史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト (紅河)
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第零章 設定集
史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト オリジナルキャラクター設定集


史上最強の伐刀者マコトの設定集です。
ここではオリジナルキャラや作中のケンイチに姿自体は出ているが、詳細が不明なキャラ等の設定を書いていきたいと思います。

読んでいただければより分かりやすく、楽しめるかと思います。
作品の設定がこれから増えてくる可能性も御座います。
ただ注意点として、このページには原作落第騎士の英雄譚と史上最強の弟子ケンイチのキャラクター設定は御座いません。
悪しからず・・・。

お付き合いいただけると幸いです、どうぞ宜しくお願い致します。






この作品は史上最強の弟子ケンイチのクロスオーバーです。もしも兼一に弟子が出来てその弟子が伐刀者になったら面白くね?って発想に至ったのがきっかけでこの作品が生まれました。

まだ落第騎士の英雄譚はアニメや二次創作しか観たことがなく、にわかで史上最強の弟子は全巻読んで全巻持ってる中途半端な作者ですが宜しくお願い致します。

 

 

 

 

名前 近衛真琴

 

 

 

伐刀者ランク:E 攻撃力:unknown 防御力:unknown 魔力量:D 魔力制御:E 身体能力:S+ 運:E

 

気のタイプ 静

固有霊装 甲鉄陣 玉鋼 

形容形態 手甲とすね当て

能力   好きな能力を造り出す事が出来る。但し、造った能力を得意とする伐刀者より劣化した能力になってしまう。

 

【伐刀絶技】

❮因果無効化❯《ワールドキャンセラー》

有りとあらゆる因果関係能力の無効化、ただし対象者は自分自身のみ。

父親である真一は他の伐刀者と手を繋く事で、繋いだ人物も無効化することが出来る。

 

他にも父親から受け継いだ技の数々があるが魔力量が足りない為、使用する事が出来ない。

 

 

❮近衛流・手刀電磁抜刀術―雷刀無斬❯

兼一がしぐれ直伝の技から編み出したオリジナルの手刀打ち。それを真琴が伐刀者として伐刀絶技にアレンジしたもの。本来は間合いを見切り、相手の技に敢えて踏み込んでカウンターを叩き込む交叉技。相手の力が強ければ強いほど威力は増すが、一つ間違えば終わりという捨て身の技のため成功率がきわめて重要。その成功率を僅かでも上昇させるために自身の能力で雷を創り出し、それを手刀に纏わせることで雷速抜刀を可能にしている。これは刀華の«雷切»を参考に編み出された。

真琴は魔力制御が低くく、この技を戦闘に用いようとすると長いタメ時間が必要なため、あまり戦いでは使用することはない。真琴はチーム戦や動きが遅い敵のみに使用することにしている。

 

【真琴オリジナルの武術技】

 

❮近衛流・陰陽極破無拍子❯

真琴の決め技の一つ。

相手の間合いを先んじて占領し、ムエタイ、空手、中国拳法の突きの要訣を混ぜ、柔術の体さばきで打ち出し尚且つ、実の貫手と虚の貫手に分けるという極めて高度な技。本郷晶が放つ人越拳・陰陽極破貫手を観たことがある兼一と逆鬼が修得に力を貸した。

 

❮近衛流・風林寺押し両手❯

 

無敵超人の百八つの秘技の一つ、押し一手を両手で放つ技。気当たりを放ちながら拳の風圧や拳の衝撃波で、相手を壁や外に押し出す。

真琴は片手でも出来るのだが、真琴の腕では技の幅が足りずその大きさを両手でカバーしている。

 

❮近衛流・風林寺千木落とし❯

 

風林寺砕牙の千木車を空中で放ち、切りもみ回転をしながら宙の相手を地面に叩き落とす技。宙を踏む時は空手の三角飛びの要領で行う。

 

❮近衛流・最強空手コンボ❯

 

空手の「山突き」「手刀横顔面打ち」「正拳突き」「不動砂塵爆」を流れるように放つ連携技。

 

❮近衛流・浸透水鏡双纒掌❯

真琴の決め技二つ目。

双纒手と浸透水境双掌の合わせ技。双纒手の防御崩しを行いながら、相手の外部と内部を同時に破壊する、真琴オリジナル複合技。

 

 

 

 

年齢 16歳

身長 178㎝

体重 79㎏

好きなもの 梁山泊の人達 甘い物全般(洋菓子を好む) 修行 父親と母親

嫌いなもの 人を馬鹿にする人間 父方と母方の家族 

趣味    漫画 読書 お菓子作り

将来の夢  父と約束した日本一の伐刀者に成る

      こと 

 

地毛は茶髪 髪型はショートカット

 

 

梁山泊の師匠達の技は全て習得済み、神童。

師匠の兼一が17歳の時に気の掌握に至り、気の掌握の短縮方法を真琴に伝授していた為、真琴は達人級の気当たりを使用出来る。特A級程の気当たりを放つ事は出来ないが格下の相手を怖じ気させたり、地面に踞せる事は出来る。

父親が名の知れた伐刀者で母親が無天拳独流空手で空手を学んでいた世界一空手チャンピオン。

とある事件がきっかけで鼻から右頬にかけて斜めに傷が出来ており、その事件で父親と母親を亡くしている。

父方と母方が真琴を引き取ろうとしなかった為に、逆鬼の姉の紹介で施設に預けられる。逆鬼の姉と母親が同じ小中校、大学に通う親友だった。

真琴の顔に傷があったことから、父親と母親の事件を同級生に誤解され、小学校で苛めを受けてしまった。その事を逆鬼の姉に相談した所、梁山泊を紹介してもらい、兼一に弟子入りする事となった。

 

真琴は母親の武術の才能を受け継ぎ、武術の腕はみるみる上達し、中学生の頃には弟子クラス最上位、14歳になる頃には妙手に足を踏み入れる迄に至っていた。

師匠等との世直しの際に、伐刀者から師匠の子供を守る為に魔人《デスペラード》に至る。その為攻撃力と防御力がunknownとなり、訓練すれば幾らでも上がるようになった、魔人の為か伐刀者に成り立ての頃は魔力量がEだったのがDまで上がっている。魔力も訓練すれば上がる可能性がある。

 

 

 

名前 近衛真一

 

伐刀者ランク:B 攻撃力:B 防御力:A 魔力量:B

魔力制御:A 身体能力:C 運:C

 

気のタイプ 静

固有霊装 虹のGペン«レインボーシュライバー»

形容形態 Gペン(通常形態はGペンだが、真一のイメージ次第でどんなものにも変化可能)

能力 七色 好きな能力を造る事が出来る。但し造った能力を得意とする伐刀者より劣化した能力となる。

 

伐刀絶技

 

因果無効化《ワールドキャンセラー》

有りとあらゆる因果関係能力の無効化

 

焔の鎧«インフェルノアーマー»

 

焔の鎧を身に纏い銃弾や物理攻撃などを無効化する、

鎧の形はイメージで色んな形容にすることが出来る。

 

雷陣壮«らいじんそう»

 

身体を雷化させ雷の速度で移動する事が出来る。

魔力制御が巧く出来なければ身体ごと雷化してしまう為、そのまま死んでしまう可能性がある。

長時間、持続させることが出来ない。

 

蒼炎を纏いし雷天の疾走«フランブルー・ボルテッカー»

 

雷陣壮中に高温度の蒼炎を全身に纏わせ、相手目掛けて疾走突撃を放つ伐刀絶技。高い貫通能力と機動性・敏捷を合わせ持つ。同時に二つの属性を操作しなければならないため、発動には集中力と高い魔力制御、膨大な魔力を消費する。真一は一回の戦闘で、三回までしか発動できない。だがその威力は絶大、切り札の一つ。

 

雨雲«レインスモーク»

 

ランダムの雷を放つ雨雲も空気中に発生させる。

 

様々な属性を使いこなす、これ以外にもGを発生させたり、目眩ましする技などの伐刀絶技を使える。

 

 

身長 180㎝

体重 83㎏

好きなもの 美琴 真琴 友人 絵 漫画

嫌いなもの 父親 犯罪者 

趣味    美琴をからかうこと 風景やイラストを描くこと 

将来の夢  沢山あった 

 

 

真一は伐刀者専門の捜査官で伐刀者の犯罪組織などを調査逮捕などの仕事に就いていた為、常に命を狙われる危険性があった。デカイ伐刀者犯罪組織の犯罪証拠を握ったがその証拠と共に妻と一緒に殺された。

その現場は真琴達の自宅だった為、息子である真琴も居た。真琴に対する攻撃に真一と美琴が身を呈して庇った為、真琴だけが生き残った。

 

真一は元々一般人であったが、高校生の時に突如異能に目覚め伐刀者として覚醒した。伐刀者になると親に話した所、反対され、説得を試みるも父親と喧嘩してしまい、結果勘当されてしまった。そのまま家を出て破軍学園へ編入した。そこで黒乃や寧々と出会う。

 

 

名前 近衛美琴 旧姓佐藤美琴

 

気のタイプ 静 動

身長 165㎝

体重 秘密

スリーサイズ 真一と逆鬼の姉しか知らない

好きなもの 真一 逆鬼の姉 真琴 料理 稽古

嫌いなもの お化け  

趣味    料理 真一にからかわれる事

将来の夢  幸せに暮らしたかった

 

美琴は小さい頃から武術に憧れており、その悩みを幼馴染みの逆鬼の姉に打ち明け、ある一つの道場を紹介される。それが逆鬼至緒の流派、無天拳独流空手だった。 そして、そのまま美琴は無天拳独流空手に弟子入りする。

真一とは高校まで同じ学校に通っていたが、真一が伐刀者として覚醒し、破軍学園へ転校してしまった為離れ離れになる。そのまま真一とは疎遠になってしまう。

 

 

幼馴染みの逆鬼の姉と共に、無天拳独流空手で空手を学ぶ。

一度世界を取ってみたいと思い立ち、14で出場したオリンピックで最年少金メダルを獲得。見事、世界一に輝いた。幼少期から名だたる大会に出場し、全ての階級を制する。史上初、女性階級全制覇を成し遂げたただ一人の女性空手家となる。オリンピックも中学の頃から出場し、22歳になるまで金メダルしか獲得していない。その強すぎる腕前は周囲の人間が恐怖するほどで、その結果空手界から追放となってしまった。

追放された直後、逆鬼と一緒にアメリカへ渡り、世界を旅をすることを決意。

その最中で真琴の父親に再会し、お互いに恋に落ちる。

後に真一と結婚、その後は専業主婦として生活していたが、真一と共に真琴を庇い命を落とす。

 

美琴は真琴の将来の夢「日本一の伐刀者」実現の為に、真一と「真琴育成計画」を考案。真琴が伐刀者として低ランクのため、苦戦するのは目に見えていた。例え、能力が足らなくとも伐刀者と渡り合えるように、❮武器❯となる空手の基礎を真琴の幼少期に叩き込んだ。

 

 

名前 白浜一翔

 

気のタイプ 静 動

年齢 9歳 

伸長 133㎝

体重 ヒミツ

スリーサイズ ドゴォ!

好きなもの 餡蜜 真兄 梁山泊の家族と白浜家の家族 家事全般 

嫌いなもの 昆虫 

趣味    読書 彫刻

将来の夢  素敵なお嫁さん

 

 

兼一と美羽の一人娘、一翔と書いて“かずは”と読む。両親二人に因んだ名前にすると決めていたのだが中々納得する名前を名付ける事が出来ずにいた。

そんな時、兼一が亡き友、叶翔の面影を一翔に重ねた事で、兼一の一と翔の翔を貰い“一翔”と名付けられた。

風林寺家の血筋と暗鶚衆の血筋を受け継ぎ生まれながらの神童の為、戦闘能力は高く齢9歳ながら、緊湊間近という所まで来ている。その為、薄くではあるが制空圏を視認することが出来る。気の性質は兼一と美羽の❮静❯と❮動❯を受け継いでいる。

 真琴の事を兄のように慕っており、真琴の事を男性として意識こそしていないが、結婚相手なら真琴のような男性を望んでいる。

真琴が魔人«デスペラード»に至ったそもそもの原因は、この一翔である。

 

名前 逆鬼那緒

 

身長 ???

体重 ???

スリーサイズ ボン・キュ・ボン

好きなもの 料理 弟 友人

嫌いなもの 執着する男

趣味 ???

ルックス めっちゃ美人

 

ケンイチの作中では、逆鬼の過去回想でのみの登場の為、情報が少ない。その為、逆鬼至緒との関係性を崩さない程度に設定を創作。

ケンイチの作中で逆鬼が「姉ちゃんの心配はいらない」と話していた事から、何かしらの武術を修めている模様。この作品では逆鬼と共に無天拳独流空手を習っていることとなった。

 

 

 

❰喧嘩100段❱“逆鬼至緒”の実の姉。

真琴の母親とは幼馴染みでよく遊んでいた。

同じ学校に通い、一緒に通学する程の仲だった。真琴父、真一とも知り合いである。

真琴とは母である美琴が那緒を招き、家の中で遊んで貰ったり、気の良い、優しく頼れるお姉さんだった。

美琴と真一が亡くなってから、真琴の施設が見付かるまで一緒に暮らしていた。

施設が見付かり、時間を見付けては真琴の顔を見に、施設に足を運んでいた。

真琴が同級生にいじめを受けていると相談され、自分の弟が武術を教えている梁山泊を真琴に紹介した。

 

 

 

 

名前 中川聖夜 二つ名 大地の守護者

 

 

身長 173㎝

体重 60㎏

好きなもの 力 お肉全般

嫌いなもの 弱者

趣味 奇怪遺産巡り

 

伐刀者ランク:C 攻撃力:C 防御力:B 魔力量:C

魔力制御:B 身体能力:E 運:D

 

固有霊装 ガイアハンマー

形容形体 モーニングスター

能力   地を操る

 

伐刀絶技

 

大地の牢獄«ガイアプリズン»

硬い石盤を出して相手を閉じ込める伐刀絶技。高い防御力で並みの伐刀者では壊すことが出来ない。中川の二つ名の由来はこの技を使用する事からきている。

 

大地の岩石«ストーンエッジ»

多くの岩石を造りだし、相手に目掛けてぶつける技。

 

巨岩石«ビッグエッジ»

半径一メートルの岩石を相手に投げ付ける技。

 

中川は伐刀者に憧れ、自分自身に伐刀者の適性があったためそのまま、破軍学園に入学する。普段は真面目に授業を受けている青年だが、その裏顔は、影で弱者を呼び出しパシりに使用したり、かつあげを行うなど非道な生徒である。

 先生とコネがあり、パシり等を見付かってもとやかく言われずに過ごして来た。パシりを受けている生徒は中川を怖がって、あまり強く言えずにいる。真面目に授業を受けている手前、その生徒が先生に言っても、何かの間違いだと話を聞いてもらえない。

 黒乃が大革新をし、中川の息がかかった教師は解雇されてしまい、そのせいもあって最近はフラストレーションが溜まっている。

 

 

 

名前 剛鐵寺心陽 二つ名 鋼鉄人«メタルマン»

 

 

 

身長 190㎝

体重 80㎏

好きなもの 貴徳原カナタ ボルシチ 強者 戦闘

嫌いなもの 野菜 

趣味 裁縫 筋トレ 武術本の読書

 

伐刀者ランク:B 攻撃力:C 防御力:A 魔力量:B

魔力制御:B 身体能力:C 運:C

 

固有霊装 シュタール

形容形態 ブレスレット(右腕に纏っている)

能力 鋼鉄変化 有りとあらゆるものを鋼鉄に出来る。鋼鉄を何もないところから造り出すことも可能。

 

伐刀絶技

 

鋼鉄冑«メタルティックスーツ»

自分自身を鋼鉄でコーティングする事で、銃弾や物理攻撃を跳ね返したり、ダメージを防ぐ事が出来る

 

鋼鉄武器«メタルウェポン»

有りとあらゆる武器を無の状態から創り出すという伐刀絶技。

精密に事細かに創り出す為、高い集中力と魔力制御がなければ、ぼんくら武器になってしまう。

 

 

螺旋槍«ドリルランサー»

剛鐵寺自身と武器であるジャベリンの先端部分を回転させ、相手に向かって連続突撃を行う技。この技の前に多くの犯罪者と伐刀者を打ち倒して来た。

 

 

他にも多くの武術本を読み、元々の技を改良、アレンジした様々な技を持っている。

 

 

 

剛鐵寺財閥の次男。社交パーティー等でカナタに度々逢っており、初めて会った時に一目惚れしている。長男が跡を継ぐことになっているので、心陽は前からやりたかった伐刀者の道に進むことを選んだ。両親は危険だと知りながらも、心陽を信じ温かく見守ることにしている。

 根っからの戦闘好きで、強者と戦う事が大好き。真琴の存在を知ってから、戦いたくてしょうがなかった。

 




ご指摘、誤字脱字、ご感想、ご質問お待ちしております。


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第一章 七星剣武祭予選
BATTLE.1 ヴァーミリオン皇国の皇女


初めまして!紅河といいます!二次創作が初めての経験なので至らない点が多々あるかと思われますが、指摘などあればジャンジャンして下さい!
宜しくお願い致します!


ここは破軍学園、そこでは若き伐刀者達が固有霊装と呼ばれる己の魂を顕現させた武器を使用し魔力を用いて切磋琢磨している。

 そして早朝から鍛練している伐刀者が二人、だがそのトレーニングは常軌を逸脱しており、肩などに仏像を付けジョギングしているのだった。

 

「一輝そろそろ重りにも慣れたか?」

「まだ少しかかると思うよ。真琴は凄いねこれを毎日やってたんでしょ?」

「まぁな、しかも早朝4時にやってたな」

「その手があったね!僕もやってみるかな?」

「お前正気か!?いやリミッター外して戦う男にそんな事は無粋だな」

「重り付けてジョギングして失神しない真琴に言われたくないよ」

「それもそうだな」 

 

 二人は笑いあっているが普通に考えたらどっちもどっちである。

 

 

 伐刀者にはパラメーターなどから見積もられたランクが定められている。だがそのランクによってこの破軍学園では様々な要因が渦巻いていた。

 この二人も例外ではない、この黒鉄一輝と近衛真琴は落第騎士なのだ。

 というのも黒鉄一輝は高ランク騎士を輩出する名家・黒鉄家の血筋の人間である、しかしこの黒鉄一輝の魔力量は平均の1/10しかないのだ。その為実家である黒鉄家では一輝の事は居ない者として扱われ、この破軍学園でもその因果は絶ちきられることはなかった。何故なら一輝を忌み嫌う黒鉄家の人間が«アイツを破軍学園から卒業させるな»と理事長らと手を組み、授業自体参加する事が出来ずそのまま留年してしまったのだ・・・。

 だがもう一人の落第生はその仕打ちに納得がいかず近衛真琴はその理事長等に殴り込みに行き、取り下げようとしたがその結果、真琴も留年する事になったのだ。

 

 

「というか、真琴が留年する事は無かったんだよ?普通に授業受けてれば二年生に進めたのに・・・」

「いやいや留年で済んで良かったと思うぜ?今の理事長先生に助けて貰えなかったら今頃は退学処分で梁山泊に帰ってる頃さ、それにな」

「それに?」

「授業受けてるよりもお前と稽古した方が、武術家としても伐刀者としてもずっと前に進めると思ったから、これで良いんだよ」

「そう?真琴が良いなら良いけどさ」

「にしても落第騎士《ワーストワン》なんて二つ名付けやがって人を馬鹿にしないと気が済まない連中だねぇアイツ等は」

「真琴の落第の拳《ワーストフィスト》も人の事言えないけどね」

「まぁな」

 

 二人はようやく朝練から寮の一室の前に帰ってきた。苦楽を共にするルームメイトなのだ。ここ破軍学園の寮のルールとして同ランクの伐刀者同士が一緒の部屋で過ごすことが定められているが、学園にはFランクは黒鉄一輝しか通っておらず、Eランクも近衛真琴しかいないのだった。だからこそ、落第騎士である真琴と一輝が同じ部屋に割り当てられたのだった。

 

 

「やっとこさ俺等の部屋に着いたな」

「そうだねってあれ?鍵が空いてる・・・」

「鍵掛け忘れてたかもしれんわ。一輝、すまん」

「別に良いよ。早く仏像片付けちゃおう」

「おう」

 

 

 真琴が扉を開け一輝が先へ進むとそこには、ファンタジーの世界から現れた様な、可憐な美少女が今まさに服を脱ぎ制服に着替えようとしていた。

 

 

「裸を見た事は謝るよ!だからこれでおあいこだ!」

 

 そして、その可憐な下着姿を見た青年は、あろうことか自分の上半身の服を脱ぎだした!その潔さは良かったがその選択が良いわけがなく、ただ美少女の悲鳴が寮の一室で響くだけだった。

 

 

 その出来事を真琴が理事長に報告。

 そんな不祥事を起こしたら、理事長室に呼ばれて、理事長から叱責を受ける事は確実だ。一輝達は覚悟をして、理事長室に入室する。一輝の心情はまるでこの世の終末であるかの様だ。

 

「で、何故理事長に呼ばれてるのは分かっているな?黒鉄、近衛」

 

 黒乃は目を瞑っている。目を見せていない事が不気味だ。

 

「はい」

「うす」

「知っての通りこの破軍学園は日本の騎士学校の中でも随一の強豪校だ、七星剣武祭でも毎年のように入賞者を出していたが、ここ数年の成績は余り芳しくない、私が理事長に就任したのはそんな学園を立て直す為だ、そんな矢先にこんな不祥事を起こしてくれるとはなぁ?黒鉄?」

 

 黒乃が皮肉に言う。

 

「い、いやー不幸な事故でしたね」

「着替えを覗くだけでもヤバイのによー、しかも自分の服を脱くとか、これが事故か?一輝?」

 

 流石の真琴もフォローしきれず、ジト目の視線を送る。

 

「あの時は50/50で紳士的な妙案だと思ったんだよ!あの瞬間は・・・」

 

 必死の言い訳だ。

 

「確かに有る意味、紳士的だな」

「変態紳士って意味でな」 

 

 真琴のだめ押しだ。

 

「真琴~・・・」

「紳士らしく責任を取ってもらおう」

 

 

 理事長が指パッチンを鳴らすと、扉から一輝が覗いた美少女、ステラ・ヴァーミリオンが入って来た。

 

「ス、ステラ・ヴァーミリオンさん!」

「・・・・・・」

「ごめん!さっきのは断じてわざとじゃない、君を驚かせたのは事実だ!男として必ずけじめはつける!煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」

 

 一輝は頭を下げ、ステラに対し誠心誠意を見せた。

 

「貴方、名前は?」

「く、黒鉄一輝」

「・・・・そういえば貴方も部屋に入って来たわよね?」

 

 ステラは真琴に顔を向け、蔑んだ目線を送る。

 

「俺はお姫様の肌は見てねぇぞ。部屋開けただけだからな」

「そうだったわね、悪かったわ」

 

 目を瞑り、一輝に向き直る。

 

「潔いいのね貴方。正直、国際問題にしてやろうと思ったけどその心意気に免じて寛大に応じてあげましょ?」

「ハラキリで許してあ・げ・る?」

 

 その言葉に世界が凍り付く

 

「え?」

 

 一輝が今まで下げていた顔を上げる。

 そのステラの顔は笑顔だ。だが怒っている事だけはここ居る全員が分かった。

 

「あちゃー・・・・」

 

 真琴は頭に手を当てる。

 

「冗談何かでここまで譲歩するわけないでしょ!?」

 

 ステラが腰に手を当て言った。

 

「ハラキリって事は僕に死ねって事!?」

 

 一輝は両手の拳を握りながら反論する。

 

「好きにしなさい!って言ったのは貴方じゃないの!?」

 

 それに負けじとステラも反論を続ける。

 

「言葉の綾だし、そもそも事故だし!あれ!」

「はぁ!?」

「そんな事で命まで払えないよ」

 

 そのいい加減な一輝の答えに、ステラの体の中から沸々とマグマの様な感情が煮えたぎってきた。そんな彼女の周りからは、めらめらと橙色の光の粒の様な物が舞っていたのだ。

 

「下着位でハラキリって大袈裟過ぎるよ・・・」

 

 一輝は頭をかく。

 そんな二人の光景を見ていた真琴と黒乃は、自然と扉の方角に体を向ける。

 

「あーあれは死んだな、一輝」   

「私達は退散するか、近衛」

 

 真琴は一輝に哀れみの言葉を溢す。そして、二人は・・・・。

 

「「じゃ」」

 

 と一言溢し、無慈悲にも真琴と黒乃は理事長室を後にする。

 一輝とステラを残して・・・・。

 

「ちょっと二人とも何処へ行くの!?」

 

 一輝は扉に手をかざす。だが空を切るだけだ。

 

「あんたみたいな変態痴漢露出プレイ平民は!この私が!直々に消し炭にしてあげるわ!!」

 

 彼女の怒りが頂点に達し、ステラの周りに小さな炎の渦を展開していた。

 しかし、一輝は相手が技を発動すると見ると、ステラを見据えていた。相手の次に出すであろう技を“観て”いたのだ。

 

 

 

「う、うぁあ!待ってよステラさん!!落ち着いて!!

 

 一輝は後退りを始める。一輝が後ろに下がれば当然壁との距離は縮まる一方だ。だがステラは尚も近付いてくる。

 

「部屋を覗いて、この肌を汚しておいて!よくもそんな事が言えたわね!」

 

 ステラの瞳は怒りで揺れ動き、一輝にいい放つ。

 

「け、汚した!?」

 

 一輝はその言葉に驚きを隠せない。

 

「私の事をイヤらしい目で見たくせに!!舐めるようになぶるように見たくせにーー!!」

 

 ステラは一輝に小さな火の粉を飛ばす。

 それを聞いた一輝の答えは的を外れたモノだった。

 

 

「た、確かに観たけどあれはその、あんまりにもステラさんが綺麗で可憐だったから見とれちゃったんだよ!!」

「ふぇ?」

 

 一輝の急な口説きにステラは驚き、赤らめる。すると、“じりりりり”っとスプリンクラーが作動した。どうやらステラのから発せられる熱気を火災用スプリンクラーが火事と勘違いし、小さな雨を降らしたのだった。

 

 

「み、未婚の女性に綺麗だなんて、な、な、何言ってるのよ!?これだから庶民は・・・それに彼処は私の部屋なのに・・・」

「ん?部屋?あそこは僕達の部屋だよ?真琴と僕のだ」

 

 一輝はステラの偽りを訂正する。

 

「はぁ!?この期に及んで何を馬鹿の事をほざいてるのよ!」

 

 ステラも負けじと反論した。だがどちらも間違いなのだ。何故なら・・・。

 

「あーいい忘れていたが、君達はルームメイトだ、今日からな」

 

 その二人の答えを言う為に、黒乃が扉から顔を出す。

 

「「えええええええええええええ!!!!????」」

 

 理事長室に青年と美少女の驚愕の声が響き渡る。

 

「理事長?それ俺、聞いてないんですけど?」

「あぁ今言ったからな」

「前々から言って貰えませんかね?そういう事は・・・」




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.2 皇女様と落第騎士の模擬戦前

こんにちは、紅河です!
宜しくお願い致します!


「「えええええええええええええ!!!!????」」

 

 理事長室に驚愕の声が鳴り響く。その後二人は理事長と真琴と一緒に、一輝と真琴の部屋だった第一学生四百五号室前へと移動したのであった。

 

「ということで二人にはここで一緒に暮らしてもらうり何か質問は?」

 

 黒乃の目の前に居る、黒鉄とステラに目線を送る。近衛は寮の壁に寄り掛かり、黒鉄とステラの反応を待っているようだった。

 

「出会って直ぐ服を脱いだこんな変態と、何で一緒に過ごさなきゃならないんですか!?」

 

 ステラは直ぐ様抗議し、その顔には怒りが滲み出てい

た。

 

「僕は変態じゃないよ!」

「あの~一輝達の部屋はわかりましたけど、俺は何処で寝泊まりすれば良いんですか?理事長?」

「お前については後で話してやる。まずはヴァーミリオン皇女様と落第騎士をルームメイトに決めた事だが、この破軍学園の寮では同ランクが一緒の部屋割りになることは知っているな?」

「それは知っていますが・・・ん?もしかして?」

 

 黒乃の意図に真琴が気付いた。

 

「近衛は気付いたか」

「まぁ何となくですがね」

 

 俺は壁から体を離し、ステラに体を向ける。

 

「どういう事よ!教えなさいよアンタ!」

 

 ステラが真琴の方向に顔を向け、その答えを待っていると、真琴はその口を開いた。

 

「・・・つまりな、ヴァーミリオン皇女様、この破軍学園にはあんたと釣り合う伐刀者が居ない、だが一番劣っている伐刀者はここにいる。だったらこの二人を掛け合わせれば良いんじゃないかと理事長は思い立った訳だ、これで合ってますか?理事長?」

 

 真琴が理事長の方に確認をとる。

 

「近衛、正解だ」

「そんないい加減な・・・」

 

 一輝が黒乃の決定に呆れていると、先程の不祥事を思い出したのか、照れながら黒乃にステラが抗議していた。その表情は嫌悪という感情が見え隠れしてるかにも見えた。

 

「朝みたいな間違いが起きたらどどど、どうするんですか!?」

「ほぉ~?どんな間違いが起きるのかなぁ~?」

 

 黒乃が煽りながらステラに問い詰める。

 

「ふ、ふぇ?そ、それは・・・」

 

 皇女様は股間を手で抑えて恥ずかしながらどもった。

 

「・・・・君達以外にも男女でペアになる者はいる。嫌なら退学して貰っても結構だ」

 

 私は覚悟を決めた。このままヴァーミリオン皇国に帰る訳には行かない。自分が上を目指す為に生まれ育った国を出て、遠路はるばるこの遠い国日本までやって来たのだ。今本土に帰ったら家族や親族に鼻で笑われてしまう。私は嫌々ながらその決定を呑む事にした。

 

「・・・分かりました、一緒に住むなら三つ条件があるわ!」

 

「なに?」

「話し掛け無い事、眼を開けない事、・・・息しない事!」

「た、多分その一輝君死んでるよね?」

「この三つが守れるなら部屋の前で暮らしても良いわよ?」

「一輝追い出されてるしっくくっ」

 

 口を手で覆い真琴は笑いを堪えている。

 

「真琴も笑ってないでステラさんを説得してよ!」

「まぁ落ち着け、ヴァーミリオン皇女様、と言うか俺の処遇を聞いてないですよ?理事長、まさか俺も住む訳じゃないですよね?」

「わ、私はイヤよ!男二人と一緒に住むなんて!」

 

 私は体に腕を回し、守るような仕草をとった。既にこの変態男に体を見られてしまっているのよ・・・。更にけだものの男が一人増えるなんて、真っ平ごめんだわ・・・。とでも言いたげのようだった。

 

「流石に三人この部屋に住むには狭いんじゃないかな?」

 

 この学園の部屋は六畳一間+二段ベッドで、二人の人間が最低限の生活が出来る広さである。三人が暮らすなど到底出来そうもない・・・。

 

「誰もそんな事は言わんよ。近衛についてだが、隣の部屋が誰も居ないな?」

「そうですね・・・誰も住んでません」

「お前は隣の部屋に移住し、ヴァーミリオンと黒鉄の身の回りのサポートをしてやれ。ヴァーミリオンは何かと不便も有るだろうからな、今朝のような事が起きたら私に連絡したりお前が止めてやれ、頼んだぞ?」

「俺がぁ!?何でそんな面倒なことを・・・」

「野宿でも構わんのだぞ?」

「わ、分かりました!全力で臨ませて戴きます!」

「と言うかアンタ誰なのよ、しれっと会話に入ってきて名乗りなさいよ!」

 

 ステラが真琴に指を差し、その答えを求める。

 

「・・・俺か?俺は近衛真琴この黒鉄一輝の“元”ルームメイトだ。宜しくな、隣人さん?」

 

 俺は右手をステラに差し出し握手を求めた。ステラは嫌々ながらそれを受け入れたようだった。

 

「よ、宜しく・・・・隣人についてはまだいいわよ。けど一緒に住む事についてはまだ納得してないわ!ふんっ」

 

 腕組みをし、鼻を鳴らす。

 

「えぇ!?」

「ヴァーミリオン、お前の気持ちも良く分かる。私も一人の女性だからな。取り合えず黒鉄と二週間程生活してみろ。それでも黒鉄に不満が残っているのなら、元の部屋割りに戻そう。お前は隣の部屋に移ればいい、どうだ?」

 

 その提案にステラは・・・?

 

「それなら、良いですけど・・・」

 

 ステラが納得したようだ。

 

「ヴァーミリオン、黒鉄の実力は大したものだぞ?知りたくはないか?」

「実力、ですか?」

「あぁ、そうだ。何せ伐刀者としての能力は軒並み平均以下なのにも関わらず、こいつの身体能力はA+だ。お前よりも高い」

「こいつが?!本当何ですか、理事長先生!」

 

 ステラが黒乃に確認をとる。ステラの気持ち的に好奇心と驚きが右往左往していた。

 

「もし、知りたいのならこれから黒鉄と模擬戦なんてのはどうだ?」

「模擬戦?私はAランクなのよ?勝負なんて目に見えていじゃない!」

 

 ステラが、そう断言する。

 

「それはやってみなくちゃ判らないぜ?ステラさん?」

「何でアンタが言うのよ」

「さぁてね、戦えばその答えが解るだろうよ」

 

 真琴は含みのある言葉をステラに残した。

 

「分かったわ。いいわよ!やってやろうじゃないの!」

「交渉成立だな。黒鉄も良いな?」

「はい!」

 

 そう言われた一輝の目は凛々と輝いている。

 

 こうして皇女と落第騎士の部屋の主となる決闘の幕が上がった。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 一輝とステラが準備に入り、模擬戦会場へと向かう。寮には黒乃と真琴だけが残っていた。

 

「近衛」

 

「何か用ですか?理事長」

 

「すまないな、面倒をかけて」

 

「別に良いですよ。寧ろ理事長には返しきれない恩がありますし」

 

「ふっ、そうだったな」

 

「それに、俺の筋トレは幅とりますから一人の方が有り難いですし」

 

「それでは我々も向かうとしよう」

 

「はい」

 

 

 真琴と黒乃は会場へと向かう。




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BATTLE.3 模擬戦開始!

「では、これから一時間後第四訓練場にて模擬戦を行う!各々準備を始めてくれ!」

 

 

 

 ここは模擬戦控え室。

 そこにはAランク騎士に模擬戦を挑もうとしている一人の落第騎士《ワーストワン》が戦いの準備を初め、傍らには元ルームメイトがそれを見つめていた。

 

「一輝、自信の程は?」

「あるよ。僕が立てた誓いがそれを許さない、だから、勝つよ」

「お前の奥底にある“信念”だな」

「うん」

 

 彼のその言葉は重く、黒鉄一輝を根底から支えている木の根っこのようであった。真琴は知っている。彼が周りの伐刀者からどんな扱いを受けて来たのかを!

 自分は小学生から苛めを受けて育って来た。だが真琴には支えてくれる“家族”がいた。自分を信じ愛してくれている家族がいた、だから挫折せずここまでこれた。しかし、黒鉄一輝にはそれが居ない。あまつさえ黒鉄家での一輝の扱いは居ない者として扱われて来たのだ。

 そんな青年がここまでやって来た。その苦労を知らない真琴ではない。父との夢を信念に掲げ、師匠等共に努力し鍛練を怠らず妙手の域に到達した。だからこそ騎士道歩む為の努力を嗤う者を、真琴は許さない・・・・。

 彼は控え室のベンチに座り込み、気さくに話しかける。 

 

 

「一輝お前なら100%勝てる。気楽にいけ」

「それほど甘くないよ?Aランク騎士は・・・」

「そうだが・・・アイツの剣客としての実力は弟子級開展だ。まだ緊湊には至っていない」

「良く判るね」

「何気ない仕草、重心の配置等から、相手の心や格闘スタイルまでもが観れる様になっていくもんだ。俺位にもなれば、格下の実力を見抜く事等造作もねぇよ」

「それ、凄いと僕は思うんだけど・・・」

「模倣剣技«ブレイドスティール»っていう戦闘中の相手から技を盗み上位互換の剣技を生み出せる、お前が言うな!!」

「アハハ、それもそうだね。それじゃ行ってくるよ」

「あぁ、勝ってお前の強さを証明してこい!一輝!!」

 

 

 真琴が座る席を見定めていると、訓練場のステージの壁に寄り掛かる黒乃を発見した。

 

「さてと何処に座ろうかなぁと・・・あ、理事長の側で良いかな?」

 

 第四訓練場にはAランク騎士が模擬戦をすると聞いて野次馬伐刀者達が集まり始めていた。そこには前に一輝とクラスメートだった者や純粋に戦いを楽しみにしている者、多様な伐刀者が第四訓練場に集っていた。

 

「見ろよ、落第の拳«ワーストフィスト»が居るぜ?」

「確かあの落第騎士«ワーストワン»のルームメイトだっけ?毎朝仲良く20㎞仏像付けてジョギングしてるらしいぜ?」

「馬鹿かよ!お坊さんにでもなればいいじゃん!」

「「アッハハハハハ!!」」

 

 

 

 

 そこには低ランクを嘲笑いながら真琴を見ている伐刀者が存在していた。この破軍学園では現・理事長新宮寺黒乃が大革新を行い以前の能力値選抜制を廃止、トーナメント方式に変える事に成功した。

 だが低ランクを差別する人間が消えた訳ではない、世間が低ランクを差別的に扱っている。それはこの破軍学園でも同じ事が行われているのだ。

 

「理事長!ここ良いですか?」

「ん?近衛か、良いぞ」

「有り難う御座います、にしても飽きないですね奴ら」

「何がだ?」

「人を見下し努力を嗤う人間達の事ですよ・・・」

「言わせておけ、そうしているうちは強くなれんよ。それに他の伐刀者は身体能力の倍化で事足りてしまうからな、黒鉄の体術を嗤うのは致し方有るまい」

「まぁ、一輝が戦う所を観ればその考えも変わりますよ」

「ふっ、ところでお前はどちらが勝つと思う?」

「決まってますよ、150%一輝ですね」

「凄まじい自信だな、自分の事でも無いのに」

「一年も一輝と暮らせば判りますよ、アイツの本当の強さが!理事長も知ってるでしょ?」

「・・・あぁそれもそうだな」

 

 そんな会話をしている所に一人の伐刀者が覚悟を決めて入場してきた。それは学園では落第騎士と嘲笑われいる、黒鉄一輝だった。今ここにFランク落第騎士«ワーストワン»とAランク騎士紅蓮の皇女ステラ・ヴァーミリオンの模擬戦が始まる!!!




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BATTLE.4 模擬戦その1





 第四訓練場に先に入場していたのは落第騎士《ワーストワン》だ、背中を押してくれた真琴の言葉を胸に模擬戦へと挑む。これは真琴が会場に入る数分前の事である

「どうだ?黒鉄、準備の方は?」

「バッチリですよ、例えAランク騎士でも敗けられません。僕が立てた誓いの為にも」

「・・・ふっそうかなら大丈夫だな、この模擬戦勝てたら七星剣武祭優勝も夢じゃないな!」

「からかわないで下さいよ。卒業に必要な条件が優勝なら勝ち取るだけです、その為に努力はしてきましたから、真琴と一緒に」

 

 口にするのは簡単だ、黒鉄一輝は魔力量が平均以下で他の能力も軒並最低ランク。このステータスは余りに酷い、伐刀者の道へ進む事は棘の道だ。普通なら伐刀者を辞め一般人となり普通の人生を歩んだ方が一輝の為だ、だが彼はそうしなかった、自分の心の傷を理解し励まし背中を押してくれた唯一無二の親友が、居る!だからここで退く訳にはいかない!

 一輝が覚悟を決めた時、ヴァーミリオン皇国の皇女ステラ・ヴァーミリオンが入場して来た。ここに前代未聞の落第騎士黒鉄一輝とAランク騎士ステラ・ヴァーミリオンが揃い模擬戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 ❮ステラ・ヴァーミリオンは天才である❯これが世間の評価だ。ステラはその一言で済ましてしまう事が嫌いだった。ヴァーミリオン皇国でも同じ事が起き、周りの者や対戦相手がそう口々に告げていた。あたかも自分は努力してないみたいな評価だったからだ!そんな自分勝手に他人を評価する人達がステラは嫌いだ。

 ステラは何も最初から天才だった訳じゃない、最初は自分の魔力に振り回されるばかりだった。自分自身の魔力で傷付き、怪我を追い周りの者達はその姿を見て何度も伐刀者になる事を必死に止めた。

だがステラは辞めなかった、その強大な魔力をコントロールする為に毎日欠かさず努力し諦めずその結果、Aランクまで登りつめたのだ。

ロングレンジばかりではなく剣術も怠らず鍛練を行い、ステラ・ヴァーミリオンの戦闘スタイルはオールラウンダーへと集約していった。

 ステラの固有霊装の名は妃竜の罪剣«レーヴァテイン»

竜の力をもった大剣でありそれから繰り出される、皇室剣技«インペリアルアーツ»は大地をも揺らす力があり日輪の如き剣の軌道を描くステラの剣技。

他にも

伐刀絶技(ノウブルアーツ)「妃竜の息吹(ドラゴンブレス)」

摂氏三千度の炎を発する伐刀絶技。

伐刀絶技(ノウブルアーツ)「妃竜の羽衣(エンプレスドレス)」

炎をドレスの様に身の周りに展開し攻撃を防ぐ伐刀絶技。

並の伐刀者の攻撃では全く攻撃が効かないなどAランク騎士に相応しい技の数々が揃っている。

 

 

 

「逃げなかったのね、黒鉄一輝!」

「あぁ、勿論。だってAランクと闘えるなんて滅多に無いからね」

 

「では、これより模擬戦を始める。模擬戦では幻想形態を使用し体力のみを削る戦闘だ、両者準備は良いな?」

「はい!」「大丈夫です!」

 

 

「では始め!!!!」

 

 

「傅きなさい!妃竜の罪剣«レーヴァテイン»」

 

「来てくれ!陰鉄!」 

 

 両者の固有霊装が展開された。直ぐ様ステラが攻撃し速攻を掛けた!!

 

 

 

「ハァーーーー!!」

 

 

 

 ステラが妃竜の罪剣«レーヴァテイン»が降りおろされ一輝はその攻撃を受け流そうと構えるが直撃する寸での瞬間に後方に跳びステラの攻撃をかわした。ステラの一撃で訓練場のコンクリートは砕かれ小さなクレーター出来上がっていた。

 

 

「いい判断ね、私の妃竜の息吹(ドラゴンブレス)は摂氏三千度まともに受ければただじゃ済まないわよ!!!」 

 

 一輝はそのままステラの攻撃を受けていく、だが只受けるのではなく相手の剣術を【見切りながら】である。そんな二人の伐刀者がつばぜり合いを始めた所で真琴が会場入りし新宮寺黒乃の側まで来た。

 

 

「何でアイツ親しげに神宮寺理事長の側に居るんだ!」

「そんな奴ほっとけよ、其より模擬戦だろ?」

「あぁ、やっぱりヴァーミリオン殿下が優勢か、AランクにFランが敵うわけないか」

「そりゃそうだろー!」

 

 野次馬の伐刀者達がステラ・ヴァーミリオンの勝利を確信する中、真琴は違った。逆に黒鉄一輝の勝ちに決まると所感していた所に和服を着こなした一人の女性が姿を現した。

 

「もうくーちゃんったらこう言う事は言ってくんないとー」

 

 少し寂しいそうに呟く女性は、理事長の黒乃と少し親しげである。

 

「ありゃくーちゃんの側に居るの、まこっちじゃんおひさー」

「あ、寧々さんご無沙汰しております」

「ん?二人は知り合いだったか?」

「まぁねー昔にちょっとね、話せば長くなるから後でね。それよりまこっちは破軍学園に入学してきたんだね」

「まぁ父の育った母校ですから、俺も学業くらい同じ道を歩みたいんで。ですけどその『まこっち』って渾名止めてもらえません?俺女の子じゃないんですから」

「良いじゃないか『まこっち』可愛いと思うぞ」

「そうだよー私だけしか言わないからさー」

「広まったらどうする責任取るんですか!」

「減るもんじゃないしへーきへーき!」

「・・・はあ」

「おっ、もうじき試合が動き出すかな?」

「そうでしょうね、一輝の見切りがそろそろ終わるはずですから」

 

 

 その発言直後一旦攻撃が止んだ。二人の方に眼を向けると一輝とステラの動きが止まっていた。

「逃げるのだけは巧いじゃないの」

「いや、ギリギリさ・・・!ステラさんが研き上げてきた剣!感じるよ凄い努力だ!」

「あっ・・・!な、中々眼が良いのね!でも簡単に見切れる程、私の剣は御安くないわよ!!!」

「いや『もう見切った』!!」

 

 ここから一輝の猛攻が始まった!

 

 




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模擬戦編は次まで続きます、ケンイチ要素が少なく師匠達の出番はもう少し後ですのでお楽しみに!


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BATTLE.5 模擬戦その2

 ここから一輝の反撃が開始した。すると一輝の繰り出した技を観ていた野次馬伐刀者の中に、驚く伐刀者や何故驚いているか分からない伐刀者など様々な心情を浮かべていた。だが驚愕したのは何を隠そうステラ・ヴァーミリオン本人だろう。何故ならば一輝が使った技はステラ・ヴァーミリオンの皇室剣技(インペリアルアーツ)だったのだ!!

 

 

 

「私の剣どうしてアンタがそれを!?」

「僕は誰にも何も教えて貰えなかったからこういう事ばかり巧くなっちゃってね!!!」

(枝を伝って理に至れば全てを理解出来る!そして超えられる!)

「ど、どういう事だ!?落第騎士«ワーストワン»が使ってる剣術はヴァーミリオンさんの剣技じゃないか!」

「何!?んじゃ落第騎士は何かの伐刀絶技を使ってるのか?」

「野次馬の皆さん、何か勘違いしてるみたいだが一輝は伐刀絶技(ノウブルアーツ)は使用していないぜ?ヴァーミリオンの剣術を模倣しただけだ」

 

 

 真琴の言葉に耳を傾けていた伐刀者達だがその言葉を信じられなかった。何よりFランクという自分達より劣っている底辺の人間が達人の様な芸当を今正にやってのけているのだから!

 

 

「模倣だと!?嘘を言うな!!落第の拳«ワーストフィスト»!!」

「そうよ!!Fランが模倣何て事出来る訳ないじゃない!」

「だけどまこっちが言ってる事は本当さね」

「寧々先生までそんなこと言うんですか!?」

「お前達の言い分も判るが近衛の言っている事は事実だ、黒鉄が使用したのは模倣剣技❮ブレイドスティール❯アイツ自身が編み出した黒鉄だけの剣術!対戦相手の剣術の術理を解析し、さらにそれを発展させ完全上位互換を造る剣術だ」 

 

「う、嘘だ!」「理事長先生まで・・・」「ふんっ模倣をFランに出来たなら俺にだって出来る!」「ヴァーミリオンさんの剣技が簡単に覚えられる剣技なんじゃね?」

 

 

 伐刀者達の言葉は武術を舐めている冒涜的な発言だった。それを聞いた直後の真琴は頭に血が登り、腹の底から沸々とマグマの様な怒りが溢れ出て来た。それは黒乃や寧々も同じ心情だったが真琴はそれ以上に腹立たしく声を上げれずにはいられなかった。

 それは一輝を貶し、あまつさえ対戦相手のステラすら馬鹿にしている事に他ならず真琴は声をあらげながら言い放った。

 

「ただ真似るだけなら誰だって出来る。けどな技を盗むという事はその剣術の創られた歴史を紐解く事に意味があるんだ!アイツは!!一輝は、闘いの最中にその模倣をやってのけてるんだ!その意味がお前らに判るか?人を貶して生きてるお前らに、人の努力を嗤ってるお前らが!ステラや、ましてや一輝を馬鹿にする権利などない!!」

 

「気持ちは判るけど少し落ち着きなさいな、まこっち」

「あっ・・・すみませんつい・・・」

 

 集まった伐刀者達は真琴の言葉を聞いた瞬間、反論する事が出来なかった。だがどうしてもその事実を受け入れる事が出来ない、何故なら“もし受け入れてしまったら”自分達の努力が足りない事を認めるという事になる、だからこう考えた【これは八百長だったのだ】とそう思えば自分達は救われる。あの落第騎士«ワーストワン»より自分達は劣っていないと敗けていないと実感出来るそう思ったのだ・・・・。

 

 

 伐刀者達が物思いに耽っていると模擬戦が動いた、ステラがフェイントを加え一輝に攻撃を浴びせようとしているのだ!だが見切りを終えた一輝はその攻撃を読み、陰鉄の柄の部分でステラの一太刀を完璧にかわし、そのままステラへ斬り込んだ!!

 

「なっ!?き、決まったのか?」「まさかAランクが・・・」「いや、あれを見ろ!」

 

 惜しくも一輝の一太刀はステラへ届いてはいなかった。ステラの魔力を使い編んだ炎のドレス、妃竜の羽衣(エンプレスドレス)によって陰鉄は阻まれていた。これがAランクとFランクの差だ、一輝がどんなに鍛練し素早く攻撃を仕掛けステラに一太刀浴びせようとも、一輝の伐刀者としての攻撃力が足りず傷一つつけることすら出来ないのだ。

 

「カッコ悪いわね、こんな勝ち方・・・・」

「陰鉄が傷つけられないと判っていたんだね、その上で僕に剣戟を挑んだ」

「えぇ、アンタに勝って私が才能だけの人間じゃないと知らしめる為にね。でも認めてあげるわ、この一戦私が勝てたのは確かに魔力のお蔭だって。だから最大の敬意を持って倒してあげる・・・」 

 

 ステラが自分最大の攻撃準備の詠唱を始めている。

だが一輝の瞳は諦めていない!いや諦める訳にはいかない!一輝には魔導騎士になる為に立てた誓いがある!そして自分の勝利を信じて待ってくれている親友がいる!! 

 

「僕には魔導騎士の才能がない。だけど退けないんだ!あの日に立てた誓いが・・・!共に鍛練した唯一無二の親友が僕の背中を押してくれたっ!だから考えた天才に勝てるにはどうすれば云いかを!!そして至った!!」

 

「『一刀修羅!!』」「『焼き尽くせ!天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)!!』」

 

 ステラの伐刀絶技«天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)»第四訓練場の天井を貫き炎の特大剣を造り出す、ステラ・ヴァーミリオンの切り札ともいえる伐刀絶技だ。その特大剣レベルではない正しく竜王のブレスである。

 そしてステラはそのまま一輝へ妃竜の罪剣(レーヴァテイン)を向け一輝を捉えたと思った次の瞬間、一輝は姿を消していた。

 一輝の姿を捉えもう一度、天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)で一輝に攻撃を仕掛けるがその攻撃は外れた、いや躱されていた!

 

「どういう事!?それに魔力も上がって・・・!?」

「上がったんじゃない形振り構わず全力で使ってるんだ!!!」

「だからって!」

 

 何度も何度も攻撃を繰り出すがその都度一輝は躱していく、その姿を見ていた周りの伐刀者は唖然としていた。

 そして伐刀者達は悟った、何故黒鉄一輝のステータスが“身体能力A”なのかを、そして理解した!超人的な身体能力倍加のブーストが落第騎士の切り札なのだと!!

 

「あれは一輝だけのオリジナル伐刀絶技«一刀修羅»自分自身の脳のリミッターを外し生きる時間の全てを一分に凝縮して搾り尽くす!一輝が高ランク伐刀者達と戦って行く為に編み出した荒業だ」

「身体能力倍加の能力を伐刀絶技まで昇華させるとはな、あそこまでいくと天晴れとしか言い様がない」

 

 そして一輝がステラの攻撃を躱しながら懐へと跳び込んだ!

 

      

「僕の 最 弱(さいきょう) を以て君の最強を打ち破る!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最強に打つ勝つ為には修羅になるしか・・・ないんだ・・・」

「そこまで!!勝者、黒鉄一輝!」

 

 

 

 

 一輝はそのまま、妃竜の羽衣(エンプレスドレス)ごとステラを斬り伏せた。ステラは倒れ込み、一輝は一刀修羅の副作用の為、全魔力を使い果たし気を失い、第四訓練場には静寂が訪れていた。Aランク騎士が破軍学園の落第騎士«ワーストワン»黒鉄一輝敗れ去ったのだ。

 こうして第四訓練場で行われたAランク騎士ヴァーミリオン皇国の皇女ステラ・ヴァーミリオンVS落第騎士«ワーストワン»の対決は落第騎士、黒鉄一輝の勝利で幕を閉じた。

 

 

 




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BATTLE.6 模擬戦終了

こんにちは、紅河です。
第10話までもうすぐです、早いものですね
前々回の後書きで梁山泊の方々を出すと書いたのですがスミマセン!次回になります!



「そこまで!!勝者、黒鉄一輝!」

 

 第四訓練場で行われた模擬戦は落第騎士«ワーストワン»黒鉄一輝の勝利で幕を閉じた。その様子を観ていた伐刀者は驚愕、口から言葉を発する事が出来ないでいる。

 

「いやー今年の代表選抜戦は見物だねぇ~。まこっちも選抜戦に出るんだっけ?」

「そうですね、一輝と同じ様に条件付きですが」

 

 彼が何故条件付きなのか。

 それは一輝を庇い前理事長の顔をぶん殴ってしまったからである。何故なら一輝が能力が足りず授業に出る事について、真琴が納得がいかなったからである。

 一輝程の剣士が授業に受け、代表選抜戦に出場すれば成績を残し結果を出す事は、数多の伐刀者を観てきた伐刀者教師なら判るばすだった。だが前理事長の仕打ちは『落第騎士を授業に出さない』これにつきていた。他の伐刀者教師も同様に一輝を見下し蔑み、『自分の授業に出席する価値がない』と教師にあるまじき行動をとっていたのだ。

 その事に激怒した真琴は理事長室に乗り込み話をしに言ったのだが、その際に「あの落第騎士とは縁を切ろ、お前は一応低ランクだが能力はギリギリ足りている。授業に出てもいいが、もし抵抗するなら只では済まさないぞ」

と脅しを掛けられた。

 真琴は人にこんなに激怒した事はなかった。人の友人関係を他人から謂われる覚えなど無いからだ。前理事長の脅しは真琴には効果がなかった。そして真琴におもいっきり殴られる事となったのだ。

 だがこのままであれば真琴は退学確実だ、そこに手を差し伸べたのが現理事長、神宮寺黒乃だ。真琴が素行が悪いから殴った訳ではなく、友の為に行った事、そして真琴が授業等を真面目にうけている事を黒乃は知っていた。それは周りのクラスメートも承知している。それを教育委員会に訴え、生徒を退学にすることは間違っていると学校側に抗議した。だが真琴がやった事は許されない事なのは事実。その為『留年』と『来年度七星剣武祭本選出場』を条件に退学を取消てくれたのだった。

 

「複雑な事情があるんだねぇ~、あっそうだ、まこっちーこの後暇?」

「え、今日の修行ノルマは終わってますし予定はないですけど」

「んじゃくーちゃんの部屋で少し話でもしようよー」

「それは良いですけど・・「勝手に決めるな!」」

「いったぁい!何するのくーちゃん!!」

 

 審判を終え、寧々の暴挙を手刀で止めに入った黒乃。

 

「お前が勝手に話を進めてるからだ。近衛、それより黒鉄に手を貸してやれ」

「そうですね、ヴァーミリオンさんの方は?」

「私の方で手配しておく、気にするな」

「はい!」

 

 そう言うと彼はスタンドを乗り込え一輝に近付き、肩を貸しながら第四訓練場を後にした。その様子を一人の少女が観ていた。

 

「あれ、あそこに居るのまこ君?まこ君もこの試合観に来てたんだね。それじゃ挨拶してから戻ろうかな?」

 

 と言って眼鏡を掛けた彼女は彼を追った。二人の落第生の事を・・・。

 

「にしてもくーちゃん、今年の破軍学園は面白くなりそうだね」

「そうだな、少し私達の学生時代を思い出したよ」

「近衛ちんと切磋琢磨してたあの頃?」

「あぁ」

 

 果たして真琴と同じ姓を持つ近衛とは誰なのか、それが判るのはこれから数時間の事である。

 

「・・・・真琴、ありがとう」

「ん?何がだ?」

「真琴が背中を押してくれなきゃステラさんに勝てなかったよ」

「馬鹿言え、お前の力で勝ち取った勝利だろう?俺の力じゃないさ」

「そんな事ないさ・・・」

「一輝、俺がおぶってやるから少し寝とけ、俺が部屋まで運んでやるよ」

「ん、分かった。そうさせて貰うよ・・・・」

 

 そう言うと彼はあっという間に眠りに堕ちてしまった。さながら雪解けで熔けてしまう結晶の様子に・・・。

 第四訓練場から出てると入口付近で待っている一人の少女がいた。先程の試合を観客席から観ていた眼鏡の彼女だった。

 

「まこ君お疲れ様」

「ん?あれ刀華さんじゃないですか!試合観てたんですか?」

「うん、こんな面白い試合見過ごせないからね。うた君に仕事を任せて来ちゃった」

「(うたさんも苦労してそうだな・・・)で、刀華さん的に試合はどうでした?」

「ん?二人とも戦って見たいよ?」

「貴女ならそうですよね、そういうと思いました。まぁ二人共、学生伐刀者ではかなりの実力者ですから」

「やっぱりまこ君から観てもそうなんだ」

「はい」

「というか渾名についてはもういわないんだね」

「もう慣れましたよ、流石に・・・。会う度に何度もまこ君、まこ君って言うから」

「そうだったね、ふふっ」

 

 

 この笑っている眼鏡の生徒はというと、何を隠そう破軍学園序列第一位破軍学園生徒会長『東堂刀華』である。何故«雷切»東堂刀華が落第の拳«ワーストフィスト»と仲良さげに話をしているかというと、真琴が一人重しを装着し朝のランニングをしているのを、刀華に目撃された事がきっかけで会う度に話し掛けられているからだ。境遇が似ているからか、直ぐ様仲良くなり生徒会の面子とのお食事会や刀華の仕合前の調整等を真琴が勉めていたりしている。

 

 

「寝ているのは黒鉄君だよね?」

「あぁ一刀修羅の影響ですね、疲労してるだけなのでこれから部屋に運ぶ所ですよ」

「そっか、なら途中まで一緒に行こう?」

「それは良いですけど、何も無い所で転んだりしないで下さいね」

「そんな事やらんよ!」

(でも、実際、やりそうなんだよなぁ、心配・・・)

 

 そんな会話をしながら学園の寮に到着しそのまま刀華と別れ、一輝を部屋のベッドへ寝かして寧々が待つ理事長室へ向かう真琴だった。

 ステラと一輝の模擬戦から数時間後、ここは寧々が待つ理事長室前、何故自分に話が有るのか判らない真琴であったが、意を決して理事長室のドアを開けた。

 

 トントン「失礼します、近衛真琴です」

「良いぞ、入れ」

「失礼します」

「まこっち遅ーい!今まで何やってたんだよ!」

「すみません、刀華さんと世間話に花開いちゃって・・・」

「まこっち、雷切とも繋がりが有るの?何気に顔広いんだねぇ」

「刀華さんとは色々有りましてね、と言うか何で理事長室まで俺を喚んだんです?」

「それはねお前さんが近衛ちんの息子だからさ」

「・・・!そうか、父の学生時代を知ってるですね」

「あぁそうだよ、何せ同級生だったからねぇ」

「真一も友の為なら何でもやった男だ。苛めを受けていたら相手に鉄拳制裁、友と修業したり、そう言う所はお前とそっくりだよ」

「!父とそっくりですか、共通点があって凄く嬉しいです。父はとある事件で命を落としました。俺の事を危険を顧みず母と一緒に、犯人から身を呈して護ってくれました。それが俺にとっての誇りです」

 

 

 

 真琴はとある事件で父と母を亡くしている。父が伐刀者専門の捜査官だった。犯人が証拠隠滅の為在宅中の近衛家を襲撃。その事件で真琴の父と母は命を落としたのだ。葬儀には黒乃と寧々も出席している、真琴とは少し会話をした程度だったが真琴は今でもその事を覚えていた。

 

 

「まこっちはその犯人に復讐したいって思わないのかい?」

「ないと云えばそれは嘘になります、けど犯人に復讐した所で俺の父と母は帰って来ません・・・。俺がやるべき事は父と約束した❮日本一の伐刀者になる❯夢を叶える事!それに俺にはもう家族が居ます、梁山泊の人達が今の俺の家族です!その人達が俺の道を示してくれた、それが活人拳です!活人拳は人を活かすのが理、ですから犯人を捕まえる事になったら罪を償わせるだけですよ!」

 

「ふっ大人だねぇ、まこっちは・・・」

「それじゃ近衛には真一の昔話でもしてあげようじゃないか」

「はい!是非!!」

 

 その後話は延々と続き真琴が帰るのは理事長室から寮に帰る頃には夕陽が沈む頃だった。

 一方、その頃一輝の部屋では病室から戻ったステラが一輝のベッドへ乗り込み頭をぶつけるという間抜けな事件が起きていた。だがそれはまた別の話・・・。

 




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.7 電話にて

こんにちは、紅河です。
やっとこさ史上最強の弟子ケンイチの人達を出せました!
出番は少ないのは変わらないのですが、楽しみにしていた方はお待たせしました!


7話お楽しみ下さい!


 西京 寧音からの呼び出しで理事長室に向かった真琴。そこでは生前活躍していた、父“近衛真一”の学生時代の逸話を寧々と黒乃が話してくた。尊敬する父の活躍を真琴は初めて他人から聞かされた。近衛真一は父方の家を勘当され、母方の家では忌み嫌われていたからだ。

 真琴は今まで父の学生時代について気になってはいたが調べる事が出来ずにいた。

 何故、真琴が調査が出来ずにいたのか・・・?

 それは武術の修行に明け暮れていた為、余裕が無かったからだ。

 慣れてきた頃に自分一人で調査も行ったが、結果は惨敗。だからこそ真琴にとって父の学生時代の話は興味が尽きず、頷きなが耳を傾け聞いていた。

 

 

「寧々先生、父の話をしていただきありがとうございました!」

「そんな事気にすんなってぇーまこっちー♪私も昔話が出来て楽しかったよー」

「いえ、父がこんなにも俺に似ているとは知りませんでした」

「近衛が一輝の為に動いた所などそっくりだよ。真一は友の為なら何でもする男だったからな。だが格闘スタイルや顔付きは母親の美琴に似ているな」

「成る程ね、ちゃんとまこっちは二人の子供なんだね」

「・・・・」

「ん?どうした?何を黙っている?」

「いやー嬉しさの余韻に浸っていたんです・・・」

「ん、そうか、だがもう下校時間ギリギリだ。お前の部屋の私物だが隣の部屋に移動済だ。確認の為にも早く下校するといい」

「はい、そうします今日は貴重な時間とお話ありがとうございました!失礼します」

 

 

 

 真琴はそのまま理事長室を後にした。真琴は嬉しかった。生前に聞く事が出来なかった、父の学生時代を沢山聞く事が出来たからだ。早くに両親を亡くした真琴には実の父と母の思い出が少ない。育ての親である梁山泊の家族との思い出は沢山あるが、実の両親との思い出は数える位しか無いのだ。

 だから本当に父と母の子供だったのか不安で仕方が無かった。だが寧々と黒乃から二人の遺伝子をしっかり受け継いでいると謂われたのだ。真琴は心の底から実感した、❮虹色の騎士«レインボーバトラー»❯«近衛真一»と❮空手階級全て制覇した世界チャンピオン❯«佐藤美琴»の息子である事を!

 

 

 

 

 程無くして真琴は寮へ到着した。ふと部屋に運んだ一輝の事が気になった。一刀修羅を使用した後の一輝は著しく運動能力が低くなる。日常生活に支障がないように、一輝もコントロールはしているが少し心配になった。ステラが部屋に戻っていると聞いてはいるが、二人のサポートを任せれている以上確認するのが筋だろう。

 

「さて、一輝は大丈夫だろうか?ヴァーミリオンさんは日本へ来日して間もない訳だし、部屋を覗いてみるかな」

 

 真琴は数時間前まで自分の部屋だった扉の前までやって来た。

今は一輝とステラの部屋となっているが、この一室のルールを決める為に落第騎士«ワーストワン»と«ヴァーミリオンの皇女»ステラ・ヴァーミリオンは模擬戦を行ったのだ。だが理事長室での一件でそれが全て1日の出来事だという事を忘れてしまいそうだった。

 

「今日は色んな事があったな、朝は一輝とジョギング、一輝の不祥事に一輝とヴァーミリオンさんの模擬戦、理事長室で父さんと母さんの話を聞く事も出来た」

「言葉に表すと色々起こりすぎだろ、さてインターホン押すかな」

 

 真琴はインターホンを押し、二人の対応を待った。するとガチャリと鍵が外され部屋のドアが開かれた。

 

「あ、アンタは確かイッキの元ルームメイトの・・・」

「真琴だよ、こ、の、え、ま、こ、と。俺、二人のサポートが務めらしいし、忘れ物無いか確認の為にも様子を見に来たんだ」

「その声は真琴かい?ステラ、部屋に入れてあげてくれ」

「ん、わかったわ、入りなさい」

「おう、お邪魔するぜ」

 

 ステラに部屋のテーブルへ案内された。

 数時間前まで自宅だったこの部屋に、自分の痕跡は無かった。

 

 テーブルに到着した所で入口前近くに真琴が座り、その隣にはソファーがあり、右からステラ、一輝が座っている。

 

「ところで俺の忘れ物はあるか?」

「いや、全部隣に移動されてるみたいだよ。僕も確認したからね」

「ありがとう、一輝。ところでもう名前で呼ぶ仲になったんだなっ!」

「か、からかわないでよ!」

「そ、そうよ!アンタの方は荷物確認しに来ただけ?」

「いや荷物確認は口実だ、本命はヴァーミリオンさんに改めて自己紹介しとこうと思ってな」

「アンタには玄関で名前を教えて貰っただけだものね」

「あぁそうだ、ヴァーミリオンさん・・「そのヴァーミリオンさんは要らないわ。後、さん付けも無しで構わないわ、ステラでいいわよ」」

「それじゃステラで、俺も真琴で構わないぜ」

「“マコト”ね、分かったわ」

「んじゃ改めて、俺は一輝の元ルームメイトの近衛真琴だ。伐刀者ランクはEランクで固有霊装は『甲鉄陣 玉鋼』形容形態は手甲とすね当てだ」

「マコトはEランクだったのね、だから一輝とルームメイト・・・合点がいったわ、でも手甲って確か防具よね?武器が無いじゃない」

 

 ステラの生まれ故郷であるヴァーミリオン皇国では素手で闘う人物など殆ど居ない。真琴の戦闘スタイルに疑問しか浮かばない。

 

「心配はいらん、俺が使う武器はこの❮拳❯と❮足❯だ」

 

「え!?素手で伐刀者と戦うの!?そんなので渡り合える訳無いじゃない!」

「ステラ、真琴の強さは並大抵じゃないよ。無手なのには理由があるし、それに普通の伐刀者じゃ真琴と勝負にすらならないんだ」

「イッキ、勝負にならないってどういう事よそれ・・・。イッキが言うんだからそうなんでしょうけど、信じられないわ・・・」

「確めたいのなら明日組手してみるか?」

「組手?模擬戦じゃ駄目なの?」

「あぁ、もしステラがまた底辺ランク伐刀者に敗北した事が他の奴等に知られたら、アイツら調子に乗って「俺でも勝てるぞ!」って挑戦を挑んでくるぞ?対応が面倒になるから組手だけにしとけ」

「そんな私がアンタに負ける見たいな言い方じゃない!」

「まぁまぁステラ、落ち着いて。面倒な事はなるべく避けた方がいいよ」

「イッキが言うならそうしとくけど・・・・、明日の組手でマコトの実力見せて貰おうじゃないの!!」

「おう、楽しみ待ってろ」

 

 

 明日、組手をする事になった真琴とステラ。二人に明日の準備の為にも早く休むと言って部屋を後にした。だがこれは嘘だ、真琴は報告をしなくてはならない。道場の家族達に伐刀者として1年から生活をやり直す事を・・・。

 

 

 真琴は新たな部屋に入り自分の荷物を確認し始め、携帯電話を取り出した。そしてベランダに向かって歩きながら師匠に電話を掛けた。

 

ガチャ「はい、お前の子供は預かったヨ」

「アパチャイさん、俺に子供は居ませんよ。真琴です、白浜師匠を呼んでくれます?」

「アパパー!マコトだよーー久しぶりヨーーー、おーいケンイチィーー!マコトから電話だよー!」 

「はいはーい」

「只今、お電話変わりました、白浜です」

 

 電話越しから優しげな声が聞こえる。

 

「師匠、お久し振りです、真琴です」

「真琴!元気にしてたかい?そうだ、理事長さんから聞いてるよ、1年からやり直すんだって?」

「!!知ってたんですね、報告しようと思って連絡したんですが・・・」

「そうか、大変だったな。でも友を護る為した事って聞いて僕は嬉しかったよ」

「それについて、俺は後悔はありません、分かって選んだ事ですから」

「ならいいさ、確か、学生で一番の伐刀者を決める戦いに出場するとも聞いたよ、梁山泊の皆で応援に行くからな」

「ありがとうございます、師匠。でも俺の試合は飛び飛びでやるから最後の日が決まったら連絡するので、その時に来て下さい」

「分かった、真琴がどんな成長を遂げたか楽しみに待ってるよ」

「はい!」

 

 ガチャと淋しそうに兼一は電話を切った、真琴は自分にとって生まれて始めての弟子だ。まさか自分が師匠という立場になり教え側にまわるとは思ってもみなかった。自分の弟子がこんなにも可愛いもので、弟子の成長の嬉しさを改めて実感していた。そして弟子の立場だったあの頃を思い出し、真琴の成長を見届ける事が、自分を大切に育ててくれた師匠達の師匠孝行だと兼一は思った。

 

「頑張れ、我等が最強の弟子よ!」

 




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BATTLE.8 梁山泊と破軍学園

こんにちは、紅河です
なんとお気に入りが40件突破し、日に日に読者数が増えていて不安が募るばかりです。
増えているという事はそれだけ期待されてる事だと思うので頑張って続けたいと思います。
誤字脱字やご指摘等はメッセージの方にお願い致します。

それではどうぞ、お楽しみ下さい


 ここは梁山泊。武術を極めた達人が集う場所!そこでは様々な達人達が暮らし鍛練に励んでいた。そして近衛真琴が武術を学び、育った場所でもある。

 

「しかしよぉ、真琴が留年しちまうとはなぁ・・・。友の為とは言え理事長を殴っちまうとはな、チェスト!!」

 

 ビール瓶で鍛練を行うのは ❰喧嘩百段の空手家❱“逆鬼至緒”!!

 

「話を聞けば聞くほど馬鹿な話だ。生徒の能力が足りないからとはいえ、授業を一切受けさせないとは・・・・!子供の将来を何だと思っている!」

 

 そう言って石で仏像を掘っているのは ❰哲学する柔術家❱“岬越寺秋雨”!真琴がジョギングの時に身に付けている仏像を作製したのは、何を隠そうこの岬越寺秋雨なのだ。

 

 

「そうよーマコトとマコトの友達が可哀想よー」

 

 

 タンクトップを身に纏い、動物達に餌付けをしているのは ❰裏ムエタイ界の死神❱“アパチャイ・ホパチャイ”昨日、真琴の電話を受け取った人物だ。

 

 

「その理事長は教師の風上にも・・・おけな・・・い」

「ヂュヂュヂヂュ!!」

 

 

 せっせーのヨイヨイを遊んでいるポニーテールの女性は ❰剣と兵器の申し子❱“香坂しぐれ”そしてペットの“闘忠丸“

 この闘忠丸はネズミなのだが、本来のネズミよりかなりの長命である。実は真琴や一輝より長生きだったりする。

 

「まぁ近ちゃんが退学しなかっただけマシね」

 

 縁側でエロ本を片手に香坂しぐれの尻を触ろうとしているのは ❰あらゆる中国拳法の達人❱“馬剣星”

 

 

 

「真琴は友の為に行動し、その結果留年してしまいました。ですけどその選択に後悔はないはずですよ」

 

 

 道場から本を読書しながら歩んで来たのは真琴の師匠であり梁山泊の一番弟子 ❰史上最強の凡人と吟われる❱”白浜兼一“その人だ。

 

「兼ちゃん、ノルマは終わったのね」

「はい、師父」

 

「お父様ーただいま帰りましたー」

「皆さーん、そろそろ朝のご飯にしましょう?」

「「「「「「はーい!」」」」」」

 

 兼一に走りながら駆け寄って来たのは白浜兼一の一人娘”白浜一翔“。一翔は風林寺の遺伝子を受け継ぎ、齢9歳ながら弟子級開展に至り、緊湊間近という“神童”である。

 そして全員に声を掛け朝食を皆に知らせたのは❰風を切る羽❱“風林寺美羽”改め白浜美羽だ。この梁山泊を束ね武術の世界では❰無敵超人❱と吟われる“風林寺隼人”の孫娘である。その長老からやっとの想いで結婚の許しを貰い、数々の冒険の末、白浜兼一と結ばれ一翔を授かっていた。

 

「やれやれ、長老は南郷殿の自宅からまだ戻らないのか・・・」

「昔話に花が咲いてるんだろ?ほっとけよ秋雨」

「そうよー、長老も懐かしくて帰るのが惜しいんだよーアパパーそれよりご飯よー!」

「そうね、朝ご飯楽しみっね!」

「ふん!」

「あーーー!!カメラが・・・」

 

 剣星がしぐれのパンツを盗撮しようとすると、しぐれからの容赦ない斬撃がカメラを襲う。綺麗に真っ二つだ。だがしかし、これが梁山泊の日常である。

 

「真琴、元気・・かな?」

「ヂュヂュ!」

「きっとあの子なら大丈夫、心配ないさ」

「そうだ・・・ね」

 

 そんな会話をしながら平穏に時間は過ぎていった。一方破軍学園では三人の伐刀者達が朝のジョギングが終了し休憩を取っていた。

 

「ふぅー、朝のジョギング終了!一輝、ドリンクだぜ、そら!」

「うん、有難う真琴」

 

 真琴は身に付けている重しの仏像を取り、ドリンクを飲み始めた。その後二人に遅れてステラが息を切らしながら到着した。

 

「ハァハァ、アンタ達速すぎよ・・・何で・・・重り付けて私より速いのよ・・・・」

「そうか?ステラが居るから普段のランニングより、距離は短くしたつもりなんだがな。俺は走り足りないぜ?」

「そ、そうなの!?」

「うん、いつもは重し付けて20㎞は走ってるよ」

「これを20㎞!?ば、化物ね貴方達・・・」

 

 何故ステラがランニングだけで息を切らしているかというとそのランニングの方法が普通とは違っていたからだ。普通なら一定の速度で一キロを5分以内に走りきるのが一般的なランニングと云われている。だが真琴達が行うのは毎日20kmのランニングで全力疾走をしつつジョギングで緩急をつけ高負荷をかけるスタイルだ。そこに重しを付けて走るのだから常人が走ったら失神するレベルだろう。

 そのランニングノルマを毎日欠かさずやってのけている事にステラは驚きを隠せなかった。

 

「(ありゃステラ用のドリンク忘れちまった)」

 

 真琴がバックに入っている用意したスポーツドリンクを確認していると、どうやらステラの飲み物だけ忘れてきてしまったようだ。

 

「あれ?私のドリンクは?」

「ん?ステラのドリンクが無いのかい?んじゃこれ」

「(それって間接キスになるんじゃ・・・)」

「か、間接キス!?」

「あ、ゴメン!僕と間接キス何て気持ち悪いよね」

「ぃゃ・・・・むしろ・・・っていぅか」

「え?何?」

「(ステラの奴、何で嬉しそうなんだ?)」

「か、貸しなさいよ!」

「あっ!」

「ングングプハァ!有難うイッキ」

「(ははぁーん、もしかしてステラの奴一輝に惚れたな、少しからかってみるか)」

 

 真琴の顔はさながら、意地悪小僧の顔そのものだった。

 

「ステラよぉ~」

「何よ?」「一輝の味は美味しかったか?」

「ゴホッゴホッ」

「ステラ大丈夫!?真琴も何ふざけてるのさ!」

「わりぃわりぃ」

「味何て分からなかったわよ!」

「んーそうか?でも耳まで真っ赤だぞ?」

「え!?ウソ!!」

「嘘だよ」

「マコト、騙したわね!」

「アッハハハハハハ!」

「待ちなさいよ!」

 

 そんな会話をしながら時間は刻々と過ぎていった。朝食も済ませて破軍学園へ向かい授業を受ける三人、中庭近くのピロティに差し掛かる三人の前に一人の少女が姿を現した。

 

「お久し振りです、お兄様・・・」

 

 するとその少女は一輝を押し倒た。唖然と見ていたステラと真琴だったが突如その少女は一輝の唇を奪ってキスを始めたのだった!

 




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BATTLE.9 ステラと珠雫

「珠雫!見違えたよ!これから会いに行こうと思っていたんだ」

「私が我慢できなかったのです、お兄様・・・」

「チュッ」

 

 するとその少女は一輝を柱に押し倒し、強引にその唇を奪った。それを見ていた真琴とステラ、そして周囲にいた生徒はその実情を受け入れるのに時間は掛からなかった。そして驚愕の声を上げた。

 

「「「「「「「えええええええ  え!?!?!?」」」」」」」

 

 その現場に居合わせていた人達は、目を疑った。

「し、珠雫・・・」

「お会いしたかっです、お兄様・・・・」

 

 彼女はキスをした一輝を愛おしく見つめていた・・・。一輝から珠雫と呼ばれた彼女は、入学試験を首席でこの破軍学園に入学した優秀な伐刀者だ。深海の魔女«ローレライ»という彼女の二つ名は、決闘で相手の頭を水で覆い、窒息させ勝利を決めてきた事に由来している。そんな彼女の名前は“黒鉄珠雫”一輝とは血の繋がった実の妹だ。その実の妹が血の繋がった兄に、公衆の面前でディープキスを行ったのだ!

 

 

「な、な、いきなり、何してるのよ!!アンタ!」

「何ってキスですよ?外国では挨拶みたいなものですから」

「そうなの?」

「だからって兄妹でディープキス何かしないわよ!」

「外国でも兄妹で糸を引くキスはやらないと思うぞ」

「・・・だそうだよ?珠雫」

「他所は他所、うちはうちです。恋人という浅い絆で結ばれた人もやっている事です、ならば堅い絆で結ばれた私とお兄様なら夜のまぐわいですら只の挨拶・・・」

 

「「「「「んなわけ有るか!!!!」」」」」

 

 そこに居合わせていた人達が打ち合わせでもしていたかの様に声を揃えて珠雫に言い放った。

 そんな言葉には耳を傾けず、珠雫は一輝にじりじりと寄っていく。それを見ていたステラは堪らず、一輝から珠雫を引き剥がした。

 

「アンタ!離れなさいよ!何、一輝も流されそうに、なってんのよ!!」

「ごめんステラ、有難う」

「貴女が噂のステラ殿下ですか・・何故私とお兄様の庶民コミュニケーションを邪魔するんですか?貴女には関係ないですよね!?」

「か、関係くらい有るわよ!」

「(何を言う気だ?ステラの奴・・・)」

「何です?どんな関係が有るというんですか?」

「・・・っ!」

「どんな“関係”が貴女とお兄様に有るというんですか?」

 珠雫は念を押してステラに問いただした。ステラは顔を紅くしながら珠雫に告げた。

「い、イッキは私のご主人で!わ、私はイッキの下僕なんだから!!!」

 

「「「「「「!?!?!?」」」」」」

 

(はぁ・・・こうなるんじゃないかと思ったぜ・・・)

「おい一輝、俺がお前の部屋に行く前にステラとどんな約束したんだよ・・・。一応聞くけど部屋のルールを決めたんだよな?」

「う、うんそうなんだけど・・・何でこんな事に」

「お兄様、これはどういう事ですか?」

「いや~その~・・・・」

「お・兄・様!どういう事なのかと聞いています!」

 

 珠雫の眼は光を失い、その眼を使って人を殺せる程に珠雫の表情は恐かった。それに見つめられた一輝は答えずにはいられなかった。

 

「ま、まぁステラの言ってる事は本当かな?で、でも部屋のルールを決めただけで・・・」

「フフッフフヒッ!そうですか本当ですか・・・」

「し、珠雫?」

「しぶけ!宵時雨!!」

「何してるの!珠雫!」

「退いて下さいお兄様、ステラさんを殺せません」

「傅きなさい!妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」

「何でステラまで乗り気なの!?!?」

 

 

 珠雫は固有霊装«宵時雨»を展開し、ステラに向かい構えを取った。そしてステラもそれに呼応し固有霊装«妃竜の罪剣(レーヴァテイン)»を取り出した。だが教師の許可なく校内で固有霊装«デバイス»を顕現させる事は校則で禁じられている。 

 もしこの場で高ランクの伐刀者同士の戦いが始まれば、集まっている生徒達に被害が及ぶ事になるだろう。その事に気付かない二人ではない。だが二人の視野は狭くなり、周囲に人が居るにも関わらず彼女達は戦いを始めようとしていた。

 

「(一悶着有りそうだなぁ。今の一輝は止められないだろうし俺がやるしかないか・・・)」

 

 真琴が覚悟を決め二人の様子を窺っている。

 

「止めなよ!二人とも!」

「退きなさい、イッキ」

「そうです、お兄様、私の属性は“水“ステラさんをヤれます!」

 

「アンタの固有霊装は随分貧相な形状してるのね!攻撃受けただけで壊れちゃいそうじゃないの!」

「ステラさんの固有霊装の方こそ、貴女と似て品が無いんですね、ただデカイだけ・・・」

 

「デブ」「ブス」

「「くたばれーーーーーーー!!!!」」

 

「おっとそこまでだ!二人とも!!」

 

 真琴は剣の間合いに近付き、彼女達の固有霊装を白刃取りを使用し受け止めていた!珠雫の宵時雨は指で、ステラの妃竜の罪剣は掌で受け止めていた。攻撃を受け止められた二人は驚き、一瞬、自分に何が起きたか分からなかったようだ。

 

「(私の剣が手で抑えられて動かない!?)」

「(私の攻撃を指で止めた!?何故!?)」

 

 真琴の力で自分自身の固有霊装がピクリとも動かせない事に、ステラと珠雫は気付いた。

 

 

「マコト!邪魔しないで!!手を離しなさいよ!」

「そうです、勝手に割り込んで来て、一体貴方は誰なんですか!」

「はぁ・・・少し落ち着けよ、お前ら・・・。一輝も流されてないで二人を止めろよ、お前が原因なんだからさ・・・」

「ご、ゴメン、助かったよ真琴」

 

 

 

 

「二人ともいい加減に固有霊装をしまえ、校則違反だぞ?」

 

 

 

 

「「!?!?」」

 

 真琴は固有霊装をしまわない二人に対して、気当たりを放ち威嚇した。ステラと珠雫の身体から突如汗が吹き出し、震えはじめた。真琴は気当たりを放ち二人を威嚇し続けている。ステラはそのオーラを感じた時、昨日気さくに自己紹介していた“近衛真琴”とは思えず、恐怖していた。

 

「あ、アンタ・・本当にマコトなの?・・・」

「・・・いいからしまえ・・・」

「わ、分かったわ」

「なら、良し」

 

 すると真琴から放たれていたオーラが無くなり身体中から出ていた汗や身震いが止んだ。

 

「おい、ステラとええと黒鉄・・」

 

 珠雫は先程の気当たりの余韻消えず、まだ恐怖が身体に残っていた。

 

「・・・・・・黒鉄って私ですか?」

「他に誰がいるんだ、一輝の事は呼び捨てだからな。お前ら理事長室に行くぞ」

「な、何でよ!」

「校則を破ったんだ、指示を仰がないといけないだろう?またこんな事が起きたらたまったもんじゃないしな」

「分かったわ」「・・・・分かりました」

 

 

 

 場所は移り、ここは理事長室。校則を破った伐刀者達と付き添いの二人が黒乃理事長の言葉を待っていた。

 

「という訳なんですが、指示を貰えませんか?」

「ふむ、了解した。入学早々不祥事を起こし今度は伐刀者の喧嘩か。面倒事ばかり起こすな、なぁ黒鉄ぇ?」

「す、すみません」

「でも理事長、今回悪いのは校則を破ったステラと黒鉄妹ですから、一輝はそれくらいで・・・」

「それもそうだな。ならヴァーミリオンと黒鉄妹には、放課後までに学園全ての女子トイレを、二人で掃除してもらおう」

「「!?」」

「こうなったのもアンタのせいよ!」「いや貴女のせいです!」

「「どっちもだ!!」」

「「・・・・・・・・」」

 

 真琴と黒乃が口を揃えて、二人に言うとステラと珠雫は沈黙した。

 

「あ、放課後まで掃除なら、ステラと真琴の組手をやる時間が・・・」

「そうなのか、近衛?」

「まぁはい。組手の約束をしていましたけど・・・・」

「ならば、近衛に組手で勝ったら女子トイレの掃除は取消そうじゃないか!」

 

「ホントですか!?理事長先生!」「!?」「そんな勝手に!!」

「だが、負けた場合は明日から3日間、学園全ての女子トイレの清掃をしてもらうぞ?いいな?」

「良いわ!やってやろうじゃない」

「仕方ありませんね、私もやります」

「近衛はどうだ?」

「俺は別に構いませんよ、というか俺が負けたら俺が二人に変わってトイレ掃除するんですか!?」

「あぁそうだ。お前は男子トイレだがな」

「えぇ・・・俺は校則違反して無いんですし、やらなくても・・・」

「それじゃお前が女子トイレの清掃をするか?」

「男子トイレでお願いします!」

「なら決まりだな、では放課後に第三訓練場で組手を行う!」

 

 その理事長の言葉に従い、組手に負けた者がトイレを清掃するという罰ゲームが始まろうとしていた。




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BATTLE.10 落第の拳«ワーストフィスト»VS深海の魔女«ローレライ»

こんにちは、紅河です。
真琴、初戦闘シーンです!ようやくオリ主が活躍します!
どうぞお楽しみください!


 ここは第三訓練場。組手を果たす為に真琴、一輝、ステラ、珠雫、黒乃理事長の5人が集合し、訓練場で各々の準備を始めていた。真琴は準備体操、一輝はステラと珠雫の柔軟を手伝い、黒乃は彼等に昔の自分と寧々や真琴の父、真一を重ねていた。

 そんな黒乃理事長の事とは露知らず、ステラと珠雫は自分の攻撃を素手で受け止めた、真琴が気になり目線を向けていた。

 

(あの二人、何で俺に眼を向けてくるんだ?俺何かしたか?喧嘩を止めただけなんだが・・・)

(Aランクの騎士である私の攻撃を素手で止めた?それに一輝が昨日言ってた事も気になるし、油断できないわね)

(あの真琴という人は一体・・・?確かお兄様の元ルームメイトだったはずだけど・・・でもお兄様は真琴さんと話してる時、あんな楽しそうに笑っていた・・・。あんな笑顔、私には全然向けてくれなかったのに・・・・)

 

 各々、様々な思考を巡らせていた時、黒乃が全員に集まるよう招集をかけた。それぞれの戦闘準備を終えて、黒乃の側へ集合し、誰が最初に真琴と組手をするか話し合いを始めた。

 

「さて、各々の戦闘準備が整った様だな、では誰が最初に近衛と戦うんだ?」

「ステラか?それとも黒鉄妹か?俺はどっちでもいいぞ」

「「なら」」「私が行くわ!」「私が最初です!」

「私が先約していたのよ!だから私からよ!」「殿下は黙ってて下さい!私が先にやります!」

 

「あーもう喧嘩をするな!なんなら二人でじゃんけんでもやれよ・・・」

「そうだね、それが良いじゃない?二人とも」

「イッキがそう言うなら・・・」「お兄様が言うなら・・・」

「提案したのは俺なんだが・・・」

 

 そしてステラと珠雫が公平にじゃんけんした結果、珠雫が勝利を収め、初戦は真琴と珠雫が組手をする事になった。

 

「私からですね、殿下はそこで指を加えて見てると良いです」

「マコト!こんな奴やっつけちゃいなさい!」

「まぁまぁステラ落ち着いて・・・」

 

 

 真琴は数時間前にピロティで起きた出来事を思い返していた。

 

(そういや黒鉄の奴、俺が喧嘩の仲裁に入った時、気当たりを受け流せていなかったな。もしかして武術を嗜む程度にしか修めてないのか・・・。それに黒鉄の眼はロングレンジの構えをとってる。だとすれば・・・)

 

 真琴の伐刀者ランクはEランクという底辺ランクに位置しているが、武術のランクでは妙手に至っている。真琴程の武術家ともなれば“観の目”を用いて相手の実力を見切る事など造作もなかった。 

 

「あっ、黒鉄妹!1つ聞きたいんだがお前ってさー、クロスレンジは使わないのか?」

「!?貴方は阿呆ですか?対戦相手に自分の手の内を教えるとでも?」

「そりゃそうだよな、すまん・・・(眼が少しどよめいているな、だがこれでハッキリした。あいつはクロスレンジを余り使用せず、ロングレンジの魔法戦を得意とする伐刀者だ!)」

 

 

「では、まず組手のルールを共有するぞ。

 第一、相手を殺してはならない

 第二、急所を攻撃する場合は寸土に留めておく事

 第三、気絶はあり 

 二人共、これらのルール守り組手に臨んでくれ!では指定の位置に移動し固有霊装を展開しろ!」

 

「しぶけ!宵時雨!」

 

「我が身を護れ!甲鉄陣玉鋼!」

 

「マコトの固有霊装って、本当に手甲とすね当てなのね」

「あぁ真琴はその二つの防具だけで、伐刀者の武器から身を守り戦うんだ。真琴の❮身体❯全てが武器なんだ」

「マコトがどんな技を使うのか楽しみだわ」

 

(真琴さんは何でさっきあんな事を?何かの策略?真琴さんのデータが無い以上、組手とはいえ慎重に行かないと・・・)

 

 

「では、始め!!」

 

「(手始めに!)水牢っ・・・!」

「はぁあああ!!」

「(!?!?このオーラはさっきステラさんと私に真琴さんが放っていた!?)」

 

 真琴は先程の会話で珠雫の眼を観ながら、戦闘能力を分析していた。真琴は対戦相手の眼を見つめる事で、相手の思考を読む術を師匠である兼一から伝授されている。

 一定のレベルに達した武術家は“観の目”を用いて、対戦相手から情報を読み取り、その情報を活かして戦っていく。“観の目”を使えば相手の格闘スタイルや性格等を、把握する事が出来るのだ。そして真琴は数時間前、ピロティの出来事を思い返していた。それはステラと珠雫の戦いを真琴が止める際に用いた気当たりを、珠雫が受け流せていない事を!そして直ぐ様それを戦法に組み込み使用した!

 

「珠雫の奴、何で踞っちゃったのよ!あれじゃ組手に勝てないわ!」

「違うぞ、ヴァーミリオン。黒鉄は“踞った“んじゃない近衛に“踞る事を強要されて”いるんだ」

「え?どういう事ですか!?マコトが伐刀絶技を使用して珠雫の動きを静止させてるんですか?」

「それも違うよステラ、真琴が使用しているのは体術だよ。さっきステラも真琴から受けたでしょ?」

「それって・・珠雫と戦おうとした時にマコトから感じたオーラの事?あれが体術だっていうの!?」

「そうだ、その名も❰気当たり❱という」

「❰気当たり❱ってそのまんまですね、理事長先生・・・」

「❰気当たり❱とは気の運用の1つで殺気や闘気を発して、威嚇やフェイントに使う技の事だ。高度な技で気の掌握に至った武術家でなければあのレベルの気当たりを発する事は出来ない」

「気については良く分からないですけど、つまり珠雫はマコトの気当たり?で動く事もままらないんですね?もしかしてイッキが昨日に話していた『マコトと普通の伐刀者では勝負にならない』ってこの技をマコトが使えるから?」

「そうだよ、ステラ。あの技は少々厄介でね、❰気当たり❱を受け流す術がないと戦いすら始まらないんだ」

「黒鉄に気当たりを受ける経験や受け流す術が有れば話は別なんだがな・・・」

「珠雫が気当たりを受け流せていないということは・・・」

 

 

「あぁ、この勝負近衛の勝ちだ」

 

 

 真琴達に視点を戻すと、珠雫は真琴から発せられている❰気当たり❱に当てられ続けている。たが辛うじて水の魔法弾を真琴に発射したりしていたが、真琴に掠りもしないまま時間だけが過ぎていた。

 

「(この技は一体何!?身震いが止まらない!!身体中から勝手に冷や汗が・・・!!)」

 

「(やはり俺の未熟な気当たりでは、弟子級を気絶まで持って行く事は出来ないのかっ・・・!!黒鉄妹の為にも早く終わらせなければ!)」

 

 真琴の師匠である兼一も高校時代に、気の掌握に

至っている。その短縮方法を真琴に伝授していた事で、妙手にいながら気の掌握を物に出来ていた。

 真琴は一旦❰気当たり❱を放つのを止め、それを好機と見たのか珠雫は攻撃態勢を取り、反撃の機会を窺っていたのだが・・・・。

 

「(真琴さんの技が止んだ!?今のうちに!)」

「(すまんな、黒鉄妹、もう遅い!)」

「(!?)」

 

 真琴は師匠達から授けられた、脚のバネを使用し珠雫に近付いた!珠雫の行動は一足違いで対処が間に合わず、真琴の腕に手首を押さえ付けられ、腹に攻撃を受けて“真琴VS黒鉄珠雫”は真琴の勝利で幕を閉じた。

 




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.11 落第の拳«ワーストフィスト»VSヴァーミリオン皇国の皇女

こんにちは、紅河です。
沢山のお気に入り登録本当に有難うございます。
それが自分の1日の励みになっています。

戦闘描写は少ないかも知れません、要望や不満だった点等を有りましたらメッセージで送って下さい。
宜しくお願い致します!


「そこまで!勝者、近衛真琴!」

 

 第三訓練場に黒乃の声が響き渡った。多くの魔導騎士を輩出し、黒鉄の血を受け継ぐ深海の魔女«ローレライ»をEランク騎士“近衛真琴”が戦いの格を見せ付け組手の勝者となった。

 

「というわけでアンタはトイレ掃除確定ね!」

「・・・・っ」

「どうした?黒鉄妹?」

「・・・何故貴方程の伐刀者がEランクなんですか?」

「んな事言われてもなぁ・・・伐刀者としてのステータスが“低いから”としか言えんな」

「あれでステータスが低い?そんなの信じられません・・」

「黒鉄、近衛が言ってる事は本当だぞ?奴は魔力量がD、魔力制御と運がEで、他伐刀者の平均基準値よりステータスが下回っている」

「それじゃ他のステータスはどうなってるんですか?」

「それはだな・・・」

「「?」」

「・・・私から話そう」

「お願いします」

「近衛の攻撃力と防御力は国際魔導騎士連盟の定めるところに拠ると“測定不能”だそうだ」

「「え!?」」

「だが驚くべき箇所はもう一ヵ所、それは近衛の身体能力だ。なんと、黒鉄を超える“S+”!日本の学生伐刀者としては破格のステータスを誇っている」

「え、S+・・・」

「・・・体術の冴えは評価項目に含まれてないからな」

 

 

「それじゃ、私に向けて放った技は伐刀絶技ではなく・・・」

「あぁ、体術の一つで気当たりだ」「気当たり?」

「武術に携わっている人間なら1度は耳にする技なんだが・・・。お前は武術を嗜み程度にしか身に付けてないみたいだからな、知らないのも当然だ」

「成る程、それでは真琴さんもお兄様と同じく武術を極めて要るのですか?」

「黒鉄妹、俺と一輝は“まだ”武術を極めていないぜ・・?だがそれなりに、な」

「驚きました、お兄様の様な方が他にもいらしたんですね」

「何処にでも変わり者はいるって事だ」

 

 程無くしてステラと真琴が組手の準備を始めた。然程時間は掛からず二人は指定の場所へ移動した。

 昨日に引き続いて、強者の伐刀者と連戦出来る事にステラは喜んでいた。昨日模擬戦を行った一輝より、真琴が強いかも知れないのだ。期待に胸がふくらみ、高揚を隠せなかった。

 

「おい、ステラ少し落ち着けよ・・・」

「落ち着いてなんていられないわ!だってアナタはイッキより強いかも知れないんでしょ?」

「それは一輝に失礼だろう・・・」

「真琴、僕は気にしないよ、だって事実だからね」

「お前がそう言うなら良いけどよ・・・」

 

「・・・ではこれより、ステラ・ヴァーミリオンと近衛真琴の組手を始める!ルールは先程と同じ!殺さない、急所の攻撃は寸土、気絶はありとする、では組手開始!」

 

「傅きなさい!妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」

 

「我が身を護れ!甲鉄陣玉鋼!」

 

 

 

 

 

 それじゃ、気当たりで様子を見るか・・・

 

「はああ!!」

 

「(これはシズクにも放った❰気当たり❱!)」

 お前も珠雫と同様に受け流せていなかったからな、有効とみたぜ?

 

 真琴が放った気当たりを、ステラはピロティで受け流す事が出来なかった。だが同じ手を2度も喰らうわけにはいかない・・・。何故なら自分はAランク騎士の伐刀者だ!ここで諦めたらAランクのプライドが許さない!

 

「・・私を嘗めるんじゃないわよ!!」

「ほう、近衛の気当たりを呑み込んだか・・・」

「っく・・・(ステラさんは気当たりを受け流したっ!それなのに私はっ!)」

「自分を責めるものじゃないよ、珠雫」

「お兄様・・・」

「珠雫は奮闘したよ、並みの伐刀者で有れば真琴の気当たりを受けただけで怖じ気づきその場から逃走するだろうからね。気絶しないだけマシだよ」

「・・慰めていただき有難うございます、お兄様・・・」

 

 呑み込まれたか・・・んじゃもう俺の気当たりは使えないか・・・

 

「俺の気当たりをもう受け流しちまうとはな、流石はAランク騎士といったところか」

「マコトの気当たりはもう効かないわ、覚悟しなさい!」

 

 ステラは真琴に向かって突進し、攻撃を仕掛けた!真琴は空手で絶対の防御とされる、前羽の構えを取りながら、攻撃に備えていた。ステラはそのまま真琴に向かって突きを放った!

 しかしその一撃は真琴に届かなかった、何故なら真琴によって攻撃が逸らされたからだ。真琴は前羽の構えから回し受けに移行し、完璧に受け流していた。ステラは攻撃が外れると一度後退し距離をとった。

 

「大したものね、私の一撃を躱すなんて」

「俺には届いて無いぞ?ステラ殿下様?」

「ふん!いうじゃないのマコト!これならどうよ!」

 

――――

 

「近衛のクロスレンジは大したものだな」

「はい、ステラの攻撃をあそこまで完璧に受け流すとは・・・僕も見習わないと・・・」

「お兄様、聞いても良いですか?」

「ん?何だい?珠雫」

「真琴さんは無手の武術を学んでるんですよね?使用している武術は何なのですか?」

「真琴が使用してるのは空手だよ」

「空手とはオリンピックの競技の一つである、スポーツの空手の事でしょうか?」

「そのスポーツ空手ではない、“本物の空手”だ」

「?意味が良く分かりませんが」

「黒鉄、説明してやれ」

「分かりました、理事長。いいかい珠雫、世間の空手は“現代空手”と云われるスポーツとして進化した空手なんだ」

「進化した空手?」

「うん、現代空手はマットの上で戦う事の多い、対現代用武術として進化し、スポーツとして多くの人達に馴れ親まれている。けどそれは、空手本来の姿じゃない」

「どういう事ですか?」

「空手は元々対白兵戦用として創られた徒手格闘術、無手の人間が武器を手にした者達と戦う為に生み出された武術なんだよ」

「そうだったんですね、初めて聞きました・・・。(!?)という事はつまり真琴さんにとって私達は・・!」

「黒鉄、気付いたか・・・。そうだ、近衛にとって武器を手にした伐刀者はただの“標的”に過ぎない」

 

 ――――

 

 ステラは苦戦を強いられていた。全ての攻撃を完璧に往なされ、剣が真琴に届いていなかったからだ。ステラは少し焦りが出てきていた。

 しかし対戦相手の真琴はステラとは違い、少し安堵していた。昨日、一輝VSステラの戦闘を観戦してステラの太刀筋を確認していたからだ。その為ステラの攻撃を冷静に対処する事が出来ていた。

 

「(大体ステラの攻撃パターンは読めた、次の行動は、連続で突き!)」

 

 真琴の読み通り、ステラは連続突きを繰り出した。

 

「(これも躱された!?さっきからマコトに攻撃が当たらない!?)」

 

 ステラの頬には焦りによる汗が、垂れて来る。

 

「(よし!それじゃそろそろ・・・!俺が懐に突っ込めばアイツは俺目掛けて大剣を振り下ろすはず!)」

 

 真琴は姿勢を低くしながらステラに直進していった。好機と見たステラは真琴の読み通り、妃竜の罪剣を振り下ろした!その攻撃を読んでいた真琴は体を制止し、大剣と交差するように拳を打ち出した!

 

「❰白刃流し❱!!」 

 

 打ち出された拳は妃竜の罪剣を受け流し、ステラの顔面に向かって突き進んだ。咄嗟の事でステラは防御の判断が間に合わずそのまま頬に拳が触れ、真琴VSステラの対決は真琴が勝利を収めた、それと同時にステラと珠雫の三日間のトイレ掃除が決定した瞬間でもあった。




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BATTLE.12 珠雫の弱点

こんにちは、紅河です。


4000字オーバー、台詞が多いですがお付き合い下さると嬉しいです。
では宜しくお願い致します


「「・・・はい」」

「もう遅いし、トイレ掃除は明日からで構わないから、学園全ての女子トイレの清掃、頼むぞ?」

 

「「分かりました・・・」」

 

「まぁ気を落とさず気楽にな!」

「マコトが言わないでよ・・・」「真琴さんが言わないで下さい・・・」

「アハハッ」

「「笑い事じゃない!」」

 

 

 そんな会話をしながら、第三訓練場を後にする五人。そのまま自分の自宅へ帰宅しようとした時、真琴は珠雫に声を掛けた。

 

「黒鉄妹、ちょっといいか?」

「・・・別に良いですけど、何か用ですか?」

「ドリンクでも奢ってやるからよ、少し付き合ってくれ」

「・・分かりました」

 

 

 

「それで、話って何ですか?」

「単刀直入に言う、お前、このままだと七星剣武祭で勝ち上がる事が出来ないぞ」

「!?どういう事です?私が弱いとでも言うのですか!?確かに貴方に敗戦を期してしまいましたが・・・!」

「いや、勘違いするな、学生伐刀者の中じゃ黒鉄妹は一二を争う手練れではあるだろう。話を聞けば破軍学園、入学者の中じゃロングレンジでお前に右に出る者はいないそうじゃないか」

「だったら!」

「だが、もし、対戦相手のロングレンジがお前より勝っていたらどうするんだ?」

「それは・・!」

「ロングレンジの魔法戦で互角に渡り合える伐刀者に当たったらお前どうするつもりなんだ?」

「・・・・っ」

「黒鉄妹、お前にはな、“致命的な弱点”があるんだよ」

「致命的な弱点?」

「あぁ、お前も気付いてるはずだ、俺との組手でな・・・」

「・・ハッ!クロスレンジ、ですか?・・・」

「そうだ、お前にはクロスレンジが無い!」

「クロスレンジが無い?言っている事が良く分からないのですが・・・。私は実家で小太刀を習っていますし・・」

「それは知ってる、観の目で観たからな。だがなお前のクロスレンジは練度が低く過ぎるんだよ」

「低い?」

「あぁ。学生の中では武術を学んでいる人間は少ないだろうからな、連中なら身体能力を身に付けるより自分の能力を鍛えるだろうし。そういう連中だったらお前の練度の低いクロスレンジでも通じるだろう、だが全国はそれほど甘くない」

「貴方に何が分かるんですか!?貴方は前回の七星剣武祭にも出場していないでしょう!?そんな偉そうな事言わないで下さい!話というのはこんな下らない事を言う為だったんですか?なら私は帰ります」

「話を最後まで聞け!ったく・・。お前が七星剣武祭で勝ち残る為には、クロスレンジに対するお前なりの答えを見付ける、これしかない」

「私なりの?」

「そうだ、今よりクロスレンジの練度を上げるでもよし、伐刀絶技を造るでもよし様々有るだろうからそれを見付けろ。そうすれば本選でも戦えるだろうぜ?後はお前次第だ、黒鉄妹」

「・・・一応、お礼を言っておきます、有難うございました。でも何故私にそこまでしてくれるんです?私にアドバイスするメリットを貴方に感じないんですが?」

「それはな破軍学園じゃ貴重な存在だからだよ、お前ほど魔力制御に通じる伐刀者は他にいない、破軍学園じゃ随一だ。それにお前は一輝の妹だしな、だから気になっちまったんだよ」

(・・・お兄様の)

「すまんな、時間が取っちまって、そんだけだからじゃあな!」

「・・はい、また明日(お兄様の妹だからですか、少し嬉しいですね・・・それに他人から褒められて嬉しいの何て初めて、少しお兄様が真琴さんを気に入る理由が分かった気がします)」

 

 

 

 そんな事を思いながら珠雫は自分の寮へ帰宅した。自分の事を褒めてくれた真琴を思いながら扉を開けて部屋に入ると一人の男性が座って待っていた。

 

「あら、随分遅かったのねぇ、待ちくたびれたわ」

「貴方は?男、性で良いのよね?」

「生物学上はね、心は乙女よ?それから私は有栖院凪、アリスって呼んで、宜しくね?私の事はお姉さんとして頼ってくれて良いからね?」

「ん、分かったわ、私は黒鉄珠雫、宜しくねアリス」 

「えぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 次の朝、真琴と一輝とステラの三人はランニングを終え、ベンチで休憩を取っていた。ステラはまだ真琴達のランニングに付いていく事は出来ていない。黒乃理事長は病室にてステラに話していた事がある。それは「ヴァーミリオン、この一年、黒鉄の背中を追い掛けてみろ」という事だった・・・。ステラはこの朝のランニングでその意味を少し理解出来た気がした。

 

 

「さて今日のランニングも終わりだね」

「ステラも良く付いてきてるな、やるじゃねぇか」

「はぁはぁ・・・・どんな・・・もんよ・・」

「まぁ、無理すんな、ほらお前のドリンクだ」

「ありがとう、マコト」

 

 ステラは渡されたドリンクを一気に飲み干した。

 

「ねぇ、イッキ、明日は土曜日よね?」

「うん、そうだねステラ」

「ってことは休みよね?」

「うん」

「(ステラの奴、もしかしてイッキとデートしたいのか?素直に言えば良いのによ、仕方無い手伝ってやるか・・・)」

「ステラ殿下?一輝とデートしたいならそう仰れば良いんじゃないですか?」

「で、で、デート!?」

「あれ?違うのか?」

「ち、違うわよ!」

「本当に~?」

「本当よ!」

「真琴もステラをからかわない!」

「だってステラをからかうの楽しくてな!」

「楽しむなっ!」

「アハハッ」

「笑うな!!」

 

 和気藹々と話をしているとふと一輝の生徒手帳が鳴り始めた。誰かからメールが来たようだ。

 

「ん?対戦相手が決まったの?」

「いや違うみたいだぞ?」

「“お兄様へ明日の土曜日、買い物に付き添っていただけませんか?”」

 

 それは珠雫から買い物に付き添って下さいというデートのお誘いだった。一輝と珠雫は血の繋がった実の兄妹であるが妹の珠雫は一輝の事を男性として愛している。ステラも一輝の事が気になっているのか、ただの買い物であっても止めたいと思うのだった。

 次の日、待ち合わせの時間に真琴、一輝、ステラ、珠雫、そして珠雫のルームメイトの有栖院凪が到着した。

 

「何故ステラ殿下がここに居るんですか・・・?」

「兄妹で糸を引くキスする妹と二人きりにさせてたまるもんですか!イッキに日本についてもっと知りたいって言ったら来ても良いって言ってくれたのよ」

「殿下は空気読んでいただけませんかねぇ?」

「まぁまぁ二人共落ち着いて、ね?」

「その辺にしとけっての、つかそっちの男性は誰だ?」

「一応、ね?でも心は乙女よ?私は有栖院凪、皆アリスって呼ぶわ」

「お、お、そうか、俺はステラ殿下が何かと不便だろうと理事長の命で、一輝とステラのサポートを任されている近衛真琴だ、宜しくなアリス」

「ええ、こちらこそ宜しくね、真琴」

「僕が黒鉄一輝、珠雫の兄だ。珠雫の事、宜しくねアリス」

「珠雫の事は妹が出来たみたいで嬉しいわ、一輝、こちらこそ宜しくね?それにしてもイケメンね、私も狙っちゃおうかしら?」

「え?」

「ぬーん・・・・」

「じょ、冗談よ珠雫!冗談だからそれしまって!」

「おい、黒鉄妹、また校則違反だからな?また女子トイレの掃除日数を増やされたいのか?」

 

 真琴の言葉で冷静さを取り戻したのか、固有霊装である宵時雨をしまった。その後ステラが珠雫にからかわれながら真琴一行はデパートのファミレスへ足を運んだ。

 

「うーん!このクレープ美味しいーー!」

「ここのデザートは旨いって評判なんだよ、ついて来て正解だぜ」

「あら、真琴って甘いもの好きなの?」

「あぁ、甘いものは別腹さ」

「珍しいわね、スイーツが好きな男なんて」

「良く言われる」

「真琴は食べたい時は自分でお菓子を作っちゃうからね、ルームメイト時代に良く食べたよ」

「腕はどうなの?一輝」

「期待して良いよ、凄く美味しいんだから」

「そんなに褒めるなよ、一輝・・・照れるだろう」

「あら、照れ顔可愛いわね・・・」

「そんな顔で見るな、俺はノンケだから・・」

「へぇー意外ですね、真琴さんがスイーツ系男子だなんて」

「好きなもん位料理するだろ?俺はたまたまお菓子だっただけさ」

「それにしてもマコトってカラテを道場で習ってるのね」

「正しくは“空手も”だかな」

「ん?他の武術も習ってるの?」

「俺は空手の他に、ムエタイ、柔術、中国拳法、対武器戦闘術、それから我流武術だな」

「多すぎですよ、それ・・・」

「ちゃんと身に付いてるの?」

「あぁ、もちろん」

「ふぅん、まぁいいわ。ねぇマコトが私達と戦った時、使った気当たりって技私にも使えないかしら?」

「んー?気にも段階が有るからな、掌握に至らないと技にならない」

「「掌握?」」

「そうだよ、気の段階はそれぞれ3つに分類されている」

「1つは❮気の発動❯二つ目は❮気の開放❯そして、最後が ❮気の掌握❯だ」

「それじゃ真琴さんは気の掌握に至っているんですね」

「あぁ、気当たり自体は気の発動した武術家にも使えるが、相手を怯えさせて気絶させたり、相手の戦意のみを奪ったりという芸当をこなせるのは気の掌握に至った一部の達人達だけだ」

「それじゃ真琴も気当たりを完璧に使いこなしてる訳じゃないのね」

「そういう事だ、アリス、くーっショートケーキうめぇ・・」

「真琴さんが掌握ならお兄様や私達は、何処に位置しているんですか?」

「そうだなぁ、まずステラと珠雫に関してだが、まだ気の発動にも至ってねぇな。一輝については“気の発動”だな、アリスは・・・戦いを観た訳じゃないからなんともいえん」

「本人じゃないのに良く分かりますね、真琴さん」

「そりゃ一度戦った相手だしな、相手の気のタイプくらい把握出来るぜ」

「気のタイプ?気には種類があるの?」

「あぁ、気のタイプは基本的に二種類だ。一つは俺が修めている❰静❱そして一輝が修めている❰動❱に分けられている」

「ん?基本的に?もしかしてまだあるんですか?」

「黒鉄妹、いい質問だ。例外もあってどちらの気も有している稀有な武術家もいるぞ」

「へぇー色々いるのね、マコト私達はどちらのタイプなの?」

「ステラと黒鉄妹は気のタイプが綺麗に分かれている、珠雫が俺と同じ心を落ち着かせて闘争心を内に凝縮し、冷静かつ計算ずくで戦う❮静❯のタイプ。ステラは逆に感情を爆発させ、精神と肉体のリミッターを外し本能的に戦う❮動❯のタイプだ」

「だけど動のタイプは少し危険なんだ。何故ならそのリミッターが外れっぱなしになって、人を見ると暴れまわる化け物と化すからな」

「その話を聞くと動の方が強い気がしますが・・?」

「これについてどちらが強いとかは存在しない、それに自律して選べる訳じゃないし、本人の性格や戦闘スタイル等から向き不向きが決まる」

「あ、そうなの?」

「うん、静のタイプは冷静に相手を分析しながら戦う人が多い、珠雫はそのタイプだ。逆にステラは頭で考えるより体を先に動かすタイプでしょ?」

「た、確かにそうね」「はい」

「それによ、逆に考えてみろ、少し違和感があるだろ?」

「言われてみれば・・・」

「イッキは何故動のタイプなの?イッキは私と戦ってる時、冷静に分析して見切りをやってたじゃない」

「別に動のタイプが冷静に対応しない訳じゃないからな、ステラ?そこは勘違いするなよ?」

「少し話疲れたぜ・・・またスイーツ食おうぜ」

「真琴、太るよ?」

「ああ?良いんだよ、太らねぇ体質なんだから」

 

 食べ足りない真琴はその後、ショートケーキやガトーショコラを話をする前に食べていた数を合わせて計15個平らげた。しかしそんな彼等の身に危険が迫っているとは、誰しもが思わず、幸せな昼食を過ごしていた・・・。




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BATTLE.13 解放軍«リベリオン»VS伐刀者

こんにちは、紅河です。
遂にお気に入りが100件を越えました。いやはや何と言って良いものやら分かりません。皆さん本当にありがとうとしか言葉が見つかりません。

さて13話です!戦闘があります!お楽しみ下さい!


「さてと、ステラと黒鉄妹を待たせている訳だし、二人が喧嘩する前に戻ろうぜ?」

「そうだね、というか珠雫の呼び方、黒鉄妹で確定なんだね・・・・」

「だってよぉアイツ人間、嫌いだろ?お前の事で家族すら嫌ってんだろ?女性なら兎も角、男姓の、ましてや他人からの呼び捨ては流石に嫌がるだろうからよ」

「それはそうかも知れないわね」

 

 真琴、一輝、アリスの三人はステラと珠雫をショッピングモールのテリトリーに待たせ、用を足す為トイレに来ていた。

 

「さてと、トイレを出るか・・・(何か妙だな・・)」「どうしたの?真琴?」

 

 真琴はトイレから出ようとした時、何か“違和感”を感じた。それはショッピングモールに有る筈のないもの戦いの気配“殺気”だった。

 

「おい、ちょっと待て、周りが静かすぎる・・・。それに人の気配が無い」

 

 真琴は梁山泊にて気当たりの感知を学んで居た。それを用いて周りの気配を察知したのだ。

 

「・・・確かに、おかしいわね」

「ステラ達に何か起きたのかもしれない、二人が心配だ、早く二人の元へ急ごう!」

 

 三人は彼女達が待つ場所へ走りだした。下のテリトリーが一望出来る場所に到着し、彼女達へ目線を向けると、そこではステラと珠雫を含め、ショッピングモールの従業員等と他の客達が何者かによって人質になっていた。

 

「一輝、緊急事態だ、理事長に連絡して固有霊装を展開できるよう手配しておけ」

「うん、分かった」

 

「(あの人達はまさか・・・)」

 

 アリスだけが勘づいていた。

 

「アイツらは一体何者だ?銃も持ってるぞ・・・。テロリストか何かか?」

「あれはもしかして解放軍«リベリオン»かしら?」

「解放軍って確か、伐刀者を«選ばれた新人類»と掲げ、非伐刀者が集まり、世界秩序を目論む危険集団だったか・・?」

「あら?真琴、良く知ってるわね?」

「昔、師匠の世直しで相手にした事があってな・・・(奴等とは色々因縁が有るからな)」

「・・・そうだったのね(・・・世直しってどういう事?真琴は旅でもしてたのかしら?)」

 

 すると、理事長に連絡した一輝が真琴達の元へ戻って来た。

 

「真琴、後の事は理事長が手配してくれるそうだよ」

「OK、一輝、ありがとな」

 

 一輝が戻って来た所で、解放軍が動いた。厳つい顔の男が人質の母親に子供がうるさいという理由で手を挙げたのだ。母親は子供を庇いながらその男に許しをこいた。しかし、男は耳を貸さず、あろうことか持っていた銃をその子供に向けたのだ。

 

「下等な人間風情が俺の耳を汚したんだ!死をもって償ってもらわねぇとな!!」

「やめて下さい!子供には手を出さないで下さい!」

「んじゃお前が息子の代わりに死ぬか?」 

「私はどうなっても構いませんから、息子だけは、手を出さないで下さい!」

「物分かりが良い女じゃねぇか!へへ、んじゃ早速・・・」

「やめろ!!おかあさんに手を出すな!!」

 

 少年は勇気を振り絞り母を助ける為、銃を構えるその男に突撃を仕掛けた。しかし只の子供が屈強な大人に敵う筈がなく、簡単にはね除けられてしまった。

 

「このガキィ!調子に乗りやがって!!許さねぇ!今ここでぶっ殺す!」

 

「危ない!」

 

 その男は銃口を母子に向けて、引き金を引いた。しかし銃弾が親子に当たる事はなかった。当たる瞬間、咄嗟にステラが、自身の伐刀絶技«妃竜の羽衣(エンプレスドレス)»を発動しその母子を身を呈して庇ったのだ。只の銃弾がAランク騎士ステラの身体に届く筈もなく、妃竜の羽衣(エンプレスドレス)に溶かされ蒸発した。

 ステラが庇った後、奥から金髪のおかっぱ頭の男性が歩いて来た。その男は解放軍の面々からビショウと言われ、解放軍の非伐刀者達を指揮していたのだ。

 その男が隊長だと把握したステラは無謀にも攻撃を仕掛けた。だがその男にステラの攻撃は届かない、何故ならビショウは解放軍で「使徒」と呼ばれる伐刀者であり、自身の“大法官の指輪(ジャッジメントリング)”と呼ばれる固有霊装でステラの攻撃を左手で無効化しながら受け止め、右手で無効化した攻撃を反射したのだ!

 思わぬ反撃を受けたステラは攻撃を受けた腹部を抑えながら、その場に膝をついた。するとビショウはステラに一つ提案して来た。それはステラがここで服を脱ぎ辱しめを受ければ、我々の邪魔をした母子を見逃すというものだった。ステラは母子を護る為、嫌々ながらその提案を受けた・・・。

 その様子を見ていた一輝は堪らず激昂し、そのまま解放軍に突撃する勢いだったが、真琴は一輝の肩を抑えてそれを止めた。

 

「一輝、気持ちは痛い程分かるが少し落ち着け・・・」

「真琴・・・でもこのまま黙って見てるわけにいかないよっ・・・」

「んなことは分かってる、今お前が突撃してなんになる。下手すりゃ人質共々アイツらに殺されちまうぞ?」

「んじゃどうすれば!・・・」

「下を見てみろお前の妹が、何かやろうとしてる」

「珠雫が?」

「あぁ、それに俺に考えがある」

「何かしら?真琴?聞かせてもらえる?」

「いいか、まず珠雫が技を発動させたら、一輝は奴等全員の囮をしてくれ、ビショウと呼ばれるおかっぱ頭はお前に任せた。危険な囮だけどお前にしか出来ないんだ、頼んだぞ、一輝」

「分かった、任せてくれ真琴」

「アリスは一輝のサポートを頼む」

「えぇ、了解したわ」

「真琴はどうするんだい?」

「一輝が突撃すれば非伐刀者達、全員がお前に銃口を向け銃を発射するだろうから、その間に非伐刀者達をまとめて一網打尽にしてやるよ」

「そんなこと出来るの?」

「あぁ、師匠から授かった技を使えば出来るぜ?まぁ見てろ、んじゃ頼んだぞ二人共!」

 

 そう言うと真琴は解放軍達の死角へ向かった。

 

「解放軍め、人質に取る下衆野郎共がっ・・・ここに居合わせた事を後悔させてやる!」

 

 人質を護る準備が整ったのか、珠雫が声を挙げた。

 

「障波水れーーーん!!」 

 

 

「何だ!」「人質の中に伐刀者がいやがったか!もういい撃ち殺して構わん!」「オラオラオラ!!」

 

「あとはお願いします、お兄様、アリス、真琴さん」

 

 だが解放軍達の銃弾は珠雫達には届かない。何故なら珠雫が展開した伐刀絶技«障波水蓮»は幅30メートルがある水の壁を周囲に造り出す防御技。珠雫の防御力前に、銃弾すら防いでしまうのだ。

 真琴が死角に到着直後、一輝が固有霊装«陰鉄»を顕現させ一刀修羅を発動し下に向かって飛び降りた。

 

「・・・来てくれ陰鉄!」

「ん?上にも伐刀者が居たか・・、こうなりゃ全員蜂の巣でいい!撃て!!」

「イイヤッハーーーー!!!」

「«一刀修羅»・・・(今は色はいらない色彩認識のリソースを必要な情報のみに振り分ける!もしあの左腕に受け止められれば攻撃は無効化される!だけど!)」

 

「一輝が作戦を始めたな、俺も動くとするか!・・我が身を護れ!甲鉄陣玉鋼!」

 

 真琴がそう言った瞬間、腕と脚に砂鉄の様な黒い小さな粒子が、纏っていく。

 次第にそれが防具となり、手甲とすね当てとして顕現する。

 これが、近衛真琴の固有霊装、❮甲鉄陣 玉鋼❯

 

 玉鋼とは日本の鎧や刀等を製作する際に、用いられる最も上質な素材を意味する。

 何故、真琴の固有霊装が玉鋼と呼ばれることとなっているのか?

 それは、真琴の能力と関係する。

 

 真琴の伐刀者としての能力は、『有りとあらゆる能力を創り出す』というもの。これだけ聞けばステラや珠雫にも劣らない能力だ。しかし、真琴が仮にステラや珠雫が得意とする〝炎〟や〝水〟の能力を創り出したとしても必ず劣化したモノになってしまう。

 これが、真琴の能力だ。

 

 これは、父である近衛真一から受け継いだモノだ。現状の真琴は魔力が足りず、数多くの技を使用する事が出来ない。

 使用出来る伐刀絶技は一つだけ。その記述はまた別の機会に。

 

 

 ガラスの柵を飛び越えた真琴は音もなく下に着地した。そして銃を構えて発射している非伐刀者達のトリガーに掛かっている指を一本一本、韋駄天の様な速度で手首の方に間接を外していった。

 

「あれ?トリガーが引けない!」「指が外れているぅ!何故だ!」

 

 

「てめえ誰だ!」

「・・お前達全員、これで大人しくしていやがれ!!」

 

 真琴は柔術の師匠から多人数用に使用する、技を繰り出した。

 

「❰岬越寺 無限轟車輪❱!!ヌアッハァ!」

 

 

 真琴は一陣の旋風の様になりながら非伐刀者達を次々に飲み込んでいった。間接を極められた非伐刀者達が次々とエレベーターを囲いながら真琴の技によって輪になっていった。

 

「身体が動けん!」「お前ら動くな!痛いだろうが!」

 

「てめぇ!俺らに何しやがった!!」

 

 母子に手を出した厳つい男が声をあらげながら真琴に言い放った。

 

「その技はお互いの体重を使って極めてある、他の人間に外から外してもらわねぇと決して外れねぇ!大人しくそこで反省するんだな!こっちは済んだぞ、今だ一輝!やっちまえ!!」

 

「お前ら何してんだ!」

(有難う、真琴!任されたよ!)

 

 一輝は壁を蹴り、ビショウに跳躍した。

 

(アイツ突っ込んで来る気か?馬鹿が!俺には罪と罰がある、お前の攻撃は効かねぇぞ!)

 

 ビショウは一輝の攻撃を受け止める為に自身の

大法官の指輪(ジャッジメントリング)がある左手を掲げた。だがビショウが思う通りにはならなかった。

 

「第七秘剣«雷光»!」

「ウギャアアア!!・・・・」

 

 一輝の固有霊装«陰鉄»によってビショウの左腕は切り下ろされた。一輝が道場破りを繰り返し様々な剣術の書物を読破し、自身で編み出したオリジナル剣技第七秘剣«雷光»だ。この技は相手が見えない速度で刀を振るうという速度重視の攻撃である。一輝が多くの剣術を観て学び、ある時は剣技を受けて学び、一輝によって編み出された。多くの剣技を観て、修得した一輝だからこそ成り立つ技である。この技は相手が相当の武芸者でもなければかわしたり、受け止める事は出来ないだろう。それほどの速度なのだ。

 

「お前の動体視力を上回れば受け止める事は出来ない」

「てめぇ・・・よくもっ!!」

「お前がステラにやったことを考えればこれでも生温いぐらいだ!」

 一輝は静かに激昂していた。

「はい、お遊戯はお・わ・りっ・・・」

 

 アリスは自身の影縫い«シャドウバインド»と呼ばれる伐刀絶技を用いてビショウの動きを封じた。これはアリスの固有霊装«黒き隠者(ダークハーミット)»という短剣を相手の影に刺すことによって動きを封じる事が出来る技である。

 

「(アリスの奴、あんな事できるのか、しかも姿も消せるとは厄介な能力の持ち主だぜ。つか、一輝のやつステラが人質に取られているとはいえ、躊躇なく人を斬ったか・・・。アイツはどちらの道に進むんだろうな・・・出来れば俺と同じ道に進んで欲しいが・・・)」

「真琴、他の奴等を足止めしてくれてありがと・・・」

「イッキ!」

 

 一輝は一刀修羅の副作用で疲労し、ステラがすかさず一輝の、身体を支えた。

 

「身を呈して母子を護るとは・・・でも立派な行動だったと思います」

「有難う、珠雫、アナタは人質を守ってくたじゃない」

「おい、お前ら油断はするな、こういう奴がまだいるからよ!」

 

 真琴はそう言うと、人質であるOLらしき女性を拘束したのだ。

 

「離しなさいよ!私は人質よ!?」

「マコトなにやってるの!戦いは終わったのよ!」

「アホか!これを見ろ!」

 

 真琴はそのOLから一丁の拳銃を一輝達に見せた。

 

「これを見ても、そんな事言えるか?」

「ピストル!?仲間が人質に潜んでいたのね・・・」

「な、何故、分かったのよ!アンタ!」

「あぁ?んなもん決まってるだろう?お前の目が怯えていないからだ。普通の女性なら人質に取られただけで慌てふためき、怯えるだろうが。だがお前はそんな目付きしてなかった、寧ろ安心しきってただろ?作戦は順調に進んでいるって顔してたぜ?これっておかしいよなぁ?」

「くっ・・・」

 

 

 真琴が女性を見ながら問い詰めると解放軍だった女性が観念したのか沈黙していった。

 女性の沈黙を確認した真琴は“気当たりの感知”を始めた。真琴は梁山泊にて油断は禁物だと教えこまれている。その為、他に仲間がいないか確認していたのだ。

 “気当たりの感知”とは気の運用の一つで、人間の気当たりを感知し位置などを把握する事が出来る技だ。弟子級では扱うのは難しく巧く扱う事が出来ない、しかし気を掌握している真琴は、それを用いて周囲の感知を行っていた。

 すると真琴は一人此方に近付いてくる一つの気を確認した。それは一度感じた事のある気当たりだった。破軍学園の校内で一輝と真琴に挑発し、戦いを挑んで来た伐刀者の気だった。そしてその伐刀者はあろうことか、真琴が抑えていた女性に向かって、真琴もろとも攻撃を仕掛けたのだ!!

 

「ん?おい!桐原!回りくどい事しないでさっさと出てこい!」

「あれぇ?何で底辺伐刀者の落第の拳«ワーストフィスト»が僕の狩人の森«エリアインビジブル»を見破る事が出来たのかなあ?」

(私でも感知出来なかったのに、真琴は近付いてくるて来る狩人の気配を感じ取ったていうの!?さっき、解放軍達を無傷で捕らえた事といい、人質の中にいる解放軍を見付けた事といい、真琴って本当に何者なのかしら?)

 

「久し振りだね、黒鉄君・・・」 

「桐原君・・・なぜ君がここへ・・・」

 

 一輝に含みのある言い方を放ちながら去年一輝のクラスメートであり、破軍学園で狩人の二つ名を持つ桐原静矢が一輝達の元へ歩みを進めていた。




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BATTLE.14 解放軍襲撃後

「いやぁ久し振りだなぁ、落第騎士«ワーストワン»と落第の拳«ワーストフィスト»今日は仲良くデートかな!?アハハハ!!」

「・・・相変わらず嫌味ったらしい野郎だな、桐原・・・」

「イッキ、誰なの?この人?」

「この人は破軍学園、二年三組、僕と真琴の“元クラスメイト”の桐原静矢君。破軍学園では«狩人»という二つ名を持つ強者の伐刀者だよ」

(“強者”ね・・・アイツの能力は確かに対人最強だ、でも“そんだけ”だ。使う人間があれじゃ宝の持ち腐れだぜ)

 

 桐原の固有霊装は「朧月」と呼ばれる弓を使用する。そして桐原静矢の代名詞が«狩人の森»(エリアインビジブル)と呼ばれる伐刀絶技。その能力とは自分自身の情報を完全ステルス化するというもの。大抵の伐刀者はその能力の前になす術く、敗北している。桐原の二つ名は対戦相手の伐刀者をいたぶり、獲物を狙う狩人の様に振る舞う事からその名が付けられている。

 そして桐原の声は対戦相手の頭の中に響いて伝わり、位置を把握するためには桐原が発射した弓を逆算して割り出さなければならず、手練れの伐刀者でなければ桐原の相手にはならないのだ。

 

「で?その狩人さんが何の用だよ?」

「たまたま近くを通ったんでね、助っ人に来たんだよ・・・。底辺ランクのお前らじゃテロリスト達を捕まえる事なんて出来やしないだろうと思ってね!」

「でもイッキ達のおかけで私達は無事よ?」

「それはテロリスト達が弱かったんだろう、良かったじゃないか!まぐれで勝ててさ!なぁ一年の落第騎士«ワーストワン»に落第の拳«ワーストフィスト»!アハハハ」

「後からやって来て図々しい人ですね」

 

 その後、警察が到着し、真琴達は解放軍«リベリオン»と思わしきテロリスト達を警察に引き渡した。その数分後、桐原が侍らせている彼女達が桐原の元へやって来た。

 そして桐原はあたかも自分がテロリスト達を撃退したかの様に語るのだった。

 

「私、なんかアイツ嫌い・・・」

「珍しく意見が合いましたね、ステラさん」

「つか桐原が居るなんて予想外だぜ」

「まぁ人質の人達が無事で良かったんだから、それで良いじゃないか」

「それもそうね」

 

 すると、一輝の生徒手帳が鳴った。どうやら七星剣武祭実行委員会からの対戦相手決定の通知だった。その相手とは・・・。

 なんと、目の前のベンチに座りガールフレンド達を侍らせている、«狩人»桐原静矢だったのだ。

 

「・・!」

 一輝の表情は少し曇り気味に、生徒手帳の画面を見つめていた。

「おい、一輝、その表情は・・・まさかお前の相手って」

「何だ、七星剣武祭代表選抜戦、一回戦目の相手は落第騎士«ワーストワン»じゃないか!これは楽勝かな?」

「え!コイツが相手なの!?」

「そのようですね」

 

 この桐原静矢という男は前年度の首席入学者にして、昨年度の七星剣武祭代表生でもある。そして伐刀絶技«狩人の森(エリアインビジブル)»は桐原自身が完全ステルス化する、対人最強の伐刀絶技を持ち合わせいる。今の一輝では勝ち目が無いに等しかった。

 

「去年は戦う事は出来なかったけど、“今度は逃げるなよ?・・・”じゃあな、黒鉄君?楽しみにしてるよ」

 桐原はそんな言葉を一輝に吐き捨てならがら、ショッピングモールを後にした。

「何よアイツ!まるで自分が勝つ様な言い方をして!」

「大丈夫?一輝?顔色悪いわよ?」

「・・あぁ、大丈夫だよ、アリス有難う」

「なぁ、早く寮に帰ろうぜ?」

「そうですよ、行きましょ?お兄様」

 

 真琴、一輝、ステラ、珠雫、アリスの五人も寮へ戻っていくのだった。そんな中、アリスは一輝を心配そうに見つめていた。何故アリスがそう思って見つめていたのか、それはアリスにしか分からない。

 アリスが一輝に声をかけようとした瞬間、真琴がアリスの肩を掴んだ。

 

「ねえ・・!」

「アリス、一輝の事は俺に任せてはもらえないか?」

「真琴、もしかして知ってたの?」

「ああ、一年間アイツと生活してたんだ、それくらい分かる

さ」

「なら、何故放っておいたの?彼の心はもう限界よ?」

「分かってるよ、俺だって何とかしてやりたかったさ!けど一輝の心の問題は一輝が解決しなけりゃ意味がない。他人がとやかく言える事じゃない・・・」

「それは、そうだけど・・・でも何か出来なかったの?」

「俺の力不足でな、助ける事が出来なかった、そんな自分が情けない・・・。それによ一輝の“緊張”は剣武祭を迎えなきゃ解決出来ないんだよ、残念ながらな」

「・・っ壊れてくれない事を祈るしかないわね・・・」

 

 そんな二人でそんな会話をしていると前にいた三人から声が掛かった。

 

「二人共ー、もうすぐ寮に着くわよー何してるのー?」

「ああ!今行く!・・なぁアリス」

「・・・何かしら?真琴」

「今日、少し一輝と話してみるわ」

「えぇ、頼んだわよ、真琴」

 

 程無くして寮に到着した。珠雫とアリスと別れた三人は自分達の部屋がある階へ足を進めた。

 真琴達はステラが来てから夕飯を一緒に過ごす様にしている。真琴が一人で食べるのは寂しいそうだからと一輝が提案したからだ。ステラは少し残念そうな顔だったが、一輝の熱い説得にステラは折れて、なくなく一緒に食べている。

 楽しい夕飯を終えて気がつけば、夜の8時前だった。そして真琴が部屋に戻り、お風呂を沸かし入浴を終えて時計に目をやるともう10時を過ぎていた。

 すると真琴は生徒手帳を取りだし、一輝に「話があるからベランダで待っててくれ」と一文メールを送った。そして約束の時間になり、真琴がベランダに足を運ぶと一輝が待っていた。

 

「ごめんな、急に・・・」

「ううん、気にしないでよ。真琴、話って何?」

「あぁ話って言うのはな・・・」

 

 真琴はショッピングモールでの出来事を思い返していた。

それは解放軍との戦闘中の事だ。解放軍の“使徒”であるビショウの腕を一輝は躊躇いもなく斬った事だった。ステラの事で激昂してたとはいえ、一輝は人を斬ったのだ。活人拳である真琴は何故人の事を斬ったのか、聞かずにはいられなかった。

 

「それにしても今日の事件、何事も無くて良かったな」

「うん、そうだね、誰も怪我してないし。でも真琴が他の解放軍達を足留めしてくれたからだよ」

「俺は助けただけだよ」

「話って事件の事?」

 

 

 

 

 

 

 

                                         

「いや違う、なぁ一輝、何で“人を斬った”?」

 

 

 

 

 

 

 

「え?それはああするしかないと思ったから・・・」

「お前なら峰打ちでも仕留められただろうに・・・斬る必要はなかったよな?何故だ?」

「・・・良く分からないよ、そんな事考える暇もなかった・・・」

「・・・そうか」

 

「俺な、お前に質問があるだよ」

「質問?何?真琴」

 

 

 

「一輝、“殺人拳”と“活人拳”、どちらの道に進むんだ?」

 

 

 

 

 その質問をされた一輝は少し驚いた。そして暫く考えた。自分はどちらの道に進むのだろう、どちらの道に進みたいのだろう、その考えは纏まらず時間だけが過ぎていく。数分沈黙していただけなのに、何時間も過ぎたように二人は感じた。その数分後一輝より先に真琴が口を開いた。

 

 

「だがお前は躊躇なく、人を斬った。ステラが辱しめを受けたってのも大きいんだろう・・・。だが、もしこのまま人斬りの快感を覚えちまったら、もう戻れないぞ?」

 

 一輝は沈黙を続けている。

 

「・・・」

「一輝?」

 

 やっとその重い口を開いた。

 

「・・・もし人斬りになりそうな時は、真琴が僕を止めてくれ。真琴は活人拳を志す武術家であり、伐刀者だ、真琴なら僕が闇に堕ちる前に助けてくれるって信じてるよ」

「・・・・」

「真琴ならそうするよね?」

「ふん、当たり前だろ?人の為に己の命をかけて人を助けるのが活人拳の理だ!それが俺の信じる道であり、俺の信念!それに親友を助けるのに理由はいらねぇ、そうだろ?」

「うん、真琴ならそう言うと思ったよ、でも真琴は凄いね、もう自分の道を決めて、前に進んでるんだから」

「んなことねぇって」

「いや凄いよ!僕は未熟者でどちらの道に進むかも分からないし・・・」

「俺的には活人拳に進んでほしいがな、お前の相手は骨が折れるからよ」

「それは僕も同じだよ」

「「アハハ」」

 

 真琴と一輝はお互いに笑いあいながら、ベランダで一頻り盛り上がった。そんな二人の会話をステラは黙って聞いていた。

 

「二人で何の会話してるのかしら?」

 

 話が気になるステラだったが、真琴の本命はこの話ではない。アリスと話した一輝の心の悲鳴について話したかったのだ。そして遂にその話題を口にした。

 

「なぁ一輝、少しは気が紛れたか?」

「・・・どういう事?真琴?」

「明日は桐原が相手だろ?俺と話して、お前の緊張が晴れてくれたらと思ってな」

「それは、分からないよ・・・」

「・・・そうか、わりぃな変な事言って、ただ一つだけ言わせてくれ」

「ん?何?」

「明日の試合、“全力で行け”よ?他の事はアイツをぶっ飛ばしてから考えろ、いいな?」

「それじゃ二言だよ」

「あっ・・・まぁ良いじゃねぇか、細かい事は気にすんな!」

「フフっ有難う真琴・・・僕は、必ず勝って来るから」

 

 そんな会話をしながら二人はベランダを後にした。別れ際に一輝が口にした、言葉は真琴に不安を残させたのだった。そして夜が明け、落第騎士«ワーストワン»VS«狩人»桐原静矢の対戦当日となった。




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BATTLE.15 ❮殺人拳❯と❮活人拳❯

こんにちは、紅河です。
このbattle15は苦戦してしまいましたが何とか書けました!
どうぞお楽しみ下さい!



「なぁ、一輝」

「ん?何?真琴」

「一つ約束をしねぇか?」

「約束?」

「あぁ、七星剣武祭で俺と闘おうぜ?」

「勿論だよ、でも勝つのは僕だからね?」

「何いってんだ、俺のほうに決まってる」

「フフっ」「アッハハ」

 

 真琴と一輝はベランダで対戦の約束し、自分の部屋に戻って行った。

 そして、夜が明け、落第騎士«ワーストワン»VS«狩人»桐原静矢との選抜戦当日を迎えた。

 

「ねぇ真琴、昨日一輝と話してた“殺人拳”と“活人拳”ってなに?」

 

 ステラは朝食の時間にそんな話を切り出した。三人は朝のランニングを終えると、三人一緒に食事を取る事にしている。一人で食べるのは寂しい、皆で食べた方が美味しいからと一輝が提案し、ステラもそれを了承、時折部屋を変えながら朝食を食べる事にしているのだった。

 そんな中、真琴にステラが話をふった。昨日の夜に二人きりで話していたのをステラに聞かれていたのだ。

 

「お前、聞いてたのか」

「えぇ、イッキが人を斬ったとか、殺人拳がなんとかとかバッチリね!」

「活人拳だ、さっき言えてたじゃねぇか」

「活人拳ね!今、思いだしたわ!」

「はぁ、まぁいいや、話してやるよ」

「頼むわね」

「んじゃまずステラは活人拳ってのは知ってるか?」

「“活人拳”?知らないわ」

「活人拳というのは活人を心髄に掲げる武術家の事を指す、つまり自分の命をかけて人を護る為の人間の事だ」

「凄い人達じゃない!」

「うん、真琴はそんな人達から武術を学んだんだよ」

「へぇーそうなの!それじゃ殺人拳ってのは?」

「“殺人拳”それは活人拳の逆で、武術の禁忌とされる殺人こそ心髄に掲げ、追究し続ける者達の事だ」

 

 真琴が弟子入りをする前、殺人拳と活人拳の命をかけた大きな戦争があった。その対決は世界大戦までの域に達した闘いである。そして真琴は師匠達から聞いていた、殺人拳を提唱する危険集団、❰闇❱との闘いだった事を・・・。

 真琴はステラにその❰闇❱については語らず、殺人拳だけの説明しか言わなかった。何故なら闇は解放軍以上にまずい組織だからだ。

 

「何よそれ!!っ、まさかイッキがそんな道に進むってマコトはいうの!?」

「もしかしたらだ」

「見損なったわ、マコト!そんな事を言うだなんて!」

「落ち着け、ステラ!お前の言ってる事はわかる、これはもしかしたらの話だ」

「でも、イッキが殺人なんて・・・」

「僕が昨日、人を斬ったからね、それを見た真琴はそっちの道に進むんじゃないかって心配して言ってくれたんだよ」

「そう、だったのね、ゴメンなさい」

「良いって、気にすんな。だがな、ステラ」

「何よ」

「騎士にとって、これは避けて通れない道なんだ、いずれにせよ殺人拳か活人拳、どちらかの道を選ぶしかない。それに殺人拳の武術家や騎士達は相手の命を背負って生きていかなければならないからな、お前が考えてるよりずっと重いぞ?有名な話にかの宮本武蔵は人を斬った時、敗れた武人の供養の為、山に籠って仏像を彫ったそうだぜ。その覚悟が、お前にはあるか?」

「ッ・・・!」

 

 

 ステラはいつになく真面目な表情を浮かべる真琴を見て、息を飲んだ。

 

「お前も選ばなくちゃならんからな、努々忘れるんじゃねぇぞ?」

「・・えぇ分かったわ、でももし、イッキが殺人拳に進むなら私が何がなんでも止めてみせるわ!!安心して、マコト!」

「「アッハハハハ!」」

 

 ステラは真琴と同じ言葉を一字一句間違わず、口にした。

それを見た二人は何故か笑わずにはいられなかった。

 

「な、何よ二人して」

「いやなんでもないよっ」「あぁ、気にすんなよ」

「「アハハハッ!」」

「き、気になるじゃないのぉー!教えなさいよー!」

 

 

 こうして、朝の時間は過ぎていった。そして一輝の選抜戦間近となった。

 

「んじゃ行ってくるよ、皆」

「・・あぁ」

「ん?お兄様、靴ひもが・・・」

「・・あぁ、ゴメン!有難う珠雫!」

 

 真琴とアリスには一輝の心情がいつもと違って見えていた。普段なら冷静沈着な一輝だが、今日は少し落ち着きがない、いや緊張している様に見えたのだ。

 

「ねぇ、真琴、本当に話したの?」

「・・話したさ、だが一輝は気付いてないみたいだけどな・・・心配だぜったく」

「何が心配なの?」

「あぁ?一輝がさ」

「イッキ?いつもと同じように見えるけど・・・」

「私も、ステラさんに同意します」

「・・・仕合になれば分かる」

 

「「?」」

 

 

 ステラと珠雫は真琴の発言に少し疑問を持ちながら、会場に向かった。席に着き仕合時間を待つ事したのだった。

 

 

「紳士淑女の皆々様!お待たせしました!遂に始まります!七星剣武祭代表選抜戦!実況は私、月夜見 半月でお送り致します!第一回戦は何と授業を一切受ける事なく一年を迎えてしまった、伐刀者!学園では落第騎士«ワーストワン»として知られている黒鉄一輝選手と!昨年度、首席入学者にして、去年の七星剣武祭代表の一人«狩人»桐原静矢選手との闘いです!桐原選手の伐刀絶技«狩人の森(エリアインビジブル)»は対人最強として名高いですが、果たして黒鉄選手はどう攻略するのでしょうか!?」

 

 月夜見半月が高らかに声を挙げて実況をしている。そんな実況を聞きつつ、他の伐刀者達が次の勝利者を予想していた。だがほとんどの生徒達が桐原静矢の勝利を確信していたのだった。それも当然である、相手は最低のFランク伐刀者。自分達より劣っている人間なのだ。応援する価値など微塵も存在していなかったのだ。

 

「さぁ!赤コーナーからやって来たのは落第騎士«ワーストワン»黒鉄一輝選手です!«狩人»こと桐原選手にどんな立ち回りを見せてくれるのでしょうか!?解説は西京寧音先生にお越しいただいております!」

「宜しくぅ~」

「そして、ようやく桐原静矢選手が入場してきました!さてどんな闘いになるか楽しみですねー西京先生!」

「まぁなー」

「まぁなーじゃないですよ!」

 

 ステージに二人の伐刀者が集い、お互いに闘志をぶつけていた。

 

「やぁ落第騎士«ワーストワン»、今日は“逃げずに来たんだな”」

「勿論だよ、桐原君」

「んじゃ遠慮なくぶちのめして良いんだよな・・・?」

「負けるつもりはないよっ・・・」

「強がり言っちゃって、心配するなよ、すぐにその顔を絶望に変えてやるよ!」

 

 二人はお互いの固有霊装を顕現し、戦闘体勢をとった。

 

「さぁ、狩りの時間だ!朧月!」

 

「来てくれ、陰鉄!」

 

「Let's Go Ahead」 

 

 会場の大きなスクリーンから仕合の合図が、会場中に鳴り響き、落第騎士«ワーストワン»VS«狩人»の戦いの火蓋は切られたのだった!




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BATTLE.16 落第騎士«ワーストワン»VS«狩人» その1

こんにちは、紅河です。
やっとここまで来れました!

真琴の選抜戦は次々回を予定しています!おたのしみに!


 仕合が始まり、まず桐原が先に先手を打った。自らの伐刀絶技狩人の森«エリアインビジブル»を発動させ、一輝に攻撃を仕掛けたのだ!だが、その攻撃は一輝の身体に届いていなかった!何故なら一輝が陰鉄で打ち払らったのだ!さらに矢が飛んでくる方向を逆算しながら、桐原に反撃をしていた。

 しかし、仕合は真琴が危惧していた通りに進んでいたのだ。

 

「あ~やっぱり一輝の奴、“緊張”していやがったな・・・」

  

 

「お兄様が緊張?」

「あぁ」

「そんな素振り全然見せなかったのに・・・」

「・・・本当にそうかしら?」

「え?」

「ステラ、俺と一輝がベランダで話してた事は知ってるよな?」

「ええ」

「俺は昨日の夜、一輝にこう伝えた、“全力で行け”ってな、なのにアイツは“必ず”勝つって言いやがった」

 

 真琴の一言でステラは気付いてしまった。

 

「!(一輝は必ずなんて使うタイプじゃない・・)」

「でも時間を掛けて見切るのがお兄様の剣で・・・」

 

 その質問にはステラが応えた。

 

「相手の剣を見切るのにどれだけ消耗を強いられると思う?」

「!」

 

 冷静沈着な一輝なら矢を払わずとも全力でかかれば、桐原程度の伐刀者を斬り伏せるも出来たはずだ。何故それをしないのか、それは・・・。

 

「しなかったんじゃない、出来なかったんだ」

「え?どういう事ですか?」

「真琴が最初に言ってたでしょ?緊張していたって、その程度の見切りすら出来ない程に一輝は緊張していたのよ・・・」

「それに一輝がこの七星剣武祭出場という切符を手にする為に、どれ程の努力をしてきたと思う?一輝の剣を受けたステラお前なら、分かるよな・・・?」

「それは・・・」

 

 黒鉄一輝の努力は並大抵のものではない。普通ならば誰かに教えてもらい、その技や型を練習し努力を重ねて鍛練をしていく、真琴もその一人だ。

 しかし、一輝にはそれが無い。家では居ないものとして扱われ、実家の剣技を教えて貰えず、中学からは道場破りを繰り返して技を学んだのだ。そんな人間が普段通りに、人と接している方がおかしかったのだ・・・。

 

「もし、この緊張を振り払い、元の一輝に戻らなければ、桐原静矢になすすべなく、敗北をする!」

 

 仕合に戻ると一輝は被弾こそしていないものの、予想通りに消耗し疲弊ていた。

 ここまで善戦していた一輝を見て、桐原は驚嘆していた。本当に僕に勝つつもりだと、だが桐原は悪感もしていた。才能も欠片もないただの凡人が、才能ある自分に勝とうとしているのだから・・・。

 

「まさか黒鉄君は本当に僕に勝つつもりとは・・」

 

 下卑た表情を一輝に向けた。

 

「勿論だよ、そうでもなければここには来ないよ」

「あぁ、そうかい、君の存在は実に不愉快だよ、落第騎士«ワーストワン»!」

「好きなだけ愚弄するならすればいい、僕はそれを尽く打ち払おう」

「口だけは達者だ・・・」

 

 桐原はもう一度狩りの森«エリアインビジブル»を展開した。

 

「あぁ~そうだ、当てる箇所を前もって教えてやるよ。ほら右太もも!」

 

 そういうと桐原は一輝に矢を放った。何処から射って来るのか予測していた一輝だったが、矢を視認する事なくズドン!と桐原の発言通りに右太ももが射ぬかれていた。

 

「ぐあああ・・・・ど、どうして!・・・」

 

 困惑の表情を浮かべる一輝。

 

「お前みたいな“凡人”とは違って僕は“天才”なんだぞ!前みたいに同じなわけ無いだろ!」

「!」

「ほら左手!」

「ぐあああ!!」

 

 そこから、桐原の狩りが始まった。一輝という獲物が«狩人»桐原静矢にいたぶられていく。そして一輝の全身至るところ全てが射ぬかれ、傷つけられていく様は蹂躙という言葉ですら優しいものの様に真琴達は感じた。

 その最中、桐原はこんな事を口にする。

 

「あぁ、そうだ!確かお前ってさ~確か、七星剣武祭で優勝しないと卒業出来ないんだってぇ?」

 

 桐原がその情報を何処で入手したのか分からないが、一輝と周りの人間を驚かせるのには充分だった。

 

「新理事長も酷な条件つけるよなぁ!優勝なんてなぁ!!アッハハハハ!!!」

 

 その事実を聞いた他の伐刀者は、感染病ように一輝を嘲笑っていく・・・。

 

「何だ?アイツだけ卒業する条件があるのか?」「七星剣武祭優勝とか、なにほざいてんのよ“落ちこぼれの人間”のクセに!」「なぁなぁアイツさAランクに勝ったって話、あれ八百長らしいぜ?」「マジで、やっぱりFランはFランだな!」「大好きなママの所へ帰んな!」「おい、Fランに帰る場所なんか無いに決まってるだろ?」

 

「「「「「「「「アッハハハハハハハ!!!」」」」」」」」

 

 大勢の人間が一輝を愚弄し、人の努力を踏みにじり、嘲笑っている。真琴達以外、全ての人間が一輝を馬鹿にしている様に感じる程だった。ただひたすらに嗤う、嗤う、そして嗤い続けた。

 

 言葉を聞いた、真琴とステラはそんな生徒達に激怒し、言葉を溢した。

 

「「何にも努力もしない連中が、人の努力を馬鹿にしやがって!!(して!!)」」

 

 そんな二人の表情は鬼神の如き表情だ。

 

 

 そして桐原もその空気に便乗し、一輝をいたぶりながら、言葉を続けた。

 

「皆ぁ!挫けそうな黒鉄君を応援してあげてくれぇ~!」

 

 一輝を心の底から煽りながら桐原は言った。

 

「ワーストワン!」「「「「「「ワーストワン!!」」」」」」

 

 桐原の掛け声に合わせて会場中が口する。

 

「あ、ワーストワン!」「「「「「「ワーストワン!!

」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「黙れーーーーーー!!!!!!!!」」

 

「俺の大事な親友を馬鹿にするなあああああ!!!!」

「私の大好きな騎士を馬鹿にするなあああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真琴とステラが息を合わせる様に言い放った!会場中がその言葉にハッとする。

 

「イッキ!何情けない顔してるのよ!諦めかけてるんじゃないわよ!」

「そうだ!俺が昨日言った事、もう忘れちまったのか!!そして俺と交わしたあの約束も!!!果たさないまま、終わる気か!!根性を見せろよ、黒鉄一輝!!!!」

「私は、私は!上を見てるアンタが好きなんだから!私の前ではずっと格好いいアンタでいなさいよ、この馬鹿ァアアア!!」

 

 二人の激しい励ましは学園全体に響く様に聞こえた。その言葉に会場に溢れていた笑い声は、すぅ~と鎮まっていった。しかしそんな声を聞いたにも関わらず、桐原は懲りずに煽りを続ける。

 

「女とごみ親友に励まされているぞぉ~黒鉄君!」

 

 そんな桐原の言葉は無視した。一輝は«狩人»に脚を射ぬかれ、内臓も射ぬかれた。たがここで立たなきゃあの二人に示しがつかない!大切な人達がこんな自分を励ましてくれたのだ!男の意地を見せ、そのズタボロにされた身体で立ち上がった!

 

「はぁー・・・ぐっ!」

「「!」」

 

 なんと一輝は自分自身を思いっきり殴った。真琴はその姿を見てある人物と重ねていた、その人物とは自分の師匠である白浜兼一だった。

(今までの行いを払拭する為に自分を殴ったのか、まるで師匠のようだな・・・あの人も強敵に立ち向かって自分の身体が震えた時は殴ったりして止めてたんだっけ・・・こうして見ると一輝と白浜師匠は所々似てるな、お人好しの所とか・・・)

 

「有難う、ステラ、真琴!いい渇が入った!」

「アッハハ!女とごみ親友に励まされて張り切っちゃったかなぁ~!?」

(真琴、あの夜の時の言葉は僕が緊張している事を教える為だったんだね・・・。気付かなくてごめん!けど、もう大丈夫だ!)

「んじゃ次は君のおめでたい脳天でも狙うかぁー当たったらお陀仏だぜぇ!」

(何故、矢を捉える事ばかりに固執していた!やるべき事は最初から一つだったはすだ!!)

 

 

 

 

 

 

 

「❮一刀修羅❯!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一輝は自分自身で唯一の伐刀絶技、“一刀修羅”を発動させた。それはたった一分間の身体能力向上のブーストだ。強敵達と渡り合う為に自分自身で編み出した唯一無二の伐刀絶技であり、切り札だ。

 他の伐刀者は一分間のブーストと聞けば、ただの欠陥技だと言うだろう。一輝とってはされど一分、その時間だけは高ランクの伐刀者に手が届くのだ!実際にその技を使用して、Aランク騎士である、ステラ・ヴァーミリオンを打ち倒している。

 

 

(ん?一輝の奴、もしかして・・・)

 

 真琴は何かに気付き、笑みを浮かべている。

 

(やるんなら最初からやれっての、心配させやがって)

 

 

「欠陥だらけの技で避けられるかよ!!」

 

 «狩りの森(エリアインビジブル)»を維持しつつ、矢をステルス化させ一輝に向けて発射した。このままの一輝ではさっきと同じ様に射ぬかれ、それで終わるはず・・・だった。

 

(思い出せ、受けた痛みの順序を!方向を!)

 

「ほらぁほらぁ!!」

 

 桐原は有頂天になりながら言葉を発している。ステルス化した矢を発射し、確実に獲物を射ると思考している!

 

「当たったちゃうぞー!」

 

(そうだ、一輝、思い出せ!奴の言葉を!!声音を!奴の全ての行動を!そうすればあれが出来る!今のお前なら!)

 

 真琴は気付いていたのだ。他の伐刀者には無い、一輝の強さを、それは一分間のブーストでも、摸倣剣技でもない、ずば抜けた“観察眼”だ。

 そして一輝はその場景や言葉、そして痛みを思いだしながら、彼の人格を暴き出そうとしている。

 

「死んじゃうぞーーー!!」

 

 桐原がその言葉を口にした瞬間!一輝はステルス化した矢を掴みとった!しかもその矢は一輝の右胸辺りに向かって発射された物だった。桐原は矢を放つ前に、脳天へ狙うと公言していた。あろうことか放った場所は右胸、“わざと”狙っていたのだ。これが桐原が狩人と云われる所以だろうか?

 

 

「やっぱりね、桐原君ならここは必ず投げてくると思った!」

 

 一輝は透明化した矢を掴み砕いた。

 

「ば、馬鹿な見えてるっていうのか!?」

 桐原は驚いている。

「姿形も見えちゃいない、けど分かるんだ」

「そんなことあるかーー!!」

 

「!?」

 

 またしても矢は一輝によって阻まれた。

 

「痛みの深さが!声音に宿る感情が!その全てが僕に教えてくれる!ならそれを辿ればいい!その果てに、君は居るのだから!!!」

 

 桐原の姿は一輝に見えているはずない、だがその黒鉄一輝と目があった様な気がした。いや気がしたのではない、本当に合っていたのだ!

 それに驚いた桐原は少し焦りの表情を見せていた。もしかしたら、自分の無傷の勲章が初めて破られてしまうかもしれない。しかもこんな落第騎士«ワーストワン»に!それだけは阻止しなくては!と愚考していたのだ。

 

「掴まえた!僕はもう君を逃がさない!」

 

 ここから落第騎士«ワーストワン»の怒濤の猛攻が始まる!!!




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.17 落第騎士«ワーストワン»VS«狩人» その2

こんにちは、紅河です!

真琴の初戦は次回とお伝えしていましたが、次々回になるかもです。申し訳ありません!

ではBATTLE.17お楽しみ下さい!


 西京寧々と月夜見半月が実況解説席に座り、仕合の様子を観戦していた。解説を任されている西京寧々は、現役のKOK選手であり、現世界ランキング3位という超一流の騎士である。

 そんな彼女が観戦していて、一つ気付いた事がある。それは一輝が”桐原静矢“という人間に対して、摸倣剣技«ブレイドスティール»を行っている事だった!一輝の❮摸倣剣技❯とは相手の剣技を暴き出す、一輝だけの剣術。その技を応用し、“桐原静矢”に使用していると言う事は、桐原の思考の把握に他ならない。そしてそれに気付いているのは西京と真琴のみだ。

 

「アッハハ!マジっすか!本当にやりやがったよ、アイツ!アッハハ!!」

 

 寧々が突然笑いだした。

 

「ど、どういう事ですか、西京先生!?どうして黒鉄選手は桐原選手を!?」

「摸倣剣技«ブレイドスティール»、黒坊は相手の剣技の理を暴き出す事が出来るのさ、つまり・・・」

 

 

「つまり、一輝は摸倣剣技を応用し、桐原の思考を完全に掌握したんだ。名付けるなら、完全掌握«パーフェクトビジョン»!一輝にもう狩人の森«エリアインビジブル»は効かない、既に観えているからな!」

「・・っそれじゃあ!」

「あぁ、一輝の勝ちだ!(武術家にとって相手の行動を把握する事は何よりも重要だ、そしてあの技は長老の“流水制空圏”とほぼ同格の技と言って良いだろうな・・・あの技を使用したら、この破軍にいる伐刀者じゃ、もう一輝に太刀打ち出来ない。限られた伐刀者でなければ!それほどの技だ、あの完璧把握«パーフェクトビジョン»は!・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、イカサマだーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 それを聞いていた桐原は困惑し動揺した。だが桐原は攻撃を続ける。それは桐原が諦めていない証拠だろう。自分は一握りの“天才”なのだ!凡人に負けるわけがない!桐原はそう確信している。凡人は天才になすすべなく、敗北するのが当たり前だと・・・!だがそんな事はあり得ない。

 何故なら勝利を勝ち取るのは強力な❰信念❱を持つ、一部の騎士だけなのだ!そして完全に思考を把握した一輝の前に、桐原の攻撃は掠りもしないのだった。

 

「“行くよ”桐原君・・・僕の最弱を以て君の最強を掴まえる!」

 

 一輝は観えている桐原を見据えて、突撃を仕掛けた!桐原も負けじと矢を発射する!自身の最大攻撃、驟雨烈光閃(ミリオンレイン)を放ち、一輝を迎え撃った!

 その刹那--一輝は陰鉄で矢を打ち落とす!そして矢の雨を掻い潜りながら、そのまま前へ進んでいった。

 

「やめろ!来るな!やめてくれええええ!!」

 

 やめろと言いながら、桐原は攻撃を止めない。諦めたくない!自身の“無傷”で激戦を渡り合って来たのに、こんな凡人に負けてしまっては、自分の面子がつぶれてしまう!それだけは避けねばならない!一輝から逃げながらも桐原は攻撃を続けた。そして・・・。

 

「わ、悪かったよ、君を馬鹿にしてさ・・・謝るよ!君の親友を貶したのも謝る!だから、その刃物で攻撃しないでくれ!当たったら痛いだろう、なっ!?」

 

 惨め。

 これほどこの言葉が似合う人間もいないだろう。しかし桐原の抵抗は続く。

 一輝は飛んでくる矢を掴みとり、それを向かってくる矢の雨に投げて攻撃を凌ぐ。

 

「そうだ!ジャンケンで決めよう!」

 

 桐原は何を思ったのか、そんな戯れ言を言い放った。しかしそれが通る訳もなく、一輝は桐原に向かってくる!それを見た桐原は怖じ気ずき、尻餅をつく。それを見ていた真琴が一言溢す。

 

「あーなっちまえばもう、終わりだな・・・」

 

「えぇ、いい気味だわ!人の努力を嗤った報いよ」

「そうだな、桐原も努力は!してたんだろうが、足らなかったな・・・。一輝は強者に立ち向かう為に、千の努力を!それが足りないなら、万の努力を!そうやってずっと鍛練に励んで来たんだ!己の才能に溺れた奴に、一輝が負けるわけない!」

 

 

「なぁ黒鉄君!僕達、友達だ、ろ?そんな刃物で斬られたら死んじゃう!死んじゃうからぁ!」

 

 一輝は止まらない。

 

「わ、分かった!もう僕の敗けで良い!敗けでいいからぁー!痛いのは、嫌だあああああああ!!!」

 

 その情けない悲鳴は会場全体に響き渡った。ズトォン!と、一輝が桐原の場所目掛けて、斬撃を落とす。その斬撃はそのまま桐原の鼻先を掠りながら落ちていく。桐原が降参していた為、攻撃を反らしたのだ。

 

「少し予測とずれたか、僕もまだまだだ・・・」

 

 一輝は染々感じている。そして自分に向かって来た攻撃を目の当たりした桐原は、耐えきれず気絶してしまった。

 桐原が気絶した所でアナウンスが鳴り響く。 

 

「桐原静矢、戦闘不能 勝者、黒鉄一輝」

 

「し、仕合終了ーーーー!!なんと!黒鉄選手が、去年授業にすら出る事が出来なかった黒鉄選手が!«狩人»桐原静矢選手を下して、なんと勝利を勝ち取りましたーー!!こんな事があるでしょうか!?今年の選抜戦は一回戦目から目が離せなくなりました!!選抜戦一回戦の対決は落第騎士«ワーストワン»黒鉄一輝選手の勝利です!!!」

 

 

 

 

 その実況を聞きつつ、一輝は励ました真琴達を見つめている。その一輝の目線はなんとなく、ステラに向けている様に感じた。 

 

 

 

(へっステラだけを見つめやがって、俺も居るっつの・・・でも、やったな、一輝!)

 

 落第騎士«ワーストワン»VS«狩人»桐原静矢の対決は一輝の勝利で終わった。会場中一部の人間以外は桐原の勝利を確信していただろう。それゆえに“落ちこぼれ”の勝利という事実を受け止める事が出来ずにいた。何故なら自分達より数段劣っている人間が、猛者の桐原を打ち倒したのだ!落胆する一方だった。

 

「う、嘘よ・・狩人が負けたなんて・・・」「何かの間違いだよ、こんなの」「俺は認めないぞ!」

 

(他の伐刀者の奴等、何かほざいてるな・・・そうやって人を見下す事しかしてないから、騎士として前へ進めないんだ。それを止めない限り、成長出来るわけないだろうに・・・分かってねぇなぁ)

 

 そして一輝はステラとアイコンタクトとるとそのまま倒れた。それもその筈だ、一輝は桐原との対戦で内蔵破裂を起こし、全身傷だらけで本来ならば立つ事すらやっとなのだから。気絶して同然だった。

 

「早く、黒鉄選手をiPS再生槽(アイピーエスカプセル)に!」

 

 iPS再生槽(アイピーエスカプセル)とは一般には普及していないが、高級設備の事である。四肢の切断や臓器の喪失程度であれば、凄まじい速度で回復出来る設備である。

 伐刀者はその責務ゆえに、気軽に利用する事が出来るのだ。一輝はそのまま病室へと運ばれ一命をとりとめた。

 

 こうして落第騎士«ワーストワン»VS«狩人»桐原静矢の対決は一輝の勝利で幕を閉じた。




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BATTLE.18 それぞれの夜

こんにちは、紅河です!

何話かによってオリジナル展開が続きます!
暖かい目で見守っていただくと嬉しいです!
宜しくお願い致します!



 一輝の七星剣武祭選抜戦一回戦が終了し、重体の一輝はiPS再生槽(アイピーエスカプセル)がある病室に運ばれていた。

 真琴はステラと共に、病室で一輝の回復を待っていた。例え、iPS再生槽が優秀な回復医療機だとしても、大事な人間が重体なのだ。二人は心配そうに一輝を見つめていた。

 

「イッキ、大丈夫かしら・・・」

「大丈夫だろ、一輝の事だから内功も鍛えてるだろうし、なんとかなるさ」

「内功?」

「ん?知らないのか?内功とは、内側の力の事だ。内功を鍛えれば傷の治りも早くなる。一輝程の武術家が内功を練ってない筈ない、心配すんな」

「そんな力が有るなんて・・・」

「ステラが知らない武術の技なんざ、幾らでもある。一輝と関わってけば嫌と言うほど目にする事になるさ」

「覚悟しとくわ」

「んじゃ一輝の事頼んだぜ?俺は少し外の空気吸ってくるわ」

「ええ、いってらっしゃい」

 

 病室の扉を開けて後にする真琴。

 

「(俺が居るより好きな女性が側に居た方が良いだろ?一輝・・・女性は大切にな)」

 

 

 そう心に思いながら真琴は病室を出ていった。すると目の前に一輝の妹、黒鉄珠雫が浮かない顔で立っていた。

 

「お前は入らないのか?」

「・・わ、私は・・・」

 

 真琴は黙って珠雫の頭を撫でた。

 

「な、何を・・・」

「黒鉄妹を慰めてやろうと思ってな、俺にも大切な妹が居るもんでね、お前と少し重なって見えて、ついな」

「真琴さんにも妹が?」

「あぁ、つっても血は繋がって無いんだけどな」

「そうなんですか?」

「俺の師匠の娘で、一緒に道場で育ってきたから、妹みたいなもんなんだよ」

「そんな方が・・・っていつまで撫でてるんですか!」

「あ、わりぃ・・・」

「あらぁ?お邪魔だったかしら?ウフフッ」

 

 その様子を陰から有栖院凪が覗いていた。真琴と珠雫の微笑ましい会話は全て、有栖院凪に聞かれていたのだ。

 

「真琴に妹が居たなんてねぇ人は見かけによらないのねぇ・・・」

「お前がいうなよ、アリス。それで、一輝に話し掛けないで良いんだな?」

「・・・ええ、今はステラさんが一緒に居るんですよね?」

「ああ」

「なら私は邪魔になるでしょう・・・それにステラさんなら・・・」

「兄妹でキスをした女性がなぁ・・・ここで身を引くのか」

「ステラさんにならお兄様を預けられると思っただけですよ」

「そっか、ま、黒鉄妹が良いならそれでいいさ!さてお前らって飯は食った?」

「まだよ?何処か食べに行く?」

「まぁそれも良いけど、今日は俺が何か作ってやるよ」

「そう言えば真琴さんって、お菓子作りが得意なんでしたっけ?」

「よく覚えてるな、お菓子だけじゃなくて人並みに料理は出来るぜ?実家の道場でよく手伝いしてたからな」

「あら、そうなのね。折角ならご馳走になりましょうよ、珠雫!」

「アリスがそう言うなら・・・お菓子は作って無いんですか?」

「冷蔵庫にレアチーズケーキを作りおきしてたはずだ、食べるか?」

「ご馳走になるわ、有難う真琴」

「おう!」

「気前良いですね」

「だろ?」

「私の呼び名ですけど、名前で呼んでくれて良いですから・・・」

「お?良いのか?」

「ええ、黒鉄の名は余り好きじゃありませんので」

「分かった、んじゃこれから改めて宜しくな!珠雫!」

「はい、此方こそ宜しくお願いします、真琴さん」

 

 真琴はそう言うともう一度珠雫の頭を撫でた。真琴にとって珠雫は、もう一人の妹が出来たようだった。

 

「頭は撫でないで下さい!私はもう子供じゃないですから!」

「体つきは子供だろ?」

「小さいのは関係有りません!歳だって貴方と一歳違いです!」

「ウッフフ、二人とも仲の良い兄妹みたいね?」

「アリスぅ」

「あの深海の魔女もアリスにかかると形なしだな!」

「誰のせいで!」

 

 そんな睦まじい会話をしながら、真琴達は寮へ向かった。三人の様子はまるで、仲の良い三人兄妹の様だった。

 一方その頃一輝とステラはと言うと・・・。

 ステラが病室でずっと一輝が目を覚ますのを待ち続けていた。待つ事に疲れたのかステラはベットに腕をかけて寄りかかり、寝てしまっていた。

 数時間が経ち、気づけばもう夜になっていた。そして回復した一輝がゆっくりと、目を覚ました。

 

「ここは、そっか僕、カプセルに運ばれたのか・・」

「グゥグゥ・・・・」

 

 ステラはすやすや寝ている。

 

「ステラ、傍にいてくれたのか・・・有難う(君と真琴があそこで励ましてくれなければ、桐原君に負けていた。本当にありがとう、それがなければ僕は今頃・・・)」

 

 一輝は心底ホッとしていた。ステラの様な人が自分のルームメイトで良かった、真琴が自分の友人で良かったとそう思ったのだ。でなかればあのまま桐原に敗北し、もう一年留年する羽目になっていただろう・・・。桐原静矢という強者に自分が勝てたのは、幸運だったと言わざるを得なかった。

 すると寝ていたステラが目を覚ました。

 

「んあ、やだ私ったらいつの間に・・・」

「ん?起きたのかい、ステラ」

「イッキ!目が覚めたのね!」

「うん。ステラ、ずっと看病してくれて有難う。真琴が見えないけど一緒じゃないの?」

「先に帰ると連絡があったわ」

「そっか、真琴にお礼を言いたかったんだけどな」

「お礼?」

「うん」

 

 一輝は対戦中に真琴達が励ましてくれた事を思い出していた。

 

「あの時、二人が声をかけてくれなければ僕は・・・」

「そうよ!あんな奴にボコボコにされちゃってもう!」

 

 ステラは辺りに在る物をやたらめったらに、一輝へ投げ付ける。

 

「や、止めてよ、ステラ!」

「もう!もう!」

「ご、ごめんよ!でもステラ、君のお陰で勝てたのはかわりないよ、本当に有難う」

「・・いいのよ、それよりイッキが無事で良かったわ」

 

 ステラは才能も欠片もない無い、一輝の為に他人を憤激し、看病までしてくれたのだ。こんな経験は初めてだった。そして一輝は自分の心臓の高鳴りを感じていた。そして自覚した。自分が恋をしたんだと確信したのだ。この女性になら自分の全てを捧げたいと心からそう、思った。

 そして、一輝は勇気を振り絞りある言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

 

「ステラ、僕は・・・君が好きだ」

 

 

 

 

 

 

 少女に衝撃が走った。

 生まれて初めての異性からの告白。言い寄られて来たことはあったが、告白される事は無かった。一輝に告白され、自分の胸の高鳴りは収まらず、ずっとドクンドクンと鳴り響いている。

 少女は初めて自覚した。私はこの人に“初恋”をしたのだと・・・。そして少女は思わぬ行動に出たのだった。

 

「イッキ!め、目を瞑りなさい!」

「え!?何、殴るの!?」

「いいから!目を瞑りなさいって言ってるでしょ!」

「あっはい・・・」

 

 ステラは恥ずかしながら一輝に近付き、チュッと右頬にキスをした。

 沈黙。

 数分間、唇が触れただけなのに、キスをした時間だけはゆっくりゆっくりと、進んでいるかの様に二人は感じた。柔らかな唇の感触・・・。生まれて初めての異性からのキス。キスがこんなにも心を満たすモノだったとは

思わなかった。

 もっとしていたかったが、ステラの心が限界に達してしまい一輝から離れた。

 

「もしかして、ステラも僕の事を?」

「・・・・コクリ」

 

 黙って頷くステラ。

 

「!」

 

 一輝は堪らずステラを抱き締めた。ステラもそれを、受け入れ抱き返した。最初に会った時に、お互いの肌を見るという不祥事があった。部屋のルールを決める為に、模擬戦もしていた。あれから色々あったが、二人は晴れて今日から恋人同士になったのだ。

 近い将来、この二人が雌雄を決して戦う事になる。だがそんな事とは露知らず、二人の時間は淡々と過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

「今頃、一輝そろそろ起きたかな?飯はとったとステラに連絡はしたが・・・」

「その連絡する必要あったの?」

「ああ、飯はいつも三人で食ってたからな」

「(ステラさんも可哀想ですね)」

「一輝からは後で連絡が来るだろう。つか二人とも!俺のレアチーズケーキの味はどうよ!」

「お兄様が褒めるだけ有りますね、凄く美味しいです。真琴さん、ケーキ職人になったら良いんじゃないですか?」

「そうね、お店に出せるレベルよ?このケーキ」

「へっそうだろ?ジャムとかも有るから付けて食べるとなお旨いぞ?好きに使ってくれ、ブルーベリーにオレンジにイチゴもあるぞ」

「それじゃイチゴを貰いますね」

「私はブルーベリーを貰うわ」

「あいよ、ちょっと待ってな、冷蔵庫から持ってくるから」

 

 真琴は立ち上がり、冷蔵庫に向かった。ジャムを取りだしてテーブルに出した。

 

「これもしかして自家製ですか?」

「ん?そうだがそれがどうかしたか?」

「貴方、どれだけ料理のポテンシャル高いのよ・・・」

「ま、師匠の奥さんが篦棒に料理が上手かったからなぁ、その影響もあって料理する事が日常になってんだわ」

「その方もお菓子作りが得意なんですか?」

「ん?ああ、奥さんは和菓子が得意だった筈だ」

「真琴とは逆なのね」

「ちなみに俺より料理の腕は上だぞ?料理で俺はあの人に勝てん・・・」

「真琴さんがここまで言うなんて・・・」

「一度味わってみたいわね・・・」

「んー、電話すりゃ送ってくれると思うし、今日にでも連絡してみるわ」

 

 

 真琴がそう言うと突然ピリリリリと携帯電話の着信音が部屋に鳴り響いた。どうやら真琴の対戦相手決定の通知だった。

 

 

「近衛真琴様 第一仕合

 

 破軍学園序列第45位 中川聖夜様に決定致しました」

 

「序列45位中川聖夜?誰だこいつ」

「その人は確か、固有霊装は«ガイアハンマー»形容形態はモーニングスター、«地»の能力を使う伐刀者だったはずです」

「よく知ってんな、珠雫」

「彼はCランクの騎士で、噂では低ランクの伐刀者を見つけると学校の裏などで、苛めや暴力を奮うそうよ、その酷さはあの桐原静矢すら凌駕するほどらしいけど、苛めなんかはあくまで噂だけどね」

「へぇ~そうなのか!アリス!んじゃソイツにとって俺はいじめ対象者ってことか!面白ぇじゃねぇか!」

「真琴さんなら問題ないでしょうけど」

「桐原と同じタイプってんなら容赦はしねぇ・・・」

 

 真琴の表情が鬼の形相へ変貌していく。

 

「死んだ方がマシだと思えるような戦いをしてやる!!」

「ちょっと顔怖いわよ?・・・」

「珠雫、ソイツってよぉー実践経験あんのか?」

「そこまでは知りませんけど、学生騎士で実践経験がある伐刀者なんて一握りしか居ませんよ?経験は無いんじゃないですか?」

「ほほう・・・」

 

 それを聞いた真琴の顔は更に、酷い顔付きになっていく。

 

「真琴!顔!顔!」

「ん?わりぃわりぃついな!明日の一回戦が楽しみだぜ!!」

 

 こうして、意気揚々と仕合に備える真琴を見た珠雫とアリスは、真琴だけは敵に回したくないとレアチーズケーキを頰張りながら思うのだった。




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BATTLE.19 真琴と刀華

こんにちは、紅河です。

真琴と刀華の出逢いの話があります!
どうぞお楽しみ下さい!


先日は、黒鉄一輝と桐原静矢の選抜戦が行われ、«狩人»である桐原がFランクの一輝に敗北をするという大波乱が起きた。

 破軍学園では八百長やら見も蓋もない噂が流れている。一輝の勝利を信じているのは、破軍学園に在籍している一部の伐刀者のみだった。真琴やステラ、«雷切»の二つ名で知られる東堂刀華もその一人だ。

 

「いよいよ、真琴君の仕合だね!刀華!」

「うん、まこ君がどんな戦いをするのか楽しみ」

 

 刀華は嬉々として微笑んでいる。

 

「戦ってみたいの?真琴君と」

「・・・勿論」

「フフッ刀華は変わらないね、真琴君との戦績は確か126勝126敗だっけ?」

「うん、いつも引き分けになっちゃうから、今度こそは勝ち越したいんだ」

「選抜戦で戦えるといいね」

「うん」

 

 何を隠そう、真琴はこの破軍学園序列第一位«雷切»東堂刀華の組み手相手なのである。刀華は仕合前や前日に完璧な調整をおこない、仕合に臨んでいた。真琴はその相手を度々、承けているのだ。

 何故、落第の伐刀者である真琴と«雷切»がこんな関係かというと、ある晴れた日の事だった。

 

 

 その出逢いは突然だった。

 いつもは一輝と朝のランニングをしているのだが、一輝が風邪を引いてしまい、真琴は一人で走っていた。勿論、いつもの仏像の鍛練道具を身に付けながら・・・。

 その時、朝のランニングを終えて、ベンチで休憩する刀華とばったり逢ったのだった。謎の錘の仏像を付けている青年がベンチに向かって走って来たら、気にならない方がおかしいだろう。そして刀華が真琴に話し掛けかたのだ。

 

「あれ、先客が居たのか・・・」

「あの!この仏像って錘なんだよね?」

「ん、ああそうだけど・・・」

「持っても良い?」

「それは良いけど・・・」

「重い・・・こんなの付けて走ってるの!?凄いね、貴方!」

「というか、誰?」

「あぁ!ごめん!自己紹介が遅れたね、私は破軍学園2年3組東堂刀華です!貴方は?」

「あ、先輩だったんですね。どうにも先輩には見えなくて、同級生かと・・・」

「えー、私、そんなに威厳無いかなぁ」

「い、いや、瑞々しくて可愛く見えたって事ですよ」

「え!?そないな事あらんよ~」

 

 突然褒められた為、刀華は照れている。

 

「(チョ、チョロい・・・つか関西弁、そっちの人なのか?)」

「あ、貴方の名前は?」

「あーすみません、俺は破軍学園1年1組、近衛真琴です宜しくお願いします、先輩!」

 

 それから、お互いの話で一頻り盛り上がった。意外にも真琴と刀華は共通点も多く、幼い頃に両親を亡くしている事や、お互いに貴徳原財閥の管轄の養護施設に預けられていた事など、直ぐ様打ち解けた。

 仲良くなった二人は自分達の都合が合った日に、組手や稽古をおこなう様になった。次第に刀華にとって、真琴は貴重な存在へと変わっていく。

 何故なら破軍学園では貴重な無手の伐刀者であり、強者の武術家だったからだ。近頃は並みの伐刀者では刀華には歯が立たなくなり、刀華が対戦相手と知ると戦わずに仕合から逃げる事が多くなってきた。そして仕合前の調整相手には、幼馴染みの貴徳原カナタの様な強者の伐者でなければ相手にもならない・・・。それだけに刀華にとって真琴という伐刀者の存在は、かけがえのない人物になっていたのだった。

 

 

 

「真琴君、勝てるかな?」

「この破軍学園じゃ、まこ君が“本気”になる相手なんて指で数える位しか居ないんだから、大丈夫だよ」

「言い切るね・・・」

「でもその通りだもん、仕方ないよ」

「それもそうだね!早く行こう、刀華!」

 

 

 刀華と泡沫は意気揚々と会場に向かう。

 一方、その頃、真琴は第二訓練場控え室で待機していた。

 

「真琴、準備出来た?」

「ああ」

 

 一輝が問い掛けると、真琴の目には静かな闘志がみなぎっていた。

 

「相手が桐原と同じタイプみたいだしな」

「そうみたいだね」

「ま、その腐った性根を叩きなおしてやるだけだ!」

「うん、真琴ならやれるさ」

「おう!」

 

「真琴」

「ん?何だ一輝?」

「昨日は励ましてくれて、有難う。ステラには言ったけど君にはお礼がまだったから・・・」

「お礼なんて、いいんだよ。大事な親友を馬鹿にされたんだ、怒るのは当然だろ?」

 

 一輝はその言葉を聞いただけで胸がいっぱいになった。

 

「僕がお礼を言いたかったから言ったんだ」

「へっ、そうか」

 

 真琴がベンチから立ち上がり、部屋の扉へ向かう。

 

「(真琴、今度は、僕が君を送り出す番だ)」

 

「真琴!」

「んー?今度は何だ、一輝」

「真琴、“僕に続いて来てね!待ってるから!”」

 

「ああ!勿論だ!んじゃ、行ってくる!!」

 

 

 そして、一輝と熱い言葉を交わした真琴は対戦ステージへ歩を進める。みなぎる闘志を心に宿して・・・。

 

「さぁ、やって参りました!代表選抜戦、二日目!!昨日は落ちこぼれと言われた黒鉄選手が«狩人»を下し、見事勝利を収めています!その熱気が収まらぬ中、落第の拳«ワーストフィスト»こと、近衛真琴選手が入場して来ました!この近衛選手は黒鉄選手の元ルームメイトであり、この破軍学園では黒鉄選手と同様に、落ちこぼれとして知られています!本日も下剋上が観られるのでしょうか!?はたまた、下剋上は起きないのか!?それは神のみぞ知るところでしょう!」

 

 月夜見三日月が見事な前説を語り、会場を盛り上げていた。この月夜見三日月は、破軍学園の放送部に所属しており、姉妹で破軍学園の実況を任されている。

 

「さぁ、続いて入場してきたのは破軍学園位階序列第45位、中川聖夜選手です!固有霊装は«ガイアハンマー»そして、形容形体は«モーニングスター»、その二つ名は«大地の守護者»!その名に相応しい戦いで、近衛選手を地に叩き伏せるのか!?それとも昨日と同様に、敗北に期してしまうのか!?解説は昨日に引き続き、西京先生にお越しいただいております!西京先生、宜しくお願い致します!」

 

「宜しくねえー(まこっち、えらく気合い入ってるなぁー・・・。まぁこの勝負は決まったも、同然みたいただねぇ)」

 

「初めましてだよな、落第の拳«ワーストフィスト»・・・」

 

 蔑んだ視線を真琴に送っているのが、この中川聖夜だ。中川は破軍学園二年生で、入学当初から自分より劣っている伐刀者には自分のパシりに使ったり、かつあげを行うなど根っからの不良である。しかし、授業等はしっかり受けている為、教師からは何も言われていない。

そして、かつあげの現場なども教師には目撃されておらず、パシりを受けている生徒も中川を怖がり、反抗できずにいた。

 桐原と同様に底辺伐刀者を見下すタイプである。その為、この仕合はもらったも同然と考えていた。

 

 

「落第伐刀者に初っぱなから当たるとは、こりゃ楽勝だな!桐原はヘマしちまったみてぇだけど!ハハハ!」

「(コイツ・・・自分の能力しか磨いてないタイプか・・・。これだったら桐原の方がまだマシだな)」

 

 真琴は観の目を使用し、中川の実力を計っていた

。中川の実力は弟子級開展だが、それよりも劣る実力だと真琴は確信した。

 

「何だよ、ガン飛ばしやがって・・・」

「いや、なんでねぇよ、気にすんな」

「?まぁいいか、ぶちのめせばいいことだし!」

「それには同意だ」

「はあ?Eランクごときが、この俺に敵うとでも?」

「当たり前だろ?お前みたいな野郎に負けたら、師匠に恥をかかせてしまうからな」

「師匠!?武術の習い事かな?そんなんで、伐刀者に勝てるとでも!?あはは!」

「ああ、勝てるさ」

「んじゃー見せてみろよ!その武術ってやつをさ!」

 

 

 両者がお互いの固有霊装を顕現し、向かい合う。

 

 

「行くぞ、ガイア!」 

 

 

「我が身を護れ、甲鉄陣玉鋼!」

 

 

 

「Let's Go Ahead」

 

 

 

 そして対戦開始のアナウンスが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 




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BATTLE.20 落第の拳«ワーストフィスト»VS«大地の守護者»

こんにちは、紅河です!


やっと真琴の一回戦目です!ここまで大変でしたが、楽しく読んでいただければ幸いです!


 ここは第二訓練場。真琴達が仕合をする数分前の事である。学園中の生徒達が集まっていた。

 その生徒達の話題とは近衛真琴で持ちきりだった。世間一般では低ランク伐刀者の生徒は肩身が狭く、虐げられるのが常識である。その為、Eランクである真琴の扱いは、一輝と同じ様に落ちこぼれのレッテルを貼られている。一輝や刀華等、学園の実力者以外の伐刀者以外には、真琴の勝利はないと認識されているのだ。

 

「まぁ、落第の拳«ワーストフィスト»の敗北は決まったな」「そうだよな、昨日の落第騎士«ワーストワン»の仕合はまぐれだって!」「落ちこぼれに中川君が負けるわけないじゃない!」「そうよねぇー!」

「「「「ハハハハハハ!!」」」」

 

「また、やってるわね・・・。マコトの実力も知らないくせにベラベラ、ほんっと口だけは達者ね」

「ステラさんに同意です・・・。真琴さんが負けるはずありませんよ、ねっお兄様?」

「そうだね」

「私は初めてショッピングモールで真琴の実力を見たけど、あの歳であそこまでの戦闘能力を有してる人間は今まで、見たことがないわ・・・」

「でも日本の武術道場に入っただけで、あれだけの実力がつくものなんですか?」

「そうよね、それは私も思っていたわ。イッキ、マコトは誰に武術を教わってるの?」

「今は言えない、それに仕合ももうすぐ始まるからね。今度、真琴に聞いてみるといいよ、きっと驚くから」

「有名な方々なのですか?」

「そうだね、武術の世界では知らない人はいない位には有名かな?」

「き、気になるわね・・・」

 

 四人が世間話をしていると、«雷切»で知られる東堂刀華が入場し、真琴の仕合を観戦しに来ていた。

 

「もう!刀華遅いよ!準備に時間かかり過ぎだよ」

「うーご免なさい、うた君・・・」

「カナタ達が席を確保してくれてるとはいえ、早くしないと始まっちゃうよ!」

「はーい・・・」

 

 刀華と泡沫がギリギリで会場入りした。カナタ達が二人を確認すると、手を降りながら刀華達に知らせたいた。

 

「会長、遅いですよ」

「そうだよー何してたのさー」

「準備に手間取っちゃって・・・」

「仕方ないでござるな・・・」

「遅刻しなかっただけマシだけどさ」

 

 生徒会の面々が集まり他愛ない会話をしていると、真琴と中川がステージに入場してきた。

 

「おっ来たね真琴君」

「まこ君の闘気がここまで伝わってくる・・!あのまこ君と戦ってみたい」

「会長、愉しそうですわね・・・」

「え!?顔に出てた?」

「顔というかもう口に出てたよ」

「え!?ほんまに!?」

「ホントホント」

「会長の気持ちもわからなくもないでごさるが・・・」

「それもそうですわね」

 

 

 

 

 そして、真琴達の戦闘準備が整い仕合開始のアナウンスが鳴り、仕合が始まった。

 真琴は肘をやや曲げて腕を前に出し、空手の構えの一つである❮前羽の構え❯とった。どんな攻撃が来てもいいように、空手の内臓上げも行い、中川の攻撃に備えていた。

 

「西京先生、近衛選手が構えをとりましたね」

「うーん、まこっちは武術を修めてるからねぇ」

「近衛選手は武術を習ってるんですね、あの構えはなんというんですか?」

「あれは空手の❮前羽の構え❯だね」

「前羽の構え?」

「あの構えは空手の様々な受けに移行しやすい為、空手家の人達には絶対防御といわれているね」

「成る程、では近衛選手は中川選手の攻撃を待っているということですか?」

「まぁ、まこっちにとっては様子見程度じゃないかなぁ」

 

 

「「「「「アハハハハ!!」」」」」

 

 

 空手と聞いた学園の生徒達は一斉に笑い始めた。

 

「空手だと!?バッカじゃねぇの?」「あのスポーツのやつだろ?」「そんなんで攻撃を防げる訳ないじゃない!」

 

 昨日の仕合と同じ様に低ランクの伐刀者を馬鹿にし始めたのだ。

 ステラはその言葉を耳にし怒り狂い、今にでも爆発しそうな勢いだった。

 

「アイツら!また馬鹿にして!」

「真琴さんの実力を知らないから言えるんですよ」

「ステラ、真琴は僕みたいに緊張はしてないから大丈夫だよ」

「そうなの?」

「うん、真琴はこういう“空気には慣れてる”から」

 

 

 

 

 

「おい、何だよそのカッコ悪い構えは!」

「構えだが?」

「寧々先生が言ってた空手の!?」

「ああ、そうだ」

「ほおー絶対防御とされるなら、これを受けてみろよ!」

 

 中川がそういうと自身の伐刀絶技、大地の岩石«ストーンエッジ»を繰り出した。

 この技は無数の岩石を造りだし、相手に向けて投げ付ける技である。多くだすと魔力量の消費が大きい為、大抵の場合は10個程に止めておく。だがランダムに飛んでくる為、並みの伐刀者では躱すのは困難である。

 しかし、その攻撃は真琴の身体には届かなかった。何故なら真琴の身に岩石の攻撃が当たる直前に、中国拳法の“化勁”で反らしたのだ。

 

「なっ!?」

「どうした?俺には一つも届いてないぞ?」

 

「西京先生、何故近衛選手には当たらなかったんでょう?あれも空手の技ですか?」

「あれは空手じゃないね。中国拳法の太極拳に伝わる、優れた身法の一つ、化勁さ」

「化勁?」

「腕をコロの原理で回転させ、相手のベクトルをコントロールする技さね。まこっちはその技を使用して、攻撃の方向を変えたんだ」

「ちょっと待ってください、近衛選手は空手を習ってるはずじゃ・・・」

「別に私はまこっちが“空手だけ”を修めてるとは言ってないよ」

「え?それじゃ近衛選手は空手と中国拳法を?」

「それも違うねぇ、まこっちが修めてる武術は・・・空手、中国拳法、ムエタイに柔術さね」

「えええええ!?そんなに習ってるんですか!?」

「(まぁそれ以外にもあるけど今はこれで良いんじゃないかねぇ・・・)」

「皆さん、聞きましたでしょうか!なんと、近衛選手は化勁と呼ばれる技を使用し中川選手の攻撃を見事、受け流しました!果たして中川選手の攻撃は近衛選手に届くか!?それとも近衛選手が躱し続けるのでしょうか?目が離せません!」

 

 

 寧々の話をを聞いていた他の生徒達は、その事実を受け入れなかった。何故ならただの“落第伐刀者”が多くの武術を習い、修めている訳がないとそう思っているのだ。それを感じ取った寧々が、口を開いた。

 

「まこっちはね、武術の世界では“神童”と称され、天才と呼ばれる人間より一つ上の存在だったのさ」

「神童、ですか?」

「ああ、神童とは幼くしてその道のコツを知り得てしまった者の事を指す言葉」

「それが近衛選手だと・・・」

「そうさ、私が見たところだと、武術の腕ならこの破軍学園じゃ一番だろうねぇ」

「それは«雷切»や«模倣剣技»を持つ黒鉄選手より上って事ですか?」

「その通りさね、だからまこっちの身体能力は❮S+❯なのさ」

 

 

 その話を聞いた生徒達は何も言えなくなってしまった。❮夜叉姫❯がここまでハッキリ言ったのだ、間違いなくそうなのだろうと思っていた。だが信じられない事なのは変わりない。だから黙って仕合を観ることにしたのだった。

 

 

 

「へっ!攻撃を躱しただけで調子にのるなよ!」

 

 

 中川は自身の固有霊装をステージに叩き付けると半径一メートルはあろう巨岩を造り出した。中川の伐刀絶技、巨岩石«ビッグエッジ»だ。

 それを真琴目掛けて投げ付けた!これならば先程の技は使用できない。躱した時にはもう一度、大地の岩石«ストーンエッジ»を真琴にぶつければいいと安直な読みをしていた。

 ゴオオオっという衝撃を纏いながら、巨岩が真っ正面から真琴に向かってくる!

 

 

「スゥー・・・・❰正拳突き❱!!!」

 

 

 真琴が巨岩に向かって正拳突きを放ち、中川の巨岩石«ビッグエッジ»を粉砕した!

 

「ふぅ、お前の岩石、柔いな」

 

 真琴は笑みを浮かべながら中川に目を向けた。

 

「ハァ!?何でノーダメなんだよ!?」

「何でって当たる前に、お前の岩石を俺の拳で打ち砕いただけだよ」

「くそっ・・・!」

 

「く、砕けちったー!中川選手の巨岩石«ビッグエッジ»が近衛選手の放った拳で粉砕されました!」

 

 

「やるじゃない!マコト!」

「でも、何で真琴さんは傷一つないのでしょう?例え真琴さんの防御力がunknownだとしても、傷もついていないなんて」

「それもそうよね・・・」

「それはね、外功の力だよ」

「外功?」

「それって、外側の力の事よね!?」

「その通りだよ、ステラ。よく知ってたね」

「昨日、真琴がイッキの病室で内功がどうたらって言ってたから、外功って事は逆に外側って意味よね?」

「脳筋のくせに良く分かりましたね」

「脳筋って何よ!?」

「まあまあ二人とも!それより一輝、外功ってなんなの?」

 

「外功とは文字通り、外側の力。中国では硬功夫(イーゴンフー)と呼ばれている。鍛練用の硬い木等に身体や腕をぶつけて気血を送り込み鍛練する事で、得られる力の事を指すんだ」

「真琴さんの拳は既に鋼鉄と化している訳ですか・・・」

「だからあんな巨岩を粉砕する事が出来たわけね」

 

 

 

 

「俺にお前の技は通用しない・・・。お前が“次に放つ”伐刀絶技もな」

 

 中川はその言葉に動揺を隠せなかった。真琴が既に自分の行動を読んでいるという事に他ならないからだ。しかし中川は真琴に、自分の技を悟られる事は決してないと思っていた。それは落ちこぼれの真琴に予測する術等を持ち合わせていないと、決め付けている他なかった。

 

「・・・だったら!これでも喰らえ!大地の牢獄«ガイアプリズン»!!」

 

 

 厚い壁が真琴を囲う様に、中川の手によって生み出されていく!真琴の上部分も囲い、正に牢獄に相応しい状態だった。

 

「出ました!中川選手の大地の牢獄«ガイアプリズン»!厚い壁とその高い防御力の前に、多くの伐刀者がなすすべなく敗北しています!近衛選手はこれを突破することが出来るのでしょうか!?」

 

「へぇーホントに牢獄だなぁ」

 

「サレンダーするなら今のうちだぜ?落第の拳«ワーストフィスト»さんよぉ!」

 

 真琴はその壁に触れながら岩の厚みを確認し、次の攻撃を思案していた。

 

「よし、これなら無拍子で抉じ開けられるな(ま、それ以外でも出来るけど、無拍子の方が手っ取り早いしな)」

 

 この無拍子は師匠である白浜兼一が編み出したオリジナル技。自身が習う、空手、ムエタイ、中国拳法の突きの要訣を混ぜ、柔術の体捌きで打ち出すというもの。その技を使い、様々な強敵を打ちのめして来た。兼一はこの無拍子を、自身の弟子である真琴に授けていたのだ。

 その威力は凄まじく、硬い鎧を身に纏う鎧武者の胴の部分を凹ませたり、兼一より一回り大きい巨漢ですら打ち倒してしまうほどだ。この技の前に、厚い壁など無意味なのだ。

 

 

「小さく前にならえ!・・・❰無拍子❱!!!」

 

 

 

 

 衝撃。

 真琴が岩壁を打ち破り、牢獄の中から姿を現した。その姿を視認した、会場中の生徒はただただ唖然とするしかなかった。中川の大地の牢獄«ガイアプリズン»は硬い防御力を誇ると学園中の生徒に認知されている。それを真琴はたった一撃で打ち砕いてみせたのだ!

 

「嘘だ!嘘だ!こんなの有り得ない!底辺伐刀者であるお前が!何故、俺の大地の牢獄«ガイアプリズン»を打ち砕くことが出来たんだ!!?」

 

「そうやって人を見下してる間は絶対にわからねぇよ」

 

「っ!!」

 

 真琴は徐々に中川へ歩を進めていく。中川からは汗がしたり、焦りが出てきていた。自分自身の技の数々が真琴に一切合切効かないのだから。

 真琴の歩みは止まらない。

 ドンドン自分に迫ってくる。

 

 そして真琴は言葉発しながら“ある技”を放っていく。

 

「マコトが放っている技、あれは❰気当たり❱!」

「学生伐刀者には気当たりを受け流す術を持つ者は少ないはずだからね」

「真琴さんも最初からやれば良かったのに・・・こんな回りくどいことしなくても」

 

 

「(あのオーラは・・・“あの人達”と同じもの・・・。だったら真琴の実力は達人級だということ?まさかあの歳で!?)」

 

 実況席に座る寧々も、アリスと同じ様に驚愕していた。

 

「(まこっちめ・・・気当たりを既に身に付けているとはいやはや驚いたねぇ・・・。あの技は気の掌握を修めなきゃ使い物にならないというのに、それじゃまこっちは、掌握に至ってる訳か・・・。流石、梁山泊の弟子なだけはあるね)」

 

「おい、«大地の守護者»さん、どうしたよ?反撃して来ないのか?」

 

「ヒッ・・・」

 

 中川の目には真琴が急に大きな姿へと変貌した様に見えていた。その姿を見た中川の身体からは、冷や汗が溢れだし、恐怖という感情が中川の心を埋め尽くしていく・・・。

 

「う、うわあああああ!!!」

 

 なんと中川は真琴の気当たりに当てられ、ステージ場から逃走してしまった。中川の心情は闘争心より恐怖心が勝ってしまったのだ。

 

 選抜戦においてステージ場から逃走をするという事は敗けを意味する。つまり・・・。

 

 

 

 

 

「中川聖夜 敵前逃亡の為、勝者 近衛真琴」

 

 

 

 

 

 場内アナウンスが無惨にも中川の敗北を知らせる。

 

「アイツ、マジかよ・・・気当たり当てただけで逃げやがった・・・・ガッツねぇなぁ・・・」

 

 

「し、仕合終了ー!一体誰が予想したでしょうか!中川選手が逃走してしまった為、近衛選手の勝利です!昨日に引継ぎ大波乱が起きました!底ランク伐刀者が高ランクの伐刀者を下すという番狂わせです!!今年の選抜戦は何が起きるか予想出来ません!今後の仕合に期待しましょう!ここで解説の西京先生、最後に近衛選手が放った技は一体なんでしょう?あれも武術の技なのでしょうか?それとも伐刀絶技ですか?」

 

「あれは❰気当たり❱と呼ばれる体術さ。闘気や殺気を放ち、相手を威嚇する技だねぇ」

「武術家であれば誰でも使えるのですか?」

「いんや、あれほどの技は気を掌握した一部の武術家のみだね。相手の精神に訴えかけて、この場から逃走されるなんて芸当は並みの武術家には出来ないよ」

「でも近衛選手にはそれができると?」

「そうなるね」

 

 

 その寧々の発言を聞いた他の生徒達は、不満を爆発させた。黒鉄一輝に続いて、落ちこぼれのレッテルを貼られた真琴が仕合に勝つだけでなく、思いもよらない芸当をやってのけてしまったからだ。

 

「ふざけないで下さい!あんな落第伐刀者がそんなこと出来るわけないです!」「そうだ!きっと何かの間違いだ!」「中川が調子悪かっただけだよ、んじゃなきゃ落第の拳«ワーストフィスト»に負けるはずないもん」「そうだ!そうだ!」

 

 生徒達の怒号が会場中を包み込んでいく。それは次第に広がり、会場中にいる全ての人間が言葉を放っているかの様だった。

 

 

「何よ!?アイツら!懲りないわね!」

「(真琴、次は僕が君を救う番だ!)」

 

 意を決して一輝が口を開こうとするより先に、寧々がマイクを掴み声をあらげさせた。

 

「静かにしな!!!!」

 

 寧々が大声を出すと、会場中に広がる生徒達の声は静かにおさまっていく。

 

「大体ねぇ!自分達よりほんの少し劣ってるからって何故そうやって下に決め付けるんだよ!あんた達が思ってるより身体能力というものは優れている事を理解しな!まこっちと黒坊が勝利を収めた事が、何よりの証拠だろうに・・・。いい加減に認めな、落第騎士達の実力はあんた達より、数段上にいるのさ!いや、数段以上だね。これだけ言ってまだ信じられないというのなら、私自ら気当たりを放ってみせるから、いつでも来な!相手をしてあげるよ」

 

 

 

 

「(西京先生、励ましの言葉、有難うございます。凄く嬉しいですよ)」

 

 真琴は父の友人である寧々の言葉で、心が満ちていくのを感じた。

 

「あ、寧々先生にとられちゃったか・・・」

「お兄様・・・」

「後で言ってあげれば良いわよ」

「それもそうだね」

 

 

 こうして、真琴の代表選抜戦一回戦目は無事終了した。

 




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BATTLE.21 真琴の道場

こんにちは、紅河です!

UAがなんと2万を超えました!皆さんの応援のお陰です!本当に有難うございます!

それではお楽しみ下さい!


 第二訓練場控え室の前に、ある女子生徒が立っていた。それは«雷切»東堂刀華であった。彼女は真琴に一言挨拶をしてから、合流すると生徒会のメンバーに伝えていたのだった。

 

「まこ君まだ、居るかな?」

 

 刀華は扉をトントンっと叩いた。

 

「はい、開いてますー誰ですか?」

「あ、まこ君?私、刀華です。入ってもいいかな?」

「刀華さん?いいですよ」

 

 ガチャと扉を開けて、刀華が控え室へ入ってきた。

 

「まこ君、仕合お疲れ様!」

「有難うございます、刀華さん。観に来てくれたんですね」

「そんなの当たり前だよ、まこ君の仕合だもの。気当たりだけで勝っちゃうなんて、流石まこ君!」

「あれくらい当然ですよ!あんな奴に負けたら師匠に笑われちゃうので・・・もう少し骨があると思ったんですがね・・・まさか、あんな“弱い気当たり”だけで逃げるとは・・・」

「学生の内で気当たりに対応出来る方が凄いと思うんだけど・・・」

「でも、俺だったら中学生に上がる前に、対応出来てましたけど・・・」

「それはまこ君が早すぎるの!」

「そうですかね?」

「そうだよ!」

「というか、刀華さんは何で俺の控え室に?もう出ますよ?」

「一言挨拶をしようと思って・・・」

「そうなんですか?」

「うん、まこ君が遂に“私達の舞台”に来たんだと思ってさ」

 

 その瞬間―刀華から真琴に向けて激しい闘気が発せられる。

 

 

 だが、刀華に負けじと真琴も、静かな闘志を燃やしてみせた。

 

「「・・・・」」

 

 ふと二人は冷静になった。この控え室には次の選手が入場してくるのだ。

 

「てかこんな事してる場合じゃないですよ、早く出ましょう」

「そ、そうだね」

 

 真琴と刀華は慌てて控え室を後にする。

 

「それじゃ会場の外まで一緒に行きますか?」

「うん」

「んじゃ刀華さん、手でも繋いで行きましょうか?」

「え?ええええ!?」

 

 刀華は真琴の突然の誘いに嬉しくも困惑し、動揺している。

 

「あ、あの、私達にはまだ早いと思うんだけど・・・」

 

 刀華は照れながら言葉を口にする。

 

「刀華さん、冗談ですよ?」

「も、もう!年上をからかうんじゃなかとよ!!」

「アハハッ」

 

 二人はそんな仲睦まじい会話をしながら、第二訓練場を後にした。真琴が刀華と別れて数分後、すれ違うように一輝達が姿を現した。

 一輝達は一度控え室に向かったのだが、真琴と入れ違ってしまい会えずにいた。そして訓練場の出口にて真琴を発見したのだった。

 

「あそこに居るの真琴さんじゃないですか?」

「あんな所に居たのね!」

「あれ?誰かと話してる?」

 

 一輝が真琴の方に目線を向けると木に遮られて、真琴だけしか見ることが出来なかった。

 

「それじゃ刀華さん」

「うん、今度私の仕合も観に来てね?」

「もちろんですよ」

「あと仕合前の調整もお願い」

「はい、仕合に支障がでない程度にですね、任して下さい」

「うん、宜しく、今度生徒会に遊びに来てね!」

「はい!んじゃ、また」

 

 そういうと刀華は手を振りながら真琴と別れた。そして、お互いを待っている友人達の元へ向かっていった。

 

「マコトーー!」

「あれ?一輝達じゃねえか、今から向かおうとしてたんだ」

「真琴、探したよ」

「ん?そうなのか?」

「うん、だって控え室に居ないんだもん」

「そりゃ悪いことしたな、すまん」

「それより誰かと話してなかった?」

「ああ、刀華さんと話してた」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ステラ以外の三人が驚きの表情を浮かべた。

 

 

「え!?真琴さん、«雷切»と知り合いなんですか!?」

「ああ、そうだけど・・・そんなに驚くことか?」

「驚くわよ、去年の七星剣武祭ベスト4にして、破軍序列第一位«雷切»東堂刀華と知り合いだったなんて・・・」

「僕も初めて聞いたよ」

「あれ?一輝には言ってなかったか?」

「聞いてないよ!」

 

 だが、ステラだけが話についていけてないようで、頭に疑問符を浮かべていた。

 

「ねえ、その“東堂刀華”って誰よ?」

「そっか、日本に来たばっかのステラは知らないのか」

「«雷切»東堂刀華は、この破軍学園で生徒会長を勤め、伐刀者の実力としては現・七星剣王クラスとも云われている。そして東堂さんの代名詞はなんといっても、その強すぎる伐刀絶技だ。超電磁抜刀術«雷切»が余りに強烈で鮮烈だった為、それが東堂さんの二つ名になった程だ」

「そんなに強いの?」

「ああ、雷切を放った仕合は必ず、刀華さんが勝利を収めている」

 

 その言葉に思わず、ステラは息を飲んだ。

 

「そんなに有名な人と何でマコトが知り合いなのよ。しかも下の名前で呼んでるって事はそれなりに親しいのよね?」

「ああ、それはな・・・」

 

 真琴は刀華との出逢いの話を一輝達に聞かせた。朝のランニング終わりにベンチで会ったこと、度々組手をやっていた事など、全て包み隠さず話したのだ。

 

 

「そんなことがあったのね・・・」

「しかもあの雷切と引き分けてるなんて、改めて真琴さんの実力には驚かされるばかりですね・・・」

「ええ、そうね」

「うん、そういえば、真琴に何か聞くことがあったんじゃないの?」

 

 ステラが思い出したように、口を開く。

 

「っ、そうだったわ!ねえ!マコト」

「っなんだよ」

「アナタって、何処で数多くの武術を学んだのよ!」

「あぁ、そういや言ってなかったな」

「教えなさい!」

「わーったよ、取り敢えずここじゃなんだし、話すのは俺の部屋で良いか?動いたから腹も減ったし・・・」

「それで構わないわ」

「あ、そうだ、俺の手作りのお菓子もあるから、食べながら話そうぜ!」

「そういえばマコトはお菓子作りが得意だったわね」

「まぁな、期待していいぞ?」

「分かったわ」

「それに、この前ご馳走になった、レアチーズケーキはとても美味しかったわ」 

「そうですね、苺ジャムとの相性も良かったですし、また食べたいですね」

「この前、珠雫とアリスとご飯を食べるってメールで言ってたのは、この事だったんだね。僕も真琴のレアチーズケーキ食べたかったな」

「あ、わりぃな、今日あるのは多分、ガトーショコラしかないわ・・・」

「それでも良いわよ!ね、珠雫?」

「はい」

「んじゃマコトの部屋へレッツゴー!」

「テンション高ぇな・・・」

 

 それから、真琴を含む五人は真琴の部屋に向かって足を進めた。

 無事に部屋に到着し、真琴が冷蔵庫からガトーショコラを取りだし、綺麗に取り分けていく。

 

「待たせたな」

「あら、見た目は綺麗ね」

「見た目はって何だよ見た目はって、中身も旨いから安心しろ」

「それじゃ・・・」

 

「「「「いただきまーす!」」」」

 

 四人がケーキを口に入れた瞬間、濃厚なのにしっとりとした感触と甘い味が口の中を包み込んだ。

 

「「「美味しいー!」」」

 

 

「ちょっと甘めに作ってるから生クリームとかは要らないはずだが、一輝には少し甘かったか?」

「ううん、そんなことない、男の僕でも食べやすいよ」

「そうか、なら良かったぜ」

「はぁー幸せね・・・」

「同じく・・・」

「つかケーキはついでだろ?俺の話を聞きに来たんじゃねぇのか?」

「あっ!そうだったわ!ガトーショコラが旨すぎて忘れてた!」

「おいおい・・・ったく、それじゃ気を取り直して話すぞ。俺が武術を学んだ道場の名前は❰梁山泊❱って所だ」

 

 真琴がその名前を出した時、ガトーショコラを手にしていたアリスの手が止まった。

 

「(梁山泊?まさか、あの“梁山泊”だというの!?)」

「ん?どうかしたの?アリス?」

「・・・いえ何でもないわ」

「そう?」

「(アリスの奴、もしかして梁山泊の事を・・・?)」

 

 真琴はアリスの異変を感じつつも話を続けた。

 

「その梁山泊という道場は武術を極めた達人が集う場所で・・・」

 

 そこから、真琴の梁山泊の説明が始まった。自分が何故、その道場に入る事になったのか、其処に住んでいる達人達はどんな存在かの紹介を、そして達人達の逸話の数々を・・・。

 まず、真琴が最初に話題に出したのは❰哲学する柔術家❱“岬越寺秋雨”についてだった。

 

「哲学する柔術家?」

「それは破軍学園での二つ名みたいなものだ。ステラ、何度か俺と一輝がランニングをする時に、重しの仏像を付けてるのを知ってるよな?」

「ええ、持ってみたけど凄く重かったわ・・・」

 

 ステラが真琴に許可を貰い、興味本意で身に付けてみたのだが、付けたはいいものの、その状態で歩く事すら儘ならなかった為、付けて走るのは断念していた。

 

「何で、真琴さんの部屋に仏像があるのかと思ったら、重しだったんですね・・・」

「それがどうしたのよ?」

「ああ、それな、その岬越寺先生の手作りなんだ」

 

「「ええええええ!?!?これ作ったの!?」」「まぁ!」

 

「良く出来てるだろ?」

「そりゃね、誰かの有名な彫刻家の作品かと思ってたわ」

「ステラ、それで合ってるよ」

 

 ステラの言葉に一輝が応えた。

 

「え?」

「岬越寺先生はな、❮書・画・陶芸・彫刻のすべてを極めたと謳われる天才芸術家❯なんだよ」

「・・・な、何よそれ・・・・そんな人、聞いたことないわ・・・」

「だろうな、因みに医術も達人だぞ」

「え?医術?」

「ああ、梁山泊の裏でな、接骨院を経営してて、医師の資格もあってしかも外科手術も可能、さらにその腕前は日本屈指と評されてる。そしてついた渾名が、❮病魔すら病気に並ぶお医者さん❯で、その渾名のせいで岬越寺先生は、他の医師の人達に怖れられていたんだぜ?」

「怖れられてどうするのよ!!?」

 

 ステラは真琴の非常識な答に思わずツッコミをいれてしまう。

 

「でも真琴さん、その岬越寺さんの武術が出てきてませんよ?」

「心配すんな、岬越寺先生は“柔術”の達人だ」

 

「柔術?柔道ではなく?」

「うん、前にステラと真琴が組手をした時に、空手の話をしたのを覚えてる?」

「はい、それと何の関係が?」

 

「昔の空手は刀や武器を持ったいた人達と渡り合うために創られた武術、そして今のスポーツ空手はそれを現代用に創り直された武術。柔道もそれとおんなじなんだ」

 

 珠雫の疑問に一輝が丁寧に解説する。

 

「柔術も進むにつれ、昔持っていた柔術の繊細な歩法や技法をなくす結果となり、今の柔道に落ち着いたのさ」

 

 

「へぇーそうなのね・・・ちょっと待って、寧々先生が仕合中に解説で言ってたけど、マコトはその柔術も身に付けてるのよね!?それじゃあ・・・」

「ああ、ステラの察しの通りだよ」

「・・・俺にとっちゃ、武器を持つ伐刀者はただの“標的”に過ぎねぇよ。だから俺と当たったら心して掛かってくるんだな」

 

 ステラはその言葉で真琴との実力差を改めて実感した。この人にとって自分は摂るに足らない存在だったと認識したのだ。

 

「・・・マコトの強さが分かった気がするわ・・・んじゃ他の道場の人達は、真琴が修めている武術の先生達って事?」

「ああ、そうだ」

 

 空手は❰喧嘩100段の異名を持つ空手家❱“逆鬼至緒”、中国拳法は❰あらゆる拳法の達人❱“馬剣星”、ムエタイは❰裏ムエタイ界の死神❱“アパチャイ・ホパチャイ”、対武器戦闘術は❰剣と兵器の申し子❱“香坂しぐれ”に、そして・・・。

 

「んで、俺が尊敬してやまないのが、梁山泊の一番弟子で、唯一師匠と呼ばせてもらってる❰最強の凡人と吟われる❱“白浜兼一”さんだ」

 

 その名前を出した時、一輝の瞳が凛として輝き、尊敬の念を心の内に宿していた。それもその筈、この白浜兼一という男は“武術の才能”が一切無い。一輝からしてみれば、この“白浜兼一”という人物は、己の努力で才能を凌駕した偉大な先人に他ならないのだった。

 

「(白浜さん、貴方は武術の才能はなく、努力する才能と強力な信念を持ち合わせていた。それだけで、数多の武術家達と渡り合い、生き延びて来た。そしてその信念とは、誰もが見て見ぬふりをする悪と立ち向かう為、そして大切な人を守るという信念!僕が心の底から“尊敬”する、武人の一人!!一度で良いから会ってみたい・・・)」

 

 一輝は兼一に対する憧れを胸に秘め、会う日を待ち焦がれているのだ。

 

「イッキ?どうしたの?黙っちゃって・・・」

「その白浜さんっていう人は特別な才能があった訳じゃないんだ」

「え?マコト、そうなの?」

「ああ、そうだ。だから師匠の異名は❰最強の凡人❱なんだよ」

「凡人って事はイッキと同じ・・・」

「うん、しかも白浜さんは僕より武術の才能はない・・・それなのに多くの死闘を潜り抜け、生き延びて来た偉大な人なんだ」

 

 一輝のその表情は嬉々として輝いていた。

 

「お兄様、嬉しそうですね」

「勿論だよ!白浜さんの存在自体が、努力が才能を超えた何よりの証拠に他ならないんだからね!」

 

「まぁ師匠の話はこれくらいにしてよ、他にも居るぜ?凄い人物はな」

「まだ居るというの?」

「ああ、それは梁山泊の道場主であり、最長老!❰無敵超人❱“風林寺隼人”その人だ!」

 

「!」「まさか、あの風林寺隼人ですか!?」

 

 風林寺隼人と聞いた瞬間、武術の知識は乏しい珠雫が声を大にして発言した。

 

「誰よ?その人・・・というかシズク、知ってたの?」

「知ってるも何も、武の世界における伝説の武術家です!私とお兄様の曾祖父である、“黒鉄龍馬”と並ぶ伝説的存在ですよ!」

「珠雫、良く知ってたな」

「それくらいは調べました・・・」

「マコトはそんな人に教わってるのね・・・」

 

「んで、その長老には孫娘がいて・・・」

「まだ何かあるの・・・?」

「まぁ聞け、その孫娘は❰風を切る羽❱“風林寺美羽”!ま、今は白浜美羽って名乗ってるけどな」

「白浜?もしかして、真琴の師匠である白浜さんの奥さんなの?」

「まぁな」

 

 その言葉の後、ステラ達は数々の逸話を真琴から聞かされる事になる。それは海の上を走っただとか、数百メートルもあろう場所まで飛んでいった、数百人兵士相手に無傷で突破し尚且つ、倒した兵士は一人も殺してないなど。その逸話は自分達の常識の次元を遥かに凌駕し、超越していたのだった。ステラ達は言葉も出る事なく、ただ真琴の話に耳を傾けるだけであった。

 

「「・・・・・」」「(やはりあの人達なのね・・・真琴に教えたのは誰かと思ってたけど、梁山泊の人達だったのね・・・道理で真琴が強いわけだわ)」

 

「ステラと珠雫は何で、黙ってるんだ?」

「・・・そんな話を聞けば黙るわよ・・・そんな人達がいるだなんて、しかも伐刀者じゃない?・・・それに素手ですって?未だに信じられないわ・・・・」

「そうですね、現実の話じゃないみたいです」

「だが、現実の話だ」

「はぁ・・・確かその人達の武術位階は達人級といいましたか」

「ああ、しかもただの達人じゃない。特A級の達人級だ!」

「それって何が違うのよ」

「その違いの説明をしたいのは山々だが、それについてはまた今度だな」

「え、なんでよ?」

「時間見てみろよ」

 

 一輝達が時計に目をやると夜の9時を回っていた。話が尽きなかった為、夕飯も真琴の部屋で摂りつつ、おこなっていたらこんな時間になってしまったのだ。

 

「もうお風呂に入らないとね」

「そうね、ほら珠雫行きましょ?」

「ええ、それじゃ話の続きはまたということで」

「おう、いつでもいいぞ。聞きたい時に言ってくれ」

「分かったわ」

「それじゃ皆お休み」

 

「おう、お休み」「お休みなさい、お兄様」「ええ、お休み」

 

 夜の挨拶を済ませ、それぞれが元の部屋へと戻っていった。真琴は一人淋しく、お風呂の準備に取り掛かった。こうして夜が更けていき、無事に明日を迎えることとなったのだが・・・。

 日付が変わり、真琴達はいつもの鍛練を済ませ破軍学園へと向かった。出来事は突然起きた。それは真琴達が午前の授業を終了し、昼食に向かう途中の事だった。

 

 

「それにしても、マコトの師匠達がそんなに凄い人達だったとはね・・・」

「でもそんな力を持っているのに、何故隠匿しているのでしょうか?」

「師匠達が隠匿してるのは、武術の歴史が関係してるな」

「歴史が?」

「今の平和は、先人の滲むような血と汗で得られたものだからだ」

「それは確かに・・・」

「それに日本は元々戦国時代やら戦争やらで各地で争いを続けて、信長や秀吉ら偉人達が争うだけの戦を変えて今の世の中があるからな。師匠達はそれを守ってるんだよ、命懸けでな」

 

 

 そんな会話をしていると突然、校内アナウンスが鳴った。それは、『近衛真琴、至急理事長室に来るように』というものだった。

 

「え?どういうことだ?」

「アンタ、何したのよ」

「俺が知るかよ・・・とりあえず行ってみて聞いてくるわ」

「行ってらっしゃい」

「んじゃ後でなー」

 

 真琴としては、何故呼び出されたのか分からず、不安を抱えながら理事長室へ向かった。

 昨日は代表選抜戦一回戦二日目、近衛真琴と中川聖夜の仕合が行われた。勝敗は落第騎士である、真琴の勝利で幕を閉じた。誰しもが中川の勝利を予想していただけに真琴の勝利には驚かされたのだが、しかし、それでは終わらなかったのだ。

 そして真琴は理事長室の前へやって来た。

 

トントン「理事長、近衛真琴です」

「良いぞ、入れ」

「失礼します」

 

「呼び出しまでしてすまなかったな」

「それは、いいんですが、何かご用でしょうか?」

「うむ、昨日選抜戦をおこなった中川を覚えているか?」

「そりゃまぁ対戦相手ですからね、覚えてますけどそいつが何か?」

「直接中川が関係している訳ではないのだが・・・なんでも中川の取り巻き連中が、昨日最後にお前放った気当たりに納得が出来ないそうでな」

「・・・それで?」

「そいつらがお前との模擬戦を望んでいる」

 

 真琴はただただ呆れた。自分の仲間を大切にする事は大事だと思うが、決まった仕合に文句をいうのは筋違いというものだ。

 

「はぁ・・・つまり気当たりを使用せず、強さを証明しろと?」

「物分かりが早くて助かる、そういう事だ」

「・・・模擬戦の時間は何時なんです?」

「今から二時間後になるな」

「予定も無いですし、模擬戦は受けますよ」

「すまないな、面倒をかける」

「別に良いですよ、相手の人数は何人なんです?取り巻きってことは何人か居るんですよね?」

「五人だそうだ」

「五人ですか、了解です、ただし条件があります」

「その条件とは?」

「まず第一に、続けて戦うのは面倒なんで、五人纏めて掛かってくる事、第二に、この模擬戦に俺が勝ったら二度と俺に関わらない事、ですかね。本当はこんな条件出さなくても良いんですけど、出さないと良からぬ噂を流されそうですし、先に叩きのめさせていただきます」 

「ふむ、自信家だなっ」

「まぁ我の強い人達に育てられましたし・・・それに中川の取り巻き連中みたいので、恐らく自分の能力しか鍛えず固有霊装に頼る伐刀者でしょうし、そういう奴等は一度、灸を据えてやらないと直りませんから、ただ油断はしませんがね」

「ふっそうか、その条件の連絡は私の方でやっておく。場所は第一訓練場だ、忘れずに来るように」

「了解です、それでは失礼します」

「気をつけてな」

「はい、では」

 

 真琴が理事長室を後とにし、一輝達の元へ急いだ。

 黒乃は椅子に寄り掛かりながら、自分の力の無さを実感していた。何故ならこの春に大革新をおこなったとしても、この破軍学園では、未だに低ランクを愚弄する人種が根強く残っているからだ。

 黒乃にはそれを払拭する策があった。それは低ランクである真琴と一輝が七星剣武祭を勝ち上がる事。そうなれば二度と低ランクの伐刀者を馬鹿にする者は居なくなるだろう。しかし、真琴達が必ず勝つという保証はない。だが真琴と一輝を実力を見た黒乃は、この子供達が必ず結果を出すと確信を持てた。何故ならこの二人の内には何者にも屈しない強力な❰信念❱があるのだ!!大成を成す偉人には必ず❰信念❱がある!だからこそ黒乃は真琴と一輝を信じる事にしたのだ。




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。


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BATTLE.22 武術位階

こんにちは、紅河です!


何話にかけて、オリジナル展開が続きますが、宜しくお願いします!


「それにしても真琴さん、良く模擬戦受けましたね」

「ああ?まぁ受けねぇといつまでも絡まれそうだったからなぁ」

「だからってこんな下らない事やらなくても」

「Eランクに徹底的にぶちのめされれば、少しはあいつらの考えも変わるだろ?」

「マコト、そんなこと考えてたのね」

「まぁな」

 

「そういえば武術位階の話は?」

「ん?そういや呼び出しを承ける前に、話す約束だったな」

 

 

 真琴は理事長室に行く前にステラ達とそんな約束をしていたのを思い出した。

 

「んじゃ模擬戦までまだ時間があるから、この控え室で話してやるよ」

「頼むわね」

「まず、武術位階は大きく分けて三つに分類される」

「前に話していた気と同じなのね」

「ああ、まず一つが❮弟子級❯、二つ目が❮妙手❯、そして最後が❮達人級❯だ」

 

 達人級の人達とは多才な才能を持ち、毎日の努力を怠らずやって来た武術家が到達する者たちの事。その実力は弟子級や妙手に位置する人間を遥かに上回る力を有している。

 

「確か、マコトの師匠達が達人級なのよね?」

「達人級といってもただの達人級じゃない、❮特A級の達人級❯だ」

「それの何が違うんですか?私には同じに聞こえますけど」

「達人にも階層があって、❮特A級の達人級❯の達人は並の達人級が束になって集まっても、敵わないほどの力を持ってる」

 

「「!?!?」」

 

「二人は俺の実力、知ってるよな?」

「はい、身にしてます・・・」

 

 ステラと珠雫は以前、真琴と組手を行い真琴に完全敗北をしているのだ。

 

「特A級の達人級の実力はここにいる、一輝、ステラ、珠雫、アリス、そして俺が力を合わせ本気で戦ったとしても、師匠達に傷一つつけられず、敗北する程の実力だ」

「・・・それは私達が伐刀者の能力を使ってもですか?」

「ああ、例えどんなに優れた能力を持ってる伐刀者でも、師匠達には敵わねぇよ」

 

「「・・・・・」」

 

 沈黙。

 ステラと珠雫は武術位階の話を真琴から聞かされ、その事実に言葉を口にする事が出来なかった。昨日、真琴から梁山泊の逸話の数々を聞かされたが、半ば半信半疑だったのだ。だがそれが漸く現実の事だと、認識する事が出来たのだった。

 二人が暫く黙っていると不意にアリスが話を切り出した。

 

「ところで真琴は、その武術位階だとどの辺に位置しているのかしら?」

「俺か?俺は❮妙手❯だ」

 

「妙手?」

 

 少し落ち着いたのか、珠雫がその話に割って入ってきた。

 

「この妙手とは、才能の無い武術家の最終到達地点で、弟子以上達人未満の強さに達した武術家を指す。その戦闘能力は弟子級を大きく上回っているが、実力、精神共に“不安定で危険な状態”なんだ」

 

「あら?それはどうして?」

 

「それはな、慢心や勘違いを起こすからだ」

「慢心と勘違い・・・」

「そうだ。妙手ともなれば、弟子級を赤子のように簡単に倒す事が出来る。その結果、妙手に到達した奴は調子に乗るんだよ、“俺は誰よりも強い” “もう自分に敵う人間なんて存在しない!”てな具合にな」

「そうか、その慢心と勘違いが自分の死を招くわけか・・・」

「一輝、その通りだ」

 

「マコトも妙手ってことは、それらと戦いながら仕合に臨んでいるのね」

「ああ、道場を出る時、師匠達に言われたよ。“殺すな、殺されるな”ってな」

 

 その助言は中々に的を射ていた。流石は真琴の師匠である。

 

「んじゃ弟子級ってのは?どういう人なわけ?」

「弟子級は武術位階の中で最下層に位置し、ほとんどの武術家は弟子級に該当されている。武術の初心者から常人とかけ離れた実力を有している者まで、その実力の幅は広い」

「僕やステラ、珠雫、アリスなんかがここに位置してるよ」

「え?イッキは妙手じゃないの?」

 

 ステラがさも当然でしょと言わんばかりに口にする。

 

「ステラ、一輝はまだ弟子級の壁をぶち破ってはいない。といっても、弟子級最上位だがな」

「さ、最上位・・・」

「イッキでもまだ届いていないなんて・・・・」

 

 ステラと珠雫は驚きの声をあげる。

 

「まぁ、例え何かの世界チャンピオンだとしてもその実力が妙手に達していないなら、等しく弟子級として呼称されるぜ。んで、弟子級の中にも階級が存在してな」

「階級?」

「そうだ、❮開展❯と❮緊湊❯という」

「それはどういったものなの?」

「“先に開展を求め、後に緊湊に至る”って言葉聞いたことねぇか?」

 

 一輝とアリスは知ってるというような表情をしているが、ステラは分かっていないようだ。

 

「え?どういう事?」

 

 その言葉を耳にし、思考を続けていた珠雫が先に答えた。

 

「始めは大きく、後に小さくですか?」

「珠雫、よく分かったな」

「??まるで意味がわからないわ・・・」

「つまり、最初は威力と正しい動作を重視して、その基礎を身に着けてから実戦的な命中精度や動作を重視するという意が込められている言葉なんだ」

「へぇー」

「でもそれと弟子級がどう関係あるのでしょうか?」

「弟子級だからこそ、この言葉なんだよ。この言葉は武術の習熟段階の名称として、弟子級の実力を称する時に用いられる。ここにいる一輝やステラ達で表すと、まず一輝とアリスが❮緊湊❯でステラと珠雫が❮開展❯だな」

 

 その真琴の言葉に、自分の剣技を馬鹿にされたと思ったステラは、声をあらげながら言い放った。

 

「私の剣技が未熟だっていいたいの!?」

「そうじゃねぇよ、仕方ねぇな。んじゃお前に分かりやすく教える為に、一つクイズを出してやる」

「クイズ?」

「そうだ、このクイズにお前が正解したら謝ってやるよ」

「分かったわ!出してみなさい!正解してやるわ!」

 

 真琴が出したクイズとは体重がどの足にかかっているかというクイズだった。そして真琴は一つのポーズ取った。そのポージングとは足を肩幅まで広げ、右足の膝を曲げていかにも右足に体重がかかってるポーズだった。

 

「ねぇマコト、私の事馬鹿にしてる?」

「あ?してねぇけど?」

「そんなの何処からどう見ても右足じゃない!」

「珠雫も答えていいからな」

「え、私もですか?」

「同じ開展同士だからな、あ、一輝とアリスは口出すなよ?分かってるだろうからな」

「ん、分かった」

「了解よ」

「それなら答えますけど、私もステラさんと同じ右足ですね」

「でしょ?シズクもそう思うわよね?」

「ええ」

 

 二人の答えを聞いた真琴は、うっすらと笑みを浮かべながら言った。

 

「残念、不正解だ。答えは左足だ」

 

 すると、ステラと珠雫が思っていた右足が宙に浮き、まこの左足にその体重がかかっていたのだ!

 

「ええええ!?」「・・・・!?」

「間違えただろ?これがお前達を開展だという、何よりの証拠だ」

「うぐっ悔しいわ」

「こんな問題を間違えるなんて」

「開展とは即ち、弟子級でも武術的に未熟な者を指す、そして緊湊に至った者は、武術的に一つ上の段階に進んだ者なんだよ」

「でもどうやって左足に体重を?どうみても右足でしたが」

「相手を惑わす古流空手の身体操法の一つを使ったのさ、んで、その秘密はこのガマクにある」

 

 そういうと真琴は自分の脇腹を指差した。

 

「ガマク?」

「ああ、この場所は普段使用することがない筋肉だ。上半身と下半身は平行にして、何事にも正位置に残しつつ、体の重心のみを操ったのさ」

「な、成る程。でも相手の重心なんて見れませんよ?」

「それがな、違うんだよ」

「え?」

「それはステラ達が“見の目”でしか相手の動きを把握していないからだ。上位の武術家は“観の目”で相手を捉える」

「観の目?それはどういう?」

 

 珠雫は真琴の言っている意味が良く分からないようだ。

 

「見の目とは、表面上の動きでしか相手を見据えていない目の事。観の目とは、相手の重心、呼吸、何気ない仕草から全体を把握するものの目の事だ」

「だから、ステラと珠雫は真琴の軸足が右足だって答えたでしょ?」

「あっ・・・」「確かにそうです」

「ま、長くなったがそういう事だ。もうすぐ模擬戦時間だからな」

「もう、そんな時間なの?」

「ああ、んじゃ行ってくる」

 

 真琴は扉に向かうが、扉の前に行くと一輝達に振り向いた。

 

「あともう一個いい忘れた事があったぜ」

「何よ?」

「この模擬戦で、緊湊に至らなければ見ることが出来ない技ってのを二人に見せてやるよ」

「見ることが出来ないなら意味ないんじゃ・・・」

「僕が解説しながら教えるから、心配しないで」

「頼んだわね、イッキ」

 

 

 それから五人は控え室を後にした。真琴はステージに、一輝達は客席にそれぞれ歩きだしたのだった。

 真琴がステージに入ると、中川の取り巻き連中が既に到達し真琴の事を待っていた。

 

「おせぇぞ!落第の拳«ワーストフィスト»!」

 

 取り巻き連中のリーダー的な存在の鈴木が真琴に向かっていい放った。

 

「あ?別に遅刻してねぇだろ、時間通りだよ」

「五月蝿いぞ、落第伐刀者のくせに!」「偉そうな事言ってんじゃねぇぞ!」「あんな勝ち方しやがって・・・」

 

 真琴の言葉に鈴木達の不満が徐々に溜まっていく。

 その言動に真琴は呆れ、溜め息を漏らした。

 

「はぁ・・・つーか、お前らが模擬戦したいって言ったんだろうが。お前等は中川との仕合に不満みたいだが、俺は一切卑怯な手は使ってないし、反則もしてない、正当に戦って勝利を勝ち取ったんだぞ?筋違いな事をしてるのはお前らなんだからな?そこら辺自覚しろよ」

 

「ぐっ・・・」

 

 リーダーの鈴木が何を思ったのか、口を開いて言った。

 

「そういや落第の拳«ワーストフィスト»さんよぉ、何か条件を付けてたよなぁ?俺等も何か条件を付けさしてくれよ」

 

 それは厚かましいお願いにも程があった。頼まれて模擬戦をするのは真琴なのだ。にも関わらず、鈴木はこう続けた。

 

「俺等が勝ったら、お前は一生俺らの“オモチャ”になれよ」

 

「アイツら!何偉そうにいってんのよ!」

「真琴さん、受ける必要ないです!」

 

 

「お前さんのギャラリーはあー言ってるぜ?どうすんだ?」

「(これ受けねぇと、何かしらのいちゃもんつけて来そうだな・・・はぁ、なら受けた上で徹底的にぶちのめすか)」

「ああ、良いぜ。パシリでも何でもやってやるよ、ただし俺に勝てたらだけどな」

 

 

 

「マコト!?」「何言ってるんですか!?」

「真琴はあんな奴等に負けるほど落ちぶれてないよ」

「真琴なら大丈夫よ、心配ないわ」

 

 ステラと珠雫を一輝とアリスがそれを宥める。

 

「後悔しねぇんだな?」

「ああ、だがEランクに五人全員で掛かって来て、無様に負けたら笑い者だけどな」

 

「舐めやがって!」「調子に乗るなよ!落第騎士が!」

「言わせておけ」

 

 ここで鈴木が取り巻き達を腕で静止させる。

 

「話は纏まったか?」

 

 模擬戦の審判である黒乃理事長が真琴達に確認する。

 

「ええ、問題ないですよ。あ、そうだ。お前等、俺の条件も忘れるなよ?」

「五人纏めて掛かってこいだっけ?自分の不利になるような条件を付けるとはな!」

「もう一つあるだろ?」

「ああ?」

「俺が勝ったらこれ以上俺に関わるなっていう条件だよ」

「ああ、勿論だ」

 

 鈴木を含め、中川の取り巻き全員が下卑た笑みを浮かべる。

 

 

「では、これから模擬戦を始める!お互いの条件を遵守すること!指定の位置に移動しろ!」

 

 

 鈴木達は距離を取りつつ、真琴を囲うような位置に移動していく。真琴はその位置を確認し固有霊装を顕現させる。

 

「我が身を護れ!甲鉄陣玉鋼!!」

 

「それでは、模擬戦、開始!!!」

 

 

 




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BATTLE.23 努力は才能を凌駕する

こんにちは、紅河です!

お気に入りがもう少しで二百件間近・・・。早いものです・・・。

今回は真琴VS五人の伐刀者との模擬戦です!真琴のオリジナル技も炸裂します!お楽しみ下さい!


「それでは、模擬戦、開始!!!」

 

 真琴と鈴木達がそれぞれの位置に移動し、固有霊装を展開していく。

真琴は手甲とすね当てだが、鈴木は打刀、他の伐刀者達は薙刀、十文字槍、大剣、形容形態は様々である。

 

 薙刀を持ち、髪色は真琴と同様茶髪、後ろ髪を結っているのが成沢。

 十文字槍を持ち、髪色は黒、髪を短く纏めているのが相川。

 大剣を持ち、スキンヘッドにしているのが、有地。

 メイスを持ち、髪色は黒、オールバックにしているのが吉田。

 そして、打刀も手元に持ち、髪色は金髪で、髪の側面を刈り上げてオシャレボウズと呼ばれる髪型にしているのが鈴木だ。

 

 鈴木達は武器を構えながら真琴の出方を窺っている。

 

 真琴は梁山泊の面々から対武器も想定され、各流派の対武器用必殺技を教わっている。その為、空手秘蔵の呼吸法の一つ、内臓上げを行いつつ❰制空圏❱を作り、鈴木達の攻撃に備えていた。

 

「おい、何だよ、その構え!」

「ただ腕を回してるだけにしか見えねぇぞ!ハハハ!」

 

 

「コォー―――」

 

 真琴はそんな鈴木達の言葉を無視し、黙々と制空圏の維持に徹している。

 

 

「ねぇ、イッキ、マコトは一体何をしてるの?」

「あれは❰制空圏❱といわれる体術の一つ、自分の攻撃が届く範囲に侵入した、あらゆる物体に自動的に反応して攻撃する、自動防御機能の事だよ」

「あれが?何かの踊りにしか見えませんが・・・」

「真琴の周囲にある円形状が見えない?」

「全く見えないわ!」

「真琴が控え室を出るときに言ってた、ステラ達に見せたい技というのはこれだよ」

「え!?そうなの?」

「うん、もうすぐあの技の真価が見れるよ」

 

 

 真琴が制空圏をはっている、その姿は開展に位置する武術家からすれば、ただの奇怪な躍りにしか見えないだろう。しかし、鈴木は中々攻める事が出来ずにいた。何故なら、真琴に一切の隙が無いからだ。

 真琴が展開した制空圏は見えないが、もしこのまま突っ込んだらやられるという事だけは、肌で感じていたのだ。

 

「(何だあれは?全く隙が無い・・・。何かの伐刀絶技なのか?)」

 

 そして、真琴の後ろに待機していた伐刀者が堪らず、攻撃を仕掛けた。

 

「くらえ!低能伐刀者!」

 

 その伐刀者が持つ固有霊装は十文字槍だ。その槍で真琴の死角から思いっきり突いたのだ!だが真琴には届かず、完璧に反らされた!

 

「死角からの攻撃なのに、な、何故気付いた!?」

「不意打ちなら声を出すなよ・・・、それじゃただのテレフォンパンチだぞ?❰前蹴り❱!!」

 

 真琴が完璧に躱したと思ったら、直ぐ様相手の顎に向けて空手の前蹴りをお見舞いした。蹴られた生徒は真琴の速い蹴りに対応出来ず、そのまま気絶した。

 

「まず、一人」

 

「ねえ、イッキ。何故マコトは相手の攻撃を躱して、直ぐ攻撃に転じる事が出来たの?相手が声を発したからとはいえ、死角からの攻撃だったのよ?」

「それが、制空圏の力さ」

「どういう事?」

「あの❰制空圏❱という技は自身を中心にした球状空間を展開し、その領域内に侵入した敵性体に対して、迎撃行動を行う技なんだ。それが例え、死角からの攻撃であっても、多方面、多人数が一斉に攻撃を仕掛けたとしても、真琴の身体は半ば自動的に反応し回避・反撃に移る事が出来る」

「!?」

「真琴さんには不意打ちや連携攻撃が効かないって事ですね・・・」

「そういう事だね」

 

 ステラと珠雫はただただ戦慄した。二人は真琴の実力がとてつもない事は自覚している。しかし、真琴のクロスレンジの強さは思っていた以上に凄まじかったのだ!

 

「道理でマコトにクロスレンジで勝てないわけね・・・」

「ええ、あんな技を持っているのですから、当たり前ですが・・・」

「ねえ、一輝」

「アリス?何かな?」

「あの制空圏って何処まで対応出来るの?真琴より強い人間は居るでしょ?その時にもその制空圏は反応するの?」

「いや、自分より格上の攻撃は防げないよ。ただ自分と同格か格下の武術家なら対応出来るね」

「成る程ね(真琴の実力はあの雷切と引き分ける程の強さ、つまり現時点で七星剣王クラス、いやもしかしたらそれ以上?・・・末恐ろしいわね・・・)」

 

 

「どうしたよ?来ねぇのか?」

「貴様、何で死角の攻撃に反撃出来た!?」

「あ?それをお前等に教える義理はねぇな」

「くっそ!おい、成沢、有地、吉田!もう一度攻撃だ!」

「おう!」「任せろ!」「了解だ!」

 

 鈴木が残りの全員に声を掛け、真琴への攻撃を促す。そして、成沢と呼ばれた生徒が真琴に向けて、薙刀を振り下ろした!だが真琴は薙刀の刃身部分を掌で掴み、受け止めた!

 

「なんだと!?」

「弱いな、オラァ!」

 

 真琴は薙刀の柄の部分を両手で掴み直し、力任せに振り回した。すると、その力に耐えきれなかった成沢は、思わず自身の薙刀を放してしまった。

 

「あ、何すんだ!」

「相手が武器を持ってるなら、その武器を奪った方がてっとり早いんでな、それより、武器使いが武器を手放すんじゃねぇ、よっ!」

「え?オゴォ!」

 

 一閃。

 真琴は手に持っている薙刀を振るい、成沢の腹部に一撃をお見舞いした!思いもよらないダメージを受けた成沢は、数メートル吹き飛ばされ、そのまま気絶。

 

「これで二人目・・・」

 

 真琴の顔は少し笑みを浮かべる。

 

「おい、落第の拳«ワーストフィスト»!喋ってる最中に攻撃するとか卑怯だろ!?」

 

 有地が真琴に物申しているが・・・。

 

「何言ってんだ?戦闘中に油断したコイツが悪い。それに実践じゃ、一つの油断で命を落とすんだぞ?良かっなぁ?これが模擬戦でよぉ?」

「くそっ!」

「さて、次は誰だ?オールバックのお前か?それともスキンヘッドのお前か?鈴木とかいったっけ?お前でも良いぞ?何処からでも掛かってこいよ・・・」

 

 真琴は鈴木達に向けて手招きをしている。だがその鈴木達は攻撃に移行出来ずにいた。仲間達が目の前で真琴に立ち向かうも、なすすべなく敗北しているのだ。これで怖じけずかないという方がおかしいと言うものだ。

 

「な、舐めるなァ!くらえ、流水一閃«アクアスラッシュ»!」

 

 それに見かねた有地が大剣を振るい、巨大な水のカッターを真琴に放った!だが真琴には掠りもせず、空だけを切った。

 

「おせぇよ」

「なっ、いつの間に懐に!」

 

 真琴は有地の流水一閃«アクアスラッシュ»を躱しつつ、鈴木達に気付かれないよう、近付いたのだ!真琴には師匠達から授けられた全身のバネがある。それを使用し、鈴木達の懐へ飛び込んだ。

 真琴の筋肉は瞬発力と持久力を重ね持った、良質の筋肉のみで構成されている。これは岬越寺秋雨が独自に開発した、筋肉トレーニング法と修行マシーンで身に付いたものだ。拷問マシーンと呼べる修行マシーンそのキツさは、常人が乗ればたちまち失神してしまう程なのだが、それを耐え抜き今の真琴があるのだ。

 

「さっきの礼だぜ、❰馬式 裡肘託塔❱!」

「カハッ・・・」

「三人目・・・」

 

 真琴が有地の顎に掌底を叩き込み、更に片方の手で肘を押し上げたのだ。もろに攻撃を貰った有地は後方へ吹き飛ばされた。

 掌底と呼ばれるこの技は、普段なら威力が足りず相手に受け止められてしまう。だが真琴は片方の手で押し上げる事で、その威力をはね上げたのだ!

 

 

 

 しかし、真琴が鈴木達の懐へ飛び込んだはいいものの、そこは敵地のど真ん中。真琴の直ぐ後ろには吉田と呼ばれていた生徒が、堪らず真琴に攻撃を仕掛けた。

 

「う、うわああああ!」

 

 その吉田が持つ固有霊装はメイスと呼ばれる武器だ。それをまともに受ければひとたまりもない。

 しかし真琴は冷静に吉田の懐へ潜り込み、柔術の背負い投げをお見舞いした!

 

 

「これで四人だな、あとはてめぇだけだぜ?鈴木」

 

「あっぐ・・・・・」

 

 観戦していたステラが、真琴の戦闘を見て一言発した。

 

「あ、圧倒的だわ・・・」

「ええ、どの相手も必ず一撃で沈めているわ」

「流石、真琴さんと、いったところですか・・・」

「そうだね」

 

 黒乃が真琴を見つめながら、先日あった、真琴の代表選抜戦の仕合を思い返していた。

 

「(寧々が近衛の仕合で学園一と評していただけはあるな・・・。あの腕前は学生のレベルを、遥かに凌駕している!)」

 

 黒乃は友人である寧々の真琴に対する評価を再認識していた。真琴は無傷で、尚且、向かってくる鈴木達を一撃で屠っている。これは並大抵のことではない。殆どの学生は伐刀者と言えど、年齢的にいえばまだまだ子供なのだ。学生の中には、戦闘を恐れ闘う事が出来ない生徒もいる。だからこそ、上位に来るのは伐刀者としての能力が優れている者のみなのだ。

 

 

 真琴に追い詰められた鈴木が口にする。

 

「お、お前は一体何者なんだ!何故これほどの力を手に入れたんだ!?優秀な能力がお前にはあるのか!?」

「ちげぇよ、俺はただ信念を抱いて師匠達に技を教わり、努力し続けただけだ」

「ど、努力何かでそんな力が手に入るもんか!」

 

 その鈴木の言葉は努力をしている全ての人間に対して、失礼この上ないものだった。そして、真琴の怒りを買うに十分でもあった。

 

「お前、馬鹿か?」

「な、なにぃ!?」

「お前ってさ、努力ってしてるのか?」

「あ、当たり前だ!自分の能力の努力を怠った日は無い!」

「・・・それは、一日にどのくらいだ?」

「20回・・・」

「あ?聞こえねぇよ」

「20回位だ!能力の努力何てこんなもんだろ!?」

「たった20かよ、そんなだから負けるんだよ」

「な、なんだと!?」

「お前、才能がある奴に負けるのは当然とか思ってるだろ?」

 

 真琴のその言葉に鈴木は押し黙ってしまった。この場で沈黙するという事は肯定すと同義だ。 

 

「図星か・・・そりゃそうだよな、自分の事諦めてるんだもんな、仕方ねぇよな」

「お、お前に何が分かるんだ!!落第伐刀者の分際で!!」

「黙れよ、才能がある人間が努力してねぇとでも思ってんのか?」

「うぐっ、それは・・・んじゃどうすりゃいいんだよ!凡人は何すりゃ才能ある奴に勝てるんだ!!」 

「❮努力をしろ❯」

「な、なに?」

「お前がやってる努力の量を増やせ。十の努力が足りないなら、百の努力を!百でも足りないなら、千の努力!何故武術が何前年も渡って受け継がれて来たと思う?それは武術の世界において❰努力は才能を凌駕する❱からだ!!」

「努力は才能を凌駕する・・・」

 

 

 真琴はこの会場中に聞こえる様に言った。その言葉が心に響いた生徒はどれくらい居ただろうか?

 それは神ですら分からないだろう。だが一人だけ、たった一人だけ心に響いた生徒がいたのだ。それは・・・。

 

「千の努力・・・」

 

 真琴が技の構えを取る。

 

「お前に一つ見せてやるよ、俺が必死に努力して、編み出した俺だけのオリジナル技をな!!」

 

 そういうと真琴は鈴木に向かって突撃した。鈴木の懐まで行くと、思いっきり鈴木を宙に蹴り上げた!

 それを見ていたステラ達が驚きの声を上げる。

 

「け、蹴りで人を宙に打ち上げた!?」

「人を打ち上げる何て、真琴さんの脚力は尋常じゃない!!?」

「(真琴、あれをやるんだね)」

 

 一輝だけが、真琴が放った技を理解していた。

         

 

「あ、アイツは何処だ!?」

 

 4メートル程、打ち上げられた鈴木は真琴の姿を探している。だが下のステージに真琴の姿は無い。それもその筈、真琴は下に居たのではない、鈴木の上に居たのだ!

 

「なっ!?」

「いつの間に移動してたの!?」

「気付かなかった・・・」

 

「くっ・・・!」

 

 鈴木は咄嗟に自身の固有霊装打刀を使用し、防御を選択していた!だが真琴には読まれており、その防御もろとも崩す準備を始めた!

 

 

 

 

 

 

「❰近衛流・風林寺千木落とし❱!!」

 

 

 

 

 

 真琴は宙を蹴り、切りもみ回転をしながら鈴木に向かって、突進を開始した!!

 

 

「マコトが宙を蹴った!?」

 

 ステラが、いや、訓練場に足を運び模擬戦を観戦していた誰もが真琴が放った技に驚嘆した!!

 

 

「チェイサー!!!」

「ぐおおおおお!」

 

 鈴木の防御は瞬く間に崩され、真琴の回転攻撃が腹部にヒットし、ズドォーン!という衝撃と共に、そのままステージへ叩き落とされた!

 真琴はバク転をしながら、鈴木が落ちた場所を離れた。その技の威力は凄まじく、ステージには鈴木型のクレーターが出来る程だった。そんな技をまともに食らった鈴木は、白目を向いて気絶した。

 

「決まったな、そこまで!勝者、近衛真琴!」

 

「やったわね!イッキ!」

「うん」

「真琴さんなら当然ですね」

 

 

「まさか、鈴木達が・・・」「落第の拳«ワーストフィスト»アイツ、何者だよ・・・」「ひ、人が宙を蹴っただと・・・」「くそっ・・・」

 

 他の生徒達が悔しさを噛み締めている所に、真琴がこう言い放つ。

 

「ご来場の皆さん、コイツらと同じ様に、俺の仕合に納得出来てない連中は大勢いる事でしょう。俺は何時なんどき、どんな奴の模擬戦でも受けてやるよ!コイツらみたいになりたいんだったら遠慮なく、俺に話し掛けてくれ、宜しくな?」

 




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BATTLE.24 珠雫の信念

こんにちは、紅河です!

やっと加々美を出せました!
オリジナル展開が続きましたが、次回から本筋に戻ります!
今回は短いですが、お楽しみ下さい!


「良いですよっと、送信」

 

 真琴が生徒手帳で刀華と連絡を取りながら、一人訓練場の控え室で待っていると、珠雫とアリスが入ってきた。

 

「真琴さん、お疲れ様です」

「お疲れ様」

「ん?珠雫とアリスか。あれ?一輝達は?」

「お兄様達なら、真琴さんの為にドリンクを買ってくるそうです」

「お、そうか、悪いな」

「それにしても、貴方、五人相手に無傷で尚且つ、一撃で倒すとか本当に何者なの?」

「アリスのいう通りですね、私もそう思ってました」

「何者って言われてもなぁ・・・必死に努力して技磨いたとしか言えねぇなぁ」

「だからってあれは強すぎよ・・・」

 

「ま、一つだけ言えるとすれば、俺は“信念”を持って戦いに臨んでるだけだな」

「“信念”?」

 

 珠雫が不思議そうに真琴に尋ねる。

 

「ああ、俺は決して相手を殺さず、大切な人を護る為、父さんとの夢を叶える為に武術を学び、戦っている」

「でもそれだけじゃ、あの強さの説明がつきませんよ?」

「仕方ねぇ、珠雫に一つ教えてやるよ」

「何ですか?」

「何も才能がある人間が、全て大成出来てる訳じゃない・・・。殆どの者はその才能に怠けて努力を怠る。さっき戦った鈴木達やこの学園の生徒が良い例だ。世の中で大成出来てる人間は皆、努力を続けて、一つの信念を持ってる。それがお前にはあるか?あるだけで大分違うぞ?」

「わ、私には・・・」

 

 珠雫は少し考えた。果たして自分にはあるだろうか?お兄様が止めてくれなければ、私は人として駄目になっていた。それをお兄様が止めてくれた。そんな兄を私は愛してしまった。家族に居ない者として扱われた兄に、全ての愛を私が捧げよう、女の愛も、家族の愛も全て!

 お兄様に認められる為に努力はしてきたつもりだった。でもこの真琴さんには手も足も出なかった・・・。私の愛は足らなかったのだろうか・・・。そんな事を考えていると、真琴が先に口を開いた。

 

「信念がなきゃ強敵に立ち向かえない、もっとも師匠の受け売りだが、それに、俺はお前の事を尊敬してるんだぞ?」

「・・・え?」

「一輝は家族に愛されずに産まれて来た。俺は一輝がどんな扱いをされてきたのか、一輝から話を聞いただけだし、直接見たわけじゃないから分からない。けどお前は、その実情を見てきたお前は!そんな兄の為に全ての愛を捧げよう、家族の愛も、女としての愛も!こんな覚悟を持てる奴は、中々居るもんじゃねぇ。お前が一輝と同じくらいに大切だと思える人間が増えれば、お前はもっと強くなる!だから、頑張れ」

 

 その言葉を聞いた珠雫は、ボロボロと泣き出してしまった・・・。自分のお兄様への愛は、他人に理解などされないだろうと思っていたからだ。だが一輝の元ルームメイトだった、近衛真琴が理解してくれたのだ。それだけで自分の心がほんの少し救われた気がしたのだ。

 

「お、おい!泣くほどなのか!?」

「・・・うっ、す、すみません」

 

 珠雫は持っていたハンカチで涙を拭いた。

 

「あらあら、女を泣かせるなんて、これは責任取らないとね?真琴!」

「ええええ!?」

 

 そんな会話をしていると、トントンと、扉を叩く音が聞こえた。

 

「あの音、い、一輝達じゃねぇか!?珠雫!扉を開けてくれ!」

「は、はい」

 

 珠雫が扉を開けると真琴が言った通り、一輝達が待機していた。

 

「お、お邪魔だったかな?」

「からかうなよ、一輝・・・。入ってくれ」

「うん」

「マコトがシズクを貰ってくれれば、私もライバルが減って楽なんだけどなぁ」

 

 ステラが珠雫を煽る様に言う。

 

「わ、私は真琴さんと恋人になるつもりはないですから!」

 

「・・・真琴、脈は無いわ。あんまり落ち込まないでね」

 

 アリスが真琴を慰める。

 

「別に気にしてねぇよ。俺にはもう好きな人居るしな」

 

「あら!」「!?」「ええええ!?」「そうなの?」

 

 一輝達がそれぞれのリアクションを取る。それを聞いた、ステラと珠雫とアリスが真琴に言い寄っていく。

 

「だ、誰なのよ!?その好きな人って!」

「私も気になるわぁ!」

「そ、そうです!教えてください!」

「い、一斉に話し掛けるな!」

「僕も真琴の好きな人は誰なのか、気になるなっ!」

「一輝まで!?からかうんじゃねぇよ!」

「教えなさいよ!」

「今、言うつもりはない!」

「ええーー!」

 

 困った真琴が話題を変える。

 

「それより、俺のドリンクは?」

「ああ、そうだったね。はい、スポーツ飲料を買ってきたよ」

「おう、さんきゅ。いつも気遣わせて悪いな」

「ううん、気にしないで。大切な友人だからね」

 

 そんな二人を見ながらステラ達が部屋の隅に集まり、ひそひそ話を始めた。

 

 

「ねぇ、もしかして真琴の好きな人ってイッキじゃないよね?」

「私もそんな感じします、真琴さんって全然自分の事話さないんですもん」

「でもショッピングモールでノンケって言ってたわよ?」

「マコトだもの、ブラフかもしれないわ・・・」

「否定できませんね」

 

 

「アイツら何話してんだ?」

「さぁ?」

「おい、そんなとこで話してないでそろそろ出るぞ?」

 

 

 ステラ達の談笑は訓練場を出るまで続いた。

 真琴達が訓練場の入り口に到着すると、眼鏡をかけたある少女が真琴達を待っていた。

 

「あ、先輩方、お待ちしてました!」

 

「誰だお前?」

「私、日下部 加々美っていいます!新聞部に所属してて、近衛先輩と黒鉄先輩の記事を作り為に、ここで待ってたんです!」

「記事?」

「はい!お二人が授業に出てないのにも関わらず、強者の伐刀者を打ち倒し、選抜戦を勝ち進んだ事を皆に伝えたくて!私、お二人のファンなんです!」

「おい、何で俺が授業に出てないこと知ってんだ?」

「え!真琴さん授業に出てないんですか?」

「ああ、前の理事長をぶん殴っちまってな。この事は一部の人間しか知らないはずなんだが・・・」

「何でまた理事長を殴ったのよ・・・」

 

 それを聞いたステラが呆れる。

 

「それには理由があってね、真琴が前理事長を殴ったのは僕のせいなんだ」

「え?何でイッキのせいなのよ?」

「それはな・・・・」

 

 

 真琴は自分が何故留年したのか、何故一輝のせいなのか、ステラ達に話して聞かせた。

 

 

「まさか、前理事長に脅されてたなんて」

「無茶しますね」

「俺の選択に後悔はない、かげがえのない友の為だからな」

「やっぱりマコトの好きな人って・・・」

「いや、俺ノンケだからな!勘違いするなよ!?」

 

「あのー」

「あ?何だよ日下部」

「取材の件は・・・」

「ああそれか、どうするよ、一輝」

「僕は受けてもいいけど、真琴は?」

「俺か?俺は・・・」

 

 真琴は暫く考えると、こう答えた。

 

「ま、出生とか詳しくは言えねぇけど、それでもいいんだったら」

「はい!それで構いません!」

「その話だけどよ、明日でもいいか?」

「え?それは良いですけど、この後何か用事でも?」

「俺はな」

「黒鉄先輩は?」

「僕の予定は無いよ」

「それじゃ、先に黒鉄先輩から話を聞きますね!」

「うん、宜しく」

 

「んじゃ、俺、そろそろ行くな」

 

「ええ」「うん、またね」「お疲れ様です!」「じゃあね、真琴、また明日」「はい」

 

 真琴は一輝達と別れ、とある場所へと向かった。

 その場所とは刀華達が待つ、別の訓練場だった。控え室に珠雫達が来る前に、刀華から仕合前の調整をして欲しいと連絡があったのだ。真琴はスポーツドリンクを何本か買っていき、刀華達が待つ訓練場へ走って向かった。

 

 

 

 




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BATTLE.25 更正

こんにちは、紅河です!

次回はプール回の予定です!
加々美にも活躍の場を与えたい・・・。

どうぞ、お楽しみ下さい!


「連戦連勝ー!黒鉄選手!五回連続で選抜戦を無傷で突破しました!もう落第騎士とは言わせない!!無冠の剣王«アナザーワン»だぁ!!」

 

「ふぅ・・・」

 

「やっぱり、先輩凄い!」

 

 真琴の模擬戦から十日程過ぎ、毎日の様に選抜戦は行われていた。真琴達の戦績はというと全戦全勝し、選抜戦を勝ち進んでいた。

 真琴達が教室で寛いでいると、新聞部の日下部加々美がクラスメートを連れて、一輝と真琴の元に来ていた。

 

「たくっ、刀華さんめ、いつも本気で来ることないでしょうに・・・」

「アハハハ・・・苦労してるんだね、真琴も」

「まぁな、模擬戦の後、刀華さんの調整を手伝ってたんだが、結局また引き分けちまった」

「戦績はどのくらいだっけ?」

「確か、130勝130敗だったかな?」

「雷切相手にまた引き分けか、流石真琴だね」

 

「先輩方!私達に武術を教えてください!」

「え?」

「先輩って俺らか?」

「はい!一つ年上ですし、なにより先輩方は強いですから!」

「武術を教えてくれだそうだが、どうする一輝?」

「僕は構わないよ、真琴は?」

「俺は弟子を取らない主義だ、悪いな。それに俺は無手だからな、教わるなら一輝の方が適任だろ」

「でもサポートくらいはしてくれるよね?」

「ああ、それくらいなら構わん」

 

「やったあ!」「「明日から宜しくお願いします!」」

「先輩方、有難う御座います!」

 

 すると加々美が一輝に抱きつき、その喜びを表現した。

だが一輝はステラの事を気にして、直ぐ様加々美から距離を取った。

 

「何よ、一輝の彼女は私なのに・・・」

 

 ステラはその様子を見て不機嫌になっていく。一輝は私の男だと言わんばかりの形相を心の中で行っていた。

 しかし、真琴達を見てつまらないと思っているのは他にも居た。それはクラスメートの男子達だった。真琴達、落第伐刀者が女子にちやほやされてるのを見て、嫉妬をしていたのだ。

 

「落第騎士が調子に乗りやがって」「いい気なるなよ」「だぶりのクセしてよぉ」

 

 その様子を見ていた他の男子生徒達が不満を溢した。

 

「はーい、帰りのホームルーム始めるよー」

 

 教室の扉を開けて入った来たのは真琴達の担任を任されている“折木有里”だ。

 この人物は一輝の恩人でもある。この破軍学園では入試試験が筆記試験、伐刀者能力試験と戦闘試験のどちらかを選ぶ事が出来る。一輝は黒鉄家の落ちこぼれだ。筆記や能力試験を行えば、直ぐ様黒鉄家が動き一輝を落ちる様に手を回すだろう。しかし、戦闘で試験官に勝利すれば話は別だ。一輝の強さを証明出来る為である。その試験官を務めたのが担任の折木有里なのだ。

 

 

「皆ー席についてね~、んじゃ始め・・・おぼぉ!」

 

「「「「「ゆりちゃああああん!!!」」」」」

 

 

 真琴達に挨拶を済ませると折木有里は血を拭きだし倒れてしまった。この折木有里は極度の虚弱体質で、一日に一リットルの吐血する体質で毎回病室に運ばれているのだ。

 

 

 

 そして日付は変わり、加々美達の約束を果たすため、真琴達は学園の中庭に来ていた。ここは真琴達がよく組手を行うところだった。真琴が授業に出れなくなってからというもの、この場所で鍛練に励むのが日課になっていたのだ。

 

「一輝、いつもの所で良いよな?」

「うん」

「お二人はいつも一緒に鍛練を?」

「ん?まぁな、最近はステラと一緒だが、ルームメイト時代はここで組手してたな」

「真琴に何回挑んでも、勝てない日が続いた事もあったなぁ」

「当たり前だろ?俺は妙手だぜ?弟子級に遅れを取るほど怠けてるつもりはねぇよ」

「凄い!近衛先輩は先輩より強いんですね!」

「一輝より武術位階的に上に居るってだけだ、それに負けた事だってあるぞ?」

「へぇー!」

「俺の師匠が言ってたよ、“力が強さではないように強者が必ずしも勝者ではない”ってな」

「成る程!メモメモっと。今日は一体何を私達に教えてくれるんですか?」

「今日はインナーマッスルの使い方と体幹の大切さを教えるよ」

「ふむふむ」「インナーマッスル?」「体幹?」

 

 クラスメート達が疑問符を浮かべている所に、側にいた真琴が説明をする。

 

「インナーマッスルとは内側の筋肉の事だ。この筋肉が備わってるお蔭で人間は複雑な動きを行うことが出来る。つまり、インナーマッスルを鍛える事で、動作の向上を図る事が出来るってわけだ」

「へぇー!」「それじゃ体幹は?」

「体幹ってのは分かりやすく言うと胴体の事だ。人間の胴には普段使ってない筋肉が沢山有るからな、それを意識するしないで大分違う」

「今からそれを鍛えるトレーニングをやるからね」

「「はい!」」「宜しくお願いします!」

 

「んじゃ真琴、お手本を見せてあげて」

「りょーかい」

 

 そういうと真琴は片足を上げ、その場に立って見せた。

もう片っ方の片足は大地をがっしりと掴み、真琴の身体はまるで大地に根を貼る一つの大樹の様だった。

 

「凄い!眼を瞑ってるのに一ミリも動いてない」

「取り敢えず、これを30秒間やってみな。あ、目は瞑らなくていいから」

「はい!」「分かりました」

 

 クラスメート達が真琴の真似をしてやってみると、足は揺れ、あっという間に身体の体勢は崩れてしまった。それもその筈、普段使わない筋肉を使っているのだ。思うように身体が動かないのは当然である。

 

「近衛先輩、喋ってるのに全然身体が崩れてない!」

「そりゃ師匠達に鍛えられたからなぁ、このままなら何時間でも行けるぞ?」

「えええ!?」

「だって不安定な足場じゃねぇし、平坦の場所ならこんなもんだろ」

「流石、S+ですね、納得です」

「戦闘中は片足に力が掛かっている事の方が、ずっと多い。中国拳法では均等に体重を掛かっている事を“双重の病”として戒めてる程なんだ、ね、真琴」

「ああ」

「言っている事はよく分かりませんが、先輩が言った通りに書いておきますね!そういえば、近衛先輩は中国拳法も習っているんでしたね!」

「お前が理解しないと意味ないだろ・・・」

 

 

 真琴が加々美にツッコミを終えると、クラスメートである男子達が真琴達の元へやって来た。男子達は少し不機嫌な表情をしていた。

 

 

「おいおい、二人の落第伐刀さんよぉ!女性にちやほやされているからって調子に乗ってんじゃねぇぞ」

「大先輩気取りか!?ああん!?」

 

 すると、クラスメート達が自分自身の固有霊装を顕現させ、戦闘態勢をとる。

 

「何してんのよ!あんた達!」

「(全くここの生徒は懲りねぇなぁ・・・)」

 

 その様子を見ていた、真琴は呆れていた。

 一輝が男子達に話をしようと近付いた時、真琴がそれを止めた。

 

「ったく、一輝!」

「ん?真琴?」

「こいつらの相手は俺がするわ、お前はあの子達の事を見てやれ」

「真琴、有難う」

「つーわけで俺が相手だ。同じ落第生だし、文句ねぇだろ?」

「ああ、構わんぜ。五人に勝てると思っているのか?」

「(コイツら、この前の俺の模擬戦見てないのか?ま、好都合だが)愚問だな、纏めて掛かって来いよ・・・」

 

 真琴は前羽の構えを取りながら相手を観察し、分析していた。前に戦った鈴木達は真琴の一つ上の学年だ。だがクラスメート達は同じ一年、真琴とのレベルの差は歴然だった。

 梁山泊では多人数戦闘も踏まえて教わっている。この程度の人数ならば、倒すことなど造作もないのだ。

 

「オラァ!」

 

 一人が真琴に向かって斧を振り下ろす!しかし真琴はそれをかわしながら、空手の山突きを放つ。続けざまにクラスメート達が攻撃を仕掛けるが、真琴には掠りもしない。制空圏を纏っていた為、その攻撃を裂けながら相手にカウンターを捩じ込んでいった。気がつけば、リーダー格である真鍋だけが残っていた。

 

「あ、有り得ねぇ!」

「さて、最後はお前か・・・」

「くそ!」

 

 急いで真鍋が固有霊装の銃を構えるも、あっという間に真琴に近付かれた。そのまま真鍋の顔に寸土の正拳突きを放ち、その拳の勢いに負けたのか真鍋は気絶し、戦闘は終了した。

 

「おいおい、これでお仕舞いかよ・・・」

 

 

 

「おい、起きろ」

 

 真琴が真鍋達を揺らしながら起こしていく。真琴は怪我をしない程度に威力を留めておき、直ぐ様起きれるように手加減をしていたのだ。

 

「んあ・・・」

「気が付いたか?」

「わ、落第の拳«ワーストフィスト»!」

「んで、お前等は何の目的だったんだ?稽古の邪魔をしやがって・・・。どうなるか分かってるよなぁ?」

 

 顔に傷がある男が真鍋達に迫って来ているのだ。恐怖しない方が可笑しいだろう。普通なら逃げ帰るところだろうが、真鍋達は意外な行動をとったのだった。 

 

 

「「「「「す、すみませんでしたあ!」」」」」

 

「俺たち、女性にちやほやされてる先輩達が羨ましかったんです!」

「さっきの行いは謝ります!」

「俺らにも武術を教えてください!」

 

 それを見ていた加々美が一言言った。

 

「調子よすぎ・・・」

 

「一輝ー!こう言ってるがどうするよ?」

「そう言う事なら良いよ、一緒にやろう!」

 

「「「「「はい!お師匠!」」」」」

 

「(一輝め、白浜師匠に似たお人好しだなぁ・・・。師匠の高校時代もこんな感じだったのか?)」 

 

「あのー」

 

 真琴が物思いに耽っていると、一輝の元へ他の女性生徒達が話し掛けて来た。

 

「私達も混ぜてくれませんか?」

「勿論良いよ!君たちも片足立ちからやってみよう!」

 

 

 そんな真琴達の光景を陰から覗き見している、生徒が一人いた。それは真琴に模擬戦を挑んだ鈴木だった。

 

「あいつらいいな、俺も混ざりたいが、近衛が関わるなと約束してしまったし、どうしたものか・・・・」

 

 鈴木は前回、真琴に勝負を挑みボロ負けしているのだ。そして真琴が模擬戦受ける条件として出したのが、“二度と真琴と関わらない”というものだった。

 その為、どうしていいか分からずただ見ているだけになってしまったのだった。

 

 真琴達が他の生徒達に武術の教える事になってから、数日がたった。あれから人数も増え、中庭では通行の邪魔になってしまう為、近くの森に少し広い所があり、そこで鍛練をしていた。

 

「随分増えたわね」

 

 その人数は三十人程までになっていた。

 

「あれから色々あってね」

「ね、ねぇイッキ!」

 

 ステラが照れつつも二本のスポーツドリンクを手に持ち、一輝に話し掛けようとしていた。

 

「何?ステラ」

「あ、あのね、そのぉ・・・喉渇かない?」

「それは確かにね」

 

 

 ステラは勇気が出せずしどろもどろしていた所に、ドリンクを持った珠雫が表れた。

 

「お兄様!ドリンクです!」

「ん?ああ、有難う!珠雫!」

「あっ・・・」

 

 ステラがその光景を見て驚きの表情を浮かべて呆けている。一輝はゴクゴクと飲み進んでいく。

 

「フフン!」

「プハァ!珠雫助かったよ」

「お兄様、珠雫っぽい味はしました?」

「やけに具体的な冗談だねぇ・・・」

「アンタもしかして!」

「ドリンクに口なんてつけませんよ?ええ、してませんとも」

 

 したり顔で珠雫がステラを見つめている。

 

「ステラさんはドリンクを持って何をしてるんですか?」

 

 ステラを煽りながら珠雫が続ける。

 

 

「え!?これ!?じ、自分で飲むためよ!すっごく美味しいわこれ!」

「それ一本だけ私にくれませんか?」

「え、べ、別に良いけどシズクが飲むの?」

「貴女には関係ないですよ、ドリンクありがとうございます。それより、お兄様、後で私にも剣を教えてください!」

「でも、家では小太刀の師範が居たはずじゃ」

「お兄様を家に居られなくした、あの人達に教えを請う事はありません!」

「分かった」

 

 ドリンクを飲み終わったステラが、声をあらげてながら一輝に話し掛ける。

 

「シズクに教えるなら私にも教えなさいよ!」

「え?ステラにも?」

「何よ嫌なの?」

「えっと、それは」

 

 だが一輝はステラに教えるのを出し渋っていた。何故なら一輝にとってステラとはライバルなのだ。だから教えたりはしたくない、ステラが自分を超える者であって欲しいから。

 

「いいわよいいわよ、イッキに教えて貰えなくたって平気だもん!本当は教えて欲しくなんてないしー!ちょっと言ってみただけだしーイッキのバカーー!」

 

 ステラはいじけながら走り去ってしまった。

 

「(ステラさん、素直じゃないですね・・・)」

「ステラ・・・」

 

 ステラの事を心配な表情で見つめる一輝。

 

「それより、お兄様、真琴さんは何処に居るんですか?」

 

「え、真琴?真琴なら奥の方で技の修行してると思うけど・・・」

「分かりました、有難うございます!」

 

 珠雫がそう言うと真琴の方へ向かって行ったのだった。

 その頃、真琴はというと・・・。一人、大きい木に向かって技を放ち続けていた。その技とは真琴が考案中の新技であった。

 

「❰近衛流・風林寺押し両手❱!!」

 

 真琴が拳から放った凄まじい衝撃破と風が木を襲い、辺り一面の葉っぱが空を舞っている。

 この技は梁山泊最長老“風林寺隼人”の百八つの奥義の一つ、押し一手を真琴なりにアレンジしたものだ。先日、鈴木達の模擬戦で披露した技も、風林寺隼人の実の息子“風林寺砕牙”の千木車を発展させたもの。基礎を着実にやって来た、真琴だからこそアレンジすることが可能なのだ!

 

「やっぱり、長老みてぇなデカイ衝撃破は出来ないか・・・」

 

 

 長老が放つ押し一手は、並みの人間を飲み込む数メートル程の衝撃破を出すことが出来ていた。真琴の実力は妙手に位置し、気を掌握してるといっても未熟な武術家にはかわりない。その為、真琴が放つ押し一手の技の規模は小さく、精々50㎝程であった。その幅を補う為、真琴は押し一手を両手で放っていたのだ。

 

「まだ、技とはいえねぇな・・・。もっと強くならねぇと」

 

 突然、ボキッという木を折る音が聞こえた。

 

「誰だ!」

 

 茂みから姿を現したのは、なんと真琴の仕合に納得せず、あろうことか模擬戦を挑んで来た鈴木だった。

 

「お前は確か・・・鈴木だったか?」

「ああ」

「何でお前が此処に・・・というか俺に関わるなって約束したよな?」

「それは・・・」

「なら・・・」

「お前を馬鹿にして、すまなかった!」

 

 すると、鈴木は真琴に土下座をして謝って来た。

 

「何のつもりだ?」

「俺は今まで馬鹿な事をしてきた。中川と連れ添ってパシリしたり、かつあげをしたりして、低脳伐刀者を弱者だと愚弄してこれまで生きてきた。だがそれは間違っていた!それにお前達は違う、決して弱者なんかじゃない!俺は、お前の模擬戦をして気が付いたんだ!努力を続ける事こそが俺達、学生の本分だって!模擬戦での事は謝る!だから俺に武術を教えてくれ!」

 

「・・・・」

 

 真琴はその鈴木の行動に、少し驚きつつ喜びを感じていた。この破軍学園に入学してからというもの、底辺伐刀者を馬鹿にするのがここの生徒達の日常だったのだ。だが一輝や真琴が選抜戦で活躍してから、武術を教わりたいと言ってくる生徒が徐々に増えてきたのだ。これは生徒達の考えが変わってきた証拠と言えた。

 しかし、来るのは一輝の方ばかり・・・。真琴に生徒が寄り付く事は余りなかった。それは生徒達が真琴の顔を怖がったからだ。

 真琴には小さい頃に“とある事件”で付けられた消えない傷がある。鼻から右頬にかけて斜めの傷だ。それを見た生徒は話し掛けず、一輝ばかりに質問をしていたのだった。

 そして、鈴木達や中川と戦う時に真琴が意図していた事が漸く実を結んだのだ。それは“更正”させること!それがやっと現実のものになったのだ。

 

 

「顔、あげろよ」

「え?んじゃ・・・」

「いいか、お前がやって来た事は決して消える事はないからな」

「・・・ああ、分かってる」

「お前、パシリやかつあげした奴等の事は覚えてるか?」

「ん?ああ覚えてるけど」

「今日じゃなくてもいいから、今までの事、そいつらに謝ってこい」

「!?」

「・・・それに武術を習いたいなら俺じゃない、一輝だ」

「黒鉄に?」

「ああ、お前は確か固有霊装が打刀だったな?」

「よく覚えてるな」

「対戦相手だし、それくらい当然だろ。それに俺は無手の武術家だ、道場では刀なんかも習ってはいたが、固有霊装が手甲とすね当てだからな、その技が使えない。それに剣の腕なら一輝の方が俺より上だ」

「分かった、黒鉄の所だな」

「あっちの方で片足立ちをやってるはずだ、一輝に話し掛ければ喜んで受け入れて貰えるだろうぜ」

「近衛!俺の厚かましい願いを聞いてくれて有難うな!」

「おい、お前の下の名前は?」

「え?名前?」

「ああ」

「俺の名前は、晴比古、鈴木晴比古だ!」

「ん、分かった、晴比古だな。学年は上だが、同い年だしお互いに呼び捨てでいいよな?」

「勿論だ!宜しくな真琴!」

「おう」

 

 鈴木は勢いよく一輝の元へ走り去ってしまった。鈴木が真琴に話し掛けるにはとても勇気がいる事だっただろう。模擬戦をして、関わらないという条件を出され、それを受け入れたのだから。だがそれを破っててでも真琴に武術を習いたかったのだ。ならば、それを汲んでやらねば真琴の活人拳が廃るというものだ。

 

「(へっ、嬉しいものだな、友達が出来るっていうのは・・・)」

 

「真琴さんって優しいんですね」

「うわあー!!って珠雫か、急に話し掛けるんじゃねぇよ!危うく攻撃仕掛けたぞ!」

「関わらない事を約束させたのに、その人に懇願されたからって願いを受け入れるなんて、普通なら断るところですよ」

「まぁな、だが師匠達ならこうしてた筈さ」

「甘いですね」

「これが活人拳ってもんさ、つかお前は何しに来たんだよ。一輝達の所に居たんじゃなかったのか?」

「さっきまでは居ましたよ、これを届けに来たんです」

 

 すると、珠雫はステラから貰ったスポーツドリンクを真琴に手渡した。

 

「スポーツドリンク?気が利くじゃねぇか、さんきゅ」

「実は、真琴さんに一言言いたい事があって」

「ん?何だ?」

「私、真琴さんに感謝してるんです」

「あ?どういう事だ?あ!ケーキの事か?」

「それもありますけど、違います」

「ケーキじゃなかったら、飯をご馳走したことか?」

「それも違います!一旦食べ物から離れてください!」

「んじゃ何だよ」

「それは、貴方が私の愛を理解してくれたからです」

「・・・その事か、別に感謝されるいわれはないけどなぁ」

「私の愛は常人には理解されないものと思っていました。だけど、アリスと真琴さんだけは理解をしてくれた・・・。控え室で真琴さんに尊敬してるって言われて、私の心が満たされたのを感じたんです」

「だからあの時泣いてたのか」

「はい」

「けど、一輝はステラの事を・・・・」

「ええ、分かってます。それについては、いずれ私なりの答えを見付けようと思います」

「そっか、その答えが見付かるといいな」

 

 珠雫の覚悟を聞いた真琴はただひたすらに感心していた。何故なら、珠雫の恋は決して報われる事は無いからだ。一輝はああ見えて一途なのだ。一途にステラの事が好き好きでしょうがない、そして一輝は鈍感だ。だからこそ、珠雫のこの恋愛は報われないのだ。

 これは一人の少女が自分の恋愛を無くしていると同義だった。そんな姿を見た真琴は思わず、珠雫の頭を撫でてしまったのだった。

 

「頭は撫でないで下さい!」

「良いだろ?減るもんじゃないし」

「髪が減ります!」

「何気にひでぇな・・・」

「んじゃやめてください!」

「仕方無いだろ、手近な所に頭があるんだから」

「いい加減にしないと怒りますよ!!」

「わかったよ、この辺にしておいてやるよ」

「全く・・・というか技の修行はいいんですか?」

「ああ、そうだったそうだった!やらねぇと」

「どんな技なんです、私に手伝えますか?」

「そうだなーこの技は気当たりを使うから、気当たりに慣れるにはもってこいだぞ」

「分かりました、どの辺に立てばいいですか?」

「えっと、数メートル離れて・・・」

 

 

 こうして、一輝達の鍛練が終わるまで続いた。

 真琴は技の修行を、珠雫は気当たりに慣れる為、受け流す術を見付ける為に・・・・。

 そして、真琴達が技の修行とほぼ同時刻に鈴木、改め晴比古が一輝の教えを受けていのであった。

 

 

 




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BATTLE.26 真琴の過去

こんにちは、紅河です!

一応、原作通りのストーリーですが、真琴の過去話がメインとなります!
それから真琴の対戦相手が決まり、原作には出ないオリジナルの生徒が出ますのでご了承下さい!

それではどうぞ、お楽しみ下さい。


「にしても、でっけぇ~市民プールだなぁ」

「そうだね、でも、大人数で律する感覚を訓練する為には、このくらい広い所じゃないと」

「そうだよなぁ、学園のプールは借りれなかったしな、仕方ないか」

「でも、近衛先輩、己を律する感覚って何ですか?」

「やれば分かるさ、それより早く受付済ませてプールに集合だ」

「?分かりました」

 

 休日を利用し、真琴達は市民プールに訓練しにやって来ていた。真琴達に教えを受けてたい生徒達は男女を含め、計30人程にまで増えていた。その為、一つの訓練をするのに場所をとってしまうのだ。しかし、各々の都合もあってか、参加した人数は18人程だった。

 全員が水着に着替え、プールサイドに集まり談笑しながら真琴達を待っていた。真琴と一輝以外の男子達の目はステラや珠雫、加々美達の水着姿に釘付けだった。

 

「へぇー日本のプールってこんなところなのね」

「やっぱり異国のお姫様は世間を知りませんねぇ!」

 

 珠雫が煽るようにステラに物申している。

 そして、いつもの様ににらみ合いが始まった。

 

「やめなさいよ、皆が見てるわよ」

 

 それを宥めるアリスもいつもの光景だ。それが終わると真琴達が姿を現した。

 

「わりぃな、待たせたか?」

「いえ、そんなことは!」

「それじゃ始めようか」

 

「全員、プールに入ってくれ」

 

 真琴が全員に指示を出し、一輝がこれから行う鍛練方法を説明する。

 

「これから皆にやってもらうのは、己を律する訓練だ。身体の力を抜いて水中に漂ってもらうよ」

「この訓練は肺活量を鍛えるって事もあるが、一輝が言った様に己を律する事が目的だ」

「己を律する訓練?それは何なんですか?」

「説明してもよく分からないと思うけど、やってみれば分かるよ。水中では自分自身をとても近くに感じられる、潜ったら自分の内側にだけ向けてみて。そして自分自身の音を聞いてほしい」

「(この訓練は自分自身の気を認識する為でもある、それに気付けば騎士として、一つ前に進む事が出来るだろう。一輝の❮一刀修羅❯はこの感覚を研ぎ澄ましたものだからな。俺は師匠が手解きをしてくれたから、自分自身の静の気を修める事が出来たが、師にもつかず一人でここに至るとは・・・一輝の器用さには驚かされるな)」

 

 

 生徒達は真琴達が言っている事を理解出来ずにいたが、取り合えず言われた通りに潜ってみる事にした。各々が水中に潜り始めると真琴や一輝がアドバイスをしたり、サポートをしてくれていた。

 そんな様子をステラが遠くから見つめている。ステラは訓練には参加していなかったのだ。参加しないのには理由がある。それは、ステラには“自分を超える存在で居て欲しい“ “最適化されているステラの体術に僕が教える事が少ない”と一輝に部屋で説得をされたからだった。だから一人、退屈そうに時間を過ごしていたのだった。

 

「私にも少しは構えばいいのに・・・」

 

 ステラが愚痴を溢しながらプールに足を浸からせている。それから少し時間が経ち、真琴は一輝に任せて、テーブルで休憩していた。

 

「ふぅ・・・(ま、参加した生徒達が全員弟子級、武術初心者で助かったな)」

「真琴、お疲れ様」「お疲れ様です」

「ん?珠雫とアリスか、お疲れ。お前達は良いのか?参加しなくて」

「ええ、少し身体が冷えてきたから休憩を挟もうと思ってね」

「成る程、身体を休めるのも大事だからな」

「真琴さんもこの訓練を道場でやってたんですか?」

「いや、道場ではやってねぇな。確か己を律する訓練をやったのは山籠りでだったかな」

「山籠り!?」「ワルイドねぇ・・・」

 

 珠雫とアリスが山籠りと聞いて、驚きの声をあげる。

 

「ああ、前に見せた制空圏の修行と共にな」

「あの制空圏って技には驚きました」

「魔力を使ったわけじゃないのに、バリアをはっていたなんてね」

「そういう技だからな(しかもこの技にはまだ“先がある”とはいえんな)」

 

「そのどんな修行内容だったんですか?というか山籠りって基本的には何をするんです?」

「修行内容は言えねぇけど、山籠りではまず生き残る事を最優先で考える、修行は二の次だ」

「へぇ・・・」

「それじゃ、修行しに来た意味が無いんじゃ?」

「・・・山籠りじゃ、食べ物は全て自給自足だし、住居なんかも自分で作らないといけないから大変だぞ?」

「食べ物は持っていかないのね」

「自分で・・・」

「ああ、それじゃ修行にならないだろう。それに危険な熊も出没するしな、自分の身は自分で守らないといけない」

「じゃあ何故、武術家達は危険な山籠りなんかをするんでしょうか?」

「それはな、新鮮な空気を吸えば傷の治りが早くなるし、それから高い集中力が得られるからだな。多くの武術家が山籠りを好むのはそういった効能の為なんだよ」

 

「山籠りにそんな意味があったなんて・・・」

 

 珠雫は驚嘆しつつ、真琴の話を聞いていた。

 そして、今まで気になっていた事を口にする。

 

「あ、そうだ、前から聞きたかったんですけど、真琴さんってどうして武術を始めたんですか?真琴さんって全然自分の事を話してくれませんよね」

「そういや、話してなかったな」

「真琴が梁山泊に弟子入りした経緯とか、そこら辺を聞きたいわ」

「仕方ねぇ、他の奴等には話すなよ?」

「分かりました」「任せて」

 

 真琴の顔が次第に真面目な顔付きに変わっていく。いつもと違う表情を見た二人は口を閉じて、真琴が話すのをじっと待っていた。そして覚悟を決めたのか、真琴がその重い口を開いた。

 

「んじゃ話すぞ・・・。8年前、梁山泊に弟子入りする前に俺は、8歳の頃に両親を亡くしている」

「えっ・・・」「!?」

 

 二人にとって驚愕の事実だった。そんな二人とは裏腹に尚も真琴は話を続ける。

 

「とある“事件”で、俺の両親は殺されたんだ」

「あっ・・・」

「・・・すみません」

 

 珠雫は罪悪感から真琴に謝ってしまった。

 

「・・・別にいいさ、お前達には話してもいいなって思ったから話したんだし、続けても良いか?」

「・・・はい」

「真琴、辛かったら言わなくても良いのよ?」

「構わない、二人が聞きたいってんなら話すさ。でなその現場には俺も居てな、この顔の傷はその時の記念品だ・・・。両親が俺を犯人の攻撃から身を呈して守ってくれたお蔭で、今こうしてお前達と過ごせているんだ」

「・・・それでその犯人は捕まったんですか?」

「いや、捕まってない。どうやら大きな犯罪組織らしくてなニュースにはならなかった、親族と一部の人間しか知らない」

「真琴はその犯人に復讐したいとは思わなかったの?」

 

 アリスはいつになく真剣な表情をしている。その発言は少し重く感じた。

 

「・・・ないといえば嘘になるが、だが復讐したところでなんになる・・・。俺の父さんと母さんは犯人を殺したって帰っては来ない、俺が新たな殺人者となるだけだ」

「・・・真琴は大人なのね」

「ではその時に伐刀者として覚醒を?」

 

「いや、俺は生まれながらの伐刀者だ」

「え?誰か血縁関係者が伐刀者だったんですか?」

「ああ、俺の父が伐刀者だ」

「真琴さんのお父さんが?」

「名前は“近衛真一”虹色の騎士«レインボーバトラー»名の知れた伐刀者だ」

「(まさかあの“近衛真一”!?)」

「ん?どうかしたのか?アリス」

「・・・何でもないわ」

「(もしかしてアリス、父さんの事を?梁山泊の事も知ってたみたいだし、アリスも“こっち側”なのか?)」

 

「確か、虹色の騎士«レインボーバトラー»って黒乃理事長や夜叉姫と同級生だった?」

「よく知ってんな」

「私は黒鉄家です、高ランクの伐刀者の情報なら入ってきますよ」

「・・・近衛さんの有名な能力は“何でも好きな能力を創る事が出来る”だったかしら?」

「ああ、けど創れるっていってもその能力を得意とする伐刀者には劣るがな・・・」

「それでも強い事には変わりないですよ、何でも創れるんですから・・・」

「それじゃ真琴の能力も?」

「そうだ、父さんと同じさ。だから俺の固有霊装は『玉鋼』って言うのさ」

「その名前とどんな関係が?」

「これは、手甲やすね当てを創る時に必要な鉄の材質の名前から来ている」

「鉄の材質?」

「ああ、その最も最高に純粋な鉄の事を『玉鋼』呼ぶのさ」

 

「同じ創る繋がりで玉鋼なのね」

 

「ああ。父さんは多くの伐刀絶技を持ってる事でも有名だった。俺も父さんが編み出した技を受け継いでいるが、魔力量が足りなくて今はたった一つしか使えない」

「一つ?真琴さんにも伐刀絶技があったんですね。使わないから無いのかと思ってました」

「それには理由があるのさ」

「理由?」

 

 二人が疑問を浮かべる。

 

「ああ、伐刀絶技は因果無効化«ワールドキャンセラー»有りとあらゆる因果関係の無効化っていう技さ。限定的な技だから使えないんだよ。これは父さんと母さんが、戦うための武器が必要だろうと俺に残してくれたんだ・・・。母さんからは空手を、そして父さんからこの伐刀絶技を受け継いだんだ」

 

「「・・・・」」

 

 

 それを聞いた二人は言葉を失った。限定的とはいえ、その技は能力の無効化なのだ、弱いわけがない。

 真琴の夢は父と約束した日本一の伐刀者になること。その事を珠雫とアリスは真琴から聞かされていた。真琴の両親は真琴の伐刀者として、戦う未来を見越して、育てていたのだ。それは両親の真琴への愛情があってこそ成り立つものだった。その両親のとてつもない真琴への愛情を知った二人は言葉を失っていたのだ。

 

「貴方の両親は偉大な人なのね・・・子供の為に命まで棄てて貴方の未来を護ったんだから」

「ええ、親の鑑ですね・・・(あの人もこれくらいしてくれれば・・・お兄様も・・・)」

 

 珠雫は自分の父親の事を考えていた。父親ですら一輝の事を居ないものとして扱っている。父としてあるまじき失態だろう。真琴の父の様に振る舞って欲しいものだと、考えていたのだ。

 

「真琴さんの両親は分かりましたが、父方と母方は?両親が亡くなったら普通、どちらかの家に行くのでは?前に道場で育ってきたって仰ってましたが・・・まさか!」

「珠雫の察しの通りさ、父方と母方は俺を引き取るのを拒否したんだ。伐刀者の俺を化物だと罵り、厄災の子供として忌み嫌いながらな」

「・・・酷い」

「人のやる事じゃないわね・・・」 

「大事な我が子を殺した様なもんだからな、それに元々両親の結婚に納得してなかったみてぇだし、伐刀者の事も嫌ってた」

 

 一般人から見れば伐刀者という存在は、異能を使う化物だ。嫌われても当然だろう・・・。

 

「だからって実の孫なのよ?少しは動くべきじゃないの?」

「ま、でもそいつらが俺を拒否ってくれたから梁山泊の家族と会えたんだ、今となっては感謝してるがな」

「真琴さんは強いですね・・・」

「そんな事は無いさ・・・」

「でもどうやって梁山泊に?前から知ってたの?」

「いや、それは母さんの親友に紹介されたんだよ。俺は小学校の頃、父さん達の事件を同級生に誤解されて苛めを受けてた。それを母さんの親友の那緒さんにその事を相談したら、梁山泊を紹介されて弟子入りを果たしたのさ」

「真琴さんが苛めを受けていただなんて、あんまり想像できませんけど」

 

「だろうな、でも俺は元々クラスで浮いた存在だったんだよ。勉強や運動神経、一通り出来たからな、だからいじめたんだろうぜ」

「苛めは生物が一定量集まった時、優劣をつけて自分の立場を確立させる為に起きる現象の一つだものね」

「その通り」

「真琴が浮いた存在だったなら、起きても不思議じゃないわ」

 

 珠雫が真琴に質問をながかけた。

 

「その、那緒さんとは何処で?」

「ん?那緒さんとはたまに実家で会ってたりしてた、親切なお姉さんだったかな。父さんと母さんの葬式にも出席してた。その那緒さんとの思い出のエピソードが葬式であってな」

「葬式で?」

「ああ、父さんと母さんの葬式では、俺の身柄を何処に預けるかで父方と母方は揉めてた、双方いがみ合いつつ、時々俺の悪口も挟みながら。んでその光景を見かねた那緒さんが『真琴の事を真剣に考えられない様だったら、いい加減やめなさい!美琴や真一の目の前でこれ以上の醜態をさらさないで!真琴は私の方で何とかします、貴方達はもう引っ込んでなさい!』ってな事があってよ」

「格好いいわね、その人」

「俺の憧れの人さ、そして俺は貴徳原財閥の養護施設へ預けられたんだ」

「施設出身だったんですね」

「まぁな、それから苛めの事情と施設に預けられた訳を師匠達に話して、梁山泊の師匠達が俺を施設から引き取り、そのまま俺は弟子入りして道場に住む事になって、そこで武術を学び、今に至るというわけだ」

 

 一通りの話を聞いた珠雫が一言口にする。

 

「・・・・壮絶な人生ですね」

「真琴、辛いときはいつでも私達を頼るのよ?」

「ああ、そうさせてもらうさ」

「(真琴は本当に強いはね・・・身体や騎士としてもだけど、何より“心”が強い。私にはなかった“心”の強さを持ってる)」

 

 

 アリスは真琴の事を感心しつつ、昔の自分を重ねていた。自分には無かったものが真琴に有ることを、羨ましく思いながら・・・。

 

 

「暗い長話に二人を付き合わせちまったな、帰りに何か奢ってやるよ」

「良いですよ、奢らなくて。私達から聞きたかったんですし」

「いいんだよ、奢らせてくれ・・・せめてものお礼だ」

「分かりました、んじゃ今度美味しいスイーツでも奢ってください」

「良いわね、うんと高いところにしましょ?」

「おい、高いのはやめろ!財布が死ぬから!」

「冗談よ、ウフフ」

「冗談に聞こえないぜ・・・」

 

 一方その頃、一輝達はというと・・・。

 大事な話をするといいつつ、噴水の中で痴話喧嘩を行い、終いにはキスをしていたのだった。だが、これを知るものは今のところはいない。その後、一輝とステラがより一層バカップルに近付いたのはいうまでもないだろう。

 そして時間が過ぎ、帰る時間が迫ってきていた。各々が着替えを済ませ、バスに乗り込み破軍学園へと帰宅途中の事だった。すると一斉に真琴と一輝とステラの生徒手帳の通知着信が鳴り、次の選抜戦の対戦相手を知らせるメールが届いたのだ。

 

「黒鉄一輝様

 代表選抜戦第六仕合 破軍学園生徒会庶務 位階序列3位

 兎丸 恋々様に決定致しました」

 

「ステラ・ヴァーミリオン様

 代表選抜戦第六仕合 破軍学園生徒会書記 位階序列4位

 砕城 雷様に決定致しました」

 

「近衛真琴様

 代表選抜戦第六仕合 破軍学園3年2組 位階序列10位

 剛鐵寺 心陽様に決定致しました」

 

「生徒会役員!?」

「へぇ一輝達の相手は恋々さんと雷先輩か、面白そうだな」

「強いの?というかやっぱり知ってるのね」

「そりゃな、生徒会に遊びに行くこともあったからな。けど強さは俺が教えちゃつまらんだろ、自分の目で確かめな」

「真琴の相手は誰なの?」

「俺か?俺は剛鐵寺心陽さん?みたいだな」

「女性なのか男性なのか分からない名前ね・・・」

「確かその人、鋼鉄人«メタルマン»の二つ名で知られてる伐刀者だよ」

「んじゃ男なのか、まぁ、男だろうと女だろうといつも通りに叩きのめすだけだぜ!」

 

 真琴は仕合の決意を固め、プールに参加した全員を乗せるバスの足は、着々と破軍学園へ進んで行ったのだった。

 




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BATTLE.27 六徳の感





「さぁ!やって参りました!代表選抜戦第六仕合!本日は黒鉄一輝選手VS兎丸恋々選手の仕合です!!落第騎士«ワーストワン»で知られる黒鉄選手が五戦連勝!しかも無傷で突破しております!そして、お相手の兎丸選手も同様です!さてどちらが本戦出場の切符を手にするのでしょうか!?」

 

「あの、真琴さん」

「ん?何だ、珠雫」

「お兄様は勝てるでしょうか?」

「心配なのか?」

「はい、相手は学園序列3位ですし・・・。速度中毒«ランナーズハイ»には自身の二つ名にもなった«マッハグリード»があります。走る速度はマッハを超えます、それに対応出来るものなのでしょうか・・・」

「心配ねぇよ、一輝には“ある技術”がある」

「“ある技術”?」

「仕合が終わったら教えてやるよ」

 

 真琴と珠雫が喋りながら仕合を待っていると、そこへ仕合を終えたステラがやってきた。

 

「お、ステラ仕合終わったのか。結果はどうだった?」

「勿論、勝ったわ!当たり前じゃない!」

「ふっそうか。雷先輩も破軍学園じゃ中々に強いんだがな」

「あの攻撃をまともに受けたら、やられてたかもね(私が先輩の技を真っ向から打ち砕いたからね!)」

「ふむ、ステラが雷先輩のクレッシェンドアックスを真正面から捩じ伏せたのか、成る程な」

「(ま、マコトに心を読まれた!?)」

「固いこというなよ」

「(他人の心を読むとか、ま、マコトに隠し事は出来ないわね・・・)」

 

 真琴は妙手に至っている。武術家は相手の様々な仕草や言葉等から相手の思考を読むことが出来るのだ。妙手以上の武術家相手なら未だしも、弟子級の心であれば読む事が可能なのだ。

 

「と、ところでイッキは大丈夫よね」

「問題ないさ、さぁ始まるぞ」

 

 真琴がそういうと戦闘開始のアナウンスが会場中に鳴り響く。

 すると、恋々が自身の能力を使い、先手を打った。数多の伐刀者を打ち倒した恋々の伐刀絶技«マッハグリード»を発動させたのだ!

 この技は自身の移動速度の累積することが出来る伐刀絶技。 恋々が停止さえしなければ、加速を維持し続ける事が可能で最大、マッハ2という驚異的な速度にまでになるのだ。そして、その速度のまま相手に突っ込む事で成り立つ技が«ブラックバード»!それが恋々最高の必殺技である。

 

「やはり、速すぎる!目で捉えきれない!」

「イッキ!」

「大丈夫だって・・・二人とも落ち着けよ」

「そんな呑気に!」

「一輝は避けるから、慌てんな」

「え?避ける?」

「ああ、黙って見てろ」

 

 その言葉を聞いたステラと珠雫は、その意味が分からなかったが、その数分後―目の当たりにする事となる!

 

「❮ブラックバード❯!」

 

 恋々が一輝の背中目掛けて、自身の最高最大の必殺技«ブラックバード»を打ち放った!!その速度は常人の目では捉えきれはしないだろう。勿論、真琴も、そして梁山泊の師匠達ださせ恋々のスピードを捉える事は出来ない。だがそれは“目では追いきれない”だけなのだ。何故なら・・・・。

 

「なぁっ!?」

 

 すると、恋々の攻撃が直撃する瞬間に、ひらりと身体を翻し、一輝がかわしていたのだ!かわした時に恋々の腕を掴み、体勢を崩させその場に伏せさせると、陰鉄を恋々の喉仏に向かって寸土目を行った。

 

 

「ま、参りました・・・」

 

「き、決まったー!!!黒鉄選手が兎丸選手、速度中毒«ランナーズハイ»を下しましたー!兎丸選手の«ブラックバード»を躱し、見事勝利を収めたのです!」

 

「か、勝ったの?」 

「お兄様・・・」

 

 珠雫は安堵の表情を浮かべる。

 そして、気になっていた事を真琴に質問をしたのだ。

 

 

「あの真琴さんさっき言っていた“ある技術”とは一体?」

「ある技術?」

 

 ステラがそれに便乗し、真琴に尋ねた。

 

「ま、それは移動中に話してやるよ、次は俺の仕合だからな」

 

 

 真琴達が控え室に到着すると、真琴はその“技術”の話を始めた。

 

「さっきの仕合で一輝が使用した技術は、❰六徳の感❱っていわれるものだ」

「「六徳の感?」」

「五感を極限化したものが第六感の感覚、すなわち❮勘❯だ」

「それって直感ですよね?それで攻撃を躱せるものなんですか?」

「そうだ、一輝がそれを証明しただろ?」

「それもそうなんですが・・・」

 

 未だに半信半疑な珠雫。

 

「でもシズクの気持ちも分かるわ・・・」

 

 

「・・・達人になるとこの感覚を、目では追いきれない動きを察知する“センサー”として武術に取り込んでいる。六徳とは数の単位で、刹那の10分の1が❰虚空❱、達人になるとさらにその10分の1の❰清浄❱へとレベルアップしていく。一輝は中学の頃から道場破りを繰返し、武術に関する多くの書物を読破し、技術を身に付けて来た。既にこの“勘”の武術利用を身に付けてても、おかしくないだろ?」

 

「・・・改めてイッキとのクロスレンジの実力差を感じるわ・・・そんな技術が武術にあったなんて、私初めて聞いたもの・・・」

「私もです・・・、真琴さんの武術知識の量も計り知れませんね・・・」

「二人が知らないものなんて、幾らでもある。武術に関して言えばな!さて、そろそろ俺は準備に入る、ここでさよならだ」

 

「分かりました」「勝つのよ、マコト!」

 

「当たり前の事を言うな!勿論、勝つさ・・・!」

 

 

 真琴はステラ達と勝利の約束をし、控え室に入っていった。

 そして、一時間後、真琴の第六仕合のゴングが鳴り響く!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁさぁ皆々様!先程の興奮さめやらぬなか、次の仕合が間も無く始まります!続いては近衛真琴選手VS剛鐵寺心陽選手の対決です!先に入場して参りましたのは剛鐵寺選手!二つ名は鋼鉄人«メタルマン»!ここまでの戦績は連戦連勝!果たしてこの勢いは止まらないのか!?そして、剛鐵寺選手の代名詞、“鋼鉄冑”«メタルティックスーツ»がその真価を発揮するのか!?」

 

 月夜見半月の見事な実況が会場を包み、その熱気を最高潮まで高めていく。

 その半月に紹介された剛鐵寺はというと、胸を躍ろさせながら真琴の到着を待っていた。真琴は低ランクながら破軍学園の数々の伐刀者を、ほぼ“一撃”で沈めて来ているのだ。そして、その一撃とは❮気当たり❯を使用して、相手を逃走させているのだ。これは強者の証明に他ならない。剛鐵寺は歴戦の猛者であり、戦闘好きという事で知られている。真琴の仕合が楽しみでしょうがないのだ。

 

「(近衛真琴・・・。落第伐刀者らしいが、あの東堂と引き分ける程の実力者、そして数多の武術を使いこなし、ここまでの勝ち上がって来た強者!この前の模擬戦を見たときから戦いたくてしょうがなかった・・・。全て対戦相手を一撃で葬り、人を蹴り上げ、宙を蹴り、気当たりを目の当たりにした俺は、生まれて初めての武者震いを味わった・・・。今からアイツの技を味わうのが楽しみだ)」

 

 

「やっと、入場です!近衛真琴選手がこの第五訓練場に入場してきました!これまで戦績は五戦連勝、全て相手を一撃で打ち倒しています!!近衛選手は数多の武術を修め、空手、ムエタイ、中国拳法、柔術を使いこなします!そして、気当たりといわれるを技を使用し、戦わずして勝利するという芸当までやってのけているのです!!しかも殆どの相手をこの“気当たり”のみで打ち倒しています!ついた二つ名が“皇帝の拳”«エンペラーフィスト»!!もう落第の拳«ワーストフィスト»とは言わせない!!」

 

「粋な実況だなぁ・・・恥ずかしいっちゃありゃしねぇ・・・」

「おい、近衛」

「なんすか、先輩」

 

 剛鐵寺は闘志剥き出しで真琴に話し掛けた。それに負けじと真琴は静かな闘志を剛鐵寺に放つのだった。

 

「お前、強いんだってな」

 

 その表情は笑みを浮かべ、嬉しそうだった。

 

「まぁ、それなりには、ですがね・・・」

 

 真琴は戦闘が始まる前に、剛鐵寺の戦闘能力の分析を終わらせていた。真琴の“観の目”は剛鐵寺のクロスレンジは弟子級開展である事を見抜いていた。様々な情報を読み取りこれからの戦術を組み立てていく・・・。

 そして、仕合が始まる前にそれは出来上がったのだった。

 

 

「それでは!両者が出揃ったところで仕合開始です!今回の解説は折木有里先生にお越しいただいております、宜しくお願い致します!」

「よ、宜しくねぇ~」

「先生、余り無理をなさらないでくださいね・・・」

「わ、分かってるよー」

「心配ですが、では開始のアナウンスお願いします!」

 

 

「来い!シュタール!」

 

「我が身を護れ!甲鉄陣玉鋼!!」

 

「Let's Go Ahead」

 




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.28 皇帝の拳«エンペラーフィスト»VS鋼鉄人«メタルマン»

こんにちは、紅河です!

今回の戦いを楽しみにしてる方が多くいる様で、嬉しい限りなんですがご期待に添えているでしょうか・・・。感想をいただけると嬉しいです!!
ではお楽しみ下さい!


「ねぇ、うた君」

「なぁに刀華」

「私、まこ君の仕合観に行きたいよぉ」

「駄目、生徒会長としての仕事が溜まってるんだから」

「ええええ・・・」

 

 刀華は露骨に落ち込んでいた。とても大切な“友人”である真琴の仕合を観れないのだから・・・。

 

「真琴君の仕合は恋々達が撮ってくれるから安心してよ」

「そうですわよ、会長。早く終わらせましょう、そうすれば間に合うかも知れませんわ」

「うぅ・・・分かった、頑張る」

 

 

 刀華が生徒会の仕事に精を出している頃、一輝とアリスが席を確保しているステラ達の元へ向かっていた。

 

「イッキ!早く早く!」

「ごめん、ちょっと遅れちゃった」

「私の仕合が少し長引いちゃってね」

「結果はどうだったの?」

「勿論勝ったわ、心配しないで、珠雫」

「それより、真琴の仕合開始時間は・・・」

「もう少し見たいですね」

 

 

 一輝達の出来事は真琴と剛鐵寺が入場する、数十分前の事である。

 

 

「両者睨み合いをしています、折木先生、この仕合両者はどのような動きをするのでしょう」

「二人とも得意なのはクロスレンジですー、近衛君は多くの武術を持っていますし、剛鐵寺君は鋼鉄の冑を持っています。どちらの技も至近距離が得意としていますから、クロスレンジの練度が高い方が勝者となると思いますよぉ~ゲホ・・・」

 

 

 有里は持病を多く持っている為、咳き込んでいる事はよくあることだった。それを心配そうに見つめる半月だったが、そんな事とは裏腹に剛鐵寺が先に仕掛けた!

 

 

「んじゃ、始めるか!近衛!」

「どうぞ・・・」

「鋼鉄武器«メタルウェポン»!」

 

 この鋼鉄武器«メタルウェポン»とは剛鐵寺心陽の持つ、有りとあらゆる武器を無の状態から創り出すという伐刀絶技。剛鐵寺が創り出す武器達は、どれも一級品であり事細かに創り出すため、剛鐵寺が持つ高い魔力制御でなければ成り立たない代物である。剛鐵寺は鋼鉄武器«メタルウェポン»を使用し、太刀を創り出した!

 

 

「へぇー・・・無から武器を創り出すとは・・・」

「まだまだこれからさ、俺を楽しませてくれよ、近衛!」

 

 剛鐵寺はそのまま真琴に向かい、攻撃を仕掛けた!剛鐵寺は多くの武術本を読み一輝程では無いにしても、剣術を身に付けている。そして、そのまま真琴に斬りかかる!

 真琴は絶対防御とされる❮前羽の構え❯をとり、攻撃に備えている。

 

「ソォラァ!」

 

 そのまま真琴に太刀を振り下ろす!!だがしかしっ!

 

「❰白刃流し❱!」

 

 

 剛鐵寺の一太刀は真琴に届くこと無く空を切った。真琴は白刃流しを用いて紙一重でかわし、剛鐵寺にカウンターを叩き込んだのだ!

 この技は古式空手の真髄の技の一つ。ステラと組手を行い、勝利した時にも使用している。

 普通であれば無手で武器使いと戦った場合、相手の攻撃に合わせ両手で“突いて”、“払って”いる間に、身体を斬られ敗北してしまう。しかし、この❰白刃流し❱は腕一本で攻撃と防御を同時に行い、最小にして最速の払いを瞬時に行うことで、相手の顔面にカウンターを叩き込む技なのだ!

 

 バコーンという衝撃が会場を包み込む。

 

「マコトの拳が相手に入った!?」

「決まったんですか!?」

「いや・・・」

 

 

 

「き、決まったー!近衛選手の一撃が剛鐵寺選手の顔面にヒット!!剛鐵寺選手は無事でしょうか!?」

「!?(成る程そういうことか・・・)」

 

 真琴は異変に気付いていた。

 その真琴の拳は確かに剛鐵寺の顔にヒットしていたのだ・・・。だが顔に“当たった”だけだったのだ。

 

「ああっと!剛鐵寺選手、傷一つありません!これは一体!?確かにヒットしたように見えましたが・・・」

「確かに近衛君の拳は剛鐵寺君に当たりました、ですけど当たる瞬間に剛鐵寺君が鋼鉄冑«メタルティックスーツ»を発動し、直撃を防いでいたのぉ」

 

 

 

「なんと!流石鋼鉄人«メタルマン»です!近衛選手の一撃を防ぎましたあ!その名は伊達ではない!!」

 

 

 拳を当てて真琴は一端後ろにバックステップをして、距離をとる。

 

「先輩、やりますね。俺の拳を瞬時にガードするとは、中々出来るものじゃないですよ(ふむ、剛鐵寺先輩と同じ実力でやってたけど、もう少し体内武術段階を上げた方が良さそうだな)」

「そうだろ?まさかあれを一度で躱すとはな・・・やはり、やるな!」

 

 真琴に刀が聞かないと見ると持っていた太刀の形状を変化させ、ジャベリンを形作る。それを持ち、今度は真琴の拳が届かない遠距離から戦う戦法に変えたのだった。

 剛鐵寺は突く、突く、突く!負けじと真琴はその攻撃を回し受けで回避し、更に中国拳法の化剄も駆使しながら回避、回避、回避、それを躱し続けたのだった!!剛鐵寺は攻撃を行う際に、武器を創り替えながら真琴に攻撃する。普通に攻撃をしては真琴当たらないと踏んだのだろう。ならばランダムに武器を替え、相手を惑わす作戦に出たのだ。だが戦闘中に武器を創り替えながら戦うという事は、高い集中力と高い魔力制御がなければ成り立たない。それを兼ね備える剛鐵寺だからこそ成立していた。真琴はというと剛鐵寺の戦法に驚きつつも、見事に避けきっていた。

 その様子を見ていた生徒の歓声と会場中の熱気は真琴が攻撃を躱す度に、徐々に上がっていった。

 

「「「「おおおおおお!!!」」」」

 

「良いぞー剛鐵寺ー!」「やっちまえーー!」

「負けるなあー近衛ー!」「頑張ってー近衛師匠ー!」

 

「これは素晴らしい攻防です!剛鐵寺選手が攻撃しそれを近衛選手が完璧に防御しています!お聞き下さい!この熱い歓声を!これは熱い仕合になってきましたあ!」

「近衛君、やるなぁ」

 

 有里先生が真琴の戦いを見て感心していた、その真琴を応援する為、一輝達も客席に座り仕合を見守っている。

 

「流石マコトね、あれほどの攻撃を回避し続けるなんて・・・」

「ええ(それに恐らく今の真琴は・・・)」

 

 

 

 剛鐵寺は嬉しかった。真琴の実力は当初より想定していたより遥かに上回るものだったからだ。これ以上の強者と戦える事は伐刀者になってから、経験した事がなかった。

 何故ならこの剛鐵寺心陽は多くの実践を積んでいるのだ。貴徳原カナタと同じ生粋のお金持ちの為、カナタと同じ様に「特別収集」といった形で実戦の現場を経験し、時にはカナタと同行を共にし、多くの犯罪組織を壊滅させてきたのだ。カナタは悪を裁く為に参加していた、だが剛鐵寺は違う理由なのだ・・・。それは“強者と戦う”為!!ただそれだけの理由で実践に参加し、戦ってきたのだ。

 

「(この“近衛真琴”という男、一筋縄ではいかないな・・・俺の攻撃が一度たりとも当たらない!なら早速“あれ”を使うか)」

 

 真琴は相手の目の奥の光が動いたのを確認した。これは剛鐵寺が行動を決定した事でもあった。

 

「(ん?何か思い付いたのか、ま、何が来ても冷静に対応するだけだ!)」

 

 真琴が覚悟を決めると、剛鐵寺の準備が終わったのか、それとほぼ同時に技を発動させた!!

 

 

「くらえ!螺旋槍«ドリルランサー»!」

 

 剛鐵寺が真琴目掛けて回転攻撃を仕掛けた!これは剛鐵寺自身と武器であるジャベリンの先端部分を回転させ、相手に向かって連続突撃を行う技である。何往復もさせる事で、最後には相手を貫き打ち倒すというもの。この伐刀絶技で多くの伐刀者や犯罪者を倒した来たのだ。

 

「これは・・・くぅ!」

「油断してると命取りだぜ!」

 

 剛鐵寺が回転突撃の猛攻!

 しかし、真琴には掠る程度・・・。クリーンヒットはしていなかった。だがここで諦める剛鐵寺ではない、尚も攻撃を続けたのだった。

 

 

 

「(これも躱すか!・・・躱すというのなら当たるまで続けるのみ!!)」

 

「(くっそ、思ったよりスピードが速ぇ!しかも休憩なしに連続で突撃して来やがる!一瞬でも油断したらやられる!)」

 

 真琴はこの技の突破口を探していた。どうやれば打破出来るのか!?何をすればいいのか!?自分の頭の中にある引き出しを総動員して事に当たっていた。

 

「(何かねぇか!これを打破する方法は!?)」

 

 徐々にだが剛鐵寺のスピードに目が慣れてきた。何を思ったのか真琴は技のリズムを数え始めた。

 

「(師匠が昔、自分の動きを読む相手と戦ったらしい。師匠がとった行動は他の先生方の戦いのリズムを身体にインプットして、それを打破したらしいけど。だったら俺がとるべき方法は!)」

 

 

 そして、ある“とんでもない戦法”を思い付いた。

 

「(一!)」

 

 真琴が数字を数えると、直ぐ様剛鐵寺の突撃が飛んでくる。

 

「(二!)」

 

 剛鐵寺が向かってくる!

 

「(三!)」

 

 向かってくる!

 

 

「(四!このリズムだな!)」

 

 

 

 真琴が無双構えという隙の大きい構えをとった。それを見た剛鐵寺は好機と見てそのまま真正面から突撃してきた!

 

 

「(今だ!)ウオオオオオオ!!!」

「!」

 

 

 ズドォーン!その衝撃と共に剛鐵寺のジャベリンは真琴に突撃した!当たった場所から数メートル離れた位置で、剛鐵寺の螺旋槍«ドリルランサー»は停止した。

 

「マコト!」

「真琴さん!」

 

 ステラと珠雫が真琴の身を案じる声を発した。会場中の生徒も剛鐵寺の勝利を確信していた。

 

「今度は剛鐵寺選手の螺旋槍«ドリルランサー»が完璧に決まったあああ!!!これを受けた近衛選手、やられてしまったのかあ!?」

 

 誰もが勝ちを確信していたが、剛鐵寺は違う。確かに自分の攻撃は真琴に向かって突撃した。しかし・・・・。

 

「(確実に当たったはず・・・だが手応えが無い、どういうことだ?)」

 

 

 

「・・・あぶねぇあぶねぇ危うく離すとこだったぜ・・・」

 

 

「な、なにぃ!?(俺の螺旋槍«ドリルランサー»を素手で止めただとォ!?)」

 

「真琴さん!」

「マコトォ!心配させんじゃないわよ!」

「S+は伊達ではないわね」

「うん、攻撃中の槍を掴み取るなんて流石、真琴だよ」

 

 

「「「「「「!?!?!?」」」」」」

 

「な、なんとおお!?近衛選手、倒れていません!自身の手で剛鐵寺選手の槍を押さえ付けて止めているぅ!!!身体に槍は届いていない!回転し動いている物体を掴んで止めるなんてなんという動体視力だぁ!!」

 

 

 

 

 

 会場中の誰もがその事実に戦慄した。

剛鐵寺の攻撃が完全に決まったと思っていたからだ。そして、恐ろしいスピードで何度も何度も、突撃を繰り返していたのだ。普通に考えて一度でも避けるのに失敗すれば、身体を貫かれ倒れるのは確実だ。だがしかし!真琴はあろうことか突撃中の槍を掴み取り、押さえ付け止めたのだ!!

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、中々の威力だったぜ・・・両手じゃなきゃ砕けていただろうな」

 

 真琴の手は小刻みに震えている。

 剛鐵寺は後ろに跳び、一端真琴から離れた。

 

「・・・まさか、俺の螺旋槍«ドリルランサー»を掴んで止めるとは・・・やってのけたのはお前が初めてだ」

「そりゃどうも」

「お前を評して俺の奥義を見せてやる、鋼鉄冑«メタルティックスーツ»!」

 

「剛鐵寺選手、遂に鋼鉄冑«メタルティックスーツ»を解禁しました!この技は全身を鋼鉄でコーティングする事で、外部からのダメージを完全に防御してしまう、剛鐵寺選手の十八番ともいえる伐刀絶技です!!学園の多くの伐刀者がその技の前に敗れています!!近衛選手も敗北してしまうのか!?」

 

 

「お前は面白い、面白いぞ!近衛真琴!やはり戦いはこうでなくてはな!!」

 

 剛鐵寺は今まで以上に嬉々として、真琴に攻撃してきた。ここまで戦いを楽しませてくれる伐刀者は久しぶりだった。戦いが好きな剛鐵寺にとって、真琴という強者と一戦交えている事は幸せだったのだ。

 

「(全く、戦闘狂の相手は疲れるな・・・)」

 

 

「行くぞ!オリャア!」

 

 剛鐵寺が鋼鉄武器«メタルウェポン»で新たな武器を創り出した!それはツヴァイハンダーと呼ばれる両手剣である。重量も重い為、扱うのは難しく使いこなす伐刀者は中々いるものではない。剛鐵寺はツヴァイハンターを使いこなしている!

 

「オラオラオラァ!」

「(力一杯に振るっているだけか、だが拳圧でそれをカバーしていやがる!!)」

「くらえ!!」

 

 剛鐵寺が真琴の鳩尾目掛けてツヴァイハンターを思いっきり突いた!

 

「この一撃、貰った!」

 

 すると、その突かれたツヴァイハンターを白刃取りし、停止させた!!

 

「し、白刃取り!?」

「あれほど見事に成功させるなんて・・・」

 

「ヌゥ!(う、動かん!俺より細い腕をしているのに何処にそんなパワーが!)」

「チィ・・・・・チェスト!!❰白刃折り三日月蹴り❱!!!」

 

 真琴はツヴァイハンターを叩き折るとそれと同時に剛鐵寺の脇腹目掛けて、蹴りを放った!!

 

「ぐおおぉ・・・!」

 

 思わぬ攻撃をくらい体勢を崩しながら、後ろに下がった。

 

「見事な蹴りが入りました!折木先生、近衛選手が使った技は一体?」

「多分、あれは古式空手の技の一つですねぇ」

「古式空手?」

「うん、元々空手は刀や武器を持った人達と戦う為に創られた武術だからねぇ。対武術用技が沢山あるのよぉ」

 

「・・・見事だな、彼処から蹴りを打ち出すとは」

「そういう技なんでね、それより俺の蹴りを耐えますか・・・流石、鋼鉄人«メタルマン»ですね。さてと、んじゃ今度は俺の番です!」

 

 

「チェリァ!!」

「ヌゥ・・!」

 

 真琴が拳の嵐を剛鐵寺に浴びせ続けた!正拳、裏拳、前蹴り、様々な技の押収が剛鐵寺に襲い掛かったのだ!!

 

 

「おぉっと!今度は近衛選手の猛攻だあ!!剛鐵寺選手耐えきれるかぁ!?」

 

「はあああ!!」

 

「(コイツの拳撃、一つ一つが重い・・・!この俺が防戦一方だと!?)」

 

 鋼鉄冑«メタルティックスーツ»を着ていても、真琴の拳の衝撃が身体に襲って来ていた。だが、剛鐵寺の持つ防御力を持ってすれば耐えられない訳ではない。そんな攻撃では剛鐵寺は倒せない、剛鐵寺は硬い冑を纏っているのだから。

 しかし、真琴は師匠達からそれに対応する技を教わっている!それは相手が鋼鉄の冑を着ているからこその“技”である!その“技”とは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのお返しですよ!流石に内側は鍛えて無いですよね?しぃ・・・・❰不動砂塵爆❱!!」

 

 

 

 

 

 真琴は今までの拳撃とは少しスピードを緩めて拳を打ち出した。そのまま剛鐵寺の身体へ密着させて、技を発動させた!

 

「(おぐあぁぁぁぁ!!!・・・何だこの技は!?俺の身体の内部に直接、ダメージがァ!?)」

 

 剛鐵寺は味わった事のない技に驚きつつ、その技の威力に負けて膝をついてしまった。

 

「お、おお!?剛鐵寺選手、膝をついてしまったあ!一体どうしたんでしょう!?近衛選手の拳が身体に触れて動いただけにしか見えませんでしたが・・・」

「それは違うよぉ、ケホッ」

 

 ハンカチで口を拭いながら有里先生が答える。

 

「折木先生?どういう事ですか?」

「えっとねぇ・・・」

「一体どんな技なんですか!」

「あれは浸透勁の技だねぇ」

「浸透勁?」

 

 解説と同時にステラと珠雫が、一輝に質問していた。

 

「お兄様、何故剛鐵寺先輩は膝をついたんでしょう?」

「そうね、何でもないただの緩やかな拳にしか見えなかったわ」

「それはね、真琴が浸透勁の技を使ったんだ」

「浸透勁?何なのそれ?」

「浸透勁、発勁とも云われている。真琴が使う空手の拳は主に“剛拳”、すなわち外部に直接ダメージを与えるんだ。だけど中国拳法では逆に“柔拳”と呼ばれ、身体の内側に直接ダメージを与える拳なんだ。でもね空手にも荒技だけど浸透勁の技が存在してて、それが真琴が放った❰不動砂塵爆❱。つまり剛鐵寺さんは真琴に内側を攻撃されたということさ」

「それじゃ如何なる硬いスーツを纏っているのだとしても・・・!」

「そう、体内を攻撃されてはそれも無意味、ということだね」

 

「くっ・・・」

「へぇ・・・立ち上がりますか」 

「あれでは俺は倒れんぞ・・・!」

「ですけどこれで終わりです!!!」

「な、何だと!?」

 

 

 

 

 

 

「❰風林寺数え抜き手❱!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 真琴は剛鐵寺の身体の一点に向けて抜き手を放つ!

 

 

「四!」

「血迷ったか!?俺に外部の攻撃は効かんぞ!」

 

 真琴はその抜き手の手の数を一本ずつ減らしていく。

 

「三!!」

 

 ピキッという微かな音が剛鐵寺の耳に入る。

 

「(な、何だ!?この音は!?・・・・ま、まさか!?)」

 

 剛鐵寺の考えは嫌な方向で的中する。

 

「二ぃ!!」

 

 ピキッピキッと次第に剛鐵寺の鋼鉄冑«メタルティックスーツ»にヒビが入っていく・・・!

 

「一!!!!」

 

 ピキッバリーンという音と共に剛鐵寺の鋼鉄冑«メタルティックスーツ»はものの見事に、砕け散った!!

 

「お、俺の鋼鉄冑«メタルティックスーツ»が破られた!?」

 

「おお!?剛鐵寺選手の代名詞であり、切り札ともいえる鋼鉄冑«メタルティックスーツ»が無残にも近衛選手の攻撃によって破られたあ!!!」

 

 

 

「(あ、あの抜き手はもしや!?)」

「どうしたのよ?イッキ」

「いや何でもないよ(まさか、無敵超人の技まで習得してるなんて・・・)」

 

 

 

 一輝は身体を前のめりにさせ、その技を確認している。驚くのも無理もないこの技は、あの❮無敵超人❯“風林寺隼人”の超技百八つ奥義の一つ、❰数え抜き手❱なのだ!一輝は多くの武術書物を読み、噂でしか耳にしていなかったが、この技を知っていたのだ。

 

 

 

 

「ふぅ・・・、先輩の冑、堅いですね、砕くのに苦労しましたよ。一応言っておきますが、先輩の伐刀絶技が弱いわけではないですよ。どんなに優れている冑だったとしても同じこと!この技の前ではね・・・」

 

 

「っ!・・・」

 

 剛鐵寺には真琴が放った、不動砂塵爆のダメージが身体に残っていた。そこに数分たたずに、完璧な抜き手をもらってしまったのだ。今までに真琴に向けて自分が放った技の数々は、掠りはするもののクリーンヒットはしていない。そして、剛鐵寺は気付いていた。近衛真琴が“一切の本気を出していない”事を・・・。

 

 

「(・・・この男、俺に一度たりとも本気を見せていない。悔しいがここまで圧倒されてしまっては、武人として敗けを認めざるを得まい・・・。つまり近衛の実力は、今の俺より数段上にいるこということか・・・完全敗北だな・・・)」

 

「・・・近衛」

「なんすか先輩?」

「俺の鋼鉄冑«メタルティックスーツ»を抜き手で破ったのは見事だった。潔く我が敗北を認めよう」

 

「ここでギブアップ!!勝利したのは皇帝の拳«エンペラーフィスト»!近衛選手だあああ!!!」

 

 

「「「「「うおおおおお!!!!」」」」」

 

 

 

 

 勝利のアナウンスを聞いた会場中の生徒達は、大歓声と共に真琴の勝利を祝福した。だが中にはまだ信じられないという生徒もいるだろうが、それは前よりほどではない。強者で知られる剛鐵寺心陽を完膚なきまでに倒したのだ。それを信じない方がおかしいのだった。

 

 

 

 




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BATTLE.29 綾辻絢瀬

こんにちは、紅河です!

遂に綾辻先輩登場です!お好きな方はお待たせしました!ここまで長かった・・・・。

UAも気が付いたら三万突破!思ったより速いです。これも皆様の応援のお蔭です。これからも頑張っていきますので宜しくお願い致します!
ではお楽しみ下さい!


「なぁ、一輝」

 

 一輝、ステラ、珠雫、アリスと共に下校途中の真琴が突然、一輝に質問を投げ掛けた。

 

「何?真琴」

「あれ、いつまで放っておく気だ?」

「それ、私も気になってたわ。一輝が何も言わないから無視してたけど」

「やっぱり、二人は気付いてたんだね」

「どういう事ですか?お兄様」

「・・・私、全然話が見えないけど、どうしたのよ?」

 

 ステラと珠雫が頭に疑問符を浮かべていると、一輝がその疑問に答えた。

 

「あのね、僕、最近誰かにつけられてるみたいなんだ」

 

「ええええ!?」「それってストーカーですか!?」

「確か、つけられて一週間位だよな?」

「うん」

「一週間も!?」

「す、ストーカーってあれよね?髭剃りとかを送ってくる、あの!」

「ステラさん、送ってくるのは剃刀の刃ですよ」

「は、刃を入れ忘れただけよ!」

「いや、刃を入れ忘れたとかそういう話じゃねぇよ・・・」

「あの!君、僕に何か用かな?」

 

 一輝が後方の木に隠れているストーカーに声を掛ける。すると、気付かれた事に驚いたのかその人物は、慌てながら姿を現した。

 

「あ!あのぉ!ぼ、僕!ストーカーとかじゃなくてっ!」

 

 僕と名乗った女性らしいその人物は、手を前にだし慌てつつ抗議している。

 真琴と一輝はその女性の手を視認すると、ある“もの”に気付いた。それは武術をやり込む事で出来る武術タコだった。

 

「(あれは・・・)」

「(へぇ~この人、剣術をやってんのか・・・)」

 

 二人が感心していると、逃げる様にその女性が後ろに後退していく。だが後ろは池になっており、手摺にぶつかりそのまま池に落ちてしまった。

 

 

「おい、落ちちまったぞ・・・」

「う~ん・・・・」

「気絶しちまったみたいだな・・・」

 

 

 真琴がその様子を観に行くと、その女性は気絶していた。

 だが、ステラはその女性に見覚えがあった。

 一輝達と共にプールに行った時、この女性を目撃していたのだ。

 

「あれ?この人・・・」

 

「取り合えず、病室に運ぼう」

「そうね、私が連絡しとくわ」

「アリス、有難う」

 

 

 それから、その人物をiPS再生槽に運んだ。真琴達は何故一輝の後をつけていたのか聞くために、病室の中で意識の回復を待っていた。

 

 

「つか、何で一輝の事をつけてたのかね」

「さぁ?」

「それを聞くために回復を待ってるんでしょ!?ホントにストーカーだというのなら、私が直々にお仕置きするんだから!」

「・・・その熱気を抑えろ・・・ったく」

 

 その音に気付いたのか、僕っ娘であろう人物が目を覚ました。

 

 

「う・・・ここは?」

「気が付いたのね」

「そっか、僕、池に落ちて・・・・」

「気絶してましたので、iPS再生槽に運びました」

「そうなんだ、運んでくれて有難う」

 

 ステラがその僕っ娘に問い詰める。何故一輝の後をつけていたのか聞くために!!

 

「ねえ!アナタ誰なのよ!もし、イッキのストーカーだというのなら・・・!」

「少し落ち着け!」

 

 それを見かねた真琴が手刀でステラの頭を叩く。

 

「イッタイ!何するのよ、マコト!」

「いきなり、問い詰めても話せるもんも話せねぇだろうが・・・」

「脳筋お姫様は少し大人しくしてて下さい」

「ぐぬぬ・・・」

 

 少し落ち着いたのか僕っ娘がその口を開いた。

 

 

「えっと、まず自己紹介だよね、ごめん。ぼ、僕の名前は三年一組綾辻絢瀬っていうんだ」

「(“綾辻”?その名前何処かで・・・)」

 

 一輝はその『綾辻』という名前に聞き覚えがあった。頭の中の引き出しを開けてその記憶を探しだしている。

 そして、ある一人の『剣客』を思い出した。

 

「もしかして、綾辻さんは“綾辻海斗”さん“ラストサムライ”と謳われた海斗さんの関係者なの?」

 

 その名前を聞いた真琴と綾辻は驚きの表情を見せる。

 

 

「え!?」

「おい、一輝!今、“ラストサムライ”って言ったか!?」

「うん、確かにラストサムライと言ったよ」

 

 “ラストサムライ”を知らないステラが、アリスに尋ねる。

「ラストサムライって誰よ?アリス知ってる?」

「私は知らないわ」

 

 それには真琴が答えた。

 

「ラストサムライっていやぁ、表世界の名だたる剣の大会で優勝し、剣の世界じゃその名を知らない者はいないとまで云われる、達人級の剣客だぜ!」

「表世界?」

「武の世界には『表』と『裏』が存在する、それを聞きたいんだったら後で教えてやるよ。それより、先輩本当にラストサムライの関係者なのか!?」

 

「海斗は僕の父さんだよ、ふ、二人とも父さんの事を知ってるの?」

 

 綾辻が嬉しそうに返した。

 

「勿論だよ、僕は子供の頃に、海斗さんの大会の様子なんかを見て剣術の勉強をしてた程ですよ!」

「武の世界に携わってる人間であれば、ラストサムライを知らない人間はいねぇよ!」

 

 真琴と一輝が声を大にして、その質問に答えていた。

 

「う、嬉しいなぁ、黒鉄君と近衛君が父さんの事を知っていたなんて・・・」

「そういえば海斗さんは今、どうしてるんです?最近、名前を聞きませんが・・・?」

「それは・・・試合中の事故で入院してるんだ・・・」

 

 海斗さんの現状を聞かれた瞬間、綾辻の顔は悲壮の表情になっていく。

 真琴は綾辻の目の奥深くに、復讐に燃える炎が見えていたのを視認していた。

 

「(・・・先輩のあの目、試合中の事故にしちゃあ酷い暗さだな・・・何があった?)」

「そ、そうでしたか・・・すみません、変なことを聞いてしまって・・・」

「き、気にしてないよ、黒鉄君と近衛君みたいな凄い人が父さんを慕っていたなんて・・・それが嬉しいんだ」

 

 珠雫が意を決して気になっていた事を質問する。

 

「あの、何でお兄様をつけていたんですか!その理由を聞かせてください!」

「そういやそれを聞くために待ってたんだったな、ラストサムライでスポーンと頭から抜けてたぜ」

 

「それは、えっと・・・。僕は剣士としてスランプ気味なんだ、黒鉄君に剣のヒントを貰おうと思ってつけてたんだ。でも僕、知らない異性に話し掛けるのが苦手で、黒鉄君にどうやって声掛けていいか、分からなくて・・・」

「成る程、考えが纏まらなくて一週間、話し掛けられなかったんですね」

「うん、ごめんね・・・」

「良いですよ、それじゃあ綾辻さん、僕と一緒に剣の修行をしませんか?」

 

 

 

 

 綾辻はそれを承諾し、明日からいつもの場所で剣術の修行をする事となった。プールの一件から数日が経っていて、他の生徒達も片足立ちから、形稽古の修行に移っていた。

 形稽古とは形を磨く為の稽古である。自己の学んだ技術の正確な所作・動作・趣旨を理解し確認するのが目的だ。

 剣の稽古とは、戦いにおいての基礎、つまり、『土台』だ。“守破離”という言葉がある様に、 守=決められた通りの動き、形を忠実に守り、 破=守で学んだ基本に自分なりの応用を加え、 離=形に囚われない自由な境地に至るという意味である。 つまり形をしっかりと身に付けることではじめて、高度な応用や個性の発揮が可能になるということなのだ。

 真琴はというと、晴比古の剣の稽古をつけていた。この前、ここで多くの生徒達が片足立ちをやっていた時に、この鈴木晴比古も稽古に参加していたのだ。後から入ってきたのにも関わらず、一輝は真琴の言う通り、晴比古の申し入れを快く承諾していたのだった。

 

「せや!おりゃ!」

「そうそう、相手に反撃の隙を与えないようにしろ」

「セイヤー!」

 

 晴比古が真琴にとどめの一撃をお見舞いしようと、一太刀振り下ろした!だが真琴は其処へ❮白刃流し❯を打ち出し、それを回避した。

 

「くっそーまた避けられた!」

「まだまだ甘いな、お前は止めを刺す時、オーバーアクションになるな。読み易いぞ」

「・・・まだ真琴には追い付けねぇのか!悔しい・・・」

「まぁお前が相手の行動を読んでわざと、振り下ろして他の攻撃を当てるなら、話は別だが」

「まだ読みとか出来ねぇよ・・・」

「経験不足だな、そういや晴比古、片足立ちは何分出来るようになった?」

「確かー、3分位か?」

「お!3分か、剣術初心者なら上々ってとこだな」

「そうなのか?」

「三十秒でゆらゆら揺れてしまう奴もしるし、片足立ちから進めない奴もいるんだ。素直に喜んでおけ」

「ようし!もっと努力して今度こそ真琴に勝つぞ!」

「能力の方も忘れるなよ」

「分かってるさ、そういや黒鉄は?姿が見えねぇけど」

「一輝は奥の方で綾辻って人に剣を教えてるはずだ」

「そうだったそうだった、確か綾辻先輩って有名な道場の娘さんなんだよな?」

「そうみたいだな」

「腕は確かなのか?」

「・・・・」

 

 その答えに真琴は沈黙し考えていた。綾辻の実力は掌のタコと目を観ただけだが、妙手の真琴は弟子級の実力を図ることなど容易だ。しかし、真琴はその答えを出すのに出し渋っていたのだ。それは病室で綾辻の瞳を観たときに暗い悲壮と復讐に燃える炎を観ていたからだった・・・。

 

「真琴?黙ってどうしたんだ?何かいけない質問でもしたか?」

「いや、そうじゃねぇよ。ただ・・・」

「ただ?」

「俺から聞いたって誰にも言うなよ?」

「わ、分かった」

「・・・綾辻先輩はな『心』が綻んでる」

「心が綻んでる?」

「ああ、勝負において最も重要なものは何か、晴比古分かるか?」

「うーん、努力?」

「それも大事だが、違う」

「んじゃー分からん!」

「ギブアップ早いな・・・」

「いいから、早く答えを教えてくれよ!」

「(こいつ、早く聞くためにわざと!・・・目敏いやつだ)・・・勝負において最も重要なものは“心の力”だ」

「心の力?」

「そうだ、『一胆、二力、三功夫』って言葉知らないか?」

「知らない、どういう意味だ?」

「勝負において重要なのは、心、力、技の順番だという意味だ。つまり綾辻先輩は勝負に必要なものが欠けてるんだよ」

「それって重要なのか?」

「そうだよ、もし戦う前に相手の巧みな言い回しで惑わされ、戦いに怖じけづき、その場から逃げ出したらそれだけで負けって事にならないか?」

「あ!」

「つまり、そういう事だ。綾辻先輩の瞳を病室で観たとき、暗い悲壮と復讐に燃えてた。俺は綾辻先輩に何があったのかは知らない、けどここまで心が綻んでるとなると、そういう人間は何を仕出かすか分からないものなんだよ。もしかしたら今度の仕合で、反則も平気でやるかもな」

「まさか、そんな・・・けど真琴の憶測だろそれ」

「そうだ、けど当たったら飯奢れよ?」

「ええええ!?理不尽だぜ、それ!」

「アハハハ!」

「笑い事じゃねぇから!」

 

 

 そんな口約束をしつつ、稽古の時間は刻々と過ぎていった。そしてその憶測が的中する事になるとは、この時の真琴と晴比古は知るよしも無かったのだ・・・。

 

 

 

 

 




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BATTLE.30 守りたい人

 綾辻が一輝に剣術を習い始めて、数日が経ったある日の事・・・。いつもの鍛練場所にて、剣術を稽古をしていた。綾辻はステラと稽古に励み、真琴は大木に向かって技の修行をしていたのだった。

 

 

 

 

「すぅ―――❰近衛流・浸透水鏡双纒掌❱!」

 

 

 

 

 この技は双纒手と浸透水鏡双掌の合わせ技。この二つの技はそれぞれ違う必殺技である。“双纒手”は敵の防御をこじ開け、足から送り出された力を背中の筋肉で増幅させて放つ双掌打の決め技であり、“浸透水鏡双掌”は内面と内部を同時に破壊する技なのだ。

 真琴はこの二つを合わせる事で、浸透水鏡双掌の勁力をより確実に相手に当てようと修行していたのだった。

 

 

「ふぅ・・・一応技として成立しそうではあるか・・・馬先生に教授してもらえばもっと早くモノに出来そうだが・・・そんな無茶は言えないな」

「凄まじい掌打の衝撃ですね・・・」

「ん?珠雫か・・・剣の稽古は良いのか?」

「ええ、お兄様にお願いしようと思いましたが、綾辻さんの監督に忙しそうでしたし・・・」

「そっか」

「その技は何なんです?威力が高いのはさっきので分かりましたが・・・」

「これか、この技はな、浸透勁の技だ」

「真琴さんが鋼鉄人«メタルマン»戦で使用した?空手の技じゃあ、ないですよね?」

「ああ、この技はな中国拳法の八極拳に伝わる一手で、相手の防御を崩しながら内部に攻撃する寸勁の技の一つ“双纒手”っていう技と、内部と外部を同時に破壊する技、“浸透水鏡双掌”っていうやつを合わせた、俺オリジナルの融合技さ」

「真琴さん、融合技を創り出すとか器用ですね」

「基礎を着実にやって来たからこそ、発展が可能なんだよ」

「へぇー真琴さんって、本当に中国拳法も身に付けてるんですね、空手だけかと思ってました」

「ま、殆どの仕合で空手の技と気当たりしか見せてないし、そう思うのも仕方ねぇけど、俺の基本武術が空手なのさ。この前プールで話したろ?母さんに空手を仕込まれたって」

「そういえば言ってましたね、差し支えなければ名前を教えてくれませんか?」

「いいぜ、母さんの名前は“近衛美琴”旧姓『佐藤美琴』で知られる空手家さ」

 

 珠雫はその名前に聞き覚えがあった。というのも、この『佐藤美琴』と呼ばれる女性は❰空手界で女性が挑める全ての階級を制覇❱した、初めての女性で知られているからだ。

 

「それってあの“佐藤美琴”ですか!?」

「ああ、空手階級を全て制覇した世界チャンピオン、佐藤美琴だ。俺はその人の息子さ」

「・・・成る程、真琴さんの身体能力の高さにも納得です。美琴さんから武術の才能を受け継いだんですね」

「そうだ、母さんから貰ったかけがえない、俺の宝物さ」

 

「真琴さん、本当に両親がお好きなんでですね」

「そりゃそうさ、父さんからは伐刀者と夢を貰って、母さんからは武術の才能を、もう二人には会えないからな・・・これが俺の中にある両親の大切な形見なのさ・・・」

 

 と真琴は答えた。

 珠雫が真琴の表情を見ると、その顔はどこか寂しくもあり、どこか嬉しそうにも見えた。それを見た珠雫は、少しでも真琴の気持ちが和らげばいいと思ったのだった。

 

 

「(この人は私の愛を理解してくれた人・・・、何か私に出来ることがあれば手伝ってあげなければ)そろそろ、お兄様達の所へ行きませんか?」

「そうだな、そうするか。丁度腹も減ったしな」

「はい」

 

 

 二人が戻ると丁度、綾辻の鍛練も終了していた。すると綾辻が一輝と真琴にこれまでのお礼がしたいと、お食事に誘った。それに一輝と真琴がそれを了承し、ステラが「一人だけ女性なのはいただけないわ!私もついていく!」と言い出し、付いてくることになったのだった。

 学生という事もあり近くのファミレスに決定し、夕飯をとる事になった。無事ファミレスに到着し、団体席に案内された。綾辻がお礼したいということで、飯代は奢る事になっているのだが・・・・。

 

 

「おい、ステラ」

「何よマコト」

「お前は遠慮って事を知らねぇのか・・・」

 

 何故真琴がそんな事を言っているのかというと、ステラが一人でステーキを何皿も平らげているからだった。

 

「仕方ないじゃない、だってこれくらい食べないと動けないのよ!」

「んなこと言ったってな、払うのは綾辻先輩なんだぞ?」

「別にいいよ、ただステーキを三枚、ミックスグリルを二枚食べて、そのウェストっていうのが納得出来ないけどね・・・」

「そう?」

「アハハ・・・・」

「言われてるぞ」

「太らないから仕方ないじゃない」

「(だからステラは巨乳なのか・・・栄養が頭や身体じゃなく胸にだけ吸収されたんだな・・・・)」

「・・・何よ」

「いんや何でもねぇよ、俺は少し用を足してくる」

「行ってらっしゃい」

 

 

「(それにしても、綾辻先輩が強くなっていくのはいいが、“心の危うさ”は直ってねぇな・・・。こればっかりは、そうなっちまった原因を断たなきゃ直らんな)」

 

 

 真琴が小便を済ませ、手を洗いながらそんな事を考えているとバリーンという瓶が割れた音らしき物が聞こえた。真琴がホールに足早で向かうと一輝達が不良グループに、囲まれていた。そして、そこには見覚えの“ある男”が一人、固有霊装を顕現させて一輝に喧嘩を吹っ掛けていたのだった。

 

「おいおい、蔵人!俺の親友に手ぇ出してんじゃねぇよ!」

「そ、その声はまさか、真琴か!?」

 

 倉敷がその声に驚きながら、声がした方に目線を向けた。

 すると、真琴が取り巻きの不良を掻き分けながら一輝達のテーブルへ歩を進めたのだった。

 

「ああ!?何だてめぇは!?」「倉敷さんを呼び捨てだと!?」「誰よアイツ!」「蔵人と知り合い?」

 

 取り巻きの一人が真琴に手を出そうと瞬間!

 

「おい、お前ら!その男には手を出すな」

 

 と言いながらその不良を止めた。

 

「く、蔵人!?な、何を言ってるんだよ!?」

「俺の言う事がきけねぇのか!?」

「うぐっ・・・わ、分かったよ」

「真琴、この人と知り合い?」

「ああ、昔にちょっとな・・・。こいつは貪狼学園のエース、倉敷蔵人だ。昨年度の七星剣武祭ベスト8、剣士殺し«ソードイーター»の二つ名を持ってるCランク騎士だ」

「そんな人が何故ここに・・・」

 

 すると、今まで怯えていた綾辻が真琴に向かって怒号を放った。

 

「近衛君はこんな奴と友人関係なの!?呼び捨てで呼びあってるって事は親しいって事だよね!?」

 

 綾辻は血相を変えて真琴にいい迫った。それはいつもの綾辻では無い、その表情から倉敷との間に、ただならぬ因縁の様なモノを真琴は感じた。

 

「(ん?・・・綾辻先輩のこの表情、そうか“そういう事”か!合点がいったぜ・・・先輩の心が綻んでる原因はこれか!ならこの人の道場は、もしかして蔵人に・・・んじゃラストサムライが仕合中の事故で入院してるっていうのは、蔵人との戦いの怪我が原因か!!成る程ねぇ)・・・そうですけど、それが何か?」

「近衛君!見損なったよ、こんな“外道”と友人なんて!!」

「先輩!?いきなりどうしたのよ!?」

「(もしかして綾辻さんはこの倉敷って人と何かあったのか?)」

 

「綾辻先輩、今は貴女と口論してる場合じゃないんで、蔵人、そいつら連れてここを去りな」

「だかなぁ・・・お前の親友は“剣客”だろぉ?目を見たら戦りたくなっちまってな」

「一輝の実力は期待していい、だがなそれは“あとで”だ。大人しく『その場所で待ってろ』」

 

 真琴は倉敷の目を見つつ、念を押しながら言った。真琴の意図を理解したのか、蔵人は素直に従った。

 

「・・・ふん、それじゃ俺は『待たせてもらう』ぜ?連れて来るのを忘れるんじゃねぇぞ?おい、帰るぞお前ら」

「え!?良いのか!?このままで!?」

「ああ」

「何でアイツの言うことなんか聞くんだよ、無視すればいいじゃねぇか!」

「うるせぇ、行くぞ」

 

 倉敷はそのまま、取り巻きを連れて店を出ていった。店内はやっと脅威が去ったからか落ち着きを取り戻していく。しかし、真琴と倉敷の友人関係に府に落ちず、綾辻は真琴に軽蔑の目線を向けた。

 

「何で近衛君はアイツなんかと・・・」

 

 ボソっと綾辻は一言漏らした。

 

「ふぅ・・・帰ったか」

「何で真琴は倉敷君と知り合いなんだい?」

「あーそれは後で話すわ・・・」

「今じゃダメなの?」

「ああ、話す時じゃない」

「・・・分かった、今は真琴を信じるよ」

「さんきゅな、一輝。さてと俺は帰る」

「え?」

「何で帰るのよ」

「俺は居ない方がいいだろ?」

 

 真琴は綾辻に目線を向けつつ、一輝に自分の意図を汲むように促した。

 

「・・・多分、そうだね」

「?」

 

 ステラはその様子を見ていたが、理解出来ずにいた。

 

「綾辻先輩、俺の代金は奢らなくていいんで、ここに置いておきます」

「・・・・・・」

 

 綾辻は無視している。

 

「・・・んじゃ、また明日な」

「ええ、明日ね」「気を付けてね」

 

 真琴はテーブルに食べた分の金額を置いて、店の出口へ足を向けた。そして、帰り際に小声でこんな事を溢した。

 

 

「・・・蔵人の野郎も可哀想だな・・・・」

「・・・え?」

 

 その真琴の言葉は微かに綾辻の耳に届いた。真琴が何故そんな言葉を残したのか、綾辻にはさっぱり分からない。ただこれだけは理解した。『近衛真琴は敵だ。あんな奴と友達関係の人間は僕の友達じゃない』そう心に刻み付けた。

 

 

 真琴はそのままファミレスを出ていくと、蔵人が店の入り口で待機していた。真琴が出てくるのを待っていたようだ。

 

「何だよ、帰れって言ったろ?」

「別にいいじゃねぇか、取り巻きの奴等は先に帰した。久し振りにダチに会ったんだ、話でもしようぜ?」

「・・・別にいいけどよー、近くの公園で良いよな?」

「ああ、それでいい」

 

 二人は公園に移動しベンチに座った。そこは夜という事もあってか公園には、誰も居なかった。

 何故この二人が知り合いかというと、時は真琴が中学校時代まで遡る。ある日真琴が学校から帰宅し、梁山泊の道場に行くと見知らぬ男子が一人、師匠達に囲まれ何やら話していたのだった。

 この倉敷蔵人という男は中学の頃から道場破りを繰り返し、多くの剣客を倒して来た。そしてその足は、梁山泊にも運んでいたのだ。倉敷は道場主との決闘を望んだが長老がそれを拒否し、紆余曲折あって弟子である真琴が倉敷と戦う事になったのだった。梁山泊は伐刀者専門の道場ではない、その為固有霊装を顕現させ戦うのではなく、木刀で戦う事になった。勿論、真琴は素手だ。こうして梁山泊の存亡が弟子である真琴に預けられたのだ。その戦いの結果は真琴が無事勝利し、梁山泊は守られた。

 暇を見付けては倉敷が梁山泊へ遊びに来る様になり、真琴と倉敷は度々稽古をつけながらお互いに伐刀者という事もあってか、友人になったのだった。

 

 

 

「真琴は破軍に入ったんだな」

「ああ、父さんが破軍出身だったからな・・・」

「そこまで拘らなくても良いだろうに、貪狼でも良かったんだぜ?」

「良いんだよ、それに破軍じゃなきゃ一輝や刀華さんに会えなかったからな」

「一輝ってあの腑抜け野郎の事か?」

「ああ、そうだよ。共に鍛練に励み、共に暮らし、一緒に夢を語った伐刀者で、心の底から大切って思える親友さ」

「ほう、親友ねぇ・・・。腕は確かみてぇだが」

「一輝は弟子級最上位だぞ?」

「おい!真琴!それ、本当か!?」

「事実だ」

「そうなると、益々戦うのが楽しみだ・・・!」

 

 倉敷の顔はにやけ、一輝と戦うのを心待ちにしていた様だった。

 

「お前、«雷切»を名前呼びとは相当仲が良いんだな」

「・・・蔵人には関係ねぇよ」

「真琴、雷切の事が好きなのか?」

「・・・何でそれをお前に言わなくちゃいけないんだよ」

「言いたくないなら、いいけどよ」

「・・・・お前は口が固そうだから言ってやるよ。刀華さんは俺が、己の命を懸けて守りたい人ってだけだ」

「“命を懸けて守りたい”か」

「悪いか?」

「いいや、お前の好きにしたらいい。俺には関係の無いことだからな」 

 

 と言いながら倉敷はベンチから立ち上がった。

 

「そうかよ、ん?行くのか?」

「ああ、お前との決着は七星剣武祭でつけるぞ」

「分かってるよ、負けんなよ?」

「お前こそな」

 

 真琴と固い約束を結ぶと、倉敷は公園の出口へと足を進めた。

 

「んじゃ、またな」

 

 真琴が別れの挨拶をすると倉敷は振り向かずに手を振った。真琴も寮へ帰る為、倉敷とは反対方向に進んでいく。ただその様子を蔭からこっそり見つめている少女がいた。それは先程にも話題が上がった«雷切»東堂刀華だった。

 刀華は寮に帰る途中トイレのため、この公園に立ち寄っていた。用を済ませ帰ろうとしたのだが、その途中で真琴と倉敷を見付けしまい、思わず隠れてしまったのだ。そして、悪いとは思っていたのだが二人の会話を盗み聞きしていたのだ。

 

「ま、まこ君と剣士殺し«ソードイーター»の倉敷君と知り合いで・・・!しかも、まままままま、まこ君が私の事を“命を懸けて守りたい人”って思っていたなんて・・・!!まこ君がそういう風に思ってくれているのはう、嬉しいけど、は、恥ずかしい・・・。まこ君と会ったときにどんな顔をすればいいか分からないよぉ・・・、これからどうしたらいいか、うた君や生徒会の皆に相談してみようかなぁ・・・」

 

 そんな事を考えつつ、真琴が言った事を思い出してみては照れつつ刀華はその公園を後にした。

 一方その頃、一輝達は会計を済ませファミレスを出て寮に帰宅途中だった。突然生徒手帳が鳴り、次の対戦相手の通知を知らせるメールだった。そこには・・・『黒鉄一輝VS綾辻絢瀬』の対戦カードが記されていた。師弟であるこの二人が次の対戦相手なのだ・・・・。そして真琴が憶測が最悪の形で実を結ぶことになるとは、知るよしもなかったのだった。

 




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BATTLE.31 優しき心

こんにちは、紅河です!

気付けば、30話に突入です!始めて小説を投稿してから約1ヶ月が経過しました。時が過ぎるのは早いですね・・・。

オリジナル展開がメインですが、宜しくお願い致します!それではお楽しみ下さい!


「稽古にも来ず、どうする気なのかね綾辻先輩」

「それは、分からないよ」

「それもそうだな、すまん」

 

 真琴と一輝が教え子の生徒達を見ながらそんな事を溢した。ステラ達も側で生徒達の稽古を見ている。

 

「綾辻先輩が稽古に来なくて良かったですね、ステラさん。綾辻先輩が来てから、ずっと嫉妬の嵐でしたものね」

「う、うるさいわね!し、仕方無いじゃない!」

「あまり顔に出さない方が良いですよ?ステラさんは分かりやすいですから、それと足太いです」

「足は関係ないでしょ!!私のは標準よ!!」

 

 ステラと珠雫がいつもの様に言い争いを始めた。この二人は会う度にこれを続けている。真琴は何故飽きないのか疑問に持ちながら、その光景を見ていた。

 その稽古の時間はあっという間に過ぎていき、気が付けばもう下校時間になった。しかし、真琴は帰宅しておらず、アリスに呼び出されピロティに来ていた。

 

「お、アリス!悪い、少し遅れたか?」

「いいえ、時間通りよ。私が早く来すぎただけだから」

「話ってなんだ?まさか!お、俺はホモじゃないからな!お前は友としては好きだがっ!・・・」

「・・・・その話じゃないわ、綾辻さんの話よ」

「・・・え?綾辻先輩?」

「そうよ、貴方は綾辻さんの『心』に気付いてる様だし」

「・・・ああ、その事か。というかやっぱアリスも気付いてたんだな」

「ええ」

「まぁ、綾辻先輩のあの『心』は問題だ、だがその話をするなら一輝じゃねぇか?」

「分かっているわ、もう少しで来るはずよ」

 

 アリスがそう言うと程無くして、一輝が姿を現した。

 

「アリス、僕にようかい?あれ、真琴も?用は僕だけじゃないの?」

「彼にも話に付き合って欲しくてね、単刀直入に聞くわ・・・綾辻さん、あれから本当に音沙汰無しなの?」

「え、どうして?」

「俺もそれは気になってたんだ。一輝、こんな事は余り言いたくねぇんだが、綾辻先輩とお前じゃ“実力の差は歴然”だ・・・一輝もそれは分かってるよな?」

「・・・・」

「彼女は剣士殺し«ソードイーター»戦う為、七星剣武祭に出場しなければならない、つまり選抜戦では負ける事は許されない」

「そして、勝てない相手と戦う時、そして何が何でも勝たなければ行けない時、そんな状況で人間がとる行動は一つ・・・それは、“どんな手段を使ってでも勝ちを狙う”これに尽きるぞ・・・。綾辻先輩から“何か来た”んじゃねぇか?」

 

 

 二人から綾辻の事への指摘、それについて一輝は感心せざる得なかった・・・。 

何故なら二人の言う通りだったからだ・・・

 

「二人は本当に鋭いね・・・」

 

一輝は生徒手帳を取りだし、綾辻から来たメールの内容を真琴とアリスに見せた。その内容とは・・・『君にしか出来ない大切な相談があるんだ、午前三時 十一号館にて待っている』という内容だった。

 

「やっぱりね・・・」

「一輝、これは“絶対に罠”だぞ?本当に行くのか?」

「・・・彼女は僕のこの手を好きだと言ってくれた・・・だから行くよ」

 

 真琴はその一輝の言葉に無類なき優しさを見ていた、自分の師匠の面影を重ねがら・・・・。

 一輝は本当のお人好しだ。今まで一輝の事を嫌悪していた人間をあっさり受け入れ、その人達に剣術を教えているのだ。普通ならそんな事はしない、極度のお人好しでもなければ・・・・。真琴の師匠である“白浜兼一”も超ド級のお人好しなのだ。

 あるエピソードに、敵が自分の命を狙って来たとしても、その相手を思い遣り光の道へ指し示す程だ。そして、その彼の人間愛に触れ救われた者は数多い。兼一の友人には不良だった者おり、友人になる前は敵同士だった。だが彼の『優しき心』に触れる事で改心し、かけがえのない盟友になったのだった。

 一輝が綾辻に行おうとしている事もそれと同じだ。一輝は綾辻を救いたいのだ、壊れそうな彼女の❮心❯を救いたい、彼を突き動かすのはその気持ちだけだった。

 

「(一輝は本当に師匠とそっくりだ・・・。努力家なとこといい、一途に好きな女性を想っているとこといい、お人好しなとこといい、いつか師匠に会わせたいな・・・一輝を見た師匠は何て反応するかな)」

 

 真琴が今度、師匠を呼ぶプランを立てながらそんな事を思考していた。すると、アリスが一言言葉を溢した。 

 

「眩しいわね」

「眩しい?」

「ええ、私はどうしても人を真っ直ぐに見れないから。でも私だから気付く事もある、綾辻さんとは縁を切る覚悟もしていた方がいいわ」

「そうだぞ、一輝。それだけは会う前に済ませとけ、後悔しないようにな・・・」

「有難う、二人とも・・・。僕は真琴とステラと約束したんだ、七星剣武祭で戦うと・・・それを果たすためにもこの戦い、何としてでも綾辻さんに勝つよ」

「おう、信じてるぜ・・・“真友”よ」

「うん」

 

 真琴と一輝はお互いに拳を作り、それを合わせた。アリスはそんな熱い友情を見せる二人を羨ましく見つめていた。自分にはもう“無いモノ”だったから・・・。

 三人が寮に帰宅する時には、夕陽が沈みかけていた。その綺麗な情景を見ながら寮へ足を進めた。

 時間が経ち、午前二時半頃ピンポーンと真琴の部屋のインターホンが鳴る。真琴は嫌々ながらベットから体を起こし、扉の前に向かう。

 

「ふぁい・・・一体誰だ?」

「真琴さん、私です、珠雫です」

「珠雫?ちょっと待ってろ、今鍵を開けるから」

「夜分遅くにすみません、失礼だっていうのは分かってるんですけど、どうしても今日中に話をしたくて」

「取り敢えず、入れ・・・。部屋で聞くから」

「はい」

 

 真琴がテーブルに案内すると、冷蔵庫から麦茶を取りだし珠雫の前に出す。

 

「んで、こんな時間になんの用だよ?」

「えっとですね・・・真琴さんに明日から私に稽古をつけて欲しいと思いまして」

「稽古?それはいいけど何でこんな時間に・・・明日でも良かっただろ?それに、女性なんだから肌は大事にしろよ」

「それもそうなんですが、少し考え事をしてまして」

「考え事?」

「私の弱点についてです・・・」

「それ、この前、俺がお前に言ってたやつか」

「はい」 

 

 珠雫は破軍学園に入学したての頃に、真琴と組手をし敗北している。真琴と戦った経緯とは珠雫が校則を破ってしまった事が発端である。それを黒乃理事長に報告し破った事を免除する条件として真琴と組手を行い、真琴に勝利する事だった。だが敗北し罰として三日間の女子トイレ掃除をする事になったのだった。その組手の後に真琴と弱点について話していたのだ。

 

 

「それで、その答えは見付かったのか?ま、俺の所へ来たという事は言わなくても分かるけどな・・・。見付かって無いんだろ?」

「・・・・はい、情けないことに」

「んで考え出した結果、俺と戦えばそのヒントが分かるんじゃないかって感じか・・・」

「・・・仰る通りです」

「・・・お前の言い分は分かった」

「やっぱり駄目、ですか?」

「・・・俺が言った手前、NOとは断れないし、いいよ、受けてやるよ」

「本当ですか!?」

「ああ、お前は余り友達を作りたがらないからな、身近な友人でクロスレンジが得意で気軽に頼めるって言ったら俺だけだろうし、兄の一輝には頼めないんだろ?」

「はい」

「ならいい、ただし!」

「た、ただし?何か条件でも?お願いしてるのはこっちですし、無理難題で無ければ可能な限り条件を呑みます」

「その条件ってのはな・・・」

「は、はい・・・・」

 

 珠雫は真琴の言葉を待っている。

 

「その条件は二つ!

 一つ目、ロングレンジの魔法は禁止、ただし補助魔法はあり 

 二つ目、戦う時はクロスレンジのみを使用すること 

 

 これらを呑むなら稽古をつけてやるよ」

 

「・・・その理由を聞いても良いですか?」

「ん?いいよ、説明してやる。まずロングレンジの魔法の禁止だが、お前が遠距離魔法戦に頼り過ぎてるからだ」

「頼り過ぎてる?これが私の武器なんですが・・・」

「それは分かる、前にも言ったがロングレンジで互角に渡り合う相手と当たった時、ロングレンジだけじゃ勝てない、それ以外の武器を増やさないとな!」

「真琴さんが私に対して補助魔法を禁止しないのは、そこに弱点への答えがあるからですか?」

「そうだ、恐らく、だがな」

「・・・・分かりました、真琴さんを信じます」

「無理言ってすまんな」

「貴方が謝る事じゃないですよ、無理言ってるのは私の方ですから。それからクロスレンジだけで戦うということは、お兄様の小太刀術を練習する為、ですね?」

「察しが良くて助かる、そういう事だ。選抜戦じゃ、覚えたての小太刀を使えって言われても直ぐには対応出来ないだろうからな、少し体に慣れさせなければいけない。俺と戦えばその内嫌でも身に付くだろ」

「了解です、私の為にここまで考えて頂き、有難うございます」

「まぁ、元々俺が言ったのがきっかけだしな、気にすんな。さて、そろそろ寝る時間だ」

「そうですね、すみません・・・」

「部屋まで送る、こんな時間に女性を一人で帰せないからな・・・」

 

 真琴がそう溢すと、もう午前3時を過ぎようとしたいた。

 

「はい、宜しくお願いします。今日は本当に有難うございます」

「いいっていいって」

 

 二人が玄関に向かい外出する準備を始めた。真琴達は珠雫の寮へ歩みを進めるていく。しかし、“それ”は突然起きた。

 ドボーン!という大きい着水音が二人の耳に届いた。そして、その音の方向は十一号館から聞こえたのだ。

 

「(この音は何だ!?十一号館から聞こえたぞ!?確か十一号館には一輝と綾辻先輩がいたはず・・・まさか!?)」

 

 真琴の頭の中には“ある事”が浮かんでいた。

 

「(何か嫌な予感がするぜ・・・・)」

「この音は一体!?」

「珠雫、十一号館の方向だ」

「分かるんですか?」

「何となくな、だが急ぐぞ。あの音は尋常じゃない、人が落ちたようなそんな音だった」

 

 二人は急ぎその場所へ走って向かった。その真琴の予想は最悪な形で的中する・・・・。それは・・・・。

 

「一輝!」

「お兄様!!」

 

 二人がその場所に辿り着くと、見るも無惨な光景だった。それは、十一号館の壁や窓がボロボロに砕かれ、一輝がコンクリートの上に倒れ、それを綾辻が見つめているというモノだったからだ・・・。

 この十一号館で一体何が起きたのか、真琴には完璧に把握する事が出来ていた。それは来る前に予想していた事と、ほぼ同じモノだったからだ。

 

 

「(やっぱこうなってたか!!)」

「何故、この場所が!」

「ま・・・こと?それとし、珠雫まで・・・?どうしてここに・・・」

「話は後です!今すぐ、病室に連れていきますから!」

 

「一輝、お前、一刀修羅を使ったな?いや“使わされた”な?綾辻先輩に・・・」

 

「(き、気付かれた!?な、何で!?)」「!?」「真琴さん!?それはどういう!?」

 

 真琴の言葉に一輝達は驚き、真琴は綾辻に怒りの目を向ける。その感情は次第に軽蔑の視線へと変化していく。そして、綾辻に向かってこう続けたのだった。

 

「おい、綾辻先輩。こんな事は言いたくないけどな、言わせてもらうよ、あんた、蔵人より“非道な事”してるぞ?」

 

 真琴は敬語すら忘れ、綾辻に言い続ける。

 

「・・・き、君に何が分かる!?あんな下衆野郎と友人のお前に!大切なモノを奪われた僕の気持ちが分かるもんか!!」

「悪いけど分かるんだよ、俺も大切なモノを失ってるからな」

「だ、だったら!」

「だけどな、一輝にそれをやるのは筋違いだ!もっとも他の人間に、ましてや蔵人に行うのも間違いだけどな」

「・・・っ!」

「あんたは自分自身で非道な道を選んだんだ、大嫌いな剣士殺し«ソードイーター»より非道のな・・・それを自覚しろよ?」

「ま、真琴・・・それ以上・・・あ、綾辻さんを悪く言わないであげ、て・・・悪いのはこの人じゃない・・・・」

 

 一輝が一刀修羅の副作用で体力を消耗しながら、綾辻を庇った。喋るのもやっとの筈なのに・・・体力を振り絞り、真琴にそう告げたのだ。自分をこんな目に合わせた張本人にも関わらず・・・・。

 

「はぁ・・・一輝がそう言うんだったら仕方ねぇな、綾辻先輩、一輝に免じて見逃してあげます。珠雫、病室の連絡は出来たか?」

「・・・は、はい、なんとか」

「よし、さんきゅな、俺が一輝を運ぶ、珠雫はステラに連絡しとけ・・・」

「わ、分かりました」

「ま、真琴」

「一輝、いいからお前は寝とけ。心配すんな綾辻先輩にはなにもしない」

 

 その言葉に安心したのか、一輝は真琴におぶさり静かに眠りに落ちた。真琴が一輝をおんぶし、病室に向かおうとした時、綾辻にこう告げた。

 

「綾辻先輩、これだけは言っておきます。貴女がどんな卑劣な手段を使おうと、一輝の切り札を封じようと、仕合中に如何なる反則技を使おうと、貴女は仕合に勝てない。それじゃ・・・・」

 

 

 真琴はそんな言葉を残し、珠雫と共に十一号館を後にした。両者に異様な不安感だけが残る夜となった。

 

 

 

 

 

 

 




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BATTLE.32 道場破り

「お兄様、大丈夫でしょうか?」

「疲労しただけだからな、もうそろそろ回復するだろ」

「いや、それよりも精神面が不安です・・・友人だった人に裏切られたんですから・・・」

「それについては問題ないだろ」

「え?」

「一輝は極度って言っていい程の“お人好し”だ、例え裏切られたって笑って許すさ」

「けど、私は許さないわ!!」

 

 急にステラが怒りをあらわにしながらその話に割り込んできた。

 

「折角一輝が丁寧に剣術を教えていたのにその好意を裏切ったのよ!!私だって手伝ったのに・・・」

「お前の気持ちも分かる、俺だってステラと同じ気持ちさ」

「そうです、ね」

 

 珠雫は深夜に起きた出来事を思い出していた。

 

(真琴さんはあの時、今まで見ないくらいの“怒りの表情”を浮かべていた・・・その顔は・・・とてもじゃないけど、あの“優しい真琴さん”の顔じゃなかった・・・・初めて真琴さんの事を“恐い”と思った・・・・)

 

 一輝がこのIPS再生槽に運ばれる数時間前、真琴と珠雫は白い装束衣装を身に纏った綾辻に出会している。その時に綾辻に対して怒りの表情を見せていたのだ。

 そんな事を思いながら珠雫は一輝の回復を待っていた。数十分が過ぎ、時間が十時を回った時一輝が目を覚ました。

 

「ここは・・・」

「イッキ!目が覚めたのね!」

「お兄様!」

「ステラ?・・・そうか、昨日綾辻さんに・・・そうだ!仕合は!?」

「心配すんな、一輝。仕合時間は午後の三時、現在時刻は午前十時、今から五時間後だ」

 

 

 すると、突然、一輝の病室が開き黒乃理事長が入室してきた。

 

「おお、黒鉄、やっとお目覚めか」

「理事長・・・」

「何か用ですか?理事長」

「黒鉄にな、体調が優れないところ悪いが、少し付き合って貰うぞ」

「?」

 

 真琴達は黒乃に案内され、理事長室に来ていた。

黒乃が真琴達に話があるということで、理事長室に真琴達を招き入れていた。その話とは昨晩の十一号館についてだった。

 

「やはり、あれはお前の仕業だったか・・・。昨晩、黒鉄から連絡を受け、医務室に運び込まれたと報せを耳にした時、もしやとは思ったが・・・・」

 

 

「それ相応の処罰は受けます」

「ちょっと、イッキ!何を言ってるのよ!?」

「ステラ!お前は口を挟むな、じっとしてろ」

「ステラさんは感情的に動き過ぎです、少し落ち着いて行動するのを覚えてください」

「・・・わ、分かったわよ・・・」

「・・・理事長」

「んー?」

 

 黒乃は手元にあった煙草ケースから最後の煙草を取り出しつつ、一輝の質問に耳を傾けている。

 

「教えて欲しい事があります、三年一組、綾辻絢瀬さんについて」

「・・・調べれば直ぐ分かる事だしな」

 

 黒乃が煙草に火を付け一服している。

 

「近衛」

「何ですか?理事長」

「お前は綾辻に“何があった”か大体察しているな?」

 

 黒乃のその言葉を聞いた一輝達は、一斉に真琴へ目を向ける。

 

「真琴!本当かい?」「そうなの!?マコト!」「そうなんですか!?」

 

「一斉に質問をするなぁ・・・」

「皆、そんなにがっつかないの。話せるものも話せないわ」

 

「わりぃな、アリス。助かった」

「いいのよ、気にしないで」

「・・・理事長、これはあくまで綾辻先輩を見てきた俺の推測に過ぎません・・・それでも良いですか?」

「構わん、話してみろ」

「・・・・分かりました、では、まず綾辻先輩を病室で見た時、俺はあの人の目の奥に『深い悲しみ』と『暗い復讐の炎』を確認しました。この目は第三者に大切なモノや家族なんかを奪われなければ、なることは有り得ません・・・。綾辻先輩は綾辻一刀流道場出身で、ラストサムライである“綾辻海斗”さんの実の娘。綾辻先輩は海斗さんが仕合の事故で入院してると言っていました。これはその事を聞いた俺の想像ですが・・・何者かに道場破りを挑まれ、その仕合中の怪我でラストサムライが入院している。つまり、誰かが綾辻海斗さんを打ち倒した、それも、悪質な迄に倒されている・・・こんなとこですかね・・・合ってます?」

 

「・・・概ねそれで正解だ、見事な推理だな。近衛の言ったのを補足すると、ラストサムライである綾辻海斗氏は二年前の道場破りで敗北し、その結果二度と剣を持てぬ体となった・・・・」

「え!?・・・」「まさか・・・そんな・・・」「どうして、そんな事に・・・」

 

 

「道場破りとの一対一の決闘の結果だ・・・その決闘相手とは・・・「貪狼学園、剣士殺し«ソードイーター»こと“倉敷蔵人”・・・ですか?」」

 

 一輝が黒乃の言葉を遮るように言った。

 

「そうだ」

「やっぱり、一輝は気付いていたか・・・どこで気付いた?」

「・・・綾辻さんとのファミレスで倉敷君と会った時かな・・・」

「やっぱり?マコトも気付いてたの?」

「ああ、一輝も言ったがファミレスで倉敷に会った時、あの内気だった綾辻先輩が突然、感情的な行動をとったよな?それでピンと来たんだよ、倉敷と“何かあったな”ってね」

「その“倉敷蔵人”と交わした取り決めに従い、綾辻家の土地建物は全て倉敷の所有物になってしまっている」

「それで今、海斗さんは・・・・」

「この二年間・・・意識不明だそうだ・・・」

 

―――――

 

 真琴達は学園内に設置されている公園に来ていた。いつもここで他の生徒達に剣術を教えている。綾辻にもここで学んでいた。

 

「それにしても、酷い話ね・・・愛する全てを奪われそこまで追い詰められるなんて・・・・」

「元来、道場破りってのはそういうもんさ・・・」

「仮にそうだとしても、これはやり過ぎよ・・・」

「でも今の彼女は『獣』仕合では形振り構わず牙を向いてくるでしょうね・・・・並大抵では無いわよ?」

「そうだろうね・・・綾辻さんがそう来るなら、全身全霊で応えるのみさ・・・でなきゃ綾辻さんに失礼だ・・・!」

「・・・でも!こんな卑怯な手を使われてまで!」

 

 珠雫も真琴同様に、綾辻の行いに対して怒りをあらわにした。

 

「珠雫・・・」

 

 だが同じ心境の真琴がその怒りを言葉で止めた。

 

「でも真琴さん・・・貴方だって綾辻さんに!・・・」

「分かってる・・・けどな今一番苦しんでるのは他の誰でもない綾辻先輩本人だぜ?」

「・・・・え?どういう事ですか?」

「いいか?綾辻一刀流は『人を守るための剣』として知られている、云わば“活人拳”そのものだ・・・。ラストサムライである海斗さんが実の娘の綾辻さんに、その❰信念❱を授けていない筈がない・・・」

「あっ・・・」

「大好きな親父さんの教えを裏切ってまであんな行動に出た綾辻先輩だが、もし本当に仕合に勝ちたいのなら、もっと一輝を追い詰める事だって出来た筈だろ?それをしないのは綾辻先輩の中にある良心に他ならない・・・」

 

「・・・・」

「ステラ、真琴・・・」

 

 今までベンチに座ったいた一輝がその疲弊した体を立ち上がらせた。

 

「イッキ!」

「無理すんな」

「大丈夫、有難う二人共・・・。一緒に来て欲しいところがあるんだ・・・」

「良いけど何処へ?」

「一つだけやらなきゃいけない事があるんだ・・・・仕合の前にね・・・・」

 

 

―――――

 

 そして、時間が経ち時刻は午後2時前、真琴と一輝とステラの三人は折木の前に来ていた。今回の解説を学園から任されているのは、この折木有里なのだ。       綾辻が“形振り構わず”戦うという事は、反則技も厭わないと同義だ・・・。それを伝える為、折木の元へ訪れていたのだ。

案内された場所は学園の中にある会議室だ。そこで飲み物を飲みつつ、話を始めた。

 

「何かな何かな、話しって、黒鉄君・・・」

 

 生徒達にフレンドリーに話し掛けるのは、折木の教師としての特徴である。その為、学園の生徒からは人気が高い。病弱なところも含めてである。

 

「はい、今日の仕合、綾辻さんは間違いなく反則を使ってきます」

 

 一輝のその言葉に思わず、ブシャー!!っと折木が口から血を吹き出した。持っていたハンカチでそれを拭きながら、口を開く。

 

「ほ、ホントに?黒鉄君・・・じゃ、じゃあ反則を確認したらすぐ仕合を・・・」

「いえ、この仕合反則のジャッチをとらないで欲しいんです」

 

 一輝の意外な言葉にステラが飲んでいたコーヒーを吹き出し、折木が吐血し、真琴が「やっぱりな」と一言呟いた。

 

 

「何でよ!?イッキ!?」

「ステラは少し黙って見てろ、一輝に考えがあっての事だ」

「本当に綾辻さんが反則を使ってるのだとしたら、没収仕合で黒鉄君の勝ちになるんだよ?選抜戦の一つ一つの仕合がどれだけ大事か分かってるよね?」

「はい、一つでも黒星を取ってしまえばきっと、七星剣武祭の代表には残れない・・・」

「それでも君は・・・」

 

 折木は一輝の担任だ・・・。自分の受け持つ生徒の考えの意図を汲めない教師ではない・・・。だが担任である前に一教師だ、その理由を聞かなければならなかった。

 

「理由を教えてもらえるかな?」

「僕は、綾辻さんの『心』を助けたいんです」

「心を助けたい?」

「綾辻さんの心は実家で起きた、道場破りが原因で壊れそうになっています・・・それを助けたい。僕が綾辻さんの縁を切ってしまえば僕の勝ちとなります・・・・。ですが、考えても考えても答えは出ませんでした、でも一つだけ分かった事があるんです」

「それは何?」

「綾辻さんとの縁を切りたくないという僕自身の気持ちです!」 

 

 一輝の言葉に真琴とステラは呆れるばかりだ・・・。しかし、その無類なき優しさこそが黒鉄一輝の良さであり、強さなのだ・・・。

 

「はぁ・・・全く一輝は仕方ねぇな、お人好しにも程があるぜ・・・」

「真琴・・・」

「折木先生、俺からもお願いします・・・一輝はただ綾辻先輩の心を救いたいだけなんです。もしこの機会を逃したらもう、二度と救うことは出来ないでしょう・・・一輝に、最後のチャンスを与えてやって下さい!」

 

 と真琴は頭を下げ、折木の説得を試みたのだ。一輝は綾辻の為に、真琴は一輝の為に・・・。自分の生徒がここまで己の気持ちを示したのだ。汲まなきゃ担任の名が廃るというものだ・・・・。

 

「分かったわ・・・綾辻さんの件は任せて頂戴・・・」

「本当ですか!?」

「やったわね!イッキ!」

「私のかけがえのない生徒だもの・・・我が儘くらい聞いてあげなきゃ・・・・それよりもうすぐ仕合時間よ、急ぎなさい」

「はい!んじゃ行こう、ステラ、真琴!」

「おう」「ええ!」

「あっ、近衛君は待って」

「え?何でです?何か用でも?」

「うん、血を出し過ぎて、実況席まで行けそうにないの・・・送ってくれない?」

「分かりました、それくらいなら・・・つー事だ、二人で仲良く控え室に行ってくれ。俺はお邪魔だろうからな!」

 

 その真琴の顔はニヤケながら二人に言った。

 

「ええ!?いやぁそのぉ・・・・」

「いいいい、急ぐわよイッキ!遅れちゃうわ!!」

「そ、そうだね!いいい、行こう!」

 

 二人はその言葉に顔を真っ赤にしながら入り口に向かった。

 

「「し、失礼しました!」」

「行っちゃいましたね」

「フフッそうだねぇー」

 

 折木が立ち上がると、立ち眩みからか倒れそうになった。それを真琴が支えた。

 

「折木先生、取り合えず輸血パックを貰いに行きましょうか・・・」

「そうだね、一リットル準備すれば大丈夫だと思うし・・・」

「さぁ俺がおぶりますから、背中に乗って下さい」

「うん、有難うー」

 

 そのまま二人は保健室へ立ち寄り、輸血パックを入手してから実況席へ向かった。

 一輝の仕合が行われる第三訓練場に到着し入場する真琴と折木の姿を、刀華が目撃していた。

 

「あれ?今入場したのまこ君と折木先生?何でおんぶしてたんだろ・・・」

 

 真琴は折木と楽しそうに会話をしながら、会場に入っていく・・・。

 その表情を見た刀華の心はズキッという“嫉妬”を感じていた。

 

(私、もしかして、今・・・ううん、まこ君と折木先生はクラスが同じだもん、楽しく会話してただけだよ・・・)

「どうしたの?刀華」

「ううん、何でもない・・・早くカナちゃんの仕合に行こう」

「変な刀華」

 

 

 そして、一輝と綾辻の仕合の火蓋が切って落とされた!

 

 

 

 




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BATTLE.33 揺れ動く心

こんにちは!紅河です!

遅れてしまって申し訳御座いません!
楽しみにお待ちいただいている方はお待たせいたしました!
少し短いですが、お付き合いください!




 真琴が折木を実況席に送った後、会場に向かう途中で

珠雫とトイレ前でばったり会っていた。お互いの用事が終わっていたこともあり、二人で仕合会場に向かった。

 その道中で珠雫が気になっていた事を口にした。

 

「あの、真琴さん」

「何だ?珠雫」

「お兄様とステラさんと三人で何処に向かってたんですか?お兄様がやらなきゃいけない事があると仰っていましたが・・・」

 

 珠雫は右隣を歩いている真琴に、上目遣いで言った。

 

「ああ、その事か。ゆりちゃん先生の所へ行ってた」

「ゆりちゃんの所に?何故ですか?」

「次の仕合の審判はゆりちゃん先生だろ?」

「はい、そうみたいですね」

「綾辻先輩が反則技を使うから、それを報告する為にな」

「えっ?綾辻先輩はお兄様の仕合で反則を使うんですか!?」

 

 私は第三訓練場ステージに向かう途中の廊下で、真琴さんからその話を聞いた。“反則”という言葉に私は思わず、声を大にして反応してしまった。

 

「馬鹿!声が大きい!」

「あっすみま・・・うっぷ」

「聞かれたらどうすんだよ!」

 

 真琴さんが素早く私の口を手で塞いだ。

 

「そ、そうですね・・・すみません・・・でも反則を使ってるなら没収仕合としてお兄様の勝ちになるのに、何故そうしないんでしょうか?」

 

 私は首を傾げながらお兄様の意図を聞くため、真琴さんに質問をする。お兄様の仕合会場に真琴さんと向かいながら・・・。

 

「一輝の考えがあっての事だ」

「お兄様の?」

「ああ。一輝は綾辻先輩の事を救いたいのさ・・・壊れそうな綾辻先輩の心な・・・」

「お兄様はそんなに綾辻先輩の事が大事なのでしょうか・・・あんな事をされたのに・・・」

 

 珠雫は綾辻という言葉を真琴から聞き、ある出来事を思い出して自分の拳を思いっきり握り締めた。それは手から血が滲み出てしまう程のようだった。

 そして、珠雫の頭の中には“ある一つ”の答えに思行き着いた・・・。それは、『一輝は綾辻先輩の事が好き』という推測だった。そうでもなければ卑怯な手を使用した綾辻の事を庇ったり、助けたりはしないだろう・・・。そんな考えが頭から離れない・・・・。

 それを察したのか真琴さんが私の頭に手を置いて声を掛ける。

 

 

「別に一輝は大切な『友』を救いたいだけだよ。お前が考えている事にはならねぇ、心配すんな」

 

 そう言って優しく私の頭を撫でた。いつもより優しく、暖かい温もりを感じる撫で方だった。

 

「・・・はい。そうですね」

「んじゃ会場に行こうぜ。そろそろ始まるだろうからな!」

 

 真琴はニカッと珠雫に笑顔を向けて、その手を引いて会場に走って行った。 会場の廊下にタッタッという爽快な足音をたてながら・・・。

 

 

 

 私は男の人に手を引かれるという事を家族以外の人間にされた事は一度も無かった。私に近付いて来る男性なんて、黒鉄の名に媚びようとする人達ばかりだった。その顔は今でも覚えている・・・・。下卑た表情、ニヤついた顔、機嫌を取るように卑屈な表情、その顔付きは人間によって様々だった。だから私は人間が嫌いになっていった・・・。私の家柄しか見てくれない人達、家の人間だってそう・・・。私の能力しか見ていない・・・。私自身の心を見てくれる人なんて誰も居なかった・・・・。お兄様やお母様以外では・・・。

 でも破軍学園に来てからというもの、それは徐々に無くなっていった。ルームメイトのアリスや真琴さんが私を見てくれたから・・・。私の気持ちを『理解』してくれた・・・。今ではそれが凄く嬉しい・・・。

 そして、その真琴さんと二人でステージ会場に着いた時、私は胸の高鳴りを感じた気がした。トクントクンという胸の鼓動を・・・。

 

(あれ?今私・・・・)

 

 珠雫は胸を押さえその足を止めた。

 

「ん?どうしたんだ?珠雫・・・。急に止まって・・・」

 

 真琴も足を止め、珠雫の方に振り向く。

 

「・・・いえ、何でもありません」

「ん?そうか」

「アリス達が席を確保して待っています、行きましょう」

 

 珠雫が照れを誤魔化すようにステージの方へ走り去っていく。真琴がすれ違い様に見た珠雫の顔は、ほんの少し赤くないっていたような気がした。

 

「お、おい!俺を置いていくな!」

 

 珠雫を追いかけ、真琴もアリスとステラが待つ客席へ向かった。間もなくして、黒鉄一輝VS綾辻絢瀬の師弟対決が始まろうとしていた!

 

 

 




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BATTLE.34 師弟対決!«黒鉄一輝»VS«綾辻絢瀬»

こんにちは、紅河です。

まず、最初に読者の方々に謝らなければいけません。お待たせしてしまって大変申し訳御座いません!
私の新環境や現実の仕事等で小説を書くことが出来ませんでした・・・。

ですが、今週にやっと落ち着いて来まして漸く手につけ、更新することができました。心配するメッセージもいただき、お恥ずかしい限りです。

取り敢えず仕上がりましたので、楽しんでいただければ嬉しいです!


「よっ。待たせたな」

 

 真琴が景気良く手を上げて、席で待っているであろう、ステラとアリスに挨拶をする。

 

「あら、遅かったわね」

「少し、ゆりちゃん先生との会話に花が咲いちまったからな。そのせいさ」

 

 その後ろから珠雫が遅れてやって来た。珠雫の足取りはほんの少し重いように感じた。

 

「どうしたんだ?珠雫?行くぞ?」

 

 真琴が不用意に手を近付けると、珠雫は顔を赤くしてしまった。

 

「えっ!?い、いや何でもないですから!早く席に座りますよ!」

 

「お、おいっ!珠雫!いきなり押すな!」

(あら、珠雫ってば、もしかして・・・)

 

 アリスが顔に手を当てながら、その様子を見て微笑んだ。 

 

「・・・よいっしょ!はい、ここに座ってください!」

 

 珠雫が照れを隠すように真琴を押し、アリスの右隣に座らせてしまった。

 

「はぁ・・・何だよったくっ・・・」

「それで、お兄様の仕合はまだ見たいですね」

「ええ。ねぇ、真琴」

「あん?何だよ、アリス」

 

 真琴は腕組をしながらアリスの言葉を待っている。

 

「貴女は“一輝と綾辻”さんどちらが勝つと思う?」

「アリス、野暮な事聞くなよ。勝つのは一輝に決まってるだろ?一輝には戦いにおいて最も重要な要素を幾つか持っているからな、“綾辻先輩にはない”な」

「それは?」

「まず一つ、『見切る力』だ。見切りとは実践戦闘で敵と渡り合う上で最も重要な能力の一つ!しかも一輝はそれを得意としている」

「でも先輩だって見切り位するでしょ?」

 

 今まで口を開かなかったステラがアリスに代わり質問を投げ掛ける。

 

「するだろうな。というか今の破軍の現状だと、“綾辻先輩程度の腕でも見切りが出来る”と言った方が正しいな」

 

 真琴は片方の瞼を閉じ、嫌味をきかせながら答えた。

 

「それはどういう意味かしら?」

「いいか?この破軍学園の生徒達のクロスレンジは、ずぶの素人に毛が生えた程度の腕しか有していない・・・。そんでもって、多くの生徒は人間の身体能力を甘く見ている。そういう奴等の太刀筋、クロスレンジであるなら見切る事なんざ容易いだろう」

 

 真琴は続ける。

 

「それに一輝の見切りは他の伐刀者より、群を抜いている。一輝は弟子級最上位の緊湊だ。しかも数分経たない内に自分より下の伐刀者、又は同等の伐刀者のクロスレンジであれば、完璧に見切る事が出来る!綾辻先輩のそれとはレベルが違う。いや、学生伐刀者の中では最高峰だろうぜ?」

「・・・・」

 

 アリスは真琴の答に言葉を失った。

 真琴はこうも続けた。

 

「見切りが出来るということは、相手の思考を読めると同義だ。つまり、自身の体力を温存し、相手の攻撃を最小限の動きで躱せるということだからな。しかも一輝はその読みを昇華し、完璧把握«パーフェクトビジョン»という技まで編み出してしまった。これを打破出来る奴は今の学生の中じゃあ、極々僅かしかいないだろうぜ?・・・ただな・・・」

 

 真琴の瞑っていた瞼が開き、その表情は真剣な顔付きへと変わってゆく・・・。

 

「ただ?何かあるの?」

「ああ。この仕合について、少しだけ懸念事項がある」

「一体何なのですか?」

 

 珠雫も真琴のただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、質問を投げ掛ける。

 

「それは・・・『綾辻先輩の伐刀者としての能力』だ」

「先輩の伐刀者としての能力?」「綾辻先輩の?」

 

 ステラと珠雫が首を傾げる。

 

「そうだ。黒乃さんが理事長に就任し大革新を行うまで、この破軍学園では能力値選抜制だったのは知ってるな?」

 

「ええ」「そうみたいね」「はい」

 

「その為、綾辻先輩は伐刀者としての能力が足りず、前回前々回の七星剣武祭に出場していないんだ。つまり、今回が初めての出場なんだよ、という事は・・・?」

「世間一般には彼女の能力が認知されていない・・・!」

 

 アリスの言葉を耳にしたステラと珠雫の表情が一変する。

 

「「!」」

 

「その通り」

「もし、先輩の能力が«狩人»並みにイッキと相性が悪かったら・・・」

「いくらお兄様でも・・・勝てない・・・という事ですね」

 

 真琴の懸念事項、この仕合の危険性を他の三名は認識することとなった。ステラが疑問に思っていた事を口にする。

 

「ねぇ、マコト」

「まだ何かあるのか?ステラ」

「一輝には重要な要素が幾つかあるって言ってたけど、見切りと読みだけなの?まだあるのよね?」

「ああ、あるぞ。だがそれについては後でだ・・・。どうやら一輝と綾辻先輩が到着したようだからな」

 

 

 

 

 真琴がそう言葉を溢すと、東ゲートの入口を照明が照らし、一人の選手がステージへ歩を進めた。その人物は真琴達が心配してやまない黒鉄一輝、その人だった。

 間もなくして、西ゲートの扉も開かれた。スポットライトで照らされ、綾辻絢瀬が現れた。

 

 

 

 

「やっぱり出てきたんだね・・・少しは不戦勝も期待したんだけどなぁ」

 

「綾辻さんに負けられない理由があるように、僕にもあるからね」

 

「そう・・・でも勝つのは僕さ!」

 

 綾辻は勝ちを確信しているような表情で固有霊装を顕現させ、一方の一輝はポーカーフェイスを維持している。

「来てくれ、陰鉄・・・」

 

 

「赤く染まれ、緋爪!」

 

 各々の思考を巡らせながら二人の武器達が出現した。

 

「綾辻先輩は剣士として上に行くために一輝から剣術を学んだ」

「言わばこれは“師弟対決”」

「しかも固有霊装が“刀同士”の対決でもあるわけね」

「だな」

 

 ステラ、珠雫、アリス、この三人は気付かなかったが、真琴は“それ”に気付いたのだ。

 

(ん?綾辻先輩、今固有霊装を空間から出した?それじゃ、もしかすると綾辻先輩の能力は“空間”に関係するのか?)

 

 真琴は腕組を外し、前のめりになりながら仕合を観戦する。すると、仕合が動き出した!

 

「はああああ!」

 

「おおっと!?黒鉄選手いきなりの跳躍だあ!速攻かぁ!?」

 

 

 綾辻が自身の固有霊装«緋爪»を逆手に持ち、柄の部分を軽く叩いたのだ。キン・・・という金属音が鳴ったかと思うと、空中に居た一輝が滅多切りにあってしまったのだ!

 

「くぅううっ!!・・・」

 

 一輝が堪らず距離をとり、バックステップを行った。 

 

「!?」

「今のは一体!?」

「何もない空間から、突然イッキが切られた!?」

 

 突然の出来事に座っていた三人が、身体を立ち上がらせてしまった。真琴だけが仕合を冷静に観ていた。

 

(・・・なるほど、そういう事か・・・。これが綾辻先輩の『能力』・・・。一輝が“突然斬られた”ということは綾辻先輩が犯した犯則もこれで、推測出来るな。つまり・・・)

 

「三人とも、落ち着け」

 

 真琴は腕を組み直し、三人に声をかける。

 

「真琴さん!綾辻先輩の攻撃方法が分からない以上、お兄様は苦戦を強いられますよ!」

「まぁそうだけどよ、俺は綾辻先輩の能力と犯則技を把握出来たぜ?」

 

「そ、それホントなの!?マコト!」

「・・・・!」

 

 

 ドヤ顔をしながら、ステラの質問にこう答えたのだった。

 

「ああ。綾辻先輩の伐刀絶技がどんな名前かまでは知らないが、綾辻先輩は“空間系能力”を持つ伐刀者だ。自身の固有霊装で予め空間に傷を付けて、自身にしか見えないトラップを造り出す。そして、綾辻先輩が犯した犯則技っていうのが『事前に仕掛けた罠』。そのトラップを発動させ、見えない鎌鼬で一輝を斬りつけたんだ」

 

 その言葉に珠雫の瞳は怒りに燃え、アリスが淡々と言葉を溢した。

 

「・・・仕合前に罠を仕掛けるのは犯則」

「犯則が分かった段階で仕合は即没収・・・!それじゃ、まさかお兄様が真琴さんとステラさんを連れて行ったのは・・・!」

「そういう事さ。綾辻先輩を救うため、折木先生に仕合を止めないよう報告に行ってたんだ」

 

 アリスが溜め息混じりに言葉を漏らした。

 

「はぁ・・甘いわね・・・いえ、こういうべきかしら?黒鉄一輝は『とことん迄に人に優しい、お人好し』」

「そうだな。それは言えてるな、一輝はそういう奴だ」

「そうね。今の私達には見守る事しか出来ないわ・・・」

「信じましょう、お兄様を・・・」

(イッキ・・・)

 

 ステラと珠雫が心配そうな心情を持って一輝の仕合を見つめていた。それをするのも無理もない。何故なら一輝は一回戦目に狩人«かりうど»こと、桐原静矢に高所から“見えない矢”でいたぶられ悪戦苦闘しながら、やっとの思いで勝利をもぎ取る事が出来たからだった。一輝が桐原戦と同じ様に“見えない技の応酬”に対応できなくても、なんら不思議では無いのだ。

 

 

 真琴達が綾辻の能力について話す数分前のこと・・・。一輝が綾辻の攻撃を受け距離をとった時、綾辻が柄を叩き、すると突如、一輝の背中が見えない鎌鼬に斬り付けられたのだ!その出来事に会場内は騒然とした。騒ぐのも無理はない。

 例えると、“何の前触れもなく、目の前の人間の背中に、不自然な傷が出来た”こんな感じだろうか。これでは斬られた本人も解らず、第三者も理解するには難しいだろう。

 

(こんなダメージを負わせた程度では、黒鉄君は倒せない!接近戦では黒鉄君の方が有利だけど、僕には«トラップ»がある!ここは攻める!)

 

「はあっ!」

 

 二人の鍔迫り合い!そして綾辻の力任せの一振りが

一輝を襲った!

 

「くっ!」

 

 完全に躱す事が出来ず、左腕を掠めてしまった。それを見過ごさず、綾辻が技の体勢に入る。キンという金属音が鳴ったと思うと一輝の傷が自然に開いてゆく!

 

「ぐぅあァァ・・・!!」

 

「「「「「キャアアアアアアーーー!!!」」」」」

 

 一輝の左腕から血が飛び出し、会場内の女性達は悲鳴を上げ、仕合を観戦していたステラ達も思わず声を上げてしまう。

 

 

「イッキ!!!」「お兄様!!」「あの傷は・・・」「・・・一輝!」

 

 ステラの表情は心配顔そのものだ。他の三人も同じ様な表情を浮かべていた。

 

「おおっと!これはぁ!?小さかった黒鉄選手の斬り傷が勝手に開いた様に見えましたがぁ、一体どういう事だぁ?これが綾辻選手の能力なんでしょうか!?」

 

 月夜見の実況が入るが綾辻はすかさず、一輝に刃を向け突撃を開始した。

 

 

「どうだい?僕の能力、風の爪痕のお味は?」

「堪えますねぇ・・・なかなかっ!!」

 

 次の攻撃に備え、お互いにバックステップを行い距離を取る。真琴の表情はひどく神妙な顔つきで二人を見つめていた。

 

(・・・チッ、綾辻先輩のあの伐刀絶技、大分厄介だな・・・。小さな被弾でも綾辻先輩が能力を起動さえ、させちまえば、一瞬にして大きな傷に早変わりとはな・・・。もし急所に掠りでもしたら、それだけで致命傷か・・・この事は一輝も気付いているだろうが・・・負けんじゃねぇぞ)

 

 その言葉に熱を込めながら、大事な親友«一輝»へエールを送った。

 

「(ここには既に数百の刀傷を仕込んである)逃場は無いよ!!」

 

「好機と見たのか、綾辻選手の猛攻だぁ!!ラッシュラッシュラッシュゥー!!捌くのが精一杯だあ!!」

 

 綾辻は一輝が傷を負ったのを良いことに、一輝に向けて斬戟を繰り出した。横凪ぎ、振り下ろし、自分が知り得ているであろう有りとあらゆる斬戟を一輝に浴びせてゆく・・・。だがしかし、綾辻の剣戟は一輝に届く事はなかった。綾辻が一輝の左腕に深い傷を負わせたにも関わらずだ。当事者である綾辻には徐々に焦りが滲み出てきたのだった。

 

「(おかしい!・・・。あれだけの傷を僕が負わせたのに、何故黒鉄君はまだ立っていられるの!?常人なら倒れてもおかしく無いのに!?い、いやまだだっ!僕にはトラップがある!)」

 

 一輝が攻撃を躱す為に後ろに跳んだ。その直後、直ぐ様綾辻が伐刀絶技の起動に入った。この技を発動させるためには自身の固有霊装を逆手に持ち返し、柄の部分を軽く指で叩く必要がある。だがそれは些細なモノだ。綾辻には数百のトラップがあるのだ。一輝には視認出来る筈のないトラップが・・・。

 綾辻は一輝の身体に重なる様に技を発動させた。しかし綾辻の«風の爪痕»は空を切り、不発に終わってしまったのだった。一輝が綾辻の技を感じ取り、素早く身を前屈させ技を回避したのだ。

 

「(なっ!躱した!?僕のトラップに気付いたっていうの!?だけど確証はないはず・・・今のうちに・・・!)」

 

 綾辻は間髪いれずに攻撃を仕掛けようとしている。実況席を確認しながら・・・。何故なら綾辻は犯則を犯してこの仕合に挑んでいるのだから、見る事は仕方ない事だった。

 そして、確認を終えた綾辻もう一度、一輝に接近戦を挑んできた・・・。後退しながら一輝は攻撃を躱していく。綾辻が振り下ろし、一輝はそれを陰鉄で受け止めそのまま上に押し上げながら、綾辻へ斬戟をお見舞した。しかし、綾辻は簡単に刀身で受け流した。そして「(止め!)」と思ったのか、最後の攻撃を繰り出した。

 

「お、お兄様!」

 

 珠雫は両手を握り締め、一輝の身を按じ誰しもが、完璧に決まったと確信していた事だろう。だが真実はそうではなかった・・・・。一輝が繰り出した攻撃は

綾辻の斬戟を誘発する“誘い”だったのだ!

 

「(や、やられた!誘いだったの!?)」

 

「やっぱり、綾辻さんは僕の思った通りの人だ」

 

「き、急に何を・・・」

 

「綾辻さん、今の貴女は・・・。呼吸、太刀筋、踏み込み、何もかもがめちゃくちゃだ・・・!」

 

 仕合途中で一輝と綾辻は立ち止まってしまう。

 

「イッキ達が立ち止まっちゃったわね」

「みたいだな。雰囲気から何となく察せるが、綾辻先輩の説得に試みているようだな」 

「そういえば、綾辻先輩の心を救うためでしたね」

「(そういえばって何気にひでぇな・・・珠雫め、今まで忘れてたな・・・)一輝が話してる内容は恐らく、綾辻先輩の“真の力”についてだろう」 

 

「“真の力”?」

「ああ。今の綾辻先輩は、一輝が教えた剣術、昔から学んでいた綾辻一刀流剣術すら出来ていない状態だ」

 

「それは本当なの?」

「・・・仕合前にベンチで真琴がそんなことを言ってたわね」

 

 アリスが顔に手を当てながら、口にする。

 

「ああ。いくら下衆を演じたところで、綾辻先輩の中にある、生粋の“活人拳”が消える事はない。綾辻先輩は“ラストサムライ”である親父さんを尊敬し、その親父さんの事が大好きみたいだからな、尚更だろう。先輩の葛藤が剣にも現れ、ここからでも“心の迷い”が見てとれる」

「(はっ!)イッキにはもう一つ大事な要素があるとか言ってたけど、もしかして“心”の事?」

 

 真琴はコクりと頷く。

 

「武術や剣術、戦いにおいてもっとも重視されるのが“心の力”だ。迷ってる剣に真の力は絶対に宿らない、俺はそれを良く知っている」

 

 真琴が語り終わった直後、一輝達が動き出した!

 まず、先に行動したのは一輝だった。左腕を負傷しながらも、両手に武器を持ち直し、綾辻へ特攻を仕掛けた!

 それに対応するため、綾辻はトラップを発動させる。しかし、一輝には当たらない。もう既に«完全把握(パーフェクトビジョン)»を終わらせていたようだった。

 

 

(くっ・・・やはり黒鉄君は強い!左腕を負傷させてから一度もヒット出来ない!でもここで退いたら剣士殺し«ソードイーター»にも勝てっこない!でも負けられない!負けたらッ・・・・)

 

 綾辻は鬼の形相で刀を地面に突き刺し、周囲にスモークを造り出した。「うおおお」という声に反応し、跳び掛かってくる一輝に向け、突きを繰り出す。

 だが一輝の身体は幻の様に消え失せてしまった。その身体は其処にあって、其処には無いのだ。

 

「第四秘剣 蜃気狼」

 

 綾辻が気付いた時には一輝は既に後ろに立っていた。

二人がほぼ同時に攻撃し、刀同士のかち合いの轟音が鳴り響きながら、綾辻が地面に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?
満足していただけたら幸いです。




ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.35 師を疑うな!疑うなら師をとるな!

こんにちは、紅河です!

お待たせしました!BATTLE.35更新です!

世間ではもう夏ですが、熱中症対策は大丈夫ですか?
私の方も扇風機を倉庫から出しました。
アイスを食いながら書いてます(笑)。ガリガリ君美味しいです。


それではどうぞ、お楽しみ下さい!



 私は自分の弱点を克服する為、一昨日の夜、真琴さんに相談していた。夜遅くに訪れたというのに、真琴さんはお茶菓子や飲み物を用意して私を持て成し、更には快く助力すると言ってくれた。真琴さんは「俺がいった手前断れねぇよ」と言っていたけど、それを聞いた瞬間、私の中にある感情は“満足”と“申し訳無さ”が交錯し、心を埋め尽くした。

 

 お兄様とは少し違うけど、真琴さんも随分身内には甘々だと思う。

 

 それにしても、早起きなんて何年ぶりだろう?現在の時刻は早朝の五時。真琴さんから指示を受け、こうして寮の門前で待っているのだけど・・・。真琴さんが来ない・・・。何かあったのかしら?

 自分自身の為に身体を鍛えること自体久し振りね・・・。実家から剣術を学んで以来?そうなると三、四年位前になってしまう。

 そんな事を考えてると何やら地蔵を持った男性が現れた。そんな人はこの破軍学園で一人しかいないけど・・・。

 

 

「あ、真琴さん、おはようございます」

「おう。おはよう、珠雫」

 

 お互いに挨拶を交わす。あれ?真琴さんは何やら運んで来たみたいね・・・。あれは・・・地蔵!?地蔵の全長は80㎝程だろうか?通常の地蔵よりも大きい・・・。真琴さんはそれを軽々しく運んで来た。

 

「わりぃな、遅れちまって」

 

「い、いえ、お気になさらず・・・」

 

 近くで見るとその大きさとクオリティの高さが一際目を引いた。おぶさる形状をした地蔵は人生でこれが初めてで・・・私は思わず聞いてしまっていた。

 

「その地蔵、なんて言うんですか?通常よりも、大きめに設計されてるみたいですけど・・・」

 

「ああ、これか?これはな『おぶさり地蔵』っていって柔術の先生が鍛練用に製作したもんだぜ」

 

 あっそういえば、前に真琴さんの部屋にお邪魔したときに、仏像や地蔵を見掛けたましたね・・・。

 

「でも、私達が訪れた時はその地蔵は拝見しませんでしたが・・・」

 

「普段はクローゼットにしまっているからな」

 

「そうだったんですね、もしかして!その地蔵は私が使うんですか?!」

 

 私は思わず声を大にして、真琴さんに問いただしてしまう。あれを背負ったらまともに走れないわ・・・。

 

「あー違う違う・・・これは俺が使うんだよ」

 

「真琴さんが?」

 

 ふぅ・・・良かった・・・。流石の真琴さんでもそんな無茶な事は言わないのね。

 

「ああ。とりあえず付けるの手伝ってくれるか?」

 

「あ、はい」

 

 私は真琴さんに言われるがまま、『おぶさり地蔵』の装着に手を貸したのだった。真琴さんが文字通り、地蔵をおぶさり、その地蔵は四肢を鎖で繋いでいて、それを引き寄せる。私はその鎖の四つの先端が重なるように南京錠を掛ける。付けるのには、然程時間はかからなかった。

 

 

「サンキュな、珠雫」

 

「いえ、これくらいは・・・その地蔵はどう使用するんです?」

 

「ランニングで使用するぞ」

 

「(成る程、早朝に呼び出したのはこの為だったのね)」

 

 私はつい聞いてしまった。

 

「どの位走るんですか?」

 

 すると、真琴さんの口から思わぬ言葉が飛び出してきた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たった、20㎞だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え??20㎞???

 

 

 

 耳を疑った。

 

 今、真琴さんは何て言った?20㎞??

 

 私の聞き間違いかもしれない・・・。

 

 もう一度言葉を思いだそう。

 

 

『たった、20㎞だ』

 

 

 

 駄目だ!何度思い出しても20㎞だった!!確かに真琴さんは20㎞って言っていた!!

 

 

 

 

 

 信じられない!!そこまで身体を苛める伐刀者は耳にしたことが無いわ!況してや身体に重しを付けて!?

 

 

 

 

 

 やはり・・・・・・・・・この人は、何処か〝可笑しい〟・・・・・・・!!

 

 

 

 

 

 常軌を逸しているとしか言いようがない。

 私の口は半開きのまま、暫く氷のように冷たく固まってしまった。

 

 

「おい、珠雫!何呆けているんだよ!」

 

 真琴さんの声で私は冷静さを取り戻していく。

 

「ハッ!私は一体何を・・・・。というか20㎞なんて完走出来ませんよ!」

 

「悪いな、少し言葉が足りなかった」

 

 え?じゃあさっきの20㎞は一体?

 

「20㎞っていうのは普段、俺と一輝が走破してる距離の事だ」

 

「あ、そうなんですか・・・良かった」

 

 私は真琴さんの言葉に、そっと胸を撫で下ろした。

 え?いやいやいや・・・。何冷静に撫で下ろしているのよ!?私!?20㎞よ!?私が走らないとはいえ、改めてお兄様と真琴さんの実力を思い知らされるわね・・・。

 

「それじゃ私はどの位の距離を走れば宜しいんですか?」

 

「珠雫はだな、20㎞の半分の10㎞かな」

 

「それでも多いですね・・・・」

 

「だろうなぁ・・・慣れてないとキツイ距離ではある」

 

 でも・・・!

 だからこそ!!

 “昔の私”を払拭するにはこの距離を走り切るしかない!!

 “今の私”が“未来の私”を進むべき道«進化の道»に導かなければ、お兄様にも認められず、成長も無い!!!

 私は覚悟を決め、真琴さんに走る意志を伝える。

 

 

「(へっ、少しは良い目になったな・・・珠雫)まず、最初は重し無しで走ってみな。それでもキツイだろうが、頑張れ。少しずつ体が慣れて来たら重しを付けて走ろう」

 

「はい!」

 

「珠雫。これから行う鍛練について、ランニング以外もあるから詳しく説明するぞ」

 

「はい、宜しくお願いします」

 

 私は頭を下げ、真琴さんの言葉を待つ。

 真琴さんが話した内容はこうだ。

 

 第一に、【基礎体力と筋力の向上】

 

 真琴さんが言うには「珠雫の身体は基礎自体は出来てる。だけど珠雫が鍛えて来なかったから基礎の密度が低い、これからそれを向上させる」 「瞬発力と持久力を兼ね備えた良質の筋肉のみに珠雫の身体を創り変える。珠雫のクロスレンジに最も重要なのがスピードとテクニックだ」って事みたい。とりあえず私は真琴さんを信じよう。

 

 

❰「師を疑うな!」❱ ❰「疑うなら師をとるな!」❱って言葉もあるんだから。

 

 

 私はお兄様やステラさんとは違い、今まで体術に力を入れてこなかった。だから私のパラメータでも、身体能力の項目はFには行かないものの、最低ランクの“E”。

 多くの学生伐刀者は身体能力を見下し、体を鍛えようとしない。斯く言う私も真琴さんと会うまでは、身体能力は魔力で強化すれば十分という認識でいた。だけど破軍に来てからというもの、その認識は間違っていたと認める結果となった。

 多くの伐刀者がお兄様と真琴さんに“無傷”で突破されてしまっているからが要因。しかも真琴さんに関していえば、殆どの仕合で❮気当たり❯のみを使用し、戦わずして勝利を収めている。

 本当に同じ伐刀者なのかしら・・・それすら疑ってしまうわね。 

 

 

 第二に、【近接戦闘の強化(主に小太刀術)】

 

 私の固有霊装は『小太刀』の形容をしている“宵時雨”。

 真琴さんが言うには「小太刀は剣術の中でも接近戦に特化した剣術。小太刀は刀身が短く造型されている為、入り身主体の技が多く、体術にも長けている」って丁寧に解説してくれた。

 思い返してみれば、確かに実家の小太刀術も体術の技が多くあったと記憶してる。

 私は黒鉄家にて«旭日一心流»の“小太刀”を学んでいた。でもお兄様との“一件”以来、私は実の父親の事が嫌い。昔から私に媚を売る本家分家の人達も嫌悪していた。そして、“実家” “黒鉄家”そのものが自分の中でどす黒い〝モノ〟へと変化していった。

 それがあって、実家の剣術を使おうとも思わなかったし・・・・。だから私の身体能力は“E”どまりなんですけど・・・。

 

 これから、真琴さんとは毎朝のランニングもあるけど、今日から数時間にわたって組手を行う事になってる。勿論、真琴さんと私の都合の合う、時間帯でのみに限られるけど・・・。

 なんでも「クロスレンジは身体を動かして、初めて身に付く」って真琴さんが豪語してた。その通りだけど、近接戦闘が得意な真琴さんが“普通”に組手をするとは思えないわ・・・。今から組手をするのが怖くなってきた・・・・。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 そして、数時間後・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は気絶した。

 

 10㎞のランニングを終えゴール地点の公園に足を踏み入れた。

 

 が、次の瞬間ーーーー。

 

 ・・・私の身体は重力に身を任せて地面へと倒れこもうとしてしまった。高負荷で走行する10㎞のランニングに、私の身体は耐えきれなかったようだ・・・。

 

 

 

 

「おっと、あぶねぇ」

 

「うっ・・・」

 

「危うく怪我させるとこだったぜ。先にゴールしてて正解だったな」

 

 私は薄れ行く意識の中、真琴さんの腕に抱かれながら、気絶した。

 真琴さんは私を公園のベンチへと運び、膝枕をする形で休ませてくれた。

 

 ランニングのやり方はお兄様や真琴さんが行う、全力疾走をしつつジョギングで緩急をつけ高負荷をかけるスタイル。普段ならこれを重しを付けて20㎞走破するみたい。

 

 私には・・・到底無理。

 だって、10㎞で重し無しで気絶しちゃうんだから・・・・・・。

 

 

 

「まぁ、走りきっただけでも良しとするか」

 

「ハァイ~、お疲れ様。二人共」

 

 ベンチで俺と珠雫が休んでいると、リュックを背負った紫髪の男性が現れた。俺らの知人で紫色の髪の毛をしている男といったら一人しかいない。

 

「おお、アリス。おはよう」

 

「おはよう、真琴。お疲れの二人へ差し入れを持ってきたわよ♡」 

 

 アリスはベンチの前にあるテーブルにリュックを降ろし、中からスポーツドリンクを取りだしてくれた。それを俺らの前に差し出した。

 

「あら、珠雫、もしかして気絶してるの?」

 

「高負荷ランニングに耐えられなかった。まぁ、珠雫が行ったランニングは、普通の人間なら走ってる途中で、投げ出しちまう辛さだかな」

 

「なら、よく走りきったわね・・・でも、膝枕をする必要はないんじゃあない?」

 

 アリスは口を歪ませ、顎に手を当てて俺を煽る。

 

「ベンチにそのまま寝かす訳にもいかねぇだろ?なんなら代わるか?」

 

「いえ、遠慮しとくわ。見てた方が面白そうだから」

 

「ん?それってどういう?」

 

 すると、今まで気絶していた珠雫の瞼がゆっくり上がっていく・・・。

 

 

「お?目が覚めたか?」

 

 俺が珠雫の方へ顔を向けると、次第に珠雫の顔が紅潮していく。

 

「ッ!!!」

 

 何が気に入らなかったのか分からなかったが、珠雫が俺目掛けて頭突きをぶちかました!

 

「痛ッて!」

 

 珠雫はベンチを飛び出し、俺とは対面する形で向き直った。

 俺は不意の攻撃に避けられる筈もなく、見事な頭突きを貰ってしまった。

 

「何すんだよ!」

 

「そ、それはこっちの台詞ですよ!何で真琴さんが、わ、わわ、わ、私を膝枕してるですか!?」

 

「それは固いベンチに寝かせるのは可哀想だと思ってだなぁ・・・」

 

「そ、そんな気遣いは要りません!」  

 

 珠雫は顔を赤くしながら、俺へ抗議の声を上げる。

 

 お節介焼いちまったかなぁ・・・?

 そんなに硬かっただろうか?俺の太股・・・。

 

「まぁまぁ、二人共落ち着いて、ね?」

 

 アリスが俺と珠雫の間に割って入り、俺らを優しく仲裁してくれた。

 

「アリ、ス、うっ・・・」

 

 珠雫がよろめき、目の前に居たアリスがそれを受け止めた。

 まぁ、無理もない。

 珠雫に近づき、手元にあった珠雫用のスポーツドリンクを差し出す。

 

 

「悪かったな、スポーツドリンクでも飲んで落ち着け」

 

 飲み物を手渡され、珠雫はそれを口に運びグビグビと飲み始めた。よっぽど渇いていたのだろうか?珠雫用のスポーツドリンクはたちまち無くなってしまったようだ。

 

「プッハァ・・・飲んだら落ち着きました。先程はすみません、真琴さん。折角運んでいただいたのに・・・」

 

「気にするなよ。俺も無神経に膝枕しちまったのも悪いしよ、んじゃ仲直りつーことで」

 

 俺は仲直りの印として右手を差し出し握手を求めた。珠雫もそれに応じ、握手を交わす。

 

「そういやアリス、頼んでおいた訓練場を押さえてくれたか?」

 

「ええ、ばっちりよ。昼の一時から四時頃まで使用出来るよう、手配しておいたわ。場所は第四訓練場よ」

 

「ありがとな、アリス」

 

「・・・真琴さん」

 

「ん?」

 

「基本的に“どんな組手”をするですか?真琴さんのことですから普通ではないのは分かりきっていますし・・・・」

 

「お!なんだ俺の事、良く判ってんじゃねぇか。まぁ時間の許す限りだが、〝俺が合格と言うまで〟やり続けるぞ!やるからには本気で行くから、❰覚悟しろよ?❱」

 

 俺は珠雫に向け、ほんのちょっぴりの〝闘気〟を見せた。普段、破軍学園の仕合では見せたことのない、本気の〝闘気〟を・・・。勿論、初めて珠雫で組手を行った時も見せていない。

 しかし、珠雫を震え上がらせるのには充分だった。

 

「・・・はぅ・・・」

 

 珠雫が俺の闘気に当てられ、体勢を崩してしまう。それをアリスが支える。

 俺は闘気を直ぐ様解除し、平常の状態へと戻す。

 

「まぁ、言える事は一つだ。珠雫」

 

「・・・何ですか?」

 

「覚悟だけしとけ」

 

 俺はにこやかに珠雫へ返した。

 

「・・・ぅ、はい」

 

「それにしても、真琴。珠雫から聞いたけど、遠距離魔法使用禁止だなんて珠雫の武器を封じてるようなものよ?いいの?」

 

「二人共、説明要るか?」

 

「ええ、頼むわ」

 

 珠雫がアリスに便乗し、言葉を発する。

 

「お願いします、真琴さん」

 

「分かった、んじゃ説明するぞ」

 

 ベンチに座り、アリスと珠雫を対面席に座らせ説明を開始した。

 

 これまでの珠雫の仕合を見ると、ロングレンジの魔法しか使用していない。

 もし、〝遠距離魔法もあり〟の組手にしたのなら珠雫の性格上、それしか使用しない恐れがある。自分自身の最大の武器なのだから、使わない手は無いんだけどよ。

 だが、その場合だと自分より格上の近接特化の伐刀者とかち合った時、身体能力が乏しい珠雫では、体力的にもたないのは明確だ。そればかりか、〝相手が接近に使用する技〟すら見切れない可能性が出てくる。そうなれば珠雫の勝つ確率は無いに等しい。

 現在進行形で珠雫は一輝から小太刀を学んではいる。が、実戦で、更には代表がかかった選抜戦での使用は、難しい。覚えたてが一番危ないからな。それに、珠雫より身体能力が高い伐刀者なんて、この破軍学園には腐るほどいる。その中で学びたての小太刀なんか使ったら、苦戦することは目に見えてる。敗北に喫することも出てくるだろう。少しでも身体に慣れさせて、おかないとまずい。

 

 まぁ、こんなとこだな。

 

「補助魔法は禁止してねぇから、そっから自分なりの伐刀絶技〝クロスレンジへの答え〟を見付けな」

 

「それが分かれば苦労しませんけどね」

 

 珠雫の表情は少し憂い顔だ。

 お前なら何とかなるから、そんな顔するな。こっちまで不安になるだろ。

 

「成る程ね。補助魔法がありなら大丈夫そうね」

 

 アリスは俺の説明に納得してくれたようだ。

 

「それより、この後“綾辻さんのとこ”に行くのよね?」

 

 アリスの〝綾辻〟という言葉に、珠雫は先程浮かべていた憂い顔から、慍色を帯びた顔をへと変貌を遂げた。どうやら先日の“一輝への仕打ち”にまだ納得してないようだ。 

 まぁ俺も気持ちは分かるがな。

 

「そんな怖い顔すんなよ」

 

「仕方ないですよ。ご自身の実家がとられたとはいえ、あんな卑怯な手を使ったんですから。私は許すつもりはありません」

 

「そうね。ラストサムライもまさか、こんな事になるとは予想してなかったでしょうね」

 

 アリスは腕を組み、同情的な慰めの声で話した。

 

「でも、真琴さんが行く必要はないじゃないです?」

 

「確かにそうだが、俺は綾辻先輩の“一件”の当事者と友人だからよ。保険として一応来て欲しいんだと」

 

「え?真琴さんは剣士殺し«ソードイーター»と友人関係なんですか!?」

 

 話を聞いていた珠雫が俺と倉敷の関係に意想外の反応を見せている。目の前のテーブルを思いっきり叩く程・・・・。手ぇ痛そうだなぁ。でもそんなに驚く事か?

 

「意外と真琴って顔広いわよね~」

 

「そうですね。«雷切»東堂刀華と仲好さげで、当たり前ですが他の破軍学園生徒会全員とも知り合い、更には«夜叉姫»の異名を持つ西京寧々と顔見知り、つまり西京先生の師匠である«闘神»南郷寅次郎とも恐らく・・・」

 

「南郷さんとはうちの長老が戦友だっから、たまに道場の方にお邪魔させて貰ってたぜ。そんときにお会いしたかな」

 

「人は見掛けによらないってこの事を言うのねぇ~」 

 

 アリスの野郎?が一人で納得してやがるな・・・。

 

「へぇ~。それじゃその時に西京先生や雷切と?」

 

「それは珠雫達の想像に任せる」

 

 さてっと、そろそろ向かいますかね。

 〝彼奴ら〟の待ち合わせ場所に。

 俺は立ち上がり公園の出口へと歩を進める。

 アイツがどのくらい上げたか見物だな!

 

「あら、もう行くの?」

 

「ああ。この『おぶさり地蔵』を部屋に置いてからな」

 

 このまま帰るのもなんだし、珠雫に一言かけてから行くか。

 

「珠雫!」

 

「何ですか?」

 

「戦闘のシチュエーションやっとけよー」

 

「言われなくても、『現在進行形』でやってますよ」

 

「へッ・・・」

 

 俺は期待に胸を膨らませながら、公園を後にする。

 

 さぁて、今日は楽しくなりそうだなッ!




いかがでしたか?
お楽しみいただけたでしょうか?
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。

次回は綾辻道場救出編です!

戦闘シーン難しいけど頑張ります。
今後も隔週更新ですので、気長に待っていただけると幸いです。


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BATTLE.36 お湯と同じ

こんにちは、紅河です。

前回、戦闘シーンまでと言いましたが、申し訳ありません!今回は無しです!
次回にはございますので、宜しくお願い致します!

それでは、どうぞ!


 さて、一輝達との待ち合わせ場所は学園の校門前だったな・・・。

 来てっかな?

 ん?あれは・・・一輝とステラか・・・。やっぱ先に来てたんだな。

 しかし、仲睦まじい事で・・・。

 ほんの少し、からかってやるか・・・

 フフフフフ・・・。

 

 

「もう少しで待ち合わせ時刻になるはね」

「うん。綾辻さんは準備が整ったってさっき連絡が来たよ」

「あれ?マコトからは来てないの?」

 

 ステラが首を傾げ、一輝を見つめる。

 ステラは世間一般、多くの老若男女に「この女性は綺麗だと思いますか?」と聞けば、その誰しもが『美人な女性』と答えるだろう。何せ綺麗な朱髪、たわわに実った巨乳、しかもAランク騎士の伐刀者でヴァーミリオン皇国のお姫様だ。

 その容姿端麗でべた惚れの彼女に見つめられた一輝は、その可憐さに見惚れてしまう。自分の照れ顔を見られたくないのか、思わず顔を反らしてしまったようだ。

 

 まぁ、ステラが美人なのは間違いねぇし、見惚れるのは分かるけどな。

 

 それにしても、師匠も学生時代は大変だったんだろうなぁ・・・。だって師匠の奥さん、ステラよりも綺麗な人だもんなあ・・・。

 毎日手入れされた綺麗な金髪で、尚且つステラに負けず劣らずの巨乳とルックス、子供一人産んでる体とは思えない程のスタイルを持ち、それに学生時代は成績優秀、運動神経抜群、武術もピカイチと来たもんだ。それはそれはモテたんだろうなあ・・・。

 師匠、お酒に酔うと奥さんの自慢しかしねぇんだもん・・・。それを聞いてる奥さんの美羽さんは照れて顔真っ赤だし・・・・。話を聞くこっちの身にもなってくれよ、たくっ・・・。

 でも美羽さんによると、師匠も他の異性からモテたみたいなんだよな・・・。当時の師匠は一途に美羽さんを思ってて、気付かなかったらしいけど・・・。

 こうして思い返すとホンッッットに似てるなぁ「師匠」と「一輝」・・・。

 

 おっと、そろそろ二人の場所に到着だ!

 

「イッキ?何照れてるのよ・・・あからさまに照れると、そのぉ、こっちが恥ずかしくなるでしょ・・・」

「う、うん。ごめんステラ・・・」

 

 そんな二人に、俺は気配を絶ちながら近付いていく。

 

 すぅ・・・・・。

 

「わぁっ!!」

 

「ひやぁ!」「うわっ!」

 

 二人揃ってビクンと体を震わせる。

 どうやら、気配を消していた俺には気付けなかったようだ。

 

 

「アハハハッ、良いぞ良いぞ、そのリアクション!」

 

「ま、真琴!?驚かせないでよ!」

「いきなり、何すんのよ!」 

 

「二人でいちゃついてたから、ついな?」

 

 俺は口角を上げ、ぱちんと両手を合わせて「ごめん、ごめん!」と頭を下げる。

 

 

「「ついじゃない!(わ!)」」

 

 一輝とステラの二人が口を揃えて、俺に反論する。

 

 ステラと髪が逆立ち、怒鳴りながら俺目掛けて殴りかかる!

 まぁ、無手の武術を修めてないステラの攻撃なんて、俺には当たらねぇけど。

一輝はというと、ステラを止めようと声を掛けるが、ステラは聞く耳を持たないようだ。

 そんな俺達を遠くで見つめる人物が一人、どうやら綾辻絢瀬先輩のようだった。俺とステラが戦っている様子を見て、人見知りの先輩は萎縮し話し掛けずらかったみたい。それを一輝が発見し声を掛ける。

 

 

「あ、綾辻さんこっちこっち!ほら二人ともそろそろ喧嘩はやめなよ」

 

「え?ええ、そうね」

 

「おう、そうだな」

 

「全く・・・少しは手加減しなさいよ」

 

「無手の武術を修めていないステラに当てられるつもりはないんでな!諦めろ」

 

「今度、組手をやるときは覚えときなさいよ!」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 もうそろそろ綾辻先輩の“元実家”だった、綾辻一刀流道場に到着する。

 案内役の綾辻先輩の顔色はあまり優れないようだ。何せ自分の家族を病院送りにし、大切な場所を奪った張本人と再会する羽目になるのだから・・・・。

 優れなくて当然か・・・・。

 けど、以前の綾辻先輩より、『心』の余裕は見て取れるな・・・。信頼出来る一輝がいるからか?

 

 すると、ステラが生徒手帳を取り出しこれから戦うであろう相手の情報をネットを使い調査していた。

 一輝のために。

 

「それにしても、この倉敷って男サイテーね・・・。非公式に他学校に殴り込み、街の道場で道場破りの繰り返し・・・ねぇ、マコト、アンタ本当にコイツと友達なの?」

 

 ステラの前に居た俺に、そう投げ掛けた。

 

「ん?まぁな。確かに倉敷がやったことは庇護出来ねぇ。お前が言ってることも分かる。けどなぁアイツは剣客の強者と戦いたかっただけだ、それに実力は折紙つきだ」

 

「何せ、七星剣武祭ベスト8だからね」

 

 一輝が真琴に同調する。

 

「だからって・・・」 

 

「綾辻先輩がいる前でこんな事は言いたくはねぇけど、道場を運営している以上勝負は付いて回るんだ、仕方無いだろ」

 

 この発言が綾辻先輩にはどうも引っ掛かってしまったようだ。何故俺がこんなにも道場に詳しいのか、深夜に一輝を襲撃した時に「悪いけど分かるんだよ、俺も大切なモノを失ってるからな」という言葉を発したのか・・・。

 疑問を解決するべく綾辻先輩が俺に話し掛けて来る。

 

「ねぇ、一つ気になったんだけど、近衛君って何でこんなに“道場に詳しいの”?」

 

「言ってませんでした?俺は道場で育ったんですよ、先輩と同じ様にね」

 

「それじゃあ何で!あんな奴と・・・!僕«被害者»の気持ち、分かるでしょ!?」

 

 綾辻先輩の目の奥は悲境な者同士を見付けたような目をしていた。

 確かに俺は梁山泊の道場で育ったから、先輩の気持ちは分かる。だけど、今まで梁山泊«家族»を第三者に奪われた事は一度もない。挑むものは悉く師匠達にこっぴどく打ちのめされているからだ。

 それに倉敷が挑んで来たときは、俺が相手をしてなんとか勝利を収め、事なきを得たし・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺だって奪われた。

 

 初めて第三者に家族«大切なモノ»を奪われたのは・・・俺の両親だけだ・・・。

 

 

 

 

 けど今は、梁山泊の人達がいる。

 

 俺には帰る場所がある。

 

 だから前に進められる。

 

 今の・・・・・・俺があるんだ。

 

 悲しんだって一度失ったモノは二度と戻っては来ないし、前にも進まないんだから。

 

 

 

「確かに、大切なモノを奪われた気持ちは分かりますよ」

   

「なら、何故?!」

 

「でも、奪われたのならそれを受け止め、前に進むしか無いんですよ・・・信頼出来る仲間と一緒にね・・・。俺の大切だったモノはもう、戻って来ないので・・・・」

 

 俺の言葉、一つ一つに重く、重く、重く、綾辻先輩にのし掛かる。

 俺は今までアイコンタクトと取ってくれた綾辻先輩から、目を反らす。

 

 

「あっ・・・」

 

「マコト、アンタ、もしかして・・・」

 

「・・・(真琴・・・)」

 

 真琴の話を聞いていた三人は、その誰もが悲愴な表情を浮かべる。

 

 この三人の中で一輝だけが、真琴の過去を知っていた。

 一輝は真琴が過去を話した、あのとてつもない悲愴な顔を今でも覚えている。ルームメイト時代、3ヶ月程過ぎた頃だった。共に修行し、お互いの信頼も築けた頃に語り合った日があった。その時、過去に何があったのか、どんな経験をしたのかを話した。上から下まで。

 

 一輝は家族に見放され、〝居ない者〟として扱われたこと。

 

 真琴は両親を幼くして亡くし、父方にも母方にも〝化物〟と呼ばれ、梁山泊で育ったこと。

 

 包み隠さず、朝になるまで語り明かしたのだった。

 

 話終わると、一輝には何故か“近衛真琴”という人物に、この上ない親近感を感じていた。

 

 一輝にとって生まれて初めて、『友情』を感じた瞬間だった。

 

 だって、この学園にいる間は友人なんて出来やしないと思っていたから。

 

 だって、自分には才能がなかった«負け組だった»から・・・。

 

 周囲の者から見放されていたから・・・・。

 

 だが、真琴だけは違った。

 

 そんな事気にせず、ずっと話し掛けてくれた。

 

 共に真琴と修行する日々。

 

 共に真琴と組手を組む日々。

 

 そんな毎日がずっと続いた。

 

 毎日、喜び勇んで学園に通い、共に学園生活を過ごした。

 

 それが一輝には心の底から嬉しかった。

 

 だから・・・・。

 

「(その事情を話してくれた時、君のとても辛そうな表情をしていたのを僕は今も覚えてるよ。今の君には僕達が居るんだ、何かあったら頼ってくれ・・・。逆に僕達側にあったら、君は迷わず動いてくれるだろう?)」

 

 

 これからはかけがえのない〝真友〟のために、出来る限りを尽くそう―――。

 

 自分の心を救ってくれた友のために・・・。

 

 真琴が苦しいときは自分が助ける・・・。

 

 そう、心に誓ったのだった。

 

 

 

 

「さ、俺の話はこれくらいでいいだろ?」

 

「そうね・・・暗い話はこれくらいにするとして、でもそれにしたって、剣の世界を欲しいままにした剣豪が若造なんかに負けるのかしら・・・私、信じられないわ・・・・」

 

「それは僕もだよ・・・あの海斗さんが・・・・」

 

 一輝は以前、«ラストサムライ»である綾辻海斗が活躍した、リプレイ動画を思い返していた。

 男らしい刀の振る舞い、思わず見惚れてしまうほどの剣技の美しさを持つ、綾辻一刀流の技の数々・・・。

 どれ一つとっても綾辻海斗は❮達人級❯〝マスタークラス〟と呼ぶに相応しい武人だった。

 

 

 そんな男がどうして二十歳にも届いていない若人に遅れを取ってしまったのか・・・。

 何故再起不能にまで追い込まれてしまったのか・・・。

 

 

 一輝は納得できずにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 何故、名だたる剣の大会でラストサムライとまで称された剣豪が、たかが一介の伐刀者に敗北を喫してしまった理由・・・・・・それはただ一つ、〝身体の衰え〟に他ならなかった。

 

 ラストサムライが剣の世界から引退したのは、自分の身体に患ってしまった「心臓病」が原因。人の身体を動かす原動力はこの心臓が担っている。この重要器官が作動しなければ人は動くこともままならない。人間は数秒~数十秒呼吸をしなかっただけで、軽い呼吸困難に陥り、息切れを起こしてしまうのだ。

 もし、仮に心臓病を患ったまま戦闘を行えば、戦いの最中に発作を起こしてしまう危険性がある。それが元で隙が生じ、戦いに敗れてしまうだろう。

 戦いの世界は一秒でも隙を見せてしまえば、その先には『死』しか待っていないのだから・・・。

 

 自分自身が心臓病を患ったと知ればとる選択肢は二つしかない。

 

 

 

 一つは、身体を酷使し続け、その命尽きるまで抗うかーーー。

 

 もう一つは、身体を労い酷使しないよう努め、ただ永らえる人生を送り続けるかーーー。

 

 

 

 この二つに一つだろう。

 

 

 

 

 

 «ラストサムライ»こと綾辻海斗は後者の選択肢を選び、自分自身の剣術を多くの人間に残すべく、指導者の道を選択したのだった。

 

 だがそれは、剣客としては死んだも当然といえた。心臓病を患い、自分の身体に気を遣ってしまい、鍛練の修行すらまともに出来ないのだから。

 

 

 

 

 人間の筋肉、武術の基礎というのは〝お湯〟と同じだ。

 熱し続けなければただの〝水〟に戻ってしまう・・・。

 

 

 それが真理なのだ。

 

 

 綾辻海斗は己の身体に気を遣い、指導者として力を注いだ。その結果、剣客としての身体は衰えていき、武術の腕前も自ずと下がっていったことだろう。❮達人級❯から蔵人が戦える腕前まで・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真琴達がそうこうしている間に綾辻絢瀬の〝元実家〟へと到着した。

 しかし、周囲の緑豊かな木々が並ぶ清々しい風景とは裏腹に、この景色に決してそぐわない変わり果てた道場が真琴達の目の前に広がっていたのだった。

 

 

 




今後は後書きの方に更新予定日を記述していこうとおもいます。あくまで予定ですので、過ぎてしまった日などは申し訳御座いません。勿論、過ぎないように務めさせて頂きます!

次回更新予定は8月14日~16日の17:00~21:00です。早く仕上がれば、来週の土日までには完成するかと思います!気長にお待ちくださると嬉しいです!

ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


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BATTLE.37 錯覚

 真琴達の四人が見たモノは伝統を護る由緒正しき綾辻一刀流道場とは、かけ離れた見るも無残な光景だった。

 外敵を護る白く彩られた土壁は、取り巻き達のキャンパスへと変貌をとげ、敷地内の庭は連中の買い物のレジ袋や食べ物ゴミが散乱している状態だったのだ。

 

 これには流石の真琴達も声を出せない。

 

 この場所が大好きだった綾辻とって、この様な変わり果てた〝元実家〟を見るということは精神的苦痛を伴うことだろう。だが、ほんの少しだけ期待もしていた。

 

 『大好きだったこの場所が帰ってくるかもしれない』

 

 『一からやり直せるかもしれない』

 

 自分の代わりに現在の倉敷(どうじょうぬし)と戦ってくれる友がいる。尊敬出来る騎士が傍らに居てくれる。そんな淡い期待を胸に秘めながら、敷地内へと足を踏み入れたのだった。

 

 ステラが真琴達より先に言葉を口にした。

 

 「腐った連中ね・・・」

 

 そのステラの目線の先には倉敷の取り巻きだろうか、入口より少し離れた方で屯していた。

 

 彼等の周囲にもゴミが散乱しているにも関わらず、掃除もせず遊び呆けているだけだった。それがステラには許せず、彼等に軽蔑の視線を送っている。

 

 「アンタ達、いい加減っ「待ってステラ・・・」」

 

 ステラが己の感情に任せ、動こうとした矢先、一輝が腕を出して制止しさせた。

 

「イッキ?」 

「ここは僕が」 

 

 そう言うと取り巻き連中に向かってスタスタと歩いて行ってしまった。取り巻き達は総勢七名程だ、もし一人で挑めば怪我は免れない・・・のだが・・・。

 一輝はステラと綾辻の心配を余所に取り巻き連中を無手で打ち倒してしまった。しかも、一撃も喰らわず、数分も経たずに・・・。

 

「黒鉄君、君って刀が無くても強かったんだね・・・」

 

「うん。殆ど独学で学んだモノだけどね」

「独学でそこまでの領域に達しているんだから、もっと誇っていいよ!」

 

 綾辻は尊敬の目線を一輝に送っている。

 

「ねぇ、マコト。貴方がイッキに無手の技を教えた訳じゃないのよね?」

「ん?あぁ。俺は別に教えちゃいねぇよ、一輝の武術は書物を読んだりして自己流に改良したもんだ」

「でも、稽古とか組手は交わしたんでしょ?」

「まぁな。それくらいなら、毎日飽きるほどやったな」

「なるほどね。あ、それじゃあマコトもイッキに模倣剣技(ブレイドスティール)で技を盗まれた訳だ」

 

 ステラは何故か誇らしげだった。

 自分の事でも無いのに。

 

「俺はお前の剣技よりお安くないからな、そこまで盗まれてねぇよ。一輝の模倣剣技(ブレイドスティール)は相手の剣術(体術)より上位互換を造り出すという代物だ。つまり、俺が一輝よりも腕が立つ場合や筋力的に上回ってれば盗まれることは無いってことさ」

 

 今度は真琴がステラへどや顔で返した。

 

「い、言ったわねぇ!」

「二人とも、それくらいに・・・」 

「マコト!今度の組手、覚えてなさいよ!」

「楽しみにしてるよ、ステラ殿下」

 

 数時間前同様、一輝に喧嘩を止められてしまった、真琴とステラ。

 二人は一輝と綾辻が待つ、綾辻一刀流道場入口前に向かう。キシキシという木製特有の音を立てながら、扉を開けた。

 

 

 

 扉が開かれると普通の道場とはあり得ない、異様な空間が広がっていた・・・・・・・。

 普通であれば、床や壁の掃除、形稽古で使用する竹刀の手入れを行うことが、道場に在籍している人間の努めというものだ。しかし、現在の綾辻一刀流道場では、床や壁はボロボロ、竹刀なんかは弦の部分が折られたまま、棚に設置されていた。 

 

 そして、奥側に設置されているソファーに我が物顔で、対戦者を待つ、一人の男が腰掛けている。

 頭髪は金髪、前髪は二つに分けられ、後ろ髪は小さなライオンの鬣のようなもので、更には黄色のサングラスをかけて、赤色の制服を着ている。だがそれを着崩し、自身の胸元を自慢するかのように露にしていた。その胸元にはドクロのタトゥーを入れており、その男から、我が強く、荒々しさを感じずにはいられない。

 

「あぁ?誰だ?」 

 

 その男は一輝達を見据え、話し掛けてくる。

 その中に真琴を発見し、ことの事情を察する。何故、このメンバーがこの道場にやって来たのか・・・。

 

 倉敷は数日前、ファミレスで久し振りに真琴と再会した。その後で真琴と密会、黒鉄一輝について話を聞いていた。しかし、実力は肌で実感しなければ意味がない。だからこそ、この場所で真琴が連れてくるのをずっと待っていたのだ。例えそれが綾辻の助太刀であっても、強者の剣客と闘えることは倉敷にとって、本望なのだから。

 

「倉敷君、君に決闘を申込む!」 

 

「へっ、道場破りって訳か・・・。なら、それ相応の実力が有るかどうか見せてもらおうか?」 

 

「これじゃ、不服かな?」 

 

 すると、懐から大量の生徒手帳を取り出す。それらは全て、倉敷の取り巻き連中の所有物だった。 

 

「(ふむ、真琴が言ってた事はどうやら本当らしいな・・・)」

 

「倉敷君、認可を受けた道場で道場主が許可した場合、固有霊装(デバイス)を展開可能なのは知ってるよね?君も木刀なんかじゃ真の実力は発揮できないだろう?」

 

 その発言は挑発といって差し支えなかった。

 

 倉敷の答えは決まっている。

 

「勿論、構わねぇ。けどよぉ、後悔するなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「するつもりはないよ、来てくれ、隕鉄!」 

 

「大蛇丸」 

 

 一輝の前にかざした掌から、隕石を絞り出すかのように固有霊装(デバイス)❮隕鉄❯が顕現される。

 

 一方の倉敷の場合、名前通りに、生きた蛇のような刀が姿を現す。刀の刃の部分に牙のような突起物があり、蛇腹剣のようにしなることも可能なように見えた。

 

 そう、間も無く、二人の鍔迫り合いで仕合のゴングと相成った。

 

 

 

 先に仕掛けたのは倉敷だ。

 

 倉敷が力任せに大蛇丸を振り回す。一輝がそれを受けるとビリビリという衝撃が、一輝の手元へ伝わってゆく・・・。

 油断しているとあっという間に地に伏せてしまう。

 隕鉄で上手く倉敷の刀をいなし、力を逃がしていく。しかし、それだけではいずれ体力が尽き、敗北するだろう。

 倉敷の剣戟は技術もなく、ただ力任せに斬撃を繰り出しているだけだ。一輝の動きを読もうとはせず、己の力のみで一輝を倒そうとしていた。

 それを把握した一輝は、倉敷の大蛇丸を左に誘導し、躱すことの出来ない突きを右腹部目掛けて放った。確実に倉敷の脇腹へ命中する・・・・・・筈だった。

 

「ハッハァ!残念!」 

 

「(今の狙いは完璧だったはず、狙いを読まれたか?・・・いや・・・)」

 

「まだまだ、これからァ!追い殺せ、❮蛇骨刃❯«じゃこつじん»!」

 

 倉敷が技を繰り出す。

 倉敷の声と共に、大蛇丸がうねりながら一輝へ襲い掛かる。しかも前方、側面、多種多様に攻撃を走らせる。

 対戦相手の倉敷は数メートル離れた辺りで、大蛇丸を操作している。

 

「倉敷、お得意のアウトレンジの攻めに切り替えたか。長いリーチを活かし、有りとあらゆる剣客の間合いを占領する」

 

 真琴が腕を組みながら、仕合の観戦を続ける。

 真琴の〝アウトレンジ〟という言葉に引っ掛かったのか、今度はステラが口を開く。

 

「確かにイッキはアウトレンジを制する手段を持ってないわ・・・。これが剣士殺し(ソードイーター)と呼ばれる所以なのね・・・」

 

「一輝なら大丈夫だろう、それに・・・」

 

「それに?」

 

「いや、何でもねぇ。気にすんな」

 

 真琴が言葉を濁す。

 

「(さて、一輝なら気付くだろ、倉敷のある〝特性〟に・・・)」

 

「オラッオラァッ!」 

 

「倉敷君なら、そう来ると思った!」

 

「何!?」

 

 人間の絶対的なる死角、真後ろから、蛇骨の刃を一輝に放った。常人であるなら間違いなく喰らう攻撃だ。だが、一輝には掠りもせず、右にひらりと躱されてしまうのであった。

 

 一輝の完全掌握(パーフェクトビジョン)が発動し、倉敷の攻撃を回避した。

  

「てめぇ・・・あの攻撃を避けるとは・・・」

 

「君の方こそ・・・僕の突きを〝完璧に避けた〟じゃないか、読んでたのかい?」 

 

「それはどうだろうなぁ?だがよぉ、余裕なんかかましてる暇はねぇぞ!!」 

 

 それが仕合再開の合図となり、二人の剣客はまた、お互いの刀同士でぶつかり合う。

 

 一輝が仕合を誘導したように、今度は倉敷も一輝を右側の壁へと導いていく。

 容赦ない攻撃が一輝に押し寄せる・・・・。流石の一輝も防戦を強いられてしまった。

 

 壁まで後、数メートルという所まで差し迫った!

 右側から、倉敷の大蛇丸が振り下ろされる。クロスレンジが得意とする一輝ならば、簡単にいなすことが可能だった・・・。

 

 

 しかし・・・・・・・。

 

 

 

「ま、まずい!!!」

 

 

 一輝は咄嗟に後ろへ距離を取りそれを躱す。

 しかし、ステラ達には慮外の出来事が襲ったのだった。

 

「な、何よ!今の!?太刀が消えた?!」

 

「黒鉄君!」

 

 何故なら、倉敷が一輝へ振り下ろした一太刀が消え去ったように見えたのだ。

 

「へへっ・・・・」

 

「くっ」

 

 一輝は太刀の異変に気付き、バックステップを選択した。が、完璧に攻撃を避けられず腹部にかすり傷程度ではあるが、一撃貰ってしまっていた。

 

「驚いたぜ、今の太刀を避けるとはなぁ。真琴が言ってた弟子クラス最上位ってのは、間違いなかったみてぇだな」

 

 倉敷の口角が上がった。

  

 負けじと一輝が隕鉄を倉敷に向けた。

 

「僕も驚いているよ・・・。君の反射速度にね・・・」

 

「ほう?・・・“てめぇも”気付いたのか」

 

「“てめぇも”?他に誰か気付いた人がいるのかい?」

 

「ああ。仕合中に俺の神速反射(マージナルカウンター)に気付けたのは、てめぇで“二人目”だ。最初の一人目は、彼処で偉そうに観戦してる奴がいんだろ?」

 

 全員の視線が真琴に集まる。

   

「マコト!説明!」

 

「へいへい。今から数年前、俺は❮梁山泊❯に道場破りで訪れた、倉敷と仕合したんだよ。今日と同じ様にな。そん時、あいつの反射速度を見破ったのさ」

 

 真琴のその言葉は、どうやらここにいる、ステラ、綾辻にとっては、予想外な事実のようだった。

 

「(成る程、真琴と倉敷君のファミレスでの一件はそういうことか・・・。もう“既に”会っていたんだね)」

 

 しかし、一輝だけは思うところがあった様子だ。 

 

「ついでに!太刀が消えた奴も!」 

 

「えぇ・・・」

 

「嫌そうに言わない!早くしなさい!」

 

「全く、人使いの荒いお姫様だぜ・・・」

 

 真琴が一息つくとステラの指示通りに解説を始める。

 

「倉敷の攻撃は言うなれば〝無型〟。型も無ければ流れも存在しない、つまるところ、一輝は錯覚を起こしたんだよ」

 

「錯覚?どういうことよ?」

 

「近衛君?一体、何を言おうとしてるの?」

 

 ステラと綾辻は分かっていない様子だ。

 

「・・・人間つーのは、動いている物体を目で追うとき、頭の中で進行方向を予想している。しかも無意識にな。だが、倉敷の攻撃はあまりに変幻自在な攻撃故に、受け手に錯覚を起こさせてるんだ」

 

「じゃあ、太刀が途中で消えたのはそのせいってこと?」

 

 真琴がステラの発言に頷きで返した。

 

神速反射(マージナルカウンター)があるってもの大きいな」

 

「へっ、種明かしはそこまでだ、真琴。おい、腑抜け野郎、アイツと同じ様に俺の神速反射(マージナルカウンター)を打破出来るか?最上位の実力、見せてみろよ!」

 

 

 倉敷がまた技を繰り出す。

 

「くらえ、❮蛇咬❯«へびがみ»!!」

 

「瞬間二点、同時攻撃!?」

 

 ステラが倉敷の技に思わず声を上げて一驚する。

 

「オラオラオラァ!!」

 

 倉敷の斬撃は、右へ左へと絶え間無く続く。隕鉄を斜めにしたり、することで耐えることしか出来ない。

 いくら弟子クラス最上位の一輝の腕でも捌くことが精一杯だった。

 

 倉敷が常人の伐刀者には、回避不可能な斬撃を放つ。それは、一輝の左側、ギリギリを狙った攻撃だった。それだけなら武器で防御を取れば防げるだろう。

 攻撃者の倉敷は確実に勝利をもぎ取る。左をギリギリで狙うなら今度は右側だ。固有霊装(デバイス)に頼りきっている伐刀者であるなら、この一連の動きだけで沈んでいた。

 

 だが、それだけでは終わらないのがこの〝黒鉄一輝〟という男。

 

「変則ガードだと!?」

 

「リーチを操れるのは倉敷君だけじゃない!」

 

 最初の一撃を受けた隕鉄を反転させ、腕の体躯を利用し、右側の斬撃も見事回避して見せたのだ!

 

 武器の真の使い手というのは『武器を己の身体の一部にする者』のこと。変則ガードを使用できた一輝は、弟子クラスながら、この領域までに達しているということに他ならなかった。

 

 




いかがでしたか?楽しんで頂けましたでしょうか?
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!


何とか、予定通りに更新できました!
次回更新予定日は8月26日~28日の17:00~21:00の間とさせていただきます!
今後とも『史上最強の伐刀者マコト』を宜しくお願い致します!

追記

タイトルを『史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト』に変更致しました!


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BATTLE.38 綾辻一刀流とそれから・・・

こんにちは、紅河です!

小説を書き始めてから、もう5ヶ月が経ってました。
い、いつの間にって感じです。時って怖い・・・。

UAがなんと60000を突破しました!
有り難いことです。これも皆様のお陰です!有難う御座います!

BATTLE.38どうぞ、お楽しみ下さい!


 一輝と倉敷の戦闘が始まって、どれだけの時間が過ぎただろうか・・・。

 

 五分?

 

 十分?

 

 それとも、一時間だろうか?

 

 たった、数十秒間ですら長く感じられた。 

 時間、自身の体力をも気にせず、剣客は闘い続けている。

 二人はもし、このままずぅっと闘うことが出来るものなら、可能な限り戦うことだろう。

 

 しかし、そんな二人を観戦している、真琴、ステラ、綾辻は三者三様であった。

 

 真琴は安気しながら、次の予定(珠雫の模擬戦)の組立を思案し、ステラは一輝の身体の怪我などの心配。

 

 だが、綾辻の表情だけは違っていた。

 

 ドス黒く、歪んでいたのだ。

 ラストサムライが再起不能になったから?

 自分の大切だった場所を奪われたから?

 好きな騎士が負けそうだから?

 

 その答えは綾辻、本人にしか分からない。ただ、一つ言える事は、綾辻の目には〝敗北〟という未来しか浮かんでこなかったのだ。

 自分でもそう、考えたくはない。

 でも、自分自身が尊敬する騎士が倉敷に再起不能にさせられるかもしれない・・・・。

 一輝の七星剣武祭に支障が出るかもしれない・・・・。

 もし、そうなってしまったら、どうしよう・・・・。一輝を巻き込んでしまったのは自分の責任だ。

 ステラや、珠雫達、一輝を慕う生徒達に何て詫びればいい・・・!?

 

 その事が頭から離れない。

 次第に綾辻の頭の中は、〝絶望〟で埋め尽くされていった。

 

 気付いた頃には、右足で一歩前へ進もうとしていた。恐らく、綾辻は一輝と倉敷の決闘を止めようとしたのだろう。

 この闘いを止めさえすれば、一輝の最悪の未来は回避できる。一輝も七星剣武祭に出場出来るだろう、慕う生徒達の怒号を買うこともないだろう、ステラや珠雫達からは縁を切られるだけで済むはずだ・・・。

 

 そう、愚考していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 が・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今、綾辻先輩が行ったら、永遠にこの道場は戻って来ないですよ?」

 

 そういって、綾辻を制止させたのは意外にも、真琴だった。

 綾辻と真琴の関係は最初の出会いは良かったものの、その関係は決して良好とはいえない。

 

 ファミレスでの倉敷との再会のことや、一輝の仕合前の襲撃。

 

 この二つを踏まえると、綾辻の真琴に対する感情は最悪と言っていいものだった。それがあったからこそ、真琴が言葉を発して自分を制止されるのが、意外だったのだ。

 

 綾辻は思わずステラと真琴の方へ振り向く。

 

「近衛君?君は何を言って・・・」

 

 真琴が自分を制止させたのが、信じられない様子の綾辻。

 

「事実を言ったまでですよ」  

「でも、あのままじゃアイツに、黒鉄君が・・・!」

 

 苦虫でも噛み潰したような、歪んだ表情を浮かべる綾辻。

  

「察するに、貴女には一輝が打つ手なし、一輝の敗北、それしか見えてないんでしょうね」

「・・・ぐっ、そ、それは・・・」

「一輝のあの顔を見てもそんな事が言えますか?」

「え?顔?」

 

 真琴はそういって、綾辻を一輝達の方へ注意を向けさせた。

 綾辻は真琴に言われた通り、一輝の表情に注目する。

 すると、驚くべき事に一輝は倉敷に剣戟で圧倒されながらも、その最中、口角が上がり笑っていたのだ。

 

  

 こんな事はバトルジャンキーでも無ければあり得ない事だ。

 

 だって、普通の一般人であれば、スポーツを嗜んでいたり、気の強い人間でないのなら戦闘(トラブル)を避けて日常生活を過ごし、戦闘にあったら逃げるようと立ち回る事だろう。

 それに、いざ、戦闘が始まってしまえば、笑っている余裕なんて無いはずだ。 

 

 

 こんな状況化で笑う人間なんて・・・綾辻の身内には居ない。

 

 居ない・・・。

 

 居ない・・・はずだった。

 

 よぉぉぉ~く思い出すと、思い当たる該当者が一人だけ存在していた・・・。

 

 それは、自分の父親、〝綾辻海斗〟その人だった。

 

 

 

 海斗は«現代に生きた最後の侍»で礼儀を重んじ、信念を忘れない確固たる人物。

 周囲の人間からも、そう評価されていた。少なくとも、娘である自分もそうだった。

 そんな海斗は非伐刀者でありながら、時に多くの伐刀者を打ち倒し、またある時は犯罪を犯す伐刀者を捕らえてもきた。

 

 そうやって、世間で活躍する父の事が大好きで、自慢だった。

 世間では表舞台の剣の大会ではほぼ全てで優勝を飾り、«ラストサムライ»とまで称された、父、海斗。

 綾辻の一番の幸せの一時は、父が道場の教え子達に剣を教授している姿を横から見ること。それが、最高の瞬間だった。だって、剣を他人に指導する時の父の顔が今でも忘れらない。

 ただ、厳格なだけでなく、その表情の瞳の奥には真っ赤な情熱があって、教え子が綾辻一刀流の技を身に付けた時は、優しく声を掛けてくれるのだ。剣の事となると様々な顔を見せてくれる父が誇りだった。

 

 ただ、一つだけ、父親の欠点を述べるとしたら、良くも悪くも〝侍〟という事だった。

 剣を教わっている時でさえ、自分に対する親子の情なんて一切ない。自分に厳しく、剣を指導する時は周りの人間にも厳しく当たっていた。

 そして、そんな海斗が一番嫌っているのは『決闘を第三者の人間に邪魔をされる』事。

 教え子達が決闘をする際に、怪我をする一歩手前で綾辻が止めに入った時、海斗に叱られた事があった。

 

 あの時も、そうだった。

 

 

 父、海斗が憎き倉敷との決闘の際の事だ。

 綾辻がボロボロになりそうな、そんな海斗を見たくない一心で、声を発して止めようとした時。『邪魔をするなァ!』と海斗が大声で怒鳴ったのだ。

 そうなってしまったら、綾辻に闘いを制止させる力はない。この闘いを見守る事しか出来なくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その結果・・・・・・・・海斗は倉敷に敗北し、再起不能に陥ったのだ。 

 

 

 

 

「今、何で一輝が笑っているか、分かりますか?」

「・・・え?」

 

 真琴は腕を組みながら、こう続ける。

 

「確かに、倉敷がやっている事について庇護は出来ません。

 

 でも、アイツが何か卑怯な手を使いましたか?人質でもとって、負けるよう海斗氏を脅しましたか?違いますよね?道場の人達に正当な勝負を挑み、そして勝利をもぎ取り、«ラストサムライ»と戦う権利(チケット)をモノにして、戦ったじゃないんですか?」

 

「・・・・・・」

 

 その言葉に綾辻は沈黙した。しかし、ここでの沈黙は肯定の証の様なものだ。

 

「ねぇ、先輩。私も先輩と同じよ?」

 

 今度は真琴の代わりにステラが綾辻に問い掛ける。

 

「え?」

「私だって、先輩と同じ気持ちよ。闘いを止められるなら止めたいわ・・・。だってイッキが怪我を負う姿なんて見たくないもの・・・勿論、負ける姿なんか特に・・・。でもあの顔を見たら、私にはもうどうにも出来ないわ。先輩もそうじゃないの?」

 

「あっ・・・」

「あれが、男の武術家、いや«闘う者»なんですよ」

 

 

 

 そういえば、海斗も今現在の一輝と同様に笑っていた。この闘いを楽しんでいた。心の底から・・・・。

 

 

 

 そして、敗北に喫した際、最後に綾辻に向けて海斗が発した言葉があった。

 

 

 

 『すまない・・・』

 

 

 

 これだけ発して、海斗は綾辻と見つめていた顔を反らし、そのまま気絶した。『すまない』とだけ溢し、目の前で力尽きた。それは綾辻達に後目を感じたのだと、仇を取れなかったのに対してだとそう、認識していた。

 だが、違ったのだ。それは綾辻の勘違いだったのだ!

 

 綾辻達に後目を感じたからではなく、倉敷に対してだったのだ。

 倉敷に対して、「すまない・・・こんな無様な姿で・・・」

 

 

 

 

 

 漸く分かった。

 僕は、剣士じゃなかった。

 父さんを追い掛けるだけの一人の娘でしか、なかったんだ。

 闘うモノの気持ちを知らない、ただの子供だったんだ・・・。

 

 そう、思い浮かべた瞬間、綾辻の目から大きな粒が流れ出た。ボロボロ、ボロボロ、流れ続ける。そして、その場に泣き崩れた。ただただ、泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣き続けた。

 後悔の念が一斉に綾辻へ押し寄せた。このまま泣き続けていたい。綾辻はそう、愚考しようとした時だ。

 

 バコーン!

 

 大きな破壊音が道場内を埋め尽くす。

 どうやら、一輝の刀が倉敷の大蛇丸を受け流し、勢い余って木製の床板にぶつかり立てた音のようだ。

 

「おい!てめぇ・・・しぶとすぎるにも程があるぞ・・・」

 

 長時間の仕合からか、倉敷が吐息を漏らす。

 

「僕は生憎、負けず嫌いで・・・こんなに剣戟で圧倒されたのは、真琴以来、久方ぶりでね!この闘いがどうにも楽しくって終わらせるのが惜しかった・・・!」

 

 一輝も倉敷に負けず吐息を漏らしている。倉敷を見つめる一輝の顔はしたり顔だった。

 

「この状況で楽しいか!へへっ、てめぇもアイツと同じ様にイカれてるじゃねぇか」

「アイツ?あぁ、真琴だね?」

「あぁ、そうさ。真琴の野郎もてめぇの様に笑っていたのさ」

「それじゃあ勿論、«ラストサムライ»もだよね?」

 

 一輝がそう、言った。

 

「当たり前の事を聞くんじゃねぇ・・・。こんな仕合を楽しめねぇヘタレが、«ラストサムライ»なんて呼ばれるわけがねぇだろうがァ!!」

 

 二人が距離を取り、間合いを造り直す。

 

「綾辻さん、倉敷君、僕は僕の最弱(さいきょう)を以て君達の二年間を取り戻す!!」

 

 倉敷に隕鉄を向け、再度、攻撃を仕掛けるため準備に入る。

 

「黒鉄君・・・」

「イッキ・・・」

 

 一輝が前屈みになり、刀を一点に集中させる。

 

「(あ?何か奥義でもあんのか?イイねぇ!その誘い乗ってやろうじゃねぇか!)」

「(もう、言葉は要らない、この技に全てを掛ける!)」

 

 お互いに自身最強の技を放つ。 

 

「来やがれ!!八岐大蛇!」

 

 倉敷が技を発動させた瞬間、世界はモノクロへと変貌をとげる。

 倉敷の伐刀絶技(ノウブルアーツ)❮八岐大蛇❯。これは四方八方から蛇腹の刃で以て、相手に八連斬戟を繰り出す、倉敷の決め技の一つ。

 対する一輝が放つ技はステラ、綾辻のましてや真琴でさえ、目にしていない奥義のようだった。

 

 

「(あの構えは一体・・・まさか、剣を一点に集中させる事で極限まで強固の制空圏を造り出しているのか!?)」

 

 この場にいる真琴だけが、一輝の放つ技を理解していた。そして、その意味も。 

 一輝が隕鉄を攻めの位置に固定させたまま、倉敷目掛けて突撃を繰り出した!

 倉敷も負けじと八岐大蛇で応戦するが、隕鉄の制空圏によって阻まれ、一輝に斬戟が当たっていない。いや、寧ろ斬戟が一輝に当たらない様に動いているようにも感じていた。倉敷はそんなつもりで操作していないのにだ。

 まるで、一輝の隕鉄は川の中にある石のように、向かってくる斬戟()を後ろへ受け流していた。

 

 

「(これはあの時、ラストサムライが俺に見せようとした!?)二年間、待った甲斐があったぞォ!!!」

 

 一輝と倉敷の固有霊装(デバイス)が再び、交わることなった。隕鉄は倉敷の斬戟を全て受け流し、最後は自分の流れにのせて斬戟をお見舞いしたのだ。

 

 

 ここで漸く綾辻が、一輝の放った技を理解する事となる。

 

 

「今の技は・・・天衣無縫(てんいむほう)!?」 

「(この技はまるで長老が有する静の極みの技の一つ、❮流水制空圏❯だな。これは剣士であるなら覚えておくべき技だろうなぁ。流石は俺のライバルだ、まだこんな技を隠し持ってたなんてな)」

 

「これが、綾辻一刀流の真髄だ!」

 

 

 辛くも、綾辻の道場破りは黒鉄一輝の勝利で幕を閉じた。

 

「やったな、一輝」

 

「うん、ぐっ・・・」

 

「イッキ!」

「黒鉄君!」

 

 流石の一輝も長時間の仕合に堪えたようだ。 

 よろめいたイッキをステラが支え、それを見守る真琴と綾辻。

 そして、一輝の後ろから倉敷が歩み寄る。

 

「おい、ヘタレ野郎、てめぇ黒鉄って名前だったな・・・?」

 

 どうやら倉敷も相当堪えている。息を漏らしながら、一輝へ名前の確認をとる。

 

「ああ。でも、まだ言ってなかったと思うけど」

「そこの真琴とかいう傷顔から名前だけは聞いてる」

「それじゃ、改めて。僕は黒鉄一輝」

 

 ステラに支えてもらいながらも、一輝は右手を倉敷へ差し出す。

 

「律儀な野郎だな・・・倉敷だ。黒鉄、この決着は七星剣武祭でつけるぞ」

 

「勿論だよ」 

 

 そう二人は握手を交わした。握手を交わした倉敷は、スタスタと入口へ歩を進める。

 

「この道場は?」

「好きにしろ。俺はもう道場主じゃあない」

 

 倉敷が入口の光へ去っていく。 

 

「さて、俺もそろそろ帰るか」

 

「一緒に帰らないの?」

 

 ステラが真琴へ声を掛けるが・・・。

 

「もうすぐ、一輝の妹との予定時刻になりそうなんでね、先に帰らせて貰うぜ?」

 

 そう言うと生徒手帳に刻まれた時計が指し示す時刻は、既に十二時半を回っていた。

 約束時間は十三時の予定でもう三十分しかないのだ。

 

「分かった。珠雫を頼むよ、真琴」

「おう。任された」

「それじゃ、またね。近衛君」

「はい、先輩も。このあと大変でしょうが、綾辻一刀流道場、再興を願ってますよ」

 

 

   

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「さて、そろそろ破軍学園到着か・・・。急いで来たから一応、五分前には着きそうだな。先に寮に行って準備しても間に合うな」

 

 

 真琴が己の俊足を用いて、綾辻一刀流道場から猛スピードで破軍学園へと走って向かっていた。

 宣言した通り、五分前に学園に到着した。その足で自分の寮に向かったのだが、自分の部屋の玄関前にある人物が立って真琴の帰りを待っていた。

 

「あの、まこ君。お、お帰りなさい」

「え?あ、ただい、ま。というか刀華さん?何故ここに?」

 

 そこには破軍学園序列第一位«雷切»東堂刀華が立っていた。

 




さて、いかがでしたか?

刀華は何故、真琴の部屋の前で待っていたのか、それは次回分かることでしょう。

次回の更新予定日は来週の9月4日~6日の17:00~21:00とさせて頂きます。
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております!

今後も史上最強の伐刀者マコトを宜しくお願い致します。


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BATTLE.39 初めての・・・

こんにちは、紅河です。

皆さんにご報告が御座います。活動報告にも書きましたが、私の『史上最強の伐刀者マコト』が8月29日に、日刊ランキング一位を獲得致しました!
初めての小説でランキングに掲載、更には一位と私としては驚きが一杯で、受け入れるのに多少の時間がかかりました。
ですが、一位を獲得出来たのは応援して頂いた皆様のお陰です!本当にありがとうございます!!

これからも、慢心せず努力して参りますので応援宜しくお願い致します。

今回は短いですが、どうぞお楽しみ下さい。


「刀華さん?何でここに?」

 

 «雷切»こと、東堂刀華が何故、真琴の部屋の前で待っていたのかというと、それは数日前にまで遡る。

 

 その日は真琴と倉敷が久し振りに再会した時のこと・・・。

 綾辻との因縁、ファミレスでの一件、様々なイベントの後、真琴と倉敷は話をしようと近くの公園に立ち寄っていた。

 ベンチに座り、これまでの経緯をお互いに明かした。

 

 何故、真琴が破軍学園に入学したのか・・・。

 何故、前回の七星剣武祭に真琴が出場していないのか?

 今まで起きた様々なことを寮館がしまるギリギリまで、語り明かしたのだった。

 

 二人はこの場所に、自分達しか居ないと決め付けていたのだ。しかし、そんなことはなく、とある人物がそこには居た。

 

 それが、«雷切»東堂刀華であった。

 

 刀華は寮に帰る途中、お花を摘みに公園に立ち寄っていた。その最中、真琴と倉敷を見つけ、刀華本人としては悪気はなかったのだが、つい体が反応し物陰に身を隠して、二人の会話を盗み聞きしてしまったのだ。

 その日は聞き終わった直後、真琴と倉敷の二人は何事もなく、公園を後にする。刀華に気付きもせずに・・・。刀華は真琴に話し掛けようとするが、真琴の姿を目にすると先程の話の内容を思い出し、声を掛けられなかった。そして、その日は不完全燃焼のまま寮へと帰宅した。

 

 なにゆえ、刀華が真琴を待ち伏せていたのか・・・?それはこれから知ることになるだろう。

 

 

 時間は一輝と綾辻の仕合当日の日・・・。それもお昼頃だ。生徒会の面々が揃って昼食を終え、休憩を取っている時のこと。

 

 

「ねぇ、カナちゃん」

 

「何です?会長?」

 

「ちょっと、相談したい事があるんだけど・・・」

 

 

 なが机に各々の弁当が置かれ、それぞれが椅子に座り、刀華が真ん前に座っていた生徒会会計貴徳原カナタにとある相談を持ち掛けたのだ。何故か相談者の刀華の顔はほんの少しだけ、紅くなっていた。

 

「私に相談ですか?」

 

「うん」

 

「珍しいね。刀華が相談なんて・・・」

 

 

 昼食も終え、恋々とゲームをして暇を潰していた泡沫が興味を示し、刀華達の話に割って入ってくる。

 

「ちょっとね・・・」

 

 その端切れの悪い口振りに、女の勘が働いたのかカナタがこれから話す内容を察したようだ。

 

「分かりましたわ・・・。それでは、副会長、雷さん、殿方は一度席を外して頂けますか?」

 

「え?」

 

「どういうことで御座るか?」

 

「いいからいいから」

 

 恋々もそれに便乗し、男二人を生徒会室から外へと送り出した。

 

「それで、一体どうしたんだよ。会長」

 

「うん、えっとね・・・」

 

 

 恋々がそう切り出すと、昨日の夜での出来事を二人に話して聞かせた。

 

 

「っていう、事なんだ・・・」

 

「えええええええ!?!?」「あら・・・!」

 

 流石の二人も驚きを隠せない様子だ。それもその筈、〝近衛真琴〟というただの学生が、前回の七星剣武祭ベスト八の倉敷蔵人と親しい気に会話していた。これにも驚くべき事だが、更にはこんな言葉を口に出していたのだ。

 

『刀華さんは俺が己の命を懸けて守りたい人』

 

 そう、口にしたのだ。

 

「会長を己の命を懸けて守りたい、ですか・・・」

 

「こ、こ、これって〝そういうこと〟って捉えて良いんだよね?まこ君は私に・・・」

 

「それはあるかもね。格好いいこというね、近衛君も」  

 

「そうかも知れませんわね・・・」

 

「だ、だよね!でもまこ君にどんな顔で会ったら良いか分かんないよ。調整とか手伝ってもらおうと思ってたのに・・・」

 

「会長はどう想っているんですの?」

 

「え?」

 

「近衛さんのことですわ」

 

「私は・・・」

 

 私は胸に当てて聞いてみる。

 私はまこ君をどう、想っているのか・・・。

 ただの親しい男友達なのか・・・。

 ただの調整相手を努めてくれる後輩なのか・・・。

 それとも・・・男として、好き、なのか・・・。

 

 まこ君との出会いは今でも覚えている。

 私が日課のランニングを終え、寮近くの公園で休憩を取っている時、地蔵を抱えた一人の男性が走ってきた。

 普通に考えればただの不審者だと思う。でも早朝の五時半、誰も歩いても居ない時を見計らって走り込みをしているようだった。

 そんな人が不審者な訳がない。私は不思議とそう思った。

 

 そして、何故、仏像を身に付けて走っているのか思わず話し掛けた。そしたら、破軍学園に入学した新一年生で、それが近衛真琴ことまこ君だった。

 

 自己紹介も兼ねて、お互いについて話した。そしたら、私とまこ君は意外にも共通点が多くて、お互いに両親が他界していたり、施設に預けられそこで育った事や、武術を道場で学んだ事、様々な共通点が私達にはあった。

 

 その日からアドレスを交換し度々、会う約束を取りつけて、一緒に走り込みをしたり、生徒会の皆と食事をしたりして、友好関係を築いていった。

 

 少なからず私は、まこ君に対して友好的な感情を有している。

 

 けど、それが、男として好きなのか、友達としてなのかは、はっきりしていない。

 

「私は、他の男性と比べるとまこ君の事が好きだと思う。けど、それが友達としてか男性としてかまでは・・・」

 

「分からないという事ですわね?」

 

 カナタの言葉に刀華は無言で頷く。

 

「だったら、手っ取り早い方法がありますわ!」

 

「え!?あるの!?」「ほ、本当?」

 

 恋々が机を手で叩きながら、椅子から飛び上がらせる。

 刀華は驚きの表情を浮かべる。

 

「それってどんな方法なの?」

 

「ズバリ・・・」

 

「ズバリ・・・?」「・・・」

 

「近衛さんと会長がデートする!

 

 

      これにつきますわ!」

 

「「デート!?」」

 

「私とまこ君が!?」

 

「そうですわ。会長は近衛さんの事は好きですが、明確な好意とは断定出来ない。近衛さんが持つ好意も私達には分かりません。だったら、会長自ら感じるしか他ありませんわ」

 

「その為のデートってこと?」

 

「ええ」

 

 カナタが恋々の言葉に肯定の意を示した。

 

「会長が現状の近衛さんとの気持ちを知りたいのなら、行動するのみですわ。もし近衛さんが会長の言う通り、『好き』ならデートは断らないでしょう。もし、違うならデートには野良ないでしょうしね」

 

「そ、そうだね」

 

「僕達は応援するよ」

 

「うん。二人とも有難う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その結果、現在に至る。

 

 

 

「それで、今週の土曜空いてないか?って事ですか?」

 

「うん」

 

「しかも、俺と刀華さん、二人で出掛けると?」

 

「そう、二人で。どう、かな?」

 

 刀華は恥ずかしいのか、手の指を合わせながらモジモジしている。

 

 刀華の問いに真琴の答は・・・?

 

「良いですよ」

 

「そっかぁ・・・やっぱり忙し・・・ええええ?良いの?」

 

 真琴はあっさりとデートを了承した。

 

「はい。ただこれから模擬戦があるので何処に行くかはメールで・・・」

 

「えっと、うん、分かった。私の方から後でメールするね・・・。そ、それじゃ!」

 

「はい、また。」

 

 

 真琴は手を振り、刀華を見送る。その姿が見えなくなるまで・・・。

 

 真琴はガチャリと家の鍵を開け、部屋の中へ入って行く。そして、何かを隠して勢いよく扉を閉めた。

 

 

「(え?え?デート?俺が刀華さんと?良いんだけど、良いんだけどさ!服とか何着ていけばいんだよ!?普通の格好で良いんだよな?な?分からん!と、取り合えず、落ち着け!取り合えず、珠雫の模擬戦が終わってからだ、考えるのは。刀華さんの事もその時に考えよう。まさか、刀華さんの方から誘ってくるとはな・・・平然と装ったつもりだけど、刀華さんにばれてないのよな?)」

 

 

 真琴は内心、ドキドキしつつも焦っていた。

 何故ならこんな事は初めてのことだからだ。

 他の伐刀者と比べて随一の戦闘能力を有している真琴ではあるが、これまで師匠達と共に裏社会での戦闘や、様々な経験をしてきた。が、しかし、『恋愛』だけに関していえば経験がないのだ。

 刀華さんに対して『好き』という感情は持ってはいる。これは真琴の師匠である兼一と同じ、刀華を命懸けで守りたいという、男としての真っ当な気持ちだ。

 

 

 真琴は何処で刀華を好きになったのか・・・?

 最初に会った時に一目惚れをしたのか?

 それからの関わりで好きに転じたのか?

 これは皆さんの想像に任せるとしよう。

 

 ただ、一つ言える事は・・・その照れを隠すよう、模擬戦に没頭したのは言うまでもないだろう。




いかがでしたか?
楽しんで頂けたでしょうか?

今後、何かあれば活動報告と前書きのに書かせて頂きます。

さて、次回の更新日は9月13日~15日の17:00~21:00とさせて頂きます。
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。


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BATTLE.40 準備

皆さんこんにちは、紅河です。


更新が遅れてしまい、申し訳御座いません!
自分の体調不良と執筆の遅さで一日遅れとなってしまいました。

今後はこのような事がないよう、つとめていきます。
何卒、宜しくお願い致します。




 本日は快晴。

 気持ちよく外へ出掛けるも良し。家に籠りゲームしたりするも良し。

 様々な思惑が飛び交う今日この頃。

 

 ここ破軍学園では、七星剣武祭代表戦の真っ最中。

 他の学生伐刀者達は、自分自身の能力向上の為模擬戦を行ったり、学生を謳歌する為娯楽や勉学に勤しんでいた。

 ここ第四訓練場では二人の伐刀者が鬼の様な模擬戦を行っていた。

 

「おら!脇が甘いぞ!珠雫!脇を閉めてコンパクトにしろ」

 

「ぐっ・・・」

 

 真琴が珠雫の為に模擬戦をしている、のだが・・・。

 その戦闘は、はたから見た人間には最早いじめにしか見えない。

 何故なら、珠雫が距離をとろうとすれば、すかさず真琴が距離をつめて追って、そして、投げられる。

 はたまた、珠雫がクロスレンジに移行すれば、真琴の容赦のない攻めが待っている。

 地に伏せる度、真琴に厳しい言葉で何度も何度も、珠雫は叱責を受けていた。

 

「よし、少し休憩だ。水分補給しとけ」

 

「は、はい」

 

「はい、お疲れ様。珠雫」

 

 壁際で待機していた、アリスこと有栖院凪がスポーツドリンクを持って珠雫の側へと歩んでくる。

 

「ありがとう、アリス・・・」

 

「真琴、珠雫とは初めての模擬戦なのに、厳しすぎやしない?もう少し加減してもいいと思うのだけど」

 

「私もそう思ったけど、真琴さんが言うには「武術は中途半端が一番危ないから手は抜けない」んだって」

 

「それは、分かるけど・・・それにしてもよ。やり過ぎな感じはするけど・・・(何かいつもの真琴じゃないような気もするのよねぇ・・・女の勘ってやつが囁いてるのよねぇ)」

 

 それから数時間後・・・。時刻は午後四時を迎える丁度十分前。真琴達の訓練時間が過ぎようとしていた・・・。

 

「今日の模擬戦はここまでだ。珠雫、ゆっくり休んで明日の模擬戦まで復習しとくように」

 

 珠雫の体は蝉の抜け殻の様な、生気のないモノへと変貌を遂げていた。

 

「これはやり過ぎたか・・・?おーい、起きろー珠雫ー」

 

 真琴はゆさゆさと珠雫を揺らす。

 

「ハッ・・・ここは・・・」

 

「お、気付いたか」

 

「真琴・・・さん・・・。私、また気絶したんですね」

 

「少し加減を間違えてしまったみたいだな、今後は気を付ける」

 

「いえ、あれくらいでも私は構いません・・・」

 

 珠雫がゆっくりと立ち上がろうとするが、力が入らないのか尻餅をついてしまう。

 

「ほらな。無理すんなって・・・すまんな」

 

「そうよ、仕合前に倒れたりしたら本末転倒なんだから・・・」 

 

「そう、ね。二人とも、有難う」

 

「珠雫。今日の模擬戦、寮に帰ったら復習しとけよ?」

 

「〝素早く懐に入る〟ってやつですか?」

 

 その発言に真琴が無言で頷く。

 

「女性は男より筋力がない、継続してクロスレンジを鍛えてない珠雫は尚更だ。まぁ他の女性でも鍛え方によっては男を超えることもあるが・・・今すぐってのは無理だからな」

 

「分かりました。その様に戦法を組み立ててみます。あと、模擬戦中に教えてくださった«首里手»をもう一度ご説明して頂けますか?」

 

「あぁ、いいぜ。うちの空手では腕のしなりとスピードで打つ貫手を«首里手»、筋力と自重で打つ«那覇手»が存在する。小太刀で言うと、素早く切りつけ相手を捩じ伏せろってことだ」

 

「素早く、切りつける、ですか」

 

 珠雫は余りピンと来ていないようだ。

 

「そうだ。言葉で説明するより見せた方が早いか・・・珠雫、今から何発か放つからそれを見てろ」

 

「真琴さん、もしかして何か的でもあった方が良いですか?」

 

「まぁ、そうだな。空中に十個ほど氷を生成してくれ」

 

 真琴がそういうと固有霊装を顕現させ、珠雫の小太刀«宵時雨»で空中に水を造り出した。そこから徐々に凍っていき、少し大きめの氷が十個、生み出された。

 

「よし、この辺に固定させてくれ。今から見せてやる」

 

 真琴が指定した位置は六十㎝程離れたところだった。手を伸ばせば氷に触れる距離だ。

 そして、真琴が構えて少し息を吐く。

 

「ハァッ!」

 

 パァン!パァン!パァン!と砕音が訓練場に響く。真琴の足元には先程砕かれた砕氷が飛び散っている。

 

「さて、お前の目にはどう見えた?」

 

「三発、です」

 

「そうだろうな」

  

「実際には六発、ですね。真琴さんが放った数は・・・」

 

 珠雫は分かっていた。自分自身が造り出した氷が六つ砕けていることを・・・。これが示す答は、真琴が放った突きが六発、放たれたということに他ならなかった。

 

 

「瞬間に六発何て、考えられませんね・・・」

 

「えぇ。まず普通の人間には同時になんて打てるもんじゃないわ・・・」

 

「もっと極めれば何発も行けるだろうがな。珠雫、俺が言いたいことこれで分かったよな?」

 

「は、はい」

 

「んじゃま今日はこの辺にしとこうぜ?俺もこれから準備しないとだし・・・」

 

「何か予定でもあるの?」

 

「ああ、これからデー・・・」

 

「「え?デー?」」 

 

 珠雫とアリスの二人が真琴の言葉に首を傾げる。

 

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

  

 真琴は何かを隠すように慌てて、頭を掻いた。

 だが、アリスはなにか勘づいたようだ。

 

「ねぇ、真琴?」

 

「何だよアリス」

 

「準備って何を準備するの?」

 

「何って、そりゃ服を買ったり・・・下見に行ったり・・・(あっやべっ)」

 

 真琴はつい口が滑ってしまいそうになる。そして、その顔は若干赤い。

 それを見逃さないアリスではない。

  

「ねぇ、もしかしてデートでもするのかしら?」

 

「え?デ、デートですか?真琴さんが?」

 

 珠雫が少し興味を示し、真琴の方を振り向く。

 

「(でも何で私の胸はモヤモヤしてるの?私にはお兄様がいるのに・・・。確認するのは気になったから確かめるだけ・・・嫉妬とかじゃそんなんじゃない。ただ真琴さんの相手が気になるだけ、友達として・・・)」

 

 珠雫は自分の感情と葛藤しつつ、ある気持ちを押し殺して、真琴の言葉を待つ。

 

 

「はぁ、アリスにはやっぱバレるか・・・仕方ねぇ少し話すか」

 

 真琴がことの事情を説明した。

 

「成る程。今度の週末に雷切とデートね」

 

「あ、あぁ」

 

「それで忙しそうにしてた訳ね、なんかいつもの真琴の雰囲気と違うから、そんな事じゃないかと思ったわ」

 

「お前の鋭さはうちの柔術の先生を思い出すぜ・・・」

 

「あら、そうなの?」

 

「だって、俺が何かを相談しようとすれば、俺が話す前にその話の答えやアドバイスを言っちゃうんだもんよ・・・」

 

「その人は人間の心でも読めるんですか?」

 

 その話を聞いた珠雫はゾッとする。

 

「梁山泊の人達に会えば分かる(梁山泊の達人全員が相手の心を読めるとは口が避けても言えんな、これは・・・)」

 

「服に困ってるなら私が見立ててあげるわよ?カッコいいの選んであ・げ・る♡」

 

「あぁ、助かる」

 

「あら、素直なのね」

 

「身嗜みは武術ほど自信はないんでね」

 

「そうなのね。ねぇ、珠雫、貴女も一緒に行かない?」

 

「わ、私は・・・」

 

「女性の意見は多いにこしたことはないからよ、頼むわ・・・」

 

「そこまで言うなら、仕方ありませんね・・・付き合いますよ・・・」

 

「おう、ありがとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 そして、時は過ぎ・・・デートはもう明日に迫っていた。

 真琴も刀華もこれが初めてのデート。緊張しないわけがない・・・。誰しもが生まれて初めての異性とのデートならテンションが上がり、様々な期待を浮かべてしまう事だろう。

 もし、緊張しない人間がいるとするならば、いつも女友達と遊ぶチャラチャラした男か、男友達としか遊ばない女性しかいないだろう。

 

「もしもし」

 

 真琴は何やらデート前日だと言うのに、何処かに電話をしている様だ。

 

「なんだい?真琴、何かあったのかい?僕のスマホに直接電話なんて」

 

 電話越しに聞こえるその声は、とても優しげな男性の声だ。

 

「師匠、ちょっと、報告というかなんといいますか、声が聞きたくなってしまって・・・」

 

 そう、電話越しに聞こえる声の主は何を隠そう、❮梁山泊一番弟子❯〝白浜兼一〟その人だった。

 

「どうしたんだい?急に・・・報告ってまさか負けたのかい?」

 

「いえ!七星剣武祭の方は順調です。連戦連勝ですから」

 

「まぁ、そうだよね。僕の弟子が負けるはずないもの」

 

 何故か兼一は自分の事でもないのに自信満々のようだった。

 

「・・・ちょっと、明日デートする事になったんです」

 

「デート?一体誰とだい?」

 

「こっちで知り合った女性です」

 

「真琴はその娘の事、好きなのか?」

 

「まぁ、はい。俺が梁山泊を出る前に「大切な人を見つけなさい」って言ってくれましたよね?」

 

「あぁ。それが強くなる近道だと君が旅立つ前に言ったね」

 

「その人が俺にとって、〝大切な人〟なんです。勿論、こっちで出来たルームメイトや他の友人もそうですが、その娘だけは、少し別格というか・・・」

 

「真琴も見付けたんだね。僕と同じ様に・・・」

 

「はい」

 

 真琴と兼一はお互いに大切な人を思い浮かべる。

 

 師匠である白浜兼一は現在の妻である、風林寺美羽を・・・。

 弟子である近衛真琴は先輩である«雷切»東堂刀華を・・・。

 

「僕も初めてのデートの前日は緊張したよ、懐かしいなぁ」

 

「師匠も緊張すること、あるんですね」

 

「それはそうだよ。僕は元々戦いとか争い事は苦手だし、いじめられてたから、異性となんて仲良くしたことなかったからね」

 

「話は聞いたことありますけど、いじめられてたなんてイメージ出来ませんよ」

 

「アハハ、今の僕の体を見たらそうだよね。今度、家に帰ってきたら僕の昔の写真を見せてあげるよ」

 

「はい、是非。あぁそれと、師匠、もう一つだけ」

 

「ん?なんだい?」

 

「この前にメールで聞きましたけど、明後日の予定は無いんですよね?」

 

「あぁ。ないよ、小説も落ち着いたし、大きなイベントはないかな」

 

「それじゃあ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 

 

 

 時刻は午前十一時・・・。

 今日は土曜日。七星剣武祭代表選抜戦もいよいよ、折り返し地点までやって来た。学生の各々が様々な休日を謳歌していることだろう。

 そして、天気は晴れ。

 デートにはもってこいの天気だ。

 

 あの人と最初に出会った公園にて、彼女は彼を待っている・・・。

  

 




いかがでしたか?

今後、体調管理には気を付けなければ・・・。


次回の更新予定日は9月27日~29日の17:00~21:00です。宜しくお願い致します。
いつでもご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。


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BATTLE.41 初めてのデート・・・

こんにちは、紅河です。

気が付けば、執筆活動を初めてからもう半年が経過致しました。早いですねぇ・・・。

お気に入り数も500件以上、UAも70000超えと本当に読者の皆様には感謝しきれません。本当にありがとうございます!これからも地道に励んで参りたいと思います。

さてさて、真面目な話はこれくらいにして、どうぞ最新話お楽しみください。


 時刻は午前十一時、十分前・・・。

 場所はとある公園。

 私はここで、一人の後輩を待っている。

 

 彼は何事にも真っ直ぐで、時々仕合の調整も手伝ってくれる頼もしい伐刀者で、顔に傷があって人に怖がられやすいけれど、人一倍優しいという一面もある、私の可愛い後輩。そんな、彼と私は今日、デートします。 

 

「服似合ってるかな?大丈夫かな?」

 

 自分の服装の最終チェックをしながら、彼が到着するまで時間を潰している。今日の服装が、白色のブラウスに下は紺色のサブリナパンツ。普段、こんな服なんて着ないから、似合ってるか心配・・・。

 

「昼は昼食にパスタ屋、その後はメインの遊園地で・・・。チケットはカナちゃんが取ってくれた、チケット二枚・・・。ここに私用と、まこ君用で一枚ずつ・・・。あと、財布もポシェットに入れたし、携帯も大丈夫・・・。後はまこ君が来てくれるか、どうか・・・」

 

 私は自身のデートプランを見つめ直しながら、彼の到着を待つ。

 

 私がふと時間を確認すると、時刻は約束時間五分前になっていた。時はあっという間に過ぎていく。

 

 地面を観ながら様々な事を私案していると、ガツガツという地面を蹴る音が聞こえる。その音はドンドン私の方へと近付いてくる。

 ガツ、ガツ。ガツ、ガツ。

 ふとその音が止み、今度は聞き覚えのある男性の声が聞こえた。

 

「お待たせしました。刀華さん・・・」

 

 顔をあげると、私の大事な後輩である彼がそこにいた。

                    

「ううん、私も今来たところだよ?」

 

 私が決まり文句を言いながら、彼の服装に目をやるといつもの彼の姿ではないことに気が付いた。

 いつもなら組手や模擬戦の時は空手の胴着だし、カナちゃん達と遊んだり食事する時は学生服を着用している。

 そんな彼が、カジュアルに身を包んで私の目に入ってくる。

 上半身は水色のブルゾンの上に、青色のカーディガンを着用、茶色のストレッチパンツで靴は水色のスニーカー・・・。夏に近い今頃にふさわしい格好だった。

 

「ねぇ、まこ君。そんな服も持ってたんだね。中々様になってるね」

 

 私は思わず服装を褒めてしまう。

 

「ありがとうございます。でも刀華さんのだって、刀華さんらしい可愛い服装じゃないですか・・・」

 

「フフッ、そう?」

 

「はい、似合ってますよ」

 

「ありがとう、まこ君」

    

「それじゃ、行きましょうか」

 

「うん」

 

 そんな、掛け合いをしながら目的地へと向かった。これから、生まれて初めてのデートがスタートしたのだった。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 時は、少し戻って午前十時頃・・・。

 一輝とステラは学園内の公園、いつもの鍛練場のベンチに座っていた。

 普段はここで多くの生徒達に剣を教えている。最近、また人数が増えた。三年の綾辻絢瀬を倒し、学園内の一輝の人気が上がってしまったのが原因だろう。

 

「そういえば、一輝・・・。綾辻先輩、自分が犯則技を使ったこと話したんだってね」

 

「うん、そうみたいだね。十日の停学処分で済んだって聞いたよ」

 

「何はともあれ、一輝が無事で良かったわ・・・。一輝ったら犯則を使うのを知っているのにそれを見送るんだもの・・・本当に心配したのよ」

 

 ステラはそっと、一輝の手の上に自身の右手を重ねた。

 

「うん、ごめん。ステラ・・・」

 

 彼女を心配させまいと、一輝も負けじとステラの重ねた手を握り返した。

 

 すると、ピピピピという電子音が二人の耳へと入る。

 どうやら、綾辻絢瀬からのようだった。

 

「綾辻さんからだ。え!?海斗さんの意識が快復したって!」

 

「良かったわね!一輝!」

 

「うん!」

 

 再起不能だった憧れの武人が、目を覚ましたのだ。こんなにも嬉しいことはないだろう。

 

「これで一件落着ね、一輝・・・。お疲れ様」

 

 再び、手を重ねるステラ。

 

「うん」

 

 一輝がそれを受け入れ、次第に二人の身体は近づいて行く。ドンドン進んで、お互いの顔は数センチまで近付いた、その時!

 

「なぁ~に、私の居ないところでキスをしようとしてるんですかねぇ?」

 

「若いって良いわねぇ・・・」

 

「「うわあ!!」」

 

 急に後ろから声がかかり、思わず大きなリアクションをとってしまう、一輝とステラ。

 そのベンチの後ろにはいつ近づいたのか分からないが、珠雫とアリスが居た。

 

「いつからそこに居たのよ!」

 

「お兄様が綾辻さんからメールを送られた時からです」

 

「結構最初の方じゃない!居たなら話し掛けなさいよ!」

 

「お兄様の邪魔をしてはいけないと、私は身を引いていたのですよ。何処かの淫乱皇女様とは違ってね」

 

 そういうと、珠雫は一輝の腕に自身の腕を絡める。

 

「あ、離れなさいよ!」

 

「いーやーでーす!お兄様成分を取らないと私は死んでしまうんです!」

 

「そんな、成分はないわよ!あるなら私だって取りたいわ!」

 

「な、何を言ってるのステラ!?」

  

「やめなさいよ、二人ともみっともない・・・」

 

「全く、自重しないよ」

 

「それは此方の台詞です!」

 

「「フン!」」 

 

 二人は口を揃え、子供のような態度を取るステラと珠雫。すると、一輝が珠雫へある質問を投げ掛けた。

 

「あれ?真琴は?珠雫は真琴に稽古を付けてもらってるんじゃないのかい?」

 

「そういえば、マコトの姿が見えないわね」

 

「あ、今日の稽古は自主トレなんです。今日一日真琴さんは所用でいませんから」

 

「え、そうなの?」

 

「・・・はい」

 

 珠雫の反応は少しだけ寂しげに感じた。

 

「ほぼ一日がかりで帰ってくるのも夜になりそうだって話だから、今日真琴には会えないわねぇ」

 

「そうなのか。珠雫、なら僕が真琴の代わりに稽古を付けてあげるよ」

 

「良いんですか!?」

 

 一輝の思わぬ提案に、珠雫は目を輝かせる。

 

「うん。前に小太刀も教える約束だったしね、これくらいは兄として当然だよ」

 

「有難う御座います!お兄様!嬉しいです」

 

「珠雫、良かったわね」

 

「ええ」

 

「ね、ねぇ、珠雫。わ、私も手伝ってあげてもいいわよ?」

 

「貴女は別に必要ありません」

 

「な、何でよ!?」

 

「あら、辛辣ねぇ」

 

「まぁ、冗談ですけど」

 

「そのアンタの目を見ると冗談には聞こえないのよ・・・」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてさて、閑話休題はこれくらいにして、先程にも話題が上がった真琴の様子を見てみよう。

 

「刀華さん、さっき食べたパスタ美味しかったですね」

 

「うん、生徒会の皆でたまに食べに来るんだけど、まこ君とは行ってなかったからどうしても一緒に行きたくて・・・」

 

「気を使わせてしまってごめんなさい」

 

「謝らないでよ!私が好きで教えたんだし・・・」

 

「今度、俺の手作りのお菓子を差し上げますね」

 

「ほ、本当!?」

 

 お菓子と聞いて、私はつい気持ちが高ぶってしまう。私が女性というのもあるけど、まこ君の手作りお菓子はお店にも引けを取らないから。それを食べられるのであれば、喜ぶのも仕方無いというもの。

 

「はい、お好きなお菓子を作りますよ」

 

「分かった。後で決めておくね」

 

「分かりました」

 

 そんな、他愛のない世間話をしていると目的地の遊園地に到着した。

 ここは貴徳原財閥が管理する遊園地、『努湖彼野(どこかの)遊楽園』

 私の為にカナちゃんがチケットを取ってくれた。カナちゃんには感謝しきれないなぁ・・・。今度、お礼しなきゃ・・・。

 

 私達、二人は受付でチケットを見せするすると娯楽施設へ足を踏み入れたのだった。

 




いかがでしたか?

次回、更新予定日は10月9日~11日の17:00~21:00です。宜しくお願い致します。ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。


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BATTLE.42 努湖彼野遊楽園

 空は見事な快晴。

 〝努湖彼野(どこかの)遊楽園〟の入口は蒼海を表すような装飾が施されている。

 貴徳原財閥は、この遊楽園と同時並行で水族館も運営し〝努湖彼野(どこかの)水族館〟と命名している。運営側の設立者兼命名者が水族館と同じな為、この様な装飾になっているのだ。

 

 二人は受付を済ませ、パンフレットを受け取りこれからのプランを立てている。

 

 

「さてと、何から乗りますか?刀華さん?」

 

「そうだね、王道のジェットコースターから行ってみる?」

 

「・・・刀華さんがそう言うなら」

 

「んじゃ、行こ?」

 

 二人は手を繋がないとはいかないものの、一度腕を動かしてしまえばお互いの掌が触れてしまう、そんな距離感でジェットコースターへ向かった。

 二人は前にも生徒会の面子と一緒に公共の場に、遊びに行ったことは何度かある。が、いつもとは違う服装、しかも二人っきりというシチュエーションが、不思議な緊張感を生んでいた。

 自然とお互いの口数は減り、歩みだけが進んでいた。

 

「(いざとなると、何を話していいか分からねぇ・・・)」

 

「(な、何の話題で話せば・・・)」

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

「そ、そうだ。と、刀華さん、代表選抜戦の方はどうなんですか?」

 

「まこ君こそ、どうなの?苦戦しそうな相手とかいない?」

 

「苦戦しそうな、ですか・・・。まぁ刀華さんは当然として、破軍の連中の中だと一輝ですかね。苦戦するビジョンが見えるのは・・・」

 

「黒鉄君だけ?カナちゃんや噂のヴァーミリオンさんとかは?」

 

「正直に言って、その二人は本気一歩手前くらいですかね。ステラの場合攻撃が分かりやすいので対応しやすいのでいいのですが、カナタさんと対峙する場合は〝ある技〟を使わざるを得ないと言った具合です」

 

「ある技?」

 

「ええ。師匠から受け継いだ、俺にとって最も重要な技になります。刀華さんとの模擬戦でも使用してますよ」

 

「あぁ、〝あの技〟かぁ・・・。そうだね、あれ使わないとカナちゃんには対応出来ないかもね」

 

「ええ。カナタさんはそれほどの伐刀者ですから」

  

 二人が伐刀者しか出来ない話題をしていると、もうまもなくしてジェットコースター前へと到着した。

 土曜日という事もあってか、大勢の人々が列を作っている。真琴達の行動が早かったからか、待ち時間、一時間程でジェットコースター搭乗入口へと到着した。

 海というのをテーマにした装飾が周りに施されている。手荷物はスタッフに預け、席へと移動する。

 ジェットコースターとは人間を機械に乗せ、高所から猛スピードで登リ降りし、そのスリルを味わうというモノ。

 もし、施設側の確認の不備があれば命を落とし掛けない。そうならないよう、点検スタッフは念入りに行っているが・・・。しかし、搭乗する以上、頭を(よぎ)ざるを得ないというモノだ。今からそのジェットコースターに搭乗するかと思うと、ドクン、ドクン、という高揚感が二人を容赦なく襲ったのだった。

 刀華は友人や小中の修学旅行で幾度となく経験しているが、対する真琴はほんの少し違う。

 真琴は秋雨作の独自とれ~にんぐまっし~んで何度となく経験し、この場にいる。

 

 

「(刀華さんの前でこういう絶叫マシーンが苦手なんて、言えねぇ・・・)」

 

 そう、真琴は幼少期に秋雨作のマシーンのせいで、師匠の兼一同様、絶叫マシーンが苦手になってしまっているのだ。

 真琴はポーカーフェイスで隠してはいるが、その内心はガクガクのバックバクである。二人は肩から腹部までの

ガッチリと固定するタイプの安全バーをしっかりと付け、念を入れて備え付けられたであろう、ベルトも装着。

 

 真琴の心配を余所に、ジェットコースターは動き始める。

 ガタガタガタガタ・・・と金属と小型車両のタイヤとが組み合わされた独特な音を放ちながら、上へ、上へ、と登っていく。鉄骨で組み上げられた線路の上を小型車両が、ドンドン、ドンドン、登っていく。

 真琴達以外のお客も高揚感に襲われ、片やわくわくしている者、片や真琴と同じ様に心臓が破裂しそうなほど、恐怖と戦っているモノ、その様子は人それぞれだ。刀華はというと、この状況を純粋に楽しんでいるようだ。

 様々な思いを胸に、小型車両はジェットコースターの天辺へと到着した。

 

 

 

 

 ゴォォォォ・・・・・という音を立てながら真琴達を乗せた小型車両が・・・地面へと降りていった。

 

「(ギィィヤアァァァァァァ・・・・!)」

 

 真琴は声には出さないものの、心の中で悲鳴を思いっきり叫んだ。

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わってみれば、あっという間だったねー」

 

「え、ええ。そうですね(もう、二度とこのジェットコースターには乗らん・・・五回連続の捻りからの、二回転は、ないだろう・・・。あれ、マジで死ぬかと思った・・・)」

 

 ポーカーフェイスを装っている真琴。そんな真琴に刀華がこんな言葉を発した。

 

「まさか、あんなに強いまこ君が絶叫マシーンに弱いなんてね」

 

「え!?俺、口に出してました!?」

 

「え!?まさか本当に苦手なの!?(笑)」

 

「は、計りましたね!刀華さん!」

 

「ごめん!まこ君!まさかこんな意外な弱点がまこ君にあったなんて思わなくて・・・」

 

 

 そう、如何に真琴がポーカーフェイスを保とうとしても、体は正直なのだ。

 刀華は搭乗しまもなく、真琴の方を見たとき真琴の足が小刻みに動いていたのを見逃さなかった。それを見たからこそ、カマをかけてみたのだった。

 

「絶叫マシーンが苦手なら他のところに行かない?」

 

「あ、そうですね・・・。すみません、みっともない姿を晒して・・・」

 

「ううん。まこ君にこんな一面を見れただけで、私は嬉しいよ。前に生徒会の皆で遊びに行った時は、水族館とか動物園だったし」

 

「ふふっ、そういえばそうでしたね・・・。努湖彼野(どこかの)水族館、でしたっけ?」

 

「うん。まこ君が異様にテンションが上がってたのが印象的だったなぁ・・・」

 

「あれは、まぁ・・・(昔、師匠の奥さんと師匠の親友の奥さんとが戦った場所だから、テンションが上がってたとは言いづらい・・・)」

 

「もしかして、動物とか好きなの?」

 

「嫌いではないですね」

 

「んじゃ、ペットにしたい動物は?」

 

「え?ペットにしたい動物ですか?それはですね・・・」

 

 二人はペット談義をしつつ、次の目的地へと足を運んだ。

 次はどうやら、フードコーナーに向かうようだ。

 といっても真の目的地はその先のお化け屋敷のようだが・・・。道順的に はフードコーナーの方が近い為、お化け屋敷は食べた後のお楽しみという事になりそうだ。

 そのフードコーナーにはジャンクフードから和食、洋食、多種多様な食べ物屋が営んでおり、お店、一軒一軒が遊楽園のお城をバックに屋台形式で一列に並んでいるようだ。お店の前にはテーブルと椅子が設置してあり、その場で食べる事も出来そうだ。

 

「た、沢山ありますねぇ・・・」

 

「カナちゃん曰く、この遊園地は様々な料理が食べられるのも一つの魅力なんだって」 

 

「へぇ・・・」

 

 そんな、二人の目に止まったのはなんと、アイスクリーム屋だった。

 

 

  

「彼処にアイスクリームが売ってますよ」

 

「そうみたいだね、行ってみる?」

 

「ええ、行きましょう」

 

 二人が店の前に来ると、奥から一人の女性スタッフが姿を現した。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は何に致しましょうか?」

 

「えっと、刀華さんは何にします?」

 

「私はソフトクリームのバニラ味で・・・。まこ君は?」

 

「俺は・・・ソフトクリームのチョコレートで・・・」

 

「はい、ソフトクリームのバニラお一つと、チョコレートお一つですね、少々お待ちください」

 

 そういうとスタッフは直ぐ様、作業に取り掛かった。真琴と刀華はお店の前で待つことにした。

 その数分後・・・。

 

「お待たせ致しました、ご注文のソフトクリーム、バニラ味とチョコレート味で御座います」

 

「あ、有難う御座います。はい、こっちが刀華さんのですね」

 

 真琴が刀華の分も品を受け取り、刀華へ手渡した。

 

「有難う、まこ君」

 

「では、ごゆっくりお楽しみ下さい」

 

「溶ける前に食べちゃいましょう」

 

「うん」

 

「「いただきまーす」」

 

 二人が口に入れると、一瞬にしてクリームが消えてしまった。まるで、冷たい雲を食べているようなそんな感覚だ。それでいて、口に残るのは濃厚なミルクの味・・・。刀華が食べているバニラではミルクとバニラ、二つの味が喧嘩することなく共存し、口に一杯に広がってゆく・・・。

 対する真琴のチョコレートはビターチョコレートを使用し、少しほろ苦い味に仕上げているようだ。その癖のない味わいに、舌が止まることなく舐めてしまう・・・。

 ふと気が付くと、二人の手にはコーンを包んでいた紙しか残ってはいなかった。

 

「このソフトクリーム、滅茶苦茶旨いですね・・・」

 

「う、うん。話す暇もなかったね・・・夢中になって食べちゃった・・・」

 

「こ、こんな美味しいソフトクリームがあったとは・・・他の味も食べてみたい・・・」

 

「まこ君、アイスとかケーキとかに目がないものね。カナちゃん達と一緒にクレープ食べ歩きとかにも行ったよね」 

 

「あの時は楽しかったですね。計何枚食べたんだっけか・・・」

 

「十枚とかじゃなかった?うた君とか雷君は五枚行けなかったし・・・」

 

「その位でしたっけ・・・」

 

「うん。その時、まこ君がスイーツ男子というのには驚いたなぁ」

 

「まぁ、最初はそうですよね。この顔ですし」

 

「私は、顔に傷があっても気にしないよ?」

 

「刀華さんはそうだとしても、他の人間はそうじゃないでしょう。生徒会の方々も最初はビックリしてましたし・・・」

 

「そうだけど・・・、私は気にしない。寧ろ格好いいと思う。まこ君がどういう経緯でそうなったか知っているけど、尚更私はまこ君の顔、好きだよ。だって、その傷はまこ君のお父さんとお母さんが残した最期の愛の形だもの。命を懸けて貴方を護り通したっていうね。だから私は好きだよ」

 

 その言葉に真琴は燃え上がるような熱い気持ちが湧き出てきた。この気持ちがなんなのか、自覚はしている。だが自覚しているだけだ。自覚しているだけで、一度たりとも口にしてはいない・・・。

  

「・・・はい、そうですね。父さんと母さんがいなければ俺はここには居ませんから」

 

「さて、もう一つ食べてから行く?」

 

「そうですね、そうしましょう。そうだ、今度アイスクリーム食べ歩きとか行ってみます?」

 

「生徒会の皆で?」

 

「はい」

 

「うた君や雷君が大変そうだけど」

 

「それも一興ですよ」

 

「フフッ、それもそうだね!」

 

 二人はまた、店を任されている女性スタッフに声を掛けたのだった。

 あの味をもう一度味わうために・・・。




いかがでしたか?

次回更新予定日は10月18日~20日の17:00~21:00の間とさせて頂きます。
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。


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BATTLE.43 木霊する叫び声

こんにちは、紅河です。

ご報告です。この度「史上最強の伐刀者マコト」を変更し「史上最強の武術家の弟子伐刀者マコト」に改めることとなりました!
何故変更したのかというと、私の方でこのタイトル違うなと思い至ったからです。
急にタイトル変更していまい、申し訳ございません。
なにぶん、初めての小説活動で右も左も分からずにやっているものでして、こうしたらいいやご意見が御座いましたら活動報告やメッセージの方へご連絡下さい・・・。


少し前より長くなってしまいましたが、今後とも「マコト」を宜しくお願い致します!



 

 数分前に二人でアイスソフトクリームを食べていた。

 とても美味で濃厚なソフトクリームだった。こんなに旨いアイスは生まれて初めての経験・・・。

 彼はここの味を気に入ったのか、そのあと五つほどソフトクリームを追加注文していた。

 

「さて、俺は少し席離れますね」

 

 そういうと、彼が席を立った。

 恐らく、トイレに行くんだと思う。

 私は「うん」と頷き、彼を見送った。席で彼の帰りを待つことに・・・。

 私は三つほどで食べるのを止めたから、そこまでじゃない。

 でも、まこ君の気持ちも分からないでもない。ここのソフトクリームが美味しすぎるのが悪い。

 

 真琴side

 

「しかし、あのソフトクリーム旨かったな・・・腹を下すほど食った訳じゃないからいいものの、五つは食い過ぎたか・・・」

 

 俺は歩いて直ぐ近くのトイレに向かう。トイレの場所は数多くの飲食店が並ぶ、丁度真ん中辺りに位置する。アイスクリーム屋の所から右に二番目の場所だ。俺らのテーブルから数メートルといったところか。

 こういう遊園地で近くにトイレを置いているのは、有り難い。他の施設だと遠くに置いてたりする場合があるからなぁ・・・。それだけは、マジで困る・・・。

 あ、今、刀華さん一人か・・・。刀華さんなら一人でも大丈夫とは思うけど、やっぱり心配だな・・・。不敬な輩にナンパされてないといいな・・・早いとこ済ませて、彼女の所へ行かないと・・・。

 

 刀華side 

 

「まこ君、遅いなぁ・・・」

 

 彼が席を立ってから、もう既に数分が経過している。十分程ではないけど、小の方だとしても結構長い気がする。

 まぁ個人差があるし、別に良いんだけど・・・。やっぱり一人は寂しいな・・・。

 ただ、まこ君とこうして二人で過ごすのもたまには良いなって思う。何か、まこ君が側に居ると私は凄く落ちつく。

 

 似た境遇にあった者同士だからなのか・・・。

 同じ破軍学園の伐刀者で生徒同士だからなのか・・・。

 

 それは多分、前者なのだろう。

 

 まこ君と初めて会った時、運命めいたモノを感じた。何故かは分からないけど・・・。

 

 まこ君から過去の話を聞いたとき、私は彼が話終えるのを黙って聞いていた。私は、私と似た境遇の人に出会って、その事が私にはとても嬉しかった。今まで、そんな人物には出会わなかったし・・・。

 

 まこ君からここまで来る経緯を聞いたり、模擬戦やったり、生徒会の皆と一緒に出掛けたりしていく内に、私の中で「近衛真琴」という存在がドンドン、ドンドン、大きくなっていくのを会う度に感じていた。

 

 それが、私の〝恋〟。私は恐らく、まこ君に対して無意識に〝恋〟をしていたのかもしれない・・・。

 

「ねぇ・・・」

 

 誰かの声がする・・・。まこ君じゃないけど・・・。

 

「え?誰ですか?」 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真琴side

 

「さて、刀華さんの所へ戻るか・・・」

 

 俺は刀華さんが待っているテーブルへと向かう。

 

 すると、案の定だった。

 

 俺らのテーブルに見知らぬ男が三人程、刀華さんを取り囲む形で陣取っている。

 ナンパというヤツなのだろう。ルックス的に刀華さんは可愛い部類に入る。だからナンパされても違和感はない。

 なら、ここに来る道中もされそうではあるが・・・。

 顔に傷がある男がそばにいると、声を掛けようとはしないのだろう。

 

 まぁつっても、人の連れに手を出したんだ・・・。

 生半可な覚悟じゃ、すまないぜ?

 

 

「え?誰ですか?貴方達は・・・」

 

「君、一人なんでしょ?」

 

「今はそうですけど・・・」

 

「って事は暇なわけだ」

  

「僕達と遊ぼうよ」

 

 

 

 まこ君を待っているとチャラチャラした男三人組が私の前に現れた。

 最初に声を掛けて来たのは金髪で服装がカジュアルに纏めた服装。耳にピアスを着けた男性、二十歳位。大学生とかなのかな?

 二人目が、黒髪で白いVネックにネックレスを掛けた男性、同じく二十歳位。

 真ん中の男性が茶髪でオールバック、水色のシャツにこれまたカジュアルに纏めている。同じく二十歳位。きっと仲間内で女性でも掴まえに来たのかな?

 

 私は絶対に行かないけど。

 

「今はってことは連れが居るのかな?」

 

「そうですよ、その人を待ってるので」

 

「その人は彼氏?」

 

「ち、違いますけど・・・」

 

「彼氏じゃないなら、そんなヤツ置いて、僕達と行こうよ」

 

 

「イヤです!貴方達とは行きません!」

 

 スッと、金髪の男が私の手首へと手を伸ばす。

 

「おい!!俺の大事な連れに手を出すんじゃねぇよ」

 

 ガッとその男の手首をある人が止めた。私がその人の方へ目を向けると、まこ君だった。

 

「まこ君!遅いよ!」

 

「すみません」

 

「な、何だよ!お前!」

 

「あぁ?この人の連れだ。ここから失せろ」

 

「この娘は俺らと回るんだよ!」

 

「あ?誰が決めたよ?この人がお前らを受け入れた訳でもないのに、戯事ほざいてんじゃねぇぞ、糞野郎が・・・」

 

 ほんの少し、まこ君の方から気当たりを感じる。気当たりと同時に手首も自然と離している。

 その気当たりは少しやり過ぎな気もするけど・・・。

 

「ヒッ、ヒィィィィ!」

 

「お、おい。何尻餅ついてんだよ!」

 

「う、うわぁぁぁ!」

 

 私に声を掛けた、金髪の男は見るも無惨に走り去ってしまった。仲間の人達を置いてきぼりにしてまで。

 

「お、おい!」

 

「お前らも邪魔だ!失せろ!」

 

 同じ様に気当たりを放つまこ君・・・。

 ほんのちょっとだけどナンパしてきた人達に同情・・・。気当たりは何とも言えない怖さがあるからね・・・。

 まこ君、目が怖いよ・・・。

 

「「ハ、ハイィィィ・・・!し、失礼しましたァ!」」 

 

「ふん!大丈夫でしたか?刀華さん」 

 

「わ、私は大丈夫だよ。何ともない、守ってくれて有難う、まこ君」

 

「いえ、貴女を護るのは俺の役目なんで・・・。こういう時に護れなくては男が廃りますから」

 

「う、うん(まこ君ってこういう事、サラッと言うんだよね・・・は、恥ずかしい・・・)」

 

 私の顔、紅くなってないかな・・・。

 

「どうかしました?」

 

 スッと彼が私の顔を覗き込んでくる。

 

「な、何でもない!何でもない!次はお化け屋敷でしょ!行こう行こう!」

 

「あ、先に行かないで下さいよ!」

 

  

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが名物のお化け屋敷、ですか・・・(名前からして嫌な予感が・・・)」

 

「名前はえっと・・・《くとぅるーのアトランティス》だって」

 

 俺達の前には、禍々しい光景が広がっている。普段であれば『アトランティス』という言葉だけ聞くと、誰しもが海中にある綺麗な都市を想像するだろう。

 しかし、その高貴ある外観の水の遺跡、アトランティスではない。

 

 その外観は、黒色とも紺色ともつかない色合いで塗られ、周囲の装飾に魚の様な、人の様なモノが描かれている。

 お化け屋敷の入口を挟み込むような形で噴水が設置され、その場所のみ綺麗だと言えた。しかし、一部だけ綺麗にされると、かえって不気味だ・・・。

 如何にもお化け屋敷と言って相応しい所だな。

 これに今から入ると思うとほんの少しだけ身震いする・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、SAN値が減りそうな名前ですね・・・」

 

「SAN値?」

 

「説明すると長くなるので、ここでは省きますけど・・・。まぁ、怖い事は確実ですね」

 

「そ、そうなんだ。取り合えず、行く?」

 

「そうですね、行きましょうか」

 

 私達は禍々しい門を潜って、お化け屋敷の中へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お化け屋敷の受付を済ませ、その奥へと俺達は進んでいく・・・。

 照明は薄暗く、不穏な音楽が俺達の不安を掻き立てる。

 

「なんか、マジで怖いですね・・・」

 

「うん、離れたりしないでね?」

 

「は、はい」

 

 この不穏な感じが彼女の恐怖を助長させているのだろう。俺の腕をガッチリ掴んで離さない。

 刀華さんは気付いていないのか、彼女の豊満な胸がムニュンと当たっている。

 

「(む、む、胸が当たってるんだが・・・。こ、これを出口まで耐えないといけないのか!?修業よりキツイぞ?!)」

 

 刀華さんは恐怖心との闘い。

 俺は理性と本能の闘い。

 

 刀華さんの場合、負けても良いけど俺は負けちゃ終わりだ・・・。なんとしても耐えねぇと・・・・!

 

 ある程度道形を進むと、一人の男性?が道端に倒れている。

 服を着ているようだが周囲が薄暗く、男性なのか、女性なのか、化物なのか判別することが出来ない。

 

 

 近くまで行くと漸く男だと気付く事が出来たのだが、その顔は常軌を逸していた。

 

「ウガアァァァァァァァァァァァ!」

 

「キャアァァァァ!」

 

 男の顔を視認した瞬間、刀華さんが悲鳴を上げる。

 あの顔を見れば誰だってそうなる。

 

 ここのスタッフなのだろうが、メイクが本格的過ぎたのだ。

 体は男なのだが、顔が魚人そのモノだったのだ。手にはヒレがあり、首もとには魚のエラが施してあり、本物の化物さながらだ。

 通称、インスマスと呼ばれる者。これがこの化物の呼称だ。

 

 

 恐怖心が頂点に達したのか刀華さんの力が必然的に強くなる。ギュゥゥゥっと、ギュゥゥゥっと、俺の腕に力を込めた。

 その度にムニュゥゥ、ムニュゥゥと刀華さんの胸に腕が吸い込まれるように触れてしまう。

 

 悶々としたモノが身体中を廻っていく。必死にそれを抑え前に、前に、進んでいく。

 

「刀華さん、もう化物はいないですよ」

 

「え?ホント?」

 

「え、ええ。通りすぎましたから・・・」

 

「う、うん。早く出よう?ここ怖い・・・」

 

「・・・はい」

 

 俺達は、出口の方へ歩いてゆく。この名状しがたいアトランティスから逃れる為に・・・。

 奥まで進むと六畳ほどの広さがある一つの部屋にたどり着いた。 

 その部屋の奥の扉の上に、筋肉質な腕をし、蛸の様な顔付きで背中から翼を広げている奇妙な壁飾りが設置されている。

 その場所に到達すると不気味な声が木霊する。

 

 いあ!いあ!くとぅる!ふたぐん!

 いあ!いあ!くとぅる!ふたぐん!

 いあ!いあ!くとぅる!ふたぐん!

 いあ!いあ!くとぅる!ふたぐん!

 

 

 その呪文の様な声は頭に直接響くような、そんな感じがした。ずっと聴いていたい様な、不気味な様な、そんな不思議な感覚が俺達を襲う。

 

 早く出ようと扉のドアノブに手を伸ばそうとすると・・・。

 

 

「・・・汝ら」

 

 謎のアナウンスが俺達を呼び止める。

 

「汝らって俺達の事?」

 

「そうだ。お主らにいっておる」

 

「な、なんだろうね?」

 

「さぁ?」

    

「汝ら、少し我の遊戯に暫し付き合って貰うぞ」

 

 ゴゴゴゴゴと音を立てながら化物の壁飾りの腕が口元へ移動していく。

 

「え?」

 

 ゴワァアァァァーーーンという音と共に壁飾りの口から青色の霧が室内へ広がっていく。

 

 ボフン!という音と共に次第に霧が晴れていく。漸く視界が通常に戻ると周囲を見渡すと元の部屋のままだ。

 

「何だ、何も起こらないじゃねぇか。ねぇ刀華さん。あれ?刀華さん?何処ですか?」

 

「まこ君!ここ!私はここにいるよ!」

 

「え?刀華さん?何処ですか!?声だけは聞こえるんですけど・・・」

 

「まこ君!足!下を見て!」

 

「え?下?」

 

 刀華さんの声に導かれる様に下を向くと、一つの刀が置いてあった。

 

「何で、ここに刀が・・・」

 

「やっとまこ君が見えた・・・」

 

「見えたって・・・ええ!?まさか、刀華さんなんですか!?」

 

「う、うん。なんか刀になっちゃったみたい・・・」

 

「エエエエエエエエエ!?!?!?」

 

 俺の絶叫が六畳一間の空間に響き渡った。

 

 




いかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?

次回更新日は今のところ、未定です。
リアルで顎関節症にかかり、病院に通院しないといけないのですが、行く目処がたっていない為です。
確定しだい、活動報告と後書きの方に記述しますので、もうしばらくお待ちください!
ご指摘、誤字脱字、感想、質問お待ちしております。

追記
次回更新日は11月8日、17:00~21:00になります。
宜しくお願い致します。


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BATTLE.44 アトランティスの中で・・・

こんにちは、紅河です。


長らくお待たせ致しました!
最新話更新です。
少し、短いですが次話は早めに更新しようと思っておりますので、宜しくお願い致します!


「う、うん。なんか刀になっちゃったみたい・・・」

 

「エエエエエエエエエ!?!?!?」

 

 不気味な小さな一室に、絶叫が木霊する。

 

「え?!いや、人体変化ってどういう事だ!?伐刀者の能力なのか!?」

 

「そう、なのかな?」

 

「あ、その下に私の鞘もあるみたいだから取って収めてくれる?」

 

「あ、はい」

 

 刀華の言うとおり真琴が目を向けると、刀華が居たであろう場所に白い鞘が置いてあった。

 

「それじゃ、収めますね」

 

「う、うん。んっ!」

 

 真琴が鞘に戻そうとすると、変な声が刀華から溢れた。

 

「あの、どうかしました?」

 

「なんか、く、くすぐったくて・・・」

 

 鞘に収める独特なカシューっという音と共に、刀華の甘い声が真琴の耳にへと入ってくる。真琴の本能を刺激するようにその声が耳の奥へと進んでいく。

 部屋で女子と二人っきり・・・。

 普通ならナニかあってもおかしくはないはず。

 真琴は何故だか、イケナイ雰囲気のような気がしてならない。

 が・・・、それは人間であった場合だろう。

 

 今の刀華は刀になっているのだ。

 

 そんな、変な気持ちには動かない。

 もし、なるとしたならば・・・刀を愛する特殊性癖を持ち、常識を持たない人間であった場合だ。

 

 真琴という人間はそこまで落ちぶれてはいない。ちゃんと常識を持った活人拳の武術家で伐刀者なのだ。そんな事態にはなり得ない。

 

「取り合えず、収めましたよ」

 

「うん。有難う、まこ君」

 

「さっき、くすぐったいって言ってましたけど・・・」

 

「うん、何かね、まこ君に私の服を着させて貰ってる感覚だった」

 

「え?そうなんですか?そこまでのクオリティーがあるとは・・・」

 

「スタッフが伐刀者なのかな?それにしても凄いアトラクションだけど・・・」

 

「そうですね・・・よもや人体変化とは・・・。人によって変化するモノは変わるんですかね?」

 

「そうなんじゃない?まこ君の場合は手甲やすね当てになるのかなぁ」

 

「その能力者が対象者の魂に干渉するように技を発動してみればそうなのかもしれませんね・・・。刀華さんの場合は名前みたいですから俺の場合は案外、琴なのかも知れませんよ?名前に琴って漢字使いますから」

 

 真琴がいった。

 

「フフッ、そうかもね」

 

 刀華もその言葉に笑みを返して答える。それに安堵したのか、真琴は刀華を腰に携えながら扉の先を見据えた。その先は薄暗く、怪しい闇の道が広がっている。

 何処までも、何処までも、何処までも、何処までも、何処までも・・・。    

 二人はその闇の奥へと歩みを進めていく・・・。

 

 その道には壁に松明が設置されているだけで、それ以外のモノは一切ない。

 ただ暗い道なりが奥へと続いてるだけだ・・・。

 先程の部屋で鳴り響いていた不気味なBGMももう聴こえない。

 何故か脅かし要員のスタッフですら、姿を現さない。

 お化け嫌いな人間には出ないのは良い事かもしれないが、何も音もなく、敵もなく、ただただ薄暗い道を進んでいく・・・。

 ただ、それだけだ。それだけなのに・・・!

 少女と少年の心の中から『恐怖』という感情が消え去る事は一向に無かったのだった。

 

 人という生き物には動物にはない、知性がある。

 その為、何かを永続的にしてしまうとある種の『恐怖』が芽生えてしまうものだ。

 とある話に人間が穴を掘って、掘り起こした穴を埋めて、また掘り起こす。そしてもう一度掘って、またその穴を埋める。それを何度も掘り返す・・・。

 これらの無駄な行動を繰り返すと、人間という生き物は・・・『自殺』をするそうだ・・・。

 意味のない無駄な行動をとらされると、人間は簡単に精神に異常をきたし自殺を図る。

 

 真琴達の今の行動はこれらと少し似ている。

 二人がお化け屋敷にいるというのもあるのだろう。音楽が無音、不気味な場所で、薄暗い道を、歩き続けている。

 

 

 何秒?

 何分?

 何時間?

 

 一体、何分経ったかなんて分からない。

 ここにいるだけで何時間も経っているようなそんな感覚が二人を襲う。

 

 

 ここには時間を確認する術は無い。

 アトラクションを最大限に楽しむという事で、荷物は全て受付にて預けてしまっている。だから、二人には何も無い。

 

 

 そして、突然自分自身の姿がナニモノかに変化させられている。

 

 こんな状況下に脅かされれば、『恐怖』感じない人間など、この世に居はしないだろう。

 

 

「ねぇ、まこ君。ちょっと休憩しない?」

 

「疲れました?」

 

「ううん、疲れてはいないと思う。まこ君に持って貰ってるから楽だし・・・でも」

 

「でも?」

 

「何か、休憩したい気分なの・・・落ち着きたいというか、休みたいというか・・・」

 

「分かりました。んじゃここで休憩しましょう」

 

「うん・・・」

 

 刀華のその声はどこか掠れているような気がした。

 

 適当な場所に座る二人・・・。

 だが、言葉は出ない。

 沈黙が続く・・・。

 ここに居るせいなのか。折角、男女二人きりという絶好のシチュエーションの筈なのに、高揚感が全くといっていいほど感じなかった。

 

 

 

「・・・ねぇ、まこ君、私ってこのままなのかな・・・」

 

 この空気を払拭したのは、刀になった刀華だった。

 

「それは・・・俺からはなんとも・・・。異能による幻術かもしれないですし、解けると思うんですけどね」

 

「ここを出るまでは解除されないのかな?」

 

「やっぱり、そうなんじゃないですか?」

 

「かなぁ・・・でもね」

 

「でも?」

 

「どうしても考えちゃうの・・・このままだったらどうしようって・・・このまま変わらなかったら私は一体、どうなるのかなって・・・。お母さんや皆にはどう説明すればいいのかなって・・・」

 

 その弱音は真琴にとって意外な一言だった。

 これまで破軍に入学し、刀華と出会ってから一度たりとも聞いたことも無かった刀華の弱音・・・。

 

 破軍学園、生徒会長にして序列一位。

 前回七星剣武祭ベスト四。

 皆の憧れであり、目標である存在の«雷切»東堂刀華・・・。

 

 そんな彼女が不安を漏らす事だなど一切無かったのだ。

 真琴が目にしていなかっただけで、本当はか弱い少女なのかもしれない。でも、それでも、普段から彼女の立ち振舞いからしてそんな様子は一切見当たらなかったのも事実だった。

 

 この特殊な状況で不安が助長された事で、言葉を出してしまったのかもしれない。

 

 しかし、そんな彼女に真琴がしてやれる事はたった一つ。それは・・・。

 

「不安になる必要なんてありませんよ」

 

「え?」

 

「もし、刀華さんがこのままだったら、俺が刀華さんを使いますから」

 

「まこ、君?」

 

「刀華がこのままでも刀華さんは刀華さんでしょ?それは変わらないですから。だったら、俺が武器として刀華さんを使用させて頂きます。梁山泊で武器術は一通り習ってますし・・・といっても刀華さんや一輝程じゃないですから、一度と梁山泊に戻って修行のし直しですけど・・・」

 

「まこ君・・・」

 

「そうなったら、一度破軍学園は中退になるんですかね?そうなると父さんとの夢は叶えられなくなっちゃいますけど、父さんなら許してくれそうですから」

 

「ふ、フフッ」

 

「な、なんですか?俺、変なこと言いました?」

 

「ううん、まこ君らしいと思っただけ。ありがとね、まこ君!」

  

「どういたしまして」

 

「さぁ、行こ!こんな所でぐずぐずしてたら日が暮れちゃうよ!」

 

「そうですね、急ぎましょう!」

 

「うん!」

 

 ありがとうね、まこ君・・・。貴方のお陰で今までの不安が一気に消し飛んじゃった・・・。

 貴方は自分に関わった人をほっとけない性格の活人拳のお弟子さん。顔はちょっと怖いけどお菓子作りが好きで食べるのも大好きで、武術やあらゆる物事に真っ直ぐな、私の大事なお友達・・・。

 まこ君のそういう優しいところ、私は・・・・。 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 




いかがでしたでしょうか?
楽しんで頂けましたか?

次回の更新日は11月15日~16日の17:00~21:00です。
早めに更新出来る時は活動報告に書かせていだきます。

もし、早めに出す場合は来週の月曜には出せるかと思いますので宜しくお願い致します。
では、ご感想、ご指摘誤字脱字等、お待ちしております。


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BATTLE.45 夕陽に

 真琴は刀華を抱え、アトランティス内を駆け巡る。

 出口を求めて・・・。

 アトランティス内は何処の道かも分からない造りになっており、もはや迷路と化していた。進めど、進めど、分かれ道、行き止まりばかり・・・。

 タッタッタッタと、孤独な走音がアトランティス内に広がるだけだった。

 

 何分、何時間たったかは分からない。だが、真琴は走り続けた。 

 走って、走って、走って、走って。

 一人の女性と共にここから抜け出すため・・・。懸命に走り続けた。

 

 すると、迷路を抜けた真琴達の目の前に一つの部屋が姿を見せた。

 相も変わらず、その周りは不気味な装飾と松明の僅かな明かりだけだ。

 

 その扉の上には蛸の化物が飾られ、まるで、真琴達を誘っているかのようだった。

 

「よくぞ、諦めず辿り着いた、人の子よ・・・。我の余興に付き合ってくれた礼と、そなた等の勇気に敬意を評し、現すへ帰そうではないか・・・」

 

 

 

 神のようなアナウンスがなり響き、煙がモクモクと充満する。暫くするとその煙は自然と消え去り、先程と変わらない風景が姿を現す・・・。

 

「こ、これは一体・・・?なんともないですか?刀華さん?」

 

 刀華の反応はない・・・。それどころか気配も感じなかった。

 

「あれ?刀華さん?!何処ですか!?」

 

 なんと、手に持っていた筈の刀華(刀)が消えていた。

 

「まこ君、後ろだよ」

 

「え?」

 

 スッとその清楚な声に思わず振り向く。真琴が探し求めていた人物がそこに居た。

 いつもとは違う、女性らしい格好をした憧れの人がそこに立っていた・・・。

 

「刀華、さん?」

 

「うん。東堂刀華です。私、元に戻ったみたい」

 

「突然、手から消えるんで焦りましたよ」

 

「フフッ、私も焦ったよ。急に元に戻るんだもの」

 

「何はともあれ、元に戻って良かったですね。これで梁山泊に戻らずにすみそうです」

 

「なんか残念な顔してる?」

 

「そ、そんな事はないです。さぁ先を急ぎましょう」 

 

「あ、誤魔化した」

 

  

 真琴は導かれるようにドアノブへ手をかける。

 

 ガチャリ・・・、キィィィ・・・という扉の歯軋り音が耳へまとわりつき、二人はその光の奥へと進んでいく。

 神のようなアナウンスと共に。

 

「今はただ前へ進め、若人よ」

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「いやぁ、凄かったですね」

 

「うん、まさか刀になっちゃうなんてね」

 

 二人は『くとぅるーのアトランティス』をクリアし、サービスエリアにて暫しの休憩をとっていた。

 そこは真琴達が昼食を取った場所と目と鼻の先に位置する場所だ。 

 昼頃は人が賑わい、何処を見ても人で溢れかえっていた。それが今では要所要所に人が居るだけである。

 

 それもその筈、現在の時刻は午後五時。もう、帰り支度を済ませ各々の自宅へ帰らなければならないからだ。

 

 もし、遊楽園をまわれるとすれば後一ヶ所だけだろう。

 

「そろそろ、俺達も帰りますか?」

 

 真琴が帰り支度を促すと・・・。刀華はこう続けた。

 

「でも、あと一ヶ所だけ行きたい所があるの、いい?」

 

 真琴から目を離さず真っ直ぐと見つめながら・・・。真琴の鼓動は自然と高鳴ってしまう。

 普段ならば女性に見つめられたとて、然程問題ではない。が・・・。

 綺麗な女性と二人っきり、遊園地でデートなのだ、このシチュエーションであればドキドキしない男は居ないだろう。居るのであればそれはただのタラシ男に違いない。

 

「・・・い、良いですよ。刀華さんが行きたいというのなら、俺は付き合います」

 

「本当!?」

 

「はい、何処に行くんですか?」

 

「それはね、ついてからのお楽しみ!」

 

 刀華が立ち上がり手をつかんでその場所へと走り出した。

 振り向いた時にフフッと刀華が笑顔を見せた。真琴はその不意の笑顔にまた、ドキッとしてしまった。

 曇り一つ無い、真っ白な笑顔。

 その笑顔が脳裏に焼き付き、離れようとしなかった。

 真琴はずっと、刀華を見つめていたのだった。

 

 

 刀華に導かれながら連れられた場所は、観覧車のようだった。

 

 装飾は珊瑚のイメージなのだろうか?一室一室にそのような装飾が施されていた。

 それだけでも見る価値はありそうなものだが・・・。

 

 メインはあくまで乗って景色を味わうことだろう。その為にここに来たのだから・・・。

 

 

「ここですか?刀華さんが来たかった場所って・・・」

 

「うん、観覧車。遊園地と行ったら観覧車には乗っておこうと思って・・・」

 

「それも、そうですね」

 

「それじゃ、い、行こう!」

 

 何やら刀華の足取りは少しじれったいような感じがした・・・。

 

 受付を済ませ、いざ乗り込む。

 

 ガシャン!と観覧車の扉が締まり、向き合う形で座席につく。ゴトン!ゴトン、ゴトンという音と共に、上へと昇っていく。

 

 二人は今までとは違い、何もない密室の部屋で男女二人っきり、そのせいなのかお互いに沈黙してしまった。

 

 ゆっくり、ゆっくり、観覧車は上に進む。二人の時間もゆっくり、ゆっくり、進んでいるかのようだ。

 

 何秒何分だろう?沈黙の時間だけがどんどん長くなっていった。

 

 夕陽が窓際から差し込み、部屋の真ん中を明るく照らしている、その時だった。

 

 

「「あの!」」 

 

 お互いの言葉が交じり合う。

 

「刀華さんからどうぞ」「まこ君からどうぞ」

 

 また交じる。

 

「レディファーストです、刀華さんからどうぞ」

 

「それじゃ、その言葉に甘えて・・・」

 

 咳払いを挟んで、刀華が続ける。

 

「私ね、今日ここに来られて良かった。凄く楽しかったよ」

 

「それは、俺も同じですよ」

 

「フフッ、二人っきりで遊ぶなんて今までなかったし。しかも初めてのデートだから緊張もしてたの。私、実はね不安だったの」

 

「不安ですか?」

 

「うん。あのお化け屋敷で私、刀になったでしょ?」

 

「はい、そうでしたね。一時はどうなるかと」

 

「固有霊装は伐刀者の魂から発現したモノ。もし、あのお化け屋敷で行われた術が伐刀者の異能で動いてて、私の負の感情を察知して動くように創られてるんだとしたら・・・。不安があったから私は刀になったのかなって・・・」

 

「それは、もしかしたらそうなのかも知れませんけど・・・俺らには裏側なんて分からないですから違うかも知れませんよ?」

 

「それはそうなんだけど」

 

「不安って、何が不安だったんですか?」

 

「それはね・・・」

 

 このデートには一つの目的があった。それは、刀華の気持ちをハッキリさせるためだ。

 

 

 

 男の人なんて今まで意識なんてしたことなかった。

 ただの友達としか思っていなかった。

 うた君や雷君、クラスメイトの皆もそうだった。

 けど、まこ君だけは、少しだけ違うように感じてた。それが、恋というモノなのか、それはハッキリとしなかった。ただ、他の男の人とは違うというのだけは確信してた。それが私にとってのまこ君だった。

 

 自分の気持ちを確かめる為の今回のデートだ。

 このデートの最中、ずっとまこ君に対する気持ちを考えてた。

 

 ジェットコースターに乗る時も。

 まこ君との昼食の時も。

 あの、お化け屋敷の中で刀で居た時も。

 あの時から外に出るまで、ずぅっっっっと考えて、漸く私はその答えに辿り着いた。

 

 

「それはね・・・貴方の事でなの」

 

「・・・俺の事ですか?」

 

「うん、私ね・・・貴方が、まこ君の事が・・・好きなの」

 

 その言葉(告白)でこの部屋の時間は止まった。

 ドクンドクンドクン!とお互いの心が高鳴っていく。それは際限なく、ずっと・・・。

 

「私ね、まこ君の料理上手な所が好き。まこ君の武術に対する姿勢が好き。まこ君の傷付いた顔が好き。まこ君の人をほっとけない優しい所が好き。まこ君の、真っ直ぐな正格が大好き!」

 

 それは一世一代、愛の告白だった。

 真琴の中から暖かい気持ちが溢れかえってくる。

 火山のマグマのように、源泉の温泉のように、グツグツとグツグツと身体中へ駆け巡ってゆく・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、刀華に対する、真琴の気持ちはもう決まっている。もう決めて来ている。

 

 

 

 

「・・・先に言われちゃいましたね。俺から言おうと思ってたんですけど・・・」

 

「え?まこ君も、もしかして・・・」

 

 真琴の言葉に刀華の顔は紅潮していく。それは、真琴も同じ。

 

「はい、俺も刀華さんの事が好きですよ。俺は・・・うわっ」

 

 好きという言葉を耳にした瞬間、刀華は真琴へ抱き付いた。

 

「刀華さん、急に抱き付いたら危ないですって!」

 

「あぁーごめん、まこ君」

 

「もう・・・」

 

 刀華が我に返り、席へ着く。

 

「まこ君、私の事好きって言ったよね?私の聞き間違いじゃないよね?」

 

「聞き間違いじゃないです。この夕陽に誓って・・・」

 

「それじゃあ、私達両想いなんだ!」

 

「はい」

 

「ウフフッ、そうなんだ」

 

 刀華の表情は今までにないほど、輝いている。曇り一つない、満ち溢れたモノだ。

 

「ねぇ、隣に行ってもいい?」

 

「あ、はい。どうぞ」

 

 お互いの表情は少し紅くなっている。

 

「私、貴方からの証が欲しいな」

 

「証ですか?」

 

「うん。恋人になったんだもん、なにか・・・」

 

 刀華の言葉を待たず、真琴が動いた。すぅーと刀華の額に近付き、チュッと軽くキスをした。

 

「い、今はこれで・・・。俺自身結構、ドキドキで苦しいんで・・・」

 

「・・・」

 

「と、刀華さん?」

 

「エヘヘ、有難う、まこ君」

 

 こうして、二人の甘いスイーツのような時間は過ぎていく。

 夕陽が街を照らし、その景色を二人で味わいながら、ゆったりと空の旅を楽しんだのだった。




いかがでしたか?
楽しんで頂けましたか?

遂にここまで来ました。作り始めてから、思い描いていた事が一つ実現出来ました。

次回もオリジナル展開が続きます。本筋を楽しみにしてる方々はもう少しだけお待ちください。

次回の更新予定日は11月24日~25日の17:00~21:00の間とさせて頂きます!

御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております!


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BATTLE.46 来たれり!

 あんなに明るく照らしていた夕陽は、儚げなく沈み暗い闇夜が辺り一面を覆い始めようとしている。

 真琴と刀華は寮へ帰宅途中だ。

 その二人の表情はまるで月夜の満月のように明るい。周囲の暗闇を照らしているような、そんな気さえする。 

 

 つい昨日まで・・・、いや、数時間前まで、ただの仲の良い先輩後輩だった二人。

 

 だがもう今や彼氏彼女の関係。 

 男と女・・・。

 恋人同士、両想いになった。

 

 今までとは違う。別の道へ歩みを進めている。二人で一緒に・・・。

 

 これからの風景、学校の風景、商店街の風景、通学路の風景、仕合場の風景、その全てが違って見えることだろう。

 それが彼氏彼女になったと言う事だ。

 この破軍学園で様々な思い出を作っていくのだ。

 どんな思い出なのかは未来の二人しか知らないこと・・・。

 

 未来は白紙。

 どんな未来を作るのかは自分達次第だ。

 

 

 

―――――――――

 

 努湖彼野遊楽園を出発してから一時間ほど経とうとしている。辺りは暗く電灯が道を照らしている。

 二人は程無くして、自分達の寮へと到着した。

 

 

「今日は凄く楽しかったよ。今まで、一番・・・楽しかった・・・」

 

 刀華の表情はとても、満足気だった。

 

「俺も一緒ですよ」

 

 それは、真琴も同じ。

 一番大好きな人と両想いへ進展したのだ。満足しないわけがなかった。

 真琴にとって初めての彼女。

 告白を受けてからというもの彼の心はどこか、フワフワとシャボン玉の様に浮いている。

 

 これからの自分達を妄想してしまうからだろう。

 二人で行く今後のデート場所。

 梁山泊全員へ紹介する日。

 自分の子供や名前、色んな未来を考えてしまっていた。

 

 いくら梁山泊の弟子二号で武術の世界では«神童»と称され、破軍では«皇帝の拳(エンペラーフィスト)»とまで呼ばれている彼でも、発展途上の青年だ。

 妄想しても仕方がないというものだ。

 

 

「ねぇ」

 

 青年は妄想中。

 

「ねぇ、まこ君!」

 

 なおも妄想中。

 

「ねぇってば!」

 

「あぁ、はい!」

 

「さっきから何を考えてるの?」

 

「い、い、いえ、なんでもないですから、お気になさらず!」

 

 急に話し掛けられたからだろうか?真琴は取り乱してしまう。

 

「・・・んーー?本当にぃ~?」

 

 刀華が食い入るように見つめてくる。

 

「は、はい」

 

「何か疚しいこと考えたんじゃないよね?」 

 

「も、勿論です!」

 

 してました。

 

「それじゃ信じてあげる。ねぇ・・・まこ君、これは私からお願いなんだけどさ」

 

「はい、何ですか?何でも言ってください」

 

「あ、あのね・・・」

 

 刀華の表情は遊楽園の時のように、瞬く間に紅潮していく・・・。

 

「・・・・・・二人の時は呼び捨てで呼んでくれないかな?」

 

「よ、呼び捨てですか?」

 

「うん。私ね、好きな男の人に呼び捨てで呼ばれるのが夢だったの。まこ君からはこれまでずっと、さん付けだったし・・・」

 

「それはそうですけど・・・」

 

「折角、彼氏彼女になったんだし、敬語とかも無しで呼んでほしいな」

 

「(ぐぅっ・・・!)」

 

 今度は上目使いで真琴を見つめる刀華。

 今の真琴には効果は抜群だった。

 

「(な、なんてことしてくるんだこの人は!?そ、そんな事されたら、抗える男なんてこの世に居ないって!)」

 

「ダメ、かな?」

 

 更に、刀華のだめ押しだ。

 

「(ええいままよ!)」

 

 青年は覚悟を決めた。

 

「わ、分かりました。呼び捨て、ですね」

 

「うん!」

 

 少なからず、胸が高鳴る刀華。

 彼女はその時を待つ。

 

「とう、か・・・」

 

「ダメ!ちゃんと言って」

 

 刀華からの叱責が入る。

 照れてしどろもどろになってしまう。

 流石の真琴も恥ずかしさが勝ってしまっていたようだ。これは、いつもとは違う空気になれないためだろうか。

 

「すぅーはぁー・・・」

 

 深呼吸を挟み、一息つく・・・。

 ここの空気をめいいっぱい吸い込んで・・・。ゆっくりと口を開く。

 そして・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「・・・・・・刀華、これでいいか?」

 

 と言い放つ。

 

 近い距離で。

 

 息が近くに感じられる程に・・・。

 

 その青年の表情は完熟した林檎のように綺麗な赤色へと変貌している。

 

 その言葉にどれだけの時間が経っただろう。

 

 いや、そんなには経っていないはずだ。

 

 ものの数分。

 だが、この二人の体感的にはそれよりも長い時間が経っていたに違いない。

 

 その言葉で更に彼女の時は止まる。

 

 

「・・・・・・」

 

「と、刀華さん?」

 

 今度は真琴が刀華に近付く。

 見つめられたお返しではないだろうが、そっと彼女へ身体を近付けていく。

 

 

 

 

 

「刀華さん?だいじょ「有難う!まこ君!」

 

 彼女が真琴の言葉を待たず、抱き付く。

 そのせいで真琴の身体に柔らかな感触が再び襲ってきた。

 今日で何度目だろうか?

 数えてはいない。

 何故ならそんな余裕は今の真琴には、ないから。

 

「刀華さん!?」

 

「ありがとね、まこ君。私のお願いを聞いてくれて・・・」

 

「それは良いで、ん"ん"、それは良いけどよ」

 

「フフッちゃんと敬語無しで、いってくれたね」

 

「約束だからな、守る」

 

「エヘヘ・・・」

 

 刀華は嬉しさの余韻に浸っているようだ。

 

「でも、早く離れて」

 

「え?なんで?」

 

「当たってる・・・」

 

「当たってる?あ!」

 

 そこで漸く気付いたのか、刀華がバッと離れた。

 

「ご、ごめんね?」

 

「謝らなくていい、その、柔らかったし」

 

 手で頬を掻く真琴。

 

「まこ君のエッチ」

 

「男なんだから仕方ないじゃ、仕方ないだろ?」

 

「フフッ、私はまこ君ならいいけどね?」

 

「今、それ言いますか・・・」

 

「あぁ!敬語はなし!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

「むぅ!」

 

「ごめん、刀華」

 

「それで良し!それじゃあ、またねまこ君」

      

「あ、ああ」

 

「学校でね!」

 

 刀華が自分の寮の方へと向かい歩き出す。

 

「おやすみ、刀華」 

 

 真琴が夜の挨拶を刀華に投げ掛けた、その時だ。

 彼女は耳元で・・・。

 

「おやすみ、ダーリン」

 

「えっ!」

 

「ウフフッ!じゃあね!」

  

 刀華の思わぬサプライズに、真琴はその場に硬直してしまう。

 そして、それと同時に悟った。

 

「(・・・俺はあの人には敵わないな、ダーリンは卑怯だぜ、全く・・・)」

 

 刀華を見送り彼が今の時刻を確認すると、なんと午後六時を回ろうとしていた。

 

「(あ、もう六時になるのか。明日は“あの件”で忙しくなるから、寮に戻って色々、準備しねぇとな)」

 

 真琴は空を見上げる。

 星空がポツポツと出始める頃だ。

 今日の出来事を思い返していた。

 

 初めてのデート。

 ソフトクリームの事。

 お化け屋敷での事。

 

 

 

 そして、観覧車での告白・・・。

 生まれて初めての彼女・・・。

 

 一日とは思えない、出来事の連続。

 似たような経験は世直しで経験済みとはいえ、それとは別の充実感で身体中が満たされていった。

 

「(刀華さんが俺の大切な人・・・活人拳度外視に、俺が意地でも、死んでも、守り抜くと思える大切な人)」 

 

 真琴のこの覚悟が揺るぐことはない。

 意地でも信念を貫くのが武術家だから。

  

 ふと、梁山泊での出立を思い出す。

 その出立で師匠からの言葉を思い返していた。

 

「(師匠・・・貴方の言う通り〝大切な人〟を見付けました。これで俺も貴方に近付いたでしょうか・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいか、真琴・・・。これは僕からの助言だ。沢山の戦いが君を待ち受けているだろう。梁山泊で教えられる事は全部教えた。これからどんな強敵が立ちはだかろうと、活人拳の矜持を忘れるんじゃないよ。〝殺すな、殺されるな〟だからね。

 それから、君は君の道を進むんだ。そして、自分の心の底から〝命懸けで守りたい〟と思う人をその学園で見付けるんだ。それが強くなる一番の近道だからね。そして、もし、何か困ったことがあったらいつでも僕達を頼るんだよ。僕らは家族なんだから』

 

 

「(師匠、師匠の言葉が俺の支えです。見ててくださいね!)」

 

 こうして、夜は更けていった。

 青年の新たな覚悟と彼女の夢と共に・・・。

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ここは406号室。

 破軍学園での真琴の部屋だ。

 そこには秋雨作の重し地蔵が置いてあるなんとも異様な光景だ。思春期の高校生の部屋とは思えないものが広がっている。

 が、そこに一輝を含め、ステラ、珠雫、アリス、そして部屋の主である真琴、計五人が集っていた。

 しかも、朝の九時半に・・・。

 

 

 

 

「ねぇ、マコト。私達を部屋に呼びつけた理由って何よ?」

 

「そうですよ。朝早くにだなんて何の用なんですか?」

 

 当然の如く、ステラ達から質問攻めだ。

 

「まぁまぁ落ち着けって今に分かる」

   

「でもステラ達の主張ももっともだよ?」

 

「そうよ、いきなり俺の部屋に九時半に集合だなんて。日曜だから良かったものの」

 

 一輝とアリスもステラ達に便乗する。

 

「それについてはすまん。何か詫びをいれるぜ。だがこれだけは言える」

 

「何よ?」

 

「一輝、これからお前にとって最も大事な日になることは間違いないぜ?」

 

「真琴?それってどういう?」

 

 ピンポーン。

 部屋のインターホンだ。

 真琴がドアへと歩を進める。誰が来たのだろう?

 一輝達には疑問符が浮かぶだけだった。

 

 対応が済んだのか、真琴の声から察するにどうやら客人のようだった。

 

 そして、真琴の後ろに付いて来る人物が一人いる。

 

 その人物が一輝達の前にやって来た。

 

 髪の毛は茶髪。

 服装は今時の一般男性が着るような季節に合うカジュアルな格好。

 腕は普通の成人男性より一回り大きい。

 手首には白いテーピングが巻かれ、その手の至るところに傷が出来ていた。

 

 そして、優しげな声でこう告げた。

 

「やぁ、こんにちは。話は真琴から聞いているよ、君達が真琴の友人達かな?僕は白浜兼一、近衛真琴の師匠やってます」




いかがでしたか?
楽しんで頂けたでしょうか?

御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。

次回の更新予定日は11月29日~30日、17:00~21:00の間とさせていただきます!

次回でやっとやりたかった掛け合いが出来そうです!


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BATTLE.47 果たすべき約束

「やぁ、こんにちは。話は真琴から聞いているよ、君達が真琴の友人達かな?僕は白浜兼一、近衛真琴の師匠やってます」

 

 にこやかな顔で小柄な成人男性が登場した。 

 170㎝ほどだろうか?

 成人の男性としてみては身長は普通と言ったところ。しかしながら、その身長似合わず、体躯は大きく、腕や手に無数の傷が付いている。

 そして、右目の眼輪筋の下辺りに絆創膏が張ってある。

 

 これが、近衛真琴の実の師匠、❮白浜兼一❯である。

 

「真琴がお世話になっているね、僕が真琴の師匠、白浜兼一だ」

 

「あ・・・、貴方が、かの有名な❮史上最強の弟子❯である白浜兼一さんですか!?お、御会いできて光栄です!!」

 

 いつになく、テンションの高い一輝。

 

「何かテンション高いですね、御兄様」

 

「そりゃそうだよ、珠雫!白浜さんは僕の尊敬、憧れの武術家なんだから!」

 

 そう、まるで、ヒーローショーをみる子供ように一輝は舞い上がっている・・・。

 

 

 

 真琴から兼一さんの話は聞いているものの、今まで会う事は一度もなかった。梁山泊の活躍も話を聞く程度だったから、こうして目の当たりにするのは初めてだ。

 

 

 僕は何も知らないまま、幼少時代を過ごした。

 だからこそ、自分の武器を創るために数多くの武術書を読み漁った。

 道場破りも行った(おこなった)

 相手の技を見続けた。

 そうやって、今まで生きて、蓄積していった。

 そんな事をしていれば、自ずと武術の達人の話などが知らず知らずのうちに耳にしていくのは、最早必然と言えた。

 ❮無敵超人❯〝風林寺隼人〟

 ❮哲学する柔術家❯〝岬越寺秋雨〟

 ❮剣と兵器の申し子❯〝香坂しぐれ〟等、数多の武術家の達人の活躍を・・・。

 勿論、白浜兼一の名前も・・・。

 

 ❮史上最強の弟子❯ ❮一人多国籍軍❯  ❮最強の凡人❯ 〝白浜兼一〟。

 

〝凡人〟。

 この言葉が気になっていた。

 凡人、それは、自分にだけ当てはまる言葉・・・いや、言葉だと、そう思っていたからだ。

 

 それが気になって自分で調べてみる事にした。

 

 道場破りを行った人達に話を聞いてみると、会ったことはないと語ってはいたが人伝にこう聞いたと話してくれた。

 白浜兼一は『ただの普通の人』で、『極度のお人好し』で、『数多の才能を努力で捩じ伏せた凡人』で、『人の心の急所をつく天才』で、『信念を持つ武術家』だと・・・。

 にわかには信じがたい・・・。だが、話を聞く限りでは嘘を付いている様子はなかった。本当の事だと、そう誰しもが口にしていた。

 

 もし、これが本当などだとすれば・・・自分にとって兼一さんが初めての目標の人物となった・・・。

 

 自分には〝才能〟がない。

 この世に生まれ落ちた時から言われていた事。

 家族からも見放され、〝居ない者〟として扱われた。

 才能が無いことが嫌だった。

 何度もそう思った。

 

 けど、白浜兼一という名前を知ってから・・・、心を突き動かされる感覚が自分を襲った。

 才能、凡人、才能、凡人、才能、凡人、才能!凡人!才能!凡人!

 この言葉が霧の壁を作り行く手を阻んでいた。

 

 

 

 

 けれど、❮白浜兼一❯という一筋の光が僕の道を示してくれた。

 行く先も見えない闇の暗い道を明るく太陽のように照らしてくれた。

 真っ暗な部屋に月の光が差し込むように・・・。

 僕を照らしてくれた。

  

 それが、僕と白浜兼一さんとの出会いだった。

 

 

 今、この部屋に!

 憧れの存在の、❮白浜兼一❯さんがいる!

 夢にまで見た本物が、ここにいる!

 その事が嬉しくて嬉しくて仕方がない。

 

「あ、ぼ、僕は黒鉄一輝と申します!真琴とは以前、ルームメイトでよく手合わせしたり、トレーニングに付き合ってもらっています」

 

「そうか、君が黒鉄君かぁ・・・。真琴がお世話になってるようだね、では改めて自己紹介を僕が白浜兼一だ、宜しくね」

 

 スッと兼一の方から右手を差し出した。

 どうやら握手のようだ。

 

 憧れの存在からの握手に少し戸惑いを見せてしまう、一輝。

 緊張しているのだろうか?

 

「そんなに緊張することはないよ、ただの握手だからね」

 

「僕で宜しければ!」

 

 一輝はそう答えると、兼一と同じように右手を差し出す。

 

 お互いの右手は吸い込まれるかのように、手と手が繋がれガッチリと握手した。

 

 兼一は驚いた表情を浮かべる。 

 

 

 

「(この気の流れの感じ・・・。もしかして、黒鉄君はもう既に・・・)」

 

「(やはり、この人只者ではない・・・。僕達とは比べられない程の力をこの人は有している)」

 

 お互いに何かを感じとったようにも見えた。

 

 

「握手して分かったよ。君のような人が真琴の友人で居てくれて僕は嬉しいよ。いつまでも良い友でいてやってくれ」

 

「い、いえ!真琴には僕の方がお世話になってますから!」

 

「そこにある鍛練道具とかかい?」

 

「はい。たまに僕も使わせていただいてます。是非とも岬越寺さんにも御会いしてみたいです」

 

「そうだね。君ならきっと、岬越寺師匠も喜ぶと思うよ」

 

「イッキ?いつまで握手しているつもり?」

  

 ステラの呼び掛けにようやく気付いたのか、一輝が兼一から手を離す。

 かたい握手をしてから数分が計画していた。

 

「え?あ、すみません!」

 

「僕の方こそごめんね、えっと・・・黒鉄君」

 

「いえ、こちらこそすみません。白浜さんとお呼びすれば良いですか?」

 

「別に下の名前でも構わないよ、僕は一輝君と呼ばせてもらうから」

 

「あ、ありがとうございます!光栄です、兼一さん」

 

「宜しくね」

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がステラちゃんに珠雫ちゃんね。それから君は・・・」

 

「アリスです。有栖院凪っていいます、生物学上、男だけれど心は女ですわ」

 

「そうか、宜しくね。凪ちゃん」

 

「流石、マコトの師匠・・・。アリスにも動じないのね」

 

 

 各々の自己紹介を終え、部屋で寛いでいる。テーブルを囲むように全員が座っている。

 

「(この“有栖院凪”って子・・・上手く心を隠していようだけど、どうやら〝こっち側〟の人間みたいだね。目で分かる)」

 

 

「ところで、師匠」

 

 

「ん?なんだい?真琴」

 

「メールでは奥さんや一翔も一緒に来るって書いてありましたけど・・・」

 

「ああ、家内と娘は所用で遅れてくるよ」

 

「そうなんですね、了解です」

 

「え?兼一さんはご結婚なさってたんですか?」

 

「うん。もう何年も前だけどね」

 

「因みに、娘さんもいるぞ」

 

「えええ!?全然見えないわ!」「そうね、子持ちとは言えないわね」「良く見たら指輪してますね」

 

 

 兼一は成人男性の年相応の顔立ちとは言えず、とても若く見えた。『学生です』と言い張ってもバレないと思えるほどに・・・。

 童顔で格好いいというよりかは可愛いと言われる、顔をしていた。

 ステラ達には彼が入夫で更には子持ちとは思えなかったのだろう。

 

「良く言われるよ」

 

「話してると本当に真琴の師匠さんなのか疑問が浮かびますね・・・。普通の人にしか見えません・・・、失礼ですけど」

 

「それは私も思ったわ・・・、どう見たってただの大人の男性だもの、失礼だけど」

 

「二人とも!」

 

 一輝が二人を叱る。 

 

 しかし、兼一は二人の失礼な問い掛けにあっけらかんと受け入れていた。

 

「それは昔から耳にタコが出来る位に言われなれてるからね、全然平気だよ一輝君」

 

「け、兼一さん」

     

「ところで、何で真琴さんはご自分の師匠を呼んだんです?」

 

「ああ、忘れてたな。それ言うの」

 

「確かに、そうね。何でよマコト」

 

「それは、一輝に師匠を会わせたかったから。一輝が師匠を尊敬してるのは聞いてたしな」

 

「真琴・・・。有難う、僕の夢を叶えてくれて・・・」

 

 本当に嬉しいのか、一輝の目には一粒の涙が浮かんでいる。

 

「いいって別に」

 

「(うんうん。美しい友情だ・・・昔を思い出すな・・・あ、)そうだ、一輝君。これから僕と手合わせなんかどうだい?」

 

「・・・え?」

 

 突然の提案に、思ったような言葉が出ない一輝。

 それは願ってもない申し出だった。

 

「良いんですか?ぼ、僕としてはとても嬉しいですけど・・・」

 

「ああ。真琴の友人の手助けになるんだったら、師匠である僕は何だってするよ」

 

「それじゃ今から連絡して・・・」

 

 珠雫が携帯電話を取り出そうとすると・・・。

 

「珠雫、連絡する必要ないぜ」

 

「マコト!?アンタまさか!?」

 

「もう、手配済みだ」

 

「どれだけ用意周到なのよ・・・」

 

「昨日のうちに連絡しておいたんだよ。第四訓練場、10時から使用ってな」

 

 ガッと真琴の肩を掴む一輝。

 その腕にはやや力が入ってるようにも見える。

 

「真琴、何から何まで・・・。僕は君になんて言ったらいいか・・・」

 

「別に気にすることはないって・・・、俺が好きでやってる事だしよ」

 

「でも・・・何か、お礼をさせてくれ・・・。君には最近貰ってばかりだから・・・」 

 

「んじゃ一つ、約束しろ」

 

「約束?なんだい?」

 

「必ず七星剣武祭本選で俺と戦え」

 

 一輝にとって、その約束は困難をきわめていた。

 しかも、乗り越えなければならない問題でもある。

 自分の卒業がかかった、唯一の問題点。しかし、これをクリアしなければ魔導騎士の未来は途絶える。

 

 自分の夢を叶えるにはやるしかない。

 

 それは真琴も重々承知している。

 だから、だからこその約束だった。

 真琴なりの一輝へ、エールなのだ。

 

 言葉だけならいつでも言える。

 勝ち続けなければ、この約束は守れない。

 例え、どんな相手だろうと剣で切り伏せなければならないのだ。

 それが、この青年に課せられた難題なのだから。

 

 

「分かった。その約束、必ず果たす!」

 

 ―――――――――

 

 

 

「皆、先に行っちゃたね」

 

「そうですね、師匠。ところで師匠、途中から楽しそうに俺らを見つめてましたけど」

 

「ん?何か昔を思い出しただけさ、若かりし頃をね・・・さあ、僕達も行こうか」

 

「あっ、待ってください。師匠、一輝達の組手が終わったら・・・ちょっと時間良いですか?」

 

「終わったらね。その様子だと・・・、良い結果が聞けそうだね」

 

 

 




いかがでしたか?
楽しんで頂けたでしょうか?

次回更新予定日は12月5日~6日の17:00~21:00の間とさせて頂きます!
御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。

次回から組手編スタートです。と言っても短めの予定ですが・・・。宜しくお願い致します!


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BATTLE.48 〝史上最強の弟子〟❮白浜兼一❯VS〝落第騎士〟❮黒鉄一輝❯

 各々が部屋を出てから、それほど時間は経っていない。

 大体、数十分といったところだろう。第四訓練場に向けて足を進めている。

 

 真琴は久し振りに再会した兼一と共に・・・。

 一輝は憧れの兼一と一緒に会場へ向かう。

 アドバイスや真琴の過去話を交えながら・・・。

 

 一方、前を歩いていたステラはというと・・・。

 

 大好きな一輝を男に取られたからだろう。少々、気が立っているようだ。

 

「イッキ、なかなか私達のところへ戻らないわね・・・!」

 

「気持ちは分かりますけど、少しは隠す努力をしてください、ステラさん!」

 

「でも、ズルいわよ!マコトと白浜さんだけイッキを独占なんて!」

 

「白浜さんはお兄様の憧れなんです。憧れの人に初めてお会いしたんですから、ああなるのも仕方ないじゃないですか?気持ちは痛いほど分かりますけど・・・」

 

「二人とも、邪魔しちゃ悪いわ。私達は先に行きましょ?ね?」

 

「・・・分かったわ」「そうですね、アリス」

 

 二人は名残惜しそうに、後ろの三人を見つめながら前へと進む。

 進んでは振り返り、進んではまた振り返り、またまた進んでは振り返りを続けながら・・・。

 

 ―――――――――

 

 第四訓練場に到着した三人。

 程なくして、後ろから真琴達も到着する。

 先に来ていた三人は控え室で動きやすい服に着替え、会場へと向かっていた。

 だがその会場にはある人物が一人、中央で佇んでいた。

 その人物は・・・なんと、新宮寺黒乃だった。

 

「あれ?理事長先生?何故貴女がここに?」

 

「ん?近衛から聞いてないのか?」

 

「何も聞いてないですよ、イッキと白浜兼一さんとの組手がここで行われるってこと以外は・・・」

 

「ふむ、それでは私から話そう」

 

 彼女が言うには、休日で行われる訓練には学園教師が随伴しなければならないとのことだった。

 普段の使用であれば、生徒達だけで      いいのだが・・・。休日となると話は違ってくる。

 休日では教師の人員が減り、対処する人間が少ない。そんな状況で問題が起きてしまうと、子供達に危険が及ぶかもしれない。

 子供を守るのが教師の務め。

 それを放置したり、自分の保身のために問題に見向きもしない奴など論外だ。

 

 ここに黒乃が来ているのは真琴から連絡を受けたからというのもあるが・・・、たまたま学園で空いているのが黒乃しか居なかったからだ。

 もっとも、この破軍では休日に訓練場を使用する生徒は少ないというのが現状なのだが・・・。

 

 しかし、休日に努力する人間の方が珍しい。

 何故なら・・・鍛練好きや修業好き、勝ちたいと言う確固たる意思でもなければ、休日はゆっくり過ごしたり、外で遊ぶというのが今時の高校生というものだ。

 ここの破軍学園の生徒もそう言える。

 

「とまぁ、こういうことだ。理解したか?」

 

「はい、ありがとうごさいます。理事長先生」

 

「真琴さんも先に言ってくれれば良いのに・・・」

 

「たまたま、忘れてたのよ。良く有ることだわ」

 

 

 そうこうしているうちに真琴達が到着した。

 だが、一人いつもとは違う服装の人物がいる。

 その者は、白い胴着に紺色のカンフーパンツだろうか?それを着用している。それと、カンフーシューズを履きこちらに進む。

 

「ま、真琴さん!?その格好は・・・」

 

 なんと、その者は三人がよく知る近衛真琴、その人だった。

 普段の稽古では見ない格好だ。

 

「ん?あぁ、そういや珠雫達には初めてだったか・・・」

 

「何かちぐはぐね。ジャパーンの胴着に中国のカンフーパンツとシューズとそれから・・・手に巻いてるのは何?」

 

「これは確か、ムエタイのバンテージだったかしら?」

 

「そ、流石アリス、よく知ってんな。これが俺の本来の衣装なんだよ。師匠もいるし、こっちにした。もっとも服の中には帷子も着るんだけど、今日は別に切り合うわけじゃないから置いてきた」

 

「我ら、梁山泊の弟子の正式装束だね」

 

 良く見れると、左胸辺りに『弟子二号』と刺繍が縫ってある。

  

「へぇー変わってるわね」

 

「良く言われる」

 

「貴方が、かの有名な白浜兼一さんですか」

 

 ステラ達の後ろから真宮寺の声が掛かる。

 

「はい。そうですけど、貴女は?」

 

「私はこの破軍学園で理事長を勤めております、新宮寺黒乃と申します」

 

「あぁ!いつもうちの真琴がお世話になってます。去年は真琴がご迷惑をかけたようで・・・」

 

「いえ、子供を守るのが私達の仕事ですから。真琴君は強いですからね、活躍を期待しています」

 

「アハハ、それにお応えできればいいですけどね」

 

 と、大人の世間話が花を咲かせている。

 真琴達は置き去りに・・・。 

 

「理事長、話はそれくらいでいいでしょ?それより・・・」

 

「あぁ、すまなかったな。固有霊装(デバイス)ありの組手でいいんだな?」

 

「はい。審判、宜しくお願いします」

 

「了解だ」

 

「では、準備しようか、一輝君。いい組手にしよう!」

 

「はい!!」

 

 ―――――――――

 

 二人の準備運動が終了し、ステージへと向かう。

 上手に兼一、下手に一輝。

 下手側の少し離れたところにステラご一行。

 そこに、真琴もいる。

 

「ステラ、珠雫、アリス、よく目に焼き付けとけ。〝真の武術家〟の戦いがどんなものかを。俺達がどんなに力を合わせても傷一つつけられない、特A級の達人級(マスタークラス)の実力をな・・・。目にする事なんてそうそうねぇぞ」

 

「前に真琴さんが言ってましたね」

 

「そういえば、そうだったな」

 

 前に真琴が武術位階を話したことがあった。

 珠雫はそれを言っているのだろう。

 

「私はいまいち、ピンと来ないけどね。あの白浜さんの実力・・・」

 

「お前は話を聞くより、実際に観たり体験したりした方が実感沸くだろ。後で組手を申し込んでみろよ」

 

「分かったわ」 

 

 

 

「二人は分かっていると思うが一度、組手のルールを説明させてもらう。

 第一、相手を殺してはならない

 第二、急所を攻撃する場合は寸土に留めておく事

 第三、気絶はあり 

 両者、これらのルール守り組手に臨んでくれ!黒鉄は幻想形態で固有霊装(デバイス)を展開しろ!」

 

 黒乃の掛け声と共に両者の闘志が、沸々とマグマように涌き出てくる。

 まるで、ここに火山があるかのように熱気が辺り一面を包み込む。

 

 

「では、これより!〝梁山泊〟❮白浜兼一❯対〝破軍学園〟❮黒鉄一輝❯の交流組手を始める!両者準備はいいか!?」

 

「いつでもどうぞ」

 

「・・・来てくれ、隕鉄!」

 

 手を翳したその中から絞り出すかのように、一降りの刀が精製される。

 そして、それを構えて相手を見据える。

 

「(一輝君の実力、どれほどのものか拝見させてもらおう。僕の見積りでは恐らく・・・)」

 

 ある一定の実力者であれば、手を握る、目を見つめる、相手の仕草等から実力を把握出来る。

 真琴もその術を梁山泊で学び身に付けた。

 兼一もそうである。

 

 当時、兼一がそつなさが目立つ弟子クラスだった頃・・・。長老から流水制空圏を学び、それを活用し数多の天才達を打ち倒してきた。

 その中で、『相手を観る力』と『気の扱い』が破格のレベルへと成長を遂げた。

 

 今の兼一は特A級の達人級。

 その“観る力”は最早、〝神速〟と言っていいほど素早く正確になっていた。

 真琴のとは比べるモノではない。

 真琴は未だ妙手だ。

 相手を見切るには些か時間がいる。

 と言っても、弟子級やその他大勢よりかは早く、正確無比だが・・・。

 

 

 兼一の見切りが終え、それと同時に組手のゴングが響き渡る。

 

「組手、始め!」

 

「〝梁山泊〟❮白浜兼一❯参る!」

 

「〝破軍学園〟❮黒鉄一輝❯行きます!」

 

 両者の掛け声と共に仕合が始まった。

 先に仕掛けたのは一輝からだった。

 姿勢を低くし、突きの構えだ。

 

「(こちらから!この戦いは胸を借りるつもりで行こう!!迷ってなんかいられない!前へと進むんだ、ステラと真琴達と一緒に!!)ハアァ!」

 

 一輝が出せる通常の突きが兼一へ突き進む。

 ただの弟子級であれば躱すのが難しいだろう。

 それほどのスピードが出ている。

 

 が・・・。

 

 ひらりと兼一は回避してしまう。

 

 

「よ、避けた!?あのスピードはかなりのモノよ!?」

 

 ステラ達が驚くのも無理はない。

 そこまでの速度が出ていたのだから。

 

「鋭い、いい一撃だ。弟子クラスであれば今ので沈んでいたね」

 

「(まだだ!)」

 

 一輝はなおも斬撃を繰り出す。

 お構い無しに。

 逆なで切り、振り下ろし、突き、横凪ぎ、左切り上げ、右切り上げ。

 全引き出しを総動員しながら、この戦闘を構築していく。

 

 例えるなら、緻密に出来たアトラクションのように!戦闘を組み上げていく!!

 

 

「(あれ、いってみるか!)」

 

 一輝の中で何か思い付いたようだ。

 一輝が兼一から距離を取り、全速力で向かって来る。

 兼一は前羽の構えを取る。

 

「あれは絶対防御の〝前羽の構え〟」

 

「確か、マコトが仕合で使ってたわね」

 

「そうだ。師匠もよく使う構えだ」

 

「待って、一輝が何か仕掛けるようよ」

 

 こうして、話をしている間に一輝が攻撃を放っていた。

 

 数メートルから兼一目掛けての跳躍。

 だが、その斬撃は如何にもカウンターしてくださいと言わんばかりだ。

 

「ダメよ!イッキ!今行ったら!」

 

 誰しもが一輝の敗北する構図が目に浮かんだだろう。

 

 〝観の目〟を持つ者なら別だが・・・。

 

 真っ直ぐ、兼一目掛けて隕鉄が振り下ろされる。

 

 

「(ふむ・・・。なら、ここは)❮白刃流し❯!」

 

「危ない!お兄様!」

 

 珠雫の悲鳴が木霊する。

 が、兼一の拳が顔に当たった直後、一輝の体が霧のように消え失せた。

 

「おぉ、〝虚実技〟!」

 

 

「・・・❮第四秘剣―蜃気狼❯」

 

 霧に隠れ、その気配は兼一の後ろからだ。

 

「せやァ!」

 

 一輝の振り下ろしが兼一へ迫り来る。

 絶対に躱すことは出来ない。

 完全に背後を取った一撃。

 ステラ、珠雫は決まったと確信する。

 

「イッキの一撃が入る!」

 

 

 

 誰が観てもそう見える。

 破軍の生徒達も。

 教師でさえも。

 

 しかし・・・。

 

 

「❮白刃流し❯!」

 

 その声と共に拳が打ち出される。

 しかも、振り向きもせずに!

 兼一の右拳が隕鉄をはね除け、一輝の顔面へ一直線。

 

 

「(ま、まずい!)」

 

 と、思いつつももう離れられない距離だ。

 バチーン!

 快音と共に一人の青年の顔面に直撃した。

 

「(ん?これは・・・)」

 

 直撃したというのに、何か違和感を感じる兼一。

 

「イッキ!!」

 

 一輝のダメージにステラが反応してしまう。観客のステラの心配に拍車が掛かる。

 思わずステラがステージへ駆け寄ってしまった。と、見たその瞬間!

 

「危ないところでした。・・・クリーンヒットしていたら、今ので沈んでました」

 

 だが、一輝は倒れず、戦闘体勢を維持している。

 どうやら、当たる直前に軸をずらしたようだ。

 

「流石、一輝君。やっぱり躱していたか」

 

「な、なんとかですけど・・・」

 

「イッキ、大丈夫なの?」

 

「うん。心配かけたね、ステラ」

 

「まさか、その歳で虚実を完璧にこなせるとはね」

 

「努力してきましたから」

 

 〝努力〟これだけの言葉では解決するものではない。

 ましてや虚実など、武術の中でも難しいとさせれる部類だというのに・・・。

 もし、努力だけでここまで来たとするならば、相当な数の修業を積んだといえるだろう。

 

 

「大したものだよ、ここまでの剣技を扱えるとは・・・、驚いたよ」

 

 突然の誉め言葉に言葉がでない一輝。

 

「これは僕の経験から言わせてもらうけど。黒鉄一輝君、君は・・・もう既に、剣術をマスターしてると言っていいね。体術や身体能力、経験、気に関してはまだだけど、剣術だけで言えば、その極みに近付いている」




いかがでしたか?
楽しんで頂けたでしょうか?

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次回はいよいよ、あの二人が登場です!お楽しみに!


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BATTLE.49 青年の信念

追記 12月15日 一部、台詞変更。


「黒鉄一輝君、君は……もう既に、剣術をマスターしてると言っていいね。体術や身体能力、経験、気に関してはまだだけど、剣術だけで言えば、その極みに近付いている」

 

 彼を見据え、言葉を放つ。

 憧れの人物からの賞賛に、嬉しさと驚きが身体の中で渾然一体になる。

 それと同時に他者に自分を認められたという何よりの瞬間でもあった。

 

「え!?どういうこと?」

 

「真琴さん、白浜さんの言ってることってホントなんですか!?」 

 

「ああ、事実だ。しかも一輝は特定の誰かに教わったわけでも、師事をしているわけでもない、ほぼ独学だ。独学で彼処まで到達している」

 

 

 その事実に〝黒鉄一輝〟という男の実力を改めさせられた。

 

「君くらいの歳になると、一つ上のレベルに進む武術家なんてポンポンと出てくるものさ!アッハッハ!」

 

 ただ一人、兼一が笑いだす。

 

「白浜さん、笑ってますけどこれって凄い事ですよね?」

 

「ええ、多分ね」

 

 アリスがそれに肯定する。

 

「僕には才能はありませんでしたから「魔導騎士の才能、だね?」」

 

 一輝が言うまでもなく、兼一が遮る。

 

「え!?」

 

「マコト、白浜さんに話したの?」

 

「いんや?俺は何も?」

 

「僕も伐刀者を弟子に持つ者として、多少は詳しいつもりだよ。けど新宮寺さんや、君達ほど詳しいわけじゃない。だけどそんな僕でも分かる、君には魔導騎士の才能はない」

 

 兼一はハッキリと口にする。

 才能はないと・・・。

 

「そう、です。僕にはありませ「けど!君には武術家のとしての才能がある」」

 

 兼一がまた、遮る。

 しかし、今度は誉め言葉のようだ。

 

 

「しかも、一部の人間にしか真似できない技もあるみたいだね」

 

「きっと、あれのことですよね?」

 

「そうよね??マコト」

 

「俺に確認すんな。お前達が考えてることで合ってるから」

 

「戦いの最中、それに気付いたというの?」

 

「技も使ってないですよね?」

 

「師匠は特別、人間の思考を読み取るのに長けてる。これは推測だが、一輝と握手した時から感付いてはいただろうな」

 

 その真実に驚きを隠せない、ステラ、珠雫、アリスの三人。

 驚くのも無理はない。普通に考えて握手だけでここまで読み取るなんて有り得ないことだ。

 

「そ、そんなに早く!?」

 

「あぁ。多分な」

 

「真琴ー!それであってるよー!」

 

 大声で此方に話し掛ける兼一。

 

「へぅえ!?」「あら・・・!」「う、嘘でしょ!?」

 

「ハハ、やっぱ師匠には聞こえてたか」

 

「い、今、私達が会話してた内容・・・」

 

「全部聞こえたっていうの?」

 

 珠雫が言った。

 

「そういうもんなんだよ、達人級(マスタークラス)はな。俺らの常識は一切通じない」

 

 もう少し詳しく言うと、兼一達と真琴達がいる位置からは数メートル離れている。

 真琴を含む四人は壁際に居るのだから。

 しかも、そこで小声で会話していたのだ。聞こえるのはどう考えてもおかしい。

   

「いや、しかしその歳でよくここまで辿り着けたね。本当に凄いよ。一輝君」

 

「・・・僕、一人ではこれませんでしたよ」

 

 一輝の目には何か、秘めているのが見えた。

 兼一は〝それ〟を知っている。

 〝それ〟を持って、ここまで生き残れてきた。

 その〝何か〟で数多の武術家を屠り、人を変え、友を作り、家族を作った。

 それが『白浜兼一』の生きてきた証。

  

 

「・・・何かあるのかい?」

 

「僕がここまでこれたのは、貴方の弟子である真琴と切磋琢磨してきたから。ステラや珠雫、大切な人がそばにいてくれたから・・・。

 

  そして、ある人に言われた、〝自分を諦めるな〟って言葉。それがあったからここまでこれた、だから貴方とこうやって対峙出来てる。偉大な貴方の前に立てている!」

 

 その奥の瞳には熱く燃え盛る炎が・・・!

 嵐の中、決して倒れない一本の大樹が・・・!

 それは、白浜兼一が良く知っているモノ。

 それ無くして、白浜兼一は語れないから。

 

「・・・それが、君の〝信念〟なんだね」

 

「はい!」

 

 青年の力強い肯定。

 先を行く者として、兼一の答えは決まっている。

 

「なら、その決意、僕に見せてくれ!」

 

「行きます!」

 

 そこから、長い攻防が続く。

 一時間?それとも二時間だろうか?

 一人の武術家と一人の伐刀者の戦いは長期戦を余儀なくされた。

 

 かたや、剣戟の嵐。

 かたや、回避の連続。

 

 何度となく行われた。

 レベルは果てしなく離れている。

 弟子クラスと特A級の達人級(マスタークラス)

 弟子クラスが達人クラスに勝負を挑むというのは自殺と同じ。

 だが、これは組み手。命の危険性はない。兼一は活人拳の武術家。

 己の命を賭して他者を活かすのが活人拳の理だからだ。

 

「ぐぅ・・・今のはいい一撃だ。危うくかするところだったよ!」

 

 一輝がトップスピードを最大に、兼一へ己の技を打ち放つ!

 それは、❮第七秘剣―雷光❯。

 相手が見えない速度で刀を振るうという速度重視の攻撃で一輝のオリジナル剣技の一つ。

 兼一に最初に見せた、蜃気狼もその一つだ。

 雷光で兼一の左腰辺りから、右肩へ狙ったが、兼一に躱されてしまう。

 

「イッキの連撃がここまで当たらないなんて・・・・」

 

「ええ、完璧に避けられています・・・。でも・・・」

 

「でも?」

 

 珠雫の言葉にアリスの頭には疑問符が浮かぶ。

 

「お兄様、凄く嬉しそう・・・」

 

「ニヤニヤ、笑ってるわ・・・。ホント、男ってば・・・」

 

「仕方無いさ、ああいう生き物なんだから」

 

 

 

 

 

 

「(ここまで来たけど、でももう体力の限界だ・・・!)」

 

 長期戦の影響か、一輝の体力が尽きかけていた。

 しかし、お相手の兼一にはその様子はない。更に付け加えるとするならば、汗一つかいていなかった。

  

「(ラストスパートをかけるにはここしか・・・!仕合までの時間も考えて、あれは使えない、なら!!)」

 

「ハァ!!」

 

「こ、これは!!(この激しい気当たりは、やはり❮動❯の気!)」

 

「イッキ!!」

 

「どうやら、勝負をかけるようだな」

 

 脳のリミッターを外し、感情を爆発させて闘う❮動❯の気。謂わば、危険な獣を身体に飼っていると同義。

 一歩間違えれば、その()が外れっぱなしになり、人とは呼べない化物と化す。それが❮動❯。

 

 一輝は切り札である、〝一刀修羅〟を編み出したと同時にこの動の気にも触れることとなった。

 脳のリミッターを外すことは決して容易ではない。兼一の妻、風林寺美羽でさえ、それをコントロールするのに兼一の力添えが無ければモノに出来なかった。

 だが、この青年には自分自身を諦めないという信念しかなかった。いやそれだけがあった。諦めないということだけが、この動の気を有するに至ったのだ。

  

「(兼一さん、貴方は本当に凄い人だ・・・。戦ってみてそれが分かった。この人の強さは力強い信念とそれを支える大切な人、そしてなによりあふれでる優しさからくるもの・・・。

 この人に勝てないことは僕が一番分かっている!だからせめて、一矢報いたい!)」

 

 一輝がまたしても先に動く。

 最初に見たときよりも、もっと速く相手に突撃する。

 それは一筋の閃光のように・・・。

 

「(この人に勝つにはもう一度、あの手を!)」

 

 すると、一輝は跳躍する。

 最初に仕掛けた攻撃とと同じ様に高く跳ぶ。

 

「だ、駄目よ!またカウンターがふぐっ!・・・」

 

「黙って見とけ」

 

 真琴がステラの口を手で塞ぐ。

 

「(何か思い付いたようだね、なら迎え撃つ!)」

 

「(技が劣っているなら、その先へ!誰も辿り着けない、僕だけの技の先へ!!)」

 

 隕鉄が兼一、目掛けて振り下ろされる。

 

「まさか!これは!」

 

 一輝の身体がぶれ始めたかと思うと、その身体が二つに分身し兼一へ襲い掛かる!!

 

 

「一輝め、蜃気狼を土壇場で進化させやがったな!」

 

「ハァ!」

 

 コンマ数秒後に一輝の二太刀目が振り下ろされる。

 兼一も驚くこの虚実は、人の反射神経を逆手にとった技だ。相手の優れたセンサーが有していればいるほど、技に引っ掛かってしまう。それが虚実。それが、一輝の❮第四秘剣―蜃気狼❯。

 ステラ達には決まったと確信する。

 

「・・・❮第四秘剣―蜃気狼❯!」

 

 二つの分身はカウンター攻撃によって梅雨と消えた。霧のように・・・。

 

 そして、兼一の死角へ・・・。

 

 

 渾身の突きが兼一の身体へ一直線!!吸い込まれるように、ぐんぐんと延びてゆく。

 

 

 あと、数メートル。

 あと、数十センチ。

 

 あと、一歩というところで兼一がスッと振り向き、その腕を掴みとる。

 

 身体と身体が接する超至近距離にまで近付く。だが、健闘虚しく、隕鉄は兼一の右頬を抜け、一輝の腹部には蹴りが入っていた。

 

「実に惜しかった。二つの分身が虚だったとは、恐れ入ったよ・・・。だけど、少しばかり目に頼りすぎてたね」

 

「そこまで!勝者、梁山泊〝白浜兼一〟!!」

 

 黒乃の無慈悲なゴングが会場に広がる。

 しかし、負けたというのに一輝は何処か満足気だった。

 

「良い組手をありがとう、黒鉄一輝君」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました!貴方とこうして戦えたなんて夢のようです・・・。❮いつかきっと❯貴方に追い付きます、その時はまた戦って頂けますか?」

 

 ❮いつかきっと❯

 この言葉につい、自分を重ねてしまう。

 弟子だったあの頃に・・・。

 

「ああ!勿論だとも!!ここまで出来るとは思わなかった!その信念を忘れずに、これからも自分の道を迷わず進んでくれ」

 

「ハイ!」

 

 二人は会った時と同じ様に堅い握手を交わした。

 

「お疲れ様、イッキ!」

 

 終了したのを確認し、皆が二人の元へ近付いてくる。

 

「お疲れ様です、お兄様。これタオルです」

 

「あぁ、ありがとう珠雫!」

 

「あれが、達人級の実力なのね・・・。一輝がまるで赤子のようだったわ・・・」

 

「良い経験になっただろ?」

 

「ウフッ、確かにそうね」

 

「一輝君」

 

 皆で談笑していると兼一から声が掛かった。

 

「あっはい」

 

「君の真っ直ぐな瞳を見ていると、昔の僕を思い出すよ」

 

「え?」

 

「美羽さんと共に駆け抜けた、あの頃を・・・。そして、あの人も・・・」

 

「あの人?」

 

「兼一さーーーん!!」「お父様ーーー!!」

 

 一輝達はその兼一の言葉に考えを巡らせていると、会場に聴いたことのない声が耳を駆け抜けた。

 

   




いかがでしたか?
楽しんで頂けたでしょうか?

次回更新予定日は12月21日~22日の17:00~21:00の間とさせて頂きます!
御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。


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BATTLE.50 田中勤

こんにちは、紅河です!

なんか、前書きを書くのも久し振りな気がします。が、
この度「マコト」が50話まで到達致しました!! 
早い、もう4クール目に突入ですよ。これも皆様のコメントやお気に入り数のお蔭です有難う御座います!

しかも、一年ももう少しで終わるという、凄まじいですね。時というのは・・・。 

少し、マコトに話をお戻しますが交流組手編は次々回くらいで終わらせる予定ですので、もうしばらくお付き合い下さい!


 組手を終え、兼一と一輝がステージ付近を降り、皆のところへ集合する時だった。

 

 ここで、女性とおぼしき声が会場中に広がる。恐らく二人。

 一輝達は聞いたこともない声。

 真琴と兼一には聞き馴染みのある声。

 

「お、来たな」

「え?あ、白浜さんのご家族の・・・?」

 

 珠雫が聞き返すと・・・。

 

「ああ」

 

 真琴が言った。

 

 その声の主達がステージへ姿を現した。

 

 

「兼一さん、お待たせいたしましたわ」

「お父様!真兄!お待たせしました、ですわ!」

 

 どうやら、真琴と兼一の知り合いのようで、一人は金色の髪をしたショートの女性。スタイルはステラにも劣らない、ボン!キュッ!ボン!だ。

 もう一人はその髪色は茶髪でストレート、兼一と美羽の髪を混ぜたような髪だった。そして、左目の下辺りにほくろがある。

 このことから恐らく、兼一と美羽の子供だろう。

 

「美羽さん、一翔!」

 

 家族の所へ駆け寄る兼一。

 二人は何か荷物を持っているようだ。

 

 

「遠くからご苦労様です、美羽さん、それに一翔。元気にしてたか?」

 

 いつもの癖で一翔に手が伸びる真琴。

 それを簡単に受け入れる一翔。

 真琴の手付きは優しいものだった。ただ愛しい妹と戯れているだけ。

 たったそれだけだった。

 けど、その二人は嬉々としていた。兼一も、妻である美羽もそうだ。

 これが俗に言う仲良し家族というものなのだろう。

 

 一輝はその風景にどこか羨ましいと感じてしまう。

 この学園には妹である珠雫がいる。

 恋人のステラもいる。

 大事な友もいる。

 

 だけど、真の家族は一輝を見てはくれなかった。向き合うことすらせず、ただ家に居させるだけ。

 叔父も、叔母も、血の繋がった父親も、痛い思いをして産んだ母でさえ、一輝を無視していた。

 

 世間は好意の反対は敵意や悪意だと提言するが、実際には違う。

 

 

 実際の反対は無関心なのだ。

 人間は嫌いを通り越すと無関心へと変貌を遂げる。

 

 これはある一例の話だ。

 

 もし、仮に子供に対して無関心の親がいたとして、その子供がA君という名前だと呼称する。

 そのA君がテストで満点をとってもその親は「ああ、良かったね」これで済ませてしまう。

 A君が間違って窓ガラスを割ってしまった。すると、その親は修理業者に頼むだけ。A君にはお咎めなしだ。

 A君が運動会で披露するダンスを練習している。忙しい親に見て貰いたくて、家に居るときにそれを見せた。A君が「運動会に絶対来てね!」と言えば「見に行く必要はない。今見たから」と断られる。

 

 A君は親に満点とって凄いね、偉いねと言って欲しかった。

 A君は親に窓ガラスを割ったことを叱って欲しかった。

 A君は格好良かったぞと褒めて貰いたかった。

 

 でも、親は見向きもせず、叱りもせず、褒めもしなかった。

 これが無関心だ。

 

 一輝の実例もこれと同じことだ。

 だから、兼一達の団欒を観ていると自分の現状に少しの淋しさを感じてしまう。真琴を羨ましいと思ってしまうのだ。

   

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、真琴君も元気そうでなによりですわ」

「美羽さんもお元気そうで」

「ええ、けど真琴君が居なくて少しだけ梁山泊が淋しいですけどね」

「アハハ、それは嬉しい限りですよ」

 

「真兄、ちゃんと鍛練してた?ですわ!」

 

 真兄と呼んでいるのが白浜一翔、兼一と美羽の娘。真琴のいもうとである。実際、血は繋がってはないが二人はきょうだいなのだ。

  

「勿論だ。一翔もそうだろ?」

 

「うん!ですわ!」

 

 その表情は子供らしいとても明るい表情だ。そして、特徴のある「ですわ」口調。

 これは美羽のしつけによるものだ。

 美羽を教育したのは祖父である、〝無敵超人〟風林寺隼人。それを受け継ぎ、美羽も娘である一翔にもお嬢様言葉を教育しているのだ。

 

「お昼ご飯を作って来ましたから皆さんで食べましょうですわ」

 

 ―――――――――

 

 美羽達の自己紹介を早々に済ませ、お昼の用意をしていく。

 レジャーシートを会場に敷いて、バックから弁当箱を取り出す美羽。それを真琴や兼一、一輝達が手伝う。

 弁当箱は重箱三段を三セット、人数も多いからか少し大きめである。箸は割り箸、人数分渡されるとシートに着席する。

 が、黒乃はまだ席へ着いてはいなかった。

 

「理事長先生、着かないのですか?」

 

「いや、私は」

 

「構いませんよ、ね、美羽さん」

 

「ええ、ご飯は沢山作ってきましたし、それより大勢で食べた方が美味しいですもの」

 

 屈託のないまっ皿な笑顔、それには黒乃も弱い。

 

「なら、お言葉に甘えさせて頂きます」 

 

 その弁当箱の中身は三種のおにぎりやら、定番の唐揚げ、だし巻き玉子、きんぴらごぼう、ポテトサラダなど、多種多様のご馳走がそこには連なっていた。

 

「どれも旨そうね・・・」

 

「美羽さんは料理得意だからな。俺の料理の基礎はこの人から教わった」

 

 真琴がいった。 

 

「へぇ、期待しとくわ」

 

「それでは、「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」」

 

 

 始まりの挨拶を済ませると、割り箸で各々好きな物に手を出していく。それを口に運び、味わった。

 先程、美羽が口にした言葉もあったのか、食べたご飯は異様に美味しく感じてしまう。以前、真琴の部屋で食べた料理以上の美味だった。どんどん食べ進む。その手は止まることはない。バクバク、バクバク、口へ運ぶ。瞬く間に、重箱のご飯は消えてしまった。

 

「はぁ、食べた食べた」

 

「真琴さんが言っていた通り、料理上手でしたね」

 

 そう、珠雫がいうと・・・。 

 

「そうね、今まで食べた日本料理の中で一番だったわ」

 

 それに、ステラも便乗した。

 

「お口に合って私も嬉しいですわ」

 

「理事長、ここの時間は大丈夫なんですか?」

 

「その辺は気にするな。この第四訓練場の使用者はお前達だけだ」

 

 皆が食事を終え寛ぎ、世間話をしていると、おもむろに一輝の口が開いた。

 

 

「あの兼一さん」

 

「ん?なんだい?一輝君」

 

「対戦後に言っていたのは・・・」

 

「僕と一輝君が似ているってやつかい?」

 

 一輝が頷く。

 

「これは、なんとなくなんだけど・・・。一輝君を見ているとねどうしても昔の自分を重ねてしまうんだよ」

 

 憧れの人物からの言葉に嬉しさを感じざるを得ない一輝。だが同時に何故そう思ったのかと疑問も浮かんでくる。

 

「昔の自分を、ですか?」

 

「うん」

 

「そうですわね、貴方の雰囲気が昔の兼一さんと似ていますわ」

 

「雰囲気・・・」

 

「瞳に秘めた光、佇まい、優しそうな声音とか、滲み出るお人好しのオーラとかですわね」

 

 美羽のフォローに何処か心が躍ってしまう一輝。

 憧れの人物との共通点、その事実をグッと噛みしめた。

 

「あともう一つ、言ってましたよね。あの人とは?一体?」

 

 その質問に少し兼一の反応が遅れる。だがそれは一瞬。直ぐ様、元の兼一に戻っていく。 

 

「・・・気になるかい?」

 

「少しだけ」

 

 その瞳は真っ直ぐ兼一の目を見つめている。

 

「良いよ、君になら話してあげよう。真琴、ちょっと一翔の面倒をお願い出来るかな?」

 

「・・・分かりました。一翔、あっちで俺と稽古でもしようか」

 

「?、うん!」

 

 

 何か察したのか、真琴は側にいた一翔を連れてシートから離れていってしまう。

 

 

「この話は一翔にはまだ早いからね」

 

 優しげな表情をしていた兼一がフッと消え失せた。一輝達にはどんな事かは分からない。だが、一つ言えることは重い、とても重い話というのだけは理解出来た。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはとある武術家の話。

 その人物の名は『田中勤』。

 天地無真流古武術の正統後継者ということ〝だった〟。

 

 その正統後継者の彼こと『田中勤』と『白浜兼一』はとある場所で出会い、意外な所で運命的な再会を果たしていた。

 とある買い物の為、銀行に立ち寄った時の事だ。そこで銀行強盗に襲われ、たまたま居合わせた田中と兼一、美羽がその強盗犯を撃退。それから梁山泊に立ち寄り、今日のような交流組手を行っていたのだそうだ。

 

 それからというもの度々、梁山泊に訪れていたそうだ。

  

 

「天地無真流、聞いたことないわね・・・」

 

「お兄様、ご存知でしたか?」

 

「僕も人伝でしか聞いたことだけしかないよ」

 

「天地無心流・・・確か噂では異質な技が多く、修得するのは困難だと耳にしたことはありますが・・・」

 

 横で聞いていた黒乃がそう補足した。

 

「よく、ご存知ですね」

 

「あくまで噂で聞いたことがあるだけですから、多くは知りません」

 

「その天地無心流に何があったのよ」

 

 ステラが返事を促す。

 

「ステラさん!」

 

「だって、早く知りたいじゃない」

 

「だってじゃないです、脳筋じゃじゃ馬姫は黙ってて下さい」

 

「何ですってぇ!」

 

「ケンカしないの、話せるのも話さないわ」

 

 アリスがいつものように二人の喧嘩を止める。

 それを確認すると、兼一がまた話し出した。

 

 

「その正統後継者、田中勤さんは僕の・・・憧れの人物だった。一輝君が僕に抱いてるのと同じ様にね」

 

 その口をゆっくりと開けていく。

 

「田中勤さんは僕の鏡写しのような人物だった。同じ様に道場で武術を学び、同じ様に道場主の娘さんと恋をして、とても心優しい人だった」

 

 一個一個、丁寧に・・・。噛みしめるように・・・。

 

「田中さんは・・・武の道の途中でその命を散らしたんだ・・・」

 

 

 その紛れもない事実に、全員の時は止まった。

 

「・・・え?」「散らしたって・・・」「まさか・・・」

 

「うん。もう田中さんはこの世にはいない」

 

 あまりにも衝撃的な真実。一輝達は動揺せざるを得なかった。

 

 

「・・・すみません、僕は何てことを」

 

 自分のしてしまったことに項垂れてしまう、一輝。

 

「貴方が落ち込む必要はありませんわ・・・」

 

「でも、兼一さんは・・・」

 

「もう、過去の事だからね。僕達は神じゃない、一人の人間だ。散った命は蘇らない、それが摂理さ」

 

「武の世界ってことは誰かに?」

 

 その一輝の質問に兼一は黙って頷いた。

 

「・・・一体、誰よ!そんな酷い事したやつは!」

 

「それは・・・「お父様ーー!」」

 

 と、兼一が言葉を放つ前に一翔が駆け寄ってくる。ベストタイミングともいうべき時に、一翔が兼一達の元へ到着する。その一翔によってその真実は闇の中へ隠された。

 

「一翔・・・」

 

「聞いて、聞いて、お父様!わたくし、真兄の制空圏が見えましたわ!」

 

「お、そうか。偉いな、流石僕の娘だ」

 

 優しい手つきで一翔の頭を撫でる兼一。その行為に思わず、笑顔がこぼれる。

   

「真琴・・・」

 

「ベストタイミングだったろ?」

 

 といいながら真琴が現れた。

 自然とシートから真琴の方へ移動していく、一輝達。

 

「ベストタイミングじゃないわよ、結局分からずじまいじゃない」

 

「いや、それで良いんだよ」

 

 黒乃が口を挟んだ。

 

「理事長先生?」

 

「近衛は既に白浜さんと梁山泊の皆さんのお陰でなんとかなってはいるが、お前達となると話は別だ」

 

 

「何でマコトが良くて、私達は駄目なんですか?」

 

「武の世界はお前達が思っている以上に危険なんだ。おいそれと知っていいものじゃない。別に知らなくても良いこともある、さっきの続きはそれだ」

 

「でも気になるじゃないですか!」

 

「その気持ちは痛いほど分かるが・・・」

    

「マコトはさっきの話、知ってるのよね?」

 

 その問いに真琴は、頷きで返した。

 

「僕達だって、一人の伐刀者です。覚悟は出来ています。理事長、話しては貰えませんか?」

 

「・・・はぁ、仕方ない。言っても聞きそうにないな。私もその事情に詳しい訳じゃない、期待はするな」

 

 

「はい」「出来ます!」「大丈夫です」「ええ」

 

「この話は他言無用だぞ?それを了承してくれ」

 

「分かった」

 

「・・・なら話そう。〝闇〟について」

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇。

 殺人を旨とする危険集団、❮闇❯。活人を旨とする❮梁山泊❯とは対極に位置する存在。

 またの名をロプスキュリテ。

 武器組と無手組に分けられ、伐刀者テロ集団で知られる解放軍と同じ裏社会に生きる者達のこと。

 

 そこでの武術の伝承には真剣、死合いで行われ、敗北した者には必ず死が待っているという通常では考えられない非常な現実が待っていた。

 

 

 

 理事長が言うには、兼一さんの話に出た田中勤さんは、その集団の誰かに殺されたのではないかと話してくれた。だけど、多くは話してはくれなかった。聞いても、今はまだ話せない、と断られてしまったのだ。

 けど、〝今は〟だ。

 

 

「そ、そんな集団がいるなんて・・・」

 

「信じられないけど、事実なのよね?」

 

「あぁ、そうだ」

 

 真琴は淡々と肯定する。

 

「真琴さんって子供頃から梁山泊に居たんですよね?」

 

「ん?あぁ」

 

「真琴さんが強い理由って昔からその人達と戦っていたから?」

 

「そうだ。俺は師匠と共に世界を回り世直しをしてきた。そこで多くの強敵、闇、解放軍、様々な武術家、伐刀者をこの拳で打ち倒してきた。ここで行われる仕合は俺にとっちゃ日常みたいなもんなんだ」

 

「マコトが仕合で妙に落ち着いていたのは既に実戦を経験しているから、だったのね。それも命のやり取りをするその世界で何度も戦っていたから」

 

「まぁな。師匠の娘もそうだぞ」

 

「あんな小さい子が?」

 

「あぁ」

 

 白浜一翔、この娘も梁山泊の一員。その一端を担っているのだ。

   

「ちょっと待って、あの子さっき制空圏って言ってたよね?てことは真琴、その子は既に?」

 

「まだ、お前と同じ緊湊じゃない。間近ではあるがな」

 

 

 




いかがでしたか?

次回の更新予定日は来年の予定です!年末は色々忙しいので・・・・。
詳しい日時は活動報告か、この後書きにて書かせて貰います!

御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。

追記、次回は1月5日~6日の17時00分~21時00分の間とさせて頂きます!今年も宜しくお願い致します。


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BATTLE.51 〝風を切る羽〟❮白浜美羽❯VS〝紅蓮の皇女〟❮ステラ・ヴァーミリオン❯

皆様、明けましておめでとう御座います!
紅河です!

新年一発目の更新です!
皆様はいかがお過ごしでしたか?私は寝正月でした。
最近、また体調不良が増えてきてしまったので・・・。ストレスなんでしょうか・・・。
小説に影響でないよう、仕事の方にも影響出ないように務めていきたいと思います!

では今回も宜しくお願い致します。


 

「(田中さん・・・。貴方は僕と戦ったあの時、どう思ってたんですか?今感じている気持ちと同じだったでしょうか・・・)」

 

 もう、この世にはいない、あの人物を思い出す・・・。

 自分の鏡写しのような人物が武の道で命を落とした。

 他人に優しく、人を守らずにはいられない人で、生涯ただ一人の女性を愛し、子を愛した、かけがえのない先輩・・・。

 

 今はもう、思いを馳せることしかできない。

 思い出すことでしか、逢うことができない。

 神でもなければ、死人には会えないのだ。それが世の理。

 組手も、世間話も、修業も、共に悪を倒すことも、一緒には出来ない。

 

 遠くに行ってしまったから・・・。

 

「(天国で家族と一緒に見守ってくれているでしょうか・・・?)」

 

 兼一がふと、一翔の頭に乗せていた手をスッと降ろした。

 いつもなら、際限なく撫でていたのにその手を止めた。

 

 妻である美羽はいつもとは違う兼一の様子に何かを感じたよう・・・。そっとその手に手を重ねた。

 静かにそっと、重ねた・・・。

 

 前は憧れの人だった、妻、美羽。

 旧姓、風林寺美羽。

 無敵超人、風林寺隼人の孫娘であり、暗鶚衆直系の娘。

 暗鶚衆とは忍びの一族。兼一と美羽には深く関わりのある者達だが、それは別のお話し。

 

 ただ一つ言えることは、兼一と美羽は本来ならば付き合うことなどなかったカップルだ。

 理由は簡単だ。彼女に相応しくないからだ。

 兼一は武術の才能は無く、人より劣っている凡人。

 その反対に美羽は類い稀なる才能を持った人物。

 ルックスしかり、勉学しかり、運動神経しかり、その他諸々の才能がこの美羽という女性には受け継がれている。

 美羽に相応しい人物ではない兼一・・・。多くの人間が不釣り合いだと語るはずだった。

 だがしかし、実際に彼女のハートを射止めたのは白浜兼一であることは確かだ。何があって美羽の心がそう動いたのかは、彼女しか知らない。

 一つ、一つだけ言えるとするならばそれは、兼一のお人好しからくる『限りない優しさ』なのかもしれない。

 

 その同等の優しさを持つ者がもう一人。

 それが・・・・・・・・・黒鉄一輝だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(黒鉄一輝君、ほんとに僕にそっくりだ・・・。君を見ていると昔を思い出すなぁ・・・。今でこそ、笑い話になるけど、無事生き残ってこれたんだな・・・。あの日々を・・・)」

 

 兼一は梁山泊の地獄の修業を乗り越え、ラグナレクという不良チームを乗り越え、それを潜れば、今度はYOMIとの命のやり取り・・・。だが、それも生き残ってきた。

 一輝を見るとどうしても思い出してしまうのだ。今まで戦ってきたあの日々を・・・。

 

 色んな思い出を振り返っていると、一輝達がこちらへ戻ってきた。

 だがその中でも一人、足早にこちらへ向かってくる人物がいた。その人物とは・・・。

 

 髪は綺麗な赤、学生とは思えないグラマラスなボディを持つ、一人の女性が兼一家族に近づいてくる。

 

「白浜さん!今度は私と勝負してください!」

 

「ごめん!それは無理だ」

 

「・・・・・・・・・え?えええええええええ!?」

 

 

―――――――――

 

 

 

 ステラが話し掛ける数分前のこと・・・。

 真琴が一翔の戦闘能力について語っていたときだ・・・。

 

 

「ねぇ、あんな子供がホントに私達より上なわけ?」

 

 ステラの疑問はもっともだ。

 何しろ、白浜一翔は数え年で十歳。

 年齢的に言えばまだ小学四年生だ。

 

 年端もいかない娘と伐刀者のステラ達より実力は上だと、六も離れているステラ達より上だと真琴はいうのだ。

 

「伐刀者としての能力を使えば実力は拮抗するだろうが、クロスレンジだけで言えば一翔の方に軍配が上がる。何故だと思う?」

 

「何故って・・・」

   

「珠雫、お前は分かるか?」

 

 おもむろに問い掛ける真琴。

 

「何となくですけど・・・経験、ですか?」

 

「まぁ正解だ・・・珠雫、及第点をやる」

 

「経験って、既にあの子も実践を経験してるっていうの?」

 

「そうだ。師匠達と俺と共にな」

 

「それだけ?及第点の理由は?」

 

「ふむ、一翔は俺と共に世界を回って様々な経験、実践を積んだ。その時戦うのは大人や戦闘慣れした伐刀者達が殆どだ。その中にはお前達、高校生の年齢も含まれる。てことはだ、これらの情報から分かること、あるだろ?」

 

 全員の目を見ながらゆっくりと語る真琴。

 

「うーん・・・、ん?分かんないわ・・・」

 

「分かんねぇか?結構シンプルだぞ?」   

 

 

 

 

 

「・・・戦闘においてのリーチ、ね」

 

 

 誰もが沈黙を貫くなか、アリスがその口を開けた。

 

「そう、正解だ」

 

「どういうことよ?確かに私達とあの子には差はあるけど私達の方が大きさ上のはずよ?それで何で一翔ちゃんの方が強いのよ?」

 

「だからさっき言ったろ?『経験』してるって」

 

「あ!そうか、そういうことか!」

 

 その言葉にハッとする表情を見せる一輝。

 何か閃いたような表情だ。

 

「いいかい?あの子は僕達のような大人と既に渡り合っているということは既に攻略法も熟知しているということなんだよ、それにね・・・」

 

「それに?」

 

「僕達は子供の実力者と戦った経験がほとんどないから、慣れていないんだ。だから・・・」

 

「たがら、何も出来ず負ける可能性が大いにあるんですね?」

 

「正解、一輝と珠雫は理解出来たみたいだな」 

 

 ここまでの情報で漸く理解出来たステラ。

 

「それじゃ、私達では成すすべなく負けるっていうの?」

 

「負けるとは言ってない、実力は上ってだけだ。一翔も実践を積んだとはいえ伐刀者の能力に慣れたとはいえない。だから能力を使えば五分五分だな、それに一翔には制空圏が視認出来るみたいだからな」

 

「制空圏、以前見せていただいたバリアーみたいなものですよね?」

 

「ああ、そうだ。まぁ視認出来たからと言って相手の攻撃を回避出来る訳じゃないしな」

 

「ふふ、それもそうね」

 

「ねえ、マコト・・・」

 

「ん?なんだよ」

 

「白浜さんの実力、私も味わってみたいわ」

 

「いいと思うけど・・・了承してもらえるかどうか」

 

「何でよ!」

 

「自分で経験すりゃ分かるよ」

 

 

 

 

 

 

 こんな事があって現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、ステラちゃん。僕は女性とは戦わない主義なんだ」

 

「わ、私とは戦えないって言うんですか!?それとも女だからって馬鹿にしてます!?」

 

 ステラの顔は般若のような形相へと変貌しつつあった。

 

 

「いや、そんなつもりはないよ!ただこれが僕の信念だから。女性には手をあげたくないんだ。例えそれが見ず知らずの他人であっても」

 

「それじゃ、今までどうやって生き残って来たんですか?」

 

「柔術とか中国拳法、関節技主体で」

 

「せっかく、達人級と戦えると思ったのに・・・」

 

 分かりやすく落ち込むステラ・ヴァーミリオン殿下・・・。

 意気揚々と申し込んで即座に断られればそうもなるが・・・。

 

 

「そういう事なら私がお相手致しますわ」

 

 そこに手を差しのべたのは妻の美羽だった。

 

「私も達人級ですし、ご不満ですかですわ」

 

「ステラちゃん、実力は夫である僕が保証するよ。妻とは昔から組手の相手をしてもらってたけど、全然勝てなかったし。もしかすると僕より上かもよ?」

 

「だ、そうだが、どうする?ヴァーミリオン?」

 

「・・・やります!」

 

 ステラはいった。

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、なら準備に入れ。ルールは先程と同じだ、説明は不要でいいな?」

 

「ハイ!」

 

「了解しましたですわ!」

 

 上手側に美羽、下手側にステラ。

 上手には兼一と一翔が見守り、下手には一輝達一行だ。真琴は一応、ステラ側の下手にいる。

 

 

 

「ヴァーミリオン、固有霊装を展開しろ」

 

「傅きなさい!妃竜の罪剣(レーヴァテイン)!」

 

「交流組手、仕合開始!」

 

 黒乃の手が上へ、真っ直ぐに上げられる。

 

「〝梁山泊〟❮白浜美羽❯参りますわ!」

 

「〝破軍学園〟❮ステラ・ヴァーミリオン❯行くわよ!」




いかがでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?


御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。

次回更新予定日は1月13日~14日の17時00分~21時00分とさせていただきます!


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BATTLE.52 決着

こんにちは、紅河です!

なんと、通算UAが100000に到達致しました!
皆様、本当に有難うございます!!
これからも、頑張っていきますので、宜しくお願い致します!

最近、Twitterを始めました。あくまでも、小説のためにですが・・・。
@Kouga_115634です。宜しくお願い致します。


 

 

「さて、ステラの実力がどこまで美羽さんに通用するか・・・」

 

「普通に考えれば、ステラさんに勝ち目は?」

 

「勝ち目は・・・ないよ」

 

 恋人である一輝のあまりにも冷たい一言。

 

「お、お兄様・・・」

 

 

 だが、その事実がステラと美羽の実力を物語っていた。

 ステラは伐刀者としては破格のAランクだ。これは紛れもない事実。

 はたまた、美羽も武術家の頂点、特A級の達人級であるのも、また事実。

 

 どちらも腕は確かなのは変わりないが、伐刀者のランクはあくまで魔力と魔力制御などを国際魔導騎士連盟が査定し、決定された。ただのランク付けにすぎない。

 高ランクだからといって強いというわけではない。それは黒鉄一輝を見れば分かることだろう。

 

 しかし、美羽や兼一の達人級は違う。

 例え、最上位の弟子クラスだったとしても、どんなに足掻いても、どんなに優れた技を持つ伐刀者でも、どんなに高ランクの伐刀者でも、達人級には勝てない。白兵戦の戦闘においては、武術家、達人級達には歯が立たないのだ。

 

 

 

 

「(何?この雰囲気・・・)」

 

 ステラの顔に小さな汗が滴る。

 

「(これまで戦ってきた伐刀者とも、イッキとも、ましてやマコトとも違う・・・)」

 

 ナニかを肌で感じるステラ。不思議な緊張感が彼女に押し寄せた。

 

「(美羽さんから神々しい、まるで天使を見ているかのようなオーラを感じる・・・)」

 

 レーヴァテインを構えたまま、硬直を続けるステラ。

 

「(今は様子見よ・・・。相手の実力が上な以上、突っ込めばすぐさま負けることになるわ)」

 

「仕掛けて来ないのですか?」

 

 ステラを煽る美羽。

 

 兼一を見ていれば分かるはずだ。美羽も“終えている”。

 

「なら、こちらから行きますわよ!」

 

 最初の真琴戦と同じように速攻をかけた美羽。その速さは真琴の比ではない。それより更に速く、ステラへ接近する。

 

「は、速い!?」

 

「(さぁ、どうする?ステラ)」

 

 瞬く間にステラへ近付く。

 

「(考えてる余裕はないわ!やるだけやってみなきゃ!)」

 

 覚悟を決め、攻撃を繰り出す。

 相手に合わせ、レーヴァテインを真っ直ぐに突き刺し、その鋭き突きを美羽に差し向けた。

 

 その突きが当たる直前。

 流れるように体勢を変え、その一瞬、ステラの視界から目の前の美羽が消えた。

 

「(なっ!どこ!?)」

 

 しかし、その気配はすぐに感じ取れた。

 

「そこ!」

 

 左の真横に感じた美羽の気配に自らの大剣を横に倒し、横凪ぎを放つ。

 

 だが、その時も当たる直前に美羽が視界から消え失せる。

 

「また!?」

 

「扣歩!」

 

「え?」

 

「擺歩!」

 

 その直後、ステラの視界に天井が目に入る。と同時に自分の状態にも気づく・・・。

 

「くっ!」

 

 魔力制御による身体強化によって、地面に当たる前に宙返りで回避する。

 

「セーフですね」

 

「間一髪ってところだけどな」

 

 真琴が一つ、余計な事を言う。

 

「やりますわね、伐刀者特有の身体強化ですか」

 

「ええ。今の技は・・・」

 

「歩法の一種ですわ」

 

「「歩法?」」

 

 ステラとほぼ同時に疑問符が頭に浮かぶ、珠雫。いつもの如く、真琴に聞くのだった。

 

「歩法とは歩く方法の意味ですよね?うちの剣術にも、確かありましたし」

 

「だろうな。武術には様々な歩法が作られ、使用されてきた」

 

「あれは、恐らく八卦掌の一手だね」

 

 一輝が美羽の技について補足する。多くの武術本を読破してきた一輝にとって、知らない技の方が少ないのだ。勿論、一輝も万能ではないから全てを知っているとも限らないが・・・。

 

「八卦掌・・・中国拳法の一つですね。美羽さんも中国拳法を使うんですか?」

 

「いや、主に美羽さんは三つの武術で戦う。ただ美羽さんの師匠は言わずもがな無敵超人こと、風林寺隼人。たまに中国の硬功夫なんかも授けて貰ってて、その時とかに技を教わったのさ」

 

「三つの武術・・・ね」

 

「美羽さんの武術って一体なんですか?」

 

 これは、当然の疑問とだろう。真琴もこればっかりは答えなければなるまい。

 

「美羽さんの武術は基本的に三つ・・・。一つに風林寺家の我流武術」

 

「が、〝我流〟?その意味は分かりますが、我流ってことはまさか一から全て?」

 

「その通りだよ、珠雫。僕も書物で知っただけの知識しかないけど、風林寺家の一族はずば抜けた戦闘センスを持った人間が多く、その技のほとんどが自力で編み出したものらしい」

 

 つまり、体さばきも、武術において重要である呼吸のタイミング、歩法、武術における全ての事柄を自分自身達で編み出し、それを構成しているのだ。

 

「言葉で聞くと信じられませんけど、事実・・・なんですね」

 

「そうだ」

 

「それじゃ、他のは・・・」

 

 人間、一度気になってしまってはもう止まらない。珠雫は他の二つについても追求していってしまう。

 

「もう一つは、プンチャック・シラットだ」

 

「プンチャック・シラット?」

 

 プンチャック・シラットとは、東南アジアで生まれた伝統的な武術である。

 日本ではあまりその名は知られていないが、外国ではポピュラーで日本で言うところの空手並みに認知されており、流派も多数存在する。

 

 が、今まで口伝で継承されてきたため、詳しいことは分かってはいない。

 主にジャングルファイトで使用する技があり、奇っ怪な動きを特徴とする。見極め、修得に困難を極める。

 

 ティタード王国と呼ばれる国で数多のシラットの達人がおり、その中でも無敵超人と同格の人物が居た。美羽と兼一、ティタード王国を巡る戦いに巻き込まれたのはまた、別のお話し。

 

「プンチャック・シラット・・・。聞いたことないですね」

 

「流石の私も、シラットについては何も知らないわ」

 

「まぁ、日本では知られてないマイナーの武術だからな、仕方無いな」

 

「それじゃ最後の一つって?」

 

「それは・・・な」

 

 真琴が言おうとした、その瞬間。

 ステラ達の戦闘が加速する。

 

「ステラさんが先に仕掛けた・・・?」

 

「ハアァァァ!」

 

 なんとか、なんとか、戦いにはついて行けてる・・・。けど・・・肝心な手応えは全くない。あしらわれているようなそんな感覚が、始まってからずっと私から離れない。

 

 けど、待ってたって勝機はない!私のやれる事をやるだけよ!

 

 戦闘中、覚悟を決める。達人級の実力は前の戦闘で把握は出来た。勝てないのなら、一回でいい、一度でいいから、一撃だけでもお見舞いする!

 

 そう、固く闘志を燃やすステラだった。

 

「(ステラちゃんの伐刀者としての能力、それなりに把握出来ましたわね。炎を司る能力・・・、ただそれだけっていう感じがしませんわ・・・これは一体?)」

 

 美羽の方も何かを感じていた。

 それは一体何なのか?ステラに眠る秘められし力なのか、今は知るよしもない。

 

 この戦闘中、ステラは能力を発揮していた。

 美羽の直接物理攻撃を防ぐために、妃竜の羽衣を発動させていた。

 丁度、真琴の話が終えたところで・・・。

 

「(さっき、体に当てれましたけれど、やはり通用はしませんでしたわね。弟子クラス開展程度の実力では・・・)」

 

 美羽は特A級の達人級だ。といっても達人歴は梁山泊の面々に比べたら、日は浅いのだ。

 しかし、❮動❯の気を持つ者、優秀な遺伝子を受け継いでいるからなのか、高校生時代から破格の強さとポテンシャルを有していた。

 同じ高校生同士であっても美羽にはほとんど敵わなかったのだ。圧倒的な力を持つ者だからこそ、自身の力をコントロールする術を美羽は身に付けた。

 そうしなければ大惨事になりかねないから。

 

 それが、❮動❯の気を持つ者の宿命だ。もし加減を間違えれば相手を殺してしまうという事に発展する恐れがあるのだから。

 

「(少し体内レベルを上げなければなりませんですわね・・・。弟子クラス最上位、兼一さんとの思い出深いあの頃の私まで・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘は前ほどではないにしても、長めに行われた。

 美羽は損傷軽微と言ったところだが、ステラはというと・・・。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

 満身創痍だった。

 息切れ、妃竜の羽衣は維持しているのがやっとの状態だ。

 

「勝負、ありましたわ」

 

 これは、ステラに向けての一言だった。

 その痛烈な一言にステラは、自分自身の中で激しい怒りを感じていた。それは相手へではない。“自分自身”に対してだった。

 

 ここに来るまで、自分の能力を制御しながら、周りの人間に止められながら、自分自身の道を歩んできた。

 剣術も自分で編み出して、修練を積んでここまでの実力にまでなった。

 

 けど、それまでだった。

 私の実力はこんなものなのかと・・・。

 あの日々は無駄だったのかと・・・。

 こんな愚考を繰り返してしまう。

 

 そんな情けない自分に余計、腹が立ったのだ。

 だが、それと同時に喜びも押し寄せる。

 

 日本に来日して、様々な強者と戦えている。 

 あの国では自分を超えられる存在はもう、居はしなかった。

 上へは目指せないと感じていたから、あの故郷を離れた。

 そして、その選択は正しかった。

 

「・・・いえ、ま、まだ・・・まだ」

 

 もう一度、レーヴァテインを構え直す。

 まだだ・・・!

 まだだ・・・!

 

 もう一度、立ち向かう!

 私はまだ、負けてない!!!

 

「ステラ・・・」

 

「へっ、いい目をするようになったな」

 

「うんうん。若いっていうのは良いものだね」

 

 頷く、兼一。

 

「・・・来るというのなら、受けて立ちますわ」

 

「・・・ヤァァァ!」

 

 ボフッ!

 ステラのレーヴァテインに炎が纏う。彼女の闘志が大剣に乗り移ったかのように・・・。

 

 そこから、ステラの猛攻が止まらない。

 ボロボロだというのに、何処からそんな力が湧いてくるのか・・・。

 

 炎の精霊がその身に宿ったかのように、ステラの猛ラッシュが美羽を襲った。

 しかし、美羽も負けていない。

 

 空に舞う羽のように、ヒラりヒラりと躱してゆく。

 

 まるで鳥が戦っているように、そんな情景が広がっていた。

 

「・・・綺麗」

 

 珠雫が思わず、その言葉を口にした。

 美羽の姿に魅入られたか、はたまたこの戦いの景色になのか、それは恐らく前者だろう。

 

「(これ以上長くするとステラちゃんに悪いですわ!次の一撃で決めませんと!)」

 

 ステラの皇室剣技(インペリアルアーツ)はステラ自分自身の技をカバーするために編み出された。

 その数多くの剣技に一輝ですら苦戦したのだ。

 といっても武器は大剣。

 スピードのある武器には速さで劣ってしまう。

 

 ましてや、美羽は真琴や兼一よりスピード重視の武術家だ。その大剣に攻撃を合わせることなど、容易なのだ。

 

「フッ!」

 

 ステラが美羽に向けて、左振り下ろしを放つ。真っ直ぐに、身体に向かって真っ直ぐに!

 

「・・・待ってましたわ。❮風林寺浸透撃合わせつぶて❯!」

 

 ステラの大剣をサッと避けた美羽は、それと同時に二つの拳を相手へ打ち出す。

 狙うは一点、身体のど真ん中。鳩尾ではないが、その下辺りだ。

 

 ❮風林寺浸透撃合わせつぶて❯は中国拳法の柔拳、浸透勁と融合させた技。

 相手の体力を根こそぎ奪うというもの。世直しで伐刀者と死闘を繰り広げることもあってからか、伐刀者用に魔力も奪うよう、細工もしている。

 

 それを繰り出したのだ。

 

「ステラ!」

 

「カハッ・・・!」

 

 体内の魔力を掻き回され、体力すらも奪われたステラは、ゆっくりと沈んだ。

 

 美羽に支えられながら、ステラは目を閉じた。

 

「そこまで!勝者、梁山泊、〝白浜美羽〟!」

 

 

 無慈悲なゴングが会場に轟いた。

 




いかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?


御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!お待ちしております。

次回更新予定日は1月22日~23日の17時00分~21時00分とさせていただきます!

今回使用した美羽の技は、原作にあった技を私がアレンジしたモノになります。
ですから、この場にて説明をさせていただきます。

❮風林寺浸透撃合わせつぶて❯

風林寺家の体さばきによって、作られた技の一つ。美羽の突き技のオリジナル。本来は味方の攻撃に合わせて使うものだが、合わせなくとも相手にダメージを与えるべく編み出した。
中国拳法の浸透勁を組み合わせることで、相手の内部を攻撃する。伐刀者用に魔力を奪う気も練り込んである技。


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BATTLE.53 とある合宿

追記、2月28日 一部の描写変更


 第三訓練場。そこに真琴と刀華の姿があった。

 どうやら、技の修業をしているようだ。

 

 

「ハァハァ・・・やはりこの技は魔力の消費がでかいな・・・」

 

 

 技の反動に耐えきれず、膝をついてしまう真琴。

 真琴の魔力はDほどしかない。伐刀者としては低い数値。普段の戦闘でも魔力は使わず、己の体力のみで戦っている。これでも充分過ぎるほどなのだ。

 魔力を用いることは滅多にない。が、真琴は伐刀者。これは一生変わらない。だからこそ、伐刀絶技の鍛練も行うのだ。

 

「戦闘では使えない?」

 

「普段の仕合だと無理だろうな・・・」

 

 真琴が立ち上がり・・・。

 

「第一に、技の隙がでかすぎる。魔力制御が上昇すれば話は変わってくるだろうが・・・」

 

「訓練のみ、だね」

 

 飲み物を手渡す刀華。

 

「そうだな」

 

 受け取る真琴だったが、ふと携帯が鳴る。

 

「ん?メール?誰から?」

 

 真琴が目をやると・・・

 

「理事長からみたいだな」

 

「黒乃理事長から?」

 

「ああ。合宿についてらしいが・・・」

 

「もしかして、あの事かな?」

 

 顎に手を当てながら、そう話す刀華。

 

「生徒会の仕事の手伝い、か?」

 

「かもしれないね」 

 

「とりあえず、今から行ってくる」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 ――――――――― 

 

 直ぐ様、理事長室へ向かう。

 トントンっとノックする真琴。

 

「近衛真琴です」

 

「いいぞ。入れ」

 

「失礼します」

 

 ガチャリ・・・。

 キィィィ・・・という木製の歯軋り音が静かな廊下に響く。

 

「あれ?真琴?」

 

「え?」  

 

 そこには見知った人物達、黒鉄一輝とステラ・ヴァーミリオンが居た。

 

「一輝?ステラも?」

 

「・・・それでは、話を始めるぞ。    

 

 

 

     という事だ。いい機会だこの休みに合宿で心を休めてくるといい」

 

「ええ!?折角、一輝との二人旅行がぁ・・・」

 

 まるで頭に岩石が落ちたような、分かりやすい落ち込みをするステラ。

 

「まぁ、そのなんだ・・・。なんかわりぃな」

 

「ううぅ・・・」

 

「落ち込みすぎだよ、ステラ・・・」

 

「だってぇ・・・イッキと同時にメールが来て、初二人旅だと思ってたんだもの・・・」

 

 

 ―――――――――

 

 

 そのまま時は過ぎ、合宿当日となった。合宿場までバスで向かうことになる。

 相変わらず、ステラは一輝との二人旅じゃないことに落ち込んでいる模様だ。

 

 一輝達は後部座席に座り、窓際にステラ、その横に一輝、真琴の順で並んだいる。

 

「いつまで、そうやって落ち込んでるつもりだよ」

  

「ハアアアアアァァァ・・・・」 

 

「そうだよ、ステラ。外を見てみなよ、そんな気持ち吹っ飛ぶよ?」

 

「・・・え?」 

 

 そのバスから一つの滝が顔を出していた。滝はまるで生物のような、そんな表情をステラ達に見せてくれた。

 

「綺麗ね・・・」

 

「でしょ?」

 

「イッキ、ゴメンね。気を遣わせちゃって・・・」

 

「ううん。遠出することなんてなかったんだし、目一杯羽休めでもしようよ」

 

「そうだぜ?代表戦で連戦してる俺達にとっての、一時の癒しにしねぇとな」

 

「休みって一週間だよね?」

 

「ええ、そのハズ。ねぇイッキ、私あの滝を間近で見たいわ」

 

「うん、いいよ」

 

「マコトはついて来なくていいからね!」

 

「言われなくたって分かってるよ」

 

 三人は今後の予定を立てつつも、バスは着々と目的地へその足を進めていたのだった。

  

 とあるバス停で降りると、住所を頼りに合宿場へと歩を進める真琴と一輝とステラの三人。

 ステラが一輝の腕を組み、目からラブラブオーラ溢れ出ていた、が、二人の足は止まらずまっすぐと歩みを続ける。

 すると、その三人を呼ぶ声が耳へ入ってきた。

 

 

「おーーい!こっちだよーー!」

 

「うん?あれって・・・兎丸さん?」

 

「なんか、他の人達も見えるけど」

 

「あぁ・・・やっぱこういう事だったかぁ」

 

「こういうことって?」

 

「ん?理事長に俺らはまんまと騙されたってことだよ」

 

「「ええええ!?」」

 

 二人のひとまわり大きな声が響き渡った。

 

 

 ―――――――――

 

 

 生徒会の面々からはこう、説明された。

 一ヶ月後、ここで代表メンバーが本戦に向けて合宿が行われる。その為の掃除ということ。毎度生徒会は掃除を任されているのだが、人員が足りないためこの三人が呼ばれたとのことだ。

 

「それじゃ、生徒会長の東堂さんも?」

 

「そうだよぉ~」

 

「会長は所用で遅れてくるそうですわ」

 

 どうやら、生徒会全員、この場所にいるという訳ではないらしい。

 生徒会長である東堂刀華がまだ到着していないようだ。

 

「毎度のことですね」

 

「ふふっそうですわね。真琴さん」

 

「名前呼びだなんて、真琴、もしかして何度かこういう手伝いしてたの?」

 

「まぁな。刀華さんの調整を手伝っている時にたまぁにな」

 

 真琴がモップで床を拭きながら受け答えしている。

 刀華の調整がてら何度か生徒会室に呼ばれたりして、そこで生徒会の面々とは会っていた真琴。

 

 兎丸が自身の能力を使用しながら、雑巾掛けをしている。それを見ていたステラが不意にこんな質問を投げてきた。

 

「ねぇ、真琴の伐刀絶技って何なの?」

 

「あれ?ステラには話してなかったっけか?」

 

「そうよ!真琴の能力は知ってるけど伐刀絶技自体は知らないわ!」

 

 その質問で真琴が思い返すと、そう言えば言ってないという事実が浮かんで来た。

 

「いい機会だ。教えてあげなよ」

 

「と言っても俺のは口では説明しづらいですよ?」

 

「そうだねぇ・・・あ!そうだ!真琴君、何処か怪我してない?」

 

「怪我?ああ、そういうことですか」

 

「うん!」

 

 何か思い付いたような表情を見せる、真琴と泡沫。二人のやることを察したのか徐にカナタが鉄製の安全ピンを真琴へ手渡した。

 

「カナタさん、有難うございます」

 

「いえ、たまたまあっただけですわ」

 

「んじゃ今から見せるから、よぉく見とけよ」

 

「え、ええ分かったわ」

 

「うたさんも宜しくお願い」

 

「りょ~かい!」

 

 何を始めるかと思えば、安全ピンの先を自らの人差し指へ突き刺した。

 案の定、指先からは血がプツッとその赤い顔を出した。

 

 すると、泡沫が自身の能力である因果干渉系❮絶対的不確定(ブラックボックス)❯を発動する。

 

 真琴が目を瞑り、直立になっている。真琴の体の中で真っ白い空間が広がり、一つの世界が生まれる。しかし、その世界は何もない。ただ、ただ、真っ白い空間だった。そこにポツンと真琴が立っている。

 

 しかし、何も起きることはなく血は止まらない。

 

「ん?何も起きてないわよ?ちゃんと発動してるの?」

 

「やってるよ」

 

「これくらいでいいでしょ、真琴君、僕疲れたよ」

 

「ありがとうございます、うたさん」

 

「どういうことよ?」

 

「俺の伐刀絶技は因果無効化(ワールドキャンセラー)、ありとあらゆる因果干渉系の無効化だ」

 

「む、無効化!?」

 

 ステラの目が大きく見開く。

 

「だから破軍学園で唯一、因果干渉系を有している僕が必要だったんだ」

 

「因果干渉系が珍しいのは知ってるけど、まさかそれを無効化する伐刀絶技とはね」

 

「役に立つ場面が少ないのが欠点だかな」

 

「他には何かないの?」

 

「“今は”ないな」

 

「そうなのね」

 

「あっても、教えんよ」

 

「なんでよ!」

 

 その返しにほんのちょっとの怒りを見せるステラ。

 

「仕合で戦うかも知れない相手に、わざわざ教えんさ」

 

「ふん!まぁいいわ。もし仕合で戦うときは容赦しないから」

 

 

 時は過ぎ、掃除も一通り済んだころ。ステラと一輝が滝を見たいといって山の方へ向かった。生徒会の面々と真琴は合宿場で寛いでいる。刀華を待ちながら・・・。

 ただ、天気がだんだん怪しくなってきた。合宿に到着した時は、快晴といっても差し支えなかったというのに・・・。まるでこれから悪いことでも起きるようなそんな感じさえしてくる。そんな天気だった。




いかがでしたか?楽しんで頂けたでしょうか?

次回更新予定日は1月31日~2月1日の17時00分~21時00分とさせていただきます。

ということで漸く本筋のストーリーに戻ります。皆様、宜しくお願い致します!


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BATTLE.54 襲撃

 俺と生徒会の皆さんは、合宿場のロビーにて寛ぎ、刀華の到着を待っていた。

 黒乃理事長の命令で、リフレッシュ旅行とは名ばかりの雑用を頼まれ、一つの合宿場に来ていた。

 

 

「遅いですね」

 

 と、ポツリと溢す。

 遅い。

 

 一輝達が滝を見に行くと言って合宿場を後にしたのだが、その帰りが遅い。

 出掛けてからもう数時間は経とうとしている。

 一時間~二時間位ならまだいい。

 そのくらいだったら心配はいらない。

 だがもう、三時間半間近だ。

 帰ってもいい頃なのに一向に帰ってくる気配がない。

 

「確かに遅いね」

 

 うたさんが俺に便乗した。

 

「刀華の方はもうそろそろ着くみたいだよ」

 

「やっとですね」

 

「いつも通りの刀華だねぇ」

 

「会長、遅刻するときはめっぽう遅いですもの」

 

「そこが会長の良いところなんだけどね」

 

「それはそうと、俺、一輝達を探してきます」

 

 何か嫌な予感がする。胸騒ぎというかなんというか・・・。

 

「こんなに遅いもんね。なにかあったのかもしれないね」

 

「私達はここで会長を待ってますわ」

 

「俺がなかなか戻らなかったら・・・」

 

「某達が血眼になって探し出す。心配はいらぬでござるよ」

 

「ありがとうございます。では行ってきます」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

 生徒会の皆さんを残し、一輝達が向かったであろう滝へ足を進めた。

 ここに来たときは快晴だった空もなんだか、薄暗く曇って来た。

 

「二人に何も無ければいいが・・・」

 

 俺は薄暗い、深い林の中を入っていく。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 時は遡り、真琴が出ていく数十分前のこと。

 当の二人は林の中を歩いていた。

 野生の動物達の囀り、新鮮な空気、自然豊かなこの地を堪能していた。

 

「空気が澄んでて美味しいね」

 

 グイっと身体を伸ばす一輝。

 

「う、うん」

 

 言葉を返すが少し、反応が薄いステラ。

 

「ねえ、イッキ?」

 

「ん?どうしたの?ステラ」

 

「この前の交流組手のことなんだけど」

 

「兼一さんとの?」

 

「うん」

 

「私、初めてだったの・・・」 

 

 顔を背けるステラ。

 

「・・・ん?何が?」

 

「どうやっても勝てない、これまで積み重ねてきた全ての努力が通じない、とてつもない敗北感を味わったの・・・。生まれて初めてよ、〝勝てない〟って思ったの」

 

 左肘に手を当てながら、そう語った。今まで振る舞ってきた明るい顔付きが一変していく。

 

「ステラ・・・」

 

 どんよりと落ち込んでいったが・・・。

 それは、一瞬だった。

 

「でも、いいの!こんなにも強者と戦えているんだのも!」

 

 だって、故郷じゃ私より強い人なんて現れない。仮に居たとしても『Aランクだから』『天才には勝てないし』と言い訳をされて戦ってくれなかったんだから。

 

「日本に来てから私より強い人がいることを知った。マコト、兼一さん、美羽さん、アリスに・・・それから、ちっこい珠雫も」

 

「ちっこいは余計だよ?」

 

「いいの!珠雫は居ないから!それに、イッキにも・・・」

 

 モジモジとくねり始めるステラ。どうみても照れている。

 

「うん。僕も君と会えて嬉しいよ」

 

「ねえ、イッキはどう思ったの?兼一さん達のこと」

 

「僕かい?僕は・・・」

 

 青年がその口を開く。

 

「あの戦闘は全て兼一さんの手のひらの上だったような、そんな感じがするんだ」

 

「え?全て?」

 

「うん」

 

 そう告げる一輝だったが、ステラはどうも納得いってない様子だ。

 

「だって、イッキの剣技、炸裂してたわよ?」 

  

「あの時は確かに技は発動した。けどそれも全部含めて兼一さんの計算の内だと思う。僕が技を放つ前から分かってて、僕を引き立てるためにわざと受けてくれたんじゃないかって思うんだ。これはあくまで僕の仮説に過ぎないけど。それに、蜃気狼は虚実技だからヒットしない限り確かめれない」

  

「そうだけど・・・」

 

「しかもあの時の実力は僕らと同じか、それより少し上にして戦ってくれてたんじゃないかな」

 

 ステラはその一輝の言葉を聞いた瞬間、ある事を思い出した。

 達人級である白浜美羽と戦いの最後、美羽の放った突きで沈んだ時に、それまで防いでいた妃竜の羽衣(エンプレスドレス)が打ち砕かれたのだ。

  

「そう、かもしれないわね。美羽さんの最後の突き、これまで受けた攻撃とは少し・・・質が違うように感じたわ。それに戦い方も、最初の方は大雑把でありつつも歯応えがあるような感じで、最後のはなんか一切隙のない動き、完璧なる突き、そんな感じだったわ」

 

「・・・何となく分かるよ」

 

「もし、美羽さんが弟子級緊湊で戦っていたら私は為す術もなく、負けていたでしょうね」

  

「うん。こんな経験することは滅多にないよ」

 

「え、ええ。そうね」

 

 二人が林の奥へ、奥へ、と歩いて行く中、ステラの様子が変化が訪れた。

  

 私、どうしたのかしら。

 頭の中が気持ち悪い・・・。

 なに、これ・・・。

 

「・・・セッティングしてくれた真琴に感謝だね」

 

 スッと振り向くとそこには木に寄り掛かるステラが・・・。

 

「ステラ!?大丈夫かい!?」

 

「頭が痛くて・・・それに体もなんだかダルいわ・・・イッ・・・」

 

「ステラ!」

 

 ステラが倒れ込んだ。それを一輝は抱き抱える。

 急な登山に体がついて来なかったのだろうか?

 いや、そんなに彼女は柔ではない。ふと額を触ってみると普段の体温より熱い。

 熱を発して、どうやら風邪みたいだ。普通の風邪より悪いみたいだが・・・。

 

「何処か、休めるところを探さないと・・・」

 

 ◇◆◇◆◇

 

「ったく・・・こんな時に雨か・・・。山の天気は安定しないとは聞くが・・・早く二人を探さないとな」

 

 馴れた足取りで林を進んでいく。

 師匠との修業で山籠りしていた経験もあってか、どの場所に何があるか、どの道を進めば本道に戻れるのか、目星はある程度は付ける。

 雨となると雨宿りしてるだろうな。

 だったら、雨宿り出来る場所を探すか・・・。

 

 ん?

 携帯に連絡?

 うたさんから?どうしたんだろ?

 

「はい、真琴です」

 

「あ、真琴君?黒鉄君達は見付かった?」

 

「いえ、まだです。それよりどうたんですか?」

 

「いやね、さっき連絡してみたんだけど。どうやらステラちゃんが途中で体調崩しちゃったみたいでね、黒鉄君達は山小屋にいるみたいなんだぁ」

 

「そうなんですね、そういえば道中で山小屋を見掛けました」

 

「もしかしたら其処にいるのかもしれないねぇ」

 

「それじゃ俺が先に見てきます」

 

「うん、宜しくぅ。後で僕達も合流するから。あ、刀華も無事来たから一緒に行くよ」

 

「はい、分かりました。お気をつけて」

 

 刀華も漸くか。

 掃除も終わったのか?

 よし、まずは一輝達だ。

 恐らく、彼処の小屋だろう。行くか・・・。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 ゴリッゴリッ。

 ゴツッゴツ。

 不自然な物音だ。どうやら外からのようだ。

 

「うん?なんだこれ。ステラ、ここに居てね」

 

「う、うん。気を付けてね・・・」 

 

 一輝が外に出ると、この風景には場違いな巨岩のゴーレムがこちらへ歩んで来た。

 

「な、何故こんな所にゴーレムがっ!?来てくれ、いん・・・」

 

「よせ!一輝!コイツは俺に任せておけ!」

 

 と、聞き覚えのある声がこの森に木霊する。

 

 ・・・我が身を護れ! 甲鉄陣 玉鋼!

 

「くらえ!❮風林寺千木車❯!」

 

 真琴が腕を交叉させそれを前にし、切りもみ突撃を繰り出す。

 これは❮風林寺千木車❯。

 元々は風林寺砕牙という人物の我流技。風林寺という名で分かる通り、風林寺隼人の血を受け継ぐ者。しかも血の繋がったの実子である。ということはつまり、美羽の父親だ。

 何故、それを真琴が身に付けているのかは長くなってしまうため省略する。

 以前、とある模擬戦にて中川聖夜の一派だった、鈴木らとの戦いで見せた技の発展元だ。

 本来は地面を足場で溜めを作り、切りもみ突撃を行うもの。

 

 それを、数メートルもあるであろうゴーレムの核目掛けて放ったのだ!

 

 バッコーンという快音と共に、ゴーレムが砕け散った。

 

「どうだ?」

 

 

 ガチゴチガチゴチ。ガチゴチガチゴチ。

 散らばった岩石がゆっくりと集合する。最後には元の姿より小さいが復活してしまった。

 

「そう、上手くはいかねぇか」

 

「真琴!ありがとう、助かったよ」

 

 小屋から少し離れた位置にいる真琴に声をかける一輝。

 

「ステラの方は大丈夫か?」

 

「うん。なんとかね」

 

「つか、何でこんな所にゴーレムが湧いてんだよ」

 

「それは・・・」

 

「思い当たる節はないのか?」

 

「・・・一つだけ」

 

「あるんだな?」

 

「なんとなくだけどね」

 

 一輝の頭には一人の人物が浮かび上がっていた。

 その人物とは昔、家に入り浸っていた者。黒鉄家の人物である。黒鉄家の人間ということだけでも分かるだろう。一輝の過去の仕打ちを知っている者であれば、どんな事をされて来たのか想像は容易だ。

 

「よし!とりあえず、後の事はコイツをブッ飛ばしてから考える!!」




いかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?


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BATTLE.55 合わせ技

 さぁて、どうしたもんか・・・。

 一応、世直しで経験はあるが・・・。

 

 俺は師匠との世直しで世界各地を回った経験がある。世直しはその名の通りの世直しだ。

 世界の悪事を倒し、世界を旅すること。

 師匠こと、白浜兼一師匠も梁山泊最長老、〝風林寺隼人〟と〝風林寺美羽〟と共に世界を回り沢山の悪者退治をしてきた。

 それの延長線上で俺も世直しを経験している。というか半ば強制に近いような気がするが・・・。

 

 まぁ、修業にもなるし楽しかったから良いけど。

 その世直しでは伐刀者との戦闘もあって、その中にはゴーレムを操る敵もいたんだ。それで経験してるってこと。

 

 

 

「真琴、二人でやるよ」

 

 いつの間にか隕鉄を展開している、一輝。

 それなら、俺の返す言葉は決まってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言われなくても分かってる!」

 

 おっ始めるとするか!!

 

「一輝!俺は中央を叩く!」

 

 

 

「それじゃ僕は、真琴が溢した敵を倒すよ!」

 

「ああ!頼んだ!惚れた女は守るのが男の使命だぜ!?」

 

「わ、分かってるさ!」

 

 戦闘開始してから間も無く、敵の増援が現れた。

 数十体にも及ぶ。一応、二人でなんとか出来る数しか来てないから、まだいいが・・・。

 終わる気配が全く無い・・・。

 それどころか・・・増している気がする・・・。

 

「こりゃ、俺らの戦闘を監視してる奴が居そうだな・・・」

 

「そうでもしないと、ここには呼べないだろうから、ね!」

 

 お互いに己の武器を奮いながら会話する。俺は一拳、一輝は一刀。

 辺りのゴーレム達を縦横無尽に薙ぎ倒す。ただ倒すのは簡単だ。敵のコアの部分に攻撃を叩き込めばいい。

 

 俺なら師匠から授かった拳を。

 一輝なら努力で培った一太刀を。

 

 しかし、これはゴーレム戦。

 遠隔操作している召喚士を倒さない限り、この戦闘は終わらない。

 

「とりあえず!うたさん達には俺が帰って来なかったら探すように言ってある」

 

「そうなのかい?」

 

「ああ!だからッ!」

 

 近くのゴーレムの頭をぶっ飛ばす。

 

「それまで、持ちこたえろ!」

 

「任せてよ、柔な鍛え方はしてきてないよ!」

 

 一輝の積み重ねた技がここで光る。

 

「そうだっ、たな!」

 

 俺も負けてられないなッ。

 

 ❮空中三角飛び❯!

 

 一体のゴーレムに跳び蹴りを叩き込む。

 これは空中蹴りを気の運用で無理やり軌道を転換する荒技。

 本来であるならば、敵に目掛けて蹴りを入れる。これが飛び蹴り。

 だけど、この技は的外れな方向に行くため、戦闘中に意表を突く技。逆鬼先生に学んだ時、奇襲に使えと教えられたっけ。

 

「チェストー!」

 

 その飛び蹴りでゴーレム三体纏めて葬った。

 

 そんな事をしてもこの状態が改善される訳もなく、敵は瞬く間に増えていく。

 今の状況じゃじり貧。

 

 俺達の体力が尽きてやられるか・・・。

 うたさん達の増援が到着するのが先か・・・。

 

 後者になることを願うばかりだ。

  

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「おやぁ?まだ残ってるですかぁ?黒鉄君はぁ・・・?」

 

 ここは、とある一室。

 暗闇の中、一つの蛍光灯で一人の男が佇んでいるだけの部屋。

 そこへ、ある男が室内へやって来る。嫌味たらしく、その男に話し掛ける。

 

「なぁるほど、なるほど。黒鉄君の友人が居たのかぁ、しかも去年問題を起こした、近衛君じゃないかぁ・・・。よくもまぁ伐刀者を続けられるねぇ・・・Eランクの分際で・・・。まぁ、落ちこぼれは落ちこぼれらしく居れば良いんですがねぇ・・・」

 

 伐刀者の圧倒的、格差差別。それを怠らず、その男は一輝達の様子を窺っている。ふくよかで口元には小さなちょび髭をしていて、頭には黒のハット帽をしているようだ。

 

 伐刀者と思しき人物の前には一つのモニターが置いてある。そこには戦闘真っ只中の真琴と一輝の姿があった。

 

「頑張って下さいね。直に体力も無くなるでしょうから、ほっほっほっ・・・」

 

 余計な一言を残し、暗闇の中へ消え去っていった。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

「ブラックバード!」

 

 お!この声は!

 

「クレッシェンド・アックス!」

 

 近場に居たゴーレム達が次々と打ち倒されていく。

 どうやら、間に合ったみたいだな。

 

「兎丸さん!それから砕城さんまで!」

 

 俺達の直ぐ側へ着地する、恋々さん。その隣には雷先輩もいる。

 

「遅いですよ」

 

「ごめんごめん!道中慣れなくてさぁ」

 

「ここは某達に任せるといい!」

 

 よし、面子は揃った・・・。

 ここを打破する方法は、あれしかない!!

 

「いや、四人でやりましょう。一つだけ思い付いた事があります」

 

「おっ!なんだい、真琴君!」

 

「三人で時間稼いで貰えますか?あとは俺がなんとかします」

 

「了解だよ!」「頼んだぞ!」

 

「恋々さん!うたさん達は?」

 

「あと数分ってとこだと思うよ!」

 

 なら、丁度ってとこくらいだな・・・。

 

「了解です!」

 

 二人はすぐさま、ゴーレム達の相手に向かった。

 

「真琴、ボディーガードが必要かい?」

 

「いや、心配いらねぇよ。こんな苦難どうってことねぇ、やるぞ!」

 

「ああ!」

 

 今度は一輝がゴーレムへ突撃を開始した。

 

 俺は技の体勢へ・・・。 

 ゴーレムを操作しているということは目には見えない、魔力の糸が存在する。それを打ち払うには。

 

 まずは自分自身の気をありったけ右の手刀へ集める・・・。

 そして、左の鞘には電気を精製する。

 俺自身の細胞から筋組織、そこから小刻みに動かし電気を編んでゆく・・・。

 

 大きな積乱雲が雷を作るイメージで・・・。

 左の手首から右手の手刀へ、電気を送る。ゆっくりゆっくり。慎重に。

 そうだ。ゆっくりと!

 

 細胞から筋組織を動かし、その摩擦を静電気を精製、電気に変換!

 何度も!何度も!何度も!筋組織を動かす!!

 

 焦るな・・・。焦るな!

 

 ゴーレム共は一輝達がなんとかしてくれる。

 技に集中しろ!

 

 刀華との修業を思い出せ!

 焦ったら全てが水の泡だ!

 

 手刀の身体法はそのまま抜刀。

 この方法じゃないと俺が出せない。

 

 ッ!

 

 

「真琴!❮第四秘剣―雷光❯!」 

 

 無防備だった俺の目の前に三体のゴーレムが押し寄せていた。

 躱すことも出来たが、その前に一輝が片付けたようだった。

 

「大丈夫かい?」

 

 頷きで返す。

 今の俺に言葉を発する余裕はない・・・。

 

「なら、僕がステラと君を守る。真琴には借りが出来たからね、今それを返すよ」

 

 借り?

 ああ、師匠のことか?

 そんな事、いいのに・・・。

 

 俺が借りを作ってるみたいなもんなんだけどな・・・。

 

 よし・・・もう少しだ・・・。

 あと少しで・・・。

 

「苦戦してるようだねぇ、真琴君」

 

 あっ!うた・・・。

 

「ああ!いいよ~喋らなくてー。伐刀絶技が疎かになったらまずいからねぇ。もうそろそろ来るから」

 

 そっか、もうそんなに経ったのか。

 

 バチバチ、ビリリッ。

 俺の周囲に電磁が迸る。

 主に手首周りに、電気が歩き始めている。

 

「皆、遅れてごめんなさい」

 

 ここで、誰もが聴いたことのある聞き馴染みの声が木霊する。

 

「刀華!」「会長!」「待ちくたびれたでござるよ!」

 

「あ、貴女が、❮雷切❯東堂刀華!」

 

「はい。自己紹介もしときたいですけど、今はそれどころじゃないのでまた今度」

 

「は、はい」

 

「まこ君、いける?」

 

「も、勿論!行けますよ」

 

「なら、一緒に行こう?」

 

「はい」

 

 その声と共に俺は駆け出した。

 

「・・・鳴神」

 

 キシャーーーン!

 豪雷が森林内で轟き、刀華の手から一本の鞘と一刀が現れる。

 

 一昔前に、一本の刀が雷を斬ったという伝説が知れ渡った。それを成したのが❮雷切❯と呼ばれる刀だそう。

 一昔前といっても戦国時代、もしかするとそれより前かも知れないが・・・。ともあれ、そんな都市伝説がここ、日本には存在する。

 

 その名に恥じない強さをこの騎士は持っている。

 

 

 

 

 刀華さんが俺の道を作ってくれてる。

 俺が集中し易いように・・・。

 

 なら、俺がやるべきことは。

 

 俺の技を彼奴に、何がなんでも浴びせること!!!

 やるっきゃない!いや・・・やるんだ!

 

 次第にゴーレム達が元の姿へ戻っていく。

 周囲の残岩をかき集めながら、巨大なゴーレムへ進化していく。

 雪ダルマを作るときみたいに徐々に、徐々に大きくなっていく!!

 

 

 ゆっくりと刀華さんの呼吸に合わせてゆく。

 一歩、一歩、着実に。

 

 相手までもう数メートルの距離だ。

 もう、技を叩き込める!!

 

 俺達が到着と同時に、一挙が振り下ろされる。

 

「ハァ―――」

「近衛流・手刀電磁抜刀術・・・」

 

 

「・・・❮雷切❯!」

「❮雷刀無斬❯!!」

 

 ゴロゴロッ!

 

 周囲の人間を包み込む光と共に、轟轟(ごうごう)しい雷音が平穏だった森林に鳴り響いた。

 

 二人の伐刀者から放たれた雷撃によって、痕跡を残すことなく、蒸発していった。

 




いかがでしたか?
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BATTLE.56 修業の成果

 合宿襲撃事件から数日のこと。

 俺は校内の学生食堂へ来ている。

 そして、俺の相席しているのが黒鉄家のローレライこと、黒鉄珠雫だった。

 

 

「んで、どうしたんだよ急に、呼び出しなんて」

 

「すみません、クロスレンジで頼れるのが真琴さんしかいないものですから」

 

「ん?クロスレンジ?答えは見付かったのか?」

 

「いえ、それが・・・。何と無くなんです。自分の中では曖昧というかなんというか」

 

 端切れが悪い珠雫。

 真琴が以前出した〝答え〟の自信がないようだ。

 

「なるほど。その中途半端な自分をなんとかして欲しいってことか」

 

「はい」

 

「今日って確か、上級生との模擬戦なんだろ?」

 

「はい、これからです」

 

「なら、模擬戦で俺との修業の成果を出してみろ。そこで通用するなら申し分ないだろ。それでもダメってんなら、その模擬戦のあと相手してやるよ」

 

「真琴さん、ありがとうございます」

 

「別にいいって、礼なんて。友人を助けるのは当たり前だからさ」

 

「は、はい」

 

 私は真琴さんの中ではまだ友人なんですね・・・。

 って、私は一体何を・・・?

 とりあえず、真琴さんに返さなくちゃ。

 

「それでは、宜しくお願いします」

 

 

 近衛真琴さん。

 活人拳のお弟子さんで、お兄様の元ルームメイト。

 お兄様が心を許している数少ない人。

 

 まさかお兄様があんな笑顔を他の人に見せるだなんて・・・。

 今までは考えられなかった。

 私に媚びを売る胸糞連中ばかりだったし。男だけでなく、女性も多かったけど。男がそれを上回る感じだった。

 

 私はそんな人達に愛想を尽いた。そんな事あったから人を嫌いになったし、好きにもならなかった。お兄様のことしか見えなくなった。

 

 でもそんな私でも認めた人がいる。

 

 私が唯一認めた男性。

 それが真琴さん。

 

 私のために戦闘の助言をしてくれたり、戦闘稽古だって。でも手加減はしてくれないけど・・・。

 真琴さんは私の、私の信念を理解してくれた・・・。私の信念は世間には認められないと、常人には理解されないとそう思っていた。

 

『「一輝は家族に愛されずに産まれて来た。俺は一輝がどんな扱いをされてきたのか、一輝から話を聞いただけだし、直接見たわけじゃないから分からない。けどお前は、その実情を見てきたお前は! そんな兄の為に全ての愛を捧げよう、家族の愛も、女としての愛も! こんな覚悟を持てる奴は、中々居るもんじゃねぇ。お前が一輝と同じくらいに大切だと思える人間が増えれば、お前はもっと強くなる! だから、頑張れ」』

 

 まさか、こんな事を他人から言われるなんて。思ってもみなかった。

 ここから、私の真琴さんに対する評価がどんどん変わっていった、そんな気がする。

 それも、良い方向に。

 

 私が・・・。

 私が、お兄様以外に認めた初めての男の人。

 この感情が、好き?

 これが、恋なのかしら?

 いえ、違うわ!

 私が愛しているのは、ただ一人。

 お兄様のみよ。

 実の血が繋がった、黒鉄一輝という男のみよ。

 

 だから、この感情は嘘。

 あり得ないモノよ。

 今、私が感じているモノはまやかし。嘘、偽り・・・。

 

 私はその何かを押し殺し、真琴さんと会場へと向かった。

 私は、この戦いを乗り越えなければならない。

 だって、私の次の選抜相手は・・・。

 

 

 破軍学園、序列第一位、❮雷切❯〝東堂刀華〟なのだから・・・。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ・・・すげぇ戦いだったよなぁ!」

「ああ!まさか、一年が会長と渡り合うなんてよ!」

 

 珠雫と刀華の対戦直後。

 

 校内では、生徒達の数々の称賛が溢れでていた。

 それも、その筈だ。

 入り立ての一年が現破軍学園最強の伐刀者、東堂刀華と互角の戦いを見せたのだ。

 称賛しないの方がおかしいというものだろう。

 

 

「深海の魔女も中々やるもんだな!俺、会長が負けちまうかと思っちまったよ!」

「それな!」

 

 

 そう。生徒達の言葉通り、黒鉄珠雫は敗北を喫することとなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刀華との初戦は互角だった。

 珠雫の❮凍土平原❯から始まり、珠雫、お得意のロングレンジでの戦い。

 

 本来ならば、水では電気には勝てないのが当たり前だった。

 しかし、それは珠雫の前では意味を成さない。

 何故なら、珠雫が魔力制御の達人だからだ。

 

 珠雫の真骨頂はなんと言っても高度な魔力制御だ。超純水であるならば、雷をも通さない。ただし、超純水を精製し続けるというのは極めて困難だ。脳が焼ききる程の魔力を維持し続けなければならないからだ。

 だが、珠雫はそれが出来る。

 珠雫にとって雷は弱点ではないのだ。

 

 その魔力制御を活かし、それを戦いに用いるのは当たり前だ。

 真琴とクロスレンジの特訓をしていたのは弱点をカバーするため。いくら魔力制御があっても、相手に接近されあっという間に近距離を制圧されてしまっては無意味。それを強化するための特訓だったのだ。

 

 しかし、真琴との修業をしてはいたが、雷切の前では無に等しい。

 

 練磨が違うから。

 経験が違うから。

 

 その差は数ヶ月程度の短期間では埋まらない。

 

 もし、珠雫が天才で、刀華が才能に驕っていたとするならば、勝てる可能性はあっただろう。

 

 だが、それはない。

 あるはずがない。

 

 刀華は自分の才能に驕る人間ではないから。

 高みを目指して努力をし続ける人間だから。

 そんな人間に勝つには、もはやバグの様なモノでもなければ勝つことは難しい。それか、相手の努力を超える、努力しかないのかもしれない。

 

 そして、その中盤。

 珠雫がクロスレンジを怠っていたツケがとうとうやって来た。

 

 珠雫が数多のロングレンジで弾幕を刀華に浴びせていた。

 巨大な氷塊、氷の雨、水の弾丸、様々な伐刀絶技を駆使し、応戦していた。

 

 相手の刀華はというとそれに対しては、応えるように雷で応戦。

 

 序盤こそ互角のように見えたが、時間が経つにつれ、刀華がその力を示していった。

 刀華は強力な雷を出し続けるだけでいい。

 水の弱点は雷なのだから。

 それなら、容易いこと。

 しかし、珠雫はそうはいかない。

 超純水は超純水の高濃度を維持し続けなければ雷を通してしまう。だから、スピードに差が出始めて来たのだ。

 

 徐々に圧倒されていく、珠雫。

 しかし、珠雫も負けるばかりではなかった。

 

 ロングレンジでの読みやその深さでカバーし、何とか戦いを維持していた。

 

 そして・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかも、会長に初めての傷を負わせるとはな」

 

 

 

 この言葉通り、刀華が今大会初の被弾を珠雫から受けた。

 

 

 珠雫がスピードで圧倒され続け、クロスレンジに移行され始めたころだった。

 刀華が接近の手段として❮抜き足❯という技を使用した。

 抜き足とは・・・、古武術の歩法と呼吸の合わせ技で成り立つ体術のこと。

 抜き足を用いることで、術者の存在を相手の無意識に滑り込ませ、認識を阻害させる技のことだ。

 これを使用出来るのは、熟練の武術家のみだ。

 

 刀華は抜き足の使い手である、南郷寅次郎に師事している。教え子である刀華も使用出来るのだ。

 

 これを用いて珠雫に近付き、一閃、その太刀を振るった。

 最初こそ珠雫は驚き、戸惑いを隠せなかった。だが、それは直ぐに消え去る事となる。

 

 何故なら、それは初見では無いからだ。

 

 真琴との修業で脅威的なスピードには見慣れ始め、未熟だった観察眼が鍛えられたのだ。結果、珠雫はカウンターを捩じ込む事に成功したのだ。

 

 刀華の一太刀を水で編んだ分身で躱した。しかし、それは刀華には当然読まれていた。何せ、❮閃理眼❯がある。

 これは刀華自らの電磁を用いて、相手の脳が発する微弱な伝達信号を感じとり、相手の心理を読み取る技。

 強力な眼で攻撃を躱し、攻撃を浴びせた。

 だが、それすら相手を深く読んだ珠雫は、地面からの氷の槍を刀華にぶつけたのだ!

 

 意表を突かれた刀華は完璧に躱す事が出来ず、太股に傷を負ってしまった。それが珠雫の必死の抵抗だった。もし、真琴との修業を受けていなければ負わせられなかった傷。刀華に大して一矢報いたのだ。

 だが、珠雫も躱すと同時に攻撃の魔力制御をしていたからだろう、完璧に回避できず右の二の腕に一つの切り傷を受けていた。

 

 両者、同時の被弾ではあったが、傷は珠雫の方が大きかった。

 だが、会場は盛り上がり、初の刀華の被弾に実況にも熱が入る。

 ここからどう展開するのか、ワクワクと期待が一気に会場を包み込んだ。

 

 

 珠雫の伐刀絶技❮白夜結界❯でラストスパートにかける。ステージが霧に包まれ、会場の多くの生徒達は戦闘を視認出来なかった。真琴のような優れた武術家であるならば、把握は出来ただろう。霧の中で何が起きてどうなったか、理解できただろう。

 

 

 しかし、珠雫の善戦虚しく、結果は敗北。刀華の勝利で幕は閉じたのだ。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観戦を終え、自室で何やら真琴が携帯を取り出した。何処かに電話を掛けているようだ。

 

 

「もしもし、俺様だ」

 

 電話口から偉そうな声が聞こえる。

 

「もしもし、真琴ですけど総督ですか?」

 

「ああ、真琴かぁ。何だ、俺様は今年のファンタで忙しいんだが?」

 

「分かってますよ、だからこの時間に電話したんですから」

 

「そうか、いつもは書類やら会議やらで忙しいからな」

 

「政治家ですものね」

 

 電話口に話すこの男の名前は新島春男。

 兼一の苦難を共にした、もう一人の立役者、それがこの男、新島春男だ。

 真琴の師匠である兼一の悪友で何かと役に立つ出来る男。ただし、その顔は宇宙人と悪魔を掛け合わせたような顔つきだ。

 そして今は政治家で日本の国内に進出している新白連合財閥の総督である。

 真琴の幼少期、弟子入りしてからちょくちょく梁山泊でもお世話になった人物で、真琴は師匠ほど新島のことを嫌ってはいない。頼りになるなぁ程度ではあるが。

 何故、真琴がこの人物に電話をしたのかというと・・・。

 

「総督、ちょっと調べて欲しい人がいるんですけど・・・」

 

「何だ?お前と兼一には借りがあるからな、聞いてやる」

 

「ありがとうございます。赤座守という男なんですけど、調べて貰えますかね?」

 

 赤座守。先日、合宿襲撃事件を企てたとされる犯人である。しかし、その確証はない。一輝から話を聞いて真琴なりに分析した結果、その答えに行き着いただけだ。だからこそ、確信づくために調べるのだ。

 今後の生活に影響を及ぼす可能性もない訳じゃない。もし仮に、この男がまたこのような事件を起こすのなら、一輝達には防ぐ手段がない。今のうちに、調査、対策を打っていれば、何かと対応出来るだろう。そのための依頼だった。

 

「赤座守、聞いたことのある名前だな。待ってろ、俺様が贔屓にしている探偵事務所がある。そこに頼むとしよう、連絡も直接そこから来るように手配してやる」

 

「助かります」

 

「結果が出た次第、真琴に連絡が行くだろう。期待して待っていろよ」

 

「はい、宜しくお願いします。赤座守・・・。俺の大事な友人に手を出したことを後悔しろ」

 




いかがでしたか?
楽しんでいただけたでしょうか?

刀華と珠雫の対戦はまるまるカットか悩みましたが、このような形にしました。


御意見、御感想、質問誤字脱字があれば、御遠慮なくメッセージなどで御送り下さい!Twitterもやっております。メッセージなどはこちらでも構いません。@Kouga_115634です。お待ちしております。


次回更新予定日は2月25日~26日の17時00分~21時00分とさせていただきます!


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BATTLE.57 これから・・・

「珠雫、負けちゃったわね」

 

 珠雫VS刀華の対戦後の廊下でのステラの一言。

 そう、黒鉄珠雫は負けた。雷切に切って落とされたのだ。

 

「・・・ああ」

 

 真琴の返しは、いつもより遅く感じられた。 

 何故なら、真琴は少なからずこの対戦に責任を感じているのだ。

 

 四六時中、朝から晩まで、暇がある度に、珠雫に稽古を付けていた。

 珠雫はもはや、❮弟子❯と言っても過言ではなかった。そう、真琴の生まれて初めての❮弟子❯だ。

 いつも、教えられる側だった。

 梁山泊で・・・。

 兼一に、美羽に、長老に、逆鬼に、秋雨に、アパチャイに、剣聖に、しぐれ、鼠の闘忠丸でさえ、真琴は教えられた。

 武術から、何から何まで全てだ。

 弟子というカテゴリーから抜け出せずに居た、真琴。

 ここに来て、漸く、漸く、師匠という立場にたどり着いた。

 

 と言っても、真琴の強さは未だ妙手。師匠としての道も、武術の道も、始まったばかりなのだ。

 

 ただ、弟子が負ければ師匠の流派に傷が付く。これは今の真琴にも言えること。

 真琴は顔には出さない、しかし、その心の中には『後悔』が巣くっていた。

 珠雫を完璧に鍛え上げられなかった、自分への責務。それが、真琴の中で渦巻いていたのだ。

 

「・・・真琴」

 

 真琴の方へ振り向く一輝。

 

「有難う。あそこまで珠雫が戦えたのは真琴のお陰だ」

 

 突然のお礼の言葉。

 しかし、真琴にとっては嬉しいような謝りたいような、そんな感情が心の中で交互に顔を出していた。

  

「いや、礼を言われるほどじゃない。俺の方は謝りたいさ、珠雫を完璧に鍛え上げられなかった。すまない」

 

「いや、それは違うよ。珠雫は真琴とよく訓練をしていたみたいだけど、もし、珠雫が真琴の稽古を受けていなければ、東堂さんに一矢報いることも出来なかったはずだ」

 

「イッキ・・・」

 

「珠雫・・・強く・・・強く、なったんだな・・・」

 

 

 その青年の言葉は兄なりの誉め言葉だった。

 この事を妹である珠雫は知らない。

 今はカプセルにて治療中のはずだからだ。

 

 立ち上がってくれることを祈るのみだ。一輝達の舞台まで・・・。

 

 何故なら、闘いでは順調に勝ち上がった者が大敗することで、永遠に負けてしまうという事例が多くある。

 珠雫がそうならないよう、祈ることしか一輝達には出来なかった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 それから、数時間のこと。

 辺りの暗く、月光の淡い光が窓から治療中の部屋を照らしている。

 まるで、その体を労うように・・・。

 

 珠雫もその一人。

 破軍学園がもつ、自分の病室にて治療中だ。

 そこには誰もいない。

 珠雫、ただ独りだ。

 

「(私は今まで何をやっていたの・・・?彼処まで鍛練したというのに、まだ足りないの?私の、お兄様への愛はこんなモノだというの!?)」

 

 珠雫の中にあったのは後悔と自分自身への怒りだった。

 

 他人に、真琴にも手解きを受けたというのに敗北。応えることも出来なかった。

 負けてからずっと独りで考えている。他人の助力は今は要らない。

 仕合で必要なモノは結局のところ、今までの技の鍛練と信念しかない。仕合で戦うのは他人じゃなく自分なのだから。

 

 黒鉄珠雫という人間だけだ。

 これは近衛真琴も、黒鉄一輝も、ステラ・ヴァーミリオンも一緒。

 

 だからこそ、鍛練が必要で、自分の弱点を消せる手段が必要だ。

 そのことをあれからずぅっと考えていた。

 

 この思考は夜遅くまで続いた。

 自分の弱点を克服するなにか。

 それを見つける。

 自分自身を護れるのは結局のところ、自分だけ。

 そのことを自覚した上で、クロスレンジに対する“答え”を見付けなければ・・・。

 

 少女が見つめ直しをしているころ、その師匠といえる人物は自分の部屋でなにやら、電話をしているようだ。パソコンを開き何か作業をしている。

 

 

 

「ってことだ・・・。ソイツが黒とみて間違いないようだぜ?」

 

「そうですか・・・。ありがとうございます、ロキさん」

 

「これが俺の仕事だからな。アイツからの依頼じゃなければ、断ってたところだ。最近、忙しいからな」

 

「もう、有名な探偵事務所ですもんね」

 

「お陰さまでな」

 

 今、真琴が話している人物は元ラグナレクのメンバーにして、第四拳豪として知られるロキ、本名鷹目京一である。今から数十年程前、兼一と新島率いる新白連合と何度も死闘を繰り広げていた、ラグナレクという不良グループに所属していた人物だ。

 兼一達の手によってラグナレクが解散し、ロキこと鷹目京一は探偵事務所を開業し探偵としての一歩を踏み出した。

 

 今でこそ、有名な探偵事務所であるが、開業したての頃は依頼者が一人も現れず廃業寸前まで追い込まれた。

 しかし、新島春男という人物が探偵仕事を回してくれたお陰で今の状態へ発展することが出来たのである。

 

 新島繋がりでロキとは度々、会っていた真琴。

 稽古を付けて貰ったり、兼一の意向で仕事を手伝ったりもしていた。『裏社会科見学』と称して様々な現場に行かされている。時には危険なことも・・・。

 

 そんなこんなでこの二人は仲良くなり、ある程度親交もあるのだ。

 

「情報提供ありがとうございました」

 

「いいって事だ。そうだ、真琴、梁山泊を辞めてこっちに就職したっていいんだぞ?」

 

「いつも言ってますけどそのつもりは有りませんよ。梁山泊が帰る場所ですから・・・、それに父さんとの夢がまだ叶ってませんし」

 

「そうか。こっちはいつでも席を空けとくから、気が向いたら連絡するしてくれ。じゃあな」

 

「はい、失礼します」

 

 ブツ・・・。

 と、電話音が切れる。

 

「さて、準備は整った。あとは機会を待つだけだ」

 

 そっと、パソコンに差してあったUSBメモリを抜きとった。

 

 

 

 こうして、夜は更けていく・・・。 

 人間の思惑が蠢きながら、人間(ブレイザー)の技の進歩が進みながら、それを知らない人間も居ながら、夜は朝へと進んで行く。

 時間は有限だ。

 人間一人一人に与えられた時間は二十四時間のみ。

 それを有効的に使えるのかどうかに未来は掛かっている。

 

 それは真琴も一輝もステラ、珠雫だってそうだ。

 時はあっという間に進む。

 高校生なら尚更だ。何もしなければ、ソイツの未来は暗い夜棘道になるだけだ。

 

 どう進むかは人間次第。

 どう、努力するかも人間次第。

 人間が前へ進むために必要なのはとにもかくにも、『努力』が必要不可欠なのだから・・・。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「生徒会へ呼び出し?私達が?」

 

「うん。そうみたいだよ」

 

「何かしらね?」

 

「さぁ?とりあえず行ってみないことには・・・」

 

 放課後、一輝とステラの二人は生徒会室へ向かっている。

 先日、合宿掃除を手伝ったのが切っ掛けなのか、またこの二人に白羽の矢が立ったのだ。

 

 トントンッと扉にノックする、一輝。

 

「失礼します」

 

「どうぞ~」

 

「一年の黒鉄一輝です」

「同じく、一年のステラ・ヴァーミリオンです」

 

「お、さっきぶりだなぁ」

 

 扉を開けると、そこにはよく知っている人物がゲームをしながら待っていた。

 

「マ、マコト!?アンタも呼ばれたの?」

 

「まぁな」

 

「んじゃ、役者も揃ったところだし、話を始めますか」

 

 御祓泡沫がここを仕切り、話を繰り出した。




いかがでしたか?
少し短かったですが、楽しんでいただけたでしょうか?



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BATTLE.58 施設にて

「真琴君だけだと足りなそうなんだ、力を貸してくれるかな?」

 

 生徒会室でうたさんに説明を受けた俺達は、後日、貴徳原財閥が運営する児童養護施設を訪れることになった。

 ここはその名の通り、身寄りのない子供達やある事情で親元に居られない子供等を親代わりに預かり、育てる場所だ。

 俺が預けられた施設も貴徳原財閥が運営する場所だった。と言っても俺は長く在籍しては居なかったが・・・。三ヶ月くらいだったか?そこにいた期間は短かったが、それでも温かな場所だったのは記憶している。

 

 子供達の遊んでいる風景を見ながら、そんなことを思い返していた。

 俺の子供時代はとても短く濃いものだった。何せ、俺と父と母との家族の時間は、たった八年間しかない。これだけの時間しか共に過ごせなかった・・・。

 当時の俺は無力で、親がいないと何も出来ない存在だったし、大人に、父さんと母さんに稽古をつけて貰ってたけど、全然勝てなかったし・・・。

 とある事件のせいで俺は家族を奪われた。昔はその事件を恨んだ。

 

 何故、俺の家族が死ななくちゃいけない・・・。

 当時の俺はずっと、父さんと母さんの名前を口ずさんでいたような気がする・・・。まるで、壊れた機械のようにずっと口ずさんでいた。

 

 けど、恨んでたって俺の大切な家族は戻っては来ない。人は神様じゃないから・・・。辛い現実を受け入れなければ前には進めない。

 自分のレールが大雪で猛吹雪で道が進めないのなら、足掻いてでも、道具を使ってでも、ただひたすらに進むしか方法はない。

 その長く苦しい雪道のレールがあるのなら、走るための武器が、今の俺にはある。

 

 それが梁山泊で学んだモノ。

 父から託された伐刀者としての能力と夢。

 母から受け継いだ空手と武術。

 

 これがあるから俺が前に進める。

 光の道を歩いて行ける。

 修羅道へ落ちずにここに居られる。

 

 だから、この道の邪魔をする奴は絶対に許さないし、向かって来たらぶちのめす!

 それがどんなにお偉いさんだろうがなんだろうが、俺が気に入ったこの場所を無くさせたりなんて、絶対にさせない。

 

   

 ◇◆◇◆◇ 

 

 

 

 

 

 子供達の楽しく騒ぐ声が響き渡っている。その遊び相手はどうやら、ステラや雷先輩や恋々先輩のようだった。

 ステラと子供達のレベルが近く感じるのは俺だけか?

 まぁいい。

 俺は俺の仕事をしよう。

 

 ステラ以外の面子は料理を担当だ。

 

 俺が野菜切り。

 一輝やうたさんも同じ。

 刀華が色々指示だしたりしながら進めている。

 子供達の人数も多いこともあって、材料は多目に用意している。切るのはその分、大変だけど。それほど苦ではない。

 料理は幼いころからやっているし、料理自体好きなからだ。最近は料理をする回数が昔より増えた気がする。

 増えた要因はたった一つ、俺のスイーツを食べる人が増えたからなのだが・・・。主に、アリスや珠雫、ステラなんかが該当する。

 

 まぁいい。 

 俺らが今、取り掛かっている料理はカレーライスだ。

 子供達に大人気の料理。

 大人でもカレーを嫌いな人など滅多にいるものではないだろう。

 今回の味付けは甘口だ。

 子供達には中辛や辛口だとどうしても食べにくい。甘口の方が受けがいい。昔の俺もそうだったし。

 

 カレーで最も重要なのはなんと言っても『具』だ。俺はこう思っている。

 と言ってもここからは俺個人の見解だ。ルーという人もいるだろうし、スパイスだという人も・・・。

 

 今回のカレー料理、振る舞う相手は子供達だ。

 その子供達の栄養も考えて、沢山食べられる具を重要だと・・・。

 カレーを作ると寄ってたかって子供達は野菜が嫌いだと作り手に申し立ててくる。これがカレーを作る時のテンプレだ。

 だが、野菜を取らなきゃ体が壊れてしまう。

 けれども、カレーならいくら野菜嫌いな子供でも大丈夫。それがカレーなのだ。

 カレーの味で大体は誤魔化せるからだ。今回はオーソドックスな市販のルーを使ったカレーを作っていく。

 

 まぁ、そろそろ材料の下処理が完了するが。

 

 

「まこ君、終わった?」

 

「粗方、ですかね」

 

「んじゃあっちお願い」

 

「了解です」

 

 二人が必要最低限の言葉のみで動いていく。まるで、熟年の夫婦が料理をしているかのように・・・。

 

「真琴、東堂さんと通じあってるかのようだ」

 

「ふふっ、二人が料理するといつもこんな感じだよ」

 

 生徒会副会長の御祓さんが得意気に呟いた。

 

「そうなんですか?」

 

「うん、真琴君のお菓子をご馳走させて貰う時とか、一緒になって作ってるよ。その時の刀華の楽しい顔といったらぁ・・・」

 

「こら!うた君!」

 

 東堂さんの叱責が御祓さんへ向けられた。

 

「ごめんごめん」

 

「全く・・・」

 

 あ、そういえば・・・。

 

「東堂さん、先日は有難うございました。珠雫が仕合で胸をお借りしたみたいで」

 

「い、いえいえ!こちらこそ。とても強かったですよ、妹さん」

 

「刀華に一撃喰らわせるなんてねぇ~!」

 

「あれには僕も驚きました」

 

「ええ、妹さんが被弾覚悟で攻撃するとは読みきれませんでした」

 

 自分の甘さを認める東堂さん。

 

「仕合で使用していた東堂さんの伐刀絶技ですが、僭越ながら・・・。眼鏡を外した方が精度を上げられるのでは?」

 

「ええ、その通りです」

 

「刀華以外に戦闘中眼鏡を外す人っているのかな?」

 

 御祓さんの唐突な質問に野菜を切り終えた真琴がこう答えた。

 

「居ますよ。俺の知り合いに眼鏡を外した方が強い武術家がいますから」

 

「ええ!?ホントに居るの?」

 

「いますよ」

 

「因みにその人の名前は?」

  

「朝宮龍斗です」

 

 朝宮龍斗?

 その名前・・・何処かで聞いたことのあるのような・・・。

 

「ちょっと待って、朝宮龍斗(あさみやりゅうと)って確か最近、テレビに出てなかった?可愛い女優さんとドラマやったとかで・・・」

 

 御祓さんが真琴に詰め寄る。御祓さんの真ん前で仕事をしている真琴。

 

「その女優さんって小頃音(こころね)リミって名前ですか?」

 

「確かそうだったと思うよ」

 

 東堂さんがそう補足した。

 

「なら、そうですよ。そのドラマは〝二つの顔〟ってやつですよね?」

 

「そうそう!不況の中ヒットを叩き出した作品で、普段はOLに身を包んだ主人公が実は日本の裏社会で動くエージェント!相手のエージェントとガッチガチの戦闘やOLでの厳しい現実と闘う、アクションとコメディを完璧に両立させた名作だよ!」

 

「うた君、詳しいね・・・」

 

「毎週観てるもん」

 

「そのドラマで主人公の会社とスパイの上司役、朝宮龍斗って人、僕の師匠の親友なので」

 

「えええええええ!?ホントに!?」

 

 それを聞いた御祓さんがいの一番に飛び付き驚いている。

 ずっと一緒にいた僕でさえ、それは知らない・・・。真琴の人脈は侮れないな・・・。

 

「んじゃ、今度会うときはサイン貰ってきてよ!」

 

「別にそれくらいだったら良いですよ」

 

「ってちょっと待って、朝宮さんってもしかして本物の武術家なの?」

 

 この話の流れでは普通に抱く疑問だ。それを東堂さんが真琴に投げ掛ける。

 

「ええ、龍斗さんは眼鏡をしてますけど、全力を出す相手の時は外しますよ。外すのは刀華さんと同じ理由でね」

 

「私と同じ」

 

「その人って伐刀者・・・じゃないよね?」

 

「まさか兼一さんと同じ、特A級の達人級?」

 

「そうだ。龍斗さんも達人級だ」

 

 その発言に思わず、この場に居合わせた全員が息を呑んだ。

 

「どおりで強いわけだよ」

 

「まこ君は戦った事はあるの?」

 

「何度か手合わせをさせて貰いました。けど勝ったことは数回しかないですよ」

 

「達人級に勝ったの・・・?」

 

「勘違いしないでください。勝ったって言っても組手の範疇ですし、もし本気で仕合ったら為す術なく敗北ですから」

 

「それにしたって凄いと思うけど」

 

「ありがとよ。とりあえず、話はこれくらいにして仕上げに入りましょう?」

 

 そう、真琴が僕達を促した。

 

 真琴にはいつも驚かされるけど、まさか芸能人と知り合いとは・・・真琴の、いや・・・。兼一さんを含め、梁山泊は恐ろしいところだ・・・。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 ふぅ・・・。

 これで一段落かな・・・。

 

 私達のカレーが漸く仕上がった。

 あとは時間が経つのを待つだけ。

 料理してた木のベンチへ私が座ると・・・。

 

「お疲れ様、刀華さん」

 

 優しげな声で話し掛けきたのは彼だ。いつも真っ直ぐに人のために動く人。

 最近、その彼と私は両想いになった。

 

 きっかけの日からそれほど時間は経っていないけれど、充実した毎日を送っている。今日もこうして私の、私達生徒会の手伝いをしてくれている。

 

「二人っきりだから呼び捨てでいいんだよ?」

 

「誰かに聞かれちゃいますし」

 

「私は気にしないけど?」

 

「刀華さんは気にしなくても、俺が気にするんです。部屋とかならまだしも、ここではね」

 

 彼は頬を手で掻きながらそう言った。彼が頬を掻くときは決まって照れている時だ。

 私と二人っきりの時によくやっている癖だ。

 

「そう?まこ君がそうならいいけど」

 

「カレー、上手く出来ましたね」

 

「うん。黒鉄君やまこ君のお陰で早く出来たよ、ありがとうね」

 

「別に構いませんよ、これくらいなら。俺に出来ることなら何でも言ってください」

 

「うん。頼りにしてるよ」

 

 そう、隣に座る彼に自然と体を預けた。彼は何も言わず私を受け止めてくれた。

 

「ねぇ、まこ君の将来の夢って日本一の伐刀者になること、なんだよね?」

 

「はい」

 

「それを叶えたら、あとはどうするの?」

 

「あまり考えてないです。梁山泊に戻るかも知れませんし、このまま世界一を取るかもしれませんし、その時になったら考えます」

 

「そっかぁ・・・。もし、もし、だよ?私が・・・」

 

 そう言おうとした時、お昼を知らせる鐘が鳴った。

 

 それと同時に子供達もわらわらとやって来た。

 私と彼の時間は、お昼ご飯の時間に変わっていった。




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BATTLE.59 赤座守

 施設の行事は滞りなく進んだ。

 一輝とうたさんが何か話していた様だが、俺は刀華の手伝いでそれどころではない。まぁ何か言われても一輝なら平気だろ。

 そう言えば、ここは俺の預けれた施設ではないが、子供達はわりと好きだ。ここの子供達は特に。

 

 俺の顔には消えない傷がある。

 多くの子供達、いや、多くの人が俺の顔を見た瞬間にしり込みして警戒してしまう。

 何処に行ってもそうだった。破軍学園でも同じく簡単に近寄ってはこなかった。

 けど、この子達はそうじゃない。こんな俺をあっさり受け入れてくれた。自分達に何があったのか、それを理解しているからなのか、それは分からないけど、子供達から気に入られてるってのは分かる。

 それが俺にはこの上なく嬉しかった。

 

 こんな俺をあっさり受け入れてくれたのは刀華やうたさん、生徒会の皆さん、一輝達、そして、梁山泊の皆だった。

 

 俺にとってこの人達と過ごす時間が何よりの幸せだ。

 だから今の破軍が心地いい。ずっとこんな幸せが続くと良い・・・そう、思っている。

 

 

 施設では子供達の笑い声、笑顔が絶え間なく続いている。どうやら具沢山カレーは成功のようだった。

 一輝達も美味しそうに食べてくれているし、施設を任されている園長さんも喜んでくれている。

 

 どうやら〝大成功〟と言っていいみたいだな。

 

 

 それからは何事もなく終了。

 破軍へ帰宅する準備を始めた。

 

 ふと、携帯を見ると誰からかメールが来ている。

 

 その差出人の名は鷹目京一だった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 やたら広い一室。

 そこに、デスクに一人佇む男性がいる。

 顔を見るに四十代くらいだろうか?

 ほうれい線に皺もあり、年相応と言ったところだ。

 その男のデスクには多彩な機能を持つビジネスフォンが置いてある。サラリーマンとして重要な役割を持つのが電話だ。これ無しでは仕事が上手く回らない事だろう。

 どうやらその男のビジネスフォンには液晶画面も搭載されている。小さいのを気にしなければTVのニュースなども見られそうだ。

 

 その広い部屋に一本のコール音が小さくも響き、広がっていった。

 

 佇む男性は電話を取る。

 

 

「はい、黒鉄です」

 

「お久し振り、新島春男だ」

 

 偉そうに語るこの男は新島春男。

 新白連合財閥総督、現内閣で防衛大臣を担当している男である。

 何故この新島春男と皺のある四十代の男性が知り合いかというと、国際魔導騎士連盟に総理大臣などが仕事で入り、そこで新島にも度々会っていた。

 

「防衛大臣が何のようですか?」

 

「用って訳でも無いんだがな、あんたの部下についてだ」

 

「部下?」

 

 部下と聞いて黒鉄の眉がピクッと動いた。

 

「・・・部下が何か?」

 

「その間、あんた、大体察しはついてるだろ?」

 

「・・・」

 

「その沈黙は肯定を意味してるぜ?」

 

「というか防衛大臣と“あの件”でなんの関係があるというのですか?」

 

「俺様は直接関係無いんだがな、俺の知り合いがあんたのお子さんと同じ学校に通っていてな、そいつに頼まれたのさ」

 

「私の?珠雫のことですか?」

 

「あんたのお嬢さんじゃなく、ご子息の方さ」

 

「・・・・・・・・・一輝ですか」

 

 その口は重く、ゆっくりとその名前を発した。何か重い枷でもかかっているかの様に・・・。

 

「で、私に何をしろと・・・?」

 

「話が早くて助かるぜ。いやなに、簡単な事だ」

 

「?」

 

「あんたのご子息と面会して欲しい」

 

「!?、それは・・・」

 

「いけないのか?まずい訳じゃないよなぁ?ご子息こと黒鉄一輝君は落ちこぼれと言われながら、落第騎士として知られている。だが、それを払拭するかのように、代表戦では連戦連勝、父親として嬉しい限りのことじゃないか?褒めてやればいい、そうだろ?」

 

「・・・・・・一輝は」

 

「あの青年を問題なく高校生活と中学生活を送れたのはあんたが陰ながら支援をしていたからだろ?」

 

「貴方、何処まで・・・」

 

 黒鉄が止めるも、新島の口は止まらない。 

 

「だがしかし、少し問題が発生した。その青年は来日を果たしたヴァーミリオン皇国の御嬢さんと関係を持ったと噂が流れた。今は記者なんかそれで持ちきりだ、破軍学園側は対応に追われている」

 

「・・・・・・・・・」

 

 黒鉄はまたも沈黙する。

 

「あの青年を国際魔導騎士連盟に呼び出して腹割って話して欲しい、ってことさ」

 

「・・・何を言っても引き下がるつもりはないのですね」

 

「俺様はな。真偽を確かめるって意味も含めていい提案だと思うが?」

 

「前向きに考えて置きましょう・・・」

 

「そうしてくれると助かる、ではまたな、黒鉄厳殿」

 

 ブツッと電話が切られた。

 

「はぁ・・・面倒な事になったものだ・・・」

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 時間が進み、辺りは夕陽が顔を出す頃となった。

 

 

 俺達はバスで施設まで向かっていた。破軍近くのバス停で降りる。すると、珠雫やらアリス、加々美達が俺達の元へ駆け寄ってきた。

 

「せんぱーい!大変ですよぉ~!」

 

「ん?どうしたの加々美さん」

 

「何かあったの?」

 

「今、記者の方々が破軍に押し寄せてて」

 

「え?」「どうして・・・」

 

 遂に、来たか・・・。

 思ったより早かったな。

 前もってコピーしておいて正解だな。

 

「こんな記事が・・・」

 

 加々美から渡された記事には、一輝とステラが不純異性交遊を街中でしている写真が掲載されていた。

 端から見た第三者として言わせて貰うが、二人は決してそんなことはしていない。健全なお付き合いをしている。

 二人が付き合ってから間も無く、一輝から直接報告された。身近で信頼する人物には話しておこうということらしい。

 その他の記事には黒鉄一輝は授業態度が最悪など、明らか捏造が見受けられる箇所が幾つもあった。

 

 こうして、真琴達が話していると、高級そうな黒塗りの車が停車した。その車から一人のふくよかな男性が降りてきたのだ。

 

 

「おやおやおやぁ、ここに居たんですかぁ。黒鉄君」

 

「あ、貴方は・・・!」

 

「イッキ、誰よこいつ」  

 

「この人は国際魔導騎士連盟、倫理委員会の赤座守。お父様の腰巾着よ」

 

 一輝の代わりに珠雫が答えた。

 しかし、その表情は憎悪に満ちたいた。

 

「黒鉄一輝君、その記事を見てるって事は大体察してるとは思いますがぁ、ご同行願えるかなぁ?事を荒らげたくはないでしょう?」

 

「っ・・・わかり、「ちょっと待ってくれます?」」

 

 真琴が割って入ってきた。 

 

「何かね、もう一人の落ちこぼれ君」

 

 赤座のその目は一輝を見る目と同様、見下し、蔑みを含んだ目だ。その眼を持って、真琴を見つめる。

 

「一輝の側にいる人間なら誰しもが分かることだが、一輝はこんな人間じゃない」

 

 周囲にいるステラや珠雫達がそれに頷く。

 

「それに、ここにあんたが改竄した証拠があるって言ったら?」

 

 真琴が自らのズボンのポケットからUSBメモリを取り出した。

 

「何ぃ!?」

 

 すると、見計らったように赤座の携帯電話のコール音が路上に鳴り響いた。

 

「今度は一体、何ですか!?え?今すぐ戻れって・・・私に改竄した疑いがある!?わ、分かりました、今すぐに・・・」

 

「マコト、あんた何したのよ・・・」

 

「ぐっ・・・落ちこぼれのガキ風情がァ・・・!一体何をした!」

 

「さぁ?早く行った方が良いんじゃないですか?」

 

「この借りは何れ!失礼する!」

 

 逆上しながら、赤座が車に戻ると急ぎで元来た道へ引き返していった。

 

「これで、一件落着だな」

 

 俺が一息付こうとする。が、そうは問屋が卸さない

 

「真琴さん・・・」

 

 最初に口を開いたのは珠雫だった。

 

「幾らなんでも手際良すぎですよ?読んでたんですか?」

 

「お前の想像に任せるよ」

 

「まさか、本当に改竄データがそのUSBに?」

「マコト、どんなマジックを使ったのよ!」

 

 と、ステラや加賀美が続いて押し迫ってきた。

 

「まぁまぁ落ち着けって・・・」

 

「「「簡単に落ち着けませんって!」」」

 

「僕も同じ気持ちだよ。真琴、どういうことかな?」

 

「ざっくり言うと、コネだ!」

 

「「「ざっくりし過ぎよ(です)!!」」」

 

「詳しく説明しなさいよ!」

 

「説明は長くなるから、明日な。んじゃ!」

 

「「「ええええ!?」」」「あ、ちょっと真琴!」

 

「行っちゃたわね・・・」

 

「本当に何者なんですか、あの人は・・・」

 

「コネって言ってたけど、そんなに広いの?マコトの人脈って」

 

「流石の僕も、真琴の詳しい人脈は知らないけど、あの兼一さんを師匠に持つ人だからね。兼一さん側の知り合いで有名な探偵とかでも居たのかもしれないね」

 

「だからって仕事早すぎません?」

 

「まぁまぁ、真琴の言ってた通り明日を待ちましょ?」

 

「え、ええ。そうね」

 

 一輝達の中に真琴の謎が一つ増えたところで、本日は解散となった。

 




ここから原作とは、ほんの少し違う話になっていきます。
ですが、大まかなストーリーは変わりませんのでご心配なく。オリジナル展開が挟みますが、宜しくお願い致します。

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次回更新予定日は未定です。
更新日が決まり次第、Twitterや活動報告にて書かせて頂きます。では失礼致します。


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BATTLE.60 親子の会合

 当事者である一輝とステラ、俺は理事長室に呼び出しを受けていた。

 呼び出しの理由は赤座の一件だ。

 有らぬ噂を立てられたことと、ステラとの不純異性交遊。その事実の確認をするべく。

 

 

 

 しかも、早朝七時に破軍学園理事長室へ来いとのメールのお達し。

 本来ならば、昨日に説明すべきなのだろうが、理事長が所用で学園におらず、報告が出来なかった。そのための朝早くの登校なんだな。

 あと、他の生徒達に見られたくないってもあるか。

 七時なら、誰も学園には居ないだろうしな。教師ならともかくとして。

 

 まぁ、修業で早起きには慣れてるから別に良いけどな。

 朝四時はないですよ、師匠・・・。

 

 あぁ・・・理事長室遠いなぁ・・・。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 程なくして、理事長室へ到着した。

 

 俺、一輝、ステラ、一同が理事長室に集った。

 

 

「あ、真琴」

 

「おう、おはよう。お二人さん」

 

「マコト!昨日の説明、してもらうわよ!」

 

 俺に人差し指で差しながら、発言するステラ。

 昨日、赤座と俺との一件の説明をせず、逃げるように去ってしまった。

 

「分かってるって!ちょっと待っとけ」

 

「分かったわ、昨日みたいに逃げないでね!」

 

「はいはい」

 

 

 俺が扉を開けると、そこには新宮寺黒乃理事長が笑顔で待っていた。

 理事長、その笑顔は怖いですよ・・・。

 

「事情は一応、把握している。だが真実かどうかお前達の口から直接聞きたい、いいな?」

 

「はい」

 

 真っ先に一輝が口を開いた。

 

「取り合えず、事実確認だ。お前達は本当に付き合ってるのか?」

 

「はい、確かに僕達は恋人同士ではありますが、健全なお付き合いをさせて頂いてます」

 

「記事のことは出任せです!こんなことを一輝がしないのは理事長先生だって分かるでしょう!?」

 

「そうだが、一応な。それじゃ路チューなんかはしていないんだな?」

 

 タバコに火をつけながら、質問を投げ掛けた。

 

「はい、やっていません」

 

「・・・教師とは生徒を信じるものだ。信じすぎるのも駄目だが、お前、いやヴァーミリオンと黒鉄は嘘は言ってない。その濁りの無い目を信じるとしよう」

 

 その答えに安堵の表情を見せる一輝とステラだった。

 

「あの、他の生徒達にも僕達の噂が知れ渡っているのでは?」

 

 当然の疑問だな。

 

「そうですよ。昨日、学園記事も記載されてたし・・・」

 

「その点については大丈夫だ。連盟が手を回したのか、そのお陰かなのは分からないが、一応事態は落ち着いている。生徒達も単なる噂としか認識していない、時期に収まるだろう」

 

「なら、安心ですね」

 

「だが・・・」

 

 理事長の言葉の表情が変わる。

 手を組むと、その口を開いた。

 

「近衛、お前に聞きたいことがある」

 

「はい」

 

「お前は赤座とかいう男に何かしたのか?昨日、夜遅くだったが連盟から連絡があったぞ。明日、黒鉄一輝と近衛真琴は本部へ来るようにと」

 

「えっ」「イッキとマコトが?」

 

「まぁそうでしょうね」

 

「知っていたのか」

 

「はい、その質問は来るだろうと予想出来ましたから。昨日の説明も兼ねて今から話しますよ。

 実は俺の師匠の知り合いに有名な探偵が居まして・・・」

 

「探偵?」

 

「へぇ」

 

「お前にそんな知り合いが居たとはな、差し支えなければ教えてくれるか?」

 

「はい、良いですよ。〝ロキ探偵事務所〟です。もう各都道府県に事務所があるので聞いたことがあるかも知れませんが」

 

 その名を聞いてから黒乃理事長は納得の表情で、一輝は名前だけはっていう感じ。ステラは・・・ま、知らねぇよな。

 

「それで、そのロキ探偵事務所ってなによ」

 

「知らないステラに簡単に説明すると、ロキという男性が切り盛りしてる事務所で様々な依頼をこなす探偵さんだ。各、都道府県毎にロキさんが配置され社長を勤めている」

 

「ええ!?各所に一人づつってロキって人、影武者でも雇ってるの?」

 

「そうだよ。しかも全員そっくりだ」

 

「ええ・・・」

 

「それで、何故お前はその、ロキ探偵事務所に依頼を?」

 

 厳密に言うとロキさんじゃなく、新島総督なんだが・・・今それを言うと混乱するだけだな・・・。

 訂正せず、このまま行くか。

 

「前に合宿を生徒会の面々と俺達で掃除をしたの覚えてます?」

 

 黒乃理事長が頷きで返す。

 

「そこで、ゴーレム達に一輝とステラが襲撃に遭いまして、それを企てそうな人物は誰かって一輝に聞いたら、一人だけ候補がいると・・・。その犯人らしき人物の名が赤座守だと。それでその確認のために、赤座守をロキさんに頼んで調べて貰ったってわけです」

 

「それで、お前と黒鉄が呼ばれたってことか」

 

「そうなりますね」

 

「私は行かなくてもいいんでしょうか」

 

「ヴァーミリオンは大丈夫だ、行かなくていい。先に事情聴取ということで黒鉄と赤座の件の確認で近衛が指名されている。二人とも国際魔導騎士連盟日本支部長、黒鉄厳にな」

 

 黒鉄・・・。

 一輝の親父さんか。

 

「父さんに・・・」

 

「えっ・・・父さん?」

 

「そういうことだ。これから黒鉄と近衛の二人には連盟へ行ってもらう。学園の方は私の方で公欠扱いにするよう、手配しておく」

 

「ありがとうございます」

 

「宜しくお願いします、黒乃理事長」

 

「任せろ」

 

 一礼をして俺達は理事長を出た。

 

 タバコで一服する黒乃。

 ふと、ふかしながら天井を見上げながら、こう溢した。

 

「行ったか・・・。黒鉄、今一度、父親と向き合ってこい」

 

 その小さな声援はゆっくりと天井へ消えていった。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 時刻は午前八時。

 東京、国際魔導騎士連盟日本支部。

 俺達の目の前に、要塞のようなビルの姿が広がっている。

 

 

「いよいよだな」

 

「・・・うん」

 

「緊張してんのか?」

 

「そうだね。久し振りに父さんと会うことになるし」

 

 一輝の声は寂しさと怒ったようなそんな顔を覗かせていた。

 

「無理するなよ?俺がついてる、一人じゃねぇんだ、心配すんな」 

 

「ああ、行こう」

 

 ゆっくりと俺達は前へ進んだ。

 久し振りの父親との再会。

 行かなきゃ始まらない。

 取り合えず、前だ。

 

 俺達は受付を済ませ、待合室で待つこと数十分。

 スタッフの方だろうか、その人が日本支部長が居る部屋まで案内してくれた。

 その階には周りに部屋がなく、日本支部長の部屋のみが設置してある。

 

 トントンとノックする一輝。

 

「「失礼します」」

 

「入れ」

 

 扉に手を掛ける一輝だが、そのドアノブは重く、開けることが出来ない。

 何の変哲もないドアノブなのだが、余程緊張しているのだろう。

 そばに居る俺までプレッシャーに押し潰されそうになってくる。

 

「大丈夫だ」

 

 一人じゃない。

 俺が居る。

 お前の背中は、俺が押してやる!

 

 片方のドアノブに手を掛ける。

 

「ありがとう、真琴」

 

 その重い扉は真琴の助力で漸く開いた。

 窓際の近くまで何もないただの広々として部屋。

 デスク以外、何一つない。

 質素な部屋。

 

 ずっと居ると逆に気が滅入ってしまいそうだ。

 

 コツコツと俺達は進み、デスク前へと到着した。

 

  

「初めまして、黒鉄厳さん。近衛真琴と言います。息子さんにはお世話になっています」

 

「ああ、宜しく。息子と仲良くしてくれてありがとうと言っておこう」

 

 真琴と会話しても、その厳つい表情は変わらない。

 

 

「お久し振りです、父さん」

 

「ああ、一輝。代表戦勝ち進んでるそうだな」

 

 この男こそが黒鉄一輝の父、黒鉄厳だ。

 

 

「は、はい!」

 

 一輝、嬉しそうな声だな。

 俺が二人の会話を待っていると・・・。

 

「あ、お前っ!近衛真琴!お前、お前のせいで!私のっ・・・!」

 

 赤座が突っ掛かってきた。

 居たんだな。

 何か隈っぽいのが目にあるけど・・・。

 

 

「あ、赤座さんでしたっけ。居たんですね、気が付きませんでした」

 

「なにを偉そうにっ・・・!お前のせいで!私の計画がメチャクチャだ!」

 

 唾を吐きながら俺に向かって罵詈雑言をあれやこれやと言ってくる。あんまりこんなことを思いたくないけど、その姿は醜い豚のようだ。

 

「・・・あーだこうだ言ってますけど、何?メチャクチャ?それは貴方の自業自得ではないのですか?態々改竄なんかに手を染めなければ、こんな事にはならなかった、そうでしょう?」

 

「ぐぬぬ・・・」

 

「近衛君、私の部下が言うには君のせいだと言っているが?何か弁明は?」

 

「弁明も何も俺は降りかかる火の粉を振り払っただけです。黒鉄支部長も既にご存じかも知れませんが、俺達が合宿場を掃除した際に、とあるゴーレム軍団に襲撃を受けました。俺が狙われる理由はないですし、そこに居合わせた生徒会の面々達もそうです。もし、あるとすればステラか一輝のみです。そのあと二人に話を聞いて、一輝から疑わしい人物が上がったので、信じたくはありませんでしたが、一応知り合いに頼んで調べて貰ったってだけですよ」

 

「ふむ・・・」

 

「そしたら、証拠が出た。赤座さんが黒だった、そういう事です」

 

「そうか、事情は把握した。私の部下がすまなかったな」

 

「いえ、黒鉄支部長が謝ることじゃありませんから」

 

「では、次に一輝、お前だ」

 

 そう、口にした瞬間に、実の父親とは思えない目線が一輝を襲った。

 




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次回更新予定日は4月4日~5日の17時00分~21時00分とさせていただきます!


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BATTLE.61 嵐の前兆

「では、次に一輝、お前だ」

 

 冷たい視線が一輝へ迫る。

 氷山の吹雪に似た冷たい冷たい視線だ。

 

「と、父さん」

 

「お前はヴァーミリオン皇国の姫、ステラ殿下と恋人関係だとの報告だが、そうなのか?」

 

「はい。事実です」

 

「まさか、ヴァーミリオン皇国のご令嬢とな・・・」

 

「僕は、彼女を愛していますし、彼女も愛してくれています。・・・覚悟は決めています」

 

「ほう・・・」

 

 一輝が真っ直ぐな目で黒鉄さんを見つめている。

 まぁ、普段からのイチャイチャ振りを見れば、そんなの分かりきってることなんだが。

 

 あのイチャイチャ振りはバカップル一歩手前と言わざるを得んな・・・。

 一輝とステラの二人。

 誰かが見ている分には問題なく普通に振る舞っているのだが、一度離れてから様子を見ると・・・。

 ところ構わずキスとかはしてないけど、手握ったり、腕組んだり・・・って感じにイチャイチャしている。

 っと脱線したな。

 さて、何を言われるのやら。

 

「お前みたいな、落第騎士が!天才騎士と釣り合うわけないだろう!?付き合ってるのもステラ殿下の戯れだっ!」

 

 と、ここで茶々を入れる、赤座守。

 いわゆる野次だ。

 ま、どうでもいいな。言葉はわりぃけど。

 

「今、お前は要らん。黙っていろ」

 

「っ・・・はい」

 

 おっ、黙った。上司の言葉には弱いのか、コイツ。

 腰巾着なだけはあるな!

 

 

「・・・さて、話を戻そうか・・・。一輝、覚悟と言ったか。前までただの子供だったお前が、言うようになったな」

 

 黒鉄の親としての意見だろう。

 その言葉通り、俺達は年齢的にはまだ子供だ。世間も、闇が蔓延る現代社会も知らない、ただの餓鬼だ。

 黒鉄さんにとって、一輝の言葉は生意気な子供の反発声としか聴こえていないんだろうな。恐らくだけど。

 

 

「・・・と、父さん!確かに前まで子供で、戦うことも出来ない、ちっぽけな存在だったと思います。けど、今は違う!好きな人が出来て、大事な(真琴)が出来た!信頼出来る仲間だって・・・。それに今、破軍で剣術を教えてるんだ、ここにいる真琴と一緒に!だから、だからもし、僕が剣武祭で優勝したら、僕を認めて、認めてくれませんか!?」

 

 言い切ったな、一輝。

 黒鉄さんの反応は?

 

「・・・成る程。お前は自分が弱いから教えてもらえないと、見てもらえないと、そう思っていたのか」

 

 おっ?

 一輝がその言葉に明るい表情を見せた。望んでた答えが来るか?

 

「だが、才能の無い人間に技術を教え込んだところで、教える側(・・・・)にも教えられる側(・・・・・・)にも〝無益〟だ」

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・は?今、何て言った?

 

「・・・む、無益?」

 

「そうだ。無益で済むのならまだいいだろう。しかし、中途半端な力を身に付け、中途半端な結果しか生まない。・・・お前では無理だ。・・・だから、家に戻れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その父さんの言葉に、僕の世界が止まった。

 一瞬にして世界が暗闇に覆われ、蕀の鎖が僕を縛り付けた。

 

 また、彼処()に戻るのか?

 嫌だ。

 それは、嫌だ!

 けれど、僕が拒否をしても、蕀は止まらない。押し寄せてくる。

 腕に、足に、首に、蕀が絡み付いてくる。

 痛い、痛い、痛い!

 

 誰か、誰か、僕を助けてくれ・・・。

 この呪縛から、僕を解き放ってくれ!

 もう、見向きされなくなるのは嫌だ・・・。

 

 

 

 

 

 

 パァン!

 手が背中を叩く音がした。

 誰だ?僕の背中を叩いたのは?

 誰だ?僕を助けてくれるのは?

 

「大丈夫だ、一輝。俺がいるのを忘れるな」

 

 あっ・・・。この声は・・・。

 

「俺と七星剣武祭で戦え」

 

 そうだ。僕は約束したんだ。

 

「俺の大事な親友を馬鹿にするなあああああ!!!!」

 

 そうだ。彼は僕を助けてくれたんだ。

 

「まぁな、しかも早朝4時にやってたな」

 

「その手があったね! 僕もやってみるかな?」

 

「お前正気か!? いやリミッター外して戦う男にそんな事は無粋だな」

 

 そうだ。彼と一緒に訓練を続けたんだ・・・。

 こうやって、父さんに会う日までずっと・・・。

 

「・・・真琴」

 

「言ったろ?俺が側にいるってよ」

 

「・・・そうだったね、有難う」

 

「いいさ、別に。それより・・・黒鉄さん、ちょっといいですか?」

 

「・・・何かな?近衛君」

 

「国際連盟の日本支部長だか知りませんけど、言わせてもらいます。貴方、実の息子になんでそんな言葉を掛けるんですか!?」

 

「・・・なんだと?」

 

「父親というのは子供にとってヒーローでなくてはいけないんです。道に迷っているなら、目一杯背中を押してやる。息子が困ってるなら、助けてやる。落ち込んでるなら、全力で励ます。それが父親ってもんでしょう!?」

 

 真琴・・・。

 その真琴の言葉には何故か、ずっしりとした重味を僕は感じた。

 

「それを何ですか、才能の無い人間に教える価値はないから無益?それは違う!〝師は弟子を育て、弟子は師を育てる〟武術は、剣術は!そういうものじゃないんですか!?」

 

 

 真琴の振り絞った声がこの広い一室に、轟いた。

 赤座さんはびくつき、父さんは沈黙でそれを聴いていた。けど、父さんは何処か、寂しそうなそんな気がした。

 

 

 

 

 

  

 

「・・・君の言いたいことは分かった」

 

「黒鉄さん!?良いんですか!?こんなガキの言い分なんて聞かなくても・・・!」

  

 赤座さんの申し分に父さんは・・・。

  

「元々、お前が蒔いた種なのだ。上司である私が部下の不始末をつけるのは当然だろう」

 

「・・・」

 

 苛立ちと目線を僕達の方へ向け、赤座さんが身を引いた。

 

「近衛君、君の所属は?その言葉から察するにどこかで武術でも学んでそうだが」

 

「梁山泊、俺は梁山泊の弟子二号。貴方なら梁山泊は知っているでしょう?」

 

「り、梁山泊・・・。活人拳の猛者達が集う場所か、どうりでな(新島さんの知り合いな訳だ。まさか、梁山泊の身内が伐刀者になるとは・・・)」

 

「はい、そこで俺は育てられました。だからこそはっきり、言えます。貴方は間違っています、黒鉄家当主としては正しいのかも知れませんが、父親としては間違ってます」

 

「・・・そうかもしれんな」

 

「言いたいことも言ったので、あと俺達に聞くことはありますか?」

 

「いや、無い」

 

「なら、俺達は帰ります。行くぞ、一輝」

 

「ちょっと、待って」

 

「どうかしたか?」

 

「父さん、一つ提案があります」

     

 

 

 

 

 

 

  

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

「一輝、本当にあれで良かったのか?」

 

 ここは、国際魔導騎士連盟日本支部前。用事が完了し、帰宅途中の俺と一輝。

 帰り支度のいつもの世間話だ。

 

「うん。あれは僕が元々望んでいたことだから」

 

「だからってな、無茶な提案にも程があるだろ・・・」

 

「無茶も承知さ。けど納得させるにはこの手しか思い付かなかったんだ」

 

「だろうな、特に赤座ってやろうにはな。ともあれ無事に帰れるんだ、早く行こうぜ」

 

「ああ」

 

「んじゃ、帰り道は走っていくか、トレーニングがてら」

 

「良いね!どっちが速く着くかの競争と行こうよ!負けたら夕飯奢りで」

 

「乗った!レディー、ゴー!」

 

 

 短いようで長い、事情聴取が終了した。

 一人の青年の承認欲求。親に認められたいっていう些細な気持ち。

 もう一人の青年の救世主的欲求。他者を助けたい、友を救いたいという確固たる意志。

 それがここに渦巻き、一つの嵐を生んだのだった。

 

 

 

 




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BATTLE.62 決戦前夜

こんにちは、紅河です。

ついに、ここまで来ました。決勝戦です。
 
何故、本来の一輝の仕合をカットしたのかは、後書きに書きます。

では今回もお楽しみ下さると嬉しいです。


 あの事件から数日が過ぎた。

 代表選抜戦も順調に進み、残すとこあと一仕合と迫っていた。俺としては、もう最後かって感じだが。少し寂しい気もするな。

 

 四月から始まった代表戦、なんかあっという間だ。

 俺、一輝やステラ、アリスと共に問題なく勝ち進んでいる。

 

 学園ではクライマックス感が漂っているのか、程よい緊張感が俺達を包み込んでいる。

 

  

 一輝の捏造事件でステラとの噂がながれ、クラスメイトや学園の生徒達が詰め寄ってくるかと思ってはいたが、それほど来ることはなかった。

 

 

 昨日、黒乃理事長の言ってた通りか。連盟が手を回してくれたんだな。流石、黒鉄さんってところか?仕事が早い。

 

 そのお陰か、普段通りの学園生活を送れている。

 周囲の人達は最後の仕上げとばかりに、昼休みや放課後に模擬戦を行う伐刀者があとを立たない。

 次が不安なんだろう。

 あと少しで代表になれるかもしれないのだから。

 

 

 俺はというと、机に突っ伏しながら、そいつらを見ていた。

 っと、携帯の着信音が鳴った。なんとそれは連盟からの次の対戦相手の知らせだった。

 

 対戦相手か。

 どんな奴だろうな?

 メールの続きを見ようとするたびに高揚感が熔岩のように少し、また少しと沸き上がってきた。

 これは武術家の性だ。どうも仕合となると胸が高鳴って仕方がない。

 が、これまでまともに戦ったのは第六回戦、❮鋼鉄人❯こと剛鐵寺先輩のみだ。

 ま、一回戦目の中川も戦ったってのは間違いなんだが・・・。あの時は小手調べ程度だったからな。そのお陰か剛鐵寺先輩以降の仕合、気当たりのみで問題なかった。

 

 

 ここの人達は人を蔑むばかりで、自分自身を諦め、努力もせずダラダラ学生生活を謳歌するばかり。気当たりが効いたのは実践経験のない学生であったり、生半可の生徒がほとんどだったからだ。

 

 ただの学生ならそれでいいのかもしれない。

 でも俺達はあくまで伐刀者だ。

 鍛練しなければ、例え、能力を持つ伐刀者であってもただの人に落ち着いてしまう。

 そして、伐刀者には命を張る戦いってのが付いて回る。

 それはつまり、死を覚悟するってことだ。

 だから、この七星剣武祭の代表選抜戦では実践形式なんだ。実践がどれ程危険かそれを学生達に理解させるために。

 

 殺意が埋めく戦場で一度戦いが始まってしまえば、一瞬の油断で命を落とす。

 もし、仮にここの人達が戦場で生き抜いたとしよう。しかし、本物の殺意、殺気に当てられ敗北してしまえば、もう立ち上がることは出来ない。

 

 ただ生きるだけならば問題はない。

 生きるだけならな。

 しかし、本物の戦いとは恐ろしいのだ。ただ、生き残っても、その武術家、伐刀者の心にはトラウマが芽生えることになる。そうなれば、もう二度と戦いに身を投じることは出来なくなる。

 ここには子供が多すぎる。

 だから、俺にはそれがほんの少し、心配だ。早めに鍛練しておけばいいものを・・・。

 俺には師匠がいたし、実践経験も積んでる。

 けど、俺が師匠と会わず学生のままであっても自分を磨く努力は怠らなかっただろう。そうしないと、夢には到底届かないから。

 

 人の進化には努力が不可欠。

 それが世の理だ。

 

 さて、気になる俺の相手は・・・っと。

 ってマジかよ。

 よりにもよってあの人か・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのメールには破軍学園、序列第二位 貴徳原カナタの名が記載されていた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまで!お疲れさん」

 

「あ、ありがとうございました・・・」

 

 はぁ・・・はぁ・・・しんどい・・・。やっぱり、この人の稽古だけは一向に慣れないわ・・・。

 私が息を切らしながら、床に横たわる。

 私は今、第三訓練場にて、真琴さんの手ほどきを受けていた。

 

 明日で最後の仕合だというのに、私に稽古をつけてくれている。

 自分の訓練もしたいでしょうに、真琴さんをそうさせているのは、自分の力に揺るぎない自信があるからなのか、はたまた優しいからなのか、それはきっと両方なのでしょうね。

 

「す、すみません。最後までお世話になってしまって・・・」

 

「別にいいさ。俺だってお前のロングレンジに助かってるからな」

 

「助かる?」

 

 

 ああ、なるほど。そういうこと。

 

 

「だから、ここ数日の稽古では模擬戦形式だったんですね」

 

「そうだ。一応、ロングレンジやアウトレンジの相手の経験はあるが、少しばかり不安が無いわけじゃないからな、相手が相手だし」

 

「貴徳原カナタさんでしたね」

 

「・・・ああ」

 

 真琴さんの顔が一瞬、険しい表情へ移り変わった。

 それほどの相手ということ?

 序列第二位は伊達ではないってことね。

 

「そんなに強いのですか?」

 

 私が近くのドリンクに手を伸ばしながら聞くと・・・。

 

 

「・・・俺が本気を出すくらいには」

  

 と、答えた。

 

「真琴さんの本気、ついに見られるんですね」

 

「出さざるを得ないって感じだ。本当は見せたくはないんだけどな」

 

「手の内が知られるから?」

 

「そう」

 

「これまで、ほとんどの仕合を気当たりで乗り気った人が、それを言います?」

  

「使える手を最大限使ったまでだ」

   

「ふふっ、明日の仕合、楽しみにしておきます」

 

 そろそろ、立たないと・・・。

 

「ほらよ」

 

 すると、真琴さんが私に手を差し伸べる。

 

「ありがとうございます」

 

 その厚意に甘えさせて貰いましょう。

 

「それじゃ、今日は解散。また、明日な」

 

「ハイ、お疲れ様でした」

 

 私が別れの言葉を話すと、真琴さんは出口の方へ向かっていく。

 

「真琴さん!」

 

「ん?何だ?」

 

 私の声に気付いた彼が振り向く。

 

「私、信じてますから」

 

 昔の私だったら絶対に言わなかった言葉。他人を応援する言葉を・・・。

 

「代表の座を勝ち取るとこ、私に見せて下さいね」

 

 彼は少しばかり驚いたような表情を見せると。

 

「おう!」

 

 私に、笑って答えてくれた。

 

 

 

 

 

「珠雫、お疲れ様」

 

 物影から聞き馴染みの声が聞こえた。私のルームメイトの声だ。

 

「アリス」

 

「真琴、明日仕合なのにガッツリ模擬戦しちゃっていいのかしら?」

 

「あの人の体力は化物クラスだもの、アリスが気にすることないわ、それに」

 

「それに?」

 

「私との戦いで息切れすらしないのよ?」

 

「模擬戦中ずっと?」

 

「そう」

 

「何戦やったの?」

 

「十試合くらいだったと思うわ」

 

 きっと、彼女も驚いたのね。その話を聞いていたアリスの目が真ん丸に変化していたわ。

 

「はぁ・・・流石ってところね。一輝と真琴には驚かされてばかりだわ」

 

「ええ」

 

 それには私も同意する。

 

「それじゃ、終わったなら帰りましょ」

 

「アリスも明日、頑張ってね」

 

「任せて!」

 

 彼女はウィンクで私に返してくれた。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 時刻は午後六時を回った。

 俺はというと、刀華の部屋に来ている。

 仕合前の最後の夜くらい、好きなとこで過ごしたいからだ。

 

「明日で最後だな」

 

「うん」

 

 お互い、ソファーに座ってるだけなのに、妙に緊張している。己の心臓は高鳴るのを止めなかった。 

 

 

「楽しみか?」

 

「もちろん」

 

 会話は必要最低限だ。

 恋人として、もっと会話をしたいところだけど、それどころではない。 

 その放った声には刀華の期待が嫌と言うほど練り込んであった。

 

 それほど、最後の相手が楽しみで仕方ないようだ。

 

「まこ君の相手はカナちゃんでしょ?」

 

「ああ」

 

「・・・ねぇ、まこ君」

 

 彼女が俺の方へ身体を向けた。

 

「ん?なんだ?」

 

 俺も向き直る。

 

「二人で最後の最後まで行こうね」

 

「・・・ああ」

 

「約束だよ?」

 

「約束だ」

 

 彼女が小指を差し出す。

 指切りげんまんだ。

 断る理由もない、俺も小指を差し出した。

 

「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!」」

 

 刀華とは初めての指切り。

 俺の中では複雑な思いが交錯していた。ライバルとも約束があるからだった。

 煮え切らないまま、指切りを終えた。

 

 

 

 帰るころには辺りは暗くなり、時刻は午後八時だ。  

 夕飯を食べ終えたり、様々なお宅でお風呂の準備が進んでいるころ。俺は携帯電話を取りだし、ある場所へ電話を掛けた。

 

 

「もしもし、真琴です」

 

「もしもし、風林寺です」

 

 声の主は真琴の師匠、白浜兼一だった。

 

「あれ、師匠が出るんですね。てっきりアパチャイさんかと」

 

「アパチャイさんは明日の準備に取りかかってるよ。久し振りに真琴に会うからって張り切ってる」

 

「旅行でもないのに?」

 

「ああ。よっぽどお前との再会が嬉しいんだよ」

 

「弟子としては嬉しいですね。明日は全員で来るんですよね?」 

 

「勿論!当たり前じゃないか!可愛い弟子の舞台なんだ、応援に行くに決まってるだろ?」

 

「これは、恥ずかしいとこ見せられないな・・・」

 

「真琴なら平気さ、信じてるぞ」

 

「・・・はい」

 

 師匠からの期待。

 俺が敗北することになれば、師匠達、各流派の泥を塗ることになる。

 それでも師匠は俺を信じ、送り出してくれた。

 

 その期待に応えなきゃ弟子として、失格だ。

 

「遅刻しないで来てくださいよ?」

 

「任せろ。早めに梁山泊を出ることにするから」

 

「なら、安心ですね。それじゃ・・・」

 

「もう、いいのか?」

 

「はい。少し不安だったんですけど、師匠の声を聞いたら気分が晴れました」

 

「そっか。じゃ、明日学園でな」

 

「はい、お休みなさい」

 

「おやすみ」

 

 師匠との電話を切る。

 ふと、目を閉じ、明日へのプランを立てていく。 

 最後の相手は貴徳原カナタさん。校内位階序列、第二位。絶対に油断は出来ない。

 切り札は惜しまず使う。

 師匠から授かった、技の数々。

 自分で編み出した技も、全部。

 明日にぶつける!!!

 何がなんでも、俺が、勝利をもぎ取ってやる!!

 

 

 ❮落第の拳❯近衛真琴VS❮紅の淑女❯貴徳原カナタ。

 目に見えない伐刀絶技、星屑の剣を持つ強敵。真琴はどう対処するのか・・・。

 

 対する、❮雷切❯東堂刀華の相手は❮落第騎士❯と皆に蔑まれ、疎まれた伐刀者、真琴の元ルームメイトにして親友である、黒鉄一輝。

 

 

 

 お互い、負けられない戦いの火蓋が切られることとなる。

 

 

 

 





楽しんで頂けたでしょうか?

本来の落第騎士のストーリーであれば、一輝が連盟に捕まり、そこで仕合を行います。ですが、前回一輝が連盟へ赴いたことと、自らの提案で捕まるのを阻止。本来に従うのであれば一輝の仕合をやるべきでしょうが、これ以上の蛇足は要らないと判断しカット。
これからの展開に真琴の仕合を一つ挟む予定でしたが、これもカットし、このような展開にしました。

まぁ、本音を言うとグダグダ長くするより、終わらせた方がいいかなと思ったからです。このような展開になってしまい、申し訳ございません。


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BATTLE.63 ❮皇帝の拳❯〝近衛真琴〟VS❮紅の淑女❯〝貴徳原カナタ〟前編

こんにちは、紅河です。


二週間以上お待たせしてすみません!!!
漸く仕上がりました!!




 季節も夏に近づいてきたからか、辺りの気温が徐々に高くなってきた気がする今日この頃。

 俺は今朝のトレーニングを早々に済ませ、仕合会場へ向かう。トレーニングつっても、イメージトレーニングだ。これからのシミュレーション、プランを自分の中で組み立てていく。

 しかし、最後の最後で、強敵にぶち当たるとはな。

 まぁ、これまで温かったし、最後の仕合としては申し分ないか。

 

 

 時刻は進み、仕合時間までもう少しと迫っていた。ステラや他の伐刀者の仕合は既に始まろうとしている。

 俺の仕合は一輝の直前。同じ会場で行われる。ステラやアリスの仕合は観れそうにないか。会場、別だしな。ま、二人なら問題ないだろ。

 

 少し、空気でも吸ってくるか。

 

 控え室を後にし、外へと向かう。

 行くのは近くのバルコニーだ。

 いつもならこういう場所には行かないんだが、今日ばっかりはな。

 

 学園の人間達も続々と仕合会場へ入っていく。

 仕合時間が近いからか、俺に寄ってくる生徒は少ない。会場へ赴き、席を確保しに行ってるのだろう。

 

 そうこうしてる内に、目的地のバルコニーへ到着した。

 と、俺以外に誰かいるな。

 あの後ろ姿は・・・。

 

「よっ」

 

 俺はそいつの肩を軽く叩いた。

 

「あ、真琴」

 

 そいつは元ルームメイトの一輝だった。

 

「何してんだよ、こんなところで」

 

「空気を吸いにね」

 

「なんだ、一輝もか」

 

「てことは、真琴も?」

 

「ああ」

 

 奇しくも、同じ目的だった。

 

「まさか、カナタさんが相手だとはな」

 

「対戦したことはないのかい?」 

 

「あるにはあるが・・・。ガッツリやってたわけじゃない。殆どの仕合時間を刀華さんに取られてたからな」

 

 刀華がいつも負けたらもう一戦、もう一戦ってな感じで繰り返し戦うせいなんだよな。

 ま、悔しいから何度も挑んじまう俺も、か。

 

「東堂さんか・・・」

 

 今日はえらく思い詰めた表情してんなぁ、一輝。

 

「自分で望んだくせに、そんな表情すんのな」

 

「うぐっ」

 

「刀華さんは強えぇぞ」

 

「そんな事は痛いほど分かってるさ。自分が相手より数段劣ってることも」

 

 一輝は言葉を続けた。

 

「真琴や東堂さんのように守るべきモノがある。兼一さんも大切な家族がいる。けど僕には・・・」

 

 中々人には見せない弱音だった。

 俺はその一輝の言葉を黙って聞いていた。

 

 なぁに、言ってんだ。

 お前が居たから、俺は退屈せず学園生活を送れた。いや、これからも送れるの間違いだな。

 いいか、一輝。

 お前の道は、一輝の英雄譚は、これからなんだ。

 未来永劫、後世に語られるんだ。

 

 一人の男として。

 一人の伐刀者として。

 一人の剣術家として。

 

 だから、自信を持て!

 俺が太鼓判を押してやる!

  

「俺は悲しいぜ。そんな弱気でどうする!お前に守るべきモノがない?それは嘘だ」

 

「え?」

 

 真琴が僕の肩をがっしりと掴む。

 

「いいか?お前の側には誰がいる?」

 

 あっ・・・。

 

 

「一輝の周りには誰がいるよ?一輝の事が、一輝が大事な、大切な存在だから、お前に人が集まって来たんだろ!?お前がここに居る人間に影響を与えたんだ!お前が人を変えたんだ!これは誰にも出来る訳じゃない。昔の何も出来ない一輝じゃ成し得ないことを、今のお前はやってのけたんだ!そうだろ?」

 

 

 そうだ。

 昔の僕じゃない。

 僕が僕自身を諦めないと誓ったんだ。

 偉大なあの人に追い付く為に!

 自分の夢を叶える為に!

 

「そうだね。忘れるところだった。有難う、真琴」

 

「もう、言葉は要らないな?」

 

「ああ。雑念は捨てる。僕は全身全霊を懸けて東堂さんと戦いたい!

 

 

 僕は・・・あの誇り高い騎士に勝ちたいだけなんだ!」

 

 

 

 

 

 やっと、一輝らしい目に戻ったな。

 全く、手間かけさせる親友だぜ。

 

 

「それじゃ、時間も時間だ。行こうぜ?」

 

「ああ、これが、最後の戦いだ!」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は各々の控え室に戻った。

 もう間もなく、仕合のゴングが轟く。

 最後の仕上げ。 

 瞑想だ。

 仕合前に必ず行うようにしている。

 最も、空手家だった母が現役時代必ずやってて、それを真似してるだけなんだが。ま、所謂、ルーティーンって奴だ。

 俺、静の気を有してるし。結構、相性は良い。

 

 

 さて、アナウンスも鳴ったことだし行くか!

 

 

 すると、控え室のドアが開きそこには刀華の姿が現れた。

 運命なのか、はたまた偶然なのか、刀華と俺は同じ控え室に指定されていた。

 

「刀華」

 

「まこ君・・・いってらっしゃい」

 

「ああ、行ってくる!」

 

 たったそれだけを交わし、俺は会場へと歩を進めた。

 

 

 会場中が熱気の渦に飲み込まれている。

 学園の生徒がこの仕合を、楽しみで、楽しみで仕方無いのだ。

 会場の席は満杯。

 学園の生徒達で埋め尽くされていた。

 その会場へ向かう、一つの集団があった。そして、傍らには黒乃理事長の姿もある。

 

「まさか、梁山泊全員が出動とは、いやはや驚きましたよ」

 

「可愛い弟子の仕合ですからね、観ないわけにはいかないですよ」

 

 言葉を交わしているのは、真琴の師匠である白浜兼一と黒乃理事長だった。

 

 その後ろに妻の美羽、風林寺隼人、岬越寺秋雨、梁山泊のそうそうたる面子が揃っている。

 

「でも、僕達がご一緒しても良いんですか?関係者席なのでしょう?」

 

「構いませんよ。他の席は生徒達で埋まってしまってますし、空いてるのはここだけですから」

 

「今回はご厚意に甘えておきましょう」

 

「そうですね。黒乃理事長、有難うございます」

 

「いえいえ」

 

 黒乃に案内され、会場入りする梁山泊。

 入った瞬間、周囲の生徒達の目が此方へ向いた。

 

「おい、見ろよ、あの一団」「誰の関係者だ?にしてもでけぇ爺さんだな」「一緒にいる女性達もやべぇぞ。美人過ぎるだろ」「終わったら声掛けてみようかな」「やめとけ、傷顔の男もいることだし。殺されるぞきっと」

 

 と、周囲は梁山泊で持ちきりだ。

 それに構わず、席へと着く梁山泊の面々。

 すると、着く前に一人の老人と浴衣を着込んだ一人の女性の姿も見受けられた。

 

「この気は隼人、お主か」

 

 背は小さく、頭が綺麗に禿げている老人。この人物こそ、刀華と寧々の師であり、風林寺隼人の戦友、南郷寅次郎その人である。

 無敵超人との逸話は、また別の機会とさせていただく。なぜこの老人がここに来ているかというと、弟子である刀華の応援だ。

 

「おお、先日ぶりじゃのう、寅次郎。そこにおるのは寧々君のようじゃな」

 

「あ!風林寺のじっちゃん!なんでここに!?」

 

「弟子の応援じゃよ」

 

「弟子?ああ、まこっちか」

 

「その下駄・・・。若い頃の寅次郎にそっくりじゃのう」

 

 無敵超人の言葉に頬が膨れながら反発する。

 

「ちちちちち、違いますぅ!下駄を吐いてると便秘が良くなるってテレビでやってたんですぅ~!」

 

「良い弟子を持ったの、寅次郎」

 

「それはお互い様じゃて」

 

 南郷の目は兼一へ向けられる。

 

「あの小僧が一番弟子なんじゃろ?」

 

 美羽や黒乃と世間話をしている兼一を見ての言葉だった。

 

「ああ、そうじゃ。我らの初めての弟子じゃ」

 

 一言一言、重く発する梁山泊の長老。

 それには皆の思いが込められてるような、そんな気がした。

 

「可愛い女の子がいっぱいいるねぇ」

 

 帽子を被った髭男が手をワキワキしなが言葉を溢している。

 

「剣星、捕まる、ぞ」

 

「そんなことシナイネ!」 

 

 そんなことを言いながら、その目は泳いでいる。

 

「どうだかなぁ。身内が警察のお世話になるなんて、俺ぁ嫌だぜ?」

 

「大丈夫よ!アパチャイ達が止めるよ」

 

「そうだねぇ。そんな事にならないよう勤めねばね」

 

 梁山泊面々が盛り上がってる場所から、少し離れてるところに黒服に身を包んだちょび髭の男が座っていた。

 

 (何だ!?あの軍団は!?無敵超人とか聞こえたが、まさか、あの梁山泊なのか!?!?何故、伐刀者でもない彼奴らがここに!?私は落ちこぼれの負ける様を見に来ただけだというのに!これでは生きた心地がせんではないか!!)

 

 困惑しながら、様子を伺っている。

 

 

 赤座が一人で右往左往しているとこで、会場内に仕合を宣言するアナウンスが轟く。

 

 

「皆様!長らくお待たせ致しました!この会場での一仕合目、漸くの開始となります!今回は異例のテレビ中継も御座います。ですがこの月夜見半月、ヘリにも負けず皆様を盛り上げさせて頂きます!!では、入場していただきましょう、西ゲートから❮紅の淑女(シャルラッハフラウ)❯貴徳原カナタ選手!破軍学園位階序列二位は伊達ではない!これまでの相手を一撃で仕止め、登り詰めてきた!今回も伐刀絶技が炸裂するのかァ!?」

 

 止まぬ歓声と共に、スタスタと会場入りを果たすカナタ。

 優雅な振る舞いで数多の生徒を魅了し続けている。

 

「対するは、破軍学園では異端。無手の武術を使用し、ほぼ仕合の全てを気当たりで制した武人!近衛真琴選手の入場だァ!!その異質な技から、❮皇帝の拳❯の二つ名を名付けられました!もう❮落第の拳❯とは言わせない!ここまで勝ち上がってきたその力、見せてもらいましょう!」

 

「相変わらず、熱い実況だな」

 

 そうぼやきながら、ステージへ足を進める。

 真琴の目にはカナタしか写っていない。目の前の武人しか止められるものは居ないのだ。

 

「あ、マコトが来たよーー!」

 

「遂に我らの弟子の出番ね」

 

「真琴の野郎、相当仕上がってるな」

 

「そうだ、な。だが、対戦相手も、中々だ」

 

「若者はこうでないとのぅ」

 

「ふっ、皇帝の拳ねぇ。やはり若者は凝った名前を名付けるんだねぇ~」

 

 染々と秋雨が語る。

 

「ふふっ、懐かしいですね。あの当時(・・)を思い出します」

 

「昔は私達もやんちゃしましたですわね」

 

「そうですね。美羽さん」

 

 お互いの思い出を共有しながら、弟子を見つめる兼一。

 

 

「ほう、真琴君の相手、かなりやるようだね」

 

「あの目、死線を潜り抜けた者の目だ。若いのに大したもんだ」

 

「相手がどんな強敵でも、僕は信じています。あの子は、僕の弟子は必ずやり遂げますよ」

 

「そうだね。我らは弟子を信じて待つ。それが師匠である私達の勤めだね」

 

「兼ちゃんも師匠らしくなってきなね!」

 

 生まれて初めての可愛い弟子。弟子を信じ、その成長を見届けることこそが、師匠である兼一の勤めなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく、貴方と戦えるのですわね」

 

 自身のレイピア型の固有霊装を展開させ、構えるカナタ。

 

「いつもは時間切れだったり、予定が合わなかったりでまともに戦えませんでしたからね」

 

「ええ。貴方の強さがどれ程のものか、この身で味わうのが楽しみでしたのよ?」

 

「それは、俺も同じですよ。今日は師匠達も来てるのでね、負けるつもりはありません!!」

 

 真琴が決意を新たに自身の固有霊装の名を叫ぶ。

 空手の前羽の構えから玉鋼が、手、すねに形成され、やがて、手甲、すね当てへと変化した。

 

「貴方には気当たりは通じない。師から授かった俺の拳で貴方を打ち砕く!」

 

「ならば、私の刃で以て、その全てを切り刻みます!」

 

 

「Let's Go Ahead」

 

 両者の決意と同時に、機械音声が仕合のゴングが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 会場中の生徒達は開始と同時に戦いが始まると踏んでいたのだろう。

 しかし、両者は一向に動かない。

 出方を伺っているのだ。

 隙を見せたら一瞬にしてやられるのだ。

 

 

 (見の目を弱く、観の目を強く!)

 

 相手を見据え、制空圏を展開させる。と、同時に相手の制空圏をも把握する。

 

 でけぇな。

 流石、第二位。

 

 俺の目には数メートル程の制空圏が写っている。武器の制空圏と無手の制空圏とじゃ、広さは倍ぐらい違う。

 ロングレンジの範囲も合わせると更に広がる。

 これが伐刀者特有の制空圏だ。

 

 

 両者が拮抗している中、戦いの火蓋を切ったのはカナタの方だった。

 

「❮星屑の剣❯!」

 

「おおっと!先に動いたのは貴徳原選手だァ!自身の伐刀絶技❮星屑の剣❯を放ったようです!私達には何も見えません!」

 

 カナタの伐刀絶技、星屑の剣。

 これは自身の武器、フランチェスカを細かく砕き、ダスト状にしたもの。相手の目に視認することは出来ない。それほどのものなのだ。 

 

 目に見えないものを受ける、避けるというのは武術家でも至難の技だ。

 

 

 

 

 

 どう?返すか?

 へっ!決まってるよな。

 あれしかねぇっての!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

「・・・❮流水制空圏❯」

 

 スゥー……。

 真琴の体が一瞬、透けた。

 

 その実状に会場中がどよめいた。

 人間の体が透けて見えた。いや、透けたのだ!

 星屑の剣は無惨にも真琴の体を通り抜けてしまった。

 

 

 (私の星屑の剣を完璧に躱した!?)

 

「貴方には本気にならざるを得ません。ですから切り札を使わせて頂きます!」

 

 




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BATTLE.64 ❮皇帝の拳❯〝近衛真琴〟VS❮紅の淑女❯〝貴徳原カナタ〟中編

こんにちは、紅河です。

お待たせしてすみません!!!
ようやっと完成致しました!!



 

 カナタの真骨頂、星屑の剣を躱したことで会場中の歓声が大きく膨れ上がった。

 

「皆さん!み、観ましたでしょうか!?貴徳原選手の伐刀絶技を近衛選手は見事、回避してみせました!しかし、どうやったのでしょう?私には理解出来ませんでした・・・、西京先生が解説に居ないことが悔やまれます!!」

 

 半月の愚痴が入りつつも、実況の熱はドンドン、加速していく。

 

 

 真琴、カナタは再度構え直し、お互いを見据える。

 真琴は威圧殲滅の天地上下の構え、対するカナタはレイピア型の固有霊装、フランチェスカを前へ差し向ける。

 真琴の目は真っ直ぐとカナタの眼を見つめ、離さない。

 

 

「まさか、私の星屑の剣を躱すとは。一体、どんなからくりですか?」

 

「わざわざ教えるほど、俺はお人好しじゃないですよ」

 

 もう一度、心を静め、川の中に点在する岩のように水を後ろへ受け流す!

 

 そうだ、深く、深く心を静めろ。

 強敵だからこそ、心の中に墜ちる淵はある。

  

   

「それも、そうですわね!」

 

 発声と同時に、カナタが突進を開始する。至近距離、レイピア特有の突き攻撃だ。

 

 

 ―――突きの連打。

 一瞬たりとも緩めることなく、猛攻を続ける。

 受け手の真琴はその攻撃を後ろへ流す。ひらりひらりと身体を反らしながら。

 ボコン!

 ボコン!

 またボコン!と大きな音を立ち、その都度ステージ床が弾け飛ぶ!

 

「ラッシュ!ラッシュ!ラッシュ!貴徳原選手の猛攻撃だぁ!!」

 

 戦闘の構図に思わず、実況に力が入る。目にも止まらぬ突きの速さ、その圧倒的な回避に、誰もが驚き、息を呑んだ。

 

「おおっと!近衛選手も負けていない!先程の技?で猛攻に耐えている!いや躱し続けている!」

 

「(これはどういうこと!?吸い込まれるように彼の居ないところを突いてしまう!!?まさか!この人、私の心を読んでいるとでもいうの!?)」

 

 その瞬間、カナタに動揺が走った。

 よもや、雷切と似た能力を有しているとは思っても見なかったのだ。

 雷切の伐刀絶技の中で最も知名度の高い技が、異名の名から判る通り、❮雷切❯だ。しかし、雷切の中で❮雷切❯よりも警戒しなければならない技がある、それこそが❮閃理眼❯リバースサイトなのだ。

 

 何故なら、この技は相手の思考を読み取る事が出来る、これに尽きる。

 戦闘の最中、相手の気持ちや思考を把握出来たのなら、伐刀者にとって、いや戦に身を投じる者にとって!有利この上ない能力だと言わざるを得ないからだ。

 

 数分間、ラッシュが続く。

 伐刀者は魔力操作によって、身体能力の強化を図れる。しかし、そう長くは続かないのが現状だ。

 

 カナタは次に転じようとする、が、そう甘くはなかった。

 

 

「どんな突きの達人でも、伐刀者であっても、一度伸ばした腕は引かねば突けないのがものの道理!」

 

 

 

「しまっ・・・!(懐に!!)」

 

 

 真琴が懐に迫り、襟元に手が伸びていく!

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

「流水制空圏!?あの技は!」

 

 真琴の技を目にした瞬間、寧々が即座に立ち上がった。驚きの声と共に。

 

「・・・儂の目に狂いがなければ、あの小僧、既に気の掌握に至っておるな?」 

 

 

 優し気な老人から、全盛期を思い出す鋭き眼光が顔を出した。

 

「気に関することだけじゃ。今は(・・)、のう」

 

 無敵超人こと、風林寺隼人がそう口を添えた。

 

「末恐ろしいのぅ・・・。小僧の目の奥に、眩く熱き信念が見え隠れしておるの。ふふっこりゃ将来が楽しみじゃな、隼人」

 

「ほっほっほ・・・そうじゃな。若人を見守るのも我らの勤めじゃ」

 

 談笑をしつつ、戦いを静観する老人二人。 

   

「まこっちめ・・・。まさか気当たりだけでなく、流水制空圏すらも会得しているとは・・・」

 

「静の極みの技の一つ、流水制空圏。果たして、これのからくりを把握出来た者は何人居たかな?」

 

 流し目になりながら、生徒達に目を向けた。

 ここには破軍学園、全生徒が席に座り観戦に興じている。

 

 

「・・・ここの人達でってことなら、私は二人しか知らないねぇ」

 

 一つの真実を寧々は口にした。

 

「二人か、ま・・・妥当だな。全学園の生徒達の中で、あれに対応しつつ、打破出来る者は・・・私が知りうる限り、二桁行けば良いほうだろう。下手すると一桁かもしれん。あれはそれほどの技だ」

 

 腕を組み、真面目な顔付きで黒乃は語った。

 

「・・・ところでお前、近衛と以前会っていたのではなかったか?手合わせもしたと言ってたと記憶しているぞ?」

 

「いやぁ、あの時のまこっち、まだ子供だったしー。気の練りだけは早い子だなとは思ったけど、これ程とは思わなかったさー」 

 

「梁山泊の育成能力・・・恐るべし!」

 

 感心しつつ、再度、戦いの方へ目を向ける黒乃であった。

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 襟元へ真琴の右腕がグングン伸びてくる。

 気づいた頃には片方の腕にがっちしと捕らえられる。

 

 

「❮背負い投げ!❯」

 

 

 真琴の声と共に軽々とカナタの身体は宙に浮き上がり、瞬く間に投げられた。

 

「ま、まだまだ!」

 

 そう言うと、身体をグルンッと宙返りし、空中に留まった。それと同時にフランチェスカが徐々に削られ小さくなっていく。

 

「なっ!?(数多の星屑の剣で宙に壁を!?)」

 

「やああぁ!」

 

 その足場を武器に突きの一撃を放つ。

 

「くッ!❮白刃流し❯!」

 

 真琴は咄嗟に技を合わせようとするが、先程の技に一瞬、気を取られたからか、間に合わずお互いの肌に掠める形となった・・・。

 真琴は対応した右椀撓付近。

 カナタは右ほほに。

 

 そのまま真琴が首相撲に持っていこうとするも、惜しくも逃げられてしまった。

 

「真琴もまだまだ読みが粗い」

 

 それを観ていた兼一が一言溢した。

 

「真琴君も読んではいただろうけどね」

  

 秋雨がそう補足を挟んだ。

 

「ええ」

 

 兼一が頷きで返した。

 両者、距離を取り次の出方を窺っている。

 お互い、初の被弾。

 慎重になるのも仕方がないというもの。

 

「相変わらず、見事な剣捌きですね」

 

「それはお互い様というものですわよ。この腕、どうりで会長が苦戦するわけですわ」

 

「褒めてもなにも出ませんよ?」

 

 ん?

 よく見ると、フランチェスカがまだ削れている・・・?

 ヤ、ヤバイ!!

 

 

 パチンッ!

 カナタが指を鳴らすと、真琴の腕から血潮がタラタラと沸きだしてくる。

 

「拮抗してたかの様に見えましたが、ここで貴徳原選手、ダメージレースに一歩リードだぁ!」

 

「つゥッ!」

 

  

 カナタさんがこちらを見て笑みを浮かべている。

 いつやられた?

 攻撃は読んでいたはず・・・。

 ま、まさか・・・あの時か・・・!

 

「今更、気付いても遅いですわ!」

 

 更にもう一度、パチン!と指を鳴らす。

 するとどうだろう。

 今度は真琴の口から血が吐き出された。真琴はそのダメージに堪らず、膝をついてしまった。

 

「カハッ・・・!」

 

 カナタは両者の技を掠めた時、真琴の体内へ星屑の剣を潜り込ませていたのだ。

 

「・・・?」

 

 だが、カナタには何か、いつもの相手とは違うような感覚があった。

 そう、いつもより血潮が少ないのだ。

 普段ならば、傘が手離せなくなるくらいには出るはずの血がそれほど真琴からは出ていなかった。

 

  

「・・・・・・カナタさん。俺の身体を似非伐刀者達と一緒にしないでいただけますか?」

 

 真琴はゆらりと立ち上がる。

 まるで、生きるゾンビのように。

 

「貴方・・・あれをくらってまだ・・・」

 

「俺は、俺の身体はですねぇ、過酷な修行に耐えるよう内蔵を強靭に鍛えられてきたんです。そんな攻撃、屁でもないんですよ!」

  

 

「(あの人、この状況下で笑っている?やはり、一筋縄では行きませんですわね・・・)」

 

 カナタは再度、覚悟を決め戦闘に当たる。

 

 

 

 

 真琴はというと・・・。

 

 

 「(くそー・・・。

 師匠の受け売りで笑ってはみたものの八方手詰まりだぜ・・・)」

 

 

 ハッタリだった。

 

 

 

 「(如何に強靭つったって、限界はある。どうしたってな。早いとこケリつけねぇと、時間切れになるな・・・。身体、もってくれよ!)」

 

 真琴は傷を負いながらも、突撃を掛ける。勝利をもぎ取るその時まで、歩みを止められない。

 

「(もう来ますか!)」

 

「オラオラオラァ!」

 

 真琴は武器使い相手だというのに臆せず、拳を走らせる。

 

 カナタも負ける気は更々ない。

 

 両者の、信念に従い、死闘を繰り広げる。

 

 武術家は拳の猛攻。

 かたや、伐刀者はそれを受け、剣戟の応酬。

 お互い全力で、それぞれの武器、それぞれの技を打ち合っている!

 それはまるで、詰将棋のような陣取り合戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場の控室において。

 一輝とステラが食い入るように見つめていた。

 

「先に拮抗を破るのはどっちだ」

 

「マコト、勝ちなさいよ」

 

 声援を送りつつ、モニターにて仕合を見守る。

 

 そんなことすら頭から抜け落ち、真琴には目の前のことの情報しか入ってこない。

 一心不乱に攻防を続けている。

 一瞬足りとも油断は出来ない。

 だから、どんな手段でも使用する。

 

「(三、二、一、ここだ!)」

 

 カナタの腕を引く一瞬の隙を突き、被弾した右腕をしならせ、血を放出させた。

 その血飛沫が目元へ向かい真っ直ぐ突き進んでいった。

 

「キャア!(め、目潰し!?)」

 

 真琴の思わぬ手段で、攻撃の手を緩めてしまう。

 

「ハアァ!」

 

 それに乗じて真琴は気当たりによるフェイントで撹乱する。一時的に目も見えないこの状況下、気を取られるのも仕方がないというもの。

 

 

 

 

 

 しかし―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナタはそれを読んでか、フェイントで背後に回ろうとした真琴よりも速く、身体を向き直った。

 

 

「逃がしませんわ・・・!」

 

 カナタも真琴の動きを読んでいたのだ。背後に向かうことも。

 だから、攻撃を構え迎え撃とうとしたが、その先に真琴の姿は視認出来なかった。

 そればかりか、気配は左の方からするではないか。

 

「い、いつのまに・・・」

 

「流水制空圏、第二段階!」

 

 その言葉を口にした瞬間から、師匠である兼一の目が漏れていく。

  

「相手の流れに乗り、次に相手と一つになる」

 

 待ってましたとカナタの構えた腕を真琴は掴み取った!そして、そのまま投げの姿勢へと移行し始める!

 

「❮一本背負い!❯」

 

 先程の投げより素早く、カナタを地面へ送り付ける。

 ビターン!快音が会場へ轟いた。

    

 




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BATTLE.65 ❮皇帝の拳❯〝近衛真琴〟VS❮紅の淑女❯〝貴徳原カナタ〟後編 決着!

こんにちは、紅河です。


ここまで長かった・・・・。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
では、どうぞ。


「一本!見事な背負い投げが決まったぁ!」

 

 真琴は仰向けになったカナタを見て、一度拳を構え直す。攻撃は加えず、相手が立ち上がるかどうか、見定めている。

 

 その一撃により、会場の空気が一変する。

 

 

 誰が観ても完璧な背負い投げ。

 その瞬間、会場の人間の歓声が舞い踊った。

 

 立ち上がり歓喜する者。

 不安な表情を浮かべる者。

 険しい顔付きになる者。

 

 多種多様な顔を覗かせている。

 

「近衛先輩の一撃が入りました!」

 

 観戦していた加々美は自然とガッツポーズの姿勢をとった。

 

「でも、これで終わる伐刀者じゃないわ。相手は位階序列二位の女なのよ」

 

「そうね。真琴さん・・・」

 

 心配そうな表情を取りつつ、珠雫がステージの方へ視線を向けると―――。

 

「・・・ッ!」

 

 カッと彼女の瞼が開き、倒れていたカナタが立ち上がって、即座に突撃を繰り出した。

 

「おっと!」

 

 ヒラリと回避し、天地上下の構えに移行する。

 カナタも構え直し、此方を睨み付けている。

 

 (・・・流石に立ち上がるか)

 

「ここまで私を追い詰めたのは・・・会長以外で貴方が初めてですわ」

 

 彼女も息を切らし此方を見据えている。

 

「・・・どうも」

 

 

 

 相手を見据え、焼けるような痛みが真琴の身体中を駆け巡る。右腕からは血が滴り、左腕にもその傷が進んでいた。

 星屑の剣(ダイヤモンドダスト)によって、内蔵にもダメージが及んでいたからだ。いくら優れた内功を持っていようと、時間を掛けるほどに身体はボロボロになっていくのは必然。そうなれば真琴の勝利はない。

 満身創痍、そういっても過言ではなかったのだ。

 

 

 (これ以上の時間は掛けられねぇ!ここで勝負を決める!!)

 

 全身のバネを使い、間合いを詰める真琴。

 師匠達から授けられし武器を用いて、攻撃を仕掛けた。

 韋駄天とも錯覚する程の速さに、一瞬気を取られる。

  

 (速い!?あの傷でまだ動けるの!?まるで猛火のような人ですわね!)

 

 到底、切れのある動きはもう取れないはずである。

 それほどの攻撃を浴びせた・・・。それなのに、怯むどころか真っ直ぐ向かってくる。

 彼女は真琴の勝利に対する執念を肌で感じていた。

 

 (・・・私だって、負けられない!)

 

 彼の拳撃が降り注がれる。

 その拳は彼女の頬に掠り、腕に掠り、着飾ったドレスも攻撃が重なるごとに破れていった。

 

 彼女も負けじと隙を観て、攻撃を打ち出す。

 真琴に回避はされてしまうが、流水制空圏に徐々に慣れ始め、攻略のコツを掴み始めていた。

 破られるのは時間の問題になっていた。

            

 (俺が勝てる唯一の方法はアレ(・・)しかねぇ!)

 

 彼は何か策を思い付いたのか、拳を握り締め技の体勢に入った。

  

「ウラァ!❮網羅総拳突きィ!❯」

 

 真琴の拳から繰り出されるのは、正拳、貫手、鶴頭、平拳、掌底、手刀、一本拳、虎口などあらゆる技の猛攻。

 空手の中では拳を握り、それを打ち出すだけが技ではない。武術、空手の長い歴史には多くの拳の形が編み出されて来たのだ。

 空手には首里手と呼ばれる型があり、ざっくり言えばスピード重視の型だ。

 だが、彼が打ち出したその速さは首里手という一つの言葉だけで片付けてしまうことは出来ない、尋常ならざるモノであった。

 

 その圧倒的な速度の拳撃の前に彼女は咄嗟に防御を選択した。

 

 一通り、彼の猛攻の攻めが終わったと思う否や、即座に次の攻撃が始まった。

 

「❮良い子には見せらんないパンチ!❯」

 

 今度はムエタイ技の連打。

 

「クッ!!」

 

 顔を歪め、防御に回ざるを得なかった。

 相手の隙をつき、フランチェスカで攻撃を仕掛けようと腕を出そうとすると―――

 

 (だ、駄目ですわ!出そうとした瞬間、彼に潰される!?攻めれない!?)

 

「おっ、あの野郎」

 

 観客席に座り眺めていた、腕を組み真琴と同じ顔に傷がある男が口を開く。

 

「決めきる気だな」

 

 手を顎に当てながら、白の和服、紺色の袴に身を包んだ秋雨がそれに返した。

 

「うむ、どうやらその様だねぇ」

 

「攻撃は最大の防御と言うけど、本当に実行するとはね。流石僕の弟子だ」

 

 誇らしげな兼一。

 

「真琴君が行っているのは将棋で言うところの、急戦。将棋の戦法の一つに横歩取り青野流のがあるが、桂馬を使い一気に攻め上がるという戦法だ。彼の戦法もそれと同じ。しかし、賭けでもあるな」

 

「でしょうね。これを真琴が乗り切れるかどうかですね」 

 

 秋雨の言葉に兼一が便乗する。

 

 ◇◆◇◆◇

 

「❮無天拳独流陣掃慈恩烈波(むてんけんどくりゅうじんそうじおんれっぱ)!❯」

 

 雄叫びと共に、波状攻撃、拳のコンビネーションの連打が止まらない。

 

「・・・!」

 

 右へカナタが回避しても、それを読まれ瞬く間にその距離を埋められた。

 

 (離れても離れても詰められる!)

 

 しかし、その事実に驚きつつも、彼女は感心もしていた。

 位階序列二位の貴徳原カナタの前に退きもせず、勇敢に立ち向かうその姿勢。重傷したと言っても差し支えないにも関わらず、勝負を挑み続けるその姿に。

 しかし、彼女は自分の勝利は揺るがないと確信していた。

 何故なら―――。

 

 (彼の身体は明らかにダメージがたまりすぎている。耐え続ければ私の勝利ですわ!)

 

 慢心。

 彼女はこの仕合中、真琴を軽く考えてしまうという慢心。

 もう、彼の攻撃は長くは続かないだろうと・・・。

 その一瞬の油断が心の虚を生んだ。

 

  

 

 (眼の奥の光が、少し揺らいだ!今だ!)

 

 

「小さく前にならえ!❮近衛流・陰陽極破無拍子!!!❯」

 

 

「あれは!」

 

 控室のモニターで観戦していた一輝が、声を大にし、驚愕しながら立ち上がった。

 

「何!?イッキ!どうしたのよ!」

 

今の貴徳原さん(・・・・・・・)では回避不可能だ!」

 

「え!?どういうことよ!」

 

「仕合の後で話すよ・・・今は見守るんだ」

 

 何故、一輝がこれほどまでに驚いたのか、その真実は直ぐに解明されることだろう。

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 「❮近衛流・陰陽極破無拍子!!!❯」

 

 前倣えの姿勢のまま、真琴の身体が一つ、また一つと増えていき、彼女の制空圏をあっという間に占領していく。

 その身体は数えきれない程で、彼女の陣地を埋め尽くした。

 

 

 (か、躱す道がない!これでは突きを受けるほかあり得ませんわ!)

 

 彼女は再度、受けを選択した。

 彼の攻撃姿勢から何処に攻撃が跳んで来るのか、予想出来ていた。鳩尾のり下の部分と確信し、フランチェスカでその箇所を防御している。

 それが最善だと、心で彼女が決めた。

 

 

 彼女も破軍学園におけるトップクラスの実力者。

 しかも、破軍では数少ない実践経験を積んでいる伐刀者でもある。

 だからこそ、経験した彼女だからこそ、観の目を開眼していてもおかしくはないのだ。

 

 (彼のダメージのたまった右腕では攻撃など不可能ですわ!)

 

 彼女は己の武器で受けきれると予想した。真琴の腕はそんな威力もではしないだろうと見積もっていた。技のからくりにも気付かずに・・・。

 

「❮破ッ!!❯」

 

 しかし、彼女のその判断は甘く、彼の右腕は防御を喰い破り身体へ抜けて来た。

 

 ドッ!という快音と共に彼女の身体は一瞬くの字へ折れ曲がり、膝をつきバタンッと地面へ倒れ込んでしまった。

 カナタの固有霊装は攻撃に耐えきれずにそのまま折れてしまい、勝負は決した。

 その現状に会場が静まり返る。

 

 間は数秒、いや、数分間とも感じた。

 だが、直ぐ様、会場の機械アナウンスによって現へ戻されていく。

 

「貴徳原カナタ 戦闘不能、勝者 近衛真琴」

 

 「「「「「うおおおおお!!!!!」」」」」

 

 今度は観客の大きな歓声が会場を包み込んだ。

 

 

 

「し、仕合終了ーーー!!!我らの紅の淑女こと貴徳原カナタ選手、❮落第の拳❯で知られた近衛選手によって玉砕されましたぁ!!!落ちこぼれの烙印を押された近衛選手が、序列二位を下し!見事選抜戦代表の座をもぎ取ったァ!!もう落第の拳とは言わせない!彼の名は❮皇帝の拳❯だァ!」

 

 半月の熱い実況が入り、勝ちを実感する真琴。

 

「勝ちましたよ、師匠。これで父さんとの夢へ近付けた・・・」

 

 関係者席へ視線を向けつつ実感を改めて噛み締めている。

 身体中から悲鳴が走っているのにも関わらず、その顔は満ち足りていた。

 その満ち足りた表情のまま、スタスタと元来た道へ歩み始めた。

 

 (良くやったな。真琴)

 

 その姿に弟子の成長を感じ、師匠として彼を見守り、父親のように接してきた兼一は熱く込み上げてくる思いがあった。

 時に叱り、時に賛辞し、共に笑ったそんな大切な弟子が自分の道へ歩き出したのだ。兼一は心が伸びるような気がした。

 そして、堅く誓いもした。闇より降り掛かる邪悪なモノ全てから、何としても彼を守り抜こうと。自分の師匠達がそうしてくれたように・・・。

 

 

「決まったな」

 

「これでまこっちは退学は免れたわけだ」

 

「そういえば、近衛にはそんな条件があったな」

 

「助けた本人が言うなよ、くーちゃん」

 

 呆れ顔の寧々たったが・・・。

 

「ははっ、まぁ何にせよ。近衛は見事代表の座を勝ち取ったんだ。これで退学は取り消しだ」

  

 腕を組み、そう溢す黒乃であった。

 

「アパパパーー!!マコトの勝ちよー!」

 

 アパチャイが天へと腕を伸ばした。

 相当嬉しかったのだろう。

 

「帰ったら、赤飯炊かなくては・・・な」

 

「代表決定記念日ね!」

 

「しかし、良くやったな。真琴の奴」

 

「いや、全く」

 

「まぁ、俺は心配してなかったがな!ガハハ」

 

 豪快に笑う逆鬼。

 

「そうですわね、してませんでしたわね(ハイハイツンデレツンデレ)」

 

 真琴の仕合が始まり、思ってもみない相手に内心ハラハラしていた逆鬼。

 その振る舞いに呆れを含む流し目で見つめる美羽だった。

 

 

「まこっちが最後に打ち出した技、虚実の最高峰ともいえるものだねぇ」

 

「あれは、白浜さんが授けたので?」

 

 黒乃の質問に兼一は頷きで返した。

 

「はい。ですが、元々真琴が放った技は虚実技ではないんですよ」

 

「というと?」

 

「あの技は本来、空手、ムエタイ、中国拳法の突きの要訣を混ぜ、柔術の体捌きで打ち出すものなんですが・・・、僕は虚実を習得できるように手解きを施しただけなんですよ。技を虚実に昇華させようと思い至ったのは真琴、本人です」

 

 その真実に黒乃と寧々の二人は一つの戦慄が迸った。

  

「たった一人で無から虚実技に行き着いただと・・・?」

   

「あの技は実の貫手と虚の貫手に分けられ、唯一逃れる術は虚の方を掴み取って止めるほかない。武器使いの場合、切り伏せてしまえばそれでお仕舞いだ。だが、真琴君のように相手の思考を防御のみに凝り固める事が出来たのならば話は別」

 

 秋雨が口を挟んだ。

 

「なるほど。相手の思考を近衛自身で縛ることで無理矢理、実の貫手を叩き込んだのか」

 

 寧々が持っていた団扇を手に当て―――。

 

「やれやれ・・・黒坊は相手の理を暴き出し完全掌握という技を身につけ、まこっちは決め技を虚実に昇華に至り、あまつさえ相手をコントロールするとは・・・黒坊といい、まこっちといい、今回の一年坊はレベルがぶっ飛んでるねぇ」

 

「そうだ白浜さん、この後時間ありますか?」

 

「?・・・はい、大丈夫ですが」

 

「頼みたい仕事があるのですが・・・」

 

「分かりました。お伺いしましょう」

 

 そして、次仕合をアナウンスが会場中に知らされた。

 次の対戦カードは❮落第騎士❯黒鉄一輝VS❮雷切❯東堂刀華の対決だ。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇ 

 

 

 時刻は夕刻。

 破軍学園内にある病室。

 鮮やかな夕焼けが窓から差し込んでくる。

 

 近衛真琴の姿はそこにあった。

 

 刀華の病室だ。

 一輝の戦いに破れ、病室へ運ばれたのだ。iPS再生槽に・・・。

 

「刀華・・・」

 

 不安そうな表情を浮かべながら、真琴は彼女の手元に手を乗せ、時を待っていた。

 刀華はスヤスヤと眠り姫のように眠り続けている。

 

 仕合中、彼女の固有霊装❮鳴神❯が打ち砕かれた。一輝の全身の魔力を振り絞った一撃、❮一刀羅刹❯から繰り出される❮第四秘剣・雷光❯によって。

 

 固有霊装は伐刀者の魂を具現化したもの。それを破壊したということは精神を破壊したと同義。今回の仕合で雷切・東堂刀華と紅の淑女・貴徳原カナタの固有霊装は破損した。

 その事は話題となり、学園内で持ちきりとなった。

 序列一位の雷切が落第騎士に敗北したのも相まって・・・。

 

 精神を壊されたということは最悪の場合、廃人になってもおかしくはない。

 その事が気掛かりで、彼はずっと不安なのだ。

 

 彼もiPS再生槽にて回復をしたばかりだ。しかし、数時間後には目を覚まし一目散にここへやって来ていた。

 

 (刀華・・・お前ならきっと大丈夫だ。お前にはずっと俺が・・・俺がいるから・・・)

 

 窓の夕陽が彼女の顔を紅く照らしていた。

 次第に彼の手の力が時が経つにつれ強まってくる。

 

「頼む、目を開けてくれ・・・」

 

 心の声が漏れ始め、不安は更に加速していった。

 

「俺はお前と一緒に歩みたいんだ。広い世界を共に生きたいんだ!」

 

 彼は自然と下を見つめ、手の力はより一層力は増していく。

 

「だから、起きてくれ。俺と共に・・・「痛い、痛いよまこ君」」

 

「え?」

 

 声の主の通り力を緩める真琴。

 顔を上げると自分が求めていた、麗しい彼女の笑顔が花開いていた。

 

 

「まこ君有難う。ずっと側に居てくれたんだよね?ずっと手を握ってくれたんだよね?」

 

「あ、ああ」

 

 彼女の問いに確かな安らぎを覚えつ、手を離した。

 

「・・・私ね、夢をみてたの」

 

 その夢を語りだす彼女。

 

「夢?」

 

「うん、夢。亡くなったお母さんとお父さん、私をここまで育ててくれた施設のお母さん、皆で晩御飯を食べてた」

 

「それで?」

 

「それでね、そこにはまこ君。貴方も居たの」

 

 長い睫毛の下の瞳がふるふると揺らぎ、今度は彼女が真琴の手を握り語りだした。

 

「俺が?」

 

「うん。家族皆でカレーを食べてた。とても幸せな夢だった」

 

 幸せという言葉に彼の心は、ジワーンと暖炉のように温かくなっていった。

 

「ねぇ、まこ君。今度私のお母さんに会ってくれない?」

 

「・・・・・・」

 

 彼はじっと黙る。

 

「まこ君?もしかして嫌だった?」

 

「違うよ。・・・貴女はいつも俺より先に言っちゃうんだな」

 

「んじゃまこ君も?」

 

「ああ。夏休みに入ったらうちの道場に来て、家族に会ってほしいと思ってたんだけど、先に言われちゃぁな」

 

 偶然にも同じ事を考えていた。

 彼女はその偶然にどうしても、気持ちが昂ってしまう。

 

「えへへ」

 

 彼女がもう一つの手を彼の手に重ね―――。

 

「今日はずっと握っててもいい?」

   

 彼は笑顔でこう答えた。

 

「もちろん」

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

    

 

 

 真琴と刀華はこの日々を忘れることはないだろう。

 破軍での日々に感謝し、前へ進む。

 

 これから彼らに訪れるのは挑戦の嵐。

 挑戦につぐ挑戦。

 それこそが伐刀者、武術家の性分であり生きる糧。

 切磋琢磨し次なる挑戦者を待つ。

 これが真琴達、伐刀者の務めなのだ。

 しかし、今の彼らにも暫しの休息が必要。

 

 だから今は時を待つこととしよう。

 

 こうして、彼達の物語はここで一旦の終幕を迎えるのだった。

 

 

 第一部 完




皆様、お待たせ致しました。長く間が空いてしまい、申し訳ありません。

今回で「マコト」は一端、終了とさせて頂きます。
別に続きを書かない訳ではありません。

理由としましては、私が落第騎士の英雄譚を四巻までしか持っておらず、七星剣武祭本戦のストーリーを知らないからです。それともう一つ、新たなクロスオーバーを書きたいなと思ったからでもあります。
しかし、クロスオーバーの方はふわふわ浮いている状態なので、次に投稿出来るかどうか期日は未だ定まっておりません。

ですので、気長にお待ちくださると嬉しいです。

不定期になりますが、別枠で「マコト」過去編を書きたいとも思っています。こちらもプロットが出来次第になりますが・・・。


私の小説がこの世に出たのは、海空りく先生と松江名先生、このお二人が偉大な作品を生み出して下さったお陰です、まずその事に感謝を述べたいと思います。本当に有難うございます!!

そして、私の処女作で稚拙な文章にも関わらずここまで読破し、叱咤激励を下さった読者の皆様に多大なる感謝を!!有難うございます!

もし、また私の作品を読む機会、目にする機会が御座いましたらその時はまた、ご贔屓にしていただけると幸いかと思います。

長くなってしまいましたが、謝礼はここで終了とさせていただきます。失礼致します。

紅河


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