健全魔導士目指します (秘密の区域)
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壁を超えて俺は一つ強くなる

 俺の名前はマーン・K・グロニクル。ひどい名前だと我ながら思う。俺を転生させた神様がいるのならどうしてこの名前にしたのか問いただしたい。

 

 さて、俺は転生者だ。目覚めると見知らぬ森の中にいた俺は意識が覚醒したと同時に、このひどい名前とともに様々な情報が頭の中に流れ込んできた。

 そこで得た情報から俺はこの世界が漫画『FAIRY TAIL』の世界だということに気付いた。『FAIRY TAIL』……読んではいたが途中で読むのをやめた記憶がある。確かエルザがエロかったり、アクノロギアとかいう黒いドラゴンがヤバい!みたいな感じだった気がする。

 

 兎にも角にもいわゆる異世界転生を果たしたわけで、その定番といえばあれだ。俺TUEEEEである。

 だがその願望の達成は不可能だった。俺が得た情報の中で、異世界転生に付き物の特典らしい魔法はあったのだが、その魔法が問題だった。

 「あらゆる女性のスカートをめくる風魔法」、「どんな衣服をも溶かす水魔法(溶かすのは衣服のみ)」、「性的快感を与える雷魔法」……。俺TUEEEEではなく俺YABEEEEである。こんな魔法大っぴらに使えば、無双する前に逮捕待ったなしだ。

 

 俺は激しく絶望した。せっかく異世界転生したのにも関わらずこの仕打ちだ。前世でよほど罰当たりなことでもしたのだろうか。

 しばらく打ちひしがれていた俺は、あることを思い出す。この漫画の女の子が、みんな可愛かったことを。

 しかも作者の趣味なのか、中々におっぱいの大きい女の子がたくさんいる。

 そして与えられた特典(魔法)

 

 ここから導き出される答えに、俺は笑わずにはいられなかった。前世では考えられなかったことだ。

 しかし今の俺には実行する力がある。

 

「いいだろう。俺は今日から下衆野郎だ」

 

 俺、マーン・K・グロニクルの決意の瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はX782年、おそらく原作は始まっていない。

 俺は情報を与えられたものの、その情報は一般常識や魔法が主で、今の情勢を知るために近くの町に行った。名前は残念なものになっているが、顔や背格好は『FAIRY TAIL』の標準のもののようで、特に町で怪しまれることはなかった。

 町を探索し図書館を見つけた俺は中に入り、過去の新聞を漁って、港がナツによって破壊された事件の記事を探した。港を破壊したのは初回だったから、その記事が見つからなければ原作前。見つかれば原作は既に始まっていることがわかる算段だ。

 結果、過去数年分の新聞から件の記事が見つからなかったことから、原作は始まっていないと判断した。俺が見た新聞よりもっと古い年代に起きている可能性もあるが、原作に関わることが異世界転生の醍醐味なのに、乖離する未来にいることはないと踏んだ。その時はその時である。

 

 その後新聞だけでなく、他の文献にも目を通してから図書館を出て再び町をぶらついている。

 

「おっ、宿発見。しかしながらお金がありません。ったく、ケチだよなあ」

 

 俺はいるかもわからない神様の悪口をぼやいていると、ある人物を発見した。青い髪に小柄な体、『妖精の尻尾』のレビィだ。

 

 レビィ、フルネームはレビィ・マクガーデンだったかな。『シャドウ・ギア』という中二病のような名前のチームの紅一点。魔法は文字魔法だった気がする。

 原作で活躍は見られたが、実力は『妖精の尻尾』の中でもそんなに高くない。三人がかりでガジルに敵わなかったからね。

 それにしても最初にレビィを見つけられたのはラッキーだ。

 将来的にはエルザやミラジェーンのような大物を狙っていきたいが、現時点ではノーだ。魔法が戦闘向けでないこともそうだが、何より俺自身の戦闘経験が皆無なのがマズい。そんな状態で挑めば、歴戦の猛者である彼女たちの前に屈することになるだろう。

 ゆえにレビィには俺の経験値兼犠牲者第1号になってもらおう。レビィの他に取り巻きが2名いるが、そいつらも問題はない。

 

 くっくっく、俺に見つかったのが運の尽きだったなあレビィちゅわーん。お前は俺の手で遠くない未来に汚されるのだ!ハッハッハッハッハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 森に戻った俺は『シャドウ・ギア』の三人が話していたあるモンスターを探していた。

 「一本角バルカン」、「バルカン」と呼ばれるゴリラのようなモンスターの亜種で、普通種との違いは立派な角があることらしい。

 レビィは、その一本角バルカンの討伐のために、この地に訪れていた。

 

 なぜ俺が三人のターゲットである一本角バルカンを探しているのかというと、障害になることを危惧したからだ。

 バルカンは女好きで有名だが、一本角バルカンはそれ以上で、とにかく性欲がすごい。夜に活動し女性を見つけると襲いかかって、無理やり犯してしまうのだ。

 しかも一本角バルカンはタチが悪く、夜に活動するのも夜行性ということではなく、夜になれば人間の視界が鈍ることを知っているためだ。

 さらに女性をその場で犯すのではなく、人が来ないような場所に運んだ上で事に及ぶ。

 このエロ漫画のキャラクターのような1本角バルカンは実は希少種で、それも町の近くに出るような類のものではない。

 しかしその危険性から希少種でありながらも駆除対象であり、駆除すれば高額な報酬が出る。

 

 ここまで聞いてくれればわかると思うが、俺と一本角バルカンは同職だ。

 

 つまりダブルブッキングする可能性がある。俺の初陣をこんなモンスターに邪魔されるわけにはいかない!あと高額な報酬が欲しい!

 そんなわけで昼過ぎという、奴の活動時間前から探し始めている。夜に活動するならば昼は寝ているはずだ。寝首を掻くことが出来れば、無駄な戦闘をせずに済む。

 

「楽勝だな」

 

 かれこれ2時間探していることについては触れないでおく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 探し回るのも飽き始め、『シャドウ・ギア』が弱らせてから、漁夫の利を得るのもいいかなと、考えていた時だった。

 俺は一本角バルカンらしきモンスターと『シャドウ・ギア』の面々を発見した。

 『シャドウ・ギア』も、おそらく俺と同じように、寝首を掻こうとしたのだろう。戦闘力低いし、しょうがないね。

 

 注目の一本角バルカンはというと、本家バルカンとは違い、体色は黄ばんだ色をしており、特徴として挙げられる立派な角がついていた。

 股間に。

 

「は?」

 

 角ってそういう意味かーい!と、ツッコミたい気持ちを抑えて、一本角バルカンの様子を伺う。角と比喩されるモノは目測で30㎝はある。

 あんなので襲われれば間違いなくトラウマだなと思っていると、なんと奴は右手で角の上下運動を始めた。

 レビィは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして見ないように手で目を覆う。残りの二人もどうすればいいかわからず、困惑している。

 一本角バルカンの動きは激しさを増し、その立派な角はさらに大きくなっていた。いつ絶頂に達するかわからない状況に俺も他3人も膠着状態だ。

 ここで業を煮やした『シャドウ・ギア』の男2人が一本角バルカンへと向かっていった。

 

 確かに上下運動に集中している今ならチャンスだと思っていた時期が俺にもあった。

 

 瞬殺である。

 

 1本角バルカンは恐ろしい反応速度で2人を殴り飛ばしたのだ。派手に殴り飛ばされた2人は大きく空中に舞い、地面へと落ちて意識を失った。連れの2人がやられてしまい、レビィは動揺している。

 一方の一本角バルカンは行為を邪魔され、怒り心頭だ。

 あの強さはマズい。一本角バルカンはバルカンよりは強いと聞いてはいたが、ここまでとは予想外だ。戦闘慣れしてない上に、ろくに使えない魔法で戦える相手ではない。

 レビィを置いていくことになるが、一度撤退するべきだろうか。

 

 俺が頭を悩ましていると、レビィが一本角バルカンに見つかってしまった。怯えるレビィは抵抗も出来ず、あっさり捕縛されてしまう。

 

「あ、あぁ……ジェット、ドロイ」

 

 震え声で2人の名前を言うも、気絶している彼らにその声は届かない。一本角バルカンはお構いなしにレビィの服に手をかける。

 そしてレビィの服を力任せに破いた。

 

(ちっぱいきたああああああああああああ!!)

 

 俺は叫びたい衝動を押し留め、レビィの肢体を見る。晒された胸は『FAIRY TAIL』の他のキャラと比較しても控えめだが、女性らしい膨らみがあることは確かだ。

 

「ギヒヒヒヒ」

 

 一本角バルカンが下卑た笑い声をあげた。レビィのちっぱいに興奮していることがよくわかった。俺も股間が熱くなるのを感じる。

 

「んっ」

 

 ついに奴はレビィの双丘の突起を弄り始めた。その姿に似合わず、優しく執拗に突起を弄る一本角バルカン。

 レビィはなんとか声を押し殺そうとするも、一本角バルカンのテクニックに耐え切れず艶かしい声が漏れる。

 

「ウホー!勃った!勃った!!」

 

 一本角バルカンの指摘通り、レビィの突起はこれ見よがしに激しく主張していた。

 

「いや……いや……」

 

 レビィは恐怖と恥ずかしさと悔しさで、思考がぐちゃぐちゃになっている。

 モンスターに犯されそうな女の子のシチュエーションはいいなと、邪なことを思いつつ、これからどうするか考える。

 レビィを助けるか見捨てるか。正直助ける義理はないのだが、このまま見捨てるのも後味が悪い。

 だったらとりあえずやってみてダメだったら逃げよう。

 

「すっげーエロい。エロいがそこに立つのはお前じゃない。俺だ」

 

 意を決した俺は一本角バルカンの前へと姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごはっ……」

 

 俺、絶賛サンドバッグなう。

 

 意気揚々と「おい、クソモンスター。彼女を離しな」と、出たまでは良かった。

 

 ボコボコにされるされる。戦闘経験なし・まともな攻撃手段を持たない俺が『シャドウ・ギア』の2人を瞬殺するような奴に、敵うわけがない。

 

「弱い、弱い。お前雑魚」

 

「雑魚で悪かったな、こん畜生」

 

 一本角バルカンに煽られて悔しさがこみ上げる。自ら出てきて何もできないのはダサい。

 だが敵わないことは事実だ。そろそろ逃げるべきだろうか。

 

「もう、もうやめて!!」

 

 俺が一方的に殴られ続けているとレビィが声を振り絞り制止を嘆願する。

 

「私のことはいいから、逃げて!!」

 

 自分がやられるってのに俺みたいな下衆の心配をするなんてレビィちゃんマジ天使。逃げづらくなってしまったけども。

 

「ウホウホウッホー」

 

 全く傷1つ負っておらず、余裕な一本角バルカン。こいつは確かに強い。

 それでもエルザやミラと比べれば雲泥の差だろう。

 つまりこいつを倒すことが出来なければスタートラインに立てないに等しい。

 

「俺には夢があるんだ。ここで逃げるようじゃその夢は叶うことはないだろうね」

 

 俺は闘志を奮い立たせる。全ては初めに誓った野望のために。地面に這いつくばってでもこいつを倒す。

 

「だから俺は戦うんだ!E・サンダー!!」

 

 俺は雷魔法を奴へと放つ。奴にダメージはなく、逆に気持ち良さそうにしている。

 

「E・サンダー!E・サンダー!E・サンダー!」

 

 それでも俺は雷魔法を連打する。ダメージはない。

 しかし徐々に一本角バルカンが様子がおかしくなる。奴の元々大きくなっていた股間の角がどんどん膨れ上がってきているのだ。先程までの悦楽の表情が崩れ去っていく。

 

「弾けろ!E・サンダー!!」

 

 俺の最後の雷魔法を受けると一本角バルカンは股間から破裂した。

 

「なっ!?」

 

 レビィが驚きの声をあげているが、驚いているは俺もだ。

 

「狙い通りだが、これにはびっくり……」

 

 限界だった俺の意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから俺は丸一日寝ていたらしい。眼が覚めると『シャドウ・ギア』の3人が泣きながら俺に礼を言ってきた。正直レビィにしようとしていたことを考えると、この礼を素直に受け取るのは非常に複雑な気分だった。

 俺は3人を落ち着かせ、1日見てくれていた礼を逆にした。3人はあなたがこちらに礼を言う必要はないと否定したが、もし3人が薄情な連中だった場合、俺が放置されていたかもしれないと考えると、感謝せざるをえない。

 

 それから一本角バルカンにかかっていた報酬やクエストの報酬の話になったが、もちろん俺は受け取らなかった。ここで厚かましく報酬を受け取るほど腐ってはいない。

 礼も言ったし、とっとこの場を去ろうしていた時、『妖精の尻尾』のマスターマカロフが姿を見せた。

 

「あなたは『妖精の尻尾』のマスターですよね?なぜここに」

 

 聞けば俺は魔力をほとんど消費した上に、一本角バルカンに大怪我を負わされたようで、ポーリュシカの治療を受けられる『妖精の尻尾』に運び込まれたらしい。自分の体を見れば、治療を受けたことがわかった。

 3人の心遣いに、思わず涙を流しそうになるのをグッと堪え、改めてマスターに挨拶をし感謝を述べる。3人同様、マカロフも礼を言うことはないと言うが、こっちが気にするのだ。

 

 それからなぜあの森にいたのかなど、いくつかの質問に対し、うまく適当に答え、早々にギルドを去ろうとするが、マカロフから爆弾が落とされることになる。

 

「お主、『妖精の尻尾』に入らぬか?」



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その炎は衣服だけを燃やせるのか?

 マカロフからギルドへの勧誘を受けた俺は、しばらくフリーズしてしまった。勧誘が来る意味もわからないし、何より「ゲスゲスいこうぜ!」と構えていた俺を迷わす言葉に脳内処理が追いつかない。

 突然固まった俺はマカロフや『シャドウ・ギア』の3人に「大丈夫か?」と心配され、慌てて「大丈夫でぇーす!」と陽気に返事をする。

 

 それにしても困った。ギルドへの勧誘は魅力的にもほどがある。俺TUEEEE系を最初考えていた俺にとって『妖精の尻尾』へ加入出来ることはとても喜ばしいことだ。

 

 しかし既に下衆キャラへと舵を切った俺はすんなりと首を縦に振れない。まだ何もしてないのだからやり直せるだろうが、俺はこうホイホイと自分の信念を曲げていいものか悩んでしまう。

 加えて俺の魔法は表のギルド向きのものではない。敵が使ってくる方がしっくり来るものだ。

 

「ギルドへの勧誘ありがとうございます。しかし俺はあなたのギルドに入るべき器ではありません。申し訳ありませんが、ギルドには入りません」

 

 こんな下衆野郎に入られるのも迷惑だろうと、心が痛むが断ることにした。

 『シャドウ・ギア』の3人は「どうして!?」みたいな顔をしてるが、俺はお前たちが思っているような人物じゃない。

 

 しばらく沈黙が場を支配した。

 

 やがてマカロフは考え込むような仕草から俺の方へと向いた。

 

「お主が何を考えているか、何を背負っておるかはワシにはわからん。じゃが一つだけ言えるのはお主が『妖精の尻尾』に入るべき器でないことは決してないことじゃ」

 

「そんなことは……」

 

「レビィから話は聞いた。何回殴られても逃げるように催促しても諦めずに立ち向かったと。ワシはお前さんのような人材を『妖精の尻尾』に入れたい」

 

「…………」

 

「随分と自分を卑下しているようじゃが、ここにはお前を馬鹿にするような輩は1人もおらん。逆にお前のように何かを背負っている者もおる。心配せんでもワシらはお前を快く受け入れよう」

 

 マカロフの言葉の重みヤベえ。駄目だ、今すぐにでも首を縦に振りそうだ。

 耐えろ、俺!ここが正念場だ!

 

「あと『妖精の尻尾』は美人が多いぞ。エルザやミラにワンチャン感じてみぬか?」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局エルザやミラに釣られて『妖精の尻尾』に入ってしまった。ワンチャンなくても、彼女たちと同じギルドって考えたら、ウキウキしてな。

 ただエルザやミラに釣られて入ったのが悪印象だったのか、レビィの視線が痛い。

 まあレビィも十分かわいいが胸がな……。うわ、レビィの視線がさらに鋭くなった。

 

 こうして内心ふざけているが、俺はまたピンチを迎えている。

 『妖精の尻尾』の新人ということで、今からみんなの前で挨拶をしなければならないのだが、これが問題なんだ。

 加入挨拶だから自己紹介しないといけないんだよ。

 

「マーン・K・グロニクルです。使う魔法は『性的快感を与える雷魔法』など卑猥な魔法です。こんな下衆な俺ですがよろしくお願いします」

 

 言えるわけがない。魔法はまだ誤魔化せるとして名前どうするんだって話になる。偽名を名乗ってもいいが、万が一偽名だとバレた時の説明が絶対にしんどい。

 

「お前たち、今日はギルドに新しいメンバーが入ったぞ」

 

 マスターの声とともにギルドの面々が一斉に俺の方へと視線を向けた。まだ心の準備が出来てないから、あと1時間くらい待ってください。

 

「ほれ、何をボーッとしておる。挨拶せんか」

 

 俺の願い虚しく、マスターに促され前方へと立つ。もう待ったはなしだ。ここまで来たからには、腹を括るしかない。もしいじめられでもしたらギルドを抜けよう。

 

「マーン・K・グロニクルです。魔法は雷魔法や風魔法など色々使えます。みなさんに比べれば大したことはありませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

 名前以外は当たり障りのないことを言ったが、肝心なことは名前に対するリアクションだ。

 頼む、これからのギルド生活の全てがかかってるんだ。

 

 恐る恐る周りの様子を伺うと名前に関しては何も言われてなかった。

 

 むしろ「あいつ『一本角バルカン』っての倒したんだろ!!強いのか!?」、「色々な魔法か……面白そうだな」と、思っていた反応と全然違ってむしろ怖い。

 とにかく俺の自己紹介はコケることなく、無事終了したのでした。

 

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は広場にいる。確かバイバイだかなんかの事件が終わった後にナツとエルザが勝負していた場所。

 そこに俺が立っている。正面にいるのは主人公にして、火の滅竜魔導士ナツ・ドラグニル。どうしてこうなったのか。

 

 あれは自己紹介が終わった直後のことだった。

 

 あの後新人の歓迎会だと飲んで騒いでいたんだが、ナツが「勝負しようぜ!」と言ってきた。

 

 俺は出ましたね、二次創作でよく見るナツの洗礼と冷静に分析した。もちろん俺は受ける気は全くなかったが、下手な断り方をすると、ゴリ押しで勝負させられる可能性が高いことから、誠心誠意を込めた土下座で「勘弁してください」と懇願した。

 さすがに土下座する奴を無理やり戦わせるほどナツも鬼ではなかったため、お流れになりそうなところをマカロフが待ったをかけ、今に至る。

 

 申し込まれたその日は俺の怪我も治ってなかったので、日を改めての対戦なのだが、一本角バルカン以上に勝てる気がしない。

 そもそも勝負にもならないだろう。相手はこの物語の主人公だぞ。一本角バルカンの時は、奴の性質を利用できたから勝てたようなもので、運が良かったにすぎない。

 マカロフはどうやら俺が戦いを忌避していると勘違いしていて「例の雷魔法の扱いには注意するんじゃぞ」と忠告された。

 あれは一本角バルカンがテ◯ノブレイクのその先になっただけなんだ。

 

 誤解も解けぬままナツとの勝負の時間になってしまった。

 

 ナツは「楽しみだな!」とやる気100%だ。周りの観客のボルテージも高い。よく見ると俺とナツどっちが勝つか賭けをしている。当然ナツが勝つ方に多く賭けられているのだが、俺にも微妙に賭けられていて、今にも逃げ出したい気分だ。

 

 ここまで散々弱音を吐いてきたが、時間があったのでちゃんと策は考えた。機能するかはわからないが、足掻けるだけ足掻いてやろうじゃないか。

 

「主人公にどこまで通用するか、試させてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「火竜の咆哮!!」

 

 ナツは先制攻撃だ!と口から高熱のブレスを吐き出す。

 

「防ぐ!出でよ、禁具スライム!!」

 

 俺はエロモンスターの一角を担うスライムを召喚した。スライムを引き伸ばし、ブレス攻撃をガードする。

 禁具スライムの本来の用途は敵にまとわりつかせ、アンアン言わせるものだが、禁具スライムの耐性の高さを利用し、防具として用いたのだ。

 

「おお!なんだそれ!!そのブニョブニョで防いだのか!!」

 

「はは、勇者の剣すら通さないと言われているからね」

 

 俺は涼しい顔で受け答えつつ、次の近接戦に向けて武器を呼び出す。股間に魔法陣が浮かび上がり、出てくるのはエクスカリバーLv1。

 召喚だけ見ると真っ当な武器でないように思えるが、実は当たりである。Lv1だと普通の剣でしかないが、レベルアップすることで様々な能力が付加される。

 なおレベルアップの条件は「戦闘中に使用者が絶頂に至ること」である。

 

「E・サンダー……うああああああああああああああああああ!!」

 

 自らに電撃を流し、強制絶頂を果たす。これによりエクスカリバーはLv2へとレベルアップした。エクスカリバーLv2は身体能力と魔力の上昇だ。

 突然の自身に電撃を流す行為に周りは唖然としている。

 

「おい、K!大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫じゃなかったらやってない!」

 

 ちなみに「K」という呼び方は「マーン」と呼ばれたくない俺が広めた呼称である。

 

「行くぞ!」

 

 先制をかけられたお返しと、今度は俺から攻撃を仕掛けた。渾身の力を込めて剣を振るうも、剣は空を斬り続ける。

 確かにLv2になって身体能力と魔力は上昇したが、それでもナツに劣る。

 

 さらに俺は剣術は素人だ。達人であるエルザを相手にしてきたナツには子供騙しに思えるだろう。

 

「火竜の鉄拳!」

 

「ぶべらっ」

 

 剣戟を簡単にいなされ、カウンターパンチを喰らった俺は観客の方にまでぶっ飛んだ。なんだこのパンチは。一本角バルカンとは比べ物にならないくらい痛い。『FAIRY TAIL』の魔導士は、これを喰らっても平気な奴がゴロゴロいると思うと、胃も痛くなってきた。

 

 なんとか痛みを堪えて、俺は広場へと戻る。

 

 だが始めのやる気は早くも消え失せていた。もうこれ以上殴られたくない。ここからどうすれば勝てるか、自分が使える魔法から考える。

 

「……ピンと来たぜ。ナツに勝てる方法が」

 

 俺は魔法E・ファンタジーを発動する。E・ファンタジーとは、俺の脳内のエロい妄想を、対象にも見せることが出来る魔法だ。

 エロとは無縁のナツには効かないと思っていたこの魔法だが、効果がある妄想を思いついたのだ。

 

「狂え、俺の妄想の中でな」

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 俺はナツにとっておきの妄想をぶつける。それを見たであろうナツは頭を抱え、悶絶の様子を見せると、その場にばたりと倒れた。

 

「ふむ、この勝負はマーン・K・グロニクルの勝ちじゃ」

 

「ナツが負けただと!?」

 

「最後突然苦しみだして倒れたが、あいつは何をしたんだ!?」

 

 番狂わせに周りがざわつきだすが、やってしまった本人も驚いている。本当に苦手なんだと実感させられた。

 

 見せた妄想は「エルザ100人にご奉仕される」といったものだ。

 

 うん、エルザにバレないことを祈ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は絶賛正座中である。正面にはS級魔導士で『妖精女王』と呼ばれるエルザ・スカーレットが立っている。

 そう、ナツに見せた妄想がバレた。

 

 詳しい内容まではバレなかったが、エルザを使ったことはバレた。案の定ガミガミ説教を喰らっている。

 エルザめ、実はむっつりスケベだってことを俺は知ってんだぞ。こうなったらジェラールとのラブシーンを……ひいっ!ごめんなさい!!俺が悪かったです!!

 

 そんな長いようで短いような説教から解放された俺は、みんなからの質問攻めにあっていた。質問の内容は俺の魔法に関することがほとんどで、正直に答えるわけにもいかず、はぐらかしつつ答えていった。

 

 その質問の中でレビィから「どうしてあの時エクスカリバーを使わなかったのか」といった質問が来た。

 これには2つの理由がある。1つは圧倒的にかっこ悪いからである。股間に浮かんだ魔法陣から出てきた剣だぞ。俺が他人なら正気を疑う。

 もう1つはレベルアップをしたくなかったからだ。命をかけた戦いの中で、強制絶頂するなんて正気じゃないでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナツとの戦いが終わり、無事『妖精の尻尾』のメンバーになったわけだが、俺は初めに立てた誓いを忘れてはいない。

 俺は『妖精の尻尾』に所属しつつ、バレないように下衆道を貫く。

 

 既に種は撒いた。俺がナツに勝ったことで注目度は上がり、特にエルザなんかは、俺のことを気にかけていることだろう。

 戦いはこれからだ。



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鎧の下には夢が詰まっている

 『妖精の尻尾』に入ってから1ヶ月くらい経った。

 

 この1ヶ月で、ナツに再戦を挑まれまくって鬱になったり、簡単だと言われて行ったクエストで死にかけたりと、楽しいギルド生活を送っている。

 1ヶ月も経つと、友人関係も着々と構築されていき、特に仲良くしているのは『シャドウ・ギア』の3人、ナツ、ハッピー、エルザといった面々である。……俺は思っていたよりコミュニケーション能力がなかった。カナやミラとかとも仲良くなっている予定だったが、仕方なし。

 

 ところで俺はその良き友人の1人であるエルザに、剣術を教えてくれと頼み込んだ。

 

 俺の弱点はふざけた魔法だけでなく、経験や技術の少なさもある。それを補うためにも、俺は靴を舐める勢いで頼み、そんな俺に引きながら、エルザは快諾してくれた。

 

 エルザとの修行は順調に進んだ。加減を知らないエルザの攻撃で心が折れそうな時もあったが、なんとか喰らい付き経験や技術を会得していった。

 エルザの指導は厳しいが、時折優しさも見え、彼女に抱いていた恐れは小さくなった。深く関われば良さがわかるという奴だ。

 

 余談だが、エルザの鎧で好きな鎧は炎帝の鎧。ツインテールになるのがミソである。

 

 また修行だけでなく、クエストもエルザと行動をともにしたりした。

 しかしクエストはエルザが強すぎるせいで俺の出番はほぼなし。たまにエルザが取り逃がした獲物を俺が狩るぐらいであった。

 1回複数のモンスター討伐クエストで「どちらが多くモンスターを倒すか勝負しないか?負けた方は勝った方の言うことを聞くというルールで」といった勝負を提示された際、エロい命令をするために頑張ったものの、大差で敗れ、スイーツを奢ったのはいい思い出である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、俺は町で声を掛けられたボランティアに参加していた。

 

 仕事内容は物品の運搬や建物の掃除などの雑務が大半である。既にギルドに加入している俺が、こんな仕事を手伝う理由は本来ないのだが、団体名に惹かれて参加してしまった。

 

 『巨乳を愛する会』。二つ返事で了承してしまう巨乳の魅力ったらもうねえ?

 

 だがこの『巨乳を愛する会』、ふざけたネーミングから想像できないほど、熱心に慈善活動に取り組んでおり、その評判はすこぶる良かった。

 

 そんな『巨乳を愛する会』は、今日たまたま「儀式」の日らしく、幹部とすっかり意気投合した俺は、これにも「参加しまーす」なんて軽い返事をしてしまった。もっと後先を考えるべきである。

 しかしお呼ばれした「儀式」は、幹部と一部の会員しか参加出来ないレアイベントのようで、結構楽しみだったりする。

 

 「儀式」の時間が近づき、俺は仲良くなった幹部に連れられ、とある教会へと着いた。外観はボロボロだが、中は『巨乳を愛する会』が掃除をしているらしく、きれいだ。いずれ外観もリフォームしてきれいにするとのこと。

 

 幹部が呪文を唱えると、地下へと続く隠し階段が出現した。一気にきな臭くなってきたが、同時にワクワク感も高まる。

 階段を降りて、地下の1室に辿り着くと、そこには既に十数名の会員が集まっていた。その中でも髭を蓄え、いかにも「私、威厳あります」とアピールしている老人の姿があった。彼が会長なのだろうか?

 幹部に付き添われ、髭の老人のところへ挨拶へ俺は行く。思った通りこの老人こそ会長だったようで、話していくうちに会長とも仲良くなった俺は、なんと今日の「儀式」の執行人を任された。何をすればいいのか全くわからないが、会長から指示が出るそうなので、心配しなくてもよさそうだ。

 

 儀式の時間になり、会員の円の中央に黒い箱が移動式の机の上に置かれてやって来る。

 あの中には何が入っているのだろうか。人1人余裕で入る大きさだ。「儀式」というくらいだから御神体でも入っているのかもしれない。

 会長の挨拶のあと、今回の主役である俺が紹介された。幹部や会長と仲良く会話していたことは周知だったので、反感もなく歓迎された。

 しばらく会長のよくわからない話が続き、そろそろ飽きてきたころに、会長の合図によって黒い箱が開かれた。

 

 中に入っていたのは下着姿のエルザ・スカーレットだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルザ・スカーレット、この世界では知らない方が珍しい魔導士だ。常に鎧を着ていて、戦闘時にも武器や鎧を換装し戦う。

 その強さもあってついた異名は『妖精女王』。『妖精の尻尾』の女性魔導士の中で、最強と言っても過言ではない彼女にはふさわしい異名だろう。

 さらにエルザは『妖精の尻尾』でも数少ないS級魔導士の1人だ。

 試験を合格した者のみがなれるS級魔導士は、面子を見れば、格の違いが嫌でも認識させられる。雷の魔法の使い手のラクサス、サタンソウルのミラ、そして触れたものを破壊するギルダーツ。ミストガンは……どうなのだろうか。借り物の魔法使いだが、S級魔導士になってるからには強いのだろう。

 とにかくどう足掻いても現状勝つことは絶望的である。

 

 そのエルザ・スカーレットが、俺の前で無防備に拘束されているのだ。最初は幻覚か、精巧に似せて作った人形かなんかかと深読みしたが、会長の口から本人であることが告げられた。

 エルザをどうやって捕まえたのか疑問をぶつけると、知り合いのケーキ屋と結託し、飲み物に睡眠薬を入れたらしい。

 話を聞いていくと『巨乳を愛する会』は慈善活動の皮を被った非合法集団であり、こうして女性を攫っては「儀式」という名の淫行を働いているようだ。……なんてすばらしい集団なんだ。今すぐギルド抜けてこっちに入りたいくらいだ。

 

 拘束されたエルザは睡眠薬がまだ効いており、意識はない。そんなことより注目すべきはエルザの体。普段は鎧を着ているため目立たない巨乳の存在感がすごい。会員たちもその迫力に釘付けである。

 

 会長から様々な道具を渡され、儀式の開始が宣言された。

 

 まず意識を取り戻した際に、俺がいることがバレるのを防ぐため、目隠しで視界を覆う。これで好き勝手出来るな。

 俺は意識があった方が興奮するので、水をかけてエルザを起こすことにする。

 

「……ここは一体」

 

「お目覚めかな、エルザ・スカーレット」

 

 俺は声色を変え、事の経緯を語る。エルザは怒りを露わにするが、魔法は拘束している鎖によって使えないから、恐れることはない。

 早速俺は手を使い、エルザの全身をまさぐる。肌スベスベで柔らかいし、まさに至福のひと時だ。エルザに「下衆が……」と言われたが、俺にとってはご褒美だ。周りもこの言葉に盛り上がりを見せたので、共通認識なのだろう。

 次に俺は主張しまくりのおっぱいに目を向ける。まだ手が届かないと思っていたものが、すぐそこにあるのだ。

 俺は震える手でエルザのブラを外す。

 

「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」

 

 そこには前に見たレビィとは比べ物にならない豊満なおっぱいがあった。これには会員一同大興奮。エルザもさすがに大勢に見られて恥ずかしいのか顔を赤らめている。

 興奮を抑えきれない俺は、エルザの胸を揉み始めた。柔らかい感触が俺の手に伝わってくる。モミモミと俺の手によっていやらしく形を変えるおっぱいに、周りから感嘆の声が漏れる。

 だがエルザは悔しそうな声をあげるだけで、感じてはいないようだ。これはいかんと、会長から渡された道具の1つである筆を俺は手に持った。その筆でエルザの豊かな双丘の突起をなぞっていく。

 

「くっ、あ……」

 

「ほれほれ〜、ここか?ここがいいのか?」

 

 鮮やかな俺の筆さばきの前に、エルザは抗うことは出来ない。艶かしい声が漏れ始め、会員たちも我慢出来なくなったのか自らの聖剣を取り出して磨き出した。

 やがてぷくりと膨らみを見せたエルザの突起を見て、俺は衝動に駆られて、それに吸い付いた。

 

「やめろ……んんっ!それ以上は」

 

 赤ん坊のごとくチュパチュパとわざとらしく音を立て吸っていることを強調する。ただ吸うのではなく、緩急をつけ、時折口の中で舌を駆使し、突起を転がす。

 

「よし!ストップ!ストップじゃ!!ワシが代わりにやるぞ」

 

 ここで俺を指名したはいいものの、我慢の限界だった会長が交代を催促してきた。無視して行為を続行したいところだが、相手はこの集団の中のトップである。自分はゲストにすぎないことを思い出し、惜しみながら交代を決めた。

 

 しかし交代しようとした直後、鎖を無理やり引き裂いたエルザの鉄拳により、俺はダウンすることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、『巨乳を愛する会』は壊滅していた。俺は早くもお縄に頂戴されるのかと思っていたら、エルザは俺が組織の暗躍に気付き、潜入していたがエルザを乱暴から守ろうとしたところを気絶させられたと勘違いしているようだ。……目隠しして本当に良かった。

 

 『巨乳を愛する会』逮捕に際し、評議院から取り調べを受けたが、特に何もなかった。会員たちが俺のことを暴露するんじゃないかというのも杞憂に終わった。どうやら同志たちは俺を売らなかったようだ。

 

 ありがとう、『巨乳を愛する会』。俺は一瞬だけしかその輪に入らなかったが、お前たちは俺の立派な仲間だ。

 

 あとは帰宅するだけだったのだが、評議院の取り調べが思ったより長くなってしまい、宿を取って1泊することになった。

 エルザと同じ部屋で、だ。

 

 まだイベントがあるとは、今日はすごく濃密な日である。濃密過ぎて勘弁して欲しい。今日はマジで俺の異世界ライフは終了したと思った。たまたま運が良かったが、一歩間違えれば、監獄にさよならだったのだ。

 

 だからダブルベッドだなんて、俺を刺激する要素をぶつけないで欲しい。普段の俺なら大喜びだっだが、神経を擦り切らしている今の俺には、危険物そのものである。なんで旅行シーズンでもないのに、部屋の空きがないんだ。

 

 自分の運命を呪っていると、エルザが風呂から戻ってきた。実は入る前に「一緒に入るか?」と誘われたが、丁重にお断りした。誘う意味がわからなかったが、ナツやグレイが、エルザと一緒に入っていたことを思い出し、同じように弟分と思われているのかと理解した。

 確かに最近クエストによく一緒に行くし、俺の剣の師匠でもある。そう思うのも仕方ないかもしれないが、俺はエルザより1つ年上の18歳であることを彼女は忘れていないか?まあ威厳もヘッタクレもないから、年齢なんて些細なことだと思われているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 就寝の時間になったが、思っていた通り、俺は寝ることが出来なかった。

 

 一方のエルザは、速攻で眠ってしまった。男の横で無防備に寝るとは舐められたものだ。俺はそこらの男より、危険思想を持った奴であることを自負している。エルザよ、後悔しても手遅れだ。俺の手で、2度目の恥辱を味わうのだ!……調子に乗りすぎると、今度こそシャレにならないので、ほどほどにな。

 

 

 では、まずはジャブから入ろうと、エルザの尻に手を伸ばす。

 

 しかし俺の手が届く寸前、エルザに手を掴まれ、そのまま捻られてしまった。俺は慌ててエルザに掴まれていた手を解き、同時に恐怖に襲われる。エルザ、まさか起きてた?

 

 恐る恐る様子を確認するが、眠っているのは確かであった。

 

 つまり腕を掴まれたのは、エルザの自己防衛本能によるものだ。これはこれで怖い。眠っているはずなのにこの危機管理能力はなんなんだ。その癖簡単に睡眠薬盛られるし、なんというかな。

 

 俺はエルザへのイタズラを諦め、どうにかして寝ることにした。

 

 しかしエルザが近くにいることに悶々としすぎて、よく眠ることは叶わなかった。



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暗い過去より明るい未来だ

 今日はギルドではなく、自宅で1日を過ごすことにした。ギルドは活気があって悪いものでないが、常に喧騒の場にいると、たまには静かに過ごしたくなるものだ。

 俺は映像魔水晶を手に取る。この魔水晶は文字通り録画をするための魔水晶だ。今までのレビィやエルザの痴態、ついでにナツやエルザとの戦いが収められている。いつかこの魔水晶が彼女たちの痴態でいっぱいになることを夢に思っている。

 

「そうだな、エルザの映像でも見るか」

 

 俺が戦闘態勢を整えていると、インターホンの音が聞こえてきた。どうせセールスの類いだろうと俺は居留守を決め込むが、インターホンの音は一向に鳴りやまない。こんなふざけたマネをするのはどこのどいつだと悪態をつきつつ、玄関のドアを開けるとそこにいたのはミラジェーン・ストラウスだった。

 

 俺の家を訪れた理由はわからないが、立ち話もなんだと部屋に入れた。お茶を出して、話を聞いてみると今日ギルドに来なかったから心配になってここに来たようだ。確かにギルドの誰にも今日は家で休むとは言ってないが、毎日行く義務もないんだからそこまで心配することでもないだろうと思う。

 

 しかし話が進むにつれ、俺は頭を抱えることになる。どうやらギルドの面々に俺は「高い実力を持っているが、扱う魔法が危険なためそれを忌避しており、また仲間を危険な目に遭わすことを恐れ、交流も避けている」と思われているらしい。実に面倒なことになってしまっている。俺はみんなが思うような大層な事情なんて抱えていないが、思わせぶりな行動を取ってしまっていたようだ。

 

 とりあえず誤解を解くために俺は「使う魔法は危険ではなく、使いづらいから忌避している。俺の友人関係が狭いのは単に俺のコミュニケーション能力が低いだけだ」と事実を伝えた。

 だがミラは俺が伝えた事実に納得がいかない様子だ。このままじゃ帰ってくれないと察した俺は「悪いが俺はな、お前が心配するような人物ではない。隠していたが俺は性欲モンスターだ。今もお前のことを犯したくてしょうがない」とさらなる事実を突きつけた。真に受けることはないだろうが、ドン引きして退散するだろうと思っていた俺は甘かった。

 

 ミラはその身を差し出して「だったら好きにすればいい」と言ってきたのだ。

俺はミラが壊れてしまったと焦ったが、彼女にとっては純粋に仲間である俺を信じての行動のようだ。

 ここでミラの信頼をぶち壊すのもありではある。しかしその先に待っているのはサタンソウルによる蹂躙。いくら全盛期の力はないといってもS級魔導士に変わりはない。穏便に済ませるのが得策だと、俺は突然変なことを言って口走ったことを謝罪した。

 ミラは笑って許してくれたが、その代わり自分と友達になるよう言われた。断る理由もなかったので、あっさり承諾するとひどく驚かれたが、そんなにダメ人間だと思っているのだろうか。

 

 しばらく談笑した後にミラは「また明日ね」と言って去っていった。そんなこと言われたら明日はギルドに行かざるをえないじゃないですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、起きたら昼の1時を回っていた。レビィから借りた本を読んでいたら徹夜してしまい、こんな時間に起きてしまった。

 早くギルドに行かないとなーって考えてたら、それより早くにミラがこっちに来てしまった。ニコニコしているものの、怒っていることがわかったので、素直に理由を言ったらグーパンされた。

 

 俺は支度をして、ミラとともにギルドへ向かう。ミラは有名人なので道中よく声をかけられた。

 

「なんていうか、ミラの隣を歩くの恐縮だわ」

 

「Kは自分のことを卑下しすぎよ。もう少し自信を持ってもいいんじゃないの?」

 

「ミラと比べれば全く大したことないからなあ。俺も『魔人』とか言われるようになるのかねえ」

 

 『魔人』の言葉にミラの表情が固まる。そういえばあのことがまだ尾を引いているのか。ミラが現役を退く原因となった事件。

 その事件でミラは力を失うばかりか、妹も死んでしまったと思っている。本当は妹は生きているんだけどな。妹もかわいかった覚えがある。それといい尻してた。

 

 俺がくだらないことを考えていると、ミラは自分から昔の話をしてくれた。本人の口から聞くのは耐えがたいものだ。ミラがこれだけ責任を感じているのなら、直接の加害者と言ってもいいエルフマンの気持ちを考えると、闇堕ちしないか心配になるレベルだ。原作を知っている俺はそうはならないと知っているが、あることに気付く。

 

 本来いないはずの俺がギルドにいるのだからこれから本当に原作通りになるのかと自分の影響力なんて大したことないと思っていたが、俺が原作キャラに接触し、ギルドに加入したことは立派な変化だ。

 もしかしたらナツがエロに興味を持つかもしれないし、グレイの脱ぎ癖が露出狂へと変化するかもしれない。

 ただ俺の原作知識も怪しいところがあるのでなんとも言えない部分もある。しかし俺が既に原作介入していることに変わりはない。

 なら、もう好きにやらせてもらおう。

 

「ミラ、実は相談したいことがあるんだ」

 

 俺はミラに笑顔である提案をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミラジェーン・ストラウス、エルフマン・ストラウス、それと今はいないリサーナ・ストラウス。彼らは3人とも接収と呼ばれる魔法の使い手である。特にミラは先に述べた通り『魔人』と恐れられたS級魔導士で、リサーナはどうだったかよく覚えていないが、エルフマンも結構強かったはずだ。

 しかしミラは力を失い、エルフマンも例の事件でびびって全身接収を使えない。のちにエルフマンは土壇場で全身接収を使えるようになるのだが、俺はこれは問題だと思う。漫画だから都合よく暴走せずに事足りたが、普通はそんなことありえない。それにびびっているとは言え、全身接収はかなり強い武器になるのに使いこなそうとしないのはもったいない。

 だから俺が早い覚醒を促してやろう。

 

「K!!姉ちゃんを離せ!!」

 

「クッハッハッハ!離せと言われて離す者がいるか!!」

 

 俺の作戦はこうだ。ミラを人質に取ったふりをし、エルフマンをおびき寄せ、それっぽい言葉で全身接収を使わせる。暴走するかもしれないが、対策はしているので大丈夫だ。

 それに暴走する可能性は低いと思う。俺は肉親を失う恐怖ではなく、俺に対する怒りによって魔法を使わせる。どっちが精神的に安定しているかと問われれば、後者だろう。あの土壇場で使えるのなら余裕がある今でも使えるはずだ。

 

 ミラにこの話を持ちかけた時、当然のように渋られたが、俺は別の目的もあったので、説得に説得を重ねて了承してもらった。

 エルフマンに全身接収を使わせるには舌先だけでなく、目に見える煽りも必要だ。目に見える煽り、つまりエロいことができる。

 さらにこれは両者合意の上で事に及ぶ。合意と言っても「エルフマンを焚きつけるために少し手を出すかもしれないが許してくれ」としか言ってないが、遠慮なくやらせてもらう。

 

「ミラの身が大事なら全身接収を使え!」

 

「!?いや、なんで使わねえといけねえんだよ!!使うわけない……」

 

「別にそんなことどうだっていいだろ。使わないならこっちにだって考えはある」

 

 俺は魔法E・ウォーターを発動し、ミラの服を溶かす。溶かされて露出した素肌がなんとも色っぽい。

 

「きゃああああああ!!」

 

「姉ちゃん!!」

 

「ほう、これはまたいやらしい下着を着ているじゃないか。『魔人』様は相当淫乱でいらっしゃる」

 

 演技ではなく、マジモンの本心で下衆なセリフを吐くと、エルフマンだけでなくミラにも睨まれてしまった。これあとでちゃんと弁明できるか心配になってきた。

 とりあえず今は目の前のことが優先だ。2人の睨みに怯まず、俺はミラのお尻を鷲掴む。ミラは困惑しているが、お構いなしに肉付きのいい尻の感触を楽しむ。

 

「さっ触らないで!」

 

「たまらないなあ。ギルドに入った時から思っていたが、とんだエロ尻だ」

 

 ミラの顔が怖すぎるが、そんなことは気にしない。俺はグニグニと熟れた果実を揉み、時に中央の割れ目に指を入れなぞるように動かす。く〜!俺の指に感じているのか震えているミラに興奮が止まらない。

 

「K!お前は絶対に許さねえぞ!!」

 

「許すも許さないも勝手にしろ。それで使う気になったか?」

 

「それは……」

 

「情けない奴め。ミラからお前の事情は聞いている。しかしお前はあれから全く成長していないじゃないか」

 

「お前なんかに何がわかるんだ!!」

 

「わかるさ。お前が逃げていることくらい。そして同じ過ちを繰り返すこともな!」

 

 俺は再びE・ウォーターを使い、ブラまでも溶かす。姿を現したデカメロンに俺はエルザの時並みの感動を覚える。

 

「どうした!?お前は全身接収を使うことを恐れているが、それは姉が汚されること以上なのか!?ふん、所詮お前は漢とはかけ離れたただの根性なしだ!!」

 

 調子に乗って煽っていたらエルフマンが全身接収を使ってしまった。これからが本番だったのに飛ばし過ぎたな。しかもこちらをしっかり見据えてるから理性があるパターンだ。

 

 俺はミラにこの場から離れるように言って、エルフマンと対峙する。暴走した時の対処は考えていたが、使いこなせた時のことは考えないようにしていた。その時はミラが止めてくれるだろうと信じていたが、今回やり過ぎてしまったため、それもアテにならない。五体満足で帰れたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルフマンとバトルした俺は満身創痍になったが、死ぬことはなかった。途中ミラが止めてくれなかったら完全にアウトだったものの、生きて帰ってこれた。

 確実に2人に嫌われるだろうと思っていたのに、2人は俺がエルフマンのために過剰なことをしてでも悪役に徹したと思っている。お前らの目は節穴か。俺は欲望の赴くままにミラの尻を触ってたぞ。

 でもすんなり許されたわけではなく、エルフマンからは「もし次こんなことをしたら容赦しないぞ」的なことを言われ、ミラも許してはくれたがしばらく目を合わせてくれなかった。

 そのせいでレビィやエルザに不審に思われたり、二次被害が出てしまった。払った代償は大きい。

 

 それとエルフマンが全身接収を使えることはなるべく隠しておくように言った。当然エルフマンから批難があがったが、「お前は隠された必殺技にロマンを感じないのか?」と言ったらキラキラした目になってあっさり受け入れた。一応の原作との差異対策である。ミラは呆れ気味だったが、弟が無事トラウマを克服出来たことを喜んでいた。

 

 そしてもう1つの変化があった。ミラが現役復帰のためにリハビリを始めたのである。原作よりだいぶ早いエルフマンの覚醒と俺の言葉に感化され、「自分も前に進みたい」と決意したそうだ。

 俺はとんでもないことをやらかしてしまったかもしれない。だからと言っても俺はこれからも気の向くままにやるだけだ。

 

 それから俺もミラのリハビリに付き合い、一緒にクエストに行ったりしてるのだが、ミラ優しすぎないか?いくら演技(だとミラは思っている)とはといえ、あんな恥ずかしいことをすれば避けるだろう。

 避けられるどころか一層親交が深まったことに疑問を覚えるも、次はどうしてやろうかと、懲りずに思案する俺は間違いなく下衆である。



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電撃には気を付けろ

 『妖精の尻尾』のみんなが優しすぎる件について。どうして俺なんかを気にかけるのだろうか。

 エルフマンの1件から受け身的に交流が広がった。ミラが俺の名誉を傷つけないように細部を隠しつつ、事の顛末を話したらしい。

 みんなからの尊敬のまなざしが痛い。

 

 そして何よりも致命的だったのは俺がエルフマンとバトルした際、エルフマンに怪我を負わせないように立ち回ったと言われていることだ。

 そんなわけないだろ。あれはエルフマンが強すぎて手も足も出なかっただけだ。応戦しようとした時には既に拳の雨に晒されていた。思い返せば啖呵を切ったくせに無様な戦いだった。

 

 俺の知らぬところで強者の噂が止まらないせいで、ナツに勝負を挑まれる頻度が増える。普通に勝負を挑むのは百歩譲っていいとして、殴りかかりながら挑んでくるのはやめてもらいたい。なんでギルドで神経使わねばならんのだ。

 だが挑まれる分対策もしっかりしてきて、E・ファンタジーで乗り物シチュエーションの妄想を見せて乗り切っている。妄想でも酔うとはチョロい。

 

 しかしナツだけが厄介ではない。俺の師匠であるエルザも話を聞いたおかげで、修行がハードモードになってしまった。煉獄の鎧を使うなんて間違ってる。目にした時、生きるビジョンが見えなくて、小便漏らしかけた。

 この調子だとアクノロギアを見た日には糞まみれかもしれない。

 

 まとめると俺は実力は皆無であり、人格者でもないってことだ。だからラクサスよ、俺を『雷神衆』に誘わないで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクサス・ドレアーとその囲いである『雷神衆』。ラクサスは言わずと知れたS級魔導士で、しかも現『妖精の尻尾』マスターマカロフの孫。

 彼を崇拝する『雷神衆』もまた精鋭揃いだ。エバーグリーン、ビックスロー、フリード。どいつも癖の強い魔法を使うが、実力は折り紙つき。特にフリードの術式、あれは悪用出来そうだから、機会があれば俺も習得したい。

 

 ラクサス並びに『雷神衆』は『妖精の尻尾』でも上位クラスの実力を持っているが、ギルドから浮いている。

 まあ浮いているから浮いている者同士徒党を組んでいるのだろう。だから『妖精の尻尾』の中で、異質な俺をスカウトするのはわからなくもない。

 だが俺は『雷神衆』に入るほどの強さはない。強くても『雷神衆』に入ろうとは思わないがね。

 

 俺は事を荒立てないように丁重に勧誘をお断りした。

 

 しかしラクサスが言うには「てめえはいつまでその実力を隠しているんだ?」とのことだ。残念ながら隠しているのでなく、もともとないんだ。

 最強転生者にしなかった神を恨め。

 

 ラクサスが俺の勧誘から、俺の実力を試す方向に傾いてきた。腕試しされるなんてたまったもんじゃない。

 俺は思考をフル回転し、この状況を打破する言葉を捻出する。

 

「俺さあ、エルザ派なんだよね」

 

 ラクサスとエルザは仲が悪い。『妖精の尻尾』のメンバーの大半と関係がよろしくないラクサスだが、2人の対立はよく目立っている。

 そんなエルザを引き合いに出されたラクサスは「エルザに媚びるとはお前もたかが知れてるな」と言われてしまった。『雷神衆』に入ればラクサスに媚びるも同義なのに、なんでそんなことを言われないといけないんだ。どうせ媚びるなら男より女のほうがいいに決まってるだろ。

 

 俺はラクサスにエルザの魅力を長々と話すと、ラクサスも「お前の言うことも一理ある」と納得させることに成功した。

 それから話が下世話な内容に変わっていき、事前に聞いていた俺の印象と違うことに驚いていたので、それはみんなの勘違いだと教えてあげた。ラクサスはしばらく神妙な顔つきになった後、「そういうことにしておいてやる」と言ってきた。また別の勘違いが起きた気がしたが、これ以上踏み込みたくなかったので黙っていることにした。

 

 ラクサスは俺と一緒にクエストに行く約束取り付けて去っていった。絶対一悶着あるとビクビクしていたのに、終わってみればラクサスと話せる仲になってしまっていた。

 これが原因でエルザと不仲にならないか不安だ。俺はラクサスとエルザだったら、もちろんエルザを取るので、いざとなったらラクサスは切ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ギルドに行ったらエバーグリーンがエルザに絡んでいた。どんな因縁つけてんだ?と思っていたら、同じ『雷神衆』の1人であるビックスローが詳細を教えてくれた。なんと『雷神衆』の3人は昨日の俺とラクサスの会話を聞いていたらしい。その中で俺がエルザの魅力をラクサスに納得させたことが気に食わず、あのように絡んでいるんだとか。女の嫉妬は怖い。

 

 エルザも災難だなあと同情していたら、俺の存在に気付いたエバーグリーンがこっちに来てしまった。

 エバーグリーンが言うには「エルザより私の方が上だ」とかそんな話。俺は面倒だったので、「価値観は人それぞれだが、俺はこのギルドの中だとエルザが1番好みだ」と宣言した。

 

 これにエルザは勝ち誇った顔をし、一方のエバーグリーンはとても悔しそうにしている。とりあえずひと段落だと俺は思っていたが、俺の言葉は予想以上の反響を生み出しており、周りのざわつきが止まらない。ロキがこっそり耳打ちして「エルザは口説かない方がいい」と忠告された。口説くつもりは毛頭ないぞ。

 

 事態が収集つかなそうなのでこっそり抜け出そうとしていた時、1つの嫌な視線に気付いた。視線の主はミラだった。ミラはいつも通りニコニコしているものの、その体から黒いオーラが湧き出ているのがわかる。

 俺が負の感情を向けられていることを不審に思っていたら、ミラは「ふーん、Kは私にあんなことをしたのにエルザが好みって言うんだね」と、とんでもないことを口にした。

 それからみんなの追求を逃れるために長い逃亡劇が繰り広げられ、俺は人生最大の疲労を味わうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さらに数日が経ち、俺はまたエバーグリーンに絡まれた。彼女はエルザより下だと思われることを認められず、俺の認識を改悪しようと燃えていた。

 俺はあの出来事で疲弊していたので、適当にあしらいたかったのだが、エバーグリーンはそれを許してくれない。どうしたものかと俺は悩み、この状況を逆に利用してやろうという考えに至った。

 エバーグリーン、お前だって俺のターゲットのうちの1人だ。

 

 では今回の作戦を語る前にエバーグリーンの眼について触れる。エバーグリーンは石化眼という特殊な眼を有している。効果は目を合わした相手を石化させる恐ろしいものだ。ただし義眼や眼鏡だと石化眼は通用しない。それでも優秀な魔法であり、エバーグリーンの1番の脅威はこれだろう。石化眼に頼りすぎて義眼のエルザには敗北したが、相手が悪かっただけで、素のステータスも高い方だ。

 苦戦を強いられそうだと思うが、何も特殊な眼を持っているのは彼女だけとは言ってない。俺も極点眼(エクスタシーアイズ)と呼ばれる眼を持っているのだ。

 極点眼は相手の快感のツボを見通すことが出来る眼だ。今回はこの眼を活用して奴を快楽の虜にする。

 

 俺はエバーグリーンに「エルザは肌がきれいだ」と話した上で、ツヤを出すためにマッサージを提案した。当然大して親しくもない男にマッサージをされることにエバーグリーンは難色を示したが、「それは残念だ。エルザにもするつもりだったんだけどなあ」と言ったら、態度を急変して承諾した。

 

 エバーグリーンはギルドの1室を借りてすると思っていたが、今いるのは俺の部屋だ。いつ人が入ってくるかわからないリスクは背負えない。

 俺の部屋でやることも「見えないところできれいになる努力をしてるって良くないか?」など言葉巧みに使って了承済み。

 

 布団も敷いて準備万全になったところで、いよいよ戦いが始まる。俺はエバーグリーンにうつ伏せになるように指示した。彼女にはオイルを塗るからと水着に着替えてもらっている。

 こうして見るとエバーグリーンも『FAIRY TAIL』の登場キャラらしく、そそる肉体をしている。あのキツい性格ばかりが印象的だが、それをこれから屈服させると考えると、脳汁が止まらない。

 

 俺はオイルという名の禁具スライムを溶かした液体を手に取り、微弱なE・サンダーを纏わせた。

 まずは背中からじっくり責めていく。ヘマをするわけにもいかないので、慎重にツボを避けながらほぐしていく。エバーグリーンは本格的に乱れてはいないものの、スライムとE・サンダーの影響から、妖しい声が漏れる。

 そろそろ頃合いだと、俺は極点眼で見たツボを思いっきり押した。

 

「っ!あっ……あぁう」

 

 エバーグリーンの大きく息が乱れ、声を押し殺そうとするも我慢出来ない。間髪入れずに俺は彼女の快感のツボを押していく。俺の猛攻に彼女は腰を浮かせ、感じている様子がよくわかった。

 すっかり乱れた彼女の姿に俺は今すぐ襲ってしまいたい衝動を感じるが、辛抱するんだと自分を戒める。

 

 俺の手は下半身へと移動する。初めの背中と同様に焦ることなくじっくりと責める。

太ももの感触をこれでもかと堪能し、前線はお尻へと登りつめた。尻を勢いよく掴むと、それを無我夢中で揉み始めた。

 

「んんっ!!ふああっ……くっ」

 

 先ほど以上に大きく声をあげる彼女の様子も相まって手のスピードは加速する。オイルまみれの尻が、俺の手でいやらしく形を変えていく。

 

 満足した俺は姿勢をあおむけにするようエバーグリーンに伝えた。彼女は今、石化眼対策のアイマスクで何も見えないだろうが、俺にはこの痴態が丸見えだ。

 ここにはもういつもの高飛車な彼女の姿は存在しない。

 

 エバーグリーンは堕ちた。抵抗することも出来ないはずだ。興奮しているせいか目眩がするが問題ない。

 俺は遠慮する必要がなくなったと判断し、彼女の胸に手をかけた。ふむ、エルザやミラほどではないが、認めてやらんこともない。

 

「K……これはどういう……あっ、やめ、んぁ!」

 

 俺の凶行にさすがに待ったをかけようとするが、俺の手は止まらない。エバーグリーンの胸のツボを押さえながら、揉みしだいていく。

 

「トップスの方外させていただきますね」

 

「ちょっと!?何やって……」

 

 俺はマッサージ師になりきり、丁寧な口調でトップスを外すことを伝え、実行する。 

 解放された彼女の大きな2つの山はすっかり出来上がっていた。頂上のフラッグはその存在をアピールするようにしっかり立っている。そのフラッグを指で弾きながら山に手を加えていく。

 そしてとどめのE・サンダー(強)を放った。

 

「〜〜〜〜〜!!」

 

 エバーグリーンは声にならない声をあげ、俺は勝利を確信した。

 

 しかし俺の快進撃は、ここで俺の意識が途絶えたことで終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は認識していた弱点である経験と技術は克服しようとしていたが、1つ見逃していた弱点があった。魔力量の少なさである。

 俺がマッサージの最後に気を失ったのもそれが原因だ。微弱とは言えE・サンダーを手に纏い、極点眼を常に発動させるのは俺の魔力では無理があったようだ。

 

 俺の見通しの甘さで完遂出来ず、エバーグリーンに何を言われるかハラハラしていたが、驚くことにお咎めなしだった。

 エバーグリーンはマッサージを受けた後、絶好調になったらしく、クエストで大活躍。調子に乗ってエルザに勝負を挑んでみたら引き分けたというではないか。

 そんなこともあって大いに感謝され、「エバ」と呼ぶことを許された。この呼称はラクサスと『雷神衆』の2人にしか許していないとのことだ。……また知らないうちに良好な関係を構築してしまった。

 そしてたまにマッサージすることを頼まれたが、今度は普通にしようと俺は本屋でマッサージ関連の本を探すのであった。



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常に自分の気持ちには正直である

『妖精の尻尾』は最高のギルドだと俺は断言する。

 

 しかし惜しいところは常識人の少なさである。ナツはクエストに行けば周囲のものを手当たり次第にぶち壊し、エルザは修行で俺を殺しにくるがごとく迫ってくる。ミラはたまに俺の部屋に不法侵入してくるし、エルフマンは「お前に姉ちゃんは渡さん」とか意味不明なことを喚いている。最近仲良くなったラクサスや『雷神衆』の面々も負けず劣らずといったところだ。

 やはり俺の癒しはレビィだけだ。いつかは常識人兼ツッコミ役のルーシィが来るが、待ってられん。

 俺は睨みつけてくるジェットとドロイを余所に、レビィと談笑していたかった。

 

「どうした、K?何死にそうな顔してんだよ」

 

「そうだぞ。これからクエストなのだから気を引き締めろ」

 

メンバー:ラクサス、エルザ、俺。

 

受けるクエスト:S級クエスト。

 

 おかしい、俺はS級試験を受けてすらいないのにS級クエストに赴いている。これは何かの陰謀に違いない。

 

「まさかS級クエストにびびってるのか?情けねえなあ」

 

「馬鹿言え。Kがびびるわけなかろう」

 

「……お前らは気楽でいいよな」

 

 ラクサスと最初に話したクエストに一緒に行く約束を果たすため、俺たちは行動を共にしていた。なぜそれがS級クエストなのかといえば、ラクサスの気まぐれとしか言いようがない。いくらラクサスに同行する形とはいえ、S級クエストは勘弁して欲しかった。

 しかしエルザの乱入もあって断るタイミングを失い、今に至る。

 

「何言ってんだ。お前は早くにS級になりそうだし、先行体験とでも思ってお前も気楽に行くべきだろ」

 

 どこで間違えてしまったのか、ラクサスはかなり俺のことを買い被っている。性質がクズっぽいラクサスは俺のことをある程度理解してくれると思っていたが、とんだ期待はずれだった。

 エルザもエルザで、俺とラクサスが仲良くなっていることに疑念を抱いているから怖い。どいつもこいつも見当違いばかりだ。

 

 俺はため息をつきながら今回のクエスト内容を思い出す。今回のクエストは「クリムゾンインプ」の討伐だ。クリムゾンインプはいわゆるゼレフ書の悪魔で、封印の綻びを利用し、封印から逃れたようだ。その性質は邪悪であり、評議院は多くのギルドに討伐クエストを依頼した。

 また潜伏しているとされる場所の周辺には警戒令が敷かれており、事の重大さが伺える。

 

「とにかくゼレフ書の悪魔だろうが、俺たち3人なら大丈夫だ」

 

「油断するな。仮にも相手はゼレフ書の悪魔だぞ」

 

「そうだ、ラクサス。お前は敵を甘く見過ぎている。慢心は良くない」

 

 エルザの声が2つ聞こえたと思ったら、エルザが2人いた。クリムゾンインプは悪知恵が働くと聞いていたが、味方に化けて錯乱を狙ってきたか。

 2人のエルザはお互い自分が本物だと主張するも、違いは見られない。ラクサスも判別できないため、2人まとめて攻撃しようとするのを俺は慌てて制止した。

 このままでは相手の思うつぼである。俺は知恵を絞り、解決策を練る。

 

妖精の風則(フェアリーブロウ)

 

 俺は咄嗟の思い付きで風魔法を発動し、片方のエルザのスカートがめくられる。

 

「なるほど、黒か」

 

 エルザは「こんな時に何をしているんだ」と怒ってきたが、それを無視して俺はスカートがめくれなかった方のエルザをぶん殴った。

 殴られた偽物のエルザの変身が解けると、そこには悪魔の姿があった。悪魔と連れの2人は俺が偽物見破ったことに驚いている。

 

「キサマ、ドウヤッテクリムゾンインプサマノヘンシンヲミヤブッタ!?」

 

「なーに、風が教えてくれただけだよ」

 

 クリムゾンインプが女性型の悪魔だったら見抜けなかったことは言わないでおく。俺はエクスカリバーLv1を呼び出し、クリムゾンインプに斬りかかる。

 しかし俺の斬撃は簡単に躱され、クリムゾンインプの腹パンにより俺は痛みでうずくまってしまう。

 続けてラクサスが攻撃しようとした時、クリムゾンインプは素早くラクサスの後ろに回り金的を喰らわした。これにはさすがのラクサスもノックダウン。強い上にやることに容赦がない。

 

「K!ラクサス!」

 

「ヘンシンヲミヤブラレタトキハアセッタガ、タイシタコトナイナ」

 

 残るエルザとクリムゾンインプの戦闘が始まった。エルザは俺やラクサスと違い、すぐにやられたりせず、クリムゾンインプと対等以上に渡り合う。俺の見立てではクリムゾンインプの方がやや押され気味だ。クリムゾンインプもそのことに焦ったのか、攻撃のペースを上げるが、その魔手はエルザには届かない。

 エルザは黒羽の鎧を換装し、勝負を決めにかかる。だがクリムゾンインプはやられまいと、バリアーを張って攻撃を防ぐ。

 さらに手から触手を放ち、エルザを拘束することに成功した。

 

「これはまさか魔力を吸収しているのか!?」

 

「コウナッテシマエバコッチノモノダ」

 

 危機感を覚えたエルザは天輪の鎧に切り替え、触手を斬ろうとするもうまく剣を操ることが出来ない。

 触手は魔力を吸収するだけに飽き足らず、エルザの体を刺激し始めた。魔力を吸収され、弱ったエルザに抵抗できるわけなく、触手による蹂躙は止まらない。敏感な部分への責めに、持ち前の精神力でなんとか粘ってはいるが、その目は半ばとろけ切っている。

 

「私は……んんっ、負けるわけには」

 

「マダアキラメヌカ。ナラバキサマノヨウナモノガキラウヤリカタデオトシテヤロウ」

 

 クリムゾンインプは俺に魔法をかけてくる。すると俺のエルザに対する欲望が高鳴り始めた。

 俺は欲望を我慢出来ず、エルザに毒牙を向けた。

 

「K、何を……うっ!やめ……はぁっ!!」

 

「ナカマノテデヤラレテシマエ」

 

 俺は夢中でエルザの2つの巨峰にむしゃぶりつく。なんて甘美な味をしてやがるんだ。

 触手により弱りきったエルザは俺にでも余裕で攻略出来る。思わぬところでこんなチャンスに巡り会えるとは、クリムゾンインプには感謝するしかない。

 

「エルザ!おっぱい!うおおおおお!」

 

「目を……んふぅ……覚まあぁっ!!」

 

 エルザが必死に俺に呼びかけるが、生憎俺は通常運転だ。

 

 俺の目はエルザのダムへと向いた。ダムは既に決壊し、辺りの水害は目も当てられない。その状況に俺は追い打ちをかける。

 

「んんんんんんん!!」

 

 投下された爆弾は轟音とともにさらなる水の流出を生み出した。

 

「ハハハ!キサマモモハヤタダノオンナダ。トドメハオレガサシテヤロウ」

 

 俺のプレイを見届けていたクリムゾンインプはシメは自分がやると言って近付いてきた。

 ここまで来てお前に譲るだと?エルザは最後まで俺たっぷりで終わらせるんだ。お前がけしかけておいて、美味しいところを取るのは許せない。

 

 俺は極点眼を発動し、今使える魔力の全てをE・サンダーに込め、それを手にまとう。

 

 そして奴の快感のツボめがけて正拳突きをした。

 

「ぐあああああああああああ!!」

 

 クリムゾンインプは一本角バルカンの時と同じように破裂した。

 

 これで邪魔者はいなくなった。俺はさっきの続きをしようとするが、瞼が重い。似たような展開に、俺はうんざりしながら、深い闇へと飲まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして初めてのS級クエストはなんとか成功した。

 

 俺はエルザに対してかなり心残りがあるが、クリムゾンインプを倒せなかったケースを考え、これが正解だったと自分を納得させた。

 

 それに今回は大きな収穫があった。極点眼とE・サンダーのコンボ。マッサージにしか使えないと思っていたが、戦闘にも流用出来るすばらしいものだった。敵の破裂を起こすくらいの威力を出すと俺の魔力の大半を持っていかれるが、気絶させる程度ならそこまで消費しないはずだ。

 

 エルザにも「あのような技を編み出していたとは恐れ入った」と褒めてもらった。調子に乗って「俺もエルザの乱れっぷりには恐れ入った」と返したらエルザの鎧のフルコースを味合わされた。本当のことを言っただけなのにひどいじゃないか。

 

 ラクサスは自分が早々に退場し、S級ではない俺が敵を倒した事実に落ち込んでいた。俺はラクサスの気を紛らわすために「ラクサス、キンタマ蹴られるってどんな感じ?」と聞いたら、ラクサスは俺の股間めがけて雷竜方天戟をぶっ放してきた。その技使ったら滅竜魔導士だってバレるぞ。

 

 俺がS級クエスト達成の功労者だとギルドの面々に伝わると、また周りが騒がしくなった。特にナツは自分もS級クエストに行きたがったが、その気持ちは理解出来ない。

 ラクサスやエルザがやられるようなクエストだぞ?たまたまイレギュラーだったのかもしれんが、俺はもう行きたくない。まあ前提条件のS級魔導士にはなれないだろうから、行く機会はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのS級クエスト以降、エルザ・ラクサスとはよくパーティを組むようになった。これにミラもたまに加わるから1人S級じゃない俺は勝手に肩身狭く感じている。

 しかもこのパーティでクエストに行くといつの間にか終わってるから毎回申し訳ない気分だ。

 

 そんな役立たずな俺も着々と成長している。E・サンダーのコントロールは精密になり、戦闘経験や技術も板に付いてきた。

 ただ魔力だけがどうしようもない。アドバイスをくれそうなマカロフに相談したところ、努力で簡単にどうにかなるものではないようだ。

 やはり俺は策略を巡らすしかないらしい。

 

 それでも努力しない理由にはならないので、日々の研鑽は怠らない。最近は特典の魔法以外の魔法の習得を目指している。

 しかし神様は残酷で、覚えられる気配がない。今のところ唯一覚えられたのは変身魔法のみ。変身魔法もレパートリーは女性に偏っている。

 初めて変身に成功した姿がミラで、嬉しくて自分のおっぱいを揉んでたら、サタンソウルパンチを喰らった。

 

「そこにおっぱいがあったら揉むに決まってるだろ!」

 

 つい大声で本音を叫ぶと、周りは俺の言葉が面白かったのか、どっと笑いが起きた。ミラは顔を真っ赤にして俺を追撃した。

 それでも懲りずに家でこっそりミラに変身しておっぱいを揉み、虚しくなってしまったのは秘密である。つい「俺は本物(のおっぱい)を揉みたい!」と叫んでしまった。

 

 問題はタイミング悪く不法侵入していたミラにこれを聞かれたことである。俺は何事もなかったかのように「おっす、ミラ。お茶でも飲むか?」と固まったミラに話しかけるも反応がない。

 これから起こる惨事を想像して震えていると「だったら、揉んでみる?」と言うではないか。ミラは1人部屋で自分の姿に変身しておっぱいを揉んでいる俺に同情したのかと思うと辛い。

 

 だからといって断るわけもなく、俺はミラのおっぱいに手を出した。エルフマンの時には見ることしか出来なかったデカメロンに俺は触れている。ゆっくりとその果肉に指を食い込ませ、その柔らかさを認識する。揉んでいる最中、ミラは何も言わないが時々漏れる吐息が艶かしい。

 ふと俺はミラの顔を見ると、顔を赤らめ実に色っぽい表情をしていた。しかも嫌そうにしておらず、むしろ満更でもないといった表情。

 

 俺はそれになぜか恐怖を感じ、手を離してしまった。突然手を離したことで変な空気が流れてしまい、さらに「最高の揉み心地だったぜ!」と墓穴を掘る始末だ。

 ミラは笑っていたが、彼女に悪い気持ちを抱かせたに違いない。

 

 その日の夜はモヤモヤとした感情を払拭するために自家発電に没頭した。



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祈る者と煽る者

 ミラがあの1件から積極的に迫ってきて困惑している。前からクエストは一緒に行ってたが、最近は食事や買い物に付き合わされる。

 つい「もしや俺に気があるのでは?」なんて魔が差したことを思ってしまうも、すぐにそれを否定する。

 そして先のモヤモヤした感情の正体に気付いた。

 

 俺は期待してしまっているのだ。いつもとは違ったいい雰囲気に流され、純粋な関係を結ぶことを。

 馬鹿なことを考えてしまっている。俺まで勘違いの泥沼に浸かる理由はない。ミラが何を思って俺に近付いているかは不明だが、それはそれで利用させてもらおう。

 

 問題はギルドの連中の何人かが俺とミラの仲を疑っていることだ。その1人であるラクサスには「ミラとはどこまで進んだ?」と直接聞かれてしまった。「ミラとはそういう仲じゃないんだが」と否定するも、ラクサスはからかうように笑うばかりだ。

 今度クエスト中に絶頂させようと心に誓った。

 

 こんなこともあり、心休まりたかった俺は久しぶりに1人でクエストに行った。

 

 いつもの3人から誘いがあったが、「悪い。今日は1人で行きたい気分なんだ」と言って、申し出を断った。クエストも「小規模の山賊の討伐」という簡単なものにし、気分のリフレッシュを図った。

 俺もまだまだとはいえ、だいぶ戦えるようになっていたため、この時は高を括っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山賊を討伐するまではよかったが、その山賊は『破壊の蠍(クラッシュスコーピオン)』という闇ギルドの末端組織だった。

 

 『破壊の蠍』の増援によって敗れた俺は捕らえられ、奴らのギルドに連れて行かれた。拷問や死を覚悟していたが、『破壊の蠍』のマスターは何を思ったか俺をギルドに勧誘してきた。

 『破壊の蠍』は『六魔将軍』の傘下の闇ギルドで、反旗を翻すために力を蓄えていたらしい。近々争いを起こすことを企んでおり、戦力の増強にと俺を誘ってきたようだ。

 しかし俺は増援時にあっさりやられ、誘うような人材でないことはわかっているはずだ。この疑問をぶつけると「お前はなんだかこちら側の匂いがする。それに只者ではない雰囲気が漂っている」と言われた。「只者ではない」は間違っているが、初めて俺のことに勘付く人物の登場に涙しそうになる。

 

 しかし承諾する理由にはならない。マスターの魔法はミラやエルフマンと同じ接収である。俺が見たのは蠍のモンスターに変身して毒を操るもので、俺はそれにやられてしまった。

 負けた俺が言うのは滑稽かもしれないが、マスターの魔法がこの程度ならおそらく『六魔将軍』には勝てない。6人でバラム同盟の一角を担うだけあって、『六魔将軍』の実力は本物だ。

 『破壊の蠍』のマスター以下のメンバーは、大したことなさそうだったので、最後の頼みの綱はマスターになる。そのマスターは客観的に見て『六魔将軍』を凌駕しているとは思えなかった。

 

 マスターは俺が考えていることに気付いたようで、「お前の疑念を晴らしてやる。付いて来い」と地下牢に案内された。投獄するわけでもなく、ある牢の前で立ち止まる。

 

「知っているかな。彼女は『六魔将軍』のエンジェルだ」

 

 マスターは思っていたよりやり手だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『六魔将軍』が1人、エンジェル。ふざけた語尾と胸元がぱっくり開いた痴女的なファッションが特徴だ。彼女は星霊魔導士で、普通は出来ない2体同時開門を可能にしている。

 

 こんなにも早くエンジェルの姿を見れるとは思わなかった。大胆に晒されたおっぱいがセクシーだ。

 俺がエンジェルの胸をガン見していると、マスターに「お前も物好きだな」と言われ、エンジェルには思いっきり睨まれた。

 その睨み、俺にとってはご褒美だぜ?

 

 それにしてもどういう手段を使ってエンジェルを捕まえたかはわからないが、マスターが有能なことはわかった。マスターも「これで疑念は払拭したかい?」と自信満々に問う。

 もちろん入るつもりはない。『妖精の尻尾』に入っておく方がおいしいというのもあるが、それ以上にやはり『六魔将軍』には勝てないだろうと思ったからだ。

 エンジェルは確かに強いが、星霊魔導士だ。つまり星霊を呼ぶ鍵さえ奪ってしまえば何も出来ない。エンジェルもきっと鍵を奪われ、このような事態に陥ってしまったのだろう。よって懸念は払われない。

 だが断るとなると俺はまた『破壊の蠍』を相手にしないといけなくなる。

 

「いいでしょう。その代わりエンジェルを俺の好きにさせてください」

 

 俺は『破壊の蠍』攻略のため、エンジェルの身を要求した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はギルドの酒場に移る。牢屋で事に及んでもよかったが、マスターが「どうせならギャラリーがいた方がいいだろう?」と悪魔の囁きをしてきた。完全に俺と同類だと思った瞬間である。

 今から行われようとしているショーへの期待から、酒場は大いに盛り上がっている。拘束されたエンジェルを見るみんなの目はギラギラしており、彼女もその異様な雰囲気に戸惑いを見せていた。

 

 マスターから今回の催しの趣旨が発表され、酒場のムードはさらに盛り上がる。エンジェルは下衆な面々に怒っているが、その体が震えていることを俺は見逃さなかった。

 

「『六魔将軍』でも恐怖を感じるんだな」

 

「! そんなことあるわけないゾ!!」

 

「その威勢はどこまで保つかな」

 

 俺はエンジェルの尻を力強く掴んだ。服の上からでもわかるむちむちな柔肌の感触。エンジェルはお尻を触られながらビクビクと反応しているが、強気な姿勢は崩さない。

 

「早めのお披露目だ」

 

 俺はエンジェルの卑猥な服を無理やりズラす。すると半ば見えていたおっぱいが全開となり、周りから歓声があがった。

 『妖精の尻尾』の巨乳にはずれなし!

 

「お前は絶対許さないゾ!」

 

「許してもらうつもりはない」

 

 2つの小さな禁具スライムを召喚した俺は、エンジェルの先端へとくっつけた。

 

「何を……はふぅん!」

 

 禁具スライムはエンジェルの先端に執拗に絡みつく。エンジェルの嬌声が激しくなり、ギャラリーは思い思いの下卑た言葉をエンジェルへと投げかける。

 俺はエンジェルの胸を堪能しながら、彼女にあることを耳打ちした。

 

 しばらく俺とスライムの責めが続き、エンジェルはなんとか抗おうとするも、彼女の顔はすっかり雌の顔になっている。

 ここで俺はマスターにエンジェルの星霊の鍵を渡してくれと頼んだ。当然マスターは渡そうとしなかったが、「彼女の大事な部分を弄るのに、自らの魔法の要である鍵を使われたら、さぞかし屈辱的でしょ?」という俺の言葉を聞き、渡す方向に傾いた。

 

 俺は鍵を渡されるとエンジェルの拘束を解き、彼女に鍵を渡す。

 

 マスターは突然の俺の凶行に困惑の色を見せた。

 

「これはどういうことだ!?」

 

「どういうも何もあんたならわかるだろ?」

 

 『破壊の蠍』を倒したい。

 

 だが俺の実力では敵わない。

 

 だったら他人の力を借りるしかなかろう。

 

「お前たち、生きて帰れると思わない方がいいゾ?」

 

 天使による虐殺の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『破壊の蠍』の全メンバーが始末された後、エンジェルは俺にも攻撃をしようとしてきたため、彼女の快感のツボを突いてダウンさせた。やはり星霊は強いが、本人はそこまでじゃない。

 エンジェルは弱っていて世紀のチャンスではあるも、彼女に戦闘を任せっきりには出来ず、俺も疲弊しているためそのまま帰ることにした。

 あのマスター、星霊に目もくれずエンジェルを狙ってきたりして最後まで苦労した。

 

 俺の一撃でエンジェルは動けなくなってしまい、途中まで担いで送ってあげた。エンジェルは「なぜ私を見逃す?」と聞いてくる。「それは後に入るルーシィの踏み台になってもらうためです」とは口が裂けても言えないので、「俺はお前に助けてもらった身だからな。それといい思いをさせてもらったしね」と返した。

 エンジェルは「私だけ色々やられて不公平だゾ」とジェミニを使って俺の恥ずかしい情報を得ようとするが、当のジェミニが俺をコピーした途端に錯乱し、情報が開示されることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の帰りが小規模の山賊を倒すには遅すぎることで、みんなから問い詰められた。黙っておくわけにもいかず、「山賊の上にいた闇ギルドの相手をしていた」とエンジェルの存在を隠して話した。

 みんなから心配やお叱りの言葉が飛び交う中、「闇ギルド1つを壊滅させるとはさすがだな」というエルザの言葉でまたやってしまったと後悔した。

 

 さらに数日後、家に予期せぬ来訪者がやってきた。疲れすぎて幻覚でも見えているのだろうか。

 

 目の前に『六魔将軍』のブレインが立っているような気がする。

 

 追い返すことも出来ず、家に入れて訪れた理由を聞く。ブレインはエンジェルに俺のことを聞き、興味が湧いたから来たそうだ。……あの野郎、次会った時覚えてろよ。

 ブレインがエンジェルに聞いた話によれば、俺は「巧みな話術で敵を扇動し、洗練された体術で敵を圧倒する外道」ということになっている。「外道」以外の部分、嘘っぱちにもほどがあるだろ。

 

 偽りの印象を持たれている俺はブレインから『六魔将軍』に勧誘された。神はそんなに俺に闇ギルドに入って欲しいのか?下手な断り方をすれば、俺は消し炭になってしまうだろう。

 俺は下に見られないよう「俺を誘いたいなら、お前の中で眠っているマスターを出してから言うんだな」と言ってやった。

 

 『六魔将軍』ブレインはギルドの司令塔のような役割を果たしているが、彼はマスターではない。ブレインの中に眠るもう1つの人格「ゼロ」こそがマスターなのである。ゼロはその凶悪さから『六魔将軍』のメンバーとつながった生体リンクにより、『六魔将軍』のメンバー全てが倒されない限り出てこない。

 

「その名を知っているとは驚いた。うぬは想像以上に大物のようだ。しかしその名を出してただで済むと思ったのか?」

 

「ただで済むと思っているのはそっちの方じゃないか?ゼロの人格を呼び出されたくなければとっとと帰りな」

 

 ここで俺はハッタリを仕掛ける。今すぐゼロを呼び出すなんて出来るわけないが、知るはずのないゼロの名前を出したことで、真実味を帯びてくる。

 

「そのようなこと……」

 

 かつて魔法開発局に所属し、多くの魔法の開発に携わった経験から、ブレインは否定出来ない。

 

 その後ブレインは俺に手を出さず、退散していった。お前は光と闇を入れ替える中二魔法に熱心になっとけばいいんだよ。願わくば2度と関わらないで欲しい。

 

 退散はさせたものの、かつて感じたことのないプレッシャーに俺は少し漏らしてしまっていた。仮ボスだけに威圧感は凄まじい。『破壊の蠍』がゴミに覚えるほどである。

 それにしても『六魔将軍』と関わることになるとは想定外だ。エンジェルのような女の子なら大歓迎だが、ブレインとかいう色黒ロン毛野郎はやめていただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はまた危機を回避した。

 

 しかし新たに生まれた勘違いにはまだ気付いていない。

 

 浴室で漏らしたパンツをのんきに洗う俺は、これから起きる壮絶な勘違いを知る由もなかった。



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異端者は翻弄される

 つくづくフラグは立てるものじゃないと思う。

 

 俺はX783年のS級試験の受験を許された。先のS級試験の内容を知っていた俺は「受かるとは思えないし、記念受験すっかー」と、軽いノリで受けてしまった。

 

 受かってしまった。S級魔導士になってしまった。

 

 度重なる奇跡、運命の悪戯に俺は泣くしかなかった。

 

 さらに不幸なことはS級魔導士になったことで俺の噂に火がついたことだ。「神をも屠る手を持っている」、「バラム同盟が最も恐れる最悪の男」などとんでもない噂が広まっていく。

 付いた異名は『異端者(アウトサイダー)』。これは結構気に入っている。かっこいいし、『妖精の尻尾』にいるべきではない俺にはぴったりだ。

 

 俺は名が広まったことを逆に利用することにした。対人戦では必ず名乗りをあげ、心理的なアドバンテージを得ている。勝手に混乱する様は滑稽だ。

 ただ一般人にも恐れられるようになってしまい、外に出ると視線が痛い。お前たちが恐れる俺は、女性魔導士を狙う変態なだけだぞ。

 

 そんな俺でも『妖精の尻尾』のメンバーは仲良くしてくれる。誰かが「『妖精の尻尾』はみな家族だ」みたいなことを言ってた気がするが、まさにそれを実感していた。みんなの優しさが身に染みる。

 だが俺は『妖精の尻尾』の女性魔導士に手を出すことをやめない。優しさにつけ込むのは常套手段だ。

 相変わらず慌ただしい毎日を送る俺はS級になってから絡むようになった魔導士が1人いる。

 

 カナ・アルベローナ。いつも露出度の高い服装をしており、見かけると大抵酒を飲んでいる飲んだくれ。カード魔法を操り、過去何度もS級試験に挑んでいることからも実力は高い。

 カナは父親であるギルダーツに娘だと名乗り出るためにS級魔導士に執着している。しかし俺が挑んだS級試験を含め、合格出来ないでいた。……どうして俺は受かってしまったのだろうか。

 

 このようにカナはS級魔導士にコンプレックスを持っており、自分よりも新人で1回で受かった俺に思うところがあるようだ。夜に遭遇すれば、必ず飲みに誘われる。そして俺が酔い潰れるまで飲まされるのである。

 なんだかいいようにされて悔しい俺は、今日こそあの飲んだくれに勝ってやると決心した。ついでにお持ち帰りまで出来れば完璧だ。

 カナよ、俺に関わったことを後悔しな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は決戦に勝利した。途中何度も意識を失いそうになったが、エロスのために踏ん張りを見せた。隣のカナはすっかり酔い潰れ、眠ってしまっている。

 

 カナを背負い、俺は飲み屋を出た。『妖精の尻尾』の女子寮に男の俺は入れない。

ゆえに俺の家へと向かう。

 俺自身も相当飲んでいるためか視界がぐらつく。気を抜けばそのまま倒れてしまいそうだ。それにしても背中への感触が、カナが薄着なこともあってどっしり伝わってくる。こういう不可抗力のシチュエーションも今後は増やしてもいいかもしれない。

 俺は家まで我慢出来ず、掴んでいた手をカナの脚からお尻へと変える。眠っていることをいいことに、カナのデカ尻をこれでもかと揉みしだく。

 

「んっ……ぁん」

 

 感じているのか、眠っているはずのカナから色っぽい声が漏れる。その様子が拍車をかけ、起きるリスクも考えず、俺は欲望のままにカナのデカ尻を揉み続けた。それは家に着くまで止まらなかった。

 

 帰宅後、カナをベッドに寝かせ、眠け覚ましのため俺はシャワーを浴びた。シャワーを浴びて部屋に戻ると、なんとカナが目覚めていた。

 カナは呂律が回らず意識は正常ではないが、眠っている彼女に悪戯しようとしていた俺の目論見は崩れた。

 

 俺ががっくりして項垂れていると、カナはまだ酒を要求してきた。もう限界なはずなのにこいつはまだ飲もうとしているのか。

 「今日はもうやめておけ」と俺はカナの要求をつっぱねる。それが不満だったのかカナは「え〜、いいだろぉ?」と俺の腕へと抱きつき、誘惑するようにねだってきた。さっきまで背中にあった感触が、俺の腕へと伝わってくる。男心を弄ぶカナの行動に、理性が突き破れそうになるのを堪えて「酒は飲んでも飲まれるものではない」と戒めた。カナは何か言いたげな顔をしていたが、おとなしく引き下がってくれた。

 

 酒を飲ませなかった代わりにカナから質問攻めを喰らった。主にミラとは最近どうだとか、なぜそんなに強いのかなどである。改めて聞く勘違いからの質問に俺は苦笑いをするしかなかった。

 そんな中、カナは俺にマッサージを頼んできた。エバから俺がマッサージが出来ることを聞き出していたらしい。……エルザやミラの耳に入ってないか不安である。

 

 とにかく予期せぬ好機に俺はすぐ首を縦に振った。酔っていてE・サンダーを使うのは難しいが、向こうも酔っているため少々やり過ぎても大丈夫だろう。

 カナに「服の上からだと効果が薄まるから下も脱いでくれないか」と言ったら、あっさり脱いでくれた。元々上は下着同然の姿だったが、下も脱いでしまったことで、よりそれらしくなる。

 

 続けてカナにベッドの上でうつ伏せになってもらい、いよいよマッサージが始まる。

 

 俺は極点眼は発動せず、まずは普通のマッサージを行った。エバの件から勉強していた俺のマッサージに、カナは「中々うまいじゃないか」と褒めてくれた。

 俺は油断したカナに極点眼を発動し、背中の快感のツボめがけて指圧を加えた。「ひゃうん!」とカナらしからぬ声を漏らしてしまう。

 

 続いて目標は下半身へと移る。ここでも普通のマッサージを行い、時に快感のツボを押して、カナを焦らしていった。

 カナは何か物足りないような表情を浮かべている。

 

 その後はカナに起き上がってもらい、俺にもたれかかる形で胸部へのマッサージに移行した。決していやらしくならないように心がけ、カナの胸を刺激する。先端ポイントを見定めると、直接触らずにかすめるようにして、カナへの焦らしを貯めていく。

 

「……お尻に当たってる硬いのはなんだい?」

 

 順調かと思われていたが、痛恨のミスを犯してしまった。カナの指摘に俺のキングが鎧を着て、彼女のお城に突撃していたことに気付く。

 下心があることがバレてしまい、慌てた俺は彼女の股を開き、勝負に出た。

 

「おい!そこは……あんっ!」

 

 彼女のクイーンではなく、内股に終始して刺激を強めていく。ハリのある内股に俺の指が食い込み、ぐにぐにと刺激を誘発する。

 

「いい加減に……しろ!」

 

 だが俺の最後の足掻き虚しく、カナのエルボーによって俺は撃沈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝は酔いによる頭痛が止まらず、最悪の目覚めとなった。カナは昨日のことはマッサージをされたという事実しか覚えてなくて、なんとか事なきを得た。今度は飲んでない時にマッサージを頼まれたが、ひやひやしたのでしばらくはごめんだ。

 カナは昨日俺以上に飲んだとは思えないくらい平気そうにギルドに行った。対する俺は二日酔いがひどすぎてギルドを休むことにした。

 

 次は綱渡りにならないようにしようとベッドの上で反省していたら、ミラが俺の様子を見に来た。ミラに「お酒を飲むのはいいが、カナのように飲みすぎないこと」とありがたいお言葉を頂いた。俺も懲りたため、これには二つ返事で了承した。

 

 ミラとしばらくたわいもない話が続き、俺は変に天然なところを除けばレビィと同じ癒しだよなあと、幸せを感じていた。

 その幸せも昨日のカナの話になると終わりを告げた。ミラは俺がカナを一晩泊めたことに怒っていた。

 しかしミラも一人暮らしの俺の部屋に普通に遊びに来てるのは不用意ではと思う。その事実を指摘すると、彼女は「私は問題ない」とのたまった。確かにミラに下手に手を出せばサタンソウルでワンパンだが、そういう問題ではないだろう。

 その後もミラは色々と屁理屈を捏ねあげた末に、自分も今日は泊まると言い出した。持ってきたやけに大きい荷物はそういうことか。

 

 断ることも出来ず、押し切られるようにミラのお泊まりは決まった。普段なら大チャンスと見るが、おそらくミラは俺に下心があったのではないかと疑っている。警戒状態の相手には迂闊に手を出すべきではない。

 俺は悔しさを飲み込み、今回は静観することを決めた。

 

 それからミラは手料理を振舞ってくれたり、膝枕で耳かきをしたり、逆にマッサージをしたりしてくれた。恋人プレイで俺を揺さぶるとは、今回のミラは本気だ。

 何より風呂上がりにバスタオル1枚で姿を現した時には、俺も驚いた。さすがに恥ずかしそうにしていたが、その覚悟に俺はただただ冷や汗をかいた。

 でもミラのバスタオル姿はしっかり映像ラクリマに収めた。

 

 就寝の時間になり、ミラは最後の罠を仕掛けてきた。

 

 俺はベッドにミラを寝かせ、自分は床に布団を敷いて寝ようとしていたのだが、あろうことかミラは同じベッドで寝ないかと言ってきた。

 露骨すぎる罠に俺は即座に断った。しかしミラは瞳を潤いながら「ダメ?」とねだってきて、俺は罠にかかってしまった。

 

 1人用のベッドのため、エルザの時とは比べ物にならないくらい近い。ミラから漂う甘い香りや吐息が俺の理性を壊そうとする。

 だがそれではミラの思うツボだと必死に自分に言い聞かせ、理性を保つ。ミラは一向に寝る気配がない。俺が手を出す瞬間を狙っているのだろう。

 残念ながら俺はその気はないと、頭の中でバルカンの数を数えながら眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はミラよりも早く目覚めた。ミラは俺が手を出さないと判断し、寝たのだろう。無防備に寝ているミラに手をかけようとするも、狸寝入りの可能性が頭をよぎり、すんでのところで思い留まった。

 

 煩悩を打ち払いながら俺はキッチンに向かい、朝食の準備を行った。

 

 しばらくしてミラが起きてきて、朝食をともにした。ミラは随分眠たそうにしており、手間をかけてすまないと心の中で謝った。

 

 朝食を終えた俺たちは支度を済まし、ギルドに行くとみんながなぜか大騒ぎしていた。どうやら俺とミラがあらぬ関係になったと誤解しているようで、俺は慌てて誤解を解いて回った。

 しかしみんなから「ヘタレ!」や「お前そこまでされてもダメなの?」と不満が殺到した。特に女性陣からのブーイングはすごく、俺の癒しのレビィにさえ「1回人生をやり直した方がいいんじゃない?」と言われた。すみません、これもう2回目みたいなものなんです。

 ミラは俺への口撃を止めようとしているが、元はと言えばお前が原因だぞと、心の中で嘆いていた。

 

 この騒動はギルドの外にまで広がり、俺は「男としての機能が死んでいる」、「究極(アルティメット)DT」など散々な言われようだった。男としての機能はむしろ暴走してるくらいなのに……。

 

 何を思ったかこの騒動を知ったエンジェルが「ヘタレ野郎に会いに来たゾ」と煽りに来たので、キレて勝負を挑んだら返り討ちにされた。ジェミニでミッドナイトをコピーしてくるのは卑怯だ。

 

 俺は様々な形でハートブレイクされ、悲しみに沈んだ。惨めな俺を憐れに思ったミラが「私と付き合えば解決じゃない?」と言ってきた。心が荒んでいた俺は「お前とは絶対に付き合わない」と強い口調で言ってしまい、その言葉でミラを泣かせてしまった。これにギルドの面々がキレたり、またも噂が広まり事態の悪化を招くこととなった。

 

 もう俺は何も喋らない方がいいんじゃないかと思いながら、事態の収拾に奔走した。



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曖昧な気持ち(前編)

 ラクサスに遊園地のペアチケットをもらった。彼が言うにこれでミラと遊園地に行ってこいとのことだ。

 

 俺のヘタレ事件はなんとか収束したものの、以前よりミラとの関係がぎこちない感じになってしまっていた。そのことをラクサスは案じてチケットを渡してきたようだ。ただラクサスはすごくニヤニヤしながらチケットを渡してきたので、別の意図もあるのだろう。

 

 ラクサスは「お前が誘えば絶対ミラは乗る」とのことだが、実質デートに誘うようなものだ。成功するように思えないが、未だギルドの一部の面々から白い目で見られていることを考えると、なんらかのアクションは起こさねばならない。『幽鬼の支配者』への殴り込みやバトルオブフェアリーテイルでラクサスが破門になったことからわかる通り、マカロフは仲間を傷つける者には大変厳しい。俺のミラとの不和もミラを傷つけたということで、もしかしたら破門につながる可能性がある。ならば早いうちにその芽は潰しておくべきだ。

 

 俺はダメ元でミラを誘ってみると、ミラはひどく狼狽しながらも了承してくれた。ミラもどうやら俺との仲を修復したかったようだ。それとは別に喜んでいたようにも思えるが、実は遊園地好きなのだろうか。俺も本来の目的と共にデート(仮)を楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デート(仮)当日。はりきりすぎて待ち合わせより30分も早く到着したにも関わらず、ミラは既に待っていた。待ち合わせの時間を間違えてしまったかと不安になり、すぐにミラに謝るも、時間を間違えてしまったのは彼女の方だった。

 

「ミラもおっちょこちょいなところがあるんだな」

 

「30分前に来たKに言われたくないわね」

 

 ミラは俺も時間を間違えたと思っているようだ。本当の理由を言うのは恥ずかしいからそういうことにしよう。

 

 その後開園と共に俺たちは遊園地へと入場した。受付の人がレビィに似ていたような気がしたが、気のせいだと信じたい。

 遊園地は人気があるようで、大盛況である。まずはどこに行こうかと悩んでいると、ミラに手を繋ぐように催促された。確かにこの人混みだとはぐれてしまう可能性があるから必要かもしれない。

 しかし恋人繋ぎとはミラも攻めてきたな。きっと俺を気遣って恋人シチュエーションを提供してくれているのだろう。ならば俺も今日は一時の恋人気分に酔いしれるとするか。

 

 そんな浮わついたテンションは最初に訪れたアトラクションであるジェットコースターで崩れ落ちた。大きな体格に、目を引く金髪、どう見ても接客向きではない強面の男。ジェットコースターの係員がどう見てもラクサスだったからだ。

 

「……なんでいるの?」

 

「たまたま遊園地のアルバイトをする依頼があって、それを受けただけだ」

 

「嘘つくんじゃねーよ!お前そういうことするタイプじゃねえだろ!」

 

 俺は嵌められてしまったようだ。おそらく仲直りのついでに俺とミラをくっつけるためにセッティングしたな。入場の受付にレビィがいたことも考えると、間違いなく他にも『妖精の尻尾』のメンバーが紛れこんでいるだろう。

 

「まあまあ俺は気にせず2人で楽しんでくれ」

 

「あー、はい。そうですね」

 

 誘導されて癪に触るが、こんな機会はもうないだろうから言う通り楽しむしかない。ミラも気にしてないようだし。

 

「ちなみにこのジェットコースター結構怖いからビビって漏らすんじゃねーぞ」

 

 誰が漏らすかと思ったが、実際乗ったら怖くて叫びまくってた。急に加速したり、レールが消えたりとファンタジーのジェットコースターは一味違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェットコースターの恐怖から回復し、園内を回っていると、あるものが目にとまった。この遊園地のマスコットキャラクター「ムッチーマウス」の着ぐるみである。既視感はあるが、俺が知っているのはあんなにデブではないし、記憶違いだろう。

 

 ムッチーマウスはなにやら芸をしているようで、周りには人だかりができている。気になって近づいて見ると、ムッチーマウスは鮮やかな剣舞を披露していた。

 

「K見て!すごい剣捌きね。まるでエルザみたい」

 

 ずっと一緒に修行してきた俺にはわかる。どう見てもエルザ本人である。着ぐるみを着てあそこまでの動きが出来るとは恐ろしいものだ。

 

 ムッチーマウスに扮したエルザが一仕事を終えると、撮影の時間になった。ミラが一緒に写真を撮りたいと言い出したので、俺たちは撮影の列に並んだ。

 

「それじゃあ撮るから2人とも肩寄せて」

 

 よく見るとカメラを構える係員はジェットだった。あの特徴的な帽子じゃなかったから気付かなかったわ。それとミラの方に寄らせすぎじゃないか。

 

「いいねー。でももっと大胆に攻めてもいいんじゃないか」

 

「こ、こうかしら」

 

 ジェットの言葉に対応してミラが俺の腕を抱き寄せてきた。俺の腕に伝わるぞ胸圧がぁ!故意に触るのとは違った感覚が襲ってくる。

 

「はい、チーズ」

 

 ジェットの掛け声と共にシャッターが切られた。その場で現像してくれた写真を見ると、俺の腕を抱き寄せているミラと、それにたじたじな俺と、ただ後ろにいるムッチーマウス。

 明らかにメインが背景と化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「K、次はここにしない?」

 

 ミラが指を指した場所はお化け屋敷。うん、定番のアトラクションだな。

 

 ただ前例を見る限り、お化け屋敷も相当怖いはずだ。これは気が抜けない。

 

 受付を済まし、中へと入る。どうやら空間操作系の魔法を使っているようで、目の前には本物の墓地さながらの光景が広がっていた。

 霧がかった視界に不安を煽るような静けさ。そのリアリティにビビって、思わずミラの手を強く握り、ミラも驚かしてしまったのはご愛嬌だ。

 

 不気味な雰囲気の中、俺たちはお化け屋敷を進む。すると前方からガシャンガシャンと、鉄が擦れるような音共に何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

 俺は覚悟を決め、前方から迫ってくる者を待ち構える。

 

 現れたのは落武者に扮したフリードだった。

 

「あーはっはっは!それはズルいって!!」

 

 特殊なメイクをしていて一見怖そうに見えるが、フリードなのだ。普段マジメなフリードが頭ハゲ散らかしていると思うと笑いが止まらない。

 ミラも俺に釣られて笑みを浮かべている。

 

 思わぬ配役に爆笑していた俺の肩が不意に叩かれた。

 

 すっかり気を抜いてた俺が振り返ると、そこには血塗れでこの世のものとは思えない異形が斧を持って立っていた。

 

「ぎゃああああああああ!?」

 

 俺は半泣き状態になりながらミラの手を引いて猛ダッシュでお化け屋敷を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お化け屋敷ショックの後も様々なアトラクションを楽しんだ。

 

 所々で『妖精の尻尾』のメンバーがいることにも慣れてしまった。

 

 今は遊園地内のレストランで昼食を食べている。

 

「今日のKはとっても面白いわね」

 

「ミラはなんで平気なのか不思議だよ」

 

 恥ずかしい姿を見せてしまったが、ミラは優しいからそこまでいじってこないため、非常にありがたい。

 

「午後はどこに行こうか?」

 

「この『ウォーターダイブ』なんてどうかしから」

 

「どれどれ……ジェットコースター系統のアトラクションか」

 

 パンフレットを見ると説明に「水飛沫の中、高速の世界を突き抜けろ!」と書いてある。ちょっと勘弁して欲しかったが、水で濡れたミラと天秤にかけてエロを取ることにした。

 

 昼食を終え、『ウォーターダイブ』に向かおうとした時、遊園地の従業員が話しかけてきた。話を聞くと、これから予定しているヒーローショーに出演する演者が急に出られなくなってしまい、その代役を務めてくれないかと頼まれた。ショーは魔法を使うため魔導士でないと出来ないので、たまたま見かけた俺たち2人に白羽の矢が立ったようだ。

 有名になると面倒な面もあるなと思っていたら、演者は2人とも『妖精の尻尾』のメンバーだった。1人は我らがナツ・ドラグニル。アトラクション酔いで出れる状態ではないようだ。なぜ乗ってしまったのか。もう1人はエバーグリーン。こちらは前日に風邪を引いてしまったらしい。

 

 身内が原因の不慮ということもあり、俺たちは仕方なく了承した。

 

 そして案内された楽屋で渡された衣装に着替えた。俺の衣装は軍服を模したものだ。役柄は悪の組織の幹部「アナール大佐」らしい。名前に大いなる悪意を感じる。

 

 ミラはショーの主役である正義のヒーロー「仮面ウィザード」なのだが、問題は衣装だ。体のラインがしっかり出るヒーロースーツなのである。

 観客席を見ると、子供の中にエロそうな顔をした大きなお友達が混じっていることから遊園地側の露骨な狙いが察せられる。

 

 欲まみれの男たちに今から視姦されることを知らないミラはショーの流れを再度確認してきた。大まかな流れは最初に部下の雑魚をけしかけた後、俺とミラが一騎打ちを行う。ミラは途中で俺に追い詰められるも、観客の声援により力を得て逆転するというものだ。

 細かい過程は任せるとのことだったので、せいぜい盛り下がらないようにやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は合図とともに、部下を引き連れてステージに登場した。

 

「よく来たなクソガキども!お前たちをこのアナール大佐が暗黒面に引きずりこんでやる!」

 

 俺の第一声と部下の威嚇するような動きに怖がる観客の子供たち。

 

『大変!組織の幹部のアナール大佐が来ちゃったわ!みんなの声で仮面ウィザードを呼びましょう!せーの……」

 

「「「助けて!仮面ウィザード!!」」」

 

 司会のお姉さんの掛け声とともに観客は仮面ウィザードに助けを求める。すると派手な光を発する演出魔法が発動し、光の中から仮面ウィザードに扮したミラが登場した。

 

「愛と勇気の戦士、仮面ウィザード!私が来たからにはあなたの思い通りにはさせないわ!」

 

 ミラの登場に、観客から大きな歓声があがる。こうして見るとピッチピチのスーツの破壊力はヤバい。大きなお友達が入れ込むのも分かる気がする。

 

「現れたな、仮面ウィザード!部下ども、奴を蹴散らせ!」

 

 部下はミラに襲いかかるも、ミラの手によって次々と倒されてしまう。実際の戦闘経験があるとはいえ、見事な殺陣だ。この後の俺もうまくやれるだろうか。

 

「やはり俺自身がやらないといけないか。かかってこい仮面ウィザード!」

 

 ある程度部下の数が減ったのを機に、いよいよ俺は前に出た。俺は事前に渡された鞭を振り回し、E・サンダーやE・ウォーターで攻撃する。

 一方ミラはそれらを全て避け、俺にカウンターを喰らわしていく。手加減してくれてはいるが地味に痛いし、途中でピンチになることを忘れてないか?

 

「こうなったら……部下よ!司会のお姉さんを拘束しろ!」

 

 想定していなかった命令に部下たちは一瞬戸惑うが、俺の言う通りに司会のお姉さんを拘束した。

 

「はっはっは!司会のお姉さんに手を出されたくなければおとなしくしろ!」

 

「くっ……卑怯よ、アナール大佐!」

 

「卑怯でも勝てばよかろうなのだ!」

 

 俺は無抵抗のミラにガンガン攻撃を加えていった。ダメージを与えることは目的ではないため、鞭を大げさに振りながら、手加減してミラの体に当てる。ミラもそれを理解して、いかにも痛そうな演技をすることで、追い詰められている雰囲気を出す。

 ここまで流れとしては順調だった。しかし不意に悪戯心が芽生えた俺はミラを抱え、彼女の尻を観客に見せつけるように突き出した。当然観客の目線はミラの尻へと注がれる。

 

「一体何を……」

 

「俺に歯向かった愚かなお前には罰を与えないとなあ」

 

 そこから俺はミラにスパンキングを始めた。尻を叩く快活な音が、ステージに響き渡る。

 

「なっ、やめなさい!」

 

「ひゃーはっはっは!!お前らクソガキどもも、俺に逆らえばこんな目に遭うことになるぜ」

 

 純粋な子供たちは怯えているが、一部の子供や大きなお友達は鼻息を荒くしてミラの尻を見ている。

 ここでミラは初めて自分に向けられている目に気付いた。自分の尻に注がれる淫らな視線にミラの羞恥心が高まっていく。

 

『み、みんな!このままだと仮面ウィザードが負けてしまうわ!みんなの声援で仮面ウィザードに力を送って!』

 

 いいところで司会のお姉さんからの声援コールがかかった。最初と同じように観客がほぼ一丸となってミラに声援を送る。何人か俺への声援が混ざっていたことは気にしないでおく。

 声援が起きるとミラは俺を跳ね除けて、サタンソウルを発動した。とてつもない威圧感が会場を包み込み、観客も異様な雰囲気に身を震わせている。

 

「待つんだ!仮面ウィザード!それは洒落にならないって!!」

 

「地獄の業火に焼かれなさい!!」

 

 ミラの手から放たれた火球によって俺は火達磨になった。



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曖昧な気持ち(後編)

 ヒーローショーは無事終了したが、俺は終了後もミラにお叱りを受けた。役に没頭していたという言い訳が通じなかったら、俺は殺されていたかもしれない。

 

 遊園地の周回を再開した俺たちは、予定していた『ウォーターダイブ』に向かった。名前からしてミラの濡れ透け姿が拝めると胸の高鳴りが止まらない。

 

 しかしその期待は裏切られた。『ウォーターダイブ』は水に濡れることを考慮してレインコートを売っていたのだ。

 しかもこのアトラクション、先のジェットコースター同様にスリル満点で、情けない姿を晒したのは言うまでもない。

 

 やはり今回はエロは望んではいけないかと思いながら、次のアトラクションへと向かう。

 

 目を付けたのは定番のコーヒーカップ。これなら前のアトラクションとは違い、余裕を持って楽しむことができるだろう。

 

 特に不安もなくコーヒーカップに乗り込み、回転が始まった。床の回転とともにコーヒーカップもゆるやかに回る。本当に回るだけで拍子抜けもいいところだが、対面のミラの笑顔が見れるだけ良しとしよう。

 

 そんな平穏な時間も長くは続かなかった。

 

 しばらくしてミラは中央のハンドルを高速で回し始めたのである。コーヒーカップも高速回転し、ミラは大はしゃぎだが、俺の方は酔いで楽しむどころではない。

 

 アトラクションの稼働が終わり、解放された俺は休憩を所望した。ミラも俺の酔い具合を見て了承し、近くのベンチに腰掛けた。

 

「ごめんなさい。楽しくてつい回しすぎちゃったわ」

 

「謝ることはない。俺が貧弱なだけ……うぷ」

 

 ジェットコースターは平気だったのにコーヒーカップで酔ってしまうとは不覚だった。今だけナツになった気分だ。

 

 酔いが治るまでベンチで休憩していると、ガラの悪い2人組の男が絡んできた。彼らが言うに俺のような冴えない男じゃなくて自分たちと遊ばないかといった旨のことを言ってきた。2人の男はミラのファンらしく、俺みたいなのと一緒にいるなら自分たちにもチャンスがあると思ったらしい。

 

 失礼な奴らだと内心怒っていたら、ミラが代弁して彼らに怒ってくれた。温厚なミラにしては珍しく、強い口調で俺を悪く言ったことを非難している。

 だが2人の男はミラの言ったことを無視して、ナンパを続ける。

 

 ミラの怒りがどんどん溜まっていることが目に見えてわかる。これはサタンソウルで制裁ついでに遊園地破壊なんてことにもなりかねない。

 

「お前たち、自分の身が惜しければ身を引け」

 

「ああん?なーに言ってんだ、優男さんよお」

 

 親切心で忠告したものの、男は俺の言葉を意に介さない。

 

 しかしもう一方の男は何かに気付いたかのか焦燥の表情を浮かべる。

 

「……いや、言う通りにした方がいい。こいつ、あの『異端者』だ」

 

 相方の男の言葉を聞き、調子に乗っていた男の顔が青ざめていく。

 

 そのまま2人は叫び声をあげて逃げていった。

 

「K、脅すのも程々にね?」

 

 なんか俺が悪いみたいになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハプニングを交えながら俺たちは色々なアトラクションを遊び倒した。

 

 そして閉園が近付き、最後に定番の観覧車に乗った。恋人関係ではないが、こうして2人で観覧車に乗れることに俺は感動を覚える。

 

「いやー、楽しかったな。1ヶ月分くらい遊んだ気分だ」

 

「私も楽しかったわ。ヒーローショーではKに辱められたけど」

 

「マジですみませんでした」

 

「あんなことされたらお嫁にいけないかも」

 

 お嫁にいけないようなことは他の人にも散々してるんだよなあと思いながらミラの方を見る。

 

 夕陽をバックに俺の目に映るミラの姿は美しかった。茜色の陽光が彼女を鮮明に映し出している。

 

 観覧車という特殊な空間に惑わされているだけだと思いたいが、今この一瞬一瞬ミラのことが愛おしくてたまらない。

 

 そんな感じで見惚れていると、ミラはきょとんとした顔で首をかしげる。ミラの様子に慌てて俺は別の話題を振った。

 

「そういえばこの前はすまなかった。俺を気遣った言葉を無下にしてしまって」

 

 何振ってんだと俺は心の中で地団駄を踏む。ミラと関係が擦れた件については一応謝っていたのに、なぜ改めてほじくり返してしまうのか。

 後悔の念に押されてる俺に対し、ミラは優しく声をかける。

 

「私の方こそごめんなさい。もっとはっきりと自分の気持ちを示すべきだったわ」

 

「いやいやミラは謝ることはな……はっきりと自分の気持ちを?」

 

 俺はミラの言葉に変な予感を感じた。この先に大事なことが待っているような気がしてならない。

 

 ミラの面持ちが真剣なものへと変わる。若干硬い表情から少し緊張していることがわかる。

 

ミラは大きく深呼吸して、続く言葉を述べた。

 

「K好きよ。愛してるわ」

 

 俺の耳が壊れてしまったかと思った。

 

 それほどまでにミラの告白は衝撃だった。

 

 あの目はドッキリではない。本気の目をしている。

 

 思えば伏線はいくつもあった。一緒に修行をしたり、買い物に付き合ったり、おっぱいを揉ませてくれたり、俺の部屋に1泊したり……。

 そして今日デートと言っても過言ではないことをしている。

 

 ミラの行動は実にわかりやすいものだった。直接このようにミラに告白されなくても十分察せられただろう。

 だが疑り深くなっていた俺はその事実を認めなかった。気付かない振りをして突き放していた。

 

 俺は自分の愚かさに落ち込むと同時に、どう返事をしたものかと考える。ここまでしてくれて断る理由はない。ミラのことは嫌いではないし、むしろ好ましく思っている。

 しかし俺のような奴とミラで釣り合いが取れるとは思えない。どうしても後ろめたさが頭に突っかかる。

 

 俺はどうすればいいのか、どうしたいのか。頭をフル回転させ、答えを探す。これまでで最大の難問が俺を苦しめる。

 

 その時、ふと最初にこの世界に来た時のことを思い出した。『妖精の尻尾』にやってきたかと思えば、使いにくそうな特典の魔法の数々。これでは無双出来ないと意気消沈している中で、決意したことを。

 

 そうだ、俺は下衆野郎だ。何を気にしているんだ。自分の思うままに行動に移せばいいじゃないか。

 

 俺はミラの告白から重く閉ざしていた口を開いた。

 

「俺もミラのことが大好きだ」

 

ミラは俺の言葉に目を見開いて驚くも、すぐにいつもの笑顔になって答える。

 

「ありがとう。これからもよろしくね」

 

 ミラの顔が徐々に近づいてくる。

 

 戸惑う俺の唇にミラの唇が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観覧車から降りた後に待ち受けていたのは『妖精の尻尾』のメンバーからの祝福だった。

 

 『妖精の尻尾』以外の一般の客や従業員も祝ってくれて、柄にもなく泣きそうになったのは秘密だ。

 

 ギルドに戻り、大方予想通り俺とミラを祝う宴会が行われた。宴会中はビックスローなどにからかわれたり、カナの絡み酒に付き合わされたりしたが、楽しい時間だった。エルフマンに「やっぱり姉ちゃんは渡さねえ!」と勝負を仕掛けられた時は大変だったがな!

 

 いつも以上に騒がしい様相を見せたギルドも今は皆疲れからか眠ってしまい、一変して静かになっている。大半は酒も入っているから当然だろう。俺はなるべく飲まないようにしていたので、意識を保っている。

 

 男女構わず眠っている中、やることは1つだ。ミラと恋仲になっても俺のスタンスは変わらない。大丈夫、俺が恋愛感情を持っているのはミラだけだ。

 

 周りを見る限り、皆深い眠りについているから早々起きることはないだろう。リスクは大きいが、それ以上にこのスリルから生まれる快感を味わいたい。

 

 俺は初めに目に付いたレビィへと魔の手を向ける。レビィは俺の癒しだったからか、直接手を出すのは初めてだ。

 

「これは新しい……」

 

 巨乳が多い『FAIRY TAIL』の貧乳枠レビィ。他の女の子に比べれば揉み応えはないが、これまでとは違った感触に新境地を開拓した感覚を覚えた。

 

 俺は揉み揉みしながらレビィのテクニカルポイントを探る。それを見つけ出すと、服の上から指で円を描くように刺激していく。

 

「ん……あ……」

 

 眠っていても感じるくらい敏感なようだ。同じ攻め方だけでなく、摘み潰すなどして俺はレビィの敏感な二ヶ所を刺激していった。

 

「あっ、あぁん……やぁ」

 

 喘ぎ声とともに小さな山のてっぺんは固くなり、自己主張が激しくなった。あまりやりすぎると起きるかもしれないので、次の女の子に行くとしよう。今回は人数も多いから軽くいかねばな。

 

 続いて近くにいたビスカに目を向ける。

 

 ビスカ・ムーラン。西部劇を匂わせる格好つながりか、使う魔法は銃の換装魔法。同じく銃の魔法を使うアルザックに惚れており、またアルザックもビスカに惚れている模様。今はお互いを意識しているだけだが、いずれ結ばれる日が来るのだろうか。S級試験までしか原作は知らないからなあ。

 

 とにかくビスカには明確な想い人がいる。

 

 つまりこれはNTRシチュエーションだ。とても燃える展開である。

 

 俺は鼻息を荒くしながらビスカの胸を揉む。先ほどとは打って変わり、確かな感触が俺の興奮を高めていく。

 辛抱たまらなくなった俺はビスカの胸に顔を埋めた。顔全体を覆う柔らかな胸、肌の露出が多いおかげで直に感じることが出来る。

 

「ダメよ、アルザック……そんなことしちゃあ」

 

 夢でアルザックにナニされているのだろうか。残念ながらビスカの胸をぱふぱふしているのは俺だ。こんなことまだアルザックもしてないだろう。

 

 満足するまでビスカの胸に包まれていた俺は次のターゲットを決める。エルザは前の例があるし、ラキあたりにするかな。癖のある喋り方をする変わった女の子だが、貴重な眼鏡っ娘だ。手を出さないわけがない。

 

 ラキを探しているとミラの姿が目に入った。ミラとは恋人になったのだから、わざわざこっそりする必要はないだろう。

 しかし俺は今、激しくミラをお触りしたい衝動に駆られてしまった。

 

 欲望の赴くままミラに手を伸ばした時、ミラの目がゆっくりと開かれた。思わぬことに固まる俺。ミラも俺がやろうしたことに気づいているのか、妖しげな笑みを浮かべている。

 焦った俺はなんとか弁明しようとするも、ミラから出たのは予想外の言葉だった。

 

「あらKったら、自分だけ楽しむつもりだったの?」

 

 そう言ってミラは俺の手を掴む。酔いで確かな意識がないにも関わらず、握り締めた手を振りほどくことが出来ない。

 そのまま俺はギルドの空き部屋へと連行され、そこで淫欲の一夜を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 起きてから俺はダルさと恥ずかしさに襲われていた。酒が入っていたせいなのかもしれないが、ミラのSっ気が身に染みた一夜だった。俺の大佐を攻められたり、やりたい放題されてしまった。

 

 ミラも昨夜のことを思い出して悶えていたが、小さな声で「あんなKもありかも……」と呟いたことを俺は聞き逃さなかった。次は全力で主導権を握らねばならない。

 

 俺たちのピンクな雰囲気でナニがあったかギルドのメンバーでわかる人はわかったようで、「昨晩はお楽しみでしたね」に対して「一方的にやられてしまったよ」と返したらそれ以上何も言われなかった。

 

 とにかく晴れてミラと仲直りを超えて恋人になったが、ますますボロが出せなくなった。これからもうまくやっていけるか不安ではある。

 だが俺は好き勝手すると決めたんだ。この先どんな苦難があっても乗り越えてやろうじゃないか。



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計画に支障は付き物である

 人の口に戸は立てられないのか、俺とミラが男女の交際を始めたことは瞬く間にギルドの外部にも広まった。2人とも知名度のこともあり、週刊ソーサラーの記者が来るなど大きな話題を呼んだ。

 

 騒がれるのは仕方がないと諦めてはいたが「最凶カップル」「向かうところ敵なし」とかどうして恐れられるのか。別に2人で世界征服でもしようなんてことはないのに。

 そもそも圧倒的強さを秘めているのはミラだけだ。俺では足元にも及ばん。

 

「K見て見て!これ私たちの記事よ」

 

 ミラがこの前受けた週刊ソーサラーのインタビューが載った記事を見せてきた。記事の見出しには「話題の最凶カップルに突撃!その全貌に迫る!!」と書かれており、インタビューの他に2人で撮ったグラビア写真が掲載されている。

 

「ミラよ、俺はインタビューを受けたことを激しく後悔している」

 

「何か不満でもあったの?」

 

「この写真盛りすぎだろ」

 

 俺はミラと写っているグラビアの写真を指す。いつも通りの美しさのミラの横にキメ顔の俺。写真を撮る時に、カメラマンに乗せられてかっこつけてしまったのだ。

 さらにグラビア用に修正されてそれっぽく見える始末。本人と落差があるにも程がある。

 

「私はいいと思うけど……あっ、もちろん今目の前にいるKが1番よ」

 

 ミラは俺を気遣ってくれるが、反応から写真の方がかっこいいと思ったことは簡単にわかった。自分の容姿の標準さを思い知らされるも、魔法のことを考えるとブサイクな容姿にされなかっただけマシかもしれない。

 

 俺は気晴らしに黒歴史になりそうなソーサラーのページをめくっていく。こういう雑誌は前の世界とも変わらないなあと思いながら読み進めていると、ある記事が目に止まった。

 

「デボン盗賊一家壊滅も民家7軒壊滅……」

 

「それは確かナツが行ったクエストね」

 

 『妖精の尻尾』が誇る破壊王ナツ・ドラグニル。どうすれば盗賊の討伐で民家を壊すのだろうか。

 

「全く、元気があり過ぎるのも問題だな」

 

「元気があってこそのナツでしょ?今日もイグニールが見つかったかではりきって出かけていったわよ」

 

「へ?イグニール?」

 

イグニールの名前が出てくるってことはまさか……。

 

「ただいまー!!!!」

 

 嫌な予感を感じていると、入り口の方からナツの大声が聞こえた。

 

 恐る恐る入り口を見れば、ナツの後ろには見覚えのある金髪の女の子がいる。

 

「てめえ!!!火竜の情報嘘じゃねえか!!!」

 

 ナツは帰ってきて早々、火竜の情報提供したギルドのメンバーを蹴る。そこからパンツ一丁のグレイやエルフマン、ロキが出張って来て乱闘が起こり始めた。

 そんなギルドの様相に唖然とする金髪の女の子ルーシィを見て俺は思う。

 

 原作開始じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思っていたよりかなり早い原作のスタートに、俺はマカロフのありがたいお話を聞きながら考え込んでいた。

 

 さすがにそんじょそこらの敵には負けないと思うが、これから表立って出てくる敵と対峙できるレベルには至っていないだろう。魔力の問題は解決しておらず、頼みの綱の原作知識も完全にアテにしてはいけない。

 何よりその原作知識も天狼島から後のことは一切知らないのだ。いずれ初見でイベントに当たらなければならない時が来る。

 

「自分の信じた道を進めぇい!!!!それが『妖精の尻尾』の魔導士じゃ!!!!」

 

 マカロフの「評議員なんて気にせず、やりたいことやろうぜ!」という言葉にギルドのメンバーは大いに喝采を送る。俺も概ね賛成ではあるが、やり過ぎてギルド解散なんてことになれば冗談では済まないので、バレないようにやることも重要だぞ。

 

 いつも通りのギルドの雰囲気に戻り、喧騒を見せる中でルーシィは『妖精の尻尾』の紋章を手の甲につけてもらっていた。

 

 ルーシィ・ハートフィリア。将来的には多くの黄道十二門の鍵を所持することになる有望な星霊魔導士。金髪巨乳お嬢様と、三拍子揃った『FAIRY TAIL』のヒロインでもある。原作ではギャグ的な役柄をこなすことが多いが、ヒロインのポジションにいるだけあってそのポテンシャルは非常に高い。

 

 ついにお目にかかれたが、ボインおっぱいに露出の多さ。目の保養になるなる。最初のころの初々しさも堪らないな。

 

 さて、どうせ関わることになるだろうし、ルーシィに挨拶しておきますかね。

 

「こんなかわいいお嬢さんを引っ掛けてくるとは、ナツも隅に置けないなあ」

 

「ナツとはそういうのじゃ……ってあなたは!?」

 

「マーン・K・グロニクルだ。噂ではとやかく言われているが、これからよろしく頼むよ」

 

 話しかけたらルーシィに露骨にビビられてしまった。俺の評判を耳にしてるのだろう。猛獣に怯える子犬みたいにぷるぷるしている。

 

「ルーシィ安心して。Kはあなたが聞いているよりは怖くないから」

 

 ミラがフォローしてくれるが、暗に怖い奴ではあると言ってないか?

 

 だが効果はあったようで、ルーシィは警戒を解いて挨拶を返す。

 

「ったく、いい加減なことが広まるとこういうことがあるから困ったもんだ」

 

「でも全部嘘ってわけでもないじゃない」

 

 その事実すらも脚色されて広まってるから困っているのだよ。

 

 俺があらぬ評判に辟易していると、ロメオとマカロフの言い争いが聞こえてきた。マカロフに相手にしてもらえず、ロメオはギルドを飛び出す。その後を追うようにナツもギルドを出て行った。

 

 ナツの様子を疑問に思うルーシィにミラはナツの事情を説明する。

 

「『妖精の尻尾』の魔導士たちは……みんな何かを抱えてる……」

 

 俺も大量の地雷を抱えてるからわかるぞ。爆発したらただでは済まない。

 

 それより今はルーシィだ。マカオの救出は着いていっても活躍できるか怪しいし、パスしよう。ちょっと心配だが、バルカンには会いたくない。

 

 重要なのは次のエバルーの屋敷に潜入する時だ。俺はここに目的を果たす作戦を見出している。

 

 その作戦とは「エバルーに成り代わり!ドキドキ☆セクハラ大作戦」である。

 

 まず先回りして屋敷に行き、エバルー好みのブサイクな女の子に変身して屋敷に潜入する。その後隙を見てエバルーを気絶させて、エバルーに変身。エバルーの戦闘力は高くないし、用心棒の2人に鉢合わせしなければ余裕だろう。

 そして原作では事前の情報から屋敷に侵入しようとして追い返されるルーシィを屋敷に招き、中で好き放題するといった内容だ。

 

 これでルーシィの甘美な肢体を味わおうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めブサイクな女の子に中々変身出来ず、苦労することになった。ブサイクな男には余裕で変身出来るのに謎である。

 

 また入れ替わるまでエバルーにセクハラされて、気持ち悪さに蕁麻疹まで出ていたが、先の希望のために必死で耐え抜いた。男にセクハラされるなんてタチの悪い拷問だ。

 

 こうした問題はあったが、無事にエバルー屋敷への潜入と成り代わりは成功した。

 

「すみませーん、誰かいませんかぁ」

 

 門の方からルーシィの声が聞こえてきた。

 

 待っていましたと、小躍りしながら門へと俺は向かう。

 

「ボヨヨヨヨ〜〜ン、我輩を呼んだかね」

 

 エバルーのように地面から出ることは出来ない俺は普通に登場する。

 

「どれどれ」

 

 俺はじっくりルーシィの体を視姦する。服の上からでも強調されたおっぱい、スカートの下から見える綺麗な脚。さすが正ヒロイン、合格点だ。

 俺が悦に浸る一方、体中をじろじろ見られているルーシィの笑顔はぎこちないものになっていた。

 悪戯心が働いた俺はルーシィの尻に手を伸ばす。

 

「きゃっ!」

 

「ふむ、中々いい尻をしてるじゃないか」

 

 俺はルーシィの張りのある尻を品定めするかのように撫で回していく。おっぱいに目が行きがちだが、お尻もたまりませんな。

 ルーシィの表情が嫌悪感を示すようになるも、潜入のためか何も言ってこない。調子に乗った俺はルーシィのお尻を鷲掴み、豪快に揉み始めた。スカートの上からでも感じる柔肉に俺の指が沈んでいく。

 

「あの、これ以上はさすがに……」

 

「なーに、ただのボディチェックだ。最近は屋敷に潜入しようとする輩が多いからな」

 

 やんわりとセクハラを止めようとするルーシィに対し、俺は彼女に刺さる言葉で牽制する。

 

 しかしながらここでやり過ぎて、ルーシィがキレて去ることにでもなれば元も子もない。

 

 俺は適当なタイミングで切り上げて、ルーシィを屋敷に入れた。それからルーシィにはまだ面接があると言ってエバルーの自室へと招く。

 

「さて、最初の質問だ。我輩の屋敷に何の用だ?『妖精の尻尾』の魔導士よ」

 

「なっ、なんであたしが『妖精の尻尾』の魔導士だと……」

 

「手の甲のギルドのマークが丸見えだ」

 

 俺の指摘にルーシィがハッとした表情を浮かべる。潜入しようとしてこれはガバガバだよね。

 

「こうなったら、って鍵が!?」

 

 シラを切れないと分かったルーシィは星霊を呼び出そうとするが、俺が尻を触った際にこっそり鍵を奪ったため呼び出すことが出来ない。

 俺が笑いながらルーシィの鍵を見せびらかすと、ルーシィは悔しそうに俺を睨みつける。

 

 さあ、ここからが本番だ。ハートフィリアの名前を出してルーシィを脅し、完全に抵抗をなくさせてもらおう。

 

 今回は勝ち試合だと確信していると、突然後ろの窓ガラスが割れる音が響く。振り向けばそこにはナツとハッピーの姿があった。ルーシィの潜入が成功したはずなのになぜこのタイミングで乱入してきたんだ!?

 

「貴様もこの小娘と同じ『妖精の尻尾』の魔導士かね?」

 

「いや、Kも『妖精の尻尾』なのに何言ってんだ?」

 

 なんとか保っていた平常心が一気に崩れ去った。声は微妙に似てないにしても変身は完璧なはずだ。どうして俺だとわかったんだ。

 

「K、匂いでバレバレだよ」

 

 ハッピーの一言で俺は膝から崩れ落ちる。ナツの特性を失念していた。ガバガバなのは俺の方じゃないか。

 

 観念して俺は変身を解き、元の姿に戻る。ルーシィが二転三転する状況におろおろしているが、俺もどうしたらいいのかわからない。

 

「Kがいるのには驚いたけど、なんでここにいるんだ?」

 

「ああ、少し用事があってな」

 

 咄嗟に良い言い訳が出るはずもなく、それっぽい雰囲気を出して誤魔化すことにした。付き合いが長いナツやハッピーは納得してくれたが、ルーシィは明らかに怪しんでいる。

 

「ここにいた理由は置いておくとして、あたしのお尻触ったのはどういうことですか?」

 

 結構根に持っているのだろうか。ルーシィはジト目で俺に手痛い質問をしてきた。

 

「尻を触ったのは鍵を奪うのに気をそらすためだ。潜入にも関わらず、自分の身分を隠そうとしないドジっ子に灸を据えようとね」

 

「ぐっ……」

 

「もっと警戒して動くことだ。これが戦闘なら鍵を奪われた時点でアウトだぞ」

 

 ルーシィの追及を謎説教で躱す俺。

 

 ごめんな、ルーシィ。本当はお前の尻を触りたかっただけなんだ。

 

「ところでお前たちはどうしてここに?」

 

 俺はルーシィたちが受けたクエストを知らないフリをして聞き返す。それからクエストの内容を聞いた俺は、用事のついでに手伝うという体で同行することにした。

 

「あれ、Kが持ってるファイルはなんなんだ?」

 

 ナツがエバルーの部屋から出る前に机の上から取ったファイルについて聞いてきた。

 

「エバルーの不正の証拠まとめ。これで屋敷への不法侵入はチャラに出来るだろ」

 

「Kってそういうところ抜け目ないよね」

 

「権力者の弱みは握ってなんぼだ!」

 

「オイラKがたまに怖いよ」

 

 俺の処世術がハッピーに引かれながら、俺たちは図書室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは原作通り、エバルーと彼が雇った用心棒である『南の狼』の2人と戦うことになった。

 

 『南の狼』の2人は普通の美人を屋敷に入れた俺に不信感を持っていたようで、彼らの手によって拘束していたエバルーが解放されてしまったのだ。

 だがナツとルーシィの敵ではなく、あっさりと撃破。俺が手伝う必要もなかった。

 

 目的の代物である『日の出』も届けて、クエストは終了。ナツの一言で報酬がもらえず、ルーシィが悔しがっていたのが印象的だった。

 俺も不完全燃焼で終わったことが悔しいぞ、ルーシィ。

 

 とは言え一時はどうなることかと思ったエバルーの屋敷への潜入が穏便に済んで一安心だ。

 

「……やっぱりおかしいわ」

 

「何がおかしいんだ、ルーシィ」

 

 クエストの帰り道、何か引っかかるところがあったのか、ずっと訝しげな顔をしていたルーシィが口を開いた。

 

「Kさんは私たちが受けたクエストを知らなかったはずなのに、あたしがエバルーの屋敷に潜入しようとすることがわかってた」

 

 俺は前の発言を思い出す。確かにルーシィの潜入が云々の後にクエストの内容を聞いてしまっている。発言に矛盾が生じているのは明らかだった。

 

「Kさん、あなたがエバルーの屋敷にいたのは……」

 

 ルーシィは頭が回るタイプだ。まさか俺の真意にたどり着いているのか。

 

「新人のあたしのことを心配したからですね!!」

 

 あ、これは大丈夫なパターンの奴だ。

 

「ミラさんから話は聞いてます。巷では悪い噂も飛んでいますが、Kさんは他人のために体を張ってでも動く人だと」

 

 おそらくエルフマンのことだろう。その件は隠された悪意があるんだよなあ。

 

「そんな優しいKさんは新人であるあたしが問題児のナツと組んでクエストに行くことが心配だった」

 

「ああ!?誰が問題児だあ!!?」

 

「ナツが問題児なのはオイラも同意かな」

 

「ただKさんは面と向かって感謝を受け取るのが苦手だとも聞きました。そこで表立って手助けしようとはせず、回りくどいやり方を選んだのよ」

 

 ミラフィルターから語られた俺の人物像のおかげでとんでもない推理に発展している。それが本当だったら俺は随分なお人好しだぞ。

 

 その後あまり誤解され過ぎるのも厄介なので、誤解を解こうとしたものの、解けることなくこの話はギルドのメンバーに広がることとなった。



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キノコは元気です

 呆気なかったという感想に尽きる。

 

 エバルーの次は「呪歌」をめぐる闇ギルド『鉄の森』との戦いだった。ここで初めての中ボスと言えるエリゴールが登場するのだが、彼は瞬殺されてしまった。

 

 原作だとエルザと『鉄の森』の討伐に行くメンバーはナツ、グレイ、ルーシィ、ハッピーの3人と1匹。これに俺が加わるのだが、俺だけでなくミラも気になるから着いて行くと言って加わった。

『鉄の森』の悲劇の始まりである。

 

 紆余曲折を経てオシバナ駅に着いた俺たちは『鉄の森』のメンバーと対峙。エリゴールが嘘の目的を語り、上空に逃れようとしたところをミラがサタンソウルで追撃したのだ。

 リハビリで力を取り戻しているミラにエリゴールが敵うはずもなく、彼の敗北を見た他の『鉄の森』のメンバーに動揺が走る。その隙を突いてナツ、グレイ、エルザが残りのメンバーを打破し、見せ所もなく騒動に終止符が打たれた。

 

 『鉄の森』の皆さんには敵ながら同情する。

 

 ちなみにゼレフの悪魔として呪歌も実体を現したが、同様に瞬殺されたことは言うまでもない。

 

 『鉄の森』討伐が終わり、ナツが約束していたエルザとの決闘が行われることになった。

 

 実は俺もふっかけられてはいたが、当然断った。了承すればエルザとも戦う流れになりそうだから勘弁だ。

 

 エルザはナツに対して本気で戦おうと、火への耐性がある炎帝の鎧を換装した。くっ、なんてハイレグ具合なんだ。ミラのサタンソウルもそうだが、あれだけキワどい格好に皆何も思わないのだろうか。俺は今すぐオカズにして自家発電したいと思っているぞ。

 

 ギルドのメンバーに見守れながら行われた2人の決闘は原作通り評議院の介入によって中断することとなる。

 

 そうなることはわかっていたのだが、問題は告げられた名前だった。

 

「マーン・K・グロニクルを逮捕する」

 

 何もやってないのに役割が入れ替わってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 形だけの裁判ということは知っていたので、おとなしく評議院に連行された。連行される際に周りが思ったより騒がしく、ナツ以外のメンバーが評議院に殴り込みに来ないか心配だったが、それは杞憂に終わった。

 と言うのもナツすら評議院に来なかった。エルザは心配なのに俺は心配じゃないというのか。

 

 まあ無駄に拘束されずに済んでラッキーだと思おう。

 

 とっとと帰ろうと早足で出口を目指していると、ある男に声をかけられた。

 

 ジェラール・フェルナンデス。評議院ではジークレインと名乗り、ゼレフ復活のために暗躍しているいけ好かない野郎だ。

 ただ実力は折り紙つきで、正面からではまず勝てないであろう。

 

「裁判中にあくびとは『異端者』は肝が据わってるな」

 

「それは嫌味か?あんな茶番で緊張感のへったくれもないっつーの」

 

「ほう?お前は最初からわかっていたのか」

 

 原作知識がなくても激甘管理体制のせいで起きそうになったテロを防いだ功績者を吊るし上げようとしないことぐらいわかる。

 俺は何もしてないが。

 

「用はそれだけか?早く帰りたいんだけど」

 

「そう早まるな。評議員として黒い噂があるお前には少し話があるんだ」

 

 ジェラールの雰囲気が評議員ジークレインのものからゼレフの狂信者のそれに変わる。

 

「お前はどこまで知っている?」

 

 気を緩めば押し潰されてしまいそうなプレッシャーとともに、ジェラールは俺に問いかける。この手の圧をブレインで経験していなければ漏らしていたかもしれない。

 

「さあな。何のことを言ってるかさっぱりだ」

 

 俺は気圧されることなくジェラールの問いに知らないふりをした。

 

 おそらく楽園の塔のことだろうが、まともに答えるつもりはない。下手に刺激したくないのもあるが、何より俺は許せないことがある。

 

 ジェラールがエルザのことを放って男のゼレフに夢中であることだ。あんなにきれいな女の子に想いを寄せられているにも関わらず、本人はゼレフ万歳ときた。ミラと付き合っていなければNTRを敢行していたかもしれない。

 

「あくまでシラを切るつもりか。まあいい、俺の邪魔さえしなければ問題はない。ただし……」

 

 ジェラールの話が長くなりそうだったので俺は帰ることにした。よく考えれば奴の話を聞く義理はない。

 

 うしろから聞こえる声を無視して足早に俺は評議院を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「K!シャバの空気はどうだ!?」

 

「俺は牢に入れられたわけではないぞ、ナツ」

 

 ギルドはいつもと変わらない様子だった。みんな俺の帰りを祝福してくれたが、心配していた者はそんなにいなかったらしい。曰く「あまりにもあっさり俺が連行されたから何か考えがあるに違いない」と思われていたようだ。原作知識から抵抗しなかったことが謎の信頼を生み出してしまった。

 

「結局“形式だけ”の逮捕だったなんてね……心配して損しちゃった」

 

 ルーシィは数少ない心配してくれたメンバーの一人だった。さすが『妖精の尻尾』の常識人枠だ。俺の恋人であるミラにさえ「思った通り大丈夫だったわね」と言われたのに。

 

 複雑な気持ちを抱いていると強烈な眠気が俺を襲い、意識が途絶えた。これはミストガンが来たのだろう。

 正体を隠したいのは分かるが、毎回ギルドのメンバーを眠らせるのはどうなんだ。

 

 ミストガンが来れば、ラクサスも現れる。

 

 なぜか原作より少し丸くなっているとはいえ、ラクサスはラクサスだった。ラクサスは自分の煽りに耐えれず、二階に行こうとしたナツがマカロフに抑えられる様を嘲笑する。

 

「『妖精の尻尾』最強の座は誰にも渡さねえよ。エルザにもミラにもミストガンにも、あのオヤジにもな」

 

 ちゃっかり加えられているミラの名前。力を取り戻しているから当然といったら当然だが。

 

「あとKもな」

 

 それは余計だったかな。割と仲良くやってるのだから対抗意識燃やさないでくれよ。

 

 とりあえずラクサスのことはスルーして、次はガルナ島だ。

 

 ガルナ島の敵は積極的に戦うつもりのないウルティアの次点がグレイと同じレベルのリオン。S級クエストであることとデリオラのせいで際立つものの、実はそんなに大したことはない。

 そもそも流れを見る限り行く必要性もあまりないが、それでもナツたちは依頼書を盗んで行ってしまうのだろう。

 

 問題なのはナツたちを連れ戻しに行くのがグレイではなく、俺かミラになることだ。

 

 ガルナ島はグレイが過去と向き合うターニングポイントであり、本人が行かないと意味がない。俺がクエストを受注して連れていくのもありだが、この後『幽鬼の支配者』も控えていることを考えると立て続けに面倒事はしたくない。

 確か原作だと他にナツを連れ戻せる人がいないからグレイが出向いた。

 

 つまりナツたちがS級クエストに行ったことがバレる時に俺やミラがその場に居合わせなければいい。

 

 俺は早速ミラにある提案を持ちかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に激しい戦いだった。

 

 俺がギルドに遅れて行くために取った作戦、それはミラと一晩中夜の大運動会をするというものだった。私欲が混じった作戦だが、おかげで昼過ぎに起床することが出来た。

 ちなみに前回のリベンジだと意気込んでいたものの、こちらのペースに持ち込むことは出来ず、引き分けという形になった。

 

 予定通り遅めにギルドに行ったことで、グレイがナツを連れ戻しに行ったあとに到着した。

 事情を聞いてミラが心配していたので「例え連れ戻せなかったとしても、あいつらの実力なら大丈夫だ」とフォローした。実際ウルティアが本気を出さない限り問題ないからな。

 

 責務を果たした俺はいつものようにクエストに行くことにした。

 

 久々に『シャドウ・ギア』のメンバーに誘われ、挑むクエストは「クロビカリタケ」の討伐である。

 クロビカリタケはキノコ系のモンスターで、特殊な胞子を駆使するらしい。胞子の詳細は不明だが、モンスター自体大したことがないようなので気を付ければやられることはないだろう。

 

「キノコのモンスターがいる森だけあってそこら中キノコだらけだな」

 

 俺たちはクロビカリタケを探すために森を歩いてる。この森はキノコ狩りで有名なところで、見渡す限りキノコが生えている。

 ゆえにキノコを主食とするモンスターも生息しているが、ほとんどは人間に害はない。キノコの方が毒のこともあって人間に牙を剥いてるくらいだ。

 

「あ!これってヤセキノコじゃない?」

 

 レビィが指を指したところには波平の毛が生えたようなキノコがあった。ヤセキノコは名前の通りダイエット効果があり、女性に人気だとか。

 これがそのヤセキノコらしい。

 

「食うだけで痩せるなんて夢のようなキノコもあったもんだ」

 

「でも偽物もいるからもしかしたら違うかも」

 

 ヤセキノコに擬態するキノコとは人間の心理をよく掴んでいる。

 

 だが残念だったな、キノコ君。うちのレビィは既に痩せているから間違って食べてしまうなんてことはありえないのだよ。

 むしろもっと肉付きよくなるべきだ。

 

 こんな感じで途中色々なキノコに目を向けながら森を進んでいると目的の奴を見つけた。

 

 2メートルはあろうかという漆黒のキノコ。

 

 討伐対象のクロビカリタケだ。

 

 しかし対象を見つけたはいいものの、俺たちの間に気まずい空気が流れていた。原因はクロビカリタケのフォルムである。

 

 全身黒で覆われたその姿が、チンコのシルエットにしか見えないのだ。

 

 ジェットとドロイはお互い小声で「あれってチンコだよな……」と確認しあってるし、レビィも顔を若干赤らめているから同じ感想を抱いているだろう。

 

 俺たちの衝撃をよそに、クロビカリタケは襲ってくることもなく、メトロノームのようにその場で左右に揺れている。胞子さえなければ害はなさそうだが、あの外見はキツい。

 

「レビィ、燃やそう」

 

「え?」

 

「文字魔法で燃やしてしまおう」

 

 早く倒そうと、俺はレビィにクロビカリタケを燃やすことを提案した。多分それが一番効果的だろう。

 

 俺の提案に乗り、レビィは文字魔法のFIREを発動した。クロビカリタケは先ほどの軽快な動きから燃やされたことで苦しそうにのたうちまわっている。

 

 脅威なのは外見だけだったなと安心していると、クロビカリタケは最後っ屁のごとく頭から大量の胞子を噴出した。予期せぬ胞子の噴出に対応できず、俺たちは胞子を吸ってしまう。

 俺は最悪のパターンを想像したが、体に異常を感じない。自覚がないのか、遅延性なのか、様々な可能性が脳裏に浮かぶ。

 

 ふとレビィの方を見ると、こちらに背を向けモジモジとしている。まるで何か恥ずかしいものでも見たかのような様子だ。

 ここで俺は自分の体に起こっている異常に気が付いた。

 

 俺のキノコが急成長している。ズボンの上からはっきりわかるレベルにだ。ジェットとドロイも同じことが起きているようで、隠そうと前かがみになっていた。

 

 見た目は最悪だが、性的興奮によるものでなく単純に巨大化しているだけなので直接害がなさそうなのは救いである。

 

 それにしてもレビィの様子がおかしい。俺たちの巨大キノコから目を背けているかと思っていたが、どうもそれ以上に戸惑っているように見える。

 

 しばらくしてレビィが恥ずかしそうにこちらに手招きしてきたので、股間を目立たせないようにしながら近づく。

 

「K、その……これどうしよう」

 

 泣き目になりながら震える声で俺につぶやくレビィ。

 

 その姿に少しそそられながら視線を下ろすと、あってはならない股間の膨らみを確認してしまった。

 

 思わず叫び声をあげてしまった俺は悪くない。



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少しだけ本気を出してみた

 クロビカリタケによって巨大なキノコを抱えてしまった俺たちは、人目を避けながらポーリュシカのもとへ行き、治療を受けた。

 ポーリュシカは男3人の股間を見た時はため息をついたのに、レビィには迅速に対応していた。レビィの方が大事かもしれないが、なんとも言えん気持ちだ。

 

 クロビカリタケはその特性ゆえ、意図的に情報が隠されていたようで、治療法はしっかり確立されているとのことだった。あの悪趣味なキノコが広く知られるのは嫌だろうな。

 

 ポーリュシカのおかげで無事治ったものの、レビィはまだ引きずっているようで、1人先に帰ってしまった。

 俺もさすがに生えてしまったレビィにいかがわしいことをしようとは思えなかったからな。なんだか申し訳ない気分なので、今度何か奢るとでもしよう。

 

 ハプニングを除けば穏やかなクエストを終えた俺は、次のイベントについて思考を移す。『幽鬼の支配者』との全面戦争だ。これは先の『鉄の森』やガルナ島のように、戦わないわけにはいかない。

 ただエレメント4やガジル、マスターのジョゼは原作通りにいけば戦わずに済むだろう。

 

 それでもジョゼの魔法兵とはやり合わないといけないが。

 

 来る日までに英気を養おうと思った時、俺はある事実を思い出してしまった。

 

 『妖精の尻尾』が『幽鬼の支配者』へ殴り込みに行くことになった原因を。ガジルがギルドの建物の破壊だけでは足りないと『シャドウ・ギア』の3人を襲って晒し者にし、それにマスターがキレたのだ。

 

 俺は再び頭を悩ますことになった。『シャドウ・ギア』の3人が襲撃されることを知っていて見過ごしていいのか。

 命を奪われるわけではないといえばそれまでだ。

 

 だがあの3人は全くの赤の他人ではない。同じ『妖精の尻尾』の仲間であり、加入時から世話になった。

 恩を仇で返すのはエロだけで充分だ。

 

 覚悟は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 活気溢れるマグノリアも夜になれば静かなものだ。

 

 俺は人気のない南口の公園にてガジルと対峙していた。

 

「まさか『異端者』が出張ってくるとは、思っていたよりお前らはカンカンだったか?」

 

「あの程度では『妖精の尻尾』は動かない。これは俺の独断先行だ」

 

「ギヒッ。そんなことはどうだっていい。退屈な仕事だと思ったが、大物と戦えるなら楽しめそうだ」

 

 ガジルはこれからの戦いに期待するように口角を上げる。……覚悟を決めたはずだったが、今すぐ逃げ出したい気分になってきたぞ。最もそんなことは出来ないけどね。

 

 俺はエクスカリバーを呼び出し、E・サンダーでレベルアップ。戦闘態勢を整え、先制攻撃だとガジルに向かって走り出す。

 

「うおおおおおおお!!」

 

小細工なしに正面からガジルに斬りかかるが、鋼鉄と化した腕で難なく受けられる。

 

「鉄竜剣!」

 

「ぐっ」

 

 そこからカウンターとばかりに鋼鉄の剣が襲いかかる。なんとかエクスカリバーで受け止めるも、重い一撃によって俺は後退させられる。

 

「どうした、『異端者』の名が泣くぜ?鉄竜棍!」

 

 休まる間もなく鉄の棒が向かってくる。受け止めるのが困難だと判断した俺は回避を試みるも、2段目の鉄の棒に当たってしまう。

 

「ごほっ」

 

 激しい痛みを我慢しつつ、極点眼を発動。剣で視線を誘導し、E・サンダーを帯びた指でガジルの快感のツボを狙う。

 

 作戦は成功し、見事快感のツボにヒットするも、奴の性質を失念していた。

 

 鋼鉄の体に指が弾かれ、逆に痛手を負ってしまう。

 

「何を狙ったか知らねえが、そんな攻撃では俺に傷1つけることは出来ないぜ」

 

ガジルは俺を嘲笑いながら口を膨らませる。

マズイ、この攻撃は……。

 

「鉄竜の咆哮!!」

 

 鉄の刃のブレスを避けることは叶わず、直撃した。全身切り刻まれた俺はたまらず倒れる。

 

「なんだあ?この程度とは『異端者』の噂は嘘っぱちのようだな」

 

 事実なので言い返せない。

 

 そもそも喋る気力すら残ってないが。もう少し善戦したかったが、ここまでのようだ。

 

「それにしてもこんなのと『魔人』のミラジェーンが付き合ってるとはねえ。これだと他の男でもいるんじゃないのか」

 

 今なんて言った?

 

「『妖精の尻尾』を潰した暁には俺の女にでもするか。お前を倒したと聞けば喜んで尻尾を振ってくるだろ」

 

 ガジルの下賤な言葉に俺の怒りのボルテージは急上昇していく。俺が馬鹿にされることは一向に構わんが、ミラを馬鹿にされてこのまま引きさがれねえだろ。

 

 俺は重い体を無理やり立ち上がらせ、E・サンダーを使い本日2回目の絶頂を迎える。これによりエクスカリバーはLv3にレベルアップした。

 

「おいおい、そんな目も出来るのかよ」

 

「どんな目をしてるかなんてどうでもいい」

 

 ガジルが楽しそうに笑う中、効果を確認する。エクスカリバーLv3の効果はランダムで卑猥な魔法1つを別の魔法に変化させる。

 変わった魔法はE・ファンタジーだ。

 

「加減はなしだ。お前はぶっ殺す」

 

「やれるもんならやってみな!『異端者』!!」

 

終わりなき妄想(エンドレスファンタジー)

 

ガジルの要望通り、俺は魔法を発動した。

 

「……これはなんだ?」

 

 ガジルが目の前に広がる異様な光景に戸惑いを見せる。

 

 そこにいたのは数え切れないほどのミラだった。

 

「なんだとはひどいな。お望みのミラジェーンだよ」

 

「幻覚の類か?幻覚ならいくら『魔人』だとしても……」

 

「ただの幻覚のわけなかろう。全て実体を持っている」

 

「なっ!?」

 

 終わりなき妄想は俺の妄想を具現化することが出来る。ミラを呼び出すくらいなら造作もない。

 

「こんな、こんなふざけた魔法があるわけないだろ!!」

 

「ハッタリだと言うのか?」

 

 俺は1人のミラに指示してサタンソウルを発動させ、ガジルに向かって火球を放させた。

 

 とっさにガジルは火球を躱し、火球は地面に衝突した。先ほど自分がいた場所にできたクレーターを見てガジルは冷や汗を流す。

 

「ありえない!!お前は一体何者なんだ!?」

 

「マーン・K・グロニクル。『妖精の尻尾』の魔導士だ」

 

 狼狽するガジルにしてやったりと、決め台詞を言う俺。

 

 あとは適当にボコって終わりだと思っていた矢先、俺の視界がぐらついてきた。

 

 まさか魔力切れ?予想以上の魔力消費で俺の体に一気にガタが来たのか?

 

 喋ってる場合じゃなかった……。

 

 俺の意識は強制的に闇へと飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が醒めて聞こえてきたのは騒ぎ声だった。

 

 覚醒しきってない目で声の主たちを確認すると、マグノリアの人や『妖精の尻尾』の面々だった。

 どうやら俺は負けて原作の『シャドウ・ギア』のように木に貼り付けにされたようだ。

 

 みんな心配そうな表情をしていて申し訳ない。勝てるとは思ってなかったが、心が痛い。

 

 1人自責の念に駆られていると、奥からマカロフが歩いてきた。

 

「ボロ酒場までなら我慢出来たんじゃがな……。ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよ」

 

 マカロフは持っていた杖を力強く握りつぶす。

 

「戦争じゃ」

 

 こうして始まった『妖精の尻尾』と『幽鬼の支配者』の対決は原作とは大きく違った展開になった。

 

 健在のミラに、ラクサスと雷神衆の参戦。これにより苦戦を強いられることなく、圧倒的な蹂躙で『妖精の尻尾』の勝利に終わったのだ。

 

 聞いた話だとエルザ・ミラ・ラクサスのS級トリオで、ジョゼをフルボッコにしたらしい。敵ながら同情ものの惨劇である。

 

 大勝利を収めたが、それでもギルドは半壊状態になったため、現在メンバー総出の復興作業が行われていた。

 

「木材って結構重いのな」

 

「どうしたK!俺はこんなにも運べるぜ!」

 

 木材の重さに愚痴を零していると、十数本くらい抱えたナツが何やら言ってきた。お前と張り合う理由はない。

 

「あ〜でも、お〜も〜てぇ〜えぇ〜」

 

「だったらそんなに持たなくてもいいだろ」

 

「やめとけ、K。あの馬鹿には何言っても通じねえよ」

 

「なんだと!?」

 

 ナツとグレイが口喧嘩をしている中、物陰からグレイを見ている怪しい人物がいた。

 

 ジュビア・ロクサー。元『幽鬼の支配者』のメンバーでエレメント4の1人である。水を使う魔法を用い、中でも自身の体を水にして物理攻撃を遮断する手法は強力だ。

 

 無事グレイにほの字のようで、俺以外には気付かれることなく、グレイの一挙一動を観察している。割とわかりやすいのに、なぜ誰も気付かないのだろうか。

 

 そうこうしているとナツの挑発に乗ったグレイがナツの倍はある木材を抱えて見事に地面にぶちまけていた。

 仕事が増えるだけだから無茶はやめような?

 

「ぐぇー腹減ったなぁ」

 

「そういや俺も腹減ってきたな」

 

 グレイの言葉にジュビアの目が光った。目にも止まらぬスピードでグレイに弁当を渡し、再び物陰に隠れて様子をうかがっている。

 

「てか……これ……弁当!!?」

 

「おおお!!!よくわかんねえけどうまそうじゃねえか」

 

「冗談じゃねえ。こんな得体のしれねえモン食えるかよ」

 

 せっかくの女の子の手作り弁当を食べないだと!?確かに怪しいかもしれんが、それは許さん!!

 

「待つんだ、グレイ!!」

 

「うわっ、急に大声出してどうした!?もしかして食いたいのか?」

 

「そうじゃない!!弁当のご飯の部分を見てみろ!!」

 

「あー、なんかハートがあるな」

 

「俺はさっきグレイに弁当を渡した人を見たが、女の子だった。そしてこのハートマーク!間違いなくお前のファンだ!」

 

「そう言われても誰からかわからないものを食べる気は……」

 

「残念だよ、グレイくん。これから君は『鈍感露出魔』と呼ばれるだろう」

 

「わかったよ!食えばいいんだろ!食えば!!」

 

 仕方がないとグレイは弁当に手をつける。美味しいのか食べるスピードはどんどん速まっていく。

 ジュビアも美味しそうに食べてもらえてご満悦のようだ。ピースサインでも送っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ルーシィの実家の件も片がつき、仮設のカウンターが出来たことでクエストを受けられるようになった。

 早速クエストに出向こうとすると、エルザがラクサスに対して怒鳴っている。

 

「この際だ。はっきり言ってやるよ。弱ぇ奴はこのギルドに必要ねぇ」

 

「それはもしかして俺のこと?」

 

「「えっ」」

 

 一触即発の場面から一転して、2人とも何を思ったのか押し黙ってしまう。周りもまるで言ってはならないことを言ってしまったかのような雰囲気に陥っている。

 

「K」

 

 ラクサスが重く閉ざしていた口を開く。

 

「なんでファントムの滅竜魔導士程度に負けた?」

 

「なんでって、普通に負けたぞ」

 

「それがおかしいっつってんだよ!!お前の実力からして負けるわけねえだろ!!」

 

 ラクサスはご乱心なのか、めっちゃ俺にキレてきた。本当に実力で負けたんだけどなあ。判断ミスはあったが、あの博打に勝てなかったら勝負にすらならなかった。

 

「実は強力な魔法を使ったら魔力が切れてしまってな」

 

「強力な魔法だあ?」

 

「もう……幻覚を実体化する魔法」

 

「「「はあ!!?」」」

 

 ラクサス以外の面々からも驚きの声があがる。

 

「お前まだそんな切り札を隠していたのか」

 

「魔力の消費がでかすぎるから使うことはほとんどないんだよ。あの時はカッとなって使ってしまったが」

 

「それでも使っただけで魔力は切れないだろ」

 

「調子に乗って長くしゃべりすぎてな、はっはっは」

 

「…………」

 

 ラクサスが見たことない顔をしている。絶対内心で呆れてる奴だな。

 

「とにかく!!俺がギルドを継いだら弱ぇモンは全て削除する!!!!そしてはむかう奴も全てだ!!!!」

 

「やめるんだラクサス!そんなことしたらぼっちギルドになってしまうぞ!」

 

「黙れK!俺は俺のやり方で最強のギルドを作る!!!!誰にもなめられねえ史上最強のギルドだっ!!!!」

 

 ラクサスは煽るだけ煽って高笑いしながら去っていった。あいつなりにギルドを思ってのことだとはわかっているが、不器用のレベルを超えている。

 この不穏な空気をどうにかしてくれ。

 

「Kすまなかった。とばっちりを受けさせてしまって」

 

「エルザが謝ることじゃねえよ。こっちも慣れてるし」

 

「それにしてもいきなりギルドを継ぐって、何ぶっ飛んだこと言ってんのよ」

 

 ルーシィが最もなことを言っている。いくら孫だとはいえ、あれだけ傲慢だとな。

 

 そもそも世襲制が絶対でもないだろうに。

 

「まあ、ラクサスは一応マスターの孫だからな」

 

「えーーー!!?」

 

「だがさっきも言った通りあいつが継いだら『妖精の尻尾』はおしまいさ」

 

「Kさん随分ストレートに言いますね」

 

「Kは容赦しないことで有名だからね」

 

 ハッピーよ、間違った情報を広めないで欲しい。それに俺は事実を言ったまでだ。

 

「もうこの話はいいだろう。それより仕事にでも行かないか?」

 

「おーいいねぇ。ちょうど行こうとしてたところだったし」

 

「ナツとルーシィとグレイ、ミラも一緒にだ。思えば鉄の森やガルナ島の件でも一緒に行動してたからな。この際チームを組まないか?」

 

 『妖精の尻尾』最強チーム結成に俺もお呼ばれされてしまった。魅力的なお誘いだったが、チームを正式に組むと下衆活に支障が出そうだったので断ることにした。

 ミラも受付の仕事があるからと断っていた。

 

 チームには加わらなかったが、せっかくなのでクエストには一緒に行った。魔法教団を倒すだけのクエストで街を半壊させて、やっぱり組まなくて正解だと思った。

 これ以上の心労はごめんである。



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偽りの楽園をぶち壊せ

 原作が始まってから思っていることがある。

 

 エロスが足りない。

 

 エバルーの屋敷では未遂に終わり、『鉄の森』の時は空気状態。ガルナ島は関わらず、『幽鬼の支配者』ではガジルにボコられて終わり。

 

 いいところが全くないではないか。

 

 このままではいかん。

 

「K、どう?似合ってるかしら?」

 

「最高。女神と言っても過言ではない」

 

「もうKったら」

 

 俺の褒め言葉に悪戯っぽく微笑み返すミラ。

 

 現在、俺の思いつきで自宅にてグラビア撮影の真似事をしている。ミラの今の格好はバニーガールだ。網タイツの脚線美がいい味を出している。

 

「よーし、じゃあポーズを取ってもらおうか。まずはM字開脚だ!」

 

「……Kのエッチ」

 

 恥ずかしがりながらもミラはこちらの指示通りのポーズを取ってくれる。それを興奮気味に撮る俺。

 

 このようにミラとは順風満帆なリア充生活を送れている。

 

 それでも俺は他の女の子の痴態も見たい欲張りさんなのだ。果てしない欲望に俺は手を伸ばし続けるぞ。

 

「次は四つん這いでお尻を突き出すように……いいね、完璧だ」

 

「さっきから指示されるポーズが際どいのばかりなんだけど」

 

「そりゃあそそられる写真を撮るのが目標だからな。実際のグラビアもそうだろ?」

 

「さすがにここまではしなっ!」

 

 網タイツによって艶めかしさ増大のミラ尻を俺は鷲掴む。この独特の感触と柔らかなお尻のハーモニー。

 そしてすかさず俺の手でいやらしく歪む尻を撮影していく。

 

「ちょっとK〜?」

 

 ミラの若干怒気を含んだ声に俺は怯みそうになる。

 

 だがそれに臆することなく指にE・サンダーを帯びさせ、本能のままミラの尻を揉みしごく。

 

「Kそれ以上は……あんっ」

 

「ふふーん。良いではないか、良いではないか」

 

「そろそろやめないと本気で怒るわよ」

 

 ミラがものすごい力で尻を触る俺の手をつねってきた。本気で怒られたら洒落にならないので、俺は慌ててミラの尻から手を離す。ここで強気にいけないところが俺の弱いところだ。せめて網タイツを破る段階までは行きたかった。

 

「こういうのは夜にやればいいじゃない」

 

「グラビア撮影中にセクハラされるってシチュエーションがいいんだよ!」

 

 それに夜は俺が辱めを受ける可能性が高い。やれる時にやっておくべきだ。

 

「マニアックな趣向ね……。あっ、そういえばロキからこれをもらったの」

 

 ミラが見せてきたのはリゾートホテルのチケットだった。ロキ曰く「最高のラブロマンスを」とのことだ。

 

 ロキが星霊だと判明した直後でのリゾートホテルのチケットの受け渡し。間違いなく「楽園の塔」と絡むことになる。

 

「お、お〜ロキも粋なことをしてくれるなあ」

 

「そうね。こんな高いホテル泊まったことないし、楽しみだわ」

 

 俺も楽園の塔のことさえなければ純粋に楽しめただろう。

 

 おのれジェラール。お前には俺直々に鉄槌を与えてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 照りつける太陽、目の前に広がる青い海。一抹の不安を抱きながらも俺たちはアカネビーチにやってきた。

 

「ねえ、あれって……」

 

「ナツたちだな」

 

 早くもビーチバレーに興じるナツ一行を発見した。ルーシィとエルザの水着姿が眼福である。うほ、スパイクを打つエルザの胸がブルンと揺れたぞ。

 

「声をかけてもいいが、今日はミラと2人で過ごしたいかな」

 

「私もそう思ってたところ」

 

 どのみち合流するだろうが、それまではバカンス気分を楽しもう。

 

 今日のミラの水着はフリルが付いたエメラルドグリーンのビキニである。本当はマイクロビキニをお願いしたのだが、人前で見せるのには恥ずかしいと言われてしまった。

 確かにあまり過激な姿を他人に見せたくないのも一理ある。これだけ人が多いにも関わらず、俺たちに羨望や嫉妬の視線が向いていることがよく分かるからな。

 

「K、どうかした?」

 

「ああ、すまん。ついミラに見とれてた」

 

「ふふ、ありがと」

 

 人目も憚らず惚気る俺たちへの視線はさらに増す。いやー人気者は辛いね。

 

 では、楽園の塔に行くまではこのバカンスを存分に満喫しよう。

 

 その後ミラと一緒に泳いだり、砂で等身大のミラの像を作ったりと、日が暮れるまでアカネビーチを満喫した。

 それから夜になり、俺たちはホテルの地下にあるカジノに向かっていた。

 

「逃がすかコラァアアーー!!!!」

 

「ナツ!?」

 

 叫びながらギルドを飛び出すナツに、あとを追うルーシィ、グレイ、ハッピー、ジュビア。既にエルザは連れ去られたようだ。

 

「どうやら何か厄介なことがあったみたいだな。俺たちもナツたちに付いていくぞ」

 

 こうして俺たちはナツの一行に合流し、ナツの鼻を頼りに楽園の塔にたどり着いた。見張りの兵を倒したところで、エルザと遭遇。

 1人ハッピーを探しに行ったナツを除いてエルザの過去話を聞くことになる。

 

「私は……ジェラールと戦うんだ……」

 

 話が重い。現状では救いがないところが辛すぎる。ジェラールの行動が自らの意思じゃないところとか。フォローしようにも俺には難しい。

 

 それから話を聞いていたショウの誤解を解き、ジェラールに従うフリをしていたシモンの声かけのもと、ジェラール打倒を協力することになった。

 

 塔を進む中、ジェラールのアナウンスによって3人の戦士が配置されていること、エーテリオンが打たれることが知らされる。

 このアナウンスでキレたショウがエルザをカードにして、単身ジェラールに挑もうと走っていった。俺はエルザのことはグレイとミラに任せ、ルーシィ・ジュビアとともにナツを探すことにした。

 

 だが俺はナツを探す気はさらさらなかった。途中でルーシィたちと二手に別れようと離脱し、エルザの方を追うことにしたのだ。

 今回の狙いはエルザ……ではなく、エルザと対戦する斑鳩だ。

 

 暗殺ギルド『髑髏会』の特別遊撃部隊『三羽鴉』のメンバー斑鳩。着物と京都弁っぽい喋り方が特徴的な和風の魔導士。

 彼女の剣技はエルザすらも圧倒する妙技で、苦戦する描写がなされていた。最後はエルザに倒されてしまうが、そこに俺は目を付けた。

 

 エルザに倒されるということは、すなわち身動き取れなくなっている。

 

 そう、斑鳩の体を好き放題出来るのだ。我ながらとんでもなく下衆な作戦である。

 

 そしてエーテリオンが落とされた後、ジェラールに1発何かをかます。戦闘はナツにお任せ。

 

 問題ない、勝ちはもらったも同然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道に迷ってる間にエーテリオンが落とされてしまった。斑鳩に辿り着くまでの時間を考慮しなかったのは詰めが甘いとしか言えない。

 今度は間に合わなかったとならないために俺は急いでエルザのもとに向かう。

 

「無限の闇に落ちろぉぉお!!!!ドラゴンの魔導士ぃぃ!!!!」

 

 俺が着いた時にはナツやエルザはボロボロになっており、ジェラールは強力な魔法を発動しようとしていた。

 

「貴様に私が殺せるか!!!?」

 

 ナツを庇うようにエルザが前へと出る。マズい、このままではエルザにジェラールの魔法が当たってしまう。

 

「させるかああああ!!!禁具スラアアアイム!!!!」

 

「「K!?」」

 

 俺は禁具スライムを呼び出し、それをジェラールに向かって放り投げた。魔法の発動に集中していたジェラールは、俺が投げつけた禁具スライムを避けることは出来なかった。

 

「なんだこれは!!?うわっ、やめろ!!そんなところに……ぐわあああああ!!!!」

 

 禁具スライムがジェラールの体に纏わりつくことで、集中力が切れて魔法の発動が解除される。男の悶える姿はマイナスポイントだが、役目は果たした。

 あとはナツを焚きつけるだけだ。

 

「2人ともここは俺に任せてくれ」

 

「何言ってんだ!!ジェラールを倒すのは俺だ!!」

 

「そうは言ってもお前はもう限界だろ。魔力が回復出来れば別かもしれんが」

 

「魔力が回復出来ればいいんだな!?」

 

 俺の言葉を合図にナツはエーテリオンを喰らい始めた。最初は炎属性以外も含まれた魔力に苦しめられるも、予定通り覚醒。

 ジェラールを圧倒的なパワーでねじ伏せた。

 

 しかし息をつく間もなく、エーテリオンが暴走をし始める。確かエルザがエーテリオンを操作して爆発を防ぐ流れだったはずだ。エルザのことが心配だが、ここは早くこの場を離れよう。

 

 そう思って動き出した時、俺はつまずいて魔水晶に手を突っ込んでしまった。

 

「あっ」

 

「K!何しようとしてるんだ!!」

 

「……エーテリオンはじきに大爆発を起こす。それを防ぐために俺はエーテリオンと融合する」

 

 引っ込みがつかなくなった俺はエルザの代わりにエーテリオンを抑えることをするしかなくなった。

 

「そんなことしたらKが!!」

 

「心配するな。必ず止めてみせる」

 

 そう言ってもなお、ナツとエルザ、いつの間にかいたシモンが止めようとしてくる。

 

「思えば『妖精の尻尾』は俺にとってかけがえのない存在になっていた。その仲間たちを救えるなら俺の命ぐらいくれてやるさ」

 

 本当はめっちゃ助かりたいです。まだ死にたくありません。それ以前にどうやってエーテリオンを制御するんですか?

 

 考えてるうちに体が完全に魔水晶に取り込まれた。ナツたちは必死の形相で俺に呼びかけてくる。

 

「ナツ、エルザ、あとは頼んだ。それとミラには『ごめん』と伝えてくれ」

 

 感覚からしてそろそろ爆発することがわかる。爆発をさせないことは不可能だ。被害が及ばない場所、空中に魔力を放出するしない。

 

 上に出す……上に出すイメージだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたらナツにお姫様抱っこされていたでござる。原作でエルザを助けたように俺を助けてくれたらしい。もうナツには足を向けて寝られないな。

 

 助かったことに安堵していると、ナツやエルザに説教されるわ、詳細を聞いたミラに大泣きされるわで、大変だった。ホテルに滞在中、ミラは俺にべったりでハッピーやルーシィにかなりからかわれた。

 

 傷が癒え、マグノリアに帰ってきた俺たちは新しい『妖精の尻尾』のギルドを目の当たりにした。中に入るとオープンカフェ、グッズショップ、プール、遊技場……本当に魔導士ギルドなのかと思わされる。

 でもウェイトレスの服を変えたのはナイスだ。中々のシコリティの高さである。

 

 続いてマカロフから新メンバーのジュビアとガジルが紹介された。ジュビアは持ち前のビジュアルで好印象のようだが、ガジルはギルドや俺への襲撃で反応が悪い。

 

「おっガジルじゃん!元気にしてた〜?」

 

「K!?」

 

「なんでそんなフランクなんだ!?」

 

 悪い空気を払拭しようと思っての行動なのに受けが良くない。ガジルも俺を無視してナツに突っかかってるし。

 

 そうこうしているといつの間にかいなくなっていたミラが、ステージで弾き語りを始めた。その演奏と歌に聞き惚れていたが、途中からギルドのメンバーが騒ぎ出し大荒れ状態に。

 

 新しくなってもやはり『妖精の尻尾』は『妖精の尻尾』のままだった。

 

「明日は取材で記者が来る日なのにぃーー!!!!」

 

 マカロフがギルドの惨状を嘆いていた。このギルドが変に見栄など張れないことは分かりきってるだろ。

 

 俺は呆れながら取材回避のために休日となる明日の予定を考えることにした。



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策士は笑う

 週刊ソーサーラーの取材を回避した俺は『妖精の尻尾』の記事を読み、改めて受けなくて正解だったと思った。ろくなことが書かれないことは身を持って知っていたが、まあひどい。

 ラクサスがこの件でキレたのも少しわかる気がした。

 

「でもミラとガジルのデュエットは見たかったなあ。どうしてこうなったかは知らんが」

 

「ガジルくんが私の代わりに無理やり歌おうとしたから、それなら一緒に歌うように誘ったの。楽しかったわよ」

 

 嬉しそうにガジルとのデュエットについてミラは語る。

 

 そういえば原作だとミラを拘束して代わりに歌ってたような……あっ、多分返り討ちに遭いましたね。

 

 自業自得とはいえ、半ば強制的にデュエットさせられたであろう憐れなガジルは、現在掲示板の前でルーシィと言い争っていた。これはタイミングが悪くてチームのメンバーの誰ともクエストに行けなかった時だな。

 

「どんな仕事やろうが、俺の勝手だろーが。はりつけんぞ、バニーガールさんよぉ」

 

「キィーーー!!!くやし〜〜〜!!!」

 

 目星を付けた依頼書を取られて地団駄を踏むルーシィ。

 

 それにしてもガジルに突っかかるとは、ルーシィは将来大物になるだろう。

 

 ルーシィの度胸の大きさに感心していると、今度はナツに助けを求めていた。だがエーテリオンを食べたせいで調子が出ないナツには相手にされず、撃沈した。

 

「うう……ここで諦めたらおしまいよ、あたし!他の依頼を見ましょう!」

 

 ナツに断られてもめげずルーシィは再び掲示板から行けそうな依頼を探す。

 

 するとある依頼書に目が止まった。

 

「ヒーローショーへの出演……これならあたしでも行ける!報酬も結構いいし!」

 

 ついにルーシィは俺が仕組んだ依頼書にたどり着いた。ルーシィが言うヒーローショーとは俺とミラが出演した遊園地のヒーローショーのことである。

 

 俺はミラと結ばれて以降も1人でヒーローショーを見にちょくちょく遊園地に通っていた。その時にたまたま遊園地のオーナーと知り合い、話していくうちに意気投合した。聞いたところによるとあのショーの発案者はオーナーらしいから、気が合わないわけがない。

 

 そして今回はそのオーナーに「またミラジェーンと一緒に出てくれないか?」と頼まれたのだ。ミラジェーンもそうだが、俺が演じた「アナール大佐」も受けが良かったらしい。

 

 俺としては二つ返事で了承したかったが、恥ずかしい目に遭ったミラも了承してくれるとは考え難い。

 そのためオーナーにはミラを諦めてもらい、代わりに『妖精の尻尾』に依頼を出させたのだ。報酬も通常より割高にし、ルーシィがかかってくれるように。

 

 ヒーローショーという建前があるので、あまり過激なことはできないが、ルーシィにはショーに集まる紳士らのオカズになってもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒーローショーの当日。

 

 やる気満々の俺は配役である「ハラセク伯爵」へと姿を変えた。ハラセク伯爵の姿はタキシードに赤いマントを羽織ったドラキュラをイメージしたものになっている。

 前のアナール大佐は正体が露見することを恐れ、廃業になった。

 

「えっと今日はよろしくお願いします」

 

 俺がハラセク伯爵のキャラを固めていると仮面ウィザードへと着替えを終えたルーシィが打ち合わせのために部屋にやってきた。ミラと同様に体のラインが露骨に出るヒーロースーツを着たルーシィは少し恥ずかしそうな表情を浮かべている。

 ステージ上ではもっと恥ずかしい目に遭うのに、格好だけで恥ずかしがっていたら保たんぞ?

 

 その後前回と同じく流れを説明され、過程も任されることが伝えられた。ルーシィはほとんどアドリブで成り立たせることに驚いていたが、クエストで劇場に立った経験もあるので大丈夫だと胸を張った。

 確かにルーシィの胸には大きな信頼が詰まっているな。

 

 ショーの開始時間になり、俺は部下を引き連れてステージへと登場した。

 

「本日はわたくしハラセク伯爵の催しにお集まりいただきましてありがとうございます。早速ですが、皆さんの中から本日の生贄を選びたいと思います」

 

 俺は作り笑顔を浮かべながら持っている杖で観客の誰かを選ぶ仕草をする。子供たちは自分が選ばれるんじゃないかと震えている。

 

『とんでもない敵が現れたぞ!みんなの声を合わせて仮面ウィザードを呼ぼう!せーの……』

 

「「「助けて!仮面ウィザード!!」」」

 

 司会のお兄さんの掛け声とともに仮面ウィザードの名前が叫ばれる。

 

 すると激しい光の演出魔法の中、仮面ウィザード・ルーシィが登場した。

 

「瞬く星の使い、仮面ウィザード!ハラセク伯爵、あなたを成敗しに来たわ!」

 

「わたくしを成敗するとは大きく出ましたね。部下たち相手をしてあげなさい」

 

「開け、金牛宮の扉!タウロス!!」

 

「MOーーー!!」

 

 部下をけしかける俺に対し、ルーシィは星霊を呼び出して対抗しようとする。現れた巨躯の牛の星霊タウロスに観客は歓声を上げた。

 

「むむ!ルーシィさん、今日の乳はいつにも増してセクシーですな」

 

「「「わかる!!!」」」

 

「くだらないこと言ってないでちゃちゃっとやっちゃいなさい!」

 

 タウロスと観客の声を無視して、ルーシィは攻撃するように指示を飛ばした。見た目からもわかる圧倒的なパワーで、部下たちはどんどん宙に舞っていく。これには観客も大盛り上がりだ。

 

「その牛は相手にするな!仮面ウィザードを直接狙え!」

 

 俺は部下に牛と戦わないように言うが、斧によって攻撃範囲が広いタウロスを通り抜けられる者はいない。

 やがて部下も軒並み倒されてしまい、残すは俺のみ。

 

「覚悟は出来てるかしら?ハラセク伯爵!」

 

「覚悟も何もわたくしの勝利が揺らぐことはありません」

 

 俺は杖に仕込まれていた刀を抜き出した。タウロスは俺が刀を出したのを見て斧を振り被る。

 俺の力では受け止めることは困難だと判断し、回避して刀でタウロスに斬りかかる。タウロスはそれを読んでいたのか、俺の刀身をあっさりと斧で受け止めた。

 ずるずると押し返される刀を受けて俺は後退を余儀なくされる。

 

「いいぞー牛!」

 

「すげー力だぞ!」

 

「ここまで褒められると照れますMO」

 

 観客に讃えられ、満更でもないタウロス。俺の方はルーシィをどうピンチに持っていくか考えていた。

 魔力切れまでひたすら耐えるのもありだが、観客が飽きてしまうかもしれない。

 

「タウロス!カモン!」

 

「?」

 

 俺は刀を構えるのをやめ、タウロスを手招きした。タウロスは頭に疑問符を浮かべるも、素直にこっちにくる。

 

「タウロス、これがヒーローショーってことはわかるか?」

 

「MOちろん、状況を見て察してますが……」

 

「ショーの流れでルーシィをピンチにしないといけないから一時的に寝返ってくれないか?」

 

「MO!?」

 

 俺はタウロスに耳打ちで寝返るように打診した。タウロスは俺の提案に驚いている。

 

「しかしショーとはいえ、ルーシィさんを裏切るのは……」

 

「今なら合法的にルーシィのエッチな姿を拝めるぞ」

 

「MOーーー!!俺は今からハラセク伯爵の手先MO!!」

 

 俺の甘言によってあっさり寝返るタウロス。これにはルーシィも唖然としている。

 

「タウロス!ルーシィを拘束しろ!!」

 

 俺の指示でタウロスはルーシィを羽交い締めにする。ルーシィの力ではタウロスの拘束を解くことが出来ない。

 まさかの超展開に観客はある意味盛り上がっていた。

 

「こうなったら強制閉門で……」

 

「させません!!」

 

 慌てたルーシィはタウロスを強制閉門をしようとしたので、俺は彼女の鍵を奪取し無力化する。

 

「ははは、味方の星霊に裏切られる気分はどうですか?仮面ウィザード」

 

「あなたどうやってタウロスを!?」

 

「なーに少々交渉しただけですよ」

 

 俺はニヤニヤしながら拘束されたルーシィの体を舐め回すように見る。ピチピチのスーツで強調されるムチムチボディはスーツの光沢で艶かしく彩られる。羽交い締めを解こうと抵抗することで揺れるおっぱいは煽情的である。

 ルーシィは自分に向けられるいやらしい目線に気付き、俺を睨みつけた。

 

「さあさあ、ここからが本当のショーの幕開けだ」

 

「本当のショーって一体何をするつもりなの!?」

 

「まずはこれだ!!」

 

 そう言って俺が取り出したのは鳥の羽。ルーシィはポカンとしているが、観客の大きいお友達は何をするか気付いて期待の眼差しを向けている。

 

「どんなことをするかと思えば羽って大したことなさそうね」

 

「それはどうかな?そーれ!」

 

「あっ、そこは……あははははははは!!」

 

 はE・サンダーを帯びさせた羽でルーシィの無防備な脇をくすぐり始めた。くすぐりに抗えないルーシィの笑い声が響く。

 

「もうやめて!やめ……んひひひひひひひひ!!」

 

 ルーシィの制止をよそに脇だけでなく脇腹や足の裏をしつこく羽でくすぐる。くすぐりを耐えるため体を捻り誤魔化すルーシィだが、それによるおっぱいの揺れに観客やタウロスは釘付けだった。

 

 やがてくすぐりが止むとルーシィはぐったりとした表情を見せていた。その顔は赤みを帯びており、笑い過ぎたせいか息が荒い。暴れたこともあって汗も流れており、色っぽさを掻き立たせている。

 

「くすぐりはそんなに気持ちよかったですか?仮面ウィザード」

 

「よくもあんなことをやってくれたわね!この変態!!」

 

「……変態?ただくすぐっただけなのにあなたは何を思ったんでしょうね?」

 

「くっ」

 

 ルーシィが悔しそうに俺を睨みつける。

 

 だが俺はそれを意に介さず、次の行動の準備を始める。

 

「続いてはこれだ!」

 

 俺が舞台裏から持ってきたのはクリームパイだった。くすぐりといい、地味な嫌がらせに見えるかもしれないが、一応ヒーローショーだ。表面上はらしくしなければならない。

 

「パイ投げってなんでまた……ぶほっ」

 

「ストラーイク!どんどん行きますよ」

 

 俺はルーシィに向かって全身がクリームパイだらけになるまで投げ続けた。

 

「なんなのよ、この罰ゲーム感……」

 

 予想と違う展開にきっとクリームパイの下で憂いた表情をルーシィは浮かべているのだろう。ツッコミはきちんとするところはルーシィらしい。

 

「いつのまにかクリームだらけになってしまったな」

 

「誰のせいよ!!」

 

「このままではかわいそうだ。どれどれ」

 

 俺はルーシィの頬に付いたクリームをペロッと舐めた。

 

 その瞬間ルーシィに得体の知れない嫌悪感が走る。

 

「ちょっと、まさか」

 

「舐めて拭き取ってあげましょう」

 

「いやあああああああああ!!!」

 

「「「いいぞー!!もっとやれ!!」」」

 

「よくない!!」

 

 観客の声援を糧に俺はルーシィに付いたクリームを舐め始めた。ルーシィはくすぐりの時とは比べものにならないくらいやめるように懇願するが、俺は止まらない。

 

「仮面ウィザードの脇クリームペロペロ〜」

 

「やめろ!!ど変態!!んふっ」

 

 先ほどの名残か、ルーシィは脇を舐められ怯んでしまう。

 

 もはや健全とは言えないヒーローショーだが、子供も大きいお友達も一丸となって見守っている。

 

「すごい、アナール大佐以来の神展開だ……」

 

「なんだかいけないことを見てるような気がする。でも目を離せられない」

 

「俺も仮面ウィザードペロペロしてぇ」

 

 先ほどまで仮面ウィザードに声援送っていた観客たちはもういない。みな仮面ウィザードに性的な視線を送り、ハラセク伯爵を応援している。

 

「そろそろメインディシュに参りましょう」

 

 俺はルーシィの大きな2つのクリームパイに目を向ける。

 

 クリームの上からでも感じる確かな重量感。

 

 エバルー屋敷の時には手を出すことが出来なかったそれが、今目の前にある。

 

 限界だった俺はルーシィの左のクリームパイを口に含んだ。スーツ越しにクリームパイの感触が口を満たしていく。

 

「やっだめ……あっあっ」

 

 先端を探り当て、クリームとともに俺は吸引する。その乱暴な吸い方は紳士さを微塵にも感じさせないものだった。

 

「あの……さすがにこれはアウトでは?」

 

「何を言う、タウロス。哺乳類の動物はみな母乳を吸って育ちます。すなわちそこにやましさなんて何もありません」

 

「いや、しかし」

 

「あなたも吸ってみれば、崇高な母性を見出すでしょう」

 

「騙されちゃダメっ……んんっ」

 

 俺は必死に左のクリームパイを吸いながら右のクリームパイを力強く揉む。

 

 タウロスは俺の言葉でどうするべきか迷っている。しかし俺の行為を羨望の目で見ているのは一目瞭然だ。答えは分かりきっている。

 

「そこまでだ!!」

 

 タウロスがこちら側に堕ちかけていた時、制止する謎の声。

 

「君の悪事はここで終わる」

 

「何者だ!?」

 

「僕はライオン仮面。仮面ウィザードの相棒だ」

 

 現れたのはスーツ姿にライオンのマスクを被った男。声と格好からして間違いなくロキだ。

 自由にこちらに行き来できるのは知っていたが、来てしまったか。

 

「ライオン仮面だかなんだか知りませんが、わたくしに逆らおうとはいい度胸ですね」

 

「MOーー!イケメン死すべし!!」

 

「君たちには王の光を味わってもらおう」

 

 この後ロキにコテンパンにされたのは言うまでもない。



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華麗なる敗北

 ヒーローショーの後日談。オーナーに聞いたら過去最高に評判がよかったらしい。彼自身も「ルーシィが拘束されるところが堪らなかったよ!」と興奮気味だった。

 ただラストでポッと出のロキに負けたことは不満だったようだ。俺も実際に観客のブーイングを聞いたから間違いない。

 まあロキに負けたということより、まだまだ物足りないという側面が強い気がしなくもない。

 

 そんなヒーローショーの主役を張ったルーシィは結構ご立腹のようだったが、謝罪して報酬をさらに釣り上げたら途端に態度を軟化したとのことだ。さすがに現金過ぎないか?

 

 とにかく俺がしたことは役者の暴走というで収められて助かった。オーナーには「またよろしく頼む」と言われたので、ぜひよろしくしたい。

 

 ヒーローショーも無事終わり、次のイベントは収穫祭だ。原作ではこれに乗じてラクサスがバトル・オブ・フェアリーテイルを開く。

 それでラクサス及び雷神衆の面々と戦うことになるのだが、あまり気が乗らない。エロチャンスがないこともそうだが、ラクサスや雷神衆は『妖精の尻尾』の中でも交流がある方で、やり辛いのだ。

 長い付き合いで色々良くしてもらっているからね。

 

 どう立ち回るものかと考えていると、インターホンの音が聞こえてきた。知り合いだといけないので、重い腰を上げて玄関に赴く。

 

「こんな夜分に急に訪れてすまない」

 

「別に構わんよ。俺の都合に構わず来る連中なんていくらでもいるし」

 

 訪れたのは雷神衆の1人、フリードだった。仲が悪いわけではないが彼の性格もあってか、家に訪れるような仲でもない。

 そんなフリードがこの時期に俺の家に来るとは嫌な予感しかしない。

 

 俺はとりあえずフリードを家に上げ、話を聞くことにした。元々表情豊かではないフリードの神妙な面から、これから話を聞くと思うと胃が痛い

 

「で、どうしたんだ?お前が俺の家に来るとは珍しいじゃないか」

 

「相談……いや、頼みがあるんだ」

 

「頼み?」

 

「ラクサスを止めてくれ」

 

 てっきりラクサス側について欲しいみたいなことを思っていたらさらに難易度が高いことを要求された。

 一応詳しい事情を聞くと、原作通りマスターになることを画策したラクサスの企みの全貌を説明される。

 

「俺はラクサスに付いているが『妖精の尻尾』の仲間を傷つけるような真似はしたくない。かと言って俺が進言してもラクサスはやめないだろう」

 

「そこで俺に白羽の矢を立てたわけね」

 

「雷神衆以外でラクサスと親しいお前なら説得出来ると思ったんだ」

 

 フリードが頭を下げて俺に頼み込む。確かにラクサスとは仲がいい方だが、説得となると話は別である。

 妄信的に自分の考えを疑わないラクサスを説得するのは不可能だ。それこそ原作のように自分の根底にある思いを自覚しない限り。

 

「俺じゃなくてまずはマスターに言うべきだと思うけどねえ」

 

「マスターにこんなことを企んでいると言えばラクサスが破門になるかもしれない。それは避けたいんだ」

 

 実際ラクサスはバトル・オブ・フェアリーテイルの後破門になるし、事前にチクっても同じ結末になる可能性は高い。

 ……これはラクサス破門不可避なのでは?俺の説得が成功する未来も見えないし。

 

「フリード」

 

「説得してくれるか、K!」

 

「諦めろ」

 

 俺は逃げに入ることにした。どう考えても無理ゲーなのに突っ込んでいく理由はない。

 

「そもそもフリード、お前は本当にラクサスを止める気はあるのか?」

 

「なっ!?どういうことだ!!」

 

「どういうことって、自分が説得しても無理そうだから来たってことはお前はラクサスに何も言ってないってことだろ?」

 

「!!!!」

 

「止められないにしても納得いかないなら離反すればいいのにそれも多分してない。仲間を傷つけたくないのにマスターに言わないのもおかしくないか?」

 

「…………」

 

 フリードは何も言い返さない。俯いて俺の話に耳を傾けている。

 

「俺も説得を諦めている時点で同類かもしれんがな。まっやらせていいんじゃない?」

 

「しかし、それは……」

 

「さすがに殺したりはしないだろうし、何よりその計画は絶対に成功しない」

 

「成功しない?」

 

「お前やラクサスが思っている以上にみんな強いってことだ。ラクサスには痛い目見させて、これを機に改心してもらえ」

 

 みんなボロボロになりながらも生体リンクついた魔水晶を壊したりしてるからな。『妖精の尻尾』のメンバーに侮れる奴は1人もいない。

 

「それと俺はバトルなんちゃらには参加しないから。今の話も聞いてなかったってことにするんで」

 

「いいのか?」

 

「俺が参加してもすぐ負けるだろ」

 

 俺の言葉を聞いてキョトンとするフリード。

 

 しばらくして面白かったのか笑みを零す。

 

「くく、面白い冗談だ」

 

「そういうことにしておいてくれ」

 

 冗談じゃなくてマジで負けるからな。

 

 フリードは俺との会話で迷いがなくなったのか、来た時よりも明るい表情で帰っていった。

 

 これで一連の流れに支障が出ることはないだろう。

 

「そういえばバトルなんちゃら出ないならミス・フェアリーテイルコンテスト見れないじゃん」

 

 ミス・フェアリーテイルコンテストに出る女の子の晴れ姿を見れないことだけは心残りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今頃みんなラクサスの策略によって戦っているであろう。

 

 当然俺は自宅待機である。今更石になった女性陣のことが心配になってきたが、エバなら手を出さないと信じている。

 

 ふと窓から空を見ると、球体の魔水晶がマグノリアの街を囲うように浮かんでいた。どうやらエバは既に倒されたみたいだな。

 とりあえずは一安心だとのんきなことを思っていた時、インターホンの音が鳴り響く。それも焦っているのか何回もボタンを押している。

 

 なんとなく察しがつきつつも扉を開ければ、そこには息を切らしたカナが立っていた。

 

「どうしたんだ、カナ?なんか焦ってるみたいだけど」

 

「焦るどころの話じゃないよ!いいから来い!!」

 

 カナに強引に引っ張られ俺は外に出る。道中にこれまでの経緯とラクサスに対抗するために俺を呼びに来たことを聞かされた。

 明らかな人選ミスである。

 

 ビックスローやフリードに遭遇しないことを祈っていると、カルディア大聖堂の方から凄まじい轟音が聞こえてきた。もうラクサスとミストガンが交戦中なのだろう。

 

 カナとともにカルディア大聖堂に着くと、眼前には驚きの光景が広がっていた。

 

「どうしたフリード?でかいのは威勢だけか?」

 

「……ラクサス」

 

 多少服がボロボロになっているラクサスと傷だらけで地面に這いつくばるフリード。内部の荒れ具合からも2人の間で交戦があったことが簡単にわかる。

 

「おお、カナにKか。Kは参加する気はねえと思っていたが」

 

「すまない、K……俺ではラクサスには届かなかった」

 

 仲間であるフリードを倒したにも関わらず、ラクサスはそれを意に介していない。一方フリードはラクサスを止めれなかった悔しさが顔に滲み出ている。

 

「なるほどな。大方Kには計画を話していたってところか」

 

「お前のお粗末な計画なんて知らねえよ、雷馬鹿」

 

「あくまでとぼけるか。まあいい、お前と最強の座を競えるならなあ」

 

 ラクサスは俺と戦えることが嬉しいようだが、非常にマズい。俺とラクサスの実力は月とすっぽんレベルだ。とてもじゃないが戦いにならない。

 

「ん?どうやらもう1人来たようだな」

 

 ラクサスが視線を向ける方を見ると、いつも通り不審者の格好をしたミストガンがきていた。

 

「今すぐ神鳴殿を解除すればまだ余興の範疇で収まる可能性もある」

 

「おめでたいねえ」

 

「いや、めでたいのはてめえの頭だ」

 

「はっ言うじゃねえか、K。お前からやるか?」

 

「何言ってるの?ミストガンと2人がかりに決まってんだろ」

 

 俺の言葉で場の空気が凍った。みな訝しげな目線を俺に送ってくる。

 

「あいにく俺は最強の座とか全く興味ないんでね。空の奇妙なものを消すことを優先するぞ。ミストガン、とっととやろうぜ」

 

「あっ、ああ……」

 

「K、それでいいのか……」

 

「いいだろ。ラクサスだし」

 

「随分舐め腐ったことを言うじゃねえか」

 

 ラクサスの怒気が目に見えて高まっていくのが分かる。

 

 確かにあの流れで言うことではないかもしれないが、知ったこっちゃない。俺は俺の都合でやらせてもらう。

 

 カナにはフリードとともに避難してもらい、三者睨み合う。

 

 ここにラクサスVSミストガン・Kペア、開戦。

 

 ミストガンは背中にある5本の杖を1本ずつ床へと立てる。この間にミストガンに攻撃出来そうと思ったのは俺だけではないはず。

 

「摩天楼」

 

 空間が歪み、カルディア大聖堂は爆発で崩壊する。予期しない大魔法にラクサスが驚愕していると、次元の切れ目に引き込まれ、謎の怪物とご対面した。

 

「はははははははっ!!!!くだらねぇなぁ!!!!」

 

 しかしそれらは全てミストガンの幻覚だった。ラクサスの笑い声とともに幻覚は簡単に解けてしまう。

 

「さすがだな。だが気付くのが一瞬遅かった」

 

幻覚が解かれることを読んでいたミストガンはラクサスの頭上に巨大な魔法陣を用意していた。

 

「眠れ!!!!五重魔法陣御神楽!!!!」

 

 大層な名前の魔法がラクサスに降りかかると同時に、ラクサスもミストガンの足元から雷魔法をぶち当てる。

 両者一歩も引かない激しい攻防だ。

 

「「お前も戦えよ!!!!」」

 

 影を薄めて眺めていたらラクサスとミストガンに怒られてしまった。

 

「いやー入り込む隙なかったから、戦わなくていいかなって」

 

「そんなわけないだろ!!2対1で来るってのはどうした!?」

 

 さっきから怒ってしかいないラクサス。短気は損するから改めた方がいいぞ。

 

「「ラクサス!!!!」」

 

 俺がふざけている間にナツとエルザが到着。ミストガンはエルザに気を取られてラクサスの攻撃が顔に直撃してしまった。

 

「ジェラール……」

 

「お前……」

 

 ミストガンの顔が晒され、ジェラールそっくりなことに戸惑う2人。ミストガンはエルザに申し訳なさそうにしながら逃げてしまう。

 

「だーーっ、ややこしいっ!!後回しだ!!!ラクサス勝負しにきたぞ!!!!エルザいいよな、俺がやる!!!」

 

 吠えるナツの言葉が頭に入らないのか依然として戸惑ったままのエルザ。そんな締まらないエルザに対し、ラクサスの魔法が打たれる。

 エルザを相手にしようとするラクサスに対し、ナツは再度対戦を申し込むも、ラクサスは「いたのか(笑)」と煽る始末。

 

 なんとかナツはラクサスと戦いを始めるが、ナツは劣勢を強いられる。

 

 それからミストガンのことを一旦振り切ったエルザがラクサスの相手に変わる。

 

 そして交戦の中、神鳴殿の詳細をラクサスから聞かされる。エルザは雷帝の鎧を換装し、ラクサスをナツに任せて神鳴殿の破壊に向かったのだった。

 

 すっかり空気になった俺もその場をこっそりと抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルディア大聖堂を抜け出した俺は、無傷のままではマズいと思い、神鳴殿を一個破壊して負傷した。高いところに登らないと攻撃が当たらないのは悲しいものがある。

 

 こうして軽い負傷で済んだバトル・オブ・フェアリーテイルだったが、これで終わりではなかった。

 

 なぜなら俺の目の前にはラクサスがいるからだ。

 

「まだ怪我治ってないのに無茶だと思うんだが」

 

「もう会えるかも分からねえからな。心残りはなくしておきたいんだよ」

 

 ラクサスはマジメに俺と戦えなかったことをかなり気にしているようで、マグノリアを出る前に戦いを申し込んできたのだ。

 

 これで会うのが最後というわけではないので、適当にはぐらかしてしまうのもよかった。

 しかしラクサスは怪我を押してまで俺との戦いに臨もうとしている。この熱い気持ちを踏みにじるほど俺も外道じゃない。

 

「仕方ない。今持てる俺の力の全てをぶつけるぞ」

 

「いいねぇ、そうこなくっちゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクサスと俺の真剣勝負ーーその勝敗は君たちの想像にお任せしよう。



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祈らずにはいられない

 馬車に揺られながら、俺は内心不安でいっぱいになっていた。

 

「なんでこんな作戦にあたしが参加することになったのー!!?」

 

ルーシィの嘆きと全く同じことを思っている。

 

 バラム同盟の一角である『六魔将軍』が不穏な動きを見せていることを受けて、4つのギルドによる連合で討伐することになった。

 それ自体は知っていたのだが、問題は俺が入れられたことだ。

 

 エンジェルやブレインとは知り合いのため、一悶着あることが確定しているのが痛い。

 特にエンジェルは、最近は来てなかったものの、たまに家に遊びに来ては愚痴を聞く仲である。ちょくちょくギルドへの勧誘もしてくるし、何か仕掛けてくるだろう。

 

 唯一の楽しみは今狭い馬車の中で、女性2人と同じ空気が吸えるぐらいだ。それも男2人と1匹がいるせいでプラマイゼロになっているが。

 

 俺がくだらないことを考えている間に集合場所に到着した。『青い天馬』のマスターの別荘らしいこの建物は、ギルドのイメージ通りというか、落ち着かない雰囲気だ。

 

「『妖精の尻尾』の皆さん、お待ちしておりました」

 

 奥に進むと出てきたのは『青の天馬』のイケメンホスト3人衆のヒビキ・イヴ・レン。

3人はホストクラブのごとくルーシィとエルザをもてなさそうとする。ふざけているように見える3人だが、連合に参加するだけあって実力は高いはずだ。

 

「君たち、その辺にしておきたまえ」

 

 3人の濃すぎるキャラに圧倒されていると、それを上回る最強の魔導士がやって来た。

 

「会いたかったよ、マイハニー。あなたのための一夜でぇす」

 

 香り魔法を操る変態魔導士一夜である。言動や3人に慕われていることから悪い人ではないと思うのだが、いかんせんそのブサイクな顔が全てを台無しにしている。

 

「いい香りだ」

 

 訂正、悪い奴だ。ルーシィを指差していい香りだとか言いやがった。2人とも気持ち悪がっている。

 ……俺も人のことは言えないか。

 

 その後、男にはぞんざいな扱いをする『青の天馬』のメンバーに異を唱えたグレイを発端に、遅れてきた『蛇姫の鱗』のリオンとシェリーも加わって一触触発の状態になってしまう。

 

「やめい!!!!」

 

 そこへ現れたのは『蛇姫の鱗』のメンバーにして、聖十大魔道の1人である『岩鉄』のジュラ。彼の一喝で危うく衝突しかけた空気を収める。

 

「聖十大魔道がいるのは心強いな」

 

「マーン殿も噂は耳にしている。今回はよろしく頼む」

 

「出来ればマーンじゃなくてKと呼んでくれ」

 

 ジュラと軽く挨拶を済ませ、残りの『化猫の宿』の魔道士を待つ。

 

 『化猫の宿』といえばマジロリ魔導士の彼女。

 

「『化猫の宿』から来ました、ウェンディです。よろしくお願いします!!」

 

 周りは小さい女の子が来るとは思わず、驚きの表情を浮かべる。

 

 それにしてもウェンディか。後数年経てば美人になるだろうが、今は手を出せないな。ワンチャン光源氏の真似事をするのもありかもしれない。

 

 邪な目線でウェンディを観察していると、シャルルに睨まれてしまった。目を付けられないよう自然に目線を外す。

 

「あの娘……なんという香りだ……。ただ者ではないな」

 

「気付いたか、一夜殿。あれはワシ等とは何か違う魔力だ……」

 

 一夜とジュラはウェンディが普通の魔道士ではないと気付く。エルザも気付いているみたいだが、どうやって気付いているのだろうか。

 強者の勘……それだと一夜は外れるな。

 

「さて……全員揃ったようなので、私の方から作戦の説明をしよう」

 

一夜がいよいよ本題である『六魔将軍』討伐について話し始めようとする。

 

「ーーとその前にトイレの香りを」

 

「そこには香りってつけるな……」

 

「俺もお花を摘みに行ってくるわ」

 

「Kは女子みたいな言い方をするなよ!」

 

 説明の前に一夜がトイレに行ったので、俺も便乗してトイレに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり失念していた。

 

 トイレに行った俺は一夜と一緒にエンジェルの襲撃を受けてしまった。しかもエンジェルに連れ去られるオプション付きだ。

 

「久しぶりだな、マーン・K・グロニクル」

 

「ああ、こんなに嬉しくない再会はないな」

 

 ブレインがレーサーにジェラールを運んでくるのを告げた後、俺は奴と言葉を交わす。

 

「K!?そいつと知り合いなの!?」

 

「……クソみたいな縁でな」

 

「そう言うな。私はうぬを買っているのだぞ」

 

 捕まったことで余裕のない俺に対し、ブレインは語りかける。

 

「あの時から短い間にS級魔道士となり、付いた呼び名は『異端者』。私の見立て通りだ」

 

「はいはい、どーも」

 

「再び問おう。マーン・K・グロニクルよ、我々のもとへ来い」

 

「断る」

 

「そう意固地になるな。うぬなら知っているだろう?ニルヴァーナのことを」

 

 以前にゼロのことに触れたせいで、情報通みたいに思われてないか?

 

 ニルヴァーナは光と闇を入れ替える魔法。ブレインは暗に無理やりこちら側に引き込むことが出来ると言っているのだろう。

 そんな欠陥魔法で脅されたところで屈しはしない。

 

「ブレイン、本当にこいつを『六魔将軍』に入れるのか?」

 

 俺がどこ吹く風の中、『六魔将軍』の1人であるコブラは疑問の声をあげる。

 

「何か不満か?コブラよ」

 

「はっきり言ってかなり信用出来ないぞ」

 

「ほう、どういうことだ?」

 

「心の声が聴こえねえんだよ」

 

 コブラのこの発言に他の『六魔将軍』のメンバーも騒ぎ始める。

 

 俺も初耳なんだが。

 

「まるでノイズがかかったかのように聴こえるんだ。こんなの始めてだぜ」

 

「なるほど、コブラの対策はバッチリというわけか」

 

 そんな対策は一切してない。

 

 しかし聴かれたらマズい情報は色々持っているので結果としてありがたいな。

 

「ますますうぬが欲しくなった。幸いまだ十分時間はある。ゆっくり考え直してくれたまえ」

 

 ブレインの方が考え直してくれないかと思いながら、ただただ時間は過ぎていった。その間ウェンディがジェラールを治療したり、そのウェンディをナツが連れ戻したり、目覚めたジェラールがどっか行ったりと目まぐるしくイベントは起きた。

 

 そして事件はジェラールがニルヴァーナを起動した時に起きた。

 

「……なんでさ」

 

 残っていたミッドナイトは連合のメンバーを狩りに行き、ブレインもニルヴァーナのところへと向かった。

 

 俺を置いてな!!!!

 

 ラッキーなことに拘束は魔法の発動を封じる手錠だけなので逃げることは簡単だ。

 

 だが俺は自身の扱いの雑さに少し怒っている。

 

 

「あんなに熱心に誘っておいて放置プレイはないだろ。それだけニルヴァーナに執着してるのかもしれんが」

 

 文句を垂れながら俺は洞窟を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に迷子になってしまった件について。

 

 ニルヴァーナの方に行くのはマズいので、他の仲間を探しているが、全然見つからない。

 

 手錠により敵に見つかれば100%勝ち目がない状況。焦りと恐怖の気持ちが蔓延する。

 

「どこだ、どこだ……どこにいるんだ!」

 

 冷静さを失い闇雲に歩き回るも、周りは木ばかり。

 

 ニルヴァーナのところに行ってエルザと合流する方が安パイだったか。

 

 後悔の念に駆られて移動していると、川が見えた。変わり映えのない景色に苛立ちを隠せなかった俺は安堵する。

 

「とは言っても人がいないのがなあ……あれは!!」

 

 俺は川のほとりで気を失ったヒビキと氷漬けのハッピー、水に浮かんでいるエンジェルを見つけた。

 そういえばルーシィと水辺で戦っていたことを思い出し、状況から戦闘が終わった後だと判断した。

 手錠によって自由が利かないのを押して、俺は川に入り彼女を救出する。

 

 もちろん、善意ではない。

 

 ヒビキとハッピーが起きると厄介なので2人に気付かれないような場所までエンジェルを引きづって移動した。

 

「うおおおおおおお!!ヤるぞヤるぞヤるぞ!!」

 

 エンジェルは意識がなく、目覚めたとしても戦闘によって抵抗しづらくなっている。今がチャンスだ。

 

「まずはハレンチおっぱいをオープン!」

 

 俺はエンジェルの痴女服をガバッと開く。

 

 そこにはかつて見た白く健康的な双丘があった。双丘の頂上の突起も健在である。

 

「もう辛抱たまらん」

 

 勢いよくエンジェルの双丘を鷲掴んだ。その柔らかさを確かめるようにじっくりと指を埋めながら揉んでいく。

 

「は……あっ」

 

 感じているのか、エンジェルの喘ぎ声が漏れ出す。

 

「ふむふむ、いいおっぱいだ」

 

 俺は双丘を揉みつつ、突起を弄り始める。指で潰し、時折転がしながら刺激を与えていく。

 

「んっ……んっ……あんっ!」

 

「ふっ、もうすっかりコリコリじゃないか」

 

 エンジェルの喘ぎ声が激しくなるも俺の手は止まらない。むしろその悦びの声が行為に拍車をかけていく。

 

 俺は出来上がった突起に向かって舌を伸ばした。ねっとりと突起を舐め、感触を味わう。

 

「ふああっ……」

 

 とても意識を失っているとは思えないくらいエンジェルは感じている。

 

 ここで俺はあることを思いつき、エンジェルの双丘をくっつけるように持ち上げた。

 

 そして双丘の両端へと俺は吸いついた。

 

「んんんっ!!」

 

ちゅーちゅーと無我夢中で吸い上げる。

今日一番の刺激に喘ぎ声は一段と激しさを増す。

 

「ちゅるるるる……ぢゅぱっ」

 

 吸い終わった突起を見れば、ぴくぴくと吸う前よりどうしようもなく大きくなっていた。しばらく収まりそうもない。

 

 俺は大きめの望遠鏡を取り出した。望遠鏡は今か今かと、天体観測を待ち望んでいる。

 その気持ちに応えるように2つの木星の間に望遠鏡をセットした。木星に包まれた望遠鏡は地震に耐えながら観測を始める。

 

「これは……なんて重力なんだ!!」

 

 しかし激しい揺れによって限界が訪れた。望遠鏡はハジけてビッグバンを起こし、そこには天の川がかかった。

 

 宇宙の神秘を目の当たりにした俺は、さらにその先を見たいと思った。

 

 残るは未知のブラックホール。

 

 この謎を解き明かそうとした時、俺の顎に強烈な蹴りが飛んできた。

 

 恐る恐る確認すると、エンジェルが怒髪天を衝く形相になっている。

 

「おい、変態ヘタレ。私が気を失っている間に何をしていた?」

 

 エンジェルはハンカチで顔を拭きながら、怒気がこもった声で俺に問いかけてくる。気を失っている間に何をされていたのか悟っているのだろう。

 

「宇宙への好奇心を満たしていた」

 

「ぶち殺してやるゾ!!」

 

 エンジェルは怒りに身を任せ、俺に殴りかかってきた。

 

 しかしルーシィとの戦闘のダメージが残っているのか、その動きは鈍い。いくら俺が魔法は使えないとはいえ、身体能力ではこちらの方が上だ。

 彼女の拳は空を切る。

 

「避けずにおとなしく当たるんだゾ!!」

 

「当たるのはおっぱいだけで十分だ!!」

 

 両者一歩も譲らずに睨み合っていた時、人が迫っている気配を感じた。

 

「……君たちは何をやってるんだ?」

 

 現れたのは川でぐったりしていたヒビキだ。俺たちが騒いでいたのを聞きつけたのだろう。

 これはマズいことになった。

 

 このまま俺の悪行がバレてしまったら一巻の終わりだ。

 

「実はエンジェルは俺の元カノなんだ」

 

「なんだって!?」

 

「はあ!?」

 

 俺の偽りのカミングアウトに2人とも驚愕の声をあげる。

 

「それで俺なりにけじめをつけようとしてたんだ。お前も色々思うことはあるかもしれないが、ここは任せてくれないか?」

 

 とりあえずヒビキをここから離れさせようと話を誘導する。エンジェルも俺の意図に気付き、余計な事は言わなかった。

 ヒビキの恨みを買っているため、下手なことは出来ないというのもある。

 

 ヒビキはしばらく押し黙った後に了承してくれた。ニルヴァーナが完全に起動したこともあって、そちらを優先したようだ。

 

 ヒビキが離れてから俺たちは会話を再開する。

 

「危ねえ。社会的に死んだかと思った」

 

「早く死ねばいいと思うゾ」

 

 先ほどまでいがみ合っていたものの、ヒビキの乱入によって俺たちはすっかり毒気を抜かれていた。

 

「まあどのみちニルヴァーナによってお前たちは終わりだゾ」

 

「それがそうでもないんだよなあ」

 

 俺はニルヴァーナの欠陥についてエンジェルに話した。エンジェルはそれを聞いてがっくりと肩を落とす。

 

「私たちがやったことが無駄だったとは……悔しいゾ」

 

「そんな都合がいい魔法が封印されている時点で裏があると思うべきだろ」

 

「……お前は一体何なんだ?」

 

「なんだって言われても」

 

「私たちが知らないことを知ってたり、私のことを庇ったりしてよくわからないゾ」

 

 それは原作知識と自分の都合のためである。エンジェルを売るより共謀する方が丸いと思ったからとは言えない。

 

「俺はちょっぴり物知りで、かわいい女の子がほっとけないただの魔導士だよ」

 

「胡散臭いゾ」

 

 ジト目で俺のことを疑うエンジェル。ちょっとゾクゾクしてきたのは内緒だ。

 

 おもむろにエンジェルは彫刻具座の鍵を使い、カエルムを呼び出す。

 

「げ、まだやろうっていうのか」

 

 魔法が使える余力があることに俺は焦りを覚える。

 

「違うゾ。私ばかり好き勝手やられたのが癪だったから今度は私の番だゾ」

 

 カエルムを構えながら迫るエンジェルに対し、距離を取ろうとするもレーザーで動きを牽制される。

 

「撃たれたくなかったらおとなしくするんだゾ」

 

「一体どうしようっていうんだ?」

 

「お前の精根が尽き果てるまで搾りとる」

 

「え、何言って……やめろ……アッーーー!!」

 

 俺の抵抗虚しく、エンジェルが満足するまで一方的に責められたのだった。



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猫耳はいいぞ

 俺がエンジェルに搾取されている間にニルヴァーナは破壊された。

 

 それは構わないのだが、強行検束部隊に事後を見られたのは気まずかった。堅物っぽいラハールがなんとも言えない顔していて申し訳ない。

 

 とにかく発端は俺だったものの、現場を見る限り俺が完全に被害者だったため追及されることはなかった。今回はつい突発的に行動したので要反省である。

 

「K随分静かね。どうかしたの?」

 

「俺は元々騒ぐタイプじゃないよ。まあなんていうか、無事帰ってこれたから一息つきたくてな」

 

「さすがのKでも今回は骨が折れたようね。でもKを含めてみんなが帰ってきて安心してるわ」

 

 俺たちの帰還とウェンディとシャルルの加入で沸くギルドは今の俺には少し落ち着かない。

 しかしこの喧騒やミラの労いの言葉が俺を癒していることも事実である。例えばナツがテンションが上がる余りルーシィの服を燃やしたりとか眼福だ。

 

「K?どこをじろじろ見てるのかな〜?」

 

「いたたっ!手の骨が砕ける!」

 

 あられもない姿になったルーシィを見ていたらミラに手を捻られてしまった。女性とは思えない握力に俺はたまらず許しを乞う。

 

「もうKったら意外に女の子に目がないから」

 

「ははっミラには敵わないなあ」

 

「あの、ミラジェーンさんにKさん!」

 

 俺がミラに窘められていると、ウェンディが声をかけてきた。

 

「何か用か?」

 

「2人は付き合っているんですよね!?」

 

「その通りだ。フィオーレ1のラブラブカップルとは俺たちのことさ!」

 

「あなたそんなこと言って恥ずかしくないの?」

 

 冷ややかなシャルルの反応に若干後悔したのは内緒だ。 一方質問をしてきたウェンディは目を輝かせる。

 

「よろしければ2人の馴れ初めを教えてくれませんか!」

 

「えっ」

 

「いいわよ。全部話してあげる」

 

 思わぬ質問に固まる俺。当然話したくないのだが、ミラはノリノリである。

 

 こうなっては俺では止められない。次々に話される赤裸々なエピソードに穴があったら入りたい気分だ。

 

 ミラが熱く語っていると他のギルドのメンバーも集まってきた。

 

 そして恋愛関係なしに俺関連の話を始めて収拾がつかなくなる。

 

「この前ルビナス城下町の魔法教団を討伐する依頼を一緒に受けたんだけど」

 

「あの時か。あれは引いたな……」

 

「Kさん今度は何をしたんですか……」

 

「魔法教団が潜伏している建物に来るや『この建物をさ、ナツの魔法で焼き尽くしたら一網打尽じゃね?』って言い始めて」

 

「ひいっ」

 

「俺がおかしいみたいになってるけど街を半壊させたお前らに言われたくねえよ!」

 

「いやさすがにKのがえげつないと思うぞ」

 

 止まらないとんでもエピソードにウェンディの苦笑いが続く。この長時間の恥辱はウェンディの俺への印象を確実に悪化させた。

 

 辛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、俺は猫を探すことになった。

 

 きっかけはガジルが自分以外の滅竜魔道士に相棒の猫がいることになぜか焦りを覚えたことから始まる。

 それからガジルは血眼になってハッピーやシャルルのような猫を探し始めた。

 

 しかしそう簡単に見つかるはずもなく、見かねたジュビアが手伝うことになり、そこに俺も巻き込まれたのだった。あの時グレイに弁当を渡すことを手伝った縁で、ジュビアとは交流ができていたのである。

 

 面倒ではあるものの、ジュビアと2人での探索に、俺はテンションが上がっている。グレイに釘付けでこんな機会は滅多にないからな。

 

「あの、Kさん……この格好は本当に効果があるのでしょうか?」

 

 セクシーな猫のコスプレに扮したジュビアが問いかけてきた。彼女には俺が用意した衣装を着てもらっている。

 黒猫を模したほぼ下着のような格好をしたジュビアは実に扇情的だ。猫をおびき寄せるためという理由で着てもらったが、もちろんデマカセである。

 

「ばっちりだ。グレイも『ジュビアに似合いそうだ』って言ってたぜ」

 

「グレイ様が!?」

 

 グレイの名前を出した途端、ジュビアの目の色が変わった。これも嘘なので多少の罪悪感に苛まれる。

 

「ところでKさんの格好は……」

 

「『ハッピー人型モード』だ。ジュビアが猫に扮するなら俺も何かやらないといけないと思ってな」

 

 俺は猫耳付き全身青タイツの姿をジュビアに見せつける。この世界ではだいぶ鍛えているから見苦しいものではないはずだ。

 

「そ、そうですね、いいと思いますよ」

 

 渾身の俺のコスプレに対して若干引き気味のジュビア。せっかくジュビアだけそんな格好だったら恥ずかしいだろうと用意したのにひどい。

 こうなったらその恥ずかしい姿を余すことなく視姦してやる。正直なところガジルが求める猫もとい、エクシードは見つけること自体難しいと思っているからね。

 

 そんな下衆なことを思いながらも猫探しはスタートした。俺たちは野良猫がうろつく路地裏を中心に捜索する。

 ジュビアは猫じゃらしを振りながら猫を誘いだしている。

 

 俺はジュビアが猫に気を取られている中、ジュビアの尻をガン見していた。ショーパンからはみ出る尻肉がたまらない。今すぐにジュビアの尻を鷲掴みにしたい衝動に駆られる。

 

「普通の野良猫はいますが、ガジルくんが探しているような猫はいないですね」

 

 すっかり尻を見ることに夢中になっていた俺は、ハッと我に返る。ジュビアの言う通り野良猫はそこそこいるが、お目当てのエクシードは見当たらない。

 

「卵から孵るようなよくわからない種みたいだし、簡単には見つからないかなあ」

 

「哺乳類じゃないんですか!?」

 

 哺乳類でも卵から孵る奴はいるが、この場合はどうなのだろう。そもそも一般的なカテゴリーで別けることは出来るのか?

 

 しばらく俺たちはこの疑問に頭を使うも、明確な答えは出なかった。

 

 まあ見た目猫だから哺乳類で良くね?という、投げやりな結論に留めておく。

 

「Kさんはギルドのメンバーのことについて、きちんと把握してますね。ジュビアも、特にグレイ様とはもっと交流を深めないと!」

 

 俺はジュビアが思ってるより『妖精の尻尾』の仲間と交流を深めてはいない。大所帯のギルドだけあって人数が多いため、未だに顔と名前が怪しい奴がいるレベルだ。

 加入したのも2年前と最近の部類で、自分は新参者なのだと感じることは多々ある。

 

「その愛しのグレイとはどこまでいったんだ?」

 

「どこまでって……それは、その」

 

 恋の進行状況を聞かれたジュビアは言葉に詰まる。どうやら劇的な進行はないようだ。

 全くグレイもこんなかわいい娘に言い寄られて、やーんな関係にならないとは罪作りな男である。鈍感ではないと思うのだが、気恥ずかしいこともあるのだろう。

 ……俺も恋愛に関しては人のことはあまり言えないが。

 

「あの、参考までにKさんはミラさんのどんなところに惹かれたか聞いてもいいですか?」

 

「ふへっ?」

 

 ずいぶんと答えるのが恥ずかしい質問が来てしまった。

 

 これミラ本人にしゃべったりしないよな?

 

 

「そうだな……色々あるけど1つあげるなら一途なところかな」

 

「一途なところ、ですか」

 

「俺はみんなが思ってるほど人間出来てなくてね。ミラには結構みっともない部分を晒してるよ。それでもミラは俺のことを好きだと言ってくれた」

 

 全部を見せてないとはいえ、こんな最低下衆魔導士の俺を愛してくれている。

 

 それがたまらなく愛おしいのだ。

 

「ジュビアも今抱いている気持ちを大事にしていれば、グレイもきっとそれに応えてくれるさ」

 

 自分でも似合わないと思うセリフを言ってしまった。裏でやらかしてる俺が言うようなことではないぞ。

 

 俺の複雑な気持ちとは裏腹に、ジュビアは感銘を受けたようだった。ジュビアを勇気づけられたならそれはそれでいいか。

 

 さてジュビアへの恋のアドバイスは終えたが、肝心のエクシードはまだ見つかっていない。

 

 捜索は難航している。

 

「こうなったら秘密兵器を出すしかないようだな」

 

 俺は持ってきていた袋の中から魚と七輪を取り出した。

 

 行き詰まることを予期していた俺は、ハッピーから好みの魚を聞き出し、準備していたのだ。

 

 これで必ずエクシードが見つかるわけではないが、ないよりマシだろう。

 

 七輪で魚を焼き始めたことにより、魚の香ばしい匂いが辺りに漂い始める。その匂いに釣られて多くの野良猫が姿を現わしてきた。

 

「……やけに多くないか?」

 

「多いなんてもんじゃないですよ」

 

 気付けば大量の猫に俺たちは包囲されていた。集まった猫たちは皆、七輪の焼き魚を虎視眈々と狙っている。

 

「ニャー!!」

 

 一匹の猫を皮切りに、猫たちが一斉に飛びかかってきた。凄まじい争奪戦の中、揉みくちゃにされる俺とジュビア。

 猫たちは目的を果たすと、嵐のように立ち去っていった。

 

「もがもが」

 

 さらにハプニングは続く。なんと猫たちによって体勢を崩されたことで、俺の顔がジュビアの尻の下敷きになってしまった。

 彼女の大きくて柔らかな尻肉が俺の顔に直撃していきているのだ。何もないまま終わるだろうと思っていたのに、神は俺に至福の瞬間を授けてくれた。

 この柔肉の感触を俺の顔に焼き付けるぞ!

 

「ん?なんだこれは」

 

「あんっ」

 

 ついでにボケたふりしてジュビアの尻を揉みしだく。手触りも中々のものですなあ。

 

「きゃーーー!!!!」

 

 しかしささやかな幸福の時間は一瞬にして終わりを告げる。自らの状況に気付いたジュビアは、俺に魔法の水流をぶち込んだのだ。

 当然避けれるはずもなく、俺は空高く吹き飛ばされる。

 

 そして落下していく最中、誰かの頭にぶつかって気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は頭の痛みとともに目を覚ました。勢いよくぶつけたせいか、痛みはしばらく収まりそうにない。

 それより問題なのは俺がぶつかってしまった人物だ。

 

「てめえこれはどういうことだ?」

 

 怒り心頭のガジルくんである。長く捜索していたのか疲れも見える。

 

 このままでは溜まったフラストレーションごとぶっぱされそうだ。どう言い訳したものだろうか。

 

「やっと見つけました!Kさん無事でしたか……」

 

 ここでタイミングよくガジルをなだめてくれそうなジュビアがやって来た。

 

 しかし俺たちの姿を確認した途端固まってしまう。

 

「二人がそんな関係だったなんて、ジュビア困惑!」

 

「「はあ!?」」

 

 俺たちの体勢を確認しよう。

 

 ちょうど起き上がったばかりでガジルに覆い被さっている俺。

 

 見つめ合う二人。

 

「誤解だあああああああ!!」

 

 俺はガジルから飛び退いて弁明を始める。ガジルもことの重大さに気付いて弁明に加わる。

 

「二人して必死になって否定するなんて……ますます怪しい」

 

「どうしろって言うんだよ!!」

 

 なぜかジュビアに変なスイッチが入っている。ここは冷静に説明して誤解を解かねばならない。

 

「まあ落ち着けジュビア。ガジルはともかく彼女がいる俺がそういう趣向を持っているわけないだろ?」

 

「あっ!お前一人だけ免れようとするんじゃねえ!!」

 

 これが彼女持ちのアドバンテージだよ、ガジル。

 

 だが俺の言葉を受けてジュビアはますます驚愕の表情を浮かべた。

 

「まさか両方OK!?」

 

「なんでそうなるのかなあ!?」

 

 結果、なんとかして誤解を解いたものの、この件はジュビアに新しい世界を開拓させることになった。

 後にジュビアがリーダスに俺とガジルの絵をせがむ姿を見て俺は頭を抱えることになる。



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