Grand Order Of Fate (レモンの人)
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ぷろろーぐ

久々の連載での投稿となりますが、頑張ります







「はーい、入ってまー────って、うぇええええええ!? 誰だ君は!?ここは空き部屋だぞ、ボクのサボり場だぞ!?誰の断りがあって入ってくるんだい!?」

「はいはい、ちょいと休憩っと」

 

ロマ二・アーキマン…愛称Dr.ロマンは、突然自分の休憩所に入ってきた青年を見てビビった。相手を睨むような険しい目、ボサボサの黒髪、右頬には生々しい傷跡…どう見てもチンピラです本当にありがとうございました、な容姿をした彼は突然ポケットから箱を取り出して何か棒のような物を取り出した。

 

「こら!未成年は喫煙禁止だって学校で習わなかったのかい──んっ!?」

「ちげーよ、ココアシガレットだ。今は禁煙中だっての」

 

鬱陶しそうな顔をした彼は一本をロマンの口に突っ込んだ。ココアの苦味に一瞬顔が歪むがすぐに慣れた。

 

「ぷはっ!……っと言うより、君集会はどうしたんだい!?」

「バックれた」

「バックれちゃダメでしょう!」

「エリートの溜まり場だぜ?俺が居ると邪魔だろうが」

 

オマケに「負け犬」やらなんやら陰口叩かれて酷かったんだぜ、などと文句を垂れながらココアシガレットを愉しむ彼を見て、ロマンは急に青春ドラマに出て来る不良主人公を思い出した。

 

“主人公が悪友と共に屋上で喫煙しながらサボる。”

 

ベタだが面白い、そうロマンが含み笑いをしていたその時…。

 

───突然爆発音が響いた。

 

『緊急事態発生。緊急事態発生。中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。』

『中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。職員は速やかに第二ゲートから退避してください。』

『繰り返します。中央発電所、及び中央―――』

 

「なんだなんだ!?!?」

突然の激震・火災警報その他諸々が流れる中、青年は一瞬ココアシガレットを取り落としつつもダイビングキャッチしてまで受け止めて口に咥え直した。この非常実態でも余程食い意地が張っているらしい。

 

「君の名前は!?」

「藤丸 立香。ダチからはぐだ男って言われてた」

「なんで!?」

「顔みりゃ分かるだろ。ダルそうな顔してるだろ?」

「よし分からん。それより、君は外に逃げて救助を要請して欲しい。僕はスタッフを召集して消火・復旧活動を行う!」

「了解」

 

青年は軽く敬礼モドキのようなポーズをしてから走り出し…思い出して振り向いた。

 

「あんたの名前は?」

「僕はロマ二・アーキマン。気軽にDr.ロマンと呼んでいいよ」

「よろ」

「絶対に寄り道するんじゃないぞ〜!」

そして、彼は一気に廊下へと走り出していった……。

 

 

*********************

 

中央管制室

 

「うへぇ…こりゃR指定間違い無しだぜ」

 

中央管制室の様子が気になりこっそり覗きに行った俺は、その状態に絶句した。いや、昔縄張り争いで全面戦争になった時にダチが相手の顔面を金属バットでフルスイングしたあの辺りでグロには耐性付いたんだけどな。もう肉片やら骨やらが飛び散って酷いものだ。

 

「生存者はいるか〜!」

 

試しにドラマみたいに大声で叫んでみたが…反応は無い……いや、あった。動くものが見えた。

「ネズミじゃなきゃいいけどな…」

そっと歩きながら俺は、生存者に向かった。

 

 

 

「せん…ぱい……」

「うわぁ…」

 

生存者はいた。いたはいいが、状態が酷い。上半身しか残っていない…そう、下半身は瓦礫で潰されてしまったらしい。辛うじてその髪と眼鏡で生存者が「俺を先輩認定している」マシュ・キリエライトという人物である事だけは分かった。

 

「大丈夫かお前」

「ぇぇ……でも…半身の感覚が無いんです。どうなってますか…?」

「うーん…いい報告と悪い報告があるがどっちがいい?好きな方を選べ」

「悪い報告から…」

「腰から下が無い」

「そう…ですか……」

「が、幸いにもローラーで轢かれたように潰れたから多分出血多量。これがいい報告。おめでとう、楽に死ねるぜ」

「全然…嬉しくないです……」

「他の奴は生きてるかどうかも分からん。すげぇ爆弾を仕掛けたみたいだな…全くよぉ……ん?」

 

ブツブツと呟いていると、マシュが俺のズボンを引っ張った。

「なした?これから救難メッセージを送信せにゃならんのに…」

 

「───手を…握ってください」

 

「手?それで死ぬ恐怖から逃げられんならお安い御用だ」

 

その通りに手を握ったタイミングで、瓦礫が崩れて出入り口が塞がれてしまった。

 

 

 

「謀ったなマシュ!」

「謀りません!というより、瀕死の人間にツッコミ役やらせないでください!」

「あーぁ…最後の晩餐がココアシガレットだなんて……」

 

口惜しげに短くなったココアシガレットを噛んでいると、アナウンスに不穏なワードが流れ始めた。

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます。』

 

『近未来百年までの地球において 人類の痕跡は発見できません』

 

『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』

 

『中央隔壁 封鎖します。館内洗浄開始まであと180秒です』

 

「……隔壁、閉まっちゃい、ました……もう、外に、は」

「あー!!!最期に厚切りのバームクーヘンが食いたかったぞ〜!てか最期が駄菓子は無いだろ!駄菓子は!!!」

「あの…私にも一本……」

 

『コフィン内マスターのバイタル 基準値に達していません。レイシフト 定員に達していません。該当マスターを検索中・・・・発見しました。適応番号48 藤丸立香 をマスターとして再設定します』

     

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始します。』

 

「───〜!!!あぁ分かったよ!ほら、一本」

「ありがとう…ございます……うわ苦ッ!?」

 

“レイシフト開始まで あと3”

“2”

“1”

 

『全工程 完了。ファーストオーダー 実証を開始します。』

 

俺達の視界は突然真っ白になった………。




以上、ぷろろーぐでした。モチベーションを維持しながら頑張っていこうと思います…。


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A.D.2004 炎上汚染都市 冬木
冬木にて…1


今回は冬木編突入です。いよいよあのサーヴァントが登場します。今回から、主要キャラの解説を毎話後書きに記載します。






「───っ!?」

 

気がつくと、そこは燃え盛る廃墟ばかりが広がる都市だった。手に残る温もりを少し名残惜しく握りしめると、周辺に何か戦える物が無いか探した。

戦う事で培われた経験がこの事態を危機と決め、身を守る物を探す事が最適解と決めたのだ。

 

「ったく…なんなんだこれは……」

 

取り敢えず、まだ使えそうな長い鉄パイプを瓦礫から引っ張り出した。これは使った事がある武器だ。

 

「取り敢えず、生存者を探すか………」

 

まずは情報収集だ。

慎重に移動しながら、俺は周囲に目を光らせた。見た感じ人間は居ない………闊歩する骸骨は別として。武装している辺りヤバそうな雰囲気がプンプン漂っている。筋肉も無いのにどうやって体動かしてんだろう?

 

「なんだありゃ」

 

そう思っていた時、足で蹴ってしまった鉄パイプが瓦礫に当たった。それにより瓦礫が崩れ、音が立つ。

 

「あ」

 

気付いた時は既に手遅れだった。骸骨達総勢4体が鈍刀を手に襲い掛かってきた。

 

「ヤバっ……が、1人の時に敵に背中を向けたら死ぬってのがお約束だ」

 

慌てず俺は鉄パイプを槍のようにして構えた。

 

「だから、前にッ出る!!!」

 

一気に刺突した鉄パイプは骸骨の顔面を砕いた。頭を失った骸骨は手をぷらーんと垂れ下げ、力尽きて倒れた。

 

「弱点があるならなんとかなるってな!!!」

 

続けて遠心力を使った薙ぎ払いでもう一体の背骨を叩き割り間髪入れずに頭を踏み砕く。取り敢えず、二体潰した。まだ二体がこちらにジリジリと近寄っている。動きを見るに…経験者の骸骨か。勝てっかなぁ…。

 

緊張した空間の中、俺は突然殺気を感じた。いや、()()()から感じてはいたんだが、これほどの力は知らない…!

 

───ァーサー!!!───

 

本能に従って伏せた瞬間、プラズマ電流を纏った光の奔流が一瞬にして骸骨達を殲滅し、他の瓦礫ごと蒸発させた。

 

「な…なんなんだ……!?」

 

理解出来ずに混乱していた時、今度は別の音が聞こえた。骸骨のガチャガチャした音では無く…重厚感のある…それでいて軽やかな足取りと…鉄がぶつかりカチャカチャ鳴る音…それが近づいて来た。

覚悟を決めて鉄パイプを構えた時、視界に入ったのは骸骨でも荒くれ者でも無く……()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「生存者みてぇだな」

 

騎士は俺の顔をまじまじと見つめて……突然どっかりと瓦礫の山に胡座をかいた。

 

「あ〜よかった〜…独り言ばっかブツブツ言ってんのもう飽き飽きしちまってよぉ〜……」

「誰だお前?」

 

そう尋ねると、騎士はあっさりと兜を脱いでくれた。男とも女とも取れるようなキリッとした顔にブロンドの髪を一本結びにした…これは女で良いのか?

 

「オレははぐれサーヴァントのセイバーだ。」

「藤丸立香だ。ダチからはぐだ男って言われてる」

「一文字も合ってねぇじゃねぇか!?」

 

Dr.ロマンと同じツッコミを受けて俺はやれやれと肩を竦めた。対するセイバーは頬をぽりぽりと掻きながらも警戒を怠らず周囲を見回していた。

 

「ところで、なんで兜を脱いだんだ?」

「理由は2つだ。1つ、初対面の相手だから。2つ、クソ暑い」

「納得」

 

ココアシガレットをボリボリ食って考えを巡らせる。他に生存者がいるかどうか正直怪しい。食糧も調達出来そうにない…やや詰みに近い状態だ。どうすれば…?

 

『あぁ!やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管制室だ!聞こえる!?』

「Dr.ロマン!よかった〜、助かりそうだ…」

 

空間にモニターが表示され、Dr.ロマンの顔が見えた。俺を見た事のある人物と出会った事でやっと安心する事が出来た。

 

「ん〜?なんだこれ?空中に絵が出てるぞ?」

 

騎士は浮かび上がるモニターを興味深げにジロジロ見ている。サーヴァントという事は過去の人間なのだろう。

 

『ちょうど良い!我々の事情を説明して協力を仰ごう!』

 

 

 

(中略)

 

 

 

「状況は理解した。つまり、こいつを安全に届ければ良いんだな?」

『大雑把に言えばそういう感じだ。頼めるかい?』

「頼めるも何もさっき宝具をぶっ放しちまって魔力があんまし残ってねぇんだよなぁ」

 

言われて気が付いた。この騎士…少し透けている。

 

『じゃあ条件を提示しよう。そこにいるぐだ男君が君のマスターとなり魔力を供給する。君は全力で彼をバックアップする。悪くはない話だろう?』

「んー…等価交換かどうかは怪しいが了解。どのみちこのままくたばるよりはマシだ。取り敢えず、散策しながら他に生存者がいるか探しておく」

「助かる、セイバー」

 

取り敢えず、セイバーと契約を結ぶ。同時に魔力供給が行われ、彼女の肉体が(恐らく)元に戻った。

 

「じゃあ、気楽に行こうぜ!マスター」

「分かった。まずは飯だ飯!どっかの家の地下室に缶詰めの2つや3つあるだろ!」

『いきなり略奪タイム!?』

 

まずは飯。どうせ人類が居ないのであれば飯食い放題ってのがお約束だろ?

 

*********************

 

「ヒャッハー!!!略奪ダァ!!!」

「これだけ探して缶詰め15個かよ…水は黴が浮いてるからアウトだしよぉ…」

 

丸3時間使って住宅地らしい場所やショッピングモールを探したが、結局見つかったのはこれだけ。しかも、見つけたとある場所には腐った死体が転がっており、前歯が2本転がっていた。恐らく、缶切りを失い前歯で開けようとして失敗したんだろう……合掌。

 

「取り敢えず、飯だ飯。缶切りも見つかったし、分けて食おう」

「いや、サーヴァントは飯食わなくても大丈夫だ。マスターは必須なんだから優先して腹ァ満せ」

「…悪い」

 

取り敢えず、コーンビーフを開けて肉にかぶりついた。舌の肥えた俺の口には合わないが…まだ食えるか。

 

「お前も一口どうだ?」

「いや、さっき言ったばっk──」

「良いから、1人だけ食ってんのは嫌だからよ」

「じゃあ一口……ぅぇまずッ…マスター、後で吐くなよ…」

 

彼女の口にも合わなかったらしい。期限はまだ3日あるのに…質が悪いんだな。

 

「よし、探索するか…」

 

俺は缶詰を地下室で回収した風呂敷に包んで背負った後、鉄パイプを肩に担いだ。彼女もまた、手に持つ剣を肩に担いで歩く。

 

「セイバー、鞘は無いのか?」

「あ、こいつ?こいつ鞘に入れるとスパスパ切って使い物に出来なくしちまうんだ。仕方ないから抜き身のままこうやって運んでんのさ」

「不便な剣だな」

「まぁ、そんだけの切れ味を持つ剣だ。例えばッ!」

 

セイバーは突然跳躍すると、目の前の瓦礫の壁を一閃し杖のように足元に付いた。直後、瓦礫の壁に綺麗に線が出来、続いて放ったキックで見事崩れ落ちた。あー…これは鞘に入れられないな…。

 

「ざっとこんなもんよ!」

「すげぇな。カッコイイぜ」

「だろだろ!俺の剣はなんたって聖k……ごほん!何百切っても切れ味の落ちない名剣なんだからな!」

 

胸を張るセイバーに思わずほっこりしてしまった俺は、ふと聞き覚えのある声を耳にした。

 

「この声……あいつまだ生きてやがったか!」

「?」

「セイバー!生き残りがまだいるぞ!」

「了解!クソッ…勘が冴えねぇ!」

 

セイバーは悪態を吐くと兜を被り、凄まじい速度で走り出した…。

 

 

───────

 

 

駆け付けると、そこには2人のサーヴァントによって襲われる1人のサーヴァントがいた。しかも、その1人とはあのマシュだ。魔力が供給され切っていないのか、フラフラした動きで攻撃を避けつつ武器である盾で身を守っていた。中々の粘りだが、重厚な攻撃が得意なランサーと身軽な動きで攻めるアサシンが相手ではそれももう保たないだろう。

 

「シャドウサーヴァント2体か…理性が崩壊してるから実力の30%ってとこか」

「行けるか?セイバー」

「上等!」

 

くるくると剣を回したセイバーはそれを下段に構え、一気に距離を詰めた。

 

初見の感想から云えば、『圧倒的且つ暴力的』。彼女の戦い方は、『型に嵌る事無く機転と応用を利かせ、剣だけでなく手足を存分に使った戦い』が際立つものであった。セイバーの介入で、まず手に掛けられたのはアサシンだった。飛び蹴りでマシュから引き剥がした後、その柔軟な動きで翻弄するように攻め、懐に迫ってきた相手には蹴りで牽制。距離を取ろうと後退しようものなら剣で斬り付ける。決して同じ動きをせずに微妙に違う動きを絡める事で「翻弄して攻める」筈のアサシンを逆に追い込んでいた。

 

「手応え十分ッ!」

 

トドメの薙ぎ払いによって胴体と泣き別れたアサシンは霊核を切り裂かれ消滅した。加勢するはずのランサーはマシュが必死に喰らい付き、動きを封じられていた。「アサシンよりは目で追える」相手を任せた事で確実に敵を分断出来たのだ。

 

Take That, You Fiend(これでも喰らいやがれ)!」

 

最後に残ったランサーの攻撃も穂先を切断し蹴りで怯ませた後、勢い良く跳躍して振り下ろした剣により真っ二つに裂かれ消滅するのを確認したセイバーは疲れたと言わんばかりに剣を杖にして休んだ…剣を杖……?

 

「よくやったぞ、モードレッド卿」ボソッ

「なっ!?今のでバレたのかよ!?」

 

そうこっそり労いの言葉を伝えた途端、セイバー…もといモードレッドは頬を真っ赤にした。

 

「だって今のポーズはカムランのアレだろ?」

「…癖なんだよ、てか今のでよく見破ったな……」

 

真っ赤にしたままの頬を掻いて誤魔化す顔は妙に可愛かった。モードレッドって女だったんだな…勉強になります。

 

 

 

 

 

「無事でなによりです!先輩!」

「てか何故上半身しか無かったのにいつの間に下半身も治ってんだ?」

 

太腿を指でつんつん突いてみたが…これちゃんとした人の肌だよなぁ……どうなってんだ?

 

「あの…先輩……突くの止めてください」

「へいへい、私が悪ぅございました」

「この体は私がサーヴァントになった事で新たに出来上がった体です…尤も、戦闘能力とこの体しか貰えず、私を助けてくれたサーヴァントも消えてしまったので真名も分からずじまいです…」

 

へぇ、と取り敢えず相づちを打ってから、俺は突くのを止めて残り二本となったココアシガレットの箱から一本を咥えた。

 

「モードレッドも食う?」

「煙草じゃねぇのか…まぁ、一本貰うぜ……まずッ!?」

「悪かったな、禁煙中だ」

 

モードレッドも馴れた手つきでココアシガレットを咥えた所、マシュと同じく顔を顰めた。そんなにマズイか…これ。

 

「で、他に生存者はいるのか?」

「はい、あちらに所長が………所長?」

 

「殺される殺される殺されるぅうううううううううう!!!」

 

ゴミ箱から声が聞こえたのでひっくり返すと、中から泣きながらボソボソ呟く所長…オルガマリー・アニムスフィアが出てきた。まぁ、良く生き延びたな…としか。

 

「所長」

「ひぃっ…って!?アンタは…!」

「よっ!ところで色々分かんない事あるから聞いていいか?」

 

取り敢えず、親しげに声を掛けてみた…が、

 

「きゃああああああああああああああ!!!犯されるぅううううううううう!!!」パシーン

「なんでぶたれんの俺!?」

 

 

 

 

平手打ちを食らいました。




プロフィール①

藤丸 立香
愛称:ぐだ男
年齢:18歳。高校卒業したて。
趣味:料理、食べ歩き、グルメ巡り
特技:料理
概要:「レモン式FGO」の主人公。人相がやや悪い面構えと顔の傷から、怖がられている。喧嘩っ早く、元不良且つ現役中に何度も大規模な喧嘩をしている経験から、雑魚レベルのエネミーを倒せるぐらいの戦闘能力は持っている。冬木編にてモードレッドのマスターになる。



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冬木にて…2

本作品はたとえ主人公がシリアスキラーだろうが、死ぬ人は死にます(真顔)



ベースキャンプ

 

 

一通り話を聞きながら歩いていると、マシュが用意したという中継ポイントを発見した。

 

「なるほど、ここで補給とか英霊召喚とか何とか出来るわけだ」

「頭悪そうだけど、吞み込みはいいじゃない」

「一言余計だ」

 

設置された召喚サークル付近に立った俺は、移動中に拾った物をポケットから出した。

 

「この聖晶石を触媒にサーヴァントを呼び出せるのな」

「えぇ、3つあれば召喚術を詠唱せずともサーヴァントが召喚出来るわ。試しにやってみせて」

「はいはい、試しに1回入れて…と」

 

3つ取り出すと召喚サークルの中央に置いた。少し離れると、サークルが反応しスパークを起こした。それが徐々に札の形となり、姿が現れた。

 

「所長、これがサーヴァント?」

「バカ!それは概念礼装よ!」

「ちぇっ、ハズレか」

 

概念礼装と呼ばれたカードには「ムーンセル・オートマトン」と描かれていた。チープだなぁ。ハズレって言ってるようなモンじゃん。

 

「サーヴァントに持たせればいいんだよな?」

「えぇ、これでサーヴァントの能力を向上出来るわ。さぁ、試しにマシュに───」

「モードレッド!これやるよ」

「サンキュー!どうだ!カッコよくなったか?」

「」ズーン

「強く生きるのよ…マシュ……」

激しく落ち込むマシュにオルガマリーは同情の声を掛けたという。

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうするかを考えましょう」

 

オルガマリーはさっき拾ったホワイトボードと持っていたペンを手に俺達へ質問を投げかけた。

 

『まず今の状況を纏めんぞ。今ここでは聖杯戦争が起きていた…間違いないんだな?』

「えぇ、この時代の冬木市では聖杯戦争が勃発していました。セイバー・ランサー・アーチャー・キャスター・アサシン・ライダー・バーサーカーが召喚され、激しい戦いが続いたとされています。」

 

彼女の言葉に対しモードレッドが手を挙げる。

「でもよぉ、オレはこの聖杯戦争で呼ばれなかったぜ?」

 

誰に呼ばれたのかは分からねぇけど…と吃る彼女にオルガマリーは腕を組む。

 

「恐らく、先程のシャドウサーヴァントを見るに貴女は別の何かに反応して召喚されたサーヴァントなのでしょう。でも、セイバーを…それも円卓の騎士モードレッドを仲間に出来た事は大きい」

「そんなに褒められると照れるぜ///」

 

「いいから話進めるぞ所長!とにかく俺らがやるべきは敵拠点の占拠じゃねぇのか?」

「そう、でも敵の拠点がどこにあるかが分からないのよ…それが分かれば苦労しないんだけど…」

どん詰まりかぁ…。

 

*********************

 

「♪〜」

「うめぇ!缶詰だけでよくやるな!」

新たに手に入れた缶詰を使い、簡易的にスイーツを作ってみた。みかん・パイン・白桃(モードレッドの剣を借りて適当に切った)を混ぜ、ナタデココを加えた物だが…まぁ、女子達は満足げに食べてくれているので良しとしよう。

 

「甘いもので糖分補給完了!さぁ良い案あるか?」

「「……」」

「ねぇのかよ!!!」

 

途端に閉口する女子達にツッコミを浴びせたタイミングで、ロマンから報告があった。

 

『8時の方向から魔力反応!これは…サーヴァントだ!』

「チッ、おいでなすった!」

汁だけになった容器を投げ捨てたモードレッドは剣を拾い警戒態勢を取る。マシュが俺とオルガマリーを守るように盾を構えた時……そいつは現れた。

 

「よう!あんたら、生存者みてぇだな!」

 

完全にチャラ男な姿をした術師が俺達の前に飛び降りた。

 

「誰だテメェ。魔力反応を見るに…お前、キャスターか?」

「そうだお嬢さん。俺は聖杯戦争に参加しているサーヴァントだ。いや…()()()

 

警戒を解かないモードレッドに、キャスターは敵意が無い事を示すべく杖を置き両手を挙げた。

 

「これで良いか?」

「………分かった。随分と良いタイミングだな…まるで最初から俺達の話を盗み聞きしたみてぇにな」

 

俺は前に出てチャラ男に尋ねてみる。

 

「そうだ。有り体に言えば、美味い話に便乗しようって事だ」

「美味い話?」

「この周りでは魔力不足で飢えたシャドウサーヴァントが彷徨いている。こちらの魔力も心許ない。そこでだ…お前とそこの魔術師の女のどっちかが魔力供給をしてくれ」

 

俺とオルガマリーを指差して彼は要求した。だが、まだ対価を聞いていない。

 

「代わりにあんたは何をくれる?」

「そうだな…敵の本丸の場所へ案内するってのはどうだ?ついでに力になってやろう」

 

なるほど…奴の目的は魔力供給による延命。だが、実質魔力供給が困難である以上、魔力を安全に補給出来るようにしたい…と。

「分かった。ドクター!カルデアから転送出来る魔力でこいつを維持出来るか?」

『充分だよ。ただし、こちらから重ねて条件提示をする』

「あ?他に条件があるのか?」

『真名を預けてもらいたい』

 

なるほど、真名を教えるという事は対策が取れるという事だ。頭良いな、ドクターは。

 

「いいぜ。俺の名はクーフーリンだ」

「「………は?」」

 

───いやいやいや!!!クーフーリンはゲイボルグを操るケルトの戦士だよな!?こんなチャラ男がクーフーリンな訳無いだろ!?

 

「いえ、先輩。英霊の中には複数のクラス特性を持つものがいます。この人は槍の使い手でありながら、魔術師の側面も持つ、高レベルの英霊と思われます……」

「はぁ…。クーフーリンなら抜群の知名度を誇る戦士だぞ。だが槍取り上げられるとか……カレーにご飯無いのと同じだろ…」

「さっきから失礼だよなぁお前!?」

 

俺の言葉にモードレッドがツッコミを浴びせた。これから協力する相手に言いすぎたかな?

 

「気にすんな、仮契約だなよろしくな。マスター」

「お、おぅ」

 

一応、握手してから俺達はクーフーリンを先導に目的地を目指した。

 

**********************

 

『大聖杯……? 聞いた事がないけど、それは?』

「この土地の本当の“心臓”だ。特異点とやらがあるとしたらそこ以外ありえない。」

 

ロマンの質問にクーフーリンは淡々と答えていく。

 

「だがまあ、大聖杯にはセイバーのヤロウが居座っている。ヤツに汚染された残りのサーヴァントもな」

「ライダーは私と所長で再起不能にしましたが…」

マシュ…お前強いんだな。

 

「という事は…残っているのはバーサーカーとアーチャー?どうなの、その二体は。強いの?」

「アーチャーのヤロウはまあ、俺がいればなんとかなるが…問題はバーサーカーだな。アレはセイバーでも手を焼く怪物だ。近寄らなけりゃ襲ってこねえから無視するのも手だな」

「触らぬ神に祟りなしって奴だな。了解。じゃあバーサーカーに悟られねぇように移動すっぞ!」

 

 

 

 

 

大聖杯

 

「って事で、途中クーフーリンのスパルタ指導でマシュが仮想宝具を使えるようになったりしたが、やっとゴールにたどり着いたのであった まる」

「酷いッ!私の心温まる成長物語を端折らないでください!!!」

「いや…原作から変える要素無いしよ…」

「メタ発言!?そしてなんで私の扱いがぞんざいなんですか!?」

「だって、盾とかぶっちゃけダサ──」

「もうやめて!マシュのライフはとっくにゼロよ!もう立ち直れなくなるから!」

 

「おい…そろそろ話を進めたいのだが…」

「お前喋れるのかよ!?」

 

黒化した騎士の前で説明口調気味に話しツッコミが飛び交う中、耐え切れずその騎士までもツッコミを飛ばして来た。しかもクーフーリンまでもがツッコミを飛ばし返し収拾がつかなくなってきた。取り敢えず収拾をつけるべく俺から話を進める事にした。

 

「あー、悪い悪い。ところでお前がクーフーリンの言ってたセイバーか?」

「その通りだ。何を語っても見られている…故に案山子に徹していた」

セイバーの目線はマシュの盾に向いている…が、もう1人。セイバーの顔に憎しみを持って睨む者がいた。

 

「ちち…うえ…!」

「モードレッド、どうした?あいつ女だろ?」

 

そう言った瞬間、モードレッドが剣を引き摺りながら勝手に突貫を開始した。

 

「死ね!今度こそ殺す!!!」

「──この剣筋…なるほど、貴様か」

 

渾身の一撃をセイバーはひらりと避けて黒い剣を振り下ろす。バク転でそれを回避したモードレッドは刺突で応戦する。

突然、2人だけの世界になり置いていかれる俺達…。

 

「モードレッド!一度下がれ!!!チッ…言っても聞かねぇか」

 

彼女への指示を諦めたその時、殺気が飛来した。慌ててカバーに入ったマシュの盾にそれがぶつかる。

 

「くっ!?」

「───今のを防いだか。なかなかの勘だ」

 

盾の隙間から様子を伺うと、そこには弓に矢を番えたシャドウサーヴァントがいた。恐らくあれがアーチャーか。

 

「クーフーリン、すまない。あいつの足止めを頼む」

「了解、別にあいつを潰しても構わねぇんだろ?」

「いいぜ、殺すか否かは自己の判断に任せるが最低限無力化しろ」

 

そう指示を送り、俺は足元に転がっていた枝を拾った。コレとコレを組み合わせて……よし。

 

「先輩?」

「いい事考えた」ニヤリ

 

 

 

 

 

 

「チッ、相変わらず強い…!」

「そして貴様は相変わらず周りが見えていない。私を倒す事に執着するあまり、マスターを無視し殺しかけた。貴様に足りないのはその視野の狭さよ」

「ほざけ!!!」

 

30回目のインパクト。クラレントと黒剣が鍔迫り合いを起こし火花が散る。距離を取る為に蹴りを入れたがモードレッドだったが、その隙を見逃さなかったセイバーの一閃が彼女から剣を叩き飛ばした。遠くに突き刺さるクラレント…モードレッドに彼女の剣技を防ぐ手立てはない。

 

「しまっ──」

「これで終わ───ッ!?何っ?」

 

トドメを刺さんと剣を振り上げたセイバーの顔に鈍い衝撃が走った。頬に当てたその手には血が滲んでいた。

 

 

───

 

「よっしゃ!ガキん頃にやってたコイツの腕前、思い知ったか!バーカ!」

「先輩、煽ったら殺されます」

 

ガキん頃に隣の家の栗の木から実を落とす為に練習したスリングショットの腕、どうだ!その辺にあった枝と蔦で作ったモンだが、奴の面に一発ぶちかましたぜ!!!

 

「おのれ……蛮族が…」

「あ──やべ」

 

ワナワナと震えるセイバー。その魔力の放出量が一気に増大する。マシュの後ろに隠れ次の尖った石を拾った俺は可愛い後輩に指示を下した。

 

「マシュ、仮想宝具展開。死んでも俺を守れ」

「酷いッ!ですが、了解しました!後輩のカッコいいところ、見せます!!!」

 

マシュが盾を構え、地面に突き刺す。大きく息を吐いた彼女から魔力が放出されて巨大な盾状のエネルギーが前面に展開された。その名も『人理の礎(ロード・カルデアス)』。厨二臭いがまぁ良しとしよう。

 

「聞こえてますよ先輩…」

 

まぁ、俺のいびりで緊張が解れたのか、展開されたエネルギーの障壁は厚く、丈夫に展開されていた。

 

「面白い、私の剣技…その盾で受け止めてみろ。エクスカリバー・モルガ──」

「させるかオラァ!!!」

 

対抗するように何かの剣技を放とうとしたセイバーだったが、モードレッドのドロップキックによって妨害され、放たれたビーム(?)はあらぬ方向に飛んで行き……

 

「なんでs───」

「ちょっ──味方ご」

 

別の場所で交戦していたキャスターとアーチャーに激突した…合掌。すまん、不慮の事故だ。許せ。

 

「モードレッド…きさ…痛ッ!?この……痛ッ!?」

 

剣をモードレッドに蹴り飛ばされた後は完全にリンチだった。殴り合いで上回るモードレッドによる殴る蹴るの暴力の嵐。反撃しようとすれば俺の狙撃で悉く妨害。

 

「先ぱーい…私何すればいいですか〜?」

「所長でも守ってろ〜」

「」

 

完全に見せ場を失ったマシュはトボトボとオルガマリーに近付き、盾を構えた。そう、活躍せずとも守る。盾持ちの大事な仕事だ。

 

「ハハハ!!!反撃なんてさせっかよ!!!」

「ねぇ今どんな気持ち?防戦一方だけどどんな気持ちィ?」

「くっ…!卑怯者が…!」

「なんとでも言えや!勝つ為ならリンチでも喜んでやってやらぁ!!!」

 

もうどっちが悪役か分かんねぇなこれ。結局、ダメージが蓄積し続けたセイバーは、モードレッドの飛び膝蹴りを防ぐ体力も無く鳩尾に膝を埋められてノックダウンした。

 

「「イェーイ!」」

 

戦いに勝利した俺達はハイタッチを交わした。ついて行けずにため息を吐くマシュをオルガマリーが慰めている。死者1名か…クーフーリン、惜しい奴を亡くした。と、意識を回復させたセイバーが起き上がった。が、ダメージが蓄積し過ぎて体は動かず、這って進み壁にもたれた。

 

「───フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな」

「嘘つけや、中盤から手も足も出なかったろうが」

 

俺のツッコミを無視して彼女は続ける。

 

「聖杯を守り通す気でいたが、(おの)が執着に(かぶ)いたあげく敗北してしまった。結局、どう運命が変わろうと、私ひとりでは同じ末路を迎えるという事か……いずれ貴様らも知る、グランドオーダー───聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事を…な」

 

言いたい事を言った後、セイバーは意識を手放した。今度こそ勝利したらしい。その勝利を噛み締めてはいたが、オルガマリーの表情は…………。

 

 

 




モードレッド(その1)
愛称:モーさん
身長:154cm / 体重:42kg
出典:アーサー王伝説
スリーサイズ:B73/W53/H76
属性:混沌・中庸 / カテゴリ:地
趣味:バカ騒ぎ・ゲーム
特技:奇襲・昼寝
概要:円卓の騎士であり、かつて叛逆の騎士としてアーサー王と相打ち(実質負け)になった彼の息子。ぐだ男とは同じタイプのキャラの為、何故か似通っている。『物事を大局的に見る事が出来ない』という劇中での指摘の通り、それが『器ではない』理由となっている。
一方、モードレッド本人は父上であるアーサー王にある想いを抱いている…。



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冬木にて…3

冬木編終了。
やっぱ変える箇所なさ過ぎィ!





「「やったぜ〜!ヒャッハー!!!」」

「セイバー、キャスター、共に消滅及び戦闘不能を確認しました……私たちの勝利…なのでしょうか?」

『ああ、よくやってくれたマシュ、ぐだ男君!所長もさぞ喜んでくれて……あれ、所長?』

 

喜びの言葉が交わされる中、オルガマリーだけは不穏な表情を顔に貼り付けていた。

 

「……冠位指定(グランドオーダー)……あのサーヴァントがどうしてその呼称を……?」

「所長も〜!」

「「イェーイ!!」」

「い…イェーイ……えー、こほん!よくやったわ、藤丸、マシュ、モードレッド。不明な点は多いですが、ここでミッションは終了とします。」

 

そして、彼女は大聖杯にある水晶体を指差し歩き始めた。    

 

「まずあの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常をきたしていた理由……冬木の街が特異点になっていた原因は、どう見てもアレのようだし。」

 

マシュもそれに続こうとした瞬間、突然今ある空間に別の存在が現れた。それは………

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だ。48人目のマスター適性者。まったく見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ。」

 

「レフ教授!?」

 

その正体は緑のスーツとシルクハットを被った男…レフ教授であった。あの温厚な表情が無ければただの変態紳士である。

 

『レフ───!?レフ教授だって!? 彼がそこにいるのか!?』

「レフ教授!?どうして教授がここに!?自力で脱出を!?」

俺のツッコミに苦笑しながら彼は続ける。

「うん?その声はロマニ君かな?君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしいと言ったのに、私の指示を聞かなかったんだね。まったく───」

 

そう言った次の瞬間、温和な表情が悪魔のように醜く恐ろしいものとなった。

 

「どいつもこいつも統率のとれていないクズばかりで吐き気が止まらないな。人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだ?」

「そういうテメェはどうして犬歯しかないんだ?食べる時苦労すんだろ?」

「しーっ!モードレッドさん!それを言っちゃいけません!」

 

こちらの煽りを無視して彼は話し続けているが…もしかして台本通りにしか喋れないタイプの奴なのか?

 

「───!マスター、下がって……下がってください!あの人は危険です……あれは、わたしたちの知っているレフ教授ではありません!」

「って言っても、あのオッサンと喋った事無いから普段のレフ知らないんだよなぁ…」

 

しかし、そんな彼に近付く者がいた。時々レフ教授の名を呼んでいたオルガマリーだった。

 

「レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!」良かった、あなたがいなくなったらわたし、この先…どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」

「所長……! いけません、その男は……!」

 

彼女はレフ教授の胸に飛び込むと泣きじゃくり始めた。普通なら「歳上の“をじさん”に父親を求めるJK」っぽい雰囲気だが、シャレになっていない。

 

「やあオルガ。元気そうでなによりだ。君もたいへんだったようだね」

「───そうなのレフ。管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし…予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった……でもいいの、あなたがいれば何とかなるわよね?」

 

彼の胸の中で上目遣いにオルガマリーは微笑んだ。信頼し切った人物との再会は彼女の心を癒した。

 

「だって今までそうだったもの。今回だってわたしを助けてくれる…よね?」

 

しかし、そんな彼女にもレフ教授は容赦の無い言葉を投げ掛けた。

 

「ああ。もちろんだとも。本当に予想外のことばかりで頭にくる…その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置したのに、まさか生きているなんて。」

 

その言葉に彼女の顔が凍り付いた。

 

「────え?……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」

「いや、生きている、というのは違うか。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね。トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ。ほら。君は生前、レイシフトの適性がなかっただろう?肉体があったままでは転移できない。」

 

ガタガタと震え始めるオルガマリーにレフ教授は冷たい現実を叩きつけた。

 

「分かるかな。君は死んだ事ではじめて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ。だからカルデアにも戻れない。だってカルデアに戻った時点で、君のその意識は消滅するんだから。」

 

 

「ところで、マシュの好きな料理ってなんだ?」

「今シリアス!シリアスシーンですよ先輩!」

「オレ、インスタン─」

「インスタントだぁ?その馬鹿げた妄想ぶち壊す!」バキィッ!

「みゆきっ!?」バタッ

「さて、インスタントとか抜かしたらぶちのめすぞマシュ」パキポキ

「だから!今シリアスシーンです!前向いて前!」

 

 

「ふざ───ふざけないで!わたしの責任じゃない、わたしは失敗していない、わたしは死んでなんかいない……!アンタ、どこの誰なのよ!?わたしのカルデアスに何をしたっていうのよぉ……!」

 

オルガマリーのヒステリックな声が大聖杯周辺に響き渡る。だが、レフ教授は淡々と喋り続ける。

 

「アレは君の、ではない。まったく───最期まで耳障りな小娘だったなぁ、君は。」

 

その瞬間、彼女の体が浮かび上がった。すげぇ!

 

「このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない。最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物とやらに触れるといい。なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ。」

「ちょ───なに言ってるの、レフ?わたしの宝物って……カルデアスの、こと?や、止めて。お願い。だってカルデアスよ?高密度の情報体よ? 次元が異なる領域、なのよ?」

「ああ。ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあ、どちらにせよ人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ。」

 

必死にもがくオルガマリーだったが、手足は宙に浮いており逃げる事すら叶わない。

 

「いや───いや、いや、助けて、誰か助けて!わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない……!誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!どうして!?どうしてこんなコトばっかりなの!?」

 

髪をブンブン振り回しながらオルガマリーは必死に未練を叫び続けた。きっと、脳内で赤ん坊の頃からやり直してる所なのだろうか…?

 

「誰もわたしを評価してくれなかった!みんなわたしを嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……!だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに───!」

「今際の際の叫びは認めてやろう。よかったね。オルガ」

「そんなのいやぁああああああああああ!!!」

 

意外に粘るなぁ……近付くギリギリで表面に障壁を展開して必死に抵抗している。

 

「すげぇ所長……ゴキブリみてぇな粘りだ」

「喩えが酷いッ!?」

「イテテ…あっ!マスター、アレってあれだろ?『押すなよ!絶対押すなよって奴』」

 

野次馬が頭悪くてごめんなさいとジェスチャーで謝るマシュに何かを勘違いしたのか、レフ教授の表情が突然穏やかになった。

 

「ほう。さすがはデミ・サーヴァント。私が根本的に違う生き物だと感じ取っているな。改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ。」

 

レフ教授はゆっくりと顔を上げ、モニターに映るロマンを視界に捉えた。

 

「聞いているなドクター・ロマニ? 共に魔道を研究した学友として、最後の忠告をしてやろう。カルデアは用済みになった。おまえたち人類は、この時点で滅んでいる。」

 

それに対し、ロマンの態度は驚くべき程に冷静だった。

 

『……レフ教授。いや、レフ・ライノール。それはどういう意味ですか。2016年が見えない事に関係があると?』

 

静かに行われる言葉のキャッチボール…俺達は黙ってその話に耳を傾けていた。

 

───ちょっと!アンタ達!ここから出るの手伝いなさ──あっ

 

「関係ではない。もう終わってしまったという事実だ。未来が観測できなくなり、おまえたちは“未来が消失した”などとほざいたな。まさに希望的観測だ。未来は消失したのではない。焼却されたのだ。カルデアスが深紅に染まった時点でな。結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない」

 

今オルガマリーがカルデアスに吸われていった事に対して俺は何か言うべきだったろうか…いや、死んでしまった人の話を今アレコレ言うべきではない…。

 

「カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう。虚しい抵抗だ。カルデア内の時間が2015年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する。もはや誰にもこの結末は変えられない。なぜならこれは人類史による人類の否定だからだ!おまえたちは進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのではない!自らの無意味さに!自らの無能さ故に!我らが王の寵愛を失ったが故に!何の価値もない紙クズのように、跡形もなく燃え尽きるのさ!」

 

高笑いするのでもなく淡々と続けるあたり、彼からは新人なりたての役者っぽさを感じるな。まるで機械が喋ってるみてぇだ。

と、その時…今いる空間に光の粒子が浮かび始めた。

 

「おっと。この特異点もそろそろ限界か……セイバーめ、おとなしく従っていれば生き残らせてやったものを。聖杯を与えられながらこの時代を維持しようなどと、余計な手間を取らせてくれた。では、さらばだロマニ!そしてマシュ、48人目の適性者。こう見えても私には次の仕事があるのでね。君たちの末路を愉しむのはここまでにしておこう。このまま時空の歪みに呑みこまれるがいい。私も鬼じゃあない。最後の祈りぐらいは許容しよう」

 

天井から次々と岩が落ちてくる。マシュとモードレッドがそれぞれの武器で弾き続けているが、どこまで保つか…。

 

「ロマン!至急レイシフトを実行してくれ!このままだと俺ら死んでまう!!!」

『わかってる、もう実行しているとも!でもゴメン、そっちの崩壊の方が早いかもだ!その時は諦めてそっちで何とかしてほしい!ほら、宇宙空間でも数十秒なら生身でも平気らしいし!』

「そうそう、鼻摘んで息止めてたら数十秒は───ってアホ!この状況でツッコませるな!」

「今先輩のノリツッコミでしたよね!?」

「あぁああああああ!!!ヤベェよぉ…まだ死にたくねぇ……」

『とにかく意識だけは強くもってくれ!意味消失さえしなければサルベージは───』

 

薄れゆく空間の中、俺は咄嗟にマシュとモードレッドを引き寄せた……その先の記憶は…無い。




マシュ・キリエライト
愛称:マシュ
身長:158cm / 体重:46kg
出典:Fate/Grand Order(???????)
属性:秩序・善 / カテゴリ:地
性別:女性
年齢:16歳(『Grand Order』プロローグ時点)
趣味:聖晶石の欠片をぶつける
特技:特に思い浮かばない
概要:今回の不遇枠。マスターが攻撃的且つ戦闘面で仕事をする為に「盾が要らない」という状況に陥り、やや存在意義に疑問を感じている。また、マスターのメタ発言や心にも無い言葉・セクハラ等で弄られキャラとして定着しつつある。





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閑話休題1 モードレッドの告白

モードレッド「なんで父上と仲良しなのか?」のストーリーをぐだ男視点でアレンジしつつ加えました。
ウチのアルトリアは感情豊かでヘタレ。




その日…俺は聖晶石の入った袋を手に召喚システムの前に立っていた。カルデア内の戦力の補充が目的を目的とした所謂レアガチャである。

 

「マスター、それって聖晶石だよな?」

「あぁ、手持ちの金を換金してな。どの道金なんて意味は無いからよぉ。結構いい数換金出来た!早速溶かすゾォ」

「あーぁ…癖ついちまうぞ……まぁいっか」

 

まず30個の聖晶石を放り込み、召喚サークルでサーヴァントの召喚を試みる。今ピックアップとやらをやっているらしいからこの機会を見逃すのは有り得ない。

サーヴァント達が召喚される間にモードレッドに缶ジュースをプレゼントし、2人でぐびぐび飲んでいると次々と出てきた。

 

「応えよう。私は貴方のサーヴァント、ランサー。最果ての槍を以て、貴方の力となる者です」

「円卓の騎士、嘆きのトリスタン。召喚の命に従い参上しました。どうか我が身が役に立つことを祈ります。ご命令を、マスター」

「円卓の騎士ガウェイン。今後ともよろしくお願いします」

「セイバー、ベディヴィエール。此よりは貴方のサーヴァントとなりましょう。それが、我が王の御為になるものと信じて」

 

「ブッ!?」

「なんかいっぱいキター!!!」

獅子のような甲冑を纏った女騎士…常時目を瞑っている竪琴使い…堅物そうなイケメン騎士…優しそうなイケメン騎士……てか全員円卓じゃねぇか!!!

 

「何ッ!?モードレッド……あの叛逆者がなぜ英霊などと……!?」

堅物はモードレッドを見た途端に憤慨した。その態度の変化たるや、よほど嫌われているようだ。

 

「ガウェイン卿、発言は控えよ。マスターへの挨拶が済み次第、指定された部屋を城とする。各自所定の位置へ移動し休息を取るように」

「「はっ!!!」」

 

女騎士は彼らにそう指示すると、騎士達は全員真面目に返事して挨拶をした後、俺が指定した部屋に向かって歩いて行った。かなり統率の取れた部隊である事がハッキリと感じられる。

 

「待ってくれ!父上!」

「…」

 

モードレッドは父親(?)を呼び止めようと声を掛けたが、彼女からの返答は無く…そのまま馬に乗って去って行った。別に良いけどさ…せめて馬から降りろや。馬舎がまだ出来てないんだぞ…?

 

 

 

 

 

「よし、今日はカレーだ。遠慮せずに食え」

「いっただっきまーす!!!」

 

キッチンにて、モードレッドの為に作ったカレーが彼女の手で食べられていく。まだ計画が第一段階の為、止むを得ずキッチンで作って立ち食いで済ませなければならない状態だが、充分イケるだろう。

しかし、美味しそうに掻き込んでお代わりするモードレッドの顔は何処か曇っていた。

 

「大丈夫か…?」

「気にすんなって!それより、お代わりあるか?」

 

美味いと言いながらカレーを掻き込む彼女の頭をポンポンと撫でた後、俺は皿洗いを始めた。

 

 

 

 

 

「アーサー王の死…か」

 

夜…1人になった後、図書室に用意されていた歴史コーナーからアーサー王伝説の本を取り出して読み漁ってみた。

モードレッド視点から見るとあまりにも可哀想な物語…と俺は解釈した。親に息子と認められず、必死に父親の背中を追う姿に、ガキの頃の自分を重ねてしまった。

 

俺も…昔、イタリア料理店をやっていた親父に憧れてその背中を追った事があった。でも、いくらそれを真似ても上手くいかず、追い付く事が出来ず周りからはいつも比較されその環境の所為でグレた。親父と何度も衝突し、悪い奴と連んで喧嘩に明け暮れた。センコーの説得でやっと更生した時には全てが遅過ぎた。

親父が事故で死んだ、死因は信号無視した車両による轢死。

俺がこのカルデアに来たのも親父に出来なかった親孝行と、あの世に行った時に親父に褒めてもらう為だった。

 

「よし……」

 

本を放り投げた俺は思い立ってモードレッドを呼び出す事にした。場所は…食堂でいいか。

 

*********************

 

食堂

 

モードレッドに正直な言葉を伝えると、帰ってきたのはパンチだった。それを受け止めた俺は彼女を引き寄せる。

 

「離せよ、テメェは関係ねぇだろ!家族の問題に首突っ込むな!!!」

「たとえ不貞だろうが何だろうがよ!家族だろうが!お前も!あの獅子王も!頭湧いてるんじゃねぇのか!」

 

クラレントを握ったまま頭に血が上ったモードレッド、歯を食いしばり、荒い息をする彼女からは今にも斬り付けようという殺気が漏れ出ている。俺は臆さず食い下がった。

 

「いいかモードレッド。ここはカルデアだ!キャメロットとかふざけた城じゃねえ。ここではアルトリアに王なんて箔は付けさせるもんか!今がその時だろ!親子が向き合って話すんだ!……俺の顔をちゃんと見ろ!!!」

「───ウゼェんだよ!」

 

ブチっと何かが切れたような音がした。咄嗟に食器棚に立て掛けていた俎板を手に取り、盾とした瞬間に俎板からクラレントの刀身が突き出した。幸いにも俎板と俺がマスターである事への抵抗のおかげで刃先は俺の肌の数ミリ手前で止まった。

 

「俎板が使いモンにならなくなったろうが…」

「っせぇな!それはテメェがまな板で受け止めたからだろ!?まな板───ぶふぉっ」

 

突然、モードレッドが噴き出したかと思うと腹を抱えて笑い始めた。どこが面白いのか分からなかったが、しばらくゲラゲラ笑った後すぐに目元の涙を拭い顔を整えた。

 

「いいぜ、話の席…俺も座ってやるよ!!!」

 

表情はさっきまでとは違い、キリッとしたものだった。どうやら素直になれたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「話になりません!」

 

バンっとテーブルを叩いたガウェインが俺に詰め寄る。ここは休憩所。円卓の騎士達が居座っていたそのタイミングで俺はアルトリアを誘ったのだが、ガウェインが逆上してこの状況が出来上がっている。

 

「叛逆の騎士モードレッドと我が王を引き合わせ“話をする”?あの知性のカケラもないモードレッドの事だ。どうせその席で我が王を暗殺しようという魂胆であろう!!!」

「今俺はアルトリアと話をしているんだ。テメェに用はねぇよ!すっこんでな!!!」

 

負けじと言い返す俺の気迫でガウェインが少し気押された。さらに続けて罵倒でもしてやろうかと思った所で、兜からくぐもった声が聞こえた。

 

「モードレッドが私に直談判…良いでしょう」

「しかし!」

「私が行くと言った。反論するのであれば…」

 

そう言ってアルトリアはロンの槍をガウェインへと向けた。ガウェインはクッと悔しげな表情で引き下がった。

 

「15:00に食堂で待っている。今日は貸切にしてるから腹を割って話せよ」

 

後はアルトリアが心を開いてくれるかに懸かっている。祈るようにお部屋を後にした。

 

*********************

 

食堂

 

「………」

 

目を閉じて沈黙するモードレッドを心配げに眺めながら、アルトリアを待った。彼女が来たのは3分遅れであった。

 

「遅れてすまない。ガウェイン卿の説得に時間が掛かった」

 

その後ろには、仏頂面のガウェイン卿とその他面々が付いてきている。やはりついて来たか。ここで、俺は話を切り出す事にした。

 

「今日呼び出したのは他でもない。お前らのギスギスした雰囲気を改善する為に対話が必要な行為だと判断したからだ」

「………」

「我が王よ、彼女の話を聞く必要は無いのです!生前のモードレッドの行いを忘れたのですか!?彼女は王を裏切り、諸侯を唆し、妻ギネヴィアを強引に娶ろうとした外道であります!そんな女が何も考えずに面会を要求するとは───」

「そこまでにしとけよ外野共、さっき言ったよな?アルトリアとモードレッドの一対一の対話をすると。良いか?元田舎者のチンピラですら約束は守ったぞ?それすら守れないとは、ハッ!円卓の騎士様も程度が知れるな!!!」

 

いい加減鬱陶しくなって言い返した。ガウェインがカッとなり剣を抜こうとした時……アルトリアが口を開いた。

 

「ガウェイン卿…これは私も望んだ事です。頼むから邪魔しないでください……マスター、すまなかった。私が代わりにお詫びしよう」

「王…」

 

アルトリアは眉すら動かさずそう言った。どこか機械的で、型に嵌った話し方だ。これじゃ会話にならんな。そう思った時…モードレッドが話し始めた。

 

「父上…かなり前、オレ言ったよな?『オレはお前の息子だ。オレにも王位継承の権利がある』と」

「えぇ、それに対し私は『貴女にその器はありません』と返しました」

「あぁそうだ。オレはあの日に狂ってしまった。今まで母上から父親だと教えられたあんたの背中をオレは眩しく感じた…どんなに手を伸ばしても……背伸びしてもジャンプしても…!父上には絶対届かない…!」

 

悔しげで、しかし愛おしさを滲ませてモードレッドはポロポロと涙を零す。

 

「でも…唯一繋がっていたのは……この浅ましい体から流れる血だけだったんだ。それで充分…それで充分なんだとオレは必死に満足しようとした……でも出来なかった!」

「だからオレは子供みたいに…縋り付くようにあの言葉を言った!決してあのクソババァに唆されたからじゃねぇ!オレは……オレは………!」

 

彼女は拳でバンバンとテーブルを叩きながら感情を爆発させている。そうだ、腹の中に溜まった憎悪を全部吐き出しちまえ。もう少しだ。

 

「オレは…!ただ繋がりが欲しかった!!!王位継承も!王としての器も!!そんなくだらねぇものは要らない!!!ただ……アルトリア・ペンドラゴンの息子でいたかった!!!」

「モードレッド…」

「ホントは甘えたかった!ホントは頭なでなでして欲しかった!ぎゅーって抱きしめて欲しかった!一緒に駆けっこしたかった!お父さんの夢を聞いて『カッコイイ!』って言いたかった!いっぱい褒めて欲しかった!!!!!!!!でも…父上は温もり1つくれなかった!!!オレが欲しかったのは…そんな時間だった……」

 

それが本当に欲しかったものだったのか…モードレッド。子供っぽさが残っているのも、憎しみと共に溜まった彼女の願いの残滓だった……俺でもそうハッキリと感じ取れた。

 

「お父さん!!!」

 

食堂全体に響くような大声で子供のように叫んだモードレッドは最後、床に崩れ落ちて泣き噦るだけになった。よくやったな…後はアルトリアだが…

 

「話す事はそれだけか?」

「ぅ……ぅぅ……」

 

 

父上ははぁーっと息を吐いた。それは溜め息では無く…。

 

 

「私もホントはいっぱい可愛がりたかった!!!!!!」

「「王!?」」

 

いきなり父上は頭に載せていた王冠をぶん投げた。

 

「あぁああああああああああああああああああああ!!!モードレッドはズルい!私だっていっぱい褒めてあげたかった!!!キャメロットで見る星座を一緒に見上げたかった!!!ドゥン・スタリオンに乗って一緒に野原を駆け回りたかった!!!ぎゅーって抱きしめて頭ナデナデしたかった!」

 

不満をぶち撒け、ついでに聖槍やら鎧やらをぶん投げていくアルトリアの姿は完全にワガママを言う子供のそれだった。アイツも相当キていたらしい。人間らしい感情を失っているなんて大嘘じゃん。

 

「でも時代が許してくれなかった!!!私は守らなきゃならなかった!!!清く美しい王様でなきゃならなかった!!!部下の信頼が深まるほど真面目にならなきゃいけなかった!!!圧政なんて敷きたくなった!!!こんな槍なんか!!!こんな槍なんかぁあああああああああああああ!!!」

「王よ!落ち着い──ゴハァ!?」

「ガウェイン卿ぉおおおおおおお!!!」

 

感情を爆発させ槍を何度も踏ん付けるアルトリアを離そうとしたガウェインは父上の振り回す腕が鳩尾に命中しノックアウト。円卓の騎士達から悲鳴が上がった。

 

「ブリテンなんて知るかオラァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!私悪くないもん!!!周りがそうしろって言ったからやっただけだもん!!!」

「うるせぇ!!!お父さんのばかぁあああああああ!!」

 

感情のままのアルトリアの顔を拳で打ち抜いたモードレッド。だが、アルトリアは抵抗せず息子を抱き締めた。1000年以上の親子の確執…その雪解けの瞬間であった。

 

「ごめんなさいモードレッド!!!お父さん今日から王様辞めてモードレッドのお父さんになるからぁあああああああああ!!!」

「オレ…オレも2度と逆らうもんか!!!お父さん!!!お父さぁああああああああああああああん!!!」

 

親子揃って子供のように泣き噦る。俺はその姿をホッコリしながら眺め、円卓の騎士達はバツの悪そうな顔をして眺めていた……。

 

************************

 

次の日、アルトリアは俺の斜向かいにあるモードレッドの部屋に引っ越して来た。

 

「マスター、おはようございます!」

 

彼女曰く、本音を暴露した為に円卓の騎士達は変に気を遣うようになったらしく、誰もモードレッドをこき下ろす事は無くなった。これからはモードレッドのお父さんとして与えられなかった親子の時間を用意したい、第二の人生を親子で過ごしたいとの事だ。

 

「おぅ、後で料理差し入れてやるからな!」

「ありがとうございます。」

「父上〜!こっちに荷物置いてくれよ〜!」

 

今は親子水入らずで、そう判断した俺はキッチンへと足を運んだ。俺が叶わなかった親子の和解を果たす事が出来た……腹の中にあった心の闇が晴れた気がした。




アルトリア・ペンドラゴン
愛称:アルトリア
身長/体重:171cm・57kg(諸説あり)
出典:アーサー王伝説
属性:秩序・善 / カテゴリ:天
性別:女性
年齢:25歳
趣味:食事・武術鍛錬 →息子と遊ぶ
特技:乗馬・槍術・剣術
概要:俗に言う獅子王と呼ばれているアルトリア。ぐだ男が早期に息子と和解させた為、表情や感情はかなり柔らかくなった。が、同時にモードレッドと和解する=ブリテンの王を捨てるという行為であり、結果として彼女は円卓の騎士から人望を失っている(本人は気にしていない)上に緊張が解けた事でヘタレ化した。
彼女の部屋には鈍剣が置いてあり、いつも大事に持っている…。





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閑話休題2 漢ぐだ男 改築する

今回は改築回です。何事も基盤から






「以上の決意をもって、作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・(グランド)(オーダー)。魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!」

 

 

────

 

「って事で、まずカルデアを改築する事にした」

「今の話聞いてたよねキミィ!?」

「そもメインクエスト進むまでサ○エさん状態だし…」

「それ言っちゃう!?」

 

カルデアでの活動宣言の後、俺はフレンドポイントと呼ばれるエネルギーの塊を大量に召喚サークルに突っ込み図面と睨めっこしていた。

 

「現場作業員はサーヴァントに任せればいいとして…で、こっからここまでの部屋は解体…地下を掘り直して施設を増設し人工海水を用意する……人工太陽も設置するか…」ブツブツ

 

召喚サークルの稼働中に新カルデア計画を実行に移すべく、細かく考えた設計図に追加で線やメモを書く。

 

「うわっ!?凄い本格的!?っていうかCAD出来るんだね君!」

「まぁ、小遣い稼ぎに図面描いてたしな」

 

鉛筆を耳に掛けたタイミングで、召喚サークルからサーヴァントが次々と出てきた。彼ら用に既に役割分担と必要な物資は用意している。さぁ、彼らに仕事を任せよう。勿論、対価は相応のものを…。

 

「こことここにメモっと」

「何をしているのですか?マスター」

「遊びに来たぜ!マスター!」

「おぅ!今カルデア大規模改装計画を実行に移そうと思っていてな」

 

訪問してきたブリテン親子に設計図を披露すると、2人とも興味津々といった風でそれを眺めている。

 

「円卓の騎士を駆り出しましょう。ここはキャメロットではありませんので貴重な力仕事要員です。特にガウェインは背中に人工太陽でも背負わせれば年中無敵ですので」

 

さりげなく円卓の騎士を働かせる気満々のアルトリア。モードレッドも力仕事を手伝うと意気揚々と語っている。

 

「そんな事より!まずは特異点を──」

「うるせぇな!!!美味い飯が食える環境になるまで俺はカルデア(ここ)からテコでも動かん!!!」

「賛成!立ち食いはもう嫌だぜ!」

「私も賛成です。反論はありますか?聞きませんが」

「ダメだこりゃ」

 

他のサーヴァント達まで口々に食糧事情の改善を訴え始めた為、ロマンは説得を諦めた………。

 

************************

 

「よし、それぞれ持ち場は理解したな?今配布しているのはそれぞれの設計図だ。納期は1ヶ月だが、正確に丈夫に造り且つ早く出来た班には相応の品を用意する!食糧調達班はダ・ヴィンチの部屋から拝借した袋を持ったな!調達班は俺と共にレイシフト!有精卵や穀物、野菜の種を回収して帰還する。敵さんに気付かれる可能性が否定出来ないから数回しか出来ない!各員の健闘に期待する!」

「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

決起当日、カルデアのスタッフを含めたロマン達は俺とサーヴァント達のかつてない熱狂に怒りと焦りを通り越して呆れていた。非常事態を承知で食糧事情の解決を優先させる…欲望に忠実な発想である。

 

「A班!速攻で元候補生の部屋を破壊して改築するぞ!!!」

「B班!物資を現地に運び急ぎ組み立てるのです!」

「C班!下層の施設の床を引っぺがすよ!調達班が土を持ち帰り次第、田畑を作るのよ!!!」

「D班!人工太陽を用意するぞ!家畜も養殖も農耕も太陽が必須事項だ!ベストな日照時間を考えてオート稼働させる!機械が得意な奴は分かんない奴に教えろ〜!!!」

 

それぞれが食糧庫をチラチラ見ながら作業を急ぐ。

 

 

 

 

 

「レイシフト完了。マシュ〜!モニターしてるか〜?」

『はい、先輩を見失わないよう頑張ります!』

『こうなったら僕も手伝うよ、マシュのサポートは任せてくれ』

「うぃーす、よし!お前ら!袋に物を分けて入れろ!運べる程度だぞ!だが、バーサーカー!お前は例外だ!持てる限り有りっ丈土を運べ!魔力供給は惜しまん!現地人にバレないようにな!」

 

俺もレイシフトしたメンバーに指示を送りながらも双眼鏡で周囲を確認する。安全を確認しながら有りっ丈物資を集めた俺は、速攻で帰還した。

 

「C班!土が届いたぞ!!!」

「よしっ!良いタイミングだマスター!」

「B班!気張れ〜!報酬が待ってるぞ!」

「「はいっ!!!」」

 

戻った後も声を飛ばし続ける。モードレッドとアルトリアはC班で土まみれになりながら土を撒いて田畑を作り耕していた。カルデアに作った農業プラントは、水捌けの良い畑を目指して良質な土を用意。下層に溜まった水は下に引いた排水路を介して施設内の下水に混ざる。下水し、良質な水に濾過出来るカルデア内のシステムを逆利用して濾過し残った廃棄物は内部の自動処理施設によって分解。肥料に変換して田畑に撒く(因みにこの機構の開発にはダ・ヴィンチが関わっているのはナイショ)。

 

「一旦休憩だ!軽食を用意したから食え!」

 

炊き出し式になってしまったが、焼き立てのピザを用意した。すぐに出来る軽食且つカロリーの塊の為、ちょうどよかった。ダ・ヴィンチが開発していた即席ピザ釜で焼いたそれを皆美味そうに食べていた。飲み物もアルコールは無いが惜しみなく提供。それぞれに譲り合い分け合いをしながら食事を済ませたグループから急いで仕事に戻った。

この勢いなら完成も早くなるだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3週間後…

 

「では皆さん、施設の復旧及び改築を祝して〜!」

「「かんぱ〜い!!!」」

 

食糧庫の中身を殆ど引っ張り出し、完成したばかりの食堂で盛大に宴会を開いた。結局、美味い汁に全員が集まってきた為総出の作業となり、サーヴァント達の士気が高かった事も相俟って予定より1週間早く完成した。

農業プラントは既に稼働しており、現在は夜の為人工太陽は停止し気温も調節されている。また、養鶏場も卵の自動孵化装置が稼働しており、もう少しすれば雛が孵るだろう。

 

「かーっ!!!久々の酒は美味い!五臓六腑に染み渡るぜ!」

「だろだろ!オレの酒のセンスは中々だろ?」

「しろ〜おかわりれす〜」

 

モードレッドとアルトリアを交えて飲酒した俺は、敵味方関係無く酒を飲み、ご馳走に舌鼓を打つ姿にホッとした。なんだかんだで皆飯の席では仲良くなる。今回の一件でサーヴァントやスタッフ同士で仲良くなれば、こりゃ嬉しい話だ。

 

「よっしゃ!一気飲みキメるか!」

「待ってました!」

「駄目です先輩!未成年ですよね!?」

「あ?俺ぁ小学3年の頃からダチと飲んで馴れてんだよ!ちょっとイイトコ見せたるわぁ!!!」

 

余談だが、この後ウィスキーを一気飲みした俺は何か色々しでかしたらしく、朝起きた時にはベッドの横にアルトリアとモードレッドが寝ていたという……。




ロマニ・アーキマン
愛称:Dr.ロマン・ロマン
以下プロフィール不明
概要:カルデアの医療チームスタッフ。毎日多忙の生活を送っている。最近、サーヴァント達が多くの仕事を手伝うようになった為他のスタッフを含め仕事が減り楽になった。マギ☆マリのホームページを覗くのが趣味らしいが実際は不明。


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邪竜偶像戦争オルレアン
オルレアンにて…1


今回はいよいよオルレアンを舞台にした物語……なのだが…?






「3、2、1、キュー!」

 

パチンという乾いた音が響き、黒装束の女が本を読みながらゆっくりと歩き出す。

 

「──よく来ました。我が同胞(サーヴァント)たち。私が貴方たちのマスターです。召喚された理由は分かりますね?破壊と殺戮、それが私から下す尊命(オーダー)です。春を騒ぐ街があるのなら、思うまま踊りなさい。春を謳う村があるのなら、思うまま歌いな─」

 

「ジャンヌ、台詞を間違えておりますぞ」

「あ///…コホン!テイク2は?」

「残念ながら訂正する時間がありませぬ…」

 

顔を赤らめる女は後ろを向き、一通り早口言葉を話し続けてから前を向いた。

 

「どれほどの邪悪であれ、どれほどの残酷であれ、神は全てをお許し下さるでしょう。罰をお与えになるならば、それはそれで構いません。それは神の実在とその愛を証明する手段に 他ならないのですから。」

「少し早口気味ですぞジャンヌ」

「うるさいわね!召喚された瞬間に台本覚えろって無理ゲーじゃないの!!!」

「まぁまぁ、貴女は聖女であり謂わば『アイドル』。アイドルも役者として役を演じる必要があるのです…!」

「あ…そうなの。じゃあもう少し頑張るわね」

「私もプロデューサーとして最善を尽くしましょう!さぁ、次の台詞をどうぞ!!!」

 

──────

 

「はっ────夢か」

 

夢から醒めると、そこはいつもの部屋だった。隣にはモードレッドとアルトリアが気持ち良さげに惰眠を貪っている。しっかし…変な夢だったな。

 

「朝だぞ、起きろ」

「むにゃ……!スマン!寝過ぎた!」

 

彼女の頬を突きながら朝を告げると、彼女は慌てて飛び起きた。別に急いではいなかったが彼女はスルスルと脱皮の如く着替えを済ませて俺が着替えを終えるのを待っていた。一切裸が見えなかったが多分素性隠しの過程で編み出したのだろう。

 

「こいつは起こすか?」

「当たり前だろ?父上〜!起きろ〜!!!」

「むにゃぁ………はっ!?」

 

覚醒したアルトリアは慌てて飛び起きた。親子共々同じ顔してたな…。

 

「取り敢えず、身支度を済ませてから飯にするぞ。今日はブーディカが朝を作っているらしい」

「りょーかい」

「はぃ……ぅぅ…二日酔いが…」

「しっかりしろ、俺が平気なんだからサーヴァントなら余裕だろ?」

「いや…その後……あぁ///なんでもない!!!ちょっとブーディカの手伝いやってきまーす」

 

すまん…俺ホントに記憶無いんだ。何をやったんだ…俺。

 

 

 

 

 

「昨晩はお楽しみだったね、ぐだ男君」

「ブッ飛ばすぞ」

 

管制室に入った瞬間にロマンがニヤニヤしながら宣ったので相応の返事を返した。一旦落ち着いてから、ロマンが改めてシリアスモードで話をする。

 

「レイシフトしてその時代に跳んだ後のことだけど。霊脈を探しだし、召喚サークルを作ってほしいんだ。ほら、冬木でもやっただろう?冬木のときと違って念話連絡程度ならこのままでも何とかなるけど……補給物資などを転送するには、召喚サークルが確立していないといけないからさ。」

 

なるほど、冬木のあのベースキャンプの話な。

 

「前と同じように、私の宝具をセットすればそれが触媒になって召喚サークルが起動します。そうすれば先輩も自由にサーヴァントを召喚出来ます。恐らく、召喚されるのはその時代や場所に近しいサーヴァントが主になるでしょう」

「じゃあ早速行くか!特異点修正の為に!現地で美味い飯を食う為に!」

「先輩、遊びじゃ───行ってしまいました…」

「ところでマシュ、お鍋の蓋を握ってるのは大いに結構だけど盾は?」

「あ────」

 

ぶっちゃけ、盾あればいいから勝手に持ってくぞ…ってさっき言ったんだが話聞いてたかな?マシュの奴。

 

「先輩のばか〜!!!!!」

 

 

**********************

 

フランス ドン・レミ

 

「よし、モードレッド!アルトリア!レイシフト成功!これより早急に拠点制圧に向かうぞ!」

「先輩〜!置いてかないでくださ〜い!」

 

マシュを置いて行こうとした所、やはりレイシフトして追いかけて来た。正直、アルトリアとモードレッドという強キャラ枠の所為で使い物にならないんだがなぁ。

 

「よし、行くぜ父上!オルレアンにブリテンの旗を立てるんだ!」

「はい!フランスをブリテンの国にしましょう!」

「略奪の時間だ!ヒャッハー!!!」

「駄目です!歴史の修正に来たんですからね〜!」

 

俺から盾をもぎ取ったマシュはやや駆け足気味に俺達の前に出た。と、俺達の死角から聞き慣れた声が聞こえた。

 

「フィーウ!フォーウ、フォーウ!」

「フォウさん!?また付いて来てしまったのですか!?」

「フォーウ……ンキュ、キャーウ……」

 

フォウ…よく分からん謎の生き物である。アルトリアも完全スルーしている辺り、アーサー王伝説では無さそうだ。ただ、単独で顕現出来るぐらいすげぇ淫獣の香りがする。

 

「先輩か私のコフィンに忍びこんだのでしょう。幸い、フォウさんに異常はありません。どちらかに固定されているのですから、私たちが帰還すれば自動的に帰還できます。」

「じゃあ、フォウのためにも無事に帰らないとな。ま、その前にお前らを安全に帰してやるぜ!ハハハ!」

「きゃっ」

「マスター!いきなり抱きつくな!」

「(イラっ)」

 

アルトリアもモードレッドもまだやりたい事が沢山残っている筈だ。色々見聞させて楽しませてやらないとな…。

 

「先輩。時間軸の座標を確認しました。どうやら1431年です。現状、百年戦争の真っ只中という訳ですね。ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間のはずです。」

「休止期間?」

 

首を傾げるとマシュが解説してくれた。

 

「はい。百年戦争はその名の通り、百年間継続して戦争を行っていた訳ではありません。この時代の戦争は比較的のんびりしたものでしたから。捕らえられた騎士が金を払って釈放されるなど日常茶飯事だったそうです」

「勉強になるな、よし行くか!」

『よし、回線が繋がった!画像は粗いけど映像も通るようになったぞ!取り敢えず、まずは霊脈を探そう!』

 

空に浮かぶ光輪が気になったがまぁいっか。今は霊脈探しが先だ。

 

「ドクターの言う通りです。周囲の探索、この時代の人間との接触、召喚サークルの設置……やるべきことは山ほどあります。一つずつこなしていくしかありません。まずは街を目指して移動しましょう、先輩。」

「待て、フランスの斥候部隊を見つけたぜ!」

『なんでこっちのセンサーより早く見つけるんだチクショウ』

 

モードレッドの直感をナメてはいけない。あいつの感は中々だ。冬木の時は調子が悪かったが、アルトリアと和解して以降はメキメキと才能を開花させている。

 

「取り敢えずコンタクトをとりましょう。私に任せてください」

「頼むぞアルトリア」

 

ドゥン・スタリオンに乗るアルトリアは、野原を駆けて斥候部隊に声を掛けた。

 

「Bonsoir」

 

ペラペラと現地の人と会話する事2分。彼女は一団に持ち物だった乾パンの入った布袋を土産物に渡して戻って来た。

 

「話が見えてきませんね…」

 

アルトリア曰く「竜の魔女というアイドルが現れ、招待を拒否すれば殺される」という呆れた内容だった。竜の魔女?アイドル?…なんかデジャビュ。

 

「よくわかんねぇ…」

 

そう思っていたその時、上空から何かが飛来して来た。それは、緑色の鱗を持ち、大きな翼を発達した脚を持つ竜…ワイバーンだった。ワイバーンは斥候部隊達を煽るように旋回すると背中に括り付けられたビラを撒いて去って行った。堪らず俺達も彼らの方に向かった。

 

「大丈夫か?」

「───おしまいだ」

 

ヨヨヨと泣き出す彼らを慰めながらビラを読んでみると、そこには呆れた内容が書かれていた。

 

“竜の魔女ライブ開催! 3日後、領民全員を同伴の上、ラ・シャリテにお集まり下さい!

 

曲目

●私、恋は苦手なのよね

●Ja lala

●あぁ美しきかなオルレアン

●色彩(全員斉唱)

 

警告、期間内に間に合わなかった諸侯の領地は容赦無くデュへるゾ☆”

 

 

「ナメてんのかオラァン!!!」ベチーン

 

よく見ると活版印刷が無い時代だからか一枚一枚手書き。しかも、『可愛らしい黒装束の女の子がマイクを持って歌う』イラストが描かれている。

いや、なんで活版印刷が無いのにマイクを持ってんだよ。さてはアイドル系のサーヴァントか誰かの入れ知恵か?てか一部演歌臭いの混じってんぞ!?

俺だって一時期ダチの付き合いでアケビ48っていう森ガール系アイドルグループのCDを聴いてた事あったけどよぉ…流石に統一感はあったぞ?

 

「ドン・レミから向かうとなると3日では間に合わないぞ…」

「おしまいだぁ…」

 

途端にお通夜モードと化した斥候部隊を慰め、俺は解決策を考えた。その前に…彼らの状況を聞かねばなるまい。

 

「お前らの移動手段について聞きたい。どうだ?」

「馬が3頭残っているが、3頭ではとても…」

「何人が行けばいいんだ?」

「領民全員」

「ふざけてんのか!?」

「まぁ、前回出席を拒否した事でワイバーンを嗾けられ領民の殆どが死んだ…負傷者を併せて10人…だ」

 

酷ぇ事をしやがる。ジャイアンリサイタルもビックリのやりようだ。

 

「馬車は?」

「無い…が、残骸なら残っている」

「上等だ。車輪は丸盾で代用しろ。軸も槍の柄を使え。大工はまだ生きてるだろ?」

「あぁ、それには気付かなかった。助かる」

「早く行け!護衛は俺達に任せてくれ」

 

取り敢えず、指示を飛ばして彼らを送った。馬車を使えば間に合うだろう。

 

「アルトリア、折り入って頼みがあるんだが…」

「はい、何でしょう…?」

 

アルトリアは笑顔で聞き返した時、周囲の目線がドゥン・スタリオンに集まっている事に気付いた…。




フォウ
愛称:フォウ君・フォウさん・淫獣
概要:カルデアに住む謎の生物。狐と羊を足して二で割ったような外見で、作中ではリス、ネコ、ウサギなどにも喩えられる。ぐだ男からは「単独で顕現出来るくらいヤバい淫獣」と呼ばれている。マシュ共々空気気味だが、彼女の癒しでもある。


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オルレアンにて…2

暫く、長い溜めになります。シナリオの内容が変わっていますが…終着点は同じにする予定です。







「鬼!悪魔!」

「何とでも言うがいい!今は非常時だ。それにお前だけ馬ってのは不公平なんだよ!!!」

 

愛馬に馬車を引かせる事になり、アルトリアは涙目で抗議した。が、今は馬が足りない。一頭でも増えれば負傷者の負担も減る。馬車の中で俺は対策を巡らせる。取り敢えず、敵がどんな奴かを見定める事が大事だろう。

 

「父上!敵は少ないぜ!先行して制圧してくる!」

「頼みます」

 

モードレッドが軽い足取りで草原を駆け抜けるのを見送り、俺は負傷兵から借りた弓矢の使い方を聞いていた。とにかく、俺も戦えないと足手まといになっちまうからな。

 

「いいセンスしてるぞ、短弓でここまでやれるなら即戦力として充分過ぎる」

「やめてくれよ、照れるだろ」

「ただいま〜、マスター!」

 

モードレッドは仕事が早い。あっという間に制圧して戻ってきたらしい。その手には何か見覚えのあるものが握られている。

 

「取り敢えず、一団を制圧したんだがコイツを見てくれよ」

「なんだこれ?」

「アルバム」

「──は?」

「ジャンヌ・ダルクのグラビアアルバム」

 

何その焚書案件。見てみると、強気そうな顔をしたジャンヌ・ダルクが水着でセクシーポーズをキメた写真やベッドに横たわり蠱惑的な笑みを浮かべる写真といった明らかにこの時代のヨーロッパ人には早過ぎる物品が揃っていた。

 

「なんだこれは、たまげたなぁ」

「他にも法被やら何やら色々あったぜ。アイドルってのは間違いないみてぇだ」

「はぁ……なんか解決する自信無くなってきたぞおい」

「はい……帰りましょう」

「駄目ですよ何帰ろうとしてるんですか先輩!?」

 

これならフランスを殆ど壊滅に追い込むくらい暴れてくれた方がやりやすい。だが、今回のこれは「期日までに間に合えば後は歌や踊りを聞いているだけで安全が保証される」のだ。正直に言おう、なんか危機感が感じられない。

 

「あ、ラ・シャリテに来ましたよ先輩!」

「ちょっと待て、関所があるぜ」

「関所?」

 

ちゃんと整備された道の向こうに確かに関所があった。他の諸侯達が同じように馬車を引かせて関所に何かを渡して通っていく。一体何を渡したんだ?取り敢えず、通ろう。

 

「いらっしゃいませ、ジャンヌ・ダルクのライブ会場へ。お客様はチケットをお持ちですか?」

「チケットってこのビラか?」

「はい、確認致しました。それでは素敵なひとときを!」

 

あー…なんか、ダルい。全然趣旨が分かんねぇ…。ていうか、関所の役人がみんなアイドルオタクみたいになってたぞ!?どうなってんだこれ。

 

「えー、お客様はこちらの席へどうぞ」

「どうも」

 

取り敢えず全員で席に着いた後、スタッフが用意した水筒で水分を補給した。野外の特設会場は椅子やら木組みのステージやらで凄い本格的だ。

 

「さてと…この隙に他の人の話を聞くとするか」

 

一ヶ所に人が集まっているので情報収集にはうってつけだ。取り敢えず、話を聞いてみるか。

 

「えー、すんません。ちょっと話を伺いたいんですが…」

「はい、なんでしょう?」

「ジャンヌ・ダルクがこのアイドル?ってのを始めた時期とか聞きたいんだけど良いっスか?」

 

リヨン出身という農家のご婦人に声をかけると、彼女の顔は窶れていた。

 

「去年よ。去年からジャンヌ・ダルクは竜の魔女って芸名でアイドルを始めたのよ。他の人達は最初こそ『死んだ筈の魔女が蘇った!復讐に来る!』とか言い張ってたのに今なんて『ジャンヌ様〜子豚な私を罵って〜!』とか叫んでるのよ?野良仕事しないでいっつも追っかけしてるし…」

「…」

 

これはある意味タチが悪い侵略だな。民衆を蹂躙するのではなく、洗脳して国力そのものを弱らせて滅ぼす魂胆だ。

 

「ウチの主人なんて私よりジャンヌ・ダルク様の方がいいとか言い出してるしもう家庭崩壊も秒読みね。あーやだやだ」

「…その、御愁傷様っス」

 

取材のお礼にビスケットを手渡すと、彼女は嬉しそうな顔で戻っていった。席に戻り、成果を報告すると3人+画面1人と一匹は苦虫を噛んだような顔をした。

 

「なんか…ある意味ヤバい侵略方法だな」

「我が槍でも解決出来ない問題ってあるのですね」

「先輩…もう帰りたいです」

『ネットアイドルこそ至高』

「フォウ…」

 

と、その時。不思議な音楽が響いた。急に空が暗くなると、スポットライトが一点に集中する。

 

「みんな〜!今日は竜の魔女のライブに来てくれてありがとう〜♪」

 

後ろの幕から現れたのは漆黒の装束を纏った女性だった。手にはマイク、キラキラとしたオーラを纏った彼女はクルクルと回るとポーズを決めた。イタイ…イタ過ぎる…。

 

「今日も私、ジャンヌ・ダルクは皆さんの為に歌います!最後の全員斉唱はしっかり歌わなきゃデュへっちゃうゾ☆」

「「ぉおおおおおおおお!!!」」

 

観客から歓声が上がる。さっきまで家庭崩壊とか抜かしてたご婦人までハイテンションで叫んでいる。とにかく、彼女のカリスマ性が高い事だけは分かった。

 

「それでは…ジャンヌ・ダルク歌います!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

感想を言おう。上手い…思わずカルデア組が全員ハイテンションになるぐらい上手かった。まさに最強のアイドルだ。キョンキョンとかセーコちゃんとかそこらへんのカリスマ性だ。

アイドルのアの字も知らない連中がそんなアイドルに出会えば夢中になるのも仕方ないだろう…。

 

「今日は私の為に来てくれてありがと〜♪じゃあまたね〜!」

「「いつでも待ってま〜す!!!」」

 

お決まりのやり取り(らしい)をした後、ジャンヌ・ダルクはどこかへと消えた。途端に空が明るくなり、魔法に掛けられた観客達はその余韻を楽しみながら帰っていった…。

 

*******************

 

「いや、これそのままでいいんじゃね?」

「そうですね」

「そうだな」

「アイドルを取り上げるのは可哀想かもしれませんね」

「フォウ!」

 

『そうだね〜…じゃなくて!駄目だよ!!!今回の特異点は死んだ筈のジャンヌ・ダルクが蘇りアイカツをした事から始まっているんだ!』

 

それもそうなんだけどなぁ…なんか肩透かしを食らった気分なんだよな。洗脳とはいえ、フランス国民も楽しんでいるみたいだし、これ以上責めきれない…というか。

 

 

「取り敢えず、対策を考えながら観光でもするか…」

『だめだこりゃ』




ジャンヌ・ダルク(?)
真名:ジャンヌ・ダルク
身長:159cm / 体重:44kg
出典:史実
スリーサイズ:B85/W59/H86
属性:混沌・悪
性別:女性
概要:突如現れた竜の魔女を自称するアイドル。彼女の歌や踊りは観客を魅了し、洗脳させてしまうとまで言われるほど上手い。実は彼女にも何やら事情があるようで……?





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オルレアンにて…3

長い溜めを経てようやくあの人が登場します…







街で買い物を楽しんだ後、俺は真剣に考えていた。あれだけのアイドルを殺す事が果たして相応しい行為なのかどうか…と。いっそ侵略行為などに及んでくれれば喜んで倒すのだが、イマイチ覚悟を決め切れない。

どうしたものか…と思ったその時

 

 

ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 

「ぎゃああああ!!!糠味噌腐る〜!!!」

 

凄まじい音痴な歌を耳にした。その音源へと向かってみると、1人の亜人がノリノリで歌っているではないか。他の観衆はとうに気絶し意識を手放していた。

 

「ストップ!ストップ!」

 

そう必死に叫ぶと、彼女は歌うのを止めた。代わりに鬱陶しそうな目でこちらを見返してくる。

 

「何よ、あんた。私の路上ライブを邪魔するっての?」

「ライブ!?今のが!?」

 

彼女の声そのものは綺麗だ。一体その声からどうやってあのデスメタルみたいな歌が出来るんだよ!?

 

「そうよ、全く。折角このフランスで華々しくアイドルデビューを飾ろうとしたのにいつの間にか私の専売特許は奪われるわあっちにファンを取られるわ散々よ!」

 

プンスカ怒る亜人の少女に半ば呆れながらも、取り敢えず水筒を渡した。

 

「気が利くわね!私のプロデューサーにしてあげてもいいわ」

「謹んでお断り致します」

「私の名前はエリザベート・バートリーよ。エリザでいいわよ」

「拒否権無いのかよ!?」

 

ヤバい雰囲気だな…と思ったタイミングで、モードレッド達がやって来た。

 

「こんな所にいたのかマスター、ん…誰だこいつ?」

「エリザベート・バートリーだってよ。多分サーヴァントだと思うんだけどどんな奴か分かるか?」

「知らね、竜の尻尾とか羽とかツノとか生えてる辺り多分ロクでもねぇ奴だぜ」

「それな」

「さっきから失礼ねあんた達!?」

 

悪口に堪えられなくなったエリザが怒気を孕んだ声で叫ぶが、そのボイスですら軽い音波攻撃となり、窓が吹き飛んだ。

 

『エリザベート・バートリー…史実に存在し、実在が確認されている。十六世紀~十七世紀の人物だよ。1560年、ハンガリー家の名家、ドラゴンの歯を紋章とするバートリ家に生まれ、美しい吸血鬼カーミラのモデルのひとりであり、600人以上の娘の生き血を浴びて己の美貌を保とうとした悪女と言われてるけど……何でアイドル要素が加わったんだ!?』

「解説ありがとうロマン」

「私のこのプリティな所は、スキル『無辜の怪物』で魔人化しているからよ。私の知らないところで本当に竜の血が交じっているみたいだけどね。そしてアイドル要素は〜昔見た日本のアイドルを見て憧れたからよ!」

 

なんだこのメチャクチャなサーヴァントは…。

 

「エリザベート・バートリー、その武器を見るに…貴女はランサーですね?」

「よく分かったわね!この槍はマイクスタンドにもなる優れものよ!欲しいって言ってもあげないわよ♪」

 

そんな風に騒いでいた時、いきなり物陰から大量の兵士がやって来た。皆、怒りを孕んだ顔でエリザベートを睨んでいる。

 

「そこの女!数々の暴力行為及びジャンヌ・ダルク様への侮辱行為…許すまじ!!!ここで討ち果たしてしんぜよう!!!」

「「ジャンヌ・ダルク様の為に!!!」」

 

ヤベ…面倒事に巻き込まれたなこれ。と、思った時…エリザが前に出た。

 

「私はエリザベート・バートリー!ここで路上ライブをやって生計を立てているアイドルよ。私の邪魔をしようって言うのなら相手になってあげる!!!」

 

彼女はマイクを外してポケットに仕舞うとマイクスタンドに短剣を取り付けてクルクルと回した。モードレッドが加勢に行こうとした所、エリザはそれを制した。

 

「アイドルは熾烈な争いをするわ。でも、それは正々堂々とした歌での勝負で無ければならない…だから、私は歌わせずに追放しようとするあんた達を許さないわ!」

「やれ!!!ブチ殺せ!!!」

 

兵士達が槍を手に襲い掛かった。彼女はそれに対してマイクスタンドの柄で踊るように受け流すと穂先で武器のみをピンポイントで斬り裂いた。さらに、ポールダンスのようにマイクスタンドを軸にターンすると遠心力で尻尾を振るって薙ぎ払い1人の意識を刈り取った。わずか5秒で2人が戦意喪失・気絶という状況になり、兵士達が後ずさる。

 

「どう?まだやる?」

「チッ!引き上げだ!」

 

兵士達が一斉に立ち去るのを確認したエリザはマイクスタンドから剣を外してマイクを付け直した。

 

「どう?私の力は」

「オレ3秒で5人イケるぞ?」

「ウソ……っていうかその武器!?あんたらまさか…!?」

「あぁ!オレは円卓の騎士モードレッド」

「私はアルトリア・ペンドラゴンです」

「私はマシ──」

「やだぁ〜!円卓の騎士と王様だなんて!もしかしてイケメンな王子様とか知ってる?アーツ3枚のカッコイイ人とか❤︎」

「あー…バスター3枚の芋ゴリラなら知ってるぞ…」

 

完全にスルーされたマシュはショックのあまり四隅でいじけてしまった。強く生きろよ。死んだら盾ぐらいは拾っとくからな。

 

「ところで、アイドルの座を追われたという話について詳しく聞かせてくれ」

「いいわ。でも見てなさい!今にトップアイドルの座を奪い返してあげるんだから!!!」

 

 

 

 

 

 

彼女から得た情報は貴重だった。

音響施設の情報・音響道具の作り方・アイドルのイロハをとある人物に教えた所、突然ジャンヌ・ダルクというアイドルが出て来てお払い箱にされた…………か。

 

「全ての元凶テメェじゃねぇか!!!」

 

モードレッドがブチギレて壁を拳で叩き割った。流石に俺も同情した。これのせいでアイドルであるジャンヌ・ダルクを責める事が出来なくなったのだ。しかも、伝説のアイドル級のカリスマが俺に殺す気を奪っていた。どうすりゃいいんだ…。

 

「だから〜、私をジャンヌと歌唱力勝負させ───」

「論外。お前と釣り合うかボケ」

「酷いッ!この人女の子にボケって言った〜!」

「いや、いつものマスターだしなぁ」

「責めませんよ私も」

「えぇ…(困惑)」

 

ジャンヌ・ダルクに対抗出来るアイドルなんているのだろうか…?取り敢えず、情報提供をしてくれたエリザには報酬として水筒を一本を渡して俺達はラ・シャリテを後にした。

 

 

──────

 

「これ似合ってるか?」

「似合ってるぞ。なかなか可愛いじゃねぇか!」

 

モードレッドもアルトリアも戦闘服では無く、フランスの町娘の服を着ている。モードレッドは赤を基調とした物を、アルトリアは白と青を混ぜた物だ。

 

「私はどうでしょう?」

「アルトリアも中々のチョイスだな。可愛いぜ」

「モードレッドの服のセンスも侮れないものです」

「それどーゆー事だよ〜」

「ふふ、冗談ですよ」

「───私も着ればよかったです」

 

親子が仲良くしている姿は絵になる。武器さえ握っていなければ2人とも普通の家族として生きられたのではないか…まぁ、普通の家族としても不貞の子となると確執は出来るが、それでも真っ直ぐに向き合えばこうして幸せな親子になれる。対話の大切さを感じるな。

 

「おい、サーヴァントが近くにいるぞ。警戒態勢だ」

 

モードレッドは肩に担いでいたクラレントを構え、アルトリアも手綱で引いていたドゥン・スタリオンに飛び乗り、懸架していた聖槍を引き抜いた。

が、物陰から出て来たのは…歴史でよく見る方のジャンヌ・ダルクだった。

 

 

 

 

 




エリザベート・バートリー
愛称:エリザ(自称)
真名:エリザベート=バートリー
誕生日:5月17日 / 血液型:不明
身長:154cm(尻尾含まず) / 体重:44kg
出典:史実
スリーサイズ:B77/W56/H80
属性:混沌・悪 / カテゴリ:人
性別:女性
趣味:アイカツ
特技:歌
概要:自称アイドルことエリザベート・バートリー。本編より早めに登場。強キャラ面が強調されているが、キャラがブレないように気を付けたとは作者の談。実は今回の原作との相違点の元凶だったりする。





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オルレアンにて…4

しばし、シリアスになります。新たな弄られ要員爆誕





「なるほど、そっちの状況は理解した。」

「はい、私としても何故こうなったのか…よく理解出来ないのです」

 

信仰を失ったフランスの地は、今やアイドルを神のように崇め神の声すら聞こえなくなったとジャンヌはそう言った。

ジャンヌ・ダルク─以下、黒ジャンヌ─はフランスの国民から信仰と心を奪った。結果として、フランスの国力そのものが低下の一途を辿り、ほぼ毎週参覲交代状態の貴族達は兵力を整える事すらままならない。恐らく、落ち込んだ瞬間を狙って何らかの方法で黒ジャンヌを女王として担ぎ上げるのではないか…というのがジャンヌの推測だ。

 

「あの人は一体何を考えているのでしょうか…?」

「だが、本物のジャンヌ・ダルクが出て来たおかげで俺も本腰を上げる気になれた。とにかく、俺達はあの黒ジャンヌをどうにかして倒して聖杯を回収する必要がある。」

「よっ!待ってました!」

 

俺の宣言にモードレッドも拍手で応えた。黒い方しかこのフランスに居ないと思っていたのだが、本物が居るなら別だ。おまけに、彼女の推測はおそらく間違ってはいない。ならば、上手くやってあいつを引き摺り出して聖杯を掻っ攫わねぇとな!

 

「で、こっからオルレアンまでどうするよ?オレ達側には世間で言う偽物のジャンヌ・ダルクが居るんだぜ?」

「ジャンヌの素性は隠す。取り敢えず、その聖女みてぇな格好は脱がした方がいいな」

「えっ?」

「賛成です。ただでさえ瓜二つなのですからドン・レミの村娘の格好をさせなければですね」

「えっ?」

「私も先輩の意見に賛成です。顔には煤でも塗って田舎臭さを出しましょう」

「えぇええええええええええええええええ!?」

 

悪いが変装をさせなければその容姿ではバレてしまう。取り敢えず、健啖家な村娘として役割を演じてもらうより他ない。

 

 

 

 

 

 

 

「悪くありませんね!昔を思い出します!(半ギレ)」

 

昔の格好に心躍らせる(?)ジャンヌを引き連れ、俺達は再びラ・シャリテに向かって歩を進めた……が、俺は遠くの方角から火の手が上がっている事に気付いた。あれは…ラ・シャリテではないか!?

 

「あれは…!」

「急ぐぞ!ジャンヌの預言が現実になる前に!!!」

 

俺はアルトリアに偵察を任じ、モードレッド達を引き連れて走り出す。遠くを見るにワイバーンが飛翔しているが、ビラを撒いてた個体と色が違う。あっちは緑だったが、こっちは赤だ。

 

「ジャンヌ、戦闘には参加するな!身元を明かせば面倒な事になる!!!」

「いえ!人が犠牲になっているのです!私が止めずしてな───」

 

アルトリアの報告ではワイバーン10頭が飛翔して街を襲っているのだという。対してこちらは飛べない剣士と槍兵と盾持ちが1人ずつ…これは厳しいか。

 

 

 

 

そう思っていたその時であった。

 

吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・へイン)!」

 

突如ワイバーン達に何処からか飛翔した黒剣が突き刺さる。街中央のオベリスクの上で旗を掲げているのは……あの黒ジャンヌであった。

 

「さぁ、我が旗よ!祖国フランスの大地を守りたまえ!!!」

 

凛と響く声は、逃げ惑う人々から不安と恐怖を奪った。黒ジャンヌの力はワイバーン達を全て撃退させる程に強力であった。

 

「「ジャンヌ様、バンザーイ!!!やはりジャンヌ様は我らの救世主だ!!!」」

 

 

 

 

「なんてこと…!」

 

間違いない。マッチポンプだ。普段使役している個体と異なるワイバーンを使って街を襲わせ黒ジャンヌ自らが撃退し英雄に見せる………なかなかのやり手だ。学のない国民には彼女こそが英雄と見えているに違いなかった。

その方法にジャンヌは唇を噛み締めた。それは間違いなく自分の名を利用し且つ貶める行為であった。だが、今出て行けば悪者は自分になる。何故ならば、自分は偽モノなのだから…!

 

「さぁ、皆は街の復興に努めなさい。私が居る限りフランスは永遠の栄光を得られるでしょう」

 

そう言い残し彼女はゆっくりと歩き去った。が、一瞬だけ…ほんの一瞬…彼女はジャンヌの顔を見てニヤリと笑った。

 

 

──────

 

「復興の手伝いありがとうございます!」

「やる事をやっただけだ。礼は要らん」

 

取り敢えず、ワイバーンが破壊した屋根の修理を手伝ってから、俺は皆を集めて酒場へと向かった。今やるべきなのは腹を満たす事と作戦会議だ。

 

 

 

 

 

 

「さて…俺の考えとしては拠点オルレアンへ真っ直ぐ向かい、直接本丸を潰す事が得策だと思っている。それについて、反論はあるか?」

「ワイバーン10頭」

「ッ…」

「今のだけでもワイバーン10頭だぞ?恐らく拠点にはもっと居る…そいつら+サーヴァント全部を相手に戦うには危険過ぎるんじゃねぇのか?」

 

酒場で出てきたチーズ料理に舌鼓を打ち、酒を煽りながら会議をする。俺は突貫案を出したが、モードレッドは現実を突き付けて否定した。彼女の言う事は本当だ。だが、どうすればいいのか…?早くも行き詰まり始めていた。

 

「私の提案です」

 

手を挙げたのはジャンヌだった。先程からもぐもぐと腹にどっしりくる料理を7皿も平らげている。

 

「ジルに協力を仰ぎたいのです」

「ジル?」

「はい、現在このフランスで生きている…あのジルです」

 

ジャンヌが死んだ今のフランスに居るジルに会い、彼を説得して味方に付けよう…それが彼女の考えであった。

 

「出来ればこの方法は使いたくなったのですが……ジルならば!彼ならば私の話に耳を傾けてくれるかもしれません!」

「しっ!声が大きいですよ。ジャンヌさん」

「あっ///ごめんなさい」

 

なるほどな……それはアリだ。彼の兵力を借りて総力戦を仕掛ける…いい案だ。ただしこれには欠点があった。

 

「もし、ジルと兵士が黒ジャンヌのファンだったらどうする?弓引く事が出来ないかもしれねぇぞ?」

「それは……」

「私からそれにもう一個追加したい。よろしいでしょうか」

「なんだ?」

 

今度はアルトリアの案だ。

 

「他のサーヴァントを味方に付けて戦うのはどうでしょう?」

「それだ。まずは現地の味方になりそうなサーヴァントを引き連れてジルを説得。勝てる可能性がある事を伝え協力を仰ぎ総力戦にする。民衆が加勢に来る前にカタをつける。いい作戦だ。それで行こう」

 

『ふぁ…おはよう。あれ?何か重要な話をしていたのかな?』

 

と、そのタイミングでロマンが通信して来たので事情を説明した。彼はすぐにGOサインを出した。

 

『ただ、忠告するよ。現在確認されている限り、何人かのサーヴァントには狂化が施されている。それは間違いなく黒ジャンヌの構成員だろう。なるべく接触を避けるように』

「了解!じゃあ行くぞ」

 

支払いを済ませた俺達は早速周囲の捜索に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「取り敢えず、各自散開してサーヴァントを探そう。モードレッドは俺と来い!」

 

各自散開してサーヴァントを探す。未登録のサーヴァント反応を頼りに周囲を調査するが、ラ・シャリテには1つしか無かった。ボロボロの塔だ。

 

「ロマン、サーヴァントを召集してくれ。俺とモードレッドは先行して救助要請をしに行く」

『分かった。そうしよう』

「行くぞ、モードレッド」

『了解ッ!』

 

塔に突入した俺はモードレッドを先行させ、俺も弓を手に取って螺旋階段を登った。恐らくサーヴァントは最上階に居る。

 

『気を付けてくれ!別のサーヴァント反応だ。狂化されているぞ!!!』

「んなこたァ分かってる!!!マスター、オレの手を取れ!」

「サンキュ!」

 

モードレッドは俺の手を握ると背中に背負って勢い良く階段を飛び越える。直後、モードレッドが居た場所に何かが飛んで来た。アレは…矢か?

 

「狙われてる!魔力供給を優先的に回してくれ!」

 

一瞬見えた窓から見えたのは、矢を番える猫耳の女だった。

 

「次来る!」

「了解ッ!」

 

短く跳躍すると、先読みの一射がモードレッドの顔を掠める。一瞬驚くが、走る足を止めずに一気に駆け抜ける。

 

「父上が来るまで時間を稼ぐぞ!ロマン!父上は何処にいるんだ!?」

『アルトリアはもうそろそろ着く!それまで辛抱してくれ!』

「父上にあいつの座標を送ってくれ!」

『分かった!』

 

次の一射は数歩先の階段を射抜いた。モードレッドは咄嗟に俺を次の階段まで放り投げクラレントを抜く。俺の着地点を予測した狙撃は続いて飛び込んだモードレッドにより弾かれる。負けじと俺も矢を番え牽制射撃を行った。尤も、短弓ではアウトレンジだが、攻撃手段がある事だけでもアピール出来れば充分だ。

と、そのタイミングで馬の駆け抜ける音が響いた。良かった!アルトリアが間に合った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせるものか!!!」

 

アルトリアは塔に向けて狙撃を繰り返す弓兵に襲い掛かる。ドゥン・スタリオンの跳躍をバネに跳躍したアルトリアがロンの槍を突き立てる。ひらりと避ける弓兵だったが、それは予想済みだった。

 

「ならばこれはッ!」

 

腰に提げた鞘から鈍剣を高速抜刀し一閃。右腕をへし折ったが切断までには至らなかった。しかし、結果として分が悪いと判断した弓兵は離脱してくれた。

 

「モードレッド、早く行きなさい!」

 

再び感じた殺気。鈍剣を振るい、それを受け止めるとそこに居たのは槍を手にした老人だった。

 

「恐らく妨害をしてくるとヤマ勘で潜伏していたが…やはり罠に掛かってくれた」

「最初から反応を消して隠れていたのか…!」

 

なんとか押し返したアルトリアはロンを引き抜き、口笛でドゥン・スタリオンを呼んだ。跳躍し老人を牽制した彼はすぐに主人の下へと戻った。再び馬に跨ったアルトリアは穂先を老人に向けた。

 

「続けるか?サーヴァントよ」

「無論」

 

老人はニヤリと笑った瞬間、直感で危険を感じたアルトリアは馬に後退の指示を出す。ところが、それより早く老人の腹が爆ぜた。一気に襲い掛かる臓物の杭がアルトリアからロンを弾き飛ばした。

 

「その手は見切っ───!?」

 

冷静に鈍剣で斬り払い距離を詰めようとした時、腹部に強い衝撃を感じた。冷たい感触…何かを吸われる異物感…腹に刺さるのは避けていた筈の臓物の杭。

 

血塗れ王鬼(カズィクル・ベイ)。甘いな…アーサー王よ」

「な…に……」

 

その一撃で意識を失ったアルトリアだったが、ドゥン・スタリオンが彼女を乗せたまま後退して老人の槍を躱し、逃走した。

 

「フム、浅いか……しかし、これ以上遠くへは逃げられまい…」

 

老人……ヴラド三世はその背を見送り、一気に最上階へと跳躍した。

 

********************

 

最上階

 

「父上の反応が無くなった…どうなったんだよ!?」

『アーチャータイプとの交戦中にランサータイプと遭遇。腹部に宝具攻撃を受けて現在離脱している。今、マシュとジャンヌが応急処置をしている筈だ』

「情報サンキュー!取り敢えず、あいつを助けるぞ」

 

アルトリアは心配だが、今はあそこの床で倒れているサーヴァントの救助が優先だ。

 

「助けに来たぞ!そこの兄ちゃん!」

「───ッ」

 

サーヴァントの青年は俺を見るなり剣を振るってきた…が、その腕はあまりに弱々しく、俺でも受け止める事が出来た。

 

『酷いな…恐らく呪いの類だろう』

「マスター!避けろ!!!」

 

その時、モードレッドが悲鳴に近い叫び声を上げた。慌てて彼を抱えたまま横っ飛びに避けた瞬間。槍が俺のいた所を打ち抜いた。

 

「避けたか。サーヴァントの居なければ死んでいたな…人間」

「父上の仇か!」

 

壁を破壊し現れたのは老人であった。しかし、そこには弱々しい部分は一切無く、寧ろ荘厳な雰囲気が感じられる…恐ろしい奴だ。かなりの猛者である事も頷ける。

 

『気を付けろ!そのサーヴァントはヴラド三世…後世でドラキュラのモデルとされたワラキア公だ!』

「さて、私の狙いであったサーヴァントは…弱っているか」

「ッ…!」

 

凄まじい気迫……モードレッドですら彼の放つプレッシャーに押されている。が…彼は意外にも槍を拾った後、ゆっくりと戻っていった。

 

「ならば、引き入れる価値も無し。退却するとしよう」

「待て──!」

 

軽いステップで破壊した場所から下へと飛び降りたヴラド三世の姿は彼の体から発生した霧に隠れて消えた。俺達はそれを見送る事しか出来なかった。

 

「クソッ!!!」

 

モードレッドは悔しさのあまりクラレントを床に叩きつけた。敵討ちと決めた筈なのにプレッシャーに押し負け戦わずして負けた事に彼女は怒っていた。

 

「落ち着け、今はこのサーヴァントを助け出すのが先だ」

「すまない…」

 

俺は青年を背負い、階段を降りた。壊れた段はモードレッドに渡して進んでいく。その間も周囲を伺いながら階段を下り……

 

『待て!出るんじゃない!サーヴァント反応多数!そして味方の反応…これは……!!!』

「人質か!!!」

 

「その通りよ」

 

その声と同時に壁が吹き飛ばされた。モードレッドがクラレントで破片を防いでくれたが、煙が晴れた先には出来れば見たくない光景が広がっていた。

 

 

漆黒のローブで全身を隠した仮面の女…それがアルトリアの腹を踏み付け、他のサーヴァント達がマシュとジャンヌ、そして彼女達の武器と馬を拘束していた。

 

「まさか、異国の者がこのフランスを荒らそうとしていたとはねぇ…」

「その声は…ジャンヌ!」

 

そう告げると彼女は仮面を外し、ジャンヌ・ダルクの顔を晒した。それは聖女でもアイドルでもない…悪事を企む悪党のそれであった。

 

「それにしても面白い事を考えたわね…私の贋作を担ぎ上げて謀反を企てようだなんて」

「がっ──!」

 

ジャンヌがアルトリアを踏む力が強め、傷口から血が噴き出した。

 

「テメェ!!!」

「あら?良いのかしら?あんたが私を殺そうとすればこのサーヴァントとジャンヌ…そして貴女の“お父上”を殺すわよ」

「クッ……」

 

相手を蔑むような笑みでモードレッドを見下すジャンヌ…だが、彼女が従えるサーヴァントを見て、俺は疑問を覚えた。

何人かのサーヴァントは……この行為を良しと思っていない?

 

「因みに要求はなんだ?」

「えぇ、極めて短く簡単よ。“私の贋作の処刑”、それと“この特異点に2度と関わらないでちょうだい”。どう?これでもかなり譲歩したわ。人質も解放してあげるし、良い案でしょう?」

「あぁ、アーサー王さえ足蹴にしてなければな」

「私は寛大だから3分、3分だけ時間をあげるわ。その間に答えを出しなさい」

 

ジャンヌは再び仮面で顔を隠し、腰の細剣を抜き出すとアルトリアの喉元に向けた。八方塞がりって奴だ。その間にも俺は周囲の様子を伺っていた。反撃の糸口は無いか…と。

そして3分が経った。

 

「さぁ、時間よ。要求を聞こうかしら?」

「あぁ、いいだろう」

 

答えは出ている……。

 

「───殺れよ!!!」

 

直後、彼女達の死角から別の攻撃が飛んで来た。魔力の弾丸…それらが殺到する隙を突いてマシュが拘束を解き、自分を拘束していたアサシンのサーヴァントを殴り飛ばしジャンヌを解放。

 

「うらぁああああああああああああ!!!父上ぇえええええええ!!!」

「何ッ!?───ッ」

 

続けてモードレッドがジャンヌに決死のタックルを仕掛けて弾き飛ばしアルトリアを救助した。降り注ぐ魔力の弾丸が上手く砂埃を発生させ煙幕を張る。それを利用して俺達は武器とドゥン・スタリオンを回収して離脱した……。

 

 

 

 

 

「すまねぇ!助かった!」

「いいえ、貴方こそ怪我は無かったかしら?」

 

俺達を助けてくれたのはライダーとキャスターのサーヴァントだった…………。




ジャンヌ・ダルク(白い方)
身長:159cm / 体重:44kg
出典:史実
スリーサイズ:B85/W59/H86
属性:秩序・善 / カテゴリ:星
性別:女性
趣味:不明
特技:旗振り
概要:カルデア組から散々弄られているルーラー。サーヴァントなりたての状態にまで霊基が低下しており、宝具程度しか役に立てない。健啖ぶりは健在。






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オルレアンにて…5

やや端折り気味になりますが、いよいよ後半戦です。







「マリー・アントワネットにヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトか。頼もしい仲間が加わった」

「そう言ってくれるとわたくしも助けた甲斐がありましたわ」

「ボクには音楽くらいしか取り柄が無いけど、頑張らせてもらうよ」

 

いつの間にか戻って来たフォウはマリーの腕の中に抱かれご満悦。マシュは貴重な親友を奪われた事でむくれていた。アルトリアは腹にサラシを巻いて傷を塞ぎ応急処置としてカルデアの医療キットで痕の残らない縫合をしておいた。

彼女達に事情を説明すると力になると言ってくれた。ホントに助かる。

 

「取り敢えず、怪我してるサーヴァント2人を休ませて、動けるようになったタイミングで仕事と行きましょう」

「すまねぇ…父上を助けてくれてありがとう…」

 

モードレッドは半泣きでマリーに頭を下げた。とにかく、アルトリアには栄養のある料理を作ってしっかり傷を癒してもらわないとな。

 

「農民から買い上げた鶏肉と野菜でスープを作った。パンもあるから遠慮無く食え」

「ん〜!トマトスープかぁ!美味いな!!!」

「はい…傷が開かないようホドホドに戴きます」

 

「まぁ!なかなか美味しいですわ!外食ばかりで資金が少なくなってきましたので…これで資金面はある程度解決出来ますわね!」

「ふむ…悪くはない味だ。少し庶民的過ぎるがね」

 

「そちらのサーヴァントさんも食べましょう。栄養が付きますよ」

「フォウ!」

「すまない…呪いのせいで自由に動けなくて本当にすまない…」

 

取り敢えず、評価はそこそこ。さて、大所帯になったはいいが…その分敵に見つかりやすくなってしまうな。

 

「マシュ、呪いの解き方は分かるか?」

「はい、サーヴァントが受けた呪いは聖人の力によって解く事が可能です。が、ジャンヌさんは霊基そのものが低下しており、サーヴァントになりたての状態ですので難しいかと」

「つっかえねぇなぁ」

「酷いッ!?服の件といい私に対して辛辣過ぎませんか!?」

「ジャンヌさん…誰もが通る道です(遠い目)」

 

まぁ、ジャンヌが本当の意味で役立たずと分かったので、頭数にはカウントせず聖人を探す事を考えるとしよう。

 

「じゃあ手分けして探そう。アルトリア・そこのサーヴァント…ジークフリートって言うのか?…それとマシュは待機。俺とモードレッドがAチーム、ジャンヌ・アマデウス・マリーはBチームで捜索しよう。何、どっかに聖人は居るはずだ。気落ちせずに───」

「話は聞かせてもらったわ」

 

その時、俺達の前に見覚えのあるサーヴァントが現れた。黒ジャンヌのサーヴァントの1人だ…おまけにあの時に嫌そうな顔をしていた者の1人でもある。聖人っぽい容姿をしているのが惜しい。仲間に出来れば苦労せずに済んだんだが…。

 

「心配しないで、私は追撃者に任命されて来たサーヴァントだけど貴方達の話は聞かなかった事にするわ」

「用件は何だ?事と場合によっては…」

「──私を倒しなさい」

 

この女を倒せというのか?どういう意味だ?

 

「元々、私にも狂化スキルが施されてるんだけど、精神的に抑え込んでいる。でも、私は今回の一件でこれ以上関わりたくないと思ったの。あのような卑劣な方法を取った時にそう決めたわ。味方になるのはいいけど、私を見つけられるのも時間の問題。何か処置を施せば痕跡でバレてしまう…そうすれば私の所為で貴方達を危険に晒す事になる」

 

なるほど、自殺をご所望らしい。だが、全力で戦わなければ怪しまれると踏んでの判断だ。それなら了解だ。遠慮無くやらせてもらおう。

 

「あと、私が匿ってたサーヴァント…助けてくれてありがとう」

 

ジークフリートの事か。彼女が匿ったという事は重要案件である可能性があるな。流石は聖人といったところか。

 

「じゃあ、覚悟しろよ」

 

モードレッドはクラレントを拾い上げ、杖にした。俺達が固唾を呑む中…2人は激突した。

 

──────

 

「サーヴァント、ライダー。消滅…やはり使い物にはならなかったようですね」

 

アイドル活動の後、舞台裏で黒ジャンヌは舌打ちした。元から反抗的な態度や独断行動が多かった為に彼女も大凡疑っていた。恐らく、自滅したのだろう。

 

「そろそろ私も本腰を入れましょうか…」

 

アンコールの声が響く中、黒ジャンヌは再びアイドルの顔へと表情を変化させた。

 

「みんな〜ありがとう〜!今日は出血大サービスだゾ☆曲は『プラチナ』!盛り上がっていこ〜♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達Aチームは、閑散とした街を走っていた。ロマンを介してBチームから受けたSOSに応じ、先程まで進んでいた道とは正反対の道を駆け抜ける。

 

「───!」

 

上空を見上げると、そこには俺達など豆粒にしか見えないほど巨大な黒龍が鎌首を擡げていた。これは一体…?

 

「ぐだ男さん!」

 

ジャンヌの声が聞こえ、行ってみると彼女とアマデウス、そして長髪の男が町民達の避難誘導を行っていた。俺とモードレッドも加わり、彼らの迅速な避難を行う。感謝の言葉が飛び交う中、避難は無事に完了した。しかし、それもさっき目の前に展開された巨大な硝子城があってこそだ。

 

「ぐだ男さん…私…わたし…!」

「しっかりしろジャンヌ!今はマリーが作った隙を無駄にしない事だ!」

「───ッ、分かりました!行きましょう!」

 

大凡の事情は察した。オマケに現行戦力ではあの龍と戦うのは困難だろう。1を捨てて1を獲る…悔しいがそうするしか無かった。

 

「チッ…!乗り越えてくる奴が1名!迎撃するぞマスター!」

「私も盾となります!!!」

「よし、2人とも俺の指揮下に入れ!おっさん─ゲオルギウスって言うんだな!─とアマデウスは避難民を連れてもっと遠くへ!」

 

乗り越えて来たのは黒き鎧の騎士。剣を手にした彼は奇声を上げながら襲い掛かってきた。

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!」

「その剣…テメェまさか!!!」

 

モードレッドは何か察したようで、その剣先をクラレントで受け止めた。

 

「マスター!当たらなくていい!矢で援護してくれ!コイツは俺1人ではキツイ!!!」

「分かってる!」

 

彼女の反応といい…恐らくバーサーカーながら、円卓の騎士に匹敵する戦士なのだろう。と、すると厄介極まりない!

 

「A──urrrrrr!!!」

「何で私に!?」

 

バーサーカーはモードレッドを弾き飛ばすと今度はジャンヌに襲い掛かった。必死に旗でフェイルセーフを繰り返す彼女だが、彼の攻撃はさらに苛烈さを増していく。

 

「いい加減にしろ!!!」

 

大振りにクラレントで薙ぎ払い、牽制したモードレッドは間髪入れずに力を抑えた連撃を叩き付ける。反撃を許さぬ嵐のような攻撃に俺の矢を追加した波状攻撃だが、バーサーカーはそれら全てを嘲るようにひらりと躱し、モードレッドを無視してジャンヌに突撃する。

流石にブチギレた彼女は体当たりを敢行し、怯んだ所でクラレントを振るい彼の剣を叩き飛ばした。だが、バーサーカーは冷静に後退すると目の前の壁に手を突き刺し、フライパンを取り出した。そのフライパンに赤い線が幾つも入り、禍々しいものへと変わる。

 

「騎士は徒手にて死せず───やっぱテメェか!ランスロット!!!」

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!!!!!!!!」

 

再び、モードレッドとバーサーカー…ランスロットが何度もぶつかり合う。円卓最強のランスロットとなると苦戦するのも頷ける。

だが、それ以上に目の前の城が崩れ始めている事に俺は焦っていた。

 

「モードレッド!もうここは保たない!撤退するぞ!!!」

「あと少しで──!!!」

「バッキャロー!今退かねーと逃げられなくなる!頭を冷やせ!」

「───ッ、了解!!!」

 

モードレッドは目の前に落ちていた樽を叩き割ると中に入っていた葡萄酒がランスロットに向かって噴き出し、一瞬注意が逸れた隙に撤退を開始した。俺も矢を放ちながら威嚇しつつ離脱。ジャンヌも後ろ髪を引かれる思いを持ちながらも撤退した。

 

*********************

 

「───よし、呪いの解除が終わったぞ。これで自由だ」

「皆、迷惑を掛けてすまなかった。だが、呪いが解けた今…俺は今一度ファヴニールを倒す事を誓おう!」

「ありがとう!竜殺しのジークフリートがいるなら百人力だ!」

 

周りが嬉しさのあまり騒いでいる中…ふと、マシュがアマデウスに連れられて戻って来た事に気付いた。何か思う所があったのか、少し思い詰めた顔をしている。

 

「どうした?マシュ」

「あ、先輩…」

 

アマデウスと別れた後、マシュは座ってシチューを食う俺の横に座った。

 

「先輩は…どんな人生を過ごしたのですか?」

「俺の人生?ロクなモンじゃねぇよ。貴重な学生時代をタバコと酒と喧嘩に使って親父と仲違いしたまま死別した。俺の人生なんざ頭の悪いガキのそれだ。誰かと恋愛した訳じゃなし、ガキみたいに相手を殴って『俺サイキョー』とか叫んでた…それだけだ」

「は…はぁ…」

 

飯を食べながら、俺は目の前で仲良くご飯を分け合うブリテン親子を眺めた。アルトリアの傷はすっかり綺麗に修復されており、明日にはもう戦えるらしい。無理しない程度に頑張って欲しい。

 

「ま、今はカルデアに来て…モードレッドとアルトリアに出会って…お節介だがあいつらを仲良しに出来た事は人生の中で1番良い事だったんじゃねぇのかな?って話だ。後は…もう少し気楽なミッションを受けたら料理の腕をも少し上達させてぇと思ってる…まぁ、人生の目標はそんな感じ」

「因みに…私はカルデアの皆んなの中で─」

「マシュ?お前は……俺の肉壁兼ベースキャンプ設営要員だな。他に役割見出せねぇや。馬車馬の如く働いて死ぬ時は盾置いてけよ」

「酷いッ!?でもいつもの先輩で良かったー!」

 

取り敢えず腹ごしらえはした。明日に備えて寝るとするか。

 

「今夜は寝るぞ。明日に備えてな!!!ジャンヌ、お前見張りな」

「えっ?でも私、避難者の誘導で──」

「うるせぇ!今日はお前が当番なんだよ!何しようが当番は別だ!」

「酷いッ!?」

「3時間後に代わってやるから文句言うな!彼氏に逃げられるぞ」

「彼氏居ませんって!───ゲオルギウスさんとアマデウスさん!そこの所詳しくって顔しないで下さい!!!」

 

 

 

 




※プロフィール紹介はしばらくお休みします。理由ですが、現在の主要キャラが軒並み揃った為です。新たに追加され次第随時掲載致します。


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オルレアンにて…6

いよいよ戦局は後半へ…それとネタがなかなか出て来ないですね。プレッシャーも感じますし……キャラを維持したまま方向転換も検討中です。


「マズイな…」

 

遠くから双眼鏡で伺うと、あちこちにワイバーンが飛翔しており、ジルの城へは向かえそうになかった。数だけで20頭…ジークフリートは温存させたい上にこの状況では討ち漏らしが生まれ、援軍を呼ばれる可能性も否定出来ない。やはり正面から突破してあの巨龍を引き摺り出してジークフリートに倒させる。それが得策な気がして来た。

 

「いえ、ここは私が1人で向かい援軍を──」

「ダメだ。お前も肉壁要員だろ。大人しくついて来い」

「ぇぇ…」

「大丈夫ですよ、貴女の信じている方ならきっと─」

「ありがとうございます、アルトリアさん」

 

マリーを失ったものの、こちら側のサーヴァントは7人居る。戦術さえ整えばまだ希望はある。

 

 

 

 

 

 

 

「これから俺達はティエールを迂回し山にあるロワール川に沿って進み、直接オルレアンに突入する。迂回する理由は『ティエールは黒ジャンヌがアイドル活動をしている中心地』だからだ。通れば指名手配犯の俺達は飛んで火に入る夏の虫…ソッコーでブタ箱行きだ。よって、人目の付かない山を越えて一気に叩く」

 

野営中、俺は地図を見せながら作戦の概要を伝えた。あの山道は閉所になる為、ワイバーンが戦いにくくなる。その状態で強行突破し直接拠点を叩く。黒ジャンヌを助けに民衆が来る前に制圧する事が絶対条件だ。

 

「結局脳筋戦法かい?全く、体育系は考える事が同じだね」

「そう!だからこそ体育系らしく型に嵌まって攻める。纏まって休まず走り続けるんだ。城門を強行突破してでも突き進めば何人かは突破出来る!」

「うんうん、苦手なタイプだけど…悪くない」

 

ジークフリートを温存させたい現状で、彼を酷使する事だけは出来ればしたくない。本当はジルという男の助力も得たかったが、現状で100%ではない以上その作戦はあまりにも危険だった。

 

「そこでだが、オルレアン強行突入に関して無茶を承知で頼みたい事がある。アルトリア…」

「言わなくても分かっています。私の『最果てにて輝ける槍』は対城宝具…ロンを破城槌に城壁を崩せば勝機はある……」

「待ってくれ!父上は傷が癒えたばっかりなんだぞ!そんな…単騎特攻なんて─」

「いえ、モードレッド。私は総力戦が確定した時から覚悟していました。確率を1%でも上げる事に私は賭けます。しかし…」

 

アルトリアはモードレッドの肩に手を添えた。

 

「モードレッド…貴女こそ大丈夫ですか?」

「どういう事だ?」

「───やっぱ、父上には隠せなかったかー…」

 

彼女の言葉にモードレッドは頬をポリポリと掻いた。

 

「マスター…モードレッドは私への憎悪が完全に消えています。しかし、それはモードレッドの宝具が使えなくなる事を意味しています」

「───!!!」

 

我が麗しき父への叛逆…その本質は魔力放出を応用し、自らの憎悪を魔力に変換して照射する対軍宝具。それが使えなくなる事はモードレッドにとって痛手に違いなかった。

 

「──まー…なんとかなるだろ。ほら!オレってこれでもブッツケ本番に強いだろ?別の力を糧にしてみるさ!例えば…」

 

モードレッドは兜を放り投げると、クラレントを展開…魔力が一気に放出される。それが、すぐに魔力の剣へと変質した。

 

「──愛してるぜ父上……って感じで!ほら、出来るだろ?」

「─モードレッド…」

「どうやら杞憂だったみたいですね」

「オレもあれから成長したんだぜ?もう、カムランでくたばる程度のヤワな騎士じゃねぇ。な?マスター」

 

クラレントに纏わせた魔力の供給を切り、霧散するオーラを手でパタパタ払うとモードレッドはニコッと笑った。

 

 

********************

 

獣道をモードレッドが先行し、クラレントで草を払いながら進む。行けども森ばかりだが、上流から流れるロワール川という目印がある為迷う事は無い。

 

「流石に蚊がうざったいね。やっぱりティエールを通るべきだったんじゃないのかな?」

「薄々そう思ってはいた。でも、気付かれて黒ジャンヌにチクられるよりはマシだ。一般人に手ェ挙げたらロクな事にならんからな」

 

アマデウスの話も正論…正論なんだが、黒ジャンヌが民衆を味方に付けている以上、助けを得る事は困難だった。今回のミッションはかなり厳しい。冬木が可愛いレベルで…。

 

「さぁ、もう少し行けば休めそうな場所があります!噂通りであれば休憩出来ますよ!」

 

ジャンヌの言葉を信じて森を進む事1時間。開けた場所に到着し、1度休憩する事にした。彼女がオススメする野草をポイポイ鍋に入れ、もう残り僅かな香辛料で味付け。俺が弓矢を使ってウサギを一羽狩ったので、それも解体して鍋に放り込んだ。

 

「すまん、マズイ料理になっちまった」

「結構イケるぜこれ。気にすんなマスター!」

「はい、ちゃんと食べられます!ガウェイン卿のマッシュポテトより美味しいですよ!」

 

ジャンヌが難しい顔をしているが…それあんたが選んだ野草だぞ。ウサギ肉だけがかろうじて美味いくらいで野草は食えるがマズイ。噛んでも渋みしか出てこないぞおい。

 

「さぁ、飯を食べたら進むよ!もうじきオルレアンの城が見える筈だ!」

「そうだな!アマデウスの言葉は元気が出る!」

「我々も早く完食して用意しましょう。」

「先輩!ドクターからの通信によれば同じペースで1時間歩けばすぐにオルレアンに辿り着けるそうです!」

「了解だ。お前ら覚悟を決めろ!ここからが正念場だぞ!」

 

味方を鼓舞して俺はもうじき見えるであろうオルレアンを信じて歩き出した。

 

───────

 

「見えた!あれがオルレアン…!」

『気を付けて!オルレアンからサーヴァント反応はおろか、ファヴニールの反応も無い!罠かもしれない…!』

「どうしますか?先輩…」

 

おかしい…あれだけ巨大な竜ならば隠れられる筈が無い…これは一体……?

 

「取り敢えず、作戦通りに行きますか?」

「いや、おかしい…これはまるで……」

 

 

 

 

 

 

その時、遠くから勝鬨の声を聞いた。様子を見に森を出ると………

 

「見なさい!あれが我等の敵…清純を謳いながらも我等の祖国であるフランスの偉大なる城オルレアンを攻め落とそうと画策する偽のジャンヌ・ダルクと彼女を唆しフランスを危機に陥れようと企む異端の者です!さぁ!皆さん!戦いましょう!あの異端の者に…贋作に裁きを!我等には神の龍がついています!!!」

 

ファヴニールの頭に乗り旗を掲げる黒ジャンヌと…何百人にも及ぶ武装した一般人であった。ハメられた……俺は瞬時にそう理解した。

 

「アルトリアとモードレッドは…今すぐ城内を制圧しろ。早く!!!」

「分かった!!!」

「籠城戦ですね…任せてください!!!」

 

早く城に入れないと挟み撃ちになる…!こんな事態…誰が想定していようか!!!

 

 

 

 

 

 

わずか五分で制圧したオルレアン城の中は酷いものだった。武器庫からは武器の殆どが無くなり、凄惨な死体の腐乱臭が漂うばかり。それらを堪えて俺は有りっ丈の武器を取り出した。最早、手加減は出来ない………。籠城戦とはいえどこまで保つか?

 

「橋を壊してくれ!」

「はッ!」

 

ゲオルギウスが剣で橋を壊し、城を孤立状態にする。これですぐには攻め入られない。来てもサーヴァントか竜だけだ。ファヴニールはジークフリートに任せる為に温存。ワイバーンはモードレッドとジャンヌに任せ、俺とアマデウス・ゲオルギウス・マシュは遠距離武器で迎撃する事にした。

 

「弓矢だ。投石装置も辛うじて機能する。あいつらには悪いが…俺達はまだ死にたくないからな」

「はい………」

「フォウ…」

 

長弓を選び、矢を有りっ丈矢筒に入れて俺は城壁からオルレアンの様子を伺う。民衆達は黒ジャンヌに扇動されて一気に草原を駆け抜けてきた。そうか…どっちにしろそういう運命だったのか。

 

 

死ぬ事を覚悟して俺は弓を引き絞った……。

 

 

***************************

 

「中々粘りますね…」

 

投石装置から飛んできた岩が民衆達になるべく当たらない場所に突き刺さり、矢が飛んで来る。それを黒ジャンヌはあくまで余裕の笑みで見ていた。てっきり降伏するのかと思っていたが、彼らは戦う道を選んだようだ。おまけに一般人を殺さないように……。

 

「───愚かな」

 

ファヴニールに命じ炎を吐かせればそんな脆弱な城壁など容易く崩せる。だが、それでは芸が無い。あの忌まわしい聖女が私と同じ苦しみを味わい絶望し死んでいく様を見たい………だから簡単には殺させない。ホントは高笑いしたい所だが、今の私は正義の味方…決して悪党というイメージを与えてはならない。

 

「さぁ、見せてみなさい……」

 

黒ジャンヌは目の前に飛んで来た岩の破片を旗の一振りで受け流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!矢が尽きたか…」

「マスター!投石に使えそうな岩が底を尽きそうです」

「諦めるか…!城の内部の要らないモンあるだろ?それを壊して運んでくれ!何を使ってでも俺は───」

 

その時、空気が変わった。屋根を見ると、高々と旗を掲げキリッとした顔で立つジャンヌの姿があった。

 

「聞け!私はジャンヌ・ダルク!かつて魔女と言われ民衆により処刑された者!しかし、私は決して祖国フランスを恨んだ事などない!民衆の心が私を討たんとする者であれば甘んじて受けよう…だが、その心が邪なる者に侵されているのであればそれは認めない!!!」

「さってと……そんな事言い出してるみたいなんでオレも本気出そうかなぁ〜。まっ、戦意を喪失させるだけで充分だ。」

 

モードレッドもクラレントを胸の前で掲げ魔力を放出させる。バチバチと明るい白銀のオーラが放出され、増幅していく。

 

「これこそが、燦然(さんぜん)と輝く王の剣!」

 

我が麗しき父への叛逆と同じ魔力放出、同じ技。だがその名は邪な名から改め…

 

「─我が麗しき父への恩返し!(クラレント・リターン・アーサー)!!!」

 

父への恩返しの光。それが突撃を続ける民衆達のすぐ近くを焼き払う。激突した箇所に光の柱が築かれ美しく輝く姿は、民衆達から戦意を奪うには充分であった。はぁッと息を吐いて倒れ込むモードレッドの顔は達成感に満ちていた。

ジャンヌはそれを確認すると振っていた旗を下す。黒ジャンヌもそれを真似て旗を下ろした。

 

「問おう!何故貴女はドン・レミを襲った!何故リヨンの街を襲った!」

 

ジャンヌは凛とした声で叫ぶ。黒ジャンヌもそれに凛とした声で返す。

 

「私は民を愛し導く者!この邪龍ファヴニールとワイバーンは単独で活動し、人を襲い続けた。私は彼らを従え、罪を贖うべくこの戦いの場に立たせたのだ!」

「ならば何故リヨンの地でファヴニールと出くわした際、貴女の部下であるランスロット卿が出てきた!答えてみよ!」

 

ランスロット卿の名を聞いた民衆がざわつく。祖国はフランスとはいえ、ブリテンに付いた者が何故ジャンヌ・ダルクに従う?そう彼らは思ったのだ。

 

「(チッ…バーサーカーを選んだのが仇となりましたか)では逆に問おう!貴女は私の後に生まれた。貴女こそ何者なのです?その正体をお聞きしたい!」

「質問に質問で返すとは…ではお答えしましょう!」

 

ジャンヌは旗を構えた。

 

「我が名は英霊(サーヴァント)ルーラー!祖国フランスの危機に応じ、黄泉の国から幽霊として蘇った者!ですが、貴女は何だ!死体は焼き払われ、灰は川に捨てられた…再誕すら許されぬ方法で死んだ貴女は何故ここに居る?魂は(ここ)にあるというのに!」

「それは……」

 

民衆が一斉に黒ジャンヌの方に向く。だが、彼女は答えない…いや、答えられなかった。自分はジャンヌ・ダルク…それは分かっていても、“どうしてジャンヌ・ダルクなのか分からなかった”。

 

「ではもう1つ質問しましょう…簡単な話です。貴女は幼き頃の私の記憶をお持ちだろうか!」

「何…?」

「私は如何に聖女であろうと…異端者として裁かれようと…処刑の炎で焼かれようと……幼き頃の牧歌的な世界を鮮烈に覚えています。ですが…貴女はどうでしょう?」

「───黙れ」

 

黒ジャンヌの顔から余裕の表情が消えた。その代わり表層に現れたのは、憎悪だった。

 

「黙れ黙れ黙れ!!!貴女はフランスの新たな救世主に楯突いたのだ!私は貴女を処刑する!再び生き返らぬよう惨たらしく殺してやる!!!」

 

黒ジャンヌの豹変は民衆から彼女への信用を奪った。今度は民衆が黒ジャンヌを責め立てた。

 

「騙したのね!」

「ジャンヌ・ダルクの偽者は消えろ!」

「こんな醜女を信じた俺がバカだった!」

「死ね!」

「もう一度魔女裁判に掛けてやる!!!」

 

問答に負けた黒ジャンヌは一転して異端者となった。未だ緊張は続いているが、取り敢えずホッとした。

 

「やるなジャンヌ!」

「いえ…カッコ良く言いましたが実際稚拙な言葉しか使っていませんので」

 

ジャンヌは掠れ声で答えた。取り敢えず水を飲ませて喉を治していたが、一瞬の安心も束の間……

 

「まずは私を罵った貴様らから葬ってやる!殺れ!ファヴニール!」

 

黒ジャンヌが民衆に牙を剥いた。

 

「行くぞ皆んな!今こそ民を助け!再び信用を得るのだ!」

 

アルトリアが俺達に向けて叫び、ロンの槍を掲げた。ジャンヌの真似がしたかったのか、その顔は渾身のドヤ顔で出来ていた。

 




今回、モードレッドが使用した宝具ですが、『アルトリアに息子と認められた→王子に格上げとなった→クラレントを正規の力で使用出来るようになった』という無理矢理なこじつけとなっております。イメージ自体も「約束された勝利の剣」を意識していますが、見た目が変わっただけで効果も威力もあまり変わっていない…というのが現状です。オリジナル名にするかどうか正直迷いましたが、思い切って冒険してみました。


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オルレアンにて…7

オルレアン編完結です。やっぱり長編は馴れませんね…シナリオ展開といいシリアス展開といい未熟さを思い知らされました。反省…






我が麗しき父への恩返し(クラレント・リターン・アーサー)!!!2発目を喰らえ!!!」

 

モードレッドの宝具が民衆に炎を吐こうとするファヴニールの顔に直撃する。痛みに身を悶え頭を振った事で黒ジャンヌは振り落とされ草の上に墜ちた。

 

「かはっ───!?」

「殺れ!」

「殺せ!」

 

彼女の息の根を止めようと襲い掛かる民衆をお付きのサーヴァント達が殺して守る。混沌とした戦場に俺達は介入した。ここまでアルトリアの馬で何往復かして運んでもらったが、何とか間に合った。

 

「久しぶりだな!ヴラド公!次は負けん!」

「よくぞ来たアーサー王。次こそ仕留めてやろう」

 

アルトリアとヴラド三世の槍が交錯し

 

「Arrrrrrthurrrrrrrrr!!!」

「父上の下へは行かせねぇよ!!!」

 

モードレッドとランスロットがぶつかり合い

 

「アァアアアアアアアアアアマデウスゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」

「ボクの八つ当たりに付き合ってもらうよ!」

 

アマデウスとアサシンのサーヴァントが激突し

 

「我が名はシュヴァリエ・デオン!いざ尋常に勝負!」

「ゲオルギウス、参る!」

 

セイバーのサーヴァントとゲオルギウスが刃を交え

 

「もう一度貴様を地獄に叩き落とす!覚悟しろ!ファヴニール!」

「私も先輩の為にいいとこ見せます!」

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

ジークフリートがマシュの援護を受けてファヴニールに斬り掛かり

 

「私は過去から目を逸らさない!そして、アンタを倒す!」

「お黙り!!!」

 

いつの間にか(?)居たエリザが自分の未来と称した女と衝突した。

 

 

 

 

 

 

「退きなさい!」

 

襲い来る民衆を相手に半泣きで抵抗する黒ジャンヌの下に現れたのは本物のジャンヌ・ダルクだった。旗を投げ捨て腰に提げた細剣を引き抜いた。

 

「───いいでしょう。どちらが本物か…決めようじゃありませんか」

 

黒ジャンヌも旗を投げ捨て細剣を抜いた。宝具を捨て、互いの実力のみの決闘。怒りに震えるギャラリーが彼女達を取り囲む中、先に動いたのは黒ジャンヌだった。

 

「はぁああああああああああ!!!」

「───はッ!!!」

 

剣がぶつかり合い、2人とも退かずに押し合う。

 

「絶対に殺してやる!!!」

「では私は…怒りではなく哀れみを以って応えましょう!」

 

力強く打ち払ったジャンヌは剣先を喉元に向けて振るう。打ち払いで折れた細剣で黒ジャンヌが受け止め、流す。しかし、すぐに体勢を立て直したジャンヌの突きが黒ジャンヌの腹を刺し貫く。

 

「──何故だ!何故裏切った国民の為に戦う!!!」

「私は後悔していないからです」

 

怒りに身を委ねるまま黒ジャンヌは剣を投げ捨て、刺さった剣を引き抜きそれも捨てた。黒ジャンヌの腹からは大量の血が噴き出ているが、アドレナリンが分泌されその痛みを打ち消していた。次は肉弾戦だった。

 

「アンタにだけは───負けない!!!」

 

黒ジャンヌはジャンヌ・ダルクである証でもある冠を外し、それをナックルダスターとして握って襲い掛かった。手首を握って受け止めようとしたが、力を抑えきれず頬が切れる。

 

「ハハハハハ!!!ザマァみろ!!!」

「───何がッ!」

 

対しジャンヌは頭突きで応えた。思わず後退りし鼻血が流れる黒ジャンヌはそれを甲冑で拭い、再び殴り掛かった。だが、それは届く事なくジャンヌの足払いで阻まれた。馬乗りになり黒ジャンヌの顔に拳を埋める聖女の姿に野次馬から歓声が上がる。ヨーロッパ人は血の気が多いな、ホント。

 

 

 

 

 

 

「マスター!魔力供給に集中してくれ!」

「おぅ!悪りぃ…なッ!!!」

 

俺も矢を放ち、ワイバーンの柔らかい腹を撃ち抜いて倒す。これで3頭。黒ジャンヌがご覧の有様なのでワイバーン達の統率に乱れが出ており、それが撃墜の容易さに繋がっている。因みに矢は一般人から借りている。

 

「ジークフリート!そっちはどうだ!」

「押され気味だ!加勢に来てくれると助かる!」

「了解!」

 

槍を借りて、戦場を駆け抜ける。襲い掛かるワイバーンを牽制しつつファヴニールに下へ向かった俺は、弓に持ち替えた。

 

「目を狙うんだ。怯んだ隙に倒す!」

「俺の射撃は雑なんでね。当たるかは分からんぞ──ッ!」

 

 

 

 

 

 

「Arrrrrr!!!」

「───ッ!」

 

モードレッドの胸にランスロットの剣が刺さる……だが、彼女はニヤリと笑った。

 

「かかった…!」

「!?」

 

同時に甲冑がパージされる。その衝撃で剣の勢いが落ち、モードレッドはその剣先を片手で掴んだ。炸裂装甲…彼女がカルデアで見たアニメにあった戦法だった。

 

「オレの勝ちだッ!!!」

 

モードレッドのクラレントがランスロットの兜を突き貫き、彼はビクッと数回震えてから消滅した。鎧の下に装備していた赤いサラシには傷1つ無かった。ぶっつけ本番であれだけ出来るとは流石アルトリアの息子といった所か。

 

「出直して来いクズ野郎!」

「モードレッド!加勢に来てくれ!」

「今行くぜ!」

 

消えゆく姿に中指を立てたモードレッドは笑顔で俺達の加勢に来た。徐々に形勢がこちらの有利になってきたな!これなら…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、遠くの方から何かが殺到してくる音が耳に聞こえた。咄嗟に俺は危険と判断した。

 

「総員撤退!ジャンヌ!一旦退け!!!」

「分かっています!」

 

最後に一発蹴りを入れて黒ジャンヌの意識を刈り取ったジャンヌは急いで民衆に対し旗を掲げ避難するよう告げた。

マシュが宝具を展開しながら誘導していたその時、俺はその存在を視界に捉えた。不気味な海洋生物だった。ヒトデともイソギンチャクともタコとも似つかない怪物の大軍…それが濁流のように押し寄せて来た。避難が間に合わなかったアルトリアが流され、アルトリア・アマデウス・ゲオルギウス・エリザと対峙していたサーヴァントも呑まれていった。一瞬冷や汗が出たが、幸いアルトリアはドゥン・スタリオンを鼓舞しながらその波を渡って戻って来た。

そして、もう1人…黒ジャンヌに駆け寄るべく濁流から出てきた者がいた。黒装束の不気味な男………。

 

「ジャンヌ!なんと酷いお姿に…!」

「ジ…ル……!」

「すぐにお城へお連れしますぞ」

 

「させるかッ!」

 

迷わず矢を番え、最後の一射を放つ。

 

「グッ!?……」

 

矢は男の右肩を貫通したが、彼は怯むことなく黒ジャンヌを抱えて大軍の上に乗ってオルレアンへと逃げ帰っていった………。

 

******************

 

「なんとか助かったが、黒ジャンヌは変な男に連れられて占拠した筈の城に逃げた…悪い。俺の判断ミスだ」

「総力戦は正解だったと思うぜ。現に被害は最小限で済んだ」

 

ファヴニールを見ると、抵抗しているが次々と群がる海魔達に貪り食われていた。やや腑に落ちないが、助かったのは確かだ。

 

「マシュ、他の皆さんを家に帰してください」

「あの…ジャンヌさんは?」

「私はあの城に用があります」

 

ジャンヌは海魔の海の先にある城を視界に捉えていた。決着を付ける気なのだろう。だが、彼女の力では対抗出来ないだろう。ましてや先程の戦いでジャンヌ自身も消耗している筈だ。

 

「では、私がドゥン・スタリオンで運びましょう。ただし、戦闘員は少数で」

「編成は決まっている。アルトリア・モードレッド・ジャンヌ…そして司令塔の俺だ。俺の指揮は絶対…だが、危険と判断した時は自分で動け。いいな?」

「「はい!!!」」

「海魔の海は城門まで続いている。そこから先は減っているだろう。多分、奴の宝具で展開されたものだが、恐らく召喚のし過ぎで奴も弱っている。今がチャンスだ!」

 

アルトリアはドゥン・スタリオンを説得し、4人乗りの許可を得た。4人も乗せられるんだからアーサー王伝説の名馬はヤバイ。

取り敢えず、1番前にアルトリア・2番目にジャンヌ・3番目に俺が座り、モードレッドが俺の背中にしがみつく形になった。

 

「頼みますッ!」

 

アルトリアが手綱を引き、ドゥン・スタリオンが海魔の中を駆ける。ホントにドゥン・スタリオンには無茶をさせ過ぎた。帰ったら美味い飯と良いベッドで休ませてやらんとな。

 

───

 

オルレアン 城内

 

「器用なもんだな!」

 

狭い廊下を器用に飛んで来るワイバーンや襲い掛かる海魔の中をロマンから受け取る情報を頼りに正面突破で駆け抜ける。振り落とされないようジャンヌの腰にしっかりと掴まる。

 

「もう少しです…!」

「指定ポイントです。降りて下さい!」

 

その言葉で一斉に降りた俺達はモードレッドが背負っていた武器を受け取り、扉の前に立った。この先に…黒ジャンヌが…そして、あの男が居る。

 

「行くぞ!」

 

俺は扉を蹴破り、部屋の中…玉座の間に入った。そこには確かに黒ジャンヌとあの男がいた。ジャンヌの言っていたジルという奴だ。だが、馬に乗っている間の彼女の説明により、奴はサーヴァントである事を知った。ならば遠慮する必要がどこにあるかってんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジル、偽ジャンヌ…覚悟しろ」

 

黒ジャンヌの方は腹を裂かれたダメージが大きすぎた為か、意識が朦朧とし、ジルは傷口を押さえて延命しようとしていた。

 

「ジル…わ…たし…まだやらなきゃ…いけない……」

「もう良いのですよジャンヌ。貴女は十分に働きました。ゆっくりとお休みなさい…明日の朝も忙しいですぞ?キャンセルしたツアーをもう一度やらねばなりません。その為にも…今は疲れた体を癒しなさい…」

「あり…が…と……ジ…ル……あす…も…いっぱい…うた…わ…な…きゃ……」

 

彼女の姿が光の粉へと代わり、霧散した。シャドウサーヴァントのような黒い粒子ではなく、モードレッド達と同じ…サーヴァントであった。

 

「やはり……」

 

ジャンヌが前に出るとジルはゆっくりと立ち上がった。その顔には怒りも憎しみも無かった。ただ、無表情。

 

「そう、この時代でアイドルとして活動していたジャンヌ・ダルクは私がこの力に願ったモノ…」

 

ジルの手に掲げられたのは黄金の杯……。先の問答で俺も理解した。あのジャンヌはジルの妄執の塊である事くらい…。

 

「ジル…」

「私は貴女達が憎い…そして、ジャンヌ・ダルク…貴女が憎い!何故貴女はあれほどの屈辱を受け、それでも赦すのだ!貴女の無知と純粋な心を弄び、見捨て魔女と断罪した奴等を…!」

 

ジルの魔力が増大する。ここが正念場だ。モードレッドもアルトリアもそれぞれに武器を構え、攻めの姿勢に入った。

 

「貴女は赦すだろう。しかし、私は赦さない! 神とて、王とて、国家とて……!!滅ぼしてみせる。殺してみせる。それが聖杯に託した我が願望……!我が道を阻むな、ジャンヌ・ダルクゥゥゥッ!!」

 

刹那、爆発的な魔力暴走により俺達は吹き飛ばされた。だが、それぞれに受け身を…俺はモードレッドに受け止められてダメージを回避した。

爆発の先にあったのはこの玉座の間を覆い尽くさんとする巨大な海魔であった。

 

「ここは危険です!一度退きましょう!!!」

「何処へ退けって言うんだ!どこもかしこも海魔だらけ!間に合わねぇよ!」

「オレの宝具でぶっ飛ばす!各自衝撃と閃光に備えろ!」

 

力強く床を踏みしめたモードレッドは魔力を放出し刀身に収束させる。

 

「我が麗しき父への恩返し───ッ!!!」

 

モードレッドが放った渾身の宝具が海魔に直撃する。だが、肉の塊の一部を焼くだけで、焼き切れず照射の光が尽きた。

 

「すまねぇ…乱発し過ぎで……」

「いや、今ので充分だ」

 

焼き払われた肉の奥にはジルが居た。先程から壊れたように高笑いを続けている辺り、完全に精神が崩壊したようだ。次々と肉の塊が追加されその姿が再び消える。

 

「ジャンヌ、攻撃が来た瞬間に宝具で守ってくれ。残った体力は守りに回してくれよ!」

「はいッ!」

「モードレッド、魔力を回すからもう一発だけ頼めるか?」

「はいはい……あと…オレが死なない程度に一発だけな」

 

それぞれに戦闘態勢を取り、アルトリアはロンの槍で牽制して巨大な海魔を進撃させないよう駆けていた。モードレッドに対し俺は躊躇無く令呪を使う。オルガマリーの資料にある通り、令呪は応用すればサーヴァントの宝具一発分の魔力供給は傷の修復も出来る。それを利用してモードレッドの宝具を高速チャージする。

 

「終わったらマッサージでも何でもやってやる!頼んだぞモードレッド!」

「何でも…な」ニヤリ

 

モードレッドは再び力強く床を踏みしめる。クラレントへ白銀の粒子が集まり、巨大な刀身となる。大きく呼吸をした彼女は静かに言葉を紡いだ。

 

「これこそが、燦然と輝く王の剣!───我が麗しき父への恩返し!!!最大出力だ…腹いっぱい喰らえ!!!」

 

そして、クラレントを振り被った。放たれる白銀のビームが海魔の肉へと直撃し、次々と焼いていく。だが、聖杯と宝具から得ている圧倒的な魔力炉が再生力を高め、渾身の一撃はジルの手前で霧散した。

 

「───今だッ!!!」

 

俺の叫びと同時にジルは視界にさっきまで蝿のようにしつこく動いていたサーヴァントを見失った事に気が付いた。

 

 

「───最果てより光を放て……其は空を裂き、地を繋ぐ! 嵐の錨!」

 

クラレントの光と轟音で気付かなかったが、いつの間にか天井が砕け、上空には見失ったサーヴァントが居た。

ロンの槍を掲げ、其れは一気に天から地へと駆ける。

 

「─最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!!」

 

再生が間に合わない。最期に見た一瞬の光に手を伸ばした彼は……アルトリア・ペンドラゴンの特攻の一突きによって腹を穿たれ、巨大な海魔の体内の魔力が暴走し、大爆発を起こす。その前に後退したアルトリアを含め、全員がジャンヌ・ダルクの後ろに隠れる。そして、聖女は臆する事無く旗を掲げ、魂の叫びを上げた。

 

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ!──我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!!!」

 

飛び散る肉片や棘がジャンヌ・ダルクの宝具により防がれていく。腰を据え踏ん張る彼女に、俺は魔力を供給し続けた………。

 

 

**********************

 

「聖杯回収完了。ミッションコンプリートって奴だ!」

 

ロマンに向けて通信を送ると、彼を含めたスタッフ達が歓喜の声を上げた。一時期どうなるかと思った戦いだったが、任務は無事に完了した。皆に労いの言葉を掛けようとして振り返った時、聖女はいつの間にか姿を消していた……。

 

「ロマン、別の場所で待機しているマシュとフォウを含め、レイシフトを実行してくれ。もう帰る!帰ったら美味い飯と熱い風呂に入って休む!」

『そうしてくれ。よし、レイシフト開始!』

「かーっ…疲れたァ……よし、マスターに何お願いすっかなぁ♪」

「ズルいですねモードレッド、私もお願いしたいものです」

「おい!なんかヤバイ事になってねぇか!?」

 

俺達は肩の荷が下りた気分でレイシフトによってこの時代から消え去った………。

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

「──くっ、間に合わなかったか…」

 

ジル・ド・レェ率いる部隊が登場した頃には竜の死体達の姿が薄れ、海魔達も消えかかっていた。

その中で、1人佇む少女を彼は確かに見た。

 

「ジャンヌ・ダルク!」

「ジル…」

 

消え失せようとしている体を見たジルはジャンヌに何を言えば良いか決まっていた。だが、その前に聖女は微笑んだ。そして、唇を動かして何かを告げた後……彼女はこの世界から消滅した。

 

「やはり、貴女は……。いや、それでも。死してなお、この国を……!赦して欲しい、ジャンヌ・ダルクよ!我々は、フランスは、貴女を裏切ったのだ!!!」

 

 

 

 

ジルの慟哭が対照的な程に爽やかな青空に響き渡った………。




ジル・ド・レェ
身長:196cm / 体重:70kg
出典:史実
属性:混沌・悪 / カテゴリ:人
性別:男性
イメージカラー:濁った黒
特技:イベント立案・プロデュース
好きなもの:ボーイッシュな少女、フェミニンな少年 / 苦手なもの:政治・財政管理
概要:後に青髭と語り継がれるようになった男。今作では序盤と終盤のみの登場。元々、黒ジャンヌにアイドルをやらせようとした理由は「ジルの特技がプロデュース」だったから。彼の企みはジャンヌの推測通りだった。




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閑話休題3…漢女の浪漫

閑話休題です。しばし就活で忙しくなりますので短編が続きます。






「は、はぁ………」

「んでよ!ガショーンってなってバーっと飛んでバシュッと斬るんだ…聞いてるか!?」

 

ダ・ヴィンチは最高にテンションが低かった。人類が生んだ天才と言われている彼(?)でさえ、ぐだ男の相方ことモードレッドの擬音オンパレードの要望に頭を抱えていた。内容こそ「鎧のデザイン変更」という興味深いものであったが、その正体はどこぞの勇者パースよろしく男のロマンが凝縮された物だったのだ。自分のガントレットは棚に上げ、やれやれと肩を竦めた彼女はモードレッドの子供くさい説明を口に出して確認する。

 

「背中に高速飛行出来るスーパーバーニアを2基搭載、両肩には自動追尾ミサイルを左右5基ずつ内蔵、腰背部にはクラレント専用マウントラッチ、両腕にはビームサーベルを1基ずつマウント、ビームガトリングにもなるテールスラスターを腰側面に一基ずつ装備して、宝具専用予備魔力炉を胸部に搭載ね………」

 

一通りメモした後、ダ・ヴィンチはブチギレてメモを破いた。

 

「ナメとんのかワレェ!!!いくら天才だろうと限界あるわ!!!」

「はぁ……天才なら男のロマンの2つや3つ分かってくれると思ったんだけどなぁ…」

 

モードレッドはその結果に落胆した。溜めていたアニメを観て瞬く間にそのファンになった彼女はこの感動を自分の装備に反映すべくお願いしたのだが…冷たい対応にガッカリしていた。

 

「はぁ…“天才”なら分かってくれるって信じてたのになぁ…」

「やらないからね!?」

「“天才”って信じてたのに…」

 

だが、モードレッドの「お前も凡人」とも取れる発言にダ・ヴィンチもイラっと来ていた。

 

「あのねぇ!天才って言っても限度があるんだけど!」

「じゃあどの辺が難しいんだよ」

「例えば!スーパーバーニアだよ!飛翔させるのに相当エネルギーが必要だし、飛んでたら宝具使えるほど魔力を保てないわよ!?」

「じゃあ、どれくらいでなら妥協出来るのさ?」

「ホバリング」

「あー…」

「スラスターを各部に搭載して荒地や砂漠を踏破するのに向いてるぜ?これなら資源も踏まえて実現は出来る」

「他には?」

「テールスラスターとビームガトリングは一緒くたには無理。大体、攻撃に転用したら推進器が熱を持って使えなくなるでしょうが」

「はぁ…」

「どっちかにするんなら妥協は出来る。宝具専用予備魔力炉は実現出来る。ジル・ド・レェの宝具が似たようなシステムだったからね!」

 

ダ・ヴィンチは丁寧にイメージ図を描き起こしてモードレッドに見せた。

 

「で、総括すると…こんな感じになる」

「おー!ザ○ルみたいでカッコイイぜ!」

「例えがコア過ぎるわ!!!」

「ビームガトリングの代わりに長距離狙撃砲を載せてくれるんだろ!?かっちょいー!!!」

「もうクラレントとかモードレッドである意味とか無い気がして来たんだけどね!」

 

冷静なツッコミを無視してモードレッドは完成図を嬉しそうに眺めた。本当に楽しみらしく胸に抱いて喜んでいた。が、ここでダ・ヴィンチは冷水をぶっかけた。

 

「さて、ここからが私の提示する問題点」

「?」

「モードレッド、こんなにゴテゴテしたものいっぱい載せられて戦える?」

「あっ──」

「ロボットならペダル操作とかで済むけど、モードレッド本人に載せるのなら別よ?装備は重たい・剣が上手く振るえない・誘爆したらどうする・そもそも加速に体がついてこれるのか…考えた事ある?」

「うっ…それは……」

 

現にランスロットに追い込まれた際、今提案している兵装では厳しい事に気が付いたモードレッドは途端に尻込みしてしまった。

 

「『ぼくのかんがえたさいきょうのそうび』…考えるのなら楽だけど、実際に装備するとなると別。肉体とか…ロボットであればフレームを考慮しながら装備しなきゃならない。事実、実践は困難なんだよ」

「───そっか。納得したよ、ありがとな…」

 

悲しい目をしたモードレッドは、すごすごと工房から出て行った。流石に言い過ぎたかな…と思うダ・ヴィンチはモードレッドの落し物に気付いた。

 

「これは…DVD?」

 

 

*********************

 

「やー!凄いね!胸アツだぜ!あの展開は!」

「だろだろ!?勇者パースからのバスターソードで突撃一閃!やっぱデカブツは男のロマンだぜ!!!」

 

わずか1日で洗脳されたダ・ヴィンチはモードレッドとロボアニメの話で熱く語らっていた。俺もまぁ話に加わっているのだが、話についてこれなくなってきた。

 

「早速作ろう!モードレッドの鎧をカッコよくする為に!」

「オレもテストパイロットとして頑張るぜ!」

「まずは板野サ○カスばりのミサイルから行こう!」

「次は7本剣を使ってみたいぜ!」

「空飛ぶサーフボードも捨てがたいッ!」

「クラレントも貸してやるからよ!スッゲェ武器に改造してくれよ!」

「パイルバンカーとかどう?私は採用してるんだけど」

「いいねぇ!兜のカメラアイからビーム出るのとかどうよ!」

「ロケットパンチは!?ロケットパンチは採用するの!?」

 

 

 

「ダメだこりゃ…」

 

残念な女子達の姿を見て肩を落とした。全てを諦めた俺は、手作りコーラを一口飲んだ。マズイ…失敗作だ。クエン酸入れ過ぎた…。




モードレッドの兜ギミックをヒントに作りました。仮面ライダーばりに変形するモンだから…と一発ネタです。


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閑話休題4…聖女歓迎会

え?ピックアップ期間じゃなかったろ?気にしないでくださいお願いします。







「さぁーて…ガチャるゾォ〜」

「マスター……あん時のカッコイイ姿は何処へ行ったんだよ」

「うるせぇ!俺はの○太みてぇな奴なの!最初から最後までシリアスパートだったら疲れるんだよ!」

 

俺はツッコミを入れ、聖晶石ガチャを開始した。結構集まったからな!良いの出てくるだろ。

スパークを起こす召喚サークルを見ながら、俺は一歩下りその時を待った。

 

「サーヴァント、アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。……どうしました。その顔は。さ、契約書です」

 

俺達の前に現れたのは……数日前までアイカツに勤しみ、最期はジャンヌに顔面フルボッコにされた黒聖女だった。

 

「おかしいなぁ…見間違いかぁ?黒いジャンヌがいるぞぉ」

「奇遇だなぁマスター、オレもそう…見えるんだよなぁ」

「ぶっ殺すわよ2人とも!デュへるわよ!!!」

 

相当沸点が低いのか、ガチギレしているようなので古傷を抉る。

 

「───皆んなのアイドル ジャンヌちゃん」ボソッ

「」グサッ

「───デュへっちゃうゾ(はぁと)」ボソッ

「」グサグサッ

 

恐らく黒歴史であろうアイドル列伝について仄めかす言葉を投げかけたところ…案の定、彼女の顔は死人のような白から真っ赤に変わり、顔を覆っていた。

 

「冗談だって!ジャンヌちゃ〜ん」

「ヨロヨロだぜぇ〜、ジャンヌちゃ〜ん」

「ちょっ!?絡まないでよ!燃やされたいの!?」

「「──皆んなのアイドル ジャンヌちゃん」」

「───はぁ」

 

クソデカ溜め息を漏らしたジャンヌは諦めたように俺達に引き摺られていった…。

 

 

───

 

 

「へぇ、1年分しか食糧が無いから自給自足に切り替えたのね…」

 

ジャンヌは勝手にキュウリをもぎ取るとボリボリ齧った。やっぱり聖女を反映している所為なのか、田舎臭さが燃えカス程度残っているな。

 

「美味しいじゃないの。太陽も無いのによく育てたわね。評価してあげるわ」

「意外だな、てっきり捻くれた解答をするのかと」

「しないわよ、野菜に関しては正直に話すつもりだから」

 

最後まで味わった彼女は、終始笑顔だった。特異点の時では考えられないような…。

 

「さぁ、次はどんなものを見せてくれるのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げぇ…確かにジルのアレにそっくりね」

「オレも思った。」

 

養殖コーナーに向かうと、何故か複雑な気分になった。オルレアンのアレを見てからだと確かに食べ辛いよな。

 

「でも、美味いんだぞ?試しにこの海魔(タコ)でもどうだ?」

「うーん…悪魔の所業のような気もするけど、今はキリスト教の教えなんて反吐しか出ないからいいわ。食べてみようかしら」

「マスター、オレも食っていい!?」

「いいぞ、生食はもう少し軌道に乗ってからにするとして…今回はアレを作るとするか……」

 

活きの良さそうな物を選んだ俺は早速食堂へと向かった………。

 

───

 

「何これ…?」

「たこ焼き機だぞ」

「オレ知ってる!確かタコの肉をパンみたいので包んだジャンクフードだろ?」

 

確か雑誌で読んだんだよなぁ…とモードレッドは頬を掻きながら答えた。今日用意したのは大型のたこ焼き機だ。が、たこ焼きというワードに引き寄せられるようにやって来て仁王立ちする者が居た。

 

「オヤツと聞いてッ!」ド☆ン

「父上!?」

「流石アルトリア、地獄耳ィ!」

 

さっき見た時は養鶏場の施設で鶏に餌をやりながら妄想の世界に旅立っていたようだったが、現実に戻って来たようだ。アルトリアの視界にジャンヌが入った事で一瞬気まずい空気が流れた。

 

「いえ、言わずとも分かります。ですがご安心を。私は幾度となく貞操の危機を迎えましたが、いつも切り抜けています。深くは考えていませんよ」

「オレが居る時点で貞操も何も無いけどな!」

「ちょっ」

 

さりげなくブラックジョーク飛ばすなや!

そうツッコミを飛ばそうと思ったが、アルトリアは意外にも涼しい顔をしていた。過去を振り切ったのだと実感出来る。

 

「では、気を取り直して作るとしよう。まずここに処理済みのタコがある」

「オレ達が喋っている間にもう切られてる!?」

「で、薄力粉・出汁・水・みりん・醤油・卵を入れて混ぜ生地とする」

 

先にたこ焼き機に電気を入れ手早くハケでたこ焼き機の鉄板の上に油を塗り、ズバズバとかき混ぜて生地を作った俺は一度温度を確認し、熱が行き渡ったタイミングで手早く流し込んでいく。

 

「流し込む時は全体に埋まるくらいたっぷり生地を流し込むんだぞ?んで、穴のとこにタコと天かすを入れる」

「はやくたべたいです」じゅるり

「父上、顔が…」

「アハハハハ!天下の騎士王様が蕩け顔晒してるwwwしかも言語能力落ちてるしwww」

「まぁ急かすなよ!そらっ!ひっくり返すぞ!」

「スゲェ!美味そうだな!」

「……」じゅるり

「……」←じっと見てる

 

 

 

 

 

「はいお待ちどう!マヨネーズかけたくない奴いる?」

「ハイッ!誰も居ないのでありますッ!」

「もうおなかぺこぺこです」

「情けないわねぇ、じゃあいただくとしますか」

 

完成したたこ焼きに自家製ソース・マヨネーズ・青海苔・鰹節をかけ全員に手渡す。出来立てだから火傷するなよとお約束の台詞を言って早々にアルトリアが火傷した。

 

********************

 

「どうだい?ジャンヌ。ここの住み心地は?」

 

次の日にそう尋ねてみると、彼女は腕組みをして胸を張った。

 

「及第点ギリギリかしらね。どいつも綺麗事ばかり吐かしてムカついたけど…アンタは別ね。根底にある悪者の要素が感じられる…それと、アンタにべったりの不良娘も同じ。今は大人しいけどすごい元ヤン臭がするわ」

 

彼女の言葉は的確だった。洞察力に関しては充分に高い。

 

「さってと、私は種火周回レベルアップに行ってくるわ。後はよろしくね」

 

ジャンヌは軽く手を振り、部屋を出て行った。今日1日で、彼女との関係は少しくらい縮んだのではないか?と思う。この先、竜の魔女の力は絶対に役に立つ。その為にジャンヌとは素のままで信頼関係を築き、背中を預けられるだけの存在になろうと思う。充分収穫になったのではと思う。




以上、邪ンヌ参加回でした。さぁ、あなたもタコの如き海魔を食べるのです!


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閑話休題5…いともたやすく行われる(ry

セプテム編前日談です。





「これ以上は見過ごせませんッ!」

 

ガウェインがテーブルを叩き立ち上がった。対して俺はうんざりといった体でコーヒーを飲んでいた。

 

「我が王を危険に晒し、一時死にかけたと聞きました。これ以上貴方に任務を任せる事は出来ない…!」

「んな事言われてもなぁ…」

「いいえ!私から進言します。我が王の出陣をこれ以降取り止めていただきたい!」

 

ここまで過保護になるとなぁ…肝心のアルトリアはもっと出歩きたいそうで、先程から玉座(ガウェイン渾身の力作)に座して凄くむくれていた。

 

「アルトリアが決める事だ。そして彼女は行きたいと言った」

「はい、マスターの言う通りです。私はまだ外で戦いたいのです。それが出来ないのであれば…今すぐ王位をモードレッドに継承し隠居します」

「それはなりません!あの放蕩息子に王位継承など──」

「クラレントでしたら、つい先程私の名の下で正式にモードレッドの所有物としました。よって彼女にも戴冠の資格はあります」

「なっ──」

 

史実とは真逆の方向に進んでいるなアーサー王。まぁ、王というしがらみから解放されてからはやりたい放題だな。

 

「───良いでしょう。では、私にも考えがあります」

 

ガウェインはメガネを掛けると突然、ノートパソコンを取り出した。トリスタンとベディヴィエールが大型スクリーンを用意し、画面を表示した。画面トップには「人理定礎修復 新企画案A(仮称)」と描かれている。

 

「では、私から説明しましょう」

 

指差し棒を取り出し、画面を指しながら説明を開始した。

 

「まず、我々サーヴァントは多くが召喚されていながら、実際に機能している数は極小数であります。そこで、ロマンの通信システムを利用して他の多くの地点でも通信が出来るようにし、多くの特異点をこちら側のサーヴァントにより同時進行で攻略。非常時の際にマスターがレイシフトを行い援護する。それ以外では、我らサーヴァントが現地で各個制圧。聖杯を回収して生還する…どうでしょう?」

 

はぁ〜…脳筋にしては考えたな。だが、

 

「皆がガウェインのように真面目なサーヴァントとは限らない。野心家な者も居るだろ?そんな奴がいざ聖杯を手にしたらどうすると思う?」

「──っ」

「だが、お前の考えは評価する。俺も盲点だった」

 

決して否定だけでは終わらせない。追い詰め過ぎると窮鼠猫を噛むとまでは言わないが、何をしでかすか分からない。それに、ガウェインの考えも悪くはない。

 

「特異点を一個ずつ潰す事に変わりはねぇ。だが、そこにサーヴァントを有りっ丈投入して対抗する案にするのではあれば承認する」

「──と、すると…」

「ガウェイン卿、我々の出番です」

 

トリスタンがガウェインの肩を叩きそう告げた。嬉しそうな顔をする彼にアルトリアも素直に頷いた。

 

「じゃあ、次から円卓の騎士団を派遣し特異点の修復を早めよう。アルトリアへの忠誠を誓う一騎当千のお前らなら、オルレアン程長引く事は無いだろう」

 

が、少し条件を付ける事にした。

 

「だが、絶対条件がある。“現地の人はなるべく殺さず無力化しろ”それさえ守れば許す」

「はッ!」

 

取り敢えず、円卓の騎士達の不満は解消された。さて、俺の部屋で待っているモードレッドに会いに行くか。

 

*********************

 

「今戻った───!?」

 

マイルームに戻った時、視界に映ったのは…肩まで伸びたブロンドの髪に櫛を通す綺麗な少女だった。真っ白なワンピースが彼女の美しさを物語っている。

 

「あ、おかえりなさい!マスター」

「ってお前かよ!?」

 

少女…モードレッドの屈託の無い笑顔に俺は驚いた。髪下ろしただけで全然別人なんだが…!?口調も女だし!?

 

「今の私、どう見える?」

「どう見えるって…」

 

言葉にも棘が無く、女性らしい口調で話す彼女は本当にモードレッドなのだろうか?清純・可憐を体現したような姿に思わず赤面してしまった。改めて見るとモードレッドも女の子なんだなと実感させられる。

 

「とっても綺麗だよ」

「ありがとう!マスター…いえ、立香さん」

 

立香さん、だなんて初めて言われたぞ///彼女はベッドに座るとぽんぽんと隣を叩いた。座れと言いたいらしい。言われた通りに座ると、モードレッドは1人で語り始めた。

 

「私、やっとお父さんに息子と認められた…。正式にクラレントを与えられ、王位継承者として認めるって言われた時…驚きました。ずっとお父さんにも…誰にも褒めてもらえなかったから……」

 

お父さんに頭を撫でてもらう事が今の幸せと語る少女は、何処にでもいる女の子だった。

 

「立香さん…本当にありがとう!」

「モードレッドが感謝してるのなら俺も頑張った甲斐があった。またよろしくな!危険な場所に駆り出す事が多くなるが、俺もなるべく危険な目に遭わせないよう頑張るからな!」

「えぇ、その言葉が聞けただけで安心しました」

 

モードレッドはそう答えると、髪を結い始めた。それがいつもの髪型になった時、彼女はいつもの顔に戻った。

 

「さてっと、お礼はここまでだ。次は何でもお願いを聴いてくれるらしいんで?遠慮無くお願いしよっかな〜♪」

「……俺にダメージが無い程度にな」

 

快活な笑みを浮かべる彼女は、ベッドにうつ伏せになりこちらをチラッと見た。

 

「マッサージをしてくれ」

「────は?」

 

てっきり、なんか面倒くさい事をやらせるのかと思ったら、そういう話!?

 

「ほら、ハリーハリー♪」

「分かった。今回の任務が無事完了したお祝いだ。しっかり疲れを取ってやる!」

 

言われた通り、モードレッドの背中に手を這わせ、俺はマッサージを開始した。余談だが、尻を触った瞬間モードレッドの平手を喰らい気絶したのはいい笑い話となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「♪〜」

 

夜の食堂で俺は料理を作り続けていた。前回の反省を生かし、保存食を多めに持っていく事にしたのだ。日持ちし且つ美味しいものを用意する必要がある。でなければ…

 

「あの雑草スープだけは勘弁だな…」

 

脳裏に焼きつくあのゲロマズ鍋を思い出し全身に悪寒が走った。今度はガウェイン・トリスタン・ベディヴィエールも参戦し、より大所帯となる。今回の作戦の要はぶっちゃけトリスタンだと思っている。あの武器と彼の命中精度が絶対役に立つ。

 

「ガウェインは要らないなぁ………」

 

大雑把過ぎる彼に関しては不安要素しか無い………。




次回からトリスタン・ガウェイン・ベディヴィエールが介入に参加します。円卓の騎士勢ぞろい(?)で攻略しますので制圧速度がエライことに…(特にカタログスペックがチートリスタンな兄貴がいますので)。



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永続我儘帝国セプテム
ローマの到着


いよいよローマ編。そして、サブタイも変更…






「おいテメェら…カチコミの準備は出来ているな?」

 

真っ暗な部屋…その中で、俺はヤンキー座りで他の面子を見渡す。同じくヤンキー座りしているメンバーはニヤリと笑った。

 

「えぇ、奴らに一泡吹かせてやりますとも」

「オレ達の本気、見せてやろうぜ」

「はい、このガウェイン…我が王の手を煩わせる事なく勝利へと導きましょう」

「私は嬉しい───種火をたっぷりと戴き、万全の状態で挑める事を…」

「我が王の為、私も死力を尽くします」

 

「だぁあああああああああああ!!!」

 

堪らず電気を点けた俺は円卓の面々に不満を漏らした。

 

「お前ら、せっかく悪党風の演出にしようとしてんのになーんで皆んな丁寧語で話すかなぁ!!!」

「いいではありませんか。さぁ、行きますよ」

 

円卓の騎士達が次々と霊体化していく中、俺はコフィンに向かって移動した。今回はほぼ年中太陽が出ている地「ローマ」。ガウェインの得意な場所である。

 

「先輩!頑張りましょうね!」

「フォウ!」

「おう、今回マシュの台詞一言くらいしか無いかもしれないけど許してくれよ!」

「酷いッ!?」

 

俺はロマン達に軽く手を振るとコフィンの中に入って目を閉じた。

 

********************

 

「よぉし、最短距離で攻略しようぜ!」

「はい、サーチ&デストロイです!」

「「サーチ&デストロイ!!!」」

「バカ!その前に状況聞かなきゃ分かんねぇだろうが!!!……ロマン、聞こえてるか?レイシフト成功!サーヴァント達も無事転送完了だ!」

 

円卓の騎士達が凄まじい威圧感を放つ中、俺はロマンに通信を送った。円卓の騎士達を上手く手懐けられるか不安になってきたぞ。

 

「マスター!交戦中の部隊を発見したぜ!大部隊VS少数精鋭って所だな!」

「よし、旗を確認してくれ。勢力が分かると思うぞ!」

「オッケー!」

 

モードレッドの「直感」とトリスタンの視力を合わせて遠くの部隊を観察する。

 

「大部隊は真紅と黄金…少数精鋭も真紅と黄金だがちょっと違うな」

「───ふむ、少数部隊にはうら若き乙女が指揮を執り戦っているようです」

「なんと!?その乙女はロリ巨乳ですか!?答えよトリスタン卿!」

「───はい、なかなかのモノをお持ちなよ─ふごっ!?」

「どこ見てんだバカ!」

 

イラっと来たモードレッドに脚を踏まれ、悶絶するトリスタンを他所に何故か気合いが入りまくるガウェイン…まさか。

 

「───この剣は太陽の移し身」

「おいおい勘弁してくれよ!」

「──あらゆる不浄を清める焔の陽炎…!」

「ガウェインの脳死ブッパだ!全員退がれ!!!」

 

嫌な予感がして全員がガウェインから離れた直後……キリッとした顔で彼は溜められたエネルギーを解き放った。

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!!!」

 

薙ぎ払うような炎の一閃が大部隊の兵士達を襲う。あっという間に殲滅し尽くした彼の対軍宝具によって、勝利は少女の側へと回った。

 

 

 

 

 

 

 

「うむ!良くぞ危機を救ってくれた…と褒めたい所だが、お主の行動は軽率すぎるぞ。敵とてローマの民なのだからな」

「はっ…申し訳ありません」

 

いつの間にかロリ巨乳の少女と主従の関係を築き始めたガウェインをアルトリアとモードレッドは「養豚場の豚を見るような目」で見ていた。

兵士達に労いの言葉を掛けながら少女は俺の顔を見て尋ねた。

 

「して、其方達は何者だ?」

「えー…俺達は………」

 

なんて言えばいいんだ?……よし、これで行くか。

 

「お嬢さんなら信じてくれると思うんで…正直に言うわ」

「?」

「俺達はタイムトラベラー。未来から来た時代修正者だ」

 

すまん、他のアイデアが出なかった。今さらながら俺の頭の悪さが露見してしまったなぁ…。

 

「ほぉ〜!未来から来たのか!面白い!」

 

彼女は俺達の服装を見てポンと手を叩いた。その表情を見るに信用してやろうって感じ…であると信じたい。

 

「では何か芸をしてみせよ!」

 

 

───は?

 

「実は見てみたかったのだ。未来では一体どんな歌や踊りが流行っているのか…どんな料理が流行っているのか…どんな手紙が流行っているのか…色々気になるのだが、何か1つここで見せてみよ!お主も人間であるならば特技の1つ、あるのだろう?」

 

む…無茶振りを…こんな事誰が想定していようか。

 

「仕方ない…腹ァ括るか」

 

保存食の存在を勘付かれる訳にはいかない。仮に交渉に失敗した際に手ぶらだったら確実にくたばる自信がある。

なので、俺は背中に背負っていた調理道具一式を下ろした。

 

「俺の特技は料理です。で、ここにあるのは普段使っている調理道具です。これを使って俺は料理を作ります。が、食材が無い為に料理が作れません」

 

「────ハハハ!それもそうだな!では、我が国に入る事を許そう」

「本当─」

「ただぁ〜し!余の他にも当然ながら多くのローマ市民がおる。彼らにも同じ料理を振る舞うのだ。良いな?」

「──は?」

 

ちょっと待て。ローマ市民全員に料理を振る舞えと?炊き出し?TA☆KI☆DA☆SI !?

 

「出来るな?それが出来たのであれば余は其方達を認める事にしよう。二言は無いぞ!」

 

なんか早々に無茶振りなんですがそれは………。

 

**************************

 

ローマ

 

「えー、皆さんにお配りしてるのは我が祖国で『家庭の味』として食べられているカレーライスでございます!白米が得られなかった為大麦で代用しております事をここにお詫び申し上げます!現在、辛口・中辛・甘口を用意しておりますので皆さん!並んでお受け取りいただきたい!」

 

結局チョイスしたのはカレーライス。元々シチューにする予定だったが、スパイスとカレー粉を偶然市場で入手出来た為変更したのだ。

 

「うめぇ……泣きそうだぜマスター」

「マスター、おかわりです」

「なるほど、その場その場で味付けも変えているのですね」

「──美味しい。私も追加で一皿」

「ガウェインのマッシュポテトを添えたくなります。作れますか?ガウェイン卿」

 

「美味い!よくぞ応えた!其方をローマ市民として認めよう!」

 

身分も何も関係無く炊き出しに群がり、カレーライスを味わう姿に俺は心の底から嬉しくなった。やっぱローマ人も飯食ってる顔が同じだ。

 

「どうだ?お主さえよければ宮廷料理人として受け入れても良いぞ?」

「あー…ありがたい話ではありますが、俺らにも譲れない仕事がありますので」

「むぅ…つれないのぉ。だが、そういった気概は認めよう!余も協力するぞ」

 

そして、なんとローマの地で暴れる許可と早駆けの得意な馬は戴いた。旗印も覚えたし、とにかくサーチ&デストロイの勢いで敵を薙ぎ払って早急に聖杯を回収しよう。軍の大半は拠点の防衛をしてもらい、我らカルデア円卓組がネロを担ぎ上げてカチコミし制圧する。夢もロマンも物語も無いが、速攻で制圧すれば…多分逃げ果せたレフ教授も引き摺り出せる筈だ。ネロの説明では、敵側に宮廷魔術師がいるという…恐らく奴と見て間違いはない。

 

「俺達の目的はズバリ!敵国に脇目も振らず突貫し、速攻で降伏させる事だ。サーヴァントなら倒し、現地の人々は戦意喪失させるだけでいい。分かったな?」

「「はッ!!!」」

「私も前線に立ち、制圧しましょう」

「敵から色々略奪する勢いで攻め込むんだろ?滾るぜ」

 

取り敢えず、今日明日は英気を養うべく休憩するとする。その間に荷物を用意し早駆けで行く。敵の拠点が発見出来次第、ガウェインが万全の状態である昼に突貫。これで任務は即終了だ。

 

「マシュ、現地の留守は頼んだぞ。俺達は皇帝様を敵の国まで運び、占領するからな」

「……先輩の私への扱いが酷い件について訴訟したいです」

 

不満を漏らすマシュに対し、俺はその肩を握り顔を合わせた。

 

「いいかマシュ。その盾とロマンへ通信出来る能力が俺達の役に立つんだ。もし、役に立ちたいと思うならこの作戦で1番重要な役割である首都防衛を果たして欲しい」

「先輩……はい!マシュ・キリエライト!任務を遂行します!」キリッ

「いい返事だ。頼りにしてるからな!」

「(チョロいな)」

「(チョロいですね)」

 

さて、明日はゆっくり休んでから任務遂行だ。レフよ、震えて眠れ。




ネロ・クラウディウス
身長:150cm / 体重:42kg
出典:史実
スリーサイズ:B83/W56/H82
属性:混沌・善 / カテゴリ:人
性別:女性
趣味:芸術・歌
特技:何でも出来るぞ!
概要:ついに登場赤セイバー。セプテムの特異点修復の主要人物だが、ワガママキャラとなっている。何気に生身でサーヴァントを倒せる凄い人。



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ローマの休暇

完全フリーの日に休もうと温泉地に行ったら観光客が押し寄せ逆に疲れた件について





ローマといったらどんなイメージを思い浮かべるか?「温泉」「コロッセオ」「アッピア街道」「パラティーノ丘」…様々だと思うが、その内のコロッセオは現在閉鎖されている。少女──正式名称「ネロ・クラウディウス」が決めた方針によるモノで、『毎日血生臭い戦いを見物して何が面白いか!反乱が起きては大事になる!』と主張したのだという。確かにコロッセオは今となっては「有名だな〜。」で済むだろうが、彼処は奴隷が人間同士や獣同士で殺し合い、観客がそれを見て楽しむという正気を疑う施設なのだ。昔はそれで良かったのかもしれないが、現代っ子はどうしても閉鎖が妥当だと感じてしまう。

 

「さってと…」

 

ネロからカタチだけだが、ローマ市民としての権利を与えられている(大衆も許してくれた)。まぁ1日だけだが楽しもう…という事で、今回は温泉に来ていた。なんでも、自由な温度が選べる浴槽があり、食堂へ行けば6皿(内2皿が肉料理)が食べられるらしい。しかもそれらサービスがほぼタダだというから凄い。永遠に住みたい(迫真)

 

「風呂楽しみだな〜…まずは熱いのでも行くか」

 

 

 

───

 

「おぅ!アルトリアとガウェインも来てたのか!」

「はい、古代ローマの味も悪くないです」

「マッシュポテトを添えたいのですが…」

 

ガウェイン、お前の言葉はツッコまんぞ。それにしても…

 

「なぁ、ガウェイン」

「なんでしょう?」

「なんか男達の視線がヤバくなかったか?」

「あー…」

 

俺の言葉に心当たりがあるのか、彼は気まずい顔をした。やっぱハッテン場だったのかなぁ…ここは。

落ち込み気味に話していると、不意に子供達が俺の方に寄ってきた。

 

「あっ!カレーの兄ちゃんだ!」

「また料理作って!」

「あっ!こらっ!ここ食堂!作ってくれてた奴に顔向け出来ないって!」

 

子供達に弄られるのをアルトリアはニコニコと笑っていた。コイツ…どさくさに紛れて俺の飯が食えると思って…!まぁ、いいか!諦めよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲れた顔で市場に向かうと、モードレッドとベディヴィエールが買い物をしていた。俺の顔を見た途端2人とも心配そうな表情で近寄って来た。

 

「マスターじゃん!どうした?」

「…湯治しに行った筈が食堂でお好み焼きを振る舞っていたの巻」

「あー…」

「マスターの料理は美味いですからね」

「なんで俺休んでる筈なのに疲れてんだ…?」

 

まぁまぁと背中を撫でて労ってくれた2人には大いに感謝したい。群がってきた温泉客が後から後から人を呼んでしまった為半無限に増え続けた事が悪かった。

 

「それより、この林檎美味そうじゃね?さっき買ったんだけど、ちょっと酸っぱかったが美味かったぜ」

「はい、品種改良がまだ成されていないのですがこの時代であれば美味しい林檎でした」

「酸味が強いのか…ならアップルパイが───」

 

そう言って気付いた。俺の背後に「期待」の目で見つめてくるローマ市民の姿に…勘弁してくれ。

 

────

 

「マスター…大丈夫か?」

「…死にそう」

 

流石に2人に手伝ってもらったが、ほぼ無限にアップルパイを焼き続けるのは疲れた。林檎は流石に店側から買って持ってくるように条件提示をしたのだが、皆んな揃って他の必須材料まで買ってきやがった。クソッタレ。

 

「でも、美味しいですね。この時代の調理器具でここまで…」

「サンキュ、でも今はその労いが重い…」

 

このまま帰らないと間違いなく俺死ぬわ。

そう告げるとベディヴィエールが俺を背負って運んでくれた。今回の寝床はネロの城にある一室とされている。

 

「観光もクソもねぇよ…」

「心中察するぜ」

 

モードレッドも付き添いで行き…無事に到着した。しかし、俺を待っていたのは…目をキラキラさせるネロだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余にも未来の飯を用意するのだ!」

「えぇ…(困惑)」

 

「皇帝ネロ、カルデアのマスターは各所で炊き出しを振る舞っており、疲れ切っております。ここは彼の体調維持の為、寝かせていただきたい」

「皆が食っておるなら余も食べる権利がある!叩いてでも起こすのだ!」

 

り、理不尽だ…神は俺を見捨てたのか…?

 

「ふざけんな!マスターとオレ達は明日からテm…ごほん!ネロ皇帝を連れてこの戦いを終結させるんだぞ!マスターが倒れたら動けねぇだろうが!!!」

 

そうオレを守るようモードレッドが抗議したところ…ネロはあろう事か……

 

 

「やだやだやだ!!!余にも食べさせるのだ!!!たーべーさーせーろー!!!」

 

 

年甲斐も無く駄々っ子おねだりを始めたのだ。ひっくり返りバタバタと手足をばたつかせる…そんな子供っぽい姿を見せられると、流石のモードレッドも言葉に詰まってしまった。仕方ないか…

 

「ベディヴィエール、降ろせ」

「し、しかし!?」

「摘み出されたらこのミッションは失敗だ…俺が体を張ればなんとかなる……」

 

千鳥足気味に俺は立ち上がるとモードレッドに向かい合った。

 

「モードレッド…活力注入してくれ」

「え!?どうすりゃいいんだ!?」

「何でもいい!励ましになるような奴で!」

「分かった!えーっと…」

 

相方のお前ならこの俺の疲れをブッ飛ばせる何かが出来ると信じてる。頼む…なんか考えてくれ!

 

「ベディヴィエール…背を向けてくれ」

「あ、はい!」

 

ベディヴィエールが意図を受け止めたのか背を向けた。それを確認したモードレッドは大きく深呼吸をした。そして…

 

「っ───!」

 

突然彼女は俺の胸に飛び込み……

 

「いいか?これはオレの1番だからな!今の感触…忘れんじゃねぇぞ!!!」

「───サンキュ!モードレッドのパワーを得た俺に不可能は無いッ!皇帝!どんな飯が食いたいか言ってみろ!!!」

 

ぞの真心…しかと受け止めたぞ。疲労など吹っ飛んだ。後はひたすら作るのみ!!!

 

************************

 

「」チーン

 

死んだ…もう動けん。LOVEパワーで無理矢理動かした事が俺の体に洒落ならない程の負荷を掛け、現在指先1つ動かせない状態でベッドに倒れていた。

 

「マスターの本気、初めて見たぜ」

「…」

「だってよ!イタリア料理のフルコースだぜ?古代ローマで作れるシロモノじゃねぇよ…」

「…」

「美味かった!マジで美味かった!ファーストキスが等価交換になるのかどうかってくらい美味かった…」

「…」

「か、勘違いすんなよ!今日はマスターの護衛の為に添い寝するだけだ。動けない分オレがしっかり守るだけだからな………ゆっくり休めよ」

 

 

動けない。近くですごく大切なイベントが起きてるのに…指一本動かせねぇ……ちくしょう…。

結局、瞼も上げられぬまま俺は意識を手放した。俺はローマに疲れに来たのか…?




トリスタン「────スヤァ」

次の日、起きて悲しくなるトリスタン。


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ローマの遠征

いよいよ出撃回。ところで、ニンテ○ドース○ッチって面白いですね。


「では出陣じゃ!カルデアの者よ!余を導くのだ!」

 

結局、目を開ける事すら出来ない程疲労困憊した状態を今日まで引き摺ってしまった俺はネロの乗る馬車の中で体を動かせずに横になっていた。

 

「マスターに代わる臨時の指揮官ですが……指揮権はモードレッドに託します。私は補佐として息子を助けましょう」

「え!?オレが!?」

「えぇ。私の血を引くモードレッド…貴女なら指揮を執ることが出来る筈です」

「ありがとよ!じゃあ編成だ。トリスタンが最前列でその次にガウェインと父上…そして、オレとベディヴィエールがネロとその精鋭部隊数人による小隊を守るように進む陣形を取る…頼む!オレの言葉をマスターの言葉と思って聞いて欲しい!」

 

モードレッドが円卓の騎士達に頭を下げる。今回はアルトリアが弁護せずその様子を見守っていた。

 

「私は従いたくありません」

 

反対したのはガウェインだった。だが……

 

「が、それは昔の話です。今のモードレッドは随分と良い顔になったようです。私は彼女を推薦しますが反対する者は他にいますか?」

 

意外にも彼はモードレッドを庇った。これがガウェインなりの成長なのだろう。反対は出ず、編成を速やかに済ませたカルデアの部隊は進軍を開始した………。

 

************************

 

「私は嬉しい───初陣でここまで活躍の場を与えてくださるとは…」

 

トリスタンが馬に乗りながら己の武器である妖弦フェイルノートを爪弾き、その音波によって通り魔の如く敵軍を殺し回る(現地人は武器を破壊するに留める辺り腕前は見込んだ通りだ)。その活路をアルトリアとガウェインが維持しネロと小隊がモードレッドとベディヴィエールに守られながら強行突破する。

 

「マスターには指1つ触れさせません!」

 

そういった激しい戦闘の音で、俺は漸く覚醒出来た。懇々と眠り続けた事で頭がフリーズしていたがゆっくりと溶け出し状況を理解した。

 

「そうか、任務は遂行中か…」

 

とにかく敵陣の突破が終わらなければならないと思い、荷物を盾に祈りを捧げた。今回ばかりは無能ですまん。魔力供給だけで限界だ。

 

「マスターが起きた!取り敢えず追っ手を振り切るぞ!走れ走れ!!!」

 

アルトリアが追っ手に対しロンの槍から放つビームで威嚇する。砂埃を起こして視界を奪った後、急いで離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

「よかった…!マスターが回復してよかった!」

 

モードレッドが嬉しそうに抱きつき、円卓の騎士達が温かく見守る中…俺はやや照れ気味に彼らを見回した。

 

「よし、ここまでは順調のようだな。挟撃される前に突破せねばならんが、馬が疲れておる。一旦休憩としよう」

 

ネロの提案により、身を隠した状態で休息を取る事になった。アルトリアから事情を聞き、モードレッドとガウェインを素直に褒めた。非常に良い傾向だ。円卓の騎士達のギスギス感がまた少し無くなった。

 

「現在地を教えてくれ」

「メディオラヌムだ。明日には余の傘下のキャンプに到達する予定である」

「キャンプ…!」

「マスター、1度補給するべきだ。今回の進軍で思ったより人間と馬の疲労が重なってる。まぁ敵の数が多すぎたのが原因かなぁ…って俺は認識してる」

「思うようにはいかないもんだな…」

 

連合首都までの距離はざっくりで1400km。今乗っている馬の移動速度は計算した所48km/h。約2日で強襲出来る予定だったが、俺がダウンした事で馬車が必要になった事・敵陣の突破・複雑な地形などの状況に阻まれた。まぁ、結果として俺のミスだ。

 

「距離で云えばいい感じだな。だが、ガウェインが実力を発揮出来る時間には到達辿り着けない…大人しく休もう」

「はい、では休憩と行きましょう。今回は私が料理を作ります」

「アルトリアが?」

「えぇ、私も貴方に触発され作り始めたのですよ?形こそ歪ですが味は保証します」

 

そう言うと、アルトリアはネロが用意した食料を取り出し調理を始めた。ぎこちない動き・時々包丁で指を切ったり火傷するなどの過程を経て、彼女の料理がやっと完成した。

 

「出来ました。皇帝のお口には合わないかもしれませんが、どうか胃の中にお納め下さい」

「すまんの…お〜!これは!」

 

アルトリアがチョイスしたのはローストポークとトマトスープ。そして俺が作っていたパンだ。

 

「トマトスープはやや酸っぱすぎるが、ローストポークは美味い。やるな、アルトリア!」

「ありがとうございます!」

「父上の飯ならほぼ何でも食えるぜ!」

 

アルトリアには脱帽モンだ。ここまで作れるなら充分だ。あとは地道に修正すれば上達するだろう。

 

「じゃあ明日に備えて英気を養うか!」

 

急がば回れという諺もある。一度落ち着いてからやろう……。






トリスタンはチート。はっきり分かるんだね。


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ローマの襲撃

少し端折り気味です。ロムルスの言葉って難しい


「皇帝ネロ・クラウディウスである。これより謹聴を許す!ここまで尽力した者達よ、ご苦労であった!」

 

野営地に到着した俺達は馬達を馬舎に入れ、休息を取った。因みに、俺達が来る前にガリア遠征があったらしく、多少の犠牲を払いつつも何とか成功させたようだ。敵にはサーヴァントがいるというのによくやるわあのお子ちゃまは。

 

「実は他にも部隊が一個あったのだが、現在はガリアの地に残しておる。よってここには補給部隊が少々しか残っておらんかったのだ。無事で良かった」

「ここで馬を休ませて良いタイミングで出立だ。予定は夕方だ。夕方から行けば昼には突貫出来る!」

 

最悪馬を乗り捨て徒歩でも突貫する覚悟はある。とにかく、ガウェインがピークの状態で着くようにしなければならない。時間調整は大切だ。

 

「トリスタン、見張り代わるぞ」

「──いえ、私が居なくなると危険性が…」

「それは違う。明日最前線で活路を開くのはトリスタンなんだ。休んでもらわないとこの作戦の成功率は大きく低下する」

「─では、ありがたく」

 

木の上に建てた櫓から見張っていたトリスタンを降ろし、代わりに俺が見張りに立つ。現状では誰も来ておらず静まり返っている。だが慢心せずに俺は目を凝らした……。

 

 

*********************

 

予告通り、夕方に出立した。携帯食を予め作っておいた為、食事はこれで済ませる(ネロがワガママを言ったが、今回は我慢してもらう事にした)。昼寝をする事で夜間に動けるようにした為、全員しっかり目が冴えている。

 

「進め進め!こっから先は休憩無しだ!俺達には円卓の騎士がついている!!!」

 

ローマの精鋭達を鼓舞しながら突き進む中、トリスタンが合図を送った。敵軍発見のサインだ。

 

「そのまま轢き潰す!トリスタン!活路を!」

「──心得ました!」

 

敵軍の弓兵が前衛に出て弓を引き絞る。

 

「させません───痛哭の幻奏(フェイルノート)

 

脚で体を固定したトリスタンが音の矢を掃射し、次々と弓兵の弦のみを斬り飛ばす。

 

「───AAAALaLaLaLaLaie!!!」

 

アドレナリン出っぱなしの状態で俺達は次々と敵陣を切り崩して強行突破。大半を無力化して突き放した。

 

「行くぞ!止まるな!!!止まれば挟み討ちだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はドゥン・スタリオンに乗るアルトリアの後ろにしがみ付き、全員に魔力供給を続けながら脇目もふらずに前へと進ませた。万が一の時はキャンプの時に作ったスリングショットで援護する予定だ。日が昇り、緊張が高まる中───俺達の前に壁が現れた。

 

「レオニダス様!奴等は──」

「落ち着けィ!……我々には知恵がある!!!」

 

身の丈の倍以上ある槍と丸盾を携え、ファランクスの陣で迎え撃つ部隊……間違いない。あの中央にいる場違いな気迫はサーヴァントだ。

 

「マスター!どうする!!!」

「───くっ!」

 

このまま進めば間違いなくファランクスにより串刺しとなる。減速しようものなら奥に控える弓兵の矢が飛んで来る…。

 

「マスター、ここは私にお任せを」

 

そこでトリスタンの前に出たのはベディヴィエールだった。

 

「ベディヴィエール!?無茶だ!」

「いえ、私ならばこの陣を崩せます。どうか私にも機会を…!」

 

しかし、ベディヴィエールが持っているのは細身の剣のみ……不安しかない。

 

「マスター、ベディヴィエールを信じましょう」

 

アルトリアはそう告げた。心の底から信頼した相手に言える声色……仕方ない。託してみよう。

 

「トリスタン!ベディヴィエールを援護してくれ!」

「──承知しました」

 

宝具を撃った為に魔力が大きく削られているトリスタンにエネルギーを回す。ベディヴィエールはネロの精鋭達から丸盾を借受けると義手に持ち、身を隠すよう構える。

 

「ハィヤッ!!!」

 

一気に突進を敢行するベディヴィエール。トリスタンが援護するように放つ音の矢によって、槍の穂先を次々と落としてキッカケを作る。だが、レオニダスの判断により放たれた矢により、ベディヴィエールの盾と馬が蜂の巣になる。

 

「なっ────」

 

だが、馬が倒れてもその先にベディヴィエールが居ない……見上げたレオニダスは、太陽を背に盾を投げ捨て義手を振り被る白銀の騎士を認めた。

 

 

「───剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!!!」

 

 

振り下ろされた手刀により盾ごと胴を斜めに両断されたレオニダスは彼に何かを告げ消滅した。敵兵士達が怯みから立ち直る前に遅れてやって来た俺達が一気に突撃して撃破。ガウェインがベディヴィエールを回収し無事突破に成功した。

 

「今度からあんな無茶は止めろ。心臓に悪い」

「ハハ……馬には申し訳の無い事をしました」

「───あぁ」

 

大きく溜息を吐いた俺は気持ちを切り替えて突き進んだ。大きな障害は突破した。次はそうあるまい………と思った時、俺達の視界には目標の都市が現れた。同時に…

 

「横合いから別部隊を確認しました。サーヴァントが4人…恐らくこちらの作戦を読んでいたのでしょう」

「マスター、このガウェインが2つの部隊とサーヴァントを見事食い止めてご覧に入れます。どうか先へ!」

「スマン!頼んだ!ベディヴィエールもついてやってくれ!」

「はッ!」

「いいか?生き残れ!殺してしまっても構わないからとにかく生きるんだ!!!」

 

一気に連合都市に突っ込む俺達を見送ると、ガウェインとベディヴィエールがそれぞれ馬から降りて剣を抜いた。

 

「ガウェイン卿、聖者の数字の効果はあと1時間です。宝具の乱発は避けて下さい」

「分かっています。敵が密集した時を狙いますよ」

「(そういう意味では無いのですが………)来ますッ!白兵戦になりますよ!」

「はい!実はこの戦いが終わったら皇帝ネロにキスをしてもらう約束をしています!なので負けられません!」

「ガウェイン卿!それは死亡フラ───」

 

 

******************

 

「ここが連合都市か……」

 

馬から飛び降りた俺達はその中を駆け抜けた。だが……多くの兵達や民衆が襲い掛かってくるという予想に反し、街には誰もこちらに敵意を向ける者が居なかった。場違いだった為に取り敢えず矛を収め、俺達は慎重に周囲を見回しながら歩く。

こちらの存在などお構いなく過ごす民衆達を見てネロは首を傾げた。

 

「───っ」

 

そして、何かを感じ取った彼女は行商人の老婆に話し掛けた。

 

「ここを治めている者は今どこにいるか存じておるか?」

「はい…あちらの宮殿であの方はこの街を治めております」

「あの人…?あの人とは誰だ!答えてみよ!」

 

そう尋ねると……老婆は淡々と答えた。

 

「偉大なる神祖…ロムルスでございます」

「ロム──!?!?」

「ロムルス?誰だそいつ?」

 

あー…確かオリーブオイルのラベルに書いてあった子供だっけ。レムルスって言う兄弟がいて、捨てられ狼に育てられて羊飼いを経て王になった…って人だ。そして……ローマという存在を生み出した王だ。

 

「そんな───」

「我々はロムルス様に手を出していたというのか…?」

 

兵士達が混乱する中、ネロは激しく落胆していた。

 

「皆の者…よくここまで来てくれた。だが……もうここで終わりだ。余は帰る…」

「ちょっ─待てよ!何でだよ!」

「ではお主は自分の先祖が現れたらその者に弓を引くというのか!?余は間違っておったのだ…!あぁ……」

 

そして、その時、声が聞こえた。野太くも力強い…まるで大樹のような凄みのある声だ。

 

「遥々よく来たな…愛し子よ」

「!?」

 

宮殿のベランダから現れたのは褐色の肌に美しい衣装を身につけた巨漢であった。彼の威圧感はオルレアンで戦ったヴラドより遥かに強烈だ。

 

「一瞥しただけで──分かってしまう……あの御方こそがローマ…」

 

ネロの顔には大きな動揺が張り付き、泣きそうだった。神格化までされた存在がまさかサーヴァントとして現界していようとは…!

 

「さあ、来い。(ローマ)へと帰ってくるがいい、愛し子よ。お前も連なるがよい。許す。お前のすべてを、私は許してみせよう。お前の内なる獣さえ、私は愛そう。それができるのは、私ひとりだけなものだから」

「───っ」

「すぐに答えずとも良い…10分程其方らには時間をくれてやろう。その間、我が都で寛ぐのだ」

 

そういうとロムルスが奥へと歩き去っていった。それ以外全く変わらない風景の中で、俺はいつまでもウジウジしているネロの胸倉を掴んだ。

 

「いい加減にしろよネロ!神祖だがローマだが知らねぇが!お前は周りを見て何も気付かなかったのかよ!!!」

「──何が関係あるのだ!ロムルス様こそ至高の存在。あの御方に勝る者などおらん…!」

 

はぁ…と俺は手を離し溜息を吐いた。そして、改めて発破をかける事にした。

 

「お前がロムなんたらに勝っている所が1つだけあるぞ、分かるか?」

「───何だ」

「ったく…なんで分からないかなぁ……!」

「一々勿体ぶらず申してみよ!」

「なら教えてやるよ……お前の治める街には『笑顔』があったろうが…」

「!!!!」

「だがこの街を見てみろ。確かに奴の統治は完璧だろう…だが、こんな街に住んでみてぇと思うか?」

 

ネロはその言葉に目を丸くした後、周囲を見回した…そして、

 

「───くっくっく…余も歳かのぉ。そんな大事な事を忘れていたとは……」

 

笑い始めた彼女からはすっかり調子が戻っていた。そして、ネロは部下達に尋ねた。

 

「聞こう、神祖ロムルスに楯突こうと考える愚か者はここに居るか?」

「「…」」

「もし愚か者ならば余について来い!余は今を生きる人間だ。過去の亡霊に隷従してはならんのだ!!!もし余を愚かと笑い、従えぬと思うなら今すぐこの街に住むが良い!」

 

答えは、肯定だった。よし、これで攻め入る事が出来る!

 

「モードレッド───神殿の壁をぶち壊せ!盛大にな!!!」

「待ってたぜ、マスター!」

 

モードレッドはクラレントを胸の前で掲げ、白銀の焔を刀身に纏わせた。そして…

 

「これこそが!燦然と輝く王の剣──『我が麗しき父への恩返し(クラレント・リターン・アーサー)』!!!」

 

完全解放した照射ビームにより、神殿には大穴が空いた。モードレッドに素早く魔力供給を行った後、俺達は強硬突入を敢行した。

 

「マスター、ここの入り口は私が抑えます。先に行ってください」

「すまん、頼んだぞトリスタン!」

 

トリスタンに入り口の防衛を任せた俺達は大穴から敵拠点である神殿に入る。その先には………




10連ガチャ爆死。沖田狙いでしたが金鯖が一枚も出なかったとは…




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ローマの対局

ローマ編もいよいよ大詰め。壮絶なバトルが君を待っている………と、思うだろ?


「よくぞ来た…と言いたい所だが、どうやら私に反旗を翻す道を選んだようだな」

「その通りだ。誉れ高き神祖ロムルスよ…余は貴方に刃を向ける。今・過去・未来であっても皇帝は余1人で充分だ!」

 

玉座にて座すロムルスに対し、ネロは臆する事無く剣を向けた。だが、座したままの彼は俺達の顔をそれぞれ見て…その視線がアルトリアに集中した。

 

「なるほど…神の槍を持つ者か。だが、人の殻に納まったままであるか……」

「どういう事ですか…?」

 

アルトリアがその言葉に首を傾げるが、ロムルスの顔は晴れやかだった。

 

「安心せよ、其方は俗世に染まりし者。その心臓は神域に至ってはおらん」

「……?」

 

クク…駄目だ…。シリアスなシーンの筈なのにアルトリアが全く理解出来てない。コテンと首を傾げる顔はじわじわ来る。

 

「そのうち分かる日が来るであろう…」

「すみません…理解が出来ませんでした」

「敵に頭下げるなよ!?今は戦いなんだぞ!」

「───はっ!?すみません!マスター!」

「ぷっ───」

 

そして、アホ面を晒して正気に戻る辺り俺はロムルスの言っている事を理解出来た。ウチのアルトリアはポンコツだ。確かにロンの槍自体は神の槍と持て囃されている品だが、アルトリア本人は恐らく「攻撃手段の1つ」程度の認識なのかもしれない。

 

「では改めて…覚悟しろ。ロムルス…!」

「良いだろう。許す。私の愛…お前の愛で見事蹂躙してみせよ!!!」

 

ロムルスの気迫が増大する。後ろの壁がぶち破られ、中から現れたのは奇襲中に何度か相対した岩のゴーレムだった。

俺は後ろに下がり、アルトリアとモードレッド、そしてネロは武器を向けた。

 

「行くぞ!父上!ネロ!」

 

開幕から宝具をぶっ放したモードレッドのビームに沿うようにアルトリアとネロが駆け抜ける。屋内での戦闘だがジルとの戦いでそれは慣れていた。おまけにロムルスの想定クラスはランサー。セイバーのモードレッドかネロで当てればまだ希望がある。だが、残りのゴーレムはバーサーカー属性…。なので力のある者がゴーレムと対峙しなければいけない。そして、ネロがロムルスとの一騎打ちを願い出た為、消去法でブリテン親子がゴーレムの迎撃に当たる。

モードレッドの宝具によってゴーレムの体が消し飛んだが、それを盾にやり過ごしたロムルスがネロに襲い掛かる。

 

「父上!あと一体を潰すぞ!」

「はい!」

 

モードレッドとアルトリアがゴーレムを次々と解体していく。

その一方で、ネロとロムルスは壮絶な打ち合いをしていた。タイプ相性なぞ関係ねぇといった風に2人の戦いは熾烈なものだった。だが、その決戦は……

 

「ぬぅっ!?」

「───はぁ…!はぁ…!」

 

ロムルスの突きを見切ったネロの一撃により終了した。

 

───

 

「眩しき愛だ…ネロよ。永遠なりし真紅と黄金の帝国は全て其方とその後の者達に託す。忘れるな──ローマは永遠である」

 

ロムルスは満足げに辞世の句を詠んで消滅した。大きく溜息を吐く一同であったが、その時…声が聞こえてきた。

 

「───よくぞ、ロムルスを倒した…と一応は褒めてやろう」

「テメェは…レフ!」

 

緑色のスーツとシルクハットを被った変態オヤジ…レフが姿を現した。

 

「あやつが宮廷魔術師か…そして携えておるのが聖杯か」

「宮廷魔術師が主を助けず見捨てるとは……裏切りが板に付いたようですね」

 

アルトリアは冷静にそれを詰る。

 

「フランスでの活躍は聞いているよ。おかげで私は大目玉だ…子供のお遣いすら出来ないのかと王から追い返され、こうしてここで暗躍させてもらった…という訳さ」

 

ちょうどそのタイミングでガウェイン・ベディヴィエール・トリスタンが駆け付けてきた。全員殆ど傷を負っていない。俺はレフに対して切り返す。

 

「暗躍?召喚したサーヴァントを間違えた所為で尻拭いする羽目になった阿呆が何言ってんだ」

「ほざけカス共、凡百のサーヴァントを幾ら搔き集めようがこのレフ・ライノールに勝つ事など夢のまた夢!」

「───今のでブチッと来た。目的なんざ関係ねぇ…テメェはこの場でぶちのめす!!!」

「それも良いだろう。哀れにも消え逝く貴様達に…今、私が、我々の王の寵愛を見せてやろう!」

 

そう叫んだレフは突如、ガリっと自分の歯で舌を噛み…その血を聖杯に垂らした。そして、ブツブツと魔術を詠唱した直後、レフの肉体が膨れ上がった。そして、その肉が破裂した瞬間…巨大な肉の柱が聳え立った。

 

「なっ!?なんだあの怪物は…醜い……あまりにも醜く過ぎる!」

「この桁違い魔力…間違いねぇ…!ヴォーティガーンに匹敵する!!!」

「クッ…!」

 

“改めて自己紹介しよう!我が名はレフ・ライノール・()()()()()!!!”

 

「フラウロス…!」

 

“フハハハハハハ!!!コレが我が王から与えられた寵愛そのもの!怯えろ…絶望しろ…この圧倒的な暴力の前になす術無く死ぬがいい!!!”

 

「円卓の騎士達!今こそ結束し魔神フラウロスを撃破しろ!」

 

円卓の騎士達にそう叫ぶと、円卓の騎士達とアルトリアは勝鬨をあげた。ネロもそれに混ざり剣を掲げた。そして、一斉に襲い掛かった。

 

「美味そうなグミだな!一個ずつ抉り抜いてやるぜ!!!」

「同意です!そのお目目をくり抜いたらご飯に添えて食べてあげましょう!」

「───私は悲しい。ピクト人より愚かな者が居るとは…」

「我が王よ、あの目玉は食べられません。食中毒になります」

「無駄口を叩く暇があるのなら剣を振るいなさい!」

「流石は誉れ高き騎士共だ。余も負けておれん!」

 

───正直、レフの方が押されている気がするのは気のせいか?剣とか槍とか音の矢とかで一方的に目を引き裂かれてる様はなんか痛々しい。

 

「ぬぉぉぉ…!何故そこまでの力をォオオオオオオオオオ……!」

 

うーん…なんか拍子抜けだったなぁ……弱くね?攻撃も全体狙いとか舐めてんの?

 

「いい加減ッ───」

 

アルトリアがロンの槍を投擲、槍をフラウロスの肉に突き立てた瞬間、鈍剣を引き抜きながら急速接近しさらに剣先を突き刺す。

 

「黙れッ!!!!」

 

そして、そのまま満身を込めて横に引き裂き両断した。引き抜いた拍子に鈍剣が過負荷により砕けた。

 

「ッ───!?」

 

俺達はその時のアルトリアの表情を今でも覚えている。敵が正面にいるのにも構わず、ドゥン・スタリオンから飛び降りて必死に欠片を搔き集め始めたのだ。

 

「父上!──ちっ!父上をフォローするぞ!!!」

 

まだ動いているフラウロスをトリスタンが宝具により徹底的に攻撃し続けた。やがて、奴の目が濁り動かなくなった事を確認した後でアルトリアを確認すると、破片を袋に入れて戻って来た。

 

「アルトリア」

「すみません…」

 

叱ろうかと考えていた時、フラウロスが溶け始め…中からレフが出て来た。どうなってんだアレ?

 

「ふむ…神殿から離れ過ぎた故……この程度の力しか出せないか」

「今更泣き言か?早く手に持ってる聖杯と有り金全部寄越せ。そうすりゃ許してやる。あ、裸踊りでもいいぞ?」

 

俺の煽りに対してレフは何故か自信満々な顔を崩していなかった。コイツ、ボロ負けした癖になんで偉そうなんだ?

 

「しかし、私とて人理焼却の任を任された身だ。何も万策尽きた訳ではないッ!」

 

レフの持つ聖杯が突然輝き始めた。コイツ…召喚する気か!?

 

「さぁ、人類(せかい)の底を抜いてやろう!私が召喚するのは………破壊神『アルテラ』!!!」

 

破壊神…?破壊神………アルテラ?

 

「一同!お下がりください!私の後ろに!」

 

何かに気付いたガウェインが俺達を後ろに下がるよう叫んだ。

 

「さぁ、殺せ!破壊しろ!蹂躙しろ!この者は唯の英霊…だがその力は───」

 

 

「──黙れ」

 

 

直後、レフの腹から何かが飛び出した。あれは……剣…なのか?

 

「え───?」

 

直後、その剣がレフを縦に一閃した。真っ二つになり、全てを理解出来なかった彼の残骸の後ろにそれはいた。

 

聖杯を体に吸収した褐色の肌の破壊神が………。




皆んなで掛かればあっさり潰せるフラウロス君UC。そして唐突に現れるアルテラ。終焉の足音が首都に迫る中、モードレッドに託されたのは馬より速いアレ!?

次回、ローマの終焉!


モ「って何勝手に予告してんだよ!?」

ダメですか!?はい、すんませんでした


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ローマの終焉

※不穏なタイトルと本文は一切関係ありません。

モードレッドがついにアレを装備する…!?


「くっ───お前ら無事か…?」

「はい……何とか…」

 

女─アルテラの姿を認めた直後に凄まじい爆発が起こり、吹き飛ばされた俺達だったが、何とか全員無事だった。

 

「───何とか…耐え切りました」

 

ガウェインを除いて。

 

「ガウェイン!大丈夫か!?」

「えぇ、なんとか…」

 

ベルクラシック帯を行使しアルテラが唐突に放った宝具らしき者を全て受け止めたガウェイン。その“肉体”に傷は1つとして無かった。

 

「わぁああああああああああ!!!」

 

つまりガラティーンを除けば一糸纏わぬすっぽんぽん。慌てて俺は近くに転がっていた盤を掴んで隠すべき所に覆いを掛けた。

 

「ふむ…伯父上より貧相な体だな…」

 

さりげなくdisるネロ。

 

「変態ヤロウ…///何やってんだ」

「ガウェイン卿……///」

「今ので台無しですね」

「─はい」

 

赤面しそっぽを向くブリテン親子。呆れ返るトリスタンとベディヴィエール。気まずい雰囲気が流れた…。

 

 

******************

 

「さてと、アルテラは何処かへ行ってしまった。恐らく奴の目的はローマの破壊に違いない…」

 

ガウェインには現地の服を着せて誤魔化した。が、アルテラは既に居らず何処かに消えていた。

 

「早駆けで間に合うか?」

「何処にいるか分からないのに!?どうしろと?」

 

早くも絶望感に満ちるカルデアチームとネロ……であったが、直後。海から何かが向かっている事に気が付いた。

 

「センパーイ!!!」

「あれは……」

 

何かに引っ張られるように飛んで来る可愛い後輩だった。彼女は地上に到達した所で減速しようと足を地に付けたが勢いを殺し切れずずっこけた。

 

「どうしたんだ…それは?」

「あ、ハイ!ダ・ヴィンチちゃんからモードレッドさん宛ての新兵器です!時間が無かったので装着して来ました!」

「新兵器…って」

 

マシュが腰に装着された謎のアイテムを外すと、重めの音と共にそれは大地に転がった。

 

「あ!それ前に頼んだブースターじゃねぇか!」

 

そういや言ってたな。カッコイイ武器が欲しいって。まさか本当に作ってたとはな……。

 

「早く装備してください。このブースターなら追い付ける筈です!」

「あのさぁ…敵の場所が分からないのに──」

『やっとぐだ男君に繋がった!』

「久しぶりだなロマン。風邪でも引いてたか?」

『違うよ!ずっと連絡しようとしてたんだけど返答が無かったんだ!』

「───すまん、通信で相手に探知されると思ってブロックしてた」

『ダメでしょう!!!何事も大事なのは「ホウ・レン・ソウ」なんだよ!?』

 

ロマンのお叱りはスルーして、俺はモードレッドの腰アーマーをテールブースターに換装する作業を行った。大型のブースターの先端には穴が開いており、完全にロボアニメに出るアレだった。

 

「よし、換装完了だ!ロマン、敵の座標をモードレッドに送ってくれ!それで追い付く!」

『だから───え!?わ、分かった!座標を送るよ!』

 

ロマンも素早く座標を提示してくれた辺り有能だ。あとはモードレッドに任せるとしよう。

 

「モードレッド、先行してアルテラを抑えてくれ!俺達も後で追う!」

「了解!」

「モードレッドさん、移動方法は『頭の中でイメージ』して下さい。そのブースターがサポートしてくれます!」

「なるほど…!」

 

モードレッドはゆっくりとロボアニメにありがちな発進のポーズをした。

 

「モードレッド、いっきま───」

 

直後、ブースターが暴走して彼女は頭からずっこけた。

 

 

 

 

 

 

「ごめん!仕切り直し!仕切り直ししてくれ!もう一度やらせてくれ!!!」

 

と顔を真っ赤にして抗議したので、それに応え改めてポーズを取らせた。

 

「イメージだイメージ……よしっ!モードレッド、目標を駆逐す───」

 

その瞬間に、テールブースターに引き摺られるようにモードレッドは地上を走り出した………。

 

「───よし!俺達も追うぞ!全員馬に乗れ!」

「先輩!私は───」

「マシュ、お前徒歩な」

「酷いッ!?」

 

 

******************

 

「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

凄まじい速度の中でモードレッドは何とか体勢を整えコントロールに成功していた。ホバー移動は走るより馬より速く彼女を運んでいるが、その正面にゴーレムがいた。しかもスクラムを組んで道を塞いでいた。

 

「ヤバッ!?これどうやって減速すんだ!?」

 

慌てて減速しようとするが、間に合わない。モードレッドはクラレントを手に大声で叫んだ。

 

「そこをどけぇえええええええええええええええええ!!!」

 

その時、テールブースターから勢いよく何かが発射された。硝煙と薬莢が吐き出され、撃ち出されるそれの正体は「銃弾」。毎秒10発の機銃が掃射され、正面のゴーレムが蜂の巣を経て木っ端微塵になった。スクラムを突破したモードレッドはようやくアルテラを視界に捉えた。

 

「ようやく見つけたぞ!ペンライト女!」

「む────!?」

 

アルテラが振り返るか返らないかの瞬間にクラレントを振るい、通り魔の如く斬り付けた。が、アルテラも剣を振るっており、その一撃は左ブースターを破壊する。

 

「ぉわっ!?」

 

減速出来ずそのまま砂の上を転がり、なんとかモードレッドは視界に負傷したアルテラを捉えていた。神の鞭とも言われた剣を腕ごと切り落としており、ブースターの破壊はまだ命令が生きていた腕の神経によるものと推理した。

 

「これでオレの勝ちだ。大人しく負けを認めろ!」

 

クラレントを構えたモードレッドにアルテラは無表情だった。

 

「私はアルテラ…フンヌの大王…この西方世界を滅ぼす破壊の大王」

「ハッ、知るかよ!そんな事!!!」

 

右のブースターを噴かせ加速したモードレッドは再びアルテラに斬りかかった。だが、足元の自分の腕を蹴り上げ、剣を捥ぎ取るとクラレントの一撃を受け止めた。

 

「クソッ!片腕だけでこのパワーか!?」

「少女よ…なんと脆い」

 

そのまま蹴り、モードレッドを離すと剣を鞭に変形させて斬りかかった。ブースターを逆噴射しそれを回避した後、機銃で牽制を浴びせる。アルテラがそれを鞭を高速回転させて防ぐのを確認しながらモードレッドは再度インパクトを仕掛けた。

 

「フッ───!」

「読めねぇ…ッ!」

 

鞭が振るわれ、先端が硬質化したアルテラの剣をモードレッドは斬り払い、再び距離を取り機銃を乱射した。だが、突然弾が出なくなった。

 

「マジかよ…ここで弾切れ!?」

 

だが、アルテラも何発か浴びていたようで腕の切り口と共に血を流していた。持久戦に持ち込めば勝利はほぼ確定している…しかし、その持久戦が難しい状況になっていた。

 

「だが、退けるかよ!」

 

ここでブースターも推進剤が切れ使えなくなった。やむを得ずデッドウェイトと判断しパージ。クラレントを両手で握り、戦闘体勢を取る……が、その時。

 

「───っ!?」

 

音波の矢がアルテラ目掛けて降り注ぎ、再びアルテラが防戦一方となる。マスターと父上達円卓の騎士達だった。

 

「よく食い止めました!モードレッド!」

「ありがとう父上!」

 

ガウェインとベディヴィエールの連携でアルテラを挟撃。トリスタンが宝具を阻止する為の狙撃を続け完全に動きを止めた。倒れるのも時間の問題だ。

 

「マシュ、これで分かったろ?出番無いって」

「───はぃ」

 

俺の乗る馬の後ろでマシュがクソデカ溜め息を漏らした。

 

***********************

 

「ただいま帰還しました」

「お疲れ、マシュ。ぐだ男君。結果として特異点の修復は完了した。でも、次から連絡を怠らないように」

「ヘイヘイ、すんませんした〜」

 

わざとらしく肩を竦めた俺は、円卓の騎士達を連れてお疲れ様会を開催する事にした。余談だが、ガウェインはネロ・トリスタンは途中でやって来たブーティカから別れのキスを貰った為すごくニヤけていた。




以上、セプテム編でした。
余談ですが、ローマ全体に通っていたという水路には鉛が使われており鉛中毒になるローマ人が多かったそうです



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閑話休題6 労いと共に鍋を

少し箸休め。お鍋回です。エイプリルフールは何をしてくれるのですかねFGO


「「かんぱ〜い!!!」」

 

ミッションを終えた俺達はジョッキを打ち合い旅の疲れを労い合った。今回は首都防衛と武装輸送という大仕事を見事遂行したマシュもジュースという形で参加させている。

 

「いや〜!疲れた体にビールぶち込むのはサイコーだぜ!」

「いい飲みっぷりだぜマスター!オレも飲むゾォ〜」

「あはは〜おほしさまがきえたりふえたりしてりゅ〜♪」

 

俺とモードレッド、アルトリアはビールを飲みながら今回用意した塩鍋に舌鼓を打つ。具は白菜・白滝・鶏肉・ニンジン・ブナシメジ・椎茸・水菜。具材はたっぷり用意している為、喧嘩が起きないようにしている。

 

「トリスタン卿、しがらみ無しで酒を飲むのも乙なものですね」

「─はい、後はランスロットさえ居ればもっと盛り上がるのですが…」

「はい、今の円卓の騎士団に是非誘いたいです」

「──ところで、ベディヴィエール卿。ローマでキスをしていただいたレディはなかなかに美しゅうございました…」

 

余談だが、その中で1人気まずい思いをしているマシュはやがてガウェイン・トリスタン・ベディヴィエールの3人に巻き込まれた上に散々猥談を聞かされ死んだ目をしていたという。

 

 

 

 

 

「ここでちょいはしたない食べ方を見せてやる。見てな」

 

俺は台所から生卵を取り出すと自分の取り皿にある塩鍋のスープと具の上に掛けた。そして掻き混ぜて食べる。

 

「うめぇ…!」

「オレもやる!マスター!オレにも生卵を!」

「わたしもたべます!」

 

モードレッドと、完全に出来上がったアルトリアも生卵を要求し、その通りに生卵を渡した。

 

「なんか親子丼みたいですね」

「だな、美味い」

 

ご飯突っ込んでも美味いし鍋は魔法の料理だと思う。ところで、火照った体で親子丼とか言ってるが誘ってんのか?あ?

 

「あら…なんだか盛り上がってるわね」

「おぅ、ジャンヌ!レベル上げと霊基再臨は終わったのか?」

「まぁ、ね!私に掛かれば朝飯前よ!で、私が座れる席はある?」

「あるぜ。座れよ!」

 

途中で黒ジャンヌも参戦した所で塩鍋の無くなるペースが早まってきたので、俺は熟成させていたアレを取り出した。

 

「実はもう一個鍋を用意していた」

「マジかよ」

「今度は辛旨鍋だ」

 

辛旨鍋…キムチ鍋を模して昔試作した鍋である。キッカケは自宅でキムチを食べようとした所、食器にあの異臭が染み付きオヤジと殴り合いの喧嘩になった事が原因である。無論、カルデアでキムチを作ろうものならあの独特の異臭が発生するから韓国料理の殆どはカルデア内で封印指定している。仕方のない事だ。

 

「へぇ、こういう味もありか」

「魚介ベースの汁に唐辛子とニンニクの汁を入れて煮込んだ特製のスープだ。時間をかけて魚介の旨味を引き出してるから鍋にするととっても美味い」

「辛さもほどほどだし良いんじゃない?私はこういうの好きよ。ビールも進むし」

「……もぐもぐ」

 

黒ジャンヌからも気に入って貰えたようで俺も嬉しい。楽しく鍋を突つくのは楽しいものだ。

 

「あっ!父上!それオレが食おうとしてた奴!」

「落ち着け、俺のやるぜ。はい、あーん」

「あーん…ありがとうなマスター!」

「はいはいリア充リア充」

「ジャンヌもやる?」

「やらないわよ!?……まぁ、別にやれって言われたらならなくもないんだけどね…」ブツブツ

「はい、あーん」

「って突然やらないでよ!?」

 

ジャンヌはいじり甲斐があっていい。自分で罠に嵌ってくれるから面白い。

 

「わたしもたべます」キリッ

「じゃあ、アルトリア…あーん」

「あむっ……おいしいですマスター」

「……あ、あーん」

「結局お前もやってんじゃん。あーん」

「あむっ…ありがと……」

 

 

余談だが、この様を見せつけられたマシュはベディヴィエールからジョッキを引ったくってヤケ酒を煽り、1発でダウンしたという。

 

********************

 

「うっす、お前ら生きてるか?」

 

次の日、食堂に立ち料理を作っていると円卓の騎士達がヨロヨロと入って来た。

 

「お前らの中に肝臓に病気抱えてる奴いるか?」

「いえ…」

「平気だぜ、どうした?」

「そんなお前らの為に朝食にシジミ汁をつけておいたぞ。遠慮せず飲め」

 

円卓の騎士達が普段朝に頼むトースト・サラダ・ベーコンの軽食メニューにシジミ汁を追加で用意した。

 

「二日酔いには効果があるからな。グイッとやれ」

「──ぅぉっ!?」

 

最初に飲んだモードレッドがすごい声を出した。そりゃ解散した夜からずっとじっくり煮詰めてるからな。かなり汁が出てる。

 

「肝臓に効くらしいから残さず飲めよ」

 

 

酒の後の二日酔いにはシジミ汁を飲む。オヤジがずっとやっていた事だ。さて、これで今日明日から頑張れる。次の戦いに備えて作戦でも練るとしよう…。





以上、お鍋回でした。石狩鍋が私の住んでる土地の郷土料理なのですが、塩鍋の美味さには勝てませんね。やっぱり塩鍋に限ります!


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閑話休題7 馬鹿ンス

水着回(?)です。
だいぶぐだぐだして来たゾォ。






モードレッドは震えていた…。絶対にあり得ないと信じていたものが揺らぎ、その確かな証拠に触れ…慌てて駆け出した。

 

 

 

 

 

10分前

 

「海水浴ぅ?」

「そう、来週。皆んなでオケアノスを拠点に海水浴をするんだ」

 

俺はモードレッドにその話題を振った。企画者はアルトリア、親子でやりたかった企画の1つらしく、海ではしゃぎたいとのこと。親衛隊こと円卓の騎士を始め、ジャンヌやマシュも加わるらしくバカンスを楽しむには充分だ。

 

「やった〜!マスター愛してるぜ!」

「うおっ!?」

 

モードレッドが喜びのハグをし、俺も彼女の素直な笑みを歓迎した。早速水着を調達してくると言ったモードレッドは勢いよく衣類販売コーナーへと向かった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

「へぇ、ジャンヌは黒い紐ビキニか。大人だな」

「ふふん、そうでしょ?マスターも無難なチョイスで良いと思うわ」

「マスター!私はどうでしょう!円卓の騎士達が選んでくれたものなのですが─」

「「ぶっ!?」」

 

アルトリアがドヤ顔で見せてきたのは白いレオタード風の水着。殆ど尻丸出しのそれに思わず噴き出してしまった。

 

「いや、すげぇ撫で回したくなるケツだなぁ」

「マスター…セクハラ発言しないでよ。キモいわよ」

「///」

「アンタは何で嬉しそうな顔してんのよ!?」

 

ジャンヌがノリノリでツッコミを入れる。まぁ、実際反則級だ。ただでさえ胸がデカイのにそれに加えて尻まで安産型だからもう…反則のオンパレード!サッカーで言えばレッドカードモノだネ!分かるとも!

 

「それにしてもモードレッドは遅いですね。どうしたのでしょう?」

「モードレッドはあのスラッとしたボディを生かすべく動きやすいビキニだろ」

「そうでしょうか?禁断のスク水という選択肢も─」

「スク水なんて概念吹き込んだの誰だ!?ダ・ヴィンチか?分かった、今すぐぶちのめしてやる」

「落ち着きなさいって!ほら、来たわ…よ…?」

 

ジャンヌがモードレッドを指差すが急に口調が弱まった。なんだと思い振り向いた瞬間、思考が停止した。

 

「マスター!父上!おっぱいが!!!でかくなった!!!」

 

トップレスとはたまげたなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな事ってあるのか…?」

 

取り敢えず、モードレッドに水着を着せた俺はそのサイズに驚いた。2〜3cm増えるならまだ分かる。が、モードレッドの場合73だったバストが85cmまで大きくなったのだ。それどころじゃない。

 

「身長も伸びてきましたね」

「父上に近付いてきたみたいだな!誇らしいぜ!」

 

身長も154cmだったのが166cmまで伸びている。明らかに異常だ。

 

「ロマン、サーヴァントの肉体が突然変化する事ってあるのか?」

「うーん…自己強化や天性の肉体ならあり得るけど……モードレッドにはどれも当てはまらないなぁ」

「じゃあ、聖剣が何らかの変化を起こしているとか?」

 

クラレントには「王の威光を高める」力がある。それが先代の王…つまりアルトリアのイメージを投影してその姿に近付けている…って感じで。

 

「謎だ…」

「まぁ、いいじゃねーか!マスター!オレもグラマー組の仲間入りだ!貧乳なんてもう言わせないぜ!」

 

ハハハと快活な笑みで背中をバシバシ叩くモードレッド。少しは王らしい雰囲気を纏ってきたのかと思ったがあまり変わっていないようで安心した。

 

「……とにかく、荷物を用意して海に行くぞ!!!」

 

それのせいで病気になる訳でもないし、気にせず行こう!それがいい。

 

 

*********************

 

オケアノス

 

レイシフトした先には、綺麗な海が広がっていた。荷物を置き、待機場など簡易的な会場設営、周辺の敵の殲滅。そうして作った安全地帯の中で俺は改めてモードレッド達に海水浴の開催を宣言した。

 

「よーし!海水浴開催だ!英気を養った後は聖杯探索すっぞ!!!」

「「おー!!!」」

 

「それっ!」

「父上!お返しだ〜♪」

 

海水を掛け合って遊ぶブリテン親子や暑さにバテてパラソルの下で水分補給をするジャンヌ、本格的にビーチバレーを開始する円卓men's&マシュ。それぞれ思い思いのバカンスを堪能している。

因みに俺は即席で作られた海の家の屋内にいる。近くで採れたコークスを火力に料理をしているのだ。料理は中華鍋を使った炒飯やあんかけ焼きそばなど一般的な中華。味は保証出来る。マズくはないぞ。

 

「あら、マスター。料理作ってるの?」

「まぁな。食べるか?」

「じゃああんかけ焼きそばでも」

 

興味ありげに覗いてきたジャンヌにあんかけ焼きそばの入った皿を手渡すと、その光景を見たブリテン親子も駆け寄ってきた。

 

「マスター、炒飯を」

「じゃあオレはあんかけ焼きそば!」

「フォウ!」

「フォウが食えそうなモンかぁ…うーん……取り敢えず、炒飯でも食べてろ」

「フォウ!フォフォウ!」

 

飯を食わせている間にも俺は壁に掛けた魔力センサーに目を光らせていた。一応、敵地の中で祭りをやってるんだ。ホイホイついて来る奴も少なからず居るはずだ。

 

「ごちそーさん!父上!潮干狩りでもやろうぜ!」

「いいですね!やりましょう!」

「私はパス。同じ熱さでもこういう平和臭い熱さは苦手なのよ」

 

ジャンヌが海の家に居座り、俺は黙々と料理を作る。実は一度試してみようと思ってたんだ……マンボウ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勿論、海賊ことエドワード・ティーチはバカンスの様子をバッチリ見ていた。

 

「美味そうな匂いにつられてやって来てみたら美女とイケメンの楽園だったでござるの巻wwww」

「船長!どうしますか?」

「男は殺し女は持ち帰る!これぞ海賊のお約束。ものども!略奪の時間でござる〜!」

 

背後で2人の女性と1人のオッサンが呆れ返る中、彼は標的目掛けて船を走らせた。目眩く妄想の世界に一時身を委ねようとしたその時……突然音の矢が飛んで来た。

 

「どわっ!?」

 

慌てて避けるティーチだったが、振り返るとオッサンが真っ二つにされて海に落ちていた。

 

「て、敵襲!!!各自戦闘体勢を取れ!」

「──痛みを歌い、嘆きを奏でる…痛哭の幻奏(フェイルノート)

 

だが、全てが遅かった。次々と不可視の矢が襲い来る。帆を引き裂き、船員が細切れになり、2人の女性の持つ武器がバラバラになった。

 

「ヒィッ!?」

「──楽園に踏み入った罪、償っていただきます」

 

見上げると、マストの天辺には海パン一丁のトリスタンが立っていた。それどころではない。海パン一丁のガウェインとベディヴィエールも剣を構えていた。

 

「退却……は出来ませんよねぇ〜!詰みだ詰み!『突然の死』とはこの事でござる…」

「さて、そちらお二方は…なるほど、サーヴァントですか。今なら自害すれば私達の手に掛かる事もありませんが如何なさいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、朗報です!」

「ん…?」

 

モードレッドと2人でかき氷を食べていると、何故かびしょ濡れの円卓men'sがやって来た……その手に聖杯を携えて。

 

「それ聖杯じゃん」

「はい、聖杯です!」

「ちょっと待った。聖杯…?特異点修復?」

「……あ」

 

嘘だろ。特異点修復って事は強制レイシフトじゃねぇか!?

 

「証拠隠滅だ!ジャンヌ!俺達がいた痕跡を焼き払ってくれ!中華鍋とかを拾われちゃ溜まったモンじゃない!!!」

「オッケー、派手に燃やしてあげる!!!」

 

 

 

結局、レイシフトまでに間に合ったものの…全然バカンスを楽しめなかった。悔しい。

 

*********************

 

「………」

「まぁ、元気出しなよ。特異点だって修復出来たんだ。この戦いが終わればまた行けるよ」

「………ぁぁ」

 

ガックリと肩を落としたまま、俺は海パン一丁のまま部屋に戻った。が、養殖室を通ると………

 

「なんだこれ!?なんで養殖室にビニールプールが!?」

「マスター、お待ちしておりました!」

 

ガウェインが笑顔で迎えてくれた。そこには円卓の騎士達とアルトリアが水着姿で待っていた。お前ら………!

 

「さぁ、続きですよ!食堂に作りましたので料理も本格的に作れますし!屋内でのビニールプールですので気楽に遊べますよ!」

「お前ら……大好きだ〜!!!!」

 

 

 

 

この後、丸一日かけてプールを堪能した。やっぱり行ってよかった…と俺は心の底から感動した瞬間であった。




オケアノス編、怒りのショートカット。
縁が結べない?なんとかなるだろ(すっとぼけ)


※オケアノス編好きな人…マジすんません!告白しますと、ネタが思い浮かばなかったんです(それとティーチのロジカル用語が書けませんでした)…ロンドン編で汚名返上します。


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死界魔霧都市ロンドン
たたたたたたたた……


ついにロンドン編。グロ注意です


「私……オレはまだ行ける!頼む!連れて行ってくれ──うっ!?ごほっ!ごほっ!」

「流石にこれは無理だ。ゆっくり休んでろ」

「マスター……すまん」

 

最悪だ。次の任務の地であるロンドンに行こうとしたところ、当日にモードレッドが風邪に罹ってしまったのだ。高熱で魘されている彼女は仕方ないのでゆっくりと寝かせる事にした…が、今回の任務は難しくなりそうだ。なにせ相棒が動けないのだから。

 

「こういう時は可愛い後輩にたy──」

「アルトリア、円卓の騎士達と後輩を頼んだぞ。俺はジャンヌと2人で行動してる。いいな?」

「酷いッ!?いつもこんな扱いですよね!?たまには2人で居させてください!」

「盾と守りが取り柄のマシュは拠点防衛向きだって言ってんだろ!前線に出て来るな!」

「もぉ怒りました!今回の任務はボイコットします!反省するまで助けに来ませんからね!」

 

相棒が居なくなったからかいつも以上に苛立った上に後輩も喧嘩同然に追い払ってしまい、1人になった俺は大きく溜め息を吐いた。

 

「……流石に言い過ぎたか」

 

まぁ、謝る気はない。あの男子達が動けるなら充分だ。副官のアルトリアと護衛係のジャンヌも居るしな。

 

「んじゃ、行ってくる」

「マシュとはちゃんと仲直りするんだよ」

「しねぇよ。あいつが自分の役割に気付くまではな」

 

俺はロマンの言葉を受け流しコフィンに入った。

 

 

**********************

 

「レイシフト完了だ。全員無事か?」

「はい、今回も普通にレイシフト出来ました」

「よし全員居るな…ってマシュも来たのか」

「先輩が謝るまでついて来ます」

 

結局、アルトリア・ガウェイン・トリスタン・ベディヴィエール・ジャンヌ・マシュというメンツでロンドンを探索する事になった。

 

「ったく…ストレス溜めさせるなよ?」

「見ててください!私が一番活躍出来るサーヴァントだって事を証明しますから!」

 

ムキになるマシュと呆れ顔のジャンヌを連れて、俺は歩き出した。アルトリア達には独自に探索を行うミッションを依頼している。

 

「にしても霧が深いな…ジャンヌ」

「そうね、でもいいの?アンタの後輩がすごい拗ねてるわよ」

「良いんだよ。アイツは自分がまだ見えてねぇんだ。見えるまで俺は何も言わない」

「まぁ私には関係無い話だから」

 

にしても、霧の都市ロンドンとして有名なイギリスだが世界史の本に書いてあったよりも濃い霧がこの都市全体を包んでいた。

 

「おかげでこっちは敵がハッキリ見えないってのがサイコーにムカつく」

 

たたたたたた……………

 

「そうだな、下手に出過ぎると敵を見失うな」

 

たたたたた…………

 

「一応、守りますので先輩は前に出過ぎないようにお願いします」

 

たたたた………

 

「頼むぞ後輩。無茶しない程度に……?」

 

たたた……

 

「マシュ!後ろだ!!!」

 

たた…

 

「え───?」

 

直後、俺の顔に何かがかかった。そっとそれを手で触って確かめると……それは…

 

「マシュ─────!!!」

「敵襲!?何処から!?」

 

ジャンヌが慌てて抜刀し、旗を突き出して牽制しながら周囲を伺う。だが…一瞬感じた殺気は既に無く、何処かへ消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

気がつくと私はとある家のベッドに寝かされていた。身動きを取ろうとすると体の奥に痛みを感じ、動くのを止めた。

 

「目が覚めたか、マシュ」

「先輩──」

「動かない方がいい、腹を裂かれている。現地の人に縫合してもらって出血が止まったばかりだ。しばらくは安静にしていろ」

「お腹を…?」

「あぁ、五臓六腑がはみ出て酷かったぜ。聞くか?」

「結構です」

「とにかく、今は休んでろ。臓器の損傷は無かったが、ダメージはあった筈だ。当分は点滴で我慢しろ」

「はぃ……」

 

大人しく寝ているとマスターが点滴を入れ替えてくれた。時折包帯を替えたりと自分にここまで向き合ってくれる先輩を見るのは初めてだった。

 

「そんな顔をするな。死なれたら困る」

「…」

「完全に塞がったら何か食わせてやる。リクエストはあるか?」

「フィッシュ&チップスで…」

「あれただの揚げ物じゃん」

「酷いッ───!」

「安静にしろって言ったろうが!!!」

 

当分は私の所為で任務の遂行は延期…ですか。何とか遅れを取り戻さないと……もう振り返ってもらえない。そう思い私は汚名返上を決意して眠りについた。




通り魔幼女によってマシュ戦闘不能。ジャックちゃんは女性特攻である事を時々忘れるが、セイバー系の曜日クエストでアーチャーを差し置いて活躍する有能。


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霧に潜んで

最短距離でゴールへと向かおうとすると毎度失敗する…人はそれを急がば回れという。






「すまん、ミッション変更だ。纏って動かなければ厳しい」

「いえ、非常時ですので」

 

俺は一度別行動させていたサーヴァント達をマシュのいる家に集め、作戦会議をしていた。

 

「マシュを置いて行くのもアレだし、取り敢えず護衛係を1人付けて無線機で通信しよう」

「それでしたらこのベディヴィエールにお任せを」

「ベディヴィエールなら安心だ。何かあったらこのトランシーバーに連絡を入れてくれ。もし通信不能になったとしても、GPSでの居場所の特定が可能だ。頼むぞ」

「はッ!」

 

取り敢えず、トランシーバー一基と電池数個を置いたまま俺達は出立する事となった。一同共不安な表情が消えず、霧の中でも頻りに周囲を見回していた。

 

「こんな時にモードレッドが居てくれたら……いかんいかん。今は任務中だ。冷静にな…」

 

つい弱音を吐いてしまった時…俺は突然殺気を感じてしゃがんだ。直後、俺の居た所に見覚えのあるモノが通過した。

 

「クラレント…!もしやモードレッドか!?」

「初手を躱すタァいい勘をしてるどわぁっ!?」

 

攻撃の主は間違いなくモードレッドだった。即座にガウェインが取り押さえ俺もその顔を確認した。だが、俺の知っているモードレッドではない。まだスレてる方だ。

 

「げっ…この気配は……ガウェイン…トリスタン…それに父上ェ!?」

「久しぶりですね、モードレッド」

 

馬から降りたアルトリアはモードレッドに語りかけた。今まで無視され続けていた彼女は父親の対応にたまげた。

 

「う、嘘だろ!そうだ嘘だ!エイプリルフールだろ!?オレを騙そうったってそうはいかねぇぞ!」

「違いますよ。喩え姿も個体も違ってもあなたは私の息子、胸を張ってそう言い切れる自慢の息子ですよ?」

「……」

 

ガウェインが拘束を解いた瞬間、モードレッドは感極まってアルトリアに抱きついた。やっぱりアルトリアに認めてもらうとモードレッドは即堕ちするみたいだ。

 

 

******************

 

「よし、負傷者はそこのベッドで寝かせるといいぜ!オレのベッドが使えなくなるのは癪だが父上の頼みとあれば断れねぇ!」

「いやそれ以前にココ僕の家─」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでも………」

 

ジキルという名の男のアパートに入った俺達は早速負傷したマシュを担架で運び、寝かせるとモードレッドは鼻歌交じりに歩き去った。

 

「……アルトリアに認めてもらうと忠犬化するのは万国共通なんだな」

「みたいね」

 

 

取り敢えず、冷蔵庫と食糧庫の中身は充分だ。ある程度節約して質素に行けば2週間は保つ。あとはショッピングモールか何かで調達すればいい。

 

「さて、事情は聞かせてもらったけど…俄かには信じがたい。でも、モードレッドがあれほど気に入っているのであれば信用せざるを得まい」

「そっち側の話も聞きたい。今このロンドンで何が起きてるのか?って事だ」

 

 

 

 

 

ほぅ…結構前からこうして濃霧が広がっていたのか。その上、切り裂きジャック事件…恐らくそいつによってマシュが斬られたのだろう。

 

「で、俺達はどうやって解決するかな…」

「いや、父上と円卓の騎士が居るなら正面突破でも勝てるぜ!一番槍は任せてくれ!」

「すごい自信ですね…」

 

モードレッドがさっきからハイテンションなんだが、大丈夫か?

 

「待ってくれ、敵が何処にいるか分からないのにどうやって探すんだい?」

「──その事なのですが…」

 

トリスタンはフェイルノートを携えてソファーに座った。

 

「霧には魔力の流れがある事が分かりました。当たり前?まぁ、そうなのですが…発生源に行けば行くほど濃度は深まるのではと推測しております」

「なるほど、鮭の遡上と同じ理屈ですね。でしたら一番嗅ぎ分けの上手いトリスタンに一任するとしましょう」

「ベディヴィエール・モードレッド・ガウェイン・アルトリア・ジャンヌでトリスタンと俺を守るように進み、一直線にゴールする。正面突破こそ正義だ」

「よっ!流石はカルデアのマスター!オレもその大役を果たしてみせるぜ!あ、ジキルは留守番な」

「はいはい。僕は戦闘向きじゃないからね」

 

ウチは有能な人間の集まりだからな。誰1人として無駄な奴はいない。さぁ出立だ。マシュもあの状態なら問題は起こさないだろ。

 

「ジキル、すまないがマシュの看病を頼んだ」

「うん、でもなんで異性の僕に任せようと思ったんだい?」

「君は英国紳士だからね。信じてるぜ」

 

ジキルの肩を叩いてから俺は円卓の騎士団とアルトリアを連れて歩き出した。周辺の索敵はロマンに一任し、彼の言葉に耳を傾けつつ大半を無視して正面突破を図る。

 

「しかし、気持ちの悪い怪物ばかりが徘徊しているのですね!」

「そうね、ホムンクルスといいオートマタといい…悪趣味なものばかりです」

「よーし!止まるな!前進し続けていれば応えが導き出せるぜ!」

「ヒャッハー!カチコミダァ!」

 

俺もオートマタの顔面を拳でぶち抜き、支援する。落ちていたステッキを使いホムンクルスの目を突いて追い払う。トリスタンが指差す方角に従い俺達は歩き続けた。

 

「故郷がこれ以上侵されないよう急ぎましょう!マスター!」

 

なんだかんだアルトリアが一番張り切っていた。ロンを振り回して雑魚を薙ぎ払い、ドゥン・スタリオンのキックで吹き飛ばす。時にはロンを投擲し鈍剣でも戦う。円卓&魔女無双となった事で進行速度は大幅に向上していた。だが、腹は減る。

 

「ヒャッハー!正義の略奪ダァ!」

「正義って何よ!?」

 

近くにあったペーストショップとパン屋から食べられそうな食品を略奪した後、サンドイッチにして腹を満たす。蟹のペーストは美味かったな。サンプルは持ち帰ろう。

 

「ごちそうさまでした!止まる時間は無い!さぁ蹴散らすぞ!」

 

俺達は店から飛び出し、再び敵の一掃に掛かる。只管に吹き飛ばし無力化させたり戦意を喪失させたり潰したり。

その時、目を閉じていたトリスタンが突然見開いた。

 

「───流れに乗って何者かが来たようです。マシュ嬢の証言にあった『切り裂きジャック』でしょう」

「そうだ、オレもやられたんだ。でも顔が思い出せねぇんだ」

「顔が思い出せない?って事は宝具の類か」

「そういう事でしょう。切り裂きジャックは御婦人の方を狙ったと言います。どうか私の後ろへ!」

「出た、ガウェイン卿のマッスルガード」

 

ガウェインに促され、ジャンヌとアルトリアが彼の後ろに隠れる。ベディヴィエールは地面に手を当て目を閉じた。

 

「そこッ!」

 

剣を高速抜刀した居合斬りが放たれるが、それに何かが当たる音がした。金属の当たる音だ。

 

「また来ます!トリスタン卿!」

「見えています…!」

 

トリスタンもフェイルノートを爪弾き、音の矢を放つが手応えは無い。気配と音で見えない敵を判別しようとする中…不意に別の反応を感じた。土埃と共にエンジンと蒸気の音が走る。

 

「この状況でヘルタースケルターかよ!?クソッ!」

「このまま迎撃しましょう!ジャックの気配にも警戒してください!」

「ヘルタースケルターはオレに任せろ!」

 

やがて、突撃して来たヘルタースケルターの軍勢をモードレッドとガウェインで堰き止める。アルトリアは黒ジャンヌと背中合わせにジャックを警戒する。

 

「───待てよ」

 

俺は疑問を感じた。ベディヴィエールの低姿勢での抜刀攻撃は敵からの()()()があった。だが、トリスタンの狙撃は当たらなかった……という事は。

 

「ジャックは小柄な殺人鬼だ!トリスタンは射角を低めにしろ!」

「そうか!だから足音が軽かった……!」

 

ベディヴィエールは剣を逆手に構え、耳を澄まして意識を集中させる。轟音と剣の当たる音の中から足音のみを探す。

 

「ジャンヌ!そちらに行きました!」

「──っ!」

 

黒ジャンヌはすかさず旗を振り回して威嚇する。が、急速に迫る殺気が旗に当たった。

 

「チッ───!」

 

剣を半分抜き、衝撃を受け止める。その正体はナイフだった。ギザギザが付いており、肉を抉り骨を削る形状をしている…あんな物で斬られようものなら柔肌を持つ女性ではひとたまりも無い。改めて黒ジャンヌはマシュの咄嗟の反応が良かった事を実感した。

殺気が離れる。再び霧と雑音に紛れたジャックを再びベディヴィエールが探す。

 

「ジリ貧だ!一度撤退するしか無い!」

「分かってる!だがヘルタースケルターの量が多過ぎて前進出来ねぇんだ!」

「ロンのビームで薙ぎ払いたいのですが…街に当たる可能性が否定出来ません……」

「───あと一息だというのに…私は悲しい」

 

マズイな…ロマンからの情報だとさらに増援が来ているらしい。一度下がろうにも何処に逃げ道があるのか分からない…!

 

「───我が王!そちらへ行きました!」

「分かってま───うっ!?」

 

アルトリアが対応しようとした時、ヘルタースケルターの一機が捨て身の体当たりを敢行した。アルトリアはその衝撃でロンの槍を手放してしまい、石の床を転がった彼女に防ぐ手立ては無い。

 

「───足を挫いた…ッ!」

「アルトリア!逃げろ!!!」

 

殺気は一気に迫っていく。アルトリアの顔から血の気が引いていく……間違いない…死ぬ……!

そう感じ目を閉じた………が、急に自分の目の前に影が差した。目を開けると………

 

 

 

 

 

 

「───捕まえ…た!」

「マシュ!?」

 

ナイフで腹を刺されながらもジャックの両腕を押さえつけるマシュの姿があった。どうやって来たのか分からないが……点々と続く血の跡からかなり無茶したという事は分かった。吐血しながらマシュはガッチリと腕を拘束していた。

 

「これ以上やらせるかあああああああああああ!!!!」

 

もう我慢出来なかった。ヘルタースケルターの軍勢を掻い潜った俺は、ジャックの顔面目掛け全体重を乗せたパンチを放って殴り飛ばした。その小さな体がごろごろと転がった直後、聞こえたのはか弱い女の子の泣き声だった。マシュが力尽きて倒れかかるのを何とか支えた後アルトリアに預け、ジャックにツカツカと歩み寄った。

 

「アルトリア、マシュの止血を頼む。あぁ、ナイフは抜くな。多分抜いたらエライ事になる」

 

俺は指示を出してから再びジャックを取り押さえた。端から見れば『幼女に暴行を働くチンピラ』に見えなくもないが、俺は後輩を2度も斬られた為完全にキレていた。

 

「テメェか……ウチの後輩を斬った奴はヨォ…」

「ひっ……!いやだ…いたいのやだよぉ……」

 

ジャックが必死に抵抗するが、俺はそれ以上の力で押さえ込む。昔先輩に教えてもらった拘束技だ。

 

「たすけて……わたしたち…なんでもするから……!」

「ん?テメェ…今何でもするって言ったな?」

 

ギロリと睨みながら幼女を押さえ続ける。やがて、抵抗しなくなり体の力を無くしたジャックは泣きながら命乞いを始めた。ロマンの解析では『このジャックはサーヴァントであり、魔力を持つ者を喰らい自己強化して生き延びていた』らしい。

 

「じゃあ俺から命令するぞ。出来たら報酬はくれてやる。復唱しろ」

「ぅん…」

「“マスターの命令は絶対だ”」

「ますたーのめいれいはぜったいだ…」

「よし、早速俺からの命令だ。拠点に戻る…そこまでヘルタースケルターを突破しながら逃走出来るルートを教えろ」

「まかせて、あんないするよ」

 

ジャックの拘束を解くと彼女は手招きしながら走り出した。

 

「テメェら!撤退だ!逃走経路を見つけた!」

「よし!撤退だ!」

 

モードレッドとガウェインが凄まじい猛攻でヘルタースケルターの軍勢を押し返すと、生まれた逃走経路を使い、俺のサーヴァント達が一斉に走り出す。マシュはやむを得ずアルトリアに背負ってもらった状態で戦線を離脱する。今はジャックだけが頼りだ…遺憾だが、彼女を信じて俺達は全速力で走った。




補足

マシュはジキルがトイレに行った隙に脱走。ヘルタースケルターに飛び乗る無茶をして助けに行った。再び斬られる羽目になったがジャックを捕まえる事に成功する大手柄を挙げた。戦闘不能という結末と共に……


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霧の道すがら

今回はジャックに焦点を当てています。やはり全員を活躍させるのは難しいです。






「この道が安全なんだな?」

「うん、次はこっち!」

 

ジャックはヘルタースケルターの体では通過出来ないルートを走り、俺達もそれを追い掛ける。敵に一切遭遇しないまま、俺達はジキルの住むアパートへと辿り着いた。

 

「よし、到着だ。マシュを早くベッドに寝かせろ!」

「はい!!!」

 

マシュを運び、先にアパートに入れた後で俺はジャックに次の命令を出した。

 

「外科手術が得意な人を連れて来い」

「えーっと…わかんない」

「テメェ…今すぐその首をへし折ってもいいんだぞ!!!」

「まって……」

 

苛立つ俺に怯えながらジャックは提案した。それはジャックだからこそ出来る事。

 

「わたしたちあれのとりだしかたわかるよ?」

「じゃあ今すぐやれ!今すぐに!」

「ひっ…!わかったよ!」

 

俺の怒声に完全に萎縮したジャックをジキルのアパートに入れると、彼女によって手術が開始された。うんうん唸るマシュの頭に辞書で一撃加えて気絶させてからジャックは医療キットからメスを取り出し酒瓶を刃に掛けて殺菌した後、鼻歌交じりに施術を行う。

 

「ヒュー…スゲェな」

 

丁寧かつ手早い動きでナイフを抜き、手持ちの医療キットで傷口の修復を行うジャックの姿は完全に名医のそれだった。

 

「わたしたち…おいしゃさんのほんをよくよんでたから」

「人体理解って奴か…」

 

マシュの腹を縫合し終えたジャックはふぅっと顔を腕で拭った。前の傷を含めた縫合跡は「T」字になっている…酷い傷跡だ。まぁ、カルデアに帰れば再生出来る縫合跡だから問題無いだろう。

 

「じゃあ、ジャックには約束通り報酬を用意しよう」

「ハァ?お前、切り裂きジャックに報酬渡す約束してたのかよ!?」

「彼女を従えられているのも一方的な奉仕を命令しなかったからだ。それにジャックは今のロンドンの土地を一番理解している。今はこの子に頼るしかない」

「──まぁ、マスターの話ならば仕方ありません。話を聞いてあげましょう」

 

って訳で、俺はジャックの為にちょっと体に悪い料理を作る事にした。幸い、消費期限が迫っている牛肉の塊が冷蔵庫から出してあった。

 

「これ食っていいか?ジキル」

「まぁ、いいけど…ちょうど食べようと思って30分前くらいに出してたし」

「ジャストタイミングだ。これを使おう」

 

肉は赤身で硬めだが、レモネード用の炭酸水もあるし丁度いい。まずコイツを全員分ほぼ均等に分ける。ジャックは少し大きめに切っておく。

 

「で、切れ目を入れて…っと。で、コイツらを炭酸水に10分漬け込む…」

 

その様子が見たいのかジャックがぴょんぴょん飛び跳ねて覗いてくる。料理を作る間は敵も味方も関係無い主義なので今回は助けるとしよう。

 

「ほい、椅子な。脂が飛ぶから気を付けてな」

「はーい」

 

10分待っている間も「まだ?」と何度も聞いてきた。まぁ待ってな、せっかちは嫌がられるぞ。

 

「よし、だいぶ良くなったな。今回は質素に行くか」

 

直前に塩胡椒で味をつけてから肉をフライパンで焼いていく。事前に油をしっかりと塗っておいたのでいいだろう。しっかりと火が行き渡ったフライパンの上で肉を焼いていく。ごく一般のステーキだが、ジャックは食べた事が無いだろう。ステーキ用のグッズが無いから本格的に作れないのが悔やまれるな…。

 

「よし、出来たぞ」

 

取り敢えず、即席のステーキが完成した。同時進行で作っていた焼きジャガイモも添えて皿に盛り付けた後、全員に配った。マシュさっきの一撃で眠っているので作らなかった。すまん…その体じゃ無理だろ。

 

「ホントは野菜を用意したかったが、手持ちではこれが限界だ。英気を養い明日もう一度アタックを掛けよう」

「おいしそう…」

「まだダメですよ。ジャック。お祈りをしなければ」

「あ、わすれてた…」

 

俺とアルトリアは「いただきます」。他の面々は神に祈りを捧げてからステーキを味わった。充分柔らかくなった肉は美味しかった。

 

「かいたいするよ!」

 

自分で切り分けたいと言い張ったジャックのリクエストで等分せずそのまま渡したステーキを彼女は美味しそうに食べていた。殺人にさえ手を染めなければ名医としてやって行ける腕なだけに勿体無さを感じてしまった。まぁ、「殺したいから医学を学んだ」って可能性もあるからな…其処のところは分からない。

 

「ジャック、明日だが…この座標の場所に偵察として行って欲しい。それなりに報酬は用意するつもりだ」

「うん!がんばるね!」

 

正直、霧の中で自由に動けるサーヴァントはありがたい。魔力の流れでしか探索出来ない現状だ…彼女の力は何よりも必要となっている。

 

「取り敢えず今日は寝るぞ。明日になったら活動再開だ。よろしく頼む」

 

1人を失って(戦闘不能)代わりに1人を得た。明日はさらに探索範囲が広がり、楽になる筈だ。次こそはと俺は床の上に敷いた寝袋の中で就寝した。

 

 

****************

 

「おかあさん、おわったよ」

 

朝起きる頃にジャックがやって来た。どうやら俺のようなマスターの事を「おかあさん」と呼びたいらしい。まぁ、変なアダ名よりはマシだ。

 

「ここがさいたんでいちばんあんぜんにいけるみちだよ」

「ありがとうな。これ今作ったべっこう飴だ。これ舐めてな」

「わぁ…ありがとう!おかあさん!」

 

改めてロンドンの詳細までの記録がされた地図と照らし合わせる。ロンドン駅の地下通路か…

 

「こんな所にあったのかよ…」

 

モードレッドはその答えに腕組みした。ロンドン塔や魔術協会辺りを探していたらしいが、意外な答えに納得していないような顔をした。

 

「まぁまぁ、目的地と最短距離が分かったんだ。何事も百聞は一見に如かずって奴だ。行くぞ」

 

取り敢えず、出立の支度を終えた俺達は敵の拠点を目指して歩き出した。ジャックの情報によれば動きには規則性がある。その内の何処かで見つけられた時点で俺達はヘルタースケルターの大軍と戦う羽目になる。なので、全員が死角になるタイミングで移動する必要がある。

 

「こっちだ、合図したら来い」

 

囁きながら静かに通路を歩く。街を駆け抜けながら俺達はロンドン駅目指す。敵の探索に引っかからないよう慎重に走り続ける事15分。ようやく目的地に到達した。

 

「ここがロンドン駅か…」

「感傷に浸る余裕なんて無いわよ!ほらほら!」

 

ジャンヌに押されるまま俺はトリスタンが指し示すルートを歩く。幸い追っ手は来ておらず、すごく深い通路である事を除けばあっさりと奥に到達出来た。そこに鎮座していたのは巨大な蒸気機関だった。

 

「なんだありゃ。ヤカンか?」

「ですが聖杯が埋め込まれているようです。反応で分かります」

「聖杯の泥を沸騰させその湯気が霧になっている…ヤカンという喩えは合っていると思うわ」

「取り敢えず破壊しろ。ガウェイン、宝具の用意を」

 

 

 

 

「──それはさせない」

 

その時、声が聞こえ見上げるとトレンチコートを纏った男が蒸気機関の上に立っていた。

 

「私はマキリ・ゾォルケン。自らの野望を成就させる者だ」

「マキリ…?」

 

そのワードにアルトリアは聞いた事のある素振りを見せた。ただ、思い出せなかったようだ。

 

「この蒸気機関アンクルボザは絶望であり希望である。この『魔霧計画』の第一人者の私が生み出したこの機関はやがてロンドン…いや、イギリス全土を覆い尽くし、人類史を駆逐するだろう」

「悪いがそれはさせねぇ!聖杯諸共奪わせてもらうぜ!」

 

モードレッドはクラレントを向け、マキリに敵対の意を示す。ロマンからの情報では彼は強力な魔術回路を持っているが人間らしい。

 

「これこそが我が王の下した不浄の決断…私はそれに従うのみ」

 

そう言うと彼は自分の肌を切り、その血を霧の中に垂らした。やがてその霧が男の肉体を包み込む……あ、この展開は。

 

「魔神柱だ!総員!警戒態勢!!!」

 

 

命令する前に各自サーヴァントはそれぞれの得物を手に魔神柱………バルバトスと対峙した。




バルバトスと聞くとあの悲劇を思い出しますよね。
ロンドン編は良いキャラを育成していたので攻略が楽だった記憶(テスラにボコされた思い出)。


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霧の残滓

ロンドン編も駆け足ですが終わりです。








「過去も未来も現在も無い。これこそが我が悪逆の形…我が醜悪を以って正義を成す貴様らを葬ってやろう」

 

目の前に聳え立つ白き巨塔…魔神柱。それが俺達の前に立ちはだかった。恐らく奴の言う通り、マキリの中の絶望が聖杯の力を借りて偶像化したのだろう。

こういう時は先手必勝に限る。フラウロスの一件で学んだ事だ。

 

「宝具、一斉展開。放て!!!」

 

俺は躊躇い無く宝具行使の指示を下し、それに併せてガウェイン・ジャンヌ・モードレッド・トリスタンの砲撃組による容赦無い攻撃の矢が放たれる。一斉射撃をモロに受けた魔神柱が揺らぐ。

 

「想定より強度は高くない!ベディヴィエール!根元に一撃叩き込め!!!」

「はっ!」

 

ベディヴィエールが義手を構え一気に突貫する。全力で抵抗を試みる魔神柱だったが、その雨を掻い潜ったベディヴィエールに軍配が上がった。

 

剣を摂れ、銀色の腕(スイッチオン・アガートラム)!!!」

 

美麗なる一閃。それによって魔神柱が大きく傾く。

 

「アルトリア!トドメを!!!」

「はい──!」

 

アルトリアはドゥン・スタリオンを勇気付け一気に突撃する。点滅する目に映るのは黄金の槍。

 

「───最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!!!」

 

文字通り肉の壁を突き抜けたアルトリアはアニメっぽく見栄を切り、直後に魔神柱が倒壊した。時間にして8分…相変わらず円卓の騎士達はすごい力だ。

 

「───…もはやこれまで…」

「ジャンヌ、楽にしてやれ」

「さぁ……首を斬りましょう。おさらばです」

 

肉塊からマキリが出て来たが、既に満身創痍だった。取り敢えずジャンヌに介錯を任せトドメを刺した後、俺達は速やかに聖杯の回収を開始した。

 

「はぁッ!!!」

 

ガウェインのどっしりとした剣撃で破壊されたアンクルボザから聖杯を回収した。これで4つ目。後は帰るだけ……!?

 

その時、目の前の霧からスパークが発生した。それは人の影を映し…やがて1人の男を生み出した。

 

「私の名はニコラ・テスラ。雷電たるこの身を呼び寄せたのは何か…天才たるこの身を呼び寄せたのは何だ?叫びか願いか善か悪か…なるほど、それら全てが私を呼びつけたという事か。」

「なっ…!?」

 

ニコラ・テスラ…そう言ったのかコイツは!?半分サイボーグみてぇな姿をしたこのイケメンが!?

 

「私は天才であると同時に奇矯を愛する超人でもある。ならばよかろう…お前達の願いのままに!天才にして雷電たる我が身は地上に赴こう!」

「させるか!!!」

 

モードレッドが襲い掛かろうとクラレントを手に走った瞬間、テスラはそれを手で制した。その空間にはバチバチと光り続ける魔霧が展開されている。

 

「おっと…近付くのは良くない。曰く、これは魔霧の活性というものだ。サーヴァントの魔力さえ際限なく吸い込もう!無論、私は例外だ!接近すれば、活性魔霧は君たちの魔力をも吸収する!霊核ごと取り込まれることも有り得るだろうが、さて、それでも近づくかね?私を倒そうとするなら、まずはこの活性魔霧を完全に排除するしかなかろうなァ───ははは、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「くっ……」

 

それだけではない。この空間にも充満していた魔霧が次々と俺のサーヴァント達から魔力を奪っていた。

 

「なんだこれは……!?」

「──私は悲しい」ポロン

「ドゥン・スタリオン…!大丈夫ですか!?」

 

トリスタンのフェイルノートすら情けない音しか鳴らず、大きく落胆していた。アルトリアの宝具として呼ばれているドゥン・スタリオンも力なく蹲ってしまい、走る力すら奪われていた。これが……天才の力か…!

 

「動けるか…お前ら……!」

「申し訳ありません…彼奴がここに居る間は動けないでしょう……何より先程宝具を放ってしまった事が…」

「すまん、采配ミスだ」

「いえ…この場合は采配ミスではありません。おかげで我々は魔力を吸われる以外は無傷なのですから…」

 

やむを得ない。奴が歩き去るまでやられるフリをするしかない。彼がゆっくりと歩き去るのを見ながら俺達はやられるフリをした。止めてみたまえダァ?だったらその霧を消せやオラァ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、魔力補給完了。皆んな、動けるか?」

「はい…もう大丈夫です」

 

全員に100%とは行かないが充分に魔力を補給した俺は改めてテスラの追跡を開始した。ベディヴィエールに聖杯の回収を任せ、俺達は活性魔霧を避けるように後を追う。

 

「クソッ…活性魔霧から出てくるホムンクルスがデケェ!」

「ワカメかよッ!!!」

 

俺も壊れた鉄パイプで戦いを援護しつつ無理矢理にでも突破する。

 

「手はあるのかよ?」

「ぶっちゃけほぼ無い。こっちが充分な出力が出せない以上、あの活性魔霧を吹き飛ばすのは難しい。だが、やらなきゃなんねぇだろ!」

「───最悪オレが特攻してでもブチ破る」

「それはダメだ」

「いや、最後の選択肢って奴だ。オレ以外にこのイギリスを滅ぼす人間はいちゃいけねぇんだ」

 

それは自虐ネタなのか分からないが、頭には入れる事にした。いざという時に俺はその選択肢を選ぶかもしれない。それまでに覚悟を決めよう…そう決意し階段を登った。

 

 

***********************

 

登った先に広がっていたのは光のカーペット。それが遠くまで続き、さらにカーペットの先には階段が用意され…その途中で2人のサーヴァントが目を回していた。

 

「おぅ、アンタらか。奴の言ってた勇者だ何だかってのは。奴の周りに付いていたビリビリは剥がしておいてやったぜ。後はアンタらに任せる」

「そうだったのか…」

 

それはありがたい。後はテスラを追いかけて倒すだけだ。それならまだ…!

 

「よし行くぞ!」

 

俺達は階段を駆け上がり、テスラに追い付くべく息切れを無視して走り出した……が、その時。霧の向こうで何かが飛んで来た。板野サーカスの如く飛んで来るアレはまさか…!

 

「ミサイル!?嘘だろ!」

「全員衝撃に備えて下さい!!!」

「このタイミングで爆薬をぶっ放すバカは誰だ!?後でぶん殴ってやる!!!」

 

その数10発。サイズこそマイクロミサイルだが、大量の爆薬を抱え込んでいる事に間違いはない!!!

 

「ぁあああああああああ!!!南無三!!!」

 

俺は目を閉じて最悪の事態が起きない事を願った。煙の尾を引くミサイルはそれぞれ分散して中途半端な所に直撃。爆風によって1人の影が階段から飛び降りた。

 

「捕まりなさい!」

 

一番近くにいたジャンヌが俺の腰を掴んで階段から飛び降りた。大体7mはあろう高所から一気に飛んだ彼女は旗をなんとプロペラのように回して落下速度を落として見事安全に着地させてくれた。続いて他のサーヴァントもアニメのようにカッコ良く着地する。

 

 

───悪りぃ!待たせたな!!!───

 

 

突然響く声…懐かしさを伴ったその声の主は塔の上に立っていた。

 

「モードレッド!?」

 

そこに居たのは紛れもなくモードレッドだった。全身火薬庫の如く大量のミサイルポッド・両腕に一基ずつ装備したパイルバンカーを持っているという違和感を除けば。

 

 

「モードレッド改め『高性能ミサイル』・『パイルバンカー』を装備した『モードレッド アサルト』只今見参!!!」

 

 

や…ヤバイのキター!?

 

「なにあれ…自分の霊基を弄るなんて悪趣味ねぇ」

 

モードレッドが辛辣な言葉を吐く中、俺は相棒の登場に心の底から安心した。あいつが居るならもう大丈夫だ。

 

「モードレッド。行けるか?」

「任せろ!」

「よし、頼むぞ!」

 

その声に応えるようにモードレッドはテールブースターと新たに追加した両肩の補助バーニアを噴かせて塔から飛び降りた。

 

「なるほど、随分と面白い宝具だ。だが私の活性魔霧を払えるかな?」

 

再びテスラの周囲に活性魔霧が展開される。だが、モードレッドの背中からミサイル8発が発射され、テールブースターの機銃も残弾惜しまず掃射。それらが活性魔霧の中を突き抜けていく。

 

「そうか!魔力を吸い上げ防ぐ活性魔霧は実体のある唯の質量攻撃を防げないのか!」

「いやそのりくつはおかしいぞ!?」

 

ロンドンモードレッドのツッコミを受けたが、モードレッドの動きは凄まじかった。ミサイルを雷で撃ち落とそうとするテスラの顔面目掛けて機銃を掃射している為、防戦一方という状況を生み出していた。防ぐ手段を失ったミサイルが破裂しテスラが吹き飛ばされる。

 

「幾ら魔力が通用がしないのだろうが…こいつは関係無いだろうが!!!」

 

よろめきながら立ち上がるテスラに対し間髪入れずに右前腕の追加アーマーに装填していたパイルバンカーを1発放つ。直線的に突っ込むそれがテスラの腹に風穴を開けた。

 

「かはっ───!?」

「そしてコイツで終わりだ!!!」

 

爆風で濃度が薄まった活性魔霧の中を突破したモードレッドはクラレントを刺突の構えにしたまま突貫し、驚愕に染まるテスラの顔面を貫いた。頭の機能を失った彼はあっさりと消滅した。

 

「あー…疲れた」

 

弾切れとなったミサイルポッドを放り投げたモードレッドはどっかりと石の床に座った。このバカっぽい性格と…斬新な戦いこそ俺の一番知っているモードレッドだ!

 

「よく来たな!コイツめ!」

「マスター!会えて嬉しいぜ!」

 

俺達の子供じみた触れ合いに若干引いているギャラリーを無視して久しぶりの対面を喜んだ。

 

「オェ…アレがオレのIFの姿かよ……」

 

ロンドンモードレッドは嫌悪しているようだが、俺にとってはこのモードレッドが唯一無二。かけがえの無い相棒だ。

 

「さってと…ロマンから一通り事情は聞いたぜ。マシュは強制帰還させたから安心しな。後は聖杯を回収したベディヴィエールが戻って来るのを待つだけだ」

「…その心配は不要なようです」

 

アルトリアが目を向けた先にはベディヴィエールが肩で息をしながらも聖杯を手に走っていた。ご苦労さんって奴だ。

 

「じゃあ、皆んなお疲れ───」

「──待て。まだ来る…」

 

モードレッドは魔霧へ左腕のパイルバンカーを向けた。その霧の中から現れたのは………漆黒の騎士(アルトリア)

 

「どうして……今更、貴方は現れるんだ。ロンディニウムを救うなら、もっと、早くに………………いや。違うのかもな。貴方はオレを殺しに来たのかもな。オレがロンディニウムを救うのが気に入らなかったか?そんなにオレが憎いのか。そうして、オレを殺した槍なんざ持ち出して───」

 

ロンドンモードレッドは目の前のアルトリアの姿に俯いた。相当辛かったのか…その顔は沈んでいる。が、それも一瞬の事

 

「…だが、今のオレはここで凹む程度の人間じゃない」

 

すぐに落ち着いた顔でクラレントを胸の前で構えた。

 

「オレは貴方を憎まない!もし仮に貴方がオレを憎むのであれば、オレは憐れみを以って貴方の魂を救うまで!!!」

 

すげぇ…アルトリアと和解しただけでロンドンモードレッドの顔はあんなにも生き生きしている。クラレントから噴き出す魔力も充分だ。

 

「オレ達は見守る事にしよう。この戦いにオレ達が介入する必要はどこにも無い」

 

モードレッドの言葉により、全員で仕留めようとしていたサーヴァント達の動きが止まった。円卓の騎士達とプラスαがギャラリーとなる中、ロンドンモードレッドと騎士が激突する。

 

「貴方の動きはもう学習してんだよ───!!!」

 

開幕早々に放たれたロンゴミニアドの刺突の雨をモードレッドは次々と見切り、すれ違いざまにラムレイの首を落とす。馬が機能しない事を理解した騎士は素早く離脱し、跳躍。ロンゴミニアドを掲げると一気に落下しながら振り下ろした。

 

「───っ」

 

ひらりと躱すロンドンモードレッドだったが、続けざまに振るわれた薙ぎ払いがその頬を掠める。だが、負けじと踏ん張った彼女は騎士の追撃を屈んで避けるとその腹に肩を打ち込んで弾き返した。そして、クラレントの剣先が騎士の腹に叩き込まんと突き立てられる。だが、それを間一髪ロンゴミニアドで受け止めた騎士の顔とロンドンモードレッドの顔がぶつかる。

 

「オレは貴方を越えるつもりなどない───この剣で貴方の妄執を断つ!!!」

 

凄まじい頭突きが騎士の顔に放たれ、よろけた一瞬を彼女は見逃さなかった。大きく踏み込み、袈裟斬りを放つ。その一撃が騎士からロンゴミニアドを上へと打ち上げた。大きく跳躍したロンドンモードレッドはその柄を握ると空中で一回転した。

 

「───これが私の手にした答えだッ!!!!」

 

振り下ろした一撃を後ろ跳びした騎士の腹に目掛けてロンドンモードレッドは全体重を乗せたロンゴミニアドの突きを放ち、その腹を貫いた。

 

「───かはっ………見事…だ…」

「──安らかにお眠り下さい。オレの妄執…そして、彷徨う父上の魂よ………」

 

消滅しながらも最期に息子を讃えた騎士は、息子の返事に満足げだった。光の粒子となって消えたそれをロンドンモードレッドは見上げた。

 

 

*********************

 

「───ま、何だ。お疲れさん。おまえたちのお陰であれこれ助かったぜ。ロンディニウムは救われた。オレ以外の誰かに蹂躙されることはなかった。めでたし、めでたしだ」

「なかなか良い腕だったじゃねぇか。見直したぜ!英霊の座に行っても頑張れよ!」

「テメェもな!」

 

モードレッド同士が手を握り合い、互いを讃えた。俺はジャックの頭を撫でる。コイツの力が無かったら聖杯の下へ到達出来なかった。

 

「またどっかで縁があったら美味しいお菓子食わせてやるぞ」

「うん!やくそくだよ!」

 

ロンドンモードレッドとジャックの姿が薄らいでいく。歴史の修正が始まったのだ。

 

「よし、俺達も帰るぞ!帰ったら飯だ飯!!!」

「やった〜!オレ、プディング食いたい!」

 

それぞれに家に帰るのだ。いつか、あいつらにも美味しい飯をもっと沢山食わせてやりたいもんだ。




ソロモン(?)「───あれ?」

ソロモンは完全にスルーされました。


※この作品では、モードレッド同士が出会っても個体が別なので「あ、オレがいる」状態になります。


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閑話休題8 鋼の看護技術士

※某錬金お兄さんは一切関係ありません。

をじさんぐだぐだ明治維新頑張るぞー


「さぁて、回すゾォ」

「はいはいお疲れお疲れ」

 

手をスリスリしながら俺は召喚サークルを眺めていた。今回もしっかりと30コ貯めた聖晶石を突っ込んで俺は期待感に胸を膨らませた。

そしてそれは人の姿を成した………。

 

「私が来たからには、どうか安心なさい。全ての命を救いましょう。全ての命を奪ってでも───私は必ずそうします」

「「ひぃっ!?」」

 

なんかヤバイの来た。赤い軍服に鋭い眼光の女性…凄まじい気迫か、いや気迫なんて生易しいもんじゃない。もっと凄い何かだ。

 

「ふむ…貴方がマスターですか」

「あ、あぁ。」

「お、オレはその相方のモードレッドだ。よろしくッ!?」

 

その瞬間、モードレッドの襟首を女性は掴んだ。顔を近付けるとスンスンと匂いを嗅ぎ、ジト目になった。

 

「貴女、怪我をしているようですね」

「あ、あぁ…眉毛を成形してた時にちょっと……」

 

完全に萎縮してしまったモードレッドはまるで蛇に睨まれたカエルのようになって俺に目で助けを求めていた。

 

「いけませんね。即座に殺菌しましょう。いえ、しなければなりません。今すぐいらして下さい」

「ひっ!助けて…助けてくれマスター!!!」

「や、止めてくれ!モードレッドの怪我はただの軽い切り傷だ」

「いえ。ただの怪我でもそこから破傷風を発症し、壊死する危険性があります。即座に殺菌。その後切除します。」

「止めろ!!!頼むから!!!モードレッドにはちゃんと破傷風の予防接種をしてあるんだ!殺菌だけで済むだろうが!」

「───分かりました。では、殺菌しましょう」

 

ダメだ…全然話を聞かねぇ。このままだと相棒がキズモノ(物理)にされちまう!

 

「ウチには最新の医療が出来る人がいるんだ。だから要らな──」

 

直後、凄まじい銃声が響いた。何事かと扉を開けるサーヴァント達がいる中、女性の手に握られていたのは旧世代の遺物とされる「ペッパーボックスピストル」。かなりヤバイやつを当てたみたいだ…。

 

「この銃とその治療、どっちが最新ですか?二度言わせないで下さい」

「くっ───」

 

だが、こんな所で引き下がる訳にはいかん。

 

「悪いがアンタは─」

「私の名前はフローレンス・ナイチンゲールです。以後お見知りおきを」

「──へ?」

 

え!?よく白衣に天使の姿で描かれるような可憐な乙女…の筈なんだけど……。

 

「天使とは、美しい花を撒くのでは無く、苦悩する誰かの為に戦う者よ」

「いや、間違いなく名言なんだろうけど話を聞けよ」

「───何度も言わせないで下さい」

 

そう言うとナイチンゲールはペッパーボックスピストルに弾丸を高速で装填した。その時間わずか1秒。早過ぎる。

 

「実際に施設に来てくれ。こっちには医者がいる!軽薄な男だが優秀な奴だ!」

「───分かりました。彼に治療を頼みましょう。当然、私も見守ります」

「勘弁してくれ……」

 

レアプリズムに変換しようか真剣に考えよう………。

 

*********************

 

ナイチンゲールがカルデアの医務室に住むようになってから、彼女の習性を少しずつ理解出来るようになった。

 

 

「痛ッ…」

「我が王よ、無理をせずそちらにお待ち下さい。もうすぐでフィッシュ&チップスが完成します」

「いえ、こういう時は唾を付けておけば治ると聞いていま──」

 

「話は聞かせていただきました」ズギャァアアン

 

「ひっ!?」

「アルトリアさん。人の唾液には約一億前後の雑菌が存在します。それを傷口に入れた場合、免疫が低下している方はそこから病気を患う危険があります。しっかりと殺菌した後やはり切除ですn──」

「カットバンで大丈夫ですから!!!」

 

 

①怪我をしたら速攻で治療という名の切除を行おうとする。

 

 

 

「ただいま〜、お腹減ったわ。オヤツある?」

「あぁ、あんころ餅が出来たてだぞ」

「ありがと───」

 

「ジャンヌ・ダルク。お待ち下さい」ド☆ン

 

「えぇ…!?私何も悪い事してないわよ!?」

「いえ、手を洗っておりません。それどころかウガイすらせずにその汚い口と手で食事をしようなど言語道断です。さぁこちらへ」

「まっ!?ちょっ───ゴボゴボゴボ」

 

 

②手洗いウガイの他にも消毒液に顔面を浸けさせてまで殺菌しようとしてくる。

 

 

「よーし、今日は酢豚・ご飯・中華スープにしようかな…」

「ぉおおおおおお!!!オレ中華大好き!楽しみだぜ!」

「食後には杏仁豆腐もあるからな──」

 

「話は聞かせていただきました」ギョーン

 

「げぇ!?婦長ぉ!?」

「ふむ…メニュー表ですか……」

「あぁ、美味そうだろう?」

「──食事バランスが悪いですね。食事の比率は穀物50%・野菜20%・肉魚類10%が基本となっています。オマケに脂っこすぎて体に脂肪が付きます」

「まぁ、そうだけどさ…」

「え?50+20+10だと80%にしかなんねぇぞ?」

「腹八分目という言葉があるでしょう?人間の健康寿命を伸ばし長生き出来ます。また、免疫力の向上やダイエットにも効果があります。こちらが統計データです」

「分かってんだよ。それくらいよぉ…今日は打ち上げで」

「問答無用です。こちらが私の提案するメニュー表ですのでご利用下さい。私も監視を兼ねて調理補助を致します」

「───…はぁ」

 

 

③過剰なレベルでお節介を焼いてくる

 

 

 

 

*********************

 

「作戦会議だ」

「そうですね」

 

俺と円卓の騎士団はマイルームに用意した大きめの卓袱台に座っていた。

 

「ナイチンゲールの奴をどうするかだ」

「言ってる事は正しい。それは理解出来るんだが、全然楽しくねぇんだよ」

「それは理解出来ます。私もマッシュポテトを作っていましたところ、『栄養が足りない』と言われまして…気が付けば肉じゃがとサラダを作らされていました」

「ぇぇ…」

 

口々に不満が漏れ出す。それらをメモに書き連ねていった時、俺はある恐ろしい思いつきが浮かんできた。

 

「モードレッド、俺…対策に気付いたわ」

「は…?」

「言ってくる」

 

急いで上着を羽織ると、目的地へと向かった。

 

「ナイチンゲール。今日は大事な用事があって来た」

「何ですか?」

 

医務室に入るとナイチンゲールがレポートを書いていた。早速、彼女に俺が用意した物を手渡した。

 

「これは…?」

「現代医療の本だ。で、これは精神医療の本。これを読んで感じた事を教えて欲しい」

「ふむ……因みに、私は断るつもりですが──」

「今回ばかりは令呪3区画使ってでも話を聞いてもらうぞ」

「───分かりました。こちらには目を通しておきます。令呪はこんな場所で使わないようにお願いします」

「ありがとうな。この本を読んでナイチンゲールの中で何か大きな発見があれば嬉しい」

 

フッと微笑み…俺は医務室を出た。出て数歩歩いた瞬間、俺は膝から崩れ落ちた。

 

「あー…マジで怖かった……」

 

流石に心臓が止まる思いだった。だが、その効果は意外にもすぐに見受けられた。

 

「──…」

「(なぁ、マスター…あれって)」ヒソヒソ

「(あぁ、間違いない…)」ヒソヒソ

 

次の日、共用の洗面台に行くと、鏡に向かい合い口元を指で引っ張り笑顔を作ろうとするナイチンゲールの姿があった。




ナイチンゲール
真名:フローレンス・ナイチンゲール
身長:165cm / 体重:52kg
出典:史実
スリーサイズ:不明
属性:秩序・善
性別:女性
概要:カルデアに降臨した紅い悪魔。今作は理屈さえ通っていれば納得してくれる聞き分けの良い女性となっている。が、Lv1の時点で単騎で円卓の騎士団を壊滅させる程の戦闘力を持っている。ぐだ男はそんな彼女が貴重なサポート役なので集中的に種火を注ぐようになった。





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閑話休題9 宝具を弄ったモーさんUC

今回は模擬戦回です。投稿するペースが遅れ始めますのでご了承を





「マスター!見てくれ!新しいクラレントだ!」

 

ある日、のんびりと養殖場で大量発生しているアメリカザリガニを釣っていると、モードレッドが駆け寄ってきた。

 

「何だそりゃ」

「見てくれよ!新しくライフルモードを作ってもらったんだ!!!」

 

彼女がスライドギミックで柄を折るとそれが銃のメイングリップになり、それに併せて鍔からフォアグリップが展開される。変形したクラレントはビームライフルのような外見になり、結構カッコいい。

 

「早速試し撃ちしていいか?」

「オッケー、試し撃ちな。シミュレーターがある筈だからそっちに行くぞ」

 

取り敢えず、釣ったザリガニは用意した綺麗な水道水満杯のバケツの中に突っ込み蓋を閉じてからシミュレーターに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーターによって仮想空間へとワープしたモードレッドはクラレントを手に駆け出した。

 

『まずは何を出して欲しい?』

「ヘルタースケルター50体だ!」

『無茶するなぁ…』

 

要望通りに荒野のフィールドがヘルタースケルターで埋め尽くされる。モードレッドはライフルモードに変形させたクラレントを向けて魔力を装填し、フォアグリップを握ってヘルタースケルターの軍勢目掛けて放った。スパークを纏った白銀の粒子ビームが水鉄砲のように発射され、射線上のヘルタースケルターを蒸発させる。

 

「チッ、流石にこの出力じゃ連射にラグが出るか……なら!」

 

ライフルモードからソードモードに変形させたクラレントを手にモードレッドはテールブースターを噴かせる。複雑な動きで攻撃を回避しながら剣を振るい、次々と斬り伏せる。或いは蹴り飛ばしてからライフルモードで撃ち抜くといった動きも見せるようになった。順応性の高さこそモードレッドの専売特許なのだ。

 

「───遅いッ!」

 

逆噴射による炎で視界を潰し背後に回ったモードレッドがクラレントを逆手持ちにしてヘルタースケルターの頭を貫く。そのまま薙ぐように引き抜き、ライフルモードに変形させると出力を落とした状態で連射する。

 

「これで50ッ!!!」

 

最後にクラレントを投擲してトドメを刺したモードレッドはそれを引き抜き、フゥッと剣を杖に休んだ。ん?アルトリア、どうした。何…?模擬戦をやりたい?分かった。転送するぞ!

 

 

*********************

 

「乱入者…?……って父上!?」

「モードレッドの戦いぶりを見ていたら私も体を動かしたくなったのです。いいですよね?」

「あぁ、構わないぜ。一度手合わせしたかったんだ!」

 

互いに得物を胸の前に構える。儀礼的な行為を行ってから双方共に武器を構える。モードレッドが鎧からコインを取り出す。

 

「こいつが落ちた瞬間、試合開始だ。いいか?」

「了解です」

「じゃあ行くぜ。言っとくがオレは容赦しないぜ」

 

そう挑発してからモードレッドはコインを放った。

大きく空中で回転するコインが大地に落ちた瞬間…モードレッドが仕掛けた。

 

「バーチャルだからここで死んでも大丈夫…だから本気で行くぜ!!!」

 

ライフルモードに変形させたクラレントと機銃を一斉射して初手から決めにかかる。対するアルトリアは早々に馬から降りてドゥン・スタリオンを身代わりにしつつ身を屈め突撃を仕掛ける。ドゥン・スタリオンを逆噴射で威嚇し戦意喪失させた直後。視界にアルトリアが飛び込む。

 

「はぁあああああああああああっ!!!」

「───ッ」

 

ロンの槍がクラレントを弾き飛ばす。しかし、連続した突きを身を捩って避けたモードレッドはテールブースターを噴かせ、その加速を使ってアルトリアの顔面にフックを叩き込んだ。バランスを崩すアルトリアからロンを捥ぎ取り、振り下ろす。

 

「お死に───!!!」

「─っ」

 

それに対してアルトリアは鈍剣を抜いてフェイルセーフする。だが距離を取れば機銃が待っている為、距離を取ろうとはせずあくまで接近戦に持ち込む。

 

「まだまだ温い!!!」

「ヘッ…ロンを奪われて何言ってんだか!」

 

だが、アルトリアは振り下ろすロンを鈍剣でいなすと回し蹴りを放ってそれを叩き飛ばした。

 

「ちっ───」

「もらった!!!」

 

連続した鈍剣の突きをモードレッドは鎧の分厚い装甲でそれを何とか受け流し続ける。そして、一瞬の隙を突いて逆噴射を起こした。

 

「!?」

 

距離を取られてしまった。アルトリアは即座に勝率を1パーセントでも上げるべくロンの槍を取りに走った。だが、その背中に次々と機銃がぶつかる。鎧がひしゃげ鈍い衝撃が何度も襲う中、何とか槍を握って振り返った時にはモードレッドがクラレントを手に大きく旋回しながら剣を向けていた。

 

「やはり現代兵器には────」

「行くぞぉおおおおおおおおおおおお!!!父上ぇえええええええ!!!」

 

テールブースターを最大加速させたモードレッドの突き、アルトリアもそれに対抗するようにロンの槍から極太のビームを放った。モードレッドもまた、剣先から宝具を放つ。

 

「ぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

「だぁあああああああああありゃあああああああああああ!!!」

 

だが、背中を負傷しているアルトリアには拮抗させる程度で限界だった。ビームが霧散する中、突進するモードレッドのビームに焼かれながらアルトリアは最期の一突きを繰り出した。

 

2つの一撃が交錯し─────────。

 

 

*********************

 

シミュレーションが終わり、ブリテン親子が現実世界に戻って来た。

 

「お疲れさーん」

「いい手合わせでした。でも焼かれるのは2度と御免です」

「父上も現代兵器装備すればいいのに」

「そうですね…そろそろ検討しないと」

ヒヒーン(え?俺リストラ)!?」

「早速だけどイケメンバイク100選って本があるんだけどさ!あれに武器ゴテゴテくっ付けてロンで一撃離脱なんてどうだ?」

「いいですね!早速読みましょう!その後でダ・ヴィンチさんにリクエストしましょう!」

 

 

一言言わせて欲しい。誰かドゥン・スタリオンの事労えや!!!




因みにクラレントをビームライフルにする発想は「OOガンダム」のGNソードがキッカケです。出力を落として連射すれば強くね?という妄想から生み出された産物となっております


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北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム
完全敗北したカルデアUC


孔明&マーリンは正義(白目)






「次の介入する国はアメリカか…」

「しかも南北戦争の辺りだそうね。全く、いつの時代も戦争ばっか」

 

黒ジャンヌは呆れた口調ながらも好戦的な笑みを浮かべている。今回も有りっ丈のサーヴァントを投入して短期間で決着させる予定だ。だが、今回はスケールが違う。上手く行くかは分からない。

 

「私も任務に参加します。負傷した皆さんを癒しましょう」

「ナイチンゲールが参戦するんなら心強い。遠慮無く戦えるぜ」

「安心してください。殺してでも救います」

「おぅ、やっぱレアプにすべきだったわ」

 

心強い(?)味方も増えたし、今度は安定した継戦も出来る。頑張ろう!

 

「ロマン、レイシフトする。」

「了解、気を付けてね」

「マシュのリハビリを頼んだぞ」

「それも心配しないでくれ。ボクがキッチリ管理するから」

 

じゃあ、新たな特異点へ出発!

 

 

 

 

*********************

 

「ロマン、メンバーが揃った」

『OK、周囲に何が見える?』

「荒野、晴天、火薬の匂い、飛んで来る砲弾ッ!?」

 

突然飛んで来る砲弾に反応したモードレッドが俺を掴むとブースターを噴かせて回避する。続けて飛んで来る弾はトリスタンにより処理された。

 

「現代兵器かよ───!」

「また分が悪い!」

「落ち着け!流れ弾だ。取り敢えず、戦況を確認───おい!ナイチンゲール!何処に行くんだ!!!」

「直ちに治療を始めます」

 

取り敢えず、陣形を組もうと思った時、突然ナイチンゲールが走り出した。砲弾を軽々と避け、銃弾を躱した彼女は戦線に混じった。

 

「ったく!バーサーカーである理由が分かった気がするぜ。お前ら!悪いがフォローしてくれ!」

「「はッ!!!」」

「私、めんどくさいからマスターを守ってるわ」

 

黒ジャンヌが俺を守るように傍に立ち、円卓の騎士団が一斉に戦線に加わる。そこからが圧倒的だった。モードレッドのビームと機銃の雨により切り崩した所からベディヴィエールとガウェインが突貫して切り抜け、アルトリアが戦線を掻き乱す。トリスタンは円卓の騎士団に攻撃しようとする敵を徹底的に斬り刻む。

だが、不思議と敵達は撤退しようとせず襲い掛かっていた。

 

「なんだこの喧嘩っ早い奴ら!!!」

 

モードレッドがクラレントで敵兵の槍を叩き折りライフルモードで顔面を撃ち抜く。さらに飛んで来た矢を刀身で弾き機銃をお見舞いする。が、ここでアクシデントが発生した。

 

「───っ!?」

 

ガウェインが被弾した。鎧を突き破った銃弾が右肩を貫通した。

 

「ガウェイン卿!くっ…!?しつこい兵士と機械兵とは…一体どうなっているのですか!?」

 

ベディヴィエールはガウェインの救助に向かおうとするが、機械兵に阻まれて近付く事すら叶わない。

 

「撤退して下さい!ガウェイン卿!」

「分かっています───っ」

 

利き手が負傷した為に満足に力が入らないガウェインは防戦一方になっていた。オマケに前に出過ぎている。矢が頬を掠め、上手く当てた銃弾が肌に届く前に弾ける。何とか下がろうとするも、四方を囲まれてしまった。

 

「最早これまで…」

「────殺菌!」

 

直後、一方を任されていた兵士の頭が手刀によりカチ割られた。そこから現れたのはナイチンゲールだった。槍・剣・矢…いずれも次々に回避した彼女は腰からメスを抜き投擲して撃破する(その間、「やむを得ません」という後悔の言葉が聞こえたらしい)。突破口を作ったナイチンゲールはガウェインを担ぎ戦線を離脱した。

 

「撤退だ撤退!クソッ…!」

 

機銃が空回りする。舌打ちしたモードレッドはクラレントを前に向け、一気にブースターを噴かせて強行突破。戦線離脱に成功した。

 

 

 

*********************

 

無事戦線を離脱した円卓の騎士団を見た俺は絶句した。

全員揃って負傷しており、ナイチンゲールが応急処置で傷の手当を行っていた。切除はしなかった辺り成長を感じるな。うん。

 

「マスター、中世の兵器では限界があります。幾ら伝説の騎士とはいえ、剣一本で銃を持つ兵士を相手取るのは極めて不利です」

「……やっぱりか」

 

薄々勘付いてはいた。だが、事実を告げても彼らはそれを否定した。『我々にはこの聖剣があります』とか『私にはフェイルノートがあります』とかな。だが、フェイルノートは機能していても聖剣は間違い無く不利である事に違いはなかった。宝具を撃てばパワーダウンで動きが鈍くなる。そうなれば蜂の巣になってOUTだ。

 

「………」

「マスター、オレからも進言する。一度この特異点を離脱したい。あいつらにしっかりと現代戦を教えてから此処に来るべきだ」

「モードレッド…分った。お得意の乱戦も通用しない。俺達は転換期にあるらしいな………」

 

 

 

ロマンに連絡を取り、俺達は一度大人しく帰還する事にした。俺も一度射撃訓練をするべきだ。




冷静に考えたら剣一本で現代兵器に勝てるわけ無いやん(逆ギレ)という事で今回は「敗北」撤退回とさせていただきました。次回はふざけつつの強化回となります。


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修行回です。はい

就活忙しい…全然書く余裕無い…





「ぐぉっ!?」

「バッキャロー!着地の時は足を一度制動掛けてから降りるんだよ!怪我すんぞ!」

 

現在、モードレッド指導の下…円卓の騎士達によって「ダ・ヴィンチが量産したテールブースター」とサーヴァント達の得物(ナイチンゲールとマシュは除く)に射撃モードを搭載した仕様の運用試験が行われている。馬より速く、文字通り地に足のつかない機動性能に騎乗スキルを持っている筈の騎士達の方が振り回されていた。因みに先程倒れたのはガウェインである。

前回の反省は「擬似宝具のヘルタースケルターを量産した機動兵による物量での攻撃」に近接兵装ばかりのサーヴァント達が押された、という事だ。サーヴァント自体はその神性により現代兵器は通用しない筈なのだが、上記の場合は例外だ。仮にも宝具だ…それを四方八方からぶっ放され続ければ結果は惨敗。今回で必要と感じたのは機動力と牽制程度でも行える射撃能力である。

 

「ひっ!?」

「あぶねっ!?ベディヴィエール!ヌァザの腕をマシンガンに改造したのはダ・ヴィンチだが、管理するのは本人の仕事だろうが!指先から機銃が飛び出さないように入力切り替えしとけよ!」

「このボタンを入力して…よし、通常状態になった……」

 

 

まぁ、結果はご覧の通り。新兵器を使い慣れていない彼等にはあまりに酷なようだった。ゲストで参加している黒ジャンヌの方が順応している。

 

「へぇ、これで戦えるわけね」

 

模擬弾を装填したガトリング砲の雨の中をホバリングで移動しつつライフルモードにした細剣で牽制射撃・即座にソードモードに変形して斬り抜け。いい動きだ。

史実にて「ジャンヌ・ダルクは勝つ為にどんな事も躊躇しなかった」とされている事から、 それも繋がっているのだろうか。

因みに、壊れた装備はダ・ヴィンチが修理してくれるから幾らでも壊していいぞ。

 

「ダ・ヴィンチ、オレのテールブースターも機銃の装填数とブースターの容量を増やしといてくれ。弾数が足りねぇ」

「それ以上は重量が増えるぞ…まぁ、言っても聞かないか」

「じゃあカートリッジを幾つかくれよ。どうせカルデア側から弾補給出来る機会は少ないんだしよ」

 

モードレッドも今回のミッションでガス欠&弾切れになる問題が露見した。まぁ、あいつに関してはバカスカ撃ち過ぎなだけなんだがそれも戦略の内なんだろう。そういう事にしよう。

 

「どぅどぅ」

ヒヒーン(チクショウ!とうとうリストラしやがった)!」

 

アルトリアはテールブースターを手にした途端、あろう事かドゥン・スタリオンに暇を出した。しかも最近『馬刺しって美味しそうですよね』と言い始めたので堪らず彼を連れて再就職先を探し回ったところ、「馬上戦闘は得意です』とトリスタンが引き取ってくれた。だが、肝心のドゥン・スタリオンが心を開くのはまだ遠そうだ。

 

「何故言う事を聞かないのでしょう……私は悲しい」

「ヒヒーン(迫真)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はカレーだ!腹いっぱい食べて明日に備えろよ!」

「やったー!いただきまーす!」

「鉄鍋一個でカレーですか…胸が熱くなりますね」

 

食堂に用意した鉄鍋一杯のカレーを全員で戴く。今日1日ずっとトレーニングし続けていた。終わった頃には全員息が上がり、ボロボロであった。だが、皆全員あの不甲斐ない戦いをした事への悔いとリベンジに燃えていた。

 

「まぁ、なんだかんだで特異点攻略のスピードはかなり早い方だ。2016年までまだ時間もたっぷりとある。気楽に行くぞ。時間が無いと思ったら死に急ぐバカが出るからな」

 

腹いっぱい食べたら明日の修行に備えて早めに寝てもらう事にした。

 

 

************************

 

「やっとアルトリアの追加兵装が完成したよ。重いから気を付けてね」

 

そう言ってアルトリアに追加兵装を纏わせるダ・ヴィンチの顔はにやけていた。会心の出来らしいその兵装の正体は「アサルトランドセル」と呼ばれるブースター・サブアーム2コが搭載されたバックパックであり、サブアームの先にはさらにブースターを搭載した分厚い長方形のシールドが取り付けられている。さらに腰には既に完成しているテールブースター…これでもかという程、推進器を取り付けた姿は最早原型すら留めていない。さらに言えばアルトリアの宝具「風王結界」の影響により空気抵抗を軽減出来る為、相当加速するに違いない。サーヴァントで無ければ空中分解するぞ、あれは。

 

「ズバリ言えば、アルトリアの持つロンの槍を極限まで特化させる為に用意した『一撃離脱用兵装』といったところかな♪アルトリアの宝具のお陰で自由度がかなり高かったぜ。どうだい?使い心地は」

「──」

 

バーチャル世界の中、5カ所のブースターにより凄まじい速度を得たアルトリアは完全に流星と化していた。摩擦熱で焼ける事も無く、シールドを前に展開してガトリング砲の弾幕を防いでいる。どうも前のモードレッドとの戦いの影響で対策を考えていたようだ。そのままロンの槍による突進で轢き倒したアルトリアは大きく旋回して再び突撃。

 

 

「小回りは利かんな…あれじゃ」

「そこが欠点なんだよね…まぁ、アルトリアの場合はあの盾のお陰でかなり防御力が向上したからそれほど欠点でも無いけどね」

 

 

 

 

その戦闘の中に、もう1人介入する者が現れた。あれは…モードレッドか!?

 

「父上!今度こそ決着を付けるぞ!!!」

「モードレッド…!?」

 

挨拶代わりに発砲する機銃の雨をアルトリアはシールドを器用に動かして防御する。曰く、サブアームは「思念操作」らしい。だがモードレッドの目的は最初からそれだった。

機銃をばら撒きながら横合に回り込む。一直線にしか動けないアルトリアに対しモードレッドが考えた作戦のようだ。

 

「次は私が──」

「オレが───」

「「勝つッ!!!!」」

 

モードレッドの斬撃が1つのシールドを叩き斬る。だが、すぐにもう1個のシールドでモードレッドの振り下ろす腕を止めた。射撃モードに移行するロンの槍を見た彼女は、意外な手を打った。

 

「ンな技ァ読めてんだよ!!!」

「!?」

 

テールブースターを地面に向けて噴射したのだ。ビームが走る前にその噴射で跳躍するモードレッド…発生した土埃で視界を奪われたアルトリアはモードレッドの姿を一瞬見失う。その一瞬だけで充分だった。

 

「らぁあああああああああ!!!」

 

さらに空に向けたテールブースターの噴射により落下速度を上げた状態でモードレッドはクラレントを振り下ろす。土埃を振り払った時にはモードレッドの剣がロンの槍ごとアルトリアの右腕を斬り飛ばしていた。

 

「決着だ──」

「………私も随分と鈍りましたね」

 

アルトリアはバーチャル世界から出て行った。モードレッドも肩の凝りを解すように首を回してから後を追った。

 

 

 

 

「一度考え直すべきですね。追加兵装に頼り過ぎました」

 

帰還後、アルトリアは腕を組みながらイメージトレーニングで細かい修正をしていた。ダ・ヴィンチからもモードレッドの動きから何かを掴んだらしくラボに籠ってしまった(なんでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とか言っていた)。

 

「あとはガウェインとベディヴィエールが慣れてくれたらいいんだが……」

 

俺は、本日30回目の転倒をやらかしたガウェインを見て肩を竦めた。




大型改修!ガンギマリを果たした父上…という事でアルトリアは全身スラスターの塊のようにした事で高速移動しながら槍でブッ刺すキャラへと変貌。男子組はまだ慣れていない為に何が出来るのか不明。そして、モードレッドは………

※アルトリアの新兵装はガンダムキマリスヴィダールあたりをイメージして戴くと分かりやすいです。



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気を取り直し…

今回は新兵器祭りで強化された新生円卓の騎士団の初陣となります。
この小説の明日はどっちだ(困惑)!?


「アメリカよ、俺様は帰って来たッ!!!」

 

俺はいつも以上にギラギラした目で遠くに広がる戦場を見ていた。最新鋭の装備を纏った円卓の騎士達とスタッフ2人(黒ジャンヌとナイチンゲール)がその光景を見据え、武器を構える。

 

「もう大丈夫だ。今度はヘマしない」

 

モードレッドは胸の前でクラレントを掲げるとライフルモードに変形させて戦場のど真ん中に狙いを定めた。武力介入の挨拶だ。

 

「活路を開く!───我が麗しき父への恩返し(クラレント・リターン・アーサー)!!!」

 

極太のビームが照射され、戦場に穴が開く。それを見たアルトリアがロンの槍を天に掲げた。

 

「卓袱台の騎士団、突撃だッ!!!」

「「卓袱台!?」」

 

アルトリアは号令と同時にブースターを一斉に噴かせて突撃を敢行した。それに気付いた双方が機銃や矢の雨で応戦するが、シールドで次々と防ぎ抜き槍の突撃をかます。そのまま加速し続けたアルトリアは射線上の敵を次々と轢き潰していく。

そこにテールブースターを使って斬り込むのは、ライフルモードに変形させたガラティーンを乱射しながら接近するガウェイン…そして義手の指先から機銃を掃射するベディヴィエール。

 

「引っ掻き回します!ベディヴィエール卿、援護を!」

「了解ッ!」

 

近接では剣、離れたら銃で…そうした機動力も火力も優位となった円卓の騎士団はあっという間に敵を総崩れにさせた。その空間を俺とトリスタンはドゥン・スタリオン、黒ジャンヌとナイチンゲールはテールブースターを使って突破した。

 

「ヒャッホー!相手のアウトレンジから一方的に攻撃するのってサイコー!!!」

 

黒ジャンヌはライフルモードの出力を抑え連射性能を高めたマシンガンモードで次々にケルト兵の体を蜂の巣にしながら何故か爆笑していた。アヴェンジャーだから大目に見てやろう。

 

「これで終わりです」

 

最後にベディヴィエールが総崩れとなった集団に手榴弾を投げ付けて逃走。遠くから爆発音と共に戦いが終わった事を察した。

 

「一旦補給地を探しましょう」

「補給地か…それは名案だ。恐らく、機械兵を作っている工廠が近くにある筈だ。これより、敵の工廠を奪取する!」

 

工廠であれば、敵の動きを探る事で自ずと居場所は分かる。

 

「取り敢えず、撤退戦に追い込む程度に攻め込んで逃走したら後を追うぞ」

 

 

************************

 

「思ったより早く見つかったな」

 

俺は工廠にあった一般普及品の拳銃を手に施設内を物色する。

制圧は男子組の活躍で既に完了しており、残りのグループで工廠内部の捜索を行っていた。黒ジャンヌは注意深く周囲を見回しながらある物を発見した。

 

「へぇ、この時代にパソコンなんてまだ早いんじゃないの?しかもフロッピータイプとか…」

 

一通り舐め回すように構造を確認した後、彼女は手をニギニギしすぐにキーボードを叩き始めた。いつ習ったのか知らないが、凄まじいタイプスピードで機械兵のOSを書き換える様子を一瞥し、他のサーヴァント達の様子を伺う。

 

「この工廠では、ほぼ全てを機械に任せて製造していたようですね」

「こいつさえコントロール出来れば材料を用意するだけで武器が半無限に作れる訳だ」

「そういう事よ、見てなさい…ジャンヌちゃん頑張っちゃうわよ〜!」

 

黒ジャンヌはやや乱暴だが次々と文字を画面に叩き込んでいく。どこでそんな特技を覚えたのか知らないが、まるでアメリカのハッカーみたいだ。フランス人の癖に。

 

「ミスジャンヌ、こちらハンバーガーになります」

「気が利くじゃない。あ、ピクルス抜いてるよね?」

「抜いております」

「上出来」

 

もうツッコミどころしかない。まぁ、掌握出来ればいい!過程はこの際無視しよう。

 

「システム掌握完了。後は製造ラインを切り替えていくわ。」

「──材料の質が悪いですね。推進器の製造はしない方が良いかもしれません」

「大量生産するから質は悪いって奴か」

 

取り敢えず、生産ラインを切り替えながら俺達は補給地点を確保した。どうもこの近くにも霊脈があるらしく、取り敢えずここから吸い上げる方式にした。ダ・ヴィンチの協力を得て召喚サークルの製作に成功。物資の補給も可能となった。

 

「今日はここまでだ。交代制で見張りをやってもらうぞ。俺が最初に担当しよう」

 

明日に備え、今回はここで休息を取ろう。今度こそ…このアメリカを攻略してやる。




以上、円卓の騎士団改め「卓袱台の騎士団」でした。
無駄にフェイルノートの性能が高過ぎる故に強化イベを逃すトリスタンェ…


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折り返し

しばらく更新出来ない日が続きます…





「さぁ、起きてください。早寝は三文、早起きは三文…つまり早寝早起きは六文も徳となります」

「いでで…その理屈はおかしいだろ……」

 

ナイチンゲールが近くにあった鉄骨に鉄板をぶつけ、その騒音で俺達を無理矢理起こした。見ると、彼女が用意したのであろう食事と即席の歯磨きセットが置いてあった。用意周到って奴だ。

 

「食前の歯磨きと食後の歯磨きをお忘れなく。幸い、水道がありますのでそちらをご利用下さい」

「ありがとう、ナイチンゲール」

 

内容は豆のスープ・トースト・目玉焼きというシンプルな物。俺がいつも持ち運んでいる調理器具で作ったようだ。全員で歯磨きと手洗いうがい・洗顔を済ませてから席に着いた。

 

「野菜が少ない事だけが悔やまれます」

「まぁ、それは仕方ない。ともかく飯にありつくとしよう!」

「「いただきます!!!」」

 

俺達が食べている間はナイチンゲールがライフル銃を担いで周囲の監視をしていた。気は休まらない。補給地点を確保しても何時気付かれるかを恐れている。いや、もう気付かれているのかもしれない…ただ、俺達に出来る事と言えば見つからない事を祈るだけだ。

 

「───機械兵を数機確認しました。進行方向で言えば全く別ですが警戒は必要です」

「マスターはこの状況でよく食うなぁ…」

「今食ってるこいつが最後の晩餐になるかもしれないだろ?だから美味しく戴くのさ!」

「…なんというか肝が座っていますね」

 

食事一式を完食すると、俺もライフル銃を手に物陰から様子を伺う。俺達は居ない…そういう事にしている。いや、してもらいたい。よく見ると、機械兵数機の後ろに馬車や馬に乗ったアメリカ人の一個中隊が駆けている。絶対に見つかってはならない。

 

「絶対に音を立てるな…!静かに…」

 

唇に人差し指を当て静かにするようジェスチャーを送り、全員いつでも射撃体勢に出られるようにしておく。ロマンが緊張した面持ちで敵の動きをモニタリングしていく…一隊はこちらを素通りして居なくなった。

 

「よし、武器も補充したんだ。次の補給地点を作るか?」

「止めた方がいい。次もまた霊脈が見つかるとも限らないし…」

「───!先程の部隊が戻って来ました!!!」

「やっぱ気付かれてたか!」

「オレが気を引く!全員脱出しろ!!!」

 

モードレッドは工場で生産された武器を担ぎ、体当たりでシャッターを破壊して飛び出した。

飛んで来る銃弾を躱しながらライフルモードのクラレントと軽機関銃を手にどちらも高速連射しながらヘイトを集める。一隊の注意が逸れた頃合いを見て俺達も脱出した。

モードレッドの方をチラリと見ると、複雑な軌道を描きながら銃撃を回避しつつ、ソードモードにしたクラレントを機械兵の一体に投擲し深々と刺さった直後に急速接近して剣を引き抜く要領で両断。鉄の塊となった機械兵を盾に敵の掃射を防ぎながらブースターを噴かせ、それを蹴り飛ばして機械兵をもう一体潰す。続けて後ろ跳びで銃弾を回避した彼女は突進してきた機械兵の頭を踏み潰し、機関銃を接射して撃破した。

 

 

 

 

 

「モードレッドの援護は私が!」

「頼むぞ!ベディヴィエール!!!」

 

先程開発したグレネードランチャーを手にベディヴィエールがモードレッドのカバーに入り、徹甲榴弾を撃って数機の機械兵を落とす。2人の射撃によって機械兵が全員落ちた事を確認した彼はスモーク弾を発射し、モードレッドに合図を送って共に戻って来た。

 

「後はあっちの方で私達の言う事を聞く機械兵を量産してくれるから気付かれて破壊されるまでは上手くいく筈よ」

「助かる」

 

後方を確認すると、工廠を確認しに行った一隊が機械兵の襲撃を受けていた。まぁ、この作戦は黒ジャンヌの手柄だな。

 

「そろそろガス欠か。無茶な動きもしてたしな」

「バッテリーは常に充電しておいてください。1個を遣り繰りするのもギリギリなのですから」

 

メーターが底に付く手前に来た事を確認したモードレッドは腰に提げていたバッテリーを補給口に装填してエネルギーを供給する。このバッテリーは面白い発明品で「サーヴァントの運動エネルギーの余熱を電力変換して充電する」というマスターの魔力さえあれば無尽蔵に電力を得られる代物だ。

他のメンバーもそれぞれに補給を行いながら前進を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り続ける事10分…ロマンから通信が入ってきた。

 

「ロマン、どうした?」

『7時方向に敵を確認。この反応は…!』

 

指示された方角を確認すると、変な服装に真っ白な肌を持つ男が走ってきていた。サーヴァントに間違いない。だが……

 

「間違いねぇ…神性を持つ個体だ。出来れば出会いたくなかったんだけどなぁ」

「我々でも相手に出来るかどうか…」

「怖気付いてはいけません!ここは私が!」

 

アルトリアは進路を変え、サーヴァント目掛けて突撃する。シールド裏に新設した小型ミサイルを発射。板野サーカスのような軌道で突撃した火薬の塊はサーヴァントの持つ槍に薙ぎ払われ爆発した。だが、それは唯の爆発ではない。

 

「魔力拡散チャフです…チャフが舞っている間は魔力を纏えません!!!」

 

先程、ダ・ヴィンチが発明した化学兵器だ。サーヴァントの体から放出される魔力を拡散させる事で身体能力の向上や魔力を駆使した技を封じるトンデモ兵器である。

対してこちらは同じく槍を持っている上に推進器の塊であるおかげでかなりの機動力を確保している。後は実力の差で決まる。

 

「面白い…!」

 

対するサーヴァントはそれを理解したようで槍を構え迎撃の構えを取る。ブースター全開にしたアルトリアも承知の上でシールドを前面に展開して突撃する。

 

「───っ!」

「はぁあああああああああああっ!!!」

 

2つの槍が交錯する。だが、鍔迫り合いに持ち込むと馬上槍は不利になる為、すぐにシールドを動かして無理矢理引き剥がし距離を取る。そのまま大きく旋回し再び槍を構えて突進した。

 

「アルトリア強ぇな…」

「そろそろ決着が付くぞ」

 

シールドを傾けサーヴァントの突き出した槍を滑らせるようにして穂先を反らしたアルトリアがサーヴァントの腹目掛けて一撃を突き込んだ。だが、それは彼の咄嗟の動きにより肉に届く事無く槍の柄に阻まれる。

 

「まだまだ!!!」

 

アルトリアが槍から手を離す。しかし、その柄はシールド裏から展開したマニュピレーターに接続されしっかり固定していた。そのまま腰から鈍剣を抜き放った彼女は頭を叩き潰すようにそれを振り下ろした。

 

「──かはっ!?」

 

辛うじて離れる事に成功したサーヴァントだったが、左腕に直撃し骨を砕いた。膝をついた彼の首筋にアルトリアはロンの槍を向けた。

 

「決着です。投了してください」

「ふむ…よく分からずに負けてしまったが……腕の立つサーヴァントである事は分かった」

 

取り敢えず、事情聴取出来る人間を見つける事が出来ただけでも大きい。こいつからたっぷりと情報を吐いてもらうとしよう。

 

******************

 

なるほど、この世界の概要がおおよそ吞み込めたぞ。この特異点には2大勢力があり、アメリカ軍と「何故か無限に湧き続けるケルト人」の2つ。今全てを吐いてくれた男…カルナの説明ではそういう事らしい。

 

「かたやロボットを量産する勢力、かたや無性生殖で大量に生まれてくるおっさん勢力…か」

 

彼曰く、自身の所属しているアメリカ軍のリーダーはそうとう頑固らしい。頑固ならまだマシだろう。もう片方はドS痴女らしいからな。

 

「ふむ…事情は分かりました」

 

ナイチンゲールは腕組みをしながら俺の貸した本を読んでいた。借り物を戦場に持ってくるんじゃない!

 

「ではこうしましょう。我々は英雄カルナの活躍により敗北し、連行されます。そこで貴方は我々をそのリーダーの前に突き出すのです。彼の説得は私にお任せを。」

 

そう言うと、彼女はカルナの傷を癒した。因みにカルナを除く先頭にはナイチンゲールが立ち、カルナの背中にペッパーボックスピストルを押し当てていた。

 

「じゃあ、早速カルナのアジトへレッツゴー!」

 

味方は多い方が助かる。それにケルト人にアメリカを乗っ取られたら人理定礎修復後にシカゴピザが食えなくなるだろ?




キャメロット編の構想練りとアメリカ編のネタ切れ具合がすごい……




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いきなりですが総力戦です

内定もらた……勉強の合間にゆっくりと進めていきます






「さてと、アメリカの現大統領もとい大統王ことエジソンを口先だけで陥落させた俺達は機械兵を大量に引き連れ、チームを2つに分断して北部と南部に分かれて攻め入っているのであった…まる」

「はいはい端折りお疲れ」

「原作をなぞって進むってのは二次創作としてアレかな?と思ったわけで…てな事で!俺達卓袱台の騎士団は2つにチームを分けて行く事にした。男子組はエジソン達と…残り俺達とカルナで敵中央を突破すんぞ!ラーマーヤナはどうした?しら管。どっかでイチャついてるだろうさ」

「メタ発言お疲れさん。よし、行くぞお前ら!」

 

残ったアメリカ兵数十人と機械兵を引き連れて俺達は拠点目指して走った。これ以上ケルトの連中に土地を奪われるとマズイからな!

 

 

「アルトリアとモードレッドは俺と行くぞ〜!ナイチンゲールも同行してくれ」

「バカ!ケツ触んな!」ドゴォッ

「ぐはっ!?」

「そんな…///もっと前を触っても──」

「父上は何発情してんだよ!?行くぞオラァッ!!!」

 

 

「さて、私は男子組の支援行ってくるから。気をつけてねナイチンゲール」

「ジャンヌ・ダルクこそ、ご武運を」

 

恥ずかしながら、俺は「マスターに余計な疲労を与えたくない」とかいう理由でナイチンゲールが用意した背負子に括り付けられた状態で移動している。実際こっちの方が楽だし、彼女が無茶して突貫しなければいい話だ。黒ジャンヌには「ブークスクス」と笑われたがな!

 

「実際、無理なんだけどな〜!」

 

ナイチンゲールは病気と判断した者には治療という名の攻撃を加えようと突撃する癖がある。仕方ないから背中を守るように俺もライフル銃で牽制している。正直、付け焼き刃で覚えたから精度は滅茶苦茶だ。ナイチンゲールも推進剤の残量を一切考慮せず最大出力で駆け抜けているし、さっきから銃口がブレてるってのもあるが…。

まぁ、撃ってりゃそのうち当たるだろ。

 

「よし、やっと1人!」

「殺菌ッ!!!」

 

さっきから鉄の破片やら血肉が飛び散っているが…今のところ掠ってはいない。

 

 

******************

 

「ふんっ!!!」

 

凄まじい速度で突進したガウェインは刀身を傾けて銃弾を弾きながら体を捻り、その遠心力でガラティーンを薙ぎ払い2人のケルト兵を両断する。さらに、右腕に用意したマウントラッチにガラティーンを装着すると向かってきたケルト兵1人の顔面をパンチの要領で拳ごと剣先を叩き込み、頭を斬り飛ばす。続けて飛んで来た矢に対し右腕を掲げ刀身で身を守る。

 

「まだまだ行けます!全軍持ち堪えて下さい!!!」

 

トリスタンが割と無茶をして前線を維持している以上、こちらも同等クラスで暴れなければ彼に攻撃が集中する。負担軽減を考慮しての行動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全隊!進め!引いたらこの作戦は失敗だ!!!」

 

アルトリアが凄まじい速度で突っ込み活路を抉じ開け、そこにモードレッドとカルナが斬り込む。一方、俺とナイチンゲールは負傷者の手当て・腹を空かせた兵士に軽食を食わせて士気を維持する仕事を請け負った。主力が集結した南側に続々と増援が来る中で俺達は必死に前進していた。

 

「む…」

「どうした?カルナ」

「約束だ。俺は戦線を離脱する」

「───チッ、あーかったよ。行って来い!」

 

やって来る別のプレッシャーに応じるようにカルナが離脱した。だが、まだ勢いは衰えていない。このままなら行けるぞ。

 

「弾切れか…」

 

乾いた音だけを鳴らす軽機関銃にベディヴィエールから貰った吸着爆弾を取り付けると敵の密集地目掛けて投擲。隙と見たケルトの槍兵の槍を仰け反って避けつつクラレントで両腕ごと両断した。さらに押し寄せるケルト兵を薙ぎ払ったのは、アルトリアだった。

 

「また突破します。推進剤の残量は?」

「カートリッジ1個分ある。突破は出来る──」

「───すみません。私は先攻します!」

「ちょっ!?父上!?」

 

突然アルトリアは何かを感じたのか、ブースターを噴かせて敵陣を切り崩し走り出した。直後に飛んで来た赤い何かが交戦中のカルナの胸に刺さった。あれは……槍?

 

 

 

 

「──悪く思うな。こいつはルール無視の殺し合いでね」

 

気配としてようやく現れたのは…冬木で出会ったサーヴァントに似た雰囲気を持つ怪人だった。半龍の怪物は赤い槍を携えゆっくりと歩く。その威圧感たるや………いや、それはもう語るまい。

 

「クー・フーリン…!」

「ア?テメェは…あん時のサーヴァントか。外見は違うが間違いねぇ」

 

アルトリアと怪人(クー・フーリン)は知り合いなのか?あの2人を渦巻く魔力のオーラが絡み合い互いに喰らっている。

 

「なら───死ね」

「───!」

 

クー・フーリンは躊躇無く手に持っていた槍を投擲、その棘だらけの槍がアルトリアに殺到する!だが、彼女は冷静にブースターを噴かせて距離を離しつつ、ライフルモードにしたロンの槍から小粒のビームをマシンガンのように掃射し、次々と槍を壊していく。壊れても尚襲い来る破片は照射ビームによって手早く焼き払う。

 

「──抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルグ)を木っ端微塵にして呪いを消すか。出鱈目な事しやがって」

「そもそも槍という存在自体が無くなれば呪いは適用されない。次はこちらの番だ!」

 

アルトリアはブースターにバッテリーを装着すると、シールドを地面に突き刺して体を固定し、次々とビームの雨を降らせる。重厚な音と共にビームが降り注ぎ、クー・フーリンを後ろに引かせる。

 

「だが、こいつならどうだ?」

 

だが、クー・フーリンはその容姿を変貌させた。まるで骨のような甲冑を纏った彼は突撃を敢行した。真っ直ぐ………俺の方へ!!!

 

「っ!?」

「しまっ!?」

 

アルトリアのブースターはまだ5%しかチャージされておらずガス欠状態。おまけにモードレッドはケルト兵に囲まれて身動きが取れなかった。頼れるのは…ナイチンゲールのみ。その彼女が俺の前に仁王立ちになった。

 

「───命に代えてもお守り致します」

 

だが、ナイチンゲールは恐れてはいなかった。まるで死ぬ事を平然と受入れているようで…。

 

「──我が令呪によって命ずる!ナイチンゲール!命を無駄遣いするな!!!」

「マスター……!?」

 

どうせバーサーカーのナイチンゲールだ。こうでもしないと効かないだろ。

 

「───無駄な足掻き─!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その槍のような一撃が届く事は無かった。腕の大きな爪はたった1つの花によって阻まれた。

 

 

「ちょっとうたた寝しながら歩いていたら、そこは見知らぬ荒野の国。これは夢の続きか、それとも単なる幻か。まあ、どちらでもいいのだけどね。おはよう。そしてこんにちは、諸君。みんなの頼れる相談役、マーリンさんの登場だよ。」

 

 

 

そこに立っていたのは、白いローブを纏った男だった。

 

「お…お前は一体………」

 

思わずそう尋ねると彼はこう言った。

 

 

「時間が無いから手短に話そう。君たちに朗報だ」

「朗報…?」

「……っと思ったけどそろそろ時間か。すまないけど私はここで退散だ。『メーデー、0783』。彼からの伝言だよ。じゃあ、退散退散っと」

 

 

続けて放たれた爪を杖で軽々と払いのけた瞬間、彼は漫画のようにポンという音を立てて消滅した。

 

「チッ…何だあのオ──!?」

 

突然の邪魔に愚痴った瞬間をカルナは逃さなかった。太陽すら焼き尽くさんとする灼熱の一撃がクー・フーリンに殺到する。避ける事が出来なかった彼はそれをモロに浴びた。

 

「───っ。これが限界…か……」

 

 

カルナが消滅していくのを確認した俺は、横合いからアルトリアが突進して来るのを見た。

 

「勝機…逃さん!!!」

「チッ!流石に分が悪いか…!」

「悪いが逃がさねぇ!!!」

「──殺菌ッ!」

 

アルトリア渾身の体当たりを受け仰け反ったクー・フーリンにモードレッドが追撃を掛ける。そこから離れた瞬間にナイチンゲールが拳を振るう。3対1の状況を作った事で手負いのクー・フーリンの動きがさらに鈍くなっていく。俺も機械兵と即席のコンビを組み、ケルト兵を寄せ付けないよう抵抗していた。

 

「ガッ!?」

 

ナイチンゲールのアイアンクローがクー・フーリンの胸板を突き破った。確かな致命傷だ。だが、モードレッドが追撃の為に振るった一閃は虚しく空を割いた。

 

「霊体化して逃げやがったな!!!やーい!バーカ!バーカ!臆病者!タマナシ!インポ野郎!!」

「モードレッド、口が悪いですよ」

「あでっ!?」

 

ケルト兵達も全滅させた俺達は一旦休憩の為に腰を下ろした。だが、俺には気になる事があった。ロマンとダ・ヴィンチの顔がやや浮かれているのだ。

 

「ロマン…どうしたんだ?」

「聞いてくれ!とてつもない朗報だ!」

 

 

 

彼は笑顔でこう言った。

 

「何処かにカルデアの生存者がいるんだ!!!」




今回オリジナルキャラを参戦させないスタンスを変え、新キャラを匂わす展開となりました。もう1人は生存者なのか、それとも敵なのか……いずれ分かるさ…いずれな。


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星条旗を立てる

かなりぐだぐだしましたがアメリカ編終了です。
そうか…いよいよキャメロット編か…


「よし、いい感じで追撃も捗ったし少し休むか」

 

俺はワシントンに入る前に即席湯沸し器でコーヒーを淹れた。軽食はナイチンゲールが担当し、モードレッドはトレーに載せて運んでいる。

 

「そうか…俺以外の奴も生きてたのか……」

 

コーヒーを飲みながら、俺はボソッと呟いた。確かに俺は無力だ。サーヴァントには勝てないし、カルデアの魔力供給が無ければサーヴァント1人維持できない。そんな状態で他のマスターが来たら…

 

「…俺はお払い箱だな」

 

そう愚痴ってコーヒーを一口飲んだ時、モードレッドが隣に座ってきた。心配そうな顔をしている事から事情は分かっているようだ。

 

「聞いたぜ。他にも生存者がいるってな…」

「……」

「他の奴がどう思うかは知らねーけどよ、オレはマスターについてくぜ。お前と居ると楽しいしやる気も出るしな」

「モードレッド…ありがとよ。お前に言われたら俺もやる気が出て来た。よし、お前ら!飯食ったら最後の突撃を仕掛ける!こっから先は覚悟と気合のある奴が勝つ!アメリカを取り返すぞ!!」

 

俺の言葉に応えるようにアメリカ兵・サーヴァント・機械兵が勝鬨を上げた。チェックメイトまであと一息だ!ありがとよ、モードレッド!

 

 

*********************

 

「カチコミだオラァ!!!」

 

ヤクザキックで扉をブチ破った俺は、サーヴァントを前面に展開して王の間に居る2人の王を睨み付けた。1人はクー・フーリン、もう1人は白い服の女だった。

 

 

「ケッ、しつこい奴らだ。まだ再生が不完全だってのによ」

「あぁ、だからその傷を抉りに来たんだよ。さぁて…懺悔の用意は出来てるか?」

「覚悟しろよトカゲ野郎」

「クー・フーリン。決着を付けましょう」

「貴方にも貴女にも治療が必要です」

 

 

生まれる緊張感。女とクー・フーリンはそれぞれに武器を構えて威嚇を始めた。ジッと互いに睨み合いつつ、一触即発の状態で暫く時間が過ぎた。

 

始まりは一瞬。

 

「覚悟ッ!!!」

 

仕掛けたのはモードレッドだった。ライフルモードに変形したクラレントで弾幕を張りつつブースターを噴かせて突貫した彼女は一気にクー・フーリンとの距離を詰め、ライフルモードからソードモードへと速やかに移行させ斬りかかった。意地でもゲイ・ボルグを投擲させまいという判断での行動だ。すかさずカバーに入ろうとした女をアルトリアが体当たりで吹き飛ばし2人の距離を離す。

 

「このッ!邪魔なのよ猪女!!!」

「なんとでも!意地でも止めます!」

 

ナイチンゲールは攻撃の余波から俺を守りつつ、自らのスキルを行使してモードレッド達の傷を癒す。勢い任せのゴリ押し戦術…だが、今頼れるのはこれしかない。他に芸が無いからな。

モードレッドは体力の続く限り剣を高速で振り回しクー・フーリンを防戦一方にさせる事で投擲の動きをさせないよう攻める。狙い目は投擲の際に体重が集まる膝と肩。

 

 

「もらった!!!」

 

 

モードレッドがフェイントを混ぜつつ放った袈裟斬りが回避動作の遅れたクー・フーリンの右膝から下を切り落とした。一瞬驚いた顔をした彼だったが、すぐに尻尾を脚代わりに固定して戦闘を続行する。流石クー・フーリンといったところか…突入する前にロマンから推定スキルを聞かされていたので驚きはしないが。

 

「クー────!」

 

クー・フーリンを傷付けられた事で女がブチギレた。アルトリアの追撃を受けながら彼女はクー・フーリンに駆け寄ったのだ。

 

「何をされるか分からねぇ!全力で邪魔しろ!」

「了解」

 

続けてクー・フーリンの両肩にクラレントを突き刺し筋肉を引き裂いたモードレッドがアルトリアのカバーに入った。完全に投擲する能力を奪われたクー・フーリン。まだ諦めてはいないようだが所詮は意気のみ。ナイチンゲールの残弾を気にしないペッパーボックスピストルとブースター側面の機銃により完封している。

 

「クー!今私が…!」

 

恋する女は強し…という奴か、あの女はアルトリアの攻撃を全力で掻い潜っていた。このままでは何かをされてクー・フーリンの傷を回復させられる可能性がある。いや、何かと言うよりその手に持っている聖杯の力で再生させる魂胆か。

どうすればいい…!?

 

「マスター、こちらを」

「お、おぅ…ってこれチーズじゃねぇか!?」

 

ナイチンゲールは突然ビー玉程の大きさのチーズの塊を渡してきた。一体どういう意味が…?

 

「それをあの女性にぶつけてあげて下さい。きっと目が覚めます」

「なるほどな…」

 

俺はベルトに挟んでいたスリングショットにチーズの塊を装填すると、女の頭目掛けて放った。

 

「チーズ食ってもう少しグラマーになりな!!!」

 

渾身の狙撃は女───女王メイヴの側頭部に直撃。あと一息のところで彼女はバランスを崩し床の上に倒れた。ダメージ自体は無いようだが、史実における死因が弱点に直結したようでメイヴの脳を揺らしたのだ。

それでも這って進もうとするメイヴの脚をモードレッドが掴み、ブースターを使い引き摺りながら引き離す。

この戦いはかなり残酷な事をしているのかもしれない。だが、こっちだってガウェインの分とカルナの分の借りがある。ここできっちりチャラにしてもらうぜ。

 

「いや!離して!クー!助け──」

「いい加減───ジッとしてろ!!!」

 

モードレッドは戦闘の際に壊れたベッドの柱の残骸を握って振りかぶるとメイヴの背中目掛けて突き刺し床に縫い付けた……。

 

 

──────

 

「何故殺さねぇ……」

 

ボロボロのクー・フーリンを置いたまま俺達は聖杯を回収し退却の用意を始めた。

 

「テメェへの借りはもう無くなったって話だ。あとはテメェを恨む連中が借りを返しに来るだろうよ。まぁ、覚悟しておけよ。その女と最期の時間を過ごすんだな」

「ケッ……最悪の結末だ」

「なんとでも言え」

 

北側からも通信が届いて来た。ケルト兵の増援が消え、円卓の騎士団と黒ジャンヌの活躍により無事防ぎ切ったらしい。

 

「聖杯の回収も完了した。人理定礎修復を開始してくれ」

 

無事任務も完了。一時はどうなるかと思ったが何とかなったという事実に俺は心の底から安堵した。全員無事だし、取り敢えずお疲れ様会でも開くとしよう。その後は…取り敢えず、生存者の調査だな。

 

「よし、帰るぞ!」

 

途中、王の間から何度も銃声が響いたが見なかったし聞かなかった事にした。魔神柱も出てくる前に回収出来たのは大きかった。

 

「マスター!明日焼き肉やろうぜ!そろそろ肉牛がいい感じに育ってるだろうしな!」

「賛成だな。だが食えるまでに最短で5日は掛かるぞ。いいか?」

「マジ!?オレも手伝うぜ!」

「ならやろう。お前ら!5日後は焼き肉だ!腹いっぱいは無理だが楽しんでくれや!」

 

心地良い歓声を聞きながら、俺達はアメリカを後にした。まぁやった事は悪役同然なんだがな!




今回は胸糞展開が多かったと思います。銃撃に苦戦し、サーヴァントの出番が自由に与えられず、かなりシナリオ運びに苦労しました。キャメロット編は色々改善していこうと思います。キャラクターの掘り下げも行っていく予定です。


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閑話休題10 奇襲するアレ

北海道で最近初めて見ました。目視で10cmの大物ですよ(白目)





5:00

 

 

「マスター、解体手伝うぜ」

「モードレッドか。助かる」

 

早起きした俺は屠殺した肉牛を解体する作業に取り掛かっていた。肉を食べるという事は動物の命を奪う事と同義である。だが、そうしなければ人は生きていけない。『動物の肉を食わないで野菜を食べろ!』と声高に叫ぶ馬鹿もいるが、悲しい事に人間は「動物性タンパク質」を摂取しなければ肉体に充分な力が漲らないと言われている。

 

「マスター、手伝いに参りました」

「ガウェインか!手伝ってくれ!俺とモードレッドじゃ手に余る」

 

ガウェインも途中参加し、血抜きなどの解体処理を手伝ってくれた。3人で皮剥ぎ・頭部切除・内臓搔き出し・洗浄などの処理をして、それぞれに一応BSE検査(検査役ダ・ヴィンチ)を行った。

すぐに結果が出たが…GOサインで安心した。

完成品はガラティーンを使って真っ二つに解体し枝肉にして冷蔵室に入れ熟成させる。ホントはもう少し長く熟成させたいが彼奴らも早く食いたいだろうから我慢だ。因みに帰りにアルトリアとすれ違ったのだが、スキップしていた。相当テンションが上がってるな。

 

 

********************

 

22:00

 

「だいぶ……動けるようになりましたね…!」

 

リハビリを終え、全身汗塗れのたマシュはスポーツドリンクを一口飲みながら、自分がやや空腹である事に気付いた。

 

「少しくらい……いいですよね?」

 

実は、マシュは休憩所にある上の棚の中にスナック菓子を隠し持っていた。疲れた体に染みるしょっぱいチーズを挟んだクラッカー…それを食べたくて彼女は棚を開け、目の前を通過する物体を見た。それはサーヴァントでしか認識出来ない速度であったが故に彼女はそれを見てしまった。

 

「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

それは太古の昔から存在し、人類が知能を持っていた頃から忌むべき魔物として全世界共通認識している究極の人類悪………。

 

 

“ゴキブリである”

 

 

 

 

 

 

 

 

22:10

 

「何があった!?」

 

マシュの悲鳴に過剰反応したダ・ヴィンチが鳴らした警報により飛び起きた俺は、円卓の騎士団を召集して急ぎ現場に急行した。寝惚け眼を擦りながら歩いていた時、正面を突破せんと走る何かを発見した。その瞬間

 

 

円卓の騎士団、全員シェーのポーズで脇に避ける。俺、何も反応出来ずにそいつを素通りさせる。

 

「………」

『───』カサカサ

 

 

 

 

「「うわぁああああああああああああああああああああああ!!!」」

 

か、カルデアにゴキブリだとぉおおおおおお!?

 

 

*********************

 

「是はカルデアを救う戦いだ。全員参加でゴキブリ狩りをしろ」

「全力で断ります!!!」

「断固断ります!」

「───スヤァ」

「……流石にアレを捕まえるには勇気が必要です」

「マスター……無理なモノは無理なんだって」

「チクショウ!全会一致で否決しやがった!!!」

「言い出しっぺもかよ!?」

 

皆揃ってゴキブリが苦手とはなぁ…。

 

「兎に角、肉を守りましょう!」

「バカ!ゴキブリは虫だ!気温が低いから入ってこねぇよ!」

「ゴキブリは1匹見つけたら100匹居ると思え、日本の格言だそうです」

「ヒィッ!?」

「おいお前ら一旦黙れ。兎に角対策を考えるぞ!」

 

取り敢えずホワイトボードを運び、殴り書きで「ゴキブリ対策案」という文面を書いた。

 

「意見ある人は挙手!よし、ベディヴィエール!」

「部屋中を殺虫剤で充満させましょう!」

「俺らが死ぬわ!却下ァ!次、ガウェイン!」

「ゴキブリが変温動物なのでしたら室温を──」

「話聞いてたよな!?死ぬんだって俺ら!次、トリスタン!」

「───1度掃除しましょう。洗剤が苦手と聞きます。掃除中に見つけ次第、洗剤をかけて殺すのです」

「トリスタンを見ろ!すぐに優良な対策案を考え出したぞ!よし、アルトリア!」

「あちこちにストーブを置き、その上にヤカンを置き温めましょう。熱湯にも弱いと聞いております。それを掛けて即死させるのです!」

「なるほど。モードレッドは?」

「オレ?うーん…掃除機で吸ってパックに殺虫剤注入して殺す」

「それが1番現実的だな。幸いこっちには消音で掃除が出来る掃除機がある。コイツでヒュッと吸い上げようぜ。全員分ある。これでやるぞ」

 

そう言って配給していると、マシュがやって来た。

 

「先輩、私もやります」

「怪我人は無茶するな。俺達でやる」

「いえ、私も先輩のお役に立ちたいのです!」

「殊勝な心がけだ。じゃあマシュにはコイツを渡そう。洗剤とバケツ、そしていっぱいの水だ。これで廊下中を掃除してくれ。壁も天井もだぞ」

「はい!…………えっ」

 

「よーし!出撃だ!各自の部屋に殺虫剤を散布して燻り出せ!幸い体内に蓄積しないスプリンクラータイプをダ・ヴィンチが開発している。コイツを天井に貼り付けておけ」

「「はッ!!!」」

 

 

 

 

 

 

「酷いッ!?私怪我人ですよ!廊下全部掃除って………ハァ」

 

 

******************

 

「よーし、まずは燻り出すっと………」

 

モードレッドはアルトリアとの相部屋の天井に殺虫剤入りスプリンクラーを貼り付けるとスイッチを入れた。すぐにスプリンクラーが回転し、ミスト状の殺虫剤が散布される。急いで部屋を出ると鍵を閉め、一度換気口を閉じた。後で換気口にも散布して制圧する為取り敢えず閉鎖だ。

 

「効果が出るのは30秒…よし経った。開けるぞ……」

 

恐る恐るアルトリアと共に部屋を覗くと………

 

 

「「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!」」

 

 

大量のゴキブリがひっくり返って死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下

 

俺・黒ジャンヌ・ロマンはスイッチと掃除機を手にその時を待った。

 

「ロマン、廊下の壁に超音波を掛けてくれ。壁の中に隠れてる奴も居るだろ」

「任せて、侵入者への対策の為に超音波迎撃装置を壁の中に埋め込んでいるんだ。これを最小出力で使う。耳当ての準備はいいかい?」

 

ロマンがスイッチを入れると……耳触りな音と共に壁の中から一斉に奴らが飛び出して来た。その数は100を優に超える。

 

「ひっ!?」

「お、恐れるな!進め!!!」

 

黒ジャンヌはすごい顔芸を披露しながらも掃除機を振り回して次々とゴキブリを吸い上げていく。俺とロマンも掃除機を手に駆け回る。今回はスタッフも全員参加で掃除機を携えている。

 

「駆け抜けろ!!!追い立てろ!!!」

 

俺達は横一列になってゴキブリを次々と吸い上げていく。後ろには下がらせん!

そうして追い詰めるべく走り続ける事10分…ついに袋小路に追い込んだ。

 

 

「なるほど、こういう作戦だったのですね!先輩!」

 

袋小路とは……マシュが一生懸命床掃除をしているスペースだった。天井・壁・床に洗剤がたっぷり撒かれており、ゴキブリ達は通過する事が出来ないのだ。その隙にスタッフが後方にも洗剤をたっぷりばら撒き、挟み討ちの状態に追い込んだ。

マシュに掃除を全部やらせるつもりなど最初から無かった。全てはゴキブリを追い詰める為の策!飛ぼうにも超音波の効果で満足に動けまい!

 

「かかれぇ!!!」

 

決死の掃討劇は無事人類の勝利に終わった……。

 

 

******************

 

00:00

 

「お疲れ〜」

 

ナイチンゲールの手伝いもあり、全員の私室を掃除した俺達は1日の終わりを告げ、ベッドに入った。

なんだかんだみんな仕事をしてくれたおかげでゴキブリを無事殲滅出来た。これで安心して眠れる。マシュのリハビリも無事に進行しているようで次の任務の時には万全の状態で復帰出来るらしい。弄り甲斐のある奴が近くに居ると心も楽になる。

 

「さーて、もう寝る───」

「マスタァアアアアアアアアアアアアアアア!!!ベッドの下からネズミがぁああああああああ!!!」

「勘弁してくれぇええええええええええええええええ!!!」




掃除機で吸ってゼロ距離殺虫剤するのが効果的と内地の友人に聞きました。曰く「ファーストチュッチュの相手」らしい。合掌…


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閑話休題11 今は笑って…

キャメロット編前日の話となります。イベントも走破してBB、クリアの余韻のままに引いた10連でメルトリリスをお迎え出来ました。しかし…トイレでお迎えするとは(汗)


今日は牛肉の熟成が終わる頃だ。

昼に起床し早速冷蔵室に向かうと既に汚れて良い格好でモードレッドとガウェインが立っていた。2人ともアルトリアを愛しているが故の行動なのだろうか…いや、モードレッドは食いたいから来てるだけか。

 

「うし、いよいよ焼き肉用の肉を切るぞ!」

「了解!やってやるぜ!」

「推して参ります」

 

3人で肉切り包丁を手に次々と肉の塊から肉を切り取り俺特製のタレに漬け込む。臭みを取る為にハーブや香辛料を入れた醤油ベースのタレだが、実際初挑戦の為上手く出来たかは分からない。

 

「夕方には食えるぞ」

「やったぜ!」

「では一同お待ちしております」

「マシュ・ナイチンゲール・黒ジャンヌも誘ってやってくれ」

「はっ!すぐにご婦人方にお知らせ致します」

 

ガウェインが急いで出て行くのを確認すると俺米を研いで農業プラントから野菜を回収しに行った。

 

 

********************

 

食堂

 

「では、アメリカの特異点修復を祝いまして」

「「乾杯!!!」」

 

円卓の上に大型のホットプレートを置き、ジョッキに注いだビールで乾杯すると全員でそれを飲んだ。今回はマシュもアルコールを飲むと言い張った為、特別に度数の低い物をマシュ用に用意した。

 

「ぷはぁ〜!たまんねぇぜ!」

「いや、アメリカは死ぬと思った」

「マスター…食事のバランスです。野菜7割肉3割で妥協しましょう。では、多過ぎる肉は私が処理──」

「ナイチンゲール…お前食いたいだけだろ」

「マスター、おかわりです」

「米も十分炊いてるから安心しろ。ダ・ヴィンチにパシらせてるから米ならまだまだ追加出来るぞ」

 

 

「へくちっ!?」

「大丈夫かい?」

「うーん…流石に有給が欲しくなったよ」

 

 

野菜を敷き詰め、タレの染み込んだ肉を載せて蒸し焼きにする。ジンギスカン方式で肉を焼いていると、入り口で指を咥えるスタッフの皆んなと農業プラントに従事しているサーヴァント達を認めた。

 

「お前らも来い!腹いっぱいは無理だが食わせてやる!」

 

俺の宣言で次々とスタッフとモブサーヴァントが一斉に食堂に入って来た。野菜と肉を分け、ビールを注ぎ、米を食わせる。

 

「米はおかわりあるからな!ダ・ヴィンチがいくらでも採ってきてくれるぞ!」

 

余談だが、ダ・ヴィンチはバブル期の日本を15回往復し「レイシフトして穀物くらい持ち運んで帰る力がある」と胸を張って言った事を激しく後悔したという。

 

 

 

 

 

 

「これは…ハラミですね」

「すげぇ!また父上が当てた!」

 

完全に酔いが回った俺達はよく分からない芸をやってバカ笑いしていた。今やっているのは目隠しして肉を食べて部位を当てるクイズ。さっきまではマシュが盾を手に謎のダンスを踊り酔い潰れてノックアウトしていた。

 

「私は悲しい──」ポロロン

 

それとトリスタンが生前多く経験した修羅場(女絡み)を弾き語りしている。ガウェインは勝手に過去の記憶を思い出して泣いているし黒ジャンヌに限ってはしょうもない1発ギャグで笑い転げている。相当なストレスが溜まっていた事は分かった。そりゃ今回の特異点では馴れない射撃戦や足のつかない機動兵器によるホバー移動だったりと自分らしい戦いが出来ない辛いものだった事は間違いない。でも、誰1人として文句を言わなかった事は素直に賞賛したい。

 

 

****************

 

「や〜、飲んだ飲んだ」

 

宴が終わり、片付けを終え、静かになった食堂にモードレッドが入って来た。どっかりと椅子に座ると、俺の隣の席に座った。

 

「マスター、少しいいか?」

「ん?」

「あのさ…オレ、嫌な胸騒ぎがしてるんだ」

「胸騒ぎ…?」

「あぁそうだ」

 

水を飲み、シリアスモードになったモードレッドは俺に向かって真剣な表情を浮かべている。

 

「マスター、もし俺に何かあったら──」

「止めろ」

「いや、聞け。マスター」

 

ずいと近付き視線を逸らさせないよう詰め寄るモードレッド。

 

「オレ達サーヴァントは元々人間の都合の良いように作られた兵器だ。愛着を持ってくれる事は結構だが既に死人だ。これだけは分かってくれ」

「───もしも何て事は起こさねぇよ」

「もし起きたら?」

「起きないように頑張る。ゼッテー死なせない」

 

ジーッと睨み合う俺達だったがその緊張を解いたのはモードレッドだった。

 

「───あーバカらし!止めだ止め!ったく…こんなにも馬鹿な奴は初めて見たぜ」

「馬鹿って何だ!馬鹿って!」

「ハハハハハ!!!」

「──やれやれ」

 

少しだけ腹を抱えて笑うモードレッドだったが、突然笑うのを止め俺の頬に口付けした。

 

 

「オレは絶対生きて帰る。だから最後まで繋ぎ止めてくれよ…マスター」

 

俺はこの時、何時ものようにやれば勝てる…そう思い込んでいた。そう、この時までは………。




キャメロット編はかなり完成していますので手を加えるのが難しいですが、頑張ってみます。鬱が続きそう…


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円卓神聖領域 キャメロット
その剣は…


キャメロット編開始です。キアラ実装?メルト引くので手一杯だったよ(半ギレ)







──何故だ!何故押される!?

 

ロンの槍を構えた私は、我が身に付いた幾つもの切り傷…そして、それ以上にボロボロながらも膝を付く事無く剣を構える1人の男を倒す事が出来ずにいた。この神性を宿した槍で幾ら叩いても刺しても…死なない。それ以上の意志と覚悟でとうに刃毀れした剣を振るい私に次々と生傷を作り続けている。

 

──何故…何故死に恐怖しない!!!もう致命傷を幾らも与えているのに!──

 

 

震える膝…失禁する程に怯えた私は、今までの武勇など忘れてしまう程にその男の存在に恐怖した…。私は───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はッ!?」

 

目を覚ますとそこはいつも見る寝室の天井だった。眠い目を擦りながら私はベッドから降りて着替えを始めた。じっとりと濡れたパジャマをいつものように洗濯カゴに入れていつもの戦闘服に袖を通した。

今日はいつも以上に困難な任務だ。足手纏いになるつもりはない。

鈍剣を手に取り、天井の灯に照らす……鏡のように磨いた刀身に映る私はいつも以上に疲れた顔をしていた。

 

************************

 

 

 

 

 

「よし、全員集まったようだね。早速ブリーフィングを開始するよ」

 

俺達全員が集まった事でロマンが早速ホワイトボードに文字を書いた。

 

「今回の特異点はイスラエルだ。第九次十字軍が終了し、エルサレム王国が地上から姿を消した直後の時期に当たる」

 

追加で彼は「生存者」という文字も書いた。

 

「それと生存者についてなんだけど、僕が改めてコフィンを調べてみたら魂だけが偶然レイシフトした者が2名居た事が分かった。身体的には生存しているんだけど、魂だけが空っぽ…分かりやすく言えば脳死の状態だ。1人はまだ捜索中なんだけど…もう1人がイスラエルに居る。オマケに『1人で飛ばされたのに救難信号も出さずに調査している相当な頑固者』らしいんだ」

 

助けを呼ばすに1人でミッションを遂行してたのか!?なんか相当凄い奴だな。

 

「彼を探知出来たのはこの特異点を発見した時だ。勿論、今回のコレは明らかに異常だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを詳しく調査していた途中で偶然彼の魔力を探知出来たんだ。これは奇跡と言っていい。今回の任務では特異点の修復をしつつ生存者を救出して欲しい」

「分かった」

 

今でさえギリギリの状態だ。助けが必要である事は誰が見ても明らかだった。ここでその「偏屈」な野郎を仲間に出来れば心強い。今回はマシュも参戦するし俺が安全に任務を遂行出来る確率も上がっている。

 

「じゃあ、コフィンに入ってね。ここから先は未知の領域だ。何せ歴史が最も狂っている場所だからね」

「安心しろ。いざとなればオレが助けるぜ」

「今回は私も参加します!今度こそ先輩の力になります!」

 

マシュやモードレッドもそう言ってくれたし安心して行けそうだ。

コフィンに入った俺はレイシフトに備え緊張を解いた。

 

 

レイシフト開始───




今回はレイシフト開始までです。今回のキャメロット編ではアルトリアの過去を少し掘り下げていく予定です。


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救い

暇潰しに見てた「名探偵ポワロ」にハマり全巻借りました。探偵モノは良いですね








「はっ───!?」

 

気がつくと私・先輩・モードレッドさんの3人は荒廃した大地に倒れていました。モードレッドさんが先輩を庇ったようでしたが、装備が壊れており、あの聖剣までもが落下の衝撃に耐え切れず折れてしまっていました。

 

「先輩!モードレッドさん!起きてください!ここは──」

 

───野営中の敵陣のど真ん中

 

 

 

 

 

 

鉄の騎士総勢20。分厚い甲冑と幅広の長剣を手にした彼らの中央にはオールバックの黒騎士がこちらを見下ろしていた。

 

「───怪しげな男女を発見しました。如何しましょう」

「不穏因子は排除する。殺せ」

「はっ!」

 

「!!!!」

 

私は盾を構えつつ、モードレッドさんの折れたクラレントを向けて威嚇しました。無機質な騎士達が私達を囲い、槍の柄で大地を何度も叩く。恐怖を感じるその状況で私は………足が竦んでしまいました。まるで氷上のアザラシを弄ぶシャチのように嬲られる事は間違いない。

 

 

 

 

 

 

「────抜刀、突撃」

 

その時、横合いから何かが襲い掛かってきました。流暢な日本語…摺り足混じりの駆け足と共に3人の侍が斬り込んでいきます。

日本刀を手に次々と甲冑の騎士をバッサバッサと薙ぎ倒しながら私達の元に向かってきます。その迫力たるや…たった3人なのに阿修羅の如き気迫です!?

 

「助太刀に参った。2人を連れて離脱せよ。近くで同志が待っている」

「あ、ありがとうございます!」

 

私に声をかけた金髪の青年に礼を言うと、微笑みで応え戦場へと戻った。3人とも獅子奮迅の活躍を見せ、次々と騎士達を死体へと転職させていきます。圧倒的…ただただ圧倒的な制圧力を以て騎士の一団は黒騎士を残し壊滅してしまいました。

 

 

******************

 

 

「退くか、抗い縄にかかるか…好きな方を選べ」

「見逃す?」

「貴殿には我々の存在を伝えてもらう必要がある。見逃す手段もあるという事だ」

「恥を抱えてノコノコお家に帰るか、副長の“拷問祭り満開全席”を選ぶか……難しい選択ですねぇ〜」

 

3人に取り囲まれる中、黒騎士は止む無く答えを出した。

 

「引き上げよう。命さえあれば幾らでもチャンスは巡ってくる」

「前者を選ぶか。では副長」

 

3人の内の1人が副長と呼ばれた男に目配せすると、それに応えた男が素早く彼に詰め寄ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこちらが我らの愛用する羽織だ。これを着ていくがいい」

「くっ…!!!!殺さず帰した事を後悔するがいい!!」

 

黒騎士の身包みをスッポンポンになるまで剥ぎ、上半身に羽織を被せた。

 

「さぁ、帰って貴殿の王へ伝えるがいい!『我らは決して屈しぬ』とな!!!」

 

ハハハハハ!と爆笑する中、黒騎士は屈辱に顔を歪ませて逃げ果せた。

 

「さて、帰るぞ。例の客人をもてなすとしよう」

 

その背中を見送った後、3人は戦場から消えたのであった………。




荒れ果てた地に現れたのは3人の武士であった。彼らの正体とは…そして黒騎士は明日はどうなる!?


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客人

今回は助けに来た3人の正体公開をする話にします。が…FGOプレイヤーにはもうバレちゃってますね(笑)






「ここは……」

 

気がつくと俺は土で出来た住宅の中で寝ていた。ベッドとして敷かれていたのは柔らかそうな藁。そして、空気中にはグツグツと何かが煮える音と共にいい匂いが広がっていた。半身を起こそうとすると、全身をズキズキとした鈍い痛みが走り体調は著しく悪かった。

 

「良かった。目が覚めたようですね!」

 

何かを煮ていた人物はこちらに振り向くと笑顔を見せた。桜色の着物の上にエプロンを纏った少女は出来上がった物を皿に盛り付けて運んで来た。

 

「はい!こちらはマスターからのリクエストで『ご飯・味噌汁・大根と鶏肉の醤油煮込み』となっております。お口に合うかは分かりませんが……あ、卵も採れましたので宜しければどうぞ」

「マスター…?」

 

彼女が運んで来た物は美味しそうな煮物が目立つ和食だ。味噌汁は山菜を中心としており、苦肉の策とも見える。米も無く大麦を炊いて代用しているようだが、いい匂いを漂わせている。

 

「ところでお前は誰だ?」

「まぁまぁ、もう少ししたらマスターが来ますのでゆっくり食べながらお待ちください」

 

そう言い残し彼女は立て掛けていた日本刀を腰に提げ歩き去った。どうやら俺はもう1人の生存者とやらに拾われたらしい。情けない…助けに行こうとしたら逆に助けられるとは…あ、この煮物うめぇ。後で作り方聞こう。

そう思いながら卵かけ御飯を作り食べていると、あまり聞き慣れない足音が聞こえた。摺り足って奴か…?

 

 

 

「目覚めたようだな。人理継続保障機関の戦士よ」

「なっ!?」

 

そこに現れたのは、黒のメッシュが入った金髪の青年だった。全身を羽織袴で覆い腰には日本刀を提げた「乙女ゲームのイケメン武士」を体現したような容姿を持っている。目付きは鋭く、相当な死線を潜り抜けて来たのだろう…洗練された雰囲気を醸し出している。そして、1番気になるのは……羽織の色。

 

「その浅葱色のダンダラ羽織ってまさか…」

「自己紹介といこう。拙者、薩摩 隆志(さつま たかし)と申す。新たに興した新撰組の局長にして、かつて人理継続保障機関の候補生だった者だ」

「新撰組ィ!?」

 

まさかの新撰組のコスプレイヤーだった!?

 

「次に部下を紹介しよう」

 

外に目配せすると間もなく先程の少女と長身の青年が現れた。

 

「私はクラス《アサシン》の『沖田総司』。新撰組一の剣豪とも呼ばれております」

「クラス《バーサーカー》、新撰組副長『土方歳三』だ。3人しかいない新撰組の参謀を務めている」

 

マジかよ。沖田って女だったのか……まぁ、円卓もとい卓袱台の騎士団も2人程女体化してるしなぁ…。

 

「まず現状を知らせよう。沖田、例の地図を」

「はい」

 

3人は俺の向かいで胡座(沖田は正座)で座ると、地図を広げた。

 

「これがざっくりとした現状だ。東の平地には現在…人参が陣取り、西には『埃及』の王が陣取っている。現在位置である北には我々新撰組の他に回教の者が集落を築いている」

「???」

 

すまん、縦文字が多過ぎて分からないんだが………。

 

「すみません。私が翻訳しますね。えーっと…東には獅子王と呼ばれる白人がキャメロットという城を築いており、西には『何故か突然現れたエジプト』とその王オジマンディアスが座しています。北にはイスラム教徒の人間が集落を作っており、我々もここに所属しています。本当にすみません…マスターったら横文字が苦手で使いたがらないんです」

「獅子王!?」

 

 

どういうことだ…獅子王って事はあのアルトリアが城を築いたって事か!?でも何のために…?

 

「それだけでは無い。あの白亜の城に居る獅子王と騎士達は聖抜と称し集めた人間から優良種のみを選別し、残りを聖罰と称し惨殺している」

「なっ───」

 

どういう事だ…モードレッドが…アルトリアが……ガウェインが…虐殺を…?

 

「信用されないと思いますので、こちらで映像記録を撮りました。マスターが使いたがりませんのでこの沖田さんが撮影しました。どうぞ!」

 

ビデオカメラを開け、その様子を見させてもらった。正直……途中で見るのを止めてしまった。直視出来ない…選民主義に染まりきったアルトリアの冷徹な顔…平気で一般人に手を掛けるガウェインの姿を…。

 

「よく生きて帰れたな」

「気配遮断を使わなければ死んでいましたよ。あははは…」

「その中にはトリスタンやモードレッドも居た。回教の人間を次々と手に掛けていたぞ」

「嘘……だろ…」

 

どうしたんだ…何で……そんな事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ!勝手に話進めんなバーカ!!!」

「モードレッド!?」

 

その時、大声が聞こえ俺のよく知るモードレッドが現れた。ただし、その姿は痛々しいものだった。現代装備が壊れ、肌身離さず持っている筈のクラレントは中程からへし折れている。あちこちに傷を付けているようだし…相当酷い事があったようだ。

 

「ん?この女子はお主の英霊であったか」

「女子じゃねぇ!モードレッドだ!っていうか、歳あんま変わんねぇだろうが!?」

「これは失敬、モードレッドとやら。しかし、その名はこの土地ではくれぐれも使わぬように。この回教の民は円卓の騎士を恨んでいる」

「マジか。じゃあ偽名考えとこうっと…」

 

良かった。モードレッドは悪い事をしていない。だが…他の皆はどうなんだ…?

 

「先輩、申し訳ありません。転送先を何者かによって意図的に操作されていたようで……」

 

遅れてマシュもやって来た。盾のおかげでダメージはしっかり軽減されているようだった。

 

「マシュ、お前ならどういう状況だったか分かっている筈だ。教えてくれ。転送直後に何があった…」

「はい、実は───」

 

(中略)

 

 

「いや、強過ぎだろ…」

 

たった3人で騎士団を一掃するとか反則レベルだ。っていうか!?このマスターまで日本刀で戦って分厚い甲冑の騎士を倒しまくったっていうのか…?道理で只ならない雰囲気が出ている訳だ。

 

「少数精鋭こそ劣勢の際には有効打となり得る。敵陣に飛び込み中心で暴れていれば援護を行いにくくなる。誤って斬る・誤射するといった危険性があるからな。乱戦の鉄則だ」

 

土方さんのありがたい解説を聞き、彼らの強さの秘密を理解した。モードレッドがやっている戦法を彼等は日常的に組み込んでいるのだ。

 

「まぁ、新撰組のメンバーが揃っていたら1人につき2、3人でリンチにするのが定番なんですがね…」

「流石新撰組、やる事がえげつない」

「薩摩さんの助けが無ければ今頃死んでいました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

 

もう1人のマスター…薩摩は俺の方を向いた。これからはこいつの傘下に入って戦うのか…カルデアの管理とかもやるのだろうな。

 

「マシュからは聞いている。藤丸立香…人数合わせで入った一般人とは聞いているが拙者はそうは思わない。5つもの特異点を制した実績は充分以上の評価に値する」

「止めろ!照れるだろうが…」

「我ら新撰組は藤丸殿の駒として戦おう。何なりを命令を」

「はいはい分か……は?」

 

あの…明らかに上のランクのマスターが俺の下に仕えるってどういう事ですかね………。




という事で第2のマスター、新撰組臨時局長こと『薩摩 隆志』でした。今回は沖田が最も活躍出来るアサシンクラスで現界しています。
「現場のリーダーには適しているが全てを総括出来る器ではない」という設定で、身体強化以外の魔術を一切覚えておらず、魔力をサーヴァントの供給と「身体及び振るう日本刀の強化」に全振りしています。そして横文字が苦手…(人の名前は流石に話せる)。


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邂逅

少し視点が変わります。
バラバラにレイシフトした為、それぞれの視点でストーリーが進みます。





「なるほど、先祖が新撰組だったのか」

「いかにも、拙者は先祖代々守り続けていた局中法度を継ぐ者。人理継続保障機関に所属していた時も忠実に守ってきた。そして、家宝であり壬生浪士の魂であるダンダラ羽織を触媒として新撰組の英霊を呼び出す事に成功している」

 

薩摩は話す言葉が難解なものの、気苦労や彼なりの配慮が分かる。ただ…ムスリムの村に新撰組の屯所を建てるのはどうかと思う。何人かにもダンダラ羽織を渡してるし。

 

「では、手筈通りこれから新撰組は西の村を巡回する。藤丸殿はこの村に侵入者が来ないよう注意深く監視するように。襲われた場合は無理をせず現地の人に光通信をさせておくといい」

「分かった。気を付けてな」

 

新撰組のメンバーが立ち上がると同じ足並みで西の村に向けて歩いて行った。彼から聞いたのだが、本来の新撰組は旗を掲げ集団でパトロールする、といった事はやらず、「人斬り」よりも「捕縛」を中心にして活動していたのだと言う。ただ、池田屋の件は「新撰組の数<敵の数」であった為、止むを得ず斬った事が万人に広まり人斬りの組織と勘違いされたんだとか。

 

「モードレッド、傷はどうだ?」

「まだ動けそうにない…すまねぇ」

 

モードレッドは咄嗟の判断とはいえ1番近くにいた俺を守って墜落した。おかげで聖剣は折れ、ブースターは壊れてしまった。モードレッドは戦力に数えるのは厳しい…。

 

「こういう時にこそ私が居ますよ!先輩!」

「黙って監視してろ」

「酷いッ!?」

 

双眼鏡を手に周囲を観察しているが、肝心の入り口が砂嵐で見えない。こりゃ下手すると侵入されるまで分からんな。

 

「ロマンとの通信が頼りなんだが全然通じない。下手に動く訳にはいかねぇだろ」

「分かってる、けどよ…父上は一体何をやってんだよ」

 

落ち込んでいるのは俺だけではないらしい。モードレッドも相当落ち込んでいる。愛用する聖剣が折れた事が堪えているようだ。

 

「でも気になる事があるんだ」

「気になる事ォ?」

 

 

 

「この世界ではロンドンの時と同じようにモードレッドが2人居る」

「!!!」

「だから獅子王と言っている奴はアルトリアではないのかもしれない」

「かもしない……か」

 

今は通信が繋がるまでに待とう。そう決めて俺達は皆の無事を祈って監視を続けた。今は希望を待つしかない…。

 

 

**********************

 

「くっ……」

 

私は走っていた。壊れたロンの槍を腰に提げた私は鈍剣を手に追っ手から逃れていた。ブースター一式も無茶な着地の所為で壊れておりマトモに機能していない。

 

「私は…まだ……!」

 

追っ手の鎧騎士3人に囲まれた私は腹を括り、剣を構え鞘を盾にゆっくりと威嚇しながら歩く。

 

「覚悟せよ。獅子王の紛い物」

「……!」

 

一気に踏み込んで来た鎧騎士の一撃をギリギリで避けた後、鈍剣の柄頭で顔面を殴りつけた。怯んだ隙を見逃さず、私は走った。ダメだ…私では勝てない…。

 

「…!?」

 

鈍い衝撃。同時に冷たい感触。腹からは矢尻が突き出ていた。

 

「ぐっ…まだ居たのか」

 

4人の鎧騎士に囲まれた私は、疲労と痛みに耐え切れずに膝をついた。首筋には幅広の剣が押し当てられる。

 

「───覚悟」

 

全てを諦めた私は目を閉じ……しかし、その剣は私の首を斬る事なく苔だらけの土の上に落ちた。

 

 

 

 

「───一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド――アガートラム)

 

顔を上げると…そこには銀髪に銀の腕を持つ男が立っていた。騎士達は皆倒れている…。痛みで軋む体を起こすように鈍剣を杖に立ち上がると私は彼の顔をじっと見た。端正な顔立ちだ。何処かで見たような……

 

「ありがとう、私は───旅人の『ワート』だ」

「──」

「名は何と言う?」

「──やはり、そうでしたか」

 

咄嗟に思い出した偽りの名を聞いた彼は勝手に納得すると、手に持つ剣を鞘に収めた。アルトリア・ペンドラゴンではマズイ…無意識にそう警戒してしまったのだ。

 

「私は………ルキウスと申します」

「ではルキウス…すまないが今の私は手負いだ。何処かで休める所は無いだろうか?」

「──幸い近くに泉があります。そちらで傷を癒しましょう。珍しい清い湧き水です」

 

彼に肩を担がれた私は、何処か懐かしい感覚を覚え………彼に身を預けた。




以上、ルキウス登場回です。アルトリアが彼を認識出来なかった理由は原作通りです。


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奇襲

今回は日常回と見せかけてシリアスパートです。


東の村

 

 

「今日は暫し休息を取るとしよう」

 

新撰組が帰還して来た事で俺達は漸く安心出来た。大麦のご飯が上手く炊けたし、今日は面白い料理に挑戦して成功した。早速食べてもらうとしよう。

 

「おや、これは何でしょう?」

「ジンギスカンを作ってみたんだ。流石に羊肉を調達する余裕が無かったから…その……」

「飛んでるワイバーンを狩りまくって加工した肉を使ったんだ。味は保証するぜ!」

 

今回はジンギスカンを作ってみた。まぁ、肉はワイバーンだが…焼き方はジンギスカンだ。ひよこ豆をモヤシに加工して下に敷いて蒸し焼きにする。タレも特製(製法は秘密)で作った物で、ワイバーン肉の臭みを取ったり肉に味を染み込ませることに使った。

 

「では戴くとしよう。折角だ。村の人にも振る舞おう」

「皿と椀を持ってくるように言ってくれ!」

「承知!」

 

村の人にも分けると言った薩摩は上機嫌で出て行った。取り敢えず、焼いた肉を配分してタレも少し入れて…モヤシも入れておく。炊いた麦飯も添えて…っと。

 

「じゃあ先発はこの沖田s─いたっ!?」

「阿呆、局長が先だろうが」

「はーい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、美味であった。料理好きの名は伊達ではなかったようだな」

「よかった。村の皆も満足してくれたみたいだな」

 

残ったタレを大麦とワイバーン肉の残りで炊いた炊き込み飯も好評だった。子供達も腹いっぱい食ってくれたようだし。

 

「よぉ、いい匂いして来たから戻って来たらスゲェ美味そうなの食ってんじゃないか!」

 

と言って戻って来たサーヴァント「アーラシュ」も炊き込み飯をあっという間に掻き込んでしまった。やっぱ飯を食うと元気になれる。

 

「先輩!お代わりありますか?」

「すまん、アーラシュが完食しちまった」

「酷いッ!?私一口しか食べてないのに!!!」

「あ、あったわ。モヤシ」

「」

 

 

***************************

 

次の日…

 

俺達は新撰組の臨時の屯所で作戦会議を始める事になった。結局のところカルデアからの通信を一度足りとも傍受する事が出来ず、止むを得ず「現行戦力で予備知識が無いままに戦う」事を決意した。特異点を修復するまでに発見されないのなら死んでしまうが、事態が事態だ。もう待つ事は出来ない。

 

「作戦なんだが、新撰組の努力によってエジプトの王オジマンディアスとある程度信頼関係を築けたのは大きい。彼に応援を要請して部隊を借り、そのまま一気に城へ向かう。キャメロットが頑丈且つ高い壁で囲まれている以上、これしか打開策は無い」

「オジマンディアスさんはアーラシュのファンだって小耳に挟んだこの沖田さんのお手柄ですよぉ〜いたっ!?」

「調子に乗るな沖田。話の途中だ。まぁ、こいつの言う通り、アーラシュを使って同盟要請をしたのが大きい。現在、百貌に要請し決起の時が決まり次第、即報告しに行く事になっている」

 

取り敢えず、俺達が決めるのは決起の時と確かな勝算だ。ギリギリまでその点は考えていこ───

 

 

 

「敵襲だ!敵襲!!!」

 

運命の時は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「事前に用意した岩を有りっ丈転がせ。何人かは轢き殺せる上に重装騎士には突破しにくい壁となる。接近されたら避ける事に専念しろ。大振りの隙を狙って突く武器でダメージくらいは与えられる。1人の敵には複数で相手をしろ。勝てないなら数で倒せ」

 

薩摩の冷酷にして淡々とした指示により、敵の騎士団は大きく足止めを食らっていた。モードレッドも怪我を押して出動しており、撃ち漏らした敵を闇討ちで倒していた。

 

「一気に本丸を潰す魂胆か…コンチクショウ!!!」

「モードレッドさん!先行し過ぎです!一度下がって下さい!」

 

よろけたモードレッドをマシュがカバーし、宝具で防御陣を展開する。引き上げてきたモードレッドを受け止めた俺は、西の村の様子を一瞥した。沖田・土方・アーラシュ・呪腕・静謐が出動しており、遠くから見た感じでは何とか食い止めているようだ。いや、終わったようだ。

 

「よし、呪腕達が戻って来た!押し返す───」

 

その時、俺の前に1人の剣士が現れた。誰が見間違えようか…その正体はガウェインだった。

 

「ガウェイン!よかった!生きていたんだな!心配したんだ──」

 

 

 

 

 

 

だが、近付こうとした時…ガウェインの聖剣は俺の首に向けられていた。




再び俺の前に現れたガウェイン。だが、仲間だった筈の彼は俺に剣を向ける。何があったのか分からぬまま真夜中の夜明けは唐突に訪れる。次回、「不夜」。


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不夜

キャメロット編では第12節に当たる回です。






「私の主君は獅子王のみ。その命に従い、貴方の命を奪う」

「なにを───ガッ!?」

 

動揺した一瞬の隙を逃さず蹴り飛ばされた俺は、体勢を立て直す前にギロチンのようにガラティーンの刀身を首に押し当てられた。ガウェインの顔は蝋人形のように無機質な表情で固まっている。

 

「そうですね、楽に殺してあげましょう。それがかつて仕えた主人への最後の忠義です」

「やめ…ろ…どうし…た…?」

 

凄まじい力でガウェインは刀身を下へ押し込む。俺は必死にその腕を押し返そうともがいた。首に血が流れる。腕が軋む…。

 

「やめろぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

それに気付いたモードレッドが体当たりを仕掛けギロチンは薄皮を斬るのみで済んだ。出血を布で押さえた俺は、モードレッドとガウェインの打ち合いを一瞥して避難者の救助に当たる。

 

「正気に戻りやがれ!!!」

「折れた聖剣が何になるというのです!」

 

リーチの短いクラレントで距離を詰め全力で連撃を浴びせ続ける。モードレッドお得意の突貫戦法。だが、ガウェインはその全てを軽々といなしていた。

 

「無駄です。私のギフトは『不夜』。永遠に太陽が私を照らす」

「なっ!?」

 

ガラティーンによる死の一閃がモードレッドを掠める。慌てて距離を取る彼女に今度はガウェインが攻める。モードレッドと同じ戦法。次々と彼女の体に裂傷や切り傷を作る。

 

「さぁ、どうしたのですか?叛逆の騎士モードレッド!」

「チッ…煽ったって無駄だぜ。だってな!」

 

その連撃のほんの一瞬、モードレッドがガウェインの聖剣とのインパクトの瞬間、その流れを微妙にずらした。刀身がその脇腹を撫でるように切り裂く。

 

「!?」

「操られているだけのテメェに負けるかよ」

 

そのまま切り抜けたモードレッドはそう告げた。

脇腹を切り抜けたその一撃。ただ一撃だけで彼女には充分だった。

 

「たとえ不夜で無敵になっていようが一度聖者の数字を破ってしまえば無効になるんだよ」

「見事です、モードレッド。ですが…」

 

その時、モードレッドは殺気に気付きそれを避けた。右腕に掠り傷を負わせたそれは音の矢。

 

「トリまで洗脳しやがったなアノヤロウ…!」

「モードレッド!一度退がれ!」

 

俺はモードレッドに撤退を命じた。これは無理だ。ガウェインですらヤバイ相手なのにトリスタンまで敵に回るとなるともう無理ゲーだ!

 

「クソッ!どいつもこいつも敵ばっかだ!敵ばっか…」

 

退却するモードレッドの顔は半泣きになっていた。退いた事が理由ではない、大事な友を洗脳されて奪われた事が堪えたのだ。

 

「モードレッド…」

「感傷すんな!ここは戦場だ!誰が相手だろうがぶっ殺す!それが戦いなんだよ!!!」

 

一番取り乱していたのはモードレッドだった。クラレントを投擲して騎士の1人を倒した後、そのハルバードを奪って振り回し戦う。だが、嘲笑うようにトリスタンの矢がモードレッドの武器を壊す。

 

「クソッ…クソッ!!!」

 

ガウェインが追ってくる。死体の腹に刺さっているクラレントを引き抜き、ガラティーンを受け止める。すぐに振り払い、音の矢を回避する。息が上がっているのが分かる。だが、俺は円卓の騎士にタイマンを張れる程の力は無い…出来る事は魔力を回す事だけ……。

 

「そろそろ終わりにしましょう」

 

モードレッドのクラレントが宙を舞い、地面に刺さった。

 

「っ…!」

 

そして首筋にガラティーンが押し当てられる。助けに行こうにもトリスタンが真っ直ぐ俺を見ている。

 

 

 

 

詰んだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────まだ諦めるのは早いぞ。藤丸殿」

「!」

 

その時、凄まじい速度で薩摩がトリスタン目掛けて斬りかかった。音の矢を番え一斉射撃に移ろうとした直後、フェイルノートに銃弾が刺さった。

 

「──っ!」

「局長はやらせん。そして死ね!」

 

援護に戻って来た土方の狙撃がトリスタンからフェイルノートを叩き落とす。そのまま続けて放った銃弾で自分の武器を遠くに飛ばされたトリスタンはそのまま薩摩の接近を許した。

 

「──斬り捨て…」

「止めてくれ!そいつは俺のサーヴァントだ!」

「何──」

 

俺は咄嗟にそう叫んでしまった。それが薩摩の動きを鈍らせた。

 

「甘いですね。」

「っ!?」

 

その隙を見逃さなかったトリスタンがナイフを投擲し、それが薩摩の腹に刺さった。サラシが赤く染まり、薩摩は膝をついた。

 

「ぐっ…!?」

「戦場で迷いは禁物ですよ?さて、死んでもらいましょうか」

 

トリスタンは腰からもう一本のナイフを抜いた。

 

「止めろ!お前らしくないぞ!トリスタン!!!どうしたんだよ……皆おかしいぞ!!!」

 

俺は必死に叫んだ。だが、ガウェインもトリスタンも…表情を変える事はない。

 

「局長!くっ!?邪魔だ!死ねッ!!!」

 

援護に行こうとする土方に騎士の軍勢が襲い掛かり行く手を阻む。とてもではないが間に合いそうに無い。

 

「───では、辞世の句をどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「……『動かねば 闇にへだつや 花と水』」

 

 

 

 

「?………ッ!?」

 

次の瞬間、トリスタンの胴に3つの穴が開いた。切り抜けるのは新撰組の沖田。

 

「───無明三段突きッ!!!」

 

飛び散る血飛沫。心臓と動脈二箇所を的確に穿たれたトリスタンは逆に大量の血を噴き出して膝をついた。間違いない…沖田のスキル「縮地」の効果だ。西の村からここまで距離を詰めるとかデタラメ過ぎだろ…。

 

「注意力散漫とは感心しないな。円卓の騎士よ」

「私とした事が……やはり臆病になれなかった事が敗因のようですね」

 

腹に刺さったナイフを抜いた薩摩は片手で止血をしつつ日本刀を向けた。沖田も既に支援の為に移動した後で、次々と雑魚の殲滅を開始していた。形勢逆転…だが、俺にとっては最悪のシナリオであった。サーヴァントを喪うという展開…。

 

「トリスタン卿!!!」

「隙あり!!!」

 

トリスタンに目を向けた隙を狙い、モードレッドが股間に蹴りを入れた。怯んだガウェインからガラティーンを奪うと一気に斬り込む。

 

「もう容赦はしねぇ…同胞として天国に送ってやるよ!」

「っ!」

 

ガウェインも短剣で応戦するが、聖剣を奪われた為に完全に押されている。次々に体に傷を作り、たたらを踏む様子を見ながら遠慮無く剣撃を放つ。だが、それをガウェインが受け止めた時……異常事態に気付いた。

 

 

 

「なっ…なんだ!?」

「これは…!」

「………まさか」

 

 

 

 

上空を見上げると、そこには巨大な星が瞬いていた。

 

************************

 

「避難を急がせろ!!!」

「チッ…あと1歩で仕留められたのに!」

 

モードレッドは舌打ちし、俺は住民を洞窟に避難させながら上空を見た。因みに、ガウェインは聖剣を奪い返すと瀕死のトリスタンを回収して撤退してくれた。アーラシュの報告で『あの様子ではあと10分で到達する』というマズイ情報を得た。避難をさせている間、俺は薩摩に頭を下げた。何故殺したとは責められなかった。俺のせいで死にかけたのだから。

 

「悪い!俺のせいで…」

「藤丸殿、そう己を責めるな。貴殿は情の深い男だ。拙者が同じ立場でもそう言ったに違いない」

「でもよ…」

「戦いとは常に移り変わるもの…貴殿は割り切る勇気を伸ばすべきだ。拙者が与える責め苦はこれだけだ。拙者も敵とはいえ貴殿の同胞を斬ってしまったからな」

 

薩摩はそれだけ言うと住民の避難を急がせた。しかし、トリスタンは…瀕死の状態だ。俺が…そうさせてしまったのだ…。

 

「(ごめんな…トリスタン……)」

 

心の中で俺は大切なサーヴァントに詫びを入れた。直後、マシュからトリスタンの霊基消滅が告げられた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「住民の避難は済んだ。だが、絶対安全という保証は無い」

 

洞窟に避難した薩摩はそう言った。確かにそうだ。破壊の光ならばここに逃げるのはただの気休めだ。だが、他にどうする…?

 

「なら、オレの宝具で──」

「モードレッドの宝具で相殺できるものではないだろう。剣が万全でないなら尚更だ」

「いや、1人いる」

 

俺は避難を断ったサーヴァントが居る事を知っていた。俺達が来るずっと前から山の民を守っていたサーヴァント、アーチャーのアーラシュだ。

 

「すまない…俺の所為で……」

「しっかりしろ!マスター!戦いに出た時点で覚悟はしていたんだ!だから…泣くなよぉ……」

 

気がつくと俺とモードレッドは泣いていた。その日の真夜中は昼間のように明るかった………。




というわけでトリスタン死亡回でした。
薩摩は敵に回った同胞を躊躇せず斬るキャラですが、司令官と決めたぐだ男の言葉に従って止まった事が負傷の原因となっています。今回のぐだ男のキャラは賛否両論多いと思いますが、「自分がこの状況になったら?」という事を考えてこのシナリオを書いてみました。


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血統

今回はやや端折りまして…






「ここがアトラス院…」

「急ぐぞ。オレ達が此処に居られるのはエジプト軍の増援が集合するまでだ」

「守りはおまかせを!先輩!」

 

アトラス院と呼ばれている廃墟にやって来た俺達は急ぎ足でダンジョンを走っていた。到着を考えれば20分しか居られない。新撰組はハサン達ととある神殿へと向かった。曰く、「眠れる獅子を起こす」そうだが、それが何かは分からない。

 

「どうやらオレ達はバイキンらしい!」

「叩き潰せ!轢き殺せ!こんなところで道草食ってる暇なんてねぇんだ!!!」

 

俺も自衛用に装備した槍を向けまっすぐに走る。敵のビーム攻撃に臆する事無くマシュを盾に突撃する。追撃の無いよう彼女が押し除けた敵の急所を一撃で潰し、或いは斬って進路をこじ開ける。

 

「ところでよぉモードレッド!」

「なんだ!」

 

槍を振り回しながら走る俺はモードレッドに考えていた事を尋ねた。

 

「ガウェインと戦っていた時に操られてるって言ったよな?どういう意味だ?」

「いつも稽古でやっていた剣技が鈍っていたんだ!まるでこっちを攻撃したくないとでも言いたげな感じでな!」

「ならどうやって助ければいい?」

「それが分かんねぇからここに来てるんだがなぁ!」

 

「先輩!突破まであと10秒です!速度を緩めないでください!!!」

 

俺達は無茶をしながらも遂にアトラス院の核へと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがアトラス院の中央部か…!」

「先輩!これって………」

 

到着した俺達を待っていたのはカルデアと似た風景の近未来施設であった。本来ならばアトラス院の演算システムはアクセス権が無ければ使えないのだが、土方が部屋の中に残してくれたというアクセス用のパスワードを無事発見し、早速システムを起動させる。

 

「システム、教えてくれ!獅子王は円卓の騎士に何をしたんだ!解く方法はあるのか!!!」

 

そう叫ぶと、システムは5秒で解答した。

 

「『神霊の能力によって配下に服従の防止と共に凄まじいスキルを備える“ギフト”を与えた。解く手段は獅子王を倒すのみ』だぁ?…ふざけんな!それじゃ殺すのは不可避の選択肢だってのか!?」

 

俺は怒りで壁を殴りつけた。ただでさえ余裕が無いのに円卓の騎士を無力化しながら獅子王だけを倒すなんて無茶だ。

 

「円卓の騎士モードレッドだ。簡単な話だが応えてくれ!父上についての話だ…」

「モードレッド?」

「獅子王の目的は何だ!オレのポンコツ父上とは全然違う。根本的なところでだ!教えてくれ…奴の目的は!!!」

 

演算システムの解答時間は10秒。

 

「なっ─────」

 

そこには信じられない答えが書いてあった。要約すれば、『聖剣が返還されなくて死なないままイスラエルに流れ着いたら“ロンの槍で世界を守ればいいんじゃね、まぁ人類は標本にするけどな”という発想で今のキャメロットを作り出した』らしい。正直、頭がイタイ子としか思えないのは俺だけなのか……。

続けてマシュも堪えきれずに尋ねる。

 

「私の中にいる人は誰なんですか!?」

「え?それって頑張って探し出すとか言ってたような──」

「うるさいです先輩!もうただの盾役は止めです!これからは守れて攻めれるサーヴァントになるんです!気分はエースで四番!その為に形振り構ってなんかいられません!!!」

 

演算システムは1秒で解答してくれた。

 

「『円卓の騎士ギャラハッド』…ですか。なるほど、それが私の本来の真名…!」

「ポ◯モンの貴重な育成を飴で誤魔化す小坊みてぇな事すんなや」

「酷いッ!?体裁とか努力するヒロインの立場とかかなぐり捨てて真名を手にしたのにこの仕打ち!?」

 

うん、真名解放した瞬間に装備が変わったみたいだが中身は変わっていないようだな。

 

「よし、帰るぞお前ら!」

「応ッ!」

「ま、待ってくださいよ〜!」

 

 

********************

 

「で、外に出たら円卓の騎士が待っていましたと」

「その通りだ。観念してもらおうか、異国の者よ」

 

目の前に居るのは円卓の騎士。それも多分姿は違えどオルレアンで交戦したのと同じ個体だ。つまり──

 

「ランスロット…!」

「モードレッド卿の紛い物も居るようだな。貴様らごと王の手土産とするか」

「テメェ、獅子王の目的を知っていて従ってんのか?アァ?」

 

モードレッドは折れたクラレントを手に精一杯強がった。実際、分が悪い事は彼女が1番自覚していたからだ。

 

「───今の私が仕えるのは獅子王のみ。たとえ間違えていようと最早──」

 

が、それに対し怒りを爆発させた者がいた。

 

「た────あっっっっっ!お──こ──り―─ま―─し―─た―─っ!!!!完全に怒り心頭です! 私の中にはもういませんが、

きっと彼もそうだと思います!ですので、代弁させていただきます!

サー・ランスロット! いい加減にしてください!」

 

マシュだった。いきなり突貫するとランスロットにタックルをぶちかました。その隙を見逃さず俺とモードレッドも武器を手に襲い掛かる。もう格の差とかそんなもの、俺の頭ん中で沸騰する怒りの前ではどうでもよかった。

 

「死ねやオラァッ!」

 

だが、気迫に押されてタジタジになる騎士団と俺達に攻撃を止めさせたのはランスロットだった。決闘で決着を付けようというのだろうか?まぁ、その彼も全力で叩きつけた聖剣アロンダイトを正直で受け止めたマシュに驚いていた。

 

「私のアロンダイトを真っ向から受け止める……?いや、この盾、この気配……君は、まさか……!?待て。待つんだ。待ちなさい!親を親とも思わない口ぶり、片目を隠す髪……君は、もしや!?」

「真に仕える騎士なら…いいえ!勝手に絶望して勝手に狂うぐらいなら…部下らしく上司止めろやオラァッ!!!」

 

いつになく口汚くなって猛攻を仕掛けるマシュの攻撃が遂にランスロットの肩に直撃。肺の空気が抜ける程の衝撃を受けた彼は膝をついた。

 

「……この、肉体より骨格に響く重撃は、まさに……………………いや。君の言う通りだ、マシュ。円卓の騎士と戦い破れたのだ。もはや私は王の騎士を名乗れまい。私の愚かさが晴れた訳ではないが、君たちと戦う理由は私にはなくなった。」

 

その10秒後にエジプト軍がやって来た。一瞬、戦闘モードに入った彼等を説得して、連合軍は一度ランスロット軍と共に彼のキャンプ地へ向かい、物資補給と休息を行ってから合流する事となった。予想外の増援に俺は少しだけ勝つ可能性が上がったと感じた………。




今回はマシュ覚醒(無理矢理感)とランスロット軍参加回です。次回は少し視点変更をしようと思います。そして、そう言えば居ないあの人が登場します。


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偽歌

今回は閑話休題混じりの話です。







「朗報だ、ルキウス。カルデアの戦士達が総力戦を始める。我々もこれに便乗して一気に城へ乗り込もう!」

「えぇ、またとない機会です。傭兵の中に混ざればバレずに行けるでしょう」

 

私は行商人の市場で聞き込みをしながら食糧を調達していた。その為に売れそうな物は全て売った。金のティアラ・金のイヤーカフス・乗馬用の籠手…必要の無い物は持っても意味がない。

 

「折れた聖槍と鈍剣…それと購入したボウガン…鉤縄…これだけあれば充分…えぇ、充分ですとも」

 

もう私はアルトリア・ペンドラゴンでも円卓の騎士を統べる王でもない…私は無銘の兵士だ。精々モブキャラらしく戦ってみせるさ。

 

************************

 

「ここが傭兵用の兵舎か」

 

長旅を続け漸くランスロット派の兵士達が集う兵舎に入った私は、目深に被ったフードで顔を隠し、受付嬢の前に立った。

 

「はい。傭兵をご希望の方ですか?」

「あぁ、ワートとルキウスだ。よろしく頼むぞ」

「よろしく」

 

兵舎に入ると、すぐ見える特設集会所で三者三様の人間達がテーブルでジョッキを交わしていた。それを無視して私とルキウスは踵を返して他の施設を回る。そして、医務室を覗くと…意外な人物に再会した。

 

「ナイチ──」

「おや、酷い面ですがア──」

「今はワートです。そういう事にしてください」

「結構です。名前は大事ではありませんので…」

 

その人物…カルデアのバーサーカーことナイチンゲールは、私を一目で看破し椅子に座るよう手招きする。

 

「少し治療しましょう。どうぞお隣さんも」

「いえ…私は──」

「いえ、貴方にも治療が必要です。主に肉体への疲労及び損傷が激しいようですね。すぐにベッドに身を横たえなさい。」

「結構です私は──」

 

ズドンという轟音が響いた。ナイチンゲールの手にはいつの間にかペッパーボックスピストルが握られている。

 

「この銃と治療どちらが大切ですか?文句は一切受け付けません」

「」

 

懐かしい。カルデアでよくある風景に私はクスッと笑ってしまった。それにルキウスは驚いた顔をした。が、意外にも大人しくベッドに座った。

 

「では、少々傷を窺いましょう。衣服を脱いでください」

 

淡々と指示を出し、ルキウスの肌をジッと見つめ、幾つかの器具や試験紙、或いは触診を行いながら時折首を傾げ、紙に記録を残す。そして、データとルキウスの顔を交互に見ながら診断結果を下した。

 

「正直、動いているのが不思議な状態です。幻術か何かで五感を弄って誤魔化しているようですが、肉体の損傷と腐敗…特に義手の根元から右胸に掛けて炭化が激しい…貴方何者ですか?人間の肉体の限界をとうに越えて活動しているなんて科学的には立証されていない事例です」

「なっ…」

「流石、カルデアの誇る医術師だ。隠しようがありませんね……では話しましょう。私の秘密を…」

 

 

 

 

 

 

事実を知った時、土の上に拳を1発叩きつけていた。信じられないという思いと彼の抱える苦しみとその決意の深さ…それらに私は絶望した。そこまでの決意を抱えて生きているのだとしたら彼は…。

 

「泣かないで下さい。異界に住まう我が王よ…」

「……バレていましたか」

「貴女は嘘が下手だ。嘘を吐いてもすぐにバレてしまいます。第一…顔が同じな時点で説得力がゼロですし、偽名も貴女の幼少の名でしょう?」

「うぐ…」

 

悪戯っぽくそう述べたルキウスは悲しいやら恥ずかしいやらで混乱する私を立たせてくれた。ナイチンゲールも引き止めはせずにデータをファイルに閉まった。

 

「医師としての見解は、『貴方を戦わせる訳にはいきません』。しかし、それが生きる為の唯一の楔であれば止めません。『目的とは如何なる時でも最も縋れる神なのです』から」

「!……ありがとうございます。ミス・ナイチンゲール」

「もし生きて帰った場合は、もう少しデータを取らせて下さい。今後の医学の発展に──」

「行きますよ。ルキウス…」

「はい、我が王」

「今はワートでいい。そうしてくれ」

「──畏まりました。ワート」

「因みに、先程マスター達一行が来ましたが呼びますか?」

「いや、いい。その時まで待っていて欲しい」

「畏まりました」

 

ナイチンゲールが忙し気に働く様子を横目で見てから私は医務室を出た。兵舎に戻る途中、私はマスター一行を見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナイチンゲールじゃねぇか!テメェ生きてやがったか!」

「はい、ランスロット卿に匿っていただき、こうして負傷兵の看護から定期検診まで行っていました」

「そういえば、ナイチンゲールは他の奴を見たのか?」

「………いえ、見知らぬ傭兵2人なら見ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

開戦まであと僅か………




因みに、ワートとはディズニー映画「王様の剣」の主人公の名前であり、アーサー王と名乗る前の名前です。



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交戦

いよいよ開戦です。大規模な戦闘を字で表現するのは本当に難しいですね。日々文才の無さを感じてしまいますが、頑張ります!


開戦は唐突に始まった。

 

ガウェインがいきなり宝具を放ち、それをマシュが防御したのを皮切りに連合軍と獅子王軍は一斉に雪崩れ込んだ。後方の陣営では頼れる医師ナイチンゲールが看護に当たっている。気休めでしかないが、少しだけ安心出来る。

 

「行くぞ!モードレッドは露払いを頼む!」

「了解!前線を切り崩す!」

 

ナイチンゲールから借りたテールブースターを噴かせ、モードレッドが突撃を敢行する。彼女が切り崩した道を俺とマシュは走った。

 

「藤丸殿が仕掛けた!投石部隊!砲撃開始!」

 

白兵戦が行われている戦場の少し後ろでは、新撰組と彼が考案した投石部隊が展開し、キャメロットの城壁目掛けてたっぷり火薬を入れた固形物をぶつけている。さらに別の地点ではエジプト軍の戦力であるスフィンクスが戦場の横合から奇襲を掛け挟撃の状態にしていた。

 

城壁が崩れるか、俺達が屈するか…意地の張り合いが始まった。

 

 

 

 

************************

 

白兵戦が行われている戦場で私は鈍剣を肩に担ぎ、敵兵達を叩き潰していた。剣はいつも以上に輝き、聖剣に匹敵する程の力を見せていた。それを信じ私は前へ前へと進む。

 

「邪魔だ!」

 

鈍剣を振り被り、敵兵の頭蓋を叩き割る。即座に引き抜くと遠心力を使い刀身をもう1人の側頭部を叩き潰す。

 

「私はここだ!来るなら来い!!!」

 

私は戦場の中でモブキャラとして剣を振るう。武器は万人と同じエストック。だが、それは幾度の戦いの中で鋭さを失い細い金属バットとしてしか機能しない。それでも私にとっては唯一無二の存在だった。

 

「ワート!こちらは手薄い!」

「了解した!!!」

 

今の私は特筆するところなど何もない。無理にスキルを行使すれば肉体の維持は不可能。精々、少し気迫のある凡人として正面を突破するのみ!

 

「そこを退けぇええええええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マシュ!全然前が見えねぇ!』

『乱戦中ですからね!モードレッドさんは?』

「まだくたばっちゃいねぇよ」

 

両腕に小型シールドを括り付けたオレは折れたクラレントとハンドアックスを振るい、手数で押す。攻撃は両腕に装備したショートシールドで受け流し、体勢の崩れた敵を叩き潰す。ナイチンゲールから借りたテールブースターによる機動戦で的を絞らせないように小刻みに動く。

 

「残弾40…今更惜しむかよ!!!」

 

機銃をばら撒き、一気に活路を開くとハンドアックスで敵兵を盾ごと叩き潰す。そのまま敵の武器を掻っ攫い武器として利用する。

 

「───ッ」

 

その時…全身に悪寒が走った気がした。視線の先には…オレにそっくりの騎士が居た。ドッペルゲンガーでもなんでもない。雑魚を薙ぎ払いながら視線だけは絶対に逸らさない。もし奴がオレと同じタイプなら…厄介極まりない!

 

「──ダメだダメだ!立香だけは突破させなきゃいけねぇ…」

 

相手もオレを見つけた。雑魚を障害物にしながら移動しつつも現地調達した機銃で威嚇射撃を行い、挑発を仕掛けた。よし、引きつけられた!

 

「──マスター!聞こえるか!」

『どうした!?』

「これから、1番ヤバイ敵を引き付ける。その隙に城に突入するんだ」

『何言ってんだ!モードレッドも行くぞ!』

「ダメだ!今回は…オレの言う事を聞いてもらうぜ。なーに、心配すんな!さっさと仕留めて俺も合流する。早くしねぇと数少ないチャンスをフイにするぜ!」

 

そう言った直後に通信を切り、オレは猛スピードで接近して来た騎士の一撃をハンドアックスで受ける。ハンドアックスがあっさり切り裂かれ堪らず機銃を連射するが、すぐに乾いた音しか出なくなった。

 

「チッ…推進剤もゼロか」

 

蹴り飛ばして距離を取ると、テールブースターをパージして折れたクラレントを構える。対する騎士は聖剣が折れている事に気付きニヤニヤと嘲笑している。

 

「テメェは誰だ!」

 

そう叫ぶと、騎士は雑魚達に手を出すなと告げ追い払った。

 

「俺はオレだ。テメェが捨てたカスの塊だ。だからこそ許せねぇ…故にテメェを殺してその魂を同化する!そうして初めて俺はオレになれるんだ」

「そういう腹かよ…なら話は早い」

 

オレは折れたクラレントを構え突撃。相手も同じように駆け出した。

 

「「テメェだけは…殺す!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「城壁、破れません!」

「火薬を惜しむな!魔力を纏っていると云えど限界はある!間髪入れずに叩き込め!!!」

 

薩摩は後方から火薬を詰め込んだ固形物を投石部隊に投げさせ、次々と壁にぶつけ爆破し続ける。相変わらず傷1つないように見えるが、魔力による障壁は確実に削れていた。

 

「遠くからの投石に専念!白兵の時は戦場を城壁から遠ざけろ!城壁から何をぶっかけられるか分からんぞ!!!」

 

薩摩は指揮を執りながらもぐだ男達の前進を援護していた。ぐだ男こそがこの事態を突破出来る。その確信が彼にはあった。

 

「局長!本丸に魔力が収束しています!」

「皆の者!漣作戦…つまり射線上から逃げろ!!!」

 

魔力を利用し声を遠くに響かせた薩摩達は逃げるように左右にズレる。直後に凄まじい魔力の奔流が通過した。逃げ遅れた連合軍の兵士と獅子王の兵士達が呑まれ蒸発した。

 

「むぅ…だが、奴の照射にはある程度の時間が掛かる!今のうちに敵陣を2つに分断しろ!」

「承知!」

 

撤退し、相手の追撃を誘いつつ彼はそれぞれの場所に潜伏させていた弓兵小隊に横合いから攻撃をさせ、挟み撃ちの形を取る。

 

「(頼みますよ…藤丸殿!)」

 

大きく2つに分断した戦線を維持するべく薩摩は刀を抜き敵陣へ斬り込んだ…。

 

 

「抜刀…突撃!!!」

 

 

*********************

 

「───アルトリア!?」

「マスター…お久しぶりです」

 

城壁へと近付いた時、俺はアルトリアと再会を果たした。煌びやかな衣服も装飾も全て捨てて、持っているものは質素な服にいつもの鈍剣と腕に括り付けたボウガンしかないが間違いなくアルトリアだ。

 

「他の皆さんは?」

「……トリスタン戦死、ガウェインは洗脳されて敵陣営、ジャンヌは行方不明、ナイチンゲールは看護師として現地で働き、モードレッドは誰かと交戦中だ」

「……そうでしたか」

 

互いに走りながら城壁へと迫る。アルトリアは俺とマシュ、後ろでついて来ているルキウスに鉤縄を投げ渡した。

 

「1発勝負です。悪いですが助け出す余裕は無いかもしれません」

「構わねぇさ。爆弾じゃ吹き飛ばさせなかったんだ。あとはこれしかねぇだろ!」

 

鉤をグルグルと回転させ、射程距離に入った瞬間…全員で一斉に投げ込む。鉤は無事に上の装飾に引っかかり、俺達は急いで登った。火事場の馬鹿力というか…自分でも上手くいったのが不思議なくらいだ。

 

「登れ登れ!!!」

 

アルトリアはボウガンに矢を装填すると急いで登る。視界に敵が入った瞬間に狙撃して迎撃を防ぐ。脇と両足で自重を支えながら次弾を装填し、次々と落とす姿にはかつてないほどの気迫を感じていた。これがアルトリア・ペンドラゴンという人なのだろう。

足止めを食らいながらも先に到達したのはアルトリアだった。鈍剣を盾に矢を弾きながらボウガンで狙撃していく。なんだかんだで俺達を引き揚げてくれた彼女に感謝しながら、俺はマシュに掴まり壁から下へと飛び降りる。

 

「施設には構わないで下さい。我々の狙いは獅子王の首のみ…!」

「おぅさ!」

 

走りながら、俺は嫌な予感がしていた…そう、嫌な予感が……




次回はモードレッドと獅子王モードレッドの戦闘に焦点を当てます。はい。


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叛逆

予告通り、モードレッド視点を中心とした話です。






「おぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

2つの炎が激突する。騎士が振り下ろすクラレントを折れたクラレントで迎え撃つ。完全なクラレントの切れ味に当然耐え切れなかった刀身が砕け散るが、インパクトの衝撃で軌道が逸れオレの体に当たる事は無かった。お返しに折れた剣を捨て拳を引き絞り矢のように突き出した。クラレントの刀身で受け止めた騎士だったが、魔力を集束させたストレートが刀身に亀裂を入れた。

 

「クソッ!テメェ!!!」

「───っ!!!」

 

続けて袈裟斬りとして振るわれたクラレントを腕のショートシールドでギリギリ受け流してさらに拳を叩き込む。またしても阻んだ騎士だったが、再び亀裂が走る。これ以上は使えないと判断した騎士はクラレントを捨て同じく拳を握って襲い掛かった。互いに即死するレベルの拳を振るい、互いにそれを読んで受け流す。

 

「今こそ俺と1つになれ!!!」

「その言葉…そのまま返してやるぜ!!!」

 

左ストレートをギリギリで見切り、肘打ちを騎士の右肩に命中させる。衝撃で大きく揺さぶられた騎士だったがそれを読んでいたお返しの膝蹴りが鳩尾に命中する。

 

「うごっ…!」

 

刈り取られそうな意識を寸前で繫ぎ止めたオレは頭突きで距離を離す。とうに意識を刈り取られる程のダメージを受けた精神を支えていたのはオレを待ってくれ・愛してくれる立香と父上だった。

 

「まだまだァ!!!」

 

続けて振るわれた騎士の拳がオレの右ショートシールドを砕く。そのままの勢いで右腕がへし折れた。

 

「ッ!?───クソッタレェエエエエエエエエエエエ!!!」

 

だが、痛みを堪えて一切足を止めずにそのまま右腕を顔面目掛けて叩き込む。左腕で受け流そうとした騎士の骨が衝撃で砕け、同時に折れた右腕が千切れ飛んだ。大量出血する血液を一瞥する。まだイケる。

 

「ッ…!」

 

堪らず蹴りで距離を取った騎士は太陽を背に跳躍しヒールを叩き込む。それを見切って避けたオレはそのまま回避動作の勢いを利用した回し蹴りを左肩にお見舞いし、骨が砕ける手応えを感じた。

 

「死ねや!偽者ォ!!!」

「ホンモノは1人で良いんだよ!!!」

 

キャットファイトなどとは程遠い「殺す」為の殴り合い。一瞬の隙が命取りとなる中、オレは感覚のほとんど無くなった腕を盾にして身の安全を確保する。ヒールを突き刺すような騎士の真っ直ぐの蹴りをスライディングで避け、そのまま潜り抜ける。振り向き反撃する騎士の攻撃を再び避けた後、残った拳を真っ直ぐに突き出した。偶然同じ動作をしていた騎士の拳がぶつかり、同時に離脱し回し蹴りを放つ。素早く離脱し突撃を仕掛ける。幾重もぶつかり合い、2つの闘気が混ざり合いスパイラルのように螺旋を描いた。

 

「「ッ!!!」」

 

最後は互いに組み合いの形になり頭をぶつけ睨み合う。既にどちらも死んでも可笑しくない程のダメージを受けている。しかし、互いの意地とプライド・原動力となる感情の爆発がそれを繋ぎ止めていた。やがて、その闘気は2人を包み込み………。

 

「テメェだけは…殺す!」

「この先には…行かせねぇ!」

 

既に霊基が耐え切れずに溶解を始めているのにも構わず、オレは最後の一撃を繰り出した。だが、読み違えた。奴はその拳に対し、味方から奪った剣を向けて迎撃したのだ。

 

───悪りぃ…立香。約束…まも れ な かっ た……───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……バカヤロウ」

 

モードレッドの霊基が消滅した事を俺は確かに感じ取った。あいつは…俺達を守る為に相討ちになった。大きな虚無感を感じてしまったが、そんなものに浸っている暇は無い。

 

「マスター、行きましょう」

「あぁ」

 

弔い合戦だ。あいつの死を無駄には出来ない。アルトリアとルキウスの願いを叶えてやらなきゃいけない。待っていろ…獅子王。今度こそ…!

 

 

************************

 

「───ッ!?」

 

ガウェインは目の前の骸骨剣士を相手に思わぬ苦戦を強いられていた。得意の聖者の時間ですら押されている中、躍起になって剣士の急所を狙い次々と剣を振るう。しかし、全て弾かれ逆に傷を負わせてくる。しかも明らかに手を抜いて……。明らかに力量に差が生じている事を彼は悟った。

 

だが、再びインパクトしようと時、剣士は突然砂嵐を身に纏い姿を消した。呆然と立ち尽くすガウェインだったが、周囲に別の魔力反応が突然発生した事を感じ取った。

 

“まるで、大地が脈動しているような”

 

 

直後、戦場の中央…先程まで2人のモードレッドが交戦していた地点でそれが爆発した。聖剣を地面に突き刺して衝撃波で吹き飛ばされぬよう固定しつつ、顔を上げた時…彼はこの戦場に居てはいけない……決して居てはならない物を目にした。

 

キャメロットに匹敵にする巨体…天を覆い尽くすような翼…炎のように赤い鱗…荒々しいブロンドの鬣……

 

「ウェールズの…赤き龍だと!?」

 

ウェールズの赤き龍…ブリテンの象徴であるその龍…かつて白き龍と戦い勝ったその龍は天を仰ぎ、ゆっくりと口を開き息を吸った。

 

 

“グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!”

 

 

天すら揺るがすような咆哮。急いで耳を塞いだ為にその音の息から身を守る事が出来たが、何も知らなかった敵味方全員が耳から血を流してもがき苦しんでいた。

さらに、龍は鎌首を擡げると口から炎を吐く、真紅の炎…だが、その色がゆっくりと青に変色し…そして絞られたビームが縦に薙ぎ払われる。

 

一瞬にして射線上にいた人間も魔獣も全てが蒸発し、あのキャメロットの城壁や獅子王の結界ですら寒天のように切り裂かれた。

大地ですら深く削られ天変地異のようになった風景を見て、赤き龍は再び咆哮した。




モードレッド………死す。
そして、新たに現れた竜がキャメロットを襲う!!!


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打開

今回は赤い龍との戦闘を中心としました。


「赤い龍だって!?」

 

俺はいきなり送られて来たガウェインからの通信を聞き、絶句した。確かに俺にも見えている。さっきいきなり赤黒いビームが城壁を突き破って来て…ルキウスのおかげで間一髪避けたが、その穴から一部は見えた。

 

『はい、このままでは赤き龍によってキャメロットのみならず世界が滅ぼされてしまいます!万が一飛翔などされたら…!』

「ガウェイン!全力で止めてくれ!獅子王だってそう考える筈だ!」

『承りました』

「すまないがここでお別れだ。アルトリア・マシュ・ルキウスは獅子王討伐に行ってくれ」

「待ってください。では貴方は…!」

 

俺は俯いた。

 

「大事な人を…助けに行く」

 

そして、2人に背を向けると進行中のキャメロットを引き返した。やはり俺は甘ちゃんだな。

 

「よっと…!」

 

一目見た時点であの龍には心当たりがあった。あの鬣といい目といい…にわかには信じがたいが、ガウェインの証言と繋ぎ合わせれば説明は付く。あれは……モードレッドだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

なるべく断面に触れないように城壁を抜け出すと、ガウェイン率いる獅子王の軍隊と薩摩率いる連合軍が赤い龍の迎撃を行っていた。しかし、キャメロットに匹敵する質量を持つ巨躯に傷1つ負わせられない状態でいた。

 

「ヴォーティガーンよりタチが悪い!」

 

ガウェインは先程から不夜により無尽蔵に供給される魔力を使って宝具を連発しているが全く通じない。寧ろ、煩いとでも言いたげな尻尾の一振りが人間達を蟻のように轢き潰した。

 

「怯むな!このまま──」

 

が、次の瞬間。赤い龍のビームがガウェインのすぐ近くを通過し、部隊はまるで最初から居なかったように消えてしまった。

 

「くっ……なんという事だ…」

 

これに対抗した白い龍は如何に巨大で強かったのか…。そう考えた彼は戦慄した。そこでガウェインは自分のマスターが駆け寄った事に気付いた。

 

 

************************

 

 

「ガウェイン!」

「マスター!」

「お前洗脳が解けたのか?」

「いえ、獅子王が少し洗脳を弱めたようです。今は非常事態である事は獅子王も了解している筈…通信も今まで獅子王か其の手の者に傍受される危険性があり、使用しておりませんでした」

「そうだったのか、苦労かけてすまなかったな」

 

肩で息をしながら、ガウェインから真相を聞き出し内心ホッとしていた時、別の誰かから通信が来た。聞き覚えのある……

 

 

───じ…い…よ…!

 

 

「ジャンヌ!?ジャンヌなのか!?」

 

画面上の砂嵐が漸く晴れ、久しぶりに黒ジャンヌの顔を見た。相当心配していたのか目に涙を溜めている。

 

──そうよ!やっと繋がったわ!早く状況を教えなさいよ!

 

「今…目の前にウェールズの赤い龍が居る!」

 

──なんだって!?それは本当かい!?

 

続いてロマンとダ・ヴィンチがジャンヌを押し退け顔を出した。後ろで『ちょっと、退きなさいよ!』という声が聞こえたが、今は笑える程余裕は無い。

 

「ロマンか!あの龍の体を解析してくれ!早く!」

 

ウェールズの赤い龍がこちらに気付いた。ガウェインは俺を背負うと急いでその場を離脱した。しばらくして彼から降り解析結果に耳を傾ける。

 

──解析、来た……なんじゃこりゃ?

 

「どうしたんだ!」

 

──見かけは巨大な質量体だけど、それはハリボテだ。あの頑強な鱗の内側は魔力の塊になっていて…奥に核らしき物がある!

 

「核…分かった」

 

──ちょっと!何する気!?

 

「ガウェイン!今からお前を令呪を全て使ってブーストする!あいつの体に穴を開けてくれ!一瞬でもいい!」

「承りました。ガウェイン…推して参る!!!」

 

ガウェインにフルで令呪を使うと、彼はガラティーンを前に向けて突貫を開始した。その後ろ姿を見て、俺は命令を1つ追加しなかった事を後悔した。

 

「午前の光よ…どうか我が身を護りたまえ!!!!!」

 

命を賭す覚悟の特攻。赤い龍のビームを紙一重で避けながらガウェインが走る。さらに、必死に走る俺の前に協力者が現れた。

 

「無事にお届けします。どうか御武運を」

「沖田か!走ってる間に吐くなよ」

「吐かないように気を付けます」

 

十傑走りをする沖田に担がれた俺はガウェインの後ろに続く形となった。

 

「はぁあああああああああああああああああああ!!!!!」

 

ガウェインは令呪をブーストされた時点で覚悟を決めていた。剣が効かない。エジプトの怪物の攻撃も効かない。宝具が効かない。そうなると彼の中に残されていた選択はあと1つだった。

 

「(──願わくば…最期に我が王の顔を拝みたかった…!!!)」

 

突撃し刺突を食らわせた筈の彼の聖剣が鱗の耐久に耐え切れず砕け散る。だが、取り付く事には成功した。そう、彼にはそれで充分だった。しがみついた瞬間……ガウェインはフルパワーで稼働している魔力を霊基ごと暴走させた。

 

 

「我が最期の忠義…とくとご覧あれぇえええええええええ!!!」

 

───太陽の騎士は、閃光と共に散った…。

 

 

「成功です。胸に穴が空きました。既に再生が始まっていますので投げます!」

「あぁ、頼む…」

「突入します!」

 

 

 

悲しんでいる余裕など無かった。

沖田は縮地で龍の腕を掻い潜ると、その穴目掛けて俺を投げ入れた。直後に傷が塞がり、俺は出口を失った………。




ガウェイン、散華。
余談ですが、令呪3回分のブーストが無ければ穴を開ける事が出来ませんでした。ぐだ男のミスのおかげでこの作戦は成功した…そういう展開となっています。縮地TUEEE


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深層

今回はネタに走るついでに前々回抜いてしまった部分を補足します







「いて……ここは…?」

 

気がつくと、俺は巨大な肉の柱の前にいた。これは…昔目撃した魔神柱か!?

 

「───りつ…か…なんで…戻…って……!?」

 

よく見ると、その中央部にモードレッドが拘束されている。手足が肉の中に埋まっており、苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「お前を置いていけないだろ!今助けてやるからな!待ってろ!」

 

俺は手に唾を吐き肉の柱に触れた……瞬間、意識が暗転した………。

 

 

 

 

 

 

 

再び目を開けると、そこは戦場だった。無数の剣が大地に刺さり、多くの兵士が傷付き死んでいた。

 

「──よぉ、カルデアのマスターさんよ」

 

俺は目の前に居るモードレッドが視界に入った。腹にはロンゴミニアドが刺さっているが、彼女は全く動じていなかった。

 

「オレの名はモードレッド。アーサー王の嫡男にしてモルガンの子である」

「!」

 

いや、モードレッドとは全く違う。肌は死人のように白く、瞳は金色、顔には不気味な程に気味の悪い笑みを浮かべていた。

 

「いや、自己紹介が遅れたな。オレの…いや、我の名は…ソロモン」

「ソロモンだと!?」

 

ソロモンって確か72の悪魔を従える王…だったか?

 

「カルデアは時間軸から外れたが故、誰にも見つける事のできない拠点となった。あらゆる未来───全てを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。だからこそ生き延びている。無様にも。無惨にも。無益にも。決定した人類の滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海にただよう哀れな船だ。それがおまえたちカルデアであり、藤丸立香という個体」

「いきなり出て来て神様気取りかよ…!」

 

つまり、コイツが全ての元凶か…!口ぶりからして間違いない。

俺は目の前に刺さっていた剣を抜くとソロモンと名乗った者に斬りかかった。が、奴に届く事なく俺は弾き飛ばされた。しかし、モードレッドの為に負けられない!

 

「そら見た事か。ただのゴミが我と同じ地平に立てば、必然、このような結果になる」

「何が…!」

 

再び振るった剣は人差し指で受け止められてしまった。

 

「死ぬ前に1つ良い事を教えてやろう。七騎の英霊は、ある害悪を滅ぼすために遣わされる天の御使い。人理を護る、その時代最高の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。元々降霊儀式・英霊召喚とは、霊長の世を救う為の決戦魔術だった。それを人間の都合で使えるよう格落ちさせたものがお前達の使うシステム───聖杯戦争である。」

「!」

「さぁて、そろそろ…終わりにしようか」

 

ソロモンが指を押した瞬間、俺の持っていた剣は粉々に砕け散った。彼の手には逆に同じ剣が握られている。

 

「死ぬか…死ぬもんか!!!」

「ハハハハハ!!!人間らしい生き汚なさだ!精々足掻いてみせろよ!」

 

ソロモンが剣を手に走る。常人を遥かに超えた速度で走る彼に俺は対応出来ずに………。

 

「させっかよ!!!」

「!?」

 

その時、俺を庇い剣を自身の剣で受け止めたのはモードレッドだった。全身に剣が刺さっているが…間違いなく彼女だ。

 

「その傷は…!?」

「愚かな小娘だ。精神を犯し尽くしてもまだ抵抗するとは」

 

だが、その見た目に反して彼女の剣捌きは軽快そのもので、ソロモンの剣を押し返していた。

 

「立香!ここは魔神柱の精神世界だ。意思と想像力の強い奴が勝つ!負けると思ってちゃいつまでもあいつには勝てねぇんだよ!」

「でもどうやって!?」

「お前もさっきやってたろうが……例えば…!」

 

モードレッドは目を閉じると掌を開いた。と…その手にはいつの間にかモップが握られていた。

 

「こんな感じにな!」

 

突然現れたバケツにモップを突っ込み、ソロモン目掛けてモップに染み込ませた液体をぶっかける。水飛沫の先には、半壊したソロモンが立っていた。流石に3秒で完全再生したが奴はかなりキレている。

 

「おのれ…英霊風情が……!」

「立香!いけるな!」

「うーん…イメージ…イメージ…!」

 

俺も負けじとイメージを広げてみた。いかん…どうしても料理の風景に…!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?貴様…ここは…!?」

 

いつの間にか、ソロモンは小さくなり、俺の手に握られたフライパンに転がっていた。これなら…!

 

「さぁ、クッキングタイムの始まりだ!」

「待て待て待て待て!何をする気だ貴様!まさか…」

「まぁずはぁ〜オリーブオイルでエステしましょうねぇ〜!!!」

 

ソロモンの絶叫をBGMに、俺が生み出した料理地獄を味わってもらう事にした。流石にモードレッドもドン引きする中、俺は先程の緊張感を返せと言わんばかりにお仕置きした。

 

 

******************

 

「ッ!?」

 

いきなり暗転したと思ったら、いつの間にか俺は魔神柱の前に戻っていた。

 

「ヤメロォ……ヤメロォ……ヤメロォ……」

 

ただ、魔神柱からは壊れたレコードテープのように同じ言葉ばかりが連呼されていた。どうやらコイツの意識の中に潜り込んでいたようだ。おまけにトラップはこれだけらしい。

 

「よし、今助けてやるからな!」

 

ようやく振り出しに戻ったばかりだ。早く助けださなければ…!

 

「うわキモッ」

 

肉の気持ち悪さに顔を顰めながら俺は柱を登る。何て事はない。ガキの頃にやっていた木登りと同じだ。下を見ずに一気に登り詰めればいい!肉に指を食い込ませてドンドン登る事10分程…俺はついにモードレッドの前に辿り着いた。

 

「モードレッド!大丈夫か?」

「なん…とか……な…」

 

俺はポケットから作業用に使っているナイフを取り出すと肉を切り始めた。時間は掛かるがカット出来る筈だ。真剣に作業をしているとモードレッドから苦しげな声が漏れた。

 

「少し我慢してくれ。大雑把に切るぞ」

「立香…頼みがある……」

「なんだ?」

「オレの事…好きと言ってくれ」

「なっ!?いきなり何言いだすんだよ!?」

 

あぶねぇ…手を滑らせるところだった。

 

「オレ…今まで…立香ン事……付き合いやすいマスターだとしか…思わなかった……いや、今も……そう…思っている…かも…しれない……でも…立香は…オレの事を助けに…戻って…くれた………。こんな……面倒…見…いい…やつ…初めてだ………」

 

カットを続けながら俺はモードレッドの言葉に耳を傾けていた。焦点の合わない目で語り続ける彼女はかなりしおらしい。

 

「……オレ…やっと……立香が好きだ…って…気付けた……。最期に聞かせてくれ………立香…オレの事…好きか?」

 

これは明らかにLOVEの意味で聞いている。必死に意識を繋ぎ止めようとしている彼女に俺は心の中の正直な想いをぶつけた。

 

「当たり前だろ。俺はモードレッドを愛している。そうじゃなきゃこんな危険な想いして戻らないだろ?」

 

モードレッドの頭を片手で撫でてやると、彼女はフッと微笑み…目を閉じた。

 

「ありがとよ…もう……心残りは………」

「モードレッド…それは一体どういう…!?」

 

次の瞬間、俺は何かに引っ張られるように吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間から消えた立香を見送ったオレは、叛逆と憎悪の記憶を無理矢理掘り起こした。あぁ……ムシャクシャする。全身が燃えるような感覚だ。解放出来るパワーは一度だけ、それに全てを賭ける!

 

「オレの最期の叛逆…受けてみろ!!!」

「ォオオオオオオオオオオオオオ!!!アツイ!アツイ!ヤメロォ!!!」

 

オレは自分自身を彩る負の記憶を燃料に魔力を完全解放した。その炎に焼かれて魔神柱の肉体が焼け始める。

 

「魔神柱……さっきのお返しだ。テメェを吸収してやる………魔力炉残して消え失せろぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

炭化し崩壊を始めた魔神柱から解放されたオレはその灰から醜く脈動する心臓を引き摺り出した。そして、その心臓を胸に当て自己改造を開始した。ぶっつけ本番だが、出来る筈だ!

融合を始め、崩れ始める自分の肉体を見ながらオレは最期に立香に想いを伝える事が出来た事に感謝した。

 

「いや…最期じゃねぇ……オレはもう一度会いたい……藤丸立香というオレが全身全霊を賭けて愛したい男の為に…もう一度!!!」

 

肉体が再構築を始めた。どうやら成功したらしい。もうじき、この混沌の空間を出る。その頃にはオレはオレで無くなっている。だが、どんな姿になろうと立香を愛するだろう……その為にオレは生まれた…今ならそう思えた……。

 

 

 

***************************

 

「藤丸殿!」

 

目を覚ますと薩摩達が駆け寄って来た。幸い、彼の采配のおかげで余程モタついた兵士でなければ死ななかったと言っていいほどに死者は少ないようだった。

 

「驚きました。龍が突然消滅しまして…貴方が倒したのですね?」

「倒した………そうだ!?モードレッド!モードレッドは!?」

 

慌てて飛び起き周囲を見回す。獅子王の軍隊達が屍となって転がっている。その中で…俺は、1人佇む人影を見つけた。あのシルエットは…?そう思った瞬間に俺の頭の中に電流が走った。

 

「あっ!?藤丸さん!まだ休んでいた方が…ごふっ!?」

「沖田は無理し過ぎだ。休むならお前が休め」

「はーい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佇む人影…そのシルエットが徐々に明らかになっていく。その正体に俺は何となく察しがついていた。だからこそ呼ぼう。あの名を!

 

 

「モードレッド!」

 

 

シルエットは夕陽に照らされ、その姿を映し出した。

 

 

「ただいま、立香…」

 

 

 

もう一度会いたかった少女の頭には一本のアホ毛が生えていた………。




モードレッドの頭に遂にアホ毛が生えてしまった回。因みに、もう1人のモードレッドの正体は魔神柱。「個人的に最も厄介と感じたモードレッドを吸収して仕留めよう」としたのだが、彼を待っていたのは「モードレッドに単独行動出来る能力を与える程の魔力炉へと改造される」悲劇(笑)的な結末であった。


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新生

今回はアルトリアの鈍剣の秘密が明かされる回です。これがやりたくてキャメロット編は気合(?)が入っていた…






生まれ変わったモードレッドは結構様変わりしていた。頭部にはアホ毛が一本生え、アルトリアに似た甲冑の背には1枚のプレートと4枚のプレートバインダーで出来たマントを装備、杖のように付いているのは剣ではなく、銃身下部にクラレント由来の刃を備えたビームライフル。そして、左腕には先端が鋭利なシールドが装備されている。

 

「どーだカッコいいだろ?オレの真似事をしていた魔神柱のエネルギーを吸収し返して霊基再臨した時に父上のDNAから借りパ──データを取った武具をベースにオレ好みに仕上げたんだ」

「すっげーイカしたデザインだぜ!カッコいいな!」

「だろだろ───っと!そんな事良いから早く父上を助けに行かなきゃ」

「そうだった!行くぞモードレッド!」

「じゃあ、オレにお姫様抱っこさせてくれ。最短距離で行くぞ」

「えぇ…」

「嫌か?」

「では有り難く…」

 

諦めてモードレッドにお姫様抱っこをさせ、恥ずかしい思いで顔を隠していると、バインダーが翼状に広がり、

 

「飛ぶぞ!スプマドール!」

 

──アルトリウム、認証。 スプマドール、フライトモードニ移行。飛翔 開始

 

「行くぜぇえええええええ!!!」

 

電子音声が鳴った瞬間、俺達は空を飛んだのだ!魔力を推進剤に高く上昇する。眼下の戦場が随分と小さく見えた。

 

「もう地を這う必要なんてねぇ!今は自由に飛翔出来るんだ!キャメロットの壁なんざひとっ飛びだぜ!」

 

そのまま滑空し城壁を飛び越えると、俺達はキャメロットの城下町に着陸した。再び結界が張られているようで、分厚い障壁が行く手を塞いでいる。

 

「下がってな。オレの『/クラレント』でブッ飛ばす」

「/クラレントか…」

 

宝具ブッパに特化したライフルへと変質したクラレントの銃口が目の前に向けられる。魔力が収束&圧縮された直後、凄まじい出力のビームが照射され、結界が吹き飛ばされた。煙が立ち昇る銃身を軽く払って肩に担ぐ姿は様になっている。魔神柱の魔力炉ってそんなに凄いのか…?

 

「ざっとこんなもんよ!さっ、行くぜ!」

「了解ッ!」

 

俺達は全力で走りキャメロットにあるであろう王の間を目指した。

 

 

 

***************************

 

王の間

 

そこでは2人の戦士が獅子王に立ち向かっていた。因みに倒れているのは………

 

「情けねぇ後輩だなぁ。恥ずかしいぜ」

「ひど…い……」

「ただ倒れてるだけじゃねぇか!気合いで立て!シャキッと!」

「いだっ!?」

 

モードレッドに片手で軽々と引っ張り上げられたマシュは足をプルプル震わせながら必死に立っている。

 

「よしそのまま立ってろ。案山子くらいにはなる」

 

モードレッドは快活に笑いながらゆっくりと前に立つと、/クラレントを背中のマウントラッチに懸架しシールドを手前に向けた。

 

「モルデュール!」

 

──アルトリウム 認証、モルデュール 起動シマス─

 

電子音が聞こえた瞬間、シールドが中程から折れて中から小さなバトンが露出、モードレッドがそれを抜き放つとバトンから光の刀身が現れた。ビームサーベル…だよな?アレ。

 

「父上!助太刀するぜ!」

「モードレッド!……………何故私の武器を?」

「あー…霊基再臨の時に『父上みたいに強くなりたい』って願ったら……」ゴニョゴニョ

 

途端に勢いを無くすモードレッドの姿を一瞥したアルトリアはフッと微笑んだ。

 

「許す、私と来い!」

「は…はい!父上!!!」

 

父親の凛とした言葉にモードレッドは笑顔を取り戻し、ビームサーベル「モルデュール」を振ってから戦陣に斬り込んだ。

 

 

 

「何人増えようが変わらん。私は今ある信念に従い戦うのみ」

 

獅子王の力は圧倒的だった。力を解放したロンゴミニアドを指揮棒のように振るい、3人の攻撃を軽々といなし逆に死の一突きを浴びせる。

 

「獅子王!テメェには借りがあるからな!ゼッテー殺す!または裸でドジョウすくいやってもらうぞオラァッ!!!」

 

それでも、モードレッドは下がらずビームサーベルで斬り込む。ロンゴミニアドに阻まれたが、それは彼女の計算内。

 

「ロンドンのアイツの技…使わせてもらうぜ!」

 

敢えてバランスを崩し、隙を見せる。当然見逃さずに穂先を突き出した瞬間。それをダッキングで回避すると、モルデュールを逆手持ちにしアッパーカットの要領でドゥン・スタリオンの首を刎ねた。

 

「貴様ッ」

 

首を失ったドゥン・スタリオンが転倒し、獅子王は跳躍して何とか離脱した。しかし、すぐにルキウスが斬り込む。

 

一閃せよ、銀色の腕(デッドエンド・アガートラム)!」

 

跳躍しての一撃を転がって避けた獅子王は立っていた地点にルキウスの宝具が叩き込まれ、近くにあった柱が破壊される様子を一瞥。呻き声を上げ動きの鈍る彼に襲い掛かるが、カバーするようにアルトリアが鈍剣を手に行く手を阻む。

聖槍と鈍剣が火花を散らして打ち合い、鍔迫り合いとなった。

 

「貴様…宝具はどうした。私と同じサーヴァントなのだろう?」

「我が至高の宝具は…これだけだ!」

 

鍔迫り合いを解除し再びインパクト。この時はと言わんばかりに鈍剣は聖槍と打ち合う程の力を発揮していた。

 

「何故だ。貴様はアルトリア・ペンドラゴンなのだろう?何故最高の宝具が凡百のなまくらなのだ」

 

鍔迫り合いを解除した獅子王はそう問いかけた。そういえば…俺も気になっていた。今まで何度か鈍剣について聞いてみたが、アルトリアはいつも『秘密です』と教えてくれなかった。そして、今…彼女は「どんな聖剣、聖槍よりも優れた宝具だ」と断言した。その理由を知りたかった。

 

「では、聞かせましょう。獅子王にとっては記憶から抹消したどうでもよい記憶でしょうが………」

 

互いに緊張を解かぬままにアルトリアは静かに言葉を紡ぎ出した……。

 

────

 

あの日の私は怒り狂っていた。執政を任せていたモードレッドが叛逆を起こし、私に戦いを挑んで来たというのだ。少しでも私の血が流れているのだからと傍に置いたのがそもそもの間違いであった!あの時姿を認めた時に処刑するべきだったのだ!

理性を失い、感情的になっていた私の目にモードレッド軍の陣が見えた。エクスカリバーもアヴァロンも無いが、ロンゴミニアドがあれば充分だ。当然ながら私は圧倒した。所詮は烏合の衆…怒りと聖槍さえあればあっさり怯んだ。退け、進ませろ、不貞の愚息を討たせろ!

 

散り散りになり逃げ出す兵士を追うように走っていた時、1人の兵士が逆に向かって来た。身につけた装備からして農家から徴兵されたのだろう。そんな装備で勝てる筈が無いというのに…。

 

「これ以上は行かせん!!!」

「ッ!?」

 

だが、私を見ても彼は恐れなかった。私の威光、覇気…その全てを押し返すように彼は刃毀れを起こしたエストックを振り下ろした。何と踏み込みが良い男だ…!

 

「くっ!?」

「これ以上は…絶対に!!!」

 

私の槍を決して振るわせないように彼は斬りかかった。きっと怖いだろうに…逃げ出したいだろうに…彼は躊躇う事無く前へと私を押し込んだ。

 

「何故だ……何故だ!!!」

 

私も負けじと彼を押し返し、槍を振り回す。絶対に殺す!これほどしつこい敵は数少ないだろう…だからここで殺さなくてはならない!……なのに、何故これほど刺し傷を与えているのに倒れない!!!

 

「ぐっ…!?」

 

彼の剣が私の腕にぶつかった。刃は残っていない為、腕を斬り落とされはしなかったが当たった箇所が内出血で腫れるのを感じる。全く引こうとしないのだ!この兵士は!

 

「何故だ…何故死に恐怖しない!!!もう致命傷を幾らも与えているのに!──」

「僕の背には同胞が…家族がいる!絶対に引くものか…絶対に!!!」

 

不屈の闘志を以て幾度も立ち上がり剣を振るうその兵士に私は心の底から恐怖した。怒りなど消え…失禁する程の恐ろしさを全身で感じたのだ。凡人とはここまで強くなれるのか…!

 

「だが、私にも引けない理由がある!そこを退け!!!」

 

震える膝を堪えて突進した私は、今度こそ手応えを感じた。兵士の腹を貫く聖槍…だが、私は何度も死んだ。あの剣が刃毀れを起こしていなければ腕を失い、臓物を引き摺り出され、今当たっている刃先から推測するに首も飛んでいた。直前で彼は何を思ったのか首に剣を叩き付ける事無く押し当てるだけだった。いや、それで限界だったのかもしれない。

 

「見事な腕であった…名も無き兵よ」

「限界……か…」

「…何故剣を止めた」

「さぁ…何故でしょう…?」

 

男は血を吐きながらそう答えた。そして、私の右手に自身の剣を握らせた。

 

「お願いがあります……もし、生きていましたら…この剣を……私の…つ…ま…に………」

「………約束しよう。それまでは私が預かろう…今は安らかに眠れ………」

 

魂を失った亡骸から槍を抜いた私は、戦場に落ちていた鞘に剣を納めて腰に提げ、漸く見えた我が息子モードレッドに斬りかかるべく駆け出した………。

 

 

 

─────

 

「今の私はアルトリア・ペンドラゴンでは無く、名も無き兵として貴様を倒す。いや…この剣で貴様を止めてみせる!」

「なるほど、確かに()()()()があったかもしれぬな。だが、所詮はただの一時の出来事よ。私にはそのような凡百の剣など通用せん」

 

…そうだったのか、アルトリア。あいつはずっと剣を返す為に…ずっと宝剣として持っていたのか。折れても自分で鍛え直し、鏡のようになるまで磨いて大事に持っていた事も…全てはその時まで待っていたからなのか!

 

「凡百の魂宿る剣よ、今一度奇跡を起こしたまえ!」

「笑止」

 

再び打ち合う2人のアーサー王。だが、ウチのアルトリアはまるで「勇猛」のスキルでも入ってるんじゃないのか、と思う程に聖槍を恐れず剣を振るい続ける。兎に角引かずに前に出る。剣を叩き付けるように振るい、反撃しにくい体勢を作った。そうした積み重ねが遂に奇跡を生んだ。

 

「ッ!?バカな!」

 

アルトリアのフェイントを交えた切り抜けが遂に獅子王を捉えた。穂先の先端が砕け散り、獅子王の頬に小さな破片が刺さった。

 

「一矢報いたぞ………ッ!?」

 

だが、そこでアルトリアは魔力枯渇を起こし膝をついた。すぐにアルトリアへの魔力供給に集中し、戦いをモードレッドとルキウスに任せた。

 

「オレに合わせろ!ロキウス!」

「名前間違ってますけど、承りました!!!」

 

戦えなくなったアルトリアに代わり、息子と忠臣は獅子王へと戦いを挑んだ……。




モードレッドのマントは通販で買った「AGP アルトリア」をヒントに採用しました。他にもプリドゥウェンのギミックは「ウイングガンダム」、/クラレントは「ダブルオーガンダム・セブンソード/G」などを元ネタとしています。ミキシングし過ぎましたが、「アストレイ レッドフレーム改」をかなり意識しました(笑)。

因みに、モルデュールが何故ビームサーベルになったかと言うと、「魔法を破り、鋼鉄でも石でもその打撃を防げない」という伝承をモードレッドが「魔法を破り、鋼鉄でも石でもその打撃を防げない?何そのビームサーベル」と解釈した事で爆誕した経緯があります。
また、多くの新規武装には音声認証とアルトリウム(アホ毛)認証のダブルチェックがありますが、これも「アルトリアの兵装を完全な状態で使用するにはアルトリアの象徴であるアホ毛が必要だから」というモードレッドの誇大解釈によって生まれています。


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終着

戦いも終盤。先端の欠けたロンゴミニアドを持つ獅子王とモードレッド&ルキウス、戦いは開始された(CV.政宗)




「こっから先は行かせねぇよ」

 

モードレッドがシールドを前面に向けて突撃し、獅子王の攻撃を防ぐ。さらにバインダーの推力を利用して蹴りを放ちアルトリアとの距離を離した。

 

「アルトリア!大丈夫か!今供給してやるからな!」

「すみません……」

 

カルデアから引っ張って来た魔力を注ぎ込み、魔力切れ寸前の体に新鮮な魔力を循環させる。薄れていた体が徐々に戻っていき、意識が回復した。

 

「よくやった。休んでいろ」

「ありがとうございます………」

「先輩!私を忘れてません?」

「あ、マシュ。居たのか」

「酷いッ!?」

「俺は精一杯魔力供給で支援してるのにオメェときたら突っ立ってるだけじゃねぇか!先輩の役に立ちたいんなら仕事しろ仕事!」

「は、はいっ!」

 

マシュも俺の一喝を受けて漸く動き出した。獅子王とモードレッド達の間に割って入り、獅子王の猛攻を防ぐ。モードレッドとルキウスはそれを利用し、盾で身を隠しながら死角から飛び出して攻め立てる戦術に切り替えた。

 

「よーし!いいぞマシュ〜!そのまま肉壁として気張れやぁ!」

「酷いッ!こんなの今までと変わらないじゃないですかー!」

「ぐだぐだうるせぇぞマシュ!」

 

モードレッドにまで怒鳴られ半泣きで攻撃を防ぎ続けるマシュも、腰に提げた細身の剣で応戦しているが悉く弾かれている。

 

「あっ──」

「マシュ!チッ……!」

 

疲労が蓄積し過ぎて転倒したマシュを蹴って俺のいる方向に転がしたモードレッドはモルデュールを振りかぶった。

 

「獅子王、いや!別世界の父上!」

 

モルデュールの刀身がロンゴミニアドと斬り結び、火花を散らす。

 

「オレなりに獅子王へツッコミを言わせてもらおう!」

「ん…?」

「テメェ、“避けられぬ滅びに対して、人類の記録を未来に遺したい”からこんなアホみたいな事をやってるみたいだがな…!」

「阿呆?どういう事だ。言ってみろ」

 

一旦離れ、再び切り結ぶ。モードレッドの表情には焦燥でも怒りでも無く、憐れみが浮かんでいる。

 

「博物館みたいに展示したってな!ガイドが居なきゃ見物客が理解出来ねぇだろうが!テメェは説明出来んのか?」

「ッ!」

 

突きを放ったロンゴミニアドを切り払いで弾き、さらにモルデュールを脳天めがけて振り下ろす。が、すぐに持ち直した獅子王がロンゴミニアドでフェイルセーフする。

 

「家族団欒の食事風景とか…恋人同士で紡がれる愛とか…互いに信念を持って戦っている事とか…貧困に喘ぐ子供達に温かいご飯を分けてあげる風景とか……そういう事をテメェは説明出来んのか?その意味とか分かった上で記録出来んのかって聞いてんだよ!!!」

「意味など必要無い。事実さえあればよい。如何様に頑張ろうと滅びの未来は避けられん………」

 

そう淡々と告げた獅子王にモードレッドは呆れたような顔をした。

 

「なっさけねぇの!なーにが『避けられぬ滅びに対して、人類の記録を未来に遺す』だ。昔の父上は確かに人の気持ちは分かんなかったが滅びないように自分の身を犠牲にしてでも尽くしたんだぜぇ?もう新旧交代なんじゃねぇの?」

「なっ…!?」

 

感情的に煽るモードレッドはロンゴミニアドに感情が込められ始めた事を感じた。なのでさらに煽った。

 

「ハッ!ガラスみてぇな心の王様だなぁ!獅子王の名が泣くぜ!ハハハハハ!!!これからはオレがニューリーダーをやってやるよ。テメェよりは、良い仕事が出来るぜ!」

「────」ブチッ

 

散々煽り倒したところで獅子王がブチギレた。表情こそ変わらないが、槍の振るわれ方が荒っぽくなり先程のアルトリアのような猛攻を仕掛けた。

 

「貴様に何が分かる!!!」

「ひぃっ!?」

「私の苦しみが貴様に分かるとでも──!」

 

わざとらしい声を上げながらも闘牛士のような身のこなしでアルトリアの猛攻を躱したモードレッドは彼女の背後に回るとその背中を蹴った。

 

「ッ!?」

「次はテメェの番だぜ!ルキウス!」

「はい!」

 

今度はルキウスが獅子王に斬りかかる。モードレッドの剣捌きのおかげでかなり疲労の蓄積した彼女の動きはだいぶ鈍っていた。

 

「それが私の出来る、唯一度の、王へのご奉公なれば…!」

「ッ!」

 

大きく踏み込み剣を振るうルキウスは獅子王に引けを取らなかった。

 

「かつて貴方は私の前で微笑んでくれた。私の何気ない家族の話で貴方は笑ってくれた!」

「………」

「何故、私が気の遠くなるような時の中でも生きる事が出来たのか……それは、あの日の貴方の笑顔を、今も覚えているからです、アーサー王」

「貴様──!?」

 

ルキウスの一撃も獅子王にヒットする。だが、大きくよろけ後ずさった彼女は大きく息を吐いた。

 

 

 

「───そろそろ頃合いだ」

「!?」

 

 

 

獅子王が呟いたそう呟いた瞬間、彼女の体から凄まじいオーラが放たれた。あの光は……山の民を焼き払おうとしたアレと同じ……!チャージが溜まったのか!?

 

「全員後退だ!」

 

それに気付いた俺は全員に後退を命じ転がっていたマシュを起こした。

 

「マシュ!」

「何ですか!」

「あれを防げ」

「………無理無理無理無理!!!!死にます!私死にますって!」

 

それを見たマシュが恐怖のあまり膝を震わせてフリーズしてしまった。そんな後輩を励ましたのはルキウスだった。

 

「安心してください。貴女の持つギャラハッドの盾はその尊き精神が強い程力を発揮します。貴女なら出来ます。今こそ解放しなさい。そして、マスター達を守るのです」

「───はいッ!マシュ・キリエライト!行きます!」

 

発破かけるの上手いなぁ。きっとブラック企業に勤める先輩として同じ後輩をやる気にさせるタイプの奴だな。あぁいうタイプの人間は親父の店でバイトしてた時によく見たもんだ。

 

「ほう、その盾で受けると言うのか……その勇気に敬意を表し、全力で打たせていただこう」

「がががが頑張ります!」

 

相当怖いようだが、今はマシュを信じるしかない。

 

「気張れ!マシュ!ここが踏ん張りどころだ!」

「先輩の役に立つんだ…先輩の役に立つんだ……恐れるな…マシュ・キリエライト!」

 

マシュは改めて二本の足をしっかりと踏み締め、盾を前面に展開する。

 

「──最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)!」

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)!」

 

2つの宝具が衝突した。大都市1つを蒸発させるビームはマシュの生み出した白亜の壁により受け止められた。だが、ジリジリと後ろに下がってきており、マシュは必死に踏み止まろうとしていた。

 

「焦れってぇ!」

 

その時、俺と一緒にマシュの後ろに後退していたモードレッドがスラスターを噴かせて彼女に高速で近付き、盾を支えるのを手伝った。

 

「マシュ!放すんじゃねぇぞ!このまま突っ込む──!」

「モードレッドさん…………はいッ!」

 

4枚のバインダーが後方に展開し、一気に前に突進する。押し返す先は獅子王の槍!

 

「───なっ」

「「いっけぇえええええええ!!!!!」」

 

突撃した白亜の壁は聖槍のエネルギーをそのまま押し返した。逆流したエネルギーと放つエネルギーが衝突し、激しい閃光と共に爆発。粉々に砕け散った聖槍と共に獅子王は床を転がり玉座に頭をぶつけた。爆風を防ぎきったマシュは宝具を解除し盾を杖にして荒い息をしている。

 

「う…く……バカな………」

 

奇想天外な方法で逆境を跳ね返した事を獅子王は理解出来ずにいた。バチバチと火花の散る視界の中でその目に映ったのはルキウスだった。

 

「ルキウ……いや、分かっていた………ベディヴィエール…」

 

自分の本来の名前を呼んでくれた事にルキウス…いや、ベディヴィエールは微笑んだ。

 

「……円卓の騎士を代表して、貴方にお礼を。あの暗い時代を、貴方1人に背負わせた。あの華やかな円卓を、貴方1人知らなかった……勇ましき騎士の王。ブリテンを救ったお方。貴方こそ、我らにとって輝ける星。」

 

そして、ベディヴィエールは自らの銀の腕を外し、跪くと獅子王の手に銀の腕を差し出した。

 

「我が王、我が主よ。今こそ───いえ。今度こそ、この剣をお返しします」

 

獅子王はヨロヨロと立ち上がるとその銀の腕を受け取った。それを満足気に網膜に焼き付けたベディヴィエールは腕を失った事で次々と体が崩れていくのを感じながらも最期に見る事が出来た獅子王の笑顔に心の底から満足してその身を灰にした………。




獅子王との戦いはこれで終了です。後は蛇足になります



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懺悔

予告通り、蛇足回です。レモン式アルトリアの1つの区切りとして書きました。






「……大儀であった」

 

獅子王は受け取った銀の腕を胸に抱いた。ベディヴィエールの忠義は果たされた。世界が次々と修復されていくのを確認しながら俺はこの戦いが終わったことを理解した。と、カルデアから通信が入る。回線を開くと、目元の涙を拭う黒ジャンヌの姿が映った。

 

──聞こえてる?これからレイシフトを開始するわ。もうこの特異点からは一刻も早くおさらばした方がいいわ。

 

「そうだな!帰ろうぜ!帰ったら祝勝会と葬式だ!取り敢えず、帰って寝ようz……アルトリア?」

 

帰ろうと言った時、アルトリアは俺達に背を向けた。

 

「申し訳ありませんが、最後にやらなければならない事があります。待っていただけないでしょうか?」

「待つって…まさか」

「もう2度と同じ機会には出会えないかもしれません……今しかありません」

 

決意は固いようだ。どうしようか迷っていた時、獅子王が突然指を鳴らした。暫くしてから馬の嘶きと共に漆黒の馬がやって来た。

 

「これは……」

「私を目覚めさせてくれた礼だ。私の力がいつまで保つか分からんが幾つかの加護もやろう。願いを叶えて帰るが良い」

「───感謝します。獅子王」

「フッ……」

『アルトリアは僕達カルデアスタッフが責任を持って監視してるから先にレイシフトしてくれ。いいね?』

 

「分かった。全員!元の世界に帰るぞ!聞こえてるか!!!ナイチンゲール!」

『はい、データの回収も完了しました。帰還準備、出来ました』

 

──では、転送!

 

 

俺達は勢いよく城を飛び出すアルトリアとその名馬「ラムレイ」を眺めながら、この世界から消えた。

 

************************

 

「ハィヤァッ!」

 

私はラムレイを急かしながら、只管に走った。今はマスターからたっぷり供給してもらった魔力がある。ある程度は保つだろう。

 

「間に合ってくれ!」

 

体が少しずつ強制的にレイシフトしようと光り始めている。今はこのラムレイを信じるしかない。焦燥と不安の中で私は手綱を握り、必死に祈った。砂漠を抜け、山を越え、川を渡り、草原を駆け抜ける。

 

 

「最果てより光を放て…其は空を裂き…地を繋ぐ!」

 

 

風王結界と獅子王の加護を使い、海を駆ける。森を駆け抜ける。全てはあの人に借りを返す為に…!

 

「ここだ……」

 

剣に遺っていた兵士の魂の導くままに走り抜いた私は、木造の家に辿り着いた。軋んだ扉が開き、農婦の格好をした女性が現れた。私を見た途端、彼女は腰を抜かした。

 

「あ…アーサー王……!?」

「申し訳ありません、本日は大切な用事があって参りました。貴女の旦那様はモードレッド軍の兵士でお間違い無いでしょうか?」

「しゅ…主人をご存知なのですか?」

「はい、彼からこの剣を奥様に返還するよう頼まれました……どうか、受け取って下さい」

 

私は傅き、僅かに輝きを残す鈍剣を差し出した。彼女は拳を握り締め、私を見下ろした。

 

「教えてください。主人は……どのようにして死んだのですか?」

「聖槍ロンゴミニアドを携えた私を相手に勇敢に戦い、戦死を遂げました。もし私に恨みをお持ちでしたら、どうか私の首を刎ねて下さい………」

 

そう言い、私はマントを外して首を見せた。だが、彼女は涙を流しながら剣を胸に抱いた。

 

「主人の最期を看取っていただき…ありがとうございます……」

「………報告が遅れ申し訳ありませんでした───」

 

 

 

 

 

その顔を見る事が出来ただけで充分だ。名も無き兵士よ…どうか安らかに眠りたまえ………。




以上、アルトリア回でした。イスラエルからイギリスまでどうやって言ったんだよ!馬じゃ無理だろ!というツッコミは多いかもしれませんが、そこはご愛嬌で(笑)




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閑話休題12…移り変わる

キャメロット編が終わった為にモチベーションとやる気が一気に無くなってしまいました……皆んな!オラに力(と文才)を分けてくれぇえええええええ!







「父上…本当にいいのか?」

「えぇ、私自身もう戦えない事は自覚しています。最後に残った宝具ももうありませんし、これからはスタッフとして働く事に致しました」

 

帰還したアルトリアは宝具を全て失った上に霊核の大半を磨耗しており、戦える状態ではなかった。そんな彼女が選んだ道は戦いを辞める事だった。願いも果たされた…本来なら英霊の座に還ってもおかしくないが、アルトリアは大事な息子を見守りたいから残ったらしい。

 

「なんかなりたい役職はあるか?」

「今のところ、料理でも学んで調理スタッフでも目指そうかなと思っています」

「そうか、じゃあレシピのコピーを貸してやるから勉強するといい。困ったり分からなかったりしたらすぐ聞けよ?」

「感謝します」

 

そう言って自分の部屋に戻っていったアルトリアを見送った俺達は2つの部屋の整理を始めた。

 

「ガウェイン…トリスタン……すまなかった」

 

小さく謝罪の言葉を述べ、遺品を回収する。髪の毛一本も回収出来なかった為、この遺品が彼等の遺体となる。

 

「オレがもう少ししっかりしていたら……って考えていてもしゃーねーか!片付けるぞ!」

「そうだな!これも1つの区切りだ!やるぞ!」

 

ガウェインとトリスタンの遺品を整理すると、レイシフトしながら回収した木材で棺桶を作り、その中にそれぞれの道具を詰めていく。家具は最初からある為、次の住居人に使ってもらおう。

 

「これで全部か」

「よし、葬式だ……っつっても、簡易的なモンだけどな」

 

2つの棺桶の蓋を杭で固定すると、用意していた簡易熱処理場まで運び、焚べた。燃えていく遺品を全員で眺め、それぞれ思い思いに弔いの言葉を述べて部屋を出た。次は大事なイベントが待っている。

 

 

******************

 

 

「よし、同調率100%に到達。凍結解除!」

 

ロマンの指揮の下、一個のコフィンが解放された。呻き声と共に半身を起こすのは2人目のマスターにして新生新撰組臨時局長こと「薩摩 隆志」。彼の目覚めと同時にスタッフからの拍手が起こり、霊体状態から実体化を果たした沖田と土方が現れた。

 

「久しぶりの空気だ。改めてよろしく頼むぞ、『人理保障機関』の方々」

 

薩摩は2人から受け取った新撰組の衣装を身に付け、コフィンを降りた。明らかに約2世紀ほど遅れた格好の青年は、草鞋を履いた足で廊下へ出た。

 

「歓迎するぜ、薩摩」

「早速だが、新撰組の臨時拠点を設けたい。部屋はあるか?」

「あぁ、死んだ2人が相部屋だったからな。広い部屋だ。うってつけだろう」

「忝い。行くぞ」

 

新撰組の面々はさっさと居なくなってしまった。彼等には彼等なりの事情があるのだろう。今はそっとしておこう。

 

「彼等も時期慣れるでしょう。急かさず、いつも通りの日常を見せてあげれば自然と溶け込む筈です」

「そうだな!ありがとうよベディヴィエール…………!?」

 

いつの間にか隣にベディヴィエールが居た。あれ!?お前獅子王との戦いで死んだ筈──

 

「実は、レイシフトの時にレディ・ジャンヌと共に弾かれたのです。もっと早くに言いたかったのですが、結局言えずじまいで…」

「良かった…!お前の個室に鍵が掛かってるわけだ」

 

生存確認が出来た。それで充分だ。

 

「我が王は今、料理の練習をしております。見に行きますか?」

「そうだった!今何を作っているんだ?」

「カレーを」

「カレーか」

「はい」

「カレーのルーはカルデアに無いけど大丈夫か?」

「───はっ!しまった!私とした事が!!!」

 

次の瞬間、俺は駆け出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺に聞けよ?って言ったよな」

「はい……」

 

アルトリアはかなり萎縮して俺の説教を聞いていた。寸胴鍋の中では水っぽくなったカレーが完成しており、台所には片栗粉が置いてあった。上手くいかなかったらしい。

 

「しかもちゃんとカレールーが無い時の対処法もメモに挟んだよな?まさか失くしてないよなぁ?ん?」

「ごめんなさい…」

「が、今から路線を修正する事は出来るぞ。今からアドバイスしてやるからしっかり覚えろよ?」

「えっ?」

「バーカ、皆最初から上手い訳ねぇだろ?分からなかった時に俺に相談しなかった事を怒っただけで別に全否定はしてねぇぞ」

 

半泣きのアルトリアの頭をクシャクシャと撫でた俺は彼女を立たせて鍋と対峙した。

 

「片栗粉でトロミを付けようとしたんだろ?片栗粉は洋食には向かねぇんだ。使うべきは小麦粉でも片栗粉でも無くこいつだ」

「米粉…?」

「そうだ。鍋から少し水を借りてこいつで溶かすんだ。米粉は粒子が細かいからゼッテーにダマにはならない。無いなら刻んだ餅も有効だ」

「餅ィ!?」

 

コロコロと表情を変えるアルトリアと共に俺はカレーの修正を開始した。

 

「こいつを溶かして入れるだけで簡単にトロミの調整が出来るんだ。見てみ?」

「すごい…!」

「足りないと思ったら少しずつ入れてみるといい」

「ありがとうございます!」

 

アルトリアは嬉しそうに少し味見してから調合しつつ、完成したカレーの盛り付けを始めた。満足いく出来だったようだ。

 

「業務用サイズで作ったって事は皆に食わせる予定だったんだな?」

「はい…私のワガママを聞いていただいた御礼をと思いまして…」

「なら早速呼ぼう!待ってな!」

 

俺は、アナウンスを使い夕飯の時間を伝えた。

 

 

******************

 

 

「すげぇ!父上が作ったのか?」

「はい、マスターにも手伝っていただきましたが…」

「美味い!これなら父上の料理も毎日食べてみたいぜ!」

「ぇー…」

「立香の飯も美味いぜ!朝は立香…昼は父上で、夕飯は2人一緒に作る…!いつかそんなローテーションで食わせてくれよ!」

「はは///照れてしまいます///」

 

なるほど、息子にカッコイイところを見せたいというのも手伝って欲しいと言い出せなかった理由のようだ。

 

「咖喱とはまた…美味いではないか」

「マスターったら、箸で食べるなんて……あー!!!やめてください!味噌汁じゃないんですから!」

「やかましい、飯が食えんぞ」

 

新撰組の面々も満足してくれたようだ。取り敢えず、アルトリアの試みは成功したと言えよう。

 

「よし!」

 

今日はアルトリアのガッツポーズが見られただけ充分だ。カレーの味付けも悪くないしな。アルトリアの新たなスタートを俺は心の中で祝福した。




ストレス発散に四川料理店で四川麻婆を本場の味注文してヒーヒー言いながら食べて来ました。やっぱり中華は四川がナンバーワン!はっきり分かるんだね。





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閑話休題13 迷探偵モーさん

キャメロット編が終わったので、後は懲りずにコメディ調で行きます。もうシリアスなネタは出てこねぇ…(土下座)






「立香〜!遊びに来たぜ〜!」

 

突然扉が開いたと思ったら、モードレッドが入って来た。格好は赤いジャケットとホットパンツという活発そうないつもの私服。が…さっきからアホ毛が気になる。アルトリア譲りのそれを見る視線に気付いたのか、モードレッドはアホ毛を指で弄った。

 

「やっぱ気になるよなぁ。でも、このアルトリウムが無きゃ武装の大半が使えねぇからな。必須アイテムなんだ。」

「アルトリウムって言うんだな」

「変だよな!アホ毛はアホ毛なのによ」

 

少し互いに見つめあい…俺はモードレッドの隣に座った。エルサレムでの戦いで彼女は一度死んだ。だが、こうして戻って来てくれた。俺にはそれがとても嬉しかった。

 

「そうだ!立香!大事な情報を教えるのを忘れたんだ!」

 

そう言うとモードレッドは、ジャケットから一枚のディスクを取り出した。

 

「魔神柱を取り込んだ時に手に入れた記憶をデータにして焼いてみたんだ。見てみようぜ!」

「おう」

 

早速、ノートパソコンに挿入して動画を再生してみた。曰く、黒ジャンヌの発案だそうで、レイシフトで帰還した際に脳が情報過多でショートしそうになった事で『記憶を別の媒体に移す』という方法で解決したのだ。

 

「よし、起動した」

「うわ、何だこれ」

 

そこに映ったのは何処かの世界だった。古い格好をした男達が一人称の魔神柱(?)に対し土下座し敬う様子が見える。こいつは偉い奴だったのか?また暫くすると、今度は歴史上ではよくある風景が見えた。迫害・差別・飢餓・略奪……人間の醜い映像ばかりが映った。その時、声が聞こえた。

 

 

 

──私は見逃す事が出来ない このまま見過ごす事は出来ない 彼の王の悪行を 彼の王の残忍を 多くの哀しみを見ていながら、何もせず、薄ら笑いを浮かべていた、あの悪魔を………

 

 

「ポップコーン食うか?」

「いつの間に作ってたのかよ!?…まぁ、食うけど」

 

 

シリアスな空気にいたたまれなくなり、俺はアルコールランプと三脚台をコンロに即席で作ったポップコーンを丼に入れて塩をかけた。

 

 

──どのような時代、どのような国であれ、人の世には多くの悲劇があった。我が子を殺すもの、我が子に殺されるもの…恋を知らぬもの、恋を捨てるもの……

 

「美味っ!?どこの塩を使ってんだ?」

「フランスの岩塩だ。良い味が出るんだよなぁ〜フランスは」

「こいつにキャラメルソース絡めようぜ!」

「ちょっと待ってな!すぐ絡めてやる」

 

砂糖をコトコト煮込み、さらに美味くする為にバターも加える。そして出来上がったキャラメルソースを半分取ったポップコーンに絡めて別の丼に盛り付けた。

 

「さっ、続きだ続き」

「あ、途中止め忘れた。まぁいっか!」

 

 

──なんと醜く悲しい生き物なのだろう。只人はそれでよい。

 

人間は万能ではない。皆苦しみを飲み込み、矛盾を犯しながら生き続けるしかないのだ。

 

されど万能の王であれば別だ。彼にはそれを解決する力も、手段もあった。

 

過去も未来も見通す千里眼を持ち、この世の全ての悲劇・悲しみを把握していながら その上で何もせず笑うだけの王が居た。知っていないのであれば良い。だが、知った上で笑い続ける王が居た。

 

──それを知っていながら何もしないのか!この悲劇を正そうとは思わないのか!

 

──私の問いに王はこう答えた。

 

 

“いやぁ、まぁ、別に、何も?”

 

 

──この男を許してはならない!私たちの誰もがそう思った。

 

神殿を築き上げよ、光帯を重ね上げよ。

 

アレを滅ぼすには全ての資源が必要だ。

 

アレを忘れるには全ての時間が必要だ。

 

終局の特異点への道を探せ、そこに魔術王の玉座がある。

 

その宇宙の名はソロモン…終わりの極点。時の渦巻く祭壇、始源に至る希望なり…

 

 

「あ、終わった」

「オチ無しかー」

「だが、黒幕に繋がる貴重な手掛かりは見つかった。そうだ!これ見ながら作戦会議しようぜ!おやつ沢山作ってさ!」

「よし来た!頭使うのは下手だが飯作るなら俺の専売特許だぜ!取り敢えず1日だけ時間寄越せ」

 

俺は早速、スイーツ専用のレシピブックを手に食堂へと向かった。

 

 

******************

 

次の日、ブリーフィングルームはいつも違った趣となっていた。農業プラントから持ってきた観葉植物やオシャレな椅子・テーブルが置かれ、テーブルには和洋のスイーツが並べられている。

 

「よく来てくれた。今回は趣向を凝らしてみた。遠慮せずに食ってくれ」

「すごいです!先輩!これ全部先輩が?」

「流石に幾らかはアルトリアにも手伝ってもらったが、そのおかげで2倍多く作れちまった。まだ余ってるからな」

 

スイーツが食べられるという事でスタッフや農作業中のサーヴァントも一時中断してブリーフィングルームに入って来た。

 

「因みにオススメはなんだ?」

「このシュークリームだな。皮をクッキー生地で作ってるんだ。札幌のとある田舎町で食ったシュークリームが気に入ってさ」

「上下で皮が分かれてるな。どうやって食うんだ?フォークとナイフで食べ辛い形状してるんだが」

「手で食うんだ。ちょっと下品だけどこうやって…上の皮でクリームを掬って一緒に食べるんだ。やってみ?」

「美味ッ!?」

 

そこそこに賑わいを見せたブリーフィングルームで、改めてモードレッドはホワイトボードとペンを取り出した。

 

「じゃあ、こんなスイーツとは縁もクソも無いがまずこのビデオを見てもらうぞ」

 

DVDプレイヤーにディスクを入れて先程の映像を見てもらった。静かになる空気がしばし続いた後、モードレッドはホワイトボードにペンを走らせた。

 

「ここまでがオレの頭の中から取り出した魔神柱の記憶だ。これを見て思った事、心当たりのある奴は手を挙げて発言してくれ」

 

モードレッドは漉し餡団子を食べながら司会進行を行う。最初に手を挙げたのは薩摩だった。

 

「一人称が変わっているが不自然だ」

「正解、一人称が変わったって事は相当怒っていたとも推測される。恐らく『私達』が本来の一人称なんだろう」

 

次に手を挙げたのはダ・ヴィンチ。

 

「でも、それは不自然なんじゃないかい?普通自分の事を複数人では言わない筈…あり得るとしたら多重人格者であるくらいだ」

「そこなんだよ。でも、ここにはもう1つの不自然な点と繋がってくる…」

「そうだ!王の言葉の時に視点に彼の顔が映っていない!」

「バカッ!口に物入れながら叫ぶな!」

「あっ、ゴメンね」

 

なるほど、普通本気で訴えたい時は相手の顔を見る。あさっての方向から話す事は無い。

 

「そして、大事な事が1点。その王様の名前はソロモン王だ」

「えぇっ!?」

 

モードレッドが核心を突いた瞬間、自称ソロモン王ファンことロマンが椅子からひっくり返った。

 

「終盤のセリフにあった台詞と『過去も未来も見通す千里眼を持ち、この世の全ての悲劇・悲しみを把握していながら その上で何もせず笑うだけの王が居た。知っていないのであれば良い。だが、知った上で笑い続ける王が居た。』というフレーズから推測出来る。ソロモン王はかなりのクズ野郎とも見る事が出来るな」

「ひどいッ!ソロモン王はそんな悪い人じゃない──」

 

そう抗議しようとしたロマンは急に顔をズイと近付けたモードレッドに怯んでしまった。

 

 

「ソロモン王の雰囲気と魔神柱の独白…ついでにマシュの証言からテメェとの共通点も見つかってんだ。下手な嘘は吐いてねぇで本当の事を喋った方が懸命だぜ?魔術王殿?」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、ブリーフィングルームがざわざわと騒がしくなった。それを手で制したモードレッドは腰に右手を当て、左手でコーヒーを飲んだ。

 

「具体的に言ってやろうか?魔神柱と精神世界で戦闘していた時に奴の伝説にある10の指輪が9しか無かった。しかも、その欠けた箇所の指輪を填めているとマシュから聞いている。ついでにソロモン王のあんな呑気な発言はテメェによく似てるんだよ!つか気になったから音声照合したらピッタリ一致したしな!どうだ、これでも違うと言い切るか?ん?」

「───ぅぅ。」

 

ロマンは周囲の空気に耐えられなくなり、萎縮してしまった。それを見たモードレッドはコーヒーカップを一度テーブルに戻した。

 

「まず、テメェには良い事と悪い事がある。どっちから聞きたい?」

「──取り敢えず、良い方から」

 

やっぱり、といった空気が漂う中でモードレッドはニッと笑った。

 

「ソロモン王はこの事件には関係無い。自分に出来る事をやって土地を治め、普通に死んだ王だからな」

「ホッ…」

「で、悪い方は…テメェがちゃんと魔神柱と対話しなかったからこの事件が起きたって事だ。そこはテメェの落ち度だ。反省しろ」

「───はぃ」

 

アルトリウムが生えてから急に聡明になったなぁ…モードレッド。今のお前は少し遠く感じるぜ。

 

「罰として、ロマンは魔神柱の正体と元凶についてたっぷり話してもらうとしよう。勿論、持論で良い。テメェの体からは何の魔力も感じねぇからな」

 

 

 

******************

 

ロマンの口から語られた内容を聞いた俺は頭を抱えた。そこまでの事情を抱えていながら何で相談しなかったんだという思いと本当の事を話してくれた事への嬉しさの両方が入り混じった複雑な思いで彼の肩を軽く叩いた。

 

「よく話してくれた。これで俺も敵の正体をハッキリと理解出来た。これでチャラとしよう」

「すまない…僕も隠していた事を話せてスッキリしたよ」

 

無事、ロマンとも和解出来た。最後は俺が〆にしよう。

 

「これで敵の正体が掴めた。敵の正体は生前のロマンが扱っていた魔術だ。魔神柱はその魔術そのものであり、恐らく意識の集合体も存在する。俺達は敵の名を『ゲーティア』と仮称し、そいつの痕跡から敵拠点を狙うものとする!」

「うんうん、らしくなったね。ぐだ男君」

「ロマンの作業の幾分かはサーヴァントを追加動員して負担を下げるものとする。これは人間としてのある程度の楽しみを謳歌してもらう為の俺からの提案だ。いいな?」

「分かったよ。僕も極力休むように心掛ける事にするよ」

「よし、シリアスな話はここで終わりだ!さぁ、ティータイムを楽しむとしよう!」

 

 

 

が、直後にナイチンゲールがティータイムに興じる俺達を発見。全員食後に彼女の目の前で歯磨きする事となりましたとさ。




以上、熱いネタバレ回でした。まだウルク編のストーリーが出来てないので閑話休題で暫しお茶を濁します


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閑話休題14 カスミソウ

閑話休題をいつもより多めに注入。現在7章の話を書いてます。オリキャラ追加とそれに伴うストーリーの一部変更を予定しています。






「さて、久々に回すゾォ」

「よっ!待ってました!」

 

今回はガチャをぶん回すために貯めに貯めていた聖晶石たっぷり300個ぶち込んだ。ロマンへの宣誓通り、負担軽減の為にぶち込んだのだ。強くなくて良いからお利口なサーヴァント…来い!

次々と概念礼装が出て来る中210個…つまり7回目の10連ガチャの際に奴は出て来た。そう、まるでそれが運命であったかのように奴は現れたのだ。

 

 

「こんにちは、カルデアのマスター君。私はマーリン。人呼んで花の魔術師。気さくにマーリンさんと呼んでくれ。堅苦しいのは苦手なんだ」

 

男なのにものすごい色気を放ち、足元に花が咲き乱れている胡散臭い魔術師…マーリンがやって来た。それを見たベディヴィエールは苦笑し、モードレッドは呆れ、アルトリアは豚を見る目で彼を祝福した。

それだけじゃない。

 

 

 

「サーヴァント、セイバー。ランスロット、参上いたしました。ひとときではありますが、我が剣はマスターに捧げましょう」

 

 

 

新しい円卓の騎士を抱えて戻って来たのだ。当たり前だが、円卓の騎士達はモードレッドを見るなり怪訝な表情を浮かべた。

 

「モードレッド……あの叛逆者がなぜ英霊に……!?」

「違ぁう!オレの名はモードレッド・ペンドラゴン!父上からアルトリウムを継承した正統なる騎士王だ!」

「────はい?」

「待て待て待て!?何故モードレッドが……我が王よ!説明して下さい!」

 

ランスロットが混乱し、流石のマーリンも驚く中…アルトリアは笑顔でモードレッドの頭を撫でた。

 

「確かに生前の私はモードレッドの事を嫌っていました。しかし、今は違います。言葉遣いはまだ汚いですが出来の良く可愛い息子です」

「えへへ〜、父上のおかげで幸せだぜ」

 

それを見た彼は無言で壁に手をつくと思いっ切り頭を壁にぶつけた。マーリンに至っては頭を抱えている。

 

「って訳だ。よろしく頼むぞ。お前ら!」

「「は、はぁ……」」

 

結局、ランスロットはレベルがしっかりと上がるまでロマンの手伝いという形で働かせ、マーリンは新たなサポートとしてチームに加える事にした。

 

「しにしても広いね。農業や漁業も行われているなんて…さしずめ『小さな城下町』といった所かな?」

「まぁ、そんな感じか。最近は余った野菜とか魚介類で加工食品を作る施設も用意したんだ。完成した加工食品は食堂にある冷蔵庫に保管。それらが食堂に使われる」

「ふむふむ、折角だけど食べに行っていいかな?」

「いいぜ!オレも腹減ったしちょうどいいや!行こうぜ立香!」

「今日の当番は…『アルトリア・ベディヴィエール・黒ジャンヌ』か。早速行ってみよう」

「アルトリアがかい?これは期待出来るね」

 

 

 

 

 

 

 

「我が王、ミートパイが完成しました」

「ありがとうございます。3番のスタッフさんにミートパイ、5番のスタッフさんに減量セット、7番のブーディカさんにはショートケーキ!よろしくお願いします!」

「はーい、お待たせしました〜」

 

アルトリア達が忙しなく働く中、俺達もテーブルに座った。正直そわそわしてるんだがそこは気にするな。

 

「メニュー表は当番によって変わる。料理の上手い人から研修を受けてからキッチンを担当出来るようになるんだ。だからマズイ飯が出る事は基本無い。ナイチンゲールがカロリーとか栄養素とかの管理をしてるしそういった所もメニューには書いてある」

「じゃあ、私は無難にミートパイで」

「オレはチキンソテー」

「じゃあ俺はナポリタンを頼もう。黒ジャンヌ!注文いいか〜?」

 

 

 

 

************************

 

満腹になった俺は冷蔵庫からジュースを取り出しクーラーボックスに入れて肩に担いで食堂を出て、待たせていたモードレッドとマーリンと合流した。

 

「いや〜、食った食った」

「アルトリアの手料理なんて初めて食べたよ。あんなに美味しかったなんて」

「すげぇ嫌な顔してたけどな。因みにレシピは全部マスターが作ったんだぜ!」

「本当かい!?」

 

 

そんな話をしながら廊下を歩き、暫くして俺はマーリン用の部屋に案内した。

 

「ここがマーリンの部屋だ。家具とかはダ・ヴィンチの工房に依頼すれば用意してくれるからな」

「至れり尽くせりだね。ブリテン時代よりいい暮らしが出来そうだ」

「他のスタッフに迷惑かけんなよ」

 

ここでマーリンと別れた俺とモードレッドは部屋に戻るべく元来た道を歩く。現在拡張工事が行われており、土方の兄ちゃん(サーヴァント)達が熱心に作業をしている。

 

「お疲れさん!差し入れだ!少し休みな!」

「「うぃーっす!!」」

 

キンキンに冷えた飲み物をサーヴァント達に渡して労いの言葉を掛けて俺とモードレッドは2人っきりで足並みを揃えて歩く。

 

「立香」

「ん?」

「オレ、あの時諦めなくてよかったよ」

「…」

「魔神柱に何度も心を折られそうになった。足掻いたって死ぬだけだってオレも何度も諦めそうになった。でも、立香は戻って来てくれた。そこまでオレを思ってくれた……そのおかげでこうして戻って来れた」

「モードレッド…」

「次の特異点さえ突破すればゲーティアを探す手がかりが見つかるだろう………その時は頼むぜ!死亡フラグを叩き割ったんだ!立香さえ居れば何も怖くねぇ!」

「そうだな!生き残ろう!そして、聖杯探索が終わったら一緒に隠居して喫茶店でも経営しようぜ」

「おぅ!約束だかんな!」

 

そして、俺とモードレッドは………




マーリンをじさん及びランスロット参戦。
言い間違えました。女の敵が2人も参戦!





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絶対魔獣戦線バビロニア
最後の生存者


今回は最後の生存者についてのサラッとした紹介。カタログスペックは凄いのにマトモな活躍しない奴って多いよね






「皆んな聞いてくれ。我々スタッフの懸命な捜索の結果…遂に最後の生存者の居場所を発見した!」

 

ロマンからの報告を耳にした俺達は早速ブリーフィングルームへと向かった。最後の生存者…その名前は知っている。

 

 

愛識 蓮(いとしき れん)……16歳にして転換魔術のスペシャリスト。魔力や精神を別のモノに移し替える魔術で、愛識の場合はサーヴァントの肉体に魂を移植出来るというブードゥ教もビックリのチートぶり。しかも自力で固有結界も展開出来るらしく、それが原因で魔術協会から狙われてカルデアに逃げてきたという噂まである。イケメン・金持ちというハイスペックぶりは最早なろう系主人公そのものだ。まぁ、性格はクズだけどな。俺を見て開口一番に「薄汚い犬」と宣った時は流石に1発ぶん殴った。今でもアイツの事は許していない。

 

 

「愛識かぁ…出来れば放っておきたいんだけどなぁ……」

「心配すんな!いざって時はこのモードレッドにお任せってな!」

「モードレッドが居れば安心だ。それに…少しくらい成長したしな」

 

ブリーフィングルームでロマンから説明を受けた。時代はなんと神代にまで遡り、英雄王ギルガメッシュとウルクの町が舞台だそうだ。

 

 

「メンバーも大分減ったな」

「はい…、ガウェインさん・トリスタンさんが減り…今では私とモードレッドさんとベディヴィエールさんしか居ません。ですが、私も精一杯先輩のちか──」

「ロマン!レイシフト頼む!」

「酷いッ!?」

「今回はマーリンも参加するらしいから頼もしいな。黒ジャンヌもナイチンゲールもなんだかんだでサポートに回ってるし」

「そう言われると嬉しいね」

 

 

さて、無事にレイシフトが成功する事を祈るしかないな。俺はコフィンに入り、目を閉じた。その横では先に転送された薩摩のコフィンもあった………。

 

 

******************

 

 

杖を握る。細い指で幾度も握り締めたそれはしっかりと馴染み、僕の手足として機能してくれる。

城壁から眼下の戦場を見下ろす。神代の魔物が犇き、人間が必死に足掻く。助けなければならない。救わねばならない。それが僕に与えられた使命。

 

「──擬似宝具展開。『星見の円規(サークル・カルデアス)』」

 

何百と唱え続けた術式を展開する。ドーム状に展開された魔術の障壁に魔物を閉じ込める。同時に冷え切った五体に暖かな血流が流れていくのを感じる。魔物達から吸い上げた魔力が血となり僕の命を繋ぐ。

幽閉された魔物達が魔力を失い、弱る様を一瞥した僕は魔術を解除して壁に凭れかかった。

カルデアから救助は来るだろうか?そもそも無事なのだろうか…?忘れずずっと出し続けている救難信号は受け入れてくれたのだろうか?

僕の頭の中にはそんな思いが渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

「こちら───カルデア、Aチーム。愛識 蓮…SOS……至急救援を求む」

 

何度言い続けたのか忘れた救援メッセージを送った僕は戦場の中で重過ぎる瞼を下ろした。願わくば、最期にカルデアの廊下を歩ける日を………。




以上、なろう系キャラの紹介と現状でした。
因みに擬似宝具と呼んでいた存在は正確に言えば固有結界でどれくらいチートかと言うと「発動後5ターンの間、『ターン開始時に敵全員からNP10%吸収&味方全員のNP10%増加を付与』を行う対国宝具」といえばそのキチガイぶりが分かると思います。が……今回は少し事情が違うようで…?


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デモンストレーション

最近デュエル熱が再燃。貯金を切り崩してカードを買う人間のクズに成り下がってマス。性懲りもなく続きを書いていきます。今更止める訳にもいきませんし、最後までやってきます






「よっと」

 

レイシフト先の風景は何とも言えないものだった。一面に砂漠や森、聳え立つ岩肌の山脈、遠くには海まで見える…不思議な気分がする。一見矛盾したような存在だが、本物である。モードレッドも魔力を感じているのか、同じく不思議な気分のようだった。

 

「近くに人の影は見当たらねぇな」

「うーん……」

 

一方で、マーリンは浮かない顔をしていた。不安からなのかブツブツ呟きながら杖で道を叩いている………と思った瞬間。綺麗な花が咲き始め、真っ直ぐ遠くへとそれが道のように連なった。

 

「これが、愛識が辿った道みたいだ。辿っていくとしよう」

「すげぇ………」

 

流石、親子2代に渡って仕えた魔術師だ。スケールが違う。ここで、薩摩から通信が入った。

 

『藤丸殿。現在、首都にて魔物が多数接近し交戦中。至急援護されたし』

「ウルクってどっちの方角だよ!?」

『座標を表示する。その方向に歩けばよい。幸い平地だ…すぐに着く。』

「分かった。すぐに行く」

『辱い』

 

通信を切った俺達は急いで道を走った。魔物…一体どんな怪物なのだろうか?そう思っていた俺の前に突然、人影が現れた。

 

「やぁ、急いでるみたいだね」

「誰だあんた?」

 

やや平和ボケしたような声で語るそれは女のような容姿をした何かだった。男なのか女なのかさっぱり分からないが…多分、男だろう。肩のあたりが男っぽいからな。

 

「その様子からするとウルクへ向かってる感じかな?」

「あぁ、すまないが今急いでるんだ。退け」

「退けだなんて…折角近道を教えてあげようとしたのに」

 

そう涼しげな表情で言う彼だが…モードレッドはすぐに引っ掛かりを感じたようだ。

 

「近道?嘘つけ。この周りは平地だ。近道する場所はどこにも無い───」

 

そう告げた直後、モードレッドの顔を何かが掠めた。それは……1本の鎖だった。

 

「勘のいい奴は嫌いだよ。全く、人間って奴は小賢しいったら──」

 

と言った直後だった。モードレッドは鎖を掴み、逆に引き寄せた。

 

「寝てろ」

「ぴんぐぅっ!?」

 

引き寄せた拍子に渾身の腹パンを咬まし、男の意識を一瞬で刈り取ってしまった。

 

「行こうぜ!」

「………お、おぅ」

 

気を失った彼を一瞥し、俺達は戦場へと向かった。

 

************************

 

ウルク 城壁西側

 

 

「怯むな!進め!」

 

俺達が到着した時にはウルクの兵士達は押され気味だった。薩摩達が暴れ回っている恩恵で追い詰められる事はなくジリジリ戦線を下げられている状況だ。

 

「藤丸殿か!応援、感謝する」

「敵の数は?」

「現在は巨龍1・獣5・海星7・蜥蜴10。戦線を一点集中させているようだ」

「オッケー、モードレッド!令呪一画使ってやるから遠慮せず暴れて来い!」

 

令呪を躊躇無く一画使うと、モードレッドはすぐに全身から魔力を放出した。

 

 

「漲ってきた!行くぜぇっ!!!」

 

スプマドールで地上を滑るように飛んだモードレッドは/クラレントを構え、粒子ビームを3発発射し蜥蜴型の魔物を3体仕留めた後、減速せず銃身に装備したクラレントの刃で獣型の首を掻き切る。ステップを踏むように蛇行しつつ魔物達の追撃を回避したモードレッドはノンルックで背面撃ちして海星型の魔物を3枚抜きして撃破。正面に立ち塞がり、頭に付いた刃を振り被った蜥蜴型の刃先を蹴って跳躍した直後に追撃するべく突っ込んで来た獣型が刃によって真っ二つにされた。

 

「スプマドール、フライトモード!」

 

──アルトリウム、認証。 スプマドール、フライトモードニ移行。飛翔 開始

 

 

跳躍の拍子に飛翔したモードレッドは上空から/クラレントを向け一斉に低出力のビームを機銃のように掃射し地上の魔物達を蜂の巣にしていく。

 

「あと一体──!」

 

巨龍型…所謂ファフニール型の魔物は城壁に迫ろうとして足止めを食らっていた。

 

「じゃあ、もう一形態見せますか!」

 

ビームを数発放ち、巨龍型の注意を引く。流石に頑丈な鱗には通じず、全て弾かれたが新たな脅威と認識した魔物はモードレッドに向けて飛翔した。対して更に上へと上昇したモードレッドは/クラレントの銃身を空に向ける。

 

「スプマドール、ダイナミックソードモード!」

 

──アルトリウム、認証。 スプマドール、ダイナミックソードモードニ移行。合体 開始

 

今度はスプマドールそのものが/クラレントに纏わりつき、その形状を変形させると…巨大な1本のクラレントとなった。刀身から魔力を放出した事で更に巨大ビームサーベルへと姿を変えた。

 

 

「一刀──!」

 

 

モードレッドを噛み砕こうと口を広げて上昇する巨龍型目掛けて彼女は一回転しながら幹竹割を食らわせた。クラレントが頭から尻尾までスライスし、縦方向に真っ二つにされた魔物は斬られた事を理解出来ないままに墜落した。フライトモードへとスプマドールを変形させたモードレッドは綺麗に大地へと着地した後、/クラレントで所謂「サンライズパース」をキメた。

 

 

「両断!!!」

 

 

その見栄切りと同時に残骸が派手に爆発した。この間、僅か10分………。

 

*******************

 

「ここが我等カルデア組の臨時拠点だ。ボロ屋であるが、その点は容赦いただきたい」

「いや、寧ろ短期間で住居まで用意してくれた新撰組の手腕に感謝したい」

 

堂々と新撰組の旗が掲げられた(曰く、「土方お手製」)臨時拠点の施設に入ると、俺達はようやく落ち着く事が出来た。

 

「三日三晩不眠不休で前線に出たところ王から認められた…というのが大きいですね。正直沖田さん死にかけましたけど」

 

沖田がぶーぶー文句を言っているが、タダで家を出してくれるには相応の活躍が必要だ。『最短距離(死地で戦う事)で手に入れた』のだ、薩摩達は。

 

「さてと…飯でも食うか」

 

土方はそう呟くなり、勝手に拠点を出て行ってしまった。買い物らしいが…大丈夫なのだろうか?

 

「!…そうだ。薩摩、愛識は見なかったか?」

「愛識殿か。いけ好かない男だが……奴の反応は間違いなくこの街にある。恐らく何処かには居るはずだ」

「じゃあ、明日捜索しよう」

「では、拙者は前線に出る。藤丸殿は合流次第連絡を」

「分かった」

 

その日、俺は夢を見た。『死にかけた女が夜空を見上げながら助けを呼ぶ』という変な夢を……。

 




夢で見た女の正体とは?それは次回。新撰組、有能


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怪物

久しぶりの更新です。ネタ切れにつき当初予定していたシナリオを大幅に転換する決意をしました。今後はゆっくりと更新していきます。






朝起きると、既に新撰組の姿は無く代わりに朝食が用意してあった。古代米で炊いたご飯・沢庵・味噌汁(?)という内容だったが…味噌が無いからって蟹味噌で代用すんのは如何なものか。

 

「食えるから良しとしよう」

 

胃の中に飯を収めた俺達は拠点を出て町を歩く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「色々あるな。昔の文明ってこんなに発達してたんだな」

「俺達のよく知っている物もあるしな……」

 

市場のある大通りをぶらぶら歩いていた時……俺は人混みの奥にこちらを見据える者が居る事に気が付いた。殆ど顔が見えない程にローブで体を覆い、その瞳には明らかな敵意が滲み出ている。

 

「モードレッド…戦闘態勢」

「ッ!?」

 

そう指示した直後、ローブを纏った何者かは手に持つ杖を鞘のように握りながら突撃を始めた。それに気付いた市民達が悲鳴をあげて脇へ逃げた。

 

 

 

 

「ここにまで来ていたか───魔神柱!!!」

「なんだッ!?コイツは!?」

 

一瞬でモードレッドの懐に潜り込んだローブの戦士は杖の先端を握り抜刀の動作をした。直後に鞘と思われる部分が地に落ち、白銀の刀身が現れた。

 

「仕込み杖か!?」

「仕留める!」

 

辛うじて/クラレントでフェイルセーフしたモードレッドは蹴りで距離を取るとプリドゥウェンと/クラレントを土の上に刺し、モルデュールを抜刀した。

 

「やってやろうじゃねぇか!!!」

「人間体の内にカタをつける……擬似宝具展開『星見の円規(サークル・カルデアス)』!」

 

対してローブの戦士は仕込み杖をバトンのように手の平で高速回転させると胸の前で掲げ魔術を詠唱する。直後に俺達と自身を覆うように結界が展開された。この術式…!?

 

 

 

 

「止めろ!愛識!!!俺達は味方だ!仲間の顔すら認識出来なくなったのかよ!」

「問答無用!」

 

 

仕込み杖を胸元で構えたローブの戦士…愛識と思われるソレは再び肉薄する。迎撃しようとしたモードレッドだったが、自由がきかない事に気が付いた。

 

「体が……鈍…ッ!?」

「それはそうだ。この結界に入った物は僕が解くまで永遠に魔力を吸い続ける!分かりやすく言えば消費する魔力の2倍のエネルギーを吸い上げるんだ。サーヴァントには最も有効な固有結界…それがこの『星見の円規(サークル・カルデアス)』だ!」

 

星見の円規…偶然とはいえ、カルデアの名を冠する奥義…間違いない、アイツが最後の生存者だ。

 

「クソッ!?」

 

跳躍して振り下ろされた仕込み杖の一突きを体を転がして回避したモードレッドは威嚇するようにモルデュールを向ける。が、勝負の流れは完全に愛識に流れてしまっていた。俺は何とか阻止する為に馴染み深いものを見せる事を思い付き、カルデアのスタッフが所持するパスカードを愛識の足元に投げた。

 

「愛識!!!コイツを見ろ!カルデアのパスカードだ!分からないのか?」

 

効果はあった。漸く真面目に見る気になった彼はそれをジッと見つめ……結界を解除した。が、元の景色になった直後…愛識は突然膝をついた。

 

 

 

「────ごふっ」

 

 

そして、血を吐いてそのまま気絶した。

 

「大丈夫……!?」

 

慌てて駆け寄り、フードを脱がせた時…そこには愛識の体は無く、代わりに白銀の髪を持つ女の体が入っていた。

 

****************

 

「すまなかった……君達がカルデアからの救助者だとは思わなかった」

 

意識を取り戻した愛識は俺の用意した水を椀一杯飲んだ後、素直に頭を下げた。恐らく、俺達が避難した後で何らかの出来事があったのだろうか?

 

「救助が遅れたのは悪かった。全然見つけられなかったんだ」

「神代から救難信号を発信する事は困難だからね。責めはしないさ」

 

と、ここでモードレッドが気になっていた事を尋ねた。

 

「なんでオレを魔神柱と思ったんだ?言ってみろ」

「魔力量から想定すれば造作も無い。が、魔神柱の力を逆に取り込むなんて考えもしなかった。そもそも魔神柱を炉心として組み込んで強化する発想そのものが無かった」

「はは…」

 

愛識は大きくため息を吐くと、俺達の知りたかった情報…愛識が何故女になったのかを教えてくれた。

 

「あの爆発で肉体が死に魂だけが冬木に強制転送された時、僕の魂は弱り切っていた。必死に逃げ回っていたが…それも限界になった。乗り移れる肉体も無かった僕は止むを得ず…死の一歩手前のサーヴァントの肉体に巣食った…それが間違いだったんだ」

「間違い?」

「巣食うべき相手を間違えたんだ。汚染されたシャドウサーヴァント一歩手前の肉体に乗り移った為に急速に記憶や意識が次々と壊れた転々と魂を移植しながら彷徨い続けた所為か…もう色々と記憶が抜け落ちている」

 

『例えば、自分の家族の顔とかカルデアでの生活とかな』、と自嘲気味に話す愛識は痛々しかった。こうしている間も息絶え絶えという状態で、いつ死ぬかも分からない状態だ。

 

「それどころじゃない。余命も短い」

「なっ!?」

「ウルク1番の名医に診てもらった、巫女にも診てもらった…が、結果は同じ。あと2週間で魂は燃え尽きる…」

「あの固有結界なら魔力だって吸い上げられるだろ!なんで──」

「だが、汚染された肉体は僕の魂を腐敗させていた。今は神性を持つサーヴァントの体を借り受け今まで魂喰らいで誤魔化しているが…それも限界だ」

 

愛識は仕込み杖を突いてヨロヨロと立ち上がった。生気の殆どが抜けた…俺があの日見た天才の姿などどこにも無かった。

 

「偵察をサボってしまった…ギルガメッシュ王に怒られる……」

 

止めようとしたが、すごい剣幕で制して出て行ってしまった。もう愛識を助ける事は出来ないんだ………俺はその背中を見て嫌でも確信してしまったのだった…。

 

 

 

 

 




愛識 蓮
愛称:レン
年齢:18歳
趣味:魔術研究・音楽鑑賞
特技:固有結界の展開
概要:魔法の域に達するとも持て囃された若き魔術師。だが、レフの起こしたテロによって肉体が死んでしまい、偶然魂だけが冬木に飛び、死にたくない一心でシャドウサーヴァントの肉体に巣食った結果、魂が腐り続ける不治の病にかかってしまった。
因みに、現在は北米戦線で召喚され人知れず死にかけていたブリュンヒルデの肉体に巣食った為に腐敗の進行は鈍っている。




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防衛任務

下総国攻略完了につき急遽つき足した話です。







「よーやく撤退したか」

 

/クラレントのビームによる薙ぎ払いで戦意を喪失した魔獣達を見送りながらモードレッドはプリドウェンを背負った。

 

「次の防衛戦線に行こうぜ、立香」

「おぅ、少し手薄になった箇所もあるみたいだしな」

「西の防衛戦線も大した事ないぜ」

『藤丸殿、北の防衛戦も終了した。如何なさいますか?』

「見張り番を置いて撤退だ。飯にしようぜ飯に!」

『承知』

 

「って事でよろしくな。見張り番」

「分かった。君達のおかげで戦線も少しずつ押し返せている。ゆっくり休んでいてくれ」

 

実際、機械化&魔神柱を取り込んだモードレッドの戦力はケタ違いだ。やや射撃戦の方が得意になったものの、精密射撃が特に上手くなっている。さっきだって、最前列にいた魔獣達を片っ端から狙撃してウルク兵達への接近を許さなかった程だ。

 

「この調子でミッションが終わればいいけどなー」

「な訳無いだろ。ここは神代だ。俺たちの理解し得ない領域の力だってここには飽和してんだ」

「だよなぁ…早くカルデアに帰ってやり残したゲームをやりたいぜ」

 

そう言いつつ、俺たちは今日一番のMVPの方へ振り返った。

 

 

「がふっ…!?はぁ……はぁ……」

「無理すんな愛識!死にそうなのに無茶すんじゃねぇよ!」

 

自陣全体に広がっていた魔法陣が消え、城壁の隅で固有結界を展開していた愛識が盛大に血を吐いた。病状は相当悪化しているらしい。進行こそ遅れているとはいえ、既に魂そのものが滅びかけているのだ。体に異常があってもおかしくはない。

 

「すまん……」

 

愛識を肩に担いで帰還した俺たちはこの日の戦闘を終えた。

 

 

*********************

 

 

「愛識!やめろ!休んでいていい!」

「僕が……やらなきゃ……いけな…い……退け…」

 

朝起きると、愛識が勝手に戦場に出ようとしていた。引きとめようとしたが、満身創痍だろうと体は神性のサーヴァント…振り払われてしまった。仕込み杖にしがみつくように歩く後ろ姿を見送った俺は、モードレッドを起こし戦場に出る用意をした。俺達に出来る事はあの頑固者を少しでも楽にさせる事くらいだった。

 

 

 

 

「邪魔だ邪魔!モードレッド様のお通りだ!!!」

 

モードレッドがスプマドールを使った高速戦闘を仕掛け、片っ端からモルデュールと/クラレントで魔獣達を切り刻んでいく。下手すると魔獣達よりよっぽど魔獣らしいモードレッドの攻撃で統率を失った敵をウルク兵達が連携で倒す。これは自軍に加わっていたレオニダスというサーヴァントの恩恵に他ならない。

 

「安心しろ。お前の固有結界が無くても今は戦えるんだ」

「……」

 

が、彼は杖を地に突き固有結界の詠唱を始めた。

 

「話を聞いてんのか!」

「僕から生きている理由を奪うな。僕は戦える…戦えなければ僕の存在意義は無い!《星見の円規》!!!」

 

再び展開される固有結界、次々と魔獣達が魔力を吸い上げられ戦闘不能になる。感情が乗っている所為かいつも以上に吸い上げるペースが早い。

 

「良いから寝てろ!」

「がふっ…!?」

 

流石に腹が立ち腹パンを噛まして固有結界を解除させた俺は気絶した愛識を担いで帰還した。振り返ると魔獣達は撤退を開始していた。取り敢えず、今日も大丈夫だろう。

 

 

************************

 

「魔獣と云えど、断つ肉が在れば──!」

 

魔獣の跳躍しての攻撃を見切りつつ日本刀で前肢を斬り捨てた私は違える事無く心臓に刺突を放ち、倒した。

 

「誠の旗、散らせるものなら散らしてみるがよい!」

 

鬼神の如き奮戦で魔獣達を撃退し、腰に提げた竹の水筒に口を付けようとした時、1体の魔獣が襲い掛かってきた。すぐに水筒を捨て居合の構えをした……次の一瞬で、魔獣の横っ腹に1本の矢が刺さった。

 

「───切捨御免」

 

どの道間に合っていたのだが、全体重をかけた刀が魔獣の肉体を斜めに切り分けた。纏った魔力により刃毀れせず、強度と斬れ味のみを強化する…それが我が薩摩流の魔術。

 

「助太刀、感謝致す」

「要らぬ手助けだったようですね…」

 

矢を放った主は白銀の髪を持つ女武者であった。頭に生えた二本の角が人ならざる気配を感じさせる。

 

「拙者、薩摩と申す。故あって誠の旗を掲げ二騎の英霊を従えている」

「私は巴御前。弓兵の英霊です」

「そうか、巴御前…」

 

確か木曽義仲を愛した女であったか、その武勇はどんな男よりも猛々しかったと聞く。

 

「巴御前、其方ははぐれの身であるか?」

「いえ、この街の巫女により呼び出された身です。そして、1度散らそうと覚悟を決めた命を愛識殿に救われた身でもあります」

「そうか。今日はこれ以上敵は来ないと見える。よければ拙者と少し話でも聞かせてくれぬか?」

「それは……口説いているのですか?」

「そう解釈させてしまったのであれば申し訳ない。いや、実は拙者…義仲殿の武勇を聞きたくてな。西洋風に言えば…()()()という奴だ」

「なるほど…それでしたら、今晩の酒盛に来ていただければ夜が明けるまで聞かせてあげましょう。それほどの長話になりますがよろしくでしょうか?」

「ははは…それは楽しみであるな!」

 

 

 

 

「マスターは何やってるんですかね!全く!女の子にナンパを仕掛けるなんて!」

「言ってやるな、局長も男だという事だ」

 

何も知らない2人の英霊はマスターに大きな勘違いをしたまま帰還するのであった。

 

 

******************

 

「おい、薩摩はどこ行った?」

「美人の女と飲みに行ったぞ」

「えぇ…」

 

全員で夕飯を食おうと決めて海鮮鍋を作って待っていたところ、あの硬派な薩摩がデートかよ。まぁ…ダメとは言わないけどさ。

 

「まぁいいや、飯にしようぜ!」

 

今日の飯は蟹らしき物・海老らしき物・大粒の貝を大量の蟹味噌で煮た海鮮鍋だ……まだ味噌が出来上がってないので取り敢えずこれでお茶を濁す。

 

「でも、意外とイケますよこれ」

「オレは美味けりゃいいさ!」

 

正直、オルレアンで見た海魔の類のような外見なので現物見せたら閉口すると思うぞ。

 

「愛識は食べるか?」

「……要らない」

「まだ拗ねてんのか。機嫌直せよ」

「僕は誰かの助けにならなきゃならないんだ。それを妨害したお前を僕は許さない」

「あー面倒くせぇ奴だなぁ!いいから食え!食わなきゃ元気にならんだろうが!」

 

無理矢理にでも飯を口に放り込み栄養を付けさせる。ロマンからの情報では、愛識はサーヴァントの肉を借りているとはいえ、生身の人間と殆ど変わらないらしい。だから食わなければ間違いなく明日ぶっ倒れる。そう説得すると、愛識は渋々飯を食べ始めた。

 

「……ところで、マーリンは?」

「ギルガメッシュ王と連絡を取り合ってるみたいです。円卓の騎士の練度も漸く実戦レベルにこじつけられたみたいで、明後日には参戦出来ます」

「そうか」

 

今回のミッションは時間との勝負になる。期限は後1週間強…それまでにこの事件を解決しなければ…!

 




簡単に言うと薩摩に恋(?)が始まったという話です。本編通りにするかはまだ考え中です。




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