戦国†無双 (ウィングゼロ)
しおりを挟む

第一話

だいたい4000文字か…6000は行きたかったな


人生……何が起きるかわからない

 

そう黄昏ながら、少年、八神響はふらふらとした足取りで山道を歩いていた。

 

響の服装は至る所が破け、服から晒されている手や足などは汚れが付き、顔などもげっそりとした顔つきで朧気な意識を繋ぎ止めながら体制を崩さないように一歩また一歩と前に進んでいく。

 

どうして……どうしてこうなったかと自問自答な考えを頭に過ぎりながらもそんな答えあるはず無いと直ぐに吐き捨てた。

 

なぜ彼…八神響がこのような状況に立たされているのかそれは今から約三週間ほど前のことである。

 

八神響は現代で暮らしている平凡な高校生であった。

 

運動もそこそこ、勉強もそこそこと特に目立った特技もない、どこにでもいる普通の学生であった。

 

そんな彼……いや彼らがこの現状へと発展とした起因は突然と起きた。

 

八神響が通う高校はまだ入学してからはまだ浅く、クラス別の親交行事で合宿地にやってきていた。

 

何事もなくまだまだ馴れていない親交を深めるという点で間違ってはいないその親交行事は問題なく終わるはずであった。

 

だが異変は突如として八神響達をおそった。

 

突如として八神響達のクラスは真っ白の光に飲まれ気がつけば見知らぬ土地へと飛ばされていた。

 

知らない土地への一瞬の移動、突如として起きたそれは八神響はもちろんのこと八神響のクラス、果てには教師までもパニックを起こすことであった。

 

全員がパニックになったものの、時がたち次第に落ち着いた教師が八神響達生徒達と引率し取りあえず近場にあった誰も住んでいない村へと腰を据わらせて大人達が今後のことで話し合いをしはじめた。

 

その間、八神響達生徒達は一カ所の大きい屋敷に一纏めで固まって未知なる怪異にその身を震わせた。

 

恐怖するもの、泣き出すもの、不安になるもの、まさに負スパイラルが充満する中、ただただと時が過ぎた。

 

大人達の話し合いの結論からこの場を動かずに助けが来るのを待つという方針に決まった

 

だが、それはただ打つ手がないと救援など広大な砂漠からダイヤ1カラット探すほど希望など無いとこの場にいた全員が気づいた。来ない助けを待つ、こんな現状に居てもたっても居られなくなるのは目が見えていた。

 

直ぐに我慢の限界となった生徒が五人いた、その中の一人が八神響だった。

 

その八神響を含めた五人はこんな状況で座して待つことなど受け入れられず自身の荷物を持って教師達の静止を振り切り、広大は未知の大地へとバラバラに散っていった。

 

行く当ても帰るための手掛かりすらない果てしない旅路ただ響は歩くしかなかった。

 

持っていたお菓子をほんの数量食べて腹の空腹を紛らわせひたすらに誰かがいるであろう町か村を目指した

 

響がこの未知の土地に来て三日後漸く人が住んでいそうな村を見つけたが…そこは建物が焼かれ壊滅していた村だった。

 

遠くでもよくわかるのだがそういった判断能力も衰えている響にはそんなことにも気付かずに村に近づき広がる光景に響は顔の色を変えた。

 

 

大勢の死体…

100から200はあるではないかと老若男女の死骸、至る所には血がこべり付き、すさまじい異臭に気分を悪くした響はその場で蹲り嘔吐した。

 

一度吐いた後直ぐに立ち去りたい響だが何かあるかもと嫌気を抑えながらも死体が散乱する村の中に入って捜索を開始する。

 

村を東西南北捜索した結果、生き残りなどは猫一匹もいなかった。生き残りはどこかへ去ったか、本当に全滅したのか、その真意は響にとってはわからないが者はなかったが物はあった。

 

誰の物なのかとわからない畑に踏みつぶされて食い物にならない作物のなか、潰されていない作物が少量、それと村の死角に落ちていた血も付いていない刀剣。

 

恐らくは村の死角に落としたために忘れていた物なのだろうと当時の響はそう思い、こんな治安の酷い場所なら護身用と腰に差して村から離れていった。

 

それからも元の世界に戻るために歩き始めたのだが何も成果など得られるはずもなくただ日付だけがすぎていく。

 

その途上では何度も山賊に襲われ、正当防衛でありながらも山賊を殺したこともあった。

 

元の世界では間違いなく重罪の罪だが生き残るためなら致し方なしと響は少々割り切れない顔をしながらもこんな世界にいたくないとひたすらに歩みを止めなかった。

 

そして今現在なけなしのお菓子という名の食料も底をつき、山賊に目をつけられまいと獣道の山道を選んで進み危険を回避しようとするも既にそのようなことが出来る体力など何処にも存在などしなかった。

 

響は遂に力尽き前のめりでその場に倒れ込んだ。

 

ああ、ここで死ぬのか…と響は心の底からそう思った。

 

こんな未知の世界で1人ぼっちで死ぬ、やはりあの村に残っていれば生きられたのではないかと響は後悔したが最後はもう苦しい思いをしなくてすむかと…もう疲れたと考えるのを投げ捨てて体を自然のまま委ねた。

 

……

 

「………じょ……か…」

 

ふと、誰かの声が聞こえてくる。

 

沈んでいた意識が徐々に覚醒していき響は瞼を少しずつ開けて真っ暗な視界に光が差し込み、前のめりで倒れている、体を起こして、響に声を掛けられた、誰かの姿を捕らえる。

 

可憐な少女…

第一の先入観から響はそう思えた。

 

少しウェーブした薄紫色の髪や赤紫色の瞳、顔からは幼さを見せる少女、響はつい、少女を見ほれていると少女から少し困った顔をして口を開けた。

 

「へぅ…そんなに顔を見られると恥ずかしいです」

 

と少女は小恥ずかしそうに頬を赤らめ、言葉を理解した響も漸く見惚れているのを止めて言葉を返そうと口を開ける。

 

「え、あ、ごめんなさい、つい、見惚れてしまって」

 

咄嗟に返した響の返答慌てていたとはいえ素直に少女の第一印象言葉をにしたことで少女は更に赤らめる要因となる。

 

「へぅぅ~」

 

見惚れた話で一向に話が進まない状況、何とか話を戻さないとと響は話を変える。

 

「その、声を掛けていただいてありがとうございます。もし、掛けてもらえなければどうなっていたか」

 

響は畏まった言葉づかいで少女にお礼を述べ、少女も赤らめ小恥ずかしそうな表情であったがお礼を述べられてはっとした表情を見せた後笑みを浮かべた。

 

「どういたしまして、それでどうしてこんな山中にお一人で?」

 

少女は響のお礼を受けてから響がこんな山の中に生き倒れていたのか、それが気になり優しい声で響に語りかけてくる。

 

響は知ってはいないが、実は響が倒れていた場所は村がある近くであったために人はそれほどではあるが行き来することもある場所であった。

 

そして響と出会った、その少女もたまたまこの村に来ていて偶然が重なり合って二人は出会うことになった。

 

「…どうしてでしょうかね」

 

少女の質問を有耶無耶な解答で答える響に少女は首をかしげる。

 

そんな中、響はもう帰れないのではないかと諦めている表情で胸の内を打ち明けた。

 

「俺は…ここから遠い遠い…場所から来たんです…ここまで来たのはいいけど帰り方がわからなくなりましてね必死に探し歩いていたんです。でも見つからなかった…こんな知らない場所で野垂れ死ぬんだと思った矢先です…」

 

「私に出会ったんですね」

 

響の胸の内を聞き、だいたいの事情を理解した少女は先程の笑みとは打って変わった表情をみせる。

 

遠いところから来て、右も左もわからずこの大陸を彷徨っていたのだろう、そして力尽きそうになっていた。

 

そんな彼を私はどうすればいいのかと、悲しみの表情を浮かべる中、響の心中を少しでも晴らせればと優しい少女は考えていた。

 

「その、言葉だけなのですが、生きることを諦めないでください」

 

「え?」

 

少し考えが纏まり少女は響に生きていくことを諦めるなと強い真っ直ぐな眼差しで響に見つめ、あっけとられた、響は思わず言葉をこぼす。

 

「生きていればきっといいこともあると思うんです。死んじゃったら楽しいことも嬉しいことも何も出来なくなっちゃいますよ?」

 

そう、生きていれば楽しいことや嬉しいことがきっとあって報われると少女は響にそう答え、響は少女の言葉を受けて少し気が晴れた表情で少女に顔を向ける。

 

「本当にありがとうございます…全く、見ず知らずの女の子に励まされるなんて男としてどうなんだろうな」

 

響は自分の思っていたことに気を晴らしてくれた少女に誠心誠意のお礼をし苦笑いをした表情で自分のかっこ悪さに少し嘆き、脚に力を入れて座らせていた体を立たせる。

 

「あれ?それは?」

 

響が立ち上がると学生のシャツとブレザーの隙間から長方形の物体が落下して地面に落ちそれに気付いた少女が声を出す。

 

その声に釣られて響も自身の足元に視線を向けると落ちていたのは日に当たりきらきらときれいなワインレッド色の響のスマフォ。

 

この世界に来てからは懐にスマフォを持っていたことも忘れ、今に落としたことで漸く自分はスマフォを懐に入れていたことを思い出した。

 

「そういえば懐に入れてて忘れてたな」

 

響はそう言いながら落ちたスマフォを広い、付いた土を手で払い、傷が付いてないかを隈無くスマフォを見渡して傷が付いてないのを確認する。

 

「きれい…」

 

響がスマフォを懐にまたしまおうとしたときぼそりと少女が光に反射して輝くワインレッド色のスマフォを見て率直な一言を呟く。

 

その一言は響の耳にしっかりと聞こえており懐にしまうのを止め少女に一度向くとまた自身のスマフォに顔を向けた。

 

俺はこの女の子に助けられた、なのにお礼もなしには流石に罪悪感がある。

 

いま彼女は自身のスマフォを見て綺麗だと口をこぼしていた。今となっては充電も切れ、ただの箱と化したスマフォ、そう思った響はスマフォのバッテリーを取り除いてから少女に向きスマフォを差し出すように手を伸ばす。

 

「あげますよ」

 

「え?そんな、それってあなたの大切な物なんじゃ…」

 

少女にお礼としてスマフォを上げようと短く伝えると少女も少し遠慮してよそよそしい顔をする。

 

「別に構いませんよ、野垂れ死にそうな自分を助けてくれたあなたへのせめてへのお礼ですから」

 

「…それじゃあ…お言葉に甘えまして、お受け取りいただきます。そろそろ村に行きましょう案内しますね」

 

少女は響のスマフォを受け取り、その後、少女の案内で村人がいる村の入り口前へと辿り着いた。

 

「それでは私はこれで」

 

「あ、待って!」

 

そういって少女は何処かへと立ち去ろうとしたとき響は少女を呼び止める。

 

「本当にありがとうございます、お礼もちゃんとして無かったですけど、もしまたあったときその時ちゃんとしたお礼をさせてください」

 

そう響は一期一会かもしれない状況の中再会した場合、その時は自分にも余力があるときだと考えてもっとちゃんとしたお礼をしたいと少女に伝えると少女は始めは響に顔を向けてきょとんとした顔をみせるが直ぐに微笑みをみせて響に返答した。

 

「はい、その時が来たら楽しみにしてますね」

 

そう言葉を残して少女は何処かへと立ち去っていき、それを見送った響は少女に言われたとおり生き残ろうと心に決めて村のほうへと足を運んでいくのであった。

 

 




オリキャラ紹介

八神響
姓 八神
名 響
字 なし
真名 なし
性別男
年齢 15(1話)

どこにでもいる平凡な高校生
クラス事業により響のクラス全員が外史世界に飛ばされ、元の世界に戻るために彷徨っているととある少女に救われて、この世界で生き残る覚悟を決める。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話

今回の総文字数…約7500…1週間頑張ったかいがあった…


突然であるが人生とは何が起きるかわからないものである。

 

 

 

 

 

 

…あれ?なんかこれ前回と入りのくだり、似てる気がするが…気にするな

 

とにかく、平凡な高校生であった八神響にもそれは起こりえるのだ。

 

突如謎の世界に転移し元の世界の手掛かりを探し歩き、その果てに元の世界に帰るのを諦めこの世界に生き残ることを決めた響。

 

生き残る決心が付いて始めに訪れた村でまず情報収集と己を磨くことにした。

 

前者は手掛かりを探しているときにはあまり気にしてはいなかったこの世界のこと、それを知るため、村の人に情報を集めると驚くべきことがわかった。

 

この世界が響達が生きる時代から遙か昔の中国、漢と呼ばれる国であったとき時代であること。

 

しかも情報を集めた結果後漢末期の時代だと発覚し響はこの後起こりうる事態を示唆した。

 

群雄割拠…漢が滅び各々方天下人となるために、争う時代、それを経て国は三つに分かれ三国県立の時代へと進む。

 

これの問題点となるのは群雄割拠…つまりは日常茶飯事で戦が起こる可能性があるということ、そんな中、平凡な生活をしてきた響達はどうだろう?

 

間違いなく乗り切るのは厳しい、なんせ、この時代の人と響達とは価値観すら違う。

 

響も人を斬るようにはなったが殺したことに罪悪感を覚え剣を鈍らせることもあった。

 

そして後者はそんな時代を生き残るための力をつけるためである。

 

例え、戦場で戦う兵士とならなかったとしても相手は自身の事情などお構いなしに襲ってくるであろう。

 

自衛のための力はこの時代では必要最低限いるということだろう。

 

それらの理由で情報と鍛錬を行い続け、4ヶ月が過ぎたある日、響は都市がある場所に向かおうと村を出ることにした。

 

この4ヶ月、響は村人たちと交流を重ね、手伝いをしながら、命を繋ぎ止めていた

 

だが、いつか来る群雄割拠の時代のことを考えれば村人など無残に殺される可能性も否めない。

 

そこでどこかの都市で働き自身の財布を蓄え、乱世を乗り切ろうと実に自己的な方針を考えていた。

 

そうして、都市へと向かい金の蓄えをするという目的のため村を出た響、山々に囲まれ整地されている山道を通り約半月が経過したある日、新平という地の村の酒屋にてカウンターで飯を食べる響の耳に同じく食事をしていた。男達が話し合う声が聞こえてくる。

 

「なあ、知ってるか?長安の太守様が娘の世話役を雇おうとしてるって話」

 

「ああ、知ってる、けどなんたって雇おうなんかするのかね…太守様ならそんなことする必要なんて無いはずだけどな」

 

長安で太守が娘のために世話役を雇おうと求人を出している、そのことでそんなことせずに太守が雇っている誰かを娘の世話役を任命し付かせるのが普通と、求人を出していることに不思議に思う男達であるがそれを耳にした響は左手を顎に手を当て思考する。

 

今自分は職を探している、そんな中、長安で太守からの求人が出ている。

 

太守からの出された求人だ、難しい仕事もあるだろう…がその見返りのお給金も言い値が出ても可笑しくない。

 

「…行ってみるか…」

 

そう響は駄目元ではあるがそこに山があるかのごとく村で1泊してから職を求め、長安へと向かう。

 

向かう途中山賊などにも遭遇はしたが今の響には何のその、山賊達をあしらい、叩きのめして撃退する。

 

そして倒した山賊から路銀を奪い取り自分の懐をあっためる。かつあげされたのだ返り討ちにしてかつあげするのも意趣返しというやつだろう。

 

そんなこんなで新平から経った響は出ていくときより路銀が増えている中、3日、駆けて漸く長安にへと辿り着いた。

 

「ここが長安か…」

 

都に入ると響は久々に見る人の往来を目にしながら人ごみにぶつからないように町の中を歩いていく。

 

「活気があるな」

 

町の中を見て響は商売が繁盛し、人の行き来があるのを見てここの太守は善人の人なのだろうと太守の人望があると先入観を持ちながら太守の自宅のほうへと歩く。

 

そして、当然のこと太守の自宅を知らない響は都の人たちに聞きながら太守の自宅へと辿りつくと自宅前には志願者なのか、大勢の人集りが1列に並び、自分の番はまだかまだかと待っていた。

 

「え?なにこれ…これ凄い倍率なんじゃね?」

 

響はざっと見ただけで間違いなく100は越えている人集りに倍率から考えて物凄い倍率なのではと苦笑いで後退った。

 

だがここまで来てしまったのだと響は今更後には退けないと半分諦めた表情で最後尾に並びはじめた。

 

ここからは長い耐久勝負へと持ち込まれることになる。

 

響の前にはかなりの列が並んでいたために10分、20分とそんな早く自分の番が来るはずがない。

 

これは響以外にも言えることである。

 

前から30人までの志願者はそれほど苦ではないが、それから後の響達はいつ終わるかいつ自分の番なのかと不安に駆られる。

 

そしてなによりは面接が終わってここから去って行く志願者の表情だ。

 

笑みだ、まさに受かっている自信ありと言わんばかりの笑みをこぼしていた。

 

それにより、己に自信の無い志願者は次々と耐えきれなくなり、列から外れていきその空いた分、残った志願者達は前へと詰まっていく。

 

もしや、そういう忍耐力も計算に入れているかと、そういう憶測も響の中に浮かびながらもこの状況を必死に堪え忍び、前へ更に前へと太守の自宅へと距離が近づく。

 

そして響が並んでどれだけ時間が経ったであろうか、すでに日が落ち始め夕暮れが都市を照らす。

 

響も必死に耐え凌ぎ、漸く次が響の番まで回ってきた。

 

既にのども水分をほしがっているが後少しの辛抱と自分に言い聞かせ最後の踏ん張りを見せると太守の自宅から響の前の志願者が面接をした者達と同じように自信ありと笑みを浮かべて、太守の自宅から去って行き、するとそれから直ぐに若い少女の声が聞こえてくる

 

「次の方、お上がりください」

 

そう一番最前列である響が入ってくるようにと言われ響は自宅の中へと入ると入り口で若い少女が待ち構えていた。

 

「今度の方は随分とお若い人ですね」

 

少女は響を見て若者が来たとくすりと笑みを浮かべる。

 

そんな響は少女を見てうつつを抜かした。

 

まず、服装からこの漢の時代であるため着物とかそう言う古い物を着ていると響は思っていたが全く違う。

 

響達が生きるような時代に存在するような、緑を強調したセーラー服。

 

髪は赤みが入った茶髪で腰まで伸びたロングヘア、そして花びらの髪飾りが付いている。

 

「あのどうかされましたか?」 

 

響がずっと黙っていたからか少女は響の顔をのぞき込むように見つめて我を忘れていた響は直ぐに正気に戻る。

 

「す、すいません、自分は八神響と申します。この度は噂を聞きつけ参りました」

 

慌てながらも自分の自己紹介を丁重な言葉で響は名乗ると、少女はくすりと微笑んだ後響の名乗りを返すように口を開けた。

 

「ここで名乗らないのは無礼ですね、私は司馬懿、字は仲達といいます。」

 

少女…司馬懿の自己紹介が終わり、響はその名を聞いたとき思考が完全に止まった。

 

いま彼女はなんと言ったのか、確かに太守の娘とだけしか、響には情報がなかったために情報不足も否めなかったが、司馬懿と聞き三国志についてあまり知識を持っていない響にとっても聞き覚えのある名前であったことで驚きを隠せない。

 

司馬懿…字は仲達…響にとっては曹操が建国した魏の中心人物であったと響は記憶していた。

 

※(響の記憶は曖昧です、司馬懿は曹操の息子、曹丕の重鎮、その上、魏を建国したのも曹丕である)

 

「……」

 

絶句、あまりにもビックネームが飛び出したことで何も言えない響にまた司馬懿から話しかけられる。

 

「また、黙り込んじゃって大丈夫ですか?」

 

二度目の黙りに司馬懿への印象が悪くなる響は司馬懿の駆けられた声により再び正気に戻され直ぐに言葉を返した。

 

「ご、ごめん、つい思考がおいつか…ってす、すみません」

 

大慌てだったために、つあ素がでてしまい、気づいた響は直ぐに言葉遣いの謝罪をする。

 

「ふふ、別に構いませんよ、さてここで立ち話しもこれぐらいにしてお上がりください」

 

そう司馬懿に指示され彼女の後を追う響。

 

そして辿り着いたのは司馬懿の部屋で響は少しあたりを見渡すと、きっちりと整理が行き届いていてそこから司馬懿はしっかり者であると理解することが出来た。

 

そして部屋にある対に位置する二つの椅子とその間にある机、その上には何かの磐とチェスのようなコマがが置いてある。

 

「世話役を選別のため、私とこれで一局、試合ましょう、これをやるのは初めてかしら?」

 

机に置いてあったチェスのようなもので採点すると司馬懿は響にとってはやったことがあるかを訪ね、知らない響は首を横に振って否定した。

 

すると司馬懿は簡潔ではあるがやり方を教え、一通りの説明が終えた、後一局するために駒を配置していく。

 

響は司馬懿から聞く限りチェスと何ら変わらないのを聞きやり方はわかるだけでもマシかと少しほっとしながら司馬懿が座った反対の椅子に座り、ゲームが始まる。

 

「それじゃあ始めましょうか、先手はあなたからどうぞ」

 

司馬懿に先行を譲られ、響は手始めにと響の駒の最前列に1列に並ぶ歩兵の駒を1体を1マス進める。

 

「手始めってところね、以外に慎重なのかしら、それじゃあ私は…」

 

始めは互いに手始め、兵を進めながらも出方を伺う両者、始まって10回以上動かせるターンが回ったのに関わらず、戦況は膠着状態が続いていた。

 

「そういえば、あなたは見慣れない服を着ていらっしゃいますね」

 

ゲームで駒を打ちながら黙々と打ち続けるのは嫌なのか司馬懿は雑談を振ってきて、響も無視するのも印象に悪いと雑談に返事を返す。

 

「この服はこの国に来てから着ています、数少ない故郷から持ってきた代物ですから重宝しているんです」

 

意識をゲームに集中しながらも司馬懿の質問にしっかりと返答する響、それにまた司馬懿は更に質問を返してくる。

 

「故郷とは…何処出身なのですか?それに八神響という名もあまり聞き及び無い変わった名前ですね」

 

「故郷はここから海を渡った東洋の島国で、名もこちらでの字はなく姓は八神、名は響と分れています」

 

故郷とは漢では変わった響の名前について質問も響はしっかりと返答し司馬懿は少し驚く表情をみせた。

 

「異国出身の方なんですね、どうりで見たこともない服を着て、名も私達と変わっているんですね」

 

響のことで納得した返事を返す司馬懿、その後何回か互いに動かした後ゲームの方に動きを見せた。

 

「っ!」

 

響は少し嫌な表情を見せる。なぜ嫌な表情を見せたか、それは先程の彼が動かした一手、それが彼もわかるほどの悪手であることからである。これにより一つの駒が突出、いい鴨となってしまった。

 

この失敗が、響の陣営を総崩れとなる要因になってしまうかも知れないと、響の頭の中で劣勢になるビジョンが浮かび上がる中、司馬懿の一手が打たれた。

 

「っ!?」

 

司馬懿は突出した駒を取りに来なかった。

 

なぜ?突出した駒を取らない方にメリットが存在するというのか、しかも相手はあの司馬懿…このような悪手を見過ごすとは到底思えない。

 

そう響は頭の中で混乱を起こしたが、取りあえず取られなかったことを幸運と思い、上手く前線を調整し先程乱した戦線を立て直しまた拮抗する。

 

だが始まってかなり経つものだから互いに駒もところどころ失っており上手く駒を立ちまわせながらゲームの攻防戦を続けた。

 

「…あの少しお聞きしていいですか?」

 

「はい、なんですか?」

 

先程とは逆に今度は響が先に口を開けて話し掛けて司馬懿に質問をする。

 

「このゲーム、もしかして俺以前の方達とも同じように?」

 

「ええ、そうよ」

 

響が部屋に入ったとき机の上に置いてあったことから響にも少しだが予想は出来たが司馬懿の即答の返答を聞き頭の中で色々の情報を纏めて、次の一手を出す。

 

「……」

 

それから何度か打ち合った後響は意を決した顔で迷わず直ぐに一手を出し始める。

 

「……ふふ」

 

それを見て司馬懿は少し微笑みを見せるが集中する響には見えておらず。ゲームは続く。

 

だがこの意を決したのが功を奏したのか、司馬懿の陣営を崩すことに成功し、それに雪崩れ込むように響は駒を前へと進めていきついに司馬懿の王の駒を残すのみとなった。

 

「あらあら、もうこれは万事休すね」

 

司馬懿もここから巻き返すことは不可能だと苦笑いを浮かべる中、仕方なく王の駒を一歩前進させる。

 

「はい、次はあなたの番ですよ、といっても、もう、あなたの勝ちは確定しているんですけどね」

 

駒を動かしたことで響の番に回ってきたが、しかし響はここに来て一向に駒を動かさない。そしてとんでもない言葉を口にした。

 

「……投了」

 

投了……つまり、途中で負けを認めると言うこと、確定された勝ちのある勝負をここに来て完全に捨てた。その事実に司馬懿は先程の表情を一変し思わず立ち上がる。

 

「ど、どういうことですか!?どうして勝てる勝負を……」

 

ここで勝負を捨てた理由が検討つかない、そんな思いでいっぱいな司馬懿に響は少しため息を吐いて口を開けた。

 

「いや、色々と考えたんですよ」

 

響はあの悪手を打ったあの時から頭をフル回転させて思考していた。そして三つのキーワードが浮かび上がる

 

まずは悪手を逃したこと、これは確証が弱かった、響は序盤や中盤はあまり攻めず守りの戦いをしていた。故に一進一退の攻防戦、それにより視野が狭くなった司馬懿は響のミスを気付かなかった可能性があった。

 

二つ目、響の前に受けた志願者達

 

あの長蛇の列を待っている中、司馬懿にあい試験を受けた志願者の顔は皆、受かっている自信ありと笑みを浮かべていた。

 

そして、響が打ちながら聞いた、試験内容、それは全員がやっていることと司馬懿本人が口にした。つまり響の前の志願者達は全員、司馬懿と一局打って恐らく司馬懿に勝っていると予測した。

 

この予想だけなら、もしかしたら司馬懿は弱いのではないかと錯覚するかも知れないが一つ目のキーワードで話したように響と一進一退の攻防を決したのだ司馬懿が弱いとは響は思えなかった。

 

それにも関わらず志願者は全員、司馬懿に勝ったのだろう。志願者全員が司馬懿より上手の実力者だった?そっちの方が不可解だ。

 

そして、三つ目…これが響にとって一番の信憑性があはキーワード…響が抱いている司馬懿への先入観

 

やはり、司馬懿は稀代の大軍師と名を馳せる大物、そのような雲の上の人物と自分が同等に競えるだろうか…否、断じて不可能だ。

 

だから、響は一つの賭け、餌を垂れ流した。間を開けてからもう一度悪手を打つという絶好の餌を

 

結果は…また見逃した。これにより彼の結論は確証へとかわった。

 

これら三つのキーワードを要点に思考したしっくりとくる結論が出た。それは…

 

「俺、あなたの掌で転がされてたでしょ」

 

「っ!?」

 

響と同等と錯覚させ、響の悪手を逃して、視野が狭まっていると思わせた。

 

だが実際は司馬懿により、このゲームはコントロールされていた。

 

響以前の志願者達も同様、司馬懿の掌のなかで転がされていることも気づかず、司馬懿に勝った…いや勝たされた。

 

「…仮にそれが真実だとして、でもどうして、私の王を取らなかったのかしら?取った後でもこの話はできたわ」

 

まだ、認めていないが司馬懿はやはり響が最後に行った投了の真意が判らなかった。

 

「ああ、あれね」 

 

真意を訪ねる司馬懿に、響は少し口元をつり上げ笑みを浮かべて投了した真意を口にした。

 

「あのままやって、あなたの王を取っても、それは結果あなたの思惑通り動いた結果、なら最後の最後にあなたが予想もできないことをしでかした方がしてやったりって思えるだろ?」

 

「…あ」 

  

響が真意を話した後、司馬懿は呆気にとられながら気がついた。確かにあの場での投了など予想していなかった。響は最後の最後で司馬懿の思惑を打ち破ったのだ。

 

「さてと」 

 

真意を話し終えた響は椅子から立ち上がり部屋から出て行こうと扉のドアノブに手を当てた時司馬懿に呼び止められる

 

「ま、まって!」

 

「最後に不躾を申し上げ失礼しました。それでは自分はこれで」

 

司馬懿の静止を無視し先程の語った態度などを謝罪すると響は司馬懿の部屋から退出していった。

 

残された司馬懿は響が退出してからそこに呆然と立ち止まっていたが、再度ゲームの盤を見た。

 

私が上手く動かし支配していた小さい戦場、彼以外は難なくことが進んだ。

 

しかし響だけが最後に思惑から外れ彼が持つ少ない情報からこの一局のからくりに気づいた。

 

ならば彼女が次にとる行動は…

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

ため息を溢す響。

 

響が司馬家の自宅から出て来たときには辺りは暗くなっており、唯一の灯りは満面の星空だけとやや、明かりとしては心細い。

 

司馬懿との一局、かなり長く打ち合っていたことから完全に夜になっていて、響の後ろに並んでいたあの列は見る形もなくなっていた。

 

「さて、これからどうするか」

 

今後のことを考える響。 

 

司馬懿の世話役という貴重な求人を落とし、時間を浪費したのがいたかった。

 

これからのどうするか…無難なのは長安からさらに東に行き漢の首都洛陽へと行ってみるかと考えたが響はすぐに考えるのをやめた。

 

「次のことを考えても仕方ないか…今のことを考えないと」

 

そう、今は夜中、当然宿屋などに泊まらなければならない。

 

しかし、宿屋に泊まろうにも場所がわからない上に既に夜中ということで空いている部屋すらあるか怪しい。

 

「…しかたない…地道に探すか」

 

空いている宿屋を探そうと響は足を動かしたその時…

 

「その心配はありませんよ」

 

突然と響の背後から先程聞いた声が聞こえてきて響は振り向くと、そこには司馬懿が立っていた。

 

「司馬懿さん?どうして…それに心配ないって」

 

響は司馬懿と対面をすると先程司馬懿が口にした言葉が理解できずに司馬懿に訪ねる。

 

「八神響さん、あなたを私の世話役兼補佐として雇うということよ」

 

「え、ええ!?」

 

司馬懿の世話役にして補佐、それは響にとって驚くべきことであり、響は驚愕の声を上げた。

 

「いやいや、俺、投了して負けましたよね!?」

 

さすがに信じられないと、響は自分が自ら負けを認めたことを棚に上げたが司馬懿は予測していたのかにっこりと微笑んで返事を返してきた。

 

「忘れましたか?私は一度も勝ったらなんて言ってませんよ」

 

司馬懿の言葉に響は記憶を遡り司馬懿が勝ったらという言葉を使っていなかったことに今、気付く。

 

「で、でも俺が司馬懿さんに張り合えるはずが」

 

ああいえばこういう、そういえばああいう、まるでいたちごっこのようになりそうであったが司馬懿はつぎにこう告げた。

 

「ならこうしましょう、もう一度私の部屋で一局打ちましょう、あなたが勝てば好きにしてください、ですか私が勝てば…その時は先ほどのお話了承してくださいね、あっ言っておきますけど今度は全力でお相手しますから」

 

「…は、はいそれじゃあ…一局」

 

にこやか笑みを浮かべ響に再戦を求める司馬懿、それを苦笑いを浮かべ、この時

、あ、負けたなと響は観念して再戦を受けた。

 

 

 

 

 

余談ではあるが響と司馬懿の再戦、もちろん響は本気の司馬懿に封殺されたのは言うまでも無い。

 

 




オリキャラ紹介

姓 司馬
名 懿
字 仲達
真名 如月
年齢 15
性別 女

長安の太守司馬防の娘
軍略、政治と知略に長けており、麒麟児とうたわれている
世話役の求人を出した際、響と出会い、自身の策略を看破した響を世話役兼補佐として雇用する。

余談、容姿は艦これの如月です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話

「響さん、これを纏めてそこの棚に置いてくれるかしら?」

 

「了解しました」

 

竹筒で書かれている漢文に真剣に見つめ合い司馬懿は政務に取り込んでいく。

 

そんな中でも周りのことを気にしており、終わった竹筒などをまとめるように響に頼み、それを響は丁重な言葉で受けて処理済みの竹筒を纏め手置物に置き、棚に鎮座させる。

 

「もう、別に畏まらなくてもいいのに」

 

司馬懿は響が丁重な言葉使いを使ったのを聞いて、政務に取りかかっていた手を止めてじと目で言葉づかいを崩してもいいと告げたが、響はわかっているという顔をしていた。

 

響自身、自身が仕えている司馬懿の言葉を受けていつも通りの言葉遣いで話し合いたいと思っている…だが

、そうもいってはいられないのだ。

 

「そうはいいましても、どこに耳があるか…それが司馬防様のお耳に入ればどうなると思うのですか?」

 

司馬防…司馬懿の父親で此処長安の太守。

 

その司馬防のことを何故響は過敏に気にしているのか、それは響が司馬懿の世話役兼補佐になった翌日に遡る。

 

 

司馬懿との再戦、圧倒的完全敗北を決した響は司馬懿の提案通り世話役兼補佐という、かなりの出世を果たした。

 

そして世話役ということで司馬懿の自宅で住み込みで働くことなり自分が生きていく最低条件を完全にクリアした響。

 

司馬懿の自宅で一夜を明かし、早朝は司馬懿の政務の手伝いをこなしたあとお昼頃に司馬懿は世話役を雇ったという報告を司馬防にするために響と共に政庁へと赴いた。

 

太守が居座る場所というだけあり、市街地や司馬懿の自宅などでは感じられない重い空気に響は何時になく気を引き締め司馬懿の後を歩く。

 

そして評定の間へと入ると司馬防に仕える何人かの重鎮の役人や鎧甲冑を着こなす武官などが左右に分かれ並んでおり、その間の中央、家臣達の先には玉座があり、その玉座に座る一人の男性が来客した司馬懿と響を見下ろす。

 

見下ろしただけで、一般人であった響にも威圧が肌で感じ取れるほど。

 

「如月、よく来たな、してお前の横にいる者は先日の」

 

「はっ!その通りでございます、響」

 

重い空気の中口を開いた司馬防は司馬懿に響のことを訪ね、それを肉親であることも関わらず臣下の礼をとり丁重語で返答した。

 

「この度、司馬懿様の世話役と補佐に任命されました。八神響と申します。姓は八神、名は響、字はございません、以後お見知りおきを」

 

司馬懿同様に臣下の礼を取って丁重な言葉遣いで司馬防に自身の自己紹介をする響。

 

一歩間違えば無礼と切り捨てられる…そんな緊張感と恐怖に足元がすくわれそうになりそうになるも何とか堪えボロを出さずに告げると司馬防が口を開けた。

 

「名など聞いておらん、如月よ、やはり在野から求めるなど愚かな行為よ」

 

自己紹介を述べただけで司馬防は響を凡人であると悟り、司馬懿が行った行いを否定する。

 

そのことで少しかんにさわったかむっとした顔つきをほんの少し見せてから平常の顔つきに戻り司馬防に対して反論する。

 

「お言葉ですが、彼は唯一、私の仕掛けた、からくりに気付き、その力量をこの私に見せつけた人物でございます」

 

「まあよい、如月がそこまで言うのであれば勝手にすればよい、だが司馬家に泥を塗るような行いだけはするな…わかったな?」

 

「…はっ」

 

反論を聞いた司馬防は未だ認めてはいないが響の雇用を承諾し、最後に厳しい顔付けで司馬懿に当家の汚点はつけるなと釘を刺すように忠告を突き付け、それを司馬懿は了承をした。

 

そしてそれから2日が過ぎて冒頭のような状態になった。

 

「もう、父上の耳に入ったとしても私が弁解するから気にすることないわよ」

 

「いや、下手したら闇討ちなんかされそうで怖いから遠慮させてもらいます。」

 

司馬懿は司馬防に聞かれたとしても響に弁解すると言って気軽に話しかけるように促すがその反面、響は無礼な態度を取っていれば何時しか司馬防が放った刺客に暗殺させられるのではないかと気が気で無かった

 

「さすがに考えすぎじゃないかしら」

 

そう司馬懿は苦笑いの笑みを浮かべるが相手は司馬懿の父親、何をしてくるか分からないと響は警戒を緩めることをできなかった。

 

「如月ちゃーん!」

 

政務を行っていると家の玄関方面から生き生きとした女の子の声が聞こえてきて、声の内容から司馬懿を知る人物であると推測でき響は視線を司馬懿に向ける。

 

「あの、仲達様、何か呼ばれてるのですが」

 

「この声は…睦月ちゃんね」

 

司馬懿は声で誰なのかを判断できたのか睦月という名前を出し、にこやかな笑みを浮かべるが、全くもって玄関まで行く気のない司馬懿を見てわからないと響は首を傾げる。

 

すると声がしてから少ししてとたとたと司馬懿の部屋に近づいてくる足音が聞こえてきて響達がいる政務室の前…ではなく執務室を通り過ぎ足音がとまると勢いよく扉が開かれる音が響達の耳に届き、そして

 

「如月ちゃん、遊びに来た…あれ?」

 

声から察するに遊びに来たであろう睦月なる、少女の声は誰もいない部屋に響いた。

 

「如月ちゃん、此処じゃないのかな?ということは…こっちかな?」

 

睦月は部屋に如月がいないのを確認するとまたとたとたと走りだすが響達からはどんどんと足音が遠ざかっていくのが聞こえる。

 

「…仲達様、無断で入ってきてる人…遠ざかって行ってますよ?」

 

「あらあら」 

 

何故執務室を通り過ぎ、尚且つ、執務室という居そうな場所に来ないのか、それが気になって、響は少し苦笑いを浮かべ、如月も手の平を顎に当て少し困った顔を浮かべていた。

 

「如月ちゃーん!」

 

「如月ちゃーん!」

 

「如月ちゃーん!あれ?如月ちゃんどこ~」

 

その後3度も部屋を間違え、さすがにと響は司馬懿に対して口を開ける。

 

「あの、そろそろ声を上げて呼んだらよろしいのでは?」

 

3回も部屋を間違え、司馬懿の家を走り回る少女に響は苦笑いの笑みを浮かべながらそろそろ執務室にいることを教えるべきだと司馬懿に助言するとそうねと、わかったように声を上げた。

 

「睦月ちゃーん!私がいるのは執務室よ~」

 

司馬懿の声が発すること数秒後とたとたと間隔が短い、かなり速度を出しているのか、足音がどんどんと響達のいる部屋に近づいてきて、足音は部屋の前でとまるとバーンと勢いよく扉が開かれ開かれた扉の先に赤みのかかった茶髪をボブカットのヘアスタイルで整えられており服装は、司馬懿と全く同じような服を着こなしている。

 

睦月と呼ばれた女の子は司馬懿の姿をしっかりと確認した後、司馬懿めがけて走りだしそして…

 

「如月ちゃーん!」

 

如月に抱きつこうと一直線に飛びつこうとする。

 

だが、此処で問題がある。

 

いま司馬懿は政務中であり、少女が来る前は『机に』置かれている書物と必死に打ち込んでいたことを

 

つまり、睦月と呼ばれた女の子と司馬懿の間には政務中に使われていた机が存在する…故に

 

「へぶっ!?」

 

飛びつこうとした少女は司馬懿に抱きつけることなく間にある机の角にお腹の溝をクリティカルヒットし痛みに悶える少女は机の前で蹲った。

 

「睦月ちゃん…」

 

「…お、おい…大丈夫か?」

 

蹲る少女をみて司馬懿は乾いた笑みを浮かべながら少女の名前を呼び司馬懿の横にいる響でさえ、気にしていた丁重語を忘れ普段のような口調で喋るほど呆気にとられていた。

 

「だ、だい…じょうぶ…」

 

少女は大丈夫と主張するも残念ながら響にはそうは到底思えなかった。

 

それから少しして少女の痛みも和らいだ後、響と司馬懿に対面するように少女はにこやかな笑みを浮かべて口を開けた。

 

「如月ちゃん!ただいま!」

 

「お帰りなさい、睦月ちゃん村各地の巡察ご苦労さま」

 

少女は司馬懿に巡察任務から帰ってきたことを伝えると司馬懿も無事に帰ってきたことから笑みを浮かべて少女に返した。

 

この話し合いから口を閉ざしていた響は司馬懿と少女が真名で呼び合っている仲だと察して、少女が誰なのかわからないために司馬懿に話しかける。

 

「仲達様、こちらの方は…」

 

声を掛けたことで黙っていた響に気がついた司馬懿は少女について語ろうと少女に相槌、少女はそれに頷くと自身の自己紹介をする。

 

「睦月は司馬朗、字は伯達だよ、よろしくね!」

 

「因みに、睦月ちゃんは、如月の姉さんなのよ」

 

睦月…司馬朗は自身の自己紹介をして、それに付け足すように司馬懿は司馬朗は自分の姉であることを告げると響は信じられない表情で思わず口を滑らす。

 

「あ、姉!?妹じゃなくて!?」

 

あのしっかりしている司馬懿の姉だと知った響は、しっかりしていなそうな姉である司馬朗を見て思わず丁重語を忘れ、驚愕の表情を隠せない。

 

「もーう!如月ちゃんより頼りないのは分かるけど、これでも司馬家の長女なんだよ!」

 

響の率直な感想を聞いた司馬朗はぷんすかと、少し可愛いと思える怒りの表情を見せ響にぽかぽかと、痛くないパンチが響の胸に当たる。

 

「あっ!とんだご無礼を!私は八神響、姓は八神、名は響、字はありません、先程のご無礼な口答え、申し訳ございませんでした。」

 

自分が丁重語を崩していたことに気がつき、慌て、丁重語に戻し、先程司馬朗に対して告げた言葉を誠心誠意で、謝罪し自身の名乗りを上げた。

 

「そんなに畏まらなくていいよ~如月ちゃん、この人ってこんな人なの?」

 

「さっきのが素の彼よ、先日父上との謁見の時に釘を刺されてからこんな感じで、私もいいと言ってるんだけどね」

 

響の堅苦しい言葉遣いに司馬朗は苦笑いをしながら、司馬懿に訪ね、その司馬懿もどうしたものかと困った顔で響を見る。

 

「うーん、あっ!そうだ!響さんはお父さんの直臣じゃなくて如月ちゃんの臣下なんだよね、なら」

 

少し頭を悩ませねいた司馬朗だがすぐに妙案が思いつき、笑みを浮かべながら司馬懿の耳に響には聞こえない声で耳打ちをするとそっかと、司馬懿は納得した顔をして響を見る。

 

「響さん」

 

「は、はい、いかがいたしましたか?」

 

突然と畏まった司馬懿の言葉に始めは戸惑った響だがすぐに冷静になって司馬懿の言葉に耳を傾ける。

 

一体、畏まって何をするのか、この畏まりは先程の司馬朗の耳打ちと関係があるのだろうか…と色々と頭の中で思考する響に司馬懿は意を決して発した。

 

「これから、私や睦月ちゃん、丁重語はいいと言った方々達とは普通に接すること…これは命令ですから」

 

と勝ったと確信の笑みを浮かべる司馬懿。

 

その命令を聞いた響もどうすべきか頬引きつる表情をみせる。

 

先日、響と司馬懿は司馬家に泥を塗るなと釘を刺された。だから故に響は何処で聞かれているか分からず、司馬懿や上の立場に立つ高官らに丁重語で話しかけていた。

 

そんな中司馬朗の名案で出された司馬懿の命令、これにより司馬防の警告か司馬懿の命令か完全に板挟み状態へと陥ってしまった。

 

響は頭の中で悩んだ末、溜め息を吐き出し口を開けた。

 

「…わかりました。それでは主君である仲達様のご命令とあれば、従いましょう」

 

結果、仕えた主君の命令を優先することにした響、しかし司馬懿は少し不服のような表情で響を見つめる。

 

「丁重語」

 

その一言だけ零すと響ははっと自分が丁重語を使っていたことに気づいて仕切り直しにもう一度口を開ける。

 

「えっと、これからはこういう風に普通に話せばいいんだな」

 

丁重語を崩したいつも通りの響のしゃべり方、それを聞いた司馬懿はよろしいと言わんばかりの笑みを浮かべて、司馬朗はその二人を見てから元気な声で二人に話しかける。

 

「それじゃあ、如月ちゃん遊ぼ!」

 

当初の予定通り司馬朗は司馬懿と遊ぼうと声を掛けると対面する司馬懿は少し困った顔を浮かべる。

 

「そうはいってもまだ、政務中だし…うーん、あっそうだ!響さん、悪いんだけど睦月ちゃんと一局打っててくれないかしら?私もすぐに政務を終わらせちゃうから」

 

政務中なために、司馬朗の提案を受けることが出来ない司馬懿は少しどうしたものかと考えるとふと視界の端に響が見えて、妙案を思いつき、響に司馬朗と一局、遊ばせようと促す。

 

「別にいいけど、政務、そんなに直ぐ終わるのか?」

 

響も先程とは違い丁重語をなくした普通のしゃべり方で司馬懿に言葉を返すと司馬懿は大丈夫と一言だけ告げ、響は分かったと頷いた。

 

「それじゃあ、ここじゃあ一局出来ないから、俺の部屋で打とう、碁盤なんかは仲達様のを使うけど別に大丈夫だよな」

 

「ええ平気よ」

 

司馬朗と遊ぶ準備を進めて行くため、響と司馬朗は執務室から退出していき、響の部屋へと向かっていく。

 

そして1人残された司馬懿は自分以外誰もいない執務室で少し思ったことを口にする。

 

「仲達様…か…まだ少し堅いわね…いい機会だから私の真名を教えようかしら」

 

字呼びではあったが様付けで、響きとはまだどこか壁があると思った司馬懿は真名呼びを許そうか少し迷ったが止めることにした。

 

「まだ少し早いかしらね…でもいつかは普通に如月って呼ばれたいわね」

 

まだわからない未来に期待を浮かべながら残った竹筒を終わらせるべく再び政務に取りかかった。

 

 




オリキャラ紹介
 

姓 司馬
名 朗
字 伯達
真名 睦月
年齢16
性別 女
長安の太守司馬防の長女
元気な明るい少女、如月よりかは知謀は劣るが前線で兵を率いてことに優れている。

容姿は艦これの睦月


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話

区切るなら此処だと思い文字数は大体4500と少ないかな?
それと今回エロ注意です、それとメタ発言ありです


司馬懿の世話役兼補佐官に響が就任してから約4ヶ月が経過した。

 

司馬懿と共に仕事をこなす響は世話役や司馬懿の政務の補佐など始めはぎこちない動きであったが次第に馴れてきて、しっかりと役職をこなすほどになっていた。

 

「仲達様、農園の方から今月の作物などの収支が届いたぞ」

 

早朝から昼にかけ、米や作物などを育てる畑や店が並ぶ商店街の取締役から報告書が届く。

 

それらをまず響が整理しそれぞれのカテゴリーで区分し案件を見る司馬懿に渡す。

 

響は今日も司馬懿の自宅に届けられた農園の報告が書かれている竹筒を如月の前に提出し、その響の行為に短くありがとうと響にお礼を述べると如月は巻かれて閉じている竹筒の紐を取り開けて、書かれている報告を読む。

 

「ふーん、今月は豊作だったから作物も多いみたいね」

 

報告書を読み終えた、如月は今月は天気などに恵まれて豊作だったことを思い出しながら自身が手塩をかけて取り組んだ結果の努力であるために、その努力も実り長安が活気になることに司馬懿は微笑んだ、それを隣で見ている響も自然に笑みを浮かべる。

 

「それはもちろん仲達様が真剣に取り組んだ結果だからだろ?」

 

4ヶ月も隣で補佐してきた響にとってこの朗報は司馬懿の真剣に取り組んできた努力の結晶であると自慢げにいう。

 

「煽てても何もないわよ」

 

自分のことを自慢げに話してくれる響に照れてか頬赤く染め司馬懿は笑みを浮かべる。

 

「今日中に目を通さないと行けないのはさっきので最後…お疲れさま」

 

最後の報告書が今日行う最後の事案であってあったことから響は政務の終わった司馬懿に対してお疲れと功を労う。

 

「今日は思ってた以上に早く終わったわね」

 

そう言いながら司馬懿は、椅子に座りながら両手を上に上げて背筋を伸ばす。

 

当初予定していた時刻より早く終わったために組んでいた予定も良いのか悪いのか狂ってしまって、これからどうしようと頭の中で考えていると、後片付けをする響を見て何やら思いついたのか少し悪戯そうな笑みを浮かべて口を開ける。

 

「ねーえ、響さん?ちょっとこっちに来て」

 

「え?どうした?」

 

司馬懿は甘い声で響を呼び、響も司馬懿の甘い声に首を傾げながらも響は司馬懿に近づく。

 

「えい」

 

響が出て届く範囲まで司馬懿に近づいたのを見て司馬懿は可愛い声とともに響に抱きついた。

 

「ちゃっ!?仲達様!?」

 

いきなり抱きつかれたことで戸惑いを隠せない響、そんな彼を他所に司馬懿は背中まで回している腕の力を緩めることなく響の体に密着し続ける。

 

「響さん、ちょっと驚きすぎじゃないかしら?」

 

「いやいや!流石に不味いですって!?」

 

あわてる響を見て少し驚きすぎだと可愛く指摘する司馬懿だが当の響はそんな受け答えがしっかりと出来るわけもなく、顔を青ざめながら必死に抵抗する。

 

一般の男性から見たら明らかにご褒美とも言えるシチュエーションであるが今の響にとって司馬懿がこんな大胆な行動を取ったことにとある人物が脳裏に浮かび、どうしても喜べなかった。

 

その人物とは言わずも知れた司馬懿の父親である司馬防、もし、司馬懿とこんな状況になったと耳に入れば娘をたぶらかした極悪人として斬首や火炙りなど確実にデッドエンドまっしぐらであろう。

 

そんな最悪のビジョンが彼の脳裏に浮かんでいるため必死になって抵抗を続ける。

 

「あっ!」

 

「うぉっ!?」

 

抵抗を続けていると不意に司馬懿は響の抵抗して体を動かしていたことにより短い悲鳴を上げながら座っていた椅子から体が崩れ落ちそのまま響の方へと前のめりで倒れていく、突然のことであったために響も巻き沿いで体制を崩して地面に倒れる。

 

「いっつ~大丈夫か仲…達!?」

 

倒れて地面に頭をぶつかることは何とか阻止した響だが司馬懿までも倒れてきたために主に背中などがじんじんと痛む中同じく倒れてきた司馬懿の安否を確認しようと声を掛けた響は仲達と呼び捨てになるように途中で言葉を詰まらせ今の現状を見て驚愕した。

 

響は司馬懿を受け止めきれず背中から落ちて司馬懿は前のめりで倒れた。

 

これによりできあがった状況それは…響の体の上に跨がるように司馬懿が乗っかっている。

 

俗に言う馬乗り状態になっていた。

 

「いたた…あら?これは…ふふ」

 

司馬懿も漸く自分の置かれた状況に気がついたのか、何故か笑みを浮かべていた。

 

その笑みは何!?と今まで感じたこともない嫌な予感を響は感じ取る

 

「な、なんで笑み浮かべてるの!?」

 

「だって…こんな状態、今の主導権を私が握ってるみたいじゃない」

 

「なんの主導権を握ってるかなんて聞かないが、まずはどいてくれどかないと、こっちが動けない」

 

本当に不味いと顔を青ざめながらも響は司馬懿に自分の上からどくように説得するが、説得するもなお、司馬懿は退こうとはしない

 

「ねえ、響さん今の状況、興奮してる?」

 

退くどころか、色っぽい表情を見せながら司馬懿は体をうつ伏せに横になり、顔を響の顔に近付かせ体も更に密着させる。

 

「いやいや、ここここ、興奮なんて!?」

 

更に響を落ち詰める、司馬懿に対して響はここ一番と取り乱し司馬懿の言葉を否定する。

 

だが、そんな返答して司馬懿は笑みを浮かべながら空いている右手を司馬懿の後ろの方に伸ばしていく。

 

「ふーん、否定するんだ、じゃーあ、体の方にきいて見ようかな~」

 

「ちょっ、ちょっと待って!それ以上はいけない!それ以上やったらR18指定だから!R18指定の小説なんて作る勇気、うちの作者にないから!」

 

そんな甘い声でとんでもないことを発言した司馬懿に対し響はついにメタ発言まで口にして止めようとする。

 

「ん~如月わかんなーい」

 

そんな必死の説得も司馬懿は笑みを浮かべて白々しく否定をするが響はそれが嘘だと直ぐに分かった。

 

「本当はやりたいんでしょ?ね?このまま私を襲いたく…ない?」

 

明らかに誘ってるのかと言わんばかりの司馬懿の挑発に響はギリギリながら理性を保ち自身の理性が獣と化すことを堪える。

 

(くそ!どうすればいい!?このまま、仲達様のペースに流されたら間違いなく手を出してしまう、何としてもこの流れを変えなければ!てっいうかどうして仲達様はこんな大胆に攻めてくるんだよ!俺なんかよりいい男なんて何万人ともいるだろ!そりゃあ、もし色々な柵なんかなければ十中八九、仲達様を襲ってた、でも襲った場合、間違いなく司馬防様が激怒して殺しにくるに決まってる!やった場合の後のデメリットが多すぎる。やったとしてまず、司馬防様の目が届かないとこまで仲達様と駆け落ちするだろ、旅路は仲達様と俺のお給金を切り崩せば問題は無いだろう、その後安住の地を見つけてまた職を探さないとな、今度は商いとかも良いかもな…それで収支や生活に安定が出来たら子供を作って…そうだな二人くらいかな…きっと仲達様ににて可愛い女の子が生まれるんだろうな、あっ、男の子なら美男子かな~家族に囲まれて毎日楽しい生活…そんな生活も悪くは…って!何犯す前提で考えてるんだ俺は!!仮だ仮!もしもの場合だ!あ、危うく俺と仲達様の家族になった未来のビジョンを思い浮かべてしまった)

 

響は頭の中でどうやってこれなら抜け出せるか考えたが途中から自分の自虐や駆け落ちからの家族構成までの家族計画など、司馬懿のお色気にやられ思考がやばい方向へと向いていき、最後にぎりぎり、自分の思考が変な方向に行っていることに気付き、正気を戻す。

 

「ねえ、響さんきいてる?」

 

思考の海に沈んでいたから何も発しなくなった響に気になったのか、司馬懿は上目のうえに甘い声で響に声を掛ける。

 

(そんな目と甘い声を俺に向けないでくれ!!やばい本当にやばい!襲えば最初は極楽かも知れないけど後に待つのは間違いなく地獄!なんとしてでも回避しないとけど、俺1人じゃもう長くは持たない、だから誰かぁぁ!!このヘル&へヴンの待ち構える状況をぶち壊す救世主はいないのかぁぁ!)

 

響は攻め続ける司馬懿によって、理性ももう保ちそうになく、1人で打開など出来ないと判断し心の中でこの状況を打開してくれる人物の来訪を祈る。

 

そんなとき、部屋の外から速いテンポで足音がこちらに近付いてくるのが響の耳に入りそして勢いよく執務室の扉を開けると外から司馬朗が慌てた表情で中に入ってくる。

 

「如月ちゃん!大変だよ!」

 

明らかに緊急事態と言える慌てようで司馬懿のことをよぶ司馬朗。

 

(良いときに!本当に救世主がきた!)

 

この状況を打開できる手札が舞い込んだことで歓喜する響

 

しかしそんな響の考えとは裏腹に、司馬朗は司馬懿と響を見て黙り込み、少しの無言の間の後顔を赤らめる。

 

「ご、ごめんね、なんかお楽しみの最中だったみたいで」

 

もじもじと気恥ずかしい気持ちでいっぱいな司馬朗は響達を直視することが出来ず目をそらし、出直そうと部屋から出て行こうと踵を返す。

 

「ストップ!!!いや引き返さなくて良いから!俺としたら伯達様が来てくれたことに心底喜んでいるから!!」

 

引き返そうとする司馬朗を見て響は大慌てで呼び止めようとする。

 

「へえ~睦月ちゃんが来て嬉しいんだ、つまり、私だけじゃ飽き足らず、睦月ちゃんも襲おうってことね」

 

「違います!」

 

響と司馬朗のやりとりを聞いていた司馬懿は悪戯そうな笑みで司馬朗を巻き込んで響の言ったことを全く違う解釈をしてそれを即座に響は否定する。

 

司馬朗がきて漸くの終息の目処がつくと思った矢先、更なる困惑化で事態が収拾したのはこれより10分後のことであった。

 

 

「よ、要約解放された」

 

要約司馬懿の魔の手から解放された響は、最後まで理性を耐えきったものの、完全に精神がすり削れておりげっそりした顔を見せる。

 

「あと少しだったのにな」

 

残念と響を誘惑したことに反省の色無しと言わんばかりの司馬懿はそんなことを愚痴にして、それを聞いた響は目を細めて司馬懿に顔を向けて口を開けた。

 

「あのな、冗談も程々にしてくれ完全にやばかったんだからな」 

 

司馬懿が行ったことを遊びすぎと諫しめる

 

「…冗談じゃなかったのにね」

 

そう誰に聞こえないぐらいの小声で司馬懿はあの行為が本気であったとこぼすが誰もその言葉を聞こえなかったためにそれに帰ってくる言葉はなかった。

 

「それで伯達様は何用で大慌てしてましたけど」 

 

諫しめたと思った響はこの件を一段落させてここに急ぎの用事で来たであろう司馬朗にことの内容を訪ねた。

 

響に訪ねられたことでここに来た理由を思い出した司馬朗ははっと、先程の衝撃な出来事で忘れていたことに気付き少し落ち着いていた司馬朗の表情からまた冷静さがなくなった。

 

 

「そ、そうだった!如月ちゃん!響さん!た、大変なの!さっき早馬が来て…」

 

慌てた声で司馬懿達に事の次第を話そうとする司馬朗を見て先程まで悪戯そうな笑みを浮かべていた司馬懿やげっそりしていた響も重大な何かが、起きたと認知して真剣な表情で司馬朗に向き耳を傾ける。

 

「ぞ、賊が大凡8000の賊の大部隊が五丈原方面から長安に迫ってきてるって!」

 

「嘘!?」

 

「8000!?」

 

司馬朗から告げられた大部隊の賊の侵攻、流石の多さに賊の襲来だろうと思っていた司馬懿は数の多さに信じられないと言葉を零し、響は、賊の襲来とその多さ両方に驚いた響は敵の数を口にして驚愕した。

 

響が仕えて約4ヶ月、平穏だった長安に無法者達が今も着実に迫り近付く。

 

 




オリキャラ紹介
姓司馬
名防
字建公
性別 男
年齢 32

司馬懿や司馬朗の父親、長安の太守
厳格な性格で家族である司馬朗や司馬懿にとっても厳しく、司馬懿の補佐である響にも良く思っていない。
忠実通り、8人の子供がいる(全員は登場しませんというか無理です)睦月に関しては計算上16才のときに生まれてるため…昔は15で成人だから大丈夫だよね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話

五丈原より8000の山賊の群れが長安へと迫り来る。

 

長安方面を警備していた兵からの早馬が長安に届き、見過ごすことはできないと司馬防は判断し今いる将達を召集、政庁にて賊討伐の軍議が始まろうしていた。

 

着実に将兵が集まる中、要約、到着した司馬懿、司馬防、響は直ぐに先に来ている将兵達と同じように立ち。司馬懿達が来たのを気に司馬防が閉ざしていた口を開けた。

 

「これより軍議を始める。諸君らと知っていることであるが8000の賊どもが我が長安に着実に迫ってきている」

 

司馬防から語られる今の現状に司馬懿を始め臣下達は緊張した表情で何も発さずに司馬防を見つめる。

 

「全く、自身の無能さもわからぬ馬鹿どもだ、所詮は反乱した百姓の群れ、我々が全力で相手することもない相手だ」

 

反乱した賊達を才もないただの阿呆だと見下しながら全力で戦えば間違いなく勝てると確信的な自信に司馬防の臣下達は安堵の顔を見せ響もこれなら司馬朗が慌てるほどだから深刻な事態ではないかと思っていたが、司馬防の臣下達をみて少し緊張感が和らいだ。

 

「…丁度良い」

 

何か思いついたのか、司馬防はニヤリと頬を上げ、それを見た臣下と響は何をしようとしているのかわからないが、娘である司馬懿達はまさかと驚いた表情を見せた。

 

叔達(しゅくたつ)!」

 

「…っ!ここに」

 

笑みを浮かべた後誰かの名を上げると直ぐに返答が来て響は視線を返事をした方向へと移す。

 

そこには響達同様、一列に並ぶ中、司馬懿や司馬朗の服に疑似はしているものの、紺の長袖のセーラーとスカート、髪も薄紫色でディープブルーな瞳、どこか司馬懿達にた女の子が手を合わせて臣下の礼を取る。

 

「弥生ちゃん」

 

響の隣にいる司馬懿がそう、呟き、その呟きを耳をした響は少し司馬懿の方に視線に向け、やっぱり知り合いかと思い再度視線を弥生と思われる女の子に向けた。

 

「2000の兵を貸し与える。進軍中の賊を一掃させよ」

 

「っ!!」

 

「なっ!?」

 

司馬防が口にした命令の意味が判らなかった。

 

8000の賊に2000の兵士を女の子が率いる。そう言ったことに素人な響にとっても明らかに判断ミスであると理解できる。

 

そんな無茶ぶりをなぜ司馬防が、少女に命令をだしたのか、響はその真意がなんなのか判らなかった。

 

「良い演習替わりだ、存分に才を震うが良い、それと伯達!仲達!」

 

「は、はい!」

 

「はっ!」

 

響が司馬防の真意を考える中でも軍議は続き、司馬防は今回の一件を少女の練習材料に持って来いだと笑みを浮かべながら全力で事に当たるように鼓舞、そしてそのあと司馬懿と司馬朗の名を告げると、司馬朗は戸惑いながら、司馬懿はしっかりと返答し司馬防は2人にも何かの役割を命じる。

 

「万が一ということもある。2人には3000の兵を率い、叔達と同じく出陣を命じる」

 

保険として、2人にも命令を下すと、司馬朗の表情は安堵の顔を見せ、司馬懿も同じくこれなら大丈夫とほっとした表情見せたが、次に告げた司馬防の言葉でまた一変する。

 

「ただし、あくまで同行するだけだ。叔達の部隊が敗走するまで、2人は叔達に加勢も助言も禁ずる」

 

次に司馬防が口にしたことに司馬防以外のまわりの臣下や、司馬懿達は絶句する。

 

本当に保険、叔達の兵が敗走するまでは絶対に動くなとそう言ったのだ。

 

劣勢に立たされるであろう味方に何も出来ないという状況に何があるのか、そう言わんばかりに絶句して黙っていた司馬朗が一歩前に出て司馬防に向かって進言する。

 

「お父さんは、弥生が殺されそうになるまで見ていろとそうおっしゃうのですか!?」 

 

流石に妹の危機的状況になるまで見て見ぬふりを出来ないと司馬朗は声を荒げる。

 

しかし、そんな司馬朗の言葉など耳を貸さないと言わんばかりの態度を示す司馬防は司馬朗にこう返した。

 

「馬鹿めが、伯達、幼き頃よりお前達には次代は才ある者が国を動かしていくとそう言ったはずだ。故に、此度は叔達の研鑽の成果を見ることができる。絶好な機会、もし賊を討伐できず叔達が敗走するのなら、その程度だということだ」

 

次代は才ある者こそ動かす、それは響や他の臣下達も納得のいく言葉であったが、その後に続いた、叔達を切り捨てるような言葉には流石に響も親としてそれは冷たすぎるのではないかと憤りを覚え前に出ようとしたが、響に気付いた司馬懿がその行く手を遮り制止させた。

 

「響さん堪えて、響さんの気持ちは重々わかるけど…」

 

司馬懿も響の気持ちは判っており、悲痛な瞳で周りに聞こえないように小声で響に告げ、響も司馬懿の言葉を受けて、こんなときに何も出来ない自分が情けないと自身の無力さに情けなく思えた。

 

「で、でも!!」 

 

「別にいい、睦月お姉ちゃん」

 

司馬防に言われるも諦めきれない司馬朗は更に説得をしようとするもその説得はあろうことか、叔達によってさえぎられた。

 

「お父様、この司馬叔達必ずや、吉報をお伝えします」

 

「期待しているぞ」

 

叔達は嫌な顔もひとつせずに司馬防の主命を受けて、それを見た司馬防は少し頬にやけさせ、吉報を楽しみにしていると告げた。

 

「叔達、伯達、仲達は直ちに軍をそろえ出立他の者も万が一に備え出陣の準備を怠るな」

 

最後に司馬防が全体的な指示を出してそれを聞いた司馬防の臣下達は一言でその指示に了承して、政庁に集まった臣下達はそれぞれの場所へと解散していく。

 

「弥生ちゃん!」

 

臣下がばらばらに散っていく中、司馬朗が叔達が政庁から出て行く姿を見て血相を変えて追いかけていく。

 

やはり、今回の出陣は無謀もいいところな作戦であり同じく出陣することになっている司馬朗も心配な思いで胸がいっぱいで黙っていられずにはおれず、叔達を追いかけていったのだ。

 

そんな司馬朗を見て響と司馬懿も言葉を発さずに頷くだけでお互いのことを察して、直ぐに司馬朗を追いかけた。

 

叔達と司馬朗を追いかけ、政庁を抜け長安の治安を守る兵士達の兵舎へと向かう道筋。

 

行商人やこの町で暮らす民達も、政庁から大勢出て来たことや、既に噂話で賊が迫っていることなどを聞き、不安な顔つきなどで先程とは変わり、活気が沈みこんでいた。

 

そんな中を追いかける響と司馬懿、呼吸を乱さずに走る2人は漸く前方に見える2人を目視した。

 

2人から見て司馬朗と叔達が止まって話し合っており、司馬朗な激しく話している傍らに叔達は表情を一つ変えずに坦々と喋っていた。

 

「無理だよ!いくらお父様の命令でもこんなのは…」

 

「でも、それが主命だから仕方ない、だったらやるしかない」

 

「でも!」

 

司馬朗は叔達の危機を回避させたい一心で悲痛な叫びで訴えるも親子であろうと主命は絶対とそこを曲げるつもりはないのか、司馬朗の話を聞き取ってくれない。

 

「睦月ちゃん!弥生ちゃん!」

 

響と司馬懿は2人が耳に届くぐらいまで近づくと、司馬懿が聞こえるように2人の真名を呼び、そして司馬朗と叔達も司馬懿の声に気付いて、司馬懿の方に振り向く。

 

「如月ちゃん!」

 

司馬懿がやってきたことで妹の司馬懿なら、無謀に走ろうとする。叔達を止められることが出来るかもと期待した眼差しを司馬懿に向けられるが、そんな司馬朗の期待には応えられないような曇った顔を浮かべる司馬懿

 

「如月お姉ちゃん…」

 

「弥生ちゃん…今回の出陣、恐らくだけど弥生ちゃん一部隊で当たるのは無謀な戦い…それは判ってるのよね」

 

叔達の元へとやってきた司馬懿を叔達は表情を変えずに一言だけ司馬懿の真名を口にし、司馬懿も今回の出陣の今できる予測を述べて叔達に承知をしているかを確認する。

 

それに対して、叔達は頷くと判っていても止まれないとそう言いたげな表情を浮かべその顔を見た司馬懿は諦めたように溜め息を付いた。

 

「その顔だと止めても無駄みたいね、でも玉砕だけは止めてよね、妹が死んでいくのを見たくないから」

 

本当は司馬朗と同じように加勢したいという気持ちでいっぱいであった、しかし司馬防の主命がある今一緒に戦うことすら出来ない。

 

そんな虚しくも感じられる感情を胸を締め付ける中兵舎へと辿り着き出陣の準備を整え始めた。

 

 

「司馬防様、本当によろしかったのですか?」

 

一方、響達が去って行った政庁、その評定の間では、玉座に座る司馬防に、司馬防に長く仕える、老将が司馬防に対して進言の言葉を述べていた。

 

「先程のことか?あの命令を変えるつもりはないぞ」

 

考える仕草ひとつせず、自身の考えを決して曲げるつもりのないと司馬防は、はっきりと老将に伝えるが、老将も幾多の戦場を経験してきていたからかこのままでは負け戦となると直感から推測して、やはり納得できない顔つきをみせる。

 

「ですがこのままでは司馬孚様の御身は…」

 

主君といえど、ご子息を見捨てるような行いを断じて見過ごせないと、強く再三の進言を述べる老将に、司馬防はなぜか溜め息を付いた。

 

「馬鹿め、わざわざ負け戦をさせるために行かせるわけがなかろう」

 

と、司馬防はそれぐらい当たり前だろうと言わんばかりの表情を老将に見せ、それに対して老将はではどういうことだと司馬防が何を考えているのかわからないと困惑する。

 

「ではこの戦、司馬孚様が勝てると言うのですか?お恐れながら司馬孚様は統率も知力も申し分ございません、しかし、統率では司馬朗様、知力では司馬懿様とお二人には到底及びませぬ、では何故そのような勝機があるとお思いなのですか?」

 

今一番気になっている率直な答えそれを知らねばこの不安が収まらないと老将は司馬防に訪ね、司馬防は訪ねた老将に落胆したように溜め息を付いた。

 

「馬鹿め!それぐらい自分で気づくのだな、だが、一つ言うなら今回の勝利の鍵は奴次第ということだ」

 

訪ねた老将に対して、司馬防は罵声を上げ、今回の戦の重要点だけを述べて後は考えろと吐き捨てた。

 

奴とは誰のことを示しているのか、大将の司馬孚のことなのか、それとも付いていく司馬懿か司馬朗のことをさしているのか、結局当初の晴らそうとした胸の不安感は晴らせず。ただ出陣した司馬孚達の生存を祈るだけであった。

 

 

長安の街から出立つし司馬孚、司馬朗、司馬懿、そして響は司馬防に貸し与えられた5000の兵と共に五丈原方面へと向かう道を行軍していた。

 

響達は調達していた西涼の馬に跨がりゆっくりとした馬の足取りで進んでいきその背後には5000もの司馬防に付いてくる兵士達の足踏みがそろった行軍で賊を迎撃する場所へと進んでいく。

 

「……」

 

そんな中、響は俯いて、何かを考える仕草をして司馬防に言われた言葉のことについて考えていた。

 

あの司馬家の大黒柱である父親の司馬防がこんな無謀な戦で1人の娘をみすみす死地へと赴かせるだろうか…

 

確かに、他の人に比べれば、司馬朗も司馬懿も群を抜いて優れているのは響も知っている、しかし、司馬孚はその2人には長所では劣っているが全体的に見てはその2人にも差し控えない。

 

賊を討たなければならないという、使命感は重々と承知している。だが命を下したのは長安の太守にして司馬懿達の父親の司馬防、いくら厳格な性格をしているとはいえ無謀なことをさせるほど暗愚でもないはず。

 

では何故…と司馬防の真意が全くもってわからない、響は真意を理解しようと必死に考えるが結局何もわからずじまいで、徒労に終わった。

 

「如月お姉ちゃん…その人…誰?」

 

そんな響が思考をしているときに共に馬で移動する司馬孚が響のことに気がつき司馬懿に誰なのか訪ねた。

 

そういえばという、表情を見せ、司馬懿は響を呼びかけると、それに反応して響は司馬懿に顔を向けると、簡潔に事の内容を教え、理解した響は頷いて、司馬孚の方へ顔を向けてしっかりとした表情で司馬孚に名乗った。

 

「申し遅れました、私は八神響、仲達様の世話役と補佐を務めさせてもらっているものです、以後お見知りおきを」

 

初対面で格上であることから司馬懿達とは違って律儀に丁重な言葉遣いで自身を紹介した。

 

「響さん、ものすごく堅いね」

 

「やっぱり初対面だからかしらね…」

 

直ぐ傍にいる司馬朗と司馬懿は響の言葉遣いからまだあって間もないときと同じく堅い、口調であることに不服そうな顔付きで響を睨んでいくが、その視線に気がついている響は仕方ないと割り切って、あえてその視線を無視した。

 

「如月お姉ちゃんの…司馬孚です、字は叔達、よろしく」

 

噂は聞いていたのか、響の素性を知った司馬孚はこの人がと表情を変えずに呟くと直ぐに自身も名乗った。

 

「さて、自己紹介も終わったから、なるべく急ぎましょう」  

 

自己紹介も終わり、司馬懿は行軍スピードを早めることにした。

 

賊が長安に来る途中でも村は存在する、だから自分達が到着が遅れ賊によって手に掛かってしまう命もあるかもしれない。

 

そんな、いのちを見捨てる訳にはいかないとそういった、民を慈しむ気持ちを胸に行軍を早め迎撃地点へと急ぐのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話

もしかしたら誤字などがあるかもしれません、あれば報告お願いします


長安から出撃して大凡一刻半、先に放っていた斥候に迫り来る賊の動向を探らせていた。

 

そして戻ってきた斥候の1部が少し前の賊の動向を司馬孚に報告し、司馬孚はその報告を元に賊の予想経路を予測しその経路に待ち構える形を取り、少し陣を築けそうな、場所に陣取ると兵達に陣営を築くように指示を出した。

 

指示を出すと直ぐに隅から隅まで伝達されていき司馬孚の部隊の兵達は陣営の建設に取りかかっていく。

 

陣への簡単な侵入を許さぬために持ってきた木材などで簡易な柵を築き、兵達が休めるようにと陣幕も設置されていく。

 

「中々手際がいいな」

 

兵達は戸惑いもせずに陣地の建設に尽力していくのを見て見ている響は、かなり良く訓練されていると感心する

 

感心をしている響に横にいた司馬懿が響を手を掴む。

 

「初めて見るのは良いけど、響さんは私達とこっちよ」

 

そう、司馬懿は掴んだ手を引っ張って響を連れて行き引っ張られた響は当初はぼけっと兵達の動きを見ていたので体制を崩しそうになるが連れて行かれると司馬懿と歩調を合わせて体制を崩さないように付いていく。

 

司馬懿と響の前で司馬孚と司馬朗も同じ方向に歩いていき、その先には回りの陣幕より一回り大きい陣幕が既に設置されており陣幕の中に入っていくと持ってきていた簡易な机にその回りには椅子が鎮座されていた。

 

そして何も戸惑わず椅子に座る司馬懿達だが、響だけは立ったままでいた。

 

「響さんどうしたの?椅子も空いてるから座れば?」

 

「いえ、自分は仲達様の補佐であるため、仲達様と同じく椅子に座るとは何とお恐れ多い」

 

座らない響に首を傾げて質問する司馬懿に響は司馬孚がいるために丁重な敬語で座ることを断る。

 

それを見てまた司馬懿と司馬朗は少し不機嫌な顔をして響を睨んでくる。

 

「響さん?敬語…私と睦月ちゃんは別に良いって言ってるのにどうして敬語で喋るのかしら?」

 

響を睨む司馬懿は、敬語などしなくても別に問題ない場所だと理解しているために敬語を話す理由を聞くようにと別の意味合いでここでは敬語は別に良いと言っているように響に言った。

 

(いやいや、敬語しなくても良いって言うけど、今、伯達様や仲達様の他にも司馬孚様や外には一兵卒達も大勢いるの判ってるよな)

 

「何を仰いますか、主君の前で敬意を払うのは臣下として当然の行いでございましょう」

 

司馬懿に告げられるが、しらを切るようにため口で話し合っていることを無かったことにして、当たり前のことを笑みを浮かべて言った。

 

それを聞いた司馬懿は更に不機嫌な顔をするが、直ぐに勝機があるかのように笑みを浮かべ始め、口を開けて喋り始めた。

 

「それは、私の主命に逆らうって事かしら?」

 

そう司馬懿は、響に告げると、思い出したように響は苦い笑みを浮かべて数歩後退る。

 

司馬朗と初めて会った頃、響自身、堅苦しい敬語で2人に接していたために命令ということで普通に接するようになった出来事。

 

それを掘り返すように、響の逃げ場を無くし完全に司馬懿が話の主導権を握ることになった。

 

「そ、それは…その…」

 

なんとしても巻き返さなければと、焦りの顔を浮かべながらも、言い返す言葉を探す響であるがここに来て司馬朗がとんでもない爆弾な発言が飛び込んでくる。

 

「それに、如月ちゃんと響さん、少し前に政務室であんなに男女の関係なのに今更だと思うな」

 

「いやですから!伯達様がいうような疾しい関係ではありませんし、元々あれは仲達様が、悪ふざけで偶発的に起きてしまった事故です!」

 

司馬朗の爆弾発言に必死になって弁明をする響

 

未だに誤解されたままだったのかと更に顔を青ざめることになった響、そしてこの気にあれは偶然に起きた事故であったと自身の無実を証明させるようと熱弁したがそれを見ていた司馬懿が動き出した。

 

「ふーん、別に私は今此処であのときの続きしても良いんだけどね~」

 

そういって司馬懿は手を胸元に当て、響に服と肌の間の隙間をわざとみせるように空け、甘い声で響に誘惑をしはじめた。

 

突然の行動に響は慌てて3歩大きく後ろに後退し爆弾発言をした司馬朗もあわあわと慌てふためき、残った司馬孚であっても、あまり表情を見せない彼女だが、頬が赤くなって視線を横にずらし体をもじもじと明らかに恥ずかしがっている仕草を見せていた。

 

「私は…別に…構わない」

 

姉の司馬懿の突然の行為に赤らめて恥ずかしがっている司馬孚は曖昧な言葉を返して、それに直ぐさまこの場で一番危険な状況に置かれている響が言葉を返した。

 

「いや、ちょっと!その意味はどっちなの!?敬語に関してなのか、それとも別の意味でのことなのか!!」

 

焦った気持ちで完全に敬語が向けてしまった口調で司馬孚に質問をした響、彼の耳にはその言葉が二つある意味合いのどちらなのか判断することが出来ず、はっきりとして欲しいと即答で言葉を返した。

 

「あ、敬語の方です」

 

「よーし!というわけだ、仲達様、了承も出たからもう誘惑なんてしないでくれ!このままじゃ、俺のSAN値がごりごり削れるから本当に止めてくれ!」

 

再び問い詰めたことにより司馬孚が敬語の方だと指摘すると、響は直ぐさま、誘惑してくる司馬懿に向けて命令通りに敬語をやめて話しかける。

 

「露骨に嫌がらなくても…いいのに」

 

必死さから司馬懿は少しふて腐れ不満の声を呟くが、慌てていた響には届かない声であった。

 

「と、とりあえず話がかなり脱線してるから話を戻そう」

 

それから話が脱線していたために響が本題に入ろうと進め、それからまたとやかく言われるのを避けて仕方なく空いている椅子に座った。

 

「うん、まずこれを見て」

 

半ば強引ではあったが漸く軍議を執り行うことができ、司馬孚の言葉から軍議が始まり、机にこの地帯の詳細な地図が広げられていた。

 

「まず、私達はこの場所に陣取ってる、そしてここから西に8里離れてる所に今、山賊がいると思われる場所」

 

司馬孚は響達に分かるように指を指してまず、自分達が居る場所を指すと次に賊の現在の居場所を予想した地点を指さした。

 

そんな中、響はこういった地図を見たこともなかったために興味津々に見ているとふと思ったことを口にする。

 

「ここら辺、山々に囲まれてるんだな」

 

涼州は響のいうとおり山岳地帯が多く、道も険しい道のりになっているのが地図を見るだけで頷くことができた。

 

そんな何ともない響の言葉に同意するように司馬孚も言葉を続ける。

 

「うん、だからこの先は山と山に囲まれて峡谷みたいになってる、その間で迎え撃つのが一番の勝機」

 

司馬孚は賊と自分達の間にある峡谷で迎え撃つと言い切る。

 

今回数で劣る司馬孚の部隊では真っ向から立ち向かうなど自殺行為に等しきこと。

 

そのためにこの峡谷の地形を利用することが一番良いと司馬孚は思ったのだ。

 

此処で戦えば数で勝る賊の方が動きをある程度だが封じることができ、道幅が迫りためお互いにだが左右に回りこみ囲んで殲滅するという包囲殲滅をすることが出来ない。

 

数が多い賊を上手く倒す最善の方法、この作戦には異論を言う者はいなかった。

 

発言を禁じられている司馬懿と司馬朗良い策だと口では言えないがそういう表情を浮かべて異議があるようには見えず、響にとっては一理あるとその作戦に賛同した。

 

「私は2000の兵全軍で賊討伐に当たる。お姉ちゃん達は本陣の守りを」

 

「わかったわ、でも気をつけてね、相手は練度が低いといっても数では負けてるんだから」

 

作戦が決まった後司馬孚はこれからの行動を言って司馬孚は持てる兵数を動員し賊討伐にあたり、司馬懿と司馬朗は本陣の守りを任せるように指示をして、それを司馬懿は頷いて了承、その後、心配な司馬懿は司馬孚に気をつけるように忠告をすると、司馬孚も分かったといって頷いた。

 

そして、陣を建築を完了してしばらくして、司馬孚率いる2000の部隊は西の峡谷へと進軍していき半刻が経ち、2里離れたところで賊を待ち構えるように布陣した。

 

峡谷の道の端から端まで司馬孚の槍兵が横一列に2列並びで並んで、その背後には弓矢を携えている弓兵と司馬孚もいる。

 

峡谷の地形を生かした完璧な布陣、そして待ち構えること更に半刻ついに、その時がきた。

 

待ち構えている司馬孚部隊の前方から土煙が舞っているのを視認すると司馬孚部隊に緊張が迸り、司馬孚も次の指示を出した。

 

「弓隊構え」

 

そう司馬孚が指示を出すと前列の弓兵隊と司馬孚自身は土煙に目掛けて弓の弦を弾き、そしてその後ろの弓兵隊は角度を取って曲射の構えを取り、発射の合図を待つ。

 

そして、土煙が見えて少しし、ついに賊の前方部隊がはっきりと視認することが出来た。

 

頭に山吹色の布を巻いて、仲間との判別をしているのか、年齢も違う男達が司馬孚部隊に着実に近付いていく。

 

その山賊達の表情はまさに、狂ったよう…いや実際狂っているのだろう、正規兵が待ち構えているのに関わらず、突っ込んでくる。

 

勝算があるのか、はたまた玉砕か、そんな予想を司馬孚は頭の中で思い浮かべる中、賊達が有効射程内に入ったのを見計らい、短い命令飛ばした。

 

「撃て」

 

その瞬間司馬孚と弓兵隊の一斉射が賊に目掛けて放たれる。

 

司馬孚や直射した弓兵隊の矢は最前線で迫っていた賊達の胸や頭、喉などに突き刺さり、曲射した弓隊の矢は雨のように賊達に降り注ぎ有効射程内の賊達の体中に矢が突き刺さり次々と命が奪われていく。

 

賊達もただやられる訳ではなく、自らの獲物で上手く矢を弾いて直撃を防ぎ、着実に司馬孚隊との距離を詰めていく。

 

「距離を詰めて乱戦に持ち込め!そうすれば数が上の俺達の勝ちだ!」

 

そう賊達の中から轟いてきて士気を鼓舞しそして遂に矢の中を潜り抜けて司馬孚隊の前列の槍隊と接敵する。

 

「槍隊!いま!」

 

司馬孚の短い言葉で槍隊は持っている槍を一斉に前に突きだして、迫る賊の胸に一突きして迎撃を開始される。

 

しかしここまで近づかれては最前列の賊には曲射を撃つことはできない。それを見て司馬孚は曲射を撃つ弓隊に後列で詰めている賊に矢を浴びさせることを指示し他の弓隊や司馬孚は槍隊の援護射撃を行う。

 

そして開戦して半刻、日も落ち始めた頃、現状司馬孚部隊が優勢であった。

 

8000もいた賊は既に約3000の賊がこの世を去り、士気も落ちて攻勢も前より激しさがなくなっていた。

 

しかし、優勢とはいえ司馬孚達も無傷ではない。

 

約250人の兵が殺され重軽傷者も約400人と賊ほどではないが損害が出ていた。

 

だがらまだ司馬孚の戦線は崩れてはいないため、まだ勝機がある中、賊の頭が今の状況を見て苦い顔を浮かべていた。

 

「くそ!流石、長安の太守、一筋縄じゃいけねえ、おい!そろそろお前も働け」

 

「んあ?ああ、旗色が悪いんだったな、それで俺が敵将の首を取ってくれば良いのか?」  

 

相手は司馬防の軍だと承知で攻めたが勝つ算段がなかったわけではなかった。

 

ついに、切り札とも言える青年に指示を出し、その青年も素っ気ない返答をしたのち、持っている薙刀に力を入れると、前線を見据えて笑みを零しそして脚に力を入れると思いっきり大地を蹴って走りだした。

 

その青年の走り、まさに疾風のごとく、並々の馬以上の速力で賊の間を潜り抜けてそして瞬く間に前線に現れた。

 

「なっ!?」

 

いきなり現れた青年に槍兵は驚くが驚く暇など無かった。

 

「おらぁっ!!」

 

青年は槍兵の前で急停止して走って止まった反動を利用して思いっきり薙刀を、横にぶん回し一気に驚いた槍兵を含め5人の槍兵の胴体を切断させた。

 

「え…」

 

突如のことで思考が停止してしまう司馬孚、一体何が起きたのか目の前の現実が理解しがたいものであったために唖然としてしまった。

 

しかし、戦場ではそんなこと見逃すわけがない。

 

 

青年のたった1回の攻撃により、近くにいた槍兵達は恐怖に駆られ、布陣をほっぽかしで逃走を始めて、完全に司馬孚の戦線が崩壊しだした。

 

本来、こういう混乱を将である司馬孚が収拾しなければならないのたがその司馬孚も思考が止まっていたために直ぐに止めることが出来なかった。

 

そして逃げまどう兵など賊にとって格好の的である。

 

先程までの防いでいた兵達が嘘かのように次々と討ち取られていき、弓兵も弓を捨て持っている帯剣を抜剣し賊達の目的であった乱戦に持ち込まれるのことになった。

 

「司馬孚さま!お退きを!此処は我等が…」

 

司馬孚の近場にいた兵達が司馬孚を逃がそうと体を張ろうとするがその言葉は戦線を崩壊させた青年に斬られて途中で途切れた。

 

「あんたが、敵将ね、命が惜しかったら…捕まってくれ」

 

そう薙刀を構えながら司馬孚を捕まえるように促すが、その司馬孚は目の前の恐怖で声も上げられなかった。

 

賊だと思って侮っていたわけではない、しかし、まさか賊の中にここまでの豪傑がいるなど聞いたこともなかったために考えていなかった。

 

そして、その豪傑が自身を捕まえようとしている。

 

捕まったら最後、どうなるかなど、簡単に想像が付く。使い物にならなくなるまで犯され続ける。

 

待ち構える最悪の未来に逃げようと司馬孚は恐怖の顔を浮かべながら必死になるが体が動かない、恐怖から身がすくんでしまったのだ。

 

完全に打つ手なし、涙目になり司馬孚は心の中で一心に今思うことを叫んだ

 

(誰か…助けて!)

 

誰にも聞こえない助けの声、その司馬孚の一心の心の声は…

 

 

大勢の雄叫びと共に叶った。

 

「…なんだ?」

 

不意に青年も突如聞こえてきた雄叫びに聞こえた方向に顔を向ける。

 

青年が向けた方向は西…つまり五丈原の方から聞こえてきたのだ。

 

まさか、どっかの賊が合流したか?と呑気に考えたがその考えは直ぐに間違いだと知ることになった。

 

「し、司馬の旗!司馬の旗だ!」

 

「敵の奇襲部隊だ!」

 

五丈原方面…つまり賊の背後からの司馬防に仕える誰かの攻撃。

 

漸く突破できると思った矢先の奇襲、これにより、賊達慌てて浮き出しだつ。

 

そして五丈原からやってきた奇襲部隊、それは西涼の馬に跨がった2000騎の騎馬隊、そしてその先頭に同じく馬に跨がる少年の姿。

 

そして少年は近づく賊達を見て、騎馬隊に号令を飛ばした。

 

「何とか間に合った!よし!騎馬隊!突撃ぃ!!」

 

司馬孚隊が完全に敗走していないを見て笑みを浮かべ、少年…八神響は2000の騎馬兵とともに賊の群れの中に突っ込んでいった。

 

 




オリキャラ紹介
姓司馬
名孚
字叔達
真名 弥生
性別 女
年齢 13

長安太守、司馬防の三女
元気のある司馬朗や色気のある司馬懿と違って無表情、あまりのことがない限りはポーカーフェイス
武力、知力と姉2人には及ばないがそれなりに身につけている。
戦場では弓矢を使って戦う
容姿は艦これの弥生


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話

話は響の背後からの奇襲を開始した一刻四半前(現代だと2時間30分)に遡る。

 

軍議は終わった後陣幕内ではやはり、なにかが引っかかるのか今一度、司馬防が告げた言葉を思い浮かべていた。

 

「……」

 

口を閉ざし、目を瞑って頭で思い浮かべる過去の記憶を辿り、何か気になる点はないかと記憶を掘り起こしていく響、そんな響を他所に同じくこの場所にいる司馬朗と司馬懿も先程出陣した司馬孚が心配なのかそわそわと落ち着きがなかった。

 

「う~弥生ちゃん大丈夫かな……私ひとりで様子だけでも…!」

 

「心配なのは分かるけど、そうすると危なくなったら睦月ちゃん飛び出して手伝いに行くでしょ?そしたら父上の主命を破ることになるわ」

 

司馬孚が心配な司馬朗は兵もひとりも連れて行かずに司馬孚のもとへと様子を見に行こうかと呟くとそれを聞いていた司馬懿が司馬朗の性格も考慮し、危なくなったら飛び出して父親である司馬防に出された主命を反してしまうと司馬朗に対して言うと、それもそうだと生きたい気持ちを無理に押さえた。

 

「……いっそ、バレないようにするとか」

 

司馬朗と司馬懿の2人の話を聞いていた響が隠れて司馬孚を手伝えば良いのではと言葉を零すがすぐさま2人とも無理だと言わんばかりに首を横に振った。

 

「流石にそれは無理よ」

 

「お父さんに直ぐに感づかれると思う」

 

「それじゃあ、どうすれば…ふたりは司馬防様の主命で加…勢…?」

 

行きたいのは山々とそういった表情を浮かべながらも、行ったことがバレてしまうと司馬懿達は簡単に予想できることを響に告げると何かいい手はないかと項垂れながらも考えようとする響に一つふと思ったことが思い浮かぶ。

 

そういえば、司馬防が行った主命なぜあの時2人と限定したような言い方をいったのであろうか

 

その言葉を主に置き、思考する響にとある一つの答えが浮かんできて、気づいた響は驚いた表情で椅子から慌てて立ち上がった。

 

「ど、どうしたの!?」

 

いきなり、響が立ち上がったことにより驚いた司馬懿は響にどうしたか訪ねると響は訪ねられたことを無視して司馬懿に逆に質問を問いかけた。

 

「仲達様!俺ってどういう扱いになってる!?」

 

勢いよく詰めよってくる響に流石に司馬懿もたじろぐが、直ぐに言葉を返した。

 

「え?い、いきなりどうしたの?」

 

「はやく!もしかしたら司馬孚様に加勢に行けるかも知れないんだ!」

 

その言葉を告げると2人とも驚いた顔で響を見て直ぐさま司馬懿は響の問に答えるべく少し考えて答えを告げる。

 

「そうね、私の直臣というわけだから、響さんに下知を下すのは大体は私ね」

 

と司馬懿は響の現状の身分を簡易に話すと直ぐに響は更なる問を問いかける。

 

「じゃあ、仲達様の指示で兵を率いることも可能なのか!?」

 

「それは…勿論私が響さんに命令すればで…き…そうだ!その手があったわ!」

 

即答で響が再び告げた質問に対して司馬懿も可能だと返事を返した直後、響が何を思いついたのか漸く理解することが出来、これなら行けると笑みを浮かべていた。

 

「え?響さんも如月ちゃんもどうしたの?」

 

2人がこれならと喜んでいる中、完全に何がどうしたのか理解できていない司馬朗は司馬懿に問いかけ、それに対して司馬懿は司馬朗に響が思いついたことを告げた。

 

「いい、睦月ちゃん、私と睦月ちゃんは弥生ちゃんに加勢も助言も出来ない…それは父上がいっていたからわかるわよね」

 

「うん、もちろんだよ、けど、それが何かあるの?」

 

司馬懿は司馬防に言われた言葉を簡易に復唱すると司馬朗もそれぐらい分かってると司馬懿達が何を考えついたのかまだわからないまま頷く。

 

首を傾げる司馬朗に今度は響が口を開けて喋った。

 

「けど、これには抜け穴があるんだ」

 

「抜け穴!?」

 

司馬防の主命に抜け穴があるとそう告げた響に驚愕の表情をする司馬朗、そんな驚く司馬朗に司馬懿は更に説明を続けた。

 

「そうよ、それは響さんが兵を率いて弥生ちゃんに加勢すること」

 

「え?でも、それじゃあ主命に反するんじゃ…」

 

その方法を司馬懿が答えたが納得できない司馬朗は命令違反するのではと聞き返しそれに対して響が答えを返した。

 

「だから、それは仲達様と伯達さまの2人が下された主命でしょ?だけど、そんな主命を受けてない俺は関係ないことだろ?」

 

「それに、私達も弥生ちゃんに加勢や助言をするなと言われたけど、でも発想を変えればそれ以外の人達なら指示を出しても構わないと言い換えられる」

 

「つまり、この場の中で主命も制限もない俺が兵を引き連れて救援に向かっても主命に反することはないってわけだ」

 

坦々と2人に説明された司馬朗は説明されて行くにつれて呆気取られていた顔が徐々に笑みが浮かび上がってきて完全に理解したとき、大きく声を上げた。

 

「そっか!!確かにそれなら弥生ちゃんを助けられる!」

 

なら、そうと決まれば部隊の編成をと司馬朗は張り切った表情で陣幕から出ていこうとするも司馬懿に止められてしまう。

 

「待って、急ぐ気持ちは判るけど、作戦があるの、だから少しだけ兵を集めるのを待ってくれない?」

 

司馬懿に作戦のために聞いて欲しいと呼び止められ、今にも出ていきたいと疼いている司馬朗を見て手短に話そうと司馬懿は作戦の内容を喋り始める。

 

「まず、このまま弥生ちゃんの行った通路から行ったとしても弥生ちゃんの部隊の布陣の邪魔になるし、それに峡谷だから狭いから加勢してもあまり意味をなさない、だから響さんには騎馬隊2000騎を連れてここの迂回路を回って賊の背後を強襲して欲しいの」

 

弥生が正面に布陣している今、響の騎馬隊が正面から加勢してもあまりメリットがないために、少し時間がかかるが迂回路から部隊を敵の背後に回り、背後からの強襲を司馬懿は提案し、説明を受けた響と司馬朗も確かにと納得した表情で司馬懿に頷いた。

 

「恐らく響さんの部隊が強襲するのは弥生ちゃんの部隊が交戦が開始して経った後になると思うわ、それじゃあみんな準備をお願い」

 

司馬懿の説明が終わってから司馬朗は軍馬や武器の支度、司馬懿は引き連れてきた。兵達に事の次第を伝え響の部隊の編成を執り行う。

 

その間に響は余計なタイムロスを防ぐために地図を見て迂回路の道を暗記する。

 

行動を開始してから半刻程が経過したとき司馬懿と司馬朗の計らいで漸く響の部隊の編成が完了し、司馬懿に呼ばれ響も陣幕から出て司馬懿の元に駆け寄る。

 

「準備が出来たわ…響さん、弥生ちゃんをお願いね」

 

「了解しました。必ずや司馬孚様と共に此処に帰還いたします」

 

司馬懿に司馬孚のことを頼まれ、響も兵の前であるために臣下の礼を取って敬語で受け答えして、馬に乗馬し引き連れていく騎馬隊に向けて、響は号令を飛ばした。

 

「これより!賊の背後をつく!八神隊!我に続け!」

 

こんな感じかなと、テレビやゲームで見た号令を見真似て号令を飛ばし、その直後響の後ろにいる騎馬隊が答えるように声を轟かせ響は乗馬した馬の腹を蹴ると馬を走らせて陣地から騎馬隊を連れて出陣した。

 

弥生達が向かった峡谷へと続く道とは違う迂回路を進んでいく響と八神隊、馬を走らせその反動で体が飛び跳ねたりもしながら必死に手綱を持って道を進んでいく。

 

そして八神隊が出陣して半刻四半が経った時、遂に賊の後詰め部隊を視認する距離まで近づく。

 

「何とか間に合った!よし!騎馬隊!突撃ぃ!」

 

その声共に、騎馬隊は雄叫びを上げて賊の後詰めへと突撃していく。

 

勝利目前の前で背後からの強襲など想像していなく、浮き出しだっていた賊達は統制など取れるはずと無く後詰めは瞬く間に瓦解し慌てふためく賊達はあちらこちらと逃げまどう。

 

響も騎乗しながら持参の剣を振るい通りかかった賊を8人ほど切り倒していく。

 

彼も司馬懿に仕官した後にも鍛錬は怠っておらず、寧ろ士官した後の方が以前より比べるものでないほど剣の腕や、乗馬などが上達し、それにより、並みの者よりかは強くなった。

 

後詰めの賊を蹴散らした後響は騎馬隊共に司馬孚達がいる方向…つまり賊が集まっている方へと駆ける。

 

「くそ!正面の敵は囮か!」

 

「か、頭!後ろから敵がも、うぎゃぁぁっ!!」

 

賊の中央部、先程前線へと出た青年や賊の頭領がいる辺りでは後詰めの賊が敗走したという凶報が伝わり賊達は狼狽え始め賊の頭領も正面の敵は背後の強襲を悟られないようにする囮だと勘違いし、背後の敵に迎撃の指揮をとろうとするが既に時遅し。

 

流石は西涼の馬とそれに鍛えられた騎兵、既に頭領達がいるところまで響率いる騎馬隊は突撃しており頭領の回りでは指揮も執れない賊に八神隊の一方的な蹂躙が繰り広げられていた。

 

ある者は首をはねられ、またある者は槍で喉元を突かれ、またある者は斧で頭をかち割られる。

 

誰もが賊の敗北だと、わかりきると自身の保身であっちこっちへ逃げ惑う賊、そんな逃げ惑う賊達に峡谷の幅の狭さや八神隊の遠慮無く追撃の手が入り未だ誰一人離脱できずにいた。

 

それから直ぐ、賊の頭領も討たれることになる。

 

死因は馬に轢かれるという最後、余談ではあるがその馬に乗っていたのは八神響であり、当の本人は馬で轢いたのが賊の頭領であったなど未来永劫知ることはなかった。

 

響の騎馬隊の奇襲や賊の頭領の討ち死に、その二つの凶報により、前線でもその効果は現れた。

 

謎の青年により危機に陥っていた司馬孚は響の奇襲により視線が外れたのを見て距離を取り命拾いした。

 

それから、賊達も奇襲により士気が落ち、先程のように攻め立てられず司馬孚の奮闘で立て直された司馬孚隊に足止めをくらう。

 

生き残るには前を抜いて逃げるしかない、そう背後から迫る恐怖に死に物狂いで前へと進撃する賊達であったが皆が自身の保身ということもあって連携も取れておらず、彼らが突破することは不可能であった。

 

そんな光景を見ている物がいる。

 

同じく賊に身を窶した謎の豪傑の青年である。

 

彼はあれでは突破は無理とわかりきっており、だがしかし、このままでは響達の騎馬隊の餌食を待つことになる。

 

それなのに彼は一行に慌てる素振りを見せない。

 

そんな彼に体制を立て直した司馬孚がやってくる。

 

「おお、まさか、一度は瓦解ししたのにここまで立て直すとは中々のもんだな」

 

青年は司馬孚に気がつき、あろうことか敵である司馬孚に対して声を掛けて体制を立て直したことを賞賛した。

 

これには司馬孚も唖然とするが直ぐに正気になり持っている弓矢を構えて青年にへと狙いを定める。

 

それをみて、青年も持っている薙刀を構え直して司馬孚目掛けて飛び込む体制に入る。

 

互いに1歩と動かない状態が少し続いて、先に動いたのは青年の方であった。

 

脚に力を入れて地面を蹴り、先同様、凄まじい速度で司馬孚に近づいていき、みるみると距離が縮まっていく中司馬孚もつがえていた矢を青年に目がけ放たれる。

 

飛び込んでくる青年に目の前から矢が飛んでくる、一般では避けることなど不可能であるが彼は違った。

 

彼は矢が迫る中笑みを零しており次の瞬間、脚で地面を蹴ると横に飛び、矢を避けて見せ、直ぐさままた、距離を詰める。

 

「っ!!」

 

走ってくる敵に矢を弾かれるわけではなく避けられるとは思っていなかった司馬孚は驚愕するがそんな中、彼は迫り来る。

 

「もらった!」

 

次の矢をつがえる隙など与えないと青年は司馬孚を斬ろうと振るおうとした直後司馬孚と青年の間に馬が間に入る。

 

「うおっ!?」

 

いきなり現れた馬に青年は驚いて後退、後退したことで再び命拾いした司馬孚は冷や汗を浮かべながら助かったとほっとして、馬に乗っている人物を見てまた驚いた。

 

「あなたは…」

 

「いや、本当に危ないところだったな」

 

司馬孚と青年の前に現れたのは響であり、遂に中央部で暴れていた騎馬隊が司馬孚のいる前線までやってきたのである。

 

なぜ司馬懿の直臣の響が此処にと驚く司馬孚だが、響は司馬孚が無事であったことに安堵する。

 

「まさか、背後の奇襲部隊か?もうここまで来たのかよ」

 

そんな2人を見て青年はこれは不味いと思いながら焦りの表情を見せた。

 

「…仕方ない、命あっての物種だ、ずらかるか」

 

そう青年は口をこぼすとそれを聞いていた響は可笑しなことを言うと思い青年に話しかけた。

 

「あんた、前も後ろも攻められてるのにどうやって逃げ切れると思っているんだ?」

 

「それは…こうするのさ!」

 

そう、青年は言うと突然峡谷の岩壁に向かって走りだし、このまま突っ込めば壁に衝突するのではないかと響も見ていて内心そう思っているが彼は速度を落とすことなく壁に近づき遂に目の前まで迫る。

 

「はあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そして壁に衝突する…と思いきや、青年は壁を脚で蹴って、壁を走り始めた。

 

「…は?」

 

響は彼の姿を見て信じられない物を見た表情を浮かべ、あまりの驚きに唖然とする。

 

隣にいる司馬孚でさえも唖然としてしており、2人が青年のあまりの人間離れ技に凝視する中そんなこと気にせずに彼は壁を完全に走りきる。

 

そのあと、青年は響達を一度見下ろした後、直ぐさま走りだして何処かへと行ってしまう。

 

彼がいなくなった後も、2人は唖然として固まっていたが、ふと響が率直な思いをくちをする。

 

「…俺…垂直で壁走りする人間なんて初めて見た…」

 

「…弥生も…です」

 

あんな超人的な行いをできる人間がいるとはと世の中広いんだなと実感した2人、そして、そんなことを思っている2人に至るところから完成が響き渡る。

 

「あれ?もう終わったのか?」

 

先に正気に戻った響が辺りを見渡して、勝ち鬨を上げている味方の兵を見て賊を殲滅できたのかと言って、司馬孚もきっとそうと、響の言葉に肯定した。

 

「なら、戦後処理が終わったら引き上げよう、仲達様達が心配してるはずだしな」

 

一刻も早くこんなところから離れたいと響はぼやきながら、引き連れてきた兵に指示を出そうと兵が集まっている場所に馬を歩かせていく中、司馬孚は響の背中を見ながら口を開ける。

 

「待って…」 

 

そう短い言葉を口にすると響は馬の足を止めて顔を向ける。

 

突然声を掛けられたことからどうしたのだろうと首を傾げて司馬孚の言葉を続きに耳を傾ける。

 

「あの…助けてくれて、ありがとう」

 

頬を赤らめ、余所余所しい態度で響にお礼を言い、少しお礼を言われるとは思っていなかったために、少し間があいて、響は司馬孚に笑みを浮かべて返事を返した。

 

「どういたしまして」

 

そういって、それじゃあ行こうと司馬孚に声を掛けると、司馬孚はうんと短い言葉を口にして頷き、響と共に戦後状況を確認しに、兵達が集まっている場所へと向かった。

 

 




オリキャラ紹介
姓??
名??
字??
性別男
年齢19 

長安に向かう賊の群れの中にいた謎の青年
賊とは思えない卓越された武力を持ち、何より並みの馬をも越える俊足の持ち主であり、超人的な俊足に響達を驚かせた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話

なんか後半からクダッテル気がする、変なところあったらコメントください。

因みに今回は文字数が6000を越えました


司馬孚率いる部隊と賊が集まった集団との峡谷での戦闘、当初、地形の利用や完璧な布陣で迎え撃って優位たっていた、司馬孚であったが、賊の中にいた腕の立つ豪傑により、司馬孚の部隊の優位を覆され一度は劣勢に追い込まれた。

 

しかし、賊の集団の背後からの響率いる八神隊の突撃で賊達の統率を崩し、辛くも勝利を収めた。

 

今回の司馬孚達の部隊の被害は、八神隊が死者23人、そして一度は瓦解した司馬孚隊は死者が953人と犠牲が多かった。

 

(やっぱり、奇襲して統率を瓦解させたけど、無傷とはいかないんだよな…)

 

司馬孚隊と同じく司馬防軍の陣地へと向かっている響は少しでも犠牲が出てしまったことに嘆く。

 

人を斬ることに既に躊躇いなど無いとしても、人が近くで死ぬ、そして死体を大量に見れば元々平和な現代の日本に住んでいた響にとって大勢の人の死は彼の心に重くのしかかるものだった。

 

その時、響の頭の中では一つの思ったことが脳裏に浮かんだ。

 

自分は何故こんな戦いに参加してしまったのだろうか

 

そんなことを思っていると次に浮かんだ言葉は生き残るためであるとおもう。

 

当初の目的はこの戦乱の世で生き残ること、そのために響は犯罪である殺害を肯定し今まで何人も命を奪ってきた。

 

しかし、今回の戦は別に響にとってはメリットがないものである。

 

それなのに、自ら出陣するということは、自分の命を危険にさらすことになり、彼にとっては最大のデメリットといえない状況に自ら飛び込んでいった。

 

主君への忠誠のため?、自らの出世のため?はたまた、ただ闘いたかったため?といくつもの理由が響の頭に浮かぶが自分自身分からないことであったために、頭を少し手に当てて思い悩む。

 

そんな響の抜け道が分からない自問自答の問いかけに悩んでいると、不意に横にいた司馬孚が声を掛けてくる。

 

「あの、もう少しで如月お姉ちゃん達がいる陣地へ着きますよ?」

 

そう司馬孚は思い悩んでいる響を見て、もうすぐ陣地に着くことに気がついていないであろうと思い、優しく声を掛けると、響も漸く思考の海から浮かび上がって、しっかりと前に見ると目視で陣地が見えるところまで帰ってきていたことに気がついた。

 

そして、何事もなく陣内に入ると生還して帰ってきたからか陣内に残っていた残りの司馬懿と司馬朗の兵は歓喜で生還した兵達を祝福する。

 

それを受ける響も生き残れたと生きている実感を身にしめていると、陣幕の方から急いで駆け寄ってくる司馬懿と司馬朗の姿を捉える。

 

「や、弥生ちゃーん!!」

 

そう、司馬懿より先に響と司馬孚の元へたどりついた司馬朗は帰ってきて馬から下馬した司馬孚にタックルをかますように抱きつくとそんな抱きつきに、体が支えられるわけもなく司馬孚は体制を崩して仰向けで倒れた。

 

「怪我してない!?賊達に疚しいことされてない!?」

 

そう、心配の声を次々と司馬朗の言葉から出てきて、漸く響の元へ来た司馬懿と響は思わず苦笑いの笑みを浮かべる。

 

「だ、大丈夫、響さんが助けてくれた」

 

司馬朗の次々と出てくる心配の言葉を一括で纏めて響が助けてくれたから問題なかったと告げるとそっかと、司馬朗は司馬孚に向けていた視線を響に向ける。

 

「響さん、ご苦労さまでした、此度の働きのお陰で妹の窮地を救ってくれたこと心より感謝いたします」

 

「響さん、弥生ちゃんを助けてくれてありがとね!」

 

今回の戦の功労者である響に対して、まず、司馬懿がいつもとは違い丁重な言葉で響にお礼を言い、その後に司馬朗からはいつも通りの口調でお礼を述べられた。

 

「いえ、私など、褒められたことではございません、今回の戦は司馬懿様のお力があったからこそです」

 

主君である司馬懿からのお礼を響は上である司馬懿の力があってこその今があるとまるで自分は何も出来ていないと自虐的なことにも聞き取れる言葉を丁重語で返した。

 

これには、お礼を言った司馬懿も戸惑ったが回りに顔の色を伺われないようにするために平然を装ってそう…ありがとうと、お礼を受け取った。

 

その場にいた司馬朗と司馬孚には響と司馬懿のやりとりを見て不服なことがあるのか、むくれた表情で響を見るがそんな視線を気にすることなく響は陣を取り払い、帰還する支度を手伝いにこの場から離れていく。

 

陣を取り払い、長安へと帰路へと入るときには既に日が沈みかけている時間になっており、そんな中で響達は長安への道を戻っていく。

 

ゆらりゆらりと馬に揺られながら長安へと向かう一行、先の戦いの疲労と馬の歩きにあわせて動く揺らされ、その揺れが居心地がいいのかうとうとと響が眠気に襲われる。

 

そんな眠気と響は必死に諍い、そして空に星が輝く夜空になったときに漸く響達は長安へと帰ってきた。

 

長安に入ると引き連れた兵を兵舎へと戻し、それを終えた後軽く身嗜みを整えた後司馬孚を先頭に4人は政庁へと赴く。

 

政庁の中は夜ということもあるのか玉座には司馬防が目を瞑り、何かを待っているかのように泰然とした態度で座っており、その辺りには士官らしき人物が何人かいてそれと護衛のための兵が数人と響達が依然訪れた時より人気が少ない。

 

そして玉座から3メートルほど離れた場所に司馬孚達はとまると直ぐさま臣下の礼を取った。

 

「…帰ったか」

 

司馬孚達が臣下の礼を取った直後、戻ってきたのを察した司馬防は瞑っていた目を開けて、玉座に座りながら司馬孚達を身を下ろすかたちで、司馬孚達に対し短く述べた。

 

「申し上げます。此度の賊討伐の任、父上の主命通り、完遂しました。」

 

そう、司馬孚は司馬防に対して報告を述べる。

 

勿論、この言い方であるならば響が加勢したという事実を隠蔽していることになっておりそれを聞いていた響は内心でひやひやと肝を冷やしていた。

 

そして報告を聞いた司馬防は何か考える仕草を取り、視線は司馬孚から司馬懿と司馬朗に向く。

 

「伯達、仲達、叔達は無事に私の命を全うしたのだな?」

 

本人の証言だけでは信用できないのか、戦場まで同行して立会人として司馬防が連れて行かせていた司馬懿と司馬朗にもそう訪ねる。

 

「はい、叔達は見事に私と伯達の力を借りずに賊を討ち取り、主命を全うしました」

 

「うん!私たちは本陣でずっと待機してました」

 

まず、司馬懿が簡潔に自分たちの行動を話し、それに続くように司馬朗も同じように司馬孚の報告に偽りがないと告げる。

 

「……そうか、ならばよい」

 

2人の証言も聞いた後、司馬防は少し考え事をした後、司馬孚の報告を信じたのか平然とした顔つきでそう言った。

 

「正確な状況は後日、報告書に纏めて報告してもらう。今日はご苦労であった」 

 

後日に報告書を提出するように司馬防は司馬孚達にいうと、最後に戦いの苦労を労う言葉を口にした。

 

司馬孚達は司馬防への報告を終えると再び一礼して政庁から去って行き、司馬孚達が去った後、見計らったように文官が司馬防の前に立つ。

 

「司馬防様、ご報告します。」

 

「っで、どうであった」

 

「司馬孚様の引き連れた兵に紛れ込ませていた間諜からの情報がまとまりました。司馬孚様達が先程仰ったお言葉に偽りはありません……ですが、司馬懿様の横におりましたあの男、かの者が司馬孚様に加勢したと」

 

文官は司馬防に対して臣下の礼をとって、主君の命で司馬孚隊に間諜からのを紛れ込ませ、その間諜からの情報を聞き、それを司馬防に偽りなく伝える。

 

初めから、司馬懿達が主命に反する行為をしないかのお目付役が紛れ込んでいて、勿論、響が司馬懿の命で出撃したことも司馬防の耳を入った。

 

間諜からの情報も聞き、深く考える司馬防。

 

そんな司馬防に文官は更に口を開けて進言する。

 

「司馬防様、あの者は司馬懿様の世話役とお聞きします。そのような者に一軍を率いさせたこと、これは見過ごせるものではございません。あの者に処罰を与えるべきかと」

 

文官は何処の骨かも分からない一般人であった響が一軍を率いたことを良く思っておらず。響への処罰を与えるように進言する

 

しかし、そんな文官の進言に対して司馬防は考えずにすぐに返事を返した

 

「かの者に対しての処罰は不問だ」

 

響を不問とするその結論に文官は大きく響めく。

 

「何故でございますか!?」

 

「馬鹿め!貴様は分からぬか!?ならばよく考えることだな」

 

結論の理由を聞こうと文官は訪ねるが司馬防はその文官に理由を言わずに罵声を浴びせ、不問にした理由を自身で考えろとそう言うと文官を下がらせた。

 

 

一方そんな話があるとは知らず政庁から出た響達は司馬懿の自宅へと来ていた。

 

政庁から出た後、そこで解散するであろうと思っていた響であったが、司馬懿の提案で解散はせずに司馬懿の自宅に行くことになった。

 

そして自宅のリビングに当たる部屋に集まっている響達。

 

4人とも椅子に座り彼らの目の前の机には取り寄せた、食材で軽く作った料理と酒が並んでいる。

 

「それじゃあ、此度の弥生ちゃんと響さんの初陣勝利を祝しまして乾杯!」

 

そう司馬懿が宴会の音頭をとる。

 

何故、4人は解散せずに司馬懿の家に集まったか、それは響と司馬孚の初陣を労い、小さい宴会をあげたのだ

 

「あの、本当に俺も祝られてよかったのか?…俺は身分の低い平民上がりなわけだし」

 

そんな中司馬懿達と一緒に楽しむことに場違いではないかと、遠慮姿勢の響は恐る恐る司馬懿に聞いてみる。

 

「別にいいじゃない、今いるのは私たちは4人だけだし、それに身分なんて今更でしょ?」

 

一向に構わないと言い切る司馬懿に司馬朗と司馬孚もそれに賛同するように頷く。

 

それを見た響もそれじゃあと何とか割り切って小さな宴会を楽しむ。

 

そして響達が宴会をやり始めてから二刻ほどが過ぎた。

 

長安の町は静まりかえり、少し前まで宴会で騒いでいた司馬懿の家も静まりかえっていた。

 

そんな司馬懿の家の中庭に響は一人草むらに寝転がって空に見える月を眺めていた。

 

「……」

 

元の世界ではそれほど見上げたこともない夜空。

 

明かりも少ないために夜空は響の元の世界より輝いて綺麗に見える。

 

「……父さんも母さんも……元気かな…」

 

ふと空を見上げていると響は家族のことを思い浮かべる。

 

初めは本の少し離れるだけの学業だったはずであったが既にこの漢に来て約8ヶ月か経過しており例え、親との関係が悪いとしても親や故郷が恋しくならないわけがない。

 

と響は親のことを思ったところで帰る手掛かり見つかるわけがなく。夢見がちかと少し溜め息を付く。

 

「…ん?」

 

響が溜め息を付いた後、誰かの足音が響の耳に聞こえてきてその方向に視線を向けるとそこにはお酒と2杯の御猪口をもった司馬懿の姿があった。

 

「響さん、こんなところにいた」

 

探したのよと、顔が少し赤らめながら告げると響の横に座る。

 

「響さんいつの間にか居なくなってたから、来ちゃった」

 

「来ちゃったって、伯達様と司馬孚様はどうしたんだ?」

 

居なくなった響を探しに来た司馬懿に響は今も部屋にいるはずの2人はどうしたと返事をすると返答は直ぐに帰ってきた。

 

「2人とももう寝ちゃったわ、弥生ちゃんは戦闘の疲れだと思うけど、睦月ちゃんはお酒飲みすぎて酔いつぶれたみたい」

 

と、響が居なくなった後の2人の経緯を簡単に述べるとおいおい、苦笑いの笑みを零す。

 

そんな響を見て、少し思ったことがあったのか司馬懿は響に顔を近づけ訪ねた。

 

「そういえば響さん、今回の宴会楽しみましたか?」

 

と宴会の殆どを準備していたしていた司馬懿は響にどうだったか訪ねると響は笑みを浮かべて直ぐに返事を返した。

 

「ああ、勿論楽しんだよ」

 

と嘘偽りのない言葉を喋るがそれでもなにやら思うことがあったのか、その思うことを司馬懿は響に対して答えた。

 

「それじゃあ、響さんお酒飲んでなかったですけど、どうしてですか?」

 

確かに響は宴会を楽しんでいた。

 

しかし、一つだけ司馬懿には気になる点があった、それが酒である。

 

姉妹達と響と楽しみながらも何故か注がれていた酒に手を出さなかった響に司馬懿は疑問を感じていた。 

 

「ああ、俺が居た国だと酒を飲める年齢二十だから…まだ飲めない年齢だから、のまなかった」

 

司馬懿の疑問の問に、そんなことかとなにやら深刻なことではないのかと思っていた響は苦笑いの笑みを浮かべて、自分の国での規制を話す。

 

「なるほどね…けど、この国だとお酒飲めるでしょ?だから…はい」

 

そう、響の話しに納得したが司馬懿は響がいる国は漢であるため、今の年齢でも飲めるだろうと笑みを浮かべながら指摘され、持っていた御猪口に酒を注ぎ注いだ御猪口を響に渡した。

 

響は渡された御猪口を少し戸惑いながら貰い、入っている酒を見た後、司馬懿の方に顔を向ける。

 

向けると司馬懿はもう一つの御猪口に酒を注いでおり、注ぎ終わると司馬懿も響を見て目が合う。

 

「それじゃあ飲みましょ」

 

と司馬懿はそういうと、酒を飲むことに抵抗があった響は諦めて、御猪口に入った酒を一気に飲んだ。

 

「うっ、酒なんて飲んだことないから独特な味…」

 

飲んだ後、初めて酒を飲んだこともあり苦い顔を浮かべる響、それを見て司馬懿は笑みを零して小さく笑う。

 

「本当にお酒飲んだことないのね、それと今日はお疲れ様、響さんがいたおかげで弥生ちゃんが助けられたわ、姉としてお礼を言わせて、ありがとう」

 

「べ、別にたいしたことじゃないだろ……家臣として主君の命を全うするのは当然のことだろ?」

 

今回の響の活躍にお礼を言う司馬懿、それに対して、響はあくまで直臣として命令を全うするのは当然のことだと述べる。

 

「それでも……そうね…響さん…」

 

それは分かっている司馬懿であるがそれでも何かお礼がしたいと考えると直ぐに一つ思い浮かび、響の名前を呼ぶ。

 

「なんだ?」

 

「ねえ、今朝の続きする?」

 

と司馬懿は突然上目遣いで響を甘い声で誘ってきた。

 

「今朝…って!?」

 

響は一瞬何のことかと分からなかったが今朝何があったか思い出すと直ぐに顔が赤くなっていく。

 

今朝、異様に司馬懿に攻められて理性が危険な状態に陥った。

 

その事実を思い出しそれの続きといえばもう何をしようとしているか分かるだろう。

 

「いやいや、冗談きついですよ!?あれも事故であんなことに」

 

先程の楽しい宴会はどこへやら、響は再び来た危機的状況になんとか回避するため司馬懿を説得する。

 

だが、これで止まる司馬懿ではない。

 

司馬懿は更に響に詰め寄り、一気に流れを掴もうと甘い声で誘惑することを続ける。

 

「私…響さんから見て…そんなに魅力無い?」

 

と、司馬懿は今も続く上目遣いで響に問いかけると、響はその問の答えに言葉を困らせる。

 

確かに司馬懿は魅力的な女性だ。もし、自分と結婚できるなら是非と言いたいぐらい。

 

しかし、付き合うにつれて一つだけ障害がある……身分の格差だ。

 

司馬懿の補佐のとはいえ響は平民の出ということは変わりない。

 

対する司馬懿は太守の娘、身分など天と地の差もある。

 

もしその2人が夫婦となったとしよう、世界が…そこに住まう民や重鎮達が認めるであろうか?

 

あり得ない、叶わない夢であることなどわかりきっていることだ。

 

「仲達様、あなたに魅力はちゃんとあるよ…けど、そういうことはしっかりと身分がある人じゃないと駄目だろ?」

 

「響さん?」

 

「けど、もし…仮に俺と仲達様が結婚して…長安の民や重鎮…なにより司馬防様が認めるとは思えない」

 

現実的な予想を述べていく響、それを司馬懿は聞いて顔を俯かせる。

 

司馬懿もそれは分かって入る…しかし、中々受け入れられないのが正直なところであろう。

 

「はい、この話し終わり、祝杯なのに重い空気になったな、よし!仲達様、酒飲みましょう!こういうときは酒を飲むのが一番なはず!」

 

俯いて落ち込んでいる司馬懿を見て何か空気を変えないと、そう思った響が先程は抵抗していた酒を飲もうと先頭だって提案し雰囲気を変えようと画策する。

 

「少し部屋に酒とってくる、だから此処で待っていてくれ」

 

そう響は睦月達が眠っている部屋にある酒を取りに急いで走って行く。

 

それを司馬懿は見ているだけしか出来ず響が視界から外れると思っていることを口にして零した。

 

「身分の…差…」

 

響が告げたその言葉…この言葉が司馬懿の心に重くのしかかる。 

 

「…響さんは平民で……私は太守の娘…」

 

こんな身分の差なんて無ければ良いのに……と司馬懿は初めて自分の出世を呪った。  

 

そして、酒を持って戻ってきた響と嫌な思いが消し去るほどに酒を飲み交わし続けた。

 

 

余談であるが響と司馬懿、そして司馬朗は酒の飲み過ぎで二日酔いに倒れ、唯一ならなかった司馬孚は響と司馬懿の二日酔いを見て首を傾げた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話

今回はまさかの文字数7000オーバー本来司馬孚の幕間でもしようと考えましたが変更してメインヒロインの幕間にしました。

まあさすがに出さなかったらメインヒロイン詐欺とか言われそうですしね


誤字や脱字があれば御報告お願いします


「ん~」

 

気の抜けた声と共に両腕を空高く伸ばし屈伸する。

 

日頃の疲れからかだらしない表情を見せる響。

 

というのも今日、響は非番で休日をどう過ごそうか考えていた。

 

まだ来て間もないときは長安の街並みを見るだけで非番を費やしていたが、既に長安の街は熟知している響。

 

部屋で疲労している体を癒すことも響は考えていたが、それでは何かと損をしている気になり、何かないか商店が並ぶ街並みへと足を運んでいた。

 

街並みは響にも馴染みのあるお店が繁盛して経営していたり。

 

行商人が露店を開いて掘り出し物を売っていたり

 

他にも色々と色んな店が立ち並んでいて、その店に人が入っていっているのを見て司馬懿の手腕を補佐している響にとっても嬉しいことであるために笑みを浮かべる。

 

「街を見て回るのも悪くないかな?」

 

日々街の状態も変わっていくことから見てるだけでも悪くないと思った響はこのまま街並みを見て回ろうと町の様子を見ながら歩き出す。

 

「…あれ?」

 

しばらく見て歩いていると通りを行き来する人混みの中に懐かしく見知った後ろ姿を目にする。

 

響の目先にいる人は、小柄の体をし、薄い紫色の髪を少しウェーブした髪形をした少女。

 

なにやら、キョロキョロと何かを探しているよう動きを見せていた。

 

そんな彼女に他人の空似かもしれないがと響は一歩また一歩と少女に近づいていく。

 

そしてかなり少女と近づいた時に少女から呟く声が聞こえてくる。

 

「へぅ…どうしよう…詠ちゃんとはぐれちゃったし…」

 

響は彼女の声を聞き、昔聞いた声と全く同じだと気づき、確信した表情で響は後ろから少女に声を掛けた。

 

「あの、すみません」

 

「え?はい、私でしょうか」

 

呼び止める声で、彼女は戸惑いながら響のいる後ろに体を向ける。

 

彼女が顔を向けてくれたことで彼女の顔を見て、以前にも見た赤紫色の瞳を見てやっぱりと呟く。

 

「あれ?あなたは…あの時の…!」

 

後ろを振り向き響の顔を見て彼のことを覚えていたのか、こんなところで再開するとは思っていなかったようで驚いた表情で響を見る。

 

「やっぱり、あの時、俺を助けてくれた女の子だ」

 

響は少女との思いがけない再開で嬉しくて笑みを零す。

 

響が我武者羅に帰る方法を探していた頃に行き倒れるところを助けてくれたあの時の少女、約8ヶ月ぶりとなる再開を果たしたのだ。

 

「あなたも、長安にいらっしゃったのですね、二ヶ月ほど前にあの時の村に訪れたのですが、あなたは旅だったと聞いたので」

 

少女も響とまた会えたことに嬉しく思っており、響が仕事場を探すために旅立った後に少女が訪れていたことを説明される。

 

「そうだったんだ…だいたい4ヶ月前ぐらいに村を出て今は長安のあるところで働かせてもらってるんだ」

 

少女の話を聞き、もし、村に残っていたら彼女ともっと早く再会できていたのかと思いつつ、響は大体の経緯を彼女に話す。

 

しかし、響が司馬懿の補佐をしていることは無闇にいうことでもなかったために響はそのことの発言を控え有耶無耶な言葉を口にする。

 

「そうだったのですか…よかった…あれからどうしたのかあなたのこと気になっていたんです」

 

響が無事だったことに笑みを浮かべる少女、その笑みからは本当に響のことを心配して、大丈夫だったことへの安心感が窺えた。

 

そんな彼女の笑みを見ていた響はふと少し前に彼女が困っていたことを思い出し気になったのでその事について彼女に訪ねた。

 

「そういえば、声かける前になんか困ってるみたいだったけど、何かあったの?」

 

そう響が訪ねると、響との再会で頭から抜け落ちていたのか、その事について指摘されると、あっと少女が言葉を零すと自分が何をしていたのか思い出す。

 

「あ、あの、実はここには友達と一緒に来ていたんですけど…つい先程はぐれてしまって…」 

 

「それでその友達を探していたのか」

 

少女が困っていた経緯を説明され、響は少女が何をしていたのかを理解すると、理解してくれた響に対して少女は頷いた。

 

「取りあえず、探すの手伝うよ」

 

「え?いいんですか?お仕事あるんじゃ…」

 

困っている少女をほっとおけなかった、響は少女の友達を探す手伝いをすることを決めて、そんな響に少女は戸惑う。

 

少女は響が勤務中ではないのかと疑問に思うが、その疑問について響は笑みを浮かべて直ぐに返事をした。

 

「大丈夫、今日非番だから」

 

「そんな、それじゃあ貴重なお休みを私なんかに…」

 

「どちみち、暇だったから、それに休んでる本人がいいって言ってるんだから、遠慮しなくてもいいよ」

 

さすがに休みを自分のために費やすことに抵抗があった少女はやんわりと断ろうとするがやることもなく暇であった響は以前に助けてくれた少女のために使えるのならとその意志を曲げずに少女に協力しようと言う。

 

「それじゃあお言葉に甘えて…」

 

話し合いは響に軍配があがり、響に好意に甘えた少女は響に手を貸してもらうことを決めて、それを聞いた響はこれで少しは恩返しが出来るかなと嬉しい表情を浮かべる。

 

「それじゃあ行こうか…えっとそういえば、名前言ってなかったな…俺は八神響…気軽に響って呼んでくれ」

 

「響さんですね、私は……(ゆえ)…月と言います」

 

お互い初対面ではなかったが初めて会ったときに名前を言っていなかったことを気がついて響は自分の名前を名乗り、響の名前を聞いた後、月と呼ばれた少女も若干の戸惑う間があったが自分の名前を答える。

 

「取りあえず、あっちのほうにいこうか」

 

お互いの名前を紹介を終えると響は早速、月の友達の捜索に取りかかり、手始めとして指を指した方向、商店が立ち並んでいる場所にへと月ともに歩き出した。

 

 

………

 

「…中々見つからないな」

 

月の友達の捜索に乗り出した響であったが、時間を浪費したものの、めぼしい成果は得ることが出来ず。探し出すことはこんなんな状態であった。

 

「ごめんなさい、響さん」

 

見つからないことで響の時間が無くなっていくことに申し訳ない気持ちになって月は響に謝罪する。

 

「別に構わないよ、本当、暇してたし」

 

その謝罪に響は何も嫌な気持ちでやっていないと主張する。

 

しかし、かれこれ一刻ほど探し回ったのだがその友達については何一つ手掛かりすら見つけられていない。

 

どうしたものかと響はまだ探していないところを考えているとどこからが可愛い腹の虫が鳴り響く。

 

「へぅ…」

 

腹の虫がなったのは響の隣にいた月であり、なったことに、恥ずかしさから顔を赤らめる。

 

「ん?もう昼時か…」

 

月の腹の虫で響も今が昼時であることに気がつき、響本人も空腹であることを感じて、月に顔を向けて提案を述べた。

 

「少し休憩で昼にしないか?お腹もすいてきたわけだし」

 

「いいんですか?」

 

「少し息抜きみたいなものさ、直ぐ近くに美味しい料理店があるからそこに行こう」

 

と、響は月を連れて、少ししたところにある料理店に入る。

 

昼時というのもあって客が入っており、カウンターやテーブルにも何人か既に座って料理を食しているのがちらほらと見えた。

 

「いらっしゃい、あら響さんじゃないか、いつもありがとうね」

 

入った玄関前で立っていると店の奥からこの店の経営をしている女将がやってきて、いつもの通りに来たお客様に挨拶すると、その来た客が響だとわかると、良く来てくれている響に再三でお礼を述べた。

 

「今日は連れも居るんだけど…机の方空いてます?」

 

「もしかして、隣にいるその子かい?あらあら可愛い彼女さんね、響さんも隅に置けないね」

 

「へ、へぅ…彼女さん…」

 

響は良く一人で来ていることから今回は月も居ることを女将に告げると、女将は響の隣にいる月に気付き、月のことを響の彼女だと勘違いしその勘違いで月は顔を俯かせて顔を赤くする。

 

「彼女じゃないって…からかうのも止めてください…」

 

響は溜め息を吐きながら誤解を解く。

 

そして解いた後女将の案内で奥の方の2人用の席へと案内され、対面する形で座る。

 

「はい、注文は響さんはいつものでいいのかい?」

 

「ああ、それで頼む。月は?どうする?」

 

「えっと、響さんと同じので」

 

少ししてお茶を持ってきた女将が注文を受け付けると、常連の響はいつも頼んでいる料理を頼むと、月も響と同じ料理を頼んだ。

 

注文を受け取って女将が厨房の方に向かっていくと待ち時間の間、何か話そうかと響は月に訪ねた。

 

「そういえば、月の友達…一体どんな人なのか聞いてなかったけど…どんな人なんだ?」

 

と、探していたのはいいが月の友人がどのような人物なのか何も聞いていなかった響は月にたずねる。

 

「そういえば、教えていませんでしたね、えっと、詠ちゃんは私と同じ村で生まれて、小さい頃からのお友達なんです。私と違って頭もよくって、いつも私のことを気にしてくれて…」

 

「その子は月のこと本当に好きなんだな」

 

「はい、私も詠ちゃんのこと大好きなんです…ただ」

 

月の友人のことの話を聞く響は話から本当に月が友人のことが好きであることを感じたが、最後に何かあるのか何故か苦笑いの笑みを浮かべる月に響は首を傾げる。

 

「詠ちゃん、本当に運が悪くて…やっていることが裏目にでることが多いんです」

 

「不幸体質ってやつか…」

 

月の話を聞いて、響は月の友人が不幸体質であることを指摘すると、はいと、月は苦笑いを零しながら頷いた。

 

「ん?待てよ…?」

 

響も苦笑いを浮かべながら聞いていたが、ふと視点を変えて月の聞いた話を考えた。

 

月の友人は不幸体質の持ち主であり物事がよく裏目にですという。

 

そして月とは幼馴染みの間柄で月のことを良く気遣っている

 

これから導き出せるのはその友人もはぐれた月のことを心配して探し回っているということ、それが裏目に出て、友人も俺達も未だ再会出来ずにいるということだ。

 

「どうかしましたか?」

 

先程、響が考えていることに気づいて月は首を傾げ、それをみた響は行き着いた結論を説明して、説明が終えると月は確かにと納得した表情を浮かべる。

 

「となると…下手に動かない方がいいのかも知れませんね」

 

「いやもう、動いたほうがいいだろ、月の友人が言っているほどの不幸体質ならその子が動き回ったところで再会できるとは考えにくい」

 

動かずに待っていた方がいいのかもと月は主張したが、そこで響は彼女の不幸体質を視野に入れての推測で動くべきだと主張して、それに関しては月も確かにと納得した。

 

「なんだい?響さんも人を探してたのかい?」

 

響と月は話し合っていると、気付いたら幾分か時間が過ぎていて、女将が注文した料理を持ってやってきた。

 

そこで響は気になる言葉が出て来たことで眉をひそめる。

 

「女将、もって…他に誰かいたの?」

 

女将はもと…まるで響達以外にもいたという口ぶりで喋ったことから響は気になって、それについて追求する。

 

「ああ、響さん達が来たほんの少し前かね、長安に来て友達とはぐれたっていう女の子がね、お店に来たのよ」

 

なにも、言えない理由もないので女将は響達の机に料理を置きながら、すんなりとその情報を教えてくれて、その情報に食いつくように月は更に訪ねた。

 

「あ、あのその女の子って青緑の髪色で桃色の眼鏡をかけていませんでしたか!?」

 

「眼鏡!?」

 

詰めよる勢いのように女将に質問する月に響は裏腹に違うところに驚いて声を上げ額に手を当てて考え始める。

 

(あ、あれ?眼鏡?いま眼鏡っていった?眼鏡って…漢の時代にもう作られてたっけ?)

 

「そうそう、あんたが言ったとおりの容姿だったよ、なんだいはぐれた友達ってあんたのことかい、あと少し店から出て行くのを待っていれば会えたのに災難だね」

 

自身の頭の中の知識で眼鏡について考える響を他所に女将は月からの質問に間違いないと頷き、月の友達が止まっていればとぼやいた。

 

その話しをしっかりと聞いていた響は取り合えず眼鏡に関してのことは頭の隅に置き、先の話を聞いて思ったことを口にする

 

「にしても入れ違いとは…とんだニアミスだな…」

 

「にあみす?」

 

実際に思ったことを口にした響に月は聞き慣れない単語が出てきて、その単語を復唱する。

 

復唱したことで気がついた響は外来語出会ったために理解できていないのだろうと気がつき月にもわかるようにはなした。

 

「ああ、俺の国で使われてる言葉でなすれ違いって意味だ」

 

「あ、そうなのですか」

 

「取りあえず、今から追ったところで見つからないだろうし…まあまずは目の前の料理でも食べよう」

 

「そうですね…それじゃあいただきます」

 

響は外来語の意味を月に分かるように言うと響の解説を理解した月を見て、今から追っても追いつけないのはわかりきっていたため追いかけることを諦め、まずは注文した料理に手をつけようと薦めると月と一緒に料理を堪能した。

 

 

……

 

「み、見つからねえ…」

 

あれからも月の友達を捜し回ったが結果見つからなかった。

 

既に空は日が沈み始めて赤く染まり、人も昼よりかは往来がなくなっている。

 

昼ご飯を堪能した後2人は人に聞きながら月の友達の後を追っていたが全く再会することが出来ず、遂に夕方までになってしまった。

 

「詠ちゃん何処に行ったんだろう…」

 

探し回って疲れをにじみ出している響の隣で月は今どこにいるのか判らない友人のことを心配して、表情を曇らせる。

 

「取りあえず。もう遅いから……切り上げるしかないな」

 

「そうですね…一度、宿に戻って…」

 

「そうだな、一応1人だとなんだろうし宿まで…あっ!!」

 

日も落ちてきて断念せざる終えないと響は見つからなかったことに少し落ち込みながらも長安の治安は良いのだが一人で帰らせるのもなんだと思い送り届けるようと言おうと来た直後思い出したように大きい声をあげた。

 

「ど、どうしたのですか!?急に声を上げて…」

 

響が大声を上げたことにびっくりして慌てて訪ねてくる月。

 

そんな月に響は詰めよって両手で肩を掴んだ。

 

「へ、へぅ!!」

 

「月!宿の場所って分かるか!?」

 

「や、宿ですか…ど、どうして…あ…」

 

いきなり詰めよられたことで戸惑う月であったが、響が宿の場所を訪ねてきて、未だ戸惑いながらも場所を告げようと思ったとき、響が思っていた思惑に気付き、響と同じく言葉を零した。

 

 

「ここが私の泊まる宿です」

 

ふたりとも重大な見落としに気付いた後、走って月が泊まる宿へと辿り着いた。

 

もちろん、ふたりでは走るスピードが違うために響が走る月のスピードに合わせながら隣で一緒に走っていた。

 

「…取りあえず、此処で待っていれば確実だな…身近すぎて完全に見落としてた…」

 

一息つき、響は辺りを確認しつつ、苦笑いの笑みを浮かべる。

 

「はい、多分詠ちゃんも気付いてなかったと思います」

 

ふたりが見落としてたこと、それが此処、月とその友人が泊まる宿であった。

 

ここにいれば何かしらの誘拐などがなければ自然に此処に戻ってくるだろうと、確率が高いこの場所を忘れていたのは完全に落ち度であった。

 

お互い、一番再会できそうな宿の存在が抜け落ちていたのははぐれてしまって慌ててしまったのが故であろう。

 

「取りあえず、宿まで送り届けたから俺はこれで」

 

長居は無用だろうと考えた響は司馬懿の自宅へと帰ろうと思い、月に別れの言葉をいう。

 

「そうですね、今日は沢山助けていただいて本当にありがとうございました」

 

「別に良いよ、善意でやったことだから、それじゃあ月いつかまた」

 

「はい!響さん、まあどこかで」

 

響と月は互いに別れの言葉を述べると響は宿から去っていく。

 

宿から離れ司馬懿の自宅の帰路へと歩く響は赤く染まる空を見ながら嬉しそうに頬をつり上げて笑みを浮かべる。

 

「今日はいつにもまして楽しかったな……また…月とは会えるかな」

 

次の月との再会を心待ちにしながら響は自身の家へと帰って行くのであった。

 

 

 

「…本当に響さんには助けてもらったな」

 

宿の前で月は去っていく響を遠目で見ながら今日のことを思い出す。

 

自分が友達とはぐれ困ったときに響と再会し、一緒に友達を探して街を見てまわり、料理を食べたりと今日一日、ほとんど響と一緒にいた。

 

「こういうのって…恋人がやってるのと同じなのかな…」

 

ふと今日のことを思い出して、本などで知った恋人たちのデートみたいなものではないのかと顔を赤くして思ってしまう。

 

「へぅぅ、悪くなかったな」

 

響と見て回ったこと、嫌いではなかったと、月は一人そんな言葉を零していると響が去って行った別方向から慌てて走ってくる人物が月へと駆け寄ってくる。

 

「ゆ、月~!」

 

「あっ!詠ちゃん!」

 

月の元へやってきたのは響と一緒に月が探し回っていた友達の詠。

 

「あっ、詠ちゃん、じゃない!全く僕がどれだけ心配してたと思うの!」

 

漸く再会に陽気にいつも通り話していた月を見て、ずっと心配していた詠は少し怒りながら月を叱る。

 

「それは私だってそうだよ、詠ちゃん、お昼の料理店にもう少しいてくれたら会えてたんだよ」

 

「え!?月…あのお店に来たの!?」

 

「うん、本当に詠ちゃんが出ていった少し後に」

 

叱られた月であったが言われてばかりではいられなく、お昼での料理店でのすれ違いのことを教えるともちろんのこと詠は月がその店にやってきていたことに驚いた。

 

「僕の直ぐ後に…お腹が空いて食べ終わったら直ぐに出ていったけど、少し待ってれば…こんな苦労しなかったなんて…どうしてこんなに僕が考えたことが裏目にでるの」

 

と詠は自身の不幸体質に嘆く。

 

「積もる話もあるけどもう日も沈むから詠ちゃん、宿に入ろう」

 

「あ、うん、そうだね」

 

嘆く詠を見て宿の中に入ろうと提案をする月に詠は素直に頷いて宿へと入っていく。

 

そして、月も詠に続いて宿へと入ろうとしたときもう一度だけ響が帰って行った道を見つめる。

 

「また…会えますよね…」

 

と誰にも聞こえないような小声で再び響との再会をつぶやく。

 

「月?何してるの?」

 

「あ、詠ちゃん今行くね」

 

立ち止まっていた月を見て詠が首を傾げて月を呼ぶとそれを耳にした月は直ぐに返事をして宿の中にへと入っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もしも…

 

 

もしもこのとき、月のもう一つの名前を…響が知っていれば未来は変わっていたことだろう。

 

響と月…この二人が再び再会するのは遠い未来のことである。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十話

今回は文字数五千文字
司馬懿メインの幕間です。先に行っておくとエロいです。そして司馬懿のキャラが壊れてます。

そして余談だがまた他の作品のアイデアが浮かんできてます……何とかその欲求を押さえねば


「はい、仲達様、これが最後の案件」 

 

響は平然と案件が書かれた竹筒を司馬懿の前の机にと起く。

 

そしてその竹筒が今日の最後の案件であると補足するが司馬懿はぼっとしており上の空であった。

 

「はぁ…」

 

響はそんな司馬懿を見て溜め息を付き、仕方ないと割り切った響は司馬懿に向かって叫ぶ。

 

「仲達様!」

 

「な、なに!?」

 

「なに、じゃない!また上の空になって…今日で7回目だぞ」

 

何度も上の空になっていた司馬懿を見て遂に響は司馬懿に対して叱る。

 

「…ごめんなさい」

 

響に叱られたことで堪えたのか落ち込む様子を見せる司馬懿に響は先程叱っていたのと言って変わって普通に接する。

 

「で、どうして上の空なんだ?」

 

「…ごめんなさい…少し言えない…」  

 

流石に煮えをきらした響はことの理由を訪ねるも司馬懿は何も言わぬままただ上の空になっていたことに謝る。

 

謝った後、なんか最後の案件も無事に終えたが既に昼になっていた。

 

本来ならば今回の政務は昼になる前に終えることが出来る量であったが上の空であった司馬懿のこともあり、予想以上の時間がかかることになった。

 

「今日の政務はこれで終わり、纏め上げた報告書は俺が政庁に持っていくから仲達様は少し休め」

 

と、響は半ば強引に司馬懿から提出する報告書を取る。

 

「何を考えてるのかはわからないけど、少し休んで考えを纏めてくれ」

 

そういって、響は纏まった今日の報告書を持って部屋から出て行く。

 

そして一人部屋に残された司馬懿はこの頃の自分のことを思い溜め息を付く。

 

「何やってるんだろ…私…」

 

自分自身、昔は公私をわけているはずが、今の司馬懿は一日の中で響のことを考えることが多くなったことに気付いていた。

 

気付いていながらも、どうすれば喜んで貰えるかとか、響の好きな料理はなんだろうとか、果てには響との性行までも想像してしまい今では響のことが必要不可欠なほどに彼女の心を占めていた。

 

「響…」

 

ふと司馬懿以外誰もいないのを見計らって、司馬懿は響のことを呼び捨てにして名前を呟く。

 

 

 

「響…」

 

「仲達様、本当に良いのか…」

 

寝室の寝床に横たわる響と司馬懿。

 

ふたりとも互いを見つめ、その顔は赤く火照っていた。

 

「もう、私のことは呼び捨てで如月って呼んで…ね?」

 

「ごめん、如月…ん…」

 

「響、ん…ちゅっ…ぴちゃ…」

 

響の様付けや字呼びを気にして司馬懿は指摘し真名で読んでほしいとお願いすると響は改めて司馬懿を真名で呼び司馬懿と唇をあわせ、それに応えるように司馬懿は舌を絡める濃厚なキスを交わす。

 

「如月、俺は…もう…」

 

「うん、いいよ…響と一つになりたい…お願い…私を…響のものにして」

 

響は我慢の限界なのか、司馬懿を求め、それに応えるように嬉しい顔をして司馬懿も響を受け入れようとする。

 

そして2人は…

 

 

 

 

「っ~!!!」

 

とそんなことを想像してしまったのか司馬懿は顔を真っ赤にして顔から湯気が視認できるほどの火照り、想像したことで項垂れる。

 

(私…何想像してるんだろう)

 

司馬懿自身、自然に想像をしてしまう

 

こういったことは相談すれば少しは気が晴れるのだが、補佐である響は悩みの種、妹の司馬孚に関しては先日の戦で助けられたことから響のことを好意の目でみている。後残るは司馬朗だけだが、相談したところで良い結論が出てくるとはとても思えなかった

 

(やっぱり私…響さんのこと諦めきれないよ)

 

やはり身分の差があるために諦めるかと一瞬、司馬懿の中でそんなことを思うが首を横に振ってそれを否定した。

 

「響さん…」

 

恋しさから司馬懿は響の名前を呟き片手を自身の胸に当てる。

 

「響さん…!…響ぃ…!!」

 

そして響のことを思い、名前を声に呟きながら胸をもみ始める。

 

そしてその行為はエスカレートしていき胸を揉むだけでは物足りず空いている片手を自身のスカートの中入れようとしたそのとき…

 

「き、如月ちゃん…」

 

戸惑っている声が聞こえ、誰だと司馬懿は視線を声のした方向に向けるとそこには自身の姉である司馬朗が司馬懿の自慰を見て恥ずかしさから顔を真っ赤にしながらそこに棒立ちでつったっていた。

 

そして、司馬懿も司馬朗に見られていることで徐々に顔を真っ赤にしていき慌てて両手を今ある歌唱から離して椅子から飛び起きるように立ち上がり叫んだ

 

「む、睦月ちゃん!?どどど、どうして此処に!?」

 

と冷静さの欠片も感じられない声で司馬朗に此処にいる理由を訪ねる司馬懿に司馬朗は戸惑いながらもしっかりと返事を返した。

 

「えっと…今日は睦月は非番だったんけどね…外で響さんに会って、如月ちゃんが何かに思い悩んでるから相談に乗ってあげて欲しいって」

 

「ひ、響さんが」

 

響が政庁へと赴く道中で司馬朗とばったりと出会い、司馬懿のことを心配して相談に乗るように司馬朗に頼んでいた。

 

勿論姉妹との関係が良好なため相談に乗らない道理はないわけで、すかさず司馬懿の元に駆けつけたのだが、部屋で司馬懿の自慰行動を見てしまったのだ。

 

響の気の効いた配慮が司馬懿のとんでもない現場を目撃されてしまったことで流石に姉妹であろうと破廉恥な物を見られて平然と装うことは出来なかった。

 

しかし、こんな空気を長々と続けさせるのもどうかと、司馬懿は何か話題を出して空気を変えようと慌てて口を開けた。

 

「そ、そういえば弥生ちゃんは?確か弥生ちゃんも非番だったと思うんだけど…」

 

話し声に震えは残るもののなんかとか平常心で司馬朗に話しかける。

 

「や、弥生ちゃん?弥生ちゃんなら響さんと一緒に政庁に行ったよ」

 

「響さんと!?」

 

いきなりの話題変更で先程の司馬懿の自慰で戸惑いが残る司馬朗は弥生が響と共にいることを教えると、司馬懿は驚きの声を上げる。

 

司馬朗は気にすることなく平然と言ってのけたが司馬懿にとっては全く違う。

 

今の話し合いを簡潔に述べると司馬懿の平常心というなの火にニトロをぶちまけ火が天に昇るように火柱になるごとく、立て直した平常心をぶちこわしてしまったのだ。

 

「弥生ちゃんと…響さんが…2人!」

 

平常心をぶち壊された司馬懿は2人でいる響と弥生のことを頭に思い浮かべ、あらぬ事を想像する。

 

 

 

……

 

「響さん……気持ち…いいですか?」

 

「ああ、気持ちいいよ弥生」

 

「響さんの…ここ……びくびくしてる」

 

「響さん…もう私、我慢できない…来て…私のここ…食べて」

 

「ああ、わかった…弥生」

 

「響さん…」

 

「弥生……」

 

 

 

 

 

「だ、だめぇ!!」

 

またまた変な想像して顔を真っ赤にしてその想像を頭からかき消そうとするように大声を上げて、その大声で司馬朗は驚くがそんなのお構いなしに司馬懿は部屋をでようと扉へと一目散に走り出す。

 

「ちょ、ちょっと待つにゃし!」

 

しかし扉から近い司馬朗は咄嗟の司馬懿の行動に反応して司馬懿の体を掴み、抑えこむ。

 

「止めないで!このままじゃ、響さんの逸物が弥生ちゃんに!」

 

「何言ってるかわからないけど、落ち着いて!!」

 

暴走した司馬懿は妹の弥生より響のことを思い無理に進もうとするが、必死に振り解けないようにしがみついて出ていくことを阻止する司馬朗。

 

五分以上この状態が維持された後体力の限界が来たのか司馬懿がその場で崩れ落ちてそれを見て司馬朗もほっとして掴んでいた手を司馬懿から離した。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」 

 

「ね、ねえ如月ちゃん…」 

 

「な、なに?」

 

「もしかして…如月ちゃんって響さんのこと好きなの?」

 

「はぅ!」

 

取りあえず話し合うところまで持ち直した司馬朗はこの司馬懿の暴走行動から導き出した答え…もしかしたら司馬懿は響のことを好きになっているのではないのかとという、結論を司馬懿に問いだしてみると、司馬懿は可愛らしい声を上げて顔を赤くした。

 

「如月ちゃん、響さんのこと好きなんだ」

 

「で、でも…響さんは…身分がって…」

 

反応から司馬懿が響を好いていることを理解した司馬朗、司馬懿は赤くしていた顔を俯かせ、自身が一番思い悩んでいる身分の関係を打ち明ける。

 

今すぐにでもこの思いを打ち明けて婚約したい司馬懿…麒麟児と呼ばれる彼女でもその答えは中々導き出せず…ここまで暴走するとは一体誰が予想しただろうか……

 

その一番の悩みを聞いて司馬朗は目を瞑って悩み…少し間を置いて目を開けて司馬懿に顔を向けて考えたことを喋り始めた。

 

「別に気にしなくていいんじゃないのかな?」

 

「え?」

 

「だって、如月ちゃんは響さんと婚約したいんでしょ?だったら素直に婚約すれば良いと思うよ」

 

頭で色々の柵を無視して直球に自分の欲望に正直になれと…司馬朗は司馬懿にそう助言するとまさか、ここまで直球な返答が来るとは思っても見なく唖然とした表情を司馬懿は浮かべた。

 

「そ、それは…したい…響さんと婚約して妻になって…平穏な世界で響さんと…生まれる子供と…一緒に…」

 

頬を赤く染めながら自分の欲望を述べる司馬懿。

 

既に司馬懿の頭の中では生まれてくる響と自分の子供のことまで考えており、そこまで考えていたことに司馬朗は苦笑いの笑みを浮かべた。

 

「けど、父上がそれを認めるかしら…重鎮達だって…」

 

しかし、やはり響との未来構成を考えるが避けては通れない障害である、司馬防やその重鎮達の存在に司馬懿の表情に影を落とした。

 

「ううん、お父さんは反対しそうだね…けど…本当にそれで諦めて良いの?睦月は…如月ちゃんの幸せになってくれるのが一番だよ」

 

司馬防の反対を承知するが司馬朗はそれでも司馬懿の幸せを願っており、司馬懿のこれからをどうするかそれを問いただす。

 

「……まだ心の整理ができそうにないわ……考えさせて」

 

顔を俯かせてそう、言葉をいう司馬懿

 

改めて自分のことや響のことなど、婚約した後のこれからの影響を考慮しなければいけないために考え直すと言った。

 

直ぐには正直に行動を取れないと思い、心の整理をしてそれからでも遅くないと考えたのだ。

 

「睦月ちゃん、相談に乗ってくれてありがとうね、もしかしたら私が決めた答えで

、父上だけじゃなく睦月ちゃんや弥生ちゃんまで迷惑かけるかも知れないけど…」

 

「でも、如月ちゃんが決めたことだもん睦月は気にしないよ」

 

相談に乗ってくれたことにお礼を言いこれからのことで迷惑をかけるかもと言葉に言う司馬懿に司馬朗は何一つ気にしないと胸を張って言い切った。

 

「それじゃあ私、いくね…」

 

「ええ、ありがとうね」

 

相談に乗ったことでもう此処に用はないと思った司馬朗は部屋から出て行こうと歩き出して、司馬朗の出ていくのを見て再度相談に乗ってくれたことにお礼の言葉を述べた。

 

そして執務室から退出した後司馬朗は司馬懿の家から出て離れようと足を踏み出そうとした瞬間司馬朗を視認した響が司馬朗に、向かって走りだしてきた。

 

「伯達様!」

 

「響さん、報告は終わったの?」

 

駆け寄ってきた響に政庁に向かっていた目的である報告が出来たのかと訪ねられる。

 

「なんとか、司馬孚様もいてくれてかなり調子よく終わったよ」

 

響1人では何かと時間がかかりそうであったのか、そこを着いていてくれた司馬孚がフォローしてくれたお陰スムーズに終えたことを司馬朗に話す響、そんな響は此処に司馬朗が居たと言うことは司馬懿の方は何とかなったのかと思い司馬懿のことを聞き始める。

 

「それで…仲達様は…」

 

「如月ちゃん?うん根本的なことは解決できなかったけど…助言はしたよ…後はどういう結論を出すかだね…それと響さん」

 

司馬懿のことを聞かれた司馬朗はありのままのことを簡潔に話し、最後に響にも関わることであるために司馬朗は響に問いかけた。

 

「如月ちゃんのこと…絶対に見捨てないでね」

 

「え?は、はい」

 

司馬朗の瞳は本気と言わんばかりに響の顔を見つめ、それに眼力に押されてたじろぎながらも響は勿論といった思いで返事を返した。 

 

「それじゃあ私はこれで、今は如月ちゃんのことはそっとしていてね、たぶん、響さんがいったら逆効果だか」

 

「は、はい…」

 

そろそろ、立ち去ろうと思った司馬朗は最後に恐らくこれから司馬懿の所に行くであろうと思い、忠告で今日は司馬懿をそっとしておいてくれと言うと、それを理解した響は頷いて返事を返した。。

 

そして司馬懿の家の前から立ち去っていく司馬朗の後ろ姿を見続ける響は先程言われた言葉を脳裏に思い浮かべていた。

 

「見捨てないでね…か」

 

司馬朗のこの言葉からは本気と言わんばかりの覇気が響には感じ取れていた。

 

恐らくそう遠くないうちに司馬懿は運命の選択をすることになるのだろう…

 

その選択には響自身関わってくるとそう響は思った。

 

これから自分はどうなるのか…先が見えなくなってきた道に不安感が募ってくるが今は主君の司馬懿と先程の司馬朗の言葉を信じるしか無いとそう決意して響は司馬懿の家へと入っていくのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一話

あ、あぶねえ…危うく連続週間投稿がストップするところやった。

今回から少し響達に動きがあります。

そしてコメント、評価はいつでも募集中です。


「お茶が美味しいわ」

 

そう、お茶を啜りながら窓から外を見る司馬懿。

 

響と司馬孚の初陣から約3ヶ月の月日が流れ、長安は相も変わらず平穏な日々が続いていた。

 

変わったところと言えば、前よりも増して治安や商業などの内政面が充実してより長安の街並みが活気に満ちあふれているということ

 

司馬懿は今日の政務を終えてやることもないために自分でお茶を垂れて窓から見える快晴の空を見上げた。

 

「仲達様、入りますよ」

 

とほのかな一時を堪能している司馬懿に部屋の外から響の声が耳に入り、返答をしようと口を開けるが返事をする前に扉が開いて響は入ってくる。

 

「響さん、どうして返答なしで入ってきたのかしら?」

 

返事なしに入ってきたことが不服だったのか、司馬懿は少し怒ってる表情を見せて、そのことを響に指摘すると、響は今更と言わんばかりの顔を司馬懿に向けた。

 

「今更のことだろ?それに俺に見られたくないことなんてしないだろ?」

 

「…響さんに見られたくないことぐらいあるわよ…」

 

隠れてすることなどないと断言する響であったが聞かれた司馬懿本人は、響のことを思って自慰をしていたために見られたくないものもあると響の耳に聞こえないように小さく呟いた。

 

「それで?響さんは何か御用で来たのかしら?」

 

この話から離れようとそう思った司馬懿は響が来たことには何か理由があるのだろうと踏んで、来た理由を訪ねる。

 

すると響はそうそうと…着ているブレザーの内側に手を入れて立派な紙で出来た巻物状の物を司馬懿の机に置く。

 

「ついさっき、仲達様宛てに書状が届いたから持ってきたんだ」

 

置いた後、経緯を説明する響、それを聞いて司馬懿はふーんと余り興味を示さなかったが取りあえずと言わんばかりに書状を広げて中に書かれた内容を読んでいく。

 

「…………はぁ…」

 

読み終えたのだろうか、何故か溜め息を付き、それに疑問に思った響が司馬懿に話しかける。

 

「仲達様?どうして溜め息なんかついたんだ?」

 

「え?ああ、これに書かれてた内容がね…」

 

響が訪ねると司馬懿はあきれた物言いで書状について話し始める。

 

「簡単に言うと預州の陳留太守、曹孟徳殿からの勧誘よ」

 

「曹孟徳…ってあの曹操!?」

 

司馬懿から聞かされたとんでもない名前に響は驚きの声を上げて戸惑いを見せる。

 

曹操…字は孟徳、三國志の一国の魏の土台を築き上げたまさに英傑の一人。

 

そのような…人物からの勧誘…それはつまり司馬懿の知名が大陸に響いている証拠でもあるのだが…司馬懿の顔は余り明るいとは言えない…

 

何かあるのだろうか…そう思った響は司馬懿にその理由を聞くために訪ねた。

 

「確か、陳留って東の預州だったよな…そんな遠いここまで書状を送ってくるなんて…曹操殿は仲達様をよほど欲しがってるんだな」

 

「ええ、それはもうね…」

 

涼州の長安から預州の陳留までの道のりは長い、そのためわざわざそこまで司馬懿を勧誘をしようとする曹操に少し関心を持ちながら賞賛する響であるが、それを聞いている司馬懿の表情は呆れている

 

「…仲達様…さっきから呆れてるみたいだけど…何かあるの?」

 

「曹操殿とは一度も会ったことはないけど……噂は良く耳にしていたわ……」

 

「統治、武芸、詩、料理と何でもこなせる人なの」

 

呆れている司馬懿に聞くと曹操とは一度も会っていないと告げられたときはそれなら何故と響は驚いたがその後、司馬懿の耳に入っていた噂で曹操がかなりの優れた人間であることを司馬懿は話した。

 

「それは……完璧超人だな…けどどこに嫌がる所が…」

 

普通ならそのような人の元に着いていこうと大半のものならそう思うはずなのだが、司馬懿はそんな曹操の何処が嫌っているのか、そのことで悩んでいると司馬懿はまた話し始めた。

 

「響さんが言うとおり…これだけなら私も仕官してみたいけど…その…姓癖に問題があって……」

 

「姓癖?」

 

姓癖に問題があると指摘する司馬懿に、響は思わず姓癖と呟くと司馬懿は頭を縦に振って頷き、顔は少々赤くして、話し始める。

 

「実際見たわけではないけど曹操殿って美少女好きで……陳留にいるときは毎夜というほどに仕えてる女の子に寝室に呼び込んで…その…手篭めにしてるっていう…噂が…」

 

もじもじと頬を染めながら気にしていた曹操の噂を言い切った司馬懿、それに対して響はある程度やばい噂があるのだろうと覚悟はしていたのだが予想外な話しであったためにその場で数秒驚いた顔で硬直して正気に戻ると司馬懿に詰めより質問を訪ねる。

 

「あの…曹操…あ、殿って男…ですよね?」

 

恐る恐る、未だに硬直したときの驚愕が残っているのか思わず曹操のことを呼び捨てで言いそうになるが、思い出して殿を後付けでつけながら曹操の性別を司馬懿に聞いてみる。

 

(自分で言っていて何言ってるんだ俺は…話を聞く限りで曹操は男に決まってるだろうに…まあ、大方曹操軍にいる女の将や軍師を手篭めにして大勢の奥さんがいるってことだろう…俺らにとってはリア充爆発しろといいたいところだな…にしてもそしたら曹操って奥さん何人いるんだ?噂になるぐらいだから…七、八人かな?そしたら子供も多いんだろうな…それに加えて仲達様もハーレムに入れようとしてると…うわ、本当に男として殺意が湧くわ………

 

 

 

 

 

 

え?お前も同じだろうがリア充って?いやいや、俺は違うだろう、フラグなんて立てた覚えがないわけだし…え?二人?2人もいるって?またまた何かの間違いだろう)

 

と響の頭の中では変なメタ発言の電波を受信するなど、曹操が男でハーレム野郎と考える。

 

そんなことを考えている響のことを知らずに司馬懿は響の質問に答えるため口を開けた。

 

「え?曹操殿は女よ?」

 

「………え?」

 

思考停止…司馬懿から放たれたその言葉に響は動きも思考も固まり、一分ほど石のように微動だにしなかったが、漸く思考が元に戻り、すぐに思ったことを口を出して答えた。

 

「女!?マジで!?てことは、レズ!?」

 

曹操が同性愛主義者でレズだとは思いもしなかったわけで響は思わず驚きの声を上げて、それに反応して司馬懿は響が発した言葉の中でわからない単語が出て来たことで首を傾げた。

 

「れず?」

 

「え?ああ、俺がいた国で使われていた言葉で…同性愛者を示す言葉だ」

 

意味がわからなかった司馬懿に気づいた響は意味を教えてると漸く司馬懿が溜め息を付いていた理由を理解した。

 

曹操が同性愛者であるためにそんな趣味のないノーマルの司馬懿にとっては嫌で仕方がないのだろう。故に勧誘に乗り気にはなれなかったのだ。

 

「でも不味いかも知れないわね…」

 

「え?何が不味いって?」

 

渋っていた理由を理解した響だが、司馬懿はなにやら気になることがあるのか表情に影を落としながら考えており、響は司馬懿が呟いた言葉が気になり、司馬懿に訪ねた。

 

「……」

 

しかし、司馬懿は既に頭の中で何かを考えて辺りのことに気付いていないようで響の質問も耳に入っておらず、返答は帰ってこなかった。

 

司馬懿が思考の海に入ってから10分ほど経過し、司馬懿が考えている中、響も少し司馬懿が何を考えているのかを考えては見たが何もわからずしまいで項垂れていると、司馬懿が漸く思考の海から上がってきて、よしと何かを決心をつけたのか、考えが纏まった司馬懿は響に顔を向けて話し始めた。

 

「響さん、もう政務も終わってるから買い物に手伝ってくれない?」

 

「え?何で買い物?」

 

曹操の話をしていたはずが突然、響を買い物の連れ添いに誘ってくる司馬懿に困惑して理由を聞こうとする響。

 

「いいから、いいから…ふふ」

 

そんな困惑する響を無視して、半ば強引に押し通すように話す司馬懿は、何かを想像してか笑みを浮かべており、その笑みが何を意味しているのか理解できない響は分からずに首を傾げるがさすがに危険なことではないだろうと決めつけ、司馬懿の買い物に付き合うことを決めて、わかったと頷いた。

 

 

 

長安の商業の中心とも言える商店街にやってきた響と司馬懿。

 

商店街は相も変わらず人々が往来し、店に立ち止まって物を買っているのも目立つ。

 

そんな商店街を笑みを浮かべている司馬懿が先々と進んでいき、それを響が追うような形で商店街を歩く。

 

「仲達様、それで何を買うつもりなんだ?」

 

無理やり連れ出された響は、司馬懿が何を買おうとしているのか、もちろんのこと知っているはずもなく、上機嫌の司馬懿に訪ねてみた。

 

「えっと…色々よ」

 

と柔やかに笑みを浮かべて返事をすると、結局具体的な買い物の品を聞くことが出来なかった響は項垂れながら買い物は長くなりそうだと思いながら司馬懿に着いていった。

 

響が司馬懿に着いていき、まず始めに司馬懿が立ち止まったのは旅をするために必要な品々が並び立っている旅人用の店。

 

「旅人用の店?なんで?」

 

始めに来た場所が旅人用の店だとは思ってもいなかったために疑問を口にする響だがその疑問に答える者はおらず、司馬懿が店に入っていくのを見て響も追いかけるように店の中に入っていった。

 

店の中は店前にも鎮座されていた通り旅人が道中必要になるであろう品が立ち並んでいて、立ち寄った旅人などもこの店の品を見ていて、店の中の人の数からわりと繁盛していることが理解できた。

 

「…ん~」

 

そんな旅人達の中に何かを必死に見て決めている司馬懿を響の視界に捉え、彼女の隣に立つと司馬懿が目線の先にあったものは旅人達なら会って当然という物だった。

 

「…鞄?」

 

旅に必要な物などを収納し持ち運ぶことが出来る革で出来た鞄。

 

そんな革の鞄を見ていた司馬懿は隣にいた響に顔を向けて口を開けてしゃべり出した。

 

「ねえ、響さん?この大きい鞄か、こっちの普通の鞄…どっちがいいかしら?」

 

司馬懿は見比べていた二つのサイズが違う鞄を見せて響にどちらにすべきか訪ねられ響は二つの鞄を一通り見た後、少し考えて…結論を出し返事を返した。

 

「普通の鞄の方が良いと思う…仮に旅に出るんなら大きすぎると動きづらいしな」

 

と収納より身動き差から普通の鞄を選んだ響、その言葉を受けて納得した顔つきで司馬懿は響が勧めた普通の革の鞄を手に持つと近くにいた店員に声を掛けた。

 

「すいません、この鞄、おいくらですか?」

 

「え?買うつもりだったの!?」

 

と手に持つ革の鞄を購入しようとする司馬懿に買うとは思ってもいなかった響は驚いて声に出す。

 

「いったじゃない色々、買い物するって」

 

驚いた響の声に反応して司馬懿はいつも通りの口調で返し、その後やってきた店員にお金を支払い、鞄を購入した。

 

「さてと、次は…」

 

「後は何を買うつもりなんだ?」

 

鞄を購入した後、既に司馬懿の頭には次の品のことを考えていて、それを見て響はこれから何を買うのかを聞く。

 

「着いてくればわかるわよ」

 

と先程と同じく詳しい情報は話して貰えず。響はその後司馬懿に連れられて何軒もお店を回り、終わったのは店が閉まり、月が空を照らす。夜空のことであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二話

どうも、ウイングゼロです
まず始めに

誠!!!

申し訳…

ございませんでした!!!!!!!!!

先週投稿できず…まさかいつものと不安に駆られた読者もおられたと思います。

先週は中々モチベーションが上がらず期間に間に合いませんでした。

今回はそれを返上ともに本気で書きました。

今回は約9000文字です。

コメント、評価は募集しております。

最後に改めて先週更新できなくて申し訳ございませんでした。そしてこれからもよろしくお願いします


「…はぁ…」

 

何を思ったのか暗い顔をしながら溜め息をつく、響

 

何故響が浮かない顔を浮かべているのかそれはほんの10日前…曹操の書状が届き、司馬懿が何やら考えついたあの日からであった。

 

その日の晩…いつも食事をとっていた司馬懿が余り料理に手をつけず、徐々に目に見えるように衰弱し始めていた。

 

余り料理を食べなくなった当初は政務もまだこなせていたが今では寝床に伏せていることが多くなり、政務は補佐であった響が肩代わりをしてこなしている。

 

「どうしてこうなったんだろう…」

 

響はこの状況の起因を考えたが、十中八九で曹操が絡んでいることは明白であり…非力な響にはどうしようもないことであった。

 

そんな響に出来ることは…

 

「取りあえず、出来たから持っていくか」

 

厨房にて器に盛らせた響が簡単に調理したお粥をお盆に乗せて持ち、司馬懿の寝室に向かう。

 

「仲達様、食事持ってきたぞ」

 

「…響さん入ってきて」

 

司馬懿の部屋の前で立ち止まり、室内にいる司馬懿に声を掛けると、それとなく元気のない声が響に返ってきて、中に入ると、寝床に仰向けで横たわる司馬懿の姿がそこにあった。

 

「響さん…」

 

「仲達様、無理に体を起こさなくていいよ」

 

響が入ってきたことで司馬懿は横たわっていた体を起こしそれを見た響は司馬懿の体にあまり無茶はさせたくないために体を起こさなくてもいいと話したが司馬懿は首を横に振ってそれを拒んだ。

 

「流石に主君といえど、横たわって接するのは失礼でしょ?」

 

「…仲達様がそういうなら…」

 

礼儀ありと言わんばかりに上半身だけを起こす司馬懿、それを見て少々気が気でない目で響は司馬懿を見て返事をした。

 

その後、司馬懿は響が持つお盆に気がつくと、響は司馬懿の寝床前まで歩き近くの置き場にお盆を置くと司馬懿に向けて言った。

 

「あまり、喉が通らないとおもったからお粥を作った…これ食べて少しでも体をよくしてくれ」

 

そう言い残し、響は病が移ることを思ってか直ぐさま部屋から出て行こうとすると、突然、袖を引っ張られている感覚陥る。

 

「?仲達様?」

 

袖を引っ張られた感覚で後ろに振り返ると響のブレザーの袖を掴んでいたのは司馬懿で、弱々しい顔つきで響をみつめていた。

 

「…その…食べさせて…ほしいな…」

 

と弱々しい顔つきに加え、上目遣いで響にお願いをする司馬懿

 

そんな途轍もないコンボを不意打ちで受けた響は抗うこともなく、陥落…近くにあった椅子を司馬懿の寝床の前に持ってきて座り、先程置き場に置いたお盆を司馬懿の寝床の隅に乗せると器の中にあるお粥をレンゲで掬い、それを司馬懿の口元までに運ばせる。

 

「熱いから少し冷ましてから食べろよ」

 

「ふー…ふー…はむ」

 

司馬懿の口元へと運んだ、響は出来たてのために火傷するかもと思い、優しく注意し、すると司馬懿は響が掬ってくれたお粥に息を吹きかけてお粥を少し冷まさせると口を開けてお粥を一口食べる。

 

「おいしい…」

 

しっかりと噛んだ後飲み込んで、口に合ったことから司馬懿は賞賛の言葉を述べる。

 

「それはよかった」

 

賞賛の言葉を受けて響はほっとした表情を受け止めながら簡単に返事をする。

 

そしてまた司馬懿にお粥を食べさせようと、響は器にあるお粥を掬おうとしたときであった。

 

「誰か居らぬか!!!!!」

 

「っ!?」

 

玄関の方からか誰かの大声がこの家全体に響き渡り、それに驚いて響は玄関のある方角へ顔を向けた。

 

「誰か…来たのか?」

 

響は戸惑いがこもった言葉でレンゲを器にうまく乗せて椅子から立ち上がり部屋のドアへと手をかける。

 

「来客者が来たみたいだから会いに行きます…仲達様はそのまま休んでいてくれ」

 

とそう言い残し響は部屋から出て行き、廊下を歩いて行くと、その際中も大声を出して家主である司馬懿を呼ぶ、それで司馬懿が大声に響いて体に触られると厄介なために響は急いで玄関前行くとそこには見慣れないふたりの女性が立っていた。

 

一人は大声を上げていた方なのか黒髪で腰まで伸びた髪が特徴な女性。

 

もう一人は珍しいと思う水色の髪で前髪が片目を覆うように延びている女性、その女性は黒髪の女性の少し後ろに立っていた。

 

「お待たせいたしました…この場に何用でございましょうか?」 

 

まず、待たせたことへの礼を入れて、それから響は二人に司馬懿の自宅へ来たのかを訪ねた。

 

「む?貴様が司馬懿か」

 

「違うぞ姉者、恐らく召使いのものだろう」

 

出て来た響を勘違いしてか黒髪の女性は響のことを司馬懿かと確認を取ると、後ろにいた水色の髪の女性はそれを否定して響が召使いであることを予想してそう言った。

 

そしてその二つの話を聞いていた響は目的は司馬懿にあるのだろうと理解して、口を開けてこう言った。

 

「我が主君、司馬仲達様への来訪…それがあなた方のここへ来た目的でございましょうか?」

 

「その通りだ!華琳様の命により、司馬懿とやらを連れてくるようにとのことだ」

 

黒髪の女性の言葉に響は眉をひそめ、先程黒髪の女性が言った言葉を脳内で考える。

 

(華琳…というのは誰なのかはわからないが…連れてくる…ねえ、まるで本人の有無関係なしのようだな)

 

黒髪の女性からの言葉で本人の意思を無視してでも司馬懿を連れて行こうとしていることを察しして響は泰然とした態度で言葉を返した。

 

「我が主君からは此度、客人が来訪するという話は存じておりませんが…なにやら事前に来訪を知らせる書状などはございませんでしたか?」

 

「何を言っているのだ!華琳様より書状は届いているはずだ!」

 

予想外の来客に事前にアポイントメントを取っていないのかと訪ねると黒髪の女性は話が噛み合わないのか、華琳という名前の人物からの書状は届いているはずだと主張した。

 

食い違う二つに意見、それを聞いていた水色の髪の女性はふと思ったことを響に訪ねた。

 

「ならば、曹操様からの書状は届いていないか?」

 

ふたりは先程から華琳という名前を使っていた、それは曹操の真名に当たる名前で、一介の補佐などでは知るはずもない名前、ならば姓名で訪ねれば何かわかるかもとそう思って水色の髪の女性は曹操の名前を出した。

 

すると響もその名前には聞き覚えのある名前だったために思い当たる表情を浮かべて、来客のふたりに対して返事を返した。

 

「曹操殿ですか、それならば先日、書状を受け取り司馬懿様もお読みになられました」

 

「なんだ、届いているではないか…」

 

「姉者…」

 

響の返事に、黒髪の女性はきょとんとして何も疑問に思わずに言い、それを後ろから見ている妹はため息を溢しながら哀れんだ。

 

「まあ、とにかく、何故司馬懿は出てこないのだ!すぐに司馬懿を此処に連れてこい」

 

と黒髪の女性は本題に戻そうと、司馬懿を呼びつけるようにと響に言うと今司馬懿が動ける体調ではないことを知っているため申し訳ない気持ちで黒髪の女性に返事をした。

 

「申し訳ございません。ただいま司馬懿様は病に倒れ療養中なのでございます。」

 

「なに?司馬懿殿は病に?」

 

響は司馬懿の現状を2人に説明すると水色の髪の女性は驚いた顔で司馬懿がに病に倒れたことを心配する声をあげた。

 

この場が少し重々しい空気がたちこもる中…ただ一人理解できていない人物がいた。

 

「む?何を言っているのだ、それぐらい気合いで何とか出来るであろう」

 

と病を気合いで治せると本当に信じているのか嘘偽りない眼差しを響に向けながら話す黒髪の女性。

 

それを聞いた水色の女性は額に手を当てて、彼女の頭の中では予想できたのか、ため息を溢し、常識が欠けているとは思ってもいなかった響はその場で唖然として固まった。

 

「姉者…姉者のように気合いで何とか出来るものではない…」

 

「む?そうなのか?」

 

流石に擁護しなければと水色の女性は響を擁護するように黒髪の女性に司馬懿は黒髪の女性とは全く違うと言い、それを黒髪の女性はそうなのかときょとんとした顔つきで水色の女性を見た。

 

そんなやりとりを見て、響は何でこんな常識はずれの人物を使いに回したのか…曹操の意図が読めなかった。

 

そんなことを響が思っている内に二人の話し合いが終わったのか黒髪の女性は納得がいっていないような表情を響に見せている。

 

「司馬懿殿が病に倒られていては、仕方がない…日を改めてもらおう」

 

と水色の女性が今日は諦めたのか後日、また来客すると響に言い残して黒髪の女性を連れて玄関から去って行った。

 

 

「…行ったか…全くいきなり過ぎて困るよ」

 

響の目から彼女らが見えなくなったのを見計らって張り詰めていた緊張を解き、大きく溜め息を付いて少し愚痴をこぼした。

 

「取りあえず、仲達様に報告だな」

 

気を取り直してまず事情を気になっているであろう司馬懿に話そうと司馬懿の部屋へと引き返す。

 

そして司馬懿の部屋に戻るとそこに広がる光景に響は驚いて固まった。

 

「あっ、響さん、来客者との話し合いは終わったのね」

 

そこにいたのはいつもと何ら変わりのない司馬懿…

 

なぜその何ら変わりのない司馬懿に響が驚いているのかそれは…その司馬懿が先程までは病を患っていたためである。

 

病を患っていないような表情をしている司馬懿に響は驚きを隠せないのだ。

 

「ちゅ、仲達様!?」

 

「そんな驚かなくても…ってそっちの方が無理か」

 

驚きの声を上げる響に先ずは落ち着かせようとする司馬懿

 

しかし、その元凶となっているのは彼女自身であるために仕方がないと司馬懿は少し苦笑いの笑みを零した。

 

「えっと、病のことなんだけど…あれは嘘なの…実際は病なんかにかかってないし」

 

と司馬懿は自身が病にかかっていたことを否定して更に響を驚かせた。

 

衝撃の事実に驚かされた響であったがそれと同時に司馬懿に対して怒りも湧き上がり、声を荒げて司馬懿に言った。

 

「病が嘘なら何で俺に何も言ってくれなかったんだ!」

 

「っ!それは…」

 

「俺がどれだけ心配したか、わかるか!?」

 

怒りの声を上げる響に本気で怒ってくるとは思っていなかった司馬懿はたじろぐ。

 

「ごめんなさい…でも悟られるわけにはいかなかったのよ…」

 

「……」  

 

怒っている響に司馬懿は騙していたことに謝罪をしてことの経緯を話しだす司馬懿、その先端を聞いて響は先程の2人組を頭の中で思い浮かべる。

 

「もし、私が曹操の使いにあったら最後、間違いなく有無を関係なく、陳留に連れて行かれていくことになる…でも仕えたいとも思わない人に仕えたくないもの…それに…」

 

会った場合のもしもの予想を話す司馬懿に響も確かにと重いながら司馬懿の話を聞き続ける。

 

司馬懿は一度話を切って、溜め息をついて深呼吸をすると少し顔を赤らめて響を見ながら小恥ずかしい表情で話し始めた。

 

「曹操の所だと…響さん、重宝されないと思うし…もしかしたら…響さんとは離ればなれになるかも…」

 

ともじもじと遠回しで響と一緒にいたいと告白まがいな発言が飛び出し、それを真剣に聞いていた、響はもちろんこと顔を赤くした。

 

「あっ!べ、別に響さんのことで曹操のところに行きたくないわけじゃないの、単に馬が合わないだけだから!」

 

「お、おう」

 

自身が告白まがいな発言をしたことを言ってから数秒後気がついた司馬懿は直ぐさま訂正して慌てて話すが、響に告白まがいな発言を聞かれたことには変わりなく、まだ正気に戻れずに戸惑いながら響は返事をした。

 

「…と、取りあえず…仲達様はどうしても曹操軍に行きたくないから…仮病で面会を回避した…そういうこと?」

 

「ええ、本当にごめんなさい!」

 

響は司馬懿の話を聞いて、簡潔に司馬懿の仮病の理由を纏めて復唱するとそれに頷いた司馬懿は響を騙していたことからお辞儀をして謝罪をした。

 

「…はぁ…別にもうそこまで怒ってないよ…敵を騙すならまず味方からなんていう言葉もあるしさ…でも相談くらいはして欲しかった」

 

謝罪されたことを見て、響は一度溜め息を溢すと、もう怒っていないことを話した後、次からは相談にして欲しいと告げた。

 

 

そして漸く、司馬懿の仮病の件が片付いたが2人の問題は残っている。

 

曹操の使いの2人はまた後日日を改めてと言っていた。

 

つまりはまた来るのは確定していること、そして司馬懿は会うのを拒んでいるために接触するのは必ず避けなければならない。

 

その上今回の仮病のことがバレれば間違いなく曹操は激怒して司馬懿を捕まえに更に人員を使って曹操の元へ引き釣りだそうとする。

 

それは響にとっても当然喜べる訳がない。

 

そして司馬懿は曹操の使いが来ることを予期していた…次にとる策も準備が整っているために、笑みを浮かべて響に向けて話した。

 

「響さん、今晩中に誰にも悟られずに旅支度の準備を」

 

とそういうと、響は納得した表情を浮かべて返事を返した。

 

「っ!そうか!だからあの時旅用の鞄なんかを!」

 

曹操の書状が届いた、直後に出かけた買い物、その理由はこのためであったことを響は漸く理解した。

 

その理解したことで一つ重大なことにも気づき、響は真剣な眼差しで司馬懿を見てその事を訪ねた。

 

「でも、そうなれば…此処から出ていくことに…司馬防様や伯達様、司馬孚様には…」

 

当然此処に出ていくこと言うことは親しい肉親との別れということになる。

 

肉親から離れる寂しさは現在進行形で身に染みて感じている響にとって良く理解できる感情であり、そのことを司馬懿に訪ねたのだ。

 

「いつかは、旅立つことにはなっていたこと…それに響さんと一緒なら寂しくもないし」

 

とうの昔に覚悟が出来ていたのか迷うことなく決断し…後半から司馬懿は赤く染めて響に聞き取れない声で呟いた。

 

「…分かった、それじゃあすぐに荷造りを済ませてくる」

 

「ええお願いね」

 

司馬懿の覚悟を見て響も腹をくくったのか、旅支度の準備に取りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

そして時は流れ、深夜…辺りは静かに虫の鳴き声が響き、空から月の光が指して道をうっすらと照らす。

 

そんな真夜中の通路を余り音を立てずに移動する2人組がいた。もちろんのこと何も言わずに下野しようとしている響と司馬懿の2人である。

 

司馬懿が立てていた作戦の元に2人は東門へと夜の闇に紛れて進んでいく2人…誰にもバレず、見つからずに慎重に進んでいく2人

 

そして、一刻が経過して漸く東門前まで辿り着いたのだが、夜中に紛れて賊が侵入する可能性があるために門には警備兵が2人立って見張っていた。

 

「…辿り着いたのはいいけど…あの警備どうするんだ?」

 

箱車の陰から東門を見る響はすんなりとは通れないと見計らい隣にいる司馬懿に何か作戦があるのか訪ねる。

 

「うーん、響さん…うまく警備兵の目を引きつけて欲しいの」

 

「はぁ!?」

 

司馬懿は少し悩んだ後、響に引きつけるように命令を出し、それを聞いて響は思わず声を出した。

 

「私は響さんが引きつけてる内に門の外に出るから、響さんはなんとか警備兵を同情させて普通に出て来て…それじゃあ行くわよ」

 

「いやいや!行くわよじゃないだろ!」

 

とんでもない作戦を聞かされた響を他所に司馬懿は具体的な作戦を響に小声で説明ししっかりと聞いていた響はいくら何でも問題だろうと小さな声で異議を唱えようとするもすでに箱車の陰からうまく物陰を駆使して門の近くに近づいていっており、異論は認めんということを理解した響は溜め息をこぼした。

 

「どうしろっていうだよ」

 

物陰から門の警備兵をみる響は本当に上手くいくのかと半信半疑な気持ちでどうするか考えた後、手で頭を強くかいて破れかぶれで物陰から出て東門の前に立った。

 

「むっ?そこで止まれ、こんな夜分に何か用か?」

 

東門の前につくと当然のごとく警備兵に見つかり2人の警備兵は俺に近づいてくる。

 

(ええい、ここまできたらやってやる!)

 

「…夜分遅くに申し訳ございません、なにぶん大急ぎなために…どうか一生のお慈悲で外に出しては貰えないでしょうか」

 

心の中でなんとか注意を引き連れようと決めて、響は大急ぎで外に向かわなければならないと急いでいるような顔をして嘘をつく。

 

「…しかしな、既に門を閉じる時刻なのだ、門が開くのは早朝だ、それまで待つことだ」

 

と規律なのでなと当然、響を外には出しては貰えない…しかし、響にも退けない理由があった。

 

「……丁度、日が傾きそうなときでした…私は仲達様の元で補佐として働いておりました。仲達様はご病気を患え苦しんでいる中、私は仲達様の変わりに仲達様の意向の元、政務を全うしておりました。昨日と変わらぬ執務…昨日と同じように終わると思っていたその時に私の元へある知人が訪ねて来たのです。しかし私はその知人の変わり果てたやせ顔を見て鳥肌を立てました。知人はその場で倒れ、私はすぐさまに医者を呼ぼうとしたのですが、知人はそれを拒み…今にも消えそうな声で私に必死にこう告げました。昨今私が生まれ育った小さな村は凶作で食べ物は殆どなく、皆飢えを少ししかない食料で凌いでいると…しかし、いつかは食料もそこをつき飢え死ぬ者が出てくるかも知れない…そう思った知人はこの長安で官職をやっている私の元へ村から走ってきたのです。もちろん、此処から私の村までは相当な距離があります…ここからでもおおよそ3日はかかるでしょう…それほど徒歩では苦難な道のりを彼は一色懸命走ったのです。平地を駆け、山道を駆け…その道中足はもちろん悲鳴を上げ踵からは血がにじみ出し疲れと痛みを抱え耐えながら三日三晩彼走り続けた。そして、私の元へ辿り着いた知人はその村の危機を私に伝え、村が助かるという安堵感から…彼は息を引き取ってしまった。私はそんな彼の亡き骸を手厚く葬り…今も苦しむ、仲達様に心苦しくも村を助けるまでの暇を与えてもらったのです。仲達様も病に苦しんでいるというのに何と寛大なる処置、私は心から仲達様を敬愛しました。そして仲達様の元へと離れる自分の忠義に背徳感を感じながらも私は旅支度を終えて長安から立ち去ろうと思ったのです…ですが、既に今は真夜中…当然のごとく門は固く閉ざされている…ああ!村の者達は今も私の帰りを待っているのでしょう…しかし私にはこの門を越えることが出来ない、今このときも村の者が飢え死んでいるかもしれないというのに私は此処で立ち止まることしか出来ないのです。聞いている兵隊さん達も私の話を聞いて心苦しく思うでしょう…しかし…私はあなた方を責めているわけではございません…あなた方は定められた法の下、職務を全うしているのだから…しかし!今の助けを待っている村のことを思うと私は心苦しく、怒りが募るのです、私はこの怒り何処にぶつければいいのか…このような法を定めた国?それともこのような上下が激しき環境を作り出した世界?はたまたは友が命落として伝えた危機をただ見ていることしか出来ない私自身!ああ、神よ何故このような残酷な世界を作ったのか、村の者は今、命がつきようとしているというのに、私は何も出来ない、これが村の者へと下された天命というのか…」

 

(……自分自身言ってることだが、何言ってるんだ俺は!!!なんだよ知人って!俺この世界に親しい知人なんてそういないし生まれた故郷もでっち上げだし、しかも…平地を駆け、山道を駆けって…何処のメロスだよ!思わずあの名作の一文を真似てた気がする!しかもさっきの会話だけで文字数1000越えたし!作者夜中に即行の思いつきで良くここまで書けたな本当に!!)

 

響は長々と門を出たい理由を熱弁しそれを終えた直後心の中で熱弁中に述べた言葉に対してツッコんだ。

 

こんな熱弁もあって警備兵は完全に響に釘付けになり、その間に司馬懿は難なく門の外へ出ることに成功していた。

 

響の熱弁で司馬懿が笑いを堪えていたのは余談である。

 

響の熱弁でどうすべきか困惑する警備兵達。

 

響も行けるかと不安に思いながら警備兵の返答を待っていると後ろから足音が聞こえてくる。

 

「うにゅ?どうしたの?」

 

「し、司馬朗様!」

 

(げっ!伯達様!)

 

響の後ろから現れたのは司馬朗であり、響の声を聞きつけてか気になって東門にやってきたのだ。

 

予想外の人物に焦りを感じる響、そんな響を他所に司馬朗は警備兵の元に立つと警備兵から響の門の外へと出る経緯を説明を聞く。

 

説明を終えた後、少し考える仕草を取った後、すぐに響に顔を向け、向けられたことで響は体をびくつかせて緊張を走らせる。

 

「…いいよ、通してあげて」

 

何か訪ねてくると思っていた響であったが、司馬朗の発した言葉は警備兵に対しての命令であった。

 

「よ、よろしいので」

 

「うん、響さんは私も知ってるから…」

 

と戸惑っている警備兵達を言いくるめるように話すと命令を受けた警備兵達は慌てて門の開門の作業に入る。

 

「開門!」

 

警備兵達が門を開けはじめる中、司馬朗はなぜが笑みを浮かべて響の耳元に小声で囁いた。

 

「如月ちゃんのこと…よろしくね」

 

「っ!?」

 

その言葉から完全に作戦がバレていることを察した響は目を大きく見開き、戸惑いを見せるが、司馬朗はそんな響の背中を強く押して、こう告げた。

 

「さあ、行った行った、待ってる人がいるんでしょ?」

 

嘘の理由(村の人達)本当の理由(司馬懿)どちらの意味とも取れる言葉を受け取り、響は手を貸してくれた司馬朗に深くお辞儀して門の外にへと出ることに成功した。

 

門から出て東に少し走り門から余り視認できない距離になると、そこに先に出ていた司馬懿が響の到着を待っていた。

 

司馬懿は響の姿を視認すると笑みを浮かべて響のもとに駆け寄ってくる

 

「響さん!無事に出てこれたのね」

 

「ああ、伯達様が…助けてくれた」

 

響は司馬朗のおかげで出てこれたことを話すとやはり知らせていないために司馬懿も大きく驚くが…すぐに冷静になって笑みを浮かべた。

 

「そう、睦月ちゃんが(睦月ちゃん…ありがとう)…さてと…急いで隣の村まで行きましょう…明日の朝にはもしかしたら曹操の使いが追撃に来るかもしないから」

 

「そうだな、隣の村には逃走用の馬を1頭買ってあったな…」

 

「ええ、急ぎましょう」

 

司馬懿は響の脱出に手を貸してくれた司馬朗に心の中で感謝を述べると隣村まで行き、予想される曹操の手からの追撃を躱すべく急かす。

 

響も頭の中で思い出せる隣村で用意してある馬のことを思って急ぐことに賛同して響と司馬懿は足を走らせて長安から離れていく。

 

そんな遠ざかっていく長安を背に響は顔を後ろに向ける。

 

(約7ヵ月だったけど……大変お世話になりました!)

 

と、心の中で長安で過ごしたことへの感謝を述べて響は顔を前を向けて隣村へと急いだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三話

どうも!

今回はかなり余裕で間に合いました。

それと今回は長くなりそうなので二つほどに分割して投稿しようと思っています。

それといつも通りでコメントと評価はどしどし募集しておりますので気軽に投稿してくださいね


響と司馬懿が真夜中に長安から脱してから丸一日が経過した。

 

現在2人は弘農郡、最西端の村に宿で泊まっていて、たんまりとあるにも関わらず路銀を節約するために2人で一つの部屋を借りて今後の方針を決めていた。

 

「さてと、何処に行こうかしらね」

 

「本当に宛てもなく、行き当たりばったりなんだな…」

 

今後の方針を決めようと息巻くも全く予定など立てていなかったために、響は溜め息を溢す。

 

「うーん、取りあえず…目的はどこかに仕官することかしらね…もちろん、曹操とあと袁家は除くけど」

 

まず目的は他の場所に仕官をすることに定めて士官先を考える司馬懿。

 

その話に疑問に思った響は、不思議な顔で司馬懿に訪ねる。

 

「ん?曹操は分かるけど…袁家って?」

 

曹操は司馬懿本人が嫌がっていたのは知っているものの袁家という言葉は司馬懿とあってから一度も出て来なかった言葉そのために響は首を傾げて疑問に思えたのだ。

 

「ああ、響さんは知らないものね…袁家っていうのはこの漢の名族の家柄のことよ…華北に勢力を伸ばしている袁紹、南陽に勢力のある袁術…この2人のことよ」

 

「…その2人がどうして駄目なんだ?特別理由が?」

 

聞く限りでは名族というのだから才に優れているのでは?とそう思う響であったが訪ねられた司馬懿は大きく溜め息をついて、響に理解できるように説明をしだした。

 

「その2人が問題でね…袁紹は名族の威光を振りかざしてるだけの凡愚、袁術に関しては幼いことから政を他に押しつけて下を見向きもせずに豪遊する世間知らずの子供…どちらも仕官したところで私の力を振るえるとは思えないわ」

 

(す、凄い言われよう…)

 

二つの袁家の君主の説明を聞き、苦笑いの笑みを浮かべながらまさにその通りと納得をする響。

 

となれば後残されている選択肢は何か響も浅い三國志の知識をフルに使い、とある2人の人物の名前が浮かび上がり司馬懿に話した。

 

「劉備は?」

 

のちに三国の一つ蜀を建国する漢中王、劉玄徳…民を重んじる彼ならばと響は提案したが司馬懿は不思議と首を傾げた。

 

「りゅうび?聞かない人物ね…劉ってことは劉表や劉焉じゃなくて?」

 

この時代まだ劉備は無名…どころか農民で藁で作った草履などを売って生計を立てている。

 

そんなこと知らない響は劉備がいないということを驚き、すぐさま次の人物の名前を挙げた。

 

「それじゃあ孫権は!?」

 

次に響があげた名前は孫権、これまた三国の一つ呉を建国した人物であり、これまた有名に名前を提案する。

 

こんどは司馬懿もなにをいっているのかわからないと首を傾げることもなかったがなぜが嫌な表情を浮かべて返事を返した。

 

「えっと…孫堅…さんよね…江東の虎の…確かに凄い人だと思うけど…私あの人は苦手で」

 

と司馬懿は孫堅が苦手だからか後退るように孫堅のもとへ仕官することを拒む。

 

有名どころの二つも提案して両方とも駄目だった響は他に誰が居るかと思う浮かべる中、司馬懿は仕官先に心当たりがあるのか思い出すように響に向かって口を開けた。

 

「そうだ!天水の董卓ちゃんのとこ「却下で!」ろ…ええ!?どうして?」

 

天水の太守をしている董卓ならばどうだと提案する最中、名前を聞いた響は直ぐさまに司馬懿の提案を拒んだ。

 

響が拒んだ理由それはもちろん董卓だからこそである。

 

響も董卓という人物については三國志の知識の名前でもある意味でよく知っている人物であった。

 

悪逆非道…酒池肉林…魔王と暴虐の限りを尽くしたと三國志に脆い響でさえここまで知っているのである。

 

そんな所に主君である司馬懿を連れて行くなど絶対にあってはならないと、そうおもった響は董卓の元へ行くのを強く拒んだのである。

 

「…うーん、響さんがそこまで拒むんなら…後は…」

 

いい案だったのになと、少し落ち込む司馬懿であったが、すぐに気を取り直して他の主君を考える。

 

そんな司馬懿を見て響は中々決められないことから溜め息をついて話しかける

 

「今はいいんじゃないか?…先は長いわけだし君主を誰にするかは考えながらで」

 

「…それもそうね」

 

考える時間は山ほどとある。そういったことで響はこの問題を後回しにし、司馬懿も響の提案に少し考える仕草を見せるも頷いて了承した。

 

「取りあえず、何処行く?今は弘農だったか?西には戻れないし…となると…あっ!都の方に行くっていうのはどうだ?」

 

「え?都!?」

 

取りあえず今の現状、曹操の追っ手が来る可能性はまだあるために西以外の方向に行こうと考えた響はふと弘農から東にある、この国の首都洛陽があるために興味本位で行ってみたくなり、司馬懿に提案してみるがそれを聞いた司馬懿は瞬間的に顔を赤くさせて困惑した表情で驚いた。

 

(都って…洛陽よね…洛陽に…2人で…つまりはそういうことよね…こ、こっちとしても本意だから断ることもないけど…い、いきなりそんなこと言われると…恥ずかしい~)

 

赤く困惑する司馬懿を他所に響は何故赤くなっているのか不思議に思って首を傾げる。

 

そんな中司馬懿はというと先ほどの響の言った言葉により、洛陽に行くということは逢い引きするということと響とは違う意味で理解していた。

 

もちろん、響のことを好意で見ている司馬懿に関していえば拒む理由など何一つ存在しない。しかしいざ誘われるとなると恥ずかしくなるのも無理はないことであった。

 

「そ、そうですよね…洛陽…2人で…うふ、うふふ」

 

「?」

 

心の中で考えていた司馬懿であったが本人も気付かずに心の声が漏れてしまい。それを聞いた響は何のことはわからず。また首を傾げた。

 

2人の言葉の意味合いがすれ違う中、とりあえずの目的地は洛陽に決まった2人は1頭の馬に一緒に乗って東へと街道を馬で歩かせる。

 

因みに補足として1頭の馬に響が前でその後ろに司馬懿が響のブレザーを掴んで乗っている状態である。

 

馬を歩かせてから四刻(現実だと8時間)が経過して途中で休憩も挟みながら洛陽にへと進んでいく2人。

 

辺りの景色も木林が立ち並び遠くには山々が見える。

 

「ん?なんだ?」

 

そんな景色を堪能しつつも歩いていると前方から微かに悲鳴に似た声を響は聞き取り先程ののんびりとしたムードから一変して真剣な眼差しで馬から下りて前を見据える。

 

「…仲達様…少し此処で待ってて、ちょっと前の方の様子を見てくるから」

 

「え?響さん!?」

 

とそう言い残した響は司馬懿の驚いた声も聞かずに微かな声がした方向にへと駆けだして行く。

 

 

響達がいた僅か数十メートル先の木林の中、そこには追い詰められた一人の茶髪の少女とそれを囲う三人の山賊の姿があった。

 

「へへ、観念するんだな」

 

そう三人の中でも兄貴分の山賊が不気味な笑みを浮かべながら一歩また一歩と少女にへと近づいていく。

 

「いや!来ないでって!」

 

そう必死に懇願する少女であったが、そんなこと止めるはずもなく、徐々に彼女と山賊達の距離が近づいていく。

 

絶体絶命、と少女はもう駄目かと思ったその時…

 

森林の中から人影が飛び出してきて飛び出てきたことに反応する前に山賊の一人を切り倒す。

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「な、なにもんだ!!」

 

一人の山賊の断末魔が響く中、残った2人の山賊と追い詰められていた少女はようやく現れた人物に顔を向けて、山賊達は少女を、他所に現れた人物…響に注意の目がいった。

 

「なに、通りすがりの剣客さ…確認せずとも、か弱い女の子を追いつめて凌辱…しようとしたところか…全く…最低だな」

 

山賊の質問に軽く答えた後、大体の状況を理解して抜きはなった剣についた血を振るって払い、構える。

 

「一応警告しておく…悪くいわないからさっさと立ち去れ…死にたくなかったならな」

 

剣を構えた響は取り合えずとばかりに立ち去るように進めるが、仲間を警告なしに斬られ今更といわんばかりに響に対して怒りを覚える。

 

「このくそが!死ねやぁぁぁっ!!」

 

怒りにより激情した兄貴分である山賊が響目がけて使い込まれている斧を振り落とす。

 

振り落とされる斧を響は斧の軌道を見て両手で持った剣で受け止めて防ぐ。

 

一撃を防がれたことで少しだけ動揺を引き起こすが直ぐさまに斧を右斜めからの振り落とし、左斜めからの振り上げと連続で素早く振るっていく。

 

だが、戦を経験した響にとって彼の太刀筋など甘く見得るために動じずに防ぐ。

 

攻撃を防ぎきる響を見て何も手を出していない残りの山賊はつけいる隙を見出せず、構えているだけの状態が続く。

 

「こ、この野郎ぅぅぅ!」

 

そして次々と響に防ぎきられていることに怒りを募らせた山賊は力いっぱいに振り落とそうと斧を上高く構える。

 

「っ!!」

 

それをみた響はチャンスと思い素早く剣を下段の構え足に力を入れて一気に山賊目がけて飛び出す。

 

飛び出した響は山賊の横を通り過ぎる際に下段に構えた剣を振り上げるように振るって山賊の右横腹を切り裂く。

 

「あぐっ!?」

 

「はあぁぁぁぁっ!!」

 

響に切り裂かれたことで山賊は短い悲痛な叫びを上げるが響は山賊の横を通り過ぎた後直ぐさま右足を地面に強く踏んで飛び出した勢い殺さずに体を回転させて山賊の背後を取り左足を地面につけた直後振り上げた剣を冗談から一気に振り落として山賊の背中を切り裂いて倒した。

 

「…ふぅ…さてと…後はあんただけだ…」

 

これで二人目といわんばかりに溜め息を溢す響は最後に残った山賊に目を向ける。

 

「ひ、ひいぃぃぃぃっ!!」

 

山賊は響が視線を向けただけで怖じ気づいて情けない声を上げながら一目散にへと逃げ出していき、それを見た響は追わずに抜いている剣を鞘に収めた。

 

剣を収めた後、追い詰められていた少女に顔を向けて響は怖がられないようにそっと優しい声で話した。

 

「あの、大丈夫でした?…ってあれ?」

 

少女に安否を確認しようと声を掛けたのは良かったのだが、響は少女の容姿を見て目を大きくして戸惑った。

 

スタイルのいい体をしてそして何より、少女の来ている服は響が見覚えのある紺色のブレザーにスカート…それを見てふと思い浮かべたことがあり、響は確認のために少女に訪ねてみた。

 

「もしかして……同じ境遇者?」

 

そう響は訪ねると少女も驚いた顔をして頷き声を返した。

 

「えっと…そういうあなたも!」

 

響の服装などを見てか見覚えのある制服だったために同じ境遇者だと少女もすぐに理解した。

 

「えっと…俺は八神響…名前ぐらいは聞いてると思うけど…それにそっちは確か…双子の姉妹の…」

 

「そうだよ、姉の津島真矢…覚えていたんだね」

 

津島真矢…響と同じ学校に通うクラスメイトであり、同じくこの漢の国に迷い込んだ一人であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四話

そんな彼女が何故こんな森の中に一人でいるのか、響は疑問にと思う所があったが今は検索するのは止めておこうとそう思った響は手を差し出して、真矢が手を掴むと引っ張って体を起こした。

 

「こんなところで再会するなんて思わなかったよ」

 

「私も…確かあなたって迷い込んだ初日の夜に居なくなった一人よね」

 

「ああ…やっぱり迷惑かけたか?」

 

再会したことで余り話したこともない2人は会話が弾み、真矢は響が初日に何処かへいった1人であったことを朧気に覚えていて、それを確認するように訪ねると響は申し訳なさそうに返事をした。

 

「別に気にすることじゃないよ、誰だって何処か分からない土地に居たくなんてないから…」

 

「…そうか…取りあえず、ついてきてくれ…落ち着ける場所まで一緒に行こう…俺が来た方向にもう一人連れが居るんだ…先ずはそこまで」

 

そう響は告げるとそれに応じて真矢は頷き、響が来た道を戻っていき、司馬懿の待つ場所にたどり着く。

 

「響さん、無事でよか…った…?」

 

司馬懿の元へ辿りつくと、響の無事を目視した司馬懿は喜んだのだがすぐに隣にいた真矢を見て言葉を失った。

 

森林の中に一人飛び込んでいったのはいいがまさか、女連れで帰ってくるとは余り予想していなかったために言葉を失った司馬懿

 

しかしすぐに正気をギリギリ保つと目が笑っていない笑みを浮かべてこうなった元凶の響に問い詰める。

 

「ひ、響さん?隣の方はどなたなんでしょうか…」

 

と真矢を観察しつつ、響に訪ねる司馬懿。

 

自身と比べて胸は出ていて、足も細長く、まさに大人の美少女といえる体つきをしていて、真矢より胸が劣る司馬懿は苦虫をかみつぶしたように憎たらしく真矢を見つめた。

 

「ああ、こっちは津島真矢さん…俺と同じ遠い国からの出身者で俺と同じ学校…というか同門生…さっき偶然森林の中で出会ったんだ」

 

そんな司馬懿の視線など気がつかずに、響はある程度噛み砕いて、経緯を話す。

 

「初めまして…えっと八神さんのお連れの方ですよね。津島真矢です」

 

響が経緯を話したのを見計らって真矢は再度自分自身で自己紹介をする。

 

「………」

 

「あれ?仲達様?」

 

真矢が自己紹介をしたに関わらず、司馬懿は全く言葉を発さず無言のじと目で響に睨んだ。

 

「……響さんの馬鹿」

 

と誰にも聞こえない声で呟き、馬を歩かせ始める司馬懿。

 

「ちょっ!待てよ!どうしたんだよ!いきなり」

 

無言で先へと進もうとする司馬懿を見かねて響は慌てて追いかけていき、理由を訪ねるが司馬懿は全く聞く耳を持たずで何も言わない。

 

「あの、少し…よければ今晩私が居る家で泊まっていきませんか?八神さんに助けてもらったお礼ということで…」

 

響と司馬懿が話し合っている中、横から真矢が2人に提案を持ちかける。

 

いきなりの提案に2人とも真矢に顔を向けたあと、響と司馬懿は互いに顔を向けて話し合う。

 

「……別に俺は津島さんの提案に賛成だけど仲達様はどうするの?」

 

「………そうね、私も泊まれるのなら路銀もかからないから私も賛成よ」

 

賛成か反対か二者択一の選択で2人は真矢の提案に賛成することを決め、その主を真矢に話すと嬉しかったのか微笑みを浮かべて真矢を先頭に真矢が住んでいる家へと歩き出した。

 

敷かれていた街道から外れ獣道を通り、山道を越えると山の中腹に位置する場所に小さい集落が佇んでいた。

 

「へえ、こんなところに村があったのか」

 

山の中腹に村があるとは思っても居なかった響は興味本位で辺りを見渡す。

 

辺りはいくつかの家が建ち並んではいるが老朽化しているものしかなく、他にも響達以外人が見当たらなかった。

 

「…あなた本当に此処に住んでいるの、それにしては人気もないし家もぼろぼろよ」

 

集落の光景をみた司馬懿はさすがに疑問に思ったのか、住んでいるという真矢に声を掛けて訪ねた。

 

「本当だよ、それにここまで間違えずに来れたのもここに住んでいるからっていう説明にならない?」

 

と真矢は司馬懿の言葉を否定してここまでの道程を間違えずに来れたことでよく行き来して道程を知っているという事実を突きつける。

 

「……」

 

「さあ、私が住んでる家はあそこだよ!」

 

確かにと事実を突きつけられることから司馬懿は黙り、黙ったのを見て真矢は住んでいる家を指さし響と司馬懿は真矢が指を向けた方向に視線を見せると村の中では1番大きい家がそこに佇んでいた。

 

真矢の先導で家の中に入り居間へと連れて行かれると、真矢は適当に座っててと言い残して台所の方にへと姿を消した。

 

真矢が台所へ向かった後、響は手頃なところにすわると見渡して辺りを調べる。

 

居間は見渡す限りでは至る所ボロボロなところや置物にほこりがつもっているのが良く見受けられて、女性である真矢が暮らしているとは少し思えない環境である。

 

辺りを見渡した後すぐに真矢が台所から真矢が帰ってきて器に注がれたお茶を響達の前に置く。

 

「こんなものしかないけど…ごめんね」

 

と真矢は連れてきた客である響に茶を出すぐらいしかおもてなしが出来ないことに申し訳なさそうに謝る。

 

余り気にしていない響はそんなことはないと否定してから注がれたお茶をゆっくりと飲む。

 

お茶を飲み少し和む時間が過ぎて真矢が閉じていた口を開けて話し掛けた。

 

「それじゃあ、落ち着いたから…私達こと…あの後どうなったか…知りたいんだよね?」

 

「ああ、俺は真っ先に村から出たからあの後どうなったかは知らないから……出来れば教えて欲しい」

 

真矢は響の気にしている他のクラスメイトや担当教師などが残って居るであろう村について教えて欲しいか響に訪ねて、響は迷わずに縦に頷いて真矢の話に耳をかたむける。

 

そして残った司馬懿は何の話なのか分からず、首をかしげ、そんな司馬懿は他所に真矢は響の気にしていた、響が居なくなった村について語り始めた。

 

「八神さんや、後数人ほどの人が居なくなった次の日、私達の不安は更に駆り立てたよ…すぐにでも村から出て元の場所に帰りたい、そんな空気があの村全体を支配してたんだけど…それはすぐに別の気持ちで打ち消されたの」

 

「別の気持ち?」

 

真矢は話を一度区切り、区切ったのを見計らって響は真矢達が感じた別の気持ちとは一体と疑問に思い問いかけるとすぐに真矢は口を開けてその答えを話した。

 

「…村から5㎞ほど離れた荒野で…八神さんと同時期に出ていった一人が身ぐるみを全てはがされて死体で発見させたの」

 

あの騒動から一夜明けてすぐに既にクラスから犠牲者が出ていた。

 

その悲報に響にとっても大きく動揺すると同時にいまになっては確かにと納得する表情を見せた。

 

武器も持たず奇妙な服装に物を持っているのだ……盗賊達にとってはいい鴨なだけだ。

 

(今思えば良く襲われなかったな……)

 

と心の中で響は自分が置かしていた無茶を改めて実感して、襲われなかったなことに運があったと思う。

 

「それからしばらくはみんな村の外の世界に恐怖して出ることはなかった…」

 

(しばらく…ね…津島さんが言うとおりならまだ村の方には今でもかなりの人数が残っているんだろうな…一度味わった未曾有の恐怖ってのはそう簡単に克服はできないはずだし)

 

恐怖から村から出なかったと真矢はあの時の光景を思い浮かべているのか体が震えていて重々しい声でこの世界に来て始めのことを説明して、それから響も予測して今でも村にはクラスの人達が残っているのだろうと心の中で推測をした。

 

「それからしばらくだね……村で生活していたんだけど…村の中だけじゃいつか飢え死ぬかもしれないから…私、こうやって村から出て出稼ぎで働いてるわけだよ」

 

長々と話すのは嫌なのか後のことは簡潔に纏めて、真矢がこの地にいる経緯を話しその経緯に納得する響だが一つ真矢の言葉から語られていないことがあったため響はその疑問について訪ねた。

 

「津島さん、そういえば妹さんはどうしたんですか?」

 

津島真矢には双子の妹が居る。

 

しかも同じクラスであの現象に巻きこまれ響達と同じ状況に陥っているはずなのだが姉である真矢は何一つ妹の話をしなかった。

 

「……詩穂のこと?ああ、あの子なら……みんなと同じで村にいるわよ」

 

と真矢の妹である詩穂は他のクラスメイトと同じ村にいると告げて、何かあったと思っていた響はほっとしてそっかと言って笑みを浮かべた。

 

「それじゃあ、私、八神さん達のために豪勢に作るから待っててね」

 

響と真矢のクラスの話は終わって真矢はそろそろ夕食を作ろうと立ち上がり響達に楽しみにと言い残して台所へと向かっていった。

 

 

 

それから真矢が持ってきた料理を食した響達

 

料理は回鍋肉や麻婆豆腐などの中国料理だけではなく真矢が食材を駆使して作った日本食や他国料理を振る舞われた。

 

漢の国で他の国の料理を食べることが出来るとは思っても居なかった響は他国料理を堪能した。

 

そして辺りは暗くなり、星の光が村を照らす。

 

食事を終えた響達は一服をしたあとに真矢によってあてふられた、寝室場所に案内され、響は着ていたブレザーを脱いで、案内された家の中のベッドに寝転んでいた。

 

「全く……仲達様は…」

 

と響は少し溜め息を溢しながら主君の名前を呟いた。

 

その呟かれた司馬懿はというと響とは違う家をあてふられたが、始めは響と一緒で構わないと不服な顔付きで述べたが、真矢が男女二人きりだと何するか分からないと司馬懿の懇願を断固拒否されて、その後響の助言もあって渋々と響とは違う建物で寝ることになった。

 

「……まさか、こんなところでクラスの人に会うなんてな」

 

と昼のことを今でも信じられないようすで呟く響の家へと足音が近づいてくる。

 

「ん?誰だ?」

 

足音を聞いた響は少し警戒をして置いてある剣に手を伸ばす…

 

「八神さんまだ起きてるんだね」

 

が家の中に入ってきたのは真矢であり、敵ではなかったことから伸ばしていた手を引っ込める。

 

「津島さんか…何しに来たの?」

 

訪ねてきた理由を聞こうと響は問い掛けると真矢は何も語らずに響の横に座ると体を響の体に寄せた。

 

「ちょっ!?津島さん!?」

 

「……昼のこと本当にありがとうね」

 

いきなりのことに困惑する響に真矢は昼間に起きた山賊に襲われていて助けてくれたことに改めてお礼を述べてきた。

 

「八神さんが助けに来てくれなかったら…私、今頃死んでたと思うから」

 

「あれは偶然通りかかったからな……まさか助けた人がクラスメイトだとは…」

 

「ふふ、そうね」

 

あまりにもの偶然だったことについて話し合う2人だったが…次第に真矢は頬赤くして響を見つめる。

 

「ねえ…このまま私と……しない?」

 

「は?ええ!?」

 

真矢の口から出た言葉があまりにも予想外な言葉であったために響は取り乱して動揺する。

 

「私と八神さん…置かれる状況は同じ…だから同じ境遇者同士…慰めることができる」

 

「…………津島さん」

 

真矢と響は同じ境遇者であるためにこの世界に来てから負った心の傷はないわけではない。

 

真矢はそれを互いで慰めようと麗した瞳で響を見て、響は少し間を開けて真矢の名前を呼んだ。

 

響は体を真矢に向けて、それに応えるように真矢は響の体に密着し頬を赤らめながら顔を響の顔に近付かせていき…………そして……

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五話

どうも~
今回も間に合いましたが……うん近頃ひそかにISの二次小説かいているんですよ……
だから今回結構短いです



「っ!!」

 

「きゃっ!?」

 

唇と唇があと少しで合わさる寸前、響は左手を真矢の背中を通して真矢の左腕を掴み、引っぱると小さい悲鳴をあげる真矢、そんな彼女を気にすることなく、響は真矢の背後を取って動きを封じ込める。

 

「い、痛いよ…離して」

 

少しきつく絞めているからか痛々しい顔をしながら響の手を離して欲しいと懇願する真矢、しかし響は手を緩めることはなく、先程とは違って真剣な口調で語り出した。

 

「気付かなかったと思ったか?…津島さん、ブレザーの袖に仕込んである…暗器用の短剣に」

 

と真矢を睨み付けながら響は指摘すると、目を大きくして動揺する。

 

その動揺した真矢の表情はまさに図星だと言わんばかりの物で響は持っている真矢の左腕のブレザーの袖の中に入れて隠されていた短剣を取り出す。

 

「……いつから……気付いていたの?」

 

と先程とは声を低くして響にいつ頃真矢が響を殺そうと気付いたのか訪ねた。

 

「……合って間もないときだ。津島さんから殺気を感じてな……だからもしかしたらと思ったら案の定だ」

 

と真矢は言葉にしていなかったが、響が感じ取った真矢の殺意に疑問を持ち気付かれずに真矢の真意を探っていたのだ。

 

「なるほどね……初めっから疑ってたんだ」

 

乾いた笑い声を上げながら響と話す真矢

 

「でもね、八神さん…あなた気付かない?」

 

「なにがだ?」

 

何故か笑みを浮かべた真矢は響に問いかけ、響は質問に返事を返す。

 

「連れの女の子、別の家にしたのは…獲物は一人でいいからなんだよ」

 

「っ!!お前まさか!?」

 

真矢は司馬懿のことについて指摘して、指摘された響はまさかと嫌な予感が頭を過ぎった。

 

「ここに来る前にあの家の扉を外側から抑えて枯れ木で火をつけたの!今頃あの子は燃えている家の中にいるだよ」

 

「津島さん!あんたはぁ!!」

 

真矢は響が泊まっていたこの家に来る前に司馬懿を始末するため司馬懿が寝ているはずの家に火を放ち焼死させようとしていることを述べると響も司馬懿に手をかけたことに激怒して真矢の腕をもつ手に力が入る。

 

「あははは、八神さんが悪いんだよ、八神さんが一人じゃなかったから関係ない人まで巻きこんじゃったんだよ」

 

と笑みを浮かべて笑いだす真矢に…

 

「響さんもう演技はいいですよ?」

 

「え?なに!?」

 

家の外から第三者の声が響いて、いきなりの声に困惑する真矢、響は誰なのかわかっているのか少し溜め息を吐き捨てた。

 

「全く…津島さんに火を放たれたって聞いたときは本当に冷やっとしたぞ…仲達様」

 

「ごめんなさい、でも焼き討ちは想定内だったから安心して」

 

そういって家に入ってきたのは先程真矢が笑いながら話していた司馬懿本人であり、本人が現れたことにより真矢は大きく取り乱した。

 

「あ、あなた!?どうして!?どうやってあの家の中から!?」

 

「私、響さんの主君だったのよ?強引にでられるように家の中に木を割るための斧を隠しておいて、それを使って外に出て来たのよ」

 

激しく動揺する真矢に司馬懿は冷静に自分が脱出した方法を説明しその中で司馬懿は響の主君であると述べたことに真矢は疑問に思った。

 

「あなたが八神さんの主君?」

 

真矢は一度も司馬懿の名前を聞いておらず何者なのかも知らなかったために当然の問いかけをして、それに応じて司馬懿も自身の名前を名乗ろうと口を開けた。

 

「名乗っていなかったわね、私の名前は司馬懿、字は仲達、此処から西の長安で軍師をしていたものよ」

 

「司馬懿!?まさか曹魏の丞相の司馬仲達!?」

 

司馬懿が名乗ったことにより響より三国について知っていた真矢は顔を青くする。

 

「曹魏の…丞相?」

 

しかし司馬懿にとってはその話は未来のこと知らなくて当然の情報のために首を傾げた。

 

それを隙と見たのか真矢は咄嗟にしばられていない右腕の袖に隠していたもう1本の短剣を取り出して響目がけて短剣を振るう。

 

振るったことにより響は咄嗟に真矢の縛り付けていた腕を放し体を後ろに後退させて短剣を紙一重で避けるがこれによって解放された真矢は暗殺は失敗と踏み切って家の出口に走り、出口傍に居た司馬懿を思いっきり押して体を突き飛ばすと外へと逃げていった。

 

「なっ!?待て!」

 

逃げたのを見て響も真矢を追いかけそれに遅れて司馬懿も響の後を追いかける。

 

真矢は夜中の山道を必死になって走りだして追跡を逃れようとするが、響の方が運動能力があるために徐々に距離が詰まっていく。

 

そして真矢は何かに気付いて足を止め、その後を追っていた響がようやく真矢に追いついた。

 

真矢が足を止めた理由それは目の前に道がなく崖になっていたから、気付かずに走っていれば崖から転落し命はなかっただろう。

 

「はぁ…はぁ…追いついたぞ津島さん……あんたがなぜこんな暗殺をしているのかなんとなく分かるが……今でも遅くない汚れごとから足を引くんだ」

 

走ったことにより息が乱れ、乱れた息を整えながら、真矢が行ったことについて察しがつきながら悪行から手を引くように進める。

 

「津島さんは生きたいからこんなことしてるんだろ?……みんな死にたくないから……たとえ悪いことでも生きるために仕方なかった……そうだろ?」

 

「……………」

 

「やってしまった過去は変えられないけど明日は帰られるだからクラスの人達が住んでいる村にいる妹さんのためにも……」

 

「何言ってるの?」

 

必死に説得をする響にしばらく黙って聞いていた真矢は意味の分からない言葉をいって響の言葉を遮った。

 

「妹のため?ははは、馬鹿じゃないの?」

 

「津島……さん?」

 

「一つだけ訂正しておいてあげる…妹は村には居ないわ」

 

真矢から言い放たれた真実に目を大きくして驚く響

 

では真矢の妹は何処にと言おうもしたとき真矢は話を続けた。

 

「本当は逃げ出したんだよ妹の詩穂と一緒に……けど、すぐに食糧が尽きて、食べ物を買うお金ない……飢え死ぬかもしれない状況に陥ったわ」

 

「だからね、私は……売ったのよ」

 

「……なにをだ?」

 

本当のことを話し出す真矢に、恐る恐る何をしたのか聞く響

 

そして訪ねてすぐにニヤリと笑みを浮かべながら真矢は話し出した。

 

「なにってわからない?妹をよ」

 

「っ!!」

 

妹を売ったという衝撃的な事実に体に寒気がほとばしる。

 

「運良く近くの街で闇市場があってね、上手く話をして詩穂を売ったのよ……」

 

「あ、あんた……自分が何したか分かってるのか!?この世界に居る……唯一の肉親を……妹を金にしたんだぞ!」

 

至って平然な表情で淡々と話す真矢を見て響は大激怒し真矢に言い放つ。

 

「あんたもそうじゃない……偽善ぶってるくせに」

 

「偽善……だと!?」

 

「あんただってあの司馬仲達に上手く媚びて生きながえてるじゃない。どうやって司馬仲達を手篭めにしたか知らないけど…あ、もしかしてなに?男女の仲だったりするの?やりまくって落としたってところ?」

 

「おまえぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

流石の響も堪忍袋の緒が切れて持っていた剣を抜き放ち構えた。

 

「響さん!」

 

そこに追ってきていた司馬懿も到着する。

 

「あなたも馬鹿だね、こんな男に媚びでも売られてころっと落ちちゃったみたいだけど、この男は生きるために司馬仲達という存在であるあなたを利用しているにすぎないだよ」

 

「そんなことないわ!響さんがそんなことする人じゃないわ!」

 

ここに来た司馬懿に突然真矢が響が司馬懿を利用していると言い放つとすぐに司馬懿はその事を否定する。

 

「なら、本人に聞いてみれば?そうすれば早い話なんだしね」

 

と否定されたことを本人が居合わしているために此処ではっきりとさせておこうと考えて真矢は司馬懿に言い放つ。

 

「響さん、そうですよね?」

 

「…………」

 

聞くとなると怖くはなったものの響にそのことを聞いてみる司馬懿。

 

しかし、その響はなにやら思い当たるのか司馬懿から目をそらし黙り込む。

 

「響さん……そんな……!」

 

黙っているということは肯定であると理解した。

 

「あははっ!やっぱりそうなんだね!」

 

響も生き残るために司馬懿を利用していると肯定していることに真矢は笑いだす中、響もそんな真矢に怒りが抑えられたのか平常心で語りだす。

 

「……あんたよりかは…幾分もマシだ」

 

「な、なんだって……」

 

怒りで我を忘れるわけでもなく、図星で落ち込むこともなく……いって平然、その態度に真矢は動揺して数歩『後退った』。

 

「っ!!!」

 

真矢は動揺したことで自分が置かれていた状況を忘れていた。彼女の背後にあるもの…それは…崖であることを

 

数歩後退ったことで真矢は完全に足を踏み外し体が真っ黒で何も見えない奈落へと落ち始めた。

 

響と司馬懿もそれに気付いて駆け寄ってきたがもう遅かった。

 

すでに真矢の体は地面から離れて崖の下へと落下していった。

 

そして響が見たのは誤って落ちた真矢の絶望した顔と悲鳴という断末魔であった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六話

どうも!

今回で話がかなり一区切りになると思います。

これからもこの小説をよろしくお願いしますね

それでは本編をどうぞ!


「…くそ!」

 

真矢が誤って落ちて死んだことに響は悔しさを滲ませて地面を叩いた。

 

例え響達を騙し自らの妹を生け贄にしていたとしても殺す気はなかった。

 

しかし現実は彼女は転落死してしまい、元凶もここまで追い詰めた響達にあると実感があることから重々しく感じていた。

 

「響さん……一度あの場所へ戻りましょう」

 

悔しがる響を見て心中を案じる司馬懿は此処にいても何も出来ないとふんで真矢の居た集落へと戻ることを推奨する。

 

それを響は無言ではあるが首を縦に振って肯定して集落へと戻った。

 

 

集落に戻った響達であったが、響は割り振られていた寝室のベッドに座り酷く落ち込んでいた。

 

「…………俺は……」

 

(「あんたもそうじゃない……偽善ぶってるくせに」)

 

(「あんただってあの司馬仲達に上手く媚びて生きながえてるじゃない。どうやって司馬仲達を手篭めにしたか知らないけど…あ、もしかしてなに?男女の仲だったりするの?やりまくって落としたってところ?」)

 

「くっ!」

 

響の頭に彼女が残した話しかけられた声が鮮明に思い浮かぶ。

 

(確かに俺は……)

 

偽善なのかも知れないとそう響が思っていると外から司馬懿が心配しているか顔でやってきた。

 

「響さん、少しいいですか?」

 

「仲達様…別にいいよ」

 

と響は了承するとそれじゃあと司馬懿は響の横に座った。

 

「…………」

 

「……………」

 

座ったものの何を言って良いのかわからず無言の間が続き、その無言の中口を開けたのは響だった。

 

「気にならないのか?」

 

「え?」

 

「……津島さんがいっていたあのこと……」

 

と響は司馬懿に死ぬ最後に言い放った言葉が気にならないのかと指摘される。

 

「それは気になるけど……」

 

司馬懿も真矢が言い放った言葉のことを気にしていて、それを確認した響は少しの間を開けてから決心したのか口を開けて語り出した。

 

「…大凡…1年前ぐらいになるかな……とある行事の途中でこの世界にやってきた一つの集団がいました。右も左もわからない彼らは一つの打ち捨てられた村を使い一夜を過ごすことになりましたが、その日の夜とある少年を含めた数名が散り散りにどこかへと去って行ったのです。去って行った少年は元の故郷へと帰るために西へ西へと直向きに歩き続けますが食料もつき、体力も限界を迎えたとき、とあるひとりの少女に出会いました。そんな少女に生きて欲しいと願いられ、少年はこの時代に生き残ることを選びまた歩き始めたのです…その後とある都市から太守からの求人のことを耳した少年は都市へとむかい…そして」

 

「……私にあったのね」

 

誰かの冒険譚を語る響に司馬懿はその冒険の主こそが響であることを悟った。

 

「……まあ…こんな感じだよ…」   

 

何処かすっきりとした顔つきで俯く響に司馬懿はそっと響を抱きしめる。

 

「仲達様?」

 

「嫌だから…」

 

「え?」

 

「響さんは私にとって必要な人だから…何処かへ行ってしまうなんて嫌だからね」

 

抱きしめられたことに戸惑う響に追撃を仕掛けるように司馬懿は寂しそうな声で響を引き留めようとする。

 

「仲達様…どうしてそこまで…っ!?」

 

引き止める司馬懿に響は理由を聞こうとしたところを口を何かに塞がれた。

 

そのなにかとは…

 

「…ん…ちゅっ…」

 

司馬懿の唇である。

 

「ん、んん…ぴちゃっ…んちゃ…」

 

唇と唇が合わさっているためキスをした司馬懿はそのまま強引にも舌を出して響の舌に絡めてくる。

 

そして1分ほど舌を絡めていると司馬懿は響から顔を離して、うっとりとした顔向きで響を見る。

 

「響さん…大好き…」

 

離れたすぐ後に司馬懿は響に告白をして、次々と起きることに響は戸惑いを隠せない。

 

「仲達様…どうして」

 

「……如月……」

 

「え?」

 

「私のことは真名で……如月って呼んで?主君じゃないから呼び捨てで」

 

戸惑う響に次は司馬懿…如月は自身の真名で呼ぶのと呼び捨てでいいと告げる。

 

「……きさ…らぎ」

 

「うん、響さん…ううん、響…私は響がどんな存在でも……響のことが大好き…響以外に好きな人なんて出来ない」

 

戸惑いながら如月のことを呼び捨てで呼ぶ響に如月は響のことを呼び捨てにして愛の告白を次々と述べる。

 

「だからね」

 

とそう言うと立ち上がって自身の服に手をかけて脱いでいき下着だけの姿になる。

 

「き、如月!?」

 

服を脱ぐとは思っていなかったために驚く響に司馬懿は後一押しと響に語りかけた。

 

「あの人が死んだ悲しみを全部ぶつけて……私全部受け止めるから……私を抱いて」

 

その時響の支えていた理性が崩壊した。

 

「っ!」

 

「あっ…!うちゅっ!ちゅぱっ…響ぃ…」

 

自分から司馬懿を求めてベッドに押し倒すと司馬懿の唇を強引にも奪い舌を絡め始める。

 

「…ごめん…如月…俺は…」

 

「ううん、うれしい…来て…響…私を…愛して」

 

その言葉と共に響は司馬懿と……

 

 

 

 

 

 

……

「ん…ん~」

 

ふと眠りから覚める響…

 

昨日何があったか思い出そうと考えると自分の体について気がつく。

 

いま、響は生まれた時と同じく全裸であり、ふと昨日の夜のことを全部思い出し、ベッドの横に顔を向ける。

 

向けるとそこには響と同じで全裸になっている如月がすやすやと幸せそうに眠っている。

 

「そうだ…俺…如月と…」

 

と少し顔を赤くしながらも…ベッドから起き上がるとまずは脱ぎ捨てていた服を着て、ズボンとTシャツにYシャツ来た後ブレザーに手をかけようとしたときふと、如月の寝る姿を見て…考えるとブレザーを全裸の如月に被せる。

 

「……さてと……」

 

 

響は何かを決して家を飛び出し少し荷物を持って行く先は昨日真矢が転落していった崖である。

 

「………」

 

崖の前で昨日のことを思い浮かべた後すぐに頭の思考を切り換えて作業に取りかかる。

 

太い棒を二つを、十時にして交差しているところを縄で縛りそれを地面に突き刺すというかなり斬新な物であった。

 

「やっぱり此処にいた」

 

作業終えた直後響の後ろから声が聞こえてくる。もちろんその声の主は服をしっかりと着てその上に響のブレザーを羽織っている如月であった。

 

「これは?」

 

と響が作っていた物に興味を示し如月はこれが何かと聞くと響はすぐに答えた。

 

「お墓だよ…津島さんの…この国の墓じゃなくて俺の時代の…異国の墓…」

 

響の朧気な記憶から確かキリストがこういう十字架の墓であったかなと掘り起こして簡易で作っていた。

 

「そうなんだ……響…響はこれからどうしたい?」

 

真矢の墓だと納得した如月は次に響にこれからのことを確認してくる。

 

「…………だいぶ大雑把だけど……如月と一緒に過ごしていたい……男として責任は取らないとな」

 

と小恥ずかしく言うと如月も顔を赤くして微笑んだ。

 

「もう……ちゃんと責任取ってくださいね」

 

「…………さてと…そろそろ行こうか…といいたいけど…」

 

此処に長居する用もないと一度集落に戻り荷物を持ってから旅を再開しようと思った響であったが一つあることに気付いて如月のある部分をみる。

 

「歩きずらそうだし…移動するのは明日かな」

 

「う、ううぅ…」

 

歩き方がぎこちないのを見て今日に集落を経つことを取りやめてゆっくりすることを決めた響、そしてそのことを指摘された如月は恥ずかしさから顔を赤らめた。

 

(津島さん……あなたが言うとおり俺は他人を利用しているのかも知れません……けれどこれからは……如月と一緒に生きていこうと思います……利用して生きるのではなく、支え合って生きていくために)

 

そう響は墓を背に真矢に言われたことへの導きだした答えを心の中で述べる。

 

「さて、いこうか」

 

「うん!」

 

決意を新たに響は歩きづらそうにする司馬懿を支えながら集落へと戻っていくのであった。

 

 




オリキャラ紹介

津島真矢
年齢16歳(登場回)
性別女

響と同じく学校行事中に転移してきたクラスの一人
明るく優しそうな性格であり双子の姉妹ということで余り覚えていなかった響でさえ再会しても覚えていた。

響とは違い村に残留していたがある日、妹の詩穂と共に村から出てしまい、食料などが付きようとしたとき妹の詩穂を闇市場で奴隷として売りさばいた。
その後性格は歪んでしまい、ハニートラップで男を誘惑し油断した所を殺害するという所為の暗殺者になっていた。

そして偶然にも響と再会して、響を暗殺しようとするも響と如月に看破され失敗、逃走するも追い詰められて、誤って崖から転落し死亡した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七話

どうも~

今回から新章?突入です

色々と物事が動き出すと思いますのでこれからもよろしくお願いしますね


漢王朝……

 

現代でいう中国……そして1700年以上も前に栄えていた漢という国…

 

栄えていた漢は今や見る影もないほどに衰退していた。

 

国は荒れ、貧困な民は野垂れ死に…高官や山賊も至るところで我が身大事に悪行を跋扈している。

 

そんな国で…とある一団が首都洛陽に向かっていた。

 

馬で乗っている荷物を運び、その道中を話で談笑しているのは洛陽に荷物を運んでいる行商人の一団。

 

「いや~本当にあなた様に護衛を頼んで正解でした」

 

馬車に乗っている商人はこれまでの道中で危険なことを考え用心棒を雇って警護していた。

 

「いいえ、俺自身も洛陽には戻らなければならない理由があったので」

 

と用心棒もとある理由で洛陽に向かいたかったと柔やかな顔付きで告げる。

 

「洛陽に行くなんて、なにかあるのか?」

 

「妻が…洛陽にいるので」

 

洛陽に向かう理由が何かと気になった商人が用心棒にたずねると、用心棒は小恥ずかしく感じながらも妻がいることを告げると納得した顔をして用心棒をみた。

 

「若いのにすげえな…あんた」

 

と用心棒を賞賛する商人であった。

 

行商人を警護して無事に洛陽にへと辿り着くことに成功した一団は洛陽に入り門の潜った先で荷物の確認をし始める中用心棒と一人の商人は少し離れた場所で対面していた。

 

「本当にありがとうございますこれは用心の報酬です」

 

と商人は用心棒に感謝の気持ちと言ってお金が入った袋を用心棒に手渡す。

 

「ありがとうございます。あなた方の今後の無事を祈っています」

 

と用心棒も行商人達の行く末に幸運があることを願いそう告げるとその場を後にした。

 

洛陽から好かし離れた郊外に小さな村が存在した

 

貧困とも充実とも言えない環境のその村の一角の家に一人の少女が柔やかに食事の支度をしていた。

 

「~~♪」

 

支度をしているのが楽しいのか鼻歌を歌いながらも調理をする少女

 

そんな彼女の家に一人の人物…先程洛陽に来た用心棒がやってくる。

 

用心棒が来たことに気がついて調理をする手を止める少女は用心棒がいる方向に顔を振り向けて用心棒の顔を見るやいなや、満面の笑みで用心棒に抱きついた。

 

「お帰り、響」

 

「ただいま…如月」

 

少女…如月は用心棒…響が帰ってきたことに喜び、抱きついた後にごくごく自然に互いの唇をあわせてキスをした。

 

舌を絡めたあと口を離す二人、互いに見つめ合って、他所から見れば間違いなくバカップルと言っても過言ではなかった。

 

「響は座ってて、もうすぐ料理も出来るから」

 

「わかった、一週間ぶりの如月の料理楽しみだな」

 

「うん、腕によりをかけるわ」

 

と力瘤をみせるその姿は何とも可愛らしく、如月は帰ってきた響のことを思い先程より上機嫌に調理を再会した。

 

それから1時間もしないうちに如月特製の料理が完成しその料理が机の上にのせられる。

 

「はい、召し上がれ」

 

「いただきます」

 

と響は手を合わせたあと如月の料理を口に入れて何回も噛んだ後胃の中に飲み込む。

 

「どう?」

 

「うん、いつも通り美味しいよ」

 

味の感想が気になった如月は響に訪ねるとすぐに響は笑みを浮かべて美味しいた絶賛する。

 

それをみて如月はそっかと美味しそうに食べる響を見て笑みを零し自身も食べ始めるのであった。

 

響と如月……ふたりが洛陽のはずれの村に住んでいるのか…それは半年前のことであった。

 

地位や名声を全て捨ててまで響と歩むことを決めた如月は当初の予定通り洛陽へと辿り着いていた。

 

しかし漢の首都の洛陽は見る限りではふたりがいた長安ほど栄えているとは思えない光景が広がっていて、首都に長居する気にはなれなかった。

 

しかし闇雲に大陸を渡るのも疲れるだけと…そう思った二人は洛陽の外れの村に住み着くことを決めたのだ。

 

村の村長は二人を歓迎して向かい入れ、それから二人の共同生活が始まった。

 

まず家を手に入れた二人は金を稼ぐ、響が洛陽を、中心に用心棒としてお金を稼ぎ、元々司馬防のもとにいたふたりだったためにお金については未だに余裕もあり響の稼ぎもあって生活に困ることはなかった。

 

その上、ただ村でじっとしているのも、性に合わない如月も孫子を彼女なりに注釈した兵法書を作り、時々洛陽に出かけて売って、生活の足しにしていた。

 

二人の努力の結果、お金には困ることもなく半年間も苦もなく生活していたのだ。

 

「……ねえ、響」

 

「ん?なに?如月」

 

食事も食べ終わり家で寛ぐ響に如月はふと耳にしたことを思い出して響に話しかけてきた。

 

「実は今都で妙な噂が流れているの」

 

「変な噂?」

 

「うん、天の御遣いっていう噂……何でも光り輝く衣纏った御遣いは天の国から流星に乗って現れその人は世界を平和にするって噂」

 

今、都で噂になっているという話を響に聞かせると少し考えた後、くだらないと言わんばかりに溜め息を吐いた。

 

「はぁ…そんな、噂が本当なら今頃大陸中が平和だよ、差し詰めほら吹きの詐欺師といったところか…」

 

大凡の予想をつけて話す響に如月は納得いってないのか、如月が思っていることを話しだした。

 

「確かにそう思うけどね、天の御遣いって響のことじゃないかって私は思うの」

 

「俺が?天の?」

 

如月から言われたことは予想外なことであり、如月を見て唖然とする響、そんな彼を見て如月は話を続ける。

 

「だって響はこの時代より未来から来たんでしょ?だったら未来の世界が天の国と仮定すれば…」

 

「……確かにそういったことも言い当てられるけど……俺はそんな大層な人物じゃないよ……今を必死に生き抜いてる……他と変わらないただの人間さ」

 

如月の告げた仮定を聞いて、少しは納得をする響であったがすぐに自分が御遣いであることを否定し他の人間と大差変わらないと断言した。

 

「……そうね」

 

既に長く響と過ごしているために響のことを知っている如月は彼らしいとクスリと笑みを浮かべその後、響に近寄り体を響へと寄り添う。

 

「響……ねえ今夜は……」

 

「…………したいのか?」

 

「うん……もう一週間よ……響がいない間寂しかったのよ……だから……今日は安全日だから」

 

「……わかったよ」

 

そういって二人は唇を合わせて濃厚なキスをして夫婦の営みは深夜まで続いた。

 

翌日……

 

早朝に響は都に依頼が無いか探しに行き、残った如月は自らの才を磨くために学問書を読んでいた。

 

「多分、響は依頼もそう簡単に入ってこないだろうし……今夜も一緒よね」

 

学問書を集中して読んでおらず、如月の頭の中は響のことでいっぱいで浮かれていた。

 

「昨晩は安全日だったけど今度は危険日で響として…受精したいなぁ~子供は男の子かしら、女の子かしら……どっちでも可愛いのは間違いないし……」

 

と響との今後のことを妄想していると外から慌ただしい足音が聞こえてきて、大慌ての響が帰ってきた。

 

「き、如月!!」

 

「え?響、そんなに慌ててどうしたの!?」

 

声に焦りが見える響に如月も突然帰ってきたことに動揺して驚きつつもその理由を訪ねた。

 

「ついさっき……次の依頼が決まったんだ」

 

「え!?もう次のお仕事決まったの!?」

 

昨日帰ってきたばかりだというのにもう次の仕事が決まったことに驚きをする如月

 

しかしそう告げた響本人はあまりいい顔をしておらず何かあるのかと如月は首を傾げてまた訪ねた。

 

「でも依頼と響の態度と何が関係するの?」

 

「次の依頼も物資の護送なんだけど……場所が……その……」

 

「もしかして……成都とかかなり離れた場所なの?」

 

護送依頼を受けたことを話す響であるが行く場所に何かあるのかと、思い如月も遠くの場所なのか指摘したが響は首を横に振って否定した。

 

「いや、違うんだ……護送先は………陳留なんだ」

 

「……え?ええええぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

依頼先が陳留だと明かした響、それを聞いた如月も大きい声で驚きの声を上げた。

 

半年という時間を平凡な生活を過ごしていた響と如月、しかしそれをぶち壊すことになるとは……この時の二人には想像もできないことであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八話

陳留……

 

漢の国の中原に位置する都市の一つ

 

治安等も中々良好であり住みやすい土地ではあるだろう。

 

しかしそんな陳留に向かうことになった響の顔は全くもって優れていなかった。

 

それはなぜか?それは陳留の太守に問題があったためである。

 

陳留の太守……かの魏の土台をつくることになる曹孟徳が納める地であったためである。

 

その理由は言わずも知れた……響がまだ長安にいた頃…司馬懿…如月と共に下野したきっかけになった…否、利用した人物である。

 

そのような人物…もしくは親しい間柄のものに響が見つかればどうなるか…それは間違いなく命を失うことになるだろう。

 

故に響はどうするか否かを考えていた。

 

いかなければ、命の危機もなく安泰であろうが仕事としてはそのような勝手ないいわけが通るはずがない…間違いなく信用を失うであろう

 

考えても結論は出てこず、如月は明日に依頼した行商人の長と会合があることを響から聞くと、とりあえずあってからどうするか決めようと響に助言すると響は頷き、明日に合う行商人の長のことに不安になりながらも今日一日が過ぎていった。

 

 

そして翌日、約束されている場所…茶屋に辿り着いた響……そして如月

 

「如月……別に来なくても……」

 

「響が危ないかもしれないのよ黙ってるわけないじゃない」

 

と心配で付いてきた如月は響そう告げると既に長いつきあいになっている響はもう何を言おうと動かないと判断し一緒に立ち会わせることにして茶屋の入口で待っていると一際目立つ格好の男性が響達に近寄ってくる

 

「あのすいません、もしかして…今回の物資輸送の用心棒さんでございましょうか」

 

「…ああ、間違いありませんよ…今回依頼を引き受けました響…っ!?」

 

響は近寄ってきた男性に声を掛けられるとそれに応じて話し始めたのだがその男性を見て言葉を詰まられた。

 

男性の容姿はこの漢の国では珍しい紺色のズボンに白のシャツ、その上ネクタイをしっかりと締めてシャツの上に漢の国でもよく見る布服を羽織っている。

 

かなり目立つその容姿に響は驚いたわけではなくズボン、シャツそしてネクタイと見覚えのある服を着ていることに驚いており、恐る恐るだが響は訪ねてみた。

 

「あの、お一つお聞きしたいんですが……あなたのお名前は……」

 

「ん?そういえば名乗っておりませんでしたね、私この漢の国で商いをしております芥炎隊の海藤陸と申します」

 

と懐から上質な竹で出来ている名刺?らしき物を手渡され響は受け取ってその書かれている文字を見ると何が書いてあるのかさっぱりな汚い字で書かれていた。

 

「それでは早速依頼の方の話を「はい、少しストップ」……なんでしょうか?……ってあれ?ストップって……」

 

汚い字を見ていた響に陸は依頼の話を持ち出してきたが、響がそれを遮って外来語を出すと陸もそれに反応した。

 

「えっと……海藤……さんでいいんだよな……俺が着てる服……海藤さんなら見覚えのあると思うんだけど」

 

「その服装……おお!まさかクラスメイトか!」

 

響は自身の着こんでいる制服を見せるとそれに反応して陸は響のことを同級生だと理解して驚いた顔をする。

 

「まさか、洛陽に同級生がおるとは思ってなかったわ……ほんで……名前もしっかりと名乗ってもらいたいな」

 

「八神響だ」

 

まさか、洛陽にて出会うことになるとは思ってもいなかった陸は再会したことの笑みを浮かべながらも再度、響の名前を訪ね、響はすぐに答えを返した。

 

「八神…なるほどな!つまり八神さんは夜天の…ごふぅ!」

 

「どこぞの黒狸じゃねえよ」

 

八神繋がりでアニメのキャラのことを出した陸を見て響は咄嗟の判断で拳を振り落として最後まで言わせなかった。

 

「そんならあれか!新世界の神か、若しくは選ばれし子供…」

 

「だから!デスノーでもデジモンでもねえから!」

 

「????」

 

拳で黙らせたというのに再びボケを噛ます陸にツッコミを入れる響、そして如月はなにをいっているのか分からず、完全に蚊帳の外になっていた。

 

「それなら…ああそうや!歌って戦う…」

 

「うん、なんとなく言いたいことはわかった…だけどそろそろ止めようか…話が完全に反れてる」

 

まだボケる陸を見て響は溜め息を付き呆れながらこの話を止めて本題に戻ることになった。

 

「ああ、そうやったな!それで依頼の件なんやけど……簡単に言うと私らの芥炎隊の輸送の護衛を頼みたいんや」

 

漸く話に戻り、クラスメイトだということもあって先程より馴れ馴れしく話し始める。

 

「一応聞くけど輸送する物資ってのはなんなんだ?ものによってはこの依頼引き受けないぞ」

 

概要を少し聞かされて考えた響はまず前提で物騒な物なら依頼は断ると断言する。

 

これは以前の真矢の一件からの警戒心から来るもので同じクラスメイトであっても早々に信じないことに決めていたのだ。

 

「まあ色々とあるけど陳留にいく理由は米を買うことなんや」

 

「米……ですか?確か今年の陳留は豊作だと聞いてるから…それが理由?」

 

主な目的が米を買いに行くことだと打ち明ける陸に各国のそういった情報を知っていた如月が言葉をかえした。

 

「米を買ったら次は凶作の地域に向かって買った米を購入額より高く売る…俗に言う米転がしやな」

 

「なんとなく、やろうとしてることはわかった……」

 

陸は適切に分かるように響達に説明すると響達もわかったように頷き、また考えるように俯く。

 

(まあ、悪意はないのはさっきのやり取りでなんとなく分かるけど後の問題は陳留か)

 

先程のやり取りの中で真矢のように陸には悪意がないことを見抜く響は直視する問題を曹操に向けて考える。

 

(陳留といっても、都市に行くわけではないし、それに何より俺の顔を知ってるのはあの時来た2人のみ…そこまでの危険性はないと思うけど……)

 

行くか行かないか、どちらにするか頭の中で考えて3分ほど意を決した顔で響は陸に向かって話した。

 

「依頼引き受けるよ……出発は何時になるんだ?」

 

「おお!それはありがたいわ!予定だと明日の早朝にこの町を出るつもりで陳留に付くのは五日後やな」

 

陸の依頼を受託し何時向かうのか聞く響にすぐに陸は明日の朝に出ることと陳留への到着予想を告げた。

 

 

そして他の段取りもとんとん拍子で話し合い翌日の朝、予定通り洛陽の門前にやって来た響…そして如月

 

そこで見たものは陸が言っていた芥炎隊の所有している物なのか八台の馬車に十台の馬に繋げられている荷台が並び立っていた。

 

その馬車や荷台に荷物を乗せていく芥炎隊と思われる人達も50人以上いて、かなりの大規模な物のために2人は唖然とした。

 

「なに、この規模は…」

 

「馬車や荷台をこんなにそろえるなんて…あの人見かけによらず。凄い人なのね」

 

率直に驚く響に如月は陸の第一印象から来ていたイメージとは思えない規模だったために陸のことを賞賛する。

 

「にしてもだ…如月本当に付いてくるのか?」

 

「当たり前よ、陳留にいくんだから…響が心配なの、だから今回は私も連れて行って」

 

陸の商業団体から視線を如月に向けて心配な顔付きで訪ねる響

 

曹操があれだけ勧誘していた如月が曹操の領地に行くということはかなり危険が伴うために響にとっては共にいくことはおすすめしていなかった。

 

しかし如月もまた響が1人いくことに心配だったために一緒について行くと断言し、その言葉を撤回するつもりもない態度を示し、諦めて響は溜め息を付いた。

 

「おお!八神、もう来てくれたか!もうすぐ出発やさかい…護衛のほうよろしく頼むで」

 

そこに陸も来て現状況を響達に知らせにきて響はわかったと頷いた。

 

「さて、俺は護衛だからこのまま馬に乗って護衛するし如月は馬車に乗せてもらえ」

 

「うん、わかった…それじゃあまたあとで」

 

響は如月にそういってから連れてきた馴染みのある馬に跨がり乗馬し、如月も芥炎隊の乗る馬車に乗り込むと陸が大きな声で叫んだ。

 

「それじゃあ!出発!!」

 

その声とともに馬車と荷台も動き出し響も陸達と歩調を合わせて馬を歩かせた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九話

洛陽で響達が受けた海藤陸の芥炎隊共に曹操が収める領地陳留へと向かう一同。

 

予定では五日で目的地へと到着するこの護送は出発してから五日目を迎えていて現段階では何も不測の事態は起きていなかった。

 

「……なあ海藤……」

 

「ん?なんや?響……後俺のことは陸でええで」

 

山賊は出てこず響は警戒心を緩めており、話し相手と隣の馬車にいる陸に声を掛ける。

 

「今更だが気にしていたことなんだけど…陸ってどうしてこんなに馬や馬車なんかの運搬用具をここまで揃えられたんだ?」

 

陸の芥炎隊の充実した輸送団を見てしみじみと思っていた響。

 

これを揃えるには相当の一般の商人では到底不可能なことは見ただけで理解していた。

 

だからこそ……その理由を響は陸に聞きたかったのだ。

 

「ああ、これな……いやあ……あれはもう半年前になるかな~」

 

と思い出を頭の中から掘り出しているのか陸は顔を空にむけて語り出した。

 

「まだ商いをして4ヶ月ほどやった俺は華北の河間中所におったんや。そこで前に偶然見つけた何の勝ちもない金色のただの大きな石を買っていった人が居ってな……その人がそれを買うために物凄うのたくさんの金貨で購入して……この金貨を使ってこの通り運搬用具や人を雇うことが出来るようになったんや」

 

「…………」

 

一通りの話を聞いていた響であったがいくら何でもと唖然としていた。

 

「あの……海藤さん…もしかしてその人って袁紹さんという名前のかたじゃなかった?」

 

「袁紹………おお!そうやそうや確かにそんな名前やったで!なんや知り合いなんか!」

 

「袁紹ってたしか」

 

如月は恐る恐るその人物は袁紹ではないかと確認すると陸は頭を使ってその人物の名前を思い出し肯定と頷いた。

 

それを聞いていた響も如月が昔教えてくれた袁紹のことを思い出す。

 

如月曰く名族の威光を振り回す凡愚

 

つまり陸から買った物をただの金色の石だとは気付きもせずに大金をはたいたのだ…その時、響は如月が言っていた凡愚の意味を理解し袁紹のもとへ仕官しなかったことを間違いではなかったとほっとした。

 

「おっ!そんなこんな、しとったら…陳留が見えてきたで!」

 

陸は前方に指を指し響も前方に顔を向けるとまだ少し距離があるのだが遠くに城塞が見えてくる。

 

「あれが……陳留か…」

 

意味深にそう呟く響…あそこに曹操がいるとなると…そういった顔になるのも無理はなかった。

 

都市から15㎞程離れた小さな村そこに一時的ではあるが停止した芥炎隊は小休憩を取る中、陸と響、如月は対面するように立っていた。

 

「いやあ~ほんま助かったわ…それで報酬の方なんやけど……ほんま、そんなんで良いんか?」

 

とここまで護衛して付いてきていた響にお礼を述べる陸、しかし陸は響に報酬として渡したもので良いのかと少し不服そうな顔で訪ねた。

 

「別に構わないよ……今はそっちのほうがいいし何より…使わなければいざって時に使えるしな」

 

と響は不服そうな陸を説得するように話し合い、何とか納得してくれた。

 

「ほんなら、俺らはここで……また生きてどっかで会おうな!」

 

陸はまたの再会を期待しつつ、芥炎隊を引き連れ陳留の都市へと向かっていくのであった。

 

「さてと、如月……依頼は完了したから…少し村を見て回ってから洛陽に戻るか」

 

陸達を見送った後、響はこのまま帰路につくのもいかなる物かと思い、少し村を散策した後に陳留から離れることを提案し少しばかりならきづかれないだろうと如月も縦に頷いた。

 

しかし、陳留からは離れた小さい村…それといって観光するような場所などない。

 

村の中にあった茶屋で一息つこうと店内に入り響と如月は持っている路銀で茶と団子を注文する。

 

「さてと、少し休んだら…どうしようか」

 

「そうね…少し曹孟徳がどのような政事をしているか興味があるから…少し見て回るのも一興かもね」

 

「いいのか?」

 

団子などを待つ中、これからどうするかの方針を決める響は如月の少し見て回ることを聞くと大丈夫なのかと少し心配した顔で訪ねた。

 

 

「うん、少し見てみたかったから」

 

そういって首を縦に振るい。幾分か待っていると注文した団子がやって来てそれを二人で食べていると鐘が鳴り響く音が聞こえてくる。

 

平穏な村に飢えた賊が迫り来る。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。