聖姫絶唱セイントシンフォギア (BREAKERZ)
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無印編
黄金の伝説


気分転換に作りました。


それは遥か彼方の神話の時代から続く戦い、この戦いもその一つ・・・・・・

 

 

空に時計が浮かび、三日月の中に大陸があり、暗雲が空を覆い隠し、地上には戦士達が倒れ正に地獄絵図がそこにあった。

 

 

黄金の鎧を身に纏う二人の青年の前にその者はいた。黒曜石のように輝く鎧を纏い六枚の漆黒の翼を広げその手に剣を握るその者の名は・・・・・・

 

 

“冥界の神ハーデス”

 

 

「これで長い間戦女神<アテナ>と争ったこの地上を余のものとなるまずは地上にはびこる全ての汚れた人間どもを一掃し暗黒のエリシオンとする全ての人間どもは余の治める冥界で永劫に苦しむのだ!!!」

 

 

そうはさせまいと敢然と立ち向かう二人の戦士達だが相手は“神”、人間の敵う相手ではなく二人の戦士達は追い詰められていく。だが一人の戦士が最後の策を出す。

 

 

「ハーデス・・・・・・お前は太陽の光を最も忌み嫌っていると聞く・・・浴びてみるか?黄道十二宮の光・・・太陽の光をな!!!」

 

 

そして戦士が呼び寄せたのは黄道12星座の鎧、遥か神話の時代から太陽の光をふんだんに浴びてきた鎧には膨大な歴史・光・エネルギーが蓄積されていた。

 

 

「受けろハーデス!!!黄金の光を!!!」

 

 

だが、それでもハーデスの魂が宿った少年の肉体の薄皮一枚を焼くのが精々だった。そしてハーデスの闇が二人を飲み込もうとしたその時、光が溢れ奇跡が起きた。

 

 

「いいや この光は閉じさせん‼」

 

 

そこには既にその命を散らせた盟友達が鎧を纏って現れた!

 

 

雄々しい“金牛”が!

 

 

「そうだ次代のために」

 

 

気高き“双魚”が!

 

 

「誇りのため」

 

 

神に近い“乙女”が!

 

 

「理のため」

 

 

荒々しい“巨蟹”が!

 

 

「生のため」

 

 

熱き“天蠍”が!

 

 

「熱のため」

 

 

聖剣を宿す“魔羯”が!

 

 

「大義のため」

 

 

叡智の“宝瓶”が!

 

 

「夢のため」

 

 

自由の“若獅子”が!

 

 

「可能性のため」

 

 

光と闇を抱く“双子”が!

 

 

「己のために」

 

 

仁・智・勇を兼ね備えた“人馬”が!

 

 

「天馬星座<ペガサス>の切り開いた道とお前たちの作る大いなる未来のために!!」

 

 

猛々しい“天秤”と凛々しき“白羊”と共に戦うために彼等は来た!

 

 

「・・・お前たち・・・死してなお魂となってここへ・・・!?」

 

 

「「盟友よ!!!」」

 

 

ハーデスが。

 

 

「なん・・・だと・・・?死人が余の目の前で蘇るなどありえぬ・・・!!」

 

 

“神“が戦慄する。

 

 

「しかもこの光・・・先程より数段熱いとは・・・!!」

 

 

“人馬”は言う。

 

 

「そうだ我々もまた天馬星座<ペガサス>や同胞らの声に呼ばれてここへ来た!!!お前という闇に一筋 光明を刺すために!!!未来へとな!!!」

 

 

黄金の十二人の光が“神”を呑み込んだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、戦士達は光の中に消えた、“この世界から”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪~♪~♪」

 

 

 

 

歌が聞こえた・・・その少年の耳に歌が聞こえたのだ。

 

 

「・・・ん・・・あぁ・・・!!ここは?俺は確か“ラダマンティス”と戦って・・・なんだこれ?」

 

 

少年は上半身が裸でズボンを穿いた状態だった。少年は辺りを見回すと夕暮れ時少年は近くにあった“レリーフ”を持って辺りを見回すとそこには見たこともない“摩天楼”が幾つもあった!

 

 

「なんだよこれ・・・ここは・・・ここは一体何処なんだーーーーー!!!」

 

 

 

少年は“レリーフ”を持ちながら叫ぶ、“獅子座”が描かれた“レリーフ”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

ビービービー

 

 

端末から音が鳴り響くとその青年は瞑想から目を開ける。年の頃は18~20位の青年だ。黒髪を逆立たさ鋭い目を開け端末から連絡を受ける。

 

 

「俺だ、・・・“ノイズ”が?分かったすぐに向かう、”翼”とは現地で・・・了解」

 

 

ピッと端末からの連絡を切ると青年は懐から写真を出す、赤い長髪の少女と蒼い長髪をサイドテールにした少女と茶髪の髪をした男性と自分が写る写真を見て青年は呟く。

 

 

「行ってくるぞ、“シジフォス” “奏”」

 

 

“山羊座”が描かれた“レリーフ”を持って青年は戦いの場へ向かう。

 

 

ー某所ー

 

 

その青年は紛争地帯で夜空を眺めて呟く。

 

 

「星が動いた、日本か・・・、君はそこにいるのか“クリス”?」

 

 

緑の髪を腰まで伸ばし、18~19才位の青年は民間人を攻撃しようとしたゲリラを“氷漬け”にし、“水瓶座”が描かれた“レリーフ”を持って日本に向かう。

 

 

 

“絶唱”の戦姫達と“最強の黄金”の闘士達が今、新たな伝説を生み出す!

 

 

 

 

 

 

ー聖姫絶唱セイントシンフォギアー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




気まぐれ投稿なので続くかどうかは作者にもわかりません。


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覚醒の響き 目覚める獅子

「何処なんだーーーーー!!!・・・・・・っと叫んでたって仕方ないし、とりあえず聖域<サンクチュアリ>に戻らなくっちゃな」

 

おもいっきり叫んで落ち着いたのか少年はレリーフを持って歩いていった。

 

「それにしても凄いなー、こんなに大きい建物見たことないや。ここは一体何処の国だろ?」

 

他人が聞けば「何言ってんだコイツ?」と思われるが仕方がない、何故なら少年の“時間”はこの時代の人間よりもおよそ250年以上も過去の時間なのだ。

 

「・・・おかしいな?」

 

少年は“違和感”を感じていた。これ程大きな建物があるのに人の気配が殆ど感じないのだ。それに所々にある“灰の塊のような物”と自分の周りに感じる“妙な気配”を少年は感じていた。そこに一陣の風が吹いた。

 

「・・・・・・嫌な風だ。死と恐怖が混じった風、こんな風が吹くときはなにか嫌な事が起きる・・・・・・出てきなよ!追ってきているのは分かっているんだからさ!」

 

少年は自分の周りある“気配”に呼び掛ける。すると建物の影から“異形の者”が現れた、オレンジ色の虫と青色の人間のような姿をした者達だ。“異形の者達”から“命の気配”を感じなかった。

 

「お前ら何、何で俺を追い回すの?それにこの“灰の塊”はなんだ?」

 

少年の質問に答えようとせず、“異形の者達”は襲いかかってきた!

 

「うわっと!?いきなり何をするんだ!」

 

少年の言葉が聞こえないのか聞こうとしないのか解らなかったが少年に向かって“異形”は次々と襲いかかってきたが少年は余裕で交わしながら逃げた。

 

「(う~ん参ったな~。聖衣<クロス>もないし、コイツら数が多すぎるし、いっそ殴り飛ばそうかなと思うけどなんかコイツらに触っちゃいけないって感じがするんだよな~)ん?人の気配?」

 

突然少年は人の気配がする方へ走っていくと道で倒れている自分と同い年の少女と幼い少女がいた。

 

「あ!こりゃ大変だ」

 

少年は少女達に駆け寄る。

 

「おい、大丈夫?怪我はない?」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、あ、大丈ぶッ!?う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!ききき君何で裸なのーーーーー!!!???」

 

息切れしていた少女は少年の姿に仰天し尻餅をつき顔を赤くして両手で顔をおおったが指先を少し開いて少年の姿をチラっチラっと見ていた。

 

「ん?裸?失礼だな、上の服は着てないけどちゃんとズボンは履いてるぞ」

 

「いやいやいやいやいやちゃんと上の服も着ようよ!そんな格好で歩いていたら変態さんと思われちゃうよ!」

 

「うわー、お兄ちゃんムキムキ。パパよりムキムキかも」

 

女の子の方は少年の上半身の逞しい体つきに見惚れていた。無駄な脂肪も無駄な筋肉も全くなく洗練され引き締まった逞しい身体は無垢な子供には父親と比較され、少女のような思春期と書いてお年頃の女の子には目の保養にも毒にもなる身体だった。

 

「う~ん、とりあえずお互い自己紹介しよっか?」

 

「あ、あぁ、そそうだね!わ私は響、立花 響」

 

茶髪の髪を肩口まで伸ばし、快活な雰囲気漂う少女の名を聞くと少年は一つの疑問を聞く。

 

「響か、なぁ響聞きたいんだけどさ、ここってどこ?イタリアじゃないの?」

 

「え?イタリア?ここは日本だよ」

 

「え?日本?日本って中国の更に東にある島国だよな?変だな日本は確か鎖国していて他の国との交友をしていないって聞いたけど?」

 

「(鎖国ってなんだっけ?・・・・・・あぁ思い出した)鎖国って国を封鎖することだよね、でもそれってもう百年以上も前にとかれたはずだよ」

 

「え?それって「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」!?」

 

女の子の指差した方角から“異形の者達”が現れ、少年はレリーフを女の子に持たせ響と女の子を担いで走った。そのスピードはバイク以上だった。

 

「うわーーーーー!なにこれーーーーー!(って言うか私今裸の男の子に担がれてますけど!!)」

 

「うわーー!お兄ちゃんスッゴーーーイ!」

 

「あんまり喋らないで!舌噛むぞ!」

 

少年は闇雲に走り工業地帯まで逃げ、ビルの屋上にたどり着いた。

 

「ハァ、ハァ、まさかビルの壁を蹴り跳びながら屋上に着くなんてデタラメすぎ」

 

「お兄ちゃん、凄いね、ハァ、ハァ、ハァ」

 

「う~ん。なぁ響、アイツら一体何なんだ?」

 

「え?君“ノイズ”を知らないの?」

 

響から聞いたノイズと呼ばれる異形は兵器では歯が立たずしかもノイズに触れられると黒住の灰化してしまうと聞いた。

 

「・・・・・・響達と出会うまで黒住の灰は所々にあった。あれはノイズに殺された人達か」

 

声は静かだがどこか憤りを宿した声に響達はゾッとした。

 

「死んじゃうの?」

 

恐怖に震えたような声で女の子が言うが響は優しく微笑み首を横にふったが、振り向くとそこには、大量のノイズがいた。お互い抱き合う二人の少女と二人を守るようにノイズの前に立つ少年。

 

「こりゃぁちょっと不味いかも」

 

弱気を口にする少年。だが響は。

 

「(私に出来ること)」

 

自身を奮い立たせる

 

「(出来ることがきっとあるはずだ!)」

 

そして叫ぶ!

 

「生きるのを諦めないで!」

 

そして唄う!

 

「♪~♪~♪」

 

すると響の胸からオレンジ色の光が!

 

「響!」

 

光は天高く伸びた!

 

ー???ー

 

何処かの施設で大人達がノイズの反応を追っているとノイズと一緒に別の反応が現れた。

 

「まさかこれって!?」

 

「ガングニールだと!?」

 

「!?」

 

 

ービル屋上ー

 

光が強くなり、球体となって服がなくなった響を包み込む。

 

「(!?なんだ?響の中から何かが生まれようとしている?)響!しっかりしろ!」

 

何かが響の中で起こっていることを直感した少年は響を見る。

 

光が収まると四つん這いになった響の背中から巨大な機械が伸びてきたがすぐに響の中に戻ると響の姿が変わっていた!

 

「(なんだあれ?まるで聖衣<クロス>みたいだ!)」

 

機械でできた鎧を纏っていた響がそこにいた。

 

「響、どうしたんだ?その姿?」

 

「え?何で?私、どうなっちゃってんの?」

 

「お姉ちゃん、カッコいい!」

 

 

少女を見たあと響は決意を持った瞳をし少女を抱き抱えノイズから逃げる。ビルから飛び降りると。

 

「あの人は?」

 

ビルの方を見るとノイズ達が襲いかかってきた。

 

唄いながら逃げる響をノイズの攻撃をかわしながら見ていた少年は思う。

 

「生きるのを諦めるなっか・・・、そうだよな諦めちゃダメだよな。聖衣<クロス>がなくても俺には拳がある!足がある!そして何より小宇宙<コスモ>がある!この命ある限り諦めちゃいけないんだ!」

 

少年は決意を燃やす、心を燃やす、命を燃やす、己の中の宇宙 小宇宙<コスモ>を燃やす!

 

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!燃え上がれ!俺の小宇宙<コスモ>!!!!」

 

少女の手にあったレリーフが光輝く!

 

「お姉ちゃん!お兄ちゃんのレリーフが!!」

 

「え?何?」

 

レリーフは少女の手を離れ主の元へ行く。

 

レリーフは少年の前に来るとその姿を変えるレリーフから獅子座が描かれた黄金の匣へと。

 

「そうか、そこにあったのか、俺と一緒に戦ってくれるか?」

 

匣は少年の問いに答えるように輝き匣を開けるとそこには少年にとって見慣れた物があった!

 

獅子を形をした黄金に輝くオブジェを!

 

「フッ!よし行くぞ!獅子座<レオ>!!!!」

 

少年が叫ぶとオブジェは独りでにバラバラになり少年の足に太腿に腰に腕に肩に胸にそして鬣のようなヘッドギアを少年の頭に装備し純白のマントを翻し、響達の元に降り立った!

 

「あれって・・・」

 

「お兄ちゃん綺麗・・・」

 

二人は太陽のように輝く黄金の背中を目に焼き付けた!

 

「自己紹介がまだだったな響、俺の名はレグルス!」

 

その少年はこの世に邪悪が蔓延るとき必ずや現れる希望の闘士、星座の鎧 聖衣<クロス>を身に纏い己の内なる力 小宇宙<コスモ>を爆発させて戦う戦士、その拳は天を裂き、その蹴りは大地を砕く!

 

「黄金聖闘士<ゴールドセイント> 獅子座<レオ>のレグルスだ!!!」

 

彼こそ地上の愛と平和と正義を守りし者、戦女神<アテナ>の聖闘士!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

その施設では一人の青年の通信で騒然となっていた。

 

「本当か!?“エルシド”!!」

 

赤い髪を逆立たせた逞しい体つきの男性は通信を送ってきた青年に聞く。

 

「あぁ間違いない、俺の聖衣<クロス>が共鳴を起こした。何よりもこの小宇宙<コスモ>間違いない、黄金聖闘士が現れた。獅子座<レオ>の黄金聖闘士にして“シジフォス”の甥 レグルスだ!」

 

「新しい黄金聖闘士?」

 

「しかも“シジフォス”の!?」

 

たちまち騒然となる人達の中で男性は思う。

 

「(“奏”のガングニールが現れ、“シジフォス”の甥の黄金聖闘士が現れた。これは偶然か?それとも・・・)お前が導いたのか?“シジフォス”・・・・・・」

 

そして通信越しで聞いていた蒼い髪の少女も思う。

 

「(“奏”のガングニールと“三人目の黄金聖闘士”?確かめなければ“奏”のガングニールに相応しいか、“シジフォス”の後を継ぐに相応しいか私が確める!)」

 

少女は決意を新たに戦場へとバイクを走らせる。

 

邂逅の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何故だ?リリカルの方は纏まらないのにシンフォギアの方はアイディアが浮かぶのは何故だ!?


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再会の聖剣

『太陽が現れた』

 

立花響はそう感じた。時間はもう黄昏時、太陽は海の向こうへ沈み夜の闇が広がる世界で自身の目の前に太陽が現れたのだ。いや正確には太陽ではない、太陽のように輝く黄金の背中だ。

 

「俺はレグルス、黄金聖闘士<ゴールドセイント> 獅子座<レオ>のレグルスだ!」

 

先程自分達と一緒にいた少年が突然黄金の鎧を纏って現れた。

 

「黄金聖闘士<ゴールドセイント>?」

 

「お兄ちゃん、キレイ」

 

一緒にいた少女もその姿に見惚れていた。

 

そんな自分達を余所にノイズ達が襲い掛かってきた!だがノイズは響と少女よりもレグルスに向かっていった。ノイズに思考能力があるか分からないがノイズは感じたのかもしれない。“この少年は危険!”と。

 

「危ない!レグルス君!」

 

叫ぶ響だがレグルスはまったく慌てた様子がなく、むしろこの状況を楽しむように“笑った”。

 

「大丈夫だよ響、すぐ終わらせるから」

 

レグルスは構えた。そして響は“感じた”いや“視えた”と言って良い。レグルスを中心に“宇宙”が広がっていくのを!

 

(何これ?“星”?“宇宙”?いやもうこれって“銀河”!?)

 

「さぁ見せてやる、聖闘士<セイント>の戦いを!」

 

そう言ってレグルスは右手を突き出し、必殺の拳を放つ!

 

「闇を切り裂け!光の牙!ライトニング・プラズマ!!!」

 

響と少女の目の前で一筋の光が走った!いや光は一つではなく二つ、三つ四つ五つと次々と光が走り、自分達の視界が光に覆われた!ノイズ達は光に切り裂かれたように炭化消滅していき遂には自分達の周りを包囲していたノイズが“全滅”した。

 

「「え?ええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!??」」

 

先程までいたノイズが“一瞬で全滅”した現状に響達は驚きの声を上げた。だが一体だけ隠れていたノイズが響の後ろから襲い掛かる!

 

「!?響!」

 

「え?うわぁ!?」

 

ビュンっ!ドシュっ!

 

なんと思わず拳をノイズに突き刺したがノイズは炭化消滅した。

 

「あ?あれ?私が倒したの?」

 

「やるなぁ響」

 

響の行動を称賛するレグルス。だが再びノイズが大量に現れ、さらに自分達より数倍の巨体をした緑色の大型ノイズまで現れた。

 

「ええ!まだ来るの!?」

 

「しつこいなぁコイツら、もう一度ライトニング・プラズマで(キーン)!?」

 

キーン、キーン、キーン、キーン・・・

 

突然レグルスの纏っていた鎧から音が鳴った。

 

「どうしたの?」

 

「黄金聖衣<ゴールドクロス>が共鳴している?っ!?この“少宇宙<コスモ>”は」

 

「小宇宙<コスモ>?」

 

困惑するレグルスと首を傾げる響達だがノイズの後ろ側からバイク音が鳴り響き、ノイズ達を蹴散らしながらバイクに乗った蒼い髪をした少女が来た!

 

「誰?」

 

「あっ!」

 

少女は響達を横切りバイクから上空へ跳び、大型ノイズの足元にバイクをぶつける!空高く跳んだ少女は切りもみしながら歌を唄った、“戦いの歌”を。

 

「♪~♪~♪」

 

女の子は響達の近くに着地する。

 

「呆けない、死ぬわよ」

 

「え?」

 

「見事な着地だな~」

 

「え?そこ?レグルス君感心するトコそこ?」

 

「!?レグルス?」

 

少女は振り向きレグルスを上から下へ値踏みするように見る。

 

「(黄金の鎧 黄金聖衣<ゴールドクロス>、それになるほど“シジフォス”の甥か、“弟”と言われても納得できそうな程似ている)貴方達はここでその子<女の子>を守ってなさい、後は“私達”がやるわ」

 

「翼さん?」

 

「え響知り合い?てか“私達”?」

 

「そう“私達”、レグルス君貴方にも関係ある人よ」

 

「え?」

 

翼と呼ばれた少女はそのままノイズに向かって走る!

 

「♪~♪~♪~♪」

 

歌い始めた翼の身体は蒼色に輝いた!光が収まると響と同じだが細部が異なる蒼と白の鎧を纏いその手には刀が握られていた!刀はそのまま大剣に変わり翼が振ると蒼い斬撃を放つ!

 

『蒼ノ一閃』

 

放たれた斬撃はノイズ達を蹴散らし飛び上がった翼の周囲に蒼い剣が現れ雨のように降りノイズ達を貫く!

 

『千ノ落涙』

 

だが翼の後ろからノイズが襲い掛かる!

 

「翼さん!」

 

「まずい!」

 

助けにいこうとするレグルスだが、後ろから放たれた斬撃が翼の後ろのノイズを切り裂いた!翼は振り向きもせず言う。

 

「フッ遅いぞ!“エルシド”!」

 

「え?“エルシド”!?」

 

レグルスは驚き後ろを振り向こうとするが突然光が溢れ黄金の山羊のオブジェがそこにいた!

 

「山羊座<カプリコーン>!」

 

オブジェの後ろからレグルス達を飛び越えた黒髪を逆立たせた男を追ってオブジェはひとりでに分解しその男の身体に鎧のように装着される。空中で装着した男は着地した翼と隣り合わせになりながら並ぶ!

 

「翼、またバイクをオシャカにしたか・・・これで何台目だ?」

 

「し、仕方なかったんだ!大事の前の小事だ!」

 

「毎回報告書を書く緒川殿の苦労を少しは考えろ」

 

「うぅ、そそれよりも!エルシド彼が?」

 

「あぁレグルスだ。だが俺の知っているレグルスと“見た目が変わっていない”所を見るとアイツはまだ“こっち”に来て日が浅いんだろう」

 

「そうか、そして・・・ガングニール」

 

翼は響の方を険しい目で見る。

 

「翼、ガングニールとレグルスの事は後回しだ。今は“防人”としての使命を果たせ」

 

「・・・・・・分かっている、行くぞ!」

 

二人はノイズ達に向かう!

 

「ハアアァァァァァ!」

 

ザン!ザン!ザン!

 

「フン!」

 

ズバン!!

 

翼は速さとしなやかさを武器に舞うようにノイズを切り、エルシドは質実剛健な佇まいから手刀(!?)を繰り出しノイズを切り捨てる!その二人の姿はまさに剣の演舞!

 

「凄い・・・やっぱり翼さんは・・・」

 

「間違いない、エルシドだ・・・でもどうして?エルシドは・・・」

 

響は二人の戦いに唖然とし、レグルスは“死んだ筈”の盟友の戦いに呆然としていた。

 

「あっ!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

 

「「ッ!?」」

 

二人は少女の視線を追って後ろを振り向くとそこには、二体の大型ノイズが三人に襲い掛かろうとしていた!

 

「!?」

 

「しまった!?」

 

だが突然空が光ると大型ノイズと同じ大きさの巨大な剣がノイズの腹を突き刺し、もう一体のノイズが頭の天辺から幹竹割りされた!

 

「「ッ!?」」

 

驚く二人余所に巨大剣の柄の部分に翼が立ち、ノイズの足元にエルシドが手刀を振り落とした姿勢を取っていた。二体のノイズはそのまま炭化消滅し戦いは終わった。

 

翼と見つめ会う響、エルシドと視線を交わすレグルス、少女達は出会い、少年達は再会した。

 

 

 

 

 

 

しばらくし『特異災害対策機動部一課』が現れ現場を封鎖し、救急車やノイズの残骸を回収する人達で現場は溢れていた。女の子は保護されホットココアを飲んでいた。そんな少女を見つて微笑む響と見たことない乗り物<車やヘリコプター>に目を光らせるレグルス、因みに聖衣<クロス>は脱いでいたがエルシドが着ていた上着を羽織っていた。

 

余談だが聖衣<クロス>を脱いだ時上半身裸を見て響は顔を真っ赤にし両手で顔を覆った、翼も顔を赤くし顔を背けた。

 

 

「あの、温かいものをどうぞ」

 

「あ、温かいものどうも」

 

「ありがとう」

 

一課の女性からホットココアをもらう響とレグルス、ふー、ふー、と冷ます響を真似しレグルスもふー、ふー、と冷ます、そしてココアを飲みプハー×2と人心地着いた二人。だが突然響の身体が光り。パァッ!と元の服装に戻り反動で後ろに倒れそうになるが翼が支えた。因みにレグルスは響が落としたカップをキャッチした(中身も無事)。

 

「あぁありがとうございます、あっ!ありがとうございます!」

 

支えてくれたのが翼だと分かると更に声をあげて礼を言う響、だが翼は響に無言で後ろを向けて去ろうとするエルシドは翼と共に去ろうとするが響は翼に話しかける。

 

「実は翼さんに助けられるのはこれで二回目なんです!」

 

翼は響に振り向き「二回目?」と呟く。笑う響と首を傾げるレグルスだが「ママ!」と女の子の声を聞きそちらに顔を向けると母親と再会して抱きしめ合っていた。すると親子の近くにいた女性が機密事項を並べていたが親子は唖然とし響とレグルスも苦笑いを浮かべいた。

 

「じゃあ私もそろそろ」

 

「あ、そういえば俺これからどうしよ?寝る場所ないし」

 

が翼とエルシドと並んで黒服にサングラスした男達に包囲されていた。翼は顔をうつむかせて言う。

 

「貴方達をこのまま帰すわけにはいきません」

 

「何でですか!?」

 

「ありゃまあ」

 

「特異災害対策機動部2課まで同行していただきます」

 

「レグルス、現状確認の為にも俺達と一緒に来い。寝床と食事もこっちで何とかする」

 

ガッチャン!×2

 

ゴツい手錠をかけられる響とレグルス。

 

「え?」

 

「ふ~ん、コレが手枷か~」

 

同じ黒服の茶髪の人当たりが良さそうな男性がにこやかに言う。

 

「すみません、あなた方の身柄を拘束させていただきます」

 

二人は車に押し込まれ。

 

「(ま、いざとなったらこの手枷を壊せば良いしまぁいっか♪それにしてもこれって馬もいないのに何で走ってるんだ!)」

 

初めて乗る車に内心おおはしゃぎのレグルスそして響は。

 

「なあぁぁぁぁぁぁぁぁんでえぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!????」

 

響の悲鳴は夜に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エルシドの服は外伝でエルシドが着ていた服です。


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特異災害機動部2課

訳のわからないまま特務災害2課に連れていかれた響とレグルス(レグルスは能天気に車から見える景色を楽しんでいた)、二人を乗せた車は響と翼が通う『私立リディアン音楽院』に連れていかれた。

 

レグルスは初めて見る建物に興味津々だったが響は困惑していた。

 

「な、何で学院に?」

 

「スッゴいな~、まるで貴族が住みそうな屋敷だ」

 

響はレグルスの言葉に首を傾げていた。日本が鎖国していたことやレグルスはここをイタリアと言っていた事を思い出してレグルスの『何か』に違和感を感じていた。

 

「不思議がるのも仕方ないですよ、何しろ彼の『時間』は300年近くも『過去』の『時間』ですからね」

 

え?とますます分からなくなる響。

 

車から降りた一同(レグルスがはしゃいで何処かに行きそうになり、エルシドが取り押さえると言ったハプニングはあったが)は教師が居る中央棟に向かう。ここまで翼とエルシドとさっき話してくれた『緒川慎次』は無言で進んでいた。翼は響とは目も合わせず、緒川も無言でエルシドに至っては無言&無表情の鉄仮面を貫いていた。

 

「あ、あの~、ここって先生達が居る中央棟、ですよね?」

 

「「「・・・・・・」」」

 

「なぁなぁ響?ここってそもそもなんなんだ?」

 

「え?レグルス君、ここは学校だよ」

 

「学校?あぁ勉強する所か、へぇ~」

 

無言の世界だと言うのに能天気なレグルス。だが響はレグルスの能天気が重苦しい空気を和らげている気がして内心助かっていた。

 

五人はエレベーターに入り緒川が携帯端末をかざすと扉が二重に閉まっり何か取っ手のようなものが現れ翼とエルシドはそれに捕まり。

 

「おぉ!」

 

「あ、あの~」

 

「さ、危ないから捕まって下さい」

 

「え?危ないって?」

 

「余り喋るな、舌を噛むぞ」

 

エルシドに忠告され緒川に手を引かれて取っ手に捕まる響と内心ワクワクしているレグルス。すると突然エレベーターがフリーフォールのように下に降りた(落ちた?)。

 

「ドゥワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

「オオオオオオ!!!何だコレ!!??イィィヤッッッホオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

突然襲われた浮遊感に悲鳴を上げる響と遂にワクワクが爆発したレグルス。

 

「ああ、あ」

 

「面白いなぁ♪なぁ響もう一度やんない?」

 

「やんない!!!!」

 

掛け合い(夫婦?)漫才を繰り広げる二人。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

そんな二人を緒川は微笑ましそうに、エルシドは無表情だが何処か微笑ましそうに、翼は目も合わせず見ていた。

 

「アハハ・・・」

 

「?」

 

苦笑いを浮かべる響とどうしたんだ?って感じで首を傾げるレグルス。ふと翼が相変わらず目も合わせず口を開く。

 

「愛想は無用よ」

 

「「・・・」」

 

翼の言葉で無言になる響といきなり話し出した翼に面食らうレグルス。するとエレベーターの窓から景色が見えた。何かの壁画のようなものが建物の内部に描かれていた。

 

「うわぁ~」

 

「・・・・・・」

 

呆ける響だがレグルスは壁画を鋭い目で見ていた。

 

「これから向かう所に微笑みなど必要ないから」

 

翼は冷徹に呟く。エルシドはそんな翼を無言で見ていた。

 

「(これから『教皇様』みたいな人にでも会うのかな?)」

 

ふとレグルスはここにはいない亡き教皇の事を思い出していた。

 

エレベーターが止まり扉が開くとそこには。

 

 

 

パン!パン!パン!!

 

 

 

 

ラッパとクラッカーが炸裂し『熱烈歓迎!立花響さま☆レグルスさま☆』とデカデカと書かれた看板(可愛くデフォルトされたネコとライオンの顔のイラスト付き)がかけられ花吹雪が舞い、目の前にシルクハットを被った赤いワイシャツを腕捲りしピンクのネクタイをした鬣のような赤い髪をした服の上からでもわかるほどの鍛えられた身体をした男性がにこやかな笑顔をし、後ろに控える制服を着た人達も拍手し、更に後ろで『ようこそ2課へ』とこれまたデカデカと書かれた看板があった。

 

「ようこそ!人類最後の砦、特異災害対策機動部2課へ!!」

 

 

 

パチパチパチパチパチパチパチパチ!

 

 

 

「オォウ♪」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

余りの歓迎雰囲気にレグルスは喜んだが響達は唖然としていた。

 

「楽しそうな所だな♪」

 

笑うレグルスだが翼は頭痛を堪え緒川は苦笑いを浮かべエルシドは明後日の方を見ていた。すると白衣を着て茶髪の髪をアップさせた赤い縁のメガネをした女性が響に近づき。

 

「さぁ、笑って笑って♪お近づきの印にツーショット写真♪」

 

と携帯で響とツーショット写真を撮ろうとするが。

 

「えぇ!嫌ですよ!手錠したままの写真なんてきっと悲しい思い出として残っちゃいます!」

 

気にするところはそこか?とツッコミが飛んで来そうなことを言う響。

 

「それにどうして初めて会う皆さんが私の名前やレグルス君の事知ってるんですか?」

 

「我々2課の前身は大戦時に設立された特務機関なのでね、調査等お手のものなのさ♪」

 

「はいこれ♪」

 

シルクハットをかぶり直し杖で手品をする男性、その隣から鞄を持ってきた白衣の女性。

 

「ああ!私の鞄!?な~にが調査はお手のものですか!!鞄の中身、勝手に調べたりして!ってあれ?そういえばレグルス君は?」

 

さっきからいないレグルスに気付く響。

 

「レグルス君ならそこで手錠したままご飯食べてるわよ」

 

白衣の女性が指差した方を見るとリスみたいに口いっぱいに食べ物を頬張るレグルスがいた。

 

「モグモグモグモグ・・・おぉこれ美味い!」

 

「ズコッ!なにやってんのレグルス君!手錠したままご飯だなんて最悪の思い出になっちゃうよ!」

 

「いや~、つい腹が減っちゃってさ~、響も食べろよスッゴい美味いぞ!」

 

「後で食べるよ!」

 

『食べるんかい』

 

2課一同が心の中でツッコム。

 

「それよりも手錠を何とかしないと!」

 

「ん~、確かに食べづらいしな・・・よっと!」ガシャン!!

 

なんとレグルスが両手をくいっとクロスさせると手錠はまるで飴細工のようにバラバラになった。

 

「でええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」

 

『まぁ彼やエルシドや司令ならそれぐらいできるよな~』

 

手錠を力技で破壊したレグルスに響は驚き、他の人達はだろうなって感じで見ていた。

 

「よし、これで大丈夫だな」

 

「ちょちょちょちょっと待ってレグルス君!今何したの!?今何やったの!?今どうしたの!!??」

 

「ん?“手錠壊しただけ”だけど?響もやってみなよ」

 

「え?・・・・・・うーん!(グググググ)うーん!!(グググググ)・・・・・・ってできるわけないよ!私女の子だから!か弱い乙女だから!!」

 

「やっぱダメか。ハハハハハハ!」

 

「ハハハハハハじゃないって!!」

 

レグルスのように手錠を壊そうと一応試したができなかったのでレグルスにツッコミを炸裂させ再び掛け合い(夫婦)漫才を繰り広げる二人(笑)。

 

『仲いいなぁ~』

 

二人の漫才を微笑ましそうに見守る2課の人達。呆れる翼とエルシド。

 

「まったく・・・・・・」

 

「緒川さん、お願いします」

 

「はい」

 

ようやく緒川から手錠を外して貰った響と隣で飯を頬張るレグルス。

 

「ありがとうございます」

 

「いえ、こちらこそ失礼しました。」

 

「モゴモゴモゴモゴモゴモゴ」

 

「食うか喋るかどちらかにしろレグルス」

 

「・・・(ゴックン)ところでいい加減皆の名前知りたいんだけど?」

 

すると赤い髪の男性が前に来て。

 

「そうだな、では改めて自己紹介だ。俺は“風鳴 弦十朗”。ここ(2課)の責任者をしている」(ニッ)

 

「(聖域<サンクチュアリ>で言うと『教皇様』みたいなもんか。それにしてもこの人強いな、多分素の力は青銅<ブロンズ>聖闘士以上はあるぞ)」

 

次は白衣の女性が自己紹介した。

 

「そして私は、“できる女”と評判の“櫻井 了子”、よろしくね」(パチクリ♪)

 

「あぁ、こちらこそよろしくお願いします」(ペコッ)

 

「よろしくな、“弦十朗”に“了子”」

 

「レグルス君いきなり呼び捨て!?ダメだよ!」

 

いきなり馴れ馴れしいレグルスにツッコム響。

 

「いや構わないよ、レグルス君よろしくな」

 

「礼儀が分からないなら、お姉さんがじっくり教えてあげようかな♪」

 

大人の色気を出して巨乳をレグルスの腕に押し付ける了子。

 

「・・・・・・う~ん、何かめんどくさそうだし断るよ」

 

「あら残念♪」

 

にこやかに飄々と離れる了子。

 

「・・・・・・」

 

そんな了子を能天気笑顔で見つめるレグルス。

 

「ところで、君達を呼んだのは他でもない」

 

弦十朗が切り出す。

 

「協力を要請したい事があるのだ」

 

「「協力って?あっ」」

 

響とレグルスは響の身体から生まれた鎧の事を思い出した。

 

「教えてください、“アレ”は一体何なんですか?」

 

響の質問に弦十朗と了子はお互い目配せし了子を頷くと響とレグルスに近づき。

 

「貴女達の質問に答えるためにも、2つばかりお願いがあるの。最初の一つは今日の事は誰にも内緒。そしてもう一つは・・・」

 

そう言うと了子は左手を響の腰に右手をレグルスの腰に伸ばし二人を引き寄せ。

 

「とりあえず“脱いで”もらおうかしら?二人とも」

 

色っぽい流し目でとんでもない事を言った。

 

「え?だから、なぁんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

もう泣きそうな目で叫ぶ響。

 

「え?脱ぐだけでいいの?んじゃ脱ぐか」

 

「あら♪」

 

『!?』

 

脱ごうとするレグルス。そんなレグルスを凝視する女性隊員達。

 

「ちょちょちょレグルス君!こんなところで脱いじゃダメだよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

再び炸裂の響のツッコミ。この時2課の女性隊員達は“ショタコン”疑惑が上がり男性陣から引かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体検査が終わり寮に戻ろうとする響だが。

 

「あの、レグルス君は?」

 

「安心してくれ、レグルス君は今日の所はエルシドの部屋に泊まるからな」

 

「狭い部屋だが野宿よりはマシな方だ」

 

「おう!世話になるよエルシド。響、また明日な~」

 

「うん!また明日!」

 

そして帰路に付く響、響がいなくなった後レグルスは弦十朗達に向き合う。

 

「ところでさ弦十朗」

 

にこやかに話をかけるレグルス。

 

「何だい?レグルス君」

 

「“シジフォス”はどこにいるんだ?」(スッ)

 

レグルスの目は“戦士の目”に変わっていた。

 

ゴウッッッッ!!!!

 

『!!??』

 

その時翼や緒川や了子やその場にいた全員が肌で感じそして実感した。目の前にいるのは“ただの少年”ではない、“地上最強の十二人”の一角を担う文字通り“百戦錬磨の強者”であると。

 

「何故、俺達が“シジフォス”の事を知ってると思うんだい?」

 

この状況でも平然としていられるのは弦十朗だけだった。

 

「さっき、女性隊員の人達が俺の事『あれが“シジフォス”の甥っ子か』ってこそこそ喋ってたから」

 

『!?』

 

二人の女性隊員が気まずそうに目をそらしていた。

 

「本当は何で話してくれないのかと疑問を持っていたけどエルシドがあんた達を“信頼”しているようだし響も自分の事で一杯一杯だったから何も聞かなかった。でも聞かせてほしいんだ。俺もあんた達を“信頼”したいから」

 

強い“意思”が宿った目を見て弦十朗は降参と言わんばかりに両手を上げだ。

 

「すまなかったなレグルス君、別に秘密にしておこうと思っていた訳ではないんだ。ただ俺達としても“シジフォス”の事は簡単に話せる事じゃないんだ。特に君にとって“たった一人の家族”の事なら尚更な」

 

「レグルスよ。弦十朗殿達は信頼に足る人物達だ、俺が保証する」

 

普段は無口で“己の身の証は言葉よりも行動で示せ”を信条にしているようなエルシドが“信頼されてる”事からレグルスも2課の皆を信じたいのだ。

 

「・・・・・・話してくれ弦十朗」

 

レグルスも意を決する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の“叔父”にして『射手座<サジタリアス>の黄金聖闘士 “シジフォス”』に何があったんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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その力、“シンフォギア”

 

響は自分と親友である『小日向未来』が住む女子寮に戻ると。疲れが一気に出たのかリビングで倒れた。顔を上げるとニュースで翼がイギリスの大手レコード会社から海外展開の打診があると聞かされた。

 

二段ベッドの上の段で未来と二人で添い寝する響。未来に今日起こった事を話そうとするが。

 

「あのね、未来・・・ううん、何でもない」

 

了子から秘匿にするように言われていた事を思いだし何でもないと言う響。それに未来は。

 

「私は何でもなくない。響の帰りが遅いから本当に心配したんだよ」

 

心からの言葉に響は申し訳無さとありがたさが混ざった笑顔になり未来を後ろから抱き締めながら思う。この日溜まりのような暖かい場所こそ『自分の帰ってくる場所』なんだと確信した。だが眠りに落ちる前に思った事があった。レグルスの事を。

 

「(レグルス君にはあるのかな?“帰りを待つ人”と“帰る場所”が?)」

 

そう考えながら響は眠りの世界に落ちていった。

 

響は知らない。彼には。レグルスには。“この世界”に己の“帰る場所”が無いことを。

 

 

ー翼sideー

 

風鳴翼はシャワーを浴びながら考えていた。響の事を考えていた。いや響ではない。響が纏った“ガングニール”とガングニールの以前の奏者であり己の親友で片翼と言っても過言ではない存在。“天羽奏”の事を。

 

『二人一緒なら何も怖くないな』

 

奏の言葉が嬉しかった。そしてそんな自分達の成長を見守っていた“シジフォス”とエルシドも翼には欠けが得ない存在だった。シジフォス達は極力戦いには参加しなかった。自分達が介入すれば翼達の成長の妨げになると考えたからだ。シジフォス達が介入する時は奏と翼のアイドルユニット『ツヴァイ・ウィング』のライブ中にノイズが現れた時だけ。他には奏や翼との訓練の時だけだった。奏と二人で強くなっていく事に翼は喜んでいた。厳しいエルシドと優しいシジフォスの訓練は正直キツかったが強くなっていく実感がそこにはあった。いつまでもこんな日々が続くと信じて疑わなかった翼は奏<片翼>とシジフォス<戦友>を『同時に』失った事のだ。

 

ビー!ビー!ビー!

 

突然携帯の着信音が聞こえた。

 

「・・・エルシドか」

 

余り携帯といったハイテクを使わないエルシドからの連絡に少し驚きながらでる。

 

「どうした?お前から連絡するなんて珍しいな。レグルスは?」

 

『既に布団の中で寝ている』

 

「そうか。大丈夫なのか?」

 

『大丈夫だ。“この世界”の事。シジフォスの事。弦十朗殿から聞かされた事に関してはある程度そうではないのかと考えていたらしいからな』

 

「・・・・・・エルシド。彼は。レグルスは“シジフォスの代わり”が務まるのか?」

 

固い声色で翼が聞く。だが。エルシドも固い声色で応じた。

 

『・・・翼。これだけは覚えておけ。レグルスはレグルスだ。“シジフォスの代わり”ではない。“代わり”等いないのだ』

 

「・・・・・・」

 

その言葉に翼は黙る。

 

『良いか翼。“迷い”や“盲信”を持つな。それらは全て“雑念”だ。“雑念”は“心”を覆う雲になり剣を鈍らせる』

 

「・・・解っている。“迷い”等持ってなどいない」

 

『なら良いがな。翼。さっき俺が言った言葉。“代わり等いない”の意味を良く考えておけ』

 

そう言ってエルシドは連絡を切った。

 

「・・・・・・解っている。“代わり等いない”。奏のガングニールは奏の“ギア”だ。彼女に奏の代わりなんて」

 

翼の心に暗い雲が覆い始めていた。

 

 

ーエルシドsideー

 

エルシドが住むのは築30年を経っているアパートだった。近隣の住民達からは「あのアパートだけ昭和の世界にいる」と揶揄される程のボロアパートだったがエルシドは。「ガチャガチャしたマンションよりもこのアパートの方が落ち着く」との事で机と布団しかない六畳半の部屋で予備の布団を敷きレグルスと隣り合わせで寝ようとしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

静寂。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・レグルス。起きているか?」

 

ふとエルシドがレグルスに声をかける。

 

「あぁ」

 

それに応じるレグルス。だが。

 

「やはり驚いたか?」

 

「うんまあね。ある程度はそうじゃないかと思ってたんだけど。改めて聞かされるとさ」

 

響と一緒にいた時のような“能天気さ”がなくなっていた。

 

「なぁエルシド」

 

「・・・・・・」

 

「俺達、これで良いのかな?」

 

「何がだ?」

 

「“聖闘士”をやってて良いのかなってさ。だってこの世界には」

 

「俺は・・・・・・」

 

エルシドがレグルスの言葉を遮る。

 

「ここが何処であろうと。何であろうと。俺は“聖闘士”だ。己の“やるべき事”は解っているつもりだ」

 

「“やるべき事”?ソレって?」

 

「レグルス。今日もう寝ろ。明日は立花に“ギア”の事や“俺達”の事を説明しなければならないからな」

 

「・・・・・・うん」

 

レグルスは眠るように努力した。

 

「(レグルス。悩めばいい。迷えばいい。“ソレ”を超えた時、お前は今より強くなれる)」

 

エルシドはレグルスの成長を信じ眠りに付く。

 

 

そして翌日の放課後。響は親友の未来と友達のボーイッシュな感じの『安藤創世』とお嬢様風の『寺島詩織』と若干オタク気味の『板場弓美』と新しく出来たお店に行く誘いを断り教室に残っていた(普段から呼び出し・追試・補習の常習犯の響の居残りは珍しくないので怪しまれなかったが未来は寂しそうにしていた)。

 

「はぁ。私呪われてるかも・・・」

 

「ふ~ん。響って呪われてるんだ」

 

ふと声を掛けられる。

 

「うん。・・・・・・・・・って」

 

どっかで聞いた声に思わず横を見る響。そこには。

 

「よ!」

 

人壊っこい笑みを浮かべるレグルスがいた。

 

「えええええむぐぐぐぐぐ!!!!」

 

驚きの悲鳴を上げそうになった響の口を塞ぐレグルス。

 

「響静かにしなきゃ。騒ぎになったらどうすんだ?」(ひそひそ)

 

ひそひそ声で話すレグルスだが響は。

 

「モゴモゴモゴモゴ!モゴモゴモゴモゴモゴモゴ!」

 

「え?なんで俺が学校にいるのかって?いや~。学校って始めて見るからさ。つい」

 

てへっ失敗失敗♪て態度のレグルスに若干腹が立った。

 

「モゴモゴ!モゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴ!!」

 

「フムフム。この学校って女の子しかいない学校だから男の俺がいる方が騒ぎになるって?安心しろ。簡単に見つかる俺じゃないから」(グッ)

 

親指を立てるレグルス。

 

「モゴゴゴーーーーー!」

 

「そうじゃない!って?」

 

何で響の言ってる事が分かるのかはさて置いて。ちょうど二人が漫才している後ろにある教室のドアで翼が無言で立っていた。レグルスは響の口から手を離し。響は翼を見ていた。

 

「重要参考人として再度本部まで同行してもらいます」

 

翼は響と目を合わせる処か見向きもしなかった。そしてまたゴツい手錠を付けてフリーフォールのエレベーターに乗る響(笑)。

 

「な、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

「ヤッホォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

エレベーターに響の悲鳴とレグルスの雄叫びが木霊した。

 

 

ー2課本部ー

 

本部に付くと了子からメディカルチェックの結果発表を聞かされた。

 

「初体験の負荷は若干残っているものの♪体に異常はほぼ見られませんでした~♪」

 

壁に写されたバイタルの状態を見る響とレグルス。響は手錠を外された手を擦る。

 

「ほぼですか?」

 

「他に何か異常があったのか?」

 

「うん、そうね。貴女が聞きたいのはこんなことじゃないわよね」

 

「教えて下さい。あの“力”の事やレグルス君の事を」

 

弦十朗は翼に目を向けると翼は赤い宝石のネックレスを取り出す。

 

「“天羽々斬”。翼の持つ“第一号聖遺物”だ」

 

「“聖遺物”?」

 

「“天羽々斬”って。確か“日本神話”に出てくる剣の事だよな?」

 

弦十朗の言葉に響は?となり。レグルスは神話の伝承で聞かされた武具の事かと聞く。

 

「その通り。さすがに神話の武具については知ってるようね。そして“聖遺物”とは世界各地の伝承に伝わる現代では生成不可能な“異端技術”の結晶の事。多くは遺跡から発掘されるんだけど経年による破損が著しくってかつての力をそのまま秘めた物は本当に希少なの。レグルス君やエルシド君の纏う鎧がソレね」

 

響はテーブルの上に置かれた“獅子座”と“山羊座”が描かれたレリーフを見る。

 

「この“天羽々斬”も刃の欠片。極一部にすぎない」

 

了子は壁のモニターで分かりやすく説明する。

 

「欠片にほんの少し残った力を増幅して。解き放つ唯一の鍵が。“特定振幅の波動”なの」

 

「(つまり“天羽々斬”を聖衣とするとその“波動”は小宇宙みたいなものか)」

 

「“特定振幅の波動”?」

 

「つまりは『歌』。『歌』の力によって聖遺物は起動するのだ」

 

「「歌?」」

 

思わずオウム返しする二人。そして響は。

 

「そういえば。あの時も胸の奥から歌が浮かんできたんです」

 

「(だから響は戦いな最中に歌ってたのか)」

 

響の言葉に弦十朗は頷き。翼は眉間に皺を寄せ。エルシドはそっと翼に目を向けた。

 

「歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し。鎧の形に再構成したのが翼ちゃんや響ちゃんの纏う『アンチ・ノイズ・プロテクター シンフォギア』なの」

 

「だからとて。どんな歌。誰の歌にも。聖遺物を起動させる力があるわけではない!」

 

不機嫌そうに翼は吐き捨てる。

 

弦十朗は背中を向けたまま。エルシドは目を閉じ。他の皆は翼の方を見た。弦十朗が立ち上がる。

 

「聖遺物を起動させ。シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を我々は“適合者”と呼んでいる。それが翼であり。君であるのだ」

 

「どうかしら?貴女の目覚めた力について少しは理解して貰えたかしら?質問はドシドシ受け付けるわよ♪」

 

「・・・あの」

 

「どうぞ!響ちゃん!」

 

「全然解りません・・・」

 

響の答えに「だろうね」や「だろうとも」と言う人達。

 

「いきなりは難しすぎちゃいましたね。だとしたら聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術。“櫻井理論”の提唱者がこの私である事だけは覚えておいて下さいネ♪」

 

さらりと自慢する『デキル女 櫻井了子』。

 

「はぁ、あ!そういえば。レグルス君やエルシドさんもノイズを倒せたって事は二人も“適合者”何ですか?」

 

響の質問に弦十朗達はエルシドとレグルスに目を向ける。エルシドが口を開く。

 

「いや。俺達は“適合者”ではない」

 

「エルシド君とレグルス君は云わば“イレギュラー”ってところね」

 

「え?“イレギュラー”?」

 

困惑する響にレグルスは話しかける。

 

「響。これから突拍子も無い事を言うけど。大丈夫か?」

 

「突拍子も無いって。“シンフォギア”の事も十分突拍子も無い話だから今更だと思うよ」

 

だろうねって顔になる大人組。翼は壁に寄りかかり。エルシドは響に少し近づく。

 

「ソレもそうだな。んじゃ話すとするか。俺達の纏う鎧は星座の鎧。聖なる衣。聖衣<クロス>だ」

 

「聖衣<クロス>?」

 

 

その鎧は闘士達を護るため女神が拵えた鎧。

 

 

「俺達はこれを纏い戦う。“ギリシャ神話”の“戦女神 アテナ”に仕える闘士」

 

 

遥か神話の戦士達。

 

 

「俺達は聖闘士だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なるべく原作沿いになるように書きます。


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女神の闘士

今回翼とエルシドのオリジナル合体技を出します。


『女神 アテナ』

 

オリュンポス十二神の一角を担う『戦女神』。彼女は『天界』を統べる神であり父でもある『天帝 ゼウス』から人間が住まう世界『地上』を統べる役を与えられたが、アテナは『戦女神』と呼ばれているが戦いを好まない慈愛に満ちた女神であり、その戦い方は防衛に徹する物であった。そして『地上』を我が物にしようと進行してきた神々がいた。

 

同じオリュンポス十二神の『海界』を統べる神『海皇 ポセイドン』

 

戦いを好む『戦神 アーレス』

 

死者の世界『冥界』を統べる神『冥王 ハーデス』

 

アテナは神々から『地上』を守るために戦ったがポセイドンにアーレスとハーデスには自身を守るための『戦士達』がいた。

 

神話に現れる海の魔物や英雄の姿をした『鱗衣<スケイル>』を纏い戦う闘士。ポセイドン率いる『海闘士<マリーネ>』。

 

闘争に生き虐殺を繰り返す戦士達。『狂戦士<バーサーカー』を率いるアーレス。

 

神話に現れる魔獣や怪物を模した鎧、黒曜石のように輝く『冥衣<サープリス>』を纏う。『魔星』に選ばれた闘士達。ハーデスが率いる『冥闘士<スペクター>』。

 

それぞれの軍勢を相手にアテナは劣勢に立たされる。だがアテナを守るために『地上』の少年達が立ち上がり神々の軍団と戦うためにある闘技方を生み出した。

 

『小宇宙』

 

己の内なる宇宙。生命の力。少年達は己の生命の力を爆発させることで『奇跡』を生み出したのだ。しかし、『小宇宙』を体得する為には己の肉体を限界の更に限界まで鍛え、感覚を極限の更に極限に研ぎ澄まさねば体得できない闘技であった。100人中10人未満が体得できる程の過酷な修行で体得できる。だが少年達はアテナを『地上』を守るために己を鍛え上げ遂に神々の軍団と戦えるようになったのだ。アテナもそんな少年達を護るために88の星座から聖なる衣『聖衣<クロス>』を少年達に与え少年達はアテナを守護する聖なる闘士、『聖闘士<セイント>』になったのだ。聖闘士には階級があり強さのレベルも違う。

 

『黄道十二星座』の聖衣を纏う『黄金聖闘士<ゴールドセイント>』が12人。

 

白銀の聖衣を纏う『白銀聖闘士<シルバーセイント>』が24人。

 

階級は一番低い『青銅聖闘士<ブロンズ>』が52人いる。(だが『小宇宙』を体得するのは至難の技であり。88の聖闘士が揃ったことはなかった。)

 

聖闘士達はアテナと共にポセイドン軍、アーレス軍、ハーデス軍と神話の時代から戦いを繰り広げ、遂にポセイドンとアーレスを封印し、ハーデスも冥界の奥へと退却していったのだ。そして『地上』の人々は聖闘士をこう呼ぶ。

 

地上の愛と正義と平和を守り、『戦女神アテナ』に仕える聖なる闘士。『アテナの聖闘士』と。

 

 

 

 

 

「とまぁ、これが俺とエルシドの正体。俺達はギリシャ神話の戦女神アテナの聖闘士だ」

 

レグルスとエルシドから聞かされた余りにも突拍子ナイ話に響は呆然となっていた。弦十朗達も響の反応は最もだ頷く。

 

「あ、えっと、つまり、レグルス君とエルシドさんって神様に仕えてるってこと!?でもそんな話聞いたこともないよ!」

 

「そりゃそうよ。何しろレグルス君とエルシド君は『この時代』と言うか、『この世界』の人間じゃないからね」

 

了子の言葉にえ?と首を傾げる響。

 

「えっと?了子さん?それって・・・」

 

「俺達二課が調査した結果、『戦女神アテナ』は神話や伝説で語られているが『アテナの聖闘士』と言う存在は確認されてないんだ」

 

「え?」

 

「響ちゃんもちょっとレグルス君に“違和感”を感じてたんじゃない?車とかエレベーターに過剰な反応する姿に」

 

了子の言葉に響は頷く。

 

「『平行世界』って知ってるかしら?私達のいる世界と似て異なる世界。その世界では『アテナの聖闘士が存在』しているが私達の世界では『存在しない』世界を“もしも”の世界、パラレルワールドと呼ばれているのよ」

 

「パラレルワールドですか、何か漫画か映画の世界みたいですね」

 

響の言葉に『藤尭朔也』と『友里あおい』はウンウンと頷く。

 

「でもそうじゃなきゃ説明つかないのよね。このレリーフ、聖衣<クロス>レリーフの中にある獅子座の黄金聖衣と山羊座の黄金聖衣は今の技術じゃ絶対に生み出せない異端技術の結晶の『完全聖遺物』だし。エルシド君達がこの鎧を纏った時の戦闘能力とノイズに有効な効果を出せる結果を見るとね」

 

了子はヤレヤレの態度。

 

「あのレグルス君達がその平行世界の人だとすると『この時代』って意味は?」

 

響の疑問にエルシドが答える。

 

「簡単な事だ。俺とレグルスは只の平行世界ではなく立花達が生きる時代からざっと『300年』近くの『過去』から来たのだ」

 

「え?えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!300年前から!!??」

 

「俺達の時代と言うか世界では200数十年の周期で『冥王ハーデス』が復活して俺達アテナ軍と戦う『聖戦』が勃発してたんだ」

 

「神様と戦争って・・・・・・」

 

呆然となる響にお構い無くレグルスは話す。

 

「俺とエルシドはその聖戦でハーデスとの最後の決戦で俺達黄金聖闘士が力を合わせてハーデスを倒そうとしたんだけど、気がつくと響達の世界にいたんだ」

 

「じゃレグルス君達って・・・・・・迷子?」

 

「アラ?」

 

「・・・・・・」

 

『ブッ!!』

 

響の言葉にレグルスはカクっとなりエルシドを無言になり弦十朗達は吹いてしまった(翼は耐えた)。

 

「まぁ迷子って言われれば、そうなのかな?」

 

「あの、レグルス君。帰りたいって思わないの?だってお母さんや友達とか」

 

「俺、母さんの顔知らないんだ生まれた時に亡くなったし父さんも俺が5才の頃に肺の病でさ」

 

「俺も親の顔は知らん。聖闘士は大概『孤児』が多いからな」

 

エルシドとレグルスの言葉にその場の空気が重くなった。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

慌てて謝る響。

 

「気にすんなよ響。父さんはいつも“ここ”にいるからな」

 

レグルスは自分の左むねを指して笑う。エルシドもフッと笑い。場の空気が少し軽くなった。話を変えようと弦十朗が切り出す。

 

「さてエルシド達の事も分かったし何か質問があるかい響君?」

 

「あ、あの。シンフォギアの事何ですけど、何で私がシンフォギアを持っていたのかな~って」

 

今度は響の言葉で場の空気が重くなった。了子は壁に響の胸のレントゲン写真を写す。丁度心臓の辺りに何かの破片が写っていた。弦十朗が切り出す。

 

「これがなんなのか君なら分かる筈だ」

 

「は、はい!2年前の怪我です!彼処に私もいたんです!」

 

「(2年前の事件。ツヴァイ・ウィングの天羽奏が亡くなった日にしてシジフォスが消えた事件か・・・)」

 

レグルスは先日弦十朗から聞いた事を思い出していた。翼はようやく響に目を向ける。

 

「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片。調査の結果この影はかつて奏ちゃんが見に纏まっていた『第三号聖遺物 ガングニール』の砕けた破片であると判明しました。奏ちゃんの『置き土産』ね」

 

「ッ!!??」

 

了子の言葉に翼は目を見開き、少しよろめいて片手で顔を覆いそのまま退出した。弦十朗はエルシドに目配りをしエルシドは静かに頷くと翼の後を追った。

 

「(ガングニール、別名グングニルの槍。北欧神話の主神オーディーンが使う『撃槍』か、天羽々斬といいシンフォギアは神話の武具が元になってるようだな)」

 

レグルスは響のシンフォギアを考察する。

 

「あの~。この力<シンフォギア>の事、誰かに話しちゃいけないんでしょうか?」

 

響は立ち上がって言う。

 

「君がシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間にも危害が及ぶかもしれない。命に関わる危険すらある」

 

「命に関わる・・・」

 

弦十朗の言葉に響はゾッとし自分の大切な親友の事を未来の事が頭に浮かび俯く。

 

「俺達が守りたいのは『機密』ではない。『人の命』だ。その為にもこの力の事は隠し通してくれないだろうか?」

 

「貴女やレグルス君達の力はそれだけ大きなモノだと分かってほしいの」

 

弦十朗と了子の言葉に響は何も言えなかった。

 

「人類ではノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは即ち、炭となって崩れることを意味する。そしてまたダメージを与えることも不可能だ。例外があるとすれば『シンフォギア』を纏った『戦姫』と聖なる鎧『聖衣<クロス>』を纏った『聖闘士』だけ。『日本政府 特異災害対策機動部二課』として改めて協力を要請したい。立花響君。獅子座のレグルス君。君達の力を対ノイズ戦の為に役立てくれないか?」

 

「「・・・・・・」」

 

弦十朗の言葉に響たレグルスは迷っていたが響は顔をあげて。

 

「私の力で誰かを助かられるんですよね?」

 

弦十朗と了子は頷く。

 

「分かりました!レグルス君はどうするの?」

 

響の問いにレグルスは。

 

「(『答え』は見つからないけど、でも俺は)ノイズが誰かの大切な人の命を奪えばその人達が悲しむよな?」

 

レグルスの言葉に弦十朗は頷く。

 

「俺、泣いてる顔よりも皆には笑顔でいてほしい。だから俺が守る」

 

まだ『答え』は見つからない。だが誰かを守りたいと思う心がレグルスを突き動かす。

 

「俺も協力するよ。皆を守るために」

 

その言葉に弦十朗達は頷き、響も笑顔になった。通路に出た響とレグルスの前に翼とエルシドがいた。翼は振り向き響と向き合う。響は笑顔で言う。

 

「私、戦います!」

 

「よろしくな!」

 

翼は無言だった。レグルスとエルシドは翼から“違和感”を感じていたが気づかない響は翼に近付き。

 

「なれない身ではありますが、頑張ります!一緒に戦えればと思います!」

 

と握手しようと手を出す響。だが翼は険しい顔をしたまま無反応。

 

「あ、あの~」

 

「(エルシド、翼どうかしたの?)」

 

「(・・・・・・)」

 

困惑する響。アイコンタクトするエルシドとレグルス。

 

フォーン!フォーン!フォーン!

 

突然警報が鳴り、通路が少し暗くなった。

 

「現れたか」

 

「ノイズか」

 

「「!?」」

 

聖闘士組は察知し、適合者組は緊張が走る。司令室に着いた四人はノイズの出現を聞く。ノイズの出現場所が近くに現れたと聞く。

 

「迎え撃ちます。行くぞエルシド」

 

「・・・あぁ」

 

すぐさま向かおうとする翼とエルシド。そして響とレグルスは。

 

「レグルス君!」

 

「あぁ行こうぜ!」

 

「待つんだ!レグルス君はともかく君の力はまだ」

 

響を止めようとする弦十朗だが響は。

 

「私の力が誰かの助けになるんですよね!?シンフォギアの力でないとノイズと戦えないんだすよね!?だから行きます!」

 

「安心しろよ弦十朗。俺が手助けするから」

 

そう言って飛び出す響とレグルス。

 

「危険を承知で誰かのためになんて。響君は良い子ですね。レグルス君もシジフォスの面影が見えましたよ」

 

藤尭は響達を称賛するが。

 

「果たしてそうだろうか。」

 

弦十朗の見解は違っていた。

 

「翼やエルシド。それにレグルス君のように幼い頃から戦士としての鍛練を積んで来たわけではない。ついこの間まで日常の中にその身を置いていた少女が『誰かの助けになる』と言うだけで命を賭けた戦いに赴くのは『歪な事』ではないか?」

 

響の中にある『歪』を弦十朗は感じていた。

 

「つまり、あの子もまた私達と同じ『こっち側』と言う事ね」

 

 

 

 

 

 

ーハイウェイー

 

ハイウェイに群がるノイズを前に翼とエルシドが立っていた。『群れ』だったノイズが突然溶けて交わり緑色の体色に羽が刺さった大山椒魚のような大型ノイズへと姿を変えた。そして翼は『戦いの歌』を唄う。エルシドはおのが鎧を呼ぶ。

 

「~♪~♪~♪~♪」

 

「カプリコーン!」

 

翼の服が弾け蒼銀の鎧を纏う!レリーフから黄金の山羊が現れ分解しエルシドの身体に装着される!二人は隣り合わせになり。翼は歌を歌いながら刀を構え。エルシドを己の右手に宿る剣を構える。ノイズに向かう二人!体色を赤くしたノイズは羽を飛ばし二人を迎撃するが二人は軽々とかわす!翼の脚部にあるパーツが変形し戻ってきた羽を切り裂く!エルシドも振り向きもせず手刀を振ると羽を全て切り裂く!後ろに回った翼は持っていた刀を大刀へとかえ『蒼ノ一閃』を放とうするが。

 

「オオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

「ハアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!」

 

「!?」

 

「フッ」

 

上から響がキックをレグルスがパンチをノイズに叩き込む!

 

「翼さん!!」

 

「エルシド!ヤれ!!」

 

「くっ!」

 

「あぁ!」

 

上空に飛ぶ翼とエルシド。

 

「ハアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!」

 

蒼い雷を纏った蒼い斬撃『蒼ノ一閃』を放つ翼。

 

「ハアァ!!」

 

黄金の斬撃を放つエルシド。

 

蒼と金の斬撃は重なり合いノイズを十文字に切り捨てた!これが翼とエルシドの会わせ技。

 

『蒼金交閃』だ!

 

切り捨てられたノイズはそのまま爆散した!爆散したノイズの前に佇む二人。その後ろから響達が近づいた。

 

「翼さーん!私、今は足手まといかもしれませんけど!一生懸命頑張ります!だから私と一緒に戦ってください!」

 

響の言葉に翼は。

 

「そうね・・・」

 

「!」

 

「(あ、何かヤバい)」

 

翼は静かに応えるがエルシドはその声色に危機感を感じ、レグルスは『何か』が起こることを直感した。それに気づかない響は喜ぶが。振り向いた翼は。

 

「貴女と私、戦いましょうか」

 

「え?」

 

冷酷に笑い響の喉元に剣を突き立てる翼、困惑する響。

 

 

 

 

 

 

 

「弦十朗殿、どうやら厄介なことが起こった」

 

司令室に連絡するエルシド。

 

「こっちも確認した!何をやってるんだアイツらは!?」

 

「青春真っ盛りって感じね♪」

 

と暢気言う了子。

 

「弦十朗殿、直ぐに来てくれ」

 

「エルシド。お前は止めないのか?」

 

エルシドなら翼の暴走を止められると司令室にいる全員が確信しているがエルシドは。

 

「いや。弦十朗殿ではないとな。多分今の俺は。翼に対して、『手加減』できそうにない!」

 

エルシドは静かに怒っていた。普段の無表情・無感情の鉄面皮だがその裏は激しい怒りが渦巻いていた。

 

「だから早く来てくれ。俺が翼を『叩きのめす』前にな」

 

通信を切るエルシド。普段のエルシドから想像できない姿に司令室は困惑するが弦十朗は現場に向かおうとする。

 

「司令!」

 

「誰かがあの馬鹿共を止めなくてはな!」

 

そう言って現場に向かう弦十朗。

 

「こっちも青春してるな♪でも確かに気になる子よね。放っておけないタイプかも」

 

その時の了子の目に妖しい光が走った事に気づくものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。ふと思ったのですがレグルスのCVを誰にしようか悩んでます!

宮野真守 (聖闘士星矢Ω 白鳥座の氷河)

鈴村健一 (ガンダムSEEDDestiny シン・アスカ)

石井マーク (ヴァンガードG 新導クロノ)

浪川大輔 (ハイキュー!! 及川徹)

この中から選ぼうと思ってるんですが、中々決まりません!誰が良いですか?水曜日まで受け付けます!




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不協和音 双刃の亀裂

「貴女と私、戦いましょうか?」

 

「え?そういう意味じゃありません。私は翼さんと力を会わせて・・・」

 

「分かっているわ。そんな事」

 

響の言葉を翼が遮る。

 

「だったらどうして?」

 

戸惑う響に翼はにべもなく言う。

 

「私が貴女と戦いたいからよ」

 

「え?」

 

「(翼・・・)」

 

「(結構過激だな~)」

 

エルシドは鋭い目を翼に向け。レグルスはいつでも響を守れるように響の後ろに控えていた。

 

「私は貴女を受け入れられない。力を会わせ貴女と共に戦うなど、風鳴翼が許せる筈がない!」

 

「・・・・・・」

 

「(あ)」

 

レグルスはエルシドの雰囲気に気付く。響に刀を突きつけた翼は響に言う。

 

「貴女も『アームド・ギア』を構えなさい。それは常在戦場の意思の体現。いや、貴女が『何者をも貫く無双の一振り ガングニール』を纏うのであれば胸の覚悟を構えてみなさい!」

 

「(昨日今日ガングニールを纏った響にいきなり対人戦闘なんて、無茶だと思うけどなぁ・・・)」

 

チラリとエルシドを見るレグルス。

 

「・・・・・・」

 

「(そろそろヤバいかも)」

 

無言のエルシドを見てレグルスは思う。翼の言葉に響は『驚き』と『畏れ』と『戸惑い』が混じった顔をする。

 

「か、覚悟とかそんな・・・私、『アームド・ギア』なんて分かりません。分かってないのに『構えろ』なんて!そんなの全然分かりません!」

 

響の言葉に翼は刀を降ろして背を向けながら言う。

 

「覚悟を持たずにのこのこと遊び半分で戦場に立つ貴女は、奏の・・・奏の何を受け継いでいると言うの!?」

 

振り向いたその目には明らかな『敵意』が宿っていた。絶句する響を無視して翼は行動を起こそうとするがその肩を誰がが掴む。

 

「ッ!エルシド・・・!」

 

「・・・・・・何をしている翼」

 

エルシドの顔を見上げた翼に戦慄が走る。エルシドの目には『怒気』が宿っていたからだ。

 

「離してくれエルシド!私は認めない!こんな・・・こんな覚悟もない者が奏のガングニールを纏うなど!」

 

響を睨み付ける翼。翼に睨まれ萎縮する響をレグルスは背中に庇う。そしてエルシドは。

 

「そうか。この・・・バカ者が」

 

ドガっ!!

 

「ガハッッ!!??」

 

「翼さん!!」

 

「うわ~、容赦ないな」

 

翼の腹部に膝蹴り(かなり手加減した)をお見舞いするエルシド。

 

「な、何をするエルシド・・・」

 

蹴られたときに数メートル吹き飛ばされ腹部を押さえながらよろよろと立ち上がる翼。そんなのお構い無しに翼に近付くエルシド。

 

「翼。言ったはずだ。『盲信』に捕らわれるなとな。お前は戦場にた立って間もないひよっ子に何をしようとした?」

 

静かに。だが確実に怒っているエルシドに翼はそれでも食い下がる。

 

「エルシド・・・お前なら・・・お前だけはわかってくれると思っていたのに・・・奏を『シジフォス』を失った気持ちを」

 

「お前は奏の『影』に捕らわれているだけだ」

 

エルシドの言葉に翼は激昂する。

 

「奏を『過去』にするな!いくらエルシドでもそれだけは許さない!!」

 

「許さないならどうする?言っておくが立花と戦うと言うなら俺が相手になる。レグルス、立花を連れて離れていろ」

 

「了~解。響ここは少し離れるぞ」

 

「え?」

 

レグルスに引っ張られ後退する響。

 

「何故だエルシド。何故彼女を庇う!何故あんな!」

 

「ひよっ子を守るのは年長者の務めだ」

 

「エルシド。そこを・・・どけぇぇぇぇぇ!!」

 

エルシドに『蒼の一閃』を放つ翼。だがエルシドはかわす。エルシドに肉薄した翼は刀を振り下ろす!

 

「翼さん!エルシドさん!レグルス君こんなのダメだよ!翼さん達が戦うなんて!」

 

慌てる響だがレグルスは冷静だった。

 

「安心しなよ響。エルシドは全然本気なんて出してないから」

 

え?とレグルスの言葉に首を傾げる響。

 

「見てみなよ響。エルシドの奴『手刀』を使ってないだろ?」

 

レグルスに言われエルシドを見る響。確かにエルシドはノイズを切り裂く右手の『手刀』を使っていない。ただ翼の攻撃をかわしているだけであった。

 

「ホントだ」

 

「エルシドの右手はな、『この世の万物を切り裂く聖剣』とまで言われるほどの切れ味を誇っているんだ。その右手を使わないってことはエルシドが『本気じゃない』って意味なんだ」

 

「じゃどうして翼さんと戦っているの?」

 

「さぁ?何かあの二人にしか分からない『何か』があるんじゃないの?(人の心はどんなに『目を凝らしても』分かる者じゃないな)」

 

『人の心の機敏』に疎いのがレグルスの弱点なのだ。さて翼とエルシドの戦い(喧嘩?)は一見翼が押しているように見えるが翼は解っていたエルシドが『本気』ではないことに。

 

「エルシド!何故『手刀』を使わない!私を侮っているのか!?」

 

「逆上せるな。『大義』なき剣を相手に振るう程、俺の『手刀』は安くない!」

 

「くっ!」

 

翼にとってエルシドは奏とシジフォスがいなくなった後、お互いの背中を守りながらノイズと戦ってきた『戦友』であり『相棒』だった。共に『双刃』とまで言われるほどの。だからこそ解ってくれると思っていた。解ってくれると思っていたのに。

 

「エルシドの・・・エルシドの・・・バカ野郎ォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

『千の落涙』を放つ翼!だがエルシドは迫る無数の剣をかわす。だがエルシドの注意が一瞬それるのを見切った翼は上空に飛び、歌を歌い『最大の技』を放つ!持っていた刀を巨大化させ柄の部分を蹴り相手に突き刺す技。

 

『天ノ逆鱗』

 

巨大化した大剣はエルシドに向かう!エルシドは避ける動作も迎撃もしようとせずジッとしていた。

 

「エルシドさん!」

 

「(ん?成る程)」

 

なにもしないエルシドに響は悲鳴を上げレグルスはエルシドの魂胆を察知した。大剣の切っ先がエルシドに近付く次の瞬間!

 

「コラッ!」

 

突然弦十朗がエルシドの前に現れ翼の大剣を拳(!?)で止めた!辺りに拳と大剣のぶつかりで衝撃波がおきる!そして翼の大剣が蒼い粒子を上げて消滅する。

 

「叔父様!?」

 

「フッ流石だ。弦十朗殿」

 

「(ヒュ~♪弦十朗ってこんなに凄いんだ!白銀聖闘士位はあるかも♪)」

 

叔父である弦十朗の登場に翼は驚き、(最強の)黄金聖闘士は称賛した。

 

「オオオオォォォォォォォォォォォォォォ!!トオッッ!!」

 

弦十朗が気合いを入れるとアスファルトが陥没し辺りの地面が吹き飛んだ!吹き飛んだ地面の上に翼が落ちてきた。スプリンクラーも機動し雨が降っているようだった。翼と響はシンフォギアを解除され制服姿に戻っていた。

 

「あ~あ、こんなにしちまって、なにやってんだお前達は?この靴、高かったんだぞ」

 

「ごめんなさい・・・」

 

「一体何本の映画を借りられると思ってんだよ」

 

「失礼ながら弦十朗殿。被害の大半は貴方のせいです」

 

「てか弦十朗。『映画』って何だ?今度教えてよ」

 

呆れ顔で言う弦十朗に響は謝罪するがエルシドは元の鉄面皮で冷静に突っ込みレグルスは的はずれの質問をする。だが翼は顔を伏せ目元は暗い影が指していた。弦十朗はそんな翼に近付き。

 

「らしくないな翼。エルシドを相手にロクに狙いも付けず動きも封じずぶっぱなしたのか?それとも・・・!」

 

弦十朗は翼の様子から察する。エルシドも戦ってる最中に気付いていた。

 

「お前泣いて」

 

「泣いて何かいません!涙なんて流していません。風鳴翼はその身を剣と鍛えた戦士です。だから・・・」

 

「翼さん・・・」

 

何処か悲痛の翼の言葉にその場が静かになる。エルシドが何かを決意したかのように口を開く。

 

「弦十朗殿、頼みがある」

 

「エルシド?」

 

「何だ?エルシド」

 

チラリと顔を伏せたままの翼を一瞥した後に弦十朗に向き直り。

 

「翼とのコンビを『解消』させてほしい」

 

「「「!?」」」

 

「!?(そう来たか)訳を聞いて良いかエルシド?」

 

「・・・私情に捕らわれ大義を見失い剣を向ける相手を履き違えるような者に背中を任せられん」

 

「(!?)」

 

エルシドの言葉に翼は頭を鈍器で殴られたような衝撃が走った。

 

「エルシドさん!そんな言い方・・・」

 

抗議しようとする響を弦十朗が制し。

 

「翼、お前は?」

 

「構いません。もう私は、エルシドの助けなど必要ありません!」

 

顔を伏せたまま翼は叫ぶ。エルシドは翼に背を向け弦十朗は翼を起こし響は翼を励まそうとする。

 

「私、自分が全然ダメダメなのは分かってます。だからこれから一生懸命頑張って。『奏さんの代わり』になって見せます!」

 

「(ん~?)」

 

響の言葉にレグルスは首を傾げるが翼は。

 

「!!」

 

響の頬をひっぱたこうとするが。

 

「!」

 

「レグルス君!」

 

「ここまで。だろう翼?お~いて」

 

レグルスが響を庇って受ける。だが響とレグルスは見た。翼が『泣いて』いた事に。そのまま翼は弦十朗に連れていかれ、その場には響とレグルスとエルシドが残ったがエルシドは本部に戻らず去ろうとするが立ち止まり。

 

「立花。一つだけ言っておく」

 

「エルシドさん・・・」

 

「『奏の代わり』になろうとするな」

 

「え?」

 

そう言ってエルシドは去っていった。

 

「なぁ響」

 

「ん?」

 

「響は響だよ。『奏の代わり』じゃない響は響だ」

 

「え?それってどうゆう?」

 

「ごめん。俺もよく解んないけど。ただ何となくそう思っただけ」

 

スプリンクラーの雨が降る中、響とレグルスも本部に戻った。翼との間に亀裂を残したまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日が経ち。翼と響はノイズ退治をしていたが連携も何もせず。バラバラに戦っていた。エルシドは翼にレグルスは響に各々付いていたが戦闘に参加せず響と翼の戦いを見てるだけだった。

 

翼はエルシドに見せ付けるような戦いをしていたがエルシドは興味なしの態度であった。

 

響はやはり素人なのでまともに戦う事ができず途中でレグルスがそっと手助けしていた。

 

ーリディアン女子寮ー

 

ノイズ退治と学校の二重生活で貯めていた課題を片付けようとしていたが翼の事とエルシドとレグルスに言われた『奏の代わりになるな』・『響は響』の意味を考えていたが答えが出なかった。

 

「(レグルス君にエルシドさんの言ってた『奏さんの代わりになるな』ってどうゆう事なんだろう)私、このままじゃ駄目だ・・・」

 

一緒に課題を片付けていた未来は響の弱音を聞き、不安そうに見つめていた。

 

 

ー風鳴邸ー

 

そして翼も胴着を着て真剣の前で瞑想に耽っていた。思い出すはは二年前の天羽奏の死んだ日。『最後の手段』を使ってノイズ達を全滅させた奏。だがその代償は『奏の死』という余りにも残酷な結果だった。

 

「奏!」

 

悲痛な声を出し奏を抱き起こす翼。弱々しい声で奏は言う。

 

「どこだ・・・翼」

 

目を開けているのに、目の前にいるのに奏の目には翼は映らない。

 

「真っ暗で・・・お前の顔も見えやしない」

 

「奏!」

 

必死に呼び掛ける翼、

 

「悪いな・・・もう一緒に歌えないみたいだ・・・シジフォスにも伝えといてくれ・・・もう一緒に・・・風を感じられそうにないってさ・・・」

 

奏の命は無慈悲に消えようとしていた。

 

「どうして?どうしてそんな事言うの。奏は意地悪だ」

 

「だったら翼は・・・泣き虫で弱虫だ」

 

「それでも構わない!だから!ずっと一緒に歌ってほしい!シジフォスだって!エルシドだって!奏が死んだらきっと悲しむんだよ!」

 

必死に奏の命を繋げようとするが。

 

「・・・知ってるか翼?・・・思いっきり歌うとな・・・すっげぇ腹減るみたいだぞ・・・それになシジフォスが言ってたんだ・・・例え死んだとしても・・・私は近くにいるから・・・この風の中に・・・私はいるから・・・」

 

ゆっくりと目を閉じる奏。

 

「奏ーーーーーーーーーーッッ!!」

 

抱きしめた奏の身体は灰となって消滅し、翼の叫びが夕焼けの世界に響き渡った。

 

 

瞑想から目を開けた翼は真剣を抜き目の前の蝋燭立ての火に切りつけようするが火は消えなかった。

 

「(全ては、私の弱さが引き起こしたことだ)」

 

刀を納刀しその場を去る翼。その心はまだ暗い世界に閉ざされたまま。

 

 

ー公園ー

 

エルシドは公園のベンチでコーヒーを飲みながらシジフォスの事を思い出していた。

 

二年前、ツヴァイ・ウィングのライブが始まった直後。太平洋側と日本海側から現れた巨大飛行型ノイズを討伐するために二手に別れ太平洋側をエルシドが、日本海側をシジフォスが担当した。だが日本海側のノイズは某国が日本ヘの嫌がらせに放った弾道ミサイルを数発取り込み都市部に向かっていった。シジフォスはそれを止めるために立ち向かったが・・・。

 

太平洋側に現れたノイズは数が多く殲滅に時間を取られたが何とか殲滅しシジフォスの元へ向かったがエルシドが向かった時にはシジフォスのいる地点で巨大な爆発が起き、そこにはノイズの死骸だけでシジフォスの姿はなくなっていた。

 

シジフォスの遺体や聖衣すら見つからなかったのだ。一課と二課が総力を上げて捜索したが結局見つからず、『MIA<消息不明or任務中死亡>』という扱いになった。

 

そして奏の死とそれによる翼の消沈。エルシドは翼を戦闘面で支えた。

 

「(だが今回の事で思い知らされる。俺は『シジフォスの代わり』は勤まらない事がな・・・)」

 

元々堅物で不器用な自分が誰かの代わりができるとは思えなかった。結局『自分は自分でしかない』。誰かになることなどできないのだ。

 

「(立花。奏の代わりになる必要はない。お前はお前だ。そして翼。己の中の弱さと過去に芯に向き合え)」

 

ゴミ箱に飲み終えたコーヒー缶を捨てエルシドは二人の少女の成長を信じる。自分にはそれしかできないからだ。

 

だがエルシドは知らないその『信じる心』が人を育てる人間に最も必要なことであると。

 

 

ーレグルスとエルシドのアパートー

 

エルシドの部屋の隣に部屋をもったレグルスは屋根の上で瞑想をして・・・。

 

「ZZZzzz、ZZZzzz、ZZZzzz」

 

いや寝ていた。

 

 

 

 

各々の夜を過ごすが彼等は知らない。まるで引き寄せ会うかのように新たな『戦姫』と『黄金』が彼等に近づいていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前回考えたレグルスのCVは『宮野真守 (聖闘士星矢Ω白鳥座の氷河)』にしました。


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『呪い』

寮の部屋で未来と課題を片付けていた響は突然の二課から召集を受け制服に着替えて寮を出た(課題を片付けは未来にやってもらいその代わりこと座流星群を一緒に見ると約束して)。寮を出るとすぐ近くに「何か」を抱えたエルシドと合流した。

 

「エルシドさん。あの~その抱えてるのって・・・」

 

「レグルスだ」

 

「ZZZzzz」

 

何とエルシドは寝たままのレグルスを抱えて来たのだ。さっきまで「自分はこのままじゃ駄目だ」と悩んでいた響にとって暢気に寝てるレグルスに若干イラッと来た。

 

「何でレグルス君寝てるんですか」(ピクピク)

 

「夜遅いからな。この時間はとっくに夢の中だ。起こすのも面倒だから無理矢理連れてきたが」

 

「ZZZzzzZZZzzz」

 

「そろそろ起こすか」

 

ゴキン、ゴキンと指を鳴らしたエルシドがレグルスに鉄拳を叩き込む。

 

ガインッ!!

 

「あイタッ!」

 

 

 

ー二課指令室ー

 

「すみません!遅くなりました!」

 

「すまない」

 

「こんばんは皆~」

 

「うんってレグルス君。どうしたのその頭(笑)」

 

指令室に付いた響達を迎え入れる弦十朗と了子だが、レグルスの頭にできたギャグ漫画のタンコブに失笑した。

 

「さぁ?いつの間にかできてた・・・」

 

レグルスも首を傾げていた。響も苦笑いしたが先に来ていた翼は相変わらず顔を合わせない上にエルシドとも距離を空けている。エルシド本人は壁に寄りかかり響とレグルスは隣り合わせで立った。

 

「(エルシド君と翼ちゃん。このままでいいの?)」

 

「(確かにな。だが時には『荒療治』も必要だろう)」

 

弦十朗と了子は『溝』ができてしまったエルシドと翼を気にかけるが今は仕方ないと割りきり話を始める。

 

「で~わ、全員揃ったところで仲良しミーティングを始めましょう♪」

 

響は翼にチラリと翼に目を向けるが翼は一瞥もくれなかった。メインモニターにこれまでのノイズ被害の出現を地図で表されていた。弦十朗が響に質問をする。

 

「どう見る?」

 

「・・・いっぱいですね」

 

「確かに」

 

真面目に答えるアホコンビに弦十朗に笑いエルシドは無表情を決め込むが翼は不快そうな様子。

 

「これはこの一ヶ月に渡るノイズの発生地点だ。ノイズに関して響くんが知ってることは?」

 

「テレビのニュースや学校で教えて思った程度ですが。まず無感情で機械的に人間だけを襲う事。そして襲われた人間が炭化してしまう事。時と場所を選ばずに突然現れて周囲に被害を及ぼす『特異災害』として認定されている事」

 

「以外と詳しいな」と褒める弦十朗と照れる響。

 

「そうね。ノイズの発生が国連の議題に載ったのは十三年前だけど、観測その物はもーと前に前からあったわ。それこそ世界中に太古の昔から」

 

「世界の各地に残る神話や伝承に登場する数々の異形はノイズ由来のもなが多いだろうな」

 

「(って事は『冥闘士』や『海闘士』や『聖闘士』の鎧の元もノイズなのか?)」

 

弦十朗の言葉から考察するレグルス。

 

「ノイズの発生率は決して高くないの。この発生件数は誰の目から見ても『異常事態』。だとするとそこに何らかの『作為』が働いていると考えるべきでしょうね」

 

「『作為』って事は誰かの手によるものだと言うんですか?」

 

「状況から見てみるとそうだな」

 

「問題は『誰が』ノイズを使っていることだが『目的』はおそらく」

 

「中心点であるここ。私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です。『サクリストD デュランダル』を狙って何らかの『意志』がこの地に向けられていると照査となります」

 

レグルスとエルシドと翼が考察する。

 

「あの、『デュランダル』って一体・・・」

 

「(デュランダル。英雄ローランが使う聖剣か)」

 

響の質問にアオイと朔也が答える。

 

「ここよりも更に下層。『アビス』と呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究している。『ほぼ完全状態の聖遺物』。それがデュランダルよ」

 

「翼さんの『天羽々斬』や響ちゃんの胸の『ガングニール』のような欠片は『奏者』が歌って『シンフォギア』として再構築させないとその力を発揮できないけど。『完全状態の聖遺物』は一度起動すれば常時100%の力を発揮し更には『奏者』以外の人間も使用できるであろうと最近の研究で分かったんだ」

 

「それが私が提唱した『桜井理論』!だけど『完全聖遺物』の起動には相応のフォニックゲイン値が必要なのよね。例外がいるとすれば・・・」

 

了子はレグルスとエルシドを見る。

 

「同じ『完全聖遺物』でも起動には己の肉体と感性を極限まで鍛え上げた奇跡の力『小宇宙』を必要としそれを体得した聖闘士位ね」

 

その時一瞬だが了子の目に妖しい光が走ったが『約三名』を除いて誰も気付かなかった。響はよく分からず頭を抱えたが。弦十朗が切り出す。

 

「あれから二年。今の翼の歌であれば或いは・・・」

 

弦十朗の言葉に険しい顔をする翼。

 

「(そういえば。奏やシジフォスが死んだあの事件でのツヴァイ・ウィングのライブは起動実験も兼ねてたんだよな)」

 

レグルスは二年前の事件の裏側を思い出す。

 

「そもそも起動に必要な日本政府からの許可って降りるんですか?」

 

「いや。それ以前の話だよ。安保を盾にアメリカが再三のデュランダルの引き渡しを要求しているそうじゃないか。起動実験処か扱いに関しては慎重にならざる得まい。下手すれば国際問題だ」

 

「どうゆう事エルシド?」

 

「つまり、日本が強力な聖遺物を持つことがアメリカは気に入らないんだろう。自国の利益になりそうだからデュランダルを寄越せと言ってるんだ」

 

「はぁ?ノイズの被害よりも自国の利益なの?ノイズ退治の為だけに使うならまだしも」

 

「恐らく軍事利用が目的だろうな」

 

レグルスとエルシドは『異世界』とはいえ『未来』でも『戦争』を好んで行う人間の存在に嘆かわしいと言わんばかりのため息をこぼす。

 

「そんな」

 

「まさかこの件、米国政府が糸を引いてるなんて事は?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

アオイの言葉に全員が沈黙した。

 

「調査部の報告によると。ここ数ヶ月の間に数万回に及ぶ本部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。流石にアクセスの出所は不明。それらを短絡的に米国政府の仕業と断定できないが。」

 

弦十朗の言葉に翼はコップを握りつぶし、エルシドは不快そうに目を鋭くし、レグルスは震えるほど手を握り、響は悲しそうに俯く。命懸けで戦ってる戦士達にとって政治家達の下らない腹芸に振り回されるのは我慢ならないのだ。

 

「勿論痕跡は辿らせている。本来こうゆうのこそ俺達の本業だからな」

 

弦十朗がやれやれと言わんばかりに話すと翼のマネージャーである二課の職員『緒川慎次』が前に出る。

 

「風鳴指令」

 

「おぉそうか、そろそろか」

 

「今晩はこれからアルバムの打ち合わせが入ってます」

 

「「え?」」

 

響とレグルスは?となる。

 

「表の顔ではアーティスト 風鳴翼のマネージャーをやってます」

 

そう言って緒川は伊達メガネと掛けて名刺を渡す。

 

「おぉ名刺もらうなんて初めてです!これは結構なものをどうも」

 

「よろしくな。慎次」

 

「だからレグルス君!いきなりフランク過ぎるよ!」

 

「構いませんよ。よろしくお願いしますねレグルス君」

 

「おう!」

 

「本来ならエルシドも翼さんのボディーガードとして一緒に行く筈なんですが・・・」

 

「必要ありません。行きましょう緒川さん」

 

そう言ってエルシドと全く目を合わせず去ろうとする翼。後を追う緒川はエルシドとすれ違い際に目が合い。

 

「(申し訳ない緒川殿)」

 

「(気にしないでくださいエルシド。これも仕事ですからね)」

 

「(・・・今度奢らせていただく。翼を頼む)」

 

「(はい)」

 

この間僅か0.5秒。翼と緒川は指令室を出ていった。それを確認した後、響が口を開く。

 

「私達を取り囲む驚異はノイズばかりではないんですね」

 

「ノイズって驚異があるのにな」

 

響とレグルスの言葉に大人達は申し訳なさそうに頷く。

 

「何処かの誰かがここを狙ってるなんて。あんまり考えたくありません」

 

「大丈夫よ♪なんたってここはテレビや雑誌で有名な天才考古学者、桜井了子が設計した人類史部の砦よ。先端にして異端なテクノロジーが悪い奴等なんか寄せ付けないんだから♪」

 

「よろしくお願いします」

 

響は了子にお願いする。レグルスもいつもの能天気な笑顔を浮かべ、エルシドは無表情に目をつむっていた。了子は満足そうに頷いた。

 

 

通路を歩きながらスケジュールを翼に伝える緒川。

 

「それから例のイギリスのレコーダー会社からのお話ですが・・・」

 

「その話は断っておくように伝えたはずです。私は剣。戦う為に歌っているにすぎないのですから」

 

そう言うと翼は足早に歩き出した。

 

「翼さん、怒ってるんですか?」

 

ガングニールの事やエルシドの事でって言葉は飲み込んだ緒川の言葉に翼は。

 

「怒ってなどいません!剣にそんな感情等備わっておりません」

 

「感情がなければ歌は歌えないと思うんだけどな・・・」

 

翼はまた歩き出すが緒川は早打ちでメールを作成し送信して翼の後を追った。

 

指令室から離れ休憩所で寛ぐレグルス・響・エルシド・了子・弦十朗・朔也・アオイ。

 

「どうして私達はノイズだけでなく人間同士でも争っちゃうんだろ?どうして世界から争いがなくならないんでしょうね」

 

響は現実の争いに悩みだす。

 

「それはきっと・・・人類が呪われているからじゃないかしら?」

 

響の耳元で囁く了子は響の耳を軽く噛む。

 

「ひゃああああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

悲鳴を上げる響。

 

「あ~ら、おぼこいわね。誰かのものになる前に私のものにしちゃいたいかも」

 

色っぽい流し目と声を響に向け、「誰か」の部分でレグルスに目を向けたがレグルスは「?」と首を傾げるだけだった。朔也とアオイは苦笑いを浮かべ、響は顔を赤らめた。それが了子の行為に対したかレグルスに対したかは本人しかわからない。そしてレグルスは了子の言った『呪われている』の言葉を考えていた。

 

「(呪われているか・・・じゃあ神話の時代から戦ってきた俺達聖闘士は特に呪われているのかな?)」

 

 

 

翌日、レグルスは響の通う学校の屋上から響達の歌を聞いていた。

 

「ふ~ん。これが響達の学校の校歌ってやつか・・・なんかどっかで聴いたような気がするな・・・ん?歌が止まった?」

 

レグルスは鍛え向かれた聴覚で歌が聴こえた所に耳を傾ける。

 

「あ~、なんか響、怒られてるな」

 

後で会いに行こうと考えのんびり寛ぐレグルスだった。

 

 

昼休み。また課題をやる響は悲鳴を上げた。

 

「人類は呪われている!むしろ私が呪われている!!」

 

課題をやりながら創世と弓美にご飯を食べさせてもらう響。ご飯を食べて幸せそうな笑顔を浮かべて何を言っとるとツッコミが飛んできそうだが。代わりに未来がツッコム。

 

「ほら、おバカな事やってないで、レポートの締め切りは今日の放課後よ」

 

「だからこうしてムグムグ限界に挑んでるんだよムグムグ」

 

「まぁアニメじゃないんだし。こんなことして捗るわけないしね♪」

 

そう言って立つ弓美。

 

「え?手伝ってくれてたんじゃないの」

 

詩織も立ち上がり。

 

「これ以上お邪魔するのも忍びないので。屋上にてバドミントン等どうでしょう?」

 

「お、いいんじゃない!ヒナはどうする?」

 

「うん。今日は響に付き合う。レポート手伝うってそう約束したし」

 

感激する響。詩織がちゃかす。

 

「仲が宜しい事で♪ビッキーあんた男とかいないの」

 

「(男?)」

 

響の頭に能天気に笑う少年の顔が。

 

「(ちがう!ちがう!ちがうから!レグルス君とはそんなんじゃないから!そう翼さんやエルシドさんみたいな『相棒』みたいなアレで!!)」

 

誰もなにも言ってないのに心の中で必死に言い訳する響を無視して弓美達は屋上に向かった。

 

「響。大丈夫?」

 

「大丈夫!大丈夫!・・・それよりも。ありがとう未来」

 

「ん?」

 

「一緒に流れ星見よう」

 

「うん//」

 

その様子をレグルスは屋上から見守っていた。気配を完全に消しているので誰にも気付かれなかった。

 

夕方。レポート提出が終わり一緒に流れ星を見られるとはしゃぐ響と未来。未来が教室に鞄を取りに向かった直後。

 

ピリリリ!ピリリリ!

 

「はい・・・」

 

ノイズの出現を聞いた響はすぐに向かうと言って連絡を切る。

 

「響」

 

後ろを振り替えるとレグルスがいた。

 

「レグルス君・・・」

 

「ノイズは俺が処理しておくから響はあの子と・・・」

 

「行くよ私」

 

「だけど」

 

「ここでノイズを放置したら翼さんに認めてもらえない」

 

「・・・・・・分かった。なるべく早く処理しよう」

 

そう言って二人は本部に向かう。未来が戻ってきたときには誰もいなかった。

 

「響?・・・・・・」

 

未来の声が誰もいない廊下に響いた。

 

 

 

 

響は現場に付くと未来に連絡をする。地下鉄の入り口にいるノイズ達はレグルスが睨みを利かせ動けなくした。響は連絡が終わると鋭い目をノイズに向け『戦いの歌』をレグルスはレリーフから聖衣を呼ぶ!

 

「♪~♪~♪~♪」

 

「レオッ!!」

 

黄色い閃光と黄金の閃光が走り。シンフォギアを纏う戦姫と最強の獅子がノイズに立ち塞がる!軽快かつ力強い歌を唄いながらノイズを倒す響。だがやはりおっかなびっくりした戦い方が目立つ。レグルスはまるで蝿でも払うかのようにノイズを倒す。地下ショッピングに進む二人は一際大きい反応があるノイズがいると弦十朗から聞く。

 

『間もなく翼とエルシドも到着する。いいか、くれぐれも無茶はするな』

 

「わかってます!私は私にできる事をやるだけです!」

 

「そんじゃ行くぜ!響!」

 

「うん!」

 

ノイズを蹴散らしていく二人。だが葡萄の人形みたいなノイズが葡萄の実を外し転がす。するとその実が爆発した!

 

「うわっ!」

 

「響!」

 

爆発の影響で地下の一部が崩れ天井が落ちる!葡萄ノイズは自分だけ逃げる。瓦礫に下敷きになった二人だが・・・。

 

「大丈夫か?響」

 

「見たかった・・・」

 

「ん?」

 

瓦礫を吹き飛ばす。そのままノイズに突撃する響!

 

「流れ星!見たかった!未来と一緒に!流れ星見たかった!!」

 

怒りのままにノイズを蹴散す響。レグルスは傍観していた。

 

「(響)」

 

「うおおおおおぉぉぉぉッッ!!」

 

地下鉄の方に逃げた葡萄ノイズに追い付いた響とレグルス。だが響の怒りは収まらない!

 

「あんた達が!」

 

八つ当たりのように壁にヘッドバットや殴るをする響。

 

「誰かの約束を侵し!」

 

その目に危険な光が蠢き。葡萄ノイズはモイダ実を新たなノイズにして逃げようとするが。

 

「嘘のない言葉を!・・・争いのない世界を!何でもない『日常』を!」

 

襲いかかるノイズを振り払う。

 

「剥奪すると言うのなら!」

 

まるで獣のようにノイズを蹂躙する響。

 

「響!やめろ!それじゃダメだ!ダメだよ!」

 

レグルスは響を抑える!

 

「うああああぁぁぁぁぁッ!!」

 

それでも暴れる響。

 

「響!落ち着け!落ち着くんだッ!」

 

葡萄ノイズは爆弾をぶつけるがレグルスは響を庇った。

爆発が二人を襲うがレグルスと響には傷一つ無かった。神話の時代から一度も破壊されなかった黄金聖衣にはノイズの攻撃など蚊に刺された程度のダメージにもならないなのだ!

 

「あ?あれ?私・・・」

 

「響大丈夫か?」

 

「うわっ!レグルス君何で私を抱き締めてるの/////!」

 

「覚えてないのか?」

 

「?何を?それよりもノイズは?」

 

葡萄ノイズは逃げようと天井に爆弾を叩きつけ破壊し脱出しようとする。

 

「あ!逃げる!」

 

「!大丈夫だ、アレ」

 

レグルスが指差す方を見ると蒼い流星が。

 

「流れ星・・・」

 

「いや、あれは」

 

逃げようとするノイズを流れ星から放たれた蒼い斬撃が切り裂く。地上に出た響とレグルスの前に『蒼ノ一閃』を放った翼が背を向けたまま降り立つ。

 

「・・・・・・」

 

響は無言の翼に向かって叫ぶ。

 

「私だって『守りたいもの』があるんです!だから!」

 

遊び半分じゃない意思を翼に伝えようとする響。だが翼は響に目を向けず剣を構える。

 

『だから、んでどうすんだよ!』

 

「「「!?」」」

 

突然知らない声が響いた!三人は声のする方に目を向けるとそこには!

 

白銀の鎧に顔はバイザーで隠された『何者』かが現れた!その人物を見て翼は顔を驚愕に染めて呟く。

 

「『ネフシュタインの秘宝』・・・」

 

それは二年前に行方不明になった聖遺物であった。

 

「エルシド、何かワケ分かんない奴が出てきたよ。エルシド?」

 

ガガガガガガガガ!

 

「(エルシドと連絡が取れない一体何が?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルシドはノイズを殲滅し皆と合流しようとしたら突然全身を『冷気』が襲い。『氷の壁』が立ち塞がり『氷の壁』はエルシドの周辺を覆い隠し『氷のドーム』を作った。

 

「(この冷気はまさか!)『デジェル』ッ!お前なのか!?『デジェル』ッ!?」

 

「久しぶりだなエルシドよ・・・」

 

エルシドの後ろから誰かが現れた。エルシドは振り向くと冷気の煙の中からやって来た『その男』は。

 

腰にまで届く翠色の長い髪。

 

端麗な顔立ちをした美男子。

 

その雰囲気は季節外れの冬の使いが現れたような出で立ち。

 

そこにいるだけですうーッと涼しげな空気が舞う。

 

だがその姿はエルシドと異なる形をした黄金聖衣。

 

その男は。

 

その知識は教皇の補佐を務めるほどの知謀を持つ聖闘士!

 

『氷の魔術師』と異名持つ黄金聖闘士!

 

『水瓶座<アクエリアス>のデジェル』!!

 

四人目の黄金聖闘士が氷雪を纏いながら現れた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い洞窟。都市部から離れた洞窟でその者は瞑想していた。

 

「エルシド、レグルス。そしてデジェル。黄金聖闘士がまるで引き寄せ会うかのようにこの地に集ったか・・・どれ私もたまには俗世を歩いてみるか・・・・・・」

 

金色に輝く髪を腰にまで伸ばした青年は洞窟を抜けようとする。『目を閉じた』状態にも関わらずその青年は真っ直ぐ出口へ向かう。

 

彼が座していた場所の後ろの岩の上に『乙女が描かれたレリーフ』が置かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです!次回は奏者達に聖闘士設定を少し入れます!


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ネフシュタイン襲来 血塗れの絶剣

今回は作者のオリ設定があります。


『氷のドーム』に閉じ込められたエルシド。そこに現れた盟友『水瓶座<アクエリアス>のデジェル』に遭遇した。

 

「デジェル。お前もこの『世界』に来ていたのか?」

 

「そうだ、数年前にな。お互い若返ったな」

 

そう。エルシドにしろデジェルにしろシジフォスにしろ20代の年齢に関わらず19歳位まで若返ってしまっていたのだ。

 

「それよりも、どうゆう積もりだ。俺は直ぐにあいつらの所に行かなければならないのだが」

 

鋭い目付きを更に鋭くしてデジェルを睨むエルシド。

 

「すまないが。ようやく見つけた『あの子』に降りかかる火の粉はできるだけ振り払っておきたいのでね」

 

普通の人間なら萎縮してしまうエルシドの睨みをものともしない。エルシドは手刀を構えて言う。

 

「デジェルよ。分かっていると思うが、俺は嘗ての盟友とはいえ邪魔をすると言うのなら」

 

「無理矢理にでも退かすか・・・だが私もお前と戦おう等と考えてはいない。少しの間大人しくしてもらう」

 

「!」

 

エルシドはデジェルに向かい手刀で斬撃を放つが目の前にいたデジェルが『消えた』。

 

「?!『氷に写った影』。デジェルはこのドームの外か・・・(ピッ)本部聴こえるか?レグルス。立花。翼」

 

ザザザザザザザザ!

 

『氷のドーム』が電波を遮断しているのか指令室や翼達と連絡が取れない状態になった。エルシドはドームを破壊しようと手刀を叩き込むが。

 

ガキンッ!!

 

「?!」

 

何と『この世の万物を切り裂く聖剣』とまで言われたエルシドの手刀でも傷一つ付けられなかった。

 

「・・・・・・」

 

エルシドはどうしたものかと氷の壁を見つめていた。

 

 

ードーム外ー

 

デジェルはエルシドを閉じ込めたドームを見ていた。

 

「すまないがエルシド、そのドームは黄金聖闘士が数人がかりでも破壊することのできない『氷の棺<エターナル・コフィン>』の劣化版だが、そう簡単には破壊できないぞ(これでエルシドを少しだが足止めすることができる)」

 

デジェルはそのままレグルス達の元に走る。そこにいる『少女』の元へ。

 

 

ー二課指令室ー

 

指令室は二重の意味で騒然となっていた。エルシドのいた地点に突然現れた『氷のドーム』。翼達の前に現れた二年前に行方不明になった『完全聖遺物 ネフシュタインの鎧』が現れたのだ。

 

「ネフシュタインだと?!バカな!現場に急行する!何としても鎧を回収しエルシドを救出するんだ!」

 

弦十朗が指示を飛ばし了子もシリアスな顔で頷く。

 

 

ーレグルスsideー

 

突然目の前に現れた少女は白く紫色の刺々しい結晶が装備された鎧を纏っていた。装着者はやや高い声に女性らしい丸みを帯びたプロポーションと手足もシュッと細くスラッとしたスタイルに不釣り合いな豊満な胸が『女性』である事を現していた。

 

「ネフシュタインの鎧・・・」

 

「へぇー、てことはあんた、この鎧の出自を知ってんだ?」

 

苦々しい声で翼は呟き『少女』の方は嘲笑が混じった声で笑う。翼にとって自分の不始末で『何者』かに奪われた物が目の前に現れたのだ。そして不手際で失った『命<奏>』の事を。翼は戦いの歌を唄いながら大剣になった剣を構える。『少女』も不敵に笑いながら構える。

 

「(奏とシジフォスを失った事件の疑念と奏の残したガングニールのシンフォギアとシジフォスの甥っ子の聖闘士。時を経て再び揃った巡り合わせ。だがこの残酷<現実>は私にとって心地いい!)」

 

だが響は翼の腰に抱きつき翼を止める。

 

「やめてください翼さん!相手は『人』です!同じ『人間』です!」

 

「「戦場に何をバカな事を!!あっ」」

 

「ハモったな」

 

『人間同士』で戦う事を嫌がる響に怒鳴る翼と『少女』。レグルスはそんな二人を揶揄する。翼と『少女』はお互いを見ると好戦的な笑みを浮かべ。

 

「どうやら貴女と気が合いそうね」

 

「だったら仲良くじゃれ会おうぜ!」

 

『少女』は紫の結晶の鞭を振るう!翼は響を突飛ばし上に飛ぶ!突飛ばされた響はレグルスがキャッチ。

 

歌を唄いながら『蒼ノ一閃』を放つが『少女』は鞭を振るって斬撃を『少女』の横の森に弾く。余裕の笑みを浮かべる『少女』。翼は追撃のように攻撃を繰り出す。早さとしなやかさを使った動きで攻撃するがすべて防がれる。

 

「ニッ!」

 

「?!」

 

つばぜり合いになったが腹を蹴られ後ろに大きく飛ばされる翼。

 

「(これが『完全聖遺物』のポテンシャル?!)」

 

「ネフシュタインの力だと思わないでくれよな。まだまだこんなもんじゃねえぞ!」

 

翼に向かって鞭を振るう『少女』。翼は鞭をかわすが。地面が。木が。翼がかわす度に破壊されていった。

 

「翼さん!」

 

「(鞭は中距離・遠距離戦闘でその真価を発揮ししなやかに曲がるから軌道が読みづらい武器だ。近距離戦闘が主体の翼や響だとかなり苦戦するな)」

 

『人間同士の戦い』を嫌がり戦いに参戦できない響と違い。レグルスは冷静に相手の『少女』を分析する。『少女』は響に目を向けると

 

「お呼びじゃないんだよ!コイツらとでも相手してな!(それに黄金聖闘士が割り込んで来ないようにな!)」

 

『少女』は杖のような武器を構えて『何か』を射出した。響の前にノッポのてっぺんに嘴をつけたノイズが4体。レグルスの前に大山椒魚の大型が6体現れた。

 

「ノイズが操られている?!」

 

「(まさかアイツが?)」

 

レグルスは大型ノイズの攻撃をかわすが響はノイズが嘴から出した粘液に絡まれ動けなくなっていた(レグルスは元々一対一の戦いに参戦するのは聖闘士的にもレグルスの性格的にもできないのだが)。翼は注意が逸れた一瞬の隙をつき再び『少女』のつばぜり合いをする。

 

「その二人にかまけて私を忘れたか!?」

 

蹴り技で攻撃するが防がれ脚を捕まれ。

 

「お高く止まるな!」

 

投げ飛ばされた翼の飛ばされた先へ先回りし横顔を踏む。

 

「逆上せ上がるな人気者!誰も彼も構ってくれると思うんじゃねえ!」

 

「くッ」

 

「この場<戦場>の主役と勘違いしてるなら教えてやる。狙いは最初っからコイツをかっさらう事だ!」

 

「えッ?」

 

「(響が狙いなのか?)」

 

驚く響とレグルスをよそに『少女』は喋る。

 

「『鎧』も『仲間』も『相棒』もアンタには過ぎてんじゃないのか?」

 

だがそれでも翼の目には闘志があった。

 

「繰り返すものかと私は誓った!」

 

剣を上に向けると無数の剣が降ってきた『千ノ落涙』だ。『少女』は翼から離れ剣をかわす。翼も起き上がった。そして二人のぶつかり合いで爆発を起こしながら戦っていた。粘液に絡まれていた響は脱出しようとするが。

 

「そうだアームドギア!『奏さんの代わり』になるには私にもアームドギアが必要なんだ!それさえあれば!」

 

アームドギアを呼び出そうとするが。

 

「出ろ!出てこい!アームドギア!!」

 

反応は起きなかった。

 

「何でだよ、どうすればいいかわからないよ」

 

「んじゃ少し大人しくしてて響」

 

「!?レグルス君!」

 

泣き言を吐く響の目の前にレグルスが立っていた。響を拘束していたノイズ達も目の前に現れたレグルスに目を向けようとしたが。突然ノイズ達の頭が『吹き飛んだ』。一瞬の内にレグルスはノイズ達を倒していたのだ。拘束が解かれよろける響をレグルスは抱き止める。

 

「レグルス君、いつの間に」

 

レグルスは翼達の戦ってる場所を親指で指差す。

 

「行けるか?」

 

「・・・・・・うん」

 

「上等(ニッ)」

 

二人は土煙が舞う場所に向かう。何度目かになるつばぜり合いをする翼と『少女』。

 

「鎧に振り回されて要るわけではない。この強さは本物?」

 

「ここでふんわり考え事とは!」

 

『少女』の蹴りをかわしバク転で距離を開ける翼。『少女』は杖を向けるとノイズの集団が現れた。ノイズは翼を襲うがノイズを切り伏せ『蒼ノ一閃』をノイズもろとも『少女』に放つ。土煙から出て鞭を振るうが翼は鞭を弾き接近戦を繰り広げる。翼は『小刀』を三本投げるが鞭で弾かれる。『少女』は鞭を振るい先端から白黒のエネルギーボールを放つ。

 

『NIRUBANA GEDOn』

 

翼は大剣でそれを防ぐ。響とレグルスも到着する。

 

「翼さんッ!!」

 

「くぅ・・・ぐぅッ」

 

防いだボールが爆け爆発する。翼は吹き飛んばされ倒れる。レグルスはそんな翼に『違和感』を感じていた。

 

「(あれ?翼って『あんなに弱かったけ』?それに『動きも悪いし』初めて見た時の方が強かったような?)」

 

「ふん!まるで出来損ない」

 

『少女』から侮蔑の言葉をぶつけられる。

 

「確かに。私は出来損ないだ・・・」

 

「はぁん♪?」

 

「『アイツ』の様にこの身を一振りの剣と鍛えてきた筈なのに・・・あの日無様に生き延びてしまった・・・出来損ないの剣として恥を晒してきた・・・『アイツ』と『双刃』と呼ばれる『資格』すら私にはない・・・」

 

翼の脳裏に遥か『高み』にいる『アイツ』の『背中』が浮かんだ。剣を地面に突き立て立ち上がる翼。

 

「だが・・・それも今日迄のこと・・・奪われたネフシュタインを取り戻すことで・・・この身の汚名を注がせてもらう!(その時こそ私は奏の『思い』をエルシドと『背中』を合わせる『資格』を・・・)」

 

「(そっか、翼も『探して』いるんだな)」

 

顔を上げた翼から『自分と同じ』モノを直感したレグルス。

 

「そうかい。脱がせるものなら脱がしてッ?!何!?」

 

突然体が動けなくなった事に戸惑う『少女』は自分の影に先程弾いた『小刀』の一本が刺さっていた事に気付く。相手の影に小刀を突き刺し動きを封じる翼の技。

 

『影縫い』

 

「あれってさっきあの子が弾いた翼さんの」

 

「そうか『攻撃』ではなく『拘束』が目的だったんだな」

 

「くっこんなもんで私の動きを!?!まさかお前・・・」

 

『少女』は翼の意図に感づく。

 

「月が覗いている内に決着をつけましょう」

 

その翼の顔は。どこか穏やかにだが恐ろしい笑顔だった。

 

「(あの目。『死を決意』した者の目?!)」

 

「歌うのか?絶唱を」

 

「翼さんッ!」

 

「防人の生きざま!覚悟を見せてあげる!貴女の胸に焼き付けなさい!」

 

駆け寄ろうとする響に翼が一喝する。その迫力に響は萎縮する。

 

 

ー弦十朗sideー

 

車で現場に急行する弦十朗と了子。

 

「翼ちゃん。唄う積もりなのね」

 

「・・・・・・・・・」

 

了子が呟くが弦十朗は険しい顔をし無言で車を走らせる。

 

 

ーデジェルsideー

 

デジェルはようやくお目当ての『人物』を見つけるが。

 

「(マズイ!このままでは彼女が!)」

 

デジェルは掌から凍気を出す。

 

 

ー???ー

 

彼は暗いトンネルを突き進み天井から月光が射した場所を見つける。たがその時確信にも似た『何か』を直感した。

 

「まさか・・・やめろ・・・やめろ!翼ーーーーーーーッ!!!!」

 

彼の悲痛な悲鳴はトンネルにむなしく反響した。

 

 

ー翼sideー

 

「くそッ!やらせるかよ!好きに!勝手に!ハッ!」

 

悪足掻きをする『少女』に翼は『最後の手段』を行う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

今までと違う歌を唄いながら『少女』に近づく翼。『少女』には翼の姿が『死神』に見えた。杖からノイズ達を出すが翼は既に『少女』の目の前に来ていた。

 

「♪~♪~♪~♪」

 

「ひっ!?」

 

『少女』の肩に手を置き穏やかに微笑む翼。だがその口から『血』が流れた。その瞬間!!

 

ドッゴオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンッッ!!!!

 

「ぐわアアアァァァァァッ!!」

 

翼を中心に『力の波動』が周囲を襲う!『少女』が悲鳴を上げ、ノイズ達は『波動』に呑まれ消滅した。

 

「・・・・・・」

 

「響ッ!!」

 

レグルスは響を庇うが響は呆然としていた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

 

『少女』も鎧を破壊されながら後方に吹き飛ぶがその身体を『氷が覆った』。

 

遥か後方に飛ばされた『少女』は『氷』が防御膜になったおかげでほぼ無傷であったが。

 

「あっ・・・あぁ・・・あぁッ!」(ビキビキ)

 

破損した鎧のさら白い亀裂のような血管が走りビキビキと『少女』の身体を襲う。

 

「チッ!!」

 

舌打ちした『少女』は夜空へと消えて行った。そしてデジェルは『少女』のいた所に着くとその場に『少女』はいなかったが、先程の戦闘で『少女』の『正体』に気付いた。

 

「間違いない。『あの子』だ・・・だが何故だ?何故『あの子』があんな事を・・・」

 

デジェルはレグルス達のいる方に目を向ける。

 

「すまない。レグルス。エルシド。今はお前達と敵対することになるかも知れん。たが・・・だが私は」

 

デジェルはそう呟くと闇の中へ消えた。

 

 

翼が絶唱を行った場所はまさに爆心地と言っても良いぐらいの焼け野原になっていた。その中心に翼が佇んでいた。

 

「翼さーーーんッ!」

 

翼に駆け寄る響。レグルスは察知していた。そして弦十朗達が乗った車も到着した。

 

「無事か?!翼!!」

 

翼は後ろを向いたまま弱々しく呟く。

 

「私とて・・・人類守護の務めを果たす『防人』・・・こんなところで折れる剣じゃありません・・・」

 

振り向いた翼の顔は目から口から大量の血を流しながらもどこかやり遂げた笑顔だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

響はそんな翼の姿に言葉を無くした。翼は別の方向を見るとそこに『エルシド』が立っていた。

 

「遅かったな・・・エルシド・・・」

 

「翼・・・・・・」

 

デジェルに『氷のドーム』閉じ込まめられたエルシドは『地面』を切り裂き『地下鉄のトンネル』からこちらに向かって来たが間に合わなかったのだ。

 

「私は・・・お前の『助け』なんて必要ない・・・私がお前の『背中』を・・・『守る』から・・・」

 

「!!」

 

そう言うと翼は糸が切れた人形のように崩れ落ちるが寸前でエルシドが抱き抱える。弦十朗は慌てて翼とエルシドに駆け寄る。

 

「あ・・・あ・・・」

 

響の目の前は真っ赤に染まっていった。

 

「翼さアアアアアアァァァァァァァァァァんッ!!」

 

響の悲痛な悲鳴は夜空に響いた。

 

「翼ッ!しっかりしろッ!!」

 

弦十朗は翼を仰向けにする。了子も急いでバイタルチェックをしようとするが。

 

「弦十朗殿。翼を抑えといてくれ」

 

エルシドが呟く。

 

「エルシド?何をするつもりだ?」

 

「『シジフォスの置き土産』を使う」

 

「「「!?」」」

 

シジフォスの名前に弦十朗と了子そしてレグルスは驚く。

 

「『シジフォスの置き土産』ってどうゆう事だ?エルシド」

 

レグルスの問にエルシドは無言で人差し指を立てるそして。

 

ブスッ!

 

「「「「!!!!?????」」」」

 

何とエルシドは翼の身体に人差し指を『突き刺した』のだ!その意味をレグルスは察知と驚愕をしたが他の皆はそうは思わない。

 

「エルシド!何を!」

 

「エルシド君!ってえ?」

 

ブスッ!ブスッ!

 

「や・・・やめて・・・」

 

エルシドの行動に戸惑う響。

 

ブスッ!ブスッ!

 

そんな周りの声などお構いなしに翼に指を突き刺すエルシド。

 

「やめてーーー!!」

 

エルシドを止めようとエルシドに突っ込む響だがレグルスが抑える。

 

「落ち着いて響」

 

「何言ってるのレグルス君!!!エルシドさんが翼さんを・・・」

 

「助けようとしてるんだよエルシドは」

 

「え?・・・」

 

「エルシド。それって『生命点』だな?」

 

「あぁ」

 

レグルスの質問にエルシドは肯定する。

 

「レグルス君、『生命点』とは何だ?」

 

弦十朗の問にレグルスは答える。

 

 

『生命点』

聖闘士の身体に存在している急所<ツボ>の事。その部分を繋げると各々の守護星座(聖闘士が生まれながら持つ己を守護する星座の事。守護星座はその聖闘士の纏う聖衣の星座が守護星座である)を形どっておりそれがそのまま肉体への急所になる。その為聖闘士ごとに形や数が大きく異なる。『生命点』には血止めの場所である『真央点』や身体に入った悪い成分を体外に出す急所や痛覚を麻痺させる急所。『自然治癒能力』を高める急所があるのだ。

 

「んで、今エルシドは翼に『血止め』と『心肺機能を活性』させるツボと『自然治癒能力』を高めるツボを突いたんだ」

 

レグルスの説明に驚く響と弦十朗だが、了子は。

 

「確かに、翼ちゃんの出血が止まってるしとバイタルが安定してきているわ。でもレグルス君、その『生命点』って聖闘士限定なんじゃないの?」

 

「その事に関してはエルシドが知ってるんだろ?」

 

全員の目がエルシドに向く。

 

「・・・・・・まだ奏が生きていた頃。奏と翼の模擬戦中にシジフォスが言っていた。奏と翼に『守護星座』が宿っているとな」

 

「「「「!?」」」」

 

エルシドの言葉に全員が驚く。『平行世界』の聖闘士達と同じものを奏者が身に付けていることに。そして響がエルシドに問う。

 

「あの・・・『守護星座』って見える物なんですか?」

 

「いや、聖闘士でもきわめて稀に『見える』人間がいるがシジフォスには確かなかった筈だ」

 

「うん、確かにシジフォスには『守護星座』が『見える』なんて聞いたこともない」

 

「シジフォスも最初は気のせいと言っていたが奏と翼がノイズと戦っていく内にハッキリと『見える』ようになったらしい。シジフォスは言っていた」

 

『奏には『鷲座<イーグルorアクィラ>』が。翼には『鶴座<クレイン>』の『守護星座』が宿っている』

 

「とな。奇しくもシジフォスが翼を助けたんだ」

 

「そっか・・・シジフォスが・・・」

 

エルシドの説明にレグルスは誇らしそうに微笑み。

 

「凄い人何ですね。シジフォスって人」

 

響は顔も知らないがシジフォスの凄さを理解し。

 

「(シジフォス。お前はこの場に居なくても尚奏者達を守ってくれてるんだな)」

 

弦十朗は友に感謝の気持ちを持ち。

 

「(でもなぜ『奏者』に『守護星座』が・・・まさか・・・いやまさかね)」

 

了子は奏者に宿った『守護星座』に疑問を浮かべた。そうこうしてるうちに救護班が到着し、翼は二課本部の医療施設へと運ばれた。そして弦十朗がエルシドに聞く。

 

「エルシド。お前に何が起こった?突然『氷のドーム』みたいなものがお前を閉じ込めて連絡が取れなくなって心配したぞ」

 

「・・・・・・・・・レグルス。来てくれ」

 

響と一緒に翼を見ていたレグルスはエルシドと弦十朗の場所に行く。

 

「何かあったの?エルシド?」

 

「・・・・・・『四人目』が現れた」

 

「「!?」」

 

エルシドの言葉の意味を理解した二人は驚愕する。

 

「『氷のドーム』は黄金聖闘士が「弦十朗!今『氷』って言ったの?」ああ」

 

弦十朗の言葉に誰が来たかレグルスも察する。

 

「『デジェル』が・・・」

 

「ああ、『水瓶座<アクエリアス>のデジェル』だ。しかもどうやら『敵側』みたいだ」

 

「「!!??」」

 

更に驚愕する二人。

 

「(デジェルが『敵側』か。『手加減』が通じるか分からないな)」

 

「(新たな黄金聖闘士。まさか黄金聖闘士が敵と味方に別れるとはな)」

 

今回の戦いはこれから起こる『戦い』の『序章<プロローグ>』に過ぎないと『百戦錬磨の強者』の三人は肌で感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




奏者の『守護星座』は作者の偏見と直感で考えました。他の奏者の『守護星座』も絶賛考え中です。


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撃槍、決意新たに

太陽が登り始めた時、病院に運ばれた翼に緊急手術が行われた。

 

「応急措置が早かったですね。一命はとり止めました。容態も安定していってますが、意識が戻らず予断の許されない状態です」

 

エルシドの『生命点』による応急措置が効いたようだが翼は意識が戻らなかった。手術室では翼は目まで包帯を巻かれ痛々しい状態だった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そんな翼をエルシドは手術の状態が見える部屋で見ていたが緒川から借りたタブレットで翼と“ネフシュタインの少女”の戦闘映像を見ていた。弦十朗はスーツを整え医師からの説明を聞き一緒にいた黒服の人達おそらく二課の諜報部と一緒に頭を下げた。

 

「よろしくお願いします」

 

弦十朗は顔を上げ諜報部の人達の方を振り返り。

 

「俺達は“鎧”の行方を追跡する。どんな手掛かりも見落とすな!」

 

そう言って諜報部と去る弦十朗。響とレグルスは近くの待合室にいた。響は翼の事で落ち込んでいた。

 

「翼の事、響が責任を感じる事ないよ。“絶唱”を使ったのは翼の判断だ。多分響が止めても使ってたよ」

 

「レグルス君、でも・・・私・・・」

 

レグルスの言葉に反応し顔を上げる響だが。それでも自分がああしてればこうしてればと“もしも”の考えを捨てられなかった。

 

「レグルス君の言うとおりです。響さんが気に病む事ないですよ」

 

「緒川さん・・・」

 

緒川は待合室にある自販機に端末をかざし飲み物を出し、淡々と話す。翼は以前ツヴァイ・ウィングを組んでいたガングニールの前の奏者であったが“天羽奏”の事を話した。

 

「二年前のあの日、ノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑えるために奏さんは“絶唱”を解き放ったんです」

 

「“絶唱”・・・翼さんも言っていた」

 

「奏者にとって捨て身の技である最後の手段だな」

 

「奏者への不可を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に打ち出す“絶唱”はノイズの大群を一気に殲滅せしめましたが、同時に奏さんの命を燃やし尽くしました」

 

緒川は悼むように目を瞑る。

 

「それは私を救うためですか?」

 

あの日、ノイズとの戦いに巻き込まれ瀕死の重症を負った響を守る為に奏は“絶唱”を解き放ったと思う響。緒川はコーヒーを一口飲み。

 

「“奏さんの殉職”、レグルス君の叔父であるシジフォスも生死並びに行方不明になりました」

 

「え?今まで話に出てたシジフォスさんって、レグルス君の・・・」

 

レグルスを見る響。

 

「ああ、そういえば言ってなかったな。射手座の黄金聖闘士サジタリアスのシジフォスは俺の父さんの弟だよ。つまり俺の叔父ってこと」

 

二年前に太平洋側と日本海側から飛行型ノイズの襲撃でシジフォスは行方不明になった事を聞く響。二年前のあの事件でレグルスが家族を失ったのだ。

 

「レグルス君・・・その・・・」

 

「気にすんな響。シジフォスは自分の“やるべき事”をやったんだ(俺はその“やるべき事”がまだ分からないけど)」

 

レグルスのいつもの能天気な笑顔ではなく誇らしさと悲しさが混じった“大人の顔”に響と緒川は少し面食らった。話を戻すように緒川が口を開く。

 

「ツヴァイ・ウィングは解散し、二人になった翼さんとエルシドは奏さんとシジフォスの抜けた穴を埋めるべくお互いに支え合いながら戦ってきました。それこそ“聖剣”と“絶剣”で“双刃”と呼ばれる程に。同じ世代の人達が知って然るべき“恋愛”や“遊び”と言った“青春”も覚えず、自分を殺し二人とも“剣”として生きてきました。そして今日、翼さんは“剣”としての“使命”を果たすため死ぬことすら覚悟して歌を唱いました」

 

「エルシドもそうだけど、翼も相当だな。流石“相棒”って所かな?」

 

「ええ、“不器用”なんです。でもそれが“風鳴翼の生き方”なんです」

 

緒川の話に響は涙を流す。

 

「そんなの、酷すぎます・・・」

 

嗚咽も洩らしながら涙する響。

 

「・・・そして私は翼さんの事なんにも知らずに、“一緒に戦いたい”だなんて、“奏さんの代わり”になるなんて・・・」

 

「・・・・・・」

 

ソッとレグルスは響の頭を撫でる。

 

「響、前にも言ったけど“響は響”だ。“奏の代わり”になる必要なんてない。響は響で頑張ればいいんだ。少なくとも俺とエルシドは響に“奏の代わり”になんてならなくてもいいと思ってる」

 

「僕も“奏さんの代わり”になって貰いたいだなんて、思っていません。そんな事誰も望んでません」

 

「でも私のせいで翼さんとエルシドさんが・・・」

 

二人の仲違いの原因は自分ではないかと響は考えてしまう。

 

「いいえ。エルシドは翼さん以上に不器用な人なんです。誰よりも翼さんに“厳しい”ですが、誰よりも翼さんを“信頼”しているのもエルシドなんです。翼さんとのコンビ解消は翼さんに少し一人で考えさせようとしたからだと思います」

 

一人で戦いながら翼に目の前にいる響の事をちゃんと見るようにしていたのだ。もちろん弦十朗や了子もエルシドの考えを理解したからこそ“荒療治”を了承したのだ。

 

「エルシドにはかつて自分を慕う“部下達”がいたんだ。でもエルシドは危険だと思う戦場に部下を連れていこうとはしなかった。着いてきたとしても待機を命じる程にな。そんなエルシドがコンビを組んでいたってことは翼の事ちゃんと認めてたんだな」

 

レグルスは、エルシドは不器用だが実は情に深い男であると告げる。緒川は響とレグルスに言う。

 

「ねえ響さん、レグルス君。僕からのお願いを聞いて頂けますか?」

 

涙を拭って響はレグルスと緒川に向き合う。

 

「翼さんの事、嫌いにならないでください。翼さんとエルシドを世界で“二人ぼっち”にしないでください」

 

それは二人を近くで見てきた緒川慎次の願いだった。

 

「「・・・・・・・・・はい(おう)」」

 

響とレグルスは決意を込めて頷く。

 

 

 

 

ーエルシドsideー

 

エルシドはタブレットで翼の戦闘映像を見る。

 

「(翼・・・・・・完全に動きが悪い。立花の事、相手が“ネフシュタン”であることで気持ちに“揺らぎ”が生まれ相手に遅れを取ったんだな)」

 

“ネフシュタンの少女”も決して弱くないが黄金聖闘士から見れば翼と大差ない戦闘力であると見切ったのだ。

 

「(本来の翼の実力なら苦戦することはなかったが、“実力が拮抗した相手”と戦うには今の翼では・・・

)」

 

実力が拮抗した相手との戦いは僅かな精神面での揺らぎが勝敗を分けるのだ。エルシドはまだ手術中の翼を見る。

 

「(翼、お前は今生死の境をさ迷っている。お前はこのまま終わるのか?)」

 

 

 

 

 

ー翼sideー

 

そこは夢か現か幻か、雲が広がる大空を風鳴翼はまっ逆さまに落ちていった。そんな自分のすぐそばを“誰かが”飛んだ。

 

「ッ!」

 

落ちていった翼は体制を直しその“誰か”に目を向ける。

そこにいたのは・・・。

 

「・・・・・・」

 

長い赤い髪をした見覚えのあるその背中。顔を少し振り向いたその人は、自分の片翼と言って良い少女“天羽奏”。翼は奏に向かって叫ぶ。

 

「片翼だけでも飛んでみせる!」

 

悲しそうに、辛そうに翼は叫ぶ。

 

「どこまでも飛んでみせる!」

 

『・・・・・・・・・』

 

奏の目は悲しそうな眼をしていた。

 

「だから笑ってよ!奏!」

 

翼は深い海の底に沈むように落ちていった。奏は相変わらず悲しそうにしていたが。

 

『情けないな・・・』

 

奏の近くに別の少女と三人の少年達がいた。

 

『あれがお前の片翼か・・・どんな奴かと思えば・・・お前達はどう見る?』

 

期待はずれと言わんばかりの少女は少年達に問う。

 

『まだまだ未熟だな』

 

少年達を代表して黒髪の少年が言う。

 

『ーーーー様が背中を任せていると言うのに』

 

『ま、これで終わるのか見定めて見ようぜ』

 

『貴女はどうします?』

 

少年達は少女と奏に問う。

 

『・・・私も見定めてみるとしよう。お前は?』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

少女からの問いにも奏は何も言わなかった。

 

 

 

 

翌日のリディアン音楽院。響とレグルスは屋上のベンチに座っていた。ふと響が呟く。

 

「奏さんの代わりだなんて・・・・・・」

 

響の脳裏に指令室での会議が浮かんだ。指令室で“ネフシュタインの鎧”やそれを纏った“少女”や敵側として現れた“四人目の黄金聖闘士デジェル”の事だ。

 

「気になるのは、“ネフシュタインの鎧”を纏った“少女の狙い”が響君だと言うこと、そしてその“少女”を守るようにエルシドの妨害をした水瓶座<アクエリアス>のデジェルの行動だな」

 

「それが何を意味してるのかは全く不明」

 

「いいや」

 

「え?」

 

了子の言葉を否定する弦十朗。

 

「『個人』の特定しているのであれば、我々二課の存在も知ってるだろうな」

 

弦十朗の言葉に朔也とあおいはある“可能性”を言う。

 

「“内通者”ですか」

 

「なんでこんなことに・・・」

 

「私のせいです・・・」

 

響が呟く。

 

「私が悪いんです・・・“二年前”も今度の事も・・・私がいつまでも未熟だったから翼さんが・・・シンフォギアなんて強い力を持っていても・・・私自身が至らなかったから・・・・・「自惚れるな立花」エルシドさん・・・」

 

指令室に入ってきたエルシドが響の言葉を切り捨てる。

 

「エルシド。翼は容態は?」

 

「今は集中治療室の治療ポットの中で絶対安静状態だ。予断は許されないが、今俺のいや俺達のやるべき事は“ネフシュタンの少女”や“デジェルの事”だ」

 

相棒が倒れても自分のやるべき事を理解し行動に起こせるエルシドはまさにプロフェッショナルだった。

 

「それよりも立花。シンフォギアという“力”を手に入れて自分は何でもできると思ったのか?」

 

「ッ・・・」

 

エルシドの言葉に響は図星と云わんばかりに息を飲む。

 

「お前は“力”を手に入れてそれがどうゆう物かを理解せず、ただがむしゃらに振り回しているだけのヒヨッコだ。お前が未熟だというのは百も承知だ。泣き言を吐いている暇があるならその“力”をどう使えば良いか己で考えてみろ!」

 

「エルシド君!」

 

「流石に言い過ぎだぞ!」

 

エルシドの言葉に朔也とあおいは意見するが。響は顔を伏せたまま立ち上がり。

 

「エルシドさん・・・知ってましたか?翼さん、泣いていました・・・翼さん強いから戦い続けたんじゃありません・・・ずっと泣きながらもそれを押し隠して戦ってきました・・・悔しい涙も・・・覚悟の涙も・・・誰よりも多く流しながら・・・エルシドさんみたいな強い“剣”であり続けるために・・・ずっとずっと戦ってたんですよ・・・」

 

「それでも・・・涙を流しながらも戦う事を選んだのは翼自身だ。アイツに必要なのは“共に戦う仲間”だ。同じように“守るモノ”があるな・・・」

 

その言葉に響は顔を上げる。

 

「私だって“守もるモノ”があるんです!だから!」

 

 

そこで響の頭は白く染まり、うたた寝していた意識が覚醒した。

 

「ッ!」

 

「おう響起きた?」

 

「レグルス君」

 

「エルシドにあれだけ啖呵を切れるなんて凄いよ。まぁ響が何を悩んでいるか俺には分からないけどさ。とりあえず俺が言えるのは、響は響らしくした方が一番良いと思うぞ」

 

「え?それって・・・」

 

「ん?誰か来る。んじゃ後でな」(シュッ)

 

「あっ・・・」

 

まるで忍者のように消えたレグルスをキョロキョロと探す響。

 

「響」

 

後ろからの声に反応する響。そこにいたのは未来だった。

 

「未来」

 

「最近一人になることが多くなったんじゃない?」

 

未来の前ではつとめて明るくなろうとする。

 

「そうかな?そうでもないよ、私一人じゃ何にもできないし。あ、ほらこの学校にだって未来が進学するから私も一緒にって決めたわけだし。あ、いや何て言うかここって学費がビックリする位安いじゃない?だったらお母さんやおばあちゃんに負担かけずにすむかな~ってアハハハハハハハ」

 

空元気丸分かりの響の手を未来が握る。それに少し驚くが響は淡々と喋る。

 

「やっぱり、未来には隠し事できないな」

 

「だって響。無理してるんだもの」

 

全てお見通しと云わんばかりに未来の笑顔に響は呟く。

 

「うん、でもごめん。もう少し一人で考えさせて。これは私が考えなきゃいけないことなんだ」

 

未来は嫌な顔をせず言う。

 

「分かった」

 

「ありがとう未来」

 

お互いの手を握り会う響と未来。

 

「ある人に言われたんだ。私は私らしくが一番良いって」

 

「ふーん。その人、響の事良く分かってるのかもね」

 

「え?」

 

未来の言葉に首を傾げる響。

 

「あのね響。どんなに悩んで考えて出した答えで一歩前進したとしても、響は響のままでいてね」

 

「私のまま・・・(それレグルス君やエルシドさんからも言われた・・・)」

 

二人に言われた言葉を未来は更に解説する。

 

「そう。変わってしまうんじゃなく、響のまま成長するなら私も応援する。だって“響の代わり”はどこにもいないんだもの。いなくなって欲しくない」

 

未来の言葉に響はレグルス達に言われた言葉の“答え”が出てきた。

 

「私、私のままで良いのかな?」

 

「響は響じゃなきゃ嫌だよ」

 

未来の言葉が。

 

『響は響らしくした方が一番良いと思うぞ』

 

レグルスの言葉が。

 

『立花。“奏の代わり”になろうとするな』

 

エルシドの言葉が。三人の言葉が響の“心”に響く。響は未来を見ると未来は優しく微笑む。響は立ち上がり翼が入院する病院に目を向ける。そして手を握るその顔には迷いの影が消えていた。

 

「ありがとう、未来。私、私のまま歩いていけそうな気がする」

 

響の言葉に未来は微笑んだ。

 

「そうだ。“こと座流星群”見る?動画で録っておいた」

 

「ええー!」

 

未来から端末を借りるが。

 

「ん?何にも見えないんだけど?」

 

「うん・・・光陵不足だって・・・」

 

「ダメじゃん!」

 

苦笑いを浮かべる未来にレグルスとの掛け合い(夫婦)漫才で鍛えられたツッコミを炸裂する響。

 

「「ップ!アハハハハハハハハハハハハハハ!!」」

 

お互い笑い合うが響の頬に一筋の涙が。

 

「おっかしいな?涙が止まらないよ。今度こそは一緒に見よう」

 

「約束。次こそは約束だからね」

 

そして響は“迷い”を吹っ切った笑顔を浮かべた。

 

「(私だって“守りたいモノ”がある!私に“守れるモノ”なんて小さな約束だったり、“何でもない日常”かも知れないけど、それでも“守りたいモノ”を守れるように。私は私のまま強くなりたい!)」

 

 

 

 

その光景を少し離れた所でレグルスとエルシドが見ていた。“ネフシュタインの少女”の狙いが響だから響を重点的に警護していたのだ。

 

「立花は“迷い”を振り切ったようだな?」

 

「うん、響は凄いな」

 

「あの少女<未来>が立花を吹っ切れさせたようだな」

 

「うん、そうだね。凄い子だね」

 

「レグルス。お前はどうだ?」

 

「まだ分からない。只俺は状況に流されてるだけだよ。響のように“守りたいモノ”がまだ分からない」

 

「・・・・・・デジェルと対峙する時その“迷い”が致命傷にならないようにしておけ」

 

「ああ」

 

可能性の若獅子は未だに迷いの中にいた。

 

 

 

 

 

 

 

後日、響とレグルスは弦十朗の家を訪ねた。

 

「「たのもーーーーー!!」」

 

妙な挨拶するアホコンビ。

 

「うわっ何だいきなり」

 

「私に戦い方を教えて下さい!」

 

「この俺が?レグルス君ではダメなのか?」

 

“地上最強の十二人”の一角に指導してもらえばと弦十朗は言うが。

 

「いやー俺だとさ。ギュンとやってバンッ!と構えてサッとって感じの指導だから響が無理だって」

 

レグルスの解説に響は苦笑いを浮かべる。

 

「(レグルス君は野生の本能で強くなってきた感覚人間だから指導には向いていないって訳か)それならエルシドはどうだ?」

 

もう一人の“最強”の名を出すが。

 

「それがエルシドの奴、デジェルとの戦いに備えて剣を研いでおきたいから指導する暇がないってさ。それでそのエルシドが『弦十朗殿の方が適任だ』って」

 

「成る程、そう言う訳か」

 

「はい!弦十朗さんならきっと凄い武術とか知ってるんじゃないかと思ってましたし!」

 

弦十朗は少し渋い顔をするが。

 

「俺のやり方は厳しいぞ」

 

OKが出た。

 

「はい!」

 

「それでレグルス君は?」

 

「俺は響のサポーター(&冷やかし要員)」

 

「フム。時に響君、君はアクション映画とかを嗜むのか?」

 

「「はい?(あん?)」

 

それから弦十朗との特訓が始まった。

 

まずアクション映画鑑賞から始まり。某アチョーの人と同じ格好とポーズをとり。夜はマラソン(弦十朗は竹刀を持って自転車を漕ぎ、レグルスは余裕で走っていた)。丸太の上で腕立て(レグルスは指5本で逆立ち腕立て)。逆さ腹筋(近くの木陰で未来が見守る)。下校時未来達とカラオケで思いっきり歌い。夜は弦十朗とミット打ち(レグルスはヤジを飛ばし)。サンドバッグ打ち(レグルスはサンドバッグを抑え役)。某波動を射つ空手家のような格好とポーズ。マラソンとこれ必要か?とツッコまれそうな訓練を続けていた。

 

そしてある日の登校中。響はまた流れ星の動画を見せてと未来に言う。そして未来は少し立ち止まり響に言う。

 

「あのね響。流れ星の動画を録っていたこと、響に黙ってるのは少しだけ苦しかったんだ。響にだけは二度と隠し事したくないな」

 

と言って微笑む未来。だが響は。

 

「わ、私だって、未来に隠し事なんて・・・」

 

近くの木陰に隠れながら響を護衛していたレグルスは。

 

「(響だって辛いだろうな。あの子に隠し事なんてしたくないと思ってるけど、そう言う訳にもいかないもんな。本当人間って複雑だな)」

 

後にこの響の隠し事が響と未来の“絆”に亀裂を生み出す事を今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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追憶と暗躍

ー五年前ー

 

連れてこられたその少女はまるで手負いの獣であった。身体を拘束され椅子に縛り付けられたその姿は余りにも痛々しい。

 

「放せよ!クソ!あたしを自由にしろ!」

 

「その少女が報告書にあった」

 

「『天羽奏』14才。ノイズに襲撃された長野県宮上山聖遺物発掘チーム唯一の生存者です。襲撃当日は休日だったので家族を発掘現場に連れてきていたのでしょう。そこを襲われたそうです」

 

翼は奏の姿に恐怖し弦十朗は1課からの報告を聞く。

 

「お前らノイズと戦ってんだろ!」

 

弦十朗は奏に目を向ける。

 

「だったらあたしに武器を寄越せ!『アイツら』のように奴等をぶっ殺す力をくれ!」

 

その目には自分から全てを奪ったノイズへな怒りに満ちていた。弦十朗は毅然とした態度で奏に近づく。

 

「辛いだろうがノイズに襲われた時の事を教えてくれないか?我々が君の家族の仇を取ってやる」

 

「ねむてぇ事言ってんじゃねえぞ!オッサン!あたしの家族の仇はあたししか取れないんだ!あたしにノイズをぶち殺させろ!」

 

その目には危険な業火が宿っていた。

 

「それは、君が地獄に堕ちることになってもか?」

 

弦十朗は目を鋭くして言う。

 

「奴等を皆殺せるなら、あたしは望んで地獄に落ちる!」

 

奏の迫力に翼は萎縮する。

 

「・・・・・・・・・」

 

弦十朗は無言のまま奏の頭に手を乗せ撫でた後抱き締めた。まるで父親のように。

 

奏との会合が終わるとすぐに別の部屋にいる『二人』の元へ行く。

 

「それで天羽奏君の発掘現場に現れたノイズを追い払った『鎧を纏った二人の少年』はどうした?」

 

「はい、信じられないことに我々が到着した時ノイズの残骸と天羽奏を守るようにその『少年達』はいたそうです。ただ彼等は意識が混濁してるのか妙な事を言ってました」

 

「妙な事?」

 

「?」

 

「はい、『ここはどこだ?』、『アテナを知らないか?』、『聖域は?』、『聖戦はどうなった?』、『ロスト・キャンパスは?』と訳のわからない事を喋っており拘束しようとしたのですが・・・」

 

「どうした?」

 

「その・・・全く歯が立ちませんでした。拘束しようとしたら一瞬で地面に叩きつけられておりました。何とか説得して大人しくしてくれてますが」

 

報告を聞いて弦十朗は弱冠驚いた。諜報部の人間達は対人戦闘の訓練を受けている筈なのにそれがまるで歯が立たなかったことに。そうこうしている内にその『少年達』を待たせている部屋に着いた。そして扉を開けるとそこにいたのは。

 

 

黄金の鎧を纏った奏と同い年の少年達だった。鍍金とは思えない太陽と見間違えんばかりの本物の黄金の輝き。1人は黄金の翼と黄金の弓矢を携え、もう1人は山羊の角のようなヘッドギアを装備した少年。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

少年達の纏うそれぞれ違う形をした鎧は余りにも雄々しく猛々しく凛々しく、そして美しい、その鎧に翼は見惚れていた。

 

弦十朗も鎧に見惚れていたが、それ以上に少年達にまなざしに目を向けた。

 

「(何と力強さと気高さに満ちた眼をしているんだ。この少年達は・・・決して折れない強き『意志』と気高い『心』を持っていなければこんな眼をすることはできない!)俺は風鳴弦十朗。君たちの名を教えてくれ」

 

少年達は頷き会うと口を開く。

 

「俺はシジフォス、戦女神アテナに使える黄金聖闘士、射手座<サジタリアス>のシジフォス」

 

「同じく黄金聖闘士、山羊座<カプリコーン>のエルシド」

 

『最強の十二人』との初めての会合であった。

 

 

 

 

それからしばらく経ち、ノイズとの戦いを望んだ奏は厳しい訓練と薬物の等量を繰り返し、聖遺物第三号『ガングニール』への適合を試みる。

 

「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!グアアアぁぁぁぁぁぁぁぁ!ウグアアアアアアァァァァ!!」

 

その光景を弦十朗と翼とシジフォスとエルシドは見ていた。翼は不安そうに弦十朗は血が滴る程に手を固く握る。シジフォスは辛そうに見ていたがエルシドは無表情に見ていた。

 

「これしか方法が無かったのだろうか? 彼女には、奏には他に道が有ったのでは無いのだろうか?」

 

「やめろシジフォス、『力』を求めたのはアイツ自身だ。アイツが心からこの道を選んだのならそれを外野が口出しする事じゃない」

 

「しかし・・・」

 

「お前は奏に“甥っ子”の面影を見ているんじゃないか?」

 

「!?」

 

エルシドに言われ、シジフォスは何も言えなかった。弦十朗達も複雑な理由がありそうなので追及しなかった。

 

「(確かに。俺は彼女に、奏にレグルスを重ねていたのかもしれない。もしもレグルスが俺と出会わなけば、奏のように自分の全てを奪った仇への“憎しみ”のみで生きていたのかもしれない)」

 

弦十朗は了子に目配せをし、手術を中止した。

 

「ここまでしても未だ適合ならずか。やっぱり簡単には行かないものね」

 

カッシャーーーン!!

 

「「「「「!!??」」」」」

 

突然手術室からの音に眼を向けると。奏は更に薬物を等量しようとした。

 

「よせ!」

 

「ここまでなんてつれねえこと言うなよ」カチッ

 

奏は自ら等量した。獰猛な笑顔で。

 

「パーティー再開と行こうや。了子さん」

 

「・・・・・・」

 

了子も唖然としていると。

 

ピーンピーンピーンピーンピーン

 

「?!適合係数、飛躍的に上昇。第一段階、第二段階突破、続いて第三段階」

 

急激に成長しようとする力に奏の身体が苦しみ出した。

 

「うぐっ!ぐえっ!」

 

大量の血を吐き出した。急いで弦十朗が指示を飛ばす。

 

「何をしている!中和剤だ!」

 

あわただしく動く医師達が奏の身体から放たれた波動で吹き飛んだ。

 

「・・・・・・」

 

バンッ!

 

「・・・?!」

 

突然翼の目の前に血塗れの手が現れた。

 

「翼、見るな」

 

エルシドがそっと翼の眼を塞ぎ、シジフォスは手術室の窓を破壊し奏を抱き抱える。

 

「しっかりしろ。大丈夫か?」

 

「へッ大丈夫に決まってんだろ・・・手に入れた」

 

ガングニールの結晶が消え、奏は歌う、『戦いの歌』を

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

そして奏の身体が光る。

 

「これが奴等と戦える力!あたしのシンフォギアだ!」

 

それは翼のように偶然手に入れたものではない。天羽奏が自らの手で勝ち取った力であった。

 

シンフォギアを纏った奏と翼はノイズ討つ戦士へとなり二人でノイズを倒していった。突撃槍のガングニールを回転させ竜巻を生み出す。

 

『LASTMETEOR』

 

大型ノイズを倒し朝を迎え逃げ遅れた人間の救助に当たった。シジフォスは現場の指揮をエルシドは大きな瓦礫を破壊しながら救助活動をしていた。

 

「シジフォス達も協力してくれれば良いのによ」

 

「俺達が出たしまえばお前達の出番がなくなるぞ」

 

「あ、言ったなエルシド!次の模擬訓練絶対負かしてやっからな」

 

「奏!こっちを手伝って!」

 

「あぁ」

 

シジフォスは奏達の近くに行くと瓦礫から救助された人達と何か話してる姿が見えた。

 

「どうした?奏」

 

「あ、シジフォス。さっきの人さ。あたし達の歌が聞こえたから諦めなかったんだってさ・・・」

 

その時の奏の顔はどこか充実感に満ちた顔をしていた。シジフォスはフッと微笑み。

 

「悪くないだろ?こんなのも」

 

「あぁ。悪くない」

 

 

 

それからまた訓練が始まった。走り込みをする奏と翼は会話する。

 

「な、翼」

 

「ん?」

 

「誰かに歌を聞いてもらうのは!存外気持ちの良いものだな!」

 

「どうしたの?唐突に」

 

「別に、ただ!この先もずっと翼と一緒に歌を歌っていたいと思ってね」

 

その時の奏の笑顔はとても眩しく。翼も笑顔になっていた。

 

「奏!翼!」

 

シジフォスが二人にスポドリを投げ渡す。

 

「おっと!」

 

「あっ!」

 

奏はナイスキャッチしたが、翼はキャッチ出来ず落としそうになるが。

 

「・・・ほら」

 

寸前でエルシドがキャッチして翼に渡す。

 

「あ、ありがとう。エルシド」

 

「・・・・・・」

 

「相変わらず愛想ねぇな」

 

奏が茶化す。

 

「エルシド。次の訓練メニューだが・・・」

 

シジフォスとエルシドが訓練メニューについて話し合っていた。

 

「なぁ翼。気づいてるか?アイツらあたし達と同じ位走っているのに『汗』も掻いてなければ『息も乱れてない』」

 

「うん。やっぱり聖闘士と私達とじゃ才能が違うのかな?」

 

目の前にいる二人との圧倒的な『差』に弱気になる翼。だが奏は。

 

「『今』はまだアイツらに届かない。でもきっと追い付けるさ。二人一緒ならな」

 

「うん!」

 

こうして天羽奏と風鳴翼は共に歌い『高み』へ飛ぶ『ツヴァイ・ウイング』になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー現代ー

 

 

修行を開始してから響は朝早く起床しランニングを始めるようになった。だが未来はそんな響の行動に疑問を持ち始めていた。

 

風鳴邸でサンドバッグに拳を叩きつける響とサンドバッグを抑えるレグルス。響の隣には弦十朗がいた。

 

「そうじゃない。稲妻を喰らい。雷を握り潰すように打つべし!」

 

「言ってること全然わかりません!でもやってみます!」

 

「よし響!もう一丁来い!」

 

「うん!」

 

なんじゃそりゃ?とツッコミが飛んで来そうなアドバイスをする弦十朗と良く理解してないが気合いでなんとかしようとする響。レグルスも響を鼓舞する。

 

サンドバッグを見据える響。全神経を集中させて心臓の鼓動が一鳴りしたあとに拳を叩きつける!するとサンドバッグは吹き飛びサンドバッグを支えていた枝も折れた。

 

「うわっ!と!と!と!あらららら?!」(ドボーン!)

 

抑えていたレグルスごとサンドバッグは吹き飛ぶがレグルスはなんとか堪えようとするが風鳴邸の池に落ちていった。

 

「レグルス君!大丈夫?!」

 

「ああ大丈夫!大丈夫!それにしても響凄いなー」

 

自分の成長に喜ぶ響とそれを賛美するレグルス。弦十朗はミットを構え、本腰を入れる。修行は着実に進んでいた。ミット打ちを始めた響達を尻目にレグルスは池に落ちたサンドバッグを回収する。

 

「(響の修行は良い感じだな。『片足だけ』で受け止められないとは)」

 

響は気付いていないがレグルスは響がサンドバッグを打っているとき『片足だけ』でサンドバッグを支えていたのだ。

 

「(大分鈍ってるな・・・少し俺も俺で修行しておくか。デジェルは今どうしてるだろう?)」

 

レグルスは青空を眺めながら感慨に耽っていた。

 

 

 

ー???sideー

 

そこは森に囲まれた湖にも面している屋敷。だがその屋敷の半分側は不釣り合いのメカメカしい設備になっていた。そこのある一室には最先端の設備があった。まるで何かの研究室のようなその部屋で一人の『女性』が英語で自分達に『ソロモンの杖』を譲渡した組織と電話で会話をしていた。全裸で。

 

長いプラチナの髪をし、張りのある大きな乳房、くびれた腰回り、美しい曲線の肉付きの良い脚、芸術品のような豊満な裸体はまるで女神の様に美しく、妖しい色香を漂わせていた。

だがその手には不釣り合いな『杖』が握られていた『ネフシュタインの少女』が使用していた『杖』だ。『女性』は電話をしながら『杖』を構えると『杖』から何かが射出され、そこから“ノイズが現れた”が『女性』が再び『杖』を振るうとノイズが消えた。その『杖』こそ『女性』の電話相手が求めている『完全聖遺物 ソロモンの杖』である。

 

女性は電話相手に実験結果の報告をしていた。電話相手は完全聖遺物<ソロモンの杖>を自分達の祖国に占有物とするために『女性』を支援していたのだ。

 

お互いに『利用し合う関係』であることは重々承知の上で利用し合っているのだ。『女性』は電話を切り電話相手に侮蔑の言葉を吐く。

 

「粗野で下劣、生まれた国の品格そのままで辟易する・・・そんな男に『ソロモンの杖』が既に起動している事を教える道理はないわよね?クリス」

 

『女性』はある装置に磔にされた裸の少女に問う。クリスと呼ばれたこの少女こそ『ネフシュタインの鎧』を纏っていた少女である。

 

銀色の長髪に雪のように透き通る白い肌、『女性』にも引けを取らない豊麗な裸体を晒したクリスと呼ばれる少女は、苦しそうに目を開ける。

 

「苦しい?可愛そうなクリス。貴女がぐずぐず戸惑うからよ。誘い出された『あの子』をここまで連れて来れば良いだけだったのに。手間取ったどころか空手で戻ってくるなんて」

 

歪んだ笑みを浮かべる『女性』にクリスは苦しそうに呟く。

 

「これで・・・良いん・・・だよな?」

 

「何?」

 

「私の・・・望みを叶える為には・・・お前に従ってれば良いんだよな?」

 

「そうよ。だから、貴女は私の全てを受け入れなさい。でないと嫌いになっちゃうわよ」

 

そう言って何かのレバーを引き装置を起動させるとクリスが磔にされた装置から電流が流れた。

 

「グアアアぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

悲鳴を上げるクリスに『女性』は呟く。

 

「かわいいわよクリス。私だけが貴女を愛して上げる」

 

歪んだ笑みを崩さぬまま装置を停止させる。激しく呼吸するクリスの頬に手を添え身体を密着させ囁く。

 

「覚えておいてねクリス。『痛みだけが人心を繋ぎ『絆』と結ぶ』、世界の真実であることを。さ、一緒に食事をしましょうね」

 

クリスはそう言われ微笑みながら言う。

 

「今度こそ・・・上手くやるよ。奏者だろうが黄金聖闘士だろうが蹴散らして「今なんと言った?クリス」え?」

 

歪んだ声から突然氷のように冷たい声になる『女性』。『女性』は再び装置を起動させ。

 

「アアアアアアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「お前ごときが・・・お前ごときがっ!『黄金聖闘士を倒す』だとっ?!自惚れぬなっ!逆上せ上がるなっ!!『あの者達』を!あの『頂きに最も近い』黄金の戦士達を!お前ごときが倒せる等と思うなッッ!!!」

 

歪んだ冷笑を浮かべていた顔は憤怒に染まり声も荒々しくなった『女性』は、クリスへ流していた電流を激しくし、クリスの苦しそうな悲鳴が屋敷中に広がった。

 

 

 

 

 

 

ーデジェルsideー

 

デジェルはビル群の屋上から町を眺めていた。

 

「(我々のいた時代とは本当に違うのだな・・・世界のあちこちでは紛争が耐えないというのに・・・クリス、君は今どこにいる?)」

 

デジェルは『この世界』に来てからずっと探していた『少女』に思いを馳せていた。

 

 

ーside changeー

 

「立花さん!立花響さんはいつもの『お節介』でまた遅刻ですか?!」

 

響と未来の担任の先生の怒号が教室に響く。日頃から『お節介』が趣味の響の行動は担任の先生からしたら悩みの種みたいなものである。クラスは少しクスクス笑いが響く。未来が挙手する。

 

「先生!響いえ立花さんは、今日は風邪でお休みするそうです!」

 

嘘だとは思うだろうが先生はため息をつきながら『しょうがない』と言ったが未来は隣の響の席を見て呟く。

 

「嘘つき・・・」

 

 

 

ー響sideー

 

その頃響は本日の修行が終わり、二課のソファーの上でぶっ倒れた。

 

「うはー!朝からハード過ぎます・・・」

 

「お疲れさん響」

 

「頼んだぞ。明日のチャンピオン」

 

響が寝転がるソファーと向かい側にあるソファーに腰かけたをレグルスと弦十朗が労う。あおいが響にスポーツドリンクを渡す。ぷはーと人心地着いた響は率直な疑問を言う。

 

「あのー、自分でやると決めた癖に申し訳ないんですけど。何もうら若き女子高生に頼まなくてもノイズと戦える武器って他にないんですか?外国とか」

 

「何か今更な質問だな」

 

「いやそうなんだけどね」

 

響とレグルスのやり取りを聞きながら弦十朗呟く。

 

「公式にはないな。日本だってシンフォギアは『最重要機密』として完全非公開だ(それに身体を鍛えただけでノイズと互角以上に戦うことができる聖闘士の『小宇宙<コスモ>闘技方』も日本軍部の一部が手に入れたいと考えているし、これが米国軍の耳に入れば『泥沼な事態』になりかねん)」

 

シンフォギアを必要とせず圧倒的な強さを誇る聖闘士の存在が世界に知れ渡れば各国の軍が聖闘士達を狙う可能性もあるのだ。

 

「ええ~~、私、あんまり気にしないで結構派手にやらかしてるかも・・・」

 

「響は隠密行動なんてできそうにないもんな♪」

 

やっちゃたかもな顔になった響をレグルスが茶化すがあおいが助け船を出す。

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

 

「だけど、時々無理を通すから今や我々の事を良く思ってない官僚や省庁だらけだ。特異災害起動部二課を縮め『突起物』って揶揄されてる」

 

朔也が味方だらけでもないと言う。あおいも呟く。

 

「情報の秘匿は政府上層部の指示だってのにね。やりきれない」

 

「いずれシンフォギアや聖衣を有利な外交カードとしようとする目論んでるんだろう」

 

「EUや米国は何時だって改定の機会を伺ってる筈。シンフォギアの開発は基地の系統とは全く異なる所から発動した理論と技術で成り立っているわ。日本以外の国では到底真似できないから、尚更欲しいのでしょうね」

 

「聖衣に至っては『オリハルコン』とか『星屑の砂<スターダストサンド>』といった伝説級の素材で作られているし、確認しているだけでも行方不明になった射手座<サジタリアス>の黄金聖衣を除いて3つしかないからね。日本以外の国は喉から手が出るほど欲しがっているよ」

 

あおいと朔也は世知辛い話をする。響は難しい話を聞きソファーの上でだらける。

 

「結局やっぱり、色々とややこしいって事ですよね?」

 

「こう言うのを世知辛いって言うんだな~」

 

「あれ?師匠、そう言えば了子さんは?」

 

「(すっかり弦十朗は響の師匠になったな~)」

 

「永田町さ」

 

「永田町?」

 

「(国会議事堂つまり日本の元老院みたいな場所がある街か)」

 

「政府のお偉いさんに呼び出されてね。本部の安全性、及び防衛システムについて関係閣僚に対し説明義務を果たしにいっている。仕方のない事さ」

 

「デキる女は色々忙しいんだな・・・」

 

「本当、何もかもがややこしいんですね・・・」

 

「ルールをややこしくするのはいつも責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが」

 

同じ大人として弦十朗は苦々しく話すがフッと微笑み。

 

「その点広木防衛大臣は・・・了子君の戻りが遅れているようだが?」

 

腕時計をみて呟く弦十朗。その頃了子は。

 

 

「フェッックシュン!誰かが私をうわさしているのかな?今日は良いお天気ね。何だかラッキーな事がありそうな予感♪」

 

と暢気に車を走らせていた。

 

 

 

ー翼sideー

 

翼は生死の間を未だ漂っていた。

 

「(私、生きてるの?違う死に損なっただけ。奏はなんのために生きて、何のために死んだのだ?)」

 

迷い悩む翼を後ろから誰かが抱き締める。

 

『真面目が過ぎるぞ翼』

 

「!?」

 

誰なのか直ぐに分かった。

 

『あんまりガチガチだとその内ポッキリいっちまいそうだ』

 

やっと会えた。奏にやっと会えたと翼は微笑んだ。

 

「私はエルシドと一緒に一層の研鑽を続けていた。数えきれない程のノイズを倒し、死線を越えそこに意味など求めずただひたすら戦い続けてきた。そして気付いたんだ。私の生命には意味や価値がないことを」

 

奏は優しく囁く。

 

『戦いの裏側とかその向こう側にまた違った『モノ』があるんじゃないかな?あたしはその事をシジフォスから教えてもらった。あたしもそう考えてきたしソイツを見てきた』

 

2年前のコンサートホールで背中合わせに座る二人。

 

「それはなに?」

 

『自分で見つけるもんじゃないかな?』

 

「奏は私に意地悪だ」

 

『その分シジフォスが優しくしてくれたろう?』

 

「でも私に意地悪な奏も優しかったシジフォスももういないんだよね?」

 

『ソイツは結構な事じゃないか?』

 

「私はイヤだ!奏やシジフォスにそばにいてほしいんだよ。何時までも四人で一緒にいたいんだ。奏とシジフォスが笑いあってる姿が私は大好きだった。二人に幸せになってほしかった!」

 

「ありがとよ翼。私達がそばにいるか、遠くにいるかは翼が決めることさ』

 

「私が?」

 

『言ったろ?あたしは風の中にいるってさ』

 

「私が決める、だったら私は」

 

『少しは見所があるようだな』

 

翼の後ろから奏ではない誰かの声が聞こえた。翼は振り向くとそこには。自分と同い年位の少女と三人の少年達がいた。

 

「貴女達は一体?」

 

『私達の事はどうでも良い、それよりもお前は戻りたいのか?』

 

有無を言わせない態度だが何故か翼は彼等は敵じゃないと直感した。

 

「・・・」コクン

 

『それじゃ、このまま真っ直ぐ行け』

 

少女と少年達は道を開けるとその先に光が指していた。翼はゆっくりとその光に向かっていきその光に包まれていった。不意に翼の耳に少年達の声が入った。

 

『エルシド様の事は任せた』

 

「!?何故エルシドの事」

 

『もう俺達はあの人に追い付けないけどさ』

 

『貴女ならきっとエルシド様を支えられます』

 

翼は少年達に声を掛けようとするが目の前が光に埋め尽くされ翼は消えた。

 

『悪いな。翼が面倒をかけて』

 

『何『同じ守護星座』を持つよしみだ』

 

『私達も『エルシド様の大切な人』を死なせたくなかっただけだ』

 

奏は嬉しそうに言う。

 

『ありがとう。『ユズリハ』・・・『ツバキ』・・・『ラカーユ』・・・『ラスク』』

 

そこにいたのは、翼と同じ守護星座を持つ『鶴座<クレインのユズリハ』とエルシドの部下であり弟子でもあった『帆星座<ヴェダ>のツバキ』と『船尾星座<バビス>のラカーユ』そして『羅針盤星座<ピクシス>のラスク』であった。

 

そして治療カプセルで眠っていた翼が目を覚ます。治療室は医師達で騒然となるも翼の耳には『母校の歌』が聴こえていた。

 

「(不思議な感覚・・・まるで世界から切り抜かれて、私だけ時間がゆっくり流れているような・・・あぁそうか私、『仕事』でも『任務』でもないのに学校休むのは初めてなんだ。聖金賞は絶望的か・・・心配しないで奏。私、貴女が言うほど真面目じゃないから、ポッキリ折れたりしない。だからこうして今日も無様に生き恥をさらしている・・・先ずはエルシドに思いっきり怒られないとな・・・)」

 

翼の目から一筋の涙が溢れた。

 

 

 

 

ーside outー

 

時は夕方、三台の黒い車が一列に走ってた。その中央の車の中に弦十朗が信頼を寄せる広木防衛大臣が乗っていた。

 

「ハッハッハ!電話一本で予定を反故にされてしまったか。全く野放図な連中だ」

 

「旧陸軍由来の特務機関とは言え些か豊潤が過ぎるんじゃないですか?」

 

おおらかな大臣に秘書は神経質に言う。

 

「それでも特異災害に対抗しうる唯一無二の切り札だ。私の役目は連中の勝手気ままを出来る限り守ってやることなのだが」

 

顔を引き締めた大臣に秘書は満足そうに微笑み自分の膝にのせたケースを見る。

 

「『突起物』とは良くいったもので」

 

車がトンネルに入り出ようとすると突然、先頭の車の前にトラックが現れた。トラックにぶつかる車両に玉突きでぶつかり三台の車は止まる。するとトラックの荷台が開きそこから銃を持ち武装した一団が現れた。

 

直ぐにSPが応戦しようとするが呆気なく射殺される。防衛大臣はまだ揺れる頭を抑え横にいる秘書に目を向けるが。秘書は既に撃たれこと切れていた。防衛大臣は秘書の持っていたケースを持とうとするが車の窓が破られ銃を突きつけられる。

 

「『広木防衛大臣と見受けましたが』」

 

防衛大臣は英語で話した事で誰か気付いた。

 

「貴様ら米国の・・・」

 

その先を言う前に銃声が響いた。

 

 

 

 

ー二課指令部ー

 

「大変長らくお待たせしました♪」

 

「あっ!」

 

「了子君!」

 

「?!」

 

「何よ。そんなに寂しくさせちゃった?」

 

暢気言う了子に弦十朗はシリアスに言う。

 

「広木防衛大臣が殺害された」

 

「え!?本当?!」

 

「複数の革命グループから犯行声明が出されているが。詳しいことは把握できてない。目下全力で捜査中だ」

 

「了子さんに連絡も取れないから皆心配してたんです!」

 

「・・・・・・」

 

「え?」

 

了子は自分の端末を見ると。

 

「壊れてるみたいね♪」

 

気が抜けたのか安心した笑みを浮かべる『響と弦十朗』。

 

「でも心配してくれてありがとう。そして、政府から受領した『機密資料』も無事よ。任務遂行こそ広木防衛大臣の弔いだわ」

 

『ケース』をソファーの上に置きメモリー端末を見せる了子。

 

 

 

 

だが死角になって見えなくなり『ケース』の『血痕』に誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

僅かに漂う『血の匂い』を感じた『1名』を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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『サクリファイスD デュランダル』

広木防衛大臣が殺害された事で二課で会議が行われた。リディアン音楽院高等科もとい二課の本部を中心で起きているノイズの出現から『敵』の狙いを了子が弦十朗や響とレグルスを含む隊員達に説明していた。

 

「狙いは本部最奥区画『アビス』に厳重保管されている『サクリストD デュランダル』の強奪目的であると政府は結論付けました」

 

「『デュランダル』・・・」

 

「EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府が管理・保管することになった黄金聖衣と同じように数少ない『完全聖遺物』の一つ」

 

「移送するったって何処にですか?ここ以上の防衛システムなんて・・・」

 

朔也の質問に弦十朗が答える。

 

「永田町最深部の特別電算室。通称“記憶の遺跡”。そこならばと言うことだ。どのみち俺達が木っ端役人である以上、お上の威光には叶わないさ。ま、お上の威光や命令なんてお構いなしに行動する“利かん坊”が二人程いるがな」

 

弦十朗の言葉に全員がその“利かん坊”と書いて“レグルス”に目を向ける。

 

「??・・・えっ!“利かん坊”って俺の事?!」

 

「後、デジェルとの再戦のために勝手に山籠りをしたエルシドもな」

 

響が特訓を始めてすぐにエルシドは突然山籠りの修業を始めたのだ。

 

「えぇ~、でも弦十朗だってエルシドが山籠りをするって言ったら簡単に承認したじゃないかー」

 

「ハッハッハッハッハッ!男の修業を妨げる事は誰にもできん!」

 

『(もしかしてうちの指令って聖闘士組と一番波長が合うのかも・・・・・・)』

 

レグルスと弦十朗のやり取りを呆れ目で見る一同。

 

 

「『デュランダル』の予定移送日時は明朝0500、詳細はメモリーチップに記載されています」

 

司令室でドローンを遠隔操作しながら『アビス』に保管されている『デュランダル』を回収する了子。モニターからその様子を眺める響達。

 

「あそこ『アビス』ですか」

 

「随分深いところに保管してるんだな、どんだけ深いんだ了子?」

 

「東京スカイタワー三本分。地下1800Mにあるのよ♪」

 

「「・・・・・・」」

 

呆然となる響とモニターをじっと見つめるレグルス。

 

「予定時間まで休んでなさい。あなた達のお仕事はそれからよ♪」(パチクリ♪)

 

「はい!(おう)」」

 

 

 

 

寮に戻った響は未来からお説教を食らっていた。

 

「朝からどこ行ってたの?!いきなり修業とか言われても」

 

「あぁーえーとつまりですね・・・」

 

「ちゃんと説明して!」

 

「あぁ!ごめん!もう行かなくっちゃ!」

 

逃げるように部屋から出ていく響。未来は寂しそうに呟く。

 

「心配もさせてくれないの・・・」

 

 

 

 

二課本部の通路のソファーで響はレグルスに愚痴る。

 

「絶対未来を怒らせちゃったよね・・・」

 

「仕っ方ないだろう?俺達の活動は秘匿扱いなんだからさ」

 

「こんな気持ちじゃ眠れないよ・・・」

 

「なら俺が当て身でもすれば一発で寝られるぞ」

 

「いやそれ『寝る』じゃなくて『気絶』だから!全然違うから!」

 

ハアとため息を溢しながらテーブルに置かれた新聞を読む響。だが開いたページには『セクシーな下着姿のお姉様』の写真が!

 

「!?//////」

 

「どうした響?なんか書かれてたの?」

 

「な、何でもないから!レグルス君は見ちゃダメだから!」

 

新聞を閉じてレグルスから遠ざかる響。

 

「(男の人ってこうゆうの<エッチな写真>とかスケベ本とか好きだよね、エルシドさんやレグルス君も興味があるのかな?/////)」

 

本人達が聞いたら「冤罪だ」と言いたくなる邪推をする響。

 

「あっ、翼の写真が載ってるぞ」

 

「えっ!翼さんの?!」

 

レグルスに指摘され記事を読む響。そこには『風鳴翼 過労で入院』とデカデカと書かれていた。

 

「情報操作も僕の役目でして」

 

「「緒川さん(慎司)」

 

顔を上げた二人の前に黒スーツに黒ネクタイを着用した緒川が立っていた。

 

「翼さんですが、危険な状態を脱しました」

 

「!」(パアッ)

 

「そうか、良かったな」

 

「ですがしばらくは二課の医療施設にて安静が必要です。月末のライブも中止ですね。さて、ファンの皆さんにどう謝るか響さんとレグルス君も一緒に考えてくれませんか?」

 

「・・・・・・」

 

緒川の言葉に響は黙り俯いてしまった。

 

「あ、いや、そんなつもりは・・・」

 

『翼がこんな事になったのは響のせい』と受け取られたと思った緒川はフォローするが。

 

「!・・・フフフ」

 

緒川の焦った姿が可笑しかったのか少し笑う響。

 

「ごめんなさい。責めるつもりはありませんでした。伝えたかったのは何事もたくさんの人間が少しずつ色んな所でバックアップしていると言うことです。だから響さんも、もう少し肩の力を抜いても大丈夫じゃないでしょうか?」

 

「優しいんですね。緒川さんは」

 

「“怖がり”なだけなんです。本当に優しい人は他にいますよ」

 

「嫌、周りの人間達に寄り添える事できるのはとっても凄い事だと思うよ」

 

「レグルス君」

 

「それに比べてエルシドは、翼が大丈夫になったって言うのに」

 

「いえ、例えここにエルシドが居たとしても翼さんはエルシドに会いたくなかったでしょう。エルシドも翼さんの気持ちを汲んで会いに行かなかったですよ」

 

「え?」

 

「翼さんは結構意地っ張りな所がありますからね。エルシドに情けない姿を余り見せたくないんです。エルシドもそんな翼さんの気持ちを理解しているから翼さんが会いに来るまで待ってるんです。翼さんがエルシドに会いに行く時は、万全の状態に戻った時でしょうね」

 

「二人共メンドイ性格してるなー」

 

笑い合う三人。響は立ち上がり。

 

「少し楽になりました。ありがとうございます。私、張り切って休んでおきますね!レグルス君行こう!」

 

「悪い響。俺もうちょっとここにいるよ」

 

「そう、それじゃお先に!」

 

そう言って走っていく響。

 

「翼さんも響さん位素直になってくれたらな」

 

と翼に聞かせられない事を呟く緒川。響の姿が見えなくなったのを確認したレグルスは緒川に『ある事』を小声で話す。

 

「・・・本当何ですか?レグルス君・・・」

 

「まだ『確証』はないけどな・・・慎司・・・弦十朗にもこの事を伝えておいて・・・」

 

「はい。レグルス君は?」

 

「俺は今回の任務で響に何かしらのアクションが起きないように見張っておくよ」

 

「分かりました。気をつけて・・・」

 

「ああ・・・」

 

そう言って緒川と離れるレグルス。移送任務開始まであと数時間。

 

 

 

 

未明。太陽が登り始めた時。移送任務が開始された。黒スーツの諜報課と整列する響とレグルスに弦十朗と了子が指示を出す。

 

「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備!“記憶の遺跡”まで一気に駆け抜ける!」

 

「名付け『天下の往来独り占め作戦』♪」

 

いよいよ移送任務が開始された。響とレグルスは了子の車に乗り。それを囲むように諜報部の車が移動していた。運転を了子が。助手席に響。でも『デュランダル』のある後部座席にレグルスが配置された。上空をヘリコプターが飛びその中に弦十朗がいた。

 

橋の道路を渡っているとき響が窓を開け周辺を捜索すると突然道路の片道車線が砕けた!

 

「了子さん!」

 

「!!」

 

車は一列に並んだが一台間に合わず橋から落ちてしまった。

 

「しっかり捕まっていてね」

 

「えっ?」

 

普段と違ってシリアスな顔になる了子。

 

「私のドラテクは凶暴よ」

 

橋を抜け市街地に入った一同に弦十朗から通信が入る。

 

『敵襲だ!まだ目視で確認していないがノイズだろう!』

 

「この展開。想定していたより早いかも!」

 

今度は了子の車の後ろにいた車が丁度マンホールの上に来たとき突然マンホールの蓋が飛び車ごと吹き飛んだ。

 

「!!??」

 

「まるでアクション映画の世界だ・・・ノイズは下水道か」

 

突然の展開に響は萎縮し、レグルスは冷静にノイズの気配を探る。

 

『その通りだ!ノイズは下水道を通っている!』

 

今度は前方車両が吹き飛び響に向かってくる。

 

「ぶつかる!」

 

「!!」

 

了子のドラテクで交わすが。路上に置いてたゴミを撥ね飛ばしながら走る。

 

「うわああ!」

 

「このままじゃ、ジリ貧だな」

 

「弦十朗君!ちょっとヤバイんじゃない?!この先の薬品工場で爆発でも起きたら『デュランダル』は!」

 

『わかっている!さっきから護衛車を的確に狙い打ちしてくるのは、ノイズが『デュランダル』を相対させないよう制御されていると見える!』

 

「チッ!」

 

弦十朗の言葉に思わず舌打ちする了子。

 

『狙いが『デュランダル』の確保なら。あえて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって算段だ!』

 

「勝算は?!」

 

『思いつきを数字で語れる物かよ!』

 

護衛車は残り一台になり薬品工場に向かうが突然前方の車両のマンホールから緑色の蛞蝓のようなノイズが現れた!車両に乗っていた人達は脱出したが車はそのまま工場のタンクに激突し爆発を起こす。爆発の火に怯えたのかノイズは向かってこない。

 

「狙い通りです!」

 

喜ぶ響だが突然車が傾き逆さまのまま倒れる。

 

『南無三!』

 

「「「ハア、ハア、ハア」」」

 

車から這い出た三人の目の前に大量のノイズが現れた。レグルスは車からケースに入った『デュランダル』を引きずり出す。

 

「了子!『デュランダル』は回収したぞ!」

 

「うーん一層ここに置いて私達は逃げましょ」

 

「「そんなのダメです!(そりゃダメでしょ)」」

 

「そりゃそうね~」

 

漫才やってるうちにノイズが攻撃を仕掛け車が爆発し爆風で吹き飛んだ三人。響の近くにケースが落ちる。更に攻撃を仕掛けようとするノイズ。爆発の煙で弦十朗は現場が見えなくなった。

 

「・・・」

 

了子が右手を翳すと“紫色の障壁”が現れノイズの攻撃を防いだ。

 

「了子・・・」

 

「了子・・・さん」

 

気がついた響の目の前にはアップされた髪が解かれ眼鏡を吹き飛ばされながら“障壁”を張る了子の姿。

 

「しょうがないわね!貴女のやりたいことをやりたいようにやりなさい!」

 

了子の激で響は立ち上がる。しかし後ろから更なるノイズの大軍が現れる。

 

「響。あっちは俺がやっておくから、ここは任せるぜ」

 

「レグルス君・・・・・・うん、私!歌います!」

 

そして響は歌う、『戦いの歌』を・・・レグルスは呼ぶ、『己の鎧』を・・・。

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

響の服が弾け、腕に足にパーツが装備され。

 

「押忍!」

 

ガングニールを纏う戦姫となった!

 

「レオッ!」

 

レグルスが叫ぶと流星のように獅子のオブジェが飛んできた。オブジェはパーツにバラけレグルスの身体に装備される。

 

「ハッ!」

 

気合いを込めるとレグルスの背後に獅子座が現れた。

 

歌を歌いながら響は足に装備されたヒールを壊し拳法の構えを取る。正面から襲いかかるノイズに掌底を叩き込む!叩き込まれたノイズは背中から内部をぶちまけながら消滅し更に襲いかかるノイズを正拳、ひじ打ち、回し蹴り、ハイキック、膝蹴りなど修業で身に付けた拳法で蹴散らしていく。

 

「(修業の成果が出てるな響。さて『アイツ』もそろそろ動くかな?)」

 

ノイズ達はレグルスに襲いかかるがノイズの目の前を幾つもの光が走るとノイズ達は炭化消滅していった。レグルスはノイズに見向きもせず響の戦い様を高みの見物している『少女』、『ネフシュタインの少女』(レグルスはクリスの名を知らない)を見ていた。

 

「・・・コイツ、戦えるようになっているのか?」

 

『ネフシュタインの少女』クリスは驚いていた。少し前まで戦いを知らないド素人だった少女が短時間でここまで力をつけたことに。

 

そして了子もまた響の成長に驚いていた。

 

「・・・・・・「ピー!ピー!ピー!」!?」

 

突然『デュランダル』の入ったケースが独りでに開いていた。

 

「この反応・・・まさか!」

 

了子は再び響の方に目を向ける。ノイズを倒していく響に突然紫色の鎖が襲いかかる!空中に飛んで交わした響に『ネフシュタインの少女』が襲いかかる!

 

「今日こそは物にしてやる!」

 

響の横面に蹴りをかます。

 

「グア!(まだシンフォギアを使いこなせていない!どうすればアームドギアを・・・)」

 

地面に叩きつけられる響。それと同時にケースをぶち破り、『デュランダル』が現れた!『デュランダル』は空中に佇む。その様子を了子は見ていた。

 

「覚醒?起動?」

 

それを少し離れたところから見たレグルスは。

 

「なんだ?!『デュランダル』が起動したのか?でもなぜ・・・ハッ!」

 

『デュランダル』が金色に光る。それを見た『ネフシュタインの少女』は獲物を見つけた目になり。

 

「コイツが『デュランダル』」

 

『デュランダル』を手にしようとするが。

 

「フッ・・・ガァ?!」

 

響がタックルする。

 

「渡すものかーーー!」

 

「!!響!止めろ!『ソレ』に触れるな!」

 

自分でも何故か分からなかった、だがレグルスの直感が言うのだ。

 

『アレは危険』だと。

 

だが響は『デュランダル』の柄を握る。その瞬間!

 

カーーーーーーーーーーーーン!

 

『?!』

 

カーーーーーーーーーーーーン!

 

『デュランダル』から音が鳴り響く。『デュランダル』を両手で持った響、『デュランダル』の金色のオーラがより激しくなる!

 

「ウッ・・・ウゥッ!」

 

響の目が見開き、激しく瞳孔が動き、歯をむき出しにすると突然、金色の光が天に昇る!

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・響」

 

了子も『少女』もレグルスも呆然と見る中、ボロボロだった『デュランダル』がまるで新品同然の姿になったが響は・・・・・・。

 

「うううぅぅぅああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

「これは『あの時』と、いや『あの時』よりも危険だ!」

 

「コイツ、何をしやがった?!」

 

『少女』は了子に目を向けるが了子は歪んだ笑みを浮かべていた。『少女』は悔しそうな顔を浮かべた。

 

「(アイツ・・・何で了子を見たんだ?)」

 

「そんな力を見せびらかすな!」

 

『少女』は『杖』からノイズを射出して響にけしかれるが。

 

「・・・・・・(ギロッ!)」

 

「えっ!」

 

「マズイッッ!!」

 

響の顔はまるで『ケダモノ』のそれだった。

 

「うああああああああああ!!!!」

 

「止めろ!響ーーーーーー!!」

 

雄叫びを上げながら『デュランダル』を振り下ろす響。レグルスは『デュランダル』を響から離そうとする。『少女』は危険を感じ退避したが振り下ろされた『デュランダル』のエネルギーはノイズ諸とも工場を破壊した!連鎖的に爆発が起こる!その中で『少女』は。

 

「(お前を連れ帰って私は・・・・・・)」

 

炎の中に消えそうになる『少女』・・・だが。

 

「クリス!しっかりするんだ!クリス!」

 

「あ・・・」

 

自分を守るように抱き締めている男性。うっすらと見えたがその男性は黄金の鎧を纏っていた。

 

「(黄金の鎧・・・黄金聖闘士・・・何で黄金聖闘士が私を・・・でもなんだろう・・・この冷たいけど暖かい・・・懐かしい感触・・・この声・・・)誰だよ・・・」

 

クリスの呟きは爆発と爆発音でかき消された。

 

薬品工場は『デュランダル』の発動により木っ端微塵に吹き飛んだ!

 

了子は障壁を張って気を失ってシンフォギアを解除された響と響を護ろうと覆い被さったレグルスが気を失っていたレグルスの手に『新たな姿』いや『元の状態』に戻った『デュランダル』が握られていた。

 

「直前で『デュランダル』を引き剥がしたのね、流石は黄金聖闘士・・・・・・」

 

その時の了子はいつもの了子ではない『笑み』を浮かべていた。

 

上空で待機していた弦十朗は呟く。

 

「まさか『デュランダル』の力なのか・・・」

 

 

 

そして更に離れたところに『ネフシュタインの少女』クリスを助けたデジェルがいた。

 

「クリス・・・クリス・・・」

 

クリスの名を呼ぶがクリスは返事をしなかった。急いで脈を図る。気を失っているだけである事を確認しホッと胸を撫で下ろすデジェル。だがデジェルの耳にはクリスの「誰だよ・・・」の言葉が刻まれた。

 

「・・・・・・」

 

「どうやら、その『少女』がお前が探していた『少女』か・・・・・・」

 

「エルシド・・・」

 

デジェルの背後にエルシドが立っていた。エルシドは現場に向かう途中、デジェルを発見し足止めをしていたのだ。その証拠にエルシドの聖衣のあちこちに氷が張り、デジェルも腕や足に小さな切り傷があった。

 

「デジェルよ、お前はその娘のために俺達と敵対したのか?」

 

「笑いたければ笑え。だが私はこの子に、クリスとそのご両親に、私は『生きる力』を貰ったのだ。この子がいなければ、私は今頃世を儚んでこの『第2の命』を捨てていただろう」

 

「そうか・・・」

 

エルシドは殺気を消し大爆発が起こった工場を見る。

 

「あれが『デュランダル』の力か、だがあれを覚醒させたのは」

 

「ガングニールの少女だ。彼女が『デュランダル』と呼ばれる剣を使っていた」

 

「立花が・・・そうか・・・デジェル。その娘と共に俺達の所に行く気はないか?」

 

エルシドの提案にデジェルは一瞬悩むが。

 

「すまない」

 

「そうか、その娘はどうする?」

 

「今はまだ、私は彼女を影から守るよ。だが時が来たら・・・」

 

「分かった。だがその娘がまた牙をむいてきた時は」

 

「あぁ、その時は私がこの子を守る。たとえ『千日戦争<ワンサウザントウォー>』を引き起こすことになってもな」

 

そう言ってクリスを抱き抱え<お姫様抱っこ>、デジェルはその場を離れようとするが。

 

「エルシド、忠告しておく。ガングニールの少女、彼女は危険かもしれない」

 

「・・・・・・」

 

「『半端なもの』が力を持てば呆気なく暴走する。精々手綱はキツくしておけ」

 

そう言ってデジェルはクリスと共に消えた。エルシドは少しの間無言になるがすぐに現場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

まどろみの中、立花響の意識は覚醒する。

 

「(何?今の力?私『全部吹き飛べ!』って身体が勝手に)」

 

「おお響起きたか、気分はどうだ?」

 

「レグルスく、ん?!」

 

目を覚ますと目の前にレグルスの顔があった。しかも後頭部に当たるちょっと固めの枕とこのレグルスの体勢は。

 

「あの。レグルス君。私もしかして、レグルス君に、『膝枕』されてるの?」

 

「あぁ、悪いな他に枕の代わりになるのがなかったからさ」

 

ガバッ!と起き上がる響。

 

「響。大丈夫なのか?」

 

「大丈夫!大丈夫!全く問題ないから!//////////」

 

真っ赤になった顔を見られたくなかったのかレグルスに背を向けてる響。

 

「(これって普通は女の子の私が膝枕するのに逆に膝枕してもらうなんてなんかもうどうしたら//////)ってこれって」

 

周囲の現状に照れ隠しでテンパっていた頭がついさっきまで工場『だった』場所を見た途端に冷静になった。キョロキョロと周囲の状態に困惑する響。『デュランダル』はレグルスが持っていた。

 

「これが『デュランダル』。貴女の歌声で起動した『完全聖遺物』よ」

 

「あの、私、それに了子さんのアレ・・・」

 

自分の身に起きた事、了子が見せた力の事、聞きたい事が山のようにある響に了子は。

 

「ん?いいじゃないの、そんな事♪助かったんだし、ね♪」

 

「ま、確かに助かったんだから良いよな」

 

「レグルス君。うん・・・・・・」

 

上手くはぐらかされたが弦十朗から連絡が入り移送計画は一時中断された。呆然とする響とは別にレグルスはニコニコとした笑顔だがうっすらと開いた目はまるで獲物を観察する『野獣の目』になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

戦姫絶唱シンフォギアAXZいいですね!

この昨品もそこまで行けるか行けると良いです。


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和解とすれ違い

ー郊外ー

 

太陽が登り始めようとし夜の闇が薄くなった世界。響達の住む町から離れた場所、丘の上にある湖畔と崖の中間に建てられた貴族が住みそうな屋敷。だが豪勢な屋敷の半分は不釣り合いで不恰好な機械に覆われていた。この屋敷が『ネフシュタインの少女クリス』と彼女が協力している『人物』のアジトである。

 

湖畔に繋ぐ踊り場で一人の少女がいた。白髪のツインロングテールに赤いゴシック系の服を着た少女、クリスが佇んでいた。

 

「(『完全聖遺物』の起動には相応のフォニックゲインが必要だと『フィーネ』は言っていた・・・・・・あたしが『ソロモンの杖』に半年も手こずった事をアイツはあっという間に成し遂げた。そればかりか、無理矢理『力』をぶっぱなして見せやがった・・・)」

 

先日、『完全聖遺物 デュランダル』を起動させた響の事が頭に浮かんだ。

 

「くっバケモノめ!」

 

クリスは吐き捨て、自分の手に握るノイズを射出する武器『完全聖遺物 ソロモンの杖』を見て呟く。

 

「このあたしに身柄の確保なんてさせる位、『フィーネ』はアイツにご執心って訳かよ。黄金聖闘士と同じ位に」

 

クリスの脳裏に『血塗れになった男性と女性』、『破壊された町』、『泣き崩れる自分』、『銃を持って怒鳴ってくる大人達』、『骨と皮になった自分と同い歳の子供達』、『連れ去られて行く子供』と『怯える自分』、クリスにとって『忌まわしい過去』の光景が頭に浮かんだ。

 

風がそっとクリスを撫でた。

 

「(そしてまた、あたしは『一人ぼっち』になる訳だ)」

 

自嘲気味に呟くクリス。太陽が登り始め世界を光で照らそうとするが、クリスは悲しそうに眺めていた。

 

「・・・・・・!?」

 

後ろからの気配にクリスは目を鋭くして振り替える。そこには長いプラチナブロンドの髪をし黒い長袖のワンピースに黒いキャペリンハットを着けた『妙齢の女性』がいた。この『女性』こそクリスが協力している『フィーネ』と呼ばれる人物である。

 

「分かっている。自分に課せられた事くらいは。こんなもの<『ソロモンの杖』>に頼らなくともアンタの言うこと位やってやらぁ!」

 

『ソロモンの杖』を『フィーネ』に投げ渡すクリス。

 

「アイツ<響>よりも、あたしの方が優秀だってことを見せてやる!あたし以外に『力』を持つやつは、全部この手でぶちのめしてくれる!ソイツがあたしの目的!例えアンタがご執心の黄金聖闘士が相手だろうとな!!」

 

『フィーネ』はそんなクリスを冷たく笑いながら呟く。

 

 

 

 

そしてクリスがいる湖の踊り場から対岸の位置にある森から一人の男性が気配を殺し木に隠れながらその様子を伺っていた。『水瓶座の黄金聖闘士 デジェル』だ。デジェルは先日の戦いで工場の爆発に呑み込まれたクリスを救い、工場から離れた場所にクリスを置き。クリスを裏で操っている人物を探っていたのだ。デジェルは鍛え抜かれた聴覚と視覚で様子を伺っていた。

 

「(あれがクリスのパトロンか?どうやらあの『フィーネ』と呼ばれる人物は私達黄金聖闘士を狙っているようだな。『フィーネ』。イタリア語で『終わり・終焉』を意味しているが、コードネームか?なんにせもう少し見定めてみるか)」

 

デジェルはクリスが何故『フィーネ』に協力している理由に心当たりがあった。『世界の裏』で行われている『理不尽な暴力』、『無情に奪われる罪無き命』、『不条理な世界』、『人間の残酷さと醜さ』。デジェルもまたそれらを知っているからこそ見定めているのだ。クリスが協力する『フィーネ』とエルシド達が協力する二課。どちらに『義』があるかを・・・・・・。

 

 

 

そして日は登り場所は翼が入院している病院。風鳴翼は未だ点滴や松葉杖が取れず足元がおぼつかない状態で病院の通路を歩いていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

まだ安静しなければならない状態だが翼は確固たる気持ちが自身を動かした。

 

「(奏、私も見てみたい!見なければ奏と同じ所に立てない。戦いの裏側』、向こう側に何があるのか、確かめたいんだ)」

 

再び歩き出そうとする翼に看護士が止めようとする。翼は看護士に謝罪しふと窓の外を見るとそこには、未来と一緒に走り込みをする響がいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

翼はそんな響を眺めていた。響も響で先日の戦いで『自分の暴走』を思い出していた。

 

「(暴走する『デュランダル』の力。恐いのは『制御できない事』じゃない、躊躇いもなくあの子に向かって振り抜いた事。私がいつまでも弱いばっかりに)くっ」

 

自分の不甲斐なさに苛立ちを思い始める響。未来は途中でへばったが響はお構い無しに走り続ける。

 

「(私はゴールで終わっちゃダメだ!もっと遠くを目指さなきゃダメなんだ!もっと遠くへ!遠くへ!レグルス君達がいる遥か遠くへ!!)」

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな響の後ろ姿を未来は悲しそうに見つめていた。更に病院の屋上から響を護衛していたレグルスも響の状態に危機感を感じていた。

 

「(響の奴、目の前の事に集中し過ぎて周りの事が見えてないな。その内足元の小石に躓いて大怪我しちゃうかも)」

 

後にレグルスは後悔する。もっと早く忠告してれば良かったと。

 

走り込みを終わらせ未来と響は汗を流すためにお風呂に入った。

 

「もう!張り切りすぎだよ!」

 

「ごめん、考え事してたらつい」

 

「やっぱり響は変わった子!」

 

「日曜の朝なのにごめんね。付き合わせちゃって」

 

「ううん、私も中学時代を思い出して気持ちよかったー」

 

両手を伸ばす未来。

 

「あれだけ走ったのに?!やっぱ流石だよ。元陸上部。こっちはへとへとのヘロヘロでトロトロだったのに」

 

なんじゃそりゃ?とツッコミがくるボケをかます響。未来は響に寄り添う。

 

「ひ~びき!」

 

「ん?」

 

「なんかリディアンに入学してから変わったよね。前は何かに頑張ったりとか好きじゃなかったでしょ?」

 

「ん?そうかな?自分じゃ変わったつもりはないんだけど・・・」

 

「あれ?少し筋肉が付いてるんじゃない?あっ!よく見たら傷たらけじゃないの!」

 

「えっ!」「あっここにも」「えっえっ!」「こんなところにも!」「アハハハ!やめて!やめて!止めて!やめて!ああーー!」と響の身体をまさぐる未来とそれに抵抗する響が姦ましく騒いでいた。

 

「ねえ、今度フラワーでお好み焼き奢ってよ。日曜に付き合ったお返しと言うことで」

 

風呂から上がり服を着ながら未来がお好み焼き店フラワーでお好み焼きを奢って欲しいと頼む。

 

「えっ?そりゃおばちゃんの『渾身の一枚』はほっぺの急降下作戦と言われるくらいだけと・・・」

 

「んじゃ契約成立ね!楽しみだなぁ、フラワーのお好み焼き」

 

「ほんとにそんなのでいいの?」

 

「うん!そんなのがいいな!」

 

微笑ましく会話する響と未来。

 

 

場所は変わり二課本部では、亡くなられた広木防衛大臣の繰り上げ法要の為、弦十朗が向かうことになった。弦十朗は喪服の上着を着ながら『デュランダル移送計画』が頓挫した為に本部の防衛システムと強度アップの進行状態を了子達から聞いていた。

 

「ここは設計段階から限定解除でグレードアップしやすいように織り込んでいたの。それにこの案は随分昔から政府に提出してあったのよ」

 

だが当たりの厳しい議員連に反対されていたが、その反対派の筆頭が亡くなられた広木防衛大臣だったのだ。非公開の存在に血税の対応と無制限の超法規措置は許されなかった。それゆえ防衛大臣は反対派に周り二課に余計な横槍が入らないように防波堤になっていた事を弦十朗は話した。防衛大臣の後任は副大臣がなり、今回の本部改造計画の立役者でもあるが、『協調路線』を強く捉える防衛大臣として日本の国防政策に対し米国政府の威光が通りやすくなった事を弦十朗は話す。あおいは広木防衛大臣暗殺も米国政府が絡んでないかと示唆するが。

 

ヴー!ヴー!ヴー!ヴー!ヴー!

 

改造中の区画でトラブルが発生した事で警報が鳴った。了子が現場に向かう。弦十朗は了子の後ろ姿を探る様に見ていた。

 

 

 

 

翌日の学校。

 

「そういえばさ、ビッキー知ってる?うちの学校に最近幽霊が出てくるって噂」

 

弓美は響と未来に学校の噂話を話す。

 

「「幽霊?」」

 

「そ!幽霊!何でも昼間や夜中にこの学校に男の子の幽霊が出るんだって!」

 

「昼間に出るのなら幽霊ではないのでは?」

 

「それがさ、その幽霊を見かけたんだけど突然姿が消えてしまうんだって!」

 

「それって幽霊じゃなくて不審者じゃ」

 

詩織と創世が弓美にツッコム。

 

「そしてなんと!その男の子の幽霊って結構イケメンで寧ろ見つけたいって女の子がかなり多いみたいだよ!」

 

「幽霊なのか不審者なのか分からないけど、見つけたいって・・・」

 

ブゥーン!ブゥーン!ブゥーン!

 

「あっ、ごめん」

 

響は端末から連絡が入り教室を出て行く。

 

「あっ緒川さんどうしたんですか?はい・・・はい、えっ?!私がですか?」

 

 

 

響と連絡を取っていた緒川は手に銃を持ち諜報部と共についさっきまで人がいた痕跡がある部屋に踏み込んでいた。

 

「ちょっと手が離せないんですよ。すみませんがお願いできませんか?こんなこと頼めるの響さんしかいなくて」

 

緒川は他の隊員が見つけた部屋の人間の持ち物を発見し追跡を始めようとする。

 

 

 

 

「・・・はい!分かりました!」

 

勢いよく返事する響だが後ろを振り向くとそこに未来がいた。

 

「あーそれじゃー失礼します!」

 

ピッと連絡を切った響は未来の方を見て。

 

「あれ、未来。どうしたの?」

 

「うん、今日これから買い物に行くんだけど、響も行かない?」

 

「・・・・・・」

 

「その後で『フラワー』に寄ってね」

 

「ごめん、たった今用事が入っちゃって・・・」

 

響の返答に未来は一瞬悲しそうになるが。

 

「そっか」

 

「折角未来が誘ってくれたのに。私呪われてるかも」

 

「ううん、分かった。じゃまた今度」

 

「・・・」

 

「気にしないで!私も図書室で借りたい本があるから今日はそっちにする」

 

「ごめんね」

 

未来に謝りその場を去る響。無言でその場を去る未来。だがその心は暗い雲が覆い始めていた。

 

 

 

 

「んで。慎司にここに行ってくれって頼まれたと?」

 

「うん・・・」

 

レグルスと合流した響は花束を買いある場所に来ていた。そう『翼が入院している部屋』に。

 

「・・・・・・」

 

響はまるで決戦に赴くような顔で翼の個室の前に佇む。翼との確執は未だ解消されていないのだから当然である。

 

「響、とりあえず一度深呼吸」

 

「うん、すぅーはぁー。失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

暗証番号を入力して部屋に入る二人。

 

「翼さ・・・・・・」

 

「ん?」

 

部屋に入った二人。だが響は愕然となり持っていた鞄を落とし、レグルスは目を鋭くした。

 

「「・・・・・・」」

 

二人の目の前には。

 

「ま、まさか、そんな」

 

「何をしてるの?」

 

「「?!」」

 

声がした方を振り向くと風鳴翼が憮然とした顔を浮かべていた。響は慌てて声を出す。

 

「大丈夫ですか?!本当に無事なんですか?!」

 

「入院患者に無事を聞くって、どうゆう事?」

 

「いや、だってさ」

 

「これは!」

 

と部屋の中を指差す響&レグルス。部屋の中は・・・。

 

下着や服や化粧品や新聞や本や雑誌やらが錯乱しまるで強盗にでも入られたようにごちゃごちゃしていた!

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

翼は何とも言えない顔になった。

 

「私、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかと思って!二課の皆がどこかの国が陰謀を巡らせているかもしれないって言ってたし!」

 

「///////」

 

「「(あっもしかして)響、響」

 

「何!レグルス君!」

 

「・・・・・・」くいっくいっ

 

顎で翼をしゃくるので翼を見ると。

 

「////////////////」

 

翼がばつの悪そうに顔を赤らめてるのを見て。

 

「・・・えっ?」

 

「////////////////」

 

「えっ?」

 

「そゆことだよ」

 

「あー、えっと」

 

『日本を代表するアーティスト 風鳴翼』は実は、『片付けられない女』だったのだ!

 

 

持ってきた花束を花瓶に入れ部屋の掃除をする響とレグルス。響は衣類を畳み。レグルスは本を整理していた。

 

「もう、そんなのいいから////」

 

恥ずかしいのか少し顔を赤らめる翼。

 

「私、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてくださいね♪」

 

「俺もエルシドの代わりにお見舞い♪」

 

「私はその、こうゆう所に気が回らなくて////」

 

「以外です。翼さんって何でも完璧にこなすイメージがありましたから」

 

「・・・・・・」

 

響の言葉に自嘲混じりの笑みを浮かべ。

 

「成る程・・・これが『片付けられない女』って奴か!分かった!」

 

「・・・・・・」(ズーン)

 

レグルスの悪意0のコメントに落ち込む。

 

「レグルス君!オブラートに包んで!」

 

「真実は逆ね・・・私は戦う事しか知らないのよ」

 

翼はまた自嘲気味に呟くがレグルスが明るい声をかける。

 

「俺もだよ」

 

「えっ?」

 

レグルスに目を向ける翼。

 

「俺もエルシドも幼い頃から戦う事しかしてこなかった。だからかな。こうゆう風に片付けとか学校とか新鮮で楽しいんだ♪」

 

「学校に行ってるの?」

 

「いんや、響の護衛で気配を殺しながらリディアンを詮索してんだ♪」

 

「(まさか弓美が言ってた『男の子の幽霊』って・・・)おしまいです♪」

 

「・・・すまないわね。いつもは緒川さんがやってくれてるんだけど・・・」

 

翼の言葉に響は驚き。

 

「えぇ!男の人にですか・・・/////」

 

響の言葉に翼は。

 

「・・・・・・?!//////////」

 

「(ひょっとして慎司って『男』と認識されてないのかな?ま、慎司の方も翼の事を『妹』感覚で接していると言ってたし。おあいこかな?)」

 

「た、確かに、考えてみれば色々問題ありそうだけど・・・それでも、散らかしっぱなしにしているのも良くないから・・・つい///」

 

「ハァ・・・エルシドさんは?」

 

「『自分でやれ』と」

 

「あぁ、本当に厳しいですね・・・」

 

「エルシドならそれぐらい言うぞ」

 

「・・・今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

 

「えっ?」

 

「私が抜けた穴を貴女が良く埋めていることもね」

 

「!?そんな事は全然ありません!いつもレグルス君や二課の皆に助けられっぱなしです///」

 

「・・・・・・」

 

翼は響とレグルスが今まで見たことないような優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

図書館にきた未来はある本を手に取る。

 

『素直になって、自分』

 

「ハァ・・・」

 

ふと窓の外を見ると『風鳴翼と知らない男の子と談笑している響の姿』が見えていた。学校と病院は目と鼻の先にあるので窓越しでその光景が見えていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

響が『風鳴翼』と『見知らぬ男の子』と笑いあっている光景は未来に大きな衝撃を与えた。

 

そんな事露知らずの響は。

 

「嬉しいです。翼さんにそんな事言って貰えるなんて///」

 

「でも、だからこそ聞かせて欲しいの」

 

顔を引き締め響に向かい合う翼。

 

「貴女の『戦う理由』を」

 

「えっ?」

 

「・・・・・・」

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは今日まで死線を越えてきた貴女なら分かる筈」

 

「良くわかりません・・・私、『人助け』が趣味みたいなものだから、それで・・・」

 

「それで?それだけで?」

 

「だって勉強とかスポーツは誰かと競いあって結果を出すしかないけど、『人助け』って誰かと競い合わなくて良いじゃないですか。私には『特技』とか人に誉められるものがないから、せめて皆の役に立てればいいかなぁって、アハハハ、ハハハ」

 

「「・・・・・・」」

 

「切っ掛けは、やっぱり『あの事件』かもしれません。私を救うために奏さんが命を燃やした2年前のライブ。奏さんだけじゃありません。あの日沢山の人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って今日も笑ってご飯を食べていたりしています。だからせめて誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったりご飯を食べたりしたいから」

 

「「・・・・・・」」

 

「『人助け』がしたいんです」

 

響の『答え』に翼はフッと微笑み、レグルスはニッと笑い。

 

「貴女らしい『ポジティブな理由』ね」

 

「シンプルでもあるな」

 

「だけど、その思いは『前向きな自殺衝動』かもしれない」

 

「『自殺衝動』?!」

 

「誰かのために自分を犠牲にすることで『古傷の痛み』から救われたいという。『自己断罪』の現れかも」

 

「あの~、私、変なこと言っちゃいましたか?」

 

「え?」

 

「え、えっと・・・アハハハ、ハハハ」

 

「フッ」

 

「ヘッ」

 

三人は移動し屋上に行く。

 

「変かどうかは私が決めることじゃないわ。自分で考え、自分で決めることね」

 

「考えても考えても分からないことだらけなんです。『デュランダル』に触れて『暗闇』に飲み込まれかけました。気が付いたら人に向かってあの力を・・・私がアームドギアを上手く扱えていれば、あんなことにならずに」

 

「『力の使い方』を知るということは即ち『戦士』になるということ」

 

「『戦士』・・・」

 

「それだけ、『人としての生き方』から遠ざかる事なのよ。そしてその最たる例が彼等『聖闘士』よ」

 

翼はレグルスの方に目を向け、響もレグルスを見る。レグルスは『戦士の目』で答える。初めて見るレグルスの『戦士の姿』に響に緊張が走る。

 

「響、俺達聖闘士は『戦う為』に生きてきた。『子供としての時間』も『少年としての青春』も『聖闘士』になるために捨ててきた。『力』を得る為には俺達は『人としての生き方』を犠牲にしてきた。『犠牲にしない』で『何か』を得られる程『戦士の生き方』は生易しくない」

 

翼は響を真っ直ぐに見つめて問う。

 

「貴女にその『覚悟』はあるのかしら?」

 

響は毅然と言う。

 

「『守りたいもの』があるんです。それは何でもないただの『日常』。そんな『日常』を大切にしたいと強く思うんです。だけど、思うばかりで空回りして」

 

「戦いの中、貴女が思っていることを」

 

「ノイズに襲われている人がいるなら、1秒でも早く救い出したいです!」

 

「最速で!」

 

「最短で!」

 

「真っ直ぐに!」

 

「一直線に駆けつけたい!!そして・・・」

 

響の脳裏に『ネフシュタインの少女』の姿が浮かんだ。

 

「もしも相手がノイズではなく誰かなら、どうしても戦わなくっちゃいけないのかって言う。胸の疑問を・・・私の『想い』を届けたいと考えています!」

 

「今貴女の胸にあるものをできるだけ強くはっきりと想い描きなさい。それが貴女の『戦う力』、『立花響のアームドギア』に他ならないわ」

 

「(響は『答え』を出したな・・・・・・でも『戦わなくっちゃいけないのか』か、あの『二人』が聞いたらなんて言うかな?)」

 

レグルスの脳裏に黄金聖闘士の『問題児』達の姿が浮かんだ。

 

 

 

 

 

小日向未来は顔を俯かせ商店街を歩いていた。そして『お好み焼き店フラワー』に立ち寄った。そこで店長の女性が出迎える。

 

「いらっしゃい!」

 

「こんにちわ」

 

「おや?いつも人の三倍は食べるあの子は一緒じゃないの?」

 

響の事を言う。

 

「今日は、私一人です」

 

「そうかい」

 

何かを察したおばちゃんはお好み焼きを作る。

 

「んじゃ、今日はおばちゃんがあの子の分まで食べるとしようかね」

 

「食べなくていいから焼いてください」

 

「ア、アハハハ・・・」

 

「お腹空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きを食べたくて、朝から何も食べてないから」

 

沈んだ顔の未来におばちゃんは。

 

「そうだ悪いんだけどちょっと二階にいる奴を連れてきてくれないかい?」

 

「え?二階にいる奴って?」

 

「少し前に拾った奴なんだけどね、絶食してるわ偏屈屋だわで中々おばちゃんのお好み焼きを食べてくれないんだよ」

 

「何でそんな人を・・・」

 

「ソイツね。『帰る家』も『家族』もいない。生まれてからずっと『目が見えない』奴でね、坊さんみたいなナリをしてね。何かほっとけなくてさ。少しの間居候させてたんだ。可愛い女の子と一緒ならきっと食べて「勝手に決められては困るな店主」なんだい、降りてきたのかい?」

 

「・・・?!」

 

未来はその青年に言葉を失っていた。坊さんの着る服『袈裟』を纏い、腰にまで届く金色の髪。額に赤い白毫を付け、澄んだ声をし。端麗な顔立ちをした美青年。目は閉じられているのにそんなのお構い無しに歩いてくる。

 

「あ、あの貴方は?」

 

「少女よ、人の名を訪ねるときは己からだ」

 

「あ、ごめんなさい。私は小日向未来って言います」

 

「私は『アスミタ』。ここに居候させてもらってる通りすがりだ」

 

「アスミタ、今日位はおばちゃん特性のお好み焼きを食べな。その内本当に餓死するよ。お腹空いたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」

 

「ほう、中々面白い事を言うな店主」

 

「(そうかもしれない、何も分からないまま私が勝手に思い込んでるだけだもの。ちゃんと話せばきっと)」

 

「ならば自身の気持ちを素直に相手に伝えることだな。少女よ」

 

「えっ?(私、今声に出してた?)」

 

「そろそろ店主の食事ができるぞ」

 

「あ、そうだったありがとうおばちゃん」

 

「何かあったらまたいつでもおばちゃんの所においで。アスミタも手伝わせるからさ」

 

「フム、居候の身だが手助けぐらいはしよう」

 

「ありがとうございます。アスミタさん」

 

未来とおばちゃんは知らない。目の前にいる盲目の男が『地上で最も神に近い男』と言われていることを。

 

 

 

その頃と響は。

 

「う~ん。そう言われてもアームドギアの扱いなんてすぐには考え付きませんよ。ね!知ってますか翼さん!お腹空いたまま考えても録な答えが出せないってことを」

 

「何よそれ?」

 

「腹へったの響?」

 

「そうじゃなくて。前に私言われたんです!お好み焼きのおばちゃんに。名言ですよ!」

 

「あぁそう・・・」

 

「そうだ翼さん!私、フラワーのお好み焼きをお持ち帰りしてきます!お腹いっぱいになればギアの使い方も閃くと思いますし!翼さんもレグルス君も気に入ってくれると思います!!」

 

「おおい響待てよ!」

 

「えっ?ちょっ待ちなさい!立花!」

 

「(おっ!翼初めて響の名前呼んだかも)」

 

走り去って行く二人を翼は微笑ましく見ていた。

 

 

だが・・・二課本部では。

 

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 

「『ネフシュタンの鎧』を纏った少女が、こちらに接近してきます!」

 

「周辺地区に避難警報を発令!そして、響君とレグルス君への連絡だ!」

 

 

結局アスミタの分まで食べた未来は寮へと帰ろうとするが。その顔は決意を込めた。

 

「はい!分かりました!すぐに向かいます!」

 

「響!あれ!」

 

「!?」

 

二人の目の前に未来がいた。

 

「響!」

 

「未来・・・」

 

「ヤバイな」

 

「「!?」」

 

殺気を感じた二人はそこに目を向けると『ネフシュタインの少女』がいた。

 

「お前はーーーー!」

 

鞭で攻撃した。

 

「!?」

 

響は自分達に近づく未来に目を向け。

 

「来ちゃダメだ!ここから・・・」

 

言い終わる前に攻撃が地面を抉りその衝撃波で未来は吹き飛ぶ!

 

「アアアァァァァァァ!!」

 

「!?」

 

「しまった!アイツらの他にもいたのか?!」

 

地面に転がる未来に吹き飛ばされた車が迫る!

 

「!?」

 

響が歌う。レグルスは呼ぶ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

「レオッ!」

 

ガングニールを纏った響は未来に迫る車を殴り飛ばす!突然の響の姿に未来は戸惑う。

 

「レグルス君、未来を・・・」

 

「分かってる」

 

獅子座の聖衣を纏ったレグルスが未来に付く。

 

「響?」

 

「ごめん・・・」

 

未来にそう呟くと響は『ネフシュタインの少女』の元へ行く。『戦いの歌』を歌いながら。

 

「ドンクせえのが一丁前に挑発するつもりかよ!」

 

未来に被害がでないように相手を誘導する響。

 

「何で?響が?」

 

「(こりゃヤバイかも)」ビッ

 

ー指令室ー

 

「響ちゃん交戦に入りました!現在市街地を避けて移動中!」

 

「そのままトレースしつつ映像記録詳解!」

 

「指令!レグルス君から通信です!」

 

「どうした!レグルス君!」

 

『弦十朗。実は・・・』

 

未来お引き離した響は『ネフシュタインの少女』と対峙する。鞭ですかさず攻撃する。

 

「あう!」

 

「ドンクせえのがやってくれる!」

 

「どんくさいって名前じゃない!」

 

「ん?」

 

「私は立花響!15才!誕生日は9月13日で血液型はO型!身長はこないだ測定では157センチ!体重は・・・もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで!好きなものはご飯&ご飯!後、彼氏いない歴は年齢と同じ!」

 

何故か敵に自己紹介を始めた。

 

「な、何をとちくるってんだ?お前・・・」

 

予想できない相手の行動に戸惑う。

 

「私達はノイズと違って言葉が通じるんだから!ちゃんと話し合いたい!」

 

響の態度に相手は嘲笑する。

 

「なんて悠長!この期に及んで!」

 

鞭で攻撃するが響は攻撃をかわす!

 

「(こいつ、何か変わった?『覚悟』か!!)」

 

響の動きから『覚悟』を持った事を理解した。

 

「話し合おうよ!私達は戦っちゃいけないんだ!」

 

「チッ」

 

「だって、言葉が通じ会えば人間は「うるさい!」!?」

 

「解り合えるものかよ!人間が、そんな風にできているものか!気に入らねえ!気に入らねえ!!気に入らねえ!!!わかっちゃいねえことをペラペラと知った風に口にするお前がーーーー!!!!」

 

彼女は許せなかった。『地獄』を見てきた彼女にとって何も知らずに喋る響が。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、お前を引きずってこいと言われたがもうそんな事はどうでもいい!お前をこの手で叩き潰す!今度こそお前の全てを踏みにじってやる!」

 

「!私だってやられるわけには」

 

「アアアァァァァァァ!!ぶっ飛べ!」

 

『NIRVANA GEDON』を放つ少女。

 

「くううううぅぅぅ!」

 

腕を交差させて防ぐ響。

 

「持ってけ!!」

 

更に「NIRVANA GEDON」を放つ。

 

ドゴーーーーン!!

 

「ハァ、ハァ、ハァ、お前なんかがいるから、あたしはまた・・・はっ!」

 

「ハァァァァァァァアアアアアア!」

 

響は両の掌で『NIRVANA GEDON」のエネルギーを圧縮させ打ち消した!

 

「!」

 

「(くっ、これじゃダメだ!翼さんのようにギアのエネルギーを固定できない!)」

 

「この短期間にアームドギアまで手にしようったか?」

 

響は歌いながら右手にエネルギーを集中させる。アームドギアに形成できないなら。

 

「(そのエネルギーをぶつければいいだけ!)」

 

小さなエネルギーを右手に握る。

 

「させるかよ!」

 

攻撃しようと鞭をのばすが響はそれを掴む。

 

「(『雷を握りつぶすように!』)」

 

掴んだ鞭を引き寄せ少女を自分に引き寄せる!すると腰のパーツが火を吹き!バーニアになって少女に近づく!

 

「(最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線に!胸の響きを!この想いを伝えるために!!」

 

響の拳が少女の腹にヒットする!その瞬間!右手のパーツがパイルバンカーのように2撃目を叩き付ける!

 

「(うおおおおおおおあああああああああああ!!!!」

 

バキバキ!

 

『ネフシュタンの鎧』に皹が走る!

 

「(バカな・・・『ネフシュタンの鎧』が・・・)」

 

チュドーーーーーーーン!!

 

響達が交戦中の場所で爆発が起きる。その光景を未来は涙を流して見ていた。

 

「・・・・・・響・・・」

 

未来の呟きが響く。

 

 

 

 

 

未来の後ろでエルシドがレグルスと合流する。

 

「彼女は?」

 

「響の親友・・・」

 

「そうか・・・・・・レグルス、彼女は俺に任せろ。お前は立花の所に」

 

「・・・分かった」

 

そう言ってレグルスは響の元へ向かう。そしてエルシドは本部に連絡を取る。内容はレグルスと同じ案件で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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イチイバルの奏者と絶剣復活

今回あるキャラがキャラ崩壊するかも。


響と『ネフシュタンの少女』の戦いが行われている場所についたレグルスは、正拳の構えの響と地面を削りながら吹き飛ばされた『ネフシュタンの少女』がいた。

 

「くっ(なんて折り筋な力の使い方をしやがる!この力、あの女<翼>の『絶唱』に匹敵しかねない!)」

 

ビキビキと破損された『ネフシュタンの鎧』が再生しようとする。だがそれはまるで『少女』の身体を蝕むように。

 

「(っ!食い破られる前にカタを付けなければ!)!?」

 

響に目を向けると響は構えを解いていた。

 

「お前、バカにしてるのか!?あたしを!『雪音クリス』を!!」

 

響は唄を止めて話す。

 

「そっか、クリスちゃんって言うんだ」

 

「?!」

 

「ねえクリスちゃん!こんな戦いもうやめようよ。ノイズと違って私達は言葉をかわすことができる。ちゃんと話をすれば、きっと解り合える筈!だって私達同じ人間だよ!」

 

「(響、同じ人間でも『解り合えない』奴等だっているんだ。人間であった筈の『冥闘士<スペクター>』は人を殺すことになんの躊躇もなかった)」

 

『温室』で生きてきた者と『戦場』で生きてきた者の価値観の違いであった。雪音クリスは後者の方であった。

 

「お前くせぇんだよ・・・嘘くせぇ!青くせえ!!」

 

怒りの形相で響を攻撃するクリス。怒涛の攻撃に響は吹き飛ばされる。だが『ネフシュタンの鎧』は再生が遅れ思うように力が出せない。

 

「クリスちゃん・・・」

 

「ぶっ飛べよッ!!」

 

クリスが吠えると『ネフシュタンの鎧』を砕け破片が響を襲う!そして土煙が舞う戦場で響ではない歌が響く。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「この歌って・・・」

 

「フォニックスゲインの波動?」

 

「見せてやる!『イチイバル』の力をな!」

 

クリスの身体を光が覆う!

 

 

 

 

ー指令室ー

 

「『イチイバル』だと?!」

 

指令室は騒然となった。『十年前』に失われた『第二の聖遺物』の出現とそれが『敵側』に回っていたことに。

 

 

 

「クリスちゃん、私達と同じ・・・」

 

土煙が晴れるとクリスが立っていた『赤いシンフォギア』を纏ったクリスがいた。

 

「唄わせたな・・・あたしに歌を唄わせたな!教えてやる!あたしは歌が大っ嫌いだ!」

 

「歌が嫌い?」

 

歌を歌いながらクリスは右手のパーツが『ボーガン』へと変形した!『ボーガン』から紫色の矢が何本も現れ響に向かって発射される!逃げ惑う響だが逃げる地点に先回りしたクリスが蹴りをお見舞いし響を吹き飛ばす。

 

すかさず『ボーガン』が姿を変え左手のパーツも姿を変えて片手に『二門三連ガトリング砲』を持ち、両手を合わせて『四門三連ガトリング砲』を構えて響に放つ!

 

『BILLION MAIDEN』

 

更に逃げる響。

 

「ヤバイな(それにしても『イチイバル』って確か『北欧神話』の『狩猟神 ウル』が扱う弓の筈。なんで重火器の姿になってるんだ?)ん?あれは・・・」

 

レグルスの視界にこちらに近づく『蒼い光』を捉えた。弾丸の嵐は木を地面を森を破壊し、クリスの腰部アーマーが展開し追尾式小型ミサイルを放つ。

 

『MEGA DETH PARTY』

 

小型ミサイルが響に当たりそうになる。

 

「!?」

 

弾丸とミサイルの弾幕の嵐がクリスの視界を爆発と炎が満たす。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

 

 

 

離れた場所で未来の護衛をしていたエルシドはフッと笑い。

 

「遅かったな・・・・・・・・・『翼』」

 

 

 

 

 

煙が晴れるとクリスの視界に『巨大な壁』があった。

 

「盾?」

 

「剣だ!」

 

『壁』の上から声が聞こえ上を向くとそこには。

 

『シンフォギア 天羽々斬』を纏った防人。『風鳴翼』がそこにいた!翼は『天ノ逆鱗』を盾のようにしてクリスの弾幕から響を守ったのだ!

 

「フッ!死にかけておねんねだと聞いていたが、『足手まとい』を庇いに現れたか?」

 

以前に圧倒した相手故に余裕の態度のクリス。だが翼は冷静にクリスを見据えていた。

 

「もうなにも、失うものかと決めたのだ!」

 

『翼。無理はするな』

 

「はい!」

 

弦十朗からの通信に答える翼。

 

「翼さん・・・」

 

「気づいたか?立花。だが私も十全ではない。力を貸してほしい」

 

「はい!」

 

「(初めて翼が・・・)」

 

「(立花に共闘を持ちかけたか・・・)」

 

クリスが再びガトリングを掃射する。翼は弾幕を軽やかに交わして行く。まるで舞うように。クリスの攻撃のターンを与えないように攻撃し、刀でガトリングを弾き、クリスの体制が崩すと後ろに回り首筋に刀身を当てる。

 

「(この女、以前とは動きがまるで・・・)」

 

『迷い』を越え『盲信』を捨て、完全なコンディションになった翼は以前とは桁違いのパフォーマンスを見せた。

 

「翼さん!その子は」

 

「わかっている」

 

「くそッ!」

 

ガトリングで刀身を弾き、翼と距離をあけて向かい合うクリス。

 

「(刃を交える敵じゃないと信じたい。それに、十年前に失われた『第二号聖遺物』の事も質さなければ)」

 

「(?!)」

 

距離を開ければ射撃特化のクリスに分があると判断した翼は距離を詰めようとするが。

 

「止まれ!!翼ッ!!!」

 

「「「?!」」」

 

突然のレグルスの制止の渇に翼と響そしてクリスも身を含ませた。

 

「皆、絶対に動くなよ。動くと『凍りつくぞ』」

 

「「「!?」」」

 

改めて翼達は自分の身体の周りでキラキラと光る『氷の輪』があるのに気付く。

 

「な、なにこれ?」

 

「いつの間にこんな氷が?」

 

「へっ!こんな氷なんてぶっ飛ばして「そんな武器で何を吹き飛ばすんだ?」何・・・ッ!?」

 

「これは!?」

 

翼の持っていた刀が、クリスの両手に装備されたガトリング砲と腰部アーマーがいつの間にか『凍りついて」いたのだ。

 

「こんな芸当ができるのは、『デジェル』!いるんだろ!出てこいよ!」

 

森の中から姿を表す。

 

「『カリツオー』。我が小宇宙によって生まれた凍気を輪状に凝縮させ相手の動きを封じる技。今君達の武器を凍らせたのは絶対零度に近い低温と極度の圧力を相手に与える『カリツオー』より強大な『グランカリツオー』だ。下手に武器を使えば粉々になるぞ」

 

レグルスともエルシドとも違う黄金の鎧。『水瓶座<アクエリアス>の黄金聖闘士 デジェル』である。

 

「(あれがデジェルさん?思ってたよりも・・・ずっとイケメン?!)」

 

「(『四人目の黄金聖闘士』!?戦闘中の我々の動きを封じるだけでなく、我々の武器だけを一瞬で凍てつかせたというのか?!なんと精密な技なのだ!)」

 

「(デジェル・・・えっ?まさか・・・そんな、嘘だろ?)」

 

響はデジェルの容姿に驚き、翼は技に驚嘆し、クリスは自分の目の前にやって来たデジェルを見て。過去の記憶がフラッシュバックした。かつて『地獄』を見る前に自分が慕っていた少年と目の前にいる青年が重なり『驚愕』と『戸惑い』が混じった顔になり、両手に持った武器を地面に落とした。

 

「・・・お兄・・・ちゃん?」

 

そう呟くクリスの頬に涙が流れた。

 

「クリス。思い出してくれたか」

 

デジェルは優しく微笑み、クリスの頬に手を当てる。

 

「でも何で?お兄ちゃんはあの日・・・」

 

「クリス・・・・・・ッ?!」

 

「!?」

 

突然目を鋭くしたデジェルとレグルスは上空を見る。響達も釣られて見ると。藍色の鳥形ノイズが夕焼けの空を覆い隠していた。

 

「ノイズ!?」

 

「バカな・・・指令室は探知してないのか?!」

 

『すみません!突然ノイズの反応が大量に現れて!」

 

友里からの通信を聞き終わる前に鳥形ノイズはまるで水面にいる魚をハントするように急降下し響達に襲いかかるが。ここには『地上最強』が二人もいるのだ。

 

「レグルス、合わせろ!光と結晶の乱反射、『ダイヤモンド・ダスト』!」

 

デジェルの拳から放たれた凍気は上空のノイズを『一瞬』で全て凍てつかせ。

 

「敵を切り裂け光の牙!『ライトニング・プラズマ』!!」

 

レグルスの拳から放たれた光が凍てついたノイズを粉々に砕く!砕かれたノイズ達は重力に従い地面に降ってくる。細かい破片となったノイズの欠片は夕焼けの光を反射し幻想的な光景を写していた。

 

「「「・・・・・・」」」

 

奏者達は目測でも50体はいたノイズを『一瞬』で全滅させた聖闘士に驚愕していたがそれ以上に『人類の驚異』であるノイズの幻想的な死に様に見惚れていた。それは指令室にいる弦十朗達もだ。

 

「(凄い・・・)」

 

「(なんと美しい・・・)」

 

「(お兄ちゃんは黄金聖闘士だったのか・・・)」

 

ー情けないわねクリス。命じた事も出来ないなんて、貴女はどこまで私を失望させるのかしら?ー

 

「「「「「??!!」」」」」

 

突如戦場に響く『女性』の声。声の聞こえる方に目を向くとそこにいたのは。

 

黒いワンピースと黒いキャペリンハットを身につけサングラスを掛けた『女性』がクリスが持っていた『ノイズを生み出す杖』を持っていた。

 

「あの人は?」

 

「『フィーネ』?!」

 

「(『フィーネ』?『終わり』の名を持つもの?)」

 

「デジェル、アイツが?」

 

「そうだ。クリスを裏で操っていた『黒幕』だ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「クリスちゃん?」

 

クリスは響を一瞥すると『フィーネ』に近づき。

 

「こんな奴がいなくたって、『戦争の火種』位あたし一人で消してやる!そうすればあんたの言うように、人は『呪い』から解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろ?!」

 

「フウ、もう貴女に用はないわ」

 

「えっ?な、何だよそれ!」

 

『フィーネ』はクリスの言葉を無視すると右手が光り、青い粒子が集まる。

 

「あれって?」

 

「砕け散った『ネフシュタンの鎧』か?」

 

『フィーネ』は『ネフシュタンの鎧』を回収するし『杖』を構えると。

 

「「!?」」

 

翼と響の死角からノイズが襲いかかるが。

 

斬ッ!斬ッ!

 

「・・・・・・」

 

「エルシド?!」

 

未来を遅れてきた諜報部に預けエルシドも駆けつけた。エルシドは翼を一瞬一瞥するとレグルスやデジェルの隣に立つ。

 

「あれが『黒幕』か?」

 

「ああ『フィーネ』って言うんだってさ」

 

「フフフ、『水瓶座<アクエリアス>』に『山羊座<カプリコーン>』に『獅子座<レオ>』か。いずれお前達の命と黄金聖衣、我が物にしてくれる」

 

そう言ってフィーネは夕焼けの空に消えた。

 

「待てよ・・・フィーネ!!」

 

「待つんだクリス!」

 

フィーネを追おうとするクリスをデジェルが引き止める。クリスはデジェルの方を振り向き、『辛そうな』、『泣きそうな顔』になるが。

 

「お兄ちゃん・・・・・・ごめんなさい!!」

 

デジェルの制止を振り切りフィーネを追い夕闇に消えるクリス。

 

「クリス!」

 

「行け。デジェル」

 

「エルシド・・・しかし・・・」

 

「ずっと探していたのだろう?ここで見失うな」

 

「・・・すまない!」

 

デジェルもクリスを追って夕闇に消える。急展開の事態に響と翼も呆然としていた。

 

 

 

 

指令室では『イチイバルの奏者』。『水瓶座の黄金聖闘士』。『フィーネと呼ばれる黒幕』と事態の急展開に呆然とした。そんな中、友里が口を開く。

 

「反応ロフト。これ以上の追跡は不可能です」

 

藤尭は調べものを報告する。

 

「こっちはビンゴです」

 

メインモニターに『雪音クリス』の載った記事が写し出された。『南米内戦』、『邦人少女 失踪』と書かれた記事と『ギア装着候補 雪音クリス』と書かれたクリスの面影がある少女の写真が写し出された。

 

「あの少女だったのか」

 

「『雪音クリス』。現在16才。二年前に行方知れずになった。過去に選抜された『ギア装着候補』の一人です」

 

藤尭の説明に弦十朗は頷き。諜報部に連れられた未来をモニターで見ていた。

 

 

 

 

 

翼は本部に出頭していた。

 

「(奏が何のために戦ってきたのか、今なら少し分かる気がする。だけど、それを理解するのは正直辛い。人の身ならざる私に受け入れられるのだろうか?自分で人間に戻ればいいそれだけの話じゃないか。いつも言ってるだろ?あんまりガチガチだとポッキリだって。何てまた意地悪を言われそうだ」

 

少し笑うがすぐに気を引き締め。

 

「(だが今さら、戻ったところで何ができると言うのだ?いや『何をしていいのか』すらわからないではないか)」

 

『好きなことすれば良いんじゃねえの。簡単だろ?』

 

ふと『片翼』の声が聞こえた気がして振り向くがそこには誰もいない。

 

「(好きなこと、もうずっとそんな事考えてない気がする。遠い昔、私にも夢中になったものがあった筈なのだが・・・」

 

絶剣の心は未だに僅かな『迷い』があった

 

 

 

響は了子からメディカルチェックを受け。未来が緒川達から機密保持の説明を受けていると聞いたが、その心には『不安』が蠢いていた。

 

指令室では弦十朗とレグルス、藤尭や友里が『イチイバル』の事を話していた。

 

「まさか、『イチイバル』まで『敵』の手に、そして『ギア装着候補者』であった雪音クリスと彼女に味方する『水瓶座の黄金聖闘士』」

 

「聖遺物を力に変えて戦う技術や『最強の戦士』を有する我々の優位性は完全に失われてしまいましたね」

 

「『敵の正体』。『フィーネの目的』は・・・」

 

深刻な雰囲気の指令室に了子と翼と響が入る。

 

「深刻になるのは分かるけど。シンフォギアの奏者と黄金聖闘士は全員健在。頭を抱えるにはまだ早すぎるわよ」

 

翼の入室に叔父の弦十朗は喜ぶ。

 

「翼!全く無茶しやがって」

 

「独断については謝ります。ですが『仲間』の危機に臥せっているわけにはいきませんでした」

 

翼が響を『仲間』と認めた。

 

「立花は未熟な戦士です。半人前ではありますが、戦士に相違ないと確信しています」

 

「翼さん・・・」

 

「完璧には遠いが、立花の援護くらいは戦場に立てるかもな」

 

翼の顔は晴れやかだった。

 

「私、頑張ります!」

 

「(響と翼の関係はもう大丈夫か・・・でも)」

 

「響君のメディカルチェックも気になる所だが」

 

「ご飯をいっぱい食べて、ぐっすり眠れば元気回復です!」

 

元気良く言うが。

 

「(『一番暖かい所』で眠れば・・・未来)」

 

すると了子が響の胸をツンツンする。

 

「んのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんて事を!!??」

 

いきなりの胸ツンツンに仰天する響。

 

「響ちゃんの心臓にあるガングニールの破片は前より体組織と融合しているみたいなの。驚異的なエネルギーと回復力はそのせいかもね♪」

 

「融合、ですか?」

 

「!?」

 

だが翼は以前見た響のレントゲンを思いだし訝しそうに了子を見ていた。

 

「大丈夫よ。貴女は『可能性』なんだから」

 

「良かったー」

 

翼の了子をじっと見ていた。

 

「あっ、そう言えば。翼!」

 

「ん、何だ?レグルス」

 

「エルシドから伝言。『リハビリついでに二度と『絶唱』に頼らないように一から徹底的に鍛え直してやるから話し合いが終わったら道場に来い』だって♪」

 

その瞬間。翼の目元に影が射し、全身が小刻みに震え、顔から滝のような汗が流れる。

 

「(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ)」

 

「つつつ翼さん!なんか凄い顔になってますよ!」

 

「だだだだだ大丈夫だ。たたたち立花。にににに入院生活でかかかかかかなり鈍ってるからな!特訓なななななど寧ろ望むところだ!!」

 

勇ましい事を言ってるが足は生まれたての小鹿になっていた。弦十朗が翼の肩に手を置く。

 

「大丈夫だ翼」

 

「叔父様・・・」

 

「(おおっ!師匠ならきっとナイスなアイデアを)」

 

「再入院の準備はしておく」(グッ)

 

「すぐに治療できるように医療班もスタンバイさせるわね♪」(グッ)

 

サムズアップする弦十朗と了子。

 

「「再入院確定何ですかーーーーーーッッ!!」」

 

ケタケタとレグルスは楽しそうに笑い。藤尭と友里はお経を唱えたり十字を切っていた。

 

「翼さん!私も一緒に」

 

「いや大丈夫だ立花!これは入院中に覚悟していた私の潜り抜けなくてはならない『試練』よ!」

 

「そんな『決死の覚悟』を持たなくちゃいけないんですか?!」

 

 

 

 

 

響はレグルスに送らせ、翼は風鳴邸に赴いた。後に緒川慎次は語る。

 

「今までで一番激しい特訓<折檻>でした。エルシドも翼さんが勝手に『絶唱』を使った事、腹の中では怒っていたんですね」

 

 

ここからは緒川慎次氏がボイスレコーダーで記録した風鳴翼の言葉(遺言?)。

 

 

「待ってくれエルシド!!勝手に『絶唱』を使った事は謝罪する!!二度とやらないように極力心掛けるから!!えっ?ちょっと待て、それは洒落にならないーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

ドカッッ!バキッッ!ゴキッッ!グキッッ!グシャッッ!ゴキャッッ!ドゴーーーーンッッ!!

 

 

 

 

「いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

翼の断末魔が夜の世界に響いた・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、翼のご冥福をお祈りください・・・・・・。

生きてますけどね、ギリギリ。


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それぞれの夜

「気まずい・・・・・・」

 

レグルスに送られリディアン音楽院高等科の女子寮に帰って来た響は部屋に入るのを躊躇していた。自分は親友の未来に嘘を吐いたと言う後ろめたさもあったが意を決して部屋に入るが未来の反応は明らかに『怒っている』様子だった。『一瞬で爆発させるタイプ』の怒りではなく『怒りが冷めず小出しにするタイプ』の怒りである。

 

響が声を掛けようとするも未来の口調は冷めきっており一つ一つの言葉に『棘』があり響の心を容赦無く突き刺す。そして最後の一言。

 

「嘘つき・・・・・・」

 

その言葉が響の心に深く突き刺さる。「仕方なかった」の一言で片付ける事は響の性格が許さなかった。そしてそのまま碌に言葉を交わさず未来と二人で一人分のベッドを使わず響は一人で一夜を過ごした。

 

今回の戦いでクリスの様子から『フィーネ』の狙いが響であると確信したレグルスは寮の屋上で響の護衛をし、鍛えぬかれた聴覚で響達の様子を伺っていた。

 

「(・・・・・・・・・何でだろう?)」

 

レグルスには解らなかった。響が未来に『隠し事』をしていたのは緒川から聞いていた筈、筋も理屈も通っている筈なのに、『仕方ない』の一言で片付けられる事なのに、なんであんなにギスギスするのか、その理由が解らなかった。

 

 

 

雪音クリスは夜の公園をさ迷っていた。『フィーネ』に見限られた事と響の言葉が頭にこびりついていた。

 

『ちゃんと話をすれば、きっと解り合える筈!だって私達、同じ人間だよ!』

 

「(アイツ、くそ!あたしの目的は、戦いの『意志』と『力』を持つ人間を叩き潰し。戦争の火種を無くすことなんだ。だけど)」

 

クリスの脳裏に『フィーネ』の言葉を思い出した。

 

『戦いの『意志』と『力』を持つ者の中で『最上位』に立つ者、それが黄金聖闘士よ』

 

再会した『お兄ちゃん』の姿が浮かんだ。

 

「(だけど、その為にはお兄ちゃんを・・・デジェルお兄ちゃんと戦わなくちゃいけないのかよ)」

 

「えーん!えーん!えーん!」

 

「?」

 

ふと泣き声が聞こえたクリスはそこに向かうとベンチに座り泣いている女の子とそれを宥めている男の子がいた。

 

「おい!コラ!弱いものを苛めるな!」

 

「だって妹が・・・」

 

弁解しようとするが妹は更に喚く。

 

「苛めるなっていってんだろうが!」

 

「うわっ!」

 

思わず手を上げそうになるクリス。だが。

 

「お兄ちゃんを苛めるな!」

 

さっきまで泣いた妹が兄を庇った。クリスは妹の行動に戸惑い。

 

「・・・・・・お前が兄ちゃんから苛められてたんだろ?」

 

「ちがう!」

 

「えっ?」

 

「それじゃどうしたのかな?」

 

「「「?」」」

 

声のする方向に目を向けるとデジェルが現れた。

 

「(デジェルお兄ちゃん?!)」

 

「「・・・・・・」」

 

突然現れたデジェルにクリスは驚き、兄妹は涼やかな雰囲気を纏う美男子に見惚れていた。デジェルはクリスを一瞥した後、腰を下ろし兄妹と同じ目線になる。

 

「驚かせてすまない。このお姉ちゃんも悪気があったわけではないんだ。どうして泣いているのか教えてくれないかい?」

 

警戒させないように、怖がらせないように、にこやかに優しく微笑みながら事情を聞くデジェル。警戒心が薄れた兄が事情を説明する。どうやら父とはぐれてしまい兄妹は途方に暮れていたようなのだ。

 

「迷子かよ、だったらハナっからそう言えよ」

 

「だって・・・だって・・・」

 

悪態付くクリスに妹は泣きそうになる。

 

「クリス、やめないか。勝手に苛められていると勘違いしたのはこっちなんだ」

 

「うっ」

 

デジェルに注意さればつが悪そうになるクリス。

 

「では、私とこのお姉ちゃんも君たちのお父さんを一緒に探してあげよう」

 

「えっ?!」

 

「「本当?」」

 

「ああ、勿論だ。な、クリス」

 

にこやかだが有無を言わせん迫力を出すデジェルと兄妹の捨てられた犬猫のような眼差しに。

 

「あぁー!分かったよ!」

 

クリスも折れた。

 

先ずは交番に行こうとデジェルの提案で交番のある所まで兄妹と手を繋いで歩くデジェルとクリス。

 

「♪~♪~♪~♪」

 

「・・・・・・」

 

思わず鼻歌を歌うクリス。それを眺める妹。

 

「・・・何だよ?」

 

「お姉ちゃん、歌好きなの?」

 

「歌何て大嫌いだ。特に『壊す事しか出来ない』私の歌わな」

 

「・・・・・・」

 

吐き捨てるクリスにデジェルは悲しそうな目をする。交番の近くについた一同の前に警察官ではない男性が出てきた。

 

「父ちゃん!」

 

「あっ!」

 

兄妹の父親がいた。心底心配したと言うような態度で。

 

「お前達、どこに行ってたんだ」

 

「お姉ちゃんとお兄さんが一緒に迷子になってくれた!」

 

「違うだろ?一緒に父ちゃんを探してくれたんだ」

 

父親はデジェルとクリスに目を向け、頭を下げた。

 

「すみません、ご迷惑を掛けました」

 

「いや、成り行きだから、その」

 

「お気に為さらず。私も迷子のこの子<クリス>を探していたところですから」

 

「なっ?!」

 

「やっぱりお姉ちゃんも迷子だったんだ!」

 

「いやだから!」

 

「コラ、お兄さんとお姉ちゃんにお礼は言ったのか?」

 

「「ありがとう!」」

 

「もうお父さんから離れちゃダメだぞ」

 

「なあ、そんな風に仲良くするにはどうしたら良いのか教えてくれよ」

 

クリスの言葉に兄妹はお互いに目を向けるすると妹が兄の腕に抱きつく。

 

「そんなのわからないよ。いつも喧嘩しちゃうし」

 

「喧嘩するけど仲直りするから仲良し!」

 

「心の底から相手を嫌いになっていないから、本当はお互いのことを想いあっているからこそ喧嘩しても仲直りする事ができる。大切なのは自分の気持ちを正直に伝えること、そして相手を思いやれる『心』が重要なんじゃないかな?」

 

兄妹とデジェルの言葉にクリスは唖然とする。兄妹はデジェルの言葉が難しかったのか「?」になっていた。父親はデジェルの言葉に少し感銘を受けた。

 

父親に連れられ兄妹と別れたクリスは気まずい雰囲気になる。数年前に死んだと思った『お兄ちゃん』が目の前に現れ、しかも自分の『標的』である黄金聖闘士だったのだ。今さら何を話したら良いのか分からなかった。

 

「クリス「くーーー」?今の音は?」

 

「////////////!!??」

 

沈黙を破ろうとクリスに話しかけようとするデジェルだがクリスの『お腹から』腹の虫が鳴いた。クリスは腹を抑え顔を真っ赤にする。

 

「クリス、取り敢えず、食事と寝る場所に行くか?」

 

「うん////////////」

 

コンビニでおにぎりや飲み物を買い、ビジネスホテルに泊まる二人。因みにお金はデジェル持ち。デジェルがどうやって金を稼いだかと言うと、ちょっと悪い人達が稼いだお金を失敬したから。ちょっと悪い人達はデジェルが警察に情報を与えた為に今刑務所に服役している。

 

ビジネスホテルの部屋で食事を終えた二人。

 

「こんな形だかまた会えて嬉しいよ、クリス」

 

「お兄ちゃ・・・デジェルにぃはいつからこっちに来てたの?」

 

さすがに『お兄ちゃん』は恥ずかしくなったのか『デジェルにぃ』と読んだ。デジェルはあまり気にした素振りを見せず。

 

「あの『天羽々斬』の少女が『絶唱』を使った日に君を見つけたんだ」

 

「(あのときにか)」

 

「だが、クリスがすぐに退却したから見失ってしまったがな」

 

「デジェルにぃは、シンフォギアの事は?」

 

「“蛇の道は蛇”、いくら情報規制をしても裏の情報網は誤魔化しきれないさ」

 

「・・・・・・にぃはあの日」

 

「あぁ、私もあの日に危うく死にかけていた」

 

突然起こった爆発。デジェルはクリスとクリスの両親を助けに向かおうとしたが崩れた建物の下敷きになり意識を失った。だが生きようとする『想い』に肯応して『水瓶座の黄金聖衣』が反応し聖衣を纏い、窮地を脱したのだ。だが気が付いた時にはクリスの両親や多くの人達はこと切れていてクリスの行方がわからなくなった。

 

「それからは宛もなく君を探していたんだ」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

クリスは嬉しかった。両親を失い、多くの人達の『死』を目の当たりにし、『フィーネ』にも捨てられ自分は『一人ぼっち』になったと思っていたのにあの『地獄』で自分を探してくれていた人がいた事に。

 

「でもどうして、もっと早く来てくれなかったんだよ!」

 

「私は確かめたかった。『特異災害二課』と『フィーネ』。どちらに『義』があるか」

 

「『フィーネ』や『アイツら』を?」

 

「クリスが協力している『フィーネ』が信頼に足る人物なのか、かつての盟友達が協力している『二課』が正しいのか。それを確かめる為にな」

 

「・・・・・・明日、あたしはまた『フィーネ』の所に行く。にぃも一緒に」

 

「あぁ勿論だ。もう君を『一人ぼっち』にはさせない」

 

ソッとクリスの頬に手を当てるデジェル。クリスは涙を流しながらその手の温もりを感じていた。その夜はベッドが二つあるにも関わらずデジェルとクリスは一つのベッドで一緒に寝た。その手は二度と離さないように握りあって。

 

 

 

 

所代わり風鳴邸の道場では、胴着姿の風鳴翼が精根尽き果てた様子で倒れていた。

 

「・・・・・・」ぷしゅ~

 

「今日の特訓はここまでだ」

 

「(いつの間にかリハビリが特訓になってるぞ)・・・あ・・・ありがとうございました・・・」

 

ボロボロの状態の翼が姿勢を正しくして全然余裕のエルシドに礼をする。因みにエルシドも胴着姿。

 

「所で翼。『剣に感情等必要ない』とほざいたそうだな」

 

「(ギクッ!何でその事を?!)」

 

実はそれを聞いていた緒川がこっそりエルシドに報告していたのだ。

 

「・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「・・・・・・」ビクビクビクビクビクビク

 

「・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「(この沈黙が辛い!)」ガタガタガタガタガタガタ

 

「・・・・・翼」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「は、はい!!」(ビクンッ!)

 

「一つ、お前に伝えておく」

 

「・・・・・・」

 

「『仁の心無き剣は只の鉄屑と同然』」

 

「仁の心・・・」

 

「いかに鋭き剣も破壊力に優れた槍も使い手に心がない武器はゴロツキやチンピラが振り回す暴力と大差ない。俺もまた、己を『聖剣』と鍛えている身、『仁の心をもって己を研ぐ先にあるもの』。それが『聖剣』だ。お前の目指す『防人の剣』も又、『力なき人々』を守りたいと願う『心』がなければ到達出来ないものだ・・・・・だがお前は更に何かを探しているようだな?」

 

「?!・・・・・・エルシド、お前は『戦いの先』にあるものを考えたことがあるか?」

 

「奏の言葉か?」

 

「あぁ。私は今更『人』に戻って、何をすれば良いのかわからないんだ」

 

「・・・・・・俺の『戦いの先』にあるのは、『更なる戦い』だ」

 

「?!」

 

「ここが何処であろうと。この世界にアテナがいなかろうと。俺は聖闘士だ。地上の平和を守るためにこの身とこの命を捧げる覚悟はできている。聖衣が『死装束』になることもな」

 

「(そうか、エルシドと私とでは最初から『覚悟』に大差があったのだな)」

 

エルシドの言葉に翼は理解した。エルシドは『人』に戻る積もりはない。地上の平和を守るための『聖剣』として生きて行く確固たる『覚悟』を持っている。『人』に戻るか戻らないかと迷っている自分とは格が違う事に。

 

「だが、それはあくまで俺の『生き方』だ。翼、お前にはお前なりの『生き方』がある筈だ」

 

「私なりの『生き方』・・・」

 

「例えこの先お前が『間違った生き方』を選んでも、俺がお前を殴ってでも止めてやる。それだけは覚えておけ」

 

「・・・あぁ(ありがとうエルシド)」

 

自分がどんな『生き方』を選んでも間違った時に叱ってくれる。そんな『相棒』がいる事に翼は感謝した。

 

 

 

 

ー二課 櫻井了子の研究室ー

 

了子はこれまでのシンフォギアや奏者の事を分析していた。だが自分の理論を覆す存在、それが響だった。響は心臓に食い込んだ『ガングニールの破片』が完全に人体と融合した始めての人間。奏と翼やオーディエンスの力で一応起動させた『ネフシュタンの鎧』と同等の力を持つ『デュランダル』をただ一人の力で簡単に起動させた。これは異常な事だ。

 

響の写真で埋め尽くされた研究室に『隠していた』アタッシュケースから『あるもの』を取り出す。

 

「お前ももうすぐ懐かしい彼等に会わせてあげる」

 

愛おしそうに『ソレ』を撫でる了子の顔は妖しい微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

翌日の学校、響は相変わらず未来と話ができず、ついには弓美や創世や詩織にまで心配されていた。屋上に上がった未来を追った響。未来に『隠し事』をしていた事を謝る響だが、未来は。

 

「これ以上、私は響の友達じゃいられない。ゴメン」

 

涙を流し響から離れる未来。屋上から出た未来の目の前に一人の少年が現れた。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・あ、貴方は」

 

その少年は響と一緒に戦っている少年 レグルスだ。未来は思わず身構えるがレグルスは未来に構うこと無く屋上に向かう。未来とすれ違い背中越しからレグルスは言う。

 

「響は言ってたよ。君の事『最高の親友』だって、そしてその『親友』に『嘘をついてた』事を響はずっとつらそうにしていたよ」

 

それだけ言うと、レグルスは屋上に向かった。

 

「・・・・・・響」

 

未来の心にレグルスの言葉が泣きそうな響の顔が浮かんだ。

 

レグルスが屋上にいる響に近づくと響は泣いた。『心からの親友』に言われた『決別の言葉』が響の心に突き刺さった。レグルスはソッと響の頭に手をおき、響を抱き締める。

 

「どうして・・・こんな・・・嫌だ・・・嫌だよ・・・うっ・・・うぅっ・・・」

 

レグルスの胸を借りて嗚咽を漏らす響の声が青空に染みる。

 

 

 

 

その日の夕方、フィーネのアジトで英語で誰かと連絡を取っているフィーネ、しかもまた全裸。それは『ノイズを生み出す杖 ソロモンの杖』を米国政府に譲渡するか話をした。突然部屋の扉が開き目を向けるとクリスがいた。

 

「あたしが“用済み”って何だよ?!もう要らないってことかよ?!あんたもあたしを“モノ”の様に扱うのかよ?!」

 

「・・・・・・」

 

フィーネはそんなクリスを冷たい目でみる。

 

「頭ん中ぐちゃぐちゃだ!何が正しくて、何が間違ってるのか分かんねぇんだよ!!」

 

フィーネは電話を切る。

 

「どうして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしら?」

 

振り向くと同時に『ソロモンの杖』を構えノイズを射出するフィーネ。

 

「!?」

 

これがフィーネの答えと理解したクリスの瞳が涙で濡れる。

 

「流石に潮時かしら?そうね、貴女のやり方じゃ争いを無くすことなんて出来やしないわ。精々一つ潰して新たな火種を二つ三つばら蒔く位かしら?」

 

「あんたが言ったんじゃないか!?『痛み』も『ギア』もあんたがあたしにくれたも」

 

 

クリスの言葉をフィーネが遮り。

 

「私の与えたシンフォギアを纏いながらも毛ほどの役にも立たないなんて、そろそろ幕を引きましょうか」

 

フィーネの右手が光り青い粒子がフィーネの身体を覆い形をなす。

 

「私もこの鎧も不滅、未来は無限に続いて行くのよ」

 

クリスが使っていた『白銀』ではなく『金色』となった『ネフシュタンの鎧』をフィーネが纏う。

 

「『カ・ディンギル』は完成しているも同然、もう貴女の力に固執する理由は無いわ」

 

「『カ・ディンギル』?そいつは・・・」

 

「貴女は知りすぎてしまったわ」

 

「はっ?!」

 

そう言って『ソロモンの杖』をクリスに向けるフィーネ。それに答えるようにノイズがクリスを襲おうとするが。

 

「ん?成る程、貴女には彼が付いていたのね」

 

迂闊と呟くフィーネ。クリスは周りのノイズを見るとノイズ達は『氷結』し砕けた。

 

「『グランカリツオー』・・・」

 

呟くクリスの前に黄金の背中が現れた。クリスの瞳に光が灯る。

 

「・・・・・・」

 

「お兄、デジェルにぃ!」

 

外で待機していたデジェルが異変を察知して駆けつけたのだ。

 

「クリス、此処は引くぞ」

 

「にぃ、でも」

 

「言うことを聞いてくれ、クリス」

 

「・・・分かった」

 

デジェルはクリスを抱き抱え撤退しようとする。フィーネはその背中を見て嘲る。

 

「フッ逃げるか?『最強の黄金聖闘士』が情けない」

 

「そう言う台詞はそこから動いてから言え」

 

「何?・・・ッ?!」

 

フィーネの身体は『ソロモンの杖』を含んでみるみる氷漬けになっていた。

 

「私に感付かれるよりも早く、私の身体を凍てつかせるとはね、今の言葉は撤回するわ。流石は黄金聖闘士よ」

 

嘲りではなく素直な賞賛をデジェルに送るフィーネ。だがデジェルは絶対零度の『敵意』でフィーネを睨む。

 

「いい気になるなよ、フィーネ。クリスの想いを利用し弄び、なぶりモノにし、踏みにじった事。必ず報いを受けさせる」

 

その目には絶対零度の奥に『怒りの炎』が宿っていた。

 

「その時を楽しみにしているわ。水瓶座<アクエリアス>」

 

歪んだ笑みを浮かべたフィーネは腕の氷を破り『ソロモンの杖』からノイズを射出するが射出されたノイズは瞬間氷結し砕けていった。だがフィーネは更にノイズを生み出してきたのでデジェルとクリスはアジトを脱出した。

 

「ちきしょう・・・・・・ちきしょーーーーー!!!」

 

デジェルの腕の中で涙を浮かべたクリスの叫びが夕闇の世界に響いた。

 

 

 

 

その日は雨が降り注ぎ、未来は傘を差し登校していた。

 

「・・・・・・・・・」

 

響との『決別』以来彼女の心もこの雨と同じになっていた。

 

「・・・・・・あっ!」

 

「ん・・・」

 

顔をうつむかせた未来は誰かにぶつかった。

 

「ご、ごめんなさい。あ」

 

「おや君は、小日向未来か?」

 

顔を上げた未来の目の前に金糸の髪の青年がいた。

 

「アスミタさん・・・」

 

『お好み焼き店 フラワー』で居候している盲目の僧『アスミタ』だった。

 

「アスミタさん、その」

 

「小日向未来」

 

「は、はい」

 

響と仲直りを進めてくれた人にその響と『決別』した事を告げるか迷う未来。

 

「君は何故、『泣いている』?」

 

「えっ?」

 

「何故君の心は『泣いている』のだ?」

 

「・・・・・・アスミタさん、私・・・」

 

バシャン!

 

「ん?」

 

「?」

 

路地裏で二人の人物を見付ける二人。

 

「クリス、しっかりするんだ、クリス」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「(一晩中ノイズと戦いながらの逃走による肉体的疲労とフィーネに裏切られた精神的ショックが重なったか、どこか休める場所は)」

 

「あの」

 

「?!・・・君は確か『ガングニールの少女』と一緒にいた「これは懐かしき者と出会ったな」?!お前は?!」

 

フィーネから逃走したクリスとデジェルの前に未来と未来は知らないがデジェルにとって懐かしき者と再会を果たした。

 

「ひさしいな、デジェルよ」

 

「お前も来ていたのか、アスミタ」

 

再会を果たした『水瓶座』と『魔弓』の戦姫は『日だまり』の乙女と『乙女座』に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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『生命』への……

今回はあまりストーリーが進みません。ごめんなさい。


学校に登校した響は弦十郎からの連絡を聞いていた。今日の未明にノイズのと『イチイバル』の反応があったのだ。

 

「てことは師匠。クリスちゃんがノイズと戦ったって事でしょうか?」

 

『そうだろうな』

 

「・・・・・・」

 

『どうした?』

 

「あの子、『戻るところ』ないんじゃないかって」

 

『・・・そうかもな、だが彼女に味方している黄金聖闘士がいるんだ、『一人ぼっち』と言うことはないだろう』

 

「水瓶座のデジェルさんですね」

 

『あぁ、この件についてははこちらで捜査を引き続き行う、響君は指示があるまで待機していてほしい』

 

「はい、分かりました」

 

電話を切った響は教室に入り、自分の席を見るがそこに自分より早く寮を出た筈の未来の姿がなかった。

 

創世と詩織と弓美も未来の不在を心配する。創世は響達の不仲を茶化した責任を感じ、弓美はアニメだったらどうすればとずれた考えを詩織がツッコム。響は友人達の姿に笑うが直ぐに顔を俯かせ。

 

「(未来、このままなんて、私嫌だよ・・・・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその未来は、先程助けたクリスを『お好み焼き店 フラワー』に運び、布団で寝込んだクリスの介抱をしていた。苦しそうに呻くクリスの額に置かれたタオルを取り冷や水で冷やす。

 

「・・・・・・はっ?!」(ガバ!)

 

目を覚ましたクリスが起き上がる。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ(お兄ちゃん、お兄ちゃん何処?)」

 

知らない部屋と周りの状況がいまいち掴めないクリスはデジェルを求めて辺りをキョロキョロする。その姿に未来は微笑み。

 

「良かった、目が覚めたのね。びしょ濡れだったから着替えさせてもらったわ」

 

クリスの身体には未来の体操着を着せられていた。サイズは大丈夫だったようだが胸囲に差があるのか胸元の『小日向』と張られた部分がパッツパッツとなっていた。

 

「か、勝手なことを!」

 

「/////!?」

 

立ち上がったクリスだが『下』は着てなかった。

 

「!?何でだ?!」

 

「流石に下着の替えまでは持ってなかったから・・・」

 

思わず目を閉じて顔をそらす未来。クリスは掛け布団でくるまった。

 

「未来ちゃん!どう、お友達の具合は?」

 

洗濯篭を持った店主のおばちゃんがきた。

 

「目か覚めたところです。ありがとうおばちゃん、布団まで貸して貰っちゃって」

 

「気にしないでいいんだよ。おばちゃんもこんなに良い男とお近づきになれたんだから♪」

 

「いえいえご店主殿、お世話になっているのですから当然の事をしたまでです」

 

おばちゃんの後ろからデジェルがにこやかに現れた。

 

「お兄!じゃなくて、デジェルにぃ!なにしてんだよ?!」

 

「あぁクリス、良かった目が覚めたのだな。いやお世話になっているから掃除や重い荷物運びとかをしているんだ」

 

「デジェル君は頼りになるね。あたしも十年若かったらほっとかなかったよ、こんな良い男」

 

「それは少し残念でした。若かりしご店主殿はきっと素敵な女性だったでしょうね」

 

「あらお上手だね、でもあんまりそう言うこと言うと、ほらあの子が焼き餅妬いてるよ」

 

「・・・・・・・・・(む~~~~!)」

 

「(うわ~)」

 

くるまったクリスが涙目でむくれ。「お兄ちゃん!何にこやかに話なんてしてんだよ!あたしってもんがありながら!この浮気者!!」と言わんばかりに睨み未来は苦笑いを浮かべていた。

 

「アハハ・・・」

 

「あ、お洋服。洗濯しておいたから♪」

 

「えっ?」

 

「私、手伝います」

 

「あら、ありがとう」

 

「いえ」

 

「・・・・・・」

 

「不思議だろ、見ず知らずの相手にあんな風に接するなんてな」

 

「・・・デジェルにぃ」

 

「疲れが出たのだろう?もう少し休んでいなさい。ノイズが現れたら私が始末しておく」

 

「うん・・・・・・」

 

頭を撫でてくるデジェルの胸元に頭を刷り寄せるクリス。

 

クリスの汗まみれの身体を拭く未来。デジェルは部屋の外に立っていた。そんなデジェルにアスミタが近づいた。

 

「あの少女が奏者と呼ばれるこの世界の守護者か?」

 

「嫌、クリスは確かに奏者だが守護者ではない」

 

「フム、成る程。『戦う理由』を見失い自分はこれからどうすべきかわからず迷走しているところか?」

 

「そんなところだ」

 

「デジェルよ、君はどうなのだ?」

 

「私は、クリスの生きる『未来』をクリスが生きる『世界』を守りたい。それが私の『戦う理由』、そしてあの子のご両親の墓前で誓ったのだ」

 

「・・・・・・デジェルよ。変わったな。良い意味で」

 

「ん、そうか?ところでアスミタ、頼みがあるのだ」

 

「?」

 

部屋の中ではクリスが未来に話しをしていた。

 

「あ、ありがとう」

 

「うん」

 

クリスの白い背中には痣が無数にあった。

 

「何にも聞かないんだな・・・」

 

「・・・・・・うん」

 

二人の空気が少し重くなった。

 

「私は、『そうゆうの』苦手みたい。今までの関係を壊したくなくて、なのに一番大切なモノを壊してしまった」

 

「それって、誰かと喧嘩したってことなのか?」

 

「うん・・・」

 

未来の脳裏に『親友』の顔が浮かんだ。

 

 

 

 

場所は変わり屋上で響は未来の事を思っていた。

 

「未来・・・無断欠席するなんて一度もなかったのに・・・あっ!」

 

屋上の扉に目を向けると松葉杖で歩く翼が現れた。

 

「翼さん、無事だったんですね!私てっきりエルシドさんに殺されてるんじゃないかと」

 

「心配をかけてすまない立花。何度か走馬灯を飛び越えて前世まで見えたがこの通り無事だ」

 

「いや、それ全然大丈夫じゃなかったんじゃ。てか前世が見えたって前世何だったんですか?!」

 

なんて馬鹿話はあったが屋上のベンチに座る二人。

 

「私、自分なりに『覚悟』を決めたつもりだったんです。『守りたいモノ』を守るため、シンフォギアの戦士になるんだって。でもダメですね。小さな事で気持ちが乱されて、なにも手につけません。私、もっと強くならなきゃいけないのに。変わりたいのに」

 

自分のダメな所を翼に吐露する響。だが翼は。

 

「その『小さなモノ』が立花の本当に『守りたいモノ』だとしたら、今のままでも良いんじゃないかな?立花はきっと立花のまま強くなれる」

 

「翼さん・・・」

 

「私はエルシドやレグルスの様に強くないし、奏の様に人を元気づけるのは難しいな」

 

「いえ、そんなことありません。前にもここで同じような言葉で親友に励まされたんです!それでも私はまた落ち込んじゃいました。ダメですよねー」

 

そう言って、空を眺める響の顔は晴れやかだった。それを見て翼も笑う。

 

響は『絶唱』を使った翼の身体を心配する。翼は『絶唱』を使い本来なら死んでても可笑しくなかった負荷がこの程度で済んだことを話し、『絶唱』を『滅びの歌』と称した。だがそれは『自分の歌』をも『滅びの歌』と称するも同然だった。だが響は。

 

「『絶唱』、『滅びの歌』。でも!でもですね翼さん!二年前、私が辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの『歌』に励まされたからです!翼さんの『歌』が『滅びの歌』だけじゃないってことを聞く人に『元気』をくれる事を私は知っています!」

 

「立花・・・」

 

「だから早く元気になってください!私、翼さんの歌、大好きです!」

 

「・・・・・・フッ、私が励まされたようだな」

 

「えっ?あれ?」

 

翼と響は初めて『仲間』らしい行動を取った。

 

 

 

その頃未来は、服も乾き着替え始めたクリスに喧嘩の事を話す。

 

「喧嘩か・・・あたしにはよく分からない事だな」

 

「友達と喧嘩、もしくはあのお兄さんと喧嘩したことないの?」

 

「・・・友達いないんだ、デジェルにぃともこの間再会したばかりだし」

 

「え?」

 

クリスは淡々と話す。

 

「『地球の裏側』でパパとママを殺されたあたしはずっと一人で生きてきたからな。友達どころじゃなかった」

 

「そんな・・・」

 

「理解してくれると思った人もあたしを『道具』の様に扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ。大人はどいつもこいつもグズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった、やめてと言っても聞いてくれなかった、私の話なんてこれぽっちも聞いてくれなかった」

 

そう言うクリスの瞳には怒りに揺れていた。

 

「ごめんなさい・・・・・・」

 

辛い過去を話させた未来は謝罪する。

 

「なぁ、お前その喧嘩の相手ぶっ飛ばしちまいな」

 

「えっ?」

 

「どっちが強えのかハッキリさせればそれで終了。とっとと仲直り、そうだろ?」

 

「できないよ、そんなこと」

 

「ふん、わっかんねぇな」

 

「でも、ありがとう」

 

「ん?私は何にもしてないぞ」

 

「ううん、ホントにありがとう、気遣ってくれて、えっと・・・」

 

「クリス、雪音クリスだ」

 

「優しいんだねクリスは」

 

「・・・そうか?」

 

「私は小日向未来。もしもクリスが良いのなら私はクリスの友達になりたい」

 

クリスの手をとる未来。だがクリスはその手を振り払い。

 

「私はお前達に酷いことをしたんだぞ・・・」

 

「自身の行った事を悔い改めようとしているならまだマシな方だ」

 

「?!デジェルにぃ・・・」

 

「アスミタさん・・・」

 

デジェルに連れられたアスミタがクリスの前で結跏趺坐<座禅>をとる。

 

「デジェルにぃ、誰こいつ?」

 

「アスミタ、ここで居候させてもらっている僧つまりお坊さんだ」

 

「んだよ、坊さんがあたしにありがたーいお説教でもしようって言うのかよ」

 

「クリスやめて、アスミタさんは『目が見えない』の」

 

「えっ?」

 

アスミタはクリスに向けて目を少し開く。その目には光が宿ってない事をクリスは理解した。

 

「あぁその・・・」

 

「気にするな、この目は生来目が見えぬが人間とは不思議な生き物だ。五感の内の一つが無くなればそれを補うために他の感覚が発達するのだ。私の場合は『人の感情』が私の意思とは関係なく私の中に伝わってしまうのだ」

 

「『人の感情』が?」

 

「さよう。先程の小日向未来はまるで『泣いていた』が今はどうやら大丈夫のようだ」

 

「(私の感情がアスミタさんに?)」

 

「そして君は・・・成る程、一人暗い夜道を歩いて迷子になっている所か・・・」

 

「?!」

 

「だが、デジェルがいるゆえに一人ぼっちではない分マシな方か、しかも君はデジェルの事を・・・」

 

「や、やめろ!そこはまだデリケートな所だ!//////」

 

顔を赤くしたクリスがアスミタを止める。

 

「んで、その『人の感情』が入っちまう坊さんがあたしに何の用だよ」

 

「何、デジェルに頼まれてな。この世は『不条理』で『理不尽』で『諸行無常』な世の中だ。そんな『無常』の世で死した人達を、君のご両親を弔おうと思ってな」

 

「?!何だよそれ・・・同情かよ・・・坊さんが経を読んだくらいで救われるって言いたいのかよ!」

 

なにも知らないアスミタが自身の両親を勝手に供養しようとしている。それがクリスには我慢ならなかった。

 

「確かに、坊主の経で誰かが救われることは無いかもしれぬ。私は『神』でもなければ『聖人』でもない。だがせめて、理不尽に命を奪われた人達が少しでも心穏やかに逝けるよう、弔ってやりたいのだ」

 

どこか穏やかなアスミタの言葉をクリスと未来は何も言えなかった。

 

「クリス、せめて経をあげて弔ってあげたいんだ。君のご両親をあの日に死んだ皆を」

 

「デジェルにぃ・・・わかったよ」

 

「小日向未来君、君も聞いておいても良いだろう」

 

「えっ?あ・・・はい」

 

デジェルとクリスと未来は座り、アスミタの経を聞く。

 

「では、『死した者達』と『生きる者達』に・・・・・・」

 

そして、アスミタは唄う。

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

 

静寂に包まれアスミタの声だけしかない場で、クリスが、未来は泣いた。いつの間にか二人の頬に涙が流れていた。

 

クリスの脳裏に優しい父と母が自分に向けて愛しそうに微笑み。

 

未来の脳裏に響との宝石よりも輝く思い出が次々とフラッシュバックした。

 

そしてデジェルもまた、今は亡き恩師を友を愛した人の姿が脳裏に甦る。

 

一点の曇りもない清んだ声、心に染みる読経の声、死した生命に対する『慈愛』と『慈しみ』と『悼め』に満ちた声。まるで『歌』のような声を三人は一言一句聞き漏らさぬよう聞いた。やがて経が終わるがクリスと未来は涙が溢れ出て止まらなかった。

 

 

「うっ・・・うぅっ・・・」

 

「ひっく・・あぁ・・・」

 

「ありがとう。アスミタ」

 

「礼を言われる事はしたつもりはない」

 

アスミタは立ち上がり、部屋から出ようとする。

 

「ま、待って!」

 

「・・・・・・」

 

思わずクリスはアスミタを呼び止める。

 

「・・・・・・」

 

「あ、ありがとう・・・・ありがとう・・・」

 

止めどなく流れる涙を拭き取り嗚咽を漏らしながらクリスはアスミタに感謝の言葉を送る。それしか浮かばなかったからだ。両親の姿が目の前に現れた。両親を悼めてくれた。その事にクリスの心は感謝で一杯になった。

 

「アスミタ、良くクリスを救ってくれる気になってくれた。感謝する」

 

「その少女が似ていたからかもな。口が悪く、態度も悪い、あの『跳ねっ返りのペガサス』にな」

 

デジェルの脳裏に自分たちのいた世界で起きた『聖戦』で誰よりも傷つき、辛い思いをした『ペガサスの少年』が浮かんだ。

 

「フッそうだな・・・」

 

ウーウーウーウー!

 

『!!??』

 

突然鳴り響いたサイレンが四人を現実へ引き戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

因みにデジェルの私服は聖闘士星矢Ωの狼座のハルトが着ていた服をイメージしてください。


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一人じゃない

ノイズ襲来のサイレンが鳴り響き町は騒然となった。リディアンにいた響と翼は大量のノイズが現れた事を弦十郎から聞き、現場に行こうとするが。

 

「理解しました、現場に急行します」

 

『ダメだ!』

 

「「?!」」

 

『メディカルチェックの結果の出ていないものを出すわけにはいかない!エルシドとレグルス君も向かっている。翼、お前は待機だ!』

 

「ですが!」

 

弦十郎に食い下がろうとする翼に響は。

 

「翼さんは皆を守っててください。だったら私、前だけを向いていられます」

 

笑顔で言う響。

 

その頃未来達はフラワーを出て避難しようと騒然となっている人達を目の当たりにする。

 

「おい、一体何の騒ぎだ?」

 

状況が飲み込めないクリス。

 

「何って、ノイズが現れたのよ!警戒警報を知らないの?」

 

ノイズの出現に苦い顔をするクリス。

 

「(恐らく追手か)」

 

デジェルはフィーネの狙いを推測しようとするがクリスはノイズの元へ走った。

 

「あ、クリス!」

 

「任せて、君達は直ぐに避難を!アスミタ、頼むぞ」

 

クリスを追ってデジェルも走る。

 

「『デジェルよ』」

 

デジェルの頭にアスミタの声が響いた。“テレパシー”を使って交信しているのだ。

 

「『アスミタ、どうした』」

 

「『あの少女は未だ迷いの中にいるな』」

 

「『そう言うお前はどうするんだ?』」

 

「『・・・・・・私はこの世界に“護る価値”があるのか疑問を抱いている』」

 

そう言ってアスミタは交信を切る。

 

「(アスミタ、お前が疑問を抱くのも解る。私もクリスに出会わなければお前と同じになっていた)」

 

デジェルもまた、同じ迷いを抱いた経験があったのだ。クリスに追い付き河川敷につく。デジェルよりも体力のないクリスは激しく息が乱れていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、あたしのせいで関係ない奴等まで・・・・・・うあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「クリス・・・・・・」

 

自分のせいで関係ない未来やおばちゃんや大勢の人達が。自責の念がクリスの心にのし掛かる。大量の涙を流し崩れ落ちそうになるクリスをデジェルは後ろから抱き締める。

 

「お兄ちゃん・・・あたしがしたかったのはこんなことじゃないんだ・・・でも何時だってあたしのやることは・・・いつも!いつも!いつも!」

 

「分かっている・・・クリスのやりたかったことがこんなことじゃないって事ぐらい少なくとも私は分かっているから・・・」

 

デジェルは抱き締める力を強くする。

 

「お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・」

 

泣き崩れるクリス。そんな二人の後ろからノイズ達が現れる。デジェルはノイズ達を冷たく睨む。

 

「雑魚共が・・・!」

 

「お兄ちゃん、離して」

 

デジェルは離し、クリスは涙を拭いてノイズに向かい合う。

 

「あたしはここだ。だから、関係ない奴等の所になんて行くんじゃねえ!」

 

「(ん、あれは?)」

 

クリス達にノイズが襲いかかるが。

 

「奮!」

 

二人の前に何者かが現れ!震脚でアスファルトを畳替えしの様に壁にし!その障壁を正拳で砕き!その破片がノイズを襲う!!

 

「破!」

 

そこに現れたのは二課指令にして翼の叔父、響の師匠、“風鳴弦十郎”その人だった!

 

「なっ・・・・・・」

 

「(この御仁が二課指令の風鳴弦十郎。成る程、我々黄金聖闘士を除けば“人類最強の称号”は彼の物だったろうな)」

 

突然現れ出鱈目行動をする弦十郎にクリスは唖然となり、デジェルは弦十郎の戦闘力に感嘆した。

 

更に左右から襲いかかるノイズを弦十郎は震脚で裏返したアスファルトでデジェルは氷の障壁でノイズを防ぐ!

 

「デジェル君!」

 

「(コクン)クリス」

 

「えっ?うん」

 

流れるような自然な動作でクリスをお姫様抱っこしたデジェルは弦十郎と一緒に建物の屋上まで跳ぶ。

 

「大丈夫か?」

 

「えぇ、助かりました」

 

「・・・・・・」

 

デジェルにお姫様抱っこされた状態のクリスは弦十郎から目をそらす。だが三人の前に緑色の鳥形ノイズが現れる。

 

そしてクリスは唄う、“戦いの歌”を。デジェルは呼ぶ、“黄金の鎧”を。

 

「♪~♪~♪~♪~♪』

 

「『水瓶座<アクエリアス>』」

 

“魔弓”の鎧、イチイバルを纏うクリス。瓶を頭上で構えた黄金のシーマンがそれぞれのパーツに分解しデジェルの身体に纏う。

 

「フッ!」

 

「・・・!」

 

ノイズはクリスとデジェルに襲いかかる。クリスは両手にボーガンを構え何本もの紫の矢を放ち、鳥形ノイズを落とす!

 

「ご覧の通りさ!あたし達の事は良いから他の奴等の救助に向かいな!」

 

「だが・・・」

 

「コイツらの相手はあたしとデジェルにぃだけで充分なんだよ!まとめて相手してやら!」

 

そう言ったクリスの両手のボーガンが変形しガトリング砲へと姿が変わり、ノイズに向かう。

 

「ついてこい!クズ共!」

 

『BILLION MAIDEN』を放ちノイズを蹴散らすクリス。

 

「(俺は、またあの子を救えないのか?」

 

「風鳴弦十郎殿・・・」

 

「!デジェル君・・・」

 

弦十郎と少し話しをするデジェル。二、三言話をし、それを終えるとデジェルはクリスの元へ向かう。

 

「♪~♪~♪」

 

歌を歌いながらボーガンやガトリング砲を使い、接近するノイズを投げ、蹴りながら殲滅していくクリス。デジェルも『カリツオ』を駆使しノイズ達を氷結し破壊していく。

 

別の場所で暴れていたノイズ達もクリスの弾幕とデジェルの吹雪で二人の居場所を突き止め建物を破壊しながら向かう。現場に到着した響。レグルスとエルシドは別の方面のノイズと戦っている。

 

「あれって?」

 

ノイズ達が一点の方向に向かうのを確認する響。すると突然。

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

「「?!」」

 

悲鳴が聞こえ、解体途中のビルへ向かい中に入る。

 

「誰か!誰かいま・・・!」

 

 

 

響の頭上からノイズが襲いかかるが避ける。蛸のような姿をしたノイズがそこにいた。

 

「・・・?!」

 

響の口を“誰か”が塞ぐ。響の隣にいつの間にかいた“未来”が響の口を塞いだ。

 

「・・・・・・」

 

未来は顔の前に人差し指を当て静かにするようにジェスチャーすると携帯を取りだしなにかを書き込む。

 

「『(静かにあれは大きな音に反応するみたい)』」

 

「「・・・」」

 

続いてなにかを書き込む。

 

「(『あれに追いかけられて、フラワーのおばちゃんとここに逃げ込んだの』)」

 

未来の目線の先に気絶しているおばちゃんがいた。

 

「(アスミタさんともはぐれちゃったし。無事だといいけど)」

 

「(シンフォギアを纏うために唄うと、未来やおばちゃんが危ない。どうしよ)」

 

迷う響に未来は作戦を立てた携帯を見せる。

 

「(!?)」

 

それを見て驚いた響は携帯を取りだし自分の意見を書く。

 

「(・・・・)」

 

それを見た未来は微笑み。また携帯で書き響に見せる。

 

「(・・・・・・)」

 

「(・・・?!)」

 

更に顔を青くした響は携帯を操作しようとするが未来が止める。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

不安そうな響に未来は優しく微笑む。

 

「・・・っ・・・あ・・・」

 

「「?!」」

 

目を覚ましそうになり声をあげるおばちゃん、その声に反応し触手を動かすノイズ。未来は響に耳打ちする。

 

「私・・・響に酷いことした・・・今更許してもらおうなんて思っていない・・・それでも一緒にいたい・・・私だって戦いたいんだ」

 

「ダメだよ・・・未来・・・」

 

「どう思われようと関係ない。響一人に背負わせたくないんだ」

 

そう言って立ち上がる未来。

 

「私、もう迷わない!」

 

そう叫ぶ未来の声に反応するノイズ。未来はそのまま走る。

 

「・・・・・・」

 

響が唖然と見る中、元陸上部の健脚でノイズの攻撃を交わしながら逃げる未来。ノイズは未来を追う。その間に響はおばちゃんの様子を確認する。

 

未来の立てた作戦は自分が囮となっておばちゃんからノイズを引き雛す事であった。

 

おばちゃんは大丈夫だと確認した響は“戦いの歌”を唄う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

黄色い閃光が輝き弾け、ガングニールを纏ういおばちゃんを抱えその場から脱出する。すると緒川が車で駆けつけた。

 

「響さん!」

 

「緒川さん!」

 

緒川の元へ着地する響はおばちゃんを預ける。

 

「緒川さん、おばちゃんをお願いします」

 

「響さんは?」

 

緒川に返答する余裕もなく、未来の元へ向かう。電柱や屋根を跳び越えながら未来を探す。

 

「(未来、何処?)」

 

響は先程の未来とのやり取りを思い出す。

 

『響きいて わたしが囮になってノイズの気をひくから その間におばちゃんを助けて』

 

『ダメだよ そんなこと未来にはさせられない』

 

『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』

 

『何ともならない』

 

『じゃあ 何とかして』

 

『「(!?)」』

 

『危険なのはわかってる だからお願いしてるの わたしの全部を預けられるの響だけなんだから』

 

『「私・・・響に酷いことした、それでも一緒にいたい、私だって戦いたいんだ・・・」』

 

未来の“願い”が響を動かす。

 

「(戦っているのは、私一人じゃない。シンフォギアで“誰か”の助けになれると思っていたけど、それは思い上がりだ。“助ける私だけ”が一生懸命なんじゃない。“助けられる誰か”も一生懸命)」

 

響の脳裏に自分を助けてくれた人の“天羽奏”の言葉を思い出した。

 

『生きるのを諦めるな!』

 

「(本当の“人助け”は自分一人の力じゃ無理なんだ。だから、あの日あの時、奏さんは私に“生きるのを諦めるな”と叫んでいたんだ。今なら解る気がする)」

 

「キャアア!!」

 

「はっ!」

 

未来の悲鳴が響の耳に入った。

 

未来はノイズの攻撃でバランスを崩し山沿いの道に倒れる。だが身体に怪我がなかったのだ。ノイズが追撃すると思ったが突然ノイズの動きが停まった。未来は戸惑うが。

 

「『直ぐに逃げよ』」

 

頭の中に言葉が走り再び走り出す未来。ノイズも再び動きだした。未来もノイズも気付かない、未来の身体を覆う“金色のオーラ”が未来を守っていることを自分達を見ている“存在”がいることを。

 

響の腰部のアーマーに火が付き、スピードを上げる。

 

「(そうだ、私が誰かを助けたいと思う気持ちは、惨劇を生き残った負い目じゃない!)」

 

足のふくらはぎにあるパーツが前方に向かって伸び、地面につくとバネのように弾け響を跳ばす!

 

「(奏さんから託されて、私が受け取った、“気持ち”なんだ!!)」

 

 

 

そして未来の体力は限界を迎えた。

 

「(もう走れない)」

 

足が縺れ倒れる未来。そんな未来にじわじわ近寄るノイズ。

 

「(ここで終わりなのかな?仕方ないよね、響)」

 

ノイズは空へ跳び未来に襲いかかる。だが。

 

「(だけど、まだ響と流れ星を見ていない!)」

 

未来は再び立ち上がり走ろうとするが道を砕いたノイズの衝撃で崖から落ちる。

 

「キャアアアア!!」

 

落ちる途中、響は右腕の籠手を引きノイズの拳を叩きつける。その瞬間、右腕の籠手がパイルバンカーの様にノイズに衝撃を叩きつけノイズの体を突き破る!まるで響自身が“槍”になったように。

 

ノイズを倒した響はそのまま未来を抱きしめ足部のパーツを展開し着地しようとするが失敗し川沿いまで転がる。

 

落下の衝撃でシンフォギアが解除された響とギアを纏っていなかったにも拘わらずほぼ無傷の未来。未来の身体を覆った“金色のオーラ”も消えていた。

 

「「アイタタ、ん。アハハハハ」」

 

緊張が解けてお互い笑い合う響と未来。二人は立ち上がり。

 

「かっこ良く着地するって難しいんだな」

 

「少し身体が痛いけど。でも“生きてる”って感じがする。ありがとう、響なら絶対助けに来てくれるって信じてた」

 

「ありがとう、未来なら絶対に最後まで諦めないって信じてた。だって私の“友達”だもん」

 

響の言葉に未来の瞳が涙に濡れ流れた。そして泣きながら響に抱きつく。

 

「恐かった・・・恐かったの・・・」

 

「私もすごい恐かった・・・」

 

「私・・・響が黙っていたことに腹を立ててたんじゃないの・・・誰かの役に立ちたいと思っているのはいつもの響だから・・・でも・・・最近は辛いこと、苦しいこと全部背負い込もうとしていたじゃない・・・私はそれが堪らなく嫌だった・・・また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してた・・・だけどそれは響を失いたくなかった私のワガママだった・・・そんな気持ちに気付いたのに・・・今までと同じにできなかったの」

 

「未来、それでも未来は私の・・・」

 

未来の顔を見て響は突然笑い。

 

「えっ?何?」

 

「アハハ!アハハだ、だってさ、髪の毛ボサボサ涙でぐちゃぐちゃ!なのにシリアスなこと言ってるし!」

 

「もう!響だって似たようなものじゃない!」

 

「えっ?嘘?!未来、鏡貸して!」

 

「えっ?鏡はないけど、これで写せば」

 

携帯を出す未来。携帯のカメラで写真を取り自分達の姿を写す。

 

「うわっ!凄い事になってる!これは呪われたレベルだ」

 

「私も想像以上だった」

 

「「アハハハハ」」

 

笑い合う響と未来。

 

「“雨降って地固まる”だな」

 

「“災い転じて福と成す”じゃない?」

 

「「?!」」

 

後ろから声が聞こえ振り向くとそこにレグルスとエルシドがいた。

 

「レグルス君!エルシドさん!もう来るの遅いよ!」

 

「ごめんごめん。着いた時には響がもう片していたからさ。それにしても響達、凄い格好だな」

 

「花も恥じらう乙女らしくない格好ではあるな」

 

「うわーー!二人とも見ないで!」

 

「/////」

 

恥じらう二人。エルシドが只でさえ鋭い目付きを更に鋭くして未来を見る

 

「小日向未来」

 

「は、はい」

 

「明日、君を二課に案内する」

 

「重要な事だからな♪」

 

「「??」」

 

「それと君とはぐれた僧も無事だ」

 

「本当ですか!良かった、アスミタさん無事だったんだ」

 

「??未来、アスミタさんって誰?」

 

「おばちゃんの所にお世話になってるお坊さん。響にも紹介するね」

 

「うん!絶対だよ!」

 

微笑み合う二人を尻目にレグルスとエルシドは先程まで未来がノイズと追いかけっこしていた道路を一瞥する。

 

「『アスミタ、駆けつけた俺達にわざわざ傍観させたのはこの為か?』」

 

そう本当はレグルスとエルシドは響よりも早くに未来の元についていたのだが、突然アスミタからのテレパシーで傍観に徹していたのだ。

 

「『俺達が助けに行けば未来は危険な目に合わずに済んだんじゃないの?』」

 

「『我々が手助けするのは簡単だがそれでは意味がないのだ。あの二人の少女の“絆”はこれからの戦いに必要になるやもしれぬからな』」

 

「『フゥ、わかったよ。お陰で響も一皮むけたし、ガングニールも新たな力に目覚めたからな。でも未来を危険に晒し、響を不安にさせた事は許さないからな』」

 

レグルスは目を鋭くしてアスミタを睨む。エルシドも同意と言わんばかりに目を鋭くする。

 

「『解っている。いずれ何らかの形で落とし前はつけよう。だが私はまだ“中立”でいさせてもらう』」

 

そう言ってアスミタは夕闇に消えた。

 

「・・・相変わらずだな奴は」

 

「でもさ、今はあの二人の仲直りを祝福しようよ」

 

「・・・そうだな」

 

仲睦まじい響と未来の笑顔をレグルスとエルシドは微笑ましく見つめるのであった。

 

 

 

 

商店街に戻った四人は緒川から未来の鞄を受けとる。響はばつが悪そうに弦十郎に話しかける。

 

「あの~師匠~」

 

「ん?」

 

「この子にまた戦っているところをじっくり、ばっちり目の当たりにされてしまって・・・」

 

「違うんです!私が首を突っ込んでしまったから!」

 

未来は響を庇うが弦十郎は。

 

「・・・詳細は後で報告書の形で聞く。ま、不可抗力という奴だろ。それに“人命救助の立役者”にうるさい小言は言えんだろうよ」

 

弦十郎の言葉に響達はハイタッチして喜ぶ。すると了子の車が駆けつけ。

 

「フッ!主役は遅れて登場よ。さて、何処から片付けようかしら♪」

 

空気の読めない了子の行動に苦笑いを浮かべる一同。

 

「あとは頼り害のある大人達の出番だ。響君達は帰って休んでくれ」

 

「「はい!」」

 

友里から飲み物を貰い解散するが未来は。

 

「あ、あの、私避難の途中で友達とはぐれてしまって雪音クリスとデジェルさんって言うんですけど・・・」

 

未来の行動に弦十郎は一瞬驚くが直ぐに微笑み。

 

「被害者が出たとの知らせも受けていない、その友達とも連絡が取れるようになるだろう。心配ない」

 

「良かった」

 

弦十郎に頭を下げ響の元へ向かう。エルシドとレグルスが弦十郎に近づく。

 

「・・・」

 

「弦十郎殿、雪音クリスの方は?」

 

「デジェル君に頼まれてな。ある程度こちらに協力するがしばらくは勝手な行動を許してほしいとな」

 

「まぁデジェルが一緒なら大丈夫だと思うけど。それはそうと弦十郎、あの“話”なんだけどさ」

 

「あの“話”か、だが」

 

「彼女はここまで関わってしまったのだ、もはや無関係とも言えんだろ」

 

「それに響のビタミン剤としてもあの子は必要だと思うよ♪」

 

「ふ~、やれやれ」

 

飲み物を飲みながら弦十郎は月を眺めるのであった。

 

 

件のクリスとデジェルは寄り添いながら夜の闇に消えていく。

 

 

その日の晩、響と未来は同じベッドで寝むる。久しぶりの事に二人ははしゃぎ合い、中々寝付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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古の恋バナ 魔羯編

今回はあるキャラとあるキャラを弄くります。


それは過ぎ去った思い出の一つ。

 

天羽奏と風鳴翼、シジフォスとエルシドは自衛隊基地に赴いていた。シジフォスとエルシドはヘリコプターの操縦訓練の為にその場を離れ、翼はバイクの整備をしていた。翼の鼻唄が工場に響く。

 

「♪~♪~♪~♪」

 

整備をしていた翼に奏が近づく。

 

「「♪~♪~♪~♪」」

 

「?!奏!」

 

「ご機嫌ですな♪」

 

「今日は非番だから、バイクで少し遠出に」

 

「特別に免許貰ったばかりだもんな。それにしても任務以外で翼が歌を歌ってるなんて初めてだ」

 

奏の言葉に翼は顔を赤らめる。

 

「奏・・・」

 

「そうゆうのなんか良いよな♪」

 

翼のオデコに軽めのデコピンをする。

 

「さ~て、暇だしシジフォス達を冷やかしにでも行ってくるかな。また鼻唄聴かせてくれよな♪」

 

そう言って工場の出口に向かう奏。翼はその後ろ姿を見つめ。

 

「奏!鼻唄は誰かに聴かせるものじゃないから!」

 

「分かってるって、んじゃ行ってきな!」

 

苦笑いを浮かべた翼は手をヒラヒラさせて工場から出ていった。

 

メディカルチェックを受けていた翼は過ぎ去った思い出が甦った。もう戻ってこない“片翼”に思いを馳せて。

 

「ただいま、奏・・・」

 

憑き物が取れた晴れやかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、響と未来は二課本部へと出頭した。初めて見る二課の設備に未来は驚嘆した。

 

「うわ~~、学校の真下にこんなシェルターや地下基地が・・・」

 

「あっ!翼さーん!レグルスくーん!」

 

自販機がある区画で翼とレグルスとエルシド、緒川と藤尭がいた。

 

「立花か。そちらはたしか“協力者”の」

 

「こんにちは、小日向未来です」

 

「えっへん!私の一番の“親友”です!レグルス君とエルシドさんが前から未来を“協力者“として師匠に推薦してくれてたんです!」

 

「初めて彼女が立花の戦闘に巻き込まれたあの日に弦十郎殿に話していたのだ」

 

「ま、翼に慎司ってマネージャーがいるし、響にも私生活で助けになる人は必要だと思ってね♪」

 

レグルスとエルシドの説明に翼は苦笑いを浮かべ。

 

「確かにな。立花はこういう性格故、色々面倒掛けると思うが支えてやってほしい」

 

「いえ、響は残念な娘ですのでご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします」

 

「未来って響のお母さんみたいだな(笑)」

 

「ええ?!何、どうゆうこと?!」

 

「響さんを通してお二人が意気投合してると言う事ですよ」

 

「はぐらかされた気がする」

 

緒川の言葉に響は剥れる。皆の顔が笑顔に綻ぶ。緒川は微笑む翼を横目に微笑む。

 

「でも、未来と一緒にここにいるのはなんかこそばゆいですよ」

 

「小日向を“外部協力者”として二課に移植登録したのは指令が手を回してくれた結果だ。それでも不都合を強いるかもしれないが」

 

「説明は聞きました。自分でも理解している積もりです。不都合何てそんな」

 

「あっ、そういえば師匠は?」

 

「あぁ私達も探しているのだが」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

弦十郎の所在を知るのは“約二名”であった。

 

因みに指令室に『TATHUYAに緊急返却』と書き置きがおかれていた。

 

「あーら、良いわね。ガールズトーク♪」

 

と了子がにこやかに現れた。緒川はゲンナリとした顔になり。

 

「何処からツッコムべきか悩みますが、取り敢えず僕達を無視しないでください」

 

緒川のツッコミが空しく響く。響と未来は了子の恋愛経験に興味津々の態度を取り、了子自身も“恋ばな百物語”

なんて言い出す始末。響はおおはしゃぎ、未来は百物語に苦笑い、翼は頭痛を堪える。

 

了子は自分は一途な女であると言い出し。

 

「“命短し恋せよ乙女”と言うじゃない。それに女の子の恋するパワーって凄いんだから♪」

 

「女の子ですか・・・」

 

ガンッ!

 

「グハッ」

 

余計な事を言う緒川に裏拳を叩きつける了子。

 

「私が聖遺物の研究をするようになったのも」

 

「「うんうん!それで!」」

 

興味津々に聞く響と未来。だが。

 

「・・・・・・ま、まぁ私と忙しいから、ここで油を売ってられないわ」

 

「自分から割り込んできたくせに」

 

ゲシッ!

 

「グアッ!」

 

「緒川さん?!」

 

「あ~あ」

 

「“雉も鳴かずば打たれまいに”」

 

今度は顔面に蹴りを入れる了子。藤尭は心配したがレグルスとエルシドは呆れ顔だった。

 

「とにもかくにも!デキル女な条件はどれだけ良い恋してるかに尽きるわけなのよ。ガールズ達も良い恋しなさいよ♪まぁ響ちゃんと翼ちゃんの場合は、相手の男次第になるけどね♪」

 

「ええ?!//////」

 

「なッ!//////」

 

了子のセリフに紅くなった響と翼はチラッと緒川をケタケタ笑うレグルスと我関せずの態度のエルシドに目を向ける。

 

「ふ~んそうだったんだ♪」(ニタニタ)

 

響の様子と目線で全てを察した未来は目を細めていやらしい笑みを浮かべる。

 

「み、未来!何その笑顔?!」

 

「ち、違うぞ小日向!これはだな!」

 

「いえいえ、響と翼さんの事。私応援してますから♪あーあ、早く私にも王子様が現れてくれないかなー♪」

 

「「待って(待ってくれ)未来!(小日向!)こっちの弁明もきいて!!(聞いてくれ!!)」

 

「んじゃ!ばはは~い♪」

 

「「ちょっと了子さん!(櫻井女史!)そんな無責任な!!」」

 

トンズラする了子に響と翼は救いの手を求めるが無視された。了子の姿が見えなくなると突然レグルスが。

 

「あっ、そういえばエルシド。エルシドって修行時代よく“女の子”と一緒にいたって聞いたけど?」

 

「ん?“峰”の事か?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「うわ~、エルシドさんにも恋バナがあるんですか?」

 

エルシドの言葉に未来を除いた四人は・・・。

 

「(エルシドさんに?・・・)」

 

響は呆然となり。

 

「(女?・・・)」

 

藤尭は驚愕に目を見開き。

 

「(あの堅物のエルシドに?・・・)」

 

緒川は顔の痛みも忘れるほど驚き。翼に至っては。

 

「(エルシドに・・・女?・・・)」

 

目が死んでいた。足元の床が崩れ、奈落の底に落ちる浮遊感を味わった。

 

 

 

 

そんな事露知らずの了子は通路を歩いていた。

 

「(らしくない事行っちゃったかもね・・・・・・変わったのか・・・それとも・・・変えられたのか?)」

 

自分の変化に戸惑い黄昏る了子。

 

 

 

 

 

 

 

そして二課の通路に置かれたベンチではエルシドへの尋問が行われていた!

 

「さぁ!エルシドさん答えてください!“峰”さんって誰なんですか?!エルシドさんとの関係を包み隠さず誤魔化さず洗いざらい全~部暴露してください!!」

 

響が凄い勢いでエルシドに詰め寄る。未来はワクワクしレグルスは面白そうにケタケタと笑う。藤尭は仕事があるので渋々退場した。

 

「緒川殿、何故俺は尋問を受けているのだ?」

 

何故こんな状況になったのか理解できないエルシドは緒川に聞くが。

 

「取り敢えずエルシド。“峰”って方の事を話してもらえないでしょうか?じゃないと翼さんが不味いです」

 

「ななな何がままま不味いのですかかか?おおおお緒川さん?かかかぜ風鳴つつつ翼はここここの通りだだだだ大丈ぶぶぶでででですがががが?」(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ)

 

瞳からハイライトが消え目元に影が射し、身体は小刻みに震え、手にはいつまにか刀(それも真剣)を握り今にも抜いて暴れそうになる翼を抑える緒川。

 

「・・・まあ良かろう。あまり色気のある話ではないがな。皆も知っての通り俺達は聖闘士はこの時代より300年近くの平行世界からやって来たことは知ってるな」

 

響達(シンフォギアの事と聖闘士の事を聞いていた未来も含む)は頷く。

 

「あれは、俺がまだ正規の聖闘士ではない候補生だった頃。“峰”は俺のかつての友、いや友と言うより“好敵手”だ。俺は聖闘士として己を鍛え己自身を“聖剣”へと完成させようとした。峰の父上は遠い東洋の国の出身者でな峰は黒い髪と朱色に輝く瞳をした刀の研ぎ師だった、そして峰は究極の研ぎにより刀に魂を宿らせ聖剣の完成を目指した。俺達は己を鍛える者と研ぎ師の技巧で聖剣を目指す“好敵手”であり“盟友”であった」

 

「「フムフム。それでそれで♪」」

 

「・・・・・・峰は、亡くなった」

 

「「えっ?」」

 

「「?!」」

 

「・・・・・・」

 

ワクワク顔が崩れる響と未来。シリアスになる翼と緒川。レグルスは黙って聞いていた。

 

「峰は胸の病で倒れた。完成されぬ刃と痩せ衰えていく身体、まだ年若い峰は夢半ばでその命を散らせていった。峰の父上の国では女が刃に拘わることは許されぬ事、自分が刃を汚したから病に落ちたと言っていた」

 

「昔はそう言った風習があったからな。でも」

 

「あぁ、峰は刃を汚してなどいない。峰は俺に死に目を見せず逝った。だが、最後に峰が言った言葉が今の俺の理念になっている」

 

『無念だ・・・私はもうお前と共に刃の完成を目指せない・・・・・・せめてお前は・・・至れよ・・・!!聖剣へ・・・!!』

 

「峰と俺自身の夢、“聖剣へ至る”事、例え死しても峰の夢と想いは常に俺と共にあるのだ。ん」

 

顔を上げたエルシドの目に涙を流す響と未来と翼、峰の冥福を祈るレグルスと緒川の姿があった。

 

「・・何故泣く?」

 

「だって・・・ヒック・・・峰さんがあまりにも不憫で・・・!」

 

「エルシドさんも辛かったですよね・・・」

 

「すまないエルシド・・・お前と峰殿の関係を下世話に考えてしまって・・・」

 

「泣くことはない峰の想いは“ここ”にあるからな」

 

己の胸を指すエルシド。その目には“優しさ”に満ちた瞳をしていた。

 

 

 

 

 

そしてその頃の弦十郎は、雨が降りしきる中傘を指しTATHUYAにDVDの返却と別作品をレンタルし廃マンションへと向かっていった。

 

 

 

 

 

響達も泣き止んだが未だに暗い雰囲気の空気を変えようとする話を変える緒川。

 

「指令、まだ戻ってきませんね」

 

「ええ、メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに」

 

「次のスケジュールが迫ってきましたね」

 

「もうお仕事入れてるんですか?!」

 

「少しずつよ。今はまだ慣らし運転のつもり」

 

「じゃあ、以前のような過密スケジュールじゃないんですね!」

 

「?」

 

「だったら翼さん!デートしましょ!」

 

「デート?」

 

「あっ!もちろんエルシドさんとレグルス君も!!」

 

「「えっ?」」

 

「未来も一緒に行きますし!」

 

未来は響に耳打ちする。

 

「響、それだと私凄いお邪魔虫なんだけど・・・」

 

「お邪魔虫なんかじゃないよ。皆でゲーセン行ったりカラオケ行ったりするんだから」

 

「それってデートじゃなくて遊びにいくって言うんじゃ・・・」

 

「細かいことは良いから!で!翼さん!エルシドさん!レグルス君!どうですか?」

 

「・・・・・・構わないわ」

 

「・・・異論ないが」

 

「楽しみだな♪」

 

「よーし!皆でデートだーーーーーー!」

 

響の元気良い叫びが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

聖闘士の恋バナシリーズはその内またやるかもしれません。デジェルの時はどうなるか(主にクリスのリアクションが)お楽しみにwww


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穏やかな一時

リアルが忙しく、投稿できず申し訳ありません。


廃マンションの最上階の一室に雪音クリスとデジェルが身を寄せあって毛布にくるまっていた。周りには空のコンビニ弁当や飲み物が入ったゴミ袋が置いてあった。

 

「クリス、私が一緒だと寒いんじゃないか?」

 

「良いんだよ、お兄ちゃんとこうしてれば寒くないし////」

 

顔を赤らめながらデジェルに寄り添うクリス。デジェルも微笑みながらクリスを抱き寄せ白銀に輝く髪を優しく撫でるが。

 

グゥゥゥ~!

 

クリスのお腹から聞こえた腹の虫でムードが壊れた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「////////」

 

 

沈黙・・・・・・。

 

 

ガチャ

 

「「?!」」

 

突然扉が開く音が聞こえ毛布を脱ぎ捨て警戒する。部屋の廊下を覗こうとするクリスの目の前に。

 

「ほらよ」

 

「?!」

 

「(風鳴司令?)」

 

コンビニ袋を片手に弦十郎が部屋に入ってきた。

 

「二人っきりの時に失礼したな。だが応援は呼んでいない俺一人だ」

 

警戒心剥き出しで構えるクリスをデジェルが片手で制し。弦十郎は口を開く。

 

「君達の保護を命じられたのはもう俺一人になってしまったからな」

 

「何故ここがわかったのですか?」

 

「元公安の御用機関でね、慣れた仕事さ」

 

弦十郎は持っていたコンビニ袋を差し出した。

 

「差し入れだ」

 

グゥゥゥ~。

 

クリスの腹は空腹を訴えたがクリスは構わず警戒していた。見かねたデジェルは弦十郎に近づき。

 

「ありがたく」

 

「うむ」

 

デジェルは袋からアンパンを取りだし一口食べる。

 

「デジェル兄ッ!」

 

何か盛られているのかと警戒していたクリスだがデジェルはお構いなしに咀嚼する。

 

「大丈夫だ、毒は入っていない」

 

そう言ってデジェルはアンパンを二つに割りクリスに渡す。デジェル兄が大丈夫と言うならと考えアンパンを受け取り食べるクリス。デジェルは弦十郎から牛乳を受け取り毒味した後クリスに渡す。

 

「バイオリン奏者の雪音正典とその妻吹奏楽家のソレッド・M・雪音が難民救済のNGO活動中に戦火に巻き込まれて死亡したのが八年前。残った一人娘も行方不明になった。その後、国連軍のバルベルデ介入によって事態は急転する。現地の組織に捕らわれていた娘は発見されて保護、日本に移送されることになった」

 

「よく調べているじゃねえか。そうゆう詮索はヘドが出る!」

 

敵意満々の瞳で弦十郎を見るクリス、デジェルが間に入らなければ殴り掛かっていきそうな勢いだ。

 

「当時の俺達は“適合者”を探すために音楽界のサラブレッドに注目していてね。天涯孤独となった少女の身元引き受け先として手を上げたのさ。所が少女は帰国直後に消息不明、俺達も慌てたよ。二課からも相当数の捜査員が駆り出されたがこの件に関わった多くの者が死亡。或いは行方不明と言う最悪の結末で幕を引くことになった」

 

「(恐らく捜査員達はフィーネに始末されたのだろうな。フィーネは自分の意のままに動く“駒”としてクリスを利用しようとしたのだろう)」

 

弦十郎からの当時の話を聞きこの件にフィーネが関わっていたと推察するデジェル。

 

「何がしたいオッサン!」

 

「俺がやりたいのは君を救い出すことだ」

 

「!!」

 

「引き受けた仕事をやり遂げるのは“大人の務め”だからな」

 

確固たる決意を持った眼でクリスを見つめる弦十郎。だがクリスは嘲笑し。

 

「フン!“大人の務め”と来たか、余計な事以外はいつもなにもしてくれない大人が偉そうに!!」

 

牛乳パックを叩きつけ窓をぶち破り外に出る落下しながらイチイバルを纏いビルを飛び越えながら何処かに去るクリス。それを見つめる弦十郎にデジェルが話しかける。

 

「すまない風鳴司令」

 

「いや、彼女が大人を信じられなくなったのも無理はない・・・・・・俺達も君のように彼女を探し続けていればこんなことには・・・」

 

「ですが、捜査員の更なる犠牲が生まれていたでしょう。“何かを『守るため』には何かを『切り捨てなければ』ならない”。その“判断”や“責任”を背負うのも“大人の務め”と言えるでしょう。組織を背負う長として風鳴司令の判断は間違っていません」

 

「だがそれは“組織”の弱点と言えるがな」

 

「だからこそ“身軽”な私だからこそできることがあります」

 

「八年もの間、彼女を探してゲリラやら武器商人やらと大喧嘩してきた男が言うと説得力あるな」

 

弦十郎の言葉にデジェルはフッと笑みを浮かべクリスの後を追うとする。

 

「デジェル君、君は二課には来ないのか?」

 

「・・・・・・風鳴司令。一つ言っておきます」

 

「・・・」

 

「“獅子心中に虫あり”」

 

「?!」

 

「では」

 

そう言ってビルの上を飛び越えながら(聖衣を纏わず)クリスを追うデジェル。弦十郎はデジェルから言われた言葉を噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

弦十郎から離れ電柱の上に立っているクリス。

 

「(あたしは何を・・・・・・)」

 

まだ迷いの中にいるクリスをデジェルはお姫様抱っこする。

 

「?!」

 

「クリス、何があっても私は君のそばにいる。一人で苦しまなくていいんだ」

 

そう言って抱き寄せるデジェル。

 

「お兄ちゃん・・・」

 

安心した笑みを浮かべたクリスはデジェルの胸板に頭を寄せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、公園で響達を待つ翼とエルシドとレグルス。

 

「あの子達は何をやってるのよ」

 

翼は腕時計を見て憤然としていた。

 

「ん」

 

「お、来た来た♪」

 

息切れしながら響と未来がやって来た。

 

「すみません!」

 

「遅いわよ!」

 

「申し訳ありません。お察しの事とは思いますが響のいつもの寝坊が原因でして」

 

顔を上げた響と未来は翼達の服装を見た。翼は上は蒼のジャケットに白のキャミソール、下は短パンにヒールつきのサンダルに太ももまで届く靴下、手提げバックに女性用の帽子を着用。

 

エルシドは黒のインナーTシャツに茶色の革ジャンにジーンズを着用。更にサングラスも装備。

 

レグルスも脛位の丈のジーンズに無地のTシャツに白と黄色のツートンカラーのパーカーを着用。

 

余談だがエルシドとレグルスは普段のコートでは目立つので黒スーツとサングラスで出掛けようとしたが悪目立ちするので緒川に止められコーディネートされたのは割愛しておく。

 

「時間が勿体ないわ。急ぎましょ」

 

そう言って先に行く翼とエルシド。

 

「どう思う響?あの翼の格好(笑)」

 

「スッゴい楽しみにしていた人みたいだ・・・」

 

未来と一緒に呆然としていた響は思わず呟く。すると翼がピタッと止まり。

 

「誰かが遅刻した分を取り戻したいだけだ!!//////」

 

顔を赤くして怒鳴る。エルシドは表情が読めないが弱冠肩が揺れていた。

 

「翼イヤーは難とやら・・・」

 

「地獄耳だな~」

 

ショッピングモールに着いた一同はショッピング開始した。

 

可愛いキャラクターのマグカップとかが売られている店を覗いたり。

 

映画を見て涙を流す響と未来と翼、レグルスは初めて見る映画に興味津々。エルシドは涙は流していないが食い入るように鑑賞し。

 

ソフトクリーム店でレグルスが両手に全種類のアイスを持って食べて響は羨ましそうにし未来と翼は苦笑いを浮かべエルシドは呆れていた。

 

女性用洋服店で女性陣がファッションショーを繰り広げ拍手を送る男コンビ(普通男性は居心地が悪くなるのだがエルシドとレグルスは全く気にしてなかった)。

 

途中、翼の正体に気づかれそうになって隠れたり。

 

チャラい男達が近づきそうになったらエルシドが威嚇(睨んだだけ)して追い返したり。ショッピングをかなり楽しんでいた。

 

そしてゲーセンに立ち寄った一同はクレーンゲームを始め翼が所望のぬいぐるみを響が取ろうとするが全く取れずついにヤケクソになった響がクレーンゲームを壊そうとするが未来と翼に止められた。響がやってるのを見てやり方を覚えたレグルスがぬいぐるみを全部取ってしまい響から「この天才系め!」と僻まれたり(ぬいぐるみは翼と未来と響が欲しそうなやつを渡し後は店に返した)。エルシドが『太鼓の◯人』と言うゲームで連続で本日の最高得点を叩きだし『太鼓の超人』と言う称号を得た(因みに翼達は太鼓を叩くエルシドの姿が全く違和感が無いことに驚いた)。

 

 

そして一同はカラオケに行く。

 

「おおおお!!凄い!私達ってば凄い!トップアーティストと一緒にカラオケに来るなんて!」

 

響は大いにはしゃいだ。すると音楽が流れ翼が演歌を歌い始めた。

 

「渋い・・・」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

しかもめっちゃ上手い。

 

「翼さん、カッコいい!」

 

「なぁエルシド、翼って」

 

「あいつはどちらかと言うと演歌の方が好きだからな」

 

翼の歌が終わり次は誰が歌うのかでレグルスが歌いだした。

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

「レグルス君上手い!」

 

「うん何か爽やかな雰囲気の歌だね」

 

「いつの間に歌なんて覚えたんだ?」

 

「そう言えばこの間藤尭殿から色々CDを借りていたな」

 

そして次はエルシドが歌うと言い出し一同はドヨッとなって集まり。

 

「エルシドさんが歌を歌うって!?」

 

「一体何の歌を歌うんだろう?翼さんみたいな演歌系?」

 

「いやもしかするとロック系かもしれん」

 

「いや意表をついてポップ系だったりして?」

 

そして音楽が流れ。

 

「う~さぎ♪お~いし♪かのやま~♪」

 

「「「「(民謡ッッ??!!)」」」」

 

以外や以外の民謡を歌いだしたので全員笑いを必死に堪えようと相当の胆力を使った。因みにエルシドの民謡がトップアーティストの翼と並ぶ点数を叩きだして一同を驚かせたのはエルシドが歌い終わってすぐだった。

 

 

夕暮れ時、一同は街を一望できる丘へ向かったが翼は階段の途中でへばっていた。

 

「体力と精神力が鬼のエルシドとレグルスは兎も角、二人ともどうしてそんなに元気なんだ?」

 

「翼さんがへばりすぎなんですよ」

 

「今日は慣れないことばかりだったから」

 

ようやく上り終えた翼は。

 

「“防人”であるこの身は、常に戦場にあったからな」

 

公園を見回した。

 

「本当に今日は、“知らない世界”ばかりを見てきた気分だ」

 

「そんなことありません」

 

そう言った響は翼の手を取り街を一望できる場所に連れていった。

 

「!・・・・・・・・・」

 

夕暮れに染まる世界の儚くも美しい光景に翼は目を奪われた。

 

「あそこが待ち合わせした公園です。皆で一緒に遊んだ所も遊んでない所も全~部翼さんの“知ってる世界”です。昨日に翼さんが戦ってくれたから今日に皆が暮らせている“世界”です。だから“知らない”なんて言わないでください」

 

「・・・」

 

翼は奏の言葉を思い出した。

 

『戦いの“裏側”とか“その“向こう側”にはまた違ったものがあるんじゃないかな?あたしはそう考えてきたし、ソイツを見てきた』

 

「そうか、これが奏の見てきた“世界”なんだな・・・」

 

その時の翼の笑顔はとても澄みきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

因みにレグルスが歌っていた曲は、私がレグルスのCVを『宮野真守』にしたので『宮野真守』で『テンペスト』です。

次回は響はお休みにしてアイツを活躍させます。


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絶剣羽ばたく 聖剣猛る

原作では活躍する響は今回お休みです。響ファンの皆さんごめんなさい。

それとオリジナル技も出ます。


デートから数日が経ち、リディアンの屋上で響と未来は翼の復帰ステージのチケットを貰った。

 

「えっ、復帰ステージ?!」

 

「アーティストフェスが10日後に開催されるのだが、そこに急遽捩じ込んで貰ったんだ」

 

「なるほど」

 

「倒れて中止になったライブの代わりと言うわけだな」

 

「!」

 

響はチケットの裏側に載ったフェスの会場を見てあっ!となる。何故ならそこは二年前に起きたツヴァイ・ウィングの最後のライブにして天羽奏が亡くなり響の運命に大きく関わった場所だ。

 

「翼さん・・・此処って・・・」

 

「立花にとっても、辛い思い出のある会場だな」

 

「ありがとうございます翼さん!」

 

少し目を伏せる翼に響は明るく言う。翼と未来は響を見る。響はチケットを真っ直ぐ見つめ。

 

「いくら辛くても過去は絶対に乗り越えて行けます!そうですよね、翼さん!」

 

自分を見つめる響から少し目をそらし二羽の鳩を見た翼は。

 

「そうありたいと私も思っている」

 

迷いない眼でそう告げた。

 

 

 

場所は変わり風鳴邸の道場でエルシドとレグルスは弦十郎に“ある事”を頼んでいた。それを聞いた弦十郎は渋い顔をし。

 

「エルシド、任務に私情を持ち込むとはお前らしくないな」

 

「自分でもそう思っている。しかしこれは俺なりの“過去へのケジメ”だ」

 

「弦十郎、俺からも頼むよ。響達や会場の人達は俺が守る。だから」

 

エルシドを援護するレグルスに弦十郎は片手をあげて制し。

 

「エルシド、お前の気持ちも分からなくもない。だが俺も司令としての責任がある。むざむざお前を「弦十郎殿」?」

 

弦十郎の言葉を遮りエルシドは。

 

「今まで“俺達”が見せてきたのが“本気”だと思っているのか?」(ゴゴゴゴゴゴゴ)

 

今までとは比較にならない静かだが圧倒的な威圧感を放つ。

 

「・・・なら見せて貰おうか?」

 

好戦的な笑みを浮かべた弦十郎が立ち上がり構える。

 

「良かろう」

 

同じように立ち上がり構えるエルシド。

 

「レグルス、審判を頼む」

 

「了~解♪」

 

これから“起こる事”にワクワクしながら見守るレグルスは両者の間に入り片手をあげて。

 

「始めッ!」

 

「覇ッッッ!!!」

 

「疾ッッッ!!!」

 

レグルスが手を振り下ろすと同時に弦十郎とエルシドはお互いに拳と手刀をぶつけた!

 

 

 

ドゴオオオオオオオォォォォォォォンンン!!!!

 

 

 

 

その日、響達が住む街で散発的な地震が相次いで発生し、地震観測所がニュースで報道したのはそれから1時間も経たない後であった。

 

 

それから更に10日が過ぎ。いよいよ翼の復帰ステージが始まろうとしていた。リハーサルを終え控え室に戻ろうとする翼とマネージャーの緒川とボディーガードのエルシド。その三人の前にスーツ姿の初老の外国人の男性が拍手をしながら近づく。

 

「緒川殿、あの御人は?」

 

「トニー・グレイザー氏、メトロミュージックのプロデューサーです。以前、翼さんの海外進出展開を持ちかけてきた」

 

グレイザー氏は悠長な日本語で話す。

 

「中々首を縦に振ってくれないので直接交渉させていただきに来ましたよ」

 

「Mr.グレイザー。その件に関しては正式に・・・」

 

緒川が話そうとするのを翼が止めた。

 

「翼さん」

 

「・・・・・・」

 

「もう少し、時間を頂けませんか?」

 

「つまり、考えが変わりつつあると?」

 

「・・・・・・」

 

にこやかに話すグレイザー氏に翼は真っ直ぐに見据える。

 

「そうですね、今の君が出す答えであれば是非聞かせていただきたい。今夜のライブ、楽しみにしていますよ」

 

「・・・・・・」

 

翼の態度は変わらなかった。

 

 

 

 

その頃響は又もや補習で遅れてしまっていた。

 

「折角、チケット貰ったのに開演に遅れそう」

 

「いたいた。おーい響!」

 

「あ、レグルス君!」

 

響の目の前にレグルスが現れた。

 

「なにしてンの?遅れるぞ。未来も待ちぼうけ食らってたし」

 

「ゴメ~ン・・・」

 

「まいいや。それじゃ急ぐぞ!」

 

レグルスは響を肩に担いで全力疾走する。そのスピードはバイク以上であった。

 

「ぎぃやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!これなんか前にもあったような!!!」

 

響の悲鳴が夜の街に響いた。

 

 

 

 

その頃、指令本部ではノイズの出現パターンを検知し。響に連絡を取ろうとしたが弦十郎は響と翼に連絡せずエルシドとレグルスにだけ連絡を送った。

 

「指令、よろしいのですか?翼さんや響ちゃんに連絡を取らずに」

 

「今回のノイズの退治はエルシドだけに当たらせる」

 

「エルシド君だけで?!いくら最強の聖闘士でもたった一人でノイズを倒すなんて無茶ですよ!」

 

友里の言葉に弦十郎はニヤリと笑みを浮かべ。

 

「そう言えばお前らも知らなかったな。エルシドもシジフォスもレグルス君もまだ一度も“本気”を出したことがないんだよ」

 

『えッ??』

 

弦十郎の言葉に指令室の局員は何言ってるんだと言わんばかりに呆然とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

未来と合流した響は未来が持ってきた服に着替えるためにトイレに向かった。レグルスは列に並び指令本部からの連絡を聞いた。

 

「了解、こっちは響を狙ってフィーネが現れないように警護しているよ。エルシド、そっちは任せた」

 

「『あぁ、任せておけ』」

 

そう言ってエルシドは通信を切った。

 

「(さ~て、久しぶりのエルシドの“本気”が見られないのは残念だけど俺は俺の仕事をするかな)」

 

気持ちを切り替えたレグルスは視界の端から着替えた響と未来がこっちに向かってくるのを確認した。

 

 

 

レグルスとの通信を切ったエルシドは会場を去ろうとする。

 

「エルシド」

 

「緒川殿」

 

「やはり行くんですね」

 

「あぁ」

 

緒川はエルシドの心情を理解している。だからこそ見送りに来たのだ。

 

「翼さんには、エルシドは迷子になった響さん達を向かえに行ったと伝えておきます」

 

「すまない・・・」

 

「いえ、ケジメをつけてきてください」

 

「・・・当然だ」

 

そう言ってエルシドは戦場に向かう。

 

 

 

 

 

「指令、本当に良いんですか?エルシドを一人で向かわせて」

 

藤尭が弦十郎に意見する。

 

「良いわけないだろう。だが・・・」

 

弦十郎の脳裏に10日前にエルシドが言った言葉を思い出した。

 

「『俺は・・・翼達のボディーガードでありながら奏を守れなかった・・・それだけではなく盟友<シジフォス>を助けられなかった・・・あの日の悔しさは・・・憤りは・・・1日もいや一瞬たりとも忘れたことはなかった!・・・俺は・・・俺は許せんのだ・・・不甲斐ない自分自身を許せんのだ!・・・だから今度こそ・・・今度こそ守り抜いて見せる!・・・アイツの・・・翼の歌を今度こそ!!』」

 

迷いない強い“覚悟”を持った“意思”と“熱”に弦十郎は当てられてしまったのだ。

 

「今度こそ守り抜いてみせろ!エルシド!!」

 

弦十郎も強い想いを持ってエルシドに激を飛ばす。

 

 

 

 

 

現場に向かうエルシドはビルの上を跳び跳ねながら呼ぶ。己の鎧を!

 

「山羊座<カプリコーン>!!」

 

エルシドの真上に黄金の山羊が現れ、それぞれのパーツに分解しエルシドの身体に装着される!

 

“大義”を宿す“聖剣”を振るう黄金の魔羯が戦場に赴く!

 

 

そしてステージに翼が現れる。

 

ワアアアアアアアアアアアアア!!

 

トップアーティストの登場に観客のボルテージは最高潮になる!

 

「「翼さーーーーーーん!!」」

 

響と未来のボルテージも最高潮になる。

 

 

 

 

現場である埠頭ではまるで要塞のような形をした黄色のノイズや大型のノイズが暴れていた。目視で確認したエルシドは列になった大型のノイズに向かってドロップキックを放つ!

 

「『ジャンピングストーン』!!」

 

ドロップキックは大型達の身体を貫通し消滅させる!ノイズ達はエルシドに向かう!戦いの開始を告げるゴングが今鳴った!

 

 

 

エルシドがノイズを消滅させたのと同時に翼は舞台の中心に向かう!

 

「(奏、シジフォス、そしてエルシド。聴いて・・・私の歌を!!)」

 

舞台と言う名の戦場に風鳴翼は赴く!

 

 

 

 

 

戦場に赴いたのはエルシドだけではなかった。雪音クリスとデジェルもまた、戦場にいたのであった。現れたノイズ達はクリス達を始末するためにフィーネが差し向けた刺客だったのだ。だが。

 

「お兄ちゃん、アイツ一人で戦わせるのかよ?」

 

一人で戦おうとするエルシドをクリスは心配そうに見つめるがデジェルは涼しい顔をしていた。

 

「大丈夫だ。エルシドもどうやら“本気”のようだしな。良い機会だ、クリスも良く見ておくと良い。黄金聖闘士の戦いぶりをな」

 

 

 

 

そして翼は歌う!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

舞台に翼の歌が響き渡る!

 

「翼さーーーん!!」

 

「カッコいいーー!」

 

「(凄いな翼、こりゃ響達がファンになるのも・・・?!)」

 

ふとレグルスは響と未来を見ると二人の身体から“ある物”が見えた。レグルスはよく目を凝らし再び二人を見ると確かにあったのだ“それが”!

 

 

 

要塞のノイズが砲撃を放つがエルシドは難なくそれを手刀で切り裂き、小型ノイズを切り捨てる。周囲から襲いかかるノイズを円状に回転し切り裂く!

 

「『円刃<えんじん>』」

 

上空から襲うノイズを手刀から放つ斬撃を細かくし一体一体切り裂いて行く!

 

「『乱斬<らんざん>』」

 

更に襲ってくるノイズを流れるような動きでノイズの間を抜ける!そしてノイズの群れから離れるとノイズはエルシドの方を振り向こうとすると次々とノイズが斬られていった!ノイズは自分達が斬られた事にすら気付いてなかったのだ!

 

「『刀剣流し』」

 

数の差など諸ともしない圧倒的な強さを見せ付ける。

 

 

 

 

 

「なんなんだよ・・・あの強さ・・・圧倒的じゃねぇか・・・」

 

クリスはエルシドの戦闘力に度肝を抜かれた。

 

「あたし、あんなのと戦おうとしてたのか?」

 

フィーネ側にいた頃黄金聖闘士を倒すと息巻いていた自分が如何に“身の程知らず”だったのかクリスはエルシドの戦いぶりを見て実感していた。

 

「悪いがクリス、あれでもエルシドは“本気の半分位”しか出していない」

 

フフっと笑いながら呟くデジェルにクリスは嘘ッ!と愕然していた。

 

 

 

同じように二課指令室ではエルシドの今まで見せたことのない圧倒的な戦闘力に愕然となっていた。

 

「あ、あれがエルシド君の・・・黄金聖闘士の本気の半分?」

 

「あれでも半分って、100%本気を出したらどうなるんですか?」

 

「さぁな。だがこれだけは確かだアイツらの強さは米国一個大隊だって相手にならないだろうな(全く驚かせてくれる。まだまだ俺も修行不足だな)」

 

気持ちとは裏腹に弦十郎の瞳はキラッと輝いていた。まるでまだ“上”がある事を喜ぶかのように。そして弦十郎は“ある事”に気づく。

 

「!おい、翼のライブ映像を出してくれ」

 

「あ、はい」

 

エルシドが戦っている映像の隣に翼のライブ映像が写された。そして弦十郎はニヤリと笑った。

 

「エルシドの奴、“踊ってやがる”」

 

『えっ?』

 

「よく見てみろ。エルシドの動き、翼の歌やダンスに合わせて動いている」

 

そう言われて良く見て見ると翼のダンスに合いの手を合わせるかのようにエルシドが動き、翼もエルシドの動きに合いの手を合わせるかのように歌い踊っている。二人の映像が綺麗に重なって見える。

 

“戦場”と“舞台”、それぞれ別の場所にいるにも関わらずまるで二人は同じ“ステージ”に立っているかのように。

 

「全く・・・何処かで通じあっているな、あの二人は・・・」

 

弦十郎は二人の姿を笑いながら見つめる。

 

 

 

 

そして翼のステージをグレイザー氏は静かに見つめていた。

 

 

 

 

そしてエルシドは最後に残った要塞ノイズに手刀を構え全小宇宙を高める!

 

「(今だけは・・・我が手刀に宿る剣よ・・・万物を切り裂く“聖剣”となれ!)研ぎ澄ませ!我が小宇宙よ!!」

 

その時!エルシドの右手の聖衣の形が一瞬変わった!

 

「聖剣抜刀<エクスカリバー>!!」

 

斬ッッッッッ!!

 

振り下ろされた手刀は要塞ノイズを切り裂き!その後ろにある海を1㎞程切り裂いた!

 

「『でえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!海を斬ったーーーーーーー!!!!』」

 

弦十郎とデジェルを除いたクリスや藤尭と友里を含むオペレーター一同が顎が外れんばかりに驚いた!

 

海はそのまま元に戻ったが要塞ノイズ真っ二つになり炭化消滅した。エルシドは要塞ノイズの背に手刀を振り払い呟く。

 

「我が手刀、未だ“聖剣”に至らず」

 

エルシド的にはまだまだ“聖剣”に至っていないと感じたのだ。

 

「「何処までもストイックな奴だ」」

 

図らずも弦十郎とデジェルは同時に呟いた。そしてエルシドは夜空を見上げフッと微笑みながら。

 

「(翼、聞こえたぞ。お前の歌・・・)」

 

別のステージに立っているが心は通じる“相棒”に想いを馳せていた。

 

 

 

 

「(エルシド、聞こえたか?私の歌・・・)」

 

翼の歌が終わり会場は熱気に包まれていた!

 

ワアアアアアアアアアアア!

 

観客に翼は答える。

 

「ありがとう皆!今日は思いっきり歌を歌えて気持ち良かった!」

 

ワアアアアアアアアアアア!

 

「「翼さーーーーーーーん!!」」

 

響と未来も熱狂し、レグルスも微笑んでいた。

 

「こんな想いは久しぶり、忘れていた。でも思い出した!私はこんなにも歌が好きだったんだ。聴いてくれる皆の前で歌うのが大好きなんだ!・・・もう知ってるかもしれないけど、海の向こうで歌ってみないかとオファーが来ている。自分が何のために歌うのか、ずっと迷ってたんだけど。今の私はもっと沢山の人に歌を聴いてもらいたいと思っている。言葉は通じなくても歌で伝えられることがあるならば、世界中の人達に私の歌を聴いてもらいたい」

 

ワアアアアアアアアアアア!!

 

翼の言葉に観客は歓声を上げ響と未来は拍手を送った。そしてレグルスは。

 

「(歌が大好きか・・・俺の大好きな物って・・・何なんだろう?それが分かれば俺は・・・)」

 

翼の言葉が迷いの若獅子に一つの道標になった。

 

「私の歌が、誰かの助けになると信じて、皆に向けて歌い続けてきた。だけどこれからは皆の中に自分を加えていきたい!だって私はこんなにも歌が好きなのだから!たった一つの我が儘だから、聴いてほしい。許してほしい」

 

顔を俯かせる翼の耳に。

 

『許すさ、当たり前だろう?』

 

翼の耳に“片翼”の・・・奏の声が聞こえた!

 

「!」

 

顔を上げた翼の目の前には自分に声援を送る観客達がいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

翼は静かに涙を流した。そして再び顔を上げ。

 

「・・・ありがとう・・・(エルシド・・・私・・・行くよ・・・奏・・・シジフォス・・・見守っていて)」

 

その時の翼の顔は涙を流していたが毅然としていた。観客の歓声は長く続いていた。

 

 

 

グレイザー氏はステージを離れ通路を歩く。そんなグレイザー氏を緒川が呼び止める。

 

「Mr.グレイザー!」

 

「君か・・・少し早いが今夜は引き上げさせてもらうよ。これから忙しくなりそうだからね」

 

「!」

 

それが“答え”になっていた。緒川は姿勢を正して、お辞儀する。

 

「風鳴翼の夢をよろしくお願いします」

 

「ハハハハ」

 

グレイザー氏は笑いながら去っていった。

 

 

 

 

 

クリスとデジェルは路地裏を歩いていた。

 

「お兄ちゃん・・・あたし・・・」

 

「大丈夫だ。私は君の側にいる。迷っているなら一緒に考えよう。一人で抱え込むことないんだ」

 

「うん////////」

 

二人はそのまま寄り添いながら闇の中に消えた。だがクリスの心に“不安”や“恐怖”は無かった。どんな時でも自分の側には“大好きなお兄ちゃん”がいるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてレグルスはノイズ出現を響達にどう言い訳するか悩んでいたが。

 

「(ま、なるようになるだろう。それにそんな事よりもエルシドに伝えておかないとな・・・響に“子馬座<エクレウス>の守護星座”が、未来に“琴座<ライラ>の守護星座が宿っていると)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです。

響の守護星座は聖闘士星矢セインティア翔の主人公と同じ守護星座。

未来は琴座流星群が関係しているので。

次回で物語も大詰め!私も創作意欲と言う名の小宇宙を燃やしますよ!


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両親の『夢』

ーとある漫画喫茶ー

 

翼の復帰ステージから数日が過ぎ。デジェルは漫画喫茶の個室に備えてあるパソコンからとある“情報屋”のサイトにアクセスし、ある“裏情報”をメールで確認した。

 

「遂に米国が痺れを切らしたか・・・・そろそろフィーネも動くな」

 

クリスが店に備えられているシャワー室から戻ってきた。

 

「ああ~、さっぱりした♪お兄ちゃん、どうしたの?」

 

「クリス、どうやらフィーネが本格的に動くかもしれん」

 

デジェルの言葉にクリスの顔に緊張が走る。

 

「それってどういう事?」

 

周りの人達に聴こえないようにデジェルはクリスを引き寄せ小声で話す。

 

「ある情報屋からの裏情報だ。日本に潜伏しているフィーネと手を組んでいた米国の工作部隊に『フィーネに預けてある“ソロモンの杖”を回収せよ』と本国から命令が来たようだ」

 

「“ソロモンの杖”を?でもフィーネはアレを米国に渡すつもりはないって言ってた」

 

クリスの言葉にデジェルは渋い顔をする。

 

「嫌な予感がする。クリス、フィーネのアジトに向かおう」

 

「え?」

 

「どの道このまま逃げていてもフィーネのノイズ達の追撃は止まないんだ。ならばいっそこっちから攻めに転じるべきだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

クリスは迷っていた。いくら利用されていたからと言っても“力”をくれた恩人でもあるフィーネと戦う事に僅かな迷いがあったのだ。だがこのままでは無関係な人達まで巻き添えをくらう。そう考えたクリスは顔を上げ頷いた。

 

「良し、では行こう」

 

そう言ってデジェルはパソコンをシャットダウンさせ会計を済ませクリスと共に店を出た後、クリスを抱き抱えて<お姫様抱っこ>ビルの上を飛びながらフィーネのアジトに向かう。

 

「お兄ちゃん、その“情報屋”って信用できるの?」

 

「あぁ、シンフォギアや二課の事はその“情報屋”から聞いた。最もメールでのやり取りだけで顔は見たことがないんだが。名前は確か・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「“アクベンス”と名乗っていた」

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてフィーネのアジトでは。アジトである屋敷の前で帽子を目深く被り防弾チョッキにマシンガンを構えた男達が潜んでいた。

 

フィーネはだだっ広く妙な機械が置かれたホールでコンピューターを弄っていた。そんなフィーネの後ろの扉やホールの窓を蹴破り男達が突入してきた。

 

「!!」

 

驚くフィーネをよそに突入した男達はフィーネに容赦なくマシンガンの弾を撃ち込んだ!

 

「あっ・・・・・・」

 

崩れ落ちるフィーネにリーダー格の男が近づき英語で喋る。

 

「手前勝手が過ぎたな。聖遺物に関する研究データは我々が活用させてもらおう」

 

血を流しながらフィーネが口を開く。

 

「掠める準備が出来たら、あとは用無しってわけね。徹底しているわ・・・・・・」

 

リーダー格の男はフィーネを仰向けにしようと蹴り、脇腹を撃たれ血を流すフィーネの姿を嘲笑う。

 

だがフィーネはクワッと目を見開くと傷口に手を当てると傷口に青い粒子が集まる。他の男達はマシンガンを構えるが横から現れた“ナニか”がマシンガンを弾き飛ばす!

 

『!!』

 

馬の形状をした青いノイズが現れた。男達の注意がノイズに向けられたいる内にフィーネの身体がビキビキとまるで亀裂のようなものが無数に走った!

 

「それも、わざと痕跡を残して立ち回るあたりが、品性下劣な米国政府らしい」

 

フィーネはゆっくり身体を起き上がらせるとリーダー格の男を睨む。リーダー格の男はマシンガンをフィーネに構える。

 

「ブラックアートの深淵、覗いてすらもいない青二才のアンクルサムがーーー」

 

フィーネはゆっくり立ち上がり男達を睨む。そしてリーダー格はマシンガンをフィーネに・・・・・・“櫻井了子”に向け撃つ。銃声がホールに響き血しぶきが舞っていた。

 

 

 

 

ーリディアンー

 

日直の仕事で職員室に来ていた響と未来は職員室を出て教室に向かおうとしていたが、響は合唱部が歌っている校歌に耳を傾け、鼻歌を唄う。

 

「♪~♪~♪~♪」

 

「何?合唱部に触発されちゃった?」

 

「ん~、リディアンの校歌を聞いてるとまったりするって言うか、凄く落ち着くって言うか、“皆がいるところ”って考えると安心する。“自分の場所”って気がするんだ。入学して、まだ2ヶ月ちょっとなのにね」

 

「でも色々あった2ヶ月だよ」

 

シンフォギアを得て、聖闘士に出会って、ノイズと戦って、憧れの翼とも仲良くなって、クリスと戦って、未来とすれ違ったりと響や未来にとって余りにも多くの出来事がこの2ヶ月で起こった。

 

「うん、そうだね」

 

大変な事、辛かった事、悲しい事、嬉しい事、楽しい事、本当に色々な出来事が起こった。それらを思い返し響は微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーフィーネのアジトー

 

静寂に包まれたフィーネのアジトに到着したクリスとデジェル。

 

「!」

 

突然、デジェルが異変に気付く。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

「何度も紛争地帯で感じた匂いだ。“血”と“硝煙”の混じった匂い、遅かったか」

 

「!!」

 

クリスとデジェルは急いでフィーネのいるであろうホールに向かう。ホールに着いた二人の目に映ったのは。機械が破壊され血塗れで倒れている米国の工作員達であった。

 

「全員、死んでるな」

 

「何がどうなってやがんだ?」

 

ガタッ

 

「「!!」」

 

後ろから物音が聞こえ振り向くとそこには、弦十郎が険しい顔で立っていた。

 

「・・・・・・」

 

弦十郎は無言のまま現場を見ていた。

 

「違う!あたし達じゃない!やったのは・・・・」

 

「大丈夫だクリス」

 

「デジェルにぃ・・・」

 

弦十郎の後ろから二課の諜報部が現れクリスとデジェルに見向きもせず工作員達の方へ向かった。

 

「・・・・・・」

 

「風鳴司令」

 

「!」

 

無言で近づいた弦十郎はクリスの頭を撫でる。

 

「誰もお前らがやったなどと疑ってはいない。全ては君や俺達の側にいた“彼女”の仕業だ」

 

「え?」

 

「やはり気づいていましたか?」

 

「ある程度はな」

 

そう呟く弦十郎の顔は悲しそうだった。すると部下の一人が弦十郎を呼び、工作員の死体に置かれたメッセージが書かれた紙があった。

 

『I LoVE YoU SAYONARA<さよなら、愛してるわ>』

 

部下がそのメッセージを取ると。

 

ピー!

 

「ッ!罠だ!」

 

デジェルが叫ぶのと同時にホール内で爆発が起こった!

 

 

 

 

 

 

 

ドカーーーーーーーン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

天井やら壁やらが崩れたがデジェルはクリスを庇い、弦十郎は二人の上に落ちてきた破片を片手で止めた!?他の部下達はデジェルが張った小型の氷のドームに守られた。氷のドームはデジェルが指を振るうと粉々に砕かれた。

 

「どうなってんだよこいつは・・・」

 

「衝撃は八剄で掻き消した」

 

「(見事なクンフーだ。童虎がいれば良い勝負ができたろうに)」

 

ホントにアンタ人間か?とツッコミたくなるようなことを平然とやってのける弦十郎と的外れな事を考えるデジェル。

 

「何でだよ。何で“ギア”も“聖衣<クロス>”も纏えない奴があたし達を守ってんだよ!」

 

敵側だった自分を助けた。しかも“力”を持っていない人間がクリスには理解できなかった。弦十郎は瓦礫を捨ててクリスに向き直る。

 

「俺がお前を守るのは“ギア”の有る無しじゃなくて、お前よか少しばかり“大人”だからだ」

 

その言葉にクリスは敵意を強める。

 

「“大人”・・・あたしは大人が嫌いだ!死んだパパとママも大嫌いだ!あたしはアイツらと違う!センチで難民救済?歌で世界を救う?良い大人が“夢”なんて見てんじゃ「クリス!」?!お兄ちゃん・・・」

 

クリスの声を遮りデジェルがクリスと向き合う。

 

「クリス、それ以上の事は言ってはいけない。君が両親の“夢”を否定してはいけないんだ。君は両親が大嫌いと言ったが本当は」

 

「だって・・・だって・・・」

 

「!」

 

クリスの頬に一筋の涙が流れた。泣きそうな声でクリスは吐き捨てる。

 

「本当に戦争を無くしたいのなら“戦う意志と力”を持つ奴ら片っ端からぶっ潰すしかないじゃないか、それが一番合理的で現実的だから・・・だからあたしは・・・」

 

「それがお前の流儀か、なら聞くがそのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」

 

「!それは・・・」

 

弦十郎の言葉にクリスは言葉を濁す。

 

「確かに“歌で世界を救う”なんて幻想なのかもしれない。だがなクリス、私は知っている。君の両親の“夢”と君の“歌”に救われた者がいる事をな」

 

「え?・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

デジェルの話しをクリスと弦十郎は黙って聞く。

 

「ある少年がいた。その少年は遠い昔からある“夢”を持っていた。“友”との夢、明日は未来はきっと希望があると信じてその少年は戦ってきた。だが少年は現実に絶望した。“大義とエゴを履き違えた大人達の身勝手な戦争”、“繰り返される憎しみの連鎖”、“不条理で理不尽に奪われる生命”、少年はこんな未来の為に戦ってきた訳ではなかった。その少年の“友”も“仲間”も“恩師”そして“大切な人”もこんな未来を夢見て戦ってきた訳ではなかった。少年は生きる気力も希望も失い、抜け殻のようになっていた。そんな時に現れてくれたのが君と君の両親だった」

 

「!」

 

「その少年は君の両親の掲げる“夢”に感銘を受けた。こんな世界でも希望を捨てずに生きる人達がいるんだと、そして君の歌で少年は生きる想いが沸いて来たんだ。クリス、君の歌は“破壊の歌”なんかじゃない、両親から受け継いだ“希望の歌”なんだ」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「デジェル君、その“少年”はどうしたんだい?」

 

「今、その“希望”をくれた少女の為に戦おうとしている」

 

デジェルの言葉に弦十郎は満足気に頷きクリスは見る。

 

「そうか、クリス君。“良い大人は夢を見ない”と言ったな。だがそうじゃない、“大人”だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちったぁ増える。子供の頃は只見るだけだった夢も大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる。お前の親はただ夢を見る為に戦場に行ったのか?違うな、“歌で世界を平和にする”って言う夢を叶える為に自ら望んで“この世の地獄”に踏み込んだんじゃないのか?」

 

「何でそんな事を・・・」

 

「お前に見せたかったのだろう。“夢は叶えられる”と言う揺るがない現実をな」

 

「?!」

 

「クリス、君は嫌いと吐き捨てたが本当は違うだろう?」

 

デジェルに言われクリスは以前アスミタが両親に弔いの経を読んでもらった時に見た両親の姿を思い返していた。自分を愛しく見つめる両親、優しく微笑んでいた両親、愛をくれた両親。

 

「あたしは・・・あたしは・・・」

 

泣きそうになるクリスをデジェルが優しく抱き締める。

 

「うっ・・ううっ・・うあああ!」

 

クリスの泣き声が崩れたホールに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引き上げようとする弦十郎達。車に乗り込もうとする弦十郎にクリスとデジェルは・・・。

 

「やっぱりあたしは・・・」

 

「一緒には来られないか。デジェル君、君はどうする?」

 

「聞くまでもないでしょう?」

 

クリスの肩を抱くデジェル。クリスも顔を少し赤らめながら微笑む。

 

「クリス。お前はお前が思っている程一人ぼっちじゃない、お前達が二人で道を歩いていくとしてもその道は遠からず俺達の道と交わる」

 

「今まで戦ってきた者同士が一緒になれると言うのか?世慣れた大人がそんな綺麗事言えるのかよ?」

 

クリスの言葉に弦十郎はフッと笑い。

 

「ホント、ひねてんなお前。デジェル君も苦労が絶えないな。ホレ」

 

通信機をクリスに投げ飛ばす。

 

「あっ・・・通信機?」

 

「そうだ。限度額内なら公共交通機関が利用できるし、自販機で買い物もできる代物だ。便利だぞデジェル君にたかってばかりじゃいけないしな」

 

「んなッ!」

 

「ハハハハ・・・・・・」

 

車に乗り込んだ弦十郎はエンジンを起動させる。クリスが弦十郎に“アル事”を告げる。

 

「“カ・ディンギル”!」

 

「「ん?」」

 

「フィーネが言ってたんだ。“カ・ディンギル”って、それがなんなのかわからないけど、“ソイツ”はもう完成しているみたいな事を」

 

「“カ・ディンギル”・・・」

 

「(“カ・ディンギル”。バビロン市の古代語で『神の門』を意味しているが一体?)」

 

弦十郎とデジェルはそれぞれに考えるが弦十郎は何かを決意した。

 

「後手に回るのは終いだ。こちらから打って出てやる!」

 

諜報部と一緒に弦十郎は去って行った。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

それを見つめるクリスとデジェル。だがデジェルはフィーネのアジトに戻ろうとした。

 

「お兄ちゃん?」

 

「すまないクリス。もう少しフィーネの手掛かりがないか調べて見ようと思う」

 

そう言って屋敷の中に入るデジェルとその後を追うクリス。デジェルはホールのコンピューターから復元できるデータをギリギリまで復元させようとしていた。

 

「ここまでか・・・・・・」

 

「なにか分かった?」

 

今にも崩れそうな屋敷に不安を抱きながらデジェルのそばにいるクリス。

 

「いや、何かのレポート見たいだが・・・・何々?『ネフシュタンの鎧とーーーーーーー』!?」

 

「お兄ちゃん、これって?!」

 

フィーネの企みの一部を知った二人に戦慄が走る!

 

「もしも“これが”本当なら、我々、黄金聖闘士でも。フィーネに勝てないかもしれない・・・・・・」

 

僅かに声を震わせてデジェルが呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

話しがほとんど進まない(ToT)


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心、繋げて

ー二課指令室ー

 

指令室のメインモニターに響とレグルス、翼とエルシドの通信が入った。

 

『はい、翼です』

 

『響です!』

 

『こちらエルシド』

 

『レグルスだ。何かあったの?』

 

挨拶をする四人に弦十郎がフィーネのアジトで得た情報を話す。

 

「収穫があった。了子君は?」

 

友里に聞く弦十郎、心なしか口調は固い。

 

「まだ出勤してません。朝から連絡不通でして」

 

「そうか・・・」

 

『『・・・・・・』』

 

友里の報告に弦十郎とレグルスとエルシドは固い表情を浮かべるが響の能天気な口調で。

 

『了子さんならきっと大丈夫です!何が来たって私とレグルスを守ってくれた時のようにドカーンとやってくれます!』

 

今度は翼が固い表情を浮かべ。

 

『いや、戦闘訓練もロクに受講していない櫻井女史に、そのような事は・・・』

 

『えっ?師匠とか了子さんって、聖闘士の皆さんのような人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?』

 

『『人間離れしてるって・・・・・・』』

 

響の言葉に弱冠情けない顔を浮かべる聖闘士組。レグルスは以前了子が見せた“不可思議な力”を思い出す。

 

『(あの“力”、“小宇宙”を使っているわけでもない。かと言って響達のような聖遺物の力を使っているわけでもない。一体何なんだ?)』

 

すると突然、『SOUND ONLY』と表示された了子からの通信が入る。

 

『やーと繋がった♪ごめんね、寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が良くなくって・・・』

 

弦十郎と聖闘士組の目が鋭くなる。

 

「無事か了子君?そっちに何も問題は?」

 

『寝坊してゴミを出せなかったけど、何かあったの?』

 

『良かった』

 

「ならば良い、それより聞きたいことがある」

 

『せっかちね。何かしら?』

 

「“カ・ディンギル”。この言葉が意味するものは?」

 

了子はその通信を廃ビルの非常階段で聞いていた。脇腹から血を流しながら。

 

「“カ・ディンギル”とは古代シュメールの言葉で“高みの存在”。転じて“天を仰ぐほどの塔”を意味しているわね」

 

「何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺達は見過ごしてきたのだ?」

 

弦十郎の言葉に響も質問する。

 

『確かに、そう言われちゃうと・・・』

 

「だが、ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば勝利は同然。相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」

 

『『『『了解(です)!』』』』

 

響と翼は通信を切る。

 

『ちょっと野暮用を済ませてから私も急いでそっちに向かうわ』

 

『『・・・・・・』』

 

そう言って通信を切る了子。レグルスとエルシドも怪訝そうな表情を浮かべたが通信を切った。

 

通信を切った響は難しそうな表情を浮かべ。

 

「“カ・ディンギル”・・・誰も知らない秘密の塔」

 

隣で聞いていた未来は携帯で検索していたが。

 

「検索してみても、引っ掛かるのはゲームの攻略サイトばかり・・・」

 

やはり何の手掛かりも掴めなかった。

 

 

 

そして指令室でも“カ・ディンギル”に関する情報を検索してはいるが。

 

「些末な事でも構わん。“カ・ディンギル”についての情報をかき集めろ!」

 

フォーン!フォーン!フォーン!

 

突然ノイズの出現警報が鳴り響く。

 

「どうした!?」

 

藤尭が報告する。

 

「飛行タイプの超大型ノイズが一度に三体!いえ、もう一体出現!」

 

それは二年前、シジフォスとエルシドが太平洋上と日本海側に現れたノイズと同タイプのノイズであった。

 

 

 

 

突然現れた超大型ノイズに街はパニックになっていた。

 

「合計4体、すぐに追いかけます!」

 

連絡を受けた翼とエルシドは現場に向かう。そして響にも連絡が入り、レグルスも響達の元に現れた。

 

「今は人を襲うと言うよりもただ移動していると、はい、はい、これからレグルス君とそっちに向かいます」

 

「響・・・」

 

未来は不安そうにする。

 

「平気、平気。私達で何とかするから!だから未来は学校に戻って」

 

「リディアンに?」

 

「いざとなったら、地下のシェルターを開放してこの辺の人達を避難させないといけない。未来にはそれを手伝って貰いたいんだ」

 

「(この辺の人達か・・・・・・一応“保険”を掛けておくかな)」

 

レグルスは響達から一歩離れ瞑想する。響から頼まれた未来は不安なのか少し俯き。

 

「う、うん、分かった・・・」

 

「ごめん、未来を巻き込んじゃって」

 

「ううん、巻き込まれたなんて思ってないよ。私がリディアンに戻るのは、響がどんな遠くに行ったとしてもちゃんと戻ってこれるように響の“居場所”・帰る場所”を守ってあげる事でもあるんだから」

 

「私の“帰る場所”・・・」

 

「そ、だから行って。私も響のように大切な物を守れるように強くなるから」

 

未来は優しい笑みを浮かべる。響は無言で未来に近付き未来の手を握る。

 

「小日向未来は私にとっての日だまりなの。未来のそばが一番暖かいところで私が絶対に“帰ってくる所”!これまでもそうだし、これからもそう!だから私は絶対帰ってくる!」

 

「響・・・」

 

「一緒に流れ星見る約束、まだだしね!」

 

「うん!」

 

響と未来は満面の笑顔を見せる。瞑想を解いたレグルスはそんな二人を微笑ましく見ていた。

 

「響、そろそろ行くよ」

 

「あ、うん!じゃ行ってくるよ!」

 

「あ、レグルス君」

 

「ン?」

 

先に行く響の後を追おうとするレグルスを引き留め。

 

「響の事、よろしくお願いします。響はすぐに無茶するから、守ってあげてください」

 

「俺で良いのか?」

 

「はい、私が響の“帰る場所”ならレグルス君は響が最も“頼りにしている人”で響を“守れるところ”にいる人だから、だから響の事、お願いします」

 

未来の言葉にレグルスは微笑み。

 

「了解」

 

そう言ってサムズアップして響の後を追う。未来はどこか響とレグルスを寂しそうに見つめるのであった。

 

 

 

翼とエルシドはそれぞれバイクに乗り現場に向かっていたが、翼の心には僅かな不安があった。実は翼とエルシドの“コンビ解消”はまだ撤回されてないのだ。周りの人達は“コンビ復活”と思われているが翼本人はエルシドの口からを宣言されない以上、“コンビ復活”とは言えないのだ。エルシドにその事を切り出そうとするが弦十郎から連絡が入った。

 

「翼です」

 

「こちらエルシド」

 

「ノイズ進行経路に関する最新情報だ」

 

移動中の響とレグルスも通信に参加する。

 

『はい!』

 

『あいよ!』

 

「第41区域に発生したノイズは、第33区域を経由しつつ第28区域方面へ進行中。同様に第18区域と第17区域のノイズも第24区域方面へと移動している。そして」

 

「司令、これは?」

 

友里と藤尭が弦十郎の言葉を遮り。

 

「それぞれのノイズの進行経路の先に東京スカイタワーがあります!」

 

報告を聞いた響とレグルスは立ち止まり。

 

「「東京スカイタワー?」」

 

藤尭が続ける。

 

「“カ・ディンギル”が“塔”を意味するのであれば、スカイタワーは正にその物ではないでしょうか?」

 

「スカイタワーには俺達二課が活動時に使用している映像や更新と言った電波情報を統括制御する役割も備わっている。皆、東京スカイタワーに急行だ(罠だとしても)」

 

バイクに乗った翼とエルシドはスカイタワーに向かう。だがエルシドは別の事を考えていた。

 

「(余りにもノイズいやフィーネの動きが派手すぎる。俺達を誘っているのか?だが、スカイタワーが“カ・ディンギル”だとしても)」

 

レグルスもまた同じ事を考えていた。

 

「(分かり易すぎる、これまで暗躍行動をしていたフィーネが何だってこんな“スカイタワーがカ・ディンギルですよー”って動きをするんだ?まるで俺達に“こっちに来い”と言わんばかりに、響や翼はともかく俺とエルシドを相手取って勝てる算段があるのかな?)「レグルス君!」!?どうした響?」

 

思考し推理していたレグルスを響が現実に引き戻す。

 

「スカイタワーはここからじゃかなり時間がかかっちゃうんだよ」

 

また俺が響を担ぐかと考えていたレグルス達の上空からヘリコプターが降りてきた。響の通信機から弦十郎の声が響く。

 

『“何ともならない事”を“何とかする”のが俺達の仕事だ!』

 

ここまでするかと内心思いながら響とレグルスはヘリコプターに乗り込む。

 

 

 

その頃緒川は伊達メガネを外し車で移動する。

 

 

 

ー東京スカイタワー

 

東京スカイタワーの周辺にノイズ達が現れた。飛行タイプはまるで爆撃でもするかのように多種多様の小型ノイズを投下させ、さらに小型の飛行ノイズも出し臨戦態勢を整える!

 

超大型の上に響とレグルスを乗せたヘリが現れた。響とレグルスはちょうど真下にいるノイズを見据え飛び降りる!落ちながら響は歌う“戦いの歌”を!レグルスは呼ぶ己の“聖衣”を!

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

「獅子座<レオ>ッッ!!」

 

響の服が弾け“撃槍”のギアを纏う!獅子のオブジェがそれぞれのパーツに分解されレグルスの身体に纏う!

 

「ハッ!」

 

「ッ!」

 

響は落下しながら右手の籠手パーツを引きレグルスと共に拳を構える!歌を歌いながらノイズに拳を叩きつけ引いたパーツがパイルバンカーのように衝撃を与えノイズを貫く!ノイズはそのまま爆散し響とレグルスは地上に降り立つ!

 

バイクから飛び降りた翼とエルシドと“絶剣”のギアと“山羊座”の聖衣を纏う!

 

「ハッ!」

 

「疾ッ!」

 

翼は『蒼ノ一閃』をエルシドは『乱斬』を放ち小型飛行ノイズを蹴散らすも大型には僅かに届かない。翼は攻撃が届かない事に苦い顔を浮かべ。

 

「くっ、相手に頭上を取られる事がこうも立ち回りにくいとは!」

 

「ヘリを使って私達も空から」

 

響の言葉を遮るように上空から爆音が聞こえ目を向けるとそのヘリが小型飛行ノイズに襲われ爆散していた。

 

「「「「ッ?!」」」」

 

ヘリが爆散したと言うことは乗っていたパイロットも。

 

「そんな・・・」

 

「よくも!!」

 

「「ッ!」」

 

小型飛行ノイズは自分の身体をドリルのように回転しながら襲いかかるがあっけなく倒される!超大型は次々とノイズを降下させる。飛行ノイズに対処できない響達。だが襲いかかる飛行ノイズが突如凍結し弾丸の嵐がノイズを粉砕する!

 

「「「「ッッ?!」」」」

 

四人は後方に目を向けるとそこには。“魔弓”のギアを纏う雪音クリスと“水瓶座”の聖衣を纏うデジェルがいた!

 

響とレグルスは喜びエルシドはデジェルはともかくクリスに弱冠警戒し、翼は警戒心を剥き出しにする。クリスは弦十郎に渡された通信機を握り。

 

「チッ、コイツがピーチクパーチク喧しいからちょっと出張ってきただけ、それに勘違いするなよ。お前達の助っ人になったわけじゃ「こらクリス」イタッ!お兄、デジェル兄ぃ~」

 

憎まれ口を叩くクリスの頭をデジェルが小突く。小突かれたクリスは情けない声を上げる。すると通信機から弦十郎の声が響く。

 

『助っ人は少々到着が遅くなったかもしれないがな』

 

「すまない、風鳴司令。クリスは素直ではないから」

 

「うぐッ//////////」

 

弦十郎とデジェルの言葉に顔を赤くするクリス。

 

「アハッ」

 

「助っ人?」

 

響は喜んだが翼は首を傾げる。

 

「そうだ。第2の聖遺物『イチイバル』のシンフォギアを纏う戦士 雪音クリスと水瓶座の黄金聖闘士 アクエリアスのデジェル!」

 

響はクリスに抱きつき、レグルスはデジェルに近付き手の甲を当てる。

 

「クリスちゃ~ん!ありがとう!絶対に分かり会えるって信じてた~♪」

 

「このバカ!あたしの話を聞いてねぇのかよ!」

 

「また一緒に戦えるなデジェル」

 

「心配をかけたな」

 

翼は近付き。

 

「兎に角今は連携してノイズを」

 

だがクリスはデジェルの手を引っ張って響達から離れる。

 

「あたし達は勝手にやらせて貰う!邪魔だけはすんなよな!」

 

「えぇ!」

 

「「「・・・」」」

 

歌を歌いながらクリスは両手のパーツをボーガンに変形させ5本のエネルギーの矢を放ちデジェルもカリツオーを駆使し上空のノイズを蹴散らす!

 

「空中のノイズはあの二人に任せて、私達は地上のノイズを」

 

「は、はい!あれ?レグルス君とエルシドさんは?」

 

エルシドとレグルスはとっくに地上のノイズに向かって行った。

 

「あー!二人ともいつの間に!?」

 

「立花!遅れるな!」

 

エルシドの方へ向かう翼とレグルス方へ向かう響。それぞれがノイズを倒していくが。

 

「「あっ!?」」

 

クリスと翼が背中からぶつかる。

 

「何しやがる!すっこんでな!」

 

「貴女こそいい加減にして、貴女達だけで戦えるつもり?」

 

「あたしとデジェル兄ぃのコンビは最強だ!未だに相方の聖闘士と気まずい雰囲気のやつが偉そうに!」

 

「ッ!・・・」

 

元々出会いが最悪だった二人がそう簡単にいきなり連携をとるのが難しい事である。

 

「確かにあたし達が“争う理由”何てないのかもな!だからって“争わない理由”もあるものかよ!この間まで殺り合ってたんだぞ!そんなに簡単に人と人が」

 

クリスの言葉を遮るように響がクリスの手を握る。

 

「できるよ。誰とだって仲良くなれる」

 

そう言って響は翼にも手を差し出し翼の手を握る。ノイズ達は響達を攻撃しようとするがレグルス達が阻む。

 

「どうして私にはアームドギアがないんだろってずっと考えていた。いつまでも半人前はヤダなーって。でも今は思わない、なにもこの手に握ってないから二人とこうして手を握り合える!仲良くなれるからね!」

 

響は屈託なく微笑む。

 

「立花・・・」

 

翼は持っていた刀を地面に突き立てクリスに向かって手を差し出す。

 

「///」

 

クリスも照れながらも手を差し出し翼がその手を握るとあわてて引っ込める。

 

「このバカ<立花>に当てられたのか?!」

 

「そうだと思う。そして貴女もきっと」

 

「冗談だろ・・・////」

 

「フフ」

 

その光景を眺めている聖闘士達。

 

「純粋な子だな。ガングニールの少女は“良くも悪くも”」

 

「だが穢れを知らない純粋な者程、穢れを知ったとき染まりやすいと言うがな」

 

「エルシド、レグルス。お前達はどう思う?彼女の“誰とだって仲良くなれる”理論は?」

 

「地上に邪悪を持ち込む者には容赦しない。それだけだ」

 

「エルシドはシンプルだな。だがそれがベストの答えだ。レグルス、君は?」

 

「・・・・・・少なくとも、“親の仇”と仲良くなる事はできない」

 

その時のレグルスの顔に影が刺さっていた。そんな一同の上空に超大型飛行ノイズの影が覆った!

 

「親玉をやらないとキリがない」

 

「だったらあたしに考えがある。あたしでなきゃできないことだ。イチイバルの特性は超射程広域攻撃、派手にぶっぱなしてやる!」

 

クリスの言葉に響達はもしやとなり。

 

「まさか“絶唱”を?」

 

「バーカ!あたしの命は安物じゃねぇ!んな事したらデジェル兄ぃが絶対止めるだろうしな」

 

「ならばどうやって?」

 

「ギアの出力を引き上げつつも放出を押さえる。行き場のなくなったエネルギーを臨界まで取り込み一気に解き放ってやる!」

 

不敵に笑うクリスに翼は。

 

「だがチャージ中は丸裸も同然。これだけの数を相手にする状況では危険すぎる」

 

翼の言葉に今度は響が。

 

「そうですね。だけど私達がクリスちゃんを守れば良いだけの事!」

 

響の言葉にクリスは面食らう。

 

「?!」

 

「作戦は決まったな」

 

「さっさと始めるぞ」

 

「ではクリスの護衛には私が付くか」

 

レグルスと響、エルシドと翼は地上のノイズ軍団に向かう。

 

「デジェル兄ぃ、あいつら頼まれてもいない事を」

 

「引き下がれないなクリス。では始めよう」

 

エネルギーをチャージするために歌を歌うクリスだがその歌は今までとは別だった。激しい歌を歌っていたクリスが優しい歌を歌う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「(あぁこの歌だ。クリスのこの歌声に私は救われたんだ)」

 

クリスの身体が赤く輝き始める。

 

 

エルシドは質実剛健な佇まいからノイズを切り捨てて行く。だが上空のノイズがエルシドに向かうが。

 

「ハッ!」

 

翼が切り捨てた。エルシドは翼を一瞥する。

 

「エルシド。少々後ろががら空きだぞ」

 

「ン?俺の背中はお前が持つんじゃないのか?」

 

「え?エルシド今なんと・・・」

 

「俺の背中はお前が守るのだろう翼、最も俺はお前以外に背中を守ってもらおうとは思っていないがな」

 

エルシドからの言葉に翼は嬉しそうに笑う。

 

「フッそうだな。お前の背中は私が守るさ!」

 

紆余曲折を得たが“防人の剣”と“大義の聖剣”、二課が誇る“双刃”がここに復活した!

 

 

響とレグルスもアクション映画のようなパフォーマンスでノイズを倒していく!

 

「(誰もが繋ぎ、繋がる手を持っている。私の戦いは誰かと手を繋ぐこと!)」

 

エルシドと久しぶりに見せるコンビネーションでノイズを切り捨てる翼。

 

「(砕いて壊すも、束ねて繋ぐも力。フッ立花らしいアームドギアだ)」

 

次々とノイズを蹴散らす響達。クリスの鎧も変形し、両手にはガトリング砲、腰からは小型ミサイルポッド、背中から大型ミサイルが四本出てきた!イチイバルの全火力を相手に叩き込む奥義!

 

『MEGA DETH QUARTET』

 

放たれた全火力は残った超大型飛行ノイズを撃墜させた!地上のノイズ達も響達が全滅させた。

 

「やった、のか?」

 

「ったりめぇだ!」

 

「アハッ!」

 

「「「・・・・・・・・・(フィーネはどこだ?」」」

 

奏者組は喜んだが聖闘士組はフィーネがいない事を怪訝そうに周囲を見渡す。クリスの方に集まる一同。響はクリスに抱きつく。

 

「やった!やった!アハハ!」

 

クリスは響を引き剥がし奏者組はギアを解除した。

 

「やめろバカ!何しやがるんだ!」

 

「勝てたのはクリスちゃんのお陰だよ!」

 

そう言って再びクリスに抱きつく響。

 

「だからって言ってるだろうが!良いかお前達の仲間になった覚えはない!あたしはただフィーネと決着を付けてやっと見つけた“本当の夢”を果たしたいだけだ!」

 

「夢?クリスちゃんのどんな夢?聞かせてよ!

 

「うるさいバカ!お前本当のバカ!」

 

ピリリ!

 

響のポケットの通信機から連絡が入った。

 

「はい?」

 

響が通信機に耳を当てると未来の悲痛な叫びが。

 

『響!学校が!リディアンがノイズに襲われ・・・』

 

ブツン!ツー、ツー、・・・

 

「え?」

 

呆然とする響を他所に聖闘士組は一瞬でアイコンタクトをし迅速に動いた。

 

「(そう言うことか?!)クリス!」

 

「え?うん・・・」

 

流れる動作でクリスをお姫様抱っこするデジェル。

 

「すまん翼」

 

「え?なっ?!/////」

 

突然のエルシドのお姫様抱っこに硬直する翼。

 

「急ぐぞ響」

 

「え?」

 

呆然とする響を肩に担ぐレグルス。奏者組を抱えた聖闘士組はビルを飛び越えながらリディアンに向かう!

 

「デジェル!どういう事だ?!」

 

「我々はフィーネに踊らされていたのだ!」

 

猛スピードで翔る聖闘士達はデジェルから状況を聞く。

 

「“カ・ディンギル”は東京スカイタワーではなかったんだ!」

 

「「「「「ッ??!!」」」」」

 

デジェルの言葉に全員が驚いた。

 

「我々は“塔”と言う言葉やノイズの進行方向から“カ・ディンギル”はスカイタワーだと思っていたがそれは全てフィーネのミスリードだ!“塔”と言う単語から我々は“カ・ディンギル”は“地上から出ている塔”とまんまと嵌められたのだ」

 

悔しそうに呟くデジェル。そして響とクリス以外はデジェルの言った“地上から出ている塔”の単語から“ある事”を理解した。

 

「まさか!」

 

「そう言うことか!」

 

「え?え?レグルス君、どういう事?」

 

「響も知ってるだろ?“東京スカイタワー3本分の高さがある塔”が二課にあるって!」

 

「?!まさかそんな・・・」

 

「そう、“カ・ディンギル”とは二課本部の事だったんだ!」

 

「んじゃフィーネは?!」

 

クリスの質問にデジェルは答える。

 

「フィーネとノイズの本隊はリディアンを襲撃している!」

 

“最悪の答え”が全員の耳に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人知れずレグルスは嫌な予感がしたので万一の為に張っておいた“保険”の事を考えていた。

 

「(頼む。未来達を守ってくれ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(アスミタッ!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は“神に最も近いあのお方”が大活躍するかも?


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リディアン壊滅?!フィーネの正体!

今回の話で彼の人をチートにします。


響達がスカイタワーでノイズと戦っている間にリディアンにノイズが現れた!迎撃する自衛隊と逃げ惑う生徒達でリディアンは混乱の極みに立っていた。

 

綺麗だった校舎は無残に破壊され、自衛隊の装甲車も破壊され近くにいた自衛隊員も爆発に呑み込まれた!だがここまで被害が出ているにも関わらず人的被害は“0”<ゼロ>だった!

 

爆発に呑み込まれた自衛隊員は“金色のオーラ”に全身を包まれ外傷は無く。逃げ遅れた生徒達は突然頭に“謎の声”が響き、その声に従って行動しノイズに出くわさず避難シェルターについていた。

 

リディアンに着いた緒川はこの不可思議な状況に面食らったが避難誘導に参加した。

 

未来もまた逃げ遅れた生徒達を避難させようと自衛隊員の手助けをしていた。

 

「落ち着いて!シェルターに避難してください!落ち着いてね」

 

「ヒナ!」

 

「皆?!」

 

振り向くと創世と詩織と弓美がいた。

 

「どうなってるわけ?学校が襲われるなんてアニメじゃないんだから」

 

弓美が不安そうに呟く。

 

「皆も早く避難を」

 

「小日向さんも一緒に」

 

「先に行ってて。私、他に人がいないか見てくる!」

 

未来は校舎を走る!

 

「ヒナ!」

 

「君たち!急いでシェルターに向かってください!校舎内にもノイズが」

 

そう言った自衛官の上からノイズが襲いかかるがその自衛官の身体を“金色のオーラ”が包みその“オーラ”に触れたノイズは消滅したが自衛官は無事だった。

 

「?!俺、生きてる?」

 

「大丈夫ですか?!」

 

詩織が自衛官に近づく。

 

「あぁ、大丈夫だ。それよりも君たちも急いで避難してください!」

 

「で、でもまだ私達の友達が・・・」

 

未来をほっとけない三人の頭に“声”が響いた。

 

『彼女は大丈夫だ』

 

「「「ッ?!」」」

 

『そこのモノ、早く少女達を避難させよ』

 

「ッ?!」

 

自衛官にも“声”が響いた。自衛官は弓美達を連れて避難する。

 

 

 

ー???ー

 

「(レグルスに言われ仕方なく来たが、よもやこのような事になるとはな・・・さて、小日向未来は?)」

 

 

 

 

ー未来sideー

 

未来は校舎を走りながら逃げ遅れた生徒がいないか探していた。

 

「誰かー!残っている人はいませんか!」

 

ドカァァァァァン!

 

「ひっ!」

 

突然の振動に怯える未来は窓を見ると怪獣のような大型のノイズが暴れているのを確認した。自分たちの学校が無慈悲に蹂躙される光景に未来は愕然とした。

 

「学校が・・・響の“帰ってくる所”が・・・」

 

未来の横に窓を突き破ってノイズが侵入した!侵入したノイズは未来に襲いかかる!

 

「ッ!」

 

「!」

 

その時、緒川が未来を押し倒しノイズの攻撃を交わした。

 

「ッ!緒川さん?!」

 

「ギリギリでした。次うまくやれる自信はないですよ」

 

緒川が顔を上げるとノイズが再び未来達を襲おうとする。緒川は未来の手を引く。

 

「走ります!」

 

「え?!」

 

「三六計逃げる如かずと言います!」

 

二課本部に続くエレベーターに乗り込む緒川と未来を追撃しようとノイズが襲いかかるが突然ノイズ達の動きが止まる。

 

「ノイズ達が・・・」

 

「今の内です!」

 

端末をかざしエレベーターを動かしそのまま二人は二課本部に逃げる。エレベーターの前で硬直したノイズ達はそのまま炭化消滅した?!

 

そんな事は露知らず未来はホッとする。緒川は呟く。

 

「まただ・・・」

 

「え?」

 

「いえ、自衛官の人達や逃げ遅れた生徒達もノイズに襲われそうになると突然ノイズの動きが止まりひとりでに消滅してしまう事が起きたんです」

 

「(ノイズの動きが止まる?それって“あの時”と同じ)」

 

未来の脳裏に以前自分が囮になってノイズから逃げ惑っている時も何度かノイズの動きが止まる事が起きたのだ。まるで誰かに守られているかのように。

 

緒川は弦十郎に連絡をする。

 

『はい、リディアンの破壊は依然拡大中です。ですが、未来さん達や“何かの力”が働いたお陰で奇跡的に人的被害は0に抑えられています。これから未来さんをシェルターまで案内します』

 

「分かった。“何かの力”と言うのは分からんが気を付けろよ」

 

『それよりも司令、カ・ディンギルの正体が判明しました』

 

「何だと?!」

 

緒川からの言葉に弦十郎が反応する。

 

「物証はありません。ですがカ・ディンギルとは恐らく」

 

ガシャン!

 

突然緒川達の乗るエレベーターの屋根から“何かが”落ちる音が!

 

「「ッ!!??」」

 

突然未来の悲鳴が弦十郎の耳に入った!

 

「どうした?!緒川!!」

 

一抹の不安が弦十郎の顔に浮かんだ。緒川は突然エレベーターの屋根を突き破って現れた。“ネフシュタンの鎧”を纏ったフィーネに首を捕まれエレベーターの扉に押し付ける。

 

「うっ!・・・うぅ!」

 

「乞うも早く悟られるとは、何が切っ掛けだ?」

 

首を捕まれながらも緒川は説明する。

 

「塔なんて目立つものを誰にも知られること無く建造するには地下へと伸ばすしかありません。そんな事が行われているとすれば、特異災害機動部二課本部、そのエレベーターシャフトこそ“カ・ディンギル”。そしてそれを可能とするのが」

 

「漏洩した情報を逆手に上手くいなせたと思っていたが」

 

エレベーターが到着し扉が開きフィーネの手から逃れる緒川は素早く拳銃を取りだしフィーネの心臓部に弾丸をぶちこむが、ぶちこまれた弾丸は潰れて落ちる。緒川が銃を構えたままその鎧がなんなのか気づく。

 

「ネフシュタン・・・」

 

クリスが纏っていたときとは形が少し違う上に金色になっていたが間違いなくネフシュタンだった。フィーネは緒川に向けて桃色の水晶でできた鞭で緒川を拘束する。

 

「ウワアア!」

 

「緒川さん!!」

 

「ぐぅぅ!未来さん・・・逃げて・・・」

 

「!・・・くっ!」

 

だが未来はフィーネの後ろから体当たりをする。だがフィーネはピクリとも動かず、そのまま未来の方に振り向く。拘束は解かれた緒川はそのまま崩れ落ちる。フィーネは未来の顎を掴み顔をあげさせる。

 

「麗しいな、お前達を利用してきた者を守ろうと言うのか?」

 

「利用?」

 

「何故二課本部がリディアンの地下にあるのか、聖遺物に関する歌や音楽のデータをお前達被験者から集めていたのだ。その点、風鳴翼と言う“偶像”は生徒を集めるのに良く役立ったよ。ふふ、ハハハハ!」

 

フィーネは未来から手を離し離れるが未来は毅然とした態度で。

 

「嘘をついても!本当の事が言えなくても!誰かの命を守るために自分の命を危険にさらしている人がいます!私は、そんな人を、そんな人達を信じてる!」

 

未来の言葉が不快だったのかフィーネは顔を歪め未来の顔をはたく。さらに未来の首を掴み顔をはたく。

 

「あっ!ぐっ!」

 

未来はそのまま崩れ落ちる。フィーネはそんな未来を冷たく見下ろし。

 

「まるで興が冷める!」

 

そう吐き捨てたフィーネはある扉へ向かい扉を開けようと端末をかざそうとするが。その端末が破壊される。

 

「!」

 

振り向くと拳銃を構えた緒川がいた。

 

「“デュランダル”の元へは行かせません!この命に代えてもです!」

 

拳銃を捨て緒川が構える。だがフィーネはそんな緒川を冷たく見据え、2つの鞭を構える。だが。

 

「待ちな了子」

 

「!?」

 

突然フィーネ達のいる区画の天井が破壊されるとそこに特異災害機動部二課司令 風鳴弦十郎がいた!

 

「・・・・私をまだその名で呼ぶか?」

 

フィーネいや櫻井了子は笑みを浮かべてはいるが警戒が強くなった。

 

「女に手を上げるのは気が引けるが、二人に手を出せばお前をぶっ倒す!」

 

黄金聖闘士を除くと“人類最強”の漢が立ちはだかる!

 

「司令・・・」

 

緒川と未来は突然の常識破りな弦十郎の登場に驚く。

 

「調査部だって無能じゃない。米国政府のご丁寧な道案内でお前の行動にはとっくに気づいていた。無論、シジフォスやエルシド、レグルス君やデジェル君もお前に不信な気配を感づいてはいたがな。あとはいぶり出すため、敢えてお前の策に乗りシンフォギア装者や黄金聖闘士を全員動かして見せたのさ」

 

「陽動に陽動をぶつけたか、食えない男だ。だが!黄金聖闘士でもない貴様がこの私を止められるとでも」

 

「オオとも!一汗掻いた後で話を聞かせてもらおうか!」

 

弦十郎はフィーネに突っ込む!フィーネは鞭で迎撃するが弦十郎は鞭を交わす!もう一本の鞭で攻撃するが弦十郎飛び天井を足場にフィーネに飛びかかる!

 

「ぐっ!」

 

「覇ァァァァァ!」

 

ギリギリ交わすが肩のパーツに皹が入る!

 

「何?!」

 

フィーネは弦十郎から距離を取る!

 

「くぅ、肉を削いでくれる!」

 

両手の鞭で攻撃するが弦十郎は鞭を掴みフィーネを引き寄せがら空きになった腹部へ拳を叩きつける!吹き飛ばされたフィーネは弦十郎の後ろに倒れる。

 

「が・・・グハ!・・・“聖衣”を纏っているわけでも小宇宙闘技を会得している訳でもないのに・・・“完全聖遺物”を退ける・・・どういう事だ?」

 

「しないでか!こう見えても“聖衣”を纏っていないシジフォスとは三度もガチで手合わせをしていたんでね!お陰で山を3つ程更地にしてしまったよ!それにな!飯食って映画見て寝る!男の鍛練はソイツで十分よ!」

 

そんなんで強くなるのはあんただけじゃ!とツッコミが飛んでくるような身も蓋もない理論を持ち出す弦十郎(因みにシジフォスとの手合わせはわずか3分しかも二人とも素手で山を更地にしたのだ)。

 

「くっ!聖闘士がいなければ間違いなく貴様が人類最強であったろうな。だがなれど、人の身で有る限りは!」

 

“ソロモンの杖”を構えノイズを呼び出そうとするが。

 

「させるか!」

 

弦十郎は震脚で床を壊しその破片を蹴り“ソロモンの杖”を弾き飛ばし天井に突き刺さる。

 

「なっ?!」

 

“ソロモンの杖”に目が向き再び弦十郎の方を向くと既に拳を構えた弦十郎が目前にいた!

 

「覇ァ!」

 

弦十郎は拳を叩きつけようとする!

 

「ノイズさえ出てこないのならば!」

 

だが。

 

「弦十郎君!」

 

フィーネは櫻井了子の顔で弦十郎の名を呼ぶ。

 

「!!」

 

一瞬弦十郎の動きが止まる。フィーネは歪んだ笑みを浮かべ。

 

ザシュ!!!

 

弦十郎の腹部に鞭を突き立てる!

 

「・・・」

 

「司令・・・」

 

未来た緒川は愕然とし。弦十郎は傷口や口から大量の血を流し倒れた。

 

「イヤァァァァァァァァァァ!!!」

 

未来の悲鳴が区画に響いた。フィーネは倒れた弦十郎に近づき、弦十郎から端末を抜き取る。

 

「抗うも覆せないものが運命<さだめ>なのだ」

 

フィーネは鞭を伸ばし“ソロモンの杖”を回収し杖の切っ先を弦十郎に向ける。

 

「殺しはしない。お前達にそのような救済など施すものか」

 

そう言ってフィーネは弦十郎の端末を使い“デュランダル”の元へ向かう。緒川と未来が弦十郎に駆け込む。

 

「司令!司令!」

 

「・・・・・・」

 

緒川が呼び掛けるが弦十郎は答えなかった。

 

『・・・ここまでか・・・』

 

「「?!」」

 

突然区画に響いた声に未来と緒川は声がする方に目を向けるとそこには!

 

「ま、まさか!」

 

「貴方は!」

 

「久しぶりだな小日向未来。店主殿もようやく退院したのに君たちが来なくて寂しそうにしていたぞ」

 

『お好み焼きフラワー』で居候している盲目の僧 アスミタ。だが彼が着ているのはいつもの袈裟ではなく、エルシドやレグルス、デジェルと異なる形状の黄金の鎧を纏っていた。

 

「さて、風鳴弦十郎を運ぶか」

 

アスミタがそう呟くとアスミタや未来達の周囲に金色の光が包み、その区画を光が満たした!光が収まると未来達の姿が消え、残ったのは弦十郎の流した血の後だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

“デュランダル”の保管場所に到着したフィーネ。空中に操作ディスプレイを出し、“デュランダル”の封印を解除する。

 

「目覚めよ、天を衝く魔刀。彼方から此方より現れ出でよ!」

 

“デュランダル”を手にし笑みを浮かべるフィーネ。

 

「さぁ来るが良い装者共!先ずは前菜である貴様らを血祭りに上げ。主菜である黄金聖闘士達を越えて!私は、“あのお方”の立つ“高み”に近づいて見せる!!」

 

フィーネの叫びが保管室に響いた。

 

 

 

 

 

響達の活躍をメインモニターで見ていた指令室のオペレーター達。指令室の入り口から突然光が現れ友里がそちらに目を向けると。

 

「?!司令!」

 

血塗れの弦十郎と緒川と未来そして黄金の鎧を纏うアスミタだった。緒川は指示を飛ばす。

 

「応急措置をお願いします!彼<アスミタ>の事は後回しです!」

 

ソファーに横たわった弦十郎に友里が包帯を巻く。

 

「本部内に侵入者です。狙いは“デュランダル”、敵の正体は櫻井了子」

 

『!?』

 

緒川の言葉に全員が愕然となる。

 

「響さん達に回線を繋ぎました」

 

未来は響に現状を伝える。

 

「響!学校が、リディアンがノイズに襲われてるの!」

 

だが突然電源が落ちて真っ暗になった。

 

「何だ?」

 

「本部内からのハッキングです!」

 

「こちらからの操作を受け付けません!」

 

「こんなこと了子さんしか・・・」

 

「・・・・・・響」

 

未来の不安な呟きが指令室に響いたがアスミタが未来の肩に手をおく。するとソファーから声が。

 

「ん!・・・」

 

弦十郎が目を覚ましたのだ。

 

「司令・・・」

 

「状況は?」

 

「本部機能は殆どが制御を受け付けません。地上及び地下施設内の様子も不明です」

 

「そうか・・・所で彼はまさか?」

 

弦十郎の目線の先に不安そうにする未来の側にいる黄金の鎧を纏うアスミタに目を向ける。アスミタも弦十郎の方に目を向け。

 

「はじめましてになるな。特異災害機動部の者達よ」

 

「あのアスミタさん、アスミタさんはやっぱり」

 

「改めて名乗ろう、小日向未来。我が名はアスミタ。アテナに仕えし黄金聖闘士が一人、乙女座“ヴァルゴ”のアスミタ!」

 

「ここに来て5人目の黄金聖闘士だと!?」

 

指令室全員がこの場に現れた黄金聖闘士に驚く。

 

「レグルスの動物的勘に感謝するのだな。もしもの時の為の保険に私を助っ人に呼んでいたのだ」

 

「何だって?!じゃ、レグルス君は君がこの世界に来ている事を知っていたのか?」

 

「あぁ、エルシドとデジェルもな。最も私が秘密にしておいてくれと頼んでいたのだがな」

 

「アスミタさんは今まで何をしていたんですか?」

 

未来の質問にアスミタは答える。

 

「何。ノイズと戦っている者達を遠隔操作の結界で守り、逃げ遅れた生徒達にテレパシーで避難誘導をし、逃げ場のない者達をテレポートで逃がしたりと少々忙しくてな」

 

「え?」

 

「まさか、あの不可思議な“現象”は貴方が?!」

 

「お陰で駆けつけるのが遅れたがな」

 

アスミタの言葉に全員が驚く事になった。この目の前にいる盲目の黄金聖闘士はたった一人で人的被害をOにしていた事に。

 

「アスミタ君、何故君は今までの戦いに参加しなかったんだ?」

 

弦十郎の質問にアスミタは答える。

 

「・・・私はこの世界に“守る価値”があるのかと疑問を抱いている」

 

『?!』

 

弦十郎以外はアスミタの言葉に少なからずショックを受ける。地上の平和を守る聖闘士がそんな事を言うなんて思わなかったのだ。ただ一人、弦十郎だけはその訳に心当たりがあった。

 

「それはデジェル君と同じ考えだったからか?」

 

「その通りだ。生憎私はデジェルのような出会いが無くてな。だから、見定めさせてもらう」

 

「見定める?」

 

「そう、フィーネと奏者、ならびに黄金聖闘士。この戦いで私の疑問の答えが見つかるやも知れぬ(そして私が抱いている“この世界”と我等が今纏っている“聖衣”についての“答え”が」

 

アスミタは盲目の目を地上へと向ける。これから始まる戦いこそ真の戦い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで次回に続く!


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カ・ディンギル起動!

決戦スタートです。


未来からの連絡を受けリディアンについた装者達と聖闘士達。既に太陽は落ち夜の闇が広がり鮮血のように紅い月が照らす世界で彼等は学園に向かう。ノイズ達に破壊され見る影も無くした学舎の姿に一同は愕然とした。

 

「・・・・・・」

 

「なんて事だ・・・」

 

「あんなに綺麗だった学園が・・・」

 

「くっ・・・」

 

「フィーネか・・・」

 

「未来・・・未来ーーーー!皆ーーーーーー!」

 

響の叫びが破壊された学園に響いたがその叫びに誰も何も答えず響は膝を地面につく。

 

「リディアンが・・・・・・!」

 

「「「!!」」」

 

翼と聖闘士達が上を向くとそこに櫻井了子が崩れかけている校舎の屋上に立っていた。

 

「櫻井女史?」

 

呟く翼の横でクリスが言う。

 

「フィーネ!お前の仕業か!?」

 

聖闘士達は目を鋭くし了子を睨むが翼と響はクリスの言葉に驚く。了子はにこやかな笑みを浮かべたまま。

 

「フフフハハハハハハハハハハハハ!」

 

高笑いを上げる了子を翼が睨む。

 

「そうなのか!?その笑いが“答え”なのか!?櫻井女史!」

 

「櫻井。やはりお前が」

 

「あいつこそ、あたしが決着を付けなければならないクソッタレ!」

 

「これまでのノイズ災害と、この学園を壊滅させた張本人!」

 

クリスとデジェルの声が重なる。

 

「「フィーネだ!!」」

 

了子は嘲笑を浮かべたままメガネを外し、アップされた髪をほどく。すると青い光が了子の身体を包み込みその姿を晒す。

響は立ち上がるがその顔は困惑していた。

 

「嘘・・・」

 

「こうなってほしくなかったよ了子。イヤ、フィーネ!」

 

光が収まるとそこには金色の“ネフシュタン”を纏い髪の色もプラチナブロンドに染まった“櫻井了子”いや“フィーネ”が立っていた。

 

 

 

 

その頃弦十郎達は停電した二課本部の通路を歩いていた。

 

「防衛大臣の殺害手引きと“デュランダル”の狂言強奪。そして本部にカモフラージュして建造された“カ・ディンギル”。俺達は全て櫻井了子の手のひらの上で踊らされてきた」

 

「“イチイバル”の紛失を始め。他にも疑わしい暗躍もありそうですね」

 

「それでも、同じ時間を過ごしてきたんだ。その全てが嘘だったと俺には・・・」

 

「・・・・・・」

 

無言になる緒川や未来達。だがアスミタは弦十郎の言葉を切り捨てる。

 

「“甘い”な」

 

「アスミタさん」

 

「風鳴弦十郎よ。組織の“長”たる者は時には“冷徹”に徹しなければならない時がある。この現状とその負傷は君の“甘さ”が招いた事だ(かつて、我等が教皇様も涙を飲んで“裏切り者”を裁いたのだ)」

 

アスミタの言葉に全員が何も言えなかったが。

 

「確かにな、俺は組織の“長”として失態を犯した。“甘い”のは分かっている。だがこれが俺の“性分”だ」

 

弦十郎は自嘲気味な笑みを浮かべた。アスミタはわずかに笑みを浮かべる。

 

「シジフォスやエルシドが“信頼”を寄せる気持ちが少し分かる(だが風鳴弦十郎以上に“甘い”あの少女はこの“現実”を受け入れられるかな?)」

 

通路を歩きながらアスミタは持ち前の感性で地上の様子を窺った。

 

 

 

 

響はこの“現実”を受け入れたくないように否定するように無理な笑みを浮かべ。

 

「嘘ですよね?そんなの嘘ですよね!だって了子さん、私やレグルス君を守ってくれました」

 

だがフィーネは響の言葉を否定する。

 

「あれは“デュランダル”と“獅子座<レオ>の聖衣”を守っただけのこと。希少な“完全状態の聖遺物”を二つも失う訳にはいかないからね」

 

「嘘ですよ・・・了子さんがフィーネと言うのなら、じゃ本当の了子さんは?」

 

響の言葉にフィーネは淡々と答える。

 

「櫻井了子の肉体は先だって食い付くされた。いや、意識は12年前に“死んだ”と言って良い。“超先史文明の巫女フィーネ”は遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフバヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての“記憶”・“能力”が再起動する仕組みを施したいたのだ。12年前、風鳴翼が偶然引き起こした“天羽々斬”の覚醒は同時に実験に立ち合った櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし者の意識が“私<フィーネ>”なのだ」

 

フィーネが語った話に全員が驚く。

 

「貴女が了子さんを塗り潰して・・・」

 

「まるで、過去から蘇る亡霊!」

 

だがフィーネは続ける。

 

「フフフ、フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される“偉人”・“英雄”、世界中に散った私達はパラダイムシフトと呼ばれる。技術の大きな“転換期”にいつも立ち合ってきた」

 

技術の“転換期”と言う単語に翼は一つの回答を呟く。

 

「っ!シンフォギアシステム・・・」

 

だがフィーネは否定する。

 

「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための福寿品に過ぎぬ」

 

フィーネの言葉に翼は激昂する。

 

「お前の戯れに奏やシジフォスは命を散らせたのか!」

 

「あたしを拾ったり、米国の連中とつるんでいたのもソイツが理由かよ!?」

 

翼とクリスの言葉にフィーネは仰々しく手を広げ言う。

 

「そう!全てはカ・ディンギルの為!!そして私は手に入れる!女神アテナが生み出した唯一の傑作!神に近き者が纏う事を許された最強にして最高の鎧!黄金聖衣を!!!」

 

「何?!」

 

「フィーネの目的は」

 

「俺達の黄金聖衣?!」

 

すると突然地面が揺れた。そして避難シェルターに避難した創世・詩織・弓美もシェルターの一室で机の下に隠れていた。

 

「このままじゃ、あたし達死んじゃうよ!もうヤダよ!」

 

戦う訓練も覚悟もしていない一般市民にはこの異常事態に弱音を吐くの当然であった。

揺れが大きくなり“何か”が地面を突き破り現れる。それは二課本部のエレベーターシャフトと同じ模様の“巨大な塔”。装者達も聖闘士も呆然とする中それは天を衝かんばかりに聳えていた。

 

「デ、デカイ・・・」

 

「まさか・・・!」

 

「これが?」

 

「そう、これこそが地より屹立し天にも届く一撃を放つ“荷電粒子砲 カ・ディンギル”!」

 

「カ・ディンギル、コイツでバラバラになった世界が一つになると?!」

 

クリスの言葉にフィーネは月を眺めて答える。

 

「ああ、今宵の月を穿つ事によってな」

 

「月を?!」

 

「穿つと言ったのか?」

 

「何でさ?」

 

装者達の質問にフィーネは無表情に一瞥し答える。

 

「私はただ“あのお方”と並びたかった。その為に“あのお方”へと届く塔をシンアルの世に建てようとした。だが“あのお方”は人の身が同じ“高み”に至る事を許しはしなかった。“あのお方”の怒りを買い、雷帝に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる。果てしなき“罰”。バラルの呪詛を掛けられてしまったのだ」

 

フィーネの言葉の意味を装者達は理解できないようであったが聖闘士達はある程度の理解をしていた。

 

「フィーネの言ってる事って」

 

「恐らく“バビロニア神話”の事だろうな」

 

「そして“塔”とはバビロニア神話の“バビロンの塔”の事だろう」

 

そしてフィーネは慟哭する。

 

「月が何故不和の象徴と伝えられてきたか、それは月こそがバラルの呪詛の源だからだ!人類の相互理解を妨げるこの“呪い”を月を破壊する事で解いてくれる!そして再び世界を一つに束ねる!」

 

フィーネが叫ぶと同時にカ・ディンギルがエネルギーをチャージする。それを見ながらクリスは口開く。

 

「“呪い”を解く?」

 

「?」

 

フィーネはクリスに目を向ける。

 

「それは、お前が世界を支配するって事なのか?!安い!安さが爆発しすぎてる!!」

 

クリスの嘲笑いにフィーネも嘲笑いを浮かべ。

 

「フッ、永遠を生きる私が余人に歩みを止められることなどあり得ない」

 

「残念だが櫻井いやフィーネ」

 

「お前の目論みは」

 

「ここで潰すよ!」

 

「!」

 

「「「!?」」」

 

いつの間にかフィーネより上に跳んでいたレグルス達。デジェルはフィーネにレグルスとエルシドはカ・ディンギルに拳を向ける!

 

「ライトニング・プラズマ!」

 

「疾っ!」

 

「ダイヤモンドダスト!」

 

レグルスの拳から放たれた閃光とエルシドの手刀から放たれた斬撃がカ・ディンギルを破壊しようとしデジェルの拳から氷が混じった凍気がフィーネを襲うが。“青い馬型のノイズ”がレグルス達の攻撃を防ぎ、フィーネは“ソロモンの杖”から何体かのノイズを射出し盾にしてダイヤモンドダストを防いだ。

 

「「「何?!」」」

 

「レグルス君とエルシドさんの攻撃を防いだ?!」

 

「何なのだ!あのノイズは?!」

 

「デジェル兄ぃ!」

 

フィーネは聖闘士達を見据えて呟く。

 

「慌てるな黄金聖闘士達よ、お前達は主菜だ。今戦うべきではない。先に」

 

フィーネは装者達に目を向けると。

 

「この者達を片付ける!」(パチンっ)

 

フィーネがフィンガースナップをすると響と翼とクリスの後ろから三つの“石造りの門”が現れた!その門が何であるか理解した聖闘士達は。

 

「響っ!」

 

「翼っ!」

 

「クリスっ!」

 

「「「っ?!」」」

 

響達を突き飛ばしたが“門”の光が強くなりレグルス達を飲み込んだ。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

「バカな、これは!?」

 

「夢神<モルペウス>の?!」

 

「レグルス君っ!」

 

「エルシドっ!」

 

「お兄ちゃんっ!」

 

「フッ」

 

フィーネは予想通りと言わんばかりの笑みを浮かべる。光が収まると三つの“門”の中央部にレグルスが、エルシドが、デジェルが“眠るように”浮かんでいた。響達は“門”に駆け寄る。

 

「レグルス君!レグルス君!!」

 

「エルシド!起きろ!エルシド!」

 

「何だよこれ?!フィーネ!一体何しやがった!!」

 

クリス達はフィーネを見るとフィーネは愉快そうな笑みを浮かべる。

 

「やはりな。装者どもを狙えば聖闘士達を捕らえる事も造作無き事と思っていたがここまで上手くいくとはな。さて、黄金聖闘士達には一時退場してもらおうか」

 

フィーネの身体に纏った“ネフシュタン”と“ソロモンの杖”が“共鳴”するかのように光輝く。すると響は信じられない光景を目の当たりにする。なんとフィーネの頭上の景色が“割れた”のだ。

 

「何あれ、カ・ディンギルが割れた?」

 

「いや違う、あれはカ・ディンギルが割れたのではない!」

 

「“空間”が割れただと?!」

 

装者達は目の前の光景に唖然とした。小さいが“空間”が割れ数メートルの穴ができたのだ。その状況を感じたアスミタは。

 

「(小さいが間違いない。あれは双子座<ジェミニ>の『アナザーディメンション』?!何故フィーネがあの技を?)」

 

そしてフィーネも余裕顔を浮かべていたが内心はかなり疲弊していた。

 

「(これが双子座の技『アナザーディメンション』。二つの完全聖遺物を“共鳴”させても“この程度”の穴しか開けられんとは!)ノイズよ!」

 

内心余裕がないフィーネは“馬型”に命令する。“馬型”は一瞬で響達の後方、レグルス達が閉じ込められた“門”を穴へ蹴り飛ばした。

 

「レグルス君っ!」

 

「エルシドっ!」

 

「デジェル兄ぃっ!」

 

呆然とする響達をよそにレグルス達を閉じ込めた“門”を吸収し穴は塞がれた。

 

「フィーネ!デジェル兄ぃ達をどうした!」

 

吠えるクリスを鬱陶しそうに見るフィーネは。

 

「安心しろただ眠っているだけだ。私のもう一つの目的は黄金聖衣だからな。貴様らを血祭りに上げたら次は聖闘士達だ。それまで奴等に邪魔されたくないのでな」

 

小馬鹿にしたフィーネの態度に響と翼もクリスも怒る。

 

「了子さん、止めます!」

 

「我々は聖闘士達の前の前菜扱いとはな!」

 

「なめんじゃねえぞ!!」

 

響達はフィーネを見据えて“戦いの歌”を唄う。

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」

 

響は“撃槍”のギアを。翼は“絶剣”のギアを。クリスは“魔弓”のギアを纏う。三人はフィーネに飛び掛かる!

最終決戦のゴングは今鳴り響いた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“少年の姿”のエルシドは高原に呆然と立っていた。

 

「(ここはどこだ?俺は確か「エルシド」!」

 

後ろから聞き覚えがある声に振り向くとそこにいたのは黒い髪に朱色の瞳をした少女と大柄の男性がいた。

 

「フェルサー・・・峰!」

 

そこに立っていたのは研ぎ師であり友である少女“峰”と自分の兄貴分でもある聖闘士候補生の“フェルサー”だった。

 

「どうしたエルシド!まだ修行の最中に呆然とするとはお前らしくないな!」

 

フェルサーと呼ばれた大柄の男性は豪快に言う。そして峰は穏やかに微笑みながらエルシドに手を差し出す。

 

「エルシド・・・まだ修行の途中であろう?さぁ、三人で一緒にまた修行だ」

 

「・・・・・・」

 

エルシドは呆然となりながらもその手を握ろうとする。

 

 

 

 

 

 

雪が降り積もり見渡す限りの銀世界に“少年”のデジェルは歩いていた。

 

「(私は、何故歩いているのだ?ここはブルーグラートなのか?)」

 

それはデジェルがまだ修行時代に滞在した北国だった。

 

「デジェル・・・」

 

「!」

 

その声に、忘れるはずのない声にデジェルは前を向くとそこには。

 

「デジェル」

 

「ユニティ・・・!」

 

プラチナブロンドの髪を後ろに束ねたデジェルの友である少年と。

 

「デジェルよ。こちらに来なさい」

 

「クレスト師匠<せんせい>・・・!」

 

無造作に伸ばされた髪と髭をした骨とか皮だけの老人だがデジェルの師である前水瓶座の黄金聖闘士 クレストが。

 

「デジェル・・・さぁこっちに来て」

 

ユニティと同じプラチナブロンドの長髪をした美麗な女性がいたこの女性こそユニティの姉にしてデジェルの憧れの女性で初恋の人セラフィナである。

 

「セラフィナ様・・・」

 

友が、恩師が、大切な人がいる所にデジェルは足を動かそうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

“子供”のレグルスは森が良く見える丘でそよ風に煽られながらその景色を見ていた。

 

「懐かしい景色だな~。ここはいい風が吹く」

 

「レグルス」

 

「!!」

 

後ろから聞こえたその声にレグルスは反応する。聞き覚えのあるいや忘れる筈がない声にレグルスは振り向く!

 

「ここにいたのかレグルス?さぁ精霊との対話だ」

 

レグルスの獅子座の聖衣を纏い純白のマントを羽織り穏やかな笑みを浮かべる短髪の男性。レグルスがずっと、ずっと探していたその人物。

レグルスは涙を流してその人物の名を呼ぶ。

 

「父・・・さん?」

 

この男性こそレグルスの父にしてシジフォスの異母兄にして最強の獅子と謳われた聖闘士。“大地と語る者”にして聖闘士の“英雄”。

 

 

先代獅子座の黄金聖闘士。獅子座<レオ>のイリアス!

 

 

時を越えて古き獅子と若獅子が邂逅する!

 

 




今回はここまでです。シンフォギアsideは結構ハショるかもしれません。


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決意と暴走

装者組をハショリます。シンフォギアファンの皆々様どうも申し訳ありません!


響達装者がフィーネと最終決戦をはじめてすぐ避難シェルターにいた創世、詩織、弓美のいる部屋の瓦礫を撤去して未来と弦十郎と緒川に藤尭や友里そしてアスミタがやって来た。

 

「小日向さん!」

 

「良かった。皆良かった!」

 

再会を喜び合う未来達を尻目に藤尭は部屋の端末を操作し外の状況を調べようとする

 

「この区画の電力は生きているようです!」

 

「他を調べて来ます!」

 

部屋を出る緒川を見ながら創世は未来に話しかける。

 

「ヒナ。この人達は?」

 

「うん、あのね・・・」

 

言い淀む未来に変わり友里に包帯を替えて貰っている弦十郎が説明する。

 

「我々は特別災害対策起動部。一連の事態の終息に当たっている」

 

「それって政府の?」

 

「私は違うがな」

 

アスミタが捕捉する。藤尭が報告する。

 

「モニターの再接続完了。こちらから操作できそうです!」

 

端末のモニターから外の状況を確認する一同。そこに映ったカ・ディンギルとフィーネと交戦する響達が映っていた。

 

「響!」

 

「「「え?!」」」

 

未来の言葉に創世達は驚く。お構いなしに未来は響と映っているクリスを見る。

 

「それに、あの時のクリスも」

 

「これが?」

 

「了子さん?」

 

フィーネの姿に藤尭と友里が驚く。

 

「どうなってるの?こんなのまるでアニメじゃない・・・」

 

弓美は現実に戸惑い。創世も戸惑いながら未来に話しかける。

 

「ヒナはビッキーの事知ってたの?」

 

「・・・・・・」

 

「前にヒナとビッキーが喧嘩したのって?そっか、これに関係する事なのね」

 

「ごめん・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

未来の謝罪に弓美は戸惑いを浮かべた。弦十郎はレグルス達がいない事に気づく。

 

「レグルス君達は?」

 

「あ奴等なら今は“眠りの中”だ」

 

「眠りの中?」

 

アスミタの言葉に弦十郎はどういう事だ?と言わんばかりに睨む。

 

「“神の宝具”に捕らわれたあ奴等が戻って来るかは、あ奴等と・・・・・・」

 

アスミタの閉ざされた瞼は戦っている装者達に向き。

 

「装者達次第かもしれん」

 

「何?」

 

「“歌”は人が行う神への“問い掛け”にして“祈りの言葉”。それは時に・・・・・・・・・・・・次元すら越える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーデジェルsideー

 

“少年”の姿になったデジェルは懐かしき人達の元へ向かおうとする。

 

「ユニティ・・・クレスト師匠・・・セラフィナ様・・・・・・」

 

ゆっくりと手を伸ばし歩を進めようとするデジェル。共に夢を語り夢を叶えようと誓った“友”と自分に力と知識を教えてくれた“恩師”、そして領主として民の為に奔走し明るくまるで雪国を照らす太陽のように眩しい“大切な人”と再び共にいられる。そんな誘惑がデジェルの足を動かすが。

 

『♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪』

 

突如、デジェルの耳に“歌”が聞こえた。その歌に込められた想いがデジェルの“心”に響いた。

 

「(この歌は?この歌声は・・・・クリス?」

 

 

 

ークリスsideー

 

月を破壊しようとするカ・ディンギルの荷電砲を防ぐ為、クリスは“絶唱”を歌う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

腰のアーマーが展開し小さな結晶が無数にクリスの周りに展開した。赤い粒子が舞いクリスの両手に拳銃が握られていた、拳銃から走った光が結晶を乱反射してまるで“蝶”の羽根のように光輝く。そして二つの拳銃が大型レールガンに変形し一つとなりエネルギーをチャージする!

カ・ディンギルから発射された荷電砲とクリスが放ったレールガンと羽根からのエネルギー弾が一つとなりカ・ディンギルのエネルギーとぶつかる!

 

その光景を地上から見ている響と翼、そしてフィーネ。

 

「「・・・・・・」」

 

「一転集中?!押し止めているだと?!」

 

驚くフィーネ。だがクリスの方はカ・ディンギルを押し止めるのにかなりの負担をかけているのかクリスのギアに皹が入る!だがクリスの顔は安らかに微笑んでいた。

 

「(ずっとあたしは・・・パパとママの事が大好きだった・・・だから、二人の夢を引き継ぐんだ。パパとママの代わりに歌で平和を掴んで見せる!)」

 

クリスの放ったエネルギーは威力が弱まり、カ・ディンギルのエネルギーの奔流にクリスが飲み込まれた。だがクリスは優しい笑顔を浮かべ。

 

「(あたしの歌はその為に・・・・・・そうだよね?お兄ちゃん・・・・・・)」

 

両親と手を繋ぐ幼い自分の姿がクリスの脳裏に浮かんだ。

 

クリスが食い止めた事でカ・ディンギルの威力が弱まり月のほんの一部しか破壊されなかった。フィーネは驚き。

 

「し損ねた!僅かに反らされたのか!?」

 

そして光の粒子が尾を引きながらクリスは地上に落下するのを弦十郎や未来達、響や翼が見た。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・うわああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その光景を見た響の慟哭が夜空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「どうしたのデジェル?さぁこっちに来て」

 

呆然となるデジェルにセラフィナは手を伸ばすが。

 

「・・・・・・申し訳ありません、セラフィナ様」

 

「「「?」」」

 

「私には“守りたい人”がいます、そして約束したのです。あの子を二度と一人ぼっちにしないと」

 

「デジェルよ、何を言っている?お前の守る人はここに・・・」

 

「分かっていた。これが幻覚だと言う事は分かってはいた。だがそれでも、セラフィナ様達と再び会えた事で感傷に耽るとは私もまだまだ未熟」

 

“少年”の姿から“青年”に戻り黄金聖衣を纏ったデジェルは宣言する。

 

「もう惑わされない。あの子の“夢”をそして多くの人々の“夢”を守る為に私は戦い続ける!それが私の新たな戦い!水瓶座<アクエリアス>のデジェルの戦いだ!!」

 

デジェルの宣言を聞くとユニティは“海皇ポセイドン”に仕える“海闘士<マリーナ>”の最高位“海将軍<ジェネラル>”の一人、“海竜<シードラゴン>の鱗衣<スケイル>”を纏い。

クレストは老人の姿から本来の姿である若々しい“少年”の姿に変わり“水瓶座<アクエリアス>の暗黒聖衣<ブラッククロス>”を纏い。

セラフィナは“アテナ”と互角の小宇宙を持つと言われている“海皇ポセイドンの鱗衣”を纏い三叉の矛をデジェルに向ける。

 

「デジェルよ」

 

「お前をここから」

 

「逃がしはしない」

 

さっきと違い感情のない瞳でデジェルを睨み構える三人。だがデジェルは臆することなく両手を組んで天に掲げる。

 

「ユニティ、クレスト師匠、セラフィナ様。皆の事は忘れません。ですが私はあの子をクリスを守ると誓ったのです!あの子の両親に!そして他ならぬ!自分自身に!!」

 

デジェルは自らの小宇宙を最大に燃やす!セラフィナ達はデジェルに技をぶつける!

 

「!!」

 

「ダイヤモンドダスト・レイ!」

 

「!!」

 

ユニティが放つ珊瑚礁とクレストが放つ凍気とセラフィナの持つ三叉の矛からのエネルギーがデジェルを襲う!

 

「煌めけ!我が小宇宙よ!!」

 

最大に燃やした小宇宙に反応し、デジェルの両手の聖衣が“姿を変えた”!!

 

「受けよ!水瓶座<アクエリアス>最大の拳!絶対零度<オーロラ・エクスキューション>!!!」

 

振り下ろした両手から放たれた絶対零度の凍気が三人の技を打ち破りデジェルの眼前の“世界”が凍気と光に包まれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー響sideー

 

クリスが死んだと考えた響はその“現実”に打ちのめされフィーネにクリスの行いを「無駄な事」と嘲られた事で怒りに飲まれ力に飲まれ全身が真っ黒に染まり“暴走”する響。未来達もそんな響の姿に驚くがアスミタだけは冷めた態度だった。

 

「(“未熟な者”が“覚悟”もなく中途半端に“力”を得て戦場に出れば“現実”の残酷さに絶望し“暴走”してしまう。今のガングニールがそれだな)」

 

暴走した響は野獣のような動きでフィーネに襲い掛かるが最早敵と味方の区別がつかず翼にまで襲い掛かった。

 

「立花ーーー!」

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

響の姿をモニターで見ている未来達。

 

「どうしたの響!元に戻って!」

 

「もう終わりだよ私達・・・」

 

弓美が顔が絶望に染まった。未来達も弓美の方に目を向ける。

 

「学園がめちゃくちゃになって、響もおかしくなって」

 

「終わりじゃない!響だって私達を守る為に「あれが私達を守る姿なの!」!?」

 

モニターに映る響は“守る姿”ではない、まさに“破壊衝動の権化”であった。創世も詩織も響に恐怖をいだいたが未来は。

 

「私は響を信じる」

 

未来はそれでも響を信じようとする。弓美は泣きながら呟く。

 

「私だって響を信じたいよ・・・うっこの状況をなんとかなるって信じたい・・・でも、でも」

 

弓美が膝から崩れ落ちる。創世と詩織は弓美を心配そうに見つめる。

 

「もう嫌だよ誰かなんとかしてよ!恐いよ!死にたくないよ!助けてよーーーー!!響ーーーーーーーー!!!」

 

ついに弓美の心が限界に達した。普通の人間なら恐怖に耐えられなくなっても仕方ない状況なのだから誰も何も言えなかった。だが“一人”だけこの状況をなんとかできる人間は我関せずの態度を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「ん?」

 

父と一緒に森を歩くレグルスはふと足を止める。

 

「どうしたレグルス?」

 

「父さん、今何か聞こえなかった?」

 

首を傾げるレグルスにイリアスは言う。

 

「レグルス、惑わされるな。それは“雑音”だ」

 

「“雑音”?」

 

「“人の世界”には良くある事だが、精霊と対話する我々には只の“雑音”以外の何物ではない」

 

「“雑音”・・・・・・」

 

「さぁ行くぞレグルス」

 

「う、うん」

 

レグルスは父と共に森の奥深くへと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

ー翼sideー

 

カ・ディンギルが再びチャージを開始した。エネルギー炉心に備えられたデュランダルの力で再び月を穿つためにエネルギーをチャージし始めたのだ。翼は暴走する響を押さえつけ響の手を取る。

 

「これは束ねて繋ぐ力の筈だろう?」

 

翼は膝のパーツから小刀を取りだし響の影に刺す!『影縫い』で響を封じて離れる。その胸元には響によって負傷していた。

 

「立花、奏から継いだ力をそんな風に使わないでくれ」

 

「・・・・・・・・・」

 

響の目から涙が流れた。翼は決意を固めた顔になり。フィーネと向き合う。

 

「待たせたな」

 

「どこまでも剣と言うことか。だが山羊座<カプリコーン>のような“覚悟”が貴様にあるのか?」

 

「確かに私にエルシドのような“覚悟”はない。だが今日折れて死んでも明日に“人”として歌うために風鳴翼歌うのは戦場ばかりでないと知れ!」

 

翼の姿にフィーネは忌々しそうに顔を歪め。

 

「人の世界が剣を受け入れることなどありはしない!」

 

フィーネの攻撃を“歌いながら”軽やかに回避する翼、フィーネの上を取り刀を大太刀に変え『蒼ノ一閃』を放つがフィーネの鞭は斬撃を貫くがそれをかわす翼。

鞭で追撃するが翼は鞭を交わしフィーネの懐に入り込み大太刀を叩き込みフィーネをカ・ディンギルに叩きつける!追撃する翼は大太刀を刀に変え空を跳び刀を投げ大剣へと替えて大剣の柄を蹴り『天ノ逆鱗』をフィーネに叩き込む!フィーネも鞭編み物のようにしたシールドを三枚重ねにして防ごうとするが翼は新たに二本の刀を持ち刀から炎が出る!まるで“火の鳥”のように広げる技

 

『炎鳥極翔斬』

 

翼は最大の技でカ・ディンギルを破壊しようとする。

 

「はじめから狙いはカ・ディンギルか!!」

 

フィーネが鞭で翼を攻撃する。攻撃を受けた翼の意識が朦朧となる。

 

「(やはり私では)」

 

すると翼の心に片翼の声が奏の声が響く。

 

『何弱気な事言ってんだ?』

 

「!奏」

 

翼の目の前に奏が現れる。奏は翼に手を差し出し。

 

『翼、あたしとあんた。両翼揃ったツヴァイウイングならどこまでも遠くに飛んで行ける」

 

奏の手を翼が握った。すると翼の意識が現実に戻り。

 

「(そう、両翼揃ったツヴァイウイングなら!)」

 

再び『炎鳥極翔斬』を放ち空を舞う。

 

「(どんなものでも越えて見せる!)立花ーーーーーーーー!!!」

 

フィーネの攻撃を諸ともせず光の鳥となった翼がカ・ディンギルへと向かう。

動きを封じられた響は涙を流す。

カ・ディンギルに突っ込む翼。

 

ビキ!ビキ!ビキ!ビキ!ビキ!ビキ!

 

カ・ディンギルに亀裂が入り亀裂から光が漏れそして。

 

ズガァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

「うあああああああああああ!!!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

フィーネは悲鳴を上げ、響は無言のまま爆発するカ・ディンギルの光に飲み込まれた!

 

 

 

 

 

 

 

 

ーエルシドsideー

 

「(翼・・・奏・・・そうか、お前達二人ならどこまでも飛んで行けるだろう)」

 

翼の歌が心に響きエルシドは自分に手を差し出す峰を見据える。

 

「エルシド?」

 

「俺もどうやら“甘い夢”を見るようになったようだな。夢神共と戦った経験がなければこの夢に飲み込まれていただろう」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

フッと笑ったエルシドに峰もフェルサーも黙って見ていた。

 

「峰、フェルサー。こんな形でもお前達と再び顔を合わせる事ができた。フィーネに感謝する事ができたな」

 

“青年”の姿に戻り黄金聖衣を纏うエルシドは二人に向かって手刀を頭上に上げて構える。峰とフェルサーはそれでも黙って見ていた。

 

「お前達の事は忘れない。語り合った“夢”も“想い”もずっと共にいる。そして誓おう。峰よ。フェルサーよ。俺は必ず到達する。到達して見せる」

 

エルシドの小宇宙が最大に燃え上がる!

 

「“聖剣”へと!」

 

峰とフェルサーは笑顔を見せて頷く。

 

「研ぎ澄ませ!我が小宇宙よ!!」

 

最大に燃焼した小宇宙に反応してエルシドの右手のパーツが“その姿を変えた”!

 

「聖剣抜刀<エクスカリバー>!!!」

 

峰とフェルサーの間に聖剣を振り下ろし黄金の斬撃が“世界”を断ち切る!

すると切られた世界が光に包まれた。

 

 

 

 

ー異次元空間ー

 

フィーネが起こした『劣化版アナザーディメンション』で異次元空間に送られた三つの“モルペウスの門”の内二つに異変が起こった。一つは門全体が凍りつき破壊され、もう一つは真っ二つに断ち切られた。そして破壊された門からエルシドとデジェルが出てくる。

 

「エルシド、無事か?」

 

「それはこちらの台詞だデジェル」

 

フッと笑い合う二人。そして自分達のいる空間を見る。

 

「ここは異次元空間か?」

 

「こんな事が出来るのは双子座の黄金聖闘士だけだが?」

 

「以前フィーネのアジトを調べた時に『複数の完全聖遺物を共鳴させれば小さな次元の穴を作る事が出来る』とあった恐らく、“ネフシュタンの鎧”と“ソロモンの杖”を使って小規模の穴を作りそこに我々を送ったのだろう(他にもあったが今は言うべきではないだろう。それに『アレ』が、フィーネが我々黄金聖闘士を狙う“目的”なのかもしれん)」

 

「なるほどな。ん?」

 

二人は近くにあった三つ目の門を見るとレグルスが眠っていた。

 

「レグルスはまだ眠っているのか」

 

「どうするエルシド、起こすか?」

 

「嫌このままにしておく、俺達でも脱出できたのだ。レグルスもできるはずだ」

 

「手厳しいな」

 

「師匠であるシジフォスがいない以上、俺達がこいつの面倒を見てなくてはな」

 

「それもそうだな。レグルスが“幻の安らぎ”に墜ちるか“険しい現実”を受け入れるか一つの“賭け”だな」

 

エルシドとデジェルは異次元空間からの脱出は後回しにした。どこに繋がっているか分からない異次元空間をさ迷うことは自殺行為に等しいのだ。

ふとエルシドはデジェルを見る。デジェルもエルシドの視線に気付く。

 

「どうした?」

 

「以前のお前なら雪音を心配してがむしゃらに行動していたのに随分冷静だなと思ってな」

 

「八年近くも紛争地域をさ迷っていれば少しは冷静さを学ぶさ。それに夢の中で師に会えたからな。“決して冷静さを失うな”と師に教えられていたからな。こういう時こそ冷静さを持たなければならない」

 

だがデジェルの手はきつく握られ血が滴り落ちていた。本当は直ぐにでも行動を起こしたい所を必死に抑えているのだ。勿論エルシドは気付いているし本心はデジェルと同じだが冷静にならねばと自分を抑えていた。

 

「「(早く戻ってこいレグルス。こんな所で終わるお前ではないだろう!)」」

 

二人はレグルスが眠る門をじっと見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お詫びを申し上げます。シンフォギア組の話をかなりいい加減に作ったことをお詫びします!後悔はしてないけどお詫びします!

それでは次回へ続く!


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想い届ける為に

翼の歌声に反応したのはエルシドだけではなかった。イリアスと共に森の奥へ行こうとしていたレグルスも歌声に反応したのだ。

 

「今のは?」

 

「レグルスよ、惑わされるなと言った筈だ。それらは只の『雑音』「『雑音』なんかじゃない」・・・・・・」

 

あくまで『雑音』と言うイリアスの言葉を遮るレグルス。

 

「父さん、『雑音』なんかじゃないんだ。これは『歌』だよ。『命』を燃やした者が奏でる事が出来る『想い』だ」

 

するとイリアスの目が冷徹になりレグルスを睨む。

 

「やはりお前もシジフォスと同じかレグルス?私の細胞を受け継いでいると言うのにお前は『私』になれないのか?」

 

「父さん?・・・ッッ!!」

 

突然イリアスの拳が光るとレグルスは後方に吹き飛んでいった!

森の木々を巻き込んで吹き飛んだレグルスは倒れた木々の上に倒れながら自分の腹部から走る激痛にむせかえる。

 

「ゲホッ!ガハッ!アッ!と、父さん。一体何を!?」

 

突然の父からの攻撃にレグルスは困惑するがイリアスは構うことなく悠然とレグルスの少し前に立っていた。

 

「レグルスよ、私にはお前が『人の世界』という森のなかで『雑音』に惑わされているように見える」

 

「『雑音』だって?」

 

「私と同じ『大地』や『風』と対話ができるお前ならば分かる筈だ。世界は人の発する雑音に満ちていると。人は弱く、脆く、儚く、己の弱さに敗北しやすい生き物だ。それ故人は大地を忘れ己すら見失う」

 

「・・・・・・・・・」

 

「その様な『雑音』に満ちた『人の世界』よりも私と行く『世界の探求』の方がお前の為になる」

 

「父さん、人は確かに弱いよ。ちょっとしたすれ違いで大切な友達と決別したり、自分の考えを押し付けるために他者を傷つける。自分の感じる幸せが他者の幸せと決めつける。確かに世界はそんな人の雑音に満ちているのかもしれない・・・でも・・・それでも・・・俺は・・・俺はッ!」

 

「お前は自分が聖闘士として生きていく事に迷っているのだろう?」

 

「!?」

 

「私と共に行けばそんな迷いに苦しむこともない。だが人の世界にいればお前もいずれ己を見失う。親として父としてそんなお前を見るのは忍びない。人の世界を選ぶというならば、私の手で大地に還してやる。安らかに眠れ我が息子よ」

 

イリアスは右手をそっと突き出す。

 

「『ライトニングプラズマ』」

 

無数の光の閃光がレグルスに襲い掛かった!

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!(翼、クリス、未来、二課の皆・・・・・・・・・・・響ッ・・・・・・・・・)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー響sideー

 

そして暴走していた響はシンフォギアが解除され元の姿に戻るが目の前に広がる翼が命を賭して破壊した『カ・ディンギル』の残骸とその破壊の余波で吹き飛ばされた母校の無残な姿と翼が命を散らせた『現実』にその顔を絶望に染めた。

 

「あ・・・あぁ・・・翼さん・・・・・・」

 

その光景を見ていた弦十郎達も、藤尭は天羽々斬の反応の途絶を報告する。それは『翼の死』を意味していた。弦十郎も藤尭も友里も悲しむ。未来達もその報告を聞いていた。

 

「身命を賭して『カ・ディンギル』を破壊したか翼。お前の歌、世界に届いたぞ。世界を守りきったぞ!」

 

そう言って弦十郎は両の手をきつく握った。

 

「分んないよ。どうして皆戦うの!?痛い思いして怖い思いして死ぬために戦っているの!?」

 

「分からないの?」

 

狼狽し涙を流しながら言う弓美に未来は涙を流しながら毅然と言って弓美の肩を掴む。

 

「分からないの?」

 

「うっ・・・うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

弓美も本当は分かっている。分かっているがどうにもならない現実にただ涙を流すしかなかった。

 

フィーネは爆発に呑まれる一瞬馬型のノイズに救出されていた。馬型から降りるとフィーネは忌々しそうに鞭を地面に叩きつける。

 

「ええいッ!何処までも忌々しい!!月の破壊は『バラルの呪詛』を解くと同時に、重力崩壊を引き起こす惑星規模の天変地異に人類は恐怖し狼狽えそして聖遺物の力を奮う私の元に規準する筈であった!『痛み』だけが人の心を繋ぐ『絆』!たった一つの『真実』なのに!それを!それをお前は!お前は!!」

 

「ッ!!」

 

絶望にうちひしがれた響をフィーネが蹴り飛ばす。うつ伏せに倒れた響の頭をフィーネは掴み無理矢理に頭だけ起こす。

 

「まぁそれでもお前は役に立ったよ、『生体』と『聖遺物』の初の『融合症例』。お前と言う『生命』がいたからこそ私は己が身を『ネフィシュタンの鎧』と同化させる事ができたのだからな。そして黄金聖衣を手にいれる『理由』ができたのだからな。月を破壊し貴様達『虫けら』を駆除したあと異次元にいる奴等<黄金聖闘士>を倒し黄金聖衣を手に入れようとした私の目論みもこれで大きく狂わされた」

 

フィーネは掴んだ響をそのまま乱暴に放り投げた。だが響は何もしなかった。その瞳は光が宿っておらず『現実』にうちひしがれていた。

 

「翼さん・・・クリスちゃん・・・二人とももういない・・・学校も壊れて・・・皆いなくなって・・・私・・・私はなんのために・・・なんのために戦っている・・・皆・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーアスミタsideー

 

「情けない」

 

絶望にうちひしがれ戦う気力すら失ってしまった響をアスミタは冷たく言う。未来達はアスミタを見つめる。

 

「戦場に出る者は『相手を傷つけ傷つけられる覚悟』、『仲間が傷つき倒れ死ぬ覚悟』、『自らが死ぬ覚悟』位は最低限持たなければなならないモノだ。ガングニールはそのいずれかの覚悟を持っていなかった。力を手にし自分の都合の良い事ばかり考えていたが故に現実に打ちのめされた。天羽々斬もイチイバルも見事な戦士だがガングニールは、戦士を名乗るのもおこがましい未熟者よ」

 

「アスミタ!お前!」

 

「司令!」

 

弦十郎がアスミタに詰め寄ろうとするが他の部屋を捜査していた緒川が多くの民間人を連れて戻ってきた。

 

「周辺区画のシェルターにて生存者を発見しました」

 

「そうか、よかった」

 

弦十郎は顔を緩めて微笑む。民間人の中に響が初めてシンフォギアを纏った時に助けた少女がいた。少女はモニターに映る響を見ると。

 

「あ!お母さん!カッコいいお姉ちゃんだ!」

 

「あっちょっと!待ちなさい!」

 

母親の静止を聞かず少女はモニターに近づく。

 

「すみません」

 

「ビッキーの事知ってるんですか?」

 

創世に聞かれ母親は思い出そうとして話す。

 

「詳しくは言えませんが、家の子はあの子に助けていただいたんです」

 

「え?」

 

「自分の危険を省みず助けてくれたんです。きっと他にもそういう人たちが」

 

「響の人助け・・・」

 

母親の話に弓美は思わず呟く。モニターを見ていた少女は振り向き。

 

「ねぇ!カッコいいお姉ちゃん助けられないの?カッコいいお兄ちゃんもいないよ?」

 

少女の疑問に詩織が答える。

 

「助けようと思ってもどうしようもないんです。私達には何もできないですし」

 

「じゃあ一緒に応援しよう!ねぇここから話しかけられないの?」

 

少女は藤尭に聞くが「できないんだよ」と言われた。だが未来は。

 

「あッ!応援。ここから響に私達の声を無事を知らせるにはどうしたら良いんですか?響を助けたいんです!」

 

「助ける?」

 

「学校の施設がまだ生きていれば、リンクしてここから声を送れるかもしれません」

 

藤尭の答えに未来は満足気に頷きアスミタの方を向く。

 

「アスミタさん」

 

「・・・・・・」

 

「アスミタさんにとってこの世界は“守る価値”があるか見定めているのですよね?」

 

「(コクン)」

 

「アスミタさんにこんな事を頼むのは筋違いかもしれませんが、お願いします!響を助けるのに協力してください!」

 

未来はアスミタに頭を下げる。

 

「響はアスミタさんの言うとおり、覚悟もできていない未熟者です。でも未熟な響だからこそ私達が助けて上げないといけないんです!だから、だから!」

 

未来は必死にアスミタに懇願する。レグルス達がいない響も戦えない今、最も頼りになる戦士に助けを求める。アスミタは。

 

「(友のためにどんな危険も省みず行動するこの少女も似ているな。天馬星座<ペガサス>に)良かろう。君には借しがある」

 

『!?』

 

「だが勘違いするな小日向未来、私は『ガングニールを助けに行く』のではない」

 

「?」

 

「『君<小日向未来>の友を助けに行く』のだ』

 

「アスミタさん・・・・・・はい!」

 

アスミタの言葉に未来は涙ぐみながら微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー響sideー

 

太陽が登り始めた世界。フィーネは放心状態のままの響を背にして語る。

 

「もうずっと遠い昔。“あのお方”に使える巫女であった私は、いつしか“あのお方”を“創造主”を愛するようになっていた。だがこの胸の内を告げることができなかった。その前に、私から、人類から言葉が奪われた。バラルの呪詛によって唯一“創造主”と語り合える統一言語が奪われたのだ。私は数千年に渡りたった一人バラルの呪詛を解き放つため抗ってきた。それを・・・あの忌々しい『女神』の愚行で・・・」

 

徐々に涙ぐみながら語るフィーネに響は目を向ける。

 

「いつの日か、統一言語にて胸の内の想いを届けるために・・・」

 

「胸の想い・・・・・・だからって・・・」

 

フィーネは涙混じりの怒りの形相を響に向ける。

 

「是非を答だと!?獅子座<レオ>への恋心を理解できないお前が!!」

 

そう叫ぶとフィーネは響の頭を掴み振り回す。何も理解できない何も知らない餓鬼に自分の想いを恋心を否定された事をフィーネは怒ったのだ。

 

 

 

 

ー未来sideー

 

アスミタと未来と創世と詩織と弓美は緒川と一緒に施設の調査をしていた。

 

「この向こうに切り替えレバーが?」

 

「こちらから動力を送ることで学校施設の再起動ができるかもしれません」

 

「でも緒川さんだとこの隙間には」

 

切り替えレバーがある区画への扉は僅かな隙間しか開かず緒川の体型では入れなくなっていたのだ。弓美が決意を持って口を開く。

 

「あ、あたしが行くよ!」

 

「弓美?」

 

「大人じゃ無理でも、あたしならそこから入っていける。アニメだったらさ、こういう時身体のちっこいキャラの役回りだしね。それで響を助けられるなら!」

 

「でもそれはアニメの話じゃない」

 

「アニメを真に受けて何が悪い!ここでやらなきゃあたしアニメ以下だよ!非実在青少年にもなれやしない!この先響の友達として胸を張れないじゃない!」

 

「・・・」

 

「(先程まで恐怖に震えていた少女が戦おうとしている)」

 

弓美の言葉に未来は顔をほころばせアスミタは顔には出さないが弓美の行動に驚く。すると今度は詩織が口を開く。

 

「ナイス決断です。私もお手伝い致しますわ」

 

「だね。ビッキーが頑張っているのにその友達が頑張らない理由にはならないよね」

 

創世も賛同する。

 

「皆・・・」

 

「フフ」

 

「そこの盲目の金髪イケメンさん!」

 

「私の事か?」

 

弓美はアスミタを指差す。

 

「響はヒナの友達であるように私達の友達でもあるんだからね!助けてくれるんならよろしく頼むよ!」

 

そう言って未来と弓美と創世と詩織は区画に入っていく。

未来と創世と詩織を台にして弓美は切り替えレバーを切り替える。

すると電力が回復し、区画を明るく照らした。未来達はお互いに微笑み合う。

 

「来ました!動力、学校施設に接続!」

 

「校庭のスピーカー、いけそうです!」

 

「やったー!」

 

「フッ」

 

友里と藤尭からの報告に少女は喜び弦十郎は満足気に微笑む。

それぞれの人達が想いを届けるために力を合わせていた。

 

 

 

「(たった一人の友の為に恐怖を乗り越える事ができるのか?アテナ、人にはまだ可能性があると言うのですか?・・・・・・ならば私も『眠れる獅子』を起こすために少し力を貸そう)」

 

 

『神に最も近い男』も『若獅子』を目覚めさせるために遂に動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。久しぶりの投稿なのでモチベーションを維持できず稚拙な文になりました。申し訳ありませんm(__)m


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目覚める戦士達

響がフィーネに痛め付けられているのと時を同じくしてレグルスもまた父イリアスに叩きのめされていた。

ライトニングプラズマを食らい続け全身の骨と言う骨を砕かれたような激痛に五感が麻痺してしまいまともに身体が動かなくなっていたが意識だけは漠然と残っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

もはや声も上げられなくなり仰向けに倒れたレグルスにイリアスは静かに近づき。

 

「レグルスよ。お前は今まで何のために戦ってきた?“我等のいた世界”でも“この世界”でも」

 

「(・・・・・・俺は・・・俺は何のために戦ってきたんだっけ?・・・・・・)」

 

「お前は今まで“私を殺した冥闘士<スペクター>”への復讐の為に力を手にし戦ってきたのだろう」

 

「(そうだ・・・父さんを殺したアイツに・・・・“ラダマンティス”にこの拳を突き刺す為に・・・父さんがされたようにアイツに・・・この拳を突き刺してやる為に俺は強くなって・・・戦ってきた・・・)」

 

「そしてお前は私と同じ獅子座<レオ>の聖闘士になりハーデスとの聖戦で仇と再会し、自らの生命を失いながらもかの者の身体をその拳で貫いた。だがお前は“この世界”へと流れ再び聖闘士として戦おうとしたが、仇を失い“生きる理由”と“戦う理由”を失ったお前はどう生きれば良いのか分からなくなった」

 

「(あぁそうだ・・・俺は“生きる理由”を“戦う理由”を失って・・・どうすれば良いのか分からなくなったんだ・・・ノイズと戦っていたのも自分の中の“迷い”から少しでも目を反らしたかったから・・・俺は・・・俺は・・・何のために戦えばいいんだ?・・・)」

 

仰向けに横たわるレグルスの瞳から涙が流れた。イリアスはそんな我が子の姿を痛々しく見つめる。

 

「レグルスよ、私と共に来い。お前は十分戦ってきた。もうこれ以上戦う事はない。さぁ」

 

イリアスはレグルスに向けて手をさしのべる。

 

「(・・・俺は・・・俺は・・・『♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪』・・・何だこの歌は?・・・心が暖かくなる・・・安らぎに満ちたこの歌は?・・・・・そうだ・・・“あの歌”だ・・・)」

 

レグルスの頭に響く優しい歌。それはレグルスが響達の世界に来た時に聴こえた歌。レグルスが目を覚ます時に聴こえた歌であった。

レグルスは痛む身体の上体を起こして歌が聞こえる方、自分の後ろを振り返るとそこにいたのは・・・。

 

「(・・・ッ!・・・天馬・・・アテナ様<サーシャ様>・・・耶人・・・ユズリハ・・・教皇様<セージ様>・・・ハクレイ様・・・・・・皆!?)」

 

そこにいたのは、“自分達の世界”でお守りしてきた女神と自分達を導いていた教皇と共に戦ってきた戦友達がいた。

 

 

 

 

 

 

ー響sideー

 

「(私、何のために戦ってきたの?どうして・・・どうして・・・翼さんとクリスちゃんが・・・何でこんな事になるの?)」

 

『つくづく情けないな君は』

 

未だに戦意喪失し放心状態の響の頭に“誰か”の声が響いた。

 

「(誰?あなたは誰なの?)」

 

『私の事などどうでも良い。それよりも君はいつまでそうして蹲っているのだ?』

 

「(だって・・・皆いなくなっちゃった・・・未来も創世も詩織も弓美も・・・翼さんもクリスちゃんも・・・皆いなくなっちゃって・・・もう嫌だ・・・どうして皆が・・・)」

 

『本当に君は“中途半端”だな』

 

“声”は響を励ますどころか呆れ果てた声色で響に語りかける。

 

「(“中途半端”?)」

 

『“中途半端な力”と“中途半端な覚悟”、君は戦士としての“覚悟”も“力”も“考え方”も何もかもが“中途半端”なのだ。だから現実に簡単に打ちのめされ、己の感情をコントロールできずに力に呑み込まれ己を見失う。得た力を仲間にまで向けたのが良い例だ』

 

「(・・・・・・・・・)」

 

響は何も言えなかった。ただ涙を流すしかなかった。

 

『だが、そんな君を助けようとしている者達に免じて力を貸そう』

 

「(私を助けようとしている?・・・誰が?・・・)」

 

『少し耳を傾けてみよ。答えは直ぐに解る』

 

そう言われ響は耳に神経を集中させる。

 

 

*

 

 

 

 

 

フィーネはボロボロに横たわった響に語る。

 

「シンフォギアシステムの最大の問題は、“絶唱”使用時のバックファイヤー。“融合体”であるお前が放った場合、何処まで負荷を抑えられるのか研究者として興味深い所ではあるが。ハッ!最早お前で実験してみようとは思わぬ」

 

フィーネは響にゆっくりと近づく。

 

「この身も同じ“融合体”だからな。新霊長は私一人いれば良い。貴様を始末した後は黄金聖闘士達を倒し奴等の黄金聖衣を手に入れれば、もう人の身で私に並ぶ者など誰もいない。私に並ぶ者は全て絶やしてくれる」

 

そう言って、フィーネは四本の鞭を響に向ける。

 

『♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪』

 

「ん?耳障りな、何が聞こえている?」

 

突然聴こえた歌声にフィーネは不愉快そうに顔を歪めるが、響は。

 

「・・・ッ・・・」

 

「なんだこれは?」

 

ほとんど潰れたスピーカーから歌が聴こえた。響が好きだったリディアンの校歌だ。

未来達がいる部屋で未来や創世と弓美と詩織と合唱部の人達が響に向けて歌を送っていた。

 

「(響、私達は無事だよ。響が帰って来るのを待っている。だから、負けないで!)」

 

「(やれやれ。ガングニールの精神に呼びかけ、異次元にいるレグルスにも歌を送るのは少々骨が折れるな。フッ、まさか私がこんな風に力を使うとはな。さて“他の二人”にもこの歌を届けるか)」

 

アスミタも金色のオーラを纏いながら仕事をする。

 

 

そしてフィーネの周辺をオレンジ色の光の粒子が舞う。フィーネはそれに気付かないのか歌の出所を探していた。

 

「どこから聴こえてくる?この不快な歌・・・歌、だと」

 

響の瞳に光が徐々に戻る。

 

「声が・・・皆の声が・・・」

 

朝日が昇り響が拳を握る!

 

「良かった・・・あたしを支えてくれる皆は何時だってそばに・・・皆が歌ってるんだ・・・だから・・・まだ歌える・・・頑張れる!戦える!!」

 

響が叫ぶと青いオーラが響を包みこみその衝撃波がフィーネを吹き飛ばす!

 

「なっ?!」

 

フィーネが目を向けると光のリングを纏った響が立ち上がる!

 

「まだ戦えるだと!?何を支えに立ち上がる!?何を握って力と変える!?先程の不快な音の仕業か?そうだ、お前が纏っているものはなんだ?心は確かに折り砕いた筈・・・なのに・・・何を纏っている!?それは私が造った物か!?お前の纏うソレは何だ!?なんなのだ!?」

 

動揺するフィーネを無視し響は力を込める!

 

すると響がいる場所とカ・ディンギルがあった場所と響のいる場所から離れた場所で“オレンジの光”と“蒼いの光”と“赤いの光”が天へと伸びる!

 

“蒼い光”の柱の根元から翼が!

 

“赤い光”の柱の根元からクリスが!

 

死んだと思われた二人が立ち上がる!

 

三人は天へと飛び新たな姿へと進化したギアを纏い響が吠える!

 

「シンフォギアーーーーーーーーーーー!!!!」

 

今新たな伝説が生まれた!

 

 

 

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「(皆・・・俺を迎えに来たの?・・・)」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

レグルスの問いに天馬達は答えない。だがアテナは悲しそうにレグルスを見つめ、天馬達は責めるような厳しい瞳でレグルスを睨む。

 

「(・・・・・・・・・わかってるよ・・・あぁわかってるよ・・・・そうだよな・・・“答え”なんて簡単だったんだ・・・・・・情けない姿を見せたな)」

 

そう言ってレグルスは立ち上がりその姿は元の少年の姿に戻った!

 

「(皆ごめん、俺はまだそっちに行けない。“やるべき事”があるんだ、こんな所で寝ていられないな!)」

 

『・・・・(コクン)・・・・・』

 

レグルスがそう宣言すると天馬達は満足そうに頷き霞のように消えた。

 

「レグルスよ。“答え”を聞こう、私と共に行くのか?」

 

「父さん。俺は・・・俺は“俺の道”を行く!」

 

「“お前の道”だと?」

 

「父さんの言うとおり、人の世界は“雑音”だらけだ。でもそんな世界でも真っ直ぐで清らかな音を奏でている人達がいる。世界には嫌、人にはまだ“希望”が・・・“可能性”があるんだ!誰もが内に秘めた“可能性”と言う“光”。その“光”がある限り人の世界を地上をそこに生きる人々を守り抜く!俺は“希望の闘士”、聖闘士だから!!」

 

イリアスは我が子の迷いない瞳を見ると一瞬微笑むがすぐに冷徹にレグルスを見据え拳を構える!

 

「ならば掛かってこい。ここで私を越えられぬ者が“その先”に行くことなどできはしない!」

 

レグルスも拳を構える!

 

「父さん。俺は父さんにはなれないけど、父さんを越えて皆を守り抜いて見せる!」

 

レグルスとイリアスの小宇宙が爆発的に燃え上がり二人は獅子座の最大の技を繰り出す!

 

「「『電光雷光<ライトニングプラズマ>!!』」」

 

無数の光の閃光が二人の間でぶつかり弾ける!

 

互角の力がぶつかり辺り一帯を吹き飛ばす!だが!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

 

レグルスが更に小宇宙を高めるとなんとレグルスの聖衣の“姿が変わった”!?腕が足が胴体がマスクがその姿を変えた!?

 

レグルスの技がイリアスの技を押し返す!

 

レグルスの閃光がイリアスを飲み込もうとする!するとイリアスは微笑み。

 

「良し・・・レグルス・・・それで良い・・・心のままに生きなさい・・・」

 

「ッ!?父さん・・・・・・」

 

「自然のままに、己の心のままに、自由に生きなさい。私は何時でも風の中にいる。大地の中にいる。お前の傍にいる」

 

「父さん・・・ッ!・・・」

 

レグルスの瞳から涙が止めどなく流れる。

 

「必ず守り抜け、“この世界”を・・・今こそお前は“真の獅子座の黄金聖闘士”だ・・・」

 

レグルスの閃光がイリアスごと“まやかしの世界”を飲み込んだ!

 

「ッッ父さあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんッッ!!!!!!」

 

崩壊する世界と共にレグルスが涙を流しながらの慟哭が響いた。

 

 

ー異次元空間ー

 

異次元空間にまで響いた歌声にエルシドとデジェルも反応した。

 

「エルシド、今の歌は?」

 

「リディアンの校歌だ。何故異次元空間にこの歌が?」

 

ビキビキ!

 

「「!?」」

 

首を傾げていた二人の後ろにあった“モルペウスの門”が突然皹が走り門が砕けた!

 

「・・・・・・」

 

「「レグルス!!」」

 

砕けた門からレグルスが現れた。顔を上げたレグルスを見た瞬間デジェルとエルシドは何かあった事を察した。レグルスの顔には一切の“迷い”が無くなっていたからだ。

 

「ごめんエルシド、デジェル。寝坊しちゃったな」

 

「相方の悪い癖が写ったか?」

 

「兎に角無事で何よりだ」

 

お互いに無事を確かめ合った三人は歌の次に来た強い波動を感じた。

 

「この波動は響だ」

 

「翼の波動も感じるな」

 

「クリスのもだ。どうやらまだ戦いは続いているようだな」

 

レグルス達は頷き合うと波動の感じる場所<出口>へと向かった。

 

「翼達の波動が今までとは比べ物にならない程高まっている」

 

「これなら俺達が着く前に響達がフィーネを倒しちゃうかもな」

 

「・・・・・・・・・」

 

爆発的に進化した奏者達に安心感を抱くレグルスとエルシド。だがデジェルは少し浮かない顔をしていた。

 

「どうしたデジェル?気になることでもあるのか?」

 

「あ、いや・・・」

 

「ここまで来て隠し事は無しにしようよデジェル?」

 

「・・・・・・フィーネのアジトを調べた時、ある研究結果を見たのだ」

 

「研究結果?何が書かれていた?」

 

「・・・・・・・・・」

 

「デジェル」

 

レグルスとエルシドに言われデジェルも観念したかのように呟く。

 

「“ネフシュタンの鎧と黄金聖衣の融合“と書かれていた」

 

「「!?」」

 

デジェルの言葉にレグルスとエルシドは驚く!

フィーネの纏うネフシュタンの鎧は“装着者を喰らう”危険性がある鎧だと言う事は知っていたがまさか黄金聖衣をも取り込む事が出来るとは思わなかったのだ。

 

「なるほど、フィーネが我々の黄金聖衣を狙っていたのはネフシュタンの鎧に喰わせその力を得ようとしたからか」

 

「でも、黄金聖衣は俺とエルシドとデジェルとアスミタのしかないじゃないか、そんな研究結果どうやって出したんだよ?黄金聖衣は・・・・・ ・ッまさか!」

 

「!」

 

言っている途中でレグルスは察した!エルシドも察したのだ!

レグルスの獅子座<レオ>、エルシドの山羊座<カプリコーン>、デジェルの水瓶座<アクエリアス>、アスミタの乙女座<ヴァルゴ>の他に黄金聖衣があったのだ!

 

「そう言うことだレグルス」

 

デジェルは肯定と云わんばかりに頷く。

 

「・・・・・・いそごう!」

 

「「(コクン)」」

 

三人は異次元空間を飛ぶ!フィーネが奏者達に“切り札”を使う前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでにします。次回はシンフォギアをまたはしょり更に響達をかなり虐めるかもしれません。ファンの皆々様に前もって謝罪しますm(__)m


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『悪』に染まりし・・・

前半は文章になります。申し訳ありませんm(__)m


その姿はまさに奇跡の姿。未来と仲間達が、自分達を信じ支えてくれる人達が起こした奇跡。響が、翼が、クリスが、白を基調としたそれぞれのパーソナルカラーが混じったギアを纏う。

響の背中のパーツからオレンジの翼を翼は踵と足パーツから水色の翼をクリスは腰から赤い翼を囃し夜明けの世界に佇む。そして響が吼える!

 

「シンフォギアーーーーーーーーーーー!!」

 

*

 

その勇姿をモニターで確認する一同。少女が歓喜の声を挙げる。

 

「お姉ちゃん達カッコいい!」

 

弓美や創世と詩織も喜びの声を挙げる。

 

「やっぱあたしらが着いてないとダメだな♪」

 

「助け助けられてこそナイスです」

 

「私達も一緒に戦ってるんだ!」

 

笑い会う友達を一瞥した未来を微笑みながら頷く。アスミタも持ち前の感性で響達の進化を感じた。

 

「(これが“欠片”とは言え人の身が引き出した“神の武具”の力なのか?)」

 

*

 

『シンフォギアXD<エクスドライブ>』

高レベルのフォニックゲインで限定解除されたシンフォギア。

 

それを纏う響達にフィーネはソロモンの杖からノイズを生み出した。

フィーネはノイズをバラルの呪詛により相互理解を失った人類が同じ人類を殺戮する為に生み出された自律兵器と言う。

バビロニアの宝物庫に封印され何千年かの周期で現れるノイズをフィーネは人為的に解放していたのだ。

フィーネの言葉を理解できなかった奏者達だがフィーネは更に大量のノイズを生み出し街に放った!街に溢れる程の小型や大型や飛行タイプとノイズの見本市と言わんばかりにの大量のノイズを生み出した!

 

響達は街へ向かいノイズの迎撃に向かう。“戦いの歌”を歌いながらたった三人で何千何万といるだろうノイズに果敢に挑む。限定解除されたシンフォギアの力は凄まじく、たった数分でノイズ達を全滅させた!

 

だがフィーネは自分の腹部にソロモンの杖を突き刺した!そしてフィーネの身体から触手のようなものが生えてなんとソロモンの杖を取り込んだのだ!

するとまだ残っていたノイズがフィーネの身体に集まった。しかし“ノイズがフィーネを取り込んでいる”のではなく“フィーネがノイズを取り込んでいる”のだ!

そしてフィーネは取り込んだノイズの塊をカ・ディンギルのエネルギー炉にされていた“デュランダル”を取り込んだ!地面を突き破り現れたのは剣の形をした塔のような竜のようなノイズ。

 

黙示録にある“赤き竜 ヒウンペイパル”。

 

そのノイズが放ったエネルギー波が街を焼く!その塔のようなノイズの中心部にフィーネはいた。

 

フィーネとの最終決戦がはじまるが大量のノイズと完全聖遺物を取り込んだフィーネに苦戦する奏者達、だが奏者達は“策”を実行する。翼とクリスが先行する翼が『蒼ノ一閃 滅破』を放ち中心部に亀裂を生みその亀裂からクリスが突入しフィーネに弾幕を叩きつける!ダメ出しに翼が斬撃を叩き込み。“デュランダル”をフィーネから引き剥がす!

飛んで来た“デュランダル”を響が掴み再び“デュランダル”に意識を飲み込まれそうになる響。

すると避難シェルターから未来達が出てきた。

 

弦十郎が。

 

「正念場だ!踏ん張りどころだろうが!」

 

緒川が藤尭が友里が

 

「強く自分を意識してください!」

 

「昨日までの自分を!」

 

「これからの自分を!」

 

暴走しそうな自分に抗いながら響は皆の声を聴く。

 

「(み、皆・・・)」

 

翼とクリスが響を支える。

 

「屈するな立花!お前の覚悟、私に見せてくれ!」

 

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ!お前が自分を信じなくってどうすんだよ!」

 

詩織が弓美が創世が。

 

「貴女のお節介を!」

 

「あんたの人助けを!」

 

「今日はあたし達が!」

 

再生させたフィーネが触手を伸ばし攻撃するが奏者達のバリアが防ぐ。響が“デュランダル”に完全に飲まれそうになる。

 

「ヴオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!」

 

響の頭にアスミタの念話が走る。

 

「(これで終わりかガングニール?お前の“守りたい人”がお前を応援しているぞ)」

 

「響ーーーーーーーーーー!!」

 

響の守りたい人<未来>が声を上げ“デュランダル”に呑まれそうになった響にその声が届いた!

 

「(ッ!・・・・・・そうだ・・・今の私は・・・私だけの力じゃない!)」

 

「ビッキー!」

 

「響!」

 

「立花さん!」

 

「・・・・・・」

 

未来達が見守る。

 

「(そうだ・・・この衝動に・・・塗り潰されてなるものか!!!)」

 

黒く染まった響の身体が元に戻り響の身体が光輝き“デュランダル”の刀身が天高く伸びる!

 

「その力・・・何を束ねた!?」

 

「響き合う皆の歌声がくれた。シンフォギアだーーーーーーーーーーーーー!!」

 

光輝く“デュランダル”を振り下ろす。

 

『Synchrogazer』

 

振り下ろされた刀身がノイズを断ち切る!

 

「“完全聖遺物の対消滅”か・・・・・・・・・聖遺物ごとき玩具を相手に“コレ”を使う事になるとはな」

 

フィーネは念話であるノイズを呼ぶ。

 

チュドオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!

 

斬られた巨大ノイズが大爆発を起こした。

奏者達が地面に降り立つ。

 

「響・・・「待て未来くん」司令さん?」

 

「・・・・・・」

 

響の元に向かおうとする未来達を弦十郎達が止める。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

響と翼とクリスも戦闘体勢を解いていなかった。三人は見たのだ“馬型ノイズ”に乗って脱出したフィーネを。元のネフシュタンの姿になったフィーネは“馬型”に跨がりながら降り立った。

 

「まさか、シンフォギアのような玩具にこの私が遅れをとるとはな」

 

フィーネは忌々しいと云わんばかりに奏者達を睨む。響はフィーネに向かって口を開く。

 

「了子さん、もうやめましょう。これ以上の戦いなんて・・・」

 

「・・・・・・フフフ、何処までも甘い」

 

「(何故笑っている?)」

 

「何笑ってやがるフィーネ!お前はもうおしまいなんだよ!とっととデジェル兄達を返しやがれ!」

 

肩を振るわせながら笑うフィーネの態度を怪訝そうに見つめる翼。クリスはフィーネに詰め寄ろうとするが“馬型”がフィーネを守るように立ち塞がった。

 

「立花、雪音、アレをただのノイズと思うな。レグルスやエルシドの攻撃を防いだノイズだ。油断はできん」

 

「「はい/わーてるよ」」

 

構える奏者達をよそにフィーネは“馬型”を見つめ語りかける。

 

「ノイズよ。お前には助けられた事が多くあったな。だが、お前に預けていたものを返してもらうぞ!」

 

ザシュッ!

 

『ッ!?』

 

奏者達だけでなく弦十郎達も驚いた!フィーネが突然“馬型”の首を切り裂いたのだ!驚く一同を無視しフィーネは“馬型”の胴体に手を突っ込み“何か”を引っ張り出す!

 

「んだアレ?」

 

「アレって・・・聖衣レリーフ?」

 

「ッッ!?(あ、あれは!)」

 

『ッ!?』

 

フィーネが“馬型”から取り出したのは聖衣レリーフであった。

響とクリスは首を傾げて見つめるが翼と弦十郎、緒川と藤尭と友里の顔が驚愕に染まった!その聖衣レリーフに描かれた紋章に。

 

そして、脳裏に“ある人物”が浮かぶ。大きく頼もしく優しい背中、常に皆の支えになった男の背中を。

 

「な・・・何故“それ”を・・・何故“それ”を貴様が持っているフィーネ!!」

 

突然翼が激昂する。響とクリスは驚き今にもフィーネに斬りかかりそうな翼を抑える。

 

「翼さん!どうしたんですか!?」

 

「なにやってんだよ!?」

 

「離してくれ!あれはっ!“シジフォス”の!“射手座<サジタリアス>”の聖衣レリーフだッ!!!」

 

「「え!/何!」」

 

翼の言葉に響とクリスは驚きながらフィーネの持つ聖衣レリーフを見る。

その聖衣レリーフには射手座の紋章が描かれていたのだ。

二年前ツヴァイウィングのライブ事件と同時に起こった日本海側と太平洋側で同時に現れた大型ノイズの迎撃の際“MIA<消息不明/任務中死亡>”になってしまった黄金聖闘士。レグルスの叔父にして弦十郎が認めた男であり奏の恋人。

 

射手座<サジタリアス>のシジフォスの聖衣レリーフであった!

 

「シジフォスって、レグルスくんの叔父さんの?」

 

「何でそれをフィーネが持ってんだ!?」

 

「教えてやろう」

 

驚く一同を見てフィーネは歪んだ笑みを浮かべて語り出す。

 

「運命だった・・・まさに運命だったのだ。あの日、ライブ会場にノイズの大軍を出す為に私は黄金聖闘士共を引き離す為に日本海と太平洋側にノイズを出し射手座<サジタリアス>と山羊座<カプリコーン>を分断させた。だが、“あの国”が突然弾道ミサイルを撃ったのは私にとっても計算外だった。そのせいで射手座<サジタリアス>が消息不明になった時は肝を冷やしたぞ。忌々しい女神が生み出した唯一の功績と言っても良い完全聖遺物の黄金聖衣を失ったと思ったのだからな。1ヶ月にも及ぶ射手座<サジタリアス>の捜索の際、私は見つけた、見つけたのだ!捜索本部が設置された岬の近くの洞窟で見つけたのだ!主を失い!悲しみに暮れるように佇む傷だらけの射手座<サジタリアス>の黄金聖衣を!」

 

まるで吟遊詩人の話のようにフィーネは射手座<サジタリアス>が見つけた時の状況を仰々しく語る。

 

「まさか、捜索本部の近くに射手座<サジタリアス>の黄金聖衣があったとは・・・」

 

「今までの戦いで出さなかったのは、対黄金聖闘士の為にとっておいたのですね」

 

弦十郎と緒川はフィーネの切り札に驚いていた。

 

「了子さん!それをどうする積もりなんですか!?それはレグルスくんの叔父さんの聖衣ですよ!」

 

「ッ!まさか・・・」

 

クリスの脳裏に以前デジェルと共にフィーネのアジトで見つけたフィーネの“研究結果”を思い出した。

 

「フフフ、どうする積もりだと?こうするのだ!!!」

 

『ッ!?』

 

フィーネは聖衣レリーフを頭上に投げ飛ばす。

 

「二年の月日を越え姿を現せ!黄金に輝く人馬よ!その太陽の輝きを愚か者共に見せるのだ!!」

 

聖衣レリーフがフィーネの言葉に反応してレリーフから聖衣匣<クロスボックスorパンドラボックス>へと姿を変え匣が開くと幾つもの光が飛び出す!光は一ヶ所に集まり形を作る!太陽のように燃え翼を持ち弓矢を構えた人馬の形をした炎の塊へと!

 

「何をするつもりだ?」

 

「“取り込”むつもりだ・・・」

 

「クリスちゃん?」

 

「フィーネはネフシュタンの鎧に黄金聖衣を取り込ませるつもりなんだ!!」

 

「「え!?/何だと!?」」

 

フィーネは四本の鞭で“射手座”の形をした炎を包み込む!

 

「さぁ!ネフシュタンよ!今こそ太陽を喰らいその輝きを我が物とせよ!!」

 

聖衣を包み込んだ鞭が光輝き伝達してフィーネの身体も光輝く!まるで太陽のように!

 

『ッ!!!???』

 

余りの輝きに奏者達や未来達も目を閉じる。そして光が収まったのか目を開く一同はフィーネの姿を刮目する。

 

「ッ!」

 

「何ッ!」

 

「マジかよ!」

 

「バカな!」

 

「あれは!」

 

「なんなのあれは?」

 

そこにフィーネが立っていた。ネフシュタンの鎧は金色から太陽のように輝く黄金に変わり射手座<サジタリアス>の趣向が入ったような装飾が施され背中には黄金の翼を装備し、左手には大きな黄金の弓を携え、頭にはサジタリアスのヘッドギアが装備されていた。

 

「光栄に思え奏者共、獅子座<レオ>達に使う予定だった“切り札”を貴様らごときに使ってやることをな」

 

「ッ!!!」

 

「翼さん!」

 

「おい!」

 

翼はフィーネの姿を確認すると刀を巨大化させてフィーネに斬りかかる!

 

「フィーネ!返してもらうぞその聖衣を!それは貴様の道具に使われるものではない!」

 

翼は許せなかったのだ。戦友であり片翼の恋人の魂と言っても良い聖衣を自らのエゴの為に利用しようとするフィーネが許せなかったのだ!

だがフィーネは斬りかかる翼を冷めた目で見つめ。

 

「・・・・・・」

 

なんとフィーネは四メートルはあるであろう翼の大太刀を“指二本”で白羽取りした!

そして手首を少し捻ると翼の大太刀が粉々に砕けた!

 

「何・・・だと?」

 

「脆いな」

 

ドガッ!!

 

「ッ!?」

 

呆然とする翼の目の前に“一瞬”で移動したフィーネは翼の無防備になった腹部に膝蹴りをし吹き飛ばした!翼は上空に飛ばされるが響とクリスが翼を受け止めた!受け止めた反動で響とクリスも少し飛ぶがなんとか踏みとどまる。

 

「翼さん!しっかりしてください!」

 

「ゲホッ!グホッ!ガハッ!」

 

内臓と骨にダメージがいったようで血を吐きながら咳き込む翼。

 

「フィーネ、てめえ!!」

 

「クリスちゃん!」

 

翼を響に任せクリスは武装を展開しガトリングやミサイルの弾幕をフィーネに叩き込む!

 

「たかが弓一本じゃこの弾幕は防げねえだろ!」

 

だが弾幕の雨を貫いてレグルスの『ライトニングプラズマ』のような閃光がクリスに襲いかかる!

 

「嘘・・・だろ?」

 

唖然とするクリスは幾つもの閃光が、フィーネの拳が、その身体に叩き込まれた!

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

何千何万の拳を受け続けたクリスはギアがほぼボロボロの状態で地面に落下する!

 

「クリスちゃん!!」

 

「ゆ、雪音・・・」

 

翼を支えながらクリスの元に行く響。

 

「・・・う・・・ぐ・・・くそ・・・」

 

意識はあったがまともに身体が動かない程のダメージを負っていた。

響達は弾幕で土煙が上がったフィーネのいた場所を見るがそこには“無傷”のフィーネが悠然とこちらに向かってきた。

 

「くそったれ・・・無傷だなんて・・・」

 

「・・・・・・」

 

響は翼をクリスの隣に下ろしデュランダルを地面に突き刺した。

 

「立花・・・無理だ・・・フィーネは最早・・・我々とは違う次元の強さを得てしまったのだ・・・」

 

「バカ・・・死にたいのかよ・・・」

 

「でも・・・ここで了子さんを止めなきゃならないんです!だから・・・あたしが戦います!」

 

そう言ってフィーネに突っ込む響!無防備に悠然と歩くフィーネの腹部に拳を繰り出す!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ドガンッ!!

 

フィーネの腹部に拳をぶつけた響。だが。

 

ビキビキビキ!

 

「うッ!うああああぁぁぁぁぁ!!」

 

なんと攻撃した響の腕のアーマーに亀裂が走った。響は傷付いた右手を左手で抑える。

 

「な、何で?攻撃した私の腕にダメージが?」

 

戸惑う響の頭に手を乗せるフィーネ、フィーネは冷めた口調で語る。

 

「簡単な事だ。このネフシュタンの鎧は黄金聖衣を取り込んだ事により破格の防御力を得たのだ。余りの防御力に貴様の腕は自らの力の反動で砕けたのだ」

 

「ッ!!!」

 

グシャッ!!

 

フィーネはそのまま響を頭から地面に叩きつける!

 

「ッ!・・・うっ!・・・」

 

「まだ動くか?」

 

フィーネは立ち上がろうとする響の頭に足で軽く踏んで押さえる。

 

「うぐぐぐぐぐ!!」

 

「どうした?私を止めるのであろう?さっさと立ち上がってこい」

 

嘲るような口調で語るフィーネ。響は立ち上がろうとするがフィーネの足を退かすこともできなかった。

 

「うッ!うううぅぅぅぅぅぅぅッッ!!」

 

歯を食い縛りながら立ち上がろうとする。しかしどれだけ力を込めてもフィーネはピクリとも動かなかった。

 

「・・・・・・フゥ、所詮この程度か・・・」

 

期待はずれと云わんばかりにため息を溢すフィーネは響の頭から足を退け。

 

ドウッ!!

 

「ぐはッ!!」

 

響を蹴り飛ばし翼やクリスのいる所に倒れた。

 

「た、立花・・・」

 

「しっかり・・・しろ・・・」

 

「うっ!・・・くっ!・・・」

 

ほぼ虫の息状態の奏者達を死にかけの虫けらを見るような目で見ながらフィーネは語る。

 

「これで分かったであろう?所詮貴様らごとき有象無象が力を合わせ、力を束ねた所で。“圧倒的な力”の前では全くの無意味なのだ!」

 

「おのれぇ・・・」

 

「フィーネ・・・」

 

「そんな事ない・・・皆で力を合わせればどんな事だって・・・」

 

「口先だけならなんとでも言える。だが貴様らは私に勝つどころかまるで相手になっておらんではないか?どれだけ言葉を尽くしても綺麗事を並べても“結果”が全て語っているわ・・・フフフフフフハハハハハハハハハハハハハハ、アーハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

「くっ・・・」

 

「チクショウ・・・・・・」

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

高笑いを上げるフィーネに奏者達は悔しそうに涙を浮かべる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(・・・・まだか、仕方ない。私が出るか・・・)」

 

盲目の闘士が動く。

 




今回はここまで。

シンフォギアファンの皆様、奏者達を虐めまくって申し訳ありません!

次回はシンフォギア世界に聖闘士要素をこれでもかとぶっこみます!


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世界の真実

シンフォギア世界に聖闘士要素をかなり入れます。

オリジナル設定です避難中傷マジ勘弁。


『圧倒的』

 

射手座<サジタリアス>の黄金聖衣をネフシュタンに取り込んだフィーネの強さは表現するならその一言で十分だった。

 

単純な“強さ”。

 

“策略”も“戦術”も“戦略”も何一つ無く、 只々単純かつ純粋な“力と強さ”、それ故に人々に恐怖と畏怖を抱かせる。

響が翼がクリスが、限定解除<エクスドライブ>した奏者達が手も足も出ない現実に“希望”を抱いた未来達に再び“絶望”を抱きそうになる。

 

「あ、圧倒的すぎるよ・・・」

 

「これ程までに力の差があるなんて・・・」

 

「反則だよ・・・こんなの」

 

「・・・・・・・・・」

 

創世が詩織が弓美がフィーネの強さに圧倒され、未来も悔しそうに手を握っていた。

 

「射手座<サジタリアス>の黄金聖衣を取り込んだ事によりフィーネは、最早我々の手に負える存在ではなくなってしまった」

 

「シジフォスの聖衣をこんな事に利用されるだなんて」

 

弦十郎と緒川も盟友の聖衣を利用するフィーネを睨み、藤尭と友里も歯痒そうにしていた。

 

そして射手座<サジタリアス>の力を得たフィーネは恍惚とした表情を浮かべる。

 

「素晴らしい・・・何と素晴らしい力か・・・この力があれば『カ・ディンギル』など必要無い!すぐに獅子座<レオ>か山羊座<カプリコーン>か水瓶座<アクエリアス>のいずれかを呼び戻し、一人一人から黄金聖衣を奪いネフシュタンに取り込めば、4つの黄金聖衣を取り込んだネフシュタンならば月を破壊する事等造作も無い!」

 

誰を呼び戻すかと悩んでいるフィーネは奏者達などもう眼中に無いと云わんばかりであった。響達は悲鳴を上げる身体に鞭打ちながら立ち上がろうとする。

 

「ま、待って・・・」

 

「我々は・・・まだ・・・戦えるぞ・・・」

 

「勝手に・・・勝った積もりになってんじゃ・・・」

 

だがフィーネは奏者達に一瞥し。

 

「これ程まで力の差を見せつけられてもまだ抗うと言うのか?ここまで来れば滑稽や無様を通り越して哀れみすら感じるな」

 

全く感情の籠っていない声に死にかけの虫けらを見るような冷酷な目でフィーネは奏者達を見る。

 

「良いだろう、その無様かつ滑稽な姿に免じてこれで終わらせてやる」

 

フィーネは上空に跳び構えた。そしてフィーネの背中に装備された黄金の翼が動く!

 

「あの構えは!」

 

「不味い!あれは!」

 

その構えを見た瞬間、弦十郎と緒川達は驚愕に染まり。翼もそれに気付いた。

 

「あ、あれはシジフォスの・・・」

 

「風鳴翼よ。せめてもの慈悲だ、戦友の技で黄泉路に旅立つが良い。黄金の旋風よ!我が前に蔓延る有象無象を凪ぎ払え!」

 

フィーネが技を放つのと同時に黄金の翼が動く!それはシジフォスが編み出した邪悪を振り払う技!

 

「『ケイロンズライトインパルス』!!」

 

フィーネから放たれた黄金の旋風が奏者達を呑み込もうとする!

 

「おのれ、おのれェェェェェェ!!」

 

「フィーネェェェェェェェェェェェェ!!」

 

「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

防ぐ事も技を放つ余力すら残っていない奏者達は黄金の旋風に巻き込まれその姿を消した。

 

「響いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

未来の叫びが辺りに響いた。

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

 

上も下も、右も左も無い異次元空間で響達の気配を探っていたレグルス達は“小宇宙”を感じた。

 

「!!この“小宇宙”は・・・」

 

「シジフォスの“小宇宙”に似ているがフィーネの気配が混じっている?」

 

「どうやらフィーネは“切り札”を使ったようだ」

 

「響達、大丈夫かな?」

 

「分からん。だが向こうには“アイツ”がいる」

 

エルシドがそう言うとレグルスとデジェルもフッと笑うが突然自分達の頭に件の人物からテレパシーが届いた。

 

「エルシド、デジェル、今・・・」

 

「あぁ、“アイツ”から連絡が来たな・・・」

 

「どうやらフィーネに問い詰めたい事があるようだな。我々にも関係している事のようだ」

 

 

 

 

 

*

 

 

 

 

 

「何だこれは?」

 

フィーネは戸惑った。奏者達も。

 

「これって?」

 

「どういう事だ?」

 

「我々は『ライトインパルス』に呑み込まれた筈?」

 

『・・・・・・・・・』

 

「未来、どうしたの?」

 

「響、あれ」

 

未来達や弦十郎達も唖然としていた。フィーネの放った『ケイロンズライトインパルス』が奏者達を呑み込まれる寸前、奏者達はいきなり消え未来達の近くに現れたからではない。

響達も未来が指差した方へ目を向けると唖然とした。未来が指差したのは未だ空中に佇むフィーネだがフィーネの“立っている場所”に驚いた。

 

「う、嘘・・・」

 

「あたし、夢でも見てんのか?」

 

「フィーネが、“大仏の手のひらの上”にいる!?」

 

フィーネは今大仏の手のひらの上に佇んでいた。

 

「どうなっている?何故私は大仏の手の上にいるのだ?」

 

「それはなフィーネよ。君は所詮“その程度”の存在だからだ」

 

「何だと!?ま、まさか貴様は!?」

 

大仏の顔の前にその人物が現れた。レグルスとエルシドやデジェル、フィーネが取り込んだ射手座<サジタリアス>の黄金聖衣と異なる黄金聖衣を纏う金糸の長髪に盲目の聖闘士。

 

「我が名をアスミタ。戦女神アテナに使える黄金聖闘士が一人、乙女座<ヴァルゴ>のアスミタ!」

 

「五人目の黄金聖闘士・・・」

 

「アスミタって未来が前に言っていた・・・」

 

「アスミタ・・・アイツ、黄金聖闘士だったのか?」

 

奏者達は突然現れた黄金聖闘士に驚き、フィーネもまた“あの”乙女座の黄金聖闘士が現れた事に内心驚きを隠せなかったが。

 

「まさかこのような場所で貴様と出逢うとはな乙女座<ヴァルゴ>よ。これで得心がいった。学園の襲撃の際の人的被害が全く無かったのは、貴様が奴等を守っていたからか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

フィーネの問いにアスミタは無言になるが未来と弦十郎達を除く人々や奏者達は驚いた。あの黄金聖闘士はたった一人で学園にいた人々を守っていたのだ。

 

「しかしこれは行幸とも言えるな。ギリシャ神話の闘士でありながら異教の教えを持つ異端の聖闘士にして、黄金聖闘士の中でも飛び抜けた小宇宙を持ち“地上で最も『神』に近い男”と呼ばれる乙女座<ヴァルゴ>の黄金聖闘士を倒し、乙女座<ヴァルゴ>の黄金聖衣を取り込めば我がネフィシュタンは更なる進化を遂げる!」

 

そう言うとフィーネは水晶の鞭から響達の時と同じ大量のノイズを生み出しアスミタにけしかける!

 

「アスミタさん!」

 

未来は悲鳴を上げ、奏者達もダメージで動け無かった。誰もがアスミタがやられると思ったがアスミタは超然とし人差し指を立てるとそこに光の玉が生まれた。

 

「無駄な事をする。『降魔印』!」

 

アスミタが指を振るうと大量のノイズ達とフィーネが全て地に落ちた!

 

「何!?バカなああああぁぁぁぁぁ!!」

 

地に落ちたノイズ達はそのまま潰れて消滅したがフィーネは身動きが取れずにいた。

 

「『降魔印』。この印は君たちのような仏敵を地に伏せる仏印よ」

 

先程まで奏者達を圧倒していたフィーネを簡単に地に伏せさせたアスミタの力に奏者達と未来達が驚く。

 

「響達が手も足も出なかった人を呆気なくのしちゃった」

 

「す、凄すぎ」

 

「小日向さん、この方は一体?」

 

驚く皆を無視しアスミタはフィーネに近づく。

 

「さて、フィーネよ。私の問いに幾つか答えてもらおうか?」

 

「と、問いだと?」

 

「君が人である事を捨て数千年の時を航る存在ならば、私の問いに答えられると思ってな」

 

「貴様の問いに答えて私に何の益がある?」

 

「このまま君を滅するのは簡単だ、だが私はこの世界いや今我らが纏う聖衣に幾つかの“疑問”を抱いている。フィーネよ、君が私の問いに答えないならばこのまま君を滅する。だが答えるならば反撃の手立てが思い付くまで待っていてやろう。どうだ?」

 

傲慢とも取れるほぼこちらに選択の余地の無い交渉にフィーネは歯ぎしりをするが他に手立てが無い以上、頷くしかなかった。

 

「アスミタは何を聞くつもりなのだ?」

 

弦十郎達や奏者達や未来達が疑問を浮かべるがアスミタは『降魔印』を少し弱めてフィーネが片膝ついた状態にして話を始める。

 

「まずは我々が纏っている“聖衣”についてだ」

 

「聖衣についてだと?(まさかコイツ、気付いたのか?)」

 

「この“聖衣”は“我々が元々いた世界”から“この世界”にやって来た訳ではないな」

 

「えっ?どういう事?」

 

「“元々いた世界”とは?」

 

「ヒナは知ってる?」

 

「アスミタさんは“平行世界<パラレルワールド>”からやって来た人なの」

 

「“平行世界<パラレルワールド>”って、そんなアニメみたいな」

 

戸惑う弓美達を無視し、フィーネが口を開く。

 

「何故その“聖衣”が自分達の“聖衣”でないと言えるのだ?」

 

「・・・・・・簡単な事よ、私もシジフォスもレグルスもエルシドもデジェルも本来ならば“死んだ筈”の人間なのだ」

 

『!?』

 

フィーネと弦十郎以外はアスミタの言葉に驚いた。今目の前にいる人間が実は“死んだ筈”の人間だと言われれば驚かない方がおかしい。

 

「師匠、本当何ですか?レグルス君達が本当は“死んだ筈”の人間って」

 

「・・・・・・・・・」

 

「叔父様・・・」

 

「おっさん」

 

奏者達の問いに弦十郎は口を重く話す。

 

「本当だ。彼等は、自分達が元々いた世界では冥王<ハーデス>との聖戦の真っ只中だった。その聖戦の折りシジフォスもレグルス君もエルシドもデジェル君も命を落とした筈だったとシジフォスやエルシドから聞いていた。恐らくアスミタも本来は“死んだ筈”だったのだろう」

 

『・・・・・・・・・』

 

元の世界で聖戦をしていた事は知っていたがまさか、死んだ筈の人間だった事に奏者達と二課の面々そして未来は驚きを隠せなかった。

 

「私はこの世界で目を覚ました時、この聖衣が私の近くに置いたあった。我々の世界の聖衣が私を追ってきたのかと思ったが、我々の聖衣は匣の姿にはあるがレリーフの姿ではなかった。さらにこの聖衣を纏った時に“違和感”を感じた。“聖衣ではある”が“我々が纏っていた聖衣”ではないと言うの違和感がな」

 

「どういう事?」

 

「多分ですが、“今まで着ていた服”と“新しく着た服”とでは柄やメーカーは同じでも“違いが分かる”のがありますよね。それと同じでは?」

 

首を傾げる響の問いに緒川が解説する。

 

「そして平行世界の人間である筈の奏者達に何故“守護星座”が宿っていたのか」

 

「えっ?翼さんだけじゃなく私やクリスちゃんも?」

 

「ガングニールに子馬座<エクレウス>、天羽々斬に鶴座<クレイン>、イチイバルに冠座<ノーザンクラウン>の“守護星座”が宿っていた(小日向未来には琴座<ライラ>であったが)。何故平行世界の奏者達が“守護星座”を宿していたか、この事実から私は一つの仮説が生まれた」

 

「(やはり気付いたか・・・)」

 

「フィーネよ、我々が纏う聖衣は“我々のいた世界の聖衣”ではなく、“この世界に元々あった聖衣”ではないのか?」

 

「・・・・・・・・・フフフ」

 

フィーネはアスミタの問いに顔を俯かせるが、やがて肩を震わせながら笑う。

 

「さすがは乙女座<ヴァルゴ>の黄金聖闘士だ、よもや気付いていたとは。その通りだ。いたのだよ。この世界に神話の神々や地上の戦女神アテナ、そしてアテナを守る聖なる闘士、聖闘士がな」

 

『!?』

 

フィーネの答えに奏者達と二課の面々が驚く。

 

「まさか」

 

「いたと言うのか?」

 

「あたし達の世界に聖闘士が?」

 

驚く奏者達をよそにフィーネは淡々と語る。

 

「遥か遠い昔、私が人の身を捨て初めての覚醒をした時代、その時代では私の生きた時代からざっと二千年近くの月日が流れていた。その時代では冥王との聖戦の真っ只中であり私は聖闘士の総本山聖域<サンクチュアリ>の白銀<シルバー>聖闘士として一応アテナに使えていた。

初めは驚いたぞ、まさか私が“あのお方”から地上の管理を任された女神に使える事になるとはな。そして私は聖域<サンクチュアリ>の白銀聖闘士として聖戦に参加していた。だが冥王との聖戦も佳境に入った時、あの愚かな女神が愚行を起こした」

 

「愚かな女神、アテナの事か?アテナが何をした?」

 

アスミタの問いにフィーネは忌々しいと言わんばかりに語る。

 

「あの女神はあろうことか、冥王と“話し合い”で戦いを終わらせようとしたのだ。その為に聖闘士達の指揮官である教皇を連れだってな」

 

「(フィーネは“嘘偽り”は言ってはいないか)」

 

アスミタは持ち前の感性からフィーネの言葉に嘘偽りが無いことを覚っていた。

響達もフィーネの話しを黙って聞いていた。

 

「まったく、あの愚かな女神はバカな事をした」

 

「何でバカな事なの?“話し合い”で戦いを終わらせようとすることのどこがバカな事なの!?」

 

響がフィーネに噛みつくがフィーネは構わず語る。

 

「その為に女神は自らと教皇の命を断たれたのだ」

 

『!?』

 

「冥王は最初から女神と“対話をしよう”等と考えていなかった。むしろ好機と考えその剣で女神と教皇の命を奪ったのだ!」

 

「我々の世界のアテナは、冥王に殺された?」

 

「そんな、それじゃ地上は・・・」

 

「そうだ。聖闘士達は女神と教皇を失い失意と絶望の底に叩き落とされ、地上は冥王とその配下の神々や冥闘士達によって地上は第二の冥界にされた。生きとし生けるものは全て死んでいった。全てはあの忌々しくも愚かな女神の愚行によって!“あのお方”が創造された地上は冥王によって汚されたのだ!そんな中一人の黄金聖闘士が“時の神”の力で歴史を変えるために時を渡り過去へ向かったが、それも無駄な事になったがな」

 

フィーネの言葉の一つにアスミタは反応する。

 

「(“時を渡り過去へ向かった黄金聖闘士”、まさか・・・)」

 

「そして生き残った聖闘士達は冥王に対抗する為に“日本神話”、“中国神話”、“北欧神話”、“シュメール神話”、“クトゥルフ神話”、“ケルト神話”、“エジプト神話”、“古代アステカ神話”等の神々達と協力し、冥王を倒そうとした。だが冥王もまた、各神話の邪神達を自分の軍団に加えた。そして戦女神の姉である“月の女神”と地上の覇権を手に入れようと“海皇”も冥王を倒すために戦いに参戦した」

 

「何だか、話がとんでもないレベル何だけど・・・」

 

「私、頭がごちゃごちゃになりそ・・・」

 

「黙って聞きましょう」

 

弓美達は余りのスケールの大きい世界に参っていた。

 

「“月の女神”は聖闘士に協力したのか?」

 

「フッまさか、妹である戦女神を守れなかった聖闘士達も“月の女神”にとっては冥王と同じように唾棄すべき存在だった。元々“月の女神”は人間(取り分け男)を毛嫌っていたからな。地上は聖闘士達と聖闘士に協力する各神話の神々、冥王と冥王に従う各神話の邪神達、そして冥王と地上人間共を滅ぼそうとする“月の女神”と“海皇”の軍による戦争が起こった!大地は割れ、海は干からび、空は荒れ狂いまさに“ハルマゲドン”や“ラグナロク”と言った世界破滅の天変地異が巻き起こった!」

 

「フィーネよ。そして世界はどうなった?」

 

アスミタの問いにフィーネは答える。

 

「さあな。私もその大戦の最中に命を落としたのでな。だが三度目の目覚めで私は驚いた。数千年の月日が流れた世界はまるで大戦が無かったかのように文明が築かれ聖闘士の記述が全て無くなっていたのだからな。聖闘士も滅んだのかと思っていたわ。五年前まではな」

 

「(五年前!?俺がシジフォスとエルシドに初めて出会った日か・・・)」

 

「私は驚いた。まさか滅んだと思っていた黄金聖闘士と黄金聖衣が目の前に現れたのだからな!そして確信した!黄金聖衣を手に入れて人の身では到達できない“高み”に昇る時が来たとな!」

 

フィーネは『降魔印』を振りほどきアスミタに向かい拳を構える!

 

「話はここまでだ乙女座<ヴァルゴ>!貴様の黄金聖衣を貰うぞ!『インフィニティ・ブレイク』!!」

 

何億という光の矢のような姿をした拳がアスミタを襲うが。矢が届く前にアスミタの姿が霞のように消えて響達のいる所に現れる。

 

「アスミタさん」

 

「焦るなフィーネよ。私は君と戦う積もりは無い」

 

「何?」

 

「フィーネの正体にある程度気付いておきながらほとんど手を打っていなかった愚か者共の“尻拭い”をこれ以上するつもりは無い」

 

アスミタの言葉に二課の大人達(主に弦十郎)がグサッとまるでデュランダルに心臓を突き刺されたような衝撃が走った。

 

「(確かに、本来アスミタは“中立”の立場を貫こうとしていた。それを俺の甘さのせいで起こったリディアン襲撃の際の救助活動をアスミタがしてくれた。これ以上の事は確かにアスミタの言うとおり、大人の不甲斐なさの尻拭いだ)」

 

「安心しろ風鳴弦十郎、愚か者はお前だけではない」

 

「何?」

 

アスミタは奏者達を一瞥する。

 

「ガングニール、天羽々斬、イチイバル、ようやく彼等が戻ってきたぞ」

 

「えっ?」

 

「何?」

 

「それって」

 

アスミタの言葉に奏者達だけではなく未来や弦十郎達の顔に希望が浮かぶ。逆にフィーネの顔には驚きの色が浮かんだ。

 

「まさか、乙女座<ヴァルゴ>!貴様まさか!?」

 

「私の問いに答えてくれて感謝するぞフィーネ、お陰であ奴等が戻ってくる時間を稼げた」

 

ビキビキビキビキビキビキ!!!

 

すると突然皹が走る音が響く。奏者達が二課の大人達が未来達がそしてフィーネが音が聞こえる方へ目を向けると、なんと空に皹が入っていた!皹が入った空の内側から声が響く!

 

「『電光放電<ライトニングプラズマ>』!!」

 

「『聖剣抜刀<エクスカリバー>』!!」

 

「『極小氷晶<ダイヤモンドダスト>』!!」

 

皹の内側から雷光が、黄金の斬撃が、氷雪が突き抜ける!そして、向かう側から黄金に輝く戦士達が飛び出す!

奏者達の瞳に映るは希望の光を宿す黄金の戦士、絶望を焼き尽くすのように輝く3つの太陽!

 

「待たせたな!響ッ!!」

 

『獅子座<レオ>のレグルス』!

 

「遅れてすまない翼」

 

『山羊座<カプリコーン>のエルシド』!

 

「怪我はないかクリス?」

 

『水瓶座<アクエリアス>のデジェル』!

 

今、黄金の戦士達が戦場に帰還した!

 




今回はここまです。

分かる人は分かるかもしれませんが、実はシンフォギア世界は『あの聖闘士』が元々いた世界<時代>の遥か未来の世界だったのです!


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聖闘士の誇り

今回でレグルスを進化させるかも。


彼等は戻ってきた。“モルペウスの門”から、夢と言う名の偽りの世界から彼等は戻ってきたのだ!

 

「誰?あの人達?」

 

「アスミタさんのお仲間でしょうか?」

 

「何かアニメに出てきそうなヒーローみたい」

 

「お母さん!お母さん!カッコいいお兄ちゃんだよ!」

 

創世が詩織が弓美が響とレグルスに助けられた少女がその勇姿に目を輝かせる!

 

「全く、良い所で戻ってきやがって」

 

「最高のタイミングですね」

 

弦十郎と緒川がニヤリと笑い、藤尭と友里も微笑む。

 

「響、皆が・・・」

 

「うん、レグルス君・・・」

 

「エルシド・・・」

 

「お兄ちゃん・・・」

 

奏者達や未来の目頭に涙を浮かべた。彼女達の目の前にいるのは太陽のように輝く黄金の鎧を纏う戦士達、純白のマントを靡かせ悠然と歩くその姿はまさに勇者と呼ぶに相応しい!

 

「ぬう、まさか夢神の神具を打ち破ったと言うのか?人の身でその様な事が!」

 

フィーネは鞭から大型ノイズを大量に射出しレグルス達にけしかけるが。

 

ドカンッ!!

 

斬ッ!!

 

バキンッ!!

 

「「「邪魔だ!」」」

 

一瞬で粉々にし細切れにし氷結されて消滅する。まるでノイズなど眼中に無いと言わんばかりの姿はまさに“無人の野を行くが如く”!レグルス達はフィーネと対峙する。

 

「フィーネ、ずいぶん好き勝手な事をしたようだな?」

 

エルシドは刃のように鋭い殺気を放ち。

 

「我らが盟友の魂を汚し、クリス達を痛めつけたようだな」

 

デジェルは絶対零度の殺気を放つ。

 

「・・・・・・」

 

レグルスは無言だがその目は全く笑ってなかった。

 

「く、だがこちらは“完全聖遺物”を3つも所持しているのだ。貴様らに遅れはとらん」

 

構えるフィーネを見ながらレグルスは口を開く。

 

「エルシド、デジェル、頼むよ」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

エルシドとデジェルは少し考えると一瞬でフィーネの前から響達の側に行きエルシドは翼の生命点をデジェルはクリスの生命点を突く。

 

「エルシド?」

 

「大人しくしてろ翼」

 

「お兄デジェル兄ぃ・・・」

 

「痛覚を麻痺させるツボを突く、頑張ったなクリス」

 

「嫌二人共何してるんですか!?」

 

翼とクリスの応急措置をしようとするエルシドとデジェルに響がツッコム。

 

「何をしているだと?」

 

「立花君、君にもちゃんと応急措置をするから大人しくしていてくれ」

 

「じゃなくて!レグルス君一人にしてますけど!?」

 

この場にいる全員の意見を代弁するかのように響が叫ぶが。

 

「レグルスが戦うだろう」

 

「えっ?レグルス君一人で戦わせるんですか!?」

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「ありますよ!一人で戦うよりもエルシドさん達も一緒に戦えば」

 

一人で戦うよりも皆で力を合わせて戦う方が良いと考える響達だが、聖闘士達は。

 

「レグルスが一人でやると言っているんでな。俺達は手出ししない」

 

エルシドはキッパリと言い、デジェルもアスミタも頷く。

 

「どうして何ですか!?皆で戦えば」

 

「生憎だが立花君、これは我々“聖闘士の掟”でもある」

 

「“聖闘士の掟”?」

 

「“聖闘士は聖衣に装備される武装以外の武器を使ってはならない”。そして“聖闘士の戦いは基本一対一”だ。ましてや私達は黄金聖闘士だ多対一なんて戦いはしない」

 

「で、でも」

 

「立花、“仲間と共に戦う”のは確かにチームワークと呼べるだろう。だが“仲間を信じ仲間に託す”のもチームワークだ」

 

「・・・・・・」

 

「ガングニールよ。自分が助けに行くなどと考えない方が良い」

 

「アスミタさん」

 

「先程までフィーネに手も足も出なかった君が割り込んでもレグルスの足を引っ張るだけだ」

 

「「「・・・・・・」」」

 

事実、射手座<サジタリアス>の黄金聖衣を取り込んだフィーネにまるで歯が立たなかった奏者達は黙る。

 

「分かったならば良く見ておけ、レグルスの戦いをな」

 

全員がレグルスの方を見る。レグルスはフィーネと対峙していた。

 

「獅子座<レオ>よ。一人で私を倒すとでも言うのか?」

 

「フィーネ嫌了子。お前には感謝しているんだ」

 

「?」

 

「“モルペウスの門”でさ、俺は父さんに会った」

 

「貴様の父だと?」

 

「俺の父さんはさ、肺の病で死んだんじゃない。“殺されたんだ”」

 

「・・・・・・・・・」

 

『!?』

 

レグルスの話をフィーネは黙って聞いていたが響達(聖闘士達は除く)は驚いていた。

 

「俺はずっと父さんを探していた。父さんは自分は“風の中”に“大地の中”にいるって言っていたけど、俺は父さんを見つけられなかった。だからさ、たとえ夢の中でも父さんに会う事ができたからお前に感謝したいんだ」

 

「ならば、何故お前は、お前達は夢を捨てる事ができた?」

 

レグルスを嫌エルシドやデジェル、アスミタ達聖闘士を見る。その瞳には侮蔑なのではなく純粋な哀れみの目であった。

 

「私が聖闘士ととして生きた時代で歴代の黄金聖闘士を調べた時、お前達の名前は存在しなかった。お前達は完全にこの世界と無関係な存在である筈なのに、お前達は自分達の世界で十分過ぎる程戦ってきたのに、何故戦うのだ?夢の中で穏やかに眠る事もできた筈なのに」

 

「フィーネ、了子の時に言ってたよな?“人類は呪われてる”って。俺はそれを聞いた時思ったんだ。“俺達聖闘士は特に呪われた存在”なのかなってさ。確かに、たとえ偽りのとは言え穏やかな世界で眠る事は出来たかもしれない。でも、皆が現れたんだ」

 

「皆?」

 

「俺達の世界で共に戦ってきた仲間達と女神アテナ様がさ。皆が俺を叱ったんだ。『お前こんなところで何寝てんだ!』てさ。お陰で俺は思い出したんだ。俺の“戦う理由”がさ」

 

「“戦う理由”だと?」

 

レグルスは強い意志で強い想いで語る。

 

「俺達は、『この世に邪悪が蔓延る時、必ずや現れる希望の闘士!戦女神アテナの聖闘士』だ!ここが違う世界だろうがアテナのいない世界だろうが関係無い!地上に生きる人々に災いをもたらす者がいるならば俺達はこの生命尽きるその時まで戦い続ける!それが、神話の時代から受け継がれてきた俺達聖闘士の“誇り”だ!」

 

「(何だ!?この“小宇宙”は!?)」

 

「(レグルスを中心に宇宙が広がっている!?)」

 

「(嫌、これはもう宇宙なんてレベルじゃねえ!)」

 

「(これってまさか、銀河?)」

 

フィーネだけではなく響達にも見えた!叫ぶレグルスに肯応するかのようにレグルスの“小宇宙”が燃え上がる!獅子座<レオ>の黄金聖衣も光輝く!

 

「燃え上がれ!俺の小宇宙<コスモ>!!!」

 

レグルスの小宇宙<コスモ>に応えるかのように獅子座<レオ>の聖衣がレグルスから離れ一つになると聖衣匣<クロスボックス>へとなった。だがそれは今までの聖衣匣<クロスボックス>とは異なりより洗練された匣へとなった!

 

「聖衣匣<クロスボックス>の形が変わった!?」

 

「何だ!?匣が変形していく!?」

 

今まで匣が開き、そこから星座のオブジェが現れていたが、今は“聖衣匣が変形”した!稲妻が走り雷鳴を轟かせながら細かく形が変わり聖衣は新たな姿になった!より洗練されより重厚感のあるまるで生きているような獅子のオブジェへと変わった!

 

ガオオオオオォォォォォォォンンッ!!

 

新たな姿へと変わった獅子は雄々しく猛々しくその雄叫びを上げる!

 

「何なのだ・・・何なのだッ!!その聖衣は!?あり得ない!完全聖遺物であるはずの黄金聖衣が姿を変えただと!?知らない!こんな事私は知らないぞ!!」

 

悠久の時を生きてきたフィーネは自分の知らない事態に驚く。フィーネ程ではないが響達やレグルス達も驚いていた。

 

「レグルス君の聖衣が進化した?」

 

「どうなっているんだ?」

 

「もしや・・・」

 

「デジェル兄ぃ、何か分かったの?」

 

「我々の聖衣は数千年の昔の聖衣、シンフォギアがフィーネの言った“神々の大戦”で破壊された神具が経年により進化し、奏者の歌声によって進化した武具ならば」

 

「我々の聖衣も進化していたと言うのか?」

 

「だが、何故今まで進化しなかったのだ?」

 

アスミタとエルシドの問いにデジェルは仮説を立てる。

 

「恐らくだが、シンフォギアが奏者の想いに肯応してその姿を変えた、本来であれば弓矢であるはずの『イチイバル』が『全ての“力”を薙ぎ払いたい』と願うクリスの想いに応え重火器の姿へと変わった」

 

「そうか、本来一振りの剣であるはずの『天羽々斬』が『防人の“剣”でありたい』と願う翼の想いに応え様々な刀剣へとその姿を変えた」

 

「本来槍であるはずの『ガングニール』が彼女の『誰も傷つけたくない』、『誰かと繋がり束ねたい』と願う想いに応え『無手』に変わった」

 

デジェルの仮説にエルシドとアスミタも捕捉する。

 

「つまり、レグルス君の想いに黄金聖衣が応えてその姿を変えたのか?」

 

「その通りです風鳴司令。そして恐らく我々の聖衣が進化する為の『想い』とは、我々聖闘士が『本気で戦う事を決意した時』」

 

「『本気で戦う事を決意した時』ってレグルス君、今まで『本気』じゃなかったって事ですか?」

 

「正確には違うな。『本気にならなかった』んじゃ無い。『本気で戦う必要が無かった』のだ」

 

エルシドの答えに響達は首を傾げる。

 

「この世界では“脅威”と恐れられているノイズも、俺達黄金聖闘士の基準で言えば“羽虫”も同然だった。故に俺達は今まで『本気で戦う事が無かった』のだ。だがレグルスは“迷い”を断ち切り、『本気で戦う事を決意』した事によりその時の“小宇宙”の高ぶりに応えたのがあの姿なのだ!」

 

響達は再び進化した獅子座<レオ>の黄金聖衣を見る。獅子座<レオ>はレグルスを見つめる。

 

「あぁ、そうか。お前達は待ってたんだな。数千年もの間ずっと待っていてくれていたんだな。俺達が、聖闘士が来るのを長い、長い間・・・」

 

正統な継承者が現れるまでのあまりにも長い時を待ち続けた聖衣に語りかけるレグルス。

 

そしてエルシド達も自分達の聖衣に語りかける。

 

「待たせたな山羊座<カプリコーン>。これからは俺の“大義”に付き合って貰うぞ」

 

「水瓶座<アクエリアス>、人々の“夢”を守るために共に戦おう」

 

「この世の“理”の為に戦うそれが乙女座<ヴァルゴ>の戦いだな」

 

アスミタ達の想いに応えるかのようにそれぞれの黄金聖衣が淡く輝く。そしてフィーネはまるで見惚れるかのように進化した獅子座<レオ>とレグルスを見つめ誰にも聞こえないように呟く。

 

「まだ進化すると言うのか?お前達はどこまで私を驚かせると言うのだ?」

 

そしてレグルスは決意を込めて叫ぶ!

 

「さあ、俺達の“可能性”を見せてやろうぜ!獅子座<レオ>!!!」

 

レグルスに応えるかのように雄叫びを上げた聖衣は細かく分解されレグルスの身体を纏ってゆく!

 

足に!腰に!腕に!胴体に!肩に!分解された聖衣が鎧の姿へとその形を作る!そして現れた!

 

より洗練され重厚感の増した姿!

 

腰に金の装飾が施されたマントを靡かせ佇むその姿は美しくも猛々しく雄々しく凛々しい佇まいはまさに!

 

『威風堂々』!!

 

その姿に創世達は見惚れ。

 

「す、凄い・・・」

 

「なんと美しい・・・」

 

「本物のヒーローだ・・・」

 

「お兄ちゃん、凄くカッコいい!!」

 

弦十郎達も驚き。

 

「あれが進化した黄金聖衣なのか?」

 

未来や奏者達もレグルスの進化に驚嘆する!

 

「あれが、あの姿が・・・」

 

「レグルスの聖衣の本当の姿・・・」

 

「すげぇ・・・」

 

「レグルス君・・・」

 

レグルスは雄々しく名乗りを上げる!

 

「これが新しい伝説を生み出す聖衣!獅子座<レオ>のレジェンド聖衣<クロス>だ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




ー捕捉ー

ノーマル聖衣
原作の聖衣である。

レジェンド聖衣
『聖闘士星矢 Legend of Sanctuary』の聖衣。聖闘士達が百%中の百%の本気にならないと発動しない姿。百%の半分や七割では聖衣の一部しか変わらない。

今回はここまでです。次回でフィーネとの戦いを終わらせたいですね。


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解き放てよ!燃える“小宇宙”!

レジェンド聖衣のマスクは顔を覆うタイプにしようと思います。獅子座<レオ>の顔のマスクは欲望の仮面のライダーの獣コンボの顔をイメージしてください。


「・・・・・・・・・」

 

新たな聖衣、レジェンド聖衣を纏ったレグルスは無言に佇みフィーネを見据える。

 

「・・・・・・・・・」

 

フィーネもまた、響達奏者に見せていた余裕顔は完全に消えて目の前の“若獅子”を睨む。

 

『・・・・・・・・・』

 

エルシド達黄金聖闘士達や響達奏者、弦十郎達二課や未来達もこれから起こる戦いを緊張しながら見守る。

両者の無言の睨み合いが続くがふとレグルスが一瞬だけ瞬きをする。

 

「ッ!」

 

一瞬の瞬きの隙を逃さずフィーネがレグルスに四本の鞭を振り回す!

 

「・・・・・・・・・」

 

光の速さ光速に“近い速度”で繰り出される鞭をレグルスは紙一重に避ける、フィーネの鞭が地面に当たりその衝撃で大地が揺れ砂煙が舞い、何百何千何万もの攻防が繰り広げられていた。聖闘士達を除いた人々には光速の動き目がまるで追い付かず時間的に言えばまだ一分も経っていないのに体感時間は一時間以上は経ったと錯覚してしまっていた。

 

「緒川、戦闘が始まってから何分経った?」

 

「・・・まだ一分しか経っていません」

 

「全く、レグルス君もフィーネも人間の出せる速度ではないぞ」

 

聖闘士がいなければ人類最強とさえ言われる風鳴弦十郎でさえ、レグルスとフィーネの動きを目で追うことは出来なかった。不意にエルシドが呟く。

 

「やれやれ、やっとレグルス本来の動きに戻ってきたな」

 

『?』

 

エルシドの言葉に響達はえっ?となる。

 

「どうもこの世界に来てから動きに以前の“キレ”がないと思っていたのだが」

 

「レグルスは思いっきり身体を動かすタイプだ。これまでずっと雑魚<ノイズ>の相手ばかりしていてフラストレーションを貯めていたのだろう」

 

「そして今目の前には“本気で戦える相手”が現れたのだ。レグルスも闘志を燃やしている所だろう」

 

デジェルとアスミタの言葉に弦十郎達と弓美達の目に希望の色が浮かんだ。だが。

 

「(レグルス君、本当に強いんだ・・・あの人なら響の助けになってくれる・・・でも、私は響に対して何もできないのかな?)」

 

未来はどこか寂しそうに目を伏せていた。そして翼とクリスも。

 

「(“エルシドの背中は私が守る”か)」

 

「(“あたしとデジェル兄ぃのコンビは最強”か)」

 

「(何が“守る”だ)」

 

「(何が“最強”だ)」

 

翼とクリスは光速の戦いを繰り広げるレグルスとフィーネを見る。

 

「(私は・・・)」

 

「(あたしは・・・)」

 

「「(“あの場所”に全く届いていない!)」」

 

自分達とまるで次元の違う戦い、まるで届いていない遥か“高み”に立つ者達、それが黄金聖闘士。翼はエルシドを、クリスはデジェルを、自分達の目の前にいる黄金聖闘士の後ろ姿見る。

 

「(分かってはいた。いや分かっていた積もりになっていたんだ。遥か遠い“高み”にいる存在であることを)」

 

「(あたしとお兄ちゃんの間には、余りにも大きな差があるって、分かっていた積もりだったけどここまでなのかよ)」

 

思わず翼とクリスはエルシドとデジェルの背中に手を伸ばす。

 

「(そこにいるのに・・・)」

 

「(ちょっと手を伸ばせば届くのに・・・)」

 

「「(何で・・・こんなに遠くに感じるの?)」」

 

近くにいるのに余りにも遠い所にいる存在の相方達の背中を翼とクリスは悲しそうに見つめるのであったが。

 

「貰ったぞ!獅子座<レオ>!!」

 

「「!?」」

 

フィーネの叫びに現実に戻った二人が見ると。四本の鞭がレグルスの手足を縛り上げ動きを封じた!

 

「受けよ獅子座<レオ>!射手座<サジタリアス>の技を!無限の弓矢が貴様を貫く!『インフィニティ・ブレイク』!!」

 

無数の光の矢の形をした拳がレグルスを襲う!土煙が巻き起こりレグルスの姿を消すがフィーネは更に技を繰り出す!

 

「貫け稲妻!『アトミックサンダーボルト』!!」

 

今度は『インフィニティ・ブレイク』を一転集中させた稲妻の矢がレグルスに放つ。更に土煙が上がりレグルスの姿が完全に見えなくなっていた。

 

「レグルス君・・・」

 

『・・・・・・・・・』

 

響達が不安そうに見つめるなか一陣の風が吹き土煙を吹き飛ばすとそこには。

 

「・・・・・・・・・」

 

無傷のレグルスが佇んでいた。レグルスは自分の手足を縛り上げていた鞭を破壊する。

 

「バ・・・バカな・・・」

 

最強の黄金聖闘士の技を食らったにも関わらず悠然と佇むレグルスにフィーネは信じられないと云わんばかりに狼狽えた。

 

「フィーネ、お前の技はここまでか?それじゃ次のこっちの番だ!」

 

そう言うとレグルスの頭にマスクが展開されるとレグルスは一瞬でフィーネの目の前に近づく!

 

「ッ!!う、うわああああああぁぁぁぁ!!!」

 

突然現れたレグルスに驚きフィーネは拳を放とうとするがそれよりも早くレグルスが技を放つ!

 

「『電光放電<ライトニングプラズマ>』!!」

 

無数の閃光がフィーネを襲う!

 

「グワアアアアアアアアアアア!!!」

 

空かさず更に技を放つ!

 

「受けろ!百獣の牙!『電光雷撃<ライトニングボルト>』!!」

 

『ライトニングプラズマ』の一転集中の拳をフィーネに放つ!

 

「がああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 

技の威力に吹き飛んだフィーネは顔面から地上に落下する。

 

「ガハッ!・・・こ、こんなことが・・・同じ黄金聖闘士の・・・力を持っているのに・・・何故ここまで・・・これがレジェンド聖衣を纏った黄金聖闘士の・・・力だと言うのか・・・!」

 

「違うなフィーネ」

 

起き上がろうとするフィーネにレグルスは言う。

 

「お前は“黄金聖闘士になった”のではない。“黄金聖闘士に近い力”を得たにすぎない」

 

「何・・・だと?」

 

「お前の技を間近で見て分かった。お前の放つ射手座<サジタリアス>の技は“偽物”だ!」

 

それを聞いた響達は首を傾げるがレグルスは続ける。

 

「技事態は本物の射手座<サジタリアス>の技だろうが、お前の放つ技には、“魂”が宿っていない!」

 

「た、“魂”だと?」

 

「良く目を凝らして見れば分かった。お前は射手座<サジタリアス>の聖衣を取り込みその聖衣に宿るエネルギーを利用し、自身が見てきた射手座<サジタリアス>の技を“猿真似している”に過ぎない!」

 

「くっ!」

 

フィーネは図星のように舌打ちをする。

 

「お前の放った技はこの地上の愛と平和と正義を守るために大いなる歴代の射手座<サジタリアス>の聖闘士達が生み出し、次代に受け継がれ、磨かれてきた技だ!お前に簡単に猿真似できる技じゃない!“劣化コピー”の技で俺達と戦い、勝てると思ったか?」

 

レグルスは“戦士の目”で告げる。

 

「黄金聖闘士をナメるな!」

 

フィーネは起き上がりながらブツブツと呟く。

 

「黙れ・・・黙れ・・・黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 

フィーネはその顔を憤怒に歪めながらレグルスを睨む。

 

「貴様に!貴様らに分かってたまるか!“高み”に立っている貴様に!“下から眺める事”しかできない者の苦しみが!!“手を伸ばす事”しかできない者の惨めが!!貴様に分かってたまるか!!!」

 

フィーネはレグルスに向かって構えを取り、フィーネの動きと連動して背中の翼が動く!それを見て奏者達フィーネが放つ技を察した!

 

「あの構えは!?」

 

「『ケイロンズライトインパルス』!?」

 

「レグルス君避けて!!」

 

先程アスミタに助けられたが直に見た奏者達から避けろと言われたがレグルスは構えを取る!

 

「・・・・・・・・・」

 

「真っ向勝負か!?だが!これは貴様の師にして叔父の最大の拳!貴様に打ち破れるはずがないわ!!!」

 

それでもレグルスは無言で構える。そして双方の技がぶつかる!

 

「『ケイロンズライトインパルス』!!」

 

「『電光放電<ライトニングプラズマ>』!!」

 

黄金の暴風と無数の閃光がぶつかる!両者の技は拮抗し、衝撃波が響達を襲うが。

 

「・・・・・・・・・」

 

アスミタが結界を張り被害を防いだ。そしてレグルスとフィーネは。

 

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」

 

「・・・・・・ハアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

拮抗していたのは最初の数秒間だけであとはレグルスの『ライトニングプラズマ』がフィーネの暴風を貫いた!

 

「な、何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

 

レグルスの『ライトニングプラズマ』がフィーネの『ケイロンズライトインパルス』を打ち破った!

 

「ぐぐぐ・・・」

 

倒れたフィーネにレグルスは告げる。

 

「破滅の巫女フィーネ。俺達聖闘士は一対一の戦いの際、己の全感覚と全神経を研ぎ澄ませ、相手の一挙手一投足から放たれる技を見切ってしまう。一度見れば身体中の全細胞が相手の技を勝手に攻略してしまう。『ケイロンズライトインパルス』は俺の叔父でもあり師でもあるシジフォスの技、修行時代に何度も見せてくれた技だ。ましてや劣化コピーなんかに遅れを取りはしない。お前も一時期は88の星座の闘士の一角を担っていたのに忘れたか?」

 

レグルスは堂々と言う。

 

「聖闘士に同じ技は二度と通じない!!!」

 

その堂々とした“勇者の姿”に未来達や弦十郎達は圧倒されるが。奏者達主に響はレグルスの勇姿に羨望の眼差しを向けながら以前翼に言った言葉を思い出した。

 

《“最速で”!“最短で”!“真っ直ぐに”!“一直線に駆けつけたい”!》

 

自分が目指す。自分が望む力を持ったレグルスに見惚れていた響の心中に僅かな曇りが生まれる。

 

「(レグルス君はいっぱい持ってる・・・私の望む“力や強さ”・・・尊敬できる“お父さん”・・・私にはない“圧倒的な才能”・・・・・・良いな・・・どうしてレグルス君にはあって私にはないんだろう?)」

 

響の心に嫌、奏者達に本人達も気付かない僅かに生まれた、小さく本当に小さく生まれた“黒い感情”を“約一名”以外誰も気付かなかった。

 

フィーネはレグルスに叩きのめされてもなお立ち上がろうとする。レグルスも構える。

 

「(ここまでか・・・だが)獅子座<レオ>よ。これが最後の勝負だ!私が聖闘士として編み出した技で貴様を葬る!来い!!」

 

「応ッ!!」

 

フィーネは爪を立て、レグルスは手刀を構える!

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

お互いに睨み合う二人。一同はそれを固唾を飲んで見守る。

 

「二人とも隙がねぇ・・・」

 

「勝負は一瞬で決まるな・・・」

 

「大丈夫、きっとレグルス君なら・・・」

 

頬に一筋の汗を流しながら未来達や弦十郎達と共に奏者達も見守る。

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

聖闘士達はレグルスの構えからレグルスの放つ技を悟る。

 

「獅子座<レオ>よ!思い知らせてやる!この私の想いの強さを!!教えてやる!人と人を結ぶ“絆”は“痛み”だと言うことをな!!」

 

「フィーネ。確かに“同じ痛みを知り痛みを分かち合える者達”には“絆”が生まれるだろう。だがお前の“痛み”で繋がる絆は一方的に与えているものだ。相手に“痛み”しか与えない“絆”はとてつもなく脆くて、憎しみの連鎖しか生み出さないんだ。その悲しい連鎖は、俺が断ち切る!!」

 

両者が突き進みぶつかる!

 

「これが私の技!『雷爪<サンダークロウ>』!!!」

 

「『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』!!!」

 

フィーネの爪とレグルスの手刀が交差するその時閃光が走った!!

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・』

 

レグルスとフィーネはお互いに背を向けていたがレグルスの腕から血が噴出する。

 

「ぐ、ぐあッ!!」

 

『レグルス(君)!!!』

 

レグルスは腕の“真央点”を突き出血を抑える。そしてフィーネは。

 

「ッ!!!」

 

身体に大きな切り傷のような光が走りフィーネの身体は仰向けに倒れようとする。が突如ネフシュタンの鎧が光輝き元の姿に戻り鎧から炎のような光が自分の頭上に登り一つとなる。

 

「(そうか・・・今の技<ライトニングクラウン>でネフシュタンと射手座<サジタリアス>の“繋がり”を絶ったのか・・・)」

 

そう、『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』は物理的ダメージを与えるだけではない。身体の中に流れる“力の流れ”を断ち切る技なのだ。

徐々に炎の塊はその形を整えその姿を現す!黄金の翼を持ち、猛々しく弓矢を構えた黄金の人馬へと!

 

「(あぁやはり、眩しいな・・・・・・)」

 

本来の姿に戻り自分の頭上に光輝く射手座<サジタリアス>の黄金聖衣に向けてフィーネは手を伸ばすがその手は虚しく空を切るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです!

今月中に無印編を終わらせたいですね。


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憧れの存在

プライベートが忙しくて短くなっちゃいました。


そこは遥か彼方に、無限に広がる宇宙空間。フィーネはその星の光しかない永遠の星の海を漂っていた。

 

「(あぁ、この感覚・・・あの頃に何度も感じた、“小宇宙<コスモ>”の感覚・・・私はこの感覚に・・・“彼等”に“可能性”を感じた・・・)」

 

朦朧とする意識のフィーネに一つの大きな“光”が近づいた。

 

「ッ!!・・・貴様・・・」

 

フィーネはその光に敵意と殺気を籠めて睨んだ。“光”はフィーネの近くに止まる。

 

「フン、私を笑いにきたのか?“魂”だけの存在になってもなお」

 

“光”は何も答えない。だがフィーネは吐き捨てるようにその“光”に向かって侮蔑の言葉を吐く。

 

「貴様はいつもいつも“綺麗事”ばかり並べ、彼等を信じる等とほざいておきながら、肝心な事は自分一人で勝手にやろうとする。“崇高な自己犠牲”の積もりだろうが、私から言わせれば“身勝手な自己満足”だ。その結果が今の地上だ。今の地上は貴様の愚行で“バラルの呪詛”のみ残され人々は同じ過ちを何度も繰り広げていき、“あの御方”が創造された地上を汚している!」

 

何も答えない“光”にフィーネは言葉を続ける。

 

「私は良い。元々私が使えていたのは“あの御方”だ。貴様なんかに忠誠など持っていなかったのだからな。だが彼等を裏切った事は許せない。貴様を信じ、貴様を守るために戦ってきた彼等を裏切った事は断じて許せない!」

 

“光”はその輝きを少し曇らせる、まるで悲しんでいるかのように。

 

「私は貴様の“言葉”など信じない!貴様の“綺麗事”なんかを理解しようとも思わない!・・・・・・だが、“彼等”は信じてみようと思う。私に、人は人の身で人の限界を越えられる事ができると証明してくれた“彼等”なら、人の可能性を見せてくれた“彼等”なら信じるに値する」

 

フィーネはその“光”に背を向ける。

 

「忘れるな、私は貴様を信じる訳ではない、“彼等”を・・・聖闘士達を信じるのだ」

 

“光”はフィーネの言葉に満足そうに輝くと何処かに去っていった。だが、フィーネは“小宇宙<コスモ>”を感じた。

 

「!この“小宇宙<コスモ>”は、まさか?!彼は?!」

 

するとフィーネの目の前に宇宙が光に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの世界。フィーネを瓦礫に寄りかかった姿勢で座らせたレグルス(マスクを解除し顔を露にしている)は射手座<サジタリアス>の黄金聖衣に向き合うと弓矢を構えた雄々しくも美しい人馬のオブジェに語りかける。

 

 

「・・・・・・シジフォス・・・」

 

するとなんと。オブジェから黄金聖衣を纏ったシジフォスの幻影が現れた。

 

《・・・・・・・・・・・・》

 

レグルスが大人になったような面影があり一見すると親子か兄弟と勘違いしそうな程にレグルスと良く似た顔立ちの精悍で偉丈夫な男性。シジフォスの幻影は何も答えずレグルスに微笑んでいた。

 

「シジフォス・・・?!」

 

「あれが射手座<サジタリアス>の黄金聖闘士?」

 

「レグルス君の叔父さん?」

 

「あぁそうだ。だが何故シジフォスが?」

 

「我等が纏う聖衣には、聖闘士の意識が宿る事がある。恐らく射手座<サジタリアス>に宿ったシジフォスの残留思念だろう」

 

シジフォスの幻影に驚く奏者達や弦十郎にアスミタが解説する。

シジフォスの幻影は微笑みを浮かべたまま消えていったすると射手座<サジタリアス>のオブジェは光輝き、聖衣レリーフの姿になった。翼とエルシドは聖衣レリーフに近づき。

 

「お帰り、シジフォス・・・」

 

やっと見つけた、やっと戻ってきてくれた戦友の形見を、翼は射手座<サジタリアス>の聖衣レリーフを抱き締め、涙を流しながら微笑んだ。エルシドも翼の肩に手を置いて微笑んだ。

奏者達や未来達と弦十郎達はアスミタと共にレグルスとフィーネを少し離れた所で見守る。デジェルは“デュランダル”の方に向かう。するとフィーネが目を覚ます。

 

「そうか、私は敗けたのか・・・所詮盗んだ聖衣で黄金聖闘士にはなれないと言うわけか」

 

「了子」

 

「まだ私をその名で呼ぶか獅子座<レオ>よ・・・私はフィーネだ」

 

「了子だろうがフィーネだろうが俺にとってはどっちでも良いさ。なぁ、どうして俺達<黄金聖闘士>と戦う事に拘ったんだ?黄金聖衣が欲しいなら幾らでも機会はあっただろう?」

 

フィーネはどこか自嘲気味に微笑みながら呟く。

 

「下らん理由だ・・・貴様らに拘ったのも、貴様らの黄金聖衣を手に入れようとしたのも、幼稚で下らん理由だ(聖闘士として目覚めたばかりの私は人間の限界を悟った気になり人間に失望していた。伝説の聖闘士でも所詮人間の“枠”から少し逸脱したに過ぎないとタカを括っていた。そう黄金聖闘士に出会うまでは)」

 

フィーネはどこか恍惚とした表情で眩しそうにレグルスをいや、黄金聖闘士を見つめる。フィーネにとって黄金聖闘士は“憧れの存在<ヒーロー>”だった。人の身でありながら人を越え“神の領域”にまで到達できる可能性を持った存在。自分は道具や策略・策謀でしか近づけなかった“境地”に人の身で到達できる事を証明した存在、それが黄金聖闘士だった。

だからこそフィーネは戦女神<アテナ>を許せなかった。以前クリスが『黄金聖闘士を倒す』と宣った時も腹が立った。戦女神<アテナ>は自分の“憧れ”を“裏切り”、“汚した”。クリスは自分の“憧れ”を“侮辱”したと感じたからだ。

 

「だが、所詮聖闘士の行いも無駄に終わった、何も変えられなかった。世界も、運命も、何も変えられなかったのだ」

 

「嫌フィーネよ。無駄と断ずるにはまだ早い」

 

「乙女座<ヴァルゴ>?」

 

「フィーネよ、君が聖闘士として生きた時代は冥王ハーデスによって滅ぼされた“絶望の時代”を変えようと“時を渡り過去へ向かった黄金聖闘士”がいただろう?」

 

「そうだが、それがどうし「アヴニール」!!??乙女座<ヴァルゴ>!貴様今なんと?!」

 

フィーネはアスミタが呟いた名前に驚愕の表情を浮かべた。未来がアスミタに聞く。

 

「あの、アスミタさん。“アヴニール”って誰なんですか?」

 

「我等が生きた時代の更に二百数十年前に起こった冥王ハーデスとの聖戦の最中、我等が教皇セージ様、教皇補佐であった祭壇座<アルター>の白銀聖闘士ハクレイ様が現役の聖闘士だった頃。突然“未来からやって来たと言う黄金聖闘士”が現れた。その聖闘士の名を“牡羊座<アリエス>のアヴニール”!」

 

「!」

 

フィーネはアスミタの出した名に目を見開く。

 

「アヴニールが・・・貴様らの生きた時代の過去に現れただと?」

 

「そうだ、アヴニールの生きた“絶望の未来”がこの世界の“過去”だったのだ」

 

「ど、どうゆうこと?」

 

響達が?と首を傾げる。アスミタが詳しく話す。

 

「“フィーネが聖闘士として生きた時代”にいた“牡羊座<アリエス>のアヴニール”は“絶望の時代”を変えようと時を渡り“過去へ向かった”。その過去が“シジフォスにエルシド、デジェルとレグルス、そして私が生きた時代”の“過去の時代”だったのだ」

 

「“俺達の生きた時代”と“響達の世界”は繋がっていたのか?」

 

「じゃあ“フィーネが生きた時代”にデジェル兄ぃ達の名前が存在しなかったのは」

 

「アヴニールが過去に現れた事により“歴史の流れ”が変わり、フィーネの時代と異なった歴史が生まれた。それが我等が生きた時代だ。この世界<シンフォギア世界>は我々の世界<LC世界>と“近くて遠い平行世界”だったのだ」

 

響達は驚いたがフィーネはそれ以上だった。だがフィーネの頬に涙が流れた。

 

「そうか・・・アヴニールの行いは無駄ではなかったのだな・・・」

 

それは“喜びの涙”であった。

 

「なぁ了子、お前も聖闘士だったんだよな?」

 

「あぁ」

 

「その時の名前、教えてくれないか?」

 

「何故知りたいのだ?」

 

「何て言うかさ。お前も当時の聖闘士と共に戦った“仲間”だからさ。俺、その名前を知りたいって思ったんだ。時代は違うけど“地上を守りたい”って想いを持って共に戦った“姉弟”の名前をさ」

 

「・・・・・・こんな私をまだ姉弟と言うのか・・・全くアヴニールといいお前といい・・・・スペラリ・・・蛇使い座の白銀聖闘士 オピュクスのスペラリ」

 

「“スペラリ”・・・“希望”か・・・」

 

「笑えるだろ?“破滅”の名を持つ私が“希望”の名を持つなど・・・」

 

「嫌、スペラリは俺に“戦う理由”と“生きる理由”を教えてくれた。俺を“希望”へと導いてくれた。感謝してるよスペラリ!」

 

レグルスの太陽のような笑顔をフィーネは眩しそうに見つめる。

 

「(あぁ、全く・・・敵わないな・・・)」

 

憑き物が取れたような顔でフィーネは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

捕捉しますと。“スペラリ”はイタリア語で“希望”です。フィーネはイタリア語で“終わり”でしたので。

次回こそ無印編ラストまで持っていきたいです。


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少年達は明日の勇者

今回で無印編の最後にしたいです。


デジェルは皆から離れた所に行き響が黄金聖衣ネフシュタンを纏ったフィーネに挑む際、地面に突き刺した“デュランダル”の元へ行くと。

 

「(これは・・・・・・)」

 

そこには“刀身が半分消えかかっているデュランダル”があった。

 

昼と夜の中間の夕闇の世界でフィーネとレグルスは沈み始めた太陽を眺めていた。

 

「なぁスペラリ、お前はアテナが嫌いなのは良く分かった。でもアテナがハーデスとの話し合いをしようとしたのは「そんな事分かっている」・・・・・・」

 

レグルスの言葉を遮りながらフィーネ(聖闘士名スペラリ)は語る。

 

「あの甘い女神の事だ。大方冥王との聖戦でお前達<聖闘士>が傷付き倒れて行くのをこれ以上見たくなかったから、話し合いなどと甘い事を考えたのだ」

 

「やっぱり気付いていたか」

 

「だがあの女神の愚行の結果、地上は第二の冥界にされたのだ。あの女神を信じ守る為に地上の平和の為に命を散らせた仲間達の想いをあの女神は裏切った。私はあの女神を許しはしない。あの女神を認めない」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

本来であればアテナを罵るフィーネに怒りを燃やす所ではあるが、フィーネにはアテナを罵倒する資格があった。フィーネはスペラリの頃に一応アテナ(と言うより地上)を守る為に戦ってきた聖闘士だから、アテナに裏切られたと考えるのも、アテナに怒りを覚えるのも仕方ないと考え聖闘士達はフィーネの言葉を黙って聞いていた。ふとフィーネとレグルスの話し合いを聞いていた響はフィーネの足元を見ると。

 

「レグルス君!了子さんの足元!」

 

「!?」

 

響に言われフィーネの足元を見たレグルスは驚く。何とフィーネの足元が光の粒子になって“消え始めていた”のだ。

 

「スペラリ、これって?」

 

「“聖遺物同士の対消滅”の影響が今になって出てきたか」

 

「“聖遺物同士の対消滅”?」

 

「恐らく、奏者達が“デュランダル”で放った最後の技<Synchrogazer>でネフシュタンとデュランダルの力がぶつかり合い対消滅を引き起こしたのだ」

 

「それで消滅しそうになったネフシュタンのエネルギー源として射手座<サジタリアス>の黄金聖衣を取り込んだが、ネフシュタンと射手座<サジタリアス>の繋がりをレグルスの『ライトニングクラウン』で断ち切ってしまったと言うわけか」

 

アスミタと“消滅しそうになっているデュランダル”を持ってきたデジェルが解説する。

 

「でも、どうして了子さんまで?」

 

「フィーネはネフシュタンと融合しネフシュタンと一つになってしまった。“ネフシュタンの消滅”は“自身の消滅”にも繋がったと言うわけだ」

 

「レグルス君、射手座<サジタリアス>のように了子君とネフシュタンの繋がりを断ち切れないのか?」

 

「無理だよ弦十郎。射手座<サジタリアス>はまだ“完全取り込まれていなかった”からスペラリと分離させることができたけど、スペラリは“完全に融合”してしまっている。『ライトニングクラウン』でももう助けられない」

 

徐々に消滅しそうになっている了子に対して自分達は何も出来ないことに聖闘士達と奏者達、二課の皆が歯痒そうにする。

 

「ハッ敵に対してそんな態度とは。黄金聖闘士達よ。奏者共に嫌、立花響に悪影響を受けたのではないか?」

 

「自身が消滅するというのに随分余裕だなフィーネよ」

 

「フフフ言ったであろう。この櫻井了子の肉体もフィーネの魂の細胞の一部が入った入れ物に過ぎない。この世界の全人類の細胞に“私”はいる。ここで櫻井了子の肉体が消滅してもいずれ“私”は新たな入れ物に転召し蘇るのだ」

 

「成る程、ここで消滅しても心配は必要ないと言うわけか」

 

「ついでに良いことを教えてやろう。獅子座<レオ>、山羊座<カプリコーン>、水瓶座<アクエリアス>、乙女座<ヴァルゴ>よ。“神々”は滅んだ訳ではないぞ」

 

 

『!?』

 

「神々って?」

 

「恐らくフィーネが聖闘士であった頃に“神々の大戦<グレートウォー>”でアテナ軍と戦った神々だろう」

 

「地上を滅ぼしたハーデスと人類を滅ぼそうとする神々か」

 

「“神々の大戦<グレートウォー>”で冥王と海皇と月の女神は滅んだ訳ではない。致命傷を負い“魂”だけの存在になりながらも眠りについているのだ。だが何処奴等は目覚める、その時“常勝の女神”がいない貴様らは奴等からこの地上を・・・・・」

 

『守るに決まっているだろう』

 

全く一片の“迷い”も“弱さ”も無い“強き志を持った瞳”で断言する黄金聖闘士達の姿にフィーネは一瞬フッと笑いを浮かべすぐに目を鋭くさせ。

 

「ハアアアアアアアア!!!」

 

突然フィーネは鞭を天高くに向け遥か彼方に放つ。

 

『!?』

 

「まさか?!」

 

『?!』

 

聖闘士達と響、そして遅れて他の者達も鞭の向かう方向に目を向けると鞭は音速を越えて“ある場所”に突き刺さる。クリスの“絶唱”で威力が弱まった“カ・ディンギル”によって破壊された“月の破片”だ。フィーネは背負い投げの要領で“月の破片”を引き寄せようとする。周辺の大地は砕け、フィーネの纏うネフシュタンも砕けていく。最後の最後にフィーネは持てる全ての力を使って地球に落下させる積もりなのだ。“月の破片”は地球への落下コースへと入ったことを確認したフィーネは聖闘士達の方へ向く。

 

「さあ、どうする聖闘士達!間もなく“月の破片”が地上に落下するぞ!あの“月の破片”が落ちれば地球は壊滅的な被害を受けるだろう!どうする!?・・・・・ん?」

 

フィーネは思わず間抜けな声をあげた。何故なら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レグルスは暢気に準備体操をしていたのだ。

 

「オイッチニ、オイッチニ、オイッチサンシっと!」

 

「なにやってんの?レグルス君」

 

響だけではなく、翼も、クリスも、未来も、弦十郎も、緒川も、藤尭と友里も、弓矢と詩織と創世も皆突然準備体操を始めたレグルスに困惑した顔を浮かべる。レグルスは体操を終わらせ腕をブンブン回しながら呟く。

 

「何、ちょっと飛んでってあの石ッコロぶっ壊そうと思ってさ」

 

「え?嫌ぶっ壊すって、そんなちょっとそこまで散歩に行くような感覚で」

 

「お前ふざけてる場合か!」

 

「相手は巨大の“月の破片”だぞ!」

 

奏者達がそろってツッコムがレグルスは真面目に答える。

 

「でもぶっ壊さなきゃ地上が危ないだろ?響達三人は満身創痍でまともに動けないし、国連なんてアテにならないし、動けるの俺達だけじゃん。それにさ」

 

レグルスは落下する“月の破片”を見据えて言う。

 

「たかだかデッカイ石ッコロ一つ何とかできない奴が地上の平和を守れる筈がない。だろ?スペラリ」

 

フィーネを見るその瞳は“力強さ”と“気高い心”を宿していた。

 

「(ああ彼等はまだまだ成長していく。これが私が彼等に敵わない理由かもな)」

 

フィーネはフッと笑いながら頷く。レグルスはエルシドとデジェルに背を向け。

 

「エルシド、デジェル、そんな訳だからさ。後の事は「ドカっ!」あら!?」

 

突然エルシドとデジェルはレグルスの背中にヤクザキックをする。キックをくらったレグルスは地面に倒れる。

 

「何が“後の事は”だ?」

 

「フィーネとの戦いは聖闘士の掟に従ったが相手が月の破片ならば、我々も参戦させてもらうぞ」

 

レグルスは起き上がりながら二人に向かい合う。

 

「嫌、でもレジェンド聖衣になった俺ならともかくエルシド達は・・・っ!?」

 

突然エルシドとデジェルの“小宇宙<コスモ>”が高まる。

 

「後輩に遅れをとるとでも?」

 

「甘く見るなよレグルス。新たな境地に立ったのはお前だけではない」

 

「「ハァァァァァァァァァァァ!」」

 

エルシドとデジェルが更に“小宇宙<コスモ>を高める!

 

「エルシド、まさか」

 

「お兄ちゃんも?!」

 

「研ぎ澄ませっ!」

 

「煌めけっ!」

 

「「我が“小宇宙<コスモ>”よ!!!!」」

 

エルシドとデジェルの黄金聖衣が光輝きその姿をが進化した!

 

エルシドの聖衣は足首や手首に腰のパーツや肩のパーツに胴体に蒼色のサファイアが嵌め込まれたような姿になり肩から金の装飾が施された蒼色のマントを靡かせていた。

 

デジェルの聖衣はエルシドと同じパーツに翡翠色のエメラルドが嵌め込まれており紫のマントを靡かせ左肩に小さな水瓶が装備されていた。

 

「山羊座<カプリコーン>のレジェンド聖衣!」

 

「水瓶座<アクエリアス>のレジェンド聖衣!」

 

威風堂々と佇み新たな姿へと進化した聖闘士がそこに立っていた。

 

「ヒュ~♪」

 

「エルシドさんとデジェルさんもレジェンド聖衣に」

 

「まさか、山羊座<カプリコーン>に水瓶座<アクエリアス>、お前達までもか?」

 

レグルスは口笛を吹き、響とフィーネも驚愕する。

 

「さ、行くか」

 

「アスミタ、もしもの時の為にここら辺一帯に結界を張っておいてくれ」

 

「・・・良かろう」

 

エルシドとレグルスとデジェルは並び月の破片を見据える。

 

「レグルス君」

 

「ちょっと行ってくるよ響」

 

「エルシド頼む」

 

「任せておけ翼」

 

「お兄ちゃん帰ってくるよね」

 

「あぁ直ぐに戻ってくるよクリス」

 

聖闘士達は奏者達と言葉を交わすと聖闘士達のマスクを展開して天高く飛び上がる!

フィーネは飛んで行った三人を見上げる。アスミタはフィーネの近くに付くとソッと手をかざし消滅速度を遅くする。

 

「なんの真似だ?乙女座<ヴァルゴ>」

 

「フィーネよ最後まで見届けておけ、お前の“憧れ”の勇姿をな」

 

 

 

 

 

レグルス達は成層圏を飛び越えて月の破片の近くにまで到達する。

 

「二人共、覚悟は良い?」

 

「一度は失ったこの命が、再び地上の平和の為に使えるならば本望だ」

 

「“死”は元より覚悟の上、だが“死ぬつもり”は毛頭無い!」

 

「フッ、んじゃ行くか!!」

 

レグルスは拳を構え、エルシドが手刀を頭上に構え、デジェルが両手を組んで頭上に掲げ、三人が“小宇宙<コスモ>”を最大に燃やす!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

今!獅子が!魔羯が!宝瓶が放つ!最大奥義!

 

「万物悉く切り裂け!『聖剣抜刀<エクスカリバー>』!!!」

 

「凍気の極みを受けよ!『絶対零度<オーロラエクスキューション>』!!!」

 

「吠えろ獅子の雄叫び!『電光放電<ライトニングプラズマ>』!!!」

 

黄金の斬撃が!絶対零度の凍気が!光の拳が!月の破片を破壊する!目映い光が地球と宇宙と戦士達を包み込んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響達は目映い光に目を閉じていた。するとアスミタが全員に言う。

 

「もう良いぞ」

 

響達が目を開けると地球に迫っていた“月の破片”が完全に消滅していた。

 

『や・・・・・・やったーーーーーーーーー!!!!』

 

人々が歓声を上げる中、奏者達は夜空を見上げていた。

 

「レグルス君」

 

「エルシド」

 

「お兄ちゃん」

 

それぞれの想い人の事の安否を心配する奏者達、すると“黄金に輝く3つの流星”が降りてきた。

 

「「「(パアッ)」」」

 

『あっ』

 

「(フッ)戻ってきたか」

 

輝く笑顔の奏者達と弦十郎達やアスミタが見上げる先にいたのは、夜にも拘らず太陽のように輝く三人の聖なる闘士達。

 

 

 

 

 

 

 

彼等の名を戦女神<アテナ>の聖闘士!

 

 

 




次でエピローグです。あとちょっとネタばれが出ます。


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エピローグ 夢旅人

今回で無印編完結します。G編のネタばれが少しあります。


フィーネの起こしたノイズの事件とリディアン襲撃と月の破壊、後に『ルナアタック事変』と呼ばれる事件から数日が過ぎ、“ガングニールの奏者 立花響”と“立花響の親友 小日向未来”は以前からの約束であった“琴座流星群”を見ていた。満天の星空に流れる流星群を響と未来はお互い手を繋ぎながら見つめていた。

 

「綺麗だね響」

 

「うん、ようやく約束を守ることができたよ」

 

二人は星空を眺めながら出会ってきた人達の事を思い出していた。

 

「翼さん、今海外で何してるのかな?」

 

「きっと世界中の人達に歌を届けているよ」

 

“ルナアタック事変”が終わってすぐ風鳴翼は海外進出を果たし世界の人々に歌を贈るために歌っている。マネージャーとして緒川慎次も一緒にいた。だが、ボディーガードのエルシドはそこにいなかった。

 

「エルシドさん、旅に出ちゃったんだよね」

 

「うん、武者修行の旅に出たんだ。翼さんも納得していたし」

 

響の脳裏に翼とエルシドの言葉を思い出していた。

 

『エルシドはずっと武者修行の旅に出たがっていたんだ。だが奏もシジフォスも居なくなって気落ちしていた私の事を心配してずっとそばにいてくれたんだ。エルシドにはエルシドの友との“誓い”と“夢”がある、だから行かせたいんだ』

 

『俺はこの手刀を真の聖剣へと完成させる。それが友と俺自身の夢だからだ。それに一つの戦いが終わったに過ぎない。また新たな戦いが何れ起きる、その時に備えて俺は自分を鍛えておかなければならない』

 

そう言って翼とエルシドは共に手を握る。

 

『エルシド、私はお前のようになれないかもしれない。だが、少しでもお前の背中を守れるようになる。お前がどんなに遠くに行っても私の歌をお前に届かせて見せる』

 

『あぁ、待っているぞ翼』

 

そう言って二課の誇る双刃は再会を信じてそれぞれの道を歩んだ。

 

「クリスちゃんとデジェルさんが日本に残ってくれたのは嬉しいね」

 

「うん、あの二人はラブラブだからね。きっと離ればなれにはならないよ」

 

クリスは今までの罪滅ぼしや自分の夢を叶える為に日本に残った。デジェルも二課の再建の手伝いと自分の目的をはたす為に日本に残った。

 

「でもデジェルさんの夢を聞いたときは驚いたね」

 

「うんデジェルさんの夢が“医者になる”って聞いたときは驚いたよ」

 

デジェルが“医者”を目指す為に日本の医大を受けようとしたのだ。

 

『クリスを探して紛争地帯を旅していた時に何度も見てきた。戦場で最も必要なのは医師です。クリスが再びこの世の地獄に戻るとき、医療の心得を持っていれば救える命が多くなります。それに我々<聖闘士>の手は“破壊”に特化した手です。ですが、この手が“破壊”だけではなく“命を救う”になる事を証明したいんです』

 

現在クリスとデジェルは同じマンションに同棲し、デジェルは医大を目指して勉強中なのだ。だが時折クリスとのデートもしているらしい(二人共、美男・美少女なのでちょっとした名物カップルになっている)。

 

「それはそうと未来ちゃん♪アスミタさんがいなくなって寂しくないの?」

 

「うん。アスミタさんまた会おうって言ってたから、きっとまた会えるって信じてるから」

 

アスミタはルナアタックが終わって直ぐに皆の元を去り諸国巡りの旅に出た。今度は己の感性だけではなく己の耳で感覚で世界と人々に触れていき己の足で世界を歩いてみると言っていた。

 

『小日向未来、店主殿に《お世話になった。その内また会いに行く》と伝えてくれ』

 

 

そう言ってアスミタはどこかにこやかな笑みを浮かべ霞のように消えていった。

 

「響こそレグルス君が旅に出て寂しくないの♪」

 

「あ~えーと仕方ないよ。レグルス君の“唯一の家族”を探す為に旅に出たんだから」

 

それはレグルス達が“月の破片”を破壊して皆の元に帰ってきたときだった。消滅間近のフィーネにレグルスと響が近づく。

 

「流石だな。私の最後の悪足掻きを打ち破ったか」

 

「了子さん、やっぱり消えてしまうんですか?」

 

「消える訳ではない、また眠りにつくだけだ。何十年後か何百年後か、もしかしたら一年後に目覚めるかもしれないがな」

 

「そっか、んじゃ未来で会おうぜスペラリ。またお前が悪さすることがあっても未来の聖闘士やその仲間達がまた止めて見せるからさ」

 

「フン、今度こそ貴様らを越えて見せる。“デキル女”を舐めるなよ♪」

 

憎まれ口を叩いているがどこかスッキリとした笑顔を見せ、最後は皆が知っている櫻井了子の顔でウィンクし、お互いに笑い合っていた。

フィーネの身体の消滅は徐々に進んでいき、とうとうフィーネの身体の大半が消滅した。フィーネはレグルスに“ある事”を伝える。

 

「獅子座<レオ>、いいえレグルス君。貴方たち皆に伝えなければならない事があるわ」

 

「?」

 

「射手座<サジタリアス>と分離し、気を失っている間に私は“小宇宙<コスモ>”を感じた。“彼の小宇宙<コスモ>”を感じたの。“彼”はこの地上の何処かにいる」

 

「“彼”って・・・まさか?!」

 

『?!』

 

フィーネの言う“彼”が誰なのかレグルスと翼とエルシドそして弦十郎達は察した。フィーネは消滅する寸前になり最後の言葉を伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レグルス君。“シジフォス”は生きている!」

 

 

 

 

 

 

そう言ってフィーネは光の粒子となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてレグルスはシジフォスを探す為に旅に出た。

 

「レグルス君の叔父さんが生きているかもしれない。だからレグルス君は旅に出たんだ。寂しいって言ったらそうだけど。未来と同じ、きっとまた会えるって信じているから」

 

曇りない瞳で言う響に未来も頷き、優しいそよ風が二人を撫で響と未来は再び星の光が輝く満天の夜空を見上げていた。

 

 

 

 

場所は変わりどこかの国の大平原にリュックを背負ったレグルスが歩いていた。ふとレグルスにそよ風が吹く。

 

「ン響?・・・・・・・・・あぁきっとまた会えるよ。俺達はいつもこの空と大地で繋がっているから」

 

そしてレグルスはリュックを背負い直し再び歩み始める。これからどれ程の険しい道を歩いて行く事になろうと、どんなに過酷な運命が待ち構えていようと、彼は嫌彼等は歩みを止めない。この世に邪悪が蔓延る限り、聖闘士の戦いに終わりはないのだ。

 

 

 

 

聖姫絶唱セイントシンフォギアー第一部ー 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り。

 

レグルスとエルシドとデジェルが“月の破片”を破壊した直後、世界中が目映い光に包まれた時。

 

某国のとあるホテルの屋内プールでデッキチェアに寝そべりサングラスを掛けトランクス水着にアロハシャツを着た“男性”がいた。時間帯は夜になり他に客がいなく殆ど貸し切り状態のプールにその男とプールの中に潜水している“男性”以外誰もいなかったが、突然新たにプールに入ってきた“美男子”が現れた。

 

ウェーブがかかった水色の髪を腰にまで伸ばし、レザーズボンにYシャツを着た美男子は、デッキチェアに寝そべる男に近づく。

 

「今のを感じたか?」

 

「あぁ感じたぜ、ありゃあレグルスとエルシドとデジェルの小宇宙<コスモ>だな」

 

寝そべっていた男は上体を起こしサングラスを外すと整っているが悪人のような風貌をした青い髪を横に伸ばした男性だった。

 

すると今度はプールの中から潜水していた男性が出てきた。群青色の髪を腰にまで無造作に伸ばし整った顔立ちに獰猛な猛獣のような笑みを浮かべトランクス水着を着た男性だ。

 

「俺も感じたぜ!しかもアイツら更に力を上げやがった!くぅ~っ!早くアイツらと戦いたいぜ!」

 

「焦んなっつの。んで?俺らの“雇い主”はなんて言ったんだよ?」

 

「行動を起こすのは今から数ヶ月後だ。それまでに準備を進めておけとの事だ。それと私が“彼女”の護衛でお前達二人は“あの子達”の護衛だ」

 

美男子がそう言うと悪人風貌はデッキチェアに寝そべる。

 

「おいおいマジかよ、俺らが“アイツら”のお守り?どうせなら色気のある“アイツ”の護衛の方が良いぜ!オイ、お前もそう思うだろう!?」

 

「俺はどちらでも構わないさ。この命を燃やせる程の戦いができればな!」

 

「あぁお前はそう言うやつだよな」

 

たくっと言わんばかりに悪人風貌は立ち上がりデッキテーブルに置いてある氷水がたっぷり入ったワインバケツからシャンパンを取りだし開けるとクーラーボックスからシャンパングラスを三つ取りだしシャンパンをグラスに注ぐ。

 

「まぁ、一先ずは乾杯といこうや。いずれ再会する“盟友”達の勝利と記念すべき再会を祝ってな♪」

 

「“敵として”だがな」

 

「細けぇ事は良いだろう?楽しみだぜ、アイツらと戦えると思うとよ。熱くなってくるぜ」

 

三人の男性はそれぞれグラスを持ち乾杯する。

 

「「「乾杯」」」

 

チンとグラスを合わせた音が誰もいないプールに響いた。

 

そして、デッキテーブルに置いてあるワインバケツの隣には“星座の紋章が描かれた三つのレリーフ”が淡く光を放っていた。




今回で無印編はおしまいです。

G編は多分12月か来年の1月中旬に投稿します。何故かって?プライベートが忙しいのと休載した作品も書こうかなと思ったからです。


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G編
新たな戦い


新年明けましておめでとうごじゃりまする!m(__)m

さてさていよいよG編スタート。新たに現れる黄金聖闘士達の『生き様』を上手く表現したいです。


それは過去の情景、一人の『少女』の暴走が全てを炎に包んだ、その『少女』の元に行こうと崩れた施設の瓦礫を乗り越えながら『もう一人の少女』が表れた。『もう一人の少女』は『少女』に呼びかけ手を伸ばすが燃え盛る炎に遮られる。振り向いた『少女』の顔は『血の涙』と『口から流れる血』で染まりきった壊れたような笑顔だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

『少女』は『もう一人の少女』に向かって何かを呟く。『もう一人の少女』は崩れた瓦礫に潰されそうになるが、後ろから『年配の女性』が『もう一人の少女』を庇い瓦礫に潰される。『もう一人の少女』は『少女』の方を見ると『少女』が瓦礫に潰される姿が映った。

 

「ーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

『もう一人の少女』の慟哭が燃え盛る施設に虚しく響いた。

 

その後すぐ、『もう一人の少女』と『年配の女性』は『三人の少年達』に助けられるが、茫然自失していた『もう一人の少女』の頭には『ある歌』が流れていた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

かつて『少女』と『もう一人の少女』が共に歌った歌がその過去に流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”破滅の巫女フィーネ”が起こした“ルナアタック事変”から約3ヶ月が過ぎ、破壊された“月の一部”はそのまま細かい破片となり月の周辺を漂い、月はまるで土星のような姿になっていた。月がその姿を変えても人々の日常は変わること無く続いていた。

 

だが、フィーネが消滅してなお“特異災害ノイズ”の脅威は人々の知らない所で動いていた。

 

某国。大雨の中、装甲列車が中型の飛行ノイズに襲われていた。列車の乗組員は列車の武装を起動して応戦しようとするも、近代兵器でノイズに対抗することは出来ず乗組員は無残に黒炭へと化していった。その列車の中に“元”特異災害機動部二課の“友里あおい”と“灰色の髪に白衣の男性”がいた。列車が揺れて友里が倒れる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「平気です・・・!」

 

友里は立ち上がり白衣の男性に言う。

 

「それより“ウェル博士”はもっと前方の車両に避難してください!」

 

白衣の男性の名は“ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス”。生化学の研究者で、日本政府からアメリカ政府に“ある物”を届けるために“彼女達”と行動を共にしている。ウェル博士の後ろの扉が開き、そこから“立花響”と“雪音クリス”が入って来た。

 

「大変です!凄い数のノイズが襲ってきます!」

 

「連中、明らかにこっちを“獲物”と定めやがる。まるで、“何者”かに操られてるみてぇだ」

 

以前にノイズを操っていたクリスはノイズの行動を推察する。

 

「急ぎましょう!」

 

友里に誘導されながら一同は奥へと移動する。降りしきる雨の中の装甲列車をノイズ達が追う。

 

 

 

 

そしてここは“特異災害機動部二課?”の指令室で装甲列車とノイズをモニタリングしていた。

 

「第71チェックポイントを通過を確認!」

 

「米軍基地到着まではもう間も無く、ですが!」

 

ノイズの襲撃でオペレーター達が慌ただしく報告する中、“風鳴弦十郎”司令は険しい顔を浮かべる。

 

「“こちら”との距離が伸びきった瞬間を狙い打たれたか・・・」

 

「司令、やはりこれは・・・」

 

オペレーターの“藤尭朔也”の質問に弦十郎は頷く。

 

「ああ、“何者”かが“ソロモンの杖強奪”を目論んでるに違いない!」

 

弦十郎の言葉に藤尭は渋い顔を浮かべ思わず呟く。

 

「やはり、“彼”にも応援を頼めば・・・」

 

「それを言うな、“アイツ”が嫌“アイツら”が奏者達の任務に関わる事を“お上”が許可しない。“最強の存在”であるが故に、アイツらは“腫れ物”のような扱いを受けているんだ」

 

弦十郎の言う“アイツら”とは、“ルナアタック事変“の時に“フィーネ”を倒し落下する“月の破片”を破壊した“最強の戦士達”。だがその存在を日本政府は危惧し始めた。

“戦士達”と彼等が所持する“完全聖遺物”は“政治的”、“宗教的”に極めて“異質”であり、彼等の“力”は世界のパワーバランスを覆しかねない程の“軍事的”問題にも発展しかねないので、余り彼等の存在を知られるのは危険だと日本政府から通達が来ていた。

 

がそれはあくまで“建前“。

 

「お上にとって“アイツら”は『“ノイズ以上の脅威”になりかねないかもしれん』と考えているのだろうよ」

 

彼等がどういう人間なのかを知る弦十郎は不愉快と云わんばかりに顔をしかめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして響達は走行中の装甲列車の外に出て別車輌に移動しようとしていた。友里は本部からの連絡を受けながら先行する。

 

「はい!はい!多数のノイズに混じって高速で移動する反応パターン・・・」

 

別車輌に入るとウェル博士は今回の任務について話した。

 

「3ヶ月前、世界中に衝撃を与えた“ルナアタック”を継起に日本政府より開示された“櫻井理論”。そのほとんどが未だ謎に包まれたままとなっていますが、回収されたこの“アークセプター ソロモンの杖”を解析し、世界を脅かす“認定特異災害ノイズ”に対抗しうる新たな“可能性”を模索することができれば・・・」

 

ふとクリスが立ち止まり。

 

「ソイツは・・・“ソロモンの杖”は簡単に扱って良いものじゃねぇよ・・・」

 

「クリスちゃん・・・」

 

「最も、あたしにとやかく言える“資格”はねぇんだけどな」

 

“ルナアタック事変”の際、“ソロモンの杖”を使ってきたクリスはその“危険性”をよく知っているが、散々使ってきた自分には“資格”が無いと言う。俯くクリスの手を響がソッと握る。

 

「うわっ!バカ!お前こんな時に///」

 

「大丈夫だよ」

 

安心させるように響はクリスを元気づける。クリスは顔を赤らめる。

 

「お前本当のバカ////」

 

「“デジェルさん”にも頼まれてるんだ、クリスちゃんの助けになってくれって」

 

「(“お兄ちゃん”、コイツに変な事吹き込まないで!////////)」

 

ここには居ない“想い人”に心の中で悪態を付くクリス。ウェル博士が響に話しかける。

 

「失礼ですが、その“デジェルさん”と言う方は?」

 

「クリスちゃんの“大事な人”で“大切な人”なんです!もう結婚しちゃえば良いのにって思う位ラブラブでッ!?」

 

「余計な事言うな!このウルトラバカ!!//////////」

 

響の頭に鉄拳を振り下ろすクリスの顔は紅くなってはいたが本調子に戻っていた。そして本部と連絡を取り合っていた友里が声をあげる。

 

「了解しました!迎え撃ちます!」

 

通信を切り端末をしまい拳銃を構える友里、その姿を見て響とクリスも気持ちを引き締める。

 

「出番なんだな?」

 

「(コクン)」

 

友里が頷くと同時にノイズ達が列車の天井を突き破ってきた。

 

「うわああああああああああああ!!!?」

 

「!!」

 

ウェル博士は尻餅を付き、友里は拳銃で応戦する。響とクリスが構える。

 

「行きます!」

 

「(コクン!)」

 

そして二人は唄う、『戦いの歌』を!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

歌う響とクリスの身体に『撃槍』と『魔弓』の鎧を纏う!神話の神々の武具の欠片である“聖遺物”を“フォニックゲインの波動”を歌にして纏う鎧!その名を“シンフォギア”!“ルナアタック”の時と形状が変化していた。

 

響のシンフォギアは細部が変化し首には長いストールを巻いた黄色い鎧、本来は『槍』であるが、彼女の『誰も傷つけたくない』・『誰かの手を繋ぎたい』と願う心に反応して『無手』の姿になった“シンフォギア”、『北欧神話』の『撃槍 ガングニール』。

 

クリスのシンフォギアは赤い鎧を纏い、細部が異なる形状になっていた。『弓矢』であるが、『この世の地獄』を見てきたクリスの『全ての力を凪ぎ払う』と願う心に反応して変化したガングニールと同じく『北欧神話』のシンフォギア、『魔弓 イチイバル』。

 

響とクリスは天井を突き破り外に出る。

 

「濡れ雀共がうじゃうじゃと」

 

「どんな敵がどれだけ来ようと、今日まで訓練してきたあの“コンビネーション”があれば!」

 

「あれはまだ未完成だろう?実戦でいきなりぶっこもうなんておかしな事考えてんじゃねぇぞ」

 

意気揚々と構える響をクリスが諌めた。

 

「うん、取って置きたい“取って置き”だものね!」

 

「フン、分かってんなら言わせんな」

 

悪態を付きながらもクリスは腕のパーツを変形させて二丁のボーガンを構える。

 

「背中は任せたからな」

 

「任せて!」

 

“最強の戦士達”は“個”で戦うのに対し“奏者達”は“群”で

戦うのだ。響は歌を歌いながら戦いを始めた。フォニックゲインは歌声にする事でシンフォギアの力を上げる事ができるのだ。

 

響は空中を飛びながらノイズに殴り蹴りを繰り返し、更にノイズを足場にして後ろからクリスを狙うノイズに一直線に突っ込みノイズを凪ぎ払う、その姿はまるで響自身が一本の『槍』のように。

 

遠・中距離射撃を得意とするクリスと近距離戦闘を得意とする響の戦闘スタイルはまさに理想的コンビと言えるだろう。だが、クリスの心には少しの“焦り”があった。

 

「(まだだ、こんなんじゃねぇ・・・こんなんじゃお兄ちゃんの“足手まとい”のままだ・・・)」

 

“心から大好きな人”は恐らく今の自分や響、そしてここにはいない“先輩”が束になって戦っても到底足元にも及ばない“高み”にいる、そう考えるとクリスの心に言い様のない“焦り”が浮かんだが。

 

「(チッ、集中しろ雪音クリス!今はノイズを倒すことに集中しろ!)」

 

僅かな“焦り”を振り払うかのようにクリスはボーガンを大型にして構えさらに太く大きくなった矢をノイズに向けて放つ!

 

放たれた弓はノイズを貫きながら空中で無数に分裂してノイズを貫くその技『GIGA ZEPPELIN』!

 

だが爆散したノイズの群れから更に巨大なエイのような姿をした飛行型が現れる。

 

「アイツが取り巻きを率いてやがるのか」

 

クリスは腰のパーツを展開すると小型の追尾型ミサイルを放つ『MEGA DETH PARTY』を放つがノイズは意外な空中旋回でミサイルをかわす。

 

「だったら!」

 

今度はボーガンきら四門三連ガトリングに変形させて放つ『BILLION MAIDEN』を放つ!だがガトリングの弾丸をノイズは巧みに交わし、突撃モードに姿を変えてクリスに突撃する。

 

「クッ!」

 

「クリスちゃん!」

 

応戦するクリスの前から響がノイズに飛びかかり拳を叩きつける!ノイズの軌道をずらし応戦するクリスの近くに着地する。

 

奏者達が戦っている間、司令室では弦十郎が不可解と云わんばかりの難しい顔をしていた。

 

「(ノイズとは唯人を殺す事に終止する極めて単調な行動パターンが原則の筈、だがあの動きは目的を遂行すべく制御されたもの。“ソロモンの杖”以外でそんな事が)」

 

今までと違うノイズの動きに弦十郎は疑問を浮かべていた。

 

 

 

そして装甲列車は鉄橋に差し掛かった。クリスが弾幕を張りノイズを寄せ付けないようにしているが、所詮場を持ちこたえることしかできない。ノイズ達は飛行する事ができない奏者達と距離を保ち、響達が手が出せない状況になっていた。

 

「あん時<ルナアタック事変>みたく空を飛べるXD<エクスドライブ>モードならこんな奴等にいちいちもたつく事もねぇのに!」

 

“ルナアタック事変”の最終局面で飛行能力と念話能力を得たXD<エクスドライブ>モードならとクリスがぼやくが。

 

「クリスちゃん!」

 

「あ?」

 

響の声に振り向くクリスの目にはトンネルの入り口が迫ってきていた。

 

「「ウワアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」

 

寸前で響が震脚で列車の天井を壊しクリスを抱き抱えて列車の中に逃れた。

 

「ギリギリセーフ!クリスちゃんをお姫さま抱っこするのは“デジェルさん”の特権だけど・・・」

 

「お陰で助かったんだから良いだろ・・・くそっ、攻めあぐねるとはこう言うことか!」

 

拳を手に当てて状況に苛立つクリス。すると響が声をあげる。

 

「そうだ!」

 

「何か閃いたのか?」

 

「師匠<弦十郎>の戦術マニュアルで見たことある!こう言う時は列車の連結部を壊してぶつければ良いって!」

 

「ハァ、オッサン<弦十郎>のマニュアルとか面白映画だろう?そんなのが役に立つか。大体ノイズに車輌をぶつけたってアイツらは通り抜けてくるだけだろう?」

 

クリスは呆れながら言うが響は自信満々な態度で。

 

「フッフン♪ぶつけるのはそれだけじゃないよ!」

 

「・・・・・・」

 

ドヤ顔の響をクリスは訝しそうに見つめる。

 

 

 

 

 

 

ー日本ー

 

その頃、日本のとあるマンションで部屋を借りている青年は自室でドイツ語で書かれた医学書を読んでいた。すぐ近くの本棚には英語やフランス語やドイツ語にイタリア語はては中国語の医学書や薬草学、針治療や生体学、動物学の本があった。

緑色の長髪に端麗な顔立ちに眼鏡を掛け、知性溢れる雰囲気の青年はふと机に立て掛けてある“クリスと青年”が仲睦まじく写る写真を微笑みを浮かべながら見つめ。

 

「クリス・・・・・・」

 

幸せそうに笑うクリスを見ていた青年は別の地で任務に当たっている本来ならば同棲している“大切な人”に思いを馳せていた。

 

ピッ!

 

「?」

 

すると突然、青年のパソコンにメールを受信した効果音が流れた。青年はメールの送り主を見ると目を鋭くする。

 

「“アクベンス”・・・・・・」

 

“裏の情報屋 アクベンス”からのメールを訝しそうに見つめるが送られてきたメールには付録写真しかなかった。一応世話になった情報屋からのメールなので付録写真を見るとそこには。

 

大勢の野次馬に囲まれた“桃色の髪をした少女”と“その少女の護衛らしき数人の男性”が写っていた。

 

「彼女は確か・・・・・ッ!?この護衛、まさか!?」

 

そこには“青い髪を横に伸ばした青年”と“群青の長髪の男性”がいた、サングラスを掛けていたが青年はその男達に見覚えがあった。

 

「まさか・・・・・・アイツらが?」

 

青年<デジェル>は眼鏡を外し言い知れぬ“不安感”が頭をよぎった。そしてデジェルは携帯端末を持って連絡をする。

 

 

ー某国の山岳地帯ー

 

ここに一ヶ月前から駐留している鋭い目付きをした黒髪の青年がいた。青年は“ある調査”の為にここにいたが、携帯端末が鳴る。

 

「もしもし、デジェルかどうした?・・・・・・何?それは本当か?・・・・・・わかった、俺も直ぐに日本に戻ろう。“アイツら”がもしも敵側なら立花達の生命は保証できん」

 

そう言って青年<エルシド>は通信を切り帰国の準備をする。

 

 

 

 

ー某国の山脈地帯ー

 

目を閉じた金髪の青年は瞑想を耽っていたが。

 

「何か、不穏な気配を感じる・・・また日本か・・・よくよく妙な縁があるな、あの地には」

 

金髪の青年<アスミタ>は霞のように姿を消した。

 

 

 

ーフランスの凱旋門前ー

 

フランスの凱旋門の前にある露店商から茶髪の少年が“あるモノ”を買った。

 

「ありがとうおっちゃん!・・・・・さ~てと、“コレ”どうしょっかな・・・・・・風が呼んでる・・・・・・日本か・・・行ってみるかな♪」

 

少年<レグルス>はワクワクとした笑みを浮かべて日本を目指す!

 

 

 

 

“最強の戦士達”も知らない、奏者達も知らない、これから起こる“新たな戦い”をーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

ー聖姫絶唱セイントシンフォギアGー

 

 

 




今回はここまで、まだ“アイツら”は登場しません、申し訳ありません!!m(。≧Д≦。)m


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歌姫と宣戦布告

彼等の“出番”はまだ先ですごめんなさい。


響達が乗る装甲列車を追ってノイズ達がトンネルの中を進む。響とクリスは列車の連結部に行くと。

 

「急いで、トンネルを抜ける前に!」

 

響に急かされクリスは連結部分を破壊する。

 

「サンキュークリスちゃん!」

 

響が破壊された連結部分に取りつく。

 

「本当にこんなんで良いのかよ?」

 

「後は、これで!」

 

響が後部車輌を押し出す。後部車輌はノイズ達に向かって行くがノイズ達は躊躇わず後部車輌に突っ込む。後部車輌をすり抜けたノイズ達。響は右手のパーツを大きくして構えていた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

響は歌を歌いフォニックゲインを高め、必殺の構えに入る。ノイズが後部車輌をすり抜けるのを見計らうと。

 

「飛べーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

右手を突き出しノイズに向かって突っ込む。右手のアームのバーニアに火が灯り、拳にメリケンがセットされる、右手のパーツのタービンが回転する、バーニアの火が更に強くなりスピードを上げて大型ノイズにその拳を突き刺す!拳を突き刺すと同時に右手のパーツはパイルバンカーのように追加衝撃を叩き込む!

すると大型の身体が崩れ大爆発を起こした、他のノイズはその爆発に呑み込まれ次々と爆散して行った。

装甲列車がトンネルを向けて直ぐに爆発が外に出る。雨が止み昇る朝日を背に響は凛然と佇んでいた。その姿を装甲列車から見てクリスは響の作戦を理解した。

 

「(閉鎖空間で相手の機動力を封じた上、遮蔽物の向こうから重い一撃・・・アイツ、どこまで・・・もしかして、あたし達<奏者>の中で一番お兄ちゃん達に、聖闘士に近いのはアイツなのか?)」

 

短時間でこれ程の作戦を閃き実行する響のセンスにクリスは唖然とした。それから響を乗せ装甲列車は再び米軍基地に向かい、“ソロモンの杖”とウェル博士を基地にいた軍人達に渡した。

 

「これで、搬送任務は完了となります。ご苦労様でした」

 

「ありがとうございます」

 

任務完了と聞いて響とクリスも顔を見合せ笑う。そんな二人にウェル博士が話しかける。

 

「確かめさせてもらいましたよ、皆さんが“ルナアタックの英雄”と呼びれる事が伊達ではないとね」

 

「“英雄”!私達が!?いや~普段誰も褒めてくれないので遠慮無く褒めてください~、むしろ~誉めちぎってくださイダッ!?」

 

調子に乗りまくる響にクリスがチョップをする。

 

「このバカ!そう言う所が誉められないんだよ!」

 

「痛いよ~クリスちゃ~ん・・・」

 

「出来ることなら、“黄金の英雄”達にも是非お会いしてみたかったですが・・・」

 

ウェル博士の言う“黄金の英雄”の単語で響とクリスの脳裏に遥か高みに立つ黄金の背中が浮かんだ。

 

「あぁ~、その~、その“英雄”さん達は~」

 

「アイツらは言うなれば“切り札”見たいなモンだからな、こんな簡単な仕事はあたし達だけで十分なんだよ」

 

言い淀む響を退かし事実を話すわけにはいかないので適当に誤魔化すクリス。

 

「それは残念ですね。資料で見せていただいたのですが、彼等は正に、イエ彼等こそ“英雄”と呼ばれても差し支えない人物だと私は考えています」

 

「(確かに・・・)」

 

「(レグルス君達なら“英雄”って呼ばれるのにふさわしい人達だよね・・・)」

 

“ルナアタックの英雄”と呼ばれているが、フィーネを倒し“月の欠片”を破壊したのは彼等なのでウェル博士の言葉に内心頷く。だがウェル博士は堰を切ったように語りだす。

 

「世界がこんな状況だからこそ、僕達は英雄を求めている。そう!誰からも信奉される!“偉大なる英雄”の姿を!!」

 

「あはは、それほどでも!」

 

能天気な響は笑うがどこか狂気染みたウェル博士の話をクリスと友里は訝しそうに見つめる。ウェル博士はにこやかに微笑み。

 

「皆さんが守ってくれた物は、僕が必ず役立てて見せますよ」

 

「不束な“ソロモンの杖”ですが、よろしくお願いします」

 

「頼んだからな」

 

そして響とクリスと友里は基地を後にすると。

 

「無事に任務も完了だ~、そして」

 

「うん!この時間なら“翼さん”のライブにも間に合いそうだ!」

 

日本に帰国している“風鳴翼”のライブがあり、それに間に合いそうなのではしゃぐ響。

 

「二人が頑張ってくれたから司令が東京までヘリを出してくれるそうよ」

 

「マジすか!?」

 

と響が言って瞬間、それは起こった。

 

 

チュドオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 

 

突然基地が爆発した!更に基地から大型ノイズが現れた!

 

 

響は唖然として呟く。

 

「マジすか?・・・・・・」

 

「マジだな!」

 

基地に向かう響とクリス。友里は二人を見送る。基地では米軍兵士とノイズが交戦していた。だが“奏者”でも“戦士”でもない兵士達ではノイズに対抗することが出来ない。次々とノイズにやられ黒炭になっていく兵士達、辺りには黒炭へとその死に姿をさらしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー東京ー

 

場所は変わり。ここは東京のライブ会場。スタッフがライブの準備に勤しんでいる会場の観客席で一人の少女が鼻歌を歌っていた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

女性にしては長身で桃色の髪を猫の耳のように巻いた長髪に水色の花の髪飾りをし、女性の理想的なプロポーションをしたミステリアスな雰囲気漂う少女。

 

 

ピリリリリ、ピリリリリ、ピリリリリ・・・・

 

「ッ・・・」

 

突然携帯が鳴りそれに出る。

 

「《こちらの準備は完了、サクリストSが到着しだい始められる手筈です》」

 

連絡を寄越したのは老婆のような声をした人物、その人物からの報告を聞いて少女はサファイアブルーの瞳を閉じて答える。

 

「ぐずぐずしてる時間は無いわけね。OKマム、“世界最後のステージ”の幕を上げましょう」

 

そう言って少女は電話を切るといつの間にか自分の後ろに立っていた地味な灰色の背広に水色の長髪を後ろに束ね、分厚い眼鏡をした“男性”に語りだす。

 

「いよいよ始まるわ、貴方も“覚悟”を決めなさい」

 

「・・・(コクン)・・・」

 

“男性”は静かに頷いた。

 

 

 

 

 

ー米軍基地ー

 

響達がいた米軍基地はノイズに襲撃を受け、ノイズ達は響とクリスによって倒されたが、駐屯していた兵士達の大半は最初の爆発で瓦礫の下敷きかノイズの攻撃を受けて黒炭になっていた。回収班が黒炭の回収をしているのを尻目に友里は“本部”に連絡を取っていた。

 

「はい、すでに事態は収拾、ですが行方不明者の中にウェル博士の名もあります。そして、“ソロモンの杖”もまた・・・」

 

友里の足元には“ソロモンの杖”が無くなったアタッシュケースが落ちていた。

 

 

 

ー本部ー

 

「そうか、分かった急ぎこちらに帰投してくれ」

 

「《分かりました》」

 

弦十郎は友里との通信を切る、藤尭が弦十郎に話しかける。

 

「今回の襲撃、やはり“何者”かの手引きなのでしょうか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

藤尭の問いに弦十郎は難しい顔を浮かべた。すると“本部”に連絡が入った。連絡を出したのはあまり“本部”と連絡を取り合わない“人物”からだった。

 

「《どうやら、“何者”かにしてやられたようですね風鳴司令?》」

 

「デジェル?お前の方から連絡してくるとは、件の“何者”かに心当たりがあるのか?」

 

「《いえ、そこまでは・・・ただ一つ報告しておきたい事があります》」

 

「報告?」

 

「《先程連絡がつきました、間も無く“エルシド”と“レグルス”が日本に帰国します》」

 

「ッ!・・・“エルシド”と“レグルス君”が?・・・・・あの二人が帰国するということは“何か”が起きようとしているのか?」

 

“ルナアタック事変”以降、殆ど連絡を寄越さなかった二人の突然の帰国に弦十郎は“嫌な予感”を感じた。

 

「《それは何とも、ただ“何か”動き始めているとは思います。そこで風鳴司令、“預けている物”と今すぐ“用意してほしい物”があるのです》」

 

「?」

 

デジェルの言う“預けている物”とは、日本政府からの命令で“デジェル”と“エルシド”と“レグルス”が自由に活動する“条件”として風鳴弦十郎に預けた“鎧”、“用意してほしい物”は“裏の情報屋アクベンス”が送って来た“写真の少女”に近づく為のチケットであった。

 

 

 

 

ーライブ会場ー

 

その日の夕方、日本を代表するアーティスト“風鳴翼”と世界の歌姫“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”の合同ライブが始まろうとしていた。

 

「この盛り上がりは皆さんに届いていますでしょうか?世界の主要都市に生中継されている、トップアーティスト二人による夢の祭典、今も世界の“歌姫マリア”によるスペシャルステージにオーディエンスの盛り上がりも最高潮です!」

 

世界的アーティストであるマリア・カデンツァヴナ・イヴのステージに会場は盛り上がりその中継は世界中に生放送されている。そんな中、ステージ裏では日本のトップアーティスト“風鳴翼”とマネージャーの“緒川慎司”がいた。翼はステージに向けて精神統一をし“二課”の諜報員である緒川はこっそり“本部”と連絡を取っていた。

 

「状況は分かりました、それでは翼さんを・・・・」

 

「《無用だ、ノイズの襲撃と聞けば今日のステージを放り出しかねない》」

 

「そうですね。では、そちらにお任せします」

 

翼の性格を知る二人は翼に悟られないように決めた。

 

「《後、“アイツら”がそっちにいる》」

 

「“彼等”が?」

 

「《“アイツら”がいるって事は、そっちに“何か”が起きるかもしれん、十分注意しておけ》」

 

「了解しました」

 

そう言って通信を切った。翼は目を開き。

 

「司令からは一体何を?」

 

「今日のステージを全うしてほしいと」

 

“眼鏡を外しながら”誤魔化そうとする緒川に翼はため息をつきながら詰め寄る。

 

「“眼鏡を外した”と言うことは、“マネージャモード”の緒川さんではないと言う事です」

 

「あッ!?」

 

緒川が翼の性格を理解しているように翼も緒川を理解している。

 

「自分の癖くらい覚えておかないと、敵に足元を掬われ「お時間そろそろです、お願いしまーす」ッはい、今行きます」

 

小言を言おうとするがスタッフから声をかけられ遮られる。思わず緒川を見る翼。

 

「傷ついた人の心を癒すのも風鳴翼の“大切な務め”です。頑張って下さい♪」

 

にこやかに笑いながら誤魔化す緒川を不審そうに見つめる翼だが。

 

「不承不承ながら、了承しましょう。詳しい事は後で聞かせていただきます」

 

「(感ずかれましたかね、こうなったら仕方ないです)そういえば、司令から連絡があったのですが、“エルシド”が来ているそうですよ」

 

「(ドキッ!?)え、“エルシド”が!?な、何で?どうして!?/////」

 

「丁度、帰国してきたようなので翼さんのライブを見てこいと司令が命令したそうなんです」

 

「そそそそうですか、では、“エルシド”に情けない姿を見せるわけには行きませんね//////(ガチガチ)」

 

そう言ってガチガチになりながらステージに向かう翼を緒川は見送った。

 

「(すみません“エルシド”、ダシに使わせてもらいました)ん?あの人は・・・」

 

緒川の目線の先には“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”の付き人である“水色の髪の男性”がいた。

 

「(ペコリ)」

 

分厚い眼鏡で顔がよく見えない“男性”は緒川の視線を感じたのか軽く会釈すると立ち去って行った。緒川は少し不審に思うが“マネージャーモード”から“お仕事モード”に切り替えて行動する。

 

 

 

 

 

そしてコンサート会場から離れ場所に何かの“装甲車両”が駐車されていた。その内部ではいくつものモニターが自動で何かを計測しており、一際大きなモニターでは“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”のライブ映像が流れていた。そのモニターを見ていたのは車椅子に座った紫の髪に黒い喪服を着た顔の半分を黒い包帯で覆った老婆だった。老婆の後ろのモニターからメッセージを受信した。老婆はそれに目を向けると。

 

『SI Vis Pacem,Para Bellum<汝 平和を欲せば 戦への備えとせよ>』

 

とラテン語で表示されていた。老婆はそれを見てニヤリと笑い。

 

「ようやくのご到着、随分と待ちくたびれましたよ」

 

老婆は“計画通り”と言わんばかりに囁いた。

 

 

 

 

ーライブステージー

 

そこでは“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”のステージが終わり、会場は熱気に包まれていた。

 

『マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マーリア!マー リア!マーリア!』

 

観客は“マリア”の歌声に熱狂し、あらゆる国のテレビでも報道されていた。そんな中、会場の熱気に浮かれていない“三人”がいた。

 

「あれがマリア・カデンツァヴナ・イヴか」

 

「凄い熱気だよな、流石は世界の歌姫。なぁデジェル?本当にここに“アイツら”がいるの?」

 

「何度か世話になった“情報屋”からのたれ込みだ。信頼できるとは思うが・・・」

 

“レグルス”と“エルシド”と“デジェル”である。三人は弦十郎にライブチケットを用意してもらい、昼過ぎから帰国して来たエルシドとレグルスはその足で直接ライブ会場に行き、先に来ていたデジェルと合流し現在に至る。

 

勿論“目的”はライブではない、マリア・カデンツァヴナ・イヴのSPとして行動している“二人”を探す為だ。

 

「しかしその“情報屋”の名前、“アクベンス”とは」

 

「あぁ、“アクベンス”は“ある星座”のα星の名前だ」

 

その“ある星座”が“アクベンス”が何者なのかを物語っていた。

 

「でもさ、まだあの“二人”が敵になると決まった訳じゃないんだろう?」

 

「そうなのだが、何しろ“我々”の中でも特に“危険”な性質の“二人”だからな。この“世界”には戦女神<アテナ>も教皇様も居ないんだ。すなわちあの“二人”の“手綱を握る人間”がいないと言う事だ」

 

「おい、あれを見ろ」

 

「「!?」」

 

エルシドの目線を追って見ると観客席から通路に繋がる入り口に“目当ての二人”がいた。“二人”ともレザージャケットにジーンズを履き見るからにチンピラかゴロツキのような風貌をしていた。

 

「「・・・(ニヤリ)・・・」」

 

“二人”はレグルス達の方を見ると薄く笑い通路の中に入っていった。

 

「「「(コクン)」」」

 

レグルス達は頷き合うと“二人”を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーライブ会場通路ー

 

目当ての“二人”を追って徐々に薄暗い通路に来てしまった三人は“二人”に呼び掛ける。

 

「おい、どこだ!どこにいる!」

 

「隠れてないで、出てこい!」

 

「“マニゴルド”!“カルディア”!」

 

かつての仲間達の名前を呼ぶが三人の声だけが虚しく通路に響いた。

 

「ここにはいないのかな?取り敢えず、一度外に出て(ガクッ)!?」

 

突然レグルスが膝から崩れた、エルシドとデジェルも崩れる。

 

「な、なんだ?身体に力が・・・」

 

「これは、一体・・・!?」

 

三人の目の前に“薔薇の花びら”が舞っていた。そして三人は事態を理解した。

 

「まさか!・・・・・・」

 

「お前も、ここにいるのか・・・」

 

「アル・・・バ・・・フィ・・・」

 

三人は静かに目を閉じて倒れた、まるで陶酔し眠るようにーーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、観客席にあるゲストルームの個室では、立花響の親友“小日向未来”と立花響の友人“安藤創世”と“寺島詩織”と“板場弓美”がいた。

“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”の姿と歌声に興奮冷め止まぬ状態だった。

 

「おお~、流石マリア・カデンツァヴナ・イヴ!生の迫力は違うね~!」

 

「全米チャート登場してからまだ数ヶ月なのにこの貫禄はナイスです!」

 

「今度の学祭の参考になればと思ったけど、流石に真似できないわ」

 

「それは初めっから無理ですよ板場さん」

 

はしゃぐ弓美に詩織が冷静にツッコム。未来は腕時計を見ながらまだ来ていない響を心配する。創世が未来に話しかける。

 

「まだビッキー<響>から連絡来ないの?メインイベントが始まっちゃうよ」

 

「うん・・・・・・」

 

「折角、風鳴さん<翼>が招待してくれたのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて・・・」

 

「期待を裏切らないわね~、あの子ってば」

 

暢気に会話する未来達だが、突然辺りが暗くなる。“メインイベント”が始まった。

 

観客の歓声が更に上がるとステージから“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”と“風鳴翼”が現れた。マリアと翼はサーベル型のマイクを持って対峙する。

 

「見せてもらうわよ、戦場に冴える抜き身の貴女を!」

 

そして始まった二人の歌姫によるデュエット!

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

その歌声は優美で可憐で勇ましく凛々しき二人の歌声は会場にいた人々を熱狂させ、興奮させ、燃えるように熱くさせるその姿は正に“絢爛豪華”!

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!

 

二人の歌が終わっても歓声は止むこと無くなく続いていた。ゲストルームにいた未来達(特に弓美)も大興奮だった。

 

観客に向けて手を振っていたマリアと翼、翼が前に出て観客に話す。

 

「ありがとう、皆!」

 

翼の感謝の言葉に会場は更に盛り上がる。

 

「私は、いつも皆に沢山の勇気を貰っている!だから今日は、私の歌を聞いたくれる人達の為に!少しでも勇気を分け与えたら良いと思っている!(エルシド、聞いてくれたかな?)」

 

ワアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

更に会場のボルテージが上がった。そして今度はマリアが前に出て。

 

「私の歌を全部、世界中にくれてあげる!振り返らない!全力疾走だ!着いてこられる奴だけ着いてこい!」

 

イギリスで、アメリカで、エジプトで、女王然としたマリアの言葉を聞いた人達は熱狂をあげる。中には涙を流しながらマリアを拝むものまでいた。

 

「流石に言うね~、うちの歌姫様嫌女王様は♪」

 

その様子を“悪人顔の男”が観客席から眺めていた。マリアは更に言葉を重ねる。

 

「今日のライブに参加出来たことを感謝している。そしてこの大舞台に、日本のトップアーティスト風鳴翼とユニットを組み歌えたことに」

 

「私も素晴らしいアーティストに出合えたことを光栄に思う」

 

二人の歌姫はその手を繋いだ。それにより歓声はまた上がる。

 

「私達も世界に伝えていかなきゃね、“歌には力がある”って事を」

 

「それは世界を変えていける力だ」

 

マリアは翼に背を向けて。

 

「そして、もう一つ」

 

「?」

 

バッ!

 

マリアがドレスを翻すとステージや観客席から光が吹き出し、そこから何と!“ノイズ”が現れた!

 

ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

突然のノイズの登場に会場は一気に大混乱した!翼は完全に意表を突かれて呆然としながらマリアを見る。

 

ノイズの襲撃で、会場は地獄絵図へとその姿を変えた。だがマリアが呟き叫ぶ。

 

「狼狽えるな・・・・・・狼狽えるな!!」

 

マリアの叫びで観客達が静かになった。それはまさに、絶対者の一喝!

 

 

 

 

ー本部ー

 

当然、ノイズの出現は本部も検出していた。

 

「ノイズの出現反応多数!場所はクリオブミュージックの会場!」

 

藤尭の報告で弦十郎は席から立ち上がり。

 

「なんだと!?レグルス君達は!?」

 

「それが、レグルス君、エルシド、デジェル、誰とも連絡が付きません!」

 

 

 

 

ートレーラーー

 

トレーラーの中にいる老婆は次の行動に移る。

 

「遅かりし、ですがようやく計画を始められます」

 

老婆の後ろで会場では光景を見ている“二人の少女”と“男性”がいた、二人の少女の胸元には妖しく光る“赤い結晶”が輝いていた。

 

「(ニッ!)いよいよだな・・・・・・」

 

二人の少女の後ろにいた“男性”が犬歯を剥き出しにして笑う。

 

 

 

ーライブ会場ー

 

会場では、観客達がノイズへの恐怖で動けなくなっており、何時またパニックになるか分からない状態だった。その情景を未来達も見ていた。

 

「ア、アニメじゃないのよ」

 

「何でまたこんなことに・・・」

 

「響・・・」

 

すると未来達のいるゲストルームの扉が開いた。

 

「「「「ッ!!?」」」」

 

ノイズと思って扉を見るとそこには。両肩にエルシドとデジェルを担いだレグルスが現れた。

 

「ゼエ、ゼエ、ゼエ、す、すみません、み、水を貰えませんか?」

 

「レグルス君?」

 

「え?あ未来、久しぶり~♪・・・何て言ってる場合じゃないな・・・とにかく水持ってない?・・・この二人にも飲ませないと」

 

「エルシドさん!デジェルさん!」

 

「小日向か?・・・また妙な所で再会したな・・・」

 

「すまない小日向君・・・水を貰えないだろうか?・・・」

 

 

 

 

 

 

レグルス達が未来達と再会している間に響とクリスと友里はヘリコプターで会場に急行していた。

 

「了解です。奏者二名と共に状況介入まで40分を予定、事態の収拾に当たります。聞いての通りよ。昨日の夜と三連戦になるけど、お願い」

 

「「(コクン)」」

 

友里の言葉に響とクリスは気を引き締めて頷く。二人は現場の映像に目を向ける。

 

「又しても操られたノイズ」

 

「詳細はまだ分からないわ。だけど」

 

「だけど?」

 

「“ソロモンの杖”を狙ったノイズの襲撃と、ライブ会場に出現したノイズが全くの無関係とは思えない」

 

友里の言葉に響とクリスも言い様のない不安が生まれた。

 

 

 

 

ーライブ会場・ステージー

 

ステージの上では翼がシンフォギアを起動しようとするが。

 

「恐い子ね、この状況にあっても私に飛び掛かる機を窺ってるなんて。でも逸らないの、オーディエンス達がノイズからの攻撃を防げると思って?」

 

「クッ!」

 

その言葉から翼はマリア・カデンツァヴナ・イヴがノイズを操っていると確信し苦々しい顔を浮かべる。

 

「それにライブの模様は世界中に中継されているのよ。日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その奏者については秘匿したままじゃないかしら?」

 

奏者の事が知られれば奏者達の力を狙って奏者達や周りの人達にも被害が及ぶ。それ故奏者の事は秘匿状態になっている。

 

「ね、風鳴翼さん?」

 

「甘く見ないでもらいたい、そうと言えば私が鞘走るのを躊躇うと思ったか!」

 

“アーティストモード”から“防人モード”に切り替わる翼はマリアに敵意を向ける。だがマリア・カデンツァヴナ・イヴは余裕の態度を崩さず。

 

「フッ、貴女のそう言うところ嫌いじゃないわ。貴女や貴女が追い付きたいと願う“戦士”達のように、誰もが“誰かを護るため”に戦えたら、世界はもう少しまともだったかもしれないわね・・・」

 

何処か悲しそうにマリア・カデンツァヴナ・イヴは顔を伏せる。その表情に一瞬翼は戸惑い。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴ、貴様は一体・・・」

 

「そうね、そろそろ頃合いかしら」

 

マリアはそう言ってサーベル型のマイクを振り回し、世界に向けて叫ぶ。

 

「私達は、ノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求する!」

 

「世界を敵に回すと言う口上?これはまるで・・・」

 

その頃、“未来からの連絡”を受けてレグルス達に“あるもの”を届ける為に向かっていた緒川も。

 

「宣戦布告・・・」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴは不敵な笑みを浮かべ。

 

「そして・・・・・・」

 

マイクを頭上に振り投げて。歌う、奏者達と同じ“戦いの歌”をーーーーーーーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

ドレスが弾け、マリアの胸元にシンフォギアの結晶があった!

 

「まさか!?」

 

ゲストルームで見ていたエルシドとデジェルも。

 

「!?あれは・・・」

 

「!?・・・」

 

指令部でモニターしていた藤尭が声をあげる。

 

「この波形パターン、まさかこれは!?」

 

レグルスと弦十郎の声が重なった。

 

「「『ガングニール』だと!!?」」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴの身体にアーマーが装備される!それは響のと形状が僅かに異なりより攻撃的なデザインで白いストールではなく黒いマントを翻したその姿は正しく、『北欧神話』の『撃槍ガングニール』!

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

翼も、藤尭も、弦十郎も、そして映像を見ていた響とクリスも驚愕し愕然となる。響が呟く。

 

「黒い・・・ガングニール・・・」

 

愕然となる翼を余所にマリア・カデンツァヴナ・イヴは落ちてきたマイクを掴み、再び世界に向けて布告する。

 

「私は、私達は『fine<フィーネ>』! そう、『終わり』の名を持つものだ!」

 

それはかつて“ルナアタック事変”の際、世界を震撼させ、響達と因縁深く、レグルス達に憧れた“巫女”の名前だった。

 

 

 

 

 

「やっちまったな、もうこれで止められねぇ・・・」

 

「止まるわけには行かないだろう彼女達は」

 

「“世界に宣戦布告”しちまった、この意味がわかってんのかねアイツらは?」

 

「お前こそ解っているのか?」

 

「へっ。ま退屈しないで済みそうだけどな、一応“契約”は守るぜ、報酬もあるしな」

 

「以外にお前も損な性分をしているな」

 

「フン、それよりも」

 

「あぁ、気になるのは」

 

二人の脳裏にまるで“胎児のような異形の生物”が浮かんでいた。そして、トレーラーにいる老婆から連絡を受けて彼等も行動を起こす。

 

この戦いで起こる、空前絶後の“最強対最強”の戦いの秒読みは今正に開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思ったより長くなった、次回で新たな黄金の登場をさせたいです。


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三人の奏者と三つの黄金

遂に奴等が登場します!


マリア・カデンツァヴナ・イヴによる突然の世界への宣戦布告。そして響と異なる“黒いガングニール”にレグルス達も驚きを隠せない状態になった。

 

「何で、“ガングニール”があるんだ?」

 

「立花君が纏っているのは“神々の大戦<グレートウォー>”で破壊されたガングニールの“欠片”だ」

 

「成る程、マリア・カデンツァヴナ・イヴの纏うのも同じ“本来のガングニール”の欠片と言う訳か」

 

レグルス達が纏う“鎧”と違い、響達奏者が纏うシンフォギアはかつて地上を滅ぼそうとした神々と地上を守ろうとする神々によって引き起こった“神々の大戦<グレートウォー>”で地上を護るために戦い砕けた神の武具の“欠片”に過ぎない。

つまりマリア・カデンツァヴナ・イヴの纏っているのも響と同じように“本来のガングニールの欠片”から生まれたシンフォギアだと推察した。

 

ー司令室ー

 

“黒いガングニール”の出現に唖然としていた弦十郎達に“防衛省”から連絡が来た。弦十郎の眼前のモニターにざるそばを啜る年配の老人が映った。

 

「斯波田事務次官!?」

 

「《厄ネタが暴れてるのはこっち<日本>ばかりじゃなさそうだぜ、まぁ少し前に遡るがな》」

 

“斯波田賢仁 外務省事務次官”は弦十郎に過去に起こった“事件”を話す。

 

「《米国の聖遺物研究機関でもトラブルがあったらしい。まぁなんでも今日まで解析してきたデータのほとんどがお釈迦になったばかりか、保管していた“聖異物”までも行方不明って話だ。しかも『fine<フィーネ>』って名前の謎の組織にな》」

 

事務次官の話から“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”の所属する“組織”であると弦十郎も読んだ。

 

「こちらの状況と連動していると?」

 

「《蕎麦に例えんなら終わりってことはあるめぇ。ま、二発点そう言うこったろう》」

 

そう言って豪気に蕎麦を啜る事務次官。

 

「《後な、4ヶ月程前に別の研究機関では調査中の“完全聖遺物らしき物”があったらしいがそれも行方不明になったらしい》」

 

「“完全聖遺物らしき物”?」

 

響達のシンフォギアは“欠片”から生まれた聖遺物。“完全聖遺物”とは“欠片”では無く、“完全な状態の聖遺物”の事である。

 

「《そのブツは、何でも“星座の紋章が刻まれたレリーフ”らしい。それも“三つ”もな》」

 

「“星座の紋章が刻まれたレリーフ”ッ!?まさかそれはッ!?」

 

驚愕する弦十郎に向けてまた蕎麦を啜った事務次官は言う。

 

「《そう言うこった、もしかすっとおめぇらの“切り札”の同門共が奴さん達の側についてるってこった》」

 

「何と言うことだ・・・敵側にも“最強の戦士達”がいるとは・・・(これを見越して、デジェル達は“アレ”の使用許可を求めたのか、頼むぞ緒川)」

 

 

 

 

ーライブ会場ステージー

 

「我等『武装組織FIS<フィーネ>』は、各国政府に対して要求する。そうだな、さしあたっては国土の割譲を求めようか!」

 

「バカな!?」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴは世界に向けて「自分達の国の土地を渡せ」と要求した。

 

「二十四時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう」

 

日本で、アメリカで、中国で、中東でライブ映像を見ていた各国首脳がマリア・カデンツァヴナ・イヴの要求を愕然としながら聞いていた。

 

「あの子ったら・・・」

 

トレーラーで聞いていた年配の女性はにこやかな笑顔を浮かべ、ステージにいた翼は戸惑い混じりに呟く。

 

「何処までが本気なのか・・・」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴは翼の方に目を向け。

 

「私が王道を敷き、私達が住まう為の楽土だ!素晴らしいと思わないか?」

 

 

ー司令室ー

 

それを聞いて斯波田事務次官は笑みを浮かべた。

 

「《へっ!しゃらくせぇなぁ、アイドル大統領とでも呼べば良いのかい?》」

 

「一両日中の国土割譲なんて、全く現実的ではありませんよ!」

 

「急ぎ、対応に当たります!」

 

「《応、頼んだぜ。こんな事態だ“切り札”達に敷かれた諸々の“制約”を解除する。思いっきり暴れてもらいな!》」

 

そう伝えて事務次官は通信を切った。そしてライブ会場にいるオーディエンス達はノイズに阻まれ避難が出来ずにいた。そんな怯えた人々を見て翼は覚悟を決める。

 

「何を理としての“語り”か知らぬが・・・」

 

「私が“語り”だと?」

 

「そうだ!“ガングニール”のシンフォギアは、貴様のような輩に纏える物ではないと覚えろ!」

 

“親友”と、“片翼”と同じギアを悪事に使おうとする者に鉄槌を下すために、風鳴翼は歌う、“戦いの歌”を。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~「《待って下さい、翼さん!》」!?」

 

ギアを纏おうとする翼に緒川からの通信が入った。

 

「《今動けば、“風鳴翼がシンフォギア奏者”だと全世界に知られてしまいます》」

 

「でもこの状況で「《風鳴翼の歌は!“戦いの歌”ばかりではありません。傷ついた人を癒し、“勇気づける歌”です。エルシドがこの場にいれば『逸るな』と言う筈です》」・・・!・・・」

 

緒川の言うとおり、ゲストルームで翼の様子を眺めていたエルシドは。

 

「翼、逸るな・・・ここで行動を起こせば向こうの思う壺だ・・・」

 

緒川の言葉とエルシドの諌める声が届いたのか翼は歌を止めた。

 

「確かめたらどう?私が言ったのが“語り”なのかどうか」

 

翼とマリア・カデンツァヴナ・イヴがお互いを睨み合う。翼が“ギア”を纏わない事を理解すると。

 

「なら、会場のオーディエンス諸君を解放する!ノイズに手出しはさせない!速やかにお引き取り願おうか!」

 

オーディエンス達を解放すると言ったマリアに翼は戸惑い。

 

「何が狙いだ?」

 

「フッ」

 

「《何が狙いですか?こちらの優位を放棄するなど、筋書きには無かった筈です。説明してもらえますか?》」

 

トレーラーにいた年配の女性はマリアに通信する。

 

「このステージの主役は私、人質なんて私の趣味じゃないわ」

 

「《血に汚れる事を恐れないで!》」

 

それでもマリアは動かなかった。

 

「《・・・“調”と“切歌”と“カルディア”を向かわせています。“マニゴルド”と“アルバフィカ”も準備を終えてますから、作戦目的を履き違えない範囲でおやりなさい》」

 

「了解マム。ありがとう・・・」

 

年配の女性は通信を切った。年配の女性はため息を付き。別の“誰か”に連絡をする。

ライブ会場ではオーディエンス達が慌ずに避難しようとしていた。その光景をオーディエンス達から離れた二人が眺めていた。

 

「やれやれ、存外うちの女王様も“甘い”ねぇ」

 

「・・・・・・」

 

「“汚れる覚悟”も無い癖に悪党なんてヤれんのか?」

 

「“覚悟”が無ければ所詮その程度と言うことだ。それよりも、もうすぐ“三人”が来る連絡を取っておけ」

 

「ヘイヘイ、“この世界”では初めて纏うからな、ちょっと楽しみだぜ・・・」

 

 

そして司令室では弦十郎がオーディエンスの避難状況を眺めながら相手の行動を推察する。

 

「“フィーネ”と名乗ったテロリストには、“国土割譲の要求”、ノイズを制御する力により世界を相手にそれなりの無理を通すことはできるだろう・・・だが・・・」

 

どうにも腑に落ちない弦十郎に緒川からの通信が入った。

 

「《人質とされた観客達の解放は順調です》」

 

「分かった、お前は急ぎレグルス君達に“アレ”を渡してくれ。後・・・」

 

「《翼さんですね。レグルス君達に“アレ”を渡したら僕の方で何とかします》」

 

そう言って緒川は連絡を切りレグルス達のいるゲストルームに向かった。

そしてその頃、ゲストルームで状況を見ていたレグルス達と未来達は。

 

「未来・・・直ぐに避難して、俺達も身体の痺れが取れたらすぐに動く」

 

「でも・・・・・・」

 

「ヒナ。私達がここに残ってても足を引っ張っちゃうよ」

 

「ここにはレグルスさん達もいますし、立花さんだって帰国してますけど向かってるんですし」

 

「期待を裏切らないわよ!あの子やヒーローの皆さんは!」

 

創世や詩織に弓美に言われ未来は顔を俯かせるが。

 

「そう・・・だよね。分かった・・・あの、レグルス君、“アスミタさん”は?」

 

「それが俺達にもこの3ヶ月間全く連絡が無いんだ」

 

「元々ヤツは通信機なんて持たないからな」

 

「小日向君、それよりも直ぐに避難するんだ」

 

「わかりました。皆さん、気を付けて」

 

「「「(コクンッ)」」」

 

そう言って創世達と避難しようとするが、未来はそれでも不安そうステージを見つめて。

 

「(響、早く来て・・・)」

 

未来は土星の形になった月が見下ろすステージを見つめながら親友の登場を願った。

 

 

 

そして未来達が去って直ぐに緒川がやって来た。

 

「レグルス君!エルシド!デジェルさん!」

 

「「「慎司/緒川殿/緒川さんッ!」」」

 

「お待たせして申し訳ありません。獅子座<レオ>の黄金聖衣、山羊座<カプリコーン>の黄金聖衣、水瓶座<アクエリアス>の黄金聖衣を持ってきました!」

 

緒川が持った来たのは“最強の戦士”達が纏う鎧、“完全聖遺物 黄金聖衣の聖衣レリーフ”であった。

 

レグルス達の元に聖衣レリーフが届けられたのと時を同じくして、ヘリコプターで現場に向かっていた響とクリスは弦十郎達からの連絡を受けていた。

 

「良かった!じゃ観客に被害は出て無いんですね」

 

「《現場で検知された“アウフヴァッヘン波形”については現在調査中、だけど全くのフェイクであると》」

 

響は自身の心臓に食い込んだ“ガングニールの破片”に意識を集中させる。

 

「私の胸のガングニールが無くなった訳ではなさそうです」

 

「《もう一つの“撃槍”・・・響君のガングニールは“本来のガングニールの欠片”でしかない、と言うことは同じように“欠片”のガングニール・・・》」

 

「それが・・・黒いガングニール・・・」

 

響の瞳に不敵な笑みを浮かべ黒いガングニールを纏うマリア・カデンツァヴナ・イヴが映った。

 

 

 

 

レグルス達に聖衣レリーフを届けて直ぐ、緒川はステージ裏の通路を走っていた。

 

「(今翼さんは“世界中の視線”に晒されている。エルシド達も中継によって動きが取れない。その“視線の檻”から翼さん達を解き放つには)」

 

すると緒川の目線の先に、“金髪のショートヘアーの少女”と“黒髪のツインテールの少女”と“群青色の長髪の男性”が階段を登って行くのが映った。緒川は不審に思い後を追う。

 

「ヤッベェ、アイツ<緒川>こっちにくるデスよ」

 

「大丈夫だよ“切ちゃん”」

 

黒髪の少女が胸に下げてる“赤い水晶”を見せる。

 

「いざとなったら・・・・」

 

「やめろこのバカ」

 

長髪の男性は黒髪の少女の頭を抑え、金髪の少女が慌てて“水晶”を隠す。

 

「わわわ!“調”ってば穏やかに考えられないタイプデスか!?“マニゴルド”や“カルディア”じゃあるまいし、物騒な事考えちゃダメデスよ!」

 

「おいアホ“切歌”そらどういう・・・」

 

「どうしましたか!?」

 

「!?」

 

「「・・・・・・」」

 

緒川に声をかけられ金髪の少女はビクッとなり黒髪の少女は無表情に、長髪の男性は素知らぬ顔をした。

 

「早く避難を!」

 

「あー!え~とデスね・・・!」

 

「・・・」

 

ジーと緒川を見る“調”と呼ばれた少女を“切歌”と呼ばれた少女が背中に隠しながら緒川と話すが“調”は“切歌”の背中から緒川を覗こうとしていた。

 

「この子がね、急にトイレとか言い出しちゃってデスね!アハハ、ハハ参ったデスよ・・・」

 

「俺は避難の列から離れようとしていたコイツらが化物に襲われないか気になってついてきたんッスよ」

 

「そうなんデスよ!このお兄さんも私達を心配してついてきたくれたんデスよ!アハハ・・・アハハ・・・」

 

「えっ?ああじゃ、用事を済ませたら非常口までお連れしましょう」

 

「心配無用デスよ!ここいらでちゃちゃっと済ませちゃいますから大丈夫デスよ!」

 

「俺がコイツらを連れていきますから大丈夫ッス」

 

「わかりました、でも気を付けてくださいね」

 

「は、はいデス・・・」

 

「お気をつけて~♪」

 

緒川を見送る三人、緒川の姿が見えなくなると“切歌”と言われた少女はホッとし“男性”は緒川の気配を探る。

 

「ハァ、何とかやり過ごしたデスかね・・・?」

 

「安心しな、野郎はもう行った」

 

「ジーーーー」

 

“調”と呼ばれた少女は“切歌”をジーと見つめる。

 

「?どうしたデスか?」

 

「私、こんな所で済ませたりしない」

 

「・・・さいデスか・・・」

 

「クククククク」

 

“調”の言葉にガクンとなる“切歌”と笑いを堪える“男性”。

 

「全く“調”を守るのが私の“役目”とは言え、毎度こんなんじゃ体が持たないデスよ」

 

「いつもありがとう、“切ちゃん”」

 

「コラ!」

 

ゴン!

 

「痛ッ!何するデスか!?って“マニゴルド”・・・」

 

突然後ろから小突かれた“切歌”が振り向くと“青い髪を横に伸ばした悪人顔の青年”がいた。

 

「遅ぇと思って迎えに来てみれば、何やってんだお前ら?」

 

「今そっちに行こうと思ってたんデスよ・・・」

 

小突かれた頭を摩りながら“マニゴルド”と呼ばれた青年に弁解する“切歌”。

 

「“カルディア”、てめえも“保護者”ならちゃんと監督しとけや」

 

「うるせぇな、しゃあねぇだろ。風鳴翼のマネージャーに出くわしたんだからよ」

 

「緒川慎司か?成る程、風鳴翼を縛っている“檻”を壊すつもりか・・・」

 

「邪魔なら消す?」

 

「“調”!だから物騒な事は・・・」

 

「まぁほっといても良いだろ。んな事よりも、“アルバフィカ”も待ちくたびれてるぜ」

 

「んじゃ行こうか、“パーティー”に遅れちまう」

 

そして四人は向かう、戦場と言う名の“パーティー”に。

 

 

 

ーライブ会場ー

 

会場では観客達が避難を終え、ノイズとマリア、翼だけが残され不気味な静けさに包まれていた。

 

「“帰る所”があると言うのは・・・羨ましいものだな・・・」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴはどこか寂しそうに呟く。

 

「マリア・・・・貴様は一体・・・?・・」

 

「観客は皆退去した!もう被害者が出る事はない、それでも私と戦えないと言うのであれば、それは貴女の“保身の為”。貴女はその程度の“覚悟”しかできてないのかしら?」

 

「・・・くっ!・・・」

 

マリアの言葉に翼は歯を食い縛る。次の瞬間、マリアはサーベル型のマイクを武器に翼に襲い掛かる。翼もサーベル型マイクで応戦する。

 

「・・・フッ!・・・」

 

「・・・!?・・・」

 

マリアは回転し伸ばしたマントをまるで円盤ノコギリのようにして翼に襲い掛かるも翼は上体を仰け反ってかわすもマイクは破壊された。翼はマイクを捨てて素手で戦おうとする。

 

それを中継で見ていた響達はーーー。

 

「中継されてる限り、翼さんはギアを纏えない!」

 

「おい!もっとスピード上がらないのか!?」

 

「後10分もあれば到着よ」

 

友里の話を聞いて何もできない歯痒さを感じる響であった。

 

そしてレグルス達もーーーーーー。

 

「痺れも段々解けてきた、直ぐに翼の所に・・・」

 

「駄目だレグルス、私達の存在を世界に知らせる訳にはいかない」

 

「でも・・・・・・」

 

「落ち着け、緒川殿を信じて機会を待つんだ(翼、持ちこたえろよ)」

 

マリアは更に翼を追いたてて行く、マリアの剣捌きを翼は紙一重に回避して行き衣装のマントを目隠しにする。

 

「(良し、カメラの外に出てしまえば・・・・・・)」

 

翼はステージの外に出ようとするもマリアはマイクを翼の足に目掛けて槍投げの要領で投げるが翼に回避されるが・・・・・・翼の靴の踵が壊れバランスを崩す翼。

 

「・・・ッ!?・・・」

 

その隙をマリアは逃さず。

 

「貴女はまだ、ステージを降りる事は許されない」

 

後ろに来たマリアは翼の横に回り込み翼の腹部を蹴りステージに戻す。

 

「フッ!」

 

「グハ!」

 

が、蹴り飛ばされた翼の落下予想地点にノイズが集まる、マリアにも予想外だったらしく。

 

「勝手な事を!」

 

「翼さんッ!!」

 

それを見ていた響も悲鳴をあげるが・・・・・・その時彼女は、彼女達は見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空中を漂う翼に集う、三つの“黄金の流星”を!

 

「『乱斬』!!」

 

「『ライトニング・プラズマ』!!」

 

「『ダイヤモンド・ダスト』!!」

 

 

 

 

 

その瞬間、中継が『NO SIGNAL』と表示された。

 

「えええーーーーー!!」

 

「ッ!?」

 

「何で消えちゃうんだよ!翼さんが!て言うか今の“流星”って絶対!!」

 

「現場からの中継が遮断された?」

 

友里の言葉を聞いてクリスは察してニンマリとした笑顔を浮かべた。

 

「ってことはつまり・・・・・・」

 

「えぇ」

 

「え?え?え?」

 

響だけは分からず戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

ーステージ会場ー

 

「くっ!もう現れたか・・・・・・」

 

その姿に、マリア・カデンツァヴナ・イヴは戦慄する。

 

夜の闇に呑まれた会場を照らす三つの黄金の太陽に、彼等が纏うは太陽のように輝く金色の鎧、その出で立ちは、その雄姿は、気高くも美しい勇士。

遥か古の時代、地上の愛と平和と正義を守る為に戦う戦士達、その拳とその脚は天地を奮わす。星座の聖衣<クロス>を身に纏い、己の内なる小宇宙<コスモ>を爆発させて戦う88の星座の戦士の頂点に立つ、黄道十二星座の“最強の戦士達”。

彼等こそ、戦女神アテナに仕えし聖なる闘士、“アテナの聖闘士”!

 

獅子座の黄金聖闘士、レオのレグルス。

 

水瓶座の黄金聖闘士、アクエリアスのデジェル。

 

山羊座の黄金聖闘士、カプリコーンのエルシド。

 

翼を襲おうとしていたノイズを一瞬で消滅させた姿に他のノイズ共も退く。翼をお姫様抱っこしていたエルシドは翼を降ろす。

 

「来るのが少し遅いぞ、エルシド・・・」

 

「すまないな・・・所で、行けるか?」

 

「当然だ、聞かせてやろう“防人の歌”を!!」

 

氷付けになり粉々にされ、キラキラ輝く破片となったノイズの残骸を尻目に、翼は歌う、“戦いの歌”を、“防人の歌”を!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

その瞬間、翼の衣装が弾けて、その身に“蒼いギア”を纏う!“ルナアタック”の頃と細部が異なる“ギア”。本来は“一降りの剣”であるが、翼の“防人の剣でありたい”と願う心に応え、あらゆる刀剣にその姿を変える事ができる“日本神話”のシンフォギア、“絶剣 天羽々斬<アマノハバキリ>”!

 

「それでは二人とも、大人しくしてた分」

 

「派手にやれよ、翼!エルシド!」

 

デジェルとレグルスから激を受け。翼とエルシド、二課が誇る“双刃”が再び戦場を翔る!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

フォニックゲインを高めながら刀を大剣へと変えて飛び上がり、ノイズに『蒼ノ一閃』を放つ翼と己が鍛えし手刀からエルシドが放つ斬撃が重なり十文字の斬撃がノイズ共を凪ぎ払う二人の合わせ技!

 

『蒼金交閃<ソウゴンコウセン>』

 

着地した翼はカポエラのように逆さ開脚蹴りをしながら足の刃を展開させて回転しながらノイズを切り捨てる!

 

『逆羅刹』

 

エルシドも流水のように流れる動きでノイズ共の間を滑らかそれでいて素早くすり抜けながらノイズの身体は静かに切られていた!

 

『刀剣流し』

 

翼のエルシドの視線が交差する。

 

「(腕は落ちていないなエルシド)」

 

「(当然だ、そっちも歌やダンスにかまけて“なまくら”かしてなかったようだな翼)」

 

「(フッ当然だ!)」

 

3ヶ月のブランクがあるとは思えない“双刃”の演舞に一瞬見惚れるマリアだが、正気に戻り状況を確認する。

 

「中継が中断された!?」

 

世界中に中継されていた筈のモニターが『NO SIGNAL』と表示され、そのモニターには何も映っていなかった。中継室では緒川が息を切らせながら中継をストップさせていた。

 

「シンフォギア奏者だと、世界中に知られて、アーティスト活動ができなくなってしまうなんて、風鳴翼のマネージャーとして許せる筈がありません!」

 

ー会場外ー

 

会場の外に避難していた未来達はライブ会場から激しい炸裂音が聞こえた。翼の身を按じる未来は思わず呟く。

 

「翼さん・・・・・・」

 

 

ーライブ会場ー

 

翼とエルシド、レグルスとデジェルはステージに飛び上がり、マリアを左右から囲む。窮地に立っているにも関わらずマリアは不敵に笑う。

 

「エルシド、レグルス、デジェル、手を出さないでくれ。この者の“ガングニール”の正体、私が暴く!」

 

エルシド達はやれやれと言わんばかりな態度を取ったが翼の言葉に頷く。それを見て翼も気を引き締め。

 

「いざ、推して参る!」

 

翼が刃を構えマリアに斬りかかるが、上段切り、横凪ぎ、斬り上げと連続斬りでマリアにかかるが、マリアは全て回避し飛び上がるとマントで攻撃する。

 

「!」

 

「ぐ!」

 

マントの攻撃を迎撃しようとするが、翼は押し飛ばされる。

 

「この“ガングニール”は本物!?」

 

「ようやくお墨をもらったわ、そうよ!これが私の“ガングニール”!何物をも貫き通す無双の一降り!!」

 

マリアはマントを武器に翼に襲い掛かる。防戦一方になる翼を見ながら聖闘士達はマリアの戦闘スタイルを分析していた。

 

「(さっきから“マント”でしか攻撃していないな)」

 

「(奏のように“槍”を持つわけでも、立花のように“無手”で戦うわけでもない)」

 

「(あの“マント”が彼女のアームドギアなのか?)」

 

冷静に分析する聖闘士達をよそにマリアは独楽のように回転し翼とつばぜり合いになる。

 

「だからとて!私が引き下がる道理等ありはしない!」

 

回転するマリアに通信が入る。

 

「《マリア、お聞きなさい。フォニックゲインは現在22%付近をマークしています》」

 

「(!?まだ78%も足りていない!?)」

 

通信を聞いて動揺した隙を逃さず翼はマリアと距離を開け、脚の付け根のパーツから二本の刀を取り出した。

 

「私を相手に気を取られるとは!」

 

二本の剣をツインブレードのようにして炎を纏わせて振り回し地面を滑るように駆けながらマリアに向かい炎の刃を叩きつける!

 

『風輪火斬』

 

翼の新たな決め技がマリアを切り捨てる。

 

「う、くっ!」

 

「話はベッドで聴かせて貰う!!」

 

更にマリアに攻める翼、だがーーーーーーーーー。

 

「「ッ!!?」」

 

「翼!後ろだ!!」

 

エルシドの言葉を聞き後ろを見た翼に無数の桃色の円盤ノコギリが襲い掛かる!

 

「くッ!?」

 

翼はツインブレードを回転させ、盾にする。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

『百輪廻α式』

 

歌を歌いながら“黒と桃色のギア”を纏う黒髪の少女がツインテールに装備されたパーツから更にノコギリを翼に向ける!更にその少女の後ろから“黒と緑のギア”を纏う魔女のような帽子のヘットギアを装備した“金髪の少女”が大鎌を構える。

 

「行くデス!」

 

大鎌の刃が三枚になりその刃を翼に向けて降り投げる。

 

『切・呪りeッ丁ぉ』

 

三枚の刃はブーメランのように滑空して前方の攻撃を防ぐ為にがら空きになった左右の側面から翼に襲い掛かるが。

 

「ッ!」

 

「よっ!」

 

「デジェル!レグルス!」

 

デジェルが凍らせ、レグルスが裏拳で破壊する。現れた二人の少女はマリアを庇うように立つ。

 

「危機一髪・・・・」

 

「正に間一髪だったデスよ!」

 

翼とレグルス達は新たに現れた二人に面食らう。

 

「奏者が三人!?」

 

「何だあの子達は?」

 

「新たなシンフォギア奏者?」

 

「一対一の勝負に横槍を入れるとは、余り行儀が良くないな」

 

それを見ていた緒川も驚く。何故なら現れた少女達は、先程出会った少女達だったからだ。

 

「あの子達はさっきの!?」

 

マリアは立ち上がり不敵に笑う。

 

「“調”と“切歌”に救われなくても、貴女程度に遅れを取る私ではないんだけどね」

 

だが、翼もニヤリと笑みを浮かべ。

 

「貴様みたいな者はそうやって・・・」

 

「?」

 

「見下ろしてばかりだから勝機を見落とす!」

 

「やっと来たな、“響”」

 

「良いタイミングだ、“クリス”」

 

「ッ!上か!!」

 

マリア達が見上げるとシンフォギアを纏った響とクリスが上空から降りて来た。クリスがガトリングを構え『BILLION MAIDEN』をマリア達にぶつける。

 

「どしゃ降りな!」

 

調と切歌は下がり、マリアはマントを傘のようにして弾幕を防ぐ。

 

「ウオオオオオオオオオオ!!!」

 

更に響がマリアに向けて拳をぶつけようとするが回避される。マリアがマントで攻撃しようとするが響は回避し、翼とレグルス達と一緒にステージを降りクリスと合流する。

 

「レグルス君!」

 

「久しぶり響♪後でフランス土産のマルセイユ石鹸とフランスチョコレートやるよ♪」

 

「え?レグルス君フランスに行ってたの!?」

 

「お兄・・・デジェル兄ぃ、何でここにいんの?予備校はどうしたんだよ?一応受験生だろ」

 

「まあまあ、後でちゃんと説明するよ」

 

「お前達旧交を暖めてる場合ではないぞ、所でエルシド、ステージは見ていてくれたか?」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴのステージは見たが、お前のステージは見損ねた」

 

「(ず~ん)・・・そ、そうか・・・」

 

敵が目の前にいるのに和気藹々な雰囲気を展開する一同。

 

「なんか楽しそう」

 

「奏者の数も聖闘士の数も上回っているから余裕って感じなんデスかね?」

 

「直ぐにその余裕も無くなるわ」

 

響達は何かしようとするマリア達に警戒する。マリア達はステージに響くように声を上げる。

 

「さぁ!ここからが本番よ!貴方達も出てきなさい!!“アルバフィカ”!!!」

 

「“マニゴルド”!!出番デスよ!!!」

 

「“カルディア”!!来て!!!」

 

その瞬間、マリア達の前に“三つの黄金の流星”が舞い降りる!

 

「「「「「「ッッ!!??」」」」」」

 

切歌の前に立つは、ヘットギアや肩に刺々しい刺を着けた悪人顔の男。

 

調の前に立つは、重厚な鎧にヘットギアには尻尾のような物がおさげのように垂れ流した獰猛な笑みを浮かべた男性。

 

マリアの前に立つは、半魚人のような装飾が施されマスクを目深に被った水色の髪の男性。

 

「久しぶりだな・・・」

 

「ククク、待ちくたびれたぜ・・・」

 

「・・・・・・」

 

その男達の纏う鎧はレグルス達と同じ“黄金の鎧”。

 

「嘘・・・?」

 

「何て事だ・・・!」

 

「マジかよ・・・!」

 

響達に戦慄が走る!

 

「やっぱりな・・・」

 

「お前達は“そちら側”か・・・」

 

「やな予感的中か・・・」

 

“マニゴルド”と呼ばれた男が前に出る。

 

「そんじゃま、名乗りと行くか。『蟹座の黄金聖闘士、キャンサーのマニゴルド』!!!」

 

「同じく、『蠍座の黄金聖闘士、スコーピオンのカルディア』!!!」

 

「『魚座の黄金聖闘士、ピスケスのアルバフィカ』!!!」

 

今ここに遥か古の“時”を“世界”を越えて“盟友”であり、“仲間”であった“最強の黄金聖闘士”達が敵味方と別れ再会した!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遂にここまで来ました。悔いはありません!


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否定される想い

ライブ会場に今、6人のシンフォギア奏者と6人の黄金聖闘士が揃った。

 

ガングニールを纏う立花響と獅子座<レオ>のレグルス。

天羽々斬を纏う風鳴翼と山羊座<カプリコーン>のエルシド。

イチイバルを纏う雪音クリスと水瓶座<アクエリアス>のデジェル。

 

彼等と敵として向かい合うは。

 

黒いガングニールを纏うマリア・カデンツァヴナ・イヴと魚座<ピスケス>のアルバフィカ。

黒と緑のシンフォギアを纏う切歌と呼ばれる少女と蟹座<キャンサー>のマニゴルド。

黒と桃色のシンフォギアを纏う調と呼ばれる少女と蠍座<スコーピオン>のカルディア。

 

カルディアは獰猛な笑みを浮かべながら口開く。

 

「まさかこんなに早く再会できるとは思わなかったっぜ!」

 

カルディアの右手の人差し指の爪が異常に伸び赤く染まる、そして指差すようにデジェルに向けると衝撃波がクリス達を襲うが。

 

「こちらとしてはお前達とこんな形で再会したくなかったがっな!」

 

カルディアから放たれた衝撃波をデジェルの拳から放たれた衝撃波で相殺する。その衝撃が会場を揺らす!

 

『っ!?』

 

突然の二人のやり取りに響達やマリア達といった奏者達は面食らった。かつての仲間に躊躇なく攻撃したカルディアもそうだがそれに応戦したデジェルにも驚いたのだ。

 

「ひゅ~♪腕は鈍って無くて安心したぜデジェル、弱くなったお前を仕留めても意味ねぇからな」

 

「ほざけ“バカは死んでも治らない”と言うが、我等の世界で死に、この“世界”に来てもそのバカさ加減は治らなかったようだな」

 

軽口で皮肉を言い合う二人だが、お互いにその目は“殺気”を放っていた。

カルディアから放たれる殺気に充てられた響達は全身が痺れた感覚になり。

デジェルから放たれる殺気に全身が凍結した感覚になるマリア達。

 

「(なんて圧だ・・・)」

 

「(お兄ちゃんがこんな殺気を放つなんて・・・)」

 

「(何で?・・・何で仲間なのにこんな事ができるの?・・・)」

 

「おいコラカルディア、先走んなっての。仕方ねぇなぁ、俺達も闘るかレグルス?」

 

「そう言えば、俺達って“宮”はお隣さんだったけどあんまり接点無かったな」

 

「だな。そんでこんな状況になるとは、神様も予想して無かったろうよ」

 

マニゴルドとレグルスも軽口を叩きながら、いつでも戦えるように構えてた。そして、エルシドとアルバフィカも。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

お互いに無言であったがエルシドは手刀を構え、アルバフィカも“黒い薔薇”を構えて相手の動きを見落とさないように構えていた。

 

 

 

 

 

今から正に黄金聖闘士同士の戦いが始まろうとしたその時ーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめてーーーーーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

響が黄金聖闘士達の間に割って入った。

 

「やめてください!皆さん同じ聖闘士の仲間じゃないですか!?何で仲間同士で戦わなくちゃいけないんですか!?貴方達<マリア達>とだって!私達が戦う理由なんて無い筈だよ!私達、“分かり合える”筈だよ!!」

 

響がマニゴルド達やマリア達に呼び掛けるが、マニゴルドは小指で耳をほじり、カルディアは欠伸をし、アルバフィカは無言で佇む。

 

「お~お~ご立派ご立派。こんな状況で話し合いましょうなんてほざくとかご立派なお考え方で・・・」

 

「あ~あシラケるわ~、俄然殺る気が失せたわ~」

 

おどけた態度で響の言葉を聞き流すマニゴルドとカルディアの態度に翼とクリスはムッとなる。

 

「(何だこの二人は、“シジフォス”のような品格もエルシドのような風格も、デジェルのような知性も、レグルスのような純朴さも感じない。まるで無頼漢ではないか・・・!)」

 

「(こんな奴等がお兄ちゃん達と同格の黄金聖闘士なのかよ・・・!)」

 

翼とクリスは自然と血が滲まんばかりに手をきつく握る。こんな無礼な二人が自分達が追いかけている“高み”に立っているのに憤りを感じたからだ。

 

だが、響の呼び掛けに憤りを感じているの者もいた。調が怒りを滲ませながら呟く。

 

「偽善者・・・」

 

「え?」

 

「(お、こりゃ向こうのガングニール、調の地雷を踏んだかな?)」

 

「この世界には、貴女のような偽善者が多すぎる・・・!♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

そう呟き調は歌を歌う、それはこの世界に対して怒りをぶつけるように。ツインテールのパーツが開き円盤ノコギリを響達に向けて射出する。

 

「・・・!・・・」

 

呆然とする響の前にレグルスが立つ。

 

「『ライトニング・プラズマ』!」

 

円盤ノコギリを破壊するレグルス。翼が響に怒鳴る。

 

「何を呆けている立花!」

 

クリスがガトリングをマリア達に放つもマリア達は散開してかわす、飛び上がった切歌に向けて銃弾を向けるも。切歌は大鎌を回転させながらクリスに襲いかかる!

 

「クリス!」

 

「おっと!デジェル、そっちには行かせねぇぜ」

 

クリスの元に行こうとするデジェルにマニゴルドが立ち塞がる。

 

「でい!」

 

「ちっ!近すぎんだよ!」

 

切歌の攻撃を跳んでかわすクリスは武装を遠距離戦向けのガトリングからボーガンに変更させる。翼とマリアが交戦する。

 

「くっ!」

 

ツインソードを二刀流に変えて応戦する翼。

 

「ハッ!」

 

「フッ!」

 

だがマリアは余裕の態度を崩さず、マントを翻しながら翼と戦う。

 

「(翼・・・・)マニゴルドとカルディアは兎も角、何故お前が奴等の側に付いている。アルバフィカ」

 

「・・・・・・」

 

「お前は誇り高い男だ。このようなテロ紛いの行為に手を貸すとは思えん」

 

「・・・・・・」

 

エルシドの質問にアルバフィカは無言で黒薔薇を構えていた。そしてレグルスとカルディアも戦闘を開始していた。

 

「喰らいなレグルス!『スカーレット・ニードル』!!」

 

「『ライトニング・プラズマ』!」

 

真紅の針と閃光の拳が何百何千と空中でぶつかる!

その横で調はツインテールの武装を変形展開し、まるでノコギリを付けたマジックアームのような形となって響に襲いかかる。響はノコギリをかわしながら調に呼び掛ける。

 

「わ、私は!困ってる皆を助けたいだけで!だから!」

 

「それこそが偽善・・・!」

 

「!」

 

「“痛み”を知らない貴女に、“誰かの為に”なんて言って欲しくない!」

 

調はマジックアームのノコギリで響に攻撃する。

 

『γ式 卍火車』

 

「ッ!・・・響!」

 

放たれたノコギリをレグルスが破壊するが。すかさずカルディアが襲いかかる。

 

「甘いな!レグルス!」

 

「!」

 

「『スカーレット・ニードル』!」

 

“3発”の真紅の針がレグルスの身体を貫く!

 

「ッ!?ウアアアァァァァァァッ!!!」

 

「レグルス君!」

 

『ッ!!?』

 

翼とクリスとエルシドとデジェルは直ぐに響とレグルスのいる所に集う。

 

「グッ!クゥ!」

 

「レグルス君・・・」

 

「だ、大丈夫・・・これ位ならまだ戦える・・・!」

 

「(立花、心を乱しているな・・・)」

 

「(“まだ3発”とは言え『スカーレット・ニードル』をマトモに喰らっては・・・)」

 

マリア達を警戒しながらクリスと翼が響に怒鳴る。

 

「鈍くさい事してんじゃねぇ!!」

 

「気持ちを乱すな立花!!」

 

「は、はい・・・」

 

自分が呆然としたせいでレグルスが負傷した事に自責の念に捕らわれる響。マリア達も一度集う。

 

「仕留め損ねたか?カルディア?」

 

「嫌、レグルスの野郎。ちゃっかりカウンターまでお見舞いしやがって・・・・・・」

 

マニゴルドの質問を口許から垂れた血を親指で拭いながら好戦的な笑みを浮かべるカルディア。レグルスは攻撃を受ける際カルディアにカウンター攻撃をしていたのだ。

 

「我々黄金聖闘士の中でも“戦いの天才”と謂われたレグルスだ、油断していると足元を掬われるぞ」

 

アルバフィカの言葉にへいへいと答えるカルディアに調がソッと近づき小声で話す。

 

「カルディア、大丈夫?“身体”の方も・・・」

 

「そうデスよ、あんまり動くとまた“心臓”が・・・」

 

「・・・・・・」

 

「つまんねぇ事気にしてんじゃねぇよ。大丈夫だ」

 

調と切歌の頭をポンポンと叩きながらにかっと笑うカルディア。マリアも心配そうに見るが翼達が向かってきたので気を引き締めて応戦する。

 

ートレーラーー

 

トレーラーの中から“マリア”の状態を見ていた年配の女性は苦々しく呟く。

 

「この伸び率では、数値が届きそうもありません。最終手段を用います!」

 

そう言って何かを作動させた。

 

ー会場ー

 

奏者達と聖闘士達が乱戦する戦場に、先程まで翼とマリアがいたステージから緑色の光が輝き現れた。

 

『!?』

 

奏者と聖闘士がステージを見ると緑色の光の中で“蠢く何か”がいた。その“何か”は膨張し、巨大な芋虫のようなノイズになった。

 

「うわっ!キモッ!?」

 

「うわ~、何あのでっかいイボイボは!!?」

 

レグルスと響はドン引きした。調がボソッと呟く。

 

「増殖分裂タイプ・・・・」

 

「婆さん始めやがったか・・・!?」

 

「ちっ!折角盛り上がってきたってのによ・・・!」

 

「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!?」

 

「マリア・・・・・・」

 

「(コクン)マム・・・」

 

「《全員引きなさい》」

 

「わかったわ・・・」

 

そう言ってマリアはマムと呼ばれた女性との通信を切り、両腕を合わせると腕に付けた手甲が外れ、空中で合体し“槍”へと変形した。

 

「アームドギアを温存していただと!?」

 

「あれがマリア・カデンツァヴナ・イヴの本来のアームドギアか?」

 

マリアはアームドギアの矛先をノイズに向けて槍の穂が展開されそこから桃色のエネルギー波をノイズに浴びせる。

 

『HORIZON†SPEAR』

 

「おいおい、自分らで出したノイズだろ!?」

 

驚くクリス達を尻目にノイズは膨張し破裂した!その時の閃光に紛れマリアと切歌と調は撤退する。マニゴルド達はレグルス達に目を向け。

 

「そんじゃまたな♪」

 

「次は邪魔者抜きでヤろうぜ♪」

 

「急ぐぞ二人共」

 

マニゴルドとカルディアとアルバフィカはマリア達を追って撤退した。

 

「マニゴルド!カルディア!アルバフィカ!」

 

「ここで撤退だと!?」

 

「折角温まってきた所で尻尾を巻くのかよ?」

 

「そんな事言っている場合ではないぞクリス」

 

「ッ!?ノイズが!?」

 

「消滅していない?」

 

響達が散らばったノイズの破片を見ると、破片はグネグネと蠢き膨張し再生しようとする。

 

「ハッ!」

 

「疾ッ!」

 

アームドギアを大剣に変えた翼とエルシドが手刀でノイズを攻撃するがノイズは再生する。

 

「コイツの特性は“増殖・分裂”・・・」

 

「放っておいたら制限無いって訳か?その内ここからあふれでるぞ!」

 

全員の通信機に緒川からの連絡が入る。

 

「《皆さん聞こえますか!?会場の直ぐ外には、避難したばかりの観客達がいます!そのノイズをここから出すわけには・・・!》」

 

「観客ッ!?皆が・・・」

 

響の脳裏、未来達の姿が浮かんだ。レグルスがパンっと拳を叩き合わせる。

 

「ならコイツが再生できない程に一辺の欠片も残さずぶっ壊す!」

 

「落ち着けレグルス」

 

粋がるレグルスをエルシドが抑える。

 

「迂闊な攻撃では、イタズラに増殖と分裂を促進させるだけ・・・」

 

「どうすりゃ良いんだよ!?」

 

「(我々聖闘士が全力で行けば全滅させる事は出来なくもないが・・・だがそれではクリス達の成長の邪魔になるやもしれん、我々はあくまで“マニゴルド達への対策”の為にここに来たからな)」

 

本来レグルス達黄金聖闘士が奏者達の任務に介入する事を政府が容認しないが、その黄金聖闘士が敵として現れた時の対抗策としてここにいる。そして響が呟く。

 

「“絶唱”・・・“絶唱”です!」

 

「“あのコンビネーション”は未完成なんだぞ!?」

 

クリスが止めようとするが響の目が本気だった。

 

「増殖力を上回る破壊力にて一気殲滅。立花らしいが理には叶っている」

 

「おいおい本気かよ!?デジェル兄ぃ達はどう思う?」

 

「やってみる価値はあるだろう」

 

「ここは響達に任せて大丈夫と言うことだね」

 

「・・・・・・」

 

「エルシド、大丈夫だ。立花君達だって成長している」

 

「・・・・・・分かった、ここは任せる。俺達は奴等を追うぞ」

 

この場を響達に任せてレグルス達は撤退したマリア達を追う。

 

「「「(コクン)」」」

 

響達はお互いに頷き合い響を真ん中に手を繋ぐ。

 

「行きます!S2CAトライバースト!」

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」

 

そして奏者達は歌う!心を合わせて!

 

「(我々にはエルシド達のような“原子を破壊する圧倒的な力”は無い・・・)」

 

「(お兄ちゃん達みたいな“光をも越えるスピード”もあたし達には無い・・・)」

 

「(私達はレグルス君達に比べたら取るに足らないかもしれない。でも!未来達を、皆を守りたいって想いだけは、負けてない!!)」

 

全てにおいて自分達は黄金聖闘士達の足元にも及ばない。だが、力無き人々を守りたいと言う曇り無き想いを胸に奏者達の歌が奏者達の身体を光包む!

シンフォギアから流れる力の奔流に顔を歪めながらも歌う!

 

「スパークソング!」

 

「コンビネーションアース!」

 

「セット!ハーモニックス!!」

 

響の胸のシンフォギアが光輝き、奏者達のシンフォギアから放たれるバックファイアが巨大ノイズを包み込む!

圧倒的な力の奔流にノイズは消滅していくが、その反動が響を襲う

 

「~~~~~~~~ッ!!」

 

「耐えろ・・・立花・・・!」

 

「もう少しだ・・・!」

 

その光景を中継室から見ている緒川。

 

「S2CAトライバースト、奏者三人の“絶唱”を響さんが調律し、一つのハーモニーと化す。それは、“手を繋ぎ合う”事をアームドギアの特性にする響さんにしか出来ない・・・だが、その不可は響さん一人に集中する!」

 

正に諸刃の剣と呼ばれる奥の手。響は襲いくるシンフォギアのパワーに呑まれそうになる。

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

響のシンフォギアから放たれる光の光景は会場外にまで届いた。不安そうに見つめる観客達。友里と合流した未来達もその光景を見ていた、未来は祈るように手を合わせる。

 

「響・・・」

 

そして“絶唱”を喰らったノイズは肉片を失い、背骨のような本体を晒す。

 

「今だ!!」

 

「レディ!」

 

響が構えると足のパーツが、ベッドギアが展開し両手のパーツを合わせ右手の武装にする、会場を包んだ光は響に集まる、響の腕の武装の中のホイールが回転し、武装展開し構える。

あたかも、響自身が“一振りの撃槍”のようにーーーー。

 

「ぶちかませ!!」

 

クリスの叫びと同時に響はノイズに向かう!

 

「これが私達の!」

 

飛び上がった瞬間、響の腰パーツがバーニアのように火を吹く!

 

「“絶唱”だあああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!!」

 

“絶唱”のパワーを込めた拳をノイズに叩き込む!腕のパーツが展開し回転しパイルバンカーのように追加衝撃をノイズにぶちかます!

 

その瞬間、虹色の竜巻をあげた響の拳によりノイズは黒炭となって消滅した。竜巻は成層圏を越えて天高く巻き起こる!その光景を未来達は呆然と見つめ、会場の屋根に登っていたレグルス達も見つめていた。

 

会場から離れたマリア達もその光景を見ていた。

 

「お~お~♪こりゃ絶景だな~♪」

 

「何デスか!?あのとんでもは!?」

 

「綺麗・・・」

 

「以外にやるもんだな・・・」

 

「こんな化け物もまた私達の戦う相手・・くっ・・」

 

「・・・・・・」

 

歯痒そうに会場の光景を見ていたマリアをアルバフィカは静かに見つめていた。

 

そして、トレーラーでこの光景を見ていた女性はモニターに映る“異形の胎児”に『COMPLETE』と表示されたのを満足そうに笑い。

 

「フッ、夜明けの光ね・・・・・・」

 

 

ー会場ー

 

会場ではシンフォギアを解除した響が膝から座り込みながら調に言われた言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『「そんな綺麗事を!」』

 

『「“痛み”を知らない貴女に“誰かの為に”なんて言って欲しくない!」』

 

同じくシンフォギアを解除した翼とクリスが響に向かう。

 

「無事か、立花!」

 

「平気・・・へっちゃらです・・・」

 

振り向いた響の顔は涙に濡れていた。

 

「へっちゃらなもんか!痛むのか?まさか、“絶唱”の不可を中和しきれなかったのか?」

 

「ううん!」

 

首を横に振る響は静かに呟く。

 

「私のしてる事って・・・偽善なのかな・・・ッ!」

 

響の脳裏に“忌まわしい記憶”が甦る。

 

『謂われ無き中傷』

 

『人々の悪意』

 

『壊れていく日常』

 

『泣き崩れる祖母と母』

 

「胸が痛くなることだって・・・知ってるのに・・・ウッ!・・・ヒック!」

 

泣き崩れる響を翼とクリスはただ見つめるしかできなかった。更にその響の姿を見てデジェル達は。

 

「あの少女<調>に言われた事が相当堪えたようだな」

 

「立花はまだまだ精神的に未熟な部分が多すぎる」

 

「響・・・ッ!?・・・」

 

レグルスはふと観客席を睨む。

 

「どうした?」

 

「嫌、何でも無い・・・(俺達以外の誰かいたような気がしたんだけど・・・それに凄い“悪意”を感じたんだけど・・・)」

 

会場の通路を“白衣を着た男性”が歩いていた。その手には“ソロモンの杖”を握り、暗く顔は見えなかったが、その口許には歪みきった笑みを浮かべながらーーーーーーーーーーーー。

 

 

 



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静寂な一時

今回はあるキャラに追加設定します。誰なのか直ぐに解りす。


マリア・カデンツァヴナ・イヴが世界に向けて宣戦布告をしてから一週間、fine<フィーネ>は海上に浮かぶ廃れた病院をアジトに暗躍をしていた。

暗い部屋でマリア達に指示を送っていた“ナスターシャ教授”は“絶唱”を行った奏者達のデータを解析していた。

 

「(他者の“絶唱”と響き合う事で、その威力を増幅するばかりか、生体と聖遺物の間に生じる不可をも軽減せしめる。“櫻井理論”によると、手にしたアームドギアの延長に“絶唱”の特性があると言うが、誰かと手を繋ぐ事に特化したこの性質こそ、正しく立花響の“絶唱”。“絶唱”の三重奏ならばこそ計測される爆発的なフォニックゲイン。それを持ってして”ネフェリム”を・・・天より落ちたる巨人を目覚めさせた)」

 

響が映るモニターから“異形の胎児”が成長した“異形”が檻に閉じ込められた姿がモニターに映る。

 

「覚醒と行動・・・・・・」

 

ナスターシャ教授は檻に閉じ込めた“異形”をモニターから見つめていた。

 

そしてここは廃病院のエントランス。大きな病院なだけはあって、当然エントランスも広く“キャンピングカー”が入る程だ。そのキャンピングカーのキッチンで“一人の男”が料理を作っていた。車のドアが開きそこから切歌が顔を出す。

 

「マニゴルド!テーブルと椅子の用意終わったデス!ご飯まだデスか?」

 

「うるせぇな、もうちょい待ってろ。この卵焼きを等分に切ったら終わるから」

 

マニゴルド!?が黒いエプロンに三角巾を着けて料理を行っていた。切歌がそっと出来上がった卵焼きをつまみ食いしようとするが。

 

「(ビシッ)何つまみ食いしようとしてんだ?」

 

マニゴルドに手をチョップされバツの悪そうに目を泳がせる切歌。

 

「嫌~、そのデスね・・・・・・」

 

「ハァ、飯とスープは出来てっから持ってけよ」

 

「(パアッ!)了解デース!」

 

「切ちゃん、どうしたの?」

 

ひょこっと今度は調がやって来た。

 

「あぁ、調!ちょうど良かったデス!ご飯を持ってくから手伝ってデス!」

 

「(コクン)」

 

切歌と調はご飯とスープと出来上がった他のオカズを持って食卓に向かった。それを見ながらマニゴルドはやれやれと言わんばかりに首を振る。

 

「たくっこの蟹座<キャンサー>のマニゴルド様が料理をするだなんてな、お師匠とジジイが知ったら何て言うかね・・・・・・」

 

今は亡き“師達”に想いを馳せながらマニゴルドは人数分に焼いた卵焼きを盛った皿を持って食卓に向かった。

 

 

ー2課指令室ー

 

その頃、レグルス達と弦十郎達はマリア・カデンツァヴナ・イヴ達『fine<フィーネ>』の行方を調査していた。

 

「ライブ会場での宣戦布告からもう一週間ですね」

 

「あぁ何も無いまま過ぎた一週間だったな」

 

「嫌々弦十郎、俺とエルシドにとっちゃ驚きの一週間だよ。まさか2課や響達の学校がもう再建されていたなんてな」

 

「たった3ヶ月で良く立ち直った物だ」

 

「フッお前らがいない間デジェルにも手伝ってもらっていたからな」

 

「まぁでも一番驚いたのは“アレ”だよな・・・」

 

「確かに“アレ”が一番驚いたな・・・」

 

「アハハハハハ・・・・・・」

 

レグルスとエルシドの言葉にデジェルは苦笑いを浮かべた。弦十郎も苦笑いを浮かべるも話を変える。

 

「それでレグルス君、“シジフォス”の捜索は?」

 

“シジフォス”とは、レグルスの叔父にしてエルシド達の盟友、弦十郎達にとっても大切な仲間でもある、『射手座の黄金聖闘士 サジタリアスのシジフォス』の事である。そのシジフォスの捜索がレグルスの極秘任務であった。レグルスはシジフォスが日本海で行方不明になった当時の海流の流れからシジフォスがヨーロッパ方面に流れている可能性があると知りフランスに立ち寄っていたのだ。

 

「ダメだった。都会の大病院から小さな町の診療所のベッドの下まで探したけど見つからなかったよ」

 

「そうか・・・すまない、俺達の方でも米国やらが監禁してないか調査はしているが、まるでヒットしなかった」

 

デジェルがエルシドの報告を聞こうとする。

 

「エルシド、お前の方は?」

 

「武者修行の合間に記憶を頼りに捜索と調査をしてみたが、“聖域<サンクチュアリ>”どころかロドニオ村すら見つからなかった」

 

そうエルシドはただ武者修行の旅に出ていたわけではなく、“聖闘士の総本山 聖域<サンクチュアリ>の調査”を行っていた。

“シンフォギア世界”にはかつて地上の平和を守る女神アテナとアテナを守護する聖闘士が存在していた。ならば聖域<サンクチュアリ>もこの世界の何処かにと考え、エルシドは武者修行と平行して聖域<サンクチュアリ>の調査をしていたのだ。

 

「やはり数千年前に起こった“神々の大戦<グレートウォー>”で聖域<サンクチュアリ>も消滅したのかも知れないな・・・・・・」

 

「そう・・・なるよな・・・やっぱ・・・」

 

「・・・・・・」

 

聖闘士達は表情を曇らせた。“別世界”とは言え聖域<サンクチュアリ>は聖闘士達にとって“心の故郷”と言っても良いほどに“大切な場所”である。そこが無くなったと考えると聖闘士達の心境は計り知れない。

弦十郎達も聖闘士達の心境を察して顔を曇らせる。友里が話を変えてマリア・カデンツァヴナ・イヴ達の動向を報告する。

 

「政府筋からの情報では、その後fine<フィーネ>と名乗るテロ組織による一切の支援行動や、各国との交渉も確認されていないとの事ですが」

 

「つまり、連中の狙いがまるで見えてきやしないって事か」

 

「傍目には派手なパフォーマンスで自分達の存在を知らしめたぐらいです。お陰で我々2課も即応出来たのですが・・・」

 

「でも明らかに俺達後手に回っているよな」

 

「しかも向こうにはマニゴルド達がいる」

 

「そろそろ動きを見せてもいいと思うが」

 

「いずれにせよ、事を企む輩には似つかわしくないやり方だ。案外狙いはその辺りだろうが・・・」

 

緒川から通信が入る。

 

「《風鳴指令》」

 

「緒川か、そっちはどうなっている?」

 

「《ライブ会場付近に乗り捨てられていたトレーラーの入手経路から遡っているのですが、「この野郎!(バキッ!ドカッ!)」たどり着いた、とある時計屋さんの出納帳に架空の企業から大型医療機器や医薬品、計測器等が大量発注された痕跡を発見しまして》」

 

緒川は現在、架空の企業と書いて暴力団のアジトにいるが弦十郎達は普段通りの態度であり、通信先からの暴力団員の悲鳴から緒川が大立ち回りをしている事が分かる。

 

「(慎司って以外とやるんだな?)」

 

「(あぁ見えて緒川殿も武闘派だからな)」

 

「(確か、忍の家の出身と言っていたな)」

 

「(Oh、JapaneseNINJA!って奴か?)」

 

「「(いきなり分かりやすい外国人化するな)」」

 

聖闘士組がひそひそ言っているがバッチリ聞こえた弦十郎は苦笑いを浮かべたが直ぐに顔を引き締める。

 

「医療機器がか?」

 

「《日付はほぼ2ヶ月前ですね。反社会的なこちらの方々は、資金洗浄に体よく使っていたようですが、この記録気になりませんか?》」

 

「・・・・・・追いかけてみる価値はありそうだな」

 

「「「(こういうやり方は奏者達には出来ないな)」」」

 

反社会的な暴力団にカチコミ入れて情報収集。お人好し属性の権化の響は勿論、根っこは優しい翼とクリスにも出来ない事だ。

 

「所でレグルス、立花の様子はどうだ?」

 

「今朝未来に連絡して聞いて見たら一週間前からずっと上の空だってさ」

 

「余程、“綺麗事”と言われた事が効いたのだろう」

 

「響って結構脆いからな、図太く見えて実は奏者達の中で一番傷つきやすいし」

 

「弦十郎殿、このままでは立花を戦力から外さねばならないかもしれん」

 

「そこまで危険なのか、蟹座と蠍座と魚座は?」

 

「少なくとも、“心に迷い”がある奴に手心を加えてくれるほどマニゴルド達は甘くはないよ」

 

 

 

 

 

 

ー新設リディアン音楽院ー

 

その頃響は再建されて新設された学校リディアンにいた。洋風の学校の教室で授業を受けながらも空を眺めていた。

 

「(ガングニールのシンフォギアが2つあるんだ、だったら“戦う理由”がそれぞれにあっても不思議じゃない・・・)」

 

そう考えてはいるが響の脳裏にはあの時の少女<調>に言われた事が頭から離れない。

 

『「それこそが“偽善”・・・!」』

 

「(私が“戦う理由”、自分の胸に嘘なんて付いてないのに・・・)」

 

「(ひそひそ)響、響ったら」

 

「立花さん、何か悩み事でもあるのかしら?」

 

「はい・・・とっても大事な・・・」

 

担任の先生からの質問に上の空で答えるが隣の未来はあっちゃーと言った態度で。

 

「アキレスものね、立花さんにだって色々思うところがあるんでしょう。例えば私の授業よりも大事な(ひくひく)」

 

「え?あれ!?」

 

顔を上げた響の目にこめかみをピクピクさせた先生がいた。

 

「新校舎に移転して、三日後に学祭も控えて、誰もみな新しい環境で新しい生活を送ってると言うのに!貴女と来たら相も変わらずいつもいつも・・・いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも!!!!」

 

アワアワとなった響は立ち上がり。

 

「で、でも先生!こんな私ですが、変わらないでいてほしいと言ってくれる心強い友達も、案外いてくれたりして・・・」

 

「立花さーーーーんッッッ!!!!」

 

「ひいいぃぃ!」

 

言い訳にもならない弁解をくっちゃべる響についに先生が噴火した。それを顔を赤らめながら未来はボソッと。

 

「バカ・・・」

 

と呟くのであった。

 

 

 

ーfine<フィーネ>の潜伏場所ー

 

その頃。切歌と調はマニゴルドの作った朝食の後に軽めの訓練を終えてシャワーを浴びていた。

 

「嫌~、最近マニゴルドの料理の腕上がったと思わないデスか?今朝食べた卵焼きなんてフワッとした食感と優しい舌触りと程よい甘さと美味しさが見事にマッチしていてもう最高デス♪これもマムの指示のお陰デス♪」

 

ナスターシャ教授は研究、マリアはアーティスト活動で忙しい。カルディアは“体質上”の理由で温度が上がる所に長くいられない。アルバフィカも“体質上”で料理をする訳にはいかない。

 

そこで白羽の矢が立ったのがマニゴルド。

 

最初はブーブーグチグチ言って拒否したが、ナスターシャ教授から“報酬”の事を言われ、渋々料理を勉強し、以外と器用だったのか直ぐに料理をマスターして、今ではfine<フィーネ>の料理番を任された。

因みにマニゴルドの調理姿をカルディアは腹を抱えて爆笑しながら転げ回り、アルバフィカも全身を震わせながら必死に笑いを堪えていた。それを見たマニゴルドが「黄泉路に送ったろうか?」と本気で構え切歌と調とマリアが必死に抑えたのは割愛する。

 

「シャワー上がりにアイスでも、ん?」

 

しかし、いつもなら相づちを打つ調が無言でシャワーを浴びながら響の言った言葉を思い返した。

 

『「話せば解り合える筈だよ!」』

 

調は苛立たしげに目を鋭くする。

 

「何にも背負ってないアイツが、“黄金の英雄達”に認められているなんて、私は認めたくない・・・!」

 

「うん・・・本当にやらなきゃならない事があるなら、例え悪いと分かっていても背負わなきゃいけないんデスよね」

 

「ッ!!」

 

調は怒りをぶつけるように壁を殴る。

 

「“困っている人達を助ける”と言うのなら!どうして!・・・」

 

調の気持ちが分かる切歌はソッと殴った調の手をとり握る。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

調と切歌はお互いの手を優しく包み合う。そんな二人の隣でマリアがシャワーを浴びる。芸術品のように完璧なプロポーションを惜しげなく晒しながらマリアは二人に語る。

 

「それでも、私達は、私達の正義とヨロシクやって行くしかない。迷って振り返ってしまう時間なんてもう、残されていないのだから・・・」

 

「マリア・・・」

 

フォー!フォー!フォー!フォー!フォー!フォー!フォー!

 

「「「ッ!?」」」

 

突然の警報に三人は顔を引き締める。隔壁が次々と閉まり潜伏場所の基地が閉鎖される。

 

 

 

ー聖闘士sideー

 

料理本を読んでいたマニゴルドと林檎をかじっていたカルディアと二人から少し離れた位置でウォークマンで自然音を聴いていたアルバフィカも警報を聞いて顔を上げる。

 

「“アレ”が暴れたか?」

 

「たく、うっとおしいぜ」

 

「行くぞ」

 

そう言って三人はナスターシャ教授の元へ向かう。

 

 

ーナスターシャsideー

 

ナスターシャ教授は、“異形”が暴れた出した事により発生した警報をストップさせ一息ついた。

 

「(あれこそ伝承にも描かれし、“共食い”すら厭わぬ衝動・・・やはり“ネフェリム”とは人の身に過ぎた・・・)」

 

「人の身に過ぎた、先史分明記の遺産、とかなんとか思わないでくださいよ」

 

ナスターシャ教授の後ろの暗がりから行方不明になっていた、灰色の髪に白衣を着た“ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス”が現れた。

 

「ウェル博士・・・」

 

「例え人の身に過ぎていても、“英雄”たる者の身の丈に合っていれば、それで良いじゃないですか?」

 

ニッコリと胡散臭い笑みを浮かべるウェル博士。するとナスターシャ教授の部屋のドアが開き、ガウンを羽織ったマリアと下着姿の切歌と調が、アルバフィカとマニゴルドとカルディアはバスタオルをマリア達に羽織らせる。

 

「マム!さっきの警報・・・!」

 

マリアはナスターシャ教授の側にいるウェル博士に目を向ける。

 

「次の花は、未だ蕾故大切に扱いたいものです」

 

「心配してくれたのね、でも大丈夫。“ネフェリム”が少し暴れただけ、隔壁を下ろして食事を与えているから直に収まる筈」

 

ドカァァァァァァァァンッ!!

 

『ッ!』

 

“ネフェリム”の暴れた振動が部屋を襲う。

 

「マム」

 

「対応措置は済んでいるので大丈夫です」

 

「それよりもそろそろ視察の時間では?」

 

「“フロンティア”は計画遂行のもう一つの要。起動に先だってその視察を怠るわけにはいきませんが・・・」

 

「こちらの心配は無用。留守番がてらに“ネフェリム”の“食料”調達の算段でもしておきますよ」

 

ナスターシャ教授の鋭い目線をウェル博士は穏やかな笑みで答えるがマリア達もアルバフィカ達も不審そうにウェル博士を見る。

 

「では調と切歌、マニゴルドとカルディアを護衛に付けましょう」

 

「こちらに荒事の予定は無いので平気です、寧ろそちらの戦力を集中させるべきでは?何しろ向こうには“黄金の英雄”が三人もいるのですから、何か事があったらアルバフィカさん一人では危険ですし」

 

ナスターシャ教授は探るように目を細め。

 

「解りました、予定時刻には帰還します。後はお願いします」

 

ナスターシャ教授はマリア達とアルバフィカ達を連れて部屋から退室しようとするが、ウェル博士はアルバフィカ達に話しかける。

 

「ところで黄金聖闘士の皆さんにお聞きしたい事があるのですが?皆さんは今どんな気持ちですか?かつての盟友達と拳を交えなければならない今の状況に対して」

 

「あ?」

 

「ん?」

 

「・・・」

 

ウェル博士の突然の質問にマニゴルド達は立ち止まる。ウェル博士は仰々しくかつ神経に障るような声色で語り出す。

 

「遥か神話の伝説から現代に蘇った星座の闘士達!何者をも寄せ付けない圧倒的な力を持つ人間を越えた戦士!正に皆様は“英雄”と呼ばれて差し支えない“存在”と言っても良いと私は考えています!それが今や聖戦を駆け抜け背中を預けた同志とお互い命を奪い合う関係とはなんたる悲劇!そんな悲劇的な運命を皆さんはどうフグッッ!?」

 

ウェル博士は言葉を止めた。マニゴルドの手が顔を掴みカルディアの爪が喉元に突きつけられアルバフィカは鋭く切られた薔薇の茎を目の前に向けられたからだ。

 

「オイウェル博士よぅ、あんま神経に障るような事くっちゃべらないでくれるか?」

 

「どうにもお前の声聞いてるとムカムカしてくんだよなぁ」

 

「私達とレグルス達は曾ての同志だか、“ソレはソレ、コレはコレ”だ。我々の“目的”の為にもマリア達に協力する。余計な詮索はしない方が良い」

 

底冷えするほどの冷徹な殺気を滲ませた三人に睨まれウェル博士が怯み、マリア達もゾクッとする。

 

「ふぉ、ふぉうでふくぁ、ふぉれはたいふぇんふつれいふぉ・・・(そ、そうですか、それは大変失礼を・・・)」

 

三人はウェル博士を離すとマリア達と一緒に外に出る。しばらく歩くと切歌が。

 

「まあ確かにマニゴルドが“英雄”だなんて全然似合わないデスね、どっちかっつうと“ゴロツキ”や“チンピラ”って言った方がしっくりくるムギュっ!」

 

切歌の両頬を掌で挟みタコ口にするマニゴルド。

 

「言ってくれるじゃねえかこのアホ切歌、一丁前に下着姿で彷徨きやがって」

 

「なにするデスか!?離すデス!てゆーかレディの下着姿を見るなデス!!」

 

「なーにがレディだ!俺にレディ扱いされたきゃな!せめてマリア位に胸やらくびれやら尻が成長してからほざきやがれ!」

 

「あっ!それセクハラッ!セクハラデスッ!このセクハラ蟹ッ!!」

 

「切ちゃん、クチュンっ!」

 

「オラ調、身体拭いてやっからジッとしてろ。風邪ひくぞ」

 

「うん・・・」

 

ギャイギャイ言い合いしながら喧嘩するマニゴルドと切歌、なんやかんや言いながらも調の面倒を見るカルディアをナスターシャ教授とマリア、アルバフィカは呆れながらも微笑ましそうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、そんな和気藹々な雰囲気を繰り広げているナスターシャ教授達と違い、先程まで教授達がいた部屋ではウェル博士がマニゴルド達に掴まれていた顔を擦りながら憎々しげにマニゴルド達が去った扉を睨む。

 

「(クッ!カビ臭い“骨董品”共がッ!まぁ良いでしょう。エサは蒔いた、後は獲物がかかるだけですね・・・!)」

 

ウェル博士の顔は先程までの穏やかな笑みではなく“悪意”と“狂気”に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで、マニゴルドの料理人化はどうでしたか?


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学園生活と新たな“破滅”

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

夕暮れに染まるリディアン音楽院の廊下を1人の少女が走っていた。銀色の髪をツーテールにした少女である。何かから逃げるように走っていた少女が角を曲がると、学祭用の飾り付けが入った紙袋を抱えたか風鳴翼とぶつかる。

 

「うわっ!」

 

「ぐはっ!」

 

ぶつかり紙袋の中身を少し撒きながら尻餅付いた翼は腰をさすりぶつかった少女を見る。

 

「~~っ、脇見しつつ廊下を走るとは、あまり感心できないな・・・」

 

「痛ゥ~」

 

そこには同じように尻餅をついていたリディアン音楽院の制服を着た“雪音クリス”がいた。翼は紙袋を持って立ち上がり。

 

「雪音?何をそんなに慌てて・・・」

 

「“奴等”が、“奴等”に追われてるんだ。もうすぐそこまで・・・ッッ!」

 

立ち上がったクリスが壁にへばり付く、翼も警戒するが、二人の傍を三人の生徒が走って行った。翼は警戒しながら。

 

「・・・特に不審な輩等いないが・・・?」

 

「そうか・・・上手く撒けたみたいだな・・・ハァ」

 

安堵するクリスに翼が訪ねる。

 

「“奴等”とは、一体・・・?」

 

「あぁ、なんやかんやと理由をつけてあたしを学校行事に巻き込もうと一生懸命なクラスの連中だ」

 

「・・・・・・ふっ」

 

クラスメートから逃げていただけのクリスに翼は以前のクリスからは考えられない事なので少し微笑む。

 

そのクラスメート達はクリスを探していた。

 

「雪音さーーーん!」

 

「もう、どこに行っちゃったのかしら?」

 

 

翼は散らばった紙袋の中身を拾っていると不意に呟く。

 

「しかし、雪音がリディアンの生徒になっている事を知った時のエルシドとレグルスの驚いた顔は見物だったな」

 

クリスがリディアンに編入していた事を知ってエルシドは目を見開き、レグルスは両の掌を頬に付けて仰天した事を思い出したのか翼はフフフと含み笑いを浮かべ、逆にクリスはムッとした顔になる。

 

「あたしはあの二人をハッ倒してやろうかと思ったけどな。だいたいfine<フィーネ>を名乗る謎の武装集団も現れたんだぞ、あたし達にそんな暇はってそっちこそなにやってんだ?」

 

「見ての通り、雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ」

 

クリスは暢気に学園生活をしている現状にボヤくが、翼は後3日に控えたリディアンの学祭『秋桜祭』に向けてクラスの手伝いをしていた。

 

「それでは、雪音にも手伝って貰おうかな」

 

「何でだ!?」

 

「戻った所でどうせ巻き込まれるのだ、ならば少し位付き合ってくれても良いだろう? それに学園生活を疎かにしている事を保護者<デジェル>に知られたら、“極寒のお説教”が待っているぞ」

 

「うぐっ! ッ~~~~~~!」

 

デジェルのお説教(静かに説教をするのだが絶対零度の雰囲気を纏う)が怖いのも手伝ってクリスは渋々と一緒に翼のクラスでお花紙や紙の鎖を作っていた。

 

「まだこの生活<学園生活>に馴染めないのか?」

 

「まるで馴染んで無いヤツに言われたかないね」

 

「ふっ確かにそうだ、しかしだな雪音」

 

「あっ翼さん、いたいた」

 

「「?」」

 

扉を見ると翼のクラスメート達が現れた。

 

「材料取りに行ったまま戻らないから、皆で探してたんだよ」

 

「でも心配して損した。いつの間にか可愛い下級生連れてるし♪」

 

「皆、先に帰ったとばかり・・・」

 

「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってるし」

 

「だから私達も手伝おうって」

 

「私を手伝って・・・」

 

唖然とする翼をクリスはニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

「案外人気者じゃねぇか♪」

 

「あっ、貴女もしかして・・・」

 

「あ?」

 

クラスメートの一人がクリスを見て。

 

「この間、ショッピングモールにいたよね?スッゴい美形のお兄さんと一緒に!」

 

「(美形?・・・お兄ちゃん<デジェル>の事か?)あ、あぁ確かに行ったけどよ・・・?」

 

「やっぱり!緑色の長髪した美形のお兄さんと一緒にいる銀髪美少女の美形カップルの彼女さんだね!」

 

「皆、雪音を知ってるのか?」

 

「知ってるも何も!最近有名になってる“名物カップル”だよ!」

 

「「め、“名物カップル”・・・?」」

 

「うん!男の人は高身長に知性溢れるクールな雰囲気にそこら辺のアイドルやイケメン俳優なんて目じゃない位の美形!一緒にいる女の子は気の強そうな見た目に銀色の髪を靡かせるトランジスタグラマーなこれまた美少女!美男・美少女の理想的美形カップルとしてちょっとした名物になってるんだよ!」

 

「(そんなに知られてんのか?・・・)」

 

「雪音・・・お前も結構有名人だったんだな・・・」

 

「あんたには負けると思うけどな・・・・・・」

 

頭にギャグ汗を浮かべる翼とクリス。

 

「ねえねえ!やっぱり一緒にいたお兄さんって彼氏さん?!」

 

「なっ?!あ~その~////////」

 

「あぁやっぱり彼氏さんなんだ。残念だなぁ、違ってたら紹介してもらおうかなって思ってたのに・・・」

 

「・・・・あぁ?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「雪音、落ち着け(汗)」

 

赤面していた顔を一瞬で怒気に染めたクリスを宥める翼。一緒に作業しながらクラスメート達が翼の事を話す。

 

「翼さんってさ、昔はちょっと近寄りがたかったのも事実かなぁ」

 

「そうそう、“孤高の歌姫”って言えば聞こえは良いけどね」

 

「始めは何か、私達の知らない世界の住人みたいだった」

 

「そりゃ、芸能人でトップアーティストだもん」

 

「でもね」

 

「うん♪」

 

「思いきって話してみたら、私達と同じなんだって良く分かった!」

 

「皆・・・」

 

「特に最近は、そう思うよ」

 

そう言われて微笑む翼をクリスは一瞥すると。

 

「ちぇ上手くやってる・・・」

 

「面目無い、気にさわったか?」

 

「さ~てね、だけどあたしももうちょっとだけ頑張ってみようかな・・・人間関係が上手く行ってないと“心配する人”がいるし・・・」

 

「ふっそうか」

 

少し前向きになったクリスに翼は微笑みを浮かべ夕焼けの教室でクラスメート達との作業を続けた。

 

 

ーfine<フィーネ>アジトー

 

その夜、fine<フィーネ>のアジトらしき廃病院に忍び込んだ奏者達と聖闘士達。

 

「《良いか、今夜中に終わらせるつもりで行くぞ!》」

 

「《明日も学校があるのに、夜半の出動を強いてしまいすみません》」

 

「気にしないでください。これが私達防人の務めです」

 

「町のすぐ外れにあの子達が潜んでいたなんて・・・」

 

「《ここはずっと前に閉鎖された病院なのですが、2ヶ月前から少しずつ物資が搬入されているようなんです。ただ現段階ではこれ以上の情報が得られず》」

 

「尻尾が出てないなら、こちらから引きずり出してやるまでだ!」

 

病院に向かう奏者と聖闘士達に弦十郎は指示を飛ばす。

 

「《奏者と聖闘士は二人一組で行動しろ、向こうの聖闘士が現れたらこっちの聖闘士が対処して、奏者達はなるべく巻き込まれ無いようにしろよ!あと罠としてあるかもしれない魚座の“デモンローズ”にも警戒を怠るなよ!》」

 

「魚座の“デモンローズ”ってそんなに危険なの?」

 

「あぁ、魚座<ピスケス>は三種の薔薇を武器として扱う」

 

「え~と“恍惚な香気で相手は眠るように息絶える深紅の薔薇”、“鉄をも噛み砕く漆黒の薔薇”に“生き血を啜る純白の薔薇”だったな」

 

「魚座の守護する“宮”は我々黄金聖闘士が守護する“十二宮”の最後の“宮”ゆえに、そこと教皇がいる“教皇の間”との中間地点にデモンローズが群贅していて“薔薇の葬列”とも呼ばれている」

 

響の質問にレグルス達が解説していた。

 

「薔薇を武器として扱うとは、魚座の聖闘士は随分耽美な人間なのだろうな」

 

「あたしが言うのもあれだけど。あんな蟹座と蠍座とツルんでいる以上、マトモな野郎じゃねぇだろうな」

 

「(エルシド、レグルス。アルバフィカの事は伏せておこう・・・)」

 

「(・・・そうだな)」

 

「(こりゃアルバフィカの“素顔”を見たときの反応が楽しみだな!(笑))」

 

苦笑いを浮かべるデジェルと無表情のエルシドと含み笑いを浮かべるレグルスだった。

 

「レグルス君、レグルス君達は蟹座<キャンサー>さん達が敵として現れたらどうするの?」

 

「?・・・立ち塞がるなら倒すだけだけど」

 

「仲間なのに・・・?」

 

「仲間だからこそ知っている。手加減して戦えるほどマニゴルド達は温い相手ではない」

 

「黄金聖闘士だからと言って、皆が皆同じ考えの人間ではない、それぞれがそれぞれの“信念”と“正義”で行動している。その考えがぶつかる事で戦う事にもなる」

 

「(“信念”と“正義”か・・・)」

 

「(アイツらにそんな大層なモンがあるとは思えねぇな・・・)」

 

「(わからない・・・どうして同じ黄金聖闘士なのに・・・“戦う理由”なんて無いはずなのに・・・)」

 

翼とクリスは敵側の聖闘士(蟹座と蠍座)に“信念”があるのか疑念を抱き、響はレグルス達の割り切り方を理解できなかった

 

 

ー研究室ー

 

病院の通路を進みながら会話を続ける奏者達と聖闘士達を監視モニターで見ていたウェル博士は企みの笑みを浮かべる。

 

「おもてなしといきましょう・・・」

 

そう言って、ウェル博士は警備システムを起動させる。

 

 

ー病院通路ー

 

響達が進む通路の壁から赤い煙が噴射された。

 

「やっぱり元病院ってのが雰囲気出してますよね」

 

「なんだ、ビビってるのか?」

 

「そうじゃないけどなんだか空気が重い気がして・・・」

 

「以外に早い出迎えだぞ」

 

通路の奥から小型ノイズが現れた。

 

「歓迎パーティーの始まりだな♪」

 

「クリス、派手なクラッカーを」

 

「あぁ、お見舞いしてやるぜ!」

 

奏者達は歌う、“戦いの唄”を!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

聖闘士は呼ぶ!己が纏う“鎧”を!

 

「獅子座<レオ>ッ!」

 

「山羊座<カプリコーン>ッ!」

 

「水瓶座<アクエリアス>ッ!」

 

奏者達の服が弾け飛びその身にギアを纏う!聖闘士達に黄金に輝く獅子と山羊と水瓶を持ったシーマンのオブジェが現れそれぞれのパーツに分解し聖闘士達の身体に纏う!

 

「♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

クリスは先陣を切るように飛び出し『BILLIONMAIDEN』をノイズに浴びせる。響と翼も隣に立ち、ノイズを見ると次々と現れるノイズを見て“確信”する。

 

「やっぱり、このノイズは・・・!」

 

「あぁ、間違い無く“制御”されている!」

 

クリスを先頭に響と翼は走る。レグルス達は悠然と歩いて行った。

 

「立花!雪音のカバーだ!懐に潜り込まれないように立ち回れ!」

 

「はい!」

 

狭い閉鎖空間で、前から来る敵に対して射撃殲滅を得意とするクリスのイチイバルの方が優位に立てる。懐に入られないように響と翼がクリスのカバーに入る。それを後方から見ていたレグルス達は。

 

「連携が上手く取れるようになったようだな」

 

「うんうん」

 

「嫌、良く見てみろ」

 

シンフォギアの攻撃で黒染みに消滅するはずのノイズの身体が再生した。

クリスの弾丸や響の拳、翼は『蒼の一閃』を放つもノイズは再生していった。

 

「「「ッ!?」」」

 

「ノイズが再生している?」

 

「これは一体・・・?」

 

十数体のノイズがレグルス達に襲いかかるも。

 

「ふっ!」

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

1秒間に1億発の拳を繰り出すレグルスの攻撃を受けて跡形もなく消滅する。

 

「ルナアタックの頃となんの変哲も無いよ。簡単に倒せる」

 

「と言う事は“ノイズ”ではなく」

 

「奏者達に問題があるのか」

 

レグルス達は問題無いが響達はノイズに囲まれる。

 

「何で・・・こんなに手間取るんだ・・・?」

 

「フゥ、フゥ、ギアの出力が落ちている?」

 

 

ー二課指令室ー

 

奏者達の状況は弦十郎達も確認していた。藤尭と友里が原因を報告する。

 

「奏者達、適合係数低下!」

 

「このままでは戦闘を継続する事が出来ません!」

 

「何が起きている!」

 

二人の報告を聞いて弦十郎も苦い顔をする。

 

ー病院通路ー

 

悪戦苦闘しながらも奏者達はノイズを殲滅する。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

「フゥ、フゥ、フゥ、フゥ、フゥ、フゥ」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

中々倒せないノイズに苦戦を強いられ奏者達は呼吸が僅かに乱れていた。後方にいたエルシド達にもノイズは攻撃してきたがこちらは問題無く片付けた。だがレグルスが先の通路から来る“気配”を感知した。

 

「ッ!」

 

「グワアァア!!」

 

通路の先からノイズと違う“異形”が襲いかかってきた!

 

「危ないッ!」

 

レグルスが裏拳で“異形”を殴り飛ばすが“異形”は天井を足場に再び襲いかかる!

 

「ッ!!」

 

今度は翼が一太刀浴びせた!が。“異形”は通路の床に叩きつけられた“だけ”だった。

 

「“アームドギア”や黄金聖闘士の迎撃を喰らったんだぞ!?」

 

「なのに何故炭素と砕けない!?」

 

原子を破壊する一撃と対ノイズの武器の攻撃を受けて平然としている“異形”にクリスと翼は驚く。

 

「まさか・・・ノイズじゃない・・・?」

 

「じゃあの化け物はなんだって言うんだ!?」

 

「ノイズでなくとも友好的な存在では無さそうだな」

 

「その“答え”は向こうにいるヤツに聞いた方が良いな」

 

奏者達とは別にレグルス達は“異形”の向こうにいる“存在”に警戒した。すると・・・・・・。

 

パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ・・・・・・

 

通路の向こうから拍手をしながらやって来た“人物”に奏者達も警戒する。

 

「えッ?!」

 

「ん?」

 

そこから現れたのは、“ソロモンの杖”強奪の際行方不明となった。ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトイクス博士だった!

 

「ウェル博士!?」

 

“異形”はウェル博士が持ってきたケージに入った。

 

「以外に総いじゃないですか」

 

「そんな、博士は岩国基地が襲われた時に・・・」

 

「つまりノイズの襲撃は全部・・・!」

 

理解出来ない響と別にクリスは察し、ウェル博士はにこやかに話す。

 

「明かしてしまえば、単純な仕掛けです。あの時<強奪騒動時>既にアタッシュケースに“ソロモンの杖”は無く、コートの内側に隠し持っていたのですよ」

 

「“ソロモンの杖”を奪うため、自分で制御し、自分を襲わせたのか?」

 

「“バビロニアの宝物庫”よりノイズを呼び出し、制御する事を可能にするなど、この杖をおいて他にありません」

 

そう言いながら“ソロモンの杖”でノイズを呼び出した。

 

「グルルルル・・・」

 

“異形”が唸りをあげる。

 

「そしてこの杖の所有者は、今や自分こそがふさわしい!そう思いませんか?」

 

ウェル博士が目を見開きながら話す。

 

「チッ、思うかよ!」

 

ウェル博士はノイズをけしかける。ノイズに向けて腰アーマを展開し小型ミサイルを発射するクリス。だが。

 

「待て!クリス!」

 

「(ドクン!)ああああッ!!」

 

悲鳴をあげるクリスをデジェルが支えるのと同時にミサイルが着弾し爆発が起こる!

 

ズガガガガガガガドッカアアアアアアアアアアアン!!!

 

病院で爆発が起こった!

 

ー二課指令室ー

 

指令室で奏者の状態をモニターしていた弦十郎達は。

 

「適合係数の低下に伴って、ギアからのバックファイアが奏者を蝕んでます!」

 

 

ー病院外ー

 

吹き飛ばされたノイズの塊は崩れ、その中からウェル博士が現れる。ミサイルが着弾する直前にノイズを盾代わりにして防いだのだ。病院の中から響とレグルス、クリスをお姫様抱っこしたデジェルと翼とエルシドがも外に出た。

 

「クリス、しっかりしろ」

 

「お兄ちゃん・・・クソ、何でこっちがズタボロなんだよ・・・?」

 

「(この状況<適合係数低下状態>で出力の大きい技を使えば、最悪の場合そのバックファイアで身に纏ったシンフォギアに殺されかねない・・・)」

 

「ん?響!あれ見て!」

 

「あれは?!」

 

空を見るとアドバルーンのようなノイズにぶら下がりながら離脱する““異形”の入ったケージ”があった。

 

「ノイズがさっきのケージを持ってる!」

 

 

ー二課指令室ー

 

指令室でもそのケージの映像が入った。

 

「このまま直進すると洋上に出ます!」

 

「くっ!」

 

何も出来ない状況に苦虫を噛んだ顔を浮かべる弦十郎。

 

ー病院外ー

 

逃げるノイズを見送るウェル博士。

 

「(さて身軽になったところで、もう少しデータを取りたい所だけど)・・・」

 

ウェル博士は響達の方に目を向ける。響達は構えると降参と言わんばかりに手を上げる。

 

「立花、レグルス。その男の確保を任せる。デジェルは雪音を頼む。私とエルシドはアレを追う!」

 

翼とエルシドはノイズを、正しくはノイズの持つケージを追う。

 

「行けるか翼?」

 

「天羽々斬の機動性なら、行ける!」

 

「良し・・・!」

 

翼とエルシドをモニターしていた友里が弦十郎に報告する。

 

「翼さん、エルシドさん、逃走するノイズに追い付きつつあります!ですが・・・」

 

「指令!」

 

「そのまま飛べ!翼!エルシド!頼むぞ!」

 

通信越しの弦十郎の檄を受けて翼とエルシドは走る!

 

「♪~♪~♪~♪(飛ぶ!)」

 

「《翼さん!海に向かって飛んでください!》」

 

二人の目線の先に道路が途切れていた。二人はそこから飛ぶが翼は足のパーツを展開して飛ぼうとするが、適合係数な低下の影響かギアが思うように動かず落下する。

 

「翼!」

 

「《仮設基地、急速浮上!》」

 

落ちていく翼の落下先の海上から“現”特異災害機動部二課の基地である“潜水艦”が現れた!(かつての基地はルナアタックで無くなり新たに移動能力のある潜水艦に変わったのだ)

翼は潜水艦の船首を足場にして飛びエルシドと並ぶ。

 

「「(コクン!)」」

 

二人は頷き合うとノイズに向けて斬撃を飛ばす!

するとノイズは粉々に切り裂かれた!

落下するケージを滑空しながら翼がキャッチしようとするが。

 

「ッ!翼手を引け!」

 

ガキンッ!

 

「うわッ!?」

 

基地に着地したエルシドの言葉が届く前に翼の足を“槍”が弾き翼は海に落ちる

途切れた道路でその様子を見ていた響達(ウェル博士はレグルスに確保されていた)。

 

「翼さんッ!」

 

直ぐにエルシドが海に潜る。翼を弾いた“槍”は海面に佇みその柄に“何者”かが降り立ち落下するケージを掴む。

 

「アイツは・・・・」

 

昇る朝日をバックに現れたのは、“黒いガングニール”を纏ったマリア・カデンツァヴナ・イヴであった!

それを見たウェル博士は不適に微笑み。

 

「時間通りですよ“フィーネ”・・・」

 

『!?』

 

ウェル博士の言葉に響とクリス、レグルスとデジェルも目を驚愕に染める。デジェルから降りたクリスはウェル博士に詰め寄り。

 

「“フィーネ”だと・・・?」

 

「終わりを意味する名は我々組織の象徴であり、彼女の二つ名でもある」

 

「まさか・・・じゃぁあの人が」

 

響達はマリアに目を向け、ウェル博士は更に言葉を紡ぐ。

 

「新たに目覚めし再誕した“フィーネ”です!」

 

“終わり”の名を持つ巫女“フィーネ”、その名は奏者達にとっても聖闘士達にとっても因縁深い相手の名前であった。

 

レグルスはマリアを見つめる。

 

「(“スペラリ”・・・お前なのか?・・・“スペラリ”・・・!!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡り、ウェル博士を初めて見た聖闘士達は。

 

「(あの人がウェル博士?)」

 

「(ああ、響君とクリスが任務で護衛していた研究者なのだが、そして彼はどうやら敵側のようだ)」

 

「(手の込んだ自作自演をしていたと言う訳か・・・)」

 

「(でも・・・)」

 

「(ウム・・・)」

 

「(ああ・・・)」

 

三人はウェル博士を見るとこう思った。

 

「「「(俺は/俺は/私はどうやら、あの男<ウェル博士>が・・・)」」」

 

「(嫌いっぽい・・・!)」

 

「(とても業腹に感じる・・・!)」

 

「(不愉快な存在と感じる・・・!)」

 

今は知らないがマニゴルド・カルディア・アルバフィカも初めて会った時に同じ感想を抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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再び戦闘開始!

今回で、聖闘士側にオリジナル技を授けます。原理は国民的忍者マンガを参照。


ー二課指令部ー

 

「《新たに目覚めし再誕した“フィーネ”です!》」

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴの登場と通信越しから聞こえたウェル博士の言葉から指令部は分析を試みていた。

 

「つまり、異端技術を使うことから“フィーネ”の名を組織になぞらえた訳ではなく」

 

「蘇った“フィーネ”そのものが、組織を統率していると言うのか?」

 

「またしても先史文明記の亡霊が、今に生きる俺達の前に立ち塞がると言うのか?・・・俺達はまた戦わなければならないのか?・・・了子君・・・!」

 

ルナアタック事件を引き起こした黒幕であり、敵ではあったが、それでも仲間であった“フィーネ”嫌“櫻井了子”に弦十郎はやりきれない、と言わんばかりに悔しそうに苦しそうに苦言を漏らしていた。

 

「《待ってくれ、弦十郎》」

 

「レグルス君?」

 

ウェル博士をデジェルに任せ、レグルスは弦十郎に連絡をよこす。

 

「《俺にはアイツ<マリア>が“フィーネ”だと、“スペラリ”だと思えない・・・》」

 

「なんだって?」

 

「「?」」

 

「《ルナアタック事件の時に感じたスペラリの気配が彼女から感じられないんだ》」

 

「だがそれは・・・」

 

「《ああ、あくまで俺の直感みたいなモンだ。でもなんか“違和感”を感じるんだ》」

 

レグルスの野性的直感力からの言葉に弦十郎達も訝しそうにモニターに映るマリアを見ていた。

 

 

ー海上ー

 

突然現れた“フィーネ”と呼ばれたマリアを奏者達と聖闘士達は警戒しながら見ていたが、響は戸惑い混じりに。

 

「嘘、ですよ・・・だってあの時了子さんは・・・」

 

ルナアタック事変の最後でレグルスと戦い敗北し、消滅した了子の事を思い出していた。

 

『「フン、今度こそ貴様らを越えて見せる。“デキる女”を舐めるなよ♪」』

 

そして消滅したフィーネ、櫻井了子の事が頭によぎった。ウェル博士は笑みを浮かべたまま呟く。

 

「輪廻転生<リインカーネーション>」

 

「遺伝子に“フィーネの刻印”を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に転生し続ける輪廻転生システム・・・」

 

「そのシステムによりフィーネは、櫻井了子の肉体を自身の転生の器とし現代に甦りルナアタックを引き起こした」

 

「そんな、じゃあアーティストだったマリアさんは・・・?」

 

クリスとデジェルの言葉に更に響は戸惑う、櫻井了子の意識を食い潰しフィーネが支配したならば、マリアの意識もと考えたからだ。

 

「さて、それは自分も知りたいところですね」

 

「「・・・?」」

 

探るようにマリアを見つめるウェル博士をレグルスとデジェルは訝しそうに見ていた。そしてマリアは。

 

「(“ネフィリム”を死守できたのは行幸・・・だけどこの状況、次の一手を決めあぐねるわね・・・)」

 

この状況を如何に打破するか考えていたマリアに海面から翼とエルシドが飛び出す。

 

「!?」

 

翼は足のパーツを展開し海面を滑空しながら、エルシドは海面を走りながらマリアに向かう!

 

エルシドが海面を走る原理は、小宇宙<コスモ>を足の裏に集中させ、膜のように張り海面に浮いているのだ。この原理は、かつて天馬星座<ペガサス>の聖闘士が“ある島”で修行中に拳の拳圧でマグマを弾き、掌に小宇宙<コスモ>を集中させることで弾いたマグマを球体の形に留めた技法の応用である。

 

「ハアアアアアアア!!」

 

「ッ!」

 

翼がマリアに斬りかかるが刃が当たる寸前マリアを顔を反らしてかわす。マリアが振り向くと翼が刀を大剣に変えて『蒼ノ一閃』を放つ!

 

「甘く見ないでもらおうか!ハアッ!」

 

マリアは黒いガングニールのマントを大きくし自身の周囲に回転させて『蒼ノ一閃』を防ぐ!

 

「甘くなど見ていない!」

 

「フッ、エルシド!」

 

「疾ッ!」

 

してやったりと嗤う翼の背後からエルシドがマリアに斬撃を放つ!

 

流石に黄金聖闘士の攻撃を防げるとは思っていないのか防ぐ事も回避しようともしない。

 

「そちらの方が甘く見ている。そう思うでしょう?アルバフィカ・・・!」

 

しかし余裕の態度を崩さないマリアの目の前に“黒い薔薇”がマリアの周囲を舞う!

 

「ムッ!」

 

「何ッ!?」

 

エルシドの手刀から放たれた斬撃がマリアの周囲に現れた“黒い薔薇の竜巻”に防がれた!

 

「『ローリング・ローズ』。鉄をも噛み砕く漆黒の薔薇『ピラニアン・ローズ』を周囲に旋回させる事で相手の攻撃を防ぎ、相手が攻めてくれば『ピラニアン・ローズ』に噛み砕かれる攻防一体の技よ・・・」

 

「美しくも、恐ろしい技ね・・・」

 

突然響いた声と共に黒薔薇の茎ソッと掴んだマリアの隣の海面に、マスクを目深に被った魚座<ピスケス>のアルバフィカが降り立つ。

 

「アルバフィカ!?」

 

「馬鹿な!どこから現れたんだ!?」

 

光の速さ、光速で移動する同じ黄金聖闘士なら気配を察知する事はできる。だがアルバフィカの気配は“突然現れたのだ”。驚くレグルスとデジェルを余所にアルバフィカは『ピラニアン・ローズ』をエルシドに放つ!

 

「『乱斬』ッ!」

 

一度に複数の小さな斬撃を放ち黒薔薇を切り裂く。マリアは黒薔薇を捨てると突然現れたアルバフィカに一瞬気が逸れた翼にマントで攻撃した!

 

「はっ!」

 

「グァッ!」

 

そのまま翼を二課本部の潜水艦の甲板まで投げ飛ばす。

 

「翼・・・!」

 

「余所見をするなエルシド!」

 

海面を走りながら黒薔薇と斬撃で攻防を繰り広げる。甲板に投げ飛ばされた翼は体制を整え着地する。

 

「ハア!」

 

「フッ」

 

マリアはフッと笑うと持っていたケージを上空へ投げた、するとケージが空中で“姿を消した”。

マリアは槍の上から飛び甲板に着地すると手を上げて海面に浮かんでいた槍を呼び寄せ掴み構える。

 

「甘くなど見ていない、私は全力で戦っている!」

 

飛び上がり翼に槍を振り下ろす。

 

「ハアァ!」

 

「くっ!」

 

刀を構えて槍を防ぎ反撃するも空中でマリアに防がれる。お互いの武器のぶつかりその反動で後方に下がり距離が空く。剣を構えた翼は槍を振り回すマリアに斬りかかる。

 

「はあああッ!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

歌を歌いながらマントで翼を攻撃するも翼は回避しマントは甲板を傷つける。側面から翼は向かうもマントに攻撃を防がれる。

 

「♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

マリアは槍を頭上に構え、マントを竜巻のように回転させ翼に襲いかかる!

 

「ハアアアアアア!!」

 

襲いかかる黒い竜巻を刀で攻撃するが弾かれるもその反動を利用して竜巻の中心部に刀を突き刺そうとするが、中心部から槍を構えたマリアが現れ、槍を突き出し翼を弾き飛ばす!

 

「くっ!」

 

うまく着地した翼に更にマントで攻撃するも翼はでんぐり返しの要領でかわすが、マントは“甲板”を斬りつけていた!

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア」

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

変幻自在のマントの攻撃に攻めあぐねる翼。マントを元の形に戻し槍を構えるマリア。

 

ー二課本部近くの海上ー

 

エルシドとアルバフィカは黒薔薇と斬撃を飛ばしながら海上を走り攻防を続けていた。エルシドが近づき手刀をアルバフィカに振る!

 

「ハア!」

 

「フッ!」

 

斬撃をかわしたアルバフィカは小声でエルシドと会話していた。この会話を“ある人物”に聞かれないように、悟られないように。

 

「(アルバフィカ、何故お前は奴等に協力する?)」

 

「(・・・エルシド、一つ言っておく)」

 

再び距離が空いたエルシドは飛び蹴りをぶつけようとする。

 

「『ジャンピング・ストーン』!」

 

アルバフィカはそれをかわし、『ジャンピング・ストーン』が当たった海面に水柱が上がる。その水柱に紛れて再び小声で会話する。

 

「(この星に“危機”が迫っている・・・)」

 

「(・・・!?・・・)」

 

「(この星の“危機”を防ぐ為に我等は彼女達に協力している・・・)」

 

「(我々<二課>と協力し合おうと考えなかったのか?)」

 

「(・・・エルシドよ、お前もこの“世界の仕組み”を理解している筈だ)」

 

「(・・・・・・)」

 

「(お前達<二課>はともかく、世界がこの“危機”を知っても、黙殺されるか混乱が生まれるだけだ!)」

 

再び『ピラニアン・ローズ』を放つアルバフィカと再び攻防を再開した。

 

 

ー二課本部ー

 

しかし二課本部では、二人の戦闘(主にマリアの攻撃)により甲板が傷つけられ警報がけたたましく鳴っていた。

 

「被害状況出ました!」

 

「船体に損傷、このままでは潜航機能に支障が出ます!」

 

「・・・っ・・・翼!マリアを振り払うんだ!」

 

ー甲板ー

 

「ッ!」

 

弦十郎からの通信を聞いてマリアの目的が二課本部の機能停止であると理解した翼は嵌められたとばかりに苦い顔を浮かべる。そして持っていた刀を太腿パーツに仕舞い、足の刃を展開しカポエラのように回転しながらマリアに向かう!

 

「勝機!」

 

「ふざけるな!」

 

翼の攻撃をマントで弾き飛ばす。着地した翼の足に痛みが走る。

 

「ッ・・・くッ!」

 

「もらった!」

 

槍で襲い来るマリアにすかさず翼は刀を取りだし逆手に持ってマリアと交差するが。

 

「がぁ、あ!」

 

押し負けてしまい吹き飛び倒れる。

 

ー道路ー

 

道路上から翼とマリア、エルシドとアルバフィカの戦いも見ていた響達は倒れた翼に注目する。

 

「アイツ、何を・・・?」

 

「最初に貰ったのが効いてるんだ・・・!」

 

先程ケージをキャッチしようとした時に食らったダメージが翼のパフォーマンスに悪影響を与えていると響は見抜いた。

 

「チッ、だったら白騎士のお出ましだ!」

 

クリスはボーガンを構えてマリアに照準を合わせようとするが・・・。

 

「(では、こちらもそろそろ・・・)」

 

「「っ!?」」

 

ニヤリと笑みを浮かべたウェル博士を見てデジェルとレグルスは周囲を見ると、自分たちに向かって飛んでくる“円盤型ノコギリ”を見た。

 

「クリス!」

 

「響危ない!」

 

「「うわっ!」」

 

響達の手を引いて“ノコギリ”を避ける。縦横無尽に襲いかかるノコギリを交わすクリスに“緑の刃の大鎌”を構えた“切歌”が襲いかかる!

 

「イガリマ!」

 

襲いかかる大鎌を回避するクリスを大鎌を振り回しながら追撃する切歌。狙いはクリスが持つ“ソロモンの杖”。

 

「クリス!」

 

「余所見してんなよ、デジェル!」

 

「っ!カルディア!」

 

「『スカーレット・ニードル』!」

 

「くっ!」

 

クリスの元に行こうとするデジェルの背後からカルディアが襲いかかる!真紅の針の攻撃を回避するが。

 

「ヒャッハア!!」

 

「ぬぅっ!」

 

カルディアは手足を大きく振りながらデジェルを攻撃する、それはまるで鞭のようにしなやかに鋭く。デジェルもかわすので精一杯だった。

 

「デジェル!(ガシッ!)何ッ!?」

 

レグルスの身体が“何か”に挟まれた!

 

「人が留守にしてる間に潜入とは、やってくれるなレグルスよ!」

 

「マニゴルド!?」

 

レグルスの身体がマニゴルドの脚に挟まれていた。

 

「(これはマズイ!)」

 

「せ~の、『蟹爪<アクベンス>』!」

 

マニゴルドの技『蟹爪<アクベンス>』、相手の身体を脚で挟み逃れようとする相手の動きを瞬時に見抜き身体を捻り梃子の原理で相手の身体を千切る荒技なのだが。

 

「ッッッ何のぉ!」

 

「何ッ!?」

 

何とレグルスはマニゴルドの動きの流れに乗って動き、更に身体から無駄な力を抜いてマニゴルドの脚から逃れた。

 

「『ライトニング・プラズマ』!」

 

「チッ!上手く逃れやがッたか・・・!(俺の動きに一瞬で合わせ脱力で身体から無駄な力を抜いて脱出。流石は“天才”、やっぱ油断できねぇわ・・・!)」

 

「(危なかった。同じ手は通用しないだろうな、以外に抜け目無い性格だからなマニゴルドは・・・!)」

 

光速の拳から逃れながらレグルスの“才能”を称賛するマニゴルドとマニゴルドの“性格”に警戒するレグルス。

 

「レグルス君、うわッ!?」

 

円盤ノコギリの攻撃をかわしていた響に“調”が道路をローラースケートで滑るように迫ってきた。調はツインテールの装備を展開させて次々とノコギリを響に飛ばす!

 

「ハッ!テヤ!フッ!」

 

カンフーの動きでノコギリを破壊する響に調は脚から巨大な刃を伸ばし輪刀を作る!

 

『非常Σ式 禁月輪』

 

巨大輪刀を転がし道路を切りながら響に向かう!

 

「ウオオ・・ッ!?・・」

 

間一髪で回避する響は調に向き直る。クリスの方も切歌に苦戦していた、切歌は大鎌をバトンのように振り回し、大鎌の柄で遠心力を付けた大降りの一撃をクリスの腹部に叩き込む。

 

「グハッ!・・・あっ・・・」

 

腹部を抑えるクリスは顎に柄で突き上げを喰らい仰け反りながら吹き飛ぶ。その際に“ソロモンの杖”を手放してしまった。

 

「クリスッ!」

 

「おい、デジェル!余所見は・・・」

 

「邪魔だッ!!」(ビカッ)

 

「うおっ!?」

 

デジェルは邪魔しようとするカルディアを『ダイヤモンド・ダスト』で吹き飛ばし、突き飛ばされたクリスをキャッチする。

 

「クリス!」

 

「ッ!・・・」

 

「(まだ先程(適合係数低下)のダメージが残っているか・・・!)」

 

「クリスちゃん!」

 

「デジェル!」

 

響とレグルスは二人の元に向かう。

 

「大丈夫、クリスちゃん!」

 

「ッ!デジェル!“ソロモンの杖”は!?」

 

「ハッ、しまった!」

 

デジェルとレグルスの視線の先に“ソロモンの杖”を回収した調と黄金聖衣の所々に張った氷を剥がしているカルディアが、ウェル博士の側に歩いていた。

 

「時間ピッタリの帰還です。おかげで助かりました。むしろ、此方が少し遊び足りない気分です・・・」

 

それはまるで暴れ足りないケダモノのような声色だった。

 

「助けたのは貴方の為じゃない」

 

「テメェは“ソロモンの杖”のオマケなんだよ」

 

「イヤー、お二人とも手厳しい!」

 

冷たい声色の調とカルディアにひょうきんな態度を取る。

クリスは響に支えられながら悔しそうに呟く。

 

「クソッタレ、適合係数の低下で身体がマトモに動けやしねぇ・・・!」

 

「でも、一体どこから・・・?」

 

突然現れた敵奏者と敵聖闘士の登場に不振を抱き、辺りを見回す響、マニゴルドと切歌に警戒するレグルスとデジェル。

 

ー二課本部ー

 

弦十郎達の方も突然現れたマニゴルド達に驚いていた。

 

「伏兵が潜んでいるのか?交戦地点周辺の策摘を徹底するんだ!」

 

「やってます!ですが・・・」

 

「奏者出現の瞬間まで、アウフヴァッヘン波形、その他すべてのシグナルがジャミングされている模様!」

 

「クッ・・・アウフヴァッヘン波形の無い聖闘士はともかく、奏者達の策摘をジャミングするとは、俺達の持ち得ない異端技術・・・!」

 

弦十郎は苦々しく呟いた。

 

ー甲板ー

 

響達が調達の襲撃に合っている間、にらみ合いを続けていた翼とマリア。

 

「・・・・・・」

 

負傷した脚を抑える翼にマリアは攻めあぐねていた。実は翼と交差した時、翼の刃の柄がマリアの腹部を僅かに傷付けていたのだ。

 

「(此方の動きに合わせるなんて・・・この剣、可愛く無い!)」

 

負傷した箇所をマントで隠す。翼は掌を握り、自分の状態を確認する。

 

「(少しずつだが、ギアの出力が戻っている。行けるか・・・!)」

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア(ギアが重い・・・!)」

 

ギアの出力が“戻りつつある”翼とギアの出力が“落ちている”マリア。再び戦いが始まれば、勝敗は火を見るよりも明らか。

するとマリアの通信機からナスターシャ教授の声が響いた。

 

「《適合係数が低下しています。“ネフィリム”はもう回収済みです!戻りなさい!》」

 

「っ!“時限式”ではここまでなの!?」

 

「!?」

 

マリアの言った“時限式”と言う言葉に翼は今は亡き“片翼”であり“親友”の最後が浮かんだ。

 

「まさか・・・奏と同じ“LiNKER”を・・・?」

 

“天羽 奏”、響の前のガングニール奏者であり、翼の親友。彼女は翼のように始めから適合が高かった訳ではなく、“LiNKER”と呼ばれる制御薬で服用する事で己の適合係数を高めていたのだ。マリア達は奏と同じ“LiNKER”を用いているのではと考える翼に突風が襲う。

 

「ッ!・・・」

 

するとマリアは上空に飛びいつの間にか現れたワイヤーを掴んでいた。

 

「アルバフィカ!退却よ!」

 

海上でエルシドと戦っているアルバフィカに呼び掛ける。

 

「(コクン)『ローリング・ローズ』!」

 

「クッ・・・!」

 

エルシドの周囲に黒薔薇の竜巻を起こし動きを封じ、アルバフィカはマリアが掴んでいたワイヤーの先からに向かって飛び上がる。すると突然ワイヤーの先の風景から“飛行艇”が浮き上がるように現れた!

 

ー道路ー

 

響達は目の前に並ぶマニゴルド達に呼び掛ける。

 

「あなた達は一体何を!」

 

「・・・正義では守れない物を守るために・・・!」

 

「え?」

 

「どういう事だ?」

 

「覚えておきな、レグルスにガングニールのお嬢ちゃん。“正義”や“キレイなやり方”だけで物事が全て上手く行くほど、この“世界”は単純じゃねぇんだよ」

 

マニゴルドの言葉と共に響達にも突風が襲う。切歌達の上空に飛行艇が現れた!

 

「「ッ!?」」

 

「なんだありゃぁ!?」

 

「“飛行艇”だと!?」

 

驚くレグルス達を余所に“飛行艇”からワイヤーが2つ垂れ流され、調とウェル博士を抱えた切歌が飛びワイヤーを掴む。マニゴルドとカルディアはひとッ飛びで“飛行艇”に飛び乗る。全員を乗せた“飛行艇”は何処かに去っていこうとする。

 

「クッ・・・!」

 

響から離れたクリスはボーガンを対戦車ライフルのような形に変形させ、ヘッドギアもスコープのように変形する。

 

『RED HOT BLAZE』

 

「“ソロモンの杖”を返しやがれ・・・!」

 

“飛行艇”に狙いを定め撃とうとするが、“飛行艇”が赤く光るとその姿が風景に溶け込むように消えた!

 

クリスのイチイバルのセンサーからもその姿をロストした。

 

「ッ!何だと・・・!?」

 

「クリスちゃん!」

 

「消えただと・・・レグルス!」

 

「・・・駄目だ、マニゴルド達の気配が感じない・・・!」

 

気配を追おうとしたレグルスだがまるで溶けるようにマニゴルド達の気配も消えた。

 

ー二課本部ー

 

「反応・・・消失・・・」

 

藤尭からの報告とモニターの映像を確認し声を振るわせながら弦十郎は苦々しく呟く。

 

「“頂上のステルス性能”・・・これもまた、異端技術によるものか・・・!」

 

 

 

 

ー“飛行艇”操縦席ー

 

ナスターシャ教授は“飛行艇”を操縦しながら操縦席に置いてある“赤い水晶”とモニターに映っている『神獣鏡』と記された縄文時代クラスの鏡の残骸が映っていた。

 

「(“神獣鏡”の機能解析の過程で手に入れた“ステルステクノロジー”。私達のアドバンテージは大きくとも、同時に儚く脆い)ゴホッ!ゲホッ!ゴホッ!」

 

突然咳き込むナスターシャ教授、口を押さえていた掌には“血”が付着していた。

 

「・・・急がねば・・・儚く脆いモノは他にもあるのだから・・・!」

 

そして“飛行艇”のある一室では。

 

「(ドカッ!)グゥッ!」

 

壁に叩きつけられたウェル博士の胸ぐらを切歌が掴み掛かる。

 

「下手打ちやがって!連中にアジトを抑えられたら、計画実行までドコに身を潜めれば良いんデスか!?」

 

「お止めなさい。こんな事をしたってなにも変わらないのだから」

 

「胸糞悪いデス!」

 

掴んでいた手を離して立ち上がる切歌の頭にマニゴルドが腕を乗っけながら寄りかかる。

 

「まぁまぁ、んなに吠えるなよ切歌。つかお前口悪いぞ、誰の教育の賜物なのやら?」

 

「オメェだろうがマニゴルド」

 

『(イヤ、貴方達二人の悪影響・・・)』

 

ウェル博士とマニゴルドとカルディア以外全員が心の中でツッコム。

そんな空気を更に悪くするようにウェル博士はいけしゃあしゃあと口を開く。

 

「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですから・・・」

 

「ッ!!」

 

「止めろっての」

 

再びウェル博士に掴み掛かろうとする切歌の後ろ襟首を掴み、まるで犬猫の首根っこを掴んで持ち上げるように切歌を持ち上げるマニゴルド。すると部屋の通信モニターにナスターシャ教授が映った。

 

「《虎の子を守りきれたのはもッ毛の幸い、とは言えアジトを抑えられた今、“ネフィリム”に与える“餌”が無いのが我々にとって大きな痛手です》」

 

「今は大人しくしててもいつまたお腹を空かせて暴れだすか分からない・・・」

 

調達はアルバフィカに見張られている、“ネフィリム”と呼ばれた“異形”の入ったケージを見る。

 

「持ち出した“餌”こそ失えど、全ての策を失った訳ではありません」

 

立ち上がり乱れた服を整えるウェル博士は切歌達の胸元の“赤い水晶”に不審な視線を送りニヤリと笑みを浮かべる。

 

「(この狐野郎・・・!)」

 

「(俺らが出払ってる間にレグルス達が来たタイミングがあまりにも良すぎる・・・)」

 

「(“何者”かが、手引きしたかもな・・・)」

 

マニゴルド達黄金聖闘士達も不審そうにウェル博士を見ていた。

 

「(フフフ、今はこれで良いでしょう。“これ”を出す日も近い・・・!)」

 

ウェル博士は懐に隠してある“黒い珠”をチラ見し内心ほくそ笑んでいた。

 

 

ー二課本部甲板ー

 

戦闘が終わり甲板に集まった奏者達は打ちひしがれていた。その中、聖闘士組は冷静に状況整理をしていた。

 

「“謎の異端技術と適合係数の低下”、“ソロモンの杖”の奪取に失敗、敵側の協力者ウェル博士、そして“フィーネの再誕”か・・・」

 

「一晩の間に多くの事実が発覚していったな」

 

「さてと、これからどうしたものかな?」

 

「ねぇレグルス君・・・」

 

「どしたの響?」

 

「レグルス君は自分達のやってる事が“綺麗事だ”って言われたらどうするの・・・?」

 

以前調に言われた事をレグルスに聞く響。レグルスは少し考えて。

 

「・・・俺達聖闘士のやってる事だって、他人から見れば“綺麗事”と言われるだろうね」

 

「「「?!」」」

 

「“地上の愛と平和と正義の為に”!なんて、見方によってはさ、綺麗事や胡散臭い戯言にだって聴こえるだろうな。でも・・・でもさ、これが“俺が決めた生き方”であり“信念”だ!例え否定されようが俺はこの“信念”を貫き守り通す!」

 

「己の心から決めた“正義”ならば迷う事なかれ、ただ貫くのみ!」

 

「それでも理解して貰えないなら理解して貰うまでぶつかっていく。それが、それこそが揺らがぬ“心の想い”を持つことが大切だ」

 

その姿を、揺らがぬ“信念”を持った気高い姿勢を奏者達は眩しそうに見つめていた。

 

「(言ってる事、良く分からないけど・・・あぁ、本当に強いな、レグルス君達は・・・)」

 

“綺麗事”と言われただけで己の“信念”を挫けそうになる自分とは“覚悟”が違う。

決して“揺るがない信念”と“折れない想い”。それこそが聖闘士達の強さなのだと奏者達は確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで、まだまだ聖闘士達にオリジナル設定を付けるかもしれません。


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秋桜祭と帰る場所

今回は学祭編です。


ー二課本部ー

 

マリア達のアジトに突入した日から2日が過ぎ、現在弦十郎と緒川は“斯波田賢仁 外務事務次官”と通信を行っていた。斯波田事務次官は通信越しで温蕎麦を啜っていた。

 

「では自らを“フィーネ”と名乗ったテロ組織は、米国政府に所属していた科学者達によって、構成されていると?」

 

「《正しくは、『米国連邦聖遺物研究機関“FIS”』の一部職員が、統率を離れ暴走した集団らしい》」

 

「“ソロモンの杖”と共に行方知れずとなり、そして再び現れたウェル博士も、“FIS”所属の研究者の一人」

 

「《コイツはあくまでも噂だが、“FIS”ってのは日本政府の情報開示以前より、存在しているとの事だ》」

 

「つまり、米国の通棒していた彼女が、フィーネが由来となる研究機関と言う訳ですか・・・?」

 

緒川の質問に事務次官は答える。

 

「《出自がそんなだからな、連中が組織に“フィーネ”の名を冠する道理もあるのかもしれん。(ズルズルズルズルと蕎麦を啜る)テロ組織には、似つかわしくないこれまでの行動も(モグモグモグモグごっくん!)存外、周到に仕組まれてるのかも知れないな》」

 

「・・・・・・」

 

「《所で、黄金の闘士達はどうした?久しぶりにあの堅物小僧<エルシド>の仏頂面でも拝んでやろうかと思ったのにな》」

 

斯波田事務次官は以前から聖闘士達とも顔見知りであり、特に仏頂面のエルシドを結構気にいっていた。事務次官の言葉に苦笑い浮かべる弦十郎と緒川。

 

「彼らは今、奏者達の学校で行われている“学祭の見学”に行ってます」

 

「保護者役でもあるデジェルさんは特に楽しみにしていましたから・・・」

 

「《“学祭の見学”?水瓶座の小僧と獅子座の坊主は兎も角、あの堅物小僧が良く了承したな?》」

 

「以前の翼さんのライブを見逃してしまいましたからね、翼さんがちゃんと学園生活を送れているかの調査も兼ねて」

 

「《なるほどな、だが“本当の狙い”は違うだろう弦十郎?》」

 

「・・・!」

 

事務次官の言葉に一瞬言葉を詰まらせる弦十郎は観念したかのように語る。

 

「彼に、レグルス君に“普通の生活”を知って欲しいと思ったからです・・・」

 

「レグルス君に、ですか・・・」

 

「レグルス君は五歳の頃まで父親である獅子座のイリアスと共に、自然の中で生活していた。だが、その父親は冥王軍の闘士に殺され、レグルス君は父の形見の獅子座の黄金聖衣と共に五年過ごしていた。その間黄金聖衣を狙う野盗、自分の命を狙う野性動物達との弱肉強食の戦いをし、“子供としての時間”を戦いの中で過ごした。シジフォスに連れられ聖域<サンクチュアリ>に行ってからも聖闘士になるべく修行の日々を送り、聖闘士となってからも“戦いの世界”で生きてきた。“少年としての青春”を犠牲してな・・・」

 

「そして、彼は冥王軍との聖戦で“仇”と戦いその命を散らせ、我々の世界に来てまた、“戦いの世界”にその身を置いている・・・」

 

「《だから、坊主に“普通の生活”を見せて、奏者達のような“当たり前の日常”に入れてやりたいと思って、学祭に行かせたと?》」

 

「自己満足と言うのは重々承知です。ですが、彼には、レグルス君には知って欲しいんです。“戦い以外の世界”もあると言う事を・・・!」

 

レグルスのような年若い少年が戦いの世界にいる。それは余りにも悲しい生き方。本来なら、響達のように学校に行って、レグルスの性格なら友達に囲まれ、友達と馬鹿やって、女の子と恋をして、色々な経験をして大人になっていく、そんなありふれた“日常”を知らないレグルスに弦十郎はやりきれないと言わんばかりに拳を握った・・・・・・。

 

 

ーリディアン音楽院ー

 

そしてその頃、件のレグルスとデジェルとエルシドはリディアンの屋台を見て回っていた。

 

「へ~、これが学祭か・・・結構賑やかだな!」

 

「クリスや立花君達のクラスに行く前に少し見て回るか」

 

「・・・・・・」

 

「どうしたエルシド?」

 

「嫌、何か視線を感じてな・・・」

 

少し辺りをキョロキョロするエルシド。

 

「気のせいじゃない?お!焼きそばがある!」

 

屋台に行ってそこの女子生徒と少し話をして焼きそばを貰って戻ってきたレグルス。

 

「レグルス、そろそろ行くぞ」

 

「おう、待ってくれよ!」

 

校舎の方に向かったレグルス達を見送った女子生徒達はキャアキャア言いながら集まり。

 

「ねえ、今のイケメンさん達って誰かな?!」

 

「凄い美形ばかりだったね!私茶髪の子が良いな~、同い年っぽいし、明るくて良い感じだし♪」

 

「私は緑の長髪のお兄さんかな、高貴な雰囲気漂うクールな知的お兄さまって感じ♪」

 

「私は黒髪のお兄さんかな?」

 

「えぇ~、ちょっと怖そうだよ」

 

「そこが良いんじゃない、軟派な男じゃなくてこれぞ硬派な侍って雰囲気が♪」

 

レグルスは、少年の純朴さと青年の精悍さが見事にマッチした陽系な明るい美少年。

デジェルは、高貴な雰囲気と知性と冷静さが漂う美男子。

エルシドは、武士然とした硬派な雰囲気漂う精悍な偉丈夫。

 

普段女子校故に、異性と接点の無い女子達の注目の的になるのは当然と言える(これに反応しない女子は恋愛に興味がないお子様か、男に興味がない変態だけである)。するとまた別の女子生徒がまた男性が来たと聞いて目を向けると。

 

“悪な雰囲気漂うちょっと火傷したい女子に好かれそうな青年”と“ワイルドな雰囲気漂う男性”がサングラスを掛け、眼鏡を掛けた“金髪と黒髪の女の子達”を連れてやって来た。

 

 

そしてその頃、立花響は物思いに耽っていた。レグルスに言われた言葉を思い出していた。

 

『例え否定されようが、俺はこの“信念”を貫き守り通す!』

 

「(“信念”はあるけど、私にはダメだ・・・レグルス君のように周りの声に捕らわれずに自分の“想い”を貫き守り通すことが出来ないよ・・・)」

 

どうしても“周りの声”に気を取られる、“周りの声”に心を乱される。そんな自分の“弱さ”が響の心に巣くっていた。

 

「ひ~びき♪」

 

「未来、どうしたの?」

 

すると未来が響に声をかけてきた。

 

「どうしたの?じゃないわよ、もうすぐ板場さん達のステージが始まる時間よ。レグルス君達ともさっき会ってね、ステージに向かったよ」

 

「うわっ!もうそんな時間だっけ!?」

 

未来は響の手を取り。

 

「行こ♪きっと楽しいよ♪」

 

「うん、ありがとう未来!」

 

一緒に走り出す響と未来をコッソリと眺めていた四人の男女が学祭に紛れていた。

 

ー講堂ー

 

リディアンの講堂では、『秋桜祭』と大きく書かれた看板があるステージでは、音楽院らしく『合唱コンクール』の『勝ち抜きステージ』が催され弓美と詩織と創世がそれぞれ派手なコスプレをしてやって来た。

 

詩織はマスクを付けて露出の多い紫色の猫耳バニーの格好をし、弓美はまるでテレビに出るヒーローのようなコスプレをし、創世はカマキリの怪人のようなコスプレを恥ずかしそうに着ていた。

 

「さーて!次なるは一年生トリオの挑戦者達!優勝すれば、生徒会権限の範疇で一つだけ望みが叶うのですが、彼女達は果たして何を望むのか!?」

 

司会者の女の子の声に続くように弓美がマイクを持って躍り出る。

 

「勿論!アニソン同好会の設立です!あたしの野望も伝説も!全てはそこから始まります!」

 

おおおぉぉぉぉぉぉ!

 

「ナイスですわ、これっぽっちもぶれてませんもの」

 

「ああぁ~なんかもうどうにでもなれ・・・!」

 

観客からの歓声に手を降って答える弓美に、ずれた称賛のコメントを言う詩織と、ほぼヤケクソ状態の創世がぼやく。

 

「アハハハハハハ、響の友達って面白い奴らだなぁ♪」

 

「この時代の少女達はバイタリティーに溢れているな・・・」

 

「これが祭りの魔力と言う物か・・・!」

 

「レグルス君、デジェルさん、エルシドさん」

 

二階席に座っていたレグルスの隣に響と未来がやって来て座る。

 

「おう響、招待ありがとう、楽しんでるよ♪」

 

「そっか、良かった~」

 

「まだこれからみたいだね」

 

「うん」

 

するとステージでは、コスプレした弓美達がアニソンを熱唱していた。

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」」」

 

結構ノリノリに歌っていたがーーーーー

 

カーーーーーーーーン・・・・・・

 

判定の鐘は一回で虚しく響いた。

 

「えぇ!まだフルコーラス歌った無い・・・二番の歌詞が泣けるのにーーー!!なんでーーーーーー!!!」

 

アハハハハハハハハハ・・・・・・!

 

悔しがる弓美に会場は笑いに包まれた。崩れ落ちる弓美を詩織と創世が慰めていた。

 

「「アハハハハハハハハハ!」」

 

「ハハハ・・・」

 

「・・・・・・」

 

それを見ていたレグルスと響も笑い、デジェルとエルシドは苦笑いや呆れた笑みを浮かべていた。だが、未来は笑う響を見ていた。

 

「(やっぱり、響にはいつも笑っていて欲しい、だってそれが一番響らしいもの)」

 

未来は響の笑顔を微笑ましく見つめていた。

 

 

ー屋台コーナーー

 

そしてここは屋外の屋台コーナーでは、悪風な男マニゴルドとワイルドな男カルディア(二人ともサングラスを装着)と金髪の女の子切歌、黒髪の女の子調(二人とも眼鏡を装着)がたこ焼きを持って歩いていた。

 

「モグモグ、おーおー学生のたこ焼きも中々いけんな♪」

 

「確かにな、やっぱ女の子が作った料理ってのは美味いモンだぜ♪」

 

「楽しいデスな♪何を食べても美味しいデスよ♪」

 

「ジーーーーーーーーーーーー」

 

暢気に学祭を満喫している三人を調はジト目で睨んでいた。

 

「・・・何ですか調・・・?」

 

「あん・・・?」

 

「おっ・・・?」

 

切歌は気まずそうに調を向き、マニゴルドとカルディアま首を傾げた。そのまま一同は人気の無い所に移動する。

 

「私達の任務は、学祭を全力で満喫する事じゃないよ、切ちゃん。マニゴルドとカルディアもちゃんとして・・・!」

 

「うう、わかってるデス!これもまた捜査の一環なのデス!」

 

「捜査・・・?」

 

「人間誰しも、美味しいモノに引き寄せられるモノデス!学院内の『うまいもんMAP』を完成させる事が、捜査対象の絞り込みには有効なのデス!」

 

「・・・むーーーー!」

 

学祭のパンフレットの『うまいもんMAP』を広げてニッコリ笑顔で答える切歌に調はジト目のむくれ顔で睨みながら顔を近づける。

 

「まあまあ、そうむくれんなよ調。良く考えてみな、お前らみたいな中学生位のガキが学祭を満喫しないで彷徨いてんのは逆に目立つだろうがよ」

 

「こういう祭りでは、周りの雰囲気に溶け込むのが一番怪しくないやり方なんだよ。切歌の言うとおり一通り屋台で飯を喰って学祭を満喫してた方が目立たねぇよ」

 

「デスデス、その通りデス!」

 

「そんな事言って、本当はカルディア達も学祭を楽しみたいだけじゃないの・・・?」

 

切歌を弁護するカルディアとマニゴルドに、これまたジト目でツッコム調。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

そっぽを向いて口笛を吹いて誤魔化そうとするマニゴルドとカルディア。

 

「・・・心配しないでも大丈夫です。この身に課せられた“使命”は1秒だって忘れてないデス!」

 

目を伏せがちに答えた切歌はキリッとした顔になり。ウェル博士からの指示(本当は博士の指示なんて超が付くほど従いたくないけど)を思い出す。

 

 

* * *

 

 

ー飛行艇内ー

 

「アジトを抑えられ、“ネフェリム”を成長させるに必要な“餌”である“聖遺物の欠片”もまた、二課の手に落ちてしまったのは事実ですが、本国の研究機関より持ち出したその数も残り僅か、遠からず補給しなくてはなりませんでした」

 

どこか他人事のようなウェル博士の態度にマリア達もマニゴルド達も不快な気分になる。

 

「分かっているのなら、“対策”もまた考えていると?」

 

「“対策”等と大袈裟に考えていませんよ。今時“聖遺物の欠片”なんて、その辺にゴロゴロ転がってますからね」

 

ウェル博士は調と切歌の胸元にペンダントのようにぶら下げた“赤い水晶”に目を向ける。

 

「まさか!このペンダントを食べさせるの?!」

 

「おいおい、んな事したらこっちの戦力ダウンだぞ」

 

驚く調と二人を庇うように、カルディアが調達の前に立った。

 

「とんでもない、こちらの貴重な戦力であるギアをみすみす失うわけにはいかないでしょう」

 

「だったら私は、奴等の持っているシンフォギアを・・・」

 

「それはダメデス!」

 

「!?」

 

「絶対にダメ・・・!マリアが力を使うたび、“フィーネの魂”がより強く目覚めてしまう・・・それはマリアの魂を“塗り潰してしまうこと”、そんなのは絶対にダメ・・・!」

 

「・・・!二人共・・・」

 

切歌と調の言葉にマリアは申し訳無さそうに黙る。

 

「だとしたらどうします?」

 

「あたし達がやるデス!マリアを守るのは、あたし達の“戦い”デス!」

 

決意を込めて調と切歌が立ち上がった。それを見てアルバフィカはーーーー。

 

「マニゴルド、カルディア」

 

「わーてるよ、勿論俺らも行くぜ・・・!」

 

「むこうの奏者共とやり合う事になんなら、デジェル達が邪魔しないように俺らがフォローする」

 

「「あーーーーー」」(グルングルン)

 

マニゴルドは切歌の、カルディアは調の頭に手を乗せてグルングルンと撫で回しながら言う。

 

「おやおや、“黄金の闘士”が出るとは、これは期待できそうですね・・・!」

 

いけしゃあしゃあとほざくウェル博士を不快に見たマリアは、アルバフィカにアイコンタクトを送る。

 

「(アルバフィカ・・・・・・)」

 

「(コクン・・・)」

 

悟られないようにアルバフィカはマリアに向けて頷く。

 

 

 

* * *

 

 

と威勢良く言って“任務”に出たのは良かったが・・・。目当ての奏者達が見つからず途方に暮れていた(先程見つけた響も途中で見失った)。

 

「とは言った物の、どうしたものかデス・・・」

 

「目当ての奏者はいねぇしなぁ・・・」

 

ヤンキー座りなるマニゴルドとカルディア、木に寄りかかる切歌、考え込む調。

 

しかし幸か不幸か、4人の近くを“風鳴翼”が通り過ぎた。

 

調は自分達に気付かず通り過ぎる翼を指差し。

 

「切ちゃん、マニゴルド、カルディア、鴨ネギ・・・!」

 

「あっ・・・!」

 

「嘘・・・!」

 

「何この偶然・・・!」

 

思わず翼に向かって走り出す調を三人で調を引っ張り隠れる。

 

「待て待て!この暴走娘!(ヒソヒソ)」

 

「慌てんなっての!(ヒソヒソ)」

 

「“作戦”も“心の準備”も出来てないのに、鴨もネギも無いデスよ!(ヒソヒソ)」

 

そして隠れながら翼を尾行する4バカカルテット。

 

「ん?」

 

「「「「っ!?」」」」

 

振り向いた翼に慌てて隠れる。

 

「・・・?」

 

首を傾げる翼を隠れ見ながら切歌が呟く。

 

「こっそりギアのペンダントだけ奪うなんて土台無理な話デス・・・(ヒソヒソ)」

 

「だったらいっそ力付くで・・・!(ヒソヒソ)」

 

「やめんか!こんなとこ<学院>で暴れたら後々メンドイ!(ヒソヒソ)」

 

「チャンスを待て!チャンスを!(ヒソヒソ)」

 

ギアのペンダントを握る調をマニゴルドとカルディアが抑える。

 

「・・・・・・」

 

不審な気配を感じる翼は後ろを警戒しながら歩き出すと目の前の教室から“雪音クリス”が飛び出してきた。

 

「「うわっ!」」

 

ぶつかり尻餅を付くクリス。

 

「いっつ~」

 

「またしても雪音か、何をそんなに慌てて・・・」

 

「追われてるんだ、さっきから“連中”の包囲が少しずつ狭められて・・・!」

 

「雪音も気付いていたか・・・!先刻より、こちらを監視してるような視線を私も感じていたところだ・・・!」

 

翼の言葉を柱の影から聞いていた4バカは・・・。

 

「気付かれていたデスか・・・!」

 

「嫌、違うみたいだぞ・・・」

 

「あれ見てみ・・・」

 

チョンチョンのカルディアが指差す方を見ると。三人の女子生徒が四人が隠れている柱を横切り走ってきた。

 

「見つけた、雪音さん!」

 

「「「「・・・?」」」」

 

「うわっ・・・」

 

「?」

 

げんなりするクリスと首を傾げる翼(と隠れている4バカ)。やって来た女子生徒達はクリスを取り囲み。

 

「お願い、登壇まで時間が無いの!」

 

「恋人のお兄さんも来てるし、ここは良いとこ見せてさ!」

 

「そうそう、惚れ直して貰おうよ!」

 

「嫌、だからあたしは・・・それに惚れ直して貰うって・・・・・・/////////」

 

「・・・?」

 

赤くなるクリスを見て翼は首を傾げた。

 

 

ーリディアン音楽院 講堂ー

 

「さて!次なる挑戦者の登場です!」

 

スポットライトを浴びた司会者が次の挑戦者を紹介した。

 

ワー!ワー!ピュ~♪ピュ~♪

 

ステージの脇にいた少女はクラスメートに背中を押され壇上に現れた。

 

「わっ!えっ!とっと!」

 

背中を押され爪付きそうになりながらちゃんと立った少女にスポットライトが当てられた。

 

「っ!?」

 

「えっ?!」

 

「何・・・!?」

 

デジェルは現れた少女に驚き、レグルスとエルシドも驚く。勿論響と未来も。

 

「響!あれって!?」

 

「うっそ~!」

 

エルシドの隣の席に翼が座った。

 

「雪音だ。私立リディアン音楽院、二回生の雪音クリスだ」

 

恥ずかしそうなるクリスに構わず音楽が奏でられる。

 

「/////////」

 

ザワザワザワザワ

 

音楽が鳴ってるのにいっこうに歌わないにザワザワと騒然になる。

 

「ク、クリスちゃん・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

心配そうに見つめる響達。

 

「フム・・・デジェル、景気付けてやれ(ヒソヒソ)」

 

「ン?」

 

「デジェルの声なら届くと思うよ(ヒソヒソ)」

 

「・・・・・・」

 

エルシドとレグルスにほだされデジェルは立ち上がり。

 

「クリスっ!!!」

 

「っ!?(お、お兄ちゃん・・・?)」

 

「「「デ、デジェル(さん)・・・??」」」

 

講堂全体に響くデジェルの声にクリスは顔をあげる。響達も、普段沈着冷静で知性溢れる理性的なデジェルの突然の行動に面食らう。レグルスは静かに「カカカ」と笑っていたが。

するとデジェルのいる客席にスポットライトが当てられる(エルシドは翼に光が当たらないように影になる)。

 

ザワザワザワザワザワザワ・・・・・・。

 

スポットライトに当てられた緑色の長髪の“美麗な男性”に観客達は騒然となる。

だが、そんなのお構い無しにデジェルはまっすぐクリスを見つめていた。

 

「(見ているぞ、頑張れクリス・・・・!)」

 

「(お兄ちゃん・・・・・・)」

 

クリスもデジェルをまっすぐ見つめると不安な想いが段々薄れていった、ふと隣の幕に隠れているクラスメート達を見る。

 

「頑張って・・・!」

 

「ファイト・・・!」

 

「お兄さんに良いとこ見せるチャンスだよ・・・!」

 

クラスメート達からの声援で“勇気”が出たクリスはマイクを持って歌い出す。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

クリスの歌声に会場の観客達も響達からも歓声が上がる。そして歌い続ける内に知らず知らず自然とクリスの顔は笑顔に染まっていた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

それは、“絆”と、一人ではない事を知った一人の少女の“感謝の歌”。クリスはリディアンに編入した思い出が浮かんだ。

 

『初めて入った教室』

 

『自分と友達になろうとしてくれたクラスメート』

 

『人見知り故に中々馴染めない自分』

 

『音楽の授業で歌う自分を見つめるクラスメート達』

 

『「友達は出来たのかい?」といつも自分を心配してくれる想い人』

 

それらの思い出がクリスの脳裏に甦る。

 

* * *

 

そして、先程の翼とクラスメート達との会話を思い出す。

 

「一体どうしたのだ?」

 

「『勝ち抜きステージ』で雪音さんに歌って欲しいんです!」

 

「だからなんであたしが・・・!」

 

「だって雪音さん、凄く楽しそうに歌ってたから!」

 

「え?・・・」

 

顔を染めるクリスに翼はフっと笑う。

 

 

* * *

 

歌い続けるクリスは響を、翼を、未来を、クラスメート達を、レグルスを、エルシドを、そして誰よりも自分の傍にいてくれる“心から愛する人”を思い浮かべ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

クリスの目線はデジェルの方に向いていた。

 

「・・・・・・」

 

デジェルは何も言わず、ただ“大切な人”の歌声を聴き逃さずに聞いていた。そして、それは観客席に潜んでいた切歌と調、マニゴルドとカルディアにも。

 

「・・・・・・/////////」

 

「・・・・・・/////////」

 

切歌と調はクリスの歌声に見惚れ、聞き惚れていた。

 

「(デジェルの野郎、“良い女”を見つけたな・・・)」

 

「(“セラフィナ様”よりも、“大切な人”が出来たようだな・・・)」

 

マニゴルドとカルディアは上の客席でクリスを見つめるデジェルに賞賛の気持ちを送った。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

『雪音は“歌”、嫌いなのか・・・?』

 

『・・・あたしは・・・////////』

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

自分の“帰る場所”を見つけたクリスはその“想い”を全部歌に乗せて皆に伝えた。そして歌い終わると。

 

ワアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!

 

観客から拍手喝采を受けながら、クリスは思う。

 

「(楽しいな・・・お兄ちゃん・・・あたし、こんなに楽しく歌を歌えるんだよ・・・!)」

 

クリスに感動し、拍手を送る響達とレグルス達、そして思わず拍手をする切歌と調、マニゴルドとカルディアも拍手を送った。

 

「(そっか・・・ここはきっと・・・あたしが、“居ても良いところ”なんだ・・・!そうでしょう?お兄ちゃん・・・)」

 

クリスはデジェルに目を向ける。デジェルは少し涙ぐみながらクリスを見つめ。

 

「(ああ、ここはクリス、君が“居て良い場所”、君の“居場所”だ・・・!)」

 

クリスへの拍手喝采は講堂を埋め尽くさんばかりに、いつまでも続いた。

 

 

 

 

 

そしてーーーー。

 

「『勝ち抜きステージ』、チャンピオン誕生!」

 

「//////////・・・?!」

 

スポットライトが当てられたクリスは照れ臭そうになる。

 

「さあ次なる挑戦者は!?飛び入りも大歓迎ですよ!!」

 

司会者の言葉に続くように観客席から一人の女の子が手を上げる。

 

「やるデス!」

 

スポットライトを当てられた少女達は立ち上がる、その隣にいる男性達はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「っ!?アイツら・・・!」

 

クリスの目線の先に切歌と調が不敵な態度で宣言する。

 

「チャンピオンに・・・!」

 

「挑戦デス!」

 

再び邂逅した少女達の戦いが始まる。

 

「「(さっきまでイチイバル(クリス)の歌声に聞き惚れていた癖にようやるわ・・・)」」

 

マニゴルドとカルディアは心の中でツッコンだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何か「♪~♪~♪」しか書いていない気が・・・。


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歌う少女達と迷いの少女

今回の話はある人物の為に書きました。


『勝ち抜きステージ』でチャンピオンになったクリスに挑むのは、“fine<フィーネ>”と呼ばれるテロ組織のシンフォギア奏者、切歌と調だった。

 

「チャンピオンに・・・!」

 

「挑戦デス!」

 

「・・・っ!!・・・」

 

ステージの上で二人を睨むクリス。そして二階席で二人を見ていた響達も。

 

「翼さん、あの子達は・・・!」

 

「ああ、だがなんのつもりで・・・」

 

「あの二人だけではない」

 

「あの子達の両隣を見てみなよ」

 

切歌の隣の席にマニゴルドが、調の隣の席にカルディアが座席にふんぞり返っていた。

 

「あの人達は・・・!」

 

「どうやら、あの二人も来ていたようだな・・・」

 

「響、あの子達を知ってるの?」

 

「えっ・・・うん・・・あのね未来・・・」

 

未だに調達とマニゴルド達を敵だと割り切れない響に変わって翼が立ち上がって説明する。

 

「彼女達は世界に向けて宣戦布告をし、私達と敵対するシンフォギア奏者だ。そして両隣にいる無頼漢共は、彼女達に協力する蟹座と蠍座の黄金聖闘士・・・!」

 

「じゃ、マリアさんの仲間なの?ライブ会場でノイズを操って見せた・・・!」

 

「そう、なんだけど・・・・・・」

 

歯切れの悪い響を見てレグルス達はアイコンタクトで会話する。

 

「(響はまだ割り切れない、か・・・)」

 

「(立花君は優しいからな、未だに割り切れないのだろう・・・)」

 

「(違うな、立花は“現実”を受け入れたくないだけだ・・・!)」

 

気づかおうとするレグルスやデジェルと違って、エルシドは響の考えを否定していた。

 

 

 

 

ーとある埠頭ー

 

都心から離れた工業地帯にある埠頭、その埠頭に大型倉庫に“fine<フィーネ>の飛行艇が潜伏していた。そしてその倉庫の前に武装した集団が迫ってきた。

 

倉庫の中に隠してある飛行艇の中に、マリア・カデンツァヴナ・イヴとナスターシャ教授がいた。マリアは自分の為にリディアンに潜入した調と切歌の身を案じていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「後悔しているのですか?」

 

顔を上げたマリアはナスターシャ教授の言葉を否定するように首を横に振る。

 

「大丈夫よマム。私は私の与えられた“使命”をまっとうして見せる」

 

ビーッビーッビーッビーッビーッ・・・

 

「っ!!」

 

「・・・・・・」

 

突然警報が鳴り響き驚くマリア、ナスターシャ教授は冷静にモニターを起動させると、監視モニターに特殊部隊の姿が映った。

 

「今度は本国からの追っ手・・・!」

 

「もうここが嗅ぎ付けられたの!?」

 

「“異端技術”を手にしたと言っても、私達は素人の集団、アルバフィカ達ですらこの“情報化の時代”ではほぼ素人と言えます。訓練されたプロを相手に立ち回れる等と思い上がるのは虫が良すぎます・・・!」

 

「どうするの?アルバフィカは今・・・!」

 

「こういうが手合いが相手ならばアルバフィカやマニゴルド達の方が扱い方を心得ていますが。仕方ありません、踏み込まれる前に攻めの枕を抑えにいきましょう。マリア、背撃をお願いします」

 

ナスターシャ教授の言葉にマリアは反抗する。

 

「っ!!・・・背撃って・・・相手はただの人間、ガングニールの一撃を食らえば!」

 

「そうしなさいと言っているのです」

 

「っ・・・!!」

 

マリアは胸元のペンダントを握りやりきれないと言わんばかりに顔を俯かせる。

 

「ライブ会場占拠の際もそうでした。マリア、その手を血に染める事を恐れているのですか?アルバフィカ達ならば例え手を血に染めても戦い抜く“覚悟”があります。彼等と、“黄金の英雄”達と対等になりたいならば血に染まる事を恐れてはなりません・・・!」

 

「・・・マム・・・私は・・・!」

 

「・・・・・・」

 

「っ!・・・・・・」

 

無言に見つめるナスターシャ教授の瞳をマリアは目を反らす事しかできなかった。

 

 

 

ーリディアン音楽院 講堂ー

 

そして切歌と調から挑戦を受けたクリスは警戒していた。

 

「・・・・・・」

 

ゆっくりとステージに向かってくる二人。

 

「ベー!」

 

「!・・・っ!!・・・」

 

クリスに向かってあっかんべーする切歌の挑発ににクリスはムカッとした顔になる。が、クリスの頭に冷たい風が吹いた。

 

「!?(お兄ちゃん・・・?)」

 

クリスがデジェルのいる観客席の方を見ると「落ち着いて」と言わんばかりにクリスを見つめているデジェルと目が合う。

 

「・・・スーーー、フーーー・・・」

 

デジェルからのメッセージが届いたのか静かに深呼吸して心を静める。そして再び二人の方に目を向ける。

 

「ベー!」

 

「切ちゃん、私達の目的は・・・」

 

クリスにあっかんべーを続ける切歌に調が嗜める。切歌はわかってると言いたげな態度で。

 

「聖遺物の欠片から作られたペンダントを奪い取ることデース!」

 

「だったらこんなやり方しなくても・・・」

 

「聞けばこのステージを勝ち抜けると、望みを一つ叶えてくれるとか、このチャンス逃す訳には」

 

「おもしれぇ!やり合おうってんならこちとら準備は出来ている!」

 

切歌の言葉を遮ってクリスが挑発する。調はため息をつくと。

 

「特別に付き合ってあげる。でも忘れないでこれは」

 

「分かってる、首尾よく果たして見せるデス!」

 

「良いぞ!切歌!!」

 

「やったれ調!チャンピオンの座奪ってやれ!!」

 

意気込む切歌と調にすっかり客席で観戦モード全開のマニゴルドとカルディアの声援が飛び、切歌は二人に向かって手を振る。

二階席にいた響達は観客がいるので身動きがとれなかった。

 

「どうしよう、レグルス君・・・」

 

「ここで動くと周りの被害が出るからな・・・」

 

「嫌ある意味では、観客を人質に取られている・・・」

 

「どういう事だエルシド?」

 

「マニゴルドだ。奴が“その気”になれば観客全員を始末することが出来る」

 

「っ!話に聞いていた『積尸気冥界波』か!?」

 

「『せきしきめいかいは』?」

 

「何ですかソレ?」

 

響と未来の問にデジェルが説明する。

 

「蟹座<キャンサー>の黄金聖闘士の特殊技だ、簡単に言うと人間の魂と肉体を“強制的に分離”させてしまう技だ」

 

「魂と肉体を・・・?」

 

「強制的に分離・・・?」

 

「つまり、強制的に魂と肉体を分離させ殺すと言う事だよ」

 

「一滴も血を流させる事なく相手を殺す蟹座<キャンサー>の恐ろしい技だ」

 

「「・・・・・・!?」」

 

レグルスとエルシドの捕捉で意味が分かった二人に戦慄が走った。つまり、マニゴルドがその気になれば観客全員を殺す事が出来ると言うことなのだ。

 

「分離された魂はどうなるのだ?」

 

「“あの世とこの世をつなぐ死界への入口”、『黄泉比良坂』へと送られ、死者の世界へ送られてしまう」

 

響と翼とレグルス達が目を向けるとマニゴルドとカルディアは不遜な笑みを浮かべ、マニゴルドは“人差し指を立てた”拳をヒラヒラと見せびらかしていた。

 

『下手な真似すんなよ・・・』

 

マニゴルドの無言のメッセージに響と翼は歯痒そうに下唇を噛み、レグルス達は無言で睨んでいた。

 

 

 

 

ーマリア達のアジトー

 

その頃、マリアとナスターシャ教授は。

 

「“覚悟”を決めなさい、マリア!」

 

「・・・・・・!!」

 

未だにマリアは“覚悟”を決めかねていた。

 

 

 

 

 

ーリディアン講堂ー

 

そして切歌と調のステージが始まる。

 

「それでは、歌っていただきましょう!・・・え~と」

 

司会者の子を無視して自己紹介をする二人。

 

「“月詠 調”と・・・」

 

「“暁 切歌”デス!」

 

「OK!二人が歌う“オービタルビート”、勿論ツヴァイウィングのナンバーだ!」

 

それはかつて“天羽 奏”と“風鳴 翼”が組んでいたデュオ、“ツヴァイウィング”の曲だった。音楽が流れ、ステップを刻む二人。

 

「っ!?この歌!」

 

「翼さんと奏さんの!」

 

「なんのつもりの当て擦り・・・!」

 

“片翼との絆”である曲を歌いだそうとする調と切歌を翼は探るように見つめていた。

 

 

 

 

ーマリア達のアジトー

 

講堂でミュージックが流れ切歌と調が歌い出すと同時に、マリア達の潜伏していた倉庫の壁が爆破される。

 

「っ!!」

 

「・・・!?」

 

二人がモニターを見ると特殊部隊が突撃しようとする姿が映った。

 

「始まりましたね。さぁ!マリア!」

 

「・・・・・・(どうすれば良いの・・・アルバフィカ・・・!)」

 

この場にいない、自分がいなくなるようにした相棒にマリアは助けを求めた。

 

 

 

 

ーリディアン講堂ステージー

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

息の合った歌とダンスを披露し楽しそうに歌う切歌と調、その息の合ったステップと歌声は本物のツヴァイウィングにも勝るとも劣らない。二階席にいる響達もステージ脇にいるクリスもじっと見つめる程。

 

「やっぱアイツらは・・・」

 

「ああしてる方が似合うな・・・」

 

ステージで歌う切歌と調にマニゴルドとカルディアは生暖かい視線で見つめていた。

 

 

 

 

ーマリア達のアジトー

 

炎に包まれた倉庫、特殊部隊はマリア達のいる飛行艇に向かってくる。訓練されているとは言え、普通の人間と戦う事に躊躇うマリア。

 

「・・・・・・・・・あっ!」

 

だが突然、特殊部隊が炭化していった。

 

「炭素分解、だと・・・」

 

呆然とするマリアをよそに突入してきた部隊をノイズが襲いかかり炭素分解させて行く。こんな事が出来るのはただ一人。

悲鳴を上げて分解されて行く人間達を“ソロモンの杖”を携えた“ドクターウェル”が燃え盛る炎の中で不気味に微笑んでいた。

 

「ドクターウェル・・・!」

 

「でしゃばりすぎとは思いますが、この程度の相手に“新生フィーネ”のガングニールを使わせるまでもありません。僕がやらせてもらいますよ!」

 

“ソロモンの杖”からノイズを射出する。応戦する部隊の弾丸をノイズ達がドクターウェルの楯になり防ぐ。

 

「っ!?」

 

驚く部隊の前に更にノイズの生み出してけしかける。

 

「うわぁ!・・・」

 

「ぎゃあ・・・!」

 

「があ・・・!」

 

悲鳴を上げて分解してゆく人間達を無視し、更にノイズを生み出して次々と炭素分解させて行く。その光景をよそに、ドクターウェルはまるで子供が玩具を使って遊ぶように無邪気で、残酷で、しかしウェル博士のそれは、更に“悪意”を滲ませた残忍な笑みを浮かべていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

モニター越しから聞こえてくる人間達の悲鳴をマリアは、悔しそうに睨みながら聴く事しかできなかった。

 

「・・・!」

 

「・・・・・・」

 

そんなマリアをナスターシャ教授は見つめるが、直ぐにモニターに視線を移した。

 

 

 

 

ーリディアン講堂ー

 

そんな事をつゆ知らず、切歌と調は歌が終わり、決めのポーズも決まった二人に拍手喝采が上がる。

 

パチパチパチパチパチパチパチパチ!

 

わああああああああああああああ!!

 

「ブラボー!おお、ブラボー!!」

 

「クライマックスだぜ二人共!!」

 

特にすっかり観戦モード全開のチンピラコンビはステージ上の二人を囃し立てる。切歌はにこやかに観客達に手を振り、調は戸惑い混じりに拍手喝采を送る観客達を見ていた。それを見た響達はーーー

 

「翼さん・・・・・・」

 

「何故、歌を歌う者同士が戦わねばいけないのか・・・!」

 

見事なステージを披露し、楽しそうに歌う切歌と調と戦わねばならない現実に翼はやるせないと言わんばかりに見つめていた。

 

 

 

 

ーマリア達のアジトー

 

煙が上がった廃倉庫に自転車に乗った野球少年達が近づく。

 

「凄い音がしてたのここじゃない?」

 

「どうせ何かの工事だろう?」

 

「早く練習に行かないと監督に怒られるってば・・・」

 

「うわああああああああああっっ!!」

 

少年達の目の前に現れた軍人がノイズに襲われ消滅した光景が広がった。

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

少年達は目の前に起こった現実を理解できず何が起こったのか分からず呆然とする。そんな少年達にふらふらと近づく男、ドクターウェル。

 

「おや~~~♪」

 

いやらしい笑みを浮かべながら少年達に近づくドクターウェルにマリアの通信が入る。

 

「やめろウェル!その子達は関係無い!やめろーーーーーー!!!」

 

マリアの静止を聞かずウェルは“ソロモンの杖”を少年達に向けてノイズをけしかける。

 

「うわああああああああああああああああああああっっ!!」

 

何の関係も無い、何の罪もない子供達の命が奪われた現実にマリアの慟哭が木霊するがーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の積もりですか、アルバフィカさん・・・?」

 

「・・・えっ、アルバフィカ・・・?」

 

ウェルの苛立ち混じりが聞こえ、マリアがモニターを見ると、切歌と調、マニゴルドとカルディアを影から護衛している筈の“アルバフィカ”が子供達を襲おうとしたノイズを消滅させていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ロングコートを着用し、水色のウェーブが掛かった長髪を靡かせながら黒薔薇を構えたアルバフィカが子供達の前に現れた。

 

「「「・・・・・・キレイ・・・・・・」」」

 

子供達はアルバフィカの容姿に見惚れていた。

 

「アルバフィカ・・・・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

マリアは涙混じりにホッとした笑みを浮かべ、ナスターシャ教授も人知れずホッとしたため息を溢すが、ウェルだけは不愉快そうにアルバフィカを睨んだ。まるで“楽しい遊び”を邪魔された子供のように。

 

「少年達・・・すまないが、眠ってもらうぞ・・・」

 

アルバフィカは毒素をかなり抑えたデモンローズの香気を少年達に嗅がせた。デモンローズは毒素を抑える事で相手の身体を麻痺させたり、相手を眠らせる事ができる。

 

「くー、くー、くー、くー・・・」

 

「すー、すー、すー、すー・・・」

 

「かー、かー、かー、かー・・・」

 

少年達はまるで安らかに眠るように瞳を閉じ、穏やかな寝息を立てていた。

 

「どういう積もりだと聞いているのですが・・・?!」

 

自分を完全に無視しているアルバフィカにウェルは苛立たしげに話しかける。

しかしウェルなど眼中に無いと言わんばかりにアルバフィカは少年達の額に人差し指を立てる。するとアルバフィカの指先が淡く光り、指を離すと通信機でマリアに連絡を取る。

 

「・・・・・・これでこの少年達から今の“記憶”を消滅させた、目が覚める頃には何でここにいるのかも忘れているだろう。安心しろマリア」

 

「《そう、良かった・・・》」

 

「それとマリア、この子達を運ぶのに手を貸してくれ。私は彼等に触れるわけにはいかないのでな・・・」

 

「《ええ、直ぐに向かうわ!》」

 

通信越しからマリアの弾んだ声が響くが、直ぐにウェルの癇癪声がアルバフィカの耳に入ってきた。

 

「どういう積もりだと聞いているのですよ僕は!」

 

「(ギロッ!)」

 

「ひいぃっ!?」

 

詰め寄ろうとするウェルがアルバフィカの一睨みで黙り後退る。

 

「どういう積もりはこっちの言葉だウェル、嫌な予感がしたから引き返して見れば、なんだこの惨状は・・・!!」

 

返答次第では殺すとアルバフィカの目が言っていた。

 

「ぼ、僕はただ、本国からの追っ手を排除していただけですよ・・・“新生フィーネ”に余計な仕事をさせるわけにはいかなかったので・・・!」

 

アルバフィカの殺気に充てられ、先ほどまでの嫌らしい笑みが完全に消え失せ、まるで悪さをしているのがバレた幼稚な子供のように見苦しい言い訳を始めた。

 

「追っ手を始末したのは仕方ない事だと納得しよう。だが、無関係な子供達を始末する道理があるのか?」

 

「そ、それは・・・この場所が知られる可能性を少しでも排除しようと・・・」

 

バキッ!

 

「ゲバアァッ!!!」

 

更に言い訳しようとするウェルは、横っ面をアルバフィカにぶん殴られ地べたに倒れ無様に這いつくばる。

 

「あっ!・・・あぁっ!・・・ああぁっ!!」

 

「良いかウェル、追っ手ならばある程度の殺生は容認しよう、彼等も命を落とす事は“覚悟”して任務に赴いているのだからな。だが、次に我々と無関係な人間に危害を加えようものなら、今度は顔面が潰れる程に殴ってやる・・・!」

 

殴られた頬を抑え、顔に広がる激痛に惨めにもがくウェルをアルバフィカは虫けらを見るような侮蔑の目で見下ろした。

 

「アルバフィカ!」

 

するとマリアが倉庫から出てきた。マリアも這いつくばるウェルとすれ違う際に一瞬アルバフィカと同じ侮蔑の目で見下ろすが、ウェルから離れると直ぐに優しい眼差しになり。

 

「マリアすまない。切歌と調の護衛とマニゴルドとカルディアが暴走した時の為に付いていったのだが・・・」

 

「いいわ、元々もしもの時に備えての処置だったから。それよりもこの子達を安全な所に運びましょう」

 

「ならば、私は自転車を運ぼう」

 

マリアが少年達を一人ずつ抱き抱え、近くの倉庫の壁に寄りかかるように座らせる。アルバフィカは子供達の自転車を近くに置く。

 

「この格好だと草野球に行く途中だったらしいな」

 

「悪い事しちゃったわね」

 

「だがまぁ、許して貰うしかないな・・・」

 

「そうね・・・」

 

少年達に申し訳ないと言わんばかりの笑みを浮かべ、アルバフィカとマリアは少年達を優しく見つめていた。

 

「~~~~!!~~~~!!~~~~!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

だが、アルバフィカとマリアをウェルは鼻息荒く歯軋りしながら忌々しいと云わんばかりの瞳で睨み、ナスターシャ教授は久しぶりに見るマリアの笑顔を優しく見つめるが、直ぐに顔を引き締め、切歌と調、マニゴルドとカルディアに連絡を送る。

 

 

 

 

ーリディアン講堂ー

 

「チャンピオンとてウカウカしてられない素晴らしい歌声でした!これは得点が気になるところです!」

 

司会者の女子生徒が審査員席に目を向け、クリスと切歌と調も審査員席を見るが。

 

「二人がかりとはやってくれる!」

 

憤然とするクリスだが、切歌と調、マニゴルドとカルディアの耳の通信機からナスターシャ教授からの連絡が入る。

 

「《アジトが特定されました》」

 

「「っ!?」」

 

「《襲撃者を退ける事は出来ましたが、場所を知られた以上、長居はできません。私達も移動しますのでマニゴルド、『黄泉比良坂』を通ってこちらの指示するポイントに移動してください》」

 

「《了解・・・》」

 

「《尾行されないようにしねぇとな・・・》」

 

マニゴルドとカルディアは了承したが、切歌と調はーーーーー

 

「そんな!あと少しでペンダントが手に入るかもしれないデスよ!」

 

「《緊急事態です、命令に従いなさい》」

 

そう言ってナスターシャ教授は通信を切った。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

切歌は歯痒そうに顔を俯かせるが調が手を引き、直ぐにステージから立ち去る。

 

「さあ!採点結果が出た模様です・・・あれ?」

 

「お、おい!ケツを撒くのか!?」

 

調に引っ張られながら切歌は。

 

「調!」

 

「マリアやアルバフィカがいるから大丈夫だと思う。でも、心配だから・・・!」

 

「・・・・・・」

 

調の心境を理解する切歌は黙ってしまった。そしてそのまま出口でマニゴルド達と合流し、その場を離れるのを確認したレグルス達と翼は立ち上がり。

 

「追うぞ、立花・・・!」

 

響も立ち上がり未来に目を向け。

 

「未来はここにいて、もしかすると戦う事になるかもしれない・・・!」

 

「う、うん・・・」

 

立ち去る響を見送りながら、未来は祈るように手を合わせ。

 

「響・・・やっぱりこんなのって・・・アスミタさん・・・私、どうしたら・・・」

 

この場にいない“神に最も近い黄金”に未来は問いかけていた。

 

 

 

 

ーリディアン露店路ー

 

露店から離れる調達の赤と青の大きな鯨の模型が横切る。

 

「クソ!どうしたものかデス!」

 

「焦んなっつの・・・」

 

悪態付く切歌の頭をマニゴルドがポンポン叩く。鯨の模型がいなくなり直ぐに走り出そうとする一同の前に翼とエルシドが立ち塞がった。

 

「「「「っ!?」」」」

 

後ろを振り向くとクリスとデジェル、響とレグルスが挟み撃ちにした。

 

「切歌ちゃんと調ちゃん、だよね?」

 

「マニゴルド、カルディア、通さないよ」

 

「!・・・」

 

「六対四、数の上ではそっちに分がある。だけど、ここで戦う事で、貴女達が失う物の事を考えて・・・」

 

「こっちはいつでもOKだけどな・・・!」

 

調とカルディアは一般生徒や来訪客の方に目を向ける。

 

「お前ら!そんな汚いこと言うのかよ!さっきあんなに楽しそうに歌ったばかりで!」

 

一瞬顔を俯かせる切歌は前に出て。

 

「ここで今戦いたくないだけ、そうデス!決闘デス!然るべき決闘を申し込むのデス!」

 

ゴバ!

 

「あだっ!」

 

「アホぬかすな」

 

決闘を申し込もうとする切歌の頭に肘鉄をするマニゴルド。

 

「痛ったいデス~」

 

「どうして・・・どうして!?会えば戦わなくっちゃいけないって訳でも無いわけでしょう・・・」

 

「「どっちなんだよ!?/どっちなんデス!?・・・///////」」

 

「「ハモったな♪」」

 

響のどっち付かずな発言にツッコミを入れるクリスと切歌はお互いを見て顔を赤らめる。レグルスとマニゴルドもの茶化しもハモった。

 

「決闘の時はこちらが告げる・・・だから・・・!」

 

「これ以上は、お互い干渉せずにと行こうや」

 

マニゴルドが指を立てるとマニゴルド達の後ろに小さな“黒い渦”が現れる。渦の向こうには、暗闇の空と荒涼とした大地が広がっていた。響達は唖然とし、レグルス達は目を鋭くする。

 

「・・・何、アレ・・・?」

 

「『黄泉比良坂』、あの世とこの世の境いにある死界の世界だ・・・!」

 

唖然とする響にレグルスが説明する。

 

「じゃあな・・・!」

 

「また次の戦場で会おうぜ・・・!」

 

マニゴルドが切歌を抱え、カルディアが調を抱えて渦の中に消えた。

 

「『黄泉比良坂』から合流地点に向かったのか」

 

「積尸気使いであるマニゴルドだからこそ出来る芸当だな」

 

四人が消えた箇所を見つめる一同に弦十郎からの通信が入る。

 

「《全員揃っているか?ノイズの出現パターンを検知した。程なくして反応は消失したが、念のために周辺の調査を行う!》」

 

『承知/はいっ!/分かりました/あぁ!/了解♪/・・・はい・・・』

 

“戦わなければならない現実”に響は顔を俯かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ミロとカルディアって実は共演した事あるんですよね、特撮で。


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過去の記憶と驚愕の事実

ー『黄泉比良坂』ー

 

あの世とこの世の境目の死界『黄泉比良坂』、本来生者は来られない世界に四人の男女が歩いていた。この死界への扉を開く事ができる積尸気使い蟹座<キャンサー>のマニゴルドと蠍座<スコーピオン>のカルディア、暁 切歌と月詠 調の四人である。

 

「うわ~相変わらず下手なお化け屋敷や夜のお墓より迫力あるデスなここ・・・」

 

「あの世とこの世の境目の世界だものね・・・」

 

「直ぐに出るからビクビクしなくても良いだろ?」

 

何度か来たことがあるが、『黄泉比良坂』のおどろおどろしい雰囲気に馴染めずビクビクと切歌はマニゴルドに、調はカルディアにしがみつく。

 

「・・・・・・・・・」

 

マニゴルドは小高い丘を見つけ、そこから『黄泉比良坂』で一番大きな山を見据えていた。

 

「マニゴルド、どうしたデスか?」

 

マニゴルドが憂いを帯びた瞳で見据える先を見ると、大きな山に向かって歩いていく人々、彼等は生者ではなく死者、『黄泉比良坂』を通って『あの世』へと旅立つ者達なのだ。切歌と遅れてきたカルディアと調も憂い気に見つめる。

 

「私達が日々を過ごしている間にも、あんなに大勢の人達が亡くなってるんデスね・・・」

 

「ああ、ちゃんと天寿を全うしたヤツもいれば、病気で死んだヤツ、不幸な事故で死んだヤツ、理不尽な暴力で死んだヤツ、世を儚んで自ら命を断ったヤツと十人十色だ・・・」

 

「私達が戦い続けて誰かの命を奪うことがあったら、その人もここに来るのかな・・・?」

 

「ここはあの世への通り道なモンだからな、必ず通るだろうよ・・・」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

カルディアの言葉に切歌と調は苦しそうに顔を俯かせるが、マニゴルドは切歌のカルディアは調の頭をグリグリと撫でる。

 

「な~に沈んだ顔してんだよ、お前らが人の命を奪うことをしなくても良いんだよ!」

 

「そういう“汚れ役”は、俺らがやるんだからな!」

 

「うぅ~、でも・・・」

 

「デスデス・・・」

 

“汚れ役”を買って出るマニゴルドとカルディアに二人は何か言いたげになるが。

 

「お前らがやりたくない事を無理してやらなくてもよ。元々“ロクデナシ”の俺らにはこう言う役割がお似合いなんだからな」

 

「それにな俺の名前は“マニゴルド”、『死刑執行人』なんだからよ、殺しと言った“汚れ仕事”は俺らに任せておけば良いんだよ」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

そう言ってマニゴルドは『黄泉比良坂』の“出口”を開けるが、切歌と調は辛そうにマニゴルドとカルディアを見つめていた。

 

 

 

 

 

ー二課 指令室ー

 

そしてその頃、奏者達と聖闘士達は二課指令室でノイズの反応が合った場所から調査が行われていた。

 

「(“遺棄されたアジト”と“大量に残されたノイズ被災者の痕跡”、そして“気を失った前後の記憶が無い少年達”、これまでと異なる状況は何を意味している・・・?)」

 

「司令!」

 

「ん」

 

「電算室による、解析結果が出ました。モニターに回します!」

 

藤尭がモニターを出して、友里が解説する。

 

「アウフヴァッヘン波形照合、誤差パーツはトリニオンレベルまで確認できません・・・!」

 

モニターに映し出されたは“響のガングニール”と“マリアのガングニール”の照合検証の結果であった。

 

『・・・!』

 

「「「・・・」」」

 

弦十郎と奏者達は驚いていたが、レグルス達聖闘士は「やはり」と言わんばかりの態度であった。

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの纏う黒いガングニールは、響くんの物と寸分たがわぬと言うことか・・・」

 

「やっぱり、マリアの纏う黒いガングニールは・・・」

 

「立花と同じく、“ガングニールの欠片”と見て間違いないだろう」

 

「クリス達が纏うのはあくまでも“欠片”だ。同じ“欠片”なら寸分たがわぬギアが生まれても不思議ではないな」

 

比較的冷静な聖闘士達と違い、奏者達取り分け響の心境は穏やかではなかった。響は胸のガングニールにソッと触れる。

 

「私と同じ・・・・・・」

 

藤尭と友里が更に話を進める。

 

「考えられるとすれば、米国政府と通じていた良子さん<フィーネ>によってガングニールの一部が持ち出されて作られたものではないでしょうか?」

 

「“櫻井理論”に基づいて作られたもう一つのガングニールのシンフォギア」

 

「だけど妙だな・・・」

 

「クリス、妙とは?」

 

「うん、米国政府の連中はフィーネの研究を狙ってたんだ・・・」

 

「成る程、FISと言う組織があり、シンフォギアをも作り出せる技術があるならば、わざわざフィーネの研究を狙う道理はないな・・・」

 

「政府の管理から離れ、暴走している現状を察するに、FISは聖遺物に関する技術や情報を独占し、独自判断で動いていると考えて間違いと思う」

 

「と言うことは、マリア・カデンツァヴナ・イヴ達のアジトらしき場所にあった“大量のノイズ被災者の痕跡”は、米国政府の工作部隊の可能性が出てくるな」

 

「米国は聖遺物の力にご執心だからな、奴等の持つ異端技術を狙うのは道理と言える」

 

「米国政府は録な事しないな・・・」

 

「・・・・・・」

 

「(響・・・?)」

 

翼の言葉から米国の動きを推察するデジェル達だが、響は心ここにあらずな態度であったのをレグルスだけが気付いた。

 

「ハア、FISは自国の政府まで敵に回して、何をしようと企んでいるのだ・・・!」

 

 

 

 

ーFIS飛行艇ー

 

その頃、マリア達の飛行艇はステルス能力をフルに使い、都心へと進路を進めていた。操縦をしていたナスターシャ教授はモニターで檻に閉じ込めている“ネフェリム”を眺めていた。

 

「(ついに本国からの追っ手にも補足されてしまった。だけど依然、“ネフェリム”の成長は途中段階、“フロンティア”起動には遠く至らない・・・)」

 

ナスターシャ教授がモニターの画面を切り替えると“ネフェリム”の檻の近くでアルバフィカに殴られた頬を痛がりながらも治療しているドクターウェルが、更に画面を切り替えるとアルバフィカと談笑しているマリアが映った。

 

「(“セレナ”の意志を継ぐために、貴女は全てを受け入れた筈ですよマリア、もう迷っている暇などないのです・・・!)」

 

 

ー飛行艇・マリアとアルバフィカがいる区画ー

 

「マリア」

 

「何、アルバフィカ?」

 

「後悔、してはいないか・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

アルバフィカに気遣われ、マリアは6年前の過去の出来事を思い出す。

 

 

 

ー6年前ー

 

それはFISの研究所で、“完全聖遺物ネフェリム”の暴走から始まった。

 

「“ネフェリム”の出力は依然不安定、やはり歌を介せずの強制起動では、完全聖遺物を制御できる物ではなかったのですね!」

 

当時のナスターシャ教授はまだ子供だったマリアとマリアの“妹”であるセレナがいた。不安そうな表情を浮かべるマリアの隣にいたセレナが顔を上げる。

 

「私、歌うよ」

 

「え、でもあの歌は・・・!」

 

「私の絶唱で、ネフェリムを起動する前の状態にリセットできるかも知れないの」

 

「そんな賭けみたいな!もしそれでもネフェリムを抑えられなかったら・・・!」

 

「・・・・・・」

 

止めようとするマリアにセレナは首を横に振り。

 

「その時はマリア姉さんが何とかしてくれる。FISの人達もいる、私だけじゃない、だから何とかなる!」

 

「セレナ・・・」

 

「ギアを纏う力は私が望んだものじゃないけど、この力で皆を守りたいと望んだのは私なんだから。それに、この間この研究所に来た“あの人達”とももっとお話したいし、マリア姉さんにもちゃんと紹介したいしね!」

 

「“あの人達”って、数週間前に研究所で保護された“三人”の事?」

 

セレナの言う“三人”とは、完全聖遺物“らしき”レリーフを持って研究所近くで倒れていた少年達。三人ともマリアとセレナと同い年の少年なのだか、三人とも普通の少年では考えられないほどに肉体が鍛えられ、内二人に至っては、1人は“心臓”に、1人は“血液”に異常が見られ

何処かの国のスパイではないかと怪しまれ軟禁されていた。

だがセレナはそんな三人と隔てなく何度か会話をし、友好的な関係を結んでいた。

 

「うん!三人とも面白い人達だからマリア姉さんともきっと仲良くなれるよ。だから、行ってくるね!」

 

そう言ってセレナは“ネフェリム”の下に向かった。

 

「セレナ!」

 

後を追おうとしたマリアをナスターシャ教授が抑えた。そして、セレナはギアを纏いネフェリムと対峙する。

 

「(キッ)」

 

燃え上がる区画に大口を開けた骨組みの野獣“ネフェリム”にセレナは歌う。絶唱をーーーーーー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

セレナの歌が響く中、ナスターシャ教授達はネフェリムを制御しようと操作を続けた。マリアは不安そうにセレナを見つめる。

 

 

ー研究所・別区画ー

 

そして、件の少年達が軟禁された区画でもセレナの歌が響いていた。

 

「おい、さっきからドッカンドッカンうるせぇんだけどよ・・・?」

 

「つか、この歌声ってアイツか・・・?」

 

「ああ、セレナの歌声だ・・・」

 

 

ーネフェリムのいる区画ー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

歌い続けるセレナの口元に“血”が流れ、そして光が溢れれナスターシャ教授達も、姉のマリアも、全てを凪ぎ払ったーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

マリアが意識を取り戻すと、瞳に映ったのは。

 

“燃え上がり崩れた区画”

 

“活動停止したネフェリム”

 

“炎の中に佇み歌を歌う妹セレナ”

 

マリアは崩れた瓦礫の山を乗り越えてセレナの下に向かった。

 

「セレナッ!・・・セレナッ!!」

 

セレナに向けて手を伸ばすも炎に邪魔される。

 

「誰か!私の妹が!!」

 

助けを求めるマリアの耳に残酷な言葉が聞こえた。

 

「貴重な“実験サンプル”が自滅したか!?」

 

「実験はただじゃないんだぞ!」

 

「無能共が!!」

 

安全な解析室で実験を見ていた大人達の理不尽な罵詈雑言がマリアの耳に毒を入れる。

 

「どうしてそんな風に言うの!?貴方達を守るために血を流したのは私の妹なのよ!・・・っ!?」

 

理不尽な大人達に怒りを訴えるマリアの後ろで爆発音が響く。振り向いたマリアが見た光景は。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

目から血の涙を流し、壊れた笑みを浮かべながら歌を歌うセレナの姿だった。

 

「ッ!!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪(よかった・・・マリア姉さん・・・)」

 

「セレナ!セレナ!!あっ!」

 

セレナの下に行こうとするマリアの頭上から瓦礫が落下するが、ナスターシャ教授がマリアを覆いかぶさり瓦礫の下敷きになった。

 

そして、倒れたマリアの瞳に映るのは崩れた瓦礫と炎に呑まれていく最愛の妹の姿・・・。

 

「セレナアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

マリアの慟哭が崩れた区画に空しく響いた。

 

 

 

 

 

 

そしてーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこりゃあ!?」

 

「爆発が聞こえたから急いで牢屋から出てみたらどうなってんだよこいつはぁ!?」

 

「っ!?マニゴルド!カルディア!あそこにナスターシャ教授が!」

 

軟禁されていた監獄を力技で脱出した三人、マニゴルドとカルディアとアルバフィカ。マニゴルドとカルディアは急いでマリアとナスターシャ教授の元に向かい、アルバフィカは解析室に向かった。

 

「何だ、あの小僧共は!?」

 

「そんな事どうでも良い!実験サンプルが消えたのならこんな所に用は無い!」

 

「全く、我々が援助した金をドブに捨ておって!!」

 

解析室にいた大人達は、セレナやマリアの事等どうでもいいと考え、ただ自分達への利益の事しか頭に無い俗物共の目の前にアルバフィカが現れた。

 

「・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

突然自分たちの目の前に現れた“美少年”に俗物共は好色の色が浮かんだ。

 

「・・・美しい・・・」

 

「男なのか・・・女なのか・・・?」

 

「嫌、この際どっちでも構わん・・・!」

 

「(・・・ギリッ)・・・この屑共がっ・・・!!」

 

下劣な笑みを浮かべ、中には舌舐めずりをしながら自分に近づく俗物共にアルバフィカは不快そうに歯軋りをしてーーーーーー。

 

 

そしてマリアとナスターシャ教授の元に付いたマニゴルドとカルディア。マニゴルドはナスターシャ教授を担ぎ、カルディアはマリアを起こす。

 

「おい婆さん!生きてるか!?」

 

「・・・うっ!・・・うぅ・・・!」

 

「良しまだ生きてるな、直ぐに避難しねぇとな。カルディア!ソイツはどうだ!?」

 

カルディアは放心したマリアの胸元を掴み揺する。

 

「オイコラテメェ!しっかりしやがれ!死にてぇのか!?」

 

「セレナが、セレナが、セレナが・・・」

 

「セレナ?まさかお前がセレナの・・・セレナはどうした!?」

 

「っ!?」

 

マニゴルドとカルディアはマリアの見つめる方に目を向けるとそこには炎に包まれた瓦礫の山しかなかった。だが、二人は察した。

 

「おい・・・まさかセレナは・・・!?」

 

「クソッタレ・・・!」

 

悔しそうに毒づく二人は更に崩れそうになる建物からマリアとナスターシャ教授を連れて避難しようとする。

 

「マニゴルド!カルディア!こっちだ!」

 

「アルバフィカ!」

 

「オメェどこ行ってたんだよ!」

 

「・・・・・・ただの“ゴミ掃除”だ」

 

アルバフィカが解析室に目を向け、二人もそこに目を向けると先程までにセレナに罵詈雑言を浴びせていた俗物共が顔を腫らして気絶している姿が見えた。

 

「「(あぁ成る程、確かに“ゴミ掃除”だわ)」」

 

自分達を救ってくれたセレナに対し、何の感慨を持たない屑共に対してマニゴルド達が抱いた感想はそれだけだった。三人はマリアとナスターシャ教授を連れて避難したが、アルバフィカはセレナのいた場所を見つめ。

 

「(すまない・・・・セレナ・・・っ!・・・)」

 

アルバフィカの頬に一筋の涙が流れた。

 

 

 

 

ー現在ー

 

「あの日、私達がもっと早くあの場所に行っていれば、別の研究所に運ばれた聖衣レリーフを持っていればセレナは・・・・・・」

 

「アルバフィカ・・・・・・」

 

辛いのは自分だけでは無い、アルバフィカも、表面には出さないがマニゴルドもカルディアも、セレナを助けられなかった事に後悔を抱いている事をマリアもナスターシャ教授も知っている。彼等にとってセレナは“この世界”に来て初めて出来た“友人”だったのだから。

マリアはシンフォギアのペンダントを見つめながらあの日に失った妹に、セレナに想いを馳せていた。

 

「(セレナ・・・貴女と違って、私の歌では誰も守る事は出来ないかもしれない・・・)」

 

物思いに耽る二人にナスターシャ教授からの連絡が入る。

 

「《間も無くランデブーポイントに到着します。良いですね》」

 

「OKマム・・・」

 

「・・・・・・(あれが、“カ・ディンギル”か・・・)」

 

窓の外を見たアルバフィカの目に映ったのは3ヶ月前までリディアン音楽院の校舎であり、二課の本部、“ルナアタック事変”の際に月を破壊するために“破滅の巫女フィーネ”が起動させた異端技術“カ・ディンギル”であった。現在は“立ち入り禁止区域”にされたこの場所こそ、マリア達の目的地であった。

マリア達の乗る飛行艇が着陸するのと同時に、黒い渦が現れ、その中からマニゴルドと切歌、カルディアと調が出てきた。

 

「お♪ドンピシャだったみたいだな」

 

「やれやれ、もう夕方か・・・」

 

マリアとアルバフィカが降りてきたのを見えた切歌と調はマリアの元に向かう。

 

「マリア!大丈夫デスか!?」

 

「えぇ、大丈夫よ」

 

「「・・・ホッ」」

 

セレナの事を思い出し少々ブルーになったが、無関係な少年達が犠牲にならずに済んだ事を思い出してにこやかに答える。それを見た切歌と調もホッとした笑みを浮かべ、調がマリアに抱きつく。

 

「よかった、マリアの中のフィーネが覚醒したら、もう会えなくなってしまうから・・・!」

 

「フィーネの器になったとしても、私は私よ。心配しないで・・・」

 

「ッ!・・・」

 

調を安心させるように言うマリアに今度は切歌が抱きつく、二人をマリアは優しく抱き締めた。アルバフィカ達は姉妹のように仲睦まじいマリア達を微笑ましく見つめた。

飛行艇から車椅子に乗ったナスターシャ教授と顔をガーゼで覆ったドクターウェルが歩いてきた。顔の半分をガーゼで覆ったウェルにマニゴルドとカルディアはニタニタとしたら笑みを浮かべ。

 

「何だ何だドクター、ちょっと見ない間に随分と男前になったな♪」

 

「いつもの顔<ツラ>よりそっちの方が断然マシな面構えだぜ、もういっその事ずっとそのままでいたらどうだ♪」

 

「「「プッ!」」」

 

「(ピクピク!)」

 

マリア達にも笑われ一瞬不快そうに眉を動かしたウェルはアルバフィカに睨みながらも無理に笑みを浮かべ口を開く。

 

「あぁこの顔は、“野蛮人!”の怒りに触れてしまったせいでできたのですよ。全く災難です」

 

「そうか?私は力を無闇やたらと振り回していた“幼稚な子供”を諫めただけに見えたがな・・・」

 

「(ピクピクピクピクピクピクピクピク!!)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「「(ニヤニヤ)」」

 

「「「(・・・・・・)」」」

 

アルバフィカの言葉に眉をピクピクさせ僅かに血管を浮かせながら笑顔を引きつらせるドクターウェルと、どこ吹く風な態度のアルバフィカの間に火花が散っていた。マニゴルドとカルディアはニヤニヤと笑みを浮かべ、マリア達は内心冷や汗を流していた。話を終わらせようとナスターシャ教授が全員に告げる。

 

「何はともあれ四人共無事で何よりです、さあ追い付かれる前に出発しましょう」

 

「待ってマム!私達、ペンダントを取り損なってるデス!このまま引き下がれないデスよ!」

 

「決闘するとそう約束したから!うっ!」

 

「マム!うっ!」

 

ナスターシャ教授は切歌と調の頬を叩いた。

 

「いい加減にしなさい!マリアも貴女達二人もこの戦いは“遊び”ではないのですよ!マニゴルド、カルディア!あなた方が付いていながら!」

 

「まどろっこしいんだよ。ペンダントが必要なら決着なり奇襲なりして奪った方が手っ取り早いし、上手く行けば向こうの戦力を削ることもできるしな」

 

「俺は決闘に賛成派だ。決着を付けるまたとない好機だからな」

 

ナスターシャ教授の叱責をマニゴルドとカルディアはめんどくさそうに聞き流した。ナスターシャ教授が更に二人を叱責しようとするが、ウェルが止めに入った。

 

「そのくらいにしましょう。まだ取り返しのつかない状況ではないですし、ねえ?それに、その子達の交わしてきた約束、決闘に乗ってみたいのですが」

 

「「「(何を企んでいる、この毒蛇は・・・?)」」」

 

アルバフィカとマニゴルドとカルディアはドクターウェルを訝しそうに見つめた。

 

 

 

ー二課・本部ー

 

そして二課本部ではノイズの発生警報が鳴り響いた。

 

「ノイズの発生パターンを検知!」

 

「古風な真似を、決闘の合図に狼煙とは・・・・!」

 

「位置特定!ここは!?」

 

「どうした?」

 

「東京番外地、特別指定封鎖地域!」

 

『ッ!?』

 

「“カ・ディンギル跡地”だと!?」

 

藤尭の報告にレグルス達と響達の顔が驚愕に染まり、弦十郎は座席から立ち上がる。

 

 

ー“カ・ディンギル跡地”ー

 

奏者達と聖闘士達は指定された場所に赴く。そこは“フィーネ”との決戦の場になった、奏者達にしても聖闘士達にしても因縁深い場所であった。

 

「随分と皮肉な場所を指定してきたものだ・・・」

 

「決着を求めるのもおあつらい向きの舞台と言う訳か・・・」

 

「・・・誰かいるよ、スッゴい嫌な奴・・・!」

 

響達とレグルス達の目の前に、顔の半分をガーゼに包んだドクターウェルが“ソロモンの杖”を持って不適な笑みを浮かべていた。

 

「ッヤロウ!」

 

「中々男前になったな」

 

「(ピク!)」

 

“ソロモンの杖”を持つウェルをクリスが毒づき、デジェルがウェルの顔を皮肉るとウェルは額に血管を浮かせ、“ソロモンの杖”を構えて、ノイズを大量に射出する。

 

『ッ!!』

 

ノイズの出現したのを確認した奏者達は歌う。『戦いの歌』を。聖闘士は呼ぶ己の“鎧”を。

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」

 

「獅子座<レオ>ッ!!」

 

「山羊座<カプリコーン>ッ!!」

 

「水瓶座<アクエリアス>ッ!!」

 

奏者達が歌うと服が弾け、その身にギアを纏う。

 

「フッ!」

 

「ハッ!」

 

「ハアッ!」

 

聖闘士達の頭上に黄金の獅子と山羊と瓶を持ったシーマンのオブジェが現れ分解し、それぞれのパーツとなり聖闘士の身に纏い純白のマントを翻す。

 

「ッ!」

 

「ハアッ!」

 

「フッ!」

 

奏者達と聖闘士達はノイズに向かって翔る!

 

響はノイズに突っ込み拳で次々とノイズを貫く!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」

 

翼は翔ながらノイズを切り捨てる!

 

「ハアアアアアアアアアア!!!」

 

クリスはガトリングを構えてノイズを凪ぎ払う!

 

「でええええええええええええい!!!」

 

聖闘士達にノイズは突っ込むも。

 

レグルスはソッと拳を突き出すとノイズの回りに光の線が次々現れ、ノイズを粉砕する!

 

エルシドは手刀を振るうとノイズ達を一刀両断し!

 

デジェルは『カリツォー』でノイズ達を次々と瞬間凍結させる!

 

ドクターウェルが次々とノイズを出現させるも、奏者達は次々と凪ぎ払い、聖闘士達は準備運動にもならないと言いたげな余裕の態度を取った。

 

「ハアッ!ハアッ!テヤァ!調ちゃんと切歌ちゃんは!?」

 

「あの子達は謹慎中です。だからこうして私が出ばってきてるのですよ、役立たずの蟹座と蠍座もね。お友達感覚で計画遂行に支障をきたされては困りますので♪」

 

響の質問にドクターウェルは嫌らしい笑みを浮かべながら仲間である筈の調達をなぶる。

 

「何を企てるFIS!」

 

「企てる?人聞きの悪い。我々が望むのは、人類の救済!」

 

芝居じみた動きでドクターウェルは月を指差す。

 

「月の落下にて損なわれる無辜の命を救い出すことだ!」

 

『ッ!!』

 

「月を・・・!」

 

「月の好転起動は、各国機関が3ヶ月前から計測中!落下など結果が出れば黙っては!」

 

「黙ってるに決まってるじゃないですか!?」

 

翼の言葉を嫌らしい笑みを更に歪ませたドクターウェルが否定する。

 

「対処方法の見つからない極大災厄など、更なる混乱を招くだけです、不都合な真実を隠蔽する理由などいくらでもあるのですよ!」

 

「まさか!アルバフィカ達がお前達に協力しているのも!」

 

「そういう事ですよ獅子座<レオ>!彼等はこの極大災厄を知ったから我々に協力してくれているのです!」

 

「(以前アルバフィカが言っていた、“世界がこの危機を知っても黙殺されるか混乱が生まれるだけ”とは、その危機とはこの事か!?)」

 

「(アルバフィカはともかく、マニゴルドとカルディアがそれだけで動くのか・・・?)」

 

「まさか!この“事実”を知る連中ってのは、自分達だけ助かるような算段をしている訳じゃ?!」

 

今度はクリスの質問に答えるドクターウェル。

 

「だとしたらどうします?貴女達なら?対する私達の答えが、“ネフェリム”!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「ッ!!クリス!!」

 

「うわぁ!?////」

 

デジェルがすかさずクリスをお姫様抱っこし飛ぶとクリスのいた地点の下からノイズとは違う“異形の怪物”が現れた。

 

「雪音!」

 

「デジェル、無事か?」

 

「あぁ、クリス大丈夫かい?」

 

「大丈夫、ありがとうお兄ちゃん」

 

だが、クリスとデジェルの近く来た翼とエルシドはノイズが吐き出した粘着性の糸に捕まった。

 

「やべっ!」

 

「このような物で!」

 

「デジェル!」

 

「あぁ、この程度直ぐに凍結させる!」

 

が、捕まった四人の前に“異形の怪物<ネフェリム>”が立ちはだかる。

 

「人を束ね、組織を編み、国を立てて命を守護する!“ネフェリム”はその為の力!」

 

『ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

“ネフェリム”と呼ばれた怪物が四人に襲いかかる!

 

ドオウっ!!!

 

バキッ!!!

 

四人に襲いかかる“ネフェリム”を響とレグルスが迎撃する!だが、ドクターウェルはレグルスにだけ大型のノイズを射出する!

 

「くっ(響から引き離すつもりか!?)」

 

「ハアッ!♪~♪~♪ハアッ!~♪~♪~♪」

 

「“ルナアタックの英雄”と“黄金の英雄”よ!その拳で何を守る?!」

 

「そんなの決まっている!この拳は!皆を守るためにある!そうだろ響!!」

 

「(コクン!)♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

ドクターウェルの質問を聞き流し、レグルスの言葉に頷いた響は両腕のパーツを引き、渾身の一撃を放とうとする!

 

「ハアアアアアアアアア!!」

 

“ネフェリム”に叩きつけた拳がパイルバンカーのように追撃し、“ネフェリム”が倒れる!

 

腰のパーツが火を吹き、響が空を飛び、“ネフェリム”に向かうが、ドクターウェルが更にノイズを響とレグルスの元に射出させ響の耳に毒を入れる。

 

「そうやって君は!誰かを守る為の拳で、もっと多くの誰かをぶっ壊しに来るわけだ!」

 

「はッ!?」

 

射出されたノイズを凪ぎ払う響は、ドクターウェルの言葉から調に言われた言葉を思い出す。

 

『それこそが“偽善”!』

 

「響!手を引け!!」

 

「うあ!・・・っ!?」

 

戦いの最中に気をそらして突き出した響の左手が“ネフェリム”の口の中に入った。

 

「え?・・・」

 

ギチ・・・ギチギチ・・・ブチンッ!!!ブシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

肉を引きちぎる音が響くと共に響の左腕から大量の血が噴射した。

 

「立花ーーーーーーーーーー!」

 

「うあああああああああああ!」

 

「っ!」

 

「なっ!?」

 

翼とクリスの悲鳴が響き、エルシドとデジェルも驚愕する。

 

「ヒヒヒヒヒ・・・!!」

 

ドクターウェルは狂気と悪意に満ちた、狂ったような笑みを浮かべる。

 

「響・・・・・・!」

 

「・・・・・・えっ?・・・」

 

唖然とする響とレグルスの前に、響の腕を噛み千切る“ネフェリム”がいた。

 

『グルルル、グアッ!グルルル・・・』

 

グチャ、グチャ、グチャ・・・

 

美味しそうに響の腕を咀嚼する“ネフェリム”を見て、響は悟った、“自分の腕が喰われた”と!

 

「あ、あぁ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

「響イイイイイイイイイイイイイィィィィィ!!!」

 

響の悲鳴とレグルスと慟哭が月が照らす夜の世界に響いたーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ブチッ!!!)」

 

 

そして・・・獅子の中で・・・何かがキレた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、プッツンした獅子が外道に牙を剥く?


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怒り、暴走、そして・・・

ー“カ・ディンギル跡地”ー

 

闇夜が支配する世界で、エルシドと翼とデジェルとクリスは唖然とし、響は自身の腕を噛み千切った“ネフェリム”を睨み、レグルスは無言に佇んでいたが・・・。

 

「ウフゥ・・・ッ!」

 

ドクターウェルはその光景を見て、口角を歪ませた笑みを浮かべる。

 

『グチャグチャ・・・ゴックン!』

 

響の腕で咀嚼する“ネフェリム”は喉を鳴らして響の腕を飲み込む。

 

「あ・・・」

 

それを見た響は膝をつくと、ドクターウェルは歪ませまくった顔を狂気の笑みで染めて吠える。

 

「イッタアアアアアアアアアアアア!!! バクついた!! シンフォギアを!! これでええええええええええええええぇえ!!!!」

 

「うっ・・・ううっ・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

腕の痛みに耐える響にレグルスは無言で止血の真央点と痛みを麻痺する星命点を突く。

 

 

 

ーマリア達の飛行艇ー

 

その光景をモニターで見ていたマリア達。マリアと切歌と調はウェルの狂行に愕然とし、アルバフィカとマニゴルドとカルディア、そしてナスターシャ教授は冷静に見ていた。

 

「あのキテレツ! 何処まで道を踏み外しているデスかッ!!」

 

「ここまで狂っていると逆に清々しいぜ・・・!」

 

切歌はウェルの狂行に怒り壁を殴る。マニゴルドは冷徹な目線をウェルに向けていた。

 

「“ネフェリム”に、“聖遺物の欠片”を“餌”と与えるって、そういう・・・?」

 

「(あの野郎、もしかしたら調達も・・・?)」

 

調は戸惑い混じりにナスターシャ教授を見て、カルディアは探るようにウェルを睨む。

 

「・・・・・・・・・」

 

マリアはウェルの狂行に“無関係な少年達”を殺そうとした情景が頭をよぎる。あの時はアルバフィカが防いでくれたが、このままでは。

 

「・・・・・・!!」

 

「どこに行くつもりですか?」

 

「あっ・・・・・」

 

首を降り、部屋を出ようとするマリアにナスターシャ教授の冷たい静止の声が響く。

 

「貴女達に命じているのは、この場での待機です」

 

「あいつは!人の命を弄んでるだけ!こんな事が私達のなすべき事なんですか!?」

 

「・・・・・・・・・」

 

マリアの言葉にナスターシャ教授は目をそらす。

 

「・・・あたし達・・・正しい事をするんデスよね?」

 

「間違ってないとしたら、どうして・・・こんな気持ちになるの・・・?」

 

「・・・・・・その“優しさ”は、今日限りに捨ててしまいなさい! 私達には、微笑みなど必要ないのですから・・・!」

 

「「「(言っている本人が一番辛そうに見えるが・・・)」」」

 

やりきれない、苦しいと言いたげな切歌と調の言葉をナスターシャは否定するが、アルバフィカ達は冷めた目で見つめる。

 

「くっ・・・!」

 

「・・・・・・」

 

歯痒そうに部屋を出るマリアとその後を追って部屋を出るアルバフィカ。二人が部屋を出るのを確認したマニゴルドは口を開く。

 

「おい婆さんよ、そろそろ“ネフェリム”と“ソロモンの杖”。おまけのついでにクソ野郎(ウェル)に撤退を指示した方が良いぜ」

 

「何を言っているのですか?」

 

マニゴルドの言っている事が理解できないナスターシャは聞き返す。すると今度はカルディアが口を開く。

 

「言葉通りの意味だよ。このままじゃ、最悪“ネフェリム”を失う事になるぜ?」

 

「なんですって・・・?」

 

ナスターシャがマニゴルド達の言葉の意味を聞いている部屋の外では、部屋を出たマリアが膝から泣き崩れ、“傷だらけの聖遺物のペンダント”を握る。

 

「・・・・・何もかもが、崩れていく・・・このままじゃ、いつか私も壊れてしまう・・・セレナ、どうすればいいの・・・!?」

 

泣き崩れるマリアの後ろ姿をアルバフィカはただ見つめる事しかできずにいた。

 

「(こんな時にマリアに触れる事ができない我が身が情けない・・・だが望みはある)ウェルは直ぐにでも撤退しなければならないな・・・」

 

「えっ?・・・」

 

アルバフィカの言葉にマリアはどういう意味?とばかりに振り向く。

 

 

ー“カ・ディンギル”跡地ー

 

「(ドクン!ドクン!ドクン!ドクン!)うっ!・・・うぅっ!・・・」

 

「立花!」

 

「おいしっかりしろ!」

 

「・・・・・・」

 

激しく脈打つ自身の心臓、嫌“胸のガングニール”の鼓動に響は苦しむ。ノイズの粘着性の網をデジェルが凍結で破壊し翼とクリスが響に近づく、エルシドとデジェルは三人を守るように立つが。

 

「・・・・・・」

 

レグルスは静かに立ち上がり“ネフェリム”の方にゆっくりと歩く。そんなのお構い無しウェルの下劣の声が響く。

 

「完全聖遺物“ネフェリム”は、いわば自律稼働する増殖炉!」

 

「(完全聖遺物だと!?)」

 

「(あれを、あんな化け物を、神は創造したと言うのか!?)」

 

エルシドとデジェルはウェルの言葉から“ネフェリム”を見る。“ネフェリム”の身体が赤く発光し、身体が膨張したいった。

 

「他のエネルギー体を暴食し! 取り込むことで更なる出力を可能とする! さあ! 始まるぞ! 聞こえるか!? 覚醒の鼓動! この力がフロンティアを浮上させるのだ! フヘハハハハハハハヒヘハフヘハ! ヒィィハハハハハハハハハハ! イィヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

不愉快な狂笑をあげていたウェルの横を“何か”が吹っ飛んできた。

 

「イヒ・・・??」

 

吹っ飛ん行った先を見るとそこには。

 

『グッ・・・ガ・・・ギガ・・・グガ・・・』

 

先ほどまで成長した筈の“ネフェリム”の手足があらぬ方向に曲がり、大口の牙はほとんどが砕かれ、ボロ雑巾のような変わり果てた姿になっていた。

 

「“ネフェリム”・・・? 何があった? 先ほどまであそこに・・・ヒへっ!」

 

狂った顔で首を傾げるウェルの目に目元に影が射した獅子座の黄金聖闘士が悠然と歩いていた。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

翼とクリスも戸惑っていた。今さっき響から離れ、レグルスはゆっくりと“ネフェリム”に近づくと。突然“ネフェリム”が吹っ飛んでいったからだ。

 

「何が起こったのだ・・・?」

 

「あの化け物が吹っ飛んでいったように見えたが・・・?」

 

「あんなレグルス、初めて見るな・・・」

 

「あぁ、どうやらやってしまったようだ・・・」

 

混乱気味の翼とクリスに、エルシドとデジェルの言葉に反応して首を傾げる。

 

 

ー飛行艇・モニタールームー

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 

モニタールームで見ていたナスターシャと切歌と調も唖然呆然とし、マニゴルドとカルディアがニヤリとした笑みを浮かべる。

 

「ほお、レグルスってああなるんだな」

 

「一瞬で“ネフェリム”に『ライトニング・プラズマ』を叩き込みやがった」

 

この時、レグルスを除いた黄金聖闘士達の言葉が重なる。

 

 

『ヤツ<ウェル>は踏んでしまった、“獅子の尾っぽ”をな!』

 

 

ー“カ・ディンギル”跡地ー

 

「イヒ? ハエ? イヒヘ!?」

 

ウェルは訳が分からないと言いたげに“ネフェリム”とレグルスを交互に見ていた。

 

「(何が起こった!? どうしたんだ!? 何故“ネフェリム”がボロ雑巾になっている!!?? あの小僧か!?)」

 

悠然と歩いてくるレグルスをウェルは睨む。

 

「(嫌そんな筈はない! “黄金の英雄”等と呼ばれているが所詮あんな餓鬼に!・・・ッ!!??)」

 

その時、ウェルは奇妙な感覚に襲われた、自分の頭が“獅子に噛み砕かれた”ような感覚に。

 

「(ッ!?・・・何だ?・・・今の感覚は・・・ッ!!)イギャアアアアァァァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアア!!!」

 

奇妙な感覚に捕らわれたウェルが正気に戻ると、頭部に激痛が走った!鼻から血がドクドクと流れ、口の中が切れたのか血でむせり、激しい頭痛や目まい、耳なりと吐き気に襲われ目もかすみ脳震盪を起こしていた。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

汚ならしい悲鳴を上げるウェルを翼とクリスは唖然と見つめる。化け物<ネフェリム>とレグルスを交互に見ていたウェルが突然頭が無くなったと錯覚するほど首を後ろに反らせ頭から地面に倒れると、汚ならしい悲鳴を上げていた。

 

「エルシド、レグルスは一体、何をしたのだ?」

 

「・・・ウェルの顔を殴っただけだ」

 

「殴ったって・・・レグルスのヤツは、あの野郎<ウェル>から離れてるじゃねぇか・・・」

 

「普通に殴ったんじゃない、レグルスは拳の拳圧で“空気の塊”を飛ばしたんだ」

 

「「“空気の塊”?・・・」」

 

デジェルの言葉の意味を理解できず首を傾げる翼とクリス。

 

「簡単に言うと、レグルスは鍛えぬかれた腕力<かいなぢから>で空気を殴り、その時に生じた風圧がウェルを殴り飛ばしたんだ」

 

「レグルスのパワーで放たれるソレは、さながら岩石を叩き付けられた程の威力だ」

 

「「・・・・・・・・・・・・嘘?」」

 

あまりにも突飛な攻撃に翼とクリスも唖然となる。

 

 

ー飛行艇・モニタールームー

 

「「うっそ(デス)・・・・・・」」

 

「拳の風圧で人間一人を殴り飛ばすなど・・・そんな事あり得ません・・・!」

 

吹っ飛んだ“ネフェリム”とついでにウェルのするほどとマニゴルドとカルディアの解説を聞いた調と切歌も、翼とクリスと同じ唖然とし、ナスターシャに至っては信じられないと言いたげな表情を浮かべる。

 

「それができるから聖闘士なんだよ」

 

「婆さん、あんたもクソ野郎<ウェル>もマリア達も」

 

「「黄金聖闘士を甘く見んなよ・・・!」」

 

「「「っ!?」」」

 

マニゴルドとカルディアから放たれた威圧感にナスターシャも切歌と調も萎縮した。

 

 

 

ー二課・指令室ー

 

響の腕が喰い千切られた状況に弦十郎達も騒然となっていたが、レグルスの行動にも唖然となっていた。

 

「あれが・・・本気でキレたレグルス君、なんですか?」

 

「あんな風になるなんて、とても何時ものレグルス君からは想像できません・・・」

 

「ウェル博士、お前はどうやら怒らせてはならないヤツを怒らせたようだ・・・!」

 

いつもは明るく朗らかな陽的な少年のレグルスの雰囲気から余りにもかけ離れた姿に藤尭と友里も唖然となるが、弦十郎はこれからウェルの身に起こることに僅かな(髪の毛一本分程の)同情の念を持つ。

 

 

 

ー“カ・ディンギル”跡地ー

 

「イギガ!・・・・・ギギギ!・・・ガアァッ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

とても人間の声とは思えない死にかけのケダモノのようなうめき声を上げるウェルの目の前にレグルスが立っていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

「ヒギィ!な、何を・・・」

 

「お前、さっきから煩いよ・・・!(ギンっ!)」

 

「うぎぃやぁあああぁぁぁぁああああぁぁあああああッ!!!」

 

レグルスの瞳には“百獣の王”の威圧感があった。睨まれたウェルは喧しく悲鳴を上げる、その様はまさに『蛇に睨まれた蛙』嫌、『獅子に睨まれた小蛇』。

 

「ヒギ、ヒギ、ヒギイイイイイィィィィィ!!!」

 

人間には、“危険を察知する本能”が退化しているが残っており、ウェルはレグルスの威圧感に呑まれ尻餅を付いたまま惨めに後ずさる。

 

「くるな! くるな化け物オオオォォオオオ!!」

 

たまらず“ソロモンの杖”振り回しノイズを大量に射出するが。

 

「邪魔」

 

しかし、一瞬でノイズが全滅した。それを見ていよいよウェルの顔から余裕と狂表が消え、身体は小刻みに震え、歯はガチガチと鳴り、瞳孔は激しく揺れ、まるで追い詰められたネズミのように恐怖に染まる。

 

「(うう嘘だ! こんなの嘘だ! この僕が! この僕がぁッ!! こんなクソ餓鬼にィッ!! こんなクソ餓鬼に見下されるなんてェ!!!)こんなの嘘だアアアアアアァァアアアァアアアア!!!!!」

 

錯乱したウェルが“ソロモンの杖”をレグルスに突き刺そうとするが・・・・・・。

 

「だから邪魔だってば」

 

「ベバっ!?」

 

レグルスは蝿でも払うかのようにウェルの頬を裏拳で殴り(以前アルバフィカが殴ったのは左の頬で、レグルスが殴ったのは右の頬、因みに拳圧で顔面を殴った)、退かす。

 

「ガアァ!・・・アァッ!・・・アガギガ!!」

 

激しい痛みで無様に這いつくばるウェルを完全に無視し、レグルスはボロ雑巾になった“ネフェリム”に近づく。

 

『グガ・・・ガア・・・!!』

 

「おい・・・響の腕・・・返せよ!」

 

『グガアッ!!!!』

 

横に倒れる“ネフェリム”の腹をレグルスは容赦なく殴り付ける。

 

『クバアッ! ゴアッ! グエッ! ゲウッ! ズェアッ! ゴブルワァッ!!』

 

「返せって言ってるんだけど・・・!!」

 

“破壊の究極”とも言える黄金聖闘士の拳を容赦無く次々と腹に食らい、“ネフェリム”の口から大量の唾液が流れ、もがき苦しむ。

 

「や、止めろ! 止めるんだぁ!!」

 

這いつくばっていたウェルは“ネフェリム”を殴り続けるレグルスを止めようと叫ぶ。

 

「成長した“ネフェリム”は! これからの“新世界”に必要不可欠な物だ!! それを! それをオオオオオオォォオオオオオオ!!!」

 

ウェルは顔をかきむしりながら訴えるが、全く耳を貸さないレグルスは“ネフェリム”を更に殴ろうとする。

 

だが・・・。

 

『ううっ! うぅ! ううぅ!!・・・』

 

「立花・・・?」

 

「おいどうし・・・」

 

「「っ!?」」

 

『ううっ! ああああっ!!』

 

突然響が呻くと胸の傷口が光り、響の身体が黒く染まる。

 

「まさか!?」

 

「まずい!」

 

「「うわっ!」」

 

エルシドとデジェルは急かさず翼とクリスを抱き抱えて響から離れる。

 

「・・・・・・響?」

 

“ネフェリム”を殴っていたレグルスも響の異変に気づき振り向くと。

 

『うわああぁぁぁあああああぁああああ!!!』

 

「そんな・・・!」

 

「まさか・・・!」

 

「「っ!・・・・・・」」

 

響の身体の異変に翼とクリスは唖然とし、エルシドとデジェルの目に警戒の色が浮かび。

 

「イグガ・・・ギギギ・・・」

 

痛みで這いつくばっていたウェルも警戒の色を浮かべる。

 

「響・・・?」

 

『うああっ!・・・ううっ!・・・アアアアッ!!』

 

その姿はかつて“ルナアタック事変”の折り、“カ・ディンギル”の一撃を身を呈して防いだクリスを貶した“フィーネ”に見せた姿。だがレグルスは知っている。この姿を。

 

「(あれって確か、未来との約束を守れなくって、やけっぱちになっていた時の・・・)」

 

『ッ!!』

 

黒く染まった響はレグルスを、嫌、レグルスによってボロ雑巾になった“ネフェリム”を睨む。

 

 

 

ー飛行艇ー

 

飛行艇で事のあらましを見ていたナスターシャ達(約2名は除く)にも戦慄が走る。

 

「ヒュ~♪成る程、これがそうか・・・!」

 

「ドクターの馬鹿のお陰で面白い見せモンができたな♪」

 

カルディアとマニゴルドは面白がるが、ナスターシャ教授と切歌と調は違った。

 

「これが、“フィーネ”の観測記録にもあった、立花響の・・・」

 

 

ー二課・指令室ー

 

「“暴走”・・・だと!?」

 

響の暴走に弦十郎は焦りを浮かべる。

 

 

ー“カ・ディンギル”跡地ー

 

『ウグゥゥ!!ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!』

 

暴走した響が噛み千切られた腕を掲げると、傷口から黒いエネルギーが溢れ、“新たな腕”が“再生”された!

 

「ギアのエネルギーを・・・?!」

 

「腕の形に固定しただと・・・?!」

 

「まるでアームドギアを形成するかのようにか。デジェル・・・」

 

「恐らくだが、立花君の暴走は“激しい感情”によって引き起こされて来た、腕を噛み千切られた事によって生まれた“恐怖”と“怒り”が暴走の引き金になったのだろう」

 

“腕の再生”に唖然となるデジェル達。響はゆっくりと“ネフェリム”の倒れる場所に向かう。

 

「(響・・・“ソレ”じゃダメだよ・・・)」

 

レグルスは“ネフェリム”から離れ、響と向き合う。

 

『ッ!!』

 

響は獣のように四つん這いになって“ネフェリム”に襲いかかる!

 

『ガアッ!』

 

「ダメだよ、響」

 

『グアァッ!』

 

襲いかかる響をレグルスは殴り飛ばすが。

 

『ググググググ!!』

 

地面を這いながらブレーキを掛け、再び“ネフェリム”に襲いかかるが。

 

「だからダメだってば・・・!」

 

響の首に巻いているストールを掴んで地面に叩きつける。

 

『ガアァッ!』

 

「響、それじゃダメだよ、そんな響はダメだ」

 

“ネフェリム”に向かおうとする響をレグルスは押さえ付ける。

 

『グゥア!ーーーーーーっ!』

 

傷だらけの“ネフェリム”は這いつくばりながら、レグルスと響から逃げるようとするが。

 

『ッ!!ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「うわっ!」

 

獲物<“ネフェリム”>を見た響は咆哮をあげると、その時生じた波動でレグルスを吹き飛ばし。

 

『ーーーーーッーーーーーっ』

 

這いながら逃げる“ネフェリム”に飛び掛かり。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

『ガアウッ!!』

 

けたたましく悲鳴を上げる“ネフェリム”の身体に拳を突き刺す。

 

「ッ!!」

 

それを見てウェルは驚愕し、“ネフェリム”の身体に突き刺した拳を更に食い込ませる。

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』

 

悲鳴を上げる“ネフェリム”に構わず響は“ネフェリム”の体内から“心臓”のような“赤い発光体”を引きちぎる。

 

「ウウッ!! ウアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!! ウ、ウ、ウゥッ!!」

 

それを見たウェルはまたも喧しく悲鳴を上げる。力無く倒れる“ネフェリム”を見て響は“発光体”を投げ捨て飛び上がる。

 

「待て! 響!」

 

『アアアアアアアアッ!!』

 

レグルスの静止を聞かず、右腕を槍のような形状にし、“ネフェリム”に突き刺す。すると、突き刺さった箇所から赤い光が溢れ。光の大爆発が起こったーーーー。

 

「「「「くぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」」」」

 

激しい光の奔流に吹き飛ばされないように踏ん張るエルシド達。

 

「響イイイィィィィィィィィィィィッ!!」

 

レグルスの声が響いた。

 

 

 

ー飛行艇・コックピット外ー

 

響が引き起こした爆発で飛行艇が揺れる。

 

「ハッ・・・アルバフィカ、今のは?」

 

「恐らくな・・・」

 

「ーーーっ!」

 

両膝を抱えて座っていたマリアは、アルバフィカの言葉を聞いて耳を防いで蹲った。

 

ー飛行艇コックピットー

 

「生命力の低下が、胸の聖遺物の制御不全を引き起こしましたか。いずれにしてもゴホッ!ゴホッ!」

 

「ッ!?」

 

「マム・・・?」

 

突然咳き込むナスターシャに近づく切歌と調。ナスターシャが口を防いだ手を見ると“血”が付着していた。

 

「こんな時に・・・! ゴホっ! ゴホっ! ゴホッ!」

 

「マム!」

 

「切歌、調! マリアとアルバフィカに連絡! カルディア! 婆さんを見てろ!」

 

「は、はいデス!」

 

「うん!」

 

「クソッ・・・!」

 

 

ー飛行艇・モニター外ー

 

「《マリア! ねぇマリア! 聴こえてる?!》」

 

「《マムの具合が・・・!》」

 

「マム!?」

 

「ッ!!」

 

マリアとアルバフィカは急ぎコックピットに戻る。

 

 

 

ー“カ・ディンギル”跡地ー

 

「立花・・・」

 

「なんだってンだ・・・」

 

エルシドとデジェルから降ろされながら翼とクリスは響を見る。

 

『ハアーっ・・・フーッ・・・ハアーっ・・・フーッ・・・!!』

 

「ヒイイィィィィィィッッ!!!」

 

暴れ足りないように息継ぎをする響を見たウェルは、這いつくばったまま無様に離れ、よろよろと立ち上がりながら“ソロモンの杖”を持って逃げようとする。

 

『ガアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

「響、もう良い、もう良いだろうっ!!」

 

雄叫びを上げてウェルを追おうとする響をレグルスが羽交い締めしながら押さえ付けてる。

 

『ウウッ!! ウウッ!!』

 

「よせ立花! もう良いんだ!」

 

『ガアァッ!』

 

「いい加減にしろ、立花!」

 

『グゥアアアアアアアア!』

 

「お前、“黒いの”似合わないんだよ!!」

 

『アアアアアアアっ!! アアアアアアアっ!!』

 

「響君! 君の力はそんな風に使うべき物ではない筈だ!」

 

翼とエルシド、クリスとデジェルも響に呼び掛ける。

 

「ウワアアアアッ!!!! ウワアァァッッ! ヒ、ヒ、ヒ、ヒィイイイィィィイイイっ!!」

 

惨めに悲鳴を上げながらウェルは無様に逃げ出した。

 

『ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっ!!!!』

 

再び雄叫びを上げた響の身体から激しい光の奔流が溢れ、レグルス達は余りの光に目を閉じる。

 

「くっぅぅぅ!! 響っ!!」

 

「くっ・・・!!」

 

「この・・・バカっ!」

 

「むぅ・・・!」

 

「っ・・・!」

 

光が収まるとそこには、“元の状態”の響がぐったりとしていた。

 

「響・・・!」

 

「(脈を計る)・・・・・・大丈夫だ、気を失っているだけだ・・・だが・・・」

 

響の脈を計っていたデジェルは響の“左腕”を見る。レグルス達も響の“左腕”を見ると、“元通り”になっている左腕があった。

 

「(一体、響に何が・・・!)」

 

翼とクリスが響の元に向かい、エルシドとデジェルはコッソリ話す。

 

「(デジェル、ヤツ<ウェル>を追うか? まだ間に合うが・・・)」

 

「(嫌、これ以上の戦闘は蛇足、今は響君の方が先決だ)」

 

「(・・・・・・そうだな)」

 

エルシドが見ると響を中心にできた大きなクレーターが目に入った。

 

 

ー飛行艇・コックピットー

 

「マムっ!!」

 

「ナスターシャ教授!」

 

コックピットに入ったマリアの目に映ったのは口元と服を血で汚し、車椅子にぐったりしているナスターシャの姿だった。

 

「マムっ!しっかりしてマム!」

 

ナスターシャの手を取って呼び掛けるマリア。

 

「皆、直ぐにドクターを回収して来てくれ・・・」

 

「あの人を・・・・・・」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

アルバフィカの指示を調は俯き、切歌は固い表情を浮かべ、マニゴルドとカルディアは露骨に嫌そうな顔になる。

 

「気持ちは分かる。だが、我々では応急措置しかできない。ナスターシャ教授の為だ、分かってくれ・・・!」

 

「・・・・・・分かったデス!」

 

「うん・・・!」

 

「しゃあねぇ、ドクターの惨めで無様な負け面でも拝んでやるか・・・」

 

「今回唯一の収穫はソレかよ・・・・・・(ボソッ)悪くないな」

 

「(ボソッ)むしろ最高だわ」

 

悪態付きながら、マニゴルドとカルディアも切歌と調と共にドクターの回収に向かった。

 

「(全ては・・・私が“フィーネ”を背負いきれてないからだ・・・っ!)」

 

「(マリア・・・)」

 

瞳を潤ませるマリアをアルバフィカは見つめる事しかできなかった。

 

 

 

ー二課本部ー

 

その頃、本部に担ぎ込まれた響はそのままストレッチャーで手術室に運ばれた。レグルスは閉まった手術室の前に立ち、その後ろに弦十郎と翼達がいた。

 

「響・・・・・・」

 

「響君・・・」

 

「ッ!!」

 

翼は壁を殴り、やりきれない怒りをぶつける事しかできなかった。クリスもまた同じ気持ちだった。

 

「(チラ)」

 

「「(コクン)」」

 

弦十郎はエルシドとデジェルに目配せをし、二人は頷いた。

 

 

ー二課・処置室ー

 

そして手術室で処置を受け、眠りに付いた響は朦朧とする意識の中で過去の記憶が夢に浮かんだ。

 

「(あれ?レグルス君?・・・翼さんやクリスちゃん、エルシドさんにデジェルさんは?・・・そっか・・・またあの・・・もうずっと夢に見ることも無かったのに・・・)」

 

それは、ツヴァイウイングでのライブ襲撃事件が起きて直ぐに起こったおぞましい出来事。生き残った響は周りのメディアや人々から迫害を受けていた。

 

「よく生きていられるわね、沢山人を殺しておいて・・・!」

 

「知らないの?ノイズに襲われたら怪我しただけでお金貰えるんだよ。特異災害保証って言ってね」

 

「それって、パパやママからの税金でしょう?)

 

「ハア、死んでも元気になるわけだわ・・・!」

 

「マジ税金の無駄使い」

 

「ねえ!」

 

「「キャハハハハハハハハハハハハハ!!」」

 

“生き残った罪”、“謂われない中傷”、“人々の悪意”、それらは、響だけではなく響の家庭にすら牙を向いた。

 

『人殺し』

 

『金どろぼう』

 

『お前だけ助かった』

 

『死ね』

 

家に貼られた悪意に満ちた張り紙、弱い人間に対する人々の暴力、面白がりながら浴びせる罵詈雑言、壊される日常。

 

それらは響と母と祖母を苦しめた。自分が生きていた嬉しいと言ってくれたのはたった一人の親友と家族だけ。

 

「頑張ってリハビリして・・・元気になればきっと・・・お母さんも、おばあちゃんも、喜んでくれると思っていたのに・・・!」

 

人々の悪意と暴力に対して、響はただ泣き崩れるしか出来なかった。

 

 

 

 

***

 

 

意識が戻った響の目に、自分に付き添うレグルスがいた。

 

「お! 響、起きた? この指何本に見える?」

 

指を3本立てるレグルスに響は問い掛ける。

 

「ねえレグルス君・・・」

 

「ん?」

 

「私のやってる事って、調ちゃんの言うように“偽善”なのかな?・・・私が頑張っても、誰かを傷付け、悲しませる事しか出来ないのかな・・・?」

 

「・・・・・・なぁ、響。俺と初めて会った時の事、覚えてる?」

 

「え?・・・うん覚えてる・・・」

 

「俺も、空に浮かんだ雲の形や星の数まで覚えてるよ」

 

レグルスは何時もと違った“穏やか顔”で、響に滔々と話す。

 

「あの時はさ、俺は“この世界”に来て間もなくて、右も左もわからなくて、ノイズと戦う事すら出来なかった。でもさ、響があの時助けようとした女の子を守ろうと頑張ってる姿を見て、あきらめるなって言ってくれたから、俺も頑張らなくちゃなって気持ちになったんだ。あの時の響の頑張る姿があったから、またこうして聖衣を纏って戦う事が出来たんだよ」

 

「・・・・・・」

 

「響が頑張ったからあの女の子を守ることが出来たじゃないか、響を認めなかった翼も響の頑張りを知って響を認めた。頑なだったクリスを響の懸命な想いで、共に手を取り合う事が出来た。響の頑張りで繋がる事が出来た“絆”は決して間違っていない」

 

「うっ・・・うぅ・・・」

 

レグルスの話を聞いている内に響の瞳に涙が流れた。

 

「そりゃ、戦ってれば自分の考えを否定するヤツは必ず現れる。でもここに、響が頑張ってる事を知ってるヤツがいるんだよ」

 

レグルスはあるカードを見せた、そこには。

 

『また学校に行こうね 未来』

 

「未来・・・うぅっ・・・」

 

「響が頑張っている事を未来は知ってる、翼も知ってる、エルシドも知ってる、クリスも知ってる、デジェルも知ってる、弦十郎も慎司もあおいも朔也も、響の友達の皆だって、勿論俺だって、響が頑張っている事を知ってるよ」

 

「レグルス君・・・」

 

「だからその・・・・ああごめん、上手く説明できないけどさ、響の頑張りが、人を励ましたり、“希望”をくれた事は間違いないよ」

 

「うっ・・・うぅ・・・うぅっ!」

 

響は泣いた、嬉しかったからだ。自分の頑張りを認めてくれている、自分の頑張りが“偽善”じゃないと言ってくれる事がたまらなく嬉しかったからだ。

 

「・・・」

 

レグルスは何も言わず、ソッと響の頭を撫でた。

 

「・・・ありがとう・・・レグルス君・・・」

 

「ん、どういたしまして♪(・・・ん?何だ?)」

 

泣きながらお礼を言う響の患者衣の胸元から見えた素肌にくっついた“黒い塊”がレグルスの目に映ったが、今は響が泣き止むまで響の頭を撫でる事に集中した。

 

 

 

ー風鳴道場ー

 

「フッ!ハッ!タァッ!」

 

胴着を着た翼はやり場の無い憤りをぶつけるように、刀を振っていた。

 

「(あの時、立花が暴走したのは、立花一人を戦わせたからだ・・・!)」

 

翼の脳裏に二年前のライブ襲撃事件の際、“絶唱”を使ってその命を散らせた“片翼”の姿が、暴走した響と重なる。

 

「(あの時も、私は何も・・・!)・・・ハアアアァアアアッ!!」

 

遮二無二に振るう翼の刀を“何者”かの手刀が止める。

 

「ッ!? エルシド?」

 

「・・・」

 

胴着を着ていつもの仏頂面で自分の刀を防いだ相棒がそこに立つ。

 

「一人で鍛練もつまらんだろう、久しぶりに相手をしてやる」

 

「・・・そうだな、頼む」

 

そして二人は構え向かい合い。

 

「「ッ!!」」

 

翼の刀とエルシドの手刀がぶつかる。

 

一時間後

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・・・」

 

「(スッキリ)」

 

肩で息してグロッキー状態の翼とスッキリした無表情のエルシドがいた。

 

「どうだ翼、久しぶりにおもいっきり動いて発散できたか?」

 

「!・・・・・・ああ、すまんエルシド」

 

どこか憑き物が取れた笑顔を浮かべる翼を見て、エルシドもフッと微笑む。

 

「さて、鍛練の続きと行くか」

 

「えッ・・・・」

 

エルシドの言葉にサッと顔が青くなる翼。

 

「嫌、エルシド、明日も私は学校なのだが・・・」

 

「安心しろ、一勝負するだけだ、終わった頃にはグッスリと眠れるだろう」

 

「嫌それはただ、気絶すると言う意味では・・・!?」

 

いつもの仏頂面だが、目だけはキランと光らせたエルシドを見て、翼は滝のような汗を流しそして・・・。

 

イヤアアアアアァァァアア!!!

 

翼の悲鳴が夜の世界に響いた。

 

 

ーデジェルとクリスが住む部屋ー

 

デジェルとクリスが同棲している部屋のリビングのソファーでデジェルがレザーズボンにYシャツとラフな格好をして参考書を片手に持って読み、短パンにブカブカなTシャツを着たクリスがデジェルの膝枕で寛いでいた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

上機嫌で思わず鼻唄を唄うクリスの前髪をデジェルが空いている片手でソッと撫で、更に喉の下や耳の裏を人差し指で撫でる。

 

「お兄ちゃん、くすぐったいよ♪」

 

「ハハハ、すまない、じゃ止めるかい?」

 

「んーん、止めないで♪」

 

「ああ」

 

響達がいる前じゃ絶ッッッ対に見せないような甘えた姿でデジェルと桃色な雰囲気を展開するクリス。だが、

 

「お兄ちゃん・・・」

 

「ん?」

 

「あのバカ<響>、大丈夫かな?・・・」

 

ふとクリスの顔がシリアスになり、響を心配する。デジェルはクリスの頭をソッと撫で。

 

「心配かい?」

 

「・・・・・・・・・うん」

 

「今回、我々に出来る事は少ないかもしれない。だが、響君がもし本当にダメになってしまったら、その時は支えてあげれば良い」

 

「支える・・・?」

 

「そう、支えてあげれば良いんだ」

 

再びクリスの頭を撫でるデジェル。クリスは気持ち良さそうに目を細め、安らいだ表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

「完全聖遺物“ネフェリム”・・・・・・再び暴走したガングニール<立花 響>・・・・・・対立する黄金聖闘士・・・・・・新たなる“フィーネ”と奏者達・・・・・そして・・・・・・“月の落下”か・・・・・・どうやら、そろそろ私も、傍観している訳にはいかないようだな」

 

事態を静観していたその男は、静かに動こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか、外道へのお仕置きが大半を絞めました。


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双方の危難

投稿休んでいて申し訳ありません!言い訳は後書きで。

ウェル博士の髪は灰色だと思うので、これからは灰色にします。

後、最初は結構時間飛ばします。


時は少し戻りーーーーーーーー。

 

ーfine<フィーネ>アジト・切歌と調の部屋ー

 

「・・・・・・トイレ」

 

ライブ襲撃から数日足った深夜。月詠 調は同じ部屋で暢気に眠る暁 切歌を起こさないように部屋を出てトイレに向かった。

 

ー通路ー

 

「・・・・・・・・・」

 

トイレを済ませた調は、眠気眼をこすりながら部屋に戻ろうとすると。

 

『バタン!』

 

「・・・ッ!? カルディア?」

 

突然近くの部屋から物音が聞こえ、蠍座<スコーピオン>のカルディアの部屋に立つ。

 

「(コンコン)カルディア、(コンコン)カルディア・・・?」

 

ノックする調は意を決してカルディアの部屋に入ると。

 

「ッ!!」

 

部屋を開けた瞬間、サウナと思うような熱気が調の身体を包んだ。そして調の目の前にベッドから落ちたのか倒れているカルディアの姿が写った。

 

「ぐっ・・・がっ!・・・ぐうぅぅぅっ!!」

 

「カルディアッ!?」

 

無地のTシャツにボクサーパンツを着て、胸を抑えて苦しそうに唸り声を上げるカルディアを見て調は慌ててカルディアの身体に触れると。

 

「熱っ!!」

 

カルディアの身体はとてつもなく“熱く”なっており、調はカルディアに起こった事を察した。

 

「まさか“発作”が・・・?!」

 

調は部屋に備えてある端末からマリア達に連絡を取ろうとするがーーーー。

 

「止めろ、調・・・」

 

「でも・・・」

 

カルディアが、調の服の袖を掴んで引き止めた。

 

「計画は始まったばかりなんだ・・・余計な問題を起こす事はねえ・・・!」

 

「“余計な”って・・・カルディア・・・!」

 

「それよりも・・・冷蔵庫から水と・・・冷凍庫から氷を大量に持ってきてくれ・・・」

 

「・・・・・・うん」

 

自身の事を省みないカルディアに色々言いたい所だが、調はグッと堪えて、カルディアの部屋に備えてある冷蔵庫からキンキンに冷えたミネラルウォーターを持ってカルディアに渡し、カルディアが飲んでいる間に冷凍庫から氷を氷袋に入れて、カルディアの身体に置いた。

 

「あぁ気持ちいいわ~~、これで少しは落ち着く」

 

カルディアの身体に置いた氷袋の中身はあっという間に水になり、調は新しく冷凍庫から持ってきた氷袋と交換し、新しいミネラルウォーターを渡す。

 

「(ゴクゴクゴクゴクゴクゴク・・・)ぷはぁ、この“時代”って本当に便利だな、キンキンに冷えた水やらが直ぐに持って来れるんだからよ」

 

「ジーーーーーーーーーー・・・」

 

「ん、なんだよ、人の事ジーーーと見やがって・・・」

 

「カルディア、服脱いで」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

調の言葉に一瞬思考が停止したカルディアは、自分の身体を抱きしめ。

 

「調、まだお前には早いぞ・・・」

 

「汗まみれになった身体を拭いてあげるから服を脱いで」

 

「あぁそゆこと。別に身体を拭く位、自分で出来「良いから脱いで・・・!」イヤン♪ 調ちゃんったら強引なんだから♪」

 

ふざけるカルディアを無視して調はカルディアのTシャツを剥ぎ、細く見えて引き締まっており、無駄な脂肪や無駄な筋肉が全く無く、戦うために鍛え、洗練された身体が露になる。

 

「・・・・・・」

 

調は部屋に備えてあるロッカーからタオルを数枚取りだし、汗まみれのカルディアの身体を拭きながら話しかける。

 

「カルディア、どうにもならないの? このままじゃいずれ・・・」

 

「良いんだよ。“コイツ”とはもうほとんど生まれた時から一緒にいたようなモンだからな、今更どうにかしようなんて思わねぇよ」

 

「・・・・・・ねぇカルディア」

 

「あん?」

 

「この戦いが終わったら、また遊園地に連れてって。今度は切ちゃんやマニゴルドだけじゃなくて、マリアやマム、それに出来るならアルバフィカも一緒に」

 

「遊園地か、ほんの少し前なのに随分昔に感じるな」

 

カルディア達と初めて出会って間もない頃、マニゴルドとカルディアは何を思ったか、切歌と調を連れ回して遊園地に行った事があった。

 

初めて乗るメリーゴーランド。

 

涙を流しながら驚きまくったお化け屋敷。

 

喉が枯れそうなほど叫び声を上げたジェットコースター。

 

観覧車で一望した景色。

 

きらびやかなパレード。

 

全てが眩しく、楽しく、切歌と調にとって忘れられない思い出になった。

 

「あの後、マムとマリアにこってり絞られたね」

 

「アルバフィカなんて、呆れ笑みを浮かべていたな」

 

「だから今度は、皆で行こう。そうすればマムもマリアも怒らないよ」

 

「・・・・・・そうだな。まぁ、考えておくわ」

 

「うん・・・」

 

身体が拭いた後、新しいシャツに着替えたカルディアは、汗で湿気ったベッドに眠らず、床にシーツを敷いて眠り、調もカルディアを心配して寄り添うように眠った。

 

後日、調がいない事でパニックになった切歌が入ってきて、騒ぎになり。

 

「おいおいカルディア、光源氏のつもりか(ニヨニヨ)? それともロリに目覚めたのか(ニヤニヤ)?」

 

マニゴルドに茶化され。

 

「調を泣かせたら許さないデスよ・・・!」

 

切歌に釘を刺され。

 

「もしも一線を越えた時は、引導を渡してやる」

 

アルバフィカから嬉しい脅しを受け。

 

「えっ? えっ? えぇっ!!? 調とカルディアってそう言う、ええええぇぇ・・・!!」

 

マリアは混乱してしまい。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ナスターシャ教授からは無言で睨まれ、カルディアは大変面倒な思いをしたのは割愛しておく。

 

 

 

そして、時間は少し先に進みーーーー。

 

ここはfine<フィーネ>飛行艇の一室では、一人の男が床を這いずりながら顔の痛みもがいていた。鼻の骨に皹が入ったのかガーゼで覆い、両頬もガーゼで覆い、更に顔全体に包帯を巻きミイラのような顔を苦痛に歪ませ、その目は飢えたケダモノのようにギラギラと血走らせた、灰色の髪に白衣を着た研究者、ウェル博士である。

 

「ギギギギ!・・・ガガアァァア!・・・ギヒアアァアァア!!」

 

彼もまた、あの決闘からまともに眠れなかった。目を閉じると自分をこんな目に合わせた忌々しい小僧、“レグルス”の見下ろす冷たい目と、自分の切り札を破壊した小娘、“響”の暴走した姿が何度もフラッシュバックし、眠れない日々を送っていた。

 

「~~~~~~~~~ッッ!!」

 

フラッシュバックが起こる度に悲鳴を上げ、床を転げ回り、爪で壁を引っ掻き、椅子や机や“ソロモンの杖”に当たり散らしていた。

 

「アイツらのせいだ! あの化け物共のせいでっ! ネフェリムを失った責任で立場が弱くなったのも! 醜態を晒した事でケダモノ達<マニゴルドとカルディア>になじられるのも! 全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部、全部!! あの化け物達<レグルスと響>のせいだ!!! アイツらのせいで僕がぁっ!! この僕がああああああぁぁああああぁぁぁぁぁあああああぁぁああッッ!!!!」

 

レグルスに付けられた傷が疼き初め、再び怒りが燃え上がり、癇癪を起こすウェル博士。ネフェリムを失う事態になったのも、醜態を晒したのも、自分自身の自業自得なのに、全てレグルスと響にせいにし、二人に憎悪を抱き、逆怨みの炎を燃やしていた。

 

 

 

 

 

そして時間は戻り。

 

ーリディアン音楽院ー

 

決闘から数日が足ち、退院した響は翼やクリスと会っていた。

 

「いや~面目無い~ご心配お掛けしました!」

 

頭を下げる響は何処か顔から少し憑き物が取れた顔していた。

 

「存外元気そうじゃねぇか。ま、良い機会だからしばらく休んでな」

 

「な~んと!この立花 響、休んだりとかボンヤリしたりとかは、得意中の得意でーす! 任せてください!」

 

「本当に大丈夫なのか? 私達を安心させようと気丈に振る舞っているのではあるまいな?」

 

「いやそんな事はありませんよ(半分しか)。て言うか、翼さんの方が大丈夫何ですか? なんか心無しかボロボロになってますけど・・・?」

 

「気にするな・・・・・・」

 

「クリスちゃんはなんかリフレッシュしたって感じだけど・・・?」

 

「気にすンな♪」

 

何やら疲弊した雰囲気と言うかオーラみたいなモノを纏っている翼と、その翼とは対照的に妙にツヤツヤした顔色のクリスを響は訝しそうに見つめる。翼が響の“左手”を取り。

 

「翼さん、痛いです・・・」

 

「すまない・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

ネフェリムに食いちぎられた“左腕”が、暴走時に再生された事があったので、翼もクリスも心配そうに見つめていた。

 

「・・・・・・ごめんなさい」

 

「本当に何もないならそれで良い・・・」

 

翼は先日の日本政府とのやり取りを思い出す。

 

 

 

* * *

 

 

ウェル博士により“月の落下”が証明され、二課本部は騒然となり。友里と藤尭が各方面に連絡を取り合っている間に、弦十郎は日本政府の重鎮と会議をしていた。

 

「《米国の協力を仰ぐべきではないか?》」

 

「米国からの情報の信頼性が低い今、それは考えられません! 状況は一刻を争います! 先ずは月軌道の算出をする事が先決です!」

 

「《独断は困ると言ってるだろう》」

 

「《先ずは関係省庁に根回しをしてから、それから本題に入っても遅くはない》」

 

“月の落下”など当然非現実的な話を信じられない人間達は悠長な会議が平行線していた。騒然となる指令室を尻目に見つめるエルシドがいた。

 

「(平行線だな。余りにも荒唐無稽な話だから、危機感をまるで持っていないのも仕方無い事だが、人々がこの事態を知っても、黙殺されるか混乱が生まれるだけ、アルバフィカの言っていたのはこれか・・・)」

 

「エルシド、話がある。来てくれないか?」

 

平行線の会議が終わった弦十郎はエルシドに話しかけ、別室に行くと、そこに翼もおり。弦十郎は二人にガラスケースに入った“結晶体”を見せる。

 

「これは・・・?」

 

「メディカルチェックの際に採集された、響君の体組織の一部だ」

 

弦十郎は壁に映る映像でレントゲン写真を見せると。

 

「胸のガングニールが・・・!」

 

レントゲン写真には響の身体の内部をガングニールの破片を中心に木の根っこのように響の身体に張り巡らしていた。

 

「身に纏うシンフォギアとして、エネルギー化と再構成を繰り返してきた結果、体内の侵食進行が進んだのだ」

 

「生体と聖遺物が一つに溶け合って・・・」

 

「弦十郎殿、この事を知っているのは?」

 

「俺たちの他数人とレグルス君とデジェルも知っている。適合者を超越した、響君の爆発的な力の源だ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「デジェルとレグルスの見解は?」

 

「デジェルは、なるべくなら響君を戦力から外す事を視野に入れるべきと言ったが、レグルス君は・・・」

 

『この事を知っても、俺たちが止めても、響は絶対に戦いから身を引こうとはしないよ。誰かを助けられるなら響は自分の身を削る事を厭わないから・・・』

 

「レグルスの言っている事は、立花の性格を良く理解している見解だな」

 

「この融合が、立花の命に与える影響は・・・?」

 

「遠からず、死に至るだろう・・・」

 

弦十郎の言葉に翼の瞳と手が震える。

 

「立花・・・死ぬ・・・バカな・・・!」

 

「そうでなくても、これ以上の融合状態が続いてしまうと、それは果たして、“人”として生きていると言えるのか・・・!」

 

「・・・・・・」

 

「(奇しくもある意味立花は、カルディアと“同じ”になってしまったか・・・)」

 

翼は目を伏せてしまい、エルシドも目を閉じる。

 

「皮肉なことだが、先の暴走時に観測されたデータによって、我々では知り得なかった危険が明るみに出たと言う訳だ」

 

「壊れる立花、壊れた月・・・」

 

「FISは、月の落下に伴う世界の救済等と立派な題目を掲げてはいるが、その実ノイズを操り、進んで人命を損なう輩だ。このまま放っておく訳にもいくまい。だが! 響君を欠いた状態で、我々は何処まで対抗できるのか・・・!」

 

奏者の数も黄金聖闘士の数も互角。しかし、響達は適合係数の謎の低下により戦力がダウンした状態、こちらの不利が否めない状態なのだ。

 

「エルシド、“アスミタ”はこの事態になっても動かないのか?」

 

「月の落下はともかく、我々の戦いにもヤツは“中立”を貫くだろう」

 

「FISは、人の命を損なう輩なのに、それでも彼は動かないのか?」

 

「ヤツの事だ、必要ならば犠牲もやむ無しと考えるだろう。FISは人命を危険に晒すが、大事の為ならば仕方無しと考えるだろうな」

 

「いずれにしても、立花をこれ以上戦わせる訳にはいきません。掛かる危難は全て、防人の剣で払って見せます!」

 

壁に写された月の映像を見据えながら、翼は決意を込める。

 

 

* * *

 

「なあ、もしかしておっさんに何か言われたのか?」

 

「っ! 手強い相手を前にして、一々暴走しているような半人前をマトモな戦力として数えるなと言われたのだ」

 

「えっ!?」

 

「戦場に立つなと言っている! 足手まといは二度とギアを纏うな!」

 

「うあっ!」

 

敢えて厳しい事を言う翼は響を押し出した。

 

「お前、それ本気なのか!?」

 

「・・・」

 

「オイッ! 何とか言ったらどうだ!!」

 

そっぽを向く翼にクリスが掴み掛かる。

 

「この事は! エルシドもデジェルも同意見だ」

 

「兄ィが・・・!」

 

「戦場に出れば、否が応にも自身の力が及ばない相手は必ず現れる。射手座の黄金聖衣を纏った時のフィーネが良い例だ! 我々はヤツに手も足も出ないどころか、歯牙にも掛けられなかった。そんな時に、一々暴走して仲間にも牙を向ける未熟者は、足手まといだ!」

 

「お前っ!」

 

「クリスちゃん!」

 

更に翼に掴み掛かろうとするクリスを響が止めた。

 

「なっ・・・」

 

「良いよ・・・私が暴走したのも、半人前なのも、ほんとの事だから」

 

「ちっ・・・!」

 

「FISには、私達で対応すれば良い。行方をくらませたウェル博士についても、目下二課の情報部が中心となって、捜査を続けている。たかが知れている立花の助力など、無用だ」

 

「えっ?」

 

翼の冷たい言葉に響は辛そうに顔を俯かせた。そんな響に見向きもせず、翼は離れていった。

 

「待ちやがれ! オイ! お前何のつもりだよ!」

 

クリスが翼を追うが、響はそのまま立ち竦んだままであった。

 

 

 

ーカ・ディンギル跡地ー

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

その頃、ウェル博士は“ソロモンの杖”を杖代わりにしながら、フラフラになりながらさ迷っていた。頭部の顔半分の痛みに耐えながらもその顔つきはまるで何年も年を執ったかのように老けていた。

 

「うわっ! ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

足を滑らせ、岩肌を転がり落ちたウェル博士は丁度、岩場に出来た穴から“ある物”を見つけた。

 

「あっ! へ、イヒヘヘヘヘヘヘヘ・・・」

 

それは、暴走した響が引き摺り出した、ネフェリムの心臓部であった。赤く点滅するそれをウェル博士は持ち上げ。

 

「フフ、ヒヒ、アヒハハハハハ。こんな所にあったのかぁ、フフフ、“これ”と“あれ”さえあれば英雄だぁ・・・」

 

不気味な笑みを浮かべたウェル博士はそのままネフェリムの心臓部を持ち出して、その場を後にした。

 

 

 

 

だが、ウェル博士は気づいていない、自分を見ていた“人間”がいたことを。

 

「あれは、ネフェリムの心臓か・・・。あの男<ウェル博士>、何を企む・・・?」

 

その男は目を閉じた顔を訝しそうにしていた。

 

 

ーFIS飛行艇・寝室ー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

横になったナスターシャ教授の近くでマリアが優しい歌を歌う、アルバフィカはその歌を心地好く聴いていた。ナスターシャ教授も目を向けると、歌を歌うマリアが映り少し微笑む。

 

「(・・・優しい子、マリアだけではない、私は優しい子達に十字架を背負わせようとしている)」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「(私が、間違っているのかも知れない)」

 

「・・・・・・・・・フッ」

 

起き上がったナスターシャ教授を見て、アルバフィカもフッと微笑む。すると、壁の端末から連絡が届き、マリアも歌をやめる。

 

「っ・・・」

 

「私です」

 

《おう婆さん、どうやらくたばり損なったみたい「ドゴッ!」はぐっ!?》

 

《もしかして、もしかしたらマムデスか・・・?》

 

《具合はもう良いの?》

 

悪態付くマニゴルドを蹴飛ばして、切歌と調が通信に出る。

 

「マリアの措置で急場は凌ぎました」

 

 

 

 

ー切歌・調・マニゴルド・カルディアsideー

 

四人が歩いているのは、カ・ディンギル跡地の近く、響が通っていた商店街であった。ルナアタック時の災害が残る建物はほとんどボロボロで、アスファルトも少し崩れた場所を歩いていた。

 

「良かった・・・」

 

「はぁ、で、でねマム。待機しているはずの私達が出歩いてるのはデスね・・・」

 

《分かっています、アルバフィカの指示ですね?》

 

「はぁ・・・」

 

「マムの容体を見れるのは、ドクターだけ、でも連絡が取れなくて・・・」

 

《二人ともありがとう・・・》

 

いつもと違う優しい声色だった。

 

ーナスターシャsideー

 

「二人ともありがとう・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

ナスターシャ教授の優しい声色にマリアとアルバフィカも面食らう。

 

《おいこら婆さん、礼を言うのはこの二人だけかよ!》

 

《テメェら、いきなり人の脇腹にドロップかましやがって・・・!》

 

グリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリグリ!!×2

 

《《あぁ~! 痛い痛い! ごめんなさい(デス)! ごめんなさい(デス)!!》》

 

通信越しからドタバタかましている四人をナスターシャはにこやかに微笑み。

 

「勿論、貴方方にも感謝してますよ。では、ドクターと合流次第連絡を。ランデブーポイントを通達しますから。マニゴルド、不測の事態の折りには『黄泉比良坂』を通って来て下さい」

 

《あいよ、了解!》

 

ピッ!

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「どうやら、一安心だな・・・」

 

「オラ、オメェら。とっととドクターを回収すんぞ」

 

シュ~~~~~~~×2

 

グリグリ攻撃を浴びた二人も立ち上がり。

 

「アタタタタ、まさかマムが出るとは思っても見なかったデスよ」

 

「でも、本当に良かった・・・」

 

「うん」(ぐうううぅぅっ!!)

 

すると切歌のお腹から腹の虫が鳴った。

 

「/////////」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

顔を赤らめた切歌は腹を抑える。

 

「おっと、安心した途端にこれデスよ・・・/////」

 

「今日は朝からなにも食べてないから・・・」

 

「って言ってもな」

 

「しゃあねえ、俺とカルディアで何か買ってくから、お前らはドクター見つけて来い。通信すれば直ぐに飛んでくっからよ」

 

「うん」

 

「了解デス♪」

 

そう言って手を取り合って走り去る二人を見送ったマニゴルドとカルディアは買い出しに向かう際、『ふらわー』と大きく書かれたお店が目に入る。そこでは、店主のおばちゃんが皿を洗っていた。

 

 

ー公園ー

 

その頃、響は未来や弓美と創世と詩織と『ふらわー』からの帰り道を歩いていた。

 

「しっかしまぁ、うら若きJKが粉物食べ過ぎじゃないですかね~」

 

「・・・・・・・・・」

 

「ねえったら!」

 

上の空の響に弓美が話しかける。

 

「あ、あぁ、旨さ断然トップだからね。おばちゃんのお好み焼きは・・・」

 

「お誘いしたかいがありました」

 

「おばちゃんも凄く元気そうで良かった」

 

「以前程、簡単に通えませんからね」

 

ルナアタックの被害にあった商店街は、中々お客が来なくなっていたのだ。

 

「でもビッキー、これで少しは元気出たんじゃない?」

 

創世の言葉に振り向く響。

 

「えっ・・・?」

 

創世と詩織が苦笑いを浮かべ、弓美が近づき。

 

「あんたってば、ハーレムアニメの主人公並に鈍感よね(レグルス君苦労しそう・・・)」

 

「何処かの誰かさんがね、最近響が元気無いって心配しまくってたから、こうしてお好みパーティーをもようした訳ですよ」

 

「///////」

 

創世の言葉に未来は頬を赤くする。

 

「未来が・・・」

 

「ま、ヒナはあの金髪さん<アスミタ>が帰って来てないかってのもあったんでしょうけど(ニヤニヤ)」

 

「アハハハハ/////////」

 

「アハハハハ」

 

キキイイイイイイィィィィィ!!!

 

「ウワアアアアア!?」

 

響達の目の前を三台の車が通り過ぎ、車内には二課の情報部の黒服がいたのを響は見逃さなかった。

 

チュドオオオオオオオオオオオン!!

 

通り過ぎた車が見えなくなると、突然爆発が起きた。

 

『ッ!?』

 

驚く響達。

 

「今の!?」

 

「ッ!!」

 

響達は走りだし、爆発現場に付くと。

 

大破した車。

 

空気に舞う黒ずみ。

 

ノイズ達と顔を包帯で巻き、左手に布の塊を持ったウェル博士だった。

 

「イヒヒヒヒヒ、誰が追いかけて来たって、こいつを渡すわけには・・・!」

 

『ッ!!』

 

包帯に包まれた顔を歪んだ笑みに染めるウェル博士に響達は警戒する。

 

「ウェル・・・博士・・・!」

 

「ッ!? な、何で! お前がここに!!?? ヒ、ヒアアアアアアアアアアアッ!!」

 

先日の暴走で響に恐怖心が生まれたのか、錯乱したウェル博士がノイズをけしかける。

 

『ッ!!』

 

友達を守るために響は歌う、戦いの歌を!

 

「ッ!! ♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪! うおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

響はギアが展開するより先に、ノイズに拳をぶつける。

 

「響!」

 

「人の身で!? ノイズに触れて・・・!?」

 

が、ノイズに触れた拳から、ギアが展開され、ノイズを粉砕する。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

ノイズを粉砕した衝撃波がウェル博士を襲う。

 

「ヒイイイイイイイイイイイイイッ!!!」

 

響は汚ならしく悲鳴を上げるウェル博士を真っ直ぐに見据える。

 

「この拳も! 命も!! シンフォギアだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




投稿休んでいた訳は・・・・・・・・・『スーパーロボット大戦X』が面白くて、サボっていました!申し訳ありません!

でも、ルルーシュ復活と主人公ポジのワタルや、ワタルやナディアとジャンに優しいアンジュや、そのワタルにデレデレのサラマンディーネ。青葉とベルリのやり取り、マジンガーコンビとグレラガのシモン、マイトガインのカッコ良さったら最高でした!

男主人公時では、相棒との喧嘩や女主人公と相棒の癒されるやり取り。でも、女主人公は、主人公に選んでも選ばれなくても、ヒロインポジションですね(笑)。


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蠢く狂気

ー二課・指令部ー

 

響がウェル博士と対峙してしている頃、二課本部では、追跡班との連絡が途絶えていた。

 

「情報部、追跡班との通信途絶!」

 

「ノイズの出現パターンを検知しています!恐らくは・・・!」

 

友里の報告を聞いて、追跡班が全滅した事を悟った弦十郎は顔をしかめた。

 

「ぬぅっ・・・! 翼とエルシド、クリス君とデジェルを現場に回せ! 何としてでも“ソロモンの杖”の保有者<ウェル博士>を確保するんだ!」

 

「ノイズと異なる、高出量のエネルギーを検知!」

 

「波形の照合、急ぎます!」

 

モニターに『GANGNIR<ガングニール>』と映し出さた。

 

「まさか、これって・・・!」

 

「ガン、グニール、だと・・・!」

 

それが響のガングニールの波形だと知り、唖然となる弦十郎は直ぐに気持ちを落ち着かせ。

 

「レグルス君はどうした!?」

 

「別の班と行動しているようですが、間も無く到着するようです!」

 

「(頼むぞレグルス君、このままでは響君は・・・!)」

 

 

ー響sideー

 

響がシンフォギアを纏い、ウェル博士と対峙した。

 

シュイイイイイイイイインン・・・。

 

すると、響の胸元の傷痕が光り、響の身体が光る。

 

「(力が・・・みなぎる・・・!)」

 

落ちてきた落ち葉が響に触れるとまるで炎に触れたかのように燃え尽きた。

 

「な、なんだと!?」

 

それを見たウェル博士は驚愕する。

 

「この熱気・・・!」

 

「立花さんが・・・?」

 

「どうなっちゃってんの・・・?」

 

「・・・・・・」

 

創世と詩織と弓美も戸惑い、未来は不安そうに響を見つめた。

 

「いつも、いつも! 都合の良いところで! こっちの都合をしっちゃかめっちゃかにしてくれる! お前はあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

するとウェル博士は癇癪を引き起こし、“ソロモンの杖”を構えて、代わり映えせずノイズを射出した。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」

 

響は真っ直ぐノイズは見据えて、戦いの歌を歌いながらノイズを蹴散らしていく。

 

「っ!」

 

未来は戦う響を見つめ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」

 

響はノイズの大軍に飛びかかり次々となぎ倒して行く。

 

「響・・・・・・」

 

不安そうな未来。

 

「いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!いつも!お、お、お、お、おおおおお!」

 

ついにヒステリックに喚きながら、しつこくノイズを射出するも、響にはまるで相手にならず、ノイズは消滅していった。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」

 

響は右手を構えると、パーツが展開していき、握り手の甲にナックルダスターが展開し、右腕のパーツが開き、タービンが回転した。

自分に迫り来るノイズに向けて、腰のバーニアが火を吹き、ノイズに迫る!

 

「いっけーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

「ままままままままままま、まぁッ!!!」

 

迫る響にウェル博士は止めようと悲鳴を上げようもするも。

 

チュドオオオオオオオオオオオン!!

 

 

光の爆裂が広がり、爆発で生じた煙が晴れると、ウェル博士の前のノイズ達は全て炭素消滅し、ウェル博士が剥き出しになる。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!!」

 

「ウゥワッ!!」

 

自分を真っ直ぐ見据える響を見て、ウェル博士は懲りずに、と言うよりヤケクソでノイズを再三射出する。射出されたノイズはゆっくりと響に向かうが。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪、ハアアアアアアアアアア!!!」

 

響は再び拳を構えて足のパーツをジャッキのように展開させ、ノイズに拳をぶつけようとするがーーーー。

 

「は~い、響、そこまで!」

 

「えっ?」

 

突然、響の腕を誰が掴んだ。

 

「えっ?えぇっ!!? レグルス君っ!?」

 

「レグルス君・・・?!」

 

『あ、あの人・・・!』

 

唖然呆然する響と未来、レグルスと面識がある弓美達の目の前に、片手で響の腕を掴んだレグルス(聖衣装備)だった。

 

「あ、あぁ、あああああああぁぁぁああぁあぁああああああああッッッ!!??」

 

だが、ウェル博士は違っていた。彼の脳裏に、先日の戦いで見たレグルスの『百獣の王』の殺気を纏った姿が甦った。

 

『お前、さっきから煩いよ・・・!』

 

「ヒッ、ヒッ、ヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!!!」

 

無様に尻餅を付いたウェル博士はレグルスから離れようと後ずさる。そんなウェル博士を無視する。と言うより眼中に無いレグルスは。

 

「まったくもう、謹慎中になにやってンの? それに今の勢いじゃウェル博士も殺してたよ」

 

「レ、レグルス君・・・どうしてここに・・・?」

 

「別の場所でウェル博士を捜索していたんだけど、本部からの連絡で急いで来たん・・・だっ!!」

 

レグルスは空いたもう片方の手から『ライトニング・プラズマ』を放ち、ノイズを殲滅した。

 

「それに、あの子達とも戦り合う事にもなってたぞ」

 

レグルスが目を向ける先を見ると、響とウェル博士の間に、桃色の丸鋸が立っており、丸鋸に付いてあるマジックアームの先を見ると、桃色のシンフォギアを纏った調と翠のシンフォギアを纏った切歌がいた。

 

「私の“シュルシャガナ”は、汎用性に優れているから防ぎきれる・・・!」

 

「デスけど、あのまま突っ込まれてたらちょっと危なかったデスけどね・・・!」

 

「調ちゃん、切歌ちゃん・・・!」

 

「“シュルシャガナ”・・・なるほど、君達のシンフォギアは“シュメール神話”の聖遺物か?」

 

レグルスの言葉に切歌と調はギクッとリアクションする。

 

「バレてる・・・!?」

 

「な、何で分かったデスか!?」

 

「この間の橋での戦闘で、切歌が“イガリマ”って叫んでいたからね。君達二人の聖遺物は、“シュメール神話”の“戦女神 ザババ”が振るったとされる二刃、“イガリマ”と“シュルシャガナ”だな・・・!」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

二人は沈黙が正解と謂わんばかりに、渋い顔をする。

 

「ギリシャ神話の闘士、聖闘士の最高峰である黄金聖闘士が、シュメール神話の戦女神のシンフォギア奏者と共に行動するなんて、随分パンチが効いてる皮肉だな。そう思わない? マニゴルド、カルディア!」

 

切歌と調を守るように、紙袋を抱えてビーフジャーキーをかじるマニゴルドと林檎をかじるカルディアが立ち塞がった。

 

「まぁ確かに、結構な皮肉だな・・・」

 

「全くようやく見つけたらこんな面倒事かよ・・・!」

 

尻餅付いたままのウェル博士を尻目に、レグルスと対峙するマニゴルドとカルディア。マニゴルドは耳の通信機を操作する。

 

「(ピッ!)婆さん、ドクターは見つけたが、ガングニールとレグルスに見つかったぜ」

 

《そうですか、“櫻井理論”に基づく異端技術は、特異災害対策機動部二課の所有物ではありません。ドクターがノイズを発生させた事で、その位置を絞り込むことも容易い》

 

《だけどマム・・・!》

 

《分かっています。こちらが知り得た事は、相手も又然りです。急ぎましょう》

 

《皆、聞こえてるわね》

 

「あいよ了解(ピッ!)。レグルス、俺らはドクターを回収しに来ただけだ。ここでお前と殺り合う積もりはねぇよ」

 

「・・・・・・その言葉、信じて良いの?」

 

「ここでお前と殺り合っても面白くねぇから「何を悠長な事を言ってるンですかッ!!!」あぁっ?」

 

マニゴルドの言葉を遮るように、大声を上げながら立ちがるウェル博士をマニゴルドとカルディアは鬱陶しそうに見る。

 

「あの二人は! 我々の計画の妨げになる存在なんですよ! いつも、いつも、いつも、いつも、いつも、いつも! 人の都合が良いのを邪魔して! 人の楽しみに水を指しまくるこの二人は! 今すぐにでも殺して(ドゴッ!)(メキっ!)グベェッ!!??」

 

喚き散らすウェル博士の腹にマニゴルドの回し蹴りが、鳩尾にカルディアのつま先蹴りがめり込む。

 

「グブッ・・・ゲ、ゲエェッ! ゲブボオエエエエエエエエエエエエエエェッッッ!!」

 

“ソロモンの杖”を落とし、目が裏返り、痛みで悶絶するウェル博士は四つん這いになって嘔吐する。“ソロモンの杖”は嘔吐した吐瀉が掛かりそうだったのをカルディアが回収した。

 

「わ~~お・・・」

 

「えぇ・・・!?」

 

『うわ~~~~・・・・・・!』

 

「マニゴルドもカルディアも・・・」

 

「結構エグいデスね・・・」

 

一応(本当に一応)仲間である筈のウェル博士に突然暴行したマニゴルドとカルディアにレグルスと響だけでなく未来達や調と切歌もドン引きした。

 

「ゲベエェッ! グゲェッ!ゲホッ! ゲホッ!(ドカンっ!)ゲバァッ!!」

 

四つん這いになったウェル博士の頭にマニゴルドの足が、背中にカルディアの足をのせてウェル博士を踏みつけた。踏みつけられたウェル博士は、そのまま今自分が嘔吐した吐瀉物に顔面から浴びた。

 

「(バタバタバタバタバタバタバタバタ!!!)」

 

鼻に入る酸っぱい匂いと、口に入る気持ち悪い味、目に入る吐瀉物、包帯から染み込み肌に触れる生暖かい感触にウェル博士はもがくように手足をバタつかせた。が、そんなウェル博士をマニゴルドとカルディアは虫けらを見るような冷徹な目で見下ろし。

 

「調子に乗ってンじゃねぇぞ、ドクター・・・!」

 

「俺らは知ってんだよ、前回の決闘の最初から最後までな・・・!」

 

「(ビクンッ!!!)」

 

マニゴルド達から言われた言葉に、ウェル博士は全身が硬直した。

 

「俺らが申し込んだ決闘を横からシャシャリ出て奪って、こっちの“切り札”でもある“ネフェリム”を持ち出してまで挑んだ結果、テメェは何の成果を上げた・・・ああぁっ!」

 

マニゴルドは足に更に力を込めて踏みつける。

 

「(バンバンバンバンバンバン!)」

 

アスファルトを必死に叩くウェル博士を無視してカルディアも足に力を込める。

 

「切り札である“ネフェリム”を失った失態と、レグルスに殴られて無様に醜態を晒し、あろう事かこんな騒動まで引き起こしやがって・・・よぉっ!」

 

「(俺が、ウェル博士を殴った?)」

 

 

カルディアの言葉にレグルスは首を傾げると、ウェル博士は顔を横に向いて喚く。

 

「ま、待って下さい! ネ、“ネフェリム”を失う事になったのは私では無くそこの化け物<立花 響>がっ! そ、それに! “ネフェリム”は・・・!」

 

ウェル博士は自分の左手にある“ネフェリムの心臓部”がくるまった布を出して、響に責任転嫁をしようとするが。

 

「「うぜぇッ!!」」

 

「ぐばぁっ!! あ、あ、ああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

更に力を込めて踏みつけられて耳障りな悲鳴を上げるウェル博士。

 

「言い訳してんじゃねぇぞ! 人の決闘を奪っておいて、失敗と失態と醜態を晒しやがって!」

 

「本来なら、“ソロモンの杖”を回収して、テメェは良くて顔面変わる程に殴るか、最悪“半殺し”にしても良かったんだぜ、こちとら!」

 

「ヒィッ!ヒヒィッ! ヒヒィイイイイッ!!!」

 

黄金聖闘士二人の殺気を充てられ惨めな悲鳴を上げるウェル博士。

 

「あの~マニゴルド、カルディア・・・」

 

「そろそろ退散しよう・・・」

 

ゴロツキやチンピラ処か、ヤクザかギャングのような二人の威圧感に弱冠引きながらも切歌と調は話しかける。

 

「ああ、それもそうだな」

 

「こんな所でドクターを絞めても時間の無駄だしな」

 

切歌と調の方に顔を向けた二人は途端にいつもの調子に戻り。ドクターから足を退けた。

 

「あのさ、マニゴルドにカルディア・・・」

 

「あん?」

 

「お?」

 

レグルスが二人に話しかける。

 

「さっき聞こえたんだけど、俺がウェル博士を殴ったってほんと?」

 

『は・・・・・・?』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」

 

マニゴルドとカルディアだけでなく、調と切歌まで、レグルスの言った事が理解できずマヌケな声を出す(ちなみに響は腕を噛み千切られたショックであまり覚えていない)。特に殴られたウェル博士はレグルスの言葉に頭が真っ白になる。

 

「レグルス、お前、覚えてないのか?」

 

「イヤ~、あの時は“ネフェリム”って化け物をぶっ飛ばして、ぶちのめすって頭がいっぱいだったから、響が暴走した時以外あんまし覚えてないんだよね~」

 

頭を掻いてアハハと笑うレグルスを見て、マニゴルド達(ウェル博士は除く)は円陣を組み。

 

「(ヒソヒソ)惚けてるのかな・・・?」

 

「(ヒソヒソ)それとも挑発デスかね・・・?」

 

「(ヒソヒソ)嫌、レグルスに惚けるとか挑発だなんて高度な心理戦なんてできる筈がねぇ・・・」

 

「(ヒソヒソ)って事はつまり・・・」

 

ヒソヒソと話す四人はレグルスに目を向けて。

 

『コイツ、ドクターをぶん殴った事、忘れてるな・・・』

 

呆れ目の四人をレグルスは「???」と謂わんばかりに首を傾げた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ウェル博士に至ってはレグルスの言葉が理解できず茫然自失していた。

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・・」

 

「ん、響・・・?」

 

すると息切れを起こした響にレグルスが目を向ける。

 

「うっ、あぁっ!?」

 

突然響が胸を抑えて膝を付く。

 

「響っ!?」

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ(ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン!!!)」

 

「響! ここは俺がやるから、ガングニールを解除するんだ!」

 

激しく鼓動する心臓を抑える響にレグルスはシンフォギアを解除するように呼び掛ける。が・・・。

 

「この僕の事を忘れていた・・・? この僕に・・・あんな屈辱を・・・あんな恥辱を・・・あんな侮辱を・・・あんな汚辱を与えておいて・・・・・・・・・・・・忘れていただとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!」

 

突然吼えたウェル博士はガバッと起き上がると、緑色の液体が入った注射銃を調と切歌に押し付けた。

 

「調っ!」

 

「切歌っ!」

 

ウェル博士は歪んだ笑みを浮かべ。

 

「イヒッ! 頑張っている二人にプレゼントですよ!」

 

切歌と調はウェル博士から離れると注射銃を押し付けられた首筋を抑え。

 

「何しやがるデスか!」

 

「“LiNKER”・・・!」

 

“LiNKER”。それは、適合係数の低いシンフォギア奏者の係数を引き上げる制御薬。

 

「テメェ、何してやがる! 効果時間にはまだ余裕があるだろうが!」

 

カルディアがウェルの胸ぐらを掴む。

 

「貴方達が悪いんですよ! 折角倒せる獲物を前に、退散だなんてつまらない事を言うから! 連続投与をするしか無かったんですよ!!」

 

「ハア!?」

 

「あの化け物達<響とレグルス>に対抗するには、今以上の出力で捩じ伏せるしかありません! その為には先ず、無理矢理にでも適合係数を引き上げる必要がありますからねぇ! さてさてどうします? マニゴルドさん? カルディアさん? まさか・・・この子達だけ戦わせる訳には行かないでしょう・・・!」

 

「テメェ・・・!」

 

「(ギリッ!)」

 

ウェル博士の言葉にマニゴルドとカルディアは忌々しいばかりに歯軋りする。

 

 

「でも、そんな事すれば、オーバードーツによる負荷で・・・!」

 

「ふざけんな! 何でアタシ達がアンタを助ける為にそんな事を!」

 

「するですよ!!」

 

『ッ!!!』

 

「イエ、せざる得ないのでしょう!? 貴方達が“連帯感”や“仲間意識”などで、私の救出に向かうなんて到底考えない事を! 大方、あのオバはん<ナスターシャ教授>の容態が悪化したからおっかなびっくり駆けつけたに違いありません!」

 

「「・・・・・・・・・!!」」

 

「(クソが・・・!)」

 

「(読んでやがる・・・!)」

 

こちらの意図を読んでいるウェル博士に四人は図星とばかりに黙る。

 

「病に犯されたナスターシャには、生化学者である私の治療が不可欠。さあ! 自分の限界を越えた力で、私を助けたらどうですか!! そして! 私に吐き気を催す程の屈辱を与えたあの化け物共を! 見事に打ち払ってくださいよッ!!!」

 

凄まじい程に傲慢な悪意と猟奇的な狂気に満ちたウェル博士はマニゴルドとカルディアと調と切歌に命令する。

 

 

ー二課本部ー

 

その頃、二課本部では、響の異変を当然察知していた。

 

「響ちゃんのコンディションに異常が見られます!」

 

「これは、ガングニールの侵食がもたらしているのか・・・?」

 

「っ・・・翼達はどうなっている?!」

 

クリスとデジェルはヘリコプターで、エルシドと翼はバイクで現場に向かっていた。

 

「奏者二名、聖闘士二名、現場に急行中!」

 

「ですが、到着にはもう少し掛かる見込みです!」

 

その頃翼とエルシドは高速をバイクで移動していた。

 

「立花、早まってくれるなよ・・・!」

 

 

ー響sideー

 

胸の傷口から光が溢れ淡く光る響。

 

「響・・・・・・」

 

「レグルス君・・・お願い、やらせて・・・」

 

「でも・・・!」

 

「お願い・・・!」

 

「・・・・・・」

 

戦おうとする響にレグルスは渋い顔をするがーーーー。

 

「やりたいって言ってんだからよ・・・!」

 

「やらせてやれや・・・!」

 

「っ!?」

 

レグルスの直ぐ目の前に蟹座と蠍座の聖衣を纏ったマニゴルドとカルディアが襲いかかる。

 

「ぐあッ!!!」

 

二人はレグルスを掴んだまま、戦線を離れる。

 

「(調、切歌! こっちは俺らでやる!)」

 

「(何とか持ちこたえてろよ!)」

 

調と切歌は、連続投与の影響で苦しそうに動く。

 

「くっ!・・・ヤろう! 切ちゃん!」

 

「マムの所に、ドクターを連れ帰るのが・・・!」

 

「私達の使命だ・・・!」

 

「ウフフ・・・」

 

健気に立ち上がる二人をウェル博士は澄まし顔でにやける。

 

「“絶唱”・・・デスか?」

 

切歌の言った言葉にウェル博士は更に不愉快な声をあげる。

 

「そう、ユー達歌っちゃえよ! 適合係数が天辺に届くほど! ギアからのバックファイアを軽減できる事は、過去の臨床データが実証済み!だったらLiNKERぶっこんだばかりの今なら!!」

 

歪みきった笑みを浮かべ、更に不愉快な声で雄叫びを上げる。

 

「“絶唱”歌いたい放題のやりたい放題ィィィィィィィッッ!!!」

 

「くっ!・・・後でカルディア達にいじめられるの覚悟で!」

 

「やってやる、デーーーーースッ!!!」

 

そして切歌と調は歌う。“諸刃の歌”をーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーお好み焼き店“ふらわー”ー

 

ふらわーの店主であるオバちゃんは、響達が食べた後の食器の洗いが終わり、一息付いていた。すると、店の扉が開き。一人の男性が入ってきた。

 

「ん? なんだい、帰って来てたのかい。少し遅かったね、先まで未来ちゃん達が居たのにすれ違いになっちゃったよ」

 

「ーーーーーーーーーー」

 

「確かに店回りは酷くなっちゃったけど、それでも来てくれるお客さんがいるからね、ありがたい事だよ。それでアンタは4ヶ月近くもどこをほっつき歩いてたんだい?」

 

「ーーーーーーーーーー」

 

「ふ~ん、諸国を歩いて巡礼の旅って訳か。それで? 何か得た物はあったかい?」

 

「・・・・・・・・・」

 

沈黙する男性をオバちゃんは微笑んで。

 

「ま、答えはそう簡単に直ぐに出やしないさ。お腹減ってないかい? たまにはオバちゃんのお好み焼きを食べてくんな」

 

「ーーーーー」

 

「しかしもかかしもないよ。突然4ヶ月も行方を眩ませてたんだから、これぐらいはやりな・・・!」

 

「・・・・・・」

 

観念したのか、男性はカウンター席に座る。少し待つと、香ばしいソースの匂いがする等分に切られたお好み焼きが、男性の前に置かれる。

 

「オバちゃんが食べさせてあげようか♪」

 

「ーーーーー」

 

必要無いと話した男性は、箸を持ってお好み焼きの一切れを口に入れた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

男性は言葉を失った。口に入れた瞬間、今まで感じた事の無い暖かな感覚が男性の心と身体を包み込んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

男性はもう一切れを頬張ると再び暖かな感覚を感じて、安らかな微笑みを浮かべた。その笑みを見たオバちゃんは帰って来た男性に向かって口を開く。

 

「お帰り、“アスミタ”・・・」

 

男性、“アスミタ”もオバちゃんの言葉を返す。

 

「ただいま戻った、店主殿・・・・・・」

 

別の場所では戦いが起こっているにも関わらず、その場所は暖かな世界が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『スーパーロボット大戦X』をやって思ったんですけど、前作のVのヒロインがナインなら、女主人公のアマリがヒロインですね。


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倒れる撃槍

久々に奏者に聖闘士設定。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「(く、空気が重い・・・!)」

 

調と切歌が“絶唱”を行うとする少し前、雪音クリスと水瓶座<アクエリアス>のデジェルは、響達が交戦している現場にヘリに乗って向かっていた。

だが、響を戦列から外した事をデジェルが賛成した事に腹を立てているクリスは、デジェルと距離を置き、顔をムスッとさせ、腕を組んで不機嫌オーラを出していた。

当然デジェルも分かっているが、事情を説明をする訳には行かないので、詩集を読みながら黙秘を貫き、それが更にクリスを不機嫌にさせて空気が重くなり、パイロットはその空気に当てられて参っていた。

 

「あいつ<響>を支えてやれば良いつったのは誰だったけ・・・!」

 

クリスが吐き捨てるように、デジェルに向かって言う。

 

「何も戦いだけが支えになる訳では無いだろう・・・」

 

デジェルは詩集から目を離さずに答える。

 

「だけど、あいつ凄く落ち込んでいたんだけど?」

 

「響君は、“対人戦闘に対する覚悟”が出来ていない。だから思い通りにならない事態に対して簡単に暴走してしまう。前回は“ネフェリム”という“獲物”とレグルスという“抑止力”がいたから大事には至らなかったが、下手をすれば君や翼にも牙を剥いていた」

 

「・・・・・・」

 

実際に“ルナアタック事変”の際に、自分が月を破壊せんとする“カ・ディンギル”の砲撃を防ぎ、その行為を嘲ったフィーネに対して響が暴走を起こし、翼を負傷させた事を聞いていたし、前回の決闘で暴走を見せたので、デジェルの言い分にも一理あると考えるが、それでもクリスは納得できない。

クリスの心情を察しているデジェルは、詩集から眼を離し、クリスを真っ直ぐ見つめる。

 

「私はなクリス、例え君に嫌われようとも、君に襲いかかる危険はできるだけ遠ざける積もりだ。それが響君を傷付ける事になってもな・・・!」

 

デジェルの言葉にクリスは髪を乱雑に掻き。

 

「~~~~~~ッッでも、それであたしが納得するとでも?」

 

「勿論、納得するとは思わない。だが、少し待っていてくれ、折を見てちゃんと説明する」

 

「なんだよソレ・・・・・・」

 

不貞腐れたクリスは窓の景色を見つめていた。

 

 

ー未来sideー

 

響とレグルスが交戦している場所から少し離れた位置にいる未来と弓美と創世と詩織は、響とレグルスの戦いを見守っていた。

 

「・・・何か、ヤバそうな人達<マニゴルドとカルディア>が出てきたけど、大丈夫だよね・・・?」

 

「当たり前です! 立花さんやあの殿方<レグルス>が、負ける筈ありません!」

 

不安がる弓美を詩織が叱咤した。

 

「でも、私が此処にいたら、ビッキー達の邪魔になっちゃうよ。今の内に避難しよう!」

 

創世の言葉に頷いた弓美と詩織は、創世と一緒に避難しようと走ろうとするが。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

未来は響達の方を茫然と見ていたが、創世達と共に後ろ髪引かれる思いで、その場を離れた。

 

 

 

ー響sideー

 

「うっ・・・くっ・・・!」

 

レグルスがマニゴルドとカルディアに捕まり、引き離された響は溢れる程の光を放つ胸元を抑えていた。すると、響の耳に、切歌と調の歌が聴こえた、『諸刃の歌』が・・・・・・。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

「っ!? まさかこの歌って・・・“絶唱”・・・!?」

 

調と切歌の方を見ると、二人の身体が淡く光っている姿が映った。

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

響達のいる地点から少し離れた場所で、レグルスとカルディアが交戦し、マニゴルドはその戦いを一歩引いた場所にいた。

 

「『ライトニング・プラズマ』!!」

 

「『スカーレット・ニードル』!!」

 

黄金の閃光と紅い閃光が空中でぶつかり合い、その衝撃波によって、アスファルトや建物の壁や窓ガラスが震え、中には罅が走り、二人は近距離戦闘に入った。

聖闘士の戦いは一対一が基本なのでマニゴルドは二人の戦いを観戦している。

 

「ちょっと、戦り合わないんじゃなかった、のかッ!」

 

「こっちにも事情が、あんだよッ!」

 

「事情ってなに、さッ!!!」

 

「言える訳ねぇだろう、がッ!!!」

 

口喧嘩しながら近距離で拳と蹴りをぶつけ合う二人。レグルスの肘打ちとカルディアの膝蹴りがぶつかり、その衝撃で二人は距離をあける。そして三人にも聴こえた、『諸刃の歌』が。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪・・・」」

 

「「「ッ!!??」」」

 

その歌声を聴いて、レグルスとカルディアは戦闘を中断させ、マニゴルドも歌声の聴こえる方へ目を向ける。

 

「この歌って、まさか! “絶唱”かっ!?」

 

「あのバカ娘共・・・!」

 

「策があるから大丈夫って言っていたが、策って“絶唱”の事かよ・・・!」

 

マニゴルドとカルディア、レグルスはお互いを見ると。

 

「「「(コクン・・・)」」」

 

頷き合うとその場所に向かった。

 

 

ーナスターシャ教授sideー

 

『「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」』

 

それをモニターで見たナスターシャ教授も戦慄する。

 

「私は、あの子達にまで・・・・・・!」

 

 

 

ー響sideー

 

響は“絶唱”を放とうとする切歌と調の姿に、二年前の情景が脳裏によみがえった。

 

『崩れ行く天羽奏』

 

『泣き崩れる翼』

 

「駄目だよ・・・LiNKER頼りの“絶唱”は! 奏者の命をボロボロにしてしまうんだよ!!」

 

「女神ザババの“絶唱”に! 二段構え! この場の見事な攻略法! これさえあれば! コイツ<ネフェリム>を持ち帰る事だって・・・!」

 

響の叫びを無視して、ウェル博士は二人の命等眼中に無いと言わんばかりに、布にくるまった“ネフェリムの心臓部”を撫でる。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪・・・ぐっ!」」

 

歌を終えた二人の身体が強く光ると、切歌と調のギアが変形した。

 

調の頭のギアがハサミのように展開し、手や足のパーツが変形してノコギリのような武器に展開する。

 

「(“シュルシャガナ”の“絶唱”は、無限機動から繰り出される果てしなき斬撃! これで膾に刻めなくとも、動きさえ封殺できれば・・・!)」

 

続いて切歌の持っていた大鎌が変形し、大鎌にとっつきのように変形した。

 

「(続き! 刃の一閃で、対象の魂を両断するのが“イガリマ”の“絶唱”! そこに、物質的な防御手段等あり得ない! まさに、絶対の絶対デスッ!)」

 

そして、二人が構えるのを見た響はーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「くっ・・・!」

 

「くっ・・・ぐっ!」

 

「・・・うえ!?」

 

“絶唱”の負荷に耐える切歌と調、その二人をにやけ笑みで見ていたウェルも、響の方に目を向ける。

 

「エネルギーレベルが、“絶唱”発動まで高まらない・・・あぁっ!」

 

「減圧・・・あっ!」

 

調の手足の武装が、切歌の武器が元の形に戻った。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

響と調と切歌は、お互いを見据える。そして響が。

 

「セット! ハーモニクスッ!!!」

 

響を中心に波動が広がり、二人の“絶唱”エネルギーを取り込む。

 

「コイツが、エネルギーを奪い取っているのデスか・・・?」

 

「ッ!・・・ッ!」

 

響の胸から“絶唱”エネルギーが赤黒い光りとなり溢れ、足元が発火する。

 

「二人に・・・“絶唱”を使わせない・・・!!!」

 

胸元の光が強くなり、足のパーツが展開し、頭のパーツも展開し、両手を構えると、右手のパーツが変形しタービンが回転する!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

 

右拳を天に向けて虹色に輝く“絶唱”エネルギーを放出する!すると、巨大な虹色の竜巻が天に昇る。

 

「「あっ!・・・」」

 

切歌と調が自分達に放つと思っていたエネルギーを天に放出する響を唖然と見つめる。

 

 

ー未来sideー

 

未来達の目に巨大な虹色の竜巻が映った。それを見て、未来の心に不安が広がった。

 

「嫌だ・・・響が遠くに行っちゃうなんて・・・!」

 

未来はそのまま響の元へ走っていった。

 

「小日向さん!」

 

「どうしたの? ヒナ! そっちは!」

 

創世達は走り行く未来の背中を見送るしかなかった。

 

 

ーマリアsideー

 

虹色の竜巻が終わり、マリアとナスターシャ教授、アルバフィカはモニターで響の様子を見ていた。

 

「吹き荒れる破壊のエネルギーを、その身に無理矢理抱え込んで・・・!」

 

「つまり繋がることで、“絶唱”をコントロールできるあの子<響>にとって、これくらい造作も無いと言う訳ですか・・・・・」

 

「(あの少女<響>、調と切歌を守ったのか?)」

 

「ウッ! ゴホッ! ゴホッ!」

 

「マムっ!?」

 

「教授・・・!」

 

「心配、入りません・・・!」

 

ビコン! ビコン! ビコン!

 

警報が鳴りレーダーを見ると、響のいる地点に向かって天羽々斬とイチイバルの反応が出た。

 

「この反応は・・・!」

 

「天羽々斬とイチイバル、恐らくエルシドとデジェルもいるだろう」

 

「追い付かれたようですね・・・!」

 

 

 

ー響sideー

 

「響!」

 

「レグルス君・・・」

 

レグルスは“絶唱”エネルギーを放出した響を支える。

 

「またこんな無茶を、無茶をするなとは言わないけど、時と場合を考えなよ!」

 

「でも・・・こうしなきゃ切歌ちゃんと調ちゃんが・・・」

 

「・・・・・・」

 

レグルスは切歌達の方に目を向けると、調と切歌の身体に“あるモノ”が浮かんでいるのが“見えた”。

 

「(ッ! あれって、うさぎ座<レプス>に小熊座<ウルサミノル>の守護星座か・・・!)」

 

調の身体にうさぎ座<レプス>の守護星座が、切歌の身体に小熊座<ウルサミノル>の守護星座が浮かんでいた。

 

 

 

ー切歌・調sideー

 

「切歌!」

 

「調!」

 

「げっ! マニゴルド!」

 

「カルディア・・・!」

 

ゴン×2

 

「「ギャフンッ!」」

 

ようやく着いたマニゴルドとカルディアは、有無を言う暇を与えず、切歌と調の脳天に拳を振り下ろし打撃音が響いた。

 

「あ、あぁ、あ・・・!」

 

「うぅ~・・・!」

 

蹲った二人の頭には物の見事なタンコブが出来上がり、湯気が立っていた。

 

「とりあえず今はこれで良いな・・・!」

 

「後で勝手に“絶唱”を使った言い訳をたっぷり聞いてやる・・・!」

 

「「(ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!!)」」

 

目をギュピーンと光らせたマニゴルドとカルディアの迫力に切歌と調はお互いを抱き合いながら涙目で震える。すると、ナスターシャ教授からの通信が入る。

 

《皆、聴こえて・・・!》

 

「婆さんか?」

 

《ドクターを連れて、急ぎ帰投して・・・!》

 

「だけど今なら・・・」

 

《そちらに向かう高速の反応が二つ、恐らくは天羽々斬とイチイバル》

 

「ッ!?」

 

「て事は、エルシドとデジェルも金魚の糞のように一緒にいるだろうな」

 

《切歌と調もLiNKERの過剰投与で不可が掛かっているのです。指示に従いなさい・・・!》

 

LiNKERの過剰投与により満足に戦えない奏者二人と、万全の奏者二人に黄金聖闘士が二人、不利は否めない状況に全員が頷く。

 

「分かったデス・・・!」

 

「切歌、俺にしがみつけ、運んでやる」

 

「調は俺が運んでやる、立ってるのもやっとだろう?」

 

頷いた切歌はマニゴルドの首にしがみつき、カルディアが調を片手で抱える。しかし。

 

「オイ! 何を言ってるんだ!」

 

「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」

 

ウェルが喚き始め、四人はウンザリと言わんばかりにウェルを見る。

 

「今が好機だろうがよ! 他の邪魔者が来る前にあの化け物共を始末すれば万事上手くグエッ!」

 

喚き始めるウェルの喉元をマニゴルドの空いた手で掴んだ。

 

「オイ、いい加減にしろよテメェ、俺らもうプッツン寸前なんだけど・・・!」

 

「グエッ! ケゲェッ! グゲガッ!」

 

少しずつウェルの首を掴んだ指の力を強めるマニゴルド。カルディアも赤い爪をウェルの眼球まであと数ミリの間隔まで近づける。

 

「大方調と切歌を唆して“絶唱”を使わせようとしてこの場を切り抜けようとしたんだろう?・・・あぁ!」

 

「こ、この場で僕を殺せば、あのオバハン<ナスターシャ教授>がどうなると・・・!」

 

「婆さんの事があるからまだ我慢できてんだぜ俺たちは・・・!」

 

「俺とマニゴルドは“ロクデナシ”だからよ、気に入らねぇ野郎に容赦しねぇんだ。そんな俺たちに“理屈”が通じるとでも?」

 

「ヒ、ヒヒィ・・・!!!」

 

「分かったらこれ以上ガタガタぬかすなや・・・!」

 

「(コクンコクンコクンコクンコクンコクン!!!)」

 

底冷えする声色と冷徹にして冷酷な殺気を出す二人に気圧されたウェルは怯え始めて首を縦に振る。

 

「オラ、とっととトンズラすっぞ」

 

マニゴルド達の頭上に、ナスターシャ教授達が乗る飛行艇が現れ、ワイヤーロープが垂れ出される。マニゴルドは首にしがみついた切歌と片手で後ろ首を掴んだドクターを連れ、もう片方の手でロープを掴み。カルディアを調を抱えてロープを掴み、離脱した。

 

「「・・・・・・」」

 

調と切歌は響に目を向けるが、ハッチを閉じ、ウェルは着替える為に(マニゴルドとカルディアの傍にいたくないからが本音)その場を離れる。切歌は自分の身体の調子を確認する。

 

「どうした?」

 

「身体、思ったほど何ともない。“絶唱”を口にしたのにデスか?」

 

「まさか、アイツ<響>に守られたの? 何で、私達を守るの・・・?」

 

「ま、そういう“甘ちゃん”も世の中にはいるってこったな」

 

「そんなヤツがいるの?」

 

「いるもんなんだよ。敵だとしても助けようとする救い用のねぇ“甘ちゃん”が・・・」

 

どこか遠い目をするカルディアを調達は見つめる。そして、飛行艇はステルス機能をフルに使って空の中に消えていった。

 

 

ー未来sideー

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア・・・」

 

未来が響達の元に走り、そこに映っていたのは。発光する響と響から少し離れたレグルスだった。

 

「響!」

 

「未来!(ヤバい! これを見られたら!)」

 

レグルスの目線の先に、響の胸元の傷痕から生えた『結晶体』が映った。

 

「未来! 来ちゃダメだ!」

 

「嫌! 響!」

 

レグルスの静止を聴かず響に近づこうとする未来。

 

「止せ! 火傷じゃ済まないぞ!」

 

発光し、高熱を発する響に近づこうとする未来をギアを纏ったクリスが抑えた。

 

「でも! 響が!」

 

「デジェル・・・」

 

「・・・・・・」

 

デジェルは『カリツォー』で響を冷まそうとするが、『カリツォー』は、響の身体を包む前に響の発する熱で蒸発してしまう。『ダイヤモンド・ダスト』を使うかと考えるが。

 

「ハッ!」

 

クリスの目線の先にバイクに乗った翼とエルシドが現れた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

翼がギアを纏うと、バイクの前輪の前に天羽々斬の足パーツが刀の切っ先のように展開し、飛び上がると響の頭上のビルの貯水タンクを切りつける。

 

『騎刃ノ一閃』

 

切りつけられたタンクの中から大量の水が響に降り注いだ。すると響に浴びせられた水が蒸発し、水蒸気が辺りを包んだ。

 

「響! 響!」

 

響の元に行こうとする未来をクリスが羽交い締めする。バイクを降りたエルシドと翼は響の元に行くと顔を険しくする。

 

「私は、立花を守れなかったのか・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

俯く翼の肩にエルシドが手を置く。デジェルはレグルスに目を向け。

 

「レグルス、お前が付いていながら・・・!」

 

「・・・・・・ゴメン」

 

「守れなかった・・・?」

 

クリスは未来から離れて、翼に掴みかかる。

 

「何だよソレ! お前! あのバカがこうなることを知ってたのか!? エルシドもレグルスも知ってたのかよ?!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「オイ!」

 

「止めろクリス!」

 

「兄ぃも知ってたのに、どうしてあたしには言ってくれないんだよ!」

 

クリスはデジェルに詰め寄ろうとする。レグルスは濡れた響を背負い、未来は響に呼び掛ける。

 

「響、響、響イイイィィ!」

 

未来の悲痛な叫びが青空に響いた。

 

 

 

 

 

ーFISsideー

 

その日の夕方、山間に潜めた飛行艇の中で、顔の包帯を新しくしたウェル博士はナスターシャ教授の措置が行われていた。

 

「数値は安定、年齢の割に対して体力です。それとも、振り絞った気力でしょうか?」

 

「良かった・・・」

 

「本当に良かったデス!」

 

イヤミの含んだウェル博士を無視して調と切歌が安堵の声を上げる。ナスターシャ教授はマリア達に目を向け。

 

「(私は、優しい子達に一体何をさせようとしたのか! 所詮テロリストの真似事では、迫り来る災厄に対して、何も抗えないことに、もっと早く気付くべきでした・・・!)」

 

ナスターシャ教授はウェルが妙な真似をしないように監視しているアルバフィカ達に目を向ける。

 

「(無頼を気取っても、マニゴルドもカルディアも心根は真っ直ぐな人達、アルバフィカも、心優しい気高い人、そんな彼等に私は汚名を着させようとしている・・・!)」

 

ナスターシャ教授はアルバフィカ達にも申し訳無い気持ちでいっぱいになっていた。

 

「さてと、そろそろ行くか・・・」

 

「だな・・・」

 

「「(ず~~ん)」」

 

「「「???」」」

 

マニゴルドとカルディアが調と切歌の首根っこを掴んで別室に移動するのをアルバフィカとマリア、ナスターシャ教授は訝しそうに首を傾げた。

 

 

 

ー響sideー

 

二課本部の潜水艇の中にある手術室で、響の身体から生えた『結晶体』が摘出されていたが、響の胸元の傷痕は発光を続けていた。

 

 

ー未来sideー

 

未来は本部の待合室で、響の手術の無事を祈っていた。するとレグルスがやって来て。

 

「当座の応急措置は終わったよ・・・」

 

「レグルス君・・・響は無事何だよね?」

 

「・・・あぁ」

 

未来に響の身に起こっている事を話す訳にはいかないレグルスは歯切れ悪く答えるしかなかった。

 

「未来・・・ゴメン、響を守れなくて、本当にゴメン・・・!」

 

「レグルス君・・・」

 

手をキツく握り血を滴らすレグルス、辛そうに俯きながら未来に謝罪するレグルスを未来も辛そうに見つめていた。

 

 

 

 

 

ーFISsideー

 

「・・・・・・・・・・・・何これ?」

 

「マリア~~~」

 

「お助けデ~~ス」

 

ナスターシャ教授をアルバフィカに任せ、別室に移動したマニゴルド達を呼びに来たマリアの目の前に映ったのは。

 

『縄で縛られ(亀甲縛りで)逆さ宙吊りになっている調と切歌』

 

『その二人の足元(頭の下?)でババ抜きしているマニゴルドとカルディア』

 

余りにカオスな光景にマリアは一瞬唖然呆然するが、何とか気持ちを切り替えて。

 

「マニゴルド、カルディア、何なのこれは? 何で切歌と調は縛られて(しかも亀甲縛りで)逆さ宙吊りになってるの?」

 

「あん? 勝手に“絶唱”使ったアホ共に虐めじゃなくてお仕置きをしてるんだよ」

 

「(今確かに虐めって・・・)でも、やり過ぎなんじゃ・・・」

 

「これでもマシな方だぜ、本当ならお尻ペンペン百連発の刑にしようと思ってたんだからよ」

 

「だから、ごめんなさいって言ってるのに~~」

 

「聴いてくれないんデスよ~~」

 

情けない声を上げながらマリアに助けを求める調と切歌。

 

「マニゴルド、カルディア、二人も反省している事だし、それに逆さ宙吊りは長時間やると命に関わるのよ・・・」

 

「分かってる。だからこのババ抜きが終わったら解放してやるよ」

 

「早く助けてマリア、あっ! うぅっ・・・な、なんか変な気持ちに・・・あぁっ!///」

 

「な、縄が食い込んで、アウッ!・・・変な扉が見える・・・デス・・・うぅっ!///」

 

「直ぐに縄をほどいて二人共! 調と切歌が『イケナイ世界』に行っちゃうわ!!」

 

頬を赤らめ艶っぽい声を出す調と切歌を見たマリアの慌てる声が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




調と切歌の守護星座は直感と偏見で生まれました。

中々ストーリーが進まない(T_T)


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暗雲

ー二課・本部通路ー

 

「何? むこうの奏者達にも“守護星座”が?」

 

「あぁ、調って子に『兎座<レプス>』が、切歌って子に『小熊座<ウルサミノル>』の守護星座が見えたんだ」

 

「響君に『仔馬座<エクレウス>』、翼君に『鶴座<クレイン>』、クリスに『冠座<ノーザンクラウン>』、そして新たに『兎座<レプス>』に『小熊座<ウルサミノル>』の守護星座を宿す奏者か・・・」

 

待合室から少し離れた通路でレグルスは敵奏者である、月詠 調と暁 切歌に聖闘士の証とも言える“守護星座”が宿っている事をエルシドとデジェルに報せていた。

 

「この五人の共通するのは、“シンフォギア奏者”である事が共通点だな。レグルス、マリア・カデンツァヴナ・イヴにも“守護星座”があるのか?」

 

人の身に“守護星座”が宿っているのを見る事ができるのは、レグルスと行方不明のシジフォス、そして乙女座<バルゴ>の黄金聖闘士であるアスミタだけなので、エルシドはレグルスに聞く。

 

「ゴメン、マリアの“守護星座”は分からない。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

歯切れの悪いレグルスの言葉にエルシドとデジェルは訝しそうに見る。

 

「あの時、ルナアタック事変の最後の決戦、俺は、了子と・・・“スペラリ<フィーネ>”と最後にぶつかった時に見たんだ、スペラリの身体に『蛇使い座<オピュクス>』の“守護星座”が宿っているのを・・・!」

 

かつて、“破滅の巫女フィーネ”は、最初の転生で白銀聖闘士として転生し、地上の平和を守るために聖域<サンクチュアリ>に身を置いていた。その時に彼女が纏っていたのが『蛇使い座<オピュクス>』の白銀聖衣であった。

 

「・・・・・・マリア・カデンツァヴナ・イヴが、フィーネの、嫌、元『蛇使い座<オピュクス>』の白銀聖闘士であるスペラリの“転生者”ならば、彼女にも『蛇使い座<オピュクス>』の“守護星座”が宿っている可能性があるかも知れないな・・・」

 

レグルスがマリアがフィーネの転生者である事に“違和感”を感じているのを知っているデジェルもレグルスの狙いを察して頷くが。

 

「だが、もしも彼女の“守護星座”が『蛇使い座<オピュクス>』で無ければ・・・」

 

「今その話をしても仕方あるまい、次にマリアと戦う事になった時に確かめれば良いだけだ・・・!」

 

そうだな、だねと、エルシドの言葉に頷く二人。しかし、デジェルは“もう一人”、“守護星座”を宿す“少女”の事を切り出す。

 

「だがもう一人、奏者では無い筈の“彼女”が“守護星座”を宿しているのは・・・?」

 

「ウム、俺もソレが気になる・・・」

 

デジェルとエルシドは響を心配して待合室にいる“少女”に目を向ける。

 

「これまで“守護星座”を宿していたのは“奏者”か、“元聖闘士”のみ、まさか・・・」

 

「彼女にも、“奏者”の素質が「それ以上はダメだ」レグルス・・・」

 

デジェルの言葉を遮ったレグルスの瞳には、“確固たる想い”があった。

 

「ダメだよ、彼女を“こっち側”に連れて行っちゃ・・・!」

 

「だが、彼女には素質があるのかもしれんのだ。それに彼女も殆ど“こっち側”の人間だ。お前がフランスで見つけた“アレ”の事もある」

 

「それでも、最後の一線だけは越えさせちゃいけないんだ。彼女は、“象徴”なんだ・・・!」

 

「“象徴”・・・?」

 

「あぁ、彼女は“象徴”なんだ、響の“帰るべき日常”の、響の“居場所”の“象徴”なんだ。だから、彼女を戦場に連れて行っちゃ、“戦士”にしてはいけないんだ・・・!」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

レグルスの言葉にエルシドとデジェルも顔を見合わせ頷き。

 

「そうだな・・・彼女は戦場に出て戦う“戦士”では無い。むしろ、“戦わない事”が彼女の戦いと言っても良い・・・」

 

「彼女はクリスの“最初の友人”だからな。戦力不足だからと言って、巻き込む訳には行かないな・・・」

 

「うん・・・!」

 

安心したように頷くレグルス。エルシドとデジェルは再び顔を引き締めると。

 

「それでは、後で緒川殿が“彼女”を連れて行く。見せなければならないモノがあるからな・・・!」

 

「これから私達も先んじてクリスにこの事を話しておく・・・」

 

「・・・・・・分かった」

 

三人は頷き合うとそれぞれに別れ、レグルスは“彼女”が、“小日向 未来”のいる待合室に入っていった。

 

 

 

 

ーFIS sideー

 

外は夜になり、冷たい雨が降りしきる中、飛行艇にいるアルバフィカとマリア・カデンツァヴナ・イヴ、カルディアと月詠 調、マニゴルドと暁 切歌、車椅子に座り直したナスターシャ教授が、顔を包帯で包んだウェル博士からのプランを聞いていた。

 

「それでは全員揃ったところで、本題に入りましょう」

 

ウェル博士はモニターパネルを操作すると、モニターに赤く発光する“ネフェリムの心臓部”が映し出された。

 

「「・・・・・・」」

 

「これは、“ネフェリム”の・・・!」

 

愕然となるマリア達にウェル博士はいけしゃあしゃあと喋る。

 

「苦労して持ち帰った“覚醒心臓”です。必要量の聖遺物を餌とすることで、ようやく本来の出力を発生するようになりました」

 

「“苦労して”ね~、本体をガングニールに破壊されて、帰還したくても出来なくなって、途方に暮れていたのを運良く見つけて持ち帰ったんじゃねぇの?」

 

「つーか、こんな醜態晒しといて良く偉そうに言えんな・・・」

 

『イギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

『うぎぃやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

『ヒギ、ヒギィ、ヒギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!』

 

「フッ・・・」

 

マニゴルドが持っていたタブレットを操作して、ウェル博士がレグルスにビビって晒した醜態を見せると、アルバフィカも鼻で嗤う。

 

「(ピキピキピキピキピキピキピキピキ!!)いやぁ、マニゴルドさんもカルディアさんも意地の悪い事をしますね・・・・・・!!」

 

声は震え、包帯まみれで顔は見えないが、ウェル博士の目は怒りで充血し、下唇を噛んだのか、血が流れていた。包帯の中の顔面は恐らく血管が浮きまくっているのがわかる。

 

「とにもかくにも! この“心臓”とマリア、貴女が五年前に入手した・・・!」

 

「ッ!」

 

「お忘れなのですか? “フィーネ”である貴女が田舎山の発掘チームより強奪した『神獣鏡<シェンショウジン>』の事ですよ!」

 

「・・・え、えぇそうだったわね・・・」

 

探るようなウェル博士のイヤらしい問いにマリアは歯切れ悪く答える。

 

「(“五年前の発掘チーム”、確か、風鳴 翼の片翼にして、射手座<サジタリアス>のシジフォスの恋人、前ガングニール奏者 “天羽 奏”の家族がいた発掘チーム。『神獣鏡』を手に入れんと前フィーネ、櫻井了子が行った悲劇・・・)」

 

「(この事件を発端に、この世界に転移していたシジフォスとエルシドは、特異災害機動部二課と接触して天羽 奏は、奏者への道を突き進んだんだな)」

 

「(悲劇で生き残った少女がシジフォスの恋人になるとか、どんな運命の巡り合わせだよ・・・)」

 

聖闘士達は天羽 奏とその家族に起こった『悲劇』が、恋人<シジフォス>と片翼<風鳴 翼>との出会いになった事に複雑な感情を抱く。

 

「マリアはまだ記憶の再生が完了していないのです。いずれにせよ聖遺物の扱いは、当面私の担当、話は此方にお願いします」

 

「これは失礼・・・」

 

ナスターシャ教授の言葉にウェル博士はわざとらしくお辞儀をする。

 

「話を戻すと、“フロンティアの封印”を解く『神獣鏡』と、起動させる為にの“ネフェリムの心臓”がようやくここに揃った訳です」

 

「そして“フロンティアの封印されたポイント”も、先だって確認積み・・・」

 

ナスターシャ教授の話を聞くと、ウェル博士はわざとらしく手拍子をする。

 

「(パンパンパンパン)そうです。既に出鱈目なパーティーの開催準備は整っているのですよ! 後は、私達の奏でる狂想曲にて、全人類が躍り狂うだけ! ウフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ・・・!!」

 

狂ったように不快に嗤うウェル博士を一同が冷めた目で見るなか、ナスターシャ教授はソッと呟く。

 

「近く計画を最終段階に進めましょう。ですが今は少し休ませて頂きますよ・・・」

 

そう言ってナスターシャ教授とマリア達、アルバフィカ達も部屋を去るとウェル博士は誰にも聞こえないように鼻で嗤う。

 

「フン・・・!」

 

それは、何かを企んでいるような不吉を孕んでいた。

 

 

 

だが、直ぐに扉が開き、マニゴルドとカルディアが顔を出すと。

 

「オイ、ドクターよ。あんま勝手な真似は慎んだ方が身の為だぜ♪」

 

「これ以上の無様な醜態を晒しちまったら、まさに落ち目一直線だからな♪」

 

「!!!!!!!」

 

そう言って部屋から去るマニゴルドとカルディア。誰も居なくなった部屋でウェル博士は。

 

 

「ウ、ウゥ、ウウ!ウギガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ア! ア! ア! ア!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

バタン! ドカン! ガシャン! ガリガリ! バンバン!ガンガン!

 

部屋からウェル博士の暴れる音が響いた。それを聞いた一同はまたもや冷めた目で見て、アルバフィカが一言。

 

「男のヒステリーは浅ましく醜いな・・・」

 

その言葉に全員が頷いた。

 

 

 

 

 

ーリディアン音楽院ー

 

翌日、小日向 未来は授業を受けていたが、心ここにあらずの心情で隣の席を見る。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そこにいる筈の響の姿が無く、未来は先日聞かされた“話”が脳裏に甦った。

 

 

 

* * *

 

先日の夜。神妙な顔付きの緒川に連れられ(レグルスは響に付き添っていた)、二課のブリッジに入った未来の目に映ったのは。

デジェルに抱きつき辛そうに顔を埋めるクリスと、そのクリスを優しく抱きしめるデジェル。

深刻な顔付きの弦十郎と緒川。戸惑う未来に弦十郎が口を開く。

 

「未来君。君には知っておいて貰いたい事がある・・・」

 

弦十郎のはメインモニターに“ある画像”を映す。響の身体のカルテをーーー

 

「ハッ!?」

 

それを見て、未来の顔は驚愕に染まる。その“カルテ”には、響の胸元を中心に、赤い筋が木の根っこのように響の身体に巻き付いた姿であった。

 

「クソッタレが・・・!」

 

デジェルに抱きついたクリスがやりきれない想いをぶつけるように悪態を付く。

 

「胸に埋まった聖遺物の欠片が、響君の身体を蝕んでいる。これ以上の進行は、彼女を彼女で無くしてしまうだろう・・・!」

 

「つまり・・・今後に響が戦わなければ、これ以上の進行は無いのですね・・・?」

 

「響君にとって、親友の君<未来君>こそが、最も大切な“日常”・・・君の傍で“穏やかな時間”を過ごす事だけが、ガングニールの侵食を抑制できると考えている」

 

「私が、響を?」

 

「(コクン)響君を守ってほしい、レグルス君は“戦いの中”なら響君を守れるが、“穏やかな時間”で響君を守れるのは・・・未来君、君だけだ・・・!」

 

「レグルス君は、“この事”を知っているんですか?」

 

「あぁ、だが、レグルス君曰く、『例えこの事実を知っても、響は戦いから身を引かない。響は、誰かを見放す事なんて出来ないから』とな・・・」

 

 

 

 

* * *

 

「(レグルス君、本当に響の事を理解してくれてる・・・・・・レグルス君が守れないんなら、私が響を守らなくっちゃ・・・!)」

 

最も未来が頼りにしている人達<レグルスともう一人>が守れない以上、自分が響を守らねばならない。そう決意した未来は響の席をジッと見つめていた。

 

 

 

ー調・切歌sideー

 

その頃。月詠 調と暁 切歌、マニゴルドとカルディアは買い出しの為に近くの薬局スーパーに来ていた。

 

ナスターシャ教授への薬と、包帯(ドクターが自分の為に無駄に使うからかなり買った)。カップ麺や、ある程度の食品が入った紙袋を持つマニゴルドとカルディア。女性陣の為の生活用品が入った袋を調と切歌が。

 

「楽しい楽しい買い出しだって、こうも荷物が多いとめんどくさい労働デスよ!」

 

「全くだぜ! 何だって俺らがこんな三下ヨロシクな事しなくちゃいけねぇんだよ!」

 

「ブーブー言ってんじゃねえよ・・・」

 

「仕方ないよ、過剰投与したLiNKERの副作用を抜ききるまでは、おさんどん<マニゴルド>の補佐担当だもの・・・」

 

「ま、俺は楽できっから良いけどよ♪」

 

不平不満タラタラな切歌とカルディアを嗜めるマニゴルド<FIS料理担当>と調。ふと、切歌が調の方を向き。

 

「持ってあげるデス! 調ってば、何だか調子が悪そうデスし・・・」

 

「ありがとう、でも平気だから・・・」

 

「う~ん・・・じゃあ! 少し休憩していくデス! マニゴルド! カルディア!良いデスよね?!」

 

「・・・・・・しゃあねぇな」

 

「少しだけだぞ」

 

二人から許可が降りたので、切歌は喜びながら調と共に休憩するための場所を探しに向かった。

 

「(本当に良い奴らだな・・・)」

 

「(帰ったらホットケーキでも作ってやっか・・・)」

 

やれやれと云わんばかりに、マニゴルドとカルディアも二人の後を追った。

 

 

 

ーマリアsideー

 

マリアはナスターシャ教授の車椅子を押しながら、飛行艇を停めている場所近くの湖畔を歩いていた。マリアが足を止め。

 

「これまでの事で、良く分かった。私の“覚悟の甘さ”、“決意の軽さ”を・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「その結末がもたらすものが、何なのかも・・・」

 

マリアは無言のナスターシャ教授の前に移動しナスターシャ教授と向き合う。

 

「だからねマム、私は・・・!」

 

「その必要は、ありません」

 

「えっ?」

 

マリアの言葉を遮ったナスターシャ教授にマリアは驚きの声を出す。

 

 

ー調・切歌sideー

 

調と切歌、マニゴルドとカルディアは解体工事が途中で中止になり、建物としての機能を失い、今にも崩れそうな足場の近くで休憩していた。

 

「イヤな事も沢山あるけど、こんなに“自由”があるなんて、“施設”にいた頃には想像出来なかったデスよ」

 

「うん、そうだね・・・」

 

メロンパンを頬張る切歌と缶コーヒーを飲むマニゴルド、リンゴをかじるカルディア、調はチョココロネの入った袋に手付かずだった。ふと切歌が辛そうに当時の事を話した。

 

「“フィーネの魂”が宿る“器”として、“施設”に閉じ込められていたアタシ達・・・アタシ達の代わりに“フィーネの魂”を背負う事になったマリア・・・自分が自分で無くなっちゃうなんて怖い事を結果的にマリアに押し付ける事になったアタシ達・・・」

 

沈みそうになる切歌の頭をマニゴルドがグリグリと撫でる。

 

「な~に辛気臭ぇツラしてんだよ! アイツ<マリア>は押し付けられたなんて思っていねぇよ!」

 

「でも・・・」

 

「とっとと食って、さっさと帰るぞ」

 

カルディアが話を終わらせて、メロンパンの最後の欠片を頬張る切歌は、隣の調を見ると。

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア」

 

「調・・・!」

 

「「ッ!」」

 

調が辛そうに息遣いをし、顔を少し紅潮していた。

 

「このバカ! 調子悪いならそう言えっての!」

 

「ずっとそんな調子だったデスか!?」

 

「大丈夫・・・ここで休んだからもう・・・」

 

「調っ!」

 

倒れかけた調は立て掛けられた鉄材に倒れこむと連鎖するように、足場が崩れ、鉄材が落ちてくる。

 

「えっ・・・!?」

 

「調っ!」

 

「切歌っ!」

 

マニゴルドのカルディアが切歌と調を擁護する。マニゴルドに覆われた切歌が思わず落ちてくる鉄材に向けて手を伸ばすとーーーーーーー

 

 

ーマリアsideー

 

「貴女にこれ以上、新生フィーネを演じて貰う必要はありません・・・!」

 

「マム・・・何を言うの!?」

 

「貴女は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。フィーネの魂等宿していない。只の優しいマリアなのですから・・・」

 

ナスターシャ教授の言葉にマリアは呆然とする。

 

「フィーネの魂は、どの器にも宿らなかった、ただそれだけの事・・・」

 

だが、二人は知らない、この会話を聞いていたのが“もう一人”いたことを。

 

「(ホゥ・・・これはこれは、あの目障りな“野蛮人達”と、彼女達の繋がりを絶てる良い情報ですね・・・!)」

 

二人の近くの木の影に隠れていたウェル博士は、口元を歪ませてほくそ笑む。

 

 

ー切歌sideー

 

崩れた鉄材の落下で激しい土煙が舞う中、切歌とマニゴルド、気絶した調を庇っていたカルディアが目を開けると。

 

「アレ・・・!」

 

「オイ、何だこりゃ・・・!」

 

「切歌・・・お前がやったのか?」

 

三人の目に映ったのは、伸ばされた切歌の手から、紫色の障壁が展開されていた。

 

「何が・・・どうなってるデスか・・・!?」

 

「(この現象、資料で見た・・・!)」

 

「(フィーネが、櫻井了子が見せた“結界”っ!?)」

 

それは以前、“デュランダル移送計画”の時に、櫻井了子<フィーネ>が響とレグルスを庇って(正確にはデュランダルと獅子座<レオ>な黄金聖衣を護るために)張った障壁に酷似していたーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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聖遺物 神獣鏡<シェンショウジン>

その日の夜、FIS<マリア達>が乗る飛行艇が夜空を飛行し、操縦するマリアは、“フィーネを演じる”ようにナスターシャ教授に命令された当時に思いを馳せていた。

 

* * *

 

その当時、マリアと切歌と調の三人がシミュレーターで夜の市街地を舞台にし、仮想敵のノイズを相手に訓練に明け暮れていた。アルバフィカはその様子を眺め、マニゴルドとカルディアは野次を飛ばす。

 

襲い来るノイズをマリアが槍でノイズを凪払い、調が丸鋸で切り裂き、切歌が大鎌でかっ切る。

 

マリアの前にノイズに紛れて仮想民間人が出てくるとマリアはその仮想民間人を避けてノイズを倒すとナスターシャ教授から通信が入る

 

《マリア、この回線は貴女にだけ繋いでます。調と切歌とアルバフィカ達にも、私達の声は届いてません》

 

調と切歌の周りをノイズが囲う。

 

「オラオラ、ヘタってんじゃねぇぞ切歌!」

 

「しっかり戦れや調!」

 

応援と呼べない野次を飛ばすマニゴルドとカルディアの声のおかげで此方の声が聞こえてないのを確認したマリアはノイズを倒しながら応じる。

 

「またあの話? 私にフィーネを“演じろ”と?」

 

《私達の計画遂行の為には、ドクターウェルの助力が不可欠。彼を此方に引き入れるには、貴女の身体にフィーネが再誕したとし、我々こそが遺端技術の先端を所有している事を示せば、彼はきっと・・・》

 

「無理よ! 確かに私達はレセプターチルドレン。フィーネの魂の宿る“器”として集められた孤児だけど・・・現実は、魂を受け止められなかったわ・・・!」

 

“レセプターチルドレン”

米国と通じていたフィーネがFISを組織し、秘密裏に自身の転生先の器として集められた孤児、それがレセプターチルドレン。

 

「今更そんな!」

 

マリアが槍から放たれたエネルギー弾が仮想民間人に当たり消滅した。

 

「あっ!!?」

 

「何をやっているマリアッ!」

 

アルバフィカの怒号に切歌と調も、マリアの方を向く。『Failed<失敗>』と表示が現れて仮想空間が消える。

 

パンパンパンパンパンパン・・・

 

すると訓練場に手拍子が聞こえ、全員が目を向けると、灰色の髪に白衣を着た科学者風の男性、ドクターウェルがいた。

 

「シンフォギアシステム、素晴らしい力だ。そして適性の薄い君たちにも授ける僕の改良したLiNKERも、この力をもってすれば、“英雄”として世界を・・・フフフ」

 

嫌らしい笑みと手つきで調と切歌の身体を撫で回すドクターウェルに調と切歌、それを見るマリアとモニター越しのナスターシャ教授も不快そうに顔を歪める。

 

「おいコラ、おっさん・・・!」

 

ドガッ!

 

「うわっ!」

 

マニゴルドがドクターウェルの脇腹を軽く蹴って調達から引き剥がし、カルディアとアルバフィカも二人を守るようにドクターウェルの前に立つ。

 

「嫁入り前の娘に気安く触ってんじゃねぇよ。一応コイツらも女の子なんだからな・・・!」

 

「理知的な男性を気取るならそれ位の配慮と気配りをして欲しいモノだな。我々の盟友にも理知的かつ理性的な男がいるが、君のように無礼な態度はしない・・・!」

 

「嫌~、それはそれは失礼しました。以後気を付けますよ、“黄金の英雄”の皆さん。それでは、僕はナスターシャ教授へ挨拶があるのでこれで」

 

脇腹を擦りながらドクターウェルは張り付けたような笑みを浮かべたまま訓練場を退出する。

 

「あれが婆さんが言っていたドクターウェルか・・・」

 

「無礼な男だ。マリア、あんなのを引き入れるのか・・・?」

 

「言いたい事はわかるけど、仕方ないのよ。あの男の作った改良LiNKERは、あの男にしか作れないから・・・」

 

「たくっムカツク野郎だぜ。切歌と調を“おもちゃ”にしていいのは、俺とカルディアだけだってのによ・・・!」

 

「全くだぜ・・・!」

 

「「そんな事誰が決めたの(デェスか)!?」」

 

マニゴルドとカルディアの言い分にツッコミをシンクロさせる調と切歌。

 

 

* * *

 

 

「(だけど、マムはこれ以上フィーネを演じ続ける必要は無いと言った・・・“神獣鏡”と“ネフェリムの心臓”・・・フロンティア起動の“鍵”が揃った今、どうしてマムはこれ以上、嘘を付く必要は無いと言ったのか・・・?)」

 

「マリア・・・」

 

「アルバフィカ・・・」

 

コックピットに入ってきたアルバフィカにマリアは視線を向ける。

 

「今、切歌と調の検査が行われている」

 

「そう・・・」

 

「ウェルが無理矢理二人にLiNKERを過剰投与した悪影響が無くなっていると良いがな・・・」

 

「・・・・・・」

 

「もうすぐ、“フロンティア”か・・・」

 

レーダーに『FRONTIER』と表示された島が表示されていた。

 

ー検査室ー

 

その頃検査室では、ドクターウェルとナスターシャ教授、調とマニゴルドとカルディア、そしてキャミソールにホットパンツとラフな格好をしている切歌がLiNKERの過剰投与による検査を受けていた。

 

「オーバードーズによる不整数値もようやく安定してきましたね」

 

「良かった、これでもう足を引っ張ったりはしない・・・」

 

「LiNKERによって奏者を生み出す事と同時に、奏者の維持と管理も貴方の仕事です。よろしくお願いしますよ」

 

「こっちの奏者を余り危険な目に合わせんなよな。只でさえ戦力はキツキツ何だからよ・・・!」

 

「分かってますって、勿論貴女の身体の事もね・・・!」

 

「・・・・・・」

 

「「(この毒蛇野郎が・・・!)」」

 

LiNKERの過剰投与をするなと遠回しに釘を刺すナスターシャ教授とカルディアに、ドクターウェルも遠回しに「ナスターシャ教授の生命を握っているのは自分だ」と嫌らしい笑みを浮かべと慇懃無礼な態度を取る、ナスターシャ教授は睨み、マニゴルドとカルディアはドクターウェルを汚物を見るような目で内心毒づく。

 

「・・・・・・・・・」

 

ただ一人、切歌は浮かない顔をして昼間の出来事を思い返していた。『自分の手から現れた障壁が、調達を守った出来事』を。

 

「(あれは・・・アタシのした事デスか・・・? あんな事、どうして・・・? あれは・・・)」

 

切歌の脳裏に、自分を冷たく見据える、巫女装束のような民族衣装のような衣服を纏う女性、“フィーネ”の姿が浮かんだ。

 

「っ!?」

 

得も知れない恐怖に切歌は戦くが・・・。

 

「オラ、いつまでンな格好してんだ。とっとと服着やがれ!」

 

「ウワッ!」

 

切歌の頭に服を投げ渡すマニゴルド。

 

「マニゴルド! 何するデスかぁ!!」

 

「うるせぇなぁ、たくっ・・・!」

 

マニゴルドが切歌に服を着させようとすると、誰にも気付かれないように切歌の耳元でソッと呟く。カルディアはドクターウェルから見えないように遮る。

 

「(ボソッ)“あの事”に付いては今は黙っておけ、下手をうって皆に、と言うよりドクターに知られたら後々ウザったい・・・!」

 

「(ボソッ)でも・・・」

 

「(ボソッ)俺らの方でも調べとくから、今の所は秘密にしておけ・・・」

 

「(・・・・・・コクン)」

 

他にやり方が無いゆえに、切歌は頷く他なかった。

 

 

 

ー二課・治療室ー

 

そして響がいる治療室では、ベッドに座る響と響の検査状況を見る為に弦十郎とレグルス、エルシドと翼、デジェルとクリスが来ていた。

 

「これは、響君の身体のスキャン画像だ」

 

そこに映っているのは、響の身体に本来は存在しない臓器が生まれていた。

 

「体内にあるガングニールが、更なる侵食と増殖を果たした結果、新たな臓器を形成している。これが響君の爆発力の源であり、生命を蝕んでいる原因だ・・・!」

 

「くっ・・・!」

 

耐えられないと謂わんばかりにクリスは目を閉じた。すると。

 

「アハハハハハ、つ、つまり、胸のガングニールを活性化させる度に、融合してしまうから、今後はギアを纏わないようにしろと・・・ハハハハ」

 

「いい加減にしろ!」

 

無理に笑う響に翼が一喝し響の胸ぐらを掴む。

 

「なるべくだと? 寝言を口にするな! 今後一切の戦闘行為を禁止すると言ってるんだ!」

 

「翼さん・・・」

 

「このままでは死ぬんだぞ! 立花・・・!」

 

目元に涙を浮かべる翼、誰よりも“仲間が死ぬ恐怖”を知っているゆえに翼は辛い思いをしている。

 

「そん位にしときな! このバカだった分かって言ってるんだ・・・!」

 

「くっ・・・!」

 

翼とエルシドは治療室を出て行く。ふとデジェルが呟く。

 

「私もレグルスもエルシドも、仲間を失う事はかなり経験しているが、翼君は一度、最悪な形で仲間を失っているからな・・・」

 

「奏さん・・・・・・」

 

翼は“片翼”を失った、だからこそ仲間を失いたくないと考えていると、デジェルは遠回しに言った。そして弦十郎が話を進める。

 

「医療班だって、無能ではない。デジェルも協力してくれているしな。目下、了子君<フィーネ>が残したデータを元に対策を進めている最中だ!」

 

「師匠・・・」

 

弦十郎が響の頭に手を置き元気付ける。

 

「治療方なんて、直ぐに見つかる。そのほんの僅かな時間、ゆっくりしてもバチ等当たるものか! だから、今は休め!」

 

「・・・わかり、ました・・・」

 

沈んだ顔で響は頷いた。

 

「(それまでFISの奴等が、大人しくしてくれてると良いけどな・・・)」

 

「・・・・・・・・・」

 

レグルスも又、不安を感じていた。デジェルは響の身体に起こった現象を真剣に見つめていた。それを見たクリスはデジェルにだけ聞こえるように呟く。

 

「(ヒソヒソ)医者志望のお兄ちゃんに取っては、興味深いの?」

 

「(ヒソヒソ)確かに、興味深くないのかと問われれば、興味深いが・・・」

 

「(ヒソヒソ)が・・・?」

 

「(ヒソヒソ)この力は危険すぎる、『人体と聖遺物の融合』、これは人間が侵してはいけない、“禁忌の領域”だ・・・!」

 

黄金聖闘士の参謀にして教皇補佐でもあったデジェルは響の身体に起こった現象を危険視していた。

 

 

 

ー二課・通路ー

 

ダンッ!

 

翼は通路の壁を殴る、それをエルシドは静かに見つめる。

 

「(涙など・・・“剣”には無用!・・・なのに、なぜ溢れて止まらぬ!・・・今の私は仲間を護る剣にも能わずと言うことか・・・!)」

 

「(奏の事を思い出したか・・・)」

 

「翼さん・・・」

 

すると通路から緒川がやって来た。翼は直ぐに涙を拭うと背を向ける。

 

「わかっています、今日は取材が幾つか入っていましたね・・・」

 

そう言って翼はマネージャーである緒川と、ボディーガードであるエルシドを置いて一人で仕事に向かう。

 

「翼さん・・・!」

 

「一人でも行けます、心配しないでください・・・」

 

「・・・・・・」

 

自分達を置いて仕事に向かう翼を緒川は静かに見つめていた。だがーーーーーーー

 

「翼、一つ言っておく」

 

「っ・・・!」

 

エルシドに声を掛けられ、翼は立ち止まる。

 

「“友の為”に、“仲間の為”に、“誰かの為”に流す涙は決して“無用なモノ”ではない、お前は“剣”であると同時に“人”なのだ。ソレを忘れるな・・・!」

 

「エルシドは・・・レグルスとデジェルが死んだら、お前は、涙を流すのか・・・?」

 

「・・・・・・俺達は戦争をしていたんでな、仲間の死を悲しむよりも、仲間の死を無駄にしないよう、自分に出来ることを考えるようにしている・・・だが・・・」

 

「だが・・・?」

 

「お前が死んだら、さすがに堪えるかもな・・・」

 

「っ!・・・・・・そうか・・・////」

 

フッとニヒルに笑うエルシドの言葉に少し顔に朱が入った翼はそのまま歩いていった。

 

「(エルシド、お見事です・・・!)」

 

緒川は心の中でエルシドに向かって親指を立てていた。

 

 

 

 

 

ーFIS sideー

 

『FRONTIER』と表示された島に到着した飛行艇は、何もない海面で滞空していた。操縦席に座るマリアとナスターシャ教授、二人の後ろにアルバフィカ達と切歌と調、嫌らしい笑みを浮かべたドクターウェルがいた。

 

「マリア、お願いします」

 

マリアがパネルを操作すると、飛行艇から“何か”が射出された。射出されたソレは空中で変形する。

 

「シャトルマーカー、展開を確認」

 

「ステルスカット、神獣鏡のエネルギーを収束!」

 

飛行艇のステルスを解除すると、“シンフォギアの結晶体”、“神獣鏡<シェンショウジン>”にエネルギーが入り光る。

 

「長野県皆神山より出土した“神獣鏡”とは、鏡の聖遺物。その特性は、光を屈折させて周囲の景色に溶け込む鏡面迷彩と、古来より伝えられる魔を払う力」

 

それを聞いていたアルバフィカは当時の詳細なデータを思い返していた。

 

「(当時、その聖遺物の調査に来ていた調査隊の中に、天羽奏の両親と妹、そして、天羽奏がいた。調査隊は櫻井了子に転生したフィーネが操るノイズによって天羽奏を残して全滅、天羽奏は当時この世界に来て間もなかったシジフォスとエルシドに守られたが、天羽奏の両親と妹もノイズによって亡くなり、そしてフィーネは聖遺物 神獣鏡を発見し、それを米国への信頼を得るための手土産として送った・・・)」

 

「聖遺物由来のエネルギーを中和する神獣鏡の力を持ってして、フロンティアの施された“封印”を解除します・・・!」

 

操作トリガーを押そうとするナスターシャの手をコックピットに入ってきたドクターウェルが掴む。

 

「フロンティアの“封印”が解けると言うことは、その存在を露にすると言うこと。全ての準備が整ってからでもおかしく無いのでは?」

 

「心配は無用です」

 

ナスターシャ教授の言葉にドクターウェルは渋々と手を離す。

 

「リブーバーレイ、ディスチャージ・・・!」

 

ナスターシャ教授がトリガーを引くと飛行艇から一筋の光が発射され、空中に佇むシャトルマーカーに当たると、光は海底深くに伸びていった。それを眺めたドクターウェルは不気味に笑いながら鼻歌でも歌うように呟く。

 

「フフフこれで、フロンティアに施された“封印”が解ける~~解け~~る~~~♪」

 

光が海底に当たると、海底から気泡が溢れ、気泡が海面から吹き出し、水蒸気を上げる。

 

「解け・・・」

 

だが、水蒸気は収まり、海面は静かに波が揺れていた。

 

「解け、ない・・・!」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

愕然とするドクターウェルと呆然とする切歌と調、アルバフィカ達は静かに見据える。

 

「と、とけ、解けない・・・」

 

「出力不足です。いかな神獣鏡の力と云えど、機械的に増幅した程度では、フロンティアに施された“封印”を解く迄には至らない事・・・」

 

ナスターシャ教授が静かに言うと、ドクターウェルがヒステリックに喚く。

 

「貴女は知っていたのか!? 聖遺物の権威である貴女が、この地を調査に訪れていて何も知らない等考えられない! この実験は、今の我々ではフロンティアの封印解放に程遠いと言う事実を知らしめる為に! 違いますか!?」

 

「・・・これからの大切な話をしましょう」

 

「んーんッ! んッ! んッ!んッ!んーーーーーーーッッッ!!!(ギシギシギシギシギシギシギシギシ)」

 

ナスターシャ教授の冷めた態度にドクターウェルは歯軋りをしながら唸っていた。

 

「「「(正に、餓鬼だな・・・)」」」

 

まるで欲しかった“玩具”がお預けにされた事に癇癪を引き起こす幼稚な子供のようなドクターウェルを、アルバフィカとマニゴルドとカルディアはゴミを見るように冷めた目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書いていて思ったんですけど、外道博士って身体が大きい『だけ』の“子供”に見えるんですが、シンフォギアの“OTONA”な人達と比べるとより一層そう思います。


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手放したその手・・・

ー二課・指令室ー

 

現在二課本部では、FISの情報から月の落下についての調査が行われていた。聖闘士組からはレグルスとエルシドが指令室に、デジェルは予備校の方にいた。ソッとレグルスとエルシドがコッソリ会話する。

 

「デジェルもこんな時位は予備校を休めば良いのに・・・」

 

「そう言うな、ライブ襲撃からずっと休んでいたのだからな、模試の日位は予備校に行かせなければヤツの目標が遠ざかる」

 

医者志望のデジェルは、医療の道を進む為に医大を目指して勉学に励んでいる。今日は志望校への模試が予備校で行われるので、デジェルは予備校に行っている。

 

そして弦十郎は、友里と藤尭からの報告を聴いていた。

 

「出鱈目、だと・・・?」

 

「はい、NASAが発表している月の公転軌道には、僅かながら差異があることが分かりました」

 

「誤差は非常に小さなモノですが、間違いありません。そして、この数値のズレがもたらすものは・・・」

 

言い淀む藤尭に代わって、エルシドがメインモニターに映し出された公転軌道を見ながら口を開く。

 

「“ルナアタック”の破損による月の好転軌道のズレは、今後数百年の間は問題無いと言う、米国政府の公式見解を鵜呑みには出来ないと言うことか・・・」

 

「そう言う事だな・・・」

 

エルシドの言葉を弦十郎が肯定する。

 

「米国政府は何でこんな一大事を秘匿にしていたんだろう?」

 

「米国とフィーネ<櫻井了子>は表面的だか協力関係にあった。米国が我々と協力していればフィーネが事を起こす前に対処は幾らでもできていた筈だ。しかし結果としてフィーネが月の一部を破壊し、月の落下の発端を作ってしまった。間接的とは言え、月の落下の責は米国側にもある。それを隠していたかったのでは・・・?」

 

「その可能性も大いにあるが・・・」

 

レグルス、エルシド、弦十郎の三人は、以前ドクターウェルの言った言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『月の落下にて損なわれる“無辜の命”を可能な限り救い出す事だ!』

 

「嫌・・・遠くない未来に落ちてくるからこそ、米国に代わって、FISは動いていた訳だな・・・!」

 

「(アルバフィカ達やマリア・カデンツァヴナ・イヴ達は兎も角、ウェル博士の言った『“無辜の命”を救い出す』と言う言葉、鵜呑みに出来るのか?)」

 

「(なんか引っかかるな、あの人。お芝居でもしてるかのような態度と、まるで暗闇に潜んで獲物を喰らおうと待ち構えている毒蛇みたいなあの“目”・・・!)」

 

難しい顔を浮かべる弦十郎とは別に、エルシドは直感的に、レグルスは野生の勘でドクターウェルを胡散臭げに考えていた。

 

 

ーFISsideー

 

その頃、ナスターシャ教授とマリア・カデンツァヴナ・イヴは、東京スカイタワーに赴き、エレベーターで58階に付き、隣のエレベーターからアルバフィカが降りてきて、三人は通路を歩く(アルバフィカはマリアとナスターシャ教授から3歩離れて歩く)。

 

『貴女にこれ以上、新生フィーネを演じてもらう必要はありません・・・』

 

ナスターシャ教授に言われた言葉を考えているマリアは思いきって、自分が押している車椅子に座るナスターシャ教授に話しかける。

 

「マム、あれはどういう・・・」

 

「言葉通りです。私達のしてきた事は、テロリストの真似事に過ぎません。真になすべき事は、月がもたらす災厄の被害を如何に抑えるか。違いますか・・・?」

 

「つまり、今の私達では世界を救えないと・・・?」

 

「・・・・・・・・・」

 

通路を歩く三人の目の前に展望会議室への扉があり、扉が開くとそこには。

 

「「っ!?」」

 

サングラスにスーツを着た、堅気ではない佇まいの男達がいた。

 

「マム、これは・・・?」

 

「米国政府のエージェントか・・・!」

 

アルバフィカは、黒薔薇を片手に構えて、ナスターシャ教授とマリアの前に立つ。

 

「アルバフィカ、良いのです。この者達は講和を持ちかける為に私が召集しました」

 

「講和を結ぶつもりなの・・・?」

 

ナスターシャ教授は車椅子を操作して会議室の上座に移動する。

 

「ドクターウェルには通達済みです。さあ、これからの大切な話をしましょう」

 

「・・・・・・」

 

「(バカな、米国政府がそんな穏便なやり方を選ぶとは思えない)」

 

アルバフィカは米国に対して不審な目を向けていた。

 

 

 

 

ー響sideー

 

その頃、響も未来と一緒に東京スカイタワーの水族館に来ており、目の前を泳ぐ魚達呆然と見ながら翼に言われた言葉を思い出していた。

 

「・・・・・・」

 

『このままでは死ぬんだぞ! 立花っ!!』

 

水槽を泳ぐマンボウが響に近くが、響は顔を俯かせる。

 

「(死ぬ・・・戦えば死ぬ・・・考えてみれば当たり前の事・・・でも、いつか麻痺してしまって、それはとても遠い事だと錯覚していた・・・けど、戦えない私って、誰からも必要とされない私なのかな・・・?)」

 

戦えず誰かの役に立てない自分は必要ない存在、そんな自分への存在意義の疑問、それが響の心を支配していた。

 

ピトッ

 

ふと自分の頬に未来がヒンヤリとしたジュース缶を押し当てる。

 

「ウエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

突然頬のヒンヤリとした感覚に仰天する響に驚いてマンボウは去り、他の客も何事かと響の方を見ると未来が買ってきたジュース缶を響に渡す。

 

「大きな声を出さないで」

 

「だだだだだだだって! こんな事されたら誰だって声が出ちゃうって・・・!」

 

「響が悪いんだからね!」

 

「私・・・?」

 

「だって、折角二人で遊びに来てるのにずっと詰まらなそうにしているから・・・」

 

「あ~~ゴメン・・・」

 

バツが悪そうな顔をした響は直ぐに顔を引き締め。

 

「心配しないで! 今日は久しぶりのデートだもの♪ 楽しくない筈がないよ♪」

 

「響・・・」

 

未来の脳裏に弦十郎の言葉が浮かんだ。

 

『君の傍で“穏やか時間”を過ごすことだけが、ガングニールの侵食を抑制出来ると考えている』

 

「デートの続きだよ。折角のスカイタワー♪丸ごと楽しまなきゃ♪」

 

響は未来の手を引き他のエリアに向かった。

 

「(響・・・アスミタさん。私は、どうすれば響を助けられますか・・・?)」

 

未来はある意味レグルスより頼りにしている“乙女座の闘士”に心の中で呼び掛けていた。

 

 

 

 

ー東京スカイタワー近くのビル屋上ー

 

「(・・・・・・事態はどうやら、私が想っている以上に動いているようだな・・・)」

 

件の“闘士”は、ビル屋上にてこれからの事態を傍観していた。

 

 

 

ー調sideー

 

月詠調はエプロンを着て味見をしていた。

 

「・・・うん、思った通りの味が出た・・・!」

 

そこには出来上がったインスタントラーメンが四つ置かれていた。マニゴルドが調に呼び掛ける。

 

「おい調、オカズの焼売と餃子(冷凍食品)がもうすぐできッから、切歌とカルディア呼んで来い」

 

「了解・・・」

 

 

ー飛行艇近くー

 

「Z~Z~Z~Z~Z~Z~Z~Z~Z~・・・・・・」

 

飛行艇の近くの森にいる切歌とカルディアは木漏れ日に当たり、カルディアはのんびり昼寝して、切歌は座りながら物思いに耽っていた。

 

「(リィンカーネーション<輪廻転生>、もしもアタシにフィーネの魂が宿っているのなら、私の魂は消えてしまうのデスか・・・・?)」

 

自分に起こった現象が、自分がフィーネの転生者になったのではと切歌は考察すると、ある事に気付く。

 

「(っ! ちょっと待つデス。アタシがフィーネの魂の器だとすると、マリアがフィーネと言うのは・・・)」

 

「切ちゃん、カルディア、ご飯の支度ができたよ」

 

調がやって来て物思いから現実に戻る。

 

「あっ・・・ありがとうデス! 何を作ってくれたデスか?」

 

「298円と焼売&餃子・・・!」

 

「ごちそうデェス! ほらカルディア! 起きるデスよ! 298円が伸びちゃうデェス!」

 

「んあ?・・・何だもう飯か?」

 

ふあぁ~と欠伸を漏らすカルディアを尻目に調は辺りを見渡すと。

 

「ドクターは何かの任務? 見当たらないけれど」

 

「知らないデス、気にもならないデス、アイツの顔を見ない内にさっさとご飯にしちゃうデスよ♪」

 

「(あのヤロウ、また碌でもねぇ事しちゃいねぇだろうな・・・)」

 

「ほらほらカルディア! ご飯♪ ご飯デェス♪」

 

「早くしないとマニゴルドに全部食べられちゃうよ」

 

「わーった、わーった・・・」

 

起き上がったカルディアは調や切歌と一緒に飛行艇に戻っていった。

 

 

ーナスターシャ教授sideー

 

ナスターシャ教授からデータチップ渡されたマリアはエージェントに手渡した。

 

「異端技術に関する情報、確かに受け取りました」

 

「取り扱いに関しては、私が享受いたします。つきましては・・・」

 

「っ!」

 

ナスターシャ教授が続きを話す前にエージェント達が銃を構えた。

 

「マム!」

 

「やはりこう来るか!米国!!」

 

「貴女<マリア>の歌よりも、銃弾は早く、躊躇無く命を奪う」

 

ニヤリ笑顔のエージェントにマリアは歯軋りする。

 

「初めから、取り引きに応じる気は無かったのですか・・・?」

 

「必要なモノは手に入った、後は不必要なモノを片付けるだけ・・・」

 

「不必要とは、貴様らのような人間だ・・・!」

 

「っ!?」

 

『ッ!!??』

 

先程までマリア達の傍にいたアルバフィカがエージェントの達の直ぐ隣に現れた。

 

「(ホッ・・・)」

 

「生憎でしたね、此方には銃弾よりも迅速に動ける人間がいるのですよ」

 

ドカッ!バキッ!ガスッ!ドスッ!ベキッ!

 

一瞬でエージェント達を叩きのめしたアルバフィカは手の汚れを払う。

 

「バ、バカな・・・銃弾よりも早く動く人間がいるなんて・・・!?」

 

ヨロヨロと立ち上がろうとするエージェントが窓の方を見ると、エイのような、鳥のようなノイズが空中にいた。

 

「っ!」

 

「(ウェルか・・・!)」

 

「ノイズ!」

 

エージェント達が困惑しているとノイズはガラスをすり抜けてエージェント達に襲いかかる。

 

「あ、うわああああああ・・・・・・」

 

悲鳴を僅かに上げて炭素消滅するエージェント達。

 

 

 

ードクターウェルsideー

 

ドクターウェルはスカイタワー近くのビルで優雅にコーヒーを啜っていた。

 

「誰も彼もまぁ、好き勝手な事ばかり・・・」

 

不貞腐れた態度で更にコーヒーを飲みながら、スカイタワーを眺めていた。

 

 

ーナスターシャ教授sideー

 

「うわあああああああっ!!」

 

悲鳴を上げながら炭素消滅するエージェントを尻目にマリアは歌う、アルバフィカは鎧を呼ぶ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「魚座<ピスケス>ッ!!」

 

マリアのその身を纏うは『撃槍 ガングニール』、アルバフィカが身に纏うは、『一匹の黄金の魚のオブジェ』がパーツに分割され、アルバフィカの身体を包む。

 

「タッ!」

 

「ッ!!」

 

マリアは歌を歌いながら槍を振るい、アルバフィカは黒薔薇で次々と壁や床や天井をすり抜けながら建物に入るノイズ達を殲滅する。

 

ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!

 

会議室から爆発が起きる。

 

 

 

ー響sideー

 

ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!

 

その爆発音は、響と未来のいる階にも響いた。

 

「何・・・?」

 

首を傾げる未来と顔を険しくした響が窓の外を見るとノイズを確認した。

 

「おいノイズじゃないか!? 逃げろ!!」

 

他の客達が逃げる中、響は爆発音がした方へ向かおうとするのを未来が引き止める。

 

「行っちゃダメ! 行かないで!」

 

「未来、だけど行かなきゃ!」

 

「この手は離さない! 響を戦わせたくない! 遠くに行って欲しくない!!」

 

未来の顔を見て響は躊躇うがーーーーー

 

「お母さん何処・・・!? お母さん・・・!」

 

近くで泣いている男の子が目に入る。

 

「胸のガングニールを使わなければ大丈夫なんだ! このままじゃ・・・!」

 

「響・・・・・・」

 

響は未来と共に迷子の男の子の元へ走った。

 

 

 

ーマリアsideー

 

マリアはノイズかエージェントの残骸を苛立たしげに踏みにじる。

 

「ッ!!」

 

「マリア、ここを離れるぞ」

 

「・・・分かっている!」

 

マリアはナスターシャ教授を担いで会議室を出ると、またもやノイズ達が現れ襲いかかる。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「(ウェルめ、こんな所でノイズをけしかけるとは、ここにいるナスターシャ教授やマリアの事等どうでも良いと言うのか・・・!)」

 

ノイズを蹴散らしながら進むマリア達、ノイズ達が別の場所で暴れているのか、爆発が相継ぐ。

 

 

 

ーウェルsideー

 

「ウフフ、ウヒヒヒ、ヒ、ヒ、ヒヒヒヒヒ・・・!」

 

歪んだ笑みを浮かべたドクターウェルは窓に張り付きながらスカイタワーの爆発を楽しそうに眺めていた。

 

 

 

ーマリアsideー

 

マリア達の行く先に、米国の軍人達がザブマシンガンをマリア達に向けて発砲する。マリアがマントで防御し、アルバフィカが黒薔薇を投げてザブマシンガンを破壊し、軍人達を薙ぎ払う。

 

「マリア、アルバフィカ、待ち伏せを避けるため上の階からの脱出を試みましょう・・・!」

 

ナスターシャ教授の指示に従い、非常階段から上の階へ向かう。

 

 

 

ー響・未来sideー

 

響と未来は泣きじゃくる男の子の手を引いて避難しようとする。

 

「ヒック、ヒック・・・」

 

「ほらほら、男の子が泣いてちゃカッコ悪いよ」

 

「皆と一緒に避難すれば、お母さんにもきっと会えるから大丈夫だよ」

 

非常階段から係員が現れた。

 

「大丈夫ですか? 早くこっちに。貴女達も急いで」

 

係員が男の子を抱き上げて避難したのを確認した響と未来は笑い合って避難しようとする。だがーーーーーーーーーー

 

ドカアアアアアアアアアン!!

 

突然ノイズが上の階に突撃して爆発が起き天井が崩れ、響の上に落ちてきた。

 

「うわあっ!」

 

「危ない!」

 

崩れた天井が非常階段の扉を塞ぐ。

 

 

 

ーマリアsideー

 

マリア達は追っ手の攻撃を防いでいたが、追っ手の流れ弾が避難しようとする人達に当たる。

 

「ッッ!! 」

 

目の前で無関係な人達が自分たちの撃った攻撃で傷付き倒れているのに、そんな事お構い無し、攻撃する軍人達をマリアとアルバフィカは睨む。

 

「(無関係な者達でもお構い無しか・・・!)」

 

アルバフィカが黒薔薇を投げて武器を破壊し、マリアがマントで軍人達を薙ぎ払う。マリアは巻き込まれた人達を悲しく見つめる。

 

「・・・・・・・・・」

 

「マリア・・・・・・」

 

ナスターシャ教授が心配そうに見つめるが、米国軍人四人がマリア達に向かって来た。

 

「マリア、次が来たぞ・・・マリア?」

 

「私のせいだ・・・! 全てはフィーネを背負いきれなかった、私のせいだああああああああああ!!!」

 

慟哭するマリアはマントで軍人の一人を倒し、更にもう一人の顔面に飛び蹴りをし。

 

「うわあああああっっっ!!!」

 

残りの二人を槍で薙ぎ払った。

 

「う、うう、う・・・・・・」

 

血で僅かに汚れた槍を持ちながら、マリアは泣きそうに嗚咽を漏らす。

 

「これが、私がマリアに背負わせた代償なのでしょうか・・・?」

 

「・・・・・・」

 

悲しそうに呟くナスターシャ教授とマリアをアルバフィカは静かに見つめた。

 

 

ー響sideー

 

響は咄嗟に未来に押し倒されて瓦礫に潰されずに済んだ。

 

「ありがとう未来・・・」

 

「うん・・・あのね、響・・・うわぁあっ!」

 

何か言おうとする未来だが、突然建物がガクンと揺れ、床がせり上がり建物なスカイタワーの一部が崩れた。

 

「うわあああああああああああああああっっっ!!!」

 

響は崩れた建物から落ちそうになる。

 

「響ーーーーーーーーーー!!」

 

落ちそうになった響の手を未来が掴んだ。そのまま宙ぶらりんとなる響の足元には、スカイタワーの足元が見えていた。

 

 

 

ーマリアsideー

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア・・・」

 

更に来た軍人達を蹴散らし、返り血で汚れた通路に三人の避難者達がいた。

 

「いやあぁっ!! 助けて! 助けて!!」

 

「狼狽えるな!!」

 

「うわぁあっ!」

 

一喝するマリアに怯えきった目で見つめる避難者達にアルバフィカが怒鳴る。

 

「脅えている暇があるならば、直ぐに逃げろ! 目障りだ!!」

 

「うわああああああああっ!」

 

逃げる避難者達。マリアは以前、ライブで言った『狼狽えるな!!』と脅えるオーディエンス達を一喝した絶対者の姿勢を思い出す。

 

「(あの言葉は、他の誰でもない、私に向けて叫んだ言葉だ!)」

 

「マリア・・・」

 

マリアはナスターシャ教授を片手に抱える。

 

「もう迷わない! 一機に駆け抜ける!!」

 

槍を掲げると槍が螺旋状に回転し、マリアのナスターシャ教授をマントが包み、まるでドリルのように回転しながら上へと飛び、アルバフィカもその後を追う。

 

 

 

ー響・未来sideー

 

「未来! ここは長く持たない、手を離して!」

 

「ダメ! 私が響を守らなきゃ!」

 

「未来・・・・・・」

 

響は必死の未来に微笑んで。

 

「いつか・・・ホントに私が困った時、未来に助けてもらうから、今日はもう少しだけ、私に頑張らせて・・・」

 

「うう、うっ・・・」

 

未来の瞼に涙が溢れる、響は未来の手を握る力を弱める。

 

「私だって・・・守りたいのに・・・!」

 

 

 

 

 

 

響と未来の手が、静かに離れた・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「響イイイイイイイイイイイイイイィィィィッッ!!」

 

 

 

 

 

未来の叫びが響いた.ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして響は歌う、『戦いの歌』をーーーーーーーーーー

 

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

 

空中で体制を整える響の身体をオレンジの光が包み、その身に『撃槍ガングニール』を纏う。

響が着地すると、地面が着地の衝撃で陥没すし、足のパーツから落下衝撃の煙が吹き出す。響は未来のいる区画を見上げる。

 

「未来、今行く!!」

 

しかし、未来のいる区画で爆発が起きた。

 

「えっ!?・・・・・・」

 

更なる爆発が未来のいた区画で発生した。

 

 

 

 

 

 

 

「未来ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???sideー

 

「やれやれ、少しはマシに成っているかと思っていたが、相も変わらず情けない・・・!」

 

その男は“黄金の鎧”を纏い、“気絶した未来”を抱き抱えて爆発の煙に紛れながら響を一瞥する。

 

「さて、私と戦うか? アルバフィカよ・・・!」

 

その男の後ろにナスターシャ教授を抱えたマリアと黒薔薇を構えたアルバフィカが立っていた。

 

「っ!!「マリアよせ・・・」アルバフィカ・・・」

 

マリアが槍を構えるがアルバフィカが手を上げて止める。

 

「戦うかどうかは、お前次第だ。アスミタ・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その男、“地上で最も神に近い黄金聖闘士”、その名を『乙女座<ヴァルゴ>のアスミタ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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失ったモノ・・・

ー調・切歌・マニゴルド・カルディアsideー

 

マリア達がスカイタワーで戦っている間のマニゴルド達は。

 

「あっ、マニゴルド! それあたしの焼売デェスっ! 盗るなデェスっ!」

 

「オメェこそ、俺の分の餃子一個多く食ったろうがっ!」

 

切歌とマニゴルドが焼売を合わせ箸に持って引っ張り合いをしていた。

 

「二人共、合わせ箸はお行儀が悪いよ・・・」

 

「「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」」

 

調の注意を気にせず焼売の引っ張り合いをしていたが、焼売が二つに千切れ、マニゴルドが空かさず奪って口に頬張る。

 

「いただき♪」

 

「あ、酷い! じゃマニゴルドのチャーシューもうらいデェス!」

 

「俺のチャーシュー!!!」

 

「いいじゃないデスか! こちとら食べ盛りで育ち盛りの成長期なんデスよ!」

 

「なにぃ!? 切歌、お前“食べ盛り”とか“育ち盛り”とか“成長期”って単語知ってたんだな!?」

 

「ふっふ~ん♪・・・・・・ん? って、それどういう意味デスかーーーーーッ!!!」

 

ギャーギャーギャーギャー!!

 

「ハァ、マムとマリアがいないといつもこうなんだから・・・」

 

「ま、あれがあの二人の平常運転って事で良いんじゃね?」

 

「カルディアは参加しないの? いつもなら参戦するのに・・・?」

 

「・・・・・・今日は気分じゃねぇや。調、俺の分の焼売と餃子やる」

 

気だるそうにカルディアは調に手を付けてない焼売と餃子を渡す。

 

「私、あんまり食べられないよ・・・」

 

「お前も育ち盛り何だから食っとけ、じゃないと切歌だけ成長しちまうぞ」

 

「成長・・・・・・(チラッ)」

 

調は絶讚マニゴルドと喧嘩中の切歌の“ある一部分”を見る、自分と切歌は同い歳で幼馴染な間柄、背丈は切歌の方が少し高いがどちらかと言うと小柄な体型、だが、その小柄な体型に不釣り合いな程に瑞々しく実った“二つの果実”が見ていると、ライブ襲撃で響に抱いた時と同等の“怒り”が静かに沸き上がり。

 

「食べる・・・・・・!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「(お、おぉ、すげェオーラ・・・!)」

 

少食な自分の胃袋に食べ物を詰め込むべく、餃子と焼売を口に入れる調をカルディアは弱冠引きながら見ていた。

 

「「(いつまでも続いて欲しいな(デスな)、こんな一時が・・・)」」

 

騒がしくも楽しいこの仲間達とのこの一時がいつまでも続いて欲しいと、切歌と調は願っていた。

 

 

 

 

ー響sideー

 

響は茫然自失していた。さっきまでこの手に握っていた親友の手の温もり、さっきまで笑い合っていた親友の笑顔、さっきまで一緒にいた親友、小日向未来がいた区画が爆発したのをその目にしたからだ。

 

「未来・・・・・・」

 

共に笑い、泣き、喧嘩して仲直りして、ずっと一緒にいた親友が死んだ。響は膝から崩れ落ちる。

 

「・・・・・・なんでこんな事に・・・!」

 

戦う意思が無くなった響の感情に呼応するかのように、その身に纏うガングニールが消えた。

 

「うっ、ううっ、うう・・・・・・」

 

泣きじゃくる響に向かってノイズが襲いかかるがーーーーー

 

「『ライトニング・プラズマ』!!」

 

響に襲いかかるノイズを黄金の閃光が粉砕する。

 

「響、しっかりしろ!」

 

「立花!」

 

「戦場で何を呆けている・・・!」

 

獅子座の黄金聖衣を纏うレグルスと天羽々斬を纏う翼と山羊座の黄金聖衣を纏ったエルシドが現れた。

 

「ソイツは任せた!」

 

イチイバルを纏うクリスはノイズを向かって駆ける。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」

 

フォニックゲインを高める為に歌を歌うクリスに向かってノイズに襲いかかるが腰パーツを展開して追尾式小型ミサイルを発射する。

 

「目障りだーーーーーッッッ!!!!」

 

『MEGA DETH PARTY』

 

小型ミサイルを浴びたノイズだが、何体かが回避したのかクリスに襲いくる、クリスはノイズの突撃を回避する。

 

「(少しずつ何かが狂って壊れていきやがる、私の居場所を蝕んでいきやがる!)」

 

『BILLION MAIDEN』

 

今度は三連ガトリング砲を4門展開し空中のノイズに向けて掃射する。

 

「(やってくれるのは何処のどいつだ!)」

 

地面を滑空して襲いかかるノイズを飛び上がって回避するクリス。

 

「(お前か・・・!)」

 

空中でガトリング砲をノイズに向けて発泡しノイズを破壊する。

 

「(お前らか・・・!!)」

 

怒りをぶつけるように乱射するクリスを見ていた翼達は。

 

「雪音・・・」

 

「遮二無二に射ちまくっているな・・・」

 

「ああなるとデジェルじゃないと、止められないよ・・・」

 

「・・・く・・・」

 

「響、一体何があったの?」

 

「未来が・・・未来が・・・」

 

「「「っ!?」」」

 

翼達は響の発した言葉から響が呆けている理由を理解し、響が見つめる先を見る。

 

「レグルス、翼、ここは任せた・・・!」

 

響をレグルスと翼に任せ、エルシドはスカイタワーの燃えている区画に向かう。

 

「まさか・・・小日向が・・・!」

 

「(・・・・・・未来の“気配”がしない・・・無事でいてくれよ・・・!)」

 

レグルスと翼が不安そうに燃えている区画を見据えていると、クリスもまた、ノイズを見据えて言い様の無い怒りが込み上がる。

 

「(ノイズ・・・あたしが“ソロモンの杖”を起動させてしまったばっかりに! 何だ、悪いのはいつもあたしのせいじゃねぇか・・・あたしは・・・)もう逃げなーーーーーいッ!!」

 

フィーネに唆されたとは言え“ソロモンの杖”を起動させてしまった自責の念と怒りをノイズにぶつけるように、背中から大型ミサイルを二つ展開させる。

 

『MEGA DETH FUGA』

 

大型ミサイルは空中を浮遊する大型ノイズ2体に向けて発射してノイズを粉砕する。

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、ハア、(ポン) えっ? あ、お兄ちゃん・・・」

 

息切れするクリスの頭を撫でるのは、水瓶座<アクエリアス>の黄金聖衣を纏い穏やかに微笑むデジェルであった。

 

「クリス、君のせいじゃない。“ソロモンの杖”を起動させてしまったのは、確かに君だが、今現在“ソロモンの杖”を使ってノイズを操っている者の“責”を君が背負う事は無いんだ・・・」

 

「でも・・・あたし・・・!」

 

「君がそれでも“責”を感じるならば、“ソロモンの杖”を何としてでも取り戻す事だ。それこそが、起動させてしまった君がやらねばならない“償い”だ」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

クリスとデジェルはお互いに見つめ合う。だが、デジェルの頭脳は別の事に思考を巡らせていた。

 

「(そう、真に“罪”を背負わなければならないのは、現在の“ソロモンの杖”の所持者・・・!)」

 

デジェルの脳裏には、歪みきった下劣な笑みを浮かべ、不快なほどに甲高い耳障りな笑い声を上げる灰色の髪をした科学者が浮かんだ。

 

「(貴様に償って貰うぞ、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスッ!!)」

 

デジェルはドクターウェルに怒りを燃やしていた。

 

そしてーーーーーーーーーー

 

「あの二人は、いつもあんな感じなのか? 見てるこっちが恥ずかしくなるぞ・・・///////」

 

「て言うか、デジェル予備校は?」

 

戦場であるにも関わらずに、『二人の世界』を繰り広げるデジェルとクリスに翼は僅かに顔を赤らめ、レグルスは呆れ気味に見ていた。

 

余談であるが、デジェルが模試を受けていた予備校はスカイタワーに近い位置<歩いて500mの距離>にあり、ノイズが現れた事で模試が途中中止になったので現場に駆けつけた。

 

更に余談だが、模試は後日に再開し、デジェルはトップの成績を出して志望校への評価はオールAを叩き出した。

 

 

* * *

 

 

それからノイズを殲滅し、日が傾き始めたスカイタワーには、二課と警察が来ており、そこに弦十郎の姿があった。本部と連絡を取っていた弦十郎に、同じくスカイタワーに来ていた緒川とエルシドとデジェルが近づき。

 

「米国政府が・・・?」

 

「間違いありません、FISと接触し、交渉を試みたそうです」

 

「その結果がこの惨状とは、交渉は決裂したと見るのが妥当だが・・・!」

 

「ただどちらが何を企てようと、人目につくことは極力避けるはず・・・」

 

「FISと米国が結び付くのを良しとしない、“第三の思惑”が横上を入れやがったか・・・」

 

「(現状ノイズを操る事が出来るのは“あの男”、まさかヤツがこの惨状を・・・?)」

 

「どうした、デジェル?」

 

「嫌、それよりもエルシド、小日向君は・・・?」

 

「・・・・・・」

 

デジェルの質問に難しい顔を浮かべるエルシドは口を開く。

 

ー響sideー

 

響は諜報部の車の中で、茫然としていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その脳裏に浮かぶのは、最後に見た“未来の泣き顔”だった。

 

「(絶対に離しちゃいけなかったんだ・・・! 未来と繋いだこの手だけは・・・!)」

 

「響・・・」

 

レグルスの声に、顔を向ける響は暖かい飲み物が入った紙コップを渡される。

 

「あおいから貰ってきた、暖かいモノでも飲んで少し落ち着こう・・・」

 

レグルスから紙コップを受け取る響。

 

「(レグルス君達なら、きっと離す事は無かった・・・きっと助けられた・・・私は離しちゃた・・・未来の手を・・・)うっ、ううっ・・・」

 

「響・・・?」

 

「・・・私にとって“一番暖かいモノ”は・・・もう・・・! ううっ、ううっ!」

 

涙を流す響にレグルスは背を向けながら話す。

 

「(エルシドが捜索した結果、未来の“遺体”らしきモノは見つからなかったらしいけど、下手に希望を抱かせる訳には、いかないよな・・・)」

 

 

 

ーFISsideー

 

その頃、飛行艇に戻ったマリアとナスターシャ教授とアルバフィカ。マリアは窓を殴る。

 

「この手は血に汚れて・・・! セレナ、私はもう・・・!うっ、ううっ、ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

泣き始めたマリアを辛そうに見る切歌と調、調はナスターシャ教授に話しかける。

 

「教えてマム、一体何が・・・?」

 

「・・・・・・」

 

「それだったら、僕からお話しましょう・・・!」

 

「「「・・・・・・」」」

 

言い淀むナスターシャに変わって、“ソロモンの杖”を持ったドクターウェルが部屋に入ってきた。マニゴルドとカルディアとアルバフィカは汚物でも見るように目を細める。

 

「ナスターシャは十年を待たずに訪れる月の落下より、一つでも多くの命を救いたいと言う私達の崇高な理念を米国政府に売ろうとしたのですよ!」

 

「マム・・・!」

 

「本当なのデスか!?」

 

「・・・・・・」

 

何も言わないナスターシャに変わってウェルは更に慇懃無礼な態度で喋る。

 

「それだけではありません。マリアを器にフィーネの魂が宿ったと言うのもとんだ出鱈目! ナスターシャとマリアが仕組んだ狂言芝居!」

 

「「っ!?」」

 

ウェルの言葉に切歌と調はマリアを見る。

 

「・・・・・・ゴメン・・・皆・・・ゴメン・・・!」

 

泣きそうな声で謝罪するマリアの背を見て、マニゴルドが口を開く。

 

「ふ~ん、マリアがフィーネの器じゃないか・・・で?」

 

マニゴルドがウェルに向かって問う。

 

「で? とは?」

 

「だからそれで?」

 

「だから、マリアはフィーネではないと・・・!」

 

「知ったこっちゃねぇな・・・!」

 

ウェルが更に何か言おうとするのをカルディアが遮る。

 

「知ったこっちゃ無いとは・・・?」

 

意味が分からないと言わんばかりのウェルにアルバフィカが言う。

 

「マリアがフィーネではないと言うことは、マリアがフィーネに食い潰される心配が無くなったと言うだけだ。何も問題は無い」

 

「な?! あ、あなた達聖闘士は、マリアがフィーネであるからかつての同士と戦う事を選んだのではないのですか!?」

 

「「「関係無い(ねぇよ)(ねぇんだよ)」」」

 

「っ!?」

 

「っ!」

 

フィーネの力を見込んでかつての仲間と対立する事を選んだと高をくくっていたウェルは目を見開き驚く、それはマリアも同じだった。マニゴルドとカルディアはニヤリと笑みを浮かべ。

 

「俺は“報酬”♪」

 

「俺は俺の“目的”♪」

 

「「俺らは俺らの目論みでここにいんだよ!」」

 

「(チッ、この単細胞の俗物共が・・・・ッッ!!)」

 

マニゴルドとカルディアの小馬鹿にした笑みにウェルは内心舌打ちをする。

 

「では、アルバフィカさん! 貴方は何故!? まさか貴方も“報酬”や何かの“目論み”でここに入るのですか!?」

 

「・・・・・・君に教える“義理”も無ければ、教える“価値”もないな」

 

「なっ!?」

 

アルバフィカは目を細め、ウェルを見据える。

 

「知りたければ自ら考えて見ることだな。君は優秀な頭脳を持っているつもりなのだろう? そんな君でも分からないのかな?」

 

「ぐ、ぐぐ、ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」

 

アルバフィカの鼻笑い混じりの問いにウェルは忌々しいと言わんばかりに歯ぎしりをする。

 

「・・・・・・(私がフィーネでない事を知って何故、力を貸してくれるの?)」

 

マリアが窓に映るアルバフィカを見る。カルディアは調の頭を撫でる。

 

「んで? 調、お前はどうなん? つまりはマリアがフィーネに消される心配が無くなったって訳だぜ?」

 

「・・・・・・それは、それで良かったかも・・・」

 

「だろ♪」

 

調の答えにカルディアは満足気に頷き、マニゴルドは切歌に問う。

 

「んで、切歌、お前はどうなのよ?」

 

「えっ!? そりゃ、マリアがフィーネに食い潰される心配が無くなって良かったと思うデスが・・・でも! マリアがフィーネで無いだとしたら、じゃぁ・・・!」

 

切歌の言葉を遮るようにウェルがいけしゃあしゃあと口を開く。

 

「僕を計画に荷担させる為とは言え、貴女<調と切歌>まで巻き込んだこの“裏切り”は、あんまりだと思いませんか? せっかく手に入れた“ネフェリムの心臓”も、無駄になるところでしたよ・・・!(“骨董品共”との関係を拗れさせる事は出来なかったが、小娘共との関係には僅かな“亀裂”を生めた。後はどうするかですねぇ・・・!)」

 

 

 

ー緒川sideー

 

その頃緒川は、スカイタワー近くの河川で“通信端末”を発見し、弦十郎に連絡を取るように指示を出していた。

 

 

ー翼・クリスsideー

 

その晩、『ファミリーレストラン イルズベイル』にて、翼とクリスは夕食を取っていた。

 

「ムグムグムグムグ、ふぁにかたのふぇよ(何か頼めよ)、ふぉすぐにぃふぁちもくるひふぁ(もうすぐ兄ぃ達も来るしさ)」

 

口の中に食べ物を頬張りながら、口の周りを汚しながら翼に話しかけるが、翼は憮然とし。

 

「夜の9時以降は食事を控えている・・・」

 

クリスは翼の“慎ましい胸元”を見てボソッと呟く。

 

「そんなんだからそんな(胸)なんだよ・・・」

 

「何が言いたい! 用が無いなら帰るぞ!」

 

思わず立ち上がり怒鳴る翼。

 

「・・・・・・怒っているのか?」

 

「愉快でいられる道理が無い! FISの事、立花の事、そして・・・仲間を守れない私自身の不甲斐なさを思えば・・・!」

 

席に座り直す翼にクリスが話す。

 

「呼び出したのは、一度一緒にメシを食ってみたかっただけさ。腹を割って色々話すのも悪く無いと思ってな。あたしら何時からこうなんだ? 目的は同じ筈なのに、てんでバラバラになっちなってる。兄ぃ達みたいな戦闘力が無い分、あたしらは連携して「雪音・・・」?」

 

「腹を割って話すなら、いい加減名前位呼んで貰いたいモノだ・・・」

 

「はああっ!?/////」

 

翼の反撃に顔を赤らめる。

 

「そ、そりゃぁ・・・オメェ・・・/////」

 

翼は席を立ち、去っていった。

 

「ち、ちょっと・・・・・・ハ~ァ、結局話せず仕舞いか・・・でもそれで良かったかもな・・・」

 

「本当に良かったと思うのか?」

 

「あ、お兄ちゃん・・・」

 

デジェルがやって来た(翼達がいる所では「兄ぃ」と呼んでいるが、二人っきりの時は「お兄ちゃん」と呼ぶ事にしている)。

 

「なんだよ、盗み見なんて趣味悪いよ・・・山羊座の野郎は?」

 

「フラれてしまってね、丁度翼君が名前を呼べの所で来たので静観してみたが、どうにもままならないな・・・」

 

やれやれと肩を竦めながら翼の座っていた席に座るデジェルに頷きながら、クリスはコーヒーを啜る。

 

「・・・苦ぇ・・・」

 

「それはそうとクリス、少しテーブルマナーを身に付けた方が良いな・・・」

 

「うへぇ・・・」

 

クリスの食べ散らかしたテーブルの惨状を見たデジェルの言葉にクリスはげんなりとした表情を浮かべた。

 

 

 

ーFISsideー

 

夜になり、部屋の中が暗くなる中、切歌が口を開く。

 

「マム、マリア、ドクターの言ってる事は本当なんデスか?」

 

「本当よ、私がフィーネで無い事も、人類救済の計画を一時棚上げにしようとした事もね・・・」

 

「そんな・・・」

 

「マムはフロンティアに関する情報を米国政府に共用して、協力を仰ごうとしたの」

 

「だって、米国政府とその経営者達は、自分達だけが助かろうとしているって・・・」

 

「それに! 切り捨てられる人達を少しでも救おうとして世界に敵対してきた筈デェス!」

 

「米国がこちらと大人しく講和をしようとは思えねぇな・・・!」

 

「・・・あのまま講和が結ばれてしまえば、私達の優位性は失われてしまう。だから貴方は、あの場にノイズを召喚し、会議の場を踏みにじって見せた、こちらにはアルバフィカがいたからノイズの必要性など無かったにも関わらず・・・!」

 

ナスターシャの責める物言いにウェルはニヤリと笑みを浮かべわざとらしい態度を取る。

 

「嫌だなぁ、悪辣な米国の連中から貴女を守って見せたと言うのに!」

 

ウェルは“ソロモンの杖”をナスターシャに向けて、調と切歌がナスターシャを守るように立ち、マニゴルドとカルディアがウェルの後ろで構える。

 

「この“ソロモンの杖”で・・・!」

 

「「・・・ッッ」」

 

調と切歌の前に、マリアが立ち塞がった。

 

「マリア・・・?」

 

「どうしてデスか!?」

 

「フハハハハハハハハハハハハハ、そうでなくっちゃ♪」

 

下卑た笑いを上げるウェルを無視し、マリアが言う。

 

「偽りの気持ちでは世界を守れない! “セレナの想い”を継ぐ事なんて出来やしない! 全ては力、力を持って貫かなくては、正義を成すことなんて出来やしない! 世界を変えていけるのはドクターの“やり方”だけ! ならば私はドクターに賛同する!!」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

「ウヒヒ、ウヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

マリアの言葉に調と切歌が黙りマニゴルドが呟く。

 

「“力こそ正義”ってか、まぁ間違っちゃいねぇな。力の無いヤツが何かをほざいた所で、所詮“弱い犬ほど良く吠える”だからな・・・」

 

「そんなのヤダよ・・・だってそれじゃ、力で弱い人達を抑え込むって事だよ・・・!」

 

マリアとマニゴルドの言葉に納得できない調、沈黙がその場に広がるが。

 

「・・・・・・分かりました」

 

ナスターシャが沈黙を破った。ウェル以外の全員がナスターシャを見る。

 

「それが“偽りのフィーネ”ではなく、“マリア・カデンツァヴナ・イヴ”の選択なのですね?」

 

「・・・・・・」

 

沈黙は肯定と言わんばかりにマリアはナスターシャを見据える。

 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ・・・」

 

「大丈夫デスか!?」

 

咳き込むナスターシャにマリアは近づこうとするが立ち止まり、ウェルは部屋を退出しようとする。

 

「後の事は僕に任せて、ナスターシャはゆっくり静養して下さい。さて、計画の軌道修正に忙しくなりそうだ! 来客の対応もありますからね♪」

 

わざとらしく話すウェルが退出したのを確認したマニゴルド達は目線で会話する。

 

「(来客ってマリアが連れてきたあの娘か・・・?)」

 

「(アルバフィカ、あの娘っ一体何なんだよ?)」

 

「(・・・・・・アスミタから預かった少女だ)」

 

「「(・・・・・・はぁ!? アスミタが!?)」」

 

「(スカイタワーで出くわしてな、急に彼女を我等に託して姿を消したのだ・・・)」

 

「(は~、あのアスミタがね・・・)」

 

「(何か言ってたか・・・?)」

 

「(さぁな、そう言えば去って行く際に・・・)」

 

『「自分が手離した存在が、どれ程大切なのか、あの“中途半端な愚か者”には良い薬になる・・・」』

 

「(と言って消えたが、あれは一体・・・)」

 

 

ーFIS飛行艇・格納庫ー

 

薄暗い格納庫に光る柵で出来た檻の中で、スカイタワーで行方不明になった『小日向未来』が座り込んでいた。

 

「・・・・・・響・・・ッッ」

 

親友に会いたい気持ちとこれからの不安に、未来は顔を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最悪の再会

ー二課仮設基地ー

 

小日向未来が行方不明になって翌日。特異災害対策機動部二課の仮設基地である潜水艦が河川敷に停泊していた。そこで響は弦十郎から緒川が発見した通信端末を渡される。

 

「これは・・・?」

 

「スカイタワーより少し離れた地点で回収された、未来君の通信機だ」

 

『っ!?』

 

弦十郎の言葉に奏者達と聖闘士達が驚く。

 

「発信記録を追跡した結果、破損されるまでの数分間、ほぼ一定速度で移動していた事が判明した・・・」

 

「え・・・」

 

「エルシドがスカイタワーで未来君の遺体らしきモノを発見されていない、この事から未来君は死んじゃいない、何者かによって連れ拐われ、拉致されていると考えるのが妥当だが・・・」

 

「師匠! ソレってつまり!」

 

身を乗り出す響に弦十郎は笑顔で答える。

 

「こんな所で呆けてる場合じゃないって事だろうよ!」

 

「やったな響!」

 

「うん!」

 

レグルスの言葉に頷く響の頭を弦十郎が撫でる。

 

「さて、気分転換に運動するか!?」

 

「はい!」

 

* * *

 

そして奏者達と聖闘士達の特訓が始まった。ランニングウェアを着た奏者達と聖闘士達。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

そしてそんな一同と共にランニングウェアを着た弦十郎が歌!?を歌いながら走っていた。

 

「イエェイ! 気分が乗るなぁ!」

 

「レグルスはこういう歌がいいのか・・・?」

 

「熱血スポ根モノは少し苦手だ・・・」

 

弦十郎の歌にノリノリのレグルスにエルシドは呆れ、熱血のノリが合わないのかデジェルが辟易した感じでコメントする。

 

「何でオッサンが歌ってンだよ、てかそもそもこれなんの歌だ・・・? 大丈夫か?」

 

クリスも熱血のノリが合わないのか辟易しながら全く気にせず走る響を見る。

 

「たくっ、馴れたもんだな・・・」

 

「(そうだ! うつむいてちゃダメだ! 私が未来を助けるんだ!!)」

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」」」

 

遂に響とレグルスまで弦十郎と一緒に歌いながら走っていった。

 

それから奏者達は修行の連続。

 

瓶に入った水を茶碗で掬いながら逆さ腹筋。

 

縄跳び(響と翼はスピーディーだが、クリスだけはノロノロ)。

 

頭と腕と太腿にに水の入った茶碗を乗せて空気椅子(クリスはヨレヨレになり失敗)。

 

冷凍室の肉をサンドバッグのように殴る(ここでもクリスはヨレヨレ状態)。

 

卵たっぷりの滋養ドリンク(クリス、吐きそうになる)

 

締めは山頂までダッシュ(クリス、ついにグロッキー状態)

 

「クリスって、もしかしてスポ根苦手?」

 

「デジェル、少し甘やかしていたんじゃないか?」

 

「・・・・これからは少し、運動もやらせておこう」

 

「どうしたクリス君! デジェル達を見習ったらどうだ!」

 

「嫌、兄ぃ達の方は、あまり見習いたくない・・・・」

 

雑談しながらレグルスは弦十郎の体格位の大岩を担いで指たて伏せ、エルシドは竹槍の切っ先を足の指で挟みながら精神統一、デジェルに至っては凍気で巨大な氷塊を作って素手で破壊するのを繰り返していた。

 

「(ドイツもコイツも、本気で・・・アタシみたいなヤツの居場所にしては此処は暖かすぎるンだよ・・・・)」

 

そして遂にクリスはぶっ倒れた。

 

 

ーマリアsideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアは未来が監禁された檻の近くでシンフォギアのクリスタルを眺めながら歌を口ずさんでいた。

 

「っ・・どうしたの?」

 

視線を感じたマリアは未来を見る。

 

「いえ、ありがとうございました・・・」

 

未来はマリアに助けられたと思い、礼を言った。

 

「・・・・・・」

 

マリアは未来に『亡くなった妹の面影』を見たからアスミタから彼女を預かったのだ。

 

「お礼なら乙女座<ヴァルゴ>に言うのね、彼が貴女を助けて、私達に預けたのよ・・・・」

 

「アスミタさん!? あの、アスミタさんは今何処に!?」

 

「生憎、貴女を私達に預けて直ぐに雲隠れしたわ・・・」

 

「そう、ですか・・・でも、どうして私を預かる気に・・・?」

 

「“セレナ”を思い出したからかもね・・・」

 

「“セレナ”・・・・?」

 

「マリアの死んだ妹ですよ」

 

「ドクター・・・・!」

 

二人の会話にドクターウェルが図々しく割り込んだ。

 

「・・・・」

 

未来はドクターウェルに身構える。

 

「彼女を此処まで連行するように指示したのは貴方よ、一体何のために?」

 

「勿論、今後の計画遂行の一環ですよ」

 

ドクターウェルは穏やかな態度で未来に近づく。

 

「そんなに怯えないでください。少しお話でもしませんか? きっと貴女の力になれますよ、フフフ」

 

ドクターウェルは張り付けた笑みを浮かべて未来に話しかける。

 

「(何を考えてるの、この男・・・!)」

 

一応支持はしたが、内心ドクターへの不信感があるマリアは警戒する。

 

 

ー調・切歌sideー

 

調と切歌は飛行艇の外で洗濯物を干していた。しかし切歌は、以前自分が“障壁”を展開した事を思い出していた。

 

「(マリアがフィーネでないなら、きっと私の“中”に、怖いデスよ・・・)」

 

「マリア、どうしちゃったんだろう・・・?」

 

「えっ・・・?」

 

「私は、マリアだからお手伝いしたかった・・・フィーネだからじゃないよ、カルディア達もきっとそう・・・」

 

「う、うん・・・そうデスとも・・・」

 

「身寄りが無くて、泣いてばかりだった私達に、優しくしたくれたマリア、楽しい事を教えてくれたカルディア達、弱い人達の味方だった皆、なのに! マリアは・・・・!」

 

『「力をもって貫かなくては、正義をなす事などできやしない!」』

 

「・・・・・・・」

 

自分達が好きだったマリアの変化に調はやりきれない顔色を浮かべる。

 

「調は怖くないデスか・・・」

 

「え?」

 

「マリアがフィーネで無いのなら、その“魂の器”として集められたアタシ達がフィーネになってしまうかもしれないデスよ・・・!」

 

「・・・・良く、分からないよ・・・」

 

「それだけ!?」

 

「どうしたの?」

 

「っ!!」

 

「切ちゃん・・・!」

 

調は切歌の去った方を見つめていた。

 

「(どう思うよ、切歌を・・・)」

 

「(・・・よもやとは思うが、まさか切歌が?)」

 

「(たくっどうしたもんか・・・・!)」

 

二人の様子を少し離れた場所でマニゴルドとカルディアとアルバフィカが鍛練をしながら眺めていた。

 

 

ー響sideー

 

その夜、響は二課本部の船室で横になりながら行方不明の未来の事を考えていた。

 

「(・・・もう少し! もう少しだけ待って、未来・・・!(ドクンっ!)っ!!!・・・・)」

 

響の胸のガングニールは、今なお響の身体を蝕んでいた。

 

 

ー響の船室の外ー

 

響の容態を船室の外から見守るレグルスにエルシドが話しかける。

 

「・・・・・・・」

 

「(立花の様子はどうだ?)」

 

「(思わしくないね・・・このままじゃガングニールは確実に響を殺す・・・!)」

 

「(・・・・デジェルが医療班と夜通し打開策を探しているが・・・)」

 

「(出来ることなら、打開策が見つかるまで響には大人しくして欲しいけど・・・)」

 

だが、レグルス達の願いも空しく、戦いの嵐はゆっくりと近づいてくる・・・・最悪の形で・・・・。

 

 

ーFIS sideー

 

翌朝、マリア達は再び『FRONTIER』と表示された海域に赴いていた。

 

「マムの具合はどうなのデスか・・・?」

 

「少し安静にする必要があるわ。疲労に加えて、病状も進行しているみたい・・・」

 

「そんな・・・」

 

「つまり! のんびり構えていられないと言う事ですよ! 月が落下する前に、人類は新天地にて! 1つに結集しなければならない! その旗降りこそが! 僕達に課せられた“使命”ですから!!」

 

『・・・・・・・』

 

仰々しく吼えるドクターウェルを切歌と調、聖闘士達は煩わしそうに見ていた。

「これは・・・?」

 

「どうした、マリア?」

 

「皆、これを見て・・・」

 

モニターに映ったモノに驚く。

 

「米国の哨戒艦艇デスか!?」

 

「こうなるのも予想の範疇、精々連中を派手に葬って、世間の目を此方に向けさせるのはどうでしょう?」

 

嫌らしい笑みを浮かべるドクターを見て、アルバフィカ達はブリッジをソっと出た。

 

「そんなのは弱者を生み出す強者のやり方・・・・」

 

「世界に私達の主張を届けるためには、格好のデモンストレーションになるわね・・・」

 

「マリア・・・!」

 

「私は、私達は“fine”。弱者を支配する強者の世界構造を終わらせるの・・・! この道を行く事を畏れはしない!」

 

「・・・・・・・」

 

「(ニヤリ)《ドーーーン!》なんだっ!?」

 

嫌らしい笑みを浮かべたウェルが、突然の破壊音に驚き、モニターを見ると、米国の艦艇から火が上がった。

 

「何事デスか!?」

 

「あ、カルディア達は・・・?」

 

「っ!? まさか!?」

 

「アァアイィツゥラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

アルバフィカ達が何処にいるのか理解したマリア達はモニターを見るがウェルは金切り声をあげる。

 

 

ー米国艦艇内ー

 

「オラオラ! 掛かって来いや! 米国!!」

 

『黄泉比良坂』から艦艇内に侵入したマニゴルド(聖衣無し)が、艦艇内の米国軍人達を殴り飛ばす(気絶する程度に手加減して)。

 

「済まないが、この船は我々が貰おう・・・・」

 

ブリッジに現れたアルバフィカ(同じく聖衣無し)は毒素を抑えた『デモンローズ』の香気で気絶させる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

そしてカルディア(勿論聖衣無し)は、マニゴルドと同じように軍人達を殴り飛ばし全乗組員を気絶させ終えると、急に胸を抑え息切れが起こった。

 

「お~いカルディア、こっちは終わったぞ、そっちは・・・・カルディア?」

 

マニゴルドがカルディアに近づくとカルディアからの“熱気”で何が起きたかを察した。

 

「発作か、何時からだ?」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、マリア達が、スカイタワーに行ってた時から、少し、兆候があった、それで今回で、発病したようだ・・・・」

 

「お前何でこの事を・・・!」

 

「あの“ヤロウ”に、弱みを見せる訳にゃ、行かねぇだろうが?」

 

「まぁ、そうだけどな・・・・」

 

「んな事よりもマニゴルド、早く、ブリッジに行こうぜ、今頃アルバフィカが、マリアかウゼェヤロウからの文句に辟易してるだろうぜ・・・・!」

 

たくっと言ったマニゴルドはカルディアに肩を貸して進む。その途中、食堂を見つけミネラルウォーターを飲ませ、氷をカルディアの胸元に当ててブリッジに付く頃には収まっていた。

 

そしてアルバフィカはと言うとーーーーーーー

 

《一体どういう積もりなのですか!? 勝手な行動を!!!》

 

「我々三人で行った方が効率的と判断したまでだ・・・」

 

通信越しで喚き散らすウェル<ウゼェヤロウ>をまるで相手にしていない態度のアルバフィカ。

 

《アルバフィカ・・・・》

 

「・・・・」

 

マリアの声にアルバフィカが目を向ける。

 

《何故勝手な行動を?》

 

「ウェルがノイズを出せば、その出現パターンで二課がやって来る。『FRONTIER』の場所を奴等に知られないようにしたまでだ」

 

《そう・・・でも勝手な行動は慎んで頂戴・・・!》

 

「了解した・・・・」

 

《フギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!》

 

自分を完全に無視しているアルバフィカに、ウェルは歯軋りしながら射殺さんばかりに睨むが、それでもアルバフィカの眼中にウェルは映っていなかった。

 

「(さてと、ノイズの出現パターンは検出されなくても、我々の気配ならどうかな?)」

 

アルバフィカは小宇宙<コスモ>を高める。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

その頃、FISを追っていた二課本部の潜水艇でレグルス達が感知した。

 

「ん!?」

 

「っ!?」

 

「はっ!?」

 

「どうした三人共?」

 

「エルシド、デジェル。今の小宇宙<コスモ>は・・・」

 

「ああ、アルバフィカの小宇宙<コスモ>だ」

 

『っ!!』

 

レグルス達の言葉に奏者達と弦十郎達に緊張が走る。

 

「藤尭殿、この付近に艦か、我々以外の潜水艇がいないか調べてくれ・・・」

 

「り、了解」

 

デジェルからの指示で周囲を索的すると。

 

「っ! 米国所属艦艇を確認! モニターに映します!」

 

メインモニターに『火を吹いている米国艦艇』の姿が表示された。

 

『っ!』

 

「この海域から遠くない! 急行するぞ!」

 

「準備にあたります! 行くぞエルシド!」

 

「(コクン)」

 

「翼さん! 私も「響は駄目」レグルスくん!?」

 

ブリッジを出る翼とエルシドの後を追おうとする響の首根っこをレグルスが掴んで止めると、クリスが響の制服の胸元のネクタイを掴む。

 

「死ぬ気かお前!!」

 

「っ!?」

 

「ここにいろって、な。お前はここから居なくなっちゃいけないんだからよ・・・・!」

 

「クリス、行こう」

 

「(コクン) レグルス、頼んだぜ・・・!」

 

「うん」

 

デジェルとクリスもブリッジから出た。

 

「皆、響に居なくなって欲しくないんだよ・・・」

 

「(でも・・・私は・・・!)」

 

レグルスの言葉を聞いても、響の顔はもどかしさに満ちていた。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「オラ、とっとと失せやがれヌケサク共!」

 

マニゴルドは気絶させた米国軍人達を次々と救助艇に放り投げていた。

 

「(たくっ、アルバフィカは米国の連中に触れない、カルディアは発作で動けない、あぁ~、俺って貧乏クジ役・・・・!)」

 

自分の立ち位置にゲンナリしながらも、マニゴルドは米国軍人達を救助艇に放り投げて海に流していた。

 

 

ーマリアsideー

 

「・・・・・・・(ホッ)」

 

マニゴルドが次々と救助艇に米国軍人達を放り投げて海に流す作業を見ていたマリアは内心ホッとしていた。

 

「(ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ!!!!)」

 

因みにその横でウェルが親指の爪をかじりながらモニターに映るマニゴルドを憎々しげに睨んでいた。そんなウェルを無視して調がマリアに近づく。

 

「こんな事が、マリアの望んでいる事なの? 弱い人達を守るために、本当に必要な事なの・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

マリアは調の言葉に何も答えなかった。調はブリッジを飛び出し、外へのハッチを開ける。

 

「調っ!? 何してるデスか!?」

 

「マニゴルドの手伝いをするだけだから・・・・」

 

調は外に飛び出した。

 

「調っ!!」

 

切歌の制止を振り切り、調を落下しながら歌う、『戦いの歌』を・・・・。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

調の身体を纏う桃色と黒のギア、『シュメール神話の戦女神 ザババ』が振るったとされる二刃の片割れ、“肉体を切り刻む紅き鋸”こと、“シュルシャガナ”。

 

「調っ!」

 

調の後を追おうとする切歌の肩をウェルが掴んだ。

 

「連れ戻したいなら、良い方法がありますよ(あの忌々しい“骨董品共”への“嫌がらせ”も兼ねてねッ!)」

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「マニゴルド・・・!」

 

「調、お前何で?」

 

着地した調は足のローラーを回してマニゴルドに近づく。

 

「手伝おうと思って、アルバフィカとカルディアは?」

 

「アルバフィカは沈没しないように船の制御に回ってる、カルディアはーーーーーーー」

 

カルディアの事を話すのを渋るマニゴルドに調は首を傾げる。

 

「マニゴルド?」

 

「・・・・“発作”が起こった」

 

「え・・・・!!」

 

「今食堂で身体を冷ましている、こっちは良いからヤロウの所に行け・・・」

 

「うん!」

 

調は大急ぎで艦艇の中に入っていった。

 

 

 

ーカルディアsideー

 

「がっ!・・・ぐぅっ!・・・あ! はぁっ!・・・うぅぅぅ!!!(そろそろ・・・限界ってか・・・)」

 

「カルディアっ!」

 

「調、お前・・・」

 

「大丈夫!?」

 

「バカ触るな! 火傷すっぞ!」

 

「っ!・・・・(キョロキョロ)・・・!」

 

調は冷凍庫から氷を大量に持って来てカルディアの心臓の部分に押し当てた。

 

ジュワアアアアアアアアアアア・・・・・・・。

 

押し当てた氷は直ぐに解けてしまい、直ぐに調は新しい氷を持ってくる。

 

「カルディア・・・」

 

「へへへ、ボチボチ限界が近いみたいだな・・・」

 

「ドクターに見てもらう訳には・・・?」

 

「あのヤロウに? 冗談! ヤロウに身体預けたら心臓に爆弾か遠隔操作のスタンガン仕込まれても不思議じゃねぇぜ・・・」

 

「じゃ、どうするの・・・?」

 

「調・・・」

 

「私、嫌だよ・・・このままじゃカルディアは間違い無く・・・ッッ・・・!」

 

泣きそうになる調の頭をカルディアが乱雑に撫で回す。

 

「1つだけ、方法がある・・・」

 

「え」

 

「調、これから俺の言う事は、マリアや切歌にも内緒にしておけよ・・・」

 

「・・・・うん」

 

「(悪いな、調・・・)」

 

カルディアは調に向けて言葉を紡ぐ。

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「おう調、カルディアの様子はどうだ?」

 

「・・・・うん少しは落ち着いたみたい・・・」

 

「そうかよ、こっちも今終わった所「調!」切歌か?」

 

声のする方に目を向けると『イガリマ』を纏った切歌が降りてきた。

 

「切ちゃん『プシュ・・・』え・・・?」

 

「は・・・・?」

 

切歌の行動に唖然となる調とマニゴルド。切歌が調の首筋に『注射銃』を押し当てたのだ。

 

「な、何を・・・・?」

 

切歌の脳裏にウェルとの会話が浮かんだ。

 

 

ー数分前ー

 

「LiNKER・・・・?」

 

「いえ、これは“アンチLiNKER”、適合係数を引き下げる為に持ち要ります。その効果は折り紙付きですよ」

 

 

ー現在ー

 

調の足のギアが調の意志と関係無く収納された。

 

「ギアが・・・うっ!」

 

「調!」

 

苦悶の表情を浮かべながらよろける調をマニゴルドが支えた。

 

「切歌、てめぇどういう積もりだ、ああっ!」

 

「アタシ・・・アタシじゃ無くなってしまうかもしれないデス! そうなる前に、何か残さなきゃ! 調やマニゴルドや、皆に忘れられちゃうデス!」

 

切歌は調かマニゴルドに向けて手を伸ばす。

 

「切ちゃん・・・」

 

「お前・・・」

 

「例えアタシが消えたとしても、“世界”が残れば、アタシ達の“思い出”は残るデス! だからアタシは、ドクターのやり方で世界を守るデス・・・もう、そうするしか・・・」

 

ドーーーンっ!!!

 

艦艇近くの海面から“何か”が現れた。魚雷のようなカプセルが2つ、2つのカプセルが分解すると、天羽々斬のシンフォギアを纏う翼と山羊座の聖衣を纏うエルシド、イチイバルのシンフォギアを纏うクリスと水瓶座の聖衣を纏うデジェルが現れた。

艦艇に降り立った翼は切歌に切り込み、クリスとエルシドとデジェルは調を支えるマニゴルドを包囲した。

 

「えい!」

 

「はっ!」

 

切歌の大鎌をかわした翼が切歌を横切りを繰り出すが、切歌は空中反転でかわす。

 

「邪魔するなデス!!」

 

翼の刀と切歌の大鎌が火花を散らす。マニゴルドに抱えられた調は切歌に目を向ける。

 

「切ちゃん・・・・!」

 

「オイ、ウェルのヤロウはここにいないのか!?」

 

「・・・・」

 

「“ソロモンの杖”を持つヤツは何処にいるマニゴルド」

 

「言いたい気は山々にあるンだがな・・・・」

 

マニゴルドが切歌の方に目を向けると切歌の喉元に翼の刀の切っ先が向けられた。

 

「っ!!」

 

「・・・・・・・」

 

《翼さん!》

 

本部のブリッジから響の声が通信機越しで響く。

 

 

ーマリアsideー

 

「切歌っ!」

 

「ならば傾いた天秤を元に戻すとしましょうよ! 出来るだけドラマティックに♪ 出来るだけロマンティックに♪」

 

歪んだ笑みを浮かべたウェルがブリッジのパネルを操作する。

 

「まさか、“アレ”を!?」

 

マリアはウェルのやろうとしている事を察した。

 

 

そして、飛行艇から降ろされ、戦場に響いた・・・“彼女”の歌声がーーーーーーー

 

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

翼が、エルシドが、クリスが、デジェルが、その姿を見て驚愕に染まる。

 

「何・・・だと・・・!」

 

「・・・まさか・・・!」

 

「ウソ・・・だろう・・・?」

 

「・・・バカな・・・!」

 

 

ー響sideー

 

「え・・・?」

 

「・・・そんな・・・こんな事が・・・!」

 

モニターに映っていたのは。

 

『紫のシンフォギアを纏う小日向未来』だったーーーーーーー

 

「未来・・・・・・・!!??」

 

その目には、ハイライトを失った瞳の小日向未来が悠然と立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーアスミタsideー

 

「っ!? 小日向、まさか・・・・っ!」

 

本土で二課とFISの戦闘を傍観していたアスミタは瞳を閉ざし能面のような顔を驚愕に染めた。

 

「このような事になるとは・・・! 行かなければなるまい!」

 

アスミタは自身の身体を耀かせ、戦場へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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神獣鏡 奏者 小日向未来

小日向未来・・・・立花響の親友にして風鳴翼、雪音クリスにとっても良き友人。戦闘向きではない優しく穏やかな少女。最強の戦士である黄金聖闘士達もその穏やかさに一目置いていた。

 

獅子座のレグルス曰くーーーーーーー

 

「未来と一緒にいるとさ、凄く暖かいんだ、まるで木漏れ日でのんびりするかのような、ね・・・」

 

山羊座のエルシド曰くーーーーーーー

 

「戦いとは無縁の穏やかさや優しさに溢れた少女だ・・・」

 

水瓶座のデジェル曰くーーーーーーー

 

「象徴的女性像と言うべきかな、彼女がいるからこそ響君は戦える・・・・」

 

そして、乙女座のアスミタ曰くーーーーーーー

 

「芯の強い少女だ、友の為に我が身を顧みない高潔な精神を持っている、ガングニールの親友である事が勿体無いくらいだ・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

だがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

その少女は戦場に舞い降りた、聖遺物『神獣鏡』をその身に纏ってーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

FIS飛行艇から戦場を見ていたマリアとウェル。マリアの隣の席にナスターシャ教授がブリッジの操縦席に現れた。

 

「『神獣鏡』をギアとして、人の身に纏わせたのですね・・・・!」

 

「マム! まだ寝てなきゃ・・・!」

 

「アレ<神獣鏡>は、封印解除に不可欠なれど、人の心を惑わす力・・・!」

 

ナスターシャ教授がほくそ笑むウェルを睨む。

 

「貴方の差し金ですね、ドクター・・・!」

 

「フン♪ 使い時に使ったまでですよ♪」

 

ー数日前ー

 

ウェルは檻に入った未来に張り付けた笑みで話しかける。

 

「そんなに警戒しないでください、少しお話でもしませんか? きっと貴女の力になってあげられますよ」

 

「私の・・・力・・・?」

 

「そう、貴女の求めるモノを手に入れる、力です・・・!」

 

ウェルは未来に“聖遺物の結晶”を見せた。

 

 

ー現在ー

 

「マリアが連れてきたあの娘は、融合症例第一号<立花響>の級友らしいじゃないですか、それにあの獅子座や黄金聖闘士達とも懇意な間柄だと聞きました」

 

「リディアンに通う生徒はシンフォギアへの適合が見込まれた奏者候補達、つまり貴方のLiNKERによって、あの子は何も分からぬまま無理矢理に!」

 

「ん、ん、んん♪ ちょっと違うかなぁ♪ LiNKER使ってホイホイシンフォギアに適合できれば、誰も苦労はしませんよ。奏者量産しほうだいです」

 

「なら、どうやってあの子を・・・・!」

 

ナスターシャ教授の問いにウェルは狂笑を浮かべ。

 

「“愛”ですよ!」

 

「何故そこで“愛”っ!?」

 

「LiNKERがこれ以上級友を戦わせたくないと願う想いを、“神獣鏡”に繋げてくれたのですよ! ヤバい位に麗しいじゃありませんか!!!(どうだバケモノ共! これが僕に屈辱と恥辱を与えた貴様らへの罰だ!!!!)」

 

ウェルは忘れない、自身に屈辱と恥辱を与えたレグルスと響に対する逆怨みを・・・・。

 

 

ー未来sideー

 

未来はギアを展開すると、右手から一本の剣を取り出すと、その剣は大剣のような形へと変形した。未来の後頭部にある装置が起動する。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!」

 

「小日向が・・・・!」

 

「何で・・・そんな格好してんだよ!」

 

雄叫びを上げる未来に戸惑うクリス達、マニゴルドとマニゴルドに支えられた調が口を開く。

 

「あのガキは、LiNKERで無理矢理に奏者にさせられた消耗品だ・・・!」

 

「私達以上に、急拵えな分、壊れやすい・・・!」

 

「ふざけやがって・・・!!」

 

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスか? 小日向をああしたのは・・・・?」

 

「察しが良いな、エルシドよ。あんなガキにLiNKER使って消耗品にしようだなんて、あのゲス以外いねぇよ!」

 

「(この口ぶり、どうやらマニゴルドはウェルの事を快く思っていないらしいな・・・・)」

 

翼は本部に連絡を入れる。

 

「行方不明となっていた小日向未来の無事を確認。ですが・・・・!」

 

 

ー響sideー

 

《無事だと!? アレを見て無事だというのか!? だったらアタシらは、あのバカになんて説明するんだよ!!》

 

勿論、本部のモニターで響達も未来の現状を確認していた。

 

「響ちゃん・・・・」

 

「FIS・・・なんて事を・・・・!」

 

友里と藤尭はFISの非道に怒りを込み上げていた。

 

「オイ、響・・・・」

 

「・・・・・・・」

 

レグルスの声にも反応せず、響は変わり果てた親友の姿を見つめた。

 

 

ー未来sideー

 

「・・・・・・・」

 

まるで人形のように無表情の未来の顔に目元を隠すようにギアが展開されると、未来は滑空するように翼達に向かっていった。

 

「「っ!!」」

 

「こう言うのはアタシの仕事だ!!」

 

マニゴルドと調をデジェルとエルシドに任せてクリスは両手にクロスボウのアームドギアを展開する。

 

「待てクリス!」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!」

 

デジェルの制止を振り切り、クリスは未来に向かう。未来は剣の先端からエネルギー波をクリスに向けて放つがクリスはそれを交わし。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

『QUEEN‘s INFERND』

 

クリスはクロスボウから大量の光の矢を放つ。

 

「・・・・・・・」

 

未来はその矢を三角飛びで交わし、海面に降り立ち、滑空しながら突き進む。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

未来の後を追おうとするクリスに一瞬翼の注意がそれた。

 

「隙あーーーーーーー」

 

クリスに背撃しようとする切歌の首筋に翼は一瞬で回り込んで首筋に刀をあてがう。

 

「りじゃなかったデスね・・・・」

 

「(スマナイ、雪音・・・・)」

 

切歌の足止めをしなければならなく動けない翼に代わってクリスが向かった。

 

「お~お~あのツルペタ奏者<翼>も中々やるじゃん」

 

「(ツルペタとは?)・・・マニゴルド、お前は動かないのか?」

 

「動いた瞬間ブッタ切る気満々の癖に良く言うぜ、聖衣も無いのに完全装備のお前ら<デジェルとエルシド>と殺り合おうと考えるほど、俺は命要らずじゃねぇよ。それよりもデジェル、良いのか? 愛しのデカ乳ちゃん<クリス>が行っちゃうぜ?」

 

「下品な呼び方をするな。アルバフィカとカルディアはどうした? ここに彼等がいることは分かっている」

 

「っ!!」

 

デジェルの言葉に調は息を飲む、もしここでデジェルが艦内に入ってしまったら。

 

「(カルディアから“頼まれた事”が・・・・!)」

 

何とか身体を動かそうとするが。

 

「(ボソボソ)落ち着け調、ここで俺らが不用意に動けば、カルディア達が来てしまって乱戦になっちまう。幸いデジェルも、カルディアやアルバフィカを警戒して動けない状況だ。これを上手く生かすぞ・・・!」

 

カルディアの体調や『FRONTIER』に近い海域で余計な波風を立てる訳にはいかないマニゴルドは調を諌め、状況打開の為に悪知恵を働かせる。

 

 

 

ークリスsideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

クリスはフォニックゲインを高める歌を歌いながら海面を滑る未来にクロスボウの矢を次々と乱射するが未来はそれら全てを交わし、クリスはマニゴルド達がいる旗艦近くの護衛艦に飛び移るとクロスボウを4門3連ガトリングに変形させ『BILLION MAIDEN』を放つ。

 

「・・・・・・・」

 

未来はクリスが放つ弾幕を交わしながらエネルギー弾を放って応戦するが、クリスの弾丸がその身に当たりながらも応戦する。

 

 

ーマリアsideー

 

マリアが窓から未来の戦いを見ていると、ウェルの耳障りな声が割って入ってきた。

 

「脳へのダイレクトフィードバックによって、己の意思とは関係無くプログラムされたバトルパターンを実行! 流石は神獣鏡のシンフォギア! それを纏わせる僕のLiNKERの凄さも最高だ!!」

 

最終的に自画自賛をするウェルにナスターシャは冷たい目線を向ける。

 

「それでも“偽りの意思”では、あの奏者達には届かない! ましてや黄金の闘士達の足元にも及ばないでしょう・・・!」

 

「フン・・・・」

 

ナスターシャの言葉に歪んだ顔のウェルは鼻で嗤う。

 

「くぅっ!」

 

見ていられないとばかりに、マリアは目を伏せた。

 

 

ー響sideー

 

響達もモニターでクリスと未来の戦いを見ていた。

 

「イチイバル<クリス>、圧倒しています!」

 

「これなら!」

 

「・・・・・・・」

 

だが、響の目には未来が傷つけられている姿を痛々しく見つめていた。

 

「(・・・・ゴメン、ゴメンね・・・・!)」

 

不安そうに目を逸らす響の頭にレグルスが手を置いた。

 

「目を逸らすな響、必ず未来を助ける・・・!」

 

「レグルス君・・・・」

 

レグルス自身も今すぐにでも未来を助けに行きたい気持ちを抑えているのを響も感じた。

 

 

ークリスsideー

 

海面を駆ける未来を護衛艦を飛び移りながら移動するクリスを護衛艦にいた米国軍人達が見ていたが、クリスは構わず未来を追う。

 

「(くっ、やりづれぇ・・・! 助ける為とは言え、あの子はアタシの“恩人”だ・・・!)」

 

初めて“友達”になってくれた未来と戦う事に、クリスの心が揺れていた。

未来は翼達のいる旗艦に再び降り立つ。

 

『っ!!』

 

未来が着地した衝撃に旗艦が揺れた。クリスも着地すると、腰アーマーを展開させ、小型追尾ミサイル『MEGA DETH PARTY』を放った。

 

「・・・・・・・」

 

未来は表情を変える事無くミサイルに向かって跳び、急かさずクリスがガトリングを未来に放つ。

 

「・・・・っ!!」

 

弾が当たった未来はそのまま落下し、だめ押しにミサイルを叩き込まれる。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

 

クリスは未来が落下した場所近くに降り立つ。

 

 

ー響sideー

 

「未来・・・・!」

 

「(未来がこんな事になっているのに、何してるんだよアスミタ!!)」

 

倒れた未来を悲痛に見つめる響とレグルスは未来に目を掛けている黄金聖闘士に焦れていた。

 

 

ークリスsideー

 

クリスは陥没した甲板に倒れる未来に近く。

 

「クリス、油断するな」

 

「(コクン・・・・)」

 

デジェルの言葉に頷いたクリスは未来の後頭部にある装置に手をかけようとすると。

 

《女の子は優しく扱ってくださいね》

 

「(ウェル!)」

 

後頭部の装置からウェルの声が響いた。

 

《乱暴に引き剥がせば、接続された端末が脳を傷つきかねませんよ》

 

「っ!」

 

ウェルの言葉に怯んだクリス、すると未来は立ち上がり、持っていた剣が扇のように360度に展開すると、扇に装備された“鏡”が光る。

 

「避けろ、雪音!」

 

「くっ!」

 

『閃光』

 

“鏡”から放たれたレーザーがクリスを襲うが間一髪にかわすと未来から距離を取った。

 

「まだそんなちょせいのを!」

 

未来は扇を畳み収納すると力を開放するように構えると、両膝から鏡が光背(仏像の輪っか)のように展開される。

 

「こりゃやべぇな(聖衣を纏ってれば大丈夫だが、生身でアレを受け止められねぇぞ)・・・」

 

未来の立ち位置から攻撃が自分達にも来る事を直感したマニゴルドに一筋の汗が流れる。未来を裏から操るウェルならばマニゴルドと調に構わず(寧ろ嬉々として)攻撃すると容易に想像できる。

 

「マニゴルド、その娘を連れて我々<二課>の所に来るならば、動いても良いが?」

 

「ハァ、身の安全は保障しろよ・・・!」

 

デジェルの提案にため息混じりに了承したマニゴルドは調を連れて離れる。

 

「兄ィ、良いのかよ?」

 

「マニゴルドは約束は(なるべく)破らない男だ。それよりも・・・!」

 

未だにマニゴルド(とカルディア)に不信感を持つクリスと翼は物言いたげだったが・・・・。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

未来がフォニックゲインを高める歌を歌い始めると光背が呼応するかのように光り始める。

 

「デエエエエエエエエエエエエエエエエスッッ!!!」

 

自分達もろとも攻撃しようとする未来に切歌が叫ぶが・・・・。

 

『流星』

 

その声も虚しく未来の眼前に光の玉が現れ、その玉から光の奔流がクリスを襲う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・やべぇ、お兄ちゃんお助け・・・!」

 

「ハイハイ・・・・!」

 

直前、デジェルが割って入るが、光の奔流が二人を飲み込み、旗艦の端まで光の奔流が流れたーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーマリアsideー

 

「ギヒヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハァァ!!! 死んだッ♪ 死んだッ♪ 死んだあぁぁ♪ ウヒヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!! イチイバルだけではなくッ! 水瓶座<アクエリアス>もッ! 死・ん・だッッ!! ヒャァァアアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!」

 

けたたましく金切り声で高笑いをしながら仰け反るウェルにナスターシャは冷たく囁く。

 

「どうやら、まだようですね・・・」

 

「アア~ンンッ・・・?」

 

ナスターシャの言葉にウェルは首をぐりんと動かしモニターを見ると。

 

「何だとおおおおおおおおぉぉぉッッ!!!!!」

 

そこに映っていたのはーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

前面に『氷の防壁』でクリスとマニゴルドと調を守り、未来の攻撃<『流星』>を防いだデジェルの姿だった。

 

 

 

 

 

「ハァァアアアアアアアアアアアアッッ!!??」

 

訳が分からないとモニターに食いつくウェルをマリアは鬱陶しいと謂わんばかりに睨み、ナスターシャが淡々と説明する。

 

「データによると、アレは黄金聖闘士が数人集まっても破壊することが出来ない水瓶座<アクエリアス>の『氷の棺<エターナル・コフィン>』。成る程、“破壊出来ない氷の棺”を“防御壁”に使うとは、流石は『黄金の英雄』、素晴らしい判断力です・・・」

 

「ウグギギギギギギギギギギギ、ガアアアアアアッッッッ!!!!」

 

ナスターシャはデジェルに驚嘆と称賛し、ウェルはぬか喜びさせられた苛立ちから壁を蹴るとズカズカとブリッジを出た。

 

 

 

 

ーアルバフィカsideー

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・。

 

その頃、旗艦ブリッジで船の制御をしていたアルバフィカは、甲板の戦況をモニターで見ながら、船のシステム設定に勤しんでいた。

 

「自動航行システム正常に作動、これで船の制御は大丈夫だろう・・・」

 

漸くシステムの設定が終わり、ブリッジを出て甲板を向かおうとすると、通路にカルディアが蹲ってた。

 

「カルディア、お前・・・・!」

 

「何も言うなアルバフィカ、分かっていた事だからよ・・・・!」

 

カルディアは胸を押さえたまま立ち上がり、甲板に向かう。

 

「それがお前の決めた“生き方”か・・・・?」

 

「ハン、人間なんて何時かは死ぬ運命だ、だったら俺は、俺の望む“生きざま”を貫くだけだ、この“爪”が、この“心”が、この“魂”が赴くままにな・・・・!」

 

そして黄金の蠍は向かう、己の望む“戦場<死に場所>”にーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ークリスsideー

 

「(スッ、パチン!)」

 

デジェルがフィンガースナップをすると前面の氷の壁が粉々に砕けた。

 

「助かったの・・・・?」

 

「みたいだな・・・・」

 

「流石兄ィだ・・・!」

 

「『エターナル・コフィン』の応用、『フリージング・ウォール』とでも名付けるか・・・・」

 

クリス達の無事を確認した翼もホッとする。

 

「雪音達は無事のようだな・・・・」

 

「気を抜くな翼、次が来るぞ・・・!」

 

エルシドの言葉にハッとなった翼が未来を見ると、未来は再び『流星』を放とうとエネルギーをチャージし始めた。

 

「止めるデーーーース!!」

 

クリス達に気を向けた翼から離れた切歌が未来を制止しようとする。

 

「・・・・・・・」

 

未来は無表情に切歌に顔を向けた。

 

「調とマニゴルドは仲間! アタシ達の大切な・・・!」

 

《仲間と言い切れますか? 僕達を裏切り、敵に利するアイツらを・・・!》

 

ウェルが通信で割り込んだ。

 

 

 

ーウェルsideー

 

ブリッジから出たウェルは歪んだ形相で切歌の耳に毒を入れる。

 

「蟹座<キャンサー>のマニゴルドと、月読調を仲間と言い切れるのですか!」

 

 

ー切歌sideー

 

「ッッ!!・・・・違う・・・アタシが調にちゃんと打ち上げられなかったんデス・・・! アタシが、調を裏切ってしまったんデス!」

 

「切ちゃん!!」

 

「ハッ!」

 

調の声に反応して、切歌はマニゴルドに抱き抱えられた調を見る。

 

「ドクターのやり方では、弱い人達を救えない!」

 

「お前だって分かってンだろう! あのクソ野郎のやり方じゃ、弱い奴等が無駄に犠牲にされる事くらい!」

 

《そうかもしれません・・・・》

 

「?」

 

《何せ我々は、かかる災厄に対して余りにも無力ですからね!》

 

『っ!!』

 

未来からの攻撃に翼とクリスは身構える。

 

「っ!」

 

「漸く来たか・・・・」

 

だが、エルシドとデジェルは“ある者”の小宇宙<コスモ>を探知した。

 

 

 

 

ーウェルsideー

 

「シンフォギアと聖遺物に関する研究データは、こちらだけの専有物ではないですから・・・アドバンテージが有るのだとすれば、せいぜいこの“ソロモンの杖”!」

 

飛行艇のハッチを開いたウェルは“ソロモンの杖”からノイズを護衛艦に向けて射出する。

 

 

ークリスsideー

 

「ノイズを放ったか!」

 

「クソ、タレが!(“ソロモンの杖”がある限りは、“バビロニアの宝物庫”は開けっ放しって訳か!)」

 

クリスはノイズに向かおうとするが。

 

「待てクリス・・・・」

 

首根っこをデジェルが掴んだ。

 

「何するんだよ! お兄ちゃん!」

 

「もう、大丈夫だ・・・」

 

「ハァ!?」

 

デジェルの言葉に困惑するクリス。

 

「ダアアアアアッ!!」

 

「クッ!」

 

翼は襲い来る切歌の攻撃を防いだ。

 

「こうするしか、何も残せないんデス!」

 

《そうそう、それそれ、そのまま押さえといてください、後は彼女の仕上げをごろうじ・・・》

 

《いい加減にしろ・・・・!》

 

「えっ?」

 

「何デスか? 今の声・・・?」

 

「っ! この声は!?」

 

「マジかよ・・・?」

 

「この声・・・まさか!?」

 

「あぁ」

 

「そう言う事だ・・・!」

 

ウェルの通信を静かだが、怒気が孕んだ声が遮った。

 

 

 

ーウェルsideー

 

「な、何だ? 今の声は・・・!?」

 

《貴様、その玩具<“ソロモンの杖”>でどれだけ弄べば気が済む・・・!》

 

「僕の頭に声が「グギリッ!」・・・・ハァ・・・?」

 

ウェルの耳に鈍い音が聞こえ、自分の腕を見るとーーーーーーー

 

「あ、アア、アアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

“ソロモンの杖”を持っていた左腕が、“肘から逆の方向に曲がっていた”。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!! 腕がッ! ぼ、僕の腕がッ! 腕がアアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアァアアアアアアアアアッッッッ!!!」

 

自覚した瞬間、激痛がウェルの身体に襲い来る。

 

「アアッ! アアアアッ! アアアアアアッッ!! 腕が、腕がアアアアアアアッッ!! 僕の腕がアアアアアアアアッッ!! アアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

激痛で顔を汚ならしく歪め、惨めに喧しく喚くウェルは自分の折れた左腕を押さえながら飛行艇の中に逃げ込んだ。

 

 

 

ーマリアsideー

 

「マム、これはどういう事・・・・?」

 

「ノイズ達が、消滅していっている・・・!」

 

マリア達の眼下にある護衛艦に襲い来るノイズ達が独りでに消滅していく。

 

 

 

ー未来sideー

 

《失せろ雑魚共! 『天魔降伏』!!》

 

その声が辺りに響いた瞬間、『天馬に乗った女性と小さな天使達』が、無数にいたノイズを一瞬で“消滅”させた。

 

「・・・・!!??」

 

その声を聞いた瞬間、これまで無表情に、無感情に佇んでいた未来に僅かな動揺が浮かんだ。

 

 

そして、未来と翼達の前に光が溢れ、“その男”が現れた。

 

 

 

「小日向未来、何をしている? 君は何をしている・・・!」

 

 

透き通るように静かな、だが確実に憤怒が混じった声を上げながら“その男”は現れた、エルシドとデジェルと形の違う黄金の鎧を纏い、閉じられた瞳は僅かに不快そうに歪ませ、その男は戦場に現れた。

 

「あの男は!?」

 

「間違いねぇ!」

 

「まさか、あの人が・・・!」

 

「デ~~ス・・・・」

 

「来るのが遅いぞ・・・」

 

「フゥ・・・」

 

「タイミング計ってたんじゃねぇだろうな・・・?」

 

「アイツも来やがったか・・・・!」

 

「小日向未来をあんな風にしてしまえば来るだろうと思ってはいたが・・・・!」

 

翼とクリス、調と切歌、デジェルとエルシドとマニゴルド、そして甲板にやって来たカルディアとアルバフィカが同時に“その男”の名を呼ぶ・・・・・・・。

 

 

 

『乙女座<ヴァルゴ>のアスミタ!!!!!』

 

 

 

『地上で最も神に近い男』が、遂に沈黙の中立を破り、戦場に舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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それぞれの動き

ストーリーが思った程進まない・・・。


遡ることアスミタが未来の前に現れる少し前ーーーーーーー

 

未来がクリスの『MEGA DETH PARTY』を浴びて甲板に陥没し倒れていた時の二課本部。

 

「(未来がこんな事になっているのに、何してるんだよアスミタ!!)」

 

《だからこうして来たのだ・・・》

 

『っ!?』

 

突然ブリッジに響いた声に、レグルスと響、弦十郎と友里と藤尭、そして他のオペレーター達も驚き、出入口を見ると。光が現れ、その光の中からアスミタが現れた。

 

「・・・・・・・」

 

「アスミタ、お前今まで何を・・・!」

 

レグルスの問いに答えず、アスミタはモニターに映る未来を見据える。

 

「どうやら、私は見誤ったようだ・・・」

 

「見誤る? どういう事だ?」

 

「スカイタワーで、小日向未来をFISに預けた事をだ・・・」

 

『っ!!』

 

アスミタの言葉に全員を驚く。未来がFISにいるのは、アスミタが未来をマリア達に預けたからだと。

 

「ど、どうして・・・」

 

「・・・・」

 

声を僅かに震わせた響をアスミタは冷たく見る。

 

「どうして未来をマリアさん達に預けたんですか! そのせいで未来はあんな風になったんですよ! どうして!!「響、落ち着いて・・・」だってレグルス君!」

 

「落ち着いて・・・!!」

 

「っ!」

 

『っ!!』

 

響がアスミタを責めるように声を上げるが、レグルスから発せられる威圧感に響だけではなく、弦十郎達すら黙った。それは、以前響の腕を噛み千切った『ネフェリム』に発した時と同等な圧力があった。

 

「アスミタ、何で未来をマリア達に渡したんだ?」

 

返答しだいではただではおかないと言うレグルスの威圧感に、アスミタは冷淡に応える。

 

「あのままガングニールの傍にいても、小日向未来にとって辛いだけと判断したからだ」

 

「響といる事が未来にとって辛いだって・・・?」

 

「ガングニールよ・・・」

 

「えっ・・・・?」

 

アスミタの有無を言わせない迫力に一瞬気圧される響。

 

「君は何故、小日向未来がああなったか分かるか?」

 

アスミタの目線がモニターに映った、倒れる未来に向けられた。

 

「それは・・・FISの人達に・・・」

 

「確かにFISの者達が小日向にあの聖遺物を授けた。だが、あの聖遺物の求めたのは小日向自身だ・・・」

 

「えっ・・・・?」

 

アスミタの言葉に響は呆然となり、レグルスと弦十郎達も驚く。

 

「君は考えた事があるのか? 戦場に向かう君を見送る小日向の“気持ち”を?」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「君は小日向の“言葉”に耳を傾けたのか?」

 

「・・・・あ・・・・・・・」

 

『響に戦って欲しくない!』

 

『何処にも行かないで!』

 

『私だって、響を守りたいのに・・・・!』

 

アスミタの言葉で、未来の言葉が脳裏に甦った。

 

「あ・・あぁ・・・・・!!」

 

「君は小日向は自分の気持ちを全て“分かってくれている”と都合良く考え、小日向の“心の内”を少しでも考えた事があったのか?」

 

「う・・・うぅ・・・!!」

 

「彼女がどれ程君の身を案じていたか? 死ぬかもしれない君の事をどんな気持ちで共にいたか? そんな君に何も出来ない自身の無力感にどれ程苦しんだが? 君は彼女の事を欠片でも考えた事があったのか? 小日向未来と本当に向き合っていたか?!」

 

「あ、あぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

アスミタの言葉に響は膝から崩れ落ち、慟哭を上げる。

 

『・・・・・・・・』

 

レグルスと弦十郎達も何も言えず響を見つめる。

 

「考えて無かった・・・私、未来の気持ちを考えて無かった・・・未来は私の気持ちを“理解してくれてる”って勝手に思い込んでて・・・自分が死ぬかもしれない現実に頭がいっぱいで・・・未来の気持ちを考えて無かった・・・!!」

 

ポロポロと涙を流す響にアスミタはトドメを刺す。

 

「自分の事すら満足に面倒見切れない君ごときが、“誰か”の為に行動するなど、烏滸がましい・・・!」

 

「アスミタ!!」

 

思わず弦十郎が声を荒げるが、アスミタは冷淡な態度を取る。

 

「風鳴弦十郎、はっきり言って君達は“甘い”のだ・・・!」

 

「何・・・!」

 

「君としては厳しくしているつもりなのだろうが、私から言わせれば、君達は奏者達を“甘やかしている”」

 

言い淀む弦十郎達にアスミタは更に言葉を紡ぐ。

 

「“二年前の事件”で君達がガングニールに対して“後ろめたさ”があるにしても、君達は“甘い”。その“甘さ”がルナアタック事件でフィーネ<櫻井了子>に先手を取られ、リディアン襲撃を引き起こしたのだ・・・!」

 

『っ!!』

 

痛い所を突かれた弦十郎達は押し黙る。

 

「でもさ、アスミタ・・・」

 

アスミタの説教にうちひしがれる響と押し黙る弦十郎達を見かねて、レグルスがアスミタと対峙する。

 

「確かに響は未来の気持ちを考えて無かったかもしれないし、弦十郎達は“甘い”かもしれないけど、今未来がああなったのは、お前にも“責任”があるよ・・・!」

 

モニターに未来が二発目の『流星』をデジェル達に放とうとする姿が映し出された。

 

「無論承知している。だからこうしてやって来たのだ。自分の不始末は自分で拭う」

 

ブリッジを去ろうとするアスミタはうちひしがれている響を冷たく見つめ吐き捨てる。

 

「君は友の為に何が出来るガングニール?」

 

「・・・・・・・・」

 

ほぼ茫然自失する響に構わず、アスミタは言う。

 

「そのまま蹲っているつもりならそうしているが良い。だが、小日向未来は君の為に我が身も省みず戦った。君が誠に彼女の“友”ならば、自分が今何をすべきか、もう一度良く考えてみろ。それが出来ないのならば、二度と彼女の“友”だと囀ずるな・・・!」

 

そう言ってアスミタは光と共に消えた。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

誰も何も言えず、重い雰囲気がブリッジを包んだ。

 

「響、どうすんの?」

 

「・・・・・・・・」

 

レグルスが響に問うが、響は何も応えず蹲る。

 

「アスミタの言うとおりそのまま蹲っているつもりなの?」

 

「・・・・分からない・・・どうしたら良いのか、分からないよ・・・」

 

「・・・・俺が、自分の世界で聖戦をしていた時にさ、ある『青銅聖闘士<ブロンズセイント>』がいたんだ」

 

「・・・・??」

 

レグルスは響に話す、黄金聖闘士からアテナを託された一人の『青銅聖闘士』の事を・・・・。

 

「彼はさ、戦闘力で言えば響達とそんなに大差無い位だったけど、冥王軍に奪われ戦う事になってしまった“友達”を取り戻す為に、傷だらけになってでも戦い抜いた。どんなに辛い思いをしても、その過程で多くの仲間達が死んだとしても、彼は諦めずに戦ったんだ。俺はさ、彼を見て思ったんだ、本当の友達って言うのは、どんな事が合ってもどんなに辛い思いをしても、友達の為に本気で戦う事が出来るのが本当の友達なんじゃないかってさ・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

レグルスの話を聞いて、響の瞳に光が宿る。

 

「響、未来を本当の友達だって言うなら、今自分がその友達に対して何をすべきか、分かるだろ?」

 

「・・・・・・・・うん」

 

立ち上がった響の瞳には、“決意”が込められていた。

 

 

 

 

ーアスミタsideー

 

「小日向未来、何をしている? 君は何をしている・・・!」

 

「・・・っ!」

 

機械のように佇んでいた未来はまるでアスミタから逃げるように甲板を飛び出し、海の上を滑空する。

 

「アスミタから逃げたのか・・・?」

 

未来の行動に切歌とつばぜり合いをしていた翼は首を傾げた。

 

 

 

ーウェルsideー

 

「ひぃっ! ひぃいっ! あひぃいいいいいいいっ!!」

 

因みにウェルは現在アスミタにへし折られた左腕をヒィヒィ喚きながら治療していた。

 

 

ー響sideー

 

滑空する未来の近くに二課本部が海面から出てきた。

 

「未来ちゃん、交戦地点より移動! トレースします!」

 

「未来・・・!」

 

「ノイズはアスミタにより殲滅された! 俺たちは人命救助に専念するぞ!」

 

アスミタによってノイズは殲滅されたが、ノイズ達が暴れた事で損傷し航行不能になった護衛艦の船員達の救助にあたった。

 

 

ークリスsideー

 

「逃がすかよ!」

 

クリスが未来を追おうとするが。

 

「そりゃこっちの台詞だぜ!」

 

「っ! クリス、危ない!」

 

デジェルがクリスを引き寄せ後ろに跳ぶとクリスのいた地点に“黒い薔薇”が突き刺さった。

 

「不本意だが、ここから先へは行かせない・・・!」

 

「アルバフィカ、カルディア・・・!」

 

獰猛な笑みを浮かべたカルディアと薔薇を構えたアルバフィカが降り立つ。

 

「(えっ?・・・・魚座<ピスケス>のアルバフィカってこんな顔だったのか・・・・?)」

 

クリスは戦闘中にも関わらず思わず唖然となる。今まで聖衣のマスクを目深に被って見えなかったアルバフィカの素顔に目を奪われた。

 

靡くウェーブがかった水色の長髪、芸術品がそのまま動いたと思わんばかりの美麗過ぎる顔立ち、構えた薔薇はまるで耽美や気障ったらしさを感じない、むしろ薔薇の方は彼の美しさを際立たせるアクセサリー程度にしか感じない、美形の基準を良く理解していないクリスでも(次いでに翼もである)、アルバフィカの素顔には呆然となった。

 

 

 

ー翼sideー

 

クリスがアルバフィカの素顔に唖然となっている頃、切歌とつばぜり合いを続けていた翼は。

 

「(振り切る事は不可能ではない、だがそうする訳には・・・・!)」

 

翼の後方では、エルシドに拘束されたマニゴルドと切歌を悲しそうに見つめる調がいた。

 

ドヒュウウウウウウウウウウウウっ!!

 

『っ!?』

 

すると、翼達の近くで水柱が上がり、そこから緒川!が現れた。緒川は調を抱えた。

 

「調!」

 

「緒川さん!?」

 

「人命救助は僕達に任せて、翼さんはアスミタさんと、未来さんの補足を・・・・!」

 

「緒川さん、お願いします!」

 

「(コクン)エルシド、蟹座<キャンサー>は任せます!」

 

「了解した。行くぞ、マニゴルド」

 

「へいへい・・・・」

 

緒川とエルシドは調とマニゴルドを連れて戦線を離脱した。

 

「っ!」

 

「うわっ!」

 

翼はつばぜり合いを外すと、空かさず切歌の脇腹を蹴り飛ばし距離を空けた。

 

「ハアアアアッ!!」

 

「くっ!」

 

翼はそのまま切歌の横を素通りすると、未来を追った。

 

「調・・・マニゴルド・・・!」

 

調とマニゴルドを心配する切歌だが、翼の後を追った。

 

 

ー調sideー

 

「切ちゃん・・・!」

 

「お~お~、ただのマネージャーじゃねぇとは思っていたが、まさか水面走りができるとはなグエッ!」

 

「無駄口を叩くな」

 

エルシドはマニゴルドな首根っこを引っ張り、緒川は調を抱き抱えて水面を走りながら二課本部に向かった。

 

 

ー切歌sideー

 

「(アタシが消えて無くなる前に、やらなきゃいけない事があるデス!)」

 

切歌は背面からブースターを吹かせ空を飛ぶ。

 

 

ー翼sideー

 

翼も足のブースターで空を跳び護衛艦に着地した。

 

「マストォ、ダアアアアアアアイ!!!」

 

「くっ、うあっ!!」

 

着地した翼に切歌は鎖のような紐を投げ飛ばし翼を絡めとり拘束する。

 

「くっ!」

 

呻く翼の左右に二本の棒が突き刺さり、棒の先を見ると、“ギロチン”のようなモノとその刃の上に立つ切歌がいた。

 

「殺るデス・・・!!」

 

刃の上に乗った切歌がブースターを吹かせると、“ギロチン”の刃は真っ直ぐに翼の首めがけて降りてくる。

 

『断殺・邪刃ウォ††KKK』

 

「くっ・・・!!」

 

だが、翼の頭上から青い剣の雨『千ノ落涙』が振り、拘束していた鎖を切り裂き脱出した。

 

「お前は何を求めて・・・!」

 

「アタシがいなくなっても! 調やマニゴルド達に忘れて欲しくないんデス!!」

 

再びにらみ合う翼と切歌。

 

 

ー響sideー

 

翼と切歌の様子と、護衛艦に逃げた未来の目の前に再びアスミタが現れ、そのままにらみ合う両者をモニタリングしていた響の耳に藤尭の報告が入った。

 

「未来ちゃんの纏うギアより発せられたエネルギー波は、聖遺物由来の力を分解する特性が見られます!」

 

「それってつまり、黄金聖衣やシンフォギアでは防げないって事?!」

 

「この聖遺物殺しをどうやったら止められるのか・・・!!」

 

苦い顔する弦十郎。

 

「・・・・ハッ! 師匠!」

 

「ん? どうした」

 

「・・・・・・・・」

 

「(決めたようだね、響・・・)」

 

弦十郎を見つめる響の見て、レグルスも腹をくくる。

 

 

 

ーウェルsideー

 

左腕を包帯で固定して、再びブリッジに戻って来たウェルは、未来の様子を見てまた下劣な言葉を並べる。

 

「少女の歌には血が流れている、フフハハ、人のフォニックゲインにして出力を増した神獣鏡の輝き、これを『FRONTIER』へと照射すれば・・・! フゥッ♪」

 

「それよりもドクター、その腕はどうしたのですか?」

 

「・・・・どうやら、新しく現れた黄金聖闘士によってこうなったようですね・・・!!」

 

「あの聖闘士が、ルナアタック事件の折り、たった一人でリディアン襲撃の人的被害を0にした、“地上で最も神に近い聖闘士”ですね・・・」

 

「フン! 神に近いねぇ? だったらそのお力で是非とも月の落下をどうにかしてみて貰いたいですね! 所詮あの男も、その程度なんでしょうよ・・・!!」

 

自分の腕をへし折ったであろうアスミタにウェルは憎々しげに睨んだ。そんなウェルにマリアが本題の質問をする。

 

「今度こそ『FRONTIER』に施された封印は解除されるの・・・?」

 

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

「マムっ!!」

 

ナスターシャが咳き込むと口元を押さえた手に血が付着していた。

 

「・・・・・・・」

 

「っ! ドクター! マムを!」

 

「いい加減お役御免なんだけど、仕方が無い・・・」

 

ナスターシャに処置を頼もうとするマリアをウェルは興味無いと言わんばかりの態度で嫌らしい笑みを浮かべてナスターシャと下の階へと向かった。

 

「・・・・私がやらねば・・・! 私が・・・!」

 

自分に必死に言い聞かせるようにマリアは呟いた。

 

 

ーデジェルsideー

 

「『ダイヤモンド・ダスト』!!」

 

「『ピラニアンローズ』!!」

 

対峙するデジェルとアルバフィカはそれぞれ氷雪と黒薔薇が空中でぶつかるが、黒薔薇は凍結し、氷雪がアルバフィカを襲うが、間一髪で交わすも肩が少し氷る。

 

「聖衣を纏わずに戦うとはな、舐めているのかアルバフィカ?」

 

「生憎と、この艦を制圧するのに聖衣は必要無かったのでな・・・」

 

「・・・・お前とマニゴルドとカルディアだけでこの艦を制圧したのか? 何故そんな事を・・・?」

 

「そうでもしなければ、ウェルは躊躇無くノイズをけしかけ、無用な犠牲が生まれていたからだ・・・」

 

「やはりあの男か・・・!」

 

アルバフィカの言葉から、下劣な高笑いを上げて“ソロモンの杖”を玩具のように振り回しながら、罪無き命を面白半分で踏みにじるジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスの歪みきった邪笑<よこしまな笑み>がデジェルの頭を過り、不快そうに毒づく。

 

「アルバフィカ、このままFISのやり方をお前は黙認すると言うのか?」

 

「・・・・“約束”・・・」

 

「“約束”・・・?」

 

「そう、私は“約束”の為に戦っている・・・! 『ダーツローズ』!」

 

『デモンローズ』をダーツのようにデジェルに放つアルバフィカ、デジェルも気を取り直して応戦した。

 

 

 

 

 

 

 

ークリスsideー

 

デジェルがアルバフィカと交戦している中、クリスはカルディア(聖衣無し)と交戦しながら既に避難が完了した護衛艦に跳び移った。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ(聖衣を纏っていないってのに、こんなに強いのかよ! 黄金聖闘士ってのはっ!)」

 

“発作”の後で本調子とは程遠いカルディアに何とか粘り食らい付いてはいる。カルディア自身も内心の疲弊を隠すように余裕の態度を取り、小指で耳をほじりながらクリスを値踏みするように見つめる。

 

「(本調子じゃないとは言え、中々粘るねぇ。だが、やっぱコイツ<クリス>じゃ“爪”が疼かねぇな・・・そう言えばコイツはデジェルのお気に入り・・・使えるな・・・)それなりに戦るみたいだな、だがよ俺らには“ソロモンの杖”がある内は、こっちの優位性は動かねぇぜ? アスミタがいたから今回は被害は無くて大丈夫だったが、“ソロモンの杖”があの野郎<ウェル>の手にある内は、また同じ事が繰り返されるぜ? お前が起動させた“ソロモンの杖”を野郎が使い続ける限りよ・・・!」

 

「っ!!」

 

カルディアの言葉にクリスは息を呑み、足元に落ちている、避難した船員が落としたであろう『娘との写真』が入ったロケットが目に入った。

 

「(分かっている! これは、アタシが背負わなければならない十字架だ・・・!)おい、蠍座<スコーピオン>! 話がある・・・!」

 

「あん?(お、掛かったか♪)」

 

気だるそうな態度で内心ほくそ笑むカルディアはクリスの話に耳を傾けた。

 

 

 

ー未来sideー

 

未来の目の前にいるアスミタは、無言のまま未来を見つめる。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

お互い無言のまま向き合う二人、だが、アスミタが沈黙を破った。

 

「・・・・良いだろう、それが君自身が決めた事ならば、君がそうしたい事ならば好きにすれば良い・・・だが、いざとなれば私は君を止める。これは私自身が決めた事だからな・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

未来はまるで会釈するように僅かに上体を前に倒し、すぐに護衛艦の操舵室の上に跳び立つと、目の前に二課本部の潜水艦の上に立つ響がいた。

 

 

今、二人の親友はそれぞれの“想い”をぶつける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書いていて思ったのですが、もしかしたら私は『アンチ響』かもしれません、シンフォギアの主人公なのに・・・。


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本当の友達として

神獣鏡のシンフォギアを纏う未来と向き合う響、響の後ろに黄金聖衣を纏うレグルスが控えていた。

 

「一緒に帰ろう、未来!」

 

「帰れないよ・・・・」

 

響の呼び掛けに未来の顔を覆っていたバイザーが展開され、未来の顔が露らにされたが、その瞳には光が宿ってなかった。

 

「だって、私にはやらきゃならない事があるもの・・・」

 

「やらなきゃならない事・・・?」

 

「このギア<神獣鏡>が放つ輝きはね、“新しい世界”を照らし出すんだって・・・・・・」

 

未来は淡々と話す。

 

「そこには“争い”が無く、誰もが“穏やかに笑って暮らせる世界”なんだよ・・・」

 

「“争いの無い世界”・・・」

 

「私は響に戦ってほしくない・・・だから響が戦わなくて良い世界を創るの・・・その“世界”ならアスミタさんだけじゃない、レグルス君も、エルシドさんも、デジェルさんも、“戦いの世界”しか知らない聖闘士の皆も穏やかに暮らせるんだよ・・・」

 

未来の言葉に響は言葉を詰まらせるが、煙を吹く米国艦隊を見る。

 

「だけど未来、こんなやり方で創った世界は暖かいのかな・・・?」

 

「・・・!」

 

「私が一番好きな世界は、未来が側にいてくれる“暖かい日だまり“なんだ」

 

「でも、響が戦わなくて良い世界だよ・・・」

 

「例え未来と戦ってでも、そんな事させない!!」

 

「私は響を戦わせたく無いの・・・!」

 

未来の言葉に響は少し微笑む。

 

「ありがとう・・・だけど私、戦うよ・・・!」

 

拳をきつく握った響は歌う、『戦いの歌』を・・・。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

響の胸元の傷痕から黄色の光が溢れ、響の服を破り、戦闘服を纏と、腕に、足に、胴体に、機械的な鎧が装着され、頭にヘッドギアを装着し、首に長く太いストールを巻く。

 

「ハッ!ハッ!ハアァッ!」

 

気合いを込めた響は未来のいる護衛艦に飛ぶ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「っ!!」

 

フォニックゲインを高める歌を歌う響、バイザーを再び展開させて未来も飛び、響と未来は空中でぶつかった。

 

「始まったか・・・レグルス、手を出すのか?」

 

「・・・・・アスミタ、お前は・・・?」

 

「見届ける積もりだ、あの者が小日向未来の“真の友達”なのか・・・な」

 

「俺も、見届けるよ・・・!」

 

アスミタとレグルスはそれぞれの奏者達の戦いの行く末を見守る。

 

 

 

ー二課本部・ブリッジー

 

二課ブリッジにモニターに『カウントダウン』が表示された。それは“響のシンフォギア装着時間”だ。

 

「カウントダウン、開始します!」

 

カウントダウンに表示された時間は“二分四十秒”と出され、それを見て弦十郎は息を飲む。

 

「レグルス君、見届けるだけなのか・・・?」

 

《此処で俺やアスミタが手を出せば未来は助かる、でもそれじゃ何の“解決”にもならないよ・・・》

 

「・・・・・・・・」

 

《ここからは響と未来の問題だ、俺たちに出来る事は、見届ける事位だ》

 

レグルスはそう言って通信を切った。

 

 

ー響sideー

 

響は空中で未来に拳をぶつけるも、未来は扇を盾のようにして攻撃を防ぎ、二人は護衛艦の上に着地する。しかし、響の身体はガングニールの力の高ぶりに発熱していた。

 

「(熱い・・・! 身体中の血が沸騰しそうだ・・・! )ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

響の脳裏に弦十郎に提案した“作戦”を思い返した。

 

 

ー数分前ー

 

「あのエネルギー波を利用して、未来君のギアを解除する、だと!?」

 

「アタシがやります! やって見せます!」

 

「だが君の身体は!」

 

「アタシは! 未来の“気持ち”を、未来の“心”と、本当の意味で向き合っていませんでした! ここで動かなきゃアタシは! アスミタさんの言うとおり未来の“友達”だと胸を張って言えません!!」

 

「・・・!」

 

「死んでも未来を連れて帰ります!」

 

「死ぬのは許さん!!」

 

「じゃあ! 死んでも生きて帰ってきます! それは!絶対の絶対です!!」

 

「弦十郎、こうなったら響は聞かないよ・・・」

 

「レグルス君!」

 

「大切な友達の為に命を賭けようとしているんだ! 外野がごちゃごちゃ理屈並べ立てたって無粋なだけだ!」

 

「っ!!」

 

「ッ!!」

 

“師匠”として、“大人”として響を死なせたくないと考える弦十郎と、“仲間”として、“戦士”として“友”の為に戦おうとする響を行かせたいと考えるレグルス、それぞれの“考え”の違いから睨み合う“最強クラス”の二人。

 

藤尭が“過去のデータ”から情報を開示する。

 

「過去のデータと、現在の融合進度から計測すると、響さんの活動限界は二分四十秒になります!」

 

「「「っ!」」」

 

「例え微力でも、私達が響ちゃんを支えてあげる事が出来れば、きっと・・・・」

 

友里も響を行かせて欲しいと伝え、弦十郎はため息混じりに響を見て。

 

「オーバーヒートまでの時間は極限られている、勝算はあるのか!?」

 

「“思いつきを数字で語られるかよ”!」

 

それはかつて、“デュランダル護送任務”の際に弦十郎が語った言葉であった。

 

 

 

ー現在ー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

弦十郎、友里、藤尭、そしてレグルス、多くの人達から後押しされた響は最高のパフォーマンスで未来を攻め立てるが、未来の一撃で護衛艦の壁に叩きつけられる。

未来は背中から伸びたベルトを鞭のようにしならせながら響を攻撃する。

 

『「胸に抱えるガングニールの侵食は本物だ! 作戦超過、その代償が、確実な“死”であることを忘れるな!!」』

 

「(死ぬ・・・アタシが、死ぬ・・・!)」

 

『「響、死んでも死ぬな・・・!」』

 

弦十郎の忠告と、レグルスの激励が頭を走り。

 

「死ねるかーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

気合いを入れた響は未来の攻撃をはね除け、足のジャッキを展開し、未来に飛び膝蹴りを叩きつけ後ろに飛ばす。飛ばされた未来は『流星』の時のように武装を展開させるとビームを放つ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

響は上に飛び上がりビームを回避すると、放たれたビームは護衛艦を撃沈する。未来は小型の鏡を複数放つと、その鏡からビームが発射される。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

響は空中でジャッキを起動させて空中を飛びながら回避する。

 

 

 

ーマリアsideー

 

「・・・・・・・・・・・」

 

響と未来の戦いを飛行艇で見ていたマリアは未来の援護をするべく、飛行艇からシャトルマーカーを大量に射出し、マーカーが空中で展開されると、未来のビームが当たり屈折し、響に向かう。

 

 

ー響sideー

 

ドクンッ!!!

 

響の胸のガングニールから“黄色い結晶体”が生まれる。

 

《間もなく、危険域に突入します!》

 

友里から通信が聴こえるが、未来はそんな響に構うことなく攻撃をする。

 

「戦うなんて間違っている・・・! 戦わない事だけが、本当に“暖かい世界”を約束してくれる・・・! 戦いから解放してあげないと、響やアスミタさん達は永遠に・・・!」

 

未来の後頭部に装備されたヘッドギアが未来の優しさを歪めていた。

 

『「それが君自身の決めた事ならば、君がそうしたい事ならば好きにすれば良い・・・」』

 

だが、アスミタの言った言葉が未来の脳裏を甦る。

 

ぐちゃっ! ギチチ! グチッ!

 

「うっ! うぅっ! うあっ!!」

 

響の身体の内部に木の根のように張り巡っていたガングニールが、響の身体を破り、“黄色い結晶”が響の身体から生えてきた。

 

「(違う! 私がしたいのはこんな事じゃない! こんな事じゃ・・・)ないのにーーーーーー!」

 

バイザーが砕け、露になった未来の瞳には涙が浮かんでいた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪!!(誰が未来の身体を好き勝手にしているんだ!)」

 

響はビームの合間を抜けて未来を抱き締める。すると、展開されていた未来の武装が硝子が割れるような音を立てて砕ける。

 

「離してっ!!」

 

「イヤだ! 離さない! もう二度と離さないっ!!」

 

「響ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「離さないっ!!!!!」

 

すると、シャトルマーカーがレーザーで分子構造物のような形を創る。

 

「絶対にぃっ!! 絶対にぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

響は背中のバーニアを吹かせ離脱する。

 

 

 

ーマリアsideー

 

シャトルマーカーの動きを見たマリアは機械を操作する。

 

「来る! 『FRONTIER』へと至る『道』!」

 

 

 

ー響sideー

 

響は泣く未来を抱えて離脱しようとする。

 

「(コイツが聖遺物を消し去るって言うなら・・・!)」

 

分子構造物のシャトルマーカーのレーザーが一つのマーカーに集まる。

 

「こんなの脱いじゃえ、未来ーーーーーーーーーーーー!!!」

 

一点に集約された極太レーザーが響と未来を襲おうとする!

 

「アスミタ!!」

 

「っ!!」

 

レグルスとアスミタは透かさず、響と未来の元に跳び、レグルスは響をアスミタは未来を庇い、レーザーに呑み込まれる。

 

「(くっ・・・! せめて、このシンフォギアだけでも・・・!)」

 

「(大人しくしろ! ガングニール!)」

 

その際、レグルスが響のガングニールと、アスミタが未来の神獣鏡を“破壊”したーーーーーー。

 

 

 

 

響達を呑み込んだレーザーは海面上空を漂っていたシャトルマーカーに当たり、レーザーは海底深くに伸びていきーーーーーー。

 

 

 

そこから、巨大な“光の柱”が天高く伸びていった。

 

 

 

 

 

 

 

その光景を弦十郎達と上空のマリアは愕然と見つめ、弦十郎が不安げに呟く。

 

「・・・・作戦、成功なのか・・・?」

 

 

ーマリアsideー

 

ナスターシャ教授の席からウェルが下劣な笑みを浮かべて上がってきた。

 

「作戦は成功です!」

 

ウェルは下劣な笑みを更に歪めて呟く。

 

「そう、『FRONTIER』の浮上です・・・!!」

 

 

 

 

ー翼sideー

 

交戦中の翼と切歌も戦闘を中断して“光の柱”な方を見つめると。光が収まり、海底から“何か”が浮上してきた。

 

 

“カ・ディンギル”すらも超える程の巨大な、古代の遺跡のような、石造りの神殿のような形をした超巨大な建造物をーーーーーー。

 

「一体なにが・・・!?」

 

驚く翼と切歌は、浮上してきた巨大な建造物を見ると、海面に次々と石造りの柱が伸びる、呆然とそれを見る翼の背後から“赤い銃”が向けられーーーーーー。

 

 

 

 

ズダアァンッッ!!! ダン! ダン! ダン!

 

 

 

 

銃声が辺りに響いたーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

「なっ!?」

 

「くっ!・・・うぅっ!・・・!」

 

愕然とする切歌と倒れて呻きながらも背後に見やる翼の目に映ったのは、銃を構えた“雪音クリス”だった。

 

「雪音・・・!!」

 

驚愕する翼に向けて、クリスは無表情に銃を向けて、冷徹に呟く。

 

「さよならだ・・・・」

 

銃声が再び、辺りに響いたーーーーーーーーーーー。

 

 

 

しかしーーーーーー。

 

 

 

 

 

ガキンッ!!

 

 

 

 

クリスの放った弾丸は、護衛艦の甲板を貫いた。

 

 

 

「っ!!」

 

「来やがったか・・・・」

 

驚く切歌と冷静なクリスが離れた場所を見ると、マニゴルドと調を緒川に任せ、急行し翼を抱き抱えたエルシドがそこにいた。

 

「・・・・エルシド・・・!」

 

「・・・・何の積もりだ、雪音・・・?」

 

こんな状況でも、仏頂面のエルシドはクリスを探るように睨む。切歌も我に返り、クリスに問う。

 

「仲間を裏切って、アタシ達に付くと言う事デスか!?」

 

「アイツら<翼とエルシド>が証明書代わりだ・・・!」

 

クリスは翼を抱き抱えたエルシドを睨んで告げる。

 

「・・・・しかしデスね・・・!」

 

「心配無用だぜ、切歌・・・・」

 

クリスの背後からカルディアが犬歯を剥いた笑みを浮かべて現れた。

 

「カルディア、どう言う事デスか・・・?」

 

「ククククク、女心と秋の空ってヤツよ」

 

「“力”を叩き潰せるのは、更に大きな“力”だけ、アタシの“望み”はこれ以上戦火を広げないこと、無駄に散る命は少しでも少なくしたい・・・!」

 

「ここまで言えば分かんだろ? 誰が戦火を広げているか・・・?」

 

「・・・・・・・・(コクン)」

 

カルディアの言葉に切歌は下劣な笑みを浮かべた“クソ野郎”の顔が浮かび頷く。それを見たカルディアも頷き、エルシドを見据える。

 

「つー訳でエルシド、デジェルに伝えておけ、『雪音クリスは俺らの側にいる、そっちにいる調に何かしたら・・・』後は分かるよな? 次いでに、『とっとと決着<ケリ>付けようぜ』っとも伝えておけよ・・・!」

 

「マニゴルドの事は良いのか?」

 

エルシドの言葉に切歌は反応するが、カルディアはにやけ笑みを浮かべる。

 

「調は兎も角、“あの”マニゴルドがどうにか何のかよ? 殺しても死なない処か、自分を殺そうとするヤツを返り討ちにするか、地獄に道連れにしそうなヤツだろうがよ! もしどうにかなんなら寧ろ特等席で見たみたいわ!」

 

「え~~・・・・」っとカルディアのマニゴルドに対する暴言に切歌だけではなく翼とクリスも若干引いた。

 

「良いだろう、ここは退いておく」

 

『FRONTIER』の浮上と、さっき通信で響と未来、レグルスとアスミタの事もあり、エルシドは翼を抱き抱えたまま、海面を走り離脱する。

 

「・・・・(ピッ)アルバフィカ、そっちはどうだ?」

 

《カルディアか、デジェルは引いた。どうやら不本意ながら作戦成功と言った処か・・・・》

 

「これであの野郎<ウェル>ますます調子付くな、あぁヤダヤダ・・・・それはそうと、こっちはおましれぇカードが手に入ったぜ♪」

 

《面白いカード・・・?》

 

「デジェルの“女”♪」

 

《・・・・それは、強力なカードだな》

 

「だろ? んじゃま合流しようぜ」

 

《了解だ・・・・(ピッ)》

 

アルバフィカとな通信を終えたカルディアはクリスに顔を向ける。

 

「良かったなイチイバルちゃんよ、デジェルは離脱していたようだぜ?」

 

「・・・・・・・そうかよ」

 

「・・・・・・・・」

 

「もし、デジェルが此処にいても、お前は俺らに付いたかな?」

 

「テメェの知ったこっちゃねぇだろ・・・! それ以上何か言ったら・・・風穴開けんぞ・・・!!」

 

「おぉっ! 恐や、恐や・・・」

 

銃を構えて睨むクリスの殺気をふざけた態度で流すカルディア、切歌はエルシド達が走り去った先を見つめていた。

 

「調・・・マニゴルド・・・・!」

 

切なそうな切歌の頭をカルディアは優しく撫でた。

 

「一応釘は刺しておいた、調は大丈夫だろう。それに今言ったろ? マニゴルドはそう簡単にどうにかなる柔な野郎じゃねぇってよ。オラ、戻るぞ・・・」

 

「うん・・・」

 

沈んだ表情の切歌を肩に乗せて、カルディアはクリスと共に飛行艇から伸びたワイヤーを掴んで『FRONTIER』へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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“情報屋 アクベンス”

今回はマニゴルドが中心になります。ストーリーは進みませんが・・・・。


ー調sideー

 

月読調は以前響も付けた事のある強固な手枷を付けて二課本部の個室で緒川に監視されていた。

 

「すみませんが、コレ<シュルシャガナ>は預からせて頂きますね」

 

緒川の手には調から預かったシュルシャガナのシンフォギアペンダントが握られていた。

 

「・・・・お願い、皆を止めて・・・」

 

「っ?」

 

「カルディアを・・・助けて・・・!」

 

顔を俯かせた調の懇願に緒川は目をしばたたかせた。

 

 

 

ー二課ブリッジー

 

その頃ブリッジでは、突如現れた『FRONTIER』の解析で騒然となっていた。

 

「映像、回します!」

 

メインモニターに巨大な石造りの遺跡が映し出された。

 

「これが、FISが求めていた『FRONTIER』・・・?」

 

更に『FRONTIER』の全体像が映し出された。海面の下は、正に巨大な島のような姿であった。

 

「海面に出ている部分は、全体から見てほんの“一部”・・・! 『FRONTIER』と呼ばれるだけはありますね・・・!」

 

ビー!ビー!ビー!

 

突然警報が鳴り、友里が調べると、メインモニターに米国艦隊が現れた。

 

「新たな米国所属の艦隊が迫ってます」

 

「第二陣か・・・!」

 

『FRONTIER』に向かう艦隊を弦十郎は睨む。すると“斯波田事務次官”が通信を送ってきた、蕎麦を啜りながら。

 

《まさかアメリカさんは、落下する月を避ける為に『FRONTIER』に移住する腹じゃあるめぇな?(ズルズル)》

 

「我々も急行します! 丁度、情報源になるであろう人物も確保済みです」

 

弦十郎はモニターに映る別室でエルシドと無言で睨み合う“マニゴルド”を見ていた。

 

 

ー二課医務室ー

 

「アスミタ、本当に“小宇宙<コスモ>”を気功療法みたいに流すことで未来の体内の毒素が消えるの?」

 

「まだ彼女の身体には“LiNKER”なるものが残っているからな、私の“小宇宙<コスモ>”を流すことで体内に残る毒素を除去できる筈だ・・・」

 

アスミタは横たわる未来に自分の“小宇宙<コスモ>”を流していた。アスミタの掌が淡く光り、その光が未来の身体を包み込む。

 

「フム、これで毒素は除去できた筈だ。もう良いぞ、小日向未来・・・」

 

アスミタから治療完了を言われ、上体を起こした未来は少し身体に包帯を巻いたアスミタとレグルスを見るといたたまれない気持ちなのか顔を俯かせる。

 

「・・・レグルスよ、風鳴翼と一緒に治療を受けているガングニールを連れて来てくれ」

 

「うん・・・!」

 

レグルスは別室にいる響と翼、二人の治療を行っているデジェルを呼びにいった。

 

「さて、小日向未来。此処には私しかいない、話しにくい事でも話してみよ・・・」

 

「アスミタさん・・・・私・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

神獣鏡を纏って暴れた事で気を落とす未来の頭にアスミタは何も言わず手を置く。

 

「君は君の“友”の為に自分に出来る事を考え、聖遺物に手を出してしまった、そしてその聖遺物に操られ友を傷付けてしまった。だがその“心優しき想い”は間違ってなどいない・・・」

 

「でも、私は・・・響を・・・!」

 

自責の念で押し潰されそうになる未来にアスミタは優しく説く。

 

「ならば今度こそ、ガングニールと向き合えば良い、人が他者を真に理解するのは容易ではない。だからこそ、互いの気持ちを伝えなければならぬのだ。“自分は友の事を真に理解している”などと考えているのは、友との“絆”を過信し、胡座をかいている愚か者の考えに過ぎん。しかし、君とガングニールはすれ違って過ちを犯した。犯した事は簡単には拭えんだろう、だからこそもう一度向き合うべきだ。アヤツと友でいたいのだろう?」

 

「・・・・・・・・・はい・・・ッッ」

 

心に染みるアスミタの言葉に未来は静かに涙を流しながら頷いた。

 

「(今度ガングニールが愚行を犯したら『天魔降伏』でもお見舞いしてやるか・・・)」

 

さらりと恐ろしい事を考えるアスミタを余所に、響達が治療室に入ってきた。

 

「未来ーーーーーーッ!!」

 

治療室に入った響は未来に抱きつく。

 

「デジェル、小日向の容態は?」

 

「LiNKERの清澄も完了、アスミタが小宇宙<コスモ>を流して、身体の怪我も完治に向かっている、ギアの強制装着の後遺症も無い・・・」

 

タブレットで未来の容態を確認したデジェルの言葉に響は顔を綻ばす。

 

「良かった、本当に良かった・・・!」

 

未来の様子を翼もデジェルもレグルスもにこやかに見ていた。

 

「響、私・・・」

 

「ゴメンね、未来」

 

「えっ?」

 

「私、未来に甘えていたんだ・・・未来は私の気持ちも想いも全部理解してくれているって勝手に思い込んで、未来の気持ちなんて考えてなかったんだ、本当にゴメン・・・」

 

「響・・・・・・」

 

未来は改めて響の顔を良く見てみると。

 

「響、その怪我・・・」

 

響の顔に張られた絆創膏を見て、自分が響を傷付けた事を悟る。

 

「うん・・・」

 

「私の・・・私のせいだよね・・・!」

 

「うん! 未来のお陰だよ♪」

 

「え・・・・?」

 

「ありがとう、未来!」

 

「響・・・?」

 

「私が未来を助けたんじゃない、未来が私を助けてくれたんだよ!」

 

デジェルは戸惑う未来にタブレットを操作して響の身体のレントゲン写真をモニターに映した。そこには、以前は響の体内に太い根っ子のように張り巡っていたガングニールが消えていた。

 

「コレ、響・・・?」

 

「あのギア<神獣鏡>の放つ光には、聖遺物由来の力を分解し、無力化させる効果があったようだ。君達が光に呑まれレグルスがガングニールを破壊しようとした時、響君の身体を蝕んでいたガングニールの“欠片”も除去されたようだ・・・」

 

「え・・・?」

 

「小日向の強い想いが、死に向かって疾走する筈だった立花を救ったのだ」

 

「私が本当に困った時、やっぱり未来は助けてくれた! ありがとう!」

 

「私が・・・響を・・・!」

 

「うん!」

 

「(でも、それって・・・)」

 

「しかしそれは、その娘は“聖遺物を失ってしまった”と言う事だな・・・」

 

アスミタの言葉に響は少し顔が沈む。

 

「あのガングニールは奏さんの・・・」

 

響の胸のガングニールは、翼の片翼である天羽奏の“形見”とも言えるモノ。それが消滅した事に場の雰囲気が少し沈む。

 

「でもま、とりあえずは響が死ぬ事が無くなった事を喜ぼうよ」

 

「フッ、そうだな・・・」

 

レグルスの言葉に翼も頷いた。デジェルが現状を解説する。

 

「しかしFISは『FRONTIER』を遂に浮上させ、こちらは“奏者が一人”に“聖闘士が三人”、むこうは“奏者が三人”に“聖闘士が二人”と“無数のノイズ”、戦力は“ノイズ”が現れる分此方が不利だな・・・」

 

「FISの企みなど、私とエルシド達で払って見せる! 心配等不要だ・・・!」

 

デジェルの言葉の中に未来は一つの疑問を感じた。

 

「奏者が一人? そう言えばクリスは・・・?」

 

『・・・・・・・・』

 

「(クリス・・・・・・)」

 

未来の疑問に響とレグルス、翼とアスミタは黙り。デジェルは“FISに寝返った想い人”に想いを馳せていた。

 

 

 

ーFISsideー

 

『FRONTIER』に着陸した飛行機から、ナスターシャ教授とマリア・カデンツァヴナ・イヴと魚座のアルバフィカ、暁切歌と蠍座のカルディア、ドクターウェルと“雪音クリス”がソコにいた。一同は『FRONTIER』の小高い山にそびえる石造りの遺跡を眺めていた。

 

「こんなのが海中に眠っていたとはな・・・」

 

「貴女が望んだ“新天地”ですよ、仲間処か、“愛する人”まで裏切って望んだ、ね!」

 

「(ギッ!)・・・・・・」

 

クリスを見下すように見て、下劣な笑みを浮かべたウェルのあからさまに明確な嘲弄<ちょうろう>にクリスだけでなくマリア達も嫌悪感を抱く。言われた当人のクリスの瞳に一瞬の殺気が煌めき睨みそうになるが、直ぐに心を落ち着かせる。そして一同は『FRONTIER』の中枢とも云える遺跡へと向かった。

 

 

 

ー遺跡内部・通路ー

 

懐中電灯を片手に持って遺跡の通路を歩いていた。

 

「本当に私と一緒に戦う事は、戦火の拡大を防げると信じているの?」

 

「フン、信用されてねぇんだな・・・気に入らなければ、鉄火場の最前線で戦うアタシを後ろから撃てば良い・・・」

 

「勿論、その積もりですよ」

 

「どうでも言いがウェル博士よ、その“左腕”はどうしたんだ?」

 

「アスミタの野郎にへし折られたそうだぜ♪」

 

クリスが包帯に巻かれたウェルの左腕を見るとウェルは顔を苦々しくし、カルディアが笑いを堪えるように説明した。

 

「アスミタにね・・・前にレグルスにぶん殴られた時は、惨めにヒーヒー喚いていたんだ、腕を折られた時はどんな醜態晒したのか是非とも見てみたかったぜ・・・!」

 

「ぐぎぎッッ! ウー! ウー! ウー!」

 

『(確かに見てみたかった(デェス)・・・)』

 

先程の嘲弄の仕返しにウェルはクリスの後ろ姿を射殺さんばかりに睨みながら獣のように唸り、マリア達は内心クリスに同調した。

 

 

* * *

 

 

そして、結晶体に覆われた黒く大きな“核”のようなモノがある場所に付いた。

 

「付きました、ここが“ジェネレータルーム”です・・・」

 

「何デスか、あれは・・・?」

 

不気味な雰囲気が漂うジェネレータルームに切歌は尻込みするが、ウェルはお構い無しに進み、保管庫から“ネフィリムの心臓部”を取り出す。

 

「へェッ!・・・」

 

ウェルは口許を歪めると“心臓部”をジェネレータにくっつけた、すると“心臓部”から根っ子のようなモノが伸び“心臓部”が赤く点滅するとジェネレータが起動した。

ジェネレータが光輝くとその光は結晶体に伝達し光らせる。

 

「“ネフィリムの心臓”が・・・!」

 

「心臓“だけ”となっても、聖遺物を喰らい取り込む性質はそのままだなんて、卑しいですね~フへへへ・・・」

 

「・・・・・・」

 

「(くだらねぇ・・・)」

 

不気味に笑うウェルをアルバフィカは不審に睨み、カルディアは興味なしの態度であった。

 

 

 

 

ー『FRONTIER』外部ー

 

ジェネレータの起動すると同時に、『FRONTIER』の外では、マリア達がいる遺跡を中心に草木が生え、緑が覆い茂っていた。

 

 

 

ーナスターシャsideー

 

「エネルギーが『FRONTIER』に行き渡った様ですね」

 

するとウェルがジェネレータに背を向けて、不気味な笑みを浮かべて近づく。

 

「さて、僕はブリッジに向かうとしましょうか。ナスターシャ先生も“制御室”にて『FRONTIER』の面倒をお願いしますよ」

 

ジェネレータルームを退室するウェルをマリア達は訝しそうに睨むが、切歌は光輝くジェネレータの“核”を見つめ、調<親友>とマニゴルド<パートナー>に想いを馳せる。

 

『ドクターのやり方では、弱い人達を救えない!』

 

『お前も分かってンだろ! あのクソ野郎のやり方じゃ、弱い奴等が無駄に犠牲にされるって事くらい!』

 

「・・・・・・そうじゃないデス! 『FRONTIER』の力でないと、誰も助けられないデス!・・・調もマニゴルドもカルディアも助けられないデスッ!!」

 

涙混じりの切歌の叫びがジェネレータルームに響いた。

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

弦十郎は緒川からシュルシャガナのシンフォギアペンダントを受け取る。

 

「助けて欲しい、そう言ったのか・・・?」

 

「ハイ、“目的”を失って暴走する仲間達を止めて欲しいと、そしてデジェル君に、蠍座<スコーピオン>の命を救って欲しいとも・・・」

 

「・・・・・・フム、蠍座<スコーピオン>の命か」

 

ブリッジの扉が開き、響達(デジェルを除いた)が入ってきた。

 

「まだ安静にしてなけれきゃいけないじゃないか!」

 

「ゴメンなさい、でも、いてもたっても要られなくって・・・」

 

「クリスちゃんが居なくなったと聞いたら、どうしてもって・・・」

 

「確かに、クリス君と響君が抜けた事は作戦遂行に大きく影を落としているのだが・・・」

 

「本当にクリスが裏切ったなら、デジェルが我先に飛び出しているよ」

 

「彼が何もしないと言う事は、雪音クリスの敵への離反に何か心当たりがあるのだろう・・・」

 

「でも、翼さんに大事が無かったのが本当に良かった。致命傷を全て避けるなんて流石です・・・」

 

友里の言葉に翼とレグルスとアスミタは怪訝そうに黙る。

 

「(かわした? あの状況で雪音の射撃をかわせるものか・・・?)」

 

「(クリスが意図的に致命傷を避けて攻撃したのなら・・・)」

 

「・・・・・・」

 

「レグルス君、一つ聴きたい事があるのだが・・・」

 

「ん、何?」

 

「蠍座<スコーピオン>には、俺達に教えていない“何か”が有るんじゃないか?」

 

「・・・・・・・・・」

 

レグルスは少し考える素振りを見せると、観念したようにため息も漏らし話す。

 

「この事を知れば、響達がカルディアを助けようとすると思ったし、もしかしたら無くなってるかもしれないから黙っていたけど、カルディアはね、“心臓の病”に侵されている・・・!」

 

『っ!?』

 

驚く響達を余所に、レグルスは淡々と話した。

 

「俺達が自分達の世界にいて、俺が黄金聖闘士に就任して直ぐ、祝いに来たカルディアが酔った勢いで話してくれた。幼い頃から親も無く体の弱かったカルディアは療養所に預けられ、そこで10歳の頃に、『心臓はもう長くない』、『もって一年の命』だと死刑宣告を受けた。奇しくも、響と同じ状態になっていたんだ・・・」

 

「私と、同じ・・・!」

 

「ちょっと待ってくれ、レグルス君。蠍座<スコーピオン>が君達の世界で死んだのは彼が何歳の時だ?」

 

「たしか22歳だったかな・・・」

 

「可笑しくはないか? それでは死刑宣告と違いすぎる!」

 

「話は最後まで聞いて、死刑宣告を受けたカルディアは“絶望”するよりも、“笑えた”そうだよ」

 

「“笑えた”・・・?」

 

響とて、自分が死ぬと聞かされた時は、茫然自失となったのにカルディアは“笑えた”、それが響だけでなく、翼に未来、弦十郎達にも理解出来なかった。

 

「カルディアはずっと我慢していた、“外で遊ぶ事”も、“友達を作る事”も、“はしゃぐ事”も、何もかもを耐えて我慢していた。だけど、自分の命が残り少ないと知って療養所を飛び出した・・・」

 

『だったら俺はもうなんにも我慢しないぜ! 残された時間、目一杯はしゃいで生きるんだ!!』

 

「カルディアは、残り少ない命を自分が望む通りに使う事を選んだんだ、『ベッドの上でだけは死にたくない・・・!!!』って気持ちがそうさせたんだ。そして、療養所を抜け出したカルディアは一人の“老人”と出会ったんだ」

 

「“老人”・・・?」

 

「何でもデジェルに似た雰囲気をした人物だったらしくて、その人に“禁忌の技”を施されたらしい・・・」

 

「“禁忌の技”・・・?」

 

「その“技”は、もともと病持ちだったカルディアの心臓を生かし、小宇宙<コスモ>を燃やす程に力と熱を生み出すんだ。だけど時々、カルディアでも制御ができなくなる程の熱量を出してぶっ倒れてしまうんだ」

 

「では、蠍座<スコーピオン>を助けてと言うのは・・・」

 

「多分、カルディアの心臓が放熱を始めたんだ。だからデジェルに助けを求めたんだと思う」

 

「えっ? そこでどうしてデジェルさんが?」

 

「成る程な、デジェルの凍技は全てを凍てつかせる“絶対零度”、高熱を発する蠍座<スコーピオン>の心臓を静める事が出来ると言う訳か・・・」

 

首を傾げる響に代わり翼は考察し、レグルスがフィンガースナップする。

 

「ご明察♪ だからあの子はカルディアを助けてって言ってるんだと思う」

 

「しかし、何故彼女はそこまで・・・?」

 

モニターに映る調を眺める翼に今度は弦十郎が応える。

 

「ひょっとすると、彼女にとって蠍座<スコーピオン>は、“クリス君にとってのデジェル”なのかも知れないな・・・」

 

《弦十郎殿》

 

すると、マニゴルドから聴衆をしていたエルシドから連絡が入る。

 

「エルシドか、蟹座<キャンサー>が何か話したか?」

 

《最初は惚けていましたが、デジェルが“小切手”を差し出したら話すつもりになったようだ・・・》

 

「小切手・・・?」

 

エルシドの言葉にブリッジにいた一同が首を傾げるとモニターにデジェルから貰った小切手を片手にヒラヒラさせ小憎たらしい笑みを浮かべるマニゴルドが映し出された。

 

《デジェルも太っ腹だね~♪ 0を5つも出してくれるなんてよ~♪ 改めましてごきげんよう、特異災害起動部二課の皆々様、俺が蟹座<キャンサー>のマニゴルド様、又の名を“裏情報屋 アクベンス”》

 

「アクベンスだと!?」

 

その名は、デジェルに“シンフォギア”や“二課”の情報を提供した謎の裏情報屋、『ルナ・アタック事件』以降、二課もそれなりに調査をしていたが全く尻尾を掴ませなかった人物が、実は目の前にいる黄金聖闘士だった。

 

《んで、今は“聖闘士”としてではなく、“情報屋”として情報提供してんのよ♪》

 

「フン、金銭で動くとは、アテナの聖闘士の最高峰である黄金聖闘士としての誇りは無いのか・・・!」

 

《天羽々斬のシンフォギア奏者は、その“胸”と同じで柔軟性が足りないね~》

 

「(ブチッ!) エルシド、その男一度斬って良いか・・・?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「「アワワワワワ・・・」」

 

《情報提供が終わったら、なます斬りにするなり、撫で切りにするなり好きにしろ・・・》

 

いつの間に刀(真剣)を持って黒いオーラを放つ翼に、響と未来は震え、レグルスはケラケラ笑い、アスミタと弦十郎達はなるべく知らんぷりした。

 

《んでだデジェルよ、何が知りたい?》

 

《先ずはそうだな、小日向君の身体に装着させられた聖遺物、あれは何だ?》

 

翼を無視してマニゴルドとデジェルが話し合いを始めた。

 

《あぁ、あの聖遺物『神獣鏡』か、あれは“フィーネ”、“櫻井了子”が米国政府に譲渡したもんだ・・・!》

 

()()()

 

『っ!?』

 

此処に来て曾ての仲間(デジェルは除く)、櫻井了子<フィーネ>が関わった事に全員が驚愕の様相を浮かべた。

 

《ちょいと昔話をするぜ、遡ること五・六年前、米国政府と手を組むために、“何でも良いから聖遺物を寄越せ”と米国にせっつかれていたフィーネは、ある遺跡に行きソコであの聖遺物『神獣鏡』を手に入れましたとさ。次いでにその遺跡調査に来ていた調査隊がいた、フィーネはノイズをけしかけ、調査隊に両親がいて、丁度会いに来ていた姉妹の内の“姉”を残して調査隊はノイズに襲われ全滅。生き残った“姉”は偶然その遺跡近くにいた、“射手座”と“山羊座”の黄金聖闘士に救われ、特務二課に保護されましたとさ・・・!》

 

《なん・・・だと・・・!》

 

「ッ!! まさか、その生き残った“姉”と言うのは・・・!」

 

マニゴルドの昔話に、エルシドと翼、弦十郎達に戦慄が走り、レグルスとアスミタは顔を強ばらせ、響と未来は戸惑う。

 

「その“姉”の名は・・・“天羽奏”・・・!」

 

『ッッッ!!!!!!』

 

全員、特に翼とエルシドは愕然となった。

 

「そんな・・・奏の両親と妹を・・・奏の家族を奪ったのは・・・櫻井女史嫌、フィーネだったのかッッ!?」

 

モニターに詰め寄ろうとする翼を緒川と響が押さえた。

 

《そう言うこった、笑えねぇ話だぜ、前ガングニールの奏者は、自分の家族を奪った“仇”から“戦う力”を貰ったなんてよ・・・》

 

《・・・・・・・・》

 

「おのれ、おのれェ・・・! フィーネ・・・!!」

 

翼とエルシドは拳をきつく握り、血が滴り落ちる。響達も奏の家族に起こった悲劇がフィーネ<櫻井了子>の手引きによるものだと知り愕然となる。

 

《話続けて良いか?》

 

《あぁ、それで『神獣鏡』をフィーネは米国政府に譲渡したのか?》

 

《『神獣鏡』は他の聖遺物、ガングニールと天羽々斬とイチイバル、シュルシャガナやイガリマと比べて“格”が低いからな、イチイバルのように手駒にする事を断念したフィーネは、米国政府に渡すのを躊躇わなかったそうだ。だが、『神獣鏡』は“鏡の聖遺物”、光の屈折を応用して俺らの飛行艇、エアキャリアのステルスシステムとして使われていたんだ》

 

《成る程、あのステルスはあの聖遺物から発せられていたのか・・・・では、その『神獣鏡』を小日向君に無理矢理装着させたのは・・・・》

 

《分かってンだろ? ドクターウェルだ・・・》

 

《やはりヤツか・・・・しかし何故小日向に?》

 

《『FRONTIER』を浮上させるには『神獣鏡』は必要不可欠。だが、以前に浮上させようと試みたが、出力不足で失敗し、それで業を煮やした野郎はシンフォギアとして使う事で足りない出力をあの嬢ちゃんから得ようとした。丁度嬢ちゃん本人も友達の為に“力”を欲していたし、野郎にとってもガングニールとレグルスには“屈辱”を受けたからな、その腹いせもかなり含めての事だろうよ・・・・》

 

「俺と響への嫌がらせの為“だけ”に、そんな下らない事の為に、未来を戦場に放り込んだのか・・・!?」

 

「未来をあんな風にしたのは、ウェル博士・・・!!」

 

あまりにも個人的な下らない理由で、戦場に立つ必要の無い人間を兵器にしたウェルに、レグルスと響、翼達もウェルに対して怒りを燃やす。当然アスミタも身体から小宇宙<コスモ>がユラユラと立ち込めた。

 

《あのスカイタワーの一件以来、マリアはウェルの強行策で計画を進めるようになり、FISは実質野郎が指揮を取るようになっちまった。俺と調はそれに反発したのよ・・・!》

 

《お前とあの少女、月読調はウェル博士のやり方が気に入らなかったのか?》

 

《あの野郎は身体の大きい“だけ”で中身はガキ、それもこっすい悪知恵が働くクソ餓鬼だ。物事が自分の思い通りにならないと直ぐに癇癪やヒステリーを引き起こし、自分の思い通りにするためなら、目の前で何十何百の人間の生命を嗤いながら鼻唄歌いながら踏みにじり、友達の為に戦おうとする純な女の子の友愛すら言葉巧みに利用し、利用価値が無くなれば簡単に切り捨てる、ソコに良心の呵責も罪悪感も一切合切無い、むしろ見せモンにしてゲラゲラ嘲笑する。ンなクソ野郎の指揮する処なんて御免だね・・・!》

 

そしてマニゴルドの事情聴取の最中、藤尭が『FRONTIER』に接近した事を報告する。

 

「『FRONTIER』への接近はもう間もなくです!」

 

メインモニターに映し出された『FRONTIER』を一同は真っ直ぐに見据えていた。

 

《覚えておけや、今のFISはウェルが仕切っている。野郎が何を目論んでンのかは分からんが、俺の見立てでは野郎は信用できねぇ》

 

「その根拠は何だ?」

 

《生憎、俺はお前ら二課やシンフォギア奏者と違って、善意優先で人間を信じない、“悪党を見る目”だけなら俺はレグルスやアスミタ以上だぜ》

 

ニヤリと笑うマニゴルドは遠回しに“ドクターウェルに警戒しろ”と言った。

 

 

間もなく、決戦が始まるーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分なりにマニゴルドのキャラを表現してみました。


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動き出す欲望と癖者の蟹座

ー『FRONTIER』・ブリッジー

 

ドクターウェル、マリア、アルバフィカはまるで石造りに紫の水晶が合わさった玉座の間のような場所に来ていた。

 

「ンフゥ♪」

 

中心にある丸い装置に付くとウェルが注射銃を取りだす。

 

「それは・・・・?」

 

「“LiNKER”ですよ・・・! 聖遺物を取り込む、“ネフェリム”の細胞サンプルから採取した“LiNKER”です。あの神様気取りの盲目野郎に折られた腕にはちょうど良い!」

 

ウェルはアスミタにへし折られた左腕に“LiNKER”入りの注射銃を押し付け注入した。すると、折られた腕がぐちゃぐちゃと音を立てて変異する。

 

「へへへ・・・!」

 

「っ!」

 

「・・・」

 

不気味ににやけるウェルは変異した腕を装置に付けると装置に一瞬赤い管が張り巡り起動した。起動した装置の近くにある結晶からまるでコンピューターのような羅列が現れる。

 

「フヘヘヘヘ、早く動かしたいなぁ。ちょっとくらい動かしても良いんじゃないですかぁ? ねぇ、マリア」

 

「あ・・・」

 

「これは玩具ではないぞドクター・・・!」

 

まるでおもちゃを手にいれて遊びたがる幼稚な子供のようでいて悪意に満ちた邪悪な笑みを浮かべるウェルにマリアはおののくが、アルバフィカがマリアを後ろに下げてウェルを睨む。

 

「わかっていますよぉ、でもね、ほら・・・」

 

結晶体の一つがモニターになりそこから米国艦艇の第2陣が映し出された。

 

「フヘェ♪ おあつらえ向き♪」

 

歪んだ笑みを浮かべるウェル、それはまさに獲物を見つけた獣<ケダモノ>のように。

 

 

ー『FRONTIER』・制御室ー

 

ナスターシャ教授は制御室で『FRONTIER』を調べていた。

 

「(『FRONTIER』が先史文明記に飛来したカストロリアンの遺産ならば、それは異端技術の集積体。月の落下に対抗する手段もきっと・・・・)あっ、これは・・・!」

 

ナスターシャが“何か”を発見すると、ウェルから米国艦艇の映像が送られた。

 

 

ーマリアsideー

 

「どうやらのっぴきならない状況のようですよ? 一つに繋がることで、『FRONTIER』のエネルギー状態が伝わってくる・・・! これだけあれば、十分にいきり立つ♪」

 

《早すぎます、ドクター!》

 

ナスターシャの制止通信に耳を貸さず、ウェルは『FRONTIER』を動かす。

 

「さあ! 行けっ!!!」

 

 

ー『FRONTIER』外部ー

 

『FRONTIER』の石造りの輪っかのような遺跡から膨大なエネルギーが流れ、鳴動する。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「っ!!」

 

「ムッ!!」

 

「レグルスくん・・・?」

 

「アスミタさん・・・?」

 

「いけない!」

 

「来るぞ! “悪意の光”がっ!!」

 

レグルスとアスミタは『FRONTIER』から流れる“悪意の波動”を感知した。

 

 

『FRONTIER』の遺跡から三つの光が上空に伸びていき、螺旋状に絡み付き、宇宙空間へと昇る! その光は人の手のような形になり、落下する月を掴んだ!

 

 

 

ーウェルsideー

 

「どっ、こいしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

ウェルが吠えると月を掴んだ光が霧散し、『FRONTIER』に異常が起こった! なんと、『FRONTIER』が浮上を始めたのだ!

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・

 

 

ーナスターシャsideー

 

「加速する、ドクターの“欲望”・・・! 手遅れになる前に、私の信じた異端技術で阻止して見せる!」

 

以前から危険性を感じていたウェルの“欲望”が動き出したと感じたナスターシャはパネルを操作する。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

『FRONTIER』の異常が二課仮設本部の潜水艇がいる海中にも影響を及ぼし、船体を大きく揺さぶる!

 

「一体、何が・・・!」

 

「始まったんだ! ウェルの“悪意に満ちた欲望”が!」

 

悲鳴をあげてよろめく響と未来をレグルスとアスミタが支える。

 

「広範囲に渡って海底が隆起! 我々の直下からも迫ってます!」

 

藤尭です報告と同時に、本部の直下から海底の地面が迫り本部は海底地面の上に収まる。衝撃が本部を激しく揺らす。

 

『うわあああああああああああああっっ!!』

 

『FRONTIER』は徐々に高度を上げ、その全貌を露にした! まるで遺跡の形をした戦艦のようなその姿を!

 

 

 

ー米国艦艇ー

 

「作戦本部より入電です! 制圧せよ、と・・・・」

 

「あんなのとは聞いてないぞ!」

 

米国艦艇の軍人達も愕然と浮上した『FRONTIER』を見ていた。

 

 

ー『FRONTIER』・ブリッジー

 

モニターから米国艦隊からの砲撃が映し出された。

 

「楽しすぎて眼鏡がずり落ちてしまいそうだ・・・・!!」

 

危険なほどに恍惚の表情を浮かべたウェルは『FRONTIER』を操作する。

 

 

ー『FRONTIER』・下部ー

 

『FRONTIER』の下部にあるシャンデリアのような形をした遺跡が光り輝くと放電を起こし、周囲に波動を広げると、米国艦隊が宙に浮かんだ!浮かんだ艦隊は外から圧力をかけられたかのように圧縮して爆散した!

 

 

ー『FRONTIER』・ブリッジー

 

その光景をウェルは狂った笑みを浮かべて眼鏡を投げ捨て眺める。

 

「フン~♪ 制御できる重力はこれくらいが限度のようですね♪ ンハハハハハハハハハハ! フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「(果たしてこれが、人類を救済する力なのか・・・・?)」

 

「・・・・・・・・」

 

下劣な高笑いをあげるウェルをマリアは不安そうに、アルバフィカは汚物を見るような目で睨む。

 

「手に入れたぞ! 蹂躙する力! これで僕も、“英雄”になれる! あの“男”を越えた! この星のラストアクションヒーローだあああっ!!! ヒヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘッ!! やったああああああああああああああっっ!!!!」

 

歪みきった高笑いを上げながらウェルは仰々しくのけ反った。

 

 

 

ー米国艦隊残骸の海面ー

 

米国艦隊は『FRONTIER』からの攻撃で無残な姿を海面に映し、その光景をTV局の報道ヘリが録り世界中に放送していた。

 

「ご覧下さい! 大規模な地殻変動と発表された海域にて、軍事衝突です! 米国所属の艦艇が一瞬で・・・・」

 

ボゴッ!

 

「う、うわああああああああっっ!!」

 

攻撃は報道ヘリを襲いヘリは爆散した!

 

 

 

ー日本ー

 

その光景を映され、『緊急警報放送 テスト放送』と映されたビルの液晶テレビを騒然となる市民の中にいた安藤創世、寺島詩織、板場弓美が見ていた。

 

「テラジ<詩織>、こういう事件って・・・」

 

「まさか立花さんも・・・」

 

「関係してたりして・・・」

 

友人の安否を心配する三人。

 

 

ーレグルスsideー

 

偶然にも『FRONTIER』に上陸してしまった仮設本部のブリッジでレグルス達は現状確認していた。

 

「やれやれ、空飛ぶ帆船は見たことあるけど、凄い事になったなぁ・・・・」

 

「下から良いのを貰ったみたいだ・・・!」

 

「計測結果が出ました!」

 

「直下からの地殻上昇は、奴等が月にアンカーを打ち込んだことで・・・」

 

「『FRONTIER』を引き上げた!?」

 

「それだけでなく!」

 

友里と藤尭からの報告に緒川も驚くが、更に驚愕する事態が判明した。

 

 

ーマリアsideー

 

「行き掛けの駄賃に、月を引き寄せちゃいましたよ♪」

 

「月を!? 落下を早めたのか!?」

 

悪びれ無く言うウェルにマリアは意義を唱え、装置からどかす。

 

「っ! 救済の準備は何もできていない! これでは本当に、人類が絶命していまう!!」

 

装置を操作しようとするマリアだが、装置は停止状態になった。

 

「どうして・・・? どうして私の操作を受け付けないの!?」

 

下劣な笑みを浮かべたウェルはのたまう。

 

「ウェヘヘヘヘ、“LiNKER”が作用している限り、“制御権”は僕にあるのです! 人類は絶命なんてしませんよ。僕が“生きている限り”はね!」

 

「どういう意味だ・・・?」

 

「分かりませんかぁ? これが僕が提唱する。一番確実な人類救済方法です!」

 

「そんな事の為に! 私は悪を背負ってきたわけではない!」

 

ウェルに掴みかかろうとするマリアの顔ををウェルは叩く!

 

「たあぁっ!!」

 

「うっ!」

 

「マリア・・・!」

 

倒れるマリアにアルバフィカが駆け寄る。そんな二人をウェルは下劣に見下す。

 

「ここで僕に手を駆けても、地球の余命が後僅かなのに変わらない事実なのだろう? ダメな女だなぁ!!」

 

「う、うぅ・・・」

 

「フィーネを気取ってた頃を思い出して、そこで恥ずかしさに(グサッ)はぇ・・・・?」

 

 

 

 

ウェルが下劣に吠えようとすると“視覚の半分が暗転”した。ウェルの目に“何か”を投げたようなポーズのアルバフィカが映り顔に触れると。

 

「ウギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっ!!!!!」

 

ウェルの片目に“黒い薔薇”が突き刺さり片目から血と涙が混ざった血涙が床に滴り落ちる。

 

「いぃ、痛いっ!!! 痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛っっったああああああああああああああいいいいっ!!!」

 

「これ以上何かほざくなら・・・もう片方も潰すぞ、ウェルっ!!!!」

 

「ひぎっ! ひぎぃぃっ!! ひぎひぃぃいいいいいいいぃぃぃいいいいいいいいいっ!!!!」

 

ウェルは本気で放たれたアルバフィカの“殺気”から逃げるように制御室から惨めに去っていく。

 

「うぅ、セレナ・・・セレナァ・・・私は・・・!」

 

嗚咽を漏らしながら咽び泣くマリアをアルバフィカは静かに見つめた。

 

 

ー翼sideー

 

翼とエルシド、デジェルはライダースーツを着て出撃準備を開始する。

 

「行けるか、皆・・・?」

 

「無論です・・・!」

 

「レグルス。マニゴルドが妙な行動をしないように見張っておいてくれ」

 

「アスミタ、お前もここで待機しておけ・・・」

 

「OK♪」

 

「フン・・・・」

 

ブリッジから出ようとする翼達に響が声をかける。

 

「翼さん・・・・」

 

「案ずるな、私とエルシドのコンビとデジェルの頭脳があれば臆することはない」

 

そう言って、翼達はブリッジを出たが、響の顔には不安の色があった。

 

本部のハッチが開き、バイクに乗った三人が飛び出す!そして翼は歌う『戦いの歌』を、エルシドとデジェルは呼ぶ『星座の鎧』をーーーーーーーーーーー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「山羊座<カプリコーン>っ!!」

 

「水瓶座<アクエリアス>っ!!」

 

バイクに乗った翼のスーツとヘルメットが弾け、その身に纏うは『絶剣 天羽々斬』!

 

エルシドの身体を包むは、山羊の角のようなヘッドギアを被り、重厚な黄金の鎧、山羊座の黄金聖衣!

 

デジェルの身体を包むは、腕に瓶のようなパーツを装備し、エルシドと形の違う黄金の鎧、水瓶座の黄金聖衣!

 

バイクに乗り『FRONTIER』の大地を駆ける三人の前にノイズの団体が迫る!

 

翼の足のパーツが変形し、バイクの前輪に巨大な刃を作り、ノイズに向かってアクセルを吹かせ突進しノイズを凪ぎ払う『騎刃ノ一閃』を放つ!

 

エルシドが手刀を構え、巧みにバイクを操り、迫り来るノイズを『乱斬』で切り伏せる!

 

デジェルは凍技を振るい、ノイズ達を『グランカリツォー』で凍てつかせ砕いて行く!

 

 

ー二課・ブリッジー

 

「流石の三人ですね!」

 

「聖闘士達はともかく、シンフォギア奏者は翼さんただ一人・・・・」

 

「いえ、シンフォギア奏者は“一人”じゃありません!」

 

不安を感じる緒川に響が言うが弦十郎は戦場に行くつもりの響に釘を刺す。

 

「ギアの無い響君を戦わせる訳には行かないからな・・・!」

 

「いえ! 戦うのは“私”じゃありません!」

 

「響・・・・?」

 

「此方も、聖闘士を増やすか・・・・」

 

「動くかなぁ? アイツ・・・・」

 

 

ー数分後ー

 

少しして、緒川とレグルスは月読調と蟹座<キャンサー>のマニゴルドを連れてきた。緒川は調の手枷を外す。

 

「オイコラ! 調は外して俺は無視か!」

 

「何言ってんの。マニゴルドならそんな手枷簡単に外せるだろ?」

 

「・・・・・・へっ! まぁ、なっ!!」

 

ガシャン!

 

マニゴルドが力を込めると重厚な手枷は飴細工のように粉々に砕けた。マニゴルドの自由を確認した調は冷淡に響に聞く。

 

「捕虜に出撃要請って、どこまで本気なの?」

 

「勿論全部!」

 

「・・・貴女のそう言う所、好きじゃない。聖闘士達のように自分の正しさを貫く意志が無く、ただ正しさを振りかざすだけの偽善者の貴女が・・・!」

 

調の言葉に響は自嘲気味に答える。

 

「私、正しいだなんて思ってないよ・・・以前、大きな怪我をした時、家族が喜んでくれると思ってリハビリを頑張ったんだけどね・・・アタシが家に帰ってからお母さんもおばあちゃんもずっと暗い顔ばかりしていた・・・」

 

世間からの理不尽な中傷と人の悪意、それらが響と家族の心と日常を壊していった。

 

「それでも私は、自分の気持ちだけは偽りたくない。偽ってしまったら、誰とも手を繋げなくなる・・・」

 

「手を繋ぐ・・・! そんな事本気で?」

 

「だから調ちゃんにも、やりたい事をやり遂げて欲しい!」

 

響は調の手を取る。

 

「あっ・・・」

 

「もしもそれが私達と同じ目的なら! 少しだけ力を貸して欲しいんだ・・・!」

 

「私の・・・やりたい事・・・!」

 

「やりたい事は、暴走する仲間達を止め、蠍座<スコーピオン>の命を救う事、でしたよね・・・」

 

「(カルディア・・・!)」

 

調は手を軽く払って響に背を向ける。

 

「カルディアを、皆を助ける為なら、手伝っても良い・・・!」

 

「「あぁっ・・・!」」

 

響と未来に笑みが浮かぶ。

 

「だけど信じるの? 敵だったのよ・・・」

 

「敵とか味方とか言う前に、子供のやりたい事を支えてやれない大人なんて、カッコ悪くて叶わないんだよ!」

 

「しぃしょうおおおおぉぉ~!」

 

弦十郎は調にシュルシャガナのシンフォギアペンダントを渡す。

 

「コイツは可能性だ・・・」

 

「・・・相変わらずなのね・・・」

 

「甘いのは分かっている。アスミタにも散々ぱら言われたが、これが性分だ・・・!」

 

「マニゴルドも一緒に・・・」

 

「あのな調、盛り上がっているところわりぃけどよ、俺は行かねぇぞ」

 

『えええぇぇぇっ!?』

 

もう完全に協力して行こうと言う雰囲気だったが、マニゴルドの拒みの一言にブリッジにいた全員(レグルスとアスミタ除く)が唖然となった。

 

「ど、どうしてですかマニゴルドさん!?」

 

「あのな、お前ら俺に“ただ働きしろ”って言うのか?」

 

戸惑う響にマニゴルドは面倒くさそうに小指で耳をほじりながら言った。

 

「“ただ働き”って、仲間の皆が大変なのに何言ってんですか!?」

 

「俺の好きな言葉は『ギブ&テイク』。こっちに何かして欲しいってンなら、こっちにも何か“対価”を支払って貰わねぇとな♪」

 

「ハァ、また悪いのが出た・・・」

 

頭を抑えながらも、マニゴルドの態度に慣れている調と、こういうヤツである事を知っているレグルスとアスミタは兎も角、響達はマニゴルドの態度に少なからずの嫌悪感を抱く。

 

「何ですかソレ・・・マニゴルドさんはそれでも黄金聖闘士なんですか!?」

 

「黄金聖闘士だからって、慈善家のようにただ働きで働く訳ねぇだろ? 俺をレグルス達みたいな、ただ働きを喜ぶドM集団と一緒にされたかねぇな・・・!」

 

悪びれ無しで言うマニゴルドに響は掴みかかりそうになるが、弦十郎が押さえた。

 

「『ギブ&テイク』が好きだと言うなら、お前は俺達に何を望む・・・!」

 

フッと悪い笑みを浮かべたマニゴルドは指を三本立てる。

 

「三つ、俺の要求を聞き入れるなら、働いてやっても良い」

 

「三つの要求?」

 

「まず一つ、“ドクターウェルを除いた俺達FISのメンバーの身の安全と行動の自由”」

 

「ウェル博士を除いたメンバーの安全と自由?」

 

「この騒動が無事に終わったとしても、米国政府は俺らを生かしておかねえよ、秘匿にしていた聖遺物の研究データを盗み、月の落下を暴露しちまったんだ。それこそ高慢で野蛮な米国は俺らに責任転嫁しまくって謀殺しようとしてくる。ソレから俺らの身の安全と自由を約束しな・・・!」

 

「(成る程、彼女<調>と違って、この男は政治と言うモノを良くも悪くも理解している)良いだろう。他には?」

 

弦十郎の問いに、マニゴルドは調の頭に手を置く。

 

「二つ目、コイツを・・・嫌、調と切歌を学校に通わせて欲しい」

 

『っ!?』

 

「マニゴルド・・・?」

 

「調と切歌、そしてマリアは、フィーネ<櫻井了子>が自分の“魂の器”の予備として米国政府に用意させた“レセプターチルドレン”だ・・・!」

 

「何だって!?」

 

「えっ? つまりどういう事?」

 

「“フィーネの刻印”が宿った子供達の観測対象の総称だ。フィーネは米国に、今生の自分が消えた時の“保険”をかけていたと言う事か・・・」

 

アスミタの言葉にマニゴルドは頷く。

 

「何しろこのご時世だ、“戦争孤児”から“災害孤児”、“ストリートチルドレン”なんて世界中探せば嫌と言うほどいやがる。そのガキ共が“レセプターチルドレン”としてかき集められたんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

マニゴルドの言葉からソレがどれ程辛かったのか、俯いた調の顔から全員が理解した。

 

「調と切歌を普通の学校に通わせて、普通のガキの生活を約束しろ。それと、マリアがアーティスト活動を再開する気になったら全面的にバックアップする事と、他のメンバーの生活の保証も条件の内だ・・・」

 

「・・・・・分かった、なるべく「なるべくではダメだ、確実に約束しろ!」 容赦無いな・・・了解した、二人の生活とマリアと他のメンバーの生活の保証を約束する」

 

ピッ

 

弦十郎の言葉を聞き終わると、機械のスイッチ音が聞こえると、マニゴルドは懐から小型ボイスレコーダーを取りだし、リピート再生する。

 

「おし言質は取った、これで条件2つは大丈夫だな♪」

 

「わざわざボイスレコーダーを使って言質まで録るとは・・・」

 

「お前、俺達の事を信用してないな・・・」

 

用意周到なマニゴルドに緒川と弦十郎がなんとも言えない顔になる。

 

「生憎と俺は、善意優先で人を信じるほど、心清らかな人間じゃないンでね♪ 性善説なんざ、頭ン中がお花畑な人間が唱える妄想に過ぎねぇよ♪」

 

「マニゴルドならこれくらいやる・・・」

 

「調ちゃんはマニゴルドさんの言ってる事が正しいと思うの?」

 

「・・・状況にもよるけど、まぁマニゴルドのこの“抜け目無さ”が助けになってくれてるのは事実だし」

 

以外と割りきりが出来てる調に響達もなんとも言えない顔をした。

 

「そんじゃ最後の三つ目の要求だ」

 

「そう言えばまだあったけ?」

 

「最後の“要求”は、“ーーーーーーーーーーー”」

 

『っ!!』

 

マニゴルドの最後の“要求”に響も未来も弦十郎達も息を呑む! それはある意味、二課の“大義名分”を否定するモノだったからだ・・・・・。

 

 

 

 

ー二課・ブリッジー

 

マニゴルドとの交渉も“一応”解決し、ハッチまで案内すると言って響とレグルスが調とマニゴルドをハッチまで案内していった。

 

「司令、よろしいのですか? 蟹座<キャンサー>の要求を“一応”ですが、呑んでしまって・・・・」

 

「ああでも言わなければ、ヤツは調君と自分だけで行動を起こしていただろう。場合よっちゃ、この場所でレグルス君と殺り合うつもりだった」

 

「ですが、こっちにはアスミタさんもいることですし・・・・・・」

 

「と、ウチのオペレーターは言ってるが?」

 

「私はお前達の同志になったつもりは無い、ここでレグルスとマニゴルドが戦おうが、私にとってはどうでもいいことだ・・・」

 

「アスミタさん・・・・」

 

全く協力する気無しのアスミタの言葉に未来や二課の面々はため息混じりに肩を落とすと、モニターに『非常Σ式 禁月輪』を展開してハッチから飛び出る調と調の後ろで調の肩を掴んでいるマニゴルドと、“獅子座の黄金聖衣を纏うレグルスとレグルスに背負われる響”が映った。

 

「あっ、響にレグルス君!」

 

「何をやっている!? 響君を戦わせる気は無いと言ったはずだ!!」

 

 

 

ー響sideー

 

レグルスに背負われた響は通信機から聴こえる弦十郎からの通信を勿論聞いていた。

 

「戦いに行くんじゃありません! “人助け”です!」

 

《減らず口の上手い映画など、見せた覚えはないぞ! レグルス君! 響君を連れ戻せ!!》

 

「ゴメンお断り」

 

《レグルス君!!》

 

「弦十郎、この際はっきり言うけどさ・・・」

 

《何だ!?》

 

コホンと一度咳払いをしたレグルスは息を大きく吸って。

 

「俺は“日本政府の木っ端役人”になったつもりも! “二課の犬”になったつもりも無い! 俺は“弦十郎の部下”でも無ければ“弟子”でも無いんだ!! 弦十郎の命令を聞く“義務”だって無いだろうがッ!! 以上ッッ!!!」

 

《なっ・・・・!!》

 

「ヒュゥ~~~♪」

 

レグルスの言葉に弦十郎は僅かに絶句し、マニゴルドは感嘆したように口笛を鳴らす。

 

 

ー未来sideー

 

「しかしだな・・・・!」

 

「行かせてあげてください!」

 

「未来君・・・・」

 

「“人助け”は一番、響らしい事ですから!」

 

「レグルスもそれを理解しているから連れていったのだ」

 

未来とアスミタの援護に弦十郎も仕方ないと言わんばかりに笑みを浮かべ。

 

「フゥ、こういう無茶無謀は、本来俺の役目だった筈なんだがな・・・」

 

「弦十郎さんの・・・?」

 

「帰ったら二人揃ってお灸ですか?」

 

「特大のをくれてやる! だから俺達は!」

 

弦十郎の言葉を藤尭と友里が繋ぐ。

 

「バックアップは任せてください!」

 

「私達のやれる事でサポートします!」

 

「子供ばかりに良い格好させてたまるかい・・・!」

 

指を鳴らしながら弦十郎は不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「ダァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 立花響! お前中々クレイジーでおもしれぇじゃねぇか、気に入ったぜ!! レグルス、お前も見直したぜ! こっちで再会した時から、お前もエルシドもデジェルも、“政府の犬”である特務二課に振られる“シッポ”に成り下がったと思ってたからな!!」

 

「そんな風に思ってたのか?」

 

「レグルス君、あんな風に言って大丈夫なの?」

 

「まぁ大丈夫でしょ♪ それよりも響、一気に敵陣に殴り込むよ!」

 

「うん!」

 

「響は俺が守る! だから響も俺を信じてしっかり捕まっててくれよ!!」

 

「勿論! レグルス君、行っけーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「応さっ!!」

 

更にスピードを上げるレグルス。

 

「オイ調、置いていかれるぞ、スピード上げろや」

 

「マニゴルドが振り落とされるよ?」

 

「確かにな、せめて調に切歌くらいの凸があればな・・・」

 

「(ブチッ!###)スピードを上げる・・・!」

 

ギュインっ!とスピードを上げる調は更にジグザグ走行する。

 

「オイ運転手さん! ちょっと運転が荒っぽくねぇか!?」

 

「いいえ別に~~!」

 

振り落とされ無いように踏ん張るマニゴルドと更にスピード上げてジグザグ走行する調は、これから仲間達と戦う筈なのにギャーギャー騒がしくも、“いつものペース”に戻りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マニゴルドならこれくらいやるかな? と思って表現しました。


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命かけて挑むバトル

ー翼sideー

 

エルシドやデジェルとそれぞれに別ルートから攻めようと三手に別れ、一人になった翼はノイズと交戦しながら進んでいたが、バイクを停め、本部からの通信で響とレグルス、調とマニゴルドの事を聞いていた。

 

「立花とレグルスがあの奏者<調>と蟹座<キャンサー>と一緒に、ですか?」

 

少し驚くが直ぐにフッと微笑む。

 

「(想像の斜め上過ぎる・・・)了解です、直ちに合流します。エルシドとデジェルは別ルートから侵入を試みるそうです・・・はい、はい、立花達と合流しだい、エルシド達と連絡し合流します」

 

通信を切った翼はそびえ立つ巨大遺跡を見ると。“紫色の矢”が大量に襲い掛かる!

 

「はっ!」

 

いち早く気づいた翼はバク転しながら回避すると、攻撃してきた人物を睨む。

 

「どうやら誘い出されたようだな・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

「デジェルと分断したのだから、そろそろだと思っていたぞ、雪音!」

 

翼の睨む先には、イチイバルを纏った雪音クリスが無表情で佇んでいた。

 

 

ー調sideー

 

遺跡に向かう調とマニゴルド、レグルスに背負われた響が調に話しかける。

 

「あそこに皆が?」

 

「わからない・・・だけど、そんな気がする・・・」

 

「気がするって・・・」

 

「ごちゃごちゃ考えてもしゃあねぇだろ? こう言う場所ではな、古くて偉そうな所に人が集まるモンなんだよ・・・!」

 

「俺達聖闘士の総本山聖域<サンクチュアリ>も一番重要な所はそうだったからなぁ・・・」

 

「そう言うモン?」

 

「「そう言うモン」」

 

何て駄弁りながら進む一同だが、不意に調が急停止し、レグルスも土煙をあげながら止まる。

 

「ど、どうしたの?」

 

戸惑う響は三人が見据える場所を見ると、石造りの塔の上に立つ、暁切歌がいた。

 

「切歌ちゃん!」

 

切歌は祈るように手を組むと歌を歌う、『戦いの歌』をーーーーーーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

切歌の服が弾け飛び、その身を黒と緑のギアが包み、頭に魔女の帽子のようなギアが展開され、帽子に×のマークが付く、『シュメール神話の戦女神ザババ』が調の纏うシュルシャガナと共に振るった刃、『イガリマ』。

 

「デェスっ!」

 

気合いを入れた切歌は響達と言うより調とマニゴルドを見据える。

 

「切ちゃん・・・!」

 

「まだ分かんねぇのかお前は・・・?」

 

「調、マニゴルド、どうしてもデスか!?」

 

切歌は緑の刃の大鎌を構える。

 

「ドクターのやり方では、何も残らない!」

 

「野郎は人類救済なんざ、欠片も考えちゃいねぇ! 自分の事しか考えてない野郎だぞ!」

 

「ドクターのやり方で無いと何も残せないデス! 間に合わないデス!」

 

「三人共、落ち着いて話し合おうよ!」

 

「「戦場で何をバカな事を!!!」」

 

「おぉ、ハモった」

 

「バーカ、話し合いで何でもかんでも解決すんなら、この世に戦争も謀殺も暗殺もねぇんだよ」

 

響の言葉に調と切歌は声をハモらせ、マニゴルドは否定する。

 

「貴女は先に行って、貴女ならきっとマリアを止められる。手を繋いでくれる・・・!」

 

「調ちゃん・・・」

 

「私とギアを繋ぐLiNKERにとって鍵がある、だから行って、胸の歌を信じなさい・・・」

 

「でも・・・」

 

「ごちゃごちゃ言ってンじゃねぇで行けや、コイツら二人の面倒は元々俺の仕事だからな、お前らはお前らのやるべき事をやれ・・・!」

 

「「・・・うん!/応ッ!」」

 

レグルスは再び響を背負って、遺跡に向かった。

 

「させるもんかデス・・・あっ!」

 

響達を追撃しようとする切歌を調の丸鋸が襲うが切歌は大鎌を回して防ぐ。

 

「調! 何でアイツを!? アイツは調が嫌った“偽善者”じゃないデスか?!」

 

『γ式 卍火車』を構える調は切歌に応える。

 

「でもアイツは、“自分を偽って”動いてるんじゃない! 動きたい時に動くアイツが、眩しく羨ましくて、少しだけ信じてみたい!」

 

「マニゴルドも、アイツを信じるデスか?」

 

「“偽善”も“芯”を持って貫き通せば“正義”になる。アイツにそれができるのか、見定めるのも一興だからな」

 

「さいデスか・・・でも、アタシだって引き下がれないデス・・・! アタシがアタシでいられる内に、何かの形を残したいンデス!」

 

「切ちゃんでいられる内に・・・?」

 

「・・・・・・・・」

 

調は何の事か分からなかったが、マニゴルドは事情を知るゆえに黙った。

 

「マニゴルドや調やカルディア、アルバフィカやマリアやマムが暮らす世界を、アタシがここに居たって言う“証”を、残したいンデス!」

 

「それが“理由”・・・?」

 

「これが“理由”デス!」

 

調の足にローラーで展開され、切歌の大鎌が三枚刃になる。

 

「フンっ!」

 

飛び上がった切歌は調に『切・呪リeッTぉ』を放つ!

 

「ハァッ!」

 

調も『γ式 卍火車』で迎撃した!

 

緑の刃と桃の丸鋸が空中でぶつかる!

 

「(さ~て、どうしたものか・・・)」

 

「(マニゴルド・・・)」

 

「(アスミタか?)」

 

二人の戦いを見守っていたマニゴルドにアスミタからのテレパシーが聞こえた。

 

「(あの少女<切歌>は、自身が“フィーネの器”となったと思っているのか?)」

 

「(まぁな・・・)」

 

「(フム・・・マニゴルドよ・・・)」

 

「(何も言うない、もしも切歌が“器”になったのなら、そのときは・・・!)」

 

マニゴルドは指先に小宇宙<コスモ>を集めた。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「むっ!」

 

デジェルはバイクを停めて気配を探ると、クリスと翼、調と切歌の気配がぶつかるのを探知した。

 

「クリス・・・・・居るのだろう? 姿を現せ、カルディア!!」

 

呼ぶのと同時にデジェルは拳圧を遺跡に放つと、当たった遺跡の箇所が凍てつき、そこから蠍座<スコーピオン>の黄金聖衣を纏ったカルディアが獰猛な笑みを浮かべながら現れた。

 

「嬉しいぜデジェル、調に伝えた伝言で俺の意図を理解してくれてよ・・・!!」

 

「お前の拙い浅知恵を察せないと思ったか? わざわざ一人になる状況を作ってやったのだ。感謝してほしい所だな・・・!」

 

「あぁ、感謝してるぜぇ! 俺が調に、『俺の“心臓の熱”を鎮静できるのはデジェルだけだ』と伝え、俺の相手をするのはお前になるように、こんな回りくどいマッチポンプしたのは、俺の命を救って貰う為じゃねぇ・・・!」

 

「お前の目的は、“私と戦う事”!」

 

「その通り! 俺もお前も! あの海底都市で死んだ者同士! 仲良く殺し合おうぜっ!!」

 

カルディアが紅く伸びた爪から放たれる衝撃波をデジェルに向かって放つが、デジェルは苦もなく避ける。

 

「殺り合う前に一つ確認したい事がある・・・」

 

「あん?」

 

「マニゴルドの蟹座<キャンサー>聖衣は何処だ?」

 

「ンなのエアキャリアに置きっぱなし、だっ!」

 

「そう、かっ!」

 

カルディアとデジェルの拳圧が空中でぶつかり、衝撃波が辺りに拡がる!

 

「(ピッ!)エルシド。こちらデジェル、蟹座<キャンサー>聖衣はエアキャリアにあるようだ・・・」

 

《分かった。こっちで回収する。丁度見えてきた・・・》

 

「ンだよ、蟹座<キャンサー>の聖衣の回収が目的かよ・・・?」

 

「同然だ、アレは我等聖闘士にとって大切な鎧、ソレをあのような“下衆”の近くにいつまでも置いておけるか・・・!」

 

「それはそうだが、連れねぇな。折角お前の大事なイチイバルを抱き込んだって言うのによ・・・!」

 

「お前に抱き込まれるまでもなく、クリスはお前達の所に行っていた・・・」

 

「そうかよ、エルシドも聴こえてるか? 今イチイバルと天羽々斬が殺り合ってるぜ?」

 

「と言ってるが・・・?」

 

《分かっている。だが、如何に相手が雪音であろうと、翼は遅れをとるヤツではない・・・》

 

「私としても、クリスの独断には少々腹に据えているからな・・・」

 

《もしも負けたら・・・》

 

「この事件が終わったら・・・」

 

《一から徹底的に鍛え直す!》「たっぷりとお説教だ・・・!」

 

「良いねぇ・・・♪」

 

そして再びカルディアとデジェルはぶつかる!

 

 

 

ークリスsideー

 

「「(ゾクッッ!!!!!)」」

 

交戦していたクリスと翼の全身に悪寒が走る!

 

「(な、なんだよ、この悪寒は・・・!?)」

 

「(この悪寒、何やら覚えがあるぞ・・・!?)」

 

先程まで交戦していたクリスと翼は距離を開けると、言い様のない強烈な悪寒に身体を奮わせるが、直ぐに気持ちを切り替えて戦闘を続行する。

接近戦で攻め立てる翼、迫る刃を拳銃で止め、もう片方の手にある拳銃で攻めるクリス。剣で攻撃する翼の一撃一撃をギリギリで交わしながら弾丸を放つクリス、弾丸を防ぎ、かわしながら刃を振る翼。一進一退の攻防が続いた。

 

 

 

ー切歌sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

切歌が歌でフォニックゲインを高めながら、背中のブースターに火を吹かせ、調に攻めると、調はツインテールの装備を2つずつに分割するように展開し、四つの大型丸鋸を生成する!

 

『裏γ式 滅多卍切』

 

大型丸鋸で空中から向かってくる切歌を迎撃する!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

今度は調が歌いながら大型丸鋸で切歌に攻めると、切歌はもう一丁の大鎌を取り出す!

 

「この胸に!」

 

「ぶつかる理由が!」

 

「「あるならああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」」

 

マニゴルドは本気でぶつかる二人の様子をただ見守っていた。

 

「(もしも切歌の魂が、本当にフィーネに塗り潰されるのなら、俺の取るべき方法は・・・!)」

 

 

ークリスsideー

 

クリスは2丁拳銃のマガジンをクロスさせて翼の一撃を受け止めると、押し出し後方に宙返りする。マガジンから弾倉を取り出すとイチイバルの腰パーツから新しい弾倉を装填させる!

 

「ハアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

翼は滑空しながらクリスに接近するが、クリスは弾幕を張って近づかせない!捻り込みでクリスの頭上から攻撃しようとする翼から逃れるクリス!

 

「ウオオオオオッッ!!」

 

「くっ・・・!」

 

クリスの弾丸から逃れるようにバク転した翼は、水が保った窪みに入った!

 

「フッ!」

 

「フンっ!」

 

剣を構える翼と、銃を向けるクリスは再び睨み合う!

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな二人を遠くから眺めている者がいた。

 

「フフフフ、ウェッへへへへへヘヘヘヘヘヘへへへへへへへへへへッッ!!」

 

“ソロモンの杖”を持ち、“小さな黒い玉”をぶら下げ、アルバフィカに潰された片目を“ネフィリムの細胞”の自己修復能力を使って、ぐちゅぐちゅと音を立てながら再生させているウェルは、ぶつかり合う翼とクリスを見世物のように眺めながら、下卑た笑みを浮かべて嘲笑していた。

 

 

ーデジェルsideー

 

デジェルとカルディア、黄金聖闘士同士の対決はまさに光の速さ、光速のバトルは正に目にも止まらぬ処か、目にも映らない戦いであった!

 

「フッハァ!」

 

「ハァッ!」

 

ドドドドドドドドドドドっ!

 

カルディアとデジェルはお互いの掌を握り合い、力押し状態になると同時に、二人の周辺の大地が音を立てて砕け、土煙が舞う!

 

「「ッ!!」」

 

二人は力押し状態から距離を開けて睨み合う。

 

「フゥ~~~!!」

 

カルディアはうつ伏せになるように上体を寝かせ、片足で身体を支えながら、もう片方の脚を上げて背中の上にまで曲げる、身体にかなりの柔軟性とバランス性がなければ出来ないその姿はまるで、“蠍”のような構え!

 

「ハアァ~~!!」

 

デジェルも身体を鳥が羽ばたくように舞いながら、ゆっくりと拳を構え、カルディアを見据える!

 

「「・・・・・・・・」」

 

二人の黄金聖闘士は、お互いに睨み合いながら殺気をぶつけ合い、脳内戦闘で鍔迫り合いを繰り広げる!

 

 

 

ーマリアsideー

 

起き上がったマリアはアルバフィカと共に、水晶に映る翼とクリス、デジェルとカルディア、調と切歌の姿を見て戸惑う。

 

「どうして・・・仲の良かった調と切歌までもが・・・私のせいだわ・・・!」

 

仲良しだった二人の戦いを見て、マリアは膝を付き手を付く。

 

「こんなモノを見たいが為では無かったのに・・・!」

 

ウェルの口車を信じて結果、調と切歌が戦う事になってしまった現実にマリアは打ちひしがれる。

 

《マリア・・・!》

 

「はっ! マム?!」

 

《今、其処にいるのは貴女とアルバフィカだけですね? 『FRONTIER』の情報を解析して、月の落下を止められる手立てを見つけました・・・!》

 

「えっ!?」

 

《最後に残された“希望”・・・! ソレには、貴女の歌が必要です!》

 

「私の、歌・・・?」

 

「・・・・・」

 

戸惑うマリアの後ろ姿をアルバフィカはただ見つめていた。

 

 

 

ー翼sideー

 

上昇を続ける『FRONTIER』の上で、翼とクリスが交戦を続ける。

 

「ハッ!!」

 

刀を大剣に変形させ、『蒼ノ一閃』を放つ翼。

 

「あっ!」

 

「ツアアアアアアアアアっ!!」

 

しかし、上を見ると2丁拳銃で弾幕を張るクリス。

 

「っ! 何故弓を引く雪音!?」

 

「・・・・・」

 

「その沈黙を私は“答え”と受け取らなくてはならないのか!?」

 

「・・・・・っ!」

 

クリスは翼に向かって走る、翼は剣を振り下ろすが、クリスは飛び上がって回避し、弾丸を放つ!

 

「ハアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

着地したクリスに刀を振り下ろす翼、クリスは片手の拳銃でそれを防ぎ、鍔迫り合いをする。

 

「何を求めて手を伸ばしている!」

 

「くっ・・・・・!」

 

クリスは翼を払い、弾丸を放つが、翼はこれを回避し接近戦を繰り広げる! 元々クリスのイチイバルが得意な戦術は中距離射撃、それを行わせないようにした戦法である。

 

「アタシの“十字架”を! 他のヤツに! ましてや兄ぃに背負わせる訳にはいかねぇだろ!!」

 

「何・・・はっ・・・!」

 

この時、翼はクリスの首に巻かれている“黒い首輪”が目に入る。

 

「うわっ!」

 

ソレに気を取られ、クリスの弾丸を防ぐも押し飛ばされる!

 

 

ーデジェルsideー

 

睨み合いを続けていたデジェルはカルディアに話し掛ける。

 

「良いのかカルディア? あの少女は、月読調は私がお前を助けてくれると思っているのだぞ・・・!」

 

「知ったこっちゃねぇな、アイツがどう思おうが、ここが何処だろうが、んなことは些末な事だ。俺は俺の心のまま、この爪が赴くまま、俺の命を燃やすだけだ!」

 

「月読調が悲しんでもか・・・?」

 

「言ったろうが、知ったこっちゃねぇってよ!!」

 

再び交戦を開始し、二人の拳が、脚が、肘が、膝が、一瞬の内に何百回もぶつかり、衝撃波が起こり、土煙が舞う!

 

《デジェル、良いか?》

 

「エルシドか?! 今は! 少し! 手が! 離せん! のだがっ!」

 

《手短に言う。今マニゴルドの元に向かっているが、暁切歌と月読調が交戦している》

 

そう言って、エルシドは通信を切った。しかし、デジェルはエルシドの謂わんとした事を察した。

 

「(なるほど、そう言う事か!) 付いて来い! カルディア!!」

 

「おいおいおいおいおいおい! 逃がすかよ!!」

 

デジェルとカルディアは交戦しながら移動を開始した。

 

 

 

ー調sideー

 

「切ちゃんが切ちゃんでいられる内にって、どういう事・・・?」

 

「アタシの中に“フィーネの魂”が、覚醒しそうなんデス・・・!」

 

「っ!」

 

「・・・・・」

 

切歌の言葉に調は驚くが、知っていたマニゴルドは目を鋭くする。

 

「施設に集められた“レセプターチルドレン”だもの、こうなる可能性はあったデス・・・!」

 

「だとしたら、尚更私は切ちゃんを止めて見せる・・・!」

 

「えっ!?」

 

「これ以上、切ちゃんの魂が塗り潰されないように、大好きな切ちゃんを守る為に・・・!」

 

鋸を構える調を見て切歌も大鎌を構え直す!

 

「大好きとか言うな! アタシの方がずっと調の事が大好きデス!」

 

泣きそうになる切歌は慟哭する。

 

「だから! 大好きな人達がいる世界を守るんデス!」

 

「切ちゃん・・・!」

 

調は鋸をプロペラのような形に変えて空に飛ぶ!

 

『緊急Φ式 双月カルマ』

 

「調・・・!」

 

切歌は肩のパーツを刃を付けたマジックアームにして構える!

 

『封伐・PィNo奇ぉ』

 

「「大好きだってええええええええ、言ってるでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」」

 

空中に飛んだ二人はぶつかる!

 

 

そして、二人の戦いを見守るマニゴルドの後ろに1台のバイクが現れた。

 

「エルシドか・・・?」

 

「届け物だ・・・」

 

エルシドはマニゴルドにエアキャリアから回収したモノを投げ渡す。

 

「・・・良いのか? 二課の連中がうるせぇんじゃねぇのか?」

 

「月の落下が早まった事態だ。なりふり構っていられん・・・!」

 

「大事の前の小事ってか・・・?」

 

「そう言う事だ。それよりもあの娘達は良いのか?」

 

「まぁ、いざとなったら・・・」

 

ゴキッ! ゴキッ! ゴキッ!

 

拳を握るようにして拳の関節を鳴らすマニゴルドを見てエルシドはバイクのエンジンを吹かす。

 

「一応言っておくが、カルディアとデジェルが交戦を始めた・・・」

 

「そうかよ・・・!」

 

短い返事を聞いたエルシドはバイクを走らせ去っていった。

 

「(さ~てと、そろそろ終わらせないとだな・・・!)」

 

マニゴルドはエルシドが届けてくれたモノ、“蟹座<キャンサー>のクロスレリーフ”を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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双刃、絶唱発動

ー二課本部・格納庫ー

 

風鳴弦十郎と緒川慎司はジープに乗り込み、出撃しようとする。

 

「世話の焼ける弟子と聖闘士のお陰でこれだ・・・」

 

「きっかけを作ってくれたと、素直に喜んでは?」

 

「フン・・・」

 

ぼやく弦十郎を緒川が茶化す。すると、藤尭からの通信が入る。

 

《司令!》

 

「何だ?」

 

《出撃の前に、これをご覧下さい!》

 

緒川が持っていたタブレットにマリア・カデンツァヴナ・イヴが映っていた。画面に映るマリアは口を開く。

 

《私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるため、フィーネの名を語った者だ・・・》

 

マリアが話を続けるのを見ながら弦十郎は友里からの報告を聞く。

 

《『FRONTIER』から発信されている映像情報です。世界の各地に中継されています》

 

「この期にFISは、何を狙って・・・?」

 

「・・・・・」

 

既にFISはドクターウェルが指揮を取っていることをマニゴルドから聞いていた弦十郎と緒川はマリアを不審そうに見つめる。

 

《事態の真相は、財界、政界の一角を占領する。彼等特権階級にとって、極めて不都合であり、不利益を・・・・・》

 

そのマリアの映像は世界中に、勿論日本にいる弓美達も見ていた。

 

 

 

ー数分前・ナスターシャsideー

 

《月を、私の歌で・・・!》

 

「(コクン) 月は地球人類より相互理解を剥奪する為、カストディアンが設置し、ギリシャ神話の『月の女神アルテミス』が管理していた監視装置。『ルナアタック』で一部不全となった月軌道を再起動できれは、公転軌道上に修正可能です、うぅっ! ゲホッ!」

 

説明の途中でナスターシャ教授が血を吐き出す!

 

《マム? マムッ!!》

 

「ハア、ハア、貴女の歌で・・・世界を救いなさい・・・!」

 

吐血した口元を抑え息も絶え絶えのナスターシャ教授はマリアに言う。

 

 

ー現在・マリアsideー

 

「全てを偽ってきた私の言葉が、どれ程届くか自信は無い。だが、歌が力になると言うこの事実だけは、信じてほしい!」

 

マリアは一端言葉を止めて、歌を歌う、“戦いの歌”をーーーーーーーーーー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

その姿を世界が見た!

 

マリアの着ていた服が弾け飛び、黒のインナーが全身を包み、その上に鎧が装着された!

 

「はっ!」

 

響と同じとギアだがオレンジ色の響と違い、漆黒のカラーリングに漆黒のマントを靡かせた、北欧神話の撃槍ガングニール!

 

マリアは世界の人々に呼び掛ける。

 

「私一人の力では、落下する月を受け止めきれない! だから貸して欲しい! 皆の歌を届けて欲しい!!」

 

そしてマリアは歌う!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

マリアは歌いながら想いを馳せる。

 

「(セレナが助けてくれた私の命で、誰かの命を救って見せる! ソレだけが、セレナの死に報いられる!!)」

 

マリアの纏うガングニールが紅く発光する。

 

「(マリア・・・セレナは、お前の命が担保になることを望んではいないのだぞ!)」

 

マリアの好きにさせるために控えるアルバフィカは厳しい目でマリアを見据える。

 

 

ー弦十郎sideー

 

ハッチが開き、弦十郎と緒川はジープを走らせる。

 

「緒川!」

 

「分かっています! この映像の発信源を辿ります!」

 

二課の“大人”の二人が戦地に赴いた。

 

 

 

ー響sideー

 

その頃、『FRONTIER』の遺跡を目指す響とレグルスは。

 

「(誰かが頑張っている。私も負けられない!)」

 

「(感じる、マリアとアルバフィカは、あの遺跡の中だ・・・!)」

 

遺跡を目指し走るレグルスと背負われる響の近くで爆発が起きた。

 

「(その事以外、答えなんて有るわけが無い!)」

 

 

ー翼sideー

 

翼はクリスの拳銃から放たれる弾丸は弾く。

 

「フンっ!」

 

「ちっ!」

 

二人の戦闘を“ソロモンの杖”を弄りながら眺めていたウェルはクリスの“首に巻かれた首輪”から通信を送る。

 

《さっさも仕留めないと、“約束のオモチャ”はお預けですよ~♪》

 

ウェルの下卑た声にクリスは顔をしかめる。

 

「(“ソロモンの杖”! 人の手を殺せる力なんて、人が持ってちゃイケないんだ・・・!)」

 

「(“アレ”が雪音を従わせているのか・・・?)」

 

翼は点滅する首輪を睨み刀を構え直す!

 

「犬の首輪を嵌められてまで、何を成そうとしているのか!?」

 

「“汚れ仕事”は、“居場所の無いヤツ”がやるのが相場だ! 違うか?」

 

「その言葉、自身の想い人<デジェル>の前でも言えるのか?」

 

「ムグッ・・・!」

 

「ストイックなエルシドと違ってデジェルは優しいからな、この場に居れば甘えたくなってしまうから、わざわざ分断等と回りくどい真似をしたのだろう?」

 

「ウググググ・・・!」

 

言い淀むクリスを見て、翼はフッと微笑み。

 

「首に縄を括り付けてでも連れ帰る。お前の“居場所”、“帰る場所”に・・・」

 

「えっ・・・っ!」

 

翼の言葉にキョトンとするクリスだが、直ぐに顔を背ける。

 

「お前がどんなに拒絶しようと、私はお前のやりたい事に手を貸してやる。それは、“片翼”では飛べぬ事を知る私の、“先輩”と風を吹かせる者の使命だ! (そうだったよね? 奏・・・!)」

 

【そうさ! だから翼の“やりたい事”は、アタシが、周りの皆が助けてやる!】

 

翼の脳裏に、今は亡き片翼<天羽奏>の姿が浮かび声が響いた。

 

「・・・っ! その仕上がりで偉そうな事を!」

 

《何をしてるのですかぁ? 素っ首のギアスが爆ぜるまで、もう間も無くですよ?》

 

ドドドドドドドドドドドっ!

 

「ん・・・?」

 

「何だ? この地響き・・・?」

 

突然の地響きに翼とクリスが戦闘を止める。

 

「あ~ん? なんだぁ~?」

 

翼とクリスの戦いを見世物にして嘲笑していたウェルも立ち上がり辺りを見ると。

 

ドドドドドドドドドドドっ!

 

「んん? んなぁっ???!!!」

 

ウェルが後ろを振り返ると“巨大な土煙”がウェルに向かってきた!

 

「な、ななな、ななななななななななななななななななななぁっ!!」

 

戸惑うウェルの目の前に土煙の中にいる二人の姿が映った。

 

「す、蠍座<スコーピオン>?! 水瓶座<アクエリアス>っ??!!」

 

「「邪魔だっ!!!!」」

 

バキッ! ベキッ!

 

「ギャブラァァッ!!」

 

ノイズかと思ったのか、デジェルの肘打ちが鼻柱に、カルディアの裏拳が横面に当たり、ウェルは二人に殴り飛ばされた!

 

「蠍座<スコーピオン>!?」

 

「お、お兄ちゃんっ?!」

 

地響きの音を辿った翼とクリスは、絶賛交戦中のデジェルとカルディアが目に入り、戸惑いの声をあげる。

すると、別方向からバイク音が二人に近づき、音の方向を見るとバイクに乗ったエルシドがやって来た。

 

「エルシド?!」

 

戸惑う翼を余所に、エルシドはバイクから飛び降りて、カルディアの方へ向かう!

 

 

 

 

因みにウェルは・・・・・。

 

「いぃ、一体何が・・・?」

 

ヨロヨロと立ち上がるウェルだが。

 

ドカンッ!

 

「ブギャンっ!!(ガクン)」

 

エルシドの乗り捨てられ、走りながら倒れるバイクに巻き込まれ、潰れたカエルのような悲鳴を上げて気絶した。

 

 

閑話休題

 

 

エルシドはデジェルと交戦するカルディアの両脇に脚を引っ掻ける。

 

「何だぁ・・・?」

 

「済まないがカルディア、少し間退場してもらう! 『ジャンピングストーン・柔』!!」

 

「ドゥワアアアアアアアアアアアっ!!!」

 

エルシドが今まで使ってきたドロップキックの『ジャンピングストーン』を、『ジャンピングストーン・剛』とするならば、カルディアの技を掛けようとする力を利用して、相手を投げ飛ばすこの技をエルシドは、『ジャンピングストーン・柔』と名付けている。

 

『ジャンピングストーン・柔』を放たれたカルディアは、天高く投げ飛ばされる。

 

「エルシド、何を?」

 

「雪音、動くな・・・!」

 

「っ!?」

 

エルシドは手刀を構えクリスの首目掛けて振るうと、雪音を首に掛けられた首輪を断ち切られる!

 

「あっ・・・・・」

 

「雪音の首輪が・・・!」

 

「この首輪はどうやら、遠隔操作によって爆発する仕掛けになっているようだな・・・」

 

デジェルが近づき、首輪を拾いながら説明する。

 

「さて、クリス・・・」

 

「(ビクッ!)」

 

静かに穏やかにだが、底冷えする声と全身から暴風雪のオーラを放つデジェルの顔は笑っているが、目が全く笑っていなかった。それを見てクリスは直立不動し全身が小刻みに震える。

 

「お、おおおお兄ちゃん、えっと、その、これはあの・・・!」ガクガクガクガクガクガクガクガク

 

「私に何の相談も無しの独断専行、まぁ君の考えは分からなくもないが・・・・・・私はそんなに頼りないか・・・?」

 

「(何か既視感を感じるな・・・)」

 

デジェルに睨まれ、さっきまで翼に攻撃的だった雰囲気が消え、借りてきた猫のように大人しくなったクリス。その姿に翼は、マジ切れした時のエルシドと向き合った時の自分と重ね、同情の目線をクリスに向ける。

 

「その・・・あの・・・!」

 

「・・・・・」

 

「えっと・・・・・!」

 

無言で自分に近づくデジェルにしどろもどろになるクリス。

 

「(スッ)・・・・・」

 

「(ビクンッ!)」

 

デジェルが手を上げ、殴られると思ったクリスは目を閉じて身構えるが。優しい感触と暖かさが全身を包んだ。

 

「あ・・・」

 

目を開けるとデジェルが自分を優しく抱き締めていてくれていた。

 

「余り心配をかけさせないでくれ、君にもしもの事が起きたら私は、自分を許せない・・・!」

 

「で、でも・・・」

 

「言った筈だ、君一人が背負うことはない。何の為に私や仲間達がいると思っているんだ?」

 

「・・・・・」

 

「クリス、私は君の“居場所”に、“帰る場所”になれないのかい?」

 

「!・・・・・(ふるふる)」

 

デジェルの言葉にクリスは無言で首を横に振った。するとデジェルはフッと微笑み。

 

「無事で良かった・・・」

 

「・・・・・・ゴメン」

 

お互いを優しく抱擁するデジェルとクリス。

 

「エルシド・・・」

 

「何だ・・・?」

 

「今なら私は2リットルのブラックコーヒーを砂糖やミルク無しでイッキ飲みできる自信があるぞ・・・!」

 

「そうか・・・」

 

戦地で、しかも現在気絶中(クリス達は知らない)であるが、ウェルの目がどこにあるか分からない場所で相も変わらずイチャイチャする二人に、翼とエルシドは半目で呆れ、翼は口から砂糖が出る程の胸焼けを感じていたが。

 

「エルシドは、もしも私が雪音のような事をしたら、お前はどうする・・・?」

 

「そうだな、取り敢えず独断専行の仕置きとして“鉄拳制裁”と“お説教”位は覚悟しておけ」

 

「(ズ~~~ン)そうか・・・そうだな・・・・(ボソッ)雪音が羨ましい・・・!」

 

「???」

 

【アハハハハハハハハ!! なんだ、翼! こっち<恋愛>の方は全然全く進展してないなぁ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!】

 

肩を落としていじける翼にエルシドは首を傾げ、奏の爆笑する声が翼の頭に鮮明に浮かんだ・・・。

 

「所で、これからどうする?」

 

「うむ、私に考えがある・・・」

 

肩を落とす翼とラブな雰囲気を出すクリスを一端無視し、エルシドとデジェルは打ち合わせをした。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

マニゴルドが見つめる先には、調と切歌がそれぞれの技をぶつけていた!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「うああああああああああああっっ!!」

 

調が『緊急Φ式 双月カルマ』のプロペラを切歌に向けると、切歌は翡翠色の大鎌で受け止め、調が引くと切歌は『封伐・PィNo奇ぉ』の補助アームから伸びた鎌で追撃する!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

調が『非常Σ式 禁月輪』に切り替えて切歌に迫ると切歌は持っていた大鎌を巨大な太枝切りバサミにする!

 

『双斬・死nデRぇラ』

 

迫り来る調を肩のワイヤーを射出して動きを抑えると『双斬・死nデRぇラ』で挟み持ち上げる!

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」」

 

二人の歌が重なる! 脱出した調は空中でツインテールのパーツから丸鋸を射出し、切歌はハサミを二振りの大鎌に切り替えて防ぐ!

 

「・・・・・・・・・」

 

その二人の戦いをマニゴルドは見守っていた。まるで喧嘩する妹達を見守る兄貴のような瞳で。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪!!」」

 

調が地上に下りるとローラーを回転させて迫り、切歌は大鎌をバトンのように振り回すして構え、迫る調にワイヤーを伸ばす! 調は踊るように回避し『γ式 卍火車』を展開すると、襲いかかる切歌とぶつかる!

 

「「っ!!」」

 

二人は技のぶつかりでお互いに距離が空いた。

 

「切ちゃん・・・どうしても引けないの?」

 

「引かせたいのら、力づくでヤってみると良いデスよ・・・!」

 

切歌は調に向かって“注射銃”を投げ捨てる。

 

「(あれは、“LiNKER”・・・!? ウェルの野郎、あんなものまで・・・!)」

 

「“LiNKER”・・・!?」

 

驚くマニゴルドと調が切歌を見ると、切歌は自分の首元に“LiNKER”入りの注射銃を押し当てていた。

 

「儘ならない想いは、力づくで押し通すしか無いじゃ無いデスか・・・!」

 

カチッ!プシュ~~

 

切歌が注射銃を捨てると、調をまた同じように注射銃を自らに注入する。そして二人は歌を歌う『禁断の歌』、『絶唱』をーーーーーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

二人の歌が重なると、二人のギアが変形した!

 

「“絶唱”にて繰り出される“イガリマ”は、相手の魂を刈り取る刃!! 分からず屋の調には、少し負けん気を削れば!!」

 

切歌が大鎌の刃を地面に突き刺すと、柄の部分が伸び、刃が巨大になり、刃の反対側にエンジンのブーストが付加され火を吹き空を飛び、魔女の箒のように跨がる切歌!

 

「分からず屋はどっち・・・?! 私の望む世界には、切ちゃんもカルディアも、皆がいなくちゃダメ・・・! 寂しさを押し付ける世界なんて、欲しくないよ・・・!!」

 

調の頭のツインテールが鋏のように展開され、両手が巨大なアーム付きの丸鋸に変形し、両足が巨大なチェーンソーの武器に変形し、手足が全てを切り刻む鋸へと変形した!

 

「グゥッ!」

 

「クッ!」

 

巨大大鎌に跨がった切歌が調に迫るが、調に振り払われるも、空中で体勢を整えて、大鎌を両手に持つ!

 

「アタシが、調を、皆を守るンデス! 例えフィーネの魂にアタシが塗り潰される事になっても!!」

 

大鎌のブーストエンジンが更に火を吹き、切歌ごと大回転を起こし、緑の円型の刃になる!

 

「ドクターのやり方で助かる人達が、私と同じように、“大切な人達”を失ってしまうんだよ!!」

 

「ダアアッ!!」

 

回転する切歌が迎撃する調の左腕の丸鋸を破壊した!

 

「そんな世界で生き残ったって、私は二度と歌えない・・・!」

 

「でも、それしか無いデス! そうするしか無いデス! 例え・・・アタシが調に嫌われてもーーーーーーーーーー!!」

 

切歌が調のもう片方の腕を破壊する。

 

「切ちゃん、もう戦わないで・・・私から大好きな切ちゃんを奪わないで!!」

 

涙混じりに叫ぶ調に構わず、切歌は調に襲いかかる!

 

 

 

 

次の瞬間!!

 

 

 

調が手を掲げると、“障壁”が展開され、マニゴルドと切歌は調の姿が“ある人物”と重なる、“破滅の巫女 フィーネ”にーーーーーーーーーー

 

「はっ!?」

 

「あれは!?」

 

切歌は調の張った障壁に阻まれ、弾き飛ばされ、大鎌が地面に突き刺さる!

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

唖然となる切歌とマニゴルド、障壁を張った調自身も愕然となった。

 

「・・・何これ・・・!?」

 

「フィーネの、障壁か・・・?」

 

「まさか、調デスか・・・? フィーネの器になったのは・・・調なのに、アタシは調を・・・!」

 

勘違いから親友を殺そうとした自分自身に愕然する切歌。

 

「切ちゃん・・・」

 

「調に悲しい想いをしてほしく無かったのに・・・出来たのは調を泣かすことだけデス・・・!」

 

涙混じりの切歌が手をかざすと地面に刺さった大鎌が回転しながら宙に昇る。

 

「あっ・・・・・」

 

「切歌・・・・・」

 

「アタシ、ホントに嫌な子だね・・・消えて無くなりたいデス・・・!!」

 

涙を流しながら笑顔を見せる切歌に回転する大鎌が襲いかかる!

 

「ダメ・・・! 切ちゃんッ!!」

 

「あの、アホ娘ッ!!!」

 

グサッ・・・・・!

 

調とマニゴルドが切歌を守るように抱き寄せるが、調の身体に大鎌が刺さった!

 

「調・・・調ーーーーーーーーーー!!」

 

切歌の悲鳴が空しく響いた・・・・・。

 

「クッ! 『積尸気冥界波』っ!!」

 

マニゴルドが指を翳すと、頭上に“黒い渦”が開いた!

 

 

 

ークリスsideー

 

「グベラッ! ガッハ!」

 

気絶していたウェルは咳き込みながら起き上がる。

 

「人に戦わせておいてこんな所で間抜け面を晒して爆睡とは、良いご身分だな・・・!」

 

「ウィッ!?」

 

侮蔑の声に目を向けると、イチイバルを纏い“黒い首輪”を付けたクリスがゴミを見るような目でウェルを見下ろしていた。

 

「な、なにやってるのですか? 風鳴翼は!?」

 

「見てわからねぇのか?」

 

クリスが指差すと、激しい爆発が起こったであろう場所があった。それを見たウェルは下劣な笑みを浮かべる。

 

「ほぉ~♪ どうやら始末したようですね」

 

「そうだよ、ご要望に答えたんだ、“ソロモンの杖”を渡しな・・・!」

 

「・・・・・・・・・・ンフフフフ♪ プププ♪ クヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ♪ ヒャアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! だぁれが渡すかよこのバァカっ!!」

 

あからさまに嘲笑な笑みを浮かべたウェルは手にスイッチが付いた装置を掲げた。

 

「それがお前の本性かよ。つくづく汚ねぇな!」

 

「ナンとでも言え小娘がっ!! お前のような裏切り者には“惨めな最後”がお似合いなんだよっ!! 仲間も愛する者からも看取られること無く! 無様に! 哀れに! 咽び泣きながらくたばるんだなっ!!!」

 

カチッ・・・・・。

 

「・・・・・・・・・・で?」

 

「・・・・・はぁっ??」

 

カチッ!カチッ!カチッ! カチカチカチカチカチカチカチカチ!

 

いくらスイッチを押しても爆発が起こらない首輪を見て、段々ウェルの顔から焦燥の色が濃く出始めた。

 

「ど、どうなってンだよ!!??」

 

「お前みたいな“チンケな悪党”の考える事なんて、こちとらお見通しなんだよ・・・!」

 

クリスはウェルに嵌められた首輪を引きちぎる!

 

「な、なななななななななななななななななななななななななななななななななななっっ!!!??」

 

「とっくに壊れてんだよ、この爆弾!」

 

エルシドに切られた箇所をデジェルが氷でくっ付けただけで、機能は完全に死んだ首輪をウェルに向けて投げ捨てる!

 

「さて、ウェル博士。分かってるよな~?」ゴキ!ゴキ!

 

「ひっ! ひ、ひ、ひ、ヒギヒィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイっ!!!」

 

クリスが握り拳を鳴らしながら近づくとウェルは無様に尻餅を付いて後ずさるが、背中に“何か”が当たった。

 

「ヒイィ!?」

 

「何処に逃げる積もりだ? ウェル博士?」

 

そこには、天羽々斬を纏う翼が、刀を肩に担いで冷たく見下ろしていた。

 

「か、風鳴翼!? お、おおおおお前は!?」

 

「あのような三文芝居に騙され馬脚を表すとは、御里が知れるな・・・!」

 

「そう言うな翼、この男は所詮その程度と言うことだ・・・」

 

「か、山羊座<カプリコーン>!?」

 

「自分は前線に立たず、戦いはノイズや奏者達にヤらせ、自分は比較的に安全な場所で下劣に笑うしかしない、そんな男が勝負師を気取るなど滑稽だな・・・!」

 

「ア、アアアアアアアア、水瓶座<アクエリアス>っ!!??」

 

自分の左右に現れたエルシドとデジェルに、いよいよ余裕が無くなったウェルは惨めに震える!

 

「さて、ドクターウェル。このまま“ソロモンの杖”を大人しく渡すならば良し、渡さなければ、実力行使をさせてもらう・・・!」

 

「ヒギッ! ヒギッ! ヒギッ! ヒギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィっ!!!」

 

顔を恐怖で歪に歪めるウェルは“ソロモンの杖”を使おうとするが・・・・・。

 

ーーーーおいウェル、余計な真似するなよ・・・・・!

 

『っ!!』

 

突然上空からの声に一斉に後ろに飛ぶクリス達! ウェルの近くに“黄金の流星”が降り立った!

 

「カルディア・・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

現れたのは、重厚な黄金の聖衣を纏い、頭から蠍の尻尾のパーツをおさげのように垂れ流した無造作に伸びた群青色の長髪に整っている顔立ちを不機嫌そうにしかめた蠍座の黄金聖闘士、スコーピオンのカルディアが立っていた。

 

「オイ! スコーピオン! 何をぐずぐずしてやがった!? この愚図なノロマが! さっさとコイツらを「ガキンッ!」・・・えっ・・・?」

 

ヒステリックに喚き始めたウェルは、“ソロモンの杖”を握っていた手に“違和感”を感じ見てみると、自分の手から“ソロモンの杖”が無くなっていた。

 

ヒュンヒュンヒュン・・・パシッ!

 

いつの間にか空中を飛んでいた“ソロモンの杖”をカルディアが掴んだ。

 

「(見えたか、エルシド?)」

 

「(あぁ、カルディアが頭を一瞬振って尻尾のヘッドギアで“ソロモンの杖”を弾いた・・・!)」

 

あまりに一瞬の出来事をこの場で目視できたのは、エルシドとデジェルだげであろう、翼もクリスも何が起こったか分からず、唖然としていたからだ。

 

「な、なにをしやがるスコーピオン! “ソロモンの杖”を! 僕のオモチャを返「ドグゥッ!!」グゲブゥッ!!」

 

喚きそうになるウェルの腹部にカルディアの足が深くめり込む。

 

「うるせぇんだよ、今俺は機嫌が悪いんだ・・・・!」

 

「グゲッ!グビビィッ!」

 

腹から押し上がってくるモノを堪えようとするウェルをカルディアが冷たく、矮小なゴミを見るように見下す!

 

「俺の前から失せろ! 下衆がっ!!」

 

ドンッ!!!!

 

「ゲブベエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェっ!!??」

 

サッカーボールのように蹴り飛ばされたウェルは口から汚物を吐き散らせながら荒野の彼方に転がっていった。

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

「・・・・・デジェル」

 

「ヤツとは、私が決着を付ける・・・・・!」

 

唖然とする翼とクリス、エルシドはカルディアに向かおうとするも、デジェルが制し前に出る。

 

「ハアァ、ハアァ、ハアァ、ハアァ・・・・・!」

 

“ソロモンの杖”を握るカルディアは息を荒くし、胸を押さえ、身体から汗が蒸発し、蒸気のような煙を出していた。“心臓”の限界が近いと察したデジェルはカルディアに忠告する。

 

「カルディア、このままではお前は本当に死ぬぞ?」

 

「へ、ヘヘヘヘ、デジェルよ、俺達は“一度は死んだ身”だぜ? 今更この命を惜しいだなんて欠片も思っちゃいねぇよ・・・!」

 

「彼女の、月読調の状態に、気付いていない等と言わせんぞ・・・!」

 

「・・・・・言った筈だ、関係無いってな・・・! さぁ! “ソロモンの杖”は俺の手中だ! 欲しけりゃ、掛かってこいやっ!!!」

 

「・・・良いだろう!」

 

お互いに構え、小宇宙<コスモ>を高めるカルディアとデジェル。

 

「エルシド、我々はどうする?」

 

「俺は、この戦いを見届けるつもりだ・・・」

 

「アタシは、野郎<カルディア>が持っている“ソロモンの杖”を破壊したい・・・!」

 

「ならば、我々のヤることは・・・」

 

「見届ける事、だな・・・」

 

「エルシド、なんで蠍座<スコーピオン>はあそこまでデジェル兄ぃと戦う事に拘ってんだ?」

 

「ヤツとデジェルは我々の世界で同じ任務に付いて命を落とした。それに、カルディアとデジェルは、一応とは言え“友人”であったからな・・・・・」

 

「しかし、蠍座<スコーピオン>は、“死”を望んでいるようにも見えるが・・・・・」

 

「昔、カルディアがこんな事を言っていたな・・・」

 

[生命にゃ元々それぞれリミッターがあるんだよ、人間皆 同じように未来<あした>があるとは限らないのさ、だから俺は現在<いま> 命を燃やすんだ。いつリミットが来ようが関係ないさ・・・!]

 

「「同じように未来<あした>があるとは限らない・・・」」

 

カルディアの言葉から、翼は何時までも共に飛び続けると思っていた『片翼』を、クリスは理不尽に生命を落とした『両親』が脳裏に浮かんだ。

 

「そろそろ始まるな・・・」

 

エルシドと翼とクリスは、これから始まるであろう、最強の黄金聖闘士の死力を持った戦いを固唾を飲んで見ていた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

お互いに睨み合いを続けるカルディアとデジェル。二人を見守るエルシド達。ふと、クリスの顔に一筋の汗が雫となって、地面に落ちたーーーーーーーーーー。

 

ピチョン・・・・・・・・。

 

「「っ!」」

 

静寂していた時間が動く!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!」

 

「はああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

飛び上がったカルディアのショルダータックルが! デジェルの回転肘打ちが空中でぶつかる!

 

「「ぐうううううううううううううううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!」」

 

二人のぶつかり合いで大気が、『FRONTIER』の大地が震えた!!!

 

 

 

 

そして、ウェルは、二人のぶつかり合いで生まれた衝撃波を遥か後方で浴びていた。

 

「ひ、ひ、ひぎひぃいいいいいいいいっ!!!」

 

吹き飛ばされないように地面から僅かに伸びた岩にしがみつき、衝撃波の風圧で頬を波打たせ、歯を剥き出ししたウェルは惨めな悲鳴を上げていた。

 

「つ、付き合っていられるか、あの化け物共めっ!! まだだ、まだボクには“これ”があるんだ・・・・・!」

 

首に下げた“黒い玉”を『ネフィリム』の細胞を注入した腕で掴んで起動させると、ウェルの周りに黒い光がウェルを包む。

 

「こ、これは逃げる訳では無いぞ・・・・! あ、あんな化け物共の刹那主義に付き合うだなんてバカげている! ぼ、ボクは、“勇気ある撤退”をするだけなんだからなっ!!」

 

誰も何も言っていないのに、情けなく言い訳をしながらウェルは、逃げるようにカルディアとデジェルの決戦の場から姿を消した・・・・。

 




『ジャンピングストーン・柔』:原作の山羊座<カプリコーン>のシュラが使った技。

『ジャンピングストーン・剛』:エルシドが使用する技。


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熱き天蠍VS凍てつく宝瓶

今回はデジェルとカルディアのバトルメインです。


この世界に来て直ぐに気づいた事、それは俺の心臓が以前のまま、“熱”を持っていた事に気づいた事だった。同じようにアルバフィカも自分の中に流れる“血”が以前のままであると気づいているだろう・・・それを悟った時、俺の心に生まれたのは“絶望”では無く“安堵”だった、物心付く前の頃には診療所での入院生活、窓から眺める事しか出来なかった世界、楽しそうに日々を、“生”を堪能する人達、オレはソコには行けない、ずっとこのままベッドの上で死ぬ・・・そう考えていた。この心臓をポンコツと想った事なんて腐るほどあった・・・だが、“家族”も、“友達”も、“帰る家”すら無かった俺が、唯一持っていたモノが、この“病に犯された心臓”だけ、この“心臓”だけしか無かった俺にとって、最早コイツまで無くす事は己の半身を失うも同然だ・・・! だから“安堵”した。そして、俺はアイツに出会った・・・初めて会った時のサーシャ<アテナ>に似たアイツに・・・アイツと、アイツらとの日々は、正直心が弾んだ、アイツら“と”遊ぶのも、アイツら“で”遊ぶのも楽しかった。でも、それでも、俺の心は燻っていた、俺の“熱”は満足出来なかった、だから、だから俺は・・・・・!

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

「っ! 緒川! 車を停めろ!!」

 

「は、はいっ!」

 

車を急停止させた弦十郎と緒川に激しい衝撃波が襲った!

 

「ぐううううぅぅっ!!」

 

「し、指令、これは一体・・・!!」

 

「翼! そっちで何が起こっている?!」

 

《こちら翼! 雪音とエルシドとデジェルと合流しましたが、現在、デジェルと蠍座<スコーピオン>が交戦を開始! その衝撃波により我々も動けない状態です!》

 

「何!? デジェルは蠍座<スコーピオン>を助けるのでは無かったのか!?」

 

《こちらエルシド、遺憾ながらカルディアはデジェルと決闘を望んでいたようだ・・・》

 

「何だと!?」

 

「では、月読調さんにカルディアを救って欲しいと頼んだのは・・・?」

 

《カルディアの目的は、“デジェルとの決闘”だ、それも“命を賭けた死合い”のな・・・!》

 

エルシドからの説明に弦十郎と緒川の顔にイヤな汗が流れる。“最強の黄金聖闘士同士の戦い”、それは千日にも及ぶ大決闘、『千日戦争<ワンサウザンドウォーズ>』が始まろうとしているからだ!

 

 

ーデジェルsideー

 

「「ぐううううぅぅっ!!」」

 

「うおりゃああああああああああっ!!!」

 

「ぬうぅおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

力比べをしていた二人の均衡を先ず崩したのはカルディア、デジェルに向かって蹴りの連発を放つが、デジェルは全てかわす!

 

「ハァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「ウオラアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

デジェルが拳を放てばカルディアも蹴りで交えた衝撃により空中で離れる!

 

「へっ、流石にヤるな! 喰らいな! 真紅の衝撃! 『スカーレット・ニードル』!!」

 

ドドドドドドドドド!!

 

カルディアの人差し指から伸びた紅いの爪から放たれる深紅の衝撃がデジェルを襲うが、デジェルは紙一重にかわす!

 

「クッ! なっ!?」

 

「テヤァァッ!!」

 

デジェルの眼前に急接近したカルディアが膝蹴りを放つがデジェルは両腕を交差させて防ぐが膝蹴りにより両腕を上げさせられカルディアはデジェルの頭を掴まえると下を向かせ、デジェルの顔面に膝蹴りを浴びせる!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

 

「グッ! グアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「オオォラアアッ!!」

 

「グオアッ!」

 

カルディアの猛撃にデジェルは半歩下がる、それを狙ってカルディアは再び真紅の攻撃をする!

 

「『スカーレット・ニードル』!!」

 

「くっ! 『ダイヤモンドダスト』!!」

 

デジェルの氷雪とカルディアの真紅の爪がぶつかり合うとその衝撃で二人の距離が再び開く!

 

「フッ!」

 

「ハッ!」

 

二人は光の速さ、光速の流星になってぶつかり合いを繰り返す!

一ヶ所に衝撃音が鳴ると別の場所で衝撃と衝撃音が発生し、それが一つ、二つ、三つ四つと何十何百と鳴り響いた!

それによる衝撃波が翼とクリスを襲うがエルシドが盾になる事で防がれた。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

翼とクリスは、目の前で繰り広げられる黄金聖闘士同士の激戦に只々圧倒されていた。『ルナ・アタック事件』の際、『射手座<サジタリアス>の黄金聖衣』を纏い“黄金聖闘士に近い力を得たフィーネ”とレグルスの決闘を見てあの時も圧倒されたが、今回は完全に実力伯仲の戦いに気圧された。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・」

 

「フゥ、フゥ、フゥ、フゥ、フゥ・・・・・」

 

再び向かい合う形で睨み合うカルディアとデジェル。

 

「最高だぜ、デジェル・・・こんなに充足感に満ちた戦いは久しぶりだ・・・・・!」

 

身体から“赤い蒸気”を発しながらカルディアは好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ンだありゃ!?」

 

「“赤い蒸気”・・・!?」

 

「心臓の“熱”の上昇により血液が沸騰し、それが皮膚から汗となり蒸発して“赤い蒸気”が生まれたのだろう・・・!」

 

「カルディア、そうまでして戦いを望むのか? お前には“他の生き方”がある筈だ! 私がクリスと出会って“新たな夢”を得たように・・・!」

 

「悪ぃなデジェルよ、俺は、この生き方が、俺の生き方なんだよ・・・! 俺が自分の心から望んだ、魂から望んだ生き方を、最後の最後まで貫き生きる!」

 

“迷い無き瞳”で宣言するカルディアを見て、デジェルももう話し合いは不可能と悟った。

 

「分かった、もはやこれ以上何も言わん! 全力でお前の想いに応えてやる!」

 

「それでこそだぜ! デジェルよおおおぉぉぉっ!!」

 

二人の小宇宙<コスモ>が最大限に爆熱する!

 

「煌めけ!!!」

 

「轟け!!!」

 

「「俺/私の小宇宙<コスモ>ーーーーーーーーーー」」

 

二人の小宇宙<コスモ>の高まりに呼応して、水瓶座<アクエリアス>と蠍座<スコーピオン>の黄金聖衣が、遥かな時を重ね、纏う聖闘士の“本気で戦う事を覚悟した時”にその姿を変える奇跡の聖衣!

 

「水瓶座<アクエリアス>のレジェンド聖衣<クロス>!!」

 

デジェルの黄金聖衣は、より重厚感が増し、手首や足首、腰と肩のパーツに翡翠色のエメラルドが嵌め込まれ、紫のマントが靡き、左肩に小さな水瓶が装備された水瓶座<アクエリアス>の聖衣!

 

「蠍座<スコーピオン>のレジェンド聖衣<クロス>!!」

 

カルディアの黄金聖衣は更に重厚な聖衣になり洗練され、額のパーツは太い二又の角に伸び深紅のマントを靡かせた聖衣!

 

「レジェンド聖衣・・・!」

 

「二人共、本気の中の本気って事かよ・・・!」

 

「当然だ。“覚悟”を決めて戦地に立っている戦士を前に、“同情”も“憐れみ”も“優しさ”も、“侮辱”に値する!!」

 

黄金聖闘士が『100%中の100%本気で戦う覚悟』をした時に顕現する“レジェンド聖衣”。破滅の巫女フィーネと対峙した、レジェンド聖衣を纏ったレグルスが圧倒的な強さを見せ付けたが、これから起きるのは“レジェンド聖衣を纏った黄金聖闘士同士の対決”!

 

「これが、これがレジェンド聖衣か・・・! 良いぜ、最高の気分だ・・・!!」

 

すると、カルディアのレジェンド聖衣に“変化”が起きた!まるでカルディアの“熱”が伝達したように、その姿を“赤く”染め、二又の角が真紅に染まり、胸に大きな紅玉<ルビー>が現れた!

 

「蠍座<スコーピオン>の聖衣が赤く染まった・・・!?」

 

「あの姿、まるで『アンタレス』・・・!」

 

「『アンタレス』?」

 

「蠍座のα星、その輝きは真紅に輝く紅玉<ルビー>の星。『スカーレット・ニードル』は相手の身体に蠍座を形作る15の星の位置に爪を突き刺す技、そして『アンタレス』は丁度“心臓”の位置にある星だ・・・!」

 

深紅に染まった蠍座<スコーピオン>のレジェンド聖衣を見据えて、デジェルは両手を握りしめた拳を天に向け、カルディアも爪を突き立てるように構える!

 

「カルディア、お前とは長い腐れ縁だったな。今その腐れ縁を断ち切ろう!」

 

「良いぜ、デジェル! これが最後の勝負だ! 俺の魂、最後まで熱く燃やさせろよ!!」

 

「来るぞっ! 翼、雪音、踏ん張れ!!」

 

「あぁ!」

 

「おおっ!」

 

エルシドと翼とクリスが身構え、二人の小宇宙<コスモ>が高まり、今から繰り出されるは、蠍座<スコーピオン>と水瓶座<アクエリアス>の最大の拳!

 

「全てを凍てつかせ、我が凍技! 『絶対零度<オーロラ・エクスキューション>』!!」

 

「貫け、真紅の衝撃! 『真紅光針<スカーレット・ニードル>』!!」

 

デジェルから絶対零度の氷雪が! カルディアから深紅の流星が! 今ぶつかる!!

 

ドォゴオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!!

 

二人の最大の拳が、二人の距離の中間地点でぶつかり、カルディアの周辺に爆炎が! デジェルの周辺が氷河が広がる!

 

 

 

 

ーアスミタsideー

 

現在アスミタがいる二課仮設本部では、デジェルとカルディアの戦いで起きる地震と、エネルギー反応で藤尭や友里達オペレーターは騒然となっていた。未来も若干オロオロしながらもアスミタの傍にいた。

 

「アスミタさん、これって・・・・・?」

 

「カルディアとデジェルが戦っているのだろう。このままでは『千日戦争<ワンサウザンドウォーズ>』が発生するぞ・・・・・」

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

マリア達がいるであろう遺跡の入り口に到着したレグルスと響も突然起こった地響きに身を低くした。

 

「レグルス君、これって・・・・・」

 

「・・・・・デジェルとカルディアが戦っている」

 

「えっ!? デジェルさんはカルディアさんを助けようとしてるんじゃないの?!」

 

「イヤ、カルディアの目的はデジェルと戦う事だ。その為に調を利用したんだろうな・・・」

 

「そんな・・・・・!」

 

引き返そうとする響の手をレグルスが掴んだ。

 

「どこに行くつもり響?」

 

「止めなくちゃ、だって調ちゃんと約束したし、こんなの間違っているよ! カルディアさん、“生きるのを諦めようと”しているんだよ!」

 

「違う・・・違うよ響。カルディアは、生きようとしているんだ・・・自分なりに、ガムシャラにね・・・!」

 

「どういう事・・・?」

 

「兎に角、俺達はマリアとアルバフィカのいる所に行かなくちゃいけないんだ。今俺達のヤるべき事は、“カルディアを止める事”じゃない、“この先へ進む”事だ・・・!」

 

「でも、でも・・・!」

 

「調が何の為に俺達を進ませたんだ? 響ならマリアを助けてくれると信じたからだろ? その想いを裏切るつもりか!?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「行くよ・・・・・」

 

言い淀む響の手を引いてレグルスは先へ進んだ。

 

 

 

ーアルバフィカsideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

地響きに構わずに歌い続けるマリアを見守りながら、アルバフィカも外の状況を把握していた。

 

「(カルディア・・・デジェル・・・今私のやるべき事は、マリアの護衛だ・・・!)」

 

 

 

ーナスターシャsideー

 

ナスターシャ教授も外の状況をモニターで確認していた。

 

「これが、“レジェンド聖衣”を纏った黄金聖闘士同士の戦い、なんと凄まじい・・・!」

 

 

 

ーウェルsideー

 

「ヒイイイイイイイイイイイィィィィィィイイイイイイイイイイッッッッ!!!!」

 

その頃のウェルはマリア達のいる遺跡の区画の近くで地響きに脅えて頭を押さえて蹲っていた。

 

 

 

 

 

 

ーデジェルsideー

 

真紅のオーラを纏うカルディアの熱気と、翡翠のオーラを纏うデジェルの凍気がぶつかり、カルディアのいる場所には炎が! デジェルのいる場所では氷が埋め尽くす!

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

「ヌゥアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

ビキビキビキビキ!

 

『こ、これは!? カルディア(蠍座<スコーピオン>)の爪に皹がっ!?』

 

二人のぶつかり合いが『FRONTIER』を揺らし、力が拮抗するが、カルディアの指の赤い爪に亀裂が走る!

 

「これで終わりだ! カルディア!!」

 

「イヤ、まだだぜ!!」

 

空かさずカルディアは左手の人差し指から伸びた“赤い爪”を突き出した!

 

「左手の『スカーレット・ニードル』だと!?」

 

「残念だったなデジェルよ! “心臓”に近い左手の方が、“心臓の熱”を伝達しやすいんだよ!!」

 

カルディアは『奥の手』を繰り出した!

 

「これが俺の最後の奥義! 『真紅光針・赤色巨星・紅玉<スカーレット・ニードル・カタケオ・アンタレス>』ッッ!!!」

 

カルディアから放たれた燃える深紅の一撃がデジェルの『オーロラ・エクスキューション』を貫き、デジェルの身体を貫いた!

 

「ぐあぁっ!!!」(ドクンッ!)

 

深紅の一撃を受けたデジェルの『オーロラ・エクスキューション』の勢いが弱まり、身体が膝から崩れ落ちそうになるが・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃーーーーーーーーーーんっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!」

 

クリスの悲痛な叫びが聞こえると、デジェルは立ち直り『オーロラ・エクスキューション』を再び放つ!!

 

「何・・・!? 俺の、『スカーレット・ニードル・カタケオ・アンタレス』が、通じなかっただと・・・!」

 

「イヤ、通じているさ、カルディア・・・!」

 

顔を上げたデジェルの“胸”は、“心臓”は、まるで燃えているように炎が立ち込めていた!

 

「デジェル・・・お前、何でそんな状態で・・・!」

 

「生憎だが、カルディア・・・私はお前とちがって、“死ねない理由”が、“生きる想い”があるんだーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

デジェルが更に力を込めた『オーロラ・エクスキューション』がカルディアの『スカーレット・ニードル・カタケオ・アンタレス』を包み込む!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・へっ、何だよ。なにが“死ねない理由”だ、“生きる想い”だ・・・ただの“愛の力”ってヤツじゃねぇかよ、しょうもねぇな・・・調、悪いな・・・“約束”、守れそうにねぇわ・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自嘲気味に笑うカルディアは、氷雪の暴風に呑み込まれた!

 

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「マニゴルド! 調が、調がぁっ!!」

 

「泣き言を言ってる場合じゃねぇんだよ、傷は俺が治癒させるから、調の“魂”を探すんだよ・・・!」

 

『黄泉比良坂』、生と死の狭間の世界にやって来たマニゴルドと切歌は、自害しようとした切歌を庇い、半死状態の調をマニゴルドが担ぎ、マニゴルドは調の背中の傷を小宇宙<コスモ>を流しながら治療し、切歌も調の“魂”を探していた。

 

「何処に・・・! 調の“魂”は何処にいるデスか!?」

 

「・・・こっちだ」

 

調の気配を感知したマニゴルドは切歌を連れて、黄泉比良坂を進んだ。

 

 

ー調sideー

 

そして、魂だけとなった調は黄泉比良坂をさ迷っていた。

 

《(切ちゃん・・・カルディア・・・?)じゃない、だとすると、貴女は・・・?》

 

殆ど生き霊となった調の前に、民族衣装をきた“女性”、“破滅の巫女フィーネ”が現れた。

 

《どうだって良いじゃないそんな事・・・》

 

《どうだって良くない・・・! 私の友達や大切な人が泣いている・・・》

 

《そうね。蟹座<キャンサー>に見つかると消されるかも知れないから、誰の魂を塗りつぶすことなく、このまま大人しくしている積もりだったけど・・・そうも行かないモノね。“魂を両断するイガリマの一撃”を受けて、余り長くは持ちそうに無いか・・・》

 

《私を庇って? でもどうして?》

 

《私の“憧れの英雄<ヒーロー>達”が、貴女を助けようとしている、だからかしらね。それに、あの子に伝えて欲しいのよ・・・》

 

《あの子・・・?》

 

《だって数千年も“悪者”をやって来たのよ。いつかの時代、何処かの場所で、今更“正義の味方”を気取る事なんて出来ないって・・・“今日”を生きる貴女達で何とかしなさい、貴女達が諦めない限り、あの“英雄達”は貴女達を見捨てたりなんかしない・・・!》

 

《立花響・・・黄金聖闘士・・・》

 

《いつか未来に・・・人が繋がり、“大いなる境地”に到達するなんて事は、“亡霊”が語る物では無いわ・・・》

 

そう言って、フィーネは光となって消えた・・・。

 

《・・・・・・》

 

《たくよ、お前何やってんだよ・・・!》

 

調の“生き霊”に、カルディアの声が届いた。

 

《カル・・・ディア・・・?》

 

《ホレ、迎えが来たぜ・・・!》

 

「調ーーーーーーーーーー!!」

 

「調! そこか?!」

 

《切ちゃん・・・マニゴルド・・・!》

 

「よっしゃそのまま! 魂を戻すぜ! 『積尸気冥界波』ッッ!!」

 

調の“魂”を見つけたマニゴルドは空かさず、冥界波で魂を肉体に戻した!

 

「これで魂は戻った筈だが・・・!」

 

「目を開けてよ・・・調・・・!」

 

「泣いているよ・・・切ちゃん・・・」

 

「あっ・・・!」

 

「フゥ・・・」

 

泣きじゃくる切歌に調の優しい声が届いた。

 

「ジーーーーーーーーーーーーー・・・・・・」

 

「(あ、こりゃ怒ってるわ・・・)」

 

起き上がり、無表情に切歌を見つめる調を半眼で見るマニゴルド、構わず切歌が調に抱きつく。

 

「調!! でも、どうして・・・!」

 

「多分、“フィーネの魂”に助けられた・・・」

 

「フィーネに、デスか・・・?」

 

今度は調が切歌を抱きしめる。

 

「皆が私を助けてくれている・・・! だから切ちゃんの力も貸して欲しい・・・! 一緒にマリアを救おう」

 

「あっ・・・! うん、今度こそ、調や皆と一緒に、皆を助けるデスよ・・・!」

 

再び繋がった二人。だが、調は切歌を引き剥がす。

 

「所で切ちゃん、何で自決なんてしようとしたの・・・?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「えっ! イヤ、その、なんと言うか、色々ごちゃごちゃになっちゃってデスね・・・」

 

途端に冷徹な目になって睨む調に切歌はだらだらと滝のように汗を流しながら目を泳がせる。

 

「マニゴルド・・・」

 

「応よ♪」

 

グワシッ!

 

するとマニゴルドは切歌の頭を片手で掴み持ち上げる。

 

「マ、マニゴルド!?」

 

「お前なぁ、勝手に自決とか何考えてんだぁ~?」

 

「アワワワワワワワワワワワ」ガタガタガタガタガタ

 

ぶら下がりながら小刻みに震える切歌にスッゴく良い笑顔を浮かべるマニゴルド、このマニゴルドが一番恐いと言う事知る切歌の顔色は段々青くなる。

 

「調とりあえず、処刑しとくか?」

 

「時間も推してるから手早くね・・・」

 

「オッケー♪(ニッコリ)」

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ!!!

 

「アダダダダダダダダダダダダダダダダダっ!! ごごごごごごごごごごめんなさいデェェェェェェェェェェェェェェスッッッッ!!!!!」

 

「(カルディア・・・大丈夫だよね・・・)」

 

爽やかな笑みを浮かべてアイアンクローをするマニゴルドと、悲痛な悲鳴を上げる切歌を尻目に調は、もう一人の“大切な人”に想いを馳せていた。

 

 

 

ーカルディアsideー

 

「(ハッたくよ、世話の焼ける・・・)」

 

「カルディア・・・」

 

意識を失っていたカルディアが目を覚まし目を開けると、倒れた自分を見下ろすデジェルの姿が映った。

 

「よぉデジェル、お前の勝ちだ・・・俺の“心臓”も、もう限界だな・・・」

 

レジェンド聖衣からノーマル聖衣に戻り胸元を見ると、“心臓の炎”が消えかけている事を確認するカルディア。

 

「カルディア、口では関係無いと言ってはいたが、本当は月読調の異変に、お前は僅かに動揺していた。その僅かな動揺がお前の技から如実に現れていた。さもなければ、私達は同士討ちになっていただろう・・・」

 

「フン、何と言おうが結果はご覧の通りだぜ・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「ンなツラしてんじゃねぇよ、俺は満足してンだ、この“結末”によ・・・」

 

「月読調に、何か伝えておく事は無いか?」

 

「そうだな・・・“悪ぃ、“約束”は守れねぇ、生きろよ”と伝えてくれや・・・」

 

「そうか・・・」

 

「あぁ~~いい気分だ・・・これが俺の、“絶唱”ならぬ、“絶頂”だ・・・・・」

 

カルディアは静かに、そして安らかに瞼を閉じた。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「お兄ちゃん・・・・・」

 

デジェルに近づこうとするクリスを翼が抑えた。

 

「私にも経験がある、今はソッとしておこう・・・」

 

「あぁ・・・」

 

「正直、蠍座<スコーピオン>を戦闘狂だと思っていた。だが違う、あの男は私達よりも“戦士”だったのかも知れないな・・・(奏の望んだ生き方に近かったのも、蠍座<スコーピオン>だったのかもな)」

 

翼とクリスが見守る中、エルシドも、デジェルの近くに歩き、『オーロラ・エクスキューション』の影響で徐々に凍りつくカルディアを見つめる。

 

「ヤツらしい生き方だったな・・・・・」

 

「あぁ・・・さらばだ、カルディア・・・お前の生き方は、戦いにかける姿勢は、燃え尽きる直前の炎のように、熱く、激しく、そして美しかったぞ・・・!」

 

『氷の棺<エターナル・コフィン>』に包まれたカルディアを、エルシドとデジェルは冥福を祈るように黙祷を捧げながら、その頬に一筋の雫が流れた・・・・・。

 

 

 

月の落下までの時間が迫る中、一人の戦士が眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまで。

次回でウェルが持つ『黒い玉』の正体を公開したいです。


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受け継いだ想いと誇り、甦る黒曜の鎧

気分が乗らず、こんな出来。


ーマリアsideー

 

「っっ??!! 何、今の感じ? 何かが消えたようなこの感覚・・・・・?」

 

歌っていたマリアは突然自分の身体に走った奇妙な感覚に、歌を中断させた。

 

「マリア、お前も感じたのか・・・?」

 

「アルバフィカ、何が起きたの・・・?」

 

「・・・・・カルディアが、死んだ」

 

「ッッ!!」

 

顔を伏せて答えたアルバフィカの言葉に、マリアは口に手を当て驚愕し、愕然となった。

 

 

 

ー未来sideー

 

未来は藤尭や友里の報告から蠍座<スコーピオン>のカルディアが死んだ事を知り、唖然となった。

 

「カルディア・・・最後まで君は君の“生き様”を貫いたか・・・」

 

「アスミタさん・・・」

 

「随分冷静何ですね、仲間が死んだって言うのに・・・!」

 

「そうだな、だがヤツが敵側に付いた時点でこうなる事は予測済みだ。騒ぐ程の事ではない・・・」

 

アスミタの言い様に藤尭だけではなく、友里達オペレーターも表情をしかめた。仲間が死んだにも関わらず態度を崩さないアスミタに不快感を持ったからだ。

 

「さて、私は少々席を外れる・・・」

 

ブリッジから出るアスミタ。

 

「冷たい人ね、仲間が死んでしまっても全くの無関心を貫くなんて・・・!」

 

「(違う、アスミタさんも本当は・・・)」

 

嫌悪感を出す友里達と違って、未来はアスミタから“悲しみ”を感じていた。

 

 

ーアスミタsideー

 

「(私にも、友の死を悼む気持ちが合ったのだな・・・!)」

 

ブリッジの外で、アスミタは悲しみを堪えていた。

 

 

ー響sideー

 

「今の、大きな地震って・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「レグルス君・・・?」

 

「カルディア・・・逝ったのか・・・!!」

 

「っ!」

 

レグルスの言葉に響は驚愕し、ポツリポツリと呟く。

 

「分からないよ・・・どうして戦いで解決しようとするの? どうして! こんな風にしか!!」

 

「それが、俺達の知る“カルディアらしい生き方”だからだよ・・・」

 

「死ぬ事が“らしい生き方”だなんて可笑しいよ!!」

 

「そうかもしれない・・・でも、カルディアが自分自身で決めた生き方だ、そこに嘘偽りなんて欠片もない、カルディアの望んだ生き方なんだ。そして“戦う事”が、一番カルディアらしい事だからだよ・・・!」

 

「レグルス君は平気なの!? 何でそんな風に割りきれるの!? 何で!!??」

 

「平気な訳無いだろう!!!!」

 

「ッッ!!」

 

思わず声を荒げるレグルスに響は押し黙る。

 

「平気な訳、無いじゃないか・・・でもな、仲間だから、共に命を賭けて戦う仲間だからこそ、カルディアの気持ちが解るんだ・・・自分の全てを賭けてでも挑まなければならない戦いがあるって事を・・・!!」

 

響に背中を向けるレグルス。だが、その足元に雫が落ちた。

 

「!・・・・・レグルス君、泣いて・・・」

 

「泣いて何かいないさ、“覚悟”を持って戦った男に対して、“同情”や“憐れみ”なんて“侮辱”に値する・・・!!」

 

レグルスは先へ進む、響も何も言わず少し後から付いていった。

 

 

ーマリアsideー

 

「ウッ ウゥッ・・・!!」

 

“カルディアの死”、“自分の歌では何も救えない”、その重圧でマリアは崩れ落ち泣き出した。

 

《マリア、もう一度“月遺跡”の再起動を・・・!》

 

「無理よ! 私の歌で世界を救うだなんて!」

 

《マリア! 月の落下を食い止める。最後のチャンスなのですよ!》

 

「ムッ!」

 

アルバフィカが入口を睨むとドクターウェルがやって来た。

 

「・・・・・・」

 

「この邪魔者がっ!」

 

カルディアやデジェル達にコケにされ、“ソロモンの杖<オモチャ>”を取られて苛立っていたウェルは、茫然自失するマリアを殴ろうとするが、その手をアルバフィカが掴んだ。

 

「・・・・・・・・」

 

「引っ込んでろよ、骨董品! 月が落ちなきゃ、好き勝手出来ないだろうが!!」

 

「ふざけるな、この世界は貴様のオモチャではない!」

 

「うるさいうるさいうるさぁいっっ!! オモチャなんだよ! 人間も世界も、この“英雄”たる僕のオモチャなんだよッ!!!」

 

「っ!」

 

突然、ウェルから“漆黒の波動”が放たれ、マリアとアルバフィカが吹き飛ばされた!

 

「グアッ!」

 

「あぁっ!」

 

《マリア! アルバフィカ!》

 

「やっぱりオバハンか・・・!」

 

制御コンソールに立ったウェルは下劣な笑みを浮かべて、コンソールを操作する。

 

《お聞きなさい、ドクターウェル。『FRONTIER』の機能を使って、収束したフォニックゲインを月へと照射し、『バラルの呪詛』を司る遺跡を再起動できれば、月を元の起動へ戻せるのです!!》

 

「そんなに遺跡を動かしたいのなら! アンタが月へ行ってくれば良いだろう!!」

 

ナスターシャ教授の言葉をまるで『大人からのお説教で癇癪を引き起こした幼稚な子供』のように金切り声を上げたウェルが、コンソールを起動させた!

 

すると、ナスターシャ教授がいる区画が月に向かって射出された!

 

「マムッ!」

 

「ナスターシャ教授!!」

 

「有史以来、数多の『英雄』が人類支配を成し遂げられなかったのは! 人の数がその手に余るからだ!! だったら支配可能なまでに、減らせば良い! 僕だからこそ、気付いた議長論!! 『英雄』に憧れる僕が『英雄』を越えて魅せる!! フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!」

 

醜悪に顔を歪めて狂笑するウェルにマリアは槍を、アルバフィカは黒薔薇を構える!

 

「下衆がっ!!」

 

「よくもマムを!!」

 

「手に掛けるのか?! この僕を殺すことは、全人類を殺すことだぞ!!」

 

「戯れ言を!!」

 

「殺す!!」

 

「ウエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!」

 

自分に向かってくるマリアとアルバフィカに悲鳴を上げるウェル。

 

 

 

 

 

しかし、その前に響とレグルスが立ち塞がった!

 

「っ!」

 

「・・・・・」

 

「レグルス! ガングニールの!?」

 

「なっ、ソコを退け! 『融合症例第一号』!」

 

「違う! 私は立花響、16歳! 『融合症例』何かじゃない! 只の立花響が、マリアさんと話がしたくてここに来ている!」

 

「お前と話す必要は無い! マムはこの男に殺されたのだ! だから私もコイツを殺す! 世界を守れないのなら、私も生きる意味が「マリア!」っ! アルバフィカ・・・?」

 

突然大声を上げたアルバフィカにマリアは戸惑いながら見ると、アルバフィカがマリアのマントの胸ぐらを掴んだ。

 

「“生きる意味が無い”だと? ふざけた事をほざくな! お前が生きなければ、誰が“セレナの想い”を継ぐんだ!?」

 

「っ!!」

 

セレナの名が出て、マリアの心が揺れた。

 

「(今の内に・・・・・)「ドガッ!」グゲェッ! ヒィイッ!!」

 

こそこそと逃げようとするウェルの背中をレグルスが踏みつけ捕らえた。

 

「逃げるなよ、ウェル・・・」

 

「レグルス、その男の左腕に気を付けろ。“ネフェリム”の細胞を埋め込んでいる」

 

「“ネフェリム”?」

 

「ガングニールの少女の腕を噛みちぎった化け物だ」

 

「あぁ、アイツか・・・」

 

「そうだ、“ネフェリム”は聖遺物を操る力を有している。この『FRONTIER』もその腕を使って操作しているのだ」

 

「了解・・・」

 

グギュッ!

 

「イギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

もう片方の脚でウェルの左の肩甲骨を踏みつけるレグルスのその目は、以前ぶちギレた時に見せた『百獣の王の威圧感』であった。

 

「レグルス君、やり過ぎじゃ・・・」

 

「コイツが未来にやらかした事を考えれば、この程度でも生温いよ・・・!」

 

「ひ、ひ、ひぎ、ひぎぎ、ひぎひひぃいいっ!!」

 

ウェルはまるで追い詰められたドブネズミのように震え上がった。そんなウェルを眼中に無いのか、アルバフィカが言葉を続ける。

 

「セレナが何の為にその命を燃やして、お前やナスターシャ教授、それに自分の命を“道具”として扱ったソコのウェルに負けず劣らずのクズ共を助けたと思う?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「セレナはな、大切にしていたからだ、お前のことも、ナスターシャ教授のことも、自分の回りにいる人達、全部を大切にしていた。大切だから、守りたいから命を落とす覚悟で“絶唱”を使った。お前が“生きる意味が無い”なんて言ってしまっては、あの時のセレナの何の為に犠牲になった?! セレナの想いを無駄にする積もりなのか!?」

 

「もう良い・・・もう良いよアルバフィカ。マムも、カルディアも、セレナも、皆死んでしまった・・・もう私には、もう何も・・・」

 

「本当にそう思っているのか?」

 

「えっ?」

 

「お前には、セレナから“託された歌”があるだろう・・・」

 

「歌・・・」

 

「セレナは、この世界に転生して間もなく、FISに保護、と言うより軟禁されていた私達によく聴かせてくれた歌だ・・・」

 

 

 

ー数年前ー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

アルバフィカ、マニゴルド、カルディアが軟禁された部屋の外でセレナが歌を歌っていた。

 

「良い歌だな・・・」

 

「うん! 姉さんと歌う大切な歌なの!」

 

「お前も物好きだな、こんな得たいの知れない奴等のいる所に毎日にように来やがって・・・」

 

「ま、俺らも退屈しのぎにはなるけどよ・・・」

 

「・・・ねぇ、アルバフィカ達って強いの?」

 

「? 強いかもな、少なくとも私一人でこの研究所を制圧する事も可能だ・・・」

 

「そう、なんだ。ねぇ、お願いがあるんだけど・・・」

 

「「「お願い?」」」

 

「うん、あのね、私の姉さん、マリア姉さんの助けになってほしいの・・・」

 

「どういう事だ?」

 

神妙な顔付きになったセレナからただならない雰囲気を察したアルバフィカとマニゴルドとカルディアも身を乗り出した。

 

「ううん、もうすぐ何かの実験が行われるようだから、もしも何か起きたらって考えちゃって、ゴメンね・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

「アルバフィカ達が強いなら、もしもの時、姉さんやナスターシャ教授の力になって欲しいなって・・・・・ゴメンね、アルバフィカ達だって「良いだろう」え?」

 

「良いと言ったのだ、“友人”の頼みだからな・・・」

 

「ま、歌の代金代わりに働いてやらぁな・・・」

 

「この時代に聖域<サンクチュアリ>が有るかどうかも怪しいしな、退屈しのぎにお前らに協力してやる・・・」

 

「・・・っ!」

 

アルバフィカ達の返答にセレナは嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとう、皆!」

 

 

 

 

 

ー現在ー

 

「セレナとの約束・・・! もしかしてそれで、アルバフィカ達が私達に協力してくれていたのは、セレナとの約束の為に・・・!」

 

「私にとってセレナは、この世界で始めて出来た友人であり、その友人との誓いの為だ、マニゴルドとカルディアはそれぞれの目的があったがな・・・」

 

「でも・・・・・私には・・・・」

 

「マリア、セレナから“託された歌”が、お前とセレナの“絆”だ。お前にはセレナの想いを受け継いでいる。私にもある、“大切な人”との“絆”がな・・・!」

 

「アルバフィカにも・・・?」

 

「マリア、知っているだろう? 私の身体に流れる“血”の事を・・・」

 

アルバフィカの言葉にマリアは頷くが、響は首を傾げレグルスに聞いた。

 

「どういう事?」

 

「魚座<ピスケス>の黄金聖闘士は、猛毒の薔薇であるデモンローズに対する耐毒体質なんだ、アルバフィカはその“完成形”とまで言われる程で、“血の一滴まで毒に染まった身体”と言われている。だが、アルバフィカはそれで他人に触れられないんだ・・・」

 

「えっ、どうして?」

 

「血の一滴まで毒に犯されているから、下手に他人に触れれば体内に流れる“猛毒の血液”が他人を傷つけてしまうんだ。だから、俺達の世界にいた時から、アルバフィカは誰とも触れあわず、孤独に過ごしていたんだ・・・」

 

「っ!」

 

レグルスの話に響は息を呑む。もしも自分がアルバフィカと同じようにだったら、誰とも触れあわず孤独な人生を歩むようになっていたら、翼やクリス、弦十郎達や弓美達にも、未来とも手を繋ぐ事が出来ない生き方だなんて自分では絶対に耐えられない。そんな生き方を選んだアルバフィカの考えも響には理解出来なかった。

 

「私の身体に流れる血はな、私の師であり、育ての親でもあった前魚座<ピスケス>の黄金聖闘士 ルゴニス先生の血なのだ・・・」

 

「アルバフィカの先生・・・」

 

「先生は、赤子であった私をデモンローズが群生する場所で見つけ、生まれながら耐毒体質であった私を戦士として育て、そして私自身も先生と共に戦う為に、“ある儀式”を行った・・・」

 

「“儀式”・・・?」

 

「その“儀式”とは・・・私と毒の血液を持つ先生の“血液を一滴ずつ交換”する事だ。私はその“儀式”で何度も死線をさ迷いなんとか生き延びてきた。だが、時が経つにつれ、私は先生の“毒の血”に耐性が生まれ、徐々に先生の方は窶れていった・・・」

 

「まさかっ!」

 

「そうだ、私は先生の毒を受け続ける内に耐性が出来てしまい、逆に“先生の毒より強力な毒”を体内で生み出すようになったのだ、そうとは知らず私は愚かにも、“儀式”を続け、ルゴニス先生を死なせてしまったのだ ・・・!」

 

「「っ!」」

 

「・・・・・」

 

「(なにをべんちゃら言ってんだ・・・! 早くここからずらからないと・・・)「グギュゥッ!」ウギャウンッ!!」

 

懲りずに逃げようとするウェルの頭をレグルスはアルバフィカの方を見守りながら踏みつける。

 

「魚座<ピスケス>の黄金聖闘士は、儀式により血の循環の過程でより強い毒性と耐毒の肉体を得た物が生き残り、戦いの道を往くのが掟。双子の魚が描かれておきながら、魚座の黄金聖衣が一匹の魚で作られているのがその証、旧き魚座から新たな魚座に受け継がれる姿なのだ・・・」

 

「そんな・・・そんな生き方、悲しすぎるよ・・・悲しすぎるよそんな生き方!」

 

アルバフィカに向かって響が叫ぶ。

 

「なんで、アルバフィカさんそんなは生き方を受け入れられるの!? なんで!!??」

 

「アルバフィカ、貴方は怨まなかったの? 自分の師であり父であるルゴニスを殺したその“血”を、憎まなかったの?」

 

「憎んだ、恨みもした。だがな、この血は“先生を殺した血”であると同時に、先生から“受け継がれた血”でもあるのだ・・・!」

 

「受け継がれた・・・」

 

「この血から感じるのだ。先生の想いを、先生の熱さを、先生の・・・私へ込められた願いを感じるのだ。先生は私を信じてくれたから私はこの血を忌々しい等と思わない、この血こそ、私が先生から託された“誇り”なのだから・・・!」

 

「先生から託された誇り・・・」

 

「マリア、お前にも託された筈だ。セレナから託された歌が、お前とセレナの絆だ・・・!」

 

「セレナとの歌・・・私とセレナの絆・・・私の誇り・・・!」

 

アルバフィカの言葉にマリアはギアが解除され、静かに佇んだ。

 

「・・・・・・・・」

 

「響、アルバフィカの生き方を理解出来ないのは仕方ないと思うよ、人が他人の生き方を理解する事は簡単じゃない、他人にとっては度しがたい生き方でも、当人は誇りの持った生き方だから・・・」

 

「でも、そんな生き方、アルバフィカさんが可哀想だよ・・・!」

 

「アルバフィカは、自らこの生き方を選んだんだ。それを響の物指しで計って、憐れみ哀れむのは、アルバフィカに対する最悪の侮辱行為だ・・・!」

 

「でも!」

 

「それに、アルバフィカは別に、孤独って訳じゃないんだよ。ちゃんと、アルバフィカの毒を怖れず近づく奴等がちゃんと居るんだからさ♪」

 

アルバフィカを見るレグルスの目は、優しさに満ちた眼差しであった。

 

「・・・・・」

 

響はアルバフィカの生き方も、カルディアの生き方も理解出来ない。しかし、レグルスのアルバフィカを見守る目を見ていると自然に自分も・・・・・。

 

「(私も、アルバフィカさんと・・・・・)」

 

「さて、コレどうしようか?」

 

レグルスに絶讚踏みつけられ、ゴキブリのように這いつくばるウェルに目を向ける。

 

「レグルス、何故ソイツを庇うのだ?」

 

「まぁさ、こんなのでも殺したら殺人罪って奴になるし、マニゴルドともマリアやアルバフィカの身を安全と自由を約束したからさ、こんな雑魚殺して無用な罪を背負わせる訳には行かないからな・・・・」

 

「(ピクッ!)雑魚・・・・・?」

 

「確かに、このような矮小な小物を殺して罪を背負うなど馬鹿げているな・・・」

 

「(ピクピクッ!)矮小な・・・小物だと・・・!!」

 

レグルスに踏みつけられながらウェルは歯ぎしりし、顔を憤怒に歪めまくる。自らを英雄と称える自尊心<プライド>が高いウェルにとって、雑魚や矮小な小物と呼ばれる事は我慢出来なかった。しかも散々屈辱と恥辱と汚辱を与えられた黄金聖闘士と言う“骨董品の遺物”で“異分子”達に・・・・・。

 

「テメェら・・・テメェらテメェらテメェらテメェらテメェらテメェらテメェらテメェらテメェらテメェらテメェらッッッ!!!!!!! どこまで!どこまで!どこまで!どこまで!どこまで!どこまで!どこまで!どこまで!どこまで!どこまでっ! どこまでもこの僕ををををををを!!! コケにしやがってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇッッッ!!!!!!!」

 

ウェルは“ネフェリムの細胞”を移植した左腕から“黒い玉”を取り出した!

 

「「っ!!」」

 

その“黒い玉”を見た瞬間、レグルスは響とマリアを抱えてアルバフィカと後方へ飛ぶ!

 

「見せてやる!! この僕が! この僕こそが! この世界に顕現した最高最強のスーパーヒーローだと言う事をなあああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!」

 

ウェルの手の中の“黒い玉”から邪悪な小宇宙<コスモ>が吹き出した!

 

「まさかっ!」

 

「あれはっ!」

 

レグルスとアルバフィカに戦慄が走る!

 

 

 

ー遺跡近くー

 

「ぬっ!?」

 

「エルシド・・・?」

 

「んっ!?」

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

エルシドが翼を、デジェルがクリスをお姫様抱っこしながら遺跡に向かう途中、二人も小宇宙<コスモ>を感じた

 

 

 

ー『黄泉比良坂』ー

 

「あん?」

 

「どうしたのマニゴルド?」

 

「こりゃヤベェかもしれねぇ・・・!」

 

「(ギリギリギリギリギリギリ)あのぅ! それよりもアタシへのお折檻はそろそろ勘弁して欲しいんデスけどおおおおおおおおおおっっ!!」

 

切歌への折檻を続けていたマニゴルドも、邪悪な気配を感知した。

 

 

 

ー二課仮説本部・レグルスの部屋ー

 

「フム、これがレグルスが見つけた・・・っっ!! あの小物、厄介なモノを取り出したか・・・!」

 

アスミタはレグルスがフランスで見つけた“あるもの”を持ち出すと、ブリッジに戻った。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「アルバフィカ、あれって・・・!」

 

「あぁ、間違いないっ!」

 

レグルスとアルバフィカが睨む先には、ウェルが下劣に、醜悪に歪めまくった笑い顔を晒していた。

 

「イィイヒャァハハハハハハハハハハハハハハっ!! イイイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!! 見せてやる! コレが僕が手にした英雄足らしめる力あぁっ!! 出でよっ!! 冥界の鎧っ!! 冥衣<サープリス>ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!!!!」

 

ウェルは、頭上に“黒い玉”を投げると、玉が砕け、ソコから顕現したのは!?

 

黒曜石の如く輝く禍々しくも美しい鎧、神話の魔物や邪悪な精霊がデザインされた鎧、魔星に選ばれた者が纏う事を赦された鎧、死者の世界、冥界を統べる神『冥王 ハーデス』が造り出した漆黒の鎧ーーーーーーーーーーーその名も、『冥衣』!

 

背中に“無数の腕を生やした仏像”の形の冥衣は妖しい輝きを放っていたーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ウェルが持っていた黒い玉は、冥衣の待機状態の形です。


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復活の撃槍

お待たせしました。


ー『黄泉比良坂』ー

 

黄泉比良坂で“邪悪な小宇宙<コスモ>”を感知したマニゴルドは、調と折檻を終えた切歌を連れて現世への扉を開けようとする。

 

「あぁ~~~、頭の中の脳ミソが潰れるかと思ったデスよ・・・!」

 

「切ちゃんが自決なんてバカな事しようとしたからだよ・・・」

 

「元々大して中身が入ってない頭なんだから、気にする事ねぇだろうが」

 

「うぅっ、調とマニゴルドが酷すぎるデェス・・・!」

 

マニゴルドの折檻で涙目になり文句を言うが、調とマニゴルドにバッサリと切り捨てられ、情けない顔になる切歌を無視して、現世への扉を開けるマニゴルド。

 

「さてと、何処でお前はどうすんだ・・・?」

 

「「???」」

 

急に後ろを見据えるマニゴルドに首を傾げるとマニゴルドの目を追う。

 

「え・・・っ!?」

 

「デデデデデデデデェェェェェスッ!!!!」

 

目を見開く調と仰天する切歌、目の前に“半透明になった仲間”がいたのだ。

 

「あのバカ<ウェル>が珍しく面白い事を起こしたぞ、 このままおっ死<ち>んでるなんてらしくねぇぜ♪」

 

マニゴルドが問うと“半透明の仲間”は“獰猛な笑み”を浮かべた。

 

 

 

 

 

ー現世ー

 

 

冥界の鎧、『冥衣<サープリス>』。死者の世界『冥界』を治める神、『冥王 ハーデス』によって108の魔星に選ばれた者達にしか纏えない鎧。神話の魔獣や妖精や精霊、伝説上や空想上の魔物がモチーフとなっており、その黒曜石の輝きは死者の世界を象徴するかのように、妖しく、禍々しく、しかし美しいーーーーーーーーー。

 

そして今、遥か時を越えて、野望と欲望の狂人の手によって、108の魔星の中でも、『冥界で最も神に近き者』が纏っていた冥鎧<サープリス>が目覚めた!

 

 

 

ーアスミタsideー

 

響達のいる区画の映像は今現在も放送されており、モニターに映し出された状況に友里や藤尭を含むオペレーター一同、そして未来も愕然と見ていたが、ブリッジの扉からアスミタが入り、正気に戻り未来は震える声でアスミタに問う。

 

「アスミタさん、あれって・・・?」

 

「ウム、あれこそ、あの鎧こそ、遥か彼方の時代にこの地上を滅ぼした『神々の大戦<グレートウォー>』を引き起こすきっかけを作った神、冥王ハーデスに使える闘士、冥闘士<スペクター>の『冥衣<サープリス>』だ!」

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「あれが、冥衣<サープリス>・・・!」

 

「地上を第二の冥界に変えた悪の神、ハーデスの冥闘士<スペクター>が纏う鎧・・・!」

 

震える声で響とマリアも、『背中に無数の手を背負った厳つい顔のオブジェ』が分割され、ウェルの身体に装着された冥界の鎧を愕然と見ていた。

 

「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、イィヒャアァハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!! どうだ! 見たか! これこそ! この鎧こそ! この僕こそが! この時代に降臨した、最高にして至高のスーパーヒーローの証! “ネフェリムの細胞”を取り込み! 完全支配した冥界の鎧だっ!! 僕はなんっっって凄いんだっ! 今や『真の英雄』たる僕の前では、冥界の鎧は! 僕にかしずく玩具にしたのだからなぁッ!!!! アヒャァハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

耳障りな狂笑を上げるウェルを睨むレグルスとアルバフィカ。

 

「ウェル、何処でその冥衣をっ!?」

 

「“ウェル様”と呼べッ!! この僕を呼び捨てにしてんじゃねぇッ!!! この“異分子”がッッ!!!!」

 

ヒステリックに喚くウェルは、背中の無数の腕がアルバフィカと響とマリアを抱えたレグルスに襲い掛かる!

 

「クッ!」

 

「ウワッ!?」

 

次々と襲い来る腕をかわすレグルス達。

 

「ウェヘヘヘヘヘヘ、まさに壮観! この僕の冥衣の前では、テメェら“骨董品”なんて所詮“旧世代の遺物”! この僕と言う“新世代の英雄”の前では塵芥に等しい!」

 

「何で魔星に選ばれた訳じゃないウェル博士が、冥衣を纏えるんだっ!?」

 

「おそらく“ネフェリム”の細胞を投与したあの腕だ! “聖遺物を操る力を持つ腕”で、冥衣を操っているのだ!」

 

「“ネフェリム”の細胞でドーピングした力かっ!?」

 

「ヒャァハハハハハハハハハハッッッ!!! 最ッッ高の気分だぁ!」

 

狂笑を上げるウェルは更に無数の腕で響とマリアを抱えて動きにくくなっているレグルスを集中的に狙った。

 

「うわっ!」

 

「キャッ!」

 

腕に引っ掛かり、響とマリアはレグルスから引き剥がされる。

 

「響ッ!」

 

「マリアッ!」

 

レグルスとアルバフィカは急いで二人の元へ向かおうとするが。

 

「行かせるかYOッ!」

 

ウェルは更に腕で攻撃し、レグルス達を足止めする。

 

「くっ!」

 

「(私に、シンフォギアがあれば・・・!)」

 

マリアはガングニールを起動させたくとも、ウェルからの攻撃をかわすのが精一杯の状態、響も日頃の特訓の成果か何とかかわしている。

 

「そろそろ、鬱陶しいバカ女<マリア>を始末するかな? 嫌、先ずは僕に恐怖の屈辱を与えた化け物女<響>かなぁ? 決~~~~めた♪」

 

ウェルがマリアに目を向けていたが、直ぐに響に目線を変える。

 

「えっ・・・?」

 

「さっさと消えろYO! 化け物女ぁああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

ウェルの背中の冥衣の腕が響に襲いかかる、次の瞬間!

 

ドンッ! ドドドドドドっ!!!

 

「あっ・・・あぁ・・・!!」

 

「ガハッ!」

 

響を突き飛ばし、マリアの身体に冥衣の拳がめり込む!

 

「マリアーーーーーーーーーッ!!!!」

 

「マリアさーーーーーーーーーんッ!!!!」

 

「あぁっ!」

 

「ンフゥッ♪」

 

アルバフィカと響の悲痛な叫びが区画に響き、レグルスは愕然となり、ウェルは下劣にニヤケ笑みを浮かべ、マリアは壁の柱まで吹き飛ぶ。

 

「・・・・・・」

 

「マリアっ!!!」

 

アルバフィカは自分の身体の事を省みず、吹き飛んだマリアを受け止めて地面に横たわらせると、小宇宙<コスモ>を流して治療を行う。

 

「ウヒヒヒヒヒヒ、イヤァヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!! 失敗作の贋作女がぁ! 化け物女を庇うとは! とんだお笑いだなぁ!!!アヒャハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

「いい加減にしろよ・・・!」

 

「ハァ? グギャビッ!!!」

 

金切り声で耳障りな笑いを上げるウェルの眼前に無表情のレグルスが現れ、晒された顔面に拳を深く叩きつける!

 

「ギベラァアッッ!!!」

 

殴り飛ばされたウェルは鼻血と口の中を切ったのか血を吐き出しながら、壁に叩きつけられる。

 

 

ー響sideー

 

響はアルバフィカの元へ走った。

 

「アルバフィカさん! マリアさんは!?」

 

「ウェルが遊びでの攻撃だったから致命傷には至ってはいないが、戦闘ができる状態ではない・・・!」

 

アルバフィカの治療を受けているマリアは、響に目を向ける。

 

「“融合症例”・・・嫌、立花響だったかしら・・・?」

 

「はい!」

 

「不思議ね・・・今更人助けをするだなんて・・・本当に私は、“中途半端”で・・・・・!」

 

「それで良いんだマリア。セレナが大好きだったのは、“悪者のマリア”ではない、“優しいマリア姉さん”なのだからな・・・」

 

悔しさを滲ませるマリアにアルバフィカが優しく諭した。

 

「・・・そうかもしれないわね・・・」

 

フッと笑顔を浮かべるマリアは首から下げていた“ガングニールのペンダント”を引きちぎり、振るえる手で響に渡そうとする。

 

「これ、を・・・・・」

 

「ガングニール。でもこれはマリアさんの・・・」

 

「戦えない私よりも、貴女が持っていた方が良い・・・!」

 

「マリアさん・・・」

 

「貴女は、彼らに・・・“黄金の英雄達”に認められている。もしかしたら、この力を持つ事ができるかもしれない・・・!」

 

「・・・・・」

 

「お願い・・・!」

 

「頼む・・・!」

 

「(コクンッッ!!)」

 

響はマリアの手を握ると力強く頷いた。

 

 

ーレグルスsideー

 

「はひ! はひ! はひひぃいいいいいっ!!!」

 

殴られた顔を押さえながらウェルは惨めに悲鳴を上げる(因みにその惨めな姿は全世界に放送されている)。

 

「・・・・・そうか、思い出した」

 

「ふひゃひぃッッ!!!」

 

ウェルの近くに来たレグルスの“威圧感”に、ウェルは以前に浴びた恐怖を思い出し、顔を醜悪に歪めて尻餅を付いて後ずさる。

 

「マニゴルド達に言われてから、中々思い出せなかったけど。そうか、あの時<カ・ディンギルでの戦い>、響の腕を噛み千切ったヤツ<ネフェリム>の近くで、なんか五月蝿く喚いていたヤツか・・・!」

 

「アァアッ! アァッ・・・!」

 

「あの時も言ったけど・・・お前、さっきから煩いよ・・・!!」

 

「フギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

まるで“獅子の威圧感”により、追い詰められたネズミのように錯乱したウェルは、背中の腕を乱雑に振り回してレグルスを攻撃するが、レグルスは余裕に回避していた。

 

「来るな! 来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなあああああああああああッッッッ!!!!!!」

 

如何に冥界の鎧をその身に纏っても、根は『“覚悟”も無く、“力”を得ただけの子供』、自分が優位な立場で無ければ戦う事が出来ないウェルは、錯乱した子供のような攻撃をするが、レグルスはまるで相手にしていないのか苦もなくかわしていると、レグルスの瞳に響が映った。

 

「(響、歌うか・・・?)」

 

 

 

ー響sideー

 

マリアから託された“ガングニールのペンダント”を握りしめ、響は歌う、“戦いの唄”を!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」

 

ガングニールのペンダントが光輝くと衣服が弾け、響の身体をマリアの時は黒かった鎧が、響のメインカラーである橙色に変わり、その身に装着された。

 

本来は、『北欧神話の主神 オーディーン』が振るったとされる『槍』だが、“誰かと手を繋ぎたい”と願う響の想いに呼応した。橙色に輝く響のシンフォギア!

 

「『撃槍 ガングニール』だーーーーーーッ!!!』」

 

 

 

 

ー弓美sideー

 

“ガングニール”を纏う響の姿は、全世界に放送され、その姿は弓美達も見ていた。

 

「ビッキー・・・!」

 

「やっぱり立花さんの・・・!」

 

「人助け・・・!」

 

友の勇姿に誇らしげに微笑む弓美達。

 

 

 

ー響sideー

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!! こ、こんな所で!! やっとスーパーパワーを手に入れたのにッッ!!! こんな所で、終わるかぁアアアアアアアアアッッ!!!!」

 

レグルスだけではなく、もう一人の化け物(ウェルの被害妄想で認定)である響の復活に、更に錯乱したウェルは惨めに這いつくばって逃げようと、左腕を遺跡の床に叩きつけると、床から小さな穴が現れた。

 

「あっ!」

 

「逃げるかっ!」

 

「うっ・・・」

 

「マリアっ!」

 

「アルバフィカさん、マリアさんをお願いします!」

 

「待てこの悪党!!」

 

「来るなアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

マリアをアルバフィカに任せ、逃げようとするウェルを追おうとするレグルスと響に冥衣の腕が襲うが回避する。出入り口から弦十郎と緒川がやって来た。

 

「ウェル博士っ!」

 

「捕まって溜まるかっ!!」

 

往生際悪く、ウェルは開いた穴から下に逃げ、穴は直ぐに閉じてしまった。

 

「くっ!」

 

「響さん! そのシンフォギアはっ!?」

 

「マリアさんの“ガングニール”が、私の歌に答えてくれたんです!」

 

ズシイィィン!!

 

突然、『FRONTIER』全体が大きく揺れた。

 

「なんだっ!?」

 

「ウェルめ、今度は何をするつもりだっ!」

 

『FRONTIER』が大気圏を越えようとしていた。

 

 

ーアスミタsideー

 

「響・・・・・!」

 

「まさかマリア・カデンツァヴナ・イヴのガングニールを、響ちゃんが纏う事が出来るなんて・・・!」

 

響の起こした“奇跡”に、ブリッジにいる全員が見つめていた。が、そうではなかった人物が一人。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「アスミタさん・・・・・」

 

ウェルが冥衣を纏った姿を見てから、他の人間達には気付かない位に、僅かに渋面を浮かべるアスミタに未来だけが気付いていた。

 

ズシイィィン!!

 

『っ!?』

 

『FRONTIE』の地響きが起き、友里達は分析を始めた。

 

「重力場の異常を検測!」

 

「『FRONTIER』、上昇をしつつ移動を開始!」

 

『FRONTIER』の異常を聞いたアスミタはブリッジから戦場に転移しようとするが、未来がマントの端を掴み、友里達に聴こえないように小声で話す。

 

「待って下さい、私も・・・・・!」

 

「良いのか? これから私は聖闘士としての“務め”を果たすつもりだ。見たくないモノや危険が待っているぞ?」

 

一応だが、ハーデスの冥闘士が現れたと言う事は、アテナの聖闘士として、戦地に赴こうとするアスミタに付いて行こうとする未来に忠告する。

 

「それでも、私も行きたいんです。もう待ってるだけはイヤなんです・・・!」

 

「(この眼・・・アテナ様に似ている) 良いだろう。しかし、勝手な行動は慎むのだぞ・・・」

 

「はいっ!」

 

パァッと笑顔になる未来と転移しようとするアスミタ。

 

「未来ちゃんっ!?」

 

「何処へっ?!」

 

漸く気づいた友里と藤尭が停める間もなく二人は転移した。

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「何が起こったんだ・・・?」

 

「今のウェルは、左腕を『FRONTIER』に繋げる事で、意のままに制御できる・・・」

 

アルバフィカの治療を受けているマリアは息絶え絶えながら答える。

 

 

 

 

ーウェルsideー

 

冥衣を纏ったウェルは通路に沿ってヨロヨロと歩き、左腕で壁に設置されたシステムを起動させていた。

 

「“ソロモンの杖”が無くとも、僕にはこの“冥衣”と『FRONTIER』がある・・・! 邪魔する奴等は、重力波にて、足元からひっぺがしてやる・・・! そうさ、あんな“遺物”共に・・・! あんな“異分子”共なんかに・・・!新世界のニューヒーローであるこの僕の、この僕の壮大かつ崇高なストーリーを汚されて溜まるか・・・!!」

 

 

 

ーマリアsideー

 

「『FRONTIER』の動力は、“ネフェリムの心臓”。それを停止させれば、ウェルの暴挙も止められる・・・! お願い、戦う事が出来ない私に変わって・・・お願い・・・!」

 

悲痛なマリアに、響は能天気な声を掛ける。

 

「調ちゃんにも頼まれてるんだ」

 

「っ・・・」

 

「“マリアさんを助けて”って。だから、心配しないで♪」

 

「それに、マニゴルドが先にウェルを見つけたら大変だしな・・・」

 

「レグルス、あのゴロツキ蟹は何を言ってきたんだ?」

 

「協力する条件として、“マリア達の身の安全と自由の保証”。そして、“ウェルの生殺与奪に邪魔をせず、口を挟まない事”、だよ♪」

 

「えっ・・・!」

 

「成る程」

 

マニゴルドが出した“3つ目の条件”は、“人命優先”・“罪を憎んで人を憎まず”な二課の大義名分に、盛大に喧嘩を売る内容だった。

 

「まぁ正直、オレもエルシドもデジェルも、ウェルを処刑する事には何の異論は無いんだけどさ。流石に公僕である二課の皆にとっては容認できるモノじゃないからね。そこで、マニゴルドと“競争”する事にしたんだ」

 

「「“競争”・・・?」」

 

レグルスの後を弦十郎が引き継ぐ。

 

「マニゴルドが先にウェル博士を確保したら、煮るなり焼くなり捌くなり好きにして良い。だが俺達か翼達がウェル博士を確保したら、お上の裁きに任せるってな・・・」

 

「そ、そうなの・・・・・」

 

「(だとすれば私はマニゴルドの側に付いた方が、都合が良いかもしれんな・・・・・)」

 

ズガアアアアアアアアアンッッ!!

 

『っ!?』

 

四人が目を向けると、ウェルが逃げた床を弦十郎が拳で破壊した。

 

「師匠!」

 

「ウェル博士の追跡は、俺達に任せろ! だから響君とレグルス君は・・・」

 

「“ネフェリムの心臓”を・・・!」

 

「停めます!!」

 

「(コクン) 行くぞ、緒川!」

 

「はい!」

 

弦十郎と緒川はウェルの後を追った。

 

「待ってて、ちょっと行ってくるから!」

 

「アルバフィカ、お前はどうする?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「アルバフィカ、行って・・・」

 

「マリア・・・」

 

「ウェルが冥闘士の力を悪用するなら、貴方は聖闘士としての本懐を果たして・・・」

 

「了解した・・・!」

 

アルバフィカは弦十郎達を追い、レグルスと響は区画にある吹き抜けから、外に飛び出した!

 

 

既に重力の影響がほとんど無くなり、浮かび上がっている残骸は飛び越える二人が地面に着地すると、エルシドと翼、“ソロモンの杖”を持つクリスとデジェルの四人と合流した。

 

「翼さん! クリスちゃん!」

 

「エルシド! デジェル!」

 

「立花・・・!」

 

「もう遅れは取りません、だから!」

 

「あぁ、一緒に戦うぞ!」

 

「はいっ! あっ!」

 

響はクリスが“ソロモンの杖”を持っていることに気づいた。

 

「やったねクリスちゃん! きっと取り戻して帰ってくるって信じてた!」

 

「アタシが、取り戻した訳じゃない。それにこんなモノの為に、蠍座<スコーピオン>が・・・・・・!」

 

「あっ、カルディアさん・・・」

 

「・・・・・あの男は、間違いない無く“戦士”であった、おそらく我々奏者よりもな・・・」

 

カルディアが死んだ事を思い出し、少し気落ちする奏者達。

 

「カルディアの死を悼むのは後にしておけ・・・」

 

「今私達のやるべき事は、『FRONTIER』を操る“ネフェリムの心臓”の停止だ・・・」

 

「「「・・・・・っ!」」」

 

エルシドとデジェルの言葉で、奏者達は気持ちを切り替える。

 

ビビッ!

 

『っ!?』

 

全員の通信機から弦十郎の通信が届いた。

 

《本部の解析にて、高質量のエネルギーを検知した! おそらくあそこが、『FRONTIER』の炉心、“心臓部”に違いない! 聖闘士達と奏者達は、本部からの支援情報に従って急行せよ!》

 

「行くぞッ! この場に“黄金”と、“槍”と“弓”にそして、“剣”を携えているのは我々だけだ!」

 

六人は、炉心がある“心臓部”に向かった!

 

 

 

ーマリアsideー

 

傷も回復し、起き上がるマリアの目の前で、“光”が現れた。

 

「っ! 貴方達は・・・・・!」

 

其処に現れたのは、乙女座<ヴァルゴ>のアスミタと小日向未来だった。

 

「マリアさん・・・!」

 

「・・・・・」

 

「何をしに来たの? 小日向未来は兎も角、ヴァルゴ、貴方は・・・」

 

「何、少し迷いの中にいる君に、道を示してやろうと思ってな・・・」

 

「道・・・?」

 

意味が分からないと言いたげのマリアを無視して、アスミタは座禅を組む、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

小宇宙<コスモ>を高め、アスミタの全身を“黄金の光”が包むと、“少女”の声が響いた。

 

[姉さん・・・]

 

「っ!?」

 

マリアの耳に、聞き覚えが、嫌忘れる筈の無い“少女”の声にアスミタの頭上を見上げると。

 

「あっ・・・あぁっ・・・」

 

マリアの瞳に涙が浮かんだ。

 

[マリア姉さん・・・!]

 

その“少女”は、マリアがずっと想い、1日たりとも忘れた事が無かった“大切な妹”。

 

「セレナっ・・・!!」

 

“セレナ・カデンツァヴナ・イヴ”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でウェル博士に天誅をかましたいです!


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マリアの決意

ー弦十郎sideー

 

弦十郎と緒川は、ウェルを確保すべく『FRONTIER』の通路を駆ける。

 

「急ぐぞ緒川、ウェル博士を俺達が確保しなければならん!」

 

「レグルス君達にこっちに回ってもらっても良かったのでは?」

 

「嫌、恐らくたが、レグルス君もエルシドもデジェルも、ウェル博士を見つければ抹殺するかもしれん」

 

「そんな・・・!」

 

「アイツら聖闘士と、俺達二課とでは根っこの部分が微妙に違う。俺達は“罪を憎んで人を憎まず”が信条だが、アイツら聖闘士は“悪は決して許さず”を信条としている。聖闘士達は、ウェルを“殺す”事に躊躇をしないだろう・・・」

 

「・・・・・彼等聖闘士には、私達のやり方はとてつもなく“回りくどく”、そして何よりも、“甘い”と感じているでしょうか?」

 

「だろうな。交渉の時に、蟹座のヤツにも言われたよ。“テメェらの性分は知ってるが、俺がお前らの性分に従う理由は無い”ってな」

 

「アレはかなり堪えましたね・・・」

 

マニゴルドのその言葉は、ある意味、弦十郎達は聖闘士達に“自分達の性分を聖闘士に押し付けている”と言ったのだ。

 

「だがそれでも、俺はこの性分を曲げる積もりは無い。例え聖闘士達から“甘い”と断じられようともな・・・!」

 

「はい・・・!」

 

何を言われても自分の“意志”を曲げない弦十郎に緒川も同意するように頷く。

 

「だが今回はひっこんでいて欲しいものだ・・・!」

 

「「ッ!!」」

 

弦十郎と緒川を追い抜いて、いつの間にか、黄金聖衣を纏ったアルバフィカが先頭を走っていた。

 

「魚座<ピスケス>っ!」

 

「いつの間にっ!?」

 

「生憎だが、私はこれ以上あの愚か者<ウェル>の好き放題にさせるつもりはない。君達の性分は分かるが、戦場では“優しさ”と“甘さ”を履き違えた者から死んでゆく」

 

そう言ってアルバフィカは弦十郎と緒川に一瞥する事もせず、通路の先へ駆けていった。

 

聖闘士として、世に“災いをもたらす者”を排除する為に。

 

 

 

ージェネレータールームー

 

薄暗くあらゆるモニターが表示されたジェネレータールームでウェルは、黄金聖闘士達と奏者を忌々しげに睨む。

 

「人ン家の庭を土足でゾロゾロと走り回る“ドブネズミ”と“野良ネコ”め! 『FRONTIER』を喰らって同化した“ネフェリム”の力を!! 思い知るがいぃいっ!!」

 

完全に『FRONTIER』を自らの牙城と言わんばかりに、ウェルがジェネレーターに組み込んだ“ネフェリムの心臓”を起動させた! すると、“ネフェリムの心臓”が赤く発光する!

 

 

ー黄金星闘士&奏者sideー

 

着地した一同の目の前の地面が突如動き出す!

 

「な、何・・・!?」

 

「何か来るっ!」

 

戸惑う響とレグルスが構えると、地面の土が盛り上がる!

 

「今更何が来たって!」

 

盛り上がった土は徐々に形を整え、巨大な“異形の怪物”の姿へと変貌した!

 

ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

“異形の怪物”が縦に裂けた口から雄叫びを上げると、背中から刺々しいミサイルをレグルス達に向けて発射した!

 

『っ!!』

 

「まさか、あれが“ネフェリム”・・・!?」

 

「あの時<カ・ディンギルでの戦闘>の“自立型完全聖遺物”なのかっ?!」

 

回避したデジェルと翼が、更におぞましくその姿を変えた“自立型完全聖遺物 ネフェリム”を睨む。

 

ボッ!

 

“ネフェリム”が縦に裂けた口から火炎弾をクリスに向けて吐き飛ばした!

 

「『フリージング・ウォール』!!」

 

すかさずデジェルが氷の防壁で防ぐが、防壁の外の大地は焼け溶けてしまった!

 

「これが、“ネフェリム”の力か・・・!」

 

「いくらなんでも張り切りすぎだっ!」

 

 

ージェネレータールームー

 

「喰らい尽くせ! 僕の邪魔をする何もかもを! “暴食”の2つ名で呼びれたその力を! 示すんだ! “ネフェリイイイィィィィィィィィィィィィムゥ”ッ!!」

 

喚き始めるウェルの金切り声しか響かないジェネレータールームに涼やかな声が響く。

 

「随分と、好き放題だな・・・」

 

「ヒィィッ?!」

 

突然ジェネレータールームに響いた声にウェルがビクッと震えて、振り向くと。

 

「・・・・・・・・」

 

冷徹な瞳で自分を見下ろすアルバフィカがいた。

 

「ピ、ピピピピピピピピピピピピスケスゥウウウウウウウウウウッッ!!!???」

 

仰天したウェルは飛び退くが、直ぐに下卑た笑みを浮かべた。

 

「ウェヘヘヘヘヘヘヘ、もうお前に邪魔なんかさせないぞ! 僕は英雄になったんだ! 今更お前ごとき毒薔薇頼みの耽美野郎に臆すると・・・!」

 

「情けないな・・・!」

 

「あぁあ~ん?」

 

「この期に及んでこんな薄暗い部屋に閉じ籠って戦いは他の者に任せて隠れる、相も変わらず卑劣な男だ・・・!」

 

「ハッ! ブゥワ~カがっ! 正面きって戦うなんて単純思考の人間が考えること! 真の勝利とは危険を最小限にし、博打を避け、バカな手駒を手のひらで転がして踊り狂わせ動かす! それこそ“支配者”かつ“指導者”である“英雄の戦い”だぁっ!!!」

 

舌を出して嘲弄の笑みで吼えるウェルをアルバフィカは冷めた目で見る。

 

「くだらない英雄持論だな・・・」

 

「何・・・?」

 

「自身を“英雄”だのとほざいているが、お前の今持っている力は何だ? “借り物の力”嫌、借り物ですらない“盗んだ力”で自らを“英雄”と評するとは・・・!」

 

「(ピクッ)“盗んだ力”だと・・・」

 

嘲弄の笑みを浮かべていたウェルの頬がピクッと震える。

 

「お前が今まで振り回していた“力”など、所詮“盗んで得たモノ”だ! “ソロモンの杖”を二課からチョロまかし、“ネフェリム”をFISから奪い、“ネフェリムの細胞”を盗み出し、その細胞を使って『FRONTIER』を奪い、そして本来魔星に“選ばれてすらいない”、 ただ盗んだ細胞で冥衣を操り、自らの力のように振り回す安ッぽい“人間”だっ!!」

 

「・・・だ、だまれ・・・!!」

 

徐々にウェルは興奮し、目を血走らせ顔を更に醜悪に歪め、歯をギギギギギと噛み鳴らす。

 

「“盗んで得た力”で、自らを英雄と嘯く! お前は英雄などではない! 盗んだ“王冠”や“宝石”で自らを飾り立て着飾り、王様気分で有頂天になってハシャイでいる、ただの“小汚ない卑劣なコソ泥”だっ! 貴様と言う小悪党はなぁっ!!」

 

「だまれェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれ! だまれェェエエエ、エ、エエ、エ、エェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッッ!!!!!!」

 

アルバフィカの一喝に逆上し、ヒステリックに喚き始めたウェルは、冥衣に装備された背中の腕で攻撃するがアルバフィカは苦もなくかわし続ける。

 

「“小汚ないこそ泥”なだけではない! 貴様は“駄々をこねる幼稚な子供”と同じだっ!!」

 

「だまれよ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕は英雄だ! 僕が英雄だ! 僕のみが英雄だ! 僕だけが英雄だ! 僕こそが真の英雄!! 僕だけが真のスーパーヒーローダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

逆上したウェルの攻撃でジェネレータールームの壁が破壊され、アルバフィカはそこから外に出ると、ウェルも後を追った。

 

少しして、漸く来た弦十郎と緒川は、ほとんど破壊されたジェネレータールームに唖然としていた。

 

 

 

ーマリアsideー

 

マリアは今目の前で起きている事が“夢”では無いかと思った。だが、“夢”なら醒めないで欲しいと切に願った、今自分の目の前にはーーーーーーー。

 

[マリア姉さん・・・!]

 

「セレナ・・・・・!!」

 

亡くなってしまった“最愛の妹 セレナ・カデンツァヴナ・イヴ”が現れた。

 

「あの子が・・・?」

 

「ウム、マリア・カデンツァヴナ・イヴの妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴだ」

 

「アスミタさんは、あの子を知っていたんですか?」

 

「イヤ、私はマリア・カデンツァヴナ・イヴの近くで、彼女に寄り添うようにいた妹の“魂”を“見えるように”しただけだ」

 

「“見えるようにした”?」

 

「セレナ・カデンツァヴナ・イヴはずっとマリアの傍にいた。だが、霊的存在が見えないマリアは当然気づく事がなかった。マニゴルドなら気づいていた筈だが・・・」

 

マリアはセレナに近づき触れようとするが、その手はセレナの体をすり抜けてしまった。

 

「っ! セレナ・・・!」

 

「ごめんなさい、姉さん。私は・・・」

 

「そんな・・・! 漸く、会えたのに・・・!」

 

セレナは既に“死んでしまった身”、現世に生きるマリアが触れる事は出来ない。嗚咽を洩らしながらマリアは涙を流す。

 

「セレナ・・・! ゴメンね・・・私は、貴女を助けられなかった・・・! 貴女の“意志”も継げなかった・・・本当に、ゴメンね・・・!」

 

[姉さん・・・]

 

「セレナ・・・!」

 

[マリア姉さんの“本当にやりたい事”は何・・・?]

 

セレナからの問いに、マリアは涙を拭いて答える。

 

「・・・・・歌で、世界を救いたい・・・月の落下がもたらす“災厄”から皆を助けたい・・・!」

 

[・・・・・アスミタさん・・・]

 

「・・・・・・・・(コクン)」

 

アスミタは、セレナに小宇宙<コスモ>を送ると、セレナはマリアの手を取る。アスミタによってマリアに触れる事が出来るようにしたからだ。

 

[生まれたままの感情を、隠さないで・・・]

 

「セレナ・・・!」

 

[♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪]

 

セレナは優しくマリアに微笑むと歌を歌う、マリアとの“絆の唄”を。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアも続いて歌う。

 

「[♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪]」

 

二人の歌声が共鳴すると、世界中の人々にその歌が届いた。イギリス、ロシア、日本、中東、インド、多くの人々がその歌を聴き、その身体から“光”の粒子が舞う。

 

「(・・・・あれは、“カシオペア座”に“イルカ座<ドルフィン>”か・・・!)」

 

そして、アスミタは気付いた、マリアに浮かぶ“カシオペア座”とセレナから浮かび上がった“イルカ座<ドルフィン>”の“守護星座”を。

 

 

 

 

 

ー地球近海の宇宙空間・オペレーター区画ー

 

そして、マリアとセレナの歌声は、ウェルによって宇宙に発射されたナスターシャ教授がいたオペレーター区画に届いていた。

 

「っ!!」

 

宇宙空間に出たにも関わらず、区画内部は無重力の影響を受けずにいた。そして崩れた天井の下敷きになっていたナスターシャ教授は、座っていた車椅子をまるでパワードスーツのような形態に変形させ、瓦礫から出てきた。

 

「世界中のフォニックゲインが、『FRONTIER』を経由して此処に収束している・・・!」

 

結晶のモニターで計測結果を見る。

 

「これだけのフォニックゲインを照射すれば、“月の遺跡”を再起動させ、公転軌道の修正も可能・・・!」

 

 

ーマリアsideー

 

「《マリア! マリアっ!》」

 

「ハッ・・・マムっ!?」

 

「《貴女の歌に、世界が共鳴しています! これだけフォニックゲインが高まれば、月の遺跡を稼働させるには十分です! 月は私が責任を持って停めます!》」

 

「あっ・・・マム!」

 

それは、ナスターシャ教授の“死”を意味している事であった。マリアは涙を流しながら両手で口をおさえる。

 

「《もう何も貴女を縛る物はありません・・・行きなさい、マリア・・・行って、私に貴女の歌を聴かせなさい・・・!》」

 

「・・・マム・・・」

 

「《それとマニゴルドに、“報酬”は某所の貸金庫にあると、伝えておきなさい・・・!》」

 

「・・・OK、マム!」

 

涙を拭い振り向いたマリアはその顔は、毅然とした“絶対者”の威光を持って、宣言した!

 

「世界最高のステージの幕を開けましょうっ!!」

 

迷いが無くなったマリアのその姿勢を、セレナとアスミタと未来はにこやかに見つめていた。

 

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

その頃、ネフェリムと交戦していたレグルス達黄金聖闘士が“気配”を察して上を見ると。

 

「ありゃ?」

 

「ぬ?」

 

「アルバフィカ・・・?」

 

レグルス、エルシド、デジェルが見つめる先には、冥衣を纏ったウェルの攻撃をヒラリヒラリとかわしているアルバフィカが映った。

 

「グワアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

ネフェリムがレグルスに向かって火球を放とうとするが。

 

「『グランカリツォー』!」

 

「『ジャンピングストーン・剛』!」

 

デジェルの氷結の光輪で拘束すると、空かさずエルシドがドロップキックで脳天に叩き付けられ、地面にめり込んだ。

 

「おーーーーーーーーい! アルバフィカーーーーーーー!!」

 

「ん? レグルス・・・」

 

「余所見してんじゃねえぞ! ピスケスゥウウウウウウウウウッッ!!!」

 

「っ!」

 

ウェルの攻撃をかわすが被っていたマスクをかすってしまい、マスクが外れる。

 

「えっ・・・・・・・・・・・・!?」

 

「なっ・・・・・・・・・・・・!?」

 

《『ウッソ・・・・・・・・・・・!?』》

 

「(まぁそうなるよな・・・・・)」

 

戦闘中であるにも関わらず、響と翼や司令室にいた友里達は露になったアルバフィカの素顔に呆然唖然とし、クリスだけは苦笑いを浮かべた。

 

「『ダーツローズ』!!」

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! また! 目エエエエエエエエエエエエエエエッッ!!!」

 

ウェルの両目に黒薔薇の『ピラニアンローズ』が、ダーツの的当てのように突き刺さり、汚ならしい悲鳴を上げるウェル。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ヒラリと見事に着地したアルバフィカをマジマジと見る響&翼。

 

ウェーブがかかった水色の長髪、美麗の一言では片付けられない、まるで芸術品がそのまま動いたかのように美しくすぎる顔立ち、口にくわえた薔薇が気障ったらしさを感じさせず、彼の美しさを引き立てるアクセサリー程度にしかならない。“薔薇を武器に使うのだから耽美で気障な顔しているのでは?”と考えていた響やオペレーター達は見惚れていた。

“美形”・“イケメン”と言う基準が良く分からない翼ですら、アルバフィカの“美貌”に見惚れてしまっていた。

 

「「(ぼ~~~~~~~~~~~~~・・・・・)」」

 

「オイオイ、バカに“先輩”。気持ちは果てしなく分かるけど、今戦闘中・・・!」

 

「あ、あぁそうだったね!!」

 

「雪音、今“先輩”って・・・」

 

「“先輩”なんだから、“先輩”って呼ぶのは当然だろう・・・////」

 

「そ、そうだな・・・////」

 

顔を赤らめてはにかみながら答えるクリスに翼も照れ臭そうに顔を赤らめる。

 

「イヤでもだってクリスちゃん! アルバフィカさんがまさかあんなに綺麗な「ヒュン!」うわぁっ!」

 

響の顔の近くを『ピラニアンローズ』が掠めた、響がおそるおそるアルバフィカを見ると。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

とてつもなく冷徹な目で響を睨むアルバフィカがいた、唯でさえ超が付く程の美形のアルバフィカのその目線は、迫力が凄まじかった。

 

「あ、あの・・・アルバフィカ、さん・・・」

 

「響、響、一応言っておくけど、アルバフィカは自分の顔を褒められるのスッッッゴク嫌がるから、褒めない方が良いよ」

 

「そ、そう言う事はもっと早く言ってよぉ、レグルス君・・・・・」ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

情けない顔になりガタガタと震える響をレグルスはあやしていた。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

現世に戻ったマニゴルドは、切歌と調を先行させて、“連れてきた魂”を“本来の肉体”に戻す。

 

「たくっ、気分はフランケンシュタイン博士だぜ・・・!」

 

ビキビキビキビキビキビキ、ガッシャーーーーーーーーーーーーンッ!!

 

マニゴルドが見据える先には、“氷付けにされた戦士”が自身を包んでいた氷を砕いて現れた。

 

「んで、どんな塩梅よ?」

 

ゆっくりと起き上がる戦士は、“好戦的な笑み”を顔に浮かべる!

 

「カルディア・・・・・!!」

 

「あぁ・・・・・悪くねぇな・・・・!!」

 

赤く輝く“闘争のアンタレス”が、再びその燃えるような紅玉の輝きを放つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回でウェルを完全敗北させます。


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世界の“絶唱”と闘士“本気”

今回は“聖闘士伝統”の“アレ”が出ます!


「 痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い! イッダァイィィイイイイイイイッッ!!!」

 

両目に刺さった薔薇を引っこ抜いたウェルは両目を抑えて汚ならしく喚いていた。

 

「あ、あのアルバフィカさん・・・」

 

「流石に両目に薔薇を突き刺すのは・・・」

 

「やり過ぎじゃねぇの? あ、いやアタシもアイツ<ウェル>の事は“ソロモンの杖”を悪用してきたし、生理的にも嫌いだけど・・・」

 

『“ソロモンの杖”の悪用』、『ソレを使った大量殺人(無関係な一般人を含んで)』、『未来を唆して奏者に仕立てたこと』、『『FRONTIER』を悪用』と挙げればキリがない事ばかりしてきたが、流石に気の毒と思う所は、響達の“美点”であり“弱点”でもある。

 

「安心しろ、先程も片目を潰したが、“ネフェリムの細胞”の回復力で再生したのだからな」

 

「成る程、それならば問題無い」バキバキ、バキバキ

 

「って事はさ、“幾ら痛め付けても大丈夫”って事?」ゴキ!ゴキ!ゴキ!ゴキ!

 

「ソレを聞いて安心した。これで何の躊躇なくあの愚か者を殺れる・・・!」ゴキン、ゴキン・・・

 

「「「(アワワワワワワワワワワワワワ・・・)」」」

 

アルバフィカの言葉を聞いて、エルシドとレグルスとデジェルは、拳や指の関節や肩をゴキゴキと鳴らすのを見て、響達奏者はおののいた。

 

グワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!

 

『っ!!』

 

エルシドにのされたネフェリムが雄叫びを上げて立ち上がり、片腕を伸ばして攻撃する!

 

すると!ネフェリムの伸ばされた腕にワイヤーが絡み付く!

 

「デエエエエェェェスッッ!!」

 

ワイヤーの先を見ると、切歌が『断殺・邪刃ウォ††KKK』でネフェリムの腕を切断した!

 

「フッ!」

 

空かさず調が『非常Σ式・禁月輪』でネフェリムの腹部を切り裂く!

 

「あっ!」

 

「「っ!?」」

 

「やっと来たか・・・」

 

「フッ・・・」

 

「新たな奏者か・・・」

 

響が顔を綻ばせ、翼とクリスが驚き、聖闘士はフッと微笑む先にいたのは、“シュメール神話の戦女神ザババ”が振るったとされる“二刃”。

 

「“シュルシャガナ”と・・・」

 

「“イガリマ”、到着デス!」

 

『シュルシャガナ』のシンフォギア奏者、月読 調。

 

『イガリマ』のシンフォギア奏者、暁 切歌。

 

「来てくれたんだ!」

 

「あれ? “保父さんその1<マニゴルド>”はどうしたの?」

 

「今はちょっと手が離せないンデスよ」

 

「もうすぐ来ると思う・・・」

 

「とは言え、コイツ<ネフェリム>を相手にするのは、結構骨が折れそうデスよ・・・!」

 

ギュワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっ!!!!

 

切歌に切断された腕と調に切られた傷が再生し、雄叫びを上げるネフェリムに渋い顔を浮かべる。

 

 

「だけど歌があるッッ!!」

 

 

突如戦場に響いた声に一同は声のした方へ目を向けると、空中を漂う岩の上に、マリア・カデンツァヴナ・イヴがいた!

 

「「マリアッ!!」」

 

喜色を浮かべる切歌と調、そして響達がマリアの方へ向かう。

 

「マリアさんっ!」

 

「もう迷わない。だって、マムが命掛けで、月の落下を阻止してくれている・・・」

 

マリアが、ナスターシャ教授のいる空を見る。

 

 

「いぃ今更何しに来やがった贋作女がぁ!」

 

両目を再生させ、視力が戻りつつあるウェルはマリアを忌々しそうに睨む。

 

「焼き尽くせ! ネフェリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイムっっっ!!!!」

 

クバアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

 

ネフェリムがマリア達のいる岩へ火球を吐き飛ばした!

 

『あっ!!』

 

『・・・!』

 

奏者達の前に聖闘士達が火球の前に立ち塞がる!

 

チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!

 

火球が当たり、爆裂した!

 

「フヒヒヒヒヒヒヒヒッ! ウワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」ッ!?」

 

ウェルが上げる耳障りな狂笑を打ち消すようにマリアの歌声が響く!

 

「あああんんっ!!?」

 

煙が晴れると奏者達を守るように空に佇む黄金聖闘士と、“光の球体”にいる奏者達がいた!

 

「・・・・・・・・・」

 

“球体”にいるマリアの首には、“傷だらけのシンフォギアの結晶”があった!

 

「(調がいる、切歌がいる、マニゴルドがいる、カルディアがいる、マムとセレナもそして、アルバフィカもついている!! 皆がいるなら、これ位の奇跡!) 安いモノッッ!!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアに続くように響が、翼が、クリスが、調が、切歌が、歌を歌う! “希望の歌”を!!

 

「装着時のエネルギーをバリアフィールドにぃぃ!? だがそんな芸当! いつまでも続くモノでは無い!」

 

ウェルは再びネフェリムをけしかけて火球で攻撃させようとする!

 

 

 

「無粋な真似はやめて貰おう・・・」

 

 

 

ビキッ!

 

ゴガッ!? グゲガガガガガガガガガガガガッッ!!

 

「ネ、ネフェリムッッ!!??」

 

突如、ネフェリムの巨体が停止し、その身体が絞られた雑巾のようにねじ曲がる!

 

グガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッッ!!!!

 

「ようやっと殻を破ろうとする若人の邪魔をするのは、流石に見過ごせんのでな・・・」

 

「なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!??」

 

驚愕するウェルが辺りを見回すと、別の岩で座禅を組んでいる黄金聖闘士がいた!

 

「ヴ、ヴヴヴヴヴヴヴ、乙女座<ヴァルゴ>ッッ!! 何で! 何でお前まで邪魔するんだああああああああああああああああッッ!!!???」

 

乙女座の黄金聖闘士 ヴァルゴのアスミタとその隣にいる小日向未来を狂気と殺意に満ちた目で睨むが、アスミタはそんなウェルの双眸に少しも臆する事なく毅然と見据える。

 

「この戦いは人類を行く末を決める大事な一戦。座している訳にはいかんからな・・・」

 

「クソ! クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクッッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

今度は“神にもっとも近い”と言われている“ホラ吹き野郎”が自分の邪魔をする事に、ヒステリーを起こすウェルは背中の腕でアスミタと未来を攻撃しようとする!

 

「・・・・・・・・・」

 

「安心しなさい、小日向未来・・・」

 

「アスミタさん・・・・・・はい!」

 

一瞬たじろぐ未来にアスミタが優しく囁くと、未来は安心したように微笑む。

 

「『降魔印』!」

 

「グアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

仏敵を払う攻撃に、ウェルは悲鳴を上げて地面に叩きつけられる。

 

「やれやれ、ここまで愚か者だとは思わなんだよ、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。お前には“彼ら”が相手になろう・・・!」

 

アスミタの頭上に“黒い渦”が現れた!

 

「な、何だあれはっ!!??」

 

「今まで君が遊び半分とふざけ半分で命を奪われた者達の“苦しみ”と“怒り”と“悲しみ”、その身を持って償うが良い! 」

 

それは冥界をさ迷う亡者の成れの果て怨霊達を呼び出す乙女座<ヴァルゴ>の技!

 

「『天空覇邪 魑魅魍魎』!!」

 

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

「ウゲギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!???」

 

“黒い渦”から現れた怨霊達がウェルに襲い来る!

 

「な、何だコイツらは!? や、やめろ! 汚らわしい! 穢らわしい!! こ、この僕を誰だと思って・・・ゲヤアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

怨霊達に包まれたウェルは汚ならしい悲鳴を上げる、ねじ曲げられたネフェリムは再度身体を再生させながら奏者達を向けて、連射で火球を吐き飛ばした!

 

「『ライトニングボルト』!」

 

「疾っ!」

 

「『ダイヤモンドダスト』!」

 

「『ローリング・ローズ』!」

 

レグルス達 黄金聖闘士が、奏者達を守る! 奏者達は歌を重ねる!

 

「惹かれ合っている理由なんていらない・・・!」

 

「・・・・・・」

 

翼が調と。

 

「アタシもつける薬がないな・・・!」

 

「それはお互い様デスよ・・・!」

 

クリスが切歌と。

 

「調ちゃん! 切歌ちゃん!」

 

そして響と手を繋ぎ、心を繋げる!

 

「貴女のやっている事、“偽善じゃない”と信じたい。だから近くで私に見せて、貴女です言う“人助け”を、私達に・・・」

 

「うん・・・!」

 

奏者達の歌が、フォニクゲインが一つになる!

 

「(繋いだ手だけが、紡ぐ者・・・!)」

 

マリアのフォニクゲインが更に高まる!

 

「“絶唱”の六人分か・・・!」

 

「イヤ、六人だけでは無い。これを見ている多くの人々が、“奇跡”を生み出そうとしている!」

 

「“心を一つにする事で生み出す奇跡”か・・・」

 

「この歌が生み出す“奇跡”の輝き! 俺はこの目で見てみたい! 響達が奏でて繋げて束ねて、生み出す“奇跡の可能性”を!!」

 

次々とネフェリムからの火球を防ぎながら聖闘士達は見守る。新たな“可能性を生み出す者達”を!

 

「(私が束ねるこの歌は! 70億の、“絶唱”だああああああああああああああッッ!!!)」

 

黄色と、青と、赤と、緑と、桃色と、白の流星が天に登り、重なり、奏者は新たな姿となった!!

 

切歌が、調が、翼が、クリスが、マリアが、そして響が、その纏うギアが。

 

 

シンフォギアの最強の姿、XD<エクスドライブモード>へと進化した!!

 

 

「響き合う皆の歌声が!」

 

「「「「「「シンフォギアだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」」」」」」

 

重なった六人が流星となり、ネフェリムを貫いた!!

 

チュドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンンッッ!!!

 

虹色の竜巻が天に登り! ネフェリムを粉砕した!!

 

「やった! 響ッ!!」

 

「えっ? えええええェェェっ!? 未来っ!?」

 

そこでようやく未来が来ていた事に気付いた奏者達と、とっくに気付いていた聖闘士達は地上に降りた。

 

 

 

「消えろ! 消えろ!! きぃいえぇえろおぉおっ!!」

 

ようやく怨霊達を冥衣の力で消したウェルの目に映ったのは、XD<エクスドライブモード>になった奏者達だった。

 

「何だこれは!? ネ、ネフェリムはどうしたあああああああああああっ!!!???」

 

「マリア達によって粉砕された。ウェル、お前の足掻きは此処までだ!」

 

「何なんだよ!! 第一何だ!? マリアのそのシンフォギアはああああああッッ!!!???」

 

往生際悪く喚くウェルにマリアは毅然と向き合う!

 

「このシンフォギアは“アガートラーム”! セレナから託された! シンフォギアよ!!」

 

ウェルに臆する事なく立つマリアのその姿は、先程までの弱々しさが全く無かった。ウェルの目には、マリアのその毅然とした“英雄”のような姿勢が、“ある男”と重なる。

 

ウェルが“最も毛嫌い”し、“最も嫌悪”し、“最も畏れてやまないその男”に!

 

「贋作が・・・贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作が贋作がアァアッッ!!!」

 

歯をガチガチ言わしながらウェルが醜悪に顔を歪めまくり狂ったように吠える!

 

「贋作の癖に、偽物の癖にィィイイイイイイイッ!! “あの男と同じ目”でぇ! この僕を見るなあああああああああああああああああああッッ!!!」

 

ヒステリーを引き起こしたウェルは、喚きながら背中の腕をマリアの向けて攻撃するが・・・。

 

ドドドドド!!!

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっ!!!!」

 

ウェルの身体に“赤い針”が5本突き刺さる!

 

「イヤ~、面白いモノが見れたわ~・・・」

 

『・・・・・・・・・・』

 

「えっ!?」

 

「何っ!?」

 

「マジかよ・・・?!」

 

「あ、貴方は・・・!」

 

“やっと来たか”と顔に浮かべる聖闘士達と驚く奏者達だが、調と切歌は違った。

 

「あっ・・・!」

 

「もう! 遅いデスよ・・・!」

 

二人は声を揃えてその男の名を呼ぶ。

 

「「“カルディア”!!」」

 

重厚な黄金聖衣を纏い蠍の尻尾をおさげのように垂れ流した群青色の癖っ毛を無造作に伸ばした獰猛な笑みを浮かべるその男は・・・・・。

 

『蠍座の黄金聖闘士』、スコーピオンのカルディア!!

 

「おかえり、“保父さんその2”♪」

 

「誰が“保父さんその2”だ、レグルスこの野郎!」

 

「す、スコーピオンっ!? な、なななんで!? 何で生きてんだよおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「教えてやろうか? ドクターウェルさんよ♪」

 

カルディアの隣に“蟹座<キャンサー>のマニゴルド”が意地の悪そうな悪どい笑みを浮かべて現れた。

 

「マニゴルドっ!?」

 

「ようマリア! 中々似合ってンじゃねぇか、そのオNEWのシンフォギア♪」

 

「“保父さんその1”も来たか・・・」

 

「なんだよデジェル、その“保父さんその1”って?」

 

なんて漫才している聖闘士は、訳が分からないと半狂乱に陥り頭を抱えるウェルを見据えながら、カルディアがデジェルを睨む。

 

「答えはな、デジェル! テメェ俺とガチで殺り合う気無かったのか!?」

 

「失礼な、一応真面目に戦ったぞ」

 

「じゃ何で俺の“星命点”を突きやがった!?」

 

『“星命点”・・・?』

 

「あぁそうだ! デジェルの野郎、俺の星命点を突いて俺を“仮死状態”にしやがったんだよ!!」

 

聖闘士の身体には、聖闘士が己の纏う聖衣のデザインとなった星座の星の位置がツボのように身体にありそれが“星命点”と呼ばれ、血止めの“真央点”や痛覚を麻痺させたり、更には聖闘士の急所にもなっている。

 

「カルディアとデジェルが最後の技を放ったあの時に、デジェルは『オーロラエクスキューション』を放ちながらカルディアの身体の“星命点”を突いて一時的に“仮死状態”にしたのだ」

 

「しかしエルシド、何故そんな事をデジェルは?」

 

「簡単だ。カルディアの心臓の熱はカルディアが小宇宙<コスモ>を燃やせば燃やすほど、心臓はその熱を上げていく、だから“星命点”を突いて“仮死状態”にして心臓の熱を弱らせようとした」

 

エルシドの後をマニゴルドが切歌の頭に肘当てのように腕を乗せて寄りかかりながら話す。

 

「そして、運良く“黄泉比良坂”で調を探していた俺がカルディアの“魂”を見つけてな、現世に戻って氷付けになった身体にカルディアの魂を入れたってこった・・・」

 

ガァウ!と腕を乗せられた切歌がマニゴルドの腕を払い、カルディアが締めくくる。

 

「しかも俺が目覚めて心臓の熱が再燃焼した時に備えて『エターナルコフィン』で氷付けにして、更に腐敗しないように肉体を“冷凍保存”していたんだよ・・・・・・俺は冷凍食品かっ!?」

 

「まだ冷凍食品の方が食べられる分、カルディアよりマシだけどね♪」

 

「うるせぇよレグルス! デジェル、テメェ・・・!」

 

「私は“冷静”に判断したまでだ」

 

「はぁっ?!」

 

「もしも私がカルディアを殺していたら、月読調くん、君はどうする?」

 

「・・・・・この戦いが終わった後で水瓶座<アクエリアス>に決闘を申し込んでいた」

 

「ちょっと調!?」

 

「無謀過ぎデスよ!!」

 

少し考えた後に黄金聖闘士に喧嘩を売る気満々の調に仰天する奏者一同。それを聞いてデジェルはフッと笑みを浮かべる。

 

「と言う訳だカルディア」

 

「どういう事だよ?」

 

「つまりだ、“お前を殺して月読調くんに怨まれるか”、“生かした後でお前からグチグチ文句を言われる”か、どちらが私の今後にとって“最適”か、“冷静”に判断したまでだ」

 

「テンメェ・・・・・!!!」ゴキゴキ! ゴキゴキ!

 

ボスッ、ギュッ!

 

「アン? 調・・・?」

 

したり顔のデジェルを殴ってやろうと拳を鳴らすカルディアの腰に調が抱きつく。

 

「良かった・・・カルディアが無事で・・・本当に良かった・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・まぁ、良しとするか」

 

ガシガシと頭を掻いて、安堵した笑みを浮かべて目に涙を浮かべた調の頭をポンポンと優しく叩くカルディア。そんな二人を聖闘士と奏者達は微笑ましく見つめるが。

 

「ウウウウゥゥッッ!!! なぁにを和んでいやがるウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!」

 

喧しいウェルの金切り声に奏者は警戒し、聖闘士は冷ややかに、鬱陶しそうに見る。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっ!!!! 許さない!! アァア許さない!! 何で! 何で何で何で何で何でぇっ! 僕の邪魔をするクソ共がこんなにいるンだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

ガリガリと髪を引っ掻き、ヒステリックに喚くウェルをアルバフィカは冷たく見据える。

 

「人類の大半を月の落下で滅ぼそうとしているならば、我等が敵に回るのは当然だろう!」

 

「人類の大半を!?」

 

「月の落下で!?」

 

「滅ぼすだぁ!?」

 

「あの外道寄天烈、そんな事考えてたデスか!?」

 

「本当なのマリア!?」

 

「ええそうよ。あの男は月を落下させ、“最低限の人間”だけを『FRONTIER』で救済し、自らを“英雄”と崇拝させるつもりだったのよ!」

 

「けっ“救済する最低限の人間”なんて精々、我が身可愛さで、あの野郎に泣きすがり、英雄と崇め奉る事ができる人間共だろうよ」

 

「そんな選り好みで救済しようなどと・・・!」

 

侮蔑の視線を向ける聖闘士達にウェルは顔を醜悪に歪ませ、舌をだして嘲弄するように吠える。

 

「脳ミソの出来が底辺の底の浅い人間共には分からないだろうな! 今の人類の数は増えすぎなんだよ! 有史以来並み居る英雄好漢が人類を統治できなかったのは、人類が多すぎたからだ! ならば簡単! 人類を間引きし、僕が統治できる数の人間達を治めれば! 僕は英雄になれるって事だろうが!!」

 

「そんな事ダメだよ! 自分の選り好みで何も悪い事していない人達を見捨てるなんて!」

 

「貴様がやろうとしているのは“統治”ではなく“支配”ではないか!」

 

「そんなふざけた理由でテメェは、今まであんな非道をやって来たのか?! ふざけんのも大概にしろ!!」

 

「この僕が歴史に名を刻む、崇高かつ壮大な“英雄譚”が生まれようとしているのに、凡夫共には高尚すぎて理解ができないようだなぁ・・・!」

 

響と翼とクリスが訴えるが、ウェルは額に手を当て、やれやれと言わんばかりに見下しながら首を振る。

 

「・・・・・ちっぽけなヤツ」

 

「アァ(ピキッ!)・・・・・?」

 

ボソッとレグルスが呟いた一言に尊大な態度を取っていたウェルの顔に血管が浮かび、デジェルが引き継ぐ。

 

「壮大に言ってはいるが、端的に言うと、〔自分“ごとき”の“小さな器”では、今の人類を支配できないから、“身の丈に合った分の人類”を支配する〕っと言う意味だろう」

 

「自らの“器量の狭さ”を暴露するとはな」

 

「(ビキッビキビキ!)」

 

デジェルとエルシドの呆れ果て、冷めた言い様に更に血管を浮かび上がらせる。

 

「まそう言うなって、所詮あの野郎は“その程度の器の人間”だって事だろうよ♪」

 

「テメェの“狭量”をあそこまで開き直って堂々と言える“人間”はそうはいないぜ♪」

 

「ヤツは“誇り高き矜持”と“傲慢な自尊心”を履き違えた、“安っぽいプライド”しか持ち合わせていない“人間”だからな・・・」

 

「(ビキビキビキビキビキビキッッ!!)」ガチガチガチガチガチガチ!!

 

マニゴルドとカルディアとアルバフィカの侮蔑の言葉に顔中を血管まみれにして歯をガチガチ鳴らす。

 

「まだ〔月を穿って全人類を支配する!〕って言っていた“スペラリ”、“フィーネ<櫻井了子>”の方がスケールの大きい事を言っていたよ。それに比べると、ウェル博士、アンタって“人間”は・・・・・なんて“矮小”なんだ・・・!」

 

「(ブチン!!!) “人間”? この僕を“人間”だとっ!? う、うぅぅ、うううう! ウグガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっっ!!!! どこまでも!!どこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでとどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもどこまでもッッ!! テメェ等はこの僕をコケにすれば気が済むんだあああああああああああッッ!!」

 

黄金聖闘士(アスミタは除く)から散々にボロクソ言われ、自尊心<プライド>を逆撫でされまくったウェルはヒステリックに喚き散らせ、殺意と憤怒で醜悪に歪ませまくった形相でレグルス達に憎悪の視線を向ける。

 

「テメェらみたいな“旧時代の遺物”が! この“新世界のスーパーヒーロー”であるこの僕を見下すんじゃねえよおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」

 

「“新世界の”、“スーパーヒーロー”?」

 

「只の“大量殺人の悪党”ではないか?」

 

「所詮“借り物”、イヤ“盗んだ力”で己を“英雄”だと嘯いている誇大妄想に酔った“陳腐な人間”だからな・・・」

 

「アアアアアアアァァアアアアアアアァァァアアアアアアアアアァァァアアッッ!! もういいっっ!! お前らと話すと僕の至高な頭脳が腐ってしまう!! 大体お前ら聖闘士だって! 所詮その“金メッキの鎧”が無ければ、只の“ちっぽけな人間”だろうがよ!!!」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「散々ばら僕に偉そうに説法しているが! 所詮お前らだって聖衣なんて“借り物”で戦うしか能がない連中の癖にっ!!」

 

「ウェル・・・!「それもそうだな・・・」アルバフィカ??」

 

「ハァッ!」

 

バコオオオオオオオンン!

 

アルバフィカの返答にマリアは首を傾げると、アルバフィカはなんと、自身が纏う聖衣を脱ぎ捨てた!!

 

「アルバフィカ!?」

 

「それじゃ、俺達もっ!!」

 

アルバフィカに続くようにレグルスが、エルシドが、デジェルが、マニゴルドが、カルディアが、聖衣を脱ぎ捨てた! 脱ぎ捨てられた聖衣はそれぞれ、獅子、山羊、水瓶を持ったシーマン、蟹、蠍、一匹の魚のオブジェ形態となり鎮座する。

 

「レグルス君達何してるの!?」

 

「聖衣を脱ぎ捨てるなど、聖闘士にとっては裸同然ではないか!?」

 

「あの野郎の口車に乗る事ネェじゃねぇか!?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

無論、そんな状態の聖闘士達に奏者達は抗議するが、聖闘士達は悠然とウェルに近づく。そしてウェルは歪みきった笑みを浮かべてほくそ笑む。

 

「ケヘヒャハハハハハハハハハハハハっ! まさか、まさかまさかぁ! あんな言葉で聖衣を脱いで裸同然で来るとはぁ♪ プププ、クヒヒヒヒ、ヒヒヒヒ、良いでしょ♪ その愚かな蛮勇に免じて貴方方聖闘士の流儀に付き合ってあげます!」

 

ウェルがネフェリムの細胞を移植した左腕で冥衣を操ると・・・。

 

「「「「「「さぁ、貴方方の大好きな、一対一の戦いをしましょう!!」」」」」」

 

なんと、“6人のウェル”が現れた!

 

「何デスか、あれは!?」

 

「ドクターが増えた・・・?!」

 

「アスミタさん! あ、あれって!?」

 

「騒ぐな、増えたのは“実体のある幻覚”のようなもので本体は一体だ」

 

奏者達と未来は驚くが、アスミタは冷静だった。6人のウェルは、アルバフィカ達と一対一の状態になる。

 

「「「「「「さぁ! これで終わりだぁっ!! 散々この僕に下劣なまでに“屈辱”と“恥辱”と“侮辱”と“汚辱”を味合わせたお前らには! たっぷりお礼をしたやるYOッッ!!! 」」」」」」

 

6体のウェルの背中の腕がアルバフィカ達に襲いかかる!!

 

「「「「「「(ププププ、プヒヒヒヒ、笑いが込み上がって、腹がねじ切れてメガネがずり落ちそうだぁっ! さあ見せろっ!! この僕を辱しめたテメェらの惨めで無様な死に様をををををををををををををををををををっっ!!!!)」」」」」」

 

ウェルの顔が“勝利の喜色”に染め上がり・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシャッ! ゴギャッ! バキッ! ドゴッ! ベキッ! バゴンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ハへ・・・???」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

間の抜けた声を上げるウェルの眼前が暗転し、耳には“肉と骨が潰れる音”が聴こえた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「愚かだな、ウェル・・・お前は自ら、“墓穴の中に入った”のだ・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




“聖衣を脱ぐ”は『聖闘士星矢』の伝統ですね(キリッ)。


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“道化”の敗北 目覚める“悪神”

ようやくここまで来れた!


ージェネレータールームー

 

「奮ッッ!」

 

ガアアアアアアンッッ!!!

 

ジェネレータールームに来ていた弦十郎と緒川は、操作パネルらしき岩柱を破壊した。

 

「司令、アレがおそらく“ネフェリムの心臓”です」

 

ジェネレータールームの中心にある巨大な柱の中央部にくっついている心臓のようなモノがあった。

 

「あれをどうにかしなければな・・・」

 

《司令、聴こえますか?》

 

「どうした友里、奏者達と聖闘士達は?」

 

《ハイ、響ちゃん達奏者はXD<エクスドライブ>モードとなってネフェリムを粉砕! 聖闘士達は現在、“聖衣を脱いだ”状態で、ウェル博士と交戦に入りました!》

 

「聖衣を脱いだって、司令・・・」

 

「・・・これはウェル博士の命は、“風前の灯”だな」

 

弦十郎と緒川は、“聖衣を脱いだ”時が、聖闘士達の“本気”であると知るが故に、ウェル博士に僅かな同情を抱いた。

 

 

ーウェルsideー

 

「(ウソだぁ!・・・ウソだぁ!・・・こんなのウソだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!)」

 

「オリャアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・ッッ!!!」

 

「ハアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「ウオラアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

「ソラソラァァァァァァァァァァッッ!!!」

 

「オオオオオォォォォォォォォォッッ!!!」

 

6体に分身したウェルは、レグルス、エルシド、デジェル、マニゴルド、カルディア、アルバフィカ、聖衣を脱いだ聖闘士達にタコ殴りにされていた。

 

「(ウソだぁっ! この僕が! この僕がぁっ!)」

 

「(この“新世界のスーパーヒーロー”がぁっ!)」

 

「(新時代の“真の英雄”がぁっ!)」

 

「(なんで、こんな旧時代の“遺物”共にぃっ!)」

 

「(別世界から来た“異分子”共にぃっ!)」

 

「(聖衣を纏っていない只の人間なんかにぃっ!)」

 

「「「「「「(素手でやられているんだぁっ!!??)」」」」」」

 

目の前に起こっている現実を理解したくないように、認めたくないように、6体のウェルは殴られながら混乱していた。

 

 

ーアスミタsideー

 

「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」

 

あまりの事態に奏者達ならびに未来も口をポカーンと開けて、“生身の聖闘士”に一方的に殴られる“冥界の鎧を纏ったウェル博士”を見ていた。

 

「あの・・・アスミタさん・・・どうなっているんですか・・・アレ・・・?」

 

奏者達の代わりに未来が唖然となりながらも、現状の説明をアスミタに聞くとアスミタはため息混じりに答える。

 

「よもや君達も、我等黄金聖闘士が“完全聖遺物<黄金聖衣>の恩恵”で今まで戦って来たと思っていたのか?」

 

「え・・・?」

 

「確かに聖衣を纏えば“力”は上がるし、身を守るプロテクターとしては君達のシンフォギア以上と言えるだろう・・・だが、本来聖闘士とは“五体を武器に戦う戦士”、聖衣はあくまでも神話の時代にアテナが我等聖闘士の身を案じてお造りになられた“鎧”。むしろ聖衣を脱いだ時こそ、聖闘士の真骨頂なのだ・・・!」

 

「し、真骨頂って・・・」

 

「聖衣を身に纏っていない方が強いのか?」

 

「そうではない、黄金聖衣は確かに神話の時代から“一度も破壊されなかった最強の聖衣”だか、むしろ聖衣が有るからこそ、本気になりきれなかったと言えるだろう」

 

「どういうこった?」

 

「“最強の黄金聖衣”を纏っているとな、〔自分は聖衣に守られている〕と考え、精神的な“甘さ”が生まれる」

 

「精神的な、“甘さ”・・・?」

 

「デスか・・・?」

 

「そうだ、戦場において“甘さ”や“迷い”や“恐怖”を持つ事は最も愚かな事だ。聖衣を纏っているから生まれる精神的安心は“甘さ”となり、聖闘士の“根幹”を忘れてしまう」

 

「“聖闘士の根幹”・・・?」

 

「我等聖闘士の戦いは、聖遺物である“聖衣”で決まるのではない。聖闘士の戦いは“小宇宙<コスモ>”で決まる」

 

「“小宇宙<コスモ>”って、聖闘士の皆さんが使う、奏者にとっての“フォニックゲイン”でしたよね?」

 

響の質問に、アスミタは宇宙のビジョンを見せる。

 

「そうだ、“小宇宙<コスモ>”とは生きとし生ける者全てが持ち合わせている“生命の力”、我等聖闘士は極限に己を鍛え上げ、磨かれてきた肉体と精神と感覚によって生み出される“生命の力”、それが“小宇宙<コスモ>”。そして我等黄金聖闘士は、“小宇宙<コスモ>の真髄”を体得している」

 

『小宇宙<コスモ>の真髄・・・?』

 

「人間には、“視角”、“聴覚”、“嗅覚”、“味覚”、“触覚”。そして“直感”、“霊感”や“超能力”と言った第六感と呼ばれるモノがある。“小宇宙<コスモ>”はこの第六感を極め、燃焼し、爆発させる事で初めて体得できるモノ、そして我々黄金聖闘士はその真髄、小宇宙<コスモ>の究極、“第七感覚<セブンセンシズ>”を極めし者」

 

『小宇宙<コスモ>の究極、第七感覚<セブンセンシズ>・・・!?』

 

「そう、この“セブンセンシズ”を極めた聖闘士は“小宇宙<コスモ>”を最大限にまで増幅し、強大な奇跡を起こす事ができる・・・!」

 

アスミタはビジョンを消すと、再びウェルを殴り続けるレグルス達を見据える。

 

「“セブンセンシズ”は生半可な修行と精神では大抵到達出来ない“真髄”。しかし我等は長い年月を掛けて“研鑽”し続けてきた肉体と精神により体得した“力”は、決してヤツの“偽りの力”に遅れを取ることはない」

 

『“偽りの力”・・・・・・』

 

「所詮ゲトリクスが得たのは“LiNKER”でドーピングし、“盗んだモノ”で己を着飾った“偽物”。盗んだ強さなど、真の強さの前では塵芥に等しい・・・!」

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

アスミタの言葉に“LiNKER”で“ドーピングしている奏者”のマリアと切歌と調に少し影が落ちる。

 

「君達とあの男は違う、君達があの男のように傲り高ぶり、力に溺れる愚を犯さず“正しい事”の為にその力を振るうならば、その力も“真の強さ”になる・・・」

 

「真の・・・」

 

「強さ・・・」

 

「デスか・・・?」

 

「そうだよ! マリアさんも切歌ちゃんも調ちゃんも! これから“正しい事”をすれば良いんだよ!」

 

「偽り等ではない、己の真なる想いを持てば良い・・・!」

 

「アタシが偉そうに言えないが、大切なのは“これまで”じゃなくて、“これから”なんじゃねぇか?」

 

「フッ、そうね・・・」

 

「大切なのは“これまで”じゃなくて・・・」

 

「“これから”、デスね・・・!」

 

響達の励ましにマリア達の顔色が戻る。

 

「響達が上手くフォローしてくれましたね?」

 

「フン。それよりも、もう終わるようだ・・・」

 

再び聖闘士達の戦闘を見る。

 

 

 

ーレグルスVSウェルー

 

「行くぜウェル博士! 『ライトニング・プラズマ』!」

 

「ギャバアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

『ライトニング・プラズマ』でボロ雑巾のようにズタボロになり消滅するウェル。

 

「ありゃ? こっちは“分身体”か・・・」

 

“分身体”であると知り、拍子抜けと言わんばかりのレグルスは肩を落とした。

 

 

ーエルシドVSウェルー

 

「これ以上“任務の邪魔”をするなドクターウェルよ・・・!」

 

「ひ、ひゃまらと(じ、邪魔だと)?」

 

顔面がほぼ潰れ、呂律の回らないウェルをエルシドは興味無さに気に一瞥し。

 

「我等はこれより“月の落下”を阻止しなければならん。お前と遊んでいる暇はない! 『乱斬』!」

 

「ギレエエエエエエエエエエエエエッッ!!!」

 

手刀により細切れにされたウェルが消滅する。

 

「くだらん遊戯だ・・・!」

 

エルシドにとってウェルとの戦いは“任務遂行の邪魔”でしかなかった。

 

 

ーデジェルVSウェルー

 

「ほ、ほくのひゅうひゅうなふのうふぁほまへふぁんふぁふぉり(ぼ、僕の優秀な頭脳はお前何かより)・・・!」

 

「如何に優れた頭脳を持っていても、それを“正しき事”に使わねば、誰にも認められん!」

 

「ヒギィッッ!」

 

「失せろ、外道! 『ホーロドニースメルチ』!」

 

「ギグナァァァァァァァァァァァァスッッ!!!」

 

凍気の竜巻に呑まれたウェルは“氷結”し砕け散った。

 

「お前のくだらん“英雄願望”にこれ以上付き合うつもりはない・・・!」

 

砕けた分身体に告げるデジェルの目は冷徹に徹していた。

 

 

ーマニゴルドVSウェルー

 

「ムグ、ムググガガガガガガガッッ!!!」

 

原型が無くなったウェルの顔を掴みながらマニゴルドは凶悪な笑顔を浮かべる。

 

「お前も悪党なら悪党らしい死に様を見せな、ウェルよ・・・!」

 

ウェルを掴んでいた手から“青い炎”が現れる!

 

「ムグゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ??!!」

 

「分身体ならコイツが通じるな、燐気の鬼火を食らってみるか?! 『積尸気鬼蒼炎』!」

 

「あじゃぱーーーーーーーーーーーーッ!!!」

 

青い炎がウェルの分身体を包み、焼きつくした!

 

「悪党らしく、汚く死んでな♪」

 

マニゴルドは手を払いながら、どっちが悪党だか分からない笑みを浮かべる。

 

 

ーカルディアVSウェルー

 

「あ、あぁ、あああぁぁ・・・!」

 

「さてと、今度は“ゲロ吐く”だけじゃすまねぇぜ、ドクターよぉ・・・!」

 

カルディアは人差し指の赤い爪を伸ばし、爪が赤く光る!

 

「『スカーレットニードル』を一転集中させて放つこの技、実験台になってもらうぜ!」

 

本来15発も放つ『スカーレットニードル』を一転集中させればその威力は計り知れない。

 

「とりあえず“5発分”の威力を試させてもらうぜ! 『クリムゾン・ランサー』!」

 

「ウギガアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

貫かれた胴体に巨大な風穴を開けて消滅する分身体。

 

「何だ、“3発分”でも良かったな。あ~ぁ、折角復活したってのに、歯ごたえのねぇ上にきったねぇ悲鳴を上げるぜ。ふあぁ~・・・」

 

カルディアは退屈そうに欠伸をした。

 

 

 

ー奏者sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「冥界の鎧を纏ったウェル博士が・・・」

 

「全く相手になってねぇ・・・」

 

「て言うか、いくら相手がドクターとは言え・・・」

 

「容赦なさ過ぎデェス・・・」

 

「ってちょっと待って、レグルス君達が倒した五人が分身体だとすると・・・」

 

「本物のドクターが相手しているのは・・・アルバフィカ!?」

 

“覚悟”はしていたが、やはりキツいのか未来は目をそらし、奏者達はいくら“分身体”とは言え躊躇無くウェルを倒した聖闘士達の戦いに度肝を抜かれたが、直ぐにアルバフィカの方に目を向けると。

 

 

ーアルバフィカVSウェルー

 

「こ、こんなの“夢”だぁ・・・! “悪夢”だぁ・・・! 現実な訳が有るものかぁ・・・!!」

 

顔が血塗れのぐちゃぐちゃになったウェルは現状を受け入れられず、無様に這いつくばっていた。

 

「どこまでも情けないヤツだな、ドクターウェル!」

 

「ギニャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

アルバフィカの殺気に呑まれ、四つん這いの状態で逃げようとしていた。

 

 

 

ーアスミタsideー

 

あまりにも無様で滑稽なウェルの姿に、アスミタは冷めた態度でいた。

 

「やはりアルバフィカが相手取っていたのが“本体”だったか・・・」

 

「やはりって、アスミタさんは気付いてたのですか?」

 

「フッ。簡単な“消去法”でこれくらい分かる」

 

『???』

 

首を傾げる奏者達にアスミタが説明する。

 

「まずヤツ<ウェル>はレグルスに散々恐怖を与えられてきた。如何に聖衣を纏っていないとは言え、ヤツのような“小心者”にとって、そう言った苦手意識は簡単に消えないから、レグルスの相手はしない」

 

「成る程・・・!」

 

響は納得した。

 

「エルシドとデジェルには、“手刀”と“凍気”がある、聖衣が無くともそれらが使える可能性がある以上、ヤツは博打をしようとは考えない」

 

「確かにな・・・」

 

「兄ぃとエルシドなら聖衣が無くても充分に戦えそうだしな・・・」

 

翼とクリスが得心を得たように頷く。

 

「マニゴルドとカルディアは我等の中では悪党には特に容赦無く残虐になる性格の者達、そんな危険人物と戦う“度量”をヤツは持ち合わせていない・・・」

 

「あぁ~・・・」

 

「今までマニゴルド達には、散々な目に合わされてきたデスしね・・・」

 

マニゴルドとカルディアにブチのめされ、ゲロをぶちまけた事があったりした事を思い出して納得する切歌と調。

 

「それじゃアルバフィカさんを相手にしていたのは・・・?」

 

「あの男は、我々黄金聖闘士を“聖衣が無ければ無力な人間”と見下していたからな。アルバフィカの事も“顔が美しいだけで、毒薔薇を使うしか能がないカッコ付け”としか認識していなかった。“自分”以外の人間を全て見下していた故に、簡単に足元を掬われてしまうのだ・・・」

 

アスミタの言葉にマリアは頷き。

 

「アルバフィカの真価は、“美しい容姿”でも無ければ、“猛毒の薔薇”でも無いわ・・・どんな時でも、決して色褪せる事も、折れる事も無い曲がる事も無い、“誇り高き魂”よ!」

 

 

 

ーアルバフィカVSウェルー

 

「うぅぅ、うっ、うっ、ゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

ガタガタと追い詰められたネズミのように震えるウェルをアルバフィカが冷めた目で見る。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

アルバフィカはまるで興味が無いと言わんばかりに背を向ける。

 

「な、なんだ・・・!?」

 

「ウェルよ、一度だけ“恩情”をかけてやる。このまま大人しく縛に付いて法廷で裁きを受けろ・・・!」

 

「な、何だと・・・!?」

 

「お前ごときを殺しても何の“益”も無い。それに我々は“月の落下”を止めなければならない。お前の“下らない英雄願望”に付き合っている“暇”など無いのだ・・・!」

 

そう言ってアルバフィカはウェルから離れる。それを見て奏者達はホッとし、聖闘士達は無表情に見ていた。

 

「僕の“願望”を下らないだと? 僕ごときを殺しても“益”が無いだと? この僕に、“裁き”を受けろだとぉ? この僕との戦いを“暇”だとぉ・・・・・・ふざけるな・・・ふざけるなぁ・・・ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるな ふざけるなァァァァァァァァァァッ!!」

 

発狂したウェルが“ネフェリムの細胞”を移植した腕でアルバフィカを後ろから殴ろうとした!

 

「アルバフィカっ!!」

 

「死ィィィィィィねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!!「グワシっ」ヒギグゥッ!?」

 

目の前にいた筈のアルバフィカはウェルの隣に一瞬で回り込み、脳天の髪を掴んで冷徹に見据える。

 

「どこまでも愚かだな、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。貴様の腕は“聖遺物”には有効だが、“生身の人間”には役に立たないのにな・・・!」

 

「ウギギギギギギギギギギギギッッ!!! ぼ、僕は英雄だぁ! 僕が英雄だ! 僕こそが英雄だぁ! 僕だけが英雄だぁ! 僕のみが英雄だぁぁっ!! 大体可笑しいじゃないか!? 何で“旧時代の遺物”であるテメェ等がっ!! “別世界の異分子”共がぁ!! この世界の“真の英雄”であるこの僕を差し置いてぇ、英雄気取りでこの世に蔓延ってンだよォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!」

 

癇癪を引き起こしながら喚くウェルを変わらず冷めた目線のアルバフィカは拳を振り上げてただ一言呟いた。

 

「おそらく我々がこの世界に来たのは、お前のような愚か者の好き勝手にさせない為だ・・・! それにな、我々黄金聖闘士は貴様を許せん!」

 

その時、アルバフィカを含んだ黄金聖闘士全員の言葉が重なった。

 

『俺達/我等の“盟友<アルデバラン>”と同じ声で、これ以上下劣な言葉を吐き出すなッッ!!』

 

そして、アルバフィカの拳がウェルに迫る。そのコンマ数秒の時間が、スローモーションになったように緩慢に感じたウェルは“一応優秀な頭脳”をフル回転させた。

 

「(こ、こんな夢だぁ! いや、そうか! これは秒読みだぁ! “奇跡”が頑張った、“努力”した“結果”によって生まれる物であるなら! 当然僕にも“奇跡”が起こる筈だぁ!!!)」

 

ウェルは気づかない、“冥衣の左足のパーツ”と“右足のパーツ”が離れてる事に・・・。

 

「(そうとも! 僕はこの世界に顕現した“真の英雄”! こんな所で終わる存在では無い筈だぁっ!!!)」

 

“腰のパーツ”が、“両腕のパーツ”が離れ、アルバフィカの拳がゆっくりと迫る。

 

「(さぁ! 今こそ目覚めろ! 僕の内に秘められたスーパーパワー!! 危機的状況こそ! ピンチの時こそ! スーパーヒーローの真の力が発現するんだぁ!!!)」

 

“両肩のパーツ”が離れ、アルバフィカの拳が眼前に近づく。

 

「(さぁ早く目覚めろ!! 早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早くぅッッ!!!)」

 

“胴体パーツ”が離れ、ついにアルバフィカの拳が鼻先に触れる!

 

「(さぁっ!!! 目覚めろ僕のスーパーパワーよ!! 今こそ“奇跡”を起こせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!)」

 

“背中パーツ”が、離れ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バゴンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ・・・? 僕の、“スーパーパワー”は・・・?」

 

ウェルの顔面にアルバフィカの拳が深く深く、めり込んみ、肉と骨の潰れる音が耳に入った・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

「少しは楽しめたが、所詮はこの“程度”か・・・」

 

 

 

 

ーアスミタsideー

 

アスミタはウェルから離れた“冥衣”を睨んでいたが、レグルス達や響達は、殴り飛ばされズタボロになったウェルを見ていた。

 

「ウソだ・・・こんなの、何かの間違いだ・・・こんなの、きっと悪い夢だぁ・・・真の英雄である、筈の僕が・・・・こんな惨めな姿を・・・・めざめろ、僕の・・・スーパーパワー・・・早く・・・めざめるんだぁ・・・!」

 

顔面が血塗れでボロ雑巾のようになり、無様な姿を晒してもなお足掻こうとするウェルに奏者達はおののく。

 

「ここまで追い詰められていながら、まだ足掻こうとするなんて・・・!」

 

「敵ながら、そら恐ろしいヤツだ・・・!」

 

「だが、もう終わりだな・・・」

 

「でも、どうして“冥衣”は・・・」

 

「ドクターから離れたデスか?」

 

「以前、アルバフィカから聴いた事がある。聖闘士達が纏う聖衣はただのプロテクターではなく、“意志”を持っていると・・・」

 

「聖衣に“意志”が有るんですか?」

 

「小日向未来、ガングニール、天羽々斬、イチイバル、君達も“ルナアタック”の時に見た筈だ。“聖衣”に宿った“前任者の魂”をな・・・」

 

アスミタの言葉で響達は思い出す、射手座<サジタリアス>の黄金聖衣に宿った“シジフォスの残留思念”を。

 

「我等の聖衣に“意志”が有るように、冥衣にも“意志”が有るのだろう」

 

「それで、ドクターから離れたのは?」

 

「簡単だ、あの愚か者は“ネフェリムの細胞”で冥衣を操っていたつもりだろうが実はそうでは無く、冥衣に“見放された”のだ」

 

『見放された・・・?』

 

「そう、そしてここからが本当の戦いだ・・・!」

 

首を傾げる奏者達と違い、アスミタを含んだ黄金聖闘士達が、身構える!

 

 

「ま、まだだぁ・・・! は、早く・・・! もう一度だぁ・・・! もう一度“冥衣”を操って、今度こそ、あの“遺物共”を・・・! “異分子共”を・・・!!」

 

這いつくばって地面に散らばった冥衣にすがろうとするウェルに、イヤ、冥衣にアスミタが呟く。

 

「いい加減に、くだらん茶番劇を終わらせたらどうだ・・・・・・・・“アタバク”っ!!」

 

アスミタが一喝すると、冥衣が独りでに動き出し、空中で冥衣を展開した状態になり、空洞の部分から“黒い靄”が現れた!

 

「な、なんだぁっ!? なんなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ??!!」

 

ほとんど撹乱状態になったウェルに構わず、“靄”の中から“人間”の形になり、声が響いた。それを見て、アスミタやレグルス達も臨戦態勢に入る。

 

「フフフフフフ、何時から気づいていた? 乙女座<ヴァルゴ>、イヤ、黄金聖闘士共よ・・・?」

 

「其処の愚か者が冥衣を持ち出した時に気づいたのだ。冥界の物とは言え冥衣もまた“完全聖遺物”。愚か者が左腕に仕込んだのは所詮“ネフェリムの一部”、言うなればシンフォギア奏者達と同じ“欠片”だ。“欠片ごとき”で自在に操作出来るほど、冥界の鎧は安い聖遺物では無いと推理しただけだ・・・!」

 

「成る程、道理だな・・・! では此方も姿を現そうかっ!!」

 

徐々に“靄”が人の“形”になると、その姿を現した!

 

禿頭と浅黒い肌、鍛えられているであろう肉体に、ウェルの時は若干ブカブカ感があった冥衣が完全にフィットし、妙齢で無感情な顔つきの男!

 

『・・・・・・・・・!!!』

 

『・・・・・・・・・』

 

戸惑う奏者達の近くにレグルス達が戻って来た。

 

「レグルス君・・・あの人は・・・一体・・・!?」

 

「俺も話で聞いただけだけど。あの男は、俺達が使える戦女神アテナの宿敵! 冥界を統べる“冥王ハーデス”に使える108の魔星に選ばれし闘士・・・! “地上で最も神に近い聖闘士”がアスミタならば、ヤツは“冥界で最も神に近い冥闘士<スペクター>”・・・・・・・・!!」

 

聖闘士達が声を揃えてその男の名を叫ぶ!

 

 

 

 

 

『“悪神 アタバク”!!』

 

 

 

 

 

 

響達はアタバクの方を見ると。

 

「・・・・・・(チラッ)」

 

ゴオォォウッッ!!!!

 

『ビクゥッ!!!!』

 

アタバクと目が合った瞬間、響達に戦慄が走る!

 

「(何なんだよ・・・?! アイツ・・・!)」

 

「(今まで相手取って来た者達とは、桁違いすぎる!)」

 

「(まるで“背骨の筋”に氷柱が刺さったような、この威圧感・・・!)」

 

「(ホントにコイツ・・・! 冥界の亡者なんデスか!?)」

 

「(違う・・・! ウェルなんてまるで足元にも及んでないと言って良いほどの存在感!! これが・・・!)」

 

「(この人が・・・冥闘士<スペクター>・・・!!)」

 

「(アスミタさんと同じ・・・! “神に近い闘士”!?)」

 

奏者達と未来は、アタバクから放たれる威圧感に容易く射竦められ硬直する。

 

「アワ、アワ、アワワワワワっ! アヒッ、アヒッ、アヒへッ!アヒフェェェェェェェェェェェッッ!!!!」

 

そしてアタバクの姿を眼前で捉えたウェルはその威圧感と迫力に尻餅を付き、失禁までして後ずさるがーーーーーー。

 

ガシッ!

 

その片足をアタバクの背中の腕が掴み、逆さ吊りになったウェルの眼前にアタバクの“無感情な顔”がいた!

 

「ヒィィィィィィィィィィッッ!!!!」

 

「フン、こんな“小物”でも分不相応の考えと力を持つとここまで愉快な“道化”に成るものだな・・・」

 

「(ど、“道化”だとっ!? ふざけるな! こ、この僕を愚弄しやがって! も、もう一度ネフェリムで、お前の冥衣を操ってくれるっ!!)」

 

ウェルは左腕をアタバクの纏う冥衣に当てる。

 

「ウェヘヘヘヘヘヘヘッッ! この旧時代の骨董品風情が! さぁ、冥衣! もう一度この僕にかしずけっ!!」

 

シーーーーン・・・・・・。

 

しかし、冥衣はまるで反応せず、アタバクは小馬鹿にした笑みを浮かべる。

 

「どうしたのだウェルよ? 我が冥衣を奪うのだろう?」

 

「な、何で?! 何で何で何で何で何でっ!!??」

 

全く反応しない冥衣にウェルの顔色が徐々に青ざめる。

 

「つくづく滑稽かつ愚かだな、お前は・・・」

 

アタバクの冥衣の腕がウェルの左腕を掴む。

 

「ヒイッッ!?」

 

「所詮お前の左腕に移植されたのは“ネフェリムの一部”。完全聖遺物である冥衣を操れていたと思っていたのか?」

 

「な、何だとっ!?」

 

「今までお前が使っていたのは冥衣の“上澄み”だけ、“本来の力”の少しも引き出してなどいないわ・・・!」

 

グシャッ!!

 

「ウギィヤァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」

 

冥衣の腕がウェルの左腕を“握り潰した”!

 

「あ、あぁ・・・!」

 

「ガングニールよ、覚えておけ・・・」

 

愕然となる奏者達、そしてアスミタが響に説く。

 

「この世には、“話は通じても決して分かり敢えない存在”と言う者がある。話し合いで解決しようとするその心“だけ”は評価するが、そう言った存在がいると言う事を覚えておけ・・・」

 

「“話し合いが通じない存在”・・・!」

 

それは響の“信条”と“相反する考え”であり、響が決して“理解したくない事柄”であった。

 

アスミタは結跏趺座をすると宙に浮かび、アタバクと対峙する。

 

「ほぉ、乙女座<ヴァルゴ>の黄金聖闘士か・・・」

 

「悪神アタバクよ、そなたは“この世界のアタバク”で相違ないか?」

 

「成る程、どうやら“お前達の世界の私”はお前と遭遇していたようだな・・・」

 

アスミタとアタバクの会話に奏者達は首を傾げる。

 

「デジェル兄ぃ、どういう事?」

 

「“私達の世界”で冥王軍との聖戦が始まる前、アスミタはアタバクと交戦し、ヤツを倒した。アスミタにとってアタバクは因縁の有る冥闘士なのだ」

 

今目の前にいるのは、聖戦が始まる前にアスミタが倒したアタバクではなく、この“シンフォギア世界”のアタバクであると確信したアスミタはアタバクと対話を続ける。

 

「そなたが“この世界のアタバク”である事は分かったが、何故冥衣に宿っていた?」

 

「簡単だ、かつてこの地上を壊滅させた“神々の大戦<グレートウォー>”の折り、我等冥闘士はいずれ起こるであろう冥王ハーデスの復活に備え、“冥衣に己の魂”を封印したのだ」

 

「冥衣に・・・!」

 

「自分の魂を封印しただと!?」

 

「その封印された冥闘士が甦ったと言う事は・・・!」

 

「まさか・・・冥王ハーデスが甦るって言うの!?」

 

「かつて地上を滅ぼした“元凶の神”、冥王ハーデス・・・!」

 

「そいつが復活したら、どうなるんデスか!?」

 

奏者達はアタバクの言葉に、背中に冷たい汗が流れる。

 

「アタバクと同じように封印された108の魔星に選ばれた冥闘士達が、再び地上に進行するだろう・・・」

 

「やべぇな、こちとら聖闘士は今現在ここにいる黄金聖闘士だけだぜ・・・」

 

「そうなったら俺らだけでも戦い抜くしかねぇだろ」

 

「覚悟は出来ている・・・!」

 

「ま、それしか無いよな・・・」

 

「ふっ・・・」

 

「あの~、皆さん強気過ぎなんですけど・・・」

 

聖闘士達の態度に未来は苦笑いを浮かべながらやんわりとツッコム。

 

「安心しろ聖闘士達よ。まだ“ハーデス”も“双子神”も“魔女”も覚醒していない。私だけが覚醒出来たのは、この男のお陰だ・・・」

 

「ヒギ、ヒギィ! ヒギヒィィィィィィィィィィッッ!!」

 

「ソレのお陰・・・?」

 

吊らされたウェルを弄びながらアタバクは愉快そうに語る。

 

「この男とは“三年前から”の付き合いだ・・・そう、“射手座<サジタリアス>の黄金聖闘士”が行方不明になった時からな・・・!」

 

『っ!?』

 

レグルスの伯父にして、前ガングニール奏者 天羽奏の恋人、黄金聖闘士達の中心的人物であった射手座の黄金聖闘士、サジタリアスのシジフォスの名が出た事に聖闘士達と奏者達の顔に驚愕と戸惑いが入り混じった。

 

「何故そこでシジフォスが出る・・・?」

 

アスミタの問いにアタバクは笑みを崩さずに応える。

 

「教えてやろう・・・“三年前”、サジタリアスの身に起こった事をな・・・」

 

「や、やめろっ!」

 

ウェルが焦ったように喚き始めるが、アタバクは構うこと無く聖闘士達と奏者達に語ろうとしていた。

 

「やめろ! やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇッッ! 僕の胸の内を暴かないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!」

 

ポゥッ!

 

アタバクは喧しく喚くウェルを完全に無視してアタバクは聖闘士達と奏者達や未来の脳裏にテレパシーを送る。

 

「この男はな・・・射手座<サジタリアス>に、貴様ら黄金聖闘士に、“嫉妬”していたのだよ・・・!」

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 

狂乱するウェルに構わず、聖闘士達と奏者達は見た! “三年前のツヴァイウィングのライブ襲撃”の“裏”で起こった出来事をーーーーーーーーーーーー。

 

 

 




次回はついに“神に近い闘士”達の決戦です!

そしてもしかしたら未来が“奇跡”を起こす、かも!


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登場、聖なる少女!

アタバクにオリジナル技を授けます。


時は少し遡り、アスミタと未来が二課仮設本部から『FRONTIER』へ転移してすぐの頃。

 

「小日向未来、君にコレを渡しておく・・・」

 

アスミタが未来にレグルスがフランスで見つけた“あるモノ”を渡す。

 

「アスミタさん、これって・・・?」

 

「何、御守り代わりだ。持っておくと良い」

 

そう言ってアスミタは未来を連れて宙を飛びながらレグルス達が戦う場所を目指す、未来はアスミタから渡された“銀製のブローチ”を眺めていた。

 

「(綺麗なブローチ・・・でも、“何か”が彫られている・・・?)」

 

中心部に“星座の線”が彫られていた。

 

 

 

~三年前~

 

ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスが聖闘士の存在を知ったのは、以前からFISがマークしていた“完全聖遺物 黄金聖衣”を纏う闘士、黄金聖闘士の活動映像を見た時だった(その頃には既にアルバフィカ達と接触していたナスターシャ教授が調査していたからだ)。

ウェルキンゲトリクスは自尊心<プライド>が異常に高い人間だった、自分の頭脳に絶対とも言える自信があった。自分が“英雄”と信奉・崇拝される存在になる事ができると狂信していたが、“聖闘士の存在”が彼にとって目障りだった。

所詮“聖遺物の恩恵”で力を手にした“遺物”にして“異分子”、だが“英雄”と呼ばれる存在感が彼等にあった。

 

特に、“射手座<サジタリアス>のシジフォス”。

 

彼はその出で立ち、雰囲気、能力、精神、どれをとっても“英雄”・“勇者”と呼ばれても差し支えない存在であった。しかしそれがウェルの自尊心を大いに逆撫でした。

 

「僕にだって聖遺物が有れば・・・僕にも力が有れば・・・あんな異分子共なんかにぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!!」

 

暗い研究室のモニターに映るシジフォスをウェルは不倶戴天の怨敵を見るように睨んでいた。そして、そんなウェルを眺めていた“黒い玉”があった。

 

[・・・・・・・・・・・・]

 

「っ!? な、何だ!? 何だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

“黒い玉”に宿る“完全聖遺物 冥衣”に宿る“悪神アタバク”は、ウェルの身体に自らの冥衣を纏わせる!

 

「・・・・・・・・・へへへへへへへへ、ウヘ、ウヘ、ウヘヘヘヘ、ヒャアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!」

 

自らに纏う冥衣に一瞬戸惑ったウェルだか、直ぐに狂笑を上げると“黒い光”に包まれて、転移した!

 

 

~日本海~

 

シジフォスはヘリコプターを操作し、日本海側に現れたノイズの討伐に向かっていると、目の前に“黒い光”が現れ、そこから冥衣を纏ったウェルが出現した!

 

「っあれは冥衣<サープリス>?! 何者だっ!」

 

ヘリをオートパイロットにしたシジフォスは聖衣を纏って、ウェルと対峙する。

 

「はじめまして、射手座<サジタリアス>のシジフォス殿。私はジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスと言います。イヤ~、御高名なアテナの聖闘士の最高峰、黄金聖闘士にこうしてお会い出来るとは恐悦至極・・・!」

 

頭を下げ口調は丁寧だが、どこか慇懃無礼な雰囲気と醸し出される“悪意”と“敵意”にシジフォスは警戒する。

 

「何者なんだ? 私はこれからノイズを討伐しなければならない、悪いが邪魔をしないでもらおう・・・!」

 

「いえね、貴方にこれから・・・・・・消えて貰うんだよッ!!」

 

ゆっくり顔を上げたウェルは醜悪にニヤケた笑みで背中の腕でシジフォスを攻撃しヘリを破壊した!

 

「っ!」

 

シジフォスは逸早く脱出し、黄金聖衣の翼を広げてパラグライダーのように気流に乗りながら飛行する!

 

「なんのつもりだ・・・?」

 

「邪魔なんですよぉ・・・僕が“英雄”になる為には、貴方のような“遺物”の存在が、邪魔なんだぁッ!!!」

 

目を見開き更に醜悪に歪ませた笑みを浮かべたウェルは、次々と繰り出すが、冥衣の腕の攻撃をヒラリヒラリとかわすシジフォスはウェルが纏う冥衣を睨む。

 

「その冥衣を外せ! ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス! ソレは君が使いこなせるモノではないっ!」

 

「ヒャァハハハハハハハッッ!! な~に言ってんだぁ、この異分子はぁ? この冥衣が僕を選んだんだよ! そう! この世界の“真の英雄”であるこの僕になぁっ!」

 

「“英雄”? 何を言っているのか分からないが、“真の英雄”とは自らで称えるモノでは無い! “自らの行い”を人々に認められたモノが“英雄”だっ!」

 

「あー!あー! 聴っこえませ~ん♪」

 

シジフォスの言葉に全く聞く耳を傾けないウェル。すると、シジフォスの目が“ミサイルを取り込んだノイズ”を捉えた!

 

「(あれは、ノイズがミサイルを取り込んでいる!? 不味い! もしもあのノイズが陸地に着弾してしまったら!)」

 

シジフォスはノイズを方へ向かうが、ウェルはノイズの事などお構い無しにシジフォスを追撃する!

 

「イィヒヒヒヒヒヒ!! 逃がすかYO! これは通過儀礼だぁ! 僕が“真の英雄”になる覇道を歩む為の・・・」

 

「邪魔をしないでもらおう!」

 

喧しく吠えているウェルなど、完全に眼中に無いシジフォスは聖衣の翼を動かす!

 

「黄金の旋風よ、邪悪を凪ぎ払え! 『ケイロンズライトインパルス』!!」

 

ブォォオオオオオオオオオオオオンンッッ!!!

 

「ブギャァァァァァァァァァァァァッッ!!!!」

 

黄金の旋風に呑み込まれたウェルはそのまま吹き飛び、“黒い光”に包まれ退散した。

 

「・・・・・・・・・」

 

ようやく“邪魔者”が消えた事を確認したシジフォスは急ぎノイズの方へ向かうが。

 

「このままでは間に合わない!・・・・・・奏、すまない・・・!」

 

シジフォスは流星となってノイズに体当たりをした。するとミサイルが爆裂し、巨大な光が破裂しシジフォスを呑み込もうとする!

 

「(あの男が纏っていたのは冥衣・・・射手座<サジタリアス>の黄金聖衣よ! いずれ来る聖戦に備えて、お前は残れ!!)」

 

射手座<サジタリアス>の黄金聖衣をオブジェ形態になり、天高く飛んでいった。それを見届けたシジフォスは目をつぶり、爆裂の光に呑まれた・・・・・・。

 

 

ーウェルsideー

 

「ギャヒィッ! ひ、ひ、ヒヒィっ!」

 

シジフォスの『ケイロンズライトインパルス』で吹き飛んだウェルは自身の研究室に逃げ込むと纏っていた冥衣が“黒い玉”になり、ウェルの近くに転がった。

 

「へへへへ、コレが有れば僕は英雄になれるぅ♪ な~れ~るゥゥゥ~♪ またコレを使えるようにしないとなぁ♪」

 

鼻唄混じりに狂笑を浮かべるウェルを“黒い玉”となった冥衣に中に宿るアタバクが眺めながらニヤリとほくそ笑む。

 

[クククク・・・]

 

そしてウェルにFISのナスターシャ教授から協力の話が入り、そこで“ネフェリム”の存在を知り、ウェルの“野心”と“欲望”が蠢いたーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

ー現在ー

 

『っ!?』

 

アタバクから見せられた“三年前の出来事”から意識が現在に戻った聖闘士達と奏者達(未来も含め)。時間的にはまだ1分も経っていない。

 

「こんな・・・こんな下らない理由で・・・シジフォスを・・・!!」

 

「・・・・・・・・・」

 

余りにも下らない“嫉妬”からシジフォスの行方不明の原因を作ったウェルを翼とエルシドは目を鋭くして睨む。

 

「あ、あぁ、あああああぁぁぁ・・・!!」

 

「ソイツがシジフォスに“一方的な嫉妬”をしていたのは分かったけど、何故力を与えたアタバク?」

 

「面白いと思ったからだ」

 

自分が“遺物”や“異分子”と貶していた聖闘士に実は“妬み”、“嫉み”の感情を抱いていた。自尊心<プライド>の高いウェルにとって“最大にして最悪の屈辱”に咽び泣く姿を無視しながら、レグルスは割りと冷静にアタバクに問うが、アタバクは息を吐くように簡単に答えた。

 

「面白い・・・?」

 

「他の冥闘士達は、ハーデスが甦る時を待ち、冥衣の中で眠っているが、私は“神々の大戦<グレートウォー>”の時代からずっと見てきた。人間と言う存在をな・・・」

 

「(アタバクを除いた冥闘士達はまだ眠りについていると言う事か・・・)」

 

「(ならば、我等のやるべき事は・・・!)」

 

「この男は非常に“愚か”で“我欲”が強い、己の“我欲”を満たす為にどれ程の事が出来るのか、退屈しのぎに“力”を与えてやったのだよ。私の冥衣をこの男が使えるようにしたのもその為だ・・・」

 

「う、嘘だ・・・! あの時<冥衣を初めて纏った時>僕が冥衣を纏えたのは、僕の中の“秘めた力”が発現したからでーーーーーー」

 

「何処までも愚かでめでたいな・・・」

 

「ヒイイイイイイイイッ!!」

 

吊られたウェルを眼前にまで寄せると、アタバクは嘲弄の笑みを浮かべ、全くの“無感情の瞳”でウェルに告げる。

 

「お前ごときにそのような“力”があると本気で思っていたのか?」

 

「あわ、あわわ・・・!!」

 

「お前など・・・」

 

「やめろ! それ以上言うな! やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「私が与えてやった“力”で踊り狂っていただけの、“ただの人間”イヤ、それ以下の“道化”風情でしかないわ」

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」

 

自分を“英雄”と自己崇拝していたウェルにとって、“ただの人間”以下の“道化”扱いされ、自分が操っていた“力”はアタバクに“与えられた力”である事や、今までアタバクの掌の上で踊らされていた真実は、アイデンティティを根元から粉砕されたも同然、錯乱したように悲鳴を上げたウェルはそのまま力無く吊るされた。

 

「・・・あ・・・ぁあ・・・・・あぁ・・・」

 

逆さまの状態で涙と鼻水と唾液を滴ながら絶望の表情を浮かべるウェルをアタバクは興味なく一瞥する。

 

「もう少し愉快な踊りが見れると思ったが、ここまでか・・・」

 

「アタバクよ、お前は何の目論見があって甦ったのだ・・・?」

 

「・・・・・・(スッ)」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!

 

アスミタの言葉に無言でアタバクが腕を上げると地響きが『FRONTIER』を揺らした!

 

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!!

 

「なんだ!?」

 

「司令! あれを見てください!」

 

「っ!? “ネフェリムの心臓”が!?」

 

弦十郎と緒川が見ると、ジェネレーターに張り付いていた“ネフェリムの心臓”が赤く輝き、外に飛び出し、弦十郎と緒川は直ぐにジェネレータールームを脱出した。

 

 

 

ーアスミタsideー

 

「ムッ!」

 

『っっ!』

 

アスミタと再び黄金聖衣を纏ったレグルス達が、近づいてくる“気配”に目を鋭くして睨むと。

 

ズシィィィィィィィンンッッ!

 

ソコに現れたのは“真っ赤に発光したネフェリム”だった!

 

「あれはまさか・・・!」

 

「ネフェリム・・・!?」

 

「デェェスっ!?」

 

「今までとまるで違う!」

 

「つか、何か燃えてるぞ!!」

 

「一体あれって!?」

 

驚く奏者達にアタバクが答える。

 

「“心臓部”に内包していた超エネルギーを解放し形作った、1兆度の超高熱を発する新たな“ネフェリム”・・・そう、“ネフェリム・ノヴァ”とでも名付けようか」

 

「何故お前がネフェリムを使える?!」

 

「簡単な事、コレ<ウェル>がこの『FRONTIER』を操作できたのはネフェリムの細胞から放たれる“波動”を使って操作できた、ならばその細胞よりも強力な“波動”を放てば簡単にネフェリムを操る事が出来る」

 

「そのネフェリム・ノヴァを使い、何とする?」

 

「そうだな、コレを使い、この“バラルの呪詛”に汚染された地上と人間達を・・・焼却処分するか・・・!」

 

『っっ!!??』

 

「(やはりな・・・・・・)」

 

アスミタ以外は驚愕の様相を浮かべ、響がアタバクに向かって叫ぶ。

 

「なんで!? なんで地上や人々を処分するんですか!?」

 

「人間は愚かな生き物だ、今回のような“心の暖かさ”を知っても直ぐに己の“我欲”に呑まれ過ちを繰り返す。ならば、一度“呪詛”に犯された世界を滅却し、“新たな人類”を造り出す方が手早い」

 

「新たな、人類だと・・・?」

 

「何言ってやがる・・・!」

 

翼とクリスもアタバクの言葉に戸惑う。

 

「そんな事無いよ! 誰とだって解り合う事ができる! 貴方とだって!」

 

「ハッ! 自分の“過去”と“真に向き合っていない”小娘が何をほざく?」

 

「えっ・・・?」

 

「君の言葉など所詮、人間の綺麗な心“だけ”を見て、“汚い心”は“見て見ぬフリ”をしている陳腐な持論だ・・・!」

 

「そ、そんな事・・・」

 

「たかだか十数年しか生きておらず、“夢想”に酔っている“だけ”の小娘の言葉など、幾百、幾万、幾億と並べられようとも、私の心に響かぬわ」

 

「・・・・・・・・・」

 

アタバクの見下した瞳と、はっきりとした“拒絶の言葉”に響は押し黙ってしまい、アタバクはアスミタを見据える。

 

「アスミタよ、貴殿はソコの小娘と違い理解している筈だ。今の人類は“バラルの呪詛”に汚染され、人類は果ての無い“過ち”を犯し続けている。このままでは冥王ハーデスが甦る前に人類が地上を滅ぼしてしまいかねない。だからこそ、私“達”のような“大いなる悟り”に近き者が、新たな人類の創造主に成るべきだとは思わないか、アスミタ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アタバクは同じ“神に近い闘士”であるアスミタを仲間に引き入れようとする。

 

「まさか、ヤツは・・・アタバクは・・・!」

 

「アスミタを仲間に引き入れるつもりか・・・!?」

 

「そうなったら、こっちは“神に近い闘士の二人”と“ネフェリム・ノヴァ”を相手取らないといけねぇな」

 

アルバフィカとカルディア、マニゴルドが警戒し、奏者達とレグルス達もアスミタの動きに僅かに警戒する。

 

「どうだアスミタよ、私と共に新たな人類を生み出そうではないか。私とお前は同じ・・・」

 

「違うッ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「み、未来・・・?」

 

アタバクの言葉を遮るように声を張り上げる未来に、響だけでなく翼もクリスもマリア達は勿論、レグルス達も呆気にとられた。

 

「アスミタさんは貴方とは違う! だってアスミタさんは、“生命の尊さ”を知っているから! そうじゃなきゃクリスのご両親の為に、あんなに優しくて清らかなお経を唱えられる筈が無いもの!!」

 

「あっ・・・!」

 

「ハッ・・・!」

 

未来の言葉にクリスとデジェルは思い出す、クリスの両親の死を悼み、唱えてくれたアスミタの曇りの無い読教を。

 

「そうだよな・・・アスミタはあんな生け好かねぇ上から目線野郎とは違う!」

 

「アスミタは誰よりも、世の無情と、それで傷付く人々の事を想い憂いる事が出来る男だ。お前のように掌で人間を見下す者とは断じて違う!」

 

他の皆は首を傾げたが、クリスとデジェルだけは理解し、未来に同意した。

 

「フゥゥ、凡俗に我らを理解する事など、到底出来はしない・・・」

 

「黙れ・・・」

 

「何・・・?」

 

「黙れと言っている・・・アタバク・・・!」

 

見るとアスミタは小宇宙<コスモ>を高めてアタバクに凄む。

 

「何を言うかと聴いてみれば、とんと下らん話をしてくれる・・・! 人類の創造主だと? 全く詰まらん話だ・・・!」

 

「アスミタよ、貴殿はこの世界をこのままにするのか? “バラルの呪詛”に汚染されたこの世界を・・・!」

 

「私とて初めてこの世界に顕現した時、世界の醜さに失望と徒労に苛まれた。だがな、私はこの世界を滅却しようなどとは思わん・・・! 私には、“大切なモノ”ができ過ぎてしまった・・・」

 

アスミタの脳裏にのれんの向こうにいる人、“おばちゃん”の笑顔と友を想う健気な少女<未来>の笑顔が浮かんだ。

 

「アタバクよ、所詮我らは神に“近い”だけだ、“神”その者になった訳ではない。不毛な事をするな!」

 

「・・・・・・・・・残念だ、アスミタ」

 

失望の顔になったアタバクの背中の腕の何本かが、『FRONTIER』の大地に突き立てられると、地面からおどろおどろしくも禍々しい“巨大な門”が現れ、“門”が開いた!

 

「っ! あれはっ!」

 

「地獄の悪鬼羅刹よ、我に従え!」

 

『地獄門 百鬼夜行』ッ!!

 

グオオオオオオオオオオオオオッ!!!

 

門の中からまるで日本神話やおとぎ話で出てくるような異形の怪物、筋骨隆々で顔の口からはギザギザの歯が生え、その頭には一本から二本もある角を生やしたそう、“鬼”が現れた!

 

「な、何だあれは?!」

 

「“地獄”の悪鬼達だ・・・!」

 

「“地獄”っ!? んなもんが本当に有るのかよ!!」

 

「原理はおそらくアスミタの『天空波邪 魑魅魍魎』と同じだろう。“地獄の門”を召喚し、地獄の鬼共を従えているんだ!」

 

奏者達はおののくが、聖闘士達はそれぞれ構える。

 

「未来、直ぐに逃げて!」

 

「イヤ!」

 

「イヤ、イヤって・・・」

 

響は未来を逃がそうとするが、未来は頑として動こうとしなかった。

 

「皆が戦っているのに、私だけ逃げられないよ! 私だって戦いたいんだ!」

 

「で、でも・・・」

 

「(私だって、響や翼さんやクリスやマリアさん達を・・・・・・アスミタさんを守りたい!)」

 

シュォォォォォォォォォ・・・。

 

「えっ?」

 

突然、未来の髪と瞳が淡く輝く。

 

『っっ!!??』

 

未来の異変に、聖闘士達の髪と瞳も淡く輝いた。

 

「コイツは・・・!」

 

「おいおいおいおいおい、マジかよ!?」

 

「小日向未来、君は・・・!」

 

カルディアとマニゴルドとアルバフィカが未来を見据える。

 

「小日向に、小宇宙<コスモ>を感じる・・・!」

 

「まさか・・・!」

 

「デジェル、分かった?!」

 

「小日向君は体内に残っていた“LiNKER”を除去する為に、アスミタから“小宇宙<コスモ>”を流し込まれていた・・・」

 

「そうか! それが起因になって未来の中に有る小宇宙<コスモ>が目覚めたんだ!」

 

「未来に、レグルス君達と同じように小宇宙<コスモ>が・・・!?」

 

「何と・・・!」

 

「マジ・・・?」

 

「信じられないデェス・・・」

 

「(じゃマニゴルドの小宇宙<コスモ>を流し込まれた私にも・・・)」

 

「(アルバフィカから流された私にも・・・小宇宙<コスモ>が・・・?)」

 

キュォォォォォォォォォ・・・。

 

何かが“共鳴”する音が聴こえ、未来は懐にしまっておいた“ブローチ”を取り出す。

 

「あっ! ソレ、俺がフランスの露天で見つけた!」

 

「小日向未来! 呼び掛けよ、そのブローチに眠る君の“運命の星座”をっ!!」

 

「アスミタさん・・・わかる、このブローチの中に眠る星が・・・・目覚めて、私の“大切な友達”と、“大切な人”を守る為に・・・・!」

 

そして未来は呼ぶ、己の“星の鎧”を!

 

「琴座<ライラ>ッ!!」

 

未来が叫ぶと、ブローチがまるで聖衣レリーフのように光り輝き、その姿を“白銀の聖衣匣”へと変え、匣が開くとその中から“白銀の琴のオブジェ”が現れた!

 

「あれって!?」

 

「黄金<ゴールド>イヤ、白銀<シルバー>の聖衣!?」

 

「まさかあれが!」

 

「聖闘士の最高峰が黄金聖闘士なら、“正規の聖闘士”の称号である聖衣!」

 

「白銀聖闘士<シルバーセイント>の!」

 

「白銀聖衣<シルバークロス>・・・!」

 

驚く奏者を余所に、白銀の琴が各パーツに分割し、未来の身体に纏う!

 

「未来が、“女性聖闘士”に!?」

 

「イヤ待て! あれは!?」

 

女性らしい細く洗練された曲線になり、身体を包む聖衣の肩や腕のパーツからフリルが現れ、スカートを履いた出で立ちにヘッドパーツはティアラのように頭に装備される。それは動きやすいように“軽装”になる“女性聖闘士”と異なる姿。

 

「あれは、“女性聖闘士”などではない!」

 

「そう、我々聖闘士がアテナを“守る闘士”ならば、アテナを“支える少女”、その名を“聖闘少女<セインティア>”っ!」

 

驚くレグルス達や響達、さらにこの展開に面食らって硬直したアタバクを無視してアスミタは叫ぶ!

 

「小日向未来、彼女こそ新たな“聖闘少女“。琴座の聖闘少女<ライラのセインティア>”だっ!」

 

白銀に煌めく聖衣を纏い、白銀の竪琴を持って佇む未来の姿勢は、まるで“神話の戦乙女”のように勇ましく、凛々しく、そして美しかったーーーーーーー。




『地獄門 百鬼夜行』
アタバクのオリジナル技、原理は『天空波邪 魑魅魍魎』と同じ、怨霊ではなく地獄の悪鬼羅刹を召喚し従える技。

未来の琴座<ライラ>の白銀聖衣は、“琴座のオルフェ”の聖衣をセインティア翔風にアレンジしたモノを想像してください。


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抱き締めろ、心の少宇宙<コスモ>!

今回は未来の活躍をメインにします。


『聖闘少女<セインティア>』

アテナの御身を守るのが聖闘士ならば、聖闘少女<セインティア>とは、聖闘士の中でアテナの身の回りのお世話をする侍女とアテナの御身を守る戦士を兼業し、“女性聖闘士”と違い“生涯仮面を被る必要の無い特別枠”であり、『優れた素養を持つ純潔な完全なる乙女』としてアテナに“寄り添い”、“支える存在”、それが聖闘少女<セインティア>である。

 

そして今、この『シンフォギア世界』に顕現するは、琴座<ライラ>の白銀聖衣<シルバークロス>を纏いセインティアへとなった小日向未来!

 

「これが・・・白銀聖衣・・・!」

 

いつの間にかスカートの丈が短い白いワンピースの上に装着され、手には竪琴を持ち、煌めく白銀の鎧を未来は呆然としながらも、聖衣から感じる“生命力”を感じていた。

 

「(分かる、この聖衣を纏って戦ってきた前セインティアの想いが・・・!)」

 

「未来が・・・聖闘士になっちゃった・・・!」

 

「小日向が・・・聖衣を・・・!」

 

「マジで奇跡じゃねぇかよ・・・!」

 

「あれが白銀聖闘士なの・・・?」

 

「キレイ・・・」

 

「黄金聖闘士はお日さまみたいデスが、白銀聖闘士はまさにお月様デェス・・・」

 

響達奏者達も、突然白銀聖衣を纏う未来を呆然と見つめるが。

 

「ククククククククク・・・!」

 

『っ!?』

 

アタバクの不気味な笑いに全員が見ると、ネフェリム・ノヴァと『地獄門 百鬼夜行』で現れた“巨大な門”から次々とやって来る“鬼”を従えるアタバクがいた。アタバクは既に欠片も興味を失ったウェルを手放すと、ウェルは重力に従い地獄の鬼達がひしめく大地にまっ逆さまに落ちていく。

 

「(どこを間違えたんだ・・・? 僕はどこを間違えたんだ・・・? “英雄”になる為に“全部”を利用してきたのに・・・アイツら<聖闘士>もソイツら<マリア達>も・・・あのババア<ナスターシャ>もコイツら<二課>も・・・皆、皆、僕の掌で躍り狂わせてきた筈なのに・・・何で、“真の英雄”たるこの僕が・・・!!) ちくしょう・・・ちくしょう・・・ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう、ぢぐじょオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!」

 

全てを自らの掌で操ってきたつもりが、実は“自分”も掌で踊る道化に過ぎなかった事実に、自尊心<プライド>とアイデンティティを粉々に粉砕され、涙と鼻水と涎を垂れ流しながら、ウェルは慟哭を上げて地面に落下する。

 

「あっ!」

 

響が助けに行こうとするが、ウェルの身体は“光に包まれ消えた”。

 

「ドクターは何処に・・・?」

 

「多分アスミタが何処かに転移したんだろうぜ・・・」

 

「以外に、優しいデスね・・・」

 

「(イヤ、ウェルみたいに自尊心の高いヤツは“死んで楽になる”よりも、“生かされる方”が逆に“苦痛”だろうよ・・・)」

 

調と切歌はアスミタの以外な“優しさ”に感心するが、ウェルのような人間にとって“最も残酷な事”をしたと聖闘士達は見抜いていたが、直ぐにウェルの事など忘れて、アタバクの方へ意識を戻す。

 

「なるほど、これは流石の私も驚いたぞ・・・! よもや“バラルの呪詛”に犯された、穢らわしい人間が聖闘少女<セインティア>として覚醒するとはな・・・!」

 

アタバク自身、ウェルなど“最初から居なかった”ように、セインティアへと覚醒した未来を興味深そうに見据える。

 

「アタバクよ、見たか? お前が見下す人間の中には“奇跡”を引き起こす“可能性”を持った者がいる・・・!」

 

「だが全ての人間がそうではない。人は直ぐに過ちを繰り返す、何度でも何度でもな。だからこそ、我等のような“大いなる悟り”に近き存在が新たな人類を創造し、“管理”すれば良いのだ・・・!」

 

「平行線だな・・・・・・」

 

「そうだな、では最後の問答としようか?」

 

「良かろう、私は“聖闘士”だ・・・! 聖闘士として地上と私の大切な人達に災いを呼び込む“害なる存在”を許さぬ・・・!」

 

「私は“バラルの呪詛”に汚染された地上を浄化し、愚かな人間共を消滅させ、新たな人類を創造し、その“新世界の生き神”として君臨する・・・!」

 

「言葉は尽くしたな。ならば、もはや問答は無用・・・!」

 

「これが最後の戦いだ・・・!」

 

アスミタが小宇宙<コスモ>をたぎらせ、アタバクも小宇宙<コスモ>を高め、二人に小宇宙<コスモ>がぶつかり合う!

 

ゴオオオオオオオオオオオオオッ!!

 

「アスミタさん!」

 

「響! もう言葉は尽くしたんだ・・・!」

 

「でも・・・でもっ!」

 

まだ話し合えるのでは無いかと、アスミタ達の元に向かおうとする響をレグルスは止める。

 

「立花、アタバクは我々の言葉に全く耳を傾けてはくれない」

 

「納得できねぇのも分かるけどよ・・・」

 

「ヤツは地上を滅ぼそうとする冥界の闘士、私達とは相容れないわ・・・!」

 

「「(コクコク)」」

 

翼やクリス、マリアの言葉に切歌と調も頷く。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「響。残念だけど、あの人<アタバク>は心から私達を見下している。同じ目線になれるアスミタさんの言葉にも心を変えなかった。あの人が響のお母さんやおばあちゃん、板場さん達や学校の皆を滅ぼそうとするなら、私達は皆を守る為に戦わないと!」

 

「未来・・・」

 

「私達が今やらなければならないのは、“ネフェリム・ノヴァ”と“地獄門”を破壊する事だよ・・・!」

 

まだ踏ん切りの付かない響に、未来は活動を開始しようとする“ネフェリム・ノヴァ”と“地獄門”から自分たちに向かってくる鬼達を見せる。

 

グルルルルルルルルルルッ!

 

グォォォォォォォォォォッ!

 

比較的に小型の鬼でも弦十郎以上の巨体から、大型では“ネフェリム・ノヴァ”の腰にも届く程の巨体の鬼達が“地獄門”からわらわらと現れる。

そしてそれらを見据える未来のその瞳には、レグルス達と同じ“地上の平和を守る者の目”をしていた。

 

「・・・・・・分かった・・・!」

 

納得は出来ないが、やるべき事を理解した響は頷くのを確認した未来の肩にエルシドがポンと優しく叩いて通りすぎ。

 

「小日向、その聖衣を纏い戦うつもりならば、俺はお前を“少女”とは思わん・・・!」

 

次にデジェルが叩いて通りすぎながらエルシドの言葉をフォローする。

 

「“少女”ではなく、共に戦う“戦士”として見ると言いたんだよ」

 

次にマニゴルドとカルディアが交互に。

 

「ま、足手まといにならない位は気張れよ!」

 

「後、俺の戦いの邪魔すんなよな!」

 

次にアルバフィカが通りすぎ。

 

「小日向未来、君には“すまない事”をした。だが戦うならば、私達は君を“甘やかす”つもりは無い」

 

最後にレグルスが未来の肩を優しく叩き通りすぎながらニッと笑顔を見せる。

 

「未来は“守られる女の子”じゃない、俺達と共に戦う“同士”だよ!」

 

“黄金聖闘士達が小日向未来を認めた”。響達は少なからず驚き、言われた未来も一瞬唖然となるが、直ぐに顔を引き締める。

 

「ハイッ!」

 

竪琴を構えて、レグルス達と共に“地獄門”に向かう為に並ぶ。

 

「“ネフェリム・ノヴァ”は私達奏者に任せて、必ずやって見せるわ!」

 

「「おおお~~! マリアカッコいい(デェス)!」」

 

「成長したなぁ、マリア・・・!」

 

「あの“外弁慶のヘタレ”が言うようになりやがって・・・!」

 

「アンタ達<マニゴルド&カルディア>は私の叔父さんかっ!? て言うか誰が“外弁慶のヘタレ”よ?!」

 

「漫才している場合か・・・」

 

毅然なマリアの姿勢に切歌と調は感嘆し、マニゴルドとカルディアは感慨深そうに頷き、マリアがキレの良いツッコミを炸裂させ、アルバフィカは呆れる。

 

そして改めて、レグルスが仲間達に向けて号令を出す!

 

「響達は“ネフェリム・ノヴァ”を! 俺達聖闘士は鬼共を倒し、“地獄門”を破壊するよ!!」

 

『応っ!!!/了解っ!!!』

 

聖闘士達が地上の“地獄門”へ。奏者達が空を飛び、立ち塞がる“灼熱の暴食巨人”へ向かった!

 

 

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

ガンッ!!!

 

ネフェリム・ノヴァが飛び去って、崩れたジェネレータールームから、ジープで脱出した弦十郎と緒川に隕石が落下するが弦十郎が拳で破壊する!

 

「フゥ~、緒川無事か!?」

 

「ハイ、しかしこれは・・・」

 

二人は巨大を“ネフェリム・ノヴァ”と禍々しい巨大な門<地獄門>と冥衣を纏った見たこと無い人物<アタバク>を見ながら、仮設本部に向けてジープを走らせる。

弦十郎が本部に連絡を入れようとすると、突然ジープの荷台が光り、ソコからウェルが倒れ落ちてきた?!

 

「ギャピィッ!!」

 

「「ウェル博士っ!?」」

 

驚く弦十郎と緒川、ウェルは這いつくばりながらゆっくり身体を起こし、アタバクの方を見る。

 

「・・・・・・・・・・・・ウヘヘヘヘヘ、へへへ、この世界を滅ぼすか・・・へへへへへへへへ良いじゃないか・・・良いじゃないかッ!!!」

 

ガバッと起き上がり醜悪なまでに顔を狂笑の笑みで歪ませたウェルは、膝立ちで腕を広げてアタバクのいる方向へ向かって吼える。

 

「良いじゃないかッ! 滅ぼしちまえYOアタバクゥッ!! この僕を“英雄”と認めない世界だなんて! 存在する価値なんて無いんだぁぁぁぁッッ!! ウヘ! ウヘヘヘ! ウヒャァハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! アヒャ! アヒャヒャ! アヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!! 滅べェェッッ!! 皆滅んじまえぇぇっっ!!! イィヒヒヒ! イィィィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッッ!!!」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

耳障りな高笑いを上げながらその血走った目から血の涙を流すウェルの惨めな姿を、弦十郎と緒川は静かに“哀れみの目”で見ながら仮設本部に帰投した。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「受けろ! 百獣の牙!『ライトニングボルトッッ!!』」

 

ガァアアアアアアアアッッ!!

 

レグルスが拳から放つ“閃光の拳”が迫り来る鬼共を凪ぎ払い消滅させる!

 

「まだまだッ!!」

 

レグルスは次々と迫り来る鬼共に向かって拳を振るう!

 

 

ーエルシドsideー

 

「鬼をも切り裂く我が剣舞、その身に刻め! 『刀剣流し』ッ!」

 

グ・・・? グァバッ?!

 

流れるような動きで迫る鬼共の間をすり抜け通りすぎると、鬼達はエルシドのいる方へ振り向くと身体が両断され消滅した。

 

「我が手刀に斬られたい者は挑んで来るといい・・・!」

 

手刀を払うエルシドに向かって更に鬼達が襲い掛かる!

 

 

ーデジェルsideー

 

ガ、ガ、ガ・・・・・・!!

 

デジェルに挑む鬼達は次々と凍てつき、粉々に砕け散る!

 

「凍てつかせ、氷河の輪、『グランカリツォー』・・・!」

 

近づく者を凍てつかせる氷結のリングがデジェルの周りに煌めく。

 

「極寒地獄をご要望ならば、かかってこい・・・!」

 

静かに、冷徹に鬼達を見据えるデジェルに鬼達をも恐れる!

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「さてさて! 俺に燃やされたいヤツは来な! 『積尸気鬼蒼炎』!」

 

グワバアアアアアアアアアッッ!!

 

蒼い燐気の炎に呑まれた鬼達が跡形もなく燃え尽きた!

 

「ガハハハハハハハハハ! 幾らでもかかってこいや! まとめて燃やしてやるぜ!!」

 

蒼い炎の鬼火に照らされたマニゴルドの姿はまさに悪鬼羅刹と呼んでも差し支えなかった。

 

 

ーカルディアsideー

 

「いっぱいいるねぇ~♪ ほんじゃ行くぜぇっ! 真紅の衝撃! 『スカーレットニードル』ッッ!!」

 

ギャバアアアアアアアアアッッ!!

 

身体に幾つもの風穴を開けた鬼達が消滅していく!

 

「やっぱ復活して正解だったぜ! オラもっと来いよっ! 俺をたぎらせなっ!!」

 

“水を得た魚”ならぬ、“戦場に戦闘狂”と言っても良い位にカルディアは嬉々として鬼達と戦う!

 

 

 

ーアルバフィカsideー

 

グオオオオオオオオオッッ!!

 

「地獄の悪鬼共には不釣り合いだが、花を添えてやる。舞えよ黒薔薇! 『ピラニアンローズ』!!」

 

アルバフィカが襲い来る悪鬼達に向けて“黒薔薇”を放つと、悪鬼達の頭や体を噛み砕く!

 

「それは貴様らに送る薔薇の葬列だ・・・!」

 

美しくも恐ろしき黒き薔薇が地獄の悪鬼達を粉砕し、その戦場に薔薇の花びらが舞い散る。

 

 

ー未来sideー

 

ゆっくりと迫り来る悪鬼達を見据える未来は静かに竪琴を構えるが、その手は僅かに震えていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

響にはああ言ったが、未来も本当は“怖い”。自分がセインティアとして戦えるのか内心“不安”で一杯だった。

 

「《小日向未来・・・》」

 

「(っ!? アスミタさん・・・?)」

 

現在アタバクと小宇宙<コスモ>をぶつけ合っているアスミタからテレパシーが送られた。

 

「《君が纏う聖衣と心を通わせよ。己の心を開き、聖衣の“声”に耳を傾けるのだ・・・》」

 

「(聖衣の“声”に・・・・・・)」

 

未来は瞼を閉じて意識を自身の纏う琴座<ライラ>の聖衣に集中する。

 

「(感じる・・・聖衣に込められた“想い”が・・・!)」

 

自然と未来の身体が動き、竪琴を奏でる!

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

美しく優しく、だが何処か力強さを感じる調べが戦場に響く。

 

「響け、清めのメロディー! 『ピューリファイアコースティック』!」

 

グォワァァァァァァァァァァァッ!!

 

未来の奏でる旋律が、鬼達を浄化した!

 

「・・・・・・できたけど・・・私の奏でる竪琴のメロディーで消滅するって、地味にショックだな・・・」

 

少し肩を落としながら苦笑いを浮かべるが、直ぐに気持ちを切り替えて、次の相手の鬼達に向かった。

 

 

ー響sideー

 

既に成層圏から離脱した『FRONTIER』の上で“ネフェリム・ノヴァ”と交戦する奏者達。そして響は、地獄の悪鬼共と戦う未来の姿を見る。

 

「(未来・・・初めてなのにもうあんな風に戦えるんだ・・・)」

 

少し前まで自分が未来を守っていたのに、いつの間にか未来の方が自分の先を行っている事に響は少なからずのショックを受けていた。

 

「凄いな、小日向は・・・初陣とはとても思えん・・・!」

 

「完全に聖衣を使いこなしてるぜ・・・!」

 

「マニゴルド達と隣り合わせデェス・・・」

 

「ちょっと、羨ましい・・・」

 

奏者でも無い人間だった未来の活躍に、未だ黄金聖闘士達と“同じ場所”に立てない奏者達は未来に羨望の目になる。

 

「皆! 気を引き締めなさい! 来るわよ!!」

 

『っ!!』

 

ギュワアアアアアアアアアアアッッ!!

 

マリアの叱責に我に帰る奏者達は襲い来る“ネフェリム・ノヴァ”を睨み、調と切歌が攻撃を仕掛ける!

 

調の頭のパーツ、手足のパーツがパージされ、巨大なロボットに変形合体し、頭や手や足に“鋸”を携え、その頭に調が乗る!

 

『終Ω式ディストピア』

 

「ハアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

続いて切歌の背中からコウモリの翼を広げ、“三又の大鎌”を構え、振り回す!

 

『終虐・NE波aア乱怒』

 

「ハアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

二人が同時に“ネフェリム・ノヴァ”を切りつけるが。

 

「あああああああああッ!!」

 

「だああああああああッ!!」

 

調と切歌から桃色と緑色のエネルギーが“ネフェリム・ノヴァ”に吸いとられた!

 

「”聖遺物“処か、その“エネルギー”まで喰らっているのかっ!?」

 

「限界に達したら、地上は・・・!」

 

「蒸発しちゃう!」

 

空かさずクリスが前に出て“ソロモンの杖”を構える!

 

「バビロニア、フルオープンだぁあっ!!」

 

“ソロモンの杖”から放たれたエネルギーが“ネフェリム・ノヴァ”を振り抜け、“次元の扉”を開けると、開いた穴から“ノイズ”が蠢く“バビロニアの宝物庫”が現れる!

 

「ウウウウウウウッ!!」

 

「“バビロニアの宝物庫”?!」

 

「XD<エクスドライブ>の出力で、“ソロモンの杖”を起動拡張したのか!?」

 

「ゲートの向こう、“バビロニアの宝物庫”に、ネフェリムを格納出来れば!」

 

「人を殺すだけじゃないって、証明して見せろよ! ソロモーーーーーーンッッ!!」

 

クリスの叫びに答えるように、ゲートが開く。

 

「これなら!」

 

しかし、“ネフェリム・ノヴァ”はクリスに腕をのばして攻撃をしようとする!

 

「避けろ! 雪音!!」

 

「うわっ!!」

 

弾き飛ばされたクリスは“ソロモンの杖”を手放すが、マリアが掴む!

 

「明日をーーーーーーーーーーーー!!」

 

今度はマリアがゲートを拡げる!

 

重力に従って十分に開いたゲートに向かって“ネフェリム・ノヴァ”が落下を始めた!

 

しかし、ネフェリム・ノヴァは腕から細い触手を伸ばしてマリアを絡めとる!

「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

「「マリアっ!!」」

 

“ネフェリム・ノヴァ”と共に、マリアがゲートに落下する!

 

 

 

ー聖闘士sideー

 

“地獄門”の近くまで来た黄金聖闘士達は悪鬼達との戦いながら小宇宙<コスモ>を極限にまで高める!

 

「燃え上がれッ!!」

 

「研ぎ澄ませッ!!」

 

「煌めけッ!!」

 

「吼えろッ!!」

 

「轟けッ!!」

 

「狂い咲けッ!!」

 

『我が小宇宙<コスモ>ーーーーーーーーーーーーッッ!!』

 

グォワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!

 

それぞれの黄金聖衣が光輝き、その光に当てられた悪鬼達が消滅した!

 

レグルスの獅子座<レオ>の黄金聖衣はより洗練され、重厚感が増し、腰にマントを靡かせ。

 

エルシドの山羊座<カプリコーン>の黄金聖衣は各パーツに蒼いサファイアが嵌め込まれ。

 

デジェルの水瓶座<アクエリアス>の黄金聖衣も各パーツに翡翠のエメラルドが嵌め込まれ、左肩に小さな水瓶を装備した。

 

マニゴルドの蟹座<キャンサー>の黄金聖衣は、より重厚感と各パーツに刺々しい爪が伸び、禍々しくも美しい姿に。

 

カルディアの蠍座<スコーピオン>の黄金聖衣は、まるでアンタレスのように紅玉<ルビー>に輝く真紅の姿に。

 

アルバフィカの魚座<ピスケス>の黄金聖衣もより洗練され、ボディや腕や脚に神秘な紫色のアメジストを嵌め込んだ姿となった。

 

聖闘士が“本気の本気で戦う小宇宙<コスモ>を燃やした時”に現れる“奇跡の姿”、“レジェンド聖衣<クロス>”へとなった!

 

「六人の・・・レジェンド聖衣・・・!」

 

未来も、六つのレジェンド聖衣に見惚れる。レグルス達は“地獄門”を見据え構える!

 

「光を越えろ! 俺の拳!! 『電光雷光<ライトニングプラズマ>』ッッ!!」

 

「万物悉く切り裂け!! 『聖剣抜刀<エクスカリバー>』ッッ!!」

 

「凍気の極みを受けよ!! 『絶対零度<オーロラエクスキューション>』ッッ!!」

 

「魂の爆裂を浴びてみな!! 『積尸気魂葬波』ッッ!!」

 

「深紅の撃槍に貫かれな!! 『深紅光槍<クリムゾンランサー>』ッッ!!」

 

「黒薔薇よ、渦を巻け!! 『薔薇ノ竜巻<ローリングローズ>』ッッ!!」

 

光の拳が、聖剣の斬撃が、絶対零度の凍気が、魂の爆裂が、真紅の槍が、黒薔薇の竜巻が“地獄の門”を粉砕した!

 

ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンッッ!!

 

地響きを上げて崩れる“地獄門”を確認した黄金聖闘士達は“バビロニアの宝物庫”を開けて“ネフェリム・ノヴァ”を落とそうとする奏者達を見ると、レグルス以外がそっちに向かって飛んだ!

 

「未来、俺達も行こう。さっきの地響きで『FRONTIER』も限界だ、間も無く崩れる・・・!」

 

「でもアスミタさんが・・・!」

 

未来は奏者達と反対方向でアタバクとぶつかり合っているアスミタを方を見る。

 

「アスミタなら大丈夫だよ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「未来にとってアスミタは、響と同じ位“大切な人”なんだろ?」

 

「・・・・・・うん」

 

「だったら信じて待ってれば良い・・・未来が信じているアスミタが、アタバクなんかに遅れを取る筈が無いよ」

 

「そうだね・・・今私は、私の出来る事をしなきゃだよね!」

 

「そう言う事!」

 

頷き合うレグルスと未来。レグルスは未来を背負うと、成層圏の空に飛び上がり、響達の元へ向かった。

 

 

ーアスミタsideー

 

「アスミタよ、いい加減小宇宙<コスモ>のぶつかり合いには飽きてきた。我が“最大の拳”で終わらせてくれようぞ・・・!」

 

「良かろう・・・我が乙女座<ヴァルゴ>の“最大の拳”で、君に最後を贈ろう!!」

 

お互いの小宇宙<コスモ>を最大限に高めた二人が放つ、“最大の拳”!

 

「『天舞宝輪』ッッ!!」

 

「『魔天無宝輪』ッッ!!」

 

アスミタの背後から御仏が描かれた神々しい“曼荼羅”が次々と現れ!

 

アタバクの背後から“苦悶、絶望の表情の人間達の顔”が描かれた恐ろしい“曼荼羅”が現れる!

 

二人の“神に近い闘士”が“最大の拳”をぶつかり合おうとしていた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『ピューリファイアコースティック』
琴座<ライラ>の竪琴から奏でられる“清めのメロディー”により“邪悪なる存在”を浄化する技。

次回でG編ラストバトルにしたいですね!


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勝利を抱け、明日のために!

かなり雑にしたかも・・・。




ー『FRONTIER』・二課仮設本部ブリッジー

 

ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!

 

ジェネレータールームから離脱し、アスミタから送られたウェルを確保・捕縛して、緒川に任せた風鳴弦十郎はけたたましく警報が鳴り響くブリッジに入ってきた。

 

「藤尭! 状況は!?」

 

「忙し過ぎですよ! 冥界の闘士が現れたり、化け物<ネフェリム・ノヴァ>が現れたり、地獄の鬼達が出現して、聖闘士の皆が大暴れしまくって、今にも『FRONTIER』が崩れそうですよ!!」

 

「ぼやかないで手を動かす!!」

 

忙しそうにコンソールを操作しながらぼやく藤尭に同じく忙しなく操作する友里が諌めて、本部の機能の一つであるミサイルを起動させ、本部が乗っている『FRONTIER』の地面を破壊して、地球に降下<落下?>した。

 

 

ー奏者sideー

 

ネフェリム・ノヴァの腕から伸びた触手に絡め捕られたマリアは“ソロモンの杖”によって現れた大量のノイズや異端技術らしいがある“バビロニアの宝物庫”に、ネフェリム・ノヴァもろとも落ちようとしていた。

 

「“格納庫”は、私が内部からゲートを閉じる! ネフェリムは私がっ!!」

 

「自分を犠牲にする気デスか!?」

 

「マリアーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

ネフェリムと心中しようとするマリアに切歌と調の悲痛の声を上げる。

 

「こんなことで、私の“罪”が償える筈がない・・・だけど、全ての命は私が守って見せる・・・!」

 

「それじゃ、マリアさんの命は・・・」

 

「私達が守ってやる・・・!」

 

いつの間にか、マリアの近くに響とレジェンド聖衣を纏うアルバフィカがいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

唖然となるマリアに元に、レグルスと未来が、翼とエルシドが、クリスたデジェルが、切歌とマニゴルドが、調とカルディアが集まった。

 

「マリアは一人じゃないよ・・・」

 

「私達皆がいますから・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「あなた達・・・」

 

自分に向けて優しく微笑む仲間達。

 

ネフェリム・ノヴァが“バビロニアの宝物庫”の中に入っていった。

 

「“英雄”でない私に、世界なんて守れやしない・・・でも、私達・・・私達<奏者と聖闘士>なら・・・!」

 

響が“迷い”無く言う。

 

「一人じゃないんだ・・・!」

 

「・・・・・・」

 

響の言葉にマリアもやさしく微笑む。

 

ネフェリム・ノヴァと共に、奏者と聖闘士が“宝物庫”に入り、ゲートが閉じる。

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

「全員で行ったか・・・!」

 

「衝撃に備えてください!!」

 

仮設本部のブリッジ部分が分離し、パラシュートが開かれ、地球に降りていった。

 

 

ーナスターシャsideー

 

そしてナスターシャがいる管制区画で“月の遺跡”を操作するべくナスターシャも行動を起こしていた。

 

「“フォニックゲイン”・・・照射継続・・・ゴフッ! うぅっ・・・!」

 

吐血しながらもナスターシャは作業を続ける。

 

「“月遺跡”・・・“バラルの呪詛”・・・管制装置の再起動を確認・・・!」

 

管制区画から照射されたエネルギーで“月遺跡”にある“バラルの呪詛”を起動させた。

 

「月起動・・・アジャスト開始・・・!」

 

モニターに映るフォニックゲインの光を放つ地球をナスターシャはその美しい光景に見惚れるように微笑みながら呟き・・・。

 

「星が・・・音楽となって・・・・・・」

 

そして静かに、倒れたーーーーーーーー。

 

 

 

ー“バビロニアの宝物庫”・内部ー

 

“バビロニアの宝物庫”では、奏者・聖闘士とネフェリム・ノヴァと宝物庫にいるノイズとの戦いが繰り広げられていた!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

突撃する響の右腕のギアが突撃槍の姿に展開される!

 

「行っけええええええええええええええええええええええええっっ!!!」

 

宝物庫にいるノイズ達を貫き進む!

 

「『電光雷撃<ライトニングボルト>』ッ!!」

 

ガァオオオオオオオオオオンンッ!!

 

レグルスが発する金色の小宇宙<コスモ>が獅子の形の流星となってノイズを凪ぎ払う!

 

「ハァアアアアアアアアアッ!」

 

ズバッ! ズバッ! ズバッ!

 

翼がノイズを一刀両断すると、後ろから超大型が迫るが、XDした事で大剣となった両足で『逆羅刹』のようにノイズを切り捨てる!

 

「フゥゥゥゥゥゥ、ハァアアアッ!!!」

 

斬ッ!!

 

エルシドが手刀に小宇宙<コスモ>を集めると、手刀から小宇宙<コスモ>の刃を出現させノイズ達を纏めて切り裂く!

 

「くらえええええええええッ!!」

 

ドカカカカカカカカカカカカッ!!

 

クリスは背中の重武装を『MEGA DETH PARTY』のように全武装を展開してノイズを殲滅させた!

 

「氷雪暴風<ホーロドニースメルチ>!!」

 

ビュオオオオオオオオオオオッ!!

 

デジェルが放つ氷雪の嵐がノイズ達を呑み込み凍結・粉砕していく!

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

「『ストリンガーノクターン』ッ!!」

 

未来は竪琴から奏でる超音波でノイズ達を倒していく!

 

切歌とマニゴルド、カルディアと調、そしてアルバフィカがネフェリム・ノヴァに捕らえられたマリアを救出しようとした。

 

「調、まだデスか!?」

 

「もう、少し・・・で!!」

 

調の巨人型シンフォギアが、マリアを捕らえていた触手を切り裂く!

 

「マリアっ!」

 

「無事か・・・?」

 

「(コクン)1振りの杖でも、これだけの数を、 制御が追い付かない・・・!」

 

“ソロモンの杖”でも無量大数にいるノイズを制御する事が出来ない事に歯痒そうになるマリア。

 

「マリアさんは、その杖でもう一度宝物庫を開く事に集中してください!」

 

「何・・・?!」

 

「外から開くなら、中から開ける事も出来る筈だ!」

 

「“鍵”なんだよ、ソイツは!!」

 

響と翼とクリスの言葉にマリアは意を決する。

 

「セレナーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

“最愛の妹”の名を叫びながら、マリアは“ソロモンの杖”を起動させた!

 

すると、宝物庫の空間に、地球へのゲートが開いた!

 

「うおしっ開いた!!」

 

「早ぇトコこんな陰気な所から!!」

 

「脱出デス!」

 

「ネフェリムが飛び出す前に・・・!」

 

「行くぞ! 皆!」

 

「えぇ!」

 

マリア達がゲートへ進む!

 

「翼!」

 

「あぁ!」

 

「行くぞクリス!」

 

「あいよ!」

 

翼とクリスは大きすぎる武装を分離させ、ゲートへ向かう!

 

「響!」

 

「行くよ!」

 

「うん、あっ!」

 

奏者達と聖闘士達が出口へ向かおうとすると、ネフェリム・ノヴァが先回りして立ち塞がる!

 

「迂回路は無さそうだ・・・!」

 

「ならば手は一つ!」

 

「手を繋ごう!!」

 

奏者はそれぞれに手を繋ぐ!

 

「マリア・・・!」

 

「マリアさん・・・!」

 

マリアの胸元から白銀に輝く剣が現れ頭上に輝き、マリアも響達と手を繋ぐ!

 

「この手、簡単には離さない!!」

 

「それじゃ俺達も・・・!」

 

「構えろ!」

 

レグルスとアルバフィカの号令で黄金聖闘士達もそれぞれに構える!

 

「・・・・・・・・・」

 

「未来、君もだよ」

 

「えっ?」

 

「小日向、君も聖闘士だ・・・!」

 

「私達と共に戦う仲間だ・・・!」

 

「・・・・・・はいっ!」

 

未来も竪琴を構える! そして響とマリアがマリアの出した剣に手を伸ばす!

 

「「最速で、最短で、真っ直ぐにっ!!!」」

 

マリアの剣が光の粒子となって奏者達に降り注ぎ、手を繋ぎ、輪となった奏者達、響とマリアのギアが分離してそれぞれが“手”へと変形合体して奏者達の前で繋ぐ!

 

「「一直線にーーーーーーーーッッ!!」」

 

ネフェリム・ノヴァの胴体が縦に裂けて、触手が奏者達と聖闘士に襲うが、繋いだ手が回転し、ネフェリム・ノヴァに向かう!

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

『Vitalizaton』

 

「『電光放電<ライトニングプラズマ>』ッッ!!」

 

「『聖剣抜刀<エクスカリバー>』ッッ!!」

 

「『絶対零度<オーロラエクスキューション>』ッッ!!」

 

「『積尸気魂葬波』ッッ!!」

 

「『真紅光針<スカーレットニードル>』ッッ!!」

 

「『黒薔薇ノ竜巻<ローリングローズ>』ッッ!!」

 

「『ストリンガーノクターン』ッッ!!」

 

奏者達の絶唱と聖闘士達の奥義でネフェリム・ノヴァの身体を貫き、ゲートから外へ出た!

 

そして一同は地上の砂浜へと落下した。

 

「く・・・杖を・・・直ぐにゲートを閉じなければ、間もなくネフェリムの爆発が・・・!」

 

奏者達は脱出の為に武装を分離させて無防備状態になっていた。

 

「まだだ・・・!」

 

「心強い仲間は、他にも・・・!」

 

「仲間・・・?」

 

「私の、“親友”だよ・・・!」

 

琴座の白銀聖衣を纏った未来が“ソロモンの杖”を握る!

 

「お願い、閉じてーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

未来は“ソロモンの杖”をゲートへ向けて投げ飛ばした!

 

「(もう響が、誰もが戦わなくて良いような・・・) 世界にーーーーーーーーッッ!!」

 

 

 

ーバビロニア宝物庫・内部ー

 

ネフェリム・ノヴァは奏者と聖闘士に与えられたダメージでノイズを巻き込んで爆裂したーーーーーーーー。

 

 

ー未来sideー

 

未来が投げた“ソロモンの杖”はゲートの内部に入り、ゲートが閉ざされたーーーーーーーー。

 

キイイイイイイイイイイイイイインンッッ!!

 

すると、空の色が複数の色に変化するが、元の青空に戻った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

「本当に、頼りになるな未来は・・・!」

 

「当然だよ・・・私の一番の親友なんだから・・・!」

 

レグルス達もいつの間にかレジェンド聖衣からノーマル聖衣に戻り、安堵する一同だが・・・。

 

「《全員、聴こえてるかっ!?》」

 

『(キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン・・・・・・)』

 

突然、未来とマリアとアルバフィカ、切歌とマニゴルドとカルディア以外の通信インカムから弦十郎の怒鳴り声が響き、耳鳴りがする。

 

「し、師匠、そんなに怒鳴らなくても・・・」

 

「全員無事に帰還しました・・・」

 

少し離れた場所に仮設本部のブリッジが有った。

 

「《お疲れさん、と言いたい所だがそれ処ではない! アスミタの方が大変な事になっているぞ!!》」

 

『えっ?・・・・・・・・・・・・・・・何、あれ?』

 

アスミタがアタバクと交戦している場所は、いつの間にか一同がいる浜辺の遥か上空におり、それを見た奏者達と未来が思わず呟いた。

 

そこには、神々しい“曼荼羅”を幾つも展開するアスミタと、“苦痛と絶望の顔が描かれた禍々しい曼荼羅”を展開するアタバクの姿があった。

 

「あれはもしや・・・!」

 

「『天舞宝輪』、だと・・・!?」

 

「オイオイオイオイオイオイ、アタバクの野郎もなんかとんでもねぇの出してるぜ!」

 

「クソっ! やっぱアッチの相手をすれば良かった!」

 

「言ってる場合ではないぞ・・・!」

 

デジェル、エルシド、マニゴルドが戦慄し、カルディアは自分が戦えば良かったと愚痴り、アルバフィカがカルディアに呆れ混じりに突っ込む。

 

「レグルス君、一体アスミタさんは何を・・・?」

 

「俺も話に聴いただけだけど・・・あれは『天舞宝輪』、乙女座<ヴァルゴ>の黄金聖闘士の最大の拳。宇宙の真理と呼ばれる“曼荼羅”の生み出す攻防一体の戦陣、攻める事も防ぐ事も不可能、この戦陣が展開された者はもはや滅びるしかないと言われている、アスミタの奥義だ・・・!」

 

「アスミタさんの、“最大の奥義”・・・!」

 

「でもアタバクも何かを展開しているわ・・・!」

 

「な、何デスか・・・あの不気味な絵は・・・?」

 

「まるで、“亡者の曼荼羅”・・・!」

 

「おそらくアレがアタバクの最大の拳・・・!」

 

マリアと切歌と調がおぞましい亡者の曼荼羅に恐怖し、響達も身体が震えていた。

 

《アスミタとアタバク、二人の最大の奥義から放たれる膨大過ぎるエネルギーのぶつかり合いが周りに被害を生もうとしている!》

 

アタバクの奥義『魔天無宝輪』から生まれる膨大な“闇のエネルギー”とアスミタの奥義『天舞宝輪』から生まれる膨大な“光のエネルギー”。相反する2つがぶつかる事で周辺、つまり地球にも被害が及ぼうとしていた。

 

「むうぅ、これは不味いな・・・」

 

「どうしたのデジェル兄ぃ・・・?」

 

「アスミタにしろアタバクにしろ、二人共それぞれ地上と冥界で最も“神に近き闘士”、その二人がぶつかれば、とてつもなく恐ろしい事が起こってしまう!」

 

「恐ろしい事って・・・?」

 

戦く聖闘士達の姿に奏者達も不安そうな顔を浮かべる。

 

 

 

ーアスミタVSアタバクー

 

「アスミタよ、我が最大奥義『魔天無宝輪』が生み出す“闇”と、貴様の『天舞宝輪』が生み出す“光”が世界を滅ぼす事になるぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

愉快そうに笑うアタバクと無言のアスミタはそれぞれの奥義を放ち続け、膨大な闇と光のエネルギーが荒れ狂った!

 

 

ー弦十郎sideー

 

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 

仮設本部のブリッジでは、けたたましく警報が鳴り響き、友里や藤尭達オペレーターは計測を開始していた。

 

「何が起きている!!」

 

「アスミタとアタバクの放つ力の奔流を計測してみました!」

 

「っ!? 司令! このまま二人が力を放出し続けた場合、最悪地球の半分が消滅してしまいます!!」

 

「なんだとっ!?」

 

膨大過ぎる“光と闇”のぶつかり合いは地上にも影響を及ぼしていた。

 

 

 

ー未来sideー

 

カカカッ

 

『おおおおおおおっ!!!』

 

『きゃああああああっ!!!』

 

二人の放つエネルギーの奔流は地上にいる聖闘士と奏者に襲い来る!

 

「もはやあの二人の戦いは単なる“光と闇の対決”ではない! 相反する2つの力のぶつかり合いは、“千日戦争”を超越してしまう!」

 

「そんな事になれば、死して転生してもなお、決着が着くことが無い“無限戦争”に陥るぞ! よしんばどちらかが勝ったとしても、その力の奔流の余波で地上を滅ぼしかねない!!」

 

「マ、ママママママママ、マジデェスかっ!?」

 

「これが、“神に近き闘士”達の戦い・・・!」

 

「そ、そんな・・・!」

 

「アスミタさん!」

 

デジェルとアルバフィカの言葉に切歌と調とマリアは仰天し、未来は不安そうにアスミタの名を呟き、奏者達がぶつかり合う二人を凝視する。

 

「このままじゃ《レグルスよ・・・》っ! アスミタ・・・?」

 

レグルスの頭に否、周りを見ると他の黄金の皆にも、アスミタからのテレパシーが送られた。

 

 

 

ーアスミタVSアタバクー

 

「《頼むぞ・・・・・・》」

 

「アスミタよ、地上の平和を守る力が地上を滅ぼすとは、皮肉な事だな・・・?」

 

「ほざくなアタバク・・・!」

 

アスミタが小宇宙<コスモ>を更に高めた。

 

「こ、これは・・・アスミタの小宇宙<コスモ>が更に高まってゆくだと・・・!?」

 

「響き合え! 我が小宇宙<コスモ>よッ!!」

 

その時、アスミタの纏う乙女座の黄金聖衣に変化が起こった!

 

更に洗練さと重厚感が増し、肩と首周りの聖衣が重厚になり、マスクが展開されるとアスミタの顔を覆う。

 

「あ、あれがアスミタさんの・・・!」

 

「これが我が乙女座のレジェンド聖衣だっ!!」

 

「ぬうぅ、これがレジェンド聖衣か・・・!」

 

「アタバクよ、我等の力で地上を滅ぼさせる訳にはいかん・・・!」

 

「何だと・・・?」

 

「頼むぞ・・・皆っ!」

 

「っ!!」

 

アタバクが周りを見ると、レグルス達黄金聖闘士がアタバクとアスミタを囲んでいた!

 

 

ー未来sideー

 

「レグルス君達、一体何を・・・?」

 

突如レグルス達が流星となり、アスミタ達の周りを囲み始めた事に未来と奏者達が戸惑う。

 

「(スッ)皆、合わせろよ・・・」

 

『応っ・・・!』

 

レグルスを中心に黄金聖闘士達の小宇宙<コスモ>が“共鳴”する。

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!』

 

「開け異次元! 『アナザーディメンション』!!」

 

それは双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士の技であり、本来はレグルスの使える技では無いが、それぞれの聖闘士達の小宇宙<コスモ>を“共鳴”させる事で異次元の壁を砕いた!

 

「あれって・・・!」

 

「“カ・ディンギル”でフィーネがエルシドを幽閉させた技か!?」

 

「まさかアイツら・・・!?」

 

「あぁ、そんな・・・!!」

 

未来の他、何人かの奏者とモニターで見ていた弦十郎達も察した。

 

 

 

ーアスミタVSアタバクー

 

「成る程、私と貴様を異次元に落とし、そこで決着を着けようと言うのだな・・・?」

 

「その通りだ、アタバクよ。これならば私とお前の戦いに、地上を巻き込むことは無い・・・!」

 

「良かろう・・・決着は異次元の迷宮で着けてくれるっ!!」

 

二人は異次元の果てに呑み込まれようとしていた。

 

「アスミタさんっ!!」

 

「《来るな、小日向未来・・・!》」

 

未来がアスミタの元へ向かおうとするが、アスミタからのテレパシーで踏みとどまる。

 

「でも・・・!」

 

「《君が“道標”だ・・・》」

 

「えっ?」

 

そしてアスミタとアタバクは、異次元の穴に完全に呑まれた。

 

 

 

 

ーアスミタVSアタバクー

 

「滅べ! 『魔天無宝輪』ッッ!!」

 

「邪気退散!『天舞宝輪』ッッ!!」

 

再び最大奥義を放った二人!

 

「ハァァァァァァァッッ!!」

 

しかし、レジェンド聖衣となったアスミタの“光”がアタバクの“闇”を呑み、包み込もうとした。

 

「・・・・・・ここまでか」

 

しかしアタバクは足掻こうとせず超然と佇んでいた。

 

「随分と潔いなアタバクよ・・・」

 

「私とて“神に近き闘士”、あの愚物<ウェル>のような惨めな姿は晒せんさ・・・」

 

“光”に包まれ消滅しようとするアタバクの顔には、悔しさ等無くフッと微笑んでいた。

 

「アスミタよ、お前と私とでは何が違ったのだろうな?」

 

「・・・・・・私とてお前と同じだ・・・私ももしアテナ様に、小日向未来や店主殿と出逢わなければお前と同じ考えに至っていたり、私がお前になっていた・・・」

 

「ほう・・・」

 

「私とお前はまるで合わせ鏡のようだ・・・・・しかし私には、この世界で出逢った者達がいたからこそ、私はこうなったのかもしれんな・・・」

 

「出逢いが、人との触れ合いが、お前を更なる“高み”へ誘ったか・・・私は常に高い位置でしか人を見ていなかった・・・それが私の“限界”だったのか・・・」

 

「アタバクよ、“輪廻の環”に還るのだ。そして再び人として生を受けたとき・・・・・・・・・」

 

「・・・??」

 

言い淀むアスミタを見るアタバク。アスミタはフッと微笑みを浮かべ。

 

「たった1枚の、“お好み焼き”でも食してみると良い・・・世界が少しは、暖かく感じるかもしれんぞ?」

 

「フッ、フフフフフフ、面白いな・・・それで世界が変わると言うならば、本当に、面白いな・・・!」

 

アタバクは他意の無い笑みを浮かべ、その姿と魂を消滅させた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アタバクが消滅するのを確認したアスミタは異次元をしばしさ迷う・・・。

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

すると、アスミタの耳に“竪琴の音色”が鳴り響いたーーーーーーーー。

 

「小日向未来・・・・・・そうか、歌と旋律は人から神への“問いかけ”にして“祈りの言葉”、それは時に次元すらも越える・・・そっちに行けば良いのだな・・・」

 

アスミタは“竪琴の音色”に導かれ、異次元を進んだ。

 

 

 

ー未来sideー

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

未来はアスミタが異次元に消えて直ぐに竪琴を奏で始めた。

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

美しくも優しく、暖かさを感じる旋律は、聖闘士達だけではなく奏者達すらも聴き惚れていた・・・。

 

「未来・・・来たよ・・・」

 

未来はレグルスからの言葉を聴きながら上空を見ると。

 

ビキビキビキビキビキ・・・パリーンっ!

 

上空の景色が少しひび割れて、そこから見慣れた黄金の闘士が戻ってきた。

 

「お帰りなさい、アスミタさん・・・!」

 

「ウム、今帰ったぞ・・・小日向未来・・・」

 

涙混じりに差し出す未来の手を、ゆっくりと降りてくるアスミタがソッと手を置いた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アタバクが妙にいさぎ良いと思うでしょうが、ドクターウェルと言う往生際が悪い小悪党を見たから“あんな惨めな姿を晒したくない”と思ったからです。

次回でG編完結! その後少し“絶唱しないシンフォギア”を書こうと思います。主にデジェル×クリスのストーリーを。


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エピローグ 永遠のブルー

かなりいい加減に書いちゃったかもしれませんが、G編ラストです!


アスミタが異次元から帰還し、夕闇が浜辺を包み込み始めた世界。弦十郎は米国に連行されようとするウェルの姿を見て戸惑う。

 

「これが、ウェル博士なのか・・・?」

 

灰色だった髪がツヤが全く無い無機質な白髪になり、顔は細かいシワが幾つも入っており、狂気と悪意に満ちたまなざしはハイライトが無く虚ろになり、肌も青白くなり、鼻や口から鼻水や涎を垂れ流し、一見すると死人のように見える無惨な姿だった。だが、声だけは発していて、生存している事は分かるがその内容は。

 

「僕は真の英雄・・・僕が真の英雄・・・僕こそが真の英雄・・・僕だけが真の英雄・・・僕のみが真の英雄・・・僕は真の英雄・・・僕が真の英雄・・・僕こそが真の英雄・・・僕だけが真の英雄・・・僕のみが真の英雄・・・僕は真の英雄・・・僕が真の英雄・・・僕こそが真の英雄・・・僕だけが真の英雄・・・僕のみが真の英雄・・・僕がーーー」

 

ひたすら同じ言葉をブツブツと蚊の泣くような声で呟き続けるウェルにはかつての“狂気”と“欲望”と“悪意”に狂っていた姿はなかった。

 

「拘束してからも狂笑を上げていたのですが、突然糸の切れたマリオネットのように動かなくなり、徐々にあぁなってしまいました・・・」

 

「なんとも哀れだな・・・」

 

“ソロモンの杖”で遊び半分とふざけ半分で無辜の命を奪い、マリア達FISの想いを下卑た笑みを浮かべて土足で踏みにじり、未来の“響への友愛”を弄び、幼稚な激情でナスターシャ教授を死なせた“小悪党”の末路は、“地球を滅ぼした悪魔”でも“理想に殉じた英雄”でもなく、“悪神の掌で踊り狂った道化”、“妄想に酔いしれた愚物”と成り果てていた。

プライド<自尊心>とアイデンティティ<存在意義>を根元から粉々に粉砕され、もはや狂気に踊り狂った姿は全く無く、あまりにも“惨めな敗残者”の姿を弦十郎は見据えるが、直ぐに気持ちを切り替えて緒川から現状報告を受ける。

 

「それで、月の軌道は?」

 

「月の軌道は正常値に近づきつつあります」

 

弦十郎は空から見える一部が欠け、土星のような輪っかが広がる月を眺めた。

 

「ですが、ナスターシャ教授との連絡は・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

弦十郎は浜辺で月を見つめるマリアとアルバフィカ、調とカルディア、切歌とマニゴルドと、彼等の後ろに控える響達とレグルス達を見る。

 

「婆さん、逝っちまったか・・・」

 

「うん・・・」

 

「マニゴルド、マムを呼び出せるデスか・・・?」

 

「あのな、“積尸気使い”は迷える魂を“あの世の境目”に送るのが本職だ。婆さんの魂はもう現世に居ねぇよ・・・」

 

「ナスターシャ教授は、尊敬できる人だった・・・」

 

「マムは、未来を繋げてくれた・・・」

 

マリアは優しくも悲しげに微笑み呟く。

 

「ありがとう、“お母さん”・・・」

 

「マリアさん・・・」

 

響がマリアに声をかけ、マリア達は振り向くと、響が“ガングニールのシンフォギアクリスタル”を差し出した、元々マリアから一時的に貸し渡されたので返そうとするが。

 

「・・・・・・ガングニールは、君にこそふさわしい」

 

「・・・・・・・・・」

 

マリアに託され、響はクリスタルを握る。

 

「だが、“月の遺跡”を再起動させてしまった」

 

「そもそも、“月の遺跡”って・・・?」

 

「ウム、“月の遺跡”とは“月の女神 アルテミス”が管理していた“バラルの呪詛”だ」

 

「我等が女神アテナ様の姉君で、人類とりわけ男を毛嫌いする女神か・・・」

 

「“人類の相互理解”はまた遠退いてしまったか・・・」

 

レグルス達の会話に奏者達は不安になるが。

 

「平気・・・へっちゃらです!」

 

『・・・・・・・・・??』

 

『・・・・・・・・・』

 

響の言葉に奏者達は首を傾げ、聖闘士達は静聴する。

 

「だってこの世界には、“歌”が有るんですよ!」

 

「だな!」

 

「響・・・」

 

『フッ』

 

響の言葉にレグルスと未来は同意し、アスミタ達もフッと微笑む。

 

「歌デスか・・・」

 

「・・・・・・いつか人は繋り“大いなる境地”に到達する・・・だけどそれは、“何処かの場所”でも“何時かの未来”でも無い。確かに伝えたから・・・」

 

「うん・・・」

 

響は、微笑む調のその顔に“フィーネ<櫻井了子>”の面影を見た。

 

「“立花響”・・・」

 

響が振り向くとマリアが優しく微笑み。

 

「君に会えてよかった・・・」

 

「・・・・・・」

 

その言葉に響も笑顔で頷いた。

 

「さ~て、俺らもそろそろ身の振り方を考えるかな?」

 

「カルディア、お前はお前の生き方を変えるつもりは?」

 

「全く無い!」

 

断言するカルディアに一同は面食らう。

 

「お前なぁ、俺が拾ってやった命を簡単に捨てるつもりかよ?」

 

「二課の医療チームに診て貰えば治療法も・・・」

 

「要らねぇよ」

 

説得しようとするデジェルとマニゴルドの言葉をスッパリと切り捨てる。

 

「“コイツ<心臓>”とはほぼ生まれた時から一緒だったからな。今更取り除こうなんて思わねぇよ。俺は未来なんざどうでも良い、今この時、この瞬間の戦場で、テメェの命を限界まで燃やし尽くす! それが蠍座<スコーピオン>のカルディア様の“生き様”よ!!」

 

カルディアのその瞳には断固たる“覚悟”と“決意”が燃え上がっていた。

 

「・・・・・・カルディア」

 

「調・・・」

 

「それが、カルディアの望む“生き方”なの・・・?」

 

調の悲しそうに見つめる瞳にカルディアはニヒルに笑いながら調の頭をポンポンと撫でる。

 

「調よ、“人間の最も満足する生き方”って知ってるか?」

 

「(フルフル)・・・」

 

「それはな、“自分の心に正直に生きる事”だ」

 

「“自分の心に正直に生きる”・・・?」

 

「ま、その点に掛けちゃ、ウェルの野郎もソレだわな」

 

「あの“頭脳”と己の“我欲”を貫く姿勢“だけ”なら間違い無く“英雄としての資質”が有る・・・」

 

「しかしながら、彼には自らを“英雄”とする“素質”が無かったがな・・・」

 

調は首を傾げ、マニゴルドとエルシドとデジェルは“敗残者”となったウェルの姿を浮かべたが直ぐに消した。

 

「“心”に嘘付いて生きてるとメチャクチャしんどいんだよ。フィーネの替え玉やらされていたマリアがソレだったろ?」

 

「うん・・・」

 

「あの、私にとってソレは“黒歴史”だからあまりほじくらないで欲しいんだけど・・・」

 

マリアの訴えを華麗にスルーされる。

 

「立花響さんよ、お前だって親友に“戦わないで欲しい”って言われても戦いを止めなかっただろう?」

 

「うっ・・・!」

 

『ウンウン』

 

カルディアが戦う事に口出ししようとした響だがその前に釘を刺され、レグルス達と未来達も同意と言わんばかり頷く。

 

「つー訳だ。俺にとって戦う事は俺の本心からの行動よ、それを自分たちの尺度で善悪と判断するのはちょいと押し付けがましいぜ。それに俺達は直ぐに旅に出ないとイケねぇしな・・・!」

 

「確かにな、俺も直ぐに出立しなければならない」

 

「エルシド?」

 

「私もだ。冥闘士が現れたのならば、我等も行動を起こさねばなるまい」

 

「それって・・・?」

 

「この世界に散らばっているであろう“青銅聖衣<ブロンズクロス>と白銀聖衣<シルバークロス>を回収”と“冥衣<サープリス>ならびに海皇ポセイドンを守護する海闘士<マリーネ>が纏う鱗衣<スケイル>の回収”、もしくは“破壊”だ・・・!」

 

『っっ!!』

 

奏者達が息を呑む。

 

「冥衣の破壊って・・・?」

 

「冥闘士であるアタバクが現世に現れたと言う事はだ、いずれ他の魔星に選ばれた闘士、冥闘士<スペクター>が地上に現れる。数の少ない我等聖闘士は、なるべく冥闘士の数を減らさなければならない・・・!」

 

「だから、俺やアスミタやエルシド・・・出来ればアルバフィカ達も含めて、世界中の何処かに潜んでいる冥衣を破壊しなければならない」

 

「で、でも聖闘士なら未来も居るし・・・!」

 

本当は聖闘士達も戦いなんかしないで欲しいと考える響は引き止めようとするが、アスミタが未来の方を向く。

 

「小日向未来、琴座<ライラ>の聖衣ブローチから聖衣を呼び出してみなさい・・・」

 

「えっ?・・・はい・・・」

 

戸惑いながら、未来は再び聖衣ブローチに呼び掛けるが。

 

「あ、あれ・・・?」

 

聖衣は現れず、未来の身体からも小宇宙<コスモ>が現れなかった。

 

「ど、どうして・・・?」

 

「小日向未来、君は確かに潜在的に白銀聖闘士クラスの小宇宙を持っている。しかし今回は私が君の身体に残ったLiNKERの除去の為に流した小宇宙と君の“友の為に戦う想い”が呼応して偶発的に出現したに過ぎない」

 

「正式に修行を積んだ訳では無いからな・・・」

 

「そんな・・・」

 

アスミタとデジェルの言葉に少しガッカリする未来。話を変えるようにレグルスが切り出す。

 

「それでさ、実はその琴座<ライラ>の白銀聖衣<シルバークロス>は、俺がフランスの露天で見つけたモノだったんだ」

 

「フランスで?」

 

「俺らの黄金聖衣は、この世界に転生した時に直ぐ近くに置いてあったが、どうやら青銅聖衣と白銀聖衣はこの世界の何処かに散らばっているみたいだな」

 

「私達はこれからこの世界に散らばった聖衣の回収に向かわねばなるまい」

 

「どこかの愚か者が悪用しないとも限らないからな」

 

カルディアとアルバフィカ、エルシドが旅に出る意志を奏者達に伝える。青銅聖衣と白銀聖衣、どれも黄金聖衣程ではないが“完全聖遺物”であり、米国やウェルのように悪用する人間が現れる前に自分たちで回収しようと考えたのだ。

 

「だがしかし、マニゴルドにカルディアよ。お前達二人は日本に留まって貰う」

 

「「はっ?」」

 

デジェルの言葉にマニゴルドとカルディアは間の抜けた声を発する。

 

「マニゴルド、お前が我々に協力する“見返り”を覚えているな?」

 

「おぉ、“調と切歌に普通の生活をさせる事”と、“マリアがアーティスト活動を再開する時のバックアップ”だったな」

 

「えっ? 蟹座<キャンサー>のヤツそんな事を“協力条件”にしてたのか?」

 

「あぁ、雪音は居なかったな状況的に・・・」

 

「マリア・カデンツァヴナ・イヴの方は緒川に任せれば問題無いが、その二人には“保護者代行”が必要だろう。それにカルディアは“心臓の事”も有るから聖衣捜索をさせる訳にもいかん。だからお前が責任持ってカルディアとその二人の保護者をやれ」

 

「オイオイオイオイオイ、ってことはなにか!?」

 

エルシドの説明にマニゴルドは調と切歌の頭を掴んで並べる。

 

「俺にカルディアだけじゃなく、この脳筋娘<調>と能天気娘<切歌>の“子守り”までしろってか!!??」

 

「「“子守り”って何(デェスか)ッ!?」」

 

マニゴルドの言いように調と切歌のツッコミが炸裂するがスルーされる。

 

「「「そう言う事だ(ね)」」」

 

「嘘だろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!!」

 

レグルス・エルシド・デジェルの答えに切実なマニゴルドの悲鳴が響いた。

 

「話は纏まったか?」

 

響と未来は苦笑いを浮かべ、翼とクリスがニヤケ、“脳筋”や“能天気”呼ばわりされてブー垂れる調と切歌をマリアが宥めるのを尻目に、レグルスの背後に回った弦十郎がレグルスの首根っこを掴んだ。

 

「あれ? 弦十郎どうしたの??」

 

「レグルス君、君は確か[俺の“部下”でも無ければ“弟子”でも無いから命令を聞かない]って言ってたな?」

 

「あ・・・」

 

それは調とマニゴルド、響と共に『FRONTIER』に乗り込む際に弦十郎に言った言葉を思い出した。

 

[俺は“弦十郎の部下”でも無ければ“弟子”でも無いんだ!! 弦十郎の命令を聞く“義務”なんか無いだろうがっ!! 以上ッッ!!!]

 

「あぁ、確かに言ったね・・・」

 

「まぁ確かにレグルス君もエルシドもデジェルも俺の部下では無いから俺の命令を聞く義務は確かに無い。だが、協力者として二課に居るならば、それなりの“ケジメ”はつけないとな・・・」

 

「“ケジメ”・・・?」

 

首を傾げるレグルスに弦十郎は“企みの笑み”を浮かべる。

 

 

 

 

こうして、マリアとアルバフィカ、切歌とマニゴルド、調とカルディアは緒川に連れられ司法の裁きを受ける事になり、後に『フロンティア事変』と呼ばれた事件は終結を迎えた。

 

マリアと調と切歌は収容所に送られ自供を続けている。米国政府から“死刑にしろ!”と通達が来たが、斯波田事務次官が。

 

「今大人しくしている黄金聖闘士3人を敵に廻して良いって言うのか? おたくらの軍艦をたった3人で、しかも素手で制圧した手練れ共だぞ?」

 

と言われ米国を黙らせ、マリア達はそれなりに、イヤかなり待遇の良い充実した収容ライフを満喫していた(主に調と切歌が)。

 

アルバフィカとカルディアとマニゴルドは同じように収容所生活をしていたが、“危険性”を考慮されて直ぐに釈放された。

アルバフィカは釈放後、直ぐに世界中に散らばる聖衣の捜索と冥衣の探索に行った。

マニゴルドは表はフリーのジャーナリスト、裏では“情報屋 アクベンス”として活動を行い、調達が帰って来る拠点の為に稼ぎ始め、カルディアは二課の医療チームの治療を断り、現在は警備員のバイトをしながらマニゴルドと共に出稼ぎを始める。

 

ーアルバフィカが旅立つ前ー

 

「マリア達には何も言わねぇのか?」

 

「いずれまた会えるからな。それよりも、お前達もしっかりしろよ」

 

「わぁてるよ!」

 

「フフフ、ではな」

 

そう言ってアルバフィカは旅立ち、マニゴルドとカルディアもその内帰って来るマリア達を出迎える為に働いた。

 

 

 

エルシドは事後処理が終わると直ぐに聖衣捜索の旅へ出かけようとするが。

 

「翼、そう言えばお前はもうすぐ“卒業”だったな?」

 

「あぁ・・・」

 

「・・・・・・今の内に、“限られた時”を満喫しておけ」

 

「エルシド・・・」

 

「俺達は、そんな時間なんて味わえなかったのだからな・・・」

 

そう言って、再び二課の誇る双刃は別れた。湿っぽい挨拶などこの二人には不要、離れていても決して折れない“絆”があるから。

 

 

 

デジェルはマニゴルドとカルディアの“名目上の監視役”をしながら医大を目指して勉強中。なのだが、もう完全に合格ラインを越えてしまっているので、最後の締めくくりをしていた。だが、最近マニゴルドとカルディアの“監視”も有ってクリスとのデートの時間が取れなくなり。

 

「フーーーーン、お兄ちゃんはアタシよりもあの蟹と蠍の監視の方が大事なんだな・・・!」

 

「クリス、そんな事は無いんだ・・・(はぁ、これなら地獄の鬼共と戦っている方が楽だな・・・)」

 

完全に拗ねたクリスを宥めるのに苦労しているようで、心の中でボヤいていた。

 

 

アスミタも再び旅に出てしまい、未来は『ふらわー』のおばちゃんに報告していた。

 

「そうかい、全く忙しないヤツだよ。急に帰って来たと思ったらまたぞろ急に旅に出て・・・!」

 

「おばちゃんは、心配じゃないんですか?」

 

「まぁ少し心配だけどね。全く“放蕩息子をもった母親の気分”だよ! でもま、その内また帰って来るし、未来ちゃんも心配する事無いよ」

 

「・・・はい!」

 

笑い合う二人には、アスミタを心配する気配がまるで無かった。

 

 

 

そして、リディアン音楽院に戻ってきた奏者達。

 

「さて行くぞ雪音。先輩としてお前の世話を焼いてやるからな!」

 

「イヤ何でだよ!」

 

「お前の保護者からも宜しく頼むと言われてるしな」

 

「なにぃっ!?」

 

クリスがすぐさまデジェルに連絡を取る。

 

「(ボソボソ)お兄ちゃん! どういう事だよ!? えっ? イヤ友人関係が上手く行ってないからって、この間の学祭でそれなりに皆とも・・・うん・・・うん・・・はい・・・」

 

結局クリスの方がデジェルの理攻めに白旗を上げた。

 

「さぁ行くぞ、雪音♪」

 

「えぇっ?! ちょっと先輩!!」

 

嬉々としながらクリスの首根っこを引っ付かんで引きずって行かれた。

 

 

ー響sideー

 

そして響と未来はクラスでホームルームが始まると担任の先生がある事を話した。

 

「皆さん、お伝えする事が有ります。実は我が校が近い内に“共学”に成るかもしれません」

 

『えぇえええええええええっっっ!!??』

 

先生の言葉に響達が驚きの悲鳴を上げる。

 

「先生! 何で“共学”になるんですか!? 何かの“陰謀”でも起きたのですか!?」

 

板場弓美が挙手して質問すると。

 

「ただの、“少子化”の影響です・・・」

 

『あ、現実的問題だった・・・』

 

あさっての方向を見ながら言う先生に響達はハモる。

 

「しかし、今すぐと言う訳では有りません。今回“特例”として“男子生徒の留学生”を招く事になり、うちのクラスでその生徒と一緒に学園生活をして貰う事になりました」

 

ワイワイ、ガヤガヤ、ワイワイ、ガヤガヤ

 

「それでは入って来てください」

 

ガラッ

 

「あっ・・・」

 

「まぁ・・・」

 

「あの人・・・」

 

「えっ・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・マジっすか?」

 

先生に呼ばれ、教室に入ってきた人物を見て弓美と寺島詩織と安藤創世は驚き、未来は唖然となり、響は呆然唖然となりながら、黒板に名前を書き終えて“太陽のように明るい笑顔”を浮かべた人物を見る。

 

灰色のズボンにブレザーとネクタイを締めたーーーーーーーー“レグルス”だった。

 

「はじめまして! 俺、レグルス・L・獅子堂。ヨロシクな!!」

 

『きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!』

 

明るく爽やかな陽的美少年の登場にクラスメートの歓声がリディアン全体を振るわせた。後にこの事を知った翼とクリスは。

 

「何ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!??」

 

「マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!??」

 

今度は二人の驚愕の悲鳴でリディアンが揺れた。

 

 

 

 

 

 

聖姫絶唱セイントシンフォギアー第二部G編ー 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー『深淵の竜宮』ー

 

ここは、『深淵の竜宮』と呼ばれる。異端技術に関する“危険物”や“未解析品”を収める海底に建造された管理特区。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そしてここに、独房に放り込まれた白髪の男性がいた。ジョンウェイン・ウェルキン・ゲトリクスであった。『フロンティア事変』の主犯格であった彼だが、その左腕には“完全聖遺物 ネフェリム”の“細胞”を移植した事と、その“精神の異常性”から司法では彼を“人間”ではなく響達奏者が使う“聖遺物”と言う“物”として扱われ、この『深淵の竜宮』に保管された。

 

「イヒ、イヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒ・・・そうか・・・そうだったんだ・・・!!」

 

しかし、ウェルにとって“ただの人間以下の物扱い”にされた事等どうでも良かった。今彼の中に燻っているのは、自身の自尊心と野望を全否定した、忌まわしい“神話の闘士達”へと怨嗟の炎だった。

 

「“英雄”には“試練”が必要だ・・・! 有史以来の“英雄好漢”も数々の“試練”を乗り越えてきた・・・! 僕と言う“真の英雄”を完成させる為には、“古き英雄”を倒さなければならない・・・! イヒヒヒヒヒヒヒヒ、イヒャヒャ、イィィイイイヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッ!! 今の内に一時の勝利に酔っているが良い、“遺物”にして“異分子”共ぉッッ!! 僕は必ず戻ってくる!! 世界には必要なのだ! 僕と言う“真の英雄”がなぁっっ!! ウヒャアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!!!」

 

生化学者として優れた“頭脳”と“狂気”に染まった精神が再びウェルの“欲望”を甦らせた。

 

 

 

再び聖闘士達と奏者達に“害”を及ぼすために欲望は“悪意の炎”となって燃え上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

何処か分からない場所。ソコはマグマが煮えたぎり、噴煙が舞う火山の火口に“一人の男性”が眠っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

普通の人間では火口の温度と噴煙で生存できないその場所で“男性”はマグマの上に有る大岩に寝そべっており、無表情に眠っていたが、その口元には優しい笑みを浮かび上がった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そして、その男性を見つめる“長髪の男”がいた。男は男性に背を向けて火口から離れて行く。

 

 

 

マグマの海の真ん中に鎮座する“幼い子供二人が刻まれた黄金の匣”を置いてーーーーーーーー。

 

 




これでG編は終わりです。GX編は“絶唱しないシリーズ”を少し書いてからになります。そして“絶唱しないシリーズ”の第一作は、ルナアタック後のデジェルとクリスのデート模様です!


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絶唱しないシリーズ1 デジェルとクリスの夏のデート

絶唱しないシリーズ第一作です! 短編ですが。

『ルナアタック』から少しした、デジェルとクリスの“夏のデート”模様です。



これは、『ルナアタック事変』が終わり、クリスとデジェルが日本に留まって、始めての“夏”を堪能していたときの記録。

 

 

ークリスとデジェルのマンションー

 

日曜日の朝。

 

「ふぁあ~~~っ」

 

サラサラと煌めく白銀の髪に背丈は低いがメリハリの有るプロポーションに大きめのシャツを着ただけのラフな格好をした雪音クリスは、夕べは暑く寝苦しかったのも有り、何時もより早く起きて、ベッドから降り少し大きめの欠伸をしながら洗面所で顔を洗おうとドアを開けると。

 

「ク、クリス・・・?」

 

「えっ・・・・・・??」

 

目の前に下半身にタオルを巻いた裸のデジェルがいた。身体から湯気が出てることから朝風呂にでも入ったのだろう。デジェルは読書に熱中すると一晩中起きて読み耽る所があるし、朝は日課のランニング(軽く百㎞のコースを走る)に出たりしているので朝風呂は別に珍しくも無い。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

しかし、今回はいつもより早く起きてしまったクリスと運悪く鉢合わせしてしまった。

 

「~~~~~~~!!!!///////////////」

 

顔を真っ赤に染めたクリスが声にならない悲鳴を上げ。

 

「クリス、まずは落ち着いてーーーー」

 

「お兄ちゃんのバカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!//////////」

 

朝早くからクリスの悲鳴が町中に響いた。

 

 

 

ー1時間後ー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

悲鳴を上げて直ぐに部屋に逃げたクリスは空腹に負けてリビングに入ると、デジェルが朝食をテーブルに並べていた。

 

「おはよう、クリス」

 

「うん、おはよう・・・////」

 

今朝の事を思い出して顔を赤らめるクリスにデジェルはいつも通りの笑みを浮かべ、一緒にトーストとベーコンエッグとホットミルクの朝食を食べ終えるとデジェルは食器を片付け、クリスは部屋に入り支度をする。

 

「お兄ちゃん、準備終わったよ」

 

「あぁ、こっちも終わった。それでは行こうか」

 

マンションを出た二人は腕を組んでデートに出掛けた。

 

 

それから二人はウィンドウショッピングをしたり、雑貨店で生活用品を買ったり、カフェでカップルドリンクを飲んだりしていた。

 

「あっ、お兄ちゃんあれ・・・」

 

屋内プール施設を見つけたクリス。

 

「今日は暑いからな、プールで泳ぐのも良いかもな。レンタルも出来るようだ」

 

「それじゃ行ってみよう」

 

水着をレンタルしようと店に入ると。店長らしい女性店員がやって来て。

 

「いらっしゃいませ、どのようなご用件でしょうか?」

 

「この子に合う水着をお願いできますか?」

 

「はっ!」(キラン!)

 

「???」

 

クリスを見た瞬間、女性店員の目がキランっと妖しく煌めいた。

 

スッ・・・パチンっ!

 

「えっ? 何? 何だよ・・・??」

 

女性店員が指を鳴らすとズラリと他の女性店員がやって来て戸惑うクリスを連行していく。

 

「お、お兄ちゃ~~~~ん!!」

 

「あのぅ・・・・・・」

 

「心配いりません! お客様の彼女様を素晴らしくして見せます!!」

 

「え、えぇ・・・?」

 

女性店員の勢いに押されデジェルも戸惑ってしまっていた。

 

 

ー十数分後ー

 

『うおおおおおおおおおッッ!!』

 

プールにいる男性客達が歓声を上げる。

 

赤い水着にフリルが付いており、下の方はスカートが付いた水着を着用し、背丈は中学生位だが、白銀に煌めく銀色の長髪に紫の瞳は猫目で、肌は新雪のように色白く、動くとブルンッと揺れる90㎝のFカップの双乳は単に大きいだけではなく弾力があり、形も整っており、臀部はプリンッと桃型で、美脚の上に手足はすっきりと細く、お腹もきゅっと引き締まってお臍は縦長であり、ボンキュボンと擬音が聞こえてきそうなほどにメリハリの利いた我が儘ボディに男性客の多くは前屈みになり、プールに入ってしまい、女性客達は羨望と嫉妬の目線が注がれる。

 

「(キョロキョロ、キョロキョロ)」

 

周りの視線に戸惑うクリスはデジェルを求めて目線をさ迷わせていると。

 

「ねぇ、君もしかして暇?」

 

「俺達がエスコートするよ♪」

 

「(ウッゼェェェェェェェ・・・!)」

 

元々クリスは、美少女な上に我が儘ボディなので、チャラく下卑たナンパ男共を引き寄せてしまった。クリスは内心イライラしながらナンパ男を殴ったろうかと言う衝動に駆られるが、せっかくのデジェルとのデートを台無しにしたくないから我慢してナンパ男達を無視する。

 

「ねぇちょっと連れないじゃない」

 

「少し話を聞いてよ・・・!」

 

ナンパ男の一人が乱暴にクリスの肩を掴もうとするが。

 

ガシッ

 

「「えっ・・・!!」」

 

クリスに触れようとした自分の手を掴んだ手を見てその先を見るとナンパ男は息を呑んだ。

 

エメラルドを溶かしたような美しい翡翠の長髪、男でも美形と思ってしまう程の顔立ち、細く華奢そうな身体に不釣り合いに洗練された筋肉があり、纏う雰囲気は涼やかで、全身から溢れ出る気品と知的さ、スパッツタイプの水着に緑色のパーカーを着た美男子に他の男性客も唖然となり、女性客は見惚れてしまっていた。

 

「申し訳ないが、彼女は私の連れなのでエスコートは不要ですよ・・・」

 

そう言ってデジェルはナンパ男の手を離す、ナンパ男達もデジェルの佇まいに呆然となるが、デジェルは構うこと無くクリスの手を引いてその場を去る。

 

「クリス、では行こうか・・・?」

 

「うんっ!♪」

 

クリスも晴れやかな笑みを浮かべながらデジェルの腕を組み共に歩いていった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

男性客達と女性客達は“理想的な美形カップル”に唖然呆然と眺めていたのであった。

 

ビーチパラソルの下で広げたビーチマット(レンタル物)に座った二人。

 

「ねえ、お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

「さ、サンオイル、塗ってくれない・・・////////」

 

「あ、あぁ・・・////////」

 

余裕の態度を見せているが、デジェルの生きた時代では女性が余り素肌を露出しないのが普通の時代(女性聖闘士は結構露出をしており、シンフォギアを装着した姿のように身体のラインがくっきり浮かぶデザインになってはいるが)、ここまで素肌を露にした格好の女性とお付き合いしたことが無いデジェルは、相手がクリスでも内心結構、いやかなり動悸が激しくなっているが、持ち前の理性で何とか押さえているのであった。

 

「(落ち着け、落ち着けデジェル! 幾ら相手がクリスでも臆するな!)」

 

「(落ち着けよ・・・! 落ち着けよ雪音クリス! こ、こここここ恋人同士ならこんなのあたあたた、当たり前の事なんだ!)」

 

実はクリスの方も内心アワアワしているのだが、必死に自分を押さえていた。そして仰向けに横たわったクリスのお腹にサンオイルを塗ったデジェルの手が置かれる。

 

ピチャッ

 

「ひゃぁん!」

 

「あっ、大丈夫か、クリス?」

 

「だ、大丈夫だから・・・お願い・・・////」

 

「う、うむ/////」

 

スリスリ、スリスリ、スリスリ、スリスリ・・・

 

「フッ! ウゥッ! アウッ! ヒャゥッ!♪///////」

 

「~~~~~!///////」

 

お腹から横っ腹、そこから足全体に、脇を過ぎて腕全体にオイルを塗るデジェル。そのむず痒さとくすぐったさでビクンビクンっと震えるクリス。そんなクリスの反応に少し顔を赤らめるデジェル。

 

『・・・・・・////////////////』

 

『うっ・・・っ!』

 

チラッと二人の様子を見ていた女性客達は顔を赤くし、両手で顔を覆っていたが、ちゃっかり指の隙間で二人の様子を窺っており、男性客達に至ってはクリスの反応に再び前屈みになってプールに沈んだ。

 

それから二人で一緒に流れるプールに入って遊び、露天でかき氷を食べて頭がキーーンとなったり、ウォータースライダーで遊んだりと有意義にデートを楽しんだ。

 

そしてショッピングモールの書籍店に行きクリスは参考書をデジェルは医学書を買おうとしていたが。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

デジェルは医学書を読むのに集中してしまっていた。

 

「はぁ・・・(こうなるとしばらくは動かないな・・・)」

 

一度読書に熱中した想い人は中々元に戻らない事を知っているからクリスは暇潰そうと書籍店から出る。

 

 

ー響sideー

 

「あれ? 響、あれクリスじゃない?」

 

「えっ? あっ、本当だ!!」

 

すると近くに同じようにショッピングモールに来ていた響と未来がクリスを見つけて話掛けようとしとしたが、ナンパ男達がクリスに言い寄った。

 

「クリスちゃんがナンパされてる?!」

 

「クリスって見た目美少女だからナンパされたんだね・・・」

 

「あっ、クリスちゃんがナンパ男さん達の一人を蹴り飛ばした・・・」

 

蹴られたナンパ男達がクリスにいちゃもん付けようとしていた。

 

「クリスちゃんっ!」

 

「響待って!」

 

「グエッ!」

 

クリスを助けようと飛び出そうとする響の首根っこを掴む。

 

「な、何未来・・・・・・?!」

 

「アレ! アレ!」

 

未来が指差す方を見ると“絶対零度のオーラ”を放つデジェルがいた。振り向いたクリスは顔が青ざめた。

 

「クリスちゃんがデジェルさんに気付いたみたい・・・」

 

「あっデジェルさんに連れてかれた・・・」

 

真冬の夜の寒さに振るえる仔猫みたいになったクリスは、デジェルに連行されていった。ナンパ男達はデジェルの雰囲気に呑まれて動けなくなっていた。

 

 

後にこれが水瓶座<アクエリアス>のデジェルによる、“極寒のお説教”を見た瞬間であった。

 

 

 

ーデジェルとクリスのマンションー

 

家に帰宅したデジェルとクリスは夕食の済ませ、ソファーに座って寛いでいた。

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「ん?」

 

「今日はゴメンね・・・」

 

「フッ、もう気にしていないさ」

 

ギュッと抱き締め合うデジェルとクリスはテレビをつけると。

 

「フム、“夏の映画特集『学院の怪談』シリーズ”一挙放送か・・・」

 

「面白そうじゃん、付けてみようよ」

 

「あ、クリス・・・(この番組“ホラー映画”なのだが、クリスは大丈夫なのか?)」

 

 

~一時間後~

 

【ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!】

 

【うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!】

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

ムギュウっ!!

 

「ク、クリス・・・!」

 

予測通りクリスはホラー映画が苦手だったようで、その豊満な胸をおもいっきり押し付けながらデジェルにしがみつき涙目で悲鳴を上げるクリスだった。

 

 

 

~夜・デジェルの部屋~

 

映画が終わり、クリスは怯えながら風呂を済ませ部屋に逃げ込み、クリスの後に風呂を済ませたデジェルは、部屋のベッドで寝る前に読書をしていた。すると部屋をノックして扉が開くと、大きめのTシャツを着て枕を抱えたクリスが涙目で部屋に入ってきた。

 

「どうしたんだ・・・?」

 

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

「・・・おいで、クリス」

 

「(パァッ)うん!」

 

ホラー映画の影響で一人で眠れなくなったクリスをやれやれと肩をすくめたデジェルからOKを貰ってクリスはいそいそとデジェルのベッドに入る。デジェルは電気を消すとクリスと向かい合う。

 

「お兄ちゃん♪」

 

「ん、なんだい?」

 

「ん~ん呼んだだけ、おやすみ・・・」

 

「あぁ、おやすみ・・・」

 

デジェルとクリスはお互いに抱き合いながら眠りに付いた。

 

それから半月程、クリスは一人で寝ることができず、デジェルの部屋で眠り、その度に寝惚けたクリスがデジェルの首筋を吸って“キスマーク”を作ってしまい、デジェルは真夏に襟巻きを巻いて予備校に通うようになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次はリディアンに編入したレグルスのスクールライフと、マニゴルドの“報酬”の話です。


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絶唱しないシリーズ2 若獅子の学園生活 執行人の報酬

今回は本編でレグルスが編入時の直後のストーリーです。


これは、『フロンティア事変』が終わり、獅子座<レオ>のレグルスが弦十郎から“勝手な行動”のケジメとしてリディアン音楽院で学園生活を過ごす日々の記録。

そして、“死刑執行人”の名を持つ蟹座<キャンサー>のマニゴルドがマリア達と協力していた時の報酬の話である。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

レグルスが編入して、ホームルームが終わり休み時間になると、レグルスは多くのクラスメート達に囲まれ、色々と質問をされていたが、レグルスは嫌な顔一つせずに受け答えをしていた。

 

「ねぇねぇ! 獅子堂君って何処の国から来たの!?」

 

「色々な国を転々としてたよ」

 

「じゃぁさ、英語とか喋れるの!?」

 

「え~と、英語だけじゃなくて、中国語にフランス語、ロシア語にドイツ語にイタリア語、ポルトガル語にアラビア語、スペイン語はちょっとうろ覚えだね」

 

『凄ぉぉぉぉぉい!!』

 

世界中の国々に赴いて任務をこなす聖闘士にとって、あらゆる国の言語を学ぶのは必要必須。この世界に来て直ぐに、数百年の年月が流れて言語が少し代わったので勉強したのだ。

 

ワイワイ、ざわざわ、ワイワイ、ざわざわ・・・

 

更に何処で嗅ぎ付けたか上級生達も廊下からレグルスを眺めていた。その様子を立花響と小日向未来の席から眺めている板場弓美、寺島詩織、安藤創世。ちなみにレグルスがいる席は教室の真ん中。

 

「イヤ~、“天然美少年系ヒーロー”ってアニメの世界だけだと思っていたわ~・・・」

 

「すっかり学院の注目の的ですね」

 

「ところでビッキーとヒナは何してるの?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」(ススススススススススススス)

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」(ススススススススススススス)

 

一心不乱にスマホを操作してレグルスが編入した事を三年の風鳴翼と二年の雪音クリスにメールで報告した。

 

すると・・・・・・・・・。

 

「何ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!??」

 

「マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!??」

 

リディアン全体に響く程の翼とクリスの驚愕の雄叫びが響くと。

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド×2

 

バタンッッ!!×2

 

激しい地響きと共に教室の前と後ろの扉が突然開かれ、青い髪をサイドテールにした風鳴翼と銀色の髪をツーテールにした雪音クリスが響達の教室に乗り込んで来て。

 

「おっ、よぉ! 翼にクリス!」

 

「「本当にいた・・・」」

 

暢気に手を振るレグルスを見て翼とクリスは頭をカクンと下げて、響の方に近づき耳打ちする。

 

「(どういう事だ立花、これは!?)」

 

「(何でここにレグルスがいんだよ!?)」

 

「(えぇ~、私だって分からないよ・・・!)」

 

ヒソヒソ話を繰り広げる響と翼とクリスだが、休み時間終了のチャイムが鳴る。

 

キーンコーン、カーンコーン・・・

 

「ハイハイ、皆さん! もうチャイムは鳴りましたよ! 教室に戻る!」

 

先生がやって来てクラスメートは自席に戻り、廊下にいた生徒も教室に戻り始めるが、翼とクリスは。

 

「(立花、昼休みにレグルスを引っ張って来てくれ!)」

 

「(そこで問い詰める!)」

 

「(了解しました!)」

 

奏者達をレグルスはニコニコと微笑ましく見つめていた。

 

 

~授業~

 

授業態度はこれといって問題無く受けていた。

 

「獅子堂君、この方程式の答えは?」

 

「えっと、X=38、Y=43です!」

 

「正解です」

 

「(ヒソヒソ)レグルス君って勉強できたの・・・?」

 

「(ヒソヒソ)そういえば『フロンティア事変』の後、デジェルさんと友里さんに勉強教えてもらっていたような」

 

数学はギリギリある程度の理解はできていたが、現代文の授業は良く分からず、外国人だからと何とか誤魔化せた。ちなみに英語はコミュニケーションは完璧だったが、文法が良く分からないようだった。

 

 

~体育~

 

体育の授業は他のクラスが合同で行い、種目は“サッカー”であった。

 

「ついに、この時が来た・・・!」

 

「響、分かっているよね・・・!」

 

「うん!」

 

「「レグルス君!!」」

 

「何?」

 

「「お願いだから手加減してね!!」」

 

「う、うん・・・」

 

聖闘士は常人を圧倒的に越えた運動神経と身体能力を有しているため、その気になればあらゆる大会やオリンピックで金メダルやトロフィーを飽きるほど手に入れる事ができるのだ。しかも黄金聖闘士であるレグルスが蹴ったボールなど、某小学生名探偵のキック力増強シュート以上の破壊力を生み出すので、普通の女の子が受けたら五体がバラバラになりかねない。

 

そして響と未来から切実にお願いされたレグルスはフリーキックのキーパー役をやる事になったが。

 

「はっ! よっ! ほっ! それっ! こらさっ! なんのっ! あらよっと!」

 

プロのサッカー選手顔負けのアクロバティックな動きで、次々とシュートされるボールをキャッチしていく。

 

「獅子堂君、凄~~い!」

 

「カッコいい~!」

 

「う~~ん、うちの部<サッカー部>にスカウトしたいわ・・・!」

 

「「(ハラハラハラハラ・・・!)」」

 

クラスメートと他のクラスの生徒達から黄色い声援を浴びるレグルス。レグルスがやり過ぎないか気が気じゃない響と未来。そしてレグルスがシュートをする出番が来た。

 

「キーパー役は誰がやりますか?」

 

「先生! 私がやります!!」

 

「立花さんが? 分かりました・・・」

 

「(ヒソヒソ)レグルス君! 手加減してね! 絶対に手加減してね!!」

 

「分かってるよ未来♪」

 

他の人にやらせる訳にはいかないから響がキーパー役を務め、未来は必死にレグルスに手加減するように懇願していた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスはボールを前に瞑目し集中する。そのあまりに静謐した佇まいに誰もが息を呑む。

 

「(スッ) はぁっ!」

 

レグルスの蹴ったボールは真っ直ぐに響のいるゴールに向かう!

 

「っ!」

 

響は足を開いて腰を落とし、ボールを捕らえようとするが、突如目の前に迫ったボールがカクンと下に落ちて、響の開いた足の間をすり抜けてボールネットに包まれた!

 

「よしっ!」

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

見事なゴールを決めて小さくガッツしたレグルスに女子生徒達が歓声を上げた。

 

 

 

 

 

~昼休み~

 

「「(ズ~~~~~~~ン・・・・・・)」」

 

昼休みなり、屋上まで何とかレグルスを連行してきた響と未来は項垂れ、そこには翼とクリスだけでなく弓美に詩織に創世も来ていた。

 

「何故立花と小日向は疲れているのだ?」

 

「何があった・・・?」

 

「イヤ~レグルス君が体育の授業で大活躍しちゃって・・・」

 

「それで昼休みに一緒にご飯食べようとクラスメートや他のクラスの子達が殺到しちゃって・・・」

 

「なるほど、そのレグルスを連れだすのに相当骨を折ったようだな・・・」

 

「お疲れさん・・・」

 

そして当のレグルスは弓美達と会話していた。

 

「こうやってちゃんと話すのって初めてだよな? 改めて俺はレグルス、獅子座<レオ>のレグルスだ。学校では“レグルス・L・獅子堂”って名乗っている。よろしくな!」

 

「アタシ板場弓美。よろしくね!」

 

「私は安藤創世、本当にこうして会うの初めてだよね」

 

「寺島詩織と言います。こちらこそよろしくお願いいたします、レグルス君」

 

「へへへ、可笑しな話だよなぁ・・・」

 

「「「えっ?」」」

 

「俺達ってさ。“ルナアタック”の頃からの顔見知りだったけど、こうして顔合わせて、“お互いの名前”を知ったのが今日“初めて”なんてさ・・・」

 

「そう言えばそうですね・・・」

 

「ビッキー達からは聞いてたけど、こうやって話すのって初めてだもんね」

 

「ウーン、こんなやり取りアニメの中だけだと思ってたわ~」

 

「ハハハ」

 

「「「フフフフフフ・・・」」」

 

『アハハハハハハハハ・・・』

 

可笑しくなったのかレグルスは弓美達と和気藹々と和やかに笑い合っていた。

 

「こっちは、突然レグルスが編入してきて慌ててるって言うのにあの野郎は・・・!」

 

「雪音、気持ちは分かるが落ち着け・・・!」

 

張っ倒してやろうかと拳を挙げるクリスを翼が羽織い絞めして押さえる。

 

「ム~~~~~~!」

 

「響、押さえて押さえて・・・」

 

弓美達と仲良く笑い合うレグルスを見てむくれる響を宥める未来。

 

「それで、どうしてレグルス君がウチの学院に編入して来たんですか?」

 

「あぁ、先程叔父様に連絡をしたのだが・・・」

 

「アタシもデジェル兄ぃに連絡したんだけどよ・・・」

 

 

ー数時間前・翼&クリスsideー

 

「叔父様! これはどういう事ですか!?」

 

《あぁ、スマンな。実は以前からレグルス君をリディアンに編入させたいと思っていたのだが、シジフォスの事もあるから断念していたのだ》

 

レグルスは『ルナアタック』が終結して直ぐに叔父である射手座<サジタリアス>のシジフォスの捜索に旅立ってしまった。

 

《だが、今はエルシドの他にアスミタやアルバフィカも冥衣の探索と平行して、シジフォスの捜索をしてくれているからな》

 

「・・・・・これを機にレグルスに“平凡な日常”を体験させて、あわよくばこのまま“日常”に生きて貰おうと言う訳ですか?」

 

《その通りだ。お前やクリス君も、今そこの“日常”がどれ程大切かは自分が一番理解しているだろう?》

 

「はい・・・」

 

“戦いの無い平和な日常”、“防人”として青春の大半を自らの鍛練に費やして来た翼と、幼い頃に“この世の地獄”を経験して来たクリスも“平和な日常”を通して“穏やかな生活”を知った。

 

「お兄ちゃん! これどういう事?!」

 

《良い機会だとおもってね》

 

「良い機会?」

 

《レグルスは生まれてから10年以上の月日を人の寄り付かない森の中で過ごし、迎えに来たシジフォスと共に聖域<サンクチュアリ>に来たが、聖域は俗世から離れ、聖闘士を育成する場所で有ったが故に“平和な日常”を知らずに育った。私やエルシド達は肉体が若返りそれなりの“平和”を知る事が出来たが、レグルスは聖戦での戦いの直後にこちらに来たからな。これを機に“日常”を知って貰おうと思ったのだ》

 

「それでレグルスが、戦いから離れる事になったらどうするの?」

 

《・・・・・・・・そればかりは、レグルスの“気持ち”次第だろう》

 

“平和な日常”を知ったレグルスが、“聖闘士としての人生”よりも“一人の少年としての人生”を歩み始めるのでは無いかとクリスは懸念する。

 

「叔父様、レグルスが“戦いから身を引く”事になったらどうしますか?」

 

翼もクリスと同じ懸念を弦十郎に聞く。

 

《そうなったら、俺がレグルス君の保護者役になるさ。彼が、“穏やかな日々”を望むならな・・・》

 

デジェルと弦十郎はレグルスの“意志”を尊重するつもりだった。

 

 

~現在~

 

「レグルス君に、“平和な日々”を経験させる・・・」

 

「そうすれば、レグルス君が“戦い”をやめてくれるかも知れないんですね!」

 

未来と響は弓美達と楽しく会話し、弓美からアニメの動画を見せてもらって笑っているレグルスの姿を見る。

 

「レグルスは幼き頃、それも雪音よりも幼き頃にたった一人の肉親である父上を目の前で冥闘士に殺され、それから孤独な少年時代を送ってきた・・・」

 

「それも父親を殺したヤツへの“復讐”を誓ってな・・・」

 

「レグルス君が、“穏やかな世界”で生きて欲しいね」

 

「うん・・・!」

 

響達のレグルスを見つめるその目は、どこか悲しそうだった。

 

 

~午後の授業~

 

午後の授業は“音楽”だった。そして、弓美が何を思ったか。

 

「先生! レグルス君に歌を歌って貰おうと思います!」

 

「およ?」

 

弓美の意見にクラスの大半(響と未来と詩織と創世以外)が賛成し、先生も了承してその時間はレグルスの歌が響いた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「何か何処かで聞いた事が有るような・・・?」

 

「歌の選曲は弓美に任されているから、多分アニメの歌だろうね・・・」

 

「ですがとても爽やかでナイスな歌声ですね」

 

「しかもレグルス君、歌上手すぎ! 翼さんにも匹敵するかも!」

 

それから弓美の選曲(アニソンのみ)で『勇○100○』や『君が○きだと○びたい』や『D○ND○N心○かれてく』や『シュ○ーソン○とビタ○ス○ップ』等の歌を歌い、その授業はレグルスのオンステージになっていた。

 

 

 

~放課後~

 

弓美達を含んだクラスメート達から、歓迎パーティーをしないかと誘われたが、用事が有ると言って響と未来、そして昇降口で待っていた翼やクリスと合流した一同はそのまま校舎を出ると、校門に人だかりができており、翼はクラスメートを見つけて話しかける。

 

「何かあったのか?」

 

「あっ、風鳴さん。何かスッゴい美形のお兄さんと、ガラの悪い人達がいるの!」

 

一同が校門を見ると、いつものスーツ姿のデジェルと革ジャンにサングラスを付けたガラの悪い格好で“アタッシュケース”を持ったマニゴルドと、マニゴルドと同じようにガラの悪い格好で林檎をかじるカルディアがいた。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「デジェルにマニゴルドにカルディア、お待たせ」

 

レグルスが三人に手を振ると、デジェルがレグルス達に近づく。

 

「すまないが皆、これから直ぐに私とクリスのマンションに来てくれ」

 

「デジェル兄ぃ、どういう事? それに蟹座<キャンサー>やカルディアまで・・・」

 

正直響達は未だにマニゴルドに対して余り良い感情を抱いてない。アルバフィカはその“気高き誇り”を見せ、カルディアの奏者達をも上回る戦士としての“生き様”は悔しいが認めざる得ないが、マニゴルドはマリア達の為とは言え“交換条件”を出して来たり、善意優先で他人を信じなかったり、悪人とは言え命を奪う姿勢は、奏者達に良い感情を抱かせなかった。

 

「・・・ふぁ~あ」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

マニゴルドは奏者達からの厳しい目線など何処吹く風な態度で退屈そうに欠伸をし、それが更に奏者達の目をきつくした。

 

「まぁまぁ皆、此処に居ても仕方ないし、とりあえずデジェル達のマンションに行こうぜ」

 

レグルスに宥められ、響達は渋々一緒にデジェルとクリスが同棲しているマンションに赴いた。

 

 

 

 

ーデジェルとクリスのマンションー

 

リビングのテーブルにマニゴルドが持っていた“アタッシュケース”を置く。

 

「マニゴルド、このアタッシュケースがそれなのか?」

 

「あぁ、俺がFISに協力していた“報酬”だよ。マリアがナスターシャの婆さんから聞いて、俺への“報酬”を隠していた貸金庫から持って来たんだよ」

 

「“報酬”目当てでお前はFISに協力していたのか?」

 

「当たり前だろうが、俺はお前ら二課の連中やレグルス達みたいに無償で働くのを喜ぶ慈善屋じゃないんだよ。貰うモン貰って行動するギブ&テイク大好き男なんでね」

 

マニゴルドの言い様に更に目が厳しくなる響達。

 

「それで、このアタッシュケースには何が入ってるの?」

 

「ま、俺達聖闘士にとって関係有るモンだよ」

 

マニゴルドがアタッシュケースを開けると、その中には。

 

“五つのドックタグ”と“三つのブローチ”が入っていた。

 

「これって・・・聖衣ブローチ?!」

 

『フロンティア事変』で“琴座<ライラ>の白銀聖衣”を纏った未来は、三つのブローチが白銀聖衣が宿る聖衣ブローチだと見抜いた。

 

「えっ!? じゃこのドックタグって・・・」

 

「このドックタグには、青銅聖衣<ブロンズクロス>が宿っている」

 

『えっ!?』

 

デジェルの言葉に響達は聖衣ドックタグや聖衣ブローチに刻まれた星座の軌跡を見る。レグルスが何の星座であるか察した。

 

「このドックタグに刻まれてるのは、“仔馬座<エクレウス>”、“冠座<ノーザンクラウン>”、“こぐま座<ウルサミノル>”、“ウサギ座<レプス>”。響とクリス、切歌と調の“守護星座”の青銅聖衣だ・・・!」

 

「えぇえっ!!?」

 

「アタシ達の守護星座・・・!」

 

響が仔馬座の聖衣タグをクリスは冠座の聖衣タグを持って見つめる。

 

「では、小日向の琴座の聖衣ブローチと同じこれは・・・!」

 

「そうだ。翼、君の守護星座、“鶴座<クレイン>”とマリア・カデンツァヴナ・イヴの守護星座、“カシオペア座”、そして今は亡き天羽奏の“鷲座<イーグル>”の白銀聖衣ブローチだ」

 

デジェルからの答えを聞いて、翼も自分の守護星座の聖衣ブローチと奏の聖衣ブローチを持って見つめる。

 

「これが、私と奏の守護星座・・・!」

 

「次いでに言うと、残った聖衣タグはマリアの亡き妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴの守護星座、“いるか座<ドルフィン>”の青銅聖衣タグだ」

 

カルディアはいるか座の聖衣タグをマジマジと眺めながら説明した。

 

「これが、マニゴルドがFISに協力していた“報酬”なのか・・・?」

 

「そうだ、FISのナスターシャ教授はマニゴルド達黄金聖闘士と接触してすぐ、これまでFISが集めていた聖遺物から発見し、米国政府にも秘密裏に回収していた青銅聖衣タグと白銀聖衣ブローチを貸金庫に保管し、マニゴルドへの“報酬”にしたと言う訳だ」

 

「じゃマニゴルドさんは、聖衣を取り戻す為にFISに協力していたんですね!」

 

響の問いにマニゴルドはソッポを向く。

 

「フン。如何に別世界の地球とは言え、聖衣は俺達聖闘士の“魂”って言っても良いからな。米国のヤツらやどこぞの道化<ウェル>のようなバカに利用されちまえば、あの世の聖闘士達が化けて出てくるかも知れねぇからな」

 

ぶっきらぼうに言ってはいるが、シンフォギア世界の聖闘士達の為に行動している事を理解し、奏者達はマニゴルドを少し見直した。

 

「それで、この青銅聖衣タグと白銀聖衣ブローチはどうするんですか?」

 

「恐らく我々の黄金聖衣レリーフと琴座の白銀聖衣ブローチと同じように、風鳴司令に預かって貰うしか無いだろうな」

 

「んじゃそっちのゴタゴタはデジェルに任せたわ」

 

「俺はこれから警備員のバイトがあるからこれで・・・」

 

マニゴルドはフリーのジャーナリストの仕事へ、カルディアは警備員のバイトへ出掛けた。

 

「マニゴルドさん、ジャーナリストの仕事って言ってるけどどんな仕事なんですか?」

 

「あぁ、暴力団との黒い繋がりや汚職に手を染めた政治家達の情報を収集したりしているんだ」

 

「ンな事して大丈夫なのかよ?」

 

「マニゴルドはあの容姿だからな、“裏社会”へは自然に溶け込めるんだ」

 

成る程と納得する響達。

 

「マニゴルドもカルディアも、真面目に働いているみたいだな・・・」

 

「今は収容所にいる暁切歌と月読調、それにマリア・カデンツァヴナ・イヴがいつ帰って来ても良いようにな・・・」

 

働きに行く二人の後ろ姿をレグルスとデジェルは何処か微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

ーマリア・切歌・調ー

 

その頃、収容所にいるFIS側の奏者達は。

 

「・・・・・・暇デスね」

 

「マニゴルドとカルディアは釈放されて働いているようだよ・・・」

 

「早く会いたいデスね・・・」

 

「うん・・・でもマリアは」

 

「デェス・・・」

 

「何で何も言わずに旅に出たのよアルバフィカ・・・大切な旅だって事は分かるけど、せめて何か一言位言いに来てくれても罰は当たらないでしょうに・・・」(ズーーーーーーン)

 

「マリア・・・」

 

「重症デスな・・・」

 

収容所で暇を持て余しまくっていた金色の短髪にバッテンのヘアピンを付けた暁切歌と艶やかな黒髪をツインテールにした月読調は、何も言わずに旅に出てしまったアルバフィカに対して不貞腐れている、桃色の長髪に猫耳のようなヘアスタイルをしたマリア・カデンツァヴナ・イヴを不憫そうに眺めていた。

 

 




ー捕捉ー

今更ですが、原作聖闘士星矢LOSで白銀聖衣の待機状態無かったので“ブローチ”にしました。

黄金聖衣:レリーフ

白銀聖衣:ブローチ

青銅聖衣:ドックタグ

冥衣:黒い宝玉

こんな感じです。


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絶唱しないシリーズ3 古の恋バナ 宝瓶編

今回、時系列とかいい加減に造ったと思いますのでご了承くださいm(__)m


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「(何故こんな事に・・・?)」

 

水瓶座<アクエリアス>のデジェル。黄金聖闘士の頭脳担当にして参謀役、沈着冷静な聖闘士は、今現在自分と最愛の少女、雪音クリスが同棲するマンションの部屋にある“クリスの部屋”のドアの前で立ち往生していた。

 

「クリス・・・・・・?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

廊下で扉越しにクリスに呼びかけるが、おそらくドアの内側から自分に背を向けているであろう少女は沈黙していた。

 

「(一体何故こんな事に・・・・・・イヤ、ずっと先送りにしていた“ツケ”が来たと言うべきか・・・しかしカルディアめ・・・! クリスに“セラフィナ”様の事を話すとは・・・!!)」

 

 

~数時間前~

 

話は年が開け、『フロンティア事変』を起こしたFISのシンフォギア奏者、マリア・カデンツァヴナ・イヴと月読 調と暁 切歌がようやく収容所から一時的に釈放され、特異災害機動部二課に所属する聖遺物『絶剣 天羽々斬』のシンフォギア奏者、風鳴 翼と聖遺物『撃槍 ガングニール』奏者 立花響に連れられ、聖遺物『魔穹 イチイバル』奏者 雪音クリス、響の親友にして二課の民間協力者兼『琴座<ライラ>の白銀聖闘少女<セインティア>候補』小日向未来と再会した。

「マリアさん! 調ちゃん! 切歌ちゃん!」

 

「よぉ・・・!」

 

「久しぶり・・・・」

 

「(ペコッ)・・・・」

 

「デ~~ス・・・・」

 

元気良く挨拶するクリスと未来と対処的に、マリア達はまるで御通夜のような雰囲気だった。訝しんだクリスと未来は翼と響に近づく。

 

「翼さん、マリアさん達どうしたんですか?」(ヒソヒソ)

 

「わからん。一体どうしたのか・・・・」(ヒソヒソ)

 

「響、何かあったの?」(ヒソヒソ)

 

「え~~とね・・・・」(ヒソヒソ)

 

「釈放されたアイツらとなんか話したか?」(ヒソヒソ)

 

「実はね・・・」(ヒソヒソ)

 

「どうしたの・・・?」(ヒソヒソ)

 

「ウム、マリア達が釈放されて再会した時にな」(ヒソヒソ)

 

「「フムフム」」(ヒソヒソ)

 

「見ての通りマリアも暁も月読も、我々と敵対していた時の“刺々しさ”が無くなっているだろう・・・?」(ヒソヒソ)

 

「「(チラッ)確かに・・・」」(ヒソヒソ)

 

すっかり御通夜全快のマリア達には、敵対した時にあった刺々した敵意とトンガッタ雰囲気が無くなっていた。

 

「それで再会した時に、“丸くなったな”と言ったのだが、そしたらあのようになったのだ・・・」(ヒソヒソ)

 

「つまりね、そういう事・・・」

 

「なるほど・・・」

 

「分かったのかよ・・・?」

 

「マリアさんも調ちゃんも切歌ちゃんも、“自分の体型が丸くなった”と思っちゃったんじゃないかな・・・?」

 

翼の言う“丸くなった”と言うのは纏う雰囲気や目付きや表情の事であったのだが、言われた当人達は“体つき”が丸くなった、つまり“太った”と言われたと勘ぐったのだ。

 

「そんなつもりで言った訳では無いのだが・・・」

 

勿論、翼本人もそんなつもりは全く無いのだが、そこは年頃の女の子である調と切歌や、成人しているとは言えマリアも女性、プロポーションの事を気にするのが“女心”と言える。『フロンティア事変』の後から年明けまでずっと収容所で生活し、運動も録に出来ない食っちゃ寝の日々に、不安を抱いていた。

 

「このままじゃ駄目だよね・・・」

 

「響・・・?」

 

意を決して響がマリア達に近づくが、未来と翼とクリスは“嫌な予感”を感じた。

 

「大丈夫だよマリアさん! 調ちゃん! 切歌ちゃん!」

 

「「「えっ・・・?」」」

 

「これから運動して! 太った身体を元に戻せば良いんだよ!!」

 

「「「ふ、太ったっ!!??」」」(ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンっ!!!)

 

響は精一杯のフォローのつもりが追い討ちイヤ、止めを刺してしまった。

 

「「「(ズ~~~~~~~~~~ン・・・・)」」」

 

潜在的に太ったと心配していたそんな心境なのに、翼の悪意は無いがデリカシーゼロ発言に打ちのめされ、更にそこに響のKY発言で完全にノックアウトされてしまっていた。完全に落ち込んだマリア達を見て、響は失言したとようやく悟った。

 

「ど、どどどどどどどどどうしよう、未来・・・!」

 

「どうしようって言われても・・・」

 

「雪音! フォローしてくれ・・・!」

 

「無茶振りすんなぁ!」

 

どうフォローすべきかアワアワとなる二課奏者達。すると・・・・。

 

ブロロロロロロロ・・・・キィ。

 

そんな一同に、迷彩カラーで中型のジープ・ラングラーが近づき、後部座席のドアが開くと。

 

「アレ? なにしてンの響達?」

 

「何でマリア・カデンツァヴナ・イヴ達は落ち込んでいるんだ・・・?」

 

『レグルス(君)っ!!! デジェル兄ぃ/デジェル(さん)っ!!!』

 

車から降りたきたのは、“地上最強の神話の闘士”、アテナの聖闘士の中でも黄道十二星座の一角、獅子座<レオ>の黄金聖闘士 レグルス(戸籍上ではレグルス・L・獅子堂)と水瓶座<アクエリアス>の黄金聖闘士 デジェル(デジェル・A・水瓶<ミヘイ>)の登場に、響達は救世主!と云わんばかり喜んだ。

 

「「本当に何事・・・・??」」

 

レグルスとデジェルは首を傾げる事しか出来なかった。

 

 

~事情説明中~

 

 

「なるほど、そういう事か・・・」

 

「体型なんてそんなに気にする事じゃないと思うけどな~」

 

「そりゃレグルス君達のような男の人達はそうだろうけどね・・・」

 

「女の子はそういうのを気にしちゃうんだよ・・・」

 

「ハァ、まぁ丁度良いか。オ~イ、そろそろ降りて来なよ!」

 

事情を聞いて呆れるレグルスとデジェル。レグルスはジープ・ラングラーに顔を向け声をかけると、運転席と助手席のドアが開き、そこから降りて来たのは。

 

「たくっ、なにやってんだか・・・」

 

「待ちくたびれたぜ・・・」

 

運転席から降りて来たのは、青い髪を横にツンツンと伸びる短髪をした男性と、群青色の腰にまで届く癖っ毛の長髪をした男性、二人とも顔つきは整って要るもののそのガラの悪さから、ギャングかヤクザと言われても差し支えない格好をしていた。

 

「あっ・・・・!」

 

「あぁ・・・・!」

 

切歌と調はその二人の姿を見て落ち込んでいた顔つきが喜色に染まる。

 

「マニゴルド・・・!」

 

「カルディア・・・!」

 

青い髪をした男性は、レグルスとデジェルと同じ黄金聖闘士、蟹座<キャンサー>のマニゴルド。群青色の癖っ毛の長髪男子は、蠍座<スコーピオン>のカルディア(因みにマニゴルドは戸籍上の名前は“マニゴルド・C・蟹山”、カルディアは“カルディア・S・蠍岡”と名乗っている)。

 

「マニゴルドーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

「カルディアーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

切歌はマニゴルドに、調はカルディアに抱きつこうとし、マニゴルドとカルディアは少し腕を広げて受け止めようとする。

 

「感動の再会だね・・・!」

 

「何か泣けてくるね・・・!」

 

「暁も月読も、口では“面会に来なくて冷たい奴等だ”と愚痴っていたがな・・・」

 

「本心は違ってたんだな」

 

奏者達は四人の再会を眺め。マリアは魚座<ピスケス>のアルバフィカが居ない事に肩を落とす、心無しか暗いオーラを出して。

 

「やっぱりアルバフィカは居ないのね・・・」(ズ~~~~~~ン)

 

「アルバフィカも出来る事なら来たかったのだが・・・」

 

「何か南米の方で聖衣の反応が合ったからソッチの方へ行ったみたいだよ・・・」

 

「私より聖衣の方が大切なのね・・・」(ズ~~~~~~~~~ン)

 

暗いオーラが更に強くなり、その場に蹲って地面に指で“の”の字を書きながらいじけるマリアのフォローをするレグルスとデジェル。

 

ムギュッッ×2

 

「フギュッ!?」

 

「あうっ!」

 

『えっ・・・?』

 

切歌と調の声と響達の間の抜けた声にレグルス達が目を向けると。

 

切歌の両頬を摘まんだマニゴルドと。

 

調の両頬を掌で押さえてブニブニしているカルディアだった。

 

「イダダダダダダダダダダダダダっ! ひゃひゃ、ひゃにふるレェスくぁ!ファニコルブォ!!(なな、何するデスか! マニゴルド!!)」

 

「ン~~? お前らが本当に太ったのか確かめてやってンだろうが♪」

 

ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~。

 

ちゃっかりレグルス達の会話に聞き耳立てていたのか、切歌の頬を摘まみ上げ、身体を宙ぶらりん状態にさせながらニヤニヤ笑みを浮かべるマニゴルドと、ぶら下がった状態で手はマニゴルドの腕を掴み、宙に浮いた足をジタバタさせる切歌。

 

「ンン~~~~この肌のプニプニ感と引っ張り具合からすると、FISの時と違ってそれなりに栄養が取れる日々を送っていたようだなぁ・・・?」

 

「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・!」

 

「アァ、こうやって切歌を虐めていると切歌が帰ってきたって実感が湧くわぁ・・・!」

 

「いひめるっふぇふぁんレフくぁっ!?(虐めるって何デスかっ!?)」

 

懐かしむようにしみじみした感じているマニゴルドにほぼ涙目で精一杯のツッコミをする切歌。

 

「う~~~~~~~~~~む・・・・・・」(プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ・・・・・・)

 

「カ、カルディア・・・・・・」

 

「この肌の張り具合と柔らかさからすると、あんま太った感じはねぇな・・・・」

 

「本当・・・!?」(パァ・・・!)

 

「しかし、もう少し調べてみっか・・・・」(プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ・・・・・・)

 

「うぅ~~~~~~!!」

 

マニゴルドと違っておふざけ大半だが、調が太ったか検査しているカルディアの言葉に、調は絶賛頬をカルディアに弄られながら喜色の表情になるが、すぐにまた弄られ唸り声を上げる。

 

『(ポカ~~~~~~~~ン・・・・)』

 

「アルバフィカから一応は聴いてはいたけど・・・」

 

「いつもあんな感じなのか? あの四人は・・・・?」

 

「・・・・あんな感じよ。ご飯のオカズを取り合ったり、口喧嘩の延長戦であぁなったりとね、まぁただジャレ合っているだけだから気にする事ないわ」

 

奏者達は突然繰り広げられる漫才に唖然となり、レグルスとデジェルは事前にアルバフィカに聞いてはいたが呆れ、漸く立ち直ったマリアが解説する。すると、調を弄くり回しているカルディアがデジェルの方を向く。

 

「所でよデジェル・・・」

 

「何だカルディア?」

 

「お前、“セラフィナ様”の事、イチイバル<クリス>に話したのか?」

 

「(ギクッ!!!)」

 

「デジェル兄ぃ・・・・??」

 

デジェルの態度と首を傾げるクリスを見て、ニヤリと笑みを浮かべて次の言葉を並べる。

 

「何だよ話して無かったのか? お前の“初恋の人”!!の事をよ♪」

 

『えっ・・・!?』

 

「デジェルの初恋??」

 

「ほぉほぉ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁっ?」

 

“初恋の人”の部分を強調したカルディアの言葉に奏者達驚き、レグルスは首を傾げ、マニゴルドはニヤ付き、クリスの瞳はハイライトが消え失せカルディアに詰め寄る。

 

「オイ、スコーピオン、今の話詳しく教えろ・・・!」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「クリス待て・・・・!!」

 

「お前が待てデジェル♪」

 

「私達も詳しく知りたいです!!」

 

クリスを止めようとするデジェルを切歌を離したマニゴルドが羽交い締めし、響達も聞こうとデジェルを押さえる。

 

ガブッ!

 

「ん? ギャアアアアアアアアアアアアアアっ!! 何しやがる切歌!!!」

 

頬を離された切歌はマニゴルドの頭に噛み付く。

 

「うるさいデス! 乙女の頬を引っ張り回す奴には噛み付きの刑デス! 蟹ミソぶちまけるデェスッッ!!!」ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ!!!

 

「いでででででででででででででででっ!!!」

 

ギャーギャー騒ぐ切歌とマニゴルドなど眼中に無いと云わんばかりにクリスはカルディアから“セラフィナ”と言う女性の事を聞いた。

 

セラフィナと呼ばれる女性は、デジェルが候補生だった頃の修行の地であったブルーグラードの領主の娘で、極寒の過酷な地方であったブルーグラードに各国に援助を求めて伴走する女性で、まるで“太陽のような女性”で、多くの民から慕われ、デジェルも恋慕の感情を抱いていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

カルディアの話が終わるとクリスは俯き先程のマリアと以上の暗いオーラを放ちながら、目は前髪に隠れゆっくりとデジェルの方へ歩み寄る。

 

『うわ~~~~~~~~』

 

響達もレグルスもクリスのオーラにさっきまでジャレ合っていたマニゴルドと切歌も引く。

 

「ク、クリス・・・・」

 

デジェルも冷や汗を流しながらクリスに話し掛けると。

 

「お兄ちゃんの・・・・お兄ちゃんの・・・・!!」

 

顔を上げたクリスの目には涙が溢れ。

 

「バカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

ドグォンッッ!!

 

「ぐおっ!!」

 

クリスの正拳突きがデジェルの鳩尾にクリティカルヒットした!

 

「おぉ! 見事な正拳突き!!」

 

「腰が入った良いパンチだわ・・・・!」

 

「切歌! いい加減離れやがれ!!」

 

レグルスとカルディアはクリスの攻撃に感心し、マニゴルドは未だ自分の頭に噛み付く切歌を引き剥がそうとする。

 

「ッッ!!!」

 

クリスはそのまま走り去って行った。

 

「クリスちゃん!!」

 

「雪音!!」

 

「デジェルさん! 急いで追いかけないと!!」

 

「わ、分かってはいるのだが・・・!」

 

「鳩尾に本腰入れた正拳突き、下手すると呼吸困難で死ぬ威力だね」

 

「思った以上に面白い事になったな♪」

 

「カルディア、何でアクエリアスの初恋の人の事なんて話したの?」

 

「交際中の女の子に隠し事なんてやってる奴にちょっとお仕置きをな・・・」

 

「本心は・・・?」

 

「『フロンティア事変』の時に、俺とのタイマン勝負を手加減しやがった腹いせ」

 

「だと思った・・・」

 

マリアと調は、デジェルとカルディアの一対一の戦いの時にデジェルが手加減した事を根に持っていた事に呆れ。

 

「オイコラお前ら! それよりも俺を助けろや!!」

 

「ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ!!!」

 

マニゴルドと切歌はまだジャレ合っていた。

 

 

 

~現在~

 

マンションに戻ったデジェルは部屋に引きこもったクリスに呼び掛けるが、応答しなかった。

 

「う~~む、これは中々面白い、もとい大変な事になったなぁ♪」

 

「見てる分にはニヤニヤが止まらねぇけどよ♪」

 

「二人とも、悪趣味よ・・・・」

 

ニヤニヤ笑みを浮かべながらドアの隙間から中の様子を伺うマニゴルド(頭に歯形を付けていた)とカルディアにマリアが諌める。

 

「やっぱり、私達もクリスちゃんを説得しよう・・・」

 

「バカたれ」

 

ガン!

 

「あだっ!」

 

「向こうから“助けて”と言われた訳じゃねぇのに、男と女の問題に、お前らが口出しするんじゃねぇよ」

 

中に突撃しようとする響にマニゴルドが拳骨で大人しくさせる。

 

「しかし、このままと言う訳には・・・」

 

「大丈夫だろ、デジェルも何れは言わなきゃいけなかった事を先送りにしていた事だからな・・・・」

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「クリス、少しだけ私の話を聴いてくれ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

何も言わないがクリスがドアに居る事を気配で察していた。

 

「少し昔の話をさせてほしい・・・・」

 

デジェルは静かに、静かに語った。

 

自分は確かにセラフィナに憧れていた、恋慕の感情すら抱いていた事。

 

過酷な環境のブルーグラードの領主の娘で故郷とその民を幸せにしようと奔走する太陽のような女性だった。

 

デジェルはブルーグラードを良くしようと親友であり、セラフィナの実弟であった“ユニティ”といつかブルーグラードの架け橋を掛けようと“夢”を誓った事。

 

しかし、現実はかくも残酷に二人の少年の“夢”を無惨に引き裂いた。

 

セラフィナが、死んだ。

 

ただの風邪だった。しかし過酷な極寒の環境のブルーグラードの民にとってただの風邪ですら恐ろしい病であり、セラフィナは風邪を拗らせそのまま帰らぬ人となった。

 

デジェルがそれを知ったのは、地上を滅ぼさんとする冥界の神 ハーデスが率いる冥王軍と、地上の平和を守るためにアテナと聖闘士達の聖戦の真っ只中であり、任務でブルーグラードに赴いた時初めて知ったのだ。

 

そしてセラフィナの実弟ユニティは、故郷ブルーグラードの為に奔走してきた姉の不遇な死により世に絶望し、ブルーグラードが監視していたアテナのもう一人の宿敵、海皇ポセイドンの封印を一時的に解き、ポセイドンに使える海闘士<マリーナ>の頂点、七海を守護する七人の海将軍<ジェネラル>の一人、海龍<シードラゴン>の海闘士へとなりデジェルと戦い敗北した。

 

だが、何と死んだセラフィナの遺体はポセイドンの依り代とされ、暴走を始めたポセイドンの力を防ぐ為にデジェルは依り代にされたセラフィナの遺体とポセイドンの居城 海底神殿アトランティスのある海底ごと自分を『オーロラエクスキューション』で氷で凍てつかせ封印し、命を燃やし尽くした。

 

「・・・・うっ・・・・・・うぅッ・・・・・」

 

「私は、セラフィナ様の死にも、それによるユニティの暴走すら見抜けなかった。私が気付いていれば、違う結果になっていたかもしれないと何度も考えた事も有ったよ・・・・」

 

セラフィナとユニティとデジェルの間に起こった悲劇に、クリスは何も答えなかったが、ドア越しから嗚咽が僅かに漏れていた。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「うぅっ・・・・!」

 

「あぁっ・・・・!」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「「(ズビーーーー・・・・)」」

 

響と未来も嗚咽を漏らし、翼とマリアも一筋の涙を流し、切歌と調はマニゴルドから貰ったホケットティッシュを涙を拭いたり鼻をかんだりして使いきっていた。

 

「(デジェルにそんな事が有ったのか・・・・)」

 

「(ついでに言うとその場所には俺も居てな、俺らの任務を妨害しようと“魔女パンドラ”も海底神殿に来ていたんだよ・・・)」

 

「(ハーデスの腹心のあの魔女か、今気付いたが天羽々斬<翼>って、パンドラと声が似てんな?)」

 

「(そう言えば、でも何で今まで気付かなかった・・・・)」

 

「「(・・・・・・・・・・・・)」」

 

マニゴルドとカルディアはデジェル達の様子を伺っていた翼の髪の色と“ある一部分”をチラッと見ると。

 

「「(あぁっ、“あれ”か・・・・)」」

 

「(???)」

 

翼とパンドラの声が似ていたのに気付かなかった“理由”を知り頷いたが、レグルスは何の事か分からず首を傾げる。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「お兄ちゃんはさ・・・・・・・・」

 

そこで漸くクリスが話しかけた。

 

「お兄ちゃんは、今でもセラフィナって人の事を・・・・」

 

“愛してるの?”と聞けなかった、クリスはデジェルが好きだ。“LIKE”方では無く勿論“LOVE”の方で、デジェルといつまでも一緒にいたいと心から想っている程にデジェルの事を愛していた。そのデジェルの心に未だセラフィナが居るなどと、恐くて聞けなかった。

 

「・・・・・・・・・クリス、『ルナアタック』の時に、私とエルシドとレグルスが、フィーネの策略で『夢神<モルペウス>の門』に捕らわれた事を覚えているかい・・・?」

 

「うん・・・・」

 

「あの時、我々はそれぞれ夢神の神具によって夢幻を見せられた。レグルスは父である先代獅子座<レオ>の黄金聖闘士 “イリアス様”を、エルシドはかつての盟友“峰”と“フェルサー”を、そして私は、セラフィナ様もユニティ、そして恩師である先代水瓶座<アクエリアス>の“黄金聖闘士 クレスト先生”が現れた・・・・」

 

「っ!?」

 

「当然、夢に現れたセラフィナ様達は、私に夢の中で生きようとと誘ってきた・・・・夢であり、幻だと言う事は分かっていた。それでも、私はもう一度あの日々に戻れるならと考えてしまった。だが、聴こえたんだ・・・・」

 

「何を・・・・??」

 

「・・・・君の、クリスの歌声が・・・」

 

「っ・・・・」

 

「ユニティの事も、クレスト先生の事も、勿論セラフィナ様も、私にとっては“掛け替えのない思い出”だ。だが、私にとっては今この時、この瞬間に、私の傍にいる“掛け替えのない人”と過ごすこの時の為に、私は此処にいる・・・・」

 

ドアが少し開き、そこからクリスが顔を出す。

 

「“掛け替えのない人”って・・・?」

 

「クリス、それは・・・・君だ。君が私にとっての“掛け替えのない人”だ・・・!」

 

「~~~~~~~!!」

 

クリスは顔を赤らめて、デジェルの胸に飛び込み、顔を埋め、デジェルはクリスを優しく抱き締める。

 

「お兄ちゃん・・・・!!」

 

「クリス・・・・」

 

お互いを愛おしそうに見つめ合うデジェルとクリスを食い入るように身を乗り出して見つめる響達とマニゴルドとカルディア。

 

ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!

 

ガタッ!

 

「あれっ!?」

 

「キャッ!」

 

「うわっ!」

 

「デェスっ!?」

 

「あっ・・・!」

 

「アララっ!?」

 

「うおっ!?」

 

「おぉっ!」

 

「倒れるよ」

 

バタンっ!!

 

「「っっ!!??」」

 

ドアからの派手な音にハッ!とデジェルとクリスはドアを向くと、響を一番下にしてドミノ倒しのように倒れる奏者達とマニゴルドとカルディア、レグルスだけは倒れず後ろいた。

 

「クソッ、後ちょっとだったのによ・・・・!」

 

「たくっ・・・・!」

 

「イタタタタタ・・・・」

 

「身を乗り出し過ぎたか・・・・」

 

「調、乗り過ぎデス・・・・!」

 

「切ちゃんだって・・・・!」

 

「いいから、早く退いてよ・・・・!」

 

「皆、大丈夫? 特に響?」

 

「つ、潰れるよ・・・・!!」

 

ドスンっ!

 

『ッッ!!?』

 

突然の足音に倒れた一同がギギギギと壊れたブリキ人形のように音がした方へ目を向けると。

 

「な~にしてんだぁ~お前ら~~!!」

 

地獄の底から響くような重い声を放ち、地獄の悪鬼達も裸足で逃げる程の迫力と威圧感を放つ雪音クリスだった。デジェルも呆れながら苦笑いを浮かべる。

 

「ク、クリスちゃん、イヤその・・・!」

 

「クリス! 落ち、落ち着いて・・・!」

 

「雪音、れ、冷静になれ・・・・!」

 

「「「アワワワワワワワワワ・・・・!!」」」

 

響と未来と翼は何とかクリスを宥めようとし、調&切歌はマリアに抱き付き、マリアも二人を抱いてガタガタと振るえる。

 

「イヤ~~惜しかったなぁ!」

 

「後少しでチュウまでは行けると思ったのに・・・!」

 

「デジェルとクリスは本当に仲良しだなぁ♪」

 

出歯亀根性丸出しのマニゴルドとカルディア、暢気に二人を祝福するレグルス。

 

「・・・・・・・・さっさと、出ていけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

『はいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッッ!!!』

 

「「「はいはーい」」」

 

奏者達は仰天しながら、聖闘士達はマイペースに出ていったのを確認すると、クリスはドアを乱暴に閉めて、鍵を掛けた。

 

「アイツら・・・・!!」

 

「全く、仕方ないな・・・」

 

「お、お兄ちゃん・・・その・・・///////」

 

「クリス・・・」

 

「あっ・・・」

 

デジェルとクリスはそのまま顔をゆっくり近づけ。

 

 

 

 

 

 

チュっ❤

 

 

 

 

 

二人の唇が重なった。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん・・・・//////」

 

「そろそろ“お兄ちゃん”ではなく、呼び捨てで呼んで欲しいな?」

 

「もう少し、“お兄ちゃん”って呼ばせて・・・その、ちょっとまだ照れくさいから・・・//////」

 

「分かった」

 

二人はお互いを優しく抱き締め合った。

 

 

 




さて、これで『絶唱しないシリーズ』は一時終わり、次回で『GX編』に突入します。多分12月の中頃に出ると思います。


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GX編
絶唱しないシリーズGX1 雪音クリスは甘えたい


遅れましたが新年もよろしくお願いします。

本編のストーリーが纏まらず、ちょっと息抜きで『絶唱しないシリーズ』を書きます。

ちょっとエッチな感じにします。


これは、切歌と調がリディアン音楽院に入学してからしばらく経ったある日。

リディアン音楽院も共学化し、1年生と2年生のクラスに男子生徒がチラホラ存在しているが、3年生のクラスには男子はおらず、大半の生徒達は下級生の階に行って男子の見物に行っていた。

 

「え? 少女漫画?」

 

友人のクラスメート達と昼食を取っていた雪音クリスは、不意にクラスメートが語った少女漫画のストーリーを聞いた。

 

「そうそう! その漫画のカップルのイチャイチャが凄くて! ベタなんだけど、嫌、ベタだからこそ憧れるんだよねぇ~!」

 

「雪音さんはそんなシチュエーションって経験無い?」

 

「うぅ~~ん・・・・」

 

昼食を終えたクリスはクラスメートから少女漫画を借りてページをパラパラ捲り、一通り目を通すと。

 

「ほぁぁぁぁぁぁ~・・・・・・/////」

 

パタンっ、と本を閉じたクリスの顔は少し赤くなりながら、感嘆の声をもらした。

 

「雪音さん?」

 

「ち、ちょっと外行ってくる・・・・/////」

 

顔を赤くし、頭から湯気を出しているクリスは、一端教室を離れた。

 

「・・・・/////」

 

クリスの頭では、先ほどの漫画のイチャイチャシーンが浮かんでいた。

 

『彼氏が「あーん」してくれる』

 

『「あごクイ♥」される』

 

『耳元で甘い言葉を囁いてくれる』

 

『時には強引に壁ドン』

 

『優しく頭をナデナデ』

 

『優しく抱き締めてくれる』

 

『体を寄せあって積極的に』

 

ベタベタな恋愛模様だが、クリスはこのシチュエーションを見てこう思った。

 

「(あぁヤバい。今すぐお兄ちゃんに思いっきり甘えたい・・・・!)」

 

少女漫画を読んで、主人公の女の子と恋人の男子との恋愛模様を自分達に置き換えて考えると、クリスは無性にデジェルに甘えたくて仕方なくなっていた。

 

「(落ち着け・・・・もうすぐ学校も終わるし、今日はお兄ちゃんもすぐに帰ってくるから、家に帰ったら思いっきり甘えれば良いんだ・・・・!)」

 

クリスは非常に悶々とした気持ちのまま、午後の授業を過ごした。

 

 

 

 

「どうしてこうなった・・・・?」

 

放課後。クリスはあるマンションに来て思わず呟いた。

 

「ん? どうしたのクリスちゃん?」

 

渋面を作るクリスに話しかけるのは、同じくシンフォギア装者の立花響と親友(飼い主?)である小日向未来。

他にも、シンフォギア装者にして先輩の風鳴翼。後輩としてリディアンに入学した暁切歌と月読調、そして二人の保護者代表であるマリア・カデンツァヴナ・イヴが、マンションの居間で荷物整理をしていた。

 

「どうしてアタシ達は後輩達の荷物整理の手伝いを?」

 

「え? だって切歌ちゃんと調ちゃんがマニゴルドさんとカルディアさんの住んでいるマンションに住む事になったから」

 

「皆で荷物の整理を手伝おうって事になったんだよ」

 

「と言うより、立花が決めて小日向も付き合い、私達はなし崩し的に手伝う事になっただけだがな」

 

いつもように響のお節介な人助けであった。

 

「たくっ、お人好しもここまで行くと表彰状モンだ・・・・」

 

「そう言うな雪音。後輩の面倒を見るのも先輩の務めだ」

 

「分かってるッスけど・・・・」

 

「ごめんなさい。クリスにも用事が有ったのに・・・・」

 

「い、いや、別に良いけどさ・・・・」

 

申し訳無さそうに頭を下げるマリアに、さすがにクリスもばつが悪そうに言い淀んだ。

 

「所でよ、そのカニとサソリはどうしたんだよ? レグルスもいねぇし」

 

「レグルス君達なら、切歌ちゃんと調ちゃんの部屋でベッドと机を作ってるよ」

 

マニゴルドとカルディアとレグルスは、切歌と調の部屋(予定)で、家具屋から買ってきた二人用のベッドと机を組み立てている真っ最中だった。ちなみにデジェルは大学があるので少し遅れる。

 

「マニゴルドとカルディアには感謝しているわ。切歌達の為にこんな広いマンションを借りているだなんて」

 

「凄いよねぇ~。エルシドさんとアルバフィカさんも来れば「響!」ムグゥッ!」

 

未来が響の口を塞ぐが、時すでに遅く、いつの間にか翼とマリアが無言で居間の隅に移動して体育座りをしていた。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「翼さん・・・・マリアさん・・・・」

 

シジフォスと聖衣の捜索、冥衣の捜索ならびに破壊の任務についているエルシドとアルバフィカは、現在日本に居らず、『フロンティア事変』から音沙汰の無い状態だった。

一応弦十郎には定期連絡をしているが、翼とマリアにはまったく連絡をしておらず、二人はその事を触れられるとずぅぅ~んっと、負のオーラを纏ってお通夜のような雰囲気で落ち込んでしまう。

 

「・・・・なにやってんだか」

 

響と未来が慌てて翼とマリアのフォローをしているのを尻目に、クリスはさっさと片付けを終えて家に帰ろうと思ったクリスだが、この部屋の住人になる(予定の)切歌と調がさっきから話に入ってこないのが気になり二人を見ると、切歌と調は紙類ゴミとして置かれていた本の束から、一冊の本を取り出して、二人で読んでいた。

 

「おい、お前ら何やって・・・・」

 

「き、切ちゃん・・・・これ・・・・!//////」

 

「デデデデェ~ス! と、とんでも無いものを見つけてしまったデス!/////」

 

切歌と調に話しかけようとしたクリスは、二人のボソボソとした会話に首を傾げ、コッソリと二人の読んでいる本を上から覗き混むように見るとそこには・・・・。

 

「(なっ!//////)」

 

そのページには、全裸の女性がその肢体に荒縄で縛られ、鞭で叩かれて恍惚の表情を浮かべる、極めて被虐的写真が載った本。つまりSM本だった。

 

「こ、こんな縛られ方があったデスか・・・・//////」

 

「ち、ちょっときつそうに見えるけど・・・・//////」

 

切歌と調は顔を紅潮させ、胸の動悸が激しくなっているのか、少し動揺混じりに声を出していた。

 

「で、でもデスよ・・・・。この女の人、凄く気持ち良さそうにしてるデェス・・・・//////」

 

「こ、この縛り方って、そんなに良いのかな・・・・//////」

 

「デデデデスかね・・・・? こ、今度マニゴルドに縛ってもらって・・・・//////」

 

「テ、テメェら! な、ななな、なんて卑猥な物を読んでやがるッッ!!!!!/////////////」

 

「「っ!!」」

 

切歌と調以上に顔を真っ赤にしたクリスが、二人からSM本を取り上げた。

 

「あぁ! なにするデスかクリス先輩!!」

 

「まだ途中なのに!!」

 

『???』

 

落ち込んでいた翼とマリア、その二人のフォローをしていた響と未来も、クリス達の騒ぎで振り向く。

 

「ウルセェ! お前らなんて物読んでんだよ! お前らがこんな破廉恥な物を読むだなんて2年早いんだよっ!!」

 

「そんな事ないデス! アタシ達だってもう高校生デス!」

 

「ちょっと後学の為に読んでいただけで・・・・!」

 

「なんの後学の為だっ!!!」

 

『っ!!///////』

 

「???」

 

響達もクリスが持っている緊縛された女性の表紙と、『緊縛プレイの美しさ』と言う名前から何の本か理解し顔を赤らめ、翼だけは何故か首を傾げていた。

 

「皆、どうかしたのか?」

 

「ウルセェぞお前らさっきから!」

 

「真面目に仕事してんのかっ!?」

 

「何かあったの?」

 

と、ここで大学を終えたデジェルが居間に入ってきて、マニゴルドとカルディアとレグルスがあまりの騒ぎに居間に顔を出した。

 

『あっ!』

 

『ん・・・・あっ』

 

「「???」」

 

翼を除いた装者達は硬直し、レグルスを除いた聖闘士も、クリスが持っている本を見て唖然となった。

翼とレグルスだけは、本の内容を理解できず首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくは混乱状態だった。

マリアが切歌と調に、「こんな本読んじゃいけません!」と説教し、マニゴルドに「調と切歌の教育に悪い物は持ち込まないで!」と説教した。

調と切歌は大人しく説教され、マニゴルドは「ちゃんと捨てようと思ってたんだぜ。それとこういう物を持っていないと、逆に男として不自然だろうがよ」と言い出したりして、マリアとクリスの怒りの火に油を注いだりした。

デジェルと翼が二人を宥め、カルディアはその光景を見てゲラゲラと笑っていた。

レグルスが「響? この女の人はどうして縛られているんだ?」と純粋な疑問を聞いて、響と未来が顔を紅くして、「「レグルス君は知らなくて良いことだからっ!//////」」と必死にレグルスを説得した。

それからレグルスと翼を除いた男女は気まずい雰囲気のまま作業が終えると夜になり、マリアが「皆とこれからの生活態度を協議するから、悪いけど今日はこれで解散しましょう」と言って、レグルスは響と未来を寮に付き添い、翼はちょうど緒川が迎えに来たので車で帰った。そしてクリスとデジェルも家に帰ると、クリスはデジェルの手を引っ張って、居間のソファーの近くまで連れていく。

 

「ッッ・・・・//////」

 

「クリスっうおっ!」

 

クリスがデジェルの手を離すと、すかさずデジェルの首に両手を回して、デジェルごとソファーに転がり込んだ。

 

「クリスっ! どうしンムッ!?」

 

「ンッ・・・・アムッ!」

 

押し倒されたデジェルの唇をクリスはいきなり塞いだ。それだけではなく、デジェルの唇を舌で無理矢理こじ開けて、デジェルの舌と自分の舌を激しく絡ませた。

 

「ン! アン! ンン!」

 

「ンン・・・・!」

 

クリスが貪るように舌を絡ませ、時にデジェルから出た唾液を飲むように喉を鳴らし、デジェルも最初は驚いたが、すぐに冷静になり、クリスの情熱的な接吻を受け入れる。

 

「プハッ! ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

「ハッ!・・・・どうしたクリス?」

 

ようやく唇を離すと、二人の唇から唾液が銀の糸のように伸びるが、すぐに切れた。

 

「お兄ちゃん・・・・お兄ちゃんも、あんな破廉恥な本とか持ってるの?///////」

 

「っ。いや、そんな事は無いが・・・・」

 

「でも、あのカニは、持っていないと男として問題が有るって・・・・」

 

「いや、確かに男性として持っている事は当たり前であるとは思うが・・・・」

 

「うぅッ・・・・」

 

デジェルがそう言うと、クリスは泣きそうな顔になった。自分と言う者が有りながらエッチな本を持とうと思っているデジェルに、思わず泣きそうになった。

が、デジェルはそんなクリスの頬に優しく手を添える。

 

「大丈夫だ。私には君がいるから、そんな卑猥な本は持ち込まないよ」

 

「ホント?」

 

「ああ本当だ」

 

「んでもさ。持っていないと、男として逆に問題だって言ってたじゃん」

 

「まぁそうだな・・・・」

 

苦笑いを浮かべるデジェルにクリスはズイっと顔を近づける。

 

「お兄ちゃん・・・・」

 

「ん?」

 

「良いよ・・・・お兄ちゃんの好きにしても・・・・//////」

 

「っ//////」

 

顔を赤らめて、瞳を潤ませたクリスにそう言われ、デジェルは少し顔を紅くし、そのままクリスを思いっきり抱き締め、二人は再び唇を合わせたーーー。

 

 

 

 

翌日。顔を健康的なまでにツヤツヤとさせたクリスを見て、クラスメート達が彼氏と何か合ったと察し、キャイキャイと騒がれたのは言うまでも無い。

 

 




本編ではイチャイチャシーンが書けなかったので、息抜きでラブコメを書きました。

一応言っておきますが、デジェルとクリスは一線を越えていません。まだ『17禁レベルのイチャイチャ』です。


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戦士達の日常

GX編スタートです。

注意事項:GX編の最初、ナスターシャ教授の遺体を乗せたシャトルの救助はハショリます。ごめんなさい。


『ルナアタック事変』、『フロンティア事変』、数々の地球存亡の危機が起こり、その度に“歌で繋がる絆”で戦うシンフォギア奏者と彼女達と共に戦ってくれた最強の闘士達。

地上の愛と正義を守る為に遥か神話の時代と次元を越えてやって来た闘士達、戦女神アテナの聖闘士の最高峰、黄金聖闘士達により、終結を迎えた。

そして奏者達はそれぞれの“平和の道”を歩み、聖闘士達は次なる戦いに備えて行動を起こしていた。

 

 

ーリディアン音楽院ー

 

ここはリディアン音楽院、かつてはシンフォギア奏者となる戦姫を選抜する為に創られた学校だが、現在は普通の音楽院として経営を始めた。

そんな中、昨年の冬の始めに編入した男子生徒、レグルス・L・獅子堂こと『獅子座<レオ>のレグルス』は『琴座<ライラ>の白銀聖闘少女<セインティア>候補』である小日向未来、未来の友人である寺島詩織、板場弓美、安藤創世と屋上で談笑していた。

 

「レグっちがウチの学校に編入してからもう三ヶ月は経ったんだね」

 

「あぁ~、もうそんなに経つんだね・・・・」

 

「もう長いこと一緒にいる気分ですね」

 

「うんそうだな。俺も皆とは長く一緒にいるような感覚だよ」

 

「あの、レグルス君・・・・」

 

「何、未来?」

 

「その・・・・重くないかな私・・・・?」

 

現在、未来は身体を仰け反らせブリッジしたレグルスのお腹の上に座っていた。

 

「全然! むしろ軽すぎるよ。未来はちゃんとご飯食べてるのって心配になっちゃうほどだよ」

 

「もしかして響が未来の分までご飯食べてたりしてwww」

 

「あり得そうだね、ビッキーなら♪」

 

「立花さんですから」

 

「もう皆、いくら響でもそんな事無いよ・・・・・多分」

 

「多分って・・・プっ」

 

『あはははははははははははは』

 

和気藹々と会話に花を咲かせていた“響がいない”一同。創世と弓美と詩織が飲み物を買いに屋上を出ると、レグルスと未来の雰囲気がスッと静かになり、目線で会話を始める。

 

「(未来、気付いてる?)」

 

「(うん、後ろのビルの屋上に一人、向かいの建物の中から何人か、私達を“監視”しているね)」

 

「(正確には二人だね、後左向こうのホテルの7階に一人、双眼鏡を使って俺達を“監視”している)」

 

「(何処の情報局かな・・・?)」

 

「(弦十郎から聞いた話じゃ、アメリカのCIA、イギリスのMI6、ドイツのBDN、ロシアのFSB、フランスのDGSE、中国のMSS、オーストラリアのASIS。世界各国の諜報機関が俺達聖闘士を“監視”しているんだって)」

 

『フロンティア事変』が終息してしばらく経った頃、現在日本に留まっている黄金聖闘士、獅子座のレグルスと水瓶座のデジェル、蟹座のマニゴルドと蠍座のカルディアは世界各国の諜報員達から秘密裏に“監視”を受けていた。

原因は単純明快、現存する国連軍を圧倒する戦闘力を有する黄金聖闘士達の存在を危惧した国連の上層部によるものであった。

 

「(ごめんな、未来。未来まで“監視対象”にされてしまって・・・)」

 

「(気にしないでレグルスくん。『フロンティア事変』で“琴座の白銀聖衣”を纏ったのは私自身なんだし)」

 

そして未来もまた、『フロンティア事変』の際、琴座<ライラ>の白銀聖衣を纏い『白銀聖闘少女<シルバーセインティア>』となった事で、レグルス達程では無いが未来にも“監視の目”が付いていたのだ。

一時的だが『聖闘少女』へとなった未来はある程度の感性が上がり、“監視の視線”を感知するようになっていた。

 

「(デジェルもマニゴルドもカルディアも、『監視されているのは気分悪い』って愚痴っていたし、エルシドとアルバフィカも旅先で各国の諜報員の視線を感じているようだしね。お陰で響達の任務を見届ける事もできないよ・・・・)」

 

「(響に翼さんにクリス・・・大丈夫かな?)」

 

「(・・・・『ナスターシャ教授の遺体を乗せたシャトルの救助』だったね。まぁ、響達なら大丈夫だと思うけどね)」

 

レグルスと未来は青空を見上げながら『シャトル救助の任務』へと赴いた響と翼とクリスを心配した。

 

 

 

 

 

ー???ー

 

その男は一本の高い木の上で数キロ離れた所に、シンフォギア奏者達と救助されたシャトルを眺めていた。

 

「フム・・・あれが北欧神話の撃槍ガングニールのシンフォギア奏者、立花響。同じく北欧神話の魔穹イチイバルのシンフォギア奏者、雪音クリス。日本神話の絶剣天羽々斬のシンフォギア奏者、風鳴翼か・・・」

 

高い身長に透き通るような白い肌、サラサラとなびく青い長髪に整った顔立ちの美男子。しかしその目は高圧的で何処か見下した光りを宿していた。

 

「全く、せっかくの風光明媚な景色が台無しだ・・・聖遺物と言う“オモチャ頼みの小娘共”を好き勝手させるとこのような不粋な結果になる・・・」

 

その男はシャトルの救助の為に“奏者達が破壊してしまった山脈と森林”を見て、嘆かわしいと言わんとばかりに頭を振る。

 

「もうここに用はない、そろそろ戻るかな」

 

そう呟くと、男の背後の景色が男の等身大位に“割れた”。男は“割れた空間”に飛び込むと響達を一瞥して不敵な笑みを浮かべて呟く。

 

「俺の“計画”の良き“駒”になってくれよ。シンフォギア奏者・・・!」

 

そして男は姿を消し、空間も元通りになったーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

それから更に三ヶ月。夏が始まる時期になり、『特異災害対策起動部二課』によるシャトル救助の一件の後、二課は正式に国連直轄下にて再編成された。

 

その組織名を『超常災害対策起動部タスクフォース “S.O.N.G.”<Squad of Nexus Guardians>』。

 

これにより安保理が定めた規約に従って、日本国外での活動認められるようになった。

二度に渡る聖遺物により起こった、『大規模な超常的脅威に対して広範囲で即応する為』と“表向きの理由”だが、その“裏の理由”は、『日本政府が保有する異端技術を出来る限り目の届くところに置き』、『国連が最警戒している黄金聖闘士達の動向を監視する』と言う、各国の思惑も絡んだ末の結果であった。

 

勿論この国連の聖闘士達への対応をシンフォギア奏者達と弦十郎やS.O.N.G.の他の隊員達が異議を唱えたが、聖闘士達の返答はーーーーーーーーーーー。

 

「別に構わないよ」

 

「私達が監視されていれば国連が安心するなら、私も構いません」

 

「所詮人間なんざ、『自分たちより強くて正しい存在』を煙たがるモンだからな」

 

「俺の戦いの“邪魔”さえしなければ何も言わねぇよ」

 

海外にいるエルシドとアルバフィカは。

 

《“任務の邪魔”をしなければ問題無い》

 

《私は言うなれば“犯罪者”だからな、監視は必定だろう》

 

通信越しで了承し、現在何処にいるか分からないアスミタを除いた聖闘士達が了承したので渋々と奏者達と弦十郎達も黙った。

 

そして聖闘士達はあくまでも『善意ある民間協力者』と言う事でタスクフォースS.O.N.G.に所属し、聖遺物による超常災害の際、国連から許可が下りた時のみS.O.N.G.の活動に参加できるようになった。

 

 

ー切歌&調sideー

 

朝日が閉めきったカーテンの隙間から零れる部屋、暁切歌と月読調が“同棲”している3LDマンション(リディアンまで切歌と調の足で歩いて15分、デジェルとクリスのマンションは歩いて3分も掛からない向かい側)の一室、『切歌と調の部屋』とデフォルメされた熊さんと兎さんが付いた可愛いドアプレートが付けられたドアを“誰か”が静かに開いた。

 

「す~・・・す~・・・す~・・・」

 

「むにゃむにゃ・・・」

 

可愛らしく寝息を立てて金色の髪のショートヘアーの少女、暁切歌と、いつもはツインテールにしている髪を下ろし黒い長髪にしている月読調であった。

部屋に入った“人物”は眠りこけている二人にニィッと悪い笑みを浮かべると、両手に持った“道具”を上げて、その手を動かし、“道具”を叩き合わせたーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“お玉”と“フライパン”を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンッッ!!

 

 

「デデデデェェェェェェェェェスッッ!!」

 

「ッッッ!!!」

 

突然鳴り響く騒音に切歌と調は跳ねるように飛び起きるとそのままベッドから二人とも転げ落ちる。

 

「デフッ!」

 

「あうっ!」

 

「おう、おはようお二人さん」

 

二人が顔を上げると、黒い無地のエプロンを着て、お玉とフライパンを持った蟹座<キャンサー>のマニゴルドが立っていた。

 

「マニゴルド! その起こし方やめてって言ったデスよ!」

 

「ビックリした・・・!」

 

「やかましい。もう7時になってんだよ、それよりもテメェ等、何だこの部屋の惨状は!?」

 

「「うぅっ!」」

 

恨みがましそうに睨む二人をマニゴルドは部屋の惨状を見せて黙らした。

 

「テーブルの上は袋から開けたお菓子が散らかってるわ、机は漫画本やファッション誌の山が出来てるわ、床には脱いだ服が散乱しているわ! 何だこの部屋は!? 小学生のお子ちゃまのお部屋ですか!?」

 

「イヤ~それはデスね・・・」

 

「こ、高校生生活も色々と忙しくて・・・」

 

目を泳がしまくる切歌と調は朝から冷や汗を垂らして言い訳にならない言い訳をする。

 

「今日帰ったら部屋の片付けをやれ。俺が帰ってくるまでに掃除がされてなければ、俺がお前らの部屋を勝手に掃除するからな・・・!」

 

「ええぇぇぇぇぇぇっ!! そんなのプライバシーの“深海”デスよ!」

 

「それを言うなら“侵害”だボケ! オラ、とっとと起きて朝飯食って学校に行け!」

 

「「は~~~い(デス)・・・」」

 

 

~十数分後~

 

顔を洗って髪をとかし終え、昨夜にマニゴルドがアイロンをかけたリディアンの制服(夏服ver.)を着た切歌と調は、リビングでテレビを見ながら、マニゴルドが作った朝食(メニューはご飯と味噌汁と卵焼きとししゃも焼きとほうれん草のおひたし)を食べていた、マニゴルドは二人のお弁当を詰めていると。

 

「たで~~ま・・・」

 

「おぉう」

 

「「おかえり(デス)~~」」

 

蠍座<スコーピオン>のカルディアが、警備員のバイト(夜勤)から帰って来た。

 

「カルディア、眠そうだね・・・?」

 

「あぁ、交代のオッサンが遅刻してきてよ。ようやっと帰れたんだよ・・・」

 

フラフラと足元がおぼつかないカルディアはそのままリビングのソファーにぶっ倒れると高鼾をかいて爆睡した。

 

「がぁぁぁ・・・がぁぁぁ・・・」

 

「うわっスッゴい寝つきデェス!」

 

「最近夜勤続きだったからね・・・・」

 

「後で部屋に放り込んでおくか・・・・」

 

それから少しすると、テレビに海外にいる翼とマリアが映し出された。

 

「あっ、マリアと翼さんデス」

 

「今どこにいるんだっけ?」

 

「確か英国<ロンドン>だったな。ホレホレ、んな事よりももうすぐ8時だぞ、学校へ行け、学校へ」

 

「うわっ! もうこんな時間デス?!」

 

「急ごう切ちゃん・・・!」

 

二人は急いでお弁当とリディアン指定の鞄を持って出ていこうとした。

 

「「いってきま~~す!」」

 

「おう行ってこい!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おい・・・・」

 

「あんだよ・・・・」

 

切歌と調が出て静かになった部屋で、マニゴルドは寝ていたカルディアを起こす。

 

「“何人”いた?」

 

「ずっとバイトしている時・・・つか、バイトへ出勤した時から監視されていた。て言うか今も監視されてる」

 

カルディアが薄目に開けた目線の先に、マンションの近くの建物からキランと光る箇所があった。マニゴルドも一瞬一瞥するとハァとため息をついた。

 

「最近監視の目が増えたと思わねぇか?」

 

「流石にうざったいよな・・・・」

 

少し辟易しながらもマニゴルドはジャーナリストの仕事へ行こうと準備を始め、カルディアはバイトが休みなので暇を持て余していた。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

同じ頃、朝食を食べ終え、今年リディアン音楽院の三年生へと進級した雪音クリスが学校に登校しようとすると、同じく今年の春先に医大を首席の成績で合格した水瓶座<アクエリアス>のデジェルが見送りに来た。

 

「クリス、少し乱れている・・・」

 

「あ、ありがとうお兄ちゃん////」

 

少し乱れていた制服と白銀の髪をデジェルが整え、顔を赤らめるクリス。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・//////(チラッチラッチラッチラッチラッ)」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

デジェルに何か言いたそうにチラッと見つめるクリスをデジェルは少し優しく微笑み見つめるとーーーーーー。

 

 

チュッ❤

 

 

クリスの額に口づけをした。

 

「いってらっしゃい、クリス」

 

「うん♪ お兄ちゃん、いってきます!」

 

クリスは上機嫌で部屋を出て、学校へ向かった。

 

「さて、私も大学に行かないとな」

 

デジェルも医大へ行こうと鞄を持って部屋を出ていった。

 

 

ーエルシドsideー

 

そしてここはロンドンの山地で山羊座<カプリコーン>のエルシドは現在交戦中であった。

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!! 俺の名は、『天退星 玄武のグレゴー』!! 遥か時を越えて、今甦ったぞ!」

 

『冥王ハーデス』が支配する死者の世界である冥界を象徴する、黒曜石のように妖しい輝きを放つ漆黒の鎧、冥衣<サープリス>を纏う巨漢の冥闘士<スペクター>が、その二メートル以上の巨体を丸めてエルシドに突進してきた!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「死ねえええええええええええええええっ!!」

 

フッ!

 

転がりながら突進するグレゴーの横をエルシドがヒラリとかわす。

 

「上手く避けたなアテナの聖闘士! だが、次は「ズリュッ!」・・・・ハレ・・・?」

 

通りすぎたグレゴーの巨体が“縦に割れた”。すれ違い際に手刀で切り捨てた。グレゴーは悲鳴を上げる間もなく絶命した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エルシドはグレゴーの亡骸に近づくと、グレゴーの身体は黒い霞となって消滅し、残ったのは冥衣の待機状態である『黒い宝玉』へと変化した。エルシドは宝玉を拾い指で弾き、眼前まで宝玉が落ちてくると。

 

「っ!」

 

 

エルシドの手刀で一閃された宝玉はそのままグレゴーと同じように消滅した。

 

「冥衣破壊完了・・・・」

 

エルシドは静かに呟くと、そのまま山地を降っていった。

 

 

 

ーアルバフィカsideー

 

そしてエルシドと別にロンドンの海岸では、魚座<ピスケス>のアルバフィカが冥闘士と交戦していたが。

 

「バ、バカな・・・!? この俺が・・・! この『地暗星 ディープのニアベ』が・・・! こんな聖衣を纏ってすらいない聖闘士にぃ・・・!!」

 

『地暗星ディープのニアベ』、冥衣から吹き出す毒の香気を操り、敵を麻痺させ死に至らしめる冥闘士。だが、相手が悪かった。

 

「生憎と私の使う魔宮薔薇<デモンローズ>は猛毒なのでね、毒に対しては免疫があるのだよ」

 

魚座<ピスケス>のアルバフィカは手に持った純白の薔薇、『ブラッディローズ』を持ち、ニアベを見据えると、ニアベの心臓の位置に同じように『ブラッディローズ』が突き刺さっていた。

 

「あ、あぁぁぁぁ・・・吸われるぅぅ・・・俺の・・・血が・・・・・・・!!」

 

「『ブラッディローズ』。相手の血液を吸い続ける吸血の薔薇。その純白の花弁が真っ赤に染まりし時、君の命が尽きる・・・」

 

アルバフィカが言い終わるや否やニアベは事切れ、胸に刺さった純白の薔薇はニアベの血を吸い赤く染まり僅かに血が滴り落ちていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

スッ、パチン!

 

アルバフィカが指を鳴らすと薔薇の花弁が散り海風に乗って消え、ニアベの身体が黒い霞に消滅し、後には『ディープの冥衣』だけが残された。

 

「『ピラニアンローズ』・・・!」

 

今度は鉄をも噛み砕く黒い薔薇、『ピラニアンローズ』で『ディープの冥衣』を破壊した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アルバフィカはそのままニアベの消滅した場所に一瞥もくれずに去って行った。

 

 

ー翼&マリアsideー

 

元FISのシンフォギア奏者、マリア・カデンツァヴナ・イヴは『フロンティア事変』で“破滅の巫女フィーネの転生者”として“人類の敵”となったが、世界中の人々の想いと言う『フォニックゲイン』を集める重大な役割を果たし、“人類の英雄”の一人となったが、今も屈強な男二人の国連からの監視を受け、がんじがらめの生活をしながらも『世界の歌姫』として仕事をこなしていた。

 

「マリア、息が詰まらないか?」

 

「大丈夫よ翼」

 

そんなマリアの心配をするのはS.O.N.G.のシンフォギア奏者であり『日本のトップアーティスト』である風鳴翼。彼女もまた同じS.O.N.G.所属のマネージャーである緒川慎司と共に世界に歌を届けるために歌手活動をこなしていた。

現在翼とマリアは次の公演に備えて控え室にいた。緒川とマリアの監視役の男達は控え室の外にいる。

 

「暁や月読の方はどうだ?」

 

「えぇ、響達が学校生活の良き相談役をやってくれているし、生活の方もマニゴルドやカルディアがいるから心配していないわ。あの二人以外と面倒見良いしね」

 

「そうか、こっちも立花達からのメールである程度は知ることが出来るからな」

 

翼がスマホを見せると、皆の楽しそうにしている写真を見せた。

 

「レグルスもデジェルも、学校生活を楽しんでいるのかしら?」

 

「楽しんでいるんじゃないのか」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「イヤね、響はレグルスと未来、クリスはデジェル、切歌と調もマニゴルドとカルディアも一緒にいる・・・でも私達は・・・・」

 

「言うな・・・何か悲しくなる・・・!」

 

翼の想い人のエルシド、マリアの想い人のアルバフィカ、二人とも非常にクールでストイックな性格(デジェルもクールだが、気づかいの出来る紳士的な性格)、今は自分たちの任務である『聖衣の探索と確保』、『冥闘士の排除と冥衣の破壊』、『射手座<サジタリアス>のシジフォスの捜索』と多忙な任務に付いているのは分かってはいるが、『フロンティア事変』から全く音沙汰なし(一応弦十郎には定期連絡はしている)、せめて連絡位はしてほしいと思ってしまうのは、翼とマリアの“乙女心”である。

 

「「ハァ~~~~~~・・・・・」」

 

まるでお通夜みたいなドンヨリとした雰囲気の二人は、緒川が話しかけるまで重いため息をついて落ち込んでいた。

 

 

ーレグルスsideー

 

「レグルスく~ん!」

 

「学校行こうーーー!」

 

「はいはーい」

 

レグルスが下宿しているアパートにリディアンの制服を着た立花響と小日向未来がやって来て、レグルスの部屋のドアのインターフォンを鳴らしてレグルスを呼ぶと、制服を着て、口にトーストをくわえたレグルスが出てきた。

 

「おはよう響、未来」

 

「おはよう!」

 

「おはようレグルスくん」

 

軽く挨拶した三人はそのまま学校へ向かっていった。

 

「ン~~・・・」

 

「レグルスくんどうしたの? 難しい顔して・・・」

 

「ン~~実はさ、昨日の夜に星を見てたら気になる事が起きてさ・・・」

 

「それって『星読み』の事?」

 

星座の闘士である聖闘士にとって『星読み』はこれからの事を占星する術である。

 

「うん。昨日星を見てたら変な兆しが見えたんだ」

 

「それって・・・・?」

 

「よく分からないけど、これから“何か”が起きるって事だけは分かったんだ」

 

「“何か”って?」

 

「さぁね」

 

レグルスが空を仰ぎながら呟いた。

 

 

 

 

そして間も無く、その“何か”が起きる事を今はまだ、誰も知りはしなかった。

 

『光と闇に別たれた数奇な運命の双子との出会い』と、『最大にして最高の英雄の帰還』が訪れる事をーーーーーーーーーーー。




年が明ける前に投稿できました。また一つ書いたらしばらく休みます。理由は、もうすぐ年末ですから。


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平和な日々の裏で・・・

新年明けましておめでとうごじゃりまする!!

今年も『聖姫絶唱セイントシンフォギア』をよろしくお願いいたしまする!


ーS.O.N.G.オペレーターsideー

 

レグルス達が学校に登校している頃、『国連超常災害対策起動部タスクフォース S.O.N.G.』は今のところ平和を満喫していた。

オペレーターの“藤尭朔也”が、これまで各国各地で行われたシンフォギア奏者達によるを救助活動の記録を確認していた。

 

「はい、温かいものどうぞ」

 

「温かいものどうも、珍しいね」

 

「一言余計よ」

 

確認作業をしていた藤尭に、同じくオペレーターの“友里あおい”がコーヒーを渡した。

 

「“シャトルに救出任務”から3ヶ月経つのね・・・」

 

「あの事件<フロンティア事変>の後、二課は国連直轄のS.O.N.G.として再編成され、今は世界各国に起こった災害救助が主だった任務だ。まあそれはあくまでも表向きだけどね」

 

「国連は、“聖闘士”の皆を国連の戦力として引き抜きたいと思っているのと同時に、彼らを自分たちの目の届く所に置いてあわよくば封印しようと思っている・・・」

 

「これまでの事件<ルナアタック事変・フロンティア事変>。聖闘士の皆が居なければどうにもならなかった事態があったと言うのに、都合の良いときは頼って、都合の悪いときは監視に封印とか・・・非道い話だ」

 

「聖闘士の皆が、国連に恭順な態度を取っていれば、国連の監視が付きまとう事も少しは収まると思うけど」

 

「了承すると思うかい? 彼等らが・・・?」

 

「無理でしょうね」

 

彼等黄金聖闘士の“主”は『戦女神アテナ』であり、国連ではない、エルシドはそれほど世渡り上手ではないし、マニゴルドとカルディアは誰かに簡単に従う性格でもない、誇り高いアルバフィカは勿論、アスミタも絶対に従わない、レグルスも自由奔放な性格で好きでもないヤツに従う事はない、デジェルならある程度の理解は持ってくれるが、従う事は断じて無い。

 

「戦闘力もさることながら、それぞれが強烈に我の強い性格をした黄金聖闘士が、国連のお偉いさんに頭を垂れる筈がないよな」

 

「響ちゃん達と違って、あの人達には世の流れに囚われず、“己を貫く力と意志”が有るからね」

 

「そこら辺が響ちゃん達との決定的な違いだね、何とか定年まで給料貰えたら万々歳なんだけど・・・」

 

すると、突然指令室が暗くなり、警戒警報が鳴り響く!

 

「「っ!!」」

 

藤尭と友里がメインモニターに目を向けると『ALERT』と表示された地点が映し出されていた、友里は自分の席に戻り索的を行う。

 

「横浜港付近に未確認の反応を検知!」

 

しかし、すぐに警報が止み、『ALERT』と表示されたモニターが『LOST』と表示された。

 

「消失・・・? 急ぎ、司令に連絡を!」

 

「了解!」

 

友里は風鳴弦十郎へと連絡を始めた。

 

 

 

ー風鳴弦十郎sideー

 

その頃、S.O.N.G.司令風鳴弦十郎は、『ルナアタック事変』以降から造られた、風鳴邸の『地下保管庫』に来ていた。地下約数百メートルをエレベーターで降り、長い通路に何重にもある隔壁と、各隔壁に掛けられた指紋、声紋、網膜スキャン、暗証番号とカードキーでロックを解除し、奥深くへと歩いて行くと、一際大きく厳重なロックが掛けられた扉があった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

弦十郎は少し面倒と思いながらも、数十桁の暗証番号を数秒で打ち込み、同じように指紋と声紋と網膜スキャンやその他諸々のロックを解除して扉が開くと、扉の向こう側は暗い闇が広がった空間の中に入っていった。

弦十郎が少し歩くと天井が、プラネタリウムのように星光が拡がり、床の一部が光り、“2つの大きな台座”と“12の小さな台座”が照らされ、弦十郎は“2つの大きな台座”に近づいた。

 

「エルシドが回収した『蜥蜴座<リザード>の白銀聖衣』と、アルバフィカが回収した『カメレオン星座の青銅聖衣』・・・」

 

2つの大きな台座に置かれたのは、聖闘士達の身を守る為に“戦女神アテナ”が造った星座の鎧、『完全聖遺物 青銅聖衣の聖衣ドックタグ』と『完全聖遺物 白銀聖衣の聖衣ブローチ』だった。世界中を旅しているエルシドとアルバフィカは、『聖衣の捜索と回収』、『冥衣と冥闘士の排除』、『射手座の黄金聖闘士 シジフォスの捜索』を行っており、聖衣を回収するとマニゴルドに連絡し、転移してきたマニゴルドに渡して、そのマニゴルドが弦十郎に預ける手筈になっており、これは昨夜マニゴルドから渡された物であった。『完全聖遺物』である聖衣を国連や反社会的組織に奪われないようにするにはこの方法が最も安全だからである。マニゴルドは面倒だと渋々だが。

 

「これで青銅聖衣と白銀聖衣、黄金聖衣を含んだ88の星座の聖衣の4分の1が回収したか・・・」

 

弦十郎は、“12の小さな台座”の上に置かれた、『蟹座』、『獅子座』、『蠍座』、『射手座』、『山羊座』、『水瓶座』、『魚座』の黄金聖衣が宿る『完全聖遺物 黄金聖衣の聖衣レリーフ』を眺める。本来なら『乙女座の黄金聖衣』も置かれる筈だが、『乙女座の黄金聖闘士 アスミタ』はS.O.N.G.にあまり協力的でないため『乙女座の台座』は空席となっていた。

弦十郎は、今は行方不明となっているシジフォスの射手座<サジタリアス>のシジフォスの『射手座の黄金聖衣』を眺め、語りかける。

 

「シジフォスよ、お前が行方不明となってもう3年もの月日が経ち、一気にお前の仲間の黄金聖闘士達が6人も現れたよ。だが、国連は“強すぎる力”や“正しい心”を持ったアイツらを煙たがっている。情けない限りだ、お前達は本来ならば俺達の世界の人間ではないのに、俺達の世界を守ってくれた。その恩人に対して俺達は何もできない所か、危険物扱いをしているんだからな・・・」

 

普段ならばこのような愚痴を言わない弦十郎がここにはいない射手座の勇者にしか愚痴を溢せない、責任有る立場の人間ほど簡単に弱味を見せる事はできない、それは周りにいる汚い人間達に漬け込まれる事になるからだ。

 

「っ・・・」

 

弦十郎の通信端末が鳴り響く。

 

「友里か、どうした?・・・・何、わかった。直ぐに戻る」

 

友里からの通信で顔を引き締める弦十郎は、『保管庫』を出ていった。

 

「シジフォス、またお前達の力が必要になるやもしれん・・・・!」

 

すると、再び暗い闇に覆われた『保管庫』で、『射手座の黄金聖衣レリーフ』が淡く輝きを放っていた。

 

 

 

 

ー横浜港ー

 

夜の世界を横浜みなとみらいの灯りが照らす世界を走る“人物”がいた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

その“人物”の足元を弾丸のようなモノが撃たれ、その“人物”は倒れる。

 

「うっ!・・・くっ!」

 

狙撃者から隠れるために電話ボックスを盾にするその人物は、黒いコートとフードで隠された白金の髪をした少女のような顔立ちだった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・『ドヴェルグ=ダインの遺産』・・・!」

 

少女はオルゴールのような小箱を大事そうに抱えていた。

 

「(全てが手遅れになる前に、この遺産を“あの人”の仲間に届ける事が、僕の“償い”・・・!)」

 

少女は再び駆け出した。そしてその後ろ姿を睨む人物がいた。

 

「私に“地味”は似合わない。だから次は、派手にやる・・・!」

 

まるでロックミュージシャンのような派手な服装をした少女が、逃げてゆく少女を睨んでいた。

 

 

 

ーリディアン音楽院ー

 

季節は夏へとなり、今年の春から共学化されたリディアン音楽院の門を女子だけでなく男子の姿もチラホラ見えるようになった。最初は女子は戸惑ったが、去年の冬始めに編入したレグルス・L・獅子堂(獅子座<レオ>のレグルス)の存在のお陰ですぐに落ち着き、運動部の方はスポーツを通して男子と理解を示し、他の部活動の生徒もそれなりに受け入れ始めていた。

そんな登校中の生徒の中でも、三年生の中でもトップレベルの美少女である『雪音クリス』が歩いていた。制服は薄い夏服へと衣替えし、小柄な体型と不釣り合いな豊満な胸元は、男子生徒達には目の保養にも毒にもなる。

 

「ク~リスちゃ~~ん!」

 

そんなクリスに後ろから飛び付こうとするのは、二年生の問題児女子、活発と言う言葉が全身から出ている少女『立花響』であったが。

 

ボカンッ!

 

「ギャウンっ!!」

 

飛び付こうとした響の脳天に、クリスの鞄が叩きつけられ、それを見た黒髪のセミショートヘアに白いリボンを付けた『小日向未来』と、黒髪をツインテールにした物静かそうな少女『月読調』と金色の短髪に活発そうな印象の少女『暁切歌』と茶色の短髪に爽やかそうな印象を受ける少年『獅子座<レオ>のレグルス』こと、『レグルス・L・獅子堂』が驚く。

 

「アタシは年上で、学校では“先輩”! コイツら<調と切歌>の前で示しが付かないだろう!」

 

翼が卒業してから、学校での年長者として振る舞うクリス。

 

「アハハ・・・」

 

「おはよう調ちゃん、切歌ちゃん」

 

「おはよう二人とも」

 

「おはよう、ございます・・・」

 

「ごきげんようデェス!」

 

今年の春からリディアンに入学した調と切歌(1年生)。調はまだぎこちないが、切歌は持ち前の明るさで直ぐに溶け込んだ。

 

「切歌はいつも元気だなぁ♪」

 

「こんなに暑いのに相変わらずね」

 

すると1年生らしき男子生徒がレグルスに大急ぎで駆け寄る。

 

「獅子堂先輩!」

 

「ん、どうした?」

 

「大変なんです! 『ダンス部』と『バンド部』がまた場所取りで揉めてるんです!」

 

「またか・・・分かった案内して。響、未来、皆、悪いけど俺先にいくね!」

 

「レグルス君、頑張ってね!」

 

「遅れそうになったら先生に上手く言っておくから!」

 

「うん、お願い!」

 

響達と別れたレグルスは後輩に連れられ、ダンス部とバンド部のいさかいを止めようと向かった。

 

「レグルス君、新学期が始まってから忙しそうだね」

 

「今年で編入してきたり入学してきた男子生徒みんなの“纏め役”をやっているそうだよ」

 

「元女学院の空気に馴染めない男子生徒や、男子生徒とどう接すれば良いか戸惑ってる女子生徒達の“仲介役”もやっているらしいからな」

 

「以外と多忙なんデスな、レグルスさんって・・・」

 

「うん以外・・・」

 

共学化されてからは男子生徒達と女子生徒達の間に入って仲を取り持っているレグルスは以外と多忙なのだ。しかし、これはレグルスの明朗快活な性格と、爽やかな陽的な雰囲気による人柄だからこそできる事でもある。

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

響と未来の目に、調と切歌が“手を繋ぎ合っている”のが入った。

 

「イヤ~暑いのに相変わらずだね」

 

「イヤイヤそれがデスね。調の手はちょっとヒンヤリしているので、ついつい繋ぎたくなるのデスよ~」

 

照れ臭そうな切歌の二の腕を調が摘まむ。

 

「そう言う切ちゃんのプニッた二の腕も、ヒンヤリしていて癖になる。マニゴルドのご飯が美味しいからって食べ過ぎだよ・・・」

 

「えっ? それって、本当なの!?」

 

「ん? マニゴルドが私達のご飯を作っている事?」

 

「イヤそれも確かに気になるけど・・・!」

 

未来は響の二の腕を摘まむ。

 

「ヤーー! やめてやめて! 未来ってば!」

 

「~~~~~~っ////////////」

 

ガンっ!

 

じゃれる響達に顔を赤らめたクリスがフルスイングで響の頭に鞄を叩きつけた。

 

「ギャフンッ!」

 

「「「あぁ~~・・・」」」

 

「ク、クリスちゃん酷いよ・・・クリスちゃんだってデジェルさんとはいつも甘々ラブラブなのに・・・」

 

「っ・・・ア、アタシ達は節度を持って、そう言う事は家でやってんだよ・・・!/////////」

 

「「「「ムッ!(ギュピーン!)」」」」

 

顔を赤らめたクリスの一言に響と未来、調と切歌の目が妖しく煌めき、クリスに詰め寄った。響の想い人は自由奔放、未来の想い人(男性)は俗世から離れた僧侶、切歌の想い人は切歌をほとんどペット扱いのゴロツキ、調の想い人は戦闘狂、どちらも変化球どころか魔球クラスの変わり者ばかりなので正統派の恋人付き合いをしているクリスとデジェルの恋愛模様は興味をそそられるのである。

 

「クリスちゃん! その事をもっと詳しく教えて!」

 

「なんだよいきなり!?」

 

「家ではいつもどんな風にラブラブしているの!?」

 

「バカ! そんな事こんな所で言えるか!!//////」

 

「この間のデートも砂糖吐きそうなくらい甘々だったのに、家ではあれ以上なんデスか!?」

 

「何でお前が、この間のデートの事知ってんだよ!!」

 

「マニゴルドとカルディアと一緒に買い物に行ったら二人がデートをしているのを見かけて尾行したから・・・・」

 

「ちょっと待て! ってことはなにか? キャンサーの野郎もスコーピオンのヤツも見てたのかよ!?」

 

「うん・・・・」

 

「マニゴルドもカルディアも、それはそれはゲスい笑みを浮かべたデェス♪」

 

「嘘だろちきしょーーーーーーーーーーっ!」

 

『女三人寄れば姦しい』と言うが、五人ともなれば半端なくやかましく、通りすぎる生徒達は可笑しそうに見ていた。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

その頃、雪音クリスの最愛の人『水瓶座<アクエリアス>のデジェル』こと、『デジェル・A・水瓶』も、医大で講義を受けるために学友達と教室に向かっていたが、突然バイブレーションモードにしていた“S.O.N.G.用の通信端末”が震えた。

 

「んっ?」

 

「オイ水瓶<ミヘイ>どうしたんだ?」

 

「イヤ電話だ、すまないが先に行っててくれ・・・」

 

「もしかしてあの銀髪巨乳の可愛い彼女ちゃんからか?」

 

「だと嬉しいんだがな」

 

学友達を先に行かせたデジェルは人目のない場所に移動すると、弦十郎ちゃんからの通信に出た。

 

「こちらデジェル。何か有りましたか?」

 

《デジェル。実は昨夜に未確認の反応が検知されたのだが、直ぐに消失してな》

 

「未確認の反応、気になりますね・・・」

 

《計器のトラブルって可能性はどうだ?》

 

「イエ、二課からS.O.N.G.へと変った際に機材は念入りにチェックされた筈です。まだ3ヶ月足らず、計器がトラブルが起こしたとは考えにくい。マニゴルドに連絡して、横浜の調査に行ってもらいます。アイツはフリーのジャーナリストですからこういう時は自由に動く事ができますからね」

 

《分かった、こちらでも調査隊を送るがそっちも任せる》

 

「了解」

 

ピッ!

 

「・・・・また新たな事態が起こったのか?」

 

弦十郎との通信を切ったデジェルはマニゴルドに通信を送った。

 

 

 

 

ーエルシドsideー

 

霧の都・英国<ロンドン>に任務で赴いた『山羊座<カプリコーン>のエルシド』は、ロンドン郊外の道路を歩いていると。

 

「アルバフィカ・・・・」

 

「エルシドか・・・・」

 

なんと反対路線の道路の脇道からやって来た、『魚座<ピスケス>のアルバフィカ』と再会した。

 

「お前もこの英国に来ていたのか?」

 

「あぁ、冥闘士の討伐をしていた。エルシド、お前もか?」

 

「ウム、それと定時連絡で翼とマリアがこちらでライブを行うと聞かされてな。顔を見せに行ってこいと言われたのだ」

 

「私もだ」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

無言になる二人。元々あまり接点が無い上に任務優先のストイックな仕事人気質な性格なので会話が弾まないのも無理はない。

 

「行くか?」

 

「そうだな」

 

簡潔な会話で二人はロンドンへと向かった。




今回こんなデキで申し訳ありません!

新しい作品のアイディアが沸いてきてなかなか進みません!

次回でGX編第一話を終らせたいです!


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奇跡を否定する者

ー響sideー

 

その日女子は体育の授業でプール、男子はバスケの授業を受けていた。

 

「進路に向けての三者面談、もうすぐですわね」

 

「憂鬱、成績についてのアレコレは、ママよりもパパに聞いて貰いたいよ・・・」

 

「贅沢言わないの、世の中には三者面談に来てくれる家族すら居ない男の子だっているんだから」

 

「そりゃそうだけさ・・・」

 

「レグルスさんの方はどうするのでしょうか?」

 

「代理として、デジェルさんが来てくれるんじゃない? ビッキー<響>の所は誰が来るの?」

 

プールサイドに座る響と未来と、友人である寺島詩織は三者面談の事を話し、板場弓美は母親が怖いのかボヤき、安藤創世が響に話しかける。

 

「う~ん、ウチはおばあちゃんかなぁ? お父さん居ないし、お母さん日曜日も働いてるし・・・」

 

「そう言うのよく有るみたいだよ。どこも忙しいって・・・!」

 

歯切れが悪い上に気分が少し沈んだ響を未来が慌てたようにファローした。

 

「そっか・・・」

 

「優しいおばあ様なのかしら・・・?」

 

「じゃないとビッキーの成績じゃ・・・」

 

「とおうっ!」

 

「「「うわぁっ!」」」

 

『響の家庭の事情』を知る三人も歯切れが悪い声色になるが、響はプールに飛び込み、水しぶきが弓美達に掛かった。

 

「プハッ! そんな事より泳ごうよ! 今日の夜更かしに備えてお昼寝するなら、ちょっと疲れた方が良くないかな? ウワォ、自分で言ってて驚きのアイディアだね♪

 

「よぉ~し!」

 

「えいっ!」

 

「それ!」

 

創世と弓美と詩織もプールに飛び込んだが、未来は静かに響を見て。

 

「空元気の癖に・・・・」

 

それは響の心に大きく食い込んだ“過去の傷”の事であった。

 

 

ーレグルスsideー

 

「来たぞ!」

 

「止めろ! 止めろ!」

 

「獅子堂を止めろ!」

 

「フッ!」

 

その頃、体育館でバスケの授業で、ミニゲームを行っていたレグルスは三人のブロックを華麗にかわしてダンクシュートを決めた!

 

「すげェ、獅子堂って本当すげェな・・・!」

 

「アイツ一人で勝っちまったようなモンだもんな」

 

「“天才”ってあぁ言う奴の事を言うのかね・・・」

 

成績は上の下、運動神経は言うに及ばず、さらに語学も長けたレグルスを遠巻きで見ていたクラスメートは羨望の眼差しを向ける。

 

「フゥ・・・」

 

壁に寄りかかりながら休憩するレグルスに、クラスメートの一人が近づく。

 

「なぁ獅子堂、お前三者面談どうするんだ?」

 

「ん~? どうだろうな、俺んとこ親居ないし、多分代理で従兄弟のお兄さんが来ると思うよ」

 

「獅子堂って、家族とかどうしたんだ?」

 

「母さんは物心つく前に死んで、父さんは俺が五歳の時に肺の病気でさ・・・」

 

「あっ、何かゴメン・・・!」

 

「別に良いよ。それに、叔父さんが居るんだ・・・」

 

「叔父さん?」

 

「あぁ、俺が最も尊敬する叔父さんがさ!」

 

一休みして直ぐにレグルスは、またミニゲームに参加した。

 

 

* * *

 

それから次の授業。響達とレグルスは、二年A組の教室で授業を受けていたが。

 

「ZZZzzz、ZZZzzz、ZZZzzz・・・・」

 

「なるほど、今夜夜更かしする為に、私の授業を昼寝にあてると・・・!」

 

爆睡する響に先生がただならぬオーラを放っていた。

 

「そう言う事なのですね! 立花さん!!」

 

「ギャフンッ!」

 

先生の怒りが噴火して未来達は肩を振るわし、レグルスはケラケラと愉快そうに笑っていた。

 

 

ー夜・デジェル&クリスのマンションー

 

そしてその日の夜。デジェルとクリスのマンションのリビングに集まった、レグルスと響と未来、詩織と弓美と創世、切歌と調が集まり、お菓子を広げていた。

 

「んで、どうしてアタシ達ん家なんだ?」

 

「クリス、そんなにピクピクさせなくても良いだろう?」

 

全員分のグラスをお盆に乗せ、方眉をピクピクさせるクリスを宥めながら、全員分の飲み物を出すデジェル。

 

「すみません、こんな時間に大人数で押し掛けてしまいました」

 

「ロンドンとの時差は八時間!」

 

「チャリティードックフェスの中継を皆で楽しむには、こうするしか無いわけでして・・・」

 

「ま、頼れる先輩って事で♪」

 

詩織と弓美と創世が集まった理由を話し、響も便乗する。

 

「私は構わないよ。我が家にクリスの友達が来てくれるのは大歓迎だからね」

 

「流石デジェルさん! 懐が深い! それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ!」

 

「ハァ、皆で応援・・・しない訳にはいかないよな!」

 

「そしてもう一人・・・」

 

未来の言葉を調と切歌が引き継ぐ。

 

「マリア・・・」

 

「歌姫のコラボユニット! 復活デェス!」

 

テレビ画面に『星天・ギャラクシィクロス Maria Thubasa』と表示され、オーディエンスの歓声が響いた。

 

「調ちゃん、切歌ちゃん、マニゴルドさんとカルディアさんは?」

 

「あぅそれがデスね、マニゴルド、急な仕事が入って出掛けちゃったデスよ・・・」

 

「カルディアは連日の夜勤が響いて今日は朝まで爆睡するって・・・」

 

「マリアの活躍は録画したのを見るって言ってたデス」

 

「たくっ、アイツらは本当に集団行動ができねぇな!」

 

「ま、二人らしいと言えばそうだけどさ」

 

「そう言えば、エルシドとアルバフィカも今英国に居るって報告があったな」

 

「それじゃ、二人もこの会場にいたりして?」

 

響達はきらびやかに輝く二人の歌姫の歌声を聴いた。

 

 

 

 

ー翼&マリアsideー

 

光り輝くステージに立ち、美しくきらびやかな衣装を着た二人の歌姫、桃色の髪に猫耳のように丸めた長髪をポニーテールに結わえ、女性として理想的なプロポーションに女神のような美貌をした美麗な女性、『世界の歌姫 マリア・カデンツァヴナ・イヴ』と、蒼い髪にサイドポニーに細くスラリとした凛々しき戦乙女のような女性『日本の歌姫 風鳴翼』であった。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

シンフォギア奏者であると同時に、世界でもトップレベルの歌声である二人の歌声が、ダンスが、笑顔が、多くの人々を魅了し、活気を与えた。

 

 

 

 

ー緒川sideー

 

そして別の場所で二人のステージを見ていた『タスクフォースS.O.N.G.』の諜報員にして、風鳴翼のマネージャー『緒川慎司』である。その緒川に近づく二人。

 

「緒川殿」

 

「っエルシド、アルバフィカ」

 

緒川に話しかけたのは、サングラスをかけたエルシドとアルバフィカだった。アルバフィカは長髪を隠すように大きめな帽子を被りかなり不機嫌な雰囲気ではあったが。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「どうしたんですかアルバフィカ? そんな帽子を被って・・・?」

 

「此処に来るまで街を歩いていたら男女問わずに注目されてな、その為の措置だ」

 

「あぁ、なるほど・・・」

 

『絶世の美形』と言っても過言ではないアルバフィカの美貌(美の基準が分からない翼やクリスですら見惚れるレベル)は良くも悪くも人目を引いてしまう。外見を褒められる軟派な事が、大嫌いな硬派な性格のアルバフィカにとっては、かなり業腹な事である。それでエルシドは露店で売られていたサングラスと帽子を購入してここまで来たのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

アルバフィカは気持ちを切り替えてステージで歌うマリアを見つめ、エルシドも翼を見つめると、二人は少し微笑んだ。

 

「アルバフィカ、なんならマリアさんに会って来ても・・・・」

 

「それはできない」

 

「・・・・“監視の目”が、有るのですか?」

 

「この国に来てから『英国諜報機関 MI6』の諜報員が、ずっとこちらを眺めている」

 

「流石に冥闘士と戦っているときは数百メートル離れて監視しているがな」

 

『フロンティア事変』から任務に赴き海外で行動しているエルシドとアルバフィカも日本に居るレグルス達同様、各国の諜報機関から監視を受けていた。しかし、四六時中監視されているマリアと違ってエルシドとアルバフィカは付かず離れずの距離で遠巻きに監視されている分マシである。手を出して国連が最警戒している黄金聖闘士の逆鱗に触れたくないからだ。

 

「アルバフィカ、マリアさんに会いに行かないのですか?」

 

「私もマリアも、監視を受けている身だ。下手に接触すれば妙な勘繰りを受ける」

 

アルバフィカはステージで歌うマリアの姿を眺めながら、少しだけ悲しそうな瞳をしていた。

 

 

ー響sideー

 

マリアが降板し、翼のパートになったステージをテレビで眺めていると。弓美がペンライトを振ってはしゃいでいた。

 

「こんな二人と一緒に、友達が世界を救ったなんて! まるでアニメだねぇ!!」

 

「う、うんホントだよ・・・・」

 

テンションあげあげの弓美に響は苦笑いをうかべる。

 

 

 

ーマリアsideー

 

そして降板したマリアは次の自分の番が来るまで、エレベーターでステージを降りた。降りたマリアの前に、黒服にサングラスをかけた男が二人近づくと、マリアは露骨に顔をしかめた。

 

「任務、ご苦労様です」

 

「アイドルの監視程ではないわ・・・」

 

「監視ではなく警護です。“世界を守った英雄”を狙う“危険人物”も少なくないので」

 

「貴方達の言う“危険人物”とは、米国の艦隊を素手で制圧した“闘士達”の事かしら?」

 

「滅相もない、彼等をそのように扱ってはおりませんよ。“今のところは”ですが」

 

いけしゃあしゃあと詭弁をほざく黒服<監視エージェント>の言葉にマリアは語る事がないと言わんばかりに、エージェント達と共に(内心イヤイヤ)楽屋に戻る。

 

 

 

ー響sideー

 

「“月の落下”と“フロンティアの浮上”に関連する事件を終息させるため、マリアは“生け贄”とされてしまったデス・・・・」

 

「“大人達の体裁”を守る為にアイドルを、文字通り“偶像”を強いられるなんて・・・」

 

『フロンティア事変』に関連した米国と関係者達は、『人々のフォニックゲイン』を集めたマリアを“偶像<アイドル>”として利用している事に、切歌と調とクリスも、レグルスとデジェル以外はやるせない気持ちになっていた、未来を除いて。

 

「そうじゃないよ・・・」

 

未来は優しい言葉をかける。

 

「マリアさんが守っているのはきっと、“誰もが笑っていられる日常”なんだと思う」

 

「未来・・・・」

 

「「フッ」」

 

「そうデスよね!」

 

「だからこそ、私達がマリアを応援しないと・・・!」

 

「うん!」

 

未来の言葉に調と切歌は気持ちを改めて、テレビを見つめた。

 

「(デジェル、マニゴルドがいないのは、弦十郎が言っていた、“未確認の反応”の調査の為?)」

 

「(あぁ、そろそろ何かしら連絡がある筈だが・・・)」

 

レグルスとデジェルが目線で会話しながら、マニゴルドからの調査報告を待っていた。

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

そしてマニゴルドは、未確認の反応が検知された横浜港に赴くと、“穴が開いた地面”に触れていた。

 

「この“穴”、拳銃なんてチャチな武器で出来たモノじゃねぇが、一体何なんだ・・・?」

 

マニゴルドは、地面に出来た“穴”の後を辿り始めた。

 

 

 

 

ーエルシド&アルバフィカsideー

 

「「っ!?」」

 

「どうしました二人共?」

 

「エルシド、感じたか?」

 

「あぁ、何かいるぞ・・・!」

 

「あぁ二人共!」

 

エルシドとアルバフィカは、“不穏な気配”を感知し、その場所に向かった。

 

 

 

 

ー響sideー

 

響とクリスの通信端末に、弦十郎からの通信が入った。

 

《第七区域に大規模な火災発生! 消防活動が困難なため、救援要請だ》

 

「はい! 直ぐに向かいます!」

 

「響・・・」

 

「大丈夫、人助けだから!」

 

響とクリスに続いて、調と切歌も立ち上がる。

 

「私達も・・・!」

 

「手伝うデス!」

 

「二人はレグルスとデジェル兄ぃと一緒に“留守番”だ! “LiNKER”も無しに出動なんてさせないからな!」

 

即却下され、クリスと響は現場に急行した。

 

「「む~~~~~~~!!」」

 

調と切歌は頬を膨らませた。

 

「レグっちとデジェルさんは行かないの?」

 

「確かにデジェルの凍技なら、火災なんてあっという間に沈静出来るけどね」

 

「我々聖闘士が『タスクフォースS.O.N.G.』の活動に参加するには、“国連上層部の許可”がいるんだ」

 

「“国連の許可”、ですか?」

 

「何でそんなモノが必要なの?」

 

「国連上層部は俺達黄金聖闘士の事を“目の上のたんこぶ扱い”しているからね、あまり俺達におおっぴらに動かれるのは困るんだよ」

 

「古代ギリシャ神話の戦士が『世界を救った英雄』の一員で、国連の全戦力を持っても対抗できない程の力を有しているなどと知れれば、国連の威信に関わるからな」

 

「要は、これもまた“大人の体裁”の為だよ」

 

やれやれと言わんばかりにレグルスとデジェルは肩を竦めた。

 

「しかし、見学くらいなら・・・・」

 

「問題無いよね~♪」

 

デジェルとレグルスはベランダに出る。

 

「あの、二人共・・・・?」

 

「ちょっと行ってくるな~♪」

 

「直ぐに戻る」

 

そう言って二人はベランダから夜の街に飛び出していった。

 

「ビッキー達に追い付けられるの?」

 

「確か黄金聖闘士って聖衣が無くてもマッハ二桁のスピードが出せるって言ってから・・・・」

 

「それなら追い付けられますわね」

 

「ホントあの人達も十分アニメの世界の人間だよね・・・」

 

「そうデスな・・・」

 

「うんうん・・・」

 

未来達は二人が去ったベランダからギャグ汗をながしなから見ていた。

 

 

 

 

ーマリアsideー

 

そしてマリアは監視のエージェントを連れて衣装を着たマネキンが二段列に列べられた通路を歩いていた。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

しかし、そんなマリアを不気味に見据えている視線があった。

 

フゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・。

 

「風・・・・誰かいるの!?」

 

「「っ!!」」

 

通路に不気味な風が吹き、マリアとエージェントは身構えると、通路に声が響いた。

 

ーーーーー司法取引と情報操作によって仕立てあげられた『フロンティア事変の汚れた英雄』。マリア・カデンツァヴナ・イヴ。ーーーーー

 

「何者だ!?」

 

警戒するマリア達の上の段にある、“ロングスカートの衣装を着た女性のマネキン”が、閉じていた瞳を開く。

 

「っ!?」

 

「んんっ!!?」

 

マネキンは突然エージェントの一人の唇を奪った。すると、エージェントがビクンビクンと痙攣する!

 

「離れろっ!!」

 

もう一人のエージェントが拳銃を構えるが、唇を奪われたエージェントは段々髪の毛と肌から生気が無くなったかのように無機質な白になり、力無く倒れた。

 

「フフ・・・・♪」

 

マネキンのような女は不気味な笑みを浮かべ、エージェントが拳銃を発砲した。

 

「ウフフフ・・・・♪」

 

マネキンのような女は長いスカートを翻すと緑色のつむじ風が現れ弾丸を跳ね返した。

 

「ぐあっ! うっ!」

 

跳ね返った弾丸はそのままエージェントに当たり、その1つが額に当たり、エージェントは絶命した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

マネキンのような女はフラメンコを踊るような構えをし、マリアも更に警戒する。

 

「纏うべきシンフォギアを持たぬお前に用はない」

 

妖しく光る瞳をしたマネキンは薄い笑みを浮かべてマリアを見据える。

 

 

ー???sideー

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

そしてここは日本、マントを身に纏った少女らしき人物が、追っ手が引き起こした燃料トラックの火災現場から逃げようとした。

 

「追いやれ、踊らされるのは・・・・」

 

ロックミュージシャンのような姿の追っ手の少女は、ターゲットに向けてコインを投げ飛ばす。投げ飛ばされたコインは地面に当たり、そのうちの1つは車を貫通し車が爆発した。

 

「あぁっ!!」

 

逃げていた少女は爆風によって吹き飛ぶがそれでも逃げようとしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そして少女が逃げる先に待っていた“魔女の帽子を付けたロングローブの少女”が燃え上がる炎を悲しそうに見据えていた。

 

「(もうすぐだよ・・・・パパ・・・・っ!)」

 

少女の耳に“ある人物からの通信”が入ると、悲しみに染まっていた少女の顔が花開くような笑みを浮かべた。

 

「うん!・・・・もうすぐアイツを捕まえる! 待っていてくれーーーーー!」

 

 

ー響sideー

 

そして響とクリスは『タスクフォースS.O.N.G.』のヘリコプターで現場に向かい、弦十郎からの現場状況を聞いていた。

 

《付近一体の避難はほぼ完了。だが、マンションに多数の生体反応を確認している》

 

「まさか人が!?」

 

《防火壁の向こう側に閉じ込められているようだ。更に気になるのは、被害状況が四時の方角へと拡大していることだ》

 

それは、この火災は“誰か”が引き起こした事を表していた。

 

「バカネコが暴れていやがるのか?」

 

《響君は救助活動を、クリス君は、被害状況の確認へ向かってもらう》

 

「了解です!」

 

 

 

ーマリアsideー

 

マリアを襲撃してきたマネキンのような女と交戦していた。マネキンのような女は片手でスカートの裾を掴み、もう片方の手には両刃の剣を持ってマリアを攻め立て、振り下ろす。

 

「フッ!」

 

マリアは寸前で回避し、剣は地面に突き刺さる。

 

「ハァアアアアアアアアアっ!!」

 

回避したマリアはカポエラのように回転蹴りを襲撃者の後ろ首に叩き込んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

しかし襲撃者は、本来なら気絶する一撃をくらったにも関わらず、蹴られた反動を利用して、マリアを上へと投げ飛ばす。

 

「しまった!」

 

空中で横倒れになったマリアに向けて、襲撃者は剣を突き立てた。

 

 

ー響sideー

 

響はヘリコプターの扉を開ける。

 

「任せたぞ!」

 

「任せれた!」

 

響は“シンフォギアペンダント”を持って、パラシュート無しのスカイダイビングをした。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

そしてペンダントを構えて唄う。己が“撃槍”を!

 

ペンダントが光輝き、響の衣服が弾け、その身体に身に纏うわオレンジ色のパワードスーツ。響の[誰かと手を繋ぎたい]と願う心に呼応して槍で有りながら『無手のシンフォギア』へと変化した『北欧神話の主神オーディーン』が振るった『撃槍 ガングニール』!

 

「アチョ~、ハァっ!」

 

気合いを入れた響はシンフォギアの力となる『フォニックゲイン』を高めるために歌を歌いながらマンションの天井を砕き、マンションの中へ入っていく。

 

《反応座標までの誘導、開始します!》

 

オペレーターの指示を受けながら、響は“助けを求める人達”の元へ向かった。

 

 

ー救助者sideー

 

救助者達は煙にまかれないようにハンカチで口元を被っていたが、不意に“歌”が聞こえた。

 

「何か、聴こえないか?」

 

「ん?・・・・これは、歌?」

 

 

ーマリアsideー

 

「くっ!」

 

マリアは重力に従ってまっ逆さまに突き立てられた剣へと堕ちて行くが!

 

ガキィンッ!

 

「翼っ!?」

 

突き立てられた剣を阻み、マリアを抱えたのは、『日本神話の絶剣 天羽々斬』のシンフォギアを纏う、風鳴翼だった。翼はマリアを抱えたまま着地する。

 

「友の危難を前にして、鞘走らずにはいられるか!」

 

翼とマリアは襲撃者に構える。

 

「待ち焦がれていましたわ」

 

「貴様は何者だ!?」

 

襲撃者はスカートの端をつまみ、剣を頭上に構える。

 

「“オートスコアラー”・・・・」

 

「“オートスコアラー”?」

 

“オートスコアラー”と名乗った襲撃者は、剣を翼へ向けて構える。

 

「貴女の歌を突き打ちに来ました」

 

オートスコアラーは翼に向かった!

 

 

ー響sideー

 

響は拳で次々と床を砕いて下の階へ向かい、救助者達がいる階へたたどり着いた。

 

《響ちゃん、左手90度の壁をぶち抜いて迂回路を作って!》

 

「貫けーーーーーっ!!」

 

友里からの指示で響を壁をぶち抜きまくり、救助者達を発見する。

 

「避難経路はこっちです!」

 

救助者達を避難経路に案内した響は他の救助者を探して壁を破壊しまくる。

 

「せいっ!」

 

《響ちゃん、生体反応が1つ!》

 

響はぶち抜くと、階段の踊り場に倒れている男の子を発見した。男の子を抱き抱えた響の頭上の天井が崩れる!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

響は天井ごとぶち抜いて、男の子を抱えて脱出した!

 

 

 

* * *

 

それから少しして、火災現場に消防車が消化作業を行うのを見て、救急車に向かう響の目の前に取り乱した女性がいた。

 

「ウチの子がまだ見つからないんです! まだ救助されて「お願いします!」 あっ、コウちゃん!!」

 

男の子の母親らしき人物が響に近づく。

 

「煙を沢山吸い込んでいます。早く病院へ!」

 

「ご協力感謝します!」

 

救急隊に任せて、響はその場を離れようとすると。燃え上がるマンションの向かい側の歩道橋でマンションを見つめる人影がいた。

 

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その少女は燃え盛るマンションを見つめると、“過去の忌まわしい記憶”が甦る。

 

【それが神の奇跡でないのなら、人の身に過ぎた悪魔の知恵だ!!】

 

【裁きを! 浄罪の炎でイザークの穢れを浄めよ!!】

 

燃え盛る鉄鍋に落とされようとしていた“拘束された父”の姿。

 

【パパ! パパっ! パパーーーーーっ!!】

 

【キャロル・・・生きて、もっと世界を知るんだ・・・】

 

【世界を・・・・?】

 

【それがキャロルの・・・・】

 

そして最愛の父は炎の中に消えた。

 

「・・・・・・・・・・・・パパ・・・・!」

 

少女の瞳に涙が浮かんだ。

 

「消えてしまえば良い思い出・・・・」

 

「そんな処にいたら危ないよ!」

 

「っ!」

 

不意に少女が見下ろすと、響がいた。

 

「パパとママとはぐれちゃっのかな? そこは危ないから、お姉ちゃんが行くまで「黙れ・・・・!」っ!」

 

響の言葉を遮った少女は指先で空中で円を描くように動かすと緑色の魔方陣が生まれ、緑色の竜巻が響を襲う!

 

「うわぁっ!!」

 

竜巻は響の前の地面を抉った。

 

「えぇ・・・・!」

 

驚く響の耳に、クリスからの通信が入る。

 

《敵だ! 敵の襲撃だ! そっちはどうなっている!?》

 

「敵・・・!?」

 

響は竜巻を起こした少女を見ると、少女は腕を天に伸ばして、幾つもの緑の魔方陣を展開する。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイムの錬金術が、世界を壊し、“万象黙示録”を完成させる!」

 

「世界を・・・・壊す?」

 

「オレが“奇跡”を殺すと言っている!!」

 

キャロルと名乗った少女の魔方陣です重なり、一際大きな光を生み出すと、幾つもの緑色の竜巻が響に襲いかかる!

 

「はっ!」

 

“緑色の竜巻”が響を呑み込もうとするが、響の眼前に“金色の雷光”が閃いた!

 

「『ライトニングプラズマ』!!」

 

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!

 

響に迫り来る緑の竜巻を金色の雷光が防いだ。

 

「「っ!?」」

 

驚く響と少女。響の前に颯爽と現れたのは、茶色い短髪の陽的な少年。

 

「やぁ響、なんかまた面白そうなヤツが現れたね? でも、ハロウィーンにはまだ時期外れ過ぎるよ」

 

「レグルスくんっ!」

 

“地上最強の十二人”の一角、可能性の若獅子。獅子座<レオ>のレグルスだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

キャロルと名乗った少女はレグルスを見て驚くが、直ぐに笑みを浮かべた。

 

「お前が、遥か神話の闘士、獅子座の黄金聖闘士か?」

 

「そうだけど、君は何者だ?」

 

「オレの名はキャロル・マールス・ディーンハイム。錬金術師だ」

 

「“錬金術師”、“キャロル”・・・・?」

 

首を傾げるレグルスに、キャロルと名乗った少女は歩道橋から降りて地面に降り立つと、レグルスに向かって手を差しのべる。

 

「獅子座の黄金聖闘士よ。オレと共に来い!」

 

「えっ?」

 

「何・・・・?」

 

「お前を“真に理解”できるのはオレだけだ! オレとお前は“同志”となれる! レオのレグルスよ! オレの片腕となれ!!」

 

錬金術師の少女との邂逅。それは新たな戦いを告げる鐘の音が鳴り響いた。

 

 




キャロルには響よりもレグルスの方が共感できると思う。


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強襲 オートスコアラー

ようやっと投稿できました。


レグルスと立花響が新たな敵、キャロル・マールス・ディーンハイムと接触した時を同じくして、翼とマリアも、オートスコアラーと呼ばれるマネキンのように能面で大剣を携えた敵と交戦していた。

 

「ハァアッ!!」

 

剣を二刀流にした翼がオートスコアラーの大剣と斬り結び、距離を空けさせると二刀の剣を連結させて炎を纏わせ振り回し、足のパーツでホバリングしながらオートスコアラーに迫る!

 

「月よ、煌めけ!」

 

剣に纏った赤い炎が蒼い炎に変わり、オートスコアラーに振り下ろす!

 

『風輪火斬 月煌』

 

切り裂かれたオートスコアラーは通路に積み置かれた機材入れの箱に叩きつけられた!

 

「やり過ぎだ! 人を相手に!!」

 

「やり過ぎなモノか、手合わせしてわかった・・・!」

 

「っ!」

 

「コイツは『フロンティア事変』で出くわした冥闘士<スペクター>、“悪神アタバク”や“地獄の悪鬼共”と同じように、どうしようもなく・・・!」

 

崩れた機材入れの箱を吹き飛ばして、オートスコアラーが現れた。

 

「“化け物”だ!」

 

「聞いてたよりずっとショボい歌ね。確かに“あのお方”の言うとおり、こんなのじゃやられてあげる訳にはいきませんわ」

 

翼の必殺剣をモロに受けたにも関わらず、余裕の態度のオートスコアラーに翼は再び刀を構えて突きを繰り出すが、オートスコアラーの大剣が翼の刀を上に弾き飛ばすが、刀は巨大な大剣へと変形した。

 

「っ!?」

 

オートスコアラーは防ごうとするも、大剣に押し潰され土煙が舞う。

 

「やった?」

 

「この程度では、下に叩き落としたに過ぎない!」

 

「くっ!」

 

マリアは翼の腕を掴む。

 

「引くわよ翼!」

 

「えぇ?///」

 

翼は少し顔を紅くしてマリアに連れてその場を離れた。

 

 

ー未来sideー

 

そしてこちらはすっかりおひらきになった未来と詩織と創世と弓美は帰ろうと夜の街を歩いていた。

 

「あ~あ、折角みんなでお泊まりだと思ったのに!」

 

「立花さん達が頑張っているのに、私達だけ遊ぶ訳にはいきませんから」

 

「ヒナがキネクリ(クリス)先輩の家の合鍵をデジェルさんから預かってからよかったけど・・・」

 

「うん、まぁね・・・」

 

実は良く響と未来はクリスの家に行って勉強をしていたり、私物を幾つか置いていくことが良くある為にデジェルから合鍵を預からせて貰っていたことを話せず言い淀んでいた。すると、近くのコンビニから見た事の有る群青色のクセッ毛を長髪にした男が現れた。

 

「あ? 調に切歌?」

 

「「あっ、カルディア!」」

 

なんとコンビニから蠍座<スコーピオン>のカルディアが出てきた。

 

「何でここにいるの?」

 

「今日は朝まで爆睡してるんじゃなかったデスか?」

 

「腹減ったから起きたんだよ。マニゴルドの野郎、夜食を作って置かなかったからな。しかも最寄りのコンビニで弁当買おうとしたら売り切れちまっててな、お陰でこんなところまで買い物に来たんだよ。んでお前らはどうした? 今日はデジェルとクリスの家でお泊まり会じゃなかったのか?」

 

「それがデスね、響さんとクリス先輩に急に火災救助の任務が入ってきて・・・」

 

「お泊まり会はおひらきになっちゃたの」

 

「そうか、じゃ丁度良いこのまま帰るぞ」

 

「了解デェス! ではでは先輩方、アタシ達はこれで失礼するデス!」

 

「今日は誘ってくれてありがとう・・・」

 

「では失礼するデェス」

 

カルディアに連れられ、調と切歌は未来達と別れた。

 

「バイバイ!」

 

「気を付けてね!・・・・さて、コンビニでおむすびでも買っておこうかな」

 

「あらあら・・・」

 

「まあまあ・・・」

 

「てっきり心配してるかと思ったら・・・」

 

「レグルスくんが付いてし、響の趣味の人助けだから平気だよ。むしろお腹空かして帰ってくる方が心配かもね・・・」

 

「そう言えば、小日向さんにはもう一人、帰りを待っているお方がおりましたね」

 

「あぁ、あの盲目の金髪イケメンさん!」

 

「そっちの方はどうなのヒナ?」

 

「アスミタさんの事なら響以上に心配してないよ。あの人の帰る場所は分かっているしね(それに、アスミタさんとはいつでも会っているから・・・)」

 

 

 

ークリスsideー

 

そして時間は遡り、救助活動を行う響と別行動をとったクリスはヘリが着陸した海が見える広場で、ヘリから降りて上空に上がったヘリを見送った。

 

《火災マンションの救助活動は、響ちゃんのお陰で順調よ》

 

「へっ、アイツばかり良い格好させるかよ!」

 

キーーーーーン

 

「っ!?」

 

クリスの耳に“何かを弾く音”が聴こえた。

 

ドオオオオオオオオオオンっ!!

 

すると上空にいたヘリが突如爆散した!

 

「くっ!」

 

ヘリの爆発を一瞥したクリスは、音がした方向に睨むと、そこには広場のオブジェに立つ能面な顔をしたロックミュージシャンの格好をした黒とオレンジのツーカラーの髪をした女性がいた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「この仕業はお前か!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「っ!・・・・」

 

その無感情の視線の不器用さに、クリスは息を呑む。そして建物の物陰からクリスの様子を窺う一人の少女がいた。

 

「・・・・・・・・あれは?」

 

ポンポン

 

「っ!!」

 

クリスの様子を窺う少女の肩を誰かが叩き、少女は悲鳴をあげそうになるが、その人物が口を塞ぐ。

 

「静かにしていて貰おう」

 

「・・・・っ!?」

 

「こんな所を君のような少女が彷徨いているのは関心しないな」

 

その少女の口を塞いだのは、翡翠の長髪をした美麗な男性だった。

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

クリスの状況は勿論『タスクフォースS.O.N.G.』の方でも観測していた。

 

「奏者移送ヘリ沈黙!」

 

「どうなっている!?」

 

「何者かの襲撃を受けている模様!」

 

「ロンドンからも、翼さんが交戦しているとの知らせです!」

 

「(同時多発! こちらの混乱を誘っているのか!? だがしかし!) 緒川!」

 

《はい!》

 

「このままでは情報が不足して、相手の狙いが絞り込めない! そっちにエルシドとアルバフィカはいるか!?」

 

《はい、ですが二人とも、翼さん達の元に急行しています。こちらは諜報局に協力を仰ぎつつ、状況把握に務めます》

 

緒川は通信を切った。

 

「アイツらが動いてくれるなら翼とマリアくんは大丈夫だと思いたいが、如何せん“鎧”は日本にあるからな・・・」

 

黄金聖闘士の“鎧”は国連によって『タスクフォースS.O.N.G.』の司令である風鳴弦十郎に保管管理されており、国連の許可が降りないと仕様できないでいた。

 

 

ークリスsideー

 

キン!キン!キン!キン!キン!キン!

 

クリスの足元や髪を掠めながらコインを弾く襲撃者。

 

「こちらの準備は出来ている・・・」

 

「抜いたな?・・・だったら貸し借り無しでやらせてもらう。後で吠え面かくんじゃねぇぞ!!」

 

指の間に更なるコインを取り出した襲撃者にクリスは静かに呟き、胸元から“シンフォギアクリスタル”を取り出して唄う、“戦いの歌”をーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」

 

唄うとクリスの衣服が弾け、その身に赤いパーツが装備される。本来は弓矢である筈の神の武具に、クリス自身の『全ての力を凪ぎ払いたい願い』に呼応してあらゆる重火器へとその形を変えるようになった“北欧神話の魔窮 イチイバル”。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

クリスはフォニックゲインを高める歌を歌いながら襲撃者へと駆けていった! 両手のパーツからボーガンを展開し、矢の形の光弾を連射して放つ!

 

「・・・・・・・・・・・・!!!」

 

しかし襲撃者は軽業師のような軽やかな動きでマシンガンのように放たれる光弾をかわしていく。

 

「(この動き、人間離れってレベルじゃねぇ! 人外そのもの!!)」

 

人外ならばクリス達の間近にも何人かいるが、彼らならかわす処か素手でクリスの光弾を叩き落とす事ができるが、目の前の生身の襲撃者の動きは彼らとは異なるとクリスは直感した。

 

「・・・!!!」

 

「つまりやり易い!!」

 

クリスは更にボーガン展開して光弾を放った!

 

 

ー弦十郎sideー

 

「司令・・・・」

 

「どうした!?」

 

「この一連の騒乱、昨夜確認された“謎の反応”と関係があるのでは?」

 

「・・・・未確認の反応が出て、新たな敵・・・」

 

オペレーターの藤尭の言葉に弦十郎は渋い顔を浮かべた。

 

 

 

ークリスsideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

クリスが光弾を連射するのに対抗して、襲撃者はコインを次々と袖口から出して連射するように弾き撃つ!

 

キン!キン!キン!キン!キン!キン!

 

二人の光弾とコインは空中でぶつかり合う。それを物陰から見ていた少女と青年。

 

「クリスの光弾と互角? ただのコインでは無いようだな・・・・」

 

「聖遺物の戦闘力を持つフォニックゲイン。それでも“レイア”に通じない・・・・!」

 

「“レイア”? あの襲撃者の名前かい?」

 

「・・・・はい」

 

青年と少女は飛び上がりぶつかり合うクリスとレイアと呼ばれる襲撃者を見据える。

 

「(やはり、“ドゥベルグダインの遺産”を届けないと・・・・)」

 

オブジェに立ったクリスはビルの壁に張り付いたレイアに向けて片手のボーガンを変形させて2門3連ガトリングを放つ!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

しかし、レイアはビルの壁を走り、地上に降りるとガトリングを放つクリスに迫り飛び上がる!

 

「(ニッ!)」

 

狙い通りと言わんばかり口角を上げたクリスは腰部のアーマーを展開し、追尾式小型ミサイルを放つ!

 

『MEGA DETH PARTY』

 

「あっ・・・・!」

 

レイアは迫り来るミサイルを防ごうと障壁を展開し様とするが、それよりも早くクリスの放ったミサイルが直撃し、爆炎に包まれた。

 

「直撃!?」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

少女を身を乗り出すが、青年とクリスはレイアの方を睨む。地上に落ちて黒煙に包まれたレイアを見てクリスが叫ぶ。

 

「勿体ぶらねぇでさっさと出てきやがれ!!」

 

黒煙が晴れるとソコには、障壁を展開したレイアがいた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

レイアは障壁をすぐに解除するとコインを再びクリス目掛けて放つ。

 

「ちぃっ!」

 

《何が合ったのクリスちゃん!!》

 

コインをかわすクリスの通信機から友里の声が聴こえた。

 

「敵だ! 敵の襲撃だ! そっちはどうなっている!?」

 

「危ない!!」

 

反撃しようとしたクリスの耳に少女の声が届いた。

 

「えっ?・・・・っ!!」

 

クリスは上を見上げると、なんと“何隻ものクルーザー”が空から落ちてきた!

 

「何の冗談だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ピキィィィィィィィィィンっ!!

 

「あっ?」

 

クルーザーがそのまま重力にしたがって落下しそうになったが、突如“氷の巨柱”に閉じ込められそのまま制止した。

 

「これって・・・・」

 

「クリス! こっちだ!」

 

「ん? デジェル兄ぃ!」

 

クリスが目を向けると、少女と一緒にいた青年、クリスの最愛の人、水瓶座<アクエリアス>のデジェルがいた。クリスは直ぐ様デジェルのいる方へと向かう。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

氷の巨柱に視界が阻まれクリスを見失ったレイアはデジェルが造った障壁を見据える。

 

「氷雪を操る聖闘士か・・・氷でできた柱、なんとも美しいな・・・・私に地味は似合わない、水瓶座の黄金聖闘士、私が相手取るに相応しい相手だ・・・折角会えた好敵、無粋な事はやめて貰おう・・・後は私が自分でヤる・・・!」

 

レイアが海を見ると、“霧に包まれた巨大な影”がクルーザーを持って佇んでいたが、直ぐに霧と共に消えた。“巨大な影”が持っていたクルーザーはそのまま海へと落下した。

 

「・・・・さて」

 

 

ー調&切歌sideー

 

カルディアと共に帰路についた調と切歌は信号機が変わるのを待っていた。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

「どうしたお前ら、随分静かじゃねぇか?」

 

「・・・・実は」

 

調は先程、クリスに言われた言葉をカルディアに教えた。

 

【二人は留守番だ、LiNKERも無しに出動なんてさせないからな!】

 

【(コクコク)】

 

「成る程な、それで拗ねちまったって訳か?」

 

シンフォギアとの適合係数が低い調と切歌とマリアはLiNKERが無ければシンフォギアを纏う事はできない。だが、LiNKERは過剰に使えば奏者の命を削る諸刃の剣、年少者の二人に無理をさせたくない響達の心遣いである事は調と切歌も分かっているが、納得していなかった。

 

「考えてみれば当たり前のこと・・・」

 

「あぁ見えて、底抜けにお人好し揃いデスからね。『フロンティア事変』の後、拘束されていた私達の身柄を引き取ってくれたのは、敵として戦ってきた筈の人達デス・・・」

 

「それが保護観察の為かもしれないけど、マニゴルドやカルディアと一緒に住めるようにしてくれて、学校にも通えるようにしてくれて・・・」

 

【オイ! 何ビビってんだよ!】

 

【お~~い!】

 

【おっはよう!】

 

【急がないと遅刻しちゃうぞーー!】

 

そして通うようになった“普通の生活”。

 

「FISの研究施設にいた頃は想像もできない位、毎日笑って過ごせているデスよ」

 

「うん・・・・」

 

歩行者用の信号が青に変わっても、三人はその場を動かなかった。

 

「なんとか・・・力になれないのかな?」

 

「なんとか、力になりたいデスよ・・・力は、間違いなくここに有るんデスけどね・・・」

 

切歌は“イガリマのシンフォギアクリスタル”を取りだし握りしめる。

 

「でも、それだけじゃ何も変えられなかったのが、“昨日までの私達”だよ、切ちゃん・・・」

 

「ハァ、何をぐじゃぐじゃ考えてんだよお前ら」

 

「カルディア・・・」

 

「力があるんならそれを自分の“やりたい事”の為に使えば良いじゃねぇか。戦ったらあの人が悲しむとか、皆に心配掛けたくないって、詰まらねぇ事を気にして何もしないだなんて、それこそバカな考えだろうがよ・・・!」

 

「でも・・・・!」

 

「アタシ達が戦えば、きっとマリアや先輩達が・・・・!」

 

「その考えがバカだって言うんだよ」

 

「「えっ・・・・!?」」

 

「良いか、お前らの持っている“シュルシャガナ”も“イガリマ”も只の“道具”だ。“道具”は使わなきゃ只のガラクタとおんなじなんだよ。要は自分がそれをどう使いたいかなんだよ」

 

「私達が・・・」

 

「どう使いたいか・・・」

 

「俺は自分の力を自分の“望む事”の為に使う。周りに何を言われようが関係ねぇ、これが俺が望む俺の力の使い方だからだ・・・!」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

カルディアの“望む事”、それは“強き者と戦い、己の命を極限までに燃焼する事”。それがカルディアの“望む事”だからだ。

 

「お前らは本当に今のままで満足なのか? 力が有るのに周りのことを気にして何もしないなんて選択をするのかよ? あれを見てもよ」

 

カルディアが指差す先にはビルに設置された大型ディスプレイに火災現場のニュースが流れていた。

 

《都内で発生した高層マンション及び、周辺火災の速報です》

 

「「っ!」」

 

《混乱が続く現場では不審な人影の目撃が相次ぎ、テロの可能性ま指摘されています》

 

火災現場の向こう側で空中の爆発が起きた。

 

「っ! 今の?!」

 

「空中で爆発したデス!」

 

「うん何か、別の事件が起きてるのかも・・・」

 

「(ありゃぁクリスのイチイバルだな、なぁんか起きてるようだな・・・♪)」

 

緊張が走る調と切歌と違い、カルディアは好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 

ークリスsideー

 

デジェルがクルーザーを包んだ氷の巨柱の近くの茂みクリスとデジェルが隠れていた。

 

「デジェル兄ぃ何でここにいるんだよ?」

 

「国連との条約上、私達は奏者の任務に介入する事はできないが、“見学”位なら大丈夫だろうと、来てみたらこんな状況に出くわしたって訳だ」

 

「まぁ、お陰で助かったけどよ。それにしてもハチャメチャしやがる・・・!」

 

二人に近づく少女。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あぁ・・・って! おまっ、その格好!////」

 

「君は、そんな格好をしていたのか・・・」

 

その少女はパンツ一丁にフード付きロングコートを着た極めて破廉恥な格好をしていた。その姿にクリスは顔を紅くし、デジェルは呆れ混じりに片手で顔を覆った。

 

「貴方達は?」

 

「えっ! あ、アタシは“快傑☆うたずきん”! 国連とも、日本政府とも、全然関係無く! 日夜無償で世直しを・・・」

 

「無理が有るぞソレは、と言うかなんだいその“快傑☆うたずきん”だなんて愉快な名前は・・・?」

 

奏者の存在は秘匿扱いなのでクリスは顔を隠して苦しい事を言うが、デジェルは何とも言えない顔で呆れていた。

 

「イチイバルのシンフォギア奏者、雪音クリスさん。遥か神話の闘士、戦女神アテナに使える最強の12人の一角、水瓶座<アクエリアス>のデジェルさんですね?」

 

「「っ!!」」

 

少女の言葉にクリスとデジェルが驚く。

 

「何故我々のことを知っている、君は一体・・・?」

 

「て言うかその声、さっきアタシを助けた・・・」

 

少女は被っていたフードを脱いで素顔を晒す。

 

「僕の名前はエルフナイン。キャロルの錬金術から世界を守る為、皆さんを探していました」

 

「錬金術、だと・・・?」

 

「そして黄金聖闘士のデジェルさん、貴方にはこのカードを・・・」

 

「ん?」

 

エルフナインと呼ばれた少女は“あるカード”をデジェルに手渡した。

 

「っ! こ、これは・・・!!」

 

そのカードに描かれた星座の形を見て驚愕する。

 

「まさか・・・お前がこの世界にいるのか・・・!!」

 

カードを握るデジェルのその目には、圧倒的な憤怒の様相が浮かぶ。

 

「お兄ちゃん・・・?」

 

「この世界に来ていると言うのか・・・・・・・・“アスプロス”っ!!」

 

その名は、黄金聖闘士の中でも最強の実力と頭脳を持ち、シジフォスと並んで“教皇候補”に列せられた聖闘士。

 

そして、聖域<サンクチュアリ>最大の“裏切り者”の名前だったーーーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 




すみません。風邪をひいてしまって休んでいました。まだ咳が収まらず熱も中々引かないですが、来週も投稿して見せます。


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砕けるシンフォギア

人は“信じていた力”が砕かれると脆くなる・・・。


ー弦十郎sideー

 

『タスクフォースS.O.N.G.』の基地である潜水艦のブリッジにいた弦十郎にクリスからの連絡で“錬金術師と名乗る少女”の事が報告された。

 

「“錬金術”。科学と魔術が分化する以前のオーバーテクノロジーだった、あの錬金術の事なのでしょうか?」

 

「だとしたら、シンフォギアとは別系統の異端技術が挑んできていると言うこと・・・」

 

「いやもしかしたら、聖闘士側に近いかもしれん」

 

「「???」」

 

友里と藤尭の憶測に、弦十郎がもう一つの可能性を出した。

 

「かつてシジフォスに聞いた事が有る。聖闘士が纏う聖衣は、かつて地上に存在した伝説の大陸“ムー大陸”にいた古代の錬金術師達によって生成され、それに“戦女神アテナ”がそれぞれの“星座の力”を与えた事で完成された、とな・・・」

 

「伝説の大陸“ムー大陸”ですか?!」

 

「もしそれが本当なら、今回の敵は聖闘士達にも関わりが有るって事でしょうか?」

 

「かつてこの地上に存在し、地上の秩序と平和を守り、“神々の大戦<グレートウォー>”によって消滅し現代に蘇った聖闘士。そして新たな敵は、錬金術師・・・!」

 

弦十郎はメインモニターに映されたレグルスに手を差しのべる“キャロル・マールス・ディーンハイム”と名乗った少女を睨んだ。

 

 

 

ーキャロルとレグルス&響の近くの物陰ー

 

スマホでキャロルの姿を隠し撮りしていた一人の青年がニヤリとほくそ笑みを浮かべる。青年はマンションの火災を見に来たただの野次馬の一人だったが、テレビ局に売り込めるネタを見つけたのでここに来ていた。

 

「へへへ、こういう映像ってどうやってテレビ局に売れば良いんだっけ?」

 

「折角会いたかった少年との感動の出会いを、断りも無く撮るなんて・・・」

 

「っ!」

 

何時からいたのか、青年の横にギザギザとした歯を見せ、メイド服のような青い衣服を身につけた“人形めいた少女”がいた。

 

「躾の程度が窺えちゃうわね♪」

 

少女は青年に近づき、青年の顎を優しく掴むとーーーー。

 

「んっ」

 

唇を重ねた。

 

「んんっ!・・・んっ!!」

 

青年は自身が“吸い上げられている事”を察して逃げようとするが、少女の見た目からは考えられない力で掴まれ振りほどけなかった・・・そして。

 

「うっ!」

 

青年の頭髪と肌が色素を失ったように真っ白になり、そのまま力無く倒れ息絶えた。

 

「ペロッ・・・・ウフフ」

 

少女は舌で唇を舐めると、物言わぬ屍となった青年を見下ろして残忍な笑みを浮かべた。

 

 

ーレグルスsideー

 

「獅子座の黄金聖闘士よ。オレと共に来い!」

 

「えっ?」

 

「何・・・・?」

 

「お前を“真に理解”できるのはオレだけだ! オレとお前は“同志”となれる! レオのレグルスよ! オレの片腕となれ!!」

 

「・・・・“片腕となれ”ってどういう事?」

 

響を攻撃しようとした少女から突然の勧誘にレグルスは一瞬呆気に取られたが、直ぐに持ち直して、“キャロル”と名乗った少女を見据える。

 

「言葉通りの意味だ。獅子座<レオ>のレグルスよ、現代に蘇った“戦女神アテナ”の闘士、聖闘士の中でも最高峰の境地に立つ“十二人の黄金聖闘士”、その中でもお前だけだレオよ、オレが是非“同志”として迎えたいと思ったのはお前だけなのだ・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

無言になるレグルスにキャロルは両手を広げてゆっくりと近づく。

 

「レオよ、オレと共に世界を壊そう・・・! オレとお前と“あの人”が揃えば「待って!」チッ、うっとおしいゴミがいるな・・・!」

 

キャロルとレグルスの間に入り、キャロルの言葉を遮った立花響をキャロルは目障りそうに睨む。響はそれに気づかず言葉を紡ぐ。

 

「世界を破壊するなんて、何でそんな事考えるの!? 世界を壊したい理由を聞かせてよ!」

 

「っ! 理由を言えば受け入れるのか?」

 

「私は・・・戦いたくない!」

 

響の言葉をキャロルと呼ばれた少女は苛立ち混じりに叫ぶ。

 

「お前と違い、“戦ってでも欲しい真実”が、俺にはある!」

 

「「“戦ってでも欲しい真実”・・・?」」

 

「そうだ、シンフォギア奏者、お前にだって有るだろう? だからその歌で月の落下を防いでみせた。その歌で! シンフォギアで! 戦ってみせた!!」

 

「違う! そうするしかなかっただけで・・・そうしたかった訳じゃない・・・私は、戦いたかった訳じゃない! シンフォギアで、守りたかったんだ!!」

 

響の訴えをキャロルはさらに苛立ったように顔を歪める。

 

「・・・・レオよ、お前もそうなのか? 戦いたかった訳じゃない等と宣うのか?」

 

「・・・・・・・・俺は、戦わなければならない時は戦う・・・・俺の拳は、俺の力は、そのために有るから。地上の平和を乱す者とは、敢然と戦うつもりだ!」

 

「ならば、オレとも戦うか? 世界を壊そうとするオレとも・・・?」

 

「君が世界を壊そうとするなら、俺は君と戦う。それが獅子座<レオ>のレグルスの戦う理由・・・それだけで十分だ!」

 

レグルスの迷いなき瞳に宿る強き意志、そして偽りなき言葉に、キャロルの口元に少し笑みを浮かべる。

 

「やはりオレにはお前が必要だな、その一切の迷いなき瞳と言葉、自身のやるべき事をやって見せようとする強固な意志、ますますお前が欲しくなったぞ。レオよ!!」

 

キャロルの足元に金色に輝く魔法陣いや錬成陣が展開される。

 

「やだよ・・・“人助けの力”で戦うのはヤダよ・・・」

 

「フン! お前も、“人助けして殺されるクチ”なのか!?」

 

この期に及んでも駄々をこねる響に、キャロルは足元の他に、頭上にも錬成陣を展開する。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「高質量のエネルギー反応! 敵を前にしてどうして戦わないんだ!?」

 

「ちぃっ!」

 

いくらレグルスがいるとは言え、敵が目の前にいるのに戦おうとしない響に弦十郎達は焦りが生まれる。

 

 

ー響sideー

 

「だって、さっきのキャロルちゃん、泣いてた・・・」

 

「っ!!」

 

「だから! 戦うよりも、その訳を聞かないと!」

 

響の言葉にキャロルは目を見開き、その顔を憤怒と憎悪に染めた。まるで見て欲しく無いもの、知られて欲しく無いもの、踏み込んで欲しく無い“心の場所”に“土足”で入り込まれたかのように。

 

「くっ、見られた・・・知られた・・・踏み込まれた・・・くぅっ! 世界ごと!! ぶっ飛べーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

キャロルは左手の指を鳴らすと“ある記号”のようなエンブレムが現れ、頭上の錬成陣の中心部に重なる。すると、2つの錬成陣が眩く輝き、光の奔流が周囲を呑み込もうとした!

 

「響っ!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

吹き飛んだ響をレグルスが空中で担ぎ、そのまま瓦礫を足場にして上空へ空高く飛んだ。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「空間に、歪みが発生しています!」

 

「未確認のエネルギーです!」

 

「響ちゃん! レグルスくん! 応答して! 二人とも応答して!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

他のオペレーターや友里が騒然となり、弦十郎はキャロルが起こした事象を愕然と見つけた。

 

 

ーレグルスsideー

 

「よっと・・・・!」

 

響を担いで上空に離脱したレグルスは、そのまま重力に従い落下するが、ヒラリと軽やかに着地して、響を近くに横たわらせると、息切れをしているキャロルを見据える。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

 

「キャロル、何故世界を破壊しようなんて考えるんだ?」

 

「お前なら分かる筈だレオよ・・・お前にもオレと同じく、“父親から託された命題”が有るのだから・・・! そこの奏者にも有る筈だ・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「えっ、お父さん・・・・」

 

キャロルの言葉にレグルスは顔を引き締め、レグルスの後ろにいる響は“父親”と言う単語に反応する。

 

「めんどくさいヤツですね~」

 

「「っ!?」」

 

突然その場に響いた声にレグルスと響が目を向けると、キャロルの後ろの建物に座り足をぶらぶらさせた青いメイド服のような服を着た少女がいた。

 

「見ていたのか? 性根の腐った“ガリィ”らしい・・・」

 

キャロルは“ガリィ”と呼ばれた少女に毒づく。“ガリィ”は建物から降りると、キャロルの隣に立ち、バレエでも踊るかのように回転する。

 

「やめてくださいよ~、そう言う風にしたのは“マスター”じゃないですかぁ?」

 

「(キャロルが“マスター”? 彼女は一体?)」

 

「さっさと戻りましょうよ、お目当ての黄金聖闘士とも会えたんだしぃ♪」

 

「“思い出の採集”はどうなっている?」

 

「順調ですよ~♪ でも“ミカ”ちゃん、大食らいなので足りてませ~~~~ん!!」

 

わざとらしく泣き真似をするガリィに、キャロルは冷めた態度を取る。

 

「ならば急げ、今日は此処までだ」

 

「(ケロッ)了解! ガリィ頑張りま~す!」

 

ガリィは紫の小瓶を取りだし地面に叩きつけるとそこから“光の陣”が現れ、その上に立った。

 

「ほいっと、サヨナラ~~」

 

“陣”に立ったガリィはそのまま光に呑まれて消えた。

 

「レオよ、オレは諦めた訳じゃない。その役立たずと共にいてもお前の為にはならん、オレの元に来たくなったらまた会った時に来い、歓迎しよう・・・」

 

そしてキャロルも小瓶を割り、“光の陣”に包まれて、消えた。

 

「“転送”・・・イヤ“転移”したのか?」

 

「託された・・・私には、レグルスくんのように、お父さんから貰ったモノなんて、何も・・・」

 

「響っ!」

 

レグルスは力無く倒れた響を介抱した。

 

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

「レグルスくん! 今から回収班をソッチに向かわせるから響ちゃんをお願い!」

 

「(何だ? この拭えない違和感は・・・・?)」

 

言い様のない違和感が弦十郎の心に現れた。

 

 

 

ー翼sideー

 

そしてロンドンのコンサートホールの入り口前では、米国のエージェント達がマリアを監視していたエージェントとの連絡が取れずに騒然としていた。

 

「現在、状況を確認中です!」

 

「Aー3からの出口、封鎖急げ! あっ!」

 

ステージ衣装のマリア・カデンツァヴナ・イヴと風鳴翼が出てくるのを確認した。

 

「エージェントマリア! 貴女の行動は保護プログラムによって制限されているはず!」

 

「今は有事よ、車両を借り受ける!」

 

「えぇっ!?」

 

出入り口に来ていた年配のタクシーの運転手は突然のマリアの言葉に戸惑うが、エージェント達は拳銃を構える。

 

「そんな勝手は許されない!!」

 

「くっ!」

 

「ひぃっ!」

 

歯噛みするマリアと狼狽える運転手。

 

斬!

 

シュッ!

 

ダンッ! ダンッ! ダンッ!

 

すると、エージェント達の拳銃が突然斬られ、粉々に破壊され、さらに弾丸がエージェント達の“影”に突き刺さる!

 

「な、なんだ・・・!?」

 

「銃が破壊されて・・・!」

 

「身体が、動かん・・・!」

 

銃を破壊したのは、逆立てした黒髪に鋭利を眼差しをした武人然とした男性。

 

「エルシドっ!?」

 

「銃を構えたならば覚悟は出来ているか?」

 

そしてもう一人は、ウェーブがかかった水色の長髪をした絶世の美男子。

 

「ア、アルバフィカっ!?」

 

「我々と敵対する意志有りと判断するぞ?」

 

山羊座<カプリコーン>のエルシドと魚座<ピスケス>のアルバフィカ。最強の十二人の二人が翼とマリアを庇うように立ち塞がる。

 

「それに、緒川さん!」

 

「(コクン)」

 

エージェント達の動きを封じたのはマリアと翼のマネージャーでタスクフォースS.O.N.G.のエージェント、そして、飛騨の隠忍の末裔である緒川慎次である(エージェント達を封じたのは『影縫い』。翼も使うが、緒川から伝授された技)。

 

「さっさと出るぞ」

 

「マリア、運転は任せる」

 

「お前達いつの間に・・・・」

 

「行くわよ翼」

 

いつの間にかタクシーの後部座席に座っていたエルシドとアルバフィカに呆れるも、マリアは運転席に、翼は助手席に座り、そのままタクシーを走らせた。

 

「一体なにが・・・?」

 

それを見送った緒川も僅かに戸惑いを浮かべていた。

 

 

ークリスsideー

 

謎の少女を保護した水瓶座<アクエリアス>のデジェルと雪音クリス。

 

「なんだって! あのバカ<響>がやられた!? レグルスが付いて居ながら“襲撃者”にかっ!?」

 

《大した負傷はしていないけど、今救護班が向かっているわ。翼さん達も撤退しつつ、体制を立て直しているみたいなんだけど・・・》

 

「くっ!」

 

友里からの連絡に、クリスは先ほど襲いかかってきた“レイア”と呼ばれた敵を思い出していた。

 

「“錬金術”ってのは、シンフォギアよりも強いのか?」

 

「むっ! クリス!」

 

「あっ!」

 

「っ!」

 

その時、デジェルはクリスと保護した少女を両手に抱えて跳ぶと、デジェル達がいた地点に“何か”が着弾して爆発した!

 

「地面が、溶けている?」

 

「な、なんだコイツは・・・!」

 

デジェルとクリスの目線の先には、着弾した地点に“赤い穴”が拡がり、“赤い爆煙”が立ち昇っていた。

 

 

ー翼sideー

 

マリアが運転するタクシーがロンドンの市街を走り、翼は緒川からの通信を受けていた。

 

《翼さん! 一体何が起きているンですか?!》

 

「すみません、マリアに考えが有るようなので、ソチラは任せます。(ピッ) いい加減説明して貰いたいものだ」

 

「思い返してみなさい。あの時、オートスコアラーと名乗る襲撃者が言った言葉を」

 

「ん?」

 

【待ち焦がれていましたわ】

 

「ヤツの狙いは他でもない、翼自身とみて間違いない。この状況で被害を抑えるには、翼を人混みから引き剥がすのが最善手」

 

「ならばこそ、皆の協力をこじつけるべきだ。今この場には“聖剣”と“毒バラ”もいるのだぞ!」

 

「儘ならない不自由を抱えているのよ。私もエルシドもアルバフィカも・・・」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

* * *

 

それは、保護観察プログラムを与えられる条件として、米国政府から提示された条件だった。タブレットに映し出されたソレを見てマリアは憤慨する。

 

「私にこれ以上“嘘”を重ねろと!?」

 

「君の高い知名度を生かし、事態をできるだけ穏便に収束させるための“役割”を演じて欲しいと要請しているのだ」

 

「“役割を演じる”・・・・」

 

「『歌姫マリアの正体は、我等国連所属のエージェント。聖遺物を悪用するアナキストの野望を食い止める為に潜入捜査を行っていた』と言う筋書きでね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「大衆にはこれくらい分かりやすい英雄譚こそ、都合が良い」

 

明らかに“FIS”に出し抜かれた国連の不手際を隠すための政治的策略であるのは明白だった。

 

「再び、“偶像”を演じなければならないのか?」

 

「“偶像”? そうだ、アイドルだよ。正義の味方にしてアイドルが世界の各地でチャリティーライブを行えば、プロパガンダにもなる。米国は真相隠蔽の為エシュロンからのバックトレースを行い、個人のPCを含む全てのネットワーク上から、関連データを廃棄させたらしいが・・・・」

 

ピッ

 

「っ!」

 

タブレットに表示されたのは、同じように投獄された調と切歌と、暢気に日常を謳歌し笑う響だった。

 

「彼女や君と行動を共にした未成年の共犯者達にも将来がある。例えギアを失っても、君はまだ誰かを守るために戦えると言う事だよ?」

 

「・・・・あの子達に何かしたら、貴方達国連が最も恐れている“彼等”が黙っていると思うの?」

 

「確かに“彼等”を敵に回すのはリスクがある。だが、彼等が如何に強大であろうと、所詮少数の部隊、今や国連のエージェント達からの監視を受けている身だ。そう易々と安易な行動には走らないだろう。それに、君自身も、彼等の“足枷”になるのは御免被りたいのでは?」

 

「くっ!」

 

そしてマリアは国連からの条件を飲むことにした。

 

 

* * *

 

 

「(アルバフィカ達の“足枷”になんかなりたくない! それでも、そんな事<偶像>が私の戦いで有るものかっ!)」

 

「マリア、前だ・・・・」

 

「っ!」

 

アルバフィカの言葉で前を向くと、そこに襲撃者であるオートスコアラーがウェストミンスラー橋の真ん中で、大剣を構えている姿があった。

 

「ちぃっ!」

 

マリアはタクシーのスピードを上げて、オートスコアラーに迫る!

 

「・・・・!!」

 

オートスコアラーは横一閃でタクシーを斬り捨てた!

 

「・・・・いない?「♪~♪~♪~♪~♪」っ!」

 

しかし、タクシーの中には誰も乗っていなかった。首を傾げるオートスコアラーの頭上から、“歌”が聞こえ、見上げると。

いつの間にか脱出していたエルシドにお姫様抱っこされていた翼が、シンフォギアクリスタルを手に、“戦いの歌”を歌う姿があった!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

エルシドから離れた翼は、ステージ衣装が弾け、その身体にギアを纏う。日本神話の荒神スサノオがヤマタノオロチを退治するのに用いた剣、“防人の剣”として有りたい剣の想い呼応してあらゆる刀剣に姿を変える絶剣、『天羽々斬』!

 

エルシドと翼、アルバフィカが着ていたコートに包まれ、アルバフィカにお姫様抱っこされていたマリアも、ウェストミンスラー橋に降り立った。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

翼はフォニックゲインの高める為に歌いながら、刀を身の丈以上の大剣に変えて、オートスコアラーと斬り結ぶが、オートスコアラーはほくそ笑む。

 

「剣に剣でも私の剣には通用しない、『ソードブレイカー』」

 

オートスコアラーが静かに呟くと、大剣の刃から“模様”が浮かび光ると、翼の大剣が砕け、元の刀の形態に戻った。

 

「っ!?」

 

驚きながらも、一端距離を空ける翼。

 

「翼の剣が破壊された!?」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

マリアも驚愕し、基本奏者の戦いにはノータッチのエルシドとアルバフィカも静かに見据える。

 

「(ニヤリ)・・・・・・・・」

 

オートスコアラーは手のひらから“赤い球体が入った小さな結晶”を取りだし、自分の周囲にばら蒔くと結晶が割れて“赤い球体”が地面に染み込み、ソコから赤い光が現れ、光から異形の存在が生まれた。

 

「あれは・・・」

 

「よもや・・・!」

 

「“ノイズ”、どうして・・・!?」

 

それは『フロンティア事変』で『バビロニアの宝物庫』と共に消滅した筈の兵器、“ノイズ”であった。

 

 

ークリスsideー

 

《デジェル! クリスちゃん!》

 

「分かってるって・・・!」

 

「こちらにも現れました・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

三人の目の前に、先ほどの“穴”から現れたノイズ達が前方を囲んでいた。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「反応波形合致! 昨夜の未確認パターンはやっぱり!」

 

「くっ! 『ソロモンの杖』も、『バビロニアの宝物庫』も、『フロンティア事変』で破壊されたのではなかったのか!?」

 

藤尭からの報告に、弦十郎は拳を叩き合わせながら歯噛みする。

 

 

ー翼sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

翼はノイズに斬り込んで行く。

 

「貴女の剣、大人しく殺されてくれると助かります」

 

「そのような肩入れを! 私に求めているとは! “防人の剣”は可愛くないと、友が語って聞かせてくれた!」

 

「こ、こんな所で言う所か!?」

 

次々と迫り来るノイズを翼は斬り伏せて行く!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

カポエラのように回転をしながら脚の剣を展開させて斬り伏せる『逆羅刹』を繰り出す!

 

 

ークリスsideー

 

ドドドドドドドドドドドドドドドドドっ!!

 

「どんだけ出ようと今更ノイズ! 負けるかよっ!」

 

デジェルと少女を後ろに引かせ、クリスは片手のガトリングを展開させて襲い来るノイズを撃ち抜く!

 

 

 

ー翼sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

次々と斬り伏せる翼は“鎧騎士のようなノイズ”が左腕の突起を翼に向けて伸ばし、翼はソレを切っ先で受け止めた!

 

「ウフッ♪」

 

ソレを見たオートスコアラーは笑みを浮かべる。

 

「なっ!?」

 

なんと、突起を受け止めた翼の刀が突起が進むにつれて“赤い粒子”となって消滅していった!

 

「(剣がっ!?)」

 

自身の剣が破壊され反応が遅れ、ノイズの突起が翼に迫る。

 

ガキンッ!

 

ギリギリ回避したが、突然が翼の胸元にあったシンフォギアクリスタルに掠り、皹が走った。

 

 

 

ークリスsideー

 

翼と交戦中のノイズと同じタイプ三体からの攻撃をガトリング砲で防ぐクリス。しかし、そのギアま徐々に赤い粒子となって侵食していくーーーーーーーー。

 

「なん、だとっ!?」

 

侵食されたイチイバルのガトリング砲が消滅し、纏うイチイバルのギアが分解していく。

 

「ノイズだと、括った高がそうさせる」

 

その情景を見下ろすレイアが笑みを浮かべる。

 

 

ー翼sideー

 

同じようにオートスコアラーが、徐々に侵食されて分解されていく天羽々斬を見て笑みを浮かべた。

 

「フフフ・・・・」

 

 

ー弦十郎sideー

 

「どういう事だ!?」

 

「二人のギアが分解されていきます!」

 

「ノイズでは、ないっ!?」

 

弦十郎達もこの異常事態に目を見開いて驚愕の様相を浮かべた。

 

 

ー???ー

 

妖しい光に照らされた王の玉座に座るのは、キャロル・マールス・ディーンハイム。

 

「“アルカ・ノイズ”。なにするものかっ! シンフォギアーーーーーーーーっ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

吠えるキャロルの近くの柱の上に、巨大なカギ爪と赤い髪を大きくロールした影が。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

キャロルが座る玉座の近くに侍る蒼い長髪に高身長の男性が薄い笑みを浮かべていた。

 

 

ー翼sideー

 

「ハァッ!」

 

翼はギアが消滅する前に、足から刀を取り出して“アルカ・ノイズ”を切り捨てる。

 

「ぐっ!」

 

遂に翼の身体をを纏っていた天羽々斬が消滅し、翼はその裸体を晒しながら後ろに倒れる。

 

「翼っ!!」

 

ファサッ・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

倒れる翼に駆け寄ろうとするマリアよりも早く、着ていたロングコートを羽織らせたエルシドが鋭くオートスコアラーを刃のように目を鋭くし睨む。。

 

 

ークリスsideー

 

「あぁっ・・・!」

 

倒れるクリスだが、それを抱き止めたデジェルは、ゆっくりと横にし上着を被せる。

 

「クリスさんっ!」

 

少女がクリスに近づき、デジェルは静かに、冷徹にレイアを見据える。

 

 

英国と日本、それぞれの場所でオートスコアラーと聖闘士が邂逅した。

 

「あらあら、貴方がお相手をしてくれるのですか、山羊座<カプリコーン>・・・?」

 

「地味が似合わない私には、貴方のような美しい戦士こそ相手にふさわしい、水瓶座<アクエリアス>・・・」

 

オートスコアラー達は聖闘士を獲物を見つけた猛禽類のような瞳で睨むが。

 

「“相手”か」

 

「してほしければ相手をしてやろう」

 

「しかし“覚悟”をしておけ」

 

「私はクリスのほど」

 

「「“敵”に対しては容赦などしないのでな!」」

 

聖剣を携えた魔羯、エルシドから蒼色の小宇宙<コスモ>が、氷雪が吹き荒れる宝瓶、デジェルから翡翠の小宇宙<コスモ>が、静かに、力強い輝きを放った!

 




最近シンフォギアを書くモチベーションが上がらない今日この頃。


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シンフォギア 敗北

時は少し遡り、オートスコアラーが翼とマリアを襲撃する前ーーーーーーーーーーーー。

 

「『ファラ・スユーフ』よ、『天羽々斬』の威力偵察に赴くならば、一つ忠告しておく・・・・」

 

暗がりに密むその人物はまるで大剣を持ってフラメンコを踊るように回る『オートスコアラー ファラ・スユーフ』に忠告する。

 

「あら? 私がシンフォギア奏者ごときに遅れを取ると思っているのですか?」

 

「フン、あの程度の小娘達ごときに遅れを取るとは思わん。しかし、奴らの背後には“黄金の英雄”達がいることを忘れるな」

 

「どういう事ですか?」

 

「簡単な話だ。まだ“計画”は始まっていないのに此方の戦力を失う訳にはイカンからな」

 

「私では黄金聖闘士に敵わないと?」

 

薄ら笑みを浮かべていたファラは僅かに顔を不快そうに歪めるが、その人物はお構い無しに言葉を紡ぐ。

 

「自惚れるな、お前達“オートスコアラーごとき”で倒せる程度の者達ならば苦労せん。はっきり言って、格が違う」

 

 

そして現在ーーーーーーーーーーーー。

 

 

「ガハッ!」

 

マリアを襲撃し、翼の天羽々斬の剣を破壊したオートスコアラー、『ファラ・スユーフ』は地面に頭から叩きつけられた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ファラはヨロヨロと立ち上がり前方を睨むと、そこには『アルカ・ノイズ』を斬撃で斬り捨てる山羊座<カプリコーン>のエルシドの姿があった。

 

「な、何が起きたの・・・?」

 

ファラは再びエルシドに向けて大剣を構えるが・・・・。

 

「っ!?」

 

突然大剣に強烈な衝撃が走り後方に後ずさる。

 

「っ! っ! っ! っ! っ!」

 

しかも衝撃は一度では収まらず、さらに何度もファラに襲い掛かり、ファラの腕どころか、身体全体に衝撃が走る。

 

「(ど、どうなっているの!? ヤツは手刀を構えてすらいないのに!?)」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エルシドはまるで、“刀を放とうと構え”でその場に立っていただけであった。

 

「くっ!」

 

バッ!

 

ファラはフラメンコドレスのような衣装を翻して大剣を構えてエルシドに攻め立てようと肉薄したが・・・・。

 

斬!

 

「ガァッ!」

 

大剣を振り下ろそうとした瞬間、斬撃に襲われて、ウエストミンスラー橋の地面に再び叩きつけられた。

 

「一体何をしたの? 山羊座<カプリコーン>・・・!」

 

「貴様が翼の剣を破壊した『ソードブレイカー』なるモノ、おそらく“直接対象の剣に触れる事によって発動する術”。ならば直接その剣に触れずに戦えば良い」

 

「バカな・・・『完全聖遺物 黄金聖衣』を纏っていないただの人間に・・・オートスコアラーのこの私が・・・!」

 

「『聖衣』が無くとも戦う事はできる。“常在戦場”、死は常に覚悟している。この山羊座<カプリコーン>のエルシドを甘く見過ぎた、貴様の浅はかさを呪え」

 

斬!

 

エルシドが目にも止まらない程の速度で手刀を振るうと“小宇宙<コスモ>”を纏った空気の斬撃がファラを襲う。

 

「グァハッ!」

 

斬撃を防ごうと構えるが、エルシドの手刀から放たれた斬撃は大剣ごとファラを吹き飛ばし、地面に叩きつけた。

 

「(斬るつもりで斬撃を放っているのだが、まだヤツは斬られていない・・・・聖衣を纏っていなければこの程度か、まだまだ修行が足らんな・・・)」

 

「がっ! ぐぅうっ!(まさか・・・こ、ここまでの力の差が有っただなんて・・・!)」

 

そして地面に倒れたファラはようやく理解した“格”の違いをーーーーーー。

 

 

ー日本ー

 

そして日本にいるオートスコアラー『レイア・ダラーヒム』もまた、追い詰められていた。

 

「っ!!」

 

バババババババババババババババババッッ!!!

 

レイアは両手の指の間にコインは挟み込み、指弾術のように次々と相手に向かって放つがーーーーーー。

 

カキンっ!

 

放たれたコインは対象に命中する前に静止し、凍結して地面に落ちていった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

悠然と立つ水瓶座<アクエリアス>のデジェルがレイアを睨む。

 

「(『アルカ・ノイズ』は、使えないか・・・・)」

 

すでに『アルカ・ノイズ』はデジェルの凍技『グラン・カリツォー』によって凍結し、氷像と成り果てていた。

 

「(私の相手を取りながら『アルカ・ノイズ』達をも始末していたとは、驚嘆する以外ないな・・・・)」

 

レイア自身も、自分と目の前の黄金聖闘士との“圧倒的な実力の差”を理解した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

スッ・・・・パチンっ!

 

ビキビキビキビキビキビキ・・・・・・・パリーーーーンっ!!

 

デジェルはソッと指を弾いてフィンガースナップさせると凍結していた『アルカ・ノイズ』達が砕け散り、風に乗って戦場に舞う。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

砕けた氷の破片は灯りに照らされキラキラと煌めき、戦場を幻想的に彩る。その光景にレイアは見惚れた。

 

「やはり貴方はふさわしい・・・・」

 

レイアは驚嘆したようなため息をついて、デジェルを見据える。

 

「私には地味は似合わない。水瓶座<アクエリアス>のデジェル、やはり貴方ほど、私が相手取るにふさわしい相手はいない・・・・」

 

「戦場で無駄口を叩くのは素人のやることだ」

 

デジェルはレイアに言葉に冷めた態度をとるが、レイアの後方から更なるノイズが現れる。

 

「そう言わないで欲しい。私は貴方の美しき凍技に感嘆しているのだから」

 

「君が私に何の感情を抱こうとどうでも良い。しかし、一つだけ答えて貰う事がある・・・・」

 

レイアを睨むデジェルの瞳に冷徹な光が閃く。

 

「ヤツは、“アスプロス”は何処にいる・・・!!」

 

ゴオォウッ!!

 

デジェルの全身から猛吹雪が吹き荒れる。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

レイアは表情には出していないが、“アスプロス”と言う単語が出て来て僅かに顔を強ばらせる。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「イチイバル、反応途絶・・・!」

 

「ノイズに・・・ウソだろ・・・? だってシンフォギアが・・・!」

 

「・・・あの分解は、ノイズの“炭素転換”ではないのかっ!?」

 

S.O.N.G.本部のオペレーター陣は“シンフォギアが破壊された”事態に驚愕した。今まで“特異災害指定ノイズ”を葬って来た“聖遺物 シンフォギア”がノイズにあっさりと破壊された現象に信じられないと愕然となったのだ。

ちなみに、エルシドとデジェルが交戦に入ってはいるが、弦十郎もオペレーター陣も、心配の様相が全く無かった。エルシド達黄金聖闘士は間違いなく“超人の域にいる人間”である。例え“聖衣”を纏っていなくても彼らが敗北するなんて弦十郎達は欠片を思っていないからだ。『常勝無敗にして最強無敵の英雄達』、それが弦十郎達の知る黄金聖闘士だからだ。

 

 

ーデジェルVSレイアsideー

 

気絶したクリスを介抱していた少女はレイアを圧倒するデジェルに驚いていた。

 

「(レイアがまるで相手になっていない・・・! これが黄金聖闘士、『完全聖遺物 黄金聖衣』を纏ってすらいないのにこの強さ・・・!)」

 

「もうひとつ答えて貰おう。クリスのシンフォギアを破壊したそのノイズ、ただのノイズではないな?」

 

「“世界の解剖”を目的に作られた『アルカ・ノイズ』を兵器と使えば・・・」

 

「(『世界の解剖』・・・? 『アルカ・ノイズ』・・・?)」

 

後ろの少女がボソッと呟いた言葉をデジェルは聴き逃さなかった。そして少女の言葉に続くようにレイアが呟く。

 

「シンフォギアに備わる“各種防御フィールド”を突破する事など、容易いが・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「(流石に“黄金の英雄の一人”とこの場で戦うのは分が悪すぎるか・・・しかし・・・)」

 

レイアはデジェルの背後にいる少女を睨む。

 

「っ!」

 

「(狙いはあの少女か)」

 

デジェルは気絶したクリスと少女を庇うように前に出るがーーーーーー。

 

ーーーーさせないデスよ!!

 

「「「???」」」

 

突然戦場に響いた声にその場にいた全員が目を向けると、歩道橋の上に広告の垂れ幕をマントのように着ている“暁 切歌”がいた。

 

「切歌くん・・・・?(何故広告の垂れ幕を??)」

 

デジェルは何とも言えない呆れ顔を浮かべるが、切歌はお構い無しに垂れ幕を脱ぎ捨て、垂れ幕は風に飛ばされ、切歌は『シンフォギアクリスタル』を取り出す。そして切歌は歌う、“戦いの唄”をーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

切歌の衣服が弾け飛び、切歌の身体にアーマーが装着され、『フロンティア事変』の時には黒かった部分が明るい黄緑色と白に変わり、左右の肩には大きな突起が二つが装備され、魔法使いの帽子のようなヘッドパーツを装着し、緑色の刃をした大鎌を棒体操のように振り回す。これが切歌のシンフォギア、『シュメール神話の戦女神ザババ』が振るった二刃の1つ、『イガリマ』を装着した!

 

「デスデェス!!」

 

切歌は飛び上がると、大鎌の刃が三枚に展開された。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

フォニックゲインの高める歌を歌いながら、レイアに向けて刃を飛ばした!

 

『切・呪りeッTぉ』

 

放たれた三枚の刃はノイズを切り刻む。

 

ビリビリ・・・・!

 

「っ!♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

本来シンフォギアとの“適合係数が低い”切歌と調とマリアは“LiNKER”を使わなければシンフォギアをマトモに扱う事は出来ない、それ故切歌は一瞬顔を苦しそうに歪めるが、直ぐにノイズに向かう。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

迫るノイズ達に向かって、切歌は身体を独楽のように回転してノイズを切り裂く、さらに両肩の突起からバーニアのように火を吹き、さらに回転速度が加速された!

 

『災輪・TぃN渦ぁBェル』

 

回転を終えた切歌はデジェルの隣に付く。

 

「切歌くん・・・・」

 

「お叱りは後で受けるデス!」

 

「(マニゴルド達が知ればどうなるか・・・・うん、切歌くんは間違いなく苛められるな)」

 

頭の中で悪い笑みを浮かべて切歌を弄りまくるマニゴルドの姿を思い浮かべるデジェル。

 

「良いだろう。しかし、この件はマニゴルドにちゃんと報告させてもらうからな」

 

「(ビクッ)か、覚悟の上デェス・・・・!」

 

保護者<マニゴルド>に苛められる未来を想像したのか、若干震えている切歌に苦笑いを浮かべるデジェルは、気を取り直してレイアを見据える。

 

「派手にやってくれるが。水瓶座<アクエリアス>のようなスマートさと、美しさが足りないな」

 

小馬鹿にした態度のレイアをデジェルと切歌が構える。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「切歌ちゃんが状況に介入?!」

 

「“LiNKER”を投与せずにか?!」

 

「ですが、これで行ければ・・・・!」

 

「くぅっ・・・・!」

 

子供を戦わせたくないと考える弦十郎は苦く険しい顔色を浮かべながらメインモニターを睨んでいた。

 

 

ーデジェルsideー

 

「っ!!」

 

ババババババババババババババババババババババババババババババババッッ!!!

 

レイアは機関銃のようにコインを連射してデジェルを牽制しながら緑色のスパークを出している切歌を見据えたいたが、デジェルの近くにいる少女とクリスにノイズ達が迫っていたのを確認する。

 

「愛しい奏者が危険だが?」

 

「生憎だが、切歌くんがここにいる以上“もう二人”がいると分かっているのでね」

 

クリス達に迫るノイズを桃色の鋸が切り裂き、桃色の影が現れる。明るい桃色の鎧に、桃色のツインテールのようなアーマーを頭に装備し、袖の長い腕に足なローラー付きのアーマーを装着した、切歌のイガリマと同じくザババの刃、『シュルシャガナ』のシンフォギアを纏う“月読 調”だった。

 

「っ!」

 

調は飛び上がると頭のアーマーから小さな桃色の鋸をノイズに向けて射出し、ノイズを切り裂く!

 

『α式 百輪廻』

 

「女神、ザババの・・・・」

 

少女は気を失い倒れようとするが、調が抱きとめ、そのまま移動した。

 

「カルディア・・・!」

 

「あいよ」

 

すると今度は切歌が脱ぎ捨てた垂れ幕でクリスを包んで回収する群青色の癖ッ毛の長髪をした青年、蠍座<スコーピオン>のカルディア。

 

「デジェル、ここは引こうぜ」

 

ポイッ、ポフッ

 

「了解だ」

 

カルディアからクリスを投げ渡されたデジェルはクリスを抱き留めそのまま離脱した。調は『非常Σ式 禁月輪』でノイズを切り刻みながら進むが、突如身体に桃色の火花が散り、『非常Σ式 禁月輪』が解除された。

 

「くうっ!(やっぱり、私達の“適合係数”ではギアを上手くは使えない・・・・)」

 

「オラ調! ずらかるぞ!」

 

カルディアが両腕に切歌と少女を持ち、背中を調にむけた。

 

「う、うん・・・・」

 

調はカルディアの背中に飛び乗ると、デジェルとカルディアは夜の街に消えた。それを見てレイアは呟く。

 

「予定に無い闖入者。指示をください」

 

《追跡の必要は無い・・・・帰投を命ずる。ファラも十分だ。それ以上戦えばどうなるか分かるな?》

 

 

 

 

ーエルシドVSファラsideー

 

「(シンフォギアシステムの破壊を確認・・・これ以上の戦闘行為は不必要ね・・・)分かりました、ではそのように・・・」

 

エルシドと対峙していたファラは持っていた大剣を杖代わりにヨロヨロと立ち上がり、“赤い水晶”を取り出すと足元に落とし“赤い魔法陣”が展開された。

 

「逃げるか・・・?」

 

「貴方と戦うのが如何に無謀な事なのかは良く理解しました。しかし、この辛酸、必ずご返却します」

 

“赤い魔法陣”が光ると、ファラの姿が消えたーーーーーー。

 

「一体・・・・あっ! エルシド! アルバフィカ!」

 

マリアは素っ裸になった翼をエルシドとアルバフィカに見せないようにしようとしたが・・・・。

 

「転移か・・・・」

 

「新たな敵と言う訳だな・・・・」

 

当の二人は全く翼の裸に感心を示さず、ファナが消えた地点を調べていた。

 

「(・・・・・・・・・・・・少しは感心示しなさいよ! 特にエルシドッ!!)」

 

あまりにもクール過ぎる二人にマリアは内心憤然と突っ込んだ。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「調ちゃん切歌ちゃん、デシェルとカルディアと共に離脱。クリスちゃんや保護対象者の無事も確認されています・・・・」

 

「負傷者との合流と回収を急ぎます!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

正直なところ、シンフォギアが敗北した事にS.O.N.G.指令室の空気は重くなっていた。そんな中、弦十郎はモニターに映る保護された少女の顔を難しく睨んでいた。

 

「錬金術師キャロルと、同じ顔の少女・・・・」

 

 

 

ーカルディアsideー

 

太陽が上り始めた道路を走るデジェルとカルディア。

 

「LiNKERが無くたってあんなヤツに負けるもんかデス!」

 

「切ちゃん・・・・」

 

「お前な、そんな様で良く言えんな?」

 

ずっとスパークしている『イガリマ』と『シュルシャガナ』が戦う事ができない事を物語っていた。

 

「分かっているデス!」

 

「・・・・私達、何処まで行けば良いのかな?」

 

「行ける何処まで、デス・・・・」

 

「でもそれじゃ“あの頃”と変わらないよ・・・・?」

 

切歌と調の脳裏には『破滅の巫女フィーネ』の魂の器として集められた『レセプターチルドレン』としてかき集められ、無理矢理LiNKERを投与されてシンフォギア奏者になった調と切歌とマリア、その様子を見るは今生のフィーネであった櫻井了子と、LiNKER開発の為に参加したジョンウェイン・ウェルキン・ゲトリクス。

 

そして『ルナ・アタック事変』によって引き起こる災厄から人類を救うために聖遺物の力を使おうとしたナスターシャ教授を手伝いたい為に戦ったが・・・・。

 

「状況に流されるままに、力を振るっても、何も変えられない現実を思い知らされた・・・・」

 

二人は流されるままにお互いを殺し合うようになってしまった苦い記憶が甦る。

 

「マムやマリアのやりたい事じゃない・・・!」

 

「アタシ達が、アタシ達のやるべき事を見つけられなかったから、あんな風になってしまったデス・・・!」

 

「目的もなく、行ける処まで行った処で、望んだゴールがある保証なんてない。ガムシャラなだけではダメなんだ・・・・」

 

「もしかして、アタシ達を出動させなかったのは、そういう事デスか? デシェルさん?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・マニゴルドとの約束だ。君達に普通の生活を送らせる。それが、『フロンティア事変』でマニゴルドが我々と交わした契約だから。なるべく君達を出動させなかった」

 

「「・・・・」」

 

「くっ!」

 

「クリス?」

 

デシェルの腕の中にいたクリスの意識が覚醒した。

 

「お、目ぇ覚めたようだな」

 

「よかった・・・・」

 

「大丈夫デスか?」

 

「・・・・大丈夫なものかよっ!」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「(聖衣<クロス>を纏ってすらいないお兄ちゃんに助けられて、護らなければならない後輩に護られて、大丈夫な訳ないだろう!)」

 

自分の不甲斐なさにクリスは悔しそうに顔を伏せた。

 

「処でよ、デシェル。お前なんか面白い名前を喋っていたな?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「カルディア・・・・?」

 

「どうしたデスか・・・・?」

 

尋常じゃない威圧感を放つカルディアに調と切歌首を傾げる。

 

「来ているのか? アイツも、この世界に?」

 

「その少女の言葉が真実ならばな・・・・」

 

「へぇ~そうかい、そりゃ面白い事が分かったぜ」

 

好戦的かつ獰猛な笑みを浮かべるカルディア。

 

「カルディア、面白い名前って・・・?」

 

「どうやらまた黄金聖闘士が現れたみたいだぜ」

 

「マジデスか!?」

 

「あぁ、俺達黄金聖闘士の、イヤ聖域<サンクチュアリ>の最大にして最悪の裏切り者・・・『双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士 アスプロス』・・・!!」

 

犬歯を剥き出しにしたカルディアは獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

ー翼sideー

 

ロンドンにいる翼(エルシドの上着を着用)とエルシドとマリアとアルバフィカは、ロンドン警察が封鎖したウェストミンスラー橋で翼はS.O.N.G.と連絡を取っていた。

 

「“完全敗北”・・・イエ、状況はもっと悪いかもしれません。ギアの解除に伴って、身につけていた衣服が元に戻っていないのは、コンバーターの損壊による機能不全と見て間違いないでしょ・・・」

 

「まさか、翼のシンフォギアも?!」

 

「・・・・『絶刀 天羽々斬』が手折られたと言う事だ」

 

その顔には悔しさが滲んでいた。

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

「クリスちゃんの『イチイバル』と、翼さんの『天羽々斬』が破損・・・・!」

 

「了子さんが居ない今、一体どうすれば良いんだ・・・?」

 

敵ではあったが、『聖遺物』に関する研究の第一人者であった櫻井了子がいない状況で、シンフォギアの破損を修復できる人間がいない現状に友里と藤尭を含んだオペレーター陣に不安がよぎる。

 

「レグルスくんと響くんの回収はどうなっている?」

 

《こちらレグルス、今回収されたよ。響は・・・》

 

《もう平気です。ごめんなさい、私がキャロルちゃんとちゃんと話が出来ていれば・・・》

 

「話を、だと・・・?」

 

相手にすらされていなかった相手と話をしようとする響に弦十郎は首を傾げる。

 

 

ーマリアsideー

 

マリア達がいる処に、黒い車が何台もやって来て、マリアを監視していたエージェント達がマリア達を取り囲んで拳銃を向ける。

 

「状況報告は聞いている。だがマリア・カデンツァヴナ・イヴ、君の行動制限は解除されていない。しかも、第一級監視対象である聖闘士達との接触は、極力「うるさいぞ米国」っ!!」

 

拳銃をむけていたエージェント達は、エルシドとアルバフィカが前に出て怯む。

 

「銃口を向けたならば覚悟しろ、その引き金に付けた指に少しでも力が入れば」

 

「両の手首が無くなる事を覚悟しておけ・・・!」

 

『ッっ!!!』

 

エルシドとアルバフィカが凄むとエージェント達は怯えた様相を浮かべる。

 

「待って、二人とも・・・・」

 

マリアがアルバフィカ達を制すると、翼の耳に付けた通信機を取ってS.O.N.G.本部にいる弦十郎に連絡を入れる。

 

「風鳴指令、S.O.N.G.への転属を希望します」

 

「マリア・・・・」

 

「聞けばクリスの『イチイバル』も破損した事、ギアを持たない私ですが、この状況に偶像<アイドル>のままではいられません。もちろん、エルシドとアルバフィカも、そちらに向かわせます。良い?二人とも?」

 

「・・・・・・・・良いだろう」

 

「丁度こちらも、回収した冥衣を置いていきたいと思っていた所だ・・・・」

 

エルシドとアルバフィカとマリア、三人がS.O.N.G.へと転属した。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「さてと、横浜土産も買ったしそろそろ帰るかな~」

 

その頃、横浜で調査していたマニゴルドは、調査に飽きたのか横浜土産を大量に買い込んで帰り支度をしていた。

 

『マニゴルド』

 

「っ! テメェ、よくも俺の前にしゃしゃり出て来やがったな・・・・!」

 

マニゴルドが睨むと、その先の景色いや、空間がガラスが割れたかのように砕け、ソコからある人物が現れた。

 

青い長髪に透き通るような色白い肌、肩幅も広く、顔も整ってはいるが、高圧的な雰囲気を出す男性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ?!『アスプロス』よっ!!」




またしばらく投稿は休むかもしれません。


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一夜明けて

ーレグルスsideー

 

『キャロル・マールス・ディーンハイム』と、『オートスコアラー』と名乗る新たな敵と遭遇した翌日、レグルスと響はリディアン音楽院で授業を受けていた。

 

『うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉんんっ!!』

 

「どうしたのみんな?」

 

突然のクラスメート(男子)の雄叫びに“エプロン姿のレグルス”は首をかしげる。

 

「獅子堂! お前は今日の授業を分かっているのかっ!?」

 

「うん、“家庭科の調理実習”だよね?」

 

本日、リディアン音楽院で授業に“家庭科の調理実習”でレグルスと響達は家庭科室で調理をしていた。

今年で共学になっても男子生徒の数は少なく、レグルスを含んでも6人位の男子生徒しかいない。。

男子生徒の言葉にレグルスが答えると、同じように“エプロン姿の男子生徒達”は奇妙だがスタイリッシュなポージングを取る。レグルスは「(みんな身体軟らかいな~)」と的外れな事を思った。

 

「そう、本日の授業は女子の皆さんのエプロン姿が拝める事ができる家庭科の調理実習・・・!」

 

「去年まで女子校、つまり女の子ばかりの楽園だったこのリディアンに編入する事が出来た俺達にとって」

 

「この事は非常に重要な事なのである、女子の皆さんはあまり多くの食事を取る事は出来ない」

 

「何故ならば、カロリーを気にして料理の量を少なくする。しかし女の子の基本少食なのであまり食べない」

 

「そこで動くのが我ら男子組、我らが女子の皆様がお作りなり残してしまったお料理を我らが美味しく平らげる・・・!」

 

「ふ~~ん、それで?」

 

『鈍いやつだなおのれはぁ!! つまりあわよくば“女の子の手料理が食べられる”って事だろうがぁっ!!!』

 

「あぁ、そっか成る程」

 

気合が入った男子達の魂の雄叫びにレグルスも納得した。ちなみに家庭科室には現在女子生徒がいるのだが、男子は構わず熱弁し。担当教師や女子は呆れたり、苦笑いを浮かべたり、面白そうに眺めていた。

 

「気づかなかったのか貴様ぁっ!?」

 

「これだからモテる男はぁっ!!」

 

「獅子堂お前! この間一年生の後輩から恋文<ラブレター>を貰い、隣のクラスの女子からデートに誘われ、三年生の先輩から告白を受けていただろうっ!?」

 

ダァアンッ!!

 

何故か響と未来と弓美と詩織と創世のグループから包丁を叩き付ける音が響いた(包丁を持っていたのはクラスの問題児とも言われている少女)、男子は構わずにレグルスに詰め寄る。

 

「うん、でも全部断ったけど?」

 

「何をしとんじゃ貴様はぁ!?」

 

「せっかく気持ちを込めて手紙を書いてくれた人や勇気を出した人達に!!」

 

「そんな不実な行いをするとは、テメェには人の情や仁義っつーモンが欠落している!!」

 

「だって良く知らない相手とお付き合いなんてしたくないし・・・・」

 

『ブゥワァカタレがぁっ!! んなもん付き合ってから知っていけば良いではないかぁっ!!!』

 

「知ってるぞ! テメェ、“三年生のマドンナ 雪音クリス先輩”と知り合いらしいではないかっ!?」

 

「日頃から美人と知り合いだから、そこら辺の並の女子では靡かないと言いたいのかっ!?」

 

「貴様のような男がいるからこの世の中から貧困や差別や紛争が無くならんのだっ!!」

 

『この贅沢者めぇっ!!!』

 

それを聞いた女子は「三年の雪音先輩、確かに美人だよね~?」とか、「街で有名な名物カップルの片割れだっけ?」とか、男子の話に便乗していた。

 

「“三年生のマドンナ”???」

 

「そう! ご存知の通りこのリディアン音楽院は、今や世界に羽ばたく日本のトップアーティストである風鳴翼が在籍していた学校!」

 

「だぁが! 俺達が編入した時、風鳴翼さんは卒業してしまっていた!!」

 

「風鳴翼さんの制服姿や、あわよくば“風鳴先輩”と呼びたかった俺達の願いと希望は潰えた!」

 

「あの時流した悔しさの涙の苦い味は!」

 

「心に沸き上がる憤懣と悲哀は一生忘れん!」

 

それ聞いた女子は、「風鳴先輩とお近づきになりたかったな~」とか、「今や手の届かない人だもんね~?」と便乗する。

 

「しかぁし! そんな我らの目の前に“救世主<メシア>”が御光臨なされたのだぁ!」

 

「・・・・それがクリスの事??」

 

『呼び捨てか貴様ぁっ!!??』

 

マドンナであるクリスを呼び捨てに憤るが、直ぐに話を戻す。

 

「あんな一年生、イヤ下手をすれば中学生とも思ってしまいかねない程の小柄体型!」

 

「靡く銀色の長髪と気の強そうなツリ目!」

 

「妖精のような美貌とプロポーション!」

 

「そして何よりも、あの凶悪なバストッ!!」

 

それ聞いて女子連中は、「確かに大きいよね~?」とか、「何食べたらあんなアルプス山脈になるんだろう?」とか、「そのくせウェストや手足も細くてキレイって反則っしょ?」と便乗した。

 

『男の夢が現実になった美少女とお友達とか! 貴様のような男は地獄の業火にその身を焼かれてもまだまだ足らんわっ!!』

 

「いや、そんな事言われてもさ・・・・」

 

「ちくしょう・・・・ちくしょう・・・・なんでこんなに格差が生まれるんだよ・・・・!」

 

「顔か?・・・・顔がものをいうのか・・・・?」

 

「神様は不公平だ・・・・生まれた時からモテる人間とモテない人間を作るなんて・・・・!」

 

「人類皆兄弟ではないのか?・・・・人は平等ではないのか・・・・!」

 

「雪音先輩もこの男の毒牙に殺られたのか・・・・?」

 

「一応言っておくけど、クリスって年上の彼氏がいるけど?」

 

『神は死んだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!』

 

レグルスの言葉に男子は絶望し、四つん這いになって項垂れた。

 

「はいはい、男子の皆さん。遊んでないで、作業に取り組んでください」

 

「は~~い!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい』

 

呆れたように眺めていたが流石にもう止めるべきと考えた教師からの言葉に、レグルスは元気良く返し、他の男子はまさに死屍累々の様子ではあったが、一応返事した。

 

 

ー響sideー

 

「「「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」」」

 

一方響達のグループは、何故か全員でミュージカルクッキングをやりながら調理作業をしていた。

 

「いや~、男子は賑やかだね~♪」

 

「しかし雪音先輩が三年生のマドンナ扱いだったとは驚きですね」

 

「でも気持ち分かるな~、私も初めて雪音先輩見たときはアニメのヒロインか?って思ったし、夏服で薄着になった先輩の胸元を見たら、思わずありがたや~ありがたや~って拝みたくなったもん」

 

「確かにクリスちゃんって、けしからんおっぱいしてるもんね~♪」

 

「響、それクリスが聞いたら絶対怒られるよ・・・・」

 

 

ークリスsideー

 

「へっくちっ!」

 

「雪音さん、風邪ですか?」

 

「い、いえ、大丈夫です。すみません(なんだ? この悪寒は?)・・・・」

 

クリスは言い様のない悪寒が全身を走った。

 

 

 

ー響sideー

 

「あうっ!」

 

「あっ!」

 

包丁で材料を切っていた響は人差し指を少し切ってしまい。空かさず未来が絆創膏を貼った。

 

「包丁を扱っている時に、うっかりしてるんだから」

 

「そうだよね・・・・お料理の道具で怪我するなんて、良くない事だよね・・・・」

 

「ん?」

 

「(シンフォギアは、“みんなを守る人助けの力”なんだ。その力で誰かを傷付けるなんて、したくない・・・・!)」

 

先日の出動でキャロル・マールス・ディーンハイムに言われた言葉が響の心に棘のように突き刺さっていた。

 

「この間の出動で何があったの? 調ちゃんや切歌ちゃんも、検査入院してるんでしょう?」

 

 

ー切歌&調sideー

 

「・・・・・・・・・・・・退屈デェス!!」

 

「病院食は、味が薄い・・・・」

 

検査入院している切歌と調だが、雑誌を放り投げる切歌と、病院食に不満を漏らす調はベッドの上で暇を持て余しまくっていた。

 

「ぐちゃぐちゃ言うない、面倒だが必要なんだからよ」

 

バイトの時間まで二人の見舞いに来ていたカルディア。すると病室の扉が開き。

 

「おうお前ら、暇を持て余しまくっているか?」

 

「「「マニゴルド!?」」」

 

横浜に調査に行っていたマニゴルドが帰って来た。

 

「ほれ、横浜土産に中華街で買ってきた点心だぞ」

 

「「「おおっ!」」」

 

そして桃饅頭やシュウマイや小籠包やらでどんちゃん騒ぎを繰り広げ、医療スタッフに怒られたのは10分後の事である。

 

 

ー響sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「響、未来がむくれてる」

 

「えっ?」

 

「む~~~~!!」

 

近くを横切ったレグルスの忠告で未来を見るとむくれていた。

 

「あぁっ! うん、でも心配しないで! 話し合えばきっと分かってくれるから!」

 

「・・・・・・・・いっつもそう」

 

見るからに空元気の響に、未来もぼやいてしまった。

 

 

ーレグルスsideー

 

「(ふ~~む、前にマニゴルドやカルディアが言ってたなぁ、“響は人間や物事や力の綺麗な部分しか見ていない”って、あながちそうかもな。また溜め込んで暴発しないといいけど・・・・)」

 

レグルスも響の空元気に不安を抱いていた。

 

ちなみにレグルスのいる男子グループはレシピを見ながら真面目に調理をし、レグルスはその容姿を生かして女子達から少しでも手料理を貰えるように交渉役を任されていた。レグルスの人柄のおかけで女子の皆さんは快く了承したが、男子は「なあ? 今から男子全員で貯金出しあって、○ル○13に暗殺を依頼しようか?」、「青酸と塩素係、どっちの毒性が殺傷能力高いかな?」、「出っ歯包丁でマグロの解体ショーツやってみようぜ? 解体するのはマグロじゃないけど・・・・」等と『モテる男のレグルス』に対して、物騒な会話が繰り広げられていのをレグルスは知らなかった。

 

 

 

ー翼sideー

 

その頃、日本へ戻ろうと飛行機に乗っている翼とエルシド、マリアとアルバフィカ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

翼は日本に戻る際、自分の海外進出を後押ししてくれている。メトロミュージックのプロデューサー、トニー・グレイザーとの会話を思い出していた。

 

 

* * *

 

 

【日本に戻ると?】

 

【世界を舞台に歌うことは、私の夢でした。ですが・・・・】

 

【それが君の意思なら尊重したい。だが、いつかもう一度自分の夢を追いかけると、約束して貰えないだろうか?】

 

【・・・・・・・・それは・・・・】

 

また再び戦場に戻る翼は、また舞台に戻れるか約束出来なかった。

 

* * *

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

翼の様子に、勿論エルシド達も気づいていた。

 

《間もなく着陸体制に入ります。シートベルトの着用をお願いします》

 

アナウンスが鳴り、翼達は日本に戻ってきた。

 

 

~一時間後~

 

空港に着いた翼とエルシド、マリアとアルバフィカ、そして緒川は通路を歩く。

 

「翼さーーん! エルシドさーーん! マリアさーーん! アルバフィカさーーん!」

 

声がする方に目を向けると、出迎えに来た響とレグルス、クリスとデジェル、切歌と調がいた。

 

「・・・・フッ」

 

仲間達の姿を見た翼は、小さく微笑んだ。

 

 

 

ーS.O.N.G.基地ー

 

そしてS.O.N.G.基地であるも潜水艇ブリッジに響達シンフォギア奏者組とレグルス達聖闘士組が集まったが、マニゴルドとカルディアはそこに居なかった。

 

「ん? 切歌くん、調くん、マニゴルドとカルディアはどうした?」

 

「あぁ~、そのデスね・・・・」

 

「バックレた・・・・」

 

『ええっ!?』

 

言いづらそうに呟いた切歌と調の言葉に響と翼とクリス、弦十郎達S.O.N.G.オペレーター陣も驚くが、レグルス達聖闘士組とマリアだけは、やれやれと言わんばかりに肩を落としたり片手で顔を被ったりしていた。

 

「あの不良聖闘士共! 何考えてやがる!?」

 

「また新しい敵が現れたと言うのにあの者達は!」

 

「切歌ちゃん! 調ちゃん! マニゴルドさんとカルディアさんは今どこにいるの?!」

 

クリスと翼は憤然としながら毒づき、響は二人を呼び出そうと切歌と調に聞くが、切歌と調も肩を落とし。

 

「マニゴルドはデスね、“気分が乗らないから”って言ってどっか行ったデスよ・・・・」

 

「カルディアも、“爪が疼かない”って言ってマニゴルドと一緒に出掛けた・・・・」

 

「あの二人はもう・・・・!」

 

マリアも二人の性格は知っているが、こんな事態にも関わらずの二人に呆れた様子を浮かべながら額に手を置きながらハアと吐息をする。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

レグルスとエルシドとデジェルとアルバフィカは、あの二人が来るとは欠片も思っていなかったから平然としている。“ギブ&テイク好き”のマニゴルドが無償で動くわけはないし、聖衣を纏っていないデジェルとエルシドに呆気なく敗北するオートスコアラーに“戦闘狂”のカルディアは興味を抱かなかったんだと推察した。

 

「マニゴルドとカルディアの事は後回しにするとして、シンフォギア奏者も勢揃い、とは言い難いかも知れんからな」

 

ため息をつく弦十郎の後ろのメインモニターに、『天羽々斬』と『イチイバル』の『シンフォギアクリスタル』の状態が表示された。

 

「これは・・・・?」

 

「新型ノイズに破壊された、天羽々斬とイチイバルです。核<コア>となる聖遺物の欠片は無事なのですが・・・・」

 

「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が、損なわれている状態です・・・・」

 

「セレナのギアと同じ・・・・!」

 

緒川の問いに藤尭と友里が詳しく解説し、マリアは懐に入れていた“亡き妹のセレナ・カデンツァヴナ・イヴ”のシンフォギア、『アガートラーム』のシンフォギアクリスタルを取り出した。

 

「勿論直るんだよな?」

 

「“櫻井理論”が開示された事で、各国の異端技術研究は飛躍的に進行しているが・・・・」

 

「それでも了子さんでなければ、シンフォギアシステムの修復は難しい・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

破滅の巫女フィーネ、櫻井了子はシンフォギアシステムの第一人者であった。その彼女がいない現状、シンフォギアの修復は不可能となっていた。

 

「弦十郎殿、俺達の黄金聖衣の使用許可は下りたのか?」

 

「イヤ、国連は今回の事態はS.O.N.G.の力のみでどうにかしろとお達しだ・・・・」

 

「はぁ、まだ上層部は我々を危惧しているのですか?」

 

「先日の襲撃で勝手に派手に暴れたからな。上層部はお前達を好き勝手にさせるのが好ましくないんだ」

 

「ふん、そこまで柔軟な対応ができるような奴等ならば苦労はしない。所詮安全な場所で口先だけ動かしている連中に、現場の状況を考える脳ミソなど持ち合わせていないからな」

 

エルシドとデジェルとアルバフィカは、頭でっかちな上層部に呆れ、響達奏者も、弦十郎達大人組も、今まで共に戦ってきた仲間達を未だに危険物扱いする国連上層部に納得できない顔をしていた。

 

「現状、動ける奏者は響くんただ一人」

 

「私だけ・・・・」

 

「そんな事ないデスよ!」

 

「私達だって・・・・」

 

「ダメだ・・・・!」

 

マリアと切歌と調の出撃を弦十郎が却下した。

 

「どうしてデスか!?」

 

「“LiNKER”で適合係数の不足値を補うシンフォギアの運用が、どれ程身体の負荷になっているのか・・・・」

 

「君たちに合わせて調整した“LiNKER”が無い以上、無理を強いる事は出来ないよ・・・・」

 

友里と藤尭も却下したが、調達は納得しない。

 

「・・・・どこまでも私達は、“役に立たないお子さま”なのね・・・・!」

 

「メディカルチェックの結果が思った以上に良くないのは知っているデスよ。それでも・・・・」

 

「こんな事で仲間を失うのは、二度とゴメンだからな」

 

「その気持ちだけで十分だ」

 

“LiNKER”を使った仲間を失った翼や後輩思いのクリスは優しい言葉をかけるが、マリア達は納得していなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・俺が初めて黄金聖闘士として任務に赴いたのは、いつの頃だったけデジェル?」

 

「ん?」

 

今まで黙っていたレグルスがボソッと呟き、デジェルを初め、響達も首をかしげた。

 

「・・・・確か、12歳の頃に獅子座<レオ>の黄金聖闘士として選ばれ、直ぐにある地方の異変調査の為にたった一人で任務に赴いたな」

 

12歳と言えばまだまだ小学生の年齢、その頃に一人で任務に赴いた事に響達は少し驚く。

 

「俺だってその頃には一端の聖闘士として任務をこなしていたんだから、切歌や調だって「やめろレグルス」アルバフィカ・・・・」

 

「立花響達も風鳴司令達も、“平穏な時代に生きてきた人間”だ、私達のように“戦争の時代で生きてきた人間”とは価値観が違うのだ。お子さまを戦わせる事に抵抗を持っているのだ」

 

「未成年の響達だって戦っているのに?」

 

「安全なやり方が大好きな者達に、それを言っても栓無き事だろう」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

何か棘の有る物言い方をするアルバフィカとエルシドに、響と翼とクリス、弦十郎達は訝しそうに見る。

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

ただ、マリアと切歌と調は、遠回しに自分達を援護してくれたレグルス達に小さく笑みを浮かべた。

 

「(やれやれ、この場にマニゴルドとカルディアが居たら、“ガキだ、子供だと見下してんじゃねぇぞ、この平和ボケ軍団がっ!”と、盛大に喧嘩を売っていただろうな・・・・)」

 

デジェルは誰に気付かれることなく、静かに重いため息を漏らしていた。

 

 

 

ーキャロルsideー

 

その頃、禍々しい玉座の前の広間に、翼とマリア、クリスと交戦した『オートスコアラー』の内の三人が、マネキンのようなポーズを取りながら、それぞれの台座に鎮座していた。

 

黄色を基調としたジャズダンス衣装を着た『レイア・ダラーヒム』。

 

緑を基調としたフラメンコ衣装を着た『ファラ・スユーフ』。

 

赤を基調としたゴスロリ服に赤い髪を大きなロール髪に巻き、手には禍々しいかぎ爪を装備した『ミカ・ジャウカーン』。

 

そして玉座に座るのは、プラチナブロンドのセミロングヘアの少女『錬金術師 キャロル・マールス・ディーンハイム』が座っていた。

 

「行きま~す! ちゅっ」

 

青を基調としたメイド服を着た『ガリィ・トゥーマーン』が、『ミカ・ジャウカーン』に口づけした。すると、ガリィからミカへ“何か”が流れる音が響いた。

 

「・・・・あっ・・・・」

 

「フフフ」

 

ガリィが口を離すと、ミカが静かに動き始めた。

 

「あっ・・・・あぁ・・・・はぅぅ・・・・」

 

ギクシャクと動いていたミカはそのまま腰を落とした。

 

「最大戦力となるミカを動かす“思い出”を集めるのは、存外時間が掛かったようだな?」

 

「イヤですよ~、これでも頑張ったんですよ? なるべく目立たずに、事を進めるのは大変だったんですから~」

 

ガリィがミカを動かす為に、何人もの人間達の命を奪ったか、キャロルは知っていたが、大概が世の中のゴミのような人間達だったので気にも止めなかった。ガリィも自分の台座に戻り、ポージングをした。

 

「まぁ問題無かろう、これでオートスコアラーは全機起動、求める闘士達の事は“あの人”に任せるとしても、“計画”を次の改訂へ進める事ができる」

 

「あぁ・・・・ああぁぁ・・・・」

 

ミカがひもじそうにうめき声をあげる。

 

「どうした? ミカ?」

 

「お腹が空いて、動けないゾ・・・・」

 

「・・・・ガリィ」

 

「あぁはいはい、ガリィのお仕事ですよね~」

 

「ついでにもう一仕事、こなしてくると良い」

 

「そう言えばマスター、“エルフナイン”は連中に保護されたみたいですよ?」

 

「把握している」

 

「マスターがご要望の“獅子”は、こちらに来るでしょうかね~?」

 

「フッ、レオも直ぐにわかる。この世でレオを“真に理解出来る”のはオレだけ。そしてレオの“才覚を十全に引き出せる”のは、“あの人”だけだとな」

 

「それで? 件の“あの人”はどうしたのですか~?」

 

「こちらに加わる闘士を集めるようだ。何、“あの人”の行う事に無駄な事等無い」

 

キャロルは口角を小さく上げて笑みを浮かべた。

 

 

 

ーマニゴルド&カルディアsideー

 

そしてその頃、S.O.N.G.の会議をサボったマニゴルドとカルディアは、公園のベンチに腰掛けていた。

 

「・・・・・・・・んで?」

 

「あん?」

 

「わざわざこんな所に連れ出して何のようだよ? 俺はもうすぐバイトなんだけど?」

 

「まぁそう言うな、S.O.N.G.の会議もサボったんだから少しの暇潰しだ・・・・来たぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

マニゴルドの言葉にカルディアは身構えると、二人の周辺の“空間“が歪んだ。

 

「コイツは・・・・!」

 

「・・・・・・・・・」

 

カルディアは犬歯を剥き出し、好戦的な笑みを浮かべ、マニゴルドは睨むように辺りを見渡し、空間が割れ、そこからアタッシュケースを持った青い長髪をした端正な美丈夫が現れた。

 

「久しぶりだな、マニゴルド、カルディア?」

 

「アスプロス・・・・!!」

 

ドオゥッ!

 

カルディアはその男を見や否やスカーレットニードルを放つように爪を突き出すと、アスプロスは余裕でかわした。

 

「おいおい、随分な挨拶だな?」

 

「へっ! まさか裏切り者のテメェも甦ってこの世界にいたとはなっ!? 丁度良いぜ、前々からテメェとは殺り合いと思っていたからな! ここで仲良く殺し合おうぜ!」

 

「待て待て、ここで暴れてはせっかく俺が作った空間も破壊してしまうぞ?」

 

「あん?」

 

「周りを見てみろ、カルディア」

 

「・・・・・・・・こいつは?」

 

カルディアは辺りを見渡すと、奇妙な事に気づいた。まだ昼間の公園には幼い子供連れの親や愛犬と戯れている少年、散歩中の老人、離れた所にはカルディアとマニゴルドを監視している筈の国連の諜報員達ですら、異次元から現れたアスプロスや暴れているカルディアにまるで気づいていない、いや関心すら示していなかった。

 

「空間を歪ませているのか?」

 

「あぁ、俺達三人の周囲の空間を歪ませて、周りの人間達には俺達がベンチで駄弁っている風に見えてんだろうよ、双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士だからできる芸当だな」

 

「その通りだ、わざわざ出向いてくだらん諜報員達に騒がれてはウザったいからな」

 

「それで? テメェは何の目論みで俺達に接触したんだ? わざわざ横浜で精神体を飛ばして、カルディアを連れてここに来いなんて回りくどい事までしてよ? 『お師匠<教皇セージ>』を裏切った侘びを入れたいなら今すぐ土下座して地べたにドタマ擦り付ければ、死なない程度に加減してやる事も考えてやってもいいぜ?」

 

『教皇セージ』。聖闘士達の司令官と呼べる存在であり、マニゴルドの師。どん底で生きていたマニゴルドを聖闘士にし、“命の尊さと美しさ”、“生の素晴らしさ”を教えてくれた大恩人。アスプロスも教皇に恩義が有ったにも関わらずに、“最悪の裏切り行為”を行ったアスプロスには、はらわたが煮えくり返る思いであった。

 

「フフフ、この俺が許しを乞うような真似をすると思っているのか? 蟹座<キャンサー>のマニゴルドともあろうものが抜けた考えをするようになったな?」

 

「ま、俺も一応言ってみただけだ。さて、それじゃ殺り合うか? あぁ!?」

 

ゴオォウッ!!

 

マニゴルドとカルディアの全身から、闘気と殺気を放出され、木々はざわつき、大気は震え、アスファルトの地面に亀裂が走る。

 

「まぁまぁそう結論を急ぐな、俺もお前達と殺り合うつもりなら、聖衣を纏ってきているだろう? 流石にそんな無謀な事をしない」

 

普通の人間なら二人の圧力<プレッシャー>に押し潰されて腰を抜かすのだが、アスプロスはそんな二人からの圧力を涼やかにいなしていた。

 

「なんだぁ? 傲岸不遜、唯我独尊、自信過剰生姜焼き定食のテメェらしくねぇ事をほざきやがって、気持ち悪いな・・・・!」

 

「“二回も死んで”遂にようやく“謙虚”って言葉でも覚えたのか? お前には最も縁遠い上に似合わない言葉だぜ?」

 

性格は兎も角、黄金聖闘士の中でもトップクラスの戦闘力を持ち、その実力に見合った“我の強さ”を持ったアスプロスとは思えない言葉にカルディアとマニゴルドは不審そうに睨むが、アスプロスは気にせずに、高圧的かつふてぶてしい笑みを浮かべ。

 

「お前達、窮屈だと思わないのか? 今の自分達の現状が?」

 

「「あん?」」

 

「国連の愚か者共の監視を受け、シンフォギアと言う聖遺物のオモチャではしゃいでいる子供の保育をし、人命優先、専守防衛などと甘い大義名分を掲げる組織の庇護を受けて、仮初めの平和に現を抜かし、牙の抜けた怠惰な日々をのうのうと過ごす。死刑執行人<マニゴルド>、戦闘狂と呼ばれたお前達が、何とも落ちぶれたモノだな?」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

アスプロスの言葉に、マニゴルドとカルディアは何も言わず黙って聞いていた。

 

「どうだマニゴルド、カルディア、俺達の組織に加わらないか? お前達にはあのように、“息を吐くように綺麗事をほざく連中”の空気は肌に合わない、どちらかと言えば“こちら側の人間”だろう? 我等の下につけ、お前達にもメリットが有るぞ?」

 

「俺達にもメリットだと?」

 

「それってまさか、そのアタッシュケースか?」

 

「そうだ。これにはお前達にとっても為になる」

 

アスプロスがアタッシュケースを開け、中に入っている“モノ”をマニゴルドとカルディアに見せた。

 

「「っ!?」」

 

それを見た瞬間、マニゴルドとカルディアは目を鋭くして、アタッシュケースの中身を睨んだ。

 

 

 

 




スパロボTがまだ途中ですが、発売前に書いていたのを投稿しました。また再来週には続きを書きます。


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エルフナイン

“力”には、“善の面”と“悪の面”があり、その“真実”を受け入れない、理解しない“愚者”に、“力”を持つ資格無し。


ー数ヶ月前 『Frontier』ー

 

後に『フロンティア事変』と呼ばれる事件が起き『フロンティア』と呼ばれる巨大大陸。その場所に捨て置かれたナスターシャ教授とマリア達“FIS”メンバーとその協力者であった、蟹座<キャンサー>のマニゴルド、蠍座<スコーピオン>のカルディア、魚座<ピスケス>のアルバフィカが拠点としていたエア・キャリアが鎮座していた。

 

ビキビキ・・・・! バリンッ!!

 

エア・キャリアの一室、そこは『フロンティア事変』の主犯であった『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』の部屋。そこの空間が歪み、ひび割れ、そこから一人の男性が入ってきた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

男性はウェルのデスクのパソコンを操作し、“あるデータ”を自分のメモリにダウンロードしていた。

 

「・・・・!!」

 

男性は“邪悪な気配”を感知してソッと窓の外を眺めると、遠くで空中に佇み、黒曜石のように妖しい輝きを放つ鎧、『冥衣』を纏う『冥闘士』、『悪神 アタバク』と、そのアタバクの背中にある無数の冥衣の腕に足を捕まれ、無様な泣き顔を浮かべて宙ぶらりんとなったジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスと、地上からその二人を見据えるレグルス達黄金聖闘士と響達シンフォギア奏者だった。

 

「ほぉ、よもや冥闘士が復活するとはな。まぁあの冥闘士は奴等に任せておけば良いな・・・・」

 

完全に我関せずな態度の男性はダウンロードが終わり、改めてダウンロードした中身を吟味する。

 

「フム、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスなる者、“愚か”ではあるが“無能”ではないか。しかし詰めが甘い。自身の『研究データ』を消去せずにいるとはな。お陰でこちらも助かったが・・・・」

 

ウェルの研究データを入手した男性は再び窓の外の遠くを眺めると、顔を汚く歪めて、涙と鼻水と涎を撒き散らせながら落下するウェルの姿を滑稽そうに眺める。

 

「フフフフフ、面白い“道化”だな」

 

そして男性、アスプロスは再び空間を歪ませて穴を作りその中に飛び込み、穴はアスプロスが入ると何事も無かったように元の空間に戻り、アスプロスは『フロンティア』から消えたーーーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

ー数ヶ月後 タスクフォースS.O.N.G.本部ー

 

S.O.N.G.本部である潜水艦の一室の部屋に集まったシンフォギア奏者と、部屋の扉から中の様子を見ている弦十郎とレグルスとエルシドとデジェルとアルバフィカ。そして部屋の中には、先日保護した錬金術師を名乗る少女『エルフナイン』がいた。

 

「ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました。ある時アクセスしたデータベースにより、この装置が“世界をバラバラに解剖するための装置”だと知り、目論見を阻止する為に逃げ出してきたのです・・・・」

 

「“世界をバラバラ”にたぁ、穏やかじゃないな?」

 

「(コクン)それを可能とするのが『錬金術』です。そしてキャロルは、神話の世に錬金術師達が『戦女神アテナ』と共に『完全聖遺物 星座の聖衣<クロス>』を造り上げた、『古代錬金術』にも手を伸ばしています」

 

『っ!?』

 

エルフナインが言った言葉に奏者達と弦十郎は目を見開く。

 

「『古代錬金術』、我等が纏う聖衣を造り上げた錬金術師達が編み出した技術か?」

 

「はい山羊座<カプリコーン>、かつて地上に存在した大陸、ムー大陸の錬金術師達が用いた『古代錬金術』です。ノイズのレシピを元に造られた『アルカ・ノイズ』を見れば解るように、シンフォギアを始めとする万物を『分解する力』は既にあり、その力を世界規模に発動するのが建造途中の巨大装置『チフォージュ・シャトー』になります。キャロルはムー大陸の錬金術で更なる力を『オートスコアラー』達に与えるつもりです」

 

昨日翼とクリスの『天羽々斬』と『イチイバル』を破壊した『アルカ・ノイズ』、シンフォギア奏者を苦戦させた『オートスコアラー』の更なる強化、それらに響達は息を呑む。翼がエルフナインに聞く。

 

「“装置の建造に携わっていた”と言う事は、君もまた錬金術師なのか?」

 

「はい・・・・ですが、キャロルのように全ての力と知識を統括しているのではなく。“限定した目的の為に造られた”に過ぎません」

 

「“造られた”??」

 

「装置の建造に必要な、“最低限の錬金知識をインストール”されただけなのです」

 

「“インストール”と言ったわね?」

 

「必要な情報を知識として脳に転送複写する事です。残念ながら僕。インストールされた知識に、計画の詳細は有りません。ですが・・・・世界解剖の装置『チフォージュ・シャトー』が完成間近だと言う事は分かります! お願いです! 力を貸してください! その為に僕は『ドヴェルグダインの遺産』を持ってここまで来たのです!」

 

「『ドヴェルグダインの遺産』・・・・?」

 

「それは、キャロルの計画に必要な道具なモノなのか?」

 

エルフナインが持っている小箱を見つめる一同。

 

「『アルカ・ノイズ』に・・・・錬金術師キャロルの力に、対抗しうる聖遺物、『魔剣 ダーインスレイヴの欠片』です」

 

『ダーインスレイヴ』、北欧の伝承に登場する魔剣。“一度鞘から解き放たれれば生き血を浴びて完全に吸い尽くすまで鞘に納まらない魔剣”である。

 

「話は変わるけどエルフナイン。一つ聞きたいんだけど?」

 

「なんでしょうか? 獅子座<レオ>?」

 

部屋の外で話を聞いていたレグルスは固い声色でエルフナインに聞きたい事を聞いた、それはエルシドとデジェルとアルバフィカも聞きたい事だった。

 

「『双子座<ジェミニ>のアスプロス』は、キャロルの側にいるのか?」

 

「はい。アスプロスさんは脱出しようとしたボクにあのカード<セイントカード>を渡して、逃がしてくれました」

 

「へぇ~双子座の黄金聖闘士さんか、一体どんな人なんですか?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

暢気に笑う響と違い、レグルス達聖闘士組の纏う雰囲気は違っていた。それを察した弦十郎。

 

「どう言った人間なんだ? 双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士は?」

 

「師匠?」

 

そこで響達奏者もようやく、レグルスの顔色が険しく成っていることに気付いた。デジェルが口を開く。

 

「『双子座<ジェミニ>のアスプロス』。彼は射手座<サジタリアス>のシジフォス、牡牛座<タウラス>のアルデバランと同期の聖闘士で、我々黄金聖闘士の中心的人物だった」

 

「シジフォスと同期?」

 

「そう、シジフォスと共に次代の教皇の候補として仁・智・勇を兼ね備えた聖闘士であり、私も彼に尊敬の念を抱いていた」

 

「デジェル兄ぃが尊敬していたって、そんなに凄いヤツだったのか?」

 

「あぁ凄い人だった、聖闘士としての戦闘力や心構えだけでなく、今の時代で言う神話学や天文学や生化学に物理学に心理学、ありとあらゆる知識を持った方だった。私達を含め、多くの聖闘士達が彼とシジフォスのどちらかが教皇となってもおかしくないと言わしめた程だ」

 

「だが、あれは聖戦が始まる少し前であった。ヤツは、アスプロスはとんでもない事をやってしまった」

 

エルシドが苦虫を噛み潰した顔を浮かべる。他の聖闘士達も憤懣溢れる顔だった。ただならぬ聖闘士達の様子に、奏者達と弦十郎も黙って聞く。

 

「何があったの? アルバフィカ??」

 

「ヤツは、アスプロスは、“教皇を暗殺”しようとしたのだ・・・・!」

 

『っ!?』

 

アルバフィカの言葉にマリア達とエルフナインも驚愕した。黄金聖闘士は『破滅の巫女 フィーネ』が憧憬し羨望し、『フロンティア事変』の主犯のジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスが嫉妬し憎悪した、地上最強の『黄金の英雄』。その1人であるはずの双子座<ジェミニ>が、自分たちの司令塔であるはずの教皇を殺そうとしたのが信じられなかったからだ。

 

「アスプロスは類い希な才気と智力を持ち、そして野心家な部分が有った。それを見抜いていた“マニゴルドの師である教皇セージ様”は、次の教皇にシジフォスを推薦したとウワサを立てさせた」

 

「えっ!? ちょっと待つデス、デジェルさん! “マニゴルドの師”って、マニゴルドのお師匠様って教皇様だったんデスかっ!?」

 

「そう言えば言っていなかったな。マニゴルドの師であり、前任の蟹座<キャンサー>の黄金聖闘士は、我ら『聖闘士の教皇セージ様』だ」

 

切歌を含んで、奏者達も愕然とした。『不良聖闘士』、『ゴロツキ聖闘士』、『チンピラ聖闘士』、『殺人上等の処刑人』『セクハラ蟹』と奏者&S.O.N.G.メンバーから陰で囁かれている、“あの”マニゴルドの師匠が聖闘士達の司令塔教皇様だった事に驚愕したからだ。レグルスが話を戻す。

 

「まぁその話は後にしよう。俺達黄金聖闘士がその事を知ったのは事件が起こって少ししてからだった」

 

「セージ様は次代の教皇をシジフォスにすると偽のウワサを立てさせヤツの、アスプロスの本性を探ろうとした。そして結果は“最悪の形”で現れたのだ」

 

「アスプロスは教皇を暗殺し、聖域<サンクチュアリ>を我が物にようとしたが、寸での所でアスミタがそれを阻止してアスプロスは誅殺された」

 

「“黄金聖闘士、それも教皇候補だった双子座<ジェミニ>のアスプロスが教皇を暗殺しようとした”など、聖戦前の緊張状態だった聖闘士達にはとても公にできず、アスプロスは行方不明とされた」

 

「何で・・・・何でアスプロスさんは暗殺なんて起こしたの?」

 

響はアスプロスの行動が理解出来なかった、教皇を殺そうとし、仲間を裏切り、自らが聖域<サンクチュアリ>を支配しようとするアスプロスの考えが。レグルスやデジェル達も肩を少し落とし。

 

「さぁね、シジフォスが教皇に選ばれたと思って暴走したのか、最初からそんな野心があったのか、当時の俺達には皆目がつかなかった」

 

「しかし、ヤツもこの世界に蘇ったならばある意味では好都合」

 

「ヤツの真意がもし邪悪であり、そしてキャロル・マールス・ディーンハイムの“世界の解剖”とやらに加担するのであれば、我等のやるべき事は1つ・・・・」

 

「聖闘士の事は聖闘士で決着を着ける!」

 

レグルス、エルシド、アルバフィカ、デジェルの目には覚悟が込められていた。“かつての仲間、双子座<ジェミニ>のアスプロスを討伐する”と言う覚悟が。

 

「待ってよ皆! アスプロスさんがキャロルちゃんの味方になっているからって敵だなんて、かつての仲間と戦うの!?」

 

当然、響は聖闘士達を止めようとするが。

 

「生憎だが立花、私達聖闘士には聖闘士のケジメがある。一度最悪の裏切りをした聖闘士に、何も咎め無しで仲間に迎える事はできん・・・・!」

 

「あの男が何の目論見でキャロル・マールス・ディーンハイムに協力し、世界の解剖とやらに力を貸すならば容赦する気は無い・・・・!」

 

「!?・・・・レグルスくん! デジェルさん!」

 

アルバフィカとエルシドはアスプロスの討伐に全くの躊躇が無く、響はレグルスと聖闘士の参謀役であるデジェルに助け船を出してもらおうとするが。

 

「残念だけど響くん。私もアスプロスの“危険性”を知っている。それにヤツを頭もキレる上に油断ならない聖闘士だ。話し合いでもこちらに胸の内を話すことは無い」

 

「俺も初めて会った時からアスプロスは“危険なヤツ”だと思っていたからさ。アスプロスを止めるにしても、討伐するにしても、ヤツとは拳を交えなければ始まらないと思う」

 

デジェルとレグルスもアスプロスと戦うつもりだった。

 

「でも!「立花、止めろ」翼さん!?」

 

「エルシド達にはエルシド達で着けなければならない決着が有る。アスプロスなる者の事を知らない私達がとやかく言うことではない」

 

「今の私達のやるべき事は、キャロル・マールス・ディーンハイムの事よ。アスプロスの事はアルバフィカ達に任せるしかないわ」

 

「そうだな」

 

「(コクン)」

 

「デスデ~ス」

 

翼とマリア、シンフォギア奏者の年長者組に説得され、クリスと調と切歌も同意とばかりに頷き、響は渋々だが黙った。

 

「(何で戦う事ばかり考えるの? 何で話し合いで解決しようとしないの??)」

 

しかし、響の胸の内には、聖闘士達に対する“色々な不満”が少しずつだが大きくなっていった。

 

 

* * *

 

S.O.N.G.司令室であるブリッジに戻った一同は、メインモニターに表示されたエルフナインの身体検査で出たデータを見ており、友里と藤尭が解説する。

 

「エルフナインちゃんの検査結果です」

 

「念のために彼女の、えぇ彼女のメディカルチェックを行った所・・・・」

 

「身体機能や健康面に異状はなく、またインプラントや高催眠と言った怪しい所は見られなかったのですが・・・・」

 

「ですが??」

 

歯切れの悪い友里達に響達は首を傾げる。

 

「彼女、エルフナインちゃんに性別は無く、本人曰く、【自分はただの“人造人間<ホムンクルス>”であり、けして怪しくはない】と・・・・」

 

「つまりエルフナインは・・・・」

 

「錬金術によって生み出された人工生命体、“人造人間<ホムンクルス>”と言う訳か・・・・」

 

『あ、怪しすぎる・・・・』

 

「デェ~ス・・・・」

 

レグルスとデジェルの言葉に続き、奏者達が一斉に同じ言葉を口走った。

 

 

 

~翌日~

 

未来と創世と弓美と詩織と下校しながら、響は前日の翼達との会話を思い出していた。

 

 

* * *

 

【コイツが、ロンドンで『天羽々斬』を壊したアルカ・ノイズ・・・・?】

 

【あぁ、我ながら上手く書けたと思う】

 

紙に描かれていたのは、『チョンマゲを付けたお侍』だった。

 

【何これ? お侍さん? お殿様??】

 

【日本の昔話に出てきそうだな?】

 

【アバンギャルドが効いているが・・・・】

 

【イヤこれ効き過ぎるだろう! 現代美術の方でも世界進出するつもりかっ!?】

 

あまりにもひょうきんすぎる絵面にレグルスとデジェルとエルシドは呆れ、クリスが切れの良いツッコミを炸裂する。

 

【問題は、アルカ・ノイズを使役する錬金術師達と戦えるシンフォギア奏者は、ただの1人だと言う“事実”よ。国連がアルバフィカ達の介入を許可しない限り、戦うのは貴女<響>だけなの】

 

【戦わずに分かり合う事は、出来ないのでしょうか・・・・?】

 

マリアの言葉に響は反発する。

 

【逃げているの?】

 

【逃げている積もりじゃありません!・・・・だけど、適合してガングニールを自分の力だと実感して以来、この“人助けの力”で“誰かを傷付ける事”が・・・・凄く嫌なんです】

 

【立花くん、君が言っているのは“力の綺麗な所”しか見ていない人間の戯言だ・・・・!】

 

【・・・・そしてそれは、力を持つ者の“傲慢”だ!】

 

 

* * *

 

アルバフィカとマリアに一喝された言葉が、響の胸の内に棘のように刺さっていた。

 

「(私は、そんなつもりは無いのに・・・・)」

 

「ひぃっ!!??」

 

「ん?」

 

突然詩織が悲鳴を上げ、周りを見渡すと。

 

髪が真っ白になり、ミイラのような姿で倒れている人々が路上に倒れていた。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「っ!!」

 

愕然となる未来達を庇うように、響は道の先にいる“人物”を見据える。ソコには、『オートスコアラー ガリィ・トゥーマーン』が街路樹に寄り掛かりながら悠然と立っていた。

 

「聖杯に思い出は満たされて、“生け贄の少女”が現れる」

 

「キャロルちゃんの仲間、だよね?」

 

「そして貴女の戦うべき敵」

 

「違うよ! 私は人助けがしたいんだ! 戦いたくなんかない!」

 

「チッ!」

 

響の言葉にガリィは不愉快そうに舌打ちすると、“赤い光が宿る黒い小さな結晶”をばら蒔く。地面に当たった黒い結晶が砕け、中の光が地面に浸透すると、“六角形の陣”が現れ、そこからノイズが現れた!

 

『キャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

ノイズの出現に、未来達は悲鳴を上げた。

 

「貴女みたいな“面倒くさいの”を戦わせる方法は良~く知ってるの♪」

 

「コイツ性格悪!」

 

「アタシ達の状況も良く無いって!」

 

「このままじゃ・・・・!」

 

ニンマリと笑うガリィに創世は毒づき、弓美と詩織は状況の悪さに脅える。

 

「頭の中のお花畑を踏みにじって上げる♪」

 

スッパチン!

 

ガリィが指を鳴らすと、ノイズ達は響達に迫る!

 

「くっ!」

 

響は『ガングニールのシンフォギアクリスタル』を取りだし、聖詠を唄おうとしたがーーーーーー。

 

「~~~~」

 

「響?」

 

「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!・・・・・・・・歌えない?」

 

「えっ?」

 

響の様子に、ガリィは不快そうに顔を歪める。

 

「いい加減観念しなよ」

 

しかし、響自身も戸惑っていた。

 

「聖詠が、胸に浮かんでこない・・・・」

 

『っ!?』

 

「あ?」

 

「ガングニールが、応えてくれないんだ!」

 

立花響が、撃槍<ガングニール>が、折れた瞬間だったーーーーーー。

 

 

 




スパロボTがようやっと全ルートクリアしました! 今回のスパロボTは良かったですね。トチロー&オオタコーチは生存してほしかった。ラスボスが残念だった、アールフォルツや魔獣エンデの方がマシ。


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『自然界の武装』

今回、作者なりにシンフォギアがノイズを倒すメカニズムを考察しました。そしてガリィにオリジナルを与えます。


それは、『フロンティア事変』が始まる少し前、マリア・カデンツァヴナ・イヴは、今は亡きナスターシャ教授から『シンフォギアクリスタル』を渡される。

 

【これはセレナの『アガートラーム』??】

 

【破損したシンフォギアを作戦行動に組み込む事はありません。持っていなさい】

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

【これから、“偽り”を背負って戦わなければならない貴女に、“小さな御守り”です・・・・】

 

優しい女性、マリアに“偽り”を背負わせなければならない事へのナスターシャ教授なりの不器用でささやかな優しさに、マリアは涙を流した。

 

【~~~~~! ありがとうマム。大丈夫よ、私、セレナのように強く輝けるかな?】

 

* * *

 

「強く・・・・」

 

S.O.N.G.の食堂で食事を摂っていたマリアは過去の情景を思いだし、静かに呟く。

 

ブーン! ブーン! ブーン! ブーン! ブーン!

 

「っ!」

 

すると、アルカノイズ出現の警報がけたたましく鳴り響き、マリアは司令室へと向かった。

 

 

 

ー響sideー

 

「ーーーー!! ーーーー!! ーーーー!!」

 

どんなに聖詠を唄おうとしても声が出ず、ガングニールを起動できない響に焦燥が浮かぶ。

 

「何で・・・・何でガングニールが応えてくれないの!?」

 

そんな響をガリィは侮蔑を込めたまなざしで見据え。

 

「全く、“役立たず”に成り果ててしまうとは、もう良いです。少し現実を見せてあげますよ、その“お花畑”の脳ミソに!」

 

瞬間、ガリィの目に思いがけない姿が写った。響達の後方を“獅子”が横切った幻影を・・・・。

 

「っ!?」

 

『???』

 

ガリィは目を擦りながら、獅子の横切った方向へ目を向け、響達もその方向に目を向けるとそのには、ガリィによって殺され横たわった人達の見開いた瞳を閉じている、レグルス・L・獅子堂がいた。

 

『レグルス君(レグっち)(レグルスさん)!!』

 

響は驚き、未来と創世、詩織と弓美は“最も頼りになる人物”の登場に喜びの声をあげた。

 

 

ーレグルスsideー

 

「酷いな。こんなの、人間の死に方じゃないな・・・・」

 

既に事切れてしまった人達の亡骸を悼むように、レグルスは呟いた。

 

「何故ここに貴方がいるのですか? 獅子座<レオ>?」

 

「ウチの参謀を甘く見すぎたね、翼の天羽々斬とクリスのイチイバルをアルカ・ノイズにより破壊された。だったら今度は、こっちに残された戦力である響のガングニールを破壊しに来ると踏んで、ずっと俺がガードに付いていたんだよ」

 

「チッ、水瓶座<アクエリアス>ですか? 余計な事を・・・・! まぁ良いですよ。貴方はキャロル<マスター>がご要望の黄金聖闘士、ガングニールの奏者を片付けたら赴く所でしたから、好都合です」

 

パチン・・・・!

 

ガリィが指を鳴らすと、ゆっくりとレグルスに囲むアルカ・ノイズ達、ガリィは勝利を確信したのか、バレエのようにクルクルと回転する。

 

「どうしますか獅子座<レオ>? 貴方には魚座<ピスケス>のような薔薇も、水瓶座<アクエリアス>のような凍技も無い、アルカ・ノイズに触れればその身を炭化消滅してしまいますよ? 大人しく私に付いてきてくれますか? それとも戦いますか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスは瞑目してゆっくりと腰を据える。

 

「おやおや? よもや諦めましたか? キャロル<マスター>が同士として迎え入れたいと願う人物だからどれほどかと多少期待したんですがね、残念です♪」

 

口調を失望した声色だったが、顔は愉快そうにニヤけていた。

 

「貴方がキャロル<マスター>の役に立つとは思えません。だ・か・ら・・・・さようなら♪」

 

ガリィはレグルスに向かってアルカノイズをけしかける。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

しかしレグルスは迫り来るアルカ・ノイズに恐れる素振りも見せずに静かに佇む。

 

『レグルス君(レグっち)(レグルスさん)っ!!』

 

響達が叫び声を上げ、アルカ・ノイズがレグルスの半径5メートル以内に入ったその瞬間、レグルスは瞑目したまま思考する。

 

「(思い出せ・・・・! 『バビロニアの宝物庫』で無量大数のノイズを相手取っていた時に見た、エルシドの『聖剣抜刀<エクスカリバー>』を・・・・!)」

 

レグルスはゆっくりと小宇宙<コスモ>を腕に集中させ、イメージする。

 

「(俺の腕は“破壊と守護の腕”、“地上に災厄を招く邪悪を打ち破る破壊の腕”、“平和を望む牙無き人々を守護する腕”、破壊と守護、相反する力を持つ腕を、“繋がりを断ち切る大鎌”にする!)」

 

アルカ・ノイズがレグルスに間合いに入ったほんの刹那の瞬間、光速の黄金聖闘士にとってはその僅かな距離ならば、アルカ・ノイズを殲滅するには十二分。

 

「『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』!!」

 

ザシュン・・・・・・・・ッ!!

 

その音が小さく響いた瞬間、レグルスの範囲にいたアルカ・ノイズ達は横一文字に斬り裂かれ炭化消滅した!

 

「なっ!!??」

 

『うっそ!?』

 

ガリィだけでなく、響達をも驚愕した、今レグルスは『完全聖遺物 黄金聖衣』を纏うこと無く、シンフォギア世界の人類の脅威である筈のノイズを上回るアルカ・ノイズを、人の身で凪ぎ払ったからだ。

 

「な、何をしたのですか!? 何故人の身でアルカノイズを破壊出来たのですか!?」

 

ガリィにとっても信じられなかった。黄金聖闘士は聖衣を纏わずとも超人的な強さを持っていることは、先の『フロンティア事変』で『完全聖遺物 冥衣<サープリス>』を纏ったジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスを圧倒した情報から分かってはいたが、所詮ウェルキンゲトリクスは『完全聖遺物を纏っただけの“普通の人間”』に過ぎず、アルバフィカやデジェルのような特殊な技法を持っていないレグルスに、ノイズを凌駕するアルカ・ノイズに対抗できないと考えていたからだ。

 

「俺にはアルバフィカのような薔薇も、デジェルのような凍気も、マニゴルドやアスミタのような特殊能力も無い。だがーーーーーー」

 

『っ!?』

 

流れるような動きで腕を振るうとガリィや響達の目に、レグルスの腕に切歌の『イガリマ』のような大鎌を携えているように錯覚した。

 

「この『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』は“力の流れ”を断ち切る技。ノイズの内部にエネルギーの流れが有り、人間で言えば神経や血管のようなモノが身体中に張り巡らせられている。そしてシンフォギアのフォニックゲインは、その流れに干渉を起こしてノイズの攻撃から奏者を守ったり、ノイズを破壊しているんだ、同じ周波数の音で音の波を消す『ノイズキャンセリング』ってのと同じだ。そして俺は『獅子の大鎌<ライトニングクラウン>』によってノイズを元に造られたであろうアルカ・ノイズの内部のエネルギーの流れを断ち切り、破壊したのさ」

 

「う、嘘です! そのような力の流れが有るとしても! そんな芸当が人間にできる筈が・・・・!」

 

「生憎と、“目”は良いんでね!」

 

愕然となるガリィと対照的に、レグルスは不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

ー響sideー

 

そしてその様子を見て創世と弓美と詩織は感嘆としていた。

 

「レグっちって本当に凄いんだね」

 

「圧倒的、ですわね」

 

「まさに無敵のヒーローって感じ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「(響・・・・?)」

 

ただ、響だけは僅かに浮かない顔色をしており、それに気付いたのは未来だけだった。

 

「(私はガングニールを纏えないとアルカ・ノイズと戦えない、でもレグルス君は戦える・・・・エルシドさんも、デジェルさんも、マニゴルドさんも、カルディアさんも、アルバフィカさんも、アスミタさんも、黄金聖闘士のみんなが、聖遺物に頼る事無く戦える・・・・いつもそうだ、レグルス君達は“最速で最短で真っ直ぐに、一直線に誰かを救う力”を持っているのに、どうして戦う事にしか使わないの? どうして私には・・・・!!)」

 

響は気づいていない、『ルナアタック事変』の頃から自身の中に芽生えている黄金聖闘士に対する“黒い感情”にーーーーーーーーーーー。

 

 

ーレグルスsideー

 

「フゥ、アスプロス様から黄金聖闘士とはなるべく戦うなと言われていましたが、なるほど想像以上ですねこれは・・・・」

 

「さて、ガリィって言っていたっけ? このまま大人しく投降して縛につくなら良し。抵抗するならば無理矢理に踏ん締まるけど?」

 

「ン~♪ 私って他のみんなと違って、あんまり暴力に訴えるやり方は好きじゃないんですよ~♪」

 

無関係な人間を手当たり次第に殺しておいて、いけしゃあしゃあと分かりやすい戯れ言を言いながら、クルクルと回るガリィ。

 

「で・も、獅子座<レオ>の貴方を迎え入れたいと願うマスターの為にも、ここは戦わないとですね~♪ まぁ、五体満足とはいかないですが♪」

 

ガリィは懐から、“青い籠手”を取り出して両手に装備した。

 

「(なんだ? あの籠手は?)」

 

「フフフフフ♪ まだ未完成品なれど、コレの実験には丁度良い相手ですね!」

 

ガシャンッ!

 

ガリィは両手に装備した籠手を叩き合わせて甲高い音を鳴らすと、籠手の手の甲に“魔法陣”イヤ“錬成陣”が現れ煌めく。

 

「ハァ・・・・!? (白い息が出ている? まだ夏頃なのに? それに何だ? 周囲の気温が下がっていっているような)」

 

「それでは、いきますよ!!」

 

ドンッ! ビキビキビキビキビキビキ!!

 

ガリィが籠手で地面を叩くと、アスファルトを貫いて鋭く巨大な霜柱が次々と飛び出してきて、レグルスに向かった。

 

「霜柱っ!?」

 

レグルスは跳躍してかわすが。

 

「これはどうですかね!?」

 

ガリィが籠手を天に翳すと、今度はレグルスの頭上に巨大な雹と巨大な氷柱が雨のようにレグルスに襲いかかる!

 

「『ライトニングプラズマ』!!」

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

とっさに『ライトニングプラズマ』で粉々破壊し、地面に着地したレグルス。

 

「ん!?」

 

「シャァッ!!」

 

着地したレグルスに空かさずガリィが籠手の指から伸びた“氷の爪”をレグルスの顔面に向けて突き刺そうとする。

 

「くっ!」

 

間一髪かわすレグルスだが、頬をかすり、僅かに血が流れる。

 

「ハァッ!」

 

「フッフ~♪」

 

レグルスが反撃と拳を突き出すが、ガリィは滑るような動きでレグルスの動きを回避した。

 

「(彼女の足元に氷が張っている。そうか、あの氷をまるでフィギュアスケートのように滑りながら移動しているのか)」

 

「まだまだいきますよ~♪!」

 

ガリィは氷の道を作りながら滑り、レグルスに氷柱の爪で攻め立てる。

 

「うわッ!」

 

「アハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

ガリィの楽しげに笑い声を上げながらレグルスを攻め、籠手の腕の前腕から鰭のような形をした氷の刃を生み出し、更に激しく攻め立てる!

 

「くぅっ!」

 

スケートのように滑りながら戦うガリィの動きに翻弄され、レグルスは狂ったリズムを整えようと後方へ跳躍して距離を空ける。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

「ウフフフフ♪ どうですか? マスターとアスプロス様が共同開発された、『自然界の武装<エレメントアームズ>』の能力は?」

 

「『エレメントアームズ』? それがその武器の名か?」

 

「そう、『自然界の四大元素』、『火』、『土』、『風』、そして『水』。錬金術において重要な因子であるこの4つの元素の内、私ガリィが司るのは『水』。そして『氷』は水から発生した水に属する事象、大気中やアスファルトの下の地面に含んだ水分を瞬時に冷却固定化する事によって、武器として扱う事が可能なのです♪ この籠手はまだ完全に完成されていない『エレメントアームズ』の極一部の部品、まぁ聖闘士で言えば『完全聖遺物 アテナの聖衣』の“腕の部品”だけなんですがね♪ 私自身の能力と合わさる事で絶大な能力を引き出すのですよ♪」

 

「(腕だけでこれ程の力を発揮するとはな。だが氷使いならデジェルの戦法で理解している)」

 

レグルスは再び構えると、ガリィは不快そうに目を細める。

 

「(やはり簡単に捕まる気は無いですか。しかしこれ以上真正面からこの男と戦うのはコチラがあまりにも不利・・・・)」

 

ガリィとて黄金聖闘士の力を侮ってなどいない、むしろS.O.N.G.の奏者全員よりも、黄金聖闘士1人と戦うのは無謀であることは、先の戦闘で黄金聖闘士に圧倒されたファラとレイラの無様な姿から理解していた。

 

「やはりここは・・・・“足手まとい”を利用しない手はないですねぇ~♪」

 

「っ!」

 

ガリィが響達を一瞥し、邪な笑みを浮かべた事でレグルスは動物的直感が反応した。

ガリィは片方の手で地面を叩き、もう片方の手を天に翳すと、地面から鋭く大きな霜柱が隆起しながら、空からは岩のように巨大な雹が、響達に襲い来る!

 

『っっ!!?』

 

響達も気付くが、すでに氷柱と雹が自分達に迫っていた。

 

「『ライトニングプラズマ』!!」

 

聖衣が無くとも光速に近い速度で拳を飛ばす事ができるレグルスは、すぐに響達に襲い来る氷の凶器を『ライトニングプラズマ』で破壊するがーーーーーーーー。

 

「ス・キ・あ・り♪」

 

「っ!?」

 

ガリィは響達に目を向けて一瞬の隙が生まれたレグルスの眼前に来ると、籠手で掌底を叩き付けようとする。

 

「うおぉっ!!」

 

ドンッ!

 

レグルスはガリィの掌底を右手の拳を叩き付けて受け止めるが。

 

「ウフフフフ」

 

ガリィは掴んだレグルスの右腕を掴み、含み笑みを漏らす。

 

「触っちゃいましたね~♪」

 

「何?・・・・っ!?」

 

レグルスはガリィの笑みに嫌な予感を感じて拳を見るとレグルスの右腕が、“凍りついていた”。

 

「レ、レグルス君の腕が!」

 

「凍っている!?」

 

「こ、これは・・・・! ぐああああああああああああああああああっ!!」

 

右腕の氷が砕けると、レグルスの制服の腕の部分が破け、凍傷を受けたように腕が色黒く変色し、亀裂のような傷が走り、血が吹き出た!

 

『レグルス君(レグっち)(レグルスさん)っ!!』

 

「ぐぅぅううううっ!! だぁらああああああああああああっ!!」

 

「ヒヒヒヒヒヒ、それじゃダメですね♪」

 

レグルスは今度は左脚で攻撃しようとするが、ガリィは歪んだ笑みを浮かべてレグルスの左脚を掴むと。

 

ジュウウウウウウ・・・・ジュワァンッ!!

 

「がああああああああああっっ!!」

 

今度はレグルスの左脚の制服が膝まで破れ倒れる。レグルスの左脚が火傷したように赤くなり、湯気を出していた。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」

 

ガリィは後方へ跳躍して距離を空けて、愉快そうに笑い声を上げる。響達はレグルスに近づく。

 

「こ、これって一体・・・・!」

 

「レグルスさんの右腕が、まるで凍傷にかかったように色黒くなり、とてつもなく冷えきっています!」

 

「左脚なんてまるで沸騰したみたいに真っ赤になって、物凄い熱いよ!」

 

弓美が愕然となり、詩織と創世がレグルスの右腕と左足を見て驚愕する。

 

「ま、まさかこれは・・・・!」

 

「レグルス君!」

 

「一体これって!?」

 

「前に・・・デジェルに教えてもらった・・・人の身体は70%が“水分”でできている・・・ガリィは空気中と地中の水分をあの籠手で瞬間冷却させることで武器として使っていた、もしかしてこの右腕と左脚も・・・!」

 

「ご明察!パチパチパチパチパチパチ!!」

 

レグルスの言葉にガリィは大正解と言わんばかりに賑やかに手拍子をした。

 

「そう! この籠手は“水分”さえあれば瞬間的に冷却ならびに氷結させる・・・・勿論! 人間の“体内の水分”でもね! 一瞬で気化冷却させる事ができるのですよ!!」

 

「でも、レグルス君の左脚の火傷は一体・・・・?」

 

「フフフフフフ、何も冷却させるだけの一辺倒だけではないのですよ♪ 気化させる事で冷却の逆である沸騰も引き起こす事ができます! 氷結と沸騰も水に属する事象! このガリィと『水のエレメントアームズ』にかかれば造作もなし! しかし残念♪ 後コンマ数秒長く触れていれば、獅子座<レオ>の右腕は切断♪ 左脚は内部からの沸騰によりボイルになる所だったのに♪」

 

ゾッとする事をガリィは楽しげに喋り、その態度に響達は寒気がした。

 

「貴方は、キャロルちゃんが仲間に迎えようとしているレグルス君を殺そうとするの!?」

 

「そんなつもりはありませんよ。ですが、あまりにも獅子座<レオ>さんが頑なですからね~・・・・手足の何本か破壊して連れて行こうと思ったんですよ♪」

 

『(ゾクッ!!)』

 

悪びれ無しでレグルスに対して残忍な行動を起こそうとするガリィの歪んだ笑みに響達はゾッと背筋に恐怖が走った。

 

「それじゃ、役立たずの奏者とついでにオマケのお友達の人達を片付けたら、獅子座<レオ>さんを連れていきましょうかね♪」

 

「ーーーー!! ーーーー!! ーーーー!!」

 

響がレグルスと未来達の前に出て、シンフォギアクリスタルを取り出してガングニールを起動させようとするが。聖詠が歌えず起動できなかった。

 

「(何で、何でこんな時に歌えないんだよ!? 何でシンフォギアが起動しないんだよ!? 何で私は、こんな時に!!)」

 

「役立たずの奏者は早々にご退場して下さいよ、うっとおしくて目障りですから!」

 

戦えない響の惨めな姿に、苛立たしそうな態度のガリィが空気中から巨大な氷柱を生み出し、響に向かって投擲した!

 

「あぁ!?」

 

「響ーーーーーー!!」

 

響の小さな悲鳴と未来の悲痛な叫びが響くが・・・・。

 

ヒュン・・・・グワシャンッ!!

 

響の後ろから光が一閃すると、巨大な氷柱な粉々に砕け散った。

 

「えっ・・・・?」

 

「レグルス君・・・・?」

 

「・・・・・・・・」

 

響は眼前まで迫ってきていた氷柱が破壊された事に唖然となり、未来は左手の拳を突き出して氷柱を破壊したレグルスに驚き、ガリィは目を細めてレグルスを睨む。

 

「まだ抗うのですか? 獅子座<レオ>? あまり悪あがきが過ぎると、無様になるだけですよ?」

 

「生憎と、諦めるって単語は知らないんだよね・・・・」

 

左足が沸騰により動けず、右足だけで立ち上がり凍傷にかかっていない左腕を構える。

 

「フン、手足を二本ほど動けなくしてしまえば大人しくなると思いましたが、どうやら残った手足も使えなくしないとならないようですね!」

 

ガリィは籠手『エレメントアームズ』で再び大量の巨大な氷柱を出現させると、機関銃のように巨大な氷柱を乱射した!

 

「『ライトニングプラズマ』!!」

 

レグルスは残った左腕から光速の拳を放ち、氷柱を破壊する!

 

「『完全聖遺物 黄金聖衣』を纏っていない状態でまだ戦おうと言うのですか? 聖闘士と言うのは状況判断ができないのですか? 脳ミソまで筋肉で出来ているから“思考”って言葉が、欠落しているのですね!!」

 

ガリィは籠手を地面に叩き付けて、巨大で鋭利な霜柱がレグルスに襲い来る!

 

「・・・・・・・・嘗めるな!!!」

 

左腕から閃光が煌めき、霜柱を破壊する!

 

「あっ!」

 

その際、霜柱の欠片が響の首に掛けられたシンフォギアクリスタルの紐を切ってしまい、シンフォギアクリスタルが空に吹き飛ぶ。

 

「手足の一本や二本使えなくなった? 聖衣を纏っていない? そんなの些細な事だ。例え手が砕け、脚がもげようとも、この命ある限り! 俺が戦わない理由になんかにはならないんだ!!」

 

レグルスが叫ぶのと同時に、黒塗りの車がレグルス達の近くに急停止し、その車からS.O.N.G.エージェントにして翼のマネージャーである緒川慎司が降り、助手席から桃色の長髪の女性が飛び出した。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

その女性、マリア・カデンツァヴナ・イヴが、ガングニールのシンフォギアクリスタルを掴み戦いの歌、聖詠を唄う!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「マリアっ!」

 

「マリアさん!?」

 

『っ!?』

 

マリアが聖詠を唄うと、ガングニールのシンフォギアクリスタルが光輝き、マリアの衣服が弾け、その身を黒き鎧を纏う。

 

「ハァッ!」

 

先の『フロンティア事変』の最後の局面、響に渡した『撃槍 ガングニール』が、再びマリアが身に纏った。

 




ー『水の自然界の武装<エレメントアームズ>』ー

大気中ならびに地中の“水分”を一瞬で氷結と沸騰させる能力を持つ。“水分”があれば生物や植物にも有効。


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迷いの撃槍

マリア・カデンツァヴナ・イヴは司令部で、ガリィとガリィが召喚したアルカ・ノイズと遭遇した響達の状況を見ていた。『天羽々斬』と『イチイバル』が破損され、こちらの戦力を削られ、キャロル達が今度は響の『ガングニール』を狙ってくるとデジェルが予測し、それが見事に当たったが。

 

「響が、ガングニールを起動できない・・・・?!」

 

響が聖詠を歌うことができなくなり、直ぐにレグルスが駆けつけて安心したのも束の間、ガリィが『エレメントアームズ』なる装備を付け、霜柱や雹や氷柱を出してレグルスを攻め立てた状況を見て、聖衣を纏っていないレグルスが苦戦しているのを見て、直ぐに緒川と共に現場に急行し、丁度空中に飛ばされたガングニールのシンフォギアクリスタルを手にして、マリアが聖詠を歌い、ガングニールを纏った。元々響のガングニールは『フロンティア事変』の最後にマリアから譲り受けた物で有ったからマリアが纏う事が出来たのだ。

 

「マリア・・・・ぐぅっ!」

 

「レグルス君、しっかりしてください!」

 

「(レグルス、あんな負傷した身体で戦っていたのね。貴方の稼いでくれた時間、無駄にはしないわ!!)」

 

右腕の凍傷と左足の沸騰による負傷でヨロけるレグルスを緒川が支える。それを一瞥したマリアは、両手のガントレットを合わせて飛ばし、突撃槍のアームドギアに変形させ、シンフォギアの力を高める聖詠を歌うマリア。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

『HORIZON†SPEAR』

 

LiNKER無しでの戦闘の負担を押して、突撃槍の矛先を展開させエネルギー砲撃でアルカ・ノイズを凪ぎ払って行く。

 

「(私も戦える! この力さえあれば!)」

 

「黒い、ガングニール・・・・!」

 

戦うマリアの姿を、響は険しい顔で睨んでいた。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「緒川さんとマリアさん、到着!」

 

「ガングニールでエンゲージ!」

 

「マリア君! 発光する攻撃部位こそが解剖機関! 気をつけて立ち回れ!!」

 

 

ーマリアsideー

 

弦十郎からの通信を聞いたマリアの見据える先にいたガリィはさらに『アルカ・ノイズの結晶体』を出してばら蒔き、アルカナ・ノイズを召喚した。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

しかしマリアは負担に顔を僅かに歪ませながらも、アームドギアの突撃槍を振り回し、アルカ・ノイズを蹴散らしていく!

 

「想定外に次ぐ想定外。捨てておいたポンコツが、意外な位にやってくれる・・・・」

 

奮戦するマリアをガリィはニヤケながら見据えていた。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

突撃槍のアームドギアをアルカ・ノイズの一体に向けて投げて貫き、徒手空拳でアルカナ・ノイズを炭化消滅させて、直ぐにアームズギアを回収して大立ち回りを繰り広げるマリア。

 

 

ー響sideー

 

「“私のガングニール”で、マリアさんが戦っている・・・・」

 

尻餅をついたままマリアを見る響の目には、僅かな憤懣があった。

 

 

ーマリアsideー

 

マリアは飛び上がり、アームドギアをガリィに向けて突き刺そうとするが・・・・。

 

ガキンッ! ビキビキビキビキビキビキ・・・・!

 

「あっ!?」

 

ガリィは向かってくる突撃槍を平然と『水のエレメントアームズ』で白刃取りのように止めると、マリアのアームドギアが凍りついていく。

 

「モニターで見ていなかったのですか? 私の『水のエレメントアームズ』は“水分”さえあれば、“空気中”だろうが“大地の中”だろうが“生物”だろうが凍てつかせる。空気中に存在するモノは皆“水分の中にいる”と言っても良いのです。そして私の籠手に触れた瞬間、氷結させる事ができる! 例えアームドギアであろうともね!!」

 

「くっ! それでも!!」

 

「おや!」

 

余裕の笑みを浮かべるガリィに険しい顔になるマリアは、表面が凍った突撃槍のアームドギアの表面の装甲を切り離し、ガリィの両腕を広げさせ、胴体をがら空きにさせた。

 

「フッ!」

 

空かさずマリアは装甲を外し小さくなった槍でガリィの胴体を突き刺すが。ガリィの胸元に、六角形の青い障壁が展開され防がれた。

 

「なっ!?」

 

「『エレメントアームズ』を封じれば勝てるとでも? 元々氷を操るこのガリィだからこそ、『水のエレメントアームズ』を与えられたのですよ」

 

徐々に六角形の青い障壁が広がりにガリィの身体を被う程の大きさとなり。

 

「はっ!」

 

「頭でも冷やしなーーーーーーーーーー!!!」

 

展開された障壁から氷が広がり、巨体の氷柱が伸びて、マリアに襲いくる!

 

「くっ!うぅっ!」

 

間一髪で後方に跳んで回避するマリアだが、LiNKER無しの適合の負担でスパークが走る。

 

「決めた、ガリィの相手はアンタよ」

 

「くぅぅ・・・・」

 

「いっただきまーーーーーーーーーーす!!」

 

ガリィは足元に氷の道を作り、ジグザグに移動しながら籠手から氷の剣を生み出し、マリアに突き刺そうとした!

 

「(ダメだ。もう、身体が・・・・!)」

 

LiNKER無しの負担で動けないマリアにガリィの氷刃が突き刺さる瞬間ーーーーー。

 

シュン・・・グワシャァァァァァァンンっっ!!

 

「何・・・・!?」

 

「あっ・・・・」

 

『っ!?』

 

「フッ・・・・」

 

突然“何か”がマリアのガリィの間を横切り、ガリィの氷刃を砕き、地面に突き刺さる。ガリィとマリアも意表をつかれ、響達と緒川も驚き、レグルスだけは何が起こったのか分かりニヤリと笑う。

 

「これは、まさか・・・・」

 

「そう、“薔薇”だよ」

 

「・・・・アルバフィカ!!」

 

ガリィは後方に飛び、地面に刺さったモノを睨み、レグルスが何が刺さったのか呟き、マリアは喜色の顔で薔薇が飛んで来た方を見る。

 

「危機一髪、だったなマリア・・・・」

 

ウェーブがかかった水色の長髪を靡かせ、黒いスキニーパンツに黒いワイシャツを着用し、美術品のように美しい顔立ちをした“絶世の美男子”と言っても過言ではない美丈夫。魚座<ピスケス>の黄金聖闘士 アルバフィカ。

 

「うわ~~、ビッキーから聞いてはいたけど、魚座の人って本当に超が付くほどの美形・・・・」

 

「少女漫画のアニメキャラみたい・・・・」

 

「とても綺麗な殿方ですね」

 

「三人共、アルバフィカさんは自分の顔の事を言われるの凄く嫌がるから本人の前では言わない方が良いよ」

 

翼やマリアで美形馴れしていたつもりが、初めて見るアルバフィカの絶世の美顔に見惚れる創世と弓美と詩織に、未来がやんわりと忠告した。

 

「さて、ガリィとやら。これ以上戦ると言うなら、私が相手になろうか?」

 

「・・・・ニィ!」

 

鉄をも噛み砕く黒薔薇『ピラニアンローズ』を構えるアルバフィカにガリィはギザギザの歯を剥き出して笑みを作りながら、『水のエレメントアームズ』を構える。しかしーーーーー。

 

《そこまでにすると良いガリィ・・・・》

 

『っ!!?』

 

突然戦場に声が響くとガリィの後ろの風景が歪み、その風景がひび割れ、黒い背広を着用した1人の男性が現れた。青い長髪に端正な顔立ち、佇まい全てに気品を感じるが、その眼差しは自信に溢れた高圧的であり、強者の風格と貫禄の力強さに満ちていた。

 

「あらあら、貴方様がわざわざおいでになることもないと思いますよ?」

 

「フフフフフ何、かつての仲間の顔が見たくてな。それにキャロルも彼を欲しているからな」

 

男性は負傷して緒川に肩を貸してもらっているレグルスとアルバフィカを一瞥する。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

レグルスも男性を静かに見据え、アルバフィカは敵意を込めて睨む。レグルスとアルバフィカの様子にマリアは突然現れた男が誰なのか察した。

 

「アルバフィカ、まさかあの男が?」

 

「あぁ、あの男が双子座、ジェミニの黄金聖闘士、聖域<サンクチュアリ>の最大の裏切り者、アスプロス!」

 

「この人がアスプロス、さん・・・・?」

 

「聖域<サンクチュアリ>を裏切った聖闘士?」

 

響と緒川、未来達も新たな黄金聖闘士に驚く。

 

「久しいなかつての同志達よ。レグルス、その負傷はガリィとの戦闘で受けたのか? ぬるま湯の学校生活で相当に鈍ったのではないか?」

 

「久しぶりだね、アスプロス。本当にキャロルの、協力者になったんだな?」

 

「あぁ、ところでその凍傷と負傷、ガリィの『水のエレメントアームズ』にやられたか? ほぉ! 聖衣を纏っていないとは言え、レグルスをこれほどまで追い込むとは! ガリィよ、『エレメントアームズ』を上手く扱っているようだな?」

 

「当然ですよ。このガリィちゃんと『水のエレメントアームズ』は相性抜群なんですから!」

 

自慢するように『水のエレメントアームズ』を見せながらガリィは自慢気に話すが、アスプロスは含み笑みを浮かべていた。

 

「しかし、黄金聖闘士を甘く見過ぎたな。『エレメントアームズ』を良く見てみろ」

 

「ん? なっ!?」

 

ビキビキビキビキ・・・・!!

 

『水のエレメントアームズ』を見たガリィの顔が驚愕する。『水のエレメントアームズ』の籠手にひびが走り、今にも籠手が砕けそうになっていた。

 

「あれは、レグルス・・・・?」

 

「そう、簡単に、防がれる程、黄金聖闘士の攻撃は、軽いモノじゃないよ・・・・」

 

「流石だな」

 

マリアがレグルスの方を振り向くと、レグルスはしてやったりと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「こ、これは一体・・・・!」

 

「ガリィ、レグルスの手足を破壊する際、お前はどうした?」

 

「そ、それは勿論、右腕と左足に触れて氷結と沸騰の攻撃を・・・・」

 

「その時、レグルスの攻撃を受け止める形で触れたのだな?」

 

「は、はい」

 

「それが失敗だったな。我ら聖闘士が使うのは“破壊の究極”とも云える『小宇宙<コスモ>闘技法』。お前が不用意に受け止める事をすれば、その時の攻撃の衝撃で『水のエレメントアームズ』の強度が耐えられなかったのだ」

 

「!?」

 

ガリィはレグルスを凍傷させる際、攻撃したレグルスの右腕を受け止めた、レグルスが反撃する時に受け止めた左足を沸騰させた、その衝撃で『水のエレメントアームズ』が、少し触れれば砕けてしまいそうなほどの状態になっていた。

 

「まさか、私が獅子座<レオ>の攻撃を受け止めた時点で・・・・」

 

「そうだ。お前の『エレメントアームズ』はとうに破壊されていたのだ。流石は我ら黄金聖闘士の中でも『戦闘の天才』と言われたレグルスだ。それに、アルバフィカがこの場に来たと言う事は、直にエルシドとデジェル達、他の黄金聖闘士が来るだろう」

 

「チィッ!」

 

ガリィは苛立たし気に舌打ちをする。

 

「言った筈だ。その『エレメントアームズ』はまだ“未完成”だとな。当初の目的である“思い出集め”に、『エレメントアームズ』の性能テストも十分な成果を上げたのだ。これ以上は蛇足だぞ?」

 

「レイラちゃんとファラちゃんの獲物の二人が来るのですか。確かにそれは後々面倒になりそうですね。でも、せっかく面白くなってきたんですよ~」

 

「フッ、もう終わるのにか?」

 

「ん~~?」

 

アスプロスがマリアの方を見据え、ガリィも目線を追うと。

 

「っ! マリア!」

 

「ぐぅあっ!!」

 

マリアが纏っていたガングニールが砕け散った。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

四つん這いになり激しく息切れを起こすマリアの目と口から血が流れていた。

 

「LiNKER無しでの無理な適合によるバックファイアだ」

 

「あ~ぁ、せっかく面白くなりそうだったのにこの程度。何よこれ? マトモに歌えるヤツが1人もいないなんて! 聞いてないんだけど?!」

 

途端に不機嫌な様子のガリィはマリアと響に侮蔑の言葉を吐き捨てる。

 

「そうか、むしろ俺はマリア・カデンツァヴナ・イヴには素晴らしき戦士と称賛したいがな」

 

「何ですと?」

 

アスプロスは侮蔑の目にならずにマリアを見据える。

 

「マトモに戦える状態で無いにも関わらず、仲間の窮地に駆けつけ、自らの事を省みずここまでの“戦う意志と決意”を見せた。マリア・カデンツァヴナ・イヴよ、お前の“戦士としての覚悟”に俺は敬意を払おう!」

 

「・・・・!!」

 

侮蔑の眼差しではなく、マリアに敬意を持った目で称賛するアスプロスだが、マリアは敵意を持ってアスプロスを睨む。それをアスプロスは意に介さず、響の方を一瞥すると目を細め見下した眼差しを向けて言い放った。

 

「・・・・惨めで無様、だな」

 

「っ!?」

 

「ガリィ、最早この場に用は無い、帰還するぞ」

 

「くっそ面白くないっ!」

 

響には嘲弄の態度のアスプロスに響はショックを受けたような顔になり、アスプロスは響に微塵も興味無く、そのまま空間を歪めて穴を作りこの場を去り、ガリィも悪態を付きながらクリスタルを足元に叩きつけて転移魔法陣で転移した。

 

「逃げたか、いや正しくは見逃してくれたか・・・・」

 

「アスプロスと、アスプロスとキャロルが造った『エレメントアームズ』、驚異だね・・・・」

 

アルバフィカとレグルスも新たな驚異に苦言を漏らした。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「“空間移動”、アレもまた錬金術の・・・・」

 

藤尭が呟くと同時に、モニターでバイクで急行したエルシドとデジェル、ジープで来たマニゴルドとカルディアが映し出され、司令室に翼やクリス、切歌と調、そしてエルフナインが入ってきた。

 

「現代に新型ノイズを完成させるとは、移送空間に干渉する技術を備えていると言う事です。そして“四大元素”を自由自在に操る『エレメントアームズ』、もうあそこまでの完成度になっていたとは・・・・」

 

「んな事より! みんな無事なのか!?」

 

「未来ちゃん達は無事だけど、レグルス君は右腕と左足を負傷、現在デジェルさんとエルシドさんとアルバフィカさんが小宇宙での治療を行っているわ。マリアさんがガングニールを纏って戦ってくれたわ」

 

「マリアがデスか!?」

 

「それってつまり、私達のように・・・・」

 

マリアが戦ったことに切歌は嬉しそうにするが、調は目を伏せた。

 

「シンフォギアからのバックファイアに、自分の身体を苛めながらか。ムチャをしてくれる・・・・」

 

モニターに映るマリアは、マニゴルドとカルディアに肩を貸されながら起き上がっていた。

 

 

ーマリアsideー

 

「オラマリア、シャンとしろ」

 

「ほれ、ハンカチ」

 

「え、えぇ・・・・」

 

マニゴルドからハンカチを貰い、顔の血を拭いたマリアは、マニゴルドとカルディアに手伝って貰いながら立ち上がり、ガングニールのシンフォギアクリスタルを見つめていた。

 

「(もしも私が、ガングニールを手離していなければ・・・・いや、それは“未練”だ・・・・)」

 

マニゴルドとカルディアに肩を貸して貰いながら響達の元に向かう。

 

「ケガは無い・・・・?」

 

「はいだけど、マリアさんが傷だらけで・・・・」

 

「歌って戦ってボロボロになって、大丈夫なんですか!?」

 

心配する創世と弓美や未来と詩織にマリアは大丈夫と言わんばかりに笑みを浮かべ、ガングニールのシンフォギアクリスタルを自分に背を向けている響に渡そうとする。

 

「君のガングニール・・・・」

 

「私のガングニールです!!!」

 

「響?!」

 

マリアが渡そうとしたガングニールを響は乱暴に奪った。

 

「これは! 誰かを助ける為に使う力! 私が貰った! 私のガングニールなんです!!」

 

まるで“大切な玩具を捕られた子供”のように喚く響に、黄金聖闘士達の眼差しが静かに冷たくなっていった。

 

「おい、何言ってんだよ、響・・・・!」

 

「レグルス・・・・?」

 

レグルスは片足で立ち上がると、響の胸ぐらを掴む。

 

「あっ!」

 

「“誰かを助ける為の力”だって、じゃさっきまでの体たらくは何だ!?」

 

「レ、レグルス君・・・・」

 

「ガングニールを起動できなくなって、“戦おうとすらしなかった響”が! “戦ってくれたマリア”に対して何だその態度は!?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

今まで見せたことが無いほど怒り出したレグルスの剣幕に、マリアや未来達は黙り、聖闘士達は静かに見守り、響は愕然としていた。

 

「マリアが来なかったら未来はどうなっていた? 創世はどうなっていた? 弓美は? 詩織は? 危うく皆が殺されていたかも知れないんだぞ! “誰にも守って貰えない”って言うのは凄く怖いんだよ! 響は“守る事”ができるのに、“その為の力”を持っているのにぐぅっ!!」

 

響に詰め寄ろうとするレグルスだが、凍傷と沸騰の傷が悲鳴を上げ、響の胸ぐらを離し倒れそうになるが、エルシドとデジェルが支えた。

 

「レグルス、無理をするな」

 

「もうすぐ医療チームが来る」

 

「あぁゴメン・・・・」

 

デジェルとエルシドに支えられながら立ち上がるレグルスの響を見る目はどこか厳しい目だった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

言われた響は悔しそうに顔を俯かせていた。

 

「良かったなガングニールよ」

 

「レグルスが動かなかったら俺らがひっぱたいていたぜ」

 

「・・・・・・・・ごめんなさい」

 

マニゴルドとカルディアは響を冷徹に見据え、響はマリアに対して一応申し訳無さそうに謝罪するが、その顔はまるで不貞腐れた顔をしていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

マリアの記憶には以前の響との会話がよぎった。

 

【逃げているの?】

 

【逃げているつもりじゃありません! だけど、適合してガングニールを自分の力だと実感して以来、この“人助けの力”で誰かを傷つける事が、凄く嫌なんです・・・・】

 

「そうだ、ガングニールはお前の力だ! だから、目を背けるな!」

 

「目を、背ける・・・・」

 

「立花響、力を持つ者には、責任と覚悟を背負わなければならない。それが出来ないならば、君に“力”を持つ資格は無い・・・・!」

 

「っ! (アルバフィカさんに、レグルス君に、黄金聖闘士の皆には分からないよ。“怖いと思う弱い人の気持ち”だなんて・・・・!)」

 

冷淡に話すアルバフィカの言葉を響はただ、“黒い感情”を渦巻かせていた。

 

 

ーアスプロスsideー

 

キャロルの本拠地の玉座に転移したガリィ。キャロルはガリィを静かに睨む。

 

「ガリィ・・・・」

 

「そんな顔しないでくださいよ~。“録に歌えない”のと、“歌っても対した事無い相手”だったんですから~。あんな歌をむしりとった所で、役に立ちませんって」

 

「自分が造られた目的を忘れていないのならそれで良い。しかし、獅子座<レオ>の捕獲の失敗と試作品とは言え、『エレメントアームズ』の破損は反省しておけ」

 

「は~~い」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

気の抜けた返事をするガリィを一瞥すると、キャロルは響の言っていた言葉を思い出す。

 

【“人助けの力”で、戦うのはイヤだよ・・・・】

 

【お前も“人助けして殺されるクチ”なのかっ!?】

 

忌々しい綺麗事をほざく響にキャロルは不愉快な気持ちになる。

 

「だが次こそがアイツの歌を叩いて砕け。これ以上の遅延は“計画”が滞る」

 

「“レイラインの解放”、分かってますとも。ガリィにお任せです♪」

 

歪んだ顔からわざとらしく可愛く喋るガリィにキャロルは少し辟易したようなため息を漏らす。

 

「お前に戦闘特化のミカを付ける。良いな?」

 

「良いぞ!」

 

「そっちに行ってんじゃねぇや!!」

 

元気良く挨拶する赤く大きな縦ロールを結わえたオートスコアラー『ミカ・ジャウカーン』にガリィは口汚く叫ぶ。

 

「チィッ!(せめてあの時、ハズレ奏者<マリア>のギアが解除されなければ・・・・!)」

 

「ほぉ今度はミカも出るか?」

 

「アスプロス!」

 

暗がりの玉座の空間が歪み、ソコからアスプロスが現れると、キャロルは玉座から離れ、年相応の少女のような笑みを浮かべてアスプロスに抱きつき、アスプロスもキャロルを抱き止めて頭を優しく撫でた。

 

「(うぇ、マスターのあの変わり身には未だ馴れねぇ・・・・)」

 

ガリィはさっきまでと雰囲気が180度変わったキャロルにゲンナリとした顔色になった。

 

「アスプロス。ガリィが『水』を壊したと聞いたが大丈夫なのか?」

 

「問題無いな、しかしやはり最後の難問は“装甲の強度の問題”だな。いかに優れた力を持ってもそれに“耐えきる強度”が必要だ、それに今回のように攻撃の衝撃にも耐えられるようにしなければな」

 

「何とかなるか?」

 

「あぁ安心しろ、目処は立っている。しかしまだ実戦データが必要だな」

 

アスプロスはミカに向けて『赤いグリーブ』を出した。

 

「おぉ!」

 

「ミカよ、お前も使ってみると良い。『火のエレメントアームズ』をな」

 

アスプロスは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

ー響sideー

 

そしてその夜、自室のベッドで未来と一緒に寝ようとした響は昼間の事で思い悩んでいた。

 

「眠れないの?」

 

「あっ、ゴメン。気を使わせちゃった・・・・」

 

「今日の事を考えてるんだよね?」

 

「・・・・戦えないんだ、歌を歌って、この手で誰かを傷つける事がとても恐くて、私の弱さが皆を危険に巻き込んだ、私がちゃんと戦えていたらレグルス君はあんな傷を負わずに済んだし、マリアさんが戦う事もなかった、なのに・・・・!」

 

自分の不甲斐なさに響は悔しそうに自分の拳を握るが、未来はその手をソッと優しく手を乗せる。

 

「私は知ってるよ。響の歌が、誰かを傷つける歌じゃ無い事を、レグルス君やみんなも分かってくれている筈だよ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「(響・・・・アスミタさん、私は響に何も出来なのかな?)」

 

響は未来と静かに眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー未来sideー

 

「あれ? 私、何で外にいるの?」

 

未来は不思議な世界にいた。自分は確か響と眠りついた筈なのに、いつの間にか外に出ていた。

 

しかも、そこは不思議な小道だった。空を見れば満天の夜空の星が宝石のように美しく煌めき、周りを見ると美しい花が咲き乱れた花畑、前に図鑑で読んだ事があり、“沙羅双樹の花”であると分かった。風が小さく吹くと花弁を少し飛び、沙羅双樹の花吹雪と星光りが映える幻想的な風景だった。

 

「あ、これって“夢”だ・・・・」

 

賢い未来はこれが“夢”であると見抜いて、少し小道を歩いていた。すると、沙羅双樹の小道の向こうに、2本並んだ木と、その木の中間に岩の台座をあった。

 

「・・・・・・・・??」

 

未来はその台座をジッと見ていると、一瞬目の前に沙羅双樹の花弁が横切ると、誰もいなかった台座に袈裟を纏った金色の長髪をした盲目の僧侶が座禅を組んで鎮座していた。

 

「あっ! アスミタさん!」

 

「小日向未来か・・・・」

 

そこにいたのは、『乙女座の黄金聖闘士 バルゴのアスミタ』だった。

 

「どうして私の夢に?」

 

「私は君の声が聴こえたから君の夢に干渉しただけだ」

 

「私の声?・・・・あっ!」

 

未来は眠りに付く寸前、アスミタに呼び掛けていた事を思い出していた。

 

「アスミタさん・・・・」

 

「・・・・またガングニールか?」

 

未来の沈んだ顔を見て、アスミタは「またか」と言わんばかりに肩をすくめる。

 

「はい・・・・」

 

「(全くあの半端者め。また些末な事で迷走しているのか・・・・)話して見たまえ小日向未来」

 

未来はアスミタの座る台座に向かい合うように座った。

 



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背負うべき覚悟と責任

ー未来sideー

 

小日向未来には、親友である立花響にも内緒にしている秘密があった。『フロンティア事変』が終わって少ししてから未来は眠りに入る前に乙女座<バルゴ>のアスミタに呼び掛けるように眠ると、夢の中でアスミタと出会うようになっていた。奇妙な事であり、アスミタ曰くーーーーーー。

 

【おそらく『フロンティア事変』で私が小宇宙<コスモ>を流す治癒術を小日向未来に掛けた事で、小日向未来に宿った小宇宙<コスモ>と私の小宇宙<コスモ>が共鳴を起こしたのだろう】

 

それから未来はアスミタと話がしたくなったらこうして夢の中で会っていた。響達やレグルス達にも教えても良い?と聞いてみたが。

 

【私は正直S.O.N.G.や国連とはあまり関わるつもりはない。レグルス達のように監視がついた日常などうっとおしいだけだ】

 

と言われ、未来もレグルス達ほどではないが監視を受けている身などで何とも言えなかった。

 

【小日向未来、私と交信出来ることは黙っていた方が良い。ただでさえ聖闘少女<セインティア>候補になってしまって監視を受けてる身で、国連の監視を受けていない黄金聖闘士と交信出来ると知られれば今よりも監視が厳しくなるやも知れん・・・・】

 

アスミタの言葉に未来は納得した。確かに国連は聖闘士の力を危惧している。とりわけ『フロンティア事変』で地球の半分を消滅させかけたアスミタの『神に最も近い黄金聖闘士』の力は、聖闘士の中でも特に国連に警戒されているからだ。

 

「フム、恐らくガングニールは己の力、聖遺物の力を恐れているのだろう」

 

「響が、ガングニールを恐れている、ですか?」

 

アスミタも夢で交信できるようになってからの経緯を思い出していた未来は、アスミタの言葉で現実(夢の中だが)に戻る。

 

「フゥゥ、アヤツは一々何かしらに悩み足踏みしなければ気が済まんのか? 全く、まるで成長していない」

 

「成長していない、ですか・・・・」

 

「不満そうだが、彼女は君に心配かけまいと空元気を出しているだろう?」

 

「はい・・・・」

 

未来の脳裏に、“へいき、へっちゃら”と無理して笑っている響の顔が浮かんだ。

 

「そこが成長していないと言っているのだ」

 

「え?」

 

「一番心配をかけまいとしている君にムリをしている事を簡単に見抜かれてしまうとは。あの者は周りの人間達の事が見えていない、自分の事で手一杯なのだ。自分の事で手が回らないその腕で他者まで救おうとするなど、思い上がりも良いところだ」

 

「でもそれが響なんです・・・・」

 

「だが、君は自分に何も言わずに1人で抱え込んでいる彼女に心を痛めている」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

響を弁護しようとするが、アスミタの正論に未来も何も言えない。

 

「いつまでも“今の自分”でいられるとは限らない、人は変わらなければならない時がある」

 

「でも、私は響に、変わって欲しくありません・・・・」

 

響は“今のままでいて欲しい”と望む未来。アスミタは未来に優しく説く。

 

「“変わる”と言うのは、“別の人間になれ”と言う訳ではない。“今の自分のままで成長しろ”と言う事だ。その点で言えば、マリア・カデンツァヴナ・イヴ達の方が努力しようとしている分、ガングニールより成長している」

 

「“今の響のままで”?」

 

「まぁ簡単に言えば・・・・“ーーーーー”と言った所だ」

 

「えっ?」

 

アスミタの最後の言葉が良く聞き取れなかった未来の目の前が真っ白になるーーーーー。

 

「あっ・・・・」

 

目を覚ますと、未来はベッドで横になり、目の前には響の暢気な寝顔があった。

 

 

 

 

ーマリアsideー

 

とある外国人墓地、其所には『フロンティア事変』で命を落としたFISの聖遺物研究者であるナスターシャ教授の墓があった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

数ヶ月前に宇宙から回収されたナスターシャ教授の遺体はそのまま手厚く埋葬され、その墓にナスターシャ教授を“マム<お母さん>”と慕っていたマリア・カデンツァヴナ・イヴに暁切歌と月詠調、彼女に世話になった魚座<ピスケス>のアルバフィカ、蟹座<キャンサー>のマニゴルド、蠍座<スコーピオン>のカルディアがいた。マリアと切歌と調は普段着だったが、アルバフィカ達は喪服スーツを着用していた。

 

「ゴメンねマム、遅くなっちゃった・・・・」

 

マリアはナスターシャ教授の墓に花束を置き、マニゴルドは牛肉の串焼き、カルディアは鳥の唐揚げ、アルバフィカは豚カツをそれぞれタッパーから紙皿に乗せて置いた。そして何故か調と切歌はお徳用サイズの醤油を置いた。

 

「マリアは兎も角、センスねぇなお前ら」

 

「せめて酒でも持ってこい」

 

「何を言うデスか、マムの大好きな日本の味デス!」

 

「私は反対したんだけど、“常識人”の切ちゃんがどうしてもって・・・・」

 

「あぁ、先ず切歌が“常識人”って所から間違っているからな」

 

「ソレどういう意味デスか!?」

 

「あの婆さんは文字通り“肉食系”だったんだからな」

 

米国の聖遺物研究機関FISの主任研究員 ナスターシャ教授は“肉しか食べない偏食家”であった。それを聞いたデジェル曰く、「ナスターシャ教授の体調の悪化は“栄養の偏り”だったのではないか?」と言われた。ちなみに『フロンティア事変』の主犯であった、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは“お菓子しか食べない偏食家”だった。

 

「マムと一緒に帰って来た“FRONTIERの一部”や“月遺跡に関するデータ”は、各国機関が調査している最中だって・・・・」

 

「また米国が勝手行動をしない為の措置だな」

 

「ま、“月の落下”なんて危急存亡の大事を秘匿して、自分たちだけ逃げようなんて無責任な考え巡らせていたからな、米国政府のお偉いさん方は・・・・」

 

「だから今度こそみんなで一緒に研究して、みんなの為に役立てようとしているデス!」

 

「ゆっくりだけと、ちょっとずつ世界は変わろうとしているみたい・・・・」

 

「安心しな婆さん。アンタのやって来た事は決して無駄にはさせねぇからな」

 

「(変わろうとしているのは世界だけじゃない。なのに、私だけは・・・・)」

 

マリアは少しずつ変わろうとしている切歌と調を見ながら、変わったいない自分に顔を曇らせる。

 

「(ネフェリムと対決した時の『アガートラーム』も、再び纏った『ガングニール』も、窮地を切り抜けるのはいつも、“自分のモノではない力”・・・・)」

 

セレナの形見の『アガートラーム』、響から一時的に借用した『ガングニール』、どれも自分の力ではない事をマリアは自覚していた。

 

「・・・・私も変わりたい。本当の意味で強くなりたい!」

 

「それはマリアだけじゃないよ・・・・」

 

「私達だっておんなじデス・・・・」

 

マリアの言葉に、切歌と調も表情を曇らせる。

 

「・・・・雨が振るな」

 

アルバフィカ達は傘を取り出し広げると、静かに雨が降り始める。マリアはナスターシャ教授の墓を見つめ、悲しそうに呟く。

 

「昔のように叱ってくれないのね・・・・大丈夫よマム。“答え”は自分で探すわ」

 

「ここはマムが残してくれた世界デス」

 

「“答え”は全部あるはずだもの」

 

「(婆さんよ、アンタの子供達は少しずつだが、変わろうとしているぜ・・・・)」

 

「(子供って言うのは、大人がああだこうだ言わなくても、少しずつ成長するモンなんだな・・・・)」

 

「(だから、安心して見守っていてくださいナスターシャ教授・・・・)」

 

降りしきる雨音が、六人のいる墓に静かに響いた。

 

 

ー未来sideー

 

雨が降るリディアン学園の食堂では、男子のグループや女子のグループ、男女混合グループやらが仲良く談笑しながら昼食を摂っていた。そんな中、何やら空気が外の空模様のように曇っているグループがあった。先日オートスコアラー ガリィとアルカ・ノイズに襲われた安藤創世、板場弓美、寺島詩織である、そのグループのいるテーブルに未来が来たが、響はいなかった。

 

「立花さんは食べないのでしょうか?」

 

「うん、課題やらなきゃって・・・・」

 

「お昼ご飯より課題を優先するだなんて、こりゃ相当な重症だわ」

 

普段の響なら勉学よりも目先のご飯に向かうので弓美も少し驚く。

 

「所でさ、レグっちはどうなの? 欠席していたけど・・・・」

 

「うん、今は医療ルームで治療中みたいだよ」

 

 

 

ーレグルスsideー

 

レグルスは現在、ガリィとの戦闘で負傷した右腕と左足の治療の為、S.O.N.G.の基地の医療ルームにいたのだが・・・・。

 

「2989・・・・2990・・・・2991・・・・2992・・・・2993・・・・2994・・・・」

 

レグルスは負傷していない左腕で逆立ち腕立てをしていた。現在レグルスしかいない医療ルームの扉が開き、そこから医者志望のデジェルと様子を見に来たエルシドが入ってきた。

 

「3000・・・・っと、良し後7000回!・・・・ってエルシドにデジェル、どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないだろ。お前こそなにをしているんだ?」

 

「レグルス、身体が鈍らないように鍛練を行うのは悪い事ではないが、少しは安静にしていろ。医療チームが不憫だ」

 

普通ならば全治数ヶ月の負傷で安静にしていなければならないにも関わらず、レグルスは暇さえあれば今のように“片手逆立ち腕立て10000回”や“右足だけ空気椅子四時間”などを行っており、最初は止めていた医療チームだが、今ではもう諦めたのか苦笑いを浮かべていた。まさに医者泣かせ。

 

「所でレグルス。立花の不調をどう見る?」

 

「さぁ? 俺に響の気持ちなんて分からないよ。“大事な人達を守れる力”があるのに、それを使おうとすらしなかった人の気持ちなんてね・・・・」

 

レグルスの顔に僅かに険しくなった。かつてレグルスは力が無かった故に大切な人を守れなかった。そんなレグルスにとって、今の響には苛立ちを覚えていた。

 

「我々や小日向君達が何か言っても、響君は気を使う、イヤ意固地になるだけかもしれんな」

 

「フン、普段は単純明快だが、こういう時はややこしいヤツだ」

 

「マニゴルドとカルディアはそんな響を、“めんどくさい女”って言ってたけどね」

 

「響君はただ、“歌う理由を忘れたから”だと思うが」

 

「“歌う理由”? 友達の命が危ないって状況だったのに?」

 

「響君は我々ほど戦いに対して割り切りができていない。その割り切れない部分が大きくなってしまい、聖詠が歌えなくなった。つまり・・・・」

 

「“歌う理由”を思い出せば、響はまた歌えるか・・・・」

 

同時刻。未来は創世から同じように響が“歌う理由”を忘れたのではないかと聞かされていたが、レグルス達が知る由もない。

 

「しかし今現在戦えるシンフォギア奏者は響君のみ、マリアと切歌君と調君には、三人用のLiNKERが無いから戦力に入れられない」

 

「エルシド、俺達の聖衣は?」

 

「一応弦十郎殿が進言しているが、望みは薄いな」

 

「今回のガリィと呼ばれるオートスコアラーの使用する『エレメントアームズ』と呼ばれる武具、我々聖闘士すら追い込む武器を持った敵だからな」

 

国連上層部は、聖衣が無ければ十全に本領を発揮できない聖闘士達を、あわよくばオートスコアラー達に倒して貰おうと画策しているのではないかと疑い始めていた。

 

「唯一の敵側の情報源と言えるエルフナインは、今司令室でオートスコアラーの事を話している。翼と雪音も同席している」

 

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

現在司令室には、司令である風鳴弦十郎と友里に藤尭の他に、風鳴翼とマネージャーの緒川慎司、雪音クリスがエルフナインから『オートスコアラー』の情報を聞いていた。

 

「先日響さんを強襲した“ガリィ”とクリスさんと対決した“レイア”、これに翼さんがロンドンでまみえた“ファラ”と、今だ姿を見せない“ミカ”の4体が、キャロルの率いる『オートスコアラー』になります」

 

「人形遊びに付き合わされてこの体たらくかよ!」

 

「その機械人形は、お姫様を取り巻く護衛の騎士、と言った所でしょうか?」

 

クリスが悪態を付き、緒川がエルフナインに聞いた。

 

「スペックを始めとする詳細な情報は、ボクに記録されていません。ですが・・・・」

 

「シンフォギアを凌駕する戦闘力から見て、間違い無いだろう。それに、レグルスをあそこまで追い詰めた『エレメントアームズ』なる武装・・・・」

 

「『エレメントアームズ』に関しては、ボクの知る限りではまだ設計段階でした。『四大元素』の力を使うオートスコアラー達の力を底上げする錬金術による武装、しかしキャロルの知識を持っても机上の空論のままでしたが、それを実現できたのが・・・・」

 

「双子座の黄金聖闘士、ジェミニのアスプロスか?」

 

「恐らく・・・・」

 

「アスプロスの知識はデジェル兄ぃをも上回るって、聞いてはいたけどよ。何で敵側に付いたんだ? しかもわざわざデジェル兄ぃ達に自分が敵に回ったぞってメッセージまでお前に持たせて」

 

「それは分かりません。ですが、アスプロスさんは油断できない人です。キャロルもあの人には全幅の信頼を寄せており、あの人はキャロルの陣営の参謀とも言える立場にいます」

 

「エルシドから聞いた話では、アスプロスは“銀河をも粉砕する黄金聖闘士”と聞いてはいるが・・・・」

 

「“銀河を粉砕”って、相手が黄金聖闘士じゃなかったらホラ話だろうって笑ってやる所だぜ・・・・」

 

今まで黄金聖闘士達の規格外の戦闘力を見てきた奏者達とS.O.N.G.の面々だからこそ、アスプロスと言う黄金聖闘士の力を警戒していた。

 

「いずれにしても、超常驚異への対応こそ俺達<S.O.N.G.>の使命。この現状を打開するため、エルフナイン君より“計画”の立案があった」

 

『っ!?』

 

弦十郎の言葉に翼達が一斉にエルフナインを見る。とエルフナインの後ろのメインモニターにある文字が表示された。

 

【PROJECT IGNITE】

 

「『プロジェクト イグナイト』だ」

 

弦十郎が宣言するが、エルフナインはただ一つの不安を吐露した。

 

「このプロジェクトを行う前に、一つ聞いておきたい事が在ります」

 

「なんだ?」

 

「恐らく、このプロジェクトが成功すれば現状打開はできます。ですが、アスプロスさんに、双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士に対抗しうるとは限りません」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

エルフナインの言葉に一同が黙る。エルシド達からアスプロスの実力は地上最強の黄金聖闘士でも乙女座<バルゴ>のアスミタに匹敵する程の力を持った双子座の驚異があった。

 

「国連上層部には何度も、黄金聖闘士達の聖衣の使用許可を出して貰おうとしているが、歯切れの悪い回答しか来ない・・・・」

 

「上層部は今回の大事を、奏者とS.O.N.G.だけで対応させようとしているのですね?」

 

「新しい黄金聖闘士の存在は伝えたのですか?」

 

「何度も伝えた。だが、上層部は聖闘士達を好き放題させるのに消極的だ」

 

「ケッ、自分達の思い通りに動かない上に、おっさん<弦十郎>すら上回る強者達が恐いってか? 全くそんな弱腰で良く偉そうにふんぞり返っていられるな」

 

驚異が迫っているにも関わらず、目の前の驚異よりも、黄金聖闘士達への警戒を優先している上層部にクリスは悪態を付き、翼も言葉にはしないが、呆れたため息を漏らした。

 

 

ー響sideー

 

学校が終わり、響と未来はS.O.N.G.基地へと向かって降りしきる雨の中を相合い傘で歩いていた。

 

「やっぱりまだ、歌うのが恐いの?」

 

「うん、誰かを傷つけちゃうんじゃないかって思うと、ね・・・・」

 

「・・・・響は、初めてシンフォギアを身に纏った時の事を、覚えてる?」

 

「どうだったかな? レグルス君は空の雲の形から星の数まで覚えてるけど、私は無我夢中だったから・・・・」

 

「その時の響は、“誰かを傷つけたいから歌を歌った”のかな?」

 

「えっ?・・・・」

 

響は以前、レグルスに言われた言葉が脳裏に甦った。

 

【あの時はさ、俺は“この世界”に来て間もなくて、右も左もわからなくて、ノイズと戦う事すら出来なかった。でもさ、響があの時助けようとした女の子を守ろうと頑張ってる姿を見て、あきらめるなって言ってくれたから、俺も頑張らなくちゃなって気持ちになったんだ。あの時の響の頑張る姿があったから、またこうして聖衣を纏って戦う事が出来たんだよ】

 

「(レグルス君は、私が助けようとした女の子を守ろうと頑張っていたって言ってたっけ・・・・)」

 

響の中に生まれた“レグルスに対する黒い感情”と“レグルスに対する一種の憧れ”が響の胸中でせめぎあっていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

すると響と未来の後ろに、大きく赤いロールツインテールをした少女が、大きく口に笑みを作っていた。

 

 

ーエルフナインsideー

 

レグルス達黄金聖闘士の聖衣の事は一先ず置いて、『PROJECT IGNITE』の詳細を説明した。

 

「『イグナイトモジュール』。こんな事が本当に可能なのですか?」

 

「錬金術を応用することで、理論上不可能じゃありません。“リスクを背負う事で対価を勝ち取る”。その為の、『魔剣 ダーインスレイヴ』です」

 

北欧神話に登場する、“一度鞘から抜いてしまうと、生血を浴びて完全に吸うまで鞘に収まらない”と言われた魔剣。ドヴェルグの1人であるダーインの遺産である。

 

ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!

 

突如モニターに『Alca-NOISE』と表示され、基地の警報がけたたましく鳴り響く。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「位置特定! モニターに出します!」

 

メインモニターに表示されたのは、赤い衣装を着た大きな爪をした少女と、その少女から逃げる響と未来だった。

 

「「なっ!?」」

 

「ついに“ミカ”までも・・・・!」

 

翼とクリスが驚き、エルフナインは『オートスコアラー ミカ・ジャウカーン』の登場に険しい顔色を浮かべていた。

 

 

ー響sideー

 

「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」」

 

響と未来は突然現れ強襲してきたオートスコアラー ミカとアルカ・ノイズから逃げながら、ノイズ災害により廃居地区へと逃げていた。

 

「逃げないで歌って欲しいゾ! あっそれとも、歌いやすい所に誘っているのカ? う~~ん・・・・おぉっ! それならそうと言って欲しいゾ! そーれ!」

 

ミカがアルカ・ノイズを先行させる!

 

ナメクジのようなアルカ・ノイズと人型のアルカ・ノイズが響と未来に迫り、二人は廃ビルへとかけ込んだ。

 

 

ーマリアsideー

 

墓地にいたマリア達も本部から襲撃の報せを受けていた。

 

「敵の襲撃・・・・!?」

 

「でもここからでは・・・・!」

 

「間に合わないデス!」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

ドンッ!

 

「アルバフィカ!」

 

「マニゴルド!」

 

「カルディア!」

 

アルバフィカ達は傘を置いて、響と未来のいる区画へと飛んでいった。

 

 

ー響sideー

 

響と未来は廃ビルの中を上へ上へと逃げていき、先に階段を登る未来の後を響がついていき、ナメクジ型のアルカ・ノイズが一階でウロウロし、ミカも追い付いた。人型アルカ・ノイズが両腕をヨーヨーのように飛ばして、響が登る階段を破壊する。

 

「うわっ!?」

 

「響ぃっ!」

 

階段から落ちた響は床を転がり、錆び腐った手摺を巻き込んで一階へと落ちた。

 

「がはっ!・・・クゥ・・・み、未来・・・!」

 

霞みそうになる視界は上にいる未来とその未来のいる下の階から自分を眺めるアルカ・ノイズ。そしてミカが視界にひょっこり入った。

 

「いい加減戦ってくれないト、君の大切なモノ解剖しちゃうゾ? 友達バラバラでも戦わなければ、この街の人間を、犬も猫もみ~んな解剖ダゾ!! アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

無邪気に残酷な笑い声を上げるミカに、響はガングニールのシンフォギアクリスタルを握り、聖詠を歌おうとするが。

 

「ーーーー! ーーーー! ーーーー!」

 

「あぁん? 本気にして貰えないなら、フフ♪」

 

聖詠が歌えない響にミカは未来に向けて大きく鋭い爪を向けると、アルカ・ノイズ達が未来に向かう。

 

「あぁ・・・・!」

 

未来は一瞬恐れるが、意を決して響の方を向く。

 

「あのね響! 響な歌は、“誰かを傷つける歌”じゃないよ!」

 

「・・・・?!」

 

「伸ばしたその手も! “誰かを傷つける手”じゃない事を私は知ってる! 私だから知ってる! だって私は! 響と戦って、救われたんだよ!!」

 

「あっ!」

 

「私だけじゃない! 響の歌に救われて! 響の手で今日に繋がっている人、たくさんいるよ! だから恐がらないで!!」

 

未来の必死の呼び掛けを消すように、ミカがアルカ・ノイズをけしかける!

 

「バイならーーーー!」

 

グワァァァァァァァァンッ!!

 

アルカ・ノイズが、未来のいる階を破壊した。そして、響の頭に声が響いたーーーー。

 

《また彼女の手を離すのか?》

 

「っ!・・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 

未来の姿と響いた声に、響は雄叫びを上げて歌う、“戦いの歌”をーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!! とぁああああああああああああああっっっ!!!」

 

シンフォギアクリスタルを掲げた響の身体が目映く輝く!

 

 

ー未来sideー

 

落ちていく未来は、響の戦う姿が走馬灯のように振り返った。

 

「私の大好きな・・・・響の歌を・・・・みんなの為に、歌って・・・・」

 

ガシッ!

 

「ハッ!」

 

目を覚ますと、未来の身体はガングニールを纏った響に抱き抱えられていた。

 

 

ー響sideー

 

響は落ちる破片を飛びながら、着地する。

 

「ゴメン私、この“力と責任”から逃げ出していた。だけどもう迷わない。だから聴いて! 私の歌を!」

 

顔を上げた響のその顔には、迷いが晴れていた。

 

 

ークリスsideー

 

司令室でも、響の状況はモニタリングされていた。

 

「どうしょうもねぇバカだな・・・・」

 

クリスのその顔は、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 

 

ー響sideー

 

「行ってくる!」

 

「待っている」

 

響は未来をさがらせて、ミカとアルカ・ノイズと対峙する。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「オーラララ!!」

 

響は歌を歌い、ミカはさらにアルカ・ノイズを召喚した。

 

しかし迷いが晴れた響は最高のパフォーマンスでアルカ・ノイズ達を蹴散らしていく。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

腕のパーツを上げて、パイルバンカーパンチを地面に叩きつけて、アルカ・ノイズ達を粉砕し、ミカの方へ駆け出し拳を突き出す!

 

ミカは掌から炎の剣を出して響の拳を防ぐが、響のパワーに押し出され、激しい火花を散らしていた!

 

「コイツゥ、弄り概があるゾォ!!」

 

攻められているにも関わらず、ミカのその顔には笑みがあった。

 

 

ーエルフナインsideー

 

「これが、戦闘特化したオートスコアラーのスペック・・・・」

 

「それがどうした? 相手が戦闘特化だとしても、立花が遅れを取るなどあり得ない」

 

エルフナインはミカのスペックに驚嘆するが、翼は余裕の笑みをこぼしていた。しかし・・・・。

 

「敵を甘く見るとは、随分と思い上がりが強くなったな、翼」

 

『ッ!?』

 

司令室の入り口を一同が見ると、レグルスに肩を貸して入室してきたデジェルとエルシドがいた。

 

「レグルス君!」

 

「大丈夫、それよりも・・・・」

 

「あぁ、この程度で勝った気になるのは早すぎる」

 

レグルスとデジェルのその目にも、真剣な眼差しになっていた。百戦錬磨の黄金聖闘士達は直感していた。オートスコアラーはこの程度ではないと。

 

 

ー響sideー

 

「(ニィ!)」

 

ミカが笑みを浮かべ、頭のロールツインテールがまるでバーニアのように火を吹き、その勢いで響を弾き飛ばす!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

しかし響も弾き飛ばされながらも再び地面を蹴り、横回転しながら拳を叩き込む!

 

「ガァア・・・・!」

 

響はさらに拳をミカに叩きつけようとするーーーー。

 

 

ー翼sideー

 

『(勝った!)』

 

翼達S.O.N.G.一同は響が勝ったと確信したが。

 

「ハッ!」

 

「ムッ!」

 

「ダメだ響ソイツは!!」

 

しかし黄金聖闘士達が叫びを上げると同時に、響の拳がミカの身体に叩き込まれるが・・・・ミカの身体が、“水へと変化した”!

 

 

ー響sideー

 

「あっ・・・・??!!」

 

驚愕する響の目線の先には柱に隠れていた、オートスコアラー ガリィがいた。

 

「氷を操るだけじゃないんだよね。と言う訳でざ~んねん、それは水に映った幻」

 

「なッ?!」

 

響の真下にミカが手を掲げて待ち構えていた。

 

「ハハハハハハハハハ!!」

 

ミカの手から炎の剣が飛び出し、響の胸のシンフォギアクリスタルを貫く!

 

「がぁ! ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

響はそのまま真上へと飛ばされ、シンフォギアクリスタルが砕けたーーーー。

 

グワシャァァァァァァァァァァァァァァンンッ!!

 

廃ビルの天井を砕いて天高く飛ばされた響のシンフォギアは音を立てて砕けたーーーー。

 

「あっ・・・・あぁっ・・・・」

 

「響ーーーーーーーーーーーー!!」

 

未来の悲鳴が廃ビルに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく復活したと思ったら、速攻でこの様かよ!?」

 

「本当に親友の小日向未来と違って頼りにならねぇな!!」

 

「まったく世話の焼ける・・・・!」

 

『っ!』

 

落下しながらガングニールが砕け、裸体を晒しそうになる響の身体を上着を被せて着地する三人を未来とモニター越しで見ていた翼達、敵対しているミカとガリィもその三人を見た。

 

蟹座<キャンサー>のマニゴルド。

 

蠍座<スコーピオン>のカルディア。

 

魚座<ピスケス>のアルバフィカ。

 

「おぉっ、ガリィ!! アイツらダナ?」

 

「えぇそうですよミカちゃん。アスプロス様から言われた事、ちゃんとやって下さいよ」

 

ガリィはミカに、“赤いグリーブ”を投げ渡し、自分は傷だらけになった“青い籠手”、『水のエレメントアームズ』を身に付けた。

 

「よぉーし! 見せてやるゾ! 初陣ダゾ!! 『火のエレメントアームズ』!!」

 

アルバフィカ達の登場にはしゃぐミカは、ガリィから渡されたグリーブ、『火のエレメントアームズ』を装備した!

 

 




次回、『火のエレメントアームズ』が文字通り火を吹く!


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ミカの炎

~数分前・ガリィside~

 

ミカが響のシンフォギアを破壊するために逃げる響と未来を追撃している間、ガリィはビルの屋上からその様子を眺めていた。

 

「(あ~ぁつまんねぇ。あんなポンコツなんかの相手なんかしても時間の無駄無駄って言いたいけど、マスターの命令だし、それにあのポンコツの相手をしていれば、負傷した獅子座<レオ>以外の黄金聖闘士がやって来るだろうし、アスプロス様から命じられたデータ収集もできるだろうが、黄金聖闘士が来るまで退屈で死にそう・・・・)」

 

ガリィは正直聖詠が歌う事が出来ず、シンフォギアを纏う事が出来なくなった響の相手をするよりも、直接黄金聖闘士とミカを交戦させて『エレメントアームズ』のデータ収集を優先した方が能率的だと考えていた。

 

《ガリィよ、聴こえるか?》

 

ガリィの耳に、アスプロスのテレパシーが聴こえた。

 

「アスプロス様? 如何されましたですか?」

 

《状況を聞こうと思ってな。それでどうなのだ?》

 

「今ミカちゃんがポンコツ奏者を追っていますよ。もう1人いますが、あれは“聖闘少女候補”の少女ですね」

 

《ほぉ『フロンティア事変』で覚醒したアスミタが目をかけている少女か。興味は有るが、今はガングニールの破壊と『火のエレメントアームズ』のデータ収集に専念しろ》

 

「分かってますよ。あ、今ミカちゃんが廃ビルに追い詰めましたよ」

 

《廃ビルか・・・・ガリィ、『水のエレメントアームズ』は持っているな?》

 

「はい、ミカちゃんの『火のエレメントアームズ』も持っていますよ?」

 

《ガングニールが襲われていると知れば黄金聖闘士達が来るだろう。そこでだ・・・・》

 

アスプロスがテレパシーでガリィに“策”を教えると、ガリィはニィッと口の端を吊り上げて、ギザギザの歯を見せながら笑みを浮かべる。

 

「それはそれは・・・・何とも面白いですね~♪」

 

アスプロスの“策”を了承したガリィは、静かに廃ビルの中に入ると、丁度響がガングニールを纏っていた。

 

 

 

ー現在ー

 

響が再びガングニールを纏い、ミカと交戦を初め、最初こそ迷いを振り抜き最高のパフォーマンスでミカを圧倒し、黄金聖闘士達以外は響が勝ったと確信したのだが、直ぐにそれはオートスコアラー達を舐めていた自分達の“浅はかさ”を理解する事になった。

 

「響ーーーー!」

 

ミカにガングニールを破壊され、気を失った響は救援に来たマニゴルドが着ていた喪服の上着にくるまり地面に横たえられる。未来が気を失っている響に駆け寄るが、響はピクリとも動かなかった。

 

「たくっ、復活して早々にギアを破壊されましたって、カッコ悪過ぎだろうがよ」

 

「そう言うなカルディア、ギアを再び纏えるようになった事くらいは評価してやろう」

 

「ま、そのガングニールを簡単に破壊されちまったら意味ねぇけどな」

 

マニゴルドとカルディアは簡単にシンフォギアを破壊された響に呆れ、アルバフィカは一応フォローとも言えないフォローをしていた。

 

「さてと、あれがウワサのオートスコアラーか?」

 

「レグルスを負傷させた『エレメントアームズ』も持っているようだな」

 

「でも1人はほぼ全壊寸前のガラクタ状態、もう1人は新参って所か、少しは楽しめるかな?」

 

暢気な会話をしながらも、目の前のガリィとミカへの警戒は怠っていなかった。ミカが“赤いグリーブ”を、ガリィが“傷だらけの青い籠手”を装備し、それがレグルスに負傷を与えた『エレメントアームズ』であると見抜いて少し警戒を強める。

 

「おやおや、味方の負傷よりも私達の警戒を優先とは、随時と冷たいですね?」

 

「アホか。戦場で、しかもまだ敵がいるって言うのに負傷したヤツを気にかけて隙を見せるのは二流のやる事なんだよ」

 

「敵の力を過小評価して、味方の力を過大評価するのは二流どころか三流以下のやる事だぜ。なぁ? 他の奏者やS.O.N.G.の皆さん♪」

 

《『ぐぅっ!!』》

 

通信機越しで翼とクリス、弦十郎達の苦虫を噛み潰したように悔しそうな声を上げ、それを愉快そうにほくそ笑むマニゴルドとカルディア。そして味方すら嘲弄する二人ににやけるガリィ。

 

「良い事言いますね~♪ ガリィは蟹座<キャンサー>や蠍座<スコーピオン>の方が好みですね。だけど、それはそれ、これはこれで・・・・ミカちゃん、派手にやっちまいなぁっ!!」

 

「オーララララーーーー!」

 

ガリィはビル内部の暗闇に消えて、ミカがグリーブで地面を擦るように蹴り上げると、グリーブの脛部分に錬成陣が淡く輝き、靴底から火花が弾け、マニゴルド達に向かって炎が地を這う蛇のように向かって来たが、マニゴルドが響を、カルディアが未来を抱えて三人は回避した。

 

「うおっ、なんだぁっ!?」

 

「炎があんな動きをすんのかよ?!」

 

「ガリィと呼ばれるオートスコアラーが“水”なら、あのミカと呼ばれる者は“火”を操るのかっ!?」

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

楽しそうに高笑いを上げるミカは『火のエレメントアームズ』の靴底をさらに擦りまくり、次々と炎が生まれ、まるで蛇や鞭のように炎がうねり、地面を炎が走りながら、アルバフィカ達に襲い掛かった。

 

 

ーエルフナインsideー

 

S.O.N.G.司令室でミカとアルバフィカ達の戦闘状況を見ていたエルフナイン達。復活した響に対してぞんざいな言い方をするマニゴルドとカルディアにムッとした顔になり、続いて二人の強烈な嫌味でさらに悔しそうに顔をしかめていた翼とクリスと弦十郎達も顔を引き締め、赤いグリーブの『火のエレメントアームズ』を使うミカの様子をモニターしていた。

 

「あれが、『エレメントアームズ』の力か・・・・!」

 

「はい。四大元素を用いた錬金術により生み出されたミカ専用の武装、『火のエレメントアームズ』です」

 

「どうやったら火が生まれて、あんな蛇か鞭のような動きができんだよ!」

 

画面の中では炎がうねりながらアルバフィカ達に襲い来る炎が映られ、響と未来を抱えているマニゴルドとカルディアは戦いにくそうに回避していた。

 

「ガリィの『水のエレメントアームズ』は空気中や地中、生物内部の“水分”を気化冷却ならびに沸騰を引き起こします。そしてミカの『火のエレメントアームズ』は空気中の“酸素”を燃やしているんです」

 

水分が集まり水となり、火は酸素で燃える。単純な科学である。

 

「空気中の“酸素”を燃やし、さらにミカ自身の能力で自在に操る事ができる。『エレメントアームズ』とそれを扱うオートスコアラーにこれほどまでの力があるとはな・・・・」

 

「聖衣を纏う事が出来ず、十全に実力が発揮できず、立花と小日向を守りながらあの火炎地獄の中で戦うのは少し分が悪いな」

 

「それだけじゃない、カルディアにとってミカは“相性が悪い”よ!」

 

デジェルとエルシドとレグルスは、炎を操るミカとカルディアが相性が悪いと言う事を見抜いた。

 

「どういう事だ、エルシド?」

 

「忘れたか翼? カルディアの“心臓の病”は消えてないぞ」

 

『っ!!』

 

エルシドから言われた言葉に、翼とクリス、S.O.N.G.メンバーは思い出したようにハッ!となった。蠍座<スコーピオン>のカルディアは“心臓に病”を患い、禁術により病の進行を遅らせ延命していた。

だが禁術の副作用によりカルディアの心臓は小宇宙<コスモ>を燃焼すると心臓の温度が上がり常人では耐えられない熱を生み出し、“死”の可能性すらあるのだ。

 

「現在あのビル内部の温度がどれ程の高さになっているかはモニターでは解りませんが・・・・!」

 

「ですがあの炎の勢いです!少なくともビル内部の温度は60℃を越えていると思われます!」

 

「カルディアさんの心臓が、その高熱空間で発作を引き起こす可能性があります!」

 

緒川と藤尭と友里は。徐々に炎に包まれはじめて来ているビル内部を見て、頬に冷や汗を流していた。

 

「それだけではありません。このまま炎に包まれれば五人の呼吸もままならなくなります」

 

炎が燃えれば煙が生まれ、それは人体に有害な有毒ガスが生まれ窒息死を起こすからだ。エルフナインの言葉に翼とクリスも険しい顔色が浮かぶ。

 

「不味いな、カルディアもそうだが。立花や小日向もあの炎の中にいる」

 

「デジェル兄ぃ! 早くあのクソ蠍とバカ達を退避させないと!」

 

「解っている」

 

デジェルはカルディアに通信した。

 

 

ーカルディアsideー

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

ミカはグリーブからバスケットボールくらいの火の玉を生み出すとマニゴルドに向かってサッカーのように蹴り飛ばした。

 

「うお、あっつ!」

 

「まだまだ行っくゾーーーーーーーー!!」

 

マニゴルドは回避するが、ミカは次々と火の玉を生み出し、響と未来を抱えたマニゴルドとカルディアに向けて蹴るが、アルバフィカが『ダーツローズ』で火の玉を破壊するが、破壊された火の玉の炎が飛び散り、床や柱に燃え移り、さらにビル内部を炎が包んだ。

 

《カルディア、聴こえるか?》

 

「あん? デジェルか?」

 

《今すぐ響君と未来君を連れて離脱しろ》

 

「はぁっ?! 何言ってんだ?! せっかく面白くなって来たのによ!!」

 

ビル内部はミカの『火のエレメントアームズ』が生み出した業火に覆われ、炎が床と柱を包んでいた。

 

「いやカルディア、デジェルの判断は正しい」

 

「お前、こんな炎に包まれたサウナのような場所にいたんじゃ心臓がまた発作を起こすぞ」

 

アルバフィカとマニゴルドも、デジェルの言わんとしていることを理解した。マニゴルドは抱えていた響をカルディアに渡す。

 

「このバカと小日向は任せる。お前は直ぐに離脱しやがれ」

 

「・・・・チッ!」

 

舌打ちしたカルディアは窓やドアに目を向けるが、既にミカの『火のエレメントアームズ』が起こした炎によって塞がれてしまっていた。

 

「小日向、ちょいと荒っぽい脱出をするぞ。覚悟は良いか?」

 

「(コクン)」

 

気を失っている響を気にかけながらも、未来はハンカチを口元に当てながら頷く。

 

「オゥラッ!!」

 

カルディアは響と未来を抱えたまままだ燃えていない柱や壁を蹴り跳び、響がミカの攻撃で開けた天井の大穴から脱出した。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「良し、カルディアが響君と未来君を連れて離脱した」

 

「直ぐに響君に救護班を向かわせよう!」

 

《オイこらデジェル、 聴こえているか??》

 

弦十郎が救護班に連絡を入れている最中、カルディアが通信をよこした。

 

「どうしたカルディア?」

 

《そっち<司令室>は今モニターで何処を見てやがる?》

 

「ビル内部を見ている。マニゴルドとアルバフィカがミカに攻撃しようとしているが、炎に遮られて攻めあぐねているが、すぐに終わらせるだろう」

 

モニターにはミカが生み出した炎の鞭や火柱、火の玉がマニゴルドとアルバフィカに襲い掛かるが、二人は難なく回避をし、ミカに攻勢に出ようとしていた。

 

《今俺達は近くのビルの屋上に居るんだがよ、妙な光景が目の前にあるぜ・・・・!》

 

「妙な光景??」

 

《ビル内部からビルの外側を見てみやがれ・・・・!》

 

通信で言われ、デジェルが目配せすると藤尭がビルの外側をモニターに表示した。

 

『なっ!?』

 

司令室にいた全員が驚いた。何故ならアルバフィカとマニゴルドが交戦しているビル全体が、徐々に“凍りついていた”からだ!

 

「どうなっている? 何故ビルが凍っていっているのだ?」

 

「ハッ! ガリィです! ガリィが『水のエレメントアームズ』を使って、ビル内部からビル全体を凍らせているんです!」

 

「だとしてもあの氷結スピードはおかしいだろう!? 何故あんなに早く凍っているのだ!?」

 

「雨だ・・・・!」

 

エルシドもビルの異変に驚き、エルフナインがガリィの仕業と判断するが、翼がビルの凍りつく速さに戸惑うが、デジェルは察していた。

 

「デジェル兄ぃ??」

 

「響君達があの廃ビルに逃げ込み、響君がガングニールを破壊される直前まで大雨が降っていた。ビル表面は雨によって濡れている上に、湿度もかなり高くなっている。ガリィの『水のエレメントアームズ』が水分だけでなく、湿度も使って凍らせる事ができるなら、ビル全体を凍らせる事も可能だ・・・・!」

 

「だけどさ、何故ビル全体を凍らせているんだ?」

 

レグルスもモニターに映る二つの場面、“凍りつくビル”と“炎に包まれたビル内部”、この2つの関係性が解らなかった。全員が敵の狙いが解らずにいる間に、氷は徐々にビル全体を包み、カルディアが脱出に使った穴を塞いだ。

 

「もしかして、あの氷はマニゴルドとアルバフィカを逃がさないために作ったのかな?」

 

「イヤそれは無いレグルス、“逃がさない”のが狙いならば、ミカと相性が悪いカルディアや戦闘不能になった響君と“今は”戦えない未来君を“逃がす理由”がない。三人がいた方がマニゴルドとアルバフィカの動きをある程度制限できるからだ・・・・」

 

デジェルはモニターに映るマニゴルド達を見ると、ミカへと攻勢に出た。

 

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「アッチ!アチチチチチチッ!! ガキの内から火遊びなんてしやがって!! 将来ロクな大人にならねぇなこの水道管頭ッ!」

 

「お前が言っても説得力皆無だがな。それに相手はオートスコアラーと呼ばれる人形だ。ロクな大人になる事は無いだろう」

 

「ウルセェ!」

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハッ! もっとダゾ! もっともーっと見せてやるゾ!!」

 

「ガキの火遊びはここまでだぜ!」

 

攻勢に出ようとするマニゴルドとアルバフィカだが、炎の鞭が襲いかかり、二人は分断されたと思われたが。

 

「アルバフィカ!」

 

「『ローリングローズ』!!」

 

アルバフィカが黒薔薇の竜巻で炎を鞭を凪ぎ払い、その一瞬でマニゴルドがミカに迫る。

 

「オーララララ!!」

 

ミカがさらに火炎攻撃を放つが、マニゴルドは炎を掻い潜り、ミカの懐に付いた。

 

「ンン?!」

 

「オォゥラッ!!!」

 

ドゴォンッ!

 

マニゴルドの膝蹴りがミカの腹部にめり込み、ミカを上の階の柱に叩きつけた。

 

「スゴいゾ! 動きが見えなかっタゾ!!」

 

しかし叩きつけられたミカは落下しながらも、直ぐにマニゴルドを見るが、一階にいるのはアルバフィカだけでマニゴルドが消えており首を傾げる。

 

「ンン? 何処ダ?」

 

グワシッ!

 

「オオッ!?」

 

一瞬でマニゴルドはミカの胴体を両足で挟み込み『蟹爪<アクベンス>』を繰り出そうと見せるが。

 

「うおおぉらよっとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

マニゴルドはミカを両足で挟んだまま縦に回転し、遠心力を加え、足に挟んだミカを地面に向けて投げて叩きつけた。

アルバフィカの近くに着地するマニゴルド

 

「『蟹爪<アクベンス>』の発展技か?」

 

「まぁな。今度切歌をイジメもとい鍛えてやる時に試してみようと思ってた新技だぜ」

 

 

ー切歌sideー

 

「ヘックチッ!」

 

「どうしたの切ちゃん?」

 

「急にくしゃみなんかして?」

 

「イヤデスね、なんか凄くイヤな寒気を感じた気がするデスが・・・・」

 

その頃、切歌はマリアと調と共にS.O.N.G.本部に向かう途中で謎の寒気に襲われていた。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「あまり切歌や調で新技の実験をするな」

 

「何言ってんだよ? 俺は新技を編み出せる、切歌達も鍛える事ができる、一鳥二石じゃねぇの?」

 

「・・・・本音は?」

 

「アイツら<切歌と調とマリア>をイジメるのが楽しいからだ!・・・・って何言わせんだ」

 

暢気な会話を繰り広げる二人だが、屋内の空気が薄くなったせいか呼吸が少し苦しくなってきた。

 

「チッ、やべぇな。少し呼吸が苦しくなって来やがった・・・・! 敵の狙いは、ここで俺達二人を窒息死で始末する事か?」

 

「イヤ、あのミカなるオートスコアラーには、そんな知恵が回るような性格はしてなさそうだった。ただ考えなしに暴れているだけだな」

 

「歯止めが効かなくなったカルディアみたいなヤツかよ?」

 

「“心臓の病”と言う一応のリミッターが付いてない分、カルディアより質が悪いがな・・・・!」

 

二人は全く警戒を解くことなく、ミカが叩きつけられた箇所を睨むと、そこから土が盛り上がり、ミカが飛び出してきた。

 

「面白い! 面白いゾ!! 蟹座<キャンサー>! お前凄く面白いゾ!! もっともっとヤろうヨ!!」

 

「モテモテだなマニゴルド?」

 

「ケッ、アホなガキの子守りは切歌だけで十分なんだよこちとら!」

 

ミカは心底楽しそうにマニゴルドに向けて吼えるが、当のマニゴルドは気だるそうにしていた。ミカは飛び上がると、マニゴルドに向けて踵落としを繰り出すが。

 

「おっと!」

 

寸前でマニゴルドは後ろに一歩引いてかわし、ミカのグリーブは床を砕いた。

 

「アレレレ?」

 

「っマニゴルド! 退け!」

 

「っ!」

 

アルバフィカの声にマニゴルドは後方へ退くと、グリーブから光が溢れーーーー。

 

ボオンッ!!

 

なんとグリーブ、『火のエレメントアームズ』を叩きつけられた床が小さくだが爆発した。

 

「おいおい床が少し爆発したぞ? どうなってんだ?」

 

「ミカの『火のエレメントアームズ』が地面を擦る事で火花を生みそれが火炎となるなら、接近戦でグリーブを相手に叩きつけると、攻撃箇所から火花を生んで爆破させる能力だろう」

 

「『水のエレメントアームズ』が人体に触れれば氷結と沸騰を引き起こすなら、『火のエレメントアームズ』は攻撃と爆破を同時に起こすって訳か、どっちもえげつねぇ能力だぜ・・・・制作者の性格の悪さがにじみ出てんな!」

 

厄介な武装を作った双子座<ジェミニ>にマニゴルドは悪態を付いた。

 

「ヨーシ! まだまだ行くゾォ!」

 

「そこまでですよミカちゃん」

 

再びエレメントアームズで火炎攻撃を行おうとしたミカの背後にガリィが現れた。

 

「ガリィ、何で止める? 蟹座<キャンサー>面白いからもっと楽しみたいゾ」

 

「お楽しみ中に悪いんだけどね~。こっちはもう十分なんですよ。『火のエレメントアームズ』の戦闘データもかなり取れたし、当初の目的であるガングニールの破壊も既に完了。もうこれ以上やり合う理由が無いんですよ」

 

「エーーーーーーーーーーッ!!」

 

「チッ、文句言って無いでとっとと帰るんだよ! とっくに“仕込み”は終わったんだからな!」

 

ミカが不満そうに声を上げ、最初は猫なで声だったガリィは舌打ちした後、かなり口悪く怒鳴り声をあげた。

 

 

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「“仕込み”・・・・!?」

 

戦況をモニターで見ていたデジェルは、ガリィの言った“仕込み”と言う言葉から改めて“廃ビル内部”と“廃ビル外部”の画面を交互に見た。

 

「(“ガリィの『水のエレメントアームズ』によって凍らされ密閉された建物”・・・・“ミカの『火のエレメントアームズ』によって火炎地獄となったビル内部”・・・・火が燃え盛っている密閉された空間、もしもあの凍らされた建物に少しでも“穴”が空いてしまえば!)」

 

デジェルは気付いたガリィの、そしてこれは双子座<ジェミニ>のアスプロスが事前にガリィに吹き込んでいた“凶悪な策略”であることをデジェルが知る由がない。

 

「カルディア! 直ぐに響君と未来君を連れてそこから遠くに退避しろ!! マニゴルド! アルバフィカ! 緊急離脱だ!!」

 

『っ!?』

 

普段冷静なデジェルの突然の大声に、レグルスとエルシドだけでなくクリスと翼、弦十郎達も驚いた。

 

《なんだよデジェル?》

 

「良いから直ぐにそこから退避しろカルディア!できるだけ遠くにだ!」

 

カルディアは首を傾げたが、直ぐに響と未来を再び担いで今いるビル屋上から離れた。

 

「どうしたんだよデジェル兄ぃ・・・・?」

 

クリスもこんなに感情的になったデジェルを見るのは初めてで戸惑う。

 

「いっぱい食わされた。奴等の目的は窒息死なんて生温い策略ではなかった!」

 

「どういう事?」

 

「奴等の目的は・・・・!」

 

 

ーアルバフィカsideー

 

ガリィとミカは転移用の水晶を地面に叩きつけると、魔法陣が足元に現れ、沈むように消えるが、ガリィを大きな氷の結晶を生み出してカルディアが脱出に使った、響によって作られた天井へと投げた。

 

「では魚座<ピスケス>。もし生きていたらあの時の決着でもつけましょう」

 

「蟹座<キャンサー>、お前面白いゾ! また戦おうナ!」

 

ガリィとミカが消えるのと、ガリィが投げた氷の結晶が天井に張られた氷を破った。

 

ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

すると、破られた氷の天井から大量の気流がビル内部へと流れ込んできた。

 

《マニゴルド! アルバフィカ! 緊急離脱だ!!》

 

「おいおいマジかよ、コイツは!」

 

「不味い!」

 

通信機からデジェルの叫び声が聴こえたこの瞬間、マニゴルドとアルバフィカもガリィとミカの狙いを理解した。

 

密閉された空間の炎は酸素不足により鎮火するが、突然流れ込んできた空気により、屋内の鎮火されつつある火が激しく膨張し逆巻き、爆裂を引き起こすこの現象をーーーーーーーーーーーー『バックドラフト』。

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!!!

 

入り込んだ空気により炎が勢いを増し、炎の奔流がマニゴルドとアルバフィカごと屋内を呑み込むと、内部からビルが爆発したーーーーーーーーーーーー。

 

 

 

 

 




今回はここまで。

アスプロスともう一人の双子座<ジェミニ>のCVですが、三名の候補がいます。

諏訪部順一(聖闘士星矢Ω オリオン座のエデン。テニスの王子様 跡部景吾)

小西克幸(聖闘士星矢Ω 仔獅子座の蒼摩。天元突破グレンラガン カミナ)

浪川大輔(ハイキュー!! 及川徹。テニスの王子様 鳳長太郎)

誰が良いでしょうか?


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キャロルの思い出

ーレグルスsideー

 

「マニゴルド! アルバフィカ!!」

 

モニターで爆裂したビルを見てレグルスが叫び、他のメンバーも驚愕の様相を浮かべた。

 

「至急消防と救助隊の出動を要請!」

 

「了解!」

 

「アルバフィカ! マニゴルド! 応答してくれ!!」

 

弦十郎が藤尭に指示を出し、デジェルが二人に呼び掛けるが応答が無かった。

 

「司令、響ちゃんが救護班に収容されました。未来ちゃんも連れて、今こっちに向かっています」

 

「小日向だけ? カルディアはどうしたんですか?」

 

「それが・・・・救護班に二人を任せてビルの方へ向かったそうよ」

 

友里の報告を聞いてエルシドとデジェル、レグルスも司令室を出ようとしたが。

 

「レグルス、お前は待て」

 

「デジェル、でも・・・・!」

 

「今お前がしなければならないのは手足の完治だ。片手片足が使えない今の状態では、かえって邪魔だ」

 

「!」

 

「エルシド! そのような言い方は!」

 

「レグルスがこんな状態になったのは、あのバカ<響>を守るためだったんだぞ!」

 

「いや、良いんだ翼、クリス・・・・」

 

「レグルス・・・・」

 

エルシドの言い方に憤懣する翼とクリスだが、言われたレグルスが抑えた。

 

「確かにこんな状態じゃ足手まといになるだけだ。だから、頼むよ。エルシド、デジェル」

 

「あぁ」

 

「任せろ」

 

エルシドとデジェルが司令室を出るが、レグルス負傷した右腕を掴んで悔しそうに唇を噛みしめ、唇から血が滴り落ちるのを翼とクリス、弦十郎達やエルフナインが目撃した。

 

 

ーカルディアsideー

 

カルディアはマニゴルドとアルバフィカがオートスコアラーと交戦していたビルにたどり着くと、燃え盛っているビルを見つめる。

 

「・・・・・・・・・やっぱ必要だな。“アレ”が」

 

カルディアは以前アスプロスから渡された“ある物”が必要と考えていた。

 

 

 

ー未来sideー

 

「目を開けてっ! 響! お願い響っ!!」

 

本部に運ばれ、ストレッチャーに乗せられた響に未来と翼とクリスが必死に呼び掛けるが、完全に意識を失った響はそのまま手術室に搬送された。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

未来達は手術室の前で、響の無事を祈った。

 

「未来・・・・」

 

「レグルス君・・・・」

 

松葉杖を使いながら未来に近づくレグルス。前回の事で響との間に“わだかまり”が出来たが、未来とはソレと関係無しに話す。

 

「ゴメン未来、肝心な時に俺は・・・・」

 

レグルスが悔しそうに俯くが、未来はレグルスの負傷した手足を見て首を振る。

 

「レグルス君、あの時<ミカと初めて交戦した時>レグルス君が来てくれなかったら、きっと響も私も、板場さん達も殺されていたと思う、レグルス君は私達を守る為に負傷して戦えなかった。だから、気にやまないで・・・・」

 

「でも、ガリィはあの時に言った。“『エレメントアームズ』はまだ未完成”だって・・・・!」

 

「“未完成”?」

 

「ガリィが『水』、ミカが『火』、そしておそらくロンドンで翼が交戦したファラとクリスが交戦したレイアが『風』と『土』のエレメントアームズを使うだろう」

 

「つまりレグルスを負傷させ、アルバフィカとマニゴルドを追い詰めた武装が、後2つあると言う事か・・・・」

 

「聖衣を纏えない状態の今のレグルス達じゃ分が悪すぎる!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「“未完成のエレメントアームズ”でも、これ程の戦力になるなら、もしも“完成”してしまえば、黄金聖衣を持っていない俺達では、勝てないかもしれない・・・・!」

 

「えっ・・・・!」

 

「「っ!」」

 

レグルスの言葉に未来達は少なからずのショックを受ける。

 

「こんな時、アスミタさんは動いてくれないのかな?」

 

「アスミタが動くとしたら、見極めてからだろうな」

 

「見極める?」

 

「そう、本当にキャロル・マールス・ディーンハイムが世界に災いを呼び出す存在なのかどうかをね・・・・」

 

レグルス自身、キャロルに“既視感”を感じていた。

 

「(キャロルのあの目、凄く似ていた・・・・あれは父さんを殺されて荒んでいた俺と同じ目・・・・“大切な人”を奪われた者の目だ・・・・!)」

 

「マニゴルドとアルバフィカは生死不明の行方不明。カルディアがマリア達の方に行っているが・・・・」

 

「くっそ! シャクだがマニゴルドやカルディアの言うとおり、オートスコアラーを舐めていたぜ・・・・!」

 

マニゴルドとカルディアに“敵の力を過小評価し、味方の力を過大評価していた”と言われ、エルシドとデジェルとレグルスからも“敵を甘く見ている”と指摘され、実際勝ったと思った響のこの状態、自分達がオートスコアラーの実力を完全に甘く見ていた。そんな自分自身に腹を立てる翼とクリス。

 

「いずれにしても、私も雪音もこのまま燻っていられるか・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

天羽々斬とイチイバルが破壊され、戦線に入れない翼とクリスが拳を強く握り締めた。

 

 

 

ーカルディアsideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・嘘、デスよね? カルディア?」

 

「マニゴルドと、アルバフィカが、行方不明・・・・?」

 

「・・・・・・・・あぁ、嘘でも冗談でもギャグでもねぇよ」

 

カルディアから聞かされたマニゴルドとアルバフィカが行方不明になった事にマリアと切歌は愕然となり、調を驚き呆然となっていた。

 

「アルバフィカ・・・・・・・・」

 

「だ、大丈夫デス・・・・あ、あのマニゴルドとアルバフィカデスよ! きっと生きているデェス! 生きて、いるデスよね・・・・?」

 

「切ちゃん・・・・」

 

切歌が今にも泣きそうな顔と震える声で藁にもすがる気持ちで強がる。その痛々しい親友の姿に調はソッと抱きしめた。

 

「調・・・・マニゴルド、無事デスよね・・・・? アルバフィカもきっと帰って来るデスね・・・・?」

 

「うん・・・・あのマニゴルドとアルバフィカだよ。きっといつも通りに帰って来るから・・・・」

 

遂に涙を流す切歌に調が優しく頭を撫でた。

 

「切歌・・・・」

 

「オラマリア、お前もシャンとしろ。アルバフィカや婆さんが居たらどやされるぞ」

 

「・・・・・・・・分かっているわ。分かって、いるから・・・・」

 

ソッとカルディアがマリアに耳打ちし、マリアも何とか揺らいだ気持ちを奮い立たせようとしていた。

 

「(こりゃ重症だな。にしても、マニゴルドとアルバフィカがそう簡単にくたばる訳は無いが・・・・一体どうしたんだ?)」

 

 

ー???sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

その男は、目の前に倒れている二人の男性を見ていた。

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・」

 

倒れている二人の顔には見覚えがあった。かつて遠巻きだが“兄”と同じ頂きに立った者達だから、するともう一人、その男の眼前に現れた男を見て僅かに驚く。

 

「久しいな。君の小宇宙<コスモ>を感じたので探ってみれば・・・・なるほど。君はずっとこの場所にいたのか・・・・因果だな?」

 

「ーーーーーーーーーーーーーー」

 

「何、『黄泉比良坂』で倒れていた二人を見つけたのでな。ついでに連れてきたのだ」

 

「ーーーーーーーーーーーーーー」

 

「おそらく激しい戦闘が起こり、辛くも『黄泉比良坂』に逃げ込んだのだろう。しかしかなりの負傷をしている。この場所に来たのも或いは運命やもしれん。悪いがしばらくこの二人の治療の為に居座るぞ」

 

「ーーーーーーーーーーーーーー」

 

「礼を言おう・・・・」

 

「切、歌・・・・」

 

「マリ・・・・ア・・・・」

 

現れた男は、倒れている二人を念動力<サイコキネシス>で運んだ。マグマを吹く山へとーーーーーーーーー。

 

 

 

ー未来sideー

 

リディアンにて、未来は音楽室でピアノを演奏していた。

 

「(あれからもう一週間。レグルス君の治療は良好だけど、マニゴルドさんとアルバフィカさんの行方は解らず、ずっと眠ったままの響・・・・。目が覚めて、胸の歌が壊された事を知ったら、どう思うのだろう・・・・)」

 

『???』

 

未来が演奏を止めてしまい、授業に出ていた他の生徒達が首を傾げる。

 

「心此処に在らず、と言った所ですね?」

 

「あっ・・・・あぁイエ!」

 

音楽教師(男性)に言われ、未来もハッとなる。

 

「すみません・・・・」

 

「小日向さんは、試験の日までに悩み事を解決しておくように」

 

「はい・・・・」

 

「では、次の人」

 

未来の心は、響への心配でいっぱいだった。

 

 

ー弦十郎sideー

 

奏者と弦十郎達S.O.N.G.メンバーと聖闘士達が、本部の司令室にて『プロジェクトイグナイト』の進捗状態を会議していた。

 

「『プロジェクトイグナイト』。現在の進捗は89%。旧二課が保有していた第一号及び第二号聖遺物のデータと、エルフナインちゃんの頑張りのお陰で、予定よりずっと早い進行です」

 

「各動力部のメンテナンスと重なって、一時はどうなることかと思いましたが、作業や本部機能の維持に必要なエネルギーは、外部から供給出来たのが幸いでした」

 

友里と藤尭が作業の進捗を報告するが、緒川が気になる事を口にした。

 

「それにしても、シンフォギアの改修となれば、機密の中枢に触れると言うことなのに・・・・」

 

「状況が状況だからな。それに“八紘兄貴”の口利きも有った」

 

「“八紘兄貴”って、誰だ?」

 

クリスの疑問に翼が答える。

 

「限りなく非合法な実行力を持って、安全保障を裏から支える政府要人の一人、超法規措置による対応のねじ込みなど彼にとっては茶飯事であり・・・・」

 

「百々のつまりが何なんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

言い淀む翼に変わり、エルシドが口を開く。

 

「“内閣情報官風鳴八紘”、風鳴司令の兄上であり、翼の父上だ」

 

「えっ? 翼の父さん??」

 

「私達の黄金聖衣の使用許可も、国連に直訴しているのも彼の人だ」

 

デジェルも翼の父親である風鳴八紘の事は知っていた。レグルスはあまりS.O.N.G.と関係を持たないから知らなかったが。

 

「だったら初めっからそう言えよな。こんにゃく問答が過ぎるんだよ」

 

「私のS.O.N.G.編入を後押ししてくれたのも確かその人物なのだけど。なるほど、やはり親族だったのね?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「どうした?」

 

「やめろマリア、親族には親族なりの事情があるのだ」

 

「え?」

 

マリアの言葉に翼は難しい顔色を浮かべ、エルシドがあまりツッコムなと遠回しに言い、弦十郎も頭を掻く。すると司令室の扉が開き、響の見舞いに来た未来が入室してきた。

 

「響の様子を見てきました」

 

「生命維持装置に繋がれたままだが、大きな外傷は無いから一応は大丈夫だ。安心してくれ、小日向君」

 

「ありがとうございます」

 

デジェルの言葉に未来は笑みを浮かべる。

 

「だけど問題は、響の心の方だね」

 

「ガングニールを失い、立花がどう思うかだな?」

 

「ま~ためんどくさい状態になるんじゃねぇの? 『立花 響、趣味は人助けとウジウジと悩む事』って、今度また敵に自己紹介する時に言ってみたらどうだ?」

 

「カルディア・・・・!」

 

レグルスとエルシドが響の目覚めた時の心情を懸念し、カルディアはデリカシーゼロな事を言って、調が諫める。

 

 

ーエルフナインsideー

 

それは過去の場景。棚にはフラスコや試験管が置かれ、床には錬成陣や木や結晶体等が乱雑に置かれた家で、キャロル・マールス・ディーンハイムは錬金術の勉強をしていた。

 

「うわあぁっ!!」

 

ボオンッ!

 

「あっ! パパ!?」

 

爆発したところに目を向けると、キャロルと同じ色をした金色の長髪に顔に無精髭を生やし、眼鏡を掛けたキャロルの父親が料理をしており、手に持っていたフライパンには黒い煙が上がっていた。

 

「爆発したぞ・・・・」

 

「プッ! アハハハハハハハハ!」

 

振り向いた父の顔には爆発で黒くなっていた。そんな父のおかしな顔に、キャロルは朗らかに笑った。

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

テーブルに置かれる、黒くなった父の料理をキャロルは父に見つめられながら食したが・・・・。

 

「ウッ!・・・・・・・・」

 

「ウマイか?」

 

渋い顔を浮かべながら咀嚼するキャロルに、父は不安そうに聞いた。

 

「苦いし臭いし美味しくないし、0点としか言いようが無いし!」

 

「ハァ、料理も錬金術も、レシピ通りにすれば間違い無い筈なんだけどな・・・・どうしてママみたいに出来ないのか?」

 

黄昏る父に対してキャロルは勢い良く立ち上がる。

 

「明日は私が作る! その方が絶対美味しいに決まってる!!」

 

「コツでもあるのか?」

 

「内緒♪ 秘密パパが解き明かして。錬金術師なんでしょ?」

 

「ハハハハハ、この命題は難題だ・・・・」

 

「問題が解けるまで、私がずっとパパのご飯を作ってあげる!・・・・ウフフフ♪」

 

父親との幸せの時間を享受するキャロルの顔には、幸せに満ちた笑顔を浮かべていた。

 

 

* * *

 

「夢・・・・?」

 

天羽々斬のシンフォギアクリスタルの調整をしていたエルフナインは、“キャロルの記憶”を見てモノ憂い気に呟いた。

 

「数百年を経たキャロルの記憶・・・・?」

 

エルフナインは天羽々斬の状態を表示していたモニターの時計を見た。

 

「10分そこら寝落ちしてましたか。でも、その分頭は冴えたはず! ギアの改修を急がないと!」

 

エルフナインはキャロルの記憶から、“父の遺言”が脳裏に思い浮かべた。

 

【キャロル・・・・生きて、もっと世界を知るんだ・・・・!】

 

【世界を・・・・?】

 

【それがキャロルのーーーーーーーー】

 

“異端の技術に手を染めた”、と言われない非難により炎に包まれ極刑にされる父の姿にキャロルは涙を流していた。

 

「(パパは何を告げようとしたのかな? その答えを知りたくて、ボクはキャロルから世界を守ると決めて・・・・でもどうしてキャロルは、錬金術だけでなく、自分の思い出までボクに転送複写したのだろう?)」

 

キャロルの事を気にかけながらも、エルフナインはギアの改修の手を進めていた。

 

 

 

ーカルディアsideー

 

カルディアはS.O.N.G.本部の一室でデジェルとエルシド、レグルスを集めた。

 

「何の用だカルディア?」

 

「ん」

 

カルディアはアスプロスに渡された“あるデータが入ったメモリ”をデジェルに渡す。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

デジェルは一応自前のパソコンにメモリを挿入して“内容データ”を確認した。

 

「っ! これは・・・・」

 

「デジェル。これって・・・・!」

 

「あぁ、『フロンティア事変』の時にエアキャリアと一緒に消滅したと思っていたが・・・・」

 

「カルディア。何故お前がこれを?」

 

「んな事は今はどうでも良いんだよ、それでデジェル。コレで何とかなるか?」

 

「・・・・・・・・こちらも、櫻井良子<フィーネ>が持っていたデータが有るからな。それと合わせれば何とかなる」

 

「そうかい。それじゃ任せたぜ」

 

「カルディア、何故コレをデジェルに作らせようとする?」

 

「簡単だぜエルシド。あの過保護な奏者共やS.O.N.G.の連中がコレを知れば、ああだこうだと五月蝿く理屈コネ繰り回して、邪魔になるだけだからな」

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

デジェルもエルシドもレグルスも、響達奏者や弦十郎達が“彼女達”に対して過保護であると思っていたので何とも言えない顔になる。

 

 

 

 

ーキャロルsideー

 

「・・・・・・・・・・・・・!!!」

 

アジトの玉座に座り、目を閉じていたキャロルは突如、自分の身体を抱いた。

 

「くっ!・・・・うぅ!・・・・まただ・・・・! 身体から、溢れる程のこれは、一体・・・・!?」

 

キャロルは父を失い、世界を憎むようになって数百年、キャロルは自分の中に“抑えようのないナニか”が蠢く感覚がまるで発作のように沸き上がるのを感じていた。

 

「キャロル」

 

「アスプロス・・・・」

 

アスプロスが現れ、キャロルを抱き締めると小宇宙<コスモ>をキャロルの身体に流した。するとキャロルの身体から沸き上がっていたナニかが収まった。

 

「アスプロス、俺に一体、何が起こっているんだ?」

 

キャロルは戸惑いがちにアスプロスを問うが、

 

「・・・・・・・・安心しろキャロル、俺に任せろ。何も心配しなくて良い」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

キャロルは気持ちを落ち着かせようと、アスプロスの胸の中で目を閉じた。

 

「もう大丈夫だ」

 

少ししていつもの気持ちに戻ったキャロル。

 

「してキャロル? 手は打ったか?」

 

「無論、そろそろ頃合いだ」

 

アスプロスの言葉にキャロルは肯定するように頷いた。

 

 

ー弦十郎sideー

 

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 

黄金聖闘士達と切歌と調を除いたメンバーがいる司令室に、けたたましく警報が鳴り響くと、メインモニターに『Alca-NOISE』と表示された。

 

「アルカ・ノイズの反応を検知!」

 

「座標、絞り込みます!」

 

ズズゥウウウウウウウウウウウウンンッ!!

 

藤尭と友里がアルカ・ノイズを索敵仕様とすると、本部である潜水艦が激しく揺れた。モニターに外の映像が映し出されると、本部外にアルカ・ノイズが発電施設に攻撃していた。

 

「まさか敵の狙いは、我々が補給を受けている、この基地の発電施設!?」

 

「何が起きてるデスか!?」

 

緒川が呟くと同時に、切歌と調が入ってきた。

 

「アルカ・ノイズにこのドッグの発電所が襲われてるの!」

 

「ここだけではありません! 都内複数ヶ所にて、同様の被害を確認! 各地の電力供給率、大幅に低下しています!」

 

「今本部への電力供給が絶たれると、ギアの改修への影響は免れない!」

 

「内蔵電力もそう長くはもちないですからね・・・・」

 

「それじゃ、メディカルルームも!?」

 

メディカルルームにいる響にも悪影響が生まれると言われ、未来も焦る。すると、調が隠していた『潜入美人捜査官メガネ』を掛ける。

 

「フン・・・・!」

 

「な、何をしているデスか? 調・・・・??」

 

「しーーーーー・・・・」

 

「???」

 

調は人差し指を立てて静かにとジェスチャーし、切歌と共にコッソリと司令室を出て行った。

 

 

 

ー調sideー

 

司令室を出た調と切歌(潜入美人捜査官メガネ装着済み)は、通路を走っていた。

 

「『潜入美人捜査官メガネ』で飛び出して、一体何をするつもりデスか!?」

 

「時間稼ぎ・・・・!」

 

「なんデスと!?」

 

「今大切なのは、強化型シンフォギアの完成までに必要な時間と、エネルギーを確保する事!」

 

「確かにそうデスが、全くの無策じゃなにも・・・・」

 

切歌と調は、ある区画の扉前までにやって来た。

 

「全くの無策じゃないよ。切ちゃん・・・・」

 

「メディカルルーム・・・・??」

 

 

ーカルディアsideー

 

「あ?」

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

司令室に行こうとしていたカルディア達は通路で調と切歌が響が眠るメディカルルームに入って行くのを見た。

 

 

ー調sideー

 

「こんな所でギア改修までの時間稼ぎデスか?」

 

「このままだとメディカルルームの維持までも出来なくなる・・・・」

 

調は眠る響を見つめる。かつて“偽善者”と呼んで嫌悪し蔑んでいた相手、しかし今はその優しさに触れて、仲間として友達として先輩として尊敬する人。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「フッ・・・・だったらだったで、助けたい人がいると言えば良いデスよ!」

 

「イヤ」

 

「どうしてデスか?」

 

「恥ずかしい・・・・。切ちゃん(&カルディア)以外に、私の恥ずかしい所は見せたくないもの」

 

「ーーーー!!!」

 

何故か感極まった切歌は背中に百合の花を咲き誇らせ。

 

「ん?」

 

「調ーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

切歌は調に抱きつこうとするが、調は“目的の物”がある引き出しに向かい、かわされた切歌はそのまま床にビタンッ!と倒れる。

 

「ブギュッ!!・・・・イタタタタ、全くなんデスかもう・・・・」

 

ピピッと電子音が鳴ると、引き出しが開けられ、ソコに“目的の物”があった。

 

「見つけた・・・・!」

 

「見つかったデスか!?」

 

切歌が調の隣に行き、“目的の物”を見つめるが、二人の背後に一人の男性が現れーーーーーーーー。

 

グワシッ!×2

 

「ッッ!?」

 

「デデデェスッ!?」

 

二人の頭を誰かが掴んだ。

 

「ア、アワワワワワ・・・・」

 

「どどどどどど、どちら様デスか?」

 

ガタガタ震える二人には本当は分かっていた。自分達の頭を掴むこの人物の手のひらの感触から誰なのか即理解していた。

 

「なーに面白そうな事してんだ? 調? 切歌?」

 

「(カ、カカカカカカ、カルディア?!)」

 

「な、なななななな、何の事デスか? わ、私達はただの、通りすがりの美人捜査官デェス! 調とか切歌と言う名前の美少女奏者では無いのデス!」

 

『潜入美人捜査官メガネ』を装着している自分達の正体がバレる訳ないと思っている二人は脂汗を流しながら惚けるが・・・・。

 

「アホか、嫌アホだアホだと分かっていたけどな。たかがんなメガネごときで、俺らから正体を隠せると思っていたのか? アン??」

 

二人の頭を掴んだまま立ち上がり、ブランと宙に浮いたまま出入口の方に二人の頭(身体?)を向けると、レグルスとデジェルとエルシドが、苦笑い浮かべたり呆れていたり半眼で見ていた。

 

「バ、バレてるよ切ちゃん・・・・!」

 

「さ、流石は人類最強にして地上最強の黄金聖闘士デェス! 私達のスペシャルな変装を見破るなんて・・・・!」

 

「(本物のアホだわコイツら・・・・)」

 

「それで切歌に調、“ソレ”使うの?」

 

「うん・・・・」

 

「ぶ、武士の情けデス・・・・止めないで欲しいデェス・・・・!」

 

「誰が止めると言った」

 

「えっ?」

 

「デェス?」

 

てっきり止められると思っていた二人は、エルシドの言葉に思わず首を傾げる。

 

「医者志望としては、君達に“ソレ”を使わせるのはオススメ出来ないが・・・・」

 

「“戦おうとする者”を止めるつもりは無い」

 

「保護者も同伴するしね。ね、カルディア?」

 

デジェルとエルシドとレグルスは切歌と調を止める為に来たのではなかった。

 

「まぁな。オラ、さっさと“LiNKER”を持って行くぞ」

 

「「うん!/デェス!」」

 

調と切歌は引き出しに隠されていた“目的の物”、“LiNKER”を持って、戦場に向かった。

 

 



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自分に出来る事を

S.O.N.G.本部の補給線であるソーラーシステムから火の手が上がり、アルカ・ノイズが進軍していた。

補給基地の防衛として派遣されていた自衛隊がアルカ・ノイズを迎撃した。

 

ババババババババババッ!!

 

自衛隊の攻撃にアルカ・ノイズはダメージを受けて倒れた。従来のノイズと比較して、 アルカ・ノイズの出力スペックは、ノイズと大差ない性能だが、それでも高い汎用性の分解能力を実現したのは、 位相差障壁に用いられていたエネルギーを分解能力の向上にあてたからである。

結果、通常物理法則下にあるエネルギーの減衰率は低下し、 とくに「解剖器官」と呼ばれる部位の起動時には、 これまで観測されてきた従来の位相差障壁ほどの防御性能は損なわれている。

それ故に通常兵器でもアルカ・ノイズと渡り合う事が出来た。

 

「行けそうですっ!!」

 

シンフォギアも聖衣も使えない自分たちでも人類の驚異であるアルカ・ノイズと戦える事を喜ぶが、迎撃している自衛官の背後に、アルカ・ノイズが回転しながら襲い来る。

 

ヒュンッ! ズシャァンッ!!

 

「っ!?」

 

しかし背後から襲ってきたアルカ・ノイズの身体を“赤い閃光”が走ると、アルカ・ノイズは赤い炭となって消滅した。

 

斬ッ!!

 

さらに、突撃してこようとしてきたアルカ・ノイズの何体かが横一閃に絶ち斬られた。

 

「この場は我等に任せて貰う」

 

「オラとっととさがりな。通常兵器でも戦えると言っても、アルカ・ノイズは人類の驚異なんだ。油断していると即お陀仏だぜ」

 

「貴方は!?」

 

自衛官達の前に、黒髪を逆立てた鋭い目付きをした武士のような男性、山羊座<カプリコーン>のエルシドが手刀を構え。

群青色の長髪を無造作に伸ばした男性、蠍座<スコーピオン>のカルディアが、気だるそうに自衛官達を守るように、アルカ・ノイズに立ちはだかる。

 

「(やれやれ、オートスコアラーならまだ楽しめそうだが、こんな雑魚相手じゃ爪が疼かねぇぜ・・・・)」

 

元々エルシドと違ってカルディアは率先して自衛官を守る性分はしていない。

アルカ・ノイズが現れたと言うことは、レグルスを負傷させ、マニゴルドとアルバフィカを追い詰めたオートスコアラーとエレメントアームズが現れるのを期待しているのと、一応“保父さんその2”として二人のお目付け役も兼ねてだ。

カルディアは自衛官達の後方の建物の上にいる二人に目を向ける。

 

「行くデェス!」

 

「うん・・・・!」

 

調と切歌は、シンフォギアクリスタルを構えて聖詠を口ずさむ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

調が唄うと、クリスタルが光り輝き、調の身体を包み込んだ。

『フロンティア事変』では黒く染まっていた部分が白く変わり、桃色のアーマーが調の身に装備される。

ツインテールの髪にもアーマーが装備された。

 

「キリッ・・・・!」

 

調がヨーヨーの形をしたアームドギアを構えた決めポーズをした。

調が纏うシンフォギアは、シュメール神話の戦女神ザババが振るったとされる二刃の片方、『紅刃 シュルシャガナ』。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

調はフォニックゲインの高める歌を歌いながら、アームドギアのツインテール型コンテナを展開し、中から幾つもの小型円鋸を高速回転させながらアルカ・ノイズ飛ばした。

 

『α式 百輪廻』

 

調の丸鋸がアルカ・ノイズ達を次々と撃破し、調は1体のアルカ・ノイズを踏みながら着陸した。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

そして切歌も歌いながら纏うは、魔女の帽子ようなアーマーを頭に付け肩にはマントのようなアーマーを付けた調と同じく戦女神ザババが振るった二刃のもう片方、『碧刃 イガリマ』。

切歌はアームドギアである大鎌の刃を三枚に分裂させ、ブーメランのように飛ばした。

 

『切・呪リeッTぉ』

 

放たれた刃がアルカ・ノイズを切り裂く。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

調の鋸と切歌の大鎌が次々とアルカ・ノイズを切り裂いていく。

 

「悪くないデス!」

 

「(コクン)」

 

「(調と切歌用に作られたLiNKERじゃねぇが、それなりに使えるか・・・・)」

 

カルディアも二人の様子を眺めながらも、アルカ・ノイズを鋭く伸びた紅い爪の衝撃波を飛ばし、アルカ・ノイズを貫いていた。

 

 

ー弦十郎sideー

 

当然司令室では、無断でシンフォギアを纏っている二人をモニタリングしていた。

 

「シュルシャガナとイガリマ、交戦を始めました!」

 

「お前達、何をやっているのか分かっているのか!?」

 

《勿論デスとも!》

 

《今のうちに、強化型シンフォギアの完成をお願いします・・・・!》

 

「くっ、エルシド! カルディア! 二人を止めろ!」

 

《断る》

 

《ウゼェ》

 

「何だとっ!?」

 

《現在の状況、俺達聖闘士は聖衣を纏えない。戦えるシンフォギア奏者は月読と暁のみ。戦略的に考えて二人が戦うしかない》

 

「しかしだな!」

 

《いちいちウゼェな! 調も切歌も、アホだが馬鹿じゃねぇ。自分達に出来る事をやろうとしてんだ。黙ってみていやがれ!》

 

モニターに映るエルシドとカルディアは、自衛官達の避難誘導をしながら、調と切歌の奮闘を見ていた。

 

 

ー調sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

調はヨーヨーの形をしたアームドギアを投げて、アルカ・ノイズを撃破する。

アルカ・ノイズが反撃すると、大きく跳躍してかわし。

 

ドドドッ!

 

三つの砲を付けたアルカ・ノイズが砲弾を跳躍した切歌に放つが、切歌はヒラリと交わし。

 

「当たらなければーーーーーー!」

 

交わした勢いで大鎌のアームドギアを振りかぶって、アルカ・ノイズを切り裂いた。

調は足のローラスケートでアルカ・ノイズ間をすり抜けて、その場で回転すると、スカート部分が鋸に変形し、体を回転させながら周囲のアルカ・ノイズを切り刻む。

 

『Δ式・艷殺アクセル』

 

赤い煙をあげながら消滅するアルカ・ノイズに調は笑みを浮かべる。

 

「(“奏専用のLiNKER”でも、それなりに戦えるか)」

 

「(中々やるな二人共。だが、アイツを料理出来るかな?)」

 

調と切歌の戦いを見守りながら、エルシドとカルディアは、ソーラーシステムのパネルの上で戦場を眺めている『オートスコアラー ミカ・ジャウカーン』を睨んでいた。

 

 

ーミカsideー

 

「ニコイチでもギリギリ? これはお先真っ暗ダゾ?」

 

S.O.N.G.の補給線を破壊しに来ていたミカは、調と切歌の奮闘を眺めていた。

 

 

ー響sideー

 

響は夢を見ていた。『謂われない罪状』、『人々から向けられる理不尽な非難』、『壊されていく日々』、『悪意に押し潰されそうになる苦痛』、過去の忌まわしい出来事が夢に現れていた。

そして最も忌まわしい記憶、『自分達を置いて去っていく父の背中』。

 

【私、みんなでまた暮らせるようにリハビリ頑張ったよ・・・・。なのにどうして?・・・・お父さん!】

 

去っていく父の背中に必死に手を伸ばす響の視界が白く染まった。

 

* * *

 

「あっ・・・・」

 

目を覚ました響の瞼には涙が流れていた。

 

「(大切なモノを壊してばかりの私・・・・。でも未来は、そんな私に救われたって励ましてくれた・・・・そしてレグルス君は・・・・)」

 

響の脳裏に、『フロンティア事変』で“完全聖遺物ネフェリム”と交戦した際、暴走して今のようにベッドに倒れる自分にレグルスが言ってくれた言葉がよみがえる。

 

【響の頑張りが、人を励ましたり、“希望”をくれた事は間違いないよ】

 

「私が、レグルス君に“希望”を与えられた・・・・。レグルス君や未来の気持ちに応えなきゃ・・・・」

 

響は起き上がり、本来胸元にあるはずのシンフォギアクリスタルに触れようとするが、そこにガングニールはなかった。

 

「あっ・・・・!」

 

響は気を失う寸前、ミカによってガングニールが破壊された事を思い出た。

 

「・・・・・・・・」

 

響は“人助けの力”を、ガングニールを失った事を理解し、顔を伏せた。

 

 

ークリスsideー

 

「シュルシャガナとイガリマ、奏者二人のバイタル安定? ギアからのバックファイアが低く抑えられています」

 

「一体どういう事なんだ?」

 

「失礼」

 

デジェルとレグルスが入室し、デジェルが二人のバイタルをモニタリングを確認した。

 

「どうデジェル?」

 

「今のところ二人のバイタルは安定している」

 

「その口ぶり、デジェルさんとレグルス君は、切歌さんと調さんがメディカルルームから、LiNKERを持ち出したを知っていたようですね?」

 

「まぁね」

 

緒川の問いにレグルスは言い訳する素振りも見せずに答えた。

 

「まさか“モデルK”を!? 奏の残したLiNKERを使ったのか?!」

 

“LiNKER モデルK<奏>”、響の前任のガングニール奏者、天羽奏専用に調整されたLiNKERの事である。

 

「何故止めなかった?」

 

「調も切歌も、今自分の出来る事を必死にやろうとしている。“覚悟”を持っている人間に、“危険だ”とか“安全性を考えろ”だとか野暮な事を聞くつもりは無いよ」

 

「っ! 二人の身の危険を考えなかったのか・・・・!?」

 

LiNKER使用の危険性を知る弦十郎は、レグルスに目を鋭くして睨んだ。

しかしレグルスは弦十郎の視線に怯むことなく睨み返す。

 

「いつまでも、“子供だ”とか“大人だ”とか、つまらない理屈で、二人の気持ちを無視しないで欲しいな」

 

「何・・・・!?」

 

「調くんも切歌くんも分かっています。しかし自分に出来る最善を、彼女達が自分達で考えた行動です」

 

レグルスとデジェルは、戦おうとする調と切歌の気持ちを尊重していた。

 

《ギアの改修が終わるまで!》

 

《発電所は守って見せるデース!》

 

モニターでは調と切歌がアルカ・ノイズを撃破していた。

 

 

ーキャロルsideー

 

その頃、アジトの玉座で各地の状況を眺めているキャロルとアスプロス。まるで“王”と“宰相”のような立ち位置の二人は、キャロルは少々つまらなそうに、アスプロスは意味深な笑みを浮かべながら画面を見る。

 

先ず地熱発電所を破壊し、両手の指の隙間にコインを挟んでスタイリッシュなポージングをしている“レイア・ダラーヒム”。

 

《概況、派手に破壊完了・・・・!》

 

河川敷に設置されたソーラーパネルの周りの水を操り破壊する“ガリィ・ジャウカーン”。

 

《まるで積み木のお城。『エレメントアームズ』や“レイアちゃんの妹”に手伝ってもらうまでも無いわね♪》

 

風力発電所の周りに“緑色の竜巻”を幾つもの生み出して破壊しながら、大剣で施設を斬り破壊する“ファラ・スユーフ”。

 

《該当エリアのエネルギー総量が低下中。まもなく目標数値に到達致しますわ》

 

「“レイラインの解放”は任せる。俺達は、“最後の仕上げ”に取り掛かる」

 

キャロルは玉座から立ち上がる。

 

《いよいよ始まるですのね?》

 

「イヤ、いよいよ終わるのだ。そして万象は・・・・黙示録に記される」

 

「(さて、いよいよ計画も大詰め。俺の“目論み”もここからが本番だな)」

 

アスプロスは自分の足元に置いてある。『完全聖遺物 双子座<ジェミニ>の黄金聖衣』が収まる『聖衣レリーフ』を撫でながら含み笑みを浮かべていた。

 

 

ー切歌sideー

 

「オォリャアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「ハッ!?」

 

アルカ・ノイズと交戦していた切歌にミカが灼熱に燃えている赤い水晶の形をした、高圧縮カーボンロッドで切歌を攻撃しようとするが、切歌は寸前でアームドギアで防いだ。

 

「キヒッ♪」

 

「ぐ、ぐぐぐぐぐぐ・・・・!」

 

だが切歌はミカのパワーに押されて片膝を付き、ミカはもう片方の手から赤いカーボンロッドを取り出して。

 

「ウリャッ!」

 

後ろに回った調に向かって、切歌をカーボンロッドで殴り飛ばし、調も巻き込んでぶっ飛んだ。

 

「「ああああああッ!!」」

 

「おっと!」

 

二人が建物の壁にぶつかりそうになると、カルディアが二人を受け止めた。

 

「ようやく真打ちのご登場ってか♪」

 

ミカに向かって好戦的な笑みを浮かべる。

 

 

ークリスsideー

 

「調! 切歌!」

 

マリアはミカに殴り飛ばされた二人に叫ぶが、カルディアが受け止めたのを見てホッとする。

しかし、クリスが拳を握って歯痒そうな顔をする。

 

「チッ、このまま見ていられるか!」

 

「(クリス・・・・)」

 

クリスが司令室を飛び出し通路に出るが、翼がその手を掴んで引き留めた。

 

「待て! 今の私達に何ができる!?」

 

「聖衣を纏う事さえできないレグルスや蠍座<スコーピオン>だって戦ったんだぞ! アタシ達だけ黙ってくわえてろって言うのか!?・・・・あっ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

クリスは翼が自分と同じ歯痒そうな顔をしているのに気付く。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

翼も自分と同じように、生身でも圧倒的な超人の強さを持つ聖闘士達と違って、シンフォギアが無ければ戦場に立つことができない自分自身に対して、不甲斐なさを感じていると知り、一端は落ち着く。

 

「翼さん、クリスさん」

 

「「?!」」

 

通路からエルフナインが現れた。

 

「お二人に、お願いがあります・・・・!」

 

「「???」」

 

 

ーカルディアsideー

 

「アイタタタタタ・・・・」

 

「簡単には行かせてくれない・・・・」

 

カルディアから降ろされた切歌はカーボンロッドに殴られた所をさすり、調も身体に付いた土埃を払った。

 

「ト、トトトト・・・・」

 

当のミカは地面に立てたカーボンロッドの先端で曲芸師のようにバランスを取りながら、両手に持った赤いグリーブ、『火のエレメントアームズ』をジャグリングしながらカルディアに向ける。

 

「蠍座<スコーピオン>。今回は逃げないんだナ?」

 

「あぁ、今日は俺の相手をしてもらうぜ。オートスコアラー!」

 

お互いに獰猛な笑みを浮かべるカルディアとミカ。

 

「カルディア・・・・!」

 

「まだ私達は戦えるデス!」

 

「ウルセェな、ここからは選手交代だ。エルシド、二人を頼むわ」

 

「あぁ」

 

「「うわっ(デェス)!?」」

 

いつの間にか、エルシドが調と切歌の後ろに現れた。

 

「エルシドさん・・・・?」

 

「いつからそこにいたデスか?」

 

「気にするな。自衛隊員達も避難も完了している。それにデジェルから言われているだろう」

 

【連続投与はしてはイケナイよ。そのLiNKERは元々天羽奏専用のLiNKERだからね。最悪ギアからのバックファイアで死ぬ可能性がある】

 

「で、でもデスね・・・・」

 

「カルディアだけでオートスコアラーと戦うのは・・・・」

 

「なんだぁ? お前ら、俺の事を理解していねぇのか?」

 

「「えっ??」」

 

カルディアは押し殺したように声を出し、調と切歌、司令室で戦況を見ていたマリア達も首を傾げる。が、レグルスとデジェルだけはハアァ・・・・と盛大なため息を洩らて、エルシドは鉄面皮を貫いていた。

 

「あっ、カルディア・・・・」

 

「まさか、デスか?」

 

《こんな状況で?》

 

調と切歌とマリアが、カルディアの言わんとしている事を察して、嫌な予感に冷や汗を垂らす。

 

「俺はなぁ・・・・。そろそろひっそりと穏やかに静かに、戦いがしてぇんだよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

「「ああぁ、やっぱり(デ~ス)・・・・!」」

 

「オォっ!」

 

カルディアの宣言に調と切歌が両の掌を両頬に当ててOh My God!と言わんばかりのポーズを取り、ミカは面白そうに笑みを浮かべる。

ちなみに司令室にいるレグルスとデジェルは呆れ、マリアも調と切歌と同じポーズと台詞を言って、弦十郎達は唖然とした。

 

「オラ、さっさと殺り合おうじゃねぇか。『火のエレメントアームズ』を構えな♪」

 

「良いゾ! アスプロスももっとデータを集めろって言っていたしナ!!」

 

ミカは嬉々として赤いグリーブの『火のエレメントアームズ』を両足に装備する。

 

「行っくゾーーーーーーーーーーーーーー!」

 

ミカがグリーブの靴底を擦ると火花が飛び散り、そこから炎が蛇のように曲がりくねりながら、カルディアに向かって走った。

 

「ウオラッ!」

 

カルディアは赤く伸びた爪で自分に向かってくる炎を貫いた。

 

「まだまだだゾ!!」

 

ミカはグリーブをさらに擦ると、炎の大玉が幾つも現れ、それをカルディアに向けて、両手に持ったカーボンロッドでフルスイングして放った。

 

「うおっ!」

 

バク転などで回避するカルディアに、ミカの髪の毛のロールからジェット噴射が火を噴き、『火のエレメントアームズ』からも火を噴かせた。

 

「イヤッハァッ!!」

 

「おいおい空も飛べんのかよ!?」

 

シンフォギア奏者どころか、聖闘士達ですら飛行能力を有していないのに対し、制空権を持ったミカはそのままカルディアに向けて急降下しながら『エレメントアームズ』で蹴ろうとする。

 

「っとぉ!」

 

「ウォッ!?」

 

ドオォオオオオンッ!!

 

カルディアに回避され、あわてて軌道修正しようとするが間に合わず、地面にグリーブを叩きつけた箇所から小さな爆発が起こった。

 

「アレレ??」

 

ミカのグリーブが地面にくい込んでしまい、引っこ抜こうとしていた。

 

「(あれが『火のエレメントアームズ』。空気中の酸素を燃やして発火現象と爆破現象を引き起こす、オートスコアラー ミカ専用の武装か・・・・・・・・面白ぇじゃねぇか!!)」

 

「よいしょっとぉ!」

 

ドオォオオオオンッ!!

 

ミカは能力を発動させて、グリーブをくい込んだ地面を爆破させて足を抜いた。

 

「フゥ~、避けてばかりじゃ面白くないゾ。本気で相手してくれないなら、あのじゃりん子共で遊んでも良いんだゾ?」

 

グリーブでステップを刻みながら、ミカは調と切歌を見据える。

 

「「っ!!」」

 

調と切歌はアームドギアのヨーヨーと大鎌を構えようとするが、その二人の前にエルシドが立ち、手刀を構える。

 

「おいコラ、何勝手に相手を代えようとしてんだ?」

 

カルディアがミカに向けて赤い爪を構える。

 

「お前、本気で相手するのカ?」

 

「あたりきしゃりきよ。それにな・・・・ふざけんなよテメェ・・・・!」

 

カルディアが怒気を含んだ声でミカを睨む。

 

「「カルディア・・・・」」

 

「調と切歌で遊ぶだと? 誰の許可を得て、んな事しようとしてんだ?」

 

「オヨ?」

 

「良いかぁ、調と切歌をなぁ。いじめたりからかったり玩具にして遊んで良いのはなぁ・・・・俺とマニゴルドだけなんだよッッ!!!」

 

「「それどういう意味(デスか)っ!!??」」

 

自分達の為に怒気を放ったと思っていて少し感動した調と切歌は盛大なツッコミを炸裂させた。

 

「フ~ン、じゃ続きだゾ!」

 

ミカは再び大玉の火炎弾を生み出してカーボンロッドで殴り、カルディアに向けて放った。

 

「オゥラッ!!」

 

カルディアは気合いと共に拳で火炎弾を殴り打ち返した!?

 

「エッ?」

 

一瞬唖然となったミカは回避も防御も遅れ、打ち返された火炎弾が直撃した!

 

「ウワァッ!?」

 

火炎弾を浴びたミカは少し顔と服に焦が目付いた。

 

「驚いた「まだまだだぜぇ!!」ゾ!?」

 

炎に包まれたミカの眼前にカルディアがヌッ!と現れ、ミカの腹部に膝蹴りをする。

 

「ウオッ!?」

 

「だぁらあああああああああっ!!」

 

ドガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

 

カルディアが身体の柔軟性を活かし、まるで手足が鞭のようにしならせながらミカに攻め立てた!

 

「オゥラよっとぉッ!!」

 

ガシッ! ブウゥンッ!!

 

カルディアはそのままミカの頭を掴むと大きく振りかぶって、建物の壁に叩きつけた!

 

「オオオオッ!!」

 

ミカはその勢いで次々と壁を破壊しながら飛んで行った。

 

「ヘヘヘヘ!」

 

カルディアが笑みを浮かべながらミカが飛んで行った方向を見ると。

 

 

「イヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

飛んで行った先からミカが髪とグリーブのバーニアで戻ってきた。

 

「蠍座<スコーピオン>お前、面白いナ!」

 

「なんだぁ? やっと分かったのか?」

 

ボロボロの格好になったミカだが、その顔はギザギザの歯を剥き出しにした笑みを浮かべ、カルディアも犬歯を見せた笑みを浮かべる。

 

「楽しもうじゃねぇかよ! オートスコアラーミカ・ジャウカーンッ!!」

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

ミカがバーニアを吹かせてカーボンロッドを両手に携えてカルディアに突っ込み、カルディアも赤い爪を伸ばして、踏み込みでアスファルトを砕きながらミカに突っ込んだ。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」

 

灼熱の天蠍と業火の杖が、紅蓮の戦場で狂想曲を奏でた。




今回はここまでです。


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子供の覚悟

最近リアルの忙しさと暑さで中々ストーリーがまとまらなかったですが、投稿です。


そこはまさに紅蓮の焔地獄、悪鬼羅刹が暴れる修羅の場所。

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

その場で狂笑を上げる二人の人間、いや正確には二人は人間ではない、一応片方は人間だが、その身に宿る力は常人は遥かに越えた超人。『蠍座<スコーピオン>のカルディア』。そしてもう片方は、見た目はゴスロリ服の少女だが、その正体は、世界に怨みを持つ錬金術師が生み出した、戦闘人形。『オートスコアラー ミカ・ジャウカーン』。

 

「行くゾ! 行くゾ! 行くゾ! 行くゾ! 行くゾーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

ミカは興奮冷めぬ様子で、赤い大きなロールヘアと赤いグリーブの自分専用の武装、『火のエレメントアームズ』の靴底からバーニアのように火を吹かせ、一気にカルディアに近づき、カーボンロッドで力を込めて、横顔に叩きつけようとする。

 

「オラァァァァァァっ!!」

 

普通の人間ならば、回避できず首の関節が360度回転する筈の一撃を、当たる寸前でかわし、カルディアは回転して足を鞭のようにしならせ、ミカの脇腹へ叩きつけた。

 

「っ!?」

 

カルディアの超人の強さを持つ聖闘士の最高峰、黄金聖闘士の一撃、常人ならば、運が良くてもあばら骨が全壊してもおかしくない攻撃を受けて、ミカは身体をくの字にして地面に叩きつけられるが。

 

「イヒッ!」

 

しかしミカはにっかりと笑みを浮かべ、『火のエレメントアームズ』を地面に擦らせ、業火を生み出しカルディアの身体を炎が襲う。

 

「うおっとぉっ!」

 

カルディアは襲い来る業火をもろともせず突っ込み、炎に呑まれながらミカに肉薄し、赤い爪を突き立てる。

 

「『スカーレットニードル』!!」

 

「オオゥッ!!」

 

赤く伸びた爪で、人体に蠍座を形成する星の位置をツボのように突き刺し、神経中枢を攻撃し、地獄の激痛でのたうち回り、その痛みを蠍座を形成する星の数、計15発も少しずつ浴びせ、徐々に相手を追い詰め、降伏して楽に殺されるか、抵抗して更なる苦痛でのたうち回るかを選択させる技。一撃必殺の多い黄金聖闘士の中では『最も慈悲深い技』とさえ言われている。

 

『それって拷問の末に結局殺すって意味じゃないの(じゃえねぇか)(ではないか)(じゃないデスか)??』

 

これを聞いて奏者一同は、『最も慈悲深い』処か『最もえげつない技』と認識した。しかしーーーーーーーー。

 

「ニヒッ! ヒャッハァッ!!」

 

ミカは『スカーレットニードル』を5発をその身に浴びたにも関わらず、カルディアの身体に両手で持ったカーボンロッドを叩きつけた。

 

「グホッ!」

 

カルディアは口から少し血を吐きながら吹き飛ぶが踏ん張り地面をえぐりながら止まる。

 

「な、何でカルディアの『スカーレットニードル』を浴びたのに、アイツは大丈夫なんデスか?!」

 

「ありえない・・・・! カルディアは女の子だからって手加減する性格じゃないし、黄金聖闘士の攻撃を浴びて何とも無いだなんて・・・・!」

 

「イヤ、おそらく相手がオートスコアラーだからであろう」

 

「どういう事エルシドさん?」

 

「カルディアの『スカーレットニードル』は人体に使えば絶大な威力を発揮する。しかし相手は自動人形、人体ではない、つまり痛覚が無いのだ」

 

「「っ!?」」

 

オートスコアラーは人間の姿をしているが、実際は錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムが造り出した自動人形、生物としての神経や血肉が有るのではない。

故にカルディアの『スカーレットニードル』の影響を受けないのであった。

 

「へへへ、良いね良いねぇ。『スカーレットニードル』が通じないヤツがいるなんてよ・・・・面白くなったぜーーーーーーーーッッ!!」

 

「キャハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

雄叫びを上げるカルディアと、テンションが上がり大笑いを上げるミカはさらに激しく戦った。

 

「オラオラオラッ!!」

 

必殺の技である『スカーレットニードル』を通じないカルディアは、手足を鞭のようにしならせ、ミカに攻め立てる戦法を取るが。

 

「ソォレっ!!」

 

「うおっ!?」

 

ミカは『火のエレメントアームズ』で地面を擦ると、カルディアの足元の地面が、文字通りの火の海へと化したが、カルディアは間一髪に後方へ跳びかわす。

 

「まだまだダゾーーーーッッ!!」

 

ミカは髪とエレメントアームズのバーニアでカルディアに肉薄した。

 

「チィッ!」

 

「ウリャリャッ!!」

 

「ぐあぉっっ!!」

 

ミカはカーボンロッドでカルディアを地面に叩きつける。

 

「フッ!!」

 

倒れたカルディアにミカは、カーボンロッドを突き刺そうと投擲する。

 

「クソッ!」

 

「キャハハハハハハハハハハハッッ!!」

 

間一髪身体を反らしてかわすカルディアだが、ミカはさらにカーボンロッドを次々と投擲し、カルディアは地面を転がりながらかわすが、ついに身体の周りを突き刺さったカーボンに囲まれ動けなくなった。

 

「面白かったゾ、蠍座<スコーピオン>! でもこれで、終わりダゾーーーーッッ!!」

 

ミカの持つカーボンロッドが燃え上がり、カルディアの心臓に向けて投擲した。

 

「「カルディアーーーーーーーーッッ!!」」

 

調と切歌がカルディアの元へ行こうとするが。

 

「ヘッ、騒ぐんじゃねぇよっっ!!」

 

カッとカルディアが気合いを込めると、小宇宙<コスモ>が波動のように周りに拡がり、迫っていたカーボンロッドを周りを囲んでいた物ごと破壊した。

 

「なんトォッ!?」

 

「うおりゃっ!!」

 

「ガァッ!!」

 

驚くミカの背後に一瞬で移動し、カルディアは両足を組んでミカの首に巻き付け、空中で大きく身体を仰け反らせながらミカの頭を地面に叩き付けた。

 

「へへへへへへ、確かにこれで、終わりだな・・・・」

 

ミカを地面に杭打ち状態にして、跳躍して離れたカルディアは不敵の笑みを浮かべた。しかし、その身体からは、蒸気が舞い上がっていた。

 

 

ー調sideー

 

「す、凄い・・・・。知ってはいたけど、本当に凄い・・・・」

 

「カルディア、何だか生き生きしてるデスな・・・・」

 

「しかし良く見ろ。カルディアの身体から流れた汗が体温で蒸発し、白い蒸気が出ている」

 

「あっ! まさか発作が!?」

 

カルディアは心臓に不治の病を背負っており、本来ならば死ぬか一生を病院のベッドで過ごす程の病状であったが、“禁術”により心臓に常人では耐えられない熱を放出して病の進行を遅らせている。しかしその“禁術”によりカルディアの心臓は燃えているような高熱を放出し、最悪の場合は“死”に直結してしまう。

実際『フロンティア事変』では死ぬギリギリ一歩手前までの状態になってしまっていた。

 

「“白い蒸気”が出たと言うことは、発作が出始めていると言うことだ」

 

“白い蒸気”はカルディアの身体から流れる汗が心臓の発熱と共に、身体の体温が高まり汗が蒸気した事で発生する現象。これが血液が蒸発した“赤い蒸気”となれば本格的にカルディアの“死”が決定したという事になる。

 

「デジェルさん! 聴こえるデスか!?」

 

《あぁ、聞こえている》

 

「早く来てくださいデス! カルディアが発作を・・・・」

 

高熱を発するカルディアの心臓の熱を冷ます事が出来るのは絶対零度の凍技を持つデジェルのみ。切歌がデジェルに来てもらおうと連絡するがーーーー。

 

「ヒャァッハーーーーーーーーッ!!」

 

「「っ!!」」

 

地面に突き刺さったミカが再び立ち上がって来た。

 

「フフフフフ、面白いゾ! 面白いゾ蠍座<スコーピオン>ッッ!! 蟹座<キャンサー>も面白かったけどお前も最高に面白いゾ!!」

 

「そうかよ・・・・! こっちもテンション上がって来た所よ!!」

 

カルディアが爪を伸ばしてミカに突っ込もうとするが。

 

「「ストップ(デェス)ッッ!!」」

 

「ぐがッ!?」

 

調がカルディアの後頭部を、切歌がカルディアの背中をそれぞれにダブルドロップキックをおみまいして、カルディアをおさえた。

 

「選手交代・・・・!」

 

「こっからは私達が相手デス!!」

 

カルディアを踏んづけたままミカを睨み、アームドギアのヨーヨーと大鎌を構える調と切歌。

 

「ン~~? じゃりん子どもが相手カ? 私は蠍座<スコーピオン>ともっと遊びたいゾ」

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

明らかに役不足と言いたげなミカの態度に、調と切歌は静かに、LiNKERが入った注射銃を取り出して、お互いの首筋に当てる。

 

「月読、暁・・・・」

 

もちろん、エルシドがちゃっかりカルディアの腰を踏みながら、二人の肩に手を置いて止めようとするが。

 

「エルシドさん、やらせて欲しいデス・・・・」

 

「このままカルディアが戦えば、また発作が発生してしまう。それにエルシドさんは、これからの戦いに必要な人」

 

「それはお前達二人もそうだ、お前達二人も必要な存在なのだぞ」

 

「ありがとうございますデス。」

 

「でも私達は、カルディアを失いたくない・・・・!」

 

『フロンティア事変』で一度は命を落としかけたカルディアを、また失う事を調は拒んでいた。

 

「あのな、俺が大切だと思うならさっさと足を退けろよ」

 

三人の足元でカルディアが抗議するが、取り敢えず無視された。

 

 

ーマリアsideー

 

「はっ、さらにLiNKERを!?」

 

「何をしているエルシド! 二人を連れ戻せ! これ以上「やらせてあげて下さい!」っ!?」

 

弦十郎の言葉をマリアが遮った。

 

「これは、あの日道に迷った臆病者達の償いでもあるんです・・・・」

 

「臆病者達の償い?」

 

「誰かを信じる勇気が無かったばかりに、迷ったまま独走した私達。だから、エルフナインがシンフォギアを甦らせると信じる事こそ、私達の償いなんです!」

 

マリアは歯を食い縛り、閉じた唇には一筋の血が流れた。

 

「弦十郎、前に言ったよね?『子供のやりたい事を支えてやれない大人なんて、カッコ悪くて叶わない』ってさ。調や切歌は弦十郎から言わせれば、まだまだ子供かも知れないけど。子供は子供で考えているんだよ」

 

「そんな子供達を支えたり、間違いを犯しそうになったら叱るのが、大人の務めではないのですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスとデジェルの言葉に、弦十郎は渋面を作りながら、モニターに映る二人を見た。

 

 

ー調sideー

 

カルディアをエルシドに任せ、調と切歌はお互いの掌を合わせ、お互いの首筋にLiNKERの入った注射銃をつける。

 

「二人でなら・・・・!」

 

「恐くないデス!」

 

プシュン・・・・ドクン!

 

「「っっ」」

 

LiNKERを注入された二人の身体から一際強い鼓動がし、注射銃を落とした二人はミカの方を向くが、調と切歌の鼻から血が滴り落ちる。

 

「オーバードーズ・・・・」

 

LiNKERの過剰摂取による肉体の負荷が現れていた。

 

「鼻血がなんぼのもんかデス! カルディアは血が沸騰しても戦ったデス! レグルスさんは腕が氷って、足に大火傷を負っても戦ったデスよ!」

 

「うん。私達にだって、覚悟がある! 行こう切ちゃん! 一緒に!」

 

「切り刻むデス!!」

 

切歌は両手にアームドギアの大鎌を二本持ち融合させ、三日月型の刃が左右に付いた大鎌を形成した。

 

『対鎌・螺Pぅn痛ェる』

 

そして調もツインテールのヘッドギアの左右のホルダーを展開させ、2つの巨大な回転鋸を形成した。

 

「オッ! 面白くしてくれるのカッ!」

 

ミカはカーボンロッドと火炎弾を放つ。

 

「「っ!」」

 

二人は放たれた攻撃を回避し、カーボンロッドは地面に刺さり、火炎弾は爆裂した。

 

「オオッ!!」

 

ミカはにっかりと笑うと、大きな鉤爪のような掌からカーボンロッドを次々と発射した。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

切歌はフォニックゲインを高める聖唱を歌いながら両肩のギアをバーニアのように吹かせ、三日月型の大鎌で迫り来るカーボンロッドを弾き、ミカに迫り大鎌を振るうが、ミカはカーボンロッドで防ぐ。

 

「オッ!!」

 

しかし、オーバードーズによるパワーでカーボンロッドは破壊され、ミカは楽しそうな笑みを浮かべて後ろに退く。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

切歌の後ろから調が跳び上がり、形成した回転鋸をミカに向けて放つ。

 

『γ式・卍火車』

 

ミカはさらにカーボンロッドを取りだし、迫る回転鋸を弾く。調は空中で仰け反るように回転すると、脚部と頭部から円形ブレードを縦向きに展開させる。

 

『非常Σ式・禁月輪』

 

「ヒヒッ!」

 

調は一輪バイクのように地面を走りながらミカに突撃するが、ミカはカーボンロッドで防ぎ、激しい火花が散り、ミカは調の突撃を避ける。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

調と切歌は並び、聖唱を歌いながらミカに攻め立てる。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「更なる適合係数の上昇で、ギアの出力も上がっています!」

 

「二人のユニゾンが、数値以上の成果をあげています!」

 

「だが、この効果は時限式だ・・・・!」

 

「それでも、調と切歌は目の前の茨を切り刻み、道を開いてくれる!」

 

藤尭と友里からの報告を聞いても、弦十郎は渋面を作り、マリアは調と切歌を見守る。

調と切歌の戦闘状況に全員の視線が集まっている間、レグルスは調と切歌のバイタルチェックをしているデジェルにソッと話しかける。

 

「デジェル。二人のデータはどう?」

 

「今のところは順調だが、もう少しデータが必要だな」

 

「この戦闘で集められる?」

 

「集めて見せるさ。彼女達の為にもな」

 

 

 

ー調&切歌sideー

 

調と切歌は、太陽光発電のパネルに移動したミカを追い、左右から交差するようにミカを切り裂き、ミカのカーボンロッドを破壊するが、ミカは笑みを浮かべていた。

 

「子供でもそれなりのフォニックゲインを出せるカ、出力の高いこの子一人で十分かもダゾ・・・・ウフフフッ♪」

 

ミカは調と切歌を見て大きく口をニヤケさせた。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

調は両手に持ったヨーヨーを合わせて融合し、頭上で巨大化させてミカに向けて振り落とす。

 

『β式・巨円斬』

 

ミカは両手を巨円斬の前にかざして、炎の障壁を張って防ぐが、上を見ると調と切歌が跳び上がって手を繋ぎ、ミカに向けてダブルキックをすると、調の靴底のギアのローラーが飛びだし巨大鋸となり、切歌の靴底のギアからはショーテルのような刃が飛びだした。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

調と切歌は展開させた武装でミカに向けて急降下ダブルキックを繰り出すが、ミカは巨大な火の玉を放出して二人のキックを防ぎ。

 

「ドッカ~~ン!」

 

「「ハッ!?」」

 

ドオオオオオオオオンッ!

 

ミカの火の玉が弾けて爆発すると、発電タワーが破壊されてしまった。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

ブツンっと、本部のブリッジの電源が、ブレイカーが落ちたような音と共に消えた。

 

「内蔵電源に切り替えます!」

 

すぐにブリッジに明るさが戻るとメインモニターにヨロヨロと立ち上がる調と切歌が映った。

 

「負けないで・・・・!」

 

「お願いセレナ。二人に奇跡を・・・・!」

 

未来とマリアは祈るように呟く。するとブリッジの扉が開く音が響いた。

 

「ん? 響くん!?」

 

「響っ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

弦十郎が響の名を叫び、未来が響に抱き付く。レグルスも一瞬だけ響を一瞥するが、すぐにモニターの方へ視線を移す。

 

「ありがとう。響のお陰で私・・・・」

 

「私の方こそ、また歌えるようになったのは未来のお陰だよ・・・・・・・・」

 

響はレグルスの方を見るが、レグルスは響に振り向く事はしなかった。

 

「・・・・響、大丈夫なの?」

 

「大丈夫! へっちゃらだよ!」

 

強がってはいるが、胸に無いシンフォギアクリスタルに手を置いているし、視線は背中を向けているレグルスに向いていることに未来は気づいていた。

 

「状況を、教えてください」

 

響はレグルスから視線を外して、弦十郎に状況説明を求めた。

 

 

ー調&切歌sideー

 

余裕の態度を見せるミカ。調と切歌のギアは先程の爆発とオーバードーズの影響でボロボロとなっていた。調が両膝を付く。

 

「あっ、このままじゃ何も変わらない。変えられない・・・・!」

 

「こんなに頑張っているのに! どうしてデスか!? こんなのイヤデスよ・・・・! 変わりたいデス!!」

 

あまりにも無力、あまりにも理不尽な現実に、調と切歌は無力感を感じていた。

 

「まぁまぁだったゾ! でもそろそろ遊びは終わりダゾ!」

 

ミカは口をおもいっきりひんむきながら笑みを見せ、髪のバーニアを吹かせ、切歌に肉薄し。

 

「はっ!?」

 

「バイならーーーー!!」

 

掌から伸ばしたカーボンロッドが、切歌の胸のシンフォギアクリスタルを無惨に砕いたーーーー。

 

「あっ・・・・あぁっ!」

 

吹き飛んだ切歌は、そのままうつ伏せに倒れ、イガリマのシンフォギアが砕け散り、裸体を晒した。

 

「切ちゃん!!」

 

調が切歌に駆け寄ろうとするが、進路先にカーボンロッドが落ちた。調はミカに向き直る。

 

「余所見してると後ろから狙い打ちダゾ!」

 

ミカはさらにカーボンロッドを取りだす。調はツインテールのギアを2つずつ展開させ、計4つの鋸を形成した。

 

「邪魔しないで!」

 

「仲良しこよしで、お前のギアも壊してやるゾ!」

 

《ミカ。適合係数の低いソイツ<調>の歌に用はない。山羊座<カプリコーン>と蠍座<スコーピオン>も控えている。好きに始末して良いが、時間をかけるな》

 

「わかったゾ! そぉれっ!!」

 

キャロルからの通信を聴いて、ミカは両手一杯にアルカ・ノイズの種をばら蒔いた。空中で砕けた種の中身が地面に染み込むと、魔方陣が現れそこからアルカ・ノイズが軍団で現れた。

 

「に、逃げるデス。調・・・・!」

 

「切ちゃんを置いて逃げるなんてできない!」

 

調は鋸を構える。

 

「始まるゾ! バラバラ解体ショーーーーー!!」

 

ミカが吠えると同時にアルカ・ノイズ達が襲い来る。調が迎撃しようとするが。

 

斬! ドシュンッ!

 

調に迫るアルカ・ノイズ達が斬られ、貫かれ炭素消滅した。

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

調の側に、胸を抑えたカルディアが立ち、倒れた切歌に上着を被せたエルシドが立った。

 

「カルディア・・・・!」

 

「エルシド、さん・・・・!」

 

「悪ぃな。爆発から逃げるのに、少し手間取っちまった」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

カルディアは身体の苦痛を悟られないように笑みを浮かべ、エルシドは手刀を構えてアルカ・ノイズを睨む。

 

「ダメだよカルディア! 心臓が!」

 

「へっ、嘗めんなよ。アルカ・ノイズだかなんだか知らねぇが、大人しくしてやるほど俺は大人じゃねぇんでな・・・・」

 

エルシドが倒れた切歌を抱える。

 

「エルシドさん・・・・」

 

「暁、諦めるな。お前には“帰りを待っているヤツ”がいるだろう。ここで死んでしまったら、比良坂でヤツにどんな仕打ちを受けるかな?」

 

「はははは、そうデスね・・・・」

 

こんな所で弱音を吐いていたら、あの“意地悪蟹”が帰ってきたら、どんなイジメに合うか分かったものじゃないので、切歌も乾いた笑みを浮かべる。

 

「オラ行くぞ!」

 

「・・・・!!」

 

「フッ!」

 

カルディアが爪の衝撃破を、調が展開した鋸を、エルシドが斬撃でアルカ・ノイズと奮戦するが、タイムリミットが迫り、調のシュルシャガナの出力が低下してギアが徐々に破壊される。

 

シュンっ・・・・ガキン。

 

「あっ・・・・!」

 

ギアの出力低下で動きが鈍くなった調の胸元のクリスタルに、アルカ・ノイズの一体が伸ばした触手がかすり、シュルシャガナを破壊した。ミカが楽しそうな笑い声をあげ、カルディアが倒れそうになる調を抱え、切歌を抱えたエルシドと背中合わせになる。

 

「コイツは、ピンチってヤツかぁ?」

 

「まったく、聖衣が無ければこの程度の我が未熟さが嘆かわしい・・・・!」

 

『完全聖遺物 黄金聖衣』を纏えばミカもアルカ・ノイズの軍団など、ものの数ではないが、国連の許可がおりない現状では使う事ができない。カルディアもエルシドも、聖衣が纏えないとこの程度の敵に防戦となるしかない自分たちに業腹となる。アルカ・ノイズ達がジリジリと四人に迫る。

 

「けっ、こうなったらとことんやってやるぜ!」

 

「フゥンッ!」

 

二人は捨て身で戦おうと構えるが。

 

《カルディア。エルシド。調君。切歌君。間に合ったぞ》

 

「「「「っ!」」」」

 

四人にデジェルからの通信が聞こえたと同時に、アルカ・ノイズな身体に小さな風穴が開き、身体のあちこちが切り裂かれ、傷口から血飛沫のようなものを上げていた。

 

「まったく無茶してくれるぜ」

 

《バッチリのタイミングだ。クリス》

 

「フッ。それが新たな剣か、翼」

 

「あぁ。振り抜けば風が鳴る翼だ!」

 

そこに立つのは、細部が異なる新たな姿となった。『絶剣 天羽々斬』を纏うシンフォギア奏者、風鳴翼。

翼と背中合わせに立つは、同じく細部が新たな姿にになった『魔窮 イチイバル』を纏うシンフォギア奏者、雪音クリス。

 

剣と弓が、新たな力を携えて蘇った。

 




今回はここまで。XVの査察官。ウェルクラスのバカで外道ドSですね。


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イグナイト 抜剣

それは、遥か過去の情景。キャロル・マールス・ディーンハイムは風光明媚な世界を最愛の父と共に歩いていた。

 

「パパ、何処まで行くの?」

 

「この先に採れるアレニムと言う薬草には、高い薬効が有るらしい。その成分を調べて、流行り病を治す薬を作るんだ」

 

杖をついて歩く父は、ふと周りの景色に目を向ける。

 

「ん?」

 

「見てごらん」

 

「うわ~~!」

 

キャロルは眼下に広がる風景に感嘆した。野に咲く花々、透き通るような湖、緑萌ゆる木々、雄々しく立つ山々、世界は斯くも美しい。

 

「パパはねぇ、世界の全てを知りたいんだ。人が人と分かり合う為には、とても大切な事なんだよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「さ、もう少しだ。行こう」

 

その時の父の優しい笑顔は、今もキャロルの心に刻まれていた。

 

 

* * *

 

そして現代。

 

「あぁ行くとも、“思い出”を力と変えて。“万象黙示録”の完成の為に!」

 

玉座から立ち上がったキャロルの宣言をアスプロスは隣に控えながら、小さく笑みを浮かべていた。

 

 

 

ークリスsideー

 

新たに強化されたシンフォギア、『絶剣 天羽々斬』を纏う翼と『魔穹 イチイバル』を纏うクリスは、眼前にいるミカ・ジャウカーンを見据える。

 

「さて、どうしてくれる先輩?」

 

「反撃、程度では生温いな。逆襲するぞ!」

 

「フフフフ」

 

「おっと、その前に」

 

クリスはミカから目を離さずに、インカムで通信する。

 

 

ーマリアsideー

 

《兄ぃ! 後輩達を見るな!》

 

「はっ、男共は見るなっ!」

 

クリスがデジェルに向けての怒鳴りに、マリアも察して怒鳴り声を上げる。エルシドの上着を羽織っている切歌は兎も角、カルディアに抱えられた調は今真っ裸だったからだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「えっ何で?」

 

「良いから目を閉じていろ」

 

「あぁっ!」

 

弦十郎は目を閉じて、レグルスは首を傾げるが、目を閉じたデジェルが片手でレグルスの視界を塞ぎ、藤尭は顔を少し赤らめて目を閉じた。

 

「うわっ、なななな何で私まで!?/////」

 

「あぁゴメン、つい勢いで・・・・/////」

 

同性なのに何故か未来に目を塞がれる響。

 

「モニターから目を離したままでは、戦闘管制が出来ません!」

 

「何、その必死すぎるボヤキは?」

 

藤尭のボヤキに友里がジト目で見る。

 

「調達が撤退するまでの間よ。それに、今の翼とクリスなら、それくらい問題無い筈」

 

マリアがモニターを見据える。

 

 

ー翼sideー

 

「フン」

 

ミカがまたアルカ・ノイズの結晶をばら蒔くと、そこから再びおびただしい数のアルカ・ノイズが出現した。

 

「慣らし運転がてらに片付けるぞ!」

 

「綺麗に平らげてやる!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」」

 

翼とクリスは勇ましくアルカ・ノイズの軍勢に立ち向かい、切り裂き、撃ち抜き、強化型シンフォギアの力がアルカ・ノイズを撃破していく。

 

 

ーエルフナインsideー

 

「天羽々斬、イチイバル共に、各部コンディショングリーン!」

 

「これが、強化型シンフォギア・・・・!」

 

「『プロジェクトイグナイト』は、破損したシンフォギアの修復に留まるものではありません」

 

強化型シンフォギアの性能に驚く一同に、いつの間にか司令室に入ってきたエルフナインが説明する。

 

「出力を引き上げると同時に、解剖機関の分解効果を分散するよう、バリアフィールドの調整も行われています」

 

分解効果の攻撃を防ぎ、切り伏せる翼が映し出される。

 

 

ーエルシドsideー

 

「ここは二人に任せるぞ」

 

「あぁ・・・・」

 

切歌を抱えたエルシドが、調を抱えたカルディアは心臓の熱を抑えるように胸におさえて撤退する。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「調、お前と切歌が時間を稼いでくれたから天羽々斬もイチイバルも復帰できたんだ。自分は足手まといだなんて思ってんじゃねぇよ」

 

「でも・・・・」

 

「今回の戦いで、デジェルが活路を出してくれている筈だ。それに期待しやがれ」

 

「・・・・・・うん」

 

カルディアに言われ、調は少し目を伏せながらも頷いた。

 

 

ークリスsideー

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

翼が『逆羅刹』を舞い、クリスが『BILLION MAIDEN』を放ちアルカ・ノイズを凪ぎ払っていった。翼はミカの方を睨み、足のバーニアを吹かせ跳び、クリスもガトリング砲を放ちながらミカの方へ向く。

 

『蒼刃罰光斬』

 

大剣を鞘に見立て、抜刀術のように刀を早撃ちし、十字の青い斬撃がミカに向かうが、ミカは寸前で避けて、ミカのいた地点に斬られ土煙が舞う。

土煙から出たミカに、すかさずクリスが『MEGA DETH FUGA』の2つの大型ミサイルを放つ。

 

「およ?」

 

着地したミカにクリスの大型ミサイルが直撃した。

 

「へっ、ちょせい!」

 

不敵に笑うクリスだが、煙が晴れてくると、着弾地点に黄色い障壁が見えた。

 

「いや、待て」

 

「何?」

 

煙が完全に晴れると、ミカを守るように立つ、魔法使いのような大きめのマントを着けた少女がいた。

 

「面目ないゾ」

 

「いや、手ずからしのいで良く分かった。オレの出番だ」

 

そこに現れたのはキャロル・マールス・ディーンハイムだった。

 

 

ー響sideー

 

「キャロルちゃん!」

 

「キャロル・・・・」

 

響とエルフナインがその少女の名を口にした。

 

 

ークリスsideー

 

「ラスボスのお出ましとはな」

 

「だが、決着を望むのはこちらも同じ事!」

 

クリスと翼は、主犯の登場に身構える。

 

「全てに優先されるのは計画の遂行。ここは“オレ達”に任せてお前は戻れ」

 

「分かったゾ! 蠍座<スコーピオン>! 面白かったゾ! また殺ろうナーーーー!!」

 

すでに撤退したカルディアに向けて大声を上げるとミカは転移結晶を砕いて魔方陣が現れて笑い声を上げて消えた。

 

「トンズラする気かよ!?」

 

「案ずるな。オレがここに来たのは“彼”を迎える為だ」

 

「(やはりこの者の狙いは・・・・)」

 

「(レグルスって事か)」

 

「この身一つで、お前達二人を相手にするなど造作もない事」

 

「その風体でヌケヌケと吠える!」

 

「なるほど。ナリを理由に本気を出せなかっただのと、言い訳される訳にはいかないな。ならば刮目せよ!!」

 

キャロルの隣に魔方陣が展開させると、その中からキャロルの身体と同じサイズの竪琴が現れた。翼とクリスが身構えるが、キャロルは構うことなく、竪琴の弦を鳴らす。

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

ーデジェルsideー

 

キャロルが奏でた音が特殊な波形であるとモニターに表示された。

 

「アウフヴァッヘン波形!?」

 

「いえ違います! ですが非常に近いエネルギーパターンです!」

 

「まさか、聖遺物の偽装?」

 

「『ダウルダブラ』の『ファウストローブ』?!」

 

「『ダウルダブラ』って!?」

 

「ケルト神話に於ける、ダーナ神族の“最高神ダグザ”が振るう金の竪琴か?」

 

レグルスとデジェルは、モニターに映るキャロルの身体が変化していた。

 

 

ーキャロルsideー

 

キャロルの身体に『ダウルダブラ』の竪琴が変形し、その身に弦が巻き付き、キャロルの身体が“少女から女性へと成長した”。

魔法使いの帽子に赤青黄緑の菱形の付け、その身にまるでシンフォギアのような、黒紫のプロテクターを纏った成人女性の身体になったキャロル・マールス・ディーンハイムがいた。

 

「これくらいあれば不足は無かろう」

 

「「っ!」」

 

声も完全に大人になったキャロルに翼とクリスは驚く。

 

「ハァアっ!」

 

キャロルが腕を振るうと、指先から弦伸びて地面を切り裂き翼とクリスに襲いくるが、二人は寸前でかわす。

 

「ハァっ!」

 

翼に向けて腕を横にふり、5本の線が翼に襲いくるが、翼は身を屈めて回避する。

 

「大きくなったところで!」

 

「張り合うのは望むところだ!!」

 

翼が剣を構えてキャロルに向かい、クリスは4門のガトリング砲を放つ。

 

「・・・・・・・・」

 

キャロルは背中のギアを羽のように展開させると、両翼が竪琴となり、両手でそれを鳴らすと、両隣に赤の魔方陣と青の魔方陣が現れ、赤から火柱が、青から激流が放たれた。

 

「くっ!」

 

「うわっ!」

 

翼とクリスは回避するが、火柱と激流が辺りを破壊する。

 

 

ーレグルスsideー

 

「歌う訳でもなく、こんなにも膨大なエネルギー、一体何処から?」

 

「“思い出の消却”です」

 

「思い出の?」

 

デジェルの質問に、エルフナインは答える。

 

「キャロルやオートスコアラーの力は、“思い出”と言う脳内の電気信号を変換錬成したモノ。造られて日の浅い者には、力に変えるだけの“思い出”が無いので、他者から奪う必要が有るのです」

 

「まさか、今までオートスコアラー達が出現した場所にある、干からびたような死体は」

 

「はい。オートスコアラー達の力とするために“思い出”を吸い付くされたんです。しかし、数百年を長らえて、相応の“思い出”が蓄えられたキャロルは」

 

「それだけ強大な力を秘めている・・・・!」

 

「力へと変えた“思い出”はどうなる?」

 

「燃え尽きて失います」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「キャロルは、この戦いに結果を出すつもりです」

 

エルフナインが呟くと同時にレグルスはソッと司令室を出た。

 

「(レグルス・・・・)」

 

レグルスが出ていったのを、デジェルだけが気づいていた。

 

 

ーキャロルsideー

 

キャロルが弦による攻撃を繰り出し、翼とクリスが回避すると、辺りの施設を破壊し爆発が起こる。

 

「うわっ!」

 

爆風により翼が吹き飛び、地面に倒れる。すかさずキャロルが背中の弦を鳴らすと、小さく黄色い魔方陣が幾つもの出現し電撃を翼に放った。

 

「先輩!」

 

「その程度の歌でオレを満たせるのかっ!?」

 

キャロルがクリスに魔弦が襲うが、クリスは回避し、空中で弩弓に変形させたギアからクラスター弾としての性質を持った大型矢の『GIGA ZEPPELIN』を放つが。

 

「フン」

 

キャロルは掌に魔弦をジェットエンジンのように回転させてクリスタルの弾丸を防ぐと、今度は腕に巻き付かせドリルのような武装へと変換した。

 

「ちぃ」

 

着地したクリスに向けて、リコイルスターターのように引くとドリルが激しく回転し、緑色の竜巻を放ち、クリスを呑み込む。

 

「うっ! うあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

呑み込まれたクリスは風圧で竜巻の中で動けなくなり、そのクリスにキャロルはドリルを叩きつける。

 

グワシャーーーーーーーーン!!

 

緑色の竜巻が天に伸びて消えると、翼の近くにクリスが仰向けで倒れた。

 

「くっ・・・・くぅっ!」

 

翼は立ち上がろうとする。

 

 

ー響sideー

 

「まだよ! まだ立ち上がれる筈よ!!」

 

「イグナイトモジュールの可能性は、これからです」

 

「イグナイト・・・・!」

 

響はモニターを険しい表情で睨んだ。

 

 

ーレグルスsideー

 

レグルスは自分の右腕と左足に巻かれたギブスを取り外した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

右掌を握ったり、右腕を回したり、左足でケンケンしたりして、状態を確認する。

 

「うん、問題無し」

 

右腕は凍傷、左足は沸騰による大火傷、普通の人間ならば全治数ヶ月はかかる負傷を、10日足らずで完治させた。まさに医者泣かせ。

 

「・・・・・・・・キャロル」

 

レグルスはキャロルの名を呟くと、戦場に向かった。

 

 

ー翼&クリスsideー

 

「ハァ、ハァ、ハァ、クソッたれがっ!」

 

「大丈夫か・・・・雪音?」

 

「アレを試すぐらいには、ギリギリ大丈夫ってとこかな?」

 

ダメージでボロボロとなった翼とクリスは何とか立ち上がり、それを見てキャロルが見下ろす。

 

「フン、弾を隠して有るならば見せてみろ。お前達に構っているのも、そろそろ飽いてきたからな」

 

奏者達の後ろに控えている黄金聖闘士、中でも自分の陣営に招きたいと思う少年を迎えにきたキャロルにとって、奏者達との戦いは時間潰し半分である。

 

「付き合ってくれるよな?」

 

「無論、1人でいかせるものか!」

 

「「イグナイトモジュール、抜剣!!」」

 

二人が声を重ねると、胸のシンフォギアクリスタルを外すと、クリスタルが杭のような形に展開され、翼とクリスの胸元に深く突き刺さったーーーーーーーー。

 

「ぐっ・・・・がっ!・・・・うぐっ!・・・・がぁぁぁっ!!」

 

「がっ!・・・・あぁっ!・・・・あぁぁぁぁっ!!」

 

翼とクリスが力の奔流に苦しみの声を上げる。

 

「ぐっ!・・・・腸を、掻き回すような・・・・! これが・・・・この力が・・・・!!」

 

 

* * *

 

「『プロジェクト イグナイト』だ」

 

「ご存知の通り、シンフォギアシステムには、幾つかの“決戦機能”が搭載されています」

 

「“絶唱”と・・・・」

 

「“エクスドライブモード”か・・・・」

 

「とは言え、“絶唱”は相討ち覚悟の肉弾。使用局面が限られてきます」

 

「そん時は“エクスドライブ”で!」

 

クリスの言葉を緒川が遮る。

 

「いえ、それには相当量のフォニックゲインが必要となります。“奇跡”を戦略に組み込む訳には・・・・」

 

「役立たずみたいに言ってくれるな!」

 

「シンフォギアには、“もう一つ決戦機能”が有ることをお忘れですか?」

 

『っ!』

 

エルフナインの言葉に全員が、“暴走した響の姿”が浮かんだ。

 

「立花の暴走は、搭載機能ではない!」

 

「トンチキな事かんがえてないだろうな!!」

 

クリスがエルフナインの胸ぐらを掴む。

 

「暴走を制御することで、純粋な戦闘力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段とする。これが、『プロジェクト イグナイト』の目指すところです」

 

 

* * *

 

ーエルフナインsideー

 

《うっ!・・・・あぁっ!・・・・あぁっ!!》

 

《ああぁぁぁぁぁぁぁっ!!》

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

モニターに表示された翼とクリスの苦悶の声を聞き、デジェルは拳をきつく握り、血を滴らせる。

 

「モジュールのコアとなる『ダーインスレイヴ』は、伝説にある殺戮の魔剣。その呪いは、誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こします」

 

《ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!》

 

《アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!》

 

「それでも、人の心と叡智が破壊衝動を捩じ伏せる事が出来れば・・・・!」

 

「シンフォギアは、キャロルの錬金術に打ち勝てます!」

 

「心と叡智で・・・・」

 

 

ー翼&クリスsideー

 

「(あのバカ<響>は、ずっとこの衝動に晒されてきたのか・・・・!?)」

 

「(気を抜けば、まるで、深い闇の底に・・・・!)」

 

二人の意識が、暗く暗転するーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー翼sideー

 

「ん・・・・んん?・・・・ステージ??」

 

目を覚ました翼はステージの上に倒れていた。

 

「くっ・・・・もう一度・・・・! もう一度ここで、私は大好きな歌を歌うんだ・・・・! 夢を諦めて、なるものか・・・・・・・・あっ!」

 

しかし、顔を上げると、観客席には無数のノイズが犇めいていた。

 

「私の歌を聴いてくれるのは、敵しかいないのか・・・・!?」

 

翼の心は暗い場所に落ちていく。

 

「新たな脅威の出現に、戦いの歌を余儀なくされ、剣に戻る事を強いられた私は・・・・!」

 

顔を上げた翼は幼くなり、父八紘の姿があった。

 

「お父様!」

 

「お前が娘で有るものか。何処までも穢れた風鳴の道具に過ぎん!」

 

「う、うぅっ・・・・(それでも認められたい。だから私は、私はこの身を剣と鍛え上げた。アイツのように、自らを聖剣と鍛えるアイツのように・・・・!)」

 

翼の脳裏に背中を守り続けたいと想う、1人の背中がーーーーーー。

 

「そうだ。この身は剣・・・・! 夢を見ることなど許されない道具・・・・! 剣だ・・・・!!」

 

しかし、翼の目の前に片翼として共にいた親友、天羽奏が現れる。

 

「あっ・・・・! 奏!!」

 

翼は奏を抱き締めるが、奏の身体は切り裂かれたかのようにバラバラとなった。

 

「剣では・・・・誰も抱き締められない・・・・! うっ、うぅっ、うあああああああああああああああああっ!!」

 

 

ーデジェルsideー

 

イグナイトモジュールを起動させた翼とクリスのバイタルは異常を示すようにけたたましいアラームが鳴り響く。

 

「システムから逆流する負荷に、二人の精神が耐えられません!」

 

「このままでは、翼さんとクリスちゃんが!」

 

「・・・・暴走!」

 

「やはり、ぶっつけ本番では・・・・!」

 

藤尭と友里の報告を聴いて、弦十郎と緒川が苦々しく顔をしかめる。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

デジェルはエルシドを呼び出す。

 

「エルシド、聴こえるか?」

 

《どうした?》

 

「クリス達の所に戻ってくれ。私も今から向かう」

 

《分かった。カルディア、暁を任せる》

 

《おう行ってこいや》

 

通信を切ると、デジェルも司令室を出ていく。

 

「デジェルさん・・・・!?」

 

「聖衣を纏うことができない我々は、今自分にできる事をやるだけさ」

 

そう言って、デジェルは司令室を出ていった。デジェルが出ていくのを見たエルフナインは呟く。

 

「あの人達ならできるかもしれません。闇に堕ちる奏者に手を伸ばし、その手を握り引っ張る事が・・・・」

 

闇に堕ちていく剣と穹に、聖剣と宝瓶が手を伸ばす。




今回はここまで。


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奇跡の可能性

ークリスsideー

 

「っ!?・・・・教室??」

 

クリスが目を開けるとソコは、リディアンの自分の教室。いつものようにクラスメート達と授業を受けている当たり前の日々。

 

「(アタシが居ても良いところ・・・・。ずっと欲しかった物なのに、まだ違和感を覚えてしまう・・・・)」

 

ずっと“この世の地獄”を歩いてきた自分に、当たり前の日常を過ごす事に、違和感を感じているクリス。

 

「(それでもこの春からは、新しい後輩ができた・・・・なのに、アタシの不甲斐なさで、アイツらがボロッカスになって・・・・!)」

 

調と切歌、新しくできた後輩達に負担をかけた自分自身への不甲斐なさ。クリスの心は、再び“地獄”に戻る。

 

「(“一人ぼっち”が、“愛する人”とか、“仲間”とか“友達”とか、“先輩”とか“後輩”とか求めちゃいけないんだ・・・・! でないと! でないとっ!!)」

 

クリスの眼前に、“地獄”に倒れる調と切歌が、傷だらけで力尽き倒れる光景が広がる。

 

「(もう、何でだ・・・・! 残酷な世界が皆を殺しちまって、本当に“一人ぼっち”になってしまう!!)」

 

クリスは、“地獄”から逃げるように走る。

 

「うっ、うぅっ・・・・うわああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

クリスの悲しき慟哭が響いた。

 

 

ー響sideー

 

《ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!》

 

《アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!》

 

モニターに映し出される翼とクリスの悲鳴に、響達は険しい表情で見つめていたが、響がキャロルの背後に現れた人物に気づいた。

 

「レグルス君っ!?」

 

『っ!?』

 

響の叫びに弦十郎達もキャロルの背後に現れたレグルスに気づき、キャロルと何かを話しているようだが、翼とクリスの悲鳴により、よく聞き取れなかった。

 

 

 

ーキャロルsideー

 

「フン。ダーインスレイヴの力に呑まれるか、イグナイトモジュールも奏者達には過ぎた玩具であったか」

 

イグナイトモジュールの力の奔流に苦しむ翼とクリスを、キャロルは冷ややかに見下ろしていた。

 

「っ・・・・おぉ!」

 

背後に気配を察して振り向いたキャロルの目の前に、獅子座のレグルスが立っていた。

 

「獅子座<レオ>よ。ガリィとの戦いの負傷は完治したのか?」

 

「あぁ本当は2日ほど前には完治していたけど、ウチの医療担当<デジェル>が大事をとって安静にしておけと言っていたんだよ」

 

「フムそうか。それで、オレの陣営に付くからここに来たのか?」

 

「・・・・・・・・違う。キャロル、俺は君と話をしに来たんだ」

 

「話だと? お前もあの女<響>と同じ、話し合おうなどとほざくのか?」

 

「そうじゃない。君の陣営に付くか、付かないか、先ずは君の事を知らなければどちらを選ぶか考える事が出来ないからさ。君は何故“世界を解剖”しようとするのか、それを教えてくれ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスの言葉に、キャロルは少し目を伏せると、ポツリと呟く。

 

「獅子座<レオ>よ。お前なら理解できる筈だ。“掛け替えのない人を理不尽に奪われた者共への怨嗟”を・・・・」

 

「うん解るよ。理不尽な運命への怒り。奪った者への憎しみ。奪われた悲しみ。心にポッカリ穴が空いたような虚無感。そして、何もできなかった自分自身への絶望・・・・」

 

淡々と答えるレグルスは自分の胸ぐらを掴みながら悲痛な表情を浮かべる。

 

「それほどまでに理解しているならば、オレと同士となれ。お前は破滅の巫女<フィーネ>に言ったそうだな?」

 

[“同じ痛みを知り、痛みを分かち合える者達”には“絆”が生まれるだろう]

 

それはかつての『ルナ・アタック事変』。“破滅の巫女フィーネ”であり、“櫻井了子”であり、“元蛇使い座の白銀闘士スペラリ”との最後の決戦でレグルスが呟いた言葉である。

 

「あぁそうだね。確かに同じ痛みを知る俺とキャロルは分かち合える事ができるかもしれない。でも俺は、世界を解剖しようとする事を見過ごせないんだ」

 

「獅子座<レオ>よ、分かっている筈だ。この世界の人間達は自分達の手に負える存在は利用し、自分達の手に負えない存在は異端扱いし排除しようとする。お前達黄金聖闘士達も異端として扱われ、不自由な扱いを受けている。ただ“権力を持っているだけの豚共”の為に、何故正しい力を持っているお前達が不遇な扱いを受けねばならない!」

 

キャロルの口からは正しい者を排除し、自分達の権威にしか興味がない人間達への侮蔑の感情があった。

 

「キャロル。俺は権力者の為に戦った事だなんて、ただの一つも無いよ。他の黄金の皆もな」

 

「・・・・・・・・」

 

「俺達は、自分達の大切な人達の為に、自分達の信じる正義と信念と誇りを持って、それを胸に抱いて戦っている! だから俺は、俺の信じる正義と信念が、お前を止めろと言っている! 俺はキャロル、君を止める!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・お前はやはり、まぶしいな・・・・!」

 

キャロルは迷いの無い真っ直ぐとした“志のある眼”をしたレグルスに、小さく笑みを浮かべると、魔弦でレグルスに攻撃する。

 

「っ!」

 

寸前で回避するレグルス。

 

「言葉でお前が動くとは思ってなどいない! 腕ずくで来てもらうぞ獅子座<レオ>!!」

 

「(こっちは時間を稼ぐ。翼とクリスは任せるよ、エルシド! デジェル!)」

 

レグルスはただキャロルと対話する為に来ただけではない。キャロルの注意を自分に向けさせる囮役である。

 

 

ー響sideー

 

「レグルス君。キャロル・マールス・ディーンハイムと交戦に入りました!」

 

「如何に地上最強の黄金聖闘士でも、『完全聖遺物 黄金聖衣』を纏っていない状態では、『ダウルダブラ』の『ファウストローブ』を纏ったキャロルに対抗戦出来ません!」

 

「いや、レグルス君の目的は、キャロルを倒す事ではないようだ」

 

「どういう事ですか師匠?」

 

「あっ、響見て!」

 

未来の言葉に響はモニターを見ると、苦しむ翼とクリスの目の前に山羊座<カプリコーン>のエルシド。水瓶座<アクエリアス>のデジェルがいた。

 

 

 

ーエルシド&デジェルsideー

 

デジェルは基地を出てすぐにエルシドと合流し、イグナイトモジュールの力に苦しむ翼とクリスの元にたどり着いた。

 

「まったく世話の焼ける・・・・」

 

「そう言うなエルシド。では行くぞ・・・・!」

 

「応っ!」

 

エルシドとデジェルが身体に力を込めると、エルシドの身体と瞳と髪が青色に淡く光り、デジェルの身体と瞳と髪も緑色に淡く光る。

 

「研ぎ澄ませ・・・・!」

 

「煌めけ・・・・!」

 

「「我が小宇宙<コスモ>ッ!!」」

 

二人の小宇宙<コスモ>が、暗い力に呑まれそうになる翼とクリスを包み込んだ。

 

「(翼・・・・!)」

 

「(クリス・・・・!)」

 

エルシドとデジェルはダーインスレイヴに呑まれそうになる二人の手を取った!

 

 

 

 

 

ー翼sideー

 

「私は、私の歌は・・・・!」

 

「随分と情けない姿を晒すようになったな。翼?」

 

「っ!・・・・エル、シド・・・・?」

 

泣き崩れる翼の前に、山羊座<カプリコーン>のエルシドが立っていた。

 

「エルシド・・・・私は・・・・!」

 

「翼、お前の歌は何だ?」

 

「えっ?」

 

「お前の剣は何だ? 答えろ」

 

「私の歌は・・・・私の剣は・・・・防人の歌、防人の剣。でも、私の歌を聴いてくれるのは、敵ばかり、剣の私が夢を見るなど・・・・!」

 

「敵ばかりだと、本当にそう思っているのか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

目を伏せる翼に、エルシドは少し肩を落とすと淡々と諭す。

 

「俺が武者修行の旅をしているとき、いつも聞こえてくる歌があった」

 

「???」

 

「それは、風に乗って俺の元に届く歌、お前の歌だ」

 

「私の歌・・・・」

 

「お前の歌を聴いてくれるのは敵だけだと? お前の歌は遠く離れた俺の元に届いている。俺だけではない。立花もレグルスも、雪音もデジェルも、暁と月読もカデンツァヴナも、小日向達や弦十郎殿達も、お前の歌を聞いてくれる。お前の歌を聞くのが敵だけだと言うならば、俺達が、イヤ俺だけであってもお前の歌を聴いてやる!」

 

「エルシド・・・・」

 

「剣は夢など見ないと言ったが、翼よ。俺が手刀を聖剣として鍛えているのは何故だと思う?」

 

「・・・・・・・・友との約束」

 

「そして俺自身の夢だからだ。翼よ、お前の夢は、お前の歌は、お前の剣は、この程度の事で折れるような脆弱な志を持った防人だったのか? 俺の背中を任せる相棒は、風鳴翼は、そんなヤワな剣では無かった筈だぞ!」

 

エルシドの言葉、嘘偽りの無い言葉が翼の心に魂に響く。

 

「・・・・フッ。まったく、つくづく私に厳しいな。エルシドは」

 

「いつもの事だ。奏がお前に意地悪し、俺がお前を厳しくし、弦十郎殿や緒川殿達がお前を甘やかし、シジフォスがお前を諭す。そうやって来ただろう?」

 

「だが今は、奏とシジフォスはいない・・・・」

 

「だが、新しい仲間達がいてくれる」

 

「そうだな」

 

翼は立ち上がり、その瞳には先程までの惑いと脅えが無かった。

 

「すまない。いつもいつも情けない姿ばかり晒してしまって・・・・」

 

「泣き言は後にしておけ。今やるべき事は、分かっているだろう」

 

「あぁ!」

 

翼の意識が暗闇から抜け出た。

 

 

 

ークリスsideー

 

「っ!?」

 

おぞましい地獄から逃げようとするクリスを誰かが抱き止めた。

 

「お兄・・・・ちゃん・・・・?」

 

「クリス・・・・」

 

「お兄ちゃんっ!!」

 

その人物がクリスが、心の底からいつまでも一緒に居たいと思っている想い人、水瓶座<アクエリアス>のデジェルだった。

 

「うっ、うぅっ・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

デジェルは何も言わず、嗚咽を漏らすクリスを優しく抱きしていた。

 

「お兄ちゃん、アタシは・・・・!」

 

「君は求めて良いんだ」

 

「でも!」

 

「求めて、良いんだクリス。自分が幸せだと思う大切な人達のいる場所を、君は求めて良いんだ」

 

「でも世界が、皆を殺して・・・・!」

 

「なら守れば良い。君の魔穹が“全ての力を凪ぎ払う”ならば、“大切な人達を守る”為にも使えるはずだ」

 

「そんな事、アタシにできる訳が・・・・!」

 

「できる筈だクリス、君が大切な人達を守りたいと本当に願うなら、君の魔穹イチイバルは、君に答えてくれる。大切なのだろう? “仲間”も“友達”も“後輩”も?」

 

「・・・・・・・・・・・・うん」

 

「ならばできる。クリス、自分を信じるんだ」

 

「アタシ、ここに居て良いの?」

 

「勿論だ。君が何処かに行っても、私が君をここに連れて帰る。君が本当に居たい場所にな」

 

「お兄ちゃん・・・・」

 

デジェルと見つめ合うクリス。

 

「私は8年も君を探して“地獄”をさ迷ったのだ。何処かに行っても必ず君を見つけてみせる。君を絶対に、一人ぼっちになんかにはしない。君の傍にいる、絶対にな」

 

「・・・・うん!」

 

暗闇に染まったクリスの世界が色づいた。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「ふっ! はぁっ! おっとぉっ!!」

 

キャロルの魔弦の攻撃を全て回避していくレグルス。

 

「防戦一方だな。獅子座<レオ>よ、歯痒いと思わぬか?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「本来のお前の力を使えれば、オレと互角に戦える事ができる力を有していると言うのに、このような無様をさらさねばならぬ。それも安全な場所でしか何もしない愚人共のせいでな」

 

「確かに、ちょっとやりづらいかな!」

 

レグルスが光速拳を放つが、キャロルは魔弦を手のひらで回転させて防がれる。聖衣を纏っていない状態の攻撃力では、魔弦の盾を貫けなかった。

 

「やっぱり今のままじゃ無理か・・・・」

 

「獅子座<レオ>よ。今からでも遅くない、オレの元に来い。所詮飼い犬でしかないあの者達<S.O.N.G.>と共にいても、お前達の足をひっぱるだけだ」

 

「・・・・俺は、見てみたいんだ。響達が起こす“奇跡”をさ」

 

「“奇跡”など起きん。オレが“奇跡”を否定し、殺すからな!」

 

キャロルがさらに激しく魔弦で攻め立てるが、レグルスは魔弦の動きに馴れてきたのか、余裕で回避した。

 

「イヤ“奇跡”は起こる、起こす事ができる。それを今、彼女達が証明してくれるって信じている!」

 

「ならば、お前が信じる物を壊してやる!!」

 

キャロルは、翼達がいる方へ、アルカ・ノイズの結晶体を投げ飛ばした。

 

「(任せるよ。響)」

 

レグルスは必ず来るであろう少女を信じて、キャロルと交戦を再開する。

 

 

 

ー翼&クリスsideー

 

「(これ以上!)」

 

「(情けない姿を!)」

 

「「(晒してたまるかーーーーっっっ!!!)」」

 

翼とクリスの身体を覆っていた赤黒い光りが消え、倒れそうになる二人をエルシドとデジェルが抱き止めた。

 

「ハァハァハァハァハァハァ・・・・!」

 

「ハァハァハァハァハァハァ・・・・!」

 

「不発のようだな」

 

「あぁどうやら、“もう1人”が必要のようだ」

 

 

 

ー響sideー

 

翼とクリスが元に戻るのをモニターで確認すると、けたたましくアラームが鳴り響く。

 

「まさか、聖闘士の小宇宙<コスモ>で奏者のフォニックゲインに干渉するだなんて、一体どうして・・・・?」

 

「もしかして、これが愛っ!?」

 

「何故そこで愛っ!?」

 

エルフナインが小宇宙とフォニックゲインの現象に驚き戸惑うと、未来が思わず言った言葉に、脊髄反射的にマリアがツッコム。

 

「まずい!」

 

「奏者、モジュールの使用に失敗!」

 

藤尭と友里の報告に、エルフナインは顔を曇らせる。

 

「ボクの錬金術では、キャロルを止める事は出来ない・・・・」

 

肩を落とすエルフナインの肩に、未来がソッと手を置いた。

 

「大丈夫。可能性が全て尽きた訳じゃないから」

 

未来がエルフナインの手を持って、握られていたシンフォギアクリスタルを見せる。

 

「それって?」

 

「改修したガングニール・・・・」

 

響が、ガングニールを持つ手を握る。

 

「ギアも可能性も、二度と壊させやしないから!」

 

「・・・・・・・・」

 

 

 

ー翼&クリスsideー

 

「ムッ!」

 

「っ!」

 

翼とクリスを座らせたエルシドとデジェルは、空に現れたアルカ・ノイズを睨む。

キャロルが投げ飛ばした結晶体から巨大なアルカ・ノイズが現れ、ソコから大量のアルカ・ノイズが排出される。アルカ・ノイズが町へと攻撃を始めようとしたが。

 

「『乱斬』!!」

 

「『ダイヤモンドダスト』!!」

 

すぐに移動しながら、町へと攻撃しようとするアルカ・ノイズをエルシドとデジェルが斬撃で、凍技で迎撃し防ぐ。翼とクリスは走り行く二人の後ろ姿を見つめる。

 

「(また、足をひっぱるのか!?)」

 

「(また、見ているだけなのかよ!?)」

 

いつだってそうだった。常に最前線に立っているつもりが、いつの間にか彼らの背中を只々見ているだけの自分達の無力感、背中を守りたい、傍にいたいと心から思っているのに、その背中は果てしなく遠い。

 

「(あの背中に、届く力を・・・・!)」

 

「(あの場所に、立てる牙を・・・・!)」

 

必死に立ち上がろうとするが、イグナイトモジュール抜刀の負荷で思い通りに立ち上がれない。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

「はあああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

エルシドとデジェルが降下攻撃をしてくるアルカ・ノイズを粉砕していくが、徐々に数の暴力に押されていく。

すると、基地から複数のミサイルが飛んで来て、その上に立っているのはーーーーーーーー。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!」

 

改修されたガングニールを纏った響が、基地から発射されたミサイルに乗って飛び、大型アルカ・ノイズに突撃し、粉砕した。

 

「やっと来たか・・・・」

 

「これで揃ったな・・・・」

 

エルシドとデジェルは、待ちわびたと言わんばかりに、肩を落とすと、すぐに翼とクリスの元へ戻る。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「ふん。死に損ないが戻ったか」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスはキャロルから離れ、響達の方へ向かった。

 

 

 

ー響sideー

 

「レグルス君・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスと響は、あのガリィ襲撃の時からギスギスした感じになっていた。

響自身、自分自身のガングニールの力への恐怖で歌えず、未来達を危険に晒し。そんな自分の代わりにガングニールを纏って戦ってくれたマリアに対しての身勝手な態度をそれらがレグルスを怒らせたと自覚している。だが、謝罪の言葉が何故か出てこなく、目を反らそうとする。

 

「響・・・・」

 

「っっ・・・・」

 

レグルスに名を呼ばれビクッた肩を震わせる。

 

「今はやるべき事をやるんだ」

 

そう言ってレグルスは響の肩を叩く。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

響もレグルスとのわだかまりは今は置いておき、翼とクリスに向き直る。

 

「イグナイトモジュール、もう一度やってみましょう!」




オートスコアラーとキャロルがまさかの復活!? これから死んだキャラ達が皆復活して、最後は皆仲良しENDになるのかな?


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イグナイトの力

前半は原作通り、後半はオリジナル。


改修したガングニールを纏った響は、翼とクリスと向き合う。

 

「イグナイトモジュール、もう一度やってみましょう!」

 

「だが、今の私達では・・・・!」

 

先ほど不発してしまったので、二人は難しい顔になる。

 

「未来が教えてくれたんです! 自分はシンフォギアの力に救われたった、て。この力が、本当に“誰かを救う力”なら、身に纏った私達も。きっと救ってくれる筈! だから強く信じるんです! ダーインスレイヴの呪いを破れるのは・・・・!」

 

「いつも共に戦ってくれた、天羽々斬!」

 

「アタシを変えてくれた、イチイバル!」

 

「そしてガングニール! 信じよう! 胸の歌を! シンフォギアを!」

 

いつだって共に戦ったシンフォギアと自分の胸の歌を信じると言う響に、クリスと翼も頷く。

 

「フン、この馬鹿に乗せられたみたいで格好つかないな」

 

「もう一度行くぞ!」

 

響と翼とクリスは、胸元のクリスタルを外して叫ぶ!

 

「イグナイトモジュール!」

 

「「「抜剣!!」」」

 

三人はクリスタルを投げると、クリスタルは杭の形に変形し、三人の胸元に突き刺さった!

 

「「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」」」

 

ダーインスレイヴの呪いの奔流が、奏者達を蝕んだ。

 

 

ーマリアsideー

 

司令室に戻ってきたカルディアに服を着用した切歌と調がモニターに映された響達を見る。

 

「このままではさっきのように!」

 

「呪いなど切り裂け!」

 

「撃ち抜くんデス!」

 

「恐れずに砕ければきっと!」

 

「テメェらの熱は! そんな呪いなんかに塗り潰されんのかよ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

マリア達が激励をする中、未来は静かに見守る。

 

 

ー響sideー

 

(未来が教えてくれた・・・・力の意味を、背負う覚悟を! だからこの衝動に塗り潰されて!)

 

「「「成るものかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!」」」

 

三人の思いに答えるように、抜けて胸元のイグナイトがシンフォギアを新たな姿に変えた!

 

「はぁっ!」

 

響のガングニールは黒いプロテクターにオレンジのラインが走った姿になり、マフラーも漆黒に染まった!

 

「フンッ!」

 

翼の天羽々斬も足のギアに長い刃が生まれ、黒に青色の姿となり、アームドギアは長刀へと!

 

「フゥッ!」

 

クリスのイチイバルも、ボーガンやプロテクターが黒く染まり、赤いラインが入ったギアへと変わった!

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」

 

三人が身に纏うシンフォギアにオーラを迸らせ、聖詠を歌う。

その姿を、見守っていたレグルスとエルシドとデジェル、そして離れた位置でキャロルが見下すように眺めていた。

 

 

ーマリアsideー

 

「モジュール稼働! セーフティ段幕のカウント、開始します!」

 

藤尭が報告すると、モニターに『NIGREDO』と『999秒』のカウントが表示された。イグナイトモジュールは圧倒的な力を生み出すが奏者への負担もとてつもなく大きく、カウントが0となるとギアを強制解除してしまう。

 

「・・・・・・・・(悪を貫く強さを!)」

 

マリアは『アガートラーム』のシンフォギアクリスタルを握りしめ、響達の戦いを見守る。キャロルがアルカ・ノイズの結晶体を投げ捨てると、先ほどよりも大量のアルカ・ノイズが現れた!

 

「検知されたアルカ・ノイズの反応、約三〇〇〇!」

 

「三〇〇〇!?」

 

友里と緒川が、アルカ・ノイズに驚愕する。

 

 

ー響sideー

 

「たかだが三〇〇〇!!」

 

響はアルカ・ノイズに突っ込みながら拳を構えると、腕のギアが大きく展開し、アルカ・ノイズの群生を貫く!

 

翼は長刀を振り上げると刀身が開き、そこから青白い電流が流れ、『蒼ノ一閃』を放ち、放たれた斬撃が次々と切り裂き、大型のアルカ・ノイズまで斬り捨てた!

 

クリスは全身の武装を全弾する『MEGA DETH QUARTET』を放ち、空中地上のアルカ・ノイズを殲滅させていった!

 

 

ーレグルスsideー

 

「どう見る?」

 

「力は上がっている。しかし時間制限付きであるのがイグナイトモジュールの弱点だが・・・・」

 

「この程度なら、俺達が加勢するまでもない」

 

レグルスとエルシドとデジェルは、響達の奮戦を眺めながら、アルカ・ノイズ達を片手間で粉砕していった。

 

「ヘソ下辺りがむず痒い!!」

 

小賢しいと言わんばかりに、キャロルが跳び上がり魔弦で響に攻撃するが、響は回避する。キャロルはクリスのいる場所に黄色い魔方陣を展開して雷撃を放つが、クリスは跳んで回避した。

 

「キャロル・マールス・ディーンハイム、世界を解剖する錬金術師」

 

「あの者の錬金術もかなり強力だな」

 

「だけど、響達もまたそれに対抗する力を持った」

 

しかしレグルスは気づいている。

 

「(だけど響本人は泣いている。それでも響は戦う。なら俺が言える事は、その優しさも涙も苦しみも、全部まとめて拳に乗せて・・・・)」

 

かつては人の気持ちに鈍感だったレグルスだが、一年位の付き合いで響の表情、戦う姿勢から響の感情を読み取れるようになっていた。

 

 

ー未来sideー

 

そしてここにも、響の秘めたる想いに気付いている少女、未来は響の戦いを見ながら、悲しそうに見つめる。

 

「(それでも響は、傷つけ傷つく痛みに、隠れて泣いている。私は何も出来ないけど、響の笑顔も、その裏にある涙も、拳に包んだ優しさも、全部抱き締めて見せる。だから!)」

 

未来とレグルスの言葉が重なる。

 

「負けるなーーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

「ぶちかませーーーーーーーーーーーッッ!!」

 

 

ー響sideー

 

響の拳に、キャロルの魔弦が巻き付くが、未来とレグルスの声が届いたのか、響はその弦を掴んでキャロルを引き寄せる。

 

「くぅっ!」

 

《稲妻を喰らえーーーーーーッッ!!》

 

弦十郎の激に答えるように、翼が斬撃を、クリスを矢をキャロルに向けて放ち、キャロルは魔弦を腕にドリルのように巻き付けて防ぐが。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

響の拳や腰のバーニアを吹かせながら自分の身体を回転させ、炎を纏いながらキャロルに突撃した!

 

「ぐああああああああああああああッッ!!!」

 

キャロルを防ぐが、あまりのパワーに押し飛ばされ、壁に激突し、『ファウストローブ』がボロボロになった。

響は上空に跳び、キャロルに向かって、急降下蹴りをみまった!

 

ドゴーーーーーーーーーーーーンッッ!!!!!

 

激しい爆発と爆風が巻き上がり、それが晴れると、肩で息をする響と、幼い姿に戻ったキャロルが腰を落としていた。

 

 

ー調sideー

 

「勝ったの・・・・?」

 

「デスデス! デーーース!!」

 

響の勝利に調と切歌が喜ぶ。

 

「キャロル・・・・」

 

しかしエルフナインは、キャロルの姿に悲痛な顔を浮かべる。

 

 

ー響sideー

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

 

響は息を整えると、キャロルに近づき、手をさしのべる。

 

「キャロルちゃん、どうして世界をバラバラにしようだなんて・・・・」

 

「くっ!」

 

キャロルをさしのべられた響の手をはたく。

 

「・・・・忘れたよ、理由なんて。思い出を焼却、戦う力と変えた時に・・・・」

 

キャロルは響の後ろに控えている翼とクリスに合流した黄金聖闘士、正確にはレグルスを見つめる。

 

「ただ、アスプロスから聞き、獅子座<レオ>を見ていると、世界への憎しみを思い出せる。そして、オレと分かり合う事ができると、確信できる・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・キャロル」

 

レグルスも、ただ静かにキャロルを見つめる。

 

「その呪われた旋律で、誰かを救えるなどと思い上がるな・・・・!」

 

「っ・・・・!」

 

レグルスを一瞥したキャロルは響を睨み、響は息を呑み、キャロルは小さく笑みを浮かべると、奥歯を噛み締めるように口を動かす。

 

「キャロルちゃん?!」

 

「キャロル!?」

 

レグルスが倒れたキャロルに駆け寄ると、キャロルの身体を緑色の炎が包み、キャロルの身体が焼却された。

 

「ウソ、だろ?」

 

「あっ・・・・あぁっ・・・・うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」

 

キャロルの死に、響の慟哭が灰色の空に響く。

 

 

ーオートスコアラーsideー

 

キャロルが死んだのと同時に、キャロルのアジトの歯車が動き出し、まるで歯車時計のような装置が動き出した。

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

そしてそれぞれの台座に立つオートスコアラー達の頭上に、それぞれのパーソナルカラーである赤・青・緑・黄の垂れ幕が下りてきた。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

『ほお、それがイグナイトモジュールか? キャロルを倒すとは中々・・・・』

 

『っ!?』

 

突然響いた声に全員が警戒すると、キャロルが燃えた場場所近くの空間が揺らぎひび割れると、黄金の光りが溢れ、一瞬目が眩んだ一同。再び目を開けるとそこに立つ人物に、翼が驚きの声を上げる。

 

「双子座<ジェミニ>のアスプロス!」

 

太陽のような黄金の輝きを放つ身体にフィットするように洗練された鎧、頭に被った兜には“優しく微笑む顔”とまるで“表情の無い仮面”を張りつけた兜を目深に被った長身の男性。聖域<サンクチュアリ>の裏切り者、双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士であるアスプロスだった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「そんな警戒をするな。今のところは戦おうなどとは思ってはいない」

 

アスプロスは片手を上げて言うが、レグルス達も響達も警戒を解かなかったが、涙を拭った響が前に出る。

 

「アスプロス、さんで良いですか?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「もう終わりにしましょう。キャロルちゃんがこんな事になっちゃったけど、もうこれ以上戦っても意味無いですよ」

 

「意味が無い、か・・・・フフフフフフ」

 

響がアスプロスを説得しようとするが、アスプロスは含み笑みを浮かべる。

 

「何が可笑しい?」

 

「いや、この期に及んでもまだ話し合いで解決しようなどと考えるガングニールの思考回路があまりにも滑稽でな」

 

「っ!」

 

自分の言葉を滑稽と断じられた響はショックを受ける。

 

「まだこちらにはオートスコアラーもアルカ・ノイズも大量に残っている。それにキャロルから言われていてな。自分にもしもの時が有れば、オートスコアラーの指揮権を俺に譲渡する、とな」

 

「ハッ! オートスコアラーとアルカ・ノイズだけでアタシらと戦り合おうってか?」

 

「既に我等にはイグナイトモジュールが有る! お前達に遅れは取らん!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

クリスと翼の言葉にアスプロスは無言となる。響達は自分達に言い負かされたと思ったが、レグルス達は訝しそうにアスプロスを睨む。

 

「フフフフフフフフ・・・・。それでイグナイトモジュールを完璧に使いこなしていると思っているのか?」

 

「えっ?」

 

「聞こえているかエルフナインよ。お前の見立ては誤ったようだな。こんな玩具に新しい機能を付けただけで満足しているような半人前共に、ダーインスレイヴを与えるとはな」

 

「何だと・・・・?!」

 

「お前達は自分達の心の闇と真に向き合って乗り越えた訳ではない。ただ遮二無二に闇から逃げ、走り抜いただけだ。“傷の舐め合い”と言うくだらん“馴れ合い”でな」

 

「くだらない馴れ合い・・・・?」

 

「弱い自分達の心の傷、心の闇をお互いに舐めあっているだけの陳腐な力、それが今のお前達シンフォギア奏者の力と言っても良いだろう」

 

「違う! 違うよ! 私達は手を繋ぎ合って、イグナイトの力を自分達の力にしたんだ!」

 

「フンそれが・・・・」

 

フッと、アスプロスの姿が一瞬で消えたと思ったら、自分達の目の前に現れた!

 

「くだらん馴れ合いなのだ」

 

「「「っ!?」」」

 

「「「っ!!」」」

 

一瞬で現れたアスプロスに身体を硬直させた響と翼とクリス、レグルスとエルシドとデジェルは間髪いれず響達を後ろに投げ、アスプロスに光速拳と手刀と凍技で攻撃しようとするが、それよりも早く、アスプロスが黒い球体を生み出し、頭上に投げると球体は膨張した。

 

「『アークゲミンガ』!」

 

「「「っっ!!! ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」」」

 

レグルス達は膨張した球体に引き込まれ、身体を引き裂かれるような激痛に悲鳴を上げる。

 

「レグルス君!」

 

「エルシド!」

 

「お兄ちゃん!」

 

響達が叫びを上げると、レグルスが球体に向けて拳を向ける。

 

「ぐ! が!! ラ、ライトニング、ボルトーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

レグルスが『ライトニングボルト』を黒い球体に放って、球体を破壊した。

 

「「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・」」」

 

「ほぉ、腕を上げたなレグルスよ? 小規模な超強力磁場を生み出し、敵の身体を細胞ごと破壊する我が『アークゲミンガ』を破壊するとはな。気が変わった。少し自分達の身の程を教えてやろう。シンフォギア奏者」

 

アスプロスはそれだけ呟くと、再び光速の動きで響と翼とクリスの目の前に移動した!

 

「くっ!」

 

「ちぃっ!」

 

翼とクリスが剣とボーガンを構え、アスプロスを攻撃しようとするが。アスプロスは軽く手を振ると。

 

「フン」

 

ガキンッ! バギャンッ!

 

「な、に・・・・!?」

 

「そん、な・・・・!?」

 

イグナイトモジュールで新たな力を得た筈のアームドギアが、簡単に破壊され翼とクリスが愕然となり、その一瞬の隙にアスプロスが掌から光が現れ、翼とクリスの腹部に押し当てた!

 

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

翼とクリスは天高く吹き飛び、頭から地面に叩き付けられた!

 

「翼さん! クリスちゃん! っ!?」

 

響が翼とクリスの方を見るが、すぐ目の前にアスプロスが現れた。

 

「見たか? これが黄金聖闘士の力・・・・いや、俺の力だ」

 

「・・・・・・・・どうして?」

 

「ん?」

 

圧倒的な強さを見せつけるアスプロスに、響は震えながら問う。

 

「どうしてそんなに凄いのに、貴方はこんな事をするの? その力を使えば、大勢の人を助ける事が・・・・!」

 

「くだらん」

 

「え?」

 

響の言葉をアスプロスは一蹴した。

 

「己の力を如何に使うかは己次第、俺の力は俺の目的の為に使う。俺は必要なら罪人も救うし神をも殺す。お前のような、己の過去と真に向き合わずに、ただただ己の不幸に悲嘆し哀傷し、悲劇のヒロインを気取る小娘の戯れ言など、俺には届かん」

 

「っ!!」

 

その言葉に、響は『フロンティア事変』の最終局面で戦った、冥闘士アタバクの言葉が頭をよぎった。

 

【たかだか十数年しか生きておらず、“夢想”に酔っている“だけ”の小娘の言葉など、幾百、幾万、幾億と並べられようとも、私の心に響かぬわ】

 

「違う・・・・私は、夢想に酔ってなんかいない・・・・! 私は、悲劇のヒロインなんて・・・・!」

 

アタバクとアスプロスの言葉で茫然自失となる響の腹部に、アスプロスはゆっくりと光を押し当てる。

 

「あっ・・・・・・・・」

 

響は悲鳴を上げる事なく、頭から地面に叩き付けられた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

あまりのダメージでそのまま動かなくなった奏者達を見据え、ボロボロの状態でも立ち上がろうとするレグルス達を一瞥すると、アスプロスは告げた。

 

「見たか、これが俺の力だ。イグナイトモジュールなどとくだらん小細工を使おうとも、たかが聖遺物の欠片、つまりはガラクタを使っている小娘共など、俺の敵ではない。S.O.N.G.よ。所詮貴様らの叡智や力など、この俺の前では浅はかな考えの児戯に過ぎんのだ」

 

アスプロスの後方の空間の割れ、アスプロスは去ろうとした。

 

「次の戦場を楽しみにしている。その時は、もう少し戦力を整えておけ。あっさり勝ってしまっては、面白味に欠けるからな」

 

そう言ってアスプロスはこの場を去った。残されたのは、ボロボロの聖闘士と、完敗した奏者達だった。

 

 

ーエルフナインsideー

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「ここまでの力の差が有ったなんて・・・・」

 

司令室にいた未来やマリアと調と切歌に弦十郎達は、たった一人でイグナイトモジュールを得て更なる力を得た響達を圧倒し、レグルス達すらも追い詰めたアスプロスの力に愕然となった。エルフナインはある程度の予想していたのか比較的冷静であり、カルディアは予想通りと言わんばかりの態度を取っていた。

 

「何ボカンとしてやがる。あんな思念体程度の力によ」

 

「思念体?」

 

「何デスかそれ?」

 

「まぁ簡単に言うとな。自分の意識を具現化させた肉体の無い分身体みたいなモンだ。アスプロスやアスミタ、確かデジェルも使えるな。あのアスプロスはその思念体に黄金聖衣を纏わせた幻影だな」

 

「幻影ですって・・・・?」

 

「あぁ恐らく本体は何処かで思念体を飛ばしているだけで、ピンピンしているだろうぜ。ついでに言っておくけどな、思念体の戦闘力は本体の半分も無いんだよ」

 

「それであの強さですって・・・・!?」

 

カルディアから聞かされた言葉に一同はますます言葉を無くす、半分以下の戦闘力の黄金聖闘士にたった今、響達は完全敗北したのだ。

 

「・・・・風鳴司令、改めてお願いが有ります」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エルフナインに話し掛けられ、弦十郎も正気に戻る。

 

「『完全聖遺物 黄金聖衣』の使用許可を、国連上層部に要請してください。このままでは、皆さんはあの人に、アスプロスさんに勝てません!」

 

黄金の闘士達の最強の鎧、星の力を宿す聖なる鎧の力が解き放たれる刻が迫る

 




次回は皆さんお待ちかねの水着回です!


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浜辺の特訓?

すみません。少し遅れました。


ーマリアsideー

 

マリア・カデンツァヴナ・イヴは思い返していた。かつて『フロンティア事変』の始まりで、自分が破滅の巫女フィーネの転生者として、世界の絶対者を演じようとしていた。しかし、マリアの行動は全て裏目に出てしまい、マムであるナスターシャ教授を死なせ、出さなくてもいい犠牲を出す事になってしまった(無駄な犠牲を作ったのはウェル)。

 

「(強くなりたい。翻弄する運命にも、立ちはだかる驚異に負けない力が欲しくて、ずっと、もがいてきた・・・・)」

 

そしてマリアの意識は現実に戻るとソコはーーー。

 

白い砂浜、青い海、透き通るような青空が広がるビーチだった。

 

「おーーーい! マリアーーー!」

 

「なにをやっているデスかーーー!」

 

砂浜でピンクのワンピースタイプの水着を着た調、緑と黒のかわいいビキニ水着を着た切歌が、腰にセパレートを着け、赤と黒のツーカラーのビキニにサングラスを着用し、豊麗で女性として理想的なプロポーションを惜しげなく晒すマリアに向かって声をかける。

 

「(求めた強さを手に入れるため、私は、ここにきた!)」

 

なぜマリア達シンフォギア装者達が、水着を着てビーチにいるかと言うと。

 

 

~昨日~

 

キャロル・マールス・ディーンハイムを倒した日から数日が立ったS.O.N.G.の潜水艇の司令室に集まったシンフォギア装者達と黄金聖闘士達。

 

「壊された『イガリマ』と・・・・」

 

「『シュルシャガナ』も改修完了デス♪」

 

「カルディアの発作も落ち着いたようね」

 

「たくっ戦闘が終わったら、医務室に缶詰めにしやがってよ」

 

悪態付くカルディアを無視して、エルシドがエルフナインに話しかける。

 

「それでエルフナイン、月読と暁のシンフォギアにも・・・・」

 

「はい。機能向上に加え、イグナイトモジュールも組み込んでいます。そしてもちろん・・・・」

 

「復活の、『アガートラーム』」

 

かつてマリアの亡き妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴの形見であり、『フロンティア事変』の最後の決戦でマリアが使用したシンフォギア。

元々セレナの死後、傷付き、シンフォギアとして機能を停止していたが、錬金術師であるエルフナインによって修復されたのだ。

エルフナインが、『アガートラーム』のシンフォギアクリスタルをマリアに差し出す。

 

「改修ではなく、コンバーター部分を新調しました。一度神経パスを通わせていますので、身に纏える筈です」

 

「セレナのギアをもう一度・・・・。この輝きで、私は強くなりたい!」

 

『アガートラーム』を見つめながら、マリアは決意を新たにし、弦十郎が笑みを浮かべ。

 

「うむ! 新たな力の投入に伴い、ここらで一つ、特訓だ!」

 

『特訓!?』

 

「???」

 

弦十郎の言葉に聖闘士&装者が声を重ね、エルフナインは首を傾げる。

 

 

~現在~

 

そして現在、S.O.N.G.が所有する筑波のビーチに赴いた一同は特訓と言う名目で、ビーチで遊んでいた。

 

黄色いチューブトップビキニを着た響が、ワンピース水着を着た未来と、ハイネックビキニを着たエルフナインと水をかけあいながら遊び。

 

クリスは赤いフリルビキニを着て、大きめの浮き輪に乗りながら波と悠々と戯れ。

 

調と切歌は、砂地に寝そべり、赤いトランクス水着を着て昼寝しているカルディアの身体に、砂を被せて砂遊びをし。

 

青い三角ビキニを着た翼とマリアも海を楽しんでいた。

 

レグルスは青いサーフパンツの水着を着てサーフィンを楽しみ。

 

エルシドは紺色のフィットネス水着を着て、黒いパーカーを着て、少し離れた場所で釣りをし。

 

デジェルも浜辺に備えられたビーチチェアに横になり、緑色のフィットネス水着に白いパーカーを着ながら詩集を読んでいた。

 

サーフィンを終えて、サーフボードを砂地にさしたレグルスがデジェルに近づき、デジェルが詩集から目を離し、隣に立つレグルスに目を向ける。

 

「アスプロスとオートスコアラーとの再戦に備えて、強化型シンフォギア・イグナイトモジュールを使いこなす為に、筑波の異端技術研究機関で調査結果の受容任務のついでに、シンフォギア装者達は心身の鍛練をしろって、弦十郎は言っていたけど」

 

「もう一つの目的は、装者達のメンタルのケアが目的だろう」

 

強化型シンフォギアを得ても双子座<ジェミニ>のアスプロス(思念体)にまるで歯が立たなかったどころか、そのアスプロスに、自分達の繋がりを“安っぽい馴れ合い”と嘲笑された響と翼とクリス。

LiNKER(奏専用)を2本も使ってもオートスコアラー・ミカに敵わなかった調と切歌。

強くなりたいと少し焦りが見えるマリア。

キャロル・マールス・ディーンハイムの死に僅かに動揺が見えるエルフナイン。

彼女達のメンタルケアが目的としてこの場所に来た事は、聖闘士達は全員理解していた。もしもの時の保護者役としてデジェル達もここに置かれたのはその為。

 

「響君は、【特訓ならこの私! 任せてください】。なんて言ってはいたが、一番キャロル・マールス・ディーンハイムの死に動揺しているのは、明白だな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「レグルス。響君に何も言わないのか?」

 

「・・・・・今の響には、俺が何を言っても無駄だと思うからさ」

 

そう言って、レグルスは再びサーフボードを持ってサーフィンに赴いた。

 

「・・・・・・・・フム。青春かな?」

 

やれやれと言わんばかり肩を竦めるデジェルは、ちょうど目の前の波に流れてきたクリスが手を振って来たので、詩集を置き、パーカーを脱いで、クリスの元へと向かった。

 

 

ー緒川sideー

 

その頃、緒川慎司と藤尭朔也は、筑波の異端技術研究所に赴き、研究成果の進捗を報告を聞いていた。

 

「これは・・・・!?」

 

「ナスターシャ教授が『FRONTIER』に残していたデータから構築した物です」

 

研究者が見せた“光る球体”を見て驚く。

 

「光の、球体?」

 

「そうですね。我々も便宜上、『フォトスフィア』と呼称しています」

 

『フォトスフィア』は、まるで地球儀のように、地球とその大陸の地図を表示し、各地に網の目のような箇所を表示した。

 

「実際はもっと巨大なサイズとなり、これで約4000000分の1の大きさです」

 

「『フォトスフィア』とは一体・・・・? これなら、デジェル達の意見とかも聞いてみたいところですね?」

 

「仕方ありません。国連上層部は未だ聖闘士の皆さんに不信感を抱いていますからね。彼等にあまり内部事情を知られたくないと考えているのでしょう」

 

藤尭も緒川も、上層部の頭でっかちに辟易する。

藤尭はそのまま研究結果の受容任務を続け、緒川は翼達に連絡を取ろうと外に出て、連絡を入れる。

 

「調査データの受容、完了しました。そちらの特訓は進んでいますか?」

 

《くっ! 中々どうして! タフなメニューの連続です!》

 

「???」

 

《後でまた連絡します! 詳しい話しはそのときに!》

 

 

ー翼sideー

 

その頃、砂浜に設置された2つのビーチバレーコートでは、翼とクリスチームとマリアとエルフナインチームでビーチバレーが行われていた。

 

「翼さん、本気にしちゃってるよ・・・・」

 

「とりあえず肩の力を抜くレクリエーション何だけどなぁ。ハハ・・・・」

 

未来と響が苦笑いを浮かべるが、試合は進み。

 

「フッ!」

 

マリアの鋭いスパイクが空を切る!

 

「させるうわっ!」

 

クリスがレシーブしようとビーチボールの前に移動して構えようとするが、砂場に足を取られ体制を崩し、ボールがクリスにぶつかりーーーーーー。

 

ボイィン・・・・。

 

気の抜けた音が響くと、ボールは何故かマリアとエルフナインのコートまで跳ね落ちた。

 

「//////////」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

クリスは顔を紅くし、響達は何とも言えない顔となった。

ボールはクリスの“豊満なバスト”に当たり、そのまま跳ね返ったからだ。

 

「お、おっぱいレシーブ・・・・!」

 

「デ~ス・・・・!」

 

「「「・・・・・・・・・・・・・・ハァ」」」

 

「アハハハハ・・・・」

 

「???」

 

響と切歌が驚嘆したような声を上げ、翼と未来と調は自分達の慎ましい胸元と、クリスの豊満な胸元を交互に見て重いため息を洩らし、マリアは苦笑いを浮かべ、エルフナインは響達の態度に首を傾げた。

 

「な、何見てやがる!!//////////」

 

自分の胸元を凝視する一同にクリスが胸元を両腕で隠すように肩を抱きながら怒鳴り、再び試合が続行された。

 

「先輩ッ!」

 

「任せろっ! ハァッ!」

 

「させるかっ!!」

 

クリスがトスし、翼が跳びスパイクを放とうとするが、マリアもブロックしようと跳び、翼のボールを止めようとした。その時ーーーーーー。

 

ドンッ! ボニョン! バンッ!

 

「キャッ!」

 

「ぐはッ!」

 

今度は翼の放ったスパイクが、マリアの“クリスよりも豊満なバスト”に当たり、そのままボールは跳ね返り、翼の額にクリティカルヒットし、翼はそのまま大きく仰け反って砂地に倒れた。

 

「//////////」

 

「くっ・・・・うぅっ・・・・!」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

マリアが先ほどのクリスと同じように、自分の胸元を両腕で隠すように肩を抱いて顔を紅くし、翼がうめき声を上げ、一同はまた何とも言えない顔となった。

 

「バ、バストブロックデェス・・・・!」

 

「へ、変な技名付けないで!!」

 

「これが、驚異的な胸囲の力・・・・!?」

 

「駄洒落っ!?」

 

切歌と調のコメントにマリアが連続でツッコミを炸裂させた。

それから一同はまた試合続行したが、エルフナインがジャンピングサーブをしようとするが、失敗した。

 

「やり方の知識は有るのですが、できる事なら、あの人達くらいにできるようにならないでしょうか?」

 

エルフナインがもう一方のコートに目をやり、装者一同と未来もその視線を追うとーーーーー。

 

ドゴンッ! ガガガガガガッ! ズバンッ! ギュンッ! バゴンッ! ズシャンッ! ズガンッ! ドゴォンッ!!

 

サーブ、スパイクで放たれたボールは、ミサイルか隕石となり、バレーのネットを突き破り、ブロック、レシーブした音がまるで鉄球を鋼鉄製の壁に叩きつけたような音が響き。地面に叩きつけられたボールは砂地を抉り、クレーターを作り、ビーチボールがビニール製品とは思えない事を引き起こし、風切る音がジェット機が通り過ぎたかのような爆音ーーーーーーそこはまさに、戦場だった。

そしてその戦場をまるで遊技場のように楽しげビーチバレーをしているのは、地上最強の十二人の内の四人。

 

「行っくぞー! 『ライトニングサーブ』!!」

 

獅子座<レオ>のレグルスが殴ったボールが、空中を縦横と縦横無尽に動き、相手チームのデジェルに向かうが。

 

「フッ」

 

デジェルは冷静にボールの動きを見切り、見事なレシーブで威力を殺し上に上げた。

 

「エルシドッ!」

 

「『斬』ッ!!」

 

エルシドの手刀スパイクで放たれたボールは斬撃のオーラを纏い、空気を切ってレグルス達のコートに迫るが!

 

「させっかよっ!!」

 

カルディアがレシーブで防ぎ、その衝撃でカルディアの足元の地面から砂煙が舞い、砂地にまるで斬られたような一直線の亀裂が走った!

 

「カルディアッ!」

 

「応よ! 『スカーレットスパイク』ッ!!」

 

レグルスがトスしたボールをカルディアが殴り、ボールが真紅のオーラを纏って鋭くデジェルを貫く勢いで迫る!

 

「『ダイヤモンドカウンター』ッ!!」

 

デジェルが真紅のオーラを纏ったボールを拳で殴り返し、氷雪を纏ったボールがレグルスに向かう!

 

「何の! 『ボルトスパイク』ッ!!」

 

今度はレグルスがボールを殴り、雷電を纏ったボールがコートに迫った!

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!』

 

ただの和やかなスポーツであるはずが、まるでそこだけ別世界のような雰囲気を出していた。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

それを見てシンフォギア装者達は遠い目になり、エルフナインはただのビニール製品のボールに、何故氷雪や放電現象が起こっているのか興味深く見つめる。

 

「やはり聖闘士の皆さんの身体能力は常人を越えています。一体彼らのあの力はどこから・・・・!」

 

「あぁエルフナイン。あんまりマジメに考えない方が良いわよ。あの人達は遥か彼方の境地に立っている人達だから・・・・」

 

マリアがエルフナインにやんわりとツッコミを入れて、響達もうんうんと頷いた。再び改めて試合続行するシンフォギア装者達。

途中、隣の聖闘士のコートで爆撃でも起こったかのような爆発や、局地的な竜巻が起こり、何故か砂嵐が舞ったりしたが、なるべく視界に入れないようにしていた。

 

 

* * *

 

一応ビーチバレーは終わりを迎え、それぞれがビーチチェアに寝そべったが、響と未来は砂浜に座る。

 

ちなみに並び順は、マリア・翼。響・未来。レグルス・エルフナイン。調・切歌。カルディア・エルシド。クリス・デジェル。

 

「あぁこんなにのんびりするのは久しぶりだ。・・・・所でクリス、何故私の顔を前方に固定しているんだい?」

 

「べ~つに~~」

 

クリスは隣にいるデジェルの顔を片手で押さえ、デジェルの顔を前方の水平線だけ見るように固定していた。心なしかデジェルの顔を押さえているクリスの手に血管が浮かんでいた。

 

「クリスちゃん・・・・」

 

「前から思っていたけど、クリスって結構デジェルさんに対して独占欲強いよね・・・・」

 

デジェルが他の女の水着姿を見ないようにしているクリスに、響と未来、翼とマリアは苦笑いを浮かべていた。

 

「ケケケケケケ♪ 好き好き大好きなお兄ちゃんは、アタシ以外の女の水着姿を見ちゃダメってか?」

 

「ほぉほぉそう言う事デスか♪」

 

「クリス先輩以外と可愛い♪」

 

「(調も切歌も、こういう時だけ、カルディア達と手を組んで悪ノリするんだから・・・・)」

 

それを見てカルディアと切歌と調はニヨニヨとやらしい笑みを浮かべる。

マリアは、切歌と調がカルディアとマニゴルドの下世話な所の悪影響を受けているのに渋面を作る。

 

「デジェルのヤツも苦労すぐはぁッ!!」

 

ビーチチェアに横になってゲスい笑みを浮かべるカルディアの頬に、ビーチボールが叩きつけられた。ボールの向かって来た先には、クリスが力一杯投げたようなポーズを取っていた。

 

「フン!」

 

クリスは再びビーチチェアに寝そべりながら、再びデジェルの顔を前方に向けて固定させた。ふと、エルフナインが空を見上げる。

 

「晴れて良かったですね」

 

「昨日台風が通り過ぎたおかげだよ」

 

「日頃の行いデェス!」

 

未来が同意し、切歌がドヤ顔を浮かべる。

 

「どころでみんな、お腹が空きません?」

 

「だがここは、政府保有のビーチ故に」

 

「一般の海水浴客がいないと、必然売店の類いも見当たらない・・・・」

 

あるとしても、少し歩いた先にあるコンビニのみ。

その時、全員に視線が混じり、火花が散ると、円型に集まる。

 

『コンビニ買い出しジャンケンポンッ!!』

 

結果、買い出し要員。『翼、エルシド、調、切歌、レグルス、デジェル』。デジェルはクリスに顔の向きを変えられていたからの敗北なので、完全に貧乏クジである。

 

「調に切歌。好きな物ばかりじゃなくて、ちゃんと塩分とミネラルを補給できる物をね。まぁデジェルがいるから大丈夫だと思うけど」

 

「おかん」

 

「カルディア、何か言った?」

 

「べ~つに~~」

 

調と切歌に釘を指すマリアに、ボソッと呟くカルディアにジト目を向けるマリアだが、カルディアはそっぽを向いて口笛を吹いて惚ける。

とりあえず気を取り直したマリアは、翼の顔にサングラスを掛けてにこやかに微笑む。

 

「ボディーガード達がいるからと言っても、人気者なんだから、これ掛けて行きなさい」

 

「・・・・母親のような顔になっているぞ。マリア」

 

「「「ブフッ!!」」」

 

翼の呟きにカルディアと調と切歌が吹き出して砂地を叩いたり、お腹を抱えて笑う。

 

ゴンッ!×3

 

「あでっ!」「あうっ!」「デズッ!」

 

笑う三馬鹿の頭に、マリアが鉄拳を振り下ろした。

 

 

* * *

 

買い出しを終えた六人がコンビニを出る。聖闘士組は塩分・ミネラル補給ができる菓子と飲み物と、カルディア用の氷を持ち、翼はスイカを持ち、調と切歌は小さな袋に入った買い物を持った。

 

「切ちゃん自分の好きなのばっかり」

 

「こう言うのを役得と言うのデェス!」

 

「(マニゴルドがいないと切ちゃんのちゃっかり癖が増長するかも・・・・)」

 

二人のやり取りを見ながら、翼は少し微笑むが、エルシド達は、少し先に人だかりが出来ているのを見つけた。

そこには、巨大な氷柱が刺さった神社があった。

 

「昨日の台風かな?」

 

「お社も壊れたってさ」

 

地元民がそう言っているが、エルシド達と翼達は、巨大な氷柱によって破壊された神社を見ると、嫌な予感がした。

 

「これって・・・・」

 

「氷が神社を破壊しているデス!」

 

「こんな事が出来るのは・・・・!」

 

「デジェルか、それとも・・・・」

 

「来ているのか? オートスコアラー・ガリィ!」

 

エルシド達の顔が険しくなるが。レグルスは、響達のいる海岸を見ようとすると、1人の男性が視界が入った。

 

「(あれ? あの人・・・・響に似ている??)」

 

中年期位の男性を、レグルスは不思議そうに見つめていた。

 

 




次回、マリアが本領発揮するのか? 響に似た男性の正体とは?


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マリア奮戦と風と土

ー響sideー

 

「みんなと一緒に海に来るなんて、思っても見なかった」

 

「うん、そうだね!」

 

買い物に行ったレグルス達を待ちながら、響と未来は海を眺めていた。

 

「ところで響・・・・」

 

「なに?」

 

「いつまでレグルス君を避けてるの?」

 

「うっ!」

 

あのガリィとレグルスが交戦し、マリアがガングニールを纏って戦ってくれた日から、響がレグルスを避けているのは未来だけでなくエルシド達や翼達、弦十郎達すらも見抜いていた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・(響らしくない)」

 

黙ってしまう響をジト目で見ながら未来はそう思った。響は皆との“繋がり”を大切にする。皆がキャロルを倒すと言っても、それに納得せずとも衝突しようとはしなかった。

実際未来と気まずい雰囲気になれば響の方から謝るのだが(未来とのそれは9割が響が原因)、しかしレグルスにはそれをしない。まるで意地を張っている。それが未来が気になっていた。が、そんな二人にエルフナインが駆け寄る。

 

「皆さん、特訓しなくて平気なんですか?」

 

「マジメだな~エルフナインちゃんは♪」

 

未来のジト目から逃れるように、響が能天気な笑みを浮かべる。

 

「暴走のメカニズムを応用したイグナイトモジュールは、3段階のセーフティにて制御される危険な機能でもあります!」

 

エルフナインはイグナイトモジュールの危険性を説明する。

 

「だから、自我を保つ特訓はーーー」

 

ドバァアアアアアアアアン!

 

しかし突然、近くの海から水柱が噴出し、青を基調としたゴスロリ風の容姿をし、バレエやフィギュアスケートのような挙動で水柱の天辺に立っているのは、『オートスコアラー ガリィ・トゥーマーン』。

 

「ガリィっ!?」

 

ガリィの登場に、エルフナインと響達は驚き、カルディアは欠伸をしながらビーチチェアに横になる。

 

「アスプロス様の言うとおり。あんな程度でイグナイトモジュールを使いこなした、だなんて思い上がるだなんて滑稽ね。夏の思い出作りは十分出来たでしょう?」

 

「なわけねぇだろ!」

 

クリスと響が、イチイバルとガングニールのシンフォギアクリスタルを構えて、聖詠を唄う。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」」

 

クリスがイチイバルを、響がガングニールを纏うと、クリスがアームズギアのボーガンを連射してガリィを攻撃するが、ガリィは水となって消えた。

 

「なっ!?」

 

「おいおい、後ろだぜ」

 

カルディアがビーチチェアに寝そべりながら呟くと同時に、ガリィが水しぶきを上げて響とクリスの後ろに現れ、二人を凪ぎ払う!

 

「くっ!」

 

「ぐぁっ!」

 

吹き飛びながら響はマリアに目を向ける。

 

「マリアさん! 二人をお願いします!」

 

「(コクン)」

 

マリアは未来とエルフナインを連れて離脱するのを見ながら、クリスもカルディアを睨む。

 

「蠍座<スコーピオン>! お前も逃げるか戦えよ!」

 

「ああ? なんで俺がお人形さん相手に逃げたり遊んでやんなきゃならねぇんだよ。お人形さんの相手はお前らでも十分だろうが」

 

「テメェな・・・・!」

 

「クリスちゃん! 今はオートスコアラーを!」

 

「チィ! おい蠍座<スコーピオン>! 後で助けくれって泣きついても知らねぇからな!!」

 

「へいへ~い」

 

離脱する事もせず、然りとて加勢しようともしないカルディアは、ビーチチェアに寝転がりながら優雅に響達の戦闘を見物していた。

 

「(フフフ、蠍座<スコーピオン>はどうやら参戦しないようね)」

 

ガリィの前に響とクリスが立ち塞がる。

 

「キャロルちゃんからの命令も無く動いているの?!」

 

「前回の戦闘で聞いてなかったの? 今は双子座<ジェミニ>のアスプロス様が、私達の指揮官なのよ」

 

「じゃ、アスプロスさんが私達を殺せって命令したの!?」

 

「キャハハハハハッ! 思い上がりもここまで来ると笑えるわね~♪ せっかく手に入れたイグナイトモジュールを用いても、アスプロス様の思念体にですら手も足も出なくて惨敗したアンタ達ごときに、アスプロス様が驚異と感じてくれているとでも思ってたの~?」

 

「「っ!!」」

 

ガリィの嘲笑の言葉に、響とクリスを悔しそうに息を詰まらせる。

 

「ククク。所詮アンタ達シンフォギア装者なんてね。黄金聖闘士の背中におてて繋いで連なってくっついているだけの、オマケに過ぎないのよっ!」

 

ガリィは両の手のひらから、アルカ・ノイズの水晶体をばら蒔くと、転移魔法陣が現れ、そこからアルカ・ノイズが現れた!

 

「ハァッ! ハァッ! テヤァッ!」

 

響が正拳、回し蹴り、体術を駆使してアルカ・ノイズを蹴散らし。

クリスがボーガンからガトリングへとアームズギアを変形させながらアルカ・ノイズを粉砕し、空中から襲い来るアルカ・ノイズには、腰アーマーから小型追尾ミサイルを放って粉砕する!

 

「ふぁあ~~ぁ」

 

カルディアは、二人の戦いを退屈そうに見物しながら、自分に襲い来るアルカ・ノイズの身体を指先の深紅の衝撃で風穴を開けて消滅させた。

 

 

 

ー翼sideー

 

クリスのミサイルにより青空に浮かんだ爆発を見て、民間人の野球少年達が騒然となり、翼はサングラスを外す。

 

「あれはっ!?」

 

「もしかして、もしかするデスか!?」

 

「ガリィが現れたか?」

 

「行かなきゃ・・・・!」

 

切歌と調、デジェルは海岸へ向かい、翼とエルシドとレグルスは民間人を避難させようとした。

 

「ここは危険です! 子供達を誘導して、安全なところまでーーー」

 

「冗談じゃない! どうして俺がそんな事をっ!!」

 

「あっ・・・・」

 

自分には関係無いと言わんばかりに逃げようとする壮年の男性。

 

「っ・・・・」

 

バシンッ!

 

「ぐあっ!」

 

「レグルス!?」

 

我が身可愛さで逃げようとする男性の頬をレグルスが叩き、男性は無様に尻餅を付く。

 

「な、何をするんだよっ?!」

 

「(ギロッ)」

 

「ひぃっ!?」

 

叩かれた頬を押さえて怒鳴ろうとする男性だが、レグルスが睨み付けると、小さく悲鳴を上げて身をすくませて黙る。

 

「アンタそれでも“大人”なのかよ。卑怯者めっ!」

 

「・・・・っ!?」

 

自分の半分も生きていなさそうな少年に一喝されて、男性はまるで不貞腐れた子供のように顔を俯かせて、目を反らした。

 

「レグルス・・・・」

 

「そんな男放っておけ。それよりも子供達を避難させるぞ」

 

レグルスの行動に唖然となる翼だが、エルシドと共に子供達を誘導する。レグルスも男性を放っておいて、避難誘導を始める。

 

「・・・・・・・・・・・・クソガキが」

 

男性は立ち上がると、一瞬だけレグルスを恨みがましく睨んで毒づき、自分だけ逃げ出した。

 

 

 

ー???sideー

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

建物の屋上から、レグルス達の様子を窺っている二人の女性がいた。

 

「(チラッ)」

 

「(コクン)」

 

1人が目配せすると、もう1人は今さっき走っていったデジェルと調と切歌の後を追い、残った1人は大剣を取り出して、エルシドを見据えていた。

 

 

 

ー響sideー

 

響とクリスがアルカ・ノイズを蹴散らしていくと、カルディアが気づいたように声を上げる。

 

「おぉ~~い! オートスコアラーはどこ行った~~?」

 

「「っっ!?」」

 

カルディアに言われて響とクリスはハッとなって、辺りを見回しガリィを探すが、ガリィの姿は何処にも無かった。

 

「(引き剥がされたのかよ!?)」

 

「(まさか、マリアさん達の方に!?)」

 

 

 

ーマリアsideー

 

その頃予想通り。未来とエルフナインを連れて避難していたマリアの前に、ガリィが現れた!

 

「「「っ!?」」」

 

未来とエルフナインを庇うように、マリアが前に出る。

 

「見つけたよ、ハズレ装者! しかもエルフナインと琴座<ライラ>の聖闘少女候補までいるとはね~」

 

「くっ!」

 

渋面になるマリアに、ガリィは手から鋭い氷柱の大剣を作ると、マリアに迫る!

 

「さあ、いつまでも逃げ回ってないでーーー」

 

迫るガリィに立ち向かいながらマリアは唄う。戦いの聖詠をーーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

ガリィの氷柱を紙一重に回避したマリアは、ガリィの横面に拳を叩きつけた!

 

そして、ガリィを殴った拳から順に、マリアの身体に纏うのは、白銀に煌めくシンフォギア。最愛の妹であるセレナ・カデンツァヴナ・イヴの形見、ケルト神話の神・ヌァザが用いる銀の義手、『アガートラーム』!

 

吹き飛びながらガリィはそのシンフォギアを見据える。

 

「銀の、左腕・・・・!」

 

後方にいた未来も、それを見つめた。

 

「マリアさん! それは・・・・!」

 

「新生アガートラームです!」

 

マリアは新たな力を得て新生されたアガートラームのシンフォギアを纏い、歌を唄う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

吹き飛んだガリィが、バレエのように回りながら体制を整えて着地する。

 

「あの時みたく、失望させないでよ!」

 

ガリィがアルカ・ノイズを召喚した!

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

しかしマリアは臆することなく、左腕の篭手から引き抜いた小太刀を周辺に展開させ、ガリィにむけて高範囲に放出した!

 

『INFINITE†CRIME』

 

放出された小太刀がアルカ・ノイズの身体を貫通して撃破する!

マリアはアームズギアの短剣を持って、迫り来るアルカ・ノイズ達を次々と斬り裂いていく!

 

「(特訓用のLiNKERは効いていている。今のうちに!)」

 

 

ー弦十郎sideー

 

「オートスコアラーの急襲だと!?」

 

《はい。装者と聖闘士は分断され、マリアさん一人で、ガリィに対応しています》

 

緒川からの連絡に弦十郎は苦虫を噛み潰した顔を浮かべる。

 

「デジェルかエルシドを加勢に行かせろ! イグナイトは諸刃の剣、あまり無茶はしてくれるなよ、マリア君!」

 

 

 

ーマリアsideー

 

迫るアルカ・ノイズに向けて短剣を振ると、短剣は蛇腹状にのように伸びて直角に角度を変化させ、多角的な斬撃でアルカ・ノイズを切り裂いた!

 

『EMPRESS†REBELLION』

 

「うわぁ~、私負けちゃったかも~~。アハハハハハハハハハハハハハハ」

 

わざとらしく笑い声を上げるガリィにマリアは肉薄するがーーーーーー。

 

「何てね♪」

 

「っ!?」

 

向かった来たマリアの攻撃をヒラリと回って回避したガリィは氷柱の大剣でマリアを叩きのめす。

 

「うあっ!」

 

「「あぁっ!」」

 

倒れるマリアを見て、未来とエルフナインも小さく声を上げる。

 

「つ、強い・・・・! だけど!」

 

マリアは胸元のクリスタルに手をかける。それを見てガリィがニンマリと笑みを浮かべた。

 

「聞かせてもらうわ」

 

「この力で決めて見せる!」

 

立ち上がったマリアがクリスタルを外して叫ぶ。

 

「イグナイトモジュール! 抜剣!!」

 

クリスタルを起動させると頭上に投げ、クリスタルが杭のような形態に変形した。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

静かに見据えるマリアの胸元を、イグナイトモジュールが貫いた!

 

「うっ! うあああああああ、ああああああ、あああああああああああああああああっ!!」

 

流れてくる暴走エネルギーの奔流にマリアが膝をつく。

 

「弱い、自分を!・・・・殺す!・・・・あああああああああああああああああっ!!」

 

しかし、マリアの身体は暴走するエネルギーに呑み込まれ、その身が黒く染まって行きーーーーーー。

 

「ガァアッ!」

 

「あれれ?」

 

さすがにガリィもキョトンとなった。

 

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

まるでケダモノのような雄叫びを上げてガリィに襲い来るマリアだが、ガリィは難なくそれらの攻撃をかわしていく。

 

「ガアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「獣と堕ちやがった・・・・!」

 

力に呑まれ獣となったマリアにガリィは毒づき。その現場に、カルディアと響とクリスがやって来た。

 

「あれは、暴走!?」

 

「魔剣の呪いに呑み込まれて・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

唖然となる響とクリスとは別に、カルディアは口の端をニィッと上げた。

 

「ウアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「な~に面白れぇ感じになってんだよ。マリア!」

 

ゲシッ!

 

「ウオアッ!」

 

カルディアが暴走して跳び上がるマリアを蹴り飛ばして地面に叩きつけた。

 

「ウゥゥッ!!」

 

「カルディアさん!」

 

「テメェマリアに何してんだ!」

 

「うるせぇよ。暴走するアイドル大統領を大人しくさせるだけだ」

 

響とクリスがカルディアを諫めようとするが、カルディアは聞く耳を持たず、右手の指先の爪が紅く染まり、鋭く伸びた。

 

「“3発分”って所だな」

 

爪が明滅しながら紅く輝く。

 

「これで頭冷やしな・・・・『クリムゾン・ランサー(威力弱め)』ッ!!」

 

「グァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

深紅の槍のようなオーラが起き上がろうとするマリアを押し潰すと、シンフォギアが強制解除されたマリアが倒れていた。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「マリアさん! マリアさん!!」

 

響達が倒れ伏しているマリアに駆け寄り、カルディアはマリアを一瞥すると、ガリィに向き合う。

 

「よおオートスコアラーちゃんよ。場がかなり興ざめしちまったが、どうするよ?」

 

「ハァ、やけっぱちで強くなれるとでも思ったのかしらね~。このハズレ装者にはホンットガッカリだわ」

 

ガリィは倒れるマリアを落胆したような顔で呆れる。

 

「でもま、こっちとしては“性能テスト”も大分進んだようだし」

 

「性能テスト・・・・?」

 

「そ♪ ファラちゃんとレイアちゃんの“試作機”が出来上がりましたからね~♪」

 

「(ファラとレイアの試作機・・・・)まさか!?」

 

マリアに駆け寄ったエルフナインが、ガリィの言った言葉に反応した。

 

「エルフナインちゃん・・・・?」

 

「ファラとレイアが、『風のエレメントアームズ』と『土のエレメントアームズ』を持って、ここに来ているのですか!?」

 

『っ!?』

 

エルフナインの言葉に響達は愕然となった。双子座<ジェミニ>のアスプロスとキャロル・マールス・ディーンハイムが共同で造り上げたオートスコアラー専用の武装。

レグルスを負傷させ、マニゴルドとアルバフィカを追い詰めた驚異の武器をもって、オートスコアラーが来ている事に戦慄した。

 

「ええ、今ごろは、それぞれの獲物と戦いながら、データを収集しているでしょうね」

 

 

 

 

ーエルシドsideー

 

ガリィの言うとおり、緑色を基調としたフラメンコのような挙動をする『オートスコアラー ファラ・スユーフ』が大剣を持ち、胴体には『緑色のプレートアーマー』を身に付け、胸元の錬成陣が淡く光ると緑色の風の刃を放ち、避難誘導をしていたエルシドに襲い掛かり交戦していた!

 

「くっ!」

 

「エルシド!」

 

「なんだあの風は? まるで風の結界だ!」

 

翼とレグルスがエルシドの服や肌が切られたような傷が走るのを見て驚いていた。

 

「『かまいたち現象』ですよ」

 

「『かまいたち現象』・・・・?」

 

『かまいたち現象』。旋風の中心にできる真空または低圧により、皮膚と肉がカッターで裂かれたような傷ができる現象。または、皮膚表面が気化熱によって急激に冷やされるために組織が変性を起こし、肉体が裂けてしまう生理学的現象とも言われている。

 

「そう。この『風のエレメントアームズ』は気圧を操作し、真空を起こすことによって風の刃を生み出すことができます。山羊座<カプリコーン>。貴方の手刀は私の『ソードブレイカー』の天敵のようなものですが、真空から生み出される刃ならばその手刀すらも斬り裂く事が可能です」

 

以前翼の剣を砕いたファラの能力『ソードブレイカー』はあくまでも『武器である剣』ならば触れた瞬間に破壊することができるが、エルシドの手刀は人体。武器として認識されない故に『ソードブレイカー』は通用しない。

 

「くっ」

 

「翼、エルシドは1対1で戦ってるんだ。手助けしようだなんて考えるなよ」

 

「・・・・わかっている」

 

翼もエルシドの性格を知っているので、手は出さないようにしていた。

 

「しかし侮るなオートスコアラー。我が手刀、この程度の風で防ぐ事はできん!」

 

エルシドが手刀を構えると、ファラも大剣を構えて、二人は接近すると、手刀と大剣をぶつけた!

 

 

ーデジェルsideー

 

「『ダイヤモンドダスト』!」

 

「フッ!」

 

そしてこちらは、海岸に向かっていたデジェルと調と切歌の前に、黄色を基調としたカジノの女ディーラーのような格好したジャズダンスやブレイクダンスのような動きをしながら、コインではなく、『色とりどりの宝石』を弾丸のように放ちながら、『黄色いショルダーアーマー』を身につけたレイア・ダラーヒムと交戦していた!

 

「何あの宝石?」

 

「綺麗だけど危ないデス!」

 

デジェルが放つダイヤモンドのように煌めく氷雪と、レイアの肩のショルダーから黄色い錬成陣が淡く光ると、大地から次々とルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ、アメジスト、オパール、ガーネットといった美しい宝石を生まれ、それを弾丸のように放ち、氷雪と宝石がぶつかり合い、幻想的な世界が生まれていた。

 

「それが『土のエレメントアームズ』か? レイア・ダラーヒム」

 

「そう。宝石類は大地から生まれる鉱物、この『土のエレメントアームズ』は鉱物を生み出すことができる。私として、派手な宝石を使えるこの武装はかなり気に入っている」

 

クールに言ってはいるが、レイアは『土のエレメントアームズ』を撫でるその手の動きから、相当気に入っている事がうかがえる。

 

「そして私に地味は似合わない。私とこの『土のエレメントアームズ』の相手には、水瓶座<アクエリアス>のデジェル。貴方が相応しい」

 

「良いだろう。その武装ごと、お前を凍てつかせる!」

 

デジェルが拳から氷雪を放つと、レイアを宝石の弾丸を繰り出した!

 

 

ーアスプロスsideー

 

アスプロスはアジトでファラとレイアの戦闘から、データを収集していた。その近くでは、赤を基調としたゴスロリ服を着て、両手に大きなカギ爪をした大きな縦ロールの髪型をした自動人形『オートスコアラー ガリィ・トゥマーン』が曲芸師のようなポーズを取っていた。

 

「フム。データはこれくらいで良いだろう。ファラ、レイア、ガリィ、データは十分取れた。名残惜しいだろうが帰投しろ」

 

《了解した》

 

《わかりました》

 

エルシドとデジェルから距離を取ったファラとレイアは転移クリスタルを使って退散した。

 

 

ーカルディアsideー

 

「了解、まったく退屈しのぎにもならなかったわ」

 

ガリィは転移クリスタルを地面に叩きつけると、魔法陣が現れ、ガリィはこの場から消えた。

 

「ちっ! 逃げられたか」

 

「うっ・・・・!」

 

「マリアさん!」

 

ガリィが消えると同時に、マリアが目を覚ました。

 

「勝てなかった・・・・私は、何に負けたのだ・・・・?」

 

「(ケッ。こう言う時はアルバフィカの出番だって言うのに、面倒くせぇ)」

 

倒れたマリアは自分の敗北を理解していなかった。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

アスプロスは帰還してきたファラとレイアからエレメントアームズを受け取り、データの解析を行っていると、ガリィも帰還した。

 

「ガリィ。お前の役割は、私とファラのデータ収集の為のサポートの筈。随分と派手に立ち回ったな?」

 

「“もう1つの目的”ついでに、余計な邪魔が入らないようにしただけよ」

 

「自分だけペンダント壊せなかった事を引きずっているみたいだゾ」

 

「煩い! だからあのハズレ装者から一番にむしり取るって決めたのよ!」

 

余計な事をしゃべるミカに、ガリィは口汚く怒鳴った。

 

「ホント、頑張り屋さんなんだから。アスプロス様。我々の“『エレメントアームズ』の完成”はどうでしょうか?」

 

「概ね良好かつ順調だ。後1ピースで完全な武装となる。それまでは試作機で我慢するのだな」

 

アスプロスの言葉にオートスコアラー達は頭を垂れるが、ガリィは別の事を考えていた。

 

(私の『水のエレメントアームズ』の試作機は、獅子座との戦いで戦闘では使えない状態になってしまったけど、一番の座は譲れない)

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アスプロスはガリィを一瞥すると、小さく口の端を上げていた。

 




ー『風のエレメントアームズ』ー

鎧の錬成陣で大気と気圧を操り、風の刃を放ったり、小さな竜巻を起こして空気の壁を作り出す。


ー『土のエレメントアームズ』ー

地面から鉱物を作り出し、武器として扱う事ができ、地面を泥化させたり、磁力を操る事ができる。


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弱さを受け入れて

お待たせしました。原作と少し違う展開にします。


ー???sideー

 

其処は、煮えたぎるマグマが流れる火山の火口内部。マグマによる超高熱と噴煙、普通の人間ならば肉体が即燃え上がりか、噴煙により呼吸困難になるであろう環境である。

しかし、そのマグマが流れる火山内部の岩塊に寝そべる二人の男性がいた。身体の所々に火傷による傷痕があったが、不思議な事に、この火山の噴煙を浴びると、負傷した身体が少しずつ治癒されて行った。

そして、寝そべる二人の男性に一人の青年が近づく。

 

「フム、大分傷も癒えてきたようだな。」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

寝そべる二人は返答せず、火山の噴煙により、傷だらけの身体を治癒する事に専念した。

 

「装者達は『魔剣』の力を得たようだが、槍と剣と弓は完全に使いこなしておらず、双刃はまだ使ってはいないが、ようやっと義手をつかった装者は、自らの“間違い”に気づいていないようだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

横たわる二人の内、1人の眉根がピクリと反応すると、全身にオーラを纏った。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

オートスコアラー達から襲撃を受けた面々は、緒川と藤尭と合流し、研究施設の会議室で会議をしていた。

 

上座の椅子に翼。

 

翼の右隣のソファーに響と未来とレグルス。

 

左隣のソファーに調と切歌。

 

下座の椅子にデジェルが座り、肘掛けにクリスが腰を落としていた。

 

翼の後ろに控えるように緒川と藤尭が立ち、エルシドは上座近くの扉近くの壁に寄りかかっていた。

 

「主を失い、双子座<ジェミニ>の指揮下で襲いに来る人形・・・・」

 

「風と土のエレメントアームズの性能テストの為に襲いに来たってのか?」

 

翼とクリスが、今回急襲をかけてきたファラとレイア、そしてマリアを追い詰めておきながら撤退したガリィの行動の不可解さに頭を悩ませていた。

 

「どうして優位に事を運んでも、とどめを刺さずに撤退を繰り返しているのだろう・・・・?」

 

「おお言われてみれば! とんだアハ体験デス!」

 

「一々ぼんが暗すぎんだよな」

 

「気になるのは、マリアさんの様子も・・・・」

 

「うん・・・・力の暴走に呑み込まれると、頭の中も黒く塗りつぶされて、何もかも分からなくなってしまうんだ・・・・」

 

「(流石は暴走の第一人者。言うことに重みがある)」

 

装者の中で何度も暴走を繰り返してきた響の言葉に、レグルスは納得し、装者一同は黙るが、エルシドが口を開く。

 

「マリアの方は、暴走した原因は分かるがな」

 

『えっ!?』

 

エルシドの言葉に、装者と緒川達も目を向ける。が、エルシドは静かに目を閉じた。

 

「エルシド。マリアの暴走の原因は一体なんなのだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「おい、黙りしてんじゃねぇよ」

 

クリスが若干焦れたような声を上げる。が、今度はデジェルが口を開く。

 

「今のマリアでは・・・・」

 

『ん?』

 

「今のマリアでは、またイグナイトを抜剣したとしても、暴走するだろう」

 

「だろうね」

 

「だから・・・・!」

 

「その原因を教えて欲しいデスよ!」

 

何か心当たりがあるような態度のデジェルとレグルスに、調と切歌も焦れたような声を上げる。

 

「・・・・自分を」

 

『え?』

 

ようやく口を開いたエルシドに、レグルスとデジェル以外が耳を傾ける。

 

「“自分を受け入れられない者”に力を与えても、宝の持ち腐れになるだけだ・・・・」

 

エルシドはそう言って、会議をしていた部屋を出ていった。エルシドの言葉の意味が分からず、装者達と未来、緒川と藤尭も首を傾げるが、レグルスとデジェルは静かに目を閉じた。

 

 

 

ーマリアsideー

 

「(情けない。・・・・私が弱いばかりに、魔剣の呪いに抗えないなんて)」

 

夕暮れの海岸で、包帯を頭に巻いて気落ちしているマリアは、ギュッと拳を握る。

 

「(強くなりたい。でも、どうすれば・・・・情けないわね。もしここにアルバフィカがいてくれていればと考えている自分がいる。本当に、情けない)」

 

するとマリアの側にバレーボールが転がってきて、エルフナインとカルディアがボールを取りに来た。

 

「あっ・・・・」

 

「ごめんなさい。皆さんの邪魔をしないよう思っていたのに・・・・」

 

「邪魔だなんて・・・・。でも何をしてるのカルディア? みんなと会議しているんじゃ・・・・」

 

「はっ! あんなクッソかったるいお話合いだなんて、退屈過ぎて息が詰まるぜ。敵が来たらぶちのめす。来ないなら来るまで暇を潰す。いちいちグダグダと呑気に会議なんてしたって面倒なだけだ。それならエルフナインにバレーボールでも教えた方がまだ退屈しのぎになるってもんだぜ」

 

「ハァ。カルディアはシンプルで良いわね。私には到底できないわ」

 

とどのつまりサボる口実にエルフナインを使ったカルディアに、マリアはジト目を作って呆れた。

 

「練習、私も付き合うわ」

 

「はい」

 

エルフナインがアンダーハンドサーブをし、マリアが打ち方を教え、カルディアがボールを拾う係をしていた。

 

「それ!」

 

「アウト~」

 

しかし、サーブはコートからアウトしていた。

 

「おかしいな。上手くいかないな、やっぱり・・・・」

 

「色々な知識に通じているエルフナインなら、分かるのかな?」

 

「え?」

 

「あん?」

 

マリアは意を決して、エルフナインに聞いてみた。

 

「だとしたら、教えて欲しい。“強い”って、どういう事かしら?」

 

「・・・・それは、マリアさんはもうとっくに分かっていると思いますよ」

 

「えっ?」

 

「だって、マリアさんは見てきた筈です。強くて優しくて、そして誰よりも気高い黄金の双魚の背中を・・・・」

 

「あっ・・・・」

 

マリアの脳裏に、ウェーブがかかった水色の長髪の男性の背中が浮かんだ。

 

「実はですね。僕は一度だけ、アルバフィカさんとカルディアさんに、僕の知識が有れば“毒の血”や“心臓の病”を治療できるかもしれないと伝えた事があるんです」

 

「・・・・二人がなんて答えたか、想像しやすいわね」

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアがカルディアに目を向けると、カルディアはソッポを向いて口笛を吹いていた。

 

「お察しの通りです、お二人には断られました。毒の血も心臓の病を治療する気はないとハッキリと言われて」

 

「当たり前だろうが」

 

何故治療を受けないのか不思議に思うエルフナインに、カルディアが告げた。

 

「確かによ。このポンコツの心臓にはさんざん悩まされてきた事なんて腐るほどあるけどよ、コイツはもはや“俺の一部”だ。今さら切り離そうとは思わねえよ。アルバフィカもそうだろうぜ。何しろアルバフィカの毒の血は、恩師であり育ての親を殺した忌まわしい血だ」

 

「・・・・・・・・」

 

「だけどな。アルバフィカは、そんな忌まわしい血すらも受け入れたんだよ」

 

「・・・・受け入れた・・・・」

 

カルディアの言葉に、マリアは何かを考えるように思考を巡らせているとーーーーーー。

 

バシャァアアアアアアアアアアアンンッ!

 

「「「っ!!」」」

 

「お待たせ、ハズレ装者♪」

 

突然噴水のように水柱が上がると、その頂点にオートスコアラー・ガリィがバレエのポーズをとっていた。

 

「連続で襲撃とは、仕事熱心なこって」

 

「マリアさん・・・・」

 

余裕の態度のカルディアと、不安がるエルフナインの前に、マリアが立ち、頭に巻いた包帯を外す。

 

「今度こそ歌って貰えるんでしょうね?」

 

昼間の醜態を持ち出すガリィ。

 

「大丈夫です。マリアさんなら出来ます!」

 

「出来ないときは俺がやるからな」

 

応援するエルフナインとカルディアに頷いて、マリアが聖詠を唄う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアの衣服が弾け飛び、その身に白銀のシンフォギアを纏った!

 

「ハズレてないなら、戦いの中で示して見せてよ!」

 

ガリィがアルカ・ノイズを召喚すると、マリアはアームズギアの短剣と蛇腹剣を駆使して、アルカ・ノイズを蹴散らす!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

そしてその光景を、オートスコアラー ファラが口に赤い薔薇をくわえながら 見つめると、薔薇の花弁が散り、その姿が風景に溶け込むように透明となった。

散れた花弁は、風に踊りながら、辺りをヒラヒラと舞っていた。

 

 

 

 

ーレグルスsideー

 

「アルカ・ノイズの反応を検知! マリアさんとエルフナインちゃんとカルディアがいる場所です!」

 

『っ!!』

 

「マリア達がピンチデス!」

 

藤尭からの報告に、装者達が慌てて部屋を出る。

しかし、装者達が出た扉から、“透明の輪郭”が横切るのを、レグルスにデジェルに緒川が確認した。

 

「「「っ!」」」

 

三人はその輪郭が横切った通路を見ると、そこには誰もいなかった。

 

「風・・・・?」

 

「どうかしたんですか?」

 

「いえ、大丈夫です。きっと・・・・」

 

未来が聞くと、緒川は気のせいと思うようにしたが、デジェルとレグルスは。

 

「レグルス・・・・」

 

「変な風が通った・・・・」

 

レグルスの言葉に、デジェルも気がかりな様子を浮かべるが、今はマリアとエルフナインを優先して、エルシドを呼び戻そうと、思念波を送った。

 

 

 

ーマリアsideー

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」

 

マリアが次々とアルカ・ノイズを粉砕していくが、ガリィは手を上げると、大きな水玉を作り出し、それを水流のように発射してマリアを攻撃しようとした。

 

「っ!」

 

それを察したマリアは、投げたナイフで障壁を作り防ぐが、今度はガリィは正面から水流を放ち、マリアは防ごうとするが、防ぎきれず水流に呑まれる!

 

「ぐぅ!」

 

「フフ♪」

 

水流に呑まれたマリアは、その中で身体を氷に包まれた!

 

(強く!・・・・強くならねば!)

 

「マリアさんっ!」

 

「・・・・・・・・」

 

エルフナインが叫び、カルディアは黙って見据えていた。

 

「くぅうっ!! かはぁ!」

 

マリアが気合いを込めて氷を砕いたが、膝を付いてしまう。

 

「てんで弱すぎるぅっ! 」

 

「・・・・っ」

 

ガリィの侮蔑の言葉に、マリアは胸元のクリスタルに手をかけようとするが・・・・。

 

「その力、弱いアンタに使えるの?」

 

「ぁ・・・・っ! 私はまだ弱いまま・・・・っどうしたら強く・・・・!」

 

歯噛みするマリアの脳裏に、先程のエルフナインの言葉が浮かんだ。

 

【だって、マリアさんは見てきた筈です。強くて優しくて、そして誰よりも気高い黄金の双魚の背中を・・・・】

 

「・・・・・・・・」

 

「マリアさん!」

 

「っ・・・・」

 

「大事なのは、“自分らしくある事”です!」

 

「いつまでも“弱いテメエ”を否定してんじゃねぇよ!」

 

「私が、“自分らしくある事”、“弱い自分を否定している”・・・・」

 

マリアは、昼間の自分を思い返した。

 

【弱い、自分を!・・・・殺す!・・・・あああああああああああああああああっ!!】

 

「私は、否定しようとしていたの・・・・自分自身を・・・・」

 

呆然となるマリアの目の前に、先程ファラがくわえ、散ってしまった赤い薔薇の花弁が舞っていた。

 

「薔薇・・・・」

 

マリアは、目の前に舞う赤い花弁を見つめていると、赤い花弁に混じって、“白い薔薇の花弁”が舞い、マリアが上を見上げると、白い薔薇の花弁がまるで花吹雪のように舞い降りてきた。夕暮れの世界に舞い降りる白い薔薇は、どこか幻想的だった。

 

「何よ。薔薇の花弁なんかが降ってきて」

 

「白い薔薇、ですか・・・・?」

 

「まさかコイツは・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・アルバフィカ?」

 

訝し気に薔薇を睨むガリィ。白い薔薇に見惚れるエルフナイン。カルディアも察してニヤリと笑みを浮かべ。呆然となりながらも、マリアはその人物の名前を呟き、再会したアルバフィカと会話した事を思い出していた。

 

【マリアには、高貴な赤い薔薇や、妖しい黒い薔薇よりも、清純な白い薔薇が似合いそうだ】

 

【そ、そうかな・・・・//////】

 

思い出すと照れてしまう会話。

マリアは夕焼けの空を見上げると、魚座<ピスケス>のアルバフィカの幻影が見えた。

 

「っ・・・・!」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

アルバフィカの幻影は、ただ真っ直ぐ曇り無い眼差しでマリアを見つめていた。

それだけで、たったそれだけで、マリアはアルバフィカが何を言わんとしているのかを察し、その瞳から一筋の涙が流れた。

 

「“否定するな”。と言うの、アルバフィカ?」

 

『(コクン)』

 

マリアの言葉に頷いたアルバフィカの幻影は、そのまま空に溶けて消えた。

 

「・・・・・・・・・・弱い自分を、そうだ」

 

「んん?」

 

立ち上がるマリアを訝し気に見るガリィ。

 

「私が強くなれなかったのは、“自分自身を否定していた”からだ。弱い自分を受け入れて、弱くても自分らしく、それが強さ! エルフナインは戦えない身でありながら、危険を省みずに勇気を持って行動を起こし、私達に届けてくれた『希望』は、『弱い自分を殺す為の力』なんかでは無い!」

 

「ンフゥ♪」

 

明らかに先程とは目付きが変わったマリアに、ガリィはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「エルフナイン! そこで聞いていて欲しい! 君の勇気に応える歌だ!」

 

マリアは覚悟を持って胸元のクリスタルに手をかけ、魔剣の力を呼び出した。

 

「イグナイトモジュール! 抜剣!!」

 

クリスタルを起動させると、マリアは胸元からクリスタルを外し、空に投げると、クリスタルは杭の形態に展開され、マリアの胸元に突き刺さった!

 

「ぐっ! うううううううううぅぅぅぅぅううううううぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!!!」

 

力の奔流と破壊衝動に呑まれないように抵抗するが、苦痛に歪む顔を浮かべるマリアの脳裏に、弱かった過去の自分を思い返していた。

 

「(狼狽える度、“偽り”にすがって来た、“昨日までの私”・・・・)」

 

しかしそれもまた自分自身。今度は先程と違って、衝動に耐え続けるマリア。

 

「そうだ! “らしくある事”が! “受け入れる事”が強さであるなら!!」

 

「マリアさん!!」

 

「(マリアっ・・・・!)」

 

エルフナインとカルディアはマリアを見つめる。

 

「(アルバフィカ! 今も、私を見守ってくれているなら! どうか、見ていてっ!!)」

 

マリアが奮い立つ!

 

「私は弱いまま・・・・! 弱い自分を受け入れて、この『呪い』に反逆して見せるっ!!」

 

するとマリアに突き刺さったイグナイトモジュールが、目映い光を放ち、マリアのアガートラームが新たな姿となる。

 

白銀のシンフォギアであったアガートラームの形が黒に統一された姿となり、重武装だったアガートラームがシャープな形態となり、腰から伸びた左腕の籠手から抜き取った短剣を構え、イグナイトモジュールの起動に成功した。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアがフォニックゲイン高める聖詠を歌いながら、アームドギアの短剣を構える。

 

「弱い自分を受け入れ、弱さを強さにするだなんて、頓知を効かせ過ぎだって!!」

 

ガリィが再びアルカ・ノイズを召喚して、マリアに向かわせる。

マリアは左腕の籠手に短剣を乗せて、手甲剣とし、アルカ・ノイズに向けると光弾を発射して、アルカ・ノイズを蹴散らす!

 

「良いね良いねぇ!」

 

ガリィが足元に氷の道を作りながら、フィギュアスケートのように滑り、マリアに迫る!

マリアは手甲剣でガリィを斬るが、ガリィの身体が水泡となって消える。

マリアはガリィの姿が映った水泡を光弾で撃つが、後ろに大きな水泡が現れ弾けると、ガリィが現れた。

 

「私が一番乗りなんだから! ん?!」

 

ガリィの眼前にマリアが短剣を叩きつけようとするが、ガリィは障壁を張り防ぐ。

 

「んん♪」

 

余裕顔を浮かべるガリィだが、マリアの短剣の刀身が輝くと、ガリィの障壁を砕いた!

 

「っ!?」

 

マリアが左腕を振り上げて、驚嘆するガリィの顎にアッパーカットを叩きつけた!

天高くぶっ飛んだガリィよりも高く跳んだマリアは、左腕のアーマーにアームドギアの短剣を接続し、大剣状に変形させ、腰のブースターでガリィにすれ違い様に斬り裂こうとする!

 

『SERE†NADE』

 

が、斬り裂こうとしたその刹那の瞬間、ガリィの身体が突如消えた。

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

「っ・・・・」

 

驚く三者をよそに、ある人物がガリィを抱えて着地し、マリアから離れた位置にいた。

 

「貴方は・・・・!」

 

「アスプロス、さん・・・・!」

 

「野郎・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

双子座<ジェミニ>のアスプロスの登場に警戒するが、アスプロスは相も変わらず不敵に不遜な笑みを浮かべていた。

 

「見事だ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

「っ!」

 

アームドギアを構えるマリア。しかし、アスプロスは構わず言葉を続けた。

 

「仲間の為に我が身を省みずに戦う気高き心、己が弱さを受け入れ弱さを強さにしたその精神力、お前は更なる高みに立ったと言えるだろう」

 

アスプロスは満足そうな笑みを浮かべると、『アナザーディメンション』を開いた。

 

「お前の奮戦に敬意を表し、この場は去ろう」

 

「えっ・・・・?」

 

「アスプロス様! 私はまだ!!」

 

「落ち着けガリィ、“完成品”が出来ても使い手がいなければただの置物となる。コヤツらと雌雄を決するステージは此処ではない(それに、コイツが破壊されずとも、起動できるようにしておいたしな)」

 

そう言って、アスプロスはガリィを抱えてその場から消えた。

 

「・・・・・「マリアさんっ!!」っ!」

 

ようやく来た響達とレグルス達にマリアは目を向けると、シンフォギアを解除し、疲労により腰を落とした。

マリアとエルフナインとカルディアから、オートスコアラーを追い詰めたが、アスプロスによって逃げられた事を聞かされた。

 

「これがマリアさんの強さなんですね」

 

「いいえ、弱さかもしれない」

 

「えっ?」

 

「でもその弱さを受け入れ、弱さもまた私らしくある為の力だ。教えてくれてありがとう、エルフナイン」

 

「はい!」

 

笑顔を見せるエルフナインを見て、マリアは自分の手に乗った白薔薇の花弁を見る。

 

「(そして、待ってるからね。アルバフィカ・・・・)」

 

きっと帰ってくる。そう確信して、マリアも優しい笑みを浮かべた。

 

 

ーファラsideー

 

マリア達が笑い合っていると、透明となったファラが静かにその姿を現した。

 

「ガリィは最低限の活動をしたようね。お陰で無事に私は目的を果たせました」

 

ファラは舌を出すと、自分の首もとにまで届きそうな長い舌の上に、マイクロチップを乗せていた。

そして、ファラ達の本拠地であるチフォージュ・シャトーでは、歯車が起動すると、ガリィのいつも立っていた台座から眩い青い光が溢れ、青いカーテンにようなものに文字のようなものが刻まれた。

 

 

 

* * *

 

 

そして装者と聖闘士達は、夜の浜辺で花火を楽しんでいた。

 

「くらうデス、カルディア! 日頃の恨み炸裂! ロケット花火連射デェス!!」

 

「どぅわっ! 切歌テメエ! ざっけんな! お返しだぜ!!」

 

「二人とも! ロケット花火の撃ち合いなんて止めなさい!!」

 

切歌とカルディアがロケット花火で危ない遊びをしているのをマリアが叱り、調とデジェルが微笑ましく見ていた。

 

「マリアが元気になって良かった」

 

「おかげで気持ちよく東京に帰れそうだ」

 

「カルディアとエルフナインがなんか言ってくれたおかげみたいだな」

 

調もデジェル、エルシドもマリアが元気を取り戻し、ホッと一安心する。

 

「ふむ、充実した特訓であったな!」

 

「それ本気で言ってるんすか?」

 

未だに特訓と思っている翼の言葉に、クリスは呆れながら思わずツッコミを入れる。

 

「充実も充実! おかげでお腹が空いてきたと思いません!?」

 

「何時もお腹空いてるんですね?」

 

エルフナインはそんな響に思わず苦笑するが、昼時と同じくまたみんなで買い出しジャンケンをすることになり。

結果は響の1人負けであり、それに響は涙目になるが・・・・。

 

「しょうがない。付き合ってあげる?」

 

「この人数じゃ流石に男手必要だろう。レグルス、お前も行くぞ」

 

「うん」

 

未来とエルシド、レグルスが響の買い出しの手伝いを申し出た。

しかし響はレグルスが来ることに少し苦い顔を浮かべる。

が、未来が響の手を引っ張り、エルシドとレグルスも続いた。

 

「響さん、何でレグルスさんを避けてるデスかね?」

 

「そうだね、変だね」

 

「デジェル兄ぃは分かる?」

 

「・・・・この件に関しては、我々は何も言わない方が良い」

 

「何故だ?」

 

「響自身が、解決しないといけない事だからよ」

 

「・・・・・・・・」

 

デジェルとカルディア、マリアとエルフナインも何となく察している様子だが、察していない翼達は首を傾げる。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

そしてコンビニに到着したのだが、いつの間にか響がコンビニの外に置いてあった自販機を見つめていた。

 

「もうなにやってるの?」

 

「凄いよ未来!! 東京じゃお目にかかれないキノコのジュースがある! あっ、こっちは葱塩納豆味だって!」

 

「(割と結構気になるジュースばっかなんだけど・・・・)」

 

「(製作者の意図が分からん・・・・)」

 

そんな響を未来は微笑ましく見守り、レグルスとエルシドは少し呆れて見ていると・・・・。

 

「あれ? 確か君は・・・・未来ちゃん? じゃ無かったっけ?」

 

「えっ?」

 

丁度コンビニから1人の男性が出てきて未来に話しかけ、彼女は誰か分からず首を傾げたが・・・・。

 

 

「ほら、昔ウチの子と遊んでくれていた・・・・」

 

「どうしたの未来~?」

 

 そこに丁度響が未来の元にやってくると彼女はその男性の姿を見て固まり、同じく男性は響の姿を見ると驚いた表情を浮かべた。

 

「響・・・・?」

 

「っ! お父・・・・さん・・・・?」

 

「「(お父さん!?)」」

 

響がそう言うと、レグルスとエルシドは驚いた。何故ならその男性は、昼間のオートスコアラーの襲撃で、民間人を避難誘導の手伝いを翼が要請したが、「冗談じゃない! どうして俺がそんな事をっ!!」と言って、自分だけ逃げ出した卑怯者だったからだ。

 

「っ・・・・!!」

 

響は突然走り出し、彼女は逃げるようにその場から立ち去ったのだった。

 

「あっ響!」

 

「響! うわっ!!」

 

未来が響を追いかけ、響にお父さんと呼ばれた男性も追いかけようとするが、その前にレグルスが立ち塞がり、男性はレグルスにぶつかると尻餅を付いた。

 

「お、お前は、さっきの、クソガキ・・・・!」

 

「ねえ、アンタさあ・・・・」

 

「ひぃいいいいいいいいいいいいいっっ!!」

 

レグルスが少し睨むと、男性は悲鳴を上げて立ち上がり、逃げ出した。

レグルスとエルシドは、その男性の逃げ姿を見つめる。

 

「あれが、立花の父親・・・・」

 

「響達家族を、“見捨てた父親”・・・・!」

 

レグルスの目に、怒気が浮かんでいた。

 

 




ガリィは破壊されませんでした。原作では破壊されるオートスコアラーですが、まだ破壊しません。


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再会の父

ー翼sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

翼は道場で瞑想しながら、先日イグナイトモジュールの起動に成功したマリアの言葉を思い返していた。

 

【マリア、何故イグナイトモジュールを起動できたのだ?】

 

【そうね。強いて言うなら、“弱い自分を受け入れよう”と思ったからかしら】

 

「(“弱い自分を受け入れる”・・・・。言葉にするのは簡単だが、実際は難しい事だ・・・・)」

 

翼の脳裏にアスプロスに言われた言葉が浮かんだ。

 

【お前達は自分達の心の闇と真に向き合って乗り越えた訳ではない。ただ遮二無二に闇から逃げ、走り抜いただけだ】

 

「っ・・・・・・・・・・・」

 

アスプロスに言われた言葉を肯定する訳ではないが、確かに自分は遮二無二に走って逃げただけで、マリアのように向き合い、受け入れた訳ではない。

しかし、自らの心の弱さと向き合う気持ちが出来ず、翼は歯痒そうに唇を噛んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

そして陰ながらエルシドが見ていたが、翼の様子を見てやれやれと肩を落とした。

 

 

 

ーデジェルsideー

 

「フム。完成だ・・・・」

 

「お、ようやくか」

 

そしてここはS.O.N.G.本部のデジェルの部屋。

以前から開発中だった代物が出来上がり、部屋に来ていたカルディアがデジェルの机に近づく。

 

「コイツがそうなのか?」

 

「ああ、データ不足でマリアの分はまだだが、調君と切歌君の分だけは完成できた」

 

デジェルは『完成した代物』をカルディアに渡す。

 

「ありがとよデジェル」

 

「だが楽観はするな。まだちゃんとテストした訳ではないからな」

 

「みみっちい事言ってんなよ。あのうるせえ保護者気取りの司令達に邪魔されない内に、渡しておくわ」

 

カルディアはそう言って部屋を出た。おそらく調と切歌に渡しに行ったのだろう。

 

「しかし・・・・何故ヤツは『あのデータ』をマニゴルド達に渡したのだ?」

 

 

 

ー響sideー

 

そしてリディアン音楽院では、今日の授業が終了し、教科書を鞄に仕舞い、帰る準備を始める響の姿があったが、どこか暗い雰囲気の彼女に気づいた未来が、彼女の元へと近づく。

 

「私、余計なことをしたかもしれない」

 

「えっ? そんなことないよ! 未来のおかげで私も逃げずに向き合おうって決心がついた!」

 

前回の海での特訓で響は自身の父である、『立花 洸』から「少し話さないか」という連絡を受けて、響はこれから、ファミリーレストランで彼と会うことになっていた。

 

「ありがとう! 未来!」

 

「・・・・うん、分かった」

 

明らかに無理をしているが、響は笑みを浮かべて未来にそう言い残し、響は未来に手を振って待ち合わせの場所へと向かった。

 

「・・・・・・・・」

 

ただ1人、レグルス・L・獅子堂こと、獅子座<レオ>のレグルスがいつもより大きめの鞄を肩にかけて、チラリと未来に目を向けると、未来とレグルスは無言で頷いた。

 

 

 

* * *

 

 

 

そして待ち合わせ場所のとあるレストランにて・・・・。

響と洸は席に向かい合う形で座っており、その場には少しばかり重い雰囲気が漂っており、響も少し顔を俯かせて険しい表情を浮かべていた。

 

「・・・・前に月が落ちる落ちないと騒いでた事件があっただろ?」

 

「っ・・・・」

 

『フロンティア事変』の事だ。

 

「あの時のニュース映像に映っていた女の子がお前によく似ててな・・・・。 以来お前のことが気になってもう1度やり直せないかと考えていたんだ」

 

「やり直す・・・・?」

 

洸は今日響をここへと呼んだ理由を話し、それを聞いて響は小さく呟いた。

 

「勝手なのは分かってる。でもあの環境でやっていくなんて、俺には耐えられなかったんだ・・・・!」

 

3年前。あのツヴァイウイングのライブで起こったノイズ襲撃事件による影響で、当時の世間から迫害されていた悲惨な状況を考えれば、常人には先ず耐えられない環境なのは確かであるし、彼が出て行ってしまうのも無理はないかもしれない。

しかしそれでも、当然響もそう簡単に許せるはずもなく、彼女はプルプルと手を僅かに震わせていたが、構わず洸は口を動かす。

 

「なっ? またみんなで一緒に・・・・! 母さんに俺のこと伝えてくれないか?」

 

「・・・・無理だよ、1番一緒にいて欲しい時にいなくなったのは・・・・お父さんじゃない?」

 

顔を俯かせたまま苦しそうに、振り絞るように、そう口にする響に、洸は一瞬何も言えなくなってしまうが、すぐに「あはは・・・・」と苦笑いをする。

 

「やっぱ無理か! なんとかなると思ったんだけどな・・・・。“いい加減時間も経ってるし”・・・・」

 

まるで他人事のような軽い口調でいけしゃあしゃあと喋る洸の無責任な態度に、響は苛立ちを覚えたのか、彼女の両手は拳を作り、拳と肩を震わせる。

 

「覚えてるか響? どうしようもないことをやり過ごす“魔法の言葉”・・・・。小さい頃、お父さんが教えたろ?」

 

「っ!」

 

「待ってくれ響!」

 

すると響は苛立ったままその場を立ち上がり、鞄を持ってその場から立ち去ろうとするのだが、それを見て洸が慌てた様子で響を媚びるような声で呼び止める。

 

「持ち合わせが心許なくてな・・・・」

 

「っ・・・・・・・・」

 

申し訳無さそうな顔を浮かべながら、洸は自分が注文していたサンドウィッチのレシートを彼女に見せ、謝ることもすらせず、娘に金を払ってくれと言った。

勝手なことばかり言う上、果てには実の娘に料理を奢らせるといった彼のふざけた態度に、響は怒りの表情を見せつつも乱暴にレシートを受け取って、その場を走り去って行くのだった。

そしてそんな彼女に対して苦笑する洸は、再びサンドウィッチを口の中へと頬張るのだったが・・・・。

 

「おい」

 

「んっ?・・・・ひぃいいいいっ!!」

 

いきなり誰かに声をかけられ、声のした方へと顔を向けるとそこには、前回の海で自分を殴った<叩いた>少年、私服に着替たレグルスが立っていた。洸はおののいて悲鳴を上げる。

実は響がここで洸と会うことを事前に未来から聞かされており、以前(『フロンティア事変』が終わってしばらく経った頃)から『裏の情報屋 アクベンス』であるマニゴルドから、響の過去のことを教えて貰っていた。

 

【響が、響の家族が、あのノイズ襲撃事件で、世間から迫害されていた?】

 

【ああ、敵対していた時に敵装者の情報を知っておこうと思って調査したらな。デジェルとエルシドも知ってるぜ】

 

【何で・・・・何で響が迫害されるんだ? むしろ響は被災者の筈なのに・・・・】

 

【まあ。“他に被害に合った遺族連中のやり場の無い怒りと悲しみと八つ当たりの捌け口にされた”。“マスコミが面白おかしく記事を書いて焚き付けた”。“暇人の馬鹿共の退屈しのぎの道具にされた”。他にも理由が有ると思うがな。かなりえげつねぇ目に合わされたようだぜ】

 

【・・・・こんなの、地震や津波の災害が1人の人間のせいで起きたんだって、言ってるような物だろう?】

 

【そうだな、だが覚えておけレグルス。人間ってのは“自分より弱い立場の人間”、“傷つけても誰も咎めない人間”、“自分の方が正しい”と大義名分を持てば、何処までも残酷になる一面も持ってんだよ】

 

【・・・・響の父さんは、響達家族を見捨てたのか?】

 

【・・・・何でもよ、仕事先の取引相手の遺族も、その襲撃事件で命を落としてな。その逆恨みで取引を断られたり、他の取引相手との関係も危ぶまれ、会社の人間達からも冷遇されて父親は会社を強制解雇。仕事を失うわ、世間からは迫害を受けるわと、精神的に追い詰められてな。家庭内暴力も振るうようになって、とうとう家族を見捨てて自分だけ逃げたそうだ】

 

その父親が、よりにもよって海で自分だけ逃げた卑怯者の男だった。

レグルスも響の事が心配で、鞄に隠していた私服に着替えて様子を見に来ていたのだが、父親の響に対する態度が腹に据えた。

 

「お、お前は、あ、あの時の・・・・!!」

 

「クソガキ!」と叫ぶ前に、レグルスは洸の胸ぐらを乱暴に掴みあげて立ち上がらせて、洸を静かに、冷たく鋭く睨み付ける。

 

「お、お客様!?」

 

「(キッ!)」

 

「ひっ!!」

 

それに対し、店員の1人が止めようするが、レグルスに一睨みされて黙り、他の客もなんだなんだと目を向けるが、レグルスは止まらない。

 

「アンタ・・・・父親なのに、娘に、響に謝ることすら出来ないのか? 果てには響に飯を奢らせるって何処まで屑なんだ?」

 

「な、なんだ君は!? まさか、娘の彼氏かなにかか!?」

 

「そんなんじゃない。でも友達で、仲間だ」

 

レグルスは冷酷な眼差しで洸の胸ぐらを締め上げる。

 

「アンタさ、響達家族を見捨てて、自分だけ助かって、のうのう3年も雲隠れしておいて、今さらどの面下げて家族に戻ろうなんて言えるんだよ?」

 

「ぐっ・・・・ご・・・・があぁっ・・・・!!」

 

締め上げられて呼吸が苦しくなってうめき声を上げる。洸の胸ぐらを少し緩めるが、その目は冷たい光に満ちていた。

 

「置いていかれる、って言うのは凄く辛いんだよ。怖いんだよ。アンタは家族を守らなければならなかったのに、あろうことか逃げ出した臆病者だ」

 

「お、俺だって・・・・! 被害者だったんだよ・・・・! 辛かったんだよ・・・・!」

 

「アンタ以上に辛い思いをしたのは響だ」

 

「ぐぅっ・・・・!」

 

「今すぐアンタを殴ってやりたいけど、本当は殴りたいのを必死に耐えていた響の気持ちを無下にはできない。でも、もしまた響と会って、ちゃんと向き合おうとせず、またさっきのようなふざけた事をするようなら、アンタが響の父親だろうが関係なく、俺がアンタをブン殴ってやる。分かったか?」

 

「わ、わわわわ、分かった! 分かったから!!」

 

レグルスの百獣の気迫に押され、洸は冷や汗を大量に流し、身体をガクガクと震えながらも頷き、レグルスは洸の胸倉を離すと、洸は無様に尻餅を付いてゲホゲホとむせる。そのままレグルスは洸を侮蔑の眼差しで見下ろすと、レストランを出て行くのだった。

 

「ち、ちくしょう・・・・! 野蛮人め・・・・!」

 

去っていくレグルスの後ろ姿を洸は恨みがましく睨んだ。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

チフォージュ・シャトーの玉座で、マリアとの戦闘で損傷したガリィと、別任務で不在のミカを抜いた、ファラとレイアがそれぞれの台座に立ち、玉座に続く階段の前に、アスプロスが立っていた。

 

「ファラ。例の物を」

 

「ハッ」

 

ファラは前回の戦いで手に入れたマイクロチップを口に入れると、口を開き、歌を歌うように声を上げるとーーーーーー

 

筑波の聖遺物研究所で調査していた、『フォトスフィア』を現れた。

 

ファラは『フォトスフィア』をオートスコアラー達の台座の中央に固定すると、その形状を大きくした。

 

「筑波で地味に入手したらしいが・・・・」

 

「強奪も有りでしたが、エレメントアームズ無しで黄金聖闘士とやり合うリスクと、防衛の為にデータを破壊されてしまっては元も子もありません」

 

「良くやったファラ。これが、この『フォトスフィア』に表示された一本一本の線が、地球に巡らされた血管、FISの優秀な聖遺物研究者ナスターシャ教授がこのラインに沿わせ、フォナックゲインを『FRONTIER』へと収束させた、地球の地脈の地図、『レイラインマップ』。世界の解剖の為に必要なメスは、このチフォージュ・シャトーに集まりつつある」

 

「そうでなくては、このままだと暴れたりないと、『妹』も言っている。アスプロス様。『完成品』はいつ頃の仕上がりで? また私に派手な宝石を与えて欲しい」

 

余程『土のエレメントアームズ』の宝石の弾丸が気に入ったのか、レイアが催促するが、アスプロスは余裕の笑みを浮かべていた。

 

「ふふふふふふ、そう急かすなレイア。『完成品』はまだ出さん。そう、今はまだ尚早なのだ」

 

アスプロスは企みに満ちた笑みを浮かべながら、『フォトスフィア』のレイラインを眺めていた。

 

 

 

ー切歌&調sideー

 

その頃、同じく学校帰りの切歌と調は自販機でジュースを買っていた。

 

「今朝の計測数値なら、イグナイトモジュールを使えるかもしれないデス!」

 

「後は、ダインスレイフの衝動に抗えるだけの強さが有れば・・・・ねえ切ちゃん」

 

「・・・・これデェス!!」

 

リンゴジュースを一口飲んだ調は切歌に話しかけるが、切歌は飲みたいジュースを選びきれず、ボタンを何個も同時押しをして、結局ブラックコーヒーを購入した。

 

「だああぁっ! 苦いコーヒーを選んじゃったデスよーーー!!」

 

「・・・・誰かの足を引っ張らないようにするには、どうしたら良いんだろう?」

 

アホな相方に呆れる調だが、気を取り直して、シンフォギアクリスタルのペンダントを取り出す。

 

「きっと自分の選択を後悔しないよう、強い意思を持つ事デスよ・・・・! およ?」

 

ブラックコーヒーを飲むことに強い意思を持たねばと言わんばかりに、切歌はコーヒーの蓋を開けると、無理して笑みを浮かべる切歌の手から、コーヒーを抜き取り、自分のジュースと交換した。

 

「私、ブラックでも平気だもの」

 

「ご、ごっつぁんデス」

 

お互いにジュースを飲むとーーーーーー。

 

ビー!ビー!ビー!ビー!・・・・

 

「っ!」

 

「うわっ!」

 

突然、S.O.N.G.の通信端末からの警報音に、調と切歌が驚くが、すぐに、端末を取り出すと弦十郎の声が響いた。

 

《アルカ・ノイズの反応を検知した! 場所は地下68メートル、共同溝内にあると思われる!》

 

「っ? きょうどうこう??」

 

「なんデスか? それは?」

 

《電線を始めとする、エネルギー経路を埋設した、地下溝だ。すぐ近くにエントランスが見えるだろう》

 

弦十郎に言われ、その場所に行くと、確かに出入口らしき施設が有り、今度は本部にいるマリアと翼とクリスの声が聴こえた。現在本部にはマリアと翼とクリス、聖闘士はエルシドとデジェルがいた。

 

《本部は現場に向かって航行中!》

 

《先んじて立花とカルディアとレグルスを向かわせている》

 

《緊急事態だが、飛び込むのはバカ達と合流してからだぞ!》

 

 

 

ーカルディアsideー

 

カルディアは調達のいる現場に向かいながら、懐に手を入れて、『二つの注射銃』を取り出す。

 

「さぁ~て、お披露目といくかね♪」

 

ニヤリと笑みを浮かべるカルディアは、先日『デジェルが完成させた物』を持って、現場に向かう。

 

 

ー響sideー

 

「へいきへっちゃら・・・・! へいきへっちゃら・・・・! へいきへっちゃら・・・・! へいきへっちゃら・・・・!」

 

3年ぶりに再会した父親の姿を振り切ろうと、走りながらそう呟く響の目元には、涙が溢れ、それを拭いながら走り・・・・。

 

「こっちデースっ!」

 

合流するも、二人を通り過ぎ、エントランスの門前に立つ。

響より少し遅れて、レグルスとカルディアも合流する。

切歌と調に背中を向けて目元を拭うが、通り過ぎる際に切歌と調は見てしまった。響が辛そうな表情を浮かべていたのをーーーーーー。

 

「何か、あったの?」

 

「・・・・何でもない」 

 

それを見て調が心配して問うが、ぶっきらぼう気味に、調達に背中を見せた状態で答えるが、響の両手の拳はワナワナと震わせていた。

 

「とてもそうは見えないデス・・・・」

 

そんな響の様子に切歌がそう声をかけるのだが、響は苛立ちに気に声を張り上げる。

 

「皆には関係のないことだから!!」

 

それに響に対して、事情を知っているレグルスとカルディア以外は驚いたような表情を浮かべ、レグルスはそんな響の肩を宥めるように優しく叩く。

 

「関係ないけどさ、仲間を心配するのは当然だろう?」

 

「っ・・・・!」

 

「確かに、私達では力になれないかもしれない。だけど、それでも・・・・」

 

「ごめん・・・・どうかしてた」 

 

レグルスと調の言葉を聞いて響は顔を俯かせつつも怒鳴ったことに対して謝り、坑道の中へ入っていった。

 

「(拳でどうにかなることって、実は簡単な事ばかりなのかも知れない・・・・だから・・・・! さっさと片付けちゃおう!)」

 

拳を握り決意する響だが、その心には暗雲がたちこめていた。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

坑道の奥へ向かいながら、レグルスはカルディアに目線で会話し、響と父・洸の会合の詳細を話した。

 

「(成る程な。「3年前の事件のほとぼりが冷めたから、もう一度家族に戻りましょう」って事か。ずいぶんと都合の良い事をほざくクソオヤジだな)」

 

「(ついでにあの人は、海で翼が避難誘導の手伝いを頼んだけど、自分だけ逃げ出したんだ)」

 

「(ああ、それは駄目だわ。また同じ事を繰り返すだろうな。まあ娘に飯をタカってる時点で完全にアウトだけどな)」

 

そんな父親の見苦しい姿を見た後では、あんな情緒不安定な態度になるのも無理はないと、カルディアも理解した。

 

「(大丈夫なのかねぇ~。あのガングニール、簡単に感情に左右されやすい性格だからな。大ポカやらかすかもしれないぜ?)」

 

「(・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

「(ま、その程度で潰れるヤツならソコまでだな。さてと・・・・)」

 

等と二人が目線で会話を終えると、カルディアが調と切歌に、先頭を歩き、物思いに耽っていた響に感づかれないように、こっそりと話しかける。

 

「調、切歌」

 

「何?」

 

「デス?」

 

カルディアは、『デジェルが完成させた物』を二人に手渡した。

 

「これって?」

 

「“LiNKER”って事は・・・・?!」

 

「おう、デジェルがフィーネ、櫻井了子の研究データや他のデータから作った、デジェル特性のLiNKERだ。今回が実戦だからな、あまり無理に使うなよ」

 

「うん!」

 

「デェス!」

 

ドクターが作った物ではなく、デジェルが作った物なら二人は不満無しに受け取った。

そして、共同溝の地下へ通じる道が螺旋状に作られた通路に出て、響が一同に振り替える。

 

「行くよー二人とも!」

 

笑顔を見せる響はペンダントを構え、歌を歌う。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

響の衣服が弾け、その身を『撃槍 ガングニール』のシンフォギアを纏う。

調と切歌も、『デジェル特性“LiNKER”』が入った注射器を打ち込み、歌を口ずさみ、シュメール神話の戦女神ザババの『双刃 シュルシャガナとイガリマ』のシンフォギアを纏った。

レグルスとカルディアも地下へ向かおうと、手すりに足を乗っける。

 

「響」

 

「あっ・・・・」

 

響はレグルスに話しかけられ、少し身体を固くする。

 

「・・・・無理はするなよ」

 

「・・・・平気、へっちゃらだよ!」

 

まるで見透かされているようなレグルスの態度に、少しむっ、となりながらも、響は笑顔で大丈夫だと主張するが、レグルスとカルディアは無理しているのがバレバレで、調も切歌も響の様子がおかしいとある程度は察した。

 

 

 

ー???sideー

 

「(ゴキンっ! ゴキンっ! ゴキンっ!)」

 

「(グッグッグッ・・・・)」

 

とある火山で療養していた二人は、麓に下りて、鈍った身体をほぐしていた。そしてその二人に近づく1人の人物。

 

「フム。二人ともようやっと身体の傷が完治したようだな」

 

「ーーーーーーーーー」

 

「いや、私はまだ“あの者”と“彼”を見ていよう。早く行くと良い」

 

その人物がそう言うと、1人が“黒い渦”を生み出すと、荒涼とした大地が広がる空間が開かれ、二人はその中に入っていった。

 

「さて、君もそろそろ動くべきではないかね?」

 

それを見届けた人物は、火山の山頂からこちらを見つめている人物を見据えるが、山頂にいた人物は静かに消えた。




今回はここまで。

双子座<ジェミニ>のアスプロスと、もう1人の双子座<ジェミニ>の黄金聖闘士のCVは決まりました。

『小西克幸』さんに決まりました。

声のイメージとしては、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』から、『ブローノ・ブチャラティ』と魂が入れ換わった『ディアボロ』です。ディアボロ本人よりもカッコいいです。


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生まれし亀裂

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」

 

響はフォニックゲインを高める為に歌を歌いながら、一同は地下へとジャンプして一斉に降り立ち、アルカ・ノイズの反応のある場所へと駆け出すと、早速目の前にアルカ・ノイズ達が犇めいていた。

 

「アイツは・・・・!」

 

「火のオートスコアラー、ミカか」

 

そしてその奥には、赤い髪を大きなツイン縦ロールの髪型にカギ爪を両手に付けた、オートスコアラー ミカ・ジャウカーンがおり、彼女は大きなカギ爪の右手を壁にかざしてなにかをやっていた。

 

「フフン♪ 今日はアタシはお前達の相手をしている場合じゃ・・・・」

 

「っ!!」

 

ミカがニンマリと笑みを浮かべて喋るが、響は容赦なく拳を構えて、ミカに一直線に向かった!

 

「おわああっ!!??」

 

「「っ!!?」」

 

「「・・・・・・・・」」

 

「まだ全部言い終わって無いんだゾ!」

 

響の突然の行動に調と切歌は驚き、カルディアは冷めた目となり、レグルスは憐れんだ目となる。

ミカは怒って文句を言いながらも、新たにアルカ・ノイズを召喚した。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」

 

響は、ミカが召喚したアルカ・ノイズを片っ端から殴り倒しているのだが・・・・。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

 

「オイオイ。完全に八つ当たりしてんぞ、あの馬鹿」

 

「ハァ・・・・」

 

カルディアもレグルスも、自分に襲い来るアルカ・ノイズを片手間で倒しながら、その顔は呆れ果てた心境で響を見ており、調と切歌も。

 

「泣いてる?」

 

「やっぱり様子がおかしいデスっ!」

 

アルカ・ノイズを切り裂きながら、二人も響の様子がおかしいと感じていた。

 

「ヒヒッ!」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

逃げるミカを追撃しながら、響はがむしゃらに攻撃し、壁や床を破壊しまくるが、ミカは響の攻撃をすべて余裕で回避した。

 

「(何でそんな簡単に“やり直したい”とか言えるんだ!!)」

 

その目元には涙を浮かばせ、父・洸への怒りで心は乱れまくっていた。

 

「(壊したのはお父さんのくせに! お父さんのくせにっ!!)」

 

「突っかかり過ぎデスっ!」

 

次々とアルカ・ノイズを遮二無二に殴り飛ばす響に対し、切歌が声をかけるが、響は全く耳に入っておらず、今度はアルカ・ノイズを天井に叩きつけると、響はそこに向かって飛び上がり、伸長した右腕部ユニットを展開して、パイルバンカーパンチをアルカ・ノイズに叩きつけ、天井を粉砕する。

 

「(お父さんのくせにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!!)」

 

だが、そこで響の身体が硬直し、脳裏に『忌まわしい記憶』が甦る。

 

「(っ・・・・! 違う、壊したのはきっと私も同じだ・・・・)」

 

「しょんぼりだゾ!!」 

 

するとミカは縦ロールから火を吹かせ、バーニアのように空を飛ぶと、右手から赤いカーボンロッドを発射して響に直撃させる。

 

「うあっ!!?」

 

直撃を受けた響は床に叩きつけられ、その勢いで床を転がりながら倒れ込む。

 

「言わんこっちゃないデス!

 

すぐさま倒れた響の元に切歌が駆け寄る。

調が髪に装備したアームドギアで、アルカ・ノイズを切り裂き、カルディアが赤く伸びた爪で貫き、レグルスが光速の拳から放たれる衝撃波で粉砕する。

 

「大丈夫デスか・・・・?」

 

「歌わないのカ? 歌わないト・・・・死んじゃうゾーーーーーーーーーッッ!!!」

 

ミカは響の元に駆け寄ってきた切歌を狙って右手から灼熱の炎を放った!

 

「くっ!」

 

それに気づいた調は急いで2人の元へと向かって駈けつける!

そしてすかさず調は髪に装備された2本のアームドギアを巨大ノコギリに変形し回転させ、盾とし、ミカの炎をどうにか防ぐことに成功するのだが、炎の威力は収まらず、徐々に調は追い詰められていく。

 

「うぅ・・・・くっ!?」

 

「あっ・・・・あぁっ・・・・」

 

「ヒヒヒヒ」

 

「とりゃっ!」

 

「うおっらぁっ!!」

 

「うおォっ!??」

 

ミカの右腕をレグルスが上へと殴り、カルディアがミカの腹部に蹴りを叩きつけてミカを飛ばす!

 

「おおウっ! 蠍座<スコーピオン>! また遊んでくれるのカ?」

 

ミカは赤いグローブ、『火のエレメントアームズ』を取りだし、足に装着し、炎の球体を次々と生み出す!

 

「へっ! この間の仕切り直しってかぁ!」

 

「カルディア、俺がやる・・・・!」

 

「おっ! 珍しいじゃねえかレグルス?」

 

珍しくヤル気を出したレグルスが前に出て、ミカと対峙する。

 

「ハアァッ!!」

 

「ヒャッハアッ!!」

 

レグルスの拳が、ミカの火球とぶつかった!

 

「さぁて、こっちは・・・・オラ、しっかりしろ調」

 

カルディアは四つん這いになって息絶え絶えの調に駆け寄る。

 

「うん・・・・切ちゃん、大丈夫・・・・?」

 

「っ!」

 

調はカルディアに大丈夫と言って、切歌の方に振り向く。

切歌は、調が自分の名前を呼んだのが聞こえ、ようやく我に返る。調は顔だけをこちらに向けてそう尋ねるのだが・・・・。

 

「・・・・んな、訳・・・・ない・・・・デス・・・・!」

 

「えっ?」

 

「大丈夫な訳・・・・ないデス!!」

 

突然怒ったようにそう言い放つ切歌、それに調は驚きの表情を浮かべる。

すると切歌は、以前クリスが。

 

【守らなきゃいけない後輩に守られて、大丈夫な訳ないだろ!】

 

という言葉を思い出し、切歌はイグナイトモジュールに手をかける。

 

「っ・・・・! こうなったらイグナイトモジュールで・・・・!」

 

「ダメ! 無茶をするのは、私が足手纏いだから!?」

 

「(あぁ~ぁ、また面倒くさい事になるぜ・・・・)」

 

カルディアがハァ、っとため息を洩らしながら、レグルスのミカの戦闘を眺めた。

 

「ハァッ!」

 

「ヒヒッ!」

 

ミカは両手からカーボンロッドを取り出して、レグルスの拳とぶつかり合った。

 

「(面白いゾ! 蟹座<キャンサー>や蠍座<スコーピオン>との戦闘もだけど! 黄金聖闘士って面白い奴らばっかりダゾ!!)」

 

レグルスとの戦闘を楽しんでいるミカの頭に、ファラからの念話が聞こえた。

 

《道草はよくないわよ?》

 

と、ミカはファラから注意を受けてしまう。

 

「正論かもだけど・・・・鼻につくゾ!!」

 

ミカはそう言って、右手から放ち、レグルスと、後ろにいるカルディアと調と切歌と響にを襲い来ると、レグルスが響を、カルディアが調と切歌を肩に担いで、回避するが、床にぶつかった炎が爆裂し、その衝撃波でレグルスとカルディアは吹き飛ぶが、空中で体制を整えて着地する。

 

「預けるゾ~。だが、次は歌うんだゾ~」

 

ミカは転移魔法が付与された結晶体を地面に投げつけて割ると、その足下に転移魔法陣が出現し、そのまま彼女はその中に入って撤退するのだった。

 

「待つデスよ!!」

 

カルディアの肩から無理矢理降りた切歌が、ミカに手を伸ばすが、すでにミカはその場から去っていた。

 

「~~~~!! うあああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

「・・・・切ちゃん」

 

悔しそうに慟哭を上げる切歌を、カルディアの肩から降ろされた調が、不安そうに見つめていた。

 

 

 

 

それからは少しして、レグルス達は治療で抜け、デジェルは五人の治療に付き添い、緒川達諜報部とエルシドが坑道内部を調査し、翼とマリアとクリスも現場にいた。

 

「押っ取り刀で駆け付けたのだが・・・・」

 

「間に合わなければ意味がねえ・・・・!」

 

辺りの惨状を見てそう呟く翼とクリス。

 

「人形はなにを企てていたのか・・・・?」

 

またマリアは、一体ここでミカがなにを企んでいたのかと疑問に思い考え込む。

 

「大きく破損した箇所はいずれも立花達の攻撃ばかりか、オートスコアラーの攻撃で床に僅かに爆破された後があるだけ・・・・ん?」

 

一方で、翼達とは別の場所で周辺の調査をしていたエルシドと緒川。ふとエルシドが操作パネルらしき物を発見した。

 

「緒川殿、これを!」

 

「なっ! オートスコアラーの狙いは・・・・まさか!? 急ぎ、司令に連絡を!」

 

「ハッ!」

 

エルシドはパネルを緒川に見せると、緒川は血相を変えて、仲間にすぐ弦十郎に連絡を入れるように指示を出す。

 

 

 

ー響sideー

 

その頃、S.O.N.G.の病室では、装者組の中では、特に強いダメージを受けていた響はベッドに寝かされて、そのベッドの傍らでは連絡を受けて未来が来ていた。

エルフナインから身体検査を受け、丁度エルフナインから検査結果が今は報告されているところだった。

 

「検査の結果、大きな怪我は見られませんでした。でも、安静は必要です」

 

「良かったぁ~」

 

エルフナインからの報告を聞いて、ほっと安心する未来だったが・・・・。

 

「調が悪いんデス!!」

 

「切ちゃんが無茶するからでしょ!?」

 

「調が後先考えずに飛び出すからデス!!」

 

「切ちゃんが、私を足手纏いに思ってるからでしょ!?」

 

医務室に設置された長椅子に座って、デジェルに包帯や絆創膏を貼られていた切歌は、隣に座り同じくデジェルに治療された調に対して、先ほどの行動が無茶すぎると怒りだした。

それに対して調もムッとなったのか、それに反発するように調も言葉を言い返す。まさに売り言葉に買い言葉。

そんな風に口論を始める切歌と調、二人はそのまま、お互いにそっぽを向く。

 

「何時も仲の良い二人が喧嘩するなんて・・・・」

 

驚きの表情を見せる未来。

 

「二人とも、傷に障るから喧嘩なんてやめないか」

 

「そんな精神状態ではイグナイトモジュールを制御できませんよ!?」

 

デジェルとエルフナインに喧嘩を咎められ、一応は口論をやめる二人だったが・・・・。

 

「「あっ、フンッ!」」

 

「ふぅ・・・・」

 

少し視線が合いそうになると、二人はまた互いに顔を背けてしまうのだった。デジェルが呆れたため息を吐いた。するとそこへ・・・・。

 

ゴン! ガン!

 

「あうっ!?」

 

「きゃんッ!?」

 

扉近くの壁に寄りかかりながら、成り行きを見ていたカルディアが一瞬で二人に近づくと、切歌と調の脳天に拳骨を振り下ろした。

 

「カルディア、医務室で怪我人を作るな」

 

「うるせっ。つーかギャーギャーギャーギャー喧しいんだよ! 発情期のネコかお前らは?!」

 

「だってカルディア! 調がっ!!」

 

「切ちゃんがっ!!」

 

「「・・・・・・・・フンッ!」」

 

カルディアの拳骨を受けて、頭に漫画のようなタンコブを作って、お互いに相手が悪いと主張するが、すぐにまたそっぽを向いて、顔を背ける。

 

「ごめん・・・・二人とも」

 

そんな切歌と調の様子を見て響は、二人の喧嘩の原因は自分にあると思ったのか、二人の手を握って謝罪した。

 

「最初にペースを乱したのは私だ・・・・」

 

「っ・・・・、さっきはどうしたデスか?」

 

切歌が心配そうに、響に一体なにがあったのか尋ねると。

 

「・・・・あれからまた、お父さんと会ったんだ・・・・」

 

今日父と合って起こった事を二人に話す。

 

「ずっと昔の記憶だと、優しくてかっこ良かったのに・・・・凄く嫌な姿を見ちゃったんだ・・・・」

 

「嫌な姿・・・・?」

 

「自分がしたことが分かってないお父さん。無責任でかっこ悪かった・・・・! 見たくなかった! こんな想いするくらいなら、二度と会いたくなかった・・・・!」

 

どこか辛そうに、重い気持ちを吐き出すように、今にも泣き出しそうな声で父のことを話す響。

 

「私が悪いの、私が・・・・」

 

自分が父親に会うべきだと言った未来は、目尻に涙を溜めながらそう呟くのだが、それを響は否定する。

 

「違うよ、未来は悪くない! 悪いのはお父さんだ・・・・!」

 

「でも!」

 

そんな未来の肩に響は手をかけて涙を拭って彼女は笑顔を見せる。

 

「平気へっちゃら! だから、泣かないで未来・・・・」

 

「・・・・うん」

 

「自分のお父さんの事で・・・・」

 

「えっ?」

 

それまで黙っていたレグルスが、静かに呟いた。

 

「自分のお父さんの事で、心が乱れた状態で、戦場に出ない方が良いよ。装者の強みが連携なら、その連携を乱す行為はやめて欲しいな」

 

「っ!」

 

静かに呟くレグルスに、響は息を呑み、顔を俯かせながら、絞り出すように呟く。

 

「・・・・・・・・レグルス君は良いよね。尊敬できる立派なお父さんがいて。そのお父さんの姿“だけ”を知っていて」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスは、響の言葉に何も言わず、前髪で目元を隠し、無言で医務室から出ていった。

 

「響・・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・・」」」

 

「(カルディア、後で詳しく聞かせろ)」

 

「・・・・・・・・はんっ。分かってる」

 

響の呟いた言葉に、未来は少し愕然となり、エルフナインと調と切歌も、唖然と見ていたが、デジェルが響の親との会合の詳細な説明を求め、カルディアは冷めた目で響を見て鼻で笑いながらデジェルに了承する。

それから治療を終えた切歌と調は、一緒に部屋を出るのだが、二人は顔を合わせると。

 

「「あっ・・・・フン!」」

 

と、そっぽを向いてしまう。未だに二人は仲直りをすることができないでいた。

すると二人の後を追うようにエルフナインも部屋から出てきて『デジェル特性のLiNKER』を切歌と調に渡す。

 

「調さん、切歌さん」

 

「どうだったの? デジェルさんが作ってくれたLiNKERは?」

 

切歌と調がシンフォギアを使う為に、デジェルがこれまでの二人の生体データを元に生成したLiNKERであり、二人はそれを受け取る。

 

「正直、このLiNKERは、櫻井了子やジョン・ウェルキン・ゲトリクスが生成したLiNKERより、かなりの上物です。調さんと切歌さん用に生成されていますから、おそらくお二人のシンフォギアによる身体への負担はかなり軽減されます」

 

「「っ!・・・・あっ、フン」」

 

二人は嬉しそうに顔を綻ばせるが、お互いの顔を見るとまたそっぽを向いた。

エルフナインは少し困り顔を浮かべるが、話を続ける。

 

「オートスコアラーの最襲撃が予想されます、いくらお二人専用に生成されたLiNKERでも、数にはまだ限りがありますので、気をつけてください」

 

「「・・・・・・・・」」

 

 

ー翼sideー

 

その頃、S.O.N.G.基地に帰還したクリス達はSシャワールームで、響の父親のことについて話し合っていた。

 

「やはり父親の一件だったのね?」

 

「こういう時は・・・・どんな風にすれば良いんだ?」

 

一般的な家庭から離れてしまったクリスは、疑問に思ったことを口にするが、それに対して翼は・・・・。

 

「どうして良いか分からないのは、私も同じだ。一般的な家庭のあり方を知らぬまま、今日に至る私だからな」

 

「・・・・・・・・?」

 

そう答え、翼の言葉に、マリアはどこか引っかかるものがあり、彼女は首を傾げた。

 

 

 

ー弦十郎sideー

 

また、一方で司令室では、弦十郎が緒川からの連絡を聞いているところだった。

 

「敵の狙いは、電気経路の調査だと!?」

 

《はい、発電施設の破壊によって電力総力が低下した現在、政府の拠点には優先的に電力が供給されています。 ここを辿ることにより・・・・》

 

「表からは見えない首都構造を探ることが、可能となるか・・・・」

 

緒川からの報告により、弦十郎はオートスコアラーの狙いにそう予想を立てた。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

「これで~どや~!」

 

そしてチフォージュ・シャトーでは、双子座<ジェミニ>のアスプロス。ファラ・スユーフ、レイア・ダラーヒム、ミカ・ジャウカーンと言ったオートスコアラーの三人が集まっており、ミカは玉座の広間の中央部分に、巨大なマップのようなものを映し出す。

 

「派手に引ん剝いたな?」

 

レイアがそう呟き。マップをレイア達に渡した後、ミカは突然どこかへと行こうとする。

 

「どこへ行くのミカ? 間も無く思い出のインストールが完了するというのに・・・・」

 

「自分の任務くらい分かってる!! きちんと遂行するから、後は好きにさせて欲しいゾ!」

 

ミカはファラの言葉に反発するようにそう言い返し、そのまま彼女はどこかへと立ち去ってしまうのだった。

 

「アスプロス様、如何様に?」

 

「やれやれ。ミカにしろガリィにしろ、我が強いのも考えものだな。レイア、支援してやれ」

 

「地味は私には似合わないが、承知した」

 

クックックッと笑みを浮かべるアスプロスはレイアに指示を出し、レイアを一礼した後に消えた。

 

 

ー調sideー

 

同じ頃、切歌と調がS.O.N.G.本部から帰宅するために歩いている時だった。

 

「私に何か言いたい事があるんでしょ?」

 

未だにからは険悪な雰囲気が出ており、調が不機嫌そうに切歌に尋ねる。

 

「それは調の方デス!」

 

それに対して切歌も不満な様子で返すのだが、その時・・・・突然近くの神社で爆発が起こり、二人はそれに驚きの顔を浮かべながら周囲を見ると、空からミカが赤く光りを放つカーボンロッドが、地上に降り注いで攻撃したからが原因であり、調と切歌は、これがミカの仕業であることに気づいた。

 

「これは・・・・!」 

 

「アタシ達を焚き付けるつもりデス!」

 

そして切歌と調は、近くの神社の鳥居の上に立つミカの姿を発見した。

 

「ヒヒッ! まぁた来てやったゾ!」

 

ミカは挑発するような笑みを二人に向けて浮かべていた。

 

「足手纏いと、軽く見ているのなら!!」

 

調と切歌は、シンフォギアクリスタルを手に持って、聖詠を口ずさむ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

衣服が弾け飛び、『シュルシャガナ』と『イガリマ』を装着し、ミカと戦闘を開始した。

調は歌を歌いながら、頭のアームドギアから、小型のノコギリを大量に射出した。

 

『α式 百輪廻』

 

しかしミカは手にしたカーボンロッドを高速回転させてそれら全てを弾き飛ばし、ジャンプして切歌と調に向かって攻撃を仕掛ける。

 

 

ー弦十郎sideー 

 

弦十郎達S.O.N.G.も、この事態を知り、調と切歌が戦っている様子をモニターに見ていた。

 

「今から応援を寄越す! それまで持ちこたえて「グワァンッ!!!」 うぉっ!? なっ!」 

 

その時、突然基地である潜水艦が激しく揺れ、何が起こったのかモニターを移し替えるとそこには巨大な黒い人影が潜水艇を掴んでいた!

 

「海底に巨大な人影だと!?」

 

 

 

ーレイアsideー

 

「私と妹が地味に支援してやる。だから存分に暴れろミカ・・・・」

 

切歌達の元に応援を送るのを妨害するために現れたレイアと、『レイアの妹』であった。

 

 

ー切歌sideー

 

「ヒヒッ!」

 

ミカはカーボンロッドで攻撃するが、切歌と調は回避し、調が飛び上がり、スカートを円状の刃に変形させ、体を回転させてミカハッキネン切り込む。

 

『Δ式 艶殺アクセル』

 

調はミカに対して技を繰り出すが、ミカは手に持ったカーボンロッドでそれを防ぎ、弾き飛ばした!

 

「ハアァッ!」

 

その直後に連続で切歌の振るう大鎌のアームドギアでミカに襲いかかるが、ミカはその攻撃を受け流して、切歌の背後に回り込み、切歌を蹴り飛ばした!

 

切歌は絵馬掛所まで吹き飛び、掛所の裏から調が屋根によじ登って来た。

 

「ぐっ!?」

 

「これぽっち~? これじゃぁギアを強化する前の方がマシだったゾ?」

 

「そんなこと、あるもんかデス!!」

 

「ダメ!」 

 

やれやれといった様子のミカに対し、切歌は調の制止を無視して、ミカへと突っ込んでいき、アームドギアを振るうがミカにはあっさりとジャンプして回避しされた。切歌はそれを追うように自分も跳び上がり、大鎌のアームドギアの緑色の刃を3枚に分裂させ、ブーメランのように飛ばした!

 

「タァアアアアアアアっっ!!」

 

『切・呪リeッTぉ』

 

3枚の緑色の刃がミカに直撃し、爆発した!

 

「どんなもんデス!」

 

してやったりの態度を取る切歌だが、爆発で起こった煙が晴れるとそこには・・・・。

ツイン縦ロールがブースターとなって空を飛び、大量のカーボンロッドを空中に浮かせている、無傷のミカの姿があった!

 

「こんなもんだゾーーー!」

 

そのままミカは大量のカーボンロッドを切歌に向かって飛ばし、切歌はギリギリで攻撃を避けるが・・・・。

 

「変形しないと無理だゾ~」

 

「かわせないなら、受け止めるだけデス!」

 

あまりの数に徐々に切歌は行き場を失っていき、正面から攻撃を受けきろうとするが・・・・。

 

ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ!

 

「オヨ??」

 

「え・・・・?」

 

「何デスかっ!?」

 

攻撃したミカ。切歌を守ろうと飛び出しそうになっていた調。攻撃に身構えていた切歌は、迫って来るカーボンロッドが突如爆散して、三者が戸惑うと。

 

「オゥラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」

 

「ん?・・・・・・・・デェェェェェェェェェェェェェェェェェェェスッッッ???!!」

 

ドゴォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンッ!!!

 

「切ちゃんっっ!!??」

 

突然切歌の真上から何かが落下して切歌を押し潰し、切歌が悲鳴を上げて、調も驚いた叫び声を上げ、土煙が神社を覆うが、風が吹いて煙を払うと、切歌のいた地点に、切歌ではない“誰か”の輪郭がハッキリと見えた。

 

「あっ・・・・あぁっ・・・・!」

 

「お前ハ?!」

 

その人物を見て、調が口を手で覆い少し涙が浮かび、ミカはニンマリとした口元の口角をさらに吊り上げた。

 

「おっと、ちょっと着地地点間違ったか? しかしこの踏み慣れた感触は・・・・?」

 

「(こ、この声と、この踏まれ慣れた感覚はっ?!)」

 

その人物は、横たわった切歌の背中を踏みつけており、切歌は首をギリギリまで回して、その人物をその目に焼き付けた。

青い髪の横にツンツンと伸ばし、整ってはいるが人相が悪い悪人顔の人物。

その顔を見て、切歌の瞳に涙が浮かびあがった。

 

「マ、マニゴルド・・・・!!」

 

「よっ切歌、久しぶりだな」

 

蟹座の黄金聖闘士、キャンサーのマニゴルドだった!




台風って本当に迷惑ですよ、避難で恐い思いをしました。いい加減にしてほしい。


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二人で一人前な二人

注意:今回の話で、シンフォギアキャラの1人がキャラ崩壊を起こします。


ーマリアsideー

 

「司令! 一体何が、起こ・・・・って・・・・」

 

カルディアとデジェル、マリアとエルフナイン、翼とクリスが指令ブリッジにつくと、マリアはモニタを見て唖然となる。モニタにはーーー。

行方不明だった蟹座<キャンサー>のマニゴルドが、切歌の背中を踏みつけている光景だった。

 

《マニゴルド・・・・! 早く退くデェス・・・・! 苦しいデス・・・・!》

 

《へいへい・・・・ちっ》

 

《なんで舌打ちするデスかっ!?》

 

「マニゴルド・・・・?」

 

「やっと戻ってきやがった・・・・ん?」

 

マリアがポツリと呟くのと同時に、カルディアの身体が金色の光に包まれていた。

 

「おい、蠍座<スコーピオン>。お前の身体変だぞ!」

 

「コイツは・・・・」

 

すると、カルディアが光に呑み込まれ、指令本部からその姿を消した。

 

 

ー???sideー

 

「これで役者は揃った」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

とある活火山の頂点に立つ二人は、遠い日本の様子を眺めていた。

 

 

ー切歌sideー

 

「マ、マニゴルド・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ようやく身体を起き上がらせ、切歌はマジマジとマニゴルドの姿を上から下へと見ていた。

 

「ほ、本当に、マニゴルドデスか・・・・?」

 

「おいおい、こんな二枚目が他にいるってのかよ?」

 

「あぁ・・・・!」

 

切歌はゆっくりとマニゴルドに近づき・・・・。

 

「マニゴルドーーーーーーーーーーっ!!!」

 

マニゴルドに向かって走る切歌。モニタで様子を見ていた翼とクリスにエルフナイン達も、感動の再会だと笑みを浮かべ、オートスコアラーミカは、面白そうに眺めていたが、調とマリアはジーとモニタを見据え、切歌とマニゴルドの距離が、あと僅かになったその時ーーー。

 

「デーーーーーーーーーース!!」

 

ドガンッ!!

 

「ゴハァッ!」

 

《『ええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!???』》

 

通信機越しから翼達の戸惑いの叫び声が聞こえた。

何故なら、切歌がマニゴルドの顔面に、ドロップキックを決めたからだ。

調とマリアは変わらずジーと、二人を見つめていた。

 

「ててて・・・・切歌! テメエ何しやがる!?」

 

ゴン!!

 

「んがっ!」

 

ドロップキックをかまされ、倒れたマニゴルドの脳天に、切歌がアームドギアの大鎌の反対側(刃の付いている部分)で、殴り付けた。

 

「このデス! このデス! このデス! このデス! このデス! この不良保護者! 今までどこ行ってたデスかっ!? 無事なら無事で! さっさと! 帰って来いデス!!」

 

「がっ! ごっ! ぎっ! だっ! でっ! どっ! ぎゃっ!」

 

大鎌を鈍器のように使ってマニゴルドを殴る切歌に、本部にいた翼達は開いた口が塞がらない状態で見ており、ミカはゲラゲラと腹を抱えて大爆笑していた。

 

「ち、調子に乗ってんじゃ、ねえっ!!」

 

「デスっ!?」

 

すぐさま起き上がったマニゴルドが、切歌にラリアットをかました。

 

「テメエ、いきなり保護者を殴るとはどういう了見だ!」

 

「マニゴルドがさっさと帰ってくれば良かったんデスよ!」

 

それからは、押し合い圧し合い取っ組み合いの大喧嘩に発展した。

 

 

ーマリアsideー

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「うぅっ・・・・!」

 

「なぜ泣いているのだマリア?」

 

《うぅっ・・・・!》

 

「調くんもか・・・・?」

 

開いた口が塞がらない状態のS.O.N.G.メンバーだが、マリアだけは目元にハンカチを当てており、それをいち早く正気に戻ったデジェルが問うたが。

ギャーギャー喚きながら喧嘩をするマニゴルドと切歌を眺めていた調までも、ハンカチで涙を拭っていた。

 

《良かった・・・・切ちゃんの調子が・・・・いつもの切ちゃんに戻っている・・・・!》

 

「ええ。マニゴルドが帰って来てくれて本当に良かったわ・・・・」

 

「どういう事だ?」

 

「みんなと一緒にいるときは普段通りなんだけど、家に帰ると切歌は、凄く無気力になっていたの・・・・」

 

「何?」

 

「どういうこった?」

 

ようやく正気に戻った翼とクリス、弦十郎達もマリアに目を向ける。

 

「実はマニゴルドがいなくなってからと言うもの、切歌ってば家に帰ればソファーに寝転がって微動だにしなくなるし」

 

 

 

* * *

 

 

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

【切歌? 大丈夫なの?】

 

【・・・・デ~ス】

 

心配してマニゴルドと切歌とカルディアと調が住んでいるマンションに赴いていたマリアは、すっかり無気力になってソファの上で寝そべって動かなくなった切歌を心配する。

 

 

* * *

 

 

「さらに、ベランダで上の空になっていると、いつの間にか頭の上に、鳥が巣を作っていたし」

 

 

* * *

 

 

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ・・・・。

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

【切歌、頭の上で鳥が巣を作っているわよ・・・・】

 

【・・・・デ~ス】

 

ベランダの手すりに寄りかかって空を見上げて、上の空状態の切歌の頭の上に、鳥の巣ができていた。

 

 

* * *

 

 

「果てはご飯じゃなくてお皿を食べようとしていたし」

 

 

* * *

 

 

【ガジガジガジガジガジガジガジガジ・・・・】

 

【切ちゃん、それお皿・・・・】

 

【・・・・デ~ス】

 

すでに朝ごはんのトーストは食べ終えたのに、何故か皿をかじっている切歌。

 

 

* * *

 

 

「極めつけは、お風呂に入ろうとして脱衣場と間違えたのか、カルディアの部屋で服を脱ごうとする始末・・・・!」

 

 

* * *

 

 

ガチャ・・・・。

 

【ん? 何だ切歌?】

 

【・・・・・・・・・・・・・・・・】

 

自室のベッドで寝そべって雑誌を読んでいたカルディアの目の前で、上の空状態の切歌が、突然服を脱ぎ出した。

ライトグリーンの下着に包まれた、小さな身体に不釣り合いに実った果実が、プリンッと瑞々しく揺れる。

 

【オイオイ、俺の部屋でストリップショーなんてすんなよな】

 

【切歌! 何してるの!?】

 

【カルディア見ちゃダメ!!】

 

カーン

 

【あたっ】

 

【・・・・デ~ス】

 

直ぐに慌てて来たマリアと、料理中だったのか、ピンク色のエプロンを着用し、片手にお玉を持った調が切歌を止めて、マリアが切歌を担いで部屋を出て、調は持っていたお玉をカルディアの額に投げつけ、カルディアは頭をのけ反った。

 

 

* * *

 

「と、そんな状態だったのに、マニゴルドが帰って来てくれて、ようやく本調子に戻りつつあるわ・・・・」

 

ヨヨヨと涙を流しているマリアに、翼とクリスにエルフナイン、さらに弦十郎達も何とも言えない顔になっていた。

 

「そんな状態だったのか暁は・・・・?」

 

「色々ヤバい状態だったのかよ。学校にいるときや、アタシ達と一緒にいるときは、そんな素振りを全然見せなかったのに・・・・」

 

「みんながいる場所なら、寂しさを紛らわす事が出来たんだけど、家に帰って、マニゴルドの部屋を確認して、マニゴルドが帰ってないと知ると、まるで電池が切れたように動かなくなっていたのよ。そんな切歌がもうあんなに元気になって・・・・!」

 

マリアが再びモニタに映る切歌とマニゴルドと取っ組み合いを見ると、再び目元にハンカチを当てる。

翼達も若干呆れ混じりに、二人の喧嘩を見ていた。

 

 

ー切歌sideー

 

「デーーースっ!!」

 

「あだっ!」

 

切歌がマニゴルドの後頭部にレッグラリアートを決める。

 

「このっ!」

 

「きゃんっ!」

 

マニゴルドが仕返しにヒップアタックで仰向けに倒すと、空かさず切歌の背中にヒッププレスで押し潰す。

 

「オラッ!」

 

「デェズっ!?」

 

そしてそのまま切歌に逆エビ固めを仕掛けた。

 

「これで、どうだ!!」

 

「イダダダダダダダダダダダダダダダダっ!!」

 

切歌が地面を叩いてタップをする。

そしてその光景を鳥居の上から笑いながら眺めていたミカは、ニィッ! と笑みを浮かべる。

 

「おい蟹座<キャンサー>! また私と戦うカ!?」

 

「あん? あっ! お前あの時の火遊び人形! テメエよくも小癪な事やりがったな!」

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリ・・・・!!

 

「デデデデデデデデデデデデーーースっ!!!」

 

極めていた切歌の足をさらに極めながらミカに怒鳴るマニゴルド、しかし極められた切歌は悲痛の悲鳴を上げた。

 

「このアホを絞め終えるまで少し待ってろや!」

 

「そんなの待てないゾ!!」

 

ミカは、赤いグリーブ、『火のエレメントアームズ』を足に装備して、足を擦らせると、炎の大玉が生まれ、それをマニゴルドと切歌にむけて蹴り飛ばした!

 

「イヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

 

炎の大玉がマニゴルドと切歌に迫り、調が二人の前に出ようとするのと同時に、調の横を突風が飛び出し、ミカの大玉を殴り飛ばすと、大玉は空の彼方までぶっ飛び、弾けた。

 

「カ、カルディア??」

 

何とそこにいたのは、S.O.N.G.本部にいるはずのカルディアだった。

 

「よお、マニゴルド。久しぶりじゃねえか」

 

「おうカルディア、悪いがちとあのお人形の相手しておけ」

 

「言われるまでもねえぜ!!」

 

カルディアがミカに向かって飛びかかり、ミカもニィッ!と笑みを浮かべながら、グリーブを擦って、炎を巻き上げた!

 

「さてと」

 

マニゴルドは起き上がると、逆エビ固めの痛みに悶えていた切歌の首根っこを掴みながら、ズルズルと調の方まで引きずる。

 

「オイコラ切歌、何があったか知らねぇがよ。何調との足並み乱してんだこのドアホ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「調。お前も変な気づかいしてんじゃねぇよ。言いてぇ事ははっきりと言いやがれ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「良いか、お前らのシンフォギアはシュメール神話の戦女神ザババの双刃だ。言うなればお前らは、“二人で一人前”なんだ。足並み揃えなきゃ超えられる限界も超えられねぇぞ」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

二人は少しお互いを見て、気まずい雰囲気になるが、調がポツリと呟く。

 

「やっぱり、私を足手纏いと思っているの・・・・?」

 

調は思っていた事を話したが、そんな調の言葉を切歌は遮るように言い放つ。

 

「違うデス! 調が大好きだからデスっ!!」

 

「へっ?」

 

すると切歌は調に近づき、自分の胸の内を吐き出す。

 

「大好きな調だから、傷だらけになることが許せなかったんデス!」

 

「じゃあ、私は・・・・」

 

「アタシがそう思えるのは・・・・あの時、調に庇って貰ったからデス! みんなが私達を大切に想ってくれているからなんデス!!」

 

調はその言葉を聞き目を見開き、“大切な人達”の姿がよぎった。

 

「私達を大切に想ってくれてる・・・・優しい人達が・・・・」

 

その時、ミカと戦っていたカルディアはミカが身体から吹き出させた炎によって吹き飛ばされてしまうが、空中で態勢を整えて、調達の近くに着地する。

 

「さぁて、時間は稼いでやったぜ」

 

「分かっているな。切歌、調?」

 

「「(コクン)」」

 

二人が頷くのを見て、マニゴルドは切歌の、カルディアは調の頭に手を置く。

 

「失敗しそうになったら引っ張ってやる」

 

「だから思いの限りやって来いや」

 

そのまま頭に置いた手を二人の背中に下ろすと、二人の背中を押した。そして二人は、ミカと対峙する。

 

「なんとなくで勝てる相手じゃないゾ!!」

 

「マムが残してくれたこの世界で、かっこ悪いまま終わりたくない・・・・!!」

 

「だったら・・・・カッコ良くなるしかないデスっ!!」

 

調と切歌がそれぞれがそう言い放つ。

 

「自分のしたことに向き合う強さを! イグナイトモジュール!!」

 

「「抜剣(デース)!!」」

 

そして遂に調と切歌の2人は胸部に装着されたシンフォギアクリスタルを起動させ、取り外して空中へと投げるとそれが杭のような形となり、2人の胸部に突き刺さる。

 

「うぐぐ・・・・!!」

 

「うぅ・・・・!」

 

「「うあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」」

 

黒い力の奔流に塗り潰されそうな衝動に、切歌も調も飲み込まれそうになるが、2人はそれをどうにか耐え抜く。

 

「底知れず、天井知らずに高まる力~!」

 

それを見てミカはどこか嬉しそうな声を上げながら、炎を全身に彼女は纏い、炎が収まると、縦ツインロールの髪が下ろされ、ミカの全身が発熱したように赤く発光した姿となった。

 

「ごめんね、切ちゃん・・・・!!」

 

「良い、デスよ・・・・!それよりもみんなに・・・・!!」

 

「そうだ、みんなに謝らないと! その為に、強くなるんだああああああっ!!!」

 

調が強くそう叫んだ瞬間、2人の纏っていたシュルシャガナとイガリマは黒く染まり、イグナイトモジュールの起動に成功する。

 

「良し!」

 

「へっ!」

 

マニゴルドとカルディアが、二人の成長に、グッと握り拳を作った。

 

「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!」」

 

切歌は鎌のアームドギアを持ってミカに接近し、振りかぶるが、ミカはそれをなんとか受け流す。

 

「ヒャッハァッ!!」

 

だが、続けざまに調が巨大化させたアームドギアのヨーヨーを頭上からミカに振りかざすが、ミカはそれを両手で受け止め、フルスイングして調ごと投げ飛ばす。

 

「調!!」

 

「最強のアタシには響かないゾ! もっと強く激しく歌うんだゾっ!!」

 

ミカは両手からカーボンロッドを連射し、グリーブから発せられた炎をカーボンロッドに纏わせ、切歌に向けて放つが、切歌はアームドギアでカーボンロッドを弾くが、眼前に迫ってきたミカの体当たりを受けて、吹き飛ばされてしまう。

 

「くあっ!?」

 

境内の建物に激突した切歌の周りに、カーボンロッドが突き刺さり、動きを封じられてしまう。

その隙にミカが切歌に右手を伸ばし、攻撃をしようとするが・・・・。

 

「っ!?」

 

そこにツインテールに装備したアームドギアから、小型鋸を大量に射出した。

 

「向き合うんだ! 出ないと乗り越えられない!!」

 

『α式 百輪廻』

 

ミカに向かって小型鋸が降り注ぐが、ミカは全身の高熱を使って直撃する直後に、鋸を全て焼却し、空中に跳び上がって頭上に大きく円を描いた。

すると、描かれた円から巨大で高熱のカーボンロッドが現れ、グリーブから放たれた炎を纏わせ、次々と調と切歌に向かって降り注ぎ、調と切歌はなんとか走りながらそれを回避した。

 

「闇雲に逃げてるだけじゃジリ貧だゾっ?!」

 

「知ってるデス! だからぁ!!」

 

切歌が高くジャンプすると彼女は一気に空中にいるミカに接近し、マニゴルドとの喧嘩で培ったドロップキックを叩きこむ。

 

「そなぼし!?」

 

ミカが地上に着地した所で、切歌の両肩のパーツからアンカーロープが放たれ、ミカを拘束して地面に固定した。同時に切歌のアンカーを調のギアと接続した。

そして空かさず、調は足のアームドギアから、巨大なタイヤのような円状の刃を生み出し、内側に乗り、高速突進する。

 

『非常Σ式 禁月輪』

 

それに合わせるように、切歌はギロチン状に変形した大鎌のアームドギアをローブにセットし、ブースターを噴射させスリングショットのように突撃した。

 

『断殺・邪刃ウォttKKK』

 

そして、調の技と切歌の技を合体させた。

 

『禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS』

 

まるで処刑台のような二人の合体技がミカに身体を両断する!

 

「足りない出力をかけ合わせてエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!??」

 

2人の合体技を受けたミカが爆散したように爆発した!・・・・かに見えた。

 

「やった・・・・デスね、調!!」

 

「うん!!」

 

「イヤ」

 

「まだだ」

 

勝利を喜ぶ切歌と調に、マニゴルドとカルディアは一切警戒を解かず、ミカが爆散した地点を睨むと。

 

「フフフフフフ。これで三人までがイグナイトを完璧に発動出来たか」

 

爆発の煙の中から、腹部を斬られ、ミカの上半身と下半身を右脇腹に持った『双子座<ジェミニ>のアスプロス』が愉快そうに笑みを浮かべていた。

 

「双子座<ジェミニ>のアスプロスっ!?」

 

「オートスコアラーを、回収しに来たの?!」

 

切歌と調が、アームドギアを構える。が、アスプロスはそんな二人に、手を上げる。

 

「早合点しないでもらいたいな。俺はミカを回収しに来ただけだ。それと・・・・」

 

アスプロスは、マニゴルドとカルディアに目を向ける。

 

「さて、マニゴルドにカルディア? 俺と手を組むと言う話の返事を聞きたいのだが?」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

マニゴルドとカルディアはゆっくりと手を上げーーー。

 

「ハッ!」

 

「ふんっ!」

 

カルディアは右手中指を力強く立て、マニゴルドは親指を立てようとして、親指を下に向け、さらに首をかっ切るような挙動をした。

アスプロスは二人の態度に腹を立てる事をせず、含み笑いを浮かべた。

 

「決裂か・・・・。まああらかた予想通りだな。それにしても、僅か短期間でここまで成長するとは、シンフォギア装者も棄てたものではないな」

 

「「っ・・・・!」」

 

アスプロスが一瞥すると、切歌と調は身体を強ばらせ、マニゴルドとカルディアが二人を庇うように前に立つ。

 

「暁切歌、月読調、お互いを守り合う事で更なる高みに到達したか。まさに“二人で一人の戦士”。・・・・少々、羨ましいな」

 

最後の方でポツリと呟いた言葉に、調と切歌は聞こえなかったが、マニゴルドとカルディアには聞こえていたが、何も言わずにアスプロスを鋭く見据える。

 

「己と真に向き合い、友と共に己を越える。マリア・カデンツァヴナ・イヴに続いて、さらに二人もイグナイトの力を引き出すとはな。フフフ、LiNKER持ち達の方が優秀だな」

 

アスプロスはそのまま背後の空間が割れると同時に、その場から去っていった。

 

 

ーレイアsideー

 

《レイア、こちらは終わった。そっちも退却しろ》

 

「承知」

 

レイアが転移術を使うと、S.O.N.G.基地を抑えていた巨大な影も、その姿を消した。

 

 

ー切歌sideー

 

それから、切歌と調の元へと駆けつけた弦十郎とクリスとデジェルは、正座して申し訳無さそうに俯く切歌と調、正座しているがそっぽを向いているマニゴルドとカルディアを叱っていた。

 

「こっちの気も知らないで!!」

 

「たまには指示に従ったらどうだ?」

 

「いきなりイグナイトモジュールの発動は危険過ぎる」

 

そんな三人に対し、調と切歌は頭を下げて謝罪するが、マニゴルドとカルディアは知ったことかと言わんばかりの態度でそっぽを向いた。

 

「・・・・独断が過ぎました」

 

「これからは気をつけるデス・・・・」

 

「珍しくしおらしいな・・・・」

 

素直に謝罪する調と切歌に、クリスと弦十郎は少し驚き、デジェルは二人が成長したことを察して小さく笑みを浮かべる。。

 

「私達が背伸びしないでできるのは、受け止めて、受け入れること・・・・」

 

「だから、ごめんなさいデス・・・・」

 

「・・・・うむ。分かればそれで良い・・・・。マニゴルド。無事の帰還は喜ばしいが、今まで何処にいたのか聞きたいのだが?」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マニゴルドはそっぽを向いたまま口笛を吹いて惚ける。

 

「お前、帰って来て早々その態度かよ・・・・!」

 

クリスがマニゴルドの態度に腹を立てるが、デジェルが押さえた。

 

「マニゴルド。アルバフィカはどうした?」

 

「あん? ちょっと別行動中だ。すぐに戻ってくる」

 

「そうか。今日はもう帰って良いが、明日本部で詳しい事を聞かせてもらうぞ」

 

「承知しました~。んじゃ帰るぞ」

 

それから四人はやいのやいの騒ぎながら家に帰る。

 

「まったく・・・・」

 

弦十郎は、すぐ無茶をする調と切歌、相も変わらず協調性ゼロのマニゴルドに肩をすくめる。

そんな切歌と調の背中を見ながらクリスはあることをボソっと呟く。

 

「先輩が手を引かなくたっていっちょ前に歩いて来やがる。(あたしとは、違うんだな・・・・)」

 

「・・・・・・・・」

 

デジェルがクリスの手を握り、クリスは少し身体をデジェルに寄せる。

クリス自身、アスプロスに言われた言葉が、胸に内に棘のように突き刺さっていた。

 

 

* * *

 

 

そして家に帰った四人。調と切歌は改めて決意を表す。

 

「足手纏いにならないこと・・・・。それは、強くなることだけじゃない、自分の行動に責任を伴わせることだったんだ」

 

「『責任』。『自らの義に正しくあること』・・・・」

 

調の言葉を聞いて切歌はスマホで「責任」の意味を調べ、読み上げる。

 

「でも、それを正義と言ったら調の嫌いな『偽善』っぽいデスか?」

 

「・・・・・・・・」

 

【それこそが偽善・・・・!】

 

すると調は切歌に言われ、『フロンティア事変』の時、自分が響に対して偽善者呼ばわりしたことを思い出し、彼女は暗い表情を浮かべる。

 

「ずっと謝りたかった。薄っぺらい言葉で響さんを傷つけてしまったことを・・・・!」

 

切歌は、調の肩に両手を置き、額をくっつける。

 

「ごめんなさいの勇気を出すのは、調一人じゃないデスよ・・・・。調を守るのはアタシの役目デス!」

 

「切ちゃん・・・・ありがとう、何時も・・・・全部、本当だよ・・・・!」

 

感動的なシーンにカルディアはニヒルな笑みを浮かべるが、マニゴルドは、ポンっと切歌の肩に手を置く。

 

「感動的なところで悪いけどよ切歌。・・・・お前、冷蔵庫に入れておいた俺のどら焼きとツマミ用のベーコンどうした?」

 

「(ギクッ!)いや、その、デスね・・・・! マニゴルドがいなくなって、このままじゃ腐っちゃうと思ってデスね・・・・」

 

顔は笑っているが、目が全然笑っていないマニゴルドから、切歌は滝のように汗を流して目を泳がせる。それが何を物語っているのか一目瞭然だった。マニゴルドは切歌の首根っこを掴んだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「し、調!!」

 

「切ちゃん、頑張って・・・・」

 

「おい調。お仕置きが終わるまで暇だし、ちょっとゲームでもやろうぜ」

 

調とカルディアはカートゲームを始め、マニゴルドは無言で切歌を引きずりながら、自分の部屋に連れ込む。

 

「ま、待ってデス、マニゴルド! だからその件に関してはデスね!・・・・えっ? なんで鞭なんて持ち出すデスか? 何でアタシの身体を荒縄で縛るデスか?・・・・ま、まさか・・・・!?」

 

ビシッ! バシッ! ビシッ! バシッ! ビシッ! バシッ! ビシッ! バシッ!・・・・。

 

「あぁああああああ! ま、また! これデスか!? そ、そんな! うぅ悔しいデス! で、でも! あぁ、あはんっ!♥ も、もっとデェスっ!!♥♥」

 

「あっカルディア、崖側で青甲羅はズルい・・・・」

 

「さっき橋を飛んだ時に雷落としたヤツが言うな」

 

鞭で引っ叩く音と、切歌の嬌声を聞き流しながら、調とカルディアがカートゲームを楽しんでいた。

 

「フンッ!」

 

ピシャンッ!!!

 

「アッーーーーーーーーー♥♥♥」

 

切歌の嬌声を聞き流しながら、調はいつもの我が家に帰って来た実感を感じた。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

チフォージュ・シャトーでは。ミカを象徴するような『赤い垂れ幕』がミカの台座の上に降りてきた。

そして歯車の1つが軋みをあげると、玉座の後ろに置かれた巨大な装置の扉が突如ゆっくりと開き、その中から、響と翼とクリスに倒された筈だった錬金術師・・・・。

 

『キャロル・マールス・ディーンハイム』が現れた。

 

それを見てレイアとファラは彼女の前に跪き、キャロルは階段下に控えていたアスプロスの元に一直線に行き、両手を大きく広げて、アスプロスの身体にギュッと抱きついた。アスプロスはキャロルの頭を優しく撫でる。

 

「お目覚めになりましたか?」

 

「そうか・・・・ガリィとミカは・・・・」

 

ファラに声を聞き、アスプロスから離れたキャロルは、天井からかけられている文字のようなものが刻まれた『赤垂れ幕』と『青い垂れ幕』を見ると、彼女はミカとガリィが破れたことを即座に理解した。

が、アスプロスが指を鳴らすと、空中にディスプレイが現れると、棺のような装置の中で、ミカとガリィが眠るように横たわっているのが表示された。

 

「派手に散りましたが、現在はアスプロス様により身体の修復中です」

 

「これからいかがなさいますか?」

 

「言うまでもない。『万障黙示録』を完成させる。この手で奇跡を皆殺す事こそ、数百年間の大願・・・・」

 

キャロルは自身の手を握りしめる。そんな彼女の目には・・・・。

なぜかここにいない筈の医務室で座る響の姿が映っていた。 

 

《聞いた!? 調ちゃんと切歌ちゃん強いね! ホントに強くなったと思う。そう思うでしょ? エルフナインちゃんも!》

 

医務室にいるのは、響とエルフナインの2人だけ、つまり、エルフナインが見て聞いているものが、キャロルにも伝わっているのであった。

 

「・・・・あぁ、思うとも・・・・。故に、世界の終わりが加速する!!」

 

何も気づかない響の暢気なマヌケ顔を嘲りながら、キャロルは思惑通りに進んでいる事を高らかに宣言した。

 




この世界の切歌は、Mの世界に身体半分入っています。ちなみに調はまだ片足入った状態。


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惑う剣

ー未来sideー

 

「ここは・・・・」

 

そこは美しい場所。沙羅双樹の花が地面一帯に咲き誇り、そよ風が吹くと花の花弁が空を舞い、雲一つ無い夜空の星達は宝石のように煌めき、空に舞う花弁と星の輝きが重なり、神秘的かつ幻想的な世界の一本道の真ん中に、リディアンの制服を着た未来は立っていた。

 

「(あ、これ夢の世界だ・・・・。と言う事は・・・・!)」

 

未来は一本道を走っていくと、二本の木が並ぶ野原の石の台座に、その人物はいた。

僧侶のような袈裟を着た金糸の長髪に、端麗な顔をした盲目の男性。

 

「アスミタさん!」

 

「・・・・小日向未来」

 

その名を『乙女座<ヴァルゴ>のアスミ』。

 

「アスミタさん、今大変な事が!」

 

「うむ、分かっている。どうやらかつての同士が暗躍を始めているようだな」

 

「アスミタさんは、来てくれないんですか?」

 

「・・・・少々気難しい者の説得に手を焼いている」

 

「気難しい人?」

 

「ウム、その者こそ、これからの事態に必要な人間だ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「小日向未来よ、ガングニールはまた『へいきへっちゃら』などとほざき、分かりやすい空元気を出しているのかね?」

 

「・・・・はい」

 

辛そうな未来の顔から、アスミタは響に対して「もういい加減にしてほしい」と言わんばかりに肩を竦める。

未来はポツリポツリとこれまでの事を話した。

 

「・・・・アヤツもとことん厄介な性分をしているものだ」

 

「でも、響の気持ちも少し分かるんです。響がお父さんを許せないって思うのも・・・・」

 

「(フン。父親の情けない姿を見て、父親を拒絶するか、人間や物事の“綺麗な部分”しか見ず、“汚い部分”は見て見ぬフリをしていたツケが、ようやっと来たと言った所だな・・・・)」

 

「このままじゃ響は・・・・」

 

「・・・・小日向未来よ」

 

「はい・・・・」

 

「誰しも、心には大きな傷や闇を抱えている。大抵の者はそれから目を背け逃げるか、その傷と闇に立ち向かおうとする。前者がガングニール、風鳴翼と雪音クリス。後者がマリア・カデンツァヴナ・イヴと月読調と暁切歌だ」

 

「翼さんとクリスも?」

 

「アヤツらも、自分の心と真に向き合わなければならないのだ。そして、ガングニールはこの試練を乗り越えなければならない。それが出来なければ・・・・」

 

「出来なければ・・・・」

 

「アヤツは、戦士どころか、装者失格だ。自らの掲げる“信念”ですら、“偽り”にしようとしているからなーーーーーー」

 

「えっ?・・・・・・・・」

 

そこで、未来は目を覚まし、ベッドを下りてカーテンを開けると、ちょうど朝日が世界を照らし始めていた。

 

 

 

 

ーキャロルsideー

 

「ぐぅっ!」

 

チフォージュ・シャトーにて。そこでは復活を果たしたキャロルが王座に座り、彼女はオートスコアラーに指示を出すため立ち上がるのだが、突然キャロルは苦しそうな顔を浮かべ、その場に膝をついてしまう。

 

「マスター?」

 

「最後の予備個体も不調ですか?」

 

「負荷を度外視した、『思い出の高速インストール』・・・・。さらに自分を殺した記憶が、拒絶反応を起こしているようだ」

 

「いかがなさいますか?」 

 

キャロルはファラの質問にそう答え、レイアはキャロルに尋ねるが、それに対しキャロルは宣言する。

 

「無論、まかり通る!! 歌女どもが揃っている、この瞬間を逃す訳にはいかぬのだ!!」

 

「マスター。アスプロス様は何処に?」

 

「アスプロスは、少し余興の準備に出た。ガリィとミカの修復も間もなく終わる。そして、あと一つの足りない物が有れば、完成する」

 

「ああ、やっと、完成する・・・・」

 

「我々オートスコアラーの鎧が・・・・」

 

キャロルの言葉に、ファラとレイアは待ちきれないと言わんばかりの笑みを浮かべ、キャロルも口の口角を上げていた。

 

 

 

 

ー響sideー

 

その頃、とある病院の病室にて、響は前回の戦いでの肉体へのダメージなどを調べるため、検査入院しており、今は未来が来て、彼女の着替えなどを手伝っているところだった。

 

「もぉ~、ただの検査入院なのに大騒ぎしすぎだよ」

 

「響のせいで大騒ぎしてるんでしょ?」

 

響の言葉に未来は呆れたように言い返す。

するとその時、響のスマホから着信が入り、彼女がスマホを取って画面を見るとそこには【お父さん】と名前が表示されていたのだが・・・・。

 

「・・・・・・・・・・・・検査、行かなきゃ」 

 

響は着信を拒否して切り、彼女は表情1つ変えようとせず、何時もの様子で、未来に心配させまいとしてか笑顔を見せて立ち上がる。

 

「響・・・・」

 

それに心配そうに響を見つめる未来だが・・・・。

 

「へーき・・・・「へっちゃらじゃない!!」・・・・」

 

響が無理に明るく振る舞おうとしているのを見据えてか、未来は響の言葉を遮るようにそう言い放ち、響は一瞬立ち止まる。しかし、それでも彼女はうっすらと口元に笑みを浮かべ、無理しているのが分かる笑顔を作る。

 

「未来がいる、みんなもいる! だからお父さんがいなくたってへっちゃら!!」

 

響は未来にそう言い残して病室を立ち去り、検査のある部屋へと向かうのだった。

が、途中で手足の検査に来ていたレグルスと付き添いのデジェルとすれ違う。

 

「デジェルさん。・・・・レグルスくんの検査ですか?」

 

「あぁ、連れてこないとレグルスは絶対来ないのでね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスと響は無言ですれ違い、レグルスがポツリと呟く。

 

「少しは周りの事とか、気にかけたらどうだ?」

 

「・・・・レグルスくんには、関係ないでしょ」

 

明らかに喧嘩腰の響にレグルスはそれ以上言わず、そのままレグルスと別れた。

 

 

ー洸sideー

 

「響・・・・」

 

とあるファミレスにいる響の父親・洸は、娘の携帯に連絡したが、着信を拒否され、険しい顔色を浮かべ、向かい側に座る背広にメガネを掛けた男性が話しかける。

 

「いかがでしたか?」

 

「拒否されました・・・・。あの、本当なのですか? 私の娘が、あの野蛮な少年に、騙されていると・・・・?」

 

「ええ、私が調べた結果、響さんは同じクラスの生徒である、レグルス・L・獅子堂くんと懇意な関係なのですが、彼は色々と不穏なウワサの絶えない生徒でして、彼と一緒にいる響さんもそれに付き合わせて、よからぬ連中と関わっているらしいんです」

 

「響が・・・・! あのクソガキ! 響をたぶらかしやがって・・・・!!」

 

洸は初対面でいきなり自分の頬を殴り、この間は自分の胸ぐらを掴んだレグルスに対して、怒りを滲ませた。

それを見て、背広の男性は一瞬、ニヤリと笑みを浮かべると、すぐに顔を真剣かつ善意ある顔で洸に切り出す。

 

「このままでは娘さんにも悪影響を及ぼします。私どもに協力していただけますか?」

 

「もちろんです! 私がもう一度響と家族に戻るのに、あの野蛮者が響に悪影響となるなら、私にも協力させてください!」

 

洸は、『響の学校教員』と名乗った人物に頭を下げて懇願する。

 

「“アスプロス先生”!!」

 

「ええ、もちろんですとも・・・・(フフフ、単純な男だ)」

 

アスプロスは笑みを浮かべながら洸に手を出すと、洸はその手をとって握手した。アスプロスの内心の嘲笑にまるで気づかず・・・・。

そして、洸と別れたアスプロス先生は、人気の無い場所に移動し、空間に穴を開けて姿を消したーーー。

 

 

ーエルシドsideー

 

その頃、エルシドと翼とマリアと緒川は、とある日本家屋に車でやって来た。

 

「ここが・・・・?」

 

「風鳴八紘邸。翼さんの生家です」

 

「何年ぶりに帰って来たんだ翼?」

 

「・・・・10年だ。まさか、こんな形で帰ってくるとは思わなかった・・・・」

 

 

 

~数時間前~

 

 

 

レグルスとデジェルがS.O.N.G.本部に戻ると、そこには現在集められるメンバーが、司令室に来るように指示を受け、一同が集まる。

先日帰還したマニゴルドはサボろうとしていたが、同じくサボろうとしていたカルディアと共に、腰に縄をくくりつけられ、その縄の先を切歌と調がそれぞれ握っていた。

 

「検索結果、出します」

 

オートスコアラーの狙いを探るために友里がモニターにある画面を映し出す。

 

「これは・・・・?」

 

「電力の優先供給地点になります」

 

「こんなにあるデスか!?」 

 

レグルスの質問に藤尭が答えて、その画面を見て切歌は驚きの声を上げた。

 

「その中でも一際目立っているのが・・・・」

 

「『深淵の竜宮』・・・・」

 

調と弦十郎が、画面を見ながらそう呟く。そこは異端技術に関連した危険物や未解析品を封印した絶対禁区であり、 秘匿レベルの高さから、S.O.N.G.にも詳細な情報が伏せられている、拠点中の拠点である。

 

「オートスコアラーがその拠点を割り出していたとなると・・・・」

 

「狙いはそこにある危険物!!」

 

恐らくオートスコアラーはほぼ間違いなくそこを狙って現れるであろうと翼とマリアは推論する。

 

「だったら話は簡単だ!! 先回りして迎い撃つだけのこと!!」

 

「浮かれるなクリス。こういう状況こそ、慎重かつ冷静に対応するのだ」

 

相手が何を狙っているのかが分かれば迎え撃って出れば良いと考え、いきり立つクリスだったが、デジェルに諌められ、大人しくなる。

 

「だが、襲撃予測地点はもう1つある」

 

弦十郎があおいに指示をしてそのもう1つの襲撃された地点の場所をモニターに映すとそこに映ったのは、翼にとって、よく知る場所であり、それに彼女は驚きの声をあげる。

 

「ここって!?」

 

そこに映し出されていたのは『風鳴八紘邸』。

つまりは、翼の生家だった。

 

「気になる出来事があったので調査部で独自に動いてみました。報告によると事故や事件による神社や祠の損壊が頻発していまして・・・・」

 

それらの出来事はほぼ間違いなくオートスコアラーによる犯行と思われ、その報告を聞いてデジェルはそんなことをするオートスコラー達に対して思案顔を浮かべた。

 

「緒川殿。今までオートスコアラーによって破壊された神社・仏閣には、何か共通点がありましたか?」

 

「ええ、とても気になる共通点がありました・・・・。これまで破壊された神社には、いずれも明治政府の帝都構想で、霊的防衛機能を支えていた龍脈、『レイライン』のコントロールを担っていた要所になります」

 

「“錬金術”と“レイライン”、敵の計画の一環と見て間違いないだろう」

 

「風鳴の屋敷には要石もある、狙われる道理はあるというわけか・・・・」

 

弦十郎と翼がそれぞれそう口にし、弦十郎は、検査入院している響が欠けてしまってはいるが、打って出る好機かもしれないと考え、彼はエルフナインに視線を映すと、エルフナインはそんな弦十郎の考えに同意するように頷く。

 

「キャロルの怨念を、止めてください」

 

真剣な眼差しでレグルスとエルシド、デジェルとマニゴルドとカルディア、マリアと翼、クリスと切歌と調にそう頼むと、一同はエルフナインに力強く頷いた。が、翼は少し浮かない顔をしていた。

 

「よし、チームを編成するぞ!!」

 

弦十郎により『八紘邸』には、緒川、エルシドとマリア、そして翼が行くことになる。

『深淵の竜宮』には、マニゴルドとカルディア、クリスとデジェル、切歌と調が向かい、レグルスは他の場所で現れる可能性を考慮して、遊撃要員として基地に残ることになるのだった。

 

 

ーエルシドsideー

 

「了解しました。クリスさん達も、間もなく『深淵の竜宮』に到着するそうです」

 

早速屋敷の中へと入り、エルシド達はその屋敷にある今回守る物、巨大な要石を発見した。

 

「翼さん・・・・」

 

「っお父様・・・・!」

 

するとそこへ翼の父である『風鳴八紘』がSPである黒服の男性達と一緒に現れた。

 

「ご苦労だったな、慎司。久しぶりだな、エルシド」

 

八紘は緒川とエルシドに労いの言葉をかける。

 

「それにS.O.N.G.に編入された君たちの活躍も聞いている」

 

「あっ、はい」

 

「(ペコッ)」

 

八紘の言葉にマリア少し戸惑いながらも答え、エルシドは会釈する。

 

「アーネンエルベの神秘学部門より、アルカノイズに関する報告書も届いている。あとで開示させよう」

 

「はい」

 

「お父様!!」

 

八紘は緒川に対してそれだけを言い残すと、八紘はその場を立ち去ろうとし、それを見て翼はハッとなって八絋に声をかける。

 

「・・・・っ、沙汰もなく、申し訳ありませんでした」

 

翼はあまり八紘に連絡などを入れられなかったことを謝罪する。しかし・・・・。

 

「お前が居なくとも風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻るがいいだろう」

 

翼に対して少し冷たい印象を与えるような言い方をする八紘。

 

「待ちなさい!」

 

そんな彼に対し、マリアは八紘の言い方に腹を立て、また立ち去ろうとする八紘を呼び止める。

 

「あなた翼のパパさんなんでしょ!? だったらもっと他に・・・・!!」

 

「マリア!! いいんだ・・・・!」

 

「翼! でも・・・・!」

 

「いいんだ・・・・!」

 

八紘に対し文句の1つでも言ってやろうと思ったマリアだったが、翼に必死に止められ、マリアは黙り込み、そんな彼女等の一部始終を黙って見ていたエルシドは小さな溜め息を吐いた。

 

「(全く、どこもかしこも親父とのいざこざ抱えてやいるものだな・・・・だが、今はそれよりも)・・・・そこにいるのは分かってる」

 

「っ!」

 

エルシドは斬撃を飛ばし、緒川はも拳銃を取り出して、ある方向へと弾丸を放つとそれらを光学迷彩で姿を消していたファラが自分の周囲に緑の竜巻を起こし弾丸を弾いて登場。 

 

「野暮ね? 親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに・・・・」

 

「あの時のオートスコアラー!!」

 

「レイラインの解放。やらせていただきますわ」

 

「やはり狙いは要石か!!?」

 

ファラの姿を見て翼は驚きの声をあげ、ファラは要石を壊してレイラインの解放を宣言し、それを聞いてマリアは声をあげる。

 

「ダンス・マカブル!」

 

ファラがアルカ・ノイズの結晶体を地面に叩きつけると、そこからアルカ・ノイズが顕現した。

 

「ああ! 付き合ってやるとも!!」

 

翼とマリアはシンフォギアクリスタルのペンダントを外して聖詠を歌い、それぞれ、『天羽々斬』と『アガートラーム』を纏った!

 

翼はアームドギアの剣で迫り来るアルカ・ノイズを斬り伏せ。

マリアは籠手から短剣を取りだし、次々と投げつけ、次に蛇腹剣を鞭のように振り回し、アルカ・ノイズを切り裂く。

 

「ここは私が! エルシド! お父様を頼む」

 

「ああ」

 

「務めを果たせ」

 

エルシドは八紘とSPを連れて退避するが、翼は一瞬顔を曇らせたが、すぐに引き締め、アルカ・ノイズを斬り裂く!

 

「さあ、捕まえてご覧なさい!」

 

 

ファラは足下に緑色の竜巻を起こして空中に浮かび上がり、翼に向かって行くがファラは空を舞いながらそれを回避する。

翼はファラに向かって、アームドギアを大剣に変形させて振るい、巨大な青いエネルギーの斬撃を放った。

 

『蒼ノ一閃』

 

だが、ファラが武器である剣、『ソードブレイカー』を振るって緑の斬撃を放ち相殺した!

翼は空中に跳び、投擲したアームドギアを巨大な刃に変形させ、その後部を蹴り込んで切先で敵に突貫する!

 

『天ノ逆鱗』

 

「フフ、なにかしら?」

 

しかし、ファラはそれを切っ先で受け止めると、『ソードブレイカー』が突如として赤く光りーーーーーー。

 

「なに!?」

 

巨大化した翼のアームドギアが、徐々に錆び付いていく。

 

「(剣が・・・・砕かれていく!?)」

 

次の瞬間、翼のアームドギアは粉々に砕け散り、その際に発生した衝撃により、翼は吹き飛ばされる!

 

「うわああああああっ!!??」

 

吹き飛ばされた翼は地面に激突し、気を失ってしまった。

 

「翼!!?」

 

「私の『ソードブレイカー』は、“剣と定義されるもの”であれば高度も強度も問わずに噛み砕く哲学兵装。さぁ、いかがいたしますか?」

 

「強化型シンフォギアでも、叶わないのか・・・・!」

 

ファラは余裕の笑みを浮かべながら『ソードブレイカー』を構え。

また、それを見た緒川は驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「たあああああああああっ!!」

 

「無駄よ」

 

今度はマリアが複数の短剣のアームドギアをファラに投げつけるのだが、ファラの放つ風の斬撃によりマリアのアームドギアも、“剣”であるためあっさり砕かれ、そのまま真っ直ぐに斬撃はマリアに向かって行く。

 

「なっ!・・・・!」 

 

それにマリアは慌てて回避するのだが。

 

グワアアアアアアアアアアアアアアンンンッ!!

 

斬撃は彼女の背後にあった要石に直撃し、要石は粉々にに破壊されてしまうのだった。

 

「あら? 『アガートラーム』も剣と定義されていたかしら?」

 

「哲学兵装・・・・。概念を干渉する呪いやゲッシュに近いのか?」

 

「ウッフフフフ♪ ごめんなさい、あなたの歌には興味がないの。それに、私の『ソードブレイカー』の“天敵”とも言えるお方が、彼処で睨んでいますしね」

 

ファラが目を向けると、そこにはエルシドが屋根の上から睨んでいた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「私の『ソードブレイカー』は、“人体を剣と定義していない”。ゆえに、手刀で戦う山羊座<カプリコーン>は唯一の天敵と言えます」

 

するとファラは緑色の竜巻に身を包み込む。

 

「剣ちゃんに伝えてくれる? 目が覚めたら改めてあなたの歌を聴きにうかがいます」

 

ファラはそれだけを言い残すとその場から消え去るのだった。

 

「くぅっ・・・・!」

 

惨敗したような気持ちのマリアは歯噛みし、エルシドは静かに翼を見据えていた。

 

 

ー弦十郎sideー

 

それから緒川は、S.O.N.G.本部にいる弦十郎に要石の防衛に失敗してしまったことを報した。

 

《要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません・・・・》

 

「二点を同時に責められるとはな・・・・・・」

 

《二点? まさか!》

 

「あぁ、『深淵の竜宮』にも侵入者だ!セキュリティが奴等を補足している!」

 

『深淵の竜宮』の監視カメラを通し、弦十郎達は、キャロルとアスプロスとレイアの三人が侵入し、建物の奥へと入って行く姿を確認した。

 

「キャロル・・・・!」

 

あの時死んだと思われたキャロルが生きていることに、エルフナインを始め、一同は驚きを隠せないでいた。

 

「くっ! 閻魔様に土下座して蘇ったのか?」

 

「アイツ土下座するようなタイプじゃねえだろうが」

 

「おそらく例の錬金術で甦ったのだろう」

 

「奴らの策に乗るのは小癪だが、見過ごす訳にも行くまい・・・・! デジェルは、クリスくん達の一緒に向かってくれ」

 

クリスの言葉にカルディアとデジェル応え、弦十郎が指示を飛ばす。

 

「了解しました。マニゴルド、カルディア、不本意だろうが従ってもらうぞ」

 

「へいへい」

 

「その代わり、アスプロスと交戦するようになったらお前達に戦らせてやる」

 

「そうこなくっちゃな!」

 

デジェルの言葉に、マニゴルドとカルディアは好戦的な笑みを浮かべる。

そして、レイアの射出したコインが、映像を砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

その人物は、まるで古代ローマの遺跡のような場所で、石の台座に座り、瞑想眠っているかのように目を閉じていたが、ふと、その人物が目を開くと、1人の少女が目の前にいた。

 

『ここにいたのかよ・・・・?』

 

白いドレスのようなローブを纏った、“燃えるように赤い髪をした少女”は、少し肩を竦めながら、その人物に話しかける。少し顔を上げて、その人物は少女を見据える。

 

「ーーーーーーーーー」

 

『あぁ、ずっと探してたんだ。・・・・まったく、こんなところで寝てたのかよ。几帳面で真面目なお前が寝坊だなんてらしくもない』

 

「ーーーーーーーーー」

 

『お前の甥っ子や、仲間達が大勢やって来たんだぜ。私の後輩達も出てきてさ・・・・』

 

「ーーーーーーーーー」

 

「うん、私はもう、お前と一緒に風を感じられない。・・・・悪いな、こんな身勝手な女でさ・・・・」

 

「ーーーーーーーーー」 

 

『私も後悔なんてしてないさ。後を託せる奴らがいっぱい出来たんだからな』

 

「ーーーーーーーーー」

 

『へへへへ、どうやら私は、“男を見る目”は有ったみたいだな。・・・・それじゃ、ちょっと先に逝ってるぜ。いつか会おう・・・・先の未来でさ・・・・』

 

そう言って、立ち去ろうとする少女。

 

「っ・・・・!」

 

しかし、台座に座っていた人物は立ち上がり、その少女を背中から抱きしめ、少女も立ち止まり、自分を抱きしめる人物の手を握り、その瞳に一筋の涙を流す・・・・。

 

『ホント、ゴメンな・・・・! 置いていかれる辛さは、私が一番良く知ってるのに・・・・! 私は、よりにもよって、お前にそれをしちまうだなんてさ・・・・!』

 

「ーーーーーー! ーーーーーーーー!!」

 

『私も、愛してる・・・・! 世界で一番・・・・! 誰よりも・・・・! 愛してるぞ・・・・!!』

 

「ーーーーーーーーー!!」

 

『私だって! 本当は逝きたくない! お前と一緒にいたい・・・・! でも、私はいるから・・・・! 風になって、お前の傍に、いるから・・・・!!』

 

「・・・・・・・・・・・・奏!!!」

 

その少女、『天羽奏』を抱きしめていた人物が奏の名前を呼ぶと、その世界が光に包まれたーーーーーー。

 

「・・・・っ!」

 

その人物が目を覚ますと、目の前に煮えたぎるマグマと、その中にある岩石の上に横たわっていた。

 

「ーーーーーー?」

 

「君が眠りについて、3年の月日が経ったぞ」

 

「っ!?」

 

「さて、彼も目を覚ましたのだ。君も動く気になったかね?」

 

「・・・・・・・・」

 

金髪の僧侶、アスミタが、“3年も眠っていた男性”から、“マグマの中に座っている人物”に、目を向けた。

 

「君の“兄上”が暗躍を始めた。もはや無関係は気取れぬぞ。・・・・・・・・“デフテロス”!」




八紘って、やはり翼の父親なんだなって思います。


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風鳴の闇

ークリスsideー

 

翼達が要石を守るために風鳴八紘邸に向かっていた頃、クリスは、『深淵の竜宮』に向かうS.O.N.G.基地にあるデジェルの部屋のベッドの上で、寛いでいた。

ふと、部屋に設られた机で、マリアと切歌と調用に調整したLiNKERのデータを纏めているデジェルに話しかける。

 

「ねぇお兄ちゃん・・・・」

 

「ん?」

 

「アイツ、自分のパパの事、恨んでるのかな?」

 

アイツ・・・・響が自分の父親の事で苦しんでいる事に、クリスは心配している。

 

「気になるかい?」

 

「うん・・・・まあ、ね・・・・」

 

クリスはパパとママを失った。理不尽な世界の理由無き悪意によって。だからこそ、父親と不仲になっている響が気になっているのだ。

 

「・・・・私は、物心付いた時から両親がいなかったから、響くんの気持ちはいまいち分からない。だが、響くんはただ、逃げているだけだと思うぞ」

 

「逃げている?」

 

「あぁ。誰しも、『向き合わなければならない現実』、『乗り越えなければならない過去』はある。響くんがそれらから必死に逃げているだけだと私には見える」

 

「でもさ、そう簡単には向き合えないよ・・・・」

 

響と同じように、過去のしがらみに捕らわれているクリスは、いつの間にか体育座りになり、デジェルはクリスに近づき、寄り添わせるように抱きしめ、クリスも甘えるようにデジェルにすり寄る。

 

「そうかもな。だが、それでも向き合わなくてはならないんだ。たとえそれがどんなに辛くとも、苦しくとも、悲しくとも・・・・そうやって人はなっていくんだよ」

 

「何に?」

 

「・・・・“大人”に、な」

 

デジェルの言葉にクリスは、クスッと笑みを浮かべる。

 

「アイツが“大人”って、いまいちピンと来ないよ。下手すれば後輩達よりガキだよ?」

 

「・・・・そうかもな」

 

「(ま、人の事言えないけどさ・・・・)」

 

デジェルは再びデータ整理に戻り、LiNKERの成分表をプリントアウトし、クリスはベッドに横たわった。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

「あっ、調! 調の攻撃が当たっちゃったデス!」

 

「切ちゃんだって動きが遅いよ・・・・!」

 

そして同じ頃、切歌と調は、“何故か”、スマホオンラインゲームで協力しながらゲームのモンスターを攻略していた。

切歌は“槍使い”のキャラクターで、調は“鞭使い”のキャラクター。

別に二人がこのゲームを始めた訳では無い。まぁよくマニゴルドとカルディアと四人で、カートゲームやモンスターをハントするゲーム、太鼓のゲームや対戦ゲームとかで遊んではいるが。

今回はマニゴルドが突然ーーー。

 

【『深淵の竜宮』に着くまでこのゲームで遊んでおけ】

 

と、二人にやらされていたからだ。別段二人もちょうど暇を持て余していたのでやってみたのだが、何故か切歌と調のキャラは獲物のモンスターを、切歌が前から、調が後ろから、時に逆となりながら攻めるようプレイさせられており、二人のプレイキャラクターもマニゴルドが勝手に設定していた。

二人は少しやりづらそうにプレイしている。

 

「マニゴルド。どうしてこんなプレイスタイルでやるデスか?」

 

「私と切ちゃんのスタイルに合ってないし、二人で前衛に出れば良いと思う」

 

「黙ってやれ。そのモンスターは“左腕の武器にだけ”気をつけておけば恐くもなんともねぇよ」

 

「お前らのスタイルに近いキャラクターはそれしかいなかったんだよ」

 

「・・・・・・・・なんか変デスね」

 

「・・・・・・・・何か隠し事してる?」

 

「別に・・・・良いからとにかくやってろ。それが出来たら小遣い少しアップしてやる」

 

「「(ピクッ!) それ本当(デスか)??!」」

 

S.O.N.G.で装者として働く以上、調と切歌にも給金が支払われるが、調と切歌のお金は以外にもマニゴルドが管理しており、月々の小遣い制で貰っていた。未成年に過剰なお金を持たせないようにと保護者代表のマリアと、保父さんズのマニゴルドとカルディアとアルバフィカで協議した結果である。

ちなみに響の給金は未来が管理している。響にお金を持たせても、買い食いで消えるだけだからだ。マリアと翼とクリスはちゃんとお金の管理ができているので問題無し。

聖闘士組は、レグルスとエルシドとカルディアとアルバフィカはほとんど使わない、デジェルも管理は出来ており、マニゴルドは自分用の金しか使わず、調と切歌の給金には一円も手を出していない。

 

「あぁ、だから『深淵の竜宮』に着くまでに、そのゲーム終わらせておけよ」

 

「「了解(デェス)!」」

 

二人はマニゴルドに敬礼すると、再びゲームを再開した。

ゲームに集中している切歌と調を横目に、カルディアがマニゴルドに話しかける。

 

「んで、お前はどう思うよ? ガングニールの事?」

 

「あん? ようやくマトモになっただけだろうが」

 

「そう思うかお前も?」

 

「ああ。私今まで誰も恨んだ事ありませ~ん、誰にも憎しみを抱いた事ありましぇ~んって言わんばかりの、聖人君子気取りの馬鹿娘が、ようやくマトモになっただけだろう。それを周りが大袈裟にしているだけだ」

 

 

 

 

やがて潜水艦が目的地に到着するとデジェル達は早速、小型艇で『深淵の竜宮』に乗り込み、切歌と調は興味深そうに辺りを見回す。

 

「ここが『深淵の竜宮』・・・・?」

 

「だだっ広いデス!」

 

「ピクニックじゃねえんだ、行くぞ」

 

「そうだぞ、既に敵が来てんだ。遊び気分になってねぇで、気を引き締めていけよ」

 

クリスとカルディアが、はしゃぎそうになる切歌と調にそう注意するのだが、そのカルディアの手には林檎を持っており、カルディアは林檎にかぶり付き、食べていたのだった。

 

「「いやお前が一番遊び気分じゃねえか(だろうが)!!?」」

 

それに対して即座にクリスとマニゴルドがダブルでツッコミを入れたが、兎にも角にも、一同は先に進むことになった。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

一方、『深淵の竜宮』の扉の前で待機しているS.O.N.G.基地では。

司令室にいるレグルスはいつでも動けるように壁際で瞑目し、弦十郎達は、侵入者達であるキャロル達の現在地の補足を行っていた。

 

「施設構造データ、取得しました」

 

「侵入者の捜索急げ!」

 

「キャロルの目的は『世界の破壊』。ここに納められた聖遺物、もしくはそれに類する危険物を手に入れようとしているに違いありません」

 

またエルフナインがキャロルが何を狙っているかの予想を弦十郎に伝えた。

それを聞き、瞑目していたレグルスがピクッと反応するが、今はここから、デジェル達を信じることしかできなかった。

 

 

 

ー翼sideー

 

「んんっ・・・・・・」

 

夕方、八紘邸の寝室にて・・・・・・そこではファラとの戦闘で気を失っていた翼が目を覚ました。

 

「目が覚めたか?」

 

「エルシド・・・・?」

 

彼女は辺りを見回すと、自分の眠る布団の隣に、エルシドが座禅で控えているのが見え、ゆっくりと身体を起き上がらせる。

 

「・・・・そうか、私はファラと戦って・・・・。身に余る夢を捨ててなお・・・・」

 

ファラとの戦闘で自分が敗れたことを思い出し、顔を俯かせる翼。

 

「(私では届かないのか・・・・・・)」

 

「大丈夫、翼?」

 

「すまない、不覚を取った」

 

そんな時、外から彼女を心配してやってきたマリアの声が聞こえ、それに対し翼は謝罪する。

 

「動けるのなら来て欲しい、翼のパパさんが呼んでいるわ」

 

「・・・・分かった」

 

風鳴八紘の書斎のような部屋へとやってきた翼とエルシドとマリア。

そこでは緒川と八紘がおり、机の上には、報告書が挟まれたファイルが積まれ置かれていた。

 

「これは?」

 

「アルカ・ノイズの攻撃によって生じる赤い粒子を、『アーネンエルベ』に調査依頼していました。これはその報告書になります」 

 

「『アーネンエルベ』。シンフォギアの開発に関わりが深い独国政府の研究機関・・・・」

 

翼達はファイルを手に取り、中身に目を通す。

 

「報告によると、赤い物質は『プリマ・マテリア』。万能の溶媒『アルカ・ヘステ』によって分解還元された物質の根源要素らしい」

 

「物質の根源? 分解による?」

 

八紘の言葉に疑問を浮かべ、首を傾げるマリア。

 

「錬金術とは分解と解析、そこからの構築によって成り立つ異端技術の理論体系とありますが・・・・・・」

 

「キャロルは世界を分解したあと、何を構築しようとしているのかしら・・・・・・」

 

「それは分からんが、キャロル・マールス・ディーンハイムは、現存する世界を分解して、“何か”を作ろうとしてる。敵の目的の一部が見えて来た、と言う事で良いだろう」

 

エルシドが、キャロルの目論みをざっくりと説明した。

 

「・・・・翼」

 

「は、はい」

 

「傷の具合は?」 

 

すると八紘が不意に翼の名前を呼び、容態を尋ねると、それに翼は一瞬驚いたような表情を浮かべる。

 

「っ・・・・・・はい、痛みは殺せます」

 

「ならばここを発ち、然るべき施設にてこれらの情報の解析を進めるといい。お前の守るべき要石はもうないのだ」

 

「・・・・分かりました」

 

少々冷たい印象の言い方をする八紘に対し、翼は一瞬悲しげな顔を浮かべた後、返事をし、彼の言う通りにしようとするのだが・・・・・・。

 

「それを合理的と言うのかもしれないけど、傷ついた自分の娘にかける言葉にしては冷たすぎるんじゃないかしら?!」

 

それを見たマリアはそんな八紘の厳しめの言葉に対して苛立ち、彼女は八紘に反発した。

 

「いいんだマリア」

 

「翼・・・・!」 

 

しかし、そんなマリアを翼は抑える。それでも八紘は黙っていた。

 

「・・・・・・いいんだ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

翼はそう言ってマリアを落ち着くように説得し、エルシドとマリアを連れて退室した。

 

 

ー緒川sideー

 

「少々、冷たくし過ぎなのでは?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

緒川は八紘に進言するが、八紘は黙ったままだった。緒川は小さくため息を吐くと、さらに口を開いた。

 

「それで、彼の方は?」

 

「・・・・今、彼らの預かり物を取りに行っている」

 

「よく政府関係者達を説得出来ましたね。彼らをあそこまで恐れている筈なのに・・・・」

 

「さすがにここまで事態が動いていれば、奴らも我が身を守るために許可せざる得ないだろう」

 

「そしてもしもの事態が有れば、貴方が責任を持つのですか?」

 

「私は彼らを信じている。別世界からやって来て、この世界を守るために戦ってくれる彼らをな」

 

 

ー翼sideー

 

「アレはなんだ!! 国家安全保障のスペシャリストかもしれないが家族の繋がりを蔑ろにして!! エルシド! 貴方はなんとも思わないの!!?」

 

「家族の問題に、他人である俺達が簡単に踏み込めんだろう。特に、この風鳴の家は、かなり複雑な問題を抱えているからな」

 

「はぁっ?」

 

先ほどの八紘の態度に対してマリアは怒り、彼女はランやエルシドにも問いかけるのだが、エルシドの言葉に首を傾げ、アレを見て怒らないエルシドの八紘に対する評価が、甘すぎるのではないかと思った。

 

「すまない。・・・・だがあれが私達の在り方なのだ」

 

その後、一同は話の続きは翼の部屋でということで彼女に案内させた。

 

「ここは、子供自分の私の部屋だ。話の続きは中でしょう・・・・」

 

翼が襖を開けるとそこには・・・・・・。

 

「っ!敵襲!? また人形が!?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「あっ、いや・・・・・・私の不徳だ・・・・・・。 だからって10年間そのままにしとくなんて・・・・・・」

 

「えっ・・・・?」

 

そこには散らかしっぱなし翼の10年前から変わらないという汚部屋が広がっており、彼女は顔を赤くし、それを見たマリアは目をパチクリさせ。

 

「く、くくく、くく、昔から、片付けられない、女だったのだな・・・・くくく・・・・!」

 

「エルシドが笑っている!?」 

 

「笑われるのは予想できたが、そこまで笑うほどなのかエルシドっ!」

 

エルシドが声を潜めて笑い、エルシドの笑い顔を初めて見たマリアは驚嘆、翼は顔をさらに赤くした。それから三人は、取りあえず部屋の散らかりを片付けをしながら話をすることにした。

 

 

 

「幼い頃にはこの部屋で、お父様に流行歌を聞かせた思い出もあるのに・・・・・・」

 

「それにしても、この部屋は・・・・・・昔からなの?」

 

マリアは辺りを見回し、翼に疑問に思ったことを尋ねる。

 

「わ、私が『片付けられない女』ってこと!?」

 

「そうだな。シジフォスも奏も呆れていた程だからな」

「えっ!? 奏はともかくシジフォスも!?」

 

意地悪な奏はともかく、慕っていたシジフォスも呆れられていた事実に、翼は少なからずショックを受けた。が、マリアは訂正する。

 

「いや、そうじゃないわよ。私が言いたいのは翼のパパさんのことだ」

 

翼は静かに目を瞑り、それについては、先ずは自分の祖父のことについて語る必要があった為、それを彼女は話し始める。

 

「私のお爺様・・・・・・現当主『風鳴訃堂』は老齢の域に差し掛かると、跡継ぎを考えるようになった。候補者は嫡男である父・八紘と、その弟の弦十郎叔父様」

 

「風鳴指令か・・・・・・」

 

「だが、お爺様に任命されたのは、お父様や叔父様を差し置いて、生まれたばかりの私だった」

 

「翼を?」 

 

それを聞いてマリアは驚きの声を上げ、エルシドは鋭い目付きをさらに鋭くする。

 

「理由は聞いていない。だが今日まで生きていると伺い知ることもある。・・・・どうやら私にはお父様の血が流れていないらしい」

 

「なに・・・・・・!?」

 

「・・・・・・・・・・」

 

それを聞き、マリアは驚愕した表情を浮かべ、エルシドはさらに目を鋭くする。

 

「風鳴の血を濃く絶やさぬようお爺様がお母様の腹より産ませたのが私だ」

 

それはつまり、父親が、息子の妻に翼を生ませたという事であった。

 

「『風鳴訃堂』・・・・・・人の道を外れたか!」

 

「・・・・・・」

 

マリアは翼の話を聞き、『風鳴訃堂』に対して激しい怒りを覚え、エルシドは静かに怒りをたぎらせる。

 

【お前が私の娘であるものかっ!! どこまでも汚れた風鳴の道具に過ぎんっ!!】

 

かつて幼い頃に父・八紘に言われた言葉が翼の心に深く刺さっていた。

 

「以来私は、お父様に少しでも受け入れてもらいたくてこの身を人ではなく、道具として、『剣』として研鑽してきたのだ」

 

あまりの話にマリアは言葉を失うが、翼は自嘲するように笑みを浮かべる。

 

「なのに、この体たらくではますますもって、鬼子として疎まれてしまうな・・・・・・」

 

「・・・・ふざけた事を言うな」

 

「えっ?」

 

するとその時、今まで黙って話を聞いていたエルシドが、ガッと翼の両肩を掴みあげ、それに翼は戸惑う。

 

「え、エルシド・・・・?」

 

「それは本当に八紘殿がお前に望んだことなのか? 『道具』として生きろと、『剣』として生きろと、あの人が望んだと言うのか翼っ!」

 

「・・・・それくらいしか、私はお父様に受け入れては・・・・・・!」

 

「そんな生き方をしろと、あの人が言ったのか?『道具になれ』って言ったと言うのか? そのような生き方など、お前を『風鳴家の道具』として、お前の母上に無理矢理お前を生ませた、『風鳴訃堂』と同じではないかっ!?」

 

「っ・・・・ではどうすれば言いと言うのだ!? 私はエルシドとは違う! エルシドのように、我が身を『剣』とすることができない! 夢を捨ててまで『剣』であろうとしたのに、それすら!」

 

「俺は『夢』を捨てていない!」

 

「っ!」

 

「俺の夢、友との夢、この身を聖剣と鍛え抜き、弱き人々を守るために『大義』と『仁の心』を持って聖剣を振るう。それが俺の『生き方』であり、俺の『夢』だ。翼、お前はどうなのだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

エルシドの真っ直ぐ強い眼差しに翼は押し黙りそうになる。

 

 

ーエルフナインsideー

 

「竜宮の管理システムとリンク完了しました」

 

そしてその頃。S.O.N.G.の司令室では、竜宮の管理システムにアクセスし、そこにあるデータからキャロルの狙いを絞り込んで対策を打とうという作戦が行われていた。

 

「キャロルの狙いを絞り込む事が出来れば、対策を打つことも出来るかも・・・・あっ!止めてください!」

 

その時、表示されたデータの1つにエルフナインが目を止めた。

 

「『ヤントラ・サルヴァスパ』!?」

 

「キャロル、なんなんだそれ?」

 

「あらゆる機械の起動と制御を可能にする情報集積体。キャロルがトリガーパーツを手に入れれば、『ワールド・デストラクター』、『チフォージュ・シャトー』は完成してしまいます」

 

レグルスが尋ねると、エルフナインは、『ヤントラ・サルヴァスパ』の事を説明した。

 

「『ヤントラ・サルヴァスパ』の管理区域、割り出しました」

 

そこで丁度友里が、管理区域の地図をモニタに表示した。

 

「デジェル達を急行させるんだ!」

 

それを受けて弦十郎はデジェル達に、急いでそこに向かわせるように指示するのだった。

 

 

 

ー翼sideー

 

「・・・・私だって・・・・私だって・・・・!」 

 

その時である。

 

ドガァァァァァァァァンンッ!!!

 

突然外で大きな爆発音が聞こえきたのだ。

 

「なんだ!?」

 

「爆発音か」

 

「兎に角、行ってみましょう!」

 

マリアの言葉に他の二人は頷き、三人は急いで爆発の音が聞こえた方向へと走って行くのだった。

そこではファラが建物の1つを破壊し、その騒ぎを聞きつけ、そこに駆けつけた翼とエルシドにマリア。

 

「要石を破壊した今、貴様になんの目的がある!?」

 

「うふ♪ 私は歌が聴きたい。そしてそのあとは・・・・」

 

翼の問いかけに対してファラはそう答え、エルシドを見据える。

 

「山羊座<カプリコーン>、貴方との決着をつけに来たのです」

 

「私達はエルシドの前座と言いたいようだな!」

 

「貴様ごときにエルシドの相手が務まるか! 私達が斬り捨てる!!」

 

翼とマリアは歌う。戦いの聖詠をーーーーー。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

翼とマリアの衣服が弾け、翼の身体に青いシンフォギア、『絶剣 天羽々斬』が、マリアの身体に白銀のシンフォギア、『銀の義手 アガートラーム』を纏った。

 

エルシドは戦場から少し離れ、翼とマリアの戦いぶりを見る。

すると、通信端末から連絡が入り、それに出ると、懐かしい声が聞こえた。

 

「久し振りだな。今どこにいる?・・・・・・・・そうか、今俺達は翼の生家だ。デジェルとマニゴルド、カルディアは『深淵の竜宮』だ。ヤツもいるならば、送って貰おうか・・・・うむ、どうやらすぐに必要になりそうだ・・・・」

 

 

ーアスプロスsideー

 

『ヤントラ・サルヴァスパ』の管理区域に向かう途中、アスプロスはある区画に保管されていた物を見つけた。

それを見て、キャロルは小さく笑みを浮かべる。

 

「アスプロス、それがなのか?」

 

「そうだ。これが『エレメントアームズ』に必要な素材・・・・『オリハルコン』だ」



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不器用な愛情

祝! 100話来ました!

これも応援してくれる皆様のお陰です! 心より感謝します!
これからも小宇宙<コスモ>を燃やして頑張ります! 『聖姫絶唱セイントシンフォギア』をよろしくお願いいたします!!

そして遂に、満を持してあの人が登場!


ーアスプロスsideー

 

「さて、キャロル。少しここを離れる」

 

「ガリィとミカの修復状態を見に行くのか?」

 

「ああ。それに他にも見つかった『面白い玩具』をチフォージュ・シャトーに置いてくる。ついでに、“余興”の為にもな・・・・」

 

アスプロスは一端『アナザーディメンション』でワープして、『深淵の竜宮』を離れた。

 

 

 

ー翼sideー

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

マリアは歌を口ずさみながら翼と共にファラへと立ち向かう。

 

「はぁあっ!」

 

マリアは短剣を投げ、翼は斬りかかり、同時に攻撃を仕掛けるが、ファラは後方へと飛んで回避。

武器のソードブレイカーを振るって緑色の風の斬撃をファラは翼とマリアに放ち、二人はなんとかそれを回避した。

着地したマリアは即座に、籠手から短剣のアームドギアを引き抜いて、アームドギアの刀身を蛇腹剣のように変化させ、ファラにむかって振るった。

 

『EMPRESS†REBELLION』

 

が、それをファラはソードブレイカーから再び風の斬撃を放ってマリアのアームドギアをかき消し、風はマリアを大きく吹き飛ばす。

 

「なっ、うあああああああああっっ!!??」

 

「マリア! くっ、この身は剣! 切り拓くまで!!」

 

翼は剣のアームドギアを構えながらファラへと向かって剣を構えて駈ける。

 

「その身が剣で あるのなら、哲学が陵辱しましょう」

 

しかし、ファラの放った緑の突風によって翼は吹き飛ばされそうになり、なんとか踏み止まるものの、徐々に彼女の纏うギアが破損して行く。

 

「砕かれていく・・・・! 剣と鍛えたこの身も・・・・歌声も・・・・!)」

 

そして翼は、ファラの放った突風により吹き飛ばされてしまった。

 

「うわぁああああっ!!」

 

ボロボロになって倒れ込む翼。

 

「・・・・いつまで経っても世話の焼ける」

 

二人の戦いを見守っていたエルシドは、ため息混じりに、風鳴邸へと向かった。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

その頃、S.O.N.G.本部の司令室では、監視カメラで『深淵の竜宮』の内部にいる。キャロルとレイアを発見し、キャロルの手に持っている、ノート帳のような物がズームアップされた。

 

「あれが・・・・」

 

「『ヤントラ・サルヴァスパ』です・・・・!」

 

「クリスちゃん達が現着!」

 

「アスプロスも戻ってきたか・・・・」

 

モニターに、シンフォギアを纏ったクリスと調と切歌、私服姿のデジェルとカルディアとマニゴルドが到着した。

キャロルの隣の空間に孔を作って、中からアスプロスも戻ってきた様子が映し出された。

 

 

ーキャロルsideー

 

「やっと見つけたぜ!」

 

「御用デス!」

 

「逃がさない・・・・!」

 

銃と大鎌とヨーヨーのアームドギアを構えるクリスと切歌と調。しかし、キャロルはフンと鼻で笑い、アルカ・ノイズの結晶体をばら蒔いて、アルカ・ノイズを召喚した。

 

「雑魚が雁首揃えてゾロゾロと沸いて出てきたな。まあ目的の物はあらかた手に入ったが、レイア」

 

「派手に始める」

 

レイアはコインを弾丸のように指で弾き飛ばし、クリス達は一斉に散開して回避した。

 

「イヤッホォオーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

 

「フゥ」

 

ガンッ!!!

 

一瞬でアスプロスに突撃してきたカルディアの蹴りを、アスプロスは片腕で防いだ。

 

「よおアスプロス! 相手をしてもらうぜ!!」

 

「カルディアか。良いだろう。格の違いを教えてやる!」

 

デジェルとマニゴルドが見据え、カルディアとアスプロスが交戦を開始した。

 

「(さて、ガリィとミカが来るまでの良い暇潰しになるかな?)」

 

キャロルはほくそ笑みながら、『深淵の竜宮』の通路を駆けていった。

 

 

 

ー翼sideー

 

「くっ・・・・! 夢に破れ、それでも縋った誇りで戦ってみたものの・・・・くぅっ・・・・! どこまで無力なのだ、私は・・・・!!」

 

「翼っ!」

 

「翼さんっ!」 

 

マリアと緒川が叫び声を上げたその時!

 

「翼っ!!」

 

「あっ・・・・お父様・・・・? エルシド! なぜ連れてきた!?」 

 

そこへ翼の元へと八紘と八紘を連れてきたエルシドが現れ。

 

「避難させようと思ったが、どうしても翼のところに行くって聞かなくてな。なんでも、言いたいことがあるそうだ。・・・・八紘殿」

 

エルシドの言葉に八紘は無言で頷くと彼は翼に向かって言葉をかける。

 

「歌え翼!!」

 

「っ・・・・。ですが私では・・・・『風鳴の道具』にも、『剣』にも・・・・!」

 

それに対し、翼は顔を俯かせ、顔を歪める。しかし、そんな翼に八紘は・・・・。

 

「ならなくて良い!!」

 

「お父様・・・・?」

 

「夢を見続けることを恐れるな!!」

 

「・・・・私の、夢・・・・?」 

 

その八紘の言葉に、翼は静かに呟き、マリアが叫ぶ。

 

「そうだ! 翼の部屋、10年間そのままにしていたのではない。散らかっていても塵1つ無かった。お前との思い出を無くさないよう、そのまま保たれていたのがあの部屋だ! 娘を疎んだ父親がすることではない! いい加減に気づけ馬鹿娘!!」

 

マリアは翼に向かってそう叫びながら、翼の元へと駆け寄る。エルシドは顔だけを彼女に向け、静かに頷き呟く。

 

「『風鳴の道具』、『風鳴の剣』、それはお前が勝手に言っているだけだ。お前の父上である八紘殿は・・・・お前が道具になることを望んでなどいなかった。むしろ、『業深い風鳴の宿命』からお前を遠ざける為に、わざと冷たくしていたのだ。」

 

エルシドの言葉を聞き、翼は目尻に涙を浮かべる。 

 

「まさか、お父様は私が夢をわずかでも追いかけられるよう、風鳴の家より遠ざけてきた・・・・?」

 

翼は目を向けると、八紘は照れ臭そうにソッポを向いた。

 

「八紘殿も、お前と同じか、お前以上に不器用だからな。こんなやり方でしか、お前を守る事ができなかったのだ」

 

「それが、お父様の望みならば・・・。私はもう一度夢を見てもいいのですか・・・・?」

 

涙を流しながら八紘にそう問いかける翼。

 

「(コクン)」

 

「翼。やり抜き貫こうとする意思と覚悟があれば、夢は叶う事ができる」

 

それに八紘は静かに頷き、エルシドの言葉に、翼は再び立ち上がる。

 

「やり抜き貫こうとする思いと覚悟があれば・・・・夢は、叶う・・・・」

 

エルシドに言われた言葉を、翼は自分の内に響かせるように口にすると、エルシドと八紘は静かに頷き、翼は胸部に装着されたクリスタルに手をかける。

 

「ならば聴いてくださいお父様! エルシド!! イグナイトモジュール、抜剣!!」

 

翼はクリスタルを取り外して空中へと投げるとそれが杭のような形となり、それは彼女の胸部に突き刺さり、彼女の纏う天羽々斬は黒く染まり「イグナイトモジュール 天羽々斬」となった。

 

「ハッ!」

 

長刀へと変化したアームドギアを構える翼。

 

「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪」

 

「味見させていただきます」

 

歌を口ずさみながら翼はファラへと向かって駈け出し、翼はジャンプして長刀のアームドギアをファラへと振りか下ろすが、ファラはそれを真上に飛んで回避し、翼のアームドギアは塀を少し破壊した。

それを追いかけるように翼も跳び、アームドギアを横一閃に振るうが、ファラはそれすら回避して、地面に着地した。

 

『蒼ノ一閃』 

 

その瞬間、翼は大型化させたアームドギアを振るい、巨大な青いエネルギー刃を放つが、ファラはそれをソードブレイカーで薙ぎ払う。

そのまま翼は急降下してさらにアームドギアを大きくし、ファラに向かって振るったが、ファラはソードブレイカーでそれを防ぐ。

 

 

ークリスsideー

 

「つあああああああああっ!!」

 

クリスの腰アーマーから放たれた小型ミサイルがキャロルに迫るが、キャロルは適当な隔壁の前で障壁を張って小型ミサイルをずらす。

 

「オゥラッ!!」

 

カルディアが鞭のようにしならせながら振るう拳をアスプロスを片手で苦も無くいなしていく。

 

「ほぉ、少しは腕を上げたかカルディア? いい拳だ」

 

「へっ! だったら俺の拳に夢中にさせてやるぜっ!!」

 

「だが俺には届かんっ!」

 

アスプロスの拳から放たれる拳圧にカルディアは吹き飛ぶ。

 

「ふっ!」

 

大鎌のアームドギアをレイアに向けて振るう切歌だが、レイアはそれを回避してコインで反撃する。

 

「っ!」

 

調は、デジェルとマニゴルドと共にアルカ・ノイズを相手取り、『非常Σ式 禁月輪』でアルカ・ノイズを次々と切り裂き、さらにキャロルに向かって『α式 百輪廻』を放つが、障壁を防がれる。

 

「(ドクン)っ!」

 

ここでキャロルの肉体の拒絶反応が起こり、障壁が消えてしまった一瞬、手に持っていた『ヤントラ・サルヴァスパ』が鋸で弾かれ、切られてしまった。

 

「おいあれ壊して良かったのか?」

 

「オラ知らね」

 

アスプロスに弾き飛ばされたカルディアがマニゴルドの近くに着地し、『ヤントラ・サルヴァスパ』を破壊した事に難色を示し、マニゴルドも同意した。

 

「それよりもマニゴルド、カルディア」

 

「分かってるよ・・・・」

 

「ウザイのが来るぜ・・・・」

 

デジェルとマニゴルドとカルディアは、ウンザリしたような、辟易としたような渋面を作った。

 

「『ヤントラ・サルヴァスパ』が!? くぅっ!」

 

そしてキャロルはまた障壁を張るが、その大きさは手のひらサイズだった。

 

「その隙は見逃さねぇーーー!!」

 

そしてそれを見逃さないと、ガトリングガンと腰部ミサイル射出器の展開に背部に大型ミサイルを左右に各2基、計4基を連装する射出器を形成し、ミサイルが放たれた。

 

『MEGA DETH QUARTET』

 

クリスが放ち、それをレイアがコインを撃ち込んでミサイルをなんとか防ごうとする。

 

「地味に窮地!!」

 

それでも、全てのミサイルを相殺することはできず、撃ち漏らしたミサイルがキャロルへと迫る。

 

「マスター!!」

 

が、キャロルの後方にキャロルの等身大の孔が現れ、そこから、ニュッと伸びた手がキャロルの首根っこを掴み、キャロルの身体は孔の中へ入った。

 

「アスプロスかっ!?」

 

デジェルがアスプロスを睨むと、いつの間にかアスプロスがキャロルをお姫様抱っこしていた。

 

「アスプロス!」

 

キャロルはアスプロスの顔を見ると首に両手の回して抱きついた。

そして、クリスの放ったミサイルは、キャロルがいた地点の隔壁に命中した。

 

 

 

ー翼sideー

 

クリス達がキャロル達と交戦をしているのと時を同じくして。

翼は跳び上がって空中から大量の青いエネルギー剣を具現化し、上空から落下させ広範囲を攻撃した。

 

『千ノ落涙』

 

しかし、新たに取り出したソードブレイカーでファラは風を放ち、翼の技はその風にかき消されてしまう。

 

「幾ら出力を増したところで、その存在が剣である以上、私には毛ほどの傷も負わせることは叶わない・・・・。戦う相手を戻したのが仇になりましたね。ずっと山羊座の黄金聖闘士に任せておけば私を倒すことができたかもしれないのに」

 

そう言い放ちながらファラはソードブレイカーをもう一本を取り出して、ソードブレイカーを突き出しながら素早い動きで翼に突撃した。

 

【夢を見続けることを恐れるな!!】

 

【やり抜き貫こうとする意思と覚悟があれば、夢は叶う】

 

翼は八紘とエルシドの言葉を思い出し、その顔には一切の惑いが無くなっていた。

 

「それはどうかな? 今の私は・・・・剣にあらず!!」

 

翼は逆立ちと同時に横回転し、展開した脚部のブレードで敵を切り裂く技を繰り出した!

 

『逆羅刹』

 

ファラの突進を弾き飛ばし、ファラのソードブレイカーの刃を完全に破壊し、それにファラは驚愕の表情を浮かべる。

 

「あり得ない!? 哲学の牙がなぜ!!?」

 

「貴様はこれを剣と呼ぶのか・・・・? ・・・・否!! これは、夢に向かって羽ばたく翼!!」

 

両手に携えた刀のアームドギアと脚部のブレードから炎を発しながら、彼女は空中へと飛び立つ。

 

「貴様の哲学に! 翼は折れぬと心得よおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

『羅刹 零ノ型』

 

空中で高速回転しながら相手に突進し、敵を焼き斬る必殺剣をファラに炸裂させた!

 

「あははははは!!!」

 

ソードブレイカーごと笑うファラの身体は真っ二つに斬り裂かれようとしたその瞬間ーーーーーー。

 

ガキンッ!!

 

ファラの身体が氷の障壁によって守られ、翼の刃が氷に阻まれた。

 

「なにっ!!?」

 

「氷の、壁・・・・!」

 

「まさか・・・・」

 

「ようやく来ましたか、ガリィ」

 

翼と緒川が驚き、マリアがその氷の壁を見て察し、ファラは大きく飛び、風鳴邸の屋根に着地すると、その隣には。

 

「お久しぶり♪ ハズレ装者共!」

 

青を基調としたゴスロリ風の容姿をし、両手には亀裂まみれの青い籠手、『水のエレメントアームズ』を装備し、バレエのような挙動で立っているのは、以前マリアに倒される瞬間、アスプロスによって回収された、ガリィ・トゥーマーンが口を大きくニヤケさせていた。

 

「修復は完了したのかしら?」

 

「もちろん。ただ、ミカちゃんは身体が真っ二つになっていたからまだ少し時間がかかるけど、ね!」

 

ガリィは『水のエレメントアームズ』を翼達に向けると、巨大な雹を生み出し、次々と翼とマリア、八紘と緒川とエルシドに向けて放った!

 

「『乱斬』!!」

 

空かさずエルシドが散弾式の斬撃を放ち、雹を破壊した!

 

「ん~。さすがにこんなボロボロの『エレメントアームズ』じゃ、この程度か」

 

レグルスとの戦いで破損した『水のエレメントアームズ』をため息混じりに見て、ガリィは懐から、緑色のプレートアーマー、『風のエレメントアームズ』をファラに渡した。

 

「ありがとうガリィ」

 

「壊れる寸前の籠手に、最後のお仕事をさせてあげましょうか」

 

「ふふふ。そうね」

 

ガリィが『水のエレメントアームズ』を、ファラが『風のエレメントアームズ』をそれぞれ起動させると、風鳴邸内の気温が一気に下がった。

 

「こ、これは・・・・!」

 

「気温が下がっていっている・・・・!」

 

「あれが『エレメントアームズ』と呼ばれる、オートスコアラー専用の装備か」

 

マリアと翼が気温の低下に驚き、八紘は『エレメントアーム』を睨む。

ハア、と翼が息を吐くと、吐いた息が凍り付いた。

 

「なっ!? 吐いた吐息が一瞬で凍てついただと!?」

 

「っ!? 全員! 俺の後ろにまわれ!!」

 

エルシドは八紘を後ろにし、翼とマリアと緒川も、エルシドの後ろに回り、エルシドは小宇宙<コスモ>を高める。

ガリィとファラは笑みを浮かべる。

 

「氷と風と合わせ技・・・・」

 

「名付けるならそう・・・・」

 

「「『氷河期<アイスエイジ>』!!!」」

 

ビュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!

 

エルシドは壁となり、氷雪の竜巻が、風鳴邸を飲み込んだ!

 

 

ークリスsideー

 

「あ、アイツは・・・・!」

 

「やはりここにいたか・・・・」

 

クリスの放ったミサイルを片手で受け止める人物が現れ、粘着質の高い気持ち悪い声を上げる。

 

「エヘヘヘヘヘ・・・・。久方ぶりの聖遺物! この味は甘くとろけて癖になるぅ~~!」

 

「ハァ・・・・アイツかよ・・・・」

 

「ホントにしつこい・・・・」 

 

「なっ、嘘・・・・」

 

「嘘、デスよ・・・・」

 

クリスはその人物を見て驚きの表情を浮かべ、クリス以上に切歌と調が驚きの声を上げるが、すぐに気持ちを切り替えて、その人物を睨み。

デジェルとカルディアとマニゴルドは五月蝿いヤツが来たと言わんばかりにめんどくさそうな様子だった。

その人物は自分の無機質なまでの白髪を勢いよくかき上げーーー。

 

「嘘なものか! 僕こそが真実の人ぉっ!! ドクタァァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・ウェブベバァァァァァァァァァッ!!!!???」

 

「え???」

 

耳障りに叫び声を上げようとした人物の顔面に、拳大の大きさの隔壁の欠片と、調のヨーヨーのアームドギアが深くめり込んで、後ろにおもいっきり倒れ、クリスは間の抜けた表情を浮かべた。

 

「ア、アガ・・・・! アガゲガ・・・・!」

 

予想外だった痛みに、惨めに這いつくばる人物に向かって、欠片を投げたフォームの切歌が、大鎌のアームドギアを持ち直して構え、刃を三枚刃にして地面に少し擦らせると火花が散らせ、調はヨーヨーのアームドギアを下の地面に叩きつけて手元に戻し、地面に叩きつけては手元に戻しを繰り返しながら、地面を陥没させる。

 

「お、お前ら・・・・?!」

 

後輩二人の行動に唖然となったクリスは、自分の前に出る後輩二人の横顔を見て、息を飲む。

調の目が、切歌の目が、冷徹な光を放ち、しかし口元は優しく笑みを浮かべ、その笑みを見たクリスは、背中にゾッとした冷や汗が流れる。

なぜなら、今の調と切歌が、カルディアとマニゴルドの姿が重なって見えたからだ。

 

「お久しぶり・・・・」

 

「こんなところで再会するとは思わなかったデスよ・・・・」

 

二人は無様に這いつくばるその人物を冷酷に睨んでその名を呼ぶ。

 

「「ドクターウェルッ!!!!」」

 

その人物は、『フロンティア事変』の主犯。

マリアと調と切歌の育ての親とも言えるナスターシャ教授を宇宙に追放した悪党。

聖遺物を玩具にし利用して、無辜の命を無駄に犠牲にした快楽殺人者。

『冥闘士アタバク』の冥衣を利用していたが、結局アタバクの掌で踊らされ黄金聖闘士に惨敗した敗残者。

『英雄を気取る外道』。

『悪神の掌で踊り狂った道化』。

『妄想に酔いしれた愚物』。

 

「こ、このガキ共ォオオオオオオッッ!!」

 

その名も、『ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー響sideー

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

夜の病室で、響は携帯の着信履歴に表示された父・洸の名前を静かに見つめていた。

 

『まったく、自分を捨てた父親を完全に拒絶できず、さりとて歩み寄る事すらできない、どこまでも半端者だな』

 

「っ!?」

 

突然病室に響いた声に響は、ビクッ、となるが、響の病室に、一瞬光りが輝くと、響の病室に、暗がりに隠れているが、二人の人物が立っていた。

その内の1人が、暗がりからその姿を露にする。

 

「あ、あなたは・・・・アスミタさん・・・・!?」

 

「・・・・・・・」

 

『乙女座<ヴァルゴ>のアスミタ』が、盲目の目元をわずかに不愉快に歪める。

 

「久しいなガングニール。相も変わらず分かりやすい無駄な空元気を振り撒いて、周りを心配させているようだな?」

 

「うぅっ・・・・・・・・・・・」

 

響は正直アスミタが苦手だった。アスミタは現れる度に自分の失敗を手酷く糾弾し、その度に響は自分のやっている事が間違いだ、と、いつも言われているみたいで、アスミタに苦手意識があったのだ。

 

「なんだそのいじけた目は? いつもよりも情けないな」

 

「っ・・・・・・・・・・・」

 

「フン・・・・・」

 

「えっ?」

 

アスミタから目をそらす響に、アスミタは何も言わずに後ろに下がった。響は以外だったのか、首を傾げる。

 

「説教でもされると思ったか? 自惚れるな。今の君には“説教する価値”すらない」

 

「っ・・・・・・・・・・・」

 

響はアスミタの言葉に下唇を噛む。

 

「君の相手は、彼がする」

 

アスミタの近くにいた人物も、暗がりからその姿を見せた。響はその人物を見ると、驚愕した。

 

「あ、貴方はっ!!?」

 

その人物は、響に優しい微笑みを浮かべて、唇を開いた。

 

「はじめまして、立花響君。俺はシジフォス。レグルスの叔父、射手座の黄金聖闘士、『射手座<サジタリアス>のシジフォス』だ」

 

今、悩み迷う撃槍の前に、『至高の英雄』が現れた!

 

 




100話に来て、ようやく登場できました。ドクターかと思ったら残念! 射手座<サジタリアス>のシジフォスでした!

次回、調と切歌がドクターの相手をします。原作ではドクターを庇いますが、この世界のきりしらコンビは、保父さん二人から仕込まれましたから、結構容赦無くしようと思います。
つか、ドクターって・・・・キャロルサイドでも、居場所無いですね。

戦力:アルカ・ノイズは勿論。オートスコアラーは全員健在(さらにパワーアップを予定)。最強クラスの双子座がいます。

頭脳:アスプロスの前では雑魚。だって神すら欺く男ですから。

ネフェリム使っても、シンフォギアはともかく聖闘士達にはまるで通用しない。

あれ? 必要無いですね。


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道化再び

調と切歌の、ウェルとの戦闘描写を書いていたら時間がかかりました。
この世界二人がウェルを庇う理由は有りませんからね。おもいっきりやらせます。


デジェルとクリス、マニゴルドと切歌、カルディアと調がアスプロス達と交戦しているのと同じ頃。

 

竜宮のある牢屋では、壁や床に数式や図形を殴り書きされており、無機質な白髪に白衣を着用し、異形の左腕を持つ男性、ドクターウェルは小皺にあみれた顔に不気味な笑みを浮かべていた。

 

「・・・・花火が上がった、騒乱は近いならば・・・・求められるのは、英雄だ! そして、遂に来たのだ! 復讐の時がぁっ!!!」

 

そしてクリス達の戦闘の影響によって牢屋が破壊され、牢屋から脱出したウェルは、左腕にクリスの放ったイチイバルのミサイルを吸収し、装者達の前に立ちはだかったのだが・・・・。

 

現在ーーーー。

 

「こ、このガキ共ォオオオオオオッッ!!」

 

劇的に登場しようとしてすぐに、調のヨーヨーのアームドギアと、切歌が投げた牢屋の瓦礫の破片を顔面に叩きつけられ、起き上がり、調と切歌に向けて醜悪に顔を歪めて睨んだ。

 

「・・・・こんなところに収容されていただなんて」

 

「『フロンティア事変』の主犯が、聖遺物の物置のような場所に置かれたんデスな?」

 

冷めた態度の調と切歌に、ウェルは嘲弄するように舌をダランと出して喚く。

 

「へっへ〜ん! 旧世代のリンカーぶっ込んで、騙し騙しのギア運用と言う訳ね。優しさで出来たLiNKERは、僕が作ったものだけぇ!!そんなので戦わせてるなんてぇ!! 不憫過ぎて笑いが止まゴベエッ!!!」

 

ウェルが金切り声をあげる途中、今度は調が瓦礫の破片をウェルの口に向けて投げつけた。

 

「ひたが(舌が)! ほくのひた(僕の舌)がぁぁぁぁっ!!!」

 

それにウェルは出していた舌を噛んだのか、汚ならしい悲鳴をあげながら、痛みによって後ろに倒れてゴロゴロと悶える。

 

「不憫と無様の一等賞が何を言ってるデスか?」

 

「アタシの一発を止めてくれたな・・・・」

 

ゴミでも見るように冷めた目付きの切歌がそんなことを言っていると、不意にクリスが忌々しそうに小さく呟き、それを聞いた調と切歌が不思議そうに彼女を見て首を傾げる。

 

「クリス、待て!」

 

その様子にはデジェルは落ち着かせようと声をかけるが、クリスは調と切歌の視線やデジェルの声も聞き入れず、ウェル達を睨み付ける。

 

「(後輩の前でかかされた恥は、100万倍にして返してくれる!!)」

 

クリスはアームドギアを構えて攻撃の態勢に入ろうとするが、それをすぐに切歌と調が止めに入る。

 

「待つデスよ!!」

 

「ドクターをぶちのめすのは・・・・!」

 

「「私達がやる(デェス)!!」」

 

「はぁ?」

 

冷徹にウェルを睨む二人に、クリスは唖然と呟いた。

 

 

 

ーマリアsideー

 

風鳴邸にて、ファラと復活してきたガリィの『風のエレメントアームズ』と『水のエレメントアームズ』による合わせ技、『氷河期<アイスエイジ>』によって風鳴邸は氷雪の暴風に包まれた。

暴風が止むと、庭は雪と氷に埋め尽くされ、風によって舞い上がる雪煙がファラとガリィの視界に広がった。

 

「あらあら、これじゃ全員凍死しちゃったかしら?」

 

「ざ~んねん。あのハズレ装者のシンフォギアを砕きたかったのに」

 

台詞とは裏腹に、その顔はしてやったりの喜色を浮かべるガリィ。

しかしーーーー。

 

フォオオオオオオオオオオオオ・・・・。

 

突如、雪煙に覆われていた風鳴邸の庭で、小さな竜巻が静かに巻き起こった。

 

「これは・・・・」

 

「どうやらガリィ、あなたのもう一人の獲物が来たみたいよ」

 

竜巻に混じった“黒い薔薇”を見て、ガリィとファラは何が起こったか察した。

竜巻が収まると、翼とマリア、緒川と八紘を庇うように立っていたエルシドの前に、さらにもう一人立っていた。

ウェーブがかかった水色の長髪が風に靡き、芸術品がそのまま動いたかのような、暴力的に美しすぎる顔立ちをした、マリアと同い年くらいの男性。

 

「ア、アルバフィカ・・・・!」

 

マリアが感極まったように声を出し、瞳から一筋の涙を流してその男性を見る。

 

「久しぶりだな。マリア」

 

その名を、魚座<ピスケス>のアルバフィカ。

 

「もう、いつまで、待たせる、つもりだったのよ・・・・!」

 

アルバフィカの顔を見たマリアは、涙を堪えるように呟いた。

そしてエルシドは、アルバフィカが担いでいる物に目を向けた。

 

「アルバフィカ、それは?」

 

「ああ、八紘殿から許可を貰ってな。持ってきたのだ」

 

担いでいる物を見た瞬間、翼とマリアは驚き、エルシドは小さく口角を上げた。

 

 

ーマニゴルドsideー

 

マニゴルドは目の前で口を切って身悶えているウェルをまったく興味無しな態度で、調にさっきデジェルから“貰った紙”を渡してその場を離れ、キャロルを抱えたままのアスプロスとオートスコアラー・レイアと交戦を再開しているカルディアに合流し、アスプロスに告げる。

 

「どうするよアスプロス? お前らの目的であった『ヤントラ・サルヴァスパ』は、ウチのデカ乳ちゃん<クリス>が破壊しちまったぜ?」

 

「ふっ。あれは“保険”として用意しておこうと思っていた“予備”に過ぎん。『チフォージュ・シャトー』はすでに俺の意のまま動く。それにこの『深淵の竜宮』に来た目的は、他にもあるしな」

 

既に『チフォージュ・シャトー』はアスプロスが完全に掌握し、あくまで『ヤントラ・サルヴァスパ』は、アスプロスが聖闘士との戦闘で手一杯の状況になったとき、キャロルに『チフォージュ・シャトー』を任せる為に用意しようとしていた“保険”だったので、それほど損害に感じていなかったようだ。

 

「ああそうかよ。所でさ、俺もそろそろ暇だし、カルディアと交代して相手してくれねえか?」

 

「アレ<ウェル>は良いのか?」

 

「あんなのの相手なんてな、切歌と調だけで十分だ」

 

「確かにな。俺達がわざわざ相手をする程の獲物じゃねえしな」

 

マニゴルドにしろ、カルディアにしろ、クリス達の側にいるデジェルにしろ、ウェルの事はまるで眼中に無かった。

アスプロスも同意するように頷く。

 

「そうか。しかし俺はキャロルを守らなければならんからな。マニゴルドよ、お前の相手は、コイツがしてくれる」

 

「タリホーーーーーーーーー!!」

 

アスプロスの後方の景色がガラスが割れたかのように砕けると、オートスコアラー・ミカが飛び出し、圧縮カーボンをマニゴルドの頭目掛けて振り下ろした。

 

「うおっと!?」

 

しかしマニゴルドは寸前で避け、チリッと、髪の毛をかすった。

 

「久しぶりだゾ! 蟹座<キャンサー>!」

 

赤を基調とし、ゴスロリ服に赤い髪を大きな縦ロールに巻いた、両手には大きなかぎ爪を装備したオートスコアラー。先日切歌と調に身体を斬られた傷を修復された。ミカ・ジャウカーンだ。

 

「なんだよテメエかよっ!」

 

マニゴルドはそのまま、ミカと交戦を始めた。

するとレイアが、デジェルに向かって、コインが弾丸のようなスピードで迫り来る!・・・・が、デジェルは片手で余裕にキャッチした。

 

「水瓶座<アクエリアス>、私の相手を派手にしてもらおう」

 

「流石にしつこいな・・・・」

 

「デジェル兄ぃ・・・・」

 

クリスがデジェルを一瞥するが、デジェルは安心しなさいと言わんばかりにクリスの頭を撫でると、レイアに相対した。

 

「っ!」

 

レイアは次々とコインを弾き飛ばすが、デジェルは凍技でコインを凍てつかせながら、レイアと交戦する。

 

「さてと、アスプロスよ? その抱えている錬金術師なんて置いて、俺と戦ろうぜ?」

 

「アスプロス・・・・」

 

「安心しろキャロル。丁度良いハンデになる」

 

「・・・・そうかよ!」

 

キャロルを抱えたまま戦おうとするアスプロスに、カルディアは少し腹を立てるが、爪から赤い衝撃波を放つも、アスプロスは難なく回避した。

 

 

 

ー切歌sideー

 

「僕を、ぶちのめす?・・・・プッ! プヒヒッ! ヒャァアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!! ぶぅわぁかめっ! お前らみたいな出来損ない共が、この真実の英雄であるこの僕を倒せるとでも?! お前らなんか僕の相手にならねえんだよっ! 僕が倒すべき相手は、ヤツらだぁあっ!!!!!」

 

ウェルは怨恨に満ち満ちた眼で、キャロル一派と交戦している黄金聖闘士達を睨んで指差した。

 

「・・・・カルディア達?」

 

「アンタは、まだ聖闘士の人達を殺すだなんて言っているデスか? あんな見事にボロ負けしたくせにデス?」

 

調と切歌は、『フロンティア事変』で黄金聖闘士達に完膚無く敗北したにも関わらず、まだ聖闘士達を殺す気でいるウェルに呆れた眼差しになるが・・・・。

 

「ん、ん、んん♪ 全く低脳はこれだから・・・・。一体誰が『負けた』と言うのかねぇ~」

 

ウェルはそんな二人の目線を侮蔑の眼で一瞥すると、小馬鹿にしたようにふざけた態度になり、それに調と切歌の後ろにいたクリスが前に出る。

 

「テメェの脳ミソこそ、薄暗い牢獄の中でさらにカビが生えたんじゃねえのか? あんなに盛大にボロ負けしたことを忘れてのかよ?」

 

「はあぁ~、これだから低脳は本当に困るよ。あの時僕が負けたんじゃない。あの『ぺてん師』が負けたんだよ。あの『アタバク』って名前の口先野郎がなっ!」

 

ウェルは今まで溜めていた恨み言を吐き出した。

 

「あの時! 僕は本来なら勝っていた筈だったんだ! 僕の作り出した最高のLiNKERの力で、移植したネフェリムの力によって! 僕は冥衣<サープリス>を完全に使いこなせていた筈だった! それを! あのアタバクって名前の、『冥界で最も神に近い冥闘士<スペクター>』と嘯いている大ウソつきのぺてん師野郎って異物がいたお陰で! 僕は冥衣を完全に使うことができなかった! あの最後の瞬間<アルバフィカに殴られる時>! 本来なら僕の“秘めたる力”が発現して! 僕は! あそこにいる! 『旧世界の異物』! 『別世界の異分子』共に無様を晒す事は無かった!! そう! 負けたのは僕じゃない! 負けたとすれば、僕の冥衣を奪ったアタバクの方だっ!!!!」

 

つまり自分が負けたのは、“アタバクが冥衣の力を引き出すのを邪魔したから”、と喚くが、クリスも切歌も調も、半眼になって呆れた。

 

「なんだよ、この見苦しいまでの負け惜しみ?」

 

「アタバクがアイツの邪魔をしていたデスか?」

 

「逆にアタバクが冥衣を使えるようにしてくれたんだから、むしろドクターは感謝するべきだと思う・・・・」

 

アスミタと最後の決戦をし、お互いの奥義を放ちあった時、装者達どころか、同じ黄金聖闘士達も割り込めない戦いを繰り広げ、危うく地球の半分を消滅しかけ、『神に近い闘士』と呼ばれるのを納得するほどの圧倒的な力と、威圧感、存在感を示したアタバクの姿は、今でも装者達の記憶に刻まれていた。

ウェルは『ぺてん師』だとか『大嘘つき』と罵り、「冥衣は自分の物だ」と叫ぶが、本来なら『完全聖遺物・アタバクの冥衣』は、魔星に選ばれた存在であるアタバクの鎧であり、ウェルはネフェリムの細胞の力で、冥衣の上澄みの力だけを引き出していただけで、冥衣の真の力の一編も引き出せていなかった。

しかしウェルは自分の落ち度を認めようとしなかった。まさに盗人猛々しい理論だ。

 

「そう! 僕は負けてなどいない! 負けたのはアタバクなのだ! そして! 僕は辛酸を舐めた牢獄の中で気づいたのだ! 黄金聖闘士と言う金メッキで作られたロートルヒーロー達を倒す事で! この世界の真実にして絶対の英雄! ドクターウェルが世界に降臨するとなあ! 散々散々この最大最高の英雄であるこの僕に陥れてきたゴミ共よ! この英雄が戻って来たぞおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

ウェルは黄金聖闘士達への、逆怨みとも言える憎悪を剥き出しにして睨み喚きながら、聖闘士を指差すが・・・・。

 

「うるせえっ!! さっきから耳障りなんだよっ!!」

 

「テメエなんざお呼びじゃねえんだっ!!」

 

「今こちらは忙しい。邪魔はやめて貰おう」

 

当の聖闘士達は、まるで相手にしていない。むしろアスプロス&キャロル、レイアとミカの相手をしているから邪魔だ、と言わんばかりで、ウェルの事などまるで眼中に無かった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

ウェルは聖闘士達を指差した姿勢のまま、硬直していた。

 

「ダセえ・・・・」

 

「相手にされてないデスね」

 

「・・・・プッ、カッコ悪い」

 

クリスと切歌と調も、そんな滑稽なウェルに、プッ!と、吹き出す。

そして、自尊心だけは常人より高いウェルに取っては、屈辱以外の何物ではなく。

聖闘士達を視線だけで呪い殺しそうな怨嗟と憎悪に満ち血走った眼で睨んだ。

 

「テ、テテテテテテ、テメエらぁぁああああああああああああああああああっ!!!」

 

雄叫びをあげるウェルに、切歌と調が同時に飛び出した。

 

「あああああああああっ!! 本当に腹立つっ!! この僕を無視しやがってぇええええええ!! いいさ! いいさぁ!! 先ずは出来損ないの小娘コンビをっ!!」

 

ウェルが向かって来る二人を見せしめに潰そうと狙うが、二人は直ぐに左右に別れ、挟み撃ちするように向かった!

 

「デェスッ!」

 

「ふっ・・・・!」

 

切歌が『切・呪リeッTぉ』を放ち、調が『α式 百輪廻』をワンテンポ遅れて放つ。

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒ! この僕のネフェリムに! そんな攻撃が通じるものかぁっ!!!」

 

ウェルが緑色の刃をネフェリムの左腕で吸収した。『暴食』を冠する巨人、『完全聖遺物・ネフェリム』の細胞のほんの一部を自身の作成したLiNKERと共に左腕に注入し、異形の腕へとなった。

ネフェリムは聖遺物を操作、吸収する能力を有しており、聖遺物・シンフォギアで戦う装者の天敵とも言える。

しかし、あくまで“聖遺物にだけ有効”なので、この世界で人類最強の風鳴弦十郎と同格か弦十郎以上のレグルス達黄金聖闘士には通じない。

 

「ウェッヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘっ!!!」

 

ウェルは今度は反対方向から迫る桃色の丸鋸を吸収する。すると、調がヨーヨーを構えてウェルに迫った!

 

「この僕がお前らごときにあぎゃっ!!??」

 

嘲笑しながら調はネフェリムの左腕で殴ろうと構えるが、後頭部を殴られ悲鳴を上げた。

 

「な、な・・・・!」

 

振り向くと、切歌が大鎌のアームドギアの柄で、ウェルの後頭部を殴ったかのような姿勢を取ってほくそ笑む。

 

「だらしないデスなぁ? 英雄さん?」

 

「こ、このガキボグッ!!」

 

今度は、調の投げた2つのヨーヨーが、両頬にヒットし、悲鳴を上げた。

 

「切ちゃん!」

 

「デェス!」

 

切歌と調は再びウェルから距離を取ると、左右から攻め立てた!

 

「な、なんだよこれっ!? 何でこんなぁっ!!」

 

ウェルはほぼ混乱状態で左腕を振り回すが・・・・。

 

「デェスっ!」

 

「ふっ・・・・!」

 

しかし調と切歌は、ウェルの攻撃を見切っているかのように左腕を回避し、調が攻めに転じてウェルが応戦しようとすれば、切歌が死角から攻撃を当て、逆に切歌が行けば調がヨーヨーを使った多角的な攻撃でウェルを攻め立てた!

 

「ち、ちくしょう! ちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

 

黄金聖闘士だけでなく、旧世代LiNKERを使っている(と、思い込んでいる)小娘二人に良いようにやられている現状に、ウェルは錯乱状態となり、遮二無二に左腕を振り回すが、切歌と調はもはやウェルの動きを完全に見切ったように左腕を避けて、さらに攻め立てた!

 

「何でだよっ!!? 何なんだよこれはっ!!」

 

「分からないデスか?」

 

「なにぃっ!?」

 

ウェルは切歌の言葉に反応した。

 

「いくらネフェリムの細胞を注入していると言っても、あなたの“攻撃方法は左腕だけ”、それにさえ気を付けていれば・・・・」

 

「戦闘経験0で、戦いはいつもノイズとかアタシ達に任せてコソコソしていただけのド素人なんて、怖くもなんともないデェス!」

 

ネフェリムが如何に『聖遺物の天敵』とは言え、使っているのは戦士ではないウェル。

言うなれば、一般人に武器をあげただけ、その武器の使い方や武器を生かした戦術なんてまるで理解していないから、マニゴルドとカルディアによる訓練(と言う名のイジメ)を積んできた調と切歌にとって、ウェルの動きを見切るだなんて造作もなかった。

 

「ちきしょうちきしょおおおお! 分かっているのかっ!? 僕に何かあったら、LiNKERは永遠に失われてしまうぞ!! そんな旧世代LiNKERしかないんだからなっ!!!」

 

ウェルの言葉に、調と切歌は冷めた態度で答えた。

 

「別にいいデスよ」

 

「あなたの作ったLiNKERよりも、“デジェルさんが作ってくれたLiNKER”の方がずっと優れているしね」

 

「な、なんだとぉっ!?」

 

調は、さっき“マニゴルドに渡された紙”、『深淵の竜宮』に来るまでにデジェルがプリントアウトした『LiNKERの成分表』をウェルに投げ渡した。

ウェルはその紙を見ると、手をワナワナと震わせ、歯をガチガチ鳴らし、目をさらに見開いて血走らせる。

 

「な、ななななな、う、ううぅう嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だああああああああああああああああっ!!!」

 

完全に錯乱したウェルは、成分表の紙を乱暴に引き裂くと、両手で地面をダンダンっと、叩き続けた。

 

「僕だけだ! 僕だけだ! 僕だけなんだ! 僕以外に! 僕より優れたLiNKERを生成できる人間なんて! いるわけ無いんだあああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!」

 

両手で頭を抑えてブンブン振りまりながら錯乱しまくったウェルを調と切歌が冷徹に見据えた。

 

「(後輩達は、もうあんなに戦えている・・・・それなのに、アタシは・・・・!)」

 

そして、後輩達の成長を見たクリスの心には、暗雲が立ち込めていた。

 

 




ウェルって、自分以外が自分よりも優れたLiNKERを作るのを許さないタイプだと思ってこうしました。


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許したくない感情

かなり遅れてすみません。



ー数十分前・アスプロスsideー

 

『深淵の竜宮』で目当ての物を回収したアスプロスは、一度『アナザーディメンション』でアジトである、『チフォージュ・シャトー』に移動すると、ちょうど棺の形をした修復装置の中から出てきたガリィに話しかける。

 

「ガリィ、ちょうど良い時に修復を終えたな」

 

「ええ、アスプロス様のおかげですよ」

 

マリアとの交戦から、しばらく修理中だったガリィは、スカートの端をつまんで小さく笑みを浮かべ、優雅にお辞儀しすると、まだ修復中のミカに目を向ける。

 

「あらら~、ミカちゃんはまだ修理中ですかぁ?」

 

「早く出して欲しいゾ!」

 

含み笑いをするガリィに対し、ミカは憮然としながら修復を催促する。

 

「まあそう吠えるなミカ。お前のボディの修復も間もなく終わる。・・・・が、その前に、やっておく事があるのでな」

 

アスプロスがそう言うと、『アナザーディメンション』で、『穴』を四つほど開けると、そこから、『無機質な青銅色をした動物のオブジェ』が四つほど下りてきた。

 

「ンフッ!」

 

「オオッ!」

 

それを見てガリィとミカは、待ってました! と言わんばかりの笑みを浮かべ、アスプロスは『深淵の竜宮』で見つけた代物と、響達がナスターシャ教授の遺体が乗ったシャトルを救出する際、破壊した山岳で見つけた代物を取り出した。

 

「『深淵の竜宮』で見つけた、『オリハルコン』。S.O.N.G.の装者達がシャトル救出の時に破壊した山岳から見つけた『銀星砂<スターダストサンド>』。これですべてが整った。・・・・さぁ完成だ!!」

 

アスプロスが、オブジェの上に錬成陣を展開させ、『オリハルコン』と『銀星砂<スターダストサンド>』を交互に錬成陣に通過させると、錬成陣から光の粒子がオブジェに降り注ぎ、四つのオブジェがそれぞれ、『赤』、『青』、『緑』、『黄』の光を放ったーーーーーー。

 

 

 

 

 

ー響sideー

 

響は目の前に突然現れた人物に、胸の内を明かした。

 

射手座<サジタリウス>のシジフォス。

 

黄金聖闘士の中心人物であり、レグルスの叔父。

前ガングニール装者天羽奏と恋仲であり、翼や弦十郎達S.O.N.G.メンバーからも厚い信頼を寄せられた人格者。

彼は乙女座<ヴァルゴ>のアスミタと共に現れ、響のベッドの近くに置かれたパイプ椅子に座ったシジフォスが、響に話しかけた。

 

「立花響くん。君はどうやら、何かを思い悩んでいるな? 良かったら、俺に話してくれないか。君の事を少しでも知りたいんだ」

 

「・・・・・・・・」

 

落ち着き、それでいて優しく、どこか安心感を与える力強さの言葉に、響はつらつらと話し出した。

自分と家族を捨て、すっかり落ちぶれた父の姿。今更家族に戻りたいと都合の良いことを話す父に対して、響は父を信じられなくなり、さらにレグルスとも険悪な関係になってしまった事。

レグルスに関しては、戦えなくなった自分の代わりに戦ってくれたマリアに対する態度が悪かったと、頭では理解しているが、なぜか心がレグルスに対して意地を張っていた。

響も、自分は父に『壊れてしまったモノは元には戻らない』という諦めの感情を抱いた事を告げる。

 

「そうか、自分の父上を・・・・」

 

シジフォスは、顔をわずかに伏せながら、響の話を真摯に聞き入れた。

 

「私、お父さんが信じられないんです・・・・家族を見捨たくせに、メチャクチャにしたくせに、何も悪気が無いお父さんの態度が、本当に許せないんです・・・・!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

シジフォスは、無言のまま、響に頭を下げた。

 

「シジフォスさん?」

 

「すまなかった、立花響君・・・・」

 

「えっ?」

 

「3年前のライブ襲撃事件の詳細は、アスミタから聞いた。あの事件は了子、イヤ、破滅の巫女フィーネが引き起こした事件であり、君たち立花家の人達が世間からの迫害から守る事もせず、君たち家族をメチャクチャにしたのは、フィーネの正体に気づかず、君たちを守れなかった我々二課の怠慢でもあった。・・・・本当にすまない」

 

「そんな、シジフォスさんや師匠達も、了子さんも悪くありません! 悪いのは・・・・」

 

「君の父上にも、悪いところはない」

 

「っ・・・・!」

 

「イヤ、家族に手を上げて、家族を守ろうともせず逃げ出した事には確かに責任はある。しかし、彼もまた被害者の1人とも言える。何も悪い事をしていないにも関わらず、周りに迫害を受け、精神的に追い詰められていたのだ」

 

「でも、お父さんは見捨てたんです。お母さんを、おばあちゃんを、私を・・・・!」

 

父・洸もまた被害者。

本来憎まれるべきは、事件の発端である櫻井了子<フィーネ>と、何も知らないくせに立花家に迫害を行った無知な市民達。

しかし響は了子と市民を怨む事はせず、その感情を、家族の絆を壊した父・洸にその矛先を向けていた。

 

「確かに。それは事実だろう。だが、父上はやり直したいと、償いたいと思っているのではないかい?」

 

「・・・・・・・・“壊れてしまったモノは、元には戻りません”」

 

「ーーーーーー!」

 

俯いた響が、諦めの感情を吐露すると、シジフォスの後方にいたアスミタが、盲目の瞼を一瞬不快そうに歪め、全身から僅かに怒気が溢れそうになるが、シジフォスが片手を上げて制した。

 

「確かにそうかもしれない。一度壊れてしまったものを元に戻すのは容易な事ではない。だが、それで諦めて良いのかい?」

 

「えっ・・・・」

 

「聞いたところによると、君は最初の頃は、翼とは不仲であり、他の装者のみんなとは敵対していた。だが、君が彼女達の手を繋ぎ、“壊れていた彼女達の心を繋ぎ合わせた”のではないのか?」

 

「あ・・・・」

 

「私たち聖闘士は、家族なんて“最初からいないも同然”だった。だから君の苦しみを理解できないかもしれない。だが、壊れてしまったものを繋ぎ合わせる事ができるんだ。君が奏から受け継いだ“想い”ならば、それができる。“諦めてしまっては、誰かと繋がる事はできない”」

 

「でも・・・・でも・・・・!」

 

響は俯きながら、毛布を握っていた手をきつく締める。

“諦めてしまっては、誰かと繋がる事はできない”。

この言葉の意味は理解できる。今まで翼やクリス、マリアに切歌に調、黄金聖闘士のみんなや、弦十郎達S.O.N.G.の人達や学友のみんな、そして未来とレグルス。

みんなと繋がる事ができたのは、響自身が諦めなかったからだ。

だが、それでも、父・洸へのわだかまりを消すことはできなかった。

 

「・・・・立花響君。君は父上を許せないかい?」

 

「・・・・はい」

 

シジフォスの言葉に逡巡した響は、小さく頷いた。

 

「響君、君は本当に優しい少女だ、許せない事なんて無い筈だ。それはきっと、君が“許さないだけ”だ。“許したくないだけなのだ”。君は本当は、“父上を許そうとしている”」

 

「私が、“お父さんを許そうとしている”?」

 

「父親からの着信を拒否しないのも、その心情が無意識に出ているからではないかな?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

シジフォスの指摘され、響は携帯に表示された、父・洸からの着信履歴に目をやった。

許せないと思っている。信じられないとも思っている。だが、心の何処かが、父・洸との繋がりを失いたくないとも思っている。

そのジレンマが、響が父・洸を完全に拒絶できない理由になっていた。

 

「響君、君が“本当に優しい子”で良かった」

 

「えっ・・・・?」

 

首を傾げる響の頭を、シジフォスがソッと優しく手を置き、優しく笑みを浮かべて語る。

 

「君はこれまで、奏から継いだ槍で多くの人達を助け、時に道を誤った装者達の手を繋ぐ架け橋になってくれた。奏のシンフォギアを受け継いだのが、君のような人で、本当に良かった」

 

「ーーー!」

 

「父上の事を許したくないのも分かる。だが、君ならばできる筈だ」

 

「私なら・・・・?」

 

「壊れた家族の絆を、君ならば繋げるができる筈だ。君が翼達と手を繋いだように」

 

「・・・・・」

 

頭を撫でるシジフォスの手の暖かさに、響は心地良さを感じていた。

 

 

 

ークリスsideー

 

「嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だぁ・・・・! 僕はまた悪い夢を見ているぅ・・・! また悪夢を見ているに決まっているぅぅ・・・・! 僕以外に、僕の作ったLiNKERより、優れたLiNKERを作れる人間なんていないんだぁ・・・・! こんなの現実じゃない、現実な訳がないんだぁぁぁぁ・・・・!!」

 

調と切歌とクリスは、『デジェル製のLiNKERの成分表』を見てから、両膝を付いて、無機質な白髪の頭を両手で抱えるように持って、蚊の鳴くような声で言葉をブツブツと呟きながら、現実逃避をするドクターウェルを、憐憫な気持ちで見ていた。

 

「ここまで来ると憐れデスね」

 

「でもドクターが作ったLiNKERよりも、デジェルさんの作ったLiNKERの方が優れているのは事実だから」

 

「デスな。もしも『デジェルさん特製LiNKER』が無かったら、アタシと調、アイツを庇わなければならなかったかもしれないデェス」

 

「考えただけでもゾッとするね」

 

切歌の言った“もしもの可能性”を想像して、切歌と調は、まるで素手で黒いGを掴んだ方がまだマシ、と言わんばかりに顔をしかめた。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

クリスは、最後に残った『生科学者としての自尊心』まで粉砕され、すっかり意気消沈となり、茫然自失となったウェルを取り敢えず無視して、聖闘士とキャロル一派の戦闘を見やった。

 

 

ーマニゴルドVSミカー

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

「オゥラァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

ミカが振り回す圧縮カーボンの攻撃を、紙一重で回避し、マニゴルドは拳でミカを攻撃するが、ミカもカーボンで防いで反撃し、マニゴルドは回避して反撃し、ミカも防いで反撃と、攻防を繰り広げていた。

 

 

ーデジェルVSレイラー

 

「っ!」

 

ババババババババババババババババ・・・・!

 

レイラがコインをデジェルに向けて乱射するが。

 

「・・・・」

 

ピキィィィィィィィィンっ!

 

しかし、デジェルが指を振ると、発射されたコインは全て氷に包まれ失速し地面に落ちた。

 

「私のコインが凍てついている。やはり貴方の凍技は派手で美しい。私の相手を派手にしてもらうよ」

 

「私はあまり派手なのは好きではない。君の趣味にこれ以上付き合うつもりはない」

 

さらにコインを弾き飛ばすレイアに、デジェルは冷静に凍技を駆使して相手取っていた。

 

 

 

ーカルディアVSアスプロス&キャロルー

 

「シャァッ!!」

 

「フン・・・・」

 

カルディアが、右手人差し指の長く伸ばした赤い爪を突き出して真紅の衝撃波を放つが、キャロルをお姫様抱っこで抱えているにも関わらず、軽やかな身のこなしで回避していた。

 

「カルディア。少しは腕を上げたようだが、変な所で甘いヤツだ。キャロルを気にして攻撃のキレが甘いぞ」

 

「言ってくれるじゃねえか!!」

 

カルディアがアスプロスに向けて衝撃波を放ち、アスプロスはそれを回避する。

 

 

ークリスsideー

 

「チッ。これじゃ援護も必要ねえな・・・・」

 

「まあマニゴルドもカルディアも、タイマン邪魔されるのを一番嫌がる性格デスからね」

 

「デジェルさんも大丈夫みたいだね」

 

装者組は援護の必要がない戦況を黙って見ていたが、ミカとレイアがアスプロスの元に集まった。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

「アスプロス。完成したのか?」

 

アスプロスの腕の中にいたキャロルが、ようやく身体の調子が戻ったのか、アスプロスから降りる。

 

「ああ、そろそろお披露目と行こう。・・・・ミカ、持ってきたか?」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒ。バッチリダゾ!!」

 

ミカは口をニンマリと口角を上げると、懐から、『赤の結晶体』と、『黄色の結晶体』を取りだし、『黄色の結晶体』をレイアに投げ渡した。

 

「フッ。ようやく・・・・!」

 

レイアもまた、薄く笑みを浮かべる。

 

 

ーマリアsideー

 

時を同じく、雪にまみれた風鳴邸の庭園で、ガリィとファラと交戦している翼とマリア。

 

「ハァアアッ!!」

 

「クッ!」

 

「ヤァアアッ!!」

 

「チィッ!」

 

イグナイトを抜剣させたマリアと、まだ活動時間内の翼が、ガリィとファラを攻め立てた。

 

「フッ!」

 

ファラが風を巻き起こして雪煙を上げて二人の視界を遮り、後方に跳んで距離を空けた。

 

「流石に手強くなったわね」

 

「向こうだけパワーアップするのはズルいと思わないファラ?」

 

ガリィは懐から、『青い結晶体』と『緑の結晶体』を取りだし、『緑の結晶体』をファラに渡した。

 

「アラ、完成したのね」

 

「ウフフ。それじゃあ、あの装者達に見せてあげましょう」

 

「ぬ?」

 

「なんだ、あの結晶は?」

 

二人が持つ結晶体をエルシドとアルバフィカが訝しそうに睨む。

 

 

 

 

『深淵の竜宮』と風鳴邸にいるオートスコアラー達が結晶体を足元に叩きつけると結晶体が砕け、そこからそれぞれのパーソナルカラーの魔法陣が展開され、そこから、オブジェが現れた。

 

『赤いサーベルタイガー』の形をしたオブジェ。

 

『黄色いオオカミ』の形をしたオブジェ。

『青い鮫』の形をしたオブジェ。

 

『緑色の孔雀』の形をしたオブジェ。

 

そして、オートスコアラー達がオブジェに向かって叫ぶ!

 

「「「「さぁ、起動せよ! 我らが鎧、『自然闘衣<エレメントローブ>』!!!」」」」

 

4つのオブジェが分割されると、それぞれのパーツがオートスコアラー達の身体に装着された。

さながら聖闘士が纏う『完全聖遺物 星座の聖衣』のように!

 

ミカは縦ロールがおろされ、その身を赤い鎧を纏い、まるで獲物に飛びかかろうとする猛獣のようなポーズを取る。

 

レイアは黄色い鎧を纏い、首元に獣の毛髪のようなものが生え、遠吠えをするオオカミのようなポーズを取る。

 

ガリィは青い鎧を纏い、頭と腕と足にヒレのような刃を装備し、両手に鮫の手甲を付け、鮫の歯のようなギザギザが付いた両の手のひらを突き出す構えを取る。

 

レイアは緑色の鎧を纏い、尾てい部分に孔雀の羽のパーツを展開させ、大剣を持って、両手を翼を広げるような構えを取る。

 

 

ーエルフナインsideー

 

「エルフナイン、あれってまさか?」

 

レグルスの問いかけに、驚愕した様相のエルフナインがポツリと、呟いた。

 

「か、完成したんです・・・・エレメントアームズの完成形、オートスコアラー専用の鎧、『自然闘衣<エレメントローブ>』が・・・・!」




これからオリジナル展開させるので、執筆が遅れるかもしれませんが、何とか執筆していきます。


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自然闘衣<エレメントローブ>

お待たせしました。オリジナル展開を書こうとしたらかなり時間をとってしまいました。


ー自然闘衣<エレメントローブ>ー

錬金術師・キャロル・マールス・ディーンハイムが自動人形・オートスコアラーの強化の為に設計した、オートスコアラー専用の戦闘アーマー。

しかし、キャロルの知識を持っても、その設計は出来てはいたが、それを形作る技術が無かった。

構図は完成しても、実証する術が無い。キャロルは『自然闘衣<エレメントローブ>』を“机上の空論”として、計画から除外しようと考えたが、それを実証する男が現れた。

それが、双子座<ジェミニ>のアスプロス。

伝説の神話の闘士、『アテナの聖闘士』の最高峰、『黄金聖闘士』の中でも、頂点に立つ教皇の候補となる程の戦闘力は勿論、知恵と知識と知謀を持つ聖闘士の叡智が、『自然闘衣<エレメントローブ>』の試作品、『自然界の武装<エレメントアームズ>』を作り、そこから『自然闘衣<エレメントローブ>』を完成させた。

 

そして今、シンフォギア装者の前に、新たな装備を得たオートスコアラー達が立ち塞がった。

 

 

ーレグルスsideー

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

レグルスは本部の司令室から戦況を見ていたが。

 

「弦十郎、俺も出る」

 

「あぁ」

 

「っ! レグルスさん! ダメです!」

 

司令室を出ようとしたレグルスを、エルフナインが止めた。

 

「エルフナイン?」

 

エルフナインが友里のコンソールを操作して、本部周辺を解析した。

 

「・・・・やっぱり!」

 

「どういう事だエルフナインくん?」

 

「本部周辺の空間に異常が検知されました。今この本部は、別の空間に閉じ込められています!」

 

エルフナインがモニタに本部周辺の映像を映すと、本部周辺には、『深淵の竜宮』も海水もなく、まるで異次元の空間のような風景が広がっていた。

 

「ここはまさか、異次元空間か?」

 

「そうですレグルスさん。今この本部は異次元空間に閉じ込められた状態です。こんな事ができるのは・・・・」

 

「アスプロスだな? ヤツが『アナザーディメンション』で本部を閉じ込めたのか」

 

レグルスは、それぞれの戦況をただ見ている事しかできない現状に歯痒そうにしていた。

 

 

 

ー翼VSファラ・マリアVSガリィsideー

 

「新たな力を得たとしても! 我々は負けんっ!」

 

翼はまだ持続時間が残っている天羽々斬イグナイトの長刀を構えて、緑色に輝く『風の自然闘衣』を纏ったファラに斬り込む。が・・・・。

 

「・・・・・・・・」

 

ファラは微動だにせず、その場に立っていただけだった。

 

「ハァッ!」

 

翼のアームドギアが袈裟斬りにファラに振り下ろされる。

が・・・・。

 

ボニュン・・・・。

 

「なっ!?」

 

ファラの頭上に振り下ろした剣が、まるでビニールボールかクッションでも叩いたような感触に、翼は驚愕した。

 

「ふふふ・・・・」

 

ファラがほくそ笑むように声を上げると、腰から展開された尾羽のようなパーツが淡く光るとーーー。

 

ドンッ!

 

「うわッ!!?」

 

翼は“目に見えない塊”に押し飛ばされ、後方に吹き飛ぶ。

 

「翼っ!」

 

「余所見してる余裕ある?」

 

「くっ!」

 

翼の元へ向かおうとしたマリアの正面に、青く輝く『水の自然闘衣』を纏ったガリィが立ち塞がった。

 

「邪魔をするな!」

 

マリアが籠手から大量の短刀を出現させると、ガリィに向かって放つ!

 

「イヤーン☆ ガリィちゃんまたやられちゃーう☆」

 

おどけた態度のガリィだが、その口元はニンマリとした笑みを浮かべ。

 

ピキーーーン!

 

「なっ!?」

 

マリアは驚愕した。いましがたガリィに放った短刀が全て、“凍りついてしまったからだ”。

 

「しまった、ガリィの能力はっ!」

 

「そう、私ガリィとこのエレメントアームズ改め『水の自然闘衣<エレメントローブ>』の能力は『氷結』。空気中の水分があればどんな物も凍てつかせる。空気の中に存在するものは全て水分の中にいるようなもの。荒ぶる海ですら凍てつかせられるわっ! そしてっ!!」

 

ガリィが両手を大きく振ると、片手の爪から水が噴出し、マリアに向かって水鉄砲のように飛んできた。

 

「なっ?!」

 

咄嗟に回避したマリアは、地面に一直線の伸びた傷を追うと、さらにその先にある風鳴邸の庭に置かれた岩が真っ二つに切り裂かれたのを見て驚愕した。

 

「なんなの!? なぜただの水鉄砲が岩が切り裂くのっ!?」

 

「あ~らら? 知らないの? 圧縮された水流はダイヤモンドですら切り裂く事ができる『ウォータージェット切断』を引き起こすのよ♪」

 

「『ウォータージェット切断』・・・・!?」

 

「氷だけではない、水も氷を自在に操ることこそ、『水の自然闘衣』の真骨頂よっ!!」

 

ガリイが掌をバッと突き出すと、空気中の水分が集まり、一瞬でマリアの身の丈くらいの水玉になると、瞬間凍結し、巨大な氷塊となって、マリアに向けて発射した。

 

「こんな氷の塊なんかでっ!!」

 

マリアが短剣アームドギアで氷塊を真っ二つに切り裂くと、氷塊の中から水が溢れ出てきてマリアの身体を包んだ。

 

「わぷっ!?」

 

ピキーーーンっ!!

 

「(っっ!!?)」

 

水に包まれた瞬間、マリアの身体は一瞬で氷結し、氷に包まれた。

 

「フフフフフフフフフフフフっ!!」

 

ガリイは左手の鮫の手甲から氷のハンマーを造りだし、マリアが包まれた氷を砕こうと、大きく持ち上げた。

 

「こ・れ・で♪ お終いよっ!!」

 

「っっ!?」

 

凍りついたマリアは動けない身体を動かそうと足掻くが、身体はピクリとも動かず、無情にガリイのハンマーが振り下ろされた。

 

バカンッ!!

 

が、マリアの身体に叩きつけられる瞬間、ハンマーが砕け散った。

 

「チッ」

 

ガリイが砕かれたハンマーを一瞥すると、ハンマーを砕いたモノを睨む、雪まみれた地面に突き刺さる黒い薔薇だった。

 

「魚座<ピスケス>。貴方とはこのハズレを始末してからなんですけどぉ~?」

 

「・・・・・・・・」

 

ガリイは凍りついたマリアを守るように立つ魚座<ピスケス>のアルバフィカが黒薔薇、『ピラニアンローズ』で氷付けのマリアを攻撃した。

 

「っ!」

 

アルバフィカはマリアの身体を包んだ氷だけを破壊して、マリアを解放した。

 

「ア、アルバフィカ・・・・」

 

「マリア。コイツは私が相手をする」

 

「ま、待って、まだ私は・・・・!」

 

「イグナイトの制限時間が迫っている。それに、ヤツはすでに私に標的を変更した」

 

マリアはアルバフィカの視線を追うと、ガリイは右手の手甲から、氷で形成された大剣、イヤ、鋸を取りだし構え、それを見て、アルバフィカも黒薔薇を構えた。

同じ頃、ファラの攻撃?によって吹き飛んだ翼は空中で回転して着地すると、『風の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏ったファラが向かい立ち、フラメンコのポーズをとっていた。

 

「くっ! なんだ? 今の攻撃は!?」

 

「ウフフフ・・・・」

 

ほくそ笑みを浮かべるファラに、再び翼は長刀のアームドギアを構える。

 

「もはや、貴女は私に近づく事すらできない」

 

「何っ! ぐあっ!?」

 

ファラに向かおうとした翼に、また“見えない攻撃”が襲いかかった。

 

「(まただ。また何も無いところから、何かの塊がぶつかってきた!? 一体これはっ!?)」

 

「ウフフフ・・・・!」

 

ファラが余裕綽々の笑みを浮かべると、翼の身体に、さらに塊がぶつかった衝撃が襲いかかる。

 

「ぐあっ! ぐっ! あぁっ?! かはっ!!」

 

破れかぶれに長刀を振るった翼は再び謎の衝撃により吹き飛ぶが、奇妙な感触を感じた。

衝撃が襲うよりも一瞬早く、長刀が“何か”に刃が当たった。

 

「(この感触・・・・まさか!)」

 

翼は『フロンティア事変』で、レグルスのある攻撃を思い出していた。

 

「まさか、“空気の塊”を飛ばしていたのかっ!?」

 

「アラ? 気づいてしまいましたの?」

 

ファラの背面に展開された孔雀の尾羽のようなパーツが淡く発光すると、ファラの周辺の空気が渦を巻いたように揺らめいていた。

 

「私の『風の自然闘衣<エレメントローブ>』は風だけでなく空気圧すらも操る能力。空気は生物が生きる世界では必要不可欠の要素。さらに空気は生物が生きるあらゆる場所で存在します。その空気を一瞬で圧縮し、飛ばす事で空気圧の塊を飛ばす事ができるんですの」

 

「風を操り、『カマイタチ現象』を引き起こす事できる『エレメントアームズ』の完成品なれば、空気圧を操ることも造作ないか・・・・! うあっ!!」

 

翼のイグナイトが解除された。

マリアよりも先に抜剣していた分、制限時間を早く迎えたからだ。

 

「イグナイトモジュールは解除された。これで終わりですわね?」

 

「くぅっ・・・・!」

 

『自然闘衣<エレメントローブ>』を纏った今のオートスコアラーを相手に、イグナイトモジュール無しで戦うのは圧倒的に不利。

翼はヨロヨロと立ち上がり、アームドギアの刀を構える。

 

「これでおしまい、ですわね!」

 

ファラは大剣を振り上げ、翼に向けて降ろした。

 

「!」

 

刀を横に構えて防ごうとするが、ファラの固有能力・『ソードブレイカー』の前では無意味。翼は刀が破壊されると、斬撃の衝撃に備える。がーーー。

 

ガキンッ!!

 

「く・・・・!」

 

翼とファラの間に入った人物の攻撃が、ファラの大剣を防いだ。

ファラはその人物を見ると、後ろに跳んで間合いを作った。

 

「山羊座<カプリコーン>」

 

そう、その人物は、ファラの『ソードブレイカー』が通じない手刀を持つ武人。山羊座<カプリコーン>のエルシドだった。

 

「エルシド・・・・!」

 

「翼、交代だ。ここからは俺が戦う」

 

「待ってくれ! まだ私はっ!」

 

「彼我戦力を見誤るな。イグナイトを解除された状態で戦える相手ではない事は、対峙したお前自身が理解しているだろう」

 

「っ・・・・!」

 

エルシドの言葉に翼は黙る。翼自身も分かっていた、イグナイト無しで戦える相手ではない事を。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エルシドとファラは手刀と大剣を構えながらお互いを鋭く見据えーーー。

 

「「っっ!」」

 

ギンッ!!

 

一瞬で肉薄した二人の剣がぶつかった。

 

 

 

ーレイアVSデジェル・クリスsideー

 

「フッ!」

 

ババババババババババババババッ!!

 

「「っ!」」

 

黄色に輝く『土の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏うレイアが宝石の弾丸を、まるで機関銃のように次々と連射し、デジェルとクリスはそれを回避すると、『深淵の竜宮』の床に綺羅びやかな宝石がめり込んだ。

 

「んのやろっ! 調子乗りやがってっ!! ♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

クリスは歌を口ずさみながら、イチイバルの装備を展開して、ミサイルを撃ち込もうとしたがーーー。

 

「待てクリスっ!」

 

寸前でデジェルがクリスを止めた。

 

「何だよデジェル兄ぃ!」

 

「こんな海底施設でミサイルなんて爆撃の武器を使えば、施設諸とも我々も水没してしまうぞ!」

 

「っ!」

 

デジェルに言われて、クリスもはっ! となり、ミサイルを収めて、2丁拳銃のアームドギアの戻した。

 

「派手に撃ち抜く・・・・!」

 

レイアの放った宝石の弾丸の雨の中に、“黒光りする石”が混じっていた。

 

「うあっ!」

 

クリスの足に、“黒光りする石”が当たり、クリスのバランスを崩した。

 

「っ!」

 

レイアは崩れるクリスに向けて、宝石と黒い石を放った。

 

「っ!!?」

 

回避しようとしたクリスの足が動かなかった。

 

「クリス!?」

 

弾丸のクリスの間に入ったデジェルは、『ダイヤモンドダスト』を放って、弾丸の雨を凍てつかせ勢いが無くなった弾丸は床に落ちていった。

 

「クリス、どうしたんだ?」

 

「わ、分からない! 足が動けないんだよ!」

 

「何っ!?」

 

デジェルはレイアに『ダイヤモンドダスト』を放ち、レイアを後退させると、クリスの動かなくなった足に触れると、バチっ!と火花が散った。

 

「っ。これは、クリスの足に“磁力”が・・・・?!」

 

「磁力って、アタシの足が磁石になったってことかよっ! どうしてっ!?」

 

「ハッ。レイアの『土のエレメントアームズ』は、大地から生まれる鉱物を精製する事ができる・・・・まさかっ!?」

 

「派手にその通り」

 

離れた間合いのレイアが淡々と口を開いた。

 

「大地から生まれる鉱物は、派手な宝石だけではない。磁力を帯びた鉱物、“磁鉄鉱”を生み出す。先ほど私が放った宝石の弾丸に混じった“磁鉄鉱”が、イチイバルの装者の足に当たった」

 

「っ! まさかあの黒い石が・・・・!」

 

「そう。私の『土の自然闘衣<エレメントローブ>』から生み出された磁鉄鉱は、触れた相手に磁力を与える。そしてこの施設は鋼鉄でできている。今貴女の足は磁石となって、床に張り付いてしまったのだ」

 

「「なっ!?」」

 

「これで、派手に終わらせるっ!」

 

レイアは宝石と磁鉄鉱の弾丸を放ち、デジェルは氷に障壁を張って防いだ。

 

 

 

ーミカVSマニゴルド・カルディア・切歌・調sideー

 

「キャハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

「どぅわっ!」

 

「うおっとっ!?」

 

「デデデ~スッ!!」

 

「キャっ・・・・!!」

 

赤く輝く『火の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏ったミカは、全身から火炎弾を生み出し、マニゴルド達に放った。

マニゴルドとカルディアはギリギリ回避し、切歌と調もワタワタしながら回避していた。

 

「あっ!」

 

回避し損ねた切歌に火炎弾が迫る。

 

「チィッ!」

 

マニゴルドが切歌を庇って、背中を火炎弾がかすった。

 

「マニゴルドっ!?」

 

「大丈夫だ・・・・ん? 何だ背中が熱い・・・・んげっ!?」

 

マニゴルドの衣服の背中が火炎弾をかすって火が燃えていた。

 

「ワチチチチチチチチチチチチチチチチッ!!」

 

「わわわわわわわわわわわわわわわわわッ!!」

 

慌てて背中の火を消そうと腕を回して背中を叩くマニゴルドと同じく背中を叩いて火を消そうとする切歌。二人で叩いて火が鎮火すると、二人はホッとしたがーーー。

次の瞬間、マニゴルドと切歌の身体を炎の鞭が巻き付いた。

 

「なんだっ!?」

 

「デスっ?!」

 

「マニゴルド!」

 

「切ちゃん!」

 

マニゴルドと切歌に一瞬気がそれたカルディアと調の身体にも、炎の鞭が巻き付いた。

 

「しまった!」

 

「あぁっ!」

 

「タリホーーーーーーーッ!!」

 

ミカが腕を回すと、四人に巻き付いた鞭がうねり、四人を床や壁に叩きつけた。

 

「かはっ!」

 

「がぁっ!」

 

「あうっ!」

 

「ぐっ!」

 

叩きつけられた衝撃で四人が悲鳴を上げた。

 

「まだまだダゾっっ!!!」

 

ミカは炎の鞭を操り、マニゴルド達を床や壁に叩きつけまくった。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

「フム。『自然闘衣<エレメントローブ>』の性能は上々だな」

 

「くぅっ!」

 

アスプロスが『自然闘衣<エレメントローブ>』の性能に満足そうに頷くが、キャロルが苦痛の声を洩らし、苦しそうに胸を押さえた。

 

「キャロル・・・・ここまでか」

 

アスプロスは瞑目して、レイアとミカにテレパシーを送る。

レイアとミカは並ぶように立つと、アスプロスのテレパシーが届いた。

 

「フゥ、今回はここまでこようだ。ミカ、置き土産を置いておけ」

 

「ムゥ、少し物足りないけどナっ!!」

 

ミカはアルカ・ノイズの結晶を投げ捨てると、魔法陣が展開され、アルカ・ノイズが出現し、聖闘士と装者に襲いかかった。

 

『っ!!』

 

磁力で動けないクリス。床や壁に叩きつけられたダメージで動けない切歌と調に守りながら、聖闘士達が応戦した。

 

「ついでだゾ!!」

 

ミカは『火の自然闘衣<エレメントローブ>』で炎の壁を作り、アスプロスとキャロルの元に戻る。

 

「目的はそれなりに果たした。戻るぞ二人とも」

 

「了解」

 

「はいヨ!」

 

アスプロスは異空間の穴、『アナザーディメンション』を開いた

 

「待ってくださいっ!!!」

 

「「「「ん?」」」」

 

『アナザーディメンション』でこの場を去ろうとするアスプロスの足を誰かが掴んだ。

下を見るとそこには、床を這いつくばり、無機質な白髪がポロポロと抜け落ちて、髪の毛がほとんど無くなり、顔は皺まみれになり、頬は痩せこけ、一瞬誰だと思ってしまうほどに老け込んだドクターウェルが、ネフェリムを移植していない右手で足を掴んでいた。

 

「お願いします!! 僕を連れて行って下さいっ!!!」

 

掴んでいた手を離すと、ウェルは頭を床に何度も叩きつけて懇願した。日本で言うところの“土下座”である。

 

「何?」

 

「なぜ俺達がお前を連れていかねばならんのだ?」

 

「ぼ、僕はこのままではまた奴らに捕縛されます! 僕は本来こんな薄汚い物置小屋にいる存在ではありませんっ! 僕は! 『真の英雄』たるこの僕はっ!!」

 

すでに首の皮1枚で繋がっていた命は、脱走によって切れており、ここでまたS.O.N.G.に捕まれれば死罪は免れない。

しかしドクターウェルにとってはそんな事は粗末な事であった。ここで捕縛される事は“黄金聖闘士に敗北した事が決定する事”であった。

本人は絶対に認めないが、『フロンティア事変』で黄金聖闘士達に完全敗北し、そして自分にとって最後に残された『生科学者としての矜持』すらもあっさり上回られた。

ここで捕縛されれば今度こそ、“黄金聖闘士達に完全に完膚無く敗北したことを決定付けられる”事を意味する。

それはウェルにとって、終生の屈辱に値する事であった。

 

「ぼ、僕にはこのネフェリムの細胞を移植した腕がありますっ! あなた方のお役に立てますっ! どうかっ! どうかぁっ!!」

 

ウェルは床に何度も頭を叩きつけて懇願した。

 

「お願いいたしますっ! お願いいたしますっ!! 僕を連れ出してくださいっ! 僕はっ! 『真の英雄』である筈のこの僕はっ! こんな! こんなところで! 終わって良い筈が無いんですっ!!」

 

もはや『自尊心』も『存在意義』も『矜持』も、全て神話の闘士達に踏みにじられたウェルにとって、『黄金聖闘士抹殺』だけが、崩壊しかけている精神をギリギリで保たせているのだ。

 

「・・・・どうするアスプロス?」

 

正直、キャロルはこの男に戦略的にも知能的にも、まるで宛にしていない。

所詮冥闘士の掌で躍り狂っていただけの道化。

聖遺物を操作するネフェリムの細胞以外はなんの戦力にもならないと思っている。

レイアとミカは、ウェルにまるで興味が無いと言わんばかりに無感情に見下ろす。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

アスプロスは土下座するウェルを見下ろすとーーー。

 

「良いだろう。『ヤントラ・サルヴェスパ』の代用品くらいの役には立つだろう」

 

「っ!・・・・へへへヘヘヘヘ! はいっ! 僕のこのネフェリムの力ならば! きっとあなた方のお役に立てますよっ!!」

 

顔を上げたウェルはすり寄るようにアスプロスの足にすがり付いた。

アスプロスはすがり付くウェルを足を動かして引き剥がすと、“ウェルを指差す”。

 

「しかし、身の程知らずな真似をするなよ。器の程度を見誤ると、自分自身の身を滅ぼす事になるからな」

 

「ウエヘヘヘへ。もちろんですとも♪」

 

アスプロスがキャロルを再び抱き抱えると、ウェルに背を向ける。ウェルはアスプロスの背中に向かってダランと舌を伸ばす。

 

「(ヒヒヒヒヒヒヒ! こぉのロートル金メッキとお飾りの小娘めがっ! 今のうちにふん反り返っていればいいさっ! いずれこの『真の英雄』であるこの僕の威光に惨めを晒すのだからなっ!!)」

 

ウェルの本心は、キャロル一派に協力する気などさらさら無かった。

ウェルの目的は、黄金聖闘士と対等に渡り合える武装、『自然闘衣<エレメントローブ>』だった。

今度は自分専用の闘衣を作れば、今度こそあの『異分子』共を、『異物』共を排除できると考えていたからだ。

ウェルは炎の壁の向こうでアルカ・ノイズを掃討している黄金聖闘士達を見据えて睨む。

 

「(待っているが良い『金メッキのロートル』共っ! 今度こそ見せてやるっ! この世界の『真の英雄』っ! ドクターウェルの偉大さをなっ!!!)」

 

ウェルは歪みきった笑みを浮かべながら、『アナザーディメンション』を潜るアスプロス達の後を付いていった。




『自然闘衣<エレメントローブ>』の力はまだまだこんなものではありません。そしてドクターは原作と違って、かなり酷い最後を迎える予定です。


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仕込まれた“毒”

お待たせしました。



ーミカsideー

 

『アナザーディメンション』で『チフォージュ・シャトー』に戻ったアスプロス達は、『自然界の武装<エレメントアームズ>』を制作した研究室へと到着した。

 

「ほほぅ~。ここで貴女方の鎧は造られたのですねぇ?」

 

髪の毛のほとんどが抜け落ち、頬は痩せこけ、顔は皺にまみれ、肌は左腕に移植した『ネフェリムの極一部の細胞』が少しずつ侵食された影響で、灰色となったジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスが、嫌らしい笑みを浮かべながら研究室を見渡した。

 

「しばらくはここで大人しく『自分専用の武装』を造ると良いだろう。ミカ、ドクターの護衛として残れ」

 

「了~解、ダゾ」

 

マスターであるキャロルと同等の命令権を持つアスプロスからの命令故に、『火の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏ったミカは、嫌々ながらも了解を示した。

 

「おやおやぁ? 僕の事を信用できないのですかなぁ?」

 

「思い上がるなドクターウェル」

 

心外と言わんばかりに、わざとらしく肩を竦めるウェルに、キャロルが冷徹の目で睨んだ。

 

「お前はあくまで『ヤントラ・サルヴァスパの代用物』としてここに居られるのだ。自衛の為の装備を作らせてやろうと、この研究室に連れてきただけだ。余計な事を考えるな」

 

「これはこれは失礼いたしました。キャロル様」

 

慇懃無礼な態度をまるで崩さず、心にも無い謝意を述べるウェルに、キャロルは不快そうに眉をピクリと動かすが、アスプロスがその頭の上に手を置くと、大人しくなった。

 

「まぁ良いだろうキャロル。ドクターの好きにやらせておくと良い。しかし、まだ君は完全に信用された訳では無いのでね。だからミカを置いておけば、キャロル達も安心するので仕方のない措置なのだ」

 

「やれやれ、英雄であるこの僕を警戒するのは分かりますがね。まあ良いでしょう。真の英雄である僕の叡智を持ってすれば、新たな力を生み出し、世界が認めるラストアクションヒーローにふさわしい姿をお見せしましょう」

 

この英雄誇示の道化は、自分が目立って英雄として認知される事しか求めていない。

だが、だからこそアスプロスは、使えると判断したのだ。

 

「フフフフ、頑張りたまえドクター。しかし、また『道化』と呼ばれないように、気を付けるのだな?」

 

「(ピクッ!)・・・・・・・・違う、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない、僕は道化じゃない・・・・!!!」

 

アスプロスが言った『道化』と言う一言で、ウェルの瞳が大きく見開いて、呼吸が激しくなり、まるで自己暗示でもかけるように同じ言葉を何度も呟いた。

 

ーーーーーー『道化』。

 

その称号は、自らを『真の英雄』、『新時代のラストアクションヒーロー』と自己顕示し、自己崇拝するドクターウェルにとって、拭い去りたい『人生最大にして最悪最低な汚点であり心的外傷<トラウマ>』であった。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

アスプロスとキャロルは、ブツブツと呟くウェルを無視して、『土の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏ったレイアを引き連れ、再び『アナザーディメンション』で移動した。

 

「ヒヒ、ヒヒヒヒヒ! そうだぁ、僕だけが、僕こそが真の英雄なんだぁ・・・・! アイツらさえ、あの金メッキの骨董品共さえ始末すれば、アイツらの屍の上に立った時こそ、無知で凡庸な愚民は知ることになる・・・・!この僕が、このドクターウェルこそが! この世界の真の英雄! 真のラストアクションヒーローだと言うことをなっ!!」

 

アスプロス達が居なくなると、ウェルは仰々しく叫び声を上げ、食い入るように研究室のシステムを起動させると、『自分専用の武装』と『もう1つの道具』の制作を始めた。

 

「・・・・・・・・」

 

今自分の後ろにいる、護衛というよりも、監視役であるミカの存在など完全に眼中に入れていないように。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

ズゥゥンン・・・・!

 

異次元空間に閉じ込められていたS.O.N.G.本部は、再び『深淵の竜宮』前の海中に戻された。

 

「本部基地、通常空間に戻りましたっ!」

 

「『深淵の竜宮』と風鳴邸の戦闘状況を報告しろ!」

 

弦十郎が叫ぶと、友里と藤尭と言ったオペレーター陣が状況分析を始めた。

 

「『深淵の竜宮』では、デジェルさん、クリスちゃん、マニゴルド、カルディア、切歌ちゃん、調ちゃんの姿を確認! アルカ・ノイズと交戦中、間もなく掃討を完了します!」

 

「風鳴邸では、翼さん、マリアさんは戦闘続行不能状態になり、エルシドとアルバフィカがオートスコアラーと交戦中です!」

 

レグルスは、画面に映る戦闘状況を鋭く見据えていた。

 

 

ーエルシドVSファラsideー

 

「疾っ!!」

 

「はっ!」

 

エルシドが放つ刃の斬撃を、ファラは空気の膜で防ごうとした。

 

 

「なっ! くぅ!!」

 

何と空気の膜を斬り裂き、ファラは一瞬驚くが、すぐに回避すると、『風の自然闘衣<エレメントローブ>』の装甲をわずかにかすった。

 

「流石は黄金の英雄。空気の膜で防げるような“安い刃”ではありませんわね?」

 

「・・・・・・・・」

 

ファラの言葉に答えようとせず、エルシドは手刀を構えて鋭く見据える。

 

「敵と無駄な会話は取らない。ただ敵を斬り裂くのみ。貴方はまさに剣その物ですね?」

 

「ただ敵を斬るだけの剣など、そこらの鈍でもできる。我が手刀が斬り裂くのは、世に災いをもたらす者のみ」

 

「私達が災いをもたらすと考えておられるのですね。まあ間違ってはいないですが」

 

ファラは大剣を頭上に掲げると、大剣から竜巻が巻き上がる。

 

「むっ」

 

「風、いや、竜巻だとっ!?」

 

少し離れた位置にいる翼が、ファラの大剣から生まれた竜巻を見て驚く。

 

「気圧を操るだけではなく、風も自在に操る我が『風の自然闘衣<エレメントローブ>』の真骨頂を、御堪能あれ!!」

 

「っ!」

 

ファラが竜巻を纏った大剣を振り下ろすと、竜巻がエルシドに襲いかかってきた!

 

「疾ッ!!」

 

エルシドは手刀の斬撃で竜巻を斬ろうとするが、斬撃は竜巻に阻まれエルシドに襲いくる!

 

「ぬぅっ!!」

 

「エルシドっ!」

 

竜巻に呑み込まれたエルシドは空高く吹き飛ぶが、空中で体勢を捻り、体勢を整えると、スタッと、着地した。

 

「この『自然闘衣<エレメントローブ>』を纏った私達なら、貴方達黄金聖闘士でも、敵いませんよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

エルシドは再び手刀を構えて、ファラを鋭く見据える。

 

 

 

ーアルバフィカVSガリィsideー

 

「『ピラニアンローズ』!」

 

「ウフフフフフ~♪」

 

アルバフィカが投擲した黒薔薇が、ガリィに向かって真っ直ぐ飛ぶが・・・・。

 

ピキーーーーーン・・・・。

 

黒薔薇はガリィに当たる寸前、全ての黒薔薇が凍りつき、ひび割れ砕けた。

 

「・・・・・・・・」

 

「アルバフィカの黒薔薇までもっ?」

 

マリアも驚愕したような顔となる。

 

「このガリィちゃんの『水の自然闘衣<エレメントローブ>』は水分さえあればどんな物でも凍てつかせるのよぉ~。貴方の主武器の薔薇が毒を持とうが、鉄をも噛み砕く力を持とうが、所詮は植物。水分が含まれている以上、凍らせるなんて目じゃないのよっ!」

 

ガリィは両手の鮫の形をした手甲から、氷で形成されたノコギリとハンマーを作り出して、アルバフィカに向かって、氷のノコギリを振り下ろした!

 

「っっ!」

 

アルバフィカは黒薔薇を手に持って、ガリィのノコギリを防ぐがーーー。

 

「ヒアッ!!」

 

ドゴンッ!!

 

「ぐぅっ!!」

 

ノコギリを防いでがら空きとなった腹部に、氷のハンマーがめり込んだ!

 

「アルバフィカっ!!」

 

「くっ・・・・『ローリングローズ』!!」

 

「おっとぉ!!」

 

アルバフィカは黒薔薇<『ピラニアンローズ』>を自身の周囲に竜巻のように巻き上げる攻防一体の技を展開させた。が、寸前でガリィが後方に跳んで回避する。

 

「アララ~。黒薔薇の竜巻で防いだようだけど、このままじゃ凍りついちゃいますよ?」

 

「何を・・・・っ!」

 

竜巻が収まると、アルバフィカの腹部が氷が張ってきた。

 

「まさか・・・・、そのハンマーで、殴られた箇所は凍りついてしまうと言う事か・・・・?」

 

「ご明察! ちなみにこのノコギリで切り裂かれれば、切られた傷口は凍てついてしまい、凍傷してしまうって優れものよぉ~。この両手の鮫の手甲はノコギリザメとハンマーヘッドシャークをモチーフとしているのよぉ~」

 

ガリィは、はしゃいでいるように武器の説明をした。

 

「さて、そろそろ終わらせ、ん?」

 

凍りついた箇所をおさえるアルバフィカに向けて武器を構えるガリィは、ふと身体を止め、目を細めると、物足りないと言わんばかりに顔をしかめた。

 

「えぇ~、せっかく良い感じだったのに~。・・・・・・・・はいはい分かりましたよ」

 

ガリィは不承不承と承諾すると跳び跳ねて、風鳴邸の屋根の上に着地すると、自分の隣にファラも飛んできて合流した。

 

「ガリィちゃん、お遊び時間はここまでよ」

 

「今聞いたわよ」

 

ファラとガリィが合流すると、エルシドと翼も、アルバフィカとアルバフィカに駆け寄ったマリアと合流し、翼がオートスコアラー2体を鋭く睨む。

 

「逃げるつもりかっ!?」

 

しかし、翼の言葉にガリィとファラは余裕の笑みを浮かべる。

 

「“逃げる~”? 逃げるって言うのは、劣勢な立場の雑魚がする行為よ~? こ・れ・は、“見逃して、く・れ・る♪”って言った方が良いわよ~☆」

 

「くっ!」

 

あきらかに戦況はオートスコアラーが優位。この状況で彼女達が退散するのは、確かに“逃げる”よりも“見逃す”と言った方が正しい。

苦虫を噛んだ顔をする翼に、ファラがフッと笑みを浮かべた。

 

「いつかショボいなどと言ってごめんなさいね。剣ちゃんの歌、素晴らしかったわ、本当に」

 

「私の、歌・・・・」

 

「フフフフ、まったく素晴らしく呪われた旋律だったわ」

 

「っ! “呪われた旋律”。確か以前、キャロルも言っていた・・・・」

 

「答えてもらうわ!」

 

マリアはアガートラームの短剣を構えた。

 

「バ~カ! 答えると思って「構わないわ」ハァッ!? 言っちゃうの?」

 

「今さら知ったところでどうする事もできないでしょう?」

 

「・・・・まぁ、それもそうか♪」

 

オートスコアラー達はニヤリと笑みを浮かべて、声を発する。

 

 

 

 

 

ークリスsideー

 

その頃、クリス達はアルカ・ノイズを殲滅させると、“キャロル達が再び『深淵の竜宮』に現れた”と報告を受け、聖闘士達がダメージを負った装者を担いで、急いで追跡を始めた。

 

「どこまで行けば良いデスかっ!?」

 

「いい加減、追い付いても良いのに!」

 

「ちっ! この道で間違いないんだろうなっ!?」

 

クリスが通信機で本部に怒鳴るように聞いてきた。

 

 

ー弦十郎sideー

 

「ああ! だが向こうも、巧みに追跡をかわして進行している」

 

「まるで、こっちの位置や選択ルートを把握しているみたいだね」

 

『っっ!!?』

 

レグルスが言った一言で、エルフナインや弦十郎達ははっ! となった。

 

「まさか、本部へのハッキング・・・・?!」

 

「知らずに、“毒”を仕込まれていたのかっ!?」

 

 

ーアスプロスsideー

 

「敵本部は、知らずに仕込まれていた“毒”に、派手に驚愕しているでしょう」

 

「フッ。懐があまりにも隙だらけな組織が、『人類最後の砦』とは、滑稽の極みだ」

 

「そう言うなキャロル。所詮は平穏な世界で安穏と過ごす牙の抜けた者達に、そんな事を言っては気の毒だぞ?」

 

“目的の場所”に向かうアスプロス達は、今頃になってようやく、“毒の存在”に気づいたS.O.N.G.を嘲弄するように含み笑みを浮かべていた。

 

 

ー響sideー

 

事態が急転直下している頃、響は一時シジフォスとアスミタに退室して貰って、未来に連絡を取っていた。

 

「ゴメンね。こんな夜中に、色々考えていたら眠れなくなっちゃって・・・・」

 

《ううん、気にしないで》

 

「ありがとう。もう一度だけ、お父さんと話をしてみようって、決心がついた」

 

《うん》

 

「だけどね、本当はまだ少し怖い。どうなるのか不安でしょうがないよ・・・・」

 

《響、“へいき、へっちゃら”!》

 

「えっ?」

 

《響の口癖だよ?》

 

それは、響が口にしてきた言葉だった。

 

「あぁっ、ハハハ、いつから口癖になったか分からないけど、どんなに辛い事になっても何とかなりそうな“魔法の言葉”なんだ・・・・」

 

《ホント単純なんだから》

 

「前向きと言ってくれたまえよ」

 

「《フフフ、ハハハハハハハ!》」

 

未来と響は可笑しそうに笑いあった。

 

「可笑しいの・・・・!」

 

《元気出たね、“魔法の言葉”に感謝しないと》

 

「うん。お父さんの事に決着付いたら、今度はもう1人と決着付けないと!」

 

響の脳裏に、未だ微妙に険悪な雰囲気になってしまった男の子の背中が浮かんだ。

 

《ようやくレグルスくんと仲直りする気になったの? ずっと逃げてたのに》

 

「アハハハ、その件に関しても、本当に申し訳ありませんでした・・・・」

 

《ううん、響が誰かと喧嘩して、険悪になるだなんて、見たこと無かったからちょっと驚いちゃったけど。どうしてレグルスだけにあんな態度を取ったの?》

 

響と一番長く一緒にいた未来も、響があそこまで意地を張る姿を見たのは初めてだった。

 

「・・・・私ね、多分いや、きっと、レグルスくんに“嫉妬”してたんだと思う」

 

《“嫉妬”?》

 

「うん。レグルスくんはいっぱい持ってる、“最速で最短で、真っ直ぐに手を伸ばせる力”、“お父さんから貰ったいっぱいの愛情”、私が無くしたり、欲しくて頑張っているものを持ってるレグルスくんに、私“嫉妬”してたんだ・・・・。多分、『ルナアタック』の頃から・・・・」

 

《そうだったんだ》

 

「でも、もう大丈夫だよ。ちゃんとレグルスくんと向き合って、そして、謝るつもりだから・・・・!」

 

《うん。頑張って響》

 

「ありがとう」

 

響は頷くと、未来との電話を切った。

 

「響くん。もういいかな?」

 

「あっ、シジフォスさん。どうぞどうぞ!」

 

響が扉に向かってそう言うと、シジフォスがまた病室に入ってきた。

 

「レグルスと、何か合ったのかい?」

 

「あぁその、叔父さんであるシジフォスさんには、少し言い辛いのですが・・・・」

 

「・・・・もう夜遅い。また今度でも良いが」

 

「イエイエ! もうなんか目が冴えちゃって、眠れないんです」

 

「そうか・・・・良ければ教えてくれないだろうか。私がいない間の、レグルスの足跡を・・・・」

 

「はい! 喜んで!!」

 

響はすっかりシジフォスに懐いたようで、嬉々としてシジフォスと話を始めた。

 

 

 

ー未来sideー

 

響との電話を終えた未来は、スッと目を閉じると、心の中で呟く。

 

「(また響に厳しく当たったんですかアスミタさん?)」

 

《あの未熟者は周りが甘やかすからな。私辺りが厳しくしなければ、すぐに図にのる》

 

未来は現在、響の病室から出たアスミタが未来に交信してきたので、応答していた。

 

「(アスミタさんは、響に凄く厳しいですよね? どうしてですか?)」

 

《・・・・あの未熟者は、“自分の言葉を虚言にしようとしているからだ”》

 

「(響が、ですか?)」

 

響の言葉が虚言になろうとしていると言う言葉に、未来は首を傾げる。

 

《あの未熟者は、風鳴翼、雪音クリス、暁切歌、月読調、マリア・カデンツァヴナ・イヴ、そして小日向未来、君達に言った、【誰とだって手を繋ぎ、分かり合える事ができる】。とな》

 

「(はい)」

 

《だが、“自分の父親とは、手を繋げられない”とほざいたのだ。散々皆に偉そうに高説を述べておきながら、自分の父親とは手を繋げられない、分かり合えないとほざく、これを虚言と言わず何と言う?》

 

「(あ・・・・!)」

 

《あの愚か者は“贅沢者”なのだ。“恵まれているのにそれに気づいていない”のだ》

 

「(響が、“恵まれている”?)」

 

《過去に言われなき罪状を被せられ、迫害を受けたが、あの者には“母親と祖母”、そして君のような“友”もいた。そして今、“失った絆を取り戻せる立場にいながら”、それを拒もうとする》

 

「(失った絆を・・・・)」

 

《そうだ。我等はその“絆”を持っていなかった。もしくは奪われてしまった。なのに、あの者はそれを拒む。取り戻せると言うのが、どれほど尊いモノなのか知ろうとせず、自分の不幸ばかりに目が行き、悲嘆しているだけなのだ》

 

「(でも、響はお父さんと向き合おうとしていますよ)」

 

アスミタの言いたい事が何となく理解できるが、未来は響は父親と向き合おうとしている事を告げる。

 

《フン。ならば、そこで見定めて見よう。しかし、また逃げ出し、自らが世界の不幸を全て背負っていると言わんばかりの情けない姿を晒さば、今度こそ私は見限るつもりだ》

 

「(大丈夫です。響ならきっと。だから、アスミタさんも信じてください)」

 

《・・・・・・・・私はあの未熟者に過分な期待を寄せるつもりはないが、あの未熟者を信じる君を信じよう、小日向未来》

 

そこで、アスミタとの交信を終えた未来は、土星のように輪を作った月を見上げていた。




次回、クリスちゃんが大活躍。そして・・・・。


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先輩として、後輩として

ーレグルスsideー

 

レグルス達は、情報が漏れていると考える。

 

「俺達の追跡を的確にかわすこの現状と管理区域である『深淵の竜宮』の特定・・・・」

 

「まさか、こちらの情報を出歯亀して・・・・!」

 

「それが仕込まれた毒、内通者の手引きだとしたら・・・・」

 

レグルスと弦十郎の言葉を聞いた藤尭が、ふとそんな事を呟くと、エルフナインはハッとなり、この状況で疑わしいのが自分である事を、聡い彼女は即座に理解した。

 

「ち、違います! 僕は何も・・・・僕じゃありません!!」

 

『いいや、お前だよ、エルフナイン』

 

すぐにエルフナインは自分は違うと否定するのだが。

その時、どこからかキャロルの声が司令室に響くと、エルフナインの身体から投影されたように、立体映像のキャロルの姿が、司令室に現れた。

 

「「「っ!!?」」」

 

「キャロル・・・・!」

 

『一別以来だな、獅子座のレグルスよ・・・・』

 

「これは、一体・・・・!?」

 

「な、何で・・・・!?」

 

それに一同は驚愕し、レグルスはキャロルを睨み、キャロルはレグルスにだけ笑みを浮かべる。

 

「キャロル・・・・! そんな・・・・僕が、毒?」

 

 

ーマリアsideー

 

屋根の上からマリア達を見下ろすファラとガリィは、余裕綽々の笑みを浮かべながら声を発する。

 

「マスターが世界を分解する為には、どうしても必要なものが幾つかありましたの」

 

「その一つが、『魔剣ダインスレイブ』の欠片が奏でる『呪われた旋律』。それを奏者に歌わせ、身体に刻んで収拾する事が、ガリィ達オートスコアラーの使命だったのよ♪」

 

「では、イグナイトモジュールが・・・・!」

 

「バカな! エルフナインを疑える物かッ!!」

 

翼とマリアが、エルフナインの無実を訴える。

 

 

ーレグルスsideー

 

「一体、どういう事だ?」

 

レグルスがキャロルを睨み付けながら尋ねると彼女は不敵な笑みを浮かべ声を発する。

 

『とはいえ、エルフナイン自身は自分が仕込まれた毒であるとは知る由もない。俺が此奴の目を、耳を、感覚器官の全てを一方的にジャックして来たのだからな』

 

「僕の感覚器官が、勝手に・・・・!!」

 

事実を聞いたエルフナインは驚愕して、彼女は両手で目を覆い隠してしまう。

 

『同じ素体から作られたホムンクルス躯体だからこそできることだ。第一不審に思わなかったのか? アスプロスがわざわざエルフナインをお前達の所に逃がし、『ダインスレイブの欠片』を渡るようにしたのも、自らの存在を教えるだけではない。仕込まれた毒である事を隠して、能天気なお前らの懐に入り込みやすくするためだったのだ』

 

 

ー翼sideー

 

「シャトーは既にアスプロス様の思い通りに動く、でも稼働する為にはエネルギーが不足していたのよねぇ~☆」

 

「だから最初にマスターが、『呪われた旋律』を身に受ける事で譜面が作成されますの。後は貴女達装者にイグナイトモジュールを使わせば良い簡単なお仕事・・・・」

 

「全てが最初から仕組まれていたのかっ!?」

 

「「フフフフフ・・・・」」

 

翼の言葉に、ファラとガリィは笑みを浮かべた。

 

 

ーエルフナインsideー

 

「お願いです!! 僕を拘束してください!! 誰も接触できないよう独房にでも閉じ込めて!! いいえ、キャロルの企みを知らしめるという僕の目的は果たされています・・・・だからいっそ!!」

 

すべてはキャロルとアスプロスの思惑通りだった。

それを理解し、エルフナインは顔を青ざめさせ、目尻に涙を浮かべながら自分を拘束するように弦十郎達に必死に懇願した。

 

 

ーエルシドsideー 

 

「エルフナインが逃げられたのも、奴らの思惑だった・・・・!」

 

「くっ!」 

 

エルシドとアルバフィカも、苦虫を噛んだように渋面を作る。

 

「それではこの辺で・・・・」

 

「バイバ~イ☆」

 

ファラは周囲に粉塵のようなものを撒き散らして目眩ましをし、ガリィが懐から瓶を取り出し足元に叩きつけ、魔法陣が展開されて二人は転移した。

 

「『呪われた旋律』を手に入れれば、装者を生かす通りが無くなったと言うのっ!? だから、こちらの気を引くことをなめらかに・・・・!」

 

マリアは悔しそうに唇を噛み締める。

 

「イグナイトモジュールを使えば、奴らの思惑通りになるぞ」

 

「っ! 緒川さん本部に連絡を! イグナイトモジュールの使用を控えさせなければ!!」

 

アルバフィカに言われ、すぐに翼が緒川に本部に連絡を入れるように頼むが、通信機にノイズが走って、連絡が取れなかった。

 

「ダメです! 恐らくこの粉塵が・・・・!!」

 

「付近一体の通信を撹乱させたか。用意周到なことだ・・・・!」

 

エルシドが未だ氷が張っている地面を殴り、悪態をつく。

 

 

ーエルフナインsideー

 

場所は戻り、S.O.N.G.司令室では。

 

「だから、だから・・・・いっそ僕を・・・・!!」

 

泣きじゃくりながら、エルフナインは自分を拘束して欲しいと、弦十郎達に訴えるが・・・・。

 

「・・・・・・・・」 

 

弦十郎はそんなエルフナインの頭に、優しくソッと手を置いた。

 

「なら良かった! エルフナインちゃんが悪い子じゃなくて・・・・」

 

「敵に利用されただけだもんな」

 

友里や藤尭はそう言いながら微笑み、エルフナインに向けて優しい言葉をかけ、弦十郎はエルフナインの頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「君の目的は、『キャロルの企み』を止めること。そいつを最後まで見届けること・・・・だからここにいろ」

 

同じように、レグルスもまたエルフナインに優しく微笑み、エルフナインに声をかける。

 

「誰に覗き見されようと構うものか!」

 

「は、はい・・・・!」

 

それを受け、エルフナインもまた笑みを浮かべ、レグルスはキャロルを見据える。

 

「残念だったなキャロル」

 

『チッ。使われるだけの分際で・・・・!』

 

そんな光景を見て、キャロルはつまらんと言いたげに舌打ちするが、キャロルはレグルスの方を見る。

 

『獅子座よ? このような甘い奴らと徒党を組んで、貴様は守れると思うのか? 止められると思うのか? 俺を? 俺達を?』

 

「・・・・確かに装者の皆も、S.O.N.G.も甘いって言えば甘いと思う事はあるよ。でも、エルフナインは仲間だ。仲間を信じられないような組織だなんて、それこそ何も成す事はできない烏合の衆だ!」

 

『そうか、あくまでもお前はそちら側に立つか?』

 

「ああ、止めるよ。キャロルも、アスプロスも、例え、“どんな結果”になっても、ね」

 

『フン』

 

迷い無い目で宣言するレグルスを見据え、投影されていたキャロルはそのまま消え去ってしまうのだった。

 

 

ーキャロルsideー

 

「獅子座よ。お前は私を理解してくれると思ったのだがな・・・・」

 

ボソッと呟くキャロルの頭を、アスプロスがソッと優しく手を置いた、するとキャロルの顔が年相応の笑みを浮かべて、アスプロスに寄り添う。

 

「気にするなキャロル。奴らがエルフナインを受け入れようが拘束しようが、こちらの優位は変わらんさ」

 

「うん、そうだね」

 

するとそこへ、キャロルが弦十郎達と話している間に、クリス達がなんとかキャロル達の元へと追いついた。

 

「ここまでよ、キャロル! 双子座のアスプロス!」

 

「さっきみたいには行くもんかデス!!」

 

調と切歌が、キャロル達を睨み付けながらそう言い放つのだが・・・・・・。

 

「だが既に、シャトー完成の『最後のパーツの代わり』は入手している」

 

「代わりと言うのは、『ネフェリムの細胞』をもつドクターウェルの事か?」

 

デジェルの問いかけにキャロルは答えず、代わりにアルカノイズを何十体も召喚した。

 

「ドクターは何処にいるデスかっ!?」

 

「アヤツならば、今シャトーで『新しい玩具』を作っているが。そんなに会いたかったのか? 存外人望が有ったようだな?」

 

「そんなん欠片も無いデェス! アイツが野放しになったら、また何の罪もない人達を、自分の身勝手な英雄願望の為に踏みにじるに決まっているデェス!!」

 

「あの人の自由になんてさせない・・・・! あの人の好き勝手にさせない・・・・! それが、あんな人に『フロンティア計画』を任せてしまった、私達の取るべき責任だから・・・・!」

 

アスプロスの言葉に切歌と調がそう返した。

『フロンティア事変』の際、ウェルのやり方で世界を救うしかないと考え、それに増長したウェルの暴走を止める事を出来なかった。

その結果、育ての親であるナスターシャ教授を死なせ、切歌と調はお互いに殺し合うような最悪の事態になってしまった。

切歌と調は同じ事を繰り返させない為にも、ウェルを野放しにしてはいけないと考えた。ここにはいないマリアも、同じ考えであろう。

 

「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」」」

 

装者達はシンフォギアクリスタルを手に取り、聖詠を歌い、シンフォギアを身に纏い、アルカノイズと交戦を始た。

一瞬でアスプロスに近づいたデジェルとマニゴルドが拳を、カルディアが蹴りを放つが、アスプロスは腕で拳を、足で蹴りを防ぎ、交戦を始めた。

 

「さすがに、黄金聖闘士3人と戦うには、分が悪いな」

 

アスプロスの頭上の空間が割れると、『双子座の黄金聖衣』が現れ、分割されてアスプロスの身に纏った。

 

「「「っっ!」」」

 

デジェル達3人も、気を引き締めた。

 

 

ーレグルスsideー

 

モニターに映る一同の戦い、その中で、アスプロスが聖衣を纏ったのを見て、レグルスも自分が行かねばと思ったその瞬間ーーー。

 

ビキビキビキビキ!

 

「っ!」

 

レグルスの真後ろの空間がレグルスの等身大の大きさに砕けるとそこから現れた手に首根っこを掴まれ、レグルスは引き込まれた。

 

「レグルスくん!」

 

「レグルスさんっ!」

 

弦十郎とエルフナインが叫ぶか、レグルスを引き込んだ空間は瞬時に元通りになった。

 

 

ークリスsideー

 

最大火力を使えない為、小型銃のアームドギアでアルカノイズを撃ち抜くが、クリスの前に『土の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏うレイアが立ち塞がる。

 

「水瓶座の代わりに相手になってもらう」

 

「ちょせぇんだよっ!!」

 

レイアはコインを重ねて作り宝石のような鉱物に包まれたトンファーのような武器に、両手に持って使い、クリスに向かって殴りかかる。

それをクリスは銃で右手の銃で受け流し、左手の銃で銃弾を撃ち込むのだが、レイアはそれを身体を捻るようにして回避し、再びトンファーを振るう。

 

「くっ・・・・!」

 

「・・・・・・・・」

 

それをクリスはなんとか後退して回避し、銃弾を何発も浴びせようとするが、レイアはダンスのような動きで銃弾を全て回避し、巨大な岩石のような鉱物を床から生やし、飛びかかってきたクリスを突き飛ばした。

 

「後は私とアスプロス様、それと間も無く到着する妹で対処します」

 

「オートスコアラーの務めを・・・・」 

 

レイアはキャロルの元へと駆け寄ってそれだけを言うとキャロルもそれだけ言い、レイアは頷く。

 

「派手に果たしてみせましょう」

 

そのままキャロルが瓶を床に投げつけると足下に巨大な紋章が現れ、キャロルは転移して消え去ってしまう。 

 

「待ちやがれ!!」

 

クリスはキャロルを引き止めようとするのだが、レイアが立ち塞がり、トンファーでクリスの顔を殴りつけ、殴り飛ばす。

 

「ぐあああっ!」

 

「マズいデス! 大火力が使えないからって飛び出すのは!!」

 

「ダメ! 流れが淀む・・・・!」

 

「っ、クリス!!」

 

デジェルがクリスの元へと駆け寄ろうとするが、一瞬でアスプロスがソッとデジェルの腹部に手を当てるとーーー。

 

「ぐぉああああああああああっ!!!」

 

その箇所が光り出し、デジェルの身体が吹き飛び、天井に叩きつけられ、床に落下した。

 

「デジェルっ!」

 

「野郎っ!!」

 

マニゴルドとカルディアがアスプロスに向かうが、アスプロスは二人の攻撃を余裕で防いでいった。

レイアはコインと宝石の弾丸を機関銃のように撃ちだして、切歌と調を攻撃する。

 

「うぅっ!」

 

「あああっ!」

 

「フッ!!」

 

「「え? あぁあああっ!!」」

 

レイアは巨大化したコインを放ち、そのコインで二人を挟み込んだ!

 

「切歌っ!!」

 

「調っ!!」

 

「女子供に気をそらしてしまうとはな、マニゴルド、カルディア?」

 

「「がっはぁ!!」」

 

切歌と調に気をそらした二人の頭を掴んだアスプロスが二人を床に叩きつけた!

 

「うっ、くっ・・・・! あっ・・・・!!」

 

そこで意識が朦朧としている中、倒れ込んでいたクリスがなんとか起き上がり顔を上げるとそこには、コインに挟み込まれてボロボロの状態で倒れている切歌と調の姿があり、クリスは目を見開く。

 

「っ・・・・! 一人ぼっちが、仲間とか友達とか先輩とか後輩なんて、求めちゃいけないんだ・・・・! でないと、でないと・・・・残酷な世界が皆を殺しちまって、本当の一人ぼっちになってしまう! なんで・・・・。世界はこんなにも残酷なのに・・・・。パパとママは歌で救おうとしたんだ・・・・。何でお兄ちゃんは守ろうとするんだ・・・・!」

 

クリスはこの惨状を見て、自分がこの二人に対して無理に先輩として振る舞おうとした結果なのかと、衝撃を受け、瞳から涙が零れ落ちる。クリスはその場に座り込みながら泣きじゃくる。

そんな彼女にレイアは容赦なくトンファーを振るい襲いかかって来る。

 

「滂沱と暇があれば、歌え! っ!?」

 

レイアが容赦なくトンファーを振るい襲いかかろうとするが、身体を“氷の鎖”が拘束した。

 

「氷の鎖、『フリージングチェーン』。少し大人しくしてもらう。マニゴルド、カルディア、任せるが・・・・!」

 

「・・・・行ってこいや、デジェル」

 

「あのじゃじゃ馬には、お前が必要だ・・・・!」

 

マニゴルドとカルディアが、自分達の頭を掴んだアスプロスの手首を掴んで起き上がる。

 

「ほぉ、相変わらずしぶといな?」

 

「へっ! 聖衣を纏っているからって、勝った気になるなよな・・・・!」

 

「聖闘士の戦いは・・・・!」

 

「「小宇宙<コスモ>で決まるんだよっ!!」」

 

二人が小宇宙を高めて、アスプロスと交戦を再開した。デジェルはクリスの方へと向かうと、クリスの身体を優しく抱き締める。

 

「お兄ちゃん・・・・ダメだよ私・・・・! お兄ちゃんみたいに自分の力で後輩達を守れなくて、私じゃ・・・・!!」

 

「・・・・クリス、あの子達はそんな風には思ってなどいない」

 

デジェルが視線をレイアに向けると、氷の鎖を宝石の弾丸で砕き、トンファーを振りかぶって襲い掛かるが。

切歌と調は、ボロボロの状態にながらも立ち上がり、レイアの繰り出す攻撃をアームドギアで防ぐ。

 

「一人じゃないデスよ!」

 

「未熟者で、半人前の私達だけど・・・・傍にいれば、誰かを一人ぼっちにさせないくらいは・・・・!!」

 

切歌と調はクリスに自分達の伝えたい言葉を伝える。

 

「後輩を求めちゃいけないとか言われたら、ちょっとショックデスよ・・・・」

 

「私達は・・・・先輩が先輩でいてくれること、頼りにしてるのに・・・・!」

 

フラつきながらも切歌と調は自分達の想いをクリスに伝え、デジェルも話しかける。

 

「クリス。君は無理に後輩達に、先輩として接する必要なんてない・・・・!そのままの君で良い。少し素直じゃなくて、ちょっと不器用で、しかし歌が愛し、とても優しい心を持ったそんな雪音クリスが、いつものクリスが、私は、私達は大好きだ」

 

「っ、そっか・・・・私みたいなのでも先輩やれるとするならば、アイツらみたいな後輩がいてくれるから、なんだよね・・・・お兄ちゃん?」

 

クリスの言葉にデジェルは頷いて立ち上がり、涙を拭い去ったクリスも立ち上がる。

 

「もう怖くない! イグナイトモジュール! 抜剣!!」

 

クリスは胸部に装着されたクリスタルに手をかけ、それを取り外して空中へと投げるとそれが杭のような剣の形となり、それは彼女の胸部に突き刺さった。

 

「がぁあああああ!!! (アイツ等が! 私をギリギリ先輩にしてくれる!!そいつに応えられないなんて! 他の誰かが許しても、私様が許せねえってんだぁ!!)

 

そして、彼女の纏うイチイバルは黒く染まり、軽装な姿の『イグナイトモジュール』となった。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

マニゴルドとカルディアを壁に叩きつけたアスプロスは、見事成長したクリスに笑みを浮かべる。がーーー。

 

「ほぉ、イチイバルも成長したか、これならば天羽々斬も成長したのやも・・・・っっ!」

 

「ハァアアアアッ!!」

 

その頭上から、レグルスを拳を振りかぶって来るが、アスプロスは寸前で回避し、レグルスの拳が床を砕く。

 

「レグルス・・・・!」

 

「アスプロス・・・・!」

 

レグルスはキッとアスプロスを睨むと、光速の拳を突き出し、アスプロスはその拳を受け止めようとした。

 

 

ークリスsideー

 

「レグルス? どうやってここに?」

 

「お兄ちゃん。アタシは大丈夫だよ。だから向こうを・・・・」

 

「ああ、分かった。クリス」

 

「?」

 

「聴かせてくれよ」

 

「うん。聴いてて! ♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

歌を口ずさみ、クロスボウのアームドギアからクリスは矢をレイアに向かって放つが、レイアはトンファーを回転させて防ぎ後ろに飛ぶ。

クリスはクロスボウから拳銃に変形させ、トンファーを持ってクリスに向かって来るレイアの振りかざすトンファーは避けながら、アームドギアの弾丸を撃ち込むも、レイアも見事にかわしていく。

 

「(失うことの怖さから、折角掴んだ強さも暖かさも全部・・・・。手放そうとしていた私を止めてくれたのは・・・・!!)」

 

クリスは一瞬、切歌と調の姿を見つめる。

 

「(そして、お兄ちゃんが・・・・!)」

 

一瞬、クリスはレグルスが離れ、アスプロスと交戦するデジェルの方に視線を向けると、それに気づいたデジェルはアスプロスに『ダイヤモンドダスト』を放ちながら、一瞬クリスに笑みを見せる。

 

「っ♪~♪~♪~♪~♪~♪!!」

 

「ライフルで?」

 

笑みで返したクリスは後方に大きく跳び、アームドギアをライフルに変形させた『RED HOT BLAZE』を発動させ、レイアは撃つと考えたが・・・・。

 

「殴るんだよっ!!」

 

「なっ!?」

 

ライフルを打撃武器として使い、レイアの頭を思いっきりクリスは殴ったのだ。

 

「(先輩と後輩、この絆は世界がくれたもの! 世界は大切なものを奪うけれど、大切なものをくれたりもする! そうか、パパとママは・・・・少しでも貰えるものを多くするため・・・・歌で平和を・・・・! そんな世界を守る為に、お兄ちゃん達は戦うんだ・・・・!)」

 

クリスは空かさず背部に形成した固定式射出器に大型ミサイルを左右に各1基、計2基を連装して生成し、射出する『MEGA DETH FUGA』をレイアに向かってミサイル1発目を発射した。

その一瞬、クリスはデジェルと目が合った。

 

「くっ!」

 

レイアは後退しながらレイアはなんとかトンファーでミサイルを破壊する。

 

 

ーデジェルsideー

 

「っ! レグルス!!」

 

「ぃよし!」

 

クリスの意図を察したデジェルはレグルスの隣り合わせになり、小宇宙を高め、アスプロスに向けて拳を突き出す!

 

「『ライトニングプラズマ』!!」

 

「『ダイヤモンドダスト』!!」

 

放たれた雷光と氷雪は混じり合い、1つとなって、アスプロスを捉えた。

 

「くっ、ぬぉおおおおっ!!」

 

さすがのアスプロスも、二人の連携技に吹き飛ばされ、レグルスとデジェルは瞬時にマニゴルドとカルディアをそれぞれ担いでその場を離れた。

 

 

ークリスsideー

 

「諸共に巻き込むつもりか・・・・!?」

 

しかし、クリスは2発目のミサイルを発射し、ミサイルの上に乗ってレイアに向かって行く!

 

「デェェェェェス!!」

 

切歌のギアからワイヤーを射出し、クリスの身体に巻き付ける。

レイアはニヤリと笑みを浮かべると、ミサイルに直撃し、爆発した。

 

「スイッチの位置は覚えてる!!」

 

調はアームドギアから小さな鋸を射出し、隔壁のスイッチを押し、隔壁を閉じる寸前、クリスと聖闘士達が入り込み、切歌と調の近くに着地すると、隔壁の向こうで爆発音が響いた。

 

「やったデス!」

 

「即興のコンビネーションで、全くもってムチャクチャ・・・・・・」

 

「その無茶は、頼もしい後輩がいてくれてこそだ」

 

クリスは笑みを浮かべてそう言いながら、切歌と調の手を握りしめる。

 

「ありがとな」

 

それに切歌と調も嬉しくなり、二人の顔に笑みが浮かぶ。

 

「いやぁ良かった良かった」

 

「レグルス、お前は何故ここにいるんだ?」

 

「あぁ実はね・・・・」

 

と、レグルスが説明しようとした瞬間、建物が揺れ始めた。

 

《『深淵の竜宮』の被害拡大! 皆のいる位置付近より、圧壊しつつあります!》

 

《この海域に急速接近する巨大な物体を確認! これはっ!》

 

《いつかの人型兵器かっ!?》

 

「どうやら、急いで脱出した方が良いな」

 

デジェルの言葉にクリス達も頷き、一同は竜宮からの脱出しようとするが。レグルスが通信機で弦十郎に向けて声を発する。

 

「弦十郎、すぐに本部を浮上させて」

 

《なにっ!?》

 

「こっちは何とかなるから! 急いで!!」

 

レグルスが弦十郎にそう言った瞬間、全員のいる区画の景色、イヤ、空間が砕け、すぐに景色が元通りになるとそこは、本部の司令室だった。

 

『なっ!!?』

 

レグルスを除く一同が驚くが。

浮上した本部に巨大人型、レイアの姿を歪にし、包帯まみれにした『レイアの妹』が、本部の船体にその巨大な腕を振り下ろして叩き潰した!

本部の指令部をパージして離れるが、その衝撃で指令室は大きく揺れ、非常電源が照らす。

 

『うわぁああああああ!!!』

 

天井の設られた設備が剥がれ落ち、友里に向かって落下する!

 

「危ないっ!!」

 

エルフナインが友里に向かうと、金色のオーラがエルフナインを包む。

 

 

ー???sideー

 

『・・・・・・・・』

 

『レイアの妹』が、本部を追撃しようとしたが、突如目の前の空間が人間1人分の大きさに割れると、そこに1人の男性が現れた。

 

「・・・・・・・・」

 

男性は静かに『レイアの妹』を見据えると、両手を交差させて叫ぶ。

 

「『ギャラクシアンエクスプロージョン』!!!」

 

男性の背後の景色が宇宙空間になり、“銀河の星々が爆裂した背景”が展開されると、『レイアの妹』もまた、星々のように砕け散った!

 

 

ーアスプロスsideー

 

クリスの放ったミサイルの爆炎が晴れるとそこには、双子座のアスプロスと、『土の自然闘衣<エレメントローブ>』を纏ったレイアが悠然と立っていた。

 

「レイア。どうだ?」

 

「損害軽微、『自然闘衣<エレメントローブ>』の防御力には感嘆します」

 

「フフフ、防御力も問題無しか、お陰で“エネルギーだけ”が手に入り、こちらの戦力はダメージ無し・・・・ん?」

 

崩れる『深淵の竜宮』の天井を見上げるアスプロス。

 

「アスプロス様?」

 

「・・・・レイア、戻るぞ」

 

「了解」

 

レイアは懐から瓶を取り出し、足元に叩きつけて割ると、転移魔法陣が展開され、二人はゆっくりと沈んでいく。

アスプロスは天井を見上げ、愉快そうに笑みを浮かべて呟く。

 

「運命とはまさに数奇。そしてこの世界もまた、つくづく残酷だな? そう思うだろう?・・・・・・・・『デフテロス』よ??」

 

そう呟き、二人の姿は『深淵の竜宮』から消えた。



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狂いし父と狂人の雷鳴

今回、響の父が・・・・。


ーレグルスsideー

 

「あいたたたた・・・・。みんな大丈夫? なんか天地がひっくり返ったようだな」

 

「レグルス。実際ひっくり返っているぞ」

 

『深淵の竜宮』から本部に“転移された”レグルス達は、そのまま『レイアの妹』によって本部は破壊され、指令部のみが脱出し、その衝撃でレグルスは逆さまの状態で壁に寄りかかるように倒れていた。

 

「ああデジェル、そっちは大丈夫?」

 

「何とかな。大丈夫かいクリス?」

 

「う、うん・・・・/////」

 

レグルスの隣にいたデジェルは、弱冠顔を赤らめたクリスを抱き締めるように抱えて、壁に寄りかかっていた。

 

「他のみんなは? カルディアと調は?」

 

「こっちも大丈夫・・・・」

 

「おい調。早く俺の腹から退け」

 

横に倒れるカルディアの腹部に、調が腰を落としていた。どうやらデジェルのように抱き締められず、受け止める形になったらしい。

 

「マニゴルドと切歌は?」

 

「おうこっちも大丈夫だ。丁度良いクッションがあったからなぁ」

 

「何でアタシ、こういう扱いなんデスかっ!?」

 

レグルスが声のする方に目を向けると、尻餅をついているマニゴルトの尻の下では、うつ伏せに倒れている切歌がおり、その腰にマニゴルトが尻を乗せている状態だった。

 

「ウンウン切歌。身を呈して俺の座布団になるとは見上げた心意気だぜ」

 

「何が心意気デスかっ!? 早く退くデス!!」

 

「あん? そんな事を言うと、こうしてやるぞ?」

 

マニゴルドがニンマリと笑みを浮かべると、切歌な太腿の辺りを、ギュムッとつねった。

 

「はぅんッ!♥・・・・って、それで誤魔化されないデスよ!」

 

「んじゃこっちか?」

 

「あふぅぅんんっ!!♥♥・・・・だ、だからやめるデェス!!」

 

今度はお尻をつねり上げたると、切歌はさらに嬌声をあげる。

 

「マニゴルド。それじゃお仕置きじゃなくてご褒美になっちゃうよ」

 

「そうだな。バカはここまでにして、エルフナインはどうだデジェル?」

 

切歌とバカやってるマニゴルドに、調が静かにツッコムと、切歌の腰から立ち上がったマニゴルドは、エルフナインの方を見る。

エルフナインは剥がれた天井の一部から、友里を身を挺して庇い、彼女に覆い被さって代わりに天井の一部を身体に受けてしまったのだ。

 

「うっく・・・・エルフナインちゃん!?」

 

「だ、大丈夫です・・・・僕は・・・・誰に操られた訳でもなく・・・・」

 

エルフナインはそれだけを言い、デジェルがエルフナインの容態を診る。

 

「外傷はほとんど無し。どうやら、何かがエルフナインの身体を守ったようだ」

 

「“何か”って、まさかーーーー」

 

レグルスが起き上がり、エルフナインに近づこうとすると、レグルスの身体を光が包み込んで、レグルスが指令部から消えたーーーー。

 

「レグルスくんっ!?」

 

『っ!?』

 

弦十郎が叫ぶと同時に、全員がレグルスに目を向ける。

が、デジェル、マニゴルド、カルディアは、冷静だった。

 

「アスミタか?」

 

「のようだな」

 

「一体何の用でレグルスを連れていったのか?」

 

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

日が登って間もない時間帯、アスプロスはとある路地裏で“ある人物”に、話しかけた。

 

「今日はお嬢さんとお会いになるそうですね?」

 

「ーーーーーーーー」

 

アスプロスが紳士的な笑みを浮かべ話すと、その人物はコクコクと頷く。

 

「もしも、またお嬢さんとの話し合いを邪魔する輩が現れたら、これを使用してください」

 

「???」

 

その人物はアスプロスが 、“『深淵の竜宮』で見つけた代物”を渡した。

 

「それを使えば、貴方はすべてを取り戻せます。保証しますよ」

 

アスプロスは一瞬、その人物を“指差す”。

 

「・・・・・・・・っっ!」

 

その瞬間、その人物は、ぼぅっとなるが、すぐに正気に戻った。

 

「では、ご成功を祈ってますよ。・・・・立花さん」

 

「は、はい・・・・(これを使えば、元通りに、なる)」

 

 

 

 

ー響sideー

 

昼時。

響は、せめてもう1度、前回訪れたレストランに来ており、父親の洸と会っていたが、また響が奢る形で父親・洸と食事をしていた。

 

「悪いな、腹減ってたんだ」

 

「・・・・・・うん」

 

響はまた娘にタカる父親の醜態に沈んだ気持ちで応対した。

 

 

ーレグルスsideー

 

一方。響が父親・洸と会う事を心配した未来がアスミタに頼み。指令部から転移されたレグルスがTシャツとジーパンを着用し、帽子とサングラスで変装した格好で、響達から少し離れた席で様子を見つめていた。

また娘にご飯を奢らせている洸を見て、目を細めた。

 

「(未来が心配してるから一応来ては見たけど・・・・)」

 

レグルスは洸の胸ぐらを握り上げたい気持ちになるが、グッとこらえ、鍛えた聴覚で二人の会話に耳を傾ける。

響は一瞬、スマホの画面を見ると、そこには未来から送られて来たメッセージが表示されていた。

 

《へいき、へっちゃら》

 

という文字が書かれており、ほんの少しだけそれを見つめると、彼女は意を決した表情を浮かべて洸に話しかける。

 

「あのね、お父さん」

 

「どうした?」

 

「本当に、お母さんとやり直すつもり?」

 

「ホントだとも!」

 

その響の問いに洸は頷いて答える。

 

「お前が口添えしてくれたらお母さんも・・・・・・」

 

「だったら! 始めの一歩は、お父さんが踏み出して? 逃げ出したのはお父さんなんだよ? 帰って来るのも、お父さんからじゃないと・・・・・・」

 

響の言うことは正論たった。

逃げたのは自分なのだから、帰って来るのも先ずは自分からでなくては筋が通らない。

 

「それは、嫌だなぁ・・・・」

 

しかし、洸は暗い表情を浮かべながら答える。

 

「何より俺にも、“男のプライド”がある」

 

その瞬間、レグルスは眉を寄せ、唇を噛み締める。

娘に食事を奢って貰い、家庭をメチャクチャにし、家族を見捨てて自分だけ逃げ出した卑怯者が、“男のプライド”をほざく事に、怒りを覚える。

レグルスは沸き上がる怒りを抑えてきつく拳を握り、爪が掌の肉に食い込み、血が滴り落ちる。

 

「私、もう1度やり直したくて勇気を出して会いに来たんだよ?! だからお父さんも、勇気を出してよ!!」

 

「響・・・・だけど、やっぱり俺1人では・・・・」

 

響は自分は勇気を出して洸に会いに来た。だから洸も勇気を出して家族と向き合うべきだと訴えた。

が、それでもやはり洸は臆病風に吹かれているのか、勇気を出すことが出来ないでいた。

 

「1度壊れた家族は、元に戻らない」 

 

「っ・・・・あっ・・・・」

 

そんな彼に、響は残念そうな顔を浮かべ、洸はそんな響に何か言おうとするのだが、言葉が見つからず、黙ったままになってしまう。

その時、ふと外の方に洸が顔を向けると、そこには一組の親子がいて、男の子の手には風船が握っていた。

しかし、そこで男の子がつまずいて転んでしまい、手に持っていた風船が男の子の手から離れて空へと飛んでいってしまう。洸は思わずその風船を目で追った。

 

ーーーーその瞬間。

 

空に浮かんでいた風船の先の空が、突然ヒビが入り、空間が割れたのだ。

 

「っ・・・・なっ、なんなんだ!?」

 

「空が、割れる・・・・!?」

 

空が割れるという現象を目撃し、驚きの声をあげる洸と響。

レグルスもその光景を見て、割れた空を睨んだ。

 

「あれが、『チフォージュ・シャトー』っ!?」 

 

しかし、そこから現れたのは、巨大な城、『チフォージュ・シャトー』である。

 

 

ーキャロルsideー

 

『チフォージュ・シャトー内部』。

そこではキャロルとアスプロス。そしてオートスコアラーが二人の側で控え、アスプロスが小さく何かを呟きながら、装置を起動させていた。

 

「ワールドデストラクター、セットアップ完了。 シャトーの全機能オートモードに固定する」

 

アスプロスはすでに『チフォージュ・シャトー』を掌握しており、最終調整を始めていた。

 

「いや~、これが『チフォージュ・シャトー』ですか? まさかこれほどの物があったとは、まさに驚きの極致!!」

 

と、そこでアスプロス達がいる広間に、左腕を異形の怪物、『ネフェリム』の細胞を移植し、肌も灰色になった皺まみれの顔と禿頭のドクターウェルが、下卑た笑みを浮かべて、慇懃無礼な態度でキャロルとアスプロスのいる中心部に近寄る。

 

「「「「・・・・・・・・」」」」

 

レイアとファラはウェルを冷めた目で見据え、ガリィは汚物を見るようにゲンナリとして顔をし、ミカは興味なしの態度であった。

オートスコアラー達と同じ思いだが、キャロルは淡々と声を発する。

 

「オートスコアラーによって、呪われた旋律は全て揃った。 これで世界はバラバラに噛み砕かれる・・・・!」

 

「あん?」

 

そんなキャロルの言葉を聞き、ウェルは顔をキャロルの方に向ける。

 

「世界を、噛み砕く?」

 

「・・・・父親に託された“命題”だ」

 

【生きて、もっと世界を知るんだ・・・・】

 

ウェルにそう答えるとキャロルは目を瞑り、亡き父親の言葉を思い出し、目からは光が無くなっていた。

 

「わかってるって!! だから世界をバラバラにするの!! 解剖して分解すれば万象の全てを理解できるわ!!!」

 

「・・・・・・・・」

 

突然、狂ったように、何時もと違う雰囲気でそう語り出すキャロル。

アスプロスは操作を一度止めて、キャロルを後ろから抱き締めるように包む。

だが、ウェルはそのことにまるで気にも止めず、ニヤリと笑みを浮かべ、キャロルに尋ねる。

 

「つまりは至高の英知!! ならばレディ? その知を以て何を求める?」

 

「何もしない」

 

「あぁ??」

 

その問いかけの答えに対し怪訝な表情となるウェル。

 

「父親に託された命題は『世界を解き明かす事』。それ以上も以下もない」

 

「Oh・・・・! レディーに『夢』はないのか? “託されたもの『なんか』”で満足してたら、底もてっぺんもたかが知れる!!」

 

「っ・・・・!」

 

そんなウェルの言葉を聞いた瞬間、キャロルの中でナニかが弾け、彼女はウェルを睨み付ける。

 

「『なんか』・・・・と言ったか?」

 

「あっ?・・・・ひっ!!」

 

キャロルに目を向けたウェルは小さく悲鳴を漏らした、何故ならば、キャロルの身体から、どす黒いオーラが立ち込めていたからだ。

 

 

ー響sideー

 

場所は響達のいるレストランへと戻り。

 

「響っ!」

 

「あれ、レグルスくん!? な、なんでここに・・・・?」

 

緊急事態故に、レグルスは変装を解いて響の元へと駆け寄り、響は父親と話がついたら仲直りしようと思っていたレグルスの登場に驚く。

 

「アスミタに連れてこられたんだ。未来がさ、響が心配だからって、響の様子をこっそり見守って欲しいって頼まれたんだ・・・・」

 

「(未来・・・・わざわざレグルスくんを送るなんて・・・・)」

 

おそらく、父親と話を終えたらその足でレグルスとも仲直りさせようと考えて、レグルスを送ったと思った。

 

「兎に角、響。外に出るよ!」

 

「う、うん!」

 

響はレグルスと共に外に出ていった。

それを見て、洸は愕然と響の背中を見つめる。

 

「何で・・・・何であのクソ餓鬼が・・・・! やっぱりそうなんだな・・・・! あ、あの餓鬼が! 響をタブらかして・・・・!!」

 

その時、洸の目が、血のように真っ赤に染まり、髪と瞳が淡く光った。

 

 

 

 

「あおい、こちらレグルス」

 

《レグルスくん? 響ちゃんと一緒にいるの!?》

 

レストランを出たレグルスと響の通信端末に、友里からの通信が入った。

通信回路に異常がないことを友里は弦十郎に報告して、弦十郎は現在の状況をレグルスと響に説明する。

 

《レグルスくんがそこにいるのは今は置いておく。手短に伝えるぞ。周到に仕組まれていたキャロルの計画が最後の段階に入ったようだ》

 

「えっ!?」

 

「・・・・」

 

《俺達は現在、東京に急行中。装者と聖闘士が揃い次第、迎撃に当たってもらう。それまでは・・・・》

 

 

「はい! レグルスくんと一緒に、避難誘導に当たり、被害の拡大を抑えます!」

 

響は弦十郎にそう言葉を返し、洸にも避難誘導を頼もうとするのだが・・・・。

 

「お父さん! みんなの避難を・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「お父さん・・・・?」

 

父・洸は、無言のまま顔をうつむかせていた。

 

「お父さん? どうしたの?」

 

「・・・・・・・・何で、ソイツが、いる?」

 

酷く低く、そして沸き上がる感情を押し殺すような声を上げる洸。

 

「・・・・お父さん?」

 

「響!」

 

「えっ?」

 

洸に近づこうとする響の肩をレグルスが掴んで止めた。

 

「響に触るなっっっ!!!!!!」

 

ブゥオアアアアアアアアアア・・・・!!

 

その瞬間。腹の底から感情を爆発させたように大声を上げた洸の身体から、どす黒いオーラ、イヤ、小宇宙<コスモ>が吹き出した。

 

「これは・・・・小宇宙<コスモ>っ!」

 

「っ!? お父さん・・・・っ!」

 

響は洸に向かって叫ぶが、洸のその瞳は、充血したかのように、イヤ、まるで血液が眼球を染め上げたかのように赤黒く染まり、憎悪と憤怒と怨嗟に満ちた眼差しをレグルスに向けていた。

 

「お前が! お前さえいなければ!! 全て元通りになるんだーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

洸は懐から、『メダリオン』を取りだし、その『メダリオン』が光輝くと、洸のその身に血に汚れたような鎧が、その手にはジャマダハムが握られていた。

 

「あの鎧はまさか・・・・!」

 

「レグルスくん・・・・なんなのあれ?・・・・お父さんは、どうしちゃったの?」

 

響は、父の姿に愕然となりながらも、声を発し、レグルスも驚愕したように唇を開く。

 

「響の父さんが・・・・『戦いの神 アーレス』の闘士、『狂戦士<バーサーカー>』になった?!」

 

『戦神アーレス』の闘士、戦いに生きる狂戦士<バーサーカー>となった洸は、レグルスにその憎悪に満ちた眼差しを向けた。

 

 

 

ーアスプロスsideー

 

その頃シャトー内部では、キャロルの身体から発せられる莫大な小宇宙<コスモ>に、ウェルは怯んだ。

 

「父親から託されたものを、『なんか』と、お前は切って捨てたか!?」

 

キャロルはウェルの言葉に怒り、彼を睨み付ける。ウェルは目の前の小娘に臆してたまるかと、醜悪な顔をさらに汚く歪めて、キャロルを嘲笑するかのように吠える。

 

「冒したともさ! ハァンッ!! レディがそんなこんなでは、その命題とやらも解き明かせるのか疑わしいものだ!!」

 

「・・・・なに!?」

 

ウェルからの返答にキャロルはさらに不快な顔を浮かべ、小宇宙<コスモ>を上げるのだが、ウェルは内心怯えながらもと言葉を続ける。

 

「至高の英知を手にする等、天工を破れるのは英雄だけぇ!! 英雄の器が小学生サイズのレディには、荷が勝ちすぎる!! やはり世界に英雄は僕1人ぼっちぃ! 複数と並ぶものはなぁあああああいっ!!」

 

ウェルは興奮気味にそう叫び、キャロルの後ろの方へと走る。

 

「やはり僕だ!! 僕が、英雄となって!!」

 

「・・・・どうするつもりだ?」

 

「無論人類の為!! 善悪を超越した僕が、『チフォージュ・シャトー』を制御しグゲェェっ?!!」

 

散々人の命を弄び、命を奪うことに愉悦としてきた存在が、人類の為といけしゃあしゃあとほざき、ウェルが言いかけたその時、奇妙な事が起きた。

ウェルの『ネフェリムの細胞を移植した左腕』が、ウェルの首を掴んで、ウェルの首を握り潰そうとしていたのだ。

 

「な、なんれ<で>ぇぇ、僕の、腕がぁ・・・・!」

 

ウェルは目を見開き、戸惑いがちに、自分の腕を止めようと動かそうとするが、腕はウェルの意思に反して力を込めた。

 

「支離にして滅裂・・・・! 貴様のような左巻きが、英雄になれるものか・・・・!!」

 

そう言ったキャロルは、膝立ちになり首を握って悶えるウェルに、『ダウルダブラ』を取りだし、鋭利な突起を突き刺そうとする・・・・。

 

「止めろキャロル。君の楽器をこんな下劣な男に使ってはいけない・・・・」

 

ソッとアスプロスがキャロルの肩に手を置き、小宇宙<コスモ>をキャロルに流し込む。

 

「・・・・アスプロス」

 

「・・・・オートスコアラー」

 

「「「「!!」」」」

 

キャロルから離れたアスプロスが呼ぶと、『エレメントローブ』を纏ったガリィ、ファラ、レイア、ミカが、キャロルの囲うように四方に立つと、それぞれのメインカラーのオーラを纏い、キャロルから溢れる小宇宙<コスモ>を抑えた。

アスプロスはそれを見ると、ついに仰向けに倒れ、息が出来なくなってきたのか、顔色が紫色へと変色し、口の端から泡を吐くウェルを見下ろす。

 

「『ヤントラ・サルヴェスパ』の代用品として生かしておいたが、まさに自ら首を締めたな、ドクターウェル?」

 

「うっ、あっ・・・・! え、おぉ・・・・!」

 

アスプロスがそう言うと、ウェルは助けてくれ、と懇願するように、アスプロスに向けて右手を伸ばす。

 

「世界の腑分けは、俺達が執刀しよう・・・・。お前はもう、用済みだ」

 

「き、きゃお<かお>、は、やめ、へ<て>・・・・!!」

 

ウェルが無様に言うと、アスプロスは不意に、片眉をピクリと動かした。

 

「ほぉ、どうやら余興が始まったか。これを見ろ、ウェル」

 

アスプロスがウェルの目の前に空中ディスプレイを見せるとそこには、レグルスと響が映し出された。

 

「っっっ!!!!?」

 

レグルスの顔を見た瞬間、ウェルの脳裏、『忌々しい記憶』が何度も何度も再生された。

 

自分と言う英雄を『任務の邪魔程度』にしか見ていない山羊座<カプリコーン>。

自分と言う英雄の『生科学者としての矜持』を踏みにじった水瓶座<アクエリアス>。

自分と言う英雄を『ただの小悪党風情』と蔑んだ蟹座<キャンサー>。

自分と言う英雄に『何度も恥辱』を与えた蠍座<スコーピオン>。

自分と言う英雄を『薄汚いコソ泥』と見下す魚座<ピスケス>。

自分と言う英雄の『存在意義を否定』した『神に近い』等とホラを吹く乙女座<ヴァルゴ>。

そして、自分と言う英雄が進む筈だった『覇道』に一番最初に『汚辱』を与えた怪物、獅子座<レオ>。

 

「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!」

 

ウェルはレグルスの姿を捉えると、狂ったようにお叫びを上げて、ジタバタと身体を動かし、口からは涎を漏れ出て撒き散らさした。

それを見てアスプロスは、小さく口角を上げると、ウェルの頭を指差すと、ウェルの左腕は、ウェルの首から手を離した。

しかしウェルはそんな事を気にせず、憎悪に満ち満ちた瞳を大きく見開き、真っ赤な血の色に染めると、歯をギチギチ噛みしめる。

 

「見つけた、見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたっ!! あの化け物だっ! アイツの、アイツのアイツのアイツのアイツのアイツのせいでっ!! この僕がぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」

 

ウェルは懐から、『金色の結晶』を取りだし、床に叩きつけると、ソコから錬成陣が現れ、『ソコから現れた鎧』を纏いながら手すりの部分に走り、手すりを飛び越えていった。

 

「廃棄予定がいささか早まったな。それにしても、『託された信頼』も、『希望』も、『夢』も、『想い』も、『志』もなく。

『望まれる役割』も、『果たすべき役目』もなく。

ただ『自らの妄執』と『聖闘士への復讐』しか持っていないとは、憐れなヤツだ・・・・」

 

アスプロスは落ちていくウェルを憐憫な目で見下ろして呟く。

その時、小宇宙<コスモ>の吹き出しが収まったキャロルが、胸を押さえて苦しみ出す。

 

「うっぐ・・・・!」

 

「「「「マスター・・・・」」」」

 

オートスコアラーが、倒れそうになるキャロルを支える。

 

「くっ、立ち止まれるものか! 計画の、障害は、例外なく、排除するのだ・・・・!」

 

「まぁ少し待てキャロル。これから面白い『見世物』が見れるぞ?」

 

アスプロスが、パチンッ、と指を鳴らすと、大きめの空中ディスプレイが表示され、レグルス達の様子が映し出された。

 

 

 

ーレグルスsideー

 

ドゴォォォォォォォォォォォンンッ!!

 

「っ!?」

 

「何だ!?」

 

突然自分達の後ろから落ちてきた者に、レグルスと響が目を向けると、『金色の鎧』を纏ったウェルが狂った笑みを浮かべていた。

 

「ドクターウェルっ!?」

 

「えっ? ウェル博士!?」

 

レグルスがそう言って、響も驚愕したようにウェルを見る。

肌の色は灰色で、顔は皺まみれ、頭は禿ており、記憶にあるウェルよりも倍の年齢に見えるが、その顔にへばり付いた醜悪な顔だけが、唯一記憶と合致した。

 

「見ろ見ろ見ろ見ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 刮目しろ化け物ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!! これが! 真の英雄であるこの僕が造り出した『究極の鎧』ぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!! 『雷の自然闘衣<エレメントローブ>』だぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!」 

 

叫んだウェルに呼応するように、『雷の自然闘衣<エレメントローブ>』から、稲妻が迸った。




青銅聖闘士は『ドックタグ』。
白銀聖闘士は『ブローチ』。
黄金聖闘士は『レリーフ』。
冥闘士は『勾玉』。
狂戦士の待機状態は、『白影 涅槃』様のご意見で、『メダリオン』にしました。

この先の展開は、オリジナルとなります。原作と違うから、執筆が遅れると思いますから、ご了承下さいm(__)m


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