雷帝【偽】の物語 (うたまる♪)
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転生の刻
少年と堕天使


久しぶりに投稿してみます。

リハビリみたいな感じなので誤字、脱字が多いと思います。

徐々に文字数も増やしていきたいと思うのでよろしくお願いします。


皆さんは【転生】と言う言葉をご存じだろうか。

 

 

大雑把に説明すると、転生とは生あるものが死後に生まれ変わり、再び肉体を得ることだ。

それだけなら特に気にすることが無いだろう。それが実際に自分の身に起きたのでないならば。

 

 

通常の転生では、所謂前世の記憶と言うものを持たずに記憶を消去された状態で転生される。

これが普通だ。

当然自分もそう言うものだと思っていた。

漫画やアニメの世界と違って前世の記憶をもって生まれてきたと言うのは現実ではありえないものだと思ってたし。確かにそう言う強くてニューゲームみたいなことに憧れが無いかと言われればそれは嘘になる。でもだからと言って実際に体験することになるとは思っていなかった。

 

 

「貴方は若くして不慮の事故で亡くなってしまいました。しかし、貴方にもう一度チャンスを与えましょう」

 

 

起きたら【知らない場所】に立っていて、そこで神様と名乗る女性に会い自分が【転生】することになったことを、一方的に告げられた。

その時は余りの出来事に脳が内容を理解できずに呆然としていた覚えがある。

ただ鮮明に覚えていることが一つだけあり、そのことを今でも自分は後悔している。

 

 

自分は神様が話してくれた言葉を何一つも覚えていない。それだけ俺は混乱していたんだと思う。あの時の自分はとにかく死にたくないと言う気持ちでいっぱいだった。なまじ一度死と言うものを体験したからだろうが、自分は死と言う漠然とした概念にとてつもない恐怖を抱いていた。

 

 

そんな時に神様は自分の第二の運命を決める言葉を告げた。

 

 

「貴方は特典は何を望みますか?」

 

 

自分が覚えている神様の言葉はそれだけだ。

 

 

自分はその特典に対して自分が如何に死にたくないかを神様に説いた。自分がどんな言葉を言ったのかは覚えていないが、最後に神様は笑顔を浮かべてこう言ってくれた。

 

 

「わかりました。貴方を死なせません」

 

 

神様は見惚れるような眩しい笑顔を浮かべて自分に手を翳した。

 

 

「それではよい人生を」

 

 

その言葉を最後に自分の意識はなくなった。

 

 

次に目を覚ましたのは赤ちゃんの頃だった。出産した時から自分は意識を持っていて、なんというか不思議な気分を感じた。なんて説明をすればいいのかはわからないが、あえて言い表そうとするならそれは【生きていることへの安心】だろう。

 

 

自分はありとあらゆることに感謝した。

 

 

自分を生んでくれた母親に

 

 

自分が生まれて涙を流している父親に

 

 

自分が生まれる手助けをしてくれた医師に

 

 

そしてこんな自分を転生させてくれた神様に心から感謝をした。

 

 

 

 

 

転生してからは本当に幸せだった。優しい父と母が毎日自分を見てくれる。それが、自身が生きていることの何よりの証だと自分に教えてくれる。ただ平凡な日常を過ごす。それだけで自分の心は満足だった。

 

 

 

そんな日常が崩壊したのは自分、いや、俺が5歳の頃だった。

 

 

俺はいつも通り家族と平凡な日常を送っていた。そんないつも通りの毎日にあの出来事が起きた。

 

 

俺と両親はその時偶然にも海外に旅行に出かけていた。その時は俺も両親もその場で何か起こるとはつゆにも思っていなかった。

 

 

旅行先の施設でそれは起きた。

 

 

旅行は最初はバチカン市国の世界遺産巡りだった。世界遺産事体に興味はあまりなかったが、家族で旅行をしていると言う事実だけで俺は満足だった。最後に人里離れた教会にお祈りをすることで旅行は終了するはずだった。

 

 

そこで事件は起きた。

 

 

教会に向かっている最中に突然視界が爆ぜた。

 

 

俺は辛うじて残る意識を保ちながら今の状況を整理しようとする。

此処まで冷静でいられたのは現実に頭が追いついていなかっただからだと思う。

 

 

俺の身体は宙を舞っていた。

 

 

宙を舞っていた俺の身体は重力に従い地面に落ちる。

地面と衝突すると同時に肺に入っていた空気が体外に吐き出される。

 

 

俺は動かない身体の代わりに辛うじて動く首を動かし両親の姿を探す。

 

 

だが、現実は非常だった。

 

 

俺の視界に入ったのは血だらけで倒れる両親の姿だった。

その姿は五体満足ではなく、四肢の一部は欠損、腕や足は曲がるはずのない方向に曲がっていた。

 

 

むせかえるような血の匂い、飛び散る肉片

 

 

その状況を理解した後、俺の意識は遠のいた。

 

 

それは俺の中の最後の防衛本能だったのかもしれない。俺の中の心の均衡を保つために現実から俺は意識を遠ざけたんだ。

そこからの記憶は俺にはないはずだった。だけど、その後の記憶が俺の中には確かにあった。

 

 

それは夢や幻だったのかもしれないと思った。

 

 

俺の身体から迸る雷が目の前にいるナニカを唯々消し去っていく。時には雷を超えるほどの雷をその手から放出する。時には高濃度に圧縮されたプラズマを駆使し跡形もなく消しさっていく。時には俺に近づくものが勝手に破裂していく。

そんな夢や幻のような記憶が俺の中にははっきりと残っていた。

 

 

次に意識を取り戻したのはベッドの中でだった。

 

 

そこにはチョイ悪親父と言う言葉が似合いそうな男が俺が目を覚ますのを待っていた。

 

 

そいつの名前はアザゼルと言う名前らしく、アザゼル曰く、彼は人間ではないらしい。アザゼルは自身の事を堕天使と呼びそこの総督をやっていると言っていた。

 

 

そこから俺はアザゼルに事の顛末を全て聞いた。

 

 

あそこで起きていたのは堕天使と天使の小規模な戦闘で、俺と両親は運悪くその現場に遭遇してしまったらしい。

両親は即死だったらしく、まだ助かりそうな俺をアザゼルは助けてくれたらしい。

 

 

それからは俺は唯々泣いた。

恥も外聞もなく、大きな声で泣いた。

 

 

そんな俺をアザゼルは不器用な手つきで優しくあやし続けてくれた。その時の感触は俺は一生忘れることはないだろう。

 

 

それからアザゼルは住む場所を失くした俺を養子にすると言い、俺はアザゼルの言葉に従いアザゼルの息子になることを決めた。

 

 

多分あの時の俺は両親を失った穴を何かで埋めるためにその提案を受けたんだと思う。そうじゃなけりゃ、知り合って間もない人間でもない奴の養子になることなどあるはずがない。

アザゼルはそんな俺の気持ちを汲んだのかそれとも単に俺を育てる時間が取れないためか、母親役としてレイナーレと言う堕天使の女を俺の世話係として付けた。

 

 

当時の俺はアザゼル以外の堕天使を信用することができなかった。当然と言ったら当然かもしれないが、そんな俺の態度が気にくわなかったレイナーレと俺はよく喧嘩をした。まあ、その後何やかんやでレイナーレの事を信用できるようになり、彼女から世界の事を教えてもらった。天使や堕天使だけではなく、この世界には悪魔や神話の神々が存在していることを教えてもらった。

そして俺は彼女から俺が新しく生きるための名前を与えてくれた。

 

 

 

 

 

 

俺の新しい名前は

 

 

 

 

 

天野銀次

 

 

 

 

 

それが俺の新しい名前だ

 

 

 

 



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雷帝との出会い
雷帝と白龍皇①


評価が3つも来ててビックリしました!

思わず「ファッ!?」って言葉が出ました。
漫画やアニメの世界だけじゃなく、実際にやる人いるんだと思いました(たぶん私だけ)

評価してくれたイソフラボンさん、ベーヤンさん、神天宮さんありがとうございます!
感想を書いてくれた方もありがとうございます!

今後の投稿も安定するかはわかりませんが、 何卒よろしくお願いします。


あれから2年の時が流れた。

 

 

俺はアザゼルさんの養子として充実した?生活を送っていた。

 

 

アザゼルさんは俺を学校に通わせたいと考えてたらしいが、そこは裏の事情と言うのもあって難しいらしい。そう言う事情もあり、俺の学習内容は教材を使った勉強が主となっていた。元々俺は前世と言うアドバンテージを持っていたこともあって、勉強には差し当たって苦労はしなかった。

 

 

そんな俺にも自由な時間は少しだけあった。

いや、アザゼルさんの許可が出ている場所で自由に過ごすのは良いが、そこは全て建物内だ。したがって、俺が外で自由に過ごすことができるのは月に一度、アザゼルさんが外に出るときだけだ。

 

 

俺は外に出るときは転移と言う魔法陣を使った移動手段で人間界に戻る。今更だが、俺の住んでいる場所は冥界と言う場所らしい。詳しくはわからないが、人間界と違って空の色は紫色だった。後俺はそこの空気が元居た場所よりもおいしく感じた。

 

 

人間界に転移した後はアザゼルさんにある程度のお金を渡され、アザゼルさんと別々の行動になる。そこから俺の自由時間は始まる。普段はレイナーレさんも着いてくるんだけど、今日は仕事が別にあってついてくることができないらしい。

 

 

俺は適当なデパートに行き、手早く食事を済ませる。自由時間は一日と言っても17時までだ。今時刻は12時過ぎ、俺が自由に外を歩き回れるのはあと5時間だけだ。

 

 

俺は高ぶる気持ちを抑え、街中を歩き回る。久しぶりの外と言うのもあってかなり興奮しているようだ。前世での年齢も考えるともういい歳のおっさんだが、精神は肉体に引っ張られると言う言葉通り今は子供らしくはしゃいでしまっている。

 

 

過去の事を忘れたわけでもないし、踏ん切りをつけられたわけでもないが、今はそう言う事を置いていて楽しく、自分のために生きることにした。それこそが、亡き両親が俺に望んでいるだろうから。

 

 

それから俺はゲームセンターで遊び、駄菓子屋でお菓子を買い、公園で遊び、自由を存分に謳歌した。

 

 

そこで俺は一人ベンチに座る子供に目が留まった。

 

 

それは必然だったのかもしれないし、はたまた偶然だったかもしれない。

 

 

そこで俺は彼と出会った。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

俺は今公園のベンチで座っていた。

 

 

俺は全身に襲い掛かる痛みと疲労を少しでも和らげるために全身に魔力を使った薄い粘膜のようなものを纏っている。これは端からは見えないようになっているから俺が不審に思われることはない。普通より多い魔力を持つことで一層あの男の事を俺に思い出させる。

 

 

やっとあの場所から逃げ出すことができたんだ。俺は自由だ。

だが、今の俺には何もない。

 

 

帰る場所など生まれた時から無く、逃げる場所などどこにもない。

生まれてきたことにも後悔したことはない。

だが、あの男への怒りは消して消えない。

そして、刻み込まれた恐怖も簡単には消えない。

 

 

(情けないな……)

 

 

身体の痛みが和らいだことにより、彼の思考に余裕ができる。思考する余裕が出来た為今の自分の現状が如何にまずい事かも理解している。

 

 

彼は人間と悪魔の間に生まれた所謂ハーフだ。

それが人間と悪魔の間に生まれた愛情によって、親に生まれてくるのを望まれていたのならどれだけよかったことだろうか。

 

 

彼が生まれたのはある意味偶然だった。

彼の祖父は彼の父に対し暇つぶしと称し息子に人間の女を一人連れて来いと言った。彼の父は言われるがままに人間の女を一人連れてきた。彼の祖父は彼の父に対し、人間の女と交わり子供を産めと言った。彼の父はそれに従い人間の女と交わり一人の息子を授かった。

それが少年、ヴァーリ・ルシファーの秘密の一つだ。

 

 

 

今後の事を考えるとどこか落ち着けるような場所が必要だ。あいつらに見つからないような場所、一番がそれなりの立場を持ち俺の身の安全を約束してくれるような奴が言いな。

 

 

ヴァーリは幼いながら頭の回転は速かった。それは彼の生まれながらの環境が彼をそうさせたのだ。そうしなければ生きていけないから。

 

 

そんな彼に近づく人影が一つ。

 

 

ヴァーリは近づく人影を確認する。近づいてきたのは自分と同じくらいの少年だった。ヴァーリは少年に訝し気な視線を投げつつも警戒をする。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

ヴァーリは少年の第一声に驚く。目の前の少年は自分の事を大丈夫かと言った。つまりそれは自分が身体に魔力を纏っていることに気が付いたに他ならない。

ヴァーリは一気に警戒度を上げる。

 

 

「お前には関係ない」

 

 

ヴァーリは先程の訝しげな視線ではなく、敵意を込めた視線を目の前の少年にぶつける。それはまるでお前に心配される必要はないと言うように。

 

 

「そんなこと言わないでよ。俺も一人なんだ、よかったら一緒にどう?」

 

 

少年はヴァーリの言葉を一切気に留めることなく、ヴァーリに話しかけることをやめない。

 

 

ヴァーリはそんな少年を鬱陶しく思うが

 

 

ぐぅぅ~~~~

 

 

ヴァーリのお腹から場に似合わない音が流れる。

 

 

(お、お腹が……)

 

 

ヴァーリは突然音を鳴らした自身の腹に何とも言えない感情になる。

 

 

ヴァーリは今まで逃げることに必死で、何も飲まず食わずの生活を送っていた。原の音が鳴ったのも今回が初めてではないが、いくら何でもタイミングが悪すぎるんじゃない顔ヴァーリは思った。

 

 

そんなヴァーリの様子を察したのか少年は笑顔でこう言う。

 

 

「お腹がすいてるなら一緒にご飯でも食べない?」

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

「もぐもぐもぐもぐ……」

「………」

 

 

あれから銀次とヴァーリは近くのファミレスで食事をすることになった。銀次は昼ご飯を既に済ませていたが、ヴァーリに気を使わせないために軽めの食事を頼むことにした。ヴァーリは本当にお腹がすいていたこともあり、メニューに載っている料理を大量に注文し、今も尚両手を忙しそうに動かしている。

 

 

「ゴクッ……」

「おいしい?」

「……ああ」

 

 

銀次の言葉にヴァーリは短く返答を返し、すぐにまた食事に取り掛かる。

銀次はそんなヴァーリの姿を見てよかったと安堵の息を吐く。

 

 

銀次は此処で食事をとりながらヴァーリの事について考えていた。

銀次は現在7歳ほどの見た目をしているが、実際は30歳半ばほどの精神年齢をしている。そんな銀次がヴァーリの姿を見て唯の子供じゃないことはすぐに気づいた。銀次自身も人外であるアザゼルやレイナーレのような堕天使と言う人ならざる者と暮らしていることもあり、ヴァーリが人ではないナニカであるという事は気づくことができた。

だが、それ以上にヴァーリの姿が銀次には普通ではないと悟らせた。ヴァーリは隠しているようだが、精神、肉体共に過度なまでに疲労しており、顔や手には普通に生活していたらつかないような傷が幾つか見える。服で隠れているが身体にも傷があるかもしれない。

 

 

銀次はそんなヴァーリの姿を見て知らないふりができるほど器用ではない。だからこそ、ヴァーリを食事に誘ったのだ。

 

 

銀次の中ではアザゼルに相談してみるのがいいかと考えたりしているが、ヴァーリがもしも堕天使と敵対している天使や悪魔に属する者だったことを考えると、あまり言い考えだとは思えない。

 

 

銀次はそんなことを考えているが、ヴァーリもヴァーリでただ食事をしているだけではなかった。

 

 

ヴァーリも銀次に対して考察を立てていた。

 

 

何故見ず知らずの自分に銀次が話しかけ、食事までご馳走してくれるのか。銀次にどんな思惑があって自分にこんなことをしているのか考えるが、どれも推測の域を出ない。ヴァーリの頭に唯のお人よしと言う選択肢が出てくるが、そんな善人がいるはずがないと選択肢から除外する。

ヴァーリの中で優しさと言うものは一番信頼できないことだ。それは今まで短いながら歩んできた人生の中でヴァーリ自身が学んだことだった。信じることに意味はなく、その先にあるものは相手の思惑や打算と言ったもののみ。それは決してヴァーリには優しくはなかった父や祖父から齎された経験に基づいた考えだった。

だからこそ、ヴァーリは銀次の行動の真意を見抜けずにいた。

 

 

 

 

そんな二人の間に奇妙な空気が流れながら食事は進む。

 

 

 

 

ヴァーリは自分が注文した料理をただ黙々と食べ続けながら銀次の真意について考え続ける。最悪、銀次を殺すことも考慮して。

銀次も銀次でヴァーリを放っておくこともできないが、ヴァーリについて無闇やたら詮索する気にもなれず、かと言ってヴァーリにどう対応するのが正しいのかわからず、どう対応するべきか頭を抱える銀次。

 

 

 

 

そんなお世辞にも良い空気とは言えない状態で二人の食事は終了を迎えた。

 

 

 




久しぶり過ぎて文章がやばい!?

日本語がおかしい!?

誰か添削してください!


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雷帝と白龍皇②

かいている最中にナニコレってなった作者です。


低評価の嵐が期待できるぞ!(白目)


どうか温かい目でお願いします!


銀次とヴァーリの食事は何の進展もない状態で終了した。

 

 

銀次は会計の際の料金に軽く驚きつつも、アザゼルから渡された小遣いで支払いを済ませる。まさか銀次も小遣いをこの食事にすべて使う事になるとは思わなかっただろう。

 

 

店を出た後、銀次はヴァーリの要望により街外れにある山に向かう事にした。

 

 

当然銀次はヴァーリが何か企んでいるだろうという事は予測していた。だが、此処でヴァーリの要望を断れば、ヴァーリの事は何もわからずじまいで、最悪そこでヴァーリは行方をくらますかもしれないという予感を銀次は感じた。

だからこそ、銀次はヴァーリの要望に従い街外れの山に向かう事にした。

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

「何が目的だ?」

 

 

ヴァーリは今までと違い力強く俺を睨め付ける。その視線には嘘をつくことは許さないと案に言っていることがわかる。

俺はまず何から話すべきか考えるが、ヴァーリの視線がそれを許さない。

 

 

「何だ、答えられないのか?」

 

 

ヴァーリは俺の返答が遅い事とから俺に警戒心を高めていく。

流石に唯の善意で見ず知らずの相手に食事を施そうと思った何ていえるはずがないし、本当の事を言ったとしても信用されるわけがないと言うのは自分でもよくわかっている。だからこそ俺はこういうしかできない。

 

 

「ま、待ってくれ!俺は別に目的とか何もない!」

「じゃあ、なぜ俺に食事をくれたんだ!目的もなしに俺に近づくわけがないだろう!」

 

 

ヴァーリの言葉が荒くなると同時にヴァーリの身体から何かが滲み出てくる。滲み出たそれは圧力となって銀次を威圧する。

 

 

それに俺は気圧され「うっ」と声が漏れる。

 

 

俺は気圧されたことによってヴァーリの言葉を否定するタイミングを逃してしまう。ヴァーリは俺が言葉を否定しなかったことにより、さらに視線を厳しくし、疑いを深めている。

 

 

「そうだ、何の目的もなしに俺に食事をくれるわけが無い。目的は何だ!お前も俺の神器(セイクリッド・ギア)が目的か!」

 

 

ヴァーリはそう言うと背中に白く綺麗な翼が広げる。だが、その翼は飾りや何かではなく、とてつもないナニカが感じられる。

 

 

そのヴァーリの行動に俺は背筋凍る。

俺の中の本能があの翼が唯の翼ではないことを告げている。あの翼はもっと気高く、暴力的なまでに理不尽な力の塊だという事が俺の直感が言っている。

 

 

アレハマズイ!

 

 

アレハキケンダ!

 

 

イマズグココカラニゲロ!

 

 

シヌゾ!

 

 

俺の頭の中でそう言った警鐘がなり続けている。久しぶりに感じる死に対する絶対的な恐怖が俺を支配する。

 

 

「お前も俺を傷つけるのか、なら――――――」

 

 

ヴァーリは右手を俺に向けて翳す。それと同時に掌に何かが収束されていく。

 

 

「俺の敵だ!」

 

 

ヴァーリの右手に収束された塊が俺に向かって飛来する。

 

 

俺は咄嗟に大きく横に跳び飛来する塊を避ける。俺は塊を避けることができたが、自分の背後にあった木を見て絶句する。

 

 

木が消えているのだ。

 

 

いや、その表現は正しくはないだろう。正しく言うならヴァーリから発せられた塊が木と接触した瞬間木っ端微塵に粉砕したのだ。その証拠に木々の欠片がそこら中に散らばっている。

 

 

俺は血の気が引いていく感じがした。

もしもあの塊が自分に当たっていたら俺は確実にタダじゃ済まなかっただろう。少なくとも肋骨の一つや二つ、簡単に折れるほどの威力だ。

 

 

「躱したか、思ったより身のこなしは良いようだな。だが今度は外さない。敵は殺す!」

 

 

そう言うとヴァーリは両手を俺に向け翳す。その両手からは先程とは比べ物にならない程の大きな塊が見える。

 

 

先程の一撃が拳銃だとするなら今回の一撃は大砲に匹敵するだろう。勿論、銀次がこの一撃を如何こうすることはできない。もはや避けたとしても余波で重傷は免れない。圧倒的な恐怖の中、銀次は死に対する恐怖に怯えながらも生きるために考える事をやめなかった。

 

 

「死ね」

 

 

無常にヴァーリがその言葉を告げた瞬間、銀次の中で何かが弾けた。

 

 

「わあああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

その行動は本能によるものだろう。

生きるために必死だった銀次は本能に従い右手をヴァーリに向ける。端から見たら人間である銀次が、ヴァーリの様な塊を生み出すことができるはずがないと思うだろう。だが、銀次は普通の人間ではなかった。

 

 

銀次がヴァーリに向けた右手からバチバチと放電するような音が鳴り、右手から雷が放たれる。ヴァーリは銀次から予想だにしない反撃に驚きつつもその身体はその雷撃を躱すために動いていた。

その結果、ヴァーリは銀次の一撃を避ける事が出来たが、銀次の一撃を避けたことによってヴァーリの一撃ずれが生じ、塊は銀次に向けられることなく空に向かって放たれることとなった。

 

 

「お、お前も神器(セイクリッド・ギア)を持っているのか!?」

 

 

ヴァーリは予想だにしたい反撃を受けたことによって混乱している。だが、それ以上に俺の方が混乱は大きかった。

 

 

(な、なんだこれ!手から雷が出た!しかもバチバチって俺の身体が放電してたし、俺の身体どうなってんのマジで!神様俺って人間だよね?もしかして、これが噂に聞く神様特性の身体なのか!?)

 

 

ある意味混乱し過ぎて変な電波を受信してしまっていた。

 

 

「くっ、お前も神器(セイクリッド・ギア)を持っているのは想定外だ!だが、俺の神器(セイクリッド・ギア)はお前が持っているような有象無象じゃない!俺の神器(セイクリッド・ギア)は、白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)だ!」

 

 

は?神器(セイクリッド・ギア)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)?何のこと言ってるんだ彼は?何のことかさっぱりだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!急に言われても何の事かさっぱり何だけど!神器(セイクリッド・ギア)って何のこと!?それに俺はヴァーリと闘うつもりはないんだ!」

「なに?とぼけるな!普通の人間が身体から雷を出せるわけがないだろう!それに戦うつもりが無いとはどういうことだ!」

 

 

ヴァーリは俺にもっともな意見を述べながらその右手を俺に向ける。

確かに普通の人間からは雷なんて出ないし、放電なんかしないけどさ、それは俺にもわけわかんないんだよ!むしろこっちが教えてほしいし!神様、俺の身体はどうなっているのか教えてください!

 

 

俺は変なことを考えながらヴァーリが攻撃をしてくる前にもう一度説得を試みる。

 

 

「いや、俺はヴァーリと闘うつもりなんて始めからないし、第一ヴァーリを食事に誘ったことに目的なんてないよ!」

「嘘をつくな!目的もないのに俺に話しかけるはずがない!」

「そんなことはない、信じてくれ!」

 

 

俺の必死の説得に納得したのかはわからないが、ヴァーリは一先ず俺に向けていた物騒な右手を下ろしてくれた。

 

 

「いいだろう、お前が嘘を言っていることはなさそうだ。お前の言葉を信用するわけではないが、食事の恩がある。殺すことはやめてやる」

「ああ、ありがとうヴァーリ」

 

 

俺は命の心配がなくなったことにより、安堵の息を吐く。

 

 

しかし、それはつかぬ間の安堵だった。

 

 

森の中から先程ヴァーリが放った塊と同じくらいの大きさの塊がヴァーリに直撃し小規模な爆発が起こる。

 

 

「グガッ!」

 

 

ヴァーリは突然起きた爆発に耐え切れず、そのまま吹き飛ばされ気に叩きつけられる。

 

 

「えっ―――――」

 

 

俺の頭は突然の出来事に真っ白になる。

 

 

「う、うぅぅぅ………」

 

 

ヴァーリは木に叩きつけら呻き声のようなものをあげているが、重症ではない。だが、身体は無事でも心は無事ではなかった。

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタ!

 

 

ヴァーリの身体は異常なまでに震えていた。それは何かに怯える子供ように身体を震わせていた。

俺は先程までのヴァーリと違いっこまで恐怖に震えているヴァーリに愕然としてしまう。あそこまで勇ましかったヴァーリが何に対してここまで怯えているのか、その答えはすぐにわかった。

 

 

「やっと見つけたぞクソガキ!」

 

 

そこに現れたのは眼を血ばらせ、背中に10枚の翼を広げた悪魔のような男、ヴァーリ・ルシファーの父だった。

 

 



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雷帝と白龍皇③

雷帝降臨!

とうとう雷帝が降臨します!

皆様のご期待に添えているかわかりませんが、よろしくお願いします。

口調がおかしかったりしたらご指摘お願いします。


ではどうぞ!


突然現れた悪魔のような男。

俺はその男を見た瞬間、その男が普通でないことをすぐに理解した。それと同時にその男が何かに怯え、その恐怖を取り除くために強迫観念のようなものに突き動かされていることにも気が付く。

 

 

だが、気が付いたところで俺に何かできるようなことはない。俺にできる事と言えば、電気ウナギの様に雷をビリビリと放電させることぐらいだ。いや、さっきの一撃は偶々できたと考えたら今の俺は唯賢しいだけでの子供だ。

 

 

それにさっきから俺の頭の中ではうるさいほどの継承が鳴り響いている。それはヴァーリと向かい合った時の比にならない程の警鐘が俺の頭の中に鳴り続けている。

 

 

 

 

今すぐここから逃げろ!

 

 

あれは人間じゃない!

 

 

今ならまだ逃げられる!

 

 

 

 

そう言った言葉が頭にいくつも浮かび上がるが、俺はその場から動くことはできなかった。俺の頭の中にわずかだが、こういった言葉も浮かんでいるからだ。

 

 

 

 

ヴァーリを見捨てて逃げるのか?

 

 

自分さえ良ければいいのか?

 

 

今逃げたらヴァーリは死ぬかもよ?

 

 

 

 

こういった言葉が俺の頭の中にわずかだが流れていた。俺の非情になりきれない部分が、こうして俺の動きを邪魔していた。

 

 

そうしている間にも目の前の狂気に染まった男はヴァーリに向かって歩き始める。

 

 

「クソガキが!お前さえ、お前さえ生まれてこなければ!」

 

 

そう言うと男は無造作にヴァーリを蹴り始める。

 

 

ヴァーリはそれに対し、身を縮め込め身体を守る様に震えるだけだ。

 

 

そんな光景を俺は見ているしかできない。

そんな光景を目にして俺の頭の中で声が聞こえる。

 

 

【助けないんですか?】

 

 

俺はその言葉に返事を返すことができない。だが、頭の中に響く声は俺に問いかけることをやめない。

 

 

【目の前にいる少年はこのままだと死にますよ、それでもいいんですか?】

 

 

良いわけがない!

 

 

その声に対して俺は心の中で怒鳴り返す。だが、声は止まらない。

 

 

【ならなぜ動かないんですか?】

 

 

その言葉に対して俺は答えを返すことができない。

 

 

【そうですよね、貴方は死にたくない。だから少年を助けない、自分も殺されるかもしれないのだから】

 

 

違う!

 

 

【いいえ違いません。何故なら貴方は心の底から死ぬことを恐怖しているから】

 

 

それは!?

 

 

【だと言うのに貴方は自分が恐怖していることをあの少年にも味合わせるんですか?】

 

 

俺だって……俺だって助けてやりたいさ!でも、どうしようもないだろう!?俺みたいなやつに一体何ができるって言うんだよ!?

 

 

俺の嘆きに声の主はふっと笑う。

 

 

【なら感情のままに動きなさい。後は強く思いなさい。それだけで少年は救われます】

 

 

声の主はその言葉を最後に頭の中からすっと消えていく。

 

 

俺は声の主が言った言葉を考え悩む。頭の中では様々な葛藤が繰り広げられる。

 

 

 

 

助けたいでも死にたくない死なせたくないでも怖い見捨てたくない速く逃げたい一緒に逃げたいでも身体が動かない裏切りたくない立ち去りたい見殺しにしたくない解放されたいでも怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

 

 

次第に俺の視界は涙で何も見えなくなっていく。俺の頭の中は様々な感情がぶつかってぐちゃぐちゃに頭の中をかき回す。

 

 

「あああアアァァァァァァァァァァァ‼‼」

 

 

俺の中で大きくナニカが躍動する。

 

 

それと同時に俺の身体に落雷が落ちた。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

落雷が落ちた瞬間、ヴァーリの父は突然出来事に反射的にその場から飛び退く。それは生物として正しい選択だ。そして。それは正しく、その行動が彼を救った。

 

 

突如何もないところからヴァーリの父がいたであろう場所に巨大なプラズマが通り過ぎる。

 

 

「なっ―――――」

 

 

ヴァーリの父はプラズマの威力に呆気にとられる。プラズマの威力は想像を絶するものだ。プラズマは周囲に生い茂っていた木々、雑草まで消滅させ、まるでそこには初めから何もなかったかのように、痕跡を欠片たりとも残さず消し去ったのだ。

 

 

ヴァーリの父は正気に戻り、ヴァーリの姿を探す。あれほどの威力だ、ヴァーリも木々と一緒に消滅したのではないかと言う考えたからだ。しかし、その思惑は大きく外れていた。

 

 

「な、何故だ……」

 

 

ヴァーリの父は絶句する。何故ならあれだけのプラズマを浴びたにも関わらずヴァーリは怪我一つ負っていないのだから。

 

 

絶句するヴァーリの父は周囲の異変に気が付く。

 

 

少し離れた場所でバチバチと何かが放電するような音が聞こえるのだ。プラズマによって周囲を舞った土煙が消え始め、その姿をあらわにする。

そこに居たのは全身を青白い雷で纏い、放電し続ける小さな少年だった。しかし、ヴァーリの父はその少年に対して恐怖を感じずにはいられなかった。ヴァーリの父の記憶が正しければ、あの少年は偶然にもヴァーリの近くにいた唯の人間だったはずだ。ヴァーリの父はヴァーリが逃げる可能性も考え、少年は放置していたのだが、その考えは間違いだったことをすぐに悟る。

何だアレ(あの化物)は!?

 

 

ヴァーリの父は目の前の光景に思わず目を疑う。

 

 

少年は強大過ぎる、それこそ無限と言っても過言でほ無いほどの膨大のエネルギーをその身に渦巻かせ、身体中から青白い稲妻をバチバチと火花の様に音を鳴らせている。

 

 

ヴァーリの父はその光景を信じられないと言うような表情をしながら両手を前にかざす。狙いはあの人間(バケモノ)だ。

 

 

「こ、こんなことがあるはずがない……あり得るはずがないんだ……人間がこれほどの力を持つなんてあり得るはずがない!」

 

 

彼の眼には既にヴァーリは写っておらず、その眼には【雷帝】しか写っておらず、彼は目の前の現実を否定するかの如く魔力を練り上げ周囲に百の魔弾を展開し、雷帝に狙いを定める。

 

 

「消えろォォォ!」

 

 

ヴァーリの父の声と共に百の魔弾が雷帝に殺到する。それに対し雷帝は身動ぎ一つすることもなく、その攻撃を受ける。ヴァーリの父は攻撃がすべて当たったことに歓喜の声を上げる。

 

 

「は、ははははは!驚かせやがって!人間の癖に俺に楯突くからだ!」

 

 

ヴァーリの父ははははははと笑い続け、笑い終えると再びヴァーリに視線をやる。その視線にビクンと身体を震わせるヴァーリ。そして、不気味な笑いを浮かべながらヴァーリに近づいて行く。しかし、あの雷帝がこんな簡単にやられる者だろうか?その答えは否だ。

 

 

魔弾によって生じた土煙の中から青白い稲妻がバチバチと音を立てる。

 

 

ヴァーリの父は血の気の引いた青い顔で音が鳴る方向を向く。

そこには、とても百の魔弾を受けたとは思えない泰然と佇んでいる無傷な雷帝がヴァーリの父を睨め付けていた。

 

 

それには流石の彼も肝を潰しこの場から逸早く逃げ去ろうとその10枚の翼を駆使し、上空に羽ばたく。いくらあんな怪物でも空まで飛べないだろうと考えたのだ。しかし、その考えは雷帝の前では全て灰燼と化す。

 

 

雷帝はおもむろに上空に右手を翳す。雷帝の行動に呼応するように青白い稲妻はさらに勢いを増していく。上空に小さなプラズマが幾つも浮かび上がり総て右手に収束されていく。

 

 

「キエロ」

 

 

雷帝の無慈悲な言葉が引き金となり膨大と言う言葉すら生ぬるいエネルギーを持つ稲妻が天を翔る。雷帝から解き放たれた稲妻は天を駆け登り、寸分違わずヴァーリの父を飲み込み天へと消えていった。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

「まずいことになったぞぉ!」

 

 

アザゼルは人間界に降り、銀次と別れ私事で知人の元に訪れ話をしている最中にそれは起きた。アザゼルは今でも思い出すと震えだしてしまいそうなほどの恐怖を押し殺し、膨大な力を感じる場所に向かう。

 

 

俺はズキンズキンと痛む左目を抑えながら銀次の元に急ぐ。

 

 

「あれはまずい。あれはこの世界の根幹を揺るがす!」

 

 

街は全て停電しており住民たちも混乱している。信号機も仕事を休めている状態だ。所々で事故の様子が見られる。これも全て雷帝が降臨したが故の副産物だ。

 

 

「あれは!?」

 

 

俺は山の中から膨大と言う言葉すら生ぬるい青白い稲妻が、空に昇っていくのを唖然とした表情を見る。どうやら思っていたよりも事態は深刻らしい。最悪、街の一つや二つ消滅することを考えねぇとな。

 

 

俺は急いで銀次がいるであろう山に向かう。

 

 

「これは……!?」

 

 

そこで俺が目にしたのは青白い稲妻を纏った銀次とダークカラーの銀髪の少年が唖然とした表情で銀次を見ている光景だった。

 

 

「ぎ、銀次………?」

 

 

俺は恐る恐る銀次に話しかける。すると銀次は俺の声に反応したのか、ゆっくりと俺の方向を見る。

 

 

「あざ……ぜる、さん」

 

 

銀次は俺の姿を見た瞬間、今までの膨大なエネルギーを纏っていたのが嘘かの様に力を霧散させ、その場に倒れる。

 

 

銀次が倒れたと同時に今まで緊迫していた空気が弛緩し、その場に静寂を齎す。

俺は頭ガシガシとかきながら倒れた銀次を抱き上げる。見た所外傷とかはなさそうだ。銀次が無事なことを確認し、俺は銀髪の少年に声をかける。

 

 

「急で悪いが、お前さんには幾つか聞きたいことがある。悪いが俺に着いて来てもらってもいいな?」

 

 

俺の問いかけに銀髪の少年もコクリと頷く。

 

 

俺はその場から逃げるように神の子を見張る者(グリゴリ)に転移した。

 

 

その後、銀次に異常が無いか精密検査し、ヴァーリと言う子供に事情を聴いたところ俺は更に頭を抱えたくなった。まさか、目の前の少年が白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の所持者で今代の白龍皇だけでなく、悪魔とのハーフ、しかもルシファーの血縁者だったとは考えもつかなかった。しかし、銀次が助けた少年を無碍にすることもできるわけが無く、さらに白龍皇でルシファーの血縁者を公にするわけにはいかず、ヴァーリもアザゼルが引き取ることにした。

 

 

その後、1週間という長い眠りから覚めた銀次。無事に目が覚めた事に安堵する俺がいる中に、このまま目を覚まさなければよかったのにと思う自分がいたことに我ながら内心嫌悪する。

 

 

銀次とヴァーリの仲は良好らしく、一緒に行動しているところをよく見かける。俺は二人の仲が良い事に感謝しながら、今回の出来事を情報規制することに奔走し続けた。銀次の事は特に隠す必要がある、ヴァーリ以上にだ。人間が、それもたった7歳の子供が最上級悪魔、それもルシファーの血縁者を一方的に叩きのめしたなんて噂にさせる事などできるはずもない。俺はレイナーレに今回の出来事の一部を伝え、本格的に銀次のケアを頼んだ。

 

 

はぁ~、何でこうも俺のところに問題が集まってくるんだろうな

 

 

 

 




これにて雷帝と白龍皇は終了です。

次はどれだけの時を飛ばそうか考え中の作者!

もうそろそろマジで原作に入っておきたい。だけど、それまでに色々イベントをいれておきたい!


果たしてアザゼルさんは過労死は免れることができるのだろうか!?


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雷帝と英雄①

暫く更新できずにすみません。

此方も色々仕事が立て込んでおりまして、更新が難しくなっています。


できる限り書いて行きたいと思いますので、よろしくお願いします!


誤字の報告ありがとうございます!
今後も、よろしければ訂正お願いします!


「俺と共に人間の限界を挑んでみないか?」

「結構です」

 

 

この言葉が天野銀次と英雄曹孟徳とが交わした初めての言葉だった。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

あの事件以来、銀次はヴァーリと共に人間界で暮らすようになった。当然、子供二人だけでの生活などもってのほかだが、アザゼル自身総督と言う立場もあり、多忙な日常を送っており、とてもじゃないが人間界で暮らすことなどできるはずがなかった。そこで白羽の矢が立ったのがレイナーレだった。

レイナーレも仮とはいえ銀次の育ての親だ。人間界で暮らすことになった銀次の事が気にならないと言えば嘘になる。だからこそ、アザゼルは銀次が気を許しているレイナーレに、二人の保護者になるように頼んだのだ。

 

 

人間界で暮らすことが初めてなヴァーリは色々不慣れなことが多かったが、そこはレイナーレと銀次がフォローしつつ、平穏な日々を送っていた。アザゼルは銀次とヴァーリ、二人の身元が割れる事を恐れ、二人を学校に通わせることができないことを謝罪していたが、二人にとってそんなことは栓無き事。毎日平和に暮らすことができる事こそが二人の、何よりヴァーリにとっては幸せなことだった。

 

 

そんな二人は前回の事件の事もあり、ヴァーリからの強い要望もあり身体を鍛えることにした。

銀次とヴァーリは互いに組手や模擬戦などを行い、体術はみるみると上達していった。更に銀次は前回の事件で発覚した雷の力を制御することを念頭に置き、訓練に取り組んだ。銀次は5年の歳月をかけて雷の力を扱う事ができるように成長した。

 

 

銀次とヴァーリの模擬戦は体術のみならヴァーリに軍杯が上がるが、銀次は雷あり、ヴァーリは神器(セイクリッド・ギア)ありでなら銀次に軍杯が上がる。だが、ヴァーリが禁手(バランス・ブレイカー)を使った場合はヴァーリが銀次を完封させる。

 

 

このように実力で言うならヴァーリの方が高い。

だが、それは銀次が平常時の時に限っての話だ。銀次が一度雷帝化するとヴァーリは手も足も出なくなってしまう。一度だけ偶然にも模擬戦で雷帝化した銀次とヴァーリが戦う事があったのだが、その結果は凄惨なものだった。

 

 

ヴァーリは禁手(バランス・ブレイカー)を超える力覇龍(ジャガーノートドライブ)を短時間だが、使用したにも拘らず、手も足も出ずに殺されかけた。

その時は、偶然その場に居合わせたアザゼルとレイナーレが決死の覚悟で銀次を止め、ヴァーリは九死に一生を得た。それ以来、ヴァーリは雷帝化した銀次がトラウマになってしまった事は余談だ。

 

 

この出来事があった銀次とヴァーリがちょうど12歳の時

 

 

この出来事が引き金となって新たな事件が起きることを彼らは知らない。

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「この街で間違いないんだな?」

「ああ、随分と隠蔽工作が施されていたようだが間違いないだろう。つい最近発せられた力はこの街から感じた」

 

 

漢服を羽織った青年の言葉に制服にロープを羽織った青年が答える。

 

 

「この街に人外ではない、俺達のような超常な存在がいるのか」

「さあ、あれほどの力を持つ輩が、あれだけの力を発しておきながら今も尚この街に潜んでいるのかはわからないが、調べたら何かしら出てくるだろう」

 

 

彼らもヴァーリと同じように特別な力を持ったが故に、世界に受け入れられなかった者達だ。だからこそ、二人は自分たちと同じ力を持つ者の力を感じたこの街にやってきた。

 

 

「そいつと俺達は必ず会うことができるさ」

「それは神の御告げか?」

「いいや」

 

 

漢服を着た青年の右目に浮かぶ十字架が怪しく光る。

 

 

「運命は常に収束する……たとえそこにどんな過程があったとしてもね」

「……よくわからないが、曹操、お前がそう言うならそうなんだろうな」

「ゲオルク、君も英雄なら理解できる時が来るさ」

 

 

二人の青年は街の中に溶け込んでいった。

 

 

天野銀次とヴァーリ・ルシファーが住む街へ

 

 

そこが地獄への入り口だという事を知らずに

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「ん?」

「どうしたんだ銀次?」

「いや……何か嫌な感じがしたから」

「敵か?アルビオン」

『いや、それらしき気配はしない。気のせいではないか?』

「それならいいんだけど……」

 

 

銀次の言葉にアルビオンが答える。

アルビオンはヴァーリに宿る神器(セイクリッド・ギア)白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)に宿っている龍だ。ヴァーリとアルビオンが会話できるようになったのはヴァーリが銀次と出会い、精神面が落ち着いたときだ。それ以来、ヴァーリを通して銀次とアルビオンは良好な関係を築いている。

 

 

「それより今日はレイナーレさんが神の子を見張る者(グリゴリ)に帰ってるし、昼はどうする?」

「ラーメンでいいんじゃないか?」

「またラーメンか」

 

 

 

銀次の何ともない呟きにヴァーリが反応する。

その時、銀次はしまったと言った表情をする。銀次は既にヴァーリに言ってはいけない言葉(タブー)を言ってしまったのだから。

 

 

「ん、ラーメンはいいぞ。それに店によって異なるスープ、麺の硬さや柔らかさ、それを引き立てる具材、調味料の割合、どれをとってもラーメンには欠かせないパズルのピースだ。それらがすべて合わさった時、ラーメンは完成するんだ。そもそもラーメンにも歴史と言うものがあるんだが、それがまた―――――――――」

「と、とにかく!今日の昼はラーメンでいいから、その話はまた今度聞かせてよ!」

「……それもそうか、ならまた今度話の続きをしてやる」

 

 

ヴァーリにとって話を続けることも大事だったようだが、実際に食す方に天秤が傾いたようだ。銀次はヴァーリが話をやめてくれたことに内心ホッとする。ヴァーリはラーメンに目が無く、語りだすと下手なことでは止まらなくなる。それこそ、先程の様にラーメンの歴史まで語りだそうとする始末だ。アザゼルと銀次は一度被害を受けており、その時は一時間近くヴァーリからラーメンについて熱く語られた。

 

 

「と、ここだ。ここの裏路地にある店がそうだ」

「へぇー、中々古風な感じのお店だね」

 

 

銀次とヴァーリは店のドアを開けた。

 

 

「やあ、待っていたよ」

「「!?」」

 

 

瞬間、銀次とヴァーリは臨戦態勢に入った。

 

 

「ここは……」

 

 

銀次は直感的にこの場が何処なのか悟る。

この場は既に先程まで居た場所とは異なる事に。その原因は、目の前の青年二人にあることも。

 

 

「アルビオン!」

『これは絶霧(ディメンション・ロスト)!それだけではない、あの小僧の持っている物は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)だと!?』

「あれがアザゼルの言っていた聖槍か、凄まじいな」

 

 

ヴァーリは軽口をたたいているが、内心聖槍の圧倒的なオーラに気圧されかけている。忘れているかもしれないが、ヴァーリは悪魔だ。悪魔にとって聖なるものは危険極まりない。それこそ聖水など触れようものなら火傷では済まないだろう。その最上位に位置する聖槍に触れるとどうなるかは想像に難くない。

 

 

「えっと……ヴァーリのお友達?」

「生憎だが、俺の友達はあんな物騒な物をもってないよ!」

『状況を考えて口を開けカミナリ小僧!』

 

 

銀次のあて外れな言葉にヴァーリとアルビオンから罵声が飛び出る。

 

 

「ふむ、随分幼いんだな。一人は悪魔とのハーフでもう一人は神器(セイクリッド・ギア)の気配すら感じない唯の人間か」

「本当に彼らが例の力の持ち主なのか曹操?」

「ああ、俺の目に間違いはないよ。彼こそがあの力の持ち主だ。神器(セイクリッド・ギア)もなしに一体どういった絡繰りを使ったのか非常に気になるが、それはのちのち知ればいい事だ」

 

 

ゲオルクの言葉に曹操は若干興奮した様子で返事を返す。

ゲオルクはヴァーリはともかく、銀次はどう見ても唯の人間にしか見えなかった。とてもじゃないが、曹操の目にかなうとは思えない。

 

 

「俺達に何の用だ、聖槍使いに霧使い」

 

 

ヴァーリは二人を殺気を込めながら睨みつけるが、二人は気に留めずに返事を返す。

 

 

「そうだね、まず自己紹介をしよう。俺の名前は曹操、彼の三国志の英雄曹孟徳の子孫さ。こっちは」

「ゲオルク・ファウストの末裔、ゲオルク。彼の覇道を支える魔術師だ」

 

 

二人の言葉に唖然とする銀次とヴァーリ。

 

 

『英雄の末裔で神滅具(ロンギヌス)所持者、随分と数奇な運命を持つ輩だな』

「それは褒め言葉として受け取らせてもらうよ、白き龍(バニシング・ドラゴン)

 

 

ヒリヒリと焼けつくような緊迫した空間

 

 

互いに軽口をたたき合っているが、どちらかが動き出した瞬間に戦いが始まる。

そんな緊迫した空気の中、曹操は口を開いた。

 

 

「で、君たちの名は教えてくれないのか?俺達にだけ名乗らせるのは不公平だと思うが」

「俺の名はヴァーリ、こっちのアホ面は銀次だ。特によろしくと言うつもりはない」

「ちょ、アホ面って何さヴァーリ!」

 

 

怒る銀次を放置し、現状を冷静に分析するヴァーリ。できるなら名を名乗ることは避けたかったが、あのまま自ら名乗り出なかった場合、銀次が代わりに名乗っていただろう。ヴァーリのファミリーネームまでご丁寧に話したうえでだが。そう言った最悪の事態を避けるためにヴァーリは自ら名乗ることにしたのだ。

 

 

「銀次とヴァーリ、か……中々良い名だ」

「そんなことはどうでもいい。さっさと元の場所に戻してくれないか?生憎昼ご飯がまだなんだ」

「そうか、それは悪い事をしたな」

 

 

曹操は口では謝罪を述べているが、元の場所に戻そうとする気配が感じられない。いや、曹操は何かを推し量っている。

 

 

「銀次君だったな………どうだ、俺と共に人間の限界に挑んでみないか?」

「結構です」

 

 

銀次の即答に周りの空気が固まる。

 

 

曹操もまさか即答されるとは考えてなく、ゲオルクも一瞬で返答を、それも拒否をするとは考えてもいなかったのが半ば唖然としている。

 

 

ヴァーリは、むしろ何故断られないと思っていたんだと言うような表情をし、銀次は二人がフリーズしていることから何か間違ったことを言ったのか首をかしげている。

 

 

ここで冒頭に戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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雷帝と英雄②

書いてて何書いてるんだろって、なってる作者です。

誤字の報告、感想、評価、本当にありがとうございます!

今後も更新頑張っていくので、よろしくお願いします。

他の作品も追々再開していきたいとも思うので、よろしくお願いします!


何とも言えない空気が辺りを包み込む中、曹操は口を開く。

 

 

「……理由を聞いていいか?」

「いや、そんなことに興味ないし。(第一そんな死にそうなことは御免だ)…」

 

 

曹操は銀次の後半の呟きは聞こえなかったが、その返答に納得する。それと同時に銀次が唯の馬鹿ではないことも理解し、銀次の認識を改める。更に曹操は銀次とヴァーリの関係性を冷静に分析する。

銀次とヴァーリは一見すると対等な関係見えるが、実はそうではない。実際、ヴァーリは銀次に対して絶大な信頼をしている。対して銀次は、ヴァーリの過去を知っていることから過保護と言ってもいい程、気を使っている。以上のことからどちらか一方をだ王することができれば、もう一人も崩れると曹操は考えた。

 

 

「ふむ、ゲオルク」

「何だ?」

 

 

曹操の脳内ではすでに次の行動パターンが幾つか浮かび上がっている。

 

 

 

 

根気よく説得を続ける

 

 

取り押さえ、洗脳する

 

 

自身の障害になる前に排除する

 

 

 

 

できるのなら一つ目が理想だろう。だが、銀次とヴァーリの曹操たちの認識は得体のしれない者だろう。そんな輩の説得を聞き入れてくれるとは思えない。

なら取り押さえ、洗脳することが良いかもしれないが、未だ相手の実力は知れない。だが、白龍皇が悪魔という事を考慮するなら聖槍を使う此方はかなり有利に戦闘を進めることができるだろう。しかし、此処で一番の不安要素は銀次の実力が全くもって読めないという事だ。中途半端な先入観は戦闘では命取りになる。

なら残る選択肢は一つだけだ。

 

 

「彼らには悪いが、舞台から退場してもらおう」

「戦闘か、お前の指示に従おう」

 

 

曹操とゲオルクは戦闘態勢に入る。

曹操は聖槍から神々しいオーラを放ち、ゲオルクは辺りに霧を散布する。

 

 

銀次とヴァーリも曹操たちが戦闘態勢に入ると同時に、臨戦態勢から完全な戦闘態勢に入る。特にヴァーリは聖槍が相手だ。ちょっとした掠り傷が命取りになる。

 

 

「アルビオン!」

『承知した!』

『Vanishing Dragon Balance Breaker‼』

 

ヴァーリは早くも禁手化(バランス・ブレイク)し、アルビオンの力を具現化させ全身鎧(フルプレート)をその身に纏う。銀次も両手に鉄鋼が付属しているグローブを填め意識を変える。

 

 

「見た目に反して中々の強さを持っているようだ。だが、それは想定内だ」

 

 

曹操は聖槍を中段之構えをし、ヴァーリに向かい肉迫する。一歩目の蹴り足で間合いの半分を潰す。ヴァーリは簡単に間合いを詰めさせまいと牽制も兼ねた魔弾を放つが

 

 

魔法の矢(マジックアロー)

 

 

後方からゲオルクによる援護射撃により、ヴァーリの魔弾は全て相殺される。

ヴァーリの持つ魔力は生半可なものではない。だからこそ、人間であるゲオルクに牽制とはいえ、魔弾をいとも簡単に防がれたことにわずかながら動揺が走る。

その動揺は曹操が残りの間合いを潰すには十分な時間だった。

 

 

「やはり年に比例し、自信過剰なところがあるようだな」

 

 

曹操は聖槍を伸ばす。狙いはがら空きな懐。間合い、拍子ともに曹操に味方している。ヴァーリは急いで身体を捻り致命傷を防ごうと回避を行うが間に合わない。だが忘れてはいけない。この場にヴァーリの味方がいることを。

あと一歩で聖槍がヴァーリの腹を貫く、そんな際どい状態で曹操の動きが止まる。いや、止められる。曹操の腕には鋼鉄で出来たベルトが巻きついており、曹操の動きを阻害する。

 

 

「へへ、油断は駄目だよヴァーリ」

「うるさい、少し手を抜いていただけだ」

 

 

ヴァーリはすぐさま飛翔し、曹操の間合いから逃れる。その際に魔弾をいくつか放つが、全て霧に阻まれ曹操には届かない。

 

 

「こんなもので俺を拘束できると思わないことだ」

 

 

曹操は腕に巻きつくベルトを聖槍で切り離そうとするが

 

 

「っ!これは唯のベルトじゃないな!」

 

 

聖槍でベルトを斬りつけるがベルトは斬れず、尚も曹操を拘束し続けている。

 

 

「アザゼルさん特注のベルトだ!ついでに喰らっとけ、二十万ボルト!」

 

 

銀次はベルトに電流を流し込む。曹操もまさか、人間が身体から電気を発生させることができるとは想定している訳もなく、その身に二十万ボルトの電流を浴びる。

 

 

「ぐっ、やるじゃないか!君の身体にそんな絡繰りがあったなんてね!」

 

 

曹操は先程の電撃でベルトが離れたことを確認すると、ゲオルクの居る後方まで後退する。ヴァーリも上空から地上に降り、銀次の隣に並ぶ。

 

 

「ゲオルク、先程の彼の一撃に魔術的要素は確認できたか?」

「いや、確認できなかった。驚くことにあれは掛け値なしの自然現象だ。おそらく奴の身体に何かしらの秘密があるのだろう」

「そうか、ますます興味深いよ銀次君。やはり君は俺達と共に来るべきだ。今からでも考え直さないか?」

「断る!あんたを見てると何か嫌な感じがする。それに今ここで俺らを殺そうとしている奴の事なんか信用できないね!」

「そうか、なら力づくでいかせてもらおう!」

 

 

銀次と曹操がぶつかり再び目まぐるしい攻防が始まる。

曹操が聖槍で突けば、銀次はそれを躱し懐に潜り込もうと試みる。だが曹操自身も不得手の間合いに銀次を侵入させるわけもなく、薙ぎ払い銀次を後退させる。

 

 

聖槍の刺突は唯の突きではない。その一撃は神をも殺しうる万夫不当の一撃、邪を払い、全てを圧砕するかの一撃。そんな一撃を銀次は持ち前の戦闘感によって避け続ける。銀次自身も電撃を放ち牽制を行っているが、それも焼け石に水だ。銀次の雷撃は聖槍に引き裂かれ曹操には届きえない。全力の一撃を放てば話は別かもしれないが、銀次が発電できる電力には限りがある。万が一電池が切れることがあれば、それが銀次の最後になるだろう。だからこそ、二人の攻防は一進一退の膠着状態に陥っているのだから。

 

 

ヴァーリとゲオルクの戦いは静かながら互いに高度な知能戦を行っている。そんな中でゲオルクは密かにあせりを覚えていた。

様々な魔術を使いヴァーリを攪乱し隙を作りだそうとするが、ゲオルクにそのようなチャンスは全くやってこない。禁手(バランス・ブレイク)によって向上したヴァーリの機動力にゲオルクの攻撃速度がわずかに遅れているのだ。

加えて、ゲオルクは魔術師であり、近接戦闘は得意としていない。ヴァーリは執拗に近接戦闘に持ち込もうとゲオルクに肉迫するが、その度に魔術や神器(セイクリッド・ギア)を使いヴァーリの動きを阻害している。ヴァーリが近づこうとするが、ゲオルクが動きを阻害し後退させる。先程からその繰り返しだ。

だが、消耗しているのは互いに同じだったとしても先に根を上げるのはどちらか明白だった。英雄の子孫とはいえ人間の魔術師であるゲオルク、対して悪魔であり、その魔力量は魔王にも匹敵するほどの要領を持つヴァーリ。どちらが先に倒れるかは明白だ。

加えて、絶霧(ディメンションロスト)の所持者であるゲオルクが創りだした空間はゲオルクが常に維持している。このまま消耗し、空間を維持することもできない程消耗すればこの空間は崩れ去る。それはすなわち曹操とゲオルクの敗北につながる。

 

 

ゲオルクは曹操と銀次の戦闘を確認する。彼らの戦闘もゲオルクたちと似通っている。ならどちらか一方のバランスを崩すことができれば、勝ちを得られるのはないかとゲオルクは考える。どのみち先に動かなければ曹操とゲオルクは敗北する。ゲオルクは曹操に念話を行う。

 

 

このゲオルクの行動によってこの場は大きく動き出した。

 

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「いやはや、恐れ入るよ。英雄でもなんでもない唯の人間が聖槍に対抗しうるとは、やはり俺の目に狂いはなかったようだ」

「そっちの都合を押し付けてもらっても困るんだよ!さっさとご飯食べたいのに!」

 

 

正直な話、銀次の電池は結構ギリギリなところだったりもする。昼ご飯を食べる前だったこともあり充電は不十分な状態、さらに格上との戦闘で手を抜く余裕は一切ない。

 

 

あと二十万ボルト十回、五十万ボルト五回、百万ボルト一回ってとこかな。どう考えても決定打を与えるなら百万ボルトは欲しいし、だからって出し惜しみしてたら殺される。やばっ、結構詰んでだけどこの状況。

 

 

銀次は冷静に残り電池残量を考えると曹操に勝てる気がしなかった。万全の状態で闘えばどうにかなるかもしれないが、今はたらればを言っている状況でもない。だが、一つだけ状況を打破する術がある。

 

 

あの暴走状態になればどうにかなるかもしれないけど、あの時は俺の意識はないし、無差別に破壊するから 近くにヴァーリがいる状況では使えない。しかもあの状態がいつ解けるのかも俺にはわからないし。

 

 

確かに最上級悪魔ですら容易く葬ったあの状態なら目の前の敵を簡単に打倒することができるだろう。しかし、その状態の時は銀次に一切意識はない。さらに言うならば、どうすればあの状態になるのかも銀次自身解っていなかったりする。

そんな状況で曹操は大きく後ろに後退する。突然の行動に銀次も追い打ちをかけられず、そのまま容易に距離が開く。

 

 

「銀次君、君は素晴らしい。人間でありながら武器や道具に頼らず、その身一つで聖槍と闘うその姿、まさしく英雄に相応しい。今なら君を手荒に扱わずに済む。俺と共に覇道を歩もう」

「生憎だけど、俺は覇道とかそう言うのに興味はないんだ」

「………そうか、なら説得は諦めよう。英雄たる君には俺が全力を出すに相応しい。だからこそ、ここからは敬意をもって()らせてもらいに行くよ」

 

 

曹操は聖槍を地面に刺し、右手を右目に持っていきコンタクトのようなものを外す。

 

 

「光栄に思うと言い。俺がこの目を見せるのは君で二人目だ」

 

 

曹操の右目の瞳は黄色くなり、黒い十字架が浮かぶ。

 

 

「さあ、第二幕の開始だ」

 

 

 

 



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雷帝と英雄③

急いで書いたので誤字が多いと思います。


本当にすまない……


曹操の目が露わになった途端

 

 

曹操の纏う空気が一変する。

 

 

「「ッ!?」」

 

 

この刹那、曹操と向かい合う銀次、ゲオルクを相手するヴァーリの身体を形成する全細胞が最警戒状態に入る。

銀次は曹操からすぐさま間合いを開き、ヴァーリは銀次の援護にと牽制を行いつつ、銀次の元まで駆けつける。

 

 

「……ヴァーリ」

「わかっている!」

 

 

銀次は額から流れる嫌な汗を流しながらも目の前にいる曹操から目を離さない。いや、離せないでいた。

銀次は直感的に悟っていた。

 

 

奴から一瞬でも目を逸らしたら最後、あの聖槍が自身を貫くという事を

 

 

対してヴァーリは、今までよりも怪しく輝く聖槍の光に言い表せない不愉快な感覚、それでいてヴァーリの中の悪魔としての本能が自身に語り掛けている。

 

 

あの聖槍に掠りでもしたら消滅すると

 

 

銀次とヴァーリの警戒態勢に苦笑を零す曹操。

ゲオルクは曹操と並び大きく息を吐く。

 

 

「随分と消耗しているようだが大丈夫か?」

「問題ないと言えば嘘になるがまだ大丈夫だ。この空間を維持するには支障はない」

「そうか、ならここからは俺が二人の相手をしよう。ゲオルクと彼らの相性は余り良くない」

 

 

それもそうだ。ヴァーリのような規格外の魔力を持つ者は例外だが、銀次の雷とゲオルクの霧とでは単純に相性が悪い。

現在は消耗しきっている銀次だが、万全の状態でなら最大10億ボルトまでの発電することが可能だ。当然乱発できるような代物では無い。今の消耗しきっている銀次が相手だとしても、ゲオルクは不利な戦いを強いられることになるだろう。だからこそ、曹操はゲオルクと言う不安要素を消し、自らの全戦力をもって二人を排除することにしたのだ。

 

 

「最終通告だ。君達を殺すことは本当に忍びない。今ならこちらも矛を収めよう。俺と共に覇道を歩んでくれないか?さあ、俺が5つ数える間に決めてくれ。ここで死ぬか、それとも俺と共に覇道を歩むか………1」

 

 

2とカウントを始める曹操。

銀次とヴァーリは視線を交わし決まりきった返答を返す。

 

 

「3……」

「悪いけど『4……』俺達はお前らとは『……5ッ!』」

 

 

銀次の返答が途中だという事すら気にも留めず、曹操は数十mもあったであろう間合いを瞬時に潰し銀次とヴァーリの背後に回る。

突然の出来事に銀次とヴァーリの眼には目の前から曹操が消えたように錯覚したことだろう。二人は反射的に気配のする後ろを振り向く。

 

 

「な⁉後ろ⁉」

「迅ッ……」

 

 

曹操は聖槍を横薙ぎし二人を纏めて両断しようとするが、ヴァーリの卓越した反射神経により二人が真っ二つになることは避けられた。

ヴァーリは咄嗟の出来事に反応しきれていない銀次の頭を踏みつけ強引に身体を伏せさせ、自身は銀次の頭を踏み台に上空へ避ける。

 

 

「クスッ」

 

 

曹操は不意を突いた初撃を避けられたにも拘らず笑みを浮かべる。まるで最初の一撃で終わらなかったことを喜ぶかのように。そしてこれから始まる死闘を喜ぶかのように。

 

 

「銀次!」

 

 

ヴァーリが怒声を張り上げると同時に両手を広げ準備を始める。

 

 

「オッケー、頼んだよ!」

 

 

ヴァーリの意図を理解した銀次はすぐさま曹操に突貫する。

対して曹操は直線的かつ無防備にこちらへ向かってくる銀次に嘆息しながら聖槍を上段に構え狙いを定める。その眼はそのような反撃しかできないのかと言う失望した色が混ざっている。

 

 

だが、その考えはすぐに間違いだという事に気づかされる。

 

 

『Half Dimension‼』

 

 

機械的な音声が鳴り響くと同時に曹操の周囲の空間が捻じ曲げられる。

 

 

「ハハハッ!この拘束される様な感覚は白龍皇の力か!」

「隙あり!」

 

 

ヴァーリの能力により聖槍を放つ拍子をずらされた曹操は簡単に間合いの侵入を許してしまう。雷を込めた銀次の右ストレートが曹操の顔面に直撃する。だが、唯で殴られる曹操ではない。曹操は銀次の拳が自身に当たる瞬間に首を捻り威力を殺しダメージを軽減させる。更にそのまま身体を回転させ足払いに繋げ銀次を反転させる。そこから喉元に向けて石突を繰り出す。銀次は両手を地面につけ首を傾けることによってその一撃を避け、身体から雷を放電することにより曹操を牽制する。雷により曹操の身体が硬直したその隙に銀次はその場から離れる。

 

 

「ふん」

 

 

離れたのも束の間、曹操は銀次と距離が空いたことを確認するや否、銀次に向けて聖槍を無造作に投擲する。銀次は聖槍に込められた聖なるオーラの余波を受けながらもその場から飛び退き聖槍の一撃を避ける。標的を失った聖槍は地面に着弾すると同時に聖なるオーラが爆ぜ爆発する。

 

 

「嘘ぉ⁉」

 

 

銀次は余りの威力に愕然とした表情をする。半径5m程のクレーターが聖槍の威力がどれほどなのかを物語っている。唯の人間じゃなくてもあの一撃を受けて無事に済むものはいないだろう。

 

 

「銀次‼」

 

 

ヴァーリの怒声が聞こえると同時に銀次の目に写ったのは、聖槍を腰に溜め銀次を貫かんとしている曹操の姿だった。

 

 

「え……」

 

 

銀次の間抜けな声が漏れる同時に曹操は腰に溜めた力を解放し、銀次の心臓めがけて聖槍を突き放つ。

 

 

「銀次ィ‼」

 

 

ヴァーリの声も空しく、その矛先は銀次を貫いた。

 

 

 

………

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

「えっ……」

 

 

普段の俺なら発することのない間抜けな声が俺から零れ出る。

 

 

「案外呆気ないものだ」

 

 

そんな俺の気持ちを露知らず、曹操は感慨にふけることもなく、淡々とした言葉を零す。

 

 

曹操が銀次を貫くまでに行った動作はいたって単純だ。投擲した聖槍を回収するために目にも留まらぬ速さで走り聖槍を回収し突きの動作を行い銀次を刺し穿つ、ただそれだけの事だ。強いて言うならば聖槍の破壊力に目を奪われてさえなければ銀次にももう少しやりようはあったかもしれないが、それは後の始末だ。

 

 

俺は曹操の何気なく零した一言によって頭の中のナニカがプツンと切れるような感覚を味わう。

 

 

「うぅあああぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

 

 

俺の悲しみと怒りが混ざり合った怒声が空間に響き渡る。俺は我を忘れ上空から奴に向けて突貫する。

 

 

「今までとは比べ物にならない程の魔力⁉魔力の暴走か⁉」

 

 

奴は何か言っているようだがそんなものどうでもいい。聖槍に貫かれた銀次は力無くその場に倒れ辺りに赤い水たまりを作っている。パッと見ただけでもわかる、重傷だ。今は一刻も早く銀次に応急処置を施さなければならない。

 

 

「だが、そんな直線的な動きでは!」

 

 

曹操は聖槍を伸ばしヴァーリを貫こうとする。対するヴァーリは避ける時間すらも惜しいと言わんばかりに籠手の部分に障壁を展開し、聖槍の一撃を防ごうとするが

 

 

『落ち着けヴァーリ!その一撃は悪魔であるお前に受け止めきれるものではないぞ!』

「くっ!禁手(バランス・ブレイク)での状態でも聖槍は受け止めきれない!」

 

 

俺は受け止めきれないと悟るや否、すぐさまその聖槍の一撃を防ぐのではなく矛先を逸らすことに切り替える。奴はまさか受け流されるとは思ってもいなかったのか続く連撃がわずかに甘くなっている。俺は奴の繰り出す連撃を最小限の動きで逸らし躱し続け銀次の元へ向かう。だが、銀次の元へは行かせないと言っているのか奴は俺の前に立ちふさがる。今は貴様の相手をしている暇はないんだ!だから

 

 

「邪魔をするなぁぁぁ!」

 

 

俺は脚鎧に魔力を集中させ回し蹴りを放つ。曹操は躱せないと悟ると聖槍で防ごうとする。普段の俺なら聖槍に触れることを恐れ攻撃をやめていただろうが今は違う。すぐに銀次の手当てをしなければいけないんだ!

 

 

「あ”あ”あ”あ”!」

 

 

俺は奇声を上げながら脚を振りぬく。曹操は俺の一撃を受け止めきれないと悟ると自ら横に跳び威力を殺す。威力は殺されたが問題はない。曹操との距離は取れた。今のうちに応急処置を!

 

 

「銀次!」

 

 

俺はうつ伏せに倒れる銀次を仰向けにし、呼吸の確認をする。問題ない、呼吸は浅いが息はある。それに盛大に貫かれ腹に風穴が空いているが致命傷の場所ではない。おそらくこいつは聖槍に貫かれる瞬間、咄嗟にグローブで矛先をずらしたんだ。だからこそ、聖槍に貫かれても尚、こうして息をしている。致命傷でないとしてもこの出血量は流石にまずいが。俺は傷口に手を翳し治癒を行う。残念ながら俺は治癒はあまり得意ではない。俺ができるのはせいぜい応急処置ぐらいなものだ。だが、その場凌ぎにはなる。

 

 

「やれやれ、随分とお怒りのようだな」

 

 

曹操は俺の蹴りをものともしていないと言わんばかりにピンピンとした姿でこちらに向かって歩いてくる。その飄々とした姿が、銀次を殺そうとしたこいつが、憎くて仕方がない。だが、今はこいつに構っている時間はない。施したのはあくまで応急処置のみだ。時間が経てば再び傷口が開くだろう。

 

 

「今すぐこの空間から出せ」

 

 

俺は抑えきれない怒気をまき散らしながら曹操を睨め付け言う。だが、当の本人はそれを涼しい顔で受け流し返事を返す。

 

 

「それは無理な相談だ。君たちは俺が覇道を進むには些か許容しがたい障害になりうる存在だ。残念だが仲間になってもらえないなら殺すしかない。それだけ君達を評価していると考えてくれ」

 

 

此奴……!何が何でも俺達を逃がすつもりはないと言うことか。どうする、今の魔力で行けるか?いや、やるしかない!出来る出来ないかじゃない!どうにかするしかない!何より、銀次を死なせるわけにはいかない!

 

 

「我、目覚めるは 

 

 覇の理に全てを奪われし二天龍なり

 

 無限を―――――――」

 

 

詠唱の最中に曹操の手元から聖槍が伸びる。だが、その矛先は俺に向かっていない。焦って外したか?いや違う!奴の狙いは

 

 

「覇龍の詠唱何てものを悠長に待つ義理はない。さあ、選べ」

 

 

友か自分か―――――――――――

 

 

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ‼」

 

 

俺は銀次に向かう凶刃を受けあっさりとこの身を地面に落とした。

 

 

 



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