うん、そうみたいだね。この感じだと、山頂まで行けそうかも」

 

 

 

──ルバーブ連山。僕達は山頂に向かう山道を歩きながら、アスベルが下から見える範囲での山頂の様子を見て出した言葉に僕は頷いて答えた。

 

依頼を受け、ルバーブ連山の山頂に向かうメンバーは僕、アスベル、メリア、レイヴンさんとなった。

 

 

山道を歩きながら、アンジュからのついでの依頼…『結晶を身にまとった魔物』を探してもいるけど…今のところ見つかってはいなかった。

 

『結晶を身にまとった魔物』…アンジュが話していた特徴だと十中八九、ジルディアの浸食を受けた魔物だろう。

…だけど、このルバーブ連山…それにその付近にはジルディアのキバは出現していない。だから此処には少なくとも、浸食した魔物は現れない筈なんだけど……。

 

 

 

「……衛司…?」

 

 

「っと…なんでもないよ、大丈夫」

 

 

ふと、不意に隣から聞こえた声に僕は顔を向けると小さく首を傾げて僕を見つめているメリアの姿があった。考えすぎてたのか、多分表情に出ていたんだろう。

僕は小さく笑ってそう言うと、そっとメリアの頭を撫でた。メリアはそれで分かったのか『ん…』、と小さく言って頷くと心地良さそうに目を細めた。

 

…本当、メリアやカノンノのこんな表情を見ると考えことが吹き飛ぶくらい安心するや。

 

 

「ぁ~…お熱いねぇ、衛司君。熱すぎておっさん、見てて胸やけしそうだわぁ~」

 

 

「…茶化さないでくださいレイヴンさん」

 

 

メリアの頭を撫でているとその僕達の様子をニヤニヤという感じの表情で見ながらそう言ってきたレイヴンさんに、僕は小さく溜め息を漏らしてそう言い返した。

この後、しばらくレイヴンさんに茶化され続けたけどアスベルに先を急ぐよう言われ、僕達は再度山頂を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

────────────────

 

 

「──…どうやらやっと山頂のようだな」

 

 

「やっとかい。おっさん、もうヘトヘトだわ~」

 

 

 

──若干霧のかかった山道をしばらく歩き、僕達はようやく霧の失せた山頂らしき場所についた。

山頂までの道のりの中でも、噂の魔物を探したけど…やっぱり見つける事は出来なかった。

…やっぱり噂は噂だったのかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ……!」

 

 

「…?どうしたの、メリア?」

 

 

「……血の臭いがする…。…それに…嫌な感じも…」

 

 

突然、隣を歩いていたメリアが立ち止まり、何か嫌な物を見たかのように表情をしかめた。僕は思わず首を傾げて聞くと、メリアは表情を変えないままそう静かに答えた。

血の臭いに…嫌な感じって…。

 

 

「メリア…それって…」

 

 

「皆、誰かいるぞっ!」

 

 

メリアに再び聞こうとするが、それは前を歩いていたアスベルの声に止められた。

アスベルの言葉に前を見ると…そこには人の後ろ姿があった。

やや遠く、本来なら一体何者なのかは分からない筈だけど…僕はその後ろ姿に、見覚えがあった。

 

 

 

「…あれは…まさか…っ!」

 

 

 

見覚えのある後ろ姿に僕は思わず声を出した。

紫色の髪に、髪と同じ色をした紫のマント。

見間違う筈はない…『僕で操られていた時に見た後ろ姿』だからだ。

 

 

「なんで…貴方が此処にいるんだ…サレっ!」

 

 

僕は皆の前まで歩きそう後ろ姿の男に声を上げた。僕の言葉に皆が驚いた表情を浮かべ、そして男はゆっくりと此方に振り返った。

 

 

「──おや、おやおや。これは奇遇だねぇ…衛司君、それに…アドリビトムの皆さん」

 

 

「…っ…サレ…っ!」

 

 

「あ~らら…こりゃまた本当に面倒なのにあっちゃったわね~…」

 

 

振り返った男──サレは僕達を見ると不気味に口元を吊り上げてそう言葉を出した。

サレの姿を見てメリアは短刀を手に持ち、レイヴンさんはメリアと同じように弓に手を掛けてそう呟いた。

 

 

「サレ…どうして貴方が此処に…。それに貴方はウリズン帝国に捕まった筈じゃ…」

 

 

「うん、まぁ確かにあの時は危なかったねぇ…。君達のおかげで捕まり欠けたわけだし。それでどうして此処にいるかは…単なる力試しさ」

 

 

「力試し…?」

 

 

「そう…力試し」

 

 

サレは僕達を見ながら不気味に笑みを浮かべ続け、ゆっくりの立っていた位置を動いた。

するとそこには…サレが前に立っていた為に見えていなかったが…身体の至る所から血を流し、無残に息絶えている巨大な黒の獣のような魔物…『ベヘモス』の姿があった。

 

 

「これは……っ!」

 

 

「フフ…フヒャヒャっ!そう、僕がやった…僕がやったのさっ!僕の新たな力でっ!!」

 

 

「新たな…力…?」

 

 

「フヒャヒャヒャっ!そう、力さっ!…見せてあげるよ、君達にも…この力をっ」

 

 

不気味に笑みを続け、サレはそう声をあげると、自分の右手を上げて指を鳴らす。

すると突如…サレの周りから赤い煙が出現し、サレを包み込んだ。

 

 

 

「赤い煙…っ!?」

 

 

「なんでサレに……」

 

 

赤い煙の出現に皆が驚く中、赤い煙は少ししてすぐに消えた。

そして煙が消えた場所には…身体の至る所から結晶を生やした…まるでラザリスを模したような姿をしたサレが立っていた。

 

 

「な…その姿は…っ!」

 

 

 

「フヒャヒャヒャヒャっ!その通りっ!僕はジルディアの…ラザリスの力を手に入れたのさっ!」

 

 

驚く僕達を前に、両手を広げながら高らかに笑い、そう声を上げるサレ。

…それじゃあ噂の『結晶に覆われた魔物』って……サレの事だったのか!

 

 

「…っ…衛司…凄く嫌な感じが…サレからする…っ!」

 

 

「…うん、分かるよ…正直…あのサレはヤバい感じがするよ」

 

 

サレの姿を見ながらメリアがそう声を出し、僕はそれに小さく頷いて答えて木刀を構えた

見ていて分かる…今のサレは以前、ヴェイグと戦った時より遥かに高い殺気を纏っていた。

 

 

「フフ…本当はすぐに帰る予定だったけど…君達が

来たんだ。ちょうどいいや…君達でも『力試し』してあげるよ」

 

 

僕達が構えたのを見てサレは不気味に笑みを浮かべたままそう言うと結晶で出来た細剣を取り出し、僕達に突き付けるように構えた。

 

 

「さぁ…楽しませておくれよ。この僕を……ジルディアに、ラザリスに使える騎士…『狂風』のサレをねぇっ!ヒャァァハハハハハっ!」

 

 

 

──こうして、狂気に堕ちた元騎士との闘いが始まった。

 

 

 

 

 

 






以上、第五十四話、如何だったでしょうか?


むちゃくちゃですよね、えぇ…←




【総騎士団長まいたけ←】
名前だけ再登場のまいたけ様です←
原作ではアレな人でしたが、此方では綺麗な設定のまいたけ様です←



【『狂風』サレ】
皆様お待ちかね、サレ様再登場です+
とりあえず『狂風』については、基本ジルディアに浸食された魔物って名前の頭に『月光』とか『煉獄』とかついてたりするので、それと同じような感じにしてみました+
だから厨二臭くてサーセン←←



皆様、感想やご意見、そして評価等良ければ宜しくお願いします+


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第五十五話

今回は『狂風』サレ戦となります+
とりあえず一言言えば…なにがどうしてこうなった←


 

 

 

 

 

「──ハアァアァァァァっ!」

 

 

「──やあぁあぁぁぁぁっ!」

 

 

──目前に立つ相手…サレに向け、僕とアスベルは声を上げながら星晶剣と剣を手に走り出す。

サレは接近する僕達に向けて不気味に笑みを浮かべたまま結晶で出来た細剣を地面に突き刺した。

 

 

 

「ヒャハハハ!──『土晶槍』っ!」

 

 

不気味に、高らかに笑いながらサレがそう叫ぶと、細剣が突き刺された地面から巨大な結晶の槍が現れ接近する僕達に襲い掛かる。

 

 

「…っと…!」

 

 

「くっ…!」

 

 

以前の細剣や、風魔法とは全く違うサレの攻撃法に僕達は驚くも、襲いかかってくる巨大な結晶の槍に僕とアスベルは二手に別れて避ける。

 

 

 

「ヒャハハ!まだまだだよ…『飛晶槍』!」

 

 

「っ!?」

 

 

「くそ…っ!」

 

 

避けた直後に前を見直すと、避けた僕達に向けサレは不気味に笑い声を上げて細剣を地面から引き抜きそのまま細剣を僕達に向けて突き出す。

するとサレの細剣から数本の結晶の槍が出現し僕達に向けて放たれ、僕達はなんとかそれを避ける。

 

 

「…っ…厄介だなぁ、あの結晶の攻撃…!」

 

 

「あぁ…このままだと全く近付けない…」

 

 

近付こうとする度、サレの細剣から放たれる結晶の槍の攻撃によって妨害され近付けない。くそ…本当に厄介過ぎる…っ!

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャハ…ヒャハハハっ!そう簡単に僕に近付けるなんて思わない事だね!」

 

 

「──……それならこれで……っ!」

 

 

「──どうかしらね~っと!」

 

 

接近出来ずにいる僕とアスベルに不気味に笑いながらそう声を上げるサレ。そのサレに対し、僕とアスベルの後ろからそんな声が上がると同時に後ろにいたメリアとレイヴンさんが数本の苦無と矢を飛ばす。

 

 

「接近戦が無理なら今度は遠距離かい…その発想、甘過ぎるけどねぇっ!」

 

 

放たれた苦無と矢にサレは口元を吊り上げてそう言い細剣を持っていない方の手を向ける。すると突如、サレの前で強風が起こり飛んでいた苦無と矢を弾き飛ばした。

 

 

「な…あんな事まで可能になってるのっ!?」

 

 

「…まさかおっさんの矢やメリアちゃんの苦無を弾き飛ばす程の風とはね…ちょっとチートすぎない?」

 

 

目前で起こされた行動に僕はそう声を出し、後ろでレイヴンさんが苦笑いしてそう言葉を漏らす。

 

 

 

「ヒャハ!…こんなものかい、君達の力は?それじゃ…次はこっちからいこうかな」

 

 

僕達の様子を見てサレは不気味に一度笑い、僕達に向けて静かに言葉を出して先程強風を起こした片手を僕達に向ける。

僕達はそれに対して身構えると、サレは口元を吊り上げて口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「切り裂け、『ジル・ゲイルスラッシュ』」

 

 

…一言。ただそれだけで、サレの背後から無数の結晶の刃を混ぜた風の刃の塊が現れ、僕達に向けて放たれた。

 

 

「っ!?皆、散ってっ!!」

 

 

突如、僕達に向けて現れた風と結晶の凶刃に、僕は思わずそう叫ぶ。僕の声に皆は直ぐ様その場を散り散りに離れる。

そして僕達がその場を離れた直後、僕達が居た場所を風と結晶の凶刃が引き裂いた。

 

今のは…風系中級魔法の『ゲイルスラッシュ』…でも中級魔法を『無詠唱』でこの威力って…!?

 

 

 

「…いい感じに避けてくれたね。それじゃ今度は…『ウィンド・スネーク』」

 

 

「なっ…これは…っ!?」

 

 

「っ!?身体が…っ!」

 

 

 

散り散りに避けた僕達を見てサレは持っていた細剣を地面に刺し、片手をアスベルに、もう片手をレイヴンさんに向けて静かに言う。

すると、避けて体勢を戻そうとしていた二人が突如、まるで何かに捕まり、吊り上げられるように身体が地面から浮き出した。

 

 

「アスベル!レイヴンさん!」

 

 

「ぐっ…まるで風が…蛇みたいに…っ!」

 

 

「っ…こりゃさすがに…おっさん、キツいかも…っ!」

 

 

「ヒャハハっ!どうだい、風に捕まった気分は…?」

 

 

突然の事に驚いている僕達にサレは不気味に笑いそう言うと、アスベルとレイヴンさんに向けていた手を上に上げる。

するとそれに反応するかのように、浮き上がった2人が更に上へと上昇し出した。

 

 

 

 

 

 

「ヒャハ…あれほど苦労してたガルバンゾの騎士や有名ギルドの傭兵がこんなものとはね…。このまま崖から落としてあげようか」

 

 

「っ!そんなこと…っ!」

 

 

「……させない……っ!」

 

 

捕らえたアスベルとレイヴンさんを見てそう言葉を出したサレに僕は星晶剣を手に走り出し、メリアは苦無を両手に構える。

 

 

 

「……苦無閃《嵐》……っ!」

 

 

「ヒャハハっ!幾ら数を増やしても無駄さっ!」

 

 

「うあぁっ!!」

 

 

「っ…ぐぅっ!」

 

 

メリアはサレをまっすぐと睨み、サレに向けて両手に持った苦無を一斉に投擲する。

サレはそれに対して風で捕らえていた二人を近くの壁に叩きつけ、左手を放たれた苦無の方へと向ける。

すると先程と同じように強風が起こり、苦無はサレに到達する前に勢いを失い、地面へと落ちる。

 

──その時だった。

 

 

 

「……《爆》……っ!」

 

 

苦無が地面へと落ちる瞬間、メリアはそう言って指を鳴らすとそれに共鳴するかのように苦無が…否、苦無に『結び付けられた』札、起爆札が爆発した。

 

 

 

「っ!…ほぅ…これは考えてなかったね…」

 

 

苦無の一つ一つに結び付けられていただろう起爆札がメリアの指の音に反応して爆発を起こし、落とされた距離故当たってはいないだろうけど、その爆発量にサレの周りはそれで生じた煙に包まれる。

 

 

「これで……紫電滅天翔っ!」

 

 

僕はその煙の中に飛び込み、サレから姿を隠しながらも、先程サレの声の聞こえた場所に雷を纏った星晶剣を奮う。

幾らサレと言えど、この煙で視界を奪われているなら対応はできない筈っ!

 

 

だが……

 

 

「成る程…爆煙を利用して僕から姿を消し、同時に僕に攻撃を仕掛けてくるとはね…」

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

奮った星晶剣から確かに当たったはずの感触がしたが、その向こうでは平然としたサレの声が聞こえた。

そしてそのまま徐々に煙が失せていき、見えたのは…結晶に覆われた左手で星晶剣を掴み、防いだサレの姿だった。

 

 

 

 

 

 

「うん、なかなか利口じゃないか。確かに、僕のこの力は『相手が見えなければ』意味がない。でも残念だったね。幾ら視界を奪おうと攻撃が当たらなければ…逆効果さ」

 

 

「くっ…!」

 

 

星晶剣を掴んだままサレはゆっくりと顔を向けるとそう言って、口元を吊り上げていく。

僕は急いでその場を退こうとするが、サレに星晶剣を掴まれたままでいる為に退けれない。

サレはそのまま空いている右手を僕の方へと向けてくる。

 

 

「っ!…ライトニング─「ヒャハーッ!遅いね、『ジル・ウィンドランス』っ!」─うあぁあぁぁっ!!」

 

 

「…衛司…っ!」

 

 

サレから向けられた手に僕は防御する為にライトニング・シェルを張ろうとするが、それよりも早くサレの右手から結晶の混じった風の槍が放たれた。

間近でもあった為、僕に防ぐ手段も避ける手段もなく、僕は風の槍に直撃して飛ばされ、それを見てメリアが僕を受け止めようとその場を跳ぶ。

だが…サレはそれを見逃しはしなかった。

 

 

「ヒャハハ、君なら彼を助けにいくと思ったよ?ジル・ゲイルスラッシュっ!」

 

 

「っ…ぁぁぁあぁっ!」

 

 

「ぐっ…ぅあぁあぁぁぁっ!」

 

 

メリアが僕を受け止めた直後、それを見計らったようにサレが僕とメリアに向けて風と結晶の混じった刃を放つ。

僕はサレの攻撃を受け、メリアはその僕を受け止めている為防ぐことが出来ず、僕達はサレの放ったその風と結晶の刃に巻き込まれ、アスベルとレイヴンさんが飛ばされた壁まで叩きつけられた。

 

 

「っ…はぁ…はぁ…強…過ぎる…っ」

 

 

「ぐっ…これが…ジルディアの…ラザリスの力…なのか…っ!」

 

 

「フヒ…フヒャヒャ…ヒャハハハハっ!圧倒的、圧倒的過ぎるじゃないかっ!これこそが力…僕の欲しかった力だぁっ!ヒャァァハハハハハっ!」

 

 

与えられたダメージになんとか耐えながらも僕達は立ち上がりサレを見るも、その圧倒的過ぎる力にそう声を漏らす。

そしてそんな僕達を見てらサレは両手を広げて不気味に笑いながらそう声をあげる。

 

その狂ったような笑い声と様子に…僕は不覚ながらも…『恐怖』を感じた…。

 

 

「フヒャヒャ…さて…もう君達との差もわかったし…此処で終わりにしてあげようかな」

 

 

「っ!…皆…っ!」

 

 

サレは不気味に笑ったまま僕達を見ると静かにそう言って、僕達に向けて右手を向ける。

先程までの攻撃動作と変わらない筈なのに…僕はその動作に今までとは全く違った危険を感じ、皆に声を掛ける。

 

 

「ぐっ…うぅ…っ」

 

 

「っ…コイツは…ヤバいねぇ…っ」

 

 

「……っ…衛…司…っ!」

 

 

…だが、皆受けたダメージのせいか立ち上がれてはいるがその場から動けずにいた。実質僕も…今、なんとか立っている状態で避けるどころか、防ぐ動作ができない。

 

っ…こんなところで…終わるなんて…っ!

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャハっ!さぁこれで…死ィ──……っ…どうしたんだい、ラザリス…?」

 

 

「……?」

 

 

サレの攻撃がくると、なんとか身構えようとした瞬間、サレは突然向けていた右手を額にあてて何かを呟き出す。

そのままサレはしばらく呟くと右手を下ろし、小さく溜め息を吐いて口を開いた。

 

 

「…やれやれ、ラザリスから『止め』が入ったよ。君達…特にディセンダーのメリアちゃんと、イレギュラーの衛司君は余程気に入られてるみたいだね。『君達は僕が手に入れるから手は下すな』…だ、そうだよ。おかげさまで、僕に帰還命令が入っちゃったよ」

 

 

「っ…僕達を…見逃すって…今度は…何を企んで…っ」

 

 

口元を僅かに吊り上げてそう言ってきたサレに、僕はサレを睨んでそう言葉を出した。正直今この状況で出すべき言葉ではないとわかってはいるけど…一度サレに捕まった身としては、あのサレが『命令を受けただけ』で弱り切った僕達を見逃すとは思えなかったのだ。

そんな僕にサレは視線を向けると口元を吊り上げたまま言葉を出した。

 

 

「この事に関しては別に何も企んじゃいないよ。…ただ他ならぬ『彼女』からの命令だからね、僕はそれに従うだけさ。それに…僕が本当に潰したいのは君達じゃなくて、ヴェイグだからね」

 

 

サレはそう言うと僕達に背を向けて歩き出した。

『彼女』って…多分、ラザリスの事なんだろうけど…サレはラザリスの命令には従っている、って事なのだろうか…?

 

僕達はそのままサレに警戒していると、サレは崖の前まで歩くと立ち止まり、崖の方に向けて手を伸ばす。するとサレの目前、崖の前に結晶で出来た大きめな扉が現れ、サレは僕達の方へと振り返った。

 

 

「さて…衛司君にメリアちゃん…それにアドリビトムの皆さん。此処に何の用があって来たかは知らないけど、まだ体力がある内に済ませて帰るといいよ。こんな所で体力切れでゲームオーバー、なんて…僕がつまらないからね。それじゃ…次会うときはもっと楽しませておくれよ。…ヒャハ、ヒャーハハハハハっ!」

 

 

サレは僕達を見ながらそう言っていき、最後に高く、不気味に笑い、扉を開いてその中へと消えていった。

扉はサレを飲み込むように入れるとゆっくりと閉まり、そこには元から何もなかったかのように消え去った。

 

 

「……本当に行った…のか…?」

 

 

「……多分…行った…と…思う…」

 

 

サレがいなくなり、僕達はまだ警戒していたが、アスベルとメリアの言葉に、僕達はその場に崩れ落ちた。

 

 

「…なんとか助かった…いんや…『逃がされた』みたいだね~…」

 

 

「そう…だね…。…くそぅ…っ」

 

 

皆がその場に崩れ、ゆっくりと呼吸を整えていく。

その中、先程サレに『逃がされた』事を出し、僕は思わず声を漏らした。

以前見たヴェイグとサレの闘い。その時よりも…『狂風』の名のように狂い、風の扱いが段違いとなっていたサレ。

 

そのサレに負け…しかも手も足も出せなかった敗北に僕は…いや、僕達は悔しさを噛み締めた。

 

 

「……とりあえず、少し休憩して体力が落ち着き次第、ギベオンを回収して山を下りよう。…サレの事を考えるのもその後だ」

 

「うん…そう、だね」

 

 

アスベルの言葉に僕達は頷くと、ゆっくりとその場で身体を休める事にした。

 

 

──この後、僕達はギベオンの回収に成功し、ハロルド達に渡すことが出来た。

…ただ一つ…サレの…ジルディアの力の圧倒的な力を心に残して…。

 

 

 

 








──以上、第五十五話、如何だったでしょうか?

…うん、ごめん。なんか本当に色々ごめん←←


『チートサレ様』
うん、自分で書いといてあれだけど…本当、何がどうしてこうなった←

当初はサレも強さ見せつけながらもなんとかダメージを与えサレ撤退…の筈だったのになんか気付いたらサレ様がどチート化してた←
自分でもビックリな書き終わり結果だったよ←←
アスベルファンの方とレイヴンはファンの方は今回は本当に申し訳ない←


途中弱点を書こう、とも考えたけど…うん、自分で書いといて本当にあれだけど、全くコイツの弱点思い付かない事になった←←

…本当に何がどうしてこうなった←


『ラザリスに従うサレ』
このサレ様はとりあえずラザリスにはなんでも従うようになってます。
何故あのサレがラザリスに此処まで従うかは…機会があれば後々…?←


皆様、感想やご意見、そして評価等良ければ宜しくお願いします+


ではでは最後に…今回チート戦闘力を見せ付けたサレ様のステータスと今回の使用技の紹介をば+



『狂風』サレ
レベル:80
HP:97500
物理攻撃力:500
物理防御力:190
術攻撃力:670
術防御力:300
敏率値:110
弱点属性:光、氷
得意属性:闇、風(吸収)
特殊効果:『初級、中級魔法詠唱無視』、『上級魔法詠唱30%カット』、『のけぞり耐性+3』


『土晶槍』
特技。武器を地面に突き刺し、その地面から結晶の槍を出現させる。

『飛晶槍』
特技。武器を相手に向け、その武器から目標にした相手に結晶の槍を飛ばす。

『ジル・ゲイルスラッシュ』
風の中級魔法。ゲイルスラッシュの強化版。通常のゲイルスラッシュに結晶の槍を混ぜて放つ。

『ジル・ウィンドランス』
風の初級魔法。ウィンドランスの強化版。通常のウィンドランスに結晶の槍を混ぜて放つ。

『ウィンド・スネーク』
風の初級魔法。手を向けた相手を風で捕らえる。



……本当何がd(ry←←





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第五十六話


本日の『第五十六話』投稿にて完全にストックが尽きました;;
次回から執筆してからの投稿となりますので、更新速度が一気に遅くなる事をご了承下さい;;

あ、後…後書きにちょっとした報告があるので良ければ見てください。


 

 

 

 

 

 

「──ふむ…人の姿を保ちながらもジルディアの力を使用する、か…」

 

 

「うん。ニアタなら何か分かるかと思ったんだけど…」

 

 

 

──ギベオンの回収…そして、あの『狂風』サレの強襲から数日。僕は甲板でニアタにサレの力、そしてサレの姿の事を話した。

 

圧倒的過ぎる力もそうだけど…ジルディアの力の影響を受けながらも人の姿を保っていたサレの事が、僕は気になったからだ。

ジルディアの力の影響を受けたものは基本、魔物は身体の部位が結晶化してしまったり…ヒトは最悪、結晶で構築された魔物…ジルディアの世界の存在になってしまう。

サレの言葉通りなら、サレがジルディアの力を得たのは霊峰アブソールでヴェイグが戦った後だろう。あれから大分の時間が経っているけど、サレはジルディアの魔物になるどころか、ラザリスと同じ姿…しかも、普通のヒト型にも姿を変え、明らかにジルディアの力を扱いきっていた。

 

 

明らかに異常と言えるそれが僕は気になり、ニアタならこの事が何か分かるかと思って聞いてみたのだ。

 

 

 

「ふむ…あくまで私の推測だが…そのサレという男…恐らく、ジルディアを…ラザリスのことを『受け入れた』のだろう」

 

 

「ラザリスを『受け入れた』…?」

 

 

暫く考えるような仕草を見せた後ニアタはそう言葉を出し、僕は小さく首を傾げる。

ニアタはコクリと頷くと言葉を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「本来…ヒトの身で他の世界の情報や力を取り込もうとすればその膨大な情報量に身体が耐えきれず、ソレを受け入れようとしたものは必然的にソレを拒否しようとする。拒否したままソレを取り込み続ければ…君達が以前見たというラザリスと共に居たジルディアの民のようになってしまう。だが…おそらくサレはそのジルディアの情報を始めから拒否せず、全てを『受け入れた』末に…君達が戦ったような膨大な力を手にしたのだろう」

 

 

 

「『受け入れた』からあんな姿で…圧倒的な力を…」

 

 

ニアタの話を聞き、僕は思わずそう言葉を出した。

『受け入れた』から…ニアタから説明されたその言葉に僕はなんとなく納得した。

サレに操られていた時…僕も、サレ程ではないけどジルディアの力を手にしていた。その時は操られていた事もあるけど…僕は『力』を欲してラザリスの…ジルディアの力を『受け入れた』。

そしてその結果…僕はサレ同様、ヒトの姿を保ったままジルディアの力を使用していた。

 

サレは今…僕の時とは違い、自ら望んでジルディアの力を『受け入れ』…その力を使用出来ているのだろう。

 

操られ、暴走していた僕と違い…意志を持って狂い、ジルディアの力を使用するサレ。

圧倒的な強さなのも納得してしまう。

 

 

「…ニアタ、今の僕達に…あのサレに勝てる勝算はあると思う…?」

 

 

「…今の君達には…そのサレという男への勝算ははっきりと言って無いに等しいだろう。ディセンダーが敗れたというなら、なおさらだよ」

 

 

僕の問いにニアタは少し考える仕草を見せた後、小さく首を横に振ってそう答えてきた。

…薄々分かってはいたけど…ニアタの言うとおり、今の僕達にあのサレに対抗する力は無いだろう。

 

だけど、サレがラザリスについている以上、サレは確実にいずれまたどこかで僕達の妨害をする為に現れる。

…それまでにサレに対抗出来る術を…力を身に付けておかないと…。

 

 

「…はぁ…暫く鍛錬…頑張らないとなぁ…」

 

 

「張り切るのは構わないが、あまり無理をし過ぎないようにね。……あぁ、そうだ…衛司」

 

 

溜め息を吐いて呟いた僕にニアタはそう言って暫く僕を見ると、不意に何かを思い出したような仕草を見せて僕を呼んだ。

僕がそれに小さく首を傾げると、ニアタは言葉を出した。

 

 

 

「カノンノとディセンダー…メリアを連れてきてもらえないか。君達に見せたいもの…いや…『会わせたい者』がいるのだ」

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「──ふむ…三人とも、揃ったようだな」

 

 

「うん。それで、ニアタ…会わせたい人って?」

 

 

──ニアタに言われ、ちょうど部屋で休んでいたメリアとカノンノを呼び、僕は再び甲板に戻った。

ニアタは僕達を確認すると小さくコクリと頷いた。

 

 

「うむ。此方もちょうど準備が終わったよ」

 

 

「準備…?」

 

 

「…以前にも一度言ったが我々の本体はここでない異世界にある」

 

 

「ニアタっ!?」

 

 

ニアタの出した『準備』という言葉に首を傾げていると、そうニアタが続けて言葉を出していくと突如、ニアタの身体が光り出し、カノンノが声を上げる。

声を上げてないにしても、突然の事に僕とメリアもカノンノ同様驚いていると、ニアタは僕達に首を横に振って言葉を続けた。

 

 

「心配する必要はないよ。今私は異世界にいるその本体と交信し…この世界との通路を繋いでいるだけだ」

 

 

「っ!それって……っ!?」

 

 

ニアタの出したその言葉に僕が声を上げるとその直後、ニアタから溢れる光が一層強くなり、僕達は思わず目を閉じる。

そのまま少しして、僕はゆっくりと確認するように目を開けていくと…そこに居た人物に僕は思わず呆然とした。

 

いつも見ている少女と似たようで、どこか違う桃色の髪。その桃色の髪を留める、木を模したような髪留め。

 

 

「──うん、此処が『ルミナシア』かぁ…。向こうのニアタに聞いていた通り、ステキな世界だね」

 

 

そして…僕を確信させるように『画面越し』で聞いていた彼女の声。

間違いない…彼女は…っ!

 

 

「ぁ…ルミナシアのディセンダーさんに、ルミナシアの私…かな?それに…イレギュラーさん、だね?初めまして!グラニデって世界から来ました、カノンノ・イアハートです。よろしく!」

 

 

前作…『マイソロ2』のヒロインであるカノンノ…『カノンノ・イアハート』がそこにいた。

 

 

 

 

 

 





以上、第五十六話、如何だったでしょうか?

うん…なんかごめん←



『受け入れたサレ様』
今回はサレ様の強さについて語る回でした←
サレ様の強さ云々、及びジルディアの力云々は完全に独自解釈及び独自設定となってますので、多々変な所あったりします;
因みにこのサレ様への攻略法は作者である私すら全く思い付いてない←←


『イアハート登場』
はっきり言おう、マンガ版に触発されて気付いたら書いてた←←
マンガ版のイアハート登場の早さには本当に吹いた←
尾張さんマジパネェ←←

あ、後因みにですが……イアハートさんは私の脳内で既にグラニデディセンダー君とイチャコラやってる設定ですので、ヒロインに加わる事は無いのであしからず(真顔←←←



前書きで書きましたが今回でストックが尽きましたので次回からかなりか更新がおそくなります;

後報告ですが…『僕伝』人気キャラクター投票を始めました+
詳しくは活動報告に書きましたので、良ければ投票ご参加宜しくお願いします+

では最後に…皆様、感想やご意見…そして評価等良ければ宜しくお願いします+



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第五十七話

なんとか完成したので投稿です+
ただ…うん、自信ないや←←


 

──あの『マイソロ2』のカノンノ…イアハートが現れてから数日が経った。

何故イアハートが『ルミナシア』の世界に来たのかは…なんでも今『グラニデ』で使われているマナに変わる代替エネルギー…内燃式半永久機関の設計書を『グラニデ』から持って来てくれたからだ。

 

これが此方で完成すれば星晶の枯渇に苦しむ事は無くなり、星晶を巡る国同士の争いや、採掘による土地やマナの消費も解消されるかもしれないのだ。

 

改めて凄い事になったと想うけど…こんなハイスペック過ぎる物作れるのは…『グラニデ』でいうのならきっと『あの人』なんだろうなぁ、と自然と納得した。

 

 

それと…ニアタからの提案で、イアハートも暫くアドリビトムに加入する事になった。

なんでも、ニアタがイアハートにこの世界を見てほしいとか。

それで流石に彼女の事も『カノンノ』と呼ぶと混乱するので、彼女自身の提案で『イアハート』と呼ぶことになったのだ。

 

─────────────────

 

 

 

──そして今、僕達は何をしているかと言うと……

 

 

 

「燃え尽きろ…覇道滅封っ!」

 

 

「行くよ…バーンストライクっ!」

 

 

「……曼珠沙華…」

 

 

「太古の炎よ…エンシェントノヴァっ!」

 

 

『『『ギギギギギギィイィィィっ!?』』』

 

 

…鍛錬も兼ねて、コンフェイト大森林に異常発生した桜の樹を模した魔物『ブロッサム』を僕、カノンノ、メリア、イアハートで討伐…別名『桜狩り』していた。

うん…やっててあれだけど、オーバーキル過ぎるかなぁ…。

 

 

 

──────────────────

 

 

「…ふぅ…さっきので何体目だっけ…?」

 

 

「…ん…十九体目……」

 

 

星晶剣を納めて一息吐き今目の前で焼け焦げたブロッサムの群れを見て僕が言葉を出すと、近くにいたメリアが小さく頷いてそう答えてくれた。

 

 

「十九体…討伐目標数は確か二十体だったから、後一体だね」

 

 

「うん…それじゃ、早く後一体を探そうか」

 

 

メリアの言葉を聞いてカノンノが確認するようにそう言い、僕がそれに小さく頷いて答えた。

僕の言葉にメリアとカノンノが頷く中…ふと見ると、イアハートが反応すること無く僕の事をじーっ、と見ていた。

 

 

「?どうしたの、イアハート…?」

 

 

「ぇ…ぁ、うん…『向こう』でニアタから聞いてたけど、衛司って本当に強いんだね」

 

 

イアハートの様子に僕が小さく首を傾げて問うと、イアハートは僕を見たまま少し呆けると慌てて首を振ってそう言った。

うーん…そう言われると嬉しいけど、一体『向こう』のニアタは僕の事をどう伝えたのだろうか。

 

 

「うん…私も衛司と最近戦ってみたんだけど負けちゃったし…うちの衛司は強いんだよっ!」

 

 

「……自慢の彼氏…♪」

 

 

「あの…二人とも…褒めてくれるのは素直に嬉しいけど…正直恥ずかしい」

 

 

そんな事を考えていると僕の両隣に居たカノンノとメリアがまるで自分の事のように胸を張ってそう言った後、二人共ほぼ同時に僕の両腕に抱きついてきた。

いや、本当…嬉しいけど、今依頼中だからね二人共。

 

 

「あはは…モテモテだね、衛司君は」

 

 

「…すみません、ニヤニヤしながら言うのは本当に勘弁してください」

 

 

僕の両腕に抱きついた二人に苦笑いしていると、イアハートがその様子をニヤニヤとしながら見てそう言って来たので、思わずそう言葉を出す。

うん…なんでこう…彼女達は他に人が居ても此処まで積極的なんだろうか…。

 

 

「あ~ぁ…目の前でこんなに見せつけられるんなら、私も『彼』を連れてくれば良かったなぁ…」

 

 

「だからすみません…。…『彼』って前に言ってた…?」

 

 

「うん。私の大切な…『グラニデ』のディセンダーだよ」

 

 

ニヤニヤとしたままそう言葉を出したイアハートに思わず苦笑していると、不意に思い出した『彼』という単語に聞くと、イアハートはコクリと頷いてそう応えた。

一度、イアハートから聞いたけど…今の話から分かるように、どうやらイアハートは『グラニデ』のディセンダーさんと付き合っているらしい。

本当はその『彼』も連れてくるつもりだったらしいけど…なんでも『彼』指名の依頼が多くて一緒に来れなかったらしい。

 

 

「あ~ぁ…本当、こうやって平然と目の前でイチャつける三人が羨ましいなぁ~」

 

「本当に勘弁してください…。ほら、二人もまだ後一匹探さないと行けないんだからそろそろ離して…」

 

 

「……キスしてくれたら…離す…」

 

 

「あ、じゃあ私もメリアと一緒で♪」

 

 

「ちょ、二人共何を…っ!?あぁ、イアハートさんの目がなんかハイライト消えて凄く怖いことになってるから本当に離れてぇっ!!」

 

 

 

──この後、二人にはちゃんと離れてもらってブロッサム残り一匹を無事討伐しました。

え?別に何もナカッタヨー…。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「──あら、ちょうどいいタイミングで帰ってきたわね、衛司達」

 

 

「ただいま、アンジュ。ちょうどいいタイミングって…?」

 

 

──『桜狩り』を終えて船に戻るとアンジュとリタの二人がなにやら話しており、アンジュが僕達に気付いてそう言葉を出してき、僕は返事をしながらそう問い返した。

 

 

「いいタイミングっていうのはアンタ達が依頼にいってる間にドクメントの転写実験の準備が出来たのよ」

 

 

「準備が出来たって…完成したの?」

 

 

「それを調べる為の実験なんだけど…ちょっと問題があってね…」

 

 

リタの言葉にカノンノがそう言うと、リタはそう応えていって溜め息を漏らした。ちょっとした問題…?

 

 

「…ちょっとした問題って…?」

 

 

「…被験者になってくれそうな人がいないのよ」

 

 

メリアの問いにリタは溜め息混じりに額を抑えてそう言葉を出した。被験者になってくれそうな人がいない…まぁ仕方ないと言えば仕方ない、か。

ドクメントの転写…言葉で言ってしまえば簡単だけど、ドクメントとはその『モノ』の情報の塊…言わば『生』なのだ。それを『実験』で弄ってしまうとなれば、誰だって進んで被験者になろうとは思わないだろう。

 

…よし、それなら…っ!

 

 

「よし、じゃあリタ、僕が被験者に──」

 

 

「アンタは一番却下よ。ただでさえヤバいドクメントを弄ってどうするのよ」

 

 

「──……薄々わかってはいたけどせめて最期までいわせてよ」

 

 

言葉を言い切る前にリタに僕が被験者になる、という案を却下されてしまった。

いや、うん…確かに僕のドクメントでやるっていうのは確かに危険だから却下されるとは薄々考えてたけど…それなら被験者は一体どうすれば…。

 

 

「…あのっ!」

 

 

考えていると不意にカノンノが何か決心したような表情で大きな声を出した。皆の視線がカノンノに集まり、カノンノはそれが分かると静かに言葉を出した。

 

 

「…私がやるよ。…ダメ、かな?」

 

 

「カノンノ…本当にいいの…?」

 

 

決心した表情のままカノンノが出した言葉に、僕はカノンノを見たままそう言った。

さっき言ったとおり…もしドクメントの転写で何か起こってしまえば…。

 

カノンノは僕の言葉はコクリと頷いて口を開いた。

 

 

「うん。私は平気だよ。だって…メリアと繋がるだけだもの。恐くなんかないよ」

 

 

そう言ってカノンノはメリアの手を握るとにっこりと笑った。手を握られたメリアも、カノンノの意志が分かったのかカノンノの手を握り返して僕達を見てコクリと頷いた。

その二人の姿を見てリタが口を開いた。

 

「分かったわ、ありがとう。…それじゃ早速転写実験をするからカノンノとメリア…後一応衛司は研究室に来て」

 

リタの言葉に僕達は頷いて研究室に向かう…時だった。

 

 

「…衛司、ちょっと待って」

 

 

「イアハート…?」

 

 

リタ、カノンノ、メリアの三人が先に研究室に入った後、先程まで黙っていたイアハートが僕を呼び止めた。…一体どうしたのだろう。

 

「…ちょっと話があってね。…カノンノ…うん、やっぱり私とそっくりだよ。顔も、髪も、性格も…それに……『誰かの代わりに自分が出来るならやる』って所も…」

 

 

「イアハート…」

 

 

カノンノ達が入っていった研究室の方を見ながらイアハートは静かにそう言葉を出していく。

そういえば…彼女、イアハートも今のカノンノと似たように、『誰かの代わりに自分が出来るなら』、と何度か危ないことになっていた。それこそ…下手をすれば死んでいたかもしれない程に。

 

 

「私は『彼』が居たから、『彼』が支えてくれてたから今此処にいられるんだ。だから…もし彼女が本当に危なくなったら、君がちゃんと支えてあげてね。きっと…彼女にとって『あなた』が支えなんだから」

 

 

視線を研究室から僕に移し、真っ直ぐと僕を見てそう告げるイアハート。僕はそれにゆっくりと頷いて口を開く。

そんなの…当たり前である。

 

 

「うん。そんなの、当たり前だよイアハート。それに…『本当に危なくなった時』だけじゃないよ。僕はいつだって、全力で彼女を…ううん…カノンノとメリア…彼女達を支えるつもりだよ」

 

 

「…うん、よろしい。予想よりちょっと上目のカッコいい返事だったよ。…まぁ、私の『彼』の方がカッコいいけどね」

 

 

「ははは…それはちょっと残念」

 

 

イアハートを真っ直ぐと見返したままそう言葉を出すと、イアハートはにっこりと笑ってそう言った後少し胸を張って自慢するようにそう言葉を続け、僕はそれに小さく苦笑して言った後、改めて研究室へと入った。

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

「──遅かったわね。こっちは準備、終わったわよ」

 

「うん、ごめん。…これが…ドクメント転写機」

 

 

「そそ。その名も『トランスクリプタ』よ♪」

 

 

──研究室に入ると、そこには大きめな、人二人が乗れそうな機械…ドクメント転写機『トランスクリプタ』があった。

見るとリタの言うとおり、既にメリアとカノンノがトランスクリプタに立っていた。

 

 

「んじゃ早速…始めるわよ」

 

 

「はいっ!」

 

 

「…ん…っ!」

 

 

「それじゃあ…展開っ!」

 

 

ハロルドの言葉にカノンノとメリアは頷き、リタはそれを確認すると二人に両手を突き出しドクメントを展開させた。

するとカノンノの方からは以前見たのと同じドクメントが、そしてメリアからは…一度見たメルディや、今展開されているカノンノとは全く違う…輝くような金色のドクメントが現れた。

 

「これが…ディセンダーの…メリアのドクメント…」

 

 

「そんじゃ続けて…転写、開始っ!」

 

 

展開されたメリアのドクメントに見取れていると、ハロルドが続けてトランスクリプタを起動させる。

トランスクリプタが起動し始めると、カノンノとメリアの一番上のドクメントがまるで本当に一つになるように繋がりだした。

その時…僅かにカノンノが俯いた。

 

「ぁ……あぁぁ……」

 

 

「カノンノ……っ!」

 

 

「大丈夫…大丈夫だよ。私ね…、最もステキな事を…今から起こすんだ…」

 

 

僅か俯いたまま声を漏らしたカノンノに僕はカノンノを呼ぶ。

皆が心配そうに見る中、カノンノは俯いたまま小さく首を横に振ってそう言葉を出し、次第に俯いていた顔を真っ直ぐと上げて途切れながらも言葉を続けた。

 

 

「未来を創るんだよ…。未来を…みんなで…創るんだ…。みんながメリアみたいに、希望を灯していけるような未来を…」

 

 

真っ直ぐと上げた顔を一度メリアに向け、そう言葉を続けていくカノンノ。僕達はそれを聞きながら、メリアとカノンノを見守る。

そして、カノンノは再び顔を真っ直ぐと此方に向けて大きく声を出した。

 

 

「みんなが、輝けるように…っ!」

 

 

カノンノから出された言葉。そしてそれに応えるかのように…一際大きな光が研究室に起こった。

突然の光に僕は思わず目をつぶってしまうが、ゆっくりと目を開けると…そこには展開されていたドクメントの消えたメリアとカノンノの姿が見えた。

 

 

「…カノンノ、メリア…身体の方は…?」

 

 

「少しふわふわするけど…大丈夫みたい…」

 

 

「……私も…大丈夫……」

 

 

二人の様子を見ながら僕が問うと、カノンノとメリアはお互いを見合った後そう返事をした。うん…二人とも大丈夫そうだけど…問題は…。

 

 

「…ねぇ、実験は成功したわけ?」

 

 

「成功はしてる筈だけど、確認は必要ね。カノンノに能力が転写されてるか試してみないと何とも…。…少なくともカノンノの疲労もあるから、すぐには無理ね」

 

 

リタの言葉にハロルドはトランスクリプタを確認した後、カノンノの方を見て言葉を出した。

そんなハロルドの言葉にカノンノは少し無理しているように笑ってみせた。

 

 

「私は、別に…平気だよ…っぁ」

 

 

「カノンノ…あんまり無理したら…僕もちょっと怒るよ?」

 

 

「…ぅん…ごめん…」

 

 

無理に笑ったままそう言って立っていた場所から動こうとした瞬間、体勢が崩れて転けそうになったカノンノを支え、僕はそのままカノンノを見てそう言ってやった。

全く…本当に、無理して…。

 

 

「それじゃ、カノンノが回復するまで確認は無しね。私達はもうしばらくトランスクリプタを確認しておくから、衛司とメリアはカノンノを医務室に送ってあげてね」

 

 

「うん…わかった」

 

 

「ん…」

 

 

リタの言葉に僕とメリアは頷いて、僕はカノンノを背負い医務室へと歩き出した。

 

 

ドクメントの転写…無事に終わったけど…本題はまだここからなのだった。

 

 

 

 






──以上、第五十七話、如何だったでしょうか?

…うん、こんな出来で申し訳ない←



『イアハートさん』
イアハートの口調とか性格ってこれであってるのだろうか…。本編終了後以外では『マイソロ2』以来だったので不安すぎる…←
因みにイアハートさんにはやはりグラニデディセンダー君と付き合っていただきました+
登場はしないけどなっ!←

イアハート「こんなの絶対おかしいよっ!」

『カノンノとカノンノ』
イアハートさんが言ったとおり、シリーズ通してカノンノってなんでも背負いがちだよね、って話←
うちの衛司君もなんだかんだで自己犠牲型だし…大丈夫なのかこの作品の主人公とヒロイン←←


皆様良ければ感想やご意見、そして評価等宜しくお願いします+

キャラクター人気投票もまだ続いていますので、良ければ投票のご参加宜しくお願いします+


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第五十八話

大変遅くなってしまい本当に申し訳ありません;;
言い訳になりますけど…いや、うん…熱中症ってマジで死にかけるもんなんだね…。

ではでは本当に遅くなってしまいましたが…第五十八話、お楽しみ下さい+





 

 

「──本当にもう大丈夫なの、カノンノ?」

 

 

「うん。もう全然全快状態だよ」

 

 

 

──あのドクメントの転写実験から数日。カノンノは思っていたよりも早く復帰した。

見たところ彼女の言うようにもう大丈夫そうに見えるんだが…やっぱりまだ少し不安である。

 

 

「…ねぇ…やっぱり本当に大丈夫なの…?」

 

 

「もう…本当に大丈夫だよ。あんまりしつこい性格だと私、嫌いになっちゃうよ?」

 

「ぅっ!…それはごめん…」

 

 

僕の再度の質問にカノンノは小さく一度溜め息を吐いた後、少し頬を膨らませてそう言い、僕は頭に掻いてそう言った。

…うぅ、『嫌われる』という一言で聞くのを止めてしまうのもあれだけど…やっぱりカノンノの事が心配で仕方無い。

 

 

「…私もごめんなさい、ちょっと意地悪しちゃって…。でも本当にもう大丈夫だから…心配してくれてありがとう、衛司」

 

 

「カノンノ…」

 

 

僕を見て申し訳なさそうな表情を浮かべて少し俯いた後、そう言ってもう元気である、というように微笑んでみせるカノンノ。

その表情を見て、僕は少し嬉しくなりながら自然と手を伸ばしてカノンノの頭を撫でた。

 

カノンノは頭を撫でられるとすぐに嬉しそうな表情を浮かべ、その表情を見て『本当に大丈夫なんだな』と思うと同時に『もう少しこの表情を見ていたい』という思いも起こっていた。

そんな僕の思いに気付いているのかいないのか、カノンノは嬉しそうな表情のまま僕の顔を見つめ、僕もそれに少し微笑み、カノンノの顔を見つめていた。

お互いに見つめ合ったまま僕は自然と頭を撫でていた手を離し、そしてそのままカノンノを抱きしめようと手を伸ばし───

 

 

「──お二人とも…あのー…そろそろいいかしら…?」

 

 

「「うわぁっ!?」」

 

 

──かけた所で、ホールのいつもの定位置で僕達を見ていたであろうアンジュの声で、僕とカノンノは慌てて離れた。

いけない…忘れてたけどここホールだったんだ…。

 

 

「全く…二人とも数日ぶりだから分かるけど…イチャつくならもう少し周りを見てからイチャついて欲しいわね」

 

 

「べ、別にイチャついてた訳じゃ…」

 

 

「そ、そうだよ、別にイチャついてた訳じゃ…」

 

 

「…呼び出した人の事を放置して目の前で唐突に見つめ合って、人が止めなければそのままお互いに抱き合っていたかもしれない程のピンク色の特殊フィールドを出しておいてよく言うわね」

 

 

「「うぅっ…すみませんでした…」」

 

 

呆れた様子で言ってきたアンジュに僕とカノンノは慌てて首と両手を横に振るが、アンジュが深いため息と共にそう淡々と出した言葉に僕達は否定出来なくなり頭を下げた。

 

 

「本当に全く…二人ともわざとじゃなくて無意識でやってる所が質悪いわね…これでメリアもいたらどうなってたか…。とりあえず…早速例の転写実験が成功しているかどうか…それの確認の為の依頼を説明するわよ?」

 

 

僕達を見て再度深いため息を吐くと、アンジュは表情を真剣なものに戻してそう言い、僕とカノンノも表情を戻して頷き、アンジュの説明を聞いた。

 

 

 

───アンジュからの転写実験の確認依頼の内容とはこうだった。

まず向かう場所は『シフノ湧泉洞』。新しく出現したキバのある場所である。現在、そこでのジルディアの浸食が今最も勢いがあるらしく、カノンノにディセンダーの能力が転写されているかどうか試すならそこでやった方がいいらしい。

同行メンバーはカノンノは勿論の事で、もしもの時の場合にメリア、カノンノが安心して作業が出来るようにと僕、そしてキバがある場所の扉を開くためにシャーリィ、という四人である。

 

 

「──二人には先にちゃんと伝えてあるからあなた達の準備が終わり次第、シフノ湧泉洞に向かうわ。とりあえず後は…もしもサレが現れたら無理をせずにすぐに撤退する事。あなた達がそこで倒れたら…今度こそ此方も打つ手がなくなってしまうから」

 

 

「分かった。サレが現れるかは分からないけど、用心しておくよ」

 

 

真剣な表情のままそう確認するように告げてきたンジュに僕とカノンノは頷いて答えた。

──『狂風』サレ。いまだに打つ手は無く、もし妨害に彼自身が現れたら…今度こそ全滅は免れないだろう。

一番は妨害そのものが無いことだが…少なくともサレ自身が出てくる事が無いように願いたい。

 

 

僕達はそのまま少しこの実験の話をした後、準備をするために自室へと戻った。

この実験だけは…必ず成功させる為に。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「──気分は大丈夫、シャーリィ?」

 

 

「は、はい…。さっき真水に浸かりましたし…今はまだ大丈夫です」

 

 

──シフノ湧泉洞。そこのつい先ほどまで閉じられていた大きな門を超えた所で、僕はシャーリィに問い掛け、シャーリィはそれに頷いて応えた。

 

シャーリィは原作の『レジェンディア』と同じで海水に弱いらしく、このシフノ湧泉洞に来た時は洞窟内にこもった海水の潮気が原因で気分が悪そうであった。

シャーリィの容態に一度は帰ることも提案したんだけど…度重なる『キバ』の出現で、再び他の国々が争いを起こそうとする中、その解決策となる今回の実験に少しでも自分が手伝えるのなら、とそのまま進むことになった。

 

現在は彼女の言ったとおり…閉じられていた門を開けるために、シャーリィが門の裏側に繋がっている真水の水道を潜って来てくれたので、来た当初に比べれば断然顔色が良く見えた。確かにこの様子なら大丈夫そうだけど…。

 

「分かった…だけど、また気分が悪くなったらすぐに言ってね。シャーリィに何かあったら…色々大変だから…」

 

「ぁ…すみません…」

 

 

僕の言葉にシャーリィは察してくれたのか一瞬表情を変えて申し訳なさそうにそう言った。

そう…シャーリィに何かあったら本当に色々大変なんである…主に僕の命とセネルのテンションが。

 

 

「…そう言えば前に依頼でシャーリィがかすり傷だけど怪我したときに、セネルが一緒について行ってた衛司を襲ってたっけ。『アンタは一体何なんだぁーっ!』って」

 

「…実に理不尽そうだったけど…あの勢いのセネルはちょっと止めれなかった…」

 

 

「思い出させないでよ…本当に理不尽だったんだから…」

 

前を歩いていたカノンノとメリアが不意にそう思い出したように言い、僕も同じようにその時の事を思い出して溜め息を吐いた。

いや確かに…かすり傷程度だけどシャーリィに怪我をさせてしまったのは僕が悪かったけど……だからと言って、まるで親の仇を見るような目をして『お前は俺が倒すんだっ!今日!此処でぇっ!』と叫びながら魔神拳を連発してくるのは本当に勘弁して欲しかった。あの時クロエが止めに来てくれなかったらどうなってたんだろうと今でも思う。

 

 

「お兄ちゃんは本当にもう……本当にすみません…」

 

「いや、別にいいよ。あの時は僕もシャーリィに怪我させちゃって悪かったわけだし…セネルもあの『お兄ちゃんは心配なんです!』病がどうにかなればまともなのになー…」

 

 

『『『あははは……』』』

 

 

シャーリィが溜め息と共に再度申し訳なさそうに言い、僕がそれに首を振ってそう言うと皆がなんとも言えなさそうな表情で苦笑した。

 

僕達は暫くそんな話をしながらシフノ湧泉洞の奥へと進んだ。

 

 

────────────────────

 

 

 

「──ハァ…此処が中層の最深部…か…」

 

 

「…ハァ…ハァ…此処に…キバが…」

 

 

───あれから暫く進み、僕達は中層の最深部の広まった場所についた。

途中、やけに急な流れだった水流やジルディアの影響による異様な空気に足止めされかけた…なんとか辿り着く事が出来た。

それにしても…本当にあの急な水流はなんだったんだろうか…。

 

 

「!見てください、アレっ!」

 

 

「あの壁…ジルディアのキバだ!もうこんなに浸食が…!」

 

 

考えていると不意に届いたシャーリィとカノンノの声に改めて前を見ると…そこには壁のように立つジルディアのキバと、以前砂漠で見た以上にこの中層最深部の部屋を浸食し、白く染め上げられた光景があった。

…浸食が進んでるとは聞いてたけど…まさか此処までとは…。

 

 

「…皆…誰か…あそこで倒れてる…っ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

突然のメリアの言葉に彼女の視線の先を見ると…キバの直ぐ近くで二人程人が倒れていた。その姿は所々ジルディアの浸食を受けているのか、結晶化しているのが分かった。

とにかくあの人達が無事か確認しないとっ!

 

 

「(っ!主…待って下さいっ!)」

 

 

「っ!?ヴォルト…?」

 

 

「(この感じ…まさか…『彼女』まで…っ!)」

 

 

「ヴォルト…『彼女』って…一体…っ!?」

 

 

倒れている二人に駆け寄ろうとした瞬間、先程まで静かだったヴォルトが僕の中で声を上げ、僕が一体何事かと聞こうとした時…キバのすぐ近くにあった水場が突如渦を作り出し…その渦から『ソレ』は現れた。

 

 

「なっ…まさかアレって…っ!」

 

 

「っ!…浸食の影響なのか、それとも先にサレが手を打ってたのか…こんな時に…っ!皆…兎に角先にアレを止める必要があるみたいだよっ!」

 

 

突如現れた『ソレ』に皆が驚きの声を上げ、僕は慌てて皆に戦闘態勢を取るように告げる。

僕達のその様子を見て『ソレ』…身体の所々を結晶に侵されながらもわかる、一見剣士のように見える姿をした青の長い髪をした『彼女』は背中に背負った大剣を引き抜いた。

 

 

「(すみません主…どうか…彼女も…)」

 

 

「分かってるよヴォルト…倒れてる二人も…あの彼女も必ず助ける。だから…止めるよ、皆っ!」

 

 

『『『うんっ!(はいっ!/…んっ!)』』』

 

 

『──ハアァァァァァァァっ!』

 

 

僕達の声に『彼女』…『水』を司る大精霊『ウンディーネ』は、雄叫びと共に大剣を振り上げるのだった…。

 

 

 

 

 







──以上、第五十八話、如何だったでしょうか?

……うん、待たせといてこんな内容で申し訳ない←



【衛司とカノンノのイチャコラ】
なんか気付いたら指が動いてた←
真のイチャコラはきっと周りの目を気にせずイチャコラする事なんだろうね←

爆発しろよ←←


【セネルェ…】
セネルはシスコン(確信←)
ボコられる理由が実に理不尽である←←


【暴走ウンディーネ】
いつから精霊戦がイフリートで終わりだと錯覚していた←
というわけでイフリートに引き続き精霊ウンディーネが暴走状態で登場です+
原作だとこの場面でボス戦は無いのですが、流石にキバの前に門番的な物を置かないのもアレですし、サレの影響もあって彼女に登場していただきました。
因みにウンディーネのイメージは『テイルズオブファンタジア』のバージョンをイメージしていただければ良いです+


皆様、良ければ感想、御意見、評価等宜しくお願いします+


さて…では最後に以前アンケートを取った人気キャラクターの結果発表を致します+
アンケートに参加していただいた方、本当にありがとう御座いました+
では、結果発表をば…





第一位……メリア


第二位……カノンノ・グラスバレー


第三位……乾 衛司


…と、なりました+
皆様アンケートご協力、本当にありがとうございました+


カノンノ「解せぬ」(←メインヒロイン


メリア「…………(ドヤァッ」(←サブヒロイン




次回は暴走ウンディーネ戦となります+
次回こそはもっと早く更新出来るよう頑張ります!
ではまた、次回+


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第五十九話



なんとか完成出来る事が出来たので投稿です+

ただ…今話、深夜中に仕上げたから大部文章や展開が変になってるかも…←


皆様、広い心で読んでやって下さい(ガタガタ←


後…この作品も他の方の作品を見習って一話一話のサブタイを変えた方がいいですかね…?




 

 

 

 

『──ハアァァァァァァァッ!』

 

 

「っ!ライトニング・シェルっ!」

 

 

──僕の目前で振り上げた大剣を勢いよく振り下ろす剣士姿の水精霊『ウンディーネ』。その振り下ろされた大剣からは数発の水の刃が弾き出され、僕は皆の前に立って『ライトニング・シェル』を展開させてそれを防ぐ。

 

 

「衛司っ!」

 

 

「くっ…流石は大精霊…魔神剣っ!」

 

 

水の刃をライトニング・シェルで防ぐ事は出来たが、『水』を司る大精霊というだけあり、刃を防いだ位置のシェルの膜に僅かにヒビが残されており、それに気付いたカノンノが声を上げる。

僕はそれに大丈夫、と答えるようにカノンノの方に一度頷くとウンディーネに向き直り、木刀を振って斬撃『魔神剣』を飛ばす。

 

 

『ヌゥ…ハアァァァァァァァっ!』

 

 

僕の飛ばした魔神剣に、ウンディーネは再び大剣を振り上げ、振り下ろしをして水の刃を飛ばし、相殺してきた。

…やっぱり簡単に通るわけないか…。

 

 

「衛司さん…一体どうすれば…」

 

 

「そうだね…それじゃ、シャーリィとカノンノは後方で援護を…メリアは僕と一緒に前衛で…いいかな?」

 

 

「うん…了解したよっ!」

 

 

「…んっ!」

 

 

魔神剣を打ち消し、大剣を構え直すウンディーネの姿に、シャーリィが武器である羽ペンを構えつつも不安そうな表情を聞いてき、僕が視線をウンディーネに向けたままそう指示を出す。

シャーリィとカノンノを後衛においたのは、シャーリィは攻撃魔法の殆どが水属性である為、ウンディーネとの相性が悪いのと、カノンノは今回の作戦の要であるため、出来る限り彼女の体力の消耗は避けたいからだ。

 

 

『フゥゥゥゥッ!』

 

 

「メリア…初めての精霊戦で主に戦えるのは僕達二人だけど、大丈夫…?」

 

 

「…んっ…衛司と一緒なら…大丈夫…っ!」

 

 

シャーリィとカノンノを下がらせ、前にでた僕とメリアに威嚇するように低く唸るウンディーネ。その様子を見て木刀を構えたままメリアに聞くと、メリアは短刀を逆手に構えてそう応えた。

やれやれ…そう言われたら…僕も頑張らないとねっ!

 

 

「それじゃ…いくよっ!」

 

 

「…んっ…!」

 

 

『ヌ…ウゥゥゥゥッ!』

 

 

僕の声にメリアはコクリと頷き、僕達はほぼ同時にウンディーネに向けて走り出す。ウンディーネは僕達が自分に向かってきたと認識し、構えていた大剣を勢いよく振り上げる。

 

 

「そうはさせないよ…魔神剣っ!」

 

 

『ヌゥ…ハァッ!』

 

 

ウンディーネの行動に僕は再び魔神剣を飛ばすと、ウンディーネはそれを見て再び相殺するために大剣を振り下ろして水の刃を飛ばした。

やっぱり相殺されるか…けどっ!

 

 

「メリアっ!」

 

 

「……苦無閃…《嵐》…っ!」

 

 

僕の声を合図に僕と一緒に走っていたメリアがその場を跳び、大剣を振り下ろしたままのウンディーネに向けて無数の苦無を一斉に投げる。

大剣を振り下ろした直後だ…流石に防ぎきれないはず…っ!

 

 

『フゥゥ…ハアァァァァァァァっ!』

 

 

「……え…っ!?」

 

 

「はぁ…っ!?」

 

 

防ぎきれないと思っていた直後、ウンディーネが雄叫びと共に振り下ろした大剣を再度振り上げた瞬間、振り上げた地面から水の壁が吹き上がり苦無を弾き飛ばした。そのまさか過ぎる行動に僕とメリアは思わず驚愕の声をあげてしまう。

 

 

『フゥゥゥ…アァァァァァっ!!』

 

 

「っ!まず……っ!」

 

 

僕達が驚いていた中、ウンディーネは大剣を振り上げたまま突如、僕の目前まで跳び僕に向けてその大剣を振り下ろしてきた。

僕は木刀で防ごうとした瞬間、そのウンディーネの勢いに木刀だけでは防ぎきれないと判断して瞬時に背中から星晶剣を引き抜き、木刀と交差させて大剣を防ぐ。

 

 

『ヌッ…ゥゥゥゥッ!』

 

 

「くぅっ…それでも…重…っ!」

 

 

振り下ろされた大剣をなんとか防ぐ事ができたが、ウンディーネは僕が防いだことで、防いでいる大剣に更に力を込めてくる。

 

 

「衛司さん!援護します…チアリングっ!」

 

 

「っと…!ナイスだよ、シャーリィっ!」

 

 

ウンディーネに後少しで力負けされかけた瞬間、後方からシャーリィの声が上がり、同時に少しだが身体の力が上昇する──攻撃力上昇魔法『チアリング』がかかった感覚がした。

僕はシャーリィにそう言うと、上昇した力を木刀と星晶剣に込めてウンディーネの大剣を弾き返した。

 

 

『ヌゥ…ッ!?』

 

 

「この隙に…霧沙雨っ!」

 

 

『グッ…ヌゥゥゥゥッ!?』

 

 

大剣を弾き返した事にウンディーネは驚愕の表情を見せ、僕は大剣を弾き返した事によってできたウンディーネの隙に木刀と星晶剣の二刀による連続突きを放つ。

 

 

「…続ける…鬼炎連脚…」

 

 

『グッ…ゥゥゥゥッ!』

 

 

僕の放つ霧沙雨を受け僅かに態勢が崩れていくウンディーネ。その勢いを続けるかのように、メリアが瞬時に僕に続けてウンディーネに跳び、炎を纏った連続蹴りをウンディーネに放つ。

霧沙雨を既に受けていたウンディーネはそれに対応する事が出来ず、炎の連続蹴りはウンディーネに直撃する。

 

 

「氷結の棺よ、我が敵を包みて凍りつかせ……二人とも、下がってっ!」

 

 

「了解っ!」

 

 

「…んっ…!」

 

 

『ググッ…ヌゥ!?』

 

 

度重なる攻撃に体勢の崩れるウンディーネ。それと同時に後方からシャーリィの時と同じようにカノンノの声があがる。僕とメリアはその声を合図に後方に下がると、ウンディーネの上空に巨大な氷の棺が姿を現し、ウンディーネはそれに驚愕の表情を出す。そして今…体勢の崩れているウンディーネにそれを防ぐ間は無かった。

 

 

「落ちて…インブレイスエンドっ!」

 

 

『ググッ…アァァァァァッ!?』

 

 

カノンノの声と共にウンディーネに向けて落ちる氷結の棺。ウンディーネはそれに為す術なく押し潰され…落ちた位置には強烈な冷気によって凍り付いた地面と、それが直撃し、地面同様凍り付いたウンディーネの姿が残った。

 

「…倒せた…んでしょうか…?」

 

 

「あくまで凍ってるだけだからね…。まだジルディアの浸食を止めないと…」

 

 

「(…!主、まだですっ!)」

 

 

凍り付いたウンディーネの姿にシャーリィがそう言葉を出し、僕はシャーリィの方を向いて言いかけるが、体内のヴォルトの声にウンディーネの方に向き直る。

 

 

『───ヌゥゥゥゥ…オォオォォォォォッ!』

 

 

突然、凍り付いているウンディーネから雄叫びが上がり出し、それが次第に大きくなった瞬間、ウンディーネの氷にヒビが入り…そしてより一層強い雄叫びと共に様々な色の輪を身体の周りに現したウンディーネが凍り付かせた氷を砕き、現れた。

 

 

「なっ…限界突破《オーバーリミッツ》かっ!」

 

 

『ヌゥゥゥゥ…アァァァァァッ!』

 

 

「…衛司…来る…っ!」

 

 

氷を砕いたウンディーネの様子にオーバーリミッツしたと分かり、直後ウンディーネは体勢を低く構えた後、オーバーリミッツで強化されたであろう脚力で此方にむけて一気に跳んでき、メリアの声で僕は直ぐ様ライトニング・シェルを張るために右手を前に出す。

 

 

「ライトニング・シェル…──『ヌアァァァァァッ!!』──なっ!?」

 

 

ライトニング・シェルを展開は間に合い、ウンディーネの振り下ろしてきた大剣は防いだ…筈であったが、ライトニング・シェルはその防いだ筈の一撃で簡単に砕かれ、そのまさか過ぎる威力に僕は思わず驚愕し、次の対応に遅れてしまった。

 

 

『ヌゥゥゥゥ…ォオォォオッ!』

 

 

「ぐぅっ!!」

 

 

「衛司っ!」

 

 

対応の遅れた僕に向けて雄叫びと共に放たれる強力な蹴り。オーバーリミッツで強化されている事もある為かその強力な蹴りは防御の遅れた僕を上空へと打ち上げた。

カノンノから僕を呼ぶ声が上がり、僕は上空でなんとか体勢を戻そうとしたが…その隙をウンディーネは逃がさなかった。

 

 

『ヌゥゥゥゥアァァァァァッ!』

 

 

「くっ…ライトニング・シェルゥッ!!」

 

 

大剣を地面に突き刺し、地面をすくい上げるようにウンディーネが大剣を奮うと、その地面から僕に向けて水で造られた小さな竜が五つほど放たれ、僕はそれに体勢を戻しながらライトニング・シェルを再度展開させて防ぐ。

 

 

「このくらいなら…まだ…っ!」

 

 

『ヌアァァァァァッ!!』

 

 

「っ!うぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

展開させたライトニング・シェルで五つの水竜を防ぎきったがその直後、ウンディーネが六つ目の水竜を作り上げ、それに乗って水竜と共に僕に向けて大剣を奮ってきた。

既に五つの水竜を防いだ事で薄くなったライトニング・シェルの膜は六つ目の水竜の突撃で破れ、防御の膜のなくなった僕にウンディーネの大剣が完全に直撃した。

自分が『斬られた』という感触と激痛に僕は思わず悲鳴をあげて地面へと叩きつけられる──

 

 

「…衛司ぃいぃぃぃっ!」

 

 

「ぁぐっ…メリ、ア……っ」

 

 

──直前、メリアが叩きつけられる筈だった僕の身体を受け止めてくれた。

メリアは僕の斬られた位置を見るとカノンノとシャーリィの方へと一瞬で跳んだ。

 

 

「…カノンノ、シャーリィ…衛司を…っ!」

 

 

「っ…は、はい…直ぐに回復を…メリアさんは…」

 

 

「……私は…アイツを…っ!」

 

 

「──待って、メリア」

 

 

受けたダメージのせいか上手く見えないが…僕の傷を見てシャーリィが慌てて僕に回復術をかけだし、メリアは再びウンディーネに向かおうとした時…カノンノがメリアを止めた。

 

 

「メリア…私が行くよ」

 

 

「…でも…カノンノは…っ!」

 

 

カノンノの出した一言にメリアは言いかけるが、カノンノの表情を見てメリアは言葉を止めた。

今の僕にはよく見えないが…ただ分かったのは…あのカノンノが明らかに『怒っていた』。

 

 

「ぅっ…カノン…ノ…っ」

 

 

「大丈夫だよ衛司。私…絶対成功させるから」

 

 

僕の方を見てカノンノはニッコリと笑いそう告げると、彼女は自分の周りに様々な色の輪…ウンディーネ同様『オーバーリミッツ』を発動させた。

 

 

『ヌゥゥゥゥ…ッ!』

 

 

「ウンディーネ…アナタのせいじゃないって分かってるけど…今は…本気で行くよっ!」

 

 

既にオーバーリミッツの効力が切れたウンディーネはカノンノの姿を見て警戒を高め、カノンノはそれに対して静かにそう言うと、ウンディーネに向けて上昇した脚力で接近した。

 

 

『ハアァァァァァァァッ!』

 

 

「やあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

接近するカノンノに水の刃を飛ばすウンディーネ。だがカノンノはその水の刃に怯むどころか手にする大剣の一振りで水の刃の一つを弾き飛ばし、そのまま一気にウンディーネの懐に飛び込んだ。

 

 

「獅子…戦吼っ!」

 

 

『グゥッ!?』

 

 

跳び膝蹴りの形でカノンノの膝から放たれる獅子の闘気。それを懐に受けウンディーネは吹き飛ぶが…カノンノは止まらない。

 

 

「更に…フラッシュティアっ!」

 

 

『ゥグッ…アァァァァァッ!』

 

 

オーバーリミッツによって詠唱をほぼ破棄して吹き飛んだウンディーネに続けて地面から光の陣を出現させ、ウンディーネを捕らえ衝撃を起こすカノンノ。

度重なる攻撃に声を上げるウンディーネ。そのウンディーネに向け、光の陣が消えた瞬間カノンノは再び一気にウンディーネの懐に飛び込み、右手を空へと向けて掲げる。

 

 

「これで終わりにするよ、ウンディーネ。永遠という瞬間の中に…響いて、私の…愛の鼓動っ!」

 

 

右手を掲げたままゆっくりと目を閉じて言葉を出していくカノンノ。その声に答えるかのようにカノンノの周りに光が集まりだし…彼女の髪飾りを表す紅葉のような魔力が彼女の周りを舞い踊る。

その独特な景色に、姿に…シャーリィの回復術によって戻りだした視覚で…彼女はソレにみとれてしまった。

そして…カノンノは閉じていた目を開け、声を上げた。

 

 

「これが私の…ラブ・ビートっ!!」

 

 

『グ…ゥゥッ…アァァァァァッ!!?』

 

 

カノンノの言葉によって彼女を中心にして巻き起こる強力な魔力の衝撃波の渦。それを自分の懐から受けたウンディーネはその衝撃波の渦へと巻き込まれ…悲鳴のような雄叫びと共に地面へと叩き付けられた。

度重なる攻撃と最後の衝撃波の渦により、地面に叩き付けられたウンディーネは再び立ち上がりことはなく…戦闘不能となり…そしてそれを合図にするかのように、カノンノの両手が光り出し…『ディセンダーの力』が発動された。

 

 

辺りが光に包まれていく中…僕は場違いながらも静かに思った。

 

 

…なるべくカノンノは怒らせないようにしよう、と。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

──視界全てを包んでいたディセンダーの力の輝きが徐々に収まっていき、視界が戻ると目に映ったものは…目前にそそり立つキバ以外、先程までジルディアの世界に浸食されていた大地と、倒れていた二人…そして倒れているウンディーネが元の状態に戻っている姿であった。

 

 

「凄い…元に…皆元に戻ってるっ!」

 

 

「やった…成功したんだ…っ!」

 

 

周りの景色を見回し、元に戻っている事に声を上げるシャーリィと、その言葉で改めて自分が成功させたことを認識して声を出すカノンノ。

良かった…本当に成功したんだ…。

 

 

「……衛司…この二人…」

 

 

「この二人って…!この人達は…っ!」

 

 

不意に、メリアが倒れていた二人を確認していると僕を呼び、僕はメリアとその二人を見ると思わず声を上げてしまった。

その独特的な揃いの服装と、嫌に頭に残っていた二人の顔。見間違うこと等ない…この二人は以前…僕達が闘ったラザリスの力を受けた『暁の従者』の二人組だっ!

見たところ二人とも生きてはいるみたいだけど…先程までジルディアの世界の影響を受けていた為か酷く衰弱していた。

 

 

「……どうする…?」

 

 

「勿論…二人とも助けるよ。放ってなんていけないからね…っと」

 

「(主…よければウンディーネの方も…連れて行って構わないでしょうか?)」

 

 

二人の容態を見てメリアは静かに聞いてくると僕はメリアにそう答え、片方の暁の従者の人を背負った。

メリアは僕のそれを見てしばらくもう片方の暁の従者を見ると、僕と同じように背中に背負い始め、それに合わせるように僕の中のヴォルトがそう聞いてきた。

 

見ると、ウンディーネは確かに元の姿に戻ってはいるが、従者の二人同様ジルディアの浸食を受け、尚且つ先程までの戦闘もあってかいまだに目を覚まさず倒れたままで居た。

 

 

「…流石に倒れたままでおいていくのもアレだし…いくら治したとは言えまた浸食の影響を受けるかもしれないからね。うん…一旦彼女も連れて行こう」

 

 

「(ありがとうございます…。では、彼女は私が連れて行きましょう)」

 

 

「うん。…よし、それじゃあ皆、成功の報告もあるしバンエルティア号に戻ろう」

 

 

僕の返答を聞いてヴォルトはそう言うと、僕の身体から現れウンディーネを抱え上げた。

僕はヴォルトのその様子を確認すると皆に向けてそう言い、皆はそれに頷いて出口に向けて歩き出した。

 

『ディセンダーの力』の転写。それが成功し、僕達はジルディアへの、ラザリスへの対策手段の一つが出来たのだった。

 

 

ただ…その時…僕は気づいていなかった。

 

 

 

僕の腰に納めた『世界樹の木刀』が僅かに…本当に僅かに……。

 

 

 

───『ピシリ』と音を立てた事に…。

 

 

 

 

 

 








──以上、第五十九話、如何だったでしょうか?

…うん、こんな内容でごめん←



【暴走ウンディーネ】
自分でもビックリするぐらい勝手に大剣振り回してくれた←
本当ならインブレイスエンドで終わる予定だったんだぜ?←

因みに今回は戦闘不能後浄化では気絶したままバンエルティア号搬送になりました。
ぶっちゃけると…どんなキャラにするか決まってないっていう←

…どんなウンディーネにすっかなー…←


【キレたカノンノ】
ビックリするぐら(ry←
大人しい女の子って、一度怒らせるとヤバいんだよっていう話←
後、彼女の秘奥義である『アンチェインド・ノート』ってこんな感じの描写でいいのかな…不安だわ。

因みに『愛の鼓動~…』は勝手に私が想像してつけてみた←


【木刀】
一応伏線。切り離されてるとはいえ、この木刀も一応『世界樹』から作られたものですからね…。
因みにこの『ピシリ』に衛司が気付かなかったのは本当に僅かすぎる程の音だからと認識していただければ良いかと…。
無理やりですみません;;


次回はウンディーネや従者との会話になると思います。
なるべく早く投稿できるよう頑張ります


後…そろそろ一旦オリキャラとか登場未参戦キャラクターとかのキャラクター設定のまとめを書いた方がいいかなー…。



よければ感想、ご意見、評価等宜しくお願いします+



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第六十話




今回は早く完成したので投稿+


だが結果がこれだよっ!←


深夜帯のテンションって恐いわー…。



今回かなりぐだぐだかつ、展開変かもしれません…;;


それでもよければ見てやってください;;






 

 

 

 

 

「──話は聞かせてもらった。どうやら、余が意識がなかった間にそなた等には迷惑をかけたようだな。…すまなかった」

 

 

──あれから数日して、僕達が救出したウンディーネと暁の従者の二人は無事目を覚ましたという事を聞いた。

そして今、ホールにて僕達にそう言って頭を下げるのは水色に近い色をした髪をポニーテールにした剣士姿の女性…僕達が闘ったウンディーネであった。

 

 

 

「いえ…僕達は出来ることをしたまでですから…だからわざわざ頭を下げないでください」

 

 

「ふむ…そうか。すまかったな…あのジルディアのキバなるもの…警戒はしていたのだが、あれが現れたと同時に余の意識も無くなってしまってな…どうも、その時にあのジルディアに取り込まれてしまったようだ」

 

 

僕の言葉にウンディーネは頭を上げると、溜め息を一つ吐いて申し訳なさそうにそう言った。

 

 

「『現れたと同時に』かぁ…ジルディアの浸食も大分進んできてるみたいだね…」

 

 

「…うん。…それでウンディーネ…僕達はアナタをアナタの意思とはいえ関係無く此処に連れては来てしまったんだけど…アナタはこれからどうするんですか…?」

 

 

ウンディーネの話を聞き、大精霊すら簡単に浸食出来るようになったジルディアの力に僕の隣に立つカノンノが少し不安そうに言葉を出し、僕はそれに小さく頷いた後改めてウンディーネにそう聞いてみた。

僕の問いにウンディーネは「ふむ…」と呟き考える仕草を見せ、少しして今このホールにいるアンジュ、ヴォルト、メリア、カノンノ…そして僕を順番に見ると小さくコクリと頷いて口を開いた。

 

 

「…決めたぞ。そなた等が良ければ、余もこの船に居座らせてもらいたい」

 

 

「あら…此方としたら嬉しい限りだけれど…構わないの?」

 

 

「うむ。あの厄介なるキバがある以上、元の場所には戻れんし…かと言って他に宛がある訳でもない。そなた等には恩があるし…此方を余が手伝うには当然であろう?それに……」

 

 

ウンディーネの出した言葉にアンジュがそう確認するように問うと、ウンディーネはコクリと頷いてそう言っていくと不意に僕の方に向けて真っ直ぐと指を指し、言葉を続けた。

 

 

 

「余は…そなたとの再戦を所望する」

 

 

「…へ?…僕っ!?」

 

 

ウンディーネの出した一言に、指名された僕は一瞬理解できず、そして理解したと同時に思わず声を上げてしまった。

周りを見るとアンジュ達もウンディーネが僕を指名した事にそれぞれ少し驚いたような表情を見せていた。

そんな僕達にウンディーネは僕を指差したまま頷く、指した指を下げて腕を組み口を開いた。

 

 

「うむ。聞けば…余が正気ではなかった時、余はそなたを斬り伏せたと聞いた」

 

 

「う、うん…確かに僕はあの時、ウンディーネに斬られて負けちゃったけど…」

 

 

「余はそういうのは好かん。相手を負かしたとしても…それが自身の力では無いなら『勝った』という訳にはならん。ので…余とそなたが『全快』で闘えるようになった時には…余はそなたとの再戦の所望する」

 

 

腕を組んだまま僕を真っ直ぐと見て淡々とそう言っていくウンディーネに、僕は思わずなんとも言えない表情になってしまった。

うーん…まぁ…そういう事なら僕も喜んで再戦を受けるけど…。

 

 

「ふむ…いかんかな?」

 

 

「ぁ、いや…僕なんかでよければ喜んでだよ」

 

 

「うむ、そう言ってもらえてなによりだ。…よし、気に入った。そなた…衛司だったな。もしそなたとの再戦でそなたが勝った時は…余はそなたと契約を結ぶと約束しよう」

 

 

「えっ!?」

 

「…な、何を言っているのです、ウンディーネっ!?」

 

 

僕の返答を待つウンディーネに僕は小さく頷いて応えると、ウンディーネはクスリと笑った後小さく頷いてそう言ってきた。

ウンディーネのその言葉に僕達は再び驚いてしまうが…何故かヴォルトが一番驚いた様子で声を上げた。

 

 

「ふむ?何か問題でもあるか、ヴォルト」

 

 

「問題大有りですっ!あなたも主の『状態』が見えているのでしょう!主の体では今、私一人との契約が限界なのです…アナタが入る所などありませんっ!」

 

 

「うむ、知っておる。だから余はその衛司の『状態』が『全快』の時に、再戦を所望すると言っているのだ。その時ならば、余のスペースもあるであろう…?」

 

 

「っ…そ、それは…」

 

 

小さく首を傾げるウンディーネにヴォルトが珍しく声を上げて抗議をする。そんなヴォルトにウンディーネはコクリと頷きそう淡々と言っていき、ヴォルトはそれに口ごもった。

というか…ウンディーネの言った『全快』ってそういう事だったのか…。

 

 

「そもそも…何故余が衛司と契約を結ぶ事にそこまで抗議する?気に入った者と契約するのは、精霊として当然であろう…何か悪いか?」

 

 

「そ、それは……あ、主は…主は…っ」

 

 

彼女にしては珍しいまでの否定的な様子に僕はヴォルトを見ていると、ウンディーネもその事が気になったらしくそう問いただした。ヴォルトはその言葉に口ごもりながら僕の方を見る。

そのヴォルトの様子に僕や今この場にいる皆がヴォルトを見て、ヴォルトはその事に少し俯くと少しして直ぐに真っ直ぐと顔を上げて口を開いた。

 

 

 

「あ、主は…主は私の…私だけの主なのです…っ!他人に譲る気などありませんっ!…主っ!」

 

 

「へ…ヴォルとぉっ!?」

 

 

「あっ!?」

 

 

「…む…っ!」

 

 

「あらあら…」

 

 

「ほぅ…」

 

 

真っ直ぐとウンディーネを見てそう言った直後、ヴォルトが僕を呼び見ると…突然ヴォルトが僕に向かって跳び…その…口付けをされた。

突然のソレに僕は対応できず口付けをされ…見える限りカノンノとメリアの表情が変わり、アンジュは何か微笑ましいものを見るような表情を、ウンディーネは珍しいものを見るような表情で僕達の事を見ていた。

えっ…あれ…本当にどういう事っ!?

 

混乱したままでいると少ししてヴォルトは僕から唇を離しジッと僕を見ると静かに口を開いた。

 

 

「んっ…主…突然申し訳ありません…ですが…これが私の…主への気持ちです」

 

 

「ヴォ…ヴォルト…」

 

 

「主…主は…私だけの大切な主なのです…っ!他の契約など…私は認めませんから…っ!」

 

 

真っ直ぐを僕を見たままヴォルトはそう言い、一度ウンディーネを睨むとそのまま僕の中へと消えていった。本当に突然だったその一部始終に周りは静まり…僕は自然と先程の感触が残っている自分の唇へと触れた。

へ…僕…いつ間にヴォルトにそんな風に想われてたんだろう…。

 

 

「…フフ…ハハハっ!いやいや面白いものが見れた。余はますます気に入ったぞ、衛司よ。フフ…これは余も負けてはおられんな。衛司よ…再戦の時、楽しみに待っておるぞ。それでは…アンジュよ、船の中を案内してもらえぬか?」

 

 

「あら、そうね…それじゃ、此処は残りの三人で『ゆっくり』と話し合ってもらいましょうか」

 

 

ウンディーネとアンジュがそう言い、ホールから出て行くと同時に…僕は思い出すように…思い出してしまったようにカノンノとメリアの二人を見た。

 

 

 

「ふふーん…衛司…ちょっと『お話し』しよっか♪」

 

 

「…えー…いー…じー…♪」

 

 

清々しいまでに…笑顔の二人がそこにいた。

うん…死んだな、これ。

 

 

「えっと…お二人とも…これは僕にも上手く理解出来ていなくてですね…」

 

 

「うん、衛司の言いたい事は分かるから…とりあえずちょっとそこ座ろうか♪」

 

 

「…衛司…大丈夫…痛くはない…♪」

 

 

「……はい…」

 

 

──この後、僕は小一時間彼女達と話し合う事になった。

…人間、笑顔がいちばん恐いんだね。

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

──小一時間後…僕はようやく彼女二人からの笑顔の『お話し』から解放された。

笑顔って安心する以外に恐怖も感じるものなんだ、と改めて知った小一時間であった。

『お話し』して分かった事だけど…カノンノとメリアの二人はヴォルトの気持ちの事は薄々わかっていたらしい。改めて…言われたり、行動されたりしてようやく気付く僕は本当に…鈍感なんだなー、と認識した。

 

結局…彼女達の『お話し』の結果、カノンノとメリアは皆ちゃんと平等に想うことに、ヴォルトは暇なときに愛でてくれればいい、という事に決定した。

うん…皆がそれで納得してくれるなら僕はいいんだけど…もしこれにゆくゆくはあのウンディーネが混ざってしまうと考えると…なんだか不安になってきた。

 

 

さて…一応先程までの事をまとめて見たけど…今、僕はというと…。

 

 

 

「「──本当に…申し訳なかった」」

 

 

…僕達が助けた暁の従者の二人に頭を下げられていた。うん…今日はよく他人に頭を下げられるなー…。

聞いた話だが…この二人があのシフノ湧泉洞で倒れていたのは、どうやらこのアドリビトムに接触したかったらしく、アドリビトムと連絡を取っている村に向かう途中、シフノ湧泉洞でのキバの出現に巻き込まれてしまったかららしい。

そして、この二人がアドリビトムに接触したかった訳は…今僕達が探しているウズマキフスベのドクメント…それが残っているかもしれない切り株を僕達に届ける為だったとか。

 

「お、お二人とも…とりあえず頭を上げてください」

 

 

「いえ…これは私達が君にあったらまずするべき事だと決めていた事なんです」

 

 

「…我々は君が言っていた通り…最低な人間であった。自らで何かしようとも考えず…結局生まれたばかりであったラザリスに…我々は頼り、力を自分の良いように扱ってしまっていた」

 

 

僕の言葉に頭を下げたままそう言っていく暁の従者の二人。しばらくして二人は顔を上げると真っ直ぐと僕を見た。

 

 

「あの時はまだ混乱していたが…あの君の言葉で…我々も生き方を変えようと決めました。もう…誰かや何かに頼るのではなく、自分達で世界を守ろう、と」

 

 

「なにより…私達が一番恨んでいたウリズン帝国が変わり…まさか我々にも謝罪をしてきたのです。それで私達が変わらなければ…私達は本当に、ただの最低な人間ですから」

 

 

「…そうですか。…うん…やっぱり…人は変われるんですね」

 

 

真っ直ぐと僕を見たままそう言葉を出す二人。その表情は以前見たものとは全く違い…本当に変わったんだと認識できた。

そんな二人の姿を見て自然と僕がそう言葉を出すと…二人は頷いて僕に右手を差し出してきた。

 

 

「これは一つお願いなのですが…我々と握手をしてもらっても構わないでしょうか?」

 

 

「え…?」

 

 

「これも以前から決めていた事なんです。我々が変われるようになったきっかけはアドリビトムの皆さんや君の言葉なのです。だから…我々の出来る、一つの感謝の証です」

 

 

「…はい…っ!」

 

 

僕を見たまま慣れていないのか少し照れ臭そうにそう言って笑ってみせる暁の従者の二人。その二人の言葉と姿に僕も笑って頷くと伸ばされたその手を握った。

 

 

──人は変われる。なにがあろうと、変えていくことは必ず出来る。

その事を…僕は二人の手を握りながら改めて思った。

 

 

 

 

 

 








──以上、第六十話、如何だったでしょうか?


うん、こんな内容でゴメン←
深夜帯のテンションって本当に恐いわー←


【ウンディーネ】
色々考えた結果、ウンディーネの性格や口調はこんな感じになりました。
清々しい程にバトルマニアですね、本当にありがとうございます←

因みにウンディーネさんの容姿は某リリカルな魔法少女のバトルマニア騎士さんの水色バージョンと考えてもらえればいいかと←


【ヴォルト】
気付いたらなんか指が動いてた←
当初はただの主従関係と考えてたんですが…なにがどうしてこうなったし←
深夜帯のテンションって本当恐い←

とりあえず衛司、爆発な☆←←



【暁の従者二人】
特に書くこと無し←←←



次回はちょっと未定の為遅れてしまうと思います;
一応イメージでは鍛錬パートと、順番通りにケイプレ殺りにいくか、はたまた跳ばして封印次元の展開…『ヤツ』との最終対決を書くかと考え中。

どうするかなー…。


皆様よければ感想、御意見…そして評価等宜しくお願いします+


ではまた、次回+


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IF閑話─番外編フェイスチャット集─



本編があまり上手く進めれていないのでちょっとした気分転換的な小ネタフェイスチャット集です+


会話オンリーなので、「」の前に名前があったりしますので、そこの所ご了承下さい;


後…キャラ崩壊(?)があったりするのでそこもよければご了承下さい←





 

 

 

 

【どこが好き?─カノンノ編─】

 

 

衛司「ねぇ、カノンノ。…カノンノって、僕のどこが好きになったの…?」

 

 

カノンノ「ふぇっ!?ど、どうしてまた急に…」

 

 

衛司「いや、その…僕って誰かに好きって想われるのは初めてだったから…ちょっと気になって…」

 

 

カノンノ「うーん…。私が衛司を好きになった所は…やっぱり優しい所かな。私の絵を信じてくれたり、私が不安な時はいつもそばにいてくれたから」

 

 

衛司「そっか…。なんか…聞いといてアレだけど、改めて言われると…なんか恥ずかしいね」

 

 

カノンノ「言った私もちょっと恥ずかしいよ…。…でも…私は今は…その…衛司の事全部が…好き、だよ…?」

 

 

衛司「っ…カノンノ…。僕もカノンノ事…全部全部、大好きだよ」

 

 

カノンノ「衛司…」

 

 

衛司「カノンノ…」

 

 

 

ロッタ「──おかしいわね。このコーヒー、砂糖入れてないのに甘いわ」 

 

 

ユーリ「それが現実だ。見ろよ、あの二人の近くにいたジュードとアルヴィンが砂糖吐いて倒れたから」

 

 

 

 

【メリアのお気に入り】

 

 

衛司「あれ、メリア…何見てるの?」

 

 

メリア「…ん…『骸殻ライダークルスニク』…」

 

 

衛司「あぁ…最近人気の特撮番組ってルカとエミルが言ってたやつか…。メリアってこういうの好きなんだ」

 

 

メリア「…ん…主人公とヒロインの関係は…私は好きだし…敵の『骸殻ライダーリドウ』の動きは見てて勉強になる…」

 

 

衛司「そ、そうなんだ…。…因みに今回の話ってどんな内容なの…見る限りその『骸殻ライダーリドウ』らしき人がフルボッコされてるみたいだけど…」

 

 

メリア「…今回『骸殻ライダーリドウ』はヒロインを虐めたから…『骸殻ライダールドガー』にフルボッコされてる…」

 

 

衛司「そ、そうなのかー…」

 

 

ルドガー『うぉおおぉぉおっ!よくもエルをーっ!』

 

 

リドウ『ちょ、落ち着けっ!こんな場面台本にねぇぞっ!』

 

 

 

 

【精霊の姿】

 

 

衛司「うーん……」

 

 

ヴォルト「あ、主…?どうしたのでしょうか…あまり見られると少し恥ずかしいのですが…」

 

 

衛司「あ、ごめん。いや…改めて見るとヴォルトやセルシウス…それにウンディーネやイフリート…今まで見てきた精霊達って皆『ヒト』の姿だなー、って思って…」

 

 

ヴォルト「あぁ…確かに主が今まで見てきた精霊達は皆『ヒト』の姿でしたね…」

 

 

衛司「うん…と、言うと『ヒト』の姿以外の精霊もいるの?」

 

 

ヴォルト「はい、勿論いますよ。…ただ私達精霊の中では『ヒト』の姿のものの方が多いですから…中々見ることは無いでしょう」

 

 

衛司「へー…。ついでに気になったから聞いてみるけど、今まで出会ったヴォルト達以外の精霊って…どんな姿をしてるの…?」

 

 

ヴォルト「そうですね…例えていうならば二人で一体の者や基本寝間着姿の者…後、鳥とかですね」

 

 

衛司「……聞いただけでも個性豊かだね」

 

 

 

【別の世界の皆】

 

 

アルヴィン「このルミナシアとは別の世界があって、その別の世界にもその世界の自分が居る、か…改めて考えるとなんとも想像出来ねぇな」

 

 

エミル「そうだね…。別の世界の僕は…僕より強気だったりするのかなぁ…」

 

 

カイル「それなら別の世界のオレは…もしかしてもう英雄って呼ばれてたり…っ!」

 

 

ティア「別の世界の自分…そう考えると改めて気になっていくわね」

 

 

 

衛司「死んだ魚みたいな目をした木刀を持ったアルヴィンや、バカが定評のエミル…後『フハハハハッ!』とか笑いながらチューリップ仮面を被っているカイルやそのカイルと一緒にいるピザ好きのティアとか…もしかしたら別世界にいるかもね」

 

 

 

四人「「「「……えっ?」」」」

 

 

衛司「ごめん、深い意味はないから気にしないで」

 

 

 

【意外な特技】

 

 

カノンノ「衛司って何か特技ってあったりする?」

 

 

衛司「えっと…魔神剣と虎牙破斬と雷斬衝と…」

 

 

カノンノ「いや、そっちの特技のじゃなくて…得意なものとかそういう方のだよ」

 

 

衛司「あ、そっちか…。うーん…あんまり考えた事無かったなぁ…特技、かぁ…」

 

 

カノンノ「なにか『自分ならこれが出来るっ!』て自分が出来る事、とかは…?」

 

 

衛司「うーん…正直この船のほとんどの人がスペック上、人間かどうか怪しいくらいだから胸を張って『自分ならこれが出来る』ってものは無いけど…ぁ、でも得意なものはあるよ」

 

 

カノンノ「へぇー、なになに?」

 

 

衛司「多分皆もできるかもしれないけど……爪楊枝でお城作ること」

 

 

カノンノ「………えっ?」

 

 

衛司「えっ?」

 

 

 

【使役の種類】

 

 

衛司「ねぇ、セルシウス…ヴォルトから聞いたんだけど、精霊使役に種類があるって本当?」

 

 

セルシウス「えぇ、本当よ。あげていくのなら…まずアナタとヴォルトの関係である『通常使役』、キールやメルディのように一時だけ精霊の力を借りる事の出来る『一時使役』、目的を実行、完結する間だけ契約を結ぶ『目的使役』…まぁ他にも色々あるわ」

 

 

衛司「へー…ただ契約して使役、っていうだけじゃないんだ…」 

 

 

セルシウス「えぇ。…後、ちょっと特殊な使役もあって…使役する、もしくは使役した精霊の力を完全に使用出来るようにする『完全使役』…別名『直接使役』というものがあるのだけれど…これは本当に特殊で、『ある事』を精霊としないと出来ないものよ」

 

 

衛司「精霊の力を完全に、かぁ…出来るなら僕もヴォルトもやってみたいなぁ…」

 

 

セルシウス「あら、本当?なら方法だけど…ハッキリ言って『────(※御自由にお考えください)』よ」

 

 

衛司「……ごめん、聞かなかった事にして」

 

 

セルシウス「えぇ、賢明な判断ね。こんな内容だから『直接使役』が出来る者は中々居ないのよ」

 

 

衛司「まぁ、そんな内容なら、ね。…因みにリヒターさんとセルシウスさんは…?」

 

 

セルシウス「そうね……『直接使役』よ」

 

 

衛司「えっ」

 

 

セルシウス「あの時のリヒターはそうね…一言で言うのなら…『激しかった』わ」

 

 

衛司「…………」

 

 

 

 

リヒター「──む、此処にいたか。セルシウス、少し話が……なんだ衛司、その…ゴミクズを見るような冷たい目は」

 

 

衛司「…リヒターさん…ドン引きですわぁー…」

 

 

リヒター「な、何の話だ…?待て、衛司…詳しく話を…おい、お願いだからそんな目で俺を見ないでくれ。そして話を聞かせて…そしてよくわからんが俺に弁解の余地をくれぇっ!」 

 

 

 

セルシウス「……あら、冗談のつもりだったのだけれど」(ニヤニヤ)

 

 

 

【どこが好き?─メリア編─】

 

 

 

衛司「ねぇ、メリア。…メリアって僕のどこが好きになったの…?」

 

 

メリア「全部」

 

 

衛司「…今までで一番早すぎる即答に恥ずかしさと驚きが同時に来たよ」

 

 

メリア「……でも事実…。…私は衛司の全てが気になって…私は衛司の全てが好きになった…。…うん…やっぱり考えなおしても…私は衛司の全部が…大好き…」

 

 

衛司「メリア…。うん…その…ありがとう…」

 

 

メリア「…衛司…顔真っ赤…照れてる…?」

 

 

衛司「ちょっ!べ、別になんでもないから顔を離してっ!近い、近いからっ!」

 

 

メリア「…ん…?」

 

 

衛司「はぁ…改めて…無知って凄いや…」

 

 

 

 







ちょっとした気分転換に書いた結果がこれだよ←
こういう番外編書き出すと不思議と指が止まらなくなってしまう件←


【どこが好き?─カノンノ編─】
不思議と指が止まらなかった←
こうして見ると完全に衛司とカノンノはバカップルだよね←

爆発しろよ←←


【メリアのお気に入り】
まずルミナシアにテレビがあるのか、という話だけど思いついた以上書かずにはいられなかった←
ちなみにメリアは特撮好きでお気に入りは『骸殻ライダークルスニク』と『砂浜戦隊サンオイルスター』です←

『骸殻ライダークルスニク』は完全にネタです←
密かにアドリビトムメンバーに出演オファーが出ていたり…?←←


【精霊の姿】
寝間着姿の精霊、二人で一体の精霊、鳥…果たして一体何なんだ←←


【別の世界の皆】
完全にネタ←
因みに衛司君が言った別世界の皆…分かる人には分かりますかね…?←←


【意外な特技】
衛司君の意外な特技発表←
因みに衛司君曰わく最高傑作は爪楊枝で作った五重の塔だとか←←


【使役の種類】
番外編のリヒターさんの扱いは大体こんな感じ←

それにしても『直接使役』って何するんだろうね←
お兄さんよく分かんないや(ゲス顔←


【どこが好き?─メリア編─】
気づいたら指が止まらなかった←
メリアならこういう事は恥ずかしがらずにハッキリ言うんじゃないかなー、と思いながら書いたらこうなった←

衛司やっぱり爆発しろ←←


次回はちゃんと本編を投稿出来るよう頑張ります+

皆様よければ感想、ご意見、評価等よろしくお願いします+



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第六十一話

遅くなりましたがようやく完成したので投稿です+



ただ相変わらずぐだぐだで文がァ…←←






 

 

 

 

──あのウンディーネのアドリビトム加入や暁の従者との和解から数日…あのジルディアのキバへの対策が遂に進んできた。

カノンノが成功してみせた『ディセンダーの力』の転写。その転写を安全に成功させる手立てを、リタをはじめとする研究組がついに完成させたのだ。

それは…『手を繋ぐ』。国も、身分も、種族も関係無く…他者と文字通り『繋がる』事で、『ディセンダーの力』を転写させるのだ。

 

リタ達は暁の従者の二人を降ろす際にその説明をし、そして彼らにその事を世界の人々に一人でも多く伝える事、そして同時に手を繋ぎ、『ディセンダーの力』を広げる事を頼んだ。

暁の従者の二人はこの事に『自分たちに出来ることなら』、と喜んで承諾してくれた。

 

 

そして…封印次元の最後の材料であるウズマキフスベのドクメント。

暁の従者の協力で手には入った切り株からは確かに、ウズマキフスベのドクメントが解析出来た。

ただこのウズマキフスベは繁殖性を持っておらず、一時はドクメントの採取が不可能、となりかけていたが…カノンノが肉体と精神のズレで皆のドクメントが見えていた際に見えた、『食べた物も食べたモノにそのドクメントが取り込まれている』という話を出し、そこから過去にウズマキフスベを好物としていて今尚生き続けている生態からドクメントを入手出来るかもしれない、と今リタ達研究組がソレを調べ上げている。

 

ラザリスとサレ…そしてジルディア。最終決戦は…そう遠くはない。

 

 

 

─────────────────

 

 

 

「──それじゃ…準備はいい、ヴォルト?」

 

 

「(はい…大丈夫です、主)」

 

 

──バンエルティア号の甲板にて、僕は木刀を構えながら僕の中にいるヴォルトに問い、そのヴォルトの返答を聞くと意識を集中し始めた。

 

暫く意識を集中させ続け…僕とヴォルトの中の何かが、まるで線と線を結ぶように繋がったのを感じた瞬間、僕達は口を揃えて『ソレ』を発動させた。

 

 

 

「「契約開放《リンクバースト》っ!」」

 

 

僕とヴォルトが同時にそう叫んだ瞬間、僕の頬にヴォルトと同じような雷を模した模様が浮かび上がり、僕の身体や周りからバチバチと音をたて、小さな雷が流れ出した。

 

 

「…ふむ…中々上出来なようだな」

 

 

「えぇ…『契約開放』…私達も見るのは初めてだけれど」

 

 

僕とヴォルトの様子を見て、僕達同様甲板に出ていたウンディーネとセルシウスがそう言葉を出した。

『契約開放』…使役した精霊と一時的に一体化し、使役した者と精霊の力を開放させる力。

何の原理で、何を元に一体化するかは分からないけど…セルシウス達精霊が言うにはこの『契約開放』は精霊と使役者、二人の想いが通じ合って発動出来るようになるらしい。

『想い』…確かに僕達が『契約開放』を出来るようになったのは…ヴォルトの想いを知った後からだった。

 

 

「ふぅ…ヴォルト…今、どれくらい保ちそう?」

 

 

「(そうですね…今の主と私では…大体十数分程度でしょうか)」

 

 

「ん…そっか」

 

 

自分の身体を確認しつつ僕はヴォルトに聞くと、ヴォルトは少し考えてそう答えた。

この『契約開放』…一時的に力を開放できるのはいいのだがその反面、かなりの集中力と体力を使うことになってしまうので、今の僕では長時間の使用は不可能なのだ。

僕はヴォルトの返答を聞いて小さく頷くと、『契約開放』を解除してヴォルトを僕の中から出した。

 

 

「…ふぅ…やっぱり少しの間でも結構体力使っちゃうなー…」

 

「無理もありません…あれはかなりの消耗ですから…地道にこうやって頑張りましょう」

 

 

ヴォルトを外に出してゆっくりと呼吸を整えつつ僕は言葉を出すと、ヴォルトはどこか申し訳なさそうな表情でそう言った。

はぁ…別に消耗はヴォルトのせいじゃないんだからそんな表情をしなくていいのに…。

僕はそう思うと自然とヴォルトの頭を撫でた。

 

 

「あ、主…」

 

 

「ふむ…やはりあまり長続き出来ないのは問題であるな。よし、衛司。試しに余とも契約開放をしてみるか?案外そこの雷精より長続きするかもしれんぞ?」

 

 

「っ…アナタは黙ってて下さい、水精。アナタに比べて私の方が主との仲は長いのです。アナタと主の契約など不必要です」

 

 

頭を撫でられヴォルトは僕を見て驚いた表情をするが、僕が頭を撫で続けると心地良いのか少しずつだけど表情が緩んでいった。

そんな中、ウンディーネが少し考えるような仕草をした後そう僕に言い、先程まで表情を緩めていたヴォルトがそれに反応してウンディーネに振り返り不満そうにウンディーネに向けてそう言った。

…あれ、どうしてこうなった…?

 

 

 

「…流石ね衛司。一人の頭を撫でただけでこの修羅場とは…そこに痺れるけど、憧れないわ」

 

 

「…一応聞いとくけどセルシウス、その台詞だれから教わったの?」

 

 

「アルヴィンよ」

 

 

セルシウスの出した台詞に僕が少し溜め息混じりにそう聞くとセルシウスは即答してくれた。

アルヴィン…不思議だけどなんでこういうネタ知ってんだろ?

 

この後、徐々にヒートアップをし始めたヴォルトとウンディーネを落ち着かせ、もうしばらく『契約開放』の練習をしたのだが…まだ使用時間を伸ばすことは出来ないことがわかった。

なんとか時間を伸ばせるようにしないとなー…。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

 

「──…衛司…おいしい…?」

 

 

「ん…うん。凄くおいしいよ、メリア」

 

 

「…ん…♪」

 

 

──ヴォルト達との練習を終え、僕は昼食の為に食堂に来たのだが…今現在、僕はメリアの作ってくれた料理を食べていた。

何故メリアが料理をしているかというと…まぁ、色々あったのだけど…彼女はある人に料理を教わり、それから少しずつだが料理に手を着けだしたのだがすっかり彼女の興味に入ったらしくこうして僕に料理を振る舞うようになってくれた。

因みに今日のメニューは玉子焼きと味噌汁、それとちょっとした野菜炒めだが、どれも本当に美味しく自然とご飯が進んでしまう。

僕の素直な返答を聞くと、メリアは嬉しそうな表情を浮かべた。

 

 

「うん…やっぱり美味しいや。ありがとう、メリア」

 

 

「…ん…衛司に喜んでもらえるなら…毎日だって作れる…♪」

 

 

僕の言葉に嬉しそうな表情のままそう答えるメリアに、僕も自然に頬が緩んでしまうのを感じた。

こんな表情が見られるのなら僕なら喜んで毎日作ってもらいたいくらいだ。

それにしても…こうしてみると…くの一姿にエプロンって…なんだか不思議と似合うものなんだなぁ…。

 

 

「…衛司…?」

 

 

「ん、あぁ…メリアはなんでもよく似合うなー、って思って」

 

 

「…そう…かな…。…だと…嬉しいけど…」

 

 

くの一にエプロンという未知との遭遇のような組み合わせの服装のメリアを見ていると僕の視線に気になったメリアが小さく首を傾げ、僕がそれに少し考えて言うと、メリアは自分の服装を確認しながらその場でクルリと回って見せた。

うん…やっぱりメリアはなんでも似合いそうだ。

 

 

「──ぁ、此処にいたんだ、衛司」

 

 

「ん…カノンノ…?」

 

 

暫くメリアの姿を見ていると不意に扉が開く音と声が聞こえ見ると、カノンノが立っていた。

 

 

「…カノンノ…どうしたの…?」

 

 

「メリアも居たんだ…えっとね…ウズマキフスベのドクメントを新しく採取する対象が見つかったから、それの採取をする為に人を集めてるみたいだから衛司達はどうするのかな、って思って」

 

 

カノンノを見てメリアが首を傾げて聞くと、カノンノは頷いてそう説明した。

そうか…ついに見つかったんだ。それなら人手はできる限り多い方がいいよね。

 

 

「うん、それじゃあ僕も手伝うよ。…ただもうちょっと待ってね、これ食べたらアンジュに参加申請に行くから」

 

 

「ん、分かったよ。…美味しそうなご飯だね」

 

 

「『美味しそう』じゃなくて事実『美味しいんだ』けどね。メリアが作ってくれたんだ」

 

 

僕の返答にカノンノは小さく頷いた後、僕が食べている料理を見てそう聞いてきたので僕は少し笑ってそう答えた。

僕の言葉を聞いてカノンノは『へー…』と呟きながら料理とメリアを交互に見て、メリアはそんなカノンノに自慢するように『フンス』と鼻を鳴らして胸を張っていた。

僕は少し玉子焼きを切ると、それをお箸で持ってカノンノへと向けた。

 

 

「ほら、美味しいからカノンノも食べてみなよ」

 

 

「へ…で、でも…」

 

 

「遠慮しなくていいから、ほら、あーん」

 

 

「そ、それじゃぁ…あ、あーん…」

 

 

僕の言葉に僕と玉子焼きを交互に見ながら何故か頬を赤くしてそう言うカノンノ。僕はそのままカノンノにお箸で持ち上げた玉子焼きを近付けると、カノンノは戸惑いつつも口を開けて玉子焼きを食べた。

 

 

「ほら、美味しいでしょ?」

 

 

「う、うん…美味しい…けど……ちょっと恥ずかしいよ…」

 

 

「ん…今、なんて…」

 

 

「……衛司…私も…」

 

 

カノンノが玉子焼きを食べたのを確認して問うと、カノンノは小さく頷きつつもどこかもじもじとしていて何か呟いたのを聞き、僕がそれを聞こうとした時、メリアが僕の服を少し掴んでそう言ってきた。

 

 

「え…私もって…?」

 

 

「…私とカノンノ…皆平等にするって約束…だから…私も…」

 

 

「っ…そ、それなら私はもう一回っ!」

 

 

「わ、分かったよ。…だけど、僕の分もちゃんと残してよ」

 

 

僕の服を少し引っ張ったままのメリアに首を傾げると、メリアは僕はじーっと見ながらそう言葉を出し、それを聞いたカノンノは少し首を横に振って慌てた様子でそう言ってきた。

二人の様子に僕は少し苦笑しつつも頷いてそう答えた。

 

 

───この後、僕は結局殆どの料理をカノンノとメリアに差し出す事になった。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

──あの後、僕はアンジュにウズマキフスベのドクメント採取の参加申請とその内容を聞いた。

向かう場所はコンフェイト大森林、そして採取対象は昔、ウズマキフスベを常食していたと記録されている……凶竜『ケイブレックス』。

ウズマキフスベの大体のドクメントは暁の従者が持ってきた切り株で取れており、後は欠けている部分の採取の為数匹から採取しなければいけないらしく、今回は参加した人数分メンバーを分けてそれぞれケイブレックスを捜してドクメントを採取する、という提案らしい。

そして今の僕のメンバーは…僕、カノンノ、メリア、ロッタというパーティーになっている。

 

 

 

「──それにしても…コンフェイト大森林のケイブレックスねぇ…あんまりいい思い出が無いわね」

 

 

「はは…そうだね…」

 

 

コンフェイト大森林を皆で歩く中、ロッタが溜め息混じりに出したその言葉に僕は苦笑して頷いた。

僕とロッタは以前、このコンフェイト大森林でケイブレックスと遭遇し、文字通り命からがら逃げたので、ロッタの言うとおりいい思い出はないのだ。

 

 

「ぁ…確か衛司とロッタは一度ケイブレックスと会った事があるんだっけ。…えっと…どんな感じだった…?」

 

 

「…あんまり思い出したくないんだけどね…。特徴は青い大きな身体で見た目はそのまんま恐竜って感じかな。後…見ただけで『圧倒的』って感じる威圧感で…あの時は僕達は絶対に勝てないって感じたから逃げる事を選んだんだ。…だけど…」

 

 

「だけど…?」

 

 

「…あれから僕達も強くなったんだ。今回は絶対、僕達が勝ってやる」

 

 

不意にカノンノの出した問いに答えつつ、あの時のケイブレックスからの逃亡戦を思い、僕は途中で言葉を止めると、改めてそう自分の今回の意志を出した。

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

──それから暫く歩き、コンフェイト大森林の奥まで来たところで僕達は目的であるケイブレックスに遭遇する事に出来た…の、だが…。

 

 

 

『GURURURURU…っ!』

 

 

「…ねぇ、衛司…気のせいかしら…。私…アイツ見るの初めてじゃない気がするんだけど…」

 

 

「奇遇だね、ロッタ。…僕もアイツ、初めてじゃない気がプンプンするんだ… 」

 

 

「えっと…衛司?ロッタ?」

 

 

「…どう…したの…?」

 

 

僕達…主に僕とロッタの姿を見た瞬間から明らかに此方に敵意剥き出しの『右脚に傷痕がある』ケイブレックスに、僕とロッタが思わずそう言葉を出し、カノンノとメリアが一体何なのかと首を傾げた。

いや、うん…確かに少し前にリベンジに意気込んでた所だったけど…こうも都合よく出てくるもんなんだね。

 

 

「うん…ちょっとまさかこうも簡単に出会えるもんなんだなー、って改めて思って…とりあえず…あのケイブレックスさんはやる気満々みたいだし…皆、行こうか」

 

 

「う、うん…よく分からないけど…とりあえず頑張ろうっ!」

 

 

「はぁ…やっぱこうなるのね…」

 

 

「ん…行く…っ!」 

 

 

首を傾げているカノンノとメリアにそう答えつつ僕は星晶剣を構えると、皆がそれを合図するようにそれぞれが武器を構え、ケイブレックスもそれに反応するようには低く唸り出す。

…さて…。

 

 

 

「…それじゃ…前の件、きっちりリベンジさせてもらうよっ!」

 

 

『GYAOOOOOOOOOOOーッ!』

 

 

 

──僕の声とケイブレックスの雄叫び、それを合図にするかのように…僕達の最後のドクメント採取が始まった。

 

 

 

 

 

 








──以上、第六十一話、如何だったでしょうか+

ぐだぐだだよね、本当ごめん←



【契約開放】
来たるべき外道狂風様戦に向けての衛司君強化計画です←
契約開放《リンクバースト》…決して荒ぶる神々を喰らうわけではありません←

そして安定のようにあまり仲の宜しくないヴォルトとウンディーネである←


ついでにこの作品でアルヴィンがネタに詳しいのは大体中の人のせい←←←


【お料理メリア】
なんとなく書いてみたメリアの料理編。
因みにメリアに料理を教えたのは…ね…?←
詳しくは自サイト『儚き時の夢物語』を見ていただければ…+

玉子焼きと味噌汁は私のジャスティス←←

衛司君は自分のする行動に関しては鈍感だったりします。
おい、爆発しろよ←←


【ケイブレックス戦】
いつぞやのケイブレックス登場←
原作だと三体くらいを別々で倒さなければならないのですが、よくよく考えて『四人のパーティーで恐竜三体とかちょw』、という訳でチーム分けして個々に捜索、という方針にしました+

セネルとティアなんて居なかった←←



皆様良ければ感想、御意見、そして評価等宜しくお願いします+

次回はケイブレックス戦、そして衛司君の新技安売り回の予定です←

ただ現在ちょっとIF閑話でハロウィンネタ書こうかなー、とも考え中です+

はっきり言えることはハロウィン当日には投稿できない←←←


ではまた、次回+




P.S.
アニメ版『デビルサバイバー2』にハマってついゲームを買ってしまった私は悪くねぇ←
イオちゃん、健気で可愛いよイオちゃん←
そしてアニメ版はスタッフさん何故ケイタ殺したし←←



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第六十二話


お待たせしました;
ようやく新話、完成したので投稿です+

如何せん、神様喰うのに夢中になってた←←

とりあえず一言…ハロウィンなんてなかった←←





 

 

 

 

 

『GYAOOOOOOーッ!』

 

 

 

「──行くよ…魔神剣っ!」

 

 

 

──高い雄叫びと共に頭を下げ、僕達に向かってくる恐竜ケイブレックス。僕はそれに星晶剣を振り、斬撃を一つ飛ばす。

 

 

『GURUUUUUUUッ!』

 

 

僕の放った斬撃は接近してくるケイブレックスに直撃するが、ケイブレックスは勢いを止める事なく此方に接近し続ける。

くっ…やっぱりあの堅い皮膚は健在か…。

 

 

「…それなら…苦無閃《嵐》…」

 

 

『GUUUUUUU!』

 

 

いまだに接近し続けるケイブレックスに今度はメリアが最早彼女の必殺戦法ともなってきた無数の苦無の投擲技を放つ。

無数の苦無の攻撃に流石にこれは効いたのか僅かに唸り此方に接近していた足を止める。

よし…この間に早速、試していこうか…!

 

 

「メリア、カノンノ、ロッタ!三人とも、悪いけど…」

 

 

「時間稼ぎでしょ?任せなさい…あの時とは違うってとこ、思いっきり味合わせてやるから」

 

 

「衛司が何するかは分からないけど…私たちがちゃんと守るよっ!」

 

 

「…任せて…」

 

 

僕の言葉にロッタ、カノンノ、メリアが僕を見てそう応えてくれた。まだ要件言ってないんだけど…けど…こういう皆で分かり合ってるっていいな。

 

 

「ありがとう…ヴォルト、やるよッ!」

 

 

「(無論…準備は万全ですよ、主)」

 

 

僕は一旦後方に下がり星晶剣を構えると、僕の中にいるヴォルトの言葉を聞き、僕は意識を集中させ始める。

 

 

『GYAOOOOOOOOOーッ!』

 

 

「…衛司には近付かせない…影走斬…!」

 

 

僕の行動に気付いたように、高く雄叫びを上げて僕に向かってこようとするケイブレックス。そのケイブレックスにメリアは一瞬で間合いを詰めると言葉と共に短刀で一閃する。

 

 

『GYAOOッ!?』

 

 

「メリア、下がって…バーンストライクっ!」

 

 

「いつぞやのお返し…コイツは痛いわよ?光の槍よ…ホーリーランスっ!」

 

 

『GUAAAAAAAAーッ!?』

 

 

メリアの一閃で足が止まったケイブレックスに、カノンノとロッタは同時に手を上げて叫ぶとケイブレックスに向けて炎の剛球と巨大な光の槍が落下し、直撃する。

三人の攻撃に怯むケイブレックス。その隙に僕は一気に意識を集中させる。

……よし、今だっ!

 

 

「──ヴォルトっ!」

 

 

「(行きましょう、主っ!)」

 

 

「「契約開放《リンクバースト》っ!」」

 

 

集中させていた物を放出するかのように僕とヴォルトは同時に叫ぶと、僕の頬に雷を模した模様が浮かび上がり、周りからは僅かに雷が流れ出す。

うん…うまくいったみたいだ。

僕は確かめるように二、三度右手を開いたり閉じたりした後、星晶剣をゆっくりと納刀するように構える。

 

 

「いくよ…超・雷魔神剣っ!」

 

 

『GU!?AAAAAAAAーっ!?』

 

 

納刀した星晶剣を気合いと声と共に引き抜くと、三人の攻撃に怯んでいたケイブレックスに向けて雷を纏った斬撃を五つ同時に放つ。

同時に放たれた五つの雷の斬撃にケイブレックスも避けること、防ぐことが出来ず悲鳴をあげてその場に倒れ込んだ。

うん…初めてやってみたけど、なかなかの威力みたいだ。

 

 

「衛司…その姿って…」

 

 

「……ヴォルトと同じ模様…」

 

 

「あ…皆に見せるのは初めてだっけ…。契約開放…簡単に言えば僕とヴォルトの力が合体したって感じ…かな」

 

 

「合体って…また無茶苦茶な…」

 

 

倒れたケイブレックスから僕に顔を向け、僕が契約開放した姿を始めてみる三人が驚いた様子で此方に駆け寄ってきたのを見て僕はそう言うと、ロッタが苦笑してそう言葉を出した。

うーん…でも間違ってはないしなぁ…。後、カノンノとメリアはどうして『合体』という単語を繰り返しつつ不機嫌そうな顔をしてるの…?

 

 

『…GUUUUU…RUAAAAAーッ!』

 

 

「っ!…アイツ…まだ…っ!」

 

 

「……しぶとい…」

 

 

そんなやり取りをしていると不意に何かが動く音が聞こえ視線を向けると、倒れていたケイブレックスがゆっくりと立ち上がり雄叫びを上げ、先程攻撃をした僕を真っ直ぐと睨んできた。

ケイブレックスのその様子に皆が再び武器を構えていくと、僕はそんな皆から更に一歩前に出た。

 

 

「衛司…?」

 

「悪いけど皆…色々試してみたいから…此処は僕達に任せてくれないかな?」

 

「えっ…!?」

 

僕の行動にカノンノが首を傾げると、僕は皆の方に一度振り返ってそう言葉を出した。

僕の一言に皆が驚いた様子を見せるが、その中でロッタは僕をしばらく見ると小さく溜め息を吐いて口を開いた。

 

「…一応聞いとくけど…倒せるんでしょうね?」

 

 

「多分…ううんやってみせるよ」

 

 

「そう…ならやってきなさい。ただし、こっちが見てて危ないと思ったら問答無用で助けるから」

 

 

「ん…ありがとう、ロッタ」

 

 

僕の返答を聞き、再び溜め息を一つ吐いてそう言ったロッタに僕は小さく頷いた。メリアとカノンノもしばらく僕を見てロッタの案に賛成したのか、二人が共に『頑張って』と言ってくれた。

うん、よし、やる気でた。

 

 

『GURURURURUッ!』

 

 

「待たせたね。それじゃ…行こうかっ!」

 

 

『GYAOOOOOOOOOッ!』

 

 

僕が星晶剣を構えなおしたと同時に雄叫びを上げて僕を睨み、走り出すケイブレックス。僕もそれに対するようにケイブレックスに向けて走る。

 

 

『GURUOOOOOOOOッ!』

 

 

「っと…飛天翔駆・雷!」

 

 

接近する僕にケイブレックスが雄叫びを上げながら尻尾を奮ってくる。僕はそれに地面を蹴って上空に跳び避けると、自分の身体に雷を纏わせその勢いのままケイブレックスに向けて特攻する。

 

 

『GUUUUUUUUUッ!?』

 

 

「このまま…雷破竜撃っ!」

 

 

『GUGAAAAAAAッ!?GAAAA…ッ!』

 

 

雷の特攻を受け怯むケイブレックスに、僕は着地と同時に星晶剣を納刀するように納め、それを気合いと共に引き抜いて雷で形成された竜を飛ばす。

ウンディーネの使っていた水竜攻撃を参考にやってみたんだけど、威力は上々…ケイブレックスは雷の竜の一撃を受けその場に沈み込む。

ケイブレックスは沈み込みつつも、僕を睨み続け咆哮を上げて最後の抵抗というかのように僕に向けて炎の息吹を吐いてくる。

 

 

「…ライトニング・シェルっ!」

 

 

『ッ!?』

 

 

吐かれた炎の息吹に、僕は真っ直ぐと星晶剣を持っていない左手を向けてライトニング・シェルを展開する。展開された紫の膜は契約開放している為か今まで出してきたものよりも遥かに大きく、厚くなっていてケイブレックスの炎の息吹を完全に防ぎきり、ケイブレックスもそれが防ぎきられたことに驚いた様子を見せた。

 

『GU…GURURURURU…ッ!』

 

 

「…ふぅ…これで終わり、だね」

 

 

『GURU…ッ?』

 

 

為すすべがなくなったのか、ただ睨むだけのケイブレックスの姿を見て僕は一つ息を吐くとゆっくりと星晶剣を納めて契約開放を解いた。

僕のその行動に後ろの皆からは驚いたような声が聞こえ、目前のケイブレックスも何をするのかというような様子を見せる。

 

 

「さて、と…ケイブレックス…少しじっとしててね?」

 

 

「衛司っ!?」

 

 

僕はケイブレックスからドクメントを採取する『ギベオンチップ』を出すと、沈み込んでいるケイブレックスに歩み寄ってそう言い、ケイブレックスにギベオンチップを当ててドクメントの採取を始める。

僕のその行動にカノンノが心配するような声で名前を呼んでき、僕はそれに小さく笑って口を開いた。

 

 

「大丈夫だよ、多分。もうあんまり動けないみたいだし…。それに忘れかけてたけど…今回は討伐じゃなくてあくまでドクメントの採取だからね。あ、もうちょっと待っててね」

 

 

『GU…GURURU…』

 

 

「衛司…」

 

 

「…全く…」

 

「…衛司らしい…ね…」

 

 

警戒し続けながらもドクメント採取を受けるケイブレックスを撫でつつそう言うと、後ろの皆からそんな声が聞こえた。

それから少しすると、ギベオンチップがドクメント採取の終了を告げるように光り出した。

 

 

「…よし、終わったよ」

 

 

「なら、早く帰りましょう。多分、他のチームも終わってるでしょうからね」

 

 

『GURU…GURURURURU…』

 

 

採取が終わった事を皆に言うと、ロッタがそう答え、二人もそれに賛成するように頷いた。

僕はギベオンチップをケイブレックスから離すと、ケイブレックスは少しずつゆっくりと立ち上がった。

立ち上がったケイブレックスにメリアが警戒するのが見えたが、僕はそのケイブレックスの前に立った。

 

「…今回といい前といい…手荒な真似をしてごめん。許してほしい、とはいわないけど…今回はどうしても君の協力が必要だったんだ。…ごめん」

 

 

ケイブレックスに向けて僕は頭を下げてそう言った。言葉が通じるか分からないし、僕のしている事に周りがなんて言うか分からないけど…これは僕なりに必要な事だ。

そんな僕に、ケイブレックスはゆっくりと顔を近付けてきて、メリアが此方に走り出そうとした瞬間…

 

 

『GURURURUー…♪』

 

 

「うおばぁっ!?」

 

 

「「「…ゑ?」」」

 

 

…思いっきりケイブレックスに顔面を舐められた。

…いや、なんでさ…?

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

「──…で、一度は九死に追い込まれていた相手であるケイブレックスに懐かれた、と」

 

 

「…はい、なんか分からないですけど」

 

 

 

──コンフェイト大森林から戻り、バンエルティア号のホール。僕はロックスさんから受け取ったタオルでケイブレックスの涎まみれになった顔を拭きながら呆れたような表情で言ってきたアンジュに応えた。

あの後、なぜか知らないけどケイブレックスに懐かれ、僕は顔面を…いや最終的には顔面にとどまらず身体の至る所を舐められ、後少しで大切なナニカを失いかけてた。あの時、カノンノ達が必死に止めてくれなかったらどうなってたか…。

その後、下手したらバンエルティア号までついてきそうな勢いだったケイブレックスに時々会いに来る約束をしてなんとかバンエルティア号に戻ってきた。一応人を襲わないようにする約束もしたから討伐の依頼も多分来ないだろう。

 

 

「…全く…女の子の次に精霊で、今度は魔物って…。…アナタは撫でたら好感度が上がるような力でも持ってるの?」

 

 

「へ…?」

 

 

「…なんでもないわ。とりあえずこれで、塩水晶、ツリガネトンボ草、ウズマキフスベのドクメントが揃ったから、封印次元を作る事が出来るわね。このギベオンチップは私からハロルド達に渡しておくから、お風呂でも入ってきなさい」

 

 

「ん…そうするよ、ありがとう」

 

 

ドクメントを採取したギベオンチップをアンジュに渡し、アンジュの言葉に僕は小さく頷くとお風呂に入る準備をする為、自室へと向かった。いや、うん…身体中涎まみれだったから本当にありがたい。

 

それにしても…ようやく封印次元を作るドクメントも揃い、いよいよ残すはジルディアの封印のみとなった。…後少し、気を引き締めていこう、と僕は心から誓った。

 

 

 

──この後、僕はお風呂に行くのだが…その際、脱衣場を間違えるというミスを犯してその場にいたカノンノとメリアに顔を真っ赤にしながらフルボッコされる事になる。

 

 

 

 






以上、第六十二話、如何だったでしょうか?

…うん、グダグダでごめん←


【ケイブレックス戦】
とりあえず今話では契約開放した衛司の力はどれぐらいなのか、という説明的なバトルでした。
新技は『雷破竜撃』以外は通常の状態に雷が混ざったバージョンと思って頂ければよいかと…+


【懐いたケイブレックス】
なんか気付いたらこうなった←
当初はケイブレックス殺る気満々で書いていたんですが、倒れた辺りから『一方的に圧殺するのが衛司君だっけ?』と思い、こんな感じに仕上げました。
ケイブレックスがデレたのは気付いたらこうなってた←
決してウチの衛司君はナデポ持ちではないのであしからず←←

そして申し訳程度のラッキースケベはなんかこう…指が勝手に←←



次回は遂に封印次元展開作業…そして『ヤツ』との決着戦前になると思います+
さて…本格的に『ヤツ』の対抗策考えないとなぁ…←


皆様良ければ感想、ご意見、評価等宜しくお願いします+


ではまた、次回+


P.S.
『ゴッドイーター2』本編クリア…いやー、今作もいい内容でした+
キャラクター達皆、実に魅力的でした+
ただし博士、テメェは駄目だ←



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第六十三話



今回は比較的早く完成したので投稿+


ただ後先考えてないなー、ていう←←





 

 

 

 

「──…九百八十一っ…九百八十二っ…九百八十三…っ!」

 

 

──バンエルティア号の甲板…晴れ渡る空の下、僕は木刀を手に素振りをしていた。

最後の封印次元を作る材料であるウズマキフスベのドクメントを採取して数日…遂に残りは封印次元の展開作業のみとなった今…僕達はハロルド達研究組みの封印次元展開装置の完成を待っていた。

 

 

「…九百九十九っ…千っ…と」

 

 

素振り千回を終え、僕はゆっくりと息を整えていく。ふう…やっぱりこの日課も止められないなぁ…。

…ただ…。

 

 

「…この日課も…あと何日になるのかな…」

 

 

手にした木刀を見ながら、僕は静かにそう呟いた。

始まりは唐突な事。残すは封印次元展開のみとなった時…誰かが出した一言だった。

 

『ジルディアを封印して世界が平和になったら…伝承通りディセンダーであるメリアは世界樹に戻ってしまうのか』

 

この言葉に、メリアはどこか複雑そうに苦笑を浮かべていたけど…恐らく、きっと…彼女は『今までのディセンダー』同様、世界樹に戻るのだろう。

ただ、この時にイアハートが『自分の世界のディセンダーは帰ってきてくれたから、きっとメリアもいつか帰ってくる』という一言でこの話は終わったのだが…僕はただ、その言葉が残っていた。

 

この世界が平和になった時…果たして僕はどうなるのだろう。

今までのようにこの世界で暮らしていくのか…はたまた元の世界に戻るのか。

 

…別に元の世界に戻るのが嫌なわけではない。向こうには家族がいて、友人がいて…そして僕の生まれた『世界』だから。

ただ…此方の世界でも今は同じなんだ。…家族といえる人達がいて、友人がいて…そして大切な人がいる『世界』。

 

もし…『元の世界』と『この世界』…そのどちらかを選ばなければならない時が来た時…僕は何を選ぶか、選ばされるのだろうか。

 

 

「…やめよう…こんな事考えるの」

 

 

溜め息一つと共に、僕は気を取り直すように見ていた木刀を軽く自分の額にコツンと当てるとそう言葉を出した。

まだ本当にそんな事になるのか分かってる訳じゃないんだ…今は目の前の最後の作業になるであろう封印次元展開を成功させることに目を向けないと。

 

 

「…もうしばらく、よろしく頼むね…相棒」

 

 

再び一つ溜め息を吐き、僕はこの世界に来てから今まで共に戦ってくれている木刀をそっと撫でるとそう言葉を出した。

この先に何が待っているかはわからないけど…ただ、今は目の前の事を解決させないと…。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

「──封印次元展開装置が完成したわ」

 

 

──バンエルティア号のホールにて、リタがアンジュの前でそう口を開いた。

ジルディアを封印する為の封印次元展開装置…それが遂に完成したのだ。

 

 

「そう…ようやく終わるのね」

 

 

「えぇ…後はこれをラングリースの奥のボルテックスで発動させれば…ジルディアを封印する事が出来るわ。それで、早速行くためのメンバーを集めたいんだけど…」

 

 

「わ、私が行ってもいいかな…これで最後になるかもしれないんだし…」

 

 

アンジュの出した言葉にリタが頷きながら説明していくと、カノンノが手を上げてそう言った。

カノンノの言葉にリタはカノンノを見ると頷いて口を開いた。

 

 

「そうね…分かったわ。それじゃ、メンバーはメリアと私にカノンノ…後は…」

 

 

「…僕も行くよ。最後はちゃんと…メリアを手伝ってあげたいから」

 

 

「…衛司…」

 

 

リタが言っていく中、僕もカノンノと同じように手を上げて同行する事を願った。本当にこれで最後になるのなら…せめて最後くらい、メリアと一緒にいてあげたい。

 

 

「…アンタならそう言うと思ったわ。それの為に準備もしてたしね、っと」

 

 

「っ…これは…?」

 

 

僕の言葉を聞いてリタが呆れたように溜め息を吐いた後、僕を見てそう言うと僕に向けて二つほど『何か』を投げてきた。

僕はそれを受け取ってみると…一つはペンダントのような物で、もう一つは手の平サイズの小さな箱であった。

 

 

「…アンタにとっちゃ、ラングリースはまだ危険だからね。ペンダントの方は一時的に外部からのドクメント干渉を防ぐ物よ。ラングリースに入るときにつけてなさい」

 

 

「あ、ありがとう…よくそんなの作れたね…。…それで、こっちの箱の方は…?」

 

 

ペンダントの方の説明を聞き、僕は少し苦笑して言うと如何にも『どやっ』と言いたげな表情を見せるリタ。僕はそれに更に苦笑しつつも箱の方を聞くと、リタはどや顔を止めて真剣な表情で口を開いた。

 

 

「それはいざって時の物よ。そうね…私が合図するまで絶対に出さないようにしてて」

 

 

「…分かった。でも…それって一体…?」

 

 

「そうね…。それはね…あのサレに対する唯一の『切り札』よ」

 

 

僕の問いにリタは真剣な表情から、ニヤリという効果音が出そうな笑みでそう言ったのだった。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

「──ふぅ…リタの言った通り、中々大丈夫そうだよ」

 

 

「そう…でもなんか不調を感じたらすぐにいいなさいよね」

 

 

──聖地ラングリース。僕はリタから受け取ったドクメント干渉を防ぐペンダントを首に付けて歩きながらリタに言うと、リタは僕の様子を見ながらそう言った。

初めてくる聖地ラングリースは、まるで水晶で構成されているような景色で思わず見入ってしまうけど…時々水晶を眺め続けていると体を少し不快感が襲ってくるのを感じた。

リタに聞いてみたらどうやらその不快感が、ドクメントに干渉しようとしている状態らしいが…今の所は特に問題はないのでこうやって奥のボルテックスに向けて進んでいる。

 

 

「…そう言えば、さ…メリアはこの封印が終わったら…やっぱり世界樹に帰っちゃうの?」

 

 

不意に…僕とリタの前を歩いていたカノンノが不安そうな表情でその隣を歩くメリアに静かにそう聞いた。

カノンノのその問いにメリアは一度立ち止まると小さく首を横に振った。

 

 

「…私…考えてみたけど…やっぱりまだ帰れない…。…やらないといけないこと…まだいっぱい残ってる…」

 

 

「やらないといけないこと…?」

 

 

「…ラザリスを封印した後も世界の復興に向けてまだまだ頑張りたいって事じゃない?」

 

 

メリアの言葉に僕とカノンノが首を傾げると、リタがそれを代弁するように言い、メリアはそれに小さく頷いた。

そっか…ラザリスを封印したからって、まだ完全に平和になるってわけじゃないからね…。

 

 

「…手伝って…くれる…?」

 

 

「も、勿論だよ!アドリビトムの皆も、手を貸してくれる。皆で世界を変えられるよ!」

 

 

「そうそう。ラザリスを封印した後…これからこの世界をどんな世界にするかは、あたし達一人一人にかかってるんだからね」

 

 

メリアの問いにカノンノは頷いて答え、リタもそれに小さく笑って応える。

その返答にメリアは安心するように小さく笑い、そしてメリアは僕の方に歩み寄ると僕の手を取った。

 

 

「…衛司も…いっしょだよ…?」

 

 

「っ…うん…僕も手伝うよ。皆で…ラザリスと生きていける世界を作っていこう」

 

 

僕をじっと見てそう言葉を出したメリアに、僕は少し驚いてしまったが頷いて答えた。

これが終わったら…僕はどうなるのか分からない。けど、そんな僕の心境を知ってか知らずか出したメリアの言葉に…僕は自然と嬉しく感じれた。

僕の返答にメリアとカノンノ…そして心なしかリタも嬉しそうな表情を浮かべた。

まだ僕は…此処にいても良いことを…望まれているんだ。

 

 

僕達は少しして再び奥に向けて歩き出した。

…世界を、変えていくために。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

──しばらく奥へと進み続け…僕達はよくやく世界樹の根に繋がり、マナを渦のように吸い込んでいる場所…ボルテックスに到着した。

 

 

「…此処が…ボルテックス…」

 

 

「えぇ…後は、あのマナを吸い込んでいる渦の場所にこの封印次元展開装置を起動させて、封印次元に必要なドクメントを此処から世界樹に流す。それで世界樹に封印次元を完璧に展開してもらうだけよ」

 

 

「それじゃ、早く始めよう!」

 

 

リタの説明を聞き、カノンノがそういうとリタが封印次元のドクメントを送り込むために渦の方へと歩み寄ろうとする。

 

──だが、その時だった。

 

 

「──おっと…そうはいかないねぇ」

 

 

「っ!ライトニング・シェルっ!」

 

 

突如、耳に届いた嫌な声と明らかな殺気に僕は皆の後ろに立ってライトニング・シェルを張ると、展開されたライトニング・シェルに風の刃が数発、直撃した。

風の刃が飛んできた方向…僕達が来た方の道には案の定、その男が居た。

 

 

「…っ…サレっ!」

 

 

「っ…やっぱり出てきたわね…」

 

 

「フフッ…君達を見つけたからつけてきてみたら…中々面白そうなことをしてるじゃないか」

 

 

男…サレは人型の姿で不気味に笑いそう言うと僕達の方に歩み、少しして立ち止まる。

 

 

「もうすぐこのルミナシアは僕とラザリスの世界…ジルディアが飲み干すというのに、君達は封印なんて…中々本当に…めんどうな事をしようとするじゃないか」

 

 

「っ…この世界をジルディアに飲み干させは…ラザリスやアナタの好きにさせる訳にはいかないんだっ!」

 

 

不気味に笑みしたまま言葉を出すサレに、僕は真っ直ぐとサレを睨んでそう告げる。

『僕とラザリスの世界』…どうやらサレは完全にジルディアの世界の住人と化しているようだ。

 

 

「フ…フヒャッ…!中々言うじゃないか。まぁいい…そろそろ君達の悪あがきも目障りになってた所だし…此処で君達の希望を終わらせて、メリアちゃんと衛司君…揃ってラザリスに献上してあげようじゃないか」

 

 

そう言ってサレはより一層、サレは笑みを強めて指を鳴らして赤い煙を出現させ、その煙に身を包め…身体の至る所から結晶を生やした『『狂風』サレ』へと姿を変える。

サレの姿が変わったのを見て少しリタの方を見るとリタはそれに気付いて小さく首を横に振った。

…まだ使うなって事か。

僕は改めてサレを見直して、星晶剣を抜き構えた。

 

 

「僕達は此処で負けるわけにはいかない…希望を終わらせるわけにはいかない。だから…今此処で、絶対にアナタを倒す…サレっ!」

 

 

「フヒャヒャっ!面白いじゃないか…いいよ、もうお遊びは無しだ。此処で終わりにしてあげるよ…君達アドリビトムも、希望も、この世界…ルミナシアもねぇっ!ヒャァーハハハハッ!!」

 

 

 

僕の言葉を合図にカノンノ達はそれぞれ武器を構える。そしてそれと同じように不気味に笑い、結晶で作られた細剣を出現させて構えるサレ。

 

 

──ルミナシアの命運を賭けた闘いが始まった。

 

 

 

 








──以上、第六十三話…如何だったでしょうか?


不安ダナー←



【衛司の想い】
果たしてすべてが終わった後、衛司はどうなってしまうのか。
元の世界と今の世界、どちらかを選ばなければならない時、どちらを選ぶのか。
決して避けられない選択が来たとき…果たして彼は何を選ぶのでしょうね?(何←


【封印次元展開へ】
封印次元展開…原作ではドクメントそのものですが、此方では装置型にしています。
何故装置型にしたかは色々ありますが…ヒントはリタが衛司に渡した物です。

後…ドクメント干渉無効化については『本当にそんなん作れるのか?』と聞かれたら『研究組がやったから仕方ない』と答える私である←
マイソロ版のリタ達研究組は多分某超機械大戦版のアス○ナージさんばりの技術力があると私は思ってる←←←


【『狂風』サレ、再び】
門番ではなくストーキングで登場←
一応ここで彼とは決着つけとかないと色々と面倒になるので←

問題は一話でこのサレ様戦まとめれるかなー…←←


次回は遂に『狂風』サレとの決着戦となります。
果たして衛司達はサレを倒すことが出来るのかっ!?←

皆様良ければ感想、ご意見、そして評価等宜しくお願いします+


ではまた、次回+


P.S.
遂に『テイルズ』、マザーシップタイトルで新作発表決定しましたね+
果たしてどんな物語でどんな内容になるのか今から楽しみです+



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第六十四話


今年最後の投稿です+


そして今年中に投稿させなければ、と思った結果短めになった←←

今年最後の投稿の内容がこれって大丈夫かなー…←





 

 

 

 

 

「──ヒャハハッ!ヒャァァハハハハハッ!!」

 

 

 

「っ…く…っ!」

 

 

「……っ…!」

 

 

 

──戦闘が始まった瞬間、結晶で作られた細剣を奮い無数の風の刃を飛ばしてくるサレ。僕とメリアはカノンノとリタを後方に下げると、メリアが風の刃を避け、僕が後方に届きそうな風の刃を星晶剣で切り落とす。

相変わらず厄介な攻撃だけど…以前惨敗した時に比べてこれならまだ防ぎきれるっ!

 

 

「ヒャハハッ…へぇ…確かに腕は上がってるようだね」

 

 

「お褒めいただけて光栄です…魔神剣っ!」

 

 

風の刃を避け、防ぐ僕達を見てサレは僅かに笑いを止めてそう言い、僕はそれに言うと風の刃を防ぐ中でサレに向けて斬撃を飛ばす。

 

 

「ヒャハッ!それは前から無駄だっていってるだろうっ!」

 

僕の飛ばした斬撃に不適に笑みを浮かべてサレはそう言うと細剣を持っていない片手を斬撃に向け、以前と同じように強風の壁を作り斬撃を無効化する。

だけど…防がれるのは百も承知だっ!

 

 

「メリアっ!」

 

 

「……しっ…!」

 

 

「っ!ほぅ…!」

 

 

強風の壁が魔神剣を防ぎきり消滅した瞬間、僕の声を合図にメリアが一瞬でサレの懐に入り込み短刀を奮う。

サレはそれを先程のように強風の壁を作る事をせず、結晶の細剣で防いだ。

 

やっぱり……サレは『完全』にジルディアの力を制御できてはいない。

あれだけの力だ…その気になれば以前も、今も僕達をすぐに纏めて始末する事が出来るはずだ。だけどそれをせず、風の刃で攻撃してくるだけだったり、今のようにメリアの攻撃を風の壁で防がなかったりと…明らかに強力な力を簡単に使おうとしてない。

だから恐らく…サレは一度強力な力を使用すると、連続して続けて力を使用する事が出来ないのだ。

 

それに…

 

 

「リタ、カノンノ!」

 

 

「言われなくても分かってるわよ…グランドダッシャーっ!」

 

 

「これでいいんだよね…フラッシュティアっ!」

 

 

「ッ…ぐぅっ…!?」

 

 

僕の声を合図に今度は後方に下がって詠唱をしていた二人が同時に魔法を発動させる。その声を聞いたメリアは一瞬でサレから離れ、その場に残ったサレに地面から鋭い大地の槍と光の衝撃が襲い掛かる。

 

そう…いくらサレが強力な『風』を操る力を持っていても、『地面』からの攻撃は対処出来ない。

サレは大地の槍と光の衝撃を受け、僅かに…だが確実に怯んだ様子を見せた。

 

 

「っ…フフッ…成る程…君達もそれなりに僕への戦い方を考えてる訳か」

 

 

「…まぁ、僕達だってただでやられてるわけじゃないですからね」

 

 

「フフッ…全く……調子にのるなよクソガキがぁっ!」

 

 

攻撃を受け、負傷したであろう右肩を一度見てそう静かに言ってきたサレに僕は星晶剣を構えなおして言葉を出す。

僕の言葉を聞き、サレは低く笑った数秒後…笑みを一転させて明らかに怒りを表す表情でそう叫び、自分の周りに様々な色の輪…オーバーリミッツを発動させた。

 

 

「…オーバーリミッツ…っ!」

 

 

「っ…どうやら本気でくるみたいね」

 

 

「ヒャハッ…コレに耐えられるかどうか…さぁ、楽しませろぉっ!」

 

 

不気味に、高らかに笑いオーバーリミッツしたサレは両手を広げて叫ぶと、以前ヴェイグとの戦いで見せた暴風『シュタイフェ・ブリーゼ』がサレの背後に現れた。ただ、その数は以前の一つではなく…五つ。

 

 

「!皆、急いで僕の近くにっ!」

 

 

「「「!」」」

 

 

サレの出した五つの暴風に、僕は急いで星晶剣を盾にするように構えて皆にそう告げ、意識を集中させる。

カノンノ達は僕の声に反応すると僕の方に集まり、それを見たサレは広げていた片手を此方へと向けると不気味に笑みを深めた。

 

「わざわざ自分から集まってくれるなんて…それならこのまま纏めて一呑みしてあげるよ!──さぁ、見るといい!これぞ進化した真の狂乱の嵐っ!」

 

 

「っ…間に合ってくれ…ライトニング・シェルっ!」

 

僕達に向けより一層高らかに、不気味にサレは叫ぶとサレの背後の五つの暴風はまるで生きているかのように動き出す。

僕はそれに意識を集中させながら僕と皆を守るように円形の紫色の膜を張る。これでもまだ耐えきれるかどうか…っ!

 

 

 

「この暴風の渦から、逃れられると思うなよぉっ!さぁさぁさぁ、吹き荒れ、呑み込み、切り裂き、殺せぇっ!『シュタイフェ・ジル・ブリーゼ』ェッ!」

 

 

サレの叫びと共に放たれた五つの暴風。それは真っ直ぐと此方に向かってきたと思った瞬間、五つの内四つが方向を変え、僕達の上、右、左、後方と、僕達の逃げ場を無くすかのように飛んできた。

 

 

「ぐっ!っ…ぅ…っ!」

 

 

「衛司…っ!」

 

 

前方、後方、左右、そして上空から迫ってきた暴風の渦が一斉に僕達を守るライトニング・シェルに直撃し、その衝撃がシェルを通して僕に伝わってくる。

 

 

「ヒャハハッ!さぁ、粉々になれぇっ!」

 

 

「ぅ…く…ぁぅうっ!」

 

 

「ちょ…大丈夫なのっ!?」

 

 

「…衛司…!」

 

 

聞こえてくるサレの声と共に勢いを増してくる暴風。その衝撃が更に僕に伝わり思わず苦痛の声を漏らしてしまうけど、リタやメリア達の心配するような声を聞いて、僕はなんとか耐えつつ意識を集中させ続ける。

よし…これなら…っ!

 

 

「っ…ヴォルトっ!」

 

 

「(…お待たせしました、主っ!)」

 

 

「「契約解放《リンクバースト》っ!」」

 

 

集中し続けていた意識を一気に放出させるように、僕はヴォルトとの契約解放を発動する。契約解放をした事で伝わってくる衝撃が幾分か和らいだのを感じると、僕は展開しているシェルに意識を込めてシェルの厚さ、防御力を上げる。

 

 

 

「くっ…耐えきれぇっ!」

 

 

シェルに全力を注ぎ、暴風を防ぎ続ける。もし僕が此処で防ぎきれないと、皆が暴風に呑み込まれて全て終わってしまうんだ…だから…絶対に防ぎきるっ!

そのまま暫く暴風を防ぎきり続け…防御力を増した膜を傷つけつつもようやく暴風は消え失せた。

 

 

「…っ…ハァ…ハァ…っ!」

 

 

「衛司っ!今、回復させるからっ!」

 

 

五つの暴風『シュタイフェ・ジル・ブリーゼ』を防ぎきる事に成功したけど…防いでいた今までの衝撃と急いで発動させた契約解放の疲労が身体に襲いかかってきた。僕は肩で息をしながらも真っ直ぐとサレを睨み、カノンノは僕の様子を見て回復魔法を使用する為に詠唱を始め、メリアとリタは僕を庇うように前に出てそれぞれ武器を構える。

 

 

「…へぇ…アレを防ぎきるとは…それにその姿…。成る程ねぇ…やっぱり君達はあのルバーブ連山の時、ラザリスの命令を拒否してでも倒してラザリスに献上していた方が正解だったかもしれないね。君達は仲間だの絆だの…時間をおけばおくだけ面倒になるからね」

 

 

武器を構える僕達に、まるで忌々しい物を見るような表情でそう言ってくるサレ。

サレのその様子と発言に…僕はカノンノから回復を受け、ゆっくりと呼吸を整えながら、以前から気になっていたことを口にした。

 

 

「…サレ…アナタはどうしてそこまで人の絆や、仲間をそこまで否定してるんですか?」

 

 

「何…?」

 

 

「アナタの仲間や絆の否定…。とても『ただ気に入らないから』ってだけの様子がしないんです。だから…アナタは何故そこまで『人』を『拒絶』しているんですか?」

 

 

そう…前々から気になっていたけど、サレの仲間や絆の否定の仕方は明らかに異常であった。誰かがサレは他人を侮辱し、見下す事を好んでいるからそういう風な性格なんだ、とは聞いたことがあったけど…僕にはこのサレがただ本当に…それだけで此処まで仲間や絆を否定しているとは思えなかった。

 

 

「…フフ…フヒッ…フハハハハハハッ!いきなり何を言い出すかと思えば…君も物好きだねぇ。…まぁいいさ…そんなに知りたいならちょっとした昔話をしよう──」

 

 

僕の言葉を聞き、おかしな物を見たようにサレは笑うが、少しして僕達を見るとまるで何かを思い出すように両目を閉じてそう言葉を出し…そして続けた。

 

 

 

「──人間の醜さを見て生きてきた男の話を…」

 

 

 

 

 








─以上、第六十四話、如何だったでしょうか?

うん、こんな内容ですみません←



【サレの弱点】
てな感じで、今話でサレの弱点発表でした←
うん、なんか無理やりっぽくてごめん←


【シュタイフェ・ジル・ブリーゼ】
サレ様の新秘奥義発表←
元々の『シュタイフェ・ブリーゼ』が一直線上に居ないと当たらないので、『じゃあ確実に当たるように逃げ場を無くすのは?』という発想から生まれたのがこの『シュタイフェ・ジル・ブリーゼ』です。

皆っ!敵は対処法をよく考えてチート化させようねっ!←←


【サレの過去】
原作の『リバース』や『マイソロ3』でも彼の過去に関しては一切描かれていないので次回は完全にオリ設定な過去話になります←

果たして、彼になにがあったのか?

…因みに本当なら今話に過去話を書く予定だったのですが、大分長くなりそうで、かつ今年中に投稿できそうになかったのが今話の結果である←←



─次回は言ったとおりサレの過去話となり、文字数次第で決着戦込みな話になります。

皆様良ければ感想、ご意見、そして評価等宜しくお願いします+


ではまた、次回+



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第六十五話

皆様、新年明けましておめでとうございます+


なんとか完成できたので投稿です+


今回は軽く難産だった←
書いてて書いてる本人が何書いてるか分かんなくなった現実である←

今回は色々と文が変かもしれませんので、あしからずです;;

新年初の投稿がこんなんでいいのかな…←




 

 

 

 

 

──それは一つの小さな村で生まれた一人の少年から始まった。

 

少年が生まれた時、その両親は初めて生まれた一人の子供に嬉しさの感情を表していた。

 

『この子はきっと良い子に育つ』

 

そんなありがちな言葉を出しながら…その両親と子供は平和に暮らしていた。

 

だが…それはほんの小さな出来事で崩壊した。

 

 

 

────────────────────

 

 

「…ほんの…小さな出来事…?」

 

 

──僕達の目の前で結晶の岩に腰掛け語るサレの言葉に、メリアがそう声を出した。そのメリアの声を聞いてサレはクスリと笑って口を開いた。

 

 

「そう、ほんの小さな出来事…それはその子供が幼いながらに…『風を操る力』を持っていた事が判明した事さ」

 

 

「…どうして…そんな事で…?」

 

 

「なに、そう難しい事じゃないさ。…君ならよくわかるんじゃないかな、リタ・モルディオ?」

 

 

メリアの問いにサレはクスリと笑ったままそう答えるとその視線をリタへと向けた。

サレの言葉とその視線を追うようにリタを見ると、リタはなんとも言えなさそうな表情で溜め息を漏らし、口を開いた。

 

 

「…まぁ、ある程度想像はつくわ。今までなんの変哲も無かった子供が、突然自分達が持っていないような『異能』を持っていたら…それは、その子供に対する見方が変わってくるでしょうね」

 

 

「そう…そして案の定…その子供の両親はまるで手のひらを返すかのように、その子供への見方を変えたのさ」

 

 

リタの言葉の後を続けるようにサレはそう言うと、視線を僕達に戻して再び語り出した。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

子供の両親は子供の持つ力を知ると、手のひらを返すようにその子供への対応を変えた。

今まで可愛がっていた子供を…まるで別の物を扱うように見、扱い、区別し…そして捨てた。

 

村が元々小さい事もあり…その子供の『異能』の噂が広まるのは遅くはなかった。それでも子供が村にいられたのは…少なくともまだ『ヒト』としてみられてたからだろうね。

 

 

…そして子供は必死であった。まだ幼いが為、何故自分が捨てられたか、拒絶されたか理解できてはいなかった子供は、なんとかまた誰かに見てもらえるように、誰かに手を差し伸べられてもらえるようにと子供は必死に崩れた建物の下敷きになった村人を助けたり、魔物に襲われかけた子供を助けたりした…。

だが…村人達はその子供に手を差し伸べることはなかった。

 

そしてある日…子供に転機が訪れた。

それは焦った様子で村に戻ってきた村人の一言を聞いた時であった。

 

 

『この村に魔物の群れが迫って来ている』

 

 

ただでさえ小さな村で、魔物に対抗出来る大人も少ないのだ。そんな村に魔物の群れが襲ってくれば村が確実に崩壊することは幼い子供でもわかる事であった。

しかし…それと同時に子供は思った。

 

 

『自分が『力』を使って魔物を撃退したら、きっと今度こそ皆は自分を見てくれる!手を差し伸べてくれる!』

 

 

幼い子供なりに考えたそれに、子供はその考えを信じて一人、魔物の群れに闘いを挑んだ。

幾ら風を操る『異能』を持っていても所詮は子供…魔物の群れとの闘いは明らかに苦戦であった。

それでも子供は『きっと皆が自分を見てくれる』と信じて魔物の群れと傷つきながらも、返り血を浴びながらも闘い続け…そして子供はなんとか魔物の群れを撃退することに成功した。

 

 

『これでやっと皆に見てもらえる!僕は救われるんだっ!』

 

 

子供は負った傷や浴びた返り血も気にせず村へと走った。やっと認めてもらえる、また両親と笑って暮らせる家に戻れる。そんな想いを胸と頭いっぱいに描いて。

…だが…戻った村でその子供が魔物の群れを撃退しは話を聞いた村人から出た言葉は……──

 

 

 

『──く、くるな…っ!この…化け物めぇっ!』

 

 

 

…村人の言葉はある意味…間違ってはいなかっただろうね。村人が適わないだろう魔物の群れをたった一人の子供が返り血と傷だらけで笑って『自分が倒した』というんだから。

だが、その一言で子供は理解した。

 

 

『ああ、そうか。…僕は『ヒト』じゃなくて『化け物』と見られていて、そして…僕がヒトを信じ続けた結果が…『こんなもの』だったんだ』

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「──…そこから先に起こった事は子供は覚えていない。次に意識が戻った時に見たのはヒトも、物も…全てが消え失せた村の跡だった。…そしてその後…子供は成長し、騎士となり…そしてヒトを、世界を捨てたのさ」

 

 

結晶の岩に腰掛けたまま、思い出すような表情でそう語りを終えたその時の子供であっただろうサレ。

そんなサレの過去を聞いた僕達は少なからずとも思わされる所があった。

その僕達の表情を見たサレはクスリと笑うと座っていた岩から立ち上がり静かに口を開いた。

 

 

「僕が言いたいことはそういう事さ。どうせ人を信じた所で裏切られるのが結果…。そんなくだらないヒトだらけの世界なら…捨てた方がいいだろう?」

 

 

「…っ!でも人は変わっていける!少なくとも…私たちはそれを見てきたよっ!」

 

 

「でも、それはあくまで『君が見た結果』だろう?」

 

 

「っ!」

 

 

サレの言葉にカノンノは真っ直ぐとサレを見て言い返すが、サレはそれを切り捨てるようにそう言った。

 

 

「そう…人が変わったかどうか決めるのは『君達』じゃない。『その人自身』さ。そして本当に変わったかどうかなんて…誰かに分かる訳じゃない。それに…僕は予想してあげるよ…人は『絶対に変われない』。今はまだ『変わる』だのなんだのと言ってるけど…どうせそれも今のうち…この世界が平和になればまた人はきっと同じ事を繰り返すさ」

 

 

そう淡々と静かにサレは言っていくと、ゆっくりと此方に右手を差し出してクスリと笑った。

 

 

「今からでも遅くない。衛司君…此方に来ないかい?」

 

 

「何をっ!?」

 

 

「さっきの話を聞いて分かっただろう?ヒトを平然と『化け物』と呼び、差別し、捨てる…信じた所で裏切るようなヒトの蔓延る世界なんて、救う価値はないだろう?君だって一度ジルディアの力を手にしたならあの素晴らしさが分かるはずだ。こんな世界救うより…ジルディアに来て力を手にした方が十分いいだろう?」

 

 

僕に右手を差し出したままそう静かに告げるサレ。

幼い頃に捨てられ、それでも救われる為にヒトを信じた結果、裏切られた『結果』を持つサレの言葉は…確かに否定できない物を感じた。

…だけど…。

 

 

「衛司…」

 

 

「…衛司…」

 

「…………」

 

 

サレと僕を交互に見て、不安げな表情を浮かべるカノンノとメリア。そしてただ静かに僕を見つめるリタ。僕はそれを見て小さく頷いた後、サレに向けて口を開いた。

 

 

「……残念ですけど…その手を取る事はできません」

 

 

「ほう…何故だい?」

 

 

「…確かに…アナタの言うとおり、本当に人が変わったかどうかなんて僕達には分からないし…アナタの過去にあった人達のような人も少なからずともいると思う。…だけど…」

 

 

サレの問いに僕は少し俯きながらも応えつつ、再び今此処にいるカノンノとメリア、それにリタを見た後真っ直ぐとサレを見て言葉を続ける。

 

 

「…だけど…此方にいるカノンノやリタ達のような人達がいるのだって確かなんだ。だから…少しでも『人は変われる』っていう想いが皆にあるなら…僕はそれを信じて、この世界を救いたいんだ」

 

 

「へぇ…例えその先に裏切りがあって、その裏切りの刃が君や君の大切な物に突きつけられても、かい?」

 

 

「…うん。裏切られる時があるかもしれない…僕達の力に偏見をもたれる時もくるかもしれない…。だけど、その先に『変われる』って想いがあると、僕は絶対に信じる。何度も裏切られるなら信頼を得られるまでその人に手を伸ばし続ける。大切な人が傷つけられるなら、それを守ってその人と話をする。ただ…それだけだよ」

 

 

目の前で不適に口元を吊り上げるサレに、僕は真っ直ぐとサレを見たままそう言葉を出す。

サレの言っている『現実』から考えれば…確かに僕達が抱いてる想いはただの『理想』かもしれない。

けど…それでも僕はその『理想』を『現実』に変えていけると信じているんだ。

ただサレの言うとおり『見た結果』だけだけど…それでも僕が見たジョアンさんや暁の従者の人達、ウリズン帝国の人達は『変わって』みせたのだから。

 

僕のその言葉を聞いて、不安げであったカノンノとメリアは大きく頷き、静かに見ていたリタは小さく笑い改めて武器をサレに向けて構えなおした。

 

 

「…そうかい。残念だよ…君とは本当に…相容れないようだからねぇっ!」

 

 

「…えぇ…本当に…そうですねっ!」

 

 

僕の返答とカノンノ達の行動にサレは一度クスリと笑って俯いた後顔を上げると、再び笑みを狂気のモノに変えて高らかに叫び、僕はそれに皆と同じように星晶剣を構え直す。

 

 

「もうラザリスの命令も関係無い…君は、君達は必要無いっ!此処で…殺してやるっ!」

 

 

狂気の笑みのまま、だがまるで忌々しいモノを見るような目でサレはそう叫ぶと、再びサレは様々な色の輪《オーバーリミッツ》を発動させ、その背後に五つの暴風を出現させた。

 

 

「…それはお断りします。僕達は殺されない…絶対アナタを此処で倒して…皆が『変わっていける』世界を救うんだっ!」

 

 

 

サレの出現させた五つの暴風に、皆の表情が僅かに曇るが僕はサレに向けてそう叫び、背中に背負っていた鞘を腰に持ち替え、その鞘に構えていた星晶剣を納刀させて低く構え、サレ同様にオーバーリミッツを発動する。

 

 

───『理想』を信じる者と、『現実』を知る者の闘いに決着は迫る。

 

 

 

 







──以上、第六十五話、如何だったでしょうか?

…うん、なんか今話は色々ぐだぐだですみません←



【サレの過去】
自分がヒトを『信じた』結果、自分を否定されたサレ。小さい頃にこんな事あればあんなんになるんじゃないかな、という私の考えです。
人間って…汚い…っ!←


【理想と現実】
衛司達の言う『ヒトは変わっていける』という理想と、サレの味わった『裏切られた』現実。
どちらも実際にあった事であり、否定する事はできない。
結局ヒトが変われるかどうか、というのは本当に『その人の意思次第』という難しい問題ですよね(何←


次回は遂に本当に衛司対サレの決着となります。
果たして、サレの暴風に勝利する事はできるのかっ!?

皆様良ければ感想やご意見、そして評価等宜しくお願いします+

ではまた、次回+


P.S.
アニメ版『デビルサバイバー2』を正月休みに全話見ましたが…セプテントリオンの難易度がルナティック過ぎて絶望感が笑えない←
とりあえずクリッキーの早期離脱とイオちゃん離脱は私は絶対に許さない←←

……誰か転生物で『悪魔召喚アプリ』と『死に顔動画』の力(?)を持ったオリ主とか書いてくれないかなー…(じーっ←




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第六十六話


なんとか完成出来たので投稿です+


今回ほぼ急ピッチで仕上げたので、展開がかなり駆け足気味かもしれませんのであしからず;;





 

 

 

 

 

「──殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すヒャハハハハハハっ!」

 

 

──目の前で狂気の叫びともに両手を広げ、その背後に五つの暴風を出現させているサレ。

あの殺気と暴風から、サレが次に放ってくる攻撃は確実に、あの全方位型の暴風の渦『シュタイフェ・ジル・ブリーゼ』だろう。

あのほぼ回避不可能に近い暴風の渦がまた放たれるとなると…正直またライトニング・シェルで防ぎきれるとは思えない。

ただ……あるとすれば一つだけ、今自分にあの暴風の渦に対処できる『技』がある。

 

 

「(…ただ…あれはほとんど思い付きのような技だ。…成功率もオーバーリミッツと契約解放を合わせても半分以下に近い…)」

 

 

腰の鞘に納めた星晶剣の柄に手を添え真っ直ぐとサレを睨んだまま僕は考える。

『あの技』が成功すれば…確実にサレを弱らせ、リタの『切り札』も使用できるが…その反面、失敗すれば僕は間違いなく、暴風の渦に呑み込まれて…死ぬだろう。

……この世界にきて、何度も死に直面しかけた事はあったけど、やっぱりこの感覚に慣れる事は無理だろう。

 

正直怖い。星晶剣の柄に添える手が震える。

…だけど…。

 

 

「(主…)」

 

 

「…うん…大丈夫…。絶対、此処を切り抜けて…皆を…守りきるっ!」

 

 

ヴォルトの声と僕の後方にいるカノンノ達。僕が此処で敗れれば、その攻撃は彼女達にも向かうことになるのだ。

そんな事…絶対にさせる訳にはいかないっ!

僕は震えていた手に力を込め、添えていただけの柄を強く握り締め意識を真っ直ぐとサレに集中させる。

 

 

 

「ヒャハハっ!これで…終わりだぁっ!さぁさぁさぁ、吹き荒れ、呑み込み、切り裂き、殺せぇっ!」

 

 

僕達の目の前で高らかに笑い、言葉と共に広げていた両手を僕達に向け、暴風の標準を付けるサレ。

僕はそれに、体勢を低く構えて『技』を発動するタイミングを待つ。

まだだ…まだ抜けない…。

 

 

「ヒャハっ!なんのつもりか知らないけど、動かないならそのまま…死ねぇっ!シュタイフェ・ジル・ブリーゼェエェェェェっ!」

 

 

「……………」

 

 

「衛司…っ!」

 

 

僕が微動だにしないことをサレは不気味に笑い言うと、雄叫びと共に五つの暴風の渦を此方に向けて放つ。

迫り来る五つの暴風をただ意識を集中させたまま見ているだけの僕に、後方からカノンノの僕を呼ぶ声が耳に届く。

…よし…いまだっ!

 

 

「すー……セェエェェェイっ!」

 

 

迫り来る五つの暴風の渦。その五つの暴風が全方位へと分かれようとした瞬間、僕はオーバーリミッツと契約解放で強化した力で納刀した星晶剣を引き抜き、気合いと共に…今まで出してきた中で一番大きく、強力な斬撃を放ち、サレの五つの暴風を相殺する。

 

 

「っ!?な、僕の…シュタイフェ・ジル・ブリーゼを…っ!?」

 

 

「この刃はただ一閃……されどこの一閃の間…僕は…『全て』を越えるっ!」

 

 

 

「っ!?しま…っ!」

 

 

僕の放った斬撃で相殺された暴風に、思わず驚愕の表情を浮かべるサレ。僕はその間に再び星晶剣を納刀させ、脚に一気に力を込め…そしてその脚に僅かに微量の電気を流してサレに向けて一気に跳ぶ。

…それは一人の友人から教わった技術。脚に微量の電気を流し、筋肉を刺激してほんの一瞬だけ…速度を上昇させる技。

この瞬間…僕はこの一瞬だけ速度のみなら『全て』を越える。

 

…そして、気付いた時にはもう遅い。

 

僕が跳び、それにサレが気付いた瞬間に僕は星晶剣を引き抜きサレの横を通り抜け様に一閃し、サレの後方へと着地してゆっくりと星晶剣を鞘に納めていく。

 

 

「…ただ一閃…されど一閃。この一撃こそ…必殺の一撃なり…」

 

 

「ぐっ!?…ぅ…かは…っ!」

 

 

星晶剣を鞘に納めていくと同時に、サレの肩から斜め下へと浮かび上がってくる一閃の傷痕。

そして、鞘に完全に納めきる直前に僕はゆっくりとサレへと振り返り、最後を決めるように口を動かした。

 

 

「…これぞ『返し』の一撃…『瞬雷刃《またたく いかずちの やいば》』なり…」

 

 

「ぐっ…ぁあぁぁあぁぁぁっ!?」

 

 

言葉と共に星晶剣を納めきる。星晶剣を納めきったと同時に、サレに浮かび上がった傷痕から一気に強力な雷撃がサレの身体を流れ、蹂躙する。

サレはそのダメージに声と共に片膝をつく。

 

 

「ぐっ…がぁっ…この程度…この程度でぇ…っ!」

 

 

「…っ!衛司、今よっ!」

 

 

「分かった!」

 

 

片膝をつきながらも僕達を睨み再度立ち上がろうとするサレ。その光景にいち早く我に帰ったリタが声を上げ、僕はそれに頷いて懐からリタから受け取っていた小型の箱を取り出してサレに向ける。すると箱がまるで分解されるように開かれていく。

 

 

「…っ!?一体…何を…っ!?」

 

 

「それはね…こういう事…っ!」

 

 

リタの言葉を合図にするように完全に開かれる箱。

同時にその箱から複数のドクメントが浮かび上がりサレに向けて跳び、そしてそのドクメントはまるでサレを拘束するかのようにサレの身体全体に巻き付いていく。

 

「なっ!…ぐっ…これは…っ!?」

 

 

「えぇ、ご想像通り…。大変だったわよ…封印次元展開装置を『小型化』するのわっ!」

 

 

そう…僕がリタから受け取っていた『切り札』とは…封印次元を小型化し、それを封じ込めた『小型封印次元展開装置』であった。

小型化している為、封印する程の力は無いけど…それでもジルディアのドクメントを取り込んでいるサレを数分間、拘束させる力はある。

 

 

「ぐっ…この程度の封印で…僕を止められるとでも…っ!」

 

 

「えぇ、アンタをこれで止められるなんて思ってないわ。ほんの数分間、アンタの動きを止められるだけでいいのよ」

 

 

拘束を解こうとするサレ。そのサレにリタは静かに言うと、僕とカノンノとメリアが前に出て、僕が星晶剣を『光り輝く』木刀に取り替え、カノンノとメリアが両手をサレへと向ける。

 

 

「っ!?何を…まさか…っ!?」

 

 

「えぇ…確かにアンタのジルディアの浸食を浄化するのは『一人』じゃ無理でしょうね。だけど今、浄化の力を持つ者は此処に『三人』いる。私達は始めからアンタに勝とうと思っちゃいないわ。ただ…アンタの『無力化』を目的にしてただけよっ!」

 

 

「ぅっ…やめろ…やめろおぉおぉぉぉっ!」 

 

 

「「「はあぁあぁぁぁぁぁぁっ!」」」

 

 

僕達の行動を理解して拘束を解こうとするサレ。

そのサレに向けて僕は光り輝くを振り下ろし、カノンノとメリアは向けた両手から光を溢れ出させる。

そして…光がその場を包み込んだ。

 

 

 

 

────────────────────

 

 

 

──しばらくして光が収まっていき、その場の状態が分かってくる。

そして完全に場が分かった時…リタは僅かに舌打ちした。

 

 

「チッ…途中で拘束が解かれたわね」

 

 

リタが静かに出した言葉。その一言はサレの姿を見て理解出来た。

三人分の『ディセンダーの力』を受け、サレは確かに取り込んでいたジルディアの力を浄化されたようである。だが…途中で小型封印次元の拘束を力ずくで解き、ディセンダーの力の浄化に抗ったのか…サレの姿は、右目部分の結晶化のみを残し、ボロボロであった。

サレは僕達を忌々しい物を見るような表情で睨むと、残りの力を振り絞るように右手をあげ…自分の背後に以前見た結晶の扉を出現させた。

まさか…逃げるつもりかっ!

 

 

「ぐっ…よくも…やってくれたな…っ!僕はまだ…まだ此処で倒れる訳にはいかない…覚えていろ…どうせ…どうせ『手遅れ』なんだからなぁっ!」

 

 

「っ!待てっ!」

 

 

結晶の扉を開き、僕達を睨んだままサレはそう言うと、傷だらけの身体を引きずり、結晶の扉へと飛び込んでいった。

僕は思わずサレを追おうとするけど、結晶の扉はサレを入れるとすぐに閉じ、消えていった。

くそ…逃げられたっ!

 

 

「…衛司…」

 

 

「衛司、今は封印次元を作る方が優先よ。少なくとも…ああなった以上、サレはこっちには手を出してこないだろうし…それに、これで最後なんだからね」

 

 

「…うん…分かってる。大丈夫だよ…」

 

 

あと一歩というところでサレに逃げられた事に、僕は思わず舌打ちしてしまうも、心配げに僕を呼ぶカノンノと、封印次元展開装置の準備を始めながらそう言ったリタに、僕は小さく頷いた。

そうだ…後はこの封印次元展開装置を発動させて、目の前でマナを吸い込んでいる渦に封印次元のドクメントを吸い込ませ…ラザリスを…ジルディアを再び眠らせるだけなんだ。

 

 

「…これで…本当に終わるんだね…」

 

 

「…ん…」

 

 

封印次元展開装置の準備をするリタと、マナを吸い込む渦『ボルテックス』を見ながら僕の両隣でそう言うカノンノとメリア。

そう…これで最後…の筈だけれど…

 

 

「(なんだろう…この不安感…。それに…サレの言ってた『手遅れ』って…)」

 

 

「…よっし、準備完了。後は起動させるだけね」

 

 

何故か先程から来る嫌な不安感と、サレが最後に残して言った言葉を考えていると、リタが封印次元展開装置の準備を終えてその装置に両手を向けていた。

 

 

「──さぁ…世界中の皆が集めたドクメントなんだから…上手くいってっ!」

 

 

両手を向けたままリタがそう言うと封印次元展開装置が起動音を出し、装置からドクメントが溢れ出てボルテックスへと流れ込んでいく。

此処からだと世界樹の様子は分からないけど…封印次元のドクメントが流れ込んでいく度に周りの結晶が感応するように輝き出す。

 

このまま本当に…世界は救われるんだ。

 

 

 

 

 

そう…思った瞬間だった…。

 

 

 

 

 

────ピシリッ!

 

 

 

 

 

「…ぇ…?」

 

 

 

嫌に、だが確実に耳に届いた音に、僕は納めていた木刀を抜いてみると…何故か今まで傷すら見せなかった相棒に、徐々に徐々にとヒビが入ってきていた。

そしてそれは止まることは無く次第にビキビキと音をたてて広がっていき、そして……

 

 

 

 

──────バキリッ!

 

 

 

 

……今まででより一層、嫌に耳に響く音をたてて、持ち手の柄の部分だけを残して木刀が、砕け散った。

 

 

 

「そんな…どうして…っ」

 

 

突然砕け散った木刀に、僕は残った柄の部分を握り締めながら声を漏らす。

これは世界樹から作られた木刀だ。それが砕けるという事は…世界樹に何かあった…っ!?

 

 

「そうだ、メリアは…っ!?」

 

 

世界樹から作られた木刀が砕け散り、世界樹に何かがあった。それはつまり、世界樹から生まれたディセンダーであるメリアにも何か起こったかもしれない。

僕はその考えに至り、慌ててメリアを見ると…一瞬息が止まった。

 

 

ほんの一瞬だけ…だけど確実に一度、『見えてしまった』。

彼女の身体を…ジルディアのキバに似たナニカが貫いた姿を…。

 

 

「…ぁ……ぇ……」

 

 

「メリア…メリアっ!」

 

 

彼女の身体を貫いたように見えたソレはまばたきする間に消え、メリアの身体がゆっくりと傾いてきたのが見えると僕はメリアを抱き止めた。

慌てて彼女の容態を見ると…今まで身たことのない程彼女の顔は青白く…呼吸している様子が無かった。

 

 

「ぇ…メリ、ア…?」

 

 

「っ!これって…っ!」

 

 

僕の声と音にカノンノとリタが気付き、メリアの容態を見るとカノンノは信じられない物を見たような表情に、リタは驚愕の表情を浮かべる。

 

 

 

「メリア…メリアっ!メリアぁあぁぁあぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

──輝きを止めた結晶の大地の中、僕の声で、いつも笑顔を見せる彼女が目覚める事は無かった…。

 

 

 

 

 

 

 








──以上、第六十六話、如何だったでしょうか?


うぅむ…今回は駆け足気味かな、とちょっと反省してます;;


【瞬雷刃】
衛司君の新秘奥義。読みは『またたく いかずちの やいば』です。
技名の読みの元ネタは分かる人にはわかる某明治剣客浪漫譚です←
この秘奥義は簡単に言えば某若本さんの『アイテムなぞ(ry』と似たようなもので、相手の秘奥義に対してカウンターする秘奥義です。
友人云々については少し前のメリア同様、詳しくは自サイト『儚き時の夢物語』を見ていただければ…+


【小型封印次元展開装置】

リタ含む研究組『私達が頑張った』

この一言につきる←


【サレ撤退】
と、いう訳でサレ撤退です←
この話で『衛司君』とサレとの闘いは決着です。
やはり、サレとの決着は…『彼』としていただかないと。


【砕ける木刀、倒れるメリア】
この話で木刀退場です←
原作だと世界樹がジルディアのキバに貫かれるシーンを見ていたのがロックスとニアタだったので、『ラングリースから世界樹の様子は見えなかったのだろうか』と私が勝手に考えてこんな感じにしてみました←


次回は漫画版展開+少しオリジナルになるとおもいます。
果たして、メリアの運命は如何にっ!?←


皆様良ければ感想、ご意見、評価等宜しくお願いします+

ではまた、次回+


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第六十七話




遅くなりましたが何とか完成したので投稿+


ただかなり展開が無理やり…かもしれません;;

文章力が欲しい…(´・ω・`)





 

 

 

──世界樹の木刀が砕け、メリアが倒れた後…僕達は倒れたメリアを背負い、バンエルティア号へと戻ってきた。

バンエルティア号に戻った僕達が甲板で見たものは…確かに世界樹の周りに展開された封印次元、その封印次元から抗うように裂け目から現れたジルディアのキバ。そして……そのジルディアのキバに貫かれた世界樹の痛々しい姿であった。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「──それで…メリアの容態は…?」

 

 

 

──バンエルティア号の医務室。ベッドの上で未だに青白い顔色で呼吸のないメリアの姿に、僕はニアタに向けてそう聞いた。

ニアタはメリアの状態を見て静かに言葉を出した。

 

 

「…恐らく、メリアは世界樹と同じ痛みを身体に受けたのだろう。世界樹とディセンダーは一心同体であるからな」

 

 

「ふむ…だから世界樹から生み出された衛司の木刀もその痛みを受けて砕けた、ということか」

 

 

ニアタの言葉を聞き、腕を組んでメリアを見ていたウンディーネが僕を見てそう言った。僕はその言葉に思わず、持ち手の柄部分だけになった木刀を握り締める。

 

 

「…まさか、封印次元の力が及ばなかったなんて…」

 

 

「世界樹自体の衰えもあるかもしれないわね。…私達が一歩、遅かったのよ」

 

 

メリアの容態を見たリタが舌打ち混じりにそう呟き、ハロルドがそれに続けて言葉を出した。

ふと、その時だった…。

 

 

──ボゥッ…パキパキッ

 

 

『『『!?』』』

 

 

突如、僕達の耳に聞こえてきた嫌な音に見ると、倒れているメリアの身体から赤い煙が現れだし、その身体からあのジルディアの浸食…『結晶化』が起こり出した。

 

 

「なっ…どうして…っ!?」

 

 

「世界樹を通して彼女に浸食しているのだ!このままでは…っ!」

 

 

「そんなこと…させない…っ!」

 

 

メリアの身体に起こり出した浸食にカノンノが前に出て手を伸ばし、ディセンダーの力を使ってメリアの身体の浸食を消そうとする。

だが…浸食の進行は止まらない。

 

 

「そんな…浸食が止まらないっ!?足りない…メリアっ!」

 

 

「っ…カノンノ…!」 

 

 

「私が…私が助けないと…メリアが…っ!」

 

 

浸食が止まらず、焦りの表情を見せるカノンノ。そのカノンノの様子に僕は一度カノンノを止めようとするが、カノンノは依然そのまま浸食を止めようとディセンダーの力を使い続ける。

 

 

「…カノンノ、一旦落ち着いてっ!」

 

 

「っ!…衛司…私…」

 

 

依然力を使い続けるカノンノに僕はカノンノの手を掴み止める。僕の行動にカノンノは一度ディセンダーの力を止めるが、その表情は明らかに焦っていた。

僕は一度カノンノを落ち着かせようとそっとカノンノの頭を撫でた。

 

 

「カノンノ…一旦落ち着いて。ここでカノンノが倒れたら本当にメリアは助けられなくなる。きっと…何か手があるはずだ…っ」

 

 

「衛司…っ」

 

 

「…手ならあるわ」

 

 

カノンノの頭を撫で、落ち着いてきたのが分かると僕はカノンノに、そして自分に言い聞かせるように言葉を出す。その中、リタが何か思いついたように声を出した。

リタは僕達の視線が集まったのを見るとそのまま静かに口を開いた。

 

 

「簡単な事よ…カノンノ『一人』じゃない…『皆』でやるのよっ!」

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

──リタの『手』…それは実に単純な事。

リタ達が完成させた『手を繋ぐ』ことによる『ディセンダーの力』の転写。

それを利用してこのアドリビトムにいる皆にディセンダーの力を転写させ、皆の力でメリアの浸食を浄化する、というものだった。

今、その説明を受けてこの医務室に居たニアタ、リタ、ハロルド、ヴォルト、ウンディーネ、アンジュがディセンダーの力を皆に転写する為に出て行った。

…本来ならば僕もそれを手伝うべきなのだが…。

 

 

「──『アンタじゃ無理』…か…」

 

 

目の前でジルディアの浸食が徐々に、徐々にと進んでいくメリアの姿を見ながら、僕は先程医務室を出ていったリタに言われた一言を呟いた。

本来なら僕も手伝うべきであるドクメントの転写。だけど…僕のドクメントの状態が状態である為、いくら転写を簡単にして影響を幾分か減らしたとはいえ…僕のドクメントにどのような影響を及ぼすかは分からない。

だから…僕はディセンダーの力の転写を手伝う事が出来なかった。

世界樹の木刀があれば少なからずとも、メリアの浄化を手伝う事ができるのだが…今はその木刀も砕け、僕に出来ることは…何もなかった。

 

 

 

「…くそっ…いつも僕は…肝心な時に何もできない…っ」

 

 

「そんなことないよ、衛司っ!」

 

 

 

目の前で浸食の進むメリアの姿に、自分だけが何もできない不甲斐なさに思わず言葉を漏らすと、カノンノがそう言って僕の手に触れた。

 

 

「カノンノ…」

 

 

「衛司が何もできなかった時なんてない。衛司はいつだって私達が困ってる時や辛い時に手を伸ばして支えてくれた。だから…そんな事言わないで。きっとここにいるだけでも…メリアにとっては十分だと思うよ」

 

 

「…っ…そう、かな。…ごめん、カノンノ」

 

 

カノンノの行動に僕はカノンノを見ると、カノンノはそう言いながら触れていた僕の手をそっと上から握ってきた。

僕はその言葉に小さく頷いて、メリアの方へと向き直った。

 

 

「…メリア…今、君がどうなっているかは分からないけど…きっと目を覚ましてくれるって信じてる。だから…早く目を覚まさないと…もう頭撫でてあげないからね」

 

 

浸食が徐々に進みながらも未だ表情も変わらず眠るメリアを見て、僕はカノンノに握られている手とは逆の手でそっとメリアの額を撫でてそう言った。

僕の言葉が今の彼女に届いているかは分からないけど…多分、今の僕に出来るのはこんな事ぐらいだろうから。

ただ…ほんの少し、メリアの眉が動いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

「──こっち、準備オーケーよ」

 

 

「うん…私も大丈夫」

 

 

──あれから数分後、リタとヴォルトがアドリビトムの皆にドクメントの転写が終わった、と医務室に戻ってきた。

今は皆、船の中のそれぞれの場所からメリアにディセンダーの力を使う準備をしていて、リタの合図で皆一斉にディセンダーの力を発動するらしく、今カノンノ、リタ、ヴォルトがメリアに手を向けている。

 

 

「皆…メリアを…頼むっ!」

 

 

「言われなくても分かってるわよ…それじゃ、皆…始めるわよっ!」

 

 

「「はいっ!」」

 

 

 

僕の言葉にリタは頷いて言うとカノンノとヴォルト、そして片手に持つ通信機らしきものから皆へディセンダーの力の発動を促す。

リタの言葉を合図にするようにカノンノ達の手から光が溢れ出し、メリアの中へと入っていく。その光はカノンノ達の手のみからではなく、外で手伝ってくれているであろう皆からも放たれているのか、光が医務室の外から中へと壁を通り抜けて入ってくる。

 

 

「凄い…この力の量なら…っ!」

 

 

「っ!駄目…っ!」

 

 

アドリビトムの皆によるディセンダーの力で、浸食が進んでいたメリアの身体の結晶が消えていき、ひとまず安心しかけた瞬間…それはリタの言葉で変わった。

消えていった筈の浸食が…まるで最後の抵抗を見せるかのように凄まじい勢いで再びメリアの身体を浸食し出したのだった。

 

 

「嘘…なんで…っ!?」

 

 

「まさか…まだ足りないっていうのっ!?こっちはアドリビトム総員だっていうのにっ!!」

 

 

「っ…このままでは…ディセンダーが…っ!」

 

 

突如目の前で起こった事にカノンノとヴォルトだけではなく、リタまでも驚きと焦りを隠せずにいた。

だがそれでもジルディアの浸食が速度を上げてメリアの身体を結晶化していく。

どうすれば…どうすれば……っ!

 

──いや、手はまだある。だけど…それは…

 

 

「っ!そんなの…関係あるかっ!」

 

 

深く考えるよりも僕の行動は早かった。

今、メリアを失えば、ルミナシアは終わってしまう。いや、それも僕にとってはおまけみたいなものであり、僕は『大切』な彼女そのものを失ってしまうのがいやなのだ。

だから…彼女を救える手があるのなら僕はなにがあろうとその手を使って彼女を助けるだろう。

そう、例え───

 

 

 

「ぐっ…ぁあぁぁっ!」

 

 

 

「え、衛司っ!?」

 

 

──例え、僕がどうなってしまおうと。

僕はディセンダーの力を発動しているカノンノの右手を左手で握り、自分の身体にディセンダーの力のドクメントの転写をさせる。突然の事にカノンノも対応出来なかったのか、今僕の身体の中で何かが刻み込まれるような感覚と痛みが走る。

今まで見てきたカノンノ達のドクメント転写は大丈夫そうだったけど…やはりこれも僕自身のドクメントの状態が問題なんだろう。

 

 

「主…何を…っ!カノンノ、一度ディセンダーの力を…っ!」

 

 

「ぐっ…いいんだ、ヴォルトっ!カノンノ…このまま…続けて…っ!」

 

 

「衛司…でも…っ!」

 

 

僕の行動にヴォルトがカノンノに止めるように促すが、僕はカノンノの手を痛みを堪えつつ握りディセンダーの力の使用と転写を続けるように言う。

 

 

「アンタ分かってるのっ!?それ以上やったらアンタの身体が…」

 

 

「僕がどうなるかは分からない…だけど…ここでメリアを失うのなんて嫌だっ!それに…大切な女の子一人救えないで…世界なんて救えないよ…っ!」

 

 

「…っ!アンタ…」

 

 

「…そう、だね…衛司っ!皆一緒に…メリアを助けようっ!」

 

 

僕の行動にリタが声を上げるが、僕はそれでもリタを一度見てそう言葉を出すと、痛みを耐えながら握っていない右手をゆっくりとメリアに向ける。

僕の言葉にカノンノは意識を切り替えるように首を横に振った後大きく頷いてそう言い、真っ直ぐとメリアに視線を向けた。

 

 

「…分かった…無茶しないでよ…っ!」

 

 

「主…助けましょう…皆でっ!」

 

 

 

「っ…うん…っ!メリア…絶対に助ける…だから…目を…覚ましてくれえぇえぇぇぇっ!」

 

 

 

僕とカノンノの行動にリタも諦めたように、それでいて決心したような表情で言い、ヴォルトも頷きながら言葉を出した。

徐々に痛みは増してくる。だけど、ここで諦める訳にはいかない。僕はただただ強く、彼女が目を覚ます事を想いながらメリアに向けて転写されたディセンダーの力を発動させた。

 

そして…より一層強い光が、部屋の中を包み込んだ。

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

──暫くして、光が徐々に小さくなり視界が分かってきた。

光が消えた今…僕達の目の前で眠るメリアの姿は、先程までのジルディアの浸食で結晶化したものではなく、今まで見た彼女のちゃんとした姿だった。

成功…したのか…?

 

 

「──…ん……ぅん…っ」

 

 

 

「っ!メリア…!」

 

 

目を閉じていたメリアが声を出したのを聞き、僕達はメリアに駆け寄る。メリアはゆっくりと上半身を起こすと少し目をこすりながら口を開いた。

 

 

「…カノンノ…衛司…それにリタとヴォルト…?」

 

 

「うん…うんっ!目が覚めたんだね、メリア!」

 

 

「ん…暗い中…皆の声…聞こえた…から…」

 

 

メリアの様子にカノンノは頷いて、彼女が目を覚ました事を心から喜ぶようにメリアを抱き締めた。

メリアは少し驚いた様子を見せた後、一度僕達を見回してそう言った。

 

でも…本当に良かった…彼女が目を覚まして…。

心から安心した……その時だった。

 

 

「…っ!か…はぁ…っ!?」

 

 

「…ある─っ!?」

 

 

突然、何か言葉では言い表せない苦しみが胸元に現れだし、僕は思わず口元を抑えて片膝をつく。

僕の様子に気付いたヴォルトが声を上げた気がしたけど…上手く聞き取れなかった。

 

 

「かは…っ!…ぁ…くぁ…っ!?」

 

 

「え──っ!?ど──たの!?─いじっ!?」

 

 

「ちょ──、しっ─りし─っ!」

 

 

 

呼吸が徐々に上手く出来なくなり、ついには片膝で身体を支えられず僕はその場に倒れ込む。

頭元から誰かの声が聞こえるが…それもじょじょにだれのこえかわからなくなる。

 

 

 

──そして…ぼくのいしきはかんぜんになくなった。

 

 

 

 

 








──以上、第六十七話、如何だったでしょうか?

…なんか急展開で本当に申し訳ない;;


【アドリビトムのディセンダーの力の転写】
分かる人には分かる漫画版の手繋ぎイベントです←
ただあのシーン、文章にするとかなり長くなりめんどくs──ゲフンゲフン←
という訳でこんな短くなりました、すみません←
前回言った少しオリジナルとは衛司君が倒れる事だったのだーっ!←←←


【衛司の行動、メリアの復活、そして…】
メリアは無事復活しましたが、遂に衛司君のドクメントに限界が近付いてきました。
仕方ないと言えば仕方ないんですが…自分で書いといてアレですが、本当に自己犠牲型だなこの主人公←



次回は衛司の状態についてと最終決戦に向けて色々…になりますかね。
もし上手く纏められれば決戦前夜辺りまで書こうと思います+
本当…ようやく終わりが見えてきたなー…。



皆様良ければ感想、ご意見、そして評価等宜しくお願いします+

それでは皆様、また次回+


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第六十八話





なんとか今月中に投稿する事ができました;;

いやー、あれですね…皆、執筆してるときに眠くなったときは一度ちゃんと執筆中の物を保存して寝ましょうね+←

じゃないと、間違えて削除押して書いた文、全部ぶっ飛んじゃう事になっちゃいますからねっ☆

……………(´;ω;`)


で、では新話、どうぞ…;;






 

 

 

「──あれ…此処は…?」

 

 

 

──いつの間にか、僕は目を開くと暗闇の中に立っていた。

思わず周りを見回してしまうが…右も左も、上も下も暗闇だ。

一体どうして?

確か僕は医務室にて、メリアのジルディアの浸食を止めようとして、それでディセンダーの力を転写して、それで……。

 

 

 

「…僕は…死んじゃったのかな…?」

 

 

意識を失う前までの事を思い出し、僕はそう自然と言葉を出した。今まで無理をしてきたのもあるけど…今回、僕はただでさえボロボロのドクメントにディセンダーの力のドクメントを転写したのだ。

そして意識を失う前のあの痛み…思い出せば今でも頭に残ってる。

 

 

「…でも…結局此処って何処なんだろう…?」

 

 

改めて周りを見回してみる。何も変わらない暗闇である。

死後の世界がどんなものかとか、死んだらどうなるのかは分からないけど…少なくともイメージ的には天国ではなさそうである。

 

 

ふと、そんな時だった…。

 

 

 

『─────────』

 

 

 

「……え…?」

 

 

声が聞こえた。何を言っているのかは分からない…だけど、その声に僕は聞き覚えがあった。

 

 

 

『───衛司』

 

 

 

「……父…さん…?」

 

 

 

再び、今度ははっきりと聞こえた自分を呼ぶ声。その聞き覚えのあった声は…間違えなく元の世界で僕を育ててくれた父さんの声だった。

聞こえた間違えることのない声に僕は自然と声を漏らすと、まるでそれに答えるかのように、暗闇だけであった僕の立つ前の先から光が見えだした。

 

 

「あれは……?」

 

 

『──こっちに帰ってこい。そうすればまたお前と…衛司と一緒に暮らせるようになる。母さんも待ってるぞ』

 

 

 

父さんの言葉を聞いて僕はただ光の先を見つめる。

確信は無いけど…あの光の先は、僕のいた元の世界に繋がっているんだろう。

元の世界に戻れる。父さんの言うとおり…再び父さんと母さんと家族で平和な日常に戻ることが出来るのだろう。元の世界の友人達ともまた笑い合い、皆で楽しく過ごしあう日々にも戻れる。

僕は一歩、光へと向けて歩き出す。

そうだ…此処で戻れば、また皆で平和に……

 

 

 

 

『─────衛司っ!』

 

 

 

踏み出した足が止まった。

もう一つ……父さんとは違う聞き覚えのある、自分を呼ぶ声がした。

聞いていて落ち着き、守ってあげたくなる…僕の大切な少女の声が。

 

 

『……衛司?』

 

 

「……ごめん、父さん。僕は…まだそっちに戻れないや」

 

 

足を止めた僕に、父さんの不思議そうな声が聞こえ、僕は光から反転して暗闇の方へと向き直る。

暗闇の先を僕は見つめると、父さんの声に向けてそう言葉を出した。

 

 

『……どうしてだ?』

 

 

「…まだ、向こうでやり残してる事があるんだ。それに…僕が支えてあげないといけない、大切な子がいる。だから…まだそっちに戻れない」

 

 

『…それは…例えお前が死ぬかもしれない事になってまで、か…?』

 

 

父さんの問いに、僕は暗闇の先を見つめたまま静かに答える。僕の返答に、父さんは少し間を空けるとそう聞いてきた。

 

 

 

「…うん…それぐらい大切な子に…大切な世界に出会えたんだ。だから…ごめん…」

 

 

 

『…そう、か…』

 

 

父さんの声が暗闇の中に静かに響くのを感じ、僕は光とは正反対の暗闇に向けて歩き出す。確信は無いけど…多分この暗闇の先を目指せば彼女達の元に戻れるのだろう。

暗闇の先を目指しながら歩き、振り返ることはしないようにする。振り返ってしまうと…僕はきっと元の世界に戻ろうと迷ってしまうから。

 

 

 

 

『……衛司』

 

 

 

「……………」

 

 

 

『……頑張ってこいよ』

 

 

 

「っ!……うん、行ってきますっ!」

 

 

 

後ろから聞こえてきた、背中を押すような父さんの声。僕さはその声に一瞬振り返りかけるが、その場で大きく頷いて前に向き直ってその場から走り出した。

 

暗闇だけしか見えない中、僕が真っ直ぐと走りつづけると、徐々に光が見え……そして、僕はその光の中へと向けて飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

「──……っ…此処は…」

 

 

 

再び目を開けれるような感覚になり、ゆっくりと目を開けると僕は少し周りを見回した。

見覚えのある、バンエルティア号の医務室であった。

 

 

「…戻って…来れたんだ…」

 

 

ゆっくりと上半身を起こし、僕は自分の両手を試しに握ったり開いたりして身体が動ける事を確認すると僕はそう言葉を出した。

改めてもう一度周りを見回す。どうやら今は僕以外には誰も居ないみたいだ。

…それなら……。

 

 

 

「……居るんでしょ、ヴォルト……ウンディーネ」

 

 

僕の静かに出した言葉に反応するように、僕の中から光の塊が『二つ』抜け出し、僕が寝ているベッドの隣に人型の姿に変わっていき、それはヴォルトとウンディーネの姿となった。

 

 

「……主…」

 

 

「いやはや、余の存在に気付くとは…流石我が認めただけあるな、衛司」

 

 

 

「…ヴォルトが今まで身体の中に居たからちょっとした変化は分かったよ。…それで…話してくれないかな…?」

 

 

 

僕を見てただ静かに俯くヴォルトと、特に表情を崩さず楽しげな様子で話すウンディーネ。僕はウンディーネに言葉を返しながら真っ直ぐと二人を見て真剣な表情で言葉を続けた。

 

 

 

「…ふむ。話、とは…?」

 

 

「僕の身体…正確には僕のドクメントの事だよ」

 

 

「っ…それは…」

 

 

 

僕の言葉を聞き、俯きながらもどこか言いにくそうに表情を変える。

僕が真剣な表情で二人を見ていると、ウンディーネが深く溜め息を一つ吐いて口を開いた。

 

 

 

「…仕方ないか。ふむ…そうだな…、ではそなたのドクメントについてだが…」

 

 

「ウンディーネ…っ!?」

 

 

「仕方あるまい…此処で話さなければ余計に無理をさせてしまう事になるぞ?それに…余達は『契約』した以上、『主様』の命令であれば従わなければいかんだろう?」

 

 

ウンディーネの出した言葉にヴォルトが顔を上げて声をあげる。そのヴォルトにウンディーネは小さく溜め息を吐いてそう言った。

…というか、『契約』や『主様』という事は…。

 

 

 

「ウンディーネ…『契約』や『主様』っていうのはやっぱり…」

 

 

「うむ…今…余はヴォルト同様、衛司と契約を結んだ。理由は言わずもがな…そなたのドクメントの状態だ。…はっきり言わせてもらうぞ、衛司。そなたのドクメント…破損率は九割を迎えている」

 

 

「っ…九割、か…」

 

 

ウンディーネの言葉に、僕は思わず自分の身体を見て声を漏らした。

九割…それはつまり、僕の身体のほぼ全てが破損していて、僕に残されている時間が少ないという事であった。

 

 

 

「…主の身体は今まで、よく保っていたと言う程です。そして今回のディセンダーの力の転写で、主の身体は限界でした」

 

 

「ヴォルト一人で対処出来んと聞いたので、急遽余も契約してそなたのドクメントを補助したが…あそこまで傷付いたもの、はじめて見たぞ」

 

 

「…そっか…一応聞いとくけど、皆にこの事は…?」

 

 

ヴォルトとウンディーネの言葉を聞いて僕は自分の手から視線を二人に向けると、静かにそう聞いた。

ヴォルトとウンディーネはお互い顔を見合わせ小さく頷いて口を開いた。

 

 

「…主ならそういうと思って…ある程度は隠して大丈夫とは伝えています」

 

 

「状況と状態がアレであったからな…かなり誤魔化すのが難しかったぞ。…主様よ…今言っておくが…そなたの身体は今、余とヴォルトの契約による補助で保っているようなものだ。もはや主様には…一度の戦闘も重体に繋がりかけないのでな」

 

 

「そっか…ありがとう…。…でも…一度でも闘える余裕があるなら…十分だよ…っと」

 

 

ウンディーネの言葉を聞き、僕は一度溜め息を吐いてそう言うと、ベッドからゆっくりと立ち上がった。二人の言う契約による補助のおかげか、少し身体が重く感じるけど、意識を失う前の痛みは全く感じはしなかった。

 

 

「…主…っ!」

 

 

「っと…ありがとう、ヴォルト。…聞くのが遅れたけど今、僕が寝ててどれぐらい経ってて…皆はどこに…?」

 

 

「主様が意識を失って今は三日目だ。皆は今…世界樹の上空に現れたジルディアの大地『エラン・ヴィタール』への突入に向けてホールで話し合いをしている所だ」

 

 

立ち上がった際、少しふらついてしまうが、ヴォルトに支えられてなんとか立ちヴォルトに礼を言って皆の事を聞くと、ウンディーネが僕を見ながら静かに言った。

 

「『エラン・ヴィタール』…か。皆ホールに居るなら、ちょうどいいし…僕も行こうか…」

 

 

「主…目覚めたばかりなんですし、あまり無理は…」

 

 

「二人のおかげでもう大分大丈夫だからいいんだよ。二人とも…ありがとう」

 

 

僕の言葉にヴォルトが心配気な表情でそう言ってき、僕は二人に出来る限りで笑ってそう返す。二人はいまだに心配気な表情を見せるが、先にウンディーネが小さく溜め息を吐いて口を開いた。

 

 

「…やれやれ…契約してさらに分かったが…余が気に入った者は余程の無茶ものらしいな。ヴォルト…余達は余達で主様が立てるように全力で主様の身体の補助をして支えればよい」

 

 

「…そう、ですね。…主…私は主にはいなくなってほしくはありません。だから…無茶はしないでください」

 

 

「うん…ごめんね、二人とも」

 

 

「はは…何、謝礼は仕合で構わんよ」

 

 

「…主…お気をつけを…」

 

 

二人の言葉を聞いて僕が少し苦笑して頭を下げると、ウンディーネは小さく笑ってそう言って光となり、ヴォルトは一度僕にギュッと抱きついた後ウンディーネ同様に光になり、二つの光はそのまま僕の中へと消えていった。

 

 

「…ふぅ…本当…迷惑かけるね、二人とも…」

 

 

僕は申し訳なさげにそう言葉を出すと、ゆっくりとした足取りでホールへと向かった。

…出来る限り…皆に気付かれないようにしないとなぁ…。

 

 

 

 

 









──以上、第六十八話、いかがだったでしょうか?

ちょっと展開が無理やりだったかなぁ、と後悔気味です;;




【衛司の世界への想い】
今回この部分いるかどうか迷ったけど敢えて入れてみました←
衛司君だって元の世界に帰りたくない訳ではありませんし。
此処で衛司君の『元の世界』と『今の世界』への想いを書いてみました。
因みに、当初衛司君を元の世界へ呼ぶのは母親の予定でしたが、『子供の背中を黙って押してくれるのってやっぱり父親じゃないかなー』、と考えて父親になりました+


【衛司の状態、ウンディーネとの契約】
…と、いうわけで衛司君ヤバいです←
ウンディーネ使役で更にヤバいんじゃね、という話もありそうですが、そこの所は成功率五分五分だった衛司君の身体への使役が上手く行った、と解釈していただければありがたいです;;

そしてやっぱり衛司君は皆にはこの事は言いません。
衛司君の想いは『皆に心配をかけたくない』、『最終決戦を前に皆に迷惑をかけたくない』、『自分だけ何もできないで、誰かが居なくなるなんて嫌だ』、という想いからの事なんですが…本当に彼は自己犠牲型だなぁ…。

…まぁ、この辺のことは次回辺りでヒロインに頑張ってもらおうと思います(ニヤニヤ←



次回は最終決戦に向けての話、そして最終決戦前夜話になると思います+
もし最終決戦前夜が書ければ…次回、遂に衛司君とヒロインが…(ニヤリ←←


皆様、良ければ感想、ご意見、そして評価等よろしくお願いします+


ではまた、次回+


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第六十九話

お気に入り件数が遂に500件を超えました+
皆様本当にありがとうございます+


今回ちょっと『テイルズ』っぽくないかなぁ、と思いながら書きましたが…まぁ、うん…私、頑張ったよ←





 

 

 

 

「──えっと…皆、三日ぶり」

 

 

──廊下で一度深呼吸し、ホールへ入ると…そこにはウンディーネとヴォルトが言っていたとおり、アドリビトムのほぼ皆がホールに集合していた。

扉の開く音で此方を見た皆は僕の姿を見ると驚いた様子で声を出した。

 

 

「衛司っ!目が覚めたの…!?」

 

 

「うん…今さっきね。ごめん…心配させて」

 

 

「いえ、目が覚めて良かったわ。それで、身体の方は…」

 

 

皆を代表して声を出したアンジュに僕は申し訳なさげにそう答える。僕の返答を聞いたアンジュは小さく首を横に振った後、心配気にそう言ってきた。

『身体の方』と言われ、僕は少し俯きかけるがすぐに頭を上げて出来る限り笑って口を開いた。

 

 

「ヴォルト達から聞いたけど…突然のドクメントの転写で僕の身体の方が驚いて気絶したんだって。今はもう僕のドクメントがディセンダーのドクメントをちゃんと取り込んで大丈夫らしいよ」

 

 

「そ、そう…なの…?」

 

 

「うん…詳しい事は僕自身よく分かんないんだけど。でも現に今、僕はこうして歩いて皆の前にいられてるから、もう大丈夫だよ」

 

 

出来る限り笑って自分なりに考えた内容の嘘で皆に説明して、自分が大丈夫である事を伝える。研究組…特にリタの視線が痛かったが、少しするとまるで理解したように溜め息を吐いて発言はしてこなかった。

 

 

「…でもよかったわ、あなたの意識が戻って…。皆、心配してたんだから」

 

 

「…衛司…っ!」

 

 

「っと!…ごめんね、メリア…皆…」

 

 

僕を見ながら安心した様にそうアンジュが言葉を出した直後、アンジュの言葉が終わるのを待っていたかのように皆の中からメリアが飛び出し、僕に向かって抱きついてきた。

抱きついてきたメリアを抱き止め、そっとメリアの頭を撫でると僕は皆に向かって少し頭を下げた。

 

 

「私達は大丈夫だからいいわよ。ちゃんと謝るんなら後で心配してたメリアとカノンノにしっかり謝りなさい。ね、カノンノ?」

 

「…ぇ、あ、うん…そう、だね…」

 

 

「…?」

 

 

アンジュの言葉を聞いて僕は顔を上げて先程から声が聞こえなかったカノンノを見ると、カノンノはぼーっとした様子で僕を見ていて、アンジュの言葉に今気づいたようにはっ、として何事もなかったような様子で言葉を出した。

…どうかしたのだろうか…?

 

「…そう言えばアンジュ…聞きたいことがあるんだけど…」

 

 

「…大体アナタの聞きたいことは想像がつくわ。…アナタが眠っていた間…そして『エラン・ヴィタール』の事でしょ…?」

 

 

僕の言葉にアンジュは一度溜め息を吐いてそう言葉を出し、僕はそれに対してゆっくりと、静かに頷いた。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

──その後、僕はアンジュ達から僕が眠っていた間の事を聞いた。

ラザリス…ジルディアの力による、世界樹そのものへの浸食。そしてその浸食により、世界樹周辺の『理』が変わってしまった事。

リタ達研究組とニアタの協力で突入できるようになった本来世界樹の中にある未知の空間…今はジルディアの浸食により、ジルディアの大地へと変わりつつある『エラン・ヴィタール』の出現。

 

今…皆はこの最後の決戦の地『エラン・ヴィタール』に向けての準備をしている所であった。

そして…その最終決戦を行う日は…翌日であった。

 

 

僕はアンジュや皆を説得し…なんとかこの最終決戦へと参加できるようになった。

無論…僕自身のドクメントの事は話さないまま…。

 

 

 

 

「──あれが…『エラン・ヴィタール』、か…」

 

 

…甲板から、世界樹の遙か上空に微かに見える白い塊のようなもの…『エラン・ヴィタール』を見上げながら僕は静かに言葉を出した。

 

あの場所が…僕達にとってルミナシアとジルディアをかけた、最後の決戦の地になるのか…。

 

 

「…そして…あの場所で…僕の命も…」

 

 

「──何やら、哀しいことを言っているようだな、衛司」

 

 

エラン・ヴィタールを見上げながらふと漏れた言葉。その直後、僕の言葉に答えるをように聞こえた声に見ると…そこにはニアタが一人(?)、此方にやってきていた。

 

 

「…ニアタ…」

 

 

「久しぶりだね。…どうやら、またえらく無茶をしたようだ」

 

 

「…やっぱりニアタにはバレちゃってるか」

 

 

しばらく僕をじっ、と見てそう言葉を出したニアタに、僕は息を一度吐いてそう言葉を返した。

そう言えばニアタには僕のドクメントが見えてるんだっけ。…あれ…?何か…大切な事を忘れてるような…。

 

 

「…それで…見ただけでも十分、君の身体が危険な状態だというのがわかるが…実際、どういう状態なのかね…?」

 

 

「ぇ、あ、うん…詳しくはまだ分からないけど…ウンディーネとヴォルトが言うには、今の僕の身体だと一回の戦闘も危険らしいよ」

 

 

何かを思い出そうとしていると、不意に出されたニアタの言葉で考えるのを止め、僕はウンディーネとヴォルトから受けた言葉を思い出しながらそう答えた。

 

 

「そう、か…。君はやはり…そんな状態だと聞いても行くというのだな」

 

 

「うん。自分でも『よく決めたな』って今でも思ってるよ」

 

 

「…どうして君は…そこまでして闘いに行こうとするんだ。死ぬかもしれないのに…」

 

 

僕の言葉を聞いてニアタは静かに僕を暫く見ると、そのままゆっくりとそう聞いてきた。

どうして、か…。

僕は少し考え、一度小さく頷いてニアタに向けて出来る限り笑って答えた。

 

 

 

 

「──この世界が、好きだから」

 

 

 

「………ッ!」

 

 

 

「正直死ぬのは怖い。行きたくない。僕は少しでも長く生きていたい。…でも、だからって僕だけが皆が世界を救おうとしてる中…何か出来るのに何もしないなんていやだ。

この世界は僕のいた世界じゃない。だけど…僕はこの世界で見てきたアドリビトムの皆や世界の皆…大切な人を見て…僕はこの世界が好きになった。

だから…僕はこの世界が救えるっていうんならなんだってやってやるって決めたんだ」

 

 

──そう、例え…僕が死ぬことになったとしても。

 

 

ニアタに向けて出来る限り笑ったままそう真っすぐ、はっきりと告げた。

僕なりのこの世界に対する想い…それをはっきりと、僕はニアタに伝えたのだ。

ニアタは僕の言葉を聞いて暫く黙っていると、その後一度溜め息を吐くような様子を見せて言葉を出した。

 

 

「…そう、か。…どうやら、私では君を止めることはできないようだな。…ふ…そうか…『好きだから』か」

 

 

「うん…変、だったかな…?」

 

 

「いや、全く変などではないよ。…むしろ礼を言いたいほどさ…この世界を好きになってくれてありがとう、と」

 

 

「…それは、どういたしまして」

 

 

どこか可笑しそうな仕草を見せるニアタに僕は少し頬を掻いて言うと、ニアタは少し首を振る仕草を見せた後そう言った。

僕とニアタはそのまま再び、エラン・ヴィタールを見上げようとした…その時だった。

 

 

 

「──…衛司…」

 

 

 

「…?メリア…?」

 

 

不意に聞こえてきたホールへの扉が開く音と声に見ると、そこにはメリアが立っていた。

メリアは僕を見つけると此方に駆け寄ってきてどこか真剣そうな表情で口を開いた。

 

 

 

「……衛司…お願いが…ある…」

 

 

 

「お願い…?別に、僕が出来る範囲なら応えるけど…」

 

 

「ん…それを聞いて安心した…。…えっと、ね…──」

 

 

 

…この時、メリアから出された『お願い』に、僕は思わず変な声を出してしまう事になった。

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

──時間は流れて夜。明日の最終決戦に向けて早くに眠ったり、明日に向けての準備をしたり、遅い夕食をとったり…皆それぞれが自由に時間を使っている中、僕は……。

 

 

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

…本来、カノンノとメリアの部屋で、僕とカノンノがベッドに腰掛け二人きりで上手く顔を合わせられずにいた。

何故、今僕とカノンノが同じ部屋に居るかと言うと…メリアからの『お願い』が、『今日寝る部屋を交代しよう』というものだったからである。

カノンノもこの事はメリアと話し合って決めていたことらしく、今こうして僕はカノンノと同じ部屋で、メリアは僕の部屋で居ることになっている。

ヴォルトとウンディーネも『契約は繋いでいるから身体から離れても補助はある程度出来るから大丈夫』と僕の身体から出ており…事実上、今僕とカノンノは二人きりという状況である。

 

二人で居るときは今までも結構あったので、ある程度話しも弾むだろうと思っていたのだけど…こういう感じになるのは初めてであって…僕もカノンノも上手く話しを出せずにいた。

 

 

 

「…ぇ、えっとね…っ!」

 

 

「…ぁ、あの…っ!」

 

 

「「っ!……………」」

 

 

なんとか話しをしようと相手に声をかけようとするも、お互いに言葉が被ってしまい僕とカノンノして再び顔を離してしまう。うぅ…今まで二人きりでも普通に話してたのになんでこういう時に上手く話しが出来なくなるんだ…っ!

 

このまま何の話しもせずに気まずいままで終わってしまうのだろうか…そう、思っていた時だった。

 

 

「…っ!え、衛司…っ!」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

不意に、何か決心した表情になったと思うと真っすぐと僕に向き直り、僕の名前を呼んだカノンノ。突然のそれに僕も思わず声を出して真っすぐとカノンノを見る。

 

 

「…衛司…また、私達に嘘…ついてるでしょ…?」

 

 

「……えっ…」

 

 

真っすぐと僕を見たままそう言葉を出したカノンノ。その言葉に僕は一瞬何を言われたのか理解出来ずにいたが…少しして僕は徐々に頭の中で理解してきた。

カノンノに気付かれていたのだ…僕のドクメントの、身体の事が…。

 

 

「っ…一体…どうして…」

 

 

 

「…やっぱり忘れてるみたいだね。衛司…私、一応皆のドクメントが見えてるんだよ…?」

 

 

「…ぁっ…」

 

 

僕の問いにカノンノは溜め息を一つ吐くとそう言いながら自分の目を虚ろにして僕を見つめ、僕はそれを理解して声を漏らした。

カノンノが以前、聖地ラングリースに入った際に起きたと言っていた肉体と精神のズレ。そしてそれによって彼女が一時的に他者のドクメントが見えるようになってしまった事。

しまった…最近聞いてなかったからもう治ってると思ってて忘れてた…っ!

 

 

「…私も始めはしばらくすれば戻るのかな、って思ってたけど…なんだか戻るよりも前に身体の方に慣れちゃった?って感じで…今はこうやって自由に使えるようになったんだ。…まさか、こういう時に使えるなんてね…」

 

 

「…黙っててごめん…」

 

 

「…衛司のドクメントを見たときや皆に話してたとき…薄々『また衛司は言わないんだろうな』って思ってたから。…でも…私にはちゃんと説明してくれないかな?衛司のその…いつ壊れちゃうか分からない身体の事…」

 

 

僕の言葉にもう一度溜め息を吐いたカノンノは真っすぐと僕を見てそう言葉を出した。

僕はその言葉に諦めたように頷いて、僕の身体の事を一通り説明するとカノンノは僕へと手を伸ばし、恐らく僕のドクメントがあるであろう場所をそっと撫でるように手を動かして口を開いた。

 

 

 

「──そう…なんだ。…そんな状態でもやっぱり…衛司は行くって言うんだね…」

 

 

「うん。…カノンノは…止めたりしないんだね。てっきり『絶対駄目』って言われると思ってたけど…」

 

 

「…私もあのドクメントを見たとき、始めは止めようと思ってたよ。…でも衛司の話しを聞いてて…そうなってまで行こうとしてる衛司の意志を…止めたりしたら駄目だ、って思ったの。……それに、ね──」

 

 

カノンノは静かにそう言いながら僕のドクメントを撫でていたであろう手を止め、そのまま倒れ込むように僕へと抱きついてきた。僕はそれに少し驚きつつもカノンノを抱き止めて見ると、そのままカノンノは真っすぐと僕を見て言葉を続けた。

 

 

「……それにね…もし此処で衛司の意志を止めたら…今まで私の意志を黙って背中を押してくれていた衛司の全てを否定するみたいで…私は…止められなかった」

 

 

「カノンノ……」

 

 

「だから衛司…せめて…約束して。絶対に死なないって。…私達皆で、笑って生きて帰ろうって…」

 

 

真っすぐと僕を見たまま、だけど今にも泣き出してしまいそうな表情でそう言葉を出していくカノンノ。

僕はその言葉を、カノンノを少し強く抱きしめてゆっくりと頷いて答えた。

 

 

 

「うん…約束するよ。絶対…僕は死なない。皆で…生きて帰ろう」

 

 

「うん…っ!」

 

 

お互いに抱き合いながらそう約束しあう僕とカノンノ。少なからず僕は不安であったけど…彼女の言葉で、僕は確かに…その不安が安心に変わった気がした。

 

…そのまま暫くして…そろそろカノンノを離そうとした時だった。

 

 

 

「──…ぁ、後…ちょっとね、衛司…私からお、お願いが…あるん…だけど…」

 

 

「…?僕に出来ることなら応えるよ…?」

 

 

どこか顔を真っ赤にしながらそう戸惑いがちに言葉を出したカノンノ。僕はその言葉に少し首を傾げてそう言うと、カノンノは少し迷いながらも口を開いた。

 

 

「え、えっと…私…やっぱり明日の事が不安なんだ…。だ、だからその…衛司にこの不安を取り除いて…勇気を分けてもらいたいといいますか…その…なんといいますか…」

 

 

「う、うん…?つ、つまり…?」

 

 

もじもじとしながらそう言葉を出していくカノンノ。僕はそれを聞いていくが、上手く理解できずに思わず彼女に聞き直してしまう。カノンノはそれに俯いて「あぁ…」とか「うぅ…」とか呟くと、何か決心を決めたように顔を上げて…そのまま僕に飛び込むように口付けしてきた。

…へ…っ!?

 

 

「んん…っ!?」

 

 

「ん…っ!…はぁ…衛司…その…っ!」

 

 

「う、うん……?」

 

 

「私と…ひ、一つになってください…っ!」

 

 

「………はぁっ!?」

 

 

突然のキスと飛び込みに対応出来ず、その勢いのままカノンノに押し倒されるようにベッドへと倒れ、唇を離されて呆然としたままカノンノを見上げていると、真っ赤な顔のままそう言葉を告げたカノンノに思わず声を出してしまった。

彼女の真っ赤になっている様子からして…カノンノと一つになるっていうことは……つまりはその…『そういう事』である。

その事を遅れながら頭の中で理解して思わず僕も顔を熱くなるのを感じた。

 

 

 

「え、あ、えっと…ど、ど、どうして…?」

 

 

「…さ、さっきも言ったけど…私も明日の事が不安なんだもん。だからその…勇気を分けてもらいたいというか…思い出づくりというか…。衛司は…その…私と…そういう事をするの…嫌…?」

 

 

「そ、そんな事はないよっ!…だけど…その…本当に、僕なんかで…いいの…?」

 

 

お互い顔を真っ赤にしながら、僕はカノンノに押し倒されたままそう静かに言葉を出した。カノンノは僕の言葉に小さく頷いた。

 

 

「あ、当たり前だよ。むしろ…衛司しかいないよ…。だから、その…これ以上嫌がるなら『衛司はヘタレだ』って、アドリビトムの皆に言いふらしてやる…」

 

 

「ぅ…そ、それは勘弁してほしいなぁ…。…僕…初めてだからよくできるか分からないけど…いいんだ…ね…?」

 

 

「…私も初めてだから大丈夫です…。だから…その…よろしく…お願い…します…」

 

 

「…こ、こちらこそ…?」

 

 

「「…あはは…っ」」

 

 

お互い顔を真っ赤にしながらそう言い合い…少し可笑しくなって笑い合うと、少しして僕達は唇を重ねて…そのまま流れるように、身体を相手へと預けるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 








──以上、第六十九話、如何だったでしょうか?

…うん、私…今話色々頑張ったと思う…(遠い目←←


【エラン・ヴィタール】
原作で『エラン・ヴィタール』の説明が上手く理解出来なかったんでこんな感じにしてみました←
私の頭が悪いのが原因なんですが…正直説明が全く訳わかんなかった←←



【衛司とニアタの話】
『この世界が好きだから』は個人的に一番言わせたかった一言だったりします+
ニアタの『ありがとう』は…少なからずとも、この『ルミナシア』にはオリジナル・カノンノも関係している事もあっての『この世界を好きなってくれてありがとう』という意味もあります。


【衛司とカノンノ】
と、いう感じに衛司は止まりませんし、カノンノも止めない、という感じになりました。
カノンノのドクメント透視は最終決戦辺りではあまり触れられてなかったんでこんな感じにしてみました+

果たして、衛司はカノンノとの約束を守ることは出来るのでしょうか…←



【この後衛司とカノンノはどうしたの?】

昨夜は おたのしみ でしたね!←←

まぁ、要するにそういう事です、察せ←
二人とも初々しさが出せればいいなー、と思いながら書きましたが…上手くできてるでしょうか…?
書きながらこっぱずかしくなって何度か執筆するのを躊躇した私を許してくだしあ←

因みに裏は書かないし、書ける自信ないから絶対私は書かないぞっ!←



次回は遂にエラン・ヴィタール突入となります+
果たしてどうなる事やら…。


皆様良ければ感想、ご意見、そして評価等宜しくお願いします+


ではまた、次回+


P.S.
某笑顔動画で友人達と『クトゥルフ神話TRPG』を見ていて、『俺達も今度連休で休み揃ったら泊まりでやってみようぜ!』、っていう話になって…何故か私がGK担当任せられました←
友人…私、初心者だぞ…←←



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第七十話





なんとか完成できたので投稿です+

当初はラザリス戦前ぐらいまで書くつもりだったけど、色々書いてたら長くなりそうだったので今回はちょっと短めです;;

後、今回ちょっと書き方を変えてみたので良ければご意見等もらえれば嬉しいです+




 

 

 

 

 

「──ん……っ」

 

──窓から差し込んできた日の光を閉じていた目に感じて、僕は目を覚ました。目を覚ましたばかりと言うこともあって、視界が安定せず僕は上半身を起こして目をこすると……徐々に慣れてきた視界に入った光景に思わず固まってしまった。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……ぁー……」

 

目に映った光景……同じベッドで僕の隣でいつもは髪を纏めている紅葉のような髪留めを外して桃色の髪をおろして一糸纏わぬ生まれたままの姿で無防備で眠る少女──カノンノの姿と、そのカノンノと同じように服を着ていない僕の姿を見て、僕は昨夜の事を思い出し思わず両手が顔を覆った。

昨夜……彼女と最終決戦に向けての覚悟を決めて、そのまま流れ流されるようにしてしまった営み。別に僕自身、彼女と『そういう事』をした事に後悔も何も無いのだけど……お互い『初めて』という事もあってか行為中、僕は思い出すとかなり恥ずかしい事を言いまくってた気がする……。

 

「『好き』はまだ良い。『愛してる』も……まぁ、まだ良い。……『恥ずかしがってるカノンノ、可愛い』ってなんだよ……変態かよ……」

 

昨夜の行為中での自分の発言を思い出しつつ、自分の言ったことをツッコミながら思わず恥ずかしくなってきて顔が熱くなるのを感じた。

暫く自分自身に悶えた後、一度溜め息を吐いて気持ちを落ち着かせるといまだに隣で眠り続けているカノンノを見てそっと手を伸ばして彼女の頭を撫でた。

 

「んぅ……えへへ……衛、司ぃ~……♪」

 

「全く……可愛いなぁ。……約束、しちゃったな……」

 

頭を撫でた事でカノンノは少し声を漏らすが、幸せそうな表情でいまだに眠りながら僕の名前を寝言で呼んでいた。そのなんとも幸せそうな様子に思わずどんな夢を見ているのか気になりつつ、カノンノの寝顔を見つめて僕は自然と言葉を漏らした。

約束……『皆で笑って、生きてかえってくる』事。

今の僕の身体……ドクメントの約九割を破損し、一度の戦闘すら危険に近い状態である僕が、この最終決戦で生きてかえることは……正直かなり低いだろう。

……でも、それでも……。

 

「……大切な、大好きな子との約束なんだ。出来る限り……ううん、きっと……約束を守れように頑張ってみるよ」

 

幸せそうに眠り続ける彼女に聞こえているかは分からないけど、優しくカノンノの頭を撫でながら僕はそう自分に言い聞かせるように、彼女を安心させるかのようにそう言うと、そのままカノンノに顔を近付けてそっと静かに……口付けをした。

 

 

 

 

──────────────────────

 

 

 

 

「──昨日はおたのしみでしたね♪」

 

「「え……なっ!?」」

 

──あの後カノンノを起こし、準備を整えて二人でホールへと来てアンジュにこれからの事を聞こうとした瞬間、アンジュが僕とカノンノを見てにっこりとした笑顔を作るとそう言葉を出した。僕とカノンノはその言葉の意味が上手く分からなかったが、少ししてその意味を理解して思わず二人で声を出して顔が熱くなるのを感じた。

というか……バレてたっ!?

 

「二人が同じ部屋で寝るって聞いた時から何か起こると思ってたけど……まさかあそこまで一気に進展するとはねぇ~♪」

 

「な、な、なんでそ、その……バレちゃってるの……っ!?」

 

「全く……ウチの船だって一室一室に防音がついている訳じゃないからね~」

 

「ぇ……ま、まさか……」

 

「えぇ、バッチリ聞こえてました♪」

 

「「ぁ……うぁあぁぁぁぁ……っ!?」」

 

『にっこり』とした笑顔を『ニヤニヤ』としたものに変えて、顔を赤くしてあたふたとしている僕達にそう淡々と言っていくアンジュ。そのアンジュの言葉に僕とカノンノは更に顔に熱が入っていくのを感じて思わず揃ってその場で顔を手で覆って声を上げてしまう。

聞こえてたって……クソっ……ホールに来るまでの道で会う皆が僕達を見て顔を赤くして顔を逸らしたり、嫌に顔をニヤニヤさせて『おめでとう』とか言ってきたりしたのはこういう事だったのか……っ!

……ていうかソレも考えたら思いっきりバレてるじゃんっ!?

 

「全く……二人でお互いの名前を呼び合いながら愛し合うのは構わないけど、ウチにはまだ小さい純情な子達もいるんだから程ほどにしなさいね」

 

「ぅ……ぁ、はい。……努力、してみます……」

 

「ぁぅぁぅぁぅぁぅ~……」

 

「……アナタ達が無事に帰ってきたら、前向きに部屋の防音制をあげることを考えてあげるわ」

 

恥ずかしさで真っ赤になってアンジュの言葉に答えにくそうに頷く僕と、その場で顔を手で覆ったまま悶えるカノンノ。そんな僕達を見ながらアンジュはそう言葉を出すと、ニヤニヤとした表情を溜め息一つの後、真剣なものへと変えた。

 

「さて……これからの事だけど、私達アドリビトムは昨日言ったとおり皆の準備が整い次第、『エラン・ヴィタール』に突入します。そこで私達がやるべき目的は……ラザリスがいるであろう場所に向かうディセンダーであるメリアを主にした『決戦組』とそこに向かうまでの道を確保する『補助組』に分かれて行動をします」

 

「『決戦組』と『補助組』……?」

 

「えぇ……エラン・ヴィタールは遠目から見ただけでも大きな場所と分かるわ。だから突入次第、研究組とセルシウスが協力してエラン・ヴィタールを解析してラザリスの居場所を捜すから、主戦力であるメリアは出来る限り無傷でラザリスの居場所に向かわせたいの。行って何が起こるか分からない以上、こうやってメンバーを分断してそれぞれ行動させようと考えてるわ」

 

アンジュの淡々と出していく説明を僕は頭の中で出来る限り理解していく。…確かにあのエラン・ヴィタールは下から見ただけでも結構な大きさだった。特殊な状態で今まで近付けず、あの場所が一体どんな場所なのか探索できてもいないので初めて行く場所である以上、何が起こり、何が居るのかも全く分からない。それなら出来る限り、ディセンダーであるメリアは確かに無傷でラザリスの元へと届けたい。

 

「それでその……『決戦組』と『補助組』はどう分けるの?」

 

「それならもうある程度決まっているわ。……『決戦組』はメリアを主にして衛司、カノンノ、ニアタ…それとヴェイグよ。他の皆は『補助組』に回ってもらうつもりよ」

 

「私と衛司が……決戦組に……!?」

 

僕の問いにアンジュは小さく頷くとそう静かに言葉を出し、カノンノは驚いた様子で声を出した。彼女が驚くのは何となく分かる。

世界を賭けた最終決戦……決戦組には出来る限り戦闘力の高いメンバーを入れるべきだ。それをまさか、僕とカノンノが任命されるとは少なからず思わなかっただろう。僕とカノンノにアンジュは真剣な表情で再び小さく頷くと口を開いた。

 

「私もそれなりに考えたんだけど……今多分、このアドリビトムで高い戦闘力を持っていて、尚且つメリアを最後まで支えていけると思った時、アナタ達しか考えられなかったの。ラザリスとの闘いは力だけじゃなく、精神力だって必要になるはずだから……その時はきっとアナタ達二人じゃないとメリアを支えてあげられないわ」

 

アンジュのその言葉を聞いて、僕は暫く考えるとなんとなく納得する。このラザリスとの闘いは……あくまで『ルミナシアを救う』事であって『ラザリス、ジルディアを倒す』という事ではない。単純に闘う力よりも、メリアを支えて補助する事が重要になるかもしれない。それなら少なくとも他の人がついていくよりも僕とカノンノがつき、メリアを安心させた方がいいだろう。

 

「うん……分かった。ニアタはリタ達と同様に解析を兼ねた道案内と考えて……ヴェイグはやっぱり……?」

 

「えぇ……まだ残っているサレとの決着の為よ。これはヴェイグ本人からの意志よ」

 

ニアタとヴェイグの同行の理由を考えて、ニアタはリタ達とエラン・ヴィタールの内部を解析しての道案内、そしてこの最後のルミナシアとジルディアの運命を見守る同行と分かり、ヴェイグの方を頭で認識しつつ確認するようにアンジュに問うと、アンジュはそれに小さく頷いて答えてくれた。

いまだに決着のついていない男──サレ。僕達の浄化で弱体化はさせたが、サレはその直後に撤退している。この最終決戦……サレのラザリスへの忠誠心から考えると、彼はきっとラザリスを守るべくラザリスの居場所の近くにいるだろう。

そして……そのサレとの最後の決着をつけるべく、ヴェイグが決戦組への参加を申し出たんだろう。

 

「……もうすぐ皆の準備も終わるわ。終わり次第声をかけるから……二人とも宜しく頼むわよ」

 

「「……うんっ!」」

 

真剣な表情でアンジュはまっすぐと僕達を見て言うと、僕とカノンノはそれに大きく頷いて答えた。

最終決戦に向けて……決意を込めて。

 

 

 

 









──以上、第七十話、如何だったでしょうか?

……今回は少し書き方変えたからちょっと不安だったりします;



【最終決戦の朝】
完全に朝チュンです、本当にありがとうございます←←
感想の方で批評を頂いたので出来る限り地の文の描写とか会話文とか気をつけてみましたが……こんな感じでいいのかなぁ……。
因みに関係ないですが衛司君の『夜の戦闘スタイル』は『相手に愛の言葉を囁き尽くす』です←


【昨日はおたのしみでしたね!】
あんな事あったら誰かにこれを言わせるしかないじゃないっ!(使命感)
という訳でアンジュに言ってもらいました、やったぜ←
因みに小さい純情な子達は皆寝てたりして衛司君とカノンノの営みは聞こえてない……はず←←


【最終決戦に向けて】
という訳で最終決戦は皆で突撃です←←
と、いっても説明通り漫画版のように『皆で手分けして』みたいな感じになりますがね。
ヴェイグ参加はやっぱりサレとの決着です。
と、いってもラストのサレ戦は描写する気は今のところないですけどね☆

サレ様「!?」



次回はエラン・ヴィタールへ突入、そしてラザリス戦前まで書く予定です+
カオスラザリっちゃん戦とかどうしようかな……←

皆様良ければ感想、ご意見、評価等宜しくお願いします+



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第七十一話




なんとか完成できたので投稿+

ただ今回色々と纏めすぎたかなー、とちょっと後悔してたりします;;





 

 

 

 

──アンジュとの話し合いから約一時間して、皆の準備が終わり……僕達アドリビトムはエラン・ヴィタールへと突入し、無事にエラン・ヴィタールの大地に到着する事が出来た。

到着したジルディアの大地に決戦組、補助組の皆がバンエルティア号から降りて、そして周りに広がった光景に誰かが言葉を漏らした。

 

「──綺麗……」

 

そう、その誰かが零した一言は、確かに今僕達が見ている景色に合っていた。

ジルディアにほぼ完全に浸食された大地……それは一言で言ってしまえば完璧なまでの『白の世界』であった。今まで僕達が見てきた浸食された部分はあくまでキバの出現したほんの一部分程度であったが、今この場に広がる浸食は大地も、花も全てが浸食の『白』で覆い尽くされ、なんとも言えない美しさが感じられた。

──だけど……。

 

「……駄目。……このままだと……この世界じゃ……生きていけない……」

 

僕の隣に立つメリアが、皆が薄々思っているであろう事を静かに言葉にしてだした。

確かに今、僕達が立つジルディアの大地はなんとも言えない美しさを感じれた。だけど……この大地からはルミナシアの大地や僕のもといた世界にあるような草木、水、生き物……『生』というものが、全くと言っていいほど感じられなかった。

元々……ジルディアはルミナシアのような『世界』として完成する前に、星晶の減少で早くに目覚めてしまったのだ。そんないわば『中途半端』な状態では、今僕達が見ているような現状にも納得してしまう。

だから……だからこそ、今ジルディアにはもう一度『休んで』もらわなければいけない。

 

「──よし。こっち、解析終わったわ。それじゃ、説明するけど……まずエラン・ヴィタールの全体図がコレで……ラザリスがいるであろう場所が此処よ」

 

ふと、セルシウスやヴォルト、ウンディーネとエラン・ヴィタールの解析をしていたリタが皆の前に立つと、手に持った何かの小型の機械を操作し、その機械から解析されたであろうエラン・ヴィタールの全体図が立体映像となって現れ、リタがそう言っていくと映像のエラン・ヴィタールの中心部……一見すると建物のように見える結晶で構築された物が映し出された。

 

「此処にラザリスが……。この中心部にラザリスがいるのなら、この全体図から見てここから真っ直ぐの場所みたいだし……衛司達だけでもすぐに辿りつけたりするんじゃ……?」

 

「それが……向こう側もそう簡単にいかせてくれないみたいよ。確かに、ラザリスのいるこの中心部に向かうまでは真っ直ぐ行けばいいだけみたいなんだけど……その途中までの道が結晶の壁で封鎖されてるのよ。で、その封鎖を解くために、このエラン・ヴィタールの数カ所である程度の工程をしなきゃいけないみたいなのよ」

 

「数カ所、か……。それじゃ、手分けしていくしかねぇみたいだな」

 

「えぇ。だからまず私達補助組が手分けして封鎖を解除、その後に私が衛司達に通信機を使って連絡するからそれまで衛司達決戦組は此処で待機よ」

 

立体映像を見ながら誰かが出した言葉に、リタは溜め息を一つ吐くと機械を操作してエラン・ヴィタールの映像から更に数カ所を映し出して説明を続けた。わざわざそんな面倒な手順を踏ませるということは、多分向こうの目的は始めから此方のメンバーの分断、それとラザリスの『生命の場』浸食までの時間稼ぎなのだろう。 

リタは最後に説明をすると、補助組のメンバー分けを開始させて僕達決戦組の方へと歩み寄ってきた。

 

「これが通信機よ。連絡は全員の道造りの工程が終わり次第するから、アンタ達は体力使わない程度で待機しといてね」

 

「うん、分かった。……気をつけて行ってきてね」

 

リタは僕の前で立ち止まり、その手にもつ通信機らしきものを見せてそう言ってき、僕はそれに頷いて言うと通信機を貰おうと手を伸ばした。

通信機を貰おうとしたその時…リタが一歩僕の方へと歩み寄って僕にしか聞こえない程度の小声で言葉を出した。

 

「アンタ……また私達騙してヤバい事になってんでしょ?」

 

「……やっぱり、バレてた?」

 

「当たり前でしょ。むしろ、あんな馬鹿みたいな説明で他のならまだしも私やハロルドを騙せると思ってたの?」

 

「……ですよね」

 

溜め息混じりに出された言葉に、僕はやはりこの人に嘘は通じないんだな、と思いながら苦笑いして言うとリタは呆れたような表情でそう言った。

まぁ結構アレ無理矢理な嘘だったし、ドクメントを専門に研究を進めてるリタやハロルドを騙そうなんてはっきり言ってはじめから無理に等しいものだもん。

 

「詳しい事は状況が状況だから聞けないけど……アンタの性格やカノンノの様子を見たらある程度予想はつくわ」

 

「……やっぱり、止めたりはしないんだね」

 

「アンタなら止めたって『行く』の一点張りってわかってるからね。それなりの長い間、アンタの性格は見てきたからもうある程度アンタがどんな行動とるか想像つくわよ」

 

「あはは……そっか……」

 

「……今はアンタの行動についてとやかく言う気は無いわ。アンタ自身の選んだ行動で、カノンノもそれを分かっててアンタを止めないわけだし。ただし『後で』色々と聞いてやるから……『ちゃんと帰って』きなさいよ?」

 

「! ……分かった、頑張るよ」

 

『はぁ』、と深めの溜め息を吐いて僕の言葉に呆れた様子のままリタは答えると、真っ直ぐと僕を見てそう言葉を出した。『後で』や『ちゃんと帰って』、か……本当、はっきり『生きて戻ってこい』と言わない所は彼女らしい所である。

リタのその言葉に僕が頷いて返すと、リタは通信機を手渡して補助組の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

──補助組の皆がチーム分けを終わらせて手分けして出発して約二時間が経過した頃……リタから通信が入り、ラザリスのいる中心部への道の封鎖が全て解除された事が告げられた。

『頑張ってきなさいよ』と一言が加えられたその報告を受けて僕、カノンノ、メリア、ニアタ、ヴェイグの決戦組はその場を出発し、エラン・ヴィタールを解析して道を理解しているニアタの案内で中心部へと向かう道の前へと到着した。

 

「……この先に……ラザリスが……」

 

「あぁ。……それにきっと、サレもいるんだろう」

 

中心部へと続くであろう道の先を真っ直ぐと見つめて言葉を出すメリアとヴェイグ。リタとの通信では、リタ達補助組はサレと遭遇した、という連絡は受けていないので……やはりサレもこの奥にいるのだろう。

ニアタはリタ達との解析で手にしたエラン・ヴィタールの全体図と今の僕達の居場所を確認すると僕達の方を見て静かに言葉を出した。

 

「うむ……どうやらこの道であっているようだ。この先に、ラザリスはいる」

 

「そうか、なら……」

 

「(……主)」

 

ニアタの言葉に『なら、なるべく早くラザリスのいる場所に向かおう』と言いかけた時、不意に身体の中にいるヴォルトの声が頭に響いた。

突然のヴォルトの声にどうしたのだろうか、と思い声をかけようとした瞬間、ヴォルトに続くようにウンディーネの声が響いてきた。

 

「(ふむ……主様よ、どうやら相手らも此処を進めたくはないようだ)」

 

「それって……っ!」

 

「衛司、アレっ!」

 

ヴォルトとウンディーネの言葉の意味が薄々と分かった直後、カノンノの声に反応してみると僕達が来た道の方に、以前見たラザリスと一緒にいた結晶で覆われたような巨人型の魔物と、まるで結晶で造られたような人型の魔物が数体立っていた。

それぞれが腕を大きく回していたり、結晶で出来た剣や槍にも見える武器を構えていたりと明らかに此方に敵意を見せているのが分かった。

 

「あれが……ジルディアの民か……」

 

「数が多いな……逃げられたりしないか?」

 

「ここから中心部へはほとんど一本道だ。ここから逃げてもしこの先にも待機しているのなら挟み撃ちにされてしまう。出来る限り、此処で対処したいが……」

 

「やるしかないわけか……」

 

此方に敵意を出している巨人型や人型のジルディアの民達の数を見て、ヴェイグが確認するようにニアタに聞くとニアタは一度中心部への道を見た後、ジルディアの民達を見てそう応えた。

ニアタの言葉にメリアとヴェイグが武器に手をかけるのを見て、僕も星晶剣を抜こうとする……が……

 

「! 衛司は駄目……っ!」

 

「っ! ……カノンノ……」

 

「衛司は今、一回の戦闘だって危険なんでしょ……? なら、此処は私達に任せて、出来る限り闘わないようにして……」

 

星晶剣を抜こうとした手が、不意に伸ばされたカノンノの手に掴まれて止められる。僕が思わずカノンノを見ると、カノンノは小さく首を横に振った後真っ直ぐと僕を見てそう言った。

確かに、今の僕の状態なら出来る限り闘う回数は少ない方がありがたいけど……如何せん相手の数が数だ。向こうは見える限り少なくても十体程……それに対して此方はニアタと僕を外せばカノンノ、メリア、ヴェイグの三人だけだ。流石にあの数を三人だけに相手させる訳には……。

そう迷っていた時であった……。

 

「(!ふむ……主様、どうやらその心配は不要なようだ)」

 

「え……それって、一体……」

 

『──カハハッ! 困っているようだな、小僧っ!』

 

ウンディーネの言葉が頭の中に響き、その言葉の意味を聞こうとした瞬間、上空から高い聞き覚えのある声が耳に届き、ジルディアの民達に炎の塊が降り注いだ。突然の炎の塊の落下にジルディアの民達は対応出来ず、全てとはいかないが数体が炎に飲まれて燃えていった。

この声に炎……間違いないっ!

 

「まさか……イフリートっ!?」

 

『カハハッ! 久方振りだな、小僧よ。あの時の礼、返しにきたぞっ!』

 

僕の声に答えるように、僕達とジルディアの民達の間に割り込むように上空から降り現れたのは、炎を身に纏った人の上半身の姿をした者……見間違うこと無く、以前サレに操られ暴走した火を司る大精霊『イフリート』であった。

『借り』については以前の時に言っていたのは覚えてるけど……でも、どうやって此処に……。

 

「(それについては……実は昨日、主の身体から離れた後、ウンディーネと話し合ってイフリートをこのエラン・ヴィタールに呼ぶことにしたのです)」

 

「(最悪、余かヴォルトのどちらが主様の身体から離れて足止めを担当するつもりであったからな。その時に離れすぎた際に主様の身体に影響が無いかどうかの確認も込めて、余達は独断で離れてイフリートを呼びに行ったのだ。結果的に主様の身体に影響は無く、イフリートもこうやって呼べたわけであるが)」

 

『うむ……話はヴォルトとウンディーネから聞いている。此処は我に任せて先に行くが良い。安心せよ、小僧……お前への礼だ。此処から先は何人たりとも通しはさせんわ』

 

僕の疑問に頭の中でヴォルトとウンディーネの説明の声が響き、イフリートもそれが聞こえているのか一度頷くとそう言って、ジルディアの民達の前に妨害するように振り返った。

以前、暴走していたとはいえ戦ったその実力からイフリートのその姿は、自然と頼もしく見えた。

 

「イフリート……ありがとう」

 

『カハッ! お前への礼なのだ……礼をされる側ではないのだがな。まぁよい、その言葉が聞けただけで我は心地良いからな。さぁ、早く行くがよい』

 

「分かった……行こう、皆っ!」

 

高らかに笑い、僕達に背を向けたままそう言ったイフリート。その姿に、僕は大きく頷くと皆を連れて中心部へと向かう道へと走り出し、イフリートはそれに合わせるようにジルディアの民達の方に向かって拳を振り上げた。

後方から聞こえだした轟音を背に、僕達はなるべく後方を見ないように中心部へと向かった。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

──中心部へと向かって走り……暫くして僕達の目線の先に、リタが立体映像で映し出していた中心部に立っているであろう建物の姿が見えだした。

ただ、その前に……まるでその建物を見守るように僕達に背を向けて立つ人の姿があった。そして……少なからず、僕達はその後ろ姿の人物を知っていた。

 

「──やはり……こんな所に居たんだな、サレ」

 

ヴェイグが僕やカノンノ達より一歩前にでて、後ろ姿の人物に向かってそう言葉を出した。その人物──サレは僕達の方にゆっくりと振り返ってきて小さく口元を吊り上げた。

そのサレの姿は……以前僕達が浄化した時から傷そのものは消えてはいるが、結晶化している部分は以前の片目部分だけであった。

 

「おや……やっぱり来たのかい。予想してたよりは少し早かったのは意外だけどね」

 

「サレ……悪いが、そこを通してもらうぞ」

 

「君達もしつこいね……。この素晴らしい大地を、景色を見てまだこの世界を守ろうだなんて……」

 

口元を吊り上げたまま言葉を出すサレに向かって、ヴェイグが剣に手をかけながら言うとサレは『やれやれ』というかのように溜め息を吐いてみせ、まるで今、この場にいる事を喜んでいるように両手を広げてそう言った後、広げた片手を奥に立つ建物へと向けた。

 

「もう間もなくラザリスは『生命の場』を浸食してこのルミナシアはジルディアに飲み込まれる。悪いけど……ラザリスの世界の為だし、思いっきり邪魔させてもらうよ」

 

「っ!」

 

建物へと向けていた手を此方に戻し吊り上げた口元を更にあげ、サレは不気味に笑みを浮かべてそう言うと結晶で造られたような細剣を出現させて構えた。サレの行動に思わず僕達も身構える中……片手を剣に添えたヴェイグがもう片方の手を僕達の前に止めるように出した。

 

「ヴェイグ……?」

 

「……俺がサレの相手をする。衛司達はその隙に先に進め」

 

「そんな……いくらヴェイグでも一人だけじゃ……っ!」

 

「サレの言っている事が本当なら、俺達全員でサレと戦って時間を使うよりも俺がサレと戦ってお前達を先に行かせてラザリスを止めさせる方がいいだろう。それに……元々、サレとは決着をつけるつもりだったからな」

 

そう言って僕達より更に一歩前へと出て剣を抜き、サレに向かって真っ直ぐと構えるヴェイグ。

幾らサレが弱体化しているとはいえ、ヴェイグ一人で戦うのは確実に危険だろう。だけど……今はヴェイグの言うとおり、今着実に浸食を進めているだろうラザリスを止めるためには、此処はヴェイグを信じて先に進むしかないだろう。

 

「……ヴェイグ、ごめん……任せたよ」

 

「あぁ。……衛司……お前も、『無茶をし過ぎるな』よ」

 

「え……」

 

「……スゥ……ハアァアァァァァァッ!」

 

僕の一言にヴェイグは剣を構えたまま小さく一度頷いた後、僕を目だけで真っ直ぐと見てそう言った。

その言葉はまるで、僕の身体の状態をわかっているかのようで僕は思わず言葉を出しかけるが、ヴェイグは一度呼吸をした直後剣を振り上げて声とともにサレに突撃した。

 

「っと……これはこれは……っ!」

 

「! 今のうちだよ、行こうカノンノ、メリア、ニアタっ!」

 

「う、うんっ!」

 

ヴェイグの突撃にサレは結晶の細剣で防ぐと、そのままヴェイグと鍔迫り合いになって建物への道が完全に開いた。僕はヴェイグとサレの戦闘開始に茫然としているカノンノ達を呼び、カノンノ達を連れて中心部の建物へと入った。

ヴェイグ……任せたよ……っ!

 

 

 

 

 

 

 

「──……意外だな」

 

「おや、何がだい?」

 

──衛司達が中心部の建物に入ったのを見送った直後、鍔迫り合いを離しサレから距離をとったヴェイグは剣を構え直しながらサレを真っ直ぐと見てそう言い、サレはその言葉に小さく首を傾げて応えた。

そんなサレにヴェイグは視線を逸らすことなく口を開いた。

 

「さっきの事だ。お前なら、俺の攻撃を避けて衛司達が進むのを止められた筈だ。……何故わざわざ通らせた?」

 

「おや、やっぱり気付かれてたかい。……衛司君やメリアちゃんはラザリスのお気に入りだからね、元々通すつもりだったんだ。後のカノンノちゃんとニアタ……だっけ? あの二人はいわばオマケだよ。後は……ヴェイグ、そろそろ君と決着をつけたかったからね」

 

ヴェイグの言葉にサレはクスリと笑うように笑みを浮かべると、建物へと一度視線を向けてそう言っていき最後にヴェイグへと視線を戻して細剣の切っ先をヴェイグに向けた。

サレのその返答を聞き、ヴェイグは真っ直ぐとサレを見たまま構える剣を握る力を強め口を開いた。

 

「そうか……なら、ちょうどいい。俺も、お前とは決着をつけたかったからな。それに……お前に聞いておく事もあった」

 

「おや、まだなんかあるのかい?でもまぁ……もし聞きたいんなら、此処からは僕を倒せてからにしたらどうだい?」

 

「あぁ……はじめからそのつもりだ」

 

お互いに見合ったままヴェイグとサレは言葉を交わり合わせ、お互い武器を握る手の力を強める。

真っ直ぐと、ただ無言でお互いに睨み合い……少し時間が立った時だった。

 

「──ハアァアァァァァァッ!」

 

「──ヒャハハァアァァァッ!」

 

一陣の強い風が吹き、それによって舞い上がった一つの小石が浮き、地面へと落ちた音がした瞬間、それを合図にするかのようにヴェイグとサレはほぼ同時に、地を蹴り相手へと向けて斬り掛かった。

 

『氷』と『風』……混じり合うことがなかった二人の、最後の激突が幕を上げた……。

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

──皆に、イフリートに、ヴェイグに道を作ってもらいながらようやく到着することのできた中心部の建物。僕達はそこに足を踏み入れ中に入ると……僕達の前に広がったのはただ大きくひらけたフロアで、このフロアの周りほぼ全てが結晶で構築されているという光景だった。

そしてその奥に……僕達が探していた人物の後ろ姿があった。

 

「……ラザリス……」

 

「……来たんだね、ルミナシアのディセンダー」

 

メリアの言葉に反応するようにゆっくりと僕達の方へと振り返るラザリス。よく見れば先程までラザリスが見ていたであろう彼女の背後には、淡く輝く宙に浮いた光の塊と、それに迫るように浸食を進めている結晶が見えた。

僕達の視線に気付いたのか、ラザリスは光の方を見て静かに口を開いた。

 

「分かるかい? あれが、あの光こそがルミナシアの世界の中枢……生命力が生まれ、世界の理を維持するところ、『生命の場』さ」

 

「つまり……その近づいている結晶があの光に浸食したら……」

 

「そう、君達『ルミナシア』の世界は終わり、僕の『ジルディア』の世界が始まる。争いもなく、僕が与える恵みに浸り平和に暮らしていける」

 

「恵みを受け取るだけが幸せなんて……そんなの間違ってるよっ!」

 

光の塊……『生命の場』へと手を伸ばし、そう淡々と言っていくラザリス。そのラザリスの言葉にカノンノが声を上げると、ラザリスは僕達にキッと睨むように振り返った。

 

「欲しがってばかりじゃないか、いつも君達は……ずっと! 滅びるまでっ! 奪い合うだけじゃないかっ! ……だから僕が変える……ルミナシアを。僕が与え続けるよ、君達は何もしなくていい……僕の世界で『創造』をする必要はないんだ」

 

僕を睨んだまま叫ぶようにそう言っていくラザリス。ラザリスの言う『彼女が作り、僕達がもらい続ける創造』……だけど、それは……つまり……。

 

「ラザリス……君は、自分の世界の住人からも……想像を奪うつもりなのか?」

 

「そうさ。創造は『欲』だ、『罪』なんだよ。君達の欲は満たされる事がない。人はそれを追い求め、ついには危機を招く。僕一人がその罪を背負うよ。この世界の終わりまで、ね……」

 

「……そんなの……そんなの、違うッ!」

 

ラザリスの言葉に僕達より一歩前に出て声を出したメリア。そのメリアの言葉にラザリスはジッとメリアを見つめて静かに問い掛けた。

 

「何が違うんだい、ディセンダー?」

 

「……確かに……ラザリスの言う事はあってる所もある。……だけど創造が作るのは罪だけじゃないっ! 楽しみや、喜びや、幸せだってあるっ! ……私は……私が見てきたこの世界のヒト達は……少なくともそうだった……」

 

ラザリスの問いに途切れながらもそう声上げていくメリア。言葉を出しながらメリアは一度僕達の方を振り返って小さく一度頷くと、再びラザリスに向き直り言葉を続けた。

 

「……だから……それを『罪』だなんて言って、一人で背負おうとしないで……。世界樹は……きっと、そんな生き方……望んでない……」

 

「ッ! だったらっ! だったら何故、僕を取り込んだっ!? 僕を封じ込めてまでっ!!」

 

「……一緒に、生きたいからだよ」

 

真っ直ぐとラザリスを見てそう言葉を続けたメリア。そのメリアの言葉にラザリスは再び叫ぶように、吠えるように声を上げる。ラザリスの言葉に、僕はメリアと並ぶように一歩前に出てそう言った。

元々、このルミナシアがジルディアを取り込んだのは今はまだ『理』が違い、共に生きていく事が出来ないジルディアの世界を、一緒に生きていこうとする為に取り込み星晶で『休ませて』いたのだ。

だから、決して……このルミナシアは彼女のジルディアを否定している訳ではないのだ。

ラザリスは僕のその言葉を聞くと、キッと睨んだまま僕に向けて口を開いた。

 

「……君にも聞きたい事があったよ、イレギュラー。君はどうして……こんな世界の為にそこまで命を張れるんだい? 『君の世界』と全く関係の無いだろう、この世界を……」

 

「……この世界が好きだからだよ、ラザリス。確かに、君の言う通り……この世界は僕の世界とも、君の世界とも違う。この世界のヒト達の醜い所や、汚い所もそれなりに見てきた。……だけどさ、メリアの言う通り、この世界はそれだけじゃない。大切なヒト達を守る意志も、人々が変わっていける姿も、人を好きになる想いを見てきた。だから、僕はこの世界を好きになった。だからこの世界の為に出来ることはなんだってやってやろうって決めたんだ」

 

僕を睨んだまま問い掛けてきたラザリスに、真っ直ぐと向き合ったまま僕は自分の想いをラザリスへと伝えた。

僕の言葉を聞き、ラザリスはゆっくりと顔を俯かせて静かに言葉を出した。

 

「……そう、かい。『好き』になったから、か。……もし君が、このルミナシアの世界じゃなくて……僕のジルディアの世界に来ていれば……」

 

「……こんな綺麗な世界だからね。もしかしたらジルディアの世界を好きになって……そのジルディアを救うために動く君を見て、君を好きになってたかもしれないね。……だけど多分、きっと……少なくともこんな風に争わないで済む方法を探してたと思うよ」

 

俯いたままのラザリスに、僕は『もしかしたら』あったかも知れない出会いを想いながらそう言葉を出した。この場所に来るまでの道で見てきた景色は……『生』というものはまだ感じれなかったけど、少なくとも美しさは感じれた。だからもしかしたら……僕が落ちた場所がルミナシアではなく、ジルディアであったら……彼女とはそういう出会いもあったかもしれない。

僕の返答を聞き、ラザリスは俯いたまま少し震えたと思うと、睨むように顔を上げて口を開いた。

 

「……そうかい。やっぱり、君達とは相容れないみたいだよ。……僕の世界は君達の世界と交わろうと思っていないし、思いたくもない。この世界も……ディセンダーと手に入れるまで諦めてくれそうにないみたいだからね」

 

「……やっぱり……こうなるんだね……」

 

僕達を睨んだままそう静かに言うと、戦闘態勢へと入ろうとするラザリス。その様子を見て、メリアはどこか哀しげに声を漏らして武器である短刀へと手を掛けた。

二人の行動に、僕とカノンノはニアタを後ろへと下げさせるとメリアと同じようにそれぞれ武器に手を掛け、それを見たラザリスはキッと僕達を見たまま声を上げた。

 

「さぁ、来るんだディセンダー。……それにイレギュラーと、この世界のヒトよ。皆まとめて……僕のモノになってもらうよっ!!」

 

「……この世界を……皆を絶対に終わらせたりしない……。……行くよ……ラザリスっ!」

 

声を荒げるように言うラザリスに短刀を手に低く構えて声を上げるメリア。

──ルミナシアの世界と、ジルディアの世界を賭けた……最終決戦が今、始まった。

 

 

 

 








──以上、第七十一話、如何だったでしょうか?

今話はラストバトルに向けてかなり無茶苦茶纏めすぎたかなー、とちょっと思ってます;;


【エラン・ヴィタールの解析等々】
エラン・ヴィタールの解析云々や妨害の仕掛け等々は漫画版でも同じようにリタ達がやってたのでそれを参考にしてみました。
何故ラザリスの居場所を中心部にしたのかは、正直あのラストダンジョンの道のりが複雑すぎてどう描写していいか分からなかったからである←←
因みにリタ達の探索を二時間にしたのは私がエラン・ヴィタールで迷いまくってラザリスの居場所についたのがそれぐらい掛かったからです(実話)←←


【イフリート再登場】
前に言ったと思いますが、イフリート此処で再登場です+
どうやってついてきたかについては、実は光の玉状態で始めからバンエルティア号にくっついてた、とか考えてもらえるとありがたいです←


【ヴェイグとサレ】
ヴェイグとサレ、最後の決着です。
元々サレの最後はやっぱりヴェイグに決めてもらおうと思ってましたからね。
だが描写はしない、気付いたら終わってるパターンとします←←

サレ様「!?」

あ、後いくらラストバトルだからといって決して『虹のフォルス』、『一人四星』とかはしないです←


【ラザリス】
そして遂に、ラストバトル開始です。
ニアタさんがかなり空気でしたが仕方ない←
漫画版基準で書いてたし、原作でもこの部分、某解説王ばりに解説に徹してたからこうなっても仕方ない←←

衛司君の話した『もしかしたら』は書いてて思わず『小ネタで書いてみようか』と考えてみたんで困る←

ラザリスとのこの場面のやり取りはラザリスの言ってる事も多少なりとも間違ってない部分があったりするんで本当に悩んだなー……←



次回は遂に、ラザリスとのラストバトルスタートとなります。
果たして世界の運命は?
そして、衛司の結末は……?

皆様良ければ感想、ご意見、評価等宜しくお願いします+

後、多分次回の投稿は遅れてしまうと思います;
原因は仕事がこれから少し忙しい時期に入るのと、十日に出るスパロボZです←
出来る限り早く投稿させられるよう頑張ります;



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第七十二話



大変遅くなってしまいましたが、ようやく完成したので投稿です+

ただ今回結構無理やりだったり、内容が訳わかんなかったりするかもです;;

まぁ、原作もこの部分は軽く訳がわかんなかった気g(殴←


 

 

 

 

「──アァァァァァァッ!」

 

「っく……!」

 

──雄叫びと共に足の裏で地面を滑るかのように此方へと急接近し、僕達のほぼ目前まで来ると地面を跳び、そのまま落下の勢いと共に脚を振り下ろしてくるラザリス。

僕は反射的に構えた星晶剣で防ぐと、まるで鉄に刃を当てたかのような感覚が腕に走る。一瞬、ラザリスの脚の方を心配しかけるけど、向こうは案の定脚の部分に結晶を覆わせて外傷は見えなかった。

 

「このルミナシアはボクのモノにする。だから早く、ボクのモノになってよディセンダーにイレギュラーっ!」

 

「っ…そういう熱烈な告白はもっと別の形で受けたかったよっ!」

 

「……衛司、下がって……!」

 

振り下ろしている脚を外し、その場に着地したと思えば流れるよう連続蹴りを繰り出してくるラザリス。それを星晶剣で防ぎつつラザリスの言葉に返していると、後方からメリアの声が聞こえ、僕はそれに反応するようにラザリスが繰り出してくる蹴りを防ぎ、その勢いを利用して後方へと下がった。

 

「……苦無閃《嵐》……っ!」

 

「行って……グレイブっ!」

 

僕が後方に下がった直後、無数の苦無を手にしたメリアと詠唱をしていたカノンノが同時に声を上げてラザリスに向けて苦無の嵐と土の槍が放たれた。

 

「っ! 邪魔だぁあぁぁぁっ!」

 

全てがほぼ同時の勢いで迫る無数の苦無と土の槍の同時攻撃に、ラザリスは体勢を戻し叫ぶように声を上げて苦無と土の槍に向けて結晶を纏わせた脚を勢いと共に奮う。

ラザリスが脚を振った瞬間、ラザリスの脚と結晶化した地面から無数の結晶の槍が現れて苦無の嵐と土の槍を相殺した。

やっぱりそう簡単に攻撃を通させてはくれないか……なら……っ!

 

「……現れるは水、勢いよく叩き付ける……強力な水流……」

 

「衛司……?」

 

「……っ……落ちろ、スプラッシュッ!!」

 

「くっ……!?」

 

カノンノとメリアの攻撃を防いだラザリスに向けて手を伸ばし、僕はイメージを固めるように言葉を出し、そのイメージが固まった瞬間に声を上げる。

その瞬間……ラザリスの頭上から大量の水流が現れラザリスに向けて落下し、ラザリスはカノンノとメリアの攻撃を防いだばかりだったからか突然の頭上からの攻撃に対応出来ず、水流に飲み込まれた。

ウンディーネとの契約でヴォルト同様に『水』の力が使用可能になったのはありがたい……だけど、さっき……詠唱の終わりに頭に走った痛みは……。 

 

「(ふむ……まさかここまでとは……)」

 

「っ……ウンディーネ?」

 

「(主様よ……余やヴォルトの力を使うので、魔術系はなるべく避けた方がよいぞ。どうやら、主様の身体はあまり慣れていない中級魔法でもかなり危険なようだ)」

 

「じゃあ……さっきの痛みは……っ!?」

 

いまだ僅かに残る頭痛に頭を抑えていると、不意にウンディーネの声が頭に届いた。先程からくる頭痛は多分、術の使用によってドクメントを更に消耗しているんだろう。ウンディーネに思わず問い返そうとした瞬間、水流が落ちた位置から此方に向けて『ナニカ』が来るのを感じて僕は反射的に紫色の防壁、ライトニング・シェルを張ってそれを防いだ。

 

「衛司っ……大丈夫……!?」

 

「っ……なんとか、ね。……シェルは慣れてるから痛みは無い、か……」

 

水流の落ちた位置から放たれた『ナニカ』……赤い熱線のような攻撃をシェルで防ぐと、カノンノが此方に駆け寄り僕の身体を見ながら聞いてきたので、僕は少し呼吸を整えつつそう答えた。反射的に魔術系防御であるシェルを使ってしまったけど、此方の方は頭痛が感じられない事から、先程のスプラッシュとは違い、使用を慣れているためドクメント消耗がそこまで無いことを理解できた。

改めて警戒して真っ直ぐと熱線の飛んできた場所を見ると、そこには水流を受け多少ダメージを受けてはいるが、戦闘不能には程遠い姿のラザリスが此方を睨んでいた。

 

「今のは少し驚いたよ、イレギュラー。本当に……君は時がたてばたつだけ強くなる。本当に……残念だよぉっ!」

 

「っ……ライトニング・シェルっ!」

 

僕達を睨んだまま身体を少し低くしてラザリスがそう叫んだ瞬間、結晶化している左目から先程飛ばされてきた熱線が僕達に向けて放たれた。

僕は前に出て手を突きだし、再びライトニング・シェルを張って防ぐが、連続にもなる熱線の為か僅かに熱の熱さを突きだした手に感じた。

 

「くっ……熱っ……!」

 

「衛司……今、回復を……!」

 

「アハハ、そんな暇与えないよっ!」

 

シェル越しに伝わって来た熱の高さに防ぎきった後思わず声を出して突き出していた手を抑えると、カノンノが回復させようと僕に駆け寄ってきた時、再びラザリスが体勢を低くしながらそう声を上げた。

くそ……流石に連続でまた撃たれたら……っ!

 

「……そうは……させない……っ!」

 

「っ! ディセンダー……っ!!」

 

「メリアっ!」

 

ラザリスが再び熱線を放とうとした瞬間、いつからか姿の見えなかったメリアがラザリスの上空から現れラザリスに向けて短刀を振り下ろし、ラザリスは突然の攻撃に放とうとした熱線を止め、メリアの攻撃を前方へと飛んで避けた。

 

「……これ以上……衛司の身体に負担を出させない……だから、私が此処で……っ!」

 

「くっ! そう簡単にボクが倒せると思わないで欲しいねっ!」

 

攻撃が避けられたと分かるとメリアはそのまま繋げるようにラザリスに向けて短刀を奮い、ラザリスはそれを結晶化させた脚で防ぎつつメリアに向けて攻撃を繰り出す。

お互いがお互いに攻撃を通させない闘いを繰り広げる二人の姿に思わず口を開けてしまいそうになりかけたが、カノンノが駆け寄ってきて回復魔法を使ってきてくれたのでなんとか回復しきるまで二人の闘いを目で追い続けた。

アドリビトムの中でスピードにおいてはトップに立つであろうメリア。そのメリアの速度による攻撃を防ぎ、攻撃をするラザリス。そんなラザリスに対抗するにはやはり……。

 

「ヴォルト……今、『契約解放』……どれぐらいいけそう?」

 

「(今の主では……大体五分程が限界です。それ以上は主の身が……)」

 

「五分も出来れば充分だよ。……その五分で決めるよ、ヴォルト」

 

カノンノの回復魔法を受けある程度楽になってきたのを感じながら僕は自分の中にいるヴォルトに、今『契約解放』がどれだけ出来るか問い、その返答を聞くとカノンノの回復魔法を受け終わり一歩前へと出た。

今、あのラザリスに僕がメリアと同じように対抗するには『契約解放』しかない。以前は大体体力低下ぐらいが代償だったけど……『今の状態』の僕が長時間使用すれば何が起こるかはある程度想像がついてしまう。なら、今僕に出来る事はその使用可能な時間の間にラザリスを無力化させる事だ。

僕は契約解放をする為に更に一歩前に出ようとした時、動かそうとした足が止まった。

 

「衛司……」

 

「カノンノ……」

 

「私……今の衛司を止める事は出来ないから……だから衛司……絶対、負けないで!」

 

「……うん」

 

僕の服を掴み足を止めさせたカノンノは僕を真っ直ぐと見た後そう言葉を出し、僕はそれに静かに頷いて答えた。

この闘いの後、僕がどうなってしまうのか……はたまた、例え生き残ったとしてもどれだけの時間が残されているのかは分からない。だけど今は、ただ今は……

 

「(……『自分の出来る事をする』ですか。本当、主らしいですね)」

 

「あはは……最後まで迷惑かけっぱなしでごめんね、ヴォルト」

 

「(……『最後』なんて言わないでください。主は私の主なんです。『これまでも』……『これからも』……)」

 

「……うん、そうだね。それじゃ……そのためにも宜しく頼むよっ!」

 

僕の中でそう、僕の言葉に真っ直ぐと返してきたヴォルトに、僕は少し嬉しく思いながら頷いて星晶剣を構えた。今の僕の身体がどれだけ保つかは分からない。だからこそ……身体が保つ限り全力でラザリスを止めるっ!

 

「「契約……解放っ!!」」

 

意識を集中させ、それを一気に爆発させるように僕とヴォルトは声を上げて『契約解放』を発動させる。僕の頬に雷を模した模様が入り、『契約解放』を無事発動出来たことがわかった瞬間、僕は足に力を込めてラザリスに向けて一気に跳んだ。

 

「ハァアァァァァァァっ!」

 

「っ! イレギュラーァッ!!」

 

『契約解放』で上昇した力で一気に戦闘をしているメリアとラザリスの間に入るように跳び、そのまま勢いと共に星晶剣を奮う。奮った一撃はラザリスの結晶化した脚に防がれてしまうが、ラザリスは突然の僕の介入に僕を睨みながらその場から後方へと下がった。

 

「衛司……契約解放って……大丈夫、なの……?」

 

「五分程度なら大丈夫らしいよ。だからメリア……此処からは合わせて早めに一気に決めるよっ!」

 

「……んっ!」

 

乱入した僕を驚いた様子でメリアは見ると、僕が『契約解放』を発動している事に気付き不安そうな声で聞いてきたが、僕はそれに小さく頷いた後、僕を睨むラザリスに真っ直ぐと視線を向けて星晶剣を構えてそう言葉を出す。

僕の言葉を、意志を見てメリアは不安な表情を振り払うように首を横に振った後、真っ直ぐに僕を見て大きく頷き、短刀を逆手持ちにラザリスへと向き直った。

 

「ディセンダーにイレギュラー……ボクは、ボクはボクの世界の為に絶対に君達を手に入れる。だから……これで終わりにしてあげるよっ!」

 

武器を構える僕達に向けて、そう声を上げて右手を真っ直ぐと上へと向けるラザリス。右手を上へと向けた瞬間、ラザリスの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がり明らかに高威力である魔法が来ることが分かった。

だけど……僕達だって負けるつもりはないっ!

 

「メリア……次の攻撃で決めるよ!」

 

「ん……衛司となら……きっといける……っ!」

 

お互いにラザリスへと視線を向けたまま、僕は隣にいるメリアにそう言うと、メリアは大きくソレに頷いた。確実に……これで終わらせるっ!

 

「さぁ……終われぇっ!! ディバインセイバーっ!!」

 

「行くよ、メリアっ!」

 

「ん……っ!」

 

上へと向けていた右手を、声とともに此方に向けたラザリス。その声に合わせるかのように僕とメリアの頭上に巨大な魔法陣が現れ、そこから裁きの一撃とも呼ばれる雷が僕とメリアに向けて降り注いできた。僕はそれが分かった瞬間にメリアに向けて声を出し、僕達は別々に別れて雷を避けながらラザリスに接近する。

そして……

 

「ハァアァァァァァァっ!」

 

「っ! くっ……そんな攻撃でぇっ!」

 

ラザリスを攻撃できる範囲に入ったと分かった瞬間、まずは僕がラザリスに向けて星晶剣を奮う。僕の攻撃は簡単にラザリスの脚に防がれてしまったが……『防がれる事は分かって』いた。

 

「はは……そんな攻撃がボクに通るとでも……」

 

「思ってないさ。ただ……君に『当たれば』充分だよ」

 

「……何を言って……っ!」

 

僕の攻撃を防ぎ、僅かに笑みを零して言ってきたラザリスに、僕はそう言葉を返すと防がれたままの星晶剣からラザリスの脚へと意識を集中させる。そしてその数秒後……そのラザリスの脚は雷の鎖に拘束された。

 

「な……これは……っ!」

 

「名付けて『ライトニング・チェーン』……ライトニングノヴァをする時にヴォルトに任せっぱなしだった拘束を……自分なりに出来るように考えてたんだ。……まぁ、それでも『契約解放』でやっと出来るぐらいだけどね……」

 

ラザリスの脚を拘束した雷の鎖『ライトニング・チェーン』が成功したのを見て、僕は僅かに頭に走る頭痛に耐えつつ言葉を出す。今まで見てきたけどラザリスの攻撃スタイルは結晶化した脚を主にものだ。なら、その脚を封じてしまえば簡単だ。僕の攻撃が通るにしろ、防がれたにしろ……彼女の脚を拘束できるならなんでも良い。後は……

 

「今だよ、メリアっ!」

 

「……いざ……参る……っ!」 

 

「ぐぅっ……!?」

 

僕が声を上げた瞬間、メリアが一瞬で僕の後方から現れ、拘束されたラザリスを通り過ぎるように一閃した。メリアの攻撃が当たったと分かると、僕は拘束を解いて後方へと下がると、拘束を解かれたラザリスはメリアの攻撃を受けた位置を抑えた。

 

「ぐっ……こんな攻撃で……倒れるとでも……っ」

 

「……分かってる。……だから……『キメ』はコレ……。……その身体に付けた起爆札で……お終い……っ!」

 

「なん……っ!?」

 

メリアの攻撃を受けた位置を抑えたまま此方を睨んでくるラザリス。そのラザリスに答えるようにメリアがそう言うとゆっくりと片手を上げていく。

メリアの行動と発言にラザリスは自分の身体を見ると……自分が手で抑えているメリアの攻撃を受けた位置……そこには確かに『爆』と一文字描かれた札が張られていた。

ラザリスはそれに気付き起爆札を外そうとするが、それは外せることは出来ず、そして……。

 

「……これで……眠って……! ……『瞬獄』……っ!!」

 

「こんな……こんな事でぇえぇぇぇぇっ!!」

 

上げた片手の指をメリアは言葉と共にパチンと鳴らした瞬間……ラザリスは悲鳴に近い声とともに起爆札の爆発に飲み込まれた。

その爆発の威力や勢いを見て、少なからずこれで戦闘不能に追い込めた筈、と思えた。

 

「これで……終わったの……?」

 

「……! いや、まだだっ!」

 

爆発で生じた煙によってラザリスの状態が見えず、カノンノが言葉を出した直後、戦闘に巻き込まれない程度に後方へと下がっていたニアタからそう言葉が出た。

そのニアタの一言に僕達は煙の方を見ると……そこには爆発よってボロボロになりながらも此方を睨みなんとか立ち上がっているラザリスが立っていた。

 

「ぐ……ぅっ……まだ……まだだ………っ! ボクの……世界を……消させる……もの、かぁっ!」

 

「……っ……ラザリス……もうやめよう……! ……こんな闘いを続けても……アナタの世界は……っ」

 

「うるさい……っ!」

 

ボロボロになり、立っているのがやっとのような状態でもいまだに僕達を睨んだまま敵意を見せるラザリス。声を途切れ途切れにしながら再び構えをとろうとするその姿に、どうするべきかと迷ってしまう……その時だった。

 

──突如……ラザリスの身体を無数のドクメントが現れ、拘束した。

 

「な……これ、は……!?」

 

「あれは……ジルディアのドクメント!!」

 

ラザリス自身、突然拘束された事に驚いており、僕達も何事かとそれを見ると、その正体はニアタの言葉で分かった。

でも……なんでラザリスの身体をジルディアのドクメントが……。

 

「あれは……これから生まれようとしている、生命の意志だ……。ラザリスを……守ろうとしている。ラザリスが創造の力を与えなくとも、ジルディアの民は、自らの意志を『創造』し、ラザリスと共にあろうとしているのだ……!」

 

「それって……つまりは……」

 

『創造の力』で自らの意志を『創造』した。それはつまり……ラザリスが『罪』だと信じて否定した『創造の力』を、ジルディアの民達が肯定してその『罪』を背負おうとしているのだ。

 

「嘘だ……ボクが与えなくとも創造を……!? ボクの世界が、ボクの世界の生命が、罪を背負おうとするなんて……!!」

 

「ラザリス……」

 

「ボクを……ボクを守らなくていい! 争う意志なんて、持つのはボクだけで十分だっ!! だから……だから……っ!? ぁ、あぁあぁあぁぁぁぁっ!!」

 

ジルディアの民の行動を、想いを……それでも否定して『創造』を止めようとするラザリス。

だが、それは再び突然の事であった。ラザリスが悲鳴に近い声を上げ……それと同時にラザリスの身体とそれにとりついているジルディアのドクメントが歪み始めたのだ。

 

「これは……!?」

 

「ラザリスと、ジルディアに生まれようとする者……世界の意志が反発して食い合っている!!あのままでは……っ!!」

 

「や、やめろ!やめろおぉおぉぉぉぉっ!!」

 

否定するラザリスの意志と肯定するジルディアの民達の意志。その反発のしあいによって起こり出したと言われるそれは僕達の目の前で徐々に、徐々にとラザリスとジルディアのドクメントが混ざり合い……そしてラザリスの悲鳴と共に強力な光を起こした。

僕達は思わずその光に目を覆ってしまい、何が起こったのか全く理解出来なかったが……徐々に光が落ち着いたのを認識して目を開いた時……僕達は『それ』を目撃した。

 

 

──そこには『混沌』が存在していた。

 

 

 







──以上、第七十二話、如何だったでしょうか?

今回は色々無理やりだったかなぁ、と反省気味です;
正直原作でのあの部分ガチでよく分かんなかった←←


【VSラザリス】
と、いうわけで今回メインとなったラザリス戦。かなり無理やりだったね、うん←
戦闘スタイルを脚技主体にしたのは原作での戦闘スタイルがうまく分かんなかったからです←
『世界の掟』とか使わせてみたかったけど、アレ、カウンター仕様だったしグダりそうだったんでカットしました。

ラザリスに脚技って……なんか似合いそうじゃない?←


【そして『混沌』へ……】
次回メインとなる『混沌』リっちゃん戦への繋ぎです。
書きながら多分次回も遅くなってしまうんだな、と思ってます←
実は混沌リっちゃんは原作通りの『アレ』にするかオリジナルスタイルの『混沌』リっちゃんにしようかと迷い中だったりします←
どうするかなぁ……←


次回は上記の通り、『混沌』リっちゃん戦となります。
果たして衛司達は彼女の暴走を止めることが出来るのか……?

良ければ皆様感想、ご意見、そして評価等宜しくお願いします+

次回はなるべく今回より早く投稿できるように頑張ってみます;;

ではまた、次回+



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第七十三話

遅くなりましたが、一応出来たので投稿です;

今回は少し短いです。
……本当はこの一話で戦闘終わらせるつもりだったけど、予想以上に筆が進まず、下手したらもう一、二ヶ月掛かりかねないと思ったからこの部分までで切った、というのはお兄さんとの秘密だぞ←




 

 

 

──それは、明らかに見て歪なものだと分かった。

一見するとまるで開ききった花のようなもの……そのどこか綺麗に感じれた花とは真逆にその花から生えたかのように一体化している結晶で造られたかのような大きな人型の上半身の姿をした何か。

その両腕から伸びる全てを引き裂く為にあるかのような爪も異様だが……一番異様に見えたのは、その人型の上半身の胸元部分にまるで『取り込まれている』かのように身体の上半身のみの姿を見せるラザリスの存在であった。

 

「何……あれ……」

 

「……ラザリスの創造を『否定』する意志と、ジルディアの民達の創造を『肯定』する意志……その二つが混ざり合い……『混沌』へと変わってしまったようだ」

 

『混沌』……確かにその言葉は今目前にいるそれに合っているものだった。花の下半身、人型の上半身……それに異形のような爪に取り込まれているラザリス。その本来合うことの無いような異様の姿は……まさに混沌《カオス》であった。

 

『イラ……ナイ……』

 

「ラザリス……?」

 

不意に、ラザリスの口がゆっくりと動き声が出た事に僕達は視線をラザリスへと向けるが……その声と様子に違和感を感じた。

そう例えるなら……あれは『ラザリスであってラザリスではない』、という感じの……。

 

『イラナイ……創造……民……世界……イラナイ……全部全部ゼンブ……イラナインダアァアァァァッ!!』

 

『『っ……うわあぁああぁぁ!?』』』

 

突如……ラザリスの声がまるでノイズが混ざったような声になり、そのまま叫んだと同時に衝撃波が出された。僕達は突然のそれに対処する事が出来ず、その衝撃波を受けて吹き飛ばされ……それぞれが後方の壁まで飛ばされた。

 

「ぐっ……かは……何だ……今の……っ」

 

「あれは……『混沌』の力が暴走している。ラザリス自身が『混沌』の力を制御しきれずにいるのだ……! このままではラザリスは完全に力に飲み込まれ、ルミナシアもジルディアも関係無く、全て破壊するまで止まらんぞっ!」

 

「! そんな……っ」

 

『ウウゥゥ……アアァアァァァァッ!!』

 

僕達の目前で依然と悲鳴のような雄叫びを上げるラザリス……いや、混沌《カオス》と呼ぶべきだろうか。確かにニアタの言うとおり……あんな大きな力をラザリスが制御しきれるとは思えない。このままだと本当に……世界は破壊されてしまう。

 

「……倒すしか……ないか……!」

 

「倒すって……衛司、でもアナタ……身体は……!」

 

「契約開放は発動して今三分……残り二分でどうにかしてみせるよっ! ヴォルトっ!」

 

「(! ……は、はい!)」

 

星晶剣を構え直す僕にカノンノが一度止めるようにそう声を上げるが、僕は言葉を返しながらヴォルトに頼んで星晶剣の刀身に雷を纏わせる。

正直……今も微かに頭に痛みが走っているが、あのカオスを倒すには出来る限り契約開放の残り時間内に一気に決めるしかないっ!

 

「雷魔神剣っ!」

 

『イラナイイラナイィィィィッ!』

 

カオスに向け、声と共に星晶剣を奮って雷を纏った斬撃を飛ばす。跳ばされた雷の斬撃は真っ直ぐとカオスに向かうが、それはカオスの鋭い爪の一振りでかき消されてしまう。

だけど、それくらいなら予想の内だ。

 

「続けて……雷破竜撃っ!」

 

『ウゥウゥゥゥッ!』

 

雷魔神剣がかき消されると分かった瞬間、僕は星晶剣を一度鞘へと納め、気合いと共に引き抜いて雷で作られた竜を放つ。

カオスはそれを再び爪を一振りしてかき消そうとするが、先程とは威力の違う一撃に僅かに動きが止まる。

 

「今だ……行くよっ!」

 

「……衛司、手伝う……!」

 

「私も……フラッシュティアっ!」

 

カオスの動きが止まったその一瞬の隙を狙い、僕は星晶剣を構えてカオスに向けて一気に駆け出す。その僕を援護するようにメリアが無数の苦無を、カノンノが即座に詠唱を終えた光の陣による衝撃魔法をカオスへと放った。

 

『グゥ……グゥウゥウゥゥゥッ!!』

 

「一気に決める……はあぁあぁぁぁぁっ!」

 

止まっている内に放たれた苦無の嵐と光の衝撃波をカオスは対処仕切れず、声を上げて怯む。僕はその間にカオスを攻撃できる間合いに入った瞬間、手にした星晶剣を力の限りで奮い、連続でカオスに斬り掛かる。攻撃する中で意識を集中させていくと、攻撃した位置が徐々に徐々にと雷の鎖『ライトニング・チェーン』で拘束されていく。

ライトニング・チェーンを展開していくと同時に身体に痛みが走る。恐らく残りの開放時間は一分……だけど、このまま一気に決めればいいだけだっ!

 

「拘束、完了……っ……!雷……神……一……閃……!ライトニング──」

 

雷の鎖でカオスを拘束し、そのカオスに向けて僕は星晶剣を手に斬り掛かる。この一撃で確実に止める。その想いと共に放とうとした雷の一閃である『ライトニングノヴァ』は……。

 

『ウゥウゥゥゥ……アアァアァァァァッ!!』

 

「なっ……ぐあぁあぁあぁぁぁっ!?」

 

確実に止める筈であった一撃は、拘束していた雷の鎖を文字通り、力ずくで振り切ったカオスの両腕に止められ、そのままその両腕で僕の身体を捉えた。

完全に拘束していた筈の鎖を外されたと分かり、驚愕していた僕はそれに反応が遅れ、カオスの両腕に捕まってしまった。

カオスのその僕を握りつぶそうとするかのように力を込めてくる両腕と、それによって身体に僅かに食い込んでくる鋭い爪に僕は思わず悲鳴を上げた。

 

「衛司……っ!!」

 

「衛司を……離せぇっ!」

 

僕が捕らえられた事に、後方にいたカノンノとメリアが声を上げてそれぞれ武器をもってカオスへと走り出す。だが……

 

『イラナイイラナイイラナイイラナイィィィィッ!!』

 

「きゃぁぁっ!」

 

「く……ぅう……っ!」

 

接近するカノンノとメリアを、カオスはラザリスの顔を二人へと向け、ラザリスの結晶化している瞳から熱線を放出させ、二人の接近を止めさせた。

くそっ……このままじゃ……っ!

 

「(! 主……契約開放が解けます!今すぐドクメントの補助に……っ!!)」

 

「く……ぁ……っ!? が、あぁあぁぁぁぁぁあぁぁっ!!」

 

「!? 衛司……っ!!」

 

ヴォルトの声が聞こえたと思った瞬間、僕とヴォルトの契約開放が途切れ……それは起こった。

今まで感じたこと無いほどの強烈な頭痛。それが身体に食い込んでくる爪と握りつぶそうとしているカオスの両腕の力に合わせて僕に激痛を走らせた。

どうしようもないほどの初めてといえるほどの強烈な痛みに僕は思わず今まで出したことの無いほどの悲鳴を上げる。

 

「が、あぁ、ぐあぁあぁあぁぁぁ!!」

 

「(そんな……ドクメント破損率……九十五パーセントっ!? このままでは主は……衛司は……っ!)」

 

「(ッ……後は任せたぞ、ヴォルトっ!)──ずえぇえぇぇぇぇいっ!」

 

襲い来る激痛と頭痛に悲鳴を上げる中、不意に僕の中でそんなやり取りが聞こえた瞬間、僕の中から人型のウンディーネが現れ、カオスに向けて手にした大剣を振り下ろした。

 

『ギッ!? ギアァアァァァァァァッ!!』

 

「ふっ……主様、大丈夫か?」

 

「……ぐ……っ……ウン、ディーネ……」

 

突然、僕の中から現れた事と、両腕で僕を捉えている事で対応が出来なかったカオスは、ウンディーネの振り下ろした大剣を受け、ラザリスの取り込まれている部分を避けた胸元の位置を切り裂かれた。

それが通じたのかカオスは悲鳴と共に僕を両腕から落とし、ウンディーネはカオスから退くと同時に落ちる僕を受け止めてカノンノ達の場所まで戻った。

 

「衛司っ! そんな……ドクメントが……此処まで……っ!」

 

「ぐ……ぁぅ……」

 

「カノンノ、すまないがすぐに回復を頼む。ドクメントの方は今ヴォルトが補助している。少しでも主様の身体を回復しなければ……更にドクメントの破損が深くなる」

 

「わ、分かった……っ!」

 

カノンノ達の前に下ろされながら、激痛からは解放されたが未だに続く強い激痛に声を漏らす僕。

その僕の身体の状態……そしてドクメントを見たであろうカノンノが言葉を漏らすと、カノンノに向けウンディーネがそう言ってカオスへと向き直った。

 

『ギギィ……イラナイ……イラナイイラナイイラナイィィィィッ!!』

 

「……っ……何……?」

 

「っ! 皆、下がれっ! あれは危険だ……っ!!」

 

ウンディーネから受けた胸元の傷を抑え、カオスはしばらく沈黙していたが、突如不気味な大声を上げだした。突然のそれにメリアとウンディーネが警戒していると、後ろにいたニアタがカオスの様子を見てそう声を上げた。

 

『イラナイイラナイイラナイイラナイイラナイイラナイッ! ダカラダカラダカラダカラダカラ……ッ!!』

 

「っ!! 皆、退けっ!!」

 

「いかん……間に合わんっ!」

 

「……く……衛司だけでも……っ!」

 

「衛司っ!!」

 

「(……っ!)」

 

悲鳴のように高い声を上げ続けていくカオス。それに合わせるかのようにカオスの花のような足下から巨大な魔法陣が浮かび上がっていき、それはこの部屋の地面を埋め尽くすほど大きくなり、それに気付いたウンディーネが声を上げ、皆がその場から後退しようとするが、それは間に合うことは出来ず……──

 

 

『滅ビロ……『世界終焉のレクイエム』』

 

──強力な閃光が……僕達を包んだ。 

 

 

 

 





──以上、第七十三話、如何だったでしょうか?
……うん、こんなに待たせてこの結果で本当に申し訳ない←

最近地の文も少なくなってきた気がするから気をつけないとなー……。


【暴走する『混沌』】
という感じで、暴走する『混沌』、如何だったですかね。
姿は原作の奴にちょっと色々混ぜた感じですが……当初はコレに結晶化した翼生やそうとも考えてました←

元々原作でも悲鳴上げた後の変身だったので、『正直コイツ自我あんの?』と思って考えた結果、暴走させてみました。
正直、世界一つとその分の民の意志をラザリスが一人で制御仕切れるとは思ってもいませんしね←

やっぱりラスボスはラスボスらしく『破壊』に徹してもらおうぜっ!←←

因みに完全な補足ですが、取り込まれているラザリスの姿は某最終幻想八作目の魔女に取り込まれてるヒロインの姿をイメージしてもらえればよいと思います←←←


【衛司のドクメント】
衛司の寿命がマッハでヤバい(物理)
という訳で、衛司君の限界がガチでヤバい状態に進んでってます。
実際ドクメントがヤバくなるとどうなるのか分からないので、此処では強烈な頭痛にしてみましたが……これラストバトル大丈夫か?←


【『世界終焉のレクイエム』】
カオスの秘奥義。まぁぶっちゃけて言えば技はそのまんまカオスラザリスの『世界創造のメルト』なんですが←
原作でこの『世界創造のメルト』にとっちめられたのは良い思い出です←←



次回は混沌戦後半……決着戦となります。
果たして衛司達は無事なのか、混沌を倒す事が出来るのか……。

あ、後次回から多分最終回までこの後書き補足はお休みにしたいと思います。

 
皆様、良ければ感想、ご意見、そして評価等宜しくお願いします+


ではまた、次回+



P.S.テイルズ人気投票、遂に結果発表されましたね+
とりあえず……ルドガー、第一位おめでとうっ!
ルドガー(と稀にヴィクトル←)に投票していた一人として今回の結果は滅茶苦茶嬉しかったです+
……まぁ、投票結果を見て一番衝撃を受けたのは、殿堂入りして今回の人気投票から外された筈なのに五位に存在していた某仮面ストーカーさんですが←←




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第七十四話



なんとか完成したので投稿+

……ただ今回急ピッチで仕上げたから後半辺り文章おかしくなってるかもしれません;;
後、かなり展開も無理やりかもしれません;;

良ければ皆様、感想やご意見、そして評価など宜しくお願いします+



 

 

 

「──……ぅ……ぐ……っ」

 

──頭に走る僅かな痛み。僕はそれによって目が覚める事が出来た。僅かにまだ頭に残る痛みに耐えつつ、自分の意識が途切れる前の事を思い出そうとする。

……そうだ、確か僕達はカオスの攻撃を受けて……。

 

「っ…! 皆は……!」

 

思い出されたあの強力な閃光と雷の渦。文字通り全てを破壊するであろう強力な攻撃を思い出し僕は周りを見回すと……そこにはあの攻撃を受け、身体中にそのダメージを表す程の傷を残して倒れている皆の姿があった。

 

「そんな……っ! カノンノ、メリアっ! ウンディーネ、ヴォルト、ニアタっ!」

 

周りで倒れ伏す皆の姿に僕は『まさか』と思いながら皆を呼びながら一人ずつ状態を見た。

一人ずつ見ると……皆身体に相当なダメージを負ってはいるが、まだ息はあり気を失っているだけということが分かった。

よく見ると、皆に比べて僕の怪我は少なく、ヴォルトが出ているという事は……多分あの『世界終焉のレクイエム』を発動された時、僕の身体から出て僕を守ってくれたのだろう。

 

「っ……ごめん……ありがとう、ヴォルト。……そうだ……カオスは……っ!」

 

皆がまだ生きている事に一安心した後、この惨状を作り出した原因であるカオスの事を思い出し僕は視線をカオスが居た場所へと向ける。

そこには僕が目を覚ました事に気付いていないのか、僕達に背を向けこのルミナシアの源である光の塊『生命の場』へと手を伸ばすカオスの姿があった。

 

『……コワス、コワス……ゼンブ……』

 

「っ! 待っ……ぐぅっ!」

 

『生命の場』に手をゆっくりと伸ばすカオス。その様子に僕はそれを止めようと近くに落ちている星晶剣を拾おうとするが、星晶剣に触れた瞬間、僅かであった頭痛が再び一瞬強くなった気がした。

意識が無くなる前に聞こえたヴォルトの声……僕のドクメントの破損率が九十五パーセントを迎えた。先程から走る頭痛はきっとそれが原因なんだろう。星晶剣に触れて痛みが強くなるのは無意識に、身体が闘う事を拒絶しているからだろう……死にたく、ないから。

だけど……だけど……っ!

 

「ぃっ……諦めてたまるかっ! ……やめろぉ、カオスっ!!」

 

『ァ……ウゥウゥゥゥッ!!』

 

頭痛に耐えながら、僕は星晶剣を握りしめる。頭痛が更に強く、重くなるのを感じたが……こんなもの、僕を守ってくれたヴォルトや皆の傷に比べれば大したものじゃない。

星晶剣を構えながら僕はカオスを止めるように声を出すと、カオスはうなり声を上げながら此方へとゆっくりと向き直った。

 

『コワス……コワスコワス……イラナイイラナイイラナイイラナイッ!!』

 

狂ったように、壊れたように同じ事を繰り返して叫ぶカオス。暴走による目的である『破壊』のみを叫ぶカオス……いや、『叫ばされている』ラザリスの表情は、どこか見ていて悲しそうに僕には見えた。

 

「カオス……いや、ラザリスっ! 君は……本当にそれでいいのかっ!? 自分の『守りたい』といった世界を、自分で『壊す』事になってしまってもっ!」

 

『グゥ……ッ!?』

 

カオスを、ラザリスを見ながら僕は真っ直ぐとそう言った。ラザリスが今までやっていた事やしようとしていた事が正しいとは思わない。だけど……それでも彼女が世界を『守ろう』としたのは確かなんだ。もし、少しでも彼女の意識が残っているのなら……きっとこの声が届くと思った。

 

「ラザリス……君の……君の世界への想いはそんなものだったのかっ!? 君が守りたいと想った世界は……そんな程度のものだったのっ!?」

 

『グ……ッ……ウゥウゥゥゥ……ボ、クハ……ボクの……願っタ世界は……ッ! ウゥウゥゥゥッ!!』

 

僕の言葉を受けて徐々に俯いていきながら呻き出すカオス。その声はノイズ混じりながらも確かに、ラザリスの声が聞こえた。

 

『ウゥウゥゥゥ……イ、レギュ、ラー……ボクの……世界を……助け、て……っ!』

 

「ラザリス……っ!!」

 

『グッ……ウゥ……アァアァアァアァァァァッ!!』

 

今度は確実に聞こえたラザリスの声。だが苦しそうに出されたその声は……再び混沌の力に飲み込まれて暴走を始めた。

だけどこれで分かった……まだ彼女は『完全』に飲まれている訳ではない、と。

 

「ラザリス……今……助ける……ぐっ!」

 

『アァアァアァアァァァァ……イラナイイラナイィィィッ!!』

 

「く……っ」

 

再び暴走を始めるカオスに向け星晶剣を構える、がそれは再び強くなりだした頭痛で体勢が崩れてしまう。

その間にカオスが雄叫びを上げて僕に向けて鋭い爪を奮ってきた。

しまった……このままじゃ……っ。

 

「──水破竜撃っ!」

 

『ッ!? ギアァァァァァァアッ!!』

 

振り下ろされくる爪に思わず来るであろう痛みに耐えるために目を閉じたその時、後方から声が聞こえた後、前方からカオスの悲鳴と何かが吹き飛ぶ音がした。

何事かと目を開けると……そこには前方で転倒しているカオスと、後方には傷だらけながらも大剣を構え、僕を見て小さく笑うウンディーネが立っていた。

 

「ウンディーネっ! 良かった……無事だったんだ……」

 

「うむ……少々危うかったが、なんとかな。そういう主様は……少し無茶が過ぎるぞ」

 

『グゥゥゥ……ガアァアアアアアアアッ!!』

 

ウンディーネの様子に一安心していると、立ち上がったカオスが今度は僕達に向けて熱線を放ってきた。

真っ直ぐと接近してくる赤の熱線。だが、それは僕達に届く事はなかった。

 

「……ライトニング・シェル、全力展開っ!」

 

「落ちて、バーンストライクっ!」

 

「……苦無閃《嵐》……プラス《爆》……!」

 

『グゥッ!? ギアァァァァァァアッ!!』

 

僕達の前に立つかのように、上から降りてきたヴォルトがシェルを展開させて熱線を防ぎ、僕達の後方から詠唱を終えたカノンノが落下してくる炎弾を、メリアが起爆札を付けた無数の苦無をカオスへと放ち、カオスはその攻撃を受け、ダメージを受けながら再び転倒した。

 

「ヴォルト……カノンノ……メリア……っ!」

 

「衛司……あまり大丈夫……そうではなさそうだな」

 

「ニアタも……良かった、皆無事だったんだ……」

 

皆、所々それなりのダメージが見られるが、それでも立ち上がり僕を守ってくれた事に改めて一安心した。

カノンノとメリアが僕へと駆け寄り、カノンノが回復魔法を、メリアがアイテム袋からグミを出しながら口を開いた。

 

「なんとかってところだけどね……。それより衛司の方が無茶し過ぎだよ……」

 

「……衛司……これも……」

 

「あはは……ごめん……それと、ありがとう」

 

カノンノの言葉に少し苦笑して答え、メリアが渡してきたグミを飲み込む。いまだに頭痛は残ってはいるけど、カノンノの回復魔法と今のグミで少なからず、痛みが下がった気がした。

 

『グゥウゥウゥゥゥ……グゥウゥウゥゥゥッ!』

 

「さて……問題はアレをどうしたものか」

 

「……それについては一応、考えがあるよ」

 

「考え……?」

 

「……今さっき、ほんの少しだったけど、ラザリスの意識があった。彼女は……完全に取り込まれている訳じゃなくて、あの混沌の力に操られてるみたいなものなんだ。だから……あの混沌の力を浄化するんだ」

 

「浄化……成る程、確かにディセンダーの力を上手く使えば可能そうだが……あんな大物が相手では、流石にこの人数でも成功するかどうか……」

 

僕達を睨みながらゆっくりと立ち上がっていくカオス。それを前にウンディーネが出した言葉に僕はそう言葉を出すと、ニアタが納得しつつもカオスを一度見た後そう言った。

ニアタの言うことは分かっている。カオスはジルディアの民達の意志と、ラザリスの意志の反発から生まれた暴走体……言ってしまえば一つの世界そのものと言えるだろう。

世界一つを相手に此処にいる数名……しかも皆それぞれにダメージを負っている状態で浄化を行うなんて不可能に等しいだろう。

だけど……手がない、という訳ではない。

僕はゆっくりと星晶剣を皆の前に見せるように出した。

 

「一応……手はあるよ。この星晶剣のマナを吸収して力に変える力。それを利用して、星晶剣に送るマナに浄化の力を混ぜてカオスに全部叩き込むんだ。それなら、星晶剣の力で浄化の力も普通より上昇するし……幾分かカオスにダメージを与えて、浄化の力を通じやすくする事も出来るはずだよ」

 

「……だが、それでは……衛司の身体は……」

 

僕の言葉にニアタは僕の方を見ながらそう言いにくそうに言葉を出していく。

星晶剣によるマナ吸収と力の使用……それは使用者である僕のドクメント……そう、残り約五パーセントの命をすり減らすという事だ。

僕は星晶剣を一度見つめた後、ゆっくりと強く握りしめて言葉を出す。

 

「分かってる。分かってるよ……僕の命が危ない事くらい。……だけど、此処で何もしなかったらどっちにしろ、僕の命どころかルミナシアも、ジルディアも終わってしまうんだ。だったら僕は……せめてこの命を無くす事になったとしても、最後までやりたいことをやり通して死んでやる。そう……このルミナシアも……ラザリスの世界のジルディアも……ラザリス自身も助けるって事をっ!」

 

「……主らしい、な。……時間稼ぎは余にまかせよ。どうせヤツは待ってはくれんからな」

 

「ウンディーネ……」

 

星晶剣を握りしめながら真っ直ぐと皆を見て僕の想いを告げる。皆がそれを聞いた中、ウンディーネはやれやれ、というかのように溜め息を漏らすと、大剣を担ぎながらカオスの方へと向き直った。

 

「……主……私は主を……衛司を信じています。だから……ここは必ず守り通します」

 

「少しばかりの防御壁くらいなら私も作れる。……衛司……任せたよ」

 

「ヴォルト……ニアタ……」

 

ウンディーネの行動に少しして、ヴォルトとニアタが僕を見ながらそう真っ直ぐと言うとヴォルトとニアタはウンディーネ同様にカオスの方へと向いていく。

残るメリアとカノンノはお互いに顔を見合わせた後、大きく頷いて僕の方へと真っ直ぐと顔を向けて口を開いた。

 

「衛司……私も衛司の星晶剣への浄化の力の吸収、手伝わせて」

 

「カノンノ……」

 

「私は……私はまだ衛司が居なくなる事が怖い。だから……少しでも……ほんの少しでも衛司の負担が減らせるのなら……私は私に出来る事をしたいの」

 

「……衛司……私はウンディーネ達の方を手伝う……。……多分この浄化の力の吸収は……衛司とカノンノの二人の方がいいと思うから……だから……絶対に衛司達を守ってみせる……っ!」

 

「メリア……皆……ありがとう……っ」

 

皆の言葉を聞き、僕は大きく頷いて皆に礼をする。その直後、カオスが完全に体勢を戻し雄叫びを上げた。カオスの雄叫びを合図にするかのように僕とカノンノ以外の皆がそれぞれ構えて走り出す。

 

「主様……任せたぞっ!」

 

「主……頼みますっ!」

 

「無理は……するんではないぞ……っ!」

 

「衛司、カノンノ……皆……絶対に守るっ!」

 

『グゥウゥウゥゥゥオォオオオオッ!!』

 

それぞれが声と共に武器を手にカオスへと斬り掛かる。

僕は皆の声を、想いを頭に思いながら星晶剣をゆっくりとカノンノと手を重ねるように持ち、頭上へと切っ先を向けるように振り上げた。

 

「っ……ぁ……ぐぅ……っ!」

 

「ん……く……ぅ……っ!」

 

星晶剣を振り上げ、意識を集中させ始めたと同時に僕とカノンノの身体から、マナが吸い取られていくのを感じ思わず声を漏らしてしまう。

マナを吸収されていくのを感じつつも、このままではいけないと、僕とカノンノは意識を集中させて吸い取られていくマナに、ディセンダーの浄化の力を混ぜていく。

星晶剣は僕とカノンノのマナとディセンダーの力を吸収し、徐々に徐々にと刀身が光を纏いながら大きくなっていく。

だが……まだカオスを戻すには足りない。

 

「ぐっ……まだ、まだ……っ!」

 

「くぅ……お願い……早く……っ!」

 

いまだにカオスを浄化するには足りないマナとディセンダーの力を星晶剣に纏わせながら、僕とカノンノは声を漏らす。

視界の先にはカオスの攻撃に耐えながらもカオスの進行を食い止めるメリア達の姿が見える、がそれも長くは保ちそうにない。

 

「っ……まだ……なの……っ」

 

「うっ……お願、いだ……何だって……いい……っ……力を……集めてくれぇ……っ!」

 

いまだにカオスを浄化出来るまでの力が吸収出来ない星晶剣。僕達の前で闘う皆の姿にカノンノと僕は願うように、星晶剣を強く握りしめて力を送り続ける。

やっぱり……僕とカノンノの二人だけじゃ……足りないのか……。

そう、頭の中で思った時だった。

 

「っ!? 衛司……それ……っ!」

 

「えっ……まさか……っ!!」

 

不意に、僕達の振り上げた星晶剣が先程までゆっくりだった変化が突如早くなり、まるで新たに力が加わったかのように勢いを上げ始めた。

一体何事かと思っていると、それは僕の方を見ながら驚いたようなカノンノの声で気付いた。

僕の懐……それは以前、刀身部分が砕け散り、持ち手部分だけとなった、この世界に来てからずっと一緒にいた……持ち手部分だけになっても離せずにいた相棒……『世界樹の木刀』が、ヴォルトやサレを浄化した時同様に光り輝く姿がそこにあった。

 

「相棒……そんな姿になりながらも……僕達を……助けてくれるの……?」

 

誰かに言うわけでもなく自然と漏れた言葉。その言葉に木刀は答えない。答えるわけがない。

だけど、確かに……木刀は輝きを一層増した気がした。

まるで……僕に答えてくれたかのように。

 

「っ! ありがとう……ありがとう、相棒っ!!」

 

「衛司……これなら……っ!」 

 

「うん……思いっきりいけるよっ!!」

 

輝きを増した木刀の姿に、思わず涙が零れそうになりながら僕は言葉を出す。

それに合わせ、星晶剣は纏う光を、変えていく姿の勢いを一気に上げていき、その勢いの強さはついに……この部屋の天井を貫き、崩壊させた。

 

『グッ……グゥッ!?』

 

「……凄い……」

 

天井を貫きながらも、高く、強く姿を変えていく星晶剣。その光景にカオスは驚愕し、メリア達は動きを止め、誰かがそう言葉を漏らした。

ここまで来れば……きっと……行けるっ!

 

「皆、離れてっ!!」

 

『グッ……ウゥ……ウゥゥゥゥゥゥッ! ウォオォオォォォッ!!』

 

僕の言葉を合図にするように、カオスを足止めしていたメリア達が一斉に後方へと下がる。

その直後、カオスは僕達の次の行動を理解し、それを止めようと僕達に向けて熱線を放ちながら此方へと接近してくる。

だけど、もう……遅いっ!

 

「行くよ……カノンノっ!」 

 

「うん……衛司と一緒なら、どこまでもっ!」

 

「「これが僕(私)達の……最後の伝説の……浄化の一撃っ!!」」

 

『グゥッ!! グゥウゥウゥゥゥオォオオオオッ!!』

 

此方へと熱線を放ちながら接近してくるカオス。僕とカノンノは星晶剣を、重ねた手を強く握りしめながらカオスに向けてそれを振り下ろす。

僕達のマナと浄化の力。それを限界まで引き上げた最初で最後の……浄化の一撃。

その、光の一撃の名は──

 

 

「「《レディアント・マイソロジー》ィイィィィっ!!」」

 

『グッ……ウゥ………ウゥゥゥ……ッ! ウアァアアァアァァァァァッ!!』

 

振り下ろされる、強力かつ膨大な浄化の光の一撃。それはカオスの熱線を受けながらも衰える事は無く真っ直ぐと、ただ一直線に……対象であるカオスを飲み込み……その場を強い光の輝きで包み込んだのだった……──。

 

 

 

 

 

 






次回


『決着』、『別れ』……そして、『選択』





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第七十五話


なんとか早く完成する事が出来たので投稿+
ただ今回は結構頭の中のイメージと勢いで書き上げたのでかなり文章おかしいかもしれません;;
後、ラスト目前という事もあって今回はかなり無理やり展開、独自設定や解釈が飛びまくってたりするとおもうので、そこの所できればご了承下さい;;

とりあえず一言言うとすれば……いつから今話が最終回となると錯覚していた?←

良ければ感想、ご意見、評価等宜しくお願いします+





「──! ……今さっきの光は一体……」

 

──衛司達がカオスに浄化の一撃を振り下ろして少しした頃。衛司達が戦っていた建物の少し離れた位置から、建物の天井を突き破って伸び、真っ直ぐと振り下ろされた膨大な光を見ていたヴェイグは静かに言葉を出した。

ヴェイグの身体はつい先程まで激闘を繰り広げていたのか、それを物語るかのようにボロボロであった。

 

「ク……ククっ……どうやら……全部……終わってしまった……みたいだねぇ……」

 

建物を見ていたヴェイグに向け、小さく笑い、途切れながらそう言葉を出す、ヴェイグと激闘を繰り広げていた男──サレ。

そのサレの姿はヴェイグ以上にボロボロで、片目の結晶化は消え、最早立っているのも無理なのか、その体を近くの岩へと背中から預けるようにもたれかかって腰掛け、ヴェイグと向き合っていた。

 

「ク……クク……結局……僕はまた君達に勝てる事は……出来なかったのか……畜生……なんで……なんでなんだよ……っ!」

 

ヴェイグを見て途切れながらも声を上げてそう言ったサレ。そのサレに、ヴェイグは一度ゆっくりと息を吐き、真っ直ぐとサレを見て口を開いた。

 

「……サレ……お前はどうして、そこまでラザリスに仕えていた? 別の存在とはいえ……お前の嫌いな『ヒト』の姿をしたラザリスを……」

 

「っ! それ……は……」

 

ヴェイグの出したその言葉に、サレの口が止まった。

ヴェイグは衛司から聞いたサレの過去と『ヒト』嫌いに、その時から考えていた。

『何故サレはそこまでヒトの姿をしたラザリスに従うのか』、と。

自分と同様に子供の頃、異能の力で迫害を受けたサレ。その時、仲間と呼べる存在がいて救われた自分と、そんな存在が居なくて救われなかったサレ。

言わば自分の、『もしも』の結末ともいえるサレ。そんなサレがどうして……自分が嫌う『ヒト』の姿をしたラザリスにそこまで従ったのかヴェイグは気になったのだ。

だが……それは今、サレと戦って分かっていた。

サレがラザリスにそこまで忠誠を誓う理由……それは……

 

「……始めは逆に利用してやる……つもりだったさ……。それこそ……彼女が強力な力を手にした途端、それを横から奪い去るぐらいの気持ちで……ね。だけどさ……彼女は……僕を……始めて『ヒト』として見てくれた。『利用できる存在』でも……『化け物』としてもなく……この僕を……僕として……」

 

「あぁ……だからお前は……ラザリスを……『好き』になってたんだろう……自分の知らない間に、な……」

 

静かに、淡々と言葉を出したサレに、ヴェイグは小さく頷きつつそう言葉を出した。

ヴェイグのその一言に、サレはどこか悟ったような表情を浮かべて静かに口を開いた。

 

「ク……クク……そうか……これが……。……本当……僕は……気付くのが……遅過ぎた……なぁ……」

 

「……サレ……」

 

自嘲するかのように、そう言って静かに笑うサレ。そのサレの姿に、ヴェイグはしばらくサレを見るとゆっくりと手をサレへと差し伸べた。

差し伸べられた手をサレは見ると、そのままゆっくりとヴェイグを見上げた。

 

「……一体……なんの……つもりだい……?」

 

「遅くなんてない……人はいつだって変わることが出来る……今のお前のように……。手をとれ、サレ……きっとこれからだってお前は……」

 

「クク……本当……お人好しだねぇ……君は……。……だけど残念ながら……『遅過ぎ』たんだよ……」

 

「何を言って……っ!」

 

ヴェイグの言葉に、サレは小さく笑った後ヴェイグの手を払いのけるように手を振り、静かにそう言葉を出した。

サレのその言葉にヴェイグは言葉を出そうとした時、それに気付いた。

 

──サレの身体が、足から徐々に徐々にと光の粒子になるかのように消え始めていた。

 

「まぁ……当然の結果……だろうね……。元々身体に合わない物を……無理やり身体に取り込ませていた訳だし……。……今はそれも君達に浄化されて……その分の反動が来たんだろうねぇ……」

 

「サレ……」

 

「おっと……同情なら……いらないよ……。こんな結果だけど……僕は彼女と出会う事が出来たんだ……。今までの行いが悪かろうがなんだろうが……後悔も、反省もない……ね……」

 

クスクスと、まるで楽しげにそう言いながら身体が消えていくサレ。しばらくそのままの状態で、サレは下半身まで姿が消えるとゆっくりとヴェイグを見上げながら口を開いた。

 

「……君達のいう、『ヒトの変わって行ける世界』……それが実現出来るか、否か……あの世で楽しみにみさせてもらうとするよ……」

 

「……あぁ……そうしてろ。お前が高笑い出来ないように……必ず実現してみせてやる」

 

「ク……クク……なかなか……言うじゃないか……。……あぁ……ラザリス……出来ればもう少しだけ……君と……世界を……」

 

ヴェイグの返答にクスクスと笑うだけ笑い、サレはゆっくりと消えていく手を伸ばしながらそう静かに言葉を出した直後……完全に身体を光の粒子へと変えて消え失せた。

その場にただ一人残されたヴェイグはしばらくそのまま、サレが存在していた場所を見つめ、静かに口を開いた。

 

「サレ……もしも……俺や皆がもっと早くお前に会っていれば……お前は……」

 

そこまで言って、ヴェイグは口を止めた。サレは先程、自分の行動に後悔はないと言っていた。此処で今、その『もしも』の話をすると……サレのラザリスに対する想いも否定するように感じたからだ。

 

「……俺達は必ず、ヒト達を……世界を変えてみせる。……だから……今度は『平和な世界』で会おう……」

 

独り言のように、だがどこか誰かに言うかのように静かにそう言葉を出したヴェイグ。

その言葉に答える者は居らず……ただただ静かに、風が通り過ぎていくだけであった。

 

 

 

─────────────────────

 

 

──強烈な浄化の光による一撃。その影響による光が徐々に落ち着いていき、視界に映ったのは……浄化の一撃の威力を表すように結晶化が全て消えた室内と、その中心で倒れているラザリスの姿であった。

 

「……成功……したのか……?」

 

「あぁ……どうやらそのようだ……」

 

周りの状態を見回しながら誰かが出した言葉に、ニアタもしばらく周りを見回した後そう静かに答えた。

ニアタのその言葉を聞いたメリアは倒れているラザリスをジッと見た後、僕の方を真っ直ぐで見て来た。

……なんとなく、彼女の言いたい事が分かった気がして僕はメリアに対して小さく頷くと、倒れているラザリスへと駆け寄り、ラザリスのそばに腰掛けそっとラザリスの頭を自分の膝へとのせ、所謂膝枕の状態にした。

 

「っ……ディ……センダー……?」

 

「……うん……此処にいるよ……」

 

膝にのせた頭をメリアがそっと撫でているとラザリスがゆっくりと目を開いて静かに口を開いた。少し離れていても分かるその虚ろな瞳に、メリアは今すぐ近くにいると伝えるようにラザリスの頭を撫で続けた。

ラザリスは虚ろな瞳でメリアを捉えるとゆっくりと口を開いた。

 

「……ディセンダー……ボクは……間違って……いたの……かな……」

 

「……ジルディアの世界を想う気持ちは少なからず間違ってはなかった……。だけど……やり方は間違ってたと思う……」

 

「……そう……なんだ……。……もう、ボクの世界の声が……聞こえ……ないんだ……。……ボクは……どうすれば……」 

 

虚ろな瞳のまま静かに、淡々と、どこか悲しそうにそう言葉を出していくラザリス。メリアはそっとラザリスの頭を撫でた後一度僕達の方を見、その後真っ直ぐとラザリスを見つめて静かに言葉を出した。

 

「……大丈夫だよ……今は、少し眠たいだけ……。きっと、次に目が覚めた時にはまた聞こえるよ……。……だから……次に目が覚めた時は一緒に考えよう……? どう世界を皆の望むものに変えていけるか……今度は『敵同士』じゃなくて……『友達』として……」

 

「っ……ディ……センダー……」

 

「ううん……私の名前は『メリア』だよ……ラザリス……」

 

「……メ……リア……メリア……っ! ……あり……がとう……」

 

「……うん……おやすみ……ラザリス……」

 

メリアの言葉に静かにそう言って涙を零すラザリス。そして、ラザリスは最後のメリアの言葉を聞くとその瞳をゆっくりと閉じ、それに合わせるようにラザリスの身体は消え……ジルディアのドクメントの塊となってメリアの両手へと無くなっていった。

 

「……衛司……皆……」

 

「分かってるよ……行くんでしょ……?」

 

ドクメントが自分の中へと消え、メリアはその場から立ち上がると僕達の方へと振り返って言葉を出し、僕はそれに彼女の後ろに見える『生命の場』を見てそう言った。

メリアは……これから伝承通り……世界樹の中に戻るのだろう。

 

「ん……ちょっと、世界を創ってくる……」

 

「メリア……」

 

「大丈夫……きっとまた会える……。……お別れなんかじゃ……ないよ……」

 

「うん……頑張って、自分の望む世界を創っておいで」

 

カノンノの表情を見て、メリアは首を横に振った後、小さく笑って僕達に向けてそう言葉を出した。

僕はその言葉に小さく頷くと、真っ直ぐとメリアを見ながらそう言葉を送った。

メリアは僕の言葉を聞いて小さく頷き、僕達に背を向けて生命の場の方へと歩き出した……と、思った瞬間……突如僕達の方へと再び振り返って、そのまま僕の方へと駆け出した。

 

「えっ……メリ── んっ…!?」

 

突然のメリアの行動に何事かと思った時……メリアが走りながら一瞬で一気に跳び、そのまま飛び込むかのように……僕と唇を重ねてきた。

突然の事で僕や周りの皆は驚いた表情を浮かべるが……僕はメリアの想いがなんとなく分かった気がして……そっとメリアを抱きしめてそれを受け止めた。

しばらくそのまま唇を重ね続けると、メリアはそっと唇は離してゆっくりと僕から離れて小さく……だけど、今まで僕が見て来た中で一番の笑顔で言葉を出した。

 

「ん……しばらく会えない分の『衛司成分』の補給……ありがとう……」

 

「『衛司成分』て……メリア……頑張っておいで」

 

「ん……皆も……衛司も……『また』会おう……」

 

小さく笑ったまま僕の言葉にそう返して生命の場へと歩いていくメリア。

ゆっくりとした足取りで生命の場の前まで歩くと、メリアは僕達の方へと振り返り再び小さく笑った後……生命の場に飲み込まれていくかのように、光となって消えていった。

 

『また』会おう、か……。

 

「……さて、我々も戻るとしよう。ラザリスが居なくなった今、この浸食されたエラン・ヴィタールがいつまで形を残しているか分からないからな……」

 

「うん……そうだね。衛司、帰ろ──」

 

「ごめん、カノンノ……僕は……帰れないや」

 

僕の出したその一言に、カノンノが『え……』と声を出した。

僕は分かる……分かってしまっている。僕の身体が……もう『限界』だという事が……。

 

「衛司……そうか……君は……もう……」

 

「そんな……まだ……まだ何か方法がある筈だよっ! とにかく船に戻って皆に話せば……」

 

「カノンノ……もう、無理だよ。足が……もう『動かせない』んだ……」

 

「っ……!」

 

ニアタが僕のドクメントを見て分かったかのように出した言葉に、カノンノは小さく首を横に振って声を上げるが……それは僕の出した言葉で、僕の足を見た事によって彼女で口が止まった。

ドクメントの『完全破損』による現象なのか……僕の足がゆっくりと、確実に光の粒子になるように消えていた。また、その現象は止まることをしらないと言わんばかりに足から上へと向けて身体が消えていっていた。

もう頭痛は完全になくなり……ただ足から徐々に徐々にと感覚が無くなっていくのが今の僕には伝わっていた。

僕はゆっくりと首を少し動かして此処まで僕の身体を支えてくれたヴォルトとウンディーネを見て、静かに言葉を出した。

 

「ヴォルト、ウンディーネ……今まで僕の身体を支えてくれてありがとう。二人のおかげで……僕は此処まで来れる事ができたよ」

 

「っ……主……っ!」

 

「……泣くでない、ヴォルト。今まで仕えた者が……主様との別れぐらいは……不安を持たせぬように泣いては……ならんのだ……っ」

 

僕の言葉に顔を両手で覆いながら泣きそうな声を漏らすヴォルトと、真っ直ぐと僕を見ながらそう言ってはいるが僅かに瞳から涙の見えるウンディーネ。その二人の姿に、改めて此処まで……僕は彼女達に想われていたんだ、と思わされた。 

 

「っ……こんなの……ひどいよ……やっと……全部終わったのに……これからなのに……っ! 皆で笑って生きて帰るって……約束したのに……!」

 

「カノンノ……」

 

「いつも……いつも……『大丈夫』って嘘ついて……嘘つき……衛司の嘘つき……っ! ……だから……これも嘘だって……言ってよぉ……」

 

始めは強く……だけど徐々に涙をこぼしながら力弱くそう声を出していくカノンノ。

薄々分かっているんだ、彼女にも……打つ手が無いことが……。

もう下半身の感覚が無くなり、上半身も消え始めている僕の身体。そんな状態になりながらも、僕は真っ直ぐと目の前で泣き崩れる彼女を見ながら口を開く。

 

「カノンノ……僕はこの世界に来れてよかった。来たばかりは何も出来なかった僕が……友達が、仲間が出来て……世界を救う事が出来て……そして……君に出会えた」

 

「衛……司……」

 

「僕も皆と……君ともっと一緒にいたかった。これは嘘じゃなくて……本当の、僕の想いなんだ。……ちょっと悪いけど……後でメリアにも伝えて欲しいな」

 

「そんなの……そんなの衛司からちゃんと……伝えてよ……私は……私は……っ」

 

僕の言葉に泣きながらも僕を見てそう声を出すカノンノ。もう上半身の感覚も消えていく中、ゆっくりと視線を動かすと、ニアタはよく分からなかったけど……ヴォルトはカノンノと同じように涙を流し、ウンディーネももう耐える事が出来なかったのかうっすらと涙をこぼしていた。

あぁ……本当に僕は此処まで……よく想われていたんだなぁ……。

 

「……カノンノ……皆……もう、本当にお別れみたいだ……」

 

「っ……やだ……やだやだやだ……っ! 居なくならないで……消えないでよ……衛司……っ!」

 

「皆……今まで……ありがとう……。それと……カノンノ……」

 

「っ……やだ……衛司……っ!!」

 

完全に消えかかる僕の身体。その僕が出していく言葉に、カノンノは僕に触れようとその場を走り、僕へ向けてと必死に手を伸ばす。

だが……。

 

「……ありがとう……僕を愛してくれて。僕も君の事を……愛してるよ……ごめんね……──」

 

「っ!! 衛司……衛、司……えいじぃ……っ! いや……いやあぁあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

僕はその言葉を最後に……完全に『ルミナシア』から消え去り、カノンノの手は衛司に触れることなく何もなくなった空間を掴むだけだった。

 

大切なものを無くした少女の悲鳴に応えるものはおらず……ただ静かに……持ち主を無くした星晶剣と持ち手部分のみの木刀が、『カラン』という音を出して地面に落ちるだけであった──。

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「──……此処は……?」

 

──身体の感覚が消え、完全に消滅してこれからどうなるのかと思っていると、不意に身体に感覚がある事を感じてゆっくりと目を開けると、僕は何もない……真っ白な空間に立っていた。

ゆっくりと周りを見回して見ても右も白、左も白……全てが真っ白で今、自分がちゃんと立っているかも分からない程であった。

ただこの場所……前に僕が元の世界かルミナシアを選ばされたあの黒い空間と似ているような気がした。

 

「此処は……一体……」

 

「此処は『世界』と『世界』を繋ぐ中間地点。言わば……『世界の間』と呼ぶ場所だ」

 

不意に、僕の背後であろう位置から声が聞こえ振り返ると……そこには一人の人らしきものが立っていた。全身をこの空間同様に真っ白なローブで覆い、顔を隠している所かその声は男性にも女性にも聞こえ、その人らしき人が本当に人なのかすら分からなかった。

 

「あなたは……一体……」

 

「これは失礼。……私は『オリジン』。精霊達の王にして、『世界』を司る大精霊だ」

 

「『世界』の大精霊……オリジン……」

 

オリジン……その名前は今までの『テイルズ』シリーズでも聞いた事があったけど……『世界』を司るって……。

僕の思いを知ってか知らずかオリジンは静かに言葉を出した。

 

「まずは『ルミナシア』を救ってくれた事に礼を言おう。さて……何故君が此処にいるか、分かるかな……?」

 

「……僕が『ルミナシア』に来たこと……それに僕がこの後どうなってしまうか……ですか?」

 

「あぁ……君は文字通り完全な『イレギュラー』であったよ。何故君が『ルミナシア』に流れついたのか……私にもよくは分からない程に。さて……君の今後についてだが……私は君に『選択』を与えなければいけない」

 

「『選択』……?」

 

オリジンの言葉に僕は首を傾げると、オリジンはゆっくりと右手を上へと向けた。その瞬間、真っ白な世界に二つの『門』が現れた。

二つとも違いがあり……片方は中心に大きな樹の絵が描かれたボロボロで壊れてしまいそうな門。もう片方は中心に地球らしき絵が描かれた損傷の無い門。

僕が一体何なのかとその門を見ていると、オリジンが静かに言葉を出した。

 

「その門は君の今後を決める門だ。片方は君が元いた世界……もう片方は君が今まで過ごした世界『ルミナシア』だ。君には……このどちらか片方を選んでもらう事になる」

 

「選べって……どうして……」

 

「……条件がつくからさ。君が元の世界を選べば……君は元の世界に戻れるが『ルミナシア』にいた時の記憶は『全て』消えてしまう。……反対に君が『ルミナシア』を選べば君はルミナシアの世界に戻れるが……君は残り少ない命でルミナシアで過ごす事になる」

 

「な……っ!?」

 

オリジンの出した選択に思わず僕は声を上げてしまった。オリジンの出した選択……それは『ルミナシアでの思い出を全て消して『元の世界』に戻る』か、『残り少ない命でルミナシアに戻る』かというものであった。

 

「一体……なんでそんな条件で……っ!」

 

「コレは仕方ないとしか言いようがない。さっきもいったが君がこの世界に来ることはイレギュラーだったのだ。それが元の世界に戻るというのなら……その『イレギュラー』な記憶は元々『無かった』事として君は元の世界に戻る事になるのだ。そして……ルミナシアの方では知っての通り、君は完全にドクメントが崩壊してしまった。……もしまたルミナシアに戻るというなら、今はある程度君のドクメントを修復してあげるが……それも応急処置のようなもの。言わば残り数日の命、という事になるのだよ。そして……もし君がこの数日で死んでしまった場合……君は此処に来ることなく……そのまま元の世界に戻されるだろう……ルミナシアでの記憶を無くして、ね……」

 

「そんな……」

 

「……さぁ、どうするかな衛司君。全てを無くして『元の世界』で平和に生きるか……残り少ない命で『ルミナシア』を選ぶか……」

 

僕を真っ直ぐと見ながらそう、残酷な選択を迫ってくるオリジン。

カノンノ達との記憶を無くして『元の世界』を選ぶか……『元の世界』にも戻れるが残り数日という短い命で『ルミナシア』を選ぶか。

そんなの……そんなの……。

 

僕は悩む……悩んで悩んで悩んで……悩んだ結果……僕は──『選んだ』。

 

「……オリジン……僕は……決めたよ」

 

「ふむ……では聞かせてもらおうか……君の『選択』を」

 

「……僕の『答え』は……──」

 

真っ直ぐと、ただ真っ直ぐとオリジンを見ながら僕は自分の『答え』をオリジンへと伝えた。

 

僕の選んだ答え……それは……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






次回──最終回



『そして……僕達の伝説』




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最終話


遅くなりましたがついに最終話……投稿となります+

最終話ということでかなりご都合主義、無理やり展開、これは無理があるだろ感があってしまい……賛否両論もでると思います;

ただ今回の最終話については……私なりに考え、当初から多少修正したりしましたが、こうしようと決めていたものなので、変更や書き直すつもりはないので、そこの所は申し訳ありませんがご了承下さい。

それでは最終話……良ければ最後まで宜しくお願いします+



 

 

 

──ルミナシアとジルディア……その世界の命運を掛けた最後の闘い……あれから一年が経ちました。

あれから一年……世界はゆっくりと、だけど確実に大きく変わっています。

 

イアハートの持ってきてくれていたマナに変わる代替エネルギー……『内燃式半永久機関』。それが遂に完成しました。

始めは色々とあったりもしたけど……今は世界に認められて各国々が利用し、マナの消費やそれを奪い合うような事もなくなり、争いが沈静化してきました。

時々、土地争いとかが起こりそうな時もあるけど……今はウリズン帝国がそういう国に進んで平和的に済ませようと話をしていたりします。

 

オルタ・ヴィレッジも今や十数ヶ所目にもなり……ますますマナを、星晶を必要としないようにする世界に進んでいってます。

 

後、私達『アドリビトム』の事だけど……アドリビトムは一度解散……というより長い休みになった事がありました。

ジルディアとの闘いを終え、世界を救った事もあって、あの闘いの後少しして……アドリビトムには今まで見たことの無い程依頼が殺到してきました。

勿論、始めは皆でその依頼を受けようとも考えていたんだけど……そのあまりの依頼量と、エステルやウッドロウさん達等の国の関係者の一時帰還もあって、流石に手に負えなくなってきた私達は一度アドリビトムをお休みにして、皆それぞれが自分達の村の復旧の手伝いに回ったりしました。

今はまた皆戻ってきてアドリビトムを再開しています。ウッドロウさん達等国の関係者の人達も戻ってきてくれたのはちょっと驚きました。

 

……あ、戻ってきたと言えば……この一年の間にメリアも無事、世界樹から帰ってきました。あの最後の別れの際の、変わらない笑顔のままで。

そんな彼女は笑顔まま新しい友達を一緒に連れてきた、と私達の前にその新しい友達を立たせました。

彼女の新しい友達……それは私達がお互いに世界を賭けて闘った相手……結晶化の消えた人型のラザリスでした。

皆がそのラザリスに警戒する中、メリアが前に出て『ラザリスはもう敵じゃない、私の友達で、皆の友達』と言った時のメリアとそれにどこか嬉しそうな表情を浮かべたラザリスの顔は今でも頭に残ってます。

 

今ではそんなラザリスもアドリビトムの皆と打ち解け、今日も他の人達と一緒に依頼にいってます。

 

皆が皆……まるでアドリビトムを自分達の居場所のように戻ってきています。

ただ、後は……──

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

「──……後はアナタだけだよ、衛司」

 

──ルミナシアとジルディアの統合した緑と白の混ざり合った世界樹の前、そこにひっそりと小さく作られた祠の前で、カノンノはさっきまで読んでいた手紙をそっとその祠の前に置きながら静かにそう言葉を出した。

祠の前にはその手紙の他に、白い結晶の剣と持ち手だけが残った木刀がまるで奉られているかのように置かれていた。

 

──乾衛司。

ルミナシアとジルディアの命運を掛けた最後の闘いで、文字通り命が保つ限り闘い、そしてその命を散らした、最後の決戦の一番の功労者とも言える存在。

『アドリビトムが世界を救った』という大きな真実が世界に広まった反面……『乾衛司が消滅した』という小さな真実が世界に広まることは無く……乾衛司が消滅した真実を知っているのは事実上、アドリビトムのメンバーだけとなってしまった。

そんなアドリビトムが行ったことが……彼がちゃんと此処にいて、共に闘っていてくれた証を残すように、この祠を作ったのだった。

 

『まるでお墓みたい』、と作った当初に誰かが言ったのを覚えているが……少なくとも、カノンノはそうは思わなかった。

 

「……約束……したからね……」

 

祠の前でそう、誰かに言うわけでもなく静かに言葉を出すカノンノ。

約束……それは『皆で笑って生きて帰ってくる』事。あの最後の時……カノンノは『嘘つき』と言ってしまったが、心の中では……また彼がいつか、ひょっこりと自分達の前に出てきてくれると信じていた。

いつも私達に見せてくれていた……あの笑顔で。

 

「っ……いけないいけない。……今日はこの後、世界を救って一年記念のパーティーがあるんだから……私が泣いちゃ駄目だよね……」

 

脳裏に思い出される衛司の笑顔を思い出し、自然と涙が零れそうになるが、カノンノはそれを慌てて手で拭き取ってそう言葉を出した。

カノンノはしばらく目を擦り、涙が止まった事が分かるとゆっくりと祠へと向き直った。

 

「衛司……今、アナタにこの世界が見えてるか……どう思っているかは分からないけど……いつかまたきっと……アナタと一緒に、アナタの隣でこの世界を見れるって……私、信じてるからね」

 

祠を真っ直ぐと見つめながらそう、カノンノは今はいない大切な彼へと言葉を出した。その言葉が果たして彼に届いたのかどうかは分かりはしないが……言ったカノンノ自身は満足したように小さく口元を緩めてゆっくりと祠に背を向けた。

 

「……また、来月に会いに来るよ」

 

背を向けたまま、祠にそうカノンノは言うとそのままゆっくりと停船してくれているであろうバンエルティア号に向けて歩き出した。

いつか、きっと……また会えると心の中で深く思いながら歩くカノンノ。

ふと……数歩歩いた時だった。

 

「……え……っ?」

 

不意に、後方から違和感を感じてカノンノは振り返ると……先程まで自分が見ていた祠から光が溢れ出していた。突然のその出来事にカノンノは驚いてしまうが、溢れ出していく光は徐々に徐々にと大きくなっていく。

そして……光は一層強くなったと分かった瞬間、その場はその光に包み込まれた。

 

 

 

 

 

────────────────────

 

 

「っ……今の光は……一体……」

 

──辺りに広がった光が徐々に落ち着いていくのを感じ、カノンノは反射的に閉じてしまった目を開けて何が起こったのかと周りを見回した時……『それ』を見つけた。

 

「え……」

 

思わず、自然と『それ』を目にしたカノンノは声を漏らした。それも仕方なかった……何故なら、そこに居たのは……あの最後の闘いの直後、彼女たちの前から姿を消した人物……。

 

「衛……司……?」

 

「……ひさしぶり、カノンノ」

 

……乾衛司が、その場に小さな笑顔を見せながら立っていた。

 

「衛司……本当に……衛司なの……?」

 

「うん……あれからちょうど一年……かな? 一層綺麗になったね、カノンノ」

 

「っ……衛司……っ!」

 

あの闘いから一年ぶりの再開……聞きたかったその声と、見たかったその姿に……カノンノはその場を走り出して衛司へと飛び込むように抱きついた。

伸ばした手は以前とは違い、今度こそしっかりと彼の身体に触れる事が出来た。

 

「っと……カノンノ……」

 

「衛司っ……衛司……衛司……っ! 会いたかった……会いたかったよぉ……っ!」

 

「うん……ごめんね。……ちょっと世界の神様にもう少しだけこの世界にいられるように頼んでたんだ」

 

「世界の……神様……?」

 

抱きついてきたカノンノを衛司はしっかりと抱き止め、一年ぶりとも言える優しく、暖かいその感触にそのまま涙を流し始めるカノンノの頭を衛司は優しく撫でながら静かにそう言葉を出した。

衛司の出したその言葉に、カノンノは小さく首を傾げ、衛司は小さく頷いた後その事を話し出した。

 

 

 

────────────────────

 

 

 

「──……すまない、今なんと言ったかもう一度言ってくれないか……?」

 

──僕の目の前で、羽織っているローブのフードでよく分からないが、少なからず驚いた様子を見せるオリジン。

まぁ、それもそうだろう。

『この世界での記憶を全て消して今すぐ元の世界に戻る』か『数日という命でルミナシアで生き、そして死んで記憶を消されて元の世界に戻るか』というオリジンから渡された選択……それに対しての僕の答えが……。

 

「ならもう一度言うよ……オリジン、僕はその選択なら『どっちも選ばない』」

 

……そんな答えなのだから。

僕の出したその返答を聞いたオリジンはやはり少し驚いた様子で僕を観察するように見ると静かに言葉を出した。

 

「……どういう事だい、乾衛司君。『どちらも選ばない』というのは?」

 

「言葉の通りだよ、オリジン。『今すぐ元の世界に記憶を消して戻る』か『たった数日の命でルミナシアで生きるか』なんて選択……僕は選べないし、選ぶ気もない。『元の世界』に戻るのが嫌って訳じゃない……だって、あそこは僕の故郷みたいな場所だし……僕を待っててくれてるだろう人だっている。だけど……こんな中途半端な皆との別れで戻るなんて、僕は嫌だ」

 

「…………」

 

「『ルミナシアに残る』方もそうだ。ルミナシアに居られるにしても……たった数日で……しかも記憶が無くなるなんて……僕は嫌だ。我が儘みたいかもしれないけど……今まであの世界で皆と暮らして、皆と笑って……大切な人と一緒になって……改めて思ったんだ。『此処も僕の居場所なんだ』って……。まだあの世界ではやり残した事も……これからやりたい事もいっぱい残っている。だから……『たった数日』なんて……僕はそれに頷きたくなんかない」

 

「……ふむ、君の理由は分かった。……ならば君は……私に何を望むんだい?」

 

僕の想いを聞き、真っ直ぐと僕を見ながら確かめるように、何かを試すかのようにそう問いかけてくるオリジン。

そのオリジンを僕は真っ直ぐと向き合いながら言葉を出した。

 

「『数日』っていう命を延ばしてほしい。本来の寿命までなんて言わないけど……出来れば長く……ルミナシアの世界でやり残した事や思い残した事が無いように満足出来るだけの時間が……僕は欲しい。それが……僕の『答え』だよ、オリジン」

 

オリジンと真っ直ぐと向き合いながら僕は自分の想いを伝える。

たった数日を出来る限り『長く』生きさせて欲しい。

死んでしまい、記憶が消えてしまうというのなら……僕は出来る限りルミナシアで長く生き、やり残した事が無いように満足して……皆と納得する別れをしたい。あの時の……中途半端みたいな別れじゃなく、お互いが満足するような。

 

「……ク……クク……ハハハハハハッ! そうか……そんな答えが返ってくるとは……まさか答えを『選ばず』自ら『造る』とは……これだから人は面白い……ハハハハハハッ!」

 

僕の言葉を聞いたオリジンはしばらく黙っていたと思うとまるで心底面白いものを見たかのように声を出して笑い出した。

突然のオリジンの笑いに思わず僕は呆然としてしまうが、そのまま少しして静かにオリジンが言葉を出した。

 

「……一年だ」

 

「へ……?」

 

「ルミナシアでいう一年だ。その期間をかけて、今から君のドクメントを修復してあげよう。そうすれば……元々の君の寿命までは無理だが、少なからず十数年程度は生きられるように出来るだろう」

 

「それって……!」

 

「あぁ……君のその『答え』、少なからず認めてあげよう」

 

僕に向かって人差し指を立ててそう言葉を出したオリジンに、僕が確認するように言うとオリジンはコクリと頷いてそう言葉を続けた。

認められたのは嬉しいけど……『選択』に従わなかった事は構わないのだろうか。

そう思っていると、オリジンは静かに口を開いた。

 

「なに……私が見たかったのは君が『どちらを選ぶのか』ではなく『何を答えるのか』という事だ。そして……君は見事に自分の『答え』を見せた。だから、私は少しでも君のその答えを叶えるだけさ。……それに」

 

「それに……?」

 

「……喜ぶといい。君は……『異物』でありながらルミナシアの『世界樹』に好かれている。だからこそ、君は『此処』に呼ばれ、『残る』か『戻る』かという選択をされたのだ。……本来世界樹が望まなければ君は此処に行き着くことすらなかったのだから」

 

「そう……なんだ。……本当……僕って……色んな人に想われてるんだなぁ……」

 

オリジンから告げられたその言葉に、僕は自然と涙が出そうになってしまう。本当……ルミナシアに来てから僕は想われてばかりだ。

その僕の様子を見るとオリジンはゆっくりと右手を此方へと向けてきた。

 

「さて……では早速修復に移るとしよう。安心するといい……次に目が覚めた時は君は君の望む場所にいるだろう。今は安心してゆっくりと休むといい」

 

「オリジン……ありがとう、僕の願いを聞いてくれて……」

 

「……礼をいうのは此方だよ。世界を救い、君は面白い『答え』を見せてくれたのだから。……どれだけの命になるかは分からないが……せめてその残りの命に後悔がないようにね……乾衛司君」

 

オリジンがそう言った直後……オリジンの向けた右手から光が溢れ出し……僕は意識が無くなった。

ただ微かに……意識が無くなる直前に見えたオリジンのフードの奥から見えた……僅かな微笑みを頭に残して……。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

「──……それじゃ、今衛司の身体は……」

 

「うん……一応、寿命は延びてるらしいけど……それ以降はまたいつ消えるか分からない状態になるってオリジンは言ってた」

 

僕の話を、現状を聞き不安げな表情を浮かべるカノンノ。それもそうだろう……僕は一度、皆の前から宣言なしに一年も姿を消したのだ。彼女が、皆が不安になるのも想像がつく。

だけど……僕はそんな不安げな表情を浮かべるカノンノを少し強く抱き寄せて言葉を出した。

 

「カノンノ……僕は自分の選んだ『答え』に後悔はしてないよ。どんな形であれ……また君と出会えて……また君達と期限付きだけど一緒にいられるんだ。だから……せめて僕が満足出来るまで……此処にいても構わないかな……?」

 

「衛司……うん……。それなら……衛司がすぐに満足出来ないくらい、いっぱいいっぱい……この世界を見てもらわないとね。アナタが救って……皆で作ったこの世界を……」

 

僕の言葉を聞き、真っ直ぐと僕を見てそう決心したようにカノンノは言うと不安げだった表情を、嬉しげな表情へと変えた。

少しして僕達はお互いに離れると、カノンノは僕の手を取って口を開いた。

 

「よし……そうと決まればまずは皆にひさしぶりに衛司を会わせないと……きっと皆驚くよ」

 

「ははは……まぁ、そうだろうね。これは質問責めは覚悟しとかないと……」

 

「あはは……そうだね。……衛司……」

 

僕の手を引いたまま嬉しそうにそう言った後、ふと足を止めカノンノが此方を見たと思うと、そのまま彼女は飛び込むように……僕に唇を重ねた。

突然の事に少し驚いてしまうが、僕はそれをしっかりと受け止め、そのまま少ししてカノンノは唇を離すと笑顔を浮かべて言葉を出した。

 

「おかえり……衛司」

 

「……ただいま、カノンノ」

 

そう、お互いに言葉を交わして僕達は手を繋ぎ戻るべき場所……バンエルティア号へと向けて歩き出した。

これから……僕にどれだけの時間が残されているか、何が待って、どんな結末を迎えるのかはまだ分からない。だけどただ、いまは……此処にいて皆と、大切な人と過ごしていける日々を……喜んでいこうと思う。

 

 

 

──こうして、僕の……世界をかけた『伝説』は幕を閉じる。

 

だけど……僕達のこれからの『伝説』は……まだ、始まったばかりなのだ……──

 

 

 

 

── テイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3 ─そして、僕の伝説─ ──  ─終─

 

 

 

 







──以上、最終話……如何だったでしょうか?

うん……賛否両論あると思いますが、個人的にはようやくたどり着いた最終話でした。

いや、本当に此処まで長かったなぁ~…。
書き始めた当初は一年程度で終わるかな、なんて考えてましたが……気付けば三年経ってました←

さてさて……『僕伝』、遂に完結致しましたが……果たして彼等を今後何が待っているのか……そこは皆様のご想像に任せようと思います。

今話で最後となりましたが……色々補足という名の言い訳だったり、書こうとしたかったけど書けなかったネタだったりと此処ではまとめて出せない事もあるので、最後にまとめ後書きみたいなものを一つ投稿して本当にこの『僕伝』は完結にしようと思います。
一応今後についてもそこで書くと思います。

ではでは一応最後となりますが……皆様良ければ感想やご意見、そして評価等宜しくお願いします+


そして最後……この『僕伝』を此処まで読んでいただき、本当にありがとうございました+


それでは皆様……良ければ最後の後書きまで宜しくお願いします+



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まとめ後書き



前回の最終話で書いたとおり、最後のまとめ後書きとなります。
基本キャラ設定での裏話とか、本編で書けなかったネタの紹介になっていて、独自解釈とか設定とかありますので、皆様緩い気持ちで読んでください←←



 

 

──と、いうわけで各キャラクターの設定やら補足やら作品裏話や書けなかったネタとか出していこうと思います←

 

 

【キャラクター編】

 

 

・乾 衛司

皆様ご存じ、この『僕伝』の主人公。

始めは弱く、徐々に成長して強くなっていく主人公……をイメージしながら書いていましたが、果たしてどうだったのか←

元々この主人公でいこうと思ったきっかけが、その時二次創作小説では『チート転生』や『俺TUEEEEEEEE!』系の物が多かったので、『強くもなく、イケメンというわけでもない平々凡々だけど心の芯は強い主人公がみたい』という考えから生まれたのが彼でした。

『マイソロ3』を選んだのは私自身『マイソロ3』が好きなのと、『テイルズ』系の二次創作が少なかったのが理由です。

因みに書けなかったネタとして、実は彼の最後の結末は本編で書いたもの以外に二つ考えていましたが、それはまた後程……

 

 

・カノンノ・グラスバレー

原作『マイソロ3』のヒロインであり、この作品のメインヒロインでもある子です。

衛司君が結構自己犠牲型な主人公で、カノンノも原作やった人はよく分かるように自己犠牲型なので『お互いに支え合って立っている主人公&ヒロイン』にしたかった(願望←←

結果?聞くなよ、分かるだろ←

 

ヒロインが増えたり、過去三回行った人気投票で一位を一度もとれなかったりと色々ありましたが『本編では』唯一、主人公とくっついた(意味深)ヒロインです←

因みに結構コメント欄で頂きましたが、別に衛司君は一発命中(意味深)はさせていないので安心して下さい←←

 

 

・メリア

本作のサブヒロインであり、原作だと『ディセンダー』の立ち位置の子です。

職業に当時あまり人気の少なかった忍者をチョイスした所、彼女の性格や口調に無口、興味を持った物以外は興味無し、という感じのものになりました。

因みに当初、彼女はサブヒロインではなくただ普通に衛司とカノンノの間を支えるキャラ……の筈だったのですが、過去三回の人気投票で三回連続で一位取ったり、書いてるうちにヒロイン度あげたりとその人気っぷりに気付くとサブヒロインに昇格していました←

メリアちゃん可愛い←←

裏話としては実は彼女も本編中に衛司君とくっつく(意味深)予定でした←

 

 

・サレ

多分この作品で一番オリキャラ化しちゃったんじゃないかと思われる原作キャラ。

原作の本編では結構中途半端な途中退場だったので、『ならいっそのこと』とラザリス組に入れたら勝手に一人歩きしちゃったキャラ←

私の中では結構好きなキャラなので、書いてて一番書きやすいキャラでした。

サレの過去については原作『リバース』でも描かれておらず、『根っからの悪役』として掛かれていたので独自設定で書きましたが……いまではもうちょっと悲惨にしてやっても良かったな、と少し反省してます。

 

裏話としては彼も衛司君同様、結末を本編でやったもの以外で二つ考えていました。

内容は衛司君同様後程……

 

 

・ヴォルト

衛司君を少しでも強くさせよう、という考えから登場させた雷の大精霊ちゃん←

当初、なんの精霊にするかは決まっていませんでしたが、ヴォルト登場話を書く前にちょうど『エクシリア』が発売、プレイしていヴォルトが人型だったのを見て『そうだ、これでいこう』という風になりました。

幼女になったのは私の趣味です←←

 

 

・ジュード、ミラ、他エクシリア組

ヴォルト同様、エクシリアをプレイして出したくなって登場させました。

ローエンも出そうとは考えましたが、話の都合やキャラの立ち位置上登場させられませんでした。

衛司君暴走の際、アルヴィンは原作の事もあって実に動かしやすいキャラでした。

 

 

・ロッタ、ヴォイト

原作『マイソロ』シリーズで初期からいる傭兵組。個人的にはもっと登場させたかったけどキャラを増やしすぎたのが原因でそこまで登場させられませんでした;

凄く反省してます、えぇ。

補足として本編終了後、ロッタはちゃんと衛司君に告白しました。

結果は……皆様のご想像にお任せします。

と、いうか私もそこまで決めてないっていう←

 

 

・ウンディーネ、イフリート

ジルディアに浸食された門番兼衛司君の契約相手的立ち位置で登場させました。

当初はイフリートも契約相手として考えていましたが、衛司君のドクメントの関係で却下し、ウンディーネのみとなりました。

因みに他には連山でシルフ、坑道でノームとかも登場予定でした。

イフリート、ウンディーネ共にキャライメージは『ファンタジア』をイメージしてます。剣士ウンディーネさん可愛い←

 

 

・ラザリス

原作、および本作のラスボス。

原作との変更点は性別が女の子とはっきりしてる事と戦闘スタイルが脚技主体になってるぐらいです。

カオス時は結晶の羽生やしたり、世界樹と一体化させたりとか色々考えましたが強くさせすぎるのもアレだし、攻略法も思いつかなくなってくるのであの程度で落ち着かせました。

本編終了後はカノンノの手紙の通り、結晶の消えた脚技格闘家としてアドリビトムで働いてます。

あの足に踏まれたい←

 

 

・オリジン

『世界』を司る大精霊。衛司君の最終分岐点を聞きに来た人。当初はあの選択はオリジンではなく世界樹繋がりでマーテルさん出して選択させる予定でしたが、『エクシリア2』をプレイして『あ、コイツにしよう』という形になってああなりました←

まぁ、あのオリジン程鬼畜じゃないですが……。

裏話……というか独自解釈+設定過ぎて本編で使えるかも怪しかったので本編で深くは書きませんでしたがこのオリジンの正体についても色々考えました。全身ローブで姿を隠し、声で性別の判断がつかないのもその名残です。

ヒントとしては『姿が分からず、性別も判断できない』事、そしてカノンノの『原初』と言える『オリジナル・カノンノ』がいるという事……ですかね。

『原初』のカノンノがいるという事は……?

 

まぁ、ボツネタに近いのであまり深く考えなくてもいいかと……使えるかも怪しいし←←

 

 

【書こうと思ったけど書けなかったネタ】

 

 

・衛司の結末

上記であげたように、当初衛司の結末は本編で書いたもの以外で二つ……計三つを考えていました。と、いっても残りの二つはオリジンの選択対し、どちらを選んだかのルートになります。詳細は以下の通りになります。

 

①本編通り、自ら『答え』を作ったエンド

 

②衛司が『元の世界』を選んだルートエンド

オリジンの言葉通り衛司は記憶を無くして元の世界へと戻り、『ルミナシア』の世界でも精霊達以外の皆から衛司に関する記憶が消えてしまう。皆から衛司の記憶が消えて、ゲーム通りのエンディング後を過ごす中、カノンノは記憶には確実に残っていないのに、確かに『誰か』が居たことを思いながら静かに涙を落とし、その皆の姿を見ながら唯一記憶の残っている精霊達……ヴォルト、ウンディーネ、セルシウス……そしてミラが、いない衛司に向けて別れの言葉を告げながら涙を零す……というエンド。

 

③『数日の命でルミナシアの世界』を選んだルートエンド

オリジンの言葉通り、数日の命で衛司はルミナシアへと戻る。残りの命で自分の満足できるまでこの世界を生きる事を衛司は決めるが、その日数は僅か……五日。

結局、衛司は五日後に消滅し……その消える様を目撃したカノンノは再び悲しみの悲鳴を上げ、衛司が現実世界で目を覚ます……というエンド。

 

ぶっちゃけ①以外は完全バッドエンドで考えていました。

③は私の中では『数日』は大体『一週間』くらいで考えているのでこんな感じに考えてました。

メッセージで『1カ月』くらいという意見を頂いた時は『その手があったか』と今更気付きました←←

 

 

・サレの結末

こちらも衛司君同様、本編で書いたものを合わせて三つ程結末を考えてました。

 

①本編通り最後に自分のラザリスへの想いに気付き消滅

 

②本編同様、最後にラザリスへの想いに気づくが、消滅ではなくエラン・ヴィタールから転落

こちらは本編とあまり変わりませんが、最後にサレは消滅せずエラン・ヴィタールから転落するという結末になってます。

消滅せず転落、という結末からサレは『死亡』ではなく『行方不明』となり、本編でのラストのカノンノの手紙の中で、『サレに似た青年がとある村の孤児院で働いている』という小話を出す予定でした。 

 

 

③ラザリスを裏切り、ジルディアの力を取り込むラスボスルート

当初考えていたルートで、別名『真ルート』。

本編でサレの語った『力のみを目的でラザリスを利用する』ルートで、サレはヴェイグとは戦わず、衛司達がラザリスを倒し、ラザリスがカオスへと至らず衛司達の説得に納得し、和解した直後、サレが現れ背後からラザリスを突き刺し、そのままラザリスとジルディアの力を吸収。

サレは吸収したラザリスとジルディアの力……そしてこれから吸収するルミナシアの生命の場の力を利用して世界を消去、自分の思う自分だけの世界へと塗り替える事を告げ、ラザリスとジルディアの力でサレはカオス化……『カオスサレ』へと至り、本当のラストバトルを繰り広げる……予定でした。

狂風サレとのバトルまでこれで考えてましたが、書いていく中で『これ収拾つかなくね?』となったので却下になりました。

 

 

・『元の世界に戻る』ルートからのIFストーリー

自サイトの方で一時期書いたIFストーリー。

衛司が進んで『元の世界に戻る』選択をした後、衛司はルミナシアの世界での記憶を残したまま元の世界の病院で目を覚まします。

その後、元の世界の家族や友人達との再会を衛司は喜ぶ反面、心の中で大切な人達と二度と会えない事を後悔しながら日々を過ごしていく。

そして衛司が退院し、学校へと復帰した日……教室では転校生と新任教師が多く学校に入ってくる噂が広まっていた。衛司はそんな噂を耳にしていると、その噂の通り、衛司のクラスに数名の転校生と新任教師がやってきた。

ただ、その転校生と新任教師は……もう二度と会えないと思っていたカノンノ、メリア、ラザリス、ジュード、アルヴィンというルミナシアの面々だった……というIFストーリー。

キャラ達の年齢に問題あるだろ、とか言われますが、まぁぶっちゃけご都合主義とか勢いで書いたネタなんでこっちで上げることは無いかなー、っていう←←

 

 

 

【今後について】

最後になりますが……今後については今の所まだ決めてはいません。

一応新作ネタは色々考えてはいますが、これもまたこの『僕伝』とは違い、結末もうまくは決まってないのでどうなることやら……。

一応今の所考えている程度のものは以下のようになってます。

 

・テイルズオブレジェンディア

原作沿いで現実からレジェンディア世界へとトリップしてしまう主人公の物語。この作品の衛司とは違い、レジェンディア世界で生きることを既に心に決めてます。

武器は拳でセネルのような投げ技主体ではなく、叩き潰す主体の戦闘スタイルの主人公予定です。

 

・デモンゲイズ

原作沿いで、主人公のデモンゲイザーやパーティーメンバーを喋らせたらどんな感じになるのか、って感じで書いてくお話しです。

原作との変更点もなく、一応唯一エンディングの決まってるお話しです。

マイナーとは言わせない←

 

・マナケミア2

原作沿いでウルリカの幼なじみの主人公のお話し。ウルリカパーティーでウルリカヒロインの予定です。

マイナーとは言わせn(ry←←

 

・ハイスクールD×D

今の所一番どうなるか分かんない作品←

考えているのは二つで、両方とも神様転生ものです。

一つは転生する世界を聞かずに『まぁ、大丈夫だろう』みたいな気持ちで神様に『NEEDLESS』の『神にしか切れない糸』といわれる『カンダタストリング』の力を持って転生する主人公という話。

もう一つは仮面ライダーに憧れる主人公が、『仮面ライダー鎧武』の力を持って転生するという話(但し各ロックシード使用には力制限あり、ヘルヘイムの森関連は面倒になるので一切無しの予定)。

 

 

・GODEATER2

原作沿い。平々凡々な実力の主人公が流れ流されて『ブラッド』に所属し、自分の戦う目的を、仲間を作っていく物語を予定←

主人公は原作通り『喚起』の力持ちの主人公です。

 

 

今の所考えているのはこんな感じです。

まぁ、実質本当にこうなるかは分かりませんが←←

 

この『僕伝』は最終話で行ったとおりこのまとめ後書きで完結となりますが、感想欄で頂いた『後日談』などはネタが思いついたら書いてみようかなー、とは思ってます。……気が向けば衛司君達の『夜の』闘いとかも(ボソッ←

 

 

さてさて、ではこれで本当に最後になりますが……此処まで読んでいただき本当にありがとうございます+

これにてこの物語は完結となりますが、衛司君達の物語は皆様が想っていて下さる限り、皆様の中で長く続いていくでしょう。

 

では皆様……『僕伝』を最後まで本当にありがとうございました!+

 

 

 




最後に……良ければ皆様、感想や今後に向けてのご意見、そして評価等宜しくお願いします+

本当にこの『僕伝』を最後までありがとうございました+


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本編終了後
番外編フェイスチャット集その1




前回のまとめ後書きから『後日談がみてみたい』という意見を結構いただいたのでネタが思いついたら今回のように書いていこうと思います+

今回は本編終了後の軽いフェイスチャット集をば。
キャラ崩壊とか独自設定とかあるけど軽い気持ちで読んであげてください←

フェイスチャットという事で会話オンリー、「」の前に名前があったりするのでそこの所ご注意下さい。




【名前で】

 

衛司「えっと……ラザリス」

 

ラザリス「? なんだい、イレギュラー?」

 

衛司「いや、その……そろそろ僕の事を名前で呼んでくれてもいいんじゃないかな? 仲間になったんだし……それにイレギュラーって呼ばれるのなんか変な感じがして……」

 

ラザリス「そう……かい……? ボクとしてはこっちの方が呼び慣れてるからこっちで呼ぶんだけど……イレギュラーの名前かぁ……」

 

衛司「うん。僕としてはやっぱり自分の名前で呼ばれたいからね。出来る限りで呼んでほしいんだけど……」

 

ラザリス「……ぇ……ぇぃ……じ……」

 

衛司「……うん?」

 

ラザリス「……ぇぃじ……えい……じ……衛司……やっぱり慣れないからもうしばらくはイレギュラーでいいや」

 

衛司「ぇー……まぁそこまでいうなら仕方ないや……。それじゃ、一応名前言ってくれたし……改めてこれからよろしく、ラザリス」

 

ラザリス「ぁ……よ、よろしく……」

 

 

【ラザリスとサレ】

 

ヴェイグ「ラザリス……少し聞きたい事があるんだが……」

 

ラザリス「なんだい、ヴェイグ?」

 

ヴェイグ「お前はその……サレの事をどう思っていた?」

 

ラザリス「サレ……かい? ……どうなんだろうね。あの頃……ボク達ジルディアの力を取り込んでいたとはいえ……ボクにとってヒトはそれほど興味対象ではなかったから。でも……そうだね、ただ……」

 

ヴェイグ「ただ……?」

 

ラザリス「……少なくとも……他のジルディアの民達と一緒にいる時よりは……少し……楽しかったと思うよ」

 

ヴェイグ「そうか……それが聞けただけでも十分だ。俺にとっても……多分、アイツにとっても……」

 

 

【今はおやすみ】

 

カノンノ「そういえば……衛司は戻ってきてから、キュッポ達に頼んで作ってもらった『刀』だっけ? そればかり使ってるのを見るけど……もうあの星晶剣や木刀は使わないの……?」

 

衛司「ん……うん。ヴォルトやウンディーネに手伝ってもらって一応この刀も精霊の力に耐えれるようにしてもらってるしね。それに……あの二本の相棒達の役目はもう、終わったから。だから……今は無理してもらった分、あの祠でやすんでもらいたいんだ。元々世界樹の一部である木刀も、世界樹の星晶から生み出された星晶剣も、ね……」

 

カノンノ「そっか……それもそうだね。あの二本は……最後の闘いの時にも無理させちゃったしね」

 

衛司「うん。……だから……また今度、あの相棒達にはお礼をいいにいかないとね。今までありがとう、て」

 

 

【再会を待つ者?】

 

衛司「あ”……!」

 

カノンノ「!? ど、どうしたの衛司? 急に変な声出して……」

 

衛司「いや、思い出したんだけど……そう言えば僕、あの最終決戦以来……あのケイブレックスに会ってないなぁ、って事思い出して……」

 

カノンノ「ぁー……。一応、私達もちょくちょく様子見であの子(?)に会いに行ってたけど元気だったよ。……まぁ、衛司に会えないと分かった時は少し不機嫌だったけど」

 

衛司「あれ……それ今度会いに行ったら僕ヤバくない? また全身舐められない?」

 

カノンノ「た、多分大丈夫だよっ! いざとなったら頑張って止めるからっ!」

 

衛司「多分って……多分って……!?」

 

カノンノ「……もしもの時はちゃんと慰めてあげるよ」

 

衛司「せめて……せめて目を合わせていってください……っ!」

 

 

【闘技場の謎】

 

衛司「そう言えばさ……闘技場って不思議だよね?」

 

メリア「? ……どうして……?」

 

衛司「いやさ……ジャイアント系魔物はまだ分かるけどさ……バルバトスに死んだはずのサレ……カオスとかしまいにはゲーデにウィダーシンとか……本来なら此処に居ない筈の人達が現れて闘い挑んでくるってどうなんだろう、って……」

 

カノンノ「んー……一回私も不思議に思ってニアタに聞いてみたんだけど……実はあの闘技場、空間が不安定なんだって」

 

衛司「? 空間が不安定……?」

 

カノンノ「うん。ニアタが言うにはあそこの空間は不安定で、闘技場そのものはこのルミナシアの世界だけど、時々不安定な『歪み』が起こって、その『歪み』から本来この世界に居ないものが出てくるようになってるんだって」

 

衛司「……凄いサラッと言ってるけどそれってヤバいんじゃないの?」

 

カノンノ「『普通』ならね。でもニアタが言うにはその『歪み』そのものは小さいものだから少し時間が経てば来たものも元の世界に戻るんだとか。現に今までも別世界から出てきたもの、戦闘が終わればすぐ消えちゃうし」

 

衛司「ぁー……なるほど。……でもなるべくその『歪み』にも気をつけないといけないね。もしかしたら僕達も気付いたら別世界の闘技場に『歪み』を通して行っちゃうかもしれないから」

 

メリア「……そうだね……。……でも……その時はなるべく衛司と一緒がいい……」

 

カノンノ「ぁ、それなら私も……」

 

衛司「……なるべくは闘技場は控えようか」

 

 

【無知故の質問】

 

メリア「……衛司とカノンノは……いつ赤ちゃんが出来るの……?」

 

衛司、カノンノ「「ぶふぉわぁっ!?」」

 

メリア「……?」

 

カノンノ「ゴホッゴホッ!め、め、メメメメリアっ!? 急に何を言い出すのっ!?」

 

メリア「……だって……アルヴィンが……『そう遠くないうちに衛司とカノンノの子供が見れるかもな』って言ってたから……気になった……」

 

衛司「あのヤロウ……っ! 一体、よりにもよってメリアに何吹き込んでんだよ…っ!?」

 

メリア「……? それで……衛司とカノンノの赤ちゃんって……いつ出来るの……?」

 

カノンノ「そ、それはその……作ろうと思ってすぐできるわけでもなくて……色々と段階とか……色々あって……。べ、べつに私も出来ればできてくれれば嬉しいんだけど……」

 

メリア「……? それならどうやったら出きるの? ……私も衛司との赤ちゃん……作ってみたい……」

 

カノンノ「!? そ、それは……」

 

衛司「ごめん、カノンノ。僕ちょっとアルヴィンをシバいてくるから後はマカセター」

 

カノンノ「ちょっ!? この状況で逃げないでっ! お願いだからっ!!」

 

メリア「カノンノ……?」

 

カノンノ「う……ぅぅぅ……うにゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

衛司「アルヴィーンっ! サッカーしようよ、アンタボールなっ!」

 

アルヴィン「ぇ、ちょっ! な、何をするダァァアァァっ!?」

 

 

 

 

 

 







その場の勢いで書いた、ってハッキリわかんだね←

というわけで番外編フェイスチャット集その1、如何だったでしょうか?
『その2』も一応考えてたりします←

ラザリスの衛司に対する呼び名は色々考えましたがもうしばらくはイレギュラーになります←
衛司に対する想いは仲間に対する好意なのか、はたまたカノンノ達同様のものなのか……ぶっちゃけまだ決まってません←

ケイブレックスの話や衛司とカノンノの子供話はまた別の話で深く書いてみようかな、とか考えてたりします。

闘技場の話は完全独自設定です。
だって闘技場のクエスト相手が特殊過ぎて書かずにはいられなかったんや←

有り得たらな話ですが……もしコラボとかしていただける方が居ればあんな設定使って衛司君達とばしてくれたらありがたいな、と思ってます←
まぁ、まずしていただけるような方がいないわけですが←←


衛司君とカノンノの子供話はぶっちゃけメリアの『赤ちゃんはどこからくるの?』とアルヴィンのネタがやりたかっただけだっていう←←

フェイスチャット集は大体こんなノリになってきます←


さて、今後についてですが……一応次回作は『ゴッドイーター2』にしようかな、と考えてます。
続編決まったテンションです、えぇ←
少しずつですが現在プロローグとか考えてますが……今一主人公の性格が安定せず右往左往してます←

というかごくごく平凡な人間が神機適応からのブラッド所属とかどう経緯書きゃいいんだよ……←

一応ある程度落ち着いたら活動報告の方で一回あげてみようと思ってるので……その時は良ければ意見とか頂けるとありがたいです+

ではでは次回が新作になるのか、それともまた番外編になるのかは分かりませんが……良ければまた次回、宜しくお願いします+

最後に皆様、感想やご意見、そして評価など良ければ宜しくお願いします+


P.S.
番外編同様、衛司君の『夜の』戦闘の意見もあったので現在密かに執筆中です←
完成したらR18の方に投稿してみるつもりですが……こういう裏描写って書くの難しいね。内容的にも、精神的にも……(遠い目←←



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