二度目の召喚はクラスごと~初代勇者の防衛戦~ (クラリオン)
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短編・設定・用語集
 用語集


作中に出てくる単語のうち、オリジナル設定が絡む単語を乗せておきます。


[勇者]…異世界(地球)から呼び出される人々の中で<勇者>の称号を持つ者。年代は10代から30代ほど。ほとんどはそれ以外に職業を示す称号を持つが、<勇者>のみを持つ者が<魔王>を倒す役目を担う。

 

 

[魔王]…人族から見た、魔族の王。世襲は有り得るが絶対ではない。魔王が死なない限り、次代魔王が選定されることはない。

 

 

[聖剣]…<勇者>の魂に結ばれた剣。勇者の意思で亜空間のような所に収納できる。基本は一本の両手剣。

 

 

[防衛者]…召喚者のうち、称号<勇者>を持たない者の一人。無属性の固有魔法<防衛魔法>の使い手。対魔王戦には参加しない事が多い。レベル1の状態でありながら魔王を殺す事が出来る専用の反撃スキルを所有する。

 

 

[支援者]…召喚者のうち、称号<勇者>を持たない者の一人。<治癒魔法><回復魔法><再生魔法>や<増幅魔法(ブースト)>など<戦闘支援魔法>をその属性に関わらず行使可能なほか、固有魔法<支援魔法>を持つ。ただし攻撃系の魔法を一切発動できない。

 

 

[魔法]…多くの属性が存在する。多くの生物が持つ魔力によって発動。分別法が多く、固有魔法、非固有魔法や、その属性によっても分けられる。

 

 

[属性]…基本の火、水、風、光、闇の他、その上位互換の炎、氷、気、聖、魔のほかに、地属性や雷属性、時空間属性や無属性魔法も存在する。

 

 

[竜]…フィンランディに存在する生命体の一種。寿命は個体差があるが、およそ500年。固有の竜魔法や、竜言語などを持つが、互いに干渉することは少ない。

 

 

[竜種]…竜の中でも600年以上生きている稀有な存在。人族の言語を解する。現在竜種として認識されているのは始祖竜及びその直系の子、合計六体のみ。

 

 

[始祖竜]…最初の竜。世界のどこかにいるが、目撃されたことは少なく、また世界各地で目撃されているので、場所は不明。

 

 

[防衛魔法]…称号<防衛者>を持つ者のみが行使できる固有の無属性魔法。"防御"ではなく"防衛"であり、受け身ではあるが攻撃魔法(カウンター)も多く存在する。派生として<迎撃魔法><報復魔法>が存在する。

 

 

[魔族]…外見は角がある以外は人と変わらない。ただし光、聖属性魔法が使えない。一方で闇、魔属性魔法を得意とする。しかし人族でも魔族と同じ適正を持つ者もおり、明確に区別は出来ない。

 

 

[魔物]…普通の生物と異なり、生物種ごとの固有魔法を持つ。その危険度などによってランク付けされる。一番低いのはゴブリン等で、Fランク。希に外的要因によって大暴走(スタンピード)を起こし、人族、魔族の都市村落は大きな被害を受ける。

 

 

[回復魔法]…文字通りステータスのHP値を回復させる魔法。ただし傷や部位欠損、病気は治せない。

 

[治癒魔法]…病気や外傷を完全に治癒できる魔法。ただしHP値は回復しない。

 

[再生魔法]…部位欠損を伴う外傷や、土地を再生できる。先天性の欠損は治療不可。HP値は回復しない。

 

 

 




作品の進行にしたがって増やしていきます。


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短編  異世界でのクリスマス

十日ぶりの更新です。本編ももうすぐ更新できると思います。

今日はクリスマスなので、クリスマス短編を書いてみました。なお読まなくても特に問題ありません。

暇つぶし感覚で書いたので、その程度で読んでいただければ幸いです。



それではどうぞ!


真夜中。暗闇の中、人の身長より背の高い草原の中、エンジンをアイドリング状態にしてある歩兵戦闘車の上に寝転んで、星空を眺める。一応近くにテントがあるのだが、俺はどうせ一人なので構わんだろ、と外にいる。

 

 

 

 

 

「何やってんのそんなとこで」

 

「うおう?!……何だ、さくらか。脅かすなよ」

 

「……気配察知で気づいてるかと」

 

「戦闘中じゃないし無理無理。普段は<魔力探知>に<周辺警戒>だけだっての」

 

「ふうん……お湯まだある?」

 

「さっきココア飲んだし多分」

 

「じゃあ私もココア貰おうかな」

 

 

 

周辺警戒(レーダーマップ)>も<魔力探知>も対象範囲を最大にしているので、近場のしかも味方の動きなんてほとんど見えない。今も装甲車の中に入っていったが、さくらを示す青い点は、ほとんど動いていないように見える。

 

 

「あ」

 

 

と、そこである事に気づいた。

 

 

 

「どうかした?」

 

「いや、そういえば今日はクリスマスだなと思って」

 

 

 

 

そう、今日はこの世界、というか元の世界でもだが、クリスマスに当たる日だ。地理的な要因もあって、今は日本では冬である事をすっかり忘れていた。

 

 

 

 

「今日って言うか……もうそろそろ日付変わるけど」

 

「あらま……今からでも七面鳥狩りに行くか?」

 

「真夜中にいるわけないでしょうが……」

 

「何の話?あ、ココアだ、私の分ある?」

 

「ちょっと待ってて」

 

「やった、あ、ケイ、そこ上がっていい?」

 

「落ちるなよ」

 

 

 

理沙(りさ)も起きてきたか。

 

 

 

「今日がクリスマスだねって話」

 

「へ?マジ?……マジだ。うわあ完全に忘れてた」

 

「……まあ、こっちは夏真っ盛りだもんな」

 

 

 

 

 

 

今いるのは、王国からはるばる赤道を越え、南半球である。九月ごろに召喚され、おおよそ三か月。もうそろそろ最南端国家、セラシル帝国の南半分に差し掛かろうというところである。つまるところこちらでは季節的に夏なのだ。クリスマスだと気づけと言う方が無茶だ。

 

 

 

 

 

特に召喚されてからというもの、<勇者>じゃない称号と職業(ただしチート性能)を貰い、首チョンパで殺され(ただし復活)、冒険者になって今代勇者と戦い、戦争に巻き込まれ、殺されそうな少女(転生者)を救い……うん、めっちゃ濃い。

 

 

 

 

 

「そういえばさ」

 

「うん?」

 

「ケイとかさくらが前召喚された時とかって、クリスマスとかやったの?」

 

「おう、二年目以降からな」

 

「一年目は?」

 

「戦闘訓練と実戦でそれどころじゃなかった。前回も八月召喚、初の実戦投入は召喚翌日、初の対魔族戦闘が十月だったからな……」

 

「大分ハードスケジュールね……」

 

「二年目から色々してたけどな」

 

「色々?」

 

「ご馳走作ったりとかな」

 

 

 

理沙にそう答えながら、俺は主観で六年ほど前のクリスマス頃の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっち行ったぞ!」

 

「了解!<連続発動(オートリピート)光弾(ライトバレット)>!」

 

「<誘導付与(エンチャント・ホーミング)>」

 

両手から放たれる光の弾が軌道を変え、逃げようとする鳥に吸い込まれていった。

 

「命中!」

 

しばらくして、茂みの中から、春馬(はるま)さんがその鳥──ジャイアントターキー、名前通り巨大な七面鳥っぽい鳥だ──をつかんで出てきた。

 

「魔法って便利だよな」

 

「さくら、これで材料は全部か?」

 

「ええ、あとは料理するだけよ」

 

「んじゃとっとと帰ろうぜ、寒くてしょうがない」

 

「そうですね、戻りましょう」

 

 

今は冬、下六の月、第三旬四の日。日本風に言うなら十二月二十四日。つまりクリスマス・イブである。

 

 

ここ、異世界フィンランディアに存在する人族国家ヴァルキリア皇国では、()()()元の世界(地球)の太陽暦とほぼ同じ暦が採用されていた。つまり一年は三百六十五日、一日は二十四時間。無論呼び方は異なるが。

 

そして、元の世界でのイベントも、この世界に沿った形に変わった上で存在していた。例えばハロウィンは元の意味、つまり豊穣を祝い、悪霊を追い払う祭として開催されている。

 

 

ではクリスマスは?というと、世界の誕生を祝う日として年末年始と合併した状態で認識されており、イブはその前夜祭の日。まあご馳走食べてはしゃごうぜ、といった感じなので、それは現代日本と大して変わらないはずだ。

 

 

クリスマスのご馳走と言えば何か?と問えば、七面鳥の丸焼きがまず思い浮かぶだろう。

 

 

と言うわけでその材料となる七面鳥(の代わりになる物)を探していたわけだが、先ほど魔法で仕留めた。<聖女>なのになぜか魔攻値が高いさくらの攻撃魔法に、<支援者>陽菜乃さんの<付与魔法>。魔法の無駄遣い感が半端ないが……まあ良いだろ。

 

 

 

大抵の事は出来てしまうさくらと自炊スキルというか調理スキルの高い陽菜乃さんが料理をしている間、俺と春馬さんの男勢は特に何かするわけでもなく、だべっていた。この異世界に召喚されて一年と四か月ほど。夏真っ盛りに召喚され、二度目の冬を迎える頃になって、ようやくこんなふうに何とはなしにだべったりする余裕が出来たわけだ。

 

 

 

召喚されて最初の冬は、クリスマス、正月そんなの知らんと言わんばかりに訓練と実戦に明け暮れていた。人類の命運がかかっているのに、そんな悠長な事をしている暇なんて無かった。まるでゲームの中のような異世界。しかしゲームのような動きをするには体が追い付いていなかった。

 

 

 

当然だ、俺も他の皆も、平和な現代日本の一般的学生。戦争なんて、夏にある平和学習だとか歴史教科くらいでしか知らない。そんな一般人達が<勇者>だとかになるために、ひたすら戦闘と訓練を重ねた。人生で一番きつい期間だったのではなかろうか。

 

 

「あと何回この世界でクリスマスを過ごすんでしょうか」

 

「さあ……もしかしたら十回とかかもね」

 

「……とっとと魔王倒して帰りましょう」

 

「冗談だって、さすがにそこまでかからないだろうさ」

 

「出来たよ」

 

「おお、さすが!」

 

「ほとんど出来てたからね」

 

 

春馬さんが笑えなさそうな冗談を言ったところで、陽菜乃(ひなの)さんが出来上がった料理を持ってきた。七面鳥(ジャイアントターキー)の丸焼きを始めとした、いわゆるクリスマスのご馳走が並ぶ。

 

……ところでこの世界には俺の知る限りマヨネーズは無かったはずなのだがこのポテサラに入っているのは何なのだろうか。まさか自作したのか。というかこの世界ではなじみのない調味料だったり調理法だったり器具だったりがあるはずなのだがどうやってこれらの料理を作ったのか。やはり自作か。

 

 

「ケーキもあるからね」

 

 

 

……とりあえず食べるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その陽菜乃さんて何者なの……?」

 

「俺らと同じ代の<支援者>。残っちゃいないが記録上初代<支援者>で、実質は二代目<支援者>」

 

「……もしかして召喚者って基本天才とか何か優れてる人しかいないの?」

 

「待て俺は凡人だろう」

 

 

少々人付き合いが面倒であるが故に、人との距離をそこそこ大きめにとってしまうが、まあそれは誤差の範囲内で、一般人だろう。うむ、何か俺の代までだと俺だけ逆に浮いてる……いや能力的に沈んでる?

 

 

「ケイは<勇者>じゃん」

 

「そりゃ後付けだろ、それがなきゃ凡人だ」

 

「アンタは精神的にタフすぎるのよ。あの時だって春馬さんと同等以上に冷静だったじゃない」

 

 

 

あえてどの時と言わない辺り、こいつも成長したなと思う、空気を読む能力が。いや、あるいは思い当たることが多すぎて具体的に示せないだけか?

 

 

「……今度は何年かしら」

 

「俺達の時より早く進んでるから五年もかからないと思うけど」

 

 

なんとも言えない。仮に<魔王>を倒したとしても、その続きがあるかもしれない。俺達の時もそうだったが、今回もイレギュラーが多すぎる。<システム>が外部からの干渉でおかしくなったのだとしたら、俺達はそれを排除するために戦わなきゃいけない。

 

世界の全てのからくりを知った時、今代がどう動くか、それが俺達にどんな影響を及ぼすか。

 

面倒事の予感しかしない。

 

 

まあ、なるようになるか。まだ、先の話だ、深く考える必要もあるまい。

 

そう思いながら、一応<周辺警戒>に警報を連動させ、寝ることにした。

 

どうせまた明後日からは向こうに戻って今代の護衛をしなきゃいけないのだ。取り敢えず今は、大戦を終わらせることだけを考えよう。




以上です。陽菜乃さんはきっと転生してたら料理系チートが出来ていたはずなのです。


とまあ冗談はこれくらいに。

感想批評質問等待ってます!



……ってこの話に感想も何もねーよって()


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短編  いつかのハロウィン

ハロウィン当日に挙げようと思っていたら寝落ちして微妙に遅刻してしまいました。まあハロウィン当日の話ではないんですが……


軽く読み流してくださいな。


会話パート

敬語口調→啓斗、さくら
タメ口調→春馬、陽菜乃


 

 

 

 

 

 

「……何アレ」

 

「あー、たぶん日本で言うところのジャック・オー・ランタンってところじゃないかな。素材はアレだけど」

 

「素材っつーかあれどう見ても魔物の骨まんまじゃないですか。ゴブリン系統の頭蓋骨か何かでしょうあれ」

 

「かぼちゃがこの世界にあるかどうかまで気にしたことはなかったけど、まああったとしても食べられる物を細工するよりそのままある物を使えるならってことじゃないかな」

 

「ちょっとだけですが聖属性の魔力を感じます。多分聖水かけている程度ですけど、自然湧きするアンデッドを追い払うには十分ではないでしょうか」

 

「飾りじゃなくて実益狙いですか。道理で墓場周辺と村の周りにあるんですね」

 

「……なんかこう、中途半端な感じだよね。ちぐはぐな感じ」

 

「すべて大真面目というわけでもなく、かといって完全にお祭りとしてはしゃぐわけでもない、ってところですか」

 

「なんかしっくりこないんだよね」

 

「そりゃあ、日本のハロウィンは仮装大会というかコスプレ大会になりつつあるからね。この世界のハロウィンはたぶんハロウィンの原点に近いんだろう」

 

「豊穣を祝い、悪霊を追い出す、でしたか」

 

「そうだね。この世界では悪霊の存在がはっきり可視化されてる分、そっちは実際方面に寄せてあるんだと思う」

 

「トリック・オア・トリートとかあるのでしょうか」

 

「いやぁどうだろうか、仮装は、あれを仮装と言っていいかどうかはともかくあるっぽいけど。いや、あれを見る限りあるのかな。ただ言葉は流石に違うだろうね」

 

「仮装……まあ仮装で良いんじゃないでしょうか。恐ろしいものに擬態する、という点においては忠実ですし」

 

「あと火の事を考えるとサウィンだったか、あそこも混じってるような気がするね」

 

「サウィン?」

 

 

「古代ケルトのドルイドの信仰で一年の始まりにあたる祭りだね。ハロウィンの原点みたいなものかな。かがり火をたいて供物をささげ、夜には村でそれ以外の火をすべて消す。翌朝にその燃えさしを各家庭に渡し、各家庭はそれを使い、かまどに新しく火をつけ、悪い妖精や悪霊が入らないようにする」

 

「曰く、この季節は一年で一度、あの世とこの世がつながる季節だと信じられていたためらしい。尤もこの世界は常時つながっているようなものなんだけど……」

 

 

「えぇ……いやアンデッドを霊魂って言いますか普通」

 

「肉体保持系は正直アレだけどね、死霊系は霊魂ぽくないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリック・オア・トリート! お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」

 

「……いきなりどうしたんですか陽菜乃さん」

 

「二人して小難しい話してたから退屈だなって思って。それで、お菓子はあるの?」

 

「無いですね」

 

「じゃあいたずらだね! ハルのは後で考えるとして、啓斗はどうしようか?」

 

「いや、悩むくらいならしなくても良いじゃないですか」

 

「いやいや、こういうのはちゃんといたずらしないと……さくらちゃんに考えてもらおうかな」

 

「え、私ですか」

 

「うん、だって私はハルの分考えなきゃいけないしね」

 

「……何が良いでしょう?」

 

「適当に軽いので終わらせとけ、面倒だ」

 

「と言われても……あ、そうだ!」

 

 

 

 

何か思いついたようなさくらは、とても『良い』笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……夢か。あの時何させられたんだっけ……あ」

 

 

 

そうだった。あの時は、体を自由にされたのだ。比喩ではなく、まさにその通りに。

 

傀儡人形(マリオネット)>というスキルがある。これは<傀儡術師>しか取得できない職業固有の魔法のような物だ。このスキルを発動中、傀儡と術者を見ると、両者が魔力の糸でつながれていることが見て取れる。

 

さくらがやったのは同じこと。ただ彼女は<傀儡術師>の称号を持っていないため、<魔力操作>による魔力の直接操作で行った。この場合、かけられる側が抵抗すればあっさり断絶してしまうのだが、いたずらという事で抵抗を禁じられていた。

 

まあ本気で嫌だったなら抵抗すれば済む話であり、そうしなかったという事はまあなんだかんだ言いながら楽しんでいたのだろう。なお翌年から春馬ともどもきちんとお菓子を用意する事にしていたが。

 

 

 

「今回はあんなほのぼのとはいかないだろうなあ」

 

 

 

今年のハロウィンはとてもそんなことをする暇はなかった。一日すべてをほぼ移動に費やし、ハロウィンぽい事と言えば、お菓子の交換をしたくらいだろうか。

 

来年もハロウィンぽい事を出来るかどうか微妙だ。今代勇者パーティーに職業・出身国以外のすべてを偽って潜り込み、時には性格すら変えながら『国崎啓』を演じ続けなくてはならない。

 

ハロウィンまでそれが続いたとして、それを完全に楽しむわけにはいかないだろうし、そもそも続くかどうか。続かなかった場合は、おそらく最終決戦の用意をする必要があるから忙しそうだが……。

 

 

 

「いや、さくらならやりそうだな」

 

 

 

否、絶対にやる。今年ですらお菓子交換だけでもと言ってわざわざやったのだから、逃げる必要がないなら多分無理にでも時間を作ってやるだろう。元の世界にいるときもこういうイベント系だけは素を出していたようだったし。

 

 

となると問題は。

 

 

 

「何を作ろう」

 

 

 

時間がある、となれば多分さくらは手作りする。変なところだけ凝ってるのか、はてさて陽菜乃の性格を一部受け継いだのか。

 

となると当然、こちら側も手作りでなくては納得しない気がする。前回召喚後、三回のハロウィンにおいて春馬とともに一応手作りのお菓子を作ってはいる(陽菜乃の言いつけらしい)が、単独ではやった事が無い。

 

 

 

 

「……いいや、来年考えよ」

 

 

 

 

 




以上です!


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特別短編  バレンタイン

間に合った、か
今日まで学校の試験があった上にスランプが重なり更新できずすみませんでした!



最新話というか短編ですがどうぞ!


 

 

 

バレンタインデーとは、恋人達が愛を誓う日、である。婚姻を禁止されたローマ帝国兵士達の結婚を秘密裏に行い、それを罪に問われ処刑された聖ウァレンティヌスにちなんだ祝日であるとされている。

 

まあ色々宗教争い的な異説はあるらしいが詳細は覚えていない。

 

ちなみに現在ではカトリックの正式な祝日ではない、とは春馬さんの言葉。いや本当何で知ってるの。

 

 

 

さて、つまりバレンタインデーとは、どちらかというと宗教色がかなり強い祝日である。何かこの日に実際的なイベントが起こるわけでは無いのだ。

 

よって女神教という宗教が一貫して昔から存在し、イベントがほとんど現実的な物に集約されるこの世界──フィンランディアにはバレンタインデーという祝日は存在しない。

 

まあ、現地人はそんな祝日は知らないよってだけで行事関係は出来るだけ地球に寄せた俺達は、俺達の間だけでやっているのだけど。

 

 

 

「はい、本命チョコ」

 

「毎年ありがとうな、うん本当に」

 

 

 

少し離れたところで形成される桃色空間。別にリア充爆発しろとは言わない、知り合いだし見慣れた光景になりつつあるし。

 

 

 

「砂糖吐きそう」

 

「吐けば? いや待て止めろそんな事で魔法使うんじゃねえ」

 

 

 

 

 

砂糖の代わりにため息を吐いた。

 

 

 

気候や植生、文化が地球に酷似した異世界だが、チョコも存在した。既に甘い嗜好品の形を取っていたが飲み物だった。まあ、材料があって作り方分かってるなら作るよね、固形チョコ。本来なら色々機械使うんだろうが、そこは魔法を使える異世界。魔法で全部解決してしまった。結局何やらされたのか最後まで分からないままだったが気付いたらチョコになっていた。

 

 

 

魔法かよ……魔法だったわ。

 

 

 

手伝わされました。いや毎年の恒例になりつつあるし給料?として義理チョコ貰ったので多分win-winのはずだけど。

 

毎年手伝ってるのに何やってるのかわからないままなんだよな。粉砕までは意識せずに出来るようになったんだけどその後は指示貰わないと出来ないし。というか何で工程知ってるんだろうあの二人。まあ二人そろって雑学ため込んでるので正直何知っててもおかしくない気がするが。

 

 

 

「あ、そうそう」

 

「ん?」

 

「毎度のことながらコレ」

 

 

 

包みが差し出される。

 

 

 

「おう、サンキュ」

 

「お返し期待してるわ」

 

「はいよ」

 

 

 

義理チョコである。一度固形チョコにするまでは一括で俺がやるのだが、その後は個人に分配する。さくらはその分を使って毎年律儀にも俺にも義理チョコをくれる。ありがたい事だ。ちなみに義理チョコ配ってるのは俺と春馬さんだけじゃなくてシュレスタ、ザイドル、王様、宰相、キースにで、友チョコを皇女様に渡しているらしい。まあおそらく後世に伝わる事はないだろう。

 

 

 

しかしお返しか、何にしようかね。去年はマシュマロだった。その前はクッキーだった。今年は何にしようか。春馬さんと要相談だな。

 

 

 

 

 

 

 

会話が途切れた沈黙に耐え切れなくなった。折角なのでもらったチョコを食べることにする。包みを開けると、一口サイズのハート型のチョコが出てきた。義理と分かっていても心が躍るな。

 

 

色はおおよそピンクだが微妙に少しずつ違う。失敗ではなくわざとだろう。魔法使えばこの程度の調整は可能だ。

一つ口の中に放り込む。美味しい。

 

 

 

「どう?」

 

「いつも通り美味い、ありがとう」

 

 

 

いや異世界でしかも女子手作りのチョコレート貰えるとは思わなかった。向こうじゃ親以外からだと小学校以来貰ってなかったからな。

 

 

 

「なら良かった」

 

「……そろそろ桃色終わるかな」

 

「そうね」

 

 

 

再び会話が途切れる。いつだったか春馬さんに言われたことを思い出し、暇なので横目でさくらの様子をうかがう。

 

 

 

……うん、普通に綺麗だし、体形も良いと思う。いわゆる出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでるってヤツだな、うん。結構な美少女です。

 

 

 

……ダメだな、客観的な評価は思い浮かぶがそういう系の気持ちが湧いてこない。春馬さんやっぱ無理です。

 

 

 

諦めて桃色空間の方を見つめた。視線に気づいて早く解除してくれることを願って。

 

別に桃色空間形成自体は構わないのだが場合によってはというかほぼ毎回俺とさくらだけで取り残されるのはものすごく気まずい。

 

結局解除されたのは五分程経ってからだった。

 

 

 

「待たせて悪いな」

 

「そう思うんなら全部……というか一日が終わりかけてからにしてください。はい義理チョコです」

 

「おうありがとう」

 

「お返しよろしくお願いします」

 

「……去年より進化してるなコレ。お返しも考えなきゃな」

 

「はいこれ、啓斗に」

 

「ああ、毎年ありがとうございます。別に全部春馬さんのに使い切っても構わないのに……」

 

「それは啓斗に悪いでしょ」

 

「そうですかねぇ……ありがたくいただきます」

 

「うん、どうぞ」

 

 

 

陽菜乃さんからの義理チョコもゲットしたところでイベント終了。テント等道具を片付け<空間収納>に放り込む。出発の準備は完了。

 

何気に魔族との戦争は続行中なのだ。というか今いる場所は魔族領である。正月からわずか二か月、まさか既に敵地に侵入していようとは。

 

 

 

バリバリ敵地である。油断はしていないが、息抜きは必要だろうという配慮……というか完全にこれ春馬さんの我がままだよな。役割果たしてくれてるし実際良い気分転換にはなるから良いんだけどさ。

 

 

 

 

 

平和から一転戦場へ。そういえばなんだっけ、血のバレンタインとかあったな。俺は異世界版血のバレンタインの下手人になるのだろうか。

 

 

 

 

 

ふとそんな事を思って笑った。連中にはもちろんバレンタインデーなんてそんな概念は存在しない。ただいつも通りの対<勇者>戦闘の一環として記録されておしまいだ。

 

 

 

「行きましょう、可能な限り一か所にはとどまりたくないです」

 

「ああ」

 

 




以上です、短いですが勘弁願います!

試験はほぼ終了したので投稿ペースも元に戻せるはずです。

感想批評などお待ちしております。


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登場人物①

どうもクラリオンです。大学のテストがいよいよ来週からです。つまり今週の週末は更新できません。

どうしよう、と頭を抱えたところでそういえば三月くらいからずっとクラス名簿上げる上げる詐欺してた、と思い至りました。

というわけで本編最新話(第六十二話)時点で出した情報と感想返しで出した情報、それらから類推出来るであろう事をまとめた人物紹介です。本編では全く見てない人も多いので、名前と年齢職業だけな人も多いですが。



 

 

 

主人公・<システム>サイド

 

 

神崎(かんざき) 啓斗(けいと) (国崎(くにさき) (けい))

 

年齢:17

 

職業:<勇者>または<防衛者>

 

 

本作の主人公にして語り手。高校二年生。本編においては<防衛者>の職業を与えられる。中学校までは剣道をやっていたが、高校からは止めている。成績は平均よりまあまあ優秀程度。身体能力的には、体力がそこそこあると言ったところ。人との関係を維持するのが苦手なため、クラスには特別親しい人間は居ないが、人間関係を完全に断ち切っているわけでもない。趣味は読書とゲーム。教室では大抵ゲームをするか音楽を聴くか読書しているかのいずれかである。

 

 

本編時系列の地球時間三年前、異世界時空千年前に一度<勇者>として召喚されている。人族がかなり苦しい状態になってから召喚されたため、召喚直後から戦闘に投入される。数年に渡る戦闘の末に、当時の<魔王>を説得して神に挑むことを決意。<管理者>橘朱梨と二度戦闘を行い、一度敗北するも二度目は引き分けに持ち込む。<始祖竜>の判断により<システム>と会談。そのほぼ全容を知った上で<システム>の必要性を認めた。

 

 

戦闘スタイルは<聖剣>と神剣を用いた双剣術に<無言詠唱>と<賢者>スキルを利用した魔法剣士。ほぼ全ての魔法に対し高適正を持つ。よって各種魔法によって戦闘中に自分に対しての支援・回復も可能なために、大抵は一人で敵陣に斬り込みそのまま戦い続ける事が多い。一番向いているのは遅延戦闘。<支援者>あるいは<聖女>と組んだ場合は魔力が無尽蔵クラスになるか、回復が必要無くなるために魔法攻撃の手数が増し侵攻を阻む壁となる。<防衛者>と組ませると最早完全に鉄壁となり抜きようがない。

少数防衛戦型の<勇者>。

 

 

<勇者>としての<聖剣>は<孤独(ソリチュード)>。よって<孤独の勇者>とも呼ばれる。その固有技能は当人の魔力が続く限り内外からの如何なる干渉も不可能な絶対的防御力を誇る球状障壁を展開する<絶防ノ楯(ソリチュード)>。

 

 

所有神授武具は、<聖鎧>シンファギス、<神剣>孤独(アイソレータ)。<聖鎧>の固有技能は自動発動型で通常攻撃を一定確率で無効化する。ただし不意討ち・遠距離攻撃の場合は確率が大きく下がる。またレベルが高い者やスキルレベルの高い攻撃も確率が大きく下がる。武具としては本来なら下級だが、主人公は通常タイプの鎧より頑丈である事、修理しやすい事を評価している。<神剣>の固有技能は基本的に全て同じ自動発動型で、魔法攻撃を切り裂く、という物。精神魔法・探知系魔法はその性質上切り裂いても無効化は出来ないが、それ以外なら切り裂いて無効化が可能。武具としては破格の性能である。

 

また<孤独>だけではなく<犠牲>の適性を持っており、現在はそれを利用することで<犠牲>を利用している。<再生プログラム>を含めほとんどの機能は発動可能であるが、固有技能は全文詠唱のみでしか発動できない。

 

 

 

 

 

内山(うちやま) さくら

 

年齢:17

 

職業:<聖女>または<支援者>

 

 

本作の主人公その二。高校二年生。本編においては<支援者>の職業を与えられる。

 

成績優秀、運動神経良し、容姿端麗と基本的に非の打ち所がない優等生。クラスメイトに対しては基本敬語で接し、誰にでも優しいが、特別仲の良い人間は居ない。孤立しているわけではないが、大抵の事はこなせるので、敬遠されがち。趣味は読書。

 

 

本編時系列の地球時間三年前、異世界時空千年前に一度<聖女>として召喚されている。人族がかなり苦しい状態になってから召喚されたため、召喚直後から戦闘に投入される。数年に渡る戦闘の末に、当時の<魔王>を説得して神に挑むことを決意。<管理者>橘朱梨と二度戦闘を行い、一度敗北するも二度目は引き分けに持ち込む。<始祖竜>の判断により<システム>と会談。そのほぼ全容を知った上で<システム>の必要性を認めた。

 

 

戦闘スタイルは後衛型魔導師で、大規模スキルを用いる殲滅型。持ち前の性格上、手を出したことは出来る限り極めるタイプの為、特に高適正のある聖・光属性と水属性は攻撃系統のスキルまで全て習得している。<支援者>と組み合わせると、多種多様な属性の高威力広範囲魔法を延々と放ち続ける魔法砲台となる。<勇者>と組み合わせれば<勇者>の厄介さが倍増する上に後ろから援護砲撃が飛んでくる。<防衛者>と組むのはあまり得策とは言えないが、それでもかなり厄介である。

 

 

 

 

セレスティア・リベオール

 

年齢:17

 

職業:<騎士>

 

 

王国貴族リベオール伯爵家の次女。貴族の社会が嫌いであったので、家を出て騎士となった。主人公たちに同行しギガントポイズンスパイダー討伐に参加。主人公達の暗殺を知らされておらず、隊長に歯向かったため殺され戦死として処理された。その成り行きを後で見た主人公達により蘇生された。そのためほぼ強制的に主人公達と共に行動する。

 

 

騎士としての腕前は平均よりやや上程度。魔法も人並みには扱える。

 

 

 

 

レイシア・ウィルティ・リズヴァニア/有馬(ありま) 理沙(りさ)

 

年齢:17

 

職業:<竜巫女>または<管理者>

 

 

リゼヴァルト皇国リズヴァニア伯爵家長女。雷帝竜の末裔最後の生き残りにして竜を祀り仕える竜巫女。本編中において処刑されそうになるも、雷帝竜の魂の残滓の尽力により主人公達に助けられ、主人公達と共に行く道を選ぶ。

 

 

実は元日本人の転生者である。現代日本で病死、<システム>の予期せぬエラーに巻き込まれた形で転生を果たす。入院中の退屈を紛らわすためにゲームにのめり込み、当人達はまだ気付いていないが、ゲーム内で主人公達とも関係が有ったりしている。またゲームとほぼ同じ操作で利用可能な<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>を上手く扱える人材でもあり、今後現代兵器での移動を行う際はほとんど彼女が運転することになるだろう。

 

 

隔世遺伝もしくは先祖返りの体質に加え、職業<竜巫女>の効果により、雷属性魔法・魔導は既にレベル10に達しており、それによる攻撃だけならば主人公達とタメを張れるクラスの火力を誇る。それ以外は年齢相応の能力しか持たない。

 

 

 

 

(たちばな) 朱梨(あかり)

 

年齢:17

 

職業:<管理者>

 

 

主人公達の一世代前の<勇者>。詳細不明。所有<聖剣>と言動から推察するに友達・後輩思いの優しい性格であり、友達の為なら自分の何かを犠牲にするとしても可能な限りの事をしようと出来る人。

 

 

本編においては既に二千年<管理者>を続けている事になる。現在主人公達が動いている目的の一つに「千年前の贖罪」や「先輩を助ける」等がある事、<始祖竜>と元<魔王>の閑話での会話内容から、千年前、主人公達が<送還>された時に何かしらトラブルに巻き込まれていると考えられるが未だ詳細は不明。

 

 

戦闘スタイルは主人公同様の双剣を使う魔法剣士。しかしその練度とレベルが圧倒的であり、千年前は<魔王>含めた主人公達パーティーに対して単独で一勝一分けという結果を残している。

 

 

少数侵攻攻撃型の<勇者>だが、防衛戦にも転用できる、単独戦力としては最強クラスの<勇者>。

 

 

<勇者>としての<聖剣>は<犠牲(サクリファイス)>。よって<犠牲の勇者>とも呼ばれる。その固有技能は、当人の魔力を全て消費し、当人が狙った物を全て切断する事の出来る刃を創り出す<必断ノ剣(サクリファイス)>。

 

所有神授武具は神剣<犠牲(ヴィクティム)>と????。神剣の固有技能は<孤独>と同じ。

 

 

 

 

クラスメイト

男子・前衛組

 

 

 

 

篠原(しのはら) 勇人(ゆうと)

 

年齢:17

 

職業:<勇者>

 

 

この物語の裏の主人公。誰にでも分け隔てなく接し、困っている人が居れば手を差し伸べ助ける、優しく思いやりのある性格。成績も優秀であり、運動神経も高い。サッカー部所属で協調する事を第一とする。そのため学校では割と主人公達に話しかける事もあり、実は数少ない話し相手の一人だったりした。彼のお陰で主人公達が所属するクラスは人間関係の問題がほとんど生じた事が無い。桐崎優菜の彼氏である。

 

 

戦闘スタイルはただの剣士。これは主人公と異なり、<勇者>としての力が多くのクラスメイトに分散しているためである。

 

 

<勇者>としての<聖剣>は<正義(ジャスティス)>。よって<正義の勇者>とも呼ばれる。その固有技能は<????>(詳細不明)。

 

 

所有神授武具は無し。

 

 

 

 

水山(みずやま) 孝広(たかひろ)

 

年齢:16

 

職業:<剣聖>

 

 

やや短絡的なところがあるほか、かなり微妙にではあるが他人を見下す傾向にある。普段は基本そんな性格が出る事はなく、篠原に次いで頼りにされる事が多い。成績は平均的であるが、運動は出来る。部活は剣道部だが、中学校から始めたため継続年数は実は主人公より短い。

 

 

基本戦闘スタイルは両刃剣に時々小楯を用いた片手剣士だが、基本的に全ての刀剣系武器は使用可能である。現状ではそこまで強くなくステータスでゴリ押ししている状態。

 

 

 

 

田中(たなか) 明人(あきひと)

 

年齢:16

 

職業:<槍術師>

 

 

 

 

桑原(くわはら) 政義(まさよし)

 

年齢:17

 

職業<拳闘士>

 

 

 

 

鳴川(なるかわ) 正輝(まさき)

 

年齢:16

 

職業:<暗殺者>

 

 

 

 

皆本(みなもと) 修也(しゅうや)

 

年齢:16

 

職業:<暗殺者>

 

 

<防衛者>と言う職業を得た主人公を馬鹿にしていたが、北方防衛戦で<防衛者>のスキルの有用性を実感し、<防衛者>を見直した。

 

 

 

 

太刀山(たちやま) 裕次郎(ゆうじろう) 

 

年齢:17

 

職業:<騎士>

 

 

 

 

谷塚(たにづか) 幸生(ゆきお)

 

年齢:16

 

職業:<騎士>

 

 

 

 

白井(しらい) 英吾(えいご)

 

年齢:17

 

職業:<探索者>

 

 

召喚当初は他のクラスメイト同様主人公を馬鹿にしていた。神殿地下探索から、<防衛者>のスキルの有用性を痛感し、国崎(=主人公)に対する態度をやや軟化させている。

 

 

 

 

男子・後衛

 

 

 

 

川島(かわしま) 直樹(なおき)

 

年齢:17

 

職業:<魔導師>

 

 

何かと他人を見下しがちな人間。召喚されてからその傾向が強くなった。特に主人公に対しての当たりが強い。魔法を防御されてからは特に主人公を敵視していた。

 

 

 

 

高山(たかやま) 公博(きみひろ)

 

年齢:17

 

職業:<賢者>

 

 

クラスで一番成績が良い。主人公のスキルと努力を正当に評価できていた数少ない人物。ただし自分から言い出す事が出来ずにクラスの雰囲気に合わせていた。主人公から発破をかけられてから、自分から発言する事も増えてきている。

 

 

 

 

佐々木(ささき) (けん)

 

年齢:16

 

職業:<鍛冶>

 

 

 

 

戸谷(とたに) 健一(けんいち)  

 

年齢:17

 

職業:<結界術師>

 

 

 

 

平井(ひらい) 康太(こうた)

 

年齢:17

 

職業:<狩人>

 

 

 

 

 

女子(女子に完全前衛職業は存在しない)

 

 

 

 

桐崎(きりさき) 優菜(ゆな)

 

年齢:17

 

職業:<聖女>

 

 

この物語である意味ヒロイン。性格は本来ややキツめだが、篠原の意を組み、問題を引き起こす事はほとんどない。割と面倒見は良かったりする。召喚されてから独自に内山を訓練や授業にそれとなく誘ったりもしていた。

 

 

内山と異なり、能力としては真っ当な<聖女>。魔法適正は聖属性と水属性、中でも治癒・再生・回復系に高い適正を持つ。

 

 

 

 

前原(まえはら) 輝美(てるみ)

 

年齢:17

 

職業:<賢者>

 

 

 

 

木下(きのした) 葉月(はづき)

 

年齢:16

 

職業:<治癒術師>

 

 

 

 

下原(しもはら) ありさ

 

年齢:16

 

職業:<魔導師>

 

 

 

 

滝原(たきはら) 詩織(しおり)

 

年齢:17

 

職業:<結界術師>

 

 

 

 

工藤(くどう) 莉里(りり)

 

年齢:17

 

職業:<狩人>

 

 

 

 

荒山(あらやま) ひかり

 

年齢:16

 

職業:<回復術師>

 

 

 

 

鹿本(かもと) 佳央梨(かおり)

 

年齢:17

 

職業:<回復術師>

 

 

 

 

石縄(いしなわ) 令奈(れいな)

 

年齢:16

 

職業:<巫女>

 

 

 

 

岩本(いわもと) 莉愛(りあ)

 

年齢:17

 

職業:<死霊術師>

 

 

 

 

東原(とうはら) 寧音(ねね)

 

年齢:17

 

職業:<調教師>

 

 

 

 

加藤(かとう) 充香(みちか)

 

年齢:16

 

職業:<傀儡術師>

 

 

 

 

小野瀬(おのせ) 柑奈(かんな)

 

年齢:17

 

職業:<魔導士>

 

 

 

 

中谷(なかや) しの

 

年齢:17

 

職業:<魔導士>

 

 

   

 




以上、こんな感じです。物語の進行に沿って増えていきます。

もし、ふやしてほしい欄や質問、指摘などございましたら感想の方までお願いいたします。


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序章  召喚
序章  昔から


見てる人、居ますかね?

取り敢えずかなり書き直すことになりました。更新ペースは相変わらずの不定期亀更新ですが、それで良ければお付き合い願います。

今回のお話は、文中の通り、本編の地球時間3年前、異世界時間1000年前の事です。


「俺ってさ、昔からずっと分かんなくて、気にしてたことがあったんだよ」

 

青年は城門の上から、西の夕焼け空を眺めながらそう言った。

 

「気にしてきたこと、ですか?春馬(はるま)さん、それは一体どのような?」

 

 

応じたのは傍らにいた少年、まだ中学生ほどだろうか。白い鎧に身を包み、腰には二振りの剣を提げている。その姿は、そう、まるで<勇者>のようだ。春馬と呼ばれた青年は、視線を夕日から外さぬまま、話を続ける。

 

 

「大抵のRPGゲームってさ、魔王と勇者出てくるじゃん?でさ、勇者は魔王城目指して、長い長い旅に出るわけだ。ゲームの中じゃ数日から数ヵ月程度だけど、実際は年単位かかっててもおかしくはないだろ?実際、あっちにあったそういう系のラノベなんかも転生チートによるが、そこそこ長い旅なわけだ」

 

「ええ、それが何か?」

 

「その間さ、魔王はずっと、魔王城で、勇者待ってて、その代わり四天王みたいなのが中ボスで出てくるわけだ。でそいつらって普通の人間じゃ対処できないわけだ。下手をすれば、成長途上の勇者と互角以上」

 

「ええ、まあ」

 

「そして、一方で勇者は魔王城へ、真っ直ぐ行く訳じゃないんだよ。例えば北から魔族が攻めて来ているのなら、文字通り東奔西走するわけだ。しかも南に行ったりとか、海に出たりとか。だからそんな長い旅なわけだが。ここで疑問が浮かぶんだよな」

 

「疑問ですか?」

 

「なんで魔王とか四天王はさ、勇者がいない間に町とか国を滅ぼさないんだろうなって。あるいは馬鹿正直に、魔王城で待機して、順番に殺られに来るんだろうなって。まあ首都自体は、古代から伝わる機械の結界が云々っていう設定が多いけど、でも他の町は滅ぼしに行けるはずだな。勇者が一時的な拠点にしてるところとか」

 

 

「そう、ですね。言われてみれば確かに……」

 

 

「しかも古代機械とやらも、魔王本人の魔力には耐えきれないレベルでしかない。だから四天王とかが勇者を邪魔してる間に魔王とか他の四天王とかが攻撃を掛ける、初歩的な連携で魔王は勝てる(勇者を倒せる)はずなんだよな。でも実際には魔王はほとんど引きこもりだし、四天王は順番に一人ずつやられに来るだけなんだ。無論、設定だから、とか、仕様だから、とか言われてしまえばそれまでだけど」

 

 

「じゃないと勇者は魔王を倒せないし、人族が滅亡しちゃいますからね」

 

 

「でもさ、こうやって現実に起こってしまう出来事、という体でラノベが書かれているわけだけど、やっぱそういう事について詳しい説明が欲しいわけだ。現実に起きるなら、いつ自分の身に起こるかわからないだろ?」

 

「まあ実際こうやって起きちゃってるわけですが」

 

「だな。ま、でも、そのお陰で、その長年の疑問にも決着を付けられたわけだが」

 

「ああ、なるほど、確かに春馬さんポジの人(防衛者)がいれば、勇者が居ないもしくは成長途上だから、といって攻撃を仕掛けるのは自殺行為ですね」

 

「そうだ。いくらなんでも攻撃したら()()()()()()()()()()()が返ってくるところに攻撃したい奴は居ないだろうしな。つまり、俺のような<防衛者>が居るから、<勇者>は、お前みたいに東奔西走、南にいって船に乗って海へ、とか出来るんだな。感謝しろよ、<勇者>?ははっ」

 

「はい。勿論ですよ<防衛者>。いつも感謝しています。それともこう言った方が良いですか?…貴方の常の献身に深く感謝の念を示します、これからもどうか人類のために戦ってください」

 

「恥ずかしいからやめてくださいお願いします」

 

「ええ~この感謝を受け取ってくれないんですか?あ、男だからですかね、じゃあさくらか第一王女殿下に言ってもらいましょうか?」

 

「いや正面から感謝されるのはなれてないから正直恥ずかしい」

 

「そこは褒められたら『俺だって本気出せばやれるし…』とか顔を背けながらですね……」

 

「何の台詞から引っ張ろうとしたのかは予想できるけど、出来るだけにやりたくねーよ!21歳の男に何させる気だお前は!そして俺は引きこもり系では断じてない!一般的な男子大学生だ!」

 

 

 

 

「随分楽しそうですね、春馬さん、啓斗」

 

「ああ、さくらか。どうしたんだ?」

 

「何か楽しそうな声が聞こえたから来てみたの」

 

「俺は弄られてただけなんだが……」

 

「春馬さんはそういうキャラですから仕方ありませんね」

 

「俺の扱い酷くない?!<聖女>なんだからもう少し優しさを見せて?!」

 

「春馬さんには陽菜乃さんがいるでしょう?」

 

「……それはそうだけどさあ……」

 

「だったら良いじゃないですか?それともこういうときの恒例展開としてハーレムをお望みで?」

 

「そんなわけないだろ!いや、男としては興味はあるが、夢は夢で留めておくのが賢明だ、そうだろ<勇者>?」

 

「そうですね。陽菜乃さんも春馬さんの後ろで阿修羅を引き連れていますし」

 

いつから居たんだ?!と悲鳴を上げる青年を、少年と少女は笑いながら見ていた。

 

 

 

 

 

 

これは、異世界から召喚された勇者が、魔王を()()()することに成功する、5年前の事。この一週間後に、魔王軍幹部による襲撃を人族で初めて、しかしあっさり退けたとある街での一幕。

 

 

出演者は、<防衛者>国崎(くにさき)春馬(はるま)、<勇者>神崎(かんざき)啓斗(けいと)、<聖女>内山(うちやま)さくら、<支援者>中岡(なかおか)陽菜乃(ひなの)

 

 

後に初代勇者パーティーと呼ばれることとなる異世界(日本)人であった。

 

彼らは無事に魔王の()()()に成功。地球の召喚された時間と場所に戻された。

 

 

 

 

 

それから時は流れ、異世界で1000年、地球で3年経った時。二つの世界は再び祈りによって繋がれ、<勇者>が召喚される。そして、初代勇者パーティーのうち二人も、それに巻き込まれることになるのだった。




前回とは異なり、<防衛者>構想の一端を入れてみました。


前作を読んだ方がいらっしゃるかどうか分かりませんが、基本的にこの後のストーリーは、前作に準じつつも、離れていくことになります。

感想、批判などお待ちしております。


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第一話  二度目の召喚は

続きです。ようやく出てきます主人公。


『迎撃しろ!』

 

『弾が足りねえんだよ!て言うかとっとと封じろよ!』

 

『無茶言うな!防衛特化艦に攻撃を求めるんじゃない!』

 

『私が前に出る。攻撃を集中させるから集中防御を。その間に他が攻撃』

 

「りょーかいっと」

 

直ぐ様端末を操作して、旗艦の周囲に弾幕を張る。防衛特化の本領発揮、してる間に、味方が敵旗艦に集中砲火。撃沈に追い込み、勝利表示が出た。

 

「今日も勝利。さすが司令だな」

 

ミッションに出るか迷ったが、時間的にそろそろ不味いので、ゲーム機の電源を落とし、鞄に放り込む。朝のSHRまではまだ30分ほどあるが、この時間帯から、教室の人口が増える。と、この時間帯の一番乗り常連の女子が入ってくる。自分の勘の良さに感謝しつつ、イヤホンを耳にねじ込んで机に突っ伏した。

 

基本的にクラス内ではボッチの俺にとってはこれが一番楽なのだ。もう一人ボッチ……というか同じポジショニングしてるのは居るが、女子だしベクトルが違うので、基本的に現実では関わることはない。俺は一人が好きだからこんなポジショニングなわけだが、彼女はどうなんだろうか。どちらかと言うと不可抗力だろう。何と言うか、近付きがたい?

 

本人の物腰は親しみやすいタイプで通してるのになぁ。

 

多分大抵の男子はその外見だけで惚れるのではなかろうか、それで内面も良い(ように装っている)のだから尚更だ。

 

俺?あいつの内面を知ってるからな、逆に近付きがたいわ。

 

30分後、鐘の音と共に、先生が慌ただしく入ってきた。いつものことでは有るのだが、もう少し早く来ようとか思わないのだろうか?まあ中学校の一時期まで遅刻魔だった俺が言えることではないかもしれないが。

 

 

そんなボッチかつ元遅刻魔な俺の名前は、神崎(かんざき)啓斗(けいと)。元勇者だ。

 

 

……お願いだからそんな痛い人を見る目で見ないで下さいお願いします。いやマジで勇者だったんだ。今は元だけど。

 

中学二年生だったある日、俺は帰宅するとき、とある交差点で、同じところで信号待ちしていた人達と共に、足元に突然出た模様(後に魔方陣と判明)から出た光に包まれて、気付いたらなんか祭壇っぽいところに居たんだよ。

 

一緒に召喚されたのは、当時俺と同じクラスで、今も同じクラスの内山さくら、大学生だった国崎春馬さん、高田陽菜乃さんの3名だった。それぞれ順に<聖女><防衛者><支援者>だ。そして俺は<勇者>だったというわけ。んでまあ色々あって、魔王の"無力化"には成功して、日本へ送還された。大変だったよはっはっは。

 

え?聞き慣れない役目が混じってる?気にするな。多分すぐわかる。

 

 

で何で今更俺がそんな話をしているのかというと、

 

「おい!なんだこれ?!」

 

「え?なに?光ってる?!」

 

今現在俺達──俺を含む二年四組のメンバーの足元全体を覆うほどの大きさの魔方陣が発生して、光っている、つまり発動直前であるからだ。見覚えがあるなんてもんじゃない。大きさを考えなければ、3年前に見た召喚術式そのままだ。

 

咄嗟に内山の方を見る。

 

内山も驚いたような、だが一方で納得あるいは安堵したような表情で此方を見て頷いた。俺も頷き返す。

 

同時に魔方陣が輝きを増した。発動だ。そう思った直後、俺の意識は遠のいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……知らない天井だ」

 

取り敢えず目覚めたところでお馴染みの台詞を呟いてみる。

 

「呑気なものね<勇者>」

 

「言葉遣いが崩れてるぞ。驚かすな<聖女>」

 

声をかけてきたのは内山さくら。さっき述べた元<聖女>。そう、元だが聖女だ。俺としては正直それに異議を唱えたい。外見はその通りだが、性格が悪すぎる。誰だこいつを聖女にしたの。趣味悪いにも程がある。

 

「今すごく失礼な事を言われた気がしたけど気のせいかしら?」

 

「気のせいだろう。それより<聖女>」

 

「今私<聖女>じゃないわよ?貴方も<勇者>じゃないし」

 

は?

 

 

慌ててステータスを確認する。

 

「<ステータスオープン>」

 

 

―――――――――――――

 

ステータス

 

 

神崎 啓斗  Lv.1

種族 異世界人

職業 防衛者or勇者

年齢 17

性別 男

HP  100/100

MP   100/100

物防 300

魔防 300

物攻 5

魔攻 5

称号 <勇者><竜王の友><封印せし者><超越者><再び喚ばれし者><舞い戻りし勇者><防衛者>

―――――――――――――

 

 

「は?」

 




以上です。さて、次回もまだ説明になります。


批評感想、お待ちしております。


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第二話  ステータスが何かおかしい

こういう系のまあテンプレというやつですかね、勇者ステータスの御開帳です。


色々説明することが多すぎて、説明文になってます。めんどくさい、と思った方はスルーしても構いません。他の召喚系と同じような舞台・説明です、多分…


さて、ステータスを開いた。つまりやはりここは前も召喚された異世界なのだろう。

 

色々と突っ込みたい物が多すぎる。まあ、<防衛者>になったことも、レベルが1になってることも頷ける。問題なのはまず職業欄だ。<防衛者>はまだ良いが、そのあとの"or"ってなんだよそれ?!

 

 

 

普通、この世界では、職業の決定は二通りに別れる。自分が生まれながらに称号を持ち、職業欄も埋まっている場合。異世界からの召喚者もこれに当てはまる。この場合、その職業につくと、恐ろしいまでに有能な人材となる。が、転職はできない。

 

ただしそんな人はかなり少なく、大多数はもう片方、つまり自分で選択した職業に就く。この場合、転職も可能だが、ステータスの職業欄の表示も変わる。

 

 

さて、俺が何が言いたいかというと、職業欄に表示される職業は本来1つだけの筈なのだ。決してorとか有るわけがない。なのにこれはどういう事なのだろうか。

 

「やっぱり貴方もなのね、私も2つなのよ。<聖女>と<支援者>の」

 

「これはどういう事だ?」

 

「多分二回目の召喚だからだと思うわ。ステータスは上書きされたけど、前のステータスも残っているんだと思う。だからもしかしたら──<ステータスオープン>」

 

内山はステータスを開くと、自分の職業欄をタップした。

 

<職業を変更しますか?   YES NO>

 

は?呆気にとられたが、内山は迷わずYESをタップ。

 

<職業を<支援者>から<聖女>へ変更します>

 

すると、ステータスが1度消え、また現れた。

 

 

──────────────

 

ステータス

 

内山 さくら  Lv.201

種族  異世界人

職業  聖女

年齢  17

性別  女

HP    20100/20100

MP    40200/40200

物防  12000

魔防  12000

物攻  7500

魔攻  7500

称号  <聖女><竜王の友><癒す者><超越者><再び喚ばれし者><支援者>

 

─────────────

 

 

3年前、最後に見たステータスと変わらない。相変わらずのチートではないでしょうか?いや多分俺もそうだけど。うん?じゃあもしかしてさ…

 

「<ステータスオープン>」

 

そのまま職業欄をタップ。そのままYESをタップ。

 

─────────────

 

ステータス

 

神崎 啓斗  Lv.213

種族 異世界人

職業 勇者

年齢 17

性別 男

HP  42600/42600

MP   42600/42600

物防 24000

魔防 24000

物攻 35000

魔攻 35000

称号 <勇者><竜王の友><封印せし者><超越者><再び喚ばれし者><舞い戻りし勇者><防衛者>

 

─────────────

 

 

「うっわあ……」

 

エグい。いや自分のステータスだけど気持ち悪い。各項目がオール5桁とか。

 

「相変わらず貴方のステータスって化け物よね。流石は<勇者>ね」

 

「今は<防衛者>だよ」

 

 

でも良く考えれば<防衛者>もおかしくはないだろうか?

 

攻撃力の100倍以上の防御。

そしておそらく()()使()()()()()()()()()()が、一部の対象(魔王と上級魔族)に対してのみ発動する<反撃魔法>という名の即死級カウンター。

春馬さんが一回だけ漏らした<報復魔法>という発動条件すら不明の戦略級超大規模攻撃魔法。字面からして、おそらく何らかの危害を加えられた際に発動するとしかわからないが、それでは<反撃魔法>と同義であるから、どこかで差別化が図られているはずだ。

 

 

とはいえ、今行使できない魔法を論じても無意味か。春馬さんはレベルが100超えないと<報復魔法>は使えないと言っていたし。今使えるのは<防衛魔法>と特殊な<反撃魔法>。

共に<防衛者>しか行使できない。

 

攻撃力はゴミというか、一般人以下。つまり直殴りでの火力は期待できない。防御力はまあ防御特化だけあってかなり高い。俺が勇者レベル1だった時の十倍ほどか。となるとレベル上げするには一回攻撃して壁役に徹するのが最善。その際に<防衛魔法>を併用すれば、そっちのほうもレベル上げができる。

 

一応説明しておくと、この世界では魔法は使うたびにレベルが上がる。発動している時間にもよる、とは春馬さんの言葉である。本人のレベルは、魔物に攻撃してその魔物が死んだら経験値が入る。それなのに<防衛者>の素の攻撃力はゴミ。

 

 

「なるほど、確かに防衛特化だな」

 

「今更でしょ。ほらそろそろ他の奴ら起こすわよ。貴方は篠原を起こしなさい。私は桐崎を起こすから」

 

篠原(しのはら)勇人(ゆうと)。うちのクラスの恐らく男子のトップカースト。

桐崎(きりさき)優菜(ゆな)は篠原の彼女で、女子のトップカースト。

なぜわざわざ相容れないような人物を起こすのかというと、それが後々楽だからだ。トップカースト二人なら、クラスメイトもうまく纏めてくれるだろうし、こちらが聞きたいことも聞いてくれるだろうという魂胆である。

もう一ついえばおそらくこいつらが今回の<勇者>と<聖女>だろうから、それを確認したいというのもある。とは言え後者は<鑑定>スキルをかけるか、自分でステータスを見てもらうしかないけど。

 

「おい、篠原、起きろ。何か変なところに居るぞ」

 

「……う……ああ?……どこだ、ここは……?」

 

「俺も分からない。目覚めたらここに居た。先生は居ないが、二年四組の生徒全員が居るようだ。扉らしきものはあるが、開かなかった。恐らく外側から鍵が掛けられているか、そもそも扉じゃないか、だ。とりあえず他の奴等を起こす、手伝ってくれ」

 

「あ、ああ、そうだな。ここが何処かは気になるが、それは後回しか。………おい、桑原、起きろ。良く分からないところに閉じ込められてる」

 

説明しよう!異世界だよ篠原君。




以上です。<報復魔法>は後々"現代兵器"タグと繋がります。頭の片隅に留めておいて下さい。


この作品で一番最初にできた設定は<報復魔法>でした。そこから<反撃魔法>、<防衛魔法>と発展し、最終的に<防衛者>構想が完成いたしました。

批評感想等受け付けております。


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第三話  二度目の異世界と伝承

ようやく異世界の人がいらっしゃいます。





とりあえず、最初に篠原と桐崎(ツートップ)を起こしたことで、クラスメイトを全員スムーズに起こすことができた。さて前回はここでお姫さん…王女殿下がおいでなさったわけだが、今回は誰が来るのだろうか?

 

というか正直誰か来てもらってこの状況を説明してほしい。なぜまた必要はないはずなのに召喚されたのか。今はいつなのか、あの世界のどこなのか。

 

 

 

そしてこれが一番重要なことだが、帰れるのか。

 

 

 

 

これは可能な限り伏せておきたいが、帰ろうと思えばいつでも帰れる。送還用魔方陣を生み出したのは、俺たち初代勇者パーティー、当時俺たちを召喚した皇女殿下、そして()()なのだから。

 

 

 

だから魔方陣を描けと言われたら描けるし、<勇者>と<聖女>としての魔力を消費すれば今すぐ全員を送還することもできる。だが面倒だし、何より時間と労力を消費しすぎてしまう方法なので、最終手段として取っておきたい。

 

 

そんなことを考えていると、重い音と共に、俺が扉ではないかと目算を付けていた壁がゆっくりと開いていった。

 

「ようこそいらっしゃいました、勇者様方」

 

出てきたのは、この世の者とは思えぬほど美しい少女。俺、あるいは内山からすれば、ここが異世界であると実感させる顔立ちの少女だった。

 

「私は、シルファイド王国第一王女、シルフィアーナ・シルファイドといいます」

 

 

第一王女殿下だったか。しかしシルファイドとは聞き覚えのない国名だな。前回召喚された時は、確か…ヴァルキリア皇国、だったか。人族領でも、魔族領との国境たる大山脈を含む広い領域を領土とする大国だった。他にも小国がいくつかあったが、シルファイド王国なるものは聞いたことがない。つまり前回召喚されてからかなり時間が経過しているとみていい。

 

 

「勇者様方は現在、大変混乱しておいでかと存じます。まずは急に召喚したことについて謝罪をさせてください。そして、どうか私たちに助力願いたいのです」

 

いや、なにをしろというのだろう。

 

「僕たちにできることならなんでも協力します!」

 

おいそこの勇者(暫定)、相談も質問もなしに即決するな。

 

「ちょっと待ってください、篠原君、決めるのは何をしなくてはならないのか聞いてからでいいのでは?」

 

そこへストップをかけたのは高山(たかやま)公博(きみひろ)。クラスで多分一番頭の回転が速い。ナイス高山!

 

「それもそうか…王女様、なぜ俺たちはここに呼ばれたんだ?」

 

「我々の世界には、私たち人族だけではなく、エルフや獣人のような亜人族、そして魔族が存在します。そのなかで魔族は、他の種族と異なり、魔物と呼ばれる普通の生物とは桁違いの強さの怪物を使役し、遥か昔から私たち人族を迫害してきました」

 

ああ、そうだな。結局勘違いだったわけだが。

 

「古代、我々人族の先祖は、それら魔族の王、魔王を打倒し、人族亜人族に平穏な生活をもたらそうと考え、異世界から勇者様を召喚しました。それは千年前、超大国ヴァルキリア皇国が存在した時代のことです。そのため不幸にも名前は失伝しております」

 

ここで出てくるか。まあ間違いなくその勇者は俺だな。というか1000年経ったのかよ……知り合いとか生きてるやつ……居るわ()。

 

「勇者様は同じく異世界から召喚された三人のお仲間と、当時その国で最強の魔道士と騎士と共に旅立ち、魔王を倒し、平和をもたらしました。そして異世界へ、元いた世界へと戻られたのです」

 

うんうn……うん?

 

「しかし、それから九百年ほどたった時、魔王が再び現れたのです」

 

あれ?

 

「私たち人族には、魔王に対抗できる者がおらず、徐々に魔族の侵攻を許しつつあります。奴らをなるべく早く食い止め、人族と亜人族の平和を取り戻さなくてはならないのです。そこで私たちは古代、先代魔王の時代から伝わる伝承をもとに、<勇者召喚の儀>を行いました、そして召喚されたのが、今ここにいらっしゃる皆様なのです」

 

 

……まあ大義名分は立ててあるか。前提条件から間違えているが、な。前提が誤っている以上、そこから導き出される論理全ても誤りであると考えるべきだろう。本当に魔族が侵攻しているのか。嫌な予感しかしない。

 

 

「そこで皆様にお願いがあります。この世界の人族には、魔王を倒すだけの力はありません。ですが、異世界から来た皆様、<勇者>様には、魔王を倒す力が生まれる可能性があるのです」

 

 

「話を途中で遮ってすまないが、ちょっと聞いてもいいだろうか?」

 

ちょっと気になった俺は手を挙げた。

 

「え、ええ。何でございましょう?」

 

「<勇者>は、確実に魔王を倒せるのではないのか?いや、その、王女殿下が『可能性がある』って仰ったのが、『倒せない可能性がある』のように聞こえたものですから」

 

途中で騎士がにらんできたのがわかったから敬語に切り替えた。いくら<防衛者>の鉄壁防御と<勇者>のHPがあるとはいえ、面倒ごとは避けたい。

 

 

 

「別に敬語でなくともかまいません、私たちはそちら側にお願いをしなくてはならない立場なのですから」

 

「……そうですね、語弊がありました。というのも、今の貴方方には、魔王に正面切って戦える力も、打倒しうる力もありませんから。協力していただける場合、我が国で訓練を受けていただき、いくつかの祠を廻っていただく必要がございます。それを途中で放棄しなければ、一年もたたずに、魔王に対抗できる力を得られるのです。今はまだ、放棄しない確証が無いのであのように申し上げました」

 

 

「わかりました、では、その修行中に、魔族軍あるいは魔王が攻めてきた場合どうするのですか?」

 

 

この時、俺はまだある程度楽観視していた、期待を持っていた。<勇者>の伝承があるなら、<防衛者>についても同様の伝承があるはずだと。

 

 

 

 

だが、それはどうやら希望的観測でしかなかったようだ。

 

 

 

 

「王都には大結界がありますし、破られた、もしくは王都の外の場合は、我が国の騎士団が命をかけてでもお守りいたします」




何と言うことでしょう!<防衛者>のぼの字も出てきません!



……いや、まあ既定路線ですけど。

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第四話  嘘

さて、私事により遅くなりました、4話目です


……護るのは<防衛者>の役目のはずだが、<防衛者>どこいった?

 

 

 

 

いや、うん。今までの話も突っ込みどころ満載の内容ではあった。俺たちが体験したことと違いすぎる。

 

 

 

魔王というのは、先代魔王が死ななければ次代が誕生することはない。だから()()()()()()()()()以上、新たな魔王が誕生するわけがない。それとも称号が変わっているから無効判定なのか。

 

 

 

そもそも魔族には魔物を使役する技術は存在しない。いや、しなかった、と言うべきか。今の魔族がどうなのかわからないからな。あれからすでに1000年経っている。その間に開発した可能性もないとは言い切れない。

 

 

 

が、そんなことはどうでもいい。それより、今は<防衛者>の伝承が無いことが重要である。<防衛者>は魔王に対する矛たる<勇者>の対、楯となる存在であり、その任務の重要性だけでいえば、<勇者>をも凌駕する。つまり、他の召喚者、つまり<勇者>パーティーのメンバーと異なり、<勇者>と同格とみなされ、<勇者>とは別物、という扱いになる。そのため、<防衛者>そしてそのペア、というか補佐役である<支援者>は<勇者>の称号を持たない。

 

ここで俺が何を言いたいのかというと、<防衛者>のことが伝わってない以上、ただ二人、<勇者>の称号を持たない俺と内山が、“落ちこぼれ”のように見なされる可能性があるということだ。しかも、都合のいいことに、俺達からすれば、都合の悪いことに、共に後衛職かつ特殊職なので、ステータスはかなり低い。見るからに”落ちこぼれ”。こういうときのテンプレと化しつつある疎外展開が透けて見える。

 

 

さて、どうしたものか。王女様が嘘をついているようには思えないし、対詐術用のスキルが反応していないことからも、王女様がこれを嘘とは思っていないことは事実。ならば国王もしくは国の上層全てが魔王の再臨をでっちあげているか、盛大な勘違いか。偽魔王という線もあるが、これも後者に属するだろう。後者であった場合は良いが、前者であった場合は面倒ごとに巻き込まれることになりそうだ。

 

 

できればそうなる前にこの国からおさらばしておきたい。王女様や<勇者>達には悪いが、策略に巻き込まれるのはごめんだ。

 

 

 

というか早急に確かめたい事があるし、観光もしてみたい。一度目は修行と戦争でそれどころじゃなかったからな。力を振るえる魔王がいない以上、<防衛者>と<支援者>は、置物に近い。もともと動きが全部受動的な職業であるからだ。

 

 

適当なあたりで

 

「やはり<勇者>ではない俺達は足手まといにしかなりません」

 

 

とかなんとか上手く言ってトンズラし

よう。うん、そうしよう。生憎とこちらの世界の情勢に興味ないし、こちらに害がなければ別にどの国が滅ぼうとかまわない。部外者が口を出すわけにもいかないし、な。

 

「ここから先は宰相、お願いします」

 

「は。私がシルファイド王国宰相のゼルビアス・ゴルトニアと申します。以後、お見知りおきを。それでは勇者様、早速ですが、ステータスプレートの確認を行っていただけるでしょうか?」

 

来たか……勇者特定イベント……

 

「こちらの石に触れていただくと、あちらの板にステータスが表記されます。ご自分でも確認なさる方法は後程お教えします」

 

 

さて、ここで<勇者>ステータスが出るのか、あるいは表に出している<防衛者>ステータスが出てくるのか。向こうのほうで何やら歓声が上がった。ああ、篠原か、やはり<勇者>だったか。

 

桐崎の時も歓声が上がった。これは俺も見た。想定通り、<聖女>だった。だろうな。

 

さて、気合を入れなおして俺の番。

 

─────────────

 

ステータス

神崎 啓斗  Lv.1

種族 異世界人

職業 防衛者

年齢 17

性別 男

HP  100/100

MP   100/100

物防 300

魔防 300

物攻 20

魔攻 20

称号 <防衛者>

 

─────────────

 

 

「…………」

 

ほぼ全員が沈黙した。まあそりゃそうだ。今までのみたいに<勇者>称号が無いし、攻撃力はゴミ、防御は恐らく群を抜いているが、だからどうした、という感じだ。

 

沈黙の中、内山が向かう。外見としては<聖女>だが、既に桐崎が<聖女>となっている。ならば内山は?

 

─────────────

 

ステータス

内山 さくら  Lv.1

種族  異世界人

職業  支援者

年齢  17

性別  女

HP    100/100

MP    200/200

物防  12

魔防  12

物攻  75

魔攻  75

称号  <支援者>

 

─────────────

 

 

「…………」

 

再びの沈黙。<勇者>なし二人目の登場。俺だけなら如何様にも侮蔑し、嘲笑できただろうが、内山相手にそれができるやつはそう居ない。

 

とはいえ、<勇者>持ちと、訳が分からない<勇者>なしでは、扱いも大きく違っているはずだ。その度合いによっては、この国を出るのを早める必要があるかもしれない。

 

 

 

 

 

王女様に嘘つかせてまで、この国は一体<勇者>に何を望んでいる?




なんで対魔特効カウンターを使わないだろう、と言ったのか。

対象が居ないからです。



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第五話  模擬戦

なんかクラスメイトがつっかかってきます。


 召喚されてから既に一週間。今日も今日とて俺は<防衛魔法>の自己鍛錬に励んでいる。ステータスを調べた後、俺たちは一人一部屋ずつ、王宮の部屋を割り当てられていた。

 

翌日から<勇者>に対する、この世界の地理と歴史についての学習が始まったらしい。らしい、というのも俺は、呼ばれなかったのだ。では今日まで何をしていたか。ダイジェストでお送りします。

 

 

初日、こちらの世界での身体の特殊性の復活と、<勇者>のころの魔法やスキルが残っていること、以上の二点の確認。内山も同様。

 

二日目、<防衛魔法>でできることを確認。まだ<絶対障壁(バリア)>と<周辺警戒(レーダーマップ)>しかできないと判明。レベル1だったが、両方とも使ってみた。<絶対障壁>は、自分の周りに青いドームができた。MP消費は10秒に1だが、耐えきれる攻撃には限度があるようだ。<周辺警戒>は、視界の右上に、ゲームでよくあるマップが出てくるものだった。周囲の生命体はすべて黒点で表示される。春馬さんの話の通りならば、レベルアップすれば、敵味方の判別もできるらしい。

 

なおこの日から内山が情報収集すると言って、授業に出るようになった。なんでも<勇者>様方(笑)からお誘いを受けたんだとか。

 

三日目以降は特にやることもなかったから、たまたま遭遇した騎士団長に話をして、訓練場の一角を貸してもらった。そこでひたすら<周辺警戒>を作動させ続けた。その甲斐あってか、四日目にはレベル2になった。探知範囲と、敵味方識別が可能になった。流石異世界召喚、かなりのチートだ。

 

斯くして一週間、俺は鍛錬、というか練習に、内山は情報収集に精を出してきた。なお、連絡はすべて<勇者>時代の通信石で行っている。魔道具マジ便利。

 

話によると、俺たちが、魔王を倒した後、送還されて二百年後にヴァルキリア皇国は解体し、いくつかの王国に分かれたらしい。その一つがここ、シルファイド王国なのだとか。

 

まあ、滅んだわけではなく、皇国が州制に移行して、そのまま各州が国として独立したという自然な形での解体だったらしいので良しとしよう。

 

 

 

 

 

そして、問題なのは、今回俺たちが召喚された全体的な経緯だ。

 

 

 

その前に、その前段階から洗い直してみる。

 

その前提知識となるのが地理である。

 

どうも人族・亜人族と魔族の居住範囲は、俺達が召喚された時と大して変わっていないようだ。基本的にこの世界は、二つの大陸から成り立っており、東にある方が人族・亜人族領、西にある方が魔族領となっている。この二つの大陸は、間に海峡を挟むものの、繋がっているところが複数ある。ただし、その海峡側には両大陸共に巨大な山脈があるため、行き来するなら、南端もしくは北端のぎりぎりを、陸に沿って海路をいくのが安全かつ最速なんだとか。ちなみに<勇者>の時は、北から行った記憶がある。

 

変更点としては、その繋がっている部分のうち、最南端の接続を抑えていた山脈が消滅して、道ができている。ちなみにほかの接続点へはやはり山脈が邪魔して行けないらしい。結果として、魔族領の南端部が人族領となったようだ。

 

山脈が消えたのは自然現象か?しかし出来た通り道からほかの場所を遮るように新たな山脈が形成されている……まさか大規模土魔法か?だとすれば誰が?いや、そもそもなぜだ?

 

 

………わからないことが多すぎるな、詳しい奴に聞く必要がある。一番手っ取り早いのは…アイツか。今は…魔族領の南端の山の中にいるか、また面倒な…いや、合理的ではあるか、流石、伊達に魔族の頭を張ってきたわけではない。

 

 

 

まあそれは置いておく。内山の話ではその西大陸南端部が侵攻されつつある、らしい。今はまだ確かめようがないな。

 

 

 

 

 

こうして、<周辺警戒>を発動しつつ、王都からどこへ向かうかの算段を立てていると、視界の端に青い点と黄色い点が写った。青は味方、つまり内山。ならば黄色は恐らくクラスの連中。どうやら今日から戦闘訓練を始めるらしい。ご苦労なことだ。だからこっちに来るな。

 

「やあ神崎君、何をしているんだい?」

 

「ん?おお、篠原かどうしたこんなところで?授業中じゃないのか?」

 

「ああ、今日から戦闘訓練をするらしくてな、戦えるか魔法使える人はここで訓練らしい」

 

「おうそりゃあご苦労なこった。んで…ああ、俺が何してるかって?お前らと同じこと。訓練だよ。騎士団長から、『魔法とスキルは使えば使うほどレベルが上がる』と聞いてな。部屋で何もしないよりはましだろう?<勇者>じゃないとはいえ、一応戦えるようになっておくのにこしたことはないだろ?」

 

「確かにな、自主練か。すごいな…でも、何かしてるようには見えないんだけど」

 

「<防衛魔法>っていうのはどうも特殊な魔法らしくてな、使えるスキルが今のところ人に見える物じゃないんだよ、自分の脳内に周辺のデータをインプットする的な」

 

「ああ、確かに守るなら周辺情報は必須だな。ああ、すまない、邪魔してしまった」

 

「いや、気にするな、逆に良い訓練になったよ。お前も頑張ってくれ」

 

人としゃべりながら<周辺警戒>使うって中々難しいな。使えるようになっておかないと。斯くして邪魔者は去った。訓練続行だ。サクサク上げていこうぜ、楽しい異世界ライフのために!

 

 

 

 

 

 

……とか思ってた頃が俺にもあったんだがな、何でこうなった?

 

現在俺は、模擬剣構えて男子と向かい合っています。相手は<剣聖>水山孝弘。常識的に考えて敵うわけがない。さて、ここでとっとと負けるか勝つか、どうしようかね。

 

ちらっと内山を見た。『勝て』と言ってる。目がヤバイ。

しょうがないね。ステータスを呼び出し、職業を<勇者>に変える。

 

「来ないのか?」

 

「お先にどうぞ?」

 

そういいながら人差し指をクイックイッとしてみる。わかりやすい挑発だ。

 

「ケガしても文句言うなよ!」

 

ほいほいっと。突っ込んできた水山が振り下ろしてきた模擬剣の横腹を叩いて軌道をずらし、その隙間に入り込んで横に薙ぎ、よけたところで剣を叩き落とし、そのまま喉元に剣を突きつける。

 

楽な仕事だな。え、大人げないって?戦闘前衛職じゃない人間に<剣聖>と戦えって言う方が酷いだろ?<勇者>?いえ、<防衛者>ですが何か?

 

と、いうわけで、勝負は数秒でついた。なぜか満足そうに微笑む内山と、沈黙するクラスメイト。

 

 

 

 

「「「「「「「「「「…はああああああ?!」」」」」」」」」」

 

 

ん?




ちょっとだけ、暴れてもらいました。


ご安心を。そろそろ出ていきます。


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第六話  初実践

あっさり瞬殺してしまいました(笑)


それを見て啓斗が思ったこととは。


「なんでだよ!」

 

 

こっちが聞きてえよ。何で<剣聖>なのにあの程度の動きしかできないんだよ。キースは遥かに良い動きしてたぞ。あ、それは当然か。

 

ああ、キースってのは前回俺達と一緒に戦った当時最強の騎士な。ちなみに当時<剣聖>だったのは俺。

 

「それは俺の台詞だ。いくら相手のステータスが低いからって、真正面からいってどうするんだ」

 

職業を<防衛者>に戻しながら答える。

 

「あのさ、一応俺剣道やってたからさ、いくら速いと言っても、動きが単純なら予測できるの」

 

両刃剣なんて剣道じゃ使わないが、誤魔化しきれただろうか?無論、対応できたのは<勇者>ステータスの恩恵。小学校上がる前から中学校三年生まで続けてきた剣道だけど、流石に三年ブランクがあるのに見切れるわけがない。素人には分からないだろうけど。

 

「せめてフェイントをかけろ。動きが複雑化するだけで俺には多分見えなくなる。動きが単調だから見えて、いや、わかってしまうんだよ。見えなくなったら俺は基本何もできない。お前らみたいにそこまで高ステータスでもないからな。というかそもそも何で俺に仕掛けてきた。相手ならもっといるだろうが」

 

周囲の騎士とか。というかそもそも俺に試合ふっかけてくるときに、いきなり「俺と勝負しろ!」とか言い出すし。

 

馬鹿なのか、それとも確実に勝てると思ってきたのか。ちょうどいいので団長に言っておくか。

 

「団長、まだ彼らはレベル1でしょう?ある程度こちらの剣術を覚えさせるべきですよ。ただの剣道経験者に負ける程度では話になりません。今のままでは、ただ<剣聖>の称号を持つ素人と、経験者の戦いになるだけですよ」

 

「ふむ、そうだな」

 

これくらいでいいかな。次戦うのがいつかは知らないがそこで負ければ済む話だ。

 

そしてまた座り込んで<周辺警戒(レーダーマップ)>を発動させた瞬間に、赤い点が急接近してくるのが見えた。

 

ので<絶対障壁(バリア)>を張る。次の瞬間、火球(ファイアボール)がはじけ、障壁も大きくたわんだ、が、持ちこたえた。よろしい。

 

じゃなくて。

 

「おい、何やってんだ」

 

ここは訓練場だが、魔法と剣術の訓練スペースはそこそこ離れているうえに、攻撃魔法用の標的は向こう側の壁際、つまり俺と反対側にある。ミスショットにもほどがあるだろう。あるいは意図的?面倒だ。

 

「悪いな、ミスった」

 

そういいながらニヤついてるじゃねえか<魔導師>。

 

「次から気を付けろ。」

 

《<絶対障壁>がレベルアップしました》

 

ここでレベルアップか。耐久度が上がったようだ、素晴らしい。するとさっきより大きな点が接近するのが見えた。またか。

 

さっきとは違い、火槍(ファイアランス)が飛んできた。が、あっさりと受け止める。たわみもしない。

 

「おい!」

 

「わりぃ、ミスったわ」

 

「お前職業なんだっけ?」

 

「<魔導師>だがどうした?」

 

「お前魔法使うの止めたらどうだ?コントロールできないで味方撃ちする魔法使いとか百害あって一利なしなんだが」

 

「なんだと?」

 

「意味わからなかったか?使い物にならねえから辞めろって言ったんだよ」

 

「<勇者>でもないくせに!」

 

「はぁ……味方を殺して戦功と宣う<勇者>なんぞこっちから願い下げだっての」

 

実際今の<火槍(ファイアランス)>は、<防衛者>の驚異的魔防と、<絶対障壁>があったから耐えきれたようなものだ。一般人だったら確実に焼死している。まあ<勇者>なら片手で消せるけどさ。

 

「なっ!貴様言わせておけば……<ファイアラン…」

 

「そこまでだ」

 

騎士団長が詠唱しようとした<魔導師>(笑)の川島(かわしま)直樹(なおき)との距離を一瞬で詰めて、首元に剣を突きつけた。というか無詠唱じゃないのか。

 

「<魔導師>カワシマ殿、あなたの魔法は確かに強力だが、その標的を違えてはいないだろうか?」

 

そうそう俺の周りには他の王国騎士たちがいるんだからな。一応<勇者>として召喚されてるのに、何やろうとしてるんだお前は。まあ挑発したの俺だけど。

 

「……わかった」

 

不満気だな。また何か問題起こさねえかな。それに巻き込まれて……というのが大抵のネット小説テンプレルートだな。巻き込まれたあとに死ぬのか瀕死か庇われて虐めの対象になるのか、ってのが大抵の展開だが。

<防衛者>の場合、魔法・物理によるリンチはあまり意味がない。俺のMPが尽きるより、相手の気力が先に尽きるだろう。防御特化万歳。

 

「ちっ、<勇者>でもないくせに」

 

「調子乗りやがって」

 

聞こえてるからな<勇者>(笑)。ていうかそれ言うと、本来の<勇者>の定義に当てはまる者なんてこの場所にいるのは……俺と篠原だけだろう。他は所詮ステータスが高いだけの一般人。いやそれでも十分凄いけど。

 

そこら辺は知っているのだろうか?いや、さっきの陰口を聞く限りでは、恐らく知らないとみていいか。伝承が途切れている箇所が大きすぎる。<勇者>の異常性を、実地で見た時どう思うんだろうね、()()()()()()()()()体なんて、持つものじゃない。

 

本来の<勇者>の定義は、<聖剣>を持つ事、<聖剣>に主と認められる事、<聖剣>と()()()()()()()事。いや、一蓮托生とはちょっと違うかもしれんか。何て言うんだっけ、一心同体が一番近いか?

 

 

 

というわけで、ただ<召喚者>として<勇者>の称号を持っているだけの人間は、第一から第三項より、真の<勇者>からは外れる。同様に、<聖剣>を強奪、あるいは盗んで己の物とした人間も<勇者>たりえない。

 

そして最終項の意味は文字通りである。

 

<聖剣>が壊れない限り死ぬことは無いし、<勇者>が死なない限り<聖剣>もまた壊れない。つまり、同時に潰す必要がある。なんてチートだ。まあそうでもないと、ただでさえ人間は死にやすい上に、敵の本拠地に攻め込むわけだから主人公が死んでしまっては物語が続かないからなあ。

 

 

<防衛者>のことと言い、<聖剣>のことと言い、伝承が消え過ぎだ。というか篠原は<聖剣>を召喚できるのだろうか?まあ<勇者>として召喚されたんだからそれくらいできるよね!多分きっとおそらくそうであることを願いたい。まあ出来なくても<魔王>と戦うことは無いし大丈夫だとは思うけど。

 

 

 

……大丈夫だよね?




以上です。

言い訳が苦しい気もしますが、まあご容赦願いますm(__)m


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第七話  竜

リアルで用事があったのと、部活の方の作品の締め切りがあり、遅くなりました。


それでは、二度目の召喚はクラスごと、第七話です、どうぞ!


どっかの馬鹿が突っかかってきてから一週間経過。順調に<周辺警戒(レーダーマップ)>のレベルは上がり続け、現在は既にレベル4。それによってさらに新しいスキルを手に入れた。<警戒地点設置(レーダーサイト)>という物で、一度行った場所で発動すると、<周辺警戒>のマップで登録を解除するまで、その場の音声付映像を見ることが出来るという物だ。レベルが上がると、設置できる数は増えてゆく。

 

なるほど……って言うか現実にあるレーダーサイトより性能上だな。魔法ってすごい、今更だけどさ。これで大分楽が出来る。相手にばれないよう盗聴できるし、俺達がいなくなった後の王城の様子も探れる。今置くことができるのは三つ。

 

 

既に二つは宰相執務室、国王執務室に仕掛けてある。一度練習場の一部貸し切り書類を提出しに行ったときに設置済み。最初はクラスメイトのうちで、信頼できそうな奴に声をかけ、連絡を取り合おうと思っていたが、様子を見て断念。内山以外に<勇者>じゃない俺に協力してくれそうな様子の奴なんていなかったからな。このスキルが手に入ってよかったぜ。

 

 

 

とりあえずこれで王都をいつ脱出しても良くなったな。

 

 

 

 

次にやることは、脱出した後の行動について。

 

俺が<勇者>だった時には、各地に竜がいた。うん、いわゆるドラゴンだな。確か六体いたな。それぞれ一属性ずつ極めた化け物と、それらの親である始祖竜。あいつらが生きているならば会っておきたいし、死んでたら死んでたで、弔いぐらいはするべきだろう。もっとも、あいつらの寿命はくっそ長いので多分大丈夫だとは思うが。

 

 

 

どうも王城には外部と内部の魔力を遮断する壁のようなものがあるらしく、中からでは外界の魔力を探知できないのだ。あ、魔王?あれは別。あれは魔力じゃなくて無意識下の魂レベルで繋がってるから壁は関係ないの。だから向こうも俺がここにいること程度は把握できているはずだ、多分。

 

 

 

まあそんなことを毎晩毎晩内山とくっちゃべってたわけだが。まあしかし、外部の魔力を探知できないことがあんなことになるだなんて、考えればわかる事なのに、なぜ俺も気づかなかったんだろうな。

 

 

 

翌日の昼、俺達異世界人はこちらの世界での恐怖を初めて目にすることになる。ま、俺と内山は初めてじゃないんだけどね。

 

 

 

 

翌朝。俺はいつも通り起きて、いつも通り食堂で朝食を摂った。聞いた話では勇者勢は専用のダイニングがあるらしいが、俺は案内されなかった。どこまで露骨なのさ。

 

君達には失望したよ、とか何とか言ってみたいけど会わないからな。つまらん。何か面白いこと起きろよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを思っていた時期が俺にもあったんだよ畜生。今?すっげえ後悔してる。当たり前だろ?今、訓練場にいる俺と勇者共の前で、訓練場の屋根を一瞬で吹き飛ばした、ドラゴンを見れば、さ。

 

 

「ド、ドラゴンだ……」

 

 

色は蒼、見覚えはないが、魔力反応によれば、目の前のにいるのは間違いなく水属性ドラゴン最上級種。始祖竜が第二子。

 

 

水帝竜“クトゥルフ”。

 

 

ま、そんな見分けがつく人間がここにいるのか、というと怪しいものだ。ただ水色をしたドラゴン、と認識しているだけの可能性が高い。こいつは属性ドラゴンの中でも最小サイズ。ほかの一般竜と見分けはつけにくい。予め知っていることが前提となる。

 

しかしこいつの縄張りは北方。確かにシルファイドは北半球にあるが、決して近くはない。まあ属性竜たちのうち一番近いのはこいつ……なるほど、<勇者>を揉みに来たか?

 

だが残念なことに、ここにいるやつで、まともにアレと戦えるのは俺と内山、騎士団長がぎりぎりといったところか。<防衛者>でも耐えきれないことは無いはずだ。<絶対障壁(バリア)>に<支援者>の防御アップ魔法<硬き壁(ハードウォール)>を利用すれば、多分<吐息(ブレス)>でも耐えられるはず。いざとなればそれで時間を稼ぐまで。

 

 

 

と見せかけて死んだ乃至攫われたとかでトンズラできないかな?とか考えていたりするのだが。

 

さて、最初に仕掛ける、もしくは話しかけるのはどちらかな?

 

 

『人の子よ、異世界より召喚されし勇者よ』

 

 

まさかの<念話>だと?!いや使えるのは知ってるけど。そっちから来るのは予想外。

 

『我は始祖竜が第二子。先代<勇者>より付けられし名はクトゥルフ。今代<勇者>として召喚された異世界人に言伝あって参った』

 

うん、格好いいけどさ、なんか恥ずかしいな。当時のノリで決めた名前を誇らしげに言われると……

 

 

当時どうやって名前決めたんだっけ?

 

 

 

『水かぁ……どうする?』

 

『なんかいい名前……水……そうですね、“クトゥルフ”とかどうです?』

 

『創作神話かよ……じゃあ、この洞窟はさしずめ“ルルイエ”か?世界滅ぼす気かお前は!』

 

 

怒ったような口調だったけど何気にノリノリでしたよね、春馬さん?

 

確か戦闘不能に追い込んだ後に『名前をくれ』って言いだしたんだっけな。『名前を付ける』という行為はこの世界では上位者が下位者に対してする行為で、それを願うということは、『自分が下である』と認めているということ。つまりクトゥルフは、自分が下であると認めたのだ。実際魔物と戦闘するときに援軍になってくれたしね。

 

さて、その”言伝”とやらは誰からの、どういう言伝なのだろうか?

 

『始祖竜からの言伝を伝える』

 

 

 

 

 

『“現在貴殿等の必要とされる事態は発生していない。よって送還魔法による元の世界への帰還を勧める。その際に必要であれば我らも力を貸そう。”以上だ。良ければこの場で<送還>についての談合を願う』

 

 

 

 

 

言っちゃったああああああ?!必要ないって、それ言っちゃうの?!

 

……さて、ここにいるのは多分まともな騎士団長と、騎士団員、そして勇者たちであるが、どう出るのかな?




なお<ステータス隠蔽>使用時は、所有魔力量も隠蔽されます。なのでクトゥルフさんは、神崎と内山の存在に気づいていません。


それでは感想評価批評等お待ちしております


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第八話  元<勇者>と<勇者>の選択

気付いたらUAが10000超えてました、ビックリしたクラリオンです。
今後とも 防衛者 をよろしくお願いします。


竜襲来、さあどうする召喚組!
防衛者 第八話です、どうぞ!


『”現在貴殿等の必要とされる事態は発生していない。よって送還魔法による元の世界への帰還を勧める。その際に必要であれば我らも力を貸そう”。以上だ。良ければこの場で<送還>についての談合を願う』

 

 

 

 

「必要じゃない、だと…?」

 

『そうだ、現時点において、異世界より<勇者>の素質ある者を<召喚>する必要性のある事態は何一つとして発生していない。我らは必要以上の争いを好まぬ。先代<勇者>の出身国である“ニッポン”なる国もそうであると聞き及んでいるが、貴殿等はニッポン以外の出身であるか?』

 

 

 

唖然とする篠原に対し、淡々と答えを返す水帝竜クトゥルフ。

 

 

 

「あれほどに被害が出ているというのに何もするなって言うのか?!」

 

『左様。必要以上に<勇者>に頼るべきではない。現在出ている被害は軍隊、及び冒険者によって防ぐことのできる規模である。わざわざ<勇者>を<召喚>するほどの規模ではない、それが始祖竜の判断であり、また我々もそう判断する。これは先代<勇者>の理念にも沿うものであると考えるが』

 

「そんなことはどうでもいいんだよ!俺達が戦わなきゃ死んでしまう人がいるんだ!」

 

『──()()()()()()()()()()?』

 

 

 

 

 

篠原の必死の叫びに返ってきたのはそれが至極当然のことと言わんばかりの冷静な声だった。

 

 

 

 

『それで死んだのなら、彼ら自身の力が足りなかったか、もしくはそれが天命であったまで。貴殿等異世界の人間が気に病むことでもなかろう』

 

 

 

正論だ。彼が言っていることは正しい。もともと俺達異世界人は本来、必要以上にこの世界の事象に軽々しく介入してはならないのだ。

 

 

始祖竜曰く、世界のバランスがどうのという話だ(詳細は忘れた)。例外が<魔王>と<勇者>。

 

 

 

<魔王>は世界を亡ぼすだけの力を有するがゆえに、その()()()()()としてバランスを取るため()()に<勇者>が存在する。今現在でも<魔王>は力こそ失っているが、存在はしているのだ。そのために篠原は<勇者>の称号を持つことができている。同じ時代に<勇者>が二人も存在してていいのかという問題はあるが、まあそれは神がどうにかしてくれるだろ。

 

 

 

 

「天命……だって……?」

 

 

 

まあ正論であることを知らない彼にとっては受け入れ難い話だよな。

 

 

 

『そうだ。運命とも言う。我々生きとし生けるものが決して触れることのできず、そして触れてはならない領域だ。ましてや、従う因果律の異なる異世界の人間が軽々しく干渉してよいものではない』

 

 

 

「では我々異世界人(召喚者)は此度の騒動に手を出す必要はないということですかね?」

 

 

 

まあこいつが受け入れるかどうかなんて、俺には関係無いけどな。

 

 

 

『無論』

 

「おい神崎!」

 

「ちょっと黙っててくれ篠原。では始祖竜に伝言をお願いしたいがよろしいだろうか?」

 

『構わぬ』

 

 

 

「ではこう伝えていただきたい。”此度の提案に関し、今代<防衛者>は、これを受け入れ、天命に関し、よほどの事がなければ手は出さない。<勇者>についても可能な限りの説得を行う”と」

 

 

 

『了解した、だが我が言うのもなんだがよいのか?』

 

「撃ってきたらそいつは敵だ、というのが俺の一種の信念みたいなものでしてね。まあ貴殿方が気にする必要はないですよ」

 

 

 

そして俺は二度魔法を撃たれている。それに則ればこいつらは敵だ。敵を守る必要はあるか?

 

 

 

『ふむ、まあ良い。ではその通り伝言を伝えよう。今日はこれで帰るが、一週間ほど後、送還について答えを聞くとする』

 

 

 

「お待ちください」

 

 

 

内山か、何を……

 

 

 

「始祖竜にもう一つ伝言を。今代<支援者>も手を出すつもりはない、とお伝えくださいませ」

 

『ほほう……』

 

 

 

そこで初めてクトゥルフの顔に、面白がるような表情が浮かんでいた。だろうな。<防衛者>と<支援者>といういわば人族の楯がそろって手を引くんだ。人類側がどうするか興味があるんだろうな。

 

『<支援者>もか。ふむ、こうなると事情は少々変わってくるな。まあ良い、伝言は確かに預かった。<防衛者>と<支援者>が手を出さぬか。面白い、<勇者>よ、一週間後来た時に、賢明な選択を聞かせてもらえることを祈っておるぞ。では人間どもよ、さらばだ』

 

 

 

 

 

賢明な選択、ね。無理だよなぁ……あの様子じゃあ。

 

 

 

「……い、おい!」

 

 

 

ん?

 

 

 

「なんだ?」

 

「なんだじゃない!どうしてあんな事を言ったんだ!

 

「あんな事?」

 

「とぼけるな!手を出さないと言っただろう!」

 

 

 

 

やれやれ、やはり賢明な選択とやらは無理そうだな。

 

まあ、アレを聞いて納得しろというのは<勇者>篠原(この正義馬鹿)にとっては些か難しいかもしれないな。とは言え、どうしたものか。俺としては帰ることに異議はない。挨拶はしておきたかったな、くらいの思いはあるが、帰してくれるというなら喜んで帰る。リアルの戦いは正直ウンザリだ。と、なると、ここはクトゥルフに伝えた通りに<勇者>を説得するしかないか。

 

……無理だろおい。どうしろってんだ。

 

 

 

「答えろ!どうしてこの世界の人々を見殺しにするんだ!」

 

「あ?誰が見殺しにするっていった?」

 

「手を出さないということはつまり見殺しにするんだろ!」

 

「天命、つまり定められた事は、大抵覆せない。何かやってみたところで流れに逆らえないのがオチだ。つまり、手を出すだけ無駄だ」

 

「な……」

 

「それにだ。あの竜は最初なんと言ったか覚えているか?『<勇者>を必要とする事態は発生していない』と言ったんだぜ?」




次回は割りと早めに更新できると思います。

それでは、感想質問批評等、お待ちしております。


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第九話  説得不可能

学校が休みのうちに可能な限り書いていきたいと思います。


面倒なのが出てきます。異世界転移系だとこういう人は良く出てきますよね?そして考えること大体一緒なんだよね……
というわけで、第九話です。




「あの竜の言う通り<勇者>が必要ないなら<防衛者>はもっと必要ないと思うが?俺が今、外部に干渉できる魔法もスキルも体得しちゃいないことは知ってるよな?出来るのは自分と少しの味方を守ることだけ。さて、今のところ専守防衛しかできない雑魚(防衛者)が手を出して何になる?」

 

「だが、この世界の人たちを……」

 

「異世界人は軽々しく干渉してはならない。そう言われなかったか?俺はそれに従ったまでだ。わざわざ手間かけて送り返してくれると言っているなら乗らない手はないだろう。以上が俺の理由だ。<支援者>の方は本人に聞いてくれ」

 

 

 

<勇者>の力は平和な世で振るうには大きすぎる。

 

そうでなくとも、他の世界の在り方に俺達が口出し手出しして良いわけがない。ましてや俺達が住んでいたのは、平和な上に恵まれた国だ。

 

 

 

常に命の危険に曝されているわけじゃなかった。子供は家がどんなに貧しくても、普通は勉強して中学校までは卒業出来たし、大抵は高校、更には大学にすら進学できた。家に帰れば十分な温かい食事がとれた。夜外出してもモンスターに襲われる心配はなかった。

 

 

 

こちらの世界は、少なくとも元の世界の日本より、残酷で厳しい世界だ。そんなところに、俺達が、俺とさくらはともかくとして、温室(日本)育ちのこいつらが口や手を出して良い結果が出るわけがない。

 

 

 

というか俺に限って言うなら、あれだけ冷遇しといてどうして俺に助けを求めるだろうか、いや、求めないだろう。<勇者>いるし。というか手を出さないと言ったのは俺だけじゃないんだが。ということで内山に振る。

 

 

 

「内山さんはなんでだ?」

 

「基本的には神崎君の考えと一緒ですよ。<魔王>を倒すのに何年かかるのか、考えた事がありますか?その間当然私達は成長している筈です。精神的にも、肉体的にも。一方で元居た世界でも時間は流れているはずです。こちらの世界とあちらの世界の時間が、同じという保証はありません。浦島太郎レベルではないとしても、突然消えてその失踪年数に合わない成長をしたように見えたら、どう思われるでしょうか?」

 

「そもそも私達を私達だと認識してもらえるかどうかも怪しいと思います。まあDNA鑑定などもありますから大丈夫だとは思いますが、どう考えても不審者ですよ。正直に『異世界に召喚されて魔王と戦ってました』と言ったところで信じてもらえるでしょうか?」

 

「私としても彼等を助けたいですが、向こうの世界に戻った時の事、そしてあの竜の発言まで考えるなら、非常に心苦しいですが、ここで誘いに乗る方が良いと判断しました」

 

 

 

冷静な思考をありがとうございます!まあ普通なら倒した後の事も考えるよね?

 

 

 

「つまり俺達は、現実と未来を見据えた上でこの選択をした。あともう一つ、判断材料として付け加えておこう。目測だがな、あの竜──クトゥルフと名乗った水の単一属性竜だが、俺達異世界人よりはるかに強い。多分俺達があの強さに到達するには何年もかかる。騎士団長、一つお聞きしてもよろしいですか?」

 

「ああ、何だ?」

 

「この世界全体で、あのタイプ──単一属性の竜は何体いるんですか?」

 

「……あれを含めて五体だ。先に言っておくがそれらの上にも始祖竜と呼ばれる存在がいる」

 

 

 

あ、先読みしたなこの人。頭は良いようだ。

 

 

 

「ありがとうございます――さて、どう考えても現時点で<勇者>より強い竜が確実に六体いて、恐らくその全てが<勇者>の必要性を認めていないと考えていい。この状態で何か出来る事はあるのか?」

 

 

 

あるのか?いや、ない。綺麗な反語だなうん。

 

 

 

「あるさ!竜だって六体しかいないんだろう?それなら奴らが見落としそうな部分を俺達が補填すればいい!それこそあいつらが見捨てる人間たちを救うことが出来るかもしれないじゃないか!どうせ運命だ因果律だってのもあいつらの言い訳でそれらしいことを言っているだけだろ!」

 

 

 

因果律はどうか知らんが、運命は恐らく存在している。それの欠片を前回見ちゃったしな。まあ頑張れば変えられる程度のものでしかないが。それに竜種だって好きで見捨てているわけでもないし、言い訳なんてそれこそ有り得ないな。

 

 

 

まあでもそれを知らない<勇者>(こいつら)はそう考えてもおかしくはない……か?

 

 

 

「何の騒ぎですか?」

 

「宰相閣下!」

 

 

 

あ、面倒くさいの(現地世界のお偉いさん)来た。こいつはどう考えるだろうか?

 

 

 

「団長、説明してくれ」

 

「は、先ほど北に棲む竜種、氷帝竜が現れまして、始祖竜からの言伝に対する反応について、<勇者>様と<防衛者>様が揉めていました」

 

「揉めた?ふむ、言伝の内容を教えてくれ」

 

「氷帝竜は<勇者>様方こう言いました、『現在貴殿等の必要とされる事態は発生していない。よって送還魔法による元の世界への帰還を勧める。その際に必要であれば我らも力を貸そう』」

 

「なに?本当にそう言ったのか?」

 

「はい」

 

「……ちっ、余計な事を……それで、それに対する反応で揉めたというのは?」

 

 

 

うん?余計な事?どういうことだ?今のが聞こえたのは……俺と内山だけか。うーん……何か不穏な台詞。

 

 

 

「始祖竜の言伝、というか提案に、<勇者>様が反発しているとき、<防衛者>様がそれを受け入れ『今後一切この件について手出しをしない』とおっしゃり、それに<支援者>様が同調なさったことで<勇者>様と揉め事に……」

 

「<支援者>様が<防衛者>に同調したと?」

 

「はい、元の世界に帰還なさるときのことを心配しておいででした」

 

「そうか……<勇者>様」

 

「なんですか?」

 

「竜種は、魔王が出現した場合、魔王の手先と化します。なぜならば、竜種は魔王によって生み出される魔物だからです。そのため彼らはどうにかして<勇者>を排除しようとします。それに騙されてはいけません!」

 

「お、俺は竜の提案は撥ね退けました」

 

「……流石です、<勇者>様!」

 

 

 

おいおい、竜種が魔王の手先だ?有り得んな、あの誇り高き種族が誰かの手先になるもんか。“名づけ”した後ですら魔物と戦ってもらうのにどれだけ頼みこんだと思ってるんだ……ていうか竜種は全て始祖竜から、始祖竜は恐らく神と呼ばれる存在から、生まれている。ちなみに魔王になると生殖能力が無くなるのは前回確認済みだ。

 

 

 

何て意味不明な事を言いやがるこいつは……

 

 

 

「それに比べ<防衛者>はなぜ竜如きに……それになぜ<支援者>様は同調を……」

 

「<支援者>が<防衛者>に同調するのは当然だ。なぜなら<支援者>は<防衛者>の唯一のパーティーメンバーなのだから、<防衛者>の考えには可能な限り賛成するさ」

 

「それに私個人としても<防衛者>……神崎君の考えに賛成でしたので」

 

「内山さん!」

 

「何か、おかしなことがありましたか篠原君?」

 

「ええ。どうしてそいつの考えに賛成なんですか?」

 

「先程も言いましたけど、先の事を考えての事です。確かにここで人々を助け、魔王を倒すことは正義に適うことではあります。私としてもここで助けたいのは山々です。でもそのために私たちが一生を棒に振る覚悟をする必要はありますか?ましてや<勇者>は必要ないとこの世界の強者から言われているのです。なら帰還の誘いに乗るのが普通ではないでしょうか?」

 

「と、言うことだ。ついでに言うと、俺は自分の事を念頭に置いているからな」

 

「自分が良ければそれで良いのか!」

 

「当たり前だろう、最後まですべて信頼をおくことが出来るのは自分だけだ、戦場においては特に」

 

「だからって言ってそんな……見損なったぞ神崎!」

 

「それはこっちの台詞だ。全く……これじゃ始祖竜に言ったことは果たせそうにないな。わかったよ、お前らは好きなようにすればいい。俺も好きなようにやる。<支援者>、お前はまだあちら側にいろ、そっちの方が都合がいい」

 

「言われずとも」

 

 

 

やれやれ、説得は無理だなこれは。正義に酔っている、とでも言うべきか。全く、嫌だな、まるで昔の俺みたいだ。黒歴史思い出すから止めて欲しい。

 

というか何かこいつの台詞が全部どっかの小説っぽい。あれ?その論理でいくと俺これもしかして脇役か?

 

それも途中で主人公裏切って、最終的に和解するか殺されるかする奴。で内山が……巻き込まれてしまった悲劇のヒロイン?いやいやあいつはどう考えてもそんなキャラじゃなかろう、外見はともかく。

 

まあほら、最近のネット小説ってどっちかっていうと脇役系が下克上する話多いから……きっと大丈夫、いざというときの<勇者>(チート)ステータスもあるしな!




以上です!

感想質問批評等、お待ちしております!


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第十話  宰相の計画

これが、今できたストックの最後です。


ようやく異世界の人間で名前つき二人目の、宰相さんのご登場です。


それでは、第十話、どうぞ!


(まずい、まずいぞこれは!)

 

 

 

シルファイド王国宰相ゼルビアス・ゴルトニアは焦っていた。

 

王を焚き付け、魔王をでっち上げて、王女に召喚魔法を行使させ、多くの勇者を手駒に加えることに成功した。そこまではよかった。召喚の間に、巨大な魔力反応が多数ある、と聞いたときは小躍りしそうになった。

 

これで、成長すればこの世界の人間では勝つことができない戦力を手に入れた。王国の勢力拡大を図れる。そう思った。他国の占領合併吸収、かの中央大山脈を越え、魔族領も支配できるのではないかとさえ思えた。

 

だからその<勇者>達の中に、良く分からない、<勇者>ではないステータスの低い人間が二人いても大して気にも留めなかった。使えないならそのうち排除すればいい。うち一人の扱いが他の<勇者>とは違うと聞いても、「そんなものだろう」と思っていた。所詮こちらについては無知の異世界人。手玉にとることなど難しくない。

 

しかし、そこへやってきた竜が余計な事を言った。

 

 

 

「くそっ!“勇者は必要ない”などと余計な……しかし、<勇者>には通じなかったか」

 

 

 

<魔王>がいない、と直接言わなかったのは、恐らくそれで通じると思っていたからだろう。この世界において<勇者>は<魔王>に対する応急措置以外の何物でもないという認識がある。つまり、<勇者>が必要=<魔王>の存在。この世界の国家上層部の人間や上位竜の共通認識だ。

 

が、どうも異世界人の認識では異なるようだ。まあ、それはそれで都合がいい。問題は<勇者>ではない。ステータスが低い二人──<防衛者>と<支援者>だ。ステータスが低いから怖気づいたのか、竜の提案を支持し、これは別にどうでもいいが手を出さないとまで言ったのだ。

 

 

 

「元から戦力として計上しているわけではないから手を出そうが出さまいがどうでもいい……が、<勇者>共に心変わりされると全てが無駄になってしまう……上手く最強の兵士となりうる手駒を手に入れたんだ……早めに手を打たねば……」

 

 

 

男の方──ケイト・カンザキの方は既に<勇者>とは待遇も異なり、面会することも練習場以外ではほとんどないので、秘密裡に排除しても問題はなさそうだ。問題なのは女──サクラ・ウチヤマの方だ。

 

 

 

(女の方は、<勇者>共と行動を共にしている……うかつには消せない上に、接触している時間が長いから、<勇者>共の説得も可能……やはり召喚直後に消しておくべきだったか?)

 

 

 

そんなことを考えながら、二人を消す方法を考え始めた。

 

<勇者>達もいるところで、“依頼”を提示する。<勇者>だけでは捌ききれないからと<勇者>でない二人にも振る。人々を悩ます魔物がいると称して森の奥に行かせて、あらかじめ兵を伏せておき、不意打ちで殺す。魔法はどうかわからないが、本人のレベルは上がっていないからHPは最初に見た値。ならば一撃で殺せるはずだ。<支援者>から殺せば万一の回復もできまい。死体はその場に埋める。<勇者>共は、「彼らが率先して殿を務めた」とか「奇襲に対応できず」とか言いくるめてしまえばいい。いや、彼らが先走ったとかでもいいかもしれない。どうせ死体は森の中。<勇者>共にはわからない。

 

 

 

「よし、これならおそらく<勇者>にも怪しまれず消せるな。魔物を統率しているのは魔族と教えれば、逆に魔族を憎ませることも可能だな」

 

 

 

兵は巧遅より拙速を貴ぶ。<勇者>共が説得される前に二人を消さなくては。そう思い、部下を呼び出すと、二人を消す算段を始めた。

 

しかし彼は知らない。<防衛者>と<支援者>の正体と、彼らのステータスは本来の値ではないことを。

 

その算段を聞くものがいることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──へえ、やっぱ消す気か。ならちょうどいい。これに紛れて消えるか」

 

 

 

宰相執務室に撒いた<警戒地点設置(レーダーサイト)>から俺達を消す相談が聞こえた。しかし、まあ良くも躊躇いもなくできるものだな。そこはまあある程度の冷酷さは、国の統治者には必要なので評価できる。

 

が、その対象がいただけない。

 

 

 

「無理矢理呼び出しといて邪魔だから消すか、はねえよなあ……」

 

 

 

まあこれでこの国を捨てる大義名分はできた。命を狙われる以上の危険がどこにあるというのか、いや、無い。……何か最近反語よく使うようになったな。

 

それはさておき。

 

 

 

「これ内山にも言うべきだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それで、どうするの?』

 

『どうするったって、何もできないだろ?まだここにいる以外にないだろ』

 

『ここにいる間に消される可能性は?』

 

『ないな、俺は小さいがあるかもしれない。だがお前はない』

 

『てことはどっかに誘い込まれるのは確実なのね』

 

『多分な。俺も行くときは<勇者>に変えとくから、お前も<緊急蘇生(エマージェンシーリヴァイヴ)>かけとけよ……一時間から二時間くらいのタイマー付きで』

 

『あれそこそこMP持ってかれるんだけど』

 

『完全に死ぬよりゃマシだろ。そこそこって言ったってお前のMPからすれば微々たるもんだ』

 

『それもそうね』

 

『じゃあそういうことで。ところで篠崎はどうだ?』

 

『相変わらず、アンタの選択に不満らしいわ』

 

『だろうな』

 

 

 

アイツはそういう奴だ。正義感が人一倍強く、この世には善か悪かしかいないと考えている。そして何より、自分が正しいという考えがすごく強く、実際大抵の場合奴の考えることは正しい。だが、今回については大外れだな。

 

 

 

『お前は何か言われてないか?』

 

『私?私は何も言われてないわ。どちらかというと被害者のように扱われてるわよ。職業が<防衛者>の部下だから逆らえないんだろうって』

 

『そうか、なら良いや、そのまま情報収集お願い……って言っても特にやることないけどさ』

 

『わかったわ、じゃあまた明日』

 

『ああ、また明日』

 

 

 

内山との念話を切る。さて、正義馬鹿(<勇者>)は放置しよう。うん、それが最善手だ。ああいうのは実際に体験しないとわからないからな。昔の俺みたいに。

 

 

 

問題なのは宰相とか国王とかのこの国の中枢だな。大方今回の魔王騒動の原因。というか元凶。どっちが発想したか知らんが、まあ目的は把握できた。手駒づくり、か。<防衛者>の記述が紛失してる伝承とやらがどこまで正確か知らんが、<勇者>が規格外なことくらいは知ってたか。

 

とはいえ今の<勇者>じゃあ魔物を倒せるかどうかはっきり言って微妙なんだよな。というか、そもそも手駒(兵士)として使えるかどうか。

 

 

 

つまり、()を殺せるかどうか。

 

 

 

俺は殺せる。一度乗り越えているから。でもあいつらはどうだろうな?

 

 

 

俺が前回召喚された時、初めて人を斬ったのは召喚されて三か月目、森の奥で盗賊とやりあったとき。殺したのはそれから二か月後、やはり盗賊とやりあったとき。

 

どちらも、三日間ぐらい食事が口を通らなかったな。確か春馬さんも同じ事を言ってたような……うん?まて、<防衛者>なのにか?

 

何かを忘れている気がする。まあ良いか。<防衛者>関係ならいずれわかる。

 

さて、あいつら……<勇者>達に人を殺せるか否か。答えは分かり切ってるな、否だ。まだ、という但し書きが付くけど。平和な国(日本)で17乃至16まで育った高校生に、いきなり人を殺しましょう、はどう考えても無理難題。それこそ戦場や、盗賊など、殺さなければ殺されるような状況でない限り、いや、下手をするとそんな場合でも話し合いによる解決を模索する可能性すらある。

 

一方で殺したら殺したでまた別の問題が起こる。特に初回。

 

魔法とか遠距離系なら多分そこまでひどくは無かろうが……問題は<勇者>本人とか、近距離系なんだよな……なぜかというと、これは死霊系以外の魔物にも言えるが、手ごたえがダイレクトに伝わるからだ。

 

 

 

肉を、骨を断つ感触…………やばい、思い出しただけで気持ち悪くなった。

 

それにあいつらが耐えきれるかどうかだな。下手すると初回のがトラウマになる可能性がある。特に剣使ったりすると返り血が酷いからなあ……

 

まあ良いか。それがあいつらの選択だもんな。というか普通に魔族とかと戦うとかだったとしても、これは免れえない事実なんだけどなあ……理解してるんだろうか?<魔王>を倒す事=<魔王>を()()事、だってこと。

 

 

 

 

 

つまりあいつらが信じている事がたとえ真実だったとしても、元の世界に帰るには人型の生命体を1体、殺さなければならないことを。

 

 

 

 




以上です!


はい、帰る暇すら無さそうですね。
というわけで第十話でした!

次の更新は……いつになるんでしょうね()
可能な限り早めに上げます!


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第十一話  異変

三日連続更新、何を隠そう私が一番驚いてます()

前回色々始めた宰相さんですが……

いよいよこの国を脱出出来そうです、長かったですね

それでは第十一話、どうぞ!



 例の算段を聞いてから一週間後、珍しく俺にも呼び出しがかかった。出来れば一回殺される前に<絶対防壁(バリア)>のレベルをもう一つ上げておきたかったんだが。まあ仕方ないね。

 

 

 

 

この一週間、実は内山と結構揉めた。帰るか帰らないか、帰るとしてあの<勇者>達はどうするのか。俺としてはアレ(勇者)は置いて帰りたかった。本人達がやりたがっているのに、無理に帰らせる必要なくね?と。

 

 

が、内山が反対した。だからこそアレ(勇者)は連れて帰るべきだ。アレ(勇者)をこの世界に置いて行ったら害悪にしかならない、下手を打てば竜種に殺されるぞ、と。

 

俺としては別にそれで構わないんだよな……とか思いかけて止まった。前回戻ってきたときは、全員欠けず(死なず)に、<召喚>された直後のほぼ同じ時間、同じ場所に戻った。では、誰か欠けて(死んで)戻った場合、外部から見たら、それは忽然と蒸発したようにしか見えないのではないか?無論、現代において、神隠しなどで通るわけもなく、確実に警察の手が入る。

 

平穏な日常を望む元<勇者>としては、それは避けておきたい。だから今のうちにアレ(勇者)と一緒に帰るべきだ。

 

 

と、思ったのだが。ここで問題が発生していた。魔方陣を描けるのは、内山だけなのだが、クラスメイト全員を<帰還>させるには、俺と内山のMPを全量消費する必要がある。つまり内山が魔方陣を描いたら、俺と内山でMPを注ぎ、即<帰還>発動なのだが、俺が関わると、クラスメイト(仮)からの信頼が一気に消え失せる。説得?無理無理。

あんなの説得とかどれだけ時間がかかると思ってるんだ。

 

つまり、今のままで<帰還>発動は主に人的要因のせいで不可能と言う結論に至ったのが昨日の話。よって、この国から脱出後も、奴らの尻拭いをしつつこの世界に残留する、と決定した。俺については微妙に自業自得な気がしなくもない。ああ、<帰還>できない<勇者>は完全に自業自得だな。

 

そう言えば今日明日は竜が来る頃だ。謝罪しなくてはならんな。

 

 

そんな事を考えつつ、連れてこられた場所は大広間。俺が着いた時には勇者達とか内山も居た。ふむ、これは宰相の算段か?それとも別口か?

 

全員が集まったのを確認すると、王女様が出てきた。

 

「皆様、朝早くから申し訳ございません。実は、皆様に協力をお願いしたいことが発生いたしまして、ご迷惑を承知で集まっていただいたのです」

 

「俺達に出来る事ならなんでもしますよ王女殿下!」

 

だからお前はなんで内容を聞く前に即断してるんだよド阿呆(<勇者>)!せめてお願いごとの中身を聞け!

 

「王女殿下、協力してほしい事とは何でしょうか?」

 

仕方がないので一応俺が聞く。え?手出しはしないんじゃなかったのかって?だからだよ。これが、宰相の算段だったら乗らないとこの国から脱出できる絶好の機会を逃すことになる。もし違うのであれば、それこそ「手出しはしない」という言葉通りに、断るまで。

 

王女殿下本人の頼み事であれば、そこまで大掛かりなものではないはず。俺達まで動員するほど人が必要なものではないだろうから、俺達が手を出すまでもない。

 

 

一方で宰相の計画であれば、同時多発的に少なくとも八方面以上で討伐の必要があるはずだ。なぜかというと、<勇者>達は、スキルレベルはともかく本人のレベル――ゲームで言うところのプレイヤーレベル――は1のまま。一人で討伐対象となるような魔物を相手にするには、不安が大きい。何人か、具体的には最少で4人がベスト。前衛2人、後衛2人。欲を言えば、前衛にもう1人いればローテを組みやすいから安定するが、まあそれは置いといて。4人パーティーとする。

 

うちのクラスは、定員36名、学年が上がるたびに何人か(学校から)脱落し、現在は30名。4人パーティー7組プラス余り2名。無論5人パーティー6組という余りが出ない組み方もあるが、それは宰相が阻止するだろうし、そもそも1週間前のあれで俺に対する<勇者>組の印象はよろしくないってか悪い。わざわざパーティーを組むとは思えない。内山は例の件でも自分勝手な<防衛者>に引っ張られた被害者的な立場とみられているので、誰かが組んでくれるだろう。<勇者>ではないが俺ほど悪い印象は無く、外見は良いから男子共が拾いそうだ。ので最悪俺が孤立する。

 

と言って1人で動かすと、後々内山を消しにくいし手間が増える。だから<防衛者>と<支援者>の関係から二人で組ませようとするのではなかろうか。よって最低八方面と言うわけだ。

 

さて、王女様はどう言うのかな?

 

「実は、王国全土で、特殊指定魔物(ユニークモンスター)が多数発生したとの情報が入りました。<魔王>復活の影響によるものだと言われています。既に王国騎士や、組合(ギルド)所属冒険者などにも協力を要請し、各地の討伐に向かわせているのですが……先日王都周辺の森や湖、草原などでも発生しているのが見つかり、その数はおよそ10です」

 

「さらに、これらの魔物は、王都周辺である関係上、そのほとんどが人里近くに発生しており、その討伐は急ぐ必要があるのです、しかしながら、すでに多数の冒険者や騎士団が各地へ出向いており、王都に残っている戦力では、2か所を討伐できれば上出来、といった戦力しか残っていません」

 

「ですので、今回、<勇者>様方にも、魔物の討伐をお願いしたいのです」

 

へぇ……魔物の討伐か。特殊指定魔物(ユニークモンスター)とはまた面倒な。だがこれはどうも本当らしいな。しかしまた異常な発生をしたものだ。たしか特殊指定魔物(ユニークモンスター)は同タイプの魔物をひたすら狩り続けることで発生すると聞く。

 

 

メカニズムとしては、急激に数が減ることで、種を保全するためにより強靭な個体を作り出す、というものだ。と、魔王から聞いた。

 

 

さて、つまりそれは各地で各種の魔物が多く狩られていたことになる。それも、発生のタイミングから逆算するに、俺達が<召喚>される前だ。しかも同時多発的に。

 

理由はいつでも考察できるし、俺だけで考えても仕方ないので放置。

 

問題は、その発生の内に、偽の報告が混じっているか否か、だ。そこに俺と内山が送られるわけで、脱出後、<魔王>のところへ向かうなら、南の方が良い。まあ、どっちでも良いんだけどね?

 

「後、出来れば<防衛者>にもご協力願いたいのですが……」

 

そういってこちらを見てくる宰相。あ、これ確定。睨みつけてくる<勇者>達。さあ、答えを言おう!

 

「何が出来るのかわかりませんが……良いでしょう、承知しました」

 

「おい神崎!おま……え……?」

 

「何か用か<勇者>?」

 

「いや、てっきり手を出さないとか言うのかと……」

 

「いや流石に王都周辺は力を貸すぞ?一応俺の安全な生活もかかってしまうからな、その程度はする、<防衛者>としてな」

 

中々良い建前じゃね?

 

「では、それぞれ振り分けをしていきたいと思います。あ、<防衛者>様と<支援者>様はこちらへ」

 

そう言って王女殿下直々に招かれた。知らないんだろうなあこの人。

 

「<防衛者>様及び<支援者>様ですが、攻撃系のスキルをお持ちでないとのことなので、近衛騎士団の選出者と共に、行ってほしいのです」

 

「えっと、それ俺達が付いていく意味は?」

 

「今回、討伐お願いするのは、森の奥にいる蜘蛛系の特殊指定魔物、“ギガントポイズンスパイダー”です。この魔物は、とても厄介な魔物でして、毒を使います。そこで、<防衛者>様のスキルで攻撃そのものを防いでもらう、あるいは攻撃を受けても<支援者>様に回復してもらいながら戦う、という形で討伐したいと考えているのです」

 

「ああ、なるほど、わかりました。場所はどこですか?」

 

 

 

「王都北東にある、通称『蜘蛛の巣』と呼ばれる森です」

 

 

 




脱出まで行けませんでした。
まあとは言え次からそろそろ神崎くんと内山さんが本気を出してくれるでしょうきっと。

今回はついでに通常個体狩りまくると特殊ポップ率上がる理由を作ってみました()

それでは感想質問批評等お待ちしております!


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第十二話  暗殺

いよいよ宰相が動き始めます。
まあ、今作の主人公は石橋を音響探査しながら渡る人ですので大丈夫なはず……



それでは、第十二話、どうぞ!


「結構遠いんだな」

 

「そうですね。生息する生物は、普通の生き物から魔物まで、毒を持つものが多く、魔物暴走(スタンピード)を引き起こしやすくもあるので、王都は距離を取ったという話ですから」

 

「そんなこと良く知ってるな……」

 

「実家にあった本に書いてありましたので」

 

昼前から馬車に揺られること数時間。時刻は既に午後三時ぐらいだろうか?俺達――俺と内山、近衛騎士団16名は、今『蜘蛛の巣』の入り口に居た。

 

「ここがいつも冒険者が入る場所?」

 

「はい、そうです」

 

「じゃあ行きましょうか。<防衛者>、障壁を」

 

「了解、<絶対障壁(バリア)>」

 

総員18名を覆えるほどの大きさまで拡大。続いて<周辺警戒(レーダーマップ)>を発動。騎士団の連中が黄色い点(敵味方不明)として表示される。探知範囲を拡大すると……あれ?多くね?赤い点()が大量に見えた。うっわこれ全部魔物かよ……蟲系の。うわ鳥肌立つ。

 

 

4人一組で、俺と内山の四方を囲んで進む。守られているように見えるが、俺達が逃げることもできなさそうではある。しかもこの森、やたら深い。

 

 

昨夜練習したとおりに、<絶対障壁>と<周辺警戒>を発動したままに、<勇者>に変える。よし、上手くいった。<魔力探知>を発動。<周辺警戒>と重ね合わせる。現在地からさらに奥へ行った場所に、巨大な魔力反応。

 

周辺には同規模の魔力反応は無い。こいつが目標とみた。幸いなことに、このまま直進すれば辿り着くことができる。

 

 

そのまま、二時間ほどで目標付近に到達。戦闘自体は、至って単調なものだった。後衛の魔法担当への周辺からの攻撃を<硬き壁(ハードウォール)>で強化した<絶対障壁>で完全に押しとどめる。そのため前衛は後衛を気にすることなく攻撃に専念できる。

 

 

一方で定期的に毒液をまき散らされる前衛だが、直後に内山の範囲回復魔法で全快・解毒。その一方で攻撃力・速度上昇の<支援魔法>を乱発している。さらに回復の必要がなくなった後衛も、別口で支援系魔法や敵へ阻害系魔法をかけている。<支援魔法>は他の魔法と重複可能。なんだこれ。

 

 

結果として、千年前は、Bランクプラスと分類されていた昆虫系でも厄介な特殊指定魔物(ユニークモンスター)は、特に何もできないまま、あっさり倒された。と言っても、HPがかなり多い魔物だったので、時間はかかったし、向こうから見たら嬲り殺しにされたようなものかもしれない。

 

……うん、ごめん、蜘蛛さん。賠償は……できないけど。すまん、運が悪かったと思っててください。

 

 

 

そんなわけで無事依頼された魔物の討伐には成功。討伐証明部位である毒腺を得るため、解体に移る。と言っても、俺は騎士団何人かと一緒に穴を掘り、内山は見てるだけ。解体は騎士団員がやってくれた。なぜ穴を掘るのか、というと、これは大きい魔物ではよくやることだが、魔物の死体は餌になる。特に今回のは特殊指定(ユニーク)。喰った魔物が変質しないとは限らない。そこで解体後、穴にいれ、燃やしてから埋めるという手法を取る。面倒な。

 

というわけで穴掘り終了。深さ一メートル、直径五メートルほどの円柱型。解体してばら撒いて燃やすにはちょうど良いくらいの大きさ。

 

「解体終わったぞ!」

 

「穴掘り終わってます!投げ込んでください!」

 

毒腺以外の部分が放り込まれていく。軽くグロ画像。蜘蛛だしな。

 

着火は後衛の1人が火魔法で。完全なるグロ描写なので詳細は割愛するが、臭いが……うん、ヤバかった。騎士団の皆様も非常に顔色悪かったですね、はい。死体は見慣れても焼ける臭いは……

 

 

鎮火するまで30分。予め解体して正解だったと思う。あとは穴を埋めてここを立ち去るだけである。そばに突き刺さったスコップを手に取ったところで。

 

 

後ろから何か丸いモノ()が飛んできて、穴に入った。同時に背中全体にナニカ水のようなモノ()がかかる感触。時刻は既に逢魔が時。黄昏時、誰そ彼時。まだ十分な明るさはあるものの視界がややぼやけた状況。

 

背中から殺気を感じ、前に飛んで後ろを振り向くと、まさに今、目の前を剣が通り過ぎたところだった。

 

そしてその向こうに見える、首を失い崩れ落ちる肉体。

 

()()()()()()()

 

その肉体に()()()()()()()()()のを<魔力感知>で確認。ならばやることはただ一つだろう。<警戒地点設置(レーダーサイト)>。同時に動く。

 

「おい!一体何を!」

 

「悪いな<防衛者>、貴様にはここで死んでもらう」

 

「くそったれが!そんな簡単に死んでたまるかよ!」

 

「ふん、女は既に殺した。回復もできない状態で、我々に勝てると思っているのかガキが」

 

「誰の指示だ!」

 

「そんなこと関係ない……と言うところだが、冥土の土産に教えてやるよ、宰相閣下だ。わかったら大人しく死んでくれ、我々のために」

 

そういって地を蹴って向かってくる騎士の攻撃を防ごうと、<絶対障壁>を起動しようとした瞬間に、視界が回った。いや、視界が跳ねた、上に。そして、最後に見た光景は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その傍らに短刀を構えてたたずむ黒ずくめの男だった。

 

 

(しくじった……!戦闘終了時点で<絶対防壁>を解くんじゃなかった……()()()()()()()()()()……)

 

 

その思考を最後に、俺の意識は闇へと消えた。

 

 

 

 

 

 

「よくやった」

 

付随していた騎士団の小隊長が声をかける。今日の彼らの本来の任務に一区切りついたのだ。

 

「処理を急げ」

 

黒ずくめの男も手伝い、首一つと、体二つを穴に放り込む。黒ずくめの男は、宰相子飼いの情報収集係、ゴルトニア家の隠密。ここにいる騎士団員もまた、()()()()が宰相の息がかかった者達ばかりだった。

 

「……どういう、ことですか、隊長?」

 

「あ?」

 

「<防衛者>様と……<支援者>様をも……殺す……なんて」

 

「なんだ、文句でもあるのか?黙って従え、昇進出来るんだ、悪い事じゃなかろう」

 

「ですが!彼等はまだ子供な上にこの世界の人間ですらないのですよ?!それをこちらの勝手で殺すなんて!」

 

「だからだよ、この世界の人間()()()()()()気軽に殺せるんじゃないか。バレないからな。いくらこちらが一方的に召喚したからと言って、こちら側の都合にもある程度従ってもらわねばならん」

 

「ですが……!」

 

「ああ、もう良い。お前も寝てろ(死ね)

 

「え…?」

 

そう言って隊長はその騎士団員の首を刎ねた。

 

「戦闘中に勇敢なる騎士団員が1名()()。以上だ、急げ、穴を埋めるぞ」

 

穴の中に、騎士団員一人の死体が加わった。穴が完全に埋まったところで、地面をならし、不自然にならないように魔法で下草を生やす。30分もしないうちに、そこに穴があったとは誰も気づかないレベルになっていた。

 

「よし、行くぞ」

 

 

 

既に日は沈み、代わって月が空を照らす。

 

そんな彼等を。月と、魔力が集合したナニカがじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『HPの全損を確認。<聖剣・サクリファイス(犠牲)>の耐久度の減損なし。<勇者>再生プログラム起動、シークエンス開始。<聖剣>の効果により<再生魔法・完全再生(オールリヴァイヴ)>を発動。肉体の修復を開始、終了まで30分。完全再生まであと2時間』

 

 

 

『HPの全損を確認。スキル<緊急蘇生(エマージェンシーリヴァイヴ)>による蘇生効果発動。タイマー起動、蘇生まで2時間。肉体の破損を確認。付随効果<肉体再生(ボディーリペア)>を発動。肉体の修復を開始、終了まで10分』

 

 

 

 

 

 




あ、死んじまった。うわあ、どうしよう!(棒)



というわけで第十二話です。本文中では触れていませんが、最初の方、防衛者と話している騎士が、殺された騎士でもあります。


今後の予定…というほどでもありませんが、一応次は、クラスメイト&王都の閑話を挟む予定です。



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閑話  今代<勇者>の決意

更新と再起動…だと…


予告通り、王都サイドのお話です。

それでは第12.5話、どうぞ!


<防衛者>神崎啓斗と<支援者>内山さくらが殺された日の夜。王都・王城の謁見の間では、馬を全力で駆けさせた近衛騎士団の報告が行われていた。

 

 

 

 

「何、魔族が?!」

 

「は、ギガントポイズンスパイダーの討伐に成功した直後、気が緩んだ隙を突かれ、クラウディア・リベオール正騎士が討たれました。さらに他の騎士へ襲い掛かろうとしたところを<防衛者>……様が、障壁を張ってくれたので」

 

「では<防衛者>様は?<支援者>様もお姿が見えないのですが……まさかっ!」

 

「王女殿下、申し訳ございません……我々も力を尽くし、できうる限りのことはしたのですが……我々を庇って……」

 

 

 

小隊を率いていた隊長の話はこういうことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔族による不意討ちを受け、1人が殺された騎士小隊を護るように<絶対障壁(バリア)>を展開。<支援者>による援護もあり、最初は魔法攻撃を全て防御しきったという。しかし、騎士団員含め17名を覆うほどの障壁は、当然ながらかなりのMPを消費し、疲労もたまる。一瞬の隙を突かれてまず<支援者>が殺された。さらに<防衛者>自身も腹部を刺された。しかしそこで相手の剣と手、自分を<絶対障壁>で固定し、その間に首を刎ねるように指示。

 

見事魔族の討伐に成功した。しかし、直後にさらにもう1人の魔族が出現。応戦しようとした騎士団に、<防衛者>は逃げるように指示。殺された騎士の剣を拾って、自分と魔族を囲むように内向きに<絶対障壁>を展開したのだという。

 

最初は命令権から指示に従い、退避したものの、途中で閃光が走り、爆発音が鳴り響いたので、心配になり戻ったところ、その場所は円形に吹き飛んでいたという。残っていたのは魔族の下半身だけの死体と、血が付いた<防衛者>の服の切れ端、そして血が付き折れている騎士剣だけだったという。

 

 

 

「魔族の攻撃魔法もしくは自爆だと……考えられます」

 

 

 

 

 

実際は嘘八百も良いところなのだが、内容に矛盾はなく、1人が欠けている理由も判明。もともとギガントポイズンスパイダーとの戦闘で前衛全員鎧には大なり小なり傷が出来、汚れている。そもそも魔族との戦闘ではほとんど守られてばかりだという点においても、観測可能な事実と一致。

 

ゆえに、これが嘘であることに、<勇者>メンバーも王国の上層部も、計画した張本人の宰相を除き、気づくことは無かった。

 

 

 

(よし、邪魔者の排除には成功したか。1人死んだが……まあ国のためだ、仕方ない。詳細は後で聞くとしよう。あとは厄介者も排除しなくてはならんな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その日の深夜、宰相の自宅。

 

 

 

「ご苦労だった、これは約束の報酬だ」

 

「ありがとうございます……それで、お言葉通り、昇進させていただけるのですよね?」

 

「それは騎士団長と話したまえ。私はただ役割をこなせば昇進も有り得ると言っただけだ」

 

「な……約束と違うじゃないですか!」

 

「約束?なんのことだ?私は昇進は有り得ると言っただけで、昇進させてやると言った記憶はないぞ?」

 

「ふ、ふざけんなよ!なんのために殺したと思っているんだ!」

 

「そのような事をあまり大声で言うのは良くないぞ?」

 

「人に人を殺させといて今更だろうがよ!くそっ、こうなったらいっそ公表して道連れに……」

 

「それは困るねぇ……やっぱり下賤な犬は使い捨ての駒にしかならんか」

 

「なんだと?」

 

「やれ」

 

「何をっ……ガッ?!」

 

 

 

次の瞬間、隊長の胸から短刀が突き出てきた。いつの間にか回り込んだ、黒づくめの男から、真後ろから胸を一突き。

 

動かなくなった隊長を見て、宰相は小さくため息を吐いた。そして、

 

 

 

「ついでだ。全員殺してこい」

 

「は」

 

 

 

一言そう答えると、隊長の死体と共に一瞬で消えた。残りの随伴メンバーを消しに行ったのだろう。

 

 

 

「言い訳はどうしようか……魔族の報復、で良いか。これで邪魔者は全て消し去ったな……成就までまた一歩前進か」

 

 

 

宰相宅、血だまりが広がるホールに、宰相の声だけが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同日夜、<勇者>メンバーに割り当てられたリビングでは、<勇者>達が内山の死を悼んでいた。一方で神崎の死は、自業自得だろう、としか思われていなかった。

 

 

 

「内山さん、どうして……」

 

「なんで神崎より先に死んでるんだよ!」

 

「女子を先に死なせたのか!」

 

 

 

彼等の耳に、「隙を突かれて」という言葉は残っていなかった。ただ、神崎啓斗よりも先に内山さくらが死んでしまったという事実だけが残っていた。

 

特定の誰かと組むという事はしなかったが、誰に対しても柔らかい物腰で接していた彼女の死は心から悼まれた。そして当然の如く、その責任は共に行動しながらも、彼女より後に死んだ神崎啓斗へ向く。そして向くだけの根拠もあった。

 

誰もが思い出していたのは、一週間ほど前の竜の訪問時に、彼が言い放った言葉。

 

 

 

──<支援者>が<防衛者>に同調するのは当然だ

 

 

 

──なぜなら<支援者>は<防衛者>の唯一のパーティーメンバーなのだから

 

 

 

その発言は、今の彼等には、<支援者>は<防衛者>の部下である、と言っていたようにしか思えなかった。ダメ押しがその後の二人の会話である。

 

 

 

──<支援者>、お前はまだあちら側にいろ、そっちの方が都合が良い

 

 

 

──言われずとも

 

 

 

まるで上司が部下に命令するような、いや、それは紛れもなく、<防衛者>から<支援者>に対する命令であった。そして<支援者>内山さくらは、その命令を拒まなかった。

 

 

 

「なんで内山さんを庇わなかったんだ!」

 

「<支援者>が<防衛者>の部下だから……とか?」

 

 

 

よって彼等はその結論に辿り着く。

 

 

 

「なっ……じゃあ身代わりにしたってのか!」

 

「女子を身代わりにしようとするなんて!」

 

 

 

落ちこぼれの男子が生き延びようと、ステータスの低い女子を身代わりにしたのではないか、という彼等にとって()()()()()()()()()結論に。

 

 

 

無論この結論には欠けているものが多すぎる。

 

<防衛者>も<支援者>同様に低ステータスでまとまっているという事実が。

 

彼が最期まで<絶対障壁>を張り続けたという騎士団員の言葉が。

 

ただでさえステータスが低い者が、足手まといを守りながら、命を懸けても到底敵いそうにない相手と戦う時に、周囲を気にしている暇などない、という思考が。

 

冷静であれば全て分かるだろう事が欠けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、神崎を蔑む声が多い中、篠原はうつむいて考え込んでいた。

 

自分自身の体で魔族の動きを制限し、倒させる。あの強力な魔法障壁たる<絶対障壁>を内側に向け、慣れないはずの剣を持って足止め。最終的に爆発に巻き込まれて死んだ。円形に吹き飛んだということは、爆発まで<絶対障壁>を維持しつつ戦っていたことになる。しかも恐らくレベルは1、攻撃力も初期値と変わらない状態で。

 

 

 

騎士団(他人)を護るために。

 

 

 

自分が最優先だといった、(神崎)の姿とそれが重ならなかった。

 

 

 

レベルも低い、当然MPも少ない、体力は現代人の人並み程度。その状態で16人を護り続ける障壁を維持し続けるのは至難の業だ。むしろ、一度集中が切れたらもうできない可能性すらある。しかも恐らくは間近でパートナーたる<支援者>内山が殺されているはず。だというのに、冷静に、倒す指示を出している。

 

だが、最終的に殿……というか囮を務めた。この部分も何か違う。自分を最優先で動くなら騎士団に任せた方が得、と言うか彼は生き残れるはずだから。

 

そこまで考えてある考えが閃く。

 

「いや、まさか……!」

 

「どうしたの勇人?」

 

「い、いや。ちょっと考え事をな」

 

「ふーん、何?内山さんのこと?」

 

「いや、神崎の方だ」

 

「アイツ?何かあったっけ?」

 

「いや、ちょっと、な。一応は同じクラスの仲間だったんだし、さ」

 

「勇人は優しいね」

 

 

確か、報告では一人目の魔族は、神崎が自分の肉体と障壁で相手を固定して倒したと聞いた。偶然か狙ってか、腹に刺さった剣を相手の腕ごと固定することによって。

 

人族領に出てこれるほどの魔族なら、レベルも高いはず。騎士団が倒しきるまでにもそこそこの時間を必要としたはずだ。その間剣は刺さりっぱなし、終わった直後に再び魔族襲来。<治癒魔法>や<回復魔法>を発動するひまもなかったのだとしたら。

 

 

逃げても遅かれ早かれ死ぬのが見えていたから、自分が殿となって、死兵となって、騎士団を逃がした。出来るだけ多く生き残り、情報が伝わるように。

 

 

そうは考えられないだろうか?

 

 

 

「マジかよおい……」

 

 

 

推論でしかないが、状況を聞く限り、篠原にとって、これが真実に近いと確信できる仮説だった。

 

 

 

何があっても自分を優先するという姿勢を取った(神崎)が、例えなりゆきであっても、自分を犠牲にまでしてこの世界の人を守った。

 

 

 

ならステータスが優れる<勇者>である自分がそれをせずに何をしようと言うのか。

 

 

既に彼と彼女(神崎・内山)を殺した魔族は、彼自身が殺している。ならば何をするか。

 

 

 

「魔王を倒し、魔族を亡ぼすことで二人への弔いとする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日この時、<勇者>篠原勇人は決意した。

 

 

 

何としてでも<魔王>を倒し、魔族を亡ぼし、人族を救う。そして、せめて今生きている者は全員、元の世界へ連れ帰る。それが、先に死んだ学友の願いにも沿うだろうと。

 

 

 

彼は気づかない。それがすべて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()




以上です。

自分で書いてて笑いそうになりました。こうして<勇者>は、魔族を滅ぼす意志を固めます。
それが根本から間違っているとも知らずに。

次話から主人公サイドです。
それでは、感想質問批評等、お待ちしております!


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閑話  竜、再来

物凄く短いですが、これはこれで後の展開に必要かと思い、入れました。


それではどうぞ!


 

<防衛者>神崎啓斗及び<支援者>内山さくらが殺された翌日。篠原他<勇者>パーティーは、訓練場に来て、ひたすらに訓練を行っていた。特に<勇者>たる篠原は、朝早くから、これまでとは違う気迫で訓練に励んでいた。

 

 

「ふむ、勇人は何かあったのかね?」

 

それを見た騎士団長が、近くで休んでいた<槍術師>北川尚宏に聞いた。

 

「昨日<防衛者>と<支援者>が死んだという話を聞いてから少しおかしくはあったんですが……」

 

「なるほど……彼らの死については非常に残念に思うよ。二人とも、なかなか面白い子だったし、ね」

 

「<防衛者>……神崎もですか?」

 

「ああ、他の者はあまり良くは思っていないようだったがね。あの年齢で、あの場所で自分の意見を言えるのは素晴らしい。意見も筋の通ったものだ。国を守りたい我々からすれば残念ではあったがね……さて、では勇人君の訓練に付き合うとしようか」

 

そういって模擬剣を手に、篠原のもとへ歩き出したその瞬間。

 

「─────っ!なんだ!?」

 

 

 

訓練場の屋根が壊れた。

 

『──一週間ぶりだな、<勇者>よ』

 

一週間前の焼き直しのようだ。再び屋根を壊して現れた竜──クトゥルフと、それを呆然と見上げる<勇者>達。

 

『さて、答えを聞こうか。<勇者>よ。我らが始祖の提案に応じ、元の世界へと帰還するか否か。とはいえ、本来帰還以外の選択肢はないのだが……』

 

「黙れ」

 

『ふむ?<勇者>か』

 

「俺は、魔族を亡ぼすまで帰らない!魔族を……奴らに加担するお前ら魔物も!滅ぼさなきゃ、あの二人の仇を取るまでは!」

 

『あの二人?はて……そういえば魔力反応が二人足りんな』

 

「とぼけるな!お前も知ってるんだろ!」

 

『なんの話だ……何と、いないのは<防衛者>に<支援者>か?彼らはどこにいる?』

 

「はっ!あくまでも知らないふりか!良いぜ、教えてやるよ!二人とも、昨日殺されたよ!お前らの仲間、魔族にな!」

 

『……本気で言っているのか?』

 

「当たり前だろう!冗談でこんなことが言えるか!」

 

『……まさか……』

 

「だからもう騙されるわけにはいかない!帰れ!」

 

『そうか、それが答えか。了解した』

 

 

『滅びを選んだか。人種よ、何と愚かな……では。安心せよ、もう二度と会うこともあるまい』

 

 

 

そう言うとクトゥルフは翼を翻し、去っていった。

 

 

 

 

 

 

『<防衛者>と<支援者>を高々魔族一人が消すことなど不可能だというのに……愚かな。しかし、そうか。消されてしまったか……かわいそうなことをしたな……始祖竜に伝えなくては……いや、<魔王>が先か?どちらにしろ、魔族を滅ぼされては、<システム(世界)>が立ちいかなくなってしまう……急がねば!』

 

進路を南西に向けて飛び始めた。目指すは南大山脈中腹。全ての魔法・スキルを失い無力化された()()()()()()()()()()にして、()()()()()()()()()()()()()()()でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に……従うものか……待ってろよ、魔王……神崎、内山、仇は、取る……!」

 




以上です。

それでは感想等受け付けております。


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閑話  管理者達の会談

合宿により、1週間ほどこれから離れておりました。本日から再開いたします。

本格的な更新は明日からになるかと思います。今日は、頭を小説シフトに戻すための閑話です。


それではどうぞ!


「王国が<勇者召喚>を行ったらしい。クトゥルフに動いてもらった」

 

「ここ数日の<システム>の異常稼働はそれが原因か?」

 

魔族領南大山脈中腹にある、建物の庭。そこにあるテーブルセットに、二人の男が腰かけていた。

 

「恐らくな。だが<魔王>は……?」

 

「いるわけがない。俺がここに居るのだからな」

 

「だから帰れと言いにやったのだが、しかし既に<聖剣>の召喚すら済んでいる」

 

「呼び出されたのは?」

 

「<聖剣・正義(ジャスティス)>。確か詠唱は『我が正義を以て魔を打ち払い、人の世に聖なる光をもたらせ』だったかな?」

 

「それはまた……<勇者>の()()()()()()()()()()を集めたような<聖剣>だな。<魔王>が居ないというのに面倒な」

 

「いざとなれば管理者権限を行使して<防衛者>に応援を頼む外あるまい」

 

「いや、それには及ばない」

 

「何?」

 

「その<召喚>からと思われるがね。先代が戻ってきた」

 

「ケイトがか?!しかしアイツには既に<聖剣>があるだろう」

 

「いや、どうもそれが、感じ取れる魔力が妙に弱い。恐らく先代<勇者>の姿を隠していると見た」

 

「ふむ?しかしなぜだ?アイツが理屈に合わぬ事をするとは思えん。何かしら考えのある事だろうと思うが……」

 

「ふむ……まさかとは思うが今代に遠慮でもしているのか?」

 

「まさか。アイツが遠慮なんてするわけがないだろう。ましてや<正義>を呼び出すような<勇者>だぞ今代は。アイツにとってはむしろ」

 

「ぶん殴りたい相手だろうなぁ……同族嫌悪的な意味で」

 

「それでもまだ千年前のアイツの方がましだろう。<聖剣・孤独(ソリチュード)>は中々の物だった」

 

「アレは面白かったな」

 

「今代がどんなのか知らんが、あまり関わりたくない相手では────む?これは」

 

「どうした────誰だ?」

 

「クトゥルフか。しかし速度が尋常ではない」

 

「おお、<魔王>殿も一緒だったか」

 

「どうしたクトゥルフ、随分慌てているようだが」

 

「ちょうど今代<勇者>について話していたところだったが」

 

「今代<防衛者>と<支援者>が、殺されたらしい」

 

「……は?」

 

「おいおい一体誰に」

 

「今代<勇者>によれば……魔族、だそうだ」

 

「いつ」

 

「昨日もしくは一昨日の夜」

 

「おいグラディウス」

 

「動いていない。<転移魔法>は」

 

「感知していない。そもそも魔族領から人族の……シルファイド王国だったか、あそこまで転移するとなると馬鹿げた魔力量だぞ」

 

「向こうに前からいた奴の可能性は」

 

「あっちに居るのは全部今代魔王の子飼いか人族にほぼ同化しつつある奴らだ。レベル1であっても<防衛者>を殺せる代物ではない。そもそも奴らには殺す理由がない」

 

「ならば────なるほど、自ら滅びを選びに行ったのか」

 

「おいおい阿呆だろ……いや、まさかとは思うが、伝承がないのか?」

 

「ないとは言えない。まあだからこそ魔族に殺されたなどと戯言をほざけるのだろうが」

 

「ふむ────いや、ちょっと待て」

 

「どうした?」

 

「<防衛者>が殺されたというならば、なぜ<システム>が反応しない?」

 

それを聞き、はっとしたように、近くにある家の中へ駈け込んでいく男──初代<()()>グラディウス。ややあって再び出てきた彼の顔には笑みが浮かんでいた。

 

「予想通りだ、俺としたことが失念していた。<システム>によれば<防衛者>も<支援者>も生きている」

 

「こういうときばかりは<機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)>に感謝だな」

 

デッキチェアに最初から腰かけていたもう一人の男──始祖竜“アザトース”・人化形態は、かつて初代<勇者>神崎啓斗が<システム>の事を知った時に最初に放った言葉を引用した。

 

さくらの評価でも、誤訳(機械神)でも正しい訳(どんでん返し)でも当てはまりそうでこの存在にぴったり、とのこと。

 

「しかしそうなるともう一つ気になることが……」

 

「なんで死んでないか、だろ」

 

「ああ、もしくはなぜ死んだとされているのか」

 

「答えと材料は目の前にある。これはサクラからの受け売り──サクラ自身も本で読んだ事らしいが──になるが、『不可能なものを除外していって残ったものが、たとえどんなに信じられなくとも、それが真実』だ」

 

「……おいおい冗談だろ……いやでも確かにありえない事ではない。前例もないから……でもそれは有り得るのか?」

 

「それ以外にないだろう。<防衛者>も<支援者>も一回死んだんだよ、紛れもなく。そして復活した、この場合は再生したと言った方が正しいかもしれない」

 

「その時点でもう<防衛者>でも<支援者>でもじゃなくなっていたかもな」

 

「アイツの、悲観的未来予測には本当に頭が下がるな」

 

「全く……なら魔力が微弱だったのも」

 

「<防衛者>として存在していたからだろうな……アイツの<ステータス隠蔽>を見破れる奴は人族にはおるまい。で、まあそうなるなら<支援者>は……」

 

「あの子かな?ちょっと<支援者>の魔力量の推移を見てきてくれ」

 

「ああ」

 

再び建物の中へと消えるグラディウス。

 

ややあって出てきた彼の顔は、納得した顔になっていた。

 

「殺されたという日の前日の夜、一瞬だけ魔力量が馬鹿でかくなっていた。あれはレベル1の<支援者>の魔力量じゃない」

 

「確定か。しかし幸運ではあるな。これで<防衛者>達も知らない奴らだったら目も当てられん大惨事だ」

 

「主に人族が、だな」

 

「まああいつらが死を偽装したのなら、目的は分かりやすいな」

 

「こっちへの合流、だろう。<転移門(ポータルゲート)>も失われているし、都市もだいぶ滅んでいるところが多い。千年前の<転移(ポータル)>も記録が役に立たんのではな……」

 

「まあでも、迎えも連絡を入れる必要も」

 

「ないな。アイツなら何が最善かを判断して行動してくれるさ。それでこその<勇者>だ」

 

「そして同時に<防衛者>、か。ふむ、最後は今代<勇者>と激突か」

 

「蹂躙の間違いだろう。同格以上の<勇者>に、莫大な魔力量を誇る<魔王>、そして竜種の頂点六体。こりゃどう考えても覆らんだろう」

 

「我々は待つだけで済む。アイツが動いてくれるなら俺達が手を出す必要もあるまい」

 

「ではアイツが来るのをのんびり待つとしようか」

 

「言わなければならないことは山ほどある……アカリとアリスの事とかな」

 

「そう……だな」

 

一瞬表情が沈むが、再び元通りとなる二人。

 

「クトゥルフ、お前は引き続き王国の動きを探ってくれ。よほどのことが無い限りは手出しも禁止する」

 

「了解」

 

「今代勇者がボコられるのすっごい楽しみだな」

 

「だな」

 

 

彼らはこうして待ち続ける。全ての歯車が揃うときまで。

 




以上です。

<システム>も存在そのものも中々ご都合主義ですし、存在する目的もかなりご都合主義的な物なのでぴったりかと思い名付けています(啓斗が)

感想批評質問等、お待ちしております。


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第一章  南を目指して
第十三話  目指す場所は


さてさて薄情<勇者>(笑)が王城でなんやかんややってた頃のお話です。

ああ、一回殺されたね、で?()by神崎

というわけで、第十三話、どうぞ!


深夜。

 

王都から馬車で4時間、騎馬なら1時間程度の場所にある、『蜘蛛の巣』と呼ばれる深い森。蟲系の魔物が多く存在するその森林の深く。この森の主、ギガントポイズンスパイダーが巣を張っていた、何の変哲もない開けた平地。

 

 

 

「だぁーもう!窒息死するとこだったじゃねえか!」

 

まさか死体を埋めるとはね。いやてっきり魔物の餌にでもなるように放置かと思ったんだが。とりあえず体を確認。

 

傷は無い。服は……何か鎧になって……ああ、聖鎧か。

 

<聖鎧・シンファギス>。<勇者>として前線で戦うときに装着する鎧。分類的には<聖剣>なんかと同じ、魂に結ばれた武具。防御力・耐久力でこれに勝る防具は、恐らく同等の<聖鎧>のみだろうな。

 

さて、これがあるならば当然腰には。

 

「ああ、やっぱり<サクリファイス(聖剣)>あるのな。まあ良い。あ、内山掘り出さねえと」

 

俺より蘇生に少し時間はかかるとはいえ、もうそろそろ目覚めるはずだ。流石に内山にあれ()はきついだろう。

 

土を掘り起こしていく。<魔力探知>で<緊急蘇生(エマージェンシーリヴァイヴ)>のための魔力を探しながら。

 

「ああ、居た居た。よっこらせ、っと」

 

<土魔法>で、内山の上に被さっていた土をどける。こいつの服は……前のまま、つまり学校の制服のままだな。服及び体共に外傷無し。上手く発動してくれたようだ。

 

とりあえず<空間収納>から前回から引き継いだ布を取り出し、地面に敷いて、内山をそこに寝かせる。

 

「さて、こっちどうしようか?」

 

内山を掘り起こすために退けた土の塊。その中から出てきた、1人の女性騎士の遺体。首と胴体が完全に分断されている他、遺体の扱いが悪かったのだろう、腕や足の骨、肋骨まで折れている。

 

「どうしたものかね」

 

場所と遺体の状態、付けている鎧から考えて彼女は近衛騎士団の一人、って、この人、

 

「行きの馬車でいろいろ教えてくれた人じゃん」

 

ふむ、とりあえず放置の方向で。とは言え、このまま森で朽ち果てるに任せるのは、女性の遺体の扱いとしてどうかと思うので、もう1枚布を出し、それに首と胴体を生きていた時同様に置く。そして<治癒魔法>で遺体の損壊を治したり、首と胴体をつなげたりする。最後に腐敗しないように<時間魔法>で遺体の時を止める。

 

「<時間停止(タイムストップ)>」

 

「──何やってんのよアンタ」

 

「うわぁっ!……何だ内山か。蘇生したんなら声かけてくれりゃ良いのに」

 

「女性の遺体掘り起こして、布の上に寝かせて傷まで治して、時間止めて何するつもりだったのよ。どう考えても不審者じゃない。顔見知りとはいえ躊躇うわよ」

 

「流石に女性の遺体を朽ちるに任せて放置じゃ心が痛むからこの後をお前と相談する予定だったんだよ!」

 

「何だ、てっきりオモチャにでもするのかと思ったわ」

 

「お前のその発想が怖いわ……仮にも女子だろお前」

 

「何か文句でもおありでしょうか<勇者>様?」

 

「……もういいや。で、こいつどうする?」

 

「あなたの事だからどうせ監視系の魔法(レーダーサイト)置いているのでしょう?それで確認しましょう。肉体は崩壊していないし、時間を止めているから魂はまだ残っているはず。<蘇生魔法>かければ生き返るわよ」

 

「それもそうか。<警戒地点設置(レーダーサイト)記録再生(ビデオムービー)>。ちょっと待ってろ……<思考投影(イメージプロジェクター)>」

 

<警戒地点設置>の機能の一つ、<記録再生>。いわば監視カメラの映像を、頭の中で確認する感じである。そして<思考投影>。考えていることや、この場合は映像を、外部に魔力で構成した幕に映し出すもの。魔法ってまじ便利。

 

「──へえ、なかなか上手く芝居打ったのね」

 

「あのタイミングで仕掛けるとは予想しなかったけどな」

 

「で、こっからが問題?」

 

「そうそうこいつが何で殺されたのかっていう」

 

 

 

『──どういう、ことですか、隊長?』

 

『あ?』

 

『<防衛者>様と……<支援者>様をも……殺す……なんて』

 

『なんだ、文句でもあるのか?黙って従え、昇進出来るんだ、悪い事じゃなかろう』

 

『ですが!彼等は未成年な上にこの世界の人間ですらないのですよ?!それをこちらの勝手で殺すなんて!』

 

『だからだよ、この世界の人間じゃないから気軽に殺せるんじゃないか。バレないからな。いくらこちらが一方的に召喚したからと言って、こちら側の都合にもある程度従ってもらわねばならん』

 

『ですが……!』

 

『ああ、もう良い。お前も寝てろ(死ね)

 

『え…?』

 

 

 

「──あきれた。仲間内ですら意思統一できてないのかしら」

 

「で、どうする?見た感じ、アレの仲間でもなさそうだし、巻き込まれただけっぽいけど?」

 

「うーん……蘇生して、様子見て場合によっては殺す?」

 

「ひでえなお前!」

 

「だって敵対したら元も子もないし……まあ、そうね、万一の場合はダルマに」

 

「なんでお前そんな言葉知ってるんだよ!ていうかお前それ殺すよりひど……くないのか」

 

「ええ、手足なくすくらいなら治るわよ」

 

この世界には<治癒魔法>がある。手足の欠損程度であれば、騎士団所属員なら騎士団専属の治癒師に治療を……って待て。

 

「なあ、こいつさ、もしかしなくても、殉職って報告されて……ちょっと待ってろ」

 

もう一度、さっきの映像を映す。先ほどの首刎ねシーンの後。

 

 

 

『戦闘中に勇敢なる騎士団員が1名殉職。以上だ、急げ、穴を埋めるぞ』

 

 

 

「──ビンゴ。もしかしなくても死んだことにされてら。どうする?埋めてく?火葬する?」

 

「──蘇生させて連れていきましょう。ちょっとこのまま放置は色々と私も心が痛むから」

 

「珍しいな。お前が人を積極的に拾おうとするのは」

 

「一応<聖女>ですし?戦いの事しか頭にない人間とずっと二人だけで旅するのも苦労しそうだし、女子の連れがいた方が楽しいかなと」

 

「何かすっごいディスられてる気がするのは置いておいて、じゃあ蘇生かけるんだな?」

 

「ええ──<完全蘇生(パーフェクトリヴァイヴ)>」

 

詠唱も何もなく、一発で、しかも回復系最上位に当たる<蘇生魔法>の最奥義を発動させるあたり流石<聖女>なだけのことはある。

 

「──ッゲホッ!え?私生きて、ゲホッ、生きてる?」

 

「成功」

 

「<聖女>だから出来て当然」

 

「貴方達は……ひぃっ?!」

 

「おう、正気に戻ったっぽいな。気分はどう?」

 

「え?何で?さっき殺され……そういえば私も……あれ?」

 

「あー、うん。まあ確かに殺されたな、俺もお前もこいつも」

 

「え?でも生きて……」

 

「蘇生させたからな、そりゃ生きてるさ」

 

「じゃ、じゃあ私今アンデッド……?」

 

「いや?いたって普通の人間……だな。変な称号は増えてるかもしれねえが」

 

「啓斗、ちゃんと、順番を踏んで、納得できるように説明しなさい。貴方の説明ではこの人が混乱するだけだわ」

 

「わかった、じゃあ全部お前に任す!」

 

「はぁ……ええと、落ち着いて聞いてくださる?」

 

「え、ええ」

 

「では説明します。まず一つ目、私たちは全員一度死んでいます」

 

「え?でも今生きて……」

 

「生き返りました、蘇生しました。私と貴女は魔法で、コレは別件で」

 

<蘇生魔法>。さて、千年前はそこそこ有名な魔法だったが、現代ではどうなのか?いや内山なら知ってるか。

 

「魔法ってまさか……でもあれは伝説上の」

 

「ええ、まさしくそれですね。行使したのは私、対象は私自身と貴女です」

 

「自分自身、に?」

 

「ええ、まあ少しコツが必要ですが。さて、ここまでお話した中では更なる質問は無い、と思います」

 

「は、はい」

 

「とはいえ、一つ大きな疑問がありますね、私たちが何者なのか」

 

「魔族……とかじゃないです、よ、ね?」

 

「人間ですよ?ああ、コレは人間辞めてますけれど」

 

だから人をコレ呼ばわりしてんじゃねえ。

 

「じゃあ何でその……」

 

「伝説の魔法を扱えるか、ですね。私が創った魔法だからです」

 

<再生魔法>から精神系の魔法を統合して発展した<蘇生魔法>を創り出したのは、紛れもなくこいつだ。かなりふとした思いつきだったように思うがそれはさておき。

 

「創ったってじゃあ、まさか、いや、でも……」

 

「初めまして、初代<聖女>サクラ・ウチヤマこと今代<支援者>の内山さくらです。そして()()が」

 

と言って俺を指さす。まじで、せめて人扱いしてほしいものだ。

 

「初代<勇者>ケイト・カンザキこと今代<防衛者>の神崎啓斗だ、よろしくな」

 

直後、鼓膜が破れるほどの大きな

 

「えぇーーーーーーーーーー?!」

 

という声が森に響いた。やかましいから静かにしてくれ。

 

 

 

 

「さて、説明も済んだことだ。次は、とりあえずの目的地を決めなくてはな。そこの騎士、家に帰りたいか?」

 

「いえ、元々家はあまり……」

 

「そうか、では俺達に付いて来てもらっていいだろうか?」

 

「は、はい!<勇者>様と<聖女>様に是非お供させてください!」

 

「あーその、<勇者>と<聖女>ってのは人前では止めてくれ。<防衛者>とか<支援者>もな。俺達は君を含め死んだことになっているし、俺と内山にとってはその方が都合も良い。名前で呼んでくれ。俺は啓斗、もしくはケイ。こっちはさくらで」

 

「あ、では私はセレスティア・リベオールと言いますので、セレスとお呼びください」

 

「あー、うん、わかった。あとできれば敬語なしで。年齢は?」

 

「啓斗、女性に年齢を聞くべきではないって、習わなかった?」

 

「え、と、17です」

 

「同い年だな。よし、互いに敬語なしでいこう!よろしくなセレス」

 

「はぁ……あらためましてよろしくねセレス。この馬鹿はむかついたら殴っていいから」

 

「そんな恐れ多いことできませんよ……あ、それで、え、と、ケイとさくらはどこに行き……行くの?」

 

「最終的には魔族領かな。ひとまず南端結合点を目指す予定」

 

「ええ?!魔族領?!」

 

 

「顔見知りがいる筈なんでな。では行こうか。南を目指して!」

 

 

 

 




全く動いていない件。

すいません次は動くので!

それでは感想質問批評等お待ちしております!


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第十四話  王国からの脱出

ようやくです!ようやく王国から脱出できます。さくらさんの判断は正解でした!


というわけで第十四話、どうぞ!


明け方、王都の東をかすめるように、騎馬で駆ける二つの影があった。

 

啓斗、さくら、セレスの三名。森から抜けた後、南へ行く途中の村で、近衛騎士(セレス)に交渉してもらい、金貨三枚で馬二頭を購入。そのまま王都の東から南へ抜けようとしていた。

 

 

 

さくらとセレスが同じ馬に乗り先を行く。道案内をするためだ。あとから俺が続く。ちなみに俺とさくらは平民の服に着替えた。

 

「ケイは、馬乗りなれてますね、やはり<勇者>だからですか?」

 

「そうだな。さくらも乗れないことはないだろう?」

 

出発後に、セレスだけ愛称呼びだとおかしくね?という俺の提案により、各自名前で呼ぶことになった。

 

「じゃあ何で二頭だけ?」

 

「王都付近の村にとって馬は直接的な生活の糧。それを三頭も奪うのはどうかなと思ったからよ」

 

「さすが<聖女>」

 

「……まあこれくらいはね」

 

「流石です!」

 

「……でしょ?」

 

「セレス、あまりさくらを調子乗らせるな」

 

「了解であります!」

 

「何言ってんのよ……あ、そこを左に。今右側に王都があるはず。あと三時間程度で次の町……ディセルドに着くわ」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

「市民証はあるか?」

 

「私はこれが」

 

そう言ってセレスが取り出したのは騎士団員章。近衛騎士団の紋章が彫り込まれたものだ。

 

「これは!大変失礼いたしました。近衛騎士団の方でしたか、こちらへは何の御用で?」

 

「王命で人の捜索をな」

 

「我々も協力しましょうか?」

 

「いや、あまり大騒ぎになってもな。我々だけで探す。ああ、この二人は目撃者なんだが、王都北の農村の者で、村から出たことが無くてな、身分証を持っていないんだ。身分は私が保証しよう」

 

「はっ、了解いたしました!どうぞ!」

 

「うむ、すまないな」

 

「いえ!」

 

 

 

 

 

「──近衛騎士すげえな。俺らどう考えても身元不詳の怪しい若者じゃん」

 

「この程度の無理なら、ぎりぎり通せま、通せるから」

 

「助かったわ。流石に千年前の冒険者証(ギルドカード)で入るわけにはいかないでしょうし」

 

「お役に立てて何よりで、良かった」

 

「……その癖も直しましょうね?」

 

「善処しま、する」

 

「ま、周囲から不自然に見られなければそれでいいだろ」

 

「そうね」

 

「とりあえず、ここで馬をもう一頭手に入れて、身分証明証作って、食料買うんだっけ?」

 

「そうね。<転移>できればいいのだけれど……」

 

「あー……まともにレベル上げする前に出てくることになったしなあ……あとは稼働してるかどうかの前にあるかどうかすらわからぬ<転移門(ポータルゲート)>を探すしかないからな」

 

「どう考えても無事とは思えないのだけれど」

 

「じゃあ地道に歩くか……」

 

「えっと確か最終目的地は……」

 

「南大山脈。魔族領と、人族領西大陸を隔てる、比較的新しい山脈ね」

 

「そこまで行くとなると……月どころか年単位かかりません?」

 

「ううん、多分そこまで時間はかからないはずよ、ねえケイ?」

 

「そうだな、道中で<防衛者>の方のレベル上げすれば、<勇者>の記録とリンクさせて<転移>が出来るはずだ」

 

<魔力探知>と<周辺警戒(レーダーマップ)>のリンクが可能だったことから、<勇者>として<聖剣>に記憶させている<転移(ポータル)>の記録を使える可能性も高い。

 

「何言ってるの?<防衛魔法>から<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>で車とかよびだせばいいじゃない」

 

「え?何それ?」

 

「え?知らないの?春馬さん(先代)が使って……た……けどケイいなかったわねそういえば」

 

「え?春馬さん何か使ってたの?」

 

「そうよ、詳しいことは話すより自分で確かめた方が早いから、早くレベル上げましょ?」

 

<防衛装備召喚>?何じゃそりゃ……いや、待て。<装備召喚>ってもしかして春馬さんが使いたがらなかったスキルじゃなかったか?

 

 

確か……いや、駄目だ思い出せん。

 

 

「……?ケイ?」

 

「……ああ、悪い、思い出しきれん」

 

「春馬さん中々使いたがらなかったからねぇ……まあ実際この世界で使うにはかなり危険だったわね、<報復魔法>とはまた別の方向で」

 

「春馬さんが使いたがらなかったんなら俺も使いたくないんだけど……」

 

あの人が使いきれないものを俺が使いこなせるとは到底思えない。

 

「ケイなら上手くコントロールできるでしょ多分。アレは使い方によるからねぇ……多分大丈夫だと思うよ?<勇者>の力も使えるんだし」

 

「じゃあとりあえずそれ目指してレベル上げ……の前に組合行って冒険者証取らなきゃいけないな」

 

「作り次第この国を完全に出てしまいましょう。優秀な冒険者だからと下手に召集されても困るし」

 

 

冒険者証は全国家共通で身分証となる。千年前のと微妙に異なるため、変えておいた方が良い、とはさくらの助言。

 

 

「じゃあセレス、すまないが食料品とか馬の購入を任せる。えっと……ああ、あった。コレ使っていいから」

 

<空間収納>から<収納袋(マジックバッグ)>を二つ取り出した。一つには金貨が、もう一つは空で、買ったものを入れてもらう。

 

「昼前に南門前に集結でいいかな?」

 

「そうね、お昼前に出発、今日中にはこの国を抜けられるかしら?」

 

「そう……ですね、じゃなくて、そうね。前はここからだと馬で五時間ほどで隣の国の最北端の街に着いたから、多分余裕をもって行けると思う」

 

「じゃあそういうことで、解散!」

 

 

 

──組合・ディセルド支部

 

 

「すいません、冒険者証を作りたいのですが」

 

「あ、はい。こちらへどうぞ」

 

「この用紙に、登録する名前と年齢、性別を記入してください。出身地の記入は任意です」

 

「──書きました」

 

「はい、えーっと、苗字は無い、サクラさん、16、女と、ケイさん、17、男、ですね?ご兄妹ですか?」

 

「はい、そうです」

 

「わかりました……ではこちらに血を垂らしてください。──はい、これで登録は完了です。ランクはFからのスタートになります。ランクごとに適正依頼があるので、それを一定数こなし、ポイントをためることで、ランクアップが可能になります。最高ランクはSS、現在のSSランク冒険者は二名です。SS目指して頑張ってください。ただし、組合規則違反行為をした場合、降格やポイント減少などのペナルティがあります」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

「いえいえ、それでは良き冒険者ライフを」

 

 

 

 

「お前いつの間に俺の妹になったの?」

 

「ぶっ飛ばすわよ?」

 

「自分で言ったじゃねえか!」

 

「……年齢が近い男女で、しかもこの年で、ずっと一緒に旅を続ける関係かつ、外部からちょっかいが無いような関係で、今の私達に一番しっくりくる設定。あ、ちなみにクラウも国出たら組み込むからね?クラウも冒険者証はあるって言ってたから」

 

「嘘やん……セレスのポジションは?」

 

「ケイの双子、私の姉。二卵性なら顔立ちと性別が違ってもおかしくはないわ。ああ、後で髪と瞳は色変えてもらうから。偽装腕輪あるでしょ?」

 

うわぁ……本人の了承を得ないまま姉妹あるいは兄妹にされてる。まあ言い方及び手段は<聖女>としてどうかと思うが、そこに至るまでの思考・論理過程は、非常に合理的なものだ。まあ兄妹が一番かもしれないな。

 

一番近い……というか有り得るのは幼馴染という関係だが、生憎そこまで互いに詳しいわけではないし、他人がくっつけようとか引き離そうとかするかもしれないことまで考えると、兄妹が一番。

 

 

え?自意識過剰?おいおい、俺は確かにフツメン程度だが、残り二人、特に極悪<聖女>(さくら)は外見はまさに<聖女>(美少女)だからさ。

 

 

 

 

 

 

昼前、無事全員が南門に集合した。

 

 

「ケイ、これ。こっちが金貨でこっちが食料」

 

「ん、ありがと。さくら、あとでこいつに説明しろよ?」

 

「わかってるわよ。じゃあ行きましょうか」

 

 

全員乗馬。旅の再開。途中でセレスにも平民の服に着替えてもらった。

 

 

 

それから三時間後。俺達はついにシルファイド王国から脱出し、隣の小国──エメラニア公国に入国した。

 

 

 




以上です!蘇生させたのは正解でしたね!

ようやく!主人公達が!自由に動けるようになりました!

長かった……

それでは感想質問批評等、お待ちしております!


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第十五話  初戦闘

どうにか間に合った、かな?




第十五話、どうぞ!


「ここがガルデアか」

 

「そう。エメラニア北端の街。と言ってもエメラニア自体がそこまで大きい国じゃないから、早馬ならここから二日もかけずに南端まで行ける」

 

 

ガルデアの北門で、入るための手続きの順番待ちの間に簡単な説明を受けた。エメラニアはどちらかと言うと、東西に広い国らしい。

 

 

「ここで冒険者ランクをCかDまで上げて」

 

「出来れば一週間以内にはここから動きましょう。あの国が本当に<勇者>を手駒として戦争を始めるならまず自国の拡大を図るはず」

 

「ここと後もう少し南に行った国もあまり大きくないので、侵略するとしてもそこまで間をおかないでしょう。いずれ<勇者召喚>と魔王復活を口実に勢力拡大をするでしょうし」

 

「現段階でこの国が攻められる可能性は?」

 

「ないとは言わないわ。でもそのための口実が無い」

 

「さくらが言う通りに動くとしたら、今この状態で他国を敵に回すのはあの国にとっても得策じゃない」

 

「今の段階の<勇者>はまだ手駒(兵士)として使える状態じゃあないからな……早くてあと数週間てとこか」

 

「最初にまず盗賊あたりかしら?私達みたいに」

 

「普通の盗賊か、そう仕向けられた奴かは知らんがな……」

 

「──次の方どうぞ。身分証明書はお持ちでしょうか?」

 

「ああ、三人分。これだ」

 

「──はい、えー、ケイさん、さくらさん、セレスさん、でよろしいですね。冒険者ですか、はい、確認できました。良き滞在を」

 

 

 

 

 

「──んでここが組合(ギルド)か」

 

「そうね、入りましょ?」

 

 

さて、こういう時はやっぱり伝統行事(テンプレ)があるべきだと思うんだがどうかな?

 

 

「すいません、依頼を受けたいんですが」

 

「冒険者ランクはどれでしょうか?」

 

「私と兄がF、姉はDです」

 

セレスは冒険者証(ギルドカード)は持ってはいるが、依頼を大して受けていないのでランクはDなのだとか。

 

「となるとパーティーで受けられるのはEランクまでですね。今現在出ているEランクまでの依頼はあちらの掲示板にあります。受ける依頼が決まったら、依頼書をはがしてこちらまでお持ちください」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

人との折衝はこいつに任せて正解だな。俺と話すときと性格が違う。二重人格者かこいつは。

 

「──どれ受ける?」

 

「出来れば討伐系が良いだろう?<防衛者>のレベル上げを兼ねるなら討伐系が手っ取り早い」

 

「そうだね──じゃあこれかな?」

 

そう言って、俺達に口調を崩すのに慣れてきたらしいセレスが取った依頼書の内容は、

 

《ゴブリンの群れの討伐依頼》

 

だった。

なんでもここから少し西に行ったところにある森から草原にかけて、ゴブリンの目撃情報が頻発しているという。目撃情報から上位個体数体に率いられた群れの可能性が高いとのこと。

 

まあちょうどいいのではなかろうか。三人しかいないなら、<絶対障壁(バリア)>で全員覆って、全員で攻撃しまくればいい。最悪とどめはクラウか<勇者>状態の俺がやればいい。

 

 

しかし上位個体か。アーチャーとかウィザード辺りなら大したことないけど……ジェネラルとかレッドキャップ、ブラック辺りはランク上がるからなあ……ま、いっか。

 

 

 

 

「──これを受けます」

 

「《ゴブリンの群れの討伐》ですね、わかりました。あ、パーティー名どうします?」

 

「どうする?」

 

「あれでいいだろ。いつもの」

 

「了解。じゃあこれで」

 

そういってさくらが紙に書き足した。

 

 

「パーティー名は──<ヴァルキュリオン>で間違いないですか?」

 

「はい。お願いします」

 

「西の森・草原の場所はわかりますか?」

 

「あ、はい。大丈夫です」

 

「それではお気をつけて」

 

 

 

 

ギルドを出たところで、誰ともなしに呟いた。

 

「テンプレ無かったな」

 

「まあ時間帯の問題と、あとは三人ともフードかぶってたから顔見えなかったんじゃない?」

 

「じゃあ次は外して入るか?」

 

「それはそれでめんどくさそう……」

 

 

 

 

 

西の森には、馬を走らせて一時間ほどで到着した。森の外、草原の手前で馬から降りて低くかがむ。

 

「じゃあ始めようか」

 

「そうだな──<魔力探知><周辺警戒(レーダーマップ)><絶対障壁>」

「<硬き壁(ハードウォール)><自動治癒(オートリペア)><自動回復(オートヒール)>」

 

俺とさくらで矢継ぎ早にスキルを発動。完全に無傷で済ませる気だ。さてさて……敵の数は……?

 

「ゴブ43、アーチャー5、メイジ4に……赤5、黒3、あと……将軍(ジェネラル)2、(キング)1」

 

「随分上位個体多いね、これEの依頼じゃないよ、少なくとも4人で、全員Dの編成で挑むような依頼だよ……」

 

「まあ俺等なら」

 

「赤子の手を捻るようなもの……だけどレベルあげしなきゃいけないし」

 

「どうする?」

 

「セレス、遠距離攻撃できる?できれば誘導できるか、見ても回避できない攻撃で」

 

「一応弓矢は出来るけど……」

 

「じゃあ私が付与するからケイ、管制と警戒お願い。アーチャーとメイジ優先」

 

「了解」

 

 

こいつ俺より<防衛魔法>使いこなせそうだな。恐らく矢に速度上昇系の付与をかけるんだろうな。<付与>も魔法に分類されるから、<周辺警戒>にも表示される。誘導系の付与ってそんなんあるの?

 

「<誘導付与(エンチャント・ホーミング)>」

 

あるんかい?!

 

「誘導方向の指示もお願い」

 

「了解、今見てる方向を零時方向とするぞ。一時方向及び二時方向に弓各1、十一時方向に弓1、魔2。十時方向に魔2が並列展開、零時方向に弓2」

 

次々と読み上げていく目標に、これまた次々と矢を放つセレス。ほとんどが誘導の必要性もなく、目標めがけ一直線。途中で速度を上げたのはさくらの仕業か。

 

こうしてまず遠距離攻撃が出来るものから何が何やらわからぬままに駆逐された。どこから攻撃されたのか分かっていないのだろう、普通のゴブリンが半恐慌状態のまま逃げようとしているのが見て取れる。上位個体は流石に恐慌状態ではなさそうだが、攻撃がどこから来たのかわかってはいないらしい。

 

「他の上位個体どうする?」

 

「後は接近戦でひたすら殴る。その方が経験値の貯まりも早いはずだから」

 

とのことなので、あとは3人で固まって派手に突撃。俺が殴ってさくらが投石して、最終的にセレスの剣で止めを刺した。いやあ非常に楽でした、はい。将軍とか王とかもいたけど、一度も攻撃させる事無く倒せた。レッドキャップ?ブラックゴブリン?殴ったりする回数が多かっただけですけど何か?

 

「敵影無し。目標の殲滅を確認」

 

「討伐部位も確認。あとは全部燃やせば済むけど……」

 

「俺がやる──<火球(ファイアボール)>」

 

職業を<勇者>に変えて<火球>を連続で生成。<周辺警戒>でマークした魔物の死体に次々と当てて燃やしていく。あとは放置しておけば、死体が燃焼しきった時点で勝手に消える。

 

とりあえず今回の討伐で、俺もさくらもレベルは4まで一気に上がった。とはいえステータスは大して変わってはいないのだが。

 

「じゃあ行くか」

 

 

 

 

「──これ、全部、ですか……?」

 

「そうです。ゴブリンキング1、同ジェネラル2、ブラックゴブリン3、レッドキャップ5、ゴブリンメイジ4、同アーチャー5、ゴブリン通常個体43の討伐証明部位です」

 

「──しょ、少々お待ちください。昇格条件を確認してまいります」

 

 

ふむ、やはり昇格か。まあゴブリンキングなんてめったに出ないし、ソロ推奨ランクDだしな。しかも普通は取り巻き連れているだろうし、当たり前か。

 

 

「──お待たせしました!えーと、まずさくらさんとケイさんですが、FからDに昇格です。そしてセレスさんですが、DからCに昇格です。おめでとうございます!」

 

 

ふむ、思ったよりは上がったな。これでもうちょい経験値効率の良い依頼が受けられる。レベル上げもそこまで苦労せずにすむ……はずだ。




以上です!


それでは、感想質問批評等お待ちしております!


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第十六話  さらに南へ

間に合った!



第十四話、どうぞ!


ガルデアに到着してから三日経った。流石に初日のようにあっさりランクが上がることは無かった。アレは例外だろう。とはいえ全員Cにはなった。

 

 

 

残念ながらエメラニアは、平原に成立した国なので、山があるわけではない。従って、こう言った異世界召喚を題材にしたラノベ、ネット小説のように、飛竜を狩りに行ったり、山賊狩って人質助けたりすることも無かった。

 

無論大戦果を挙げて組合長さんが来てお話した結果ランクがSになることも無い。何か強い冒険者に認められるなんてことも無かった。現実は厳しいのだ。

 

 

 

 

 

ああいうのはやはり主人公補正が必要なのだろうか。俺も一応<勇者>だから主人公なんだけど……

 

まあ面倒ごとは嫌いだから構わないんだけれどね。

 

さて、一方で本題の<防衛者>のレベル上げ及び<防衛魔法>のレベル上げと新スキル獲得だが、まあ成功したとみていいだろう。

 

<防衛者>自体のレベルは、ここ数日ひたすらゴブリンオークオーガウルフを狩りまくったことで、13まで上がっている。

 

<防衛魔法>だが、まず<絶対障壁(バリア)>を延々と張り続け、延々とダメージを喰らい続けた結果か、レベルが5になっていて、派生スキルを獲得した。<迎撃(インターセプト)>というもので、<絶対障壁>に一回攻撃を受けたら、それ以降は攻撃した対象から放たれるすべての攻撃を自動で迎撃できる、というスキル。

 

MPは追加でもっていかれるようだが、効率は<絶対障壁>より高く、また攻撃の威力にかかわらず消費量は一定とかいう効率が壊れかけたスキルなので心配なし。

 

次に<周辺警戒(レーダーマップ)>もレベルが5になった。とはいえ、まだ大したことはできない。視界にある地図のアイコンに名前が入ったり、<迎撃>と連動させるくらいだ。

 

そして<防衛魔法>そのものがレベル5になったところで、例の新スキル獲得に成功した。<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>というこれ。なるほどこれはぶっ壊れだと確信した。

 

 

スキルの説明は『スキル使用者が()()()()()()()()()()()()物品を召喚できる』というものだ。一目ではわかりにくいこの説明。

 

が、これをわかりやすく、極端に説明するなら、現代兵器が召喚できる、と言うことだ。まあレベルによって制限があるが。

 

しかし『防衛用であると確信できる』って絞ってあるのは<防衛者>だから、なんだろうな。小説とかなら何でも召喚できるか、何でも作れるかってとこだろうけど。そんなことしたら、この世界への干渉が大きすぎるからねぇ……<防衛者>としての職務を果たせるだけに絞ってあるんだろうな。

 

今のレベルで召喚できるのは拳銃か手榴弾程度だが、レベル上げにはちょうどいいかもしれない。ちなみに拳銃は弾はどこからともなく補充され、終わったら一言

 

「<任務完了(ミッションコンプリート)>」

 

と言えば消える。ナニコレ便利。今のところ出せる数も二個までだが、まあ現代兵器なのでそれで十分だろう。

 

 

 

 

「で、どうする?」

 

「出来れば車かバイクとか出せるようになるまでレベル上げしてほしいんだけど……」

 

「ここら辺の群生してた魔物ほとんど狩っちゃったし……」

 

「予定より早いけど、移動しながらレベル上げするか?」

 

「そうね、そうしましょう。少しでも距離も稼ぎたいわ」

 

「明日の朝出発で良いな?」

 

「動くのは早めに、兵は神速を貴ぶ、ね」

 

「じゃあそういうことにするか」

 

 

車サイズの物を出せるようになるまで何日、あるいは何週間かかるかわからないが、その間にも、あの<勇者>共も強化されていく。<魔王>と合流して制圧準備を整えるのは少しでも早い方が良い。出来れば<勇者>が戦争に出る前に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝、ガルデア・南門を抜ける。

 

「──はい、確認しました、良い旅を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黙って馬を走らせていると、ふと、さくらに聞きたいことが出来た。

 

まあ、聞くのは途中の昼休憩で良いか。

 

 

 

 

 

 

 

「──なあ、あいつら(<勇者>)に人殺せると思うか?」

 

「……そうせざるを得ない状況に追い込まれたらするんじゃないかしら」

 

「うわあ……嫌だねえ、あいつらの理性に祈るしかないとは」

 

 

あいつらがそうなったら、制圧係は間違いなく俺達だ。もし敵認定されて本気で殺しにかかってきたら、こちらも同様に対応せざるを得ない。

 

 

「期待できるものじゃないと思うけど……まあ私だってわざわざ同級生を殺したいとは思わないわ」

 

「……バレてた?」

 

まさか、こいつ、エスパーか?!

 

「……まあそれくらいはね。今の状況で、あんな質問されたら何を心配してるのかぐらいはわかるわよ。でも良い?もしそうなっても(敵対しても)手を抜いては駄目よ、<勇者>。こちらで優先すべきなのは」

 

「私情じゃない、世界だろ?知ってる。うわぁ、もう。あの時逃げたのがここで掛かってくるとは……」

 

千年前の借金ですかそうですか。

 

「同感。でもまあ今更でしょう。それにあれはケイだけじゃなくて私達全員の責任。その分今働けば済む話!」

 

「……そうか、そうだな」

 

幸いにして<魔王>はまだ生きており、竜種もすべて健在。<システム>の管理に問題は無い、はずだ。問題が発生するとすれば、それは<()()()()()()()()──異世界から、つまり<勇者>によるもの。

 

 

<魔王>がその役割(バランスブレイカー)を果たしていない今、人族側の<勇者>の存在は、恐らく<システム>の想定外。バランスブレイカーなのはどう考えても<勇者>の方だ。<システム>では処理できない。

 

 

となると()()を担当することになるのは管理者サイド。<魔王>……は無いな、竜種か俺達か。でも竜種には<システム>管轄内のスタンピードを処理してもらわなくてはならない。となると、俺達、か。

 

 

いやだなぁ……まともに話聞いてくれなさそうだし……確実にこれ制圧任務だろ。相手が殺す気で来たらこっちも同様に殺す気で迎え撃つしかないから……つまり最悪二、三人殺すことになりかねないわけで。

 

 

 

 

 

「……頼むから俺に学友殺しをさせないでくれよ、<勇者>……?」

 

 

どこの馬の骨とも知れぬ山賊とは違う。どこぞの国の軍人とも違う。

 

 

 

曲りなりに同じ学び舎で一年間は過ごした顔見知りを殺すのは恐らく、精神的にも一回り、重いものがあるのだ。

例え相手が、それを軽く、何とも思っていなかったとしても

 




以上です!



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第十七話  強制依頼

話の持っていき方をさんざん悩んだあげく、何か別の方向に行ってしまいました。いつもより量多目ですがよろしくお願いします。


それでは第十七話、どうぞ!


ガルデアを出発してから二日。俺達はエメラニア南部の街、ケスタに来ていた。ここにも数日滞在し、群れの討伐系依頼を消費してからさらに南へ行くことになった。

 

 

「──えっと、受ける依頼は《東の森のオーガ討伐》で良いですね?」

 

「はい」

 

「それでは──こちらが控えになります。お気をつけて」

 

 

 

 

 

「今日はオーガか。何体いるかな?」

 

「話によれば50居ないくらいらしいわ」

 

「ああ、それなら楽か。遠くから手榴弾ポイポイするだけで終わるんじゃね?」

 

「あの……拳銃とかいう道具で殺った方が早そうですけど」

 

「セレスも随分な発想をするようになったわね……」

 

「だって最近私取りこぼししか倒せてない……」

 

「じゃあ今日は初撃手榴弾2つ放り込んであと結界張って突っ込む?」

 

「そうね。私が張るからセレスも暴れてきたら?」

 

「やった!ありがとう!」

 

 

確かに最近討伐系全部手榴弾ポイポイ(パイナップル)で終わらせてたからなあ……でもさくらさんや、その年齢の女子が「暴れてくる」という表現はいかがなものかと思うんだが……

 

 

 

東の森は、東門を抜けてから一時間程の場所にある森。ここの中でオーガの目撃情報があったらしい。調査隊によれば、50以下程度の群れを確認したとのこと。

 

オーガ自体はCランク程度なのだが、群れであるため、なかなか受ける人がいなかったというこの依頼。俺達にとっては非常に美味しい依頼である。

 

本来集団で襲い掛かってくるオーガは脅威であるが、手榴弾の的である。単体で襲い掛かってきてもセレスの相手にならないし、遠ければ拳銃と矢で蜂の巣である。哀れオーガ。

 

 

 

 

結果として、今回もまた現代兵器の尽力により、戦闘というか討伐はあっという間に完了した。爆発から幸運にも逃れた者は、セレスの剣と魔法の餌食になった。<迎撃>の使いどころがない。

 

そして<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>がレベルアップ、機関銃やバズーカ、ドローン程度の大きさの物を3つ出せるようになった。なんて大盤振る舞い。これで討伐がもっとはかどるね!

 

 

何てそんな事を思いながら、組合(ギルド)へ帰還する。

 

 

「ええ?!もう討伐してきたんですか?!」

 

「ええ、運よく、固まって現れたので」

 

「ああ、なるほど、そういえばセレスさんは範囲攻撃魔法が使えるのでしたね」

 

「ああ。おかげで早く片が付いた。今んところ、群れの討伐系依頼はないだろ?」

 

「ええ、《ヴァルキュリオン》の皆さんのおかげで、だいぶ片付きました」

 

「それは良かった。よし、帰ろうか」

 

 

 

 

「そろそろまた移動すべきか?」

 

「そうね、目ぼしい依頼はほとんど片付けたし。あとはこの街の冒険者だけでどうにかなる依頼しか残ってないわ」

 

「明後日辺りに出発する?」

 

「そうだな……明日自由で、明後日朝出発で良いんじゃないか?」

 

「休む暇があると?」

 

「いや、俺は単独でレベル上げに行くよ。とっとと車かバイクを出せるようになりたいからな」

 

「私たちは付いて行かなくて良いの?」

 

「単独で討伐依頼が出ているものをいくつか引き受けるだけだからな。危なくなったら<勇者>で一掃するから大丈夫だろう」

 

あ、<勇者>で思い出した。そういえば宰相執務室に<警戒地点設置(レーダーサイト)>置いてきたの忘れてた。

……宿の夕食まで時間あるし見ていくか。

 

「なあ、いま思いついたんだが、王国と<勇者>の動き見ないか?」

 

「え?」

 

「……そう言えば宰相執務室にも置いてきたんだっけ?便利よねそれ。見ましょう」

 

「<防音結界><記録再生(ビデオムービー)>……まず俺だけ見て、余計な部分カットして良いか?」

 

「ええ、任せるわ」

 

「んじゃあちょっと待ってろ」

 

宰相というのは実は重臣の中でもそこそこ忙しい職務なので、執務室に居る時間は割と少ない。一方で、前回の<記録再生>から、<勇者>関連の内、黒い出来事はすべて宰相の独断であると判断できる。

 

つまり宰相が執務室で受けている報告があるならば、その中に恐らく<勇者>関連などで俺達が欲しい情報がある可能性が高い。国王に聞かせても問題ない内容なら、謁見室とかで聞けば済む話だからな。

 

 

さてさて、良い情報があるか、俺達が死んだという報告が上がったであろうよりあとの時刻からを早送りで見ていく。具体的には翌日の朝から。<勇者>という単語を目印に早送りで再生。

 

 

 

『――……うしゃが……』

 

ここか。巻き戻し、通常再生。

 

『……計画通り、<勇者>に山賊を討伐させることになりました。決行は明日、ラスビスア山の予定です』

 

 

 

……不味い。コレいつのだ……俺達が死んだ翌日か。ディセルドからガルデアに移動した日。決行は明日つまり翌日……俺達がガルデアにまだ滞在していた時。結果はどうだったんだ?

 

翌日の報告を早送りで聞き流す。

 

『――……うしゃに……が』

 

コレだ。巻き戻し、再生。

 

『――<勇者>が山賊の討伐に成功しました。負傷者は数名。<勇者><聖女><治癒術師><剣聖>です。最初は人を斬ることに躊躇していたようですが<聖女>及び<治癒術師>が斬りつけられた後は、躊躇いなく殺していました。流石は<勇者>の振るう<聖剣>ですね。素晴らしい切れ味でした。他の者も流石<召喚者>、素晴らしい戦闘能力でした。兵士として戦うには申し分ないかと』

 

──遅かった、か。

 

『ふむ、精神状態はどうだ?』

 

『恐ろしいほど平然としています。何人か、気分が悪そうではありますが、食欲にも変わりはなく、新兵よりはマシな状態です。いつでも前線に出せます』

 

『なら後は頃合いを見計らって……』

 

『宣戦布告、ですか』

 

『ああ、軍に準備をしろと伝えろ。まずは──エメラニアだ』

 

 

「ケイ?」

 

恐らく俺の顔は珍しく真面目な顔をしているのだろう。セレスやさくらが気になるほどに。

 

「さくら、もう遅かった。<勇者>は、あいつらは人を殺している。トラウマ的なものもない。いつでも兵士として使える状態だと思う」

 

「嘘でしょ?!こんなに早く?!」

 

「俺達が死んだ翌々日には既に山賊を討伐している。途中まで躊躇っていたらしいが、後方支援職が何人か負傷した後は躊躇わなくなったらしいぞ、仲間(クラスメイト)思いだな」

 

そう言って笑ってみた。

 

「こうしている場合じゃないわね、急いでこの国を出ましょう。<システム>が停止する前に。竜種の全面参戦だけはどうにかして防がないと」

 

「OK、急ごう!」

 

 

 

一番最悪なパターンは、竜種に加え、<魔王>が魔力タンクとして参戦する場合である。<システム>管理の職務があるとはいえ、一時的にであれば管理者がいなくても大丈夫だったはずだ。

 

とはいえ<魔王>なら俺達がこの世界にいると分かっているはずなので、運が良ければ竜種も抑えてくれるかもしれない。希望的観測は避けるべきではあるが、竜種の全面参戦は何としても避けたい事象。

 

 

 

(頼むぞ<魔王>……!)

 

 

 

既にまとめていた荷物を手に、南門へひた走る。まだ早い時間帯なので城門は開いていた。

 

 

「今から出発ですか?身分証を」

 

「コレです」

 

「……!冒険者ですか?」

 

「はい」

 

「ランクはどのくらいでしょう?」

 

「三人ともCです」

 

「少々お待ちください」

 

冒険者証渡してランクを伝えると、なぜか待機するよう言われた。

 

「なんだ?」

 

「──お待たせしました。先ほど、城門内全ての冒険者に強制依頼が出されました。申し訳ありませんが組合までご確認お願いします」

 

「強制依頼?」

 

「はい」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

強制依頼、ねえ……スタンピードだろうか?

 

 

 

「あ、お待ちしてました」

 

組合に戻ると、いつも受付をしている女性が立ち上がり、手招きをしてきた。見ると、この街のランクC以上の冒険者がほとんど集まっているようだ。

 

とりあえず気になるので聞いてみる。

 

「強制依頼って何なんです?」

 

「今から説明します。……全員揃いました!」

 

「よし、えー、ケスタ組合長(ギルマス)のボルディ・ケロアだ。今日集まってもらったのは、他でもない、公国政府からエメラニア全組合に向けて発せられた強制依頼についてだ。昨日、エメラニア公国に対し、シルファイド王国から宣戦が布告された。北部の街では既に住民の避難が始まりつつある」

 

 

うわあ……考え得る限り、最悪のタイミングで事が起こりつつある。

 

 

「王国は、異世界より召喚した<勇者>を旗印に、王国を基礎に人族の国家を全て統合しようとしている。公国も傘下に入るよう命令を受けた。それを断ったゆえの宣戦布告だそうだ。ちなみに言っておくが、魔族との戦闘に軍勢は派遣するという申し出付きで断ったが、駄目だったらしい」

 

 

それ国大きくするの目的ですって言ってるようなもんだな。

 

 

「国力を考えれば、到底勝ち目はない。そこで、国民が避難する時間を稼ぎたい。騎士団は国境付近に陣を敷き、最後まで粘るそうだ。冒険者に対する強制依頼の内容は、『住民の避難の支援』だ。基本は後方任務だが、場合によっては王国軍もしくは<勇者>と鉢合わせることになる。その場合、勝てないと思ったら投降しろ、命を無駄にするな。私からの連絡は以上だ」

 

 

……ふむ。また面倒なことが始まったな。俺としては別にこの戦争がどっちが勝とうが、どれだけ死人が出ようが構わない。

 

 

だが、それに<勇者>が絡んでくるならば話は違う。<聖剣>は、可能な限り人に振るうものではない。

 

やや騒々しくなった組合の中、さくらの方を見る。

 

「足止めするの?」

 

こいつはやはりエスパーだろ。

 

「……聖剣折れば退いてくれそうじゃないか?」

 

「初代<勇者>と名乗って交戦すれば良いじゃない?時間は大分稼げそうだけれど」

 

「……そうするか、お前は?」

 

「どちらでも?ああ、セレスが心配だからそっちに付くわ。依頼達成したら合流しましょう」

 

「OK」

 

 

 

 

 

<聖剣>は何があっても折れない剣。<勇者>が見る説明にはそう書いてある。

 

でも何事にも例外があるもので。

 

俺達と、もう二人だけが知っている。俺と()()()()しか出来ない<聖剣>の折り方。

 

 

「先輩として、教えに行くか」

 

 

 

 




以上です。

さて、初代さんがちょっとやる気出しました。


それでは感想質問批評等お待ちしております。


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第十八話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅰ

ようやくです。


あ、まだ戦いじゃないですよ?


それでは第十八話、どうぞ!


 

 

「──来たか」

 

 

エメラニア公国北部に広がる平原。ここでは中央にエメラニア公国騎士団が陣を張っていた。その数は万居るか居ないか、といったところだろう。その左右に小さいながら展開されている陣は、わざわざ志願してやってきた冒険者たちの物。

 

 

それらの前に現れたのは万を超す軍勢。言うまでもない、シルファイド王国の軍勢だ。

 

 

 

「本当に<勇者>様があの中に?」

 

「ば、馬鹿言え、<勇者>様は人族全体の味方だ、人族同士で相討つのをよしとされるわけがあるまい……」

 

そう言いながらも男の声は少々震えていた。かつて魔王すら打倒したという聖なる剣。それが自分たちへ向けられることを恐れているのだろう。

 

無理もないか。<聖剣>は決して折れない剣。あの剣に限り、武器破壊によって戦闘不能に陥れるという手段は使えない。ゆえに<勇者>他そのパーティーが前線に出てくれば戦力がじりじり削られるだけになってしまう。

 

つまり数も問題だが、<勇者>が出てきた時点で、こちら側の敗北が決定してしまう。

 

まあ、こちら側は負けは前提、説得が希望薄、時間稼ぎが主目的。元々勝つ事なんて考えていないのだから。

 

「なあ、そういえば何で王国の支配を嫌がるんだ?」

 

「なんだ、お前そんなことも知らないでここに来たのか?」

 

「あー、俺は旅してるもんなんだが、この国の人に結構世話になってよ、その恩返すのに丁度良いなと思ってきた」

 

「珍しいな、ここに居る奴は皆生粋のエメラニア人だと思っていたんだが……ああ、理由か。元々エメラニアはあの国から逃げてきた人間が多いんだよ。南部は貴族の圧政が強くてな。あの国に併合されれば元の木阿弥ってわけだ」

 

「なるほど、それは頑張らなきゃいけないな」

 

「ていうか声若いな、お前その年で旅人か」

 

「ああ、まあ事情もあって。ああ、ところで騎士団のトップの天幕がどのあたりかわかるか?」

 

「多分中央部だ。<勇者>様とまみえる可能性が高いと言ってな」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

さて、じゃあ騎士団長様にお話を通しに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

「何者だ!」

 

「あー、エメラニア公国騎士団長の天幕がここだと聞いた。本当か?」

 

「何者かと聞いている!」

 

まあ黒のフード付きコート着てる奴はどう見ても不審者だよな。

 

「えっと……ああ、コレでいいかな?」

 

そういって俺が取り出したのは冒険者証(ギルドカード)。今使っているCランクではなく、千年前のSSSランクのもの。

 

「なんだこれ……は……SSSランク?!馬鹿な、そのランクの冒険者は存在しないはず……」

 

「今は、な。それ騎士団長か、歴史に詳しい人に見せてみろ。それは紛れもなく本物の冒険者証」

 

 

 

流石にいつの物かまで言うと、信ぴょう性に欠ける。ただ、ヴァルキリア崩壊後も、長い間使われていたらしいことは分かっているので大丈夫だとは思うが……

 

 

 

 

「この冒険者証は君のだと聞いた、本当かね?」

 

しばらく待っていると、そこそこ威厳のあるおっさんが出てきた。

 

「そうだ。それは間違いなく俺のだ」

 

「私が騎士団長のアルベルトだ。ところで、こういう物に詳しい知り合いに見せたところ千年ほど前に使われていたものだと聞いたのだが?」

 

「その通り、何の不思議でもないだろう?それは魔道具だ。たかだか千年、朽ちずに保たれることに何の不思議がある?」

 

「私が不思議なのはそこではない。君は声的に若いのだろう、なぜこれを持っている」

 

「俺のだからだ」

 

「そういうことを聞いているのではない!これに書かれていることが本当なら、コレは初代<勇者>ケイト・カンザキの物なのだぞ!」

 

「知っている」

 

「知っているだと?ではまさか君は……いや、貴方様は……!」

 

「その通り」

 

そういって俺はコートを脱ぎ捨てると同時に<聖鎧>を展開。兜も忘れずに、腰には一本の黒い剣を提げる。

 

演出って大事だよね。

 

「俺が<初代勇者>、神崎啓斗だ」

 

 

 

「──初代勇者だと……?」

 

「そんな馬鹿な……?」

 

「あの方は元の世界へ帰還なさったのではなかったのか?」

 

ざわめく騎士団員の中で、団長だけが落ち着いているように見える。

 

「証拠は?」

 

「この鎧と聖剣が証拠だ。あの冒険者証を本物だと見切った者がいるのならその者に見せてみろ。聖剣くらいなら貸してやる」

 

「ベルモンド」

 

「は」

 

何か中年のそれっぽい眼鏡付けた人が出てきた。

 

「調べろ」

 

「了解いたしました────こ、これは」

 

「<鑑定>結果を読み上げよ」

 

「は────<聖剣・サクリファイス>、所有者ケイト・カンザキ、状態・所有権者所有……本物です。そちらの方も勇者ケイト様で間違いないかと」

 

当然。

 

「で、では<勇者>様はなぜここに?もう一人<勇者>様は王国に付いているというお話ですが」

 

「ああ。それは確定事項で、俺も知っている。俺が来たのはそれのためだからな」

 

「一体何をなさるおつもりですか?」

 

「何、<勇者>の<聖剣>は、可能な限り人に対して振るうものではないと教えにな。安心しろ、<勇者>は俺が引き受ける」

 

「ですが……」

 

「ああ、俺はこちら側に付いたわけではない。だが<勇者>及びその他<召喚者>は、俺から直々に教えを加えようと思ってな。だから他の王国軍は相手が出来ない。そっちは自分たちで何とかしてくれ」

 

「いえ、<勇者>様を抑えていただけるだけで十分時間は稼げます、ありがとうございます!」

 

「初代として後継者を叱り飛ばしに来ただけだ、気にするな」

 

 

 

いや実際そうでしかないのだ。馬鹿だろうあいつらは。仮にも<魔王>を打倒する人種の希望たる<勇者>パーティーだぞ?!<魔王>()居ないけど。

 

人族同士で争ってどうするんだとか思わんのか?!

 

 

 

 

 

 

 

……思わんから来てるってね、知ってた。




以上です。

さあ、折りにいきましょう!




それでは感想質問批評等お待ちしております


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第十九話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅱ

相変わらず初代は苦労しますね~



第十九話です。どうぞ!


さて、勇者様はどこに居るかな?というか前線に居るよな多分。

 

<勇者>を旗印・宣伝塔に使うつもりだろうから、一番前に置いて使わないとね。馬に跨って<聖剣>を空に掲げる<勇者>。絵になるよな。特に篠原は俺と違って顔も良いし、背も高いから映えると思う。

 

<勇者>ってやっぱ外見が良いほうが良いのだろうか、それもそうか主人公だし。

 

 

 

……でも外見良くてもな……

 

 

 

《頭が空っぽだとどうしようもないわね》

 

《さくら?!》

 

《<念話>繋ぐって言ったの忘れたの?さっきから思考筒抜けよ<勇者>様?》

 

うわあさっきの全部聞かれてた恥ずかしい!

 

《やっぱりアンタ<勇者>(主人公)やるにはどこか抜けてるわよね》

 

《……頼むからそれ以上言わないでくれ、自覚はあるんだから》

 

《頭抜けてるよりはマシよ。だからきっちりへし折ってきなさいな、現実を理解せず理想(正義)に酔う<勇者>を》

 

《……良いのかそれ》

 

《どうせ義務履行はアンタもできるもの。まともな方が仕事すればいいのよ。だから一回トラウマになるレベルで潰してきなさい》

 

えげつなっ!まあ、でも妥当なんだよな。

 

《仰せのままに<聖女>様》

 

 

 

相手側の陣から人が出てくるのが見えた。白旗を結び付けた棒を持っている、と言うことはつまり特使だ。攻撃してはならない。

 

今俺がいるのは、騎士団の陣の中央部。騎士団長のそばに控える形である。最初は上座に居てくれと言われたのだが、この迎撃戦における主力はあくまで騎士団。俺は人間同士の戦いに<勇者>が割り込まないためのブロック役である。なので丁重にお断りし、傍に控える形をとった。

 

 

「──特使、ですか」

 

「は、我が軍勢を率いる<勇者>様は、人族同士で争うことに非常に遺憾の意を抱いており、今からでも遅くないので降伏しないか、と。無論、国民及び騎士団の皆様方の生命は保証いたします」

 

「ふむ……どう思う、ケイ」

 

「俺の立場から言わせてもらうなら、受ける必要は無いか、と。ここでこの提案を受けるのでは、ここに来た意味がない」

 

「だろうな。というわけで特使殿、ここまでご苦労ではあったが、その提案は受けられぬ。先回同様、対魔族連合軍に対する戦力の提供及び後方支援等なら可能である、そう伝えてくれ」

 

「……そうですか、非常に残念です」

 

 

それはこちらの台詞だ。なぜ争う事に遺憾の意を表明しながら、軍勢引き連れて戦争準備をしているのか。別に魔族と戦わないと言っているわけではないのに。さくらはそれを頭が抜けてるって言ったんだろうな。

 

自分が絶対正しい。でも奴らはなぜか同意しない。ならば悪だ。

 

アホか。そこまで世界が単純なわけがない。特に人の利害が絡むなら余計に。

 

被害者であると同時に加害者であり、黒幕の一人のように見えるが実は真の黒幕の手下だったりする。

 

恐ろしい程複雑で、黒と白が入り混じる。完全に潔白な人間なんて滅多に存在しない。そんなものが普通に存在するのは、物語の中だけだ。

 

なんてそんなこと、中学生でも知ってそうだけどな。

 

 

 

「総員配置につけ!勇者様は……?」

 

「俺は前線に相手が出るまでここで待機するよ。護衛も見張りも要らない。ああ、もし別のところに勇者が出たら教えてくれ」

 

「かしこまりました」

 

さて、このあとはしばらく待機。あー、早く勇者ぶっ飛ばしたい。なんか憧れるよね、ネット小説とかで、何か勘違いしている勇者的人物を主人公がぶっ飛ばすシーン。リアルにやることになるとは思わなかったけど。

 

お、戦闘始まった。公国がやや強いな。数の不利をあまり感じさせない。戦い方が巧いのか。このままだったら時間稼ぎは余裕だな。

 

……元々の国の方針として、帝国が攻めてくること、遅滞戦闘は最初から考慮してたんだろうな。兵の動きが恐ろしい程良い。かなり綺麗に統率されている。訓練していない動きではない。

 

ただ、このままだと確実に帝国は焦れる。どう見ても相手は少数なのに、こちら側とほぼ互角に戦っているのだから。帝国としては数で圧し潰したいところだろうが、うまく少数を狙って動く騎士団と、多数の軍勢を遠くから上手く牽制をしている冒険者によって、中々大軍を当てることが出来ない。

 

冒険者も、剣を持っている者は騎士団に、弓矢や魔法が使える者は陣地や地面のわずかな起伏から敵の指揮官クラスを狙うという綺麗な分業体制。

 

やはり日頃からそのための訓練だけをしている軍隊は、強い。思う様に進撃できないとなると大分苛立ってくるはずだ。まあある程度こんな状況を想定はしていただろうが。じゃなきゃ異世界から<勇者>なんて召喚しないだろ。

だから切り札を切る。相手の戦意を削ぎ、自分達の戦意を高揚させると同時に正当性を主張できる切り札、<勇者>と言う名の切り札を。

 

 

 

 

「<勇者>様、相手側の<勇者>が現れました!」

 

ほらね。

 

「どこだ?」

 

「敵部隊の中央です!今騎士団長が睨み合っています」

 

「戦闘は?」

 

「始まっていません、どうも<勇者>が話し合いを提案したようで……」

 

馬鹿か!もう戦闘は始まったというのにこの期に及んで話し合いだと?ふざけている。恐らく既に死傷者は出ているはずだ。恐らく『召喚された<勇者>』と言うネームバリューで辛うじて戦闘衝動を抑えているに過ぎない。

 

戦争とは言え相手を殺すのだ。一定の覚悟をしているところで、水を差されたとなるとな、殺意すら湧くだろう。なんてことを仕出かしてくれるんだあの<勇者>は。

 

「わかった、すぐ行こう」

 

 

 

 

伝令兵の案内に付いて行くと、そこでは騎士団長と<勇者>──篠原とその取り巻き男子ーズ──が、馬から降りた状態で話しているように見えた。後衛組は……ああ、男子の後ろにいた。それを、それぞれ半円を描くように遠巻きに見ている帝国軍と公国軍。

 

 

「──だからそれならばなぜ、軍勢を引き連れてきたのかと申し上げているのです!」

 

あ、団長キレてる。

 

「団長」

 

「ん?──おお、ケイか」

 

「<勇者>が来たとの伝令が入ったから、約束通りに。──初めまして、貴様が今代<勇者>か。もう既に戦闘が始まっているというのに今更何の用だ?」

 

「誰ですか貴方は」

 

「一応は、公国側の関係者、だ。それより何をしている、既に宣戦布告はそちらからなされているはずだ。今この場所に何の用で現れた」

 

「宣戦布告がなされたからこそ、ですよ。貴方は何とも思わないのですか?」

 

「何をだ」

 

「このまま戦闘が続けば、いずれ公国軍は壊滅してしまう!」

 

「そりゃそうだな、それが戦争だし」

 

「民間人にだって被害が出るかもしれない」

 

「そうだ、何を今更のように。国同士の戦争はそういうものだ」

 

「知っているなら何で!」

 

「止めなかったのか、か?」

 

「そうだ!仮にもお前は公国の軍人なんだろ?だったら国民の被害を抑える方法を探すべきだ!」

 

「その結果がコレなんだよ。その程度の事、政府や騎士団長が考えてないとでも思ってるのか?」

 

「どういうことだよ」

 

「この国は元々貴族による圧政を嫌った人間が集まって作った国だ。一応元首としてエメラニア公を立ててはいるがね、ほとんど象徴のようなものだ。そんな彼らが、再びの貴族による支配を喜んで受け入れるとでも?有り得ないね、彼らは……特に年長の、貴族支配を知っている者は最悪自殺しかねない」

 

先程冒険者から聞いた話を、やや誇張して話してみる。コレくらいの嘘は悪くはないだろう。

 

「我々だって勝てるとは思ってはいない。ただ、国民が避難するまでの時間を稼ぐだけだ。そしてそれには誰かが王国軍に立ち向かう必要がある。戦争には、願い事には犠牲が必要。我々程度の人数の全滅で、百倍以上の国民の命を救えるなら、それは我々の本望だ」

 

途中で騎士団長が口をはさんだ。

 

「だから我々に、ここでの降伏、あるいはこちらに不利な条件での講和と言う選択肢はありえない。わかったらとっとと帰れ、まあいい時間稼ぎをしてくれたことには礼を言う」

 

なんとなく面倒になったので、扱いがぞんざいだけどまあ気にするな。

 

「おいお前!」

 

「なんだ、俺に何か用か?悪いが俺は今こいつと話しているんだ、すこし黙っていてくれ」

 

えーと……ああ、誰かと思えば<剣聖>(笑)の(前俺がボコった)水山孝弘君じゃないですか。剣の実力は上がったのかな?

 

「お前はこいつが誰だと思っているんだ!」

 

「え?頭の足りない今代<勇者>」

 

「な……<勇者>だと分かっていてなぜそのような暴言を吐くんだ!」

 

「暴言も何も事実を言ったまでだ」

 

「お前は何様のつもりだ!高々1兵士ごときが<勇者>にそんな暴言を吐いて良いと思っているのか!」

 

「……俺が<勇者>と同格以上の存在だとか思わないのか?」

 

「ありえない!<勇者>はこの世にただ一人!それより格上も存在するわけがない!」

 

「……まあ良いだろう、教えてやるよ、今代<勇者>とその取り巻き共」

 

なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け!……すいません悪乗りしました。そもそも聞かれてなかったわ。

 

 

「俺の名前はケイ、俺の職業は

 

 

 

────────<勇者>だ」

 




以上です。ちなみに神崎であることはバレてないのでご承知ください。



それでは感想批評質問等、お待ちしております!


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第二十話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅲ

まだ戦いません。ええ、楽しみにされてる方には非常に申し訳ないのですが、主人公はこよなく平和を愛する日本人ですから。



というわけで記念すべき第二十話です。どうぞ!


「俺は<勇者>だ、と言っても今代のではない。お前がいるからな。俺は<初代勇者>、千年前に<召喚>され<送還>され、何の因果かまたこの世界に舞い戻る羽目になったがね」

 

「な……そんな馬鹿な!」

 

「馬鹿なと言われてもな。実際そうなのだから仕方あるまい、今代<勇者>」

 

「嘘をつくな!<勇者>は勇人しかいない!<聖剣>だって召喚できるんだ!」

 

「だろうな」

 

<勇者>として<聖剣>を召喚できるのは当たり前である。何を今更。

 

「だから貴様が<勇者>などと言うことは絶対にありえない!」

 

「……いやなぜそうなるのかさっぱり分からんから説明しろ」

 

篠原が<聖剣>を出せるのは分かった、だが何でそれが俺が<勇者>でないことの理由たり得るのかが分からん。

 

「<聖剣>は世界にただ一つしか存在しない、伝説の武器。同じものは二つも存在しない、唯一無二の伝説級の武器。これを勇人が持っているのが、お前が<勇者>じゃない証拠だ!」

 

 

ああ、なるほど、<鑑定>持ちがいたのね。それで<鑑定>かけて、『世界でただ一つの武器』だという記述を見つけたわけか。なるほどなるほど、思ったより頭は回るらしい。

 

でもね?

 

 

「そうか、なら<聖剣>を召喚してもらおうか。無論、それが真の<聖剣>であるという証明のため、正式な手順で召喚してもらおう。ああ、安心しろ、詠唱中に攻撃するなどという無粋な真似はしない。<勇者>である我が身に誓う。団長も、部下の統率を頼む」

 

「この場で攻撃を仕掛けるような馬鹿は少なくとも我が騎士団には存在しません。が、まあ一応交渉中であるという事にしておきましょう」

 

「じゃあ始めてくれ」

 

さて、最初の話からかなり横道に逸れてしまったが。

 

 

<聖剣>を初めて召喚するときには、魂とのつながりを強く意識し、手繰り寄せて<聖剣>を実体化させる必要があるため、<詠唱>を行う必要がある。二回目以降は簡略化できるが、<詠唱>を用いて<召喚魔法>を行使するのが正式な方法となる。

 

 

「良いだろう、俺が真の<勇者>であることを見せてやる!」

 

さあさあこいこいどんな詠唱文だ?

 

 

「『我が正義を以て魔を打ち払い、人の世に聖なる光をもたらせ!』<聖剣召喚・正義(ジャスティス)>!」

 

 

噴いた。

 

 

『我が正義を以て』て。正義て。どう考えても正義()だろ?ていうか聖剣の名前が正義(ジャスティス)て。

 

 

辛うじて笑い声はこらえたが、しかしこれは予想以上だ……まあ詠唱内容はもういいか。俺のと変わんないし。

 

てか客観的に聞いてもかなり恥ずかしいんだが……これを堂々と叫ぶこいつは別な意味で凄い。

 

光に包まれ現れた<聖剣>は、どこまでも白い、純白の両手剣だった。名は体を表すと言うが、まさに『正義(ジャス・ティス)!』と言わんばかりの白。

 

「どうだ!これが俺に授けられた<聖剣・正義>だ!わかっただろう!」

 

「あー、うん、そーだねー」

 

まあ、こいつの魂に結びつけられた剣ならそうなるんだろうなあ……

 

「お前のも見せてみろよ、本当に<勇者>だって言うんならよぉ!」

 

剣聖(笑)がなんか言ってるのでリクエストにお答えしよう!さあ、来い我が剣よ!

 

「はぁ……────『我の全てを犠牲に魔を払う力となり、人の世に希望を、世界に均衡と平和をもたらせ』<聖剣召喚・犠牲(サクリファイス)>」

 

気が乗らない事を示すかのようなため息の後に、そう言い放った直後、俺の右手が疼き始める──わけも無く、右手を黒い煙が覆った。徐々に伸びていくその煙は、やがて一つの形──漆黒の片手剣の形をとった。

 

<聖剣・犠牲(サクリファイス)>。これは<勇者>の本質を良く表している剣だと思う。残念なのは、これが俺の魂に完全に結びつけられた物ではなく、仮契約みたいなものであること。無論きちんと機能はしている。

 

というかこれを俺に渡したってことは彼女はこんな状況を読んでいたという事だろうか。何それ怖い。未来視でも使えるの?

 

「これが、俺が今保有している<聖剣・犠牲(サクリファイス)>だ。色合いはともかく、<聖剣>ではある」

 

「黒の……もう一本の<聖剣>……だと、馬鹿な、<聖剣>は一本では……」

 

そうそう、俺もそう思ってたんだけど、これはどうも説明不足みたいなものでね?

 

「説明ではそうなっているがね、それは、『同じ<聖剣>は一本しかない』という意味であって、<聖剣>そのものは世界に何本か常に存在する。それに、<聖剣>とは<勇者>の魂に結び付けられる剣、よって<勇者>が複数いれば、<聖剣>もまた複数本存在する」

 

俺が今までに確認した<聖剣>は()()。俺が現役<勇者>だった時、帰る直前には自分の含めて二本確認している。

 

「さて、疑問も解けた、俺が<勇者>だと証明もできた。どうする?」

 

「どうする、とは?」

 

「随分と脱線してしまったが、話の最初の方、俺はお前に帰れと言ったんだよ、国もしくは後方に。<勇者>が人族同士の争いに手を出してはならない。俺はそれを伝えるためにわざわざここまで来たんだ、初代<勇者>、つまりお前らの先輩として、だ」

 

 

やっと本題に入れる。この考えなしの馬鹿どもを戦場から引きずり出さなくてはならない。

 

 

「そもそもお前らは兵隊を連れて何しに来たんだ?」

 

「この国が魔族との聖戦に協力してくれないから、魔族と内通しているんだろうと思ったんだ」

 

「それで何も聞かずに自分で何も考えることなく出兵からの蹂躙からの占領ってか。考え無しにも程があるだろう」

 

 

というか聖戦て……こいつらは知らないからわからんでもないけど、知ってる人間からしたら苦笑する以外にないんだが。

 

 

「別にそんなつもりじゃなかった!ちゃんと公国側の話も聞く予定で……」

 

「予定のままに終わったってわけか。馬鹿か?そもそも話聞きに来た、つまりは会談したかったんなら軍隊を連れてくるな、宰相やら国王やらが何を言おうと自分達のみで乗り込んで来い。軍隊を連れて、宣戦布告までした上で話し合いとか人を馬鹿にし過ぎだ、どう考えても脅迫でしかないだろう」

 

<勇者>というこの世界の人種の最大戦力(最終兵器)がどこか一国に味方して、軍勢を率いて他国を攻める。その上で魔族と戦う。額面上は、『人種が連合して魔族と戦う』ということになるのだろうが、実情は、まあ、お察しの状態だ。

 

だからそれじゃダメなんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。<勇者>は人族を殺してはならない。魔族もまた同じ。<勇者>が殺していいのは魔族だけ、<魔王>が殺していいのは人族だけ。まあこれは暗黙の了解というか、普通に考えてもそうだろうが。

 

 

「それは国王が勝手に……」

 

「それを<勇者>として止めろと言っているんだよ、その程度の力なら今のお前らでも持ってるんだから」

 

<勇者>及び<防衛者>に与えられた強大な力は、<魔王>に対抗するための調整役(バランサー)だけでなく、その力を利用しようとする人族に対しても抑止力となり得る。特に制限のある<勇者>と異なり、<防衛者>は殺害に関する種族の制限はない。

 

今回は既に<防衛者>はいないわけだが、<勇者>を兵士にしようとする辺り、<勇者>の制限とそれを破った罰を知らないのだろう。ならば十分脅しとして成り立つはずだ。

 

 

「それは……その……」

 

「まさか考え付かなかったとでも言うのか?おいおい、そんなんじゃあ<勇者>として先が思いやられるよ……っと!」

 

何か突然水山が斬りかかってきた。

 

「危ないなあ、俺は今先達としてささやかなアドバイスをしようとしているんだ、邪魔しないでくれ」

 

「うるさい!突然現れたと思ったら勇人に意味の分からないことばかり言いやがって!」

 

そう言った直後に、俺の目の前に火球が出現、直撃した。

 

「……ッ!またか、お次は誰だ?」

 

現れたのは、<魔導師>川島(ノーコン野郎)だった。

 

「<勇者>と偽って俺達を騙そうったってそうはいかないぞ、魔族め!」

 

は?

 

「は?」

 

おっと危ないついつい本音が。

 

「さっき<聖剣>を出したのを見ていなかったのか?」

 

「偽物だろう!」

 

んなわけあるかボケナス。<詠唱>聞いただろうが。

 

「そんなことはありえない、公国最高クラスの鑑定士が、この方の<聖剣>及び冒険者証(ギルドカード)を確認し、間違いなく<初代勇者>様であると言っているのだ」

 

「じゃあそいつも……いや、国全体がグルなんだろ!宰相の言った通りじゃないか!この国は魔族と内通しているんだ!」

 

 

 

 

 

 

ねえ。

 

 

 

 

もう帰っていい?

 

 

 




以上です!


感想批評質問等、お待ちしております!


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第二十一話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅳ

どうにも冷酷になれない主人公の最後の悪あがき……





それでは第二十一話、どうぞ!


どうも変な思考に凝り固まってる今代<勇者>パーティーの面子。では<勇者>本人はと言うと。

 

「俺は<勇者>なんだ……間違ってはいけない、間違ってはならない……間違っていない……間違っているわけがない……俺は正しい……そうだ、俺が正しいんだ!」

 

あ、だめだこりゃ。

 

「騎士団長、全軍を下げて迎撃準備を。この<勇者>みたいなナニカは俺が引き受ける」

 

「わかりました!」

 

 

 

さて、早くも間違った方向に進みつつある<勇者>。やはり先輩として俺が止めておくべきだろう。

 

「は?どう考えてもお前が正しいわけねえだろう、馬鹿か?」

 

「な……偽物の分際で!」

 

「だから本物だと言っているだろ!」

 

もう嫌だこれ。

 

「良いか今代<勇者>。我々<勇者>の役割は、<魔王>を擁する魔族に対する人族の楯であり、剣だ。決して人族同士の内戦に参加してはならない。これをしっかり覚えておけ。そして今すぐ帰れ」

 

文武両道の篠原君ならそれくらいわかるだろ、とっとと帰ってくれ。

 

と、思ってしまったのがフラグだったのかもしれない。

 

「……俺は、<勇者>だ。この程度の、妨害に……屈してはいけない」

 

あ、駄目だこりゃ。こうなったら力ずくでやるしかないんだよなあ……春馬さん千年前(前回)はお世話になりました。

 

「頭じゃ理解できなくなったか。ちっ、期待して損したぞ」

 

まだだ、俺から手を出してはいけない。

 

「勇人の様子がおかしいぞ!」

 

「きっとあいつに何かされたんだ!」

 

「偽物に?そういえば魔族だったか?」

 

ちょっと後ろに控えてた<勇者>パーティーがうるさい。

 

おい、誰もそんなこと……言ってたな。川島直樹(ノーコン野郎)が。

 

「<勇者>を、勇人を助けるぞ!」

 

そう言って、妨害系(デバフ)を含む数多くの魔法が降り注いだので、

 

「<防衛業務委託(ディフェンス・コンストラクト)絶対障壁(バリア)>」

 

()()>として防ぐ。これは千年前、春馬さんから付与された物。<防衛者>にしか使えない<付与魔法(エンチャント)>の一つ、<防衛業務委託>。<防衛者>から任意の人物に対し、自分のスキルを一部付与し、業務(防衛)を肩代わりさせる。無論付与したスキルは<防衛者>自身も利用可能。さらにそいつが裏切ったとしても、<防衛者>の意向だけでいつでも剥がせる付与だ。

 

 

「な……それは<防衛者>の……」

 

「そうだ。俺が譲り受けた力だよ」

 

先代からな。

 

「まさか<防衛者>と<支援者>を殺したのは……」

 

「は?ちょっと待て、<防衛者>が殺された?!」

 

「とぼけるな!お前らが殺したんだろう!魔族どもめ!内山さんの仇!」

 

俺は入ってねえのかよ。さらに撃ち込まれる魔法を無力化しつつ尋ねる。

 

「おいおい冗談だろ……<防衛者>が殺された……だって?」

 

「そうだ、だから俺は仇を取るために<勇者>として魔族を滅ぼさなくては……」

 

「今回の<防衛者>と<支援者>は外れだったか、使えないな」

 

自分で自分を使えないって言うのはちょっとどうかと思うが、まあ実際設定から考えればこうなるしな。

 

「外れだったって……!」

 

「<防衛者>と<支援者>は、理論上……というか立場上は、二人だけで<勇者>パーティーと拮抗状態に持ち込める力がある。召喚された直後からな。たとえそのレベルが低くとも、魔族一人としか相討ちしてないのなら、力を使いこなせていなかったという事だ。つまり、外れだ」

 

厳しい評価だとは思わない。それが事実なら、多分<システム>や<防衛者>について知っているなら、誰でも同じことを言うと思う。そして、役割上それを出来る力はあると、俺も知っているのだから。

 

……あ、待て俺今まずいことを口走った気がする。

 

「殺しておいて挙句その言い草か!」

 

<剣聖>が斬りかかってくるのを受けとめもしない。鎧にあっさり跳ね返され、傷一つとして付いていない。理由は簡単。純粋に武器としての格が違い過ぎる。<聖鎧>を貫けるのは<聖剣>くらいなものだ。

 

「そもそも俺は魔族ではないと何度言ったらわかるんだ……俺は初代<勇者>だ。<聖剣>も見せただろう、なぜ信じない?俺はわざわざお前たちに忠告するためにここに来たというのに」

 

正直もうこうなると俺が力ずくでやるしかないような気もする。

 

「忠告だって?」

 

「さっきから言っているはずだ、<勇者>は人族同士の戦いに手を出してはならない、と。<勇者>パーティーは全員退け。元々我々異世界人(地球人)はこの世界においてはチートクラスの能力の持ち主だ。たった一人とはいえ、戦争に介入されれば結果が変わってしまう」

 

「だとしても、そう言ってお前がこの後この戦いに参加しない保証は?」

 

「ないな。それはそれこそ信じてもらうしかないが、まあ……そいつらの様子じゃあ無理そうだな」

 

「騙されるなよ勇人!こいつは魔族に決まってる!」

 

 

「はぁ……それじゃあ仕方ないな。しばらく前線から後退してもらうぞ。それが先代たる俺の仕事だ」

 

今のコイツらじゃあ多分言葉じゃ通じない。俺が鎧を解いたところで、信じるか偽物呼ばわりされるかの二択。しかもかなり分が悪い賭けとなる。

 

可能な限り、真実を伝えぬように、なおかつコレを傷つけずに前線から撤退させる。

 

目的は変わらないが、手段はもう残り一つ。

 

 

 

 

心をバッキバキに折ってしばらく前線に立てないレベルに追い込むこと!

 

 

 

 

「大人しく退いておけばよかったものを……全員戦闘不能に追い込むからな……覚悟しろよ今代」

 

 

さあ<聖剣>と心を折りに行こう!え?さっきよりテンション高いって?気のせい気のせい。

 

 

別に久々に全力出せるから喜んでるわけじゃないからな!




ちょっと短いですがこれで勘弁を。


<防衛業務委託>…<防衛魔法>のスキルの一つ。存在する目的、というか理由はまあ至って単純。

膨大な人族領土を防衛するのは、<防衛者>だけでは不可能です。なら担い手を増やしてしまえば良い。つまりそういうことです。このスキルは魔法を発動可能な全ての者に対し有効です。

主人公が持っていたのは、ただ単に初代<防衛者>がうっかり<送還>される前に剥がし損ねただけ、という……

ちなみに初代<聖女>もいくつか持ったままです。

明日から部活の合宿で、恐らく更新が4日もしくは5日ほど途絶えます。

それでは、感想批評質問等お待ちしております!


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第二十二話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅴ

はい、いよいよ殴りに行きます(主に今代)



それでは第二十二話です、どうぞ!


さて、言語による説得を早々に諦め、改めて肉体言語を以てO☆HA☆NA☆SHIする事にした。

 

相手の想定最大戦力は27名。内戦闘系と支援系が何人ずつ居るのか、遠距離系と近距離系の比率は。

 

分からないことが多すぎるが、まあ、普通はこういうものだろう。ゲームじゃあ普通だが、相手についてすべてわかってるとかどんなヌルゲーだ。

 

まあそれはさておき。今回の作戦達成目標は、<勇者>パーティー全員の戦闘不能もしくは戦闘継続意志の喪失、並びに<聖剣・正義(ジャスティス)>の破損。

 

 

とりあえず前衛を火力に任せて圧し潰し、後衛をサクッとやっちゃった後に、見せつけるように<ジャスティス>を折る。この時に殺してはいけない。出来れば意識も落としたくない。<ジャスティス>折るの見せないといけないからね。

 

 

 

思ったより制限が多いな……まあどうにか出来るでしょう。今代のレベルは、高めに考えても20くらい。俺は300、これだけ差があれば、手加減も恐らく楽だ。

 

それに、あっちと違ってこっちでは魔法があるから、骨折あるいは四肢のいくつかを失っても、対処さえすれば死ぬことは無い。絵面はかなりグロだが、まあ自分でこの世界に残ると決めた以上、それは<勇者>として戦うと宣言したも同然。本来の相手(<魔王>)は不在とは言え、戦う以上、特に不死身である<勇者>は、自分も時にやられる側になり得る事を知ってもらわなくてはならない。

 

 

と言うわけで早速行っちゃいましょう!

 

 

 

 

まず、一番近い位置にいる<剣聖>から。予備動作なしに<縮地>で距離を詰め、相手の右側に付ける。そのまま前に構えていた剣の真横から<聖剣>を叩きつけて折る。

 

「なにっ?!」

 

そのまま今度は相手から見て右側に移動して、利き腕、つまり右腕を肘から切り落とした。そして仕上げに両足の腱を切る。

 

「──まず一人目」

 

「──へ?あ?俺、のう、で……アアアアアアアアァッ!」

 

崩れ落ちる<剣聖>の後ろに立ち、そう呟く。

 

「孝弘?!」

 

「安心しろ、止血さえすれば死ぬことは無い。<再生魔法>を使えばまた動けるようにはなるさ。戦えるかどうかは別だが」

 

一瞬の出来事に驚き、<剣聖>の名を呼ぶ……槍持ってるから<槍術師>かな?に告げる。この世界では一部を除き、身体の欠損は治る。向こうでは致命傷クラスでも<回復魔法>を併用すれば治る。

 

それよりも。

 

「――隙あり」

 

「なっ?!──ッ!」

 

槍を跳ね上げて彼の周りを一周しながら手足の腱を斬る。直後に最初の位置に戻る。

 

「二人目。戦闘中に意識を相手から外すとはいい度胸だ」

 

これは少々難しくはあるだろうが、戦いの基本だろう。傷ついた味方は後衛に任せて、それこそその後退時間を稼ぐために戦うべきだろう。そんなこともわからないのか……ってそういえばこいつら数か月前まで一般人だったぜ忘れてたよ。

 

前衛は残り……7人か?うち<勇者>は除外するとして、希薄な気配が2人……これは<暗殺者>か。それと鎧甲冑ってことは<騎士>か?が2人、1人は武器無しだから<拳闘士>か。軽装なのが1人……いや、2人増えた、1人は女子か、ふむ。短剣と……投げナイフかあれは。だとすると<狩人>と<探索者>かな?増えた方が恐らく<狩人>だろう。

 

「とっとと回復してやれよ<回復術師>、何人いるか知らんがな。ああ、<治癒術師>と<聖女>、お前らは駄目だ」

 

<回復術師>の行使する<回復魔法>は、()()()()()()()する。身体の欠損や、病気の治療は不可能。よって、致命傷を喰らったときには、時間稼ぎ程度にしかならない。

 

一方で<聖女>及び<治癒術師>の行使する<治癒魔法>及び、聖女のみが使える<再生魔法>は、病気やケガを、<再生魔法>ならば部位欠損までも、治療できる。ただし()()()()()()()()()。全く、良く出来ているものだ。

 

さて、残された前衛で一番面倒なのは……<騎士>だな。

 

<縮地>を発動。側面からまず左腕を斬る。んでそのまま首……じゃなかった、剣を持った右腕を切り落とし、断面に<火球>を発生させて止血。あ、最初からすれば良かったかな?今更ながら<剣聖>にも同様の措置を行う。

 

「ガッ……ッ!」

 

間髪入れずもう一人の<騎士>を目指し<縮地>。先ほどと同様にやろうとしたら、楯を向けてきた。ふむ、中々筋が良い。

 

が、甘い。

 

斬りこんだ<聖剣>は楯ごと相手の左腕を斬った。

 

「なっ……ッグ!」

 

「動きは良かったんだがね……四人目、次は誰だ?」

 

ふむ、女子をやるのは少々後味悪そうだから、ここは嫌いなものは先にの論理で、<狩人>をやりましょう。

 

<狩人>と<探索者>は軽装だから下手な事は出来ないよなあ……面倒だし魔法でやるか、魔法ならまだ威力の調節はしやすいからな。

 

「<光槍(ライトスピア)>」

 

とりあえず最小限度まで威力を落とし、第二級光属性攻撃魔法を放つ。

 

「<光槍(ライトスピア)>!」

 

消えた?!……いや、違うな。先ほどまで沈黙していた<勇者>の方を見やる。

 

「……これ以上、やらせはしないぞ!」

 

「おうおうそう来なくっちゃね。でも少し再起動が遅かったんじゃないのか?」

 

「ここから先はやらせない!優菜(ゆな)木下(きのした)さん、<治癒魔法>を!荒山(あらやま)さんと鹿本(かもと)さんは<回復魔法>を!」

 

「……ここから先は、ねぇ……さっきのは単発だったから打ち消せたけど、連続だったらどうかな?」

 

「なに?」

 

「<連続発動(オートリピート)・光槍>、薙ぎ払え」

 

俺の背後に展開した複数の魔方陣から、<狩人>2人に向けて、次々と<光槍>が射出されていく。<光槍>は、聖属性の下位互換、光属性の第二級魔法。さらに流す魔力もかなり抑えてあるので、一撃で消し飛ぶことは無い。

 

まあそれでもレベル差があり過ぎて、至近弾でさえ負傷しているが。

 

一方で<勇者>も頑張って打ち消そうとはしているものの、一々詠唱しなきゃいけない<勇者>と違って、俺のは連射式なので、早さが違い過ぎて追いついていない。

 

<治癒魔法><回復魔法>も同様だ。

 

 

 

魔方陣への魔力供給を止め、着弾の際の土煙も収まった時、<狩人>の2人と、<探索者>の1人は、傷だらけで地面に倒れていた。全員腕か脚を骨折しているはずだ。一応女子は顔面避けたが、男子はお構いなく連射したので……うん、まあ、仕方ないよね?教育的指導。

 

「……これ以上やらせない、か。まだまだだな。あと残っているのは……ッ!」

 

キンッ!

 

「おっとっと、危ない危ない」

 

右側のは受け止めたけど左側が無理だったね、首の隙間からやられたかな?

 

「流石は<暗殺者>」

 

首の左側の傷を抑えながらつぶやく。いやあ久々の流血ですねはい。

 

「<治癒(ヒール)>」

 

HPはまだ八割以上あるし、<回復>はしなくて大丈夫だろ。

 

あっさりふさがっていく傷口に、驚きを隠せないらしい<勇者>達。

 

「──<雷電(ライトニング)>」

 

「ぎッ?!」

 

「ぐあッ?!」

 

 

気配が駄々洩れだった……というよりまあ常人ならさっきので致命傷だから油断したのかな?まあ居場所分かれば見えなくても、空間ごと攻撃すればいいだけ。

 

 

「相手が致命傷じゃなかったらすぐ気配消して次の機会を待たなきゃ。少々出来るけど、まだまだだねえ──さて、順当にいけば次は、今代<勇者>、君だ」

 

「くっ……来るなら来い!」

 

「が、俺には少々君たちに見せたいものがあってね、邪魔が入るといけない。あと先ほどのお礼も兼ねて」

 

 

──次は後衛から潰しに行くよ?

 

 

何でかはわからないけれど、自分でもわかるくらいに声が低くなっているのを感じながら言った。

 

 

 

 




以上です!


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第二十三話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅵ

<聖剣>ポッキリの時間です。よく考えたらコレ<孤独>じゃなくて<犠牲>じゃんと思い、やり直したらやたらあっさり折れました。


それでは第二十三話、どうぞ!


 

 

 

 

自分でも、何か悪役っぽい言い方だよなあと思ったセリフに、ビクッと相手が反応した瞬間に動いた。現在後衛に居るのは17人。うちこちらに攻撃が可能そうなのは<魔導師>2、<魔導士>2、<死霊術師>1、<傀儡術師>1、それから<調教師>は……動物を連れていないので無視できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

しっかしほんと、28人もいると職業もより取り見取りじゃねえか、羨ましいな。俺達の時は4人だけだったのに……まあ多すぎてもいいことは無いか。

 

 

 

 

 

 

とりあえず攻撃可能な奴に対し、<光槍(ライトスピア)>を放つ。

 

 

 

 

が、当たる直前で、透明な障壁か何かに当たって消える。

 

 

 

 

 

「ああ、なるほどねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

<結界術師>か、なるほど。攻撃かける前は魔力の動きを感知しなかったから、多分あの一瞬で張ったんだろうな。

 

 

 

今代<勇者>パーティーも割と優秀ではあるんだろうな、性格に難があるだけで。

 

 

 

 

……それが一番駄目じゃねーか。なんだよ性格に難がある<勇者>って。

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら、再びの<光槍>。ただし、今度は俺の全力で、連発。

 

 

 

 

パリン!

 

 

 

そんな音を立てて結界が砕け散る。当然と言えば当然。現時点で、たとえ第2級魔法であろうと、俺の全力を防げるのは始祖竜と春馬さんのみ。そして2発目の弾着。

 

 

 

6人全員が倒れていることを確認し、次は<縮地>を連続で使用。<結界術師>2人から順に、手刀で意識を刈り取ったあと、腱を斬り、止血だけして次の標的へ、という動きを繰り返す。

 

 

 

途中、今代が立ちふさがったが、蹴飛ばして排除。はっはっは、止められるものなら止めてみな!

 

 

 

 

「おしまい!」

 

 

 

今、地面に立てているのは俺と篠原のみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……魔王を倒すとか言うから期待していたが、パーティーメンバーは大したこと無かったな。さて、次はお前の番だ、今代」

 

 

「どういう……意味だ」

 

 

「どういう意味も、つまり、お次はお前のテストだってことさ」

 

 

「テスト?」

 

 

 

「そうだ、<魔王>を倒す、それだけの力があるかどうか、をな。どうした?怖気付いたか?お前のお友達の主張によれば俺は魔族らしいからな、俺くらい倒せないと、<魔王>なんて倒せないが?」

 

 

 

「怖気づいて、なんか、いないっ!」

 

 

「なら上等だ、<聖剣>でかかってこい、俺も本気でやるから気ぃ抜いたら殺されるぞ」

 

 

 

 

<聖剣・犠牲(サクリファイス)>を握りなおす。かなり簡単に折るとか言っちゃったけど、<聖剣>自体はかなり頑丈な、この世界ではどの数値も最強級の武器。相手のステータスが低くても油断しているとやられる可能性もない事もない。

 

 

 

というわけで、気合入れていきましょう!気を抜かないように!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオオオオオッ!」

 

 

 

「ほれよ」

 

 

 

 

真正面から振りかぶってきたのを、右側面に当てて軌道を逸らす。添えるようにではなく、半ば叩きつけるように。

 

 

 

 

「ッ!」

 

 

 

 

 

「せいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

弾かれたそのままに今度は回転して左から真横に斬りつけたのを、下から跳ね上げる。

 

 

 

 

 

「やはり<聖剣>なだけあって丈夫だな」

 

 

 

 

 

 

 

普通の鍛造された剣ならば大抵初撃か、次の跳ね上げに耐えきれずに折れる。相手となる<聖剣>が頑丈過ぎて、衝撃によるダメージがすべてそちらに行くからだ。しかし、これは格が低く、完全ではないとはいえ<聖剣>。ダメージは大きいが、すべて受け止めているわけではなく、こちら側にも流れてきている。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、格はこちらが上。耐久──剣のHPもこちらが大きく、ダメージ量はこちらが小さい。こちらが負ける道理はない!

 

 

 

すると、飛び下がって、詠唱を始めた。ふむ。

 

 

 

 

「『我が聖なる魔力を以て剣と為し、魔を打ち払え』!<光刃>」

 

 

 

 

 

ああ、リアルラ〇トセ〇バーか。聖属性に変換した魔力を聖剣に流すという魔法。本家よりは攻撃力は下がる。当たり前だ。アレはビームソードだもん。

 

 

 

 

まあ攻撃力は上がるし、魔物に対してはそれこそライ〇セイ〇ークラスの攻撃力を発揮できる。

 

 

 

 

さて、魔法に対処するのに一番有効なのは。

 

 

 

「<光刃><覚醒>」

 

 

 

 

同じ魔法での相殺が一番です!さて、恐らくこれが今のコイツの最大火力状態だろう。なのでそれをポッキリ折ればそれでよろし。一方で<勇者>パーティーの皆を起こす。

 

 

 

 

 

そして、無詠唱魔法に続き、特殊な魔法の詠唱にかかる。

 

 

 

残念ながら俺は<犠牲>の()()()()()()()()()()ので、未だにコレだけは詠唱せざるを得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『我が魔力の全てを犠牲に、すべてを切り裂き防ぐこと叶わぬ力を』」

 

 

 

 

 

「行くぞ!」

 

 

 

 

 

「来い──<必断ノ剣(サクリファイス)>」

 

 

 

 

そして正面から交差。金属音が鳴り響く。

 

 

 

<勇者>が停止した直後に落ちてきたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

────<聖剣・正義(ジャスティス)>の剣先だった。

 

 

 

 

「当然の結果、だな」

 

 

 

「<聖剣>が?!」

 

 

「……そ、そんな馬鹿な……<聖剣>は絶対に折れないんじゃ……」

 

 

 

 

「普通の剣じゃまず折れないな。だが、<聖剣>が複数存在する以上、格の違いもまた存在する。<犠牲>は、この世界で、()()()()()()()()()()()()()()()だ。召喚されて数か月の<勇者>の<聖剣>に負ける剣ではない」

 

 

 

 

 

出来ればもっとボコりたかったけどね。<正義>が弱すぎたのと、<犠牲>の固有スキルが強すぎたのと。

 

 

 

まあこれからまたボコるんだが。

 

 

 

 

「さて、<聖剣>は折れたが……まだ戦うか?」

 

 

 

 

 

「まだ、戦うさ……」

 

 

 

 

 

 

そう言って、<聖剣>の折れた断面を合わせる。よろしい。その程度は学んだか。一瞬光を放ち、それが収まると、元通りの<聖剣>が現れた。じゃあ続きやるか。

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「<闇刃>」

 

 

 

 

 

距離を一瞬で詰めて、一文字に今代<勇者>の首を刎ね、少し通り過ぎたところで、剣を振り切った状態で静止。

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと地面に伏した首の無い篠原の身体を見て、場を一瞬静寂が支配した。そして主に女子から悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ゆう、と?」

 

 

 

 

 

「死んでるぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゆ、勇人ぉ?!」

 

 

 

 

「……い、やあああああああああああああああっ?!」

 

 

 

 

 

さて、こいつらはどう思うんだろうか?この状態から蘇る友達を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<システム>の機械音声が聞こえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『HPの全損を確認。<聖剣・ジャスティス>の耐久度の減損なし。<勇者>再生プログラム起動、シークエンス開始。<聖剣>の効果により<再生魔法・完全再生>を発動。肉体の修復を開始、終了まで30分。完全再生まであと2時間』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そんな悲しむなよ、どうせ生き返るんだから、さ」

 

 

 

 

 

 




主人公がかなり軽く殺っちゃってますが、ほぼ完璧に<犠牲>の固有スキルのお陰です。


それでは、感想批評質問等お待ちしております!


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第二十四話  第一回・初代勇者の防衛戦Ⅶ

今回でとりあえず第一回防衛戦は終結となり、主人公は再び移動を開始します。まだまだ続く長い旅路、どうなることだか。

それでは第二十四話、どうぞ!


 

 

「さて、<勇者>パーティーの諸君、静粛に」

 

 

「ふざけっ……グッ!」

 

 

「無理に動くと傷が痛むぞ、帰るときには治療してやるから黙って待ってろ……さて。<賢者>はどこだ?いくつか親切心で教えてやりたいことがあるんだが」

 

 

「は、はい、俺です」

 

 

ああ、やはり高山(たかやま)か。

 

 

「お前何してたんだ?」

 

「へ?」

 

「へじゃねえ。お前<賢者>の意味わかってるのか?<勇者>パーティーにおける参謀だぞ」

 

「そんなの知って……」

 

「じゃあなぜのこのこと戦場に出てきた。本当にこの国が魔族と協力関係にあるならば、<魔王>とまではいかなくとも、上級クラスの魔族が出てきていたかもしれない、そうは考えなかったのか?」

 

「あ……」

 

 

 

どうやら彼らは自分で考える頭を持たないようだ。性格云々の前にオツムの問題だったか。

 

 

 

「あ、じゃねえ。全く……王国は一体どんな教育をしているんだ。今回は、結局魔族との関わり合いは無くて、かつたまたま俺が、初代<勇者>が居たからいいものの……まかり間違っていれば、お前ら全滅してたり、<正義>の名のもとに大量虐殺していたかもしれなかったってことを肝に銘じておけ」

 

 

「たい、りょう……ぎゃく、さつ?」

 

 

 

 

「わからないのか?俺が居なかったらお前らが相手していたのは誰だ?公国騎士団だろう。さて問題です。チート級能力を持った異世界人VSこの世界の一般人よりちょい高めステなだけの人種。どうなるでしょうか?」

 

 

正解は、騎士団が瞬殺される、だ。今さっき俺は、圧倒的なレベルと戦闘経験の差で<勇者>を瞬殺したわけだが、例えば普通の騎士団員相手であれば、<勇者>は力だけでゴリ押しで勝てる。

 

 

 

騎士団長相手でも、多分勝てる奴は多い。

 

<召喚>された<勇者>とは、それほどのチートなのだ。だから人に向けてはならない。<システム>の意味がなくなってしまう。

 

 

 

「いいか、良く聞け<賢者>。お前の役割は、<勇者>の行先を正すことだ。一緒になって人の考えに乗っかってんじゃねえ。<勇者>の役割を果たすように、自分で考えて行動しろ。また同じことを繰り返したら、次は手加減できないからな」

 

 

 

本当は竜種とかが来るって言った方が良いんだろうけど、それじゃあなんとなく脅しにならない気がした。

 

 

「じゃあな<勇者>諸君、そこに転がってる死体は二時間放置すれば生き返るから埋めたりするなよ。最後に、もう一度忠告しておく、これが最後だ。<勇者>の力を人族に振るうな────<完全治癒(オールヒール)><聖結界(ホーリーフィールド)><転移(ポータル)>」

 

 

 

約束通り、身体欠損とHPを範囲回復させる聖属性魔法を使ってから撤退する。

 

 

撤退するときは、後ろから撃たれないように転移。

 

 

 

 

 

 

 

 

陣営に戻ると、既に騎士団長以下も居た。なんでも<勇者>が討たれたことは、王国軍の中でもすぐに広まり、すぐに撤退していったらしい。まあ、<勇者>が討たれたとなると、士気は駄々下がりだよなあ……相手側にそれだけの強者がいるってことになるんだから。

 

 

「<勇者>は殺した、だが生き返る。まあすぐに戻ってこれるとは思えない。時間はとりあえず稼いだ。もしまた<勇者>が出たら、これを使ってくれ」

 

 

そう告げて、団長に石を渡す。

 

魔法石の一種で伝達石という品物。魔法石としてのランクは低く、効果も、二個一組の片方が割れた時、もう片方が激しく発光し熱を持つというだけ。まあ非常事態発生の報せはそれで十分だろう。

 

 

「は、承知いたしました」

 

 

「ではな──<転移>」

 

 

 

 

「おかえり、殺ってきた?」

 

「首チョンパ」

 

「……意趣返し?」

 

「いや、一番楽だったから」

 

「成長具合は?」

 

「当たり前だけどまだ固有スキルは出せてない。レベル的にも2から4くらいじゃないかな?」

 

「まあ召喚して一週間程度なら、上出来かしら」

 

「うむ、ああ、あと折ってきたぞ」

 

「他のは?」

 

「腱斬ったか腕と足奪った。止血は火属性魔法」

 

「鬼か。まあでも、うまくやれば戦場に出てこれない……うん、上出来」

 

「え、と、お疲れ様でした、ケイ」

 

「ああ。……あれで少しは<賢者>がストッパーになってくれるとありがたいんだが」

 

「無理でしょ。<賢者>は確か……高山でしょ?アイツ頭は良いけど」

 

「ストッパーに向いては……いないね。桑原(くわはら)とか田中(たなか)とかに押し切られそうだ」

 

「わかっててやったの?」

 

「一縷の望みをかけてって奴だな。一応騎士団長に伝達石を渡してきた。何かあれば連絡が来る。<転移>も記録しなおしたしな」

 

「ああ、何度でもボコれるってわけね」

 

「その通り。ところで住民の避難はどうなった?」

 

「大分時間を稼げたみたいで、もう希望者はほとんど南方に逃げたわ。残っているのは政府首脳とか大公、あるいはこの地に骨を埋める決意をした人たちだけよ」

 

「ふむ、無用な犠牲は避けられたか」

 

「一時的に、ね。最終的に公国騎士団は全滅するでしょうし、王国騎士団もかなりの被害を受ける」

 

「その数十倍の一般人が巻き込まれるよりゃましだ」

 

「えっと、その、ケイ?」

 

「ん?どうしたセレス」

 

「公国を助けるんじゃない、の?」

 

「違うよ、()()()()()()()()()。<勇者>は、人族同士の争いに関与してはならない。これは俺にも適用されるからね」

 

「え、じゃあさっきまで行ってたのは……?」

 

「ああ、あれは相手に<勇者>が居たからね、俺はあくまで調整役だ。相手が戦闘不能になればこちらも撤退する。それが<システム>の規定、約定だ」

 

「……<システム>?何ソレ?」

 

「それは「ケイ」……悪い。すまんセレス、軽々しく話せる事じゃなかった」

 

 

誰が聞いてるともわからないところで話す事じゃなかった、危ない危ない。さくらナイス。

 

 

「……そう、なら深くは聞かない」

 

「まあ、いずれ嫌でも話すことになるからその時に聞いてくれ……と言ってもそれがいつになることやら……」

 

「貴方がレベル上げして戦車とか召喚できるようになったら済む話でしょ?特に自衛隊装備はほぼ確実に召喚できるんだから」

 

「わかったわかった、急ぐから。じゃあ次の国行くか?」

 

「そうね、どうせしばらくは攻めてこないでしょう、距離を稼がなくては」

 

「次行くのってどこだっけ?」

 

 

 

「南の大国、スルヴァニア皇国よ」

 

 

 

 




以上です。もう1話挟んで今代側の閑話が入るかもしれません。

クラスメイトの名簿的なのとか投入した方が良いですかね?

それでは感想批評質問等お待ちしております!


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閑話  勇者の死と希望

第一回防衛戦後の、クラスメイトサイドの話になります。

果たして主人公の狙い、戦闘に対する忌避感は植え付けられたのか……



 

何事か呟いて一瞬で消え去った先代<勇者>を名乗る何者か。残されたのは、身動きが取れない状態で呻き声を上げる戦闘職男子。支援系職の男子と女子は傷が少なかったおかげか、<完全治癒(オールヒール)>と<聖結界(ホーリーフィールド)>によって回復し終わり、首と胴体が離れている勇人の周囲に集まっていた。

 

 

 

その中にいる<賢者>高山に、同じく<賢者>の女子、前原(まえはら)輝美(てるみ)が近づく。

 

 

 

「ねえ」

 

「な、何?」

 

「アンタさっきあいつに何を言われてたの?何か呼ばれてたみたいだけど」

 

「……<勇者>の力を人族に向けるなと。<賢者>の役割は<勇者>の行く先を正す事だと。次同じことになったら手加減しないと言われた」

 

「どういう事?」

 

「知らない、だけどそのままじゃないかな。あ、あと、このままいけばお前等は全滅していたか大量虐殺をしていたかのどちらかだ、自分の頭でもっとよく考えて動けって」

 

 

「……何よそれ、大量虐殺って」

 

「言葉通りの意味、あのまま僕達<勇者>が人族の一般的兵士と戦っていたら、って」

 

「それは……でも仕方ないじゃない、あの国が協力しないのが悪いんだって。それにあいつも篠原君を殺したじゃない!」

 

「それは……」

 

「ねえ、ちょっと誰か来て!」

 

 

 

先程まで、ただただ勇人の死体を呆然として見つめるだけだった女子達が叫んだ。

 

 

 

「何かあったのか?」

 

 

 

比較的軽傷で済んだ<狩人>平井(ひらい)康太(こうた)と<鍛冶>佐々木(ささき)(けん)が慌てて駆け寄る。高山もそれに続いて勇人の死体をのぞき込む。

 

 

 

「……何だ、これ……」

 

 

 

 

そこでは、勇人の死体が全て光に包まれていた。特に切断面──首は眩い光で覆われ、様子は全く伺い知れない。

 

 

「……<鑑定>……これは?」

 

 

<鑑定>が最初から使えていた<鍛冶>佐々木が勇人の死体その物を鑑定したらしい。浮かび上がったステータス画面を見て驚いていた。

 

 

「どうしたんだ?」

 

平井が横からのぞき込む。

 

 

 

 

「……これ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────

ステータス

 

篠原 勇人    Lv.4

種族  異世界人

職業  勇者

年齢  17

性別  男

HP  0/800

MP  0/800

物防  0

魔防  0

物攻  0

魔攻  0

称号  <勇者><正義の勇者>

状態  死亡

備考  死亡状態につきステータス低下・<再生魔法・完全再生(オールリヴァイヴ)>適用中

    完全再生まで残り1:55:32

 

 

──────

 

 

 

 

 

「再生……?」

 

 

 

 

 

 

────まあ、そんな悲しむなよ

 

 

 

 

────どうせ生き返るんだから、さ

 

 

 

 

「なんで、わかって……まさか!」

 

 

まさか、あの不審者は本当に先代<勇者>だったのか。

 

 

「いや、そんなわけがない」

 

 

仮にあの不審者が魔族だったとしよう。ではなぜ<勇者>が不死身である事を知っていたのか。

 

 

これは簡単だ。前回、千年前<召喚>されたという<勇者>もそうだったのだろう。魔族側がそれを教訓として語り継いでいたのならば今の魔族が知っていても不思議ではない。

 

 

では不死身と知りながらなぜ殺しに来たのか。

 

 

これは色々考えられる。人族の士気を下げるため、侵攻を遅らせるため、<勇者>自身への何らかの警告。

 

 

辻褄はかなり合う。だが

 

 

「いや、待て。確かアイツは<光刃><光槍>を使っていたな」

 

 

魔族は基本的に光・聖属性は扱えない。例外は人族とのハーフくらいなものだがそれでもレベルは5までしか上がらない。しかし。

 

 

「<連続発動(オートリピート)>は第十位階だぞ……」

 

 

魔法スキルの段階の呼び方にはレベル・位階・ランク等多くの言い方がある。が、いずれも最高到達点は10。つまり第十位階=ランク10=レベル10で扱えるスキル、となる。

 

 

つまりかの不審者は<連続発動>を使っていたことから、少なくとも<光属性魔法>レベル10を所持している。現時点で勇人は<光属性魔法>レベル5なのでそれより上なのだ。

 

 

魔族が光・聖属性を扱えないのは、体質・種族的な理由というか種族の在り方そのものであると聞いている。彼等が信仰する魔神ラボルファスは存在そのものが闇であるのだと。それゆえに魔神から生み出された魔族もその属性そのものが闇であるがゆえに光・聖属性を扱えない、と。

 

 

つまりあの不審者は魔族ではない。

 

ならば人族。

 

しかし、人族ならば人族で矛盾がある。と言うよりこれは全ての仮説を否定しようとする物証なのだが。

 

 

「なぜ<正義(ジャスティス)>が折られたんだ……」

 

 

<聖剣・正義>が一時的とはいえ、折られた。この事実が、全ての仮説を否定する。

 

いや、一つだけ否定も肯定もされない仮説があった。それは先ほど自分が最初に否定した仮説。

 

 

「本当に、あの男は<勇者>だったのか……」

 

 

<勇者>パーティーはそれぞれ与えられた職業・称号により、様々な恩恵を受ける。例えば<魔導師>であれば、<召喚>当時から既に<全属性魔法>を持ち、特殊系統に当たる時空属性や、種族固有魔法などを除くすべての魔法を扱う事が出来る。<槍術師>ならば槍系のスキルは一度見て動きをトレースすれば取得できる。

 

 

これこそ<勇者>がチートである理由なのだ。

 

 

まあそれはともかくとして、では<賢者>はどうなのかと言うと、他の<勇者>持ちのように、スキル取得や魔力・HP量などで優遇されているわけではない。しかし<賢者>には別の恩恵がある。

 

 

 

 

<並列思考><思考加速><脳内演算>

 

 

 

 

 

これらのスキルによって<賢者>は<勇者>パーティーにおいて参謀的な役割を果たすことが出来る。高山がそれらのスキルを用いて何度も何度も予測を繰り返したが、やはり全ての条件をクリアして否定されないのは、不審者は<勇者>である、という仮説だけだった。

 

 

肯定も否定もできないのは、現状最強の武器であり、一般的には<破壊不能オブジェクト>に近い<聖剣>同士で耐久値を削りあった場合、どうなるかという問題の結論が出ないためだ。

 

 

 

 

実際には<システム>上では<聖剣>同士で削りあってもどちらも壊れない。今回啓斗が<正義>を折ったのもただ<システム>の管轄を超える<聖剣・犠牲(サクリファイス)>の固有技能によって強制的に耐久値を0に持って行っただけである。

 

 

 

だがそんなことなど<システム>の存在すら知らぬ<賢者>にわかるはずもなく。

 

 

高山はただ思考の渦に引き込まれていくだけであった。

 

 

高山が俯き、考え事をしている間、次々と回復し起き上がってきた戦闘職男子達が、勇人のところへやってくる。そして佐々木の手元の<鑑定>結果を見て驚いていたり、安堵したりしている。女子の中には安心のあまり泣き出している者もいた。

 

 

「ねえ」

 

 

その中で声を挙げた女子が居た。前原だ。

 

 

 

「とりあえず、王国に戻らない?」

 

「……そうだな」

 

「勇人はどうする?」

 

「私が運ぶわ」

 

「ああ、そういえば貴女の職業は<傀儡術師>だったね、じゃあよろしく」

 

<傀儡術師>加藤(かとう)充香(みちか)が手を挙げた。

 

「<傀儡創造(クリエイト・ゴーレム)>」

 

 

地面に手を当て、魔力を流し込み、スキルを発動。地面が盛り上がり、そこから現れたのはゴーレム。何の変哲もない、ただの土でできた傀儡(ゴーレム)。だがそこら辺の一般的人族よりは強い。人1人持ち上げる程度なら何の造作もなく出来る。

 

 

 

「<傀儡加工>」

 

 

 

両腕で勇人を抱えさせると、頭部をなくし、肩から上を平らにしていく。人1人を寝かせるのに十分なスペースを確保するとそこに乗せた。

 

 

「……じゃあ、帰りましょう。予定を大幅に変更しなくては。高山、行くよ」

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

 




思ったより効いてない件について。

いや、多分ショックが大きすぎて、かえって現実味が無くなってるんですけど。

この時点で主人公の企みは半分失敗……?

まあもはや成功しなくても良いっぽいですけど。


それでは感想批評質問等お待ちしております。


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閑話  <勇者>の復活

前回に引き続き、今代パーティーのお話です。




それではどうぞ!


今代<勇者>パーティーは王国最南の街・ディセルドに戻った。<勇者>達は既に王国北部における問題のほとんどを解決し、現在はここを拠点として、王国南部の問題の解決に当たっている。今回のエメラニア公国との交渉もその一環であった。

 

 

 

 

「先代、<勇者>様が、ですか?あの伝説の……」

 

「あくまで自称、ではありますが」

 

「しかし我々<賢者>として、肯定も否定も出来ぬ仮説は、あの不審者が先代<勇者>であるという仮説のみでした」

 

 

 

 

公務などで王都を離れる事が出来ない国王の名代として<勇者>パーティーに同行する形となっているシルフィアーナ・シルファイド第一王女。

 

 

 

「しかし、そうであるとすれば、先代<勇者>様は一体なぜあのような凶行を……」

 

 

 

彼女にとって、先代<勇者>は、おとぎ話に出てくる勧善懲悪のヒーローのような存在であった。それは何も彼女に限ったことではなく、この世界の人族全てにとって、千年前の戦争を人族の勝利に導いたとされる<勇者>はまさしく英雄であった。

 

それが人族の再びの危機に現れたかと思えば、志を同じくするはずの今代<勇者>を殺害、<勇者>パーティーの面々にも戦闘不能に陥る程の傷を負わせたという。

 

伝説を信じるこの世界の人族としては信じられない、信じたくない事であった。しかしそれを証言するのは同じく<勇者>。彼らが嘘をつくとは思えない。

 

となるとその凶行にもなにかしらやむをえない理由があったのでは、と考えざるを得ない。それゆえの前述の台詞。

 

 

 

 

「……<聖剣>は、人族に向けられるものではない」

 

「え?」

 

「<勇者>の力は人族同士の戦いには手を出してはならない、そう先代<勇者>を名乗る者が言っていました。<勇者>は人族における<魔王>に対する楯であり剣である、とも」

 

「でも父上と宰相が言うには公国は魔族と協力関係に」

 

「……それを否定するため、だったのかもしれません。先代<勇者>が出てきた理由は。<勇者>自身が公国側に付くことで<魔王>つまり魔族との繋がりを否定できます」

 

「ではなぜそれを直接言いに来てくれないのでしょうか?」

 

 

 

シルフィアーナの次の問いに高山も前原も即答することが出来なかった。彼等もそれがわからなかったからである。

 

 

 

 

なぜ初代<勇者>は、直接シルファイド王国に来なかったのか。

 

 

 

 

 

シルファイド王国において<勇者召喚>が行われたという話は既に人族領全てにいきわたっている。

 

 

飛行機や自動車が無くとも、物質転送系統の魔道具は数種類存在する。そのほとんどは新聞社や冒険者組合(ギルド)、国家機関などの所有となっており、それらを利用して各地に王命や外交文書などが転送される。

 

 

それらを通じ、<召喚>実行当日には人族領全体に報せはいきわたっている。

 

 

伝説によれば<勇者>は<転移(ポータル)>と言うスキルが使えたというのだから、早ければ<勇者召喚>当日に現れてもおかしくはないはずなのだ。

 

 

そうすれば、今回のように衝突することはなかっただろう。それになにより、

 

 

「……もしもっと早く、そして直接私達のところに来ていただけたのなら、きっと<防衛者>様と<支援者>様と組んでいただけたでしょうし、それなら<防衛者>様も<支援者>様も魔族に殺されることは無かったはずです……」

 

 

 

伝説に残る<勇者>は、魔族との戦闘の際は鬼神のような戦いぶりを見せたという。一方で病人のいるところや孤児院などに出かけては、無料で治癒・回復魔法を施し、孤児のために働く先を作ってやるなど、優しさも持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

そんな彼ならば<防衛者>と<支援者>という攻撃が出来ない職業の同胞が二人だけで組まされる状況を良しとせずに彼等と組んでくれただろう。そして魔族に襲われたとしても全員を守りながら撃退できたはずだ。そうすれば<勇者>達も仲間を喪うことは無かった。

 

 

 

 

 

そこで高山は思い出した。勇人が先代<勇者>と対面し、<防衛者>と<支援者>の死を告げた時に、先代<勇者>が下した評価を。

 

 

「くそっ、あのときそこまでわかっていたら、あんなことを言われるままにはしておかなかったのに……」

 

「あんなこと?」

 

「ええ、勇人が先代<勇者>に<防衛者>と<支援者>の死を知らせた時、何て言ったと思います?『使えない奴だ』って言ったんですよ!」

 

 

 

<防衛者>神崎啓斗はどうだか知らないが、<支援者>内山さくらは、<勇者>持ちではなく、ステータスがクラスメイトより低いにも関わらず、<勇者>達と共に教育を受けていた。訓練だってしていた。この世界に<召喚>された時点で、恵まれていなかった才能を補完しようと必死で努力していたのはクラスの全員が知っている。表面上はいつも通りだったが、心中はそうではなかっただろう。

 

 

 

神崎だって、少なくともこの世界の人間を救うべく文字通り決死の覚悟で戦ったことくらいは高山にも理解できてはいた。当時の<勇者>ですら無傷での勝利は難しいであろう魔族相手に、ステータスもレベルも劣る<防衛者>が、その固有の特殊な魔法を駆使して騎士団を守り、最終的に相討ちという結果にまで持ち込んでいる。

 

 

 

辛うじて訓練場に居る姿を見たことはあった。だが<召喚>されて一か月足らず、先駆者もおらず、1人で調べるしかない<防衛魔法>という特殊な固有魔法を、一体どれ程ものに出来ていたのか。

 

 

 

どう考えても彼等は不完全な状態で戦っていたのだ。それでも最期まで、恐らくはこの世界の人々のために。それを悪く言う資格は他の誰にもないはずだ。先代<勇者>にも。

 

 

 

「そんな事を言う資格は……」

 

「それは多分、違うぞ、高山」

 

「っ!勇人!大丈夫なのか!」

 

「篠原君!」

 

「心配をかけたようですまないな……王女殿下、心配させて申し訳ありません」

 

「いいえ、ご無事……ではありませんね、でも生還なさるだけで十分です」

 

「私皆に知らせてくる!」

 

「後で行くからここに押しかけないよう言っておいて!」

 

 

 

前原が出ていくのを見送り、傍付きの騎士を手招きした王女に対し、

 

 

 

「あ、騎士団長には先ほどお会いしましたので」

 

「あ、そうですか、わかりました」

 

「王女殿下、敬語は止めてくださいとあれ程申し上げましたのに……」

 

「いいえ、私はお願いする立場なのです、ユウト様こそ、敬語でなくて構いません。それにシルフィとお呼びくださいとあれ程……」

 

「わかりました、ではシルフィア様と呼ばせていただきます。ですが敬語は自分のけじめというかこだわりというか、そんなものなので気にしないでください」

 

 

力無さげに苦笑する勇人だが、一度死んで、また生き返るという過程を経てここにいる。それが彼の体調やステータスに何かしらの影響を与えている可能性は否定できない。

 

 

「何か変なところはないか?」

 

「ああ、今のところ異常は無さそうだ、むしろなんか疲れが取れて快調な気もする」

 

 

<勇者>再生プログラムは、例えるならゲームで言う課金アイテムによる復活だ。ゲームでは復活すると、当然のことながら(一回死ぬから)状態異常を含むすべての付帯効果は解除される。当然ながら疲労も解除される。

 

 

<勇者>再生プログラムも同じ効果を持つ。体が軽く感じるのはそのためだ。

 

 

普通のゲームと違うのは、復活が無限である事と代償がその時の残存魔力全てである事、そして<聖剣>の無事が条件である事。<勇者>が<勇者>である間、つまり<魔王>を倒すまで、<聖剣>が無事であれば<勇者>は蘇り続ける。そして<聖剣>は基本折れない剣。つまりほぼ永遠に続く蘇生。それをかつて少女は救いと称し、少年は永遠の地獄と評した。

 

 

「俺は死んでも生き返れるってことも分かったし、こういう言い方は駄目っつーかおかしいと思うけど、なんか良かったよ」

 

「良かった?」

 

「ああ、つまり、俺は何度でも生き返れるんだろ?だったらこれからお前達が危なくなったら最悪俺が体を張ればいいんだ」

 

「お前、それは……」

 

「ユウト様……」

 

「これで、また友達を喪う可能性を減らせた」

 

 

 

そう言って、心底安心したように勇人は笑った。

 

 

 

「すいません、シルフィ様、高山借りていきます」

 

「わかりました、キミヒロ様、ありがとうございました」

 

「いえ、それでは失礼いたします」

 

 

 




一応、篠原君も<勇者>です。というかむしろ普通のゲームだったり、王道を行く異世界召喚なら、この人は主人公です。

むしろ今作の主人公たる啓斗が<勇者>としては微妙なのではないか、と。作中に出てくる優しい初代、アレ主にさくらさんと春馬さんです()


それでは感想批評質問等お待ちしております。


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閑話  気付きと決意

はい、またまたお久しぶりです。

またまた閑話です、すみません。次は本編です。


 

 

 

 

 

シルフィアーナの部屋を出て、1人1人に当てられた個室のうち、勇人の部屋へと向かう。

 

 

「──さっきの話に戻すぞ高山」

 

「さっきの話?」

 

「ああ、先代<勇者>の<防衛者>に対する評価の話だ」

 

「……なぜ庇うんだ、お前はあいつに殺されたじゃないか」

 

「だが生き返る事は知っていた、だろ?それにお前達を殺すことはしなかった、回復魔法までかけていったんだ」

 

「でも何も傷つける必要は……!」

 

「……多分、警告だったんだよ。俺達と、王国への」

 

「警告?」

 

「『調子に乗るなよ』っていうのと多分『これ以上仲間を喪うな』っていう」

 

「……『調子に乗るな』っていうのはなんとなく察しが付く。俺達がしたかもしれない可能性の話だろう?」

 

 

高山はあえて大量虐殺、と口に出しては言わなかった。

 

 

「そうだ」

 

「『これ以上仲間を喪うな』ってのは?」

 

「……アイツが、神崎と内山さんを、使えない、と評価したあと、こうも言ってたんだ。

 

 

『<防衛者>と<支援者>は、立場上そして理論上、召喚直後から<勇者>パーティーと拮抗状態に持ち込める力がある』

 

 

と。だから本来魔族二人程度に負けるはずがないんだと」

 

「……それが?」

 

「でも負けてしまった、なぜだろう。そう思ったときに気づいたんだ。俺達は、彼等の邪魔をしていたんじゃないかってね」

 

「邪魔?」

 

 

確かに訓練している途中に魔法を撃ちこんだり剣の戦いを挑んだりしていたが……

 

 

「そう。初代<勇者>の台詞から考えられるのは、俺達が<勇者>という称号で1セットであるように、彼等は二人で1セットだったんじゃないか、という事なんだ。でも、俺達が<召喚>されて、彼らが殺されてしまうまで、彼等が二人だけで行動していた時間は、多分、無かったんだ」

 

 

初めて長期間共に行動できるタイミングでの魔族の襲来。

 

 

「ぶっつけ本番で、格上の相手に、初めて組む連携。上手くいったとは思えないんだ」

 

 

<初代勇者>の言葉から考えるなら、本来の<防衛者><支援者>にとっては格上ではないのかもしれない。

 

だがそれは<防衛者>と<支援者>が二人でちゃんと協力し、本来の戦闘方法を行えた場合における比較。

 

<防衛者>の本来の戦闘方法を知らず、また<支援者>との共闘も初めて。

 

期待される本来の戦闘能力を発揮できたとは思えないのだ。

 

実際、騎士の報告では<支援者>内山が先に殺されてしまっている。

 

 

「彼等をそんな風にしてしまったのは、俺達だ」

 

「な、どういうことだよ、俺達のせいって」

 

 

確かにそれまで連携の練習なんてしていなかっただろうがそれはしようとしなかった彼等の責任であって、自分や勇人が気にすることではないだろうに。

 

 

「内山さんは、召喚されてから何をしていた?」

 

「何をってそりゃ俺達と一緒に……!」

 

「気付いた、みたいだな」

 

 

そう、当初、称号<勇者>を持たない二人は<勇者>達の訓練から外されていた。が、内山は<剣聖>水山や勇人自身の誘いで訓練や授業を共に受けていた。一方で神崎は、誰からも誘われる事無く、一日のほとんどを自室でのみ過ごしていた。騎士団長からの話では、三日目から訓練場の片隅で何か──本人の弁を借りるなら<防衛魔法>の練習──をしていたらしい。朝早くから、時には夕食後まで訓練場に居たという話もある。

 

 

<防衛者>と<支援者>が訓練や授業に呼ばれなかったのは、彼等が<勇者>でないからだ。

 

 

<勇者>ではなく、ステータスはこの世界の人族と比べるならともかく他の<勇者>より劣る。そんな彼等を、魔族との戦闘の最前線に立たせるのはいかがなものか、というものだ。

 

 

さらにもう一つ付け加えるなら、これは宰相の差し金である。彼の目的達成には、戦意旺盛な<勇者>が必要であった。そのためには、彼等の仲間は健在である事が必要となる。そのためには死ぬ可能性が一番高いであろう二人を、戦場へ出すわけにはいかなかった。

 

 

だからそれを防ぐためにまず訓練させなかったのである。

 

尤も、途中から邪魔になってしまったので、<勇者>の魔族に対する敵意を稼がせるために殺したが。

 

 

そんなこととは露知らず誘ってしまった<勇者>達。

 

 

「つまり彼等が連携できなかった原因に俺達も一枚噛んでいるという事だ」

 

 

本来2人で1つのタッグで挑むべき敵に、1+1で挑んでしまった。挑ませてしまった。

 

 

「それは……そうかもしれない。でも俺達はその時そんな事は知らなかったんだ、あの2人がそういう職業であることは……大体なんで初代<勇者>はそんな職業の存在を知っていたんだ?王国の人達も知らないようだったのに」

 

「そんなの簡単だ、彼が召喚された時にもいたんだよ、<防衛者>と<支援者>が」

 

 

召喚された時に聞いた、<初代勇者>のパーティーメンバーは5人。うち3人が異世界人。ならばその3人は。

 

 

「<勇者><聖女><防衛者><支援者>の4人が召喚されたんだろう、多分ね」

 

 

この世界に1000年前に召喚されたという4人。しかも。

 

 

「あの水帝竜、クトゥルフの話と、声から考えて、全員、多分俺達と同じくらいの時代・年代の日本人だな」

 

 

争いを好まない国、ニッポン。それが初代<勇者>の出身国であると聞いた。こうやって異世界が存在する以上、並行世界の可能性も否定できないが、そうだとしてもほぼ同じような世界だと考えていい。

 

そして残念ながら<勇者>の顔は見れなかったが、声は聞こえた。若い、同年代と思しき男の声だった。

 

 

「じゃああの<勇者>も俺達と同年代──高校生なのか?」

 

「まあ年上としても大学生、年下でも中三くらいか、身長的に。だからこその警告だろうな」

 

「……彼等も同じような失敗を?」

 

「話的には殺されたとまではいかないが、何かしらやらかしたんだろうさ。それを考えて警告に来たんだろう。知らなかった、気づかなかったじゃすまないぞ、と」

 

「……」

 

「俺達が背負っているのは、俺達自身だけじゃない。この世界の人族の命運も背負っているんだ。彼が言っていた事が事実なら、俺達の戦力は<防衛者><支援者>を喪ったことで既に半減している。殺されたのはその分の罰も兼ねているのかもしれない」

 

「罰、か」

 

「<勇者>を持っていないからと言って、俺達と違う扱いをされているのを、許容するべきじゃなかったんだよ。せめて内山さんとは同じ行動をとってもらうべきだったんさだ」

 

 

 

せめて完全に一人にするのは避けるべき事だった。向こうなら、例えば学校で一人であっても、毎日誰かしらと接点は持つ。でもこちらで一人に、それも物理的に離されてしまっては、完全に孤独だ。食事をする場所すら別だというのだから徹底している。

 

 

 

 

周囲に見知っている人間は誰もいない。本来なら同じ境遇であったはずの内山は、<勇者>達に誘われて行動を共にしているようだ。

 

 

 

 

 

全く知らない世界での完全な孤立。

 

 

 

 

 

そこへ降って湧いた、クトゥルフの提案。元の世界に戻れる、と言う。

 

 

日常を送ることが出来る学校がある、元の世界へ。

 

 

それは今の孤独からの解放を意味する。彼にとっては渡りに船とも言うべき提案だったのだろう。

 

 

 

 

 

だからクトゥルフの提案に乗った。

 

元の世界に戻りたかったから。

 

 

 

だがそれはもう叶わなくなってしまった。

 

 

 

死んでしまったから。再生プログラムは、名前から考えて<勇者>にしか働かない。他は皆、元の世界同様、死んだらそれっきりだ。

 

 

 

これを繰り返してはならない。

 

 

 

 

「……なあ」

 

「どうした?」

 

「<初代勇者>に、会うにはどうすればいいかな?」

 

「あいつに?なぜ」

 

「今からでも俺達との共闘をお願いできないかなと思ってね。あと、俺達の訓練相手を頼めないかなと」

 

 

 

千年前一度召喚された<勇者>。自分達が全く知らない魔法を使っていた彼は、確かに自分達より強いはずだ。数字的にも、技術的にも。

 

 

 

「それは確かに良いかもしれない……だがどうやって会うか……あ」

 

「何か思いついたか?」

 

「もう一度公国に行けばいい」

 

「だが俺達はつい今日、あんなことになったばかりだろう?」

 

「……国王陛下に今回の<初代勇者>の件を合わせ、公国との同盟を進言してみる」

 

「通るか?」

 

「通す」

 

「強気だな」

 

「<勇者>にはそのくらいの力はある、だとさ。国を止めようとするのも<勇者>の仕事だと。確かに、人族同士で争っている場合ではないしな。無論お前にも手伝ってもらうよ」

 

「公国への疑いは?」

 

「……<初代勇者>が出てるのに、魔族と結ぶわけないだろ」

 

「……魔族の疑いは?」

 

「晴れたよ、光属性第十位階魔法使える魔族が居てたまるか」

 

 

高山はそういって苦笑した。

 

 

 

「じゃあまずは皆のところに顔出して、王女殿下に奏上するか」

 

 

 

 

 

そして彼らは、なんと一週間で王国にどうにか講和条件を呑ませることに成功し、それを携えて公国へ向かった。




以上です。

神崎くんにとっては確かに渡りに船な提案だったわけです。理由は全く別ですが。


それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第二十五話  装甲戦闘車

現代兵器パート2です!戦車を出すにはレベルが足りない!でも代わりになるのはある!


というわけで、第二十五話、どうぞ!


 

 

 

公国を発って5日後。俺達は無事スルヴァニア皇国に到着していた。伝達石にも異常はなく、つまりそれは王国対公国の戦争に<勇者>が介入していない事を示していた。

俺の忠告を聞いたのか、あるいは、<勇者>達にとって戦場がトラウマと化したのかまでは知らない。出来れば両方であってくれればと思う。

 

 

 

 

宰相執務室及び謁見室の<警戒地点設置(レーダーサイト)>は解いていた。<勇者>撃退の翌日のことだった。最後のデータによれば、<勇者>はどうもその日までは寝ていたらしかった。宰相はまだ企みを諦めてはいないようだが……

 

 

 

 

 

 

 

一方で、こちらはと言うと、つい先ほど、<火竜(サラマンダー)討伐>の依頼を受諾し、完了させたところである。やはり現代兵器というのはこの世界では大分チートだと思う。

 

 

 

本来ならば、水属性魔法使いを数人投入し、ランクCのパーティー複数、人数としては数十人を投入すべき、火属性魔物としては炎帝竜を除く頂点たる火竜を、たった三人で討伐できてしまうのだから。いや、実際は一人だけでも済む。

 

 

 

01式軽MATこと01式軽対戦車誘導弾3発。これだけで火竜は、鱗を砕かれ、脚をもぎ取られ、あっさりと息絶えた。

 

 

「エグっ」

 

「科学の勝利」

 

「火竜が、こんな簡単に……」

 

 

これでまだスキルレベル2なのだ。スキルレベル10になったら世界とか滅びそう……いやそれはないか。

 

 

《<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>がレベルアップしました》

 

《<防衛装備召喚>がレベルアップしました》

 

 

まさかの二回連続レベルアップ。レベル4。どれくらいまで召喚できるようになったのか。

 

……ふむふむ、最大で9×4×3メートルを一つ、か。それより小さければ、数は増える、ほうほう。ふむ……あれ?これってもしかして戦車とか召喚出来ちゃったりするんじゃなかろうか?

 

 

本来車が必要ではあったが、確かどっかのテレビ番組で見た時、陸自の戦車ってそこそこ速度が速いみたいな話を見たような気が……

 

 

生憎、陸軍装備は守備範囲外なので、詳細は知らないけれど。試してみよう。

 

 

 

 

 

 

 

無理でした。どうもぎりぎり大きさが足りなかったようだ。畜生め(ガッデム)

 

 

でも代わりになりそうな物は召喚できたので良しとしよう。

 

 

16式機動戦闘車。

 

 

 

俺はタイヤ付き戦車と覚えているが、まあ外見はまさにそんな感じ。なぜか車内に存在したカタログによれば、最高時速は100キロ以上。走行しながら撃てる。しかも、召喚した物だからか、操縦はタブレット的な端末で行える。照準、射撃も、端末に外部の様子を映し、ボタンを押すだけで射撃可能。砲弾は数種類から選択が可能で、自動装填な上に弾薬無制限。ちなみに燃料も無制限。

 

 

 

チートじゃねえか。

 

 

 

コレをチートと言わずして何と言おう。いやまあ取り扱いとか知らないからありがたいんだけど、まさにご都合主義?

 

「よくやった、褒めてやろう」

 

「上司か」

 

「……なんですかこれは……?」

 

「あー……俺らの世界で言う戦車だ」

 

「戦車……ですか?でも馬とかは」

 

「要らない。これは……まあ例の科学ってものの力で、自走する」

 

「ああ、科学の……」

 

「今度から移動はこれでしましょう、障害物も消しやすそうだし」

 

「まあ多分サラマンダーでも瞬殺できるだろうし……いや、待てよ?──<任務完了(ミッション・コンプリート)>」

 

 

一度消す。

 

 

「<防衛装備召喚>」

 

 

 

 

次に思い浮かべたのは、八九式装甲戦闘車と呼ばれる物。陸上自衛隊の車両で、春馬さんがやたら詳しかった車両。

 

装軌車両ではあるが、こちらの方が使い勝手がよさそうだ。というのも、こちらに付いているのは、機関砲クラスの火砲と、重MATと呼ばれる誘導弾。魔物の群れ相手なら多分機関砲の方が良いだろう。

 

相変わらずお手軽操作の自動装填かつ弾薬・燃料無制限。

 

 

「これで良いか。次の街まではこれで移動しよう。そこで物資をそろえて、機動戦闘車で、一気に下る。海は……また考えよう」

 

「了解!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇーーーーーー?!さっ、火竜討伐できたんですか?!」

 

「おう、これが討伐証明部位、逆鱗だな」

 

「確か皆さんって冒険者ランクは……」

 

「Cだな」

 

「何で単独で火竜討伐出来るんですか?!」

 

「足止めして正面から魔法で撃ち抜いたんだけど」

 

「……セレスさんですね」

 

「ああ」

 

「ご兄弟で強い魔法使いがいらっしゃるとは羨ましい」

 

 

ギルドの受付の女性職員は恐らく本心でそう言っているのだろう。横目でセレスが引き攣った笑みを浮かべるのが見えた。実際の序列では、彼女が一番下に来るのだから無理もない。

 

 

とはいえ、<防衛魔法>や<防衛者>については、おいそれと口に出せるはずもない。特に<防衛装備召喚>は、その実際を知ればどの国も欲しがるであろうスキルなのだから、彼女が仕留めたことにするほかない。

 

 

「はい、こちらが討伐報酬となります。あと三人ともランクが上がりまして、Bとなります」

 

「ありがとうございます」

 

「もう出発なさるんですよね?」

 

「ええ、この後は皇都リゼヴァルトによって、西大陸を目指します」

 

「ああ、親戚の方に会いに行くんでしたっけ?」

 

「ええ、両親ももう居ないのでそちらを頼ろうと」

 

「……それは。申し訳ありません」

 

「いえいえ、お気になさらずに。それでは」

 

 

 

組合(ギルド)を出て、途中で馬を売る。そして徒歩で南門を出る。

 

そして街道を進むも途中から少し外れる。

 

「この地方だとそろそろ森は少ないんだっけ?」

 

「そうね、もう少し進んで、それから皇都直行ルートなら、行く手に町も村も、森林も無いはずよ、地面は悪いけれど」

 

「ならよし──<防衛装備召喚>」

 

目の前に現れる鋼鉄の悍馬。

 

 

悪路でも難なく乗り越えられる履帯と、大抵の魔物どころか、うまくやれば下位竜すら仕留めきれるであろう兵装。

 

 

 

 

 

「出発!」

 

 

 

 

 

 

そして、数日後到達したリゼヴァルトで俺達が見つけたのは、今にも処刑されそうな一人の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 




以上です!

それでは感想批評質問等お待ちしております!


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第二十六話  雷帝竜

UA40000超えてた……多いのか少ないのかわかりませんが、読んで下さってありがとうございます!

それでは第二十六話、どうぞ!


突然だが、竜種についての話をしよう。

 

 

現在世界で、人種により“竜種”だと認定されているのは6体。全ての竜種の親たる始祖竜と、魔法の基本属性である火、水、風、地、雷をつかさどる属性竜5体。

 

 

 

 

 

が、この認識には()()()()()()が二つ存在する。

 

 

 

まず一つ目。

 

現存する属性竜は、()()である。

 

 

 

人族に認識されていないのは2体。魔族領に住むことから人族の目に触れない、闇の属性竜。

 

そして<システム>本拠地近郊に存在するが、それを認識できるのは、竜種と<魔王>、<勇者>、<防衛者>のみの、空間属性竜。

 

 

 

そして二つ目。

 

雷の属性竜はこの世には()()()()()()()。俺も会ったことがない。彼が消えたのは、俺が<召喚>されるかなり前、<システム>起動時からだ。

 

では普段人族が雷の属性竜と認識しているのは、誰なのか。

 

 

 

 

 

簡単な話だ。()()()()()である。

 

 

 

属性竜達は、人族の前で、自身が司る属性の魔法を使うことがなく、人族はその体色で見分けているのだ。

 

 

 

では雷の属性竜はどこへ消えたのか。

 

 

 

 

彼は詳しく言えば、消えたのではなく、その力のほとんどを失ったということになる。スキルや魔力さえ。ただ一つ彼が手元に残したスキルは<人化>。自らの外見、体力、寿命などを全て人族にする<変化魔法>の一つ。彼はそれを発動したまま、元の住処から人里に下り、やがて人族と結婚し、子孫を残し、人族として死んだ。

 

 

 

彼の人族としての名は、ラビラス・フォン・リズヴァニア。彼の子孫は後に、ヴァルキリア皇国の時代、リズヴァニア伯爵家となり、リズヴァニア伯爵領を治めていた。

そしてヴァルキリア崩壊後の今日でも、その名を取ったリゼヴァルト皇国において、伯爵家として存続していた。

 

 

 

 

存続()()()()

 

 

 

 

なぜ過去形なのかと言うと、俺の目の前で、彼らの処刑が執行されつつあるからである。

 

 

ここは皇都リゼヴァルト、王宮前広場。

 

 

 

 

 

本来、組合(ギルド)と店にしか行かない予定だった俺達がここに居るのは、昨日の夜、つまりリゼヴァルトへ移動中に、システムメッセージが届いたからである。

 

 

 

《<システム>()()()()()()()()()()より、救助要請を受信》

 

 

 

上位管理者権限所有者とはつまり、竜種と同等の権限を持つ者。しかし、なぜそれほどの者が、救助を求めるのか。

とはいえ、上位管理者からの要請ならば、下位の特務管理者たる俺達は動かざるを得ない。

 

 

という事で、車両を八九式(装軌)から一六式(装輪)に乗り換えて、皇都へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、つまりリズヴァニア伯爵家って、雷帝の子孫なんだろ?」

 

「……そうね、魔力に竜種の反応が出ているわ」

 

 

魔力封じの枷がはめてあるため、感じ取れる魔力は微弱でしかないが、それでも<魔力感知>を持つ俺とさくらには十分だった。

 

 

「……てことはつまりあの娘って」

 

「竜の加護を受けし竜巫女。多分要請してきた上位管理者もあの娘よ」

 

「あそこの……親っぽい奴らじゃなくてか?」

 

「あの2人は魔力反応が薄いし、そもそも女の方は竜の魔力は感じ取れない。はめてあるのは恐らく同等の魔力封じ、なら魔力が大きいあの娘が管理者、ね。自覚はないと思うけれど」

 

 

丁度その時、ギロチンが落ち、1人の男の首が刎ねられた。

 

 

「……あの娘の血族もあの男が最後ね。それ以外に竜種の魔力は感じ取れないわ」

 

 

男に続き、断頭台に連行される女。

 

 

「ふむ、じゃああの娘は俺が助けに行こう。さくらとセレスは待機しといてくれ」

 

「お姫様のピンチに颯爽と現れる勇者サマか」

 

「絵面的には間違ってはいないが、実態が悲しすぎるな」

 

 

絵面的にはそうなのだが、内面は上位者の要請に逆らえなかった下位者である。何それ社畜?

 

 

とか悠長な事をしゃべっていたら女の処刑が終了した。次はいよいよ少女の番。

 

 

 

「じゃ、行ってきます」

 

「行ってら」

 

「<空歩>」

 

 

 

空中に魔力で足場を作って飛び出す。途中で<聖鎧>を身にまとい、<犠牲(サクリファイス)>を抜く。下から構えて、落ちてきたギロチンを、跳ね上げる!

 

 

 

 

 

パキッ

 

 

 

 

 

そんな軽い音と同時に、ギロチンの刃が砕け散った。相変わらず頑丈な<犠牲>には傷一つない。いつも思うんだがこれ何製?

 

 

 

 

じゃなくて。

 

 

 

 

ギロチンに掛けられていた少女の魔力封じの枷を叩き割り、跪く。

 

 

未だ静寂に包まれた広場中に響き渡るように、風魔法<拡声>を使って。

 

 

「お初にお目にかかります、雷帝竜の巫女殿。私は特務管理者、ケイト・カンザキと申します。職業は<勇者>です。救援要請に基づき参上いたしました!」

 

「……え……?」

 

 

盛大に戸惑っている。それもそうか、さっきまでもう死ぬんだろうと思ったら、甲冑付けた不審人物(俺)に跪かれてるんだから。

 

 

「お怪我はございませんか?健康状態は……失礼、<聖光>」

 

 

聖属性魔法で使える、1人用の回復・治癒魔法の内、最も効果が高いものを発動。

 

 

淡い光に包まれると同時に、腕や足の痣、おそらく折れていたと思われる指の骨などが全快する。あと囚人服がボロボロ過ぎて目のやり場に困るので、さっきまで羽織っていたのと同じローブを渡す。

 

 

顔を見れば、金髪に、金色に輝く瞳、そして漏れ出す、通常の人族とは異なる魔力。金色の瞳は、雷属性魔法の先天的高適性の証。

 

 

<鑑定>をかけたが、一瞬弾かれた。表示されたステータスも、名前と年齢、職業のみ。間違いなく、俺より高位の管理者。でなければ<鑑定>レベル10を弾いたり、表示項目を減らせるわけがない。

 

 

と、そのころになって、漸くこの国の人族が再起動する。

 

 

「な、何者だ貴様は!」

 

 

なんだかんだと聞かれたら!

 

……相方いなかったわ。いやまあ冗談はさておき。

 

 

「どうも初めまして、<勇者>です。突然ですが、この娘の身柄を引き取らせていただきます」

 

「ふざけるな!」

 

「ふざけてはいないな、むしろふざけているのはそちらであろうに」

 

「なんだと?!」

 

「……この少女の正体を、出自を知った上でのこの扱いか?だとすれば愚かな」

 

 

 

あるいは<防衛者>同様失伝しているのか?

 

 

 

「ええい!何をしている!近衛、そこの者を捕らえよ!」

 

 

 

 

逃げるか。面倒だし。

 

「ちょっと失礼」

 

「……え?」

 

 

予め断りを入れてからお姫様抱っこ。これで俺が素顔さらして素顔がイケメンだったら絵になると思うんだ…………現実は非情だね。

 

 

「<空歩>」

 

 

空中へ退避、そのまま水平方向へ加速。

 

 

「<幻影><陽炎>」

 

 

続いて、闇属性魔法と光属性魔法を行使。俺達と同じ姿の影を複数作り、別々の方向へ向かわせ、俺たち自身は光を屈折させて、人の視界から消える。

 

 

人気のない路地に入り込んだところで魔法を解いた。ついでに<聖鎧>も消して、もとのローブ姿に。

 

 

「さて、流石にアレは追ってこれなかったか」

 

「遅かったじゃない」

 

「悪い、ちょっと名乗りをしていてな」

 

 

路地の物陰から、さくらが音もなく現れる。

 

 

「……馬鹿か」

 

「ごめん、誰だ貴様はって聞かれたから反射的に」

 

「……まあ、良いわ。んでその娘は?」

 

「レイシア・ウィルティ・リズヴァニア。年齢は17、俺達と同級だな」

 

「そう」

 

「セレスは?」

 

「買い物」

 

「なるほど」

 

 

「……あのっ」

 

 

レイシアさんは漸く現在の状況を把握できたようだ。




以上です!

親を助けなかった理由は、[管理者ではなかったから]です。<勇者>は人族内部の事に手を出してはならない。その規則を守っているからです。
一方で娘の方は、無意識であるとはいえ、<勇者>より上位権限の管理者だったので、そちらからの要請となれば動かざるを得なくなった、ということです。

ちなみに雷帝竜には、名前はありません。前回召喚時には既にお亡くなりになっていたので。ほかは全て、固有名があります。



……神崎くんがノリノリで付けた、クトゥルフ神話由来の名前が()

また神崎くんの予想通り、祖先の事については当事者たる伯爵家以外では失伝しております。

それでは感想批評質問等お待ちしております!


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第二十七話  管理者

数日ぶりですね。時間割り作成にかなり時間を取られました。


それでは第二十七話、どうぞ!


「あのっ」

 

「ん?何か?」

 

「その……助けてくれてありがとうございました!」

 

「ああ、良いよ別に」

 

「仕事だし、ね」

 

「……仕事?誰かから依頼を?」

 

「うん、君から」

 

「……え?私……から?」

 

「そうそう……って人と話すのにフード被ってるのも失礼か……改めまして、初めまして、雷帝竜の巫女殿。私は<システム>特務管理者のケイト・カンザキと申します」

 

「同じく特務管理者のサクラ・ウチヤマです。昨日の救助要請に応じ、参上いたしました……って言っても多分意味不明ですね……とりあえず移動しましょう。ケイ、<偽装腕輪>はある?」

 

「数百個」

 

「一個レイシアさんにつけてもらって……レイシアさん、コレ付け方わかりますか?」

 

 

 

空間収納(アイテムボックス)>から、<偽装腕輪>を取り出し、付け方を説明する。瞳と髪の色、微妙に顔の形すら変わり、さらに顔が印象に残りにくいような<認識阻害>の魔法をかけた魔道具。

 

それを付けると、金色の瞳は蒼く、金髪は黒髪に変化した。

 

 

 

 

 

「……中々面白い組み合わせね」

 

「まあいいんじゃね?大分印象は変わった。一発で見抜かれることはまずないし、印象にも残らないならバレることは考えなくていい」

 

 

バレたところで、俺達を止められる物は存在しない。

 

 

「この国を出るまでのことだし、ね」

 

「宿は?」

 

「とってきた」

 

「明朝午前五時発」

 

「了解」

 

「さて、取り敢えず宿に移動しましょう。詳しい話はそこで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

部屋に入ったところでフードを取る。

 

「さて、レイシアさん、いろいろ聞きたいことがあるとは思いますが、まずは我々とその行動についての簡単な説明を聞いてください」

 

「はい」

 

「では私から説明します。私と彼──ケイは、<特務管理者>という地位にあります。そして貴女は恐らく自覚は無いでしょうし、ご存じでないと思いますが、<管理者>という地位にあります。<特務管理者>は<管理者>の……まあ部下のようなものです」

 

「<管理者>……」

 

「はい、詳しくは後で。さて、我々は、昨日、我々より上位、つまり<管理者>からの救援要請を受信いたしました。ちょうど皇都から北へ800キロほどの場所でしたが。そこから要請に応じるべく、急いでここまでやってきて、無事救出に成功した、というわけです」

 

「救助要請?」

 

「ええ、まあ貴女には自覚がないとのことでしたが……助けてほしいと願いはしませんでしたか?」

 

「……確かに願いましたけどでもそんな要請は出していませんわ」

 

「限りなく低い確率ではありますが、<管理者>の能力を無意識に行使したのかもしれません。何か心当たりは?」

 

「……おじい様」

 

「え?」

 

「小さい時からずっと、頭の中にもう一人、男性がいたのです」

 

「……憑依?」

 

「かもしれません、その人はラビラスと名乗りました。声がお年を召していらっしゃったので、おじい様と呼んでおりました」

 

 

 

 

 

 

 

ラビラス。初代リズヴァニア伯爵にしてその実<システム>の<管理者>権限を持つと想定された唯一の人間にして雷帝竜の化身。

 

 

 

 

 

 

 

「声だけですか?」

 

「はい、でも色々……知識面や魔法など様々な事を教えていただきました」

 

「ふむ……その声はどうなりました?」

 

「……昨夜からもう聞こえなくなって……呼びかけても応答がございませんの」

 

「さくら」

 

「居ないわ。何がトリガーか知らないけれど、恐らくもう抜けてる」

 

「ふむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その男のおかげで、<雷魔導>と<竜魔法>を獲得できたのなら間違いなくその男は雷帝竜だろう。<竜魔法>なんて人族は知らないのだから。<雷魔導>もまず才能があってもこの年齢の少女単独では獲得は不可能。見せてくれる師が居なくては……

 

 

 

 

 

ん?()()()()()()()

 

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 

<魔導>スキルまで持って行ったのは恐らくラビラスだ。竜種は、唯一単独で<魔導>スキルを獲得する存在。彼の魂か、その残滓かは知らないが、憑依していたのならそれくらいは出来よう。

 

待てよ?じゃあもしかして昨夜の救援要請は。

 

 

 

 

 

「なあ、さくら」

 

「なに?」

 

「<管理者>権限ってさ、憑依してたら動かせると思うか?」

 

「……そうね。余計な魔力は消費するでしょうし、そこまで大それた権限は行使できないでしょうけど。例えば────付近の<管理者>への連絡とか」

 

「だな」

 

 

 

 

 

つまり、救援要請を送ったのも恐らくラビラス。昨夜消えたのも、恐らく自分を構成する精神体をエネルギーにし、魔力の代用として、<管理者>権限を発動させたのではないか。

 

これが俺の立てた推論だ。と言ってもこれ以外に考えようがないのだが……

 

 

 

 

「とりあえずレイシアさんに関する謎は解けたけど……話して良いのかねこれ」

 

 

 

 

一般人相手にはアウトな情報が混ざり過ぎてて説明できない。

 

 

 

 

「後で話せばいいんじゃない?どうせ国外まで連れて行く気でしょう、それまでに決断してもらえばいいわ。<管理者>権限は残っているようだし」

 

「だな……というわけで、レイシアさん、その声の持ち主は既に存在していないことをお伝えしておきます。では、次に、これからの事についてお話します」

 

「はい」

 

「今、貴女には二つの選択肢があります。一つ目は、このまま国を出るまで私達と行動を共にし、次の国で別れ、貴女自身で自分の人生を新しく始める選択肢。もう一つは、この国を出た後も、私達と行動を共にする選択肢です」

 

 

 

「ただし、後者には、多くの制約と義務が付属します。その代わりと言ってはなんですが、この世界における一つの重大な事実を知ることが出来るでしょう」

 

 

 

「こんなことを言って、すぐに決めろと言うのは酷なのは私達も理解しています。ですので、考える時間を設けましょう。期限は明後日の朝です。そのころにはちょうどこの国を抜ける頃でしょうから」

 

 

 

「明後日……わかりました、ありがとうございます」

 

「一応念のためですが、外出は控えるか、私かケイと一緒に動くようにお願いします」

 

「わかりました」

 

「部屋はさくらと一緒ですから、何か用があればさくらに言ってください」

 

「……あの」

 

「なんですか?」

 

「何も聞かないんですか?」

 

「色々質問した気がするんですが……」

 

「そうではなく……その……」

 

「──なんで処刑されそうだったか、とかですか?」

 

「!……はい」

 

「正直どうでもいいんですよね……大方冤罪でしょうし」

 

「な、んでわかるんですか……?」

 

「竜種は誇り高き種族です。雷帝竜──貴女の祖先たるラビラスが、貴女を助けることを意図した行動をしたという事は、そのまま処刑の理由がいわれのない物であるということにつながるのですよ」

 

 

 

 

竜種は嘘を嫌う。罪を嫌う。道に反した行為を嫌う。彼等にとって誇りとは絶対的なものだ。

 

その中の一人である雷帝竜、もしくはその残滓が、彼女を処刑から助けるような行動をとった。自分の存在を犠牲にしてまで。もし冤罪でなければ、そんなことをしないだろうし、そもそもその犯罪をどんな手を使ってでも止めに行くはずだ。

 

そうではないという事はつまり、彼女が冤罪という事である。

 

 

 

 

 

 

「だからわざわざ相手を……ましてや我々より上位の権限保有者を傷つけるようなことは言いません」

 

 

 

 

 

一応<聖女>と<勇者>ですし。あれなんかさくらの台詞がイケメン。

 

 

 

 

「吐き出したいことがあったら、今は私を頼ってください」

 

 

 

ちょそれ<勇者>の台詞じゃ……まあ良いか、外見普通の俺よりは外見美少女のさくらが言った方が多分見た目も良いだろうし。

 

 

 

「そこでボケっとしてる男も、きっとストレスの捌け口にはなるので、むかついたら存分に八つ当たりしてください」

 

 

 

待って、ねえ、俺<勇者>ですよ?外見アレだけど<勇者>ですよ?扱い酷くない?

 




以上です。新学期スタートですので、更新スピードは落ちますがそれでよろしければ今後ともよろしくお願いいたします。


それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第二十八話  転生者

はい、数日ぶりです。とうとう始まってしまいました後期。前期の反省を活かし、フル単出来るよう頑張るため、更新スピードは落ちます。


それでは第二十八話、どうぞ!


翌朝、午前五時。身支度を全て終え、セレスが買ってきた食料品や消耗品を<空間収納>に放り込んだあと、宿を出る手続きを終える。外はまだ暗く、人もあまりいない。わずかに老人が散歩していたり、何かの店の店主が準備をしているだけだ。

 

 

この時間を選んだ理由は二つ。と言っても最終的には一つに絞られるが。

 

 

まず一つは、スムーズにこの街を出るため、である。南の大国の首都なだけあって、皇都リゼヴァルトは人の出入りが多い。日の出以降は門がかなり混雑する。ベストなのは夜から夜明け前なのだが、昨日まで牢獄暮らしだったであろうレイシアの事を考え、休息をとった上での出発にした。

 

 

二つ目は、迅速な移動のためである。先ほども言った通り、この時間帯であれば、町の外はほとんど人気が無いはず。それならば八九式乃至一六式を皇都近くで出すことが出来る。元貴族令嬢だから、恐らく俺達に付いて行けるほどの体力があるとは思えない。ので迅速な移動をするには早い段階で車に乗る必要がある。

 

 

以上の理由からの早朝の出立。

 

 

 

「──こんな早朝にか?」

 

「ええ、両親から理由すら記されていない、早く帰ってこいとの手紙がありまして」

 

 

と、やや困った素振りでため息を吐く。

 

 

「わかった。一応規則に則って身分証明と、あとフードを取れ」

 

「わかりました」

 

 

そう言って、全員が冒険者証を出し、フードを取る。うん?レイシアの?昨日さくらが代理で作りに行った。

 

 

「うむ……通って良し!」

 

 

普段金髪の人間が黒髪だと随分変わって見えるんだよね。

 

 

それに俺とさくらは黒髪のままだし、セレスも腕輪のおかげで黒髪なので、余計紛れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

門から出たら、しばらく街道を行く。適当なところで街道を外れる。

 

 

「──そろそろ、良いか」

 

「そうね──さて、レイシアさん、ここから何が起こっても驚かないようにね?」

 

「?はい」

 

「行くぞ──<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>」

 

 

虚空から出現する八九式装甲戦闘車。説明その他をするなら歩兵を乗せるスペースのあるこっちの方が良いと思っての選択。

 

 

とはいえ、こちらの世界の人間にとっては、科学の集合体たる鋼鉄の悍馬なんて、どれも見慣れない物でしかない。

 

 

さぞ驚いた事だろう。とりあえず説明でもしてやるか。

 

 

レイシアの方を振り向くと、驚きに目を見開いていた。そうだろうそうだろう、我が祖国の誇る防衛戦用(自衛隊)兵器だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……戦……車……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?俺これ戦車だって説明したか?

 

 

「日の……丸……自衛隊?」

 

 

ちょっと待て。何で国籍表示見てわかるんだよ。

 

 

「じゃあ……貴方達日本人?」

 

 

そして何で国名知ってるんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「転生者?」」

 

驚いた。そんなものは小説の中だけのものだと思っていた。元日本人現貴族令嬢。しかもどこぞの小説投稿サイトによくあるテンプレ付き──ゲーム乃至小説の悪役転生──で。何その偶然。

 

 

「ちなみに前世は?」

 

「一生病院暮らしでした、享年……は17です」

 

「よし同級生ね、以後タメ口オッケー?」

 

「お、オッケー……」

 

 

おうおう随分強引に……

 

 

「はい、じゃあとりあえず、前世の事は放置!移動しましょう!話は中でも出来るから。ケイ、運転よろしく」

 

「……了解」

 

 

乗り込む、エンジン始動。自動的に装填される機関砲。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはまた随分な目にあったわねえ……」

 

 

後ろから聞こえる会話によれば、レイシアは、ただの転生者ではなく、いわゆるループ──同じ人生を繰り返していたらしい。おまけにいずれも国外追放か処刑あるいは修道院エンドだったとか。

 

 

乙女ゲームだったか小説だったか漫画だったかは聞こえなかったが、とにかく、俺達の世界にもある作品中設定と同じような世界であったらしい。そこではリズヴァニア伯爵家は悪役なんだとか。

 

 

おいおい竜種の末裔が悪役とか無理にもほどがあるだろう。

 

 

そう思ったら、なんか今回の世界だけ違ったらしい。少なくとも今までは、髪はともかく瞳は碧だったらしいし、そもそも雷帝竜の存在は無かった。そして何より、ラビラスなんて存在も居なかった。

 

 

「でもケイが<勇者>だったなんて……」

 

 

今までの世界では<勇者>はいわゆる隠しキャラ的存在で、立ち位置に恥じぬイケメンだったとか。

 

 

すまんなフツメンで(泣)。

 

 

「今は違うわよ、今代には今代でちゃんと<勇者>も、その相手になり得る<聖女>も居るわ」

 

「じゃあそっちが隠しキャラ?あらあらヒロインちゃん残念」

 

「それに、こっちに来る時期も大分ずれるだろ」

 

 

首チョンパして、侵攻を遅らせたからな。あれで上手く戦場に対する恐怖を煽れたらいいのだが……あれは<勇者>パーティーに対しての見せしめ──<勇者>とて相手によっては殺られる側に回ることへの──としてやったこと。

 

 

だが同時に彼らの希望にして中心たる<勇者>が不死であることを示すことでもある。この事実によって、彼らが調子に乗る可能性もある。言わば両刃の剣なのだ。

 

 

「調子乗らなきゃ良いんだけどな」

 

「乗ったら乗ったでまた潰しに行けば済む話でしょう?」

 

 

お前<聖女>で相手クラスメイトの癖にエグイ事言うなおい。

 

つまりそれって「もっかい殺してこい」ってことだろう、それで良いのか<聖女>。

 

 

「……それにしてもループ転生かぁ……<システム>のあるこの世界じゃありえないと思ってたんだけどなあ」

 

 

同じ時間軸を何回も繰り返すという地獄のような転生、ループ転生。だが、ほぼ全ての生命体の死が、かなり大雑把とは言え管理され、時空属性竜(ヨグ・ソトース)が存在するこの世界で、それが生じうるのか。

 

 

いや、そんなことを<システム>が許すはずがない。アレは()()()()()()()()を目的に作られたモノ。ループは確かに永久に続く世界の実現の一つの手法。だがそれは常に()()()()()。常に同じ人物(レイシア)が、同じ立場(悪役)で、同じ終わり()を迎える世界。それは<システム>の()()()()()()に反する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逆に考えろ、逆に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

経験者が居る以上は、それは実際に起きた出来事。<システム>がそれを許容するだけの何かがあった。いや、もしくは<システム>がそれを行った?

 

 

 

考えろ……アレは機械だ、目的達成のため、作業効率化のためなら俺達に思いつけないこともする。俺達とは根本的に着眼点が違う。

 

 

 

ネット小説での冤罪悪役小説のエンド……国の、滅亡?

 

戦争、()()()()()()()。まさか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ループじゃない、シミュレーション?

 

 

生まれる前の魂を使って、国を滅ぼし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……なあレイシア、つかぬ事を聞くが、お前の周りにループしたと思われる人間は?」

 

「居なかったけど……」

 

「転生者は?」

 

「居なかったはずよ」

 

「OK、大体理解できた。さくら、<システム>は大分やらかしてるらしい」

 

「今の質問で最後のピースでもはまった?私にも説明くらいしなさいよ……」

 

 

 

『……ループの正体はアレがやったシミュレーションだ。実際にその場を構成するはずの、()()()()()()()を使った、大規模な演習だ。目的は存在目的と一致。繰り返していたのは、どう調整すれば、()()()()()()か、だ』

 

『それどっから思い付いたのよ……』

 

『ネット小説のあらすじ。他にも考えられるかもしれないが、可能性が高く、一番合理的なのはこれだ。周りの記憶に無かったのは、()()()()()へ干渉されていた、もしくは複製だったから』

 

『ああ……レイシアは転生、つまり異世界の魂だからうかつに干渉できなかったのね』

 

『な、辻褄は合うだろ?』

 

『じゃあ今までの人生で雷帝竜が居なかったのは』

 

『システム内まで直にアクセスが出来なかったから、だろうな。そして本当の人生では居た、多分<システム>も承知の上かもしれない』

 

『どうして?』

 

『じゃないとわざわざ異世界人転生者とかいう取り扱いが面倒な魂に、管理者権限付けたりしないだろ。恐らくアレは全部見通してるぞ』

 

『……まさに神ね』

 

まさに其の通り。皇国や今代から見れば確実に<デウス・エクス・マキナ(ご都合主義の権化)>だ。そしてその本質もまた<機械神>。

 

 

 

 

これが、良くある小説なら、それに抗うのが主人公の役目。

 

でも俺はあえて<システム>に阿る。それがここでは最善であると知っているから。

 

 

 

 

そして俺の推測が当たっているならば、きっと彼女の運命は俺達のせい。

 

 

俺が逃げたから、逃げざるを得ない状況を作らせてしまったから。

 

 

次は逃げない。あのときの借りはきっと、大きく大きく、利子がついて膨らんでいるだろう。

 

 

今度は逃げない。三年前の負債も全て返しに行こう。

 

 

合理的で、平和で、永遠に続いていく世界のために。

 

 

 




以上です。




それでは感想批評質問等お待ちしております!


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第二十九話  選択

お久しぶりです。学祭からの本格的な新学期のコンボはだいぶキツかったです。ベッドではなく座椅子で崩れ落ちた時もありました。

ようようして生活リズム安定し始めました。


というわけで、第二十九話です!どうぞ!


翌日の朝。

 

予定通り、皇国とさらに南にある国──シルド王国との国境に到着していた。ほぼ夜を徹して走らせた甲斐があった。徹夜運転など、徹夜山中走破に比べれば大したことは無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするんだレイシアさんよ」

 

「私達に付いて来るか、それともシルドで穏やかに暮らすのか」

 

「……私は……付いて行く」

 

「それで良いのか?誘っておいてなんだが、だいぶ面倒だぞこの世界」

 

「私は話し相手が増えるから異議はないけれど……」

 

「……生まれてからずっと、何か違和感があったの。一応二度目の人生は、前世よりマシな人生だったと思うんだけど……」

 

「……まあ前世庶民が今世貴族令嬢とか戸惑うよなあ……」

 

「それに、こっちだと、ネットも無いから、同年代の人と、気楽に話せる機会が少なくて。一応伯爵令嬢だったから」

 

「……まあ、理由が何であれ、選択は選択だしな。良いだろう、君の意思を尊重する」

 

「やった、話し相手二人目ゲット!」

 

 

 

 

「……それで、取り敢えず新しい呼び名を考えなきゃいけないわけだが」

 

「じゃあリサでお願い」

 

「即決したな」

 

「前世の名前。有馬(ありま)理沙(りさ)。理科の理に沙羅双樹の沙」

 

「ああ、なるほどね、じゃあこれからよろしく、理沙」

 

「うん、よろしく」

 

「じゃあ、行きますか。こっから南端まで下る。流石にそろそろ赤道だし、そこから一週間くらいで南端には付けるはずだ。その間は……まあ野宿が多くなると思うけど、<勇者>時代の便利な遺物があるから大丈夫だとは思う」

 

「長旅になりそうね」

 

「そうだな────お」

 

 

 

目標捕捉、機関砲射撃開始。

 

 

 

ちょうど森から出てきたゴブリンの群れを、車外からの遠隔操作で一掃。やっぱりタブレット操作はチートだと思う。

 

 

「……流石兵器……」

 

「ゴブリンの群れならそこまででもないわよ、この前火竜(サラマンダー)粉砕してたから」

 

「……現代兵器怖い」

 

 

ゴブリンはランクもレベルも獲得経験値も低い雑魚だが、チリも積もれば山となる原理で、見つけた魔物は全て狩ることにしている。

 

あと今気づいたが、どうも燃料・弾薬は無制限ではないようだ。定期的にゆっくりと魔力が減っている。かなりゆっくりとではあるが。

 

魔力を弾薬と燃料に変換しているのか。しかしこの消費量だともの凄く変換効率が良いなおい。

 

 

 

 

 

《レベルアップしました》

 

 

 

 

今のレベルは……22か。現代兵器でかなりパワーレベリングっぽくなってるな。

 

 

 

《<防衛魔法>がレベル6になりました》

 

《スキル<神楯(イージス)>レベル1を獲得しました》

 

《スキル<絶対防壁(バリア)迎撃(インターセプト)>が<神楯>に統合されました》

 

……ここにも来るか現代兵器。<絶対防壁・迎撃>が統合されたということは、まず確実にイージス・システム的スキルなんだろうな。確認してみるか。

 

 

 

 

 

 

 

<神楯>……自分に対し放たれた全ての攻撃を無属性魔力弾によって迎撃する。同時に迎撃できる目標は20。迎撃可能な目標数は、レベルが上がるごとに増加。

 

 

 

 

 

 

 

確か、<魔王>が最終時に一度に放てた魔法攻撃は……数優先なら1000ちょいだっけ?どっちが良いんだろうなあ……<迎撃>なら、少しタイミングずらせば多分全部迎撃できる、ただし最初の一撃は喰らう必要がある。初手全力だったら<防衛者>のガチガチ防御でも厳しい。

 

 

一方で、<神楯>の場合は、最初から迎撃を行えるが、途中で処理能力を超過する可能性がある。しかし、数が多い攻撃の場合、単体の攻撃力は下がる。いくつか、比較的ダメージの低い攻撃を見逃し、致命的箇所への被弾のみを重点的に迎撃すれば、あるいは耐えうるかもしれない。

 

 

……ふむ、やはり<神楯>の方が生存確率が高そうだな。

後発のスキルなだけのことはあるか。

 

「で、ケイ、理沙はどうする?」

 

「ん?どうするって?」

 

「いつまでもEじゃちょっとアレじゃない?」

 

 

 

確かにCランクパーティーの中で一人だけEと言うのは少々目立つ。

 

 

 

「でも街に寄りすぎてもなあ……」

 

「討伐系一個受けて、あとは無補給で移動すれば良くない?」

 

「それやったら一週間以上野宿になるぞ、クラウとお前はともかく……」

 

 

 

恐らく貴族令嬢、とはいえ元騎士なセレスはともかく、前世病院暮らし今世貴族令嬢の理沙には厳しいのではないだろうか?

 

 

 

「……前回の遺物あるって言ってたじゃない」

 

「ガチ目な野宿よりはマシってだけで、貴族の邸宅とか宿には劣るだろ」

 

「……あの、私はそれでも」

 

「良いのか?正直言って大分きついぞ?」

 

「……大丈夫、命を助けてもらって、さらにそんな贅沢な事を言うような事はしないよ」

 

「……なら良いか。セレス、さくら、こっから一番近い町は?」

 

「あそこに見えるシルド北端の街、ベルヴァストね」

 

「じゃあそこで討伐系やってから発つってことで」

 

 

 

 

 

だいぶ当初の予定から遅れているが、どうせやることは同じだしな。

 

合流は可能な限り早く済ませるべき。だが、こうも不測の事態が多発するとな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

依頼完了。ゴブリン掃討してきた。もちろん理沙本人にやってもらったよ。引き金を引くのは。

 

説明簡略化しすぎ?だって掃討はほら、35ミリ機関砲で根こそぎミンチするだけだから、詳しい描写とかグロいだけでしょ?

 

 

 

 

功績は全て理沙の物に。俺達はB以上に上がったら困るからね。B以上の冒険者は、スタンピードの時に、討伐に駆り出されるからね。今の俺達が駆り出されちゃったら、魔物とか瞬殺しちゃうから、スタンピードの意味がなくなってしまう。

 

 

 

え?そんなの<勇者>じゃないって?

 

 

 

おいおい、それはどんな空想世界だ。人族だけを護る<勇者>なんて、現実世界に、そんな甘い(面白い)話、あるわけがないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<勇者>の第一の目的は、人族を守ること()()()()

 

 

 

世界を救うことだ。<魔王>を倒すのは、その世界での<魔王>が世界を滅ぼす方向に向かわせるから、それを防ぐためだ。

 

 

 

つまり、<魔王>討伐は、()()であって目的じゃない。

 

 

 

え?何でそれを伝えなかったのかって?伝える隙が無かったんだよね、はっはっは。肝心な事全部あの国に邪魔されてんだよね、もう滅ぼしに行こうかな(暴論)

 

 

 

あの国の腐敗した首脳と軍部消したくらいなら、むしろ<システム>にとってはありがたいくらいだろうしな。うん、本気で検討するか。

 




以上です。

それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第三十話  後悔

久々の更新です。
後期になって楽になると思ったのは間違いだったよちくせう。


それでは第三十話、どうぞ!


『──だから私がこれに入れば万事解決じゃない?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でもそれじゃあ先輩が!」

 

 

 

 

 

『良いの良いの。私はどのみちあっちに未練なんて無いんだから』

 

 

 

 

 

『でも!』

 

 

 

 

 

『貴方達は、まだあっちでも生きられるでしょう?こんなことで人生を無駄にしちゃだめだよ?こんな事は、私みたいなのに任せなさいよ』

 

 

 

 

 

 

「だけど、先輩は……」

 

 

 

 

 

 

『ほらほら、<孤独(ソリチュード)>を渡しなさい。今からの私にピッタリじゃない?代わりに<犠牲(サクリファイス)>を渡すけど、使っちゃだめだよ?』

 

 

 

 

 

 

『こいつに使えるわけないでしょ!は、春馬さんもなんか言ってよ!』

 

 

 

 

 

『……俺からは、何も言えないよ』

 

 

 

 

 

「どうして?陽菜乃さんは?」

 

 

 

 

 

 

『私からも何も言えないわ……良い?啓斗君、こういう時は、先輩に任せなきゃ駄目』

 

 

 

 

 

「でも先輩がそこまでする必要は!」

 

 

 

 

 

 

『……そうよ、コレは私の自己満足、言ってみれば我が儘。ねえ、啓斗君、後輩は先輩の言う事には絶対に従わなきゃいけないって言ったの、君だよ?』

 

 

 

 

 

「それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『はい』以外の返事は無いからね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って彼女が微笑むのが見えた。

 

 

 

 

 

ああ、なるほど。やはり先輩は────だ。俺なんかじゃまだまだ追いつけないや。俺なんかじゃ多分引き留めるには足りないんだ。

 

 

 

 

 

「……はい、わかり、ました……」

 

 

 

 

 

ようようして絞り出すように吐いた返答に、彼女は満足げに頷いた。

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、()()()に帰っても、元気に生きなよ、啓斗、さくら』

 

 

 

 

 

 

でも、先輩。それでも俺達は、先輩に────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。そして穴が有ったら入りたくなった。

 

 

あの時の俺の言動が恥ずかしすぎるわ!

 

 

俗に言う黒歴史の一つ。多分世の中の人は大抵持っていると思う。昔──と言っても大抵小中学生のとき──の自分の幼稚な、あるいは考え足らずな、KYな言動や思考。

 

 

何だろう、昨日移動中にひたすら<勇者>と<システム>について大抵の事をクラウと理沙に話していたからだろうか?

 

 

それが原因であんな夢を見たとでも言うのか。

 

 

そんなことを考えながら、テントの外に出る。野宿一日目。未だシルド王国領である。天気は、まあ晴れ。素晴らしい朝である、あの夢を見ていなければ。

 

 

 

 

…………うん、忘れよう。とりあえずテントの片づけを。

 

体を動かして雑念を排除。

 

そう思い振り返ったところで、女子に割り振った大型テントから、誰か出てきたのが見えた。

 

 

「おう、おはよ……う……?」

 

 

出てきていたのはさくらだった。だが、何か様子がおかしい、と言うか、顔色が悪い?いや。

 

 

「泣いてたのか……?」

 

 

テントの外、木の根元に蹲る直前の一瞬しか顔が見えなかったが、泣き腫らしているように見えた。三年前も、今も、常に冷静で取り乱すことのない彼女にしては珍しい。

 

 

「何かあったのか?」

 

 

取り敢えず隣に腰かけ、空を見上げながら話しかけてみる。<聖女>の慰めは<勇者>の仕事の一つだと思うんだがどうだろうか?

 

 

「……いの夢を見たのよ」

 

 

「なんて?」

 

朱梨(あかり)先輩の夢を見たのよ!」

 

「!……そう、か……」

 

その一言から察知する。つまりこいつも。しかも泣いていたという事は恐らく夢に見た場面は同じ場面だ。

 

 

「……あの時の夢よ、わかるでしょ……」

 

 

うんうん、あの時のこいつはマジでやばかった。こいつが大号泣したのを見たのは、それが最初で最後だ。それを知っているがゆえに、どう慰めれば良いのかわからなくなった。

 

 

「……あの時の事を気に留めるなと言ったのはお前だろ。今からでも遅くはないって言ってたじゃんか。先輩を助けることくらいは可能なはずだ」

 

 

あの時問題だったことの大半は、俺達が二度目の召喚をされたことで、解決策が用意できる。

 

 

「……でも無理だったら」

 

「それは考えるな。良いか、悪いことを考えようとするな、希望を持て。先輩には何が何でも帰ってきてもらわなくてはならん」

 

 

<孤独>預けたままだし。

 

 

「無理という事はないさ、俺がどうにかする」

 

 

「……先輩と入れ替わりとかは止めてよね、後味が悪すぎるわ」

 

 

「俺がそんなことすると思うか?恰好だよ恰好。<勇者>なんだからたまにはカッコつけさせろ」

 

 

「似合わない」

 

 

「真顔で言うな。いろいろと突き刺さるから」

 

 

「──おはよう、二人ともそんなところで何してんの?」

 

 

「お、理沙か、おはよう。セレスはどうした?」

 

 

「中の片づけしてるよ。もうすぐ出てくるんじゃない?」

 

 

「そうか、なら良い。じゃあ朝飯の準備でもするか」

 

 

 

 

今日はだいぶつらい道程になる。一日中車両の中で座りっぱなしなのだから。未舗装を装輪で走るよりはましだと信じたい。

 

 

 

今日からは丸一日ひたすら街を避けて荒野を南下していく。今日の目標は砂漠の手前。そして明日で砂漠を抜ける。さらにそこから聖リシュテリス神国、あと国名覚えていない二、三ヵ国を抜けて、人族大陸の南端へ。そこからは船か。最悪海自のゴムボートだが正直それは避けたいので、道中は積極的に魔物を狩っていこう。レベル上げれば色々出せそうだし。

 

 

 

そんな事を考えながら朝食を食べる。メニュー?普通の洋食です。サンドイッチとヨーグルト。野宿であることを考慮すればそこそこ良い食事ではなかろうか?<空間収納>素晴らしい。

 

 

 

 

「ねえ」

 

 

「ん?」

 

 

「昨日言ってたことでいくつか気になることが出来たんだけど聞いてもいい?」

 

 

「良いぞ、昨日はこちらが一方的にしゃべるだけだったからな」

 

 

 

何せ伝えるべきことが多すぎるのだ。それに加え、理沙には<管理者>に関しての詳しい説明も挟んだので尚更である。

 

 

 

「<システム>ってのはさ、実際のところ誰が創ったの?」

 

 

「<システム>を構想したのが誰かの詳細は今でもわかっていない。ただ、構想して作ったのはかなり昔──まだ<勇者召喚>が確立されて無かった頃に、この世界に誤って転移した、恐らく俺達と同じような世界の人間だ。そうでもなければ()()()()()は思いつかんだろ」

 

 

 

そうでなければとんだ異常者である。あんなもの、俺達の世界を知っていなければどれだけ先読み出来てるんだという話である。

 

 

 

「えっと……始祖竜、だっけ、覚えてないの?」

 

 

「名前は憶えていないとさ。ただ日本語しゃべってたらしいし、日誌と説明書の走り書き、それに墓碑銘の文字は日本語だったから日本人だろうと」

 

 

「……その人はじゃあこっちの世界で?」

 

 

「多分な、墓もあるから」

 

 

「お墓に名前は?」

 

 

「書いてない。ただ『願わくば<勇者>が我が遺志を継ぐことを』って彫ってあっただけだ」

 

 

「それなんて聖人……」

 

 

「創った物は人によっては大分悪趣味と言うか正気じゃないと言われるだろうがな」

 

 

「ううん、私達の世界を見たらもしかしたらそっちの方が良いかもしれない」

 

 

いや、それでもかなり変だと思うが。

 

 

「……他に質問はあるか?」

 

 

「ううん、気になったことはこれだけ。そっか、私達と同じような世界の同じような時代の人か……」

 

 

「恐らく、という但し書きが付く。もしかしたらもっと未来かもしれん」

 

 

俺達と同じもしくはもっと未来から、科学技術が未発達で、魔法があるところに訳も分からぬまま転移。最終的にその世界の為に自分の持てる能力と技術を捧げる。

 

 

 

 

……無理無理無理無理。そんな真似俺にはできません。

 

 

 

 

とはいえこの年齢の少女に、一生……どころか永遠か?<システム>のお守りさせるのはなあ……何か考えてみるか。

 




以上です。


それでは感想批評質問等お待ちしております!


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第三十一話  神国

はい、お久しぶりです。

……投稿が遅れまして申し訳ございません!色々理由は山のごとく積み重なっているんですが、それで時間が巻き戻るわけでもないですし……

UAが五万超えてました。まだまだ読んでくださってる方が居るんですね、ありがとうございます。

というわけで第三十一話です。サブタイトルになっちゃいますが、まだ主舞台ではないので悪しからず。


それではどうぞ!


さて、俺達の旅もあれから特に何事もなく進んだ。無論とっくの昔に理沙のランク上げも完了。晴れてDである。移動中の車内では、俺とさくらが主に前回召喚の時の話をしていた。

 

そんな旅程の四日目。つまり半分まで来たところで、俺達は南にあるもう一つの主要国家、聖リシュテリス神国に入った。と言っても普通に国境を素通りしただけであるが。

この国は国土も大して大きいわけではない。

 

ではなぜ主要国家とされるのかと言えば……

 

まあ国名からもわかる通り、この国は宗教国家である。この世界において人族が信仰する神、創世の女神リシュテリア。彼女を祀った教会の総本山があるのがこの国なのである。

 

一応<勇者>も、“女神からの御使い”という認識をされているのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、わかるね?女神なんて存在しないよ?そういう設定を<システム>が創っただけだ。いやもしかしたら俺達なんかが知覚できないようなところに居るかもしれないけれど、それってさ、居ても居なくても変わんなくね?

 

ちなみに宗教が存在する理由は、『思想を操作しやすいから』という理由であるらしい。怖っ。ちなみに魔族側にも魔神信仰がある。こちらも同様。

 

そんなリシュテリア教こと女神信仰の教えはいたってシンプルである。

 

 

 

『魔族は敵』

 

 

『魔物は敵』

 

 

『敵はぶっ殺せ』

 

 

 

 

 

もの凄く簡略化すればこうなる。もの凄く物騒だが、まあ省略したの俺だから察してくれ。まあ実際は色々と人族を持ち上げる修飾と共に大分長く、丁寧な物言いだが、余計なものを省くとこうなる。

 

 

 

 

この教義に従えばそりゃあ魔物狩る職業も出来るわな。魔族とも戦争起きるだろうし、<勇者>呼び出したりもするだろう。本当に良く出来たシステムである。やっぱりデウス・エクス・マキナ(ご都合主義の権化)じゃねーか。

 

まあそれはさておき。この神国を治めるのは教皇である。さらに、時代によっては<聖女>と呼ばれる、聖属性魔法の類稀なる使い手が存在する。この<聖女>も職業はれっきとした<聖女>である。

 

ちなみに今の時代も居るらしい、名前は知らん。あと教皇様はかなりの善政を敷いているようだ、とはセレスと理沙の情報である。

 

この国には出来るだけ関わらないつもりである。こういう世界で、宗教関連は面倒ごとしか持ち込まないという事は良く知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だから関わらないつもりでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いたのだが、この場合、こういう考えはフラグになるというネット小説のテンプレを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

「助けていただきありがとうございます」

 

跪いてそう俺に言う、白い服を着た少女。

 

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、いやね、全力走行してたらね、前方の街道上に魔物に群がられて横転してる馬車が見えたの。うん、めっちゃ高そうな明らかに地位の高い人専用の白い馬車が。

 

 

テンプレが遅れてやって来たんだよ。

 

 

無視するのもアレなので、装甲車片付けて全員で助けに入ったってわけ。と言っても四人全員で雷属性範囲攻撃合唱魔法を唱えただけなんだけど。

 

 

 

んで魔物を全滅させたら馬車の横で護衛らしき人が守ってた、白い服着た少女が俺達の方にやってきてさっきの台詞を言ったってわけ。

 

 

うん、ミスったね。でもここで騒いだら目立つしな。おとなしく終わらせよう。というか逃げよう。

 

「いいえ、誰かが困っているのを助けるのは冒険者の義務ですから」

 

「可能であればお礼をしたいのですが」

 

「いえ、それには及びません。私達は少々先を急ぎますので」

 

「でも命を救っていただいてそのまま何もしないというわけには」

 

「お気になさらずに、では」

 

 

立ち上がって去ろうとしたところで、再び引き留められた。

 

 

「あの、出来れば神都まで護衛していただけないでしょうか」

 

「……既に護衛はいらっしゃるようですが……」

 

「また先ほどの規模の魔物に襲われたらひとたまりもありません、どうかお願いできませんか?」

 

「それには及ばないと思います。先ほどの魔物はヴィーゼンウルフ。ランクそのものはEですが、獲物を見つけた際に、周辺地域に生息する仲間全てを呼ぶ性質があるため群れ自体の危険度はC以上、場合によってはBです。先ほどの群れはC程度ですが一掃したので、この近くにはこのレベルの群れは居ない可能性が高いです」

 

 

仲間を呼ぶタイプの魔物が居る場合の利点はこれだ。群れの規模がそこそこ大きいから周辺に同族乃至同タイプ、つまり肉食の魔物は居ないと考えていい。そして周辺個体が全滅したので、ほんのわずかな間――数日程度だがここは草食乃至雑食で大人しく小型の魔物が住むほぼ安全地帯となる。それ以上すると、<システム>の介入によって、あるいは自然に、周辺から肉食系魔物が侵入。天敵の全滅により数が増え、あるいは大型化した草食系魔物を捕食し、増殖。恐らく一か月と経たずに個体数は回復していくだろう。

 

 

ここら辺は普通の動物のサイクルと変わらない。

 

 

まあ何が言いたいかというと、こっから先は護衛無しで大丈夫、ということである。このヴィーゼンウルフ、仲間を呼べる範囲がやたら広い。千年前は確か半径百キロ近い範囲の仲間を呼べていた。<念話>スキルでも持ってるのかテレパシーでも使えるのか。

 

恐らく変わりはないはずだから近くの街までは何もなくても行ける。

 

 

 

「だから護衛は必要ないのですよ、それよりも、早くどこかの街へ急がれることをお勧めいたします」

 

「貴様!聖女様のせっかくのご好意を……!」

 

「良いのです。そうですか、ではしばらくは安全と考えてよろしいのですね?」

 

「はい、現れたとしても恐らくは大人しい性質の魔物のみでしょう、その程度ならば、護衛の騎士団で対処できるはずです。では」

 

 

 

 

 

 

 

あっぶね。聖女様本人と遭遇とかテンプレじゃねーか。面倒ごと嫌い。というわけで、彼等から離れる方向、南へ歩き出す。さらに途中から街道を外れる。

 

 

 

 

 

背の高い草に紛れ、聖女様が見えなくなったところで一息つく。

 

 

「身分の高い少女を助けてそのお礼にと大都市へ……テンプレね」

 

「行かなくて良かったの?」

 

「ここで余計な寄り道をする必要は無い。<勇者>が出てくる前に南へ行かなくてはならん」

 

 

出来るだけ早く<システム>のもとへ。<魔王>の、グラディウスの魔力を合わせれば、強制的に<送還>を発動可能になる。

 

 

世界の歪みを矯正し、先輩を救わなくては。全ての手は俺達にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、焦っているときほど邪魔は入るものだ。ポケットが、いや、その中身──伝達石が発熱している。

 

 

「……ちっ。さくら、後を頼む。<防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)><転移(ポータル)転移点記録(ポータルポイント・レコード)>」

 

「何かあった?」

 

「公国からだ。戦いかどうか知らんが<勇者>が出た。先に行ってろ。<転移門(ポータル・ゲート)>を車内に登録したからしばらくは格納できんが頼む」

 

「了解、いってらっしゃい」

 

 

<聖鎧>展開。

 

 

「<転移(ポータル)>」

 

 

やれやれ、次は何なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツも大分大変よね……<聖剣>だって自分のじゃないのに戦いに引っ張り出されてさ」

 

「え?あの人の<聖剣>って本人のじゃないの?」

 

「ええ、今ある<犠牲(サクリファイス)>は<システム>から登録しただけの仮の<聖剣>。魂に結ばれし<勇者>固有の聖武器ではないの」

 

「え?じゃあケイの<聖剣>は?というかじゃあ<犠牲>の主って誰?」

 

「アイツの<聖剣>……<孤独(ソリチュード)>は朱梨先輩が持ってるわ。ケイが持ってる<聖剣・犠牲>は元はその人が持っていた物よ」

 

「アカリ……センパイ?」

 

「ええ、私達より前にこの世界に<召喚>された人よ」

 

「え?でも初代ってさくらと啓斗じゃ……」

 

「そうよ、人族の伝説の中ではね。でも紛れもなく、この世界に初めて<勇者>として召喚されたのは朱梨先輩なのよ」

 

「じゃあなぜ伝説に残っていないの?」

 

「<システム>がそうなるように干渉したから。<管理者>を除き抵抗することが不可能な<精神干渉>魔法。わかりやすく言うと、記憶と精神を弄り、さらに<システム>そのものの記録をも改竄した。だから啓斗の称号に<初代勇者>が存在するの」

 

 

この世界を管理し、永続させるために創られた<システム>は、この世界のほとんどに干渉することが出来る。例外として、個体それぞれの感情や繁殖には干渉できない。

 

 

「だから<勇者>としての特殊性も持っていた。私達が<召喚>されたのは、彼女が召喚されてから1000年後の事。でも彼女の外見は、召喚当時、つまり高校二年生・17歳のままだった。<勇者>は不老不死だからね」

 

 

<勇者>は基本的に不老不死である。なぜなら<勇者>は<魔王>を倒す事は既定路線であり、その後は<システム>の<管理者>となる事まで決められているからである。

 

そして管理者となった<勇者>は次の<勇者>が召喚されるまで、世界を見守り、次の代の<勇者>による<魔王>打倒を以てその任務を完了、元の世界へ帰還する。

 

 

「物語やゲームでは<勇者>は<魔王>を倒すのが普通。この世界もそういうことになっていた。そして<勇者>はそのまま<管理者>となる」

 

 

<システム>はそのために創られた。異世界から<勇者>を呼び、自身を創造したものの遺志を継がせるために。それは完璧なシステムだった。

 

 

「でもその既定路線を、私達は崩そうとしたの。そしてそれを完全に遂行する途中で、彼女は敵として現れ、最後は自らを()()に、私達の計画を完遂させた」

 

 

 

 

 

だが名も知れぬ聖人は、<勇者>と<魔王>の両方が、厭戦的であるという、非常に小さな、だが有り得た可能性を見逃し、考慮していなかった。

 

 

 

 

あるいは、対立すべき存在として定義した人族と魔族の融和の可能性を考えていなかった。

 

 

 

記録上二度目の<召喚>にして、<システム>の、創造者の、想定外の問題が発生した。

 

 

 

 

 

 




以上です。感想批評質問等お待ちしております。

ただし、物語においてネタバレとなる事項に関しての質問などには答えられない場合がございますのでご了承ください。


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第三十二話  会談と一先ずの講和

どうも、お久しぶりです、クラリオンです。

レポートとテスト、携帯(データ)の故障等が重なり、気付けば一ヶ月が経過しておりました。

今更ながらの恐る恐るの投稿です。

それでは第三十二話、どうぞ!


「んで、コレは何があったんだ?」

 

 

<転移>先は前回戦闘があった平原。そこに居たのは公国騎士団長と、<勇者>パーティーの面々だった。

 

 

 

 

「お待ちしておりました<初代勇者>様」

 

「ん?ああ。それでこれは何だ?」

 

「その、<勇者>様が」

 

「騎士団長殿、俺達から話します」

 

「ではお願いします」

 

 

さあ説明求むぞ今代。

 

 

「何か、俺に用か、今代」

 

「そうだ、だがその用件を話す前に一つ言いたい」

 

 

おいおい横槍入れんな、お前には聞いてねえよ<槍術師>。

 

 

「なんだ」

 

「その兜を取れ」

 

 

は?

 

 

「なぜその必要がある」

 

「今後も、俺達と貴方は会う可能性が高い。本人確認が出来るように、顔を見ておきたいのです。ダメですか?」

 

「ダメだ。その理由は複数ある」

 

「なぜです」

 

 

「まず一つ。単純に俺は自分の顔を人にさらすのが好きではない。まあこれは俺の気持ちの問題だな。そして、この兜は、俺が展開させている<聖鎧>の一部。コレだけを外す事は出来ない。俺はこのような会合に丸腰で出るつもりはないのでな」

 

 

「なら護衛を付けてくれば良い」

 

 

「我がパーティーメンバーは、この世界出身の者は既に亡くなり、また共に召喚された仲間も再召喚されたのは<聖女>のみ、むざむざ人質になるような人間を連れてくるような愚行はしない。我ら<勇者>は不死身であれど、<聖女>は不死身ではないからな」

 

 

 

まあ<緊急蘇生>の多重行使で疑似的不死身にはなれるし、<聖女>と言うが、聖属性・水属性攻撃魔法なら全部使える大分攻撃的な<聖女>だけど。

 

 

 

「最後の理由は簡単だ。俺とお前たちが今度このように会う事はほとんどないからだ。会うとすれば戦場、それも敵としてであろうな。お前たちがこのまま、一国の走狗である事に甘んずるのなら、の話だが」

 

「な……敵として、だと……」

 

 

 

絶句しているようだが俺に首チョンパされといて今更じゃないかね?

 

当たり前の話であるが、<勇者>は人族全体に属するべき物。高々一国がどうこうして良いもんじゃない。

 

 

「当たり前だろう。<勇者>とは何か、お前達は知らぬのか?<勇者>は魔族、特に<魔王>に対する人族の切り札。いずれ来る人族と魔族の戦争において、人族の先頭に立つのが役目。俺もその役割を果たした」

 

 

まあ<魔王>を殺したわけじゃないけど。

 

 

「一方でお前達はどうだ。なぜ人族の内戦において一勢力に加担する。お前達の役割は、内戦を止め、人族を一つにまとめ上げる事だ。それがわからずに同族相手の侵略を続けるというのなら、俺は何度でもお前達の前に立つぞ」

 

 

さて、では改めて。

 

 

「話が横に逸れたな。用件は何だ、今代」

 

「この国に同盟の申し出をしに来たのです」

 

「馬鹿だろう」

 

 

おっとつい本音が。

 

 

「つい一週間ほど前に大々的に宣戦布告した挙句侵略戦争して、今更同盟の申し出とは」

 

「それは……」

 

「まあ良い。それで、その同盟の内容は?」

 

「……これだ」

 

 

 

<賢者>が出してきた用紙を眺める。

 

ふむふむ……大分綺麗にまとまっているし、内容もあまり偏っていない。上出来だね、コレは忠告が効いたかな?ただまあいくつか呑めない項があるね。

 

 

 

 

「ふむ、良いとは思う。だが、この三つ目の『初代勇者の戦闘参加』という項、それから五つ目の『初代勇者による鍛錬』は不可能だな」

 

「……なぜです?貴方も<勇者>ではないのですか?」

 

「そうだな、俺は確かに<勇者>だ。だが<初代勇者>であって、その役割・義務は千年前に既に果たし終えている。今、俺がこの世界にいるのは、別の役割を背負っているからだ」

 

「それはどういう……」

 

「悪いがそれは話せない。特に<勇者>には、な。何、<勇者>としての使命を果たせば、自然とわかるものだ」

 

 

まあそんなこと万が一にもありえないことだけどね。だって魔王……は居るけどシステム上の<魔王>は居ないんだから、<魔王>の役割が居ないんだから<勇者>の役割なんて果たせるわけがない。今代魔王を打倒したところで<システム>には認められないだろうし、魔族を全滅させてもまたどこか山奥で生き残った()()で残党が出てくるだろうし。

 

 

<システム>とはそういうものだ。魔物も動物も魔族も人族も、絶滅することは無い。仮に動物の一つの種を絶滅に追い込んでも、数十年後ぐらいに、秘境の地的なところでひそかに繁殖しているのが再発見される。例えば竜の縄張りの中心近く、例えば中央縦断山脈の奥、人族・魔族が踏破できていない場所など、星の数ほどある。

 

 

「そしてその役割において、俺は人族と魔族との戦争に介入する術を全て禁じられている。俺指導の訓練もそうだ。直接参戦など以ての外だな」

 

「でも貴方が参戦してくれればより少ない犠牲で魔族を亡ぼすことが」

 

「出来るだろうな」

 

 

レベル200の化け物参戦させたらそりゃあ魔族なんて一掃できるだろう。でもそれじゃあ戦争の意味がなくなるんだよなあ。まあ今回<魔王>居ないから<システム>が戦争を始めるかどうかはわかんないけどさ。

 

 

「ではなぜ!」

 

「それが決まりだからだ。破ればそれなりの罰がある。まだ受けたことのある者が居ないから、どういうものかは知らんがな」

 

「そんな訳のわからないような、あるかどうかすらもわからないような罰の為に、人々を見捨てるというのか!」

 

 

そういう聞き方なら、

 

 

「そうだ、俺は自分の身の安全が第一だからな」

 

 

こういう答えになるかな?どこかの物語の悪役の台詞っぽいな。というか当たり前だろ、相手は仮にも神だぞ。

 

 

「お前……お前はそれでも<勇者>か!」

 

「その役割は千年前に終えた。それに一つ聞くが、<勇者>が命を大切にしないで、どうするんだ?」

 

 

 

人族の戦力の中で、<魔王>と相対出来るのは<勇者>だけだ。<聖剣>の加護により、簡単には死なない体になっているとはいえ、何事にも例外がある。死亡してから<蘇生魔法>が発動後完了するまでに<聖剣>が壊されてしまえば、その瞬間に<勇者>は完全なる終わり()を迎える。

 

 

死ぬ場所が後方なわけが無い。いや、暗殺とかなら有り得るが、それでも、だ。<勇者>が「死んでいる」間、<聖剣>を守らなくてはならない。もしかすれば<勇者>を超える力の持ち主と交戦する必要もある。<聖剣>を守りながら。

 

 

死体を守る必要は無いが、死体の損壊度が大きい程蘇生には時間がかかる。つまり交戦時間も伸びる。うん面倒だね。

 

 

つまり<勇者>の<聖剣>連動型不死身システムは、実のところ使い勝手が大分悪い代物だ。それでも俺も何回か命を救われちゃいるがね。

 

 

まあ大抵の場合、<魔王>もしくはその手下は<勇者>を仕留めたことで満足して帰るので、大して問題になっていないのが実情である。

 

 

この辺りも大分ご都合主義が絡むが、まあそれはおいといて。

 

 

 

「<勇者>の再生とて、無条件ではない。<聖剣>とともにあってこその<勇者>であり、不死身だ。万が一、俺達の再生中に<聖剣>が壊されてしまえば、それは人族にとっては終わりを意味することになるぞ」

 

「……だが、だからと言って後ろに隠れているばかりでは」

 

「誰が後ろに隠れると言った。ああ、これは俺の言い方も悪かったかもしれない。もっと命を大切にしろと言ったんだ。今の自分では到底かないそうにないと思ったら迷わず逃げを選択しろ。<勇者>は一度しか呼べないんだ。死んだから代わり呼びますと言うのは不可能だからな?それをしっかり理解しろ」

 

 

 

「さて……騎士団長、大公閣下はこの条件で頷かれるだろうか?」

 

「こちらにお呼びします、おい、誰か。大公閣下をお呼びしろ」

 

「はっ!」

 

「さて、今代<勇者>諸君。二回目となるが、先達として改めて忠告しておこう」

 

「なんですか?」

 

「すべて自分の目で見て、自分の頭で判断しろ。戦場において頼れるのは自分だけだ。例え相手が例え人であれ、感情だけで手を抜くな。決してこの世界の者に頼りすぎるな。我らは<勇者>、世界を救う者だ、良いか、人族をじゃない、世界を救う、世界を維持する者だ。それを肝に銘じろ」

 

 

 

これだけ言えば十分だろうか?というかさっきから視界に警告メッセージが大量に浮き出てものすごく見えにくいんだが。やっぱこの発言だと警告に引っかかっちゃうか。

 

 

 

 

「……貴方様が初代<勇者>様ですか?」

 

 

後から声を掛けられたので振り返ると、そこには40代に見える一人の男性が立っていた。<鑑定>。

 

……そうか、この人が大公か。

 

 

「初めまして、大公閣下、お呼び立てして申し訳ない。私が初代<勇者>です」

 

「いいえ、構いません、私としてはむしろお礼申し上げます。先回は、我が国騎士団をお助けいただきありがとうございました」

 

「いいえ、アレは私の仕事です。なので気になさらずに。それよりこちら。シルファイド王国からの同盟締結の文書になります」

 

「拝見いたしましょう……ふむ、問題はなさそうです」

 

「わかりました…………だそうだ。俺に関する条項以外はOKらしい。だからそれを持って王国に帰れ。俺が忠告したことを守っていれば、俺と会う事も無いはずだ」

 

 

これだけ念押ししておけば大丈夫……だよね……くっそ不安なんだけど。特に今代<勇者>。本人自体はそこまで危険でもなさそうだが、周りがな。<槍術師>なんて今でも俺を睨んでるし、<魔導師>はさっきから魔力を練って、拘束系魔法を撃とうとして、そのたびに俺が魔法を解体している。お前らは何がしたいんだ、<勇者>だろ。

 

 

「では──────ああ、そうだ、今代。一回、<防衛者>と<支援者>の弔いくらいは行ってやれよ。お前がそいつらの分まで働かなきゃいけないしな」

 

 

「あ、ああ」

 

 

「じゃあな──<転移(ポータル)>」

 

 

 

しかし自分で自分の弔いを頼むってのも変なものだな。




はい、二度目の接触です。

以上です、それでは感想質問批評等お待ちしております。


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第三十三話  昔について思うこと

やっぱり毎日触れてないと文章力下がりますね……

というわけで更新です。今回は前回、啓斗が<転移>している間のさくらさんの話です。


それでは第三十三話、どうぞ!


「────既定路線を……崩す?」

 

 

「そう、つまり、<魔王>を倒すのを避けた」

 

 

<勇者>が<召喚>されたことは既に起こったこと、避けようがない。個人個人の思惑はどうであれ、既に魔族は人族領へ侵攻を開始。戦争はなし崩し的に始まっている。

 

 

ならば避けるべきはどこか。残る既定事項は一つ、<魔王>の打倒。

 

 

「なんでそうしようと思ったんですか?」

 

「最初は春馬さん……<防衛者>の提言からだったの」

 

 

<防衛者>国崎春馬。彼は<召喚>当時既に大学二年生であり、その知識や思慮深さを以て、<支援者>と共に<勇者>を支え戒めた。

 

 

その彼が、疑問を抱いた。この世界の宗教は、あまりにも綺麗すぎる、と。

 

 

「綺麗すぎる?」

 

「そう、考えてみて。魔族、と言う種族上明らかな敵が存在するとはいえ、人族の宗教は、創世の女神リシュテリアを主神とする女神教だけ。その他、土着信仰が存在していたという痕跡すら見られない。現存する全ての証拠が、遥か昔から、人族は女神教()()を信仰していたという事を示す。これってちょっとおかしくないかしら?」

 

「全ての人族が、ですか?」

 

「ええ、しかも、国としての体裁をとる前……つまり私達の歴史教科でいうなら、“ムラ”が出来始めた頃、と言うことになるのかしら。その時期から、ほぼ全ての地域で同時多発的に女神信仰が始まったようなのよね……」

 

 

きわめて不自然な信仰の発祥。無論、全てを「異世界だから」とすます事も出来ようが、春馬はそうはしなかった。この世界に於いて、人族が魔法を使えるようになったのは国の体裁を為した後である。

 

つまり、それまでは、元の世界に於ける人間とほぼ変わりない生活であったはずなのだ。それを踏まえて元の世界と比較すると、明らかに宗教だけが浮いていた。

 

 

 

後に、魔族と休戦した後で当時の<魔王>、グラディウス・ヴィリエラ・ステラウィトスに確認を取ったところ、魔族側の宗教、いわゆる魔神ラボルファスを信仰する魔神教も、ほぼ同じ発祥をしていたことからますます確信したのだがそれはさておき。

 

 

それらを総合して考えた上に、当時の召喚者達は上位者の存在を感じた。つまり、この世界を創った、もしくは管理する何者かの存在を。

 

 

そして彼等は知っていた、もしくは読んだことがあった。

 

世界を管理する、神と名乗る上位者が、自分勝手やらかすネット小説を。

 

 

 

「今となっては恥ずかしいだけね。ネット小説の主人公になった気でも居たのよきっと」

 

 

 

神を僭称する者を、下から叩きのめす、そんなネット小説の主人公に。

 

 

だからその道を選んだ。すなわち、設定上、今現在一番強大な敵との連合を考えた。無論、当然のことながらそこまでスムーズにいくはずもなく、人族も多大なる代償を払い、<支援者>中岡陽菜乃は一度死亡した。

 

 

その代わりに、魔族との停戦、そして同盟に成功する。

だがしかし、それは取ってはいけない選択肢の一つだった。その事を知ったのは、全てが終わる直前だったのだが。

 

 

 

 

 

 

「──いやあ全くもう本当に。あの頃の私達は馬鹿だったのよ。流石に<システム>について考え付かなくとも、ただ単に既定路線に従っていればよかったのよ」

 

 

「────そうなったら朱梨(あかり)先輩に会えず仕舞いになってたわけなんだがそれについてはどう思う」

 

「ケイ!帰ってたの?」

 

「いや、今戻ったばかりなんだけど……千年前の話か?詳しいことなら俺が話すぞ」

 

 

戻ってきたらさくらがやけに真面目な表情で、セレスと理沙にこの世界で千年前に起きた戦争の話をしていた。

 

 

あの戦争のメインは俺と<魔王>の対話とそれに付随する諸々の出来事なので、俺が話した方が良いと思うのだが、まあその前に。

 

 

「あとあの状態で既定路線続行はかなり厳しいものだったと思うぞ」

 

 

 

あの時の俺達の思考は完全にネット小説のソレであったから、そこからの軌道変更は非常に困難である。どっかの<勇者>さんはこじらせた挙げ句主人公と敵対し、幼馴染にフルボッコにされて正気に戻ったらしい。俺達は流石にそれ程ではなかったにせよ、間違った方向に突っ走ったのは同じである。

 

 

 

違ったのは、スタート地点だけでなく、突っ走った先でも、手遅れになるはるか前に矯正してくれる人(朱梨先輩)がいたことだろう。俺達はかなり周囲に恵まれていた。

 

 

 

さて、それは置いといて。

 

 

 

 

「今代の件は?」

 

「ああ、何か今更な事色々言ってたぞ」

 

「例えば?」

 

「王国からの公国への同盟の申し出」

 

「……馬鹿なの?」

 

「俺も同じこと思った。てか言った」

 

「どう考えてもそうでしょう?ふざけてるとしか思えない」

 

「ああ、あと俺に訓練してくれっていう要請と顔見せろって言われた」

 

「顔?!」

 

「何か今後も会うかもしれないから本人確認したかったらしい」

 

「それは勿論」

 

「断ったよ、今後お前らと会うなら戦場で敵としてだって言ってな」

 

「おお、台詞()かっこいい」

 

「台詞だけかよ」

 

「外見は」

 

「はいはいフツメンですね知ってますわかってます。でも甲冑着てたら分からんだろ」

 

「ふむ、じゃあ外側から見た感じは非常に絵になってるのかしら」

 

 

 

まあそりゃあ<勇者>に授けられた神器だぞ、一応。見た目は絵になるに決まってるじゃないか。むしろそれでだめだったら<システム>は昔の俺に何か恨みでもあったのかと。

 

 

 

 

「まあな。それで色々ごたついたけど最終的に、今の<勇者>はお前らなんだから、お前らだけで何とかしろって言ってきた」

 

「お前それでも勇者かっ!とか言われなかった?」

 

「言われた言われた。今は違うって言ってきたよ、具体的な事は何一つ言っちゃいない。それと同盟の内容だが、まあまあまともだと思う」

 

「なら良いわ。それで、内戦は避けられそう?」

 

「多分な。だが恒例の人魔大戦は起こりそうだ」

 

「やっぱり避けられない?」

 

「多分な。シルファイドはそこそこ大国だし。しかし<魔王>が指定されていない上に、魔族が攻めてきているわけでもなかろうに、どうやって戦争をする気なんだ?」

 

「さあ?でも警告が無いってことは、<システム>はシナリオに沿った戦争だと考えているのでしょうね……」

 

「っつーかそもそも最初からおかしくはあったんだが」

 

「侵攻してるのは確実に人族の方だし、どう考えても<勇者召喚>条件には当てはまらないのだけれど」

 

「でも多分<召喚魔法>は授けられたんだろ?<システム>の故障か?理沙が死にかけてたことと言い……いやアレは布石か」

 

「<システム>がハッキングでもされてるのかしらね」

 

「そんなこと出来る存在があるわけないだろ」

 

「いいえ?居るわよ、一つだけ。多くの異世界召喚系小説で主人公の前に立ちふさがる、世界をまたぐ強大な存在が」

 

「……おいおい、まさか神がハッキングしてるなんて言うのか?」

 

「さあ、あるいは気まぐれな神にチート特典付きで転生させてもらった馬鹿かもしれないわよ。この世界で人族のトップに立ちたいなら、魔族を亡ぼすのが一番楽だし。まあ貰ったチートによるけどね」

 

 

 

 

ああ、それでもネット小説のパターンの一つになるな。

 

 

 

しかし自分勝手な転生者か。転生させた神がどういうつもりか、そいつがそもそも神かどうかとかは置いといて。事実なら大分面倒だな。流石に<聖剣>は持っては居ないだろうが……

 

 

 

俺はとっとと歪み正して元の世界に帰りたいんだけどなあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って違う違う、こいつらに千年前の話をしようとしていたんだった。

 

 

「さて、じゃあ移動しながら千年前の話でもするとしようか」

 

 




以上です。


それでは感想質問批評等お待ちしております。


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第三十四話  千年前の戦争Ⅰ

昔話です。

魔族との事実上最終決戦。まずは、<聖女>その他側からです。



それでは第三十四話、どうぞ!





──千年前。ヴァルキリア皇国南部、トランザニア平原。

 

人族側の天幕に、伝令兵が駆け込んでくる。

 

 

「<魔王>が出ました!」

 

「行くか」

 

「ああ」

 

 

それに応じて六人の人影が立ち上がる。元ヴァルキリア皇国近衛騎士団団長ザイドル・フォン・プラシュニッツ、魔導師シュレスタ・リーゼル・セルバシュタ。ヴァルキリア皇国でも名を知られた2人の実力者。それに続いて、1人の少年、1人の青年、2人の少女が出てきた。一見この場に相応しくないように見えるほど若いこの4人に、しかし伝令兵は跪いた。

 

 

 

彼等4人こそ、<魔王>に対抗するために異世界から<召喚>され、これまで各地で魔族の侵攻や魔物の跳梁を阻止してきた者達。<勇者>神崎啓斗、<聖女>内山さくら、<防衛者>国崎春馬、<支援者>中岡陽菜乃、以上、初代<勇者>パーティーである。

 

 

 

「配置は?」

 

「俺とザイドルさんで前線を張ります。春馬さんとさくらは中衛を、中岡さん、シュレさんは後衛をお願いします。行きましょう、今日が勝負の分かれ目です」

 

 

まだ戦闘が始まってもいないのに、そう告げる啓斗。その言葉に頷く5人。そう、今日こそが、()に対抗するためのその第一歩、魔族との講和に踏み出せるかどうかの分かれ目。ここで啓斗が<魔王>と戦いながらも説得できるかどうかが重要なカギとなっている。

 

 

「膠着に持ちこんだら固有スキル使います、その間の戦闘は春馬さん」

 

「わかっている。可能な限り犠牲者を出さないようにしよう、人族兵士には既に?」

 

「告知済みです。理由も告知済みです」

 

「……従ってくれるだろうか」

 

「……命令だと伝えてあります、命令違反は厳罰ですから、従うでしょう」

 

 

苦笑して見せた現団長。確実に従うよう、厳罰を添えた命令と言う形で発したが、それは同時に、誰かの命令違反により作戦が失敗した場合、その責任を彼が背負うという事にもなる。

 

 

 

魔族と講和するため、<魔王>との直接対話を試みる。そのために可能な限り殺さず、戦闘不能に陥らせるのみとせよ。

 

 

 

人族兵士の中には、家族を魔族による侵略で失った者も多い。特に戦災孤児も居ると聞く。魔族への恨みや怒りを抑えきれるだろうか。

 

 

「……ありがとうございます。啓斗、行くぞ」

 

「わかりました。では、行きましょう。この世界に恒久の平和をもたらす第一歩です」

 

 

その声と共に走り出す六名。この世界に於ける人族の最上位者と、異世界から召喚された<勇者>達のスペックは高く、恐ろしい勢いで魔族本陣へと突入していく。包囲しようとする魔族に対し、人族陣営から雷属性の麻痺魔法と水属性の拘束系魔法が次々に放たれる。今のところは全員が命令に従っているようだ。

 

降り注ぐ攻撃は前衛か春馬が弾く。<神楯(イージス)>により致命的な攻撃が迎撃され相殺され、残りは<聖剣>と神授剣が弾く。

 

 

「……魔王はどこだ……」

 

 

右手で攻撃を弾きながらも、その感覚のほとんどを魔王を探すことに費やす啓斗。<魔力感知>で周辺を探る。

 

 

 

 

そしてやがて無傷の、最大の敵勢力の中に、ひときわ大きい魔力反応を発見した。

 

 

 

 

「見つけた、全員続け」

 

「了解!」

 

「……シュレスタだ、魔王を見つけた、作戦を第二段階へ移行しろ」

 

 

陣形が変わる。啓斗が突出し、ザイドルが攻撃をさばき始める。陽菜乃が防御力上昇、攻撃力上昇の支援魔法をかけ、わずかに出来る傷もさくらが回復する。飛んでくる魔法攻撃は<神楯>が相殺し<絶対障壁(バリア)>が弾く。防ぎきれないレベルの攻撃はシュレスタが障壁を展開し多重防御、同時に<反撃魔法>により自動で攻撃が飛んでいく。さらに周辺へ人族魔法使いによる非殺傷系魔法が降り注ぎ、低ダメージで戦闘不能に追い込んでいく。

 

啓斗は前に立ちふさがる魔族を一撃で無力化しながら魔王へ突進する。だが決して殺しはしない、そうでなくては命令の意味がない。

 

そして魔王のところまでたどり着いた。周辺に群がる魔族を雷属性<範囲麻痺>で無力化した後、<聖剣>を掲げ、叫んだ。

 

 

「『我が孤独は絶対なりて、我が望まぬ如何なる物の侵入も許さず』<絶防ノ楯(ソリチュード)>!」

 

 

次の瞬間、巨大な障壁が、啓斗を中心に展開。周辺に転がっていた無力化された魔族達は、それに押しのけられるように、外側まで転がっていた。障壁は常に光り輝き、中を見ることが出来ない。

 

ザイドルはそれを見て

 

 

「とりあえずお膳立ては完了したか……しっかり頼む、出来るだけ短めにな、ケイト」

 

 

と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<聖剣・孤独(ソリチュード)>の固有技能<絶防ノ楯>によって、魔王と二人、他の何にも邪魔されないような状況を作り、対談に持ち込む。

 

 

 

それが今回の作戦。下手をすれば魔力切れレベルまで戦い続けるために、万が一の援護が必要なので、ザイドル達はこの場にとどまり続けなくてはならない。

 

 

彼等の役割は橋頭堡。彼等へ向け、人族部隊が道を作り、回復薬を補給する。人族部隊の応援により魔力残量を気にする必要がなくなったザイドル達は、障壁を取り囲むように展開する。ザイドル、シュレスタ、春馬は単独で、さくらと陽菜乃は二人一組で。二人とも銃を手に持ち、交互に魔族を迎え撃つ。それは春馬が<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>で召喚したもの。本来の彼女たちならば反動や重量が大きすぎて持てるわけがない機関銃。それをレベルによる能力補正で完全に抑えきっている。

 

 

<防衛装備召喚>という魔法によって生み出された銃は、弾薬補給不要、銃身過熱無しというチートも良いところな兵器。その銃身は常に鉄の塊を吐き出し続け、魔族軍を薙ぎ払う。交互に立つのは、魔法を行使する時間を作るためである。定期的に回復魔法と攻撃・防御上昇の支援魔法がザイドル達に降り注ぐ。

 

 

 

後には味方、前には敵のみ。これほど戦いやすい状況は無い。だから油断していた。

 

 

 

 

 

 

 

人間とは、時に自分の欲のために何でもする生き物である事を、忘れていた。

 

 

 

 

 

 

 

とある人物にとって、今回の動き──魔族との講和は決して望ましいとは言えない結果であった。

 

 

 

 

 

彼女──陽菜乃にとってそれは唐突だった。いや、この場に居る者のほとんどにとってそれは唐突だっただろう。

 

降り注ぐ大量の支援魔法に混ざった僅かな敵意。それは春馬にむかったものではなく、また攻撃魔法自体は多く飛んでいた。よって彼の反応は一瞬遅れた。その一瞬はかなり致命的であった。

 

 

 

 

 

感じ取った悪意、それは地属性魔法第二位のスキル<石槍(ストーンランス)>。普通は召喚者にとっては大した脅威ではない。しかし、後ろががら空きで、急所──心臓などを正確に撃ち抜かれた場合、動物の常として、死に至る。

 

 

 

 

 

<支援者>中岡陽菜乃が、心臓を貫かれ、死んだように。







以上です。


……殺されちゃいました。まあどこの世界にも平和を望まない人間は居るものです……よね?


それでは感想質問批評等お待ちしております。


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第三十五話  千年前の戦争Ⅱ

本編の更新です。

<魔王>との直接会談を企んで敵に突撃した初代<勇者>パーティー。その計画が上手く運びそうになったとき、<支援者>中岡陽菜乃が殺されてしまう。その結果……


ようやく自分が描きたかった場面に差し掛かりました。人の心情書くのは苦手なので、記述がおかしい・くどいところは大目に見ていただけると幸いです。

それでは第三十五話、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

<防衛者>国崎春馬にとって、<支援者>中岡陽菜乃は友達であり、仲間であり、比翼であった。

 

 

全ての攻撃を吸収する<防衛者>、その傍らでその全てをサポートする<支援者>。個人的感情は全て抜きに、<防衛者>にとって<支援者>とは、絶対に必要な存在なのである。

 

 

さて、そんな存在が、しかも味方だと思っていた側から殺されたらどうなるか。

 

 

 

彼は、すぐさま自らが担っていた範囲を放置し、彼女のもとに駆け寄った。無論、<反撃魔法>は絶賛発動中である。そして、彼女の生死を確認した。しかしながら、心臓が一撃で貫かれており、既に死んでいた。

 

 

 

どことも知れぬ異世界で、自分を含め四人しかいない日本人、しかも、同じ大学の学部に通う同級生。自分をサポートするための職業であるため、こちらに来ても話す時間は一番長かった。彼にとってこちらの世界で一番仲が良かった友達。

 

 

 

 

「……ろす」

 

「……春馬さん?」

 

 

 

さくらが近づいたとき、春馬は陽菜乃の遺体の横で、俯き何事かを呟いていた。

 

「殺す」

 

「え?」

 

「殺す」

 

「ちょ、待って春馬さん!殺しちゃ駄目だって……」

 

「かまわない、私利私欲のために俺の仲間を傷つける奴は許さない。<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>」

 

そう言って彼が召喚したのは、PGMへカートⅡ。対物狙撃ライフルと言う部類にカテゴライズされるこの銃器は、本来、名前通り、物に対する狙撃に使われる。

 

 

 

対物狙撃ライフルとは、重機関銃用の弾丸を利用するため、小銃弾などを使う通常のライフルと異なり、サイズや反動が大きく、基本的に伏射が基本である。

だから決して、今春馬が持っているように、

 

 

 

 

 

 

 

 

両手に一基ずつ構えるようなものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで一度、この異世界に於ける魔法について少々説明しておこう。

 

 

魔法を発動させるには当然、詠唱というものが必要である。フィンランディアにおいて、魔法とは、術者の魔力が、そのイメージによって形を成し、物理法則を捻じ曲げてでもそのイメージ通りの作用をもたらす能力のこと。その能力を行使するプロセスの中で、詠唱とは、そのイメージを明確にする役割を果たす。

 

 

支援魔法なら、対象者を癒す、あるいは力を与える、そのために自分の魔力を与えるイメージが必要である。攻撃魔法ならば、自分の魔力をエネルギー源として、どの相手に、どのような属性、規模、威力の攻撃を行うのか、はっきりとしたイメージが必要である。

 

 

何が言いたいのかと言うと、魔法には、()()()()()()()()のである。ましてや、今回<石槍>が放たれたのは魔道士の中でも、支援系魔法を割り当てられた部隊。対象を間違えたという言い訳もできるわけがない。

 

 

つまり何者かが意図的に彼女へ攻撃魔法を放ち、恐らくは意図的に殺したことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

したがって現在春馬の胸中に去来しているのはその何者かへの莫大な怒り、そしてそれに内包された悲しみである。

 

 

とはいえ、いずれ消え去るはずのモノだった。

 

「落ち着いて春馬さん!今<完全蘇生(パーフェクトリヴァイヴ)>使ったから!」

 

そう、この場には<聖女>が居る。彼女が創った<蘇生魔法>は完全だ。

 

向こう(地球)と違い、一度死んでも人生は終わらない。

 

その事を思い出した春馬は、渋々、本当に渋々と狙撃銃を格納し、魔族に向き合おうとする。もちろん、心の中は怒りで煮えたぎったまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その莫大な怒りは()()()()()()。本人ですら驚くほど唐突に、だ。そして、その直後、システムメッセージが召喚者の頭の中で響いた。

 

 

《<防衛者>の感情の揺らぎが規定値を超えた事を確認…レベル10》

 

 

《対象の感情を感情:怒り・悲しみであることを確認》

 

《対象者のレベル確認…152、条件に合致》

 

《対象者に<防衛魔法>レベル10及び<反撃魔法>レベル10を確認》

 

 

《対象者に<防衛装備召喚>レベル10を確認》

 

 

《<防衛装備召喚>を一時的に<現代兵器召喚(サモン・ウェポンズ)>へと変換》

 

 

 

 

 

一時的に改変された能力は、『防衛兵器に限る』と言う制限を外され、()()()()()()()()()()()。つまり<防衛者>が知識としてその存在を知る兵器()()が召喚の対象となり得る。

 

 

 

 

 

 

《必要条件がすべて満たされました》

 

《スキル<報復魔法>レベル1を獲得しました》

 

《<報復魔法>がレベル10になりました》

 

 

 

 

 

 

 

ただ受け身でやられるだけの<防御>から、やられる前に防ぐ<防衛>、さらに目には目を歯には歯を、やり返す<反撃>へと進化した魔法は。

 

 

 

 

 

 

 

《スキル<任務・審判ノ日(ドゥームズデイ・ミッション)>を獲得しました》

 

《スキル<任務・審判ノ日>がレベル10になりました》

 

《スキル<任務・審判ノ日>を発動します》

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも守り切れなかった、自分に対する怒りと、相手に対する怒りと憎しみとを糧に、さらに()()する。

 

 

 

やられた分を、相手に何倍にも増幅して返す、<()()>へ。

 

 

 

 

自らの肉体的苦痛、精神的苦痛。それらと全く同じ、いや、さらに大きな痛みを与えるため相手に攻撃する。

 

 

 

 

今回、加害者となったのは人族の魔導士部隊のとある一人の魔導士。しかし、上記の効果により、対象範囲は広がる。魔導士部隊全体、さらには人族、魔族の全員へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、範囲が定まったことにより、魔法が発動される。

肉眼では確認できない上空に展開される超巨大な魔方陣。そしてそこから<召喚>されたとある兵器が複数、飛び出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

それがこの魔法における攻撃の要。

 

 

 

 

 

 

 

肉眼では見えないが、その召喚の際の莫大な魔力を探知したさくらと春馬は上空を見上げた。そしてそれぞれ遠隔視系の魔法で、召喚されたはずの兵器を探す。そして見つけた。

 

上空に編隊を成して飛ぶ、鋼鉄の鳥。それは()()()()()()()()()()

 

 

 

「春馬さん……あれ……何……?」

 

 

さくらはいたって普通の女子中学生。いくら秀才であっても、知らないことなどいくらでもある。飛行機の細かい区別など、その方向にのめりこんでいる人でなければ付かない。

 

 

だからこの魔法の発動者である春馬に聞いた。

 

 

その機体が発する、明らかに不穏な雰囲気を感じ取ったためだ。

 

 

 

「あ、れは……そんな……いや、でも、まさか」

 

「ねえ、春馬さん」

 

「……さくら、俺が発動したのは何て名前のスキルだった?」

 

「え?発動したのって春馬さんだから春馬さんも知ってるんじゃ……?」

 

「良いから早く!」

 

「確か……<任務・審判ノ日>だったと思うよ」

 

「<任務(ミッション)>、と言ったな……そうか、いやでも国籍は」

 

「ねえ春馬さん!教えてよ!アレは何?!」

 

「さくら、今から戦場全体に<緊急蘇生(エマージェンシーリヴァイヴ)>を掛けることは」

 

「出来る、けど何で?」

 

「急げ、時間がない、理由は終わった後だ。俺も障壁を張るが耐えきれるかどうか……」

 

「ああ、もう!わかったわよ、後で聞かせてもらうからね!<緊急蘇生>!」

 

魔力の波動が、戦場全体にいきわたる。彼女の現在のレベルは198。素でのMPも40000近くなっており、さらに<支援者>の固有魔法<魔力増幅>により、一時的に最大値が10万を超え、<回復補助>により消費する傍から回復する。

 

戦場にいる全員に<緊急蘇生>を掛けるのに、おおよそ2000万以上MPを消費した。

 

 

 

 

 

 

 

「これで完了。それで春馬さん、アレは何」

 

 

「核爆弾だよ、史上最強のな」




ついに発動される<報復魔法>。しかもいきなり最高位階スキル。そして改変される<防衛装備召喚>。


防衛用という縛りを外されただけでここまで凶悪化するんですよね、いやまあ縛り有っても凶悪ですが。
てか対物ライフル腰だめで撃てるってレベルによる身体能力補助どれだけって()。


それでは質問感想批評などお待ちしております。


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第三十六話  千年前の戦争Ⅲ

発動された<報復魔法>、それによって召喚されたのは史上最大の核兵器。さてさて彼らはどうなってしまうのか……



それでは第三十六話、どうぞ!


 

 

かつて、東西冷戦時代に米国存在した、とある重要な軍事任務があった。俗称は水爆パトロール。

 

 

水爆を搭載した戦略爆撃機が、常に何機か陸上から離れて空中に存在し続けるこの任務の目的は、いわば共倒れである。本国が相手の放った各種核ミサイルによって壊滅状態に陥った場合、つまり指揮系統ズタズタになり、対抗が出来なくなった時に、最後に報いる一矢として、相手にも水爆をお見舞いするというもの。

 

 

 

 

 

が、冷戦時代にそんなことを想定しているのは当然ながらその中心である米ソの二大国。

 

 

現代ですら地球上に存在すると言われる全ての核兵器を使用すると数十回地球が滅ぶと言われているほど。

 

 

当然ながらこの二大国が核すら用いて全力で殴り合えば、地球は完全に滅びる。

 

 

 

ここから転じて、やがてその任務は、世界最後の日、すなわち審判の日(ドゥームズデイ)とも称されるようになった。

 

 

「魔法名は多分コレ。ただ機体がどう見てもソ連機な上にアレ改造機だから多分」

 

 

「つまりその史上最大の核兵器とやらが載ってるの?」

 

「恐らくな。しかも多分アレは……」

 

 

 

《同時発動数12》

 

 

《投弾用意》

 

 

 

 

システム音声のような声──世界の声、あるいは神の声とも称される正体不明の声が、発動を告げる。その瞬間、編隊が解かれ、4機はそのまま旋回を続け、残りは魔方陣を中心に8方位へ向け飛び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《基準点に到達》

 

 

《投弾》

 

 

 

 

号令とともに12機全てが投下。その数は1機当たり1発。

 

 

 

「!やはりかっ!<絶対障壁(バリア)><神楯(イージス)>……これ効くかな……<反応障壁(リアクティヴバリア)>」

 

 

 

いつも使っている魔法に加え、さくらが知らない魔法まで利用し、投下された一発の塊の下、自分たちの頭上に壁を展開していく。

 

 

 

「……春馬さん、教えてください、アレは何ですか?」

 

 

「言っただろ、史上最強の核兵器。ツァーリボンバだよ。ああ……お前達核兵器っつーとトールボーイとかファットマンくらいしか知らんのだったな」

 

 

 

ツァーリボンバ。単発兵器としては()()()()()()()()を誇る核爆弾。TNT換算約100メガトン。実際に1961年10月30日に、威力をほぼ半分の約50メガトンに抑えられ実験も行われた。その爆発は1000キロ離れたところからでも観測できたという。

 

 

当然そのサイズは教科書に載っている原爆より遥かに大きい。

 

 

致命傷を与えうる範囲は半径58キロ。一発だけでもこの戦場ごと滅ぼせるほどだ。

 

 

 

 

しかしこれは実験時の値。ツァーリボンバ本来の威力のおおよそ半分。魔法で召喚しているからには、元の威力以上である可能性も否定できない。しかも12発。

 

 

 

 

全て起爆すれば確実に殲滅される。

 

 

 

 

 

「……来る!」

 

 

 

 

 

一番上、高度6000地点に張った<絶対障壁>に爆弾が接触。

 

 

しかし、落下による運動エネルギーのみで砕かれた。

 

 

 

「……無理か」

 

 

 

そのすぐ下の<神楯>から魔力弾が放たれるも、外殻に阻まれ、通過を許してしまう。

 

 

直後、爆弾のすぐ真下に閃光が走ったかと思うと、接触面が一気に爆発する。<反応障壁>の効果。着弾する前に装甲自体の自爆によって誘爆、あるいは直撃を逸らさせようというもの。

 

 

が何事も無かったかのように通過。

 

 

 

「やっぱ無理かあ……しゃあない、また生き返ってから会おうぜさくら、<絶対障壁>」

 

「え?」

 

 

 

《起爆高度に到達しました》

 

 

 

 

 

 

 

《起爆》

 

 

 

 

次の瞬間、さくらの視界は真っ白に塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え、何それ、そんな事起こってたの?」

 

「ええ、そうよ、最初で最後の<報復魔法>の発動。あ、あと最後から二度目の<防衛装備召喚>発動でもあったわね」

 

「じゃあそのあと春馬さんは<防衛装備召喚>は……」

 

「封じたわよ。だからだったのね。よく考えればケイと春馬さんが高レベルで共闘したのはあれが最初だったわ」

 

「ああ、そのあと使ってないなら俺は見れてないな……でも何で封じたんだろ」

 

「わからないわよそんな事。聞いても教えてくれなかったもの。『気付いてないならそのままで良い』とか言ってたし」

 

 

 

気付いてないならそのままで良い、ねぇ……めっちゃ意味ありげな言葉だな。うーん……『気付いてないなら』ってことは春馬さんは何かに気づいたんだろ?タイミング的には<報復魔法>発動時に。

 

何か隠された意味とか新たに気づくことなんてあったか?

 

<報復魔法>と<防衛装備召喚>の違い?いや、<現代兵器召喚>との違い……

 

 

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「結局発動した後とか、<魔王>との会談ってどうなったんですか?」

 

「じゃあとりあえずさくらから」

 

「えっとね、ああ、視界が真っ白に塗りつぶされたのは話したわね。そのあと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反射的に目をつぶったが、それでも瞼の裏が明るくなるほどの強烈な閃光。視界が回復するのに数分が必要だった。

漸くまともになったところで、目を開けた。

 

 

がすぐに誰かの手によって塞がれた。

 

 

 

「春馬さん?ちょっと手が」

 

「見るな。目を閉じていろ、これは見れたもんじゃない、見る必要は無い」

 

「へ?」

 

「俺達は死ななかったか……術者とそのパーティーは免除されるのか?<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>」

 

「ちょっと春馬さん」

 

「良いから目を閉じろ……放射線は……ほぼ0?!残留放射能が無い?!」

 

わけもわからぬまま、しかし春馬の口調から只事ではないと悟り、素直に目を閉じる。

 

 

 

「閉じたわ」

 

「良し。啓斗が出てきたらすぐ<転移(ポータル)>で近くの街まで飛べ、周りを見るな、ケイには俺が説明する。あとは全部俺に任せろ。シュレスタ、ザイドル、済まないが二人を頼む」

 

「あ、ああ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それからはケイも知ってる通りよ」

 

「それでお前あの時目を瞑ってたのか……俺はてっきりアレを見たから目を閉じてるのかと」

 

「アレ?」

 

「うん……なんていえばいいのかな、地獄絵図?」

 

 

あれはちょっと……うん、見たいものではないな。<魔王>も目を背けていたから、だいぶなものではなかろうか。

 

 

「……どんな感じ?」

 

「……原爆投下直後の写真まんま、ただしフルカラー」

 

 

もしくはそれ以上かもしれない。春馬さんが恐らく戦場全体に張った<絶対障壁>に加え、多分、全力で魔法障壁を貼ったのだろうが、出力で押し切られたらしい、魔道士の焼け焦げた死体だったり、恐らくは再生途中なのだろうが、人間かどうかすら怪しい肉塊だったり。

 

発動直後なら、恐らく鎧を着ていた騎馬兵なんかが一番グロかったのかもしれない。

 

 

 

「……なんてこと」

 

「お前は見なくて正解だった、あれはキツい、精神的にな。春馬さんは多分、直接ではないにせよ引き金を引いた責任からか、目に焼き付けるレベルで見ていたが」

 

 

 

たまたまさくらがあらかじめ<蘇生魔法>の開発に成功していたからいいものの、その必要性を感じていなかったら、自分の怒りが元で数千人数万人を殺していたところだったのだ。

 

しかもこの世界には存在しない(兵器)を用いて、一瞬で、何をされたかもわからぬままに。

 

 

 

 

「じゃあ次はケイね」

 

 

 

俺とさくら、前世で核兵器・原爆の被害を知っている理沙が発する重い空気を振り払うかのようにセレスが言った。




以上です!

ようやく自分が書きたかった場面を書けました。

異世界に核兵器を持ち込む、しかも魔法で。

実はこの場面は、自分が最も書きたかった場面であると同時に、この作品の原点でもあります。最初は主人公にやらせる予定だったのですが、それだとだいぶ先の事になってしまいます。それに物語を再編し、新たな設定を組み上げたとき、どうしてもここで主人公に"気づいて"もらう必要が出てきたため、春馬さんにやってもらいました。

ちなみに<報復魔法>はかなり特殊な状態に備えて作られた魔法なので、術者から見ると全自動発動型の魔法になります。術者の意思に関わらず、です。

文中に出てきた<反応障壁>ですが、モデルはまんまですね、爆発反応装甲です。


それでは質問感想批評などお待ちしております!


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第三十七話  千年前の戦争Ⅳ

<防衛者>の<報復魔法>最上位スキルにより一度全てが焼き払われた戦場。

世界最強の核兵器の猛威に対してもあっさり耐えきった<絶防ノ盾>の中では何があっていたのか……


というわけで千年前の主人公視線になります。

ところで、自分が長く更新していなかった間もUAが存在していた事に驚いたのですが、皆様どこからコレを見つけているのでしょう……?


と、私の些細な疑問はさておき、まずは第三十七話、どうぞ!


 

 

「……<聖剣>の固有技能か。しかし貴様の仲間も外にいるようだが……?」

 

「かまわない、予定通りだ」

 

「なるほど。一対一での決着を望むか。だが良いのか?」

 

「何がだ」

 

「確かに貴様は<勇者>であり、またその持つ<聖剣>は魔族すなわち<魔王>()にも特攻性能のある剣だ。だが、貴様一人だけで、我に敵うと本気で思っているのか?」

 

「いや」

 

 

 

即答。あまりにも潔い否定に<魔王>も一瞬目を剥く。が、すぐに気を取り直し、

 

 

 

「では、なぜこの状況を選んだ。<勇者>よ、貴様は我に敵わぬと知りながら一対一での決着を望むほど死に急いでいるわけでも、愚かなわけでもあるまい」

 

 

 

と言った。

 

これまで、初めて魔族軍が敗走した日から4年が経過している。その間、魔族軍あるいは直接ではないにせよ<魔王>自身、<勇者>とは何度も矛を交えていた。

 

 

 

だから知っている。目の前に立つ<勇者>である少年は、その外見と年齢にそぐわない能力を持つ事を。

 

 

 

定期的に種族内で起こる争いに何度も打ち勝ってきた、歴戦の魔族軍幹部ですら欺き、的確に急所を突く作戦を立案する能力。神出鬼没とも言える程の機動力。精確な情勢判断に加え、実際の戦闘能力においても魔法・物理共に魔族軍の強者を凌ぐ。

 

 

 

それほどの者が自分と相手の戦力差を間違える筈もなく、かといって勝率の限りなく低い賭けに挑むほど人族が追い詰められているわけではない。

 

 

つまるところ<勇者>に何かしら勝算がある上での状況なのだ──と考えていたが、返答は否定。

 

 

では、何を考えているのか。

 

 

 

「其の通りだ。俺の要求を伝えよう、<魔王>よ」

 

「何だ」

 

 

 

<勇者>の考えていたことは、

 

 

 

「この俺、すなわち<勇者>であり人族の全権者である俺は、貴様、つまり<魔王>を魔族の代表とみなし、ここに人魔大戦の()()と、代表者同士の対談を申し込む」

 

 

 

<魔王>の予想の斜め上を行くものだった。

 

 

 

「……休戦、だと?」

 

「そうだ」

 

「不可能に決まっている。我々と人族とは相容れぬ存在。だからこそこの大戦が始まり、今なおも続いている、それは貴様も知っているはずだ」

 

「そうだ、その事は俺も知っている」

 

「では分かっていてなぜ、休戦を持ちかけた?まさかとは思うが……」

 

「安心しろ、話せばわかるなんて腑抜けた(馬鹿な)ことは言わない。実際にお互いそれぞれの大義を掲げて命を懸けている身だ。ソレがどれだけ無礼な事かは分かっているつもりだ」

 

 

 

既に四年間、互いの種族の正義の名の下に、互いに殺しあってきた。<魔王>は魔族の代表として、<勇者>は人族の代表として、相手の種族を、既に4桁から5桁は殺している。

 

 

そんな相手に今更『話せばわかる』などと言えるわけがない。既に話し合ってどうにか出来るレベルを超えている。

 

だからこそ<魔王>が生まれ<勇者>が<召喚>されるのだ。

 

 

 

「ではなぜだ」

 

「その前に一つ、質問をしても良いか」

 

「なんだ」

 

「<魔王>、貴様は、好き好んで人族を殺しているのか?」

 

「……何が言いたい?」

 

「つまり、貴様個人に人族に対する大きな敵意、滅ぼしたいとか魔族の邪魔だ、といった気持ちがあるのかと聞いている」

 

「…………俺は<魔王>だ。魔族の王だ。俺個人がどう思おうとも、俺が<魔王>である限り、人族は俺にとって敵だ」

 

 

 

啓斗の質問に対し、<魔王>はしばらく黙り込んだ。ややあって帰ってきた応えは啓斗が予想したとおりだ。<魔王>個人としては人族は不倶戴天の仇というわけではない。

 

ただ<魔王>と言う称号に求められる役割を果たしているだけ。

 

 

 

これなら、まだ。

 

 

 

否、かなり、説得のチャンスはあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

切るべき札は、未だそのほとんどを伏せたまま。それらを使えば、少なくとも<魔王>のままで休戦・共闘に持ち込める。

 

 

「なぜ休戦を持ちかけたのか、だったな。<魔王>、貴様は不思議に思ったことは無いか?」

 

「何の事だ」

 

「この世界は、あまりに()()()()()()()……そう感じたことは無いか?」

 

「どういう意味だ?」

 

 

「言葉通りの意味だ。綺麗に二つに分けられた大陸、対立する二つの種族、それぞれの象徴<魔王>と<勇者>。何百年、あるいは千年ごとに綺麗な境界を越え、人族領に侵攻する魔族。対抗する人族とその先頭に立つ<勇者>。そして常に<勇者>が勝ち、魔族は元の領土へ戻る。また<勇者>と人族もそれを追撃せず、再び平穏が訪れる……良く出来ている、出来過ぎている。まるで……()()のように」

 

 

 

子供に読み聞かせる勧善懲悪の物語のように。

 

 

 

「……それがどうかしたのか」

 

「とてもじゃないが現実の話とは思えない。物語、あるいは劇じゃないか」

 

 

「何が言いたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達は、俺とお前は、あらかじめそういう役を振られているんじゃないのか、劇作家・監督によって」

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりお前は俺達がそいつらに操られているとでも?馬鹿な。精神干渉魔法耐性を持っているのは、知っているだろう」

 

 

「そうだ。<ステータス>・<鑑定>の恩恵あっての話だけどな。さて、<ステータス>・魔法・耐性とはなんだ?」

 

 

「俺達の能力に決まっているだろう」

 

 

「そうだな、だが魔法や耐性を生まれつき持っているのは稀だな。それらはどこから、いや、誰によって与えられる?」

 

 

「……さっきからおかしな事ばかりを聞いて来るな……我らが主神ラボルファス様によってだろう。いや人族は女神とやらが居るのだったか」

 

 

 

「そうだ。つまり耐性とは神によって我々が与えられる物。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()ことだと思わないか?」

 

 

 

 

<勇者>の口から放たれた言葉は、これまでの会話を経た<魔王>にとってそこまで意外ではなかった。しかし、それでも直接聞くとやや驚き、少々怒りを覚える言葉でもあった。




以上です!

質問感想批評などお待ちしております!


これが今年最後の投稿となります。
読者の皆様、今年、本作品を読んでいただきありがとうございました。来年も良ければ読んでいただけると幸いです。
それでは良いお年を!


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第三十八話  千年前の戦争Ⅴ

明けましておめでとうございます。



千年前の戦争、魔王に対し休戦を持ちかけた勇者。

彼等はどんな経緯で共闘するに至ったのか。



というわけで過去編最後です。

第三十八話、どうぞ!


 

 

 

 

「……貴様はつまり、俺達が神によって操られている、そう言いたいのか?」

 

「そうだ」

 

「……随分と舐めたことを言ってくれるな……それは魔族だけでなく同時に我が主神ラボルファス様も侮辱することであると分かっているのか?」

 

()()が神だと誰が言い切れる?人族の主神も同じことだ。ソレ等が神だと、私利私欲もなく、ただ自らを崇拝する民の為だけに動く存在であると誰が言い切れる?」

 

「実際に今、我が主神ラボルファス様は人族の主神たる女神を倒し、<勇者>の力を削ごうとしておられる」

 

「そう言う事じゃあない。なぜ神は、毎度のごとく、協調を選ぼうとしないのか、そう思わないか?戦争で、や普段に、ではなく」

 

「それは……相容れないからで」

 

「人同士は相容れない、だから力を以て決着する……日常的にそんなことをするか?人族は最初は話し合って、解決する。あるいは解決できずとも、同じ目標があるなら協調は出来る。これは魔族にとっても同じじゃあないのか?」

 

「……同じ目標は」

 

「あるはずだ。自分を信仰している種族の繁栄、とかな」

 

「だがそのためには人族が」

 

「必ず邪魔になるとは限らないだろう。寧ろ、戦争で片方が片方を滅ぼした場合、犠牲も大きい」

 

窮鼠猫を噛む、という言葉がある。こちらの世界では、ゴブリンでも竜に挑戦する、といった言葉になっているようだが。

 

領土拡大目的だけでなく、相手の種族の屈服・殲滅をもくろむならば、当然相手も死力を尽くし、取り得る全ての手段で以て対抗する。そうなれば犠牲も多く出るだろう。こちらが相手より格段に勝り、量を質でねじ伏せることが出来るのならば別だが。

 

しかし実際のところ、魔族は人族に比べ、魔力・体力的に優位といった程度であり、個々人にそれほど圧倒的な差はない。光・聖属性魔法が対魔族特効を持つ事を考えるとむしろ不利である。

 

つまり人族を滅ぼそうとするならば、魔族側も壊滅的被害を覚悟して挑む必要がある。

 

本当に魔神ラボルファスが魔族の繁栄を願うならば、そこまでの被害を要求するだろうか、いや、しないだろう。

 

 

 

 

そこから<勇者>が言いたいこととは。

 

 

 

 

「──この世界の住民が信じる神は、本当に、()()()()?圧倒的な力を持った、だがその実質は俺達、あるいはそれ以下の娯楽主義者ではないと、どうして言い切れる?」

 

「女神教の教義には、協調と融和の大切さを説く内容もある。ではなぜ神々はそうしないのだ?」

 

「それは俺達が潰しあう事で何かしら神に利益があるからではないのか?つまり、彼等は利己主義者ではないのか?」

 

 

 

 

 

「……貴様はそれを俺に聞かせてどうしようと言うのだ」

 

 

 

「<魔王>、貴様は先ほど、俺に休戦を提案した理由を聞きたがっていたな。それと同じだ。もし、この戦争が神によって操られた結果起こっているのだとしたら、苛立たないか?」

 

「魔族と人族が、互いに抱いている憎しみが、殺意が、神によって操られているのだとしたら、そのせいで争うのは無意味だと思わないか?」

 

 

「──貴様の発言が真実である根拠は?」

 

「ない。が、仮に俺のここでの発言が全て俺の思い込みによる誇大妄想の結果だとしても、休戦することにメリットはある」

 

「メリットか」

 

「そうだ。まず、互いに余計な犠牲を出さずに済む」

 

「外では既に戦闘が始まっているぞ?」

 

「人族には既に、相手に致命傷を与える事が無いよう、低階位もしくは拘束系の魔法を使わせている。近接戦においても、致命傷を与えてはいない。後退させるだけの負傷は負わせているがな。こちら側の死傷者も最低限に抑えているはずだ」

 

「なんだと?」

 

「だから想定通りであれば、今戦場では負傷者多数が出ているが戦死者は少ないか皆無のはずだ」

 

「……了解した。メリットの話を続けろ」

 

「二つ目、人族側には、いくつかの技術の提供、それと魔導師派遣の用意がある」

 

「……目的は」

 

「こちら側の技術や魔法を伝える代わり、そちらの魔法や技術が欲しい、そういう事だ。そちらには人族の持たない技術や知識、魔法がある。無論同様なことは人族にも言える。それらを集めて、互いの技術を高めようという事だ。無論、軍事・国家機密程のレベルではないものだ」

 

 

人族のみ、あるいは魔族のみが所有し、どちらの役にも立つ、しかし軍事・国家機密にはならないほどそれぞれの市井に普及している魔法技術。縛りが多く、一見この条件に当てはまる技術などないように見える。

 

しかし、実際には多く存在する。

 

 

 

例として人族側からは、農業に関する魔法が挙げられる。

 

元々種族特性として闇・魔属性魔法適正が非常に高い魔族は、その他の属性の魔法の研究は進んでいなかった。なぜなら闇・魔属性の魔法は、大抵の事は何でも出来るからである。だが、植物の育成など、生命に正の影響を与える魔法は闇属性には存在しなかった。

 

生命に正の影響を最も多く与えるのは光・聖属性であるがこれらは魔族にとって弱点属性であるから扱えない。しかし、風属性やその派生の植物魔法なら魔族にも扱える。しかし上記の理由から研究が進んでいなかった。

 

一方で人族は闇・魔属性であっても何ら問題なく扱えるので、様々な属性で、同じような効果を持つ魔法が多く人口に膾炙していた。

 

 

 

逆に魔族側から提供できる技術として、魔物を抑える魔法がある。魔物とは、何らかの原因によって、動物が魔力に“染められる”ことで発生する生物であり、無論魔物同士の交配でも増加する。

 

これらの魔物は、生息地に求めるリソースが元となった動物に比べ多いのか、よく人里に出てきては、畑を荒らしたり家畜を襲ったりする。ゴブリンやオーク等、人型の魔物なんかは苗代にするべく、人族の女性を攫ったりすることすらある。

 

さらに、一時的に何らかの原因で、ある魔物の数が急増した場合、魔物大暴走と言って生息地から一斉に出てきて、村や町を襲う事がある。その原因は自然的なものから人為的なものまでさまざまだ。

 

 

 

人族はこれらの魔物による被害に対し、魔物を武で以て撃退するという方法をとっていた。人族が扱う魔法の内、光・聖属性魔法は魔物にも特攻効果が存在したためである。

 

 

一方で、魔族は、魔物を“宥める”ことで被害を抑え、落ち着いた後で討伐、もしくは従えることで解決を図っていた。

 

 

流石に従える魔法については軍属の魔物調教師しか使えないが、その前段階の宥める魔法は、一般に普及していた。

<勇者>が提案したのは、それらを交換し合おうという事である。人族側は魔物をより安全に討伐できるようになる。魔族側はより多く食料供給が可能になり、両者ともにより繁栄できるようになる。

 

 

 

 

「言葉で話して分かり合おう、とか同盟を組もうと提案するわけではない。ただ、お互いの繁栄のために停戦しようと言っているだけだ」

 

「……それを俺が受け入れると?」

 

「受け入れるだろう。感情に流され、より多くの犠牲を出すか、矛を収め、更なる繁栄を求めるか。選択肢はこの二つだ。貴様はここで感情論を選ぶ程愚かなわけではあるまい」

 

「それでうまくいくと思うのか?」

 

「そのための(勇者)貴様(魔王)、そうではないか?」

 

「……良いだろう、承知した。契約を破るなよ」

 

「わかっている。そしてもう一つ、これは俺個人から貴様個人への依頼だ。お願いと言っても良いか」

 

「なんだ」

 

「こうやって俺と貴様の世代は合意を締結できた。だが、もし神が<魔王>と<勇者>を戦わせることで遊んでいるのなら、いずれまた同じことが起こるだろう。だから魔王、力を貸せ」

 

「何をしろと」

 

「神を、倒す」

 

「……良いだろう、力を貸してやろう。だが忘れるな、我々魔族は、人族となれ合うつもりは無い」

 

「力を貸してくれるならそれで十分だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『魔王、力を貸せ』」

 

「……やめてくれ、アレは俺にとって大分黒歴史なんだ」

 

「『力を貸してくれるならそれで十分だ』」

 

 

どうやらこいつは俺を恥ずか死なせたいらしい。

 

 

「で、そのあとは?」

 

「さくらの話の通りだな。外に出たら爆心地だった。さくらと陽菜乃さんの遺体を連れて<転移(ポータル)>して、戦場に戻った後に、まあ、その諸々の事後処理をだな」

 

「ああ……なるほどね、お疲れ」

 

「と、まあこんな事があったわけだ……っと、右正横に、ありゃあ聖都かな?何か真っ白に輝く塔が見えるぞ」

 

「うん、アレが聖都よ」

 

「まだ先は長いかあ……ま、いっかもう」

 

「戦争始まるのは確定みたいだしね」

 

 




以上です。



<魔王>が話に乗るのが早い、と思われるかもしれませんが、今回の<魔王>がそういう人だったってだけの話です。というかむしろこれが<魔王>の素です。

普段の人族必殺は<システム>による思考誘導です。<絶防ノ盾>含む<聖剣>の固有能力は<システム>管轄下ですが<システム>の能力を凌駕します。なので<絶防ノ盾>内部の<魔王>は思考誘導から解放されてるので素が出てます。

質問感想批評などお待ちしております。

それでは今年も本作品をよろしくお願いいたします。


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第三十九話  さようなら人族領

ようやく本編です。お待たせしました!




タイトル通りです。それでは第三十九話、どうぞ!


 

 

 

 

 

さて、聖都を横目にさらに南下し続けた俺達は、漸く赤道……と思しきエリアに居た。

 

 

召喚されて既に二か月以上が経過した現在。俺達はとうとう聖リシュテリス神国を抜けようとしていた。今までの国は、一週間とかからず突破できていたのに、ここだけなんと二十二日も費やしてしまった。詳しく言うと聖都より南側。

 

 

なぜかというと、この国、通称女神教の、聖地あるいは総本山と言える国なのだ。

 

よって、本来の人口に加え、多くの信者が巡礼に来る。おまけにこの国のすぐ南は亜人族領なので、そこを通って人族領西大陸まで行く商人なども居るため、人が多い、交通量が多い。

 

 

流石総本山と言うべきか、この国は極端に魔物が少ない。光・聖属性魔法の使い手が多いからだろう。

 

 

従って外も非常に安全であるためか、城門などは存在するものの、城壁の外にも普通に集落がある。国内における集落の分布が密なのだ。また同様に聖都を中心とした交通網も発達している。

 

 

 

 

つまるところ。

 

 

八九式装甲戦闘車だったり一六式機動戦闘車だったりでの移動ができない、畜生。

 

結果として徒歩もしくは馬車での移動が主となった。直線で一気に南下できなくなった。

 

おまけに、交通網が発達しているのは聖都方面だけである。

 

他国からの訪問者の事を考慮してか、聖都は実は神国の北部に存在する。俺達が引っかかったのは、聖都から神国東部に向かう街道。この直後から街道が増加し、<任務完了(ミッション・コンプリート)>する羽目になった。

 

 

 

 

 

結果として聖都の南東に位置する小さな村(名前は知らない)から馬車に乗ることになったのだが、南方に行けるルートが無かった。やむを得ずまさかの聖都へレッツゴー。フラグを回避したと思ったら実は既に回避できないところまで進入していたらしい。

 

 

というかこのフラグを回避する方法は多分<召喚>されない事だよなあ……無理じゃん。

 

斯くして、聖女様からのお誘いをお断りした翌日には聖都へ。聖都発はさらにその翌日。そこから南西方面の馬車に揺られ、途中の街で宿泊すること実に十日。神国南部最大の都市、セイリティアに到着。

 

そこから南東へ三日、中継都市で乗り換えて南へ三日。聖都から南南西くらいにある交易都市スロスフィルに辿り着いた。

 

ここは人族領と亜人族領の交易の人族側中継地点……らしい。余談だが丁度ここを赤道が通っているそうだ。

 

 

そして俺達はここで待ちぼうけを喰らい始めて今日で六日目in宿屋である。ちなみに俺とさくら、セレスと理沙、という部屋割りです。

 

 

おい、もう一週間経つじゃねえか。なんでだよ、千年前はこんな検問とか出国調査的なのなかっただろうが……当たり前か。ヴァルキリア一国しかないのに出国も何も無いよって。

 

 

セレス、さくらの説明によれば、百年ほど前、人族と亜人族の間が険悪になり戦争が起きたらしい。まあ引き分けに終わったらしいのだが。

 

 

その時の結果として、東大陸(人族・亜人族領)を、人族と亜人族でそれぞれ北と南に分割したらしい。

 

 

交易は必要ではあるが、無制限に開放するのは双方の防衛面についてどうかという事になったために、城壁と無人地帯が国境に築かれた。その中央付近に城塞都市が設けられた。その都市で申請し、受理されなければ通り抜けることはできない、そういう制度が出来た。なお戦争参加者やその家族は不可である。

 

 

んでもってその制度が今も続いている、と。ふむ、まあ確かに人族はともかく亜人の中には最大で500年生きるのも居るからな。用心しておくに越したことはない。

 

 

 

 

 

ではなぜ六日も待たされるのか。

 

 

 

 

 

それは、人族領西大陸の存在がある。何者かによって、山脈が大規模に改変され、西大陸の南端が人族・亜人族領となった。

 

そこへ行くには当然、東大陸の南半分を占める亜人族領を通らなくてはならない。というわけでこんなに混雑しているのは、そこに行く集団が多いから、らしい。

 

そんなわけで書類審査にも時間がかかり、結果待ち時間が長引く、と。

 

 

 

 

うん、まあ、仕方ないよね。書類仕事が面倒なのはどの世界でも変わらない。速読系の魔法も無いことは無いが、一方でこの世界、コンピューター的な何かとか無いから多分時間は変わらないのだろう。

 

 

後、野宿せずに済んだことは、良かったと思っている。だってさ、今の編成が俺、さくら、セレス、理沙だぞ。俺とさくらはともかく、騎士団とはいえ、貴族出身のセレス、前世日本人今世貴族の理沙には数日間風呂に入れず着の身着のままはきつかったみたいだしな。いや一応体を清める魔法もあるけど、やっぱ熱いお湯とかで体を洗いたくなるだろ。

 

 

それにこの六日間で情報収集も出来たので、まあ良いかという感じである。

 

 

特に、<勇者>パーティーが、エメラニア公国を抜けて、スルヴァニア皇国に入ったという報せは貴重だった。<警戒地点設置(レーダーサイト)>を全て解除しているし、伝達石を渡したわけでもない。<勇者>の行動を直接知れないのは、そこそこ不安である。

 

 

 

報せによれば、<勇者>に罪人脱走ほう助の疑いを掛けられたらしい。それやったの俺等です。まあすぐに疑いは晴れたらしい。だろうな、容疑の時間帯はずっとエメラニア公国とシルファイド王国に居たんだろうし。

 

 

なお同時に俺達の身分がばれていない事も判明した。うんうん良かったよ。あれ何気に本名名乗ってたからバレたら面倒だなとは思っていたんだ。

 

 

時期的にはそろそろ魔族側の襲撃があってもおかしくはないし、無くてもシルド王国を抜けたら次は聖リシュテリス神国。ここでそこそこ足止めは出来る。

 

 

 

……とは言ったものの、何をするかなんだよなあ……既に当初の目的、強制送還は、大戦プログラム発動しちゃってる以上、だいぶお勧めできない。<システム>に負荷をかけてしまうし、<魔王>を倒せなくなるからね。

 

 

つまり今のところ足止めしたからどう、といった策が無いのである。どうしよう()。ベッドに寝転んで考えていると。

 

 

「……どうしようって言ったって、取り敢えず<システム>行って今回の事態の原因でも探りましょう?どうせもうグラディウスかアザトースが調べてるでしょうけど」

 

 

隣のベッドに腰かけるさくらから答えが返ってきた。

 

ますます行く目的がなくなった。一回死んでまで足抜けしたのに……これじゃあ俺達死んだ意味。

 

「意味ならあるじゃない、あの国に延々と滞在せずに済んだわ」

 

「あーそれはあるな」

 

 

ついでに<勇者>をある程度、本当にほんの少しでも矯正できたのは上出来だったと思う。

 

 

「あと、そうね、追いつかれたら色々と面倒だから、足止めも意味がないわけではないわ」

 

 

何で生きてるんだ、とかだろ。別にネタばらししても良いんだが、そうなるとアレの事も話さなきゃいけないわけで。セレスいるしね。

 

 

俺としては、<勇者>としても<管理者>としても、今はまだ、今代達にはシルファイド王国に所属していてもらいたい。かなり分の悪い、両刃の剣を含む賭けなのだが……

と言うのも、例えばあの拡大思想主義者(宰相)を放置しておくとすると、確実に公国に戦争吹っ掛けるだろう。北方にあるとかいう半分独立した集落とかも力ずくで抑えそうだ。つまり人族同士の争いが生じる。それで朱梨先輩の負担が減るのは個人的には良いが<勇者><管理者>としては、人族同士で数を削りあうのは、後々の計算、つまり<システム>自体の負担が増えるので歓迎できない。

 

 

だからあえて<勇者>をシルファイド王国に配置。多分成長したであろうあの頭で以て、宰相が<勇者>を手駒に侵略戦争を吹っ掛けるのを制止してもらう。

 

 

もし失敗すれば、<勇者>が一方の側に立ち人族相手に戦いを挑むことになるわけで。そうなれば当然、俺が前言った通り、虐殺ショーの始まりである。多分人族も無抵抗ってわけにはならないだろうから、最悪の場合、<勇者>の戦力も削られてしまうわけだ。

 

 

不死身なのは<勇者>だけだ。もし一人でも欠けたら、<魔王>討伐に支障をきたす可能性もある。まあ多分大丈夫だけど。

 

 

<蘇生魔法>も存在はするが、恐らく今代<聖女>には習得できない。<死霊魔法>と<精神魔法>の派生、<操魂魔法>と<再生魔法>の複合スキルである<蘇生魔法>。

 

<死霊術師>が居るなら<聖女>は<死霊魔法>習得の意義が感じられないだろうからな。

 

 

……傍から見たら、何か賭けてる物が大きくなりすぎてる気がする。人族の存亡賭けてるようなもんだしな。まあ、でもあいつらが既定路線から外れない限り<魔王>は<勇者>に殺されるの確定だから大丈夫だろ。

 

 

 

「……やたら考えすぎるのも変わらないわね。もう少し単純に考えなさいよ」

 

「いや、考え得る可能性は全て考慮しておくべきだろ?<思考加速>と<並列思考>せっかく持ってるんだし使わないと」

 

 

変に単純に考えて<システム>にエラー引き起こしかけたんだぞ。

 

その時点で考えられることは出来るだけ考えておかないと。

 

そんな事を考えていると、扉がノックされた。

 

 

「はい」

 

 

俺が応対。

 

 

「出国管理局からです、申請が許可されたと。これが通行許可証です。門番に見せてください」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

 

扉を閉めて後ろを振り返ると、既に荷造りを始めたさくら。いや大した荷物無いし<空間収納>あるから荷造りって程でもないが。

 

 

「隣に伝えてくるよ」

 

「了解」

 

 

部屋を出て隣の部屋へ。扉はノックしましょう。

 

 

「はい」

 

「許可証が出たぞ。荷物を纏めてすぐ出よう」

 

「わかった──セレス、行くってよ」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい次の方──許可証を」

 

「これです」

 

「ふむふむ──はい、大丈夫です。行っていいですよ。向こう側の門番さんにも見せてくださいね。あ、あとそこで許可証が回収されますので」

 

「ありがとうございます」

 

おおよそ10mほどか。ついに人族領から出ることに成功した。

 

 

 

 

さよなら人族領。

 

 

 

そしてこんにちは亜人族領。




以上です。


お気づきかもしれませんが、同行している元近衛騎士の少女と、王国第一王女の名前を変更しました。


さて、ようやく人族領を突破しました。時期的には、ちょうどクリスマス短編までの行程のうち半分を踏破した状態です。

それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第四十話 亜人族領

お待たせしました本編です。

ついに人族領から脱出、目的地までおおよそ三分の一の行程を踏破した啓斗一行。人族にとって潜在的な敵地となる亜人族領に足を踏み入れた彼等はどうなるのか。



とか書いてみたりしてますが、大した事はなかったりします。

それでは第四十話、どうぞ!


こんにちは亜人領。

 

さて、今日の亜人領は、全体がセラシル帝国と言う巨大な国家だ。名前は帝国だが、その実態は連合王国のようなもの。とはいえ形だけでも全体が一つの国としてまとまっている辺り、人族にも見習ってほしい。

 

それはともかく、だ。

 

 

亜人、と一口に言ってもその種類は様々。まあ、ネット小説なんかにあるように、エルフやドワーフ、獣人などが大半だが。なお珍しい種族としては、かなり数が限られるが人族・亜人族に友好的で、独自に社会を持つゴブリンやオーク、オーガやグールなどの魔物に分類される種族も存在……って。

 

 

 

「マジで?!」

 

「ええ。まあ厳密にいえばその上位種族もしくは特殊個体だし、数は本当に限られるらしいけどね」

 

「独自の社会制度や文化を作り上げていて、人族や他の亜人族と交渉を持つ事は稀だけど戸籍も存在するし、グールなんかは冒険者になってる人もいるって」

 

 

 

魔物としてグールを見た場合、かなり厄介な相手である。

通常のグールは、人族の死体が魔力に染まり魔物化したもの。その際に死体が変質するのか、皮膚が固い。そして元が人族であるためか、光属性魔法が効かなくなる。無論聖属性魔法ならば効くのだが。

 

それがそっくりそのまま、というかむしろ強化されたのが冒険者のグールさんである。当然ながら人族より強い。

 

 

「なるほど、そりゃおあつらえ向きの職業だな」

 

「と言うかまあ、亜人族は全般的に冒険者に向いてるのよね。人族よりステータス高いし、寿命も長い」

 

「こうして見ると、亜人族に欠点が無いように思えるんだけど……」

 

「そうだな」

 

「でも完璧な種族は存在しない。そうなるように調整されてるから」

 

「例えば亜人族で一番多い獣人族。彼等は亜人族の中でもひときわ体格に優れ、基本的なステータス値は軒並み高い。だけど実は魔力がほとんどないから魔法が使えない」

 

「次にエルフ。彼等は魔力が多く魔法に優れ、基本ステータスも平均的な人族兵士より優れる。しかし絶対数が少ない上に、妊娠しにくい。まあ元々がかなり長寿の種族だから、そっち方面に目を向けていないのもあるだろうけどな」

 

「魔物から発達した亜人族もよ。数が少ない上に、元が魔物だから光・聖属性の回復・治癒・再生魔法が効かないの。まあ元々種族単位で暮らせているから、無縁なのかもしれないけれど」

 

 

 

一般に、回復・治癒・再生魔法は、光・聖属性のスキルが一番効果が高く、燃費もよい。ついで風、火、土、雷と続く。なお火以降の三属性については回復スキルのみ、それも低階位、つまり回復量が少ないスキルしか存在しない。闇に至っては存在しない。

 

 

 

「ただ、まあ、個体単位で基本的な性質として人族より遥かに優れている種族は多い。……あまり大きな声じゃ言える事じゃないがそのために()()()()種族だからな」

 

「創られた……?」

 

「そうだ。あんな種族が通常進化で生まれる可能性は低いだろ」

 

 

無いと言い切れないのが生命体の進化の恐ろしさであるのだが。

 

 

「獣人族とかが特にそうだけど。どういった進化をしたら耳が四つに増えるんだよ」

 

 

獣人族は、基本的外見は人族と変わらないが、種族名の元となった動物の特徴を各所に残している。顕著なのが、イヌ科やネコ科動物の獣人の頭の上に生えている獣耳である。

 

現存している動物の耳は二つだけなのだから、増やす必要性は無いはずであるし、また耳ではないのなら、耳の形を保つ必要性が無い。

 

一番あり得るのが

 

「一番可能性が高いのは、人為的な物であるという事。そして耳が多いのは多分創造者の趣味かなんかだろ」

 

 

まあ、俺としては可愛いので賛成であるが。

 

まあ、大体、俺達の世代で獣人っつったらかなりの人がケモ耳持った女の子を想像するんじゃなかろうか、つまりそういう事だ。

 

 

「ではなぜ人為的にでもそんな種族を作ったかって訳なんだが」

 

 

さっき言った通り、亜人族のステータスは人族より優れ、()()()()()である。ここが大事。

 

 

「亜人族って言うのは、<勇者>召喚までの()()の戦力なんだよ」

 

 

人族だけでは、やはり数だけで対抗するにはちょっと無理があるから、ステータスに優れた亜人族を投入する。これによってとりあえず守勢ではあれど拮抗できる状態へ。そして<勇者>召喚・実戦投入まで時間を稼ぐ。ただし数が多すぎると人族が主導権を取れなくなるから少数で。何とも良く出来た設定だと思う。流石はコンピューター。

 

 

「つ、繋ぎ……」

 

「<魔王>に対抗するなら本命は<勇者>でしょ、誰が考えたんだか知らんが」

 

 

魔の王に対抗するのは勇ある者。誰が最初に考え出したのだろうか。

 

 

 

 

「さて、この街からはまた戦車で移動かな?」

 

「そうね、それが速いでしょ」

 

交通網が発達していないわけではないが、ここは熱帯。森林がある。というか町と道、畑以外はほぼ森林である。

 

そしてどうもヴァルキリア皇国時代の街道が未だに残っているらしい。だが使われることは無いようだ。当たり前か。町とか村の場所違うし、ぼろぼろだし。むしろ道として残っているのが奇跡である。

 

俺達が目指すのはこの大陸の南端。そこから西に行って、普通に船に乗るか、南端から<防衛装備召喚(セルフ・ディフェンス・フォース)>で軍艦……というか多分護衛艦出して乗るかの二択。どちらにせよ向かう先はとりあえず真南。

 

そしておあつらえ向きにこの街を出てすぐのところに、南へ伸びる旧街道があるらしい。未舗装でも行ける装軌車両なら大丈夫だろ。あとは中部辺りまで行った時に、サバンナ的地域があるっぽいからそれをどうするかである。

 

まあ後で選択できる事だし着いてから決めよう。とりあえずはとっとと<勇者>達に見つからない場所へ。そういえばあいつら墓参り……じゃなかった俺達の弔いには行ったんだろうか?いや死んでないけども。

 

 

「うん?」

 

「何か見つけた?」

 

「うん、人攫い、人族の」

 

「殺っちゃえ」

 

 

さて、ここは異世界である。そう。基本的に俺達の世界とは違う場所である。

 

当然、数多くの異世界系小説にもあるように、この世界にも奴隷は居る。この世界の奴隷は主に二種類に分けられる。一つは、自分から望んで、もしくはどうしようもなくそうなっている者。もう片方は、それを望んでいないのに無理に、という者。

 

 

 

前者は、例えば、貧窮してそれ以外に生きていく道がない、あるいは家族を助けるためにいわば出稼ぎ労働者のような形態の者など。こちらは奴隷と言う名ではあるものの、かなり良い扱いを受けている。どちらかと言うと、召使い、と言った方が正しいかもしれない。ただし、基本的にはお金で買われるので、区分としては奴隷になる。

 

 

後者は、例えば俺の後ろにある路地で10歳の狼人族の女の子を袋に詰め込んで逃げようとしている人族の人攫い達のような者の手にかかり、裏市場に出されるような者。こちらは確実に望んでいない。大抵の場合はどっかの貴族の性奴隷になるのがほとんど。たまに物好きなというか正義感にあふれるというかみたいな奴に買ってもらってまともな暮らしを送ったり故郷に戻れたりするのも居るが。そんなケースは稀だ。

 

 

 

「<雷電(ライトニング)>」

 

 

無論そんな所業を<勇者>たる俺が見逃すわけもなく、電撃で瞬殺。いや別に<勇者>関係ないけど

 

 

「警備隊の詰所どこだっけ?」

 

 

袋の口を縛っていたひもを解き、そのひもで人攫いの手足を縛る。その間に理沙が中に放り込まれていた少女を助け出す。気を失っている……というより気絶させられているようだ。大したけがはなさそうだ。無事で何より。

 

 




以上です。


主人公がなぜ、魔物由来の亜人族のことを聞いて驚いたか。知らなかったからです。1000年前には存在しませんでした。さくらが知っていたのは、召喚直後の講義を<勇者>と共に受けていたからですね。


それでは感想質問批評など、お待ちしております。


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第四十一話  通達

本編の更新になります。

前話で、亜人族領入国早々に、人拐いを見つけ、取り敢えずビリビリさせてみた主人公達。今話ではどんな面倒に巻き込まれるのか……(つまり巻き込まれるのは確定事項)
『──こちら<システム>です』
ファッ?!






それでは、第四十一話、どうぞ!


 

 

 

「もういっそ門番のところが早いかもね。<治癒(ヒール)>。ここ出るついでに引き渡した方が良いと思うわ」

 

「そうか。じゃあコレは俺が持っていくか」

 

 

未だピクピクしてる人攫い二人を肩に抱える。

 

 

「そっちはお願い」

 

「はいはい」

 

 

少女の方はセレスに抱えてもらった。

 

と、そこである事に気づいた。

 

 

「ここ出る前に偽装変えておいた方が良いんじゃね?」

 

「あ」

 

「……そうだった、私としたことが……この国じゃ人族は、単独パーティーでは動けないんだった」

 

「最低人数は?」

 

「二十人以上」

 

「どっか良い物陰……ああ、さっきの路地でいいじゃん」

 

 

今しがた出てきたばかりの路地へ逆戻り。

 

 

「<幻影>」

 

 

外から見られないように、魔法で壁があるように見せかけ、路地の幅を狭くする。

 

 

「さて、どうする?」

 

「適当で良いんじゃない?」

 

「じゃあ狼で」

 

「なんで……ああ、了解」

 

 

 

理由は簡単。目の前に狼人族の少女が居るから。

 

 

<偽装腕輪>の使い方は簡単。まず腕に付ける。今回は最初から付けていたので一度取り外し付けなおす。次に、魔力を込めながら、どんな姿になりたいかを強く念じる。以上終わり。

 

 

今回は、獣人……狼人族になるだけなので、耳と尾を生やし、髪と目の色を弄るだけ。

 

 

顔は変えない。本来と違う顔で行動するのは短時間ならともかく、長時間は厳しい。

 

そして冒険者証の情報を改竄する。

 

これで俺達全員が完全に、狼人族の少年少女になった。

では改めて、西大陸南端を目指す旅、後半戦スタートである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──協力感謝いたします。良い旅を」

 

 

 

人攫いと少女を届けると、しばらく待機をお願いされた。

まあ共犯を疑われなかったのは、偽装のお陰だろう。これで人族だったらワンチャン共犯で警備隊か衛兵に連れていかれていた可能性もあった。

 

気付いた俺ナイス。

 

まあなんだかんだで、少女と少女の両親と門番さんから感謝の言葉をいただいた。謝礼も、と言われたが、基本善意なのでお断りしておいた。

 

感謝の言葉だけで十分です。あと少女の笑顔。ほら可愛い子の笑顔って見れるだけでお得感あるじゃんか。

 

 

「……ロリコン?」

 

「誰がだ」

 

 

とまあ、そんな感じで亜人族領スロスフィルを出た。そしてその日のうちに旧街道を八九式で爆走し始めた。運転は俺、そしてなんと理沙が交替役である。

 

 

何でも前世入院中は暇だったのでゲームとネット小説が唯一の楽しみだったため、大抵のタイプのゲームはやり尽くしたとのこと。なるほど、確かに<防衛装備召喚>で呼び出した車両の操作はスマホゲームに近い、というかまんまである。

 

 

時々エンジン音だったりを聞きつけるのか魔物がやって来るが、機関砲で瞬殺して経験値になる。移動してるだけでレベリングとか最高かよ。

 

 

基本的に旧街道周辺は人が通らないせいか、高レベルの魔物が多いようで、既にレベルは30を超えている。ただ、延々と使い続けているはずの<防衛装備召喚>、ひいては<防衛魔法>のレベルが6から全然動かないのが不気味だ。そういえば<絶対障壁>と<神楯>も……ってそれは当たり前か、使ってないし<防衛魔法>もレベルアップしてないし。

 

 

そう言えば<勇者>連中のレベルっていくらなんだろ……前戦った時はレベル4くらいだった。話し合いに行った時は5だったか?

 

 

召喚されて一か月少々でレベル5というのは遅いように思われるかもしれない。いやこの世界で言えば十分凄い上がり方だけど、俺がほぼ同期間で20超えているから。

 

 

<勇者>はレベル5にならないと<取得経験値増加>の補正が入らないことになっている。<防衛者>?最初から付いてる。まあこれは<勇者>と<防衛者>の役割の違いによるものだ。<防衛者>は促成栽培じゃないと意味が無いが、<勇者>はそれだと話にならない。確実に戦闘技術が優れている<魔王>を倒さなきゃいけないからね、レベルだけ上げても意味が無い。逆に<防衛者>はレベル上げないと話にならない。

 

 

さて、前回接触時にはレベル5、つまり補正が付き始めたはず。あれから三週間が経過した今、どれくらい上がっているだろうか?俺の時を参考にすればおおよそ25を超えているはずだが、今回は毎週のように魔族が襲来していたわけでもないだろうし……よくて20かな?三週間で15上がるとか化け物かよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《全<システム>管理者へ通達》

 

《<人魔大戦プログラム>フェイズ2、()()()()()()()()()()

 

《今代<魔王>は、アストリア・リスフィリア・ラトウィトス》

 

《種族:魔族、年齢:8、性別:女性、前職業:魔導師》

 

《フェイズ3へ移行》

 

《フェイズ3の開始は3日後正午》

 

《以上、通達完了》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……珍しく<勇者>の事を考えたせいか、面倒事が舞い降りてきた。

 

 

「ケイ」

 

 

さくらと理沙にも聞こえていたようだ。

 

 

「わかってる、何か色々とおかしい」

 

「なぜ8歳の女の子が<魔王>に……」

 

「違うそこじゃない」

 

「え?違うの?」

 

 

いやそれも十分おかしいのだが。

 

と言うわけで<システム>関連についてはさっぱりであろう理沙と、ついでに何もわかっていないセレスに対し説明を開始する。

 

 

 

 

 

<人魔大戦プログラム>は、<魔王>の誕生、魔族の襲撃、それに対抗するための<勇者召喚>から始まる、人族亜人族VS魔族の大戦争の一連の流れの事を言う。

 

 

 

()()()()()():<魔王>の指定

 

第二フェイズ:魔族による人族領への侵攻

 

第三フェイズ:<勇者召喚>

 

第四フェイズ:<防衛者>による防衛戦の開始

 

第五フェイズ:<勇者>を先頭に立てた人族の反撃

 

第六フェイズ:魔族軍と人族軍の決戦

 

第七フェイズ:<魔王>と<勇者>の対決

 

第八フェイズ:戦後処理

 

第九フェイズ:<召喚者>の回収。

 

 

 

 

以上九つのフェイズからなるプログラム。<システム>監督・監修の作品。

 

 

 

「へー……ん?」

 

「気付いたか」

 

「順番違くない?」

 

「正解」

 

 

<魔王>の指定は第一フェイズ。なのに通達では第二フェイズ。まあ俺達が知っている情報で埋めるとするならば。

 

 

「……<勇者召喚>が第一フェイズなの?じゃああの時既に始まっていたと」

 

「そうだね、結果論にはなるけど強制送還しなくて良かったな」

 

「……て事は、第一が<勇者召喚>で第二が<魔王>指定、じゃあ第三は元の第二フェイズ?」

 

「そうだね、魔族軍による襲……撃……あ」

 

「どうしたの?」

 

「第四フェイズどうしよう?」

 

「あ」

 

 

 

第四フェイズ:()()()()()による防衛戦

 

 

 

 

<防衛者>による防衛戦。もう認識上死んでるんだけど、<防衛者>。

 

 

 

 

 

 




仕事の面倒事の責任を全て勇者に擦り付ける世界の管理者が居るらしいです。



と、まあ以上です。

それでは質問批評感想等お待ちしております。


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第四十二話  ただいま人族領

前回、面倒事が舞い込んできたらしい主人公達。さてさてどうするんでしょうね。







それでは第四十二話、どうぞ!


 

 

 

 

 

「……どうしよう。魔族侵攻の手抜いてくれないかな」

 

 

「<防衛者>が死んでるなら、<精神干渉>して軽くなったかもしれないけど、アンタ生きてるし、防衛戦に必要なレベルには達してるし、スキルも必要なスキルは大体揃っているはずよ」

 

 

 

防衛戦の最初の頃は、基本的に<勇者>とともに行動しその拠点や仲間を護るのを主目的とするため、最悪<絶対障壁(バリア)>と<周辺警戒(レーダーマップ)>、<神楯(イージス)>があれば大丈夫、<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>もあれば言う事なし、と言ったところ。

 

 

後半、第五フェイズ辺りになるとそれだけではきつくなるが。

 

 

現在の俺は流石に<地雷(ランドマイン)>や<要塞(フォートレス)>などは保有していないが、<絶対障壁><周辺警戒><警戒地点設置(レーダーサイト)><神楯><防衛装備召喚>はいずれも習得済み。第四フェイズ参加の必須スキルは揃っている。

 

 

「……どうしよう」

 

「……いっそ<初代勇者>として<防衛者>の代理として防衛すればいいんじゃない?最悪第五フェイズの防衛は無くても良いのよ、<防衛者>を殺した人族の自業自得なんだから」

 

 

 

第四フェイズでは<勇者>達や、その拠点の防衛が主任務。<勇者>パーティーが欠けるのは、対<魔王>戦に影響が無いとは言い切れないため、防衛は必須。

 

しかし、第五フェイズでの<防衛者>の役割は、<勇者>が魔族領へ反攻している間の人族領の防衛。<勇者>は関係無い。ならばわざわざ人族を庇う必要もないだろう。

 

 

 

「……他の国の人達にそうされたわけじゃないのに?」

 

「ん?」

 

「その、人族の自業自得って話」

 

「そうだな。まあ、簡単に言うなら、俺達がここで生きてしゃべっているのは、いわばボーナスみたいなもんだ。本来の<防衛者><支援者>には再生機構なんて無いからな、殺されたらそれでおしまい。だから第四フェイズに参加するってだけでも本来は出血大サービスなんだが」

 

 

理沙の問い掛けももっともではあるんだがな。

 

他の国の人族がどうか、とか本来なら考えることが出来るわけがないんだよね。

 

 

本来今代の<防衛者><支援者>は既に死んでいる。たまたま、<防衛者>が元<勇者>で<支援者>が元<聖女>だったから命拾いできただけだ。だから本来ならば、人族、というか<勇者>は第四フェイズも<防衛者>の支援無しでやってもらなわなくてはならない。それが彼等の、この世界の人族の選択の結果だから。

 

 

俺達()を殺す、という選択の結果。

 

 

人の生死にやり直しは効かない。それが誰かの独断であり、暴走の末の凶行であったとしても、被害者が死んだ認識のこの場合過程に意味などない。<防衛者>と<支援者>が人族によって殺された。その結果だけが全て。

 

 

無論、<防衛者>の支援が無いからと言って<勇者>が負けることはまずない。パーティーメンバーが何人か欠けるかもしれないが。ただそれだと向こうに帰った時どうなるか分からないし、時間がかかる。俺達としてもそれは望むところではない。だから手伝おうというわけだ。

 

 

「あ、そっか、そういえば殺されてるんだっけ……過程は問題じゃない、結果だけが全て、か……」

 

 

納得してくれて何よりだ。

 

俺達がこうやって生きているから、意味を掴みにくいかもしれないが、<防衛者>と<支援者>は()()()()()()()

 

 

 

「となると、あとは<勇者>連中にどう言うかってのと、どうやって王国もしくは公国まで行くかだな」

 

 

 

次会うときは戦場で敵同士だなとか言った記憶があるんだけど。

 

 

 

「<勇者>はほら、それが新たな任務だからって言っとけば?どうせそこまで長く続かないでしょう?」

 

「……どう、なんだろうかね。実際第四と第五の境目って大分曖昧だし……まあ出来るだけ早めに抜けるようにはしたいね」

 

「最悪、王国以外は、騎士団長とかに<防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)>した方が良いかもしれない」

 

「<神楯>だけでも十分ではある、か……」

 

 

 

魔力消費が少なく、防御対象に向かう全ての攻撃を自動で迎撃してくれる最強クラスの楯。

 

 

 

「王国だけは任せられる人間が居ないから、ケイが出張るしかないけど」

 

 

 

あの国で安心して任せられそうなのは、一般市民か王女殿下だ。

 

だがどちらに渡してもそれを指揮するのは宰相か国王になってしまう。無論この付与は付与者の権限でいつでも引き揚げさせることが出来るので、悪用されそうだったら引き揚げるだけってのも可能だが。

 

問題なのは、内容を少しでも知られてしまうという事だ。知ったからどう、ってことも無いが、念には念を入れ、伏せて置けるカードは多く準備するべきだろう。

 

 

 

「どうやって行くか……んーちょっと裏技使うしかないかなあ……」

 

「裏技?」

 

「<システム>にアクセスして、一番最近、<犠牲>の<再生プログラム>が稼働した位置座標を特定、<勇者>死亡の特定事例に対し、一番近い<管理者>に急行命令を出してもらう形で、<システム>管轄領域内の<空間門(ゲート)>を利用して『蜘蛛の巣』に移動」

 

 

 

説明しながら、操作を開始する。

 

マッチポンプ……じゃない、なんというか……白々しい芝居だが、<システム>の手続規定は遵守しているので、許可は出る。

 

 

 

 

「……良く分からないけど、取り敢えず向こうに行くの?」

 

 

 

セレスには分かりにくかったか。

 

 

 

「そうそう。だから、俺の<防衛装備召喚>を、さくらに預ける。その中に<転移点記録>を残せばこのまま進んでも帰ってくるときに問題はないはずだ」

 

 

 

公国に行った時と同様の手法を使う。今回は少々長丁場になりそうだ。夜襲が無いとは確定できないから、当然向こうで宿泊することになるだろう。

 

 

 

別にこっちの女三人旅を心配しているわけじゃない。元近衛騎士(セレス)一人に雷魔導持ち(理沙)が一人、そしてすべてをカバーできる<聖女>(さくら)。前衛後衛+αの編成に現代兵器が加わる。俺の<防衛業務委託>は、八九式固定だが、それでもまだ春馬さんの付与が残る。

 

 

 

つまり<防衛装備召喚>レベル10が使える。なんてこった。俺より強いじゃないか。つまり心配する必要は無い……はずだがどうも嫌な予感がする。というかこれフラグじゃね?

 

 

 

「出発は早い方が良いか。もう行くわ……念のため俺が持ってるスキル全部全員に委託しとくよ。嫌な予感しかしない」

 

「ケイがそう言うなら相当面倒事ね。まあ貰っておくに越したことはないわ、ありがとう」

 

「私にも?」

 

「セレスにも理沙にも渡す。セレスは……使って<神楯>くらいだろうが……」

 

 

セレスの魔力量は一般的な人族の平均より少し多いくらいか。<神楯>は基本的にはパッシヴスキルで効率も良いから問題は無い。

 

理沙の魔力量は竜種並みだ。多分<防衛装備召喚>も使えるだろう。

 

……これで勝てない相手となると竜種を引っ張り出すか、<孤独>とか本来の装備の俺か、本来の装備の朱梨先輩とかじゃないと勝てない。今の俺でギリギリくらいだろう。

そんな事を考えながら、三人全員に付与を掛けた。

 

 

 

 

「何かあったら<念話>で伝えるか、<転移>使って逃げろ」

 

 

 

 

<勇者>と<ヴァルキュリオン>なら間違いなく優先順位はこちら。<勇者>が欠けようと人族がいずれ救われるのは既定路線だしな。

 

 

 

「いまさらだけど<支援者>は?」

 

「……それもアリだが、こっちの戦力がガタ落ちだし、直で<念話>繋げられるのはお前だけだからできればこっちにいて欲しい」

 

 

 

まあ後は単純にこいつらを危険な目・面倒な目に合わせるわけにいかないってのがあるんだが。無論さくらも含め、だ。

 

 

 

正体バレは無いとは思うが、まあ万一に備えてってこった。

 

 

 

「……わかったわ。<防衛業務委託・防衛装備召喚>」

 

 

 

さくらが装甲戦闘車を展開。後部ドアから乗車。

 

 

 

「<転移点記録>。……行ってきます。<空間門>」

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただいま、人族領。

 

 




以上です。

主人公も大変ですねえ……



それでは質問批評感想等お待ちしております。


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閑話  彼女たちのある夜

久々に感想を頂いたので狂喜乱舞しまして閑話仕上げました。

そろそろ催促されるかも知れなかったヒロイン(偽)サイドのお話です。どうぞ!


 

 

 

 

セラシル帝国に入国し、啓斗が<防衛者>代理として<勇者>に同行するために、さくら・セレス・理沙と別れた夜の事。

 

 

 

 

 

 

「さて、どうする?」

 

「どうするってのは?」

 

「このあと、このまま徹夜で走り続けるか、今日はこのくらいにしてゆっくり休むかの二択。あ、ただ徹夜で進む場合は途中で理沙に代わってもらうわよ」

 

「ゆっくり休むでお願いします」

 

「いやどっちにしろ明日からは交代で運転する事になるんだけど……」

 

「なら尚の事休むことを希望します!」

 

「なんで敬語……まあいっか。セレスもそれで構わない?」

 

「はい。ゆっくり休むという事はあのテントで休めるの?」

 

「あーそっか、セレスは一回使ったんだっけか。そうよ」

 

「やった!」

 

「あのテントって?」

 

「見てからのお楽しみ。じゃ早速準備ね。さてどこに入れたかしら」

 

 

 

<空間収納>の中を探る。

 

 

 

「あったあった」

 

 

 

そういって彼女が取り出したのは、一枚の布切れ。かなり大きい。取り出すというよりは引っ張り出すという感じだ。

 

 

 

「あ、ごめん理沙、そっち持っといて。私が動くから」

 

 

 

そう言って動くことでズルズルと<空間収納>から引き出された布は、最終的におおよそ十メートル四方サイズになった。

 

 

 

「んで、<解放(リリース)>」

 

 

 

次の瞬間、角の部分と、辺の中点、そして中央に魔法陣が展開され、柱が立ち、直後には家が建っていた。

 

 

 

「……え?」

 

「凄いでしょ? 千年前、当時最高クラスの魔導師と<勇者>組で作り上げた持ち運びテント」

 

 

 

才能と能力の無駄遣いも良い所である。なお啓斗もシュレスタもひっそりと感じていたが口には出さなかった。快適な旅が出来るならそれに越したことは無いからだ。

 

そしてこの道具の存在は、当時の彼等がどれだけこの世界に順応し、魔法と言う物を理解していたかを示していた。

 

 

 

「車庫あるよ。馬車用だけど大きめに作ったから普通の車も入る」

 

「えぇ……」

 

「魔道具付けてるから洗濯機、冷蔵庫、水洗トイレ、調理場、お風呂もある。全体に設置型魔法掛けてあるからエアコン付きと同義。それから……ああ、そうそう八人分の寝室もあるよ。電気じゃないけど照明もある」

 

 

 

ぶっちゃけ多分今まで泊まった宿屋より良い。持ち運び式のテントとは一体何だったのか。理沙の頭の中には疑問符が溢れかえっていた。

 

 

 

「あんまり使った事無いけどね。何せ完成したのは魔王戦終わって先輩との戦闘の前だったから。<管理者>として動く時に時々使ったくらいかな」

 

 

 

勿体ない、という一念が理沙の頭の中を駆け巡った。

 

 

 

「ちなみにこれ発案者は?」

 

「春馬さん。あー、先代の<防衛者>。当時大学一年の彼女持ち。理由は水洗トイレが欲しかった、ってのと……あれ、それしか浮かんでこない。ケイに聞けば多分全部分かると思うけど。アイツ変な事覚えてる事多いから」

 

 

 

ちなみにほかの理由は、畳の間で寝たい、と、日本の生活が懐かしくなった、である。

 

 

 

「なるほどね……」

 

「あ、忘れるところだった。最後にもう一個。<警報(アラーム)><警報・連動(コネクト)魔法封印(マジックシール)><魔法封印(マジックシール)連続発動(オートリピート)神威(オーソリティー)>」

 

 

 

<神威>は<神光>の下位互換的なスキルで、個人でも発動できる。威力はかなり下がるが、この場合連発が可能なので大抵の魔物は滅ぼせる。つまり魔物に襲われても自動で粉砕できる、持ち運び式テントの完成。

 

 

 

「これで大丈夫。後は車を突っ込んでおしまい。見た目は狭いけど<空間拡張>かけてあるから中は広いよ」

 

 

 

さらっと言ったがそもそもこの世界の現在において、空間魔法を扱える者は多くない、というかぶっちゃけ少ない。それも使えて<空間収納>が限界であり、<空間拡張(イクステンドスペース)>を使える人間はいない。現在ではそれらは伝説級の魔法とされ、それが付与された魔道具──通称<魔法袋(マジックバッグ)>──は、高値で取引されている。

 

 

 

つまり理沙の前にある巨大テント(仮)は、伝説級の魔法の結晶体みたいな物。まあそれを言うと目の前で装甲車を車庫入れしている少女は生ける伝説そのものだが。

 

 

 

「ほら、何アホ面晒してボーっとしてんの。入るわよ」

 

 

 

さくらに肩を叩かれて、理沙はようやく自分が延々とテントを見上げていた事に気づいた。

 

 

 

「あ、アホ面って……」

 

「口ぽかんと開けて上を見てる顔をそれ以外にどう表現しなさいって言うの」

 

 

 

伝説の秘宝とも言える代物を見せられて驚くなというのが無理な相談だろう。

 

とはいえ、驚いてばかりでは始まらない。とりあえず中に入る事にした。

 

その後ろで野良湧きした一体の<亡霊(ゴースト)>が一瞬で消し飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

取り敢えず入るとそこにはリビングがあった。大きなソファがいくつか設置され、端の方には畳の間が見える。奥の方にはキッチンと八人掛けのテーブル。

 

 

 

「あ、そこで靴脱いで」

 

 

 

靴箱もあった。発案<防衛者>で制作<勇者>パーティーともなればやはり和式であったらしい。

 

 

 

「テレビもゲームもスマホも漫画も何も無いけど、まあくつろげる空間ではあるわ。今日はケイも居ないしね」

 

 

 

そう言いながらさくらは既にソファの一つに寝っ転がっていた。セレスも苦笑いしながら別のソファでくつろいでいる。

 

 

 

「ケイが居てもあまり変わらなかったじゃない」

 

「私はね。理沙は流石にケイが居たらそこまでくつろげないでしょ?」

 

「それは確かに」

 

「私は別に気にしないよ?」

 

「そうなの?」

 

「うん」

 

「まあ実際に気にするのはケイの方でしょうね。あ、お風呂はそこの部屋よ」

 

 

 

お風呂と書かれたプレートが下がった扉を指す。他の扉は、と見てみると、啓斗、さくら、春馬、陽菜乃、そしてトイレと書かれたプレートが下がった扉と、何も掛かっていない扉が四つ。

 

 

 

「個室使うなら名札が掛かってない場所か私の部屋使って良いわ。私は、今日はここで寝るから。あ、着替えは付属してないはずだから、自分の使ってね。タオルはあるはずだけど」

 

「はーい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

「凄く良かったけど、今日からは普通のテントにしよう、じゃないと多分次入って籠り始めたら出て来られなくなるから……」

 

「あと日本が思い出されるから、かな?」

 

「! 何で分かって……」

 

「そういう風に作られたテントだから、よ。これは。見たでしょ? これはまあ娯楽系はともかくとしても、日本でのと同じような生活が出来るくらいの設備がある。多分そう設計してあるの。実際私も初めて使った時はちょっとホームシックになりかけたから」

 

 

 

<勇者>パーティー全員の知識と魔力、のちに加わった<魔王>まで協力すれば、根本的に不可能なこと以外のほとんどを再現できた。ほとんど日本と同じ生活が出来るくらいに。説明されてないが、個室もだいぶ広く、個人個人自由に作ってあり、さくらと啓斗の部屋は畳の間も存在する。それはちょうど彼等が召喚される前に元の世界で暮らしていた家と同じような構造であった。

 

 

 

起きた時に母親を呼び、ここが異世界であり帰れるかの確信がない事を思い出した時に泣いた事は、彼女と陽菜乃の一生の秘密である、とさくらは思っている。まあ彼女がそう思っているだけで実際には心配した陽菜乃は春馬や啓斗にも伝えていたのだが。

 

 

 

「だから、あまり気にしなくて大丈夫よ。明日から普通のテントにするから。あのテントの困った点はもう一つあるの」

 

「困った点?」

 

「便利過ぎて普通の宿屋に泊まれなくなるのよ。一応今の私達はただのCランク冒険者。多分大陸渡るときは街に泊まらざるを得ない。お金もあまりないし、そこまでグレードの高い宿屋に泊まれるわけじゃないから」

 

「……そうだね、確かにあれに慣れたら後で困っちゃうね」

 

「でしょ?」

 

 

 

おかしそうにクスクス笑う二人の少女の間には、先ほどまであった、張り詰めた重い空気などとっくに消え去っていた。

 

 




以上です。

感想批評質問などお待ちしております。

【予告】多分数日後にこんなほんわかしてない閑話ぶん投げると思います。


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第二章  初代勇者の防衛戦
第四十三話  第二回防衛戦の幕開け


本日は珍しく、一日に二話連投です。

前話をお読みでない場合はそちらを先にお読みください。


それでは第四十三話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

シルファイド王国王都から北東へ、二時間ほど馬車を走らせたところに、大きな森がある。ノースファイド大森林と言う名称だが、『蜘蛛の巣』という通称の方が多く知られているとのこと。そこは、ギガントポイズンスパイダーと呼ばれる、蜘蛛型の特殊指定魔物を頂点とした、昆虫型あるいは蟲型と呼ばれる魔物の巣窟であった。一か月半ほど前に、そのギガントポイズンスパイダーは討伐したが。

 

 

 

 

森の奥にある、少々開けた場所。俺とさくらが一度殺された場所だ。<勇者再生プログラム>が発動した場所。こうなると殺されたことにも意味があったようだ。

 

 

 

「とりあえずやるべきは顔の変更だな」

 

 

 

今回、常に兜を被ったままではいられないだろう。なら顔を変えるとして……どんな顔が良いかな。元の顔から少し弄るとして……そうだ春馬さんの顔にしよう。あの人もイケメンだから<勇者>に合うと思うし、何より一番想像しやすいからな。春馬さんの顔を少しだけ若返らせる。

 

 

 

「<反射(リフレクト)>……こんなものかなあ」

 

 

 

魔力で鏡を作って微調整する。あとは冒険者証を再び人族へ。最後に声も少し弄って偽装完了。

 

 

 

「さて、篠原の位置は……良し、王都だ。じゃあこっから王都へ行けばいいんだが……」

 

 

 

 

移動手段はある。足だ。人数的な問題から、俺は<勇者>という名の、魔法と武器の両方を扱う完全なオールラウンダーとなる事を強いられたため、<回復魔法>も使えるから、疲労は考慮しなくていい。なら雷属性の高速移動魔法<雷霆(ケラウノス)>とかが使えるので、馬車よりは早く着くだろう。

 

 

問題はこの森を抜ける方法である。俺の行動は大分イレギュラーなので、できれば魔物とはいえ討伐せずに済ませたい。ちょうどこの時期なら次のこの森の主を決めようとしているだろうしな。ならばとれる方法は。

 

 

「<三叉水槍(アクア・トライデント)><誘導弾(ホーミング)雷球(サンダーボール)>」

 

 

<三叉水槍>で、前方の植物を刈り取り、魔物は雷属性の<誘導弾>で麻痺状態へ。側面・後方から来る魔物も雷属性の<誘導弾>で同じく麻痺状態へ。

 

 

 

「<雷霆>」

 

 

 

一気に加速する。上空から見たら、何か森の奥から王都へ向けて、何かが射出されたように見えるかもしれない。これに重ね掛けを行う。

 

 

 

「<噴流(ジェット)>」

 

 

 

 

風属性高速移動魔法……になるのだろうか?空気を圧縮して任意の方向に噴き出す。当然攻撃や防御にも使える……というかそっちが本来の用途だったような。

 

 

<雷霆>は、レールガンのような物だと思われる。魔力の動きが直接見えるわけじゃないから確証は取れないが。当然、放たれたらそれで終わり。地面から離れてやや浮いているので、リニアモーターカー的機構も付いているのかもしれないが、多分推進力は無い。

 

そのままだと、いずれ空気抵抗で減速してしまうので、<噴流>を後ろ向きに使用。角度を調節しながら王都へ。

 

空気抵抗がキツいが、まあこれくらいは許容範囲だろう。とっとと<勇者>と合流せねばならん。

 

 

 

「もう一つ──<噴流>!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──冒険者の方、ですか」

 

「はい、そうです」

 

「冒険者証は?」

 

「これです」

 

「Cランク、苗字なし……ケイさん、ですか。はい、ありがとうございます」

 

 

 

随分簡単に王都に入れた。さて、これからどうするべきか。最初は馬鹿正直に<初代勇者>として突入することを考えていたが、理由を説明できないので止めた。

 

 

となると、魔族による襲撃が始まってからが良いだろう。それからなら、新たな任務という点でも言い訳が成り立つ。何で来たのって聞かれて、さすがに、全部<システム>がコントロールしてるから知ってるんだが魔族の襲撃があるんだ、とか言えないしな。

 

 

一番良いのは、何かこう、ピンチの時に颯爽と入る事。助けてもらった負い目であまり探られたり変に扱われたりはしないだろうしな。

 

 

それまではのんびり過ごすとしよう。魔族が攻めてきたらすぐに分かるさ。

 

 

 

 

王都に到着してから二日が経った。さて、通達が正しければ──正しくないわけがないのだが──今日の正午に魔族が襲来する。

 

 

 

その前に準備はしなくては。まず<初代勇者>としての装備。今回<聖鎧(シンファギス)>に関しては直前に展開するのでまだ。次に武装。まずは、

 

 

 

「<防衛装備召喚>……これでいいかな」

 

 

 

取り敢えず、腰元に拳銃を召喚。自衛隊のではなく、ニューナンブM60と呼ばれる、警察の装備。警察が発砲するのって、やむをえない場合だけだよねってことで、侵略用途じゃないから召喚できた。

 

 

 

それと<勇者>の基本装備。

 

 

 

「<犠牲>は、あるな。あと……『勇者は永久に孤独なりて、世界に平穏をもたらす者なり』……で合ってたっけ?」

 

 

 

詠唱直後に右腰に何かがぶら下がる。

 

 

 

「合ってた合ってた。神剣<孤独(アイソレータ)>」

 

 

 

基本的に<勇者>専用の武器は最大で3つである。<勇者>であるところの所以たる<聖剣>、俺が持ってるような<聖鎧>、そして一定の試練をクリアすることで神から授かる<神剣>のような神授武具。

 

 

 

と言っても確実にあるわけではないようだ。朱梨先輩は<聖鎧>を持っていなかったし、今回だって始まりがイレギュラーすぎる。時期的には丁度良いが、<神剣>の準備はされているのだろうか?

 

 

 

用意されてそうだな、アイツが使うかとかそもそも手に入れられるかは別として。

 

 

 

「では出るか」

 

 

 

時刻は……まあおおよそ午前十一時くらいか。さて、配置はどこが良いだろう。王城の近くか、街の中か。王城の近くで良いか。

 

 

幸いにして、正門近くに広場があったので、そこで待機することにした。しかしなんとも平和である。これから戦争になるとは思えな……そういえば王国首脳の話によれば始まってるんだったか。

 

 

いやしかし何ともいい天気かつ平和な光景だ。

 

 

そんなふうにのんきに構えていたら、ウトウトしていたらしい。不意に響く爆音にはっと顔を上げる。と、王城の一部から煙が上がっていた。

 

 

始まったか。

 

 

じゃあ行きましょう、戦場へ。

 

 

取り敢えず開けっ放しの門から王城に入る。門番はどこかに駆り出されたらしい。<聖鎧>を展開しつつ、煙が上がった方向へ向かう。訓練場かな?近づくにつれ、怒号が聞こえてくる。

 

 

 

「<魔力感知><周辺警戒>」

 

 

 

一度殺されたせいで、王城の人族もかなり多くが赤く染まっている、非常に判りにくい。

 

 

見慣れたそこそこでかい黄色の反応が<勇者>、その次にでかい黄色が<魔導師>か?そいつらと向き合ってる赤いのが恐らく魔族……

 

 

ところで<勇者>は気づいているのだろうか、何か恐らく<勇者>パーティー後衛組が集まってると思しきところの至近に、魔族っぽい魔力反応(赤点)があるのを。

 

 

あの様子だと気付いてないな。近寄ってみないと分からないが前衛組はほとんど魔族との戦闘状態にあるようだ。魔族の数は全部合わせて……十人程か。前に居る奴だけでも魔力量的に太刀打ちできるのは<勇者>パーティーと騎士団長と魔導師団長くらいか。相変わらず嫌な編成してくるな<システム>。

 

 

 

 

このままだと後衛が殺られるな。それを防ぐのが<防衛者>。ならやってみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。



はい、第二回防衛戦、幕開けです。この防衛戦、少なくとも五回はあります、多分。魔族相手だけで、です。

基本その間、主人公二人は別行動なわけです。

女子三人旅の方は、多分閑話として時々出てくると思います。

それでは質問批評感想等お待ちしております。


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第四十四話  第二回・初代勇者の防衛戦

出た直後に人族領に戻る事になった啓斗。<防衛者>としての職務を果たすべく、王都へ。



なお第二回防衛戦は短いです。

それでは第四十四話、どうぞ!


 

 

 

 

「ユウト、深追いはするな!」

 

 

 

 

素早く後退した魔族に、追いすがろうとしたが、その言葉を聞き止めた。

 

 

 

「『聖なる癒しを彼の者に』<聖光>」

 

 

 

直後に自分の体が光で包まれる。治癒・回復の両方の効果を持つ魔法だ。

 

 

 

「どけぇ!」

 

 

 

右側で、1人魔族が吹き飛ぶ。桑原(くわはら)政義(まさよし)、<拳闘士>が殴り飛ばしたらしい。

 

 

視線を戻せば、再び接近を試みる魔族の姿が。<正義(ジャスティス)>を握りなおし、魔族に相対する。

 

 

現在、彼──<勇者>篠原(しのはら)勇人(ゆうと)を筆頭とする<召喚者>達は、突然襲撃してきた魔族と交戦状態にあった。

最初の方は、突然だったこともあり押されていたが、きちんとした陣を敷いてからは、安定して戦えるようになっていた。あとは目の前にいる魔族を倒せば良い。そう考えていた、のだろう。だが。

 

 

 

「──警戒が甘いぞ今代<勇者>」

 

「え?」

 

 

 

彼の後で金属音が響く。

 

 

 

「<絶対障壁(バリア)>、動くなよ。<孤独(アイソレータ)>!」

 

 

 

振り向くと、後ろで回復魔法や支援系の魔法をかけていたクラスメイトだけがいつの間にか青い透明な障壁で覆われている。その外側に二本の剣を両手に握った騎士が一人。言うまでもなく俺である。

 

 

神剣の特殊技能である、『既に放たれた全ての魔法の切断』も駆使して、人族に偽装していた魔族からの攻撃を全て完全に防ぐ。迎撃しきれなかった分も<絶対障壁>が完全に防御した。

 

 

これ以上攻撃されるのも面倒だな。

 

 

 

「悪いが死んでくれ」

 

 

 

ただ剣を振って首を落とす。多少HPだとか防御が人族より高いとは言え、所詮は普通の生命体なのだ。首を落とせば俗に言うクリティカルというか即死する。

 

 

さて。

 

 

 

 

「<勇者>、そちらの手助けは必要か?」

 

「……まさか、初代<勇者>なのか?」

 

「手助けは?」

 

「……いや、良い。優菜達をそのまま守っていてくれ」

 

「了解した」

 

 

 

手助けはいらないらしい。まあ、今の力量ならギリギリか?レベルは……ほう、20か。俺の想定上限まで到達しているのか。なら大丈夫だろう。

 

じゃあこいつらを守りながら、ゆっくり観戦するか。

 

剣を二本とも仕舞って腕組みをする。ついでにステータスを弄る。職業を<防衛者>に、そして名前も変える。さらに魔法も発動。

 

 

 

「<神楯(イージス)>」

 

 

 

後は何もしなくても自動で迎撃される。魔法ってすごい。

 

 

 

「……あの」

 

「何か?」

 

 

 

女子が近づいて来たけど、誰だっけ……えっと、あ、そうそう<回復術師>の荒山(あらやま)ひかりさんですね。何の用だろ。

 

 

 

「その、私達を助けに来てくれたんですか?」

 

「……今のところはそう思っていてくれて構わない。だが言っておくが、俺は代理に過ぎない」

 

「……代理?」

 

「そうだ、本来なら俺の代わりに、こうやって<勇者>達を守る、防衛してくれる奴が二人、居たはずだったんだがな。もう居ないが」

 

「……神崎君と内山さんですか?」

 

 

 

そう、俺だ。

 

って違う違う。なぜに個人名……いや、普通はそうか。そういえば俺、君付けなんだな。

 

 

 

「……誰だそれは。俺が言いたいのは<防衛者>と<支援者>だ」

 

「あ、そっか、知ってるわけないか……私がさっき言ったのが」

 

「お前達の世代の<防衛者>と<支援者>か」

 

「そう、です」

 

 

 

なおここまでの間、魔族から飛んでくる攻撃魔法も、更には直接剣で斬りかかっても全て迎撃されている。

 

 

 

「……しっかりやってくれよ、<勇者>」

 

 

 

誰ともなしにそう呟く。

 

 

 

「えっと、初代さんは、戦わないんですか?」

 

「俺の役割じゃないし手助けもいらないって言われたからな……<回復術師>、出番だぞ」

 

 

 

<剣聖>が負傷した。というかお前下がった方が良いぞ……<剣聖>は大戦後半にならないと活躍できないからな。

 

 

 

「あ。えっと……『神の癒しを彼の者に』<天光>」

 

 

 

<天光>か。光属性の……第七位階だっけな。レベルは……流石にまだ3か。

 

<無詠唱>はまだ持ってないんだな。持ってるから何って程でもないが……今代は人数多いし大丈夫だろ。

 

あ、そうだ。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

<勇者>前衛組に<絶対障壁>を掛ける。と言っても、目に見える物でも触れるわけでもないが。防御対象を精神干渉系の魔法に絞ってあるからな。

 

洗脳闇堕ちダメ絶対。昨今のネット小説は割と敵方に回るのはよくあるけど、この世界でそんな事は許しません。

 

 

 

「暇だな」

 

 

 

さっきから張ってる全ての障壁に、魔法が当たっては砕け当たっては砕けを繰り返しているため、定期的に障壁へ魔力供給をしているが、それだけだ。

 

何かやる事は……ああ、そうそう、聞いてみたいことがあったんだった。

 

 

 

「<回復術師>、いくつか聞きたいことがある」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「この前……俺は<勇者>を殺したな」

 

「…………はい」

 

 

 

俺の言葉に、一度目を大きく見開いた。

 

 

 

「その時、<勇者>は生き返ったな?多分二時間か二時間半くらいで」

 

「はい」

 

「その事について、お前達はどう思った?」

 

「どう、って」

 

「何でもいい、感じた事そのままだ。ちなみに俺が<勇者>だった時にさk……<聖女>に聞いたときは、真顔で『不気味だった』と言われた」

 

「……すごい、と思いました。流石<勇者>だな、と」

 

「……ふむ、不気味だとかは思わなかったか」

 

「全く」

 

「……復活する瞬間は見ていたのか?」

 

「いいえ、別室です」

 

 

 

あれか、戦場から死体回収してすぐ別室か。じゃあただ単に死んだ実感が無かっただけか?

 

 

 

「そうか」

 

 

 

しかししつこいねえ魔族も……って言うか前衛組が殺せてないだけなんだが。火力は十分だと思うんだけどなあ……あ、また止めを刺せるとこ見逃してる。実戦経験が足りないのかなあ。魔物と魔族じゃやっぱり動きが違うからねえ。

 

 

自分がケガするのある程度厭わずに突っ込めばいつでも止めを刺せるのに……あ、また。

 

 

 

「……何がしたいんだアイツは」

 

 

 

<勇者>こと篠原の動きは、どう見ても相手を本気で殺しにかかってはいない。負傷せずとも止めを刺せるところを見逃した。レベル的には拮抗していて、ステータスでは完全に凌駕している、それはアイツも分かっているはずだ。動きは若干ぎこちないが、それでも相手に負わせている手傷は篠原の方が多い。

 

 

にしても、あの動きはどこかで……ああ、成程。

 

 

見た事あるのはそりゃそうだ。前回召喚時に初めて朱梨先輩と対戦した時に我が身に受け、今回はついこの間に自分でやったばかりだからな。

 

 

何を考えているか分かった。あれは相手を殺す動きではない。狙っているのは武器破壊と魔力の枯渇、疲労あたりだろうか。

 

アイツが狙っているのは相手の無力化だ。

 

だが……

 

 

 

 

「冗談じゃない、ふざけているのか」

 

「何がです?」

 

「そこの<勇者>がやっていることだ。何を思ってか知らんが、魔族を無力化しようとしているように見える」

 

「無力化?」

 

「武器を破壊し、魔力体力をほとんど枯渇させ、戦えないようにしようとしている。そこまでアイツと魔族との間に戦闘力の差はない。今のアイツは火力でゴリ押ししているだけだ。今はまだ、殺しにかかるしかないというのに……」

 

 

 

介入したいが介入できないのがもどかしい。<防衛者>として使えるのは、専用の固有魔法か、<孤独>と<犠牲>のみ。攻撃系スキルは使用禁止。

 

以上が、俺が<防衛者>代理として活動する時用に定めたルール。

 

 

 

「初代さんが介入は出来ませんか?」

 

「手助けは断られた。<防衛者>の代理である以上、<防衛者>に出来ないことはすべきではないしな」

 

 

 

一応遠距離……というか、この距離でも魔族を殺そうと思えば殺せる。そのための札は持ってる。ただこれを使った場合の<勇者>パーティーの反応は確実に俺、もしくは<システム>にとっても悪い方向に行く。

 

 

 

「声をかけるだけにとどめるか。<拡声>──おい<勇者>、何をしたいかは分かるが、殺せ。今のお前じゃ無理だ!」

 

 

 

ややあって、篠原の動きが変わった……ような気がした。直後に確信に変わる。

 

 

 

「……良し」

 

 

 

 

敵が見せた隙にすかさず付け込んでそのまま斬り殺していた。その後も他の前衛組と協力しながら、全ての魔族を殺しきった。

 

 

 




以上です。

主人公が伏せてた札、は簡単ですね、拳銃です。




それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第四十五話  三度目の会談

昨日投稿するつもりだったんですが、投稿する前に寝落ちしてました。


<防衛者>代理として今回の大戦に介入する事にした主人公。今代<勇者>組とは、三度目の邂逅。




それでは第四十五話、どうぞ!


 

 

 

 

「……お疲れ様、今代」

 

「やはり初代<勇者>だったか……何をしに?」

 

「お前達の仲間の代理だ。一時的にだが<防衛者>となった。全く、神も面倒な事を押し付けるものだ」

 

「<防衛者>の代理?」

 

「疑うなら<鑑定>を掛けてみろ」

 

 

既に職業は<防衛者>に変えてある。あと名前も弄ってあるがな。

 

 

「……<鑑定>……本当だ、おい勇人、こいつ職業が<防衛者>だ」

 

「なんだって?」

 

「言った通りだろう?<聖剣>も持ってはいるが、今のところはただの剣でしかない」

 

「……何のためです?」

 

「言っただろう、神の命令だ。<防衛者>が死んだ今、<勇者>や人族を確実には守り切れなくなってしまった。<勇者>が一人でも欠けてしまっては、<魔王>戦に支障が出る、と」

 

 

面倒な事は全て神のせい。実際間違いではない。

 

 

「お前達が、守られなくてもいい程成長したら、俺は居なくなる」

 

「……それは一体どのくらい」

 

「知らん。神に聞け。俺にわかるのはその程度だ」

 

「……最後に一つ、聞きたいことがあります」

 

「なんだ」

 

「<防衛者>の役割とは何ですか?」

 

「<防衛者>の役割は、<勇者>とその仲間、そしてその拠点を魔族から防衛すること。そして場合によっては<勇者>に立ち向かう事だ」

 

「……<勇者>に立ち向かう?」

 

「……詳しいことは後で全員に話すべきだ。今はとりあえず、後始末をしよう」

 

「は、はい、そうですね」

 

「ああ、あと一つ」

 

「なんです?」

 

「敬語を使う必要は無い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片付け面倒だ、おい魔族、襲来するときは後片付けもしていけよ。

 

等と無茶な事を考えながら、戦闘の後片付けを行う。

 

といってもまあ、実はたいしたことではない。王国魔導師部隊や王城魔導師の方々に、土属性の魔法を行使してもらうだけである。当然ながらこの世界に鉄筋コンクリートなどという物はなく、基本的に建築物の材料は土か石だ。

 

だから魔法の直撃で崩壊しようが粉々になろうが、魔法で硬化・修復するのは容易い。

 

実際に俺のすぐ目の前では<傀儡術師>の……加藤だっけか、が訓練場の壁を修復しているし、ちょっと離れたところでは<魔導師>や<魔導士>が王城の壁を修復している。

 

 

今回、魔族は、目標を王城に限定して襲来したらしく、王都には一切の被害が無かった。うんうん、良く分かってるじゃないか。

 

 

 

なんて言ってみたが、まあ多分今回の襲撃は威力偵察のようなものだろう。<勇者>の戦力を測るための。

 

しかしそれにしては随分とステータスが低かったような気がするが……威力偵察ならもうちょい強い奴の方が良かったはずだ。<勇者>召喚の話は伝わっているはずだが……<勇者>の成長度合いを読み間違えたのか?調べてみよう。魔族の遺体は確か訓練場の外に……あれか。

 

 

生命反応なし、間違いなく死んでる。遅延発動型の魔法も無し。

 

 

さーて、んじゃとりあえず色々調べていきましょう。死んで居る以上ステータスは開けないけど、まあ一回見たからわかるし。

 

死んでるから物として扱われる。まあかえってそっちの方が調べるのは楽だったりするんだな。

 

 

「<鑑定>」

 

 

──────────────────────

 

物品名:魔族(男)の死体  状態:良好

 

──────────────────────

 

 

 

死んでるのに状態:良好てのは何か違う気がするが……。さて、ここからどう調べるかなんだが、まず物品名をタップする。すると

 

 

 

──────────────────────

 

物品名:魔族(男)の死体  状態:良好

構成物:魔族軍戦闘服(強襲用)

    魔法袋

    魔眼(洗脳)

    肉体(魔族)

 

──────────────────────

 

 

 

こんな感じになる。

基本的に、普通の人族だったりすれば、衣服(上下)と肉体(人族)で終わる欄。武装解除されてるから杖だとか剣だとかが無いのは良いとして。

 

 

「なるほどね、洗脳の魔眼持ちか。これ俺居なかったらそこそこヤバかったんじゃないか?」

 

 

まあ目を合わせないと効果は出ないから、危機一髪、というほどでもないだろうが。

 

 

「魔眼持ちならステータスも納得だな。そこそこガチ編成の強襲型の偵察部隊だな……とはいえこいつを捨て駒に送り込めるんなら、本陣も面倒くさそうだな」

 

 

本陣には、これより強い魔眼持ちがぞろぞろ居ると考えて良いだろう。基本魔眼持ちは貴重戦力のはずだから。

 

ああ、そうだ。

 

 

「魔法袋の中身はどんなもんだろ」

 

 

大したものは入ってなさそうだな。予備の剣や食料、それに魔石を数個……これは多分魔物の核石だな。うわあマジで大した物入ってない。人族領で手に入る物ばっかりだ。偽装系の魔道具とかもあっただろうがそっちは多分騎士団が回収してるんだろうな。

 

大した収穫無かったな、服装の名前とか魔眼の存在から俺の予想が的中したってことくらいか。

 

 

「さてと」

 

 

後は……ああ、<勇者>と話さなきゃいけないんだっけ、面倒な。まあ顔も声も変えてるおかげで身バレはしないだろうからその点については気が楽だな。

 

 

 

「……探したぞ<防衛者>、一体どこに行っていたんだ?」

 

「魔族の死体を調べていた。何かわかれば良いと思ってな」

 

「何かあったか?」

 

「大したものは無かった。せいぜい隊長格だったらしい男が魔眼持ちと判明したくらいだ」

 

「魔眼持ちってなんだ?」

 

「……まさか魔眼を知らないのか?」

 

「……ああ」

 

「魔眼、とは、まあ一種の先天性の眼の疾患に近い物だ。目を合わせた者に対し、何かしらの作用を持つ。対象に良い作用ではないから邪眼と呼ばれることもあるな。一番有名なのはバジリスクの石化の魔眼か」

 

「その魔眼とやらを魔族が持っていたと?」

 

「そうだ。あの魔族の魔眼の効果は洗脳だった。目を合わせることで、相手を徐々に洗脳できる効果を持つ」

 

「何度か目は合ったが……」

 

「時間としては一瞬に近かっただろう?レベル差が小さいなら洗脳は少しずつしか進まない。俺が合流してからは障壁も張っていた。相手が悪すぎたな」

 

「そうか」

 

「で、俺を探していたらしいが、何か用でも?」

 

「ああ、さっき詳しい話はあとでとか言っていただろう、それをお願いできないかと思って」

 

「構わないが、そこそこ長くかかる。この後の予定に支障は?」

 

「いや、今日は訓練も終わりだ。講義も無いらしい。今からだと……そうだな五時間ほどはあるはずだ」

 

「……十分だ。では<勇者>達だけ、誰も居ない、誰に聞かれる心配もないような場所に集めてくれ」

 

 

 

まあ軽く自己紹介して、ここに至る経緯を軽くねつ造しつつ話すだけなんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここで良いか?」

 

 

十分後、篠原に連れて来られたのは、王城の<勇者>に割り当てられた大部屋の一つだった。恐らく問題は無いとは思う。

 

 

「ちょっと待て……問題ない。全員揃っているか?」

 

 

念のために<魔力感知>を使う。盗聴されている可能性もあるからだ。幸いにして魔力反応はなく、さらに念を入れて<周辺警戒(レーダーマップ)>も使ったが、異常は無かった。

 

 

「ああ、ここに居るのは<勇者>だけだ」

 

「なら良い」

 

「おい勇人、何でそいつがそこにいるんだ!」

 

「なんでそいつを野放しにするんだ!捕まえて牢に入れるべきだろ!」

 

 

 

……やかましいな。この中で喋らなきゃいけないの?

 

まあ、いっか。さて、では自己紹介といきましょう。シンファギスを外す。

 

 

 

「──さて、今代<勇者>諸君。俺の事は既に知っていると思うが、一応改めて自己紹介させていただく。俺の名前はケイ・クニサキ。まあ普通の呼び方で言うなら、国崎啓と言う。今の俺は、先代<勇者>ではない。臨時的に今代<防衛者>としてしばらくの間、諸君と共に行動することになるだろう」

 

 

 

「色々言いたいことや文句はいくらでもあると思うが、そこら辺は後でいくらでも言いに来ると良い。まずは俺の話を聞いてもらおう。俺がなぜここに居るのか、<防衛者>とは何なのか、<防衛者>の存在意義は何なのかについて」

 

 

 

俺がこう言うと、一気に部屋が静まり返った。

 

 




国崎啓……名字は<防衛者>国崎春馬から、名前は1字削っただけですね。


以上です。


それでは、感想批評質問等お待ちしております。


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第四十六話  <防衛者>

さてさて、少々騒々しいなか、お話を開始した主人公。ついに<勇者>達に語られる、<防衛者>の存在意義。





書いてて気付いたんですけど、<勇者>達って<防衛者>と<支援者>の存在意義知らないんですよね(今更)。
主人公目線で書いてるから時々情報が頭の中で錯綜してます。どこまで知っててどこから知らないのか。



それでは、第四十六話、どうぞ!


 

 

 

「最初に、<防衛者>についての説明をしよう。俺がここに居る理由にも関係があるからな」

 

 

よしよし今のところは黙って聞いているな。

 

 

「そもそもだが、<防衛者>が何かについて、伝承が残っているはずだが」

 

「……いや、<勇者>の事しか無かった。あと俺達が知ってるのは……国崎が<勇者>だった時に召喚されたのが四人だけだったって事くらいだ」

 

「……伝承は残っていなかったのか。では召喚された後<防衛者>はどのように扱われた?<防衛者>は<勇者>という称号で縛られないように<勇者>の称号は持っていないが」

 

「……俺達とは完全に分けられたから分からない。だが」

 

「そうか、なら良い、想像は付く。では話を戻そう」

 

 

何か言いそうだったが迷わずぶった切る。いやだってぶっちゃけ知ってるし。言わないけど。言わないし言えないけど。

 

 

 

「<防衛者>はその名の通り、防衛が役割だ。<勇者>、人族の街、<勇者>の拠点。これらを魔族・魔物による襲撃から守るために存在する」

 

 

「レベルに対し異常なまでに高い対魔法・物理防御、どの属性にも相当しない固有魔法、入手できる称号とその付随効果も全て、守るためだけに存在する。それが<防衛者>だ」

 

 

「<勇者>はいわば魔族に対する矛であり、<防衛者>は楯。<勇者>が間違った方向へ進みそうな時は、それを押し止め、正しい方向へと導く。<勇者>と<防衛者>が双璧を成し、<魔王>を打倒し、世界を救う」

 

 

「この世界において人族は何の因果か、全てのステータスにおいて魔族に劣る。それを打破するためにステータスに縛られない外に救いの手を求め、願った。女神はその願いに応え、人族に<召喚魔法>を授けた」

 

 

「しかし召喚される外の人族は、ステータスこそ高いが、魔法についての、あるいは戦闘そのものの経験が圧倒的に足りない。だから成長に時間がかかる。そのままでは成長途中に<魔王>あるいは魔族軍に襲われ、殺されてしまう」

 

 

「それを防ぐのが<防衛者>だ。レベル1にして規格外の防御力を誇り、最初から<防衛魔法>と言う魔法を扱い、障壁を張るスキルを持つ。レベルは同程度の鍛錬を積んだ<勇者>より早く上がり、かなり早く<魔王>からの攻撃すら耐えられるようになる」

 

 

 

ようはまともに鍛錬してればそこらの魔族とか敵じゃねえぞって言っているんだが。

 

 

 

「もし及ばない時点で<魔王>に襲われたならば、その身を以て<勇者>を守る。その時点で<魔王>に襲われ<防衛者>が殺された場合、彼等の固有スキルによって死に至る。死んでもなお<勇者>や世界に貢献する職業、それが<防衛者>だ」

 

「<勇者>が魔族領へ突入した後も、人族領への襲撃は予想される。だからその段階に入ったなら<防衛者>は別行動をとり、<勇者>が<魔王>を倒すまで人族を守り続ける。<防衛者>が背後を守ってくれるからこそ、<勇者>がその責務を全うできる」

 

 

 

本当に<防衛者>、というかこの世界の仕組みを考え付いた人間──つまりは<システム>の創設者はすごいと思う。全てがまともに働けば、<勇者>召喚後は、被害を出来る限り抑えながら、<魔王>を倒す事が出来るのだ。

 

 

 

「魔族が操る魔法の最高峰と言える<魔属性魔導>のスキルには、1人を洗脳するだけでその効果を同じ称号を持つ者全てに波及させ得る魔法がある。その干渉を防ぎ、もしそうなったときに<勇者>を防ぐために、<防衛者>は<勇者>の称号を持たない」

 

 

 

<魔王>から聞いたときは噴き出した。何そのチートスキル。

 

まあ発動に恐ろしい程魔力を持っていかれ、いくつか発動には犠牲が伴うから、<魔王>くらいしか使えず、あまり実戦向きではないと言っていたが。なんでも魔力が年単位で回復しないらしい。誰が作ったんだそんなの。

 

 

 

「<支援者>についても話しておくが、<支援者>は<勇者>における<聖女>等、パーティーメンバーに相当する。やはり所持するスキルは全て支援、特に<防衛者>の支援に特化したものだ。<防衛者>による守りを強固にするためにな。<防衛者>と<支援者>は二人で一セットだと考えてくれ。よって同様の理由で<支援者>は<勇者>の称号を持たない」

 

 

 

では続いて俺がここにいる理由だな。

 

 

 

「つまり本来<防衛者><支援者>は、<魔王>を倒し世界に平和をもたらす上で<勇者>と同レベルで重要な存在だ。しかし、なぜか、今回<防衛者>も<支援者>も呆気なく死んでしまった」

 

 

 

心の中で、いや本当に何で死んじゃったんだろうねえそんな簡単に死なないはずなんだけどなあ、とか考えながら続ける。

 

 

 

「現時点において、<勇者>は未だ<魔王>からの直接攻撃に耐える程の実力は無い、そう女神は判断した。そこで、なぜか再び召喚されてしまった先代<勇者>、つまり俺に白羽の矢が立てられた」

 

 

「女神の直々の願いを断るわけにもいかないだろう。こうして女神によって、一時的に職業を与えてもらい、<防衛者>が生存していた場合に習得していたであろうスキルも付けてもらった。その代わり、<勇者>としての力はほとんど失ったがな。そして今現在、此処に至る」

 

 

「何か、これまでの事で質問はあるか?」

 

 

「……何で勇人を、今代<勇者>を殺したんだ?」

 

 

良い質問だ!

 

 

……言ってみたかっただけです。

 

 

 

「あの時の今代は、話が通じそうになかったからだ。<勇者>は聖剣が無事であれば死ぬことは無いことは俺も知っていたからな。後衛は既に無力化していたから重傷を与えるだけでも良いかと思ったが、今代が<回復魔法><治癒魔法><再生魔法>を取得している可能性があったため致命傷を与えることにした」

 

 

 

ほぼ全員を無力化したとはいえ、まだ戦う気がある者が多かった。そこで<勇者>を殺すことで戦意を削ぎ、また撤退させることが出来る。一方で、そんな状況であっても冷静であろう<賢者>に警告を行う。

 

 

 

首を落とすだけなら俺の時と蘇生にかかる時間は変わらない。蘇生すれば状況確認を行うだろう。それを行う最善の相手は無論<賢者>。

 

つまり一度死んでもらう事で頭を冷やしてもらい、改めて考える時間を作ったとも言える。ベストなのは心ポッキリ状態の継続だったが今となってはまあ別に構わない。というかむしろ戦意旺盛であってくれないと困る。

 

流石俺<勇者>頭良いな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ今さっき即興で積み上げた理由だけど。七割八つ当たりでしたすみません。

 

 

 

 

「許せとは言わない、許してほしいとも思わない。俺は俺が正しいと思ったことをしたまでだ。だが、それの報復をしようとは思うな。今<防衛者>である俺が死ねば蘇生はするが、本来は<魔王>に対して発動するカウンターは、お前達に発動することになる。<勇者>と<防衛者>で潰しあっては、世界を救うことなど出来やしない。今は、世界を救う事だけを考えろ。俺も、お前達も、その為にこの世界にいるのだからな」

 

 

 

 

過去の事を水に流せとは言わない。理由はどうであれ、生き返るとは知っていても一度殺してるしな。

 

とはいえそれの報復とか言われて攻撃されて、無いとは思うが死んだ場合、例の<審判ノ日(ドゥームズデイ)>が<勇者>全員に降り注ぐ。聞いた話通りだとするならアレの発動条件は()()()()()()()()。生き残れるのは、一度死んで生き返る<勇者>だけ。

 

<剣聖>も<魔導師>も<賢者>も<拳闘士>も<狩人>も<探索者>も持たず。<聖女>も<回復術師>も<治癒術師>も<結界術師>も居ない。

 

 

 

ただの、本当にただの<勇者>単独では、<魔王>の相手は手に余るんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。

九割八つ当たりだろって?いやいやそんなまさか。別に動きたくなかったのに面倒な事しやがってなんて、主人公は思ってないですよ。


それでは、感想批評質問等お待ちしております。


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第四十七話  <勇者>

ついに語られた<防衛者>の役割。そして主人公の存在理由。それを聞いた今代<勇者>達の反応は……


とか書いてみたりしてみました。


というわけで第四十七話、どうぞ!


「他に、質問は?」

 

 

 

部屋を見渡すが、こちらを睨みつけるか、俯いて何かを考えているのかのどちらかだ。

 

睨みつけてきているのは、話を中途半端に聞いた、もしくは言い方は悪いが、考えが足りない奴。俯いているのは全てを聞いて理解できている奴ってところか。どちらにしろ質問は無いと考えてよさそうだな。

 

 

 

「あと最後に。居ないとは思うが、俺に話しかける場合は、敬語を使う必要は無い。以上だ。今代」

 

 

「あ、ああ。みんな、話を聞いて分かったと思うが、国崎も何か悪気があって俺を殺したわけじゃないんだ。むしろ、俺としてはあの時止めてもらってありがたく感じているくらいだ。彼は許せとは言わないし許してほしいと思わないって言っていたけれど、出来れば過去の事は水に流してほしい」

 

「それに、彼は<勇者>だ。いや、今は<防衛者>だけど、この世界で千年前……つまり俺達が授業で習ったあの伝説の<勇者>だ。訓練はしてもらえなくても、助言をもらうだけでも、俺達の大きな助けとなるはずだ……助言、大丈夫か?」

 

 

「……助言は大丈夫なはずだ。それくらいなら女神も何も言わないだろう」

 

 

 

既定路線を進むことや、習得可能なスキルはほとんど決定しているのだ。俺の助言で変わるとすれば、スキル習得にかかる時間の短縮くらいだろう。その程度なら誤差の範囲内だから<システム>も見逃してくれる……はず。あとで試してみようか。助言をする時間があるかは別として。いやだってもう魔族の襲撃本格化するだろうし。

 

 

 

「それに、彼がここに居るのも、元は俺達の、俺のせいだ。今聞いた通り、神崎達の本来の役割は、俺達を守り支援する事だ。それを知らなかったとしても、直接の戦闘に向かない神崎と内山さんを、騎士団だけ付けて行かせてしまったのは俺のミスだと思う」

 

「少なくとも、彼の目的は今俺達と一緒で、しかも力を貸してくれると言う。<勇者>同士で争っている場合じゃないんだ。ここは<魔王>に対抗する、新たな仲間を歓迎するべきだと思う。だから、彼を仲間として認めてくれないか、頼む!」

 

 

 

そう言って頭を下げる篠原。

 

おお、こいつやっぱり<勇者>というか主人公というか、そんな感じの性格してるな。

 

 

 

「……勇人が言うんなら……」

 

「……しょうがない、か」

 

 

 

いや別にそこまで頼んでないけど。

 

 

 

「おい国崎」

 

「なんだ」

 

 

 

えっと、駄目だ。名前が出て来ない。誰だよ。

 

 

 

「勇人は優しいからああ言ってたけど、俺は許さないからな。勇人が言うから報復はしないでおいてやる」

 

 

 

お前人の話聞いてたのか?聞いてないですね(確信)。まあ攻撃されないなら良いけど。攻撃してきても<神楯(イージス)>が全防御するだけだし……というか名前も知らない(設定)のに酷い言いようだな。

 

 

 

「お、おい国崎、どこに行くんだ?」

 

 

 

お話が済んだので帰ろうとしたら篠原に止められた。何で?

 

 

 

「どこって……宿だが」

 

「王城に話は通してある。君の部屋も用意してあるぞ」

 

「……手が早いな」

 

「話を通したのは俺じゃない。騎士団長だ。『前は何もできなかったから今回は』と言ってな」

 

 

 

ああ、成程。今回はそこまで気を回さなくても良かったと思うけどなあ。一応初代<勇者>だし。宰相は野望こそあるが伝説上の存在に喧嘩売れる程のタマではない。

 

まあ部屋あるんなら使わせてもらうか。宿も無料じゃねえし。

 

王城の中に居た方が動きは探り易いもんな。

 

 

 

「あと」

 

「うん?」

 

「俺の名前は篠原勇人だ。勇人と呼んでくれ。以後、よろしく」

 

「……ああ、よろしく」

 

 

 

そう言えばこの状態で名前を聞くのは初めてだった。ごめん名前呼びは無理です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして俺は今、王城内の浴場、湯船の中に居る。安心してくれ、男しかいない。

 

……うん、それはそれで安心できねーな。

 

 

 

「なあ国崎」

 

「なんだ、ええと篠原」

 

「勇人で良いと言ったじゃないか……その腕輪は外さなくて良いのか?」

 

 

 

外せるわけないだろ。今のこの顔と声はコイツのお陰だぞ。

 

 

 

とか言えないので、

 

 

 

「……仕組みは分からないんだが、女神様によればこの腕輪をしていることで、俺は<防衛者>でいるらしい。だから外せないんだ」

 

 

 

鉄壁の防壁、女神様発動!

 

 

 

「そうか、女神様の魔道具か。それは確かに外すわけにはいかないな」

 

「実を言うと外し方も知らないんだ。だからこの任務が終わるまで、俺は<勇者>としての力はほとんど封じられたままだ。死んだら生き返るらしいが」

 

 

 

こんな感じで良いだろ。ずっと外さなくても気にされる事は無い。

 

ちなみに拳銃は既に収納済み。見つかると面倒だしね。<防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>については一切話すつもりはない。使う予定もない。自衛用で拳銃くらいは手元に置くかもしれないがその程度だろう。

 

 

現代兵器は見れば一発でわかる物が多い。現地人だけなら<防衛魔法>固有の謎の魔道具でごまかせるだろうが、ここには現代人も居る。うっかり見せて、王国側に伝わってしまえば何かしら情報提供を求められるだろう。

 

 

最悪、投獄からの拷問ルート、もしくは今代<勇者>を人質にとっての脅迫……は流石にないとしても、前者は十分にあり得る。後者もどうだろう……利益を前にした人間は欲に目が眩むからなあ。女神の名も知ったこっちゃないとかなりかねん。

 

 

まあ、当然大人しくそんな流れになるのを待つ俺ではないが、そんな状況になっては<勇者>の防衛どころではなくなるだろう。それはちょっと困る。

 

 

現実世界への迅速な、そして平穏な帰還には、<勇者>(クラスメイト)全健在は必須条件だからな。<帰還>は<召喚>された場所時間に戻す物だから、戻りさえしてしまえば多分どうとでも誤魔化せるはずだ、多分。今代の認識上、死んだのは俺とさくらだけ。だから俺とさくらが普通の態度でいつも通り、異世界に<召喚>された事など知らないようにふるまえばそこまで大事にはならないはずだ。

 

 

 

「なあ」

 

「なんだ」

 

「君は千年前<勇者>として<召喚>されたんだろう?」

 

「そうだな」

 

「その時、どう考えて戦おうと思ったんだ?」

 

「どう、か」

 

「そう、戦おうと決めた事にも何かしら理由だとかあると思うんだ」

 

「まあ、そうだな」

 

「俺は、この世界の人を救えるのが俺達だけなら、やるべきだと思って皆で戦うと言ったんだ。だが、既に二人のクラスメイトを亡くしてしまった。今更ながら、俺の決断は間違っていたんじゃないかと思って……全員の意見を聞いて、嫌だと言うなら、その人は戦いから除外すべきだったんじゃないかって」

 

 

 

今更だよなと思いつつも、それに考えが至るだけ、成長したか、とも思う。

 

 

 

「……それで、俺の意見を聞きたいと」

 

「……そうだ」

 

「お前の判断が間違っていたかどうか、それは俺よりクラスメイトにでも聞けば良い。俺が戦おうと決めたのは、それ以外に道が無いと知ったからだ」

 

「それ以外に道が無い……?」

 

「少なくとも、当時の俺にとって、それが最善の道だった」

 

 

 

<勇者>として<召喚>される。ネット小説でもライトノベルでも、良くあるシチュエーションだ。多分それを読んだことがある者、特に男子なら一度は夢見る状況でもある。

 

 

だが現実にそれが起き、良く考えてみれば、そこまで良いことでもない事がわかる。<勇者>として召喚されるという事はつまり、世界の平和を妨げる何かと戦うという事だ、無論命を懸けて。だが、普通に考えて、普段平和な世界で平穏な日々を送る一般人に、そんな事が出来るだろうか。答えは否だ。

 

 

 

無論、召喚されるのが現役の軍人だとか、日々戦いの中に身を投じている傭兵だとか、戦いが暮らしの一部だというような世界から<召喚>される、というなら話は別だが。そんな小説は読んだことが無いので知ってたら誰か教えてくれ。

 

 

 

……思考が横道に逸れてしまったが、つまるところ、実際に自分の身に降りかかるなら、戦うと即決することは出来ない。当たり前だ、何事も無ければまだまだ長く続くはずの人生が、途中であっさり終わるかもしれない選択なのだから。

 

 

 

いくらそれが自分たちにしかできない事だと言われても、自分に何が出来るのかすら分からない状態で、躊躇なく身を投じるのは俺は少なくとも無理だった。

 

 

 

あるいは小説の主人公、<勇者>と呼ばれる者達は、それが可能であり、そして成し遂げたからこそ<勇者>と呼ばれるのだろう。

 

 

 




以上です。


世界の仕組みを知らない相手には、女神様もしくは魔神様は攻撃全て無効の鉄壁防御。

さらっと女神に様を付けない主人公凄い()。

それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第四十八話  きっかけ

人のために命さえ躊躇なく捨てられる、それが可能な者を、人は勇ある者、すなわち<勇者>と呼ぶのでしょう。

異世界に召喚される人物の中でそれが可能な人間はどれ程いるのか?


特に主人公はどう考えてもそんな事出来る人じゃないわけですが。


そんなわけで第四十八話です。どうぞ


 

 

 

躊躇なく身を投じるのは無理だった。

 

 

とはいえ、俺がこうやって初代<勇者>を名乗る事が出来ているという事は、当然最終的に俺も身を投じたわけである。それに至るまでの話を聞きたいというのが篠原の要求。

 

 

 

「<召喚>された時、その場には俺の他に、三人、日本人が居た。その時は知らなかったが、まあ彼等が<聖女><防衛者><支援者>だった。そして俺が<勇者>だ。<召喚>された直後、当時の第一皇女殿下から、<魔王>を倒し、人族を救ってほしいとお願いをされた」

 

「その直後、質問があると言って、<防衛者>がこう聞いた。『戦いたくないのだが帰れないのか』と」

 

 

「……お願いの直後にか?」

 

 

「ああ」

 

 

 

篠原が絶句した。だろうな、場の雰囲気も凍ってたし、俺も耳疑ったもんな。しかもなんかこう、取り乱した感じで、

 

「ふざけるな!俺達を今すぐ元の世界に戻せ!」

 

じゃなくて

 

「それパスして帰れないですか?」

 

とか冷静に言ったんだよな。

 

後で聞いたら、

 

 

「え、だって、テンプレじゃないの?」

 

 

って返ってきてそれもそうかって思いはしたんだが、タイミングとテンション考えてください。

 

 

 

そう言えば今回の時は誰も聞かなかったな。俺とさくらは無理だよね知ってるよで終わりだけど。

 

 

 

「それに対して、皇女殿下の答えは、まあ端的に言うと、不可能、だった。すると<防衛者>は、『じゃあ仕方ないですね、何が出来るか分かりませんが、出来ることはやってみましょう』と言った。俺も、他の2人もそれに引き摺られた形だな」

 

 

 

「……すごい人だな」

 

 

 

うん、いやマジで春馬さんは凄かった。多分、あの人無しでは<魔王>の無力化なんて無理だっただろうし、それ以前にそもそも生きていけたかどうか。

 

 

 

 

「と、まあ、これが、俺が戦うと決めたきっかけだ」

 

 

 

 

 

 

決めた、というよりは、流されたとかそれ以外の選択肢を封じられた感じが強いが。

 

 

 

 

 

 

「……本当に戦いたくなかったのなら、その時々で言えば良かったんだ。場の雰囲気に流される程度なら、そこまで忌避感は無いか甘く見過ぎだ。その死んだ二人も同様だ。まあ、ちらっと聞いただけだが、<防衛者>と<支援者>のどう見ても直接戦闘に向かない人間を人族騎士団だけ付けて放り出したのは明らかな采配ミスだな」

 

 

「……近衛騎士も付いていたし、魔族が出るとは思わなかったんだ。それに<防衛者>は他の<勇者>と仲が良くは無かったから」

 

 

「……命を懸ける戦いで、仮にも味方なら、仲が良い悪いなんてことを気にする余裕があるとは思えない。<勇者>の<召喚>は、人族にとって<魔王>に対抗する最終手段。それを行使しているのなら、人族領への襲来も当然予期すべき事」

 

「……それもそうだな、何も言えない」

 

 

「<勇者>だって人間だ。時にはミスもする。今回はその代償が<防衛者>と<支援者>だったってだけだ。だが覚えておけ、この世界のミスは時として命取りになる。ましてやお前達が背負っているのは世界の命運だ」

 

 

「わかっている、今度の事で身に染みた。もう、間違えない。俺が、世界を救う」

 

 

「なら良い。俺もいつまで<防衛者>としていられるか分からないからな」

 

 

「……そう、だったな」

 

 

「ああ、そう言えば唐突だが」

 

 

「ん?」

 

 

「お前等今代って何歳くらいだ?年齢が分からんと話がし辛い」

 

 

「本当に唐突だな……高校二年生だ」

 

 

 

苦笑しながら答えてくれた。知ってる。というかだいぶタイミング不自然だったな。今くらいしかないと思ったんだが……まあ良いや。

 

 

 

「そうか、同級か……先に上がらせてもらうぞ」

 

 

 

言って立ち上がる。さて、じゃあ頑張ってもらうだけだな。スタートラインから間違ってるけどまあそれは本人のせいじゃないので。

 

 

正攻法(本物)の<勇者>伝説、見せてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

脱衣所で服を着る。ここに来た時は、庶民の一般的な衣服だったが、一応王国が<勇者>同様そこそこ上等な服を用意してくれたのでありがたく利用する。

 

 

 

「さて、どうしたものか」

 

 

 

時間は<管理者>メニューを開くわけにもいかないので大体で察するしかないが、多分午後八時頃だろう。寝るにはまだ早い時間帯だ。

 

 

取り敢えず中庭に出る。ちょっと寒いが、まあ頭を動かすにはちょうど良いんじゃなかろうか。考える事はいくらでもある。

 

 

 

「まず直接攻撃手段を封じられてるのがそこそこ痛いな」

 

 

 

防衛装備召喚(サモン・ディフェンス・フォース)>を封じているので、相手に直接ダメージを与える手段がほとんどない。相手が肉弾戦を挑んでくれば、<神楯(イージス)>でダメージが入るがそれくらいだ。

 

 

 

称号は<防衛者>に固定するので<聖剣>はもう呼び出せない。神剣は使えるが、レベルが高くなっても相変わらずの低物攻値でどれ程のダメージが入るか。まあ大して期待は出来まい。

 

 

 

「こう考えると<防衛装備召喚>って本当にチート……」

 

 

 

使用者のステータスに縛られる事無く、安定した高火力。魔力さえあれば弾薬も燃料も無制限。しかも元々が魔力なお陰で、薬莢だとか排気だとか気にする必要もない。それを使えないのはもったいない、が。

 

 

 

「まあ自分で決めたんだし、仕方ないか」

 

 

 

ここにいる一番の目的は<勇者>の守護。それを行うのに<防衛装備召喚>が不可欠というわけではない。実際、春馬さんは俺の目の前で使ったことはほぼ無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──誰?」

 

 

 

 

不意にそんな声が後ろで上がる。

 

それはこちらの台詞だ。

 

そう思いながら振り返る。まあ今代<勇者>の誰かだって事は分かってるけど。

 

 

 

「あ……えっと、国崎、啓、さん……」

 

「今代か?俺の事は呼び捨てで構わない。敬語も使う必要は無い。こんな時間に何をしている?」

 

 

 

敬語は戦闘で連携するとき、時間の無駄になる、とは春馬さん。今回は基本的には俺が合わせに行くだけなので、気にする必要は無いと思うが、まあ念のためだ。

 

 

ところで本題。いくら王城内とは言え、守護結界が昼間にあっさりと破られているのだ。少なくとも一人で行動すべきではない。特に女子の職業は後衛が多いからなおさら……ごめんこれブーメランだった。

 

 

あーやっぱさくらも連れてくるべきだったかなあ……いやまさか王都の守りがあそこまで雑魚だとは思わなかったし。前回は耐えてたんだけどな、皇都守護大結界。<結界術>の技術が衰退したのだろうか?

 

 

 

「ちょっと外の空気を吸いたくなって」

 

「そうか。だがあまり一人で外に出るのはお勧めしない。例え王城であってもな。魔族の襲撃が昼だけとは限らない。お前の職業は知らないが、単独行動は避けろ」

 

「……は、はい。あ、えっと、話がしたいんだけど……」

 

「俺にか?何の用だ」

 

 

 

何、告白でもさr……無いな。突然現れ手足の腱をぶった切ってクラスメイト首チョンパして消えたかと思えば突然味方として現れた謎のイケメン男子!

 

 

 

うん無いな。

 

 

 

「その、ありがとうございました」

 

「……うん?」

 

「それと、ごめんなさい」

 

「……んん?」

 

 

 

状況を整理してみよう。

 

夜、外で考え事をしていたら突然見知らぬ女子が近づいて来て、話がしたいと言ったので何の用だと問いかけたらお礼を言われ、謝られた。

 

整理しても意味が分からん。

 

 

 

「何が言いたいんだ?今代……」

 

「今代<巫女>、石縄(いしなわ)令奈(れいな)です」

 

「石縄さん、で良いか。何が言いたいのかがよく分からない。突然礼を言われ、謝罪されてもな」

 

 

 

職業<巫女>。男性であれば<(かんなぎ)>。現地ではあまり役に立たない部類の職業とされる。最初から持って生まれる職業の一つで、転職は不可能。基本的には、この職業を持つ全員が、聖リシュテリス神国に集められる。

 

能力としては、神の声を聴くことが出来る、と言う物。ただし、能動的に聴くことが出来る者はほとんどおらず、大抵は、大災害や人魔大戦の予兆などを伝えるのが役割だ。

 

稀にその身に神を降ろす事が出来る者が居るという。その場合、短時間ではあるが、神の力を発揮でき、魔物の大軍を消滅させたりできるらしい。

 

 

ただし、これが召喚者である場合は異なる。

 

 

大抵の事を、能動的に、任意に神に問いかける事が出来る。ただし<システム>関連の質問、及びそのつながりで<管理者>関連もアウト。それ以外なら大抵のことがわかる。

 

 

 

ふむ。俺の事は調べても国崎啓で、初代<勇者>くらいしか出てこないと思うから、身バレとかではないはずだ。身バレだとしても謝られるのはともかく感謝は意味が分からんし。全部バレたのなら分からんでもないが、それはありえない。

 

 

なら何故。

 

 

 

「お礼は昼間助けてもらったので。謝罪は、貴方に迷惑をかけた事についてです」

 

 

 

ほう?てことはあれか、俺の話をちゃんと聞いて、理解が出来た、という事だろうか。

 

 

 

 

 

 




以上です。

先代<防衛者>は唯の変人である説。

クラス名簿とか挙げとくべきですかね。一応データありますし。


感想批評質問等お待ちしております。


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第四十九話  初代<勇者>はかたる

先代<防衛者>春馬さんはただの変人だった説が浮上。

夜、城の中庭で接触してきた今代<巫女>。彼女の感謝と謝罪の意味は……


というわけで第四十九話です。どうぞ!


 

 

 

 

「私達のせいで、本来なら関係が無かったはずの貴方を引っ張りだしてすいませんでした。本当なら、貴方の援護も、助言も受けられないはず、なんですよね」

 

「そうだな。俺はたまたま再召喚されただけだからな。その偶然が無ければ、<防衛者>の援護は受けられなかっただろうよ。そもそもその偶然が無ければ、<勇者>が今まともに戦えていたかどうか」

 

「どういう事、です?」

 

「公国との戦争を止めに行った時、俺は<勇者>は人族同士の争いに手を出してはならない、と言った。記憶しているか?」

 

 

 

後衛組だとその時は少し離れたところに待機していたようだったから聞こえなかったかもしれないな。

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

聞こえていたか。

 

 

 

「あれは、俺の持論ではない。純然たる根拠がある。昔女神に、いろいろ気になる事を聞いてみた事があるんだがな」

 

「直接ですか?!」

 

「そうだ。俺は称号に<(かんなぎ)>を持つからな」

 

 

 

オールラウンダー型<勇者>は神(偽)の声を聞く事が出来る。

 

 

 

「その時に、人族同士の大規模な内戦で、<勇者>がどちらかについて戦ったらどうなるかと。すると女神からの答えはこうだった」

 

『<勇者>は世界を、人族を守る存在である。やむをえない場合を除き、人族に危害を与える事は禁止されている。その行為を行った場合、相応の罰が下るであろう』

 

「相応の罰?」

 

 

「例えば、<勇者>のうち何人かが人質とされ、戦う事を強いられた場合と、<勇者>自身の私利私欲で戦う事にした場合で、同等の罰を与えるのは公平でないだろう?前者の場合は一時的にレベルが上がりにくくなる程度だが、後者の場合は、ステータスにマイナス補正がかかる上にスキルの多くが一定期間封じられる」

 

「そうなっては<魔王>の討伐が余計に難しくなる。その暴走を止めるのもまた<防衛者>の役割。しかしなぜか動かなかったためにその代わりに俺が動いた」

 

 

 

全ては<勇者>を無難かつ早急に向こうの世界に帰すため。わざわざ来てやったのに魔族扱いとはね。知らないから仕方ないにせよ人の話は聞けよ。それと<勇者>らしくしろよ。

 

 

 

「……そこでも助けてもらっていたのですね、知らなかったとはいえ、どうお礼をすれば……」

 

 

 

「気にするな。俺が勝手にやったことだ。<魔王>討伐が遅れるのは俺も困る。俺の時は罰を受ける事は無かったから、それによって実際どれ程の影響が出るのかは分からない。おまけに今<防衛者>は居ても<支援者>は居ない」

 

 

「<防衛者>の役割を果たす上で、数多くの支援系スキルを行使できる<支援者>の影響は大きい。<支援者>が居ない現状で、俺が十分に役割を果たせるとは限らない。特に人族の守護までは手が回らない可能性がある。ただでさえそんな状況で、<勇者>が使い物にならなくなったら最悪、」

 

 

 

 

「人族は滅ぶぞ」

 

 

 

流石に絶句はしていないようだが、それでも顔は青ざめたように見える。自分達が見捨てたに近い二人の、役割の大きさに改めて後悔、といったところか?まあ絶句してないだけ優秀か。

 

 

 

<勇者>が最悪に最悪を重ねた末路は、人族の滅亡、<魔王>による世界征服。当然の話だ。それを防ぐ行動をとるのが本来の<勇者>。なら行動をことごとく(たが)え、最悪の選択をし続けるなら、待ち受けるのはバッドエンド。

 

 

 

俺に色々言っていた前衛組は分かって……居ないんだろうな。

 

まあそんな事にならないように俺も動くし、<システム>も誘導してくれるとは思うが、<システム>に余計な負担をかける事は好ましいことではない。なら脅しでもして、可能性を少しでも減らすべきだろう。

 

 

 

「篠原にも言ったし、俺の話をきちんと聞けたなら理解できていると思うが、お前達が背負っているのは世界の、人族の命運だ。仲間内でどうこうしている暇などない。仲が良い悪い、変な遠慮、どれも連携する上では邪魔でしかない。人族が既に<勇者召喚>を行うまで追い込まれているとすれば、猶予は無いに等しい」

 

 

 

特に今代は、俺達の時は2人に集められていた<勇者>の能力が、28人にばらけている状態だ。この状況で俺達と同レベルの戦果を欲するなら、高レベルの連携が必要となる。特に<支援者>が居ない以上、俺を含む後衛組のやる事は多い。

 

一度発動すれば継続するのに魔力の必要のない<支援魔法>と違って、普通に使う支援系魔法スキルは、継続発動には魔力の補填が要る。つまり、一度発動しておけばしばらく放置できる<支援魔法>とは異なり、発動タイミングを見極めないと魔力を大幅に使う事になる。

 

俺やさくらのように、得意属性でなくとも魔導十位階クラスを数回連発出来る魔力量ならともかく、レベルが30すら超えていない現在では、魔力の無駄な消費は避けたい。

実際には人族は追い込まれていないので、俺達の時の様に()()()()()とかふざけた事にはならないであろうことが救いだ。まあその分クリアしなきゃいけないハードルが上がっているわけだが。

 

 

「俺に対する変な遠慮だとかも同様だ。戦闘での連携に支障が出ては困る。だからこの話はこれでおしまいだ。どうせ同級なんだ。敬語を使う必要もない。遠慮もいらん。要望があったらはっきりと言え、誰が相手でもな」

 

「同級……ってええ!?高2!?」

 

「と、いうわけで宜しくな石縄」

 

 

 

何か驚いているが、そんなに意外なのか?何はともあれ、この話はこれで決着、という意味を込め、苗字を呼び捨てにする。

 

 

 

「あ、うん、よろしく……同級なのかぁ……」

 

「他に、お前みたいな考え方をしている奴が居たら、そいつにもそう伝えてくれ」

 

 

 

一々対応するのは面倒だ。全部ではないが、嘘が混ざっているのもいただけない。あと一々同級だから敬語なしで、って言うのも面倒だし。それだから全員の前で喋った時に敬語はいらないと言ったんだが。

 

この様子だと、他に分かってる連中が居たら、全員敬語なんじゃなかろうか。同級生に敬語使われるのってちょっと接し方が分からなくなるから止めて欲しいなあ。

 

 

 

「他には用は?」

 

「あ、無いよ」

 

「そうか。ならとっとと建物の中に入った方が────っ<神楯(イージス)>!」

 

「え?」

 

 

 

周辺警戒(レーダーマップ)>に突然現れた敵性反応。それに対して反射的に自分と後ろにある建物までを覆う形で<神楯>を発動。

 

直後に空から落ちてくる炎の槍、それに応じて打ち出される水色の魔力球。空中で衝突し、轟音と共に火の粉をまき散らしながらも消滅する。

 

 

 

「<勇者>か<魔導師>を呼べ、出来るだけ早く」

 

 

 

今の<炎槍(フレイムランス)>が通常攻撃だとすれば、この程度ならば<防衛者>の障壁は破れない。相手は今のところ単独。ただし町の方に向かっている可能性も否定はできない。ならここのをとっとと片付ける必要がある。

今の音で気付いただろうが、一応知らせてもらうとしよう。

 

 

 

「わ、わかった!」

 

 

 

さて、あとは攻撃をひたすら捌いて、<勇者>が来るまで時間稼ぎだ。

 

 

 

 




以上です。


……千年前は本当にハードです、ええ。そもそもが<勇者>の召喚は最終手段なのですから。

悠長にラブコメしてる暇なんて無かったんですよ()

そろそろ千年前のお話も書くべきかなあ……



それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第五十話  第二回防衛戦・夜の部

初代勇者は語る、勇者の双肩にかかる物の重さを。
初代勇者は騙る、世界の真実を。



とか書いてみたり。最初は、語る、だけだったんですけど、途中から、騙る、も入ってるなとか思いまして。

※そこそこ長いあとがき注意です。

そんなこんなでとうとう五十話です。どうぞ!


 

昼戦直後の夜襲。かなりベタな作戦だが、効果があるからこそ使われ続けるのだろう。

 

とはいえ、少々お粗末過ぎる気がする。時間帯は早過ぎるし、戦力も一人だけ。いくら夜で、先手を取れるといっても<勇者>を相手にするには少ない。

 

 

と、なると考えられる仮説は二つ。

 

一つは、昼の部隊が全滅したのでなりふり構わず分の悪い賭けを行っている。

 

もう一つは、前者同様の理由、ただし作戦が異なる。王城に少数の部隊を向けることで<勇者>を足止めし、残りの部隊で街を襲う、陽動作戦。

 

 

うん、後者の可能性が高いな。前者だと逆に何で一人残ってるのかが分からない。無論本国との連絡担当として残された可能性が無いわけではないが……

 

まあ常に最悪の状況は想定して動くべきだろう。こいつは<勇者>を引き付けるための囮、本命は町の襲撃。それが今あり得る想定の可能性の中で最悪の状況。

 

この場合、囮はある程度<勇者>を引き付ける必要がある。よってそこそこの戦力のある者。しかも手練れである方が良い。

 

 

ふむ、ここは逆にこいつを放っておいて先に町の方を見てもらう方が良いか?コイツに時間取られて街がやられるというのはあまり<勇者>的にも、王国的にもよろしくないだろう。俺?俺個人的には別にどうでも良いかなって。ただ今のところ俺は<防衛者>だからね、<勇者>サイドの思考をしなきゃいけないんだよ。

 

 

と、頭の中で、良く分からない誰かに言い訳をしながら、<神楯>を維持する。単発火力はそこそこ程度のようだが、手数が多いなあ。てか<勇者>まだ?

 

 

 

「国崎!」

 

「……来たか」

 

「すまない。遅くなった」

 

 

 

全くだよ。とはおくびにも出さず。

 

 

 

「いや、良い。ところでここ以外に魔族の襲撃は?」

 

「街の方で目撃情報がついさっき」

 

「そっちが本命だ、多分な。どうする<勇者>?」

 

「どうする、とは?」

 

「アレを俺が拘束し、お前達は街に行くか、こいつをとっとと倒して俺含めて街に行くか、だ」

 

 

 

俺を連れていくことにより、到着後から減る被害と、こいつと戦う時間分増える被害でプラマイゼロくらい。だから二つの選択肢に恐らく大した違いは無いと思う。なら後はコイツの判断に任せる。

 

 

 

「……こいつを任せていいか、国崎。クラスメイトも何人か置いて行くから」

 

 

 

そっちか。まあ早く助けに入れるのはそっちだしな。重傷者が居るとするなら、遅れればその分死者が増えるだろうし。早めに交戦状態に入れば街への被害も少なく済む……あれこれが最善の選択肢じゃね?

 

 

 

何人か置いて行くのは、多分戦闘に向かず、かつ支援系職業でない者だろう。例えば<巫女>とか。あとは知らん。

 

 

 

「構わない、決まったのなら動け」

 

「すまない、行ってくる」

 

 

 

さてと、じゃあ拘束、してみるか?

 

 

 

「<絶対障壁(バリア)>」

 

 

 

神楯(イージス)>を展開したまま、魔族の周囲に<絶対障壁>を()()()()張る。つまり外からの攻撃は通るが、中からは通らない。

 

 

 

「<迎撃(インターセプト)>」

 

 

 

障壁を張られたことに気づき、周りに魔法を放ち始めたところで、新たにスキルを使う。一撃喰らえば、後は確実に全ての攻撃を迎撃できる、<絶対障壁・迎撃>。この時、攻撃を受ける判定は障壁全体。つまり、魔法だけでなく、例えば障壁を蹴ったり殴ったりしようとすると、その前に無属性魔力弾に襲われる。おまけに、魔法も放たれるとほぼ同時に迎撃されるから、近距離での魔力爆発によるダメージも入る。

 

 

つまり、この中に閉じ込められた場合、取り敢えず自爆で被害を負わない方法はただ一つ。障壁に触れないよう、ただじっとして球状障壁の中心で大人しく浮かび続ける事だけである。しかし、こちらからの攻撃は通るので、結局無傷では済まない。我が魔法ながらえげつない。

 

 

逃げるなら<魔王>クラスの力量と魔力量が必要。<迎撃>が追い付かない程の速度で、微妙にタイミングをずらしながら、高火力魔法を連発しなきゃいけない。もしくは障壁そのものを構成する魔力の数千倍の魔力量で、迎撃も障壁も力任せにぶち破るか。

 

硬き壁(ハードウォール)>を併用すれば、まず逃げる事なんてできない檻が完成する。

 

これ自爆系スキルとかと相性よさそうだよね、持ってないけど。威力を閉じ込めて相手を確実に巻き添えにする。

 

 

さて、一応これで任された仕事はほぼ終わったようなものである。あとは魔力を補充しつつ障壁を維持し続け、<勇者>を待つだけ……いや、<勇者>である必要は無いな。別に軍の魔導師でも十分なくらいだ。離れたところから、攻撃を受ける心配もなくボコるだけだし。

 

俺自身は<神楯>で鉄壁防御なので、万が一の<勇者>を撒いた魔族の援軍も気にしなくていい。外からの攻撃では障壁は破れない。そりゃそうだな、本来内側からの攻撃を通し、外の攻撃を防ぐ障壁を表裏反転させてるんだから。外から撃ったらそれが魔族側の攻撃だろうと障壁を透過し中にいる魔族に当たる、かもしれない。外せば<迎撃>が作動して対消滅、爆発のダメージは……あ、これどう足掻いてもダメージあるな。

 

 

 

「……魔族をあんなに簡単に」

 

「当然。<防衛者>は受け身型の戦闘においては特に<勇者>と互角以上の戦力を持つ職業だと説明しただろう」

 

 

 

正確には同時期の<勇者>パーティー前衛組全体と、互角以上に張り合えなくてはならない。ならあの程度の魔族は手玉にとれなくては話にならない。

 

 

 

「……ねえ、あれって、もしかして障壁を内側に向けて展開させてる?」

 

「そうだ。あの球体の中からの攻撃を全て受け止める──迎撃できるようにしてある」

 

「それって……」

 

「何か?」

 

「神崎が死んだ時の……」

 

 

 

俺生きてr……違うってね知ってる。嘘の死因か。

 

 

 

「今代<防衛者>が死んだ時?」

 

「そう。魔族相手に大立ち回りを演じた挙げ句、障壁を内向きに展開して魔族を拘束し続けて、最期は魔族の自爆に巻き込まれたんじゃないかって」

 

 

 

そりゃまた随分アグレッシブと言うかアクティブな<防衛者>だな。誰だ後衛職に零距離肉弾戦させたの。

 

 

 

「内向き障壁に魔族の自爆、か……」

 

 

 

自爆系スキルは俺も二つしか知らない。光属性第七位階<最期ノ煌>と闇属性第七位階<圧爆>。仕組みは共通で、自分の魔力を圧縮し、一気に解放する。

 

成程、<迎撃>までなくとも<絶対障壁>を内向きドーム状に形成すれば、自爆の威力が根こそぎ中にかかる。想定されている中級魔族の、満タンではないであろう魔力量じゃ<絶対障壁>は破れない。音と光は外にも出るだろうが、熱とか爆風は完全に閉じ込められる。

 

流石に<防衛者>が物魔防御特化と言っても至近距離で自爆されたら一撃で吹っ飛ぶ。ステータスのHPは耐えても零距離の爆発に肉体が耐えきれない。んで全てが終われば術者死亡により<絶対障壁>は自然解除。相手魔族のレベルが低く、人族に殺されたわけでもないので特殊スキル(即死カウンター)<審判ノ日>(核兵器)も発動しない、と。

 

 

何だ結構辻褄あってんだな。当然彼等が<防衛魔法><報復魔法>について詳しく知ってるわけじゃないのに。まあ障壁系使うって分かってるなら、その程度の虚偽事項を組む事は出来るか。

 

とか思っていたら、先ほどまで魔法を乱射し続けていた魔族が、今度は魔力を集中させ始めた。あ、これは。

 

思った瞬間に<絶対障壁>に供給していた魔力を一時的に増量する。

 

直後障壁内に閃光が煌めき、一瞬遅れて轟音が響いた。隣の<巫女>その他が悲鳴を挙げながらしゃがみこむ。あーあ、やっちゃったか。

 

先程までの魔力反応が無くなったのを確認し、障壁を解く。

 

 

 

自爆だ。闇属性第七位階<圧爆>。

 

 

 

「……魔族は?」

 

 

 

いち早く復帰したらしい石縄が聞いてきた。

 

 

 

「死んだ。自爆だ。跡形もなく吹き飛んでいる。何も残っちゃ……いや、待て」

 

 

 

何か落ちてきた。紙か?足元に落ちたそれを拾い上げ、城の魔力灯で照らす。

 

 

 

写真だった。魔族の女性と、その腕に抱かれた子供。裏返せば魔族語で何かを走り書きしてある。

 

 

ああ、成程。家族写真と走り書きのメッセージ。

 

 

言い方は悪いがテンプレね。これは<勇者>達には、見せるべき……だろうなあ。

 

 

 

「何かあった?」

 

 

「ああ」

 

 

 

多分物凄く後味悪くなる物が。

 

 

 

 

 

 

 




以上です!

<絶対障壁・迎撃>は<神楯>に統合されてしまっているので、単体で(最初から<絶対障壁・迎撃>として)は発動できませんが、<絶対障壁>を一度発動してからなら、派生の形で発動できます。スキル発動の手間とか考えられた結果なんですが……
面倒?自分もそう思います(おい)。



さて、何だかんだで、本作もとうとう本編で五十話、設定と旧第一話を投稿し一年が経とうとしています。最初は本当に思い付きの走り書き。そのせい(と主に作者のとーふメンタルのせい)で途中で頓挫したのを練り直し、継ぎ足し継ぎ足し、感想に励まされながら、まともな小説目指して進んできました。

少しは読みごたえある作品に出来ていると良いなと思います。
今のところ、王道を所々外しながら進んでいる主人公たちです。今後とも彼等の旅路を、主人公曰く千年前の清算を、暖かく見守っていただければ幸いです。

最後になりましたが、感想を下さる読者様、評価して下さる読者様、いつもありがとうございます。
そして今後とも本作品をよろしくお願いいたします。

質問感想批評等、お待ちしております!


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閑話  かくして彼は転生する

さて、久々(?)の閑話です。

旧版から追加した設定の中で一番大きな改変です。



それではどうぞ!


 

 

()は、気が付くと、一面真っ白な空間に居た。見渡す限り何もない、ただただ白い空間。服は着ている。記憶にある最後に着ていた服装、つまり学校の制服だ。

 

 

 

「ここは、どこだ?」

 

 

 

何があった、なぜ自分はここに居る。いや、ただの夢か。分からない。

 

 

 

「俺は、中学二年生。名前は富岡(とみおか)義照(よしてる)、住んでいるところは日本、東京都」

 

 

 

取り敢えず、自分の名前と年齢、住所は言えるようだ。それについてまず安堵する。となるとこれは恐らく夢か?

 

 

取り敢えず手の甲を思いきりつねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして後悔した。

 

 

痛い。めっちゃ痛い。

 

 

夢ではない。となるとこれは現実。つまりこれは。

 

 

 

「これはネット小説によくある転生のお告げか!」

 

 

 

と言う事は。

 

 

 

「俺死んだの?」

 

 

 

再度自分の記憶をさかのぼる。この部屋で目覚める前、意識を失う前、自分はこの服装で、どこで何をしていたか、何をしようとしていたのか。

 

制服を着ている、つまり死んだと思われるのは学校の行き帰りもしくは学校行事中。

 

そこまで考えたところで思い出した。

 

 

 

「ああそっか、俺車に轢かれたんだっけ」

 

 

 

小説なんかにありがちな死因だ。青信号の歩行者信号、赤信号の車用信号、突っ込んでくる自動車、その目の前で立ちすくむ少女。制服から見て同じ学校の女子だ。そう思ったときには荷物を放り出し走り出していた。

 

 

引き戻すにはギリギリ時間がないと踏んで、走る勢いそのままに彼女を突き飛ばす。自分もやや落ちた勢いのまま走り抜けようとしたところで、真横から襲い掛かる衝撃。直後に視界が回転し、一時的な浮遊感。直後に全身に走った衝撃と共に意識は暗転していった。

 

 

 

「おお、俺中々な事してるね」

 

 

 

死んでしまったが。

 

 

救い、と言えるかどうかだが、回転する視界の中で、突き飛ばした少女が、倒れこんだ後にすぐ起き上がろうとしていたのが見えた。つまり突き飛ばしたときに失敗した可能性は無いという事だ。

 

 

 

「まあ助けられたから良いか」

 

 

 

何はともかく、自分の命を費やした甲斐はあったのだろう。

 

 

さて、過去は思い出した。次は、現在と、今後の話だ。

 

 

ネット小説通りなら、ここで神が出てくる。それでなんか不憫に思われるかなんかして転生するか、ごめんちょっとミスった特典あげるから許してって言われて転生するかのどっちか。俺はそのパターンしか知らない。探せばあるかもしれないけれど。

 

 

 

「さあ、とっととこい神様!特典とか無くても……いやごめんなさいやっぱりそこそこの特典は欲しいです」

 

「……正直な少年ですね」

 

「何か出たあああああああ?!」

 

 

 

出てこいと言った直後に、真横から声がした。そちらを向くと、1人の女性、というか美少女、が立ってこちらを見ていた。

 

 

 

「何かとは失礼な。呼ばれたから出てきましたのに」

 

「……呼ばれた?」

 

「ええ、とっとと来いと呼ばれたので」

 

 

 

思考が停止する。つまりこの女性は神様……女性なので女神様という事だ。

 

 

 

 

【速報】神様転生は存在した

 

 

 

 

などという文言が頭に浮かぶ。

 

 

 

「え、と、それで、女神様が俺に何の御用ですか?」

 

「貴方が呼んだから出てきたのですが」

 

「嘘やろ」

 

「冗談です」

 

 

 

つい反射で否定してしまったのを女神(仮)が返す。

 

 

 

「見知らぬ人の命を助けるために、迷いなく自分の命を危険にさらした、勇気ある貴方にお願いがあります。頼みたいことがあるのです」

 

 

 

どっちでもなかった。

 

 

 

「頼みたいこと、ですか?」

 

「ええ、ある世界を救っていただきたいのです」

 

 

 

それは勇者的な存在となって魔王を倒せみたいな?

 

 

 

「いいえ、倒してほしいのは神です」

 

 

 

コイツ、まさか心を……じゃなくて。え?

 

 

 

「神を、殺すのですか?」

 

「正確には、殺す、ではなく、()()、になります。貴方に救っていただきたい世界は、機械によって統治される世界です」

 

「機械による統治?」

 

 

 

女神によれば、その世界には<()()()()>と呼ばれる、恐らく人工知能搭載型のスパコンがあるようだ。そんなものどうやってできたのかと思ったが、その世界には魔法があるようなので、それでどうにかしたのだろう。

 

 

その世界には人族(亜人族)と魔族という二つの主要種族が存在する。この種族は仲が悪く、大体千年おきくらいに魔族側に<魔王>が現れ大戦争が勃発し、互いに大きな死者を出す。

 

しかし、最終的には、追い込まれた人族が女神に縋り、古の秘術である<勇者召喚の儀>により、異世界から<勇者>を召喚、魔族側のトップである<魔王>を倒し、世界というか人族は平和を取り戻す。これだけを見ればハッピーエンド……というか、まあ、円く収まったんだなと、物語のように感じるだけだ。

 

 

 

問題は、それら全てが<システム>による茶番である事だ。魔族が信仰する魔神(その世界ではラボルファスと言うらしい)も、人族が信仰する女神(同様にリシュテリアと言うらしい)もどちらも<システム>が創り出した存在しない神。つまり<魔王>を出現させるのも<勇者>を召喚させるのも<システム>の意思。ちなみに<魔王>も<勇者>も<システム>の事を知らない。

 

 

理由は分からない、との事だが、俺には趣味の悪い遊戯にしか思えなかった。

 

 

おまけに大戦において出る多くの死者の魂は、<システム>のエネルギーとして利用されるという。

 

 

つまり、女神によれば本来自由であるべき魂の輪廻さえ、その世界では<システム>の管轄下にあり、閉じられているのだと。

 

 

<システム>による、俺基準での悪行は他にもあった。

 

 

一つが精神操作系魔法による、発展の停止。現水準からやや発達した程度であればともかく、大幅に発達した発想は、女神教から異端認定されたり、実験が知らず知らずの内に失敗する手法を取ったりする。そりゃないだろう。なんのためかは知らないが、これ以上を望む探求心──それが私利私欲なら分からないでもないが──を、邪魔するのは、やってはいけない事の一つだと思う。人類の発展は常にトライ&エラーから成功を導きだしたがゆえの物で、トライ=エラーなんてハードモードとかいうレベルではない。

 

 

 

そしてもう一つが、管理者制度である。女神曰く、召喚される異世界人は、例外を除き<勇者>の称号を持ち、全員が<勇者>と呼ばれる。その中で真の勇者、つまり職業が<勇者>である者が<魔王>を殺す。まあここまでは良い。だって倒さないと死者が増えるからね。<勇者>であるから<魔王>を倒す。おとぎ話レベルの事だ。

 

さて、<魔王>を倒した<勇者>、やったね役割終わったよこれで帰れるね!になるかと思いきや、彼ともう一人には続きがあるのだという。前述した大戦は、千年おきに行われる。つまり千年に一度は<勇者>が召喚されるのだが、その次までの千年間、前代<勇者>(ともう一人)は<システム>の補助を行わなくてはならない。彼等はこの時初めて<システム>の存在を知るとの事。

 

 

 

魔法で大抵のことは何とかなるが、やはり住民と同じで、自由に動ける目線が必要だという事だろう。それは分かるが、異世界人を千年も縛り付けるというのは拷問ではないかと思う。千年過ぎたとしても、戻される元の世界の時間経過は、他の普通に戻った召喚者と同じだというのが救いか。

 

 

いくつか肯定できることがあるにせよ、それを打ち消して余りある罪業を重ねている(当社比)。それを放置するのはどうだろうか。というか女神様がぶっ壊せば済むんじゃ……

 

 

 

「<システム>による世界の守りが固く、私単独で突入できても、壊す時間が無いのです」

 

 

 

マジか。それで人間に目を付けた、と。

 

 

 

「はい。実は、今代の<勇者>達も、世界の異常性に気づき、<システム>に対し何らかのアクションを起こしたようなのです。残念ながら<システム>を壊すには至りませんでした。元の世界に送り返されたのか殺されてしまったのかはわかりません」

 

「しかし、そのお陰で、<システム>の防御に僅かですが、穴が出来ました。私が行くには、小さすぎていつも通り破るしかありませんが、もっと小さく、力のない物なら、何もせず、世界に紛れ込めます」

 

 

 

例えばただの人間の魂(今の俺)とか、か。

 

 

 

「察しが良くて助かります。今はともかく、<システム>もいずれ対策を講じてくるでしょう。その前に、その異世界に侵入していただく必要があるのです。私は時間遡行が出来る程高位ではないので、今しか手を打つことが出来ません。その中で、事を必ず成してくれそうな人は、貴方しか居ないのです」

 

「もちろん、事を終えた後は、貴方を元の輪廻に戻します。低位とは言え神なので、ある程度の特典を協力のお礼として付ける事も出来ます。どうか、手伝ってはいただけませんか?」

 

 

 

「わかりました、良いですよ」

 

「……本当ですか!ありがとうございます!」

 

 

 

やべえ美少女の笑顔とか最高じゃないですか、これがもう報酬レベル。

 

 

 

「という事は、俺はその異世界に転生するんですね?」

 

「はい。既に転生先も決定しています。転生先は、次に<勇者>が召喚されると推定される時代に、最も女神教教皇になりやすい家です。つまり、女神と接触し、<勇者召喚の儀>の秘術を受け取り、執り行う役割です。そこで召喚される<勇者>に事情を話し、協力してもらってください」

 

 

 

今回の依頼は秘密ミッション。そのため当然ではあるが魔力量とか素質とかの莫大な特典は付いてこない。バレたら困るからだ。俺に求められるのは、そ知らぬふりで、異世界の魂に紛れ転生する事。あとは地道な努力を重ね、教皇となる。<勇者>を召喚し、事情を話して説得し、協力してもらう。一番破壊を狙えるのは<魔王>を倒した後。

 

 

 

「わかりました」

 

「申し訳ありません、ですが貴方に頼む以外の方法が無かったのです……幸運を」

 

 

 

こうして俺は、大筋の流れとしてはテンプレを踏みつつ、とある異世界へ転生することになった。

 

そこは魔物がいて、人族と魔族が存在し、千年に一度<勇者>が召喚される世界。

 

 

住民達は自分達の世界をこう呼ぶ。

 

 

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 




どっかで聞いたことあるような世界のお話ですね(白目)

以上です。

つまり今回のイレギュラー召喚は、この娘(女神)が元凶。元を辿れば最大の元凶は<システム>自体なんですがね。

まあ書いてある通り、本格的に関わり始めるのは魔王討伐後です。


それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第五十一話  終結と対策

何か女神様が動いて何か転生した少年()

ちなみに前回の閑話は、時系列的には本編の数十年前の話になります。



というわけで第五十一話です、どうぞ!


 

「それは……?」

 

「写真だな」

 

「写真?」

 

「見るか?ほら」

 

 

 

そういって写真を手渡す。ちなみに写真の裏には、名前と、いつまでも愛してる、的な事が書いてあった。

 

称号<異世界人>の効果により、自動的に読み聞きは各自の母語に翻訳される。なお書くまでは対応してくれない。

という事は当然ながらメッセージも読めるわけですが。

 

まあ、この程度なら後味悪くなる程度で済むんじゃないかな?とりあえず魔族が外見と魔法特性以外は基本人族と変わらないって分かるくらい。死に方も自爆で、俺達が手を下したわけじゃないからね。

 

そう言えば今代って魔族をどう思っているのか聞いたことが無いな。あとで聞いてみようか。もし人として見ているのなら、それは良いことである、多分。見ていないのなら後になるほどきつくなっていく。後半になればなるほど受け止める物が多く、あるいは重くなっていくからだ。

 

さて、<勇者>達は気付いているのかな?<魔王>だろうと魔族だろうと、それは殺人であるという事に。

 

 

 

「<周辺警戒(レーダーマップ)>」

 

 

 

まあそんなことは俺が悩むべきではないと思うので、次の作業に取り掛かる。既に展開済みの魔法を再度詠唱することで、一瞬だけ効果範囲を()()()に引き伸ばす。

 

 

裏技みたいなものだ。普通の魔法でもできないことは無いが一瞬で普通の倍以上の魔力を持って行かれるのであまりお勧めは出来ない。<防衛魔法>の魔力超低消費があってこそできる事。

 

 

さて、現在の探知範囲は最大で王城全体。これを倍に引き伸ばすことで、街まで届かせる。一瞬だけだがそれで十分。その一瞬で目標の大体の位置を知る。ゲームと一緒だ。

 

現状、パーティーを組んでいる認識になっている<勇者>は青、住民は黄色、魔族は赤なわけだが。

 

 

 

「優勢だな、俺が手を貸す必要も無さそうだ」

 

 

 

赤点()1に対し青点(今代)2の戦力差で戦闘を行っているようだ。他にもちらちら数個固まっていたのは後衛職か?

 

前衛と後衛で分かれて戦闘が出来る……というかまあ今代ならそれが普通なんだろうが、それが出来ているという事は、こちら優勢で進んでいることの証。自分達の戦術で戦えているという事なのだから。

 

 

 

「家屋の被害は流石に分からんな。一応見に行くべきか」

 

 

 

全ての魔族は既に<勇者>により釘付けにされている。なら次にすべきことは民間人の救助であろう。

 

 

 

「行くって……何で?」

 

 

 

おい<勇者>……ってまあ仕方ないのか?少なくともRPGじゃ<勇者>は戦うだけだったしな。今までの戦闘もほぼ全て外だったことを考えればそこまで思い至らないのも決して不思議ではないが。

 

 

 

「まずは移動しよう、話は移動しながらでも出来る」

 

 

 

取り敢えず残された<勇者>3人を連れ、移動を開始する。怪訝な顔をしながらも一応ついてきているので良しとしよう。

 

 

 

「現状、取り敢えず魔族全員をその場にとどめる事には成功している。だが<勇者>到着までには多少なり被害はあったはずだ。家屋倒壊で逃げ遅れた人もいるだろうし、怪我人は確実に出ている」

 

「<勇者>の役割は、確かに<魔王>を倒す事だ。だがそれは手段であって目的ではない。人族が<勇者>を召喚するのは、元はと言えば、魔族による被害を減らすため。ならば戦いは出来ずとも、犠牲者を減らすことは出来る」

 

 

 

召喚者の身体能力は異様に高い。ステータスとして現れる魔力、体力、攻撃、防御は勿論、ステータスに数値として現れる事のない能力もだ。例えば俊敏性や筋力、持久力など。

 

何が言いたいかというと、災害救助みたいな事が出来る、多分。建物の下敷きになった人がいても、持ち上げられる。何で知ってるかって?やったことあるからだよ。

 

 

 

「例え戦闘向きでなくとも、こうやってその職業で召喚された以上は、何かしら果たす役割がある、出来る事はある。それはお前達も分かっているはずだ」

 

 

 

防御値を除き異様に低いステータス、固有魔法しか使えない魔法適正、謎職業<防衛者>が、その実<勇者>と同レベルの重要職業であったように。その職業で召喚するからには、何らかの意味がある。

 

直接戦闘にも後方支援にも向かない<鍛冶><巫女><調教師>でさえも何かしら役に立つ時が来る。でなければ<治癒術師>や<結界術師>、<回復術師>を増やせばよかっただけの事なのだ、回復役や壁張り役は多ければ多い程良い。

 

その意味がまだ見つからないとしても、その優秀なステータス・身体能力は、それまで腐らせるには惜しい。非戦闘職と言えど、俺が行動を共にする限り、命の危険は無い。

ならとりあえず出来る事を。

 

何が言いたいかというと、

 

 

 

「魔族との戦闘だけが<勇者>の役割じゃない。寧ろ()()()()()()()()()()()()だ」

 

 

 

その為に行動しなきゃいけないだろう、と。魔族を釘付けに出来ている、という事は同時に、<勇者>もまた動けないという事だ。今すぐに動けるのは俺達と、夜警当番の兵士くらいだ。その中で一番有力なのは確実に今ここに居る俺含めた4人。

 

 

 

「本当はツーマンセルの方が早いが、それだと戦力的に心許ない。俺が広範囲捜索と警戒、万一の戦闘を担う。お前達が救助に当たれ。ある程度なら俺の障壁の範囲に入るからそこから出ないようにしてくれればそれ以外は自由だ」

 

 

 

説明している間に城門を抜けた。王城前の広場は既に避難してきたと思しき人たちで埋め尽くされ、大通り遠方の方には炎が見えた。

 

 

 

「<絶対障壁(バリア)><絶対障壁>──空中に足場を作った!転ぶなよ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 

目の前にうっすらと青く光る坂が出現する。<絶対障壁>はある程度形をいじくる事が出来る。それを利用し、まずは斜めに板状の障壁を1枚。そして、広場の地下数十メートルの1点を中心とした球面の内、地上2メートル以上の局面に障壁を展開。

 

これを足場として、火が見える方向へ移動。降りるときはそのまま飛び降りる。移動中も定期的に例の重ね掛けを行って、生存者を探す。広場に近いうちは反応がない。家も倒壊していないため、<勇者>が間に合ったのだろう。離れていくにつれ、魔法が直撃したと思われる損傷の家も増えていく。外周付近に至ってようやく生存者を次々と探知する。

 

途中までは魔法の流れ弾が多く飛んできていたため、可能な限り広範囲を<神楯(イージス)>で護り、迎え撃つ。途中で追いついてきた兵士に引き渡しつつ、救助を続行。

 

襲撃してきた魔族を撃退し、戻ってきた<勇者>達も含め、救助活動は夜中まで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の襲撃による死者は354人、負傷者はその3倍以上。<勇者>が早めに出た事が良かったらしい。魔法の流れ弾は、人的被害がありそうな場合は、<魔導師>系職が相殺したと聞いた。つまり損傷していたのは避難済みであった家がほとんど。ただ外周部では外に出ている人はともかく、家までは確認できなかったとの事。まあそれくらいはね、仕方ないね。

 

相手に与えた損害は、二人死亡、六人戦闘不能である。一人しか殺せていないのが気になるね。

 

 

とは言えともかく魔族の撃退に成功した今、考えるべきことは、王都の守りである。特に気になる事が1つ。

 

 

大結界が弱すぎる。

 

 

見張りは軍の各部隊を城壁に配置することでどうにかするとして、大結界が外か中かは知らないが、たかだか普通の魔族に破られる程度ではあまりにも不安過ぎる。出力を上げる必要がある。恐らくエネルギー源は魔力。ならば<勇者>か<魔導師>、あるいは非魔法職、非戦闘職の召喚者にでも魔力を余分に供給してもらえばいい。

 

 

 

……<支援者>が居ればそんな面倒な手を使わずに<絶対障壁>を張ればあとは<対象範囲拡張(エリアワイデン)><硬き壁(ハードウォール)><魔力消費軽減(マナセイビング)><魔力吸収(ドレイン)>辺りを使ってもらえば、大結界とか余裕なのに……

 

 

 

やはり<支援者>が欠けるのが想定以上に痛手過ぎる。あとは<防衛魔法>のレベルアップを祈るしかない。

 

 

 

以上の事を纏めて篠原に話す。

 

 

 

「……わかった、国王陛下に話してみよう。あと結界についても聞いてみる」

 

「頼む」

 

 

 

取り敢えずこれで急場しのぎとはいえ対策は出来たかな?

 

 

 




以上です。

以下雑記ですので読み飛ばして構いません。

なお前閑話に登場した少年ですが、割合まともな人だと思います。
というのも女神の<システム>についての話から、一応<システム>の長所を肯定できているからです。本文中ではさらっとしか触れてないですけどね。
まあ女神の話を鵜呑みにするのは頂けませんが、あの状況で、それ以外に情報源がない事を考えると、仕方ない気もします。



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第五十二話  出陣の決定

王都の守りよっわ!対策はよ!




というわけで
第五十二話、どうぞ!


 

 

 

国王陛下曰く、警備隊の見張の人数を増強し、特に夜間は魔導師も多めに配置する、との事だった。とりあえずこれで早期発見はどうにかなるだろう。

 

 

問題は護りだ。王都を守護する、王都大結界。王都を囲う城壁内に設置された結界発生装置、恐らく魔法陣を刻んだ魔道具、によって作られる、王都の守り。それは現状、魔族軍一般兵の攻撃にも耐えきれないレベルでしかない。

 

 

 

比較するならかつてヴァルキリア皇都に存在した皇都守護大結界が、<魔王>の全力でギリギリ破壊出来る程度だったと言えば、その脆弱性がわかるだろうか。

 

 

 

篠原が、王都警備隊から聞いてきた話によれば、結界が弱いのは魔力不足もあるが、現状の出力では結界発生装置も足りないのだとか。

 

数か……それは多分、どうしようも無いはずだ。となると、単体ごとの出力を上げる方法しか取れない。つまり供給魔力をどうにかする方法。

 

一回実物を見せてもらいたいね。じゃないと解決策を選択出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう篠原に伝えたところ、即日で許可をもらってきた。良くやった<勇者>。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、成程ね。このタイプか」

 

 

 

守護範囲内から一定量の魔力を吸収することでエネルギー源とする、自然魔力供給型結界。これは魔力供給量を増やせばどうにかなるタイプではない。打つ手は無いことは無いが、今の<勇者>では少々手に余る可能性がある。

 

 

 

「どうにかなりそうか?」

 

「……後衛魔法職、それからスキル<錬成>か<魔道具作成>を持ってるやつが必要だな。<鑑定>持ちが居ればかなり楽になるが」

 

 

 

設置型魔方陣による固定結界の改良は、少々面倒だ。まずどういう魔方陣が設置され、どの順番で描かれているのか、それらをどのように弄るのか、どうやって描き換えるか。

 

 

最初の3つに<鑑定>と魔法職が必要。最後に<錬成>か<魔道具作成>持ちが必要。<勇者>モードの俺なら全部俺だけで可能だが、今代は数人に分ける必要がある。

 

 

人材は既に心当たりがある。<魔導師>と<鍛冶>だ。<勇者>パーティーにおける鍛冶は、基本的に魔法付与系の武具防具も扱うために、取得スキルで魔道具作成全般を担う事が可能だ。

 

 

俺が出来るのは助言だけ。これの改良に口出しするのはアウトな気がする。せいぜい必要な人材を教えるくらい。

 

 

 

「<鍛冶>と<魔導師>が居れば十分だとは思う」

 

「わかった、すぐ呼んでくる」

 

 

 

性格に難がありそうとはいえ一応<勇者>パーティーの一員らしく、完璧ではないが結界強化に成功した。皇都守護大結界には及ばないが、少なくとも上級幹部級でなければ破れまい。

 

 

 

とは言え、強化に丸三日もかかるのはちょっとかかり過ぎじゃないですかね。分析に半日、試験に一日半、作成に一日とは。見た感じそこまで複雑な魔方陣でもなかったんだけど……レベル低いからしょうがないのかねぇ……

 

 

 

 

 

さて、最初の襲撃から既に四日以上経過している計算になるな。という事は多分そろそろのはずだ。

 

 

人族領各地への、魔族襲来の報告が届くのも。

 

 

確かに王都()、守りきれた。だがそれは俺達召喚者がいてこそ。他の都市には、各国の首都を除き、都市防御用大結界すらあるかどうか。あったとしても、身分偽装されたらおしまいだしなあ。

 

 

 

何が言いたいかって、各地は大被害なんで勇者様助けてくださいが始まるんだよ。

 

 

 

基本的に魔族の序盤の動きとして、大都市以外は一度撃退されたら二度と来ない。そりゃそうだ、対処法が確実に強化されているだろうに、そんな小規模拠点を犠牲覚悟で襲う意味が無い。

 

そこそこの大都市、つまり人族魔族両方にとって確保し続けることに戦術的・戦略的価値がある場所は何度でも襲撃してくる。あとは<勇者>の拠点もか。

 

逆に言えば、撃退しなきゃいつまでもそこに居続ける。当たり前か。

 

以上から、<勇者>による人族領行脚が始まるわけだ。

 

 

 

 

当然俺も同行する事になる。北へ南へ東へ西へ、海を渡り山を越え洞窟を抜け、そんな勇者の冒険がいよいよスタート。

 

俺達の時は召喚者四人に加え、ヴァルキリア最強の戦士と魔導師が居た。まあ、今回はある程度既にレベルも上がり戦闘経験もある上に人数も29人。現地人が付く必要は無いだろう。

 

 

率直に言って不安しかない、が、まあなるようになるだろう。何があろうと俺の責任じゃない、そうだ、俺の責任じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国崎」

 

「なんだ?」

 

「王国北部から救援要請が届いた。気候が気候だけに魔族も攻めあぐねているらしいが、あそこには兵士も冒険者も少ない」

 

「つまりそこに行くんだな。いつからだ?」

 

「明後日出発の予定だ。大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないって言っても通るわけじゃないだろ?ああ、安心しろ。どうせ身の回りの私物なんてほとんど無い。いつでも出発できる。ところでお前達はどうするんだ?」

 

「どうするって?」

 

「非戦闘職の人間はどうするんだ?」

 

「……彼等は、希望者だけ連れていく予定だ」

 

「なら、その中で、俺を信用している奴を誰か、後で俺の部屋に寄越してくれ。可能であれば女子が良い」

 

「女子?分かった」

 

「残る人間がいるなら、やる事があるからな、早めが良い」

 

 

 

防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)>による、<神楯(イージス)><絶対障壁(バリア)><周辺警戒(レーダーマップ)><警戒地点設置(レーダーサイト)>の付与をね。

 

 

 

「了解した、可能な限り早くしよう」

 

「頼むぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。時間的には九時ごろ。提供された個室のドアがノックされる。さて、少しばかり長いかもしれない夜の始まりだ。

 

 

 

「こんばんは、石縄」

 

「──こんばんは、えっと、篠原君に言われてきたんだけど」

 

 

 

入ってきたのは今代<巫女>石縄(いしなわ)令奈(れいな)。篠原、グッジョブ。

 

 

 

「ああ、じゃあ石縄も残るんだな。ああ、そこに座ってくれ──あとは誰が残るか教えてくれないか?ああ、出来れば職業名を付けてくれ」

 

「私以外には、<調教師>東原(とうはら)寧音(ねね)、<結界術師>滝原(たきはら)詩織(しおり)、<狩人>工藤(くどう)莉里(りり)、<回復術師>鹿本(かもと)佳央梨(かおり)、<治癒術師>木下(きのした)葉月(はづき)、<鍛冶>佐々木(ささき)(けん)、<騎士>谷塚(たにづか)幸生(ゆきお)……あ、あと<魔導士>の小野瀬(おのせ)柑奈(かんな)と、<死霊術師>の岩本(いわもと)莉愛(りあ)

 

 

 

言われたことを全てメモっていく。名前はカタカナだ。

 

残るのは10人か。女子8に男子2。戦力構成は前衛2後衛4。<騎士><回復術師><治癒術師>は保険かな?ちゃんと考えているようでなにより。

 

<結界術師>を残したのはそこそこ大胆だと思う。二人しかいないのに。まあそれはさておき。

 

この面子なら確かに石縄が適任だな。あとは<調教師>かな?夜襲の時に一緒に行動して話したからな。

 

 

 

「それで、私を呼んだ理由は?」

 

「その前に質問を一つ、この後……今からだと長ければ日付が変わるくらいまで時間かかるんだが大丈夫か?」

 

「え?あ、うん」

 

「なら良し。石縄を呼んだ……と言うかまあ篠原に選んでもらっただけだけだが、呼んだ理由は、俺が北に行っている間の、代理を頼みたくて」

 

「代理?」

 

「そう。<防衛者>の代理をしてもらうために、そのために色々教えておかなくてはならない事がある」

 

 

 

この口調選んだの俺だけど面倒だな。威厳的なものを欲してたけどなんか面倒だ。

 

 

 

「<防衛者>は、召喚者の中には一人しかいない。だが一人だけじゃ、どう考えても人族の領土全体を守ることは出来ない、という事は分かるか?」

 

 

「うん」

 

 

「それを解決するためのスキルを、実は<防衛者>は持っている。<防衛業務委託>、という名前のスキル。名の通り、誰か任意の人間に、<防衛者>の業務を委託するためのスキルだ」

 

「俺は<勇者>と共に行く。そのため、誰か王都に居る人間で、信用のおける人間、出来れば<勇者>の内誰かに、俺の業務を肩代わりしてもらう必要がある。そこで篠原に頼んだ。誰か残るという<勇者>の中で俺を信用できる人間を連れてこい、とな」

 

 

「それで私が……」

 

「そうだ、俺も納得いく人選だと思う」

 

「私が?」

 

「ああ。流石に男子には任せられないのだろう」

 

 

 

 

信用と言う点と、万が一の戦力という点で。

 

 




名前をカタカナで書いたのは、その漢字でそう読む事を知っていると言うことを知られないためです。過剰なまでに慎重に、身バレを避けていきます。


以上です。

それでは感想批評質問等お待ちしております!


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第五十三話  防衛業務委託

<防衛魔法>はマジで色々とチートだと、この頃書いてて凄く思います。




今回は、今代<巫女>視点が存在します。
**********
これ以降は<巫女>視点です。


それでは第五十三話です。


 

 

「では説明を始める」

 

「あ、うん」

 

「俺が石縄に付与するスキルは、四つだ。<神楯(イージス)><絶対障壁(バリア)><周辺警戒(レーダーマップ)><警戒地点設置(レーダーサイト)>。このうち、<神楯>と<絶対障壁>は、見たこともあるだろう。使い方は普通の障壁系魔法と同じなんだが……分からないか」

 

 

 

今の<巫女>にその例えは馬鹿だった。

 

 

 

「済まない……だが、一度使えばわかるはずだ、どれも初級スキルだからな。というわけでとりあえず一度全て付与し、使ってもらおうと思う」

 

 

 

とにもかくにも、一度使ってもらえば確実に使えるようになるのがこの<防衛魔法>の良い所である。イメージしやすい、特に現代人にとっては。ほら、マップとかゲームで良くあるし、障壁系は小学生の常識破りの超防御「バリア」まんまだし。

 

 

 

「では行くぞ──<防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)・神楯><防衛業務委託・絶対障壁><防衛業務委託・周辺警戒><防衛業務委託・警戒地点設置>」

 

 

 

一気に四つはキツい。何がって詠唱が。これでも短い方だとは知っているんだが……

 

 

 

「発動する時の詠唱は『防衛業務委託+スキル名』で良い。それだけで発動できる。まずは……<周辺警戒>からだな」

 

「えーっと……<防衛業務委託・周辺警戒>!」

 

 

 

さあどうだ。

 

 

 

「な、なにこれ!なんか頭の中に!」

 

 

 

あ、いきなりレベル5はきつかっただろうか……表示範囲はおおよそ王城全体、情報は敵味方中立の色分けくらいなんだけど……慣れてなきゃキツイかな……?

 

 

 

「大丈夫か?無理そうだったら一度止めていいぞ」

 

「……大丈夫、どうにか」

 

「<警戒地点設置>は?」

 

「<防衛業務委託・警戒地点設置>……あれ?……ああ、うわ、何かものすごく変な気分……」

 

「だろうな」

 

 

 

<警戒地点>とそのまま繋いでいれば、脳内には自分の頭からだけでなく、設置した警戒地点からの情報も入ってくる。前衛及び万が一の男手には任せられないわけだ。

 

 

 

「このスキルは、監視カメラのような使い方が可能だ。<周辺警戒>では届かない場所、街や城壁の外で、発動すればそこに警戒地点を置くことが出来る。意識を外すよう意識すれば、そっちからの情報は入らなくなるが、遠距離偵察的使い方をするなら、それはあまりお勧めできないな。ま、好きなように使ってくれ、使わないのも手だ」

 

 

 

このスキルがきっと一番面倒だ。すぐに使えるし、変な苦痛も無い。ただ視界が複数あるとかいう気持ち悪さはあるかもしれない。ただ、それのオンオフが難しい。慣れれば恐ろしい程使い勝手のいいスキルと化す。

 

 

 

「あとは障壁系だが……<神楯>と<絶対障壁>」

 

「<防衛業務委託・神楯>!……あれ?」

 

 

 

まあ見た目で変化もないパッシヴスキルだからな。

 

 

 

「ちょっとそのままにしとけよ、『勇者は永久に孤独なりて、世界に平穏をもたらす者なり』<孤独(アイソレータ)>」

 

 

 

神剣を召喚。<勇者>に縛られないからありがたいよなこれ。そのまま軽く……あ、スキル使えないじゃん。とりあえず適当に斬りつける、すると。

 

 

 

「きゃあ!……え?斬られて、ない?」

 

 

 

振り下ろした剣は、青色の魔力弾に防がれていた。剣を上げ、再び収納する。そう言えばこれってどういう仕組みなの?

 

 

 

「まあこんなふうに、剣も魔法も全て迎撃できる。俺のレベルだと一度に迎え撃てる数は……40か」

 

 

 

<神楯>がいつの間にかレベルアップしていた。何で?!

 

 

 

「40までの攻撃は全て無力化できる。<周辺警戒>とかと組み合わせれば見た目それ以上の効果があるが……まあそこまでは求めない。このスキルは基本常時発動しておくのを勧める。魔力消費は少ないのに、死角からだろうと異次元からだろうと全て防げるからな」

 

 

 

十中八九<システム>のバックアップがあると考えていい。壁の向こうでも感知不可結界の向こうでも次元超えても監視できるって何それチート。少なくとも迎撃行動発動する以外の消費魔力じゃそんなの不可能だ。

 

 

 

 

 

神でもない限りは。

 

 

 

 

 

「注意としては、意識することで護る対象を広げることは出来る。だが、基本中心は自分だ。だから用途としては後衛の護衛になる」

 

「じゃあ常に後衛の近くに?」

 

「そうだ、前衛についてはもう一つ……<絶対障壁>で解決できるからな。発動してみてくれ」

 

「<防衛業務委託・絶対障壁>。あ、これって」

 

「そうだ。この前見せた奴だな」

 

 

 

<防衛者>の化け物じみた防御値がそのままのっかる、最初にして最強の<防衛魔法>スキル。特にその万能性がヤバい。全ての魔法・物理による干渉を通さない障壁。

 

そして、これを基本として、設定を変える事が出来る。例えば精神干渉防御に特化させるとか、その逆とか。込める魔力を増やせばその分厚くなり、耐久力も上がる。障壁の形も自由自在。

 

ちなみに物理攻撃・通常型魔法攻撃に対抗する場合は、青く色付くが、精神干渉系に対抗する場合は無色透明となる。

 

そして、防御対象を自分以外、あるいは複数指定が可能である。

 

この魔法程、『魔法は想像力によって変わる』という言葉が当てはまる魔法は無いだろう。

 

基本的になんでもできてしまうのがこのスキルなのだ。単純ゆえに応用が利く。

 

 

 

「そのスキルは基本的になんでもアリだ。とは言え、今回は時間が無い。前衛を防御対象にこれを張る事を覚えてくれ」

 

 

 

と言っても、本当にこのスキルは、思考・想像するだけで終わる。

 

 

 

「さしあたって俺を対象に張ってみてくれ」

 

「えっと……<防衛業務委託・絶対障壁>」

 

 

 

次の瞬間、俺が青い障壁で覆われる。成功だ。

 

 

 

「上出来だな。これなら大丈夫だろう」

 

 

 

これだと多分、篠原でも破れない。

 

仮想敵は魔族、及び()()であるから、十分すぎる効果だ。

 

 

 

「となると、あとは<周辺警戒>だな」

 

 

 

こればっかりは慣れてもらうしかない。ひたすらそれを使って感覚に慣れてもらうしかない。

 

 

 

「明日丸々使って練習に当ててくれ。俺も助言くらいなら出来るから見に行こう」

 

「……お願いします」

 

 

 

頑張ってくれ。

 

 

 

「さて、今は……」

 

 

 

時間は分からないが、流石に日付を越えては居ないはず……そう思いながら部屋にかけてある時計を見上げる。午後十一時半か。

 

 

 

「もうすぐ日付も変わってしまうな。遅くなって済まない。話は以上だ」

 

「ありがとうございました」

 

「お疲れ様」

 

 

 

さて、俺も寝るとしようか。あとは彼女が明日どれだけ上達出来るか、だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

「<防衛業務委託・周辺警戒>……うぅ……気持ち悪い……」

 

 

 

頭の中に投影された城全体の地図に、リアルタイムで書き込まれていく情報。今はまだ夜なのでそこまで多くは無いが、それでも夜間当番の近衛騎士らしき青点などが様々なところで動く。想像を絶する情報量。

 

 

 

「なるほど、これは、訓練が、要る」

 

 

 

いつだったか、召喚後初めて、訓練場で<防衛者>神崎啓斗を見つけた。その時彼は篠原に対し、訓練をしていると告げた。目に見えるようなスキルじゃなく、周囲の情報を自分の脳内にインプットするようなスキルだ、とも。

 

 

国崎が初級スキルだと言っていたことも合わせて考えるなら、当時彼が訓練していたと思われるのは、まさしくこのスキルだ。

 

 

聞いたときは、クラスメイト同様、心の中で、『<勇者>でもないのに訓練等しても無駄だろう』と嘲ったが、とんでもない。このスキル含め委託してもらったスキルは全て当たり、大当たりだ。訓練をする価値は十分にある。

 

 

あるが。

 

 

 

「どうしてあんなに平然とこのスキルを使えるの……」

 

 

 

頭痛が酷くなってきたので、スキルを解除する。

 

確か国崎は、これを他のスキルを併用しながら発動させていたはずだ、それも恐らくは常時。そうでなくては、あの夜に相手の初撃を迎え撃てたり、負傷者が居るところに的確に案内が出来るわけがない。

 

 

でも、これは、ただの知覚系魔法とは段違いだ。流れ込んでくる情報量も、それの精度も処理速度も何もかもが。常人が常時発動なんてしていたら他に何もできなくなるだろう。それほどに脳を酷使するタイプのスキルだ。

 

 

成程、こんなスキルが初級スキルとなるのが<防衛魔法>なら、<防衛者>が<勇者>に匹敵するという話も頷ける。これ以上のスキルが存在するなら、確かに<防衛者>が<勇者>に対抗することも可能なはずだ。

 

 

 

「責任重大だなぁ……」

 

 

 

そして自分はこのスキルを、明日中に使いこなせるようにならなくてはならない。ほぼ無いと思えるが、万一の場合は自分がその<防衛者>の代わりをこなさなくてはならない。

 

 

 

既に胃に穴が開きそうだった。

 

 

 

 

 




以上です。


これで初級スキルなんですよ(震え声)




それでは感想批評質問等お待ちしております。


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閑話  宰相

はい、今回は久々のあの人の登場です。

というわけで閑話です。




どうぞ!


 

 

 

 

不味い。これは非常に不味い。現状について彼──シルファイド王国宰相ゼルビアスは、そう思った。

 

 

 

不安要素かつ不要である<防衛者>と<支援者>を排除、実行者の口封じも無事完了し、そのことを知るのは彼及び彼直属の隠密のみとなった。

 

 

 

またその二人の死因を魔族によるものと偽ることで、<勇者>達の魔族に対する敵愾心を煽る事に成功。

 

 

 

こちら側の勧告に従わなかった公国についても、その返答と質問を、あたかも公国が魔族との戦いに参加しないと言っているかのように、捏造・隠蔽した。

 

 

 

その返答を<勇者>に伝え、公国が魔族と通じているという嫌疑を持たせる事にも成功、公国に対する戦闘に<勇者>自らが介入するように話を持って行く事も出来た。あとは、公国軍を<勇者>の実力と威光を以て蹴散らし、公国を併合するだけだった。

 

 

 

()()()()()()()とは言え、ここまで<勇者>が思惑通りに動いてくれるとは思わず、異世界人は扱いやすい、と思っていた。

 

 

 

実際、戦場に赴かせるまでは、彼が()()()に聞いた通りに進んでいた。ほぼ全てが、である。<勇者>ではない者の召喚、その者に対する<勇者>の蔑視。

 

 

 

唯一、竜の来訪だけが予想外ではあったが、<勇者>が思った以上に単純であった事に安心した。寧ろ<防衛者>を名乗る者に対する嫌悪が一層強化され、逆にこちら側としては望ましい結果となった。

 

 

 

 

 

だが。

 

だが、公国に対する戦闘に参加しようとした<勇者>の前に現れたのは、初代勇者を名乗る人物。

 

 

 

 

彼はその名乗り通り、<勇者>のみが持つ事を許される<聖剣>を持ち、既に国内では最強クラスの戦力を誇るユウト・シノハラ率いる<勇者>をたった一人で戦闘不能に陥れ、シノハラ自身の首をも刎ねた。

 

 

 

そのせいで、<勇者>達は、公国が魔族とつながっているという嫌疑に否定的な見方をし始め、気づけば公国と講和し、初代勇者にも<魔王>打倒に力を貸してもらうという提案が行われ、それが通ってしまった。

 

 

 

幸い、初代勇者の協力は得られなかったようだが、その時にまた要らない事を吹き込んでいったようだ。

 

 

 

「忌々しい……」

 

 

 

<防衛者>といい、初代勇者といい、どうしてこうも邪魔をしてくるのか。

 

 

 

『困っているようだね?』

 

「誰だっ!」

 

『おいおい、いきなり剣を取り出すんじゃないよ』

 

 

 

その声は、窓の桟にとまっている小鳥から聞こえた。当然、人族語を話せる動物など、居るわけがない。つまりこの小鳥は、自然に居るモノではなく、誰かの使い魔、それも魔法により創り出されたモノであるという事だ。

 

そしてその嘴の間から聞こえてくる声を、彼は聞いた事があった。

 

 

 

「……驚かさないでいただきたい、()()

 

『いやいや、何か困っているようだったから声をかけてみたのだが……』

 

「……ええ、そうです。なんですか、()()は。聞いていませんよ?」

 

『教えてないからね』

 

「……ふざけないでいただきたい、私は貴方が成功すると断言したからこそ、計画を実行したのです」

 

『知っている。今回、()()が出てくるか出てこないままで済むかは一種の賭けだった。不確定な事を言う訳にはいかなかったんだよ、許してくれたまえ』

 

「……承知しました」

 

 

 

不服ながらも、彼はそれで矛を収めざるを得なかった。いくつか気がかりな事があるとはいえ、一時的にでも<勇者>を王国の手駒に出来たのは、この小鳥の向こう側の人物無しでは不可能な事だったからだ。

 

 

 

『とはいえ、君の計画は失敗した、約束は守ってもらうよ』

 

「……分かっております」

 

『うむ、よろしく頼むよ……ところで、アレは今どうしているんだ?』

 

「……今代<勇者>のところに居ます」

 

『おや、直接手を出すわけにはいかないのではなかったか?』

 

 

 

なんでそこまで知っているんだ、と思いながら、なぜそれを知っているのに、とも思う。

 

 

 

「……女神から、<防衛者>が抜けた穴を、埋めるようにと言われたそうで」

 

『女神から、か。ははっ』

 

 

 

それを聞いた相手は、答えを反芻した後に、面白そうに笑った。計画を発動する前、彼から聞いた、この世界にまつわる衝撃的な話を思い出す。

 

 

 

「……その、貴方のお話から察するに、彼は……」

 

 

 

『そうだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『彼は、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我々の、そして()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『間違いない。これは確実にそうだ』

 

 

 

相手はそう、力強く断言した。

 

 

 

『ほかに、彼に同行者が居るという話はあるかい?』

 

「……ユウト・シノハラの話では、他に元<聖女>が自分と共になぜか再び召喚された、と話していたとのことです」

 

『……相手は二人か、しかしかえって難しいな……しかし……まあ良い。彼は今のところは、<勇者>に協力しているのか?』

 

「……女神からそう言われたことを同行理由にしているのです。少なくともしばらくは<勇者>に協力するでしょう」

 

 

 

創世の女神リシュテリア様の宣託。それは、この世界において大抵の事を押し通せるパワーワードである。しかし一方で、それを翻すことは出来ない縛りでもある。女神の力によって、異世界から連れて来られた事になっている<勇者>でもだ。

 

 

特に初代勇者は、自ら、女神からのお告げがあったと話していた。それは、周囲に対して彼の行動についてかなりの信頼感を持たせると共に、本人に対しても重い枷となる。

女神のお告げが虚偽であれば、彼は人族亜人族のほとんどを敵に回す事になるし、虚偽でなければ、自分の過去の言動を容易に翻すような言動は取れない。

 

 

 

『……ならまだ大丈夫だな。もし、<勇者>達がこちらに来るような事があるなら、知らせてくれ、準備することは多い』

 

「分かっております」

 

『ではな。くれぐれも、約束を破らないでくれ』

 

 

 

それを最後に小鳥は窓から飛び立った。

 

それを見送り、窓を閉めた。

 

既に自分の計画は失敗に終わったことを告げられた。これからは相手との約束通りに、相手側の計画を進める手伝いをしなくてはならない。

 

 

明らかに嵌められた、という感想しか抱けなかったが、最早取り返しは付かない。それを見抜けなかった自分が悪い。

 

 

情報戦は、手持ちの情報の質が良く量が多い方が勝つ。それは今まで宰相としてこの国の政治に関わる中でよく分かっていた。

 

 

 

 




以上です。


さて、誰なんでしょうね協力者。



それでは感想批評質問等お待ちしております。


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閑話  南を目指して

再びの閑話です。

本編はもう少しお待ちください、お願いします。






 

 

 

 

 

 

「今頃どうしてるかなあ、我らが初代<勇者>様は」

 

 

 

啓斗が初代<勇者>のところへ向かってから二日が過ぎた。つまりそろそろ人族領・亜人族領に対する魔族の攻撃が始まる。

 

 

そのため、さくら達も既に<周辺警戒(レーダーマップ)>と<神楯(イージス)>、<絶対障壁(バリア)>を絶賛発動中である。魔力量については<魔力増幅(マナブースト)>と<回復補助>で回復量が消費量を上回るという状態なので気にする必要は無い。

 

 

<支援魔法>と<防衛魔法>は元々少数で多数を守り支援する事に特化した魔法。そのための魔力効率ぶっ壊れ。それを元魔法戦メイン<聖女>が全力で稼働させた場合、こうなる。

 

 

職業欄の三番目の選択肢、()()()に気付いたのはファインプレーの一つだと、さくらは思っている。

 

 

 

「まず顔は変えてるでしょうね、下手すれば声帯も。あとはアイツの事だから、<勇者>っぽくピンチのところで助けに入るとか考えてそう。で多分それが良い方向に働く」

 

「良い方向に?」

 

「多分ね、なんて言うか……まあ主人公補正みたいな?多分本人が期待しているのは、恩を売る事で、ある程度手出ししにくいようにするのが目的ね。女神様云々だと現地人はともかく異世界人は抑えきれないから」

 

「でもそれ以外の効果も発揮する?」

 

「多分」

 

「主人公補正って実在するんだ……」

 

 

 

<システム>というご都合主義の塊みたいな機械が存在する世界なので、勿論主人公──<勇者>に何かしら恩恵があっても不思議ではない。

 

 

 

「あとは、まあ勇者のロールプレイもあるかしら、ピンチの時に颯爽と現れる、みたいな。ああ、ちょうど理沙の時みたいにね……左十一時の方向、反応三つ、魔物よ」

 

「了解」

 

 

 

時々エンジン音を聞いてか襲い掛かってくる魔物を退治しつつ、彼女達は南へと進む。

 

 

 

「私の時……確かに、何か王子様っていうか、勇者様って感じはあったね」

 

「でしょ、雰囲気だけだけど」

 

 

 

本人が聞いたら悲しみながらも同意しそうな事を言いながら、街道を装軌車両で突っ走る。

 

 

 

「そういえばこの森ってどこまで続いているの?」

 

「聞いた話だとセラシルの中央部手前までと」

 

「そこから先は平原らしいわ、移動も楽になるかしら」

 

「その代わり発見される確率が上がる」

 

「魔族にも亜人族にも、か」

 

 

 

装甲戦闘車は当然、この世界には存在しないため、どちらに見つかっても敵の新兵器と思われる可能性が高い。可能な限り見つからないように進むが、見つかった場合は。相手を全滅させなくてはならない。

 

 

 

「今更だけど、光属性でどうにかならない?」

 

 

 

「固定された物体ならどうにか出来るんだけど、移動し続ける物体を、全方向から見えなくするのは無理よ、光の進路が不自然過ぎて多分どこか歪むわ」

 

 

 

例えば理沙を助けた後や、セラシル入国直後など、壁を背にした状態で、動かないならば、光を曲げることで、ある物を無いように、あるいはその逆のように見せることは可能だ。ある程度見える物が不自然でも、暗がりであれば誤魔化せる。

 

だが、全周から見える状態で、移動する物体を見えなくするのは不可能に近い。さらに、魔族や獣人族の一種は、空を飛ぶ。上からも見えないようにしなくてはならない。

 

流石に<聖女>と言えど、それら全てを達成するのは無理だった。

 

 

 

「さくらでも無理かあ……」

 

「言っとくけどケイでも無理だからね」

 

 

 

技量だとか魔力量だとかの問題ではなく、物理法則的な問題なので、どうしようもない。

 

 

 

「……ケイでも無理なの?<勇者>だから出来ると思ったんだけど」

 

「いくら<勇者>でもできないことくらいあるわよ、次、右二時方向、三つ」

 

「伝説からだとなんでもできるようにしか思えないんだけど」

 

「伝説なんて誇張されるものよ、私も講義で習って身を以て知った気分よ……」

 

 

 

一応さくらも千年前、<聖女>として戦場で、人族の街で、<勇者>と同レベルで活躍した人物である。つまり彼女は自分の過去を、伝説として盛大に誇張されて聞かされたわけで……

 

 

 

「顔から火が出そう、って表現は、ああいう時に使うのね」

 

 

 

慣用句が、ぴったり当てはまる状況に放り込まれたらしい。

 

 

ちなみにその伝説とは、

 

『女神の化身であるかのように、美しさと慈悲の心を兼ね備えた聖女様は……』

 

から始まる、長い長い、聖女の偉業の数々である。一部真実も含まれてはいるのだが、かなり誇張されている。

 

 

 

「街丸ごと浄化とか出来たわけないじゃない……」

 

 

 

魔族の軍勢を説き伏せて追い返しただとか、アンデッドの大群を土地ごと浄化しただとか、不治の病を治したとか、神を降臨させ魔族の大群を撃退しただとか。

 

 

魔族を追い返したのは事実だが、説き伏せたわけではなく、魔力量で格の違いを見せつけただけである。相手も強襲偵察程度の規模であった。

 

アンデッドを土地ごと浄化したのは事実だが規模は街と言うより村であり、また啓斗の力も借りた上での事。

 

不治の病は元々担当していた治癒術師が治せなかっただけなのを、魔力量に物を言わせて無理矢理治癒させただけである。

 

神の降臨に至っては完全にデマである。ただ、聖属性魔法第十位階スキル<裁きの光(ジャッジメント・レイ)>を多重発動させただけである。

 

 

上空に展開した大量の巨大魔方陣から放たれる滅びの光が神の降臨に見えるとは。

 

 

 

「待ってなんか最後のおかしい」

 

「何が?」

 

「いや<聖女>って普通後衛で、支援系の魔法で<勇者>の援護するんじゃ……」

 

 

 

基本的に<聖女>が高適正を持つ光・聖属性魔法において、個人が発動できるスキルの内、九割以上が支援・回復のスキルである。残りの一割も、ほとんどが武器への付与が中心となっており、少なくとも後衛型職業である<聖女>自身には向いていない。

 

無論味方への付与は可能であるが。

 

 

 

「基本はそうなんだけどね、アイツが基本的になんでも単独で出来るようになってしまったから、私も攻撃くらい出来るようになっておこうと思って」

 

 

 

結果が後衛(ただしアタッカー)型<聖女>の誕生である。<聖女>の魔力量と光・聖属性魔法への高適正、称号<賢者>による思考分割を利用して、本来集団で放つ合唱スキルや儀式スキルを短詠唱だけで発動するとかいう凶悪ぶりを発揮した。

 

範囲殲滅力だけ見れば、<勇者>である啓斗より高い。

 

まあそのお陰で、今啓斗が三人から離れて自由に動けるわけなのだが。

 

 

 

「右前方、二時の方向……ちょっと多い、私がやってくるわ」

 

「い、いってらっしゃい」

 

 

 

恐らくはゴブリンかオークの群れだろうと思われる集団を探知。少々数が多いのでさくらが出た。

 

 

 

「さて、じゃあ早速。<神光(マジェスティ)二重(ダブル)>」

 

 

 

装甲車の上に上半身を出して、詠唱したさくらの左右に、魔方陣が出現する。一拍置いて放たれる光。

 

 

聖属性魔法第八位階()()()()()<神光>。

 

 

『神の威光は魔を滅ぼし、世界を浄化する』という女神教教義の記述通り、魔の因子を持つ物のみを滅ぼすスキル。

要は魔物か魔族にのみ効くレーザービームである。本来はスタンピードに対処する際、<聖属性魔法>レベル2以上の所持者が()()()()()で放つ事がある程度の魔法。

 

それを二本同時に、ゆっくりと首を振らせながら、掃射。群れを一掃した。

 

 

 

「……おしまい。相変わらずあっけないものね」

 

 

 

こうやって、彼女達は南へ向かう。

 

 

 

 




以上です。

合唱も儀式も、普通は単独発動なんて無理ですよ……さくら(と啓斗)が異常なだけです。

合唱…二人以上で放つスキル
儀式…魔方陣等媒体を利用し放つスキル

全ては<並列思考>スキルのおかげ

単独で魔法を複数発動する方法
思考分割

同時イメージ

短詠唱

複数発動専用語尾(二重、とか三重、とか)

儀式とか合唱だと、最後の語尾付けが無いです。



それでは感想批評質問等お待ちしております。


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第五十四話  <勇者>出陣

お待ちかね(?)の本編です。

<防衛業務委託>によって四つのスキルを委託された<巫女>石縄令奈。しかし<周辺警戒>は彼女には少々手に余るようで……


それでは第五十四話、どうぞ!


 

 

<勇者>の北部地域への出撃、これを第五フェイズとみるか否か。

 

本来の人魔大戦プログラムではどう考えても第五フェイズ、<勇者>を先頭にした人族の反撃とも言える。

 

しかし、今回は、<魔王>の指定に伴う魔族側からの攻撃が、<勇者>の召喚より後である。従って、第五フェイズが存在せず、第四フェイズから直接第六フェイズに移行する可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その事にたった今気づいた。

 

アホか。アホです。さくらに言ったらまた抜けてるとかなんとか言われる気がする。

 

まあいっか。

 

やることは変わらない。

 

 

 

 

 

「あの」

 

「何か?」

 

 

 

目の前で、さっきから集中して、おそらく<周辺警戒(レーダーマップ)>を作動させ続けていた石縄が気づけばこっちを見ていた。

 

 

 

「この、<周辺警戒>っていうスキルのコツみたいなのってありますか?」

 

 

 

コツ、かあ……コツねえ……

 

 

 

「……基本的には、慣れる、以外には無い、と思う。俺としてもかなり無理を言っているのは分かっている。段階をかなり飛び越えているからな」

 

 

 

<周辺警戒>は、レベルが上がるごとに情報量が格段に増加する。最初レベル1では生命体の存在のみ、範囲は訓練場程度。レベル2だと、それがやや広がり、敵味方の区別がつく。以後さらにレベル3で範囲が球状、つまり三次元立体レーダーと化し、レベル4、5で範囲が順調に拡大する。レベル4で<警戒地点設置(レーダーサイト)>が派生するが、それはさておき。

 

 

つまり現時点でこのスキルは、人間に自動IFF(敵味方識別)付の三次元立体レーダーやれよ、って言ってるスキルなのだ。正しくレーダーマップなのである。

 

 

レベル1からなら、平面レーダーにIFFが付き、慣れてきたところで三次元に移行、あとは範囲が少しずつ広がっていくだけなのだが、いきなりレベル5は色々と飛び越え過ぎた。

 

 

とはいえ、やってもらわなきゃいけない。巻き込んでしまうのは心苦しいが、<防衛者>の責務を果たせなくなる方がまずい。

 

しかしなあ……あ、一つだけ出来るかもしれんな。

 

 

 

「……<防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)・周辺警戒>」

 

 

 

かつて春馬さんに授けられた方を使う。<周辺警戒>レベル10。これに向ける魔力量を絞ってみると、探知範囲が狭まっていくのを感じた。

 

 

 

成程、なんてことは無い、<防衛魔法>も魔法である事には変わらない。<絶対障壁(バリア)>も流す魔力量を増やせば、普通の魔法障壁同様に耐久性も高まった。

 

 

 

なら他の探知系魔法同様に、<周辺警戒>も流す魔力を減らせば、探知範囲が狭まるのではないか、と考えたが、どうやら当たりらしい。

 

 

 

なんつー見落とし、凡ミス。やっぱ俺アホだな。

 

 

 

「石縄」

 

「え、あ、はい」

 

「<魔力操作(マナ・コントロール)>は持っているか?」

 

「あ、はい」

 

 

 

ならわかるか。

 

 

 

「<周辺警戒>を発動したまま、流す魔力を抑えてみてくれ」

 

 

 

と、言うのは簡単なのだが、これが少々難しい。というのも、

 

 

 

()()()()、ですか?」

 

「そうだ、難しいとは思うが、そのまま慣れるよりは簡単だと思う」

 

 

 

<防衛魔法>は、省エネ型の魔法である。特に初期スキルとなる<絶対障壁>と<周辺警戒>の魔力消費量は、別の意味で頭がおかしい。

 

 

<周辺警戒>はレベル5、すなわち現在時点で、()()()()()()()。<防衛者>レベル1の魔力量100で考えても素でこのスキルを3分以上維持可能とはどういう事か。まあそれはさておき。

 

 

これを、10秒で消費2か3まで減らす。

 

 

 

……うん、頭がおかしい事を言っている自覚はある。

 

 

基本的に<魔力操作>で消費軽減を行う場合、第七位階以上のスキルを対象に、おおよそ10や100単位で軽減する。決して1単位で軽減することは無い。なぜなら、<魔力操作>による消費魔力の削減の一般的な目的は、基本的に高威力魔法を可能な限り多く、連発出来るようにする事、あるいは長時間維持する事だからである。

 

 

逆に言えば、魔力消費量が1とか2とか変化したところで大差ない。その程度残ったところで、第一位階スキルすら発動できないのだから。よって一般にはそんな事に費やす集中力があるなら、よりイメージを明確にする方に集中力を割く。

 

 

ただ、今俺がやってみるようにいった目的は、スキル効果範囲の縮小である。最悪<勇者>後衛の周囲のみを見張れればいいと割り切って、訓練場程度の大きさまで絞る。前衛は<絶対障壁>に任す。

 

 

 

さて、問題は石縄が、<魔力操作>でそこまで細かい調整を出来るかにかかっている。出来なくとも是非習得してもらいたい。何気にこれは役に立ったりするのだ。付与とか、<巫女>ならば儀式魔法にも応用が可能だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、石縄は何とかこの微小単位の<魔力操作>に成功した。良かった、これで思い残すことなく出陣できる。

 

 

……別に死にに行くわけじゃないんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。残存組10名を残し、俺含めて19名の<勇者>パーティーは、王国北方へ向け出陣した。人族側の戦力が残っているうちに到着できればいいけどな。

 

到着までの日程は五日。同伴現地人0、休息をギリギリまで削ってもなおこれだけはかかる。目指すは王国最北端。バリバリ水帝竜の縄張り。久々のご対面となるけど……まあそこらへんはあっちも上手くやってくれるでしょう……その前にそもそも会うかどうかだが。

 

 

北を目指して、馬で街道を進む。

 

 

途中までは今のように馬で、そこから徒歩……というかまあ随時回復しながら走る予定らしい。後衛前衛関係なしだ。<転移門(ポータルゲート)>欲しいんだけど。

 

 

 

 

懐かしいなあ、昼も夜も、時には睡眠すら犠牲に走ってたジャングルが。睡眠不足による眠気や、疲労によるパフォーマンスの低下全てを、状態異常回復で消し飛ばして、走って、もしくは馬を走らせて、剣を振り、魔法を撃った。

 

 

……今思い返すとだいぶヤバい。まだ中学生の癖に魔法でドーピングしながら戦い続けてましたって。

 

 

途中から<転移門>使えるようになったからだいぶ楽になったものの……ん?てことは今回もいずれは<転移門>使えるようになるのか?だとすれば有難い。

 

 

 

 

 

俺の時はレベル30以上で、ある程度大規模な都市を解放した時に使えるようになった。基本的な用途は拠点間の行き来で、これを用いた移動の場合、魔力を消費することは無い。ちなみに一度行って、有効化しないと使えない。

 

 

なお名前が似たものに、完全なスキルとしての<転移(ポータル)>や<空間門(ゲート)>があるがこれは無論スキルなので魔力は消費する。

 

 

前者はあらかじめ記録した座標で、思い浮かべたところに転移できる。後者は<管理者>専用スキルで、主に現地移動の時に使う。

 

 

前者は……レベル50だったか60だったかそれくらいか?<空間魔法>適正があってかつ<転移門>の一定回数以上の利用、<聖剣>の強化が習得条件だったか。

 

 

 

戦闘で馬を走らせる篠原を見やる。流石<勇者>、既に馬を乗りこなしている。

 

 

 

頑張ってくれ、<勇者>。まあとりあえずは目先の目標、北方の防衛戦の成功からだけど。

 

 

 

 

 

 




再三言ってる気がしますけど、前回召喚は、本当に最終手段として<勇者召喚>されているので、こんな事になるんです……


それでは感想質問批評等、お待ちしております。


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第五十五話  <聖剣>の知らせ

ちょっと長く掛かりすぎました。ちょうどいいとこだと思って字数見たら2話分あったんです(汗)




というわけで第五十五話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

王城から北を目指し、馬を走らせ始めて二日目。

 

 

先程まで先頭を進んでいた篠原の馬がこちらに寄ってきた。

 

 

 

「……国崎」

 

「ん?何だ篠原。今のところ敵らしき反応は無いぞ」

 

「いや、何か良く分からないんだが、呼ばれてるような気がするんだ」

 

「……呼ばれてる?」

 

 

 

そんな声は聞こえなかった。<絶対障壁(バリア)>も反応していない。つまりこれは外部からではないと推定。となると、

 

 

 

「頭の中に響くような声か?」

 

「……そうだ」

 

 

 

ビンゴ。それは祠発見の報せだ。いや祠と言っちゃいるが……どっちかっつーと神殿みたいなものかもしれない。

それをクリアすれば<聖剣>の強化が出来る試練が女神様から課せられる場所。呼んでいるのは<聖剣>。自分を強化できるところを探知したから知らせているのだろう。

 

これは、ゲームとは違って、常に発動している物なので、いつ行っても良いものだ。ただ、行けるときに行くべきだ。強化していけば<聖剣>の固有技能が発動する。主要なところをクリアすれば神授武具が手に入るかもしれない。

 

 

 

「……気になるなら、今やるべきことが全て完了した際、帰りに寄ってみればいいんじゃないか?俺もそれは気になるが、今は救援が先だろう」

 

「あ、ああ、それは分かっている。ただ国崎なら何か知っているんじゃないかって……」

 

「……悪いが、知っていても言えるわけがない、忘れるな、今の俺は<勇者>ではなく<防衛者>。そこまで多くの情報を開示できるわけではない」

 

 

 

だが流石にそんな事を言えるわけではない。神剣が手に入る、<聖剣>の固有技能が解放される、それは助言の域を超えているだろう。試練は自分で考えて決めて、見つける物だ、というかそれを見つける事から既に試練である。行くか行かないかの判断は<勇者>当人に任せなくてはならない。

 

 

 

「……そうか、いや済まない。それを忘れていた」

 

 

 

 

 

 

 

「だから<防衛者>として言わせてもらう。<絶対障壁>及び<周辺警戒(レーダーマップ)>に反応は無く、<神楯(イージス)>も作動しなかった。そして俺にはその声は聞こえていない」

 

「従ってその呼んでいる声とやらは、物理的に外部から来た物ではない可能性が高い。頭の中に響いているのなら直接心に呼びかけていると考えるのが妥当。といって害があるわけではない。流石に導かれるその先に罠があるかは知らないが、少なくとも精神攻撃のようなものではなかった」

 

 

 

だが、一般的に<防衛者>として、<防衛魔法>の各スキルの反応は伝える事が出来る。そしてその反応から読み取れるであろう事も。

 

だからそれを全て伝える。

 

これが俺に出来る精一杯の助言。つまり、それ自体が敵の攻撃であったりする可能性は無く、またそれに導かれた先に敵がいる可能性も低い。そう伝えることで、行かない選択肢に付く理由を減らしていく。

 

俺の時もそうやって、最終的にいくことにしたからな。

 

 

 

「……そうか、わかった。ありがとう」

 

「気にするな、当然の事をしたまで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに馬を走らせ、どうにかその日の目標地点まで到達した。今日はここで休息し、明日早朝から徒歩というか走って移動を開始する。理由?気候の問題。雪積もってるし。

思ったけど犬ぞりとか無いのだろうか。後衛組はそれに乗せれば魔力も温存できると思うのだが。

 

まだイケるとは思うけど、まあそれで向こう着いたとき何か不具合でもあったら大変だしね。俺達の時とは違って余裕もある、多分。少なくとも北方落されたところで、大した損害ではない。すぐに取り返す事が可能だしね。まあ間に合うに越したことは無い。

 

 

 

さてと、一応休息の時間が割り振られてるんなら少しでも体を休めないと。出された食事を急いで食べていく。冬、戦場に向かう中で温かい食事が出るというのは非常にありがたい。戦争が始まって間もなく、魔族側の襲来も未だ散発的……というかまだ大規模侵攻の準備段階であるのが幸いしているのだろうな。

 

 

 

大規模都市を襲撃し陥落させるには、それ相応の準備と戦力が必要だ。だからまずは、救援に来難い所を占領する。次にそこを足掛かりに、目標とする大都市周辺にある小規模な村や街を占領し、補給と連絡を絶つと同時に、拠点を置く。あとは弱ったところで力に任せて押し切る。これを大規模侵攻と呼ぶ。

 

 

 

それが魔族の、人族領侵攻時の基本的な手順である。これを繰り返し、最終的に全ての都市を陥落させれば魔族の勝利。

 

そうならないように、王都とあと一つくらいの大規模都市まで減らされたあたりで最終手段としての<勇者召喚の儀>が行われる。そのため基本的に初期の<勇者>の仕事はブラック企業並みにハードである。流石にある程度の剣の手ほどきとか、魔法の使い方とかは習ったがあとは全て実戦で身に付けようスタイルだった。軽く過労で死ねるかもしれない。

 

食事とか下手すればモソモソした軍事糧食だけだった時もあったしな。

 

 

 

だが、今回は最初のステップの時点で既に<勇者>が居る。だからこそ温かい食事を出せるような余裕があるんだよな、ちょっとだけ羨ましい。

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 

さて、食事は終わった、あとは寝るのみ。前回ならその前に<水球(ウォーターボール)>と<乾燥(ドライ)>のコンボによる服ごと全身丸洗いがあるけど、<防衛者>の俺には使えない。春馬さんと陽菜乃さんも俺かさくらにやってもらってたしな。

 

まあそれを求めるのは少々贅沢ではないだろうか?そもそも今代に生活魔法とか人一人サイズの水球とか作れるのか知らないけど。

 

多分聞けば水浴びくらいは出来るだろうが、正直それより寝て疲労回復した方が良いだろう。寝れる時に寝よう。これは<勇者>だけでなく、普通に地球で一般的な生活を送るときにも言える事だけど戦いが日常にある異世界ならば尚更である。

 

 

というわけでおやすみなさい。

 




以上です。


批評感想質問等、お待ちしております。


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第五十六話  <勇者>現着

<聖剣>が何か呼んでたっぽいけど無視無視。


そんな感じで第五十六話です。漸く、三話かけて到着です。
遅い()まあ移動手段に電車とか自動車とか無いですし……逆に三話分日数にして5日と経たずに着いてるってどれだけ速いのん?

改めまして、第五十六話、どうぞ!


 

 

 

翌朝。

 

誰に起こされるわけでもなく、日の出とほぼ同時に起床。習慣って怖いよな。

 

今代もほぼ同時に起きた(起こされた)ようなので、出発。

しようとしたところで、村の人から犬橇を貰った。あるのかよ。これは逆に<調教師>が必要だったかもしれん。

と、思ったが、なんとこいつら、勝手に目標地点まで行ってくれるんだとか。何それ便利。

 

 

さて、犬橇は二人乗りが五台。パーティー編成は前衛9後衛10。ピッタリじゃないですか。あとは配置だよねえ……俺が乗るのを中心に、ひし形か正方形に並ぶのが一番効率的。それは篠原も分かっているだろうし、それは心配しなくてもいいだろう。

 

 

 

前衛組は知らん。篠原がどうにかするだろう。ただ、俺達の時より人数がはるかに多いので、取れる陣形も多いだろう。何を想定しどんな陣形にするのかは少々気になる。

 

<防衛者>が居れば理論上は後衛組に護衛は不要であるから、前衛組全てを前に持って行くのか、念のためとして後衛組を囲むのか。

 

俺にとっては正直どっちでも変わらない……いや、僅かに前者の方がキツイかもしれないか。まあ多分誤差の範囲内だとは思うが。

 

 

 

結局、<探索者>をそこそこ先に出し、残りは後衛組を囲む形での移動を開始した。まあいたって普通の陣形である。っつーかこれ馬で移動してる時と変わんないな。

 

 

 

 

 

その日も、予定していた場所へ到着し、翌日の朝もほぼ同じような感じで移動を開始。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今。目的地となる街の近くまで来ていた。現在地点は林の茂みの中。魔族の様子を<探索者>に見に行ってもらっている。

 

 

 

「<周辺警戒(レーダーマップ)>」

 

 

 

流石に敵が近いのに開けた場所に居るわけにもいかないので、森の中で待機となった。

 

 

 

「──<周辺警戒>」

 

 

 

無論、何もしていないわけではなく、俺も頻繁に重ね掛けを行って、魔族の様子を見ようとしている。ただ、相手が遠すぎて陣営の一部しか見えない。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

そして何度目かの重ね掛けの時、敵陣に動きがあった。

 

 

 

「見つけられたか」

 

 

 

どうも<探索者>が下手を打ったらしい。いくつかの反応がこちらへ……いや、少しずれた方向へ向かって動き始めた。確かその先にはもう一つ林があったはず。<探索者>は思ったより冷静なようだ。撒きにかかっている。

 

 

 

「篠原、<探索者>が見つけられた。今ここじゃないもう一方の林に向かっている」

 

「わかった」

 

 

 

そしてその反応が林についたころ、<探索者>が戻ってきた。

 

 

 

「悪い、へましちまった」

 

「いや、良い。無事に戻ってきてもらえただけありがたいよ」

 

 

 

其の通り。情報は大切だからね。え?違う?

 

 

 

「それで、相手の陣営は?」

 

「えっとな……」

 

 

 

説明するために地面を枝でガリガリやり始めたところで。

 

 

 

「──<絶対障壁(バリア)>」

 

 

 

障壁を内向きに張りなおした。何でって?待てばわかる。

 

 

 

「どうした国崎?」

 

「<周辺警戒>が魔力反応を探知した。恐らく索敵系の魔法だ。障壁の効果範囲から出るなよ」

 

 

 

この世界において、一般的な索敵魔法は、コウモリやイルカなどと同じ方法によって敵を発見する。すなわち、魔力の波を全方位もしくは特定の方位に放ち、跳ね返ってくる魔力で、物体や敵の位置を把握するというもの。魔力が低い物は透過してしまうので、森林の中や岩の影とかに居ても見つかる。無論まともな障壁張ってたら見つかる。

 

じゃあどうするかと言うと、ここでまともじゃない障壁魔法の登場である。

 

対魔法に設定して内向きに展開する、以上!

 

 

 

イメージとしては、障壁の外側から内側に向かって魔力が常に流れているという感じだ。それに魔力の波が巻き込まれ、反射することなく障壁内へ流れ込み、あとは障壁内でひたすらでたらめに反射し続ける。つまり相手の下に帰って行かないので、探知されない。

 

 

 

円形にしてあるのは、波を完全に封じ込めるため。別に直線状でも良いかとも思うのだが、何せ魔法である。何があるか分からない以上、万全の対策を取るべきだ。

 

 

 

とかやってる間に、突入の手順が決まったようだ。

 

 

<勇者><騎士><槍術師>を先頭に突入、<魔導師>他後衛職からの支援攻撃込みの最大火力で相手の包囲の一点をこじ開けて突破。まあそれ以外の選択は無いか。

 

 

 

「後衛組の防御は頼む」

 

 

 

あいあい任された。

 

 

 

さて、では参りましょう。

 

 

突撃ぃ!

 

 

とか叫ぶ事無く、ただひそやかに、森を飛び出し静かに突貫を開始。目指すのは敵陣で最も警戒網が薄い場所。

 

まあ当然のことながらすぐ見つかる。承知の上。

 

 

 

「<三叉槍(トライデント)(ファイア)>」

 

「<三叉槍・(サンダー)>」

 

「<光槍(ライトランス)六重(セクスタプル)>」

 

 

 

火で雪解かして感電させるのか?んで有利属性で滅多打ちと。上手くいかなくても、三叉槍だから広い範囲に高ダメージ、一応は考えてんのかね。

 

 

 

「<神楯(イージス)><絶対障壁>」

 

 

 

対物理・魔法両方に設定して張りなおす。

 

 

 

「<疾風>」

 

「<迅雷>」

 

 

 

高速移動用付与(エンチャント)。予定通り一気に突き破る。

 

あれだね、いやっほう!て叫びたい気分だね。

 

はっはっは、撃っても無駄だぁ!

 

 

 

 

 

気付けば一瞬で魔族の包囲を突き破っていた。とりあえず一層目。

 

 

「<火球(ファイアボール)・六重>」

 

「<雷球(サンダーボール)・六重>」

 

「<光槍・六重>」

 

 

 

後はもう一層突破すればおしまい。<魔導師>二人が前後に魔法を撃つ。ああ、あとこれも。

 

 

 

「せいっ!」

 

 

 

うしろに向けて放り投げたのは、黒い玉。外見上は何もない玉だ。まあ、卵みたいなやつに中身詰めて放り投げただけだし。

 

それらは<火球>によって雪が溶かされ、見えてきた地面に着弾すると同時に割れ、中身をまき散らす。

 

 

 

「<火球・六重>」

 

 

 

二度目の<火球>が着弾した瞬間、地面が燃え上がった。

 

玉の中身は油。どこにでも売ってるであろう油。ちょっとした時間稼ぎにな。出来ればガソリンが欲しかったけどまあ、あれで十分ではある。

 

油の火災って水で消火できないからな。

 

なぜそれで足止めになるのかっつーと、俺達が突き抜けたのが物資置き場だから、以上。

 

消火頑張ってくれ、引火する前にな。

 

物資置き場は見た目、警備は厚い。まあ重要箇所だし、警戒はするよな。だけど置き場の中には兵を振ってない。定期的な見回りはいるみたいだが。だから、基本上から見た場合、警備兵の層は二層。つまり街包囲の外側警備と内側警備だけ。

 

そして物資置き場がぐちゃぐちゃだったら、物資を取り出しにくい。当然ながら整理整頓されている、ちょうど、昔の都のような碁盤目状に通路が張り巡らされた状態で。

 

今回の動きは貫通特化。一度勢いで破ってしまえば、そのまま直線状通路をすり抜けるのは容易い。進路変更による速度の低下もなく、むしろ敵が居ない分加速しながら駆け抜ける。

 

その間、俺や<魔導師>みたいに追撃してきた兵へ攻撃すれば、外れたとしてもそれは物資に当たる。当然物資は消し飛ぶ。前にいる魔族も、外された場合に物資に当たるとなると、怖気づいたのかそれとも物資の消耗を避けたいのか、あまり攻撃してこない。まあ攻撃してきても確実に<神楯>に迎撃されるからそんな心配はないんだけど、そんな事向こうは知らないだろうしな。

 

 

 

とかこんな事をすぐ思いつく辺り、流石は<賢者>である。<神楯>云々は今気づいた事だけど。

 

 

 

 

物資置き場を通り抜ける。最後に先程の油玉をもう一度放りだす。

 

包囲内側の魔族は先ほど突き破った層よりやや厚めだが、この程度なら問題ない。仮にも<勇者>だし。加速した勢いのまま文字通り蹴散らした、吹き飛ばした。

 

 

 

よっしゃさあ逃げろ逃げろ!

 

 

 

あとはもう後ろにひたすら魔法を撃ちながら逃げるのみ。

高速移動魔法を利用しながら、後ろへ広範囲型の<三叉槍>や手数の多い球系統をばら撒きながら逃げられたら、正直俺でもお手上げ状態でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

お疲れ様でしたー、と追撃を諦める魔族に心の中で挨拶を送り、前を向く。既に目的地となる街の門は開いている。

門は俺達が入ると同時に閉じられた。

 

 

 

「勇者様だ!」

 

「助けに来てくださったんだ!」

 

「勇者様ー!」

 

 

 

兵士や住民の声に手を上げて振って応える篠原。そこそこ絵になる光景だ。一番絵になるのは馬に乗って聖剣掲げてるとこ。まあそんなことはどうでも良い。

 

 

 

いよいよ始まる、今代<勇者>による、魔族への反撃。

 

 

 

魔族に対する防衛戦の、人魔大戦の本番の始まりだ。

 




以上です。


<絶対障壁>だと反射されない理由
外側から内側にかけて、魔力が徐々に濃くなりながら流れるイメージ。外側はものすごく弱いので反射されず魔力の流れに巻き込まれてしまう。一度障壁の内側に入れば、内側の面は魔力が濃いので中で永遠に反射し続ける。


感想批評質問等、お待ちしております。


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第五十七話  今代勇者の

……どうも読者の皆様、一週間ぶりです。クラリオンです。

まさかここまで長く更新できないとは私自身予想外でした。予定では土曜日辺りに閑話を1話上げる予定だったんですが……ボツになりました(´・ω・`)


そんな感じで本編、第五十七話です、どうぞ!


さて、とりあえず目的地に到着したわけだが、改めて状況を確認しよう。

 

 

 

こちら側の戦力は、<勇者>一行が俺含め19名。他に元々街に居た王国軍の兵士が三百ちょい。元は五百居たが、かなり負傷者が出ている上に、装備が少ないとの事。

 

相手側の戦力は、低く見積もって千といったところか。

 

 

 

戦争における法則として攻撃三倍の法則、もしくは三対一の法則とよばれるものがある。戦闘に於いて攻撃側は防御側の三倍以上の戦力が必要であるという経験的法則である。まあこれが絶対正しいとは一概に言えないのだが。

 

 

 

上の法則と魔族のステータスが人族のそれより優れている事を考慮すると、人族と魔族の戦力差はかなりギリギリのラインである事がわかる。今まで拮抗できていたのは、主に都市防御障壁と、冒険者組合の物体転送機を利用した物資補給のお陰であろう。

 

 

 

しかし、これからはまた話が別になる。今回俺達が北方へやって来たのは、魔族を()退()する為だ。撃退、である。防衛ではな……いや結果的には防衛なのか。日本語は難しい。

 

何はともあれ、つまるところ、()()()()()打って出る必要がある。となると当然三対一の法則とか役にたたない。いつまでも籠っては居られない。侵攻を受けているのは何もここだけじゃない。

 

 

 

本当に早く召喚されたのが良いことだったのか疑わしい状況だなこれ。いや、だからこその多人数?でも低戦力の下手な分散は各個撃破を招く。

 

 

 

だとすれば今回の切り札は確実に<防衛者>だったんだろうな。<防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)>に対象人数の制限はない。つまりそういう事だろう。

 

前も思った気がするが自分で自分(人族)の首絞めてどうするんだ。

 

 

 

……まあ、良いか。

 

 

 

さて、打って出るときの戦力は、まあ<勇者>、それも戦闘職だけだわな。住民と非戦闘職の護衛は一か所に集めて俺が<絶対障壁(バリア)>張れば済む。ただそれ以外の事は出来ない。<神楯(イージス)>は自分を中心にしか展開できないし、<防衛者>として行動する上での目的が今代<勇者>の護衛である以上、俺はそちらを優先すべき。

 

 

 

……いや<絶対障壁>張るんならいっそ住民後衛組も門の近くまで動かしてもらうか?それで俺が門のところに居れば、外と中の両方に<神楯>張れるので住民を確実に守りつつ<勇者>の護衛が出来る。どうせ魔族は<勇者>が出てくればそっちに集中するだろうし。

 

 

 

まあそこは今代<勇者>達と協議かな。

まあ<賢者>も何かしら策は立ててはいるだろう。期待しとこ。俺と違って純然に全能力を<賢者>に振り分けられるんだし。あ、でもレベル低いからそこまでもないか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦決定。決行は明後日から。

 

 

意外にも民間人及び兵士、そして俺含む後衛組の配置は俺の案と一致した。段取りは以下の通り。

 

 

 

隠密に優れた<暗殺者><探索者><狩人>の四人が、まずひそかに敵陣に侵入。この時、<絶対障壁>を張っておく。タイプは魔法吸収型と音遮蔽。例の魔法ソナーへの備えと、聴覚強化系への対処。

 

 

 

侵入成功後、<勇者><騎士><剣聖><槍術師><拳闘士>が突撃。<魔導士><魔導師>はそれを後方から援護、<聖女>と<回復術師>は回復担当。

 

 

 

突撃と同時に四人が後方で撹乱開始、出来ればこの時に<絶対障壁>を張りなおしてほしいとの事だったが……

 

 

 

「悪い、それは厳しい。<絶対障壁>の対象に出来るのは術者本人かその視界内にある物だ」

 

 

 

乱戦のさなかに、敵陣に潜り込んで隠蔽系の魔法発動中な斥候職を見つけて、魔法を掛けろって、俺<防衛者>だからね?<防衛魔法>以外使えないぞ、望遠系とか無理無理。出来ないことは無いけどな、出来ない事になってるから仕方ない。あとそんな事してたら前衛組の援護が疎かになる可能性もある。

 

 

 

「……そうか」

 

「よって代案として、<防衛業務委託>の行使を進言する」

 

 

 

俺が無理なら本人達に発動してもらおうぜ、と。

 

 

 

「張りなおす事になっているのは、物理・魔法攻撃の遮断だったな」

 

 

 

つまり通常の<絶対障壁>である。

 

 

 

「<神楯>か<絶対障壁>を彼等に委託しよう、どちらも魔力消費は低い。隠蔽系の魔法を発動しながらでも併用できるはずだ」

 

 

 

付け加えるなら、問題は消費量だけではない。

 

 

魔法はイメージ。発動している間は意識をある程度そちらへ振り分ける必要がある。隠蔽系の魔法が、攻撃されると解除されるのはそのせいだ。何回も発動して慣れているのであれば、無意識でも可能ではあるのだが、まあ可能ならば意識をそちらに振り分けるべきだろう。

 

なら委託時点でイメージが固定され、短詠唱のみで発動可能な<防衛魔法>は併用に向いている。

 

 

 

「……そうか。その手があった」

 

「俺としては<神楯>をお勧めする」

 

 

 

候補として挙げた二つのスキルは、イメージで決定される要素に違いがある。<神楯>は範囲を、<絶対障壁>は範囲に加え、障壁の形状、性質を、それぞれ術者のイメージによって決定する。

 

委託時点でイメージはほぼ固定化されるとはいえ、発動する側のイメージが反映されないとも限らない。今回並列発動することになるのは、隠蔽、つまりイメージは可視光線の透過である。

 

範囲は問題ない。隠蔽のイメージ範囲は自分だから。しかし透過という性質が反映されると、障壁を張る意味が無くなる。

 

<神楯>は通常の魔法分類からいえば障壁ではなく探知系に分類される。主体が相手の攻撃を察知する事だからか。そのお陰でイメージ要素が対象範囲のみなので、イメージを同調させても大丈夫だろう。

 

 

 

「<神楯>……ああ、あのパッシヴスキルか」

 

「そうだ。あのスキルは自動で敵の攻撃を全て迎え撃つ。魔力消費も低く、相手側の攻撃に注意を割く必要が無くなる」

 

 

 

少数での後方撹乱は、効果は大きいが実行者のリスクも高くなる。だから普通なら隠蔽系スキルを発動していても相手の攻撃に目を配る必要がある。

 

しかし<神楯>は死角からだろうが空間を越えようが異次元からだろうが全て迎撃し無力化する。つまり相手の動きに目を配る必要が無い。

 

……本来の用途からかけ離れている気がしなくもないが、こんなぶっ壊れ性能かつ高効率のスキルを運用させる<システム>が悪い。

 

 

 

「……その案で行こう」

 

「了解した。では後で委託しておこう」

 

 

 

で手順の説明に戻る。撹乱というよりは、挟み撃ちにしている、という形にしておきたいらしい。まあいくら<勇者>と言えど最初から二十倍の相手はキツいか。あとは魔族軍の強い奴を、出来れば司令官クラスを潰して敗走させる。まあそれは必須だな。

 

決行が明後日なのは、<勇者>連中の調子を戻すのと今の気候に慣れさせるため。まあ多分明日には<寒冷耐性>とか付くだろ。ステータスに表記される事のない完全パッシヴスキル。今日までの移動で<雪上移動>とかも付いてそうだけどまあそれはどうでも良いか。

 

 

 

んで決行までの二日は、俺が防衛を担当、と。うん妥当な判断。ただ住民は一か所に集めてもらった。流石にな、一瞬だけなら例の重ね掛けで、それこそ村全体を覆えるんだが、常時展開だと魔力量の兼ね合いもあるしなあ。足りなくなったら<勇者>ステに自動で切り替わるけどまあそれは切り札っつーか自分の発言と辻褄合わなくなるしなあ。

 

 

 

いやそんな嘘だろみたいな顔するな篠原。見てただろ俺のスキルの効果範囲。

 

 

 

今の俺は、いやいつでもか、俺はチートじゃないんだよ。

特に今、レベルは大してお前達と変わらんのだ。基本は相応の事しか出来ない脇役だぞ、ちょっと存在感あるけど。

 

気合でどうにかなるのは伝説の主人公の特権だ。

 

 

 

「出来る事はしよう。だが防衛に専念しても、限界はある、俺は全能じゃない」

 

 

 

全能だったらそもそも召喚を回避してるっつの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、それでは。改めて(明後日からだけど)第二回・今代<勇者>の防衛戦を開始する!

 

 

 

……誰に宣言してるんだ?

 




<防衛者>は存在そのものがチートだと思う。

最近気づいたんですが、『防衛用だと確信できる兵器』ってあんまり縛りになってないなって(今更)

極端な話が自衛隊の装備は無条件で召喚できるし、何より「実在する」の縛りがないのはアウトだと思います。なぜかって?
……考えてみよう、私達は既に防衛という名を持ちながら星まるごと滅ぼせる兵器を知っている筈。
この説明ですらいくつか候補がある時点で察してください。

それでは感想批評質問等、お待ちしております。


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第五十八話  今代勇者の防衛戦

ご無沙汰してます。クラリオンです。一週間以上開いてしまいすみませんでした。

さて、第五十八話です。

防衛戦、なんて名前つけちゃいますがコレ防衛戦になるんですかね?





 

 

 

 

 

いよいよ作戦決行当日。時刻は……恐らく午前三時ってところか。まあ日の出前である。到着から二日、今に至るまで魔族側に動きはほとんど見られなかった。俺の仕事も無かった。まあ無いに越したことは無いが。

 

うーん……思ったより突入時の乱射が働いてたのかな?

 

 

 

魔族の基本的な戦闘スタイルは魔法戦だ。無論近接戦も出来るが最も得意なのは魔法戦である。とりわけ遠距離からの魔力量に任せた広範囲高火力攻撃、つまり物量によるゴリ押しが大得意。

 

ただし誰でもわかると思うが攻撃終了後は魔力が枯渇する。完全に枯渇する。魔力が枯渇してもとりあえず生きる分には問題は無いが、恐ろしい程の倦怠感に襲われる。魔力を回復させれば、体調も戻るので、戦闘に支障はない。

魔力回復さえできれば。

 

 

 

戦場での一般的な魔力回復の方法は二つ。そのうち一つ、魔力回復薬という手段を先の乱射で潰せたのかもしれない。その効果や色から、冒険者達からは青ポーション、マナポーションと呼ばれる魔力回復薬は、服用することで瞬時に魔力を回復できる。

 

 

 

そちらが完全にとはいかないまでも、万全の備蓄とは言えなくなったとしたら、残り一つでは少々不安なのだろう。もしその方法を取り、<勇者>に防がれたら戦線の維持が不可能になってしまうから。

 

 

だから大人しくして、向こう側からは攻撃を仕掛けてこない。向こうは今の状況を無理に崩す必要が無いからな。逆にこちらは攻勢を仕掛ける必要があるが、それをするには住民を守るために手勢を割く必要がある。

 

守るために割く手勢は、まあ当然のことだが基本は守りに特化する。例えば<結界術師>や<騎士>のように防御系スキルを持っていたり、防御値に補正があるような職業だったり。

 

 

 

すると今度は攻勢側の防御が手薄になる。そこに最大火力を放り込めばまだ勝ち目はあると考えているのだろう。だからこそ待ちの姿勢。

 

 

 

 

 

それがまさかたった一人に覆されるとは思わなかっただろうな。

 

住民どころか攻勢に出る<勇者>すらまとめて防衛できる<防衛者>の存在がその想定を全て覆した。

 

これでもし俺が居なかったら、<勇者>に被害が出ていた可能性がある。最悪の場合は死者が、な。来てよかった。

そう思いながら付与を開始する。

 

 

 

「──<絶対障壁(バリア)><防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)神楯(イージス)>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦第一段階。隠密特化系職業四人による敵陣への侵入が開始された。侵入成功の合図は矢である。<狩人>による弓矢の超長距離射撃。<勇者>が規格外である事を改めて思い知らされる。

 

 

 

 

 

 

 

「──来たか」

 

 

 

<周辺警戒>に高速でこちらへ向かう青の点が写る。

 

そして簡易壁を越えて地面に突き刺さった。紙が結び付けられている。間違いない。

 

 

 

「いつでも行けるらしいぞ。後は勝手に始めてくれ。俺が合わせよう」

 

 

 

作戦第二段階。<勇者>以下、戦闘職前衛組による突撃。既に東の空は白み始めている。奇襲にうってつけの時間だな。

 

 

 

「行ってくる。後はよろしく」

 

「幸運を──<絶対障壁>」

 

 

 

青ポーションを飲みながら魔法を発動。流石に<神楯>最大規模で常時発動しっぱなしだったから魔力が足りない。

物資補給に問題が無くて良かった。

 

 

 

発動した<絶対障壁>は対魔法・精神干渉攻撃に加え、おそらく<操魂魔法>にも対抗できる。対物理は隠密性確保のために後で追加付与。

 

イメージしたのは、外からは何物にも貫かれない楯。これなら<操魂魔法>を知らない、低レベル<防衛者>であっても対抗することは可能になる。

 

……持ってかれた魔力がやたら多いように感じたのはそのせいか、納得。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

続いて例の魔力波吸収型を張る。今の俺だと平常時じゃこれが限界。この後先行部隊にかけた障壁を解かなきゃいけないしな。

 

 

 

さて、見つからないままどこまで行けるかな?一応光属性魔法で迷彩的なのはやってるみたいだし、魔力波吸収型のを外側に張ってあるけど、どうしても微妙に光が歪むからなあ。だからこその薄明突撃なわけだが、相手に<暗視>持ちとか居たら意味は無い。

 

 

 

基本的に全部やらないよりはマシだろうと立てた戦術だから、相手が対策していれば意味が無くなる。ただの保険に過ぎない、とは今代<賢者>の台詞である。それらが全て通らず、最初から発見されることを前提としたうえでの<防衛魔法>だと。

 

 

 

ちゃんと<賢者>やってる。素晴らしい。

 

ちなみに隠密組が配置につく前に見つかった場合は、そのまま強襲を掛ける事になっていた。

 

 

 

色々考えているのは素晴らしい。問題点があるとすれば、<防衛魔法>に頼りすぎである事か。想定されている事態の全ての対処法が<防衛者>であるというのは如何なものかと思うのだが……信頼されているとみるべきか?

 

 

 

 

 

そんな事を考えているうちに、前衛組は敵陣までの距離の半分を突破したらしい。そろそろ、見つかった時の準備を──

 

 

 

「見つかったか。<絶対障壁>」

 

 

 

やはり<暗視>系統の、見張補助系魔法の使い手が居たか。もしくは職業補正か。まあどちらにしろ見つかったことには変わりない。手筈通りに対物理障壁を展開し、隠密組の<絶対障壁>を消去。

 

 

 

広範囲警戒用の<周辺警戒(レーダーマップ)>、住民・後衛組掩護用の<神楯>、前衛組五人の三重の<絶対障壁>と数だけなら五つの魔法を同時展開。<絶対障壁>はやりっぱなしであとは補給のみで良いが<神楯>はそうもいかない。いや、放置も出来るけど、迎撃距離がぎりぎりになるというか、既に<周辺警戒>との連動が癖になってしまっている。

 

それに五つも展開しているのでいかにぶっ壊れ効率の<防衛魔法>でも魔力の消費が早い。魔力回復薬飲みながらじゃないと……味?サイダーっぽい感じ。

 

なお障壁が壊れたら張りなおす必要は無いとの事。だから無理だってば。

 

おーおー殺ってる殺ってる、多分。肉眼じゃ見えないのが何ともなあ……職業補正、称号補正の大きさを改めて感じる。今の俺で見えるのは障壁と魔法発動時のエフェクト光だけである。

 

魔力供給はまだ量が変化することなく続いているので、前衛組に張った<防衛障壁>はまだ一枚も割られておらず、また足止めされるほどの強敵も居ないのだろう。俺としてはとっとと割れて欲しい。本日三本目のマナポーションを煽る。求む<支援者>。

 

炭酸飲料三本ほぼ一気はマジでシャレにならん。

 

流れ弾(魔法)が来たので<神楯>に魔力を追加。あー……頭痛い……魔力酔いかあ……あ、やべ。

 

 

 

四本目を煽って何か逆流してきた物を押し流す。

 

 

 

魔力酔いとは、魔力の急激な増減に伴う体調不良全般を指す。人によって症状が異なる。

 

 

 

あーたーまーがーいーたーいー…………お酒飲んだ時もこんな感じになるのか?

 

頼むからはよ終わらせて……まさかここまでキツいとは思わなかった。耐えろ耐えろ耐えろぉ!

 

流れ弾捕捉迎撃魔力追加。あ、流れが微妙に軽くなったような気がする。障壁がどれか壊れたか?

 

……違った気のせいだ変わってない。魔力回復薬飲み過ぎ、いや魔力酔いの高揚状態?待ってそれアカン奴。

 

とか思っても止められないんだよね、知ってる。止められない止まらない!

 

どうせこれ終わったらしばらくは多分休めるはずだからきっと恐らく。ここで少々ぶっ壊れても問題ナッスィング!

 

 

 

「<周辺警戒>!」

 

 

 

重ね掛けを行う。一瞬だけ見えた戦場の様子。

 

 

 

「大分減らしてるな」

 

 

 

殺せたのか、敗走したのか。交戦中の現場に残る魔族の反応は数十個のみ。それとも引き付け損ね……いや無いか。だとすれば今頃ここも戦場と化しているはずだ。一瞬だけ見えた村の反対側にも反応は無かった。つまり既にあそこまで削ってるのか。だとすれば。

 

 

 

「アイツ大分容赦無くなってるな」

 

 

 

俺の印象としては、アイツはそう簡単に魔族を殺せるようにはならないと思ったんだが、どんな心境の変化があったのやら?

 

まあ良いか。どんな心境で殺してる?とか聞く事じゃねえしな。

 

何はともあれ第二回・今代<勇者>の防衛戦も既に終わりつつ……ありゃなんだ?

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

一瞬だけ移る巨大な魔力反応。ああ、こりゃ駄目な奴。魔力回復薬をもう一本煽りつつ、送る魔力を増大させる。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

同時に今展開できる最大の頑丈さで最後の敵の魔導師を囲むようにもう一個内向き障壁を展開。あーーー、魔力が吸われる。もう一本ほれ一気、一気!

 

 

 

直後に大爆発、いくつかの障壁への魔力供給が途切れた。流石に耐えきれなかったかあ……多分支援魔法盛った隊長クラスだったんだろうな。二重<絶対障壁>は破れなかったか。

 

どうせ今ので魔法も打ち止めだろ。終わりか、良かった良かった。

 

……何か眠くなって……あ、魔力酔いからの魔力切れかぁ……誰、か、近場に……誰だっけコイツ……確か後衛組の……あ、もう無理だこれ。

 

 

 

「……あとは、頼む」

 

 

 

取り敢えず言えたな……意識が、遠くなっ……て………………

 




魔力の使いすぎで失神する元勇者。

現在ステータスは<防衛者>で固定してあります。HPが0になった場合のみ<勇者>ステータスへ切り替わります。

本来は<支援者>に<魔力増幅><回復補助>及び<魔力消費軽減>などの援護魔法をかけてもらった上で行うべきなのですが、居ないので回復薬で代用したらこうなってしまったというわけです。


ちなみに戦場での魔力回復手段、もうひとつは、味方からの譲渡です。ただし専用スキルを用いても譲渡過程でのロスが発生すること、魔力の枯渇は体調不良を招くことからあまり用いられる方法では無いです。



大学の授業が始まり、今まで同様の頻度での更新は難しいです。おおよそ二週間に一回程度かと思われますが、今後とも本作品を読んでいただければ嬉しいです。


それでは感想批評質問等お待ちしております。


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閑話  今代<勇者>は

前年度が楽だっただけに今学期の週四1限スタートがキツい。中学高校とこんな苦行をしてたのが信じられない。

とかまあ私の個人的事情はさておき、取り敢えず二週間には間に合いましたかね。

今回は前話の続きを今代勇者篠原君の視点でお送りいたします。

それではどうぞ!


 

 

 

 

 

「……異世界の、<勇者>は、化け物、か……」

 

 

 

その台詞を最後に、彼は息絶えた。否、俺が斬り殺したのだ。不思議と罪悪感が無かったのは、なぜだろう?必死に戦う兵士たちを嬲るように戦っていたと聞いたからか。

 

 

 

「……勝ったぞ!」

 

 

 

テンション高く声を上げ、近寄ってきたのは<暗殺者>の職業を持つ皆本(みなもと)修也(しゅうや)

 

 

 

「ああ、そうだな」

 

「それにしても最後は驚いたが……何とかなる物だな」

 

 

 

魔族軍の部隊を率いていたと思われる隊長格の魔族が、最期に放った炎属性の魔法。

 

 

 

「国崎のお陰だな」

 

 

 

魔法が発動する直前、障壁が目に見えて厚くなり、さらに相手の周囲を覆うように障壁が展開された。遠距離での行使は難しいと言っていたが、巨大な炎が目印のようになったのだろうか。

 

アレが無くては、俺や裕次郎以外は重傷だっただろうし、潜入組に至っては死んでいたかもしれない。

 

その存在全てが守る事に特化し、魔族との戦争において<勇者>と双璧を成すと彼は言った。<防衛者>の存在があるからこそ<勇者>は躊躇なく前にいる魔族にだけ集中できるのだと。

 

聞いた当時は話半分に受け取っていたが、実際に援護を十分に得た上で戦ってみると、過言ではない事が理解できた。

 

戦いやすい……というレベルではない。もはや実戦ですらないように思えた。相手の攻撃は物理・魔法問わず全て無力化され、なのにこちら側の攻撃は全て通るのだ。住民を狙ってこちらの態勢を崩そうにもその攻撃全てが防がれるのだから理不尽でしかない。

 

<防衛者>も<勇者>に負けず劣らずどころか<勇者>以上に規格外で、理不尽な存在であると理解できた一戦だった。あまりにも一方的過ぎる。こちらにとっては模擬戦でしかない。最後のあの攻撃すら、障壁が割れただけで中にいたクラスメイトは全員無事だった。

 

 

 

「……そうだな、この戦闘の立役者は間違いなく奴だ」

 

「認めるのか?」

 

 

 

<賢者>が立てた策は、全て<防衛魔法>前提の策だった。普通の結界術や障壁魔法ならまず実行できなかったことが多すぎる。

 

だが、あまり国崎を好ましく思っていないと考えていたクラスメイトから、彼の功績を素直に肯定する言葉が出た事には驚いた。

 

 

 

 

 

「……認めるも何も、あの状態で戦えばそう感じざるを得ないだろ。攻撃を防ぐ必要が無いんだ、普段と違う状況なのに、普段と同じように戦える。いや、それ以上だったな。異常なまでに戦いやすかったぞ」

 

 

 

 

 

<暗殺者>という職業は、基本的には一撃必殺の一撃離脱が主な戦闘方法だ。目に見えるステータスも基本的には物理攻撃に特化していることが窺える。職業・称号による補正も、移動速度と認識阻害のみ。つまり攻撃を受ける事を想定していないのだ。

 

 

 

 

今回の戦闘のように敵陣中に忍び込んで、そのまま戦いを続けるなど以ての外である。

 

 

 

 

それを可能にしたのが、<防衛魔法>のスキルだ。魔法探知を防ぐ障壁と物理・魔法問わず全ての攻撃を迎え撃つ<神楯(イージス)>。

 

 

 

攻撃を受けないばかりか、斬りかかってきた相手が<神楯>により攻撃を弾かれ、姿勢を崩したところを仕留める事も出来た。普段より確実にやりやすい。

 

結果としてこちらの損害はほぼ0、敵部隊潰走という結果に終わっている。

 

 

人族領とは言え、設備も揃わぬ辺境の地で、初めてこちら側から打って出た戦いにしてはこれ以上ない結果であると言えよう。

 

 

 

 

「これで怪我でもしていたら文句の一つでも言ってやるんだが、あそこまで完璧に守り通されるとな」

 

 

 

敵の数も圧倒的な中で、無傷で済ませられたという事実は、感情による色眼鏡を通してなお良い評価を下せるレベルだったという事なのだろう。

 

 

 

「じゃあ、戻るか」

 

「勇者の凱旋だな」

 

 

 

王都への襲撃を含めれば二度目の人族の勝利。

 

 

 

「──そうか、良く考えれば王都の時もアイツに助けられたな」

 

 

 

王都への襲撃の際、後衛組を守ったのは国崎で、夜襲の時に敵の初撃を完璧に防いだのも彼であった。

 

今までの勝利は全て、<防衛者>の援護によるものが大きい。

 

感謝しなければならない。彼と、彼を<防衛者>として送ってくれた女神リシュテリアに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

門まで戻ってきたところで異変に気付いた。国崎が居ない。戦闘開始まで国崎が居たはずの場所にあるのは、六本の空き瓶。

 

 

 

「……前原さん、国崎はどこだ?」

 

「……国崎君ならさっき倒れたわ、今はそこの家に居る筈だよ」

 

「倒れた?」

 

「……おい、勇人、こ、これ……」

 

 

 

<探索者>の職業を持つ英吾(えいご)が指さしたのは、空き瓶……空き瓶?

 

 

 

「全部、()()魔力回復薬だ」

 

 

 

上級魔力回復薬。初級から上級まで四種類存在している魔力回復薬の中で最も性能が良く、現状俺達<勇者>の中で最大の魔力量を持つ<魔導師>である直樹ですら一本で七割近く回復する魔力薬。全体的にステータスが低い<防衛者>ならば一本飲めば全回復は確実である。

 

その空き瓶が六本。推察するに全部国崎が消費したものだろう。

 

ってちょっと待て。

 

 

 

「六本……これ全部か?前原さん、ここにある空き瓶は……」

 

「全部、国崎君が飲んだ物だよ」

 

 

 

上級魔力回復薬を、六本も、あんな短時間で?

 

<防衛魔法>は効率が良い省エネ型の魔法じゃなかったのか?

 

 

 

「……それで、国崎の様子は?」

 

「とりあえず、今は眠っているよ。多分魔力酔いだと思う」

 

「だろうな」

 

 

 

<防衛魔法>は効率的なスキルじゃなかったのかとか先代<勇者>なら魔力酔いくらい知ってるだろうとか思ったことは多いが、取り敢えず納得はした。

 

あの短時間で六本も飲んだのなら魔力酔いになるのもわかる。ではなぜそのような事態に陥ったか。

 

 

 

「あの爆発のせい、か?」

 

「いや、六本も消費している以上、それ以前からのはず……まさか」

 

 

 

国崎は、スキルをずっと、発動しっぱなしだったのか?!

そういえば、俺達が出るときにも飲んでいたような……

 

 

 

改めて、今回<防衛者>がやったことを考えてみる。まず事前潜入組四人へ、魔力吸収障壁、<神楯>の付与。続いて俺達突撃組へ、対魔法障壁を、のちに対物理を追加。後衛組・住民・兵士の護衛用に<神楯>と<周辺警戒(レーダーマップ)>の常時展開、最後の巨大障壁。

 

 

 

……ああ、そうか、自分で言っていたじゃないか。この作戦は<防衛者>の存在が前提であると。

 

作戦の要所要所全てに関わっていたらやる事が多くなるのは当たり前じゃないか。

 

何だ、全部俺達の落ち度じゃないか。いや、落ち度と言える程でもないが……でも考えればすぐわかる事だ。目覚めた時に謝罪か感謝はしておくべきだろう。

 

前原によれば後を頼むと言われたらしいので、目覚めるまでは村を守らなくてはならない。

 

<防衛者>が居なくてもそれくらいは出来なくては<勇者>の名が廃る。元々彼は代理的存在。一応、人族領を守りきるまでは居れるだろうという話ではあったが、神の事は人には把握できない。防衛面だけであっても彼に頼りすぎるのはよろしくない。

 

 

 

「……夜間警戒のシフトを組むぞ、国崎もいつまでいてくれるかわからないからな。彼が動けない今の間だけでも俺達だけで回そう」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 




以上です。とりあえず名前だけで何気な初登場な裕次郎氏について。

太刀山裕次郎(たちやまゆうじろう)  職業:騎士

そこそこガタイの良い奴。柔道部所属。


<騎士>……防御値、剣術、盾術への補正。


それではまた、二週間以内に。


感想批評質問等お待ちしております。


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閑話  先代<勇者>パーティー

前回に引き続き閑話の更新となります。現在書きかけの閑話(完全シリアス)がもう1つありまして、次回更新までは閑話の予定です。



今回の閑話は一度あった質問への回答のような物になっております。


それでは、どうぞ!


 

 

人族領東大陸。その赤道以南を領土とする、超巨大連合国家、セラシル帝国。その北部から中央部にかけて、巨大な森林が広がる。かつて、大陸ほぼ全体がヴァルキリア皇国として統一されていた頃は、その丁度中央のラインからやや西にずれた所を縦断する大きな街道が整備されていた。

 

 

 

しかしそれは昔の話。約八百年前のヴァルキリア分裂、及び百年ほど前の人族・亜人族間の戦争などにより、徐々に使われなくなった街道は、今や荒れ果て、空からもそこにある事が辛うじてわかる程度でしかなかった。

 

 

 

その旧街道を驀進する一つの影がある。日本国陸上自衛隊八九式装甲戦闘車。機関砲及び対舟艇ミサイルを搭載、戦車に追随して歩兵戦力の移動・火力支援を担う装軌車両である。

 

 

そんな物騒な車両は現在、女子三人を乗せ、時々機関砲を撃ちまくりながら全速力で街道を南下していた。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば理沙、ずっと気になっていた、というか気にしていたのだけど」

 

「何が?」

 

「ケイとか私に恨みとか不満とか無いの?」

 

「恨み?何で?助けてもらったのに?」

 

「アイツが本気出せばというかもっと早く動けば、貴女のご両親も助けられたはずだったのだけれど」

 

 

 

理沙の両親が処刑される時、既に啓斗とさくら、セレスは到着していた。そして処刑されるところを見ていた。

 

ならば啓斗が全力を出せば三人全員助けられたはずである。ついでに言うならば死体を回収すればさくらの蘇生魔法で蘇生させることも可能ではあった。

 

でも啓斗はそれをしようとはしなかったし、さくらもそれを言おうとはしなかった。当時<特務管理者>として動いていた彼等にとって、重要だったのは<管理者>として指定された理沙ことレイシア・ウィルティ・リズヴァニアだけであり、彼女の両親はどうでもいい存在だったためだ。

 

 

レイシアの魂の中にあったと思われる雷帝竜の残滓からの要請は、彼から権限を譲渡されたレイシアの救出だけ。ゆえに彼女の両親は見捨てた。

 

 

 

<管理者>達は、<システム>の目や耳、あるいは手足となって世間で動くがその正体を知られてはならない。そのためにその行動は全て最小限にとどめられ、命令・要請以上の事を行う事は無い。それがのちにどのような影響を及ぼすか不明なためだ。

 

 

 

この制約を考えれば、彼等二人の行動は正しいものになる。しかしそれはあくまで<システム>その他世界の裏側を知っている場合にのみ通用する正しさであり、一般的には恨まれてもしょうがないとさくらは思っていた。

 

 

 

「ううん、あの状況で助けてくれただけでも十分だよ。確かにできれば助けてほしくはあったけど……色々事情とか聞いたから、贅沢は言えないかなって」

 

「……そう」

 

「それに、私あまり現世の両親に親の感覚が無いの。話したっけ、日本人だった時の事」

 

「最初の頃に聞いたわ」

 

「現世だとやっぱり貴族だからなのか、お父様ともお母様とも中々こう……腹を割って話すっていうんだっけ?そう言う事が無かったから。前世の両親の記憶が強いの」

 

 

 

貴族と言うのは基本的に家族間ですら本音を言い合い、腹を割って話す機会が少ない。そうでないと貴族社会を生き抜いていけないからなのだが、前世日本人で、入院を繰り返し、両親の看護を受けていた理沙にとって、それは親子のコミュニケーションが少ないように感じられたのだろう。

 

 

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「私ループしてたって、言ったじゃない?そのループの時は、あまり……その、良い親じゃ無かったから」

 

「……ああ、そうか、記憶残ってるんだったわ」

 

 

 

原理は未だ不明であるが恐らくは<システム>が行ったと思われるシミュレーション。その目的は人族の死者の増加。すなわち、雷帝竜の血を引く一族が全滅するのと、娘だけでも生き残るのと、どちらが対魔族戦で死者が増えるか。あるいは魔族の攻勢の前に反乱がおきて内戦状態に陥る事で死者が増えるかもしれない。

 

 

生まれる前の魂を使った超大掛かりな実験。それは一人一人の性格などの細かな条件すら少しずつ変えて行われた。当然ながら重要人物たる雷帝竜の末裔は特に。

 

 

その中でもあまりよろしくない性格だった事が多かったというのはつまりその方が死者は増えると<システム>が判断したのだろう。

 

 

本来ならば、それらのシミュレーションの記憶は魂への直接干渉を伴う記憶操作により削除されるのだろうが、レイシアは転生者であったため行われなかった。

 

 

日本人だった前世とシミュレーションの記憶。本来消滅しているはずのそれらは今世の彼女に多大なる影響をもたらした。親への複雑な感情もまたその一つだろう。

 

 

 

「だから、今世のお父様とお母様がどれだけ優しかったとしても、完全にその死を悲しんでいたわけじゃなかったし……」

 

 

 

シミュレーション云々の話は既に移動中に聞いた。だから今ではそれらが全て裏表のない、間違いなく子を想った優しさであったと分かっている。

 

ただそれと同時に、世界の裏を知ってしまった。自分が、誰に、何の為に助けられたのか。その状況で、命令で動いていた彼等を恨むわけにもいかなかった。

 

 

 

「だから、ケイとさくらを恨むことは無いよ、安心して」

 

 

 

彼女はそう、笑顔で締めくくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでさくら」

 

「何?」

 

「大抵の物語とかじゃさ、勇者と聖女ってくっつくじゃない?ケイとの間にそれは」

 

「あり得ないわね、少なくとも私とケイの間にそれは無いわ」

 

「えぇ……即答しちゃったよ……」

 

「当然でしょう」

 

 

 

理沙の問いに対し、あっさりと否定の答えを返すさくら。

 

 

 

「今後そういう事が起こる可能性は」

 

「零よ」

 

 

 

それが当然であると言いたげである。

 

 

 

「何かこう、一緒に旅をして深まる絆的なのは……」

 

「あったけどそれと恋愛感情は別よ。私とケイは確かにかなりの信頼を互いにおいてはいるけれど、恋愛感情は一切抱いていないわ。私も、そしてケイもね。感情的な分類をするなら、双子の兄弟に対する親愛、といった感じかしら」

 

 

 

時には手間のかかる弟で、時にはとても頼りになる兄。

 

<聖女>から見た<勇者>はそんな感じだ。

 

 

 

「向こうが、ケイがどう思っているかは知らないけど少なくとも恋愛感情は無いと断言できるわ」

 

「伝説だとなんか<勇者>様と<聖女>様は相思相愛だからこそ互いに背中を預けられるとか、二人の連携が完璧なのは一線を越えた仲だからだとか言ってたけど」

 

「……その理論だと騎士団とかはソッチ系の集まりになってしまうと思うのだけど……」

 

「男女だから特別なの!」

 

「だとしても私とケイはその例外なのよ、多分」

 

「多分?」

 

「ケイがどう考えてるか分からないから。でも向こうも恋愛感情は無いと思うわ」

 

 

 

彼と彼女の間にあるのは、仲間、戦友としての絆。互いに命を預けあうだけの実力があると認めた上での信頼。

 

役割としても、攻撃魔法と剣を扱い、自己回復・支援も可能なために長時間一人で前線を張る事の出来る防衛戦型<勇者>と、後方からの支援と広範囲攻撃魔法を扱う攻撃型<聖女>は綺麗に噛み合っていた。

 

 

 

「仲の良い男女が常に恋人同士とは限らないでしょ?」

 

 

 

五年間も共に戦い続けたのだ。性別など関係なしに、その程度の信頼は築けないと逆におかしい。

 

 

 

「──『世界の危機に恋愛なんかしてる暇あるか』、ケイはそう言ってたしね」

 

 

 

 

『──世界を、人族を救うために召喚されて、恋愛に現を抜かしてどうするんです。ハーレム作る暇があったら世界の為に働く、王女殿下にちょっかい出す暇あったら鍛錬すべきです。<勇者>が遊んでる間に<魔王>も遊んでる確証はないでしょう?あ、でも春馬さん達は例外ですけどね。<防衛者>はレベル1の時点で<魔王>殺れますんで』

 

 

 

 

いつだったか、<防衛者>国崎春馬が、「ハーレムとか目指さないの?」と半分冗談で聞いたときに啓斗が真顔で返した答えである。それが真顔、つまり本気であったためにそのまま春馬と良くわからない論争に突入したのを思い出す。

 

 

 

『世界を救うのは、愛じゃないです。少なくともこの世界では、世界を、人族を救うには力が必要です。魔王を倒す力が』

 

『愛で世界を救えるなら、苦労はないです。というか俺達が召喚されるわけないでしょう』

 

 

 

もっともである。

 

 

 

「そんな状態で信頼関係を完全に構築しきってるから、今後も恋愛関係になる事は多分考えなくて良いわ」

 

「正論だけど凄く夢が無い事言ってるね……」

 

 

 

異世界から<勇者>を召喚する場合、理由として二つの事項が挙げられる。すなわち、便利な手駒が欲しいか、その世界の人族が抗えない力で滅ぼされかけているかのどちらかである。

 

この世界の場合、今代が前者、啓斗達初代が後者の理由でそれぞれ召喚されている。

 

 

 

前者の場合、普通に<勇者>自身の危機である。後者の場合も、世界が滅ぶのならどちらにしろ<勇者>自身の危機と同義。つまりどちらにせよ<勇者>に生命の危機がある。

 

さらに言うならば、<勇者>は元いた世界から、その身一つで召喚される。

 

つまりは平和な世界から戦いが日常的な世界へとほぼ丸腰で放り込まれるのだ。そんなところで悠長にハーレム作ろうとか出来るのは元から天才的な奴だけだろ、とは啓斗と春馬が意見の一致を見た点である。

 

 

 

実際、彼等は本当の人族存亡の危機に召喚されたために、戦いに明け暮れる日々を送っており、正しいと言えるのだが。

 

 

 

「ええ、それは春馬さんもケイも言ってたわ。『こんな夢の無い勇者召喚があってたまるか畜生!』って。でもまあ現実はそんなものだよねって納得もしてはいたようだけど」

 

 

 

現実と物語は違う。

 

 

 

物語のように全てが上手くいく事などほとんど無い。それを体験している彼女はそう締めくくった。

 

 

 

 

 




以上です。

それでは感想質問批評等お待ちしております。


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閑話  時を渡る竜・いつか有り得る結末

ゴールデンウィークで少し書いておいたため早目に更新できました。

色々伏線敷いたり意味深な表現したりしますが、ご容赦ください。


それでは、どうぞ!


 

 

 

『──私達の子供のようなものです、どうかよろしく……と言っても貴方なら先が見えているでしょうけど』

 

『先が全てはっきりと見えているわけではない。今のところはまだ、な。とはいえ他ならぬ○○さんの頼みだ。だが……本当にそれで良いのか?』

 

『ええ。貴方方竜種は<管理者>であると同時に、世界の<調整者>でもあるはずです。我々の事情でその役割を放棄させるわけにはいきません。それでは本末転倒です』

 

『……わかった』

 

『ありがとうございます。良かった。ようやく──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……懐かしいな」

 

 

 

南大山脈頂上、<システム>近郊に、()()はあった。

 

虹色の、渦。

 

それは<空間魔法>により作成された異空間への入り口。

そこは時空帝竜の住処。始祖竜が嫡子の中でも最強たる、時間・空間属性魔法の使い手の家。

 

そこに居るのは当然ながらその家主たる時空帝竜(ヨグ・ソトース)であった。

 

 

 

彼は過去を見ていた。主観でもう何万年も前に別れを告げた一人の友と、最後に別れた時の事を。

 

 

 

空間属性と合わせることで、この世界の過去や未来へ行く事、あるいは視る事が出来る彼にとっては、本来その友と会う事は造作もないことではある。

 

 

 

だが彼はそれを自分で厳重に禁じていた。過去は変えられない。変えてはならない。変えられるのは、未来だけだ。

 

未来は、未定である。ささやかな違いにより、世界は全く異なる歴史を辿る。

 

 

 

ゆえに彼は、いくつもの未来を視る。今見えている未来で最悪なものは、<システム>がブラックボックスを除き全て破壊される未来だった。

 

 

 

とはいえ別にそれはどうでもよかった。<システム>にとってフィンランディアの中にある()()なんていつでも再建できる物でしかない。この世界の人々が<システム>に気付きそれを壊そうとするならそれもまた成長であると今は亡き友も言っていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その過程が問題だった。

 

彼の眼に映るのは、<聖剣>を()()両手に持ち、<聖鎧>に身を包み、迫りくる軍勢の前にただ一人で立ちふさがる少年の姿。かつて自分に時空系魔法を極めているからと言って、彼等の世界での神の一柱(ヨグ・ソトース)の名をくれた少年。

 

彼を見つけたのか、軍勢の勢いが弱まり、そこから何人か進み出てきた。彼等は今代の<勇者>達。この世界の異常性に気付いた外界の神によってこの世界に遣わされた、いわば世界の<修正者>。

 

彼等が少年に駆け寄ろうとした所で、少年の背後に瞬時に魔法陣が展開され、光の砲撃が放たれる。話すことは何もないと言わんばかりである。

 

そしてそのまま始まる戦闘。知った顔との戦闘に及び腰の<勇者>に対し、二本の<聖剣>を手に猛然と斬り込む少年──先代<勇者>。それで彼をようやく敵と認識したのか、戦闘が始まる。レベル200を超えた先代<勇者>一人に挑むはレベル150程の今代<勇者>パーティー30人弱。

 

 

 

魔法をほぼ使っていないとはいえ、50近いレベル差はそのままステータスの差へと反映される。ゆえに人数に差があろうと、それは関係ないと言わんばかりに互角の戦いを演じる。結末を知っていたとしても、手に汗握るような戦いを。

 

 

 

 

 

 

 

回復を全て自動発動型スキルに頼り、ひたすら攻撃を行う先代と、何人かで交代を繰り返しながら回復・攻撃を行う今代。後方から魔法攻撃も飛んでくるとなっては、先代がじり貧になるのは目に見えていた。

 

 

 

ダメージと疲労の蓄積についに膝をつき、倒れ伏す先代。<聖鎧>もところどころ罅割れ、防具としての役目を果たせるか疑問である。

 

 

 

 

 

 

しかしこれで終わりではない。

 

 

 

直後、彼の身体を黒い靄のような魔力が包む。そして再び立ち上がる先代。

 

 

 

いや、立ち上が()()()()()先代。驚きに目を見開く今代達の前で、疲労し、ダメージも積み重なり到底もう動けないはずの体が動かされ、再び剣を構える。

 

 

 

時空帝竜個人としてはここで止めて欲しかった。しかし<管理者>としてはこの選択はその場で最善であると思う。

 

 

 

自己傀儡人形(マイセルフ・マリオネット)>。

 

職業<傀儡術師>が保持する操作系魔法、<傀儡術>の初期スキルの一つ<傀儡操作>の応用。その名の通り、術者自身の体を傀儡とする事で、術者自身の意識・思考・感覚と身体を切り離しながら術者の思考で術者自身の身体を動かすというスキル。

 

 

 

この世界で恐らく彼だけが扱えるスキル。

 

 

 

<傀儡術師>は基本、後衛職であるために自身の体を操るという発想が無い。操ったところで戦力にはならないから。

 

だからこれは前衛職でありながら称号職業として<傀儡術師>を保持する先代<勇者>にしかできない芸当。そして彼の最後の切り札。

 

 

 

疲労は関係が無い。人形に、傀儡に疲労は存在しないから。同じ理論で痛覚とダメージも無視。消費するのは魔力だけ。代償として魔法・スキルが一切使えなくなるが、今回彼に課せられた役割は時間稼ぎなのだから問題は無い。

自分で直接ではなく、傀儡として動かすために、少々のタイムラグが生まれてしまうが、それでも通用するレベル差がある。

 

 

 

右手が切り裂かれた。戦闘続行に支障なし。代わりに相手の大剣を叩き折ってやった。

 

左足の神経が絶たれた。戦闘続行に支障なし。代わりに相手の短剣を砕いた。

 

左腕が斬り落とされかけたので魔力で覆ってつなぐ。戦闘続行に支障なし。代わりに楯を切り裂いた。

 

魔法で火柱に包まれる。痛みは無いが視界が無くなりそうなので剣を振るって風圧で消す。戦闘続行に支障なし。

 

背中に短剣が刺さる。戦闘続行に支障は無いが邪魔なので抜く。傷口は魔力で覆って防ぐ。戦闘続行。代わりに相手の右足を切り落とした。

 

背中から抜いた短剣を、先ほど魔法が飛んできた方向へ全力で投擲。

 

とうとう右足が持って行かれた。だが構わない。魔力を集め傷口を塞ぐとともに代わりの足を作る。戦闘続行に支障なし。

 

 

 

 

 

軍勢が彼を無視して先行しようとしたら、自分が攻撃されるのもお構いなしにその前に立ちはだかる。HPはもうあまり残ってはいないはずだ。魔力による止血は十分な効果を発揮するとは言い難い。せいぜい応急処置程度だろう。

だがそれで十分だ。彼の役割は終わりつつある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の背後で、空に赤い火花が散る。

 

 

 

 

 

<システム>のバックアップ及び移動が成功したという報せだ。それはつまり、彼の任務が果たされたという事と同義である。

 

 

 

 

 

それを見て気が緩んだ隙を、今代<勇者>は見逃してはくれなかった。気づけば一本の黒い剣が、前に構えていた<聖剣>二本を砕き、彼の胸──心臓を貫いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<勇者>が<魔王>を殺すための剣が<聖剣>ならば、<勇者>に対抗する<魔王>にもまた、<勇者>を殺すための剣がある。

 

 

 

<魔剣>。

 

 

 

銘は無く、ただ<魔剣>とだけ呼ばれるそれは、まともに<聖剣>を折る唯一の方法。<聖剣>同士を打ち合わせるなどと言うイレギュラーではなく、ある意味正攻法で<聖剣>を折れる唯一の存在。

 

最終決戦で<魔王>と<勇者>で戦う際に<魔王>が用いる魔族側の最終兵器。

 

()()()()()()()()()()()()()()創世の女神が、この世界を去るときに残した剣の中で、唯一の魔族側の剣。

 

<勇者>を殺すための剣。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが既に鎧としての体を成していない<聖鎧>をも砕き、先代<勇者>に突き刺さる。

 

 

 

残りHPも少なく、出血もあってか、先代<勇者>は何かを言うことも無く、ただ空を仰ぎ、何かを掴もうと手を伸ばしたところで、力尽き、息絶えた。

 

 

 

<勇者再生プログラム>は、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。

いつか有り得る結末→IFエンドです。

多分本編がこの結末を辿ることは無い……筈です。本編が辿るのはもっとマシな結末……になる予定です。


それでは感想質問批評などお待ちしております。


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閑話  世界の為に

引き続き時空帝竜視点の閑話になります。

一話に収める予定だったんですが思ったより長くなってしまいまして。


そんな感じでIFエンドのちょっと続きと、時空帝竜の独白です。

※これは本日二話目の更新になります。


 

 

 

術者死亡により<傀儡術>が解かれ、各所の傷から一気に血が噴き出た。全身の魔道具が解除され、<勇者>死亡により<聖剣>が消滅する。

 

うつ伏せだった遺体を、仰向けに転がし、兜を取る。そこで今代<勇者>達の顔が驚愕に染まるのが見えた。

 

 

 

腕に嵌めていた<偽装腕輪>の効果が解除され、『国崎啓』ではなく『神崎啓斗』に戻ったのだろう。

 

 

 

ほぼ全員が驚愕しているという事は、この状態に至るまで自分を偽り隠し通し切ったという事になる。女子が一人だけ驚いていないが、顔面蒼白である。彼女は知っていたのか。

 

まあ完璧な『神崎啓斗』は神崎啓斗じゃない別の何かだと本人も言っていたので、バレているのも当然といえば当然か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……違う。なぜまだこの未来が、『神崎啓斗』が本当に死んでしまう未来が見えている。自分は、自分達はこの未来を避けるために、()()()()、この未来が見え始めてから対策を幾重にも練って来たのではないのか。

 

なのになぜこの未来がまだ見えている、有り得ている。

 

 

 

神崎啓斗(異世界の少年)が、たった一人孤独に自分の命を削り犠牲にし、時間を稼ぐ未来が。

 

 

 

 

 

これ以上何を変えればいいんだ?変化させ得る条件は全て最善の未来へと向かうよう手を加え、<勇者>関連にまで──元からそういう計画はあったとの事だが──手を出したというのに。

 

 

 

外的要因は可能な限り全て排除した。これで結果が覆らないとなると、考え得る要因は二つ。一つは、さらなる外から、我々では届かない次元からの要因である場合──例えば神の介入など。もう一つは内的要因。つまり本人の気持ちがその方向に向かっている場合。

 

 

 

神の介入はまず考えられない。この時期ならば、<システム>を秘匿するために世界そのものを、時空を歪めることで隔離しているはずだからだ、他ならぬ時空帝竜(自分自身)が。

 

 

 

ならば本人の気持ちの問題なのだが、これはこれで難しい。誰も、<システム>とその中核管理者を担う自分以外誰も知らない事だが、記録上の初代<勇者>神崎啓斗には、他の<勇者>には無い特性があった。

 

 

 

<勇者>自身の心の動きの中核を成す物を<システム>が診断し、最適の<聖剣>を自動で選択し授ける<勇者召喚>の最重要過程。よって本来<勇者>に授けられる<聖剣>は一つ。当然だ、心の動きの中核は一つしかないのだから。複数あるように見えてもそれはさらに根本的なところで一つにまとまる。

 

 

 

<勇者>神崎啓斗には、それが()()あった。

 

 

 

面倒事や傷つけられるのを恐れ、他人と一定以上の距離を保とうとする<孤独>。

 

その一方で身内判定をした相手を助けるためなら例え自分の命であろうと代償に出来る<犠牲>。

 

 

 

当時既に<犠牲>は、人族の記録には残っていない<勇者>橘朱梨が所有していたために<孤独>が授けられたが、この時<犠牲>が残っていたとしたら、どうなっていた事か。

 

 

 

仮契約のような物とはいえ、一時的にでも<犠牲>を保有し、その能力を使用できたのはそれが理由であった。彼には<犠牲>を扱う適正もあるのだ。

 

 

 

つまり今のまま、彼が<犠牲>と<孤独>両方の適正を持ったままでは、過程がどうであれ、未来は彼の死へと繋がるだろう。未来の彼はその二本を持っていたのだから。

 

 

 

せめて彼を繋ぎ止める絆があれば良いのだが……今のところそれは見当たらない。

 

 

<勇者>であることから考えれば、一番有力なのは<聖女>だが、彼女は恐らく彼の決断を苦渋の判断として肯定するだろう。彼等の繋がりは()()()()繋がりだ。感情ではなく理屈で動く。命を懸けて戦う事であろうと、それが必要な事であれば否定はしまい。

 

 

 

<犠牲の勇者>はどうか。彼女なら彼と一緒に戦場に立ってくれる気がするが、彼が止める。説得材料もいくらでもあるはずだ。彼はそういう事だけはすぐに頭が回る。

 

 

 

では彼が蘇生させた女騎士はどうだろうか。彼女の彼に対する気持ちは、尊敬あるいは憧れ。彼が強く言えば逆らう事は無い。

 

 

 

雷帝竜の末裔、転生者の少女はどうか。いや、<聖女>が恐らく止めるか。<聖女>である彼女が動かないのなら、少女もまた動かないだろうし、動こうとしても<勇者>と<聖女>の二人が行かせないだろう。

 

 

 

「……どうにかしなくてはならんな」

 

 

 

千年前であれば、当時の<防衛者>と<支援者>がストッパーとなっていた。しかし彼等は今いない。呼ぶこともできない。特定の人物だけを<召喚>することは<システム>であっても不可能だ。

 

 

 

誰か、彼を止めるか、あるいはせめて共に戦場に立って、撤退してくれる人が必要だ。

 

 

 

いっそ彼等がここに到着したら、この事を全て……いや、駄目だ。

 

それによってこの未来が避けられるなら良いが、<システム>が一時的に撤退するのは恐らく確定している。あとはそこに至る過程が問題であるのだが、その時にもし今代<勇者>が<システム>と敵対する道を選んだなら、先代<勇者>は間違いなくこの未来を、1人で戦い時間を稼ぐ未来を選ぶ。

 

 

 

となると残るキーポイントは今代<勇者>か。前例から考えれば<勇者>は<システム>を肯定するはずだ。

 

 

 

今代<勇者>の性格的な問題なのだろうか?だとすれば迂闊に手は出せない。ちょうど今、先代<勇者>が今代のところに潜り込んでいるはず。もし性格的な問題や成り行き上での事なら彼による解決を期待するしかないだろう。

 

 

 

それ以外なら?

 

 

 

「全力で、潰しにかからなくてはな」

 

 

 

それ以外という事はつまり、何者か、<システム>を否定する何者かによって誘導されたという事だろう。元の性格ではなく、何かしら状況に流されたわけでもないなら、<勇者>に<システム>と敵対する理由など無いのだから。

そしてそれはつまりこの世界に<システム>を知り、否定し、その破壊を目論む者が居るという事。そんなことを許せるわけがない。

 

 

 

かつて友から<システム>を託された者としても、<システム>中核管理者としても、世界の<監視者>にして<調整者>として()()()()()()身としても。

 

 

 

世界の秩序を乱す者は敵だ。

 

 

 

 




以上です。

感想質問批評などお待ちしております。


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第五十九話  予知夢

どうも、二週間ぶりです。

大分久しぶりの本編となります。内容的にはあまり進みませんが……



というわけで第五十九話、どうぞ!


 

 

 

「……知らない天井だ」

 

 

 

この台詞この世界に来て二回目だな。魔力全回復、HPは当然というか元から減ってない。今のところ状態異常も感じられず。

 

 

 

よし神崎啓斗完全復活!

 

 

 

というか俺は馬鹿か、アホか。魔力酔い忘れるとかどんなポカだ。

 

自分で制限かけといて、自滅してんじゃねえよ。今回は終わりごろだったから良かったけどさあ。今度から戦闘時の制限外すかレベル上げ急がないと。でも&表示にしてる時は<勇者>サイドの経験値量がプラスされるから上がらないんだよなあ……レベル上げのしにくさは変わらんというかむしろ面倒になってる。

 

 

 

まあそれはどうでも良い。

 

 

 

一つ、気になる事があった。

 

 

 

「<自己傀儡人形(マイセルフ・マリオネット)>、使っちゃったのか……」

 

 

 

俺の切り札中の切り札にして、多分最悪の持ち札。初披露でさくら、春馬さん、陽菜乃さんに、もう二度と使うな、と念押しされたスキル。

 

称号<傀儡術師>を持ちながら職業は<勇者>という前衛職である俺だから行使できるスキル。

 

 

 

例え疲労していようと、痛みで動けなくなっていようと、魔力が続く限りその全てを無視して動くことが出来る。すなわち魔力が継続する限り戦い続けるいわば狂戦士の出来上がり。ただし魔力が尽きた後に全ての反動が来る。

 

 

 

──やったか、はフラグだぞ、今代<勇者>

 

 

 

──初代<勇者>を、舐めるな

 

 

 

そんな自壊系スキルを、夢の中の俺は、そう言って、発動した。

 

 

 

 

 

 

スキル<予知夢>。称号<(かんなぎ)>のスキルの一つである。神託を授かる方法の一つ。

 

このスキルの内容は、確定していない未来の夢を見る、事。それだけなら、別に使いやすいスキルではない。ただの<予知夢>なら、下手をすればしょうもない事を見せられる事もあるが、俺の場合は別だ。

 

詳しいことは分からないが、<時空魔導>スキルが影響しているらしく、基本的には自分の事に関する夢しか見ない、とそこそこ利便性が上がっている。

 

 

 

 

 

つまりさっきまで見てた夢は、いつか、俺が辿り着き得る未来である。

 

ただし、このスキルは少々問題点があって。

 

 

 

「何のための発動だ?」

 

 

 

当然ではあるが夢で見る出来事の前後関係が全く不明なのである。とりあえず視点が俺だったので自分の状況から推測してみる。

 

まず、場所から判断して大方<システム>前での最終決戦と言ったところか。それなら俺単独だったのも納得がいく。俺が、単独で、今代と戦う。使用スキルは<自己傀儡人形>。戦闘中の魔法使用は無し。

 

という事は、目的は時間稼ぎか。

 

 

 

となると、次なる疑問はやはりこれだろう。

 

 

 

「……なぜ<防衛者>を使わなかった?」

 

 

 

<自己傀儡人形>は<勇者>が持つスキルの中では一番時間稼ぎに向いている。

 

だがそれであっても<防衛者>が行使する<防衛魔法>には及ばない。特に&表示が出来るのであれば、<勇者>の圧倒的な魔力量を元に<防衛魔法>を行使可能で、おまけに自動回復スキルも付いて来る。

 

 

 

それをせずに、<勇者>としての最善手で臨んだ。

 

 

 

なぜか。

 

 

 

と言っても俺の事だ。大体想定は付く。

 

理由は単純明快。<防衛者>()()()()()()()()()

 

 

 

恐らく今現在俺とさくらが考えている事──重複ステータスの分離と乖離──が可能で、それに成功したのだろう。

 

夢で視た未来の俺は、そのために<防衛者>でなくなったと考えられる。

 

 

 

<防衛者>と<勇者>、どちらを残すかは選べたはずだが、今代<勇者>とやりあう時に、同レベルの<防衛者>単独では拮抗しきれないとみて<勇者>を残した、といったところか。

 

 

 

妥当な判断だ。受けたダメージ量はまあ何となく感覚で把握できるが、<勇者>時の物攻・物防値から判断して相手のレベルはおおよそ150前後。

 

となると、俺とさくらが<勇者><聖女>ペアで動くとき以外は負け戦であると考えて良いだろう。ただその場合、圧倒しすぎて逆に殺しかねない。こちらも命を懸けている以上、手加減は不可能に近い。レベル差は多めに見積もって60。数が違い過ぎてちょっと厳しい。手加減するにはこちら側の手数が足らない。

 

<聖女>状態のさくらはなんだかんだ言って聖属性特化・広範囲殲滅型の魔導師。手加減にはあまり向いていない。回復に専念させ、俺が一手に相手を引き受ければ勝てるかもしれないが……

 

 

 

 

 

 

そもそも当時の俺達は、<システム>は、()()()()()()()()()()()

 

 

 

本当に<システム>が勝ちを望むなら、俺達二人に加え、グラディウスを投入すればいい。<システム>自体の守りは時空帝竜が居れば済む。それをしなかったという事は、ただ時間を稼ぐだけで良かった?

 

あるいはもはやその意味が無いところまで追い込まれているのか?それともその手を打つことが出来ない状態にある?というか俺何でそんな簡単に死にに行ったんですかね?

 

 

 

……時空帝竜?ちょっと待て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

<時空魔導>があるなら時を止めれば、時間など無限に稼げるじゃないか。何故そうしなかった?

 

<時空魔導>は<管理者>の特権のような物だろ。今代は使えないのだから、影響はもろに受ける筈だ。

 

 

 

……駄目だな、やはりあの情報だけだと足り無さすぎる。

 

あの未来は、俺が辿り着き()()未来である。確定していない未来なのだ。つまり事情が分かれば避けることが出来るだろう。

 

 

 

しかし、事情が分からない事には対策が立てようがない。

 

 

 

取り敢えず、今代が<システム>について気付かないようにするくらいしかないか。今代が気づいたらまず間違いなく敵対ルート確定だろうしなぁ……俺ですら敵対選んだくらいだ、敵対しないわけがない。

 

……いやマジでどうしたもんか。

 

 

 

「国崎」

 

「ん?ああ、何だ篠原か、どうした」

 

「何だじゃないだろう!急に倒れて……誰か!」

 

「どうしたの勇人君……あ」

 

「国崎が起きた、優菜か荒山さんを呼んでくれ」

 

「わかったわ」

 

 

 

別に呼びにやらなくでも良いのに。まあ良いか。

 

 

 

「そうだ、ちょっと国崎に聞きたいことがあるんだけど」

 

「何か、あったのか?」

 

「何か、昨日くらいからさ……」

 

「あ、待て、俺何日くらい寝ていたんだ?」

 

「三日だ。心配したぞ」

 

「そうか。いや、制限付きのステータスに思ったより慣れていなかったらしい、すまんな。次からは大丈夫のはずだ……それで?昨日くらいから何があったんだ?」

 

「大丈夫なのか本当に……ああ、何か、こう、特定の場所に行かなきゃいけない気がしてさ」

 

「特定の場所?どこだ」

 

「この村から少し北だ。村人に話を聞いたが、何か古びた神殿みたいなものがあるだけらしいが」

 

 

 

ああ、剣強化イベントですねわかります。声で反応しなかったんで精神干渉始めたのか<正義(ジャスティス)>。

 

 

 

「なるほどな」

 

「何か知らないか?」

 

「これだという確証は無いが、一応は」

 

 

 

嘘です確証あるある。

 

 

 

「教えてくれ」

 

「その神殿では、おそらくだが、何かしらお前に利益がある」

 

「何か、とは?」

 

「わからない、来る時にも言っただろう?多分アレと同じ物だからな」

 

 

 

神剣かもしれない、剣じゃない神授武器かもしれない。純粋に<聖剣>が強化されるだけかもしれない。何回かの戦闘を経て、新たなスキルが手に入るのかもしれない。

 

 

 

<正義>が干渉している事を考えると、おそらく二番目ではないかと思うのだが。

 

 

 

「もし気になるのだったら俺も付いて行こう。あまり他の人間を連れて行くのも考え物だな。<魔導師>の……誰だっけ、彼に<防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)>をしておこう」

 

「川島だ……そうか。わかったありがとう」

 

「行かなくて良いのか?」

 

「行きたいが、国崎が回復してからだな。一応病み上がりなんだ、休むべきだろう」

 

「多分大丈夫だと思うぞ」

 

「それでまた倒れられたら困るからな」

 

「わかった」

 

 

 

じゃあお言葉に甘えて未だしばらくベッドの上にいるとしますかね。

 




以上です。

それで良いのか聖剣。

この一週間で、実は過去話をいくつか編集しました。流れに変化はありませんが、感想欄で質問・指摘頂いた箇所や自分で少々気になるところ、不自然に感じたところを訂正させていただきました。報告までに。

感想質問批評などお待ちしております。


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第六十話  北の廃神殿

さて、ようやく六十話です。

精神操作してそれで良いのか聖剣。お前名前<正義>だろ。

ようやく、正当な<勇者>伝説における<勇者>の成長が始まります。


それでは、どうぞ!


 

 

 

「……ここが、そうか」

 

 

 

入り口の門も崩れ、廃墟となっている神殿の前に、俺と篠原、そして<探索者>白井英吾が立っていた。本当は俺と篠原だけの方が良かったのかもしれないが、白井が、

 

 

 

「探索なら<探索者>の俺が居た方が良い」

 

 

 

と主張。

 

<探索者>は確か、隠密系スキルと罠・生物感知系スキル、それから隠しステータスの素早さと移動速度にプラス補正がある職業。主武器は短刀というかナイフというか、投げる事も可能な軽い刃物と弓矢。

 

ダンジョンや神殿、洞窟や森の中などで役に立つ職業の一つ。廃墟のような神殿、それも<聖剣>強化系となればまず確実に魔物がやたら湧いてるのは確実である。<探索者>が居れば動きやすくはなるはず。<周辺警戒>を組み合わせれば、良い斥候になるだろう。

 

 

彼の提案には一理ある。篠原もそう考えたのか同行を許可。すると桐崎が、

 

 

 

「勇人が行くならアタシも行く。回復役も必要でしょ?」

 

 

 

と言い出した。が、これは流石に勇人も許可できなかったらしい。これは俺としてもあまり良いとは言えなかった。今代の<聖女>は<治癒魔法><回復魔法><再生魔法>全てを扱える回復系特化、言い方は悪いが使える人間だ。何かあったら不味い。足手纏いは少ない方が良いしな。

 

回復は、低階位なら篠原も使えるし何なら体力回復薬、通称赤ポもあるのでそちらで賄う事にした。

 

 

 

防衛業務委託(ディフェンス・サブコンストラクト)>で川島に<神楯(イージス)><周辺警戒(レーダーマップ)><絶対障壁(バリア)>を預け、三人で、犬橇でえっちらおっちらやって来た森の中に、確かに廃神殿が存在した。見た感じとしては恐らく創世の女神、人族側の主神である女神リシュテリアを祀った神殿だろう。破壊痕はかなり摩耗しているが鈍器的な何かを叩きつけられたか魔法で粉々に吹っ飛ばされたかのどちらかといった感じだ。

 

という事は、これは魔族によって破壊されたという事だろう。

 

理由としては、まず人族・亜人族側にこの神殿を破壊する理由が無い事、そして破壊痕である。

 

 

 

推定五メートルほどの石像を一撃でその半分を粉砕できるような鈍器を扱える者はそうそう居ない。よって魔法による破壊だと思われる。

 

粉々になっている以上は<爆裂(バースト)>系の魔法による破壊である。<爆裂>はまあ名前から分かる通り、火属性魔法に分類される。記憶が正しければ<炎属性魔導>第三位階にあったはずだ。氷属性や地属性あるいは風属性と合わせると第九位階以上クラスの広範囲攻撃もしくは殲滅が可能なので割と戦いで使われやすい魔法である。特に地属性の派生、金属属性と合わせれば、疑似的に<防衛魔法>の<地雷(ランドマイン)><破片地雷(クレイモア)>を再現できたりする。

 

 

 

さて、<属性魔導>スキルは基本的に下位スキルにあたる<属性魔法>をレベル10まで上げ、全位階スキルをレベル10に上げた状態でさらに魔法を撃ちまくる事で手に入るスキルだ。

 

元々魔力が少ない人族は、魔力消費の少ない低位階魔法を多数撃つことで、単発威力をカバーする傾向にある。まあ細かな調整を組み込めるので、低階位乱射は使える戦法なのだが、レベル上げの効率は大分低い。だから人族で<属性魔導>スキルを手に入れる奴は少ない。

 

容易く<属性魔導>スキルに到達できるのはエルフなど魔法特化亜人族か魔族のみ。しかし亜人族には破壊する理由は無い。よって魔族によるものと断定できる。

 

 

 

無論、個人的に何かしらあって破壊に至った亜人族の可能性も考えられるし、魔物系亜人族ならばこのような破壊を行える鈍器も持てるから、一概に魔族の魔法によると断定はできない。

 

 

 

まあ摩耗してるって事はそれなりに昔なので気にする必要は無いか。

 

え、何で考えたのかって?暇潰しと今代への解説。

 

 

 

「……だから、想定よりかなり前から、それこそ下手すれば千年前からある神殿なのは間違いない。中は魔物が多くいる事は確定だな。下手をすれば弱めの特殊指定魔物が群れを作っている可能性も有り得る。アンデッドなら上位種の軍団が居る可能性もある」

 

「うへぇ……ゾンビとかか」

 

「いや、多分スケルトン系だろう。どこかの馬鹿が最近ここに入ってなければの話だが」

 

 

 

ゾンビ系統とスケルトン系統は死体もしくはアンデッドになってからの時間で区別される。ゾンビの肉が全部腐り落ちたらスケルトンだ。「ゾンビ○○」は全て「スケルトン○○」と同じ性能だ。肉がついているのでゾンビの方が戦い難い程度の区別でしかない。

 

 

 

「それにアンデッドとは限らない。まずは入ってからにしよう。<防衛業務委託・周辺警戒><周辺警戒><絶対障壁><神楯>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、やはり見た目通りの廃墟か。しかし魔物の気配すらないのはおかしいな」

 

 

 

中に踏み込んではみたものの、魔物どころか動物にすら遭遇せぬまま二十分近くが経過。雑草が生え荒れ果てた、かつての通路と思しきところを歩きながら部屋を一つずつ確認しているが、何も見つからない。

 

 

 

「こっから先も似た感じだ。<周辺警戒>にも反応が無い。ちなみに罠もないみたいだ」

 

 

 

一人先行していた白井が戻ってきた。

 

 

 

「という事は、どこかに仕掛けがあるな」

 

「仕掛け?」

 

「ああ、多分この神殿、地下があるぞ。それも大分深い所に」

 

「根拠は?」

 

「さっき重ね掛けした時に、本当に一瞬だけ、俺達と重なるようにそこそこでかい敵性反応があるのが見えた。でも周囲には居なかった。なら普通に考えて下だろう」

 

「下か……」

 

「とりあえず一番奥まで行ってみよう。ゲームでもこういう時に仕掛けがあるのは一番奥だっただろう?」

 

 

 

本当はゲームで例えるのは好きじゃないんだが。

 

 

 

「なるほど、そうか確かに!」

 

 

 

こんな感じで説得力はあるので悩む。

 

 

 

「出来るだけ早く一番奥へ行こう。白井はそこで仕掛けを探してくれ。警戒は俺が、もしもの戦闘は篠原がやる」

 

 

 

白井を先頭に走りだす。<周辺警戒>に一切反応は無い。やはりおかしい。入り口は普通に開いていたのだから野良の魔物が居てもおかしくはないと思うのだが、敵味方不明反応すらない。やはり何かしら地下にあるな、魔物が居ないのはそのせいか。

 

 

 

それと多分、動物すら居ないのは、夜に死霊系の魔物が湧くから。もしかしたら肉体を持つアンデッドも湧くかもしれない。

 

アンデッドは生前、何かしらの恨みを持った魂が、魔力の影響を受けて変じる魔物。肉体が残っていればゾンビ系、残らなければ死霊系へ変化する。魔物への変化の過程で、大抵本人の恨み・憎悪は、生者全体への憎悪へ変質する。まあ感情が強すぎる場合は残ったりするけどもそれは数少ない例外の話なので置いておく。

 

つまりアンデッドは生者、というか人間に限らず生きてる動物を見れば襲う。だからアンデッドが良く湧く場所に動物は近寄らない。逆に不自然に動物が寄らない場所があればそこは大抵アンデッドが湧く場所である。

 

 

 

つまりこの廃神殿は、高い確率でアンデッドが湧く場所だと推定できる。低レベルアンデッドなら聖属性の権化<勇者>がいるので問題は無いが、数百年放置された神殿である。<不死身の賢者(アンデッド・ワイズマン)>とか<死霊竜(スペクタードラゴン)>クラスが湧かないとは言えない。そうすると少々俺と白井が足手纏いになってしまう。

 

出来れば会敵したくないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二十分ばかり走ったところで、一番奥の部屋に辿り着いた。恐らく元は神殿長か誰か、お偉いさんの部屋だったのだろう。地下への仕掛けがあるなら一番可能性が高い。

 

白井が部屋を探査している間、俺も警戒しながら、部屋にあった大きな戸棚を片っ端から調べた。

 

 

 

「何かあったのか?」

 

 

 

当然もう一人手持無沙汰な篠原が寄ってくる。

 

 

 

「ちょっとな。多分ここがまだ神殿だった頃の記録だろう」

 

 

 

見つけたのは日誌である。<時間属性魔法>の<保存(プリザーベイション)>が掛けられているので今でも読める。持ち帰って後で読んでみるとしよう。

 

 

 

「見つけたぞ!」

 

 

 

地下への入り口が見つかったようだ。さて、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 

 

 




以上です。続きはまた二週間以内に。

以下魔物の解説

<不死身の賢者>……人族領で見るゾンビ系魔法使いの最高位の魔物。それなりの魔法使いがゾンビになったとき最終的に成り果てるもの。ゾンビには魔法の学習という概念が基本的に存在しないため普通のゾンビが進化することは稀である。
外見は普通の人間に近いが、所々骨が見える。進化するのに時間がかかればかかるほど骨の部位が多くなる。


<死霊竜>……人族領で見る死霊系の中で最高位の魔物であり、大抵一番手こずる相手。見た目は名前の通り死霊の竜。複数の死霊系魔物の集合体。実体が無いのにこちらに攻撃できる。通常は<光属性魔法><聖属性魔導>じゃないとダメージが通らないので注意。<聖剣>や<神授武具>なら通る。


なにげにアンデッド系が一番合理的な説明しにくいんですよね……<不死身の賢者>は、理性が完全に戻っているために魔力を制御可能、よって体の崩壊が止まっている、と考えてください。普通のゾンビは本能程度でしか動いていないので魔力を完全には制御できず、徐々に体が朽ち果てていきます。

それでは感想質問批評などお待ちしております。


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第六十一話  不死者の巣窟

どうも、クラリオンです。

……まずはお詫びを。

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。



引き続き廃神殿になります。

後書きにちょっとした小話を載せております。ちなみに読まなくても物語の内容理解には差し障りありません。

それでは第六十一話、どうぞ!


「昔は多分それっぽかったんだろうな」

 

 

 

今となってはボロボロになった、彫刻の施された壁の一部。仕掛けがあったのはそこだった。と言っても仕掛け自体は既に死んでいた。珍しく魔法によるものではなく、物理的な仕掛けだったのだ。

 

 

年数経過により仕掛けそのものが崩壊、白井はその痕跡を見つけ、力づくで扉をこじ開けた。まあこのタイプは仕掛けが生きているとなると、仕掛けを使わないと開かないから、死んでいて助かった。

 

 

 

「魔法によるものではないのは、探知されるのを恐れたからか。人間が居ればメンテナンスは出来るから合理的ではある」

 

 

 

仕掛けもそれなりの耐久を持った素材で作られている。まあそれじゃないと使用に耐えないからだろうが、それのお陰でしばらく人間が整備しなくても施錠の役目は果たせるようになっていた。

 

まあ、でも流石に数百年は耐え切れなかったらしい。まあ耐え切れるとしたら、金銀以上の金属とかだもんな……

人が作ったものだ。いずれは壊れる。

 

 

 

「じゃあ、気を取り直して探索といこう。頼むぞ英吾、国崎」

 

「ああ、任せとけ」

 

「守りと後ろの見張りはな。戦闘は頼むぞ篠原」

 

 

 

いざ地下探索へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「<光刃>!……はぁ、これで何体目だ?」

 

 

 

予想通り遭遇した魔物は全てアンデッド。

 

 

 

骸骨戦士(スケルトンウォーリアー)なら六体目。魔物全体なら十三体目だな」

 

「多すぎやしないか?」

 

「地下に踏み込んで十分。確かに多い。それに魔物自体の質も高い。下手をするとボスクラスはギガントポイズンスパイダーより強い可能性がある」

 

 

 

ギガントポイズンスパイダーは人族領で見られる蜘蛛系魔物では最強クラス。とはいえ、まんま見た目蟲系の魔物がそこまで強くないのはどこの世界でも共通らしく、アンデッドならそれを越える強さのモノも多い。

 

とはいえそれらのアンデッドも当然上位種なのだが。

 

 

 

「近衛騎士団と<防衛者><支援者>のスキルを動員して漸く勝てたって奴か?あれ以上……俺達三人だけで勝てるか?」

 

 

 

どうやら戦闘報告書を見たらしい。<絶対障壁(バリア)>で相手の攻撃を無効化したうえでのタコ殴り、という戦法で勝ったために実際どれ程の強さなのかが良く分からないようだ。冒険者組合だと……討伐ランクはSだっただろうか?千年前の単体評価ならAだと聞いた記憶がある。

 

 

 

「勝てない事は無い。相手が()()ならな」

 

 

 

本来ならば上位種の魔物が単独で現れる事はほとんどない。ダンジョンでない限り。かつて蜘蛛を討伐した時は、<絶対障壁>で全ての攻撃を無効化することで、同時に眷属の存在を無視していた。

 

 

<絶対障壁>は維持するのに魔力は要らず、追加魔力を流す事で修復や増強が出来る便利な障壁だ。だが、それを張る俺の魔力には限りがある。レベル50無い<防衛者>の魔力量などたかが知れている。青ポも持ってきては居るが、飲み過ぎは前回同様魔力酔いを招く。

 

 

相手の上位種が単独であれば、蜘蛛同様の手法で相手が可能だ。ただ、この地下空間の広さ(推定)と、さっきまでの会敵数と合わせて考えると、奥に行けば上位種が群れを成すレベルで居る可能性がある。

 

数で押されると流石に勝てない。連戦でも同じこと。魔力回復の時間は取れるが青ポとて無尽蔵ではないのだ。

 

 

<勇者>ステータスの魔力なら勝てるけれども、それだと前回の魔力酔いとか、俺の発言とかと全力で矛盾してるので没。

 

 

 

「国崎、まだ魔力に余裕はある?」

 

「ああ」

 

 

 

一応微量ずつ常に回復するスキルあるからな。焼け石に水程度だけれども。

 

 

 

「……その上位種って奴とはまともに戦わない方が良いかもしれない」

 

 

 

ほほう?

 

 

 

「国崎に<絶対障壁>を張ってもらって、攻撃を受けないようにただ突破することに重点を置けば、良いんじゃないか?」

 

 

 

中々良い意見出すじゃん。

 

 

アンデッドとは死体が魔力で動いている物。つまり早い話が<傀儡(ゴーレム)>、それも俺の<自己傀儡人形(マイセルフ・マリオネット)>と同じようなものだと考えていい。

 

 

<傀儡>の弱点は、術者の思考から動作がワンテンポ遅れる事。こちら側が一気に突破を図れば多分動きに追いつけない。ただ相手が魔法を使えるタイプだったら戦う必要がある。魔法は射程が長いというか射程の概念が無いからなぁ……

 

 

 

「それなら魔力消費は抑えられる。ただ、魔法使い相手には通用しないし、無いとは思うが、もし道を間違った場合が怖いな」

 

「トレインか」

 

「そうだ。振り切れる可能性も無いとは言えないが、考え得ることは全て考えておくべきだろう」

 

「だけどそれじゃあいつまで経っても進めないだろう。それにさっき道を間違える事が無いと思うと言っていたのは?」

 

「ここは元神殿。この地下空間が隠し部屋か隠し通路かは知らないが、そこまで複雑な構造にはなっていないはずだ。隠し通路なら言わずもがな、隠し部屋だとしてもそこまでの余裕は無いし、そんなことをする必要も無いはずだからな」

 

 

 

神殿など宗教関係の施設における隠し部屋の存在理由はいくつか考えられるが、一番可能性が高いのは、神器や聖遺物など、信仰対象になり得る物の保管および秘密神殿。普段は一般に公開される事の無い物であっても、神官が永遠に封印しているはずがない。普段は神官のみが参拝しているはずで、そのための場所。

 

ならばそこまで複雑な構造に出来るわけがない。実際ここに踏み込んでから分かれ道を見た記憶が無い。

 

 

 

「ただ、魔物の発生がどのように影響するかが分からないからな。一般に使われている<保存(プリザベイション)>の魔法はあくまで時間経過による損傷を防ぐだけの物だ。魔物による破壊から保護は出来ん。だから間違える事が無いとは思うが確約は出来ない」

 

 

 

アンデッドに、撹乱するために道を作るという戦術的思考は存在しない。彼等は基本的に全ての思考を生者への憎しみで埋めている。上位種や特例を除いて理性が無い。無論最低限戦うだけの思考はあるが。

 

だから地下空間の構造は変化していないはずだ。確約は出来ないけどな。

 

 

 

「だから最終判断は篠原、お前に任せる。この場でのリーダーはお前だ」

 

「…………先に進もう。さっき言った通り、国崎には防御、というよりパリィを任せる」

 

「了解した」

 

「それと英吾はさっきまでと同じように前進して警戒を。相手によっては戦闘を視野に入れる」

 

「任せろ」

 

 

 

いやぁ、職業が分かれてるとこんな感じなのかぁ、良いね。こう、チームワーク的なのが感じられて。俺達とは大違いだ。しっかり鍛えたら多分今代の方が強くなるんだろうな、きっと。

 

 

 

……戦いたくないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方の曲がり角を曲がったところにアンデッドの魔法使いが二体」

 

「わかった──国崎」

 

「<絶対障壁>。一撃で頭潰せよ」

 

 

 

対魔法障壁を追加で展開する。ついでにアドバイス。

 

アンデッドに痛覚は無い。ゆえにアンデッドの魔法使いは、手を斬られようが胴体を分断されようが頭が無事なら怯む事無く魔法を撃ってくる。それを阻止するには一撃で頭を潰すか、光・聖属性付与をした武器か神授武具で核となる霊体を叩くかしなくてはならない。

 

 

低級ゾンビ系なら頭を潰すだけで無力化できるが、スケルトンや高位種族は大抵<無言詠唱>できるので、核を潰す必要がある。まあ大抵頭の位置にいるので頭を狙えば潰せるのだが。

 

 

 

「カウント3で行くぞ。3、2、1、今!」

 

 

 

声と同時に敵の面前に出る。相手は魔法使い。ありがたいことに<不死身の賢者(アンデッド・ワイズマン)>では無かった。微妙に肉が付いてるっぽいから<不死身の魔法詠唱者(アンデッド・マジックキャスター)>か。今の呼び名が何か知らないけど。

 

 

 

「<属性付与(エレメンタルエンチャント)(ライト)>、せいっ!」

 

「<光刃>!」

 

 

 

壁を蹴った白井が相手の真上から、篠原が前から突進。それを<氷槍(アイシクルランス)>と<雷壁(サンダーウォール)>で迎え撃つ<不死身の魔法詠唱者>だが、当たる直前で障壁に弾かれ消える。もう一度魔法を放とうとしたところで、頭に刃が到達した。眼窩に短刀が、顎下から片手剣が突き入れられる。

 

眼窩の中に見えていた青い光が消える。同時に骸骨の体が風化し崩れていく。

 

 

 

「これで何体目だ?」

 

「百を超えたくらいから数えてないよ」

 

「今倒した二体で123だ」

 

 

 

まだ<不死身の賢者>クラスに遭遇していないのが幸運か。予想していた通り結局遭遇するのはアンデッドばかり。しかも奥に来るにつれて、数か質が上がっている。

 

最初は<骸骨戦士>一体とか<骸骨(スケルトン)>数体が精々だったのが、<骸骨弓兵(スケルトンアーチャー)>や<骸骨魔法使い(スケルトンメイジ)>が付いたり数が3体に増えたりし始めた。そして相手に肉が付いたり、2体が標準編制になったところで一度だけ<首無し騎士(デュラハン)>にも会った。死んだと思った。逃げたけど。

 

この分だといずれ<不死身の騎士(アンデッドナイト)>とかが<死霊馬(スペクターホース)>に乗って出てきてもおかしくないと踏んでいた。

 

 

 

いたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方になんかでかい扉あった。そこまでに敵は居ない。一本道だ」

 

「扉?」

 

「ああ」

 

 

 

あれ、それボス部屋じゃね?じゃあこれで終わり?

 

呆気ないな。

 

 

 

「そこが終点かもしれない」

 

「いわゆるボス部屋って奴か?いよいよダンジョンの主とご対面って奴だな」

 

「ボス、か。気を引き締めていかないと」

 

 

 

このレベルだとさっき言ってた編制がボスになるのかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でかい扉だな」

 

「だろ?」

 

 

 

おまけに見事な彫刻。どう考えてもボス部屋っすね。<周辺警戒>にも大きな敵性反応が2つ……2つ?!

 

 

 

「相手は2体いるみたいだ」

 

「……両方魔法戦闘タイプか物理戦闘タイプだったら、片方無視してもう片方を速攻で仕留めよう。分かれていたら魔法戦闘タイプを優先で」

 

「魔力消費は考えてくれ、もしかすると帰りも戦闘しながらかもしれない」

 

「良し、じゃあ開けるぞ」

 

 

 

篠原が扉を手で押す。一瞬軋む音が聞こえたかと思うと、ゆっくりと開いていく。

 

 

 

「……げ」

 

 

 

敵が見えた瞬間、自分の迂闊さとフラグ発言を呪った。

 

 

 

「……<不死身の魔法詠唱者>と<死霊馬>騎乗の<首無し騎士>かよ」

 

 

 

最悪の想定よりはマシだが、事前想定の遥か上を行く編制だった。

 

 




実際のレーダーでもあまりに至近距離だと点が重なって二つが一つに見えることもあるらしいので、この見間違いは仕方のない事ではあるかと。至近距離どころか重なってますし。






──小話──

「春馬さん」
「なんだ?」
「昨日浄化したアンデッドどうする?」
「あー……名前つけろって話だったか」
「いままで見たことないアンデッドだったんでしょう?」
「見たことないっつーか、確認されてないアンデッド、な」
「戦ってみたら新種でしたは笑えましたね」
「倒せたから良かったがな」

数日前に掃討したアンデッド群。その指揮者クラスと思われる上位アンデッドは当初<死せる大魔法使い(エルダーリッチ)>だと思われていた。違うと判明したのは軍勢を纏めて浄化(殲滅)した後、直接戦闘に入った時の事だった。
戦闘前に、癖で相手に<鑑定>を掛けたら、ステータスの名称欄に???と表示されていたのだ。<鑑定>でこのように表示された場合、考えられる要因は二つ。


相手が<鑑定>を弾いた、つまり相手のレベルがこちらより高い場合。

<鑑定>の威力あるいは突破力は、魔力量に依存する。<鑑定>を弾くということは相手の魔力がこちらを上回っていることを意味し、それは大抵レベル差の存在をも意味する。況してや相手が<勇者>なら尚更だ。

が、どうも今回はそうではなかった。<鑑定>を弾かれるなら弾かれたとしてそういう感触があるが、それがなかった。

つまり残る一つの理由──相手が未知の存在である場合、と言うことになる。


それが今まで分からなかった理由は、軍勢が強すぎて大本の新種アンデッドに辿り着けなかった、とのこと。まあ、しょうがないわな。


まあそんな新種アンデッドを、軍勢ごと初見で討伐した俺達に命名権が与えられたのだが。

「俺アンデッド系ってゲームに出てくるのでもスケルトン何とかとかエルダーリッチくらいしか知らないんですけど」
「俺もそこまで詳しくは知らないからなあ……」
「スーパーエルダーリッチとか」
「もしまだ見つかってなかったら確認されてなかったりする更なる上位種が居たら?」
「……ウルトラエルダーリッチ」
「おい」
「いやだってそれくらいしか思い付かないですし」
「じゃあ<動く死体の魔法詠唱者(ゾンビマジックキャスター)>とかで良いんじゃないか?上位種が出たら、骨と同じように命名していけば良い、スケルトン何とかじゃなくてゾンビ何とかって感じで」
「カッコ悪い」
「語呂が悪い」
「センスがない」
「酷い?!」
「……じゃあ、ゾンビ、じゃなくて、アンデッド、とかどう?さっき春馬さんが言ってた命名法流用すれば」
「おお!それ良いな!」
「かっこいい」
「センスある」
「俺と違って語呂も良い……て何言わせるんだ」
「事実だから諦めようね春馬君」
「本題戻すけど何て名付ける?」
「骨に換算したらどれになるの?」
「ステータス的に<魔法詠唱者(マジックキャスター)>と一緒」
「……<不死身の魔法詠唱者(アンデッドマジックキャスター)>とかどう?」

安直な名前だけど……

「<動く死体(ゾンビ)>よりはマシかな」
「そうだね」
「……じゃあそれで提出するよ」

──END






というわけで千年前のお話。召喚されてしばらくが経ち、ある程度人族領が安定してきた時期に浄化した死の街のお話です。この後出会う、新種のゾンビ系アンデッドは根こそぎこのネーミングにされました。

それでは感想質問批評などお待ちしております!


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第六十二話  廃神殿ボス戦・前半

どうもこんばんは、クラリオンです。

前回の続きボス戦になります。


一応前回の後書き分の小話はどういう意味かと言いますと、ようはくっそ強いモンスターの名前付けたの主人公達ですってだけの話なんですが。


3人の召喚者が挑むは3体のアンデッド。さてさてどうするんでしょうね。

いつもより少々長い(4000、いつもは3000前後)ですがお付き合いくださいませ。

というわけで第六十二話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

広い部屋の中央に待機する二体のアンデッド。いや<死霊馬(スペクターホース)>含めるなら三体か。しかし困ったな、馬か。相手の機動力をかなり上方修正しなくてはならない。

 

 

それに、ボス部屋にいるのがさっきも遭遇した<不死身の魔法詠唱者(アンデッドマジックキャスター)>な点も気になるといえば気になる。いや、まあ前後しっかり分けてる上に、前衛が騎乗の<首無し騎士(デュラハン)>って時点でさっき遭遇した組超えてはいるけれども。

 

 

 

多分レベルも相手が上。まあこれは想定範囲内ではある。

 

 

 

「<絶対障壁(バリア)>。作戦に変更は?」

 

「無い!行くぞ英吾!」

 

「お、おう!」

 

 

 

思考しながらもほぼ無意識に段取り通りスキルを発動。前衛二人が一直線に<不死身の魔法詠唱者>へ向かうのを見て、相手の前衛も動き出す。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

それに合わせ、対魔法に特化した障壁を張る。<首無し騎士>は騎士鎧のアンデッド。対して<死霊馬>は複数の死霊系アンデッドが集合したアンデッドなので実体は無かったりする。何で騎乗できるのか疑問だが多分魔力の物質化をしてるんだろう。

 

 

 

さて、問題です。それらの前に魔力による干渉、魔力の塊たる魔法を弾く障壁を張ったらどうなるでしょうか。

 

 

 

答:馬が一瞬弾かれてバランスを崩す。

 

 

 

<死霊馬>のレベルが高かったせいか、弾くと同時に障壁も砕け散ったから本当に短時間だけでしかないが、時間は稼げた。それだけあれば十分だ。<不死身の魔法詠唱者>の首に刃が届く、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

直前で()()()()()()()

 

 

 

「不味い!<絶対障壁><神楯(イージス)><絶対障壁・迎撃(インターセプト)>!」

 

 

 

自分と篠原達を守るための魔法を矢継ぎ早に展開させていく。少々構成が甘いかもしれないが耐え切る事は出来るはずだ、多分。

 

<首無し騎士>の長剣が振るわれ、白井へ迫る。胴体を両断する軌道に乗った長剣は、その直前で張られた障壁と差し出された剣に阻まれ、直後に撃ち出された魔力弾によって弾かれた。同様に篠原目掛け放たれた魔法も、障壁と魔力弾により迎撃されている。

 

二人はそのまま下がってくる。飛んでくる攻撃は全て重ね掛けにより有効範囲を拡大した<神楯>が迎撃する。さて。

 

 

 

「相手が思ったより頭が良いな……<周辺警戒(レーダーマップ)>」

 

 

 

大抵のアンデッドは自分の身より生者への攻撃を優先する。ゆえに今までは相手の初手の攻撃を無力化してこちら側の攻撃を通す事で倒してきたのだが、どうも今回のは毛色が違う。狙われていると分かって、守りの態勢に入った。そして今は、<首無し騎士>のやや後方に位置している。んでもって何か禍々しいオーラを<首無し騎士>に飛ばしてる。

 

多分あれは支援魔法だろう、<周辺警戒>でも敵性魔力の動きが探知できている。

 

つまりこのアンデッドは、前衛後衛の配置含め、大まかな戦術を理解できることになる。少々面倒だな。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

取り敢えず対魔法障壁を二つ展開、<首無し騎士>の突進に備える。

 

 

 

「どうする?」

 

「……俺が前衛で騎士の気を引こう。白井は全力で後衛狙いに動いてくれ」

 

「ならそうだな……<絶対障壁>。とりあえず魔法では見つからないはずだ。下手に動くなよ」

 

 

 

分担の指示に応じ、追加で例の対レーダー障壁を張る。

 

 

 

「わかった。頼むぞ」

 

 

 

そう言って白井は姿を消す。<探索者>は<暗殺者>程ではないが隠密には長けている。とは言え相手はかなり強い魔法詠唱者。俺と篠原が(多分ほぼ篠原が)注意を引き付ける事で看破される可能性を減らさなくては、不意討ちは厳しいだろう。

 

さて、どうしようか。

 

 

 

「篠原、前衛の相手は任せた」

 

「お、おう!」

 

 

 

任せた直後に<首無し騎士>が突っ込んできた。先ほどの失敗を()()()()か、障壁の直前で飛び上がり、

 

 

 

飛んだ先のもう一枚の対魔法障壁に引っかかり、バランスを崩し、落ちた。

 

 

 

()()()()()()、二枚張っておいて正解だった。しかしこうなると白井の奇襲は一回しか通用しないだろう。失敗すれば全力で<首無し騎士>を叩かなくては。

 

 

 

地面に落とされた<首無し騎士>に篠原が斬りかかるが、すぐに体勢を立て直した<首無し騎士>が剣で受け止める。一方で騎乗者が居なくなった<死霊馬>がこちらへ走ってきた。ほぼ同時に<不死身の魔法詠唱者>が攻撃魔法を放つ。あれは<連続発動>か、属性魔法だが面倒な。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

取り敢えず<死霊馬>突進阻害用に対魔法障壁二枚を展開、ついでに対物理障壁も一枚張っておく。もしかしたら役に立つかもしれない。それぞれもう一枚ずつを即時展開できるように準備。こういうとき張った後放置が可能な<絶対障壁>は便利。

 

相手の攻撃は全てさっき展開した<神楯>に迎撃してもらう。相手の手数が多いために魔力が急激に減少していく。半分を切らないうちに魔力回復薬を飲む。一気飲みではなく、三分の一程度。人間は学ぶ生き物なのさ。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

あまり魔力を込めていないため、割れやすい対魔法障壁を二枚、地面と水平に張る。それに重ねるようにして対物理障壁も張っておく。これはわざと壊れやすくした足場だ。

 

突進してきた<死霊馬>は、予想通り対魔法障壁を一枚目は飛び越え、二枚目はすり抜けた。さらにその直後に張っておいた対物理障壁を飛び越えて避け、着地したところでバランスを崩す。

 

 

 

……こいつもか、()()()()()()()()()()。それは不味い。

 

 

 

態勢を立て直す<死霊馬>を睨みながら思考を巡らせる。多分次は先ほどの手は通用しない。相手は学習できるアンデッド、千年前は<復活体(リザレクター)>と呼ばれた(つーか呼んでた)類の魔物だ。

 

 

 

ふとした拍子に人間だった頃の思考が一部、稀に全て復活し、人間のように学習し経験を積むことのできるアンデッド。そのランクは、その魔物本来のランクより一個上となる。基本的にそうなるのは上位個体がほとんどであるため、戦闘能力が跳ねあがるからだ。

 

 

 

大方<不死身の魔法詠唱者>もそうなのだろう。では<首無し騎士>は?

 

 

 

「うぐっ!」

 

「<絶対障壁・迎撃>……大丈夫か?」

 

 

 

吹き飛ばされてきた篠原を追いかけるように突撃してきた<首無し騎士>に魔力弾が叩き込まれ始める。<不死身の魔法詠唱者>が障壁を飛ばすが関係ないと言わんばかりに乱射され、撃ち破られる。たまらず<首無し騎士>が一度後退。あるラインを越えたところで乱射が止んだ。

 

 

 

「……あ、ああ、何とか、な」

 

「学習されてるか?」

 

「……多分。同じ攻撃は二回目からは読まれてる感じがした。速度が追い付いていないだけだ。いずれ追いつかれる」

 

「……ちっ、頭脳も優秀か。頭ないくせに」

 

「ははっ、それは確かに」

 

「早めに後衛潰してもらわないと……」

 

 

 

<神楯>が全自動で助かった。魔力はゴリゴリ削られてるが、迎撃にまで意識を割かなくて良いというのは<賢者>スキルが使えない身としてはありがたい事この上ない。

 

 

冗談を言えばそれに答えられる程度の余裕はあるようだが、本人も言っていた通りいずれは追いつかれる。アンデッドに疲労などと言う状態異常は存在しない。ほぼ互角の力量同士で削り合えば疲れてしまう生者が不利だ。

 

 

とはいえ篠原には白井が後衛潰すまで前衛で注意を引き付けてもらう必要がある。最悪は異常状態解除ポーションでも飲んでもらって戦ってもらわなくてはならない。薬物ドーピングで戦い続けるのは正直おすすめ出来ないが……

 

 

 

「もう少しだけ、頼む。そっちにも障壁割くから」

 

「ああ、任せとけ」

 

 

 

篠原は聖剣を握って立ち上がると再び<首無し騎士>のところへ向かう。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

まあ多分大丈夫だとは思う。<復活者>とは言えど、アンデッドである事に相違なく、ゆえに行動は少し遅れる。篠原に少々意識を割いたところで致命傷は喰らわないはずだ。

 

 

 

さて、本命たる白井は今どこにいるのやら。

 

 

 

……もう少し、か?もう少し時間を稼げば絶好の位置に付けそうだ。後はタイミングに合わせて注意引ければ、良いんだが。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

魔力を追加する前に割られた。割られただけ展開しなおす。さて、注意を引くにはどうすればいいだろうか。一番良いのは派手な技を撃つのが良いのだが今の<防衛者()>にそんなスキルは存在しない。現代兵器使えないし。

 

よって強制的に注意を別の方向に向けさせなくてはならない。

 

 

 

「障壁の多重展開で引けるかな?」

 

 

 

薄い対魔法障壁を大量に多重に、それこそ自分の今の最大出力で、相手の目の前に張りまくる。ヤバい、自分で考えておいてアレだけどこれ相当うざい。ポイントは一撃で壊れる強度設定だな。

 

確か<勇者>組に<結界術師>いたな。小規模障壁扱えたっけあの職業。扱えるなら教えてみようか、囮としての立ち回り。<魔導師><魔導士>に教えるのもアリか。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

設置済みの障壁を学習して全部避けきられた。まあ想定通りなのでリアルタイムで追加する。障壁は割れるがそれでエネルギーを失った相手も叩き落される。うん楽しい。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

ふむ、()()()()()()。何も言わないけどそれくらい察して連携くらいは出来ると信じよう。手元の青ポを飲み干す。さあ、行くぞ。

 

 

 

「<絶対障壁>!」

 

 

 

対魔法障壁をギリギリまで薄く、可能な限り多く張る。全方位に満遍なく張ってあるように見せかけて後ろにちょっとした隙間が有ったりするが。

 

 

 

煩わしいと言わんばかりに、<火球>によって割られる一枚の障壁。だが残念、それは悪手だ。

 

 

 

「<迎撃>!」

 

 

 

同時に張った障壁に対する魔力供給は、同一経路によって行われる。これを利用し複数枚の障壁を同一の物として認識させる。内一枚が割られた。つまり張った障壁全てが攻撃を受けたと解釈、追加スキル発動。

 

さらに追加で割るべく放とうとした<火球>を探知、放たれた瞬間に全ての障壁から放たれる魔力弾。一発ずつだがそもそも魔力をそこまで振ってないし追加もしてないからな。仕方ない。迎撃するのが重要なのだ。普通の障壁じゃ出来ないコンボだからな。

 

至近距離での暴発によって少なくないダメージが入る。ついでに強制的に注意を引ける。

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「<属性付与(エレメンタルエンチャント)(ライト)><付与(エンチャント)会心の一撃(クリティカル)><斬撃伸長(エクステンド・スラッシュ)>!」

 

 

 

直後に敵の首が飛んだ。

 

 

 

 




以上です。

そういえば、更新していない間もちょくちょくUAあるんですが、皆様いったいどこからいらっしゃるのでしょう……?


感想評価批評等、お待ちしております!


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第六十三話  廃神殿ボス戦後半

どうも、二週間ぶりです。

ちょっと遅れました(投稿直前に寝落ちしたのです)がお許しください。

今回も前回同様やや長めとなっております。


それでは第六十三話、どうぞ!


 

 

 

 

気配を消して近寄っていた白井が天井近くまで飛び上がり、そこから奇襲をかける。使用武器は短刀だったが魔力によって伸長された斬撃は障壁の隙間を縫い、確かに<不死身の魔法詠唱者(アンデッドマジックキャスター)>に届いた。有利属性・クリティカル率上昇付与に加え首というクリティカル部位への斬撃により、一撃でHPが消し飛ぶ。

 

同時に相手の前衛に掛かっていたあらゆる支援魔法が解除される。

 

 

 

「よし!」

 

 

 

周辺警戒(レーダーマップ)>でも敵性反応の一つ消滅を確認。後衛を潰せた。失敗した場合の事も考えては居たが杞憂だったようだ。まあ主人公居るしこんなところでミスするわけ無いか。ミスをするならもっと後、そしてもっと致命的な事だ。

 

回復・支援・遠距離攻撃を潰せたので、あとはこちら側の損害を可能な限り軽くする方向で慎重に削ればいずれ勝てる。

 

 

 

「<絶対障壁(バリア)>」

 

 

 

さて、バフを全部削り取った以上、多分篠原だけで<首無し騎士(デュラハン)>はやれるはずである。いかな<復活体(リザレクター)>と言えど、一瞬で消えたバフに慣れるのは無理だ。多分しばらくの間は篠原が圧倒出来て、それだけの時間があれば削り切れる、はず。属性有利で<勇者>が一方的に攻められるのだから、どう考えても勝ちだろう。

 

となると自動的に<死霊馬(スペクターホース)>の担当は合流した白井となる。<探索者>は基本的には斥候寄り職業なので、篠原のように正面切って戦う訳ではなく先程のように奇襲から一撃離脱を狙う形になる。

 

相手も中身はどうあれ形が馬なので、<首無し騎士>のような戦いはしないだろうが、単純に大きさと火力だけで押し切る可能性が高い。下手すれば無詠唱で魔法くらいは使いそうだ。レベルが上の相手の魔法なんざ喰らったら軽装甲の<探索者>じゃ耐え切れない。つまり楯役が要る。まあ俺なんですけど。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

なので魔力の動きを見切る。魔力が動いたらすぐに障壁を追加できるように。

 

んでもって後は相手の注意を引ければ完璧なんだけど、まあ足場をちょこちょこ邪魔してるから白井に向く注意をある程度逸らせてはいるはずだ。もうちょい派手なスキル欲しいんだけどな……

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

無い物ねだりしてもしょうがないけどな。現在時点の所持スキルでどうにかするしかない。

 

 

 

「<迎撃(インターセプト)>」

 

「<属性付与(エレメンタルエンチャント)(ライト)>」

 

 

 

おお、合わせてきた。<迎撃>のノックバックに合わせるとは、中々やるね。あ。

 

 

 

「<神楯(イージス)>」

 

 

 

重ね合わせで範囲拡張、ギリギリ白井を効果範囲に収める。すぐさま打ち出された魔力弾が白井を狙った<火球(ファイアボール)>を打ち消した。やっぱり無言詠唱出来るか。<周辺警戒>さまさまですな。

 

しかし、こいつどこが弱点なんだろう。人型じゃないせいで逆に分かり難い。前は範囲浄化してたから弱点気にする必要とか無かったし……

 

 

 

【悲報:俺氏思ったより役に立たない説浮上】

 

 

 

とかいうテロップが頭の中を流れはじめ、時を同じくして当たり前だろうという表情のさくらの顔が思い浮かんだ。わかんないけどなんか負けた気がする、ちくせう。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

リンク分割型障壁再び。からの、

 

 

 

「<炎槍(フレイムランス)>」

 

「<迎撃>」

 

「<属性付与・光><斬撃伸長(エクステンドスラッシュ)>」

 

 

 

合わせ攻撃。グッジョブの意を込めてサムズアップしてみたら応えてくれた。これは俺に対する警戒が解かれつつあるって事で良いんだろうか。

 

 

 

てちょい待て、今さらっと炎属性使いおった。でも短詠唱だけど無言じゃない。魔力か体力に余裕が無いか、<魔導>スキルはまだ<無言詠唱>まで届いていないってとこか。後者だな。前者だとどっちとっても辻褄が合わない気がする。

 

作戦会議でもするか。左手でちょいちょいと白井を招く。

 

 

 

「<絶対障壁><神楯>」

 

 

 

同時に<絶対障壁>を大きく追加で展開、重ねた<神楯>で防衛範囲指定。とりあえずの安全を構築。ちらっと視線をやると、白井は素直に近づいてきていた。

 

 

 

「どうした?」

 

「ちょっと作戦会議というか相談だ」

 

 

 

なお俺は<死霊馬>を見たままである。

 

 

 

「相談?」

 

「そう。白井の武器は短刀だから、攻撃範囲と威力がどうしても低くなる。スキルを使うのは構わないが魔力も無尽蔵じゃない。だから手っ取り早く倒すには弱点を突くしかないが、どこが弱点か分からないからな」

 

「……千年前、だったか、その時には居なかったのか?」

 

「居たが広範囲スキルで纏めて浄化してた。アンデッドと関わったのは旅始まってから結構後だったから、俺と今の篠原やお前じゃスキル構成とレベルが違い過ぎて参考にならない」

 

「……普通に考えれば首とか頭じゃないのか?」

 

「<迎撃>……っとあれは死霊系アンデッドで、それなりに強いタイプでな。ゾンビ系や骸骨系……実体保持アンデッドとはまた別らしい」

 

「らしいって……」

 

 

 

まとめて浄化してたから気にしてなかったんだごめんね。

死霊系アンデッドに刺さるのは、魔法攻撃か、光・聖属性魔法武器・付与武器のいずれか。基本的に実体を持たないアンデッドが死霊系だ。レイスとかゴーストが代表種。火と物理が刺さらない点で実体保持系アンデッドよりめんどい。

 

まあ基本<浄化>で溶けるので当時の俺達には関係なかったんだが。

 

基本的な倒し方は…………あ。

 

 

 

「思い出した」

 

「何を?」

 

「死霊系のアンデッドの内、()()()()()()()には、『核』がある」

 

 

 

いつだったか、ザイドル騎士団長が言っていた事だ。これが「()()()()()()辺りがいやらしいと千年前に思った記憶がある。

 

 

 

実体化、つまり魔力の物質化が出来るアンデッドは基本的に長生きである。逆か、長生きした死霊系アンデッドは、自らを構成する魔力の扱いに慣れているので実体化が出来る。その際、実体化することで、物理攻撃が通るようになってしまうので、それでの即死を避けるために『核』を創り出すらしい。斬られようが、魔法を被弾しようが、核が無事であれば速攻で再生できるとか。

 

逆に

 

 

 

「核に深い傷を負わせれば再生できなくなって最終的には倒せる。ただ核は体内のどこにでも移せるからそれを見つけないといけないらしい……っと<迎撃>」

 

「核、か……」

 

「そう、んで以て俺じゃ探知できないからどうにか探してくれと。<探索者>は<勇者>組じゃ数少ない捜索スキル持ちだからさ」

 

「……お前のスキルじゃダメなのか?」

 

「<周辺警戒>はなぁ……細かい物探すのには向いてないんだ。<防衛魔法>は元々対多数用の魔法だからな……<絶対障壁>」

 

 

 

<防衛魔法>は<防衛者>一人もしくは<支援者>と二人、場合によっては被委託者一人で、軍勢を迎え撃つ防衛戦用の魔法。<周辺警戒>は広範囲索敵がメインで、対象の体の中まで探れるわけではない。<神楯>は、まあ分類としては近距離索敵だが、迎撃用なので能動的に使えない。<防衛魔法>の意外な弱点である。

 

 

 

「<迎撃>っと。その点、<探索者>の捜索スキルなら、そういう事は出来るだろ?」

 

 

 

<探索者>など斥候職の捜索スキルは近~中距離専用で、隠蔽看破能力も高い。死霊系アンデッドの核を探すにはもってこいのスキルである。

 

 

 

「魔力はまだあるから……楯役はまだ出来る。ただ、まあ早い方が良いかな。よろしく頼む。見つけたらそのまま攻撃して構わない。サポートくらいは出来るはずだ」

 

 

 

魔力回復薬を飲みながらお願いしておいた。

 

 

 

「……わかった、やってみよう」

 

 

 

そう言うと、白井は再び空間に溶け込むようにして消えた。<死霊馬>の結構な至近距離にいる。ちらりとそちらに視線を向ける。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

さあ頑張って探してくれ……うん?

 

 

 

《<防衛魔法>スキル解放条件が満たされました》

 

 

 

《スキル<地雷(ランドマイン)>が解放されました》

 

 

 

《<防衛魔法>がレベルアップしました》

 

 

 

《<防衛魔法>スキル解放条件が満たされました》

 

 

 

《スキル<地雷原(ランドマインフィールド)>が解放されました》

 

 

 

おし来たこれは勝った!

 

 

 

「<地雷原>!」

 

 

 

<絶対障壁>を待機分除いて解除、魔力回復薬を飲みながら<地雷>敷設に全力傾注。

 

 

 

障壁が消えたのを隙と見て、<死霊馬>が突撃してくる。その脚が一点に降ろされた時、その点を中心に立体魔法陣が一瞬で展開、直後に爆散する。無論脚ごと。そのままバランスを崩し転倒した。転倒した先でも爆散。そのままそこそこ離れた所まで跳ね飛ばされていった。

 

 

 

スキル<地雷原>。

 

 

 

陸上の拠点防衛には必須ともいえるスキルの一つだ。これがあるだけで市街防衛戦の労力が大幅に削減される。文字通り魔力で形成した多種多様な地雷を指定範囲に指定密度で敷設していくスキルだ。

 

単体スキル<地雷>もこれはこれで何気に使いやすいのだが、やはり<地雷原>のお手軽さは異常である。ちなみに空中でも水中でもどこでも敷設できる。

 

んでもってあの破壊力である。威力的には<爆裂(バースト)>と同程度。現代兵器マジ神。

 

あれくらい消し飛ばせれば修復にもそこそこ魔力を持って行かれるはずだから多分核の位置も分かるはず。

 

 

 

「<地雷原>」

 

 

 

取り敢えず追加。攻撃はいつでもって言っちゃったからな。さて、見つけてくれただろうか?

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

え、待ってもう動いてる?!

 

 

 

「ば、<絶対障壁>、<地雷原>!」

 

 

 

一回やった障壁の檻プラス地雷の海。<周辺警戒>で動きを見切ってその分の隙間は開けてある。仕上げに、

 

 

 

「<地雷><地雷><地雷><地雷><地雷>!」

 

 

 

四肢と頭の近くに設置。すぐに接触、あっさり起爆。行動を阻害する。

 

 

 

「<属性付与・光><斬撃伸長>」

 

 

 

よしナイス連携(自画自賛)。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

魔力の動きは見られない。

 

 

 

「やっt「ちょっと待って」?」

 

 

 

フラグ建てんな馬鹿野郎。その流れは前回散々やったから要らない……って

 

 

 

「<地雷>」

 

 

 

言い切ってなくてもフラグって発動するのかよ。<地雷>で核を直接叩いたから。多分もう大丈夫だと思うけど。

 

……よし、動かないな。魔力が分散するのも確認した。残されたのは斬られた核だけだ。

 

 

 

 

 

「よし。篠原の方はどうだ?」

 

 

 

と、既に篠原の方を向いていた白井の様子を見遣ると、ただ呆然としていた。

 

 

 

「どうした?」

 

 

 

篠原の方を見た。ああ、成程。

 

 

 

「……すっげぇ……」

 

 

 

<首無し騎士>を圧倒する篠原の姿があった。まあバフあってある程度余裕あったしな。バフ剥がれたなら圧倒出来るだろうさ。技術的には劣るだろうがステータスと属性的有利、あとバフ剥がしによる感覚のずれがそれを埋めている。

 

まあ半分くらいステータスによる力押しである。

 

とはいえ強引な力押しであっても圧倒は圧倒。<勇者>の仲間にとっては心躍る場面だろうな。自分達では苦戦必至の強力なアンデッドを一対一で圧倒する頼もしき<勇者>の姿は。

 

 

 

 

 

そろそろ終わりか。

 

 

 

<首無し騎士>の手から片手剣が跳ね飛ばされる。なおも楯で突撃しようとしたが、その時には既に篠原がその懐へ。

 

 

 

「<光刃>!」

 

 

 

輝く剣が、鎧の胸を貫きとおした。

 

 

 

『見事、だ』

 

 

 

喋ったぁ?!

 

鎧の首の部分に除いていた青白い炎が消え、鎧が崩れ落ちる。魔力の拡散も確認。討伐完了。残ったのは貫通された鎧と真っ二つの核のみ。え、コイツも核あったの。

 

その場に膝をついて肩で息をする篠原。どうやら結構疲れていたらしい。お疲れ様。あともう少ししたら帰れるからもう少し耐えてくれ。

 

 

 

「篠原、お疲れのとこ悪いが」

 

「……ああ、分かってる」

 

 

 

アンデッドたちの初期位置の後にある祭壇。そこに、祀られた一体の神像が光り輝いていた。

 

 

 

 

 




以上です。

それでは、感想批評質問などお待ちしております。


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閑話   廃神殿ボス戦後半 裏

どうもこんにちは、クラリオンです。

何かこう、興が乗って書けたので投稿します。

前話の<探索者>白井英吾氏の目線の物語になります。内容は基本変わりません。ただ視点が違うのでそこに差違はあります。


 

 

 

 

 

 

目の前で、六角形の薄青い障壁が次々と張られる。そのいくつかはすぐに壊されてしまうが、直後に魔法弾が放たれ敵アンデッド──<死霊馬(スペクターホース)>の体表で爆発する。言葉にすると大したことないようにも思える。

 

 

 

だが障壁を敵のすぐ近くに張れるという事はある程度敵の動きを見切っているという事でもある。この障壁と魔法弾が囮であり、出来るだけ長く注意を引かなくてはならないという任務を背負っているのだから、障壁が全てすぐに割れては意味が無い。相手の動きを見切る事で、<迎撃(インターセプト)>発動の為に障壁をいくつか割らせつつ、他の障壁は相手にとって目障りな位置に配置している。

 

 

 

術者の頭の中で、一瞬のうちに一体どれだけの計算が行われているのか。

 

 

 

しかも迎撃の魔法弾が放たれるのは相手の二撃目の直前、相手の出端を完全に潰す形で行われている。

 

そのタイミングに合わせて攻撃を仕掛けた。

 

 

 

「<属性付与(エレメンタルエンチャント)(ライト)>」

 

 

 

流石に有利属性の攻撃はかなり効くらしい。そこそこ削れた。

 

 

 

「<神楯(イージス)>」

 

 

 

回避しきれない攻撃。すんでのところで迎撃が入る。再び隠密行動。

 

 

 

「<迎撃>」

 

「<属性付与・光><斬撃伸長(エクステンドスラッシュ)>」

 

 

 

再びタイミングを合わせて攻撃。距離があったので範囲を伸長。

 

ちらりと見るとサムズアップされたので同じくサムズアップで応答。今のはかなり綺麗に決まったしな。

 

 

 

ここまで考えて、自分が彼を仲間として認定しつつあることに気付いた。少なくとも、最初の頃に抱いていた『勇人を殺した敵』という印象が薄れている。良い事なのか悪い事なのか。

 

 

 

……今は共に肩を並べて戦う『仲間』なのだから、恐らく良い事なのだろう。本人自身の性格はともかく、そのスキルは恐ろしい程有用だ。それをかなりの熟練度で使いこなせる以上は、彼を敵視しない方が良い、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっとした作戦会議をした後、再び先程と同じ位置に潜伏する。

 

 

 

「アンデッドの核、か……うわ、あれ対応できるのかよ」

 

 

 

この世界において、千年前、人族がかなり不利な戦況の中、たった四人でそれをひっくり返し<魔王>を倒したとされる先代<勇者>パーティー。そのリーダー、初代<勇者>国崎啓と名乗った者を見遣る。

 

 

右目の視界ではそれが本当なのか怪しくなるほど小さな魔法反応しか感じ取れない。女神様によって授けられた腕輪のせいで、力を制限されているという供述と辻褄はあう。

何より、隠密行動系スキルを使う自分の位置を把握しているらしいところを見ると、その地の能力は失われていない事が分かる。先程も障壁を張りながら、()()()()()視線を一瞬寄越した。

 

 

自慢ではないが、<暗殺者>同様<探索者>には隠密行動系スキルにかなりの補正があり、勇人でも看破できない事もある程。それをどうやってか知らないが看破しきっているようだ。

 

 

先程<不死身の魔法詠唱者>と呼ばれたアンデッドに止めを刺したときも、最小限の道を開けるかのように障壁に隙間があった。そこから攻撃に入れるように。

 

 

 

……初代<勇者>の名は伊達じゃない、か。

 

 

 

……思考と視界が横道に逸れてしまった。俺の今の役割は核を見つける事。さっきから<迎撃>で削ってはいるが、微々たるもので、核の位置を特定する前に魔力供給と修復が完了してしまう。

 

 

 

だが相変わらず見事に障壁を……?待て、なぜ障壁を解除した。

 

 

 

彼が何か呟いたかと思うと、現在残っている障壁はそのままに、恐らく展開待機中だったと思われる魔力反応だけが消失。その代わりに……地面に突然魔力反応が発生。魔力経路は……無い?!

 

 

 

新スキル、独立した設置型魔法、なのか……?

 

 

 

本当になんでもありだな、<防衛者>って奴は。

 

 

 

基本魔力使った罠なんて何かしら道具が要る。なぜなら罠を作る場合、性質の違う魔力を扱う必要があるからだ。

 

一番単純な形でも、対象範囲に目標が居る事を探知する索敵系と、発動する罠そのものの魔法の二種類。だが人間の頭と言うのは、普通は当然ながら二つの事を同時に考える事など出来ない。ゆえに道具に付与するか、複数の術者で作るのが基本なのだが。

 

 

 

あの魔法は恐らく一つの魔法でその二つを兼ね備えているようだ。それが複数。

 

 

 

その魔力反応に<死霊馬>が触れた瞬間、魔法が発動した。小さな立体魔法陣が浮かび、直後にその範囲が消し飛ぶ。一度だけ王都の練習場で見せてもらった<爆裂(バースト)>という魔法に似ている。

 

 

 

<死霊馬>の、触れた部分がごっそり消し飛びバランスを崩す。しかし次の瞬間には魔力供給と再生が始まる。

 

 

 

……見つけた!

 

 

 

発見と同時、ほぼ反射的に体が動き出した。魔力反応をよけ、空中を進む。国崎の方をちらりと見ると、一瞬だけ大きく目を見開いた。直後、何か唱えたかと思うと、先ほど同様地面に魔力反応が増え、同時に敵の周囲に障壁が展開される。

 

さらに追加で敵の四肢及び頭部付近に魔力反応。障壁を壊そうと暴れていたためすぐに接触、魔法が発動する。

 

 

 

「<属性付与・光><斬撃伸長>」

 

 

 

すり抜けていくような斬撃の途中で何かを斬った感触を覚えた。

 

 

 

「<周辺警戒(レーダーマップ)>」

 

 

 

索敵スキルを発動しているが、魔力は拡散を開始している。

 

 

 

「やっt「ちょっと待って」?」

 

 

 

やったか、と言おうとしたのを遮られた。直後、<死霊馬>が動き出す。まだか!

 

 

 

「<地雷(ランドマイン)>」

 

 

 

核の近くに罠魔法を発動、接触即起爆。危なかったか。

 

 

魔力の拡散を今度こそ確認し、勇人の方を見る。もし負けていたら加勢しなくてはならない。そう思ったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アホみたいに呆然とするしかない光景が広がっていた。

 

 

 

首無し騎士(デュラハン)>──と国崎が呼んだアンデッド──が、勇人に圧されていた。

 

 

 

「……すっげぇ……」

 

 

 

<首無し騎士>の攻撃は全て余裕を持って躱され、逆にカウンターを叩き込まれている。<聖剣>はそれだけでアンデッド特攻になる武器。掠める程度のカウンターですらそれなりのダメージとなる。

 

やがて<首無し騎士>の剣が跳ね飛ばされ、それでも楯を前に突進しようとしたその懐に、勇人が滑り込む。

 

 

 

「<光刃>!」

 

 

 

ただでさえアンデッド特攻武器に、光属性魔法の重ね合わせ。それは実にあっさりと重厚そうな鎧を突き破り、背中まで刺し貫いた。

 

 

 

『見事、だ』

 

 

 

この世界の人族の標準語で、そう言い残すと首に見えていた青白い炎が消え、鎧が崩れ落ちた。鎧の中から、真っ二つにされた核が転がり出てきた。

 

たった今激闘を制した勇人は、流石に疲れたのか、膝をついて肩で息をしている。その状態の勇人に国崎が近づき、奥を指さしながら言った。

 

 

 

「篠原、お疲れのとこ悪いが」

 

「……ああ、分かってる」

 

 

 

指差す先、部屋の奥を見ると、そこに祀られた一体の石像が光を放っていた。あれは神を模しているのだろうか?

そこへ向かう勇人に続いて、俺も石像の下へ向かった。

 




以上です。


魔法とはイメージですから、全く違う二つの効果を併せ持つ魔法を使うには二種類のイメージを同時に浮かべる必要があるわけです。

<地雷>はダメージは基本固定(魔力量によって調整可)な上に起爆条件も基本は接触だけなのでそれをどうするか、<地雷原>なら敷設密度及び範囲をイメージするだけで済みます。

ちなみに<勇者>状態なら<並列思考>が使えるので、<地雷><地雷原>紛いの事ができる、というわけです。


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第六十四話  <聖剣>強化

どうも、夏休み中のクラリオンです。
こういう長期休暇の時って大抵カレンダー感覚が麻痺してしまいます。気付いたら前回更新から二週間近く経ってました。
時間の流れって早いですね()



今回は前々回の半ばおまけのような物です。この世界の豆知識的な何かがありますが、読み飛ばしていただいても大丈夫です。1000年前の物語にワンチャン出るかも、程度のお話なので。



さて、それでは第六十四話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

光り輝く一体の石像。近寄ってみればやはり創世の女神リシュテリアを象った像である。確かこれを<勇者>が持てば良いんだったか。

 

 

 

「篠原、持ってみろ」

 

「俺が?」

 

「お前が<聖剣>持ちの<勇者>だからな」

 

 

 

<聖剣>は女神によって選ばれし者に授与される神の武具。なら女神関連は取り敢えず<勇者>にぶん投げるのが正解。

 

 

石像を篠原に渡す。すると光が篠原も包み込んだ。

 

 

 

「え」

 

「大丈夫だ」

 

 

 

これはあれだ、どっちかっつーと転生系で見るアレ、真っ白な神の空間にご招待って奴。といっても魂だけだけどな。

 

 

 

「しばらくはこのままだ。今のうちに休んでおくと良い。<周辺警戒(レーダーマップ)>」

 

 

 

この時間中、基本的に敵は湧かないし、居ても襲ってこない。一応念のために<周辺警戒>を張るがそれだけだ。

あとは……そうだな。

 

白井が座り込むのを確認すると、俺は先ほど崩れ落ちた敵アンデッドの核を拾う。王国に持ち帰った時に戦果報告代わりになるだろう。あのアンデッドは滅多に出てこないはずだ。現地人は恐らく見た事もないはず。

 

数値だけで見るなら低レベル。自然発生の<覚醒体(リザレクター)>であそこまでレベルが低いのは逆に珍しい。だから実は強さ的にはそこまでではないのだが、見たことないアンデッドを初見で討伐したのならそれは<勇者>の力を王国へ示すには十分だろう。

 

不死身の魔法詠唱者(アンデッド・マジックキャスター)>はどうするべきか。首を持って帰るわけにもいかないだろうし、まあ核石で良いか?<鑑定>使えば分かる事だ。

 

 

 

「なんだそれ?」

 

「さっき倒した<不死身の魔法詠唱者>の核石と、<首無し騎士(デュラハン)><死霊馬(スペクターホース)>の核だ。王国への戦果報告に必要かと思ってな」

 

「ああ、成程……いや待て、アンデッドに核石が存在するのか?」

 

 

 

流石に核石くらいは知ってるか。魔物倒したら泥する魔石。魔物を魔物たらしめるための物。アンデッドは存在しない事が多いけど。なんでだっけか。

 

ああ、死体寄りか魔物寄りかとかいう話だったな。アンデッドは厳密には魔物に分類されないとかどうとかシュレスタが珍しく嬉々として語ってた記憶がある。

 

 

 

「……俺も人づてに聞いた上に専門的な話になるからあまり細かい事は知らないが、アンデッド、特に下位の肉体保持系は、厳密には魔物ではないらしい。厳密に分類するなら()()なんだそうだ」

 

「は?」

 

「死体が、魔力の直接操作によってなんか動いてるのが、下位アンデッド、スケルトンシリーズやゾンビ、アンデッドシリーズ。なんか魔力そのものが人の魂を中心に寄り集まってるのが死霊系アンデッド、だと」

 

 

 

まあ便宜上面倒なので魔物として扱われている。厳密な分類なんて学者にしか需要無いし、人に仇為すという点では魔物と大して変わらないのだから。

 

アンデッドについて、簡単に言うならば、どちらも基本は魂だけなのだ。身にまとう鎧が魔力か肉体かの違いみたいなものだ。だからゾンビ系アンデッドの肉体は朽ちる。

 

つまり、あれ分類上生き物じゃないんですよ、という事である。魂だけの存在を生物として分類して良いのか、と。

 

 

 

「『アンデッドは生き物ではないために魔物でもなく、ゆえに核石が基本存在しない』

 

というのが通説だったそうだ。千年前はな。ただ何で核石を持つ肉体保持系アンデッドが居るのかは不明のままだった」

 

 

 

仮説はいくつかありはしたものの、正直<システム>にでも聞かないと分からない。俺達が帰還した後のシュレスタが研究を進め解明していた可能性はあるがはてさて現存しているのやら。何か『()()』ごたごたに巻き込まれ消失してるに一票。

 

ちなみにだが、死霊系アンデッドの『核』は核石ではない。

 

核石とは、『魔物の体内で、魔力を供給する魔石』の事であり、魔物を殺した後、死体を解体すれば、魔石として出てくる。

 

一方で、死霊系アンデッドの『核』は、そのアンデッドの魔力供給源と言えないことも無いが、『本体』であり中枢であると言った方が正しい。

 

アンデッドを浄化すれば、その核も機能を失い、見た目はただの丸い石ころと化す。無論核を破壊すればアンデッドは消滅し、やはり砕けた石ころが残る。<鑑定>かければ『~~の核』みたいに出てくるけどな。

 

まあこれは今代組も知ってる、はず。

 

さて、ちょっとした蘊蓄語り終えたしそろそろですか、今代<勇者>。

 

篠原を包んでいた光が薄まる。最後に残っていた光が、彼の手にある聖剣<正義(ジャスティス)>に吸い込まれると同時に、篠原が目を開いた。

 

 

 

「お帰り」

 

「……た、ただいま?」

 

 

 

どうだったかな、神(偽)の空間は。

 

 

 

「大丈夫だったか?」

 

「ああ。そうだ、国崎」

 

「なんだ」

 

「女神様、に会ったぞ」

 

「そうか」

 

 

 

残念其れは偽物です!まあ分からんと思うけども。

 

んでもって本命はよ。

 

 

 

「それと聖剣がなんか強化されたらしい、何かアンデッド系への攻撃力と純粋な攻撃力が上がったとか」

 

 

 

予想通り聖剣強化か。まあクリアしたのがもろアンデッド系統だったからな。もし今回戦ったボスモンスターと今もう一回戦ったら結構楽に戦えるはず。

 

勿論ここから撤退する時多分やりあうアンデッドは瞬殺だろう。まあ行きと同じ戦術で良いと思う。ただ多分白井の援護は必要なくなる。一振りで数体まとめて薙ぎ払えるはずだ。

 

 

 

まあそれはいいとして。

 

 

 

「もう動けそうか?もし無理ならここでしばらく休む必要がある」

 

 

 

元々が地下空間とはいえ教会の敷地。その上さっきまで神(偽)が降臨していたのだ。新しく魔物が湧く確率は低い。

例え今さっき死霊系上位アンデッドを消し飛ばしたと言っても多分魔力の集う拠り所が無い以上、アンデッドは生まれない。理屈上はここにいつまでも居られる事になる。

 

 

 

「すまん、もう少しだけ休みたい」

 

 

 

だろうな。流石にゲームみたいに試練クリア、一瞬での全回復とはいかない。

 

 

 

「了解した。恐らくここにはもう魔物は湧かないはずだが、帰りは恐らく行き同様戦闘しながらになる。その分の休憩もしておけ」

 

「マジか」

 

「マジだ。疲労回復同様、ゲーム程甘くはないって事だ」

 

 

 

ここは広さ的にもそう広い方ではない。入り口近くへの転移魔法陣があるのはもっと広い所、正直入ったら迷って出られないレベルの広さかフロアを使った仕掛けによって通路が無くなってるところとかだ。

 

 

 

「まあ聖剣が強化されてるなら、行きよりは楽になるはずだ」

 

 

 

思ったけどこれ白井にはともかく篠原には救いにならんな。まああれだ。これも<勇者>の……なんだっけ?必要犠牲、じゃなくて、義務、は何かしっくりこない……役得は真逆だし。まあ良いや。普通の日常生活で使うような語彙ではあるまい。

 

 

 

「……これが強化された聖剣の力か……」

 

 

 

……思ったより攻撃力上昇度合い上がってんな。スケルトンシリーズが相手になってねえ。<死せる大魔法使い(エルダーリッチ)>も瞬殺、行きで見かけた<首無し騎士>も大して苦戦せず撃破。アンデッドシリーズも<戦士(ウォーリアー)>以下なら大して相手にならねえな。後衛なら多分<魔法詠唱者>クラスじゃないと魔法も打てないな。

 

 

 

ここがアンデッド対策の初級ダンジョンと例えるなら普通にオーバーキルだな。

 

 

 

ああ、そうか、普通の攻撃力上昇とアンデッド対象の攻撃力上昇が重複作用してるのか。

 

 

 

「アンデッド相手の攻撃力上昇と素の攻撃力上昇が被ってるからだな。多分この高火力はアンデッド限定だ。普通の魔物相手にはこうならないから注意してくれ」

 

「わかった、ありがとう」

 

 

 

慢心油断ダメ・絶対。

 

 

 

慢心と油断は往々にしてピンチを招く。普通の勇者伝説なら一時のピンチは丁度良いスパイスだが俺が目指すのは最短ルートオール平穏な旅だからな。ピンチなんていらない。まあ俺途中で抜けるからその時ピンチがあるかもしれないけど。まあ一度注意しておけば大丈夫なんじゃないかなって(フラグ)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくしておおよそ半日ぶりに外に出ることが出来た。

 

一応神殿に入ったのは朝なのにもう日が沈んでいる。まだ辛うじて明るいってとこか。なら早めに帰るとしよう。夜の森とか怖すぎて……いや<周辺警戒>あるし大丈夫か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや普通に怖かったわ。ガサガサ音マジヤバイ。アンデッド分類になるから幽霊居ないって分かってるけど怖い。勇者……というか『初代勇者国崎啓』ロールしてて良かった。いや多分素でも大して表情には出ないだろうけど。

 

 

 

村の明かりが見えたところで、篠原が呟く。

 

 

 

「……帰って来れたのか」

 

「ああ」

 

 

 

まあ彼からすれば今日多分数回死地を潜った感覚だろうからな。傍目では余裕持ってたけど、まああれだ、<勇者>もしくは男としての矜持もあったのだろう。あと戦闘に伴う興奮・高揚状態。いや<警戒地点設置>使えば分かるんだけど、余裕あると思って戦闘してても後で見返したらどう考えてもお前無謀だって言いたくなることやってる事が多い。

 

それと同じ状態にでもなったのだろう。

 

俺が居たとはいえまあ無事に帰って来れて何よりである。

 

 

 

お出迎えも居るみたいだし、少々乗り物がダサいが、<勇者>の凱旋だ。

 

 




以上です。



それでは感想批評評価などあったらどうぞ。
今後とも本作をよろしくお願いします。


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第六十五話  2個目の

2日遅れてしまいました!

もしかしたら居たかもしれない待ってた人へ、申し訳ありません!

帰省やら何やらのどたばたで何か忘れてる気はしてました。

というわけで遅れましたが第六十五話です!
どうぞ!




 

 

 

さて、村に帰還した俺達は、そのまま翌日、日の出と同時に村を出て、王都へ今回の戦闘について報告することになった。途中で篠原の要望もあり、例の祠的な何かにも寄る予定である。

 

多分また聖剣強化系、下手すれば同じアンデッド系の可能性もあるが、その場合攻略は楽だろう。それにアンデッドはその性質上、人族の生存領域に良く湧くので、アンデッド特攻は持ってて損はしない。

 

違ったら違ったで対応できる幅が大きくなるだけなので良い事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<聖剣>の導き的な案内で、たどり着いたそこは、洞窟の入り口であった。一度<周辺警戒(レーダーマップ)>を重ね掛けしたら結構な数の赤点が見えた。

 

 

 

期待していた二個目の祠的何かであったが、廃神殿同様の対アンデッド戦だった。こちらは廃神殿と異なり、単体で強い相手はそこまで多くは無かったが、数が多かったのと、バラバラで襲い掛かってきたのが逆にきつかった。何せ最初の辺りは毎回何も考えず()()()応戦しようとするのだ。相手がスケルトンシリーズで良かった。

 

 

 

良く考えればこいつらが今までやってきたのは、俺が知る限りでは少数対少数もしくは少数対多数の戦闘。その上、相手は一波のみ。少数グループによる対多数・波状戦闘はしたことがない可能性が高い。

 

多分ここはそれの補填のためか。いずれ魔王軍本体と事を構える時や魔物暴走が起きた時に備えて、波状攻撃への危機感を抱かせ、対応策を学習させるのが狙いか。全くもって至れり尽くせりである。

 

というわけでここは俺も<管理者>先代<勇者><防衛者>として助言くらいはしようじゃないか。助言くらいは大丈夫って最初の頃に言ったしな。

 

 

 

「<賢者>」

 

「高山です」

 

「……高山。話がある」

 

「分かっています、さっきのでしょう?」

 

 

 

分かってたらしい。ちゃんと<賢者>してるようで何より。

 

 

 

「そうだ、分かってるなら話は早いな。アレは見本だ」

 

「見本?」

 

「ゲームで言うところのチュートリアルだ。ああいう攻撃がありますよっていう」

 

「……だから低級のスケルトンしか居なかったのですか」

 

「まあ、物の例えだ。実際のところ、此処は俺と篠原、白井が行ったところより歴史が浅い。入り口付近にスケルトンシリーズしかいなかったのは単純に存在する魔力量の問題だろうな。とはいえ、知っての通り、こういう場所は奥に行けばいくほど魔物は強くなる」

 

 

 

入り口付近は、外との魔力循環があるので魔力が溜まりにくい。そのため低位の魔物・アンデッドが進化しにくい。

奥に往けばいくほど魔力の流れは奥へ向かう一方通行になるため魔力が溜まりやすく、進化もしやすい。つーかアンデッドって死んでるのになんで進化するんだろうな……

 

 

 

「という事は」

 

 

 

「もっと先に進めば、より強い魔物が……いや、アンデッドか。より強いアンデッドが、さっきみたいに波状攻撃してくるだろう。篠原は多分大丈夫だ。だが他のメンバーは、あの様子では連戦は無理だろう。スケルトンシリーズで辛勝だからな、より強い奴相手だと厳しい」

 

「勿論さっきみたいに俺が足止めして篠原に倒してもらう、あるいは足止めしてる間に魔法を叩き込んでもらう手もある。だがそのやり方ではどうしても不安が残る。何よりどちらの戦術も俺の存在が前提だ。俺の存在は現状で不確定要素に近い。戦闘で不確定要素を当てにしてはならない。俺抜きで対処できるようになっておいてもらう必要がある」

 

「具体的な方法はいくつかあるが、まあ、思いついてるだろ、その様子だと」

 

 

 

「ええ、まあ。ただそれが上手くいくか分からないので……」

 

 

 

「構わない。俺はそういうときの保険にもなれる。それに、こういう時の対処はある程度限られてくるからな。それで、何をするつもりだ?」

 

 

 

相手が波状攻撃してくるならこちらも同じことをすれば良いだけの話なのである。特に今回は、相手に個の質で勝っているのだから、一番簡単な方法は一波ごとに一人で対応し、個人個人の高火力範囲攻撃で迎え撃つ事。

 

死霊系はおらず、肉体保持系アンデッドのみなら、聖属性・光属性の攻撃を当てる必要は無い。魔力の依り代となっている死体を魔力で補修しきれないほど破壊してしまえば無力化は出来る。身体はあるが動けない状況に持ち込めればそれで良い。長時間放置すればいずれ自然回復するがまあその前に終わるだろうし。

 

ただしこれは相手がスケルトンシリーズアンデッドでかつこちらよりレベルが低いという条件が達成されているから取れる戦い方。だから今回やる事は。

 

 

 

「全体を前衛後衛組み合わせた三チームに分けます。敵の一波ごとに交替しながら戦います。確認しますが帰り道で敵の数が回復したりはしませんか?」

 

 

 

ダンジョンで例えたのが悪かったか?

 

 

 

「多分無い、依り代を滅ぼされた肉体保持系アンデッドは基本的には消滅するだけだ。死霊系アンデッドになるとしても時間が足りない。発生するとしてまあ堆積魔力量的に<亡霊(ゴースト)>くらいだろう。正規ダンジョンではないから再発生も自然発生でしか起こらない、それには短くて年単位かかるからな」

 

 

 

しかもそれは、この洞窟に、何かしらの未練を現世に残した魂が存在する場合のみだ。この世界の魂は死後、大抵はすぐ<システム>の管理下に入り、生まれ変わる。つまり新規発生の可能性としては、この洞窟内で未練を残して死んだ人間がいるか未練を残した魂がここに辿り着くかのどちらかに限られる。

 

つまりよほどの奇跡でも起こらない限り再発生は無いはず。まあ<勇者>いるのでそんな奇跡が起こってもおかしくないけれども。

 

 

 

「まあ、備えておくに越したことはないと思うが、そこまで気にする必要は無いはずだ」

 

「じゃあ帰りはすんなり帰れるんですね。なら大丈夫か。ありがとうございました。おい勇人、みんな、ちょっと良いか?」

 

「……<周辺警戒><絶対障壁(バリア)><迎撃(インターセプト)><神楯(イージス)>」

 

 

 

集めるのは良いんだが、ちゃんと穴埋めも指示しろよ。

 

 

 

さて、確か今ここに居るのは、前衛職が、勇者・剣聖・槍・拳・騎士・暗殺×2・探索・狩人の9人。後衛は結界・傀儡・魔導×3・賢者×2・回復・聖女の9人。

 

防衛が万が一の備えとしてどう組ませるか。まあ今回はそこまで細かく考える必要は無かったりするんだが。だって相手骨だし。

 

 

 

前衛として挙げた内、タンクに向いているのは<勇者>、<剣聖>、<騎士>。いずれも防御が平均以上か、防御系スキルに補正が掛かる職業だ。尤も現段階の<剣聖>がタンクに向いているかと言われると正直微妙なのだが。

 

純粋なアタッカーは<槍術師><拳闘士>、単発高火力で<暗殺者>、次点で<探索者><狩人>である。

 

後衛戦闘職は<魔導士><魔導師><賢者><傀儡術師>の6人。支援職は<結界術師><回復術師><聖女>の3人。となると……

 

前衛は<勇者><探索者><狩人>、<剣聖><槍術師><暗殺者>、<騎士><拳闘士><暗殺者>かな。後衛は各チームに<魔導師><魔導士>放り込んで、<剣聖>のところに楯役補助として<傀儡術師>を入れる。<賢者>はどっちに入れても大丈夫なはず。

 

支援職は<聖女>は治癒系目的で入れたのだろうから、<回復術師>と共に必要な時だけ働く感じで、<結界術師>は俺と組んで、回復役二人と非番チームの最後の楯となる。

 

俺が考えるベストな編成はこれ。ただ、これには問題点がある。それは人間関係や性格を完全に無視している事。俺が考えた編制は、職業の特性とステータス、能力などから理屈のみで考えた編制なので、連携に難があるかもしれない。

 

さて、俺の予想どこまで当たるかな。

 

 

 

「……代わります」

 

「ん?」

 

「障壁です」

 

 

 

障壁……ああ、<結界術師>の何某さんか……誰だっけ?

 

 

 

「<結界術師>の戸谷(とたに)です。交代します。魔力量大丈夫ですか?」

 

「ああ、一応大丈夫だ。ありがとう。頼む」

 

 

 

ああ、そうだ。戸谷健一君だった。クラスメイトの名前を憶えていない俺は大丈夫なのだろうか。いや『国崎啓』を演じる分には楽なんで良いんだけど。

 

 




以上です。

今まではいくらかのグループに分かれて別々に同数程度の敵と戦うのが常だった、つまりだれかがやってくれるさと人任せには出来なかったわけです。だから却って波状攻撃みたいな形で来られると全員が、やらなきゃ、ってなって総攻撃。
篠原以外はアンデッド特攻なの<聖女>だけですし、斬撃・刺突系武器はスケルトンシリーズ相手では不利です。結果としてスキルや魔法を使わざるを得なくなり……って感じです。


それでは感想批評質問等お待ちしております!


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第六十六話  説得

どうもこんにちは、クラリオンです。
二週間ぶりですね。

更新が遅れて申し訳ありません。

色々設定の整理と確認を兼ねてネタバレ大量の閑話を書いていたら10000字超えた上に二週間過ぎてました。

投稿する予定は無いのでご安心(?)下さいませ。

それでは第六十六話、どうぞ!


 

 

 

戸谷君に障壁係を代わってもらい、班分け会議に耳を傾ける。

 

 

 

「……毎回一斉攻撃したら、明らかに過剰攻撃じゃないか。だから三チームに分けようとしてるんだ」

 

「過剰攻撃で何か問題があるのか? チーム分けとか面倒な事しなくてもさ、今のところ問題は無いだろ?」

 

「今のところだろ。今後いつまでも敵が回復するまで待ってくれるわけ無いじゃないか」

 

 

 

……なんか長くなりそうだな。

 

 

 

「<地雷原(ランドマインフィールド)>」

 

 

 

先の方からこちらを察知したアンデッドが来られたら話し合いの邪魔になるので障壁の直前帯状地帯に空中まで満遍なく地雷……浮遊機雷?を設置しておいた。終わったら解除すればいい。やや多めに魔力を使ったがまあ許容範囲だろ。障壁は肩代わりしてもらってるし。話し合いが終わるまで敵が来なければ解除・回収も可能だし。

 

 

 

「実際さっきも危なかっただろう」

 

「だけどどうにかなったじゃないか」

 

「勇人と国崎君のお陰で、ね」

 

「なら次からもそうすれば良いじゃないか。<防衛者>ってのは俺達<勇者>を護るために居るんだろ? 何で壁役に入ってないんだよ」

 

 

 

流石に今みたいな低レベルだとしても<勇者>ならスケルトンシリーズくらいは自力で何とかしてほしいんだけど。スケルトンシリーズなら現地人もどうにか出来る相手なんだし。

 

 

 

「……毎回本当にそれで通じると? つい数日前、国崎君が魔力酔いで倒れたのは覚えているか? <防衛魔法>という、話によれば恐ろしく効率の良い魔法ですら、連発すれば尽きてしまうような魔力量だぞ」

 

 

 

いやあれは何も考えずに調子に乗ってたからなんですごめんなさい。

 

 

 

「それに、確かに今はただの骸骨だったから、過剰攻撃しても次が来るまでに魔力の回復が出来たけど、もっと強力な敵が次々と来たらどうするつもり? いずれ魔力が尽きると思うけど。それこそ今高山君が言ったみたいに、国崎君の魔力も無尽蔵じゃなく、魔力回復薬もその後を考えると良い手段とは言えないよ」

 

 

 

女子<賢者>参戦。誰だっけ、前原だっけか。

 

 

 

「それに、国崎君は、いつまでも居てくれるわけじゃない。実際のところいつまで居られるかは女神様次第だが、彼に頼ってばかりでは、いざ彼が居なくなってしまった時に何もできなくなってしまう」

 

 

 

あ、そう言えば離脱する時どうやって、あるいはどう言って離脱するのか考えてなかった。まあ、どうにかなるだろ、きっと。多分。恐らく。任せたぞ未来の俺。

 

 

 

「<防衛者>の役割は<勇者>の防衛なんだろ? 途中で抜けるなんてそんな……」

 

 

 

おいおいちょっと待てお前達は鳥頭か。三日過ぎたら忘れるのか。

 

 

 

「勝手だとでも?」

 

 

 

勝手なのはどっちだ……ごめん俺もよく考えれば勝手以外の何物でもなかった。自分のために勝手に参加してるわけだし。しかも神の名を騙って。俺の方が悪役にしか見えない。

 

 

 

「俺は代理だぞ。いつまでも代役が居るわけにはいかないだろうが。というか話脱線させんな。今は敵が波状攻撃を掛けてきた時の対応策を練る時間だろう。高山、編制は考えてあるのか?」

 

「一応」

 

 

 

課題が提起され、その解決策も提示済みと。

 

じゃあ何が気に入らないんだか。

 

<賢者>は<勇者>の頭脳である。簡単に言えば、<勇者>の中で一番頭が良い。<並列思考>のように半分人間辞めてるスキルや<思考加速>など考え事に便利なスキルを多く持ち、全体的な指揮など頭を使う作業に向いている職業だ。さらに言うならば<思考加速><並列思考>によって<無言詠唱>しやすかったり俺やさくらのように一人で合唱魔法や儀式魔法を発動できたりする凄い職業……っと。思考が横道に逸れてた。

 

つまり何が言いたいかと言うと、<賢者>は<勇者>パーティー全体の舵を取る存在であるという事だ。絶対にとは言わないが、<賢者>の指揮には従うべきである。少なくとも各自の勝手な判断で動くよりはマシだ。

 

とはまあ経験者だからこそ言える事ではある。とはいえ職業名からして<賢い者>なのだ、もう少し彼の意見を尊重したらどうだろうか。一応彼も多分この前俺に言われたりした事をどうにかしようと努力してるみたいだし。まあ前衛組の我が強すぎて音頭取れてないみたいだけどまあそればっかりはどうしようもない。

 

 

 

「何か問題でもあるのか? あるなら言ってくれ。意見は多い方が良いはずだ」

 

「だから何でそいつが壁役になってなくて俺が壁役になってるんだ!」

 

「俺が最後の楯だからだ。危ない状況で確実に楯を作れる便利な職業だからな」

 

 

 

だからこの辺りでちょっとだけ介入させてもらう。俺に責任はないけれど、まあこれも手っ取り早い王道勇者伝説に持って行くため。助言までは大丈夫だから。

 

 

 

「どう考えても俺よりお前の方が壁役適任だろうが」

 

「だからだ」

 

「は?」

 

「今のお前が壁役に向いていないからこそ、だ。高山、説明してやってくれ。篠原は分かるか?」

 

「ん? ああ。いくつか分からない事はあるけど、後回しで良いよ」

 

 

 

「良いか、水山君。君に楯役を任せるのは、いくつか理由があるんだ。国崎君が言ったように、彼が予備戦力かつ最後の楯だという事もその一つ。だけど他にも理由がある」

 

「今出て来ているのは、どれも低級のアンデッドで、現地人でもどうにか出来るレベルだ。数はちょっと多いけど」

 

 

 

「……ああ」

 

 

 

「だから、楯役の練習台にはぴったりなんだ。<剣聖>である水山君にはここで楯役の立ち回りを理解してもらいたい」

 

 

 

 

「だから何で俺が。楯役なら谷塚もいるじゃねえか」

 

 

 

「楯役を今後とも続けてもらおうとは思っては無いよ。あくまで一時的に、楯役の動きを理解できるだけで良い。<剣聖>は基本的には剣だけで戦う職業だ。必然的に配置は前衛になる。リーチの関係上、敵に攻撃する時は最前線だ。つまり配置は楯役と一緒なんだ」

 

「でも攻撃を受けるわけにはいかない。防具は付けるだろうけど楯が無いから。だから君が前衛に立ち続けるには、楯役と上手く協力する必要がある。その時に楯役の動きを理解できていれば、連携も取りやすくなると思ってね」

 

「勿論、同じ理由で途中から桑原君と代わってもらおうと思っている。彼の攻撃手段は拳だから、君よりリーチが短くなるからより連携は難しい。でも、今の相手は低級アンデッドで、連携に失敗して攻撃を受けてもそこまでダメージは無い」

 

「ましてや後衛には<聖女>に<回復術師>まで居る。危なくなったら確実に<防衛者>である国崎君が防御してくれる。つまり今はこれ以上ない程恵まれた訓練場に居るような物なんだ。勿論模擬訓練とは違って敵は敵だし攻撃されれば痛いし出血するしHPも減るけどね」

 

 

 

使いやすい回復手段があって、最終安全装置もある。何とも恵まれた戦闘環境。実戦方式の練習をするにはぴったりだと思う。

 

もう一個お節介焼くべきか……いや、いずれ<剣聖>と会った時に分かるから良いか。

 

 

 

「納得してくれたかな。二人とも、今度強くなって活躍するための布石だと思って引き受けてくれるとありがたい」

 

「俺からも頼んで良いか? 俺としては、肩を並べて戦える仲間は一人でも多い方が良い」

 

「……わかった」

 

 

 

<勇者>のお願い強いな。とりあえずこれで説得は完了か。

 

 

 




以上です。

感想批評質問などありましたら感想欄へどうぞ!

次はまた二週間以内に!


そういえば更新からしばらく経った後のUAは一体どこから……?


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閑話  御伽話の果てに

まずは謝罪を。数日中にとか言っておきながら結局二週間近くかかってしまいました。

色々言い訳はありますが、まあそれは置いておきます。

そんな感じで閑話です。シリアス寄りの位置付けですが本編に直接深く関わってくる話ではないです。





















それは昔々のお話。


 

 

 

 

『──運命を変えろなどと無茶は言わん。ただ俺達がここで足掻いた事くらい、覚えとけよ竜神。いつか、どこかへ繋がるように』

 

 

 

 

 

深く深く沈んだ思考の中、どこからか少年の声が聞こえた。

 

小さく呟かれた言葉は決して独り言などではなく、見ている誰かに向けて紡がれた呪いにも等しき何か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どうか、皆が生き残れますように、ってな』

 

 

 

 

 

記憶の底から呼び起こされる少年の声。

 

夜空に向けて紡がれた、叶わなかったささやかな願い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──きっと、後の誰かがやり遂げてくれる』

 

 

 

『これはきっと、運命なんだろう』

 

 

 

『俺が、<勇気>をどうにでもして仕留める』

 

 

 

『──これで最後だ。お前達が匿った■■の■■はどこにある。今言えば命と最低限の名誉だけはどうにかしてやろう』

 

 

 

『じゃあまた、どこかで、後でな。死ぬなよ■■』

 

 

 

『貴方達だけでも、逃げて、生きなさい』

 

 

 

『──我は闇を切り裂き、平和を望む者なり』

 

 

 

『──我は争乱を覆い、平和を齎す者なり』

 

 

 

『──我は魔を討ち、人を救う者なり』

 

 

 

『──我は強き悪に立ち向かい、打倒する者なり』

 

 

 

『憎しみから生まれる行為は憎しみしか生まない』

 

 

 

『連鎖はここで止めるべきだ』

 

 

 

『──だから俺達も、それを我慢してやってるんだ』

 

 

 

『どれだけ殺したかったか分かるか?』

 

 

 

『なあ、頼むよ■■。どうにか、妥協してくれ』

 

 

 

『──守れなくて、ごめん。ありがとう、でも良いんだ、このままで』

 

 

 

『覚悟を決めろ、そのままじゃ誰も守れない』

 

 

 

『俺は、いつまでも、君達を、見ている、から』

 

 

 

『今まで、ありがとうな』

 

 

 

『他に、手立ては、無いのかよ』

 

 

 

『俺に聞いてる時点で分かってるだろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ一つ、思い出していく。記憶の底から掘り出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最初から仕組まれてたってわけかよ』

 

 

 

『それでも出来る限りの事はやるしかないじゃない』

 

 

 

『俺は、俺はこんなことをする為に勇者になったわけじゃない!』

 

 

 

『皮肉なものだな』

 

 

 

『俺は■■。これからよろしく頼む』

 

 

 

『ああ、よろしく』

 

 

 

『──さようなら。少なくとも旅の間は楽しかった』

 

 

 

『まだ、ダ。おレ、はマ、ダ、た、たkエ、ル!』

 

 

 

『いつか、いつか必ず、誰かがこれを止めてくれる!』

 

 

 

『私は信じる。いつか私達の思想を受け継ぐ勇者が現れる事を』

 

 

 

『『だから、覚えていて。その時彼等はきっと貴方の下へ導かれるから』』

 

 

 

少年と少女の声が交互に、あるいは混ざり合い。

 

 

 

『初めまして、俺が■■の■■です。よろしくお願いします』

 

 

 

『ああ、よろしく頼む。期待しているよ』

 

 

 

『やったな』

 

 

 

破撃の名にかけて、お前をここで殺す!』

 

 

 

『なあ、これはやり過ぎじゃないのか?』

 

 

 

『っ逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は、少女を守るために自らを犠牲に彼女を逃がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう一度言います、降伏しませんか? 破撃の二の舞は避けるべきですよ』

 

 

 

『私は■■! 我が天職にかけて、その様な事をするものか!』

 

 

 

『お前達がやった事は、いずれこちら側に帰ってくるんだぞ!』

 

 

 

『この話を、私の後の勇者に受け継いで。其れが私の最後の望み。最期の願い』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女はたった一人孤独に戦い続け、最期に神に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、そうか。そうだったな」

 

 

 

アレは、君の願いだったか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中の開けた場所。その中心で穏やかな陽光を浴びる、一つの墓。尤も、その土山が墓だという事を示すのは、墓石の代わりに突き立てられた白銀の剣とそこに添えられた花束のみ。

 

 

 

その前で佇む一人の人族の少女。その傍らには、墓石代わりの剣と同じような色合いの剣。

 

 

 

「……ごめんなさい。行ってくる。どうか、見守っていて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むかしむかし、ある村に二人の兄妹が居ました。兄妹は村でも優秀な働き手である父親と、夫を支え、優しく家族を見守る母親の四人家族で仲良く元気に暮らしていました。

 

しかしある日、村を悲劇が襲います。魔族に襲われたのです。生き残ったのは兄妹と、兄と同じ年の少女だけでした。生き残った三人は命からがら近くの街へ逃げました。

 

そしてそこで、村出身の人の支援を受け数年暮らし、騎士団錬成隊に入隊しました。そして時が流れ正式な騎士となった年、魔王が現れました。

 

同じ年、兄と少女はそれぞれ別の戦いで勇者の力を開花させました。

 

自らの身を投げだして戦友を守ろうとした少女は、強固な障壁を幾重にも発生させ、味方を護る事が出来る力を。

 

常に先陣を切り、鬼神の如き戦いぶりを見せた兄は、何物も防げない切れ味を武器に付与する力を。

 

彼等はそれぞれ、<守護の勇者><破撃の勇者>と呼ばれました。

 

勇者として覚醒した後、兄妹と少女、そしてもう一人、貴族出身の<絆の勇者>と共に、打倒魔王を掲げ旅に出ました。

 

旅の途中、彼等は幾度となく困難に見舞われました。多種多様な能力を持ち、あの手この手で勇者を打倒そうとする魔族の襲撃は厄介で、その度に誰かが傷つき、あるいは死にました。

 

しかし悪い事ばかりではありませんでした。毒で倒れた兄を守ろうと決して叶わないであろう魔族の前に立ちはだかった妹に、勇者の力が発現したのです。彼女はその能力から<勇気の勇者>と呼ばれるようになりました。

 

そして四人となった勇者たちは長い旅と戦いの果て、ついに魔王のいる魔王城に辿り着きました。

 

魔王との最後の戦いは熾烈を極めました。最後は魔力が切れた<絆>と<勇気>を逃がし、<守護の勇者>である少女と<破撃の勇者>である兄だけが魔王城に残りました。

 

逃がされた二人の勇者は、魔王城に残った二人の帰還を外で待ち続けました。

 

しかし彼等は二度と帰ってくる事はありませんでした。

 

残された二人の勇者は、魔族からの襲撃に備えましたが、その後、魔族が襲ってくることもありませんでした。

 

そう。帰ってこなかった二人は、しかしその命と引き換えに、魔王討伐を成し遂げたのです。

 

こうして人族には平和が戻りました。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酷い、話だ」

 

 




それは昔から伝わる御伽話。





直接の関わりはないですが間接的にはいくらでもあるので内容によっては質問に答えられませんが、
質問評価批評など、お待ちしております!



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第六十七話  実戦訓練①

遅れに遅れました、二週間ちょいぶりの更新です。

投稿する前に寝落ちしたのが3回……別に寝不足って訳でもないのに……



前回の閑話はどうだったでしょうか。本編の流れには関わりません。いくつかの設定の背景に近い感じです。


そんなこんなで第六十七話です。どうぞ!


 

 

「良し、そうと決まれば次へ行こう。高山、チーム分けは?」

 

 

 

「まず、桐崎さんと荒山さん、それに戸谷君と国崎君は、ローテーションのチームに組み込まないで、四人で一つのグループとします。理由は、桐崎さんと荒山さんは、回復役として常に必要だからです。あと国崎君と戸谷君はさっき言った通り万が一のための楯を出してもらう役、そして桐崎さんと荒山さんを確実に守ってもらう役です」

 

「ローテーションを回すチームですが、篠原君、白井君、平井君、川島君、僕で一チーム、水山君、田中君、鳴川君、下原さん、加藤さんで一チーム、太刀山君、桑原君、皆本君、中谷さん、前原さんで一チームとします」

 

「申し訳ありませんが、人間関係は一切考慮してません。性別と職業の相性だけで編成し、同じ職業は名前順で割り振ってます。理由は、この状況で元の世界での関係を全て気にしていては万が一何かに響いてくる可能性がある事、実戦で一々そのような事を気にして連携する余裕はない事、何より連携に失敗しても大怪我をしたり死んだりする可能性が無い事です」

 

「元の世界に戻るためにはまず生き延びる事が必要です。生き延びるためには、個人としてあるいは集団として強くなる事が必要です。そのためには人間関係を考慮する必要は無いと考えます。本来ならだれとでも即興である程度連携できるのが最善です。ですがまずは相性の良い職業、人から始めていきましょう」

 

 

 

誰とでも即興連携は鬼です(真顔)。まあ戯言はさておき。

 

 

素晴らしい。流石は<賢者>。俺が考えた編制と全く一緒な上に理由付きで人間関係無視宣言してる。本当は性別も考慮しない方が良いだろうけどまあ年齢と向こうでの一般常識を考えれば当然か。ただなんかこう……言い方が……いやまあ別に良いか。不味い時は篠原がフォローしてくれるだろうし。

 

 

 

俺知ってるぞ。あれだろ、後で仲間との友情・絆の美しきかなっていうエピソードになるんだろ。時に仲違いしたりして、でも最終的にはうまく連携出来るようになって、みたいな。良いね楽しそうだね。大人数勇者系物語の王道だね。

 

 

 

「交代の基準は決めてませんが、撃破した敵の数で交代しようと思っています。ただし、ある程度の時間制限も設け、それを過ぎたら規定数に達していなくても交代してもらいます」

 

 

 

戦闘が無くとも、敵襲に備えた状態というのは準戦闘状態なので実は結構疲労する。何なら精神的疲労は戦ってる時より大きい。探索系統の職業は特に。

 

あ、探索系統と言えば。

 

 

 

「高山。質問、良いか?」

 

「何か?」

 

「<周辺警戒(レーダーマップ)>は使うのか?」

 

 

 

あれ使うんならちょっと面倒。

 

 

 

「いや、使わない」

 

「その心は?」

 

「今回の敵は低級アンデッドだ。探索スキルを抜くことが出来るとは思えない。もし抜かれたら抜かれたで丁度いい訓練になる。もし気になるなら国崎君が独自に展開してもらっても良い。ただ僕達はその情報を使わない」

 

「了解した」

 

 

 

成程ね。となると<防衛者>としては展開しておくべきか。うん、前衛の様子探るならそれが良い。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

そろそろ動くだろうしついでに地雷も回収しておくか。

 

 

 

「<撤収(リムーヴァル)>」

 

 

 

障壁の前に展開した地雷が全て解除されて、魔力が回復する。おお、何か気持ちいいな。

 

 

 

「よし、じゃあ最初は篠原君のチーム、お願いします。というか僕もだけど」

 

 

 

<勇者><探索者><狩人><賢者><魔導師>だったか。同レベル帯の相手を想定するなら前衛火力にやや不安が残るって感じか。低レベル相手なら前中後そろったそれなりにバランスのいい編制のはずだ。相手が骨なので探索系二人が武装の相性から戦闘面であまり寄与出来ないのが勿体ないがまあそれは仕方ないだろう。こればっかりはどうしようもない。

 

その分探索に力を発揮してもらおう。さてさて、お手並み拝見。

 

 

 

あ、そう言えばナチュラルに外してたけど後方警戒しなくていいんだろうか?いやしなくて良いんだけど。わかってて外してるのかな? まあ良いか。後でアイツが非番になった時にでも聞けば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり専門職は専門分野だけは強い。後衛と斥候役という位置の違いはあれど、方向を絞れば、レベル5<周辺警戒>より探知範囲は広い。流石にレベル10重ね掛けには負けるだろうが、まああれは戦場全体俯瞰とか大都市戦闘用だからな。

 

 

 

「次、さっきと同じ数」

 

「「『光よ、闇を照らし悪しき者を祓え』<光槍(ライトスピア)>」」

 

 

 

今回の詠唱は結構あれだな、シンプルだな。てかちょっと待て。まさか、低級魔法は全部同じだったりするのか? 

槍系だったのに槍を示す文言なかったぞ。

 

光属性の魔力を持つ槍が二本、やって来た骸骨三体のうち二体の頭を貫いた。有利属性+弱点部位+<勇者>ステのおかげでワンパン。ふむ、腕は上がってるみたいだな。すべて頭に直撃か。

 

槍系は基本直進性と速度に優れることを考慮しても、いやだからこそか、技術の向上が見られる。撃ったら軌道変更できないからな。

 

ただまあ数の問題から一体討ち漏らした。まあ全滅させてしまうと前衛の仕事が無くなるので構わない事なのだが。

残った一体がこちらへ向かってくるその左右から、おそらく短詠唱のみで属性付与を行った白井・平井が短剣で襲い掛かり、両腕を斬り落とした。そして真正面から篠原が叩き潰した。

 

 

 

連携はまあまあ上出来。俺がいなかった間に何してたのか知らないけどまあただ呑気に過ごしていたわけでは無かったのだろう。無言で連携できるくらいには互いの出来る事とやる事を知っていて、配分もできる、と。

 

……構わないんだけどちょっと引っかかるんだよな。まあ後でいいか。

 

 

 

 

 

無言で連携するのは別にいい。相手が知能あるならなおさらそれは強い。例えばそれこそ魔族や<魔王>なんか相手にするときは、目くばせすら致命的な情報源になりうる。

俺達はそれらを通信石やら<念話>やらで対策した。尤も、使わない時もあった。俺とさくらなら役割が綺麗に分かれているうえに二人とも<賢者>持ちだから。まあそれは今代には厳しいだろう。前衛も後衛も複数いるからその中での役割分担もある。

 

 

 

それはさておき、無言で連携が成り立つというのはつまり連携する相手が何をするかわかっているという事。

 

 

 

それは逆に言えば、連携することを前提とするなら、新しいことを試せないという事でもある。大抵の人間は、予想と違う事をされるとパニックになる。今は俺や戸谷がいるからいいものの、実戦ではそれが致命的な隙になる。だから決められた事しかできない。

 

声を出し合えばとりあえず心の準備ができるから、新しい事も試せたりする。

 

 

 

今の状況で考えるなら、例えば<賢者><魔導師>が篠原と同レベル程度であるなら<三叉槍(トライデント)>を使えば三体まとめて一掃できたはずだ。それをしなかったのは、両側に<狩人><探索者>が予め張ってたから。洞窟はあまり横幅が無い。現実なのでフレンドリーファイア判定あるから、それを避けて撃つなら<(スピア)>一択だったってわけだ。

 

もったいない。色々と。魔法の経験値とか手間とか。現実のことなので効率に寄せすぎるのはよくないとわかってはいるのだが、しかし相手は低級アンデッドだ。

 

 

 

油断はよくないけどな。

 




まあ何だかんだ言って主人公は一ヶ月以上離れていたわけですが、その間に何もしていないわけはありませんね。ちなみに今回作った組み合わせ以外でも共闘した事はあります、連携と言えるほどの事はしてませんが……


ハロウィン短編とか欲しかったりしますか?


それでは感想批評質問などなど、お待ちしております。


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第六十八話 実戦訓練②

……三週間ぶりです、クラリオンです。

一週間以上遅れてしまいました。テストとレポート重なったときの忙しさ舐めてました。次からちゃんと書き溜めしておくことにします。

そんなわけで最新話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

一隊をあっさり殲滅し、その後も全部で五隊をしのいだところで交代である。

 

 

 

二番目は<剣聖>水山と<槍術師>田中の二枚壁に遊撃・偵察で<暗殺者>鳴川(なるかわ)、後衛に<魔導師>下原(しもはら)と前衛補助で<傀儡術師>加藤(かとう)の女子ペア。

 

一隊目をしのいだ所でわかった。先ほどのチームと異なり、こちらのチームは危うい。今は相手が低級だから後衛と遊撃がカバーできている、といった感じだ。

 

 

 

前衛二人が競って前に出ようとして結果として互いに互いの動きを邪魔している。鳴川と下原が奮戦して削り、それでも危ないところは加藤がカバーしているのでどうにかなっているといったところだろうか。こちらの連携は下原と加藤が声を出し合っている。鳴川は職業が職業なので出すわけにもいかないか。

 

まあ本来なら前衛二人の動きは正しいのだが、ここは洞窟。先ほどの篠原チームの動きでもわかるが、剣を持つ前衛一人でもどうにか出来る程度の広さ。逆に言えば、そこで槍をぶん回せるわけがない。いやぶん回せる広さはあるが、二人並べば無理だ。

 

だからここはどちらかが前に……理想を言うなら槍が後ろに下がるのが望ましい。後で聞かれたらそう言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちら側は三隊ほど凌いだ所で時間の問題で交代。

 

 

 

三番目のチームは<騎士>太刀山(たちやま)が壁、<拳闘士>桑原(くわはら)が補助、<暗殺者>皆本(みなもと)が遊撃、<賢者>前原(まえはら)と<魔道士>中谷(なかや)が後衛を務める。このチームは二番目を見ていたのか、かなりうまく分担できていた。というか桑原が立ち回り巧かった。太刀山の邪魔にならないように動きながら、ちゃんと前衛補助という仕事はしっかりこなしていた。こちらは連携、というよりは桑原が太刀山に一方的に合わせに行っている感じだったが、それはそれでよしか。

 

 

 

取り立てて言うほどのミスも無い。かなり分業されていたのは少し驚いたが。

 

 

 

後衛・遊撃と前衛で担当を完全に分けている。前衛は太刀山が攻撃を引き付け、二人連続で一撃ずつ入れることで確実に屠る。後衛・遊撃も魔法を叩き込んだ相手に皆本が一撃離脱を入れそのまま別の奴にも一撃、直後に魔法でとどめを刺す、という感じ。

 

問題はないが、今回のコンセプトから考えるならできればもう少し前後でも連携を組んでほしい。いや、まあ即興で合わせろというのがそもそも難題ではあったけれど。

 

ここも五隊ほど凌いでお仕舞い、一巡したので、<賢者>の思考タイム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全般的に見てやはり前後、特に楯役と魔法職の連携が不安な気がする。あ、二番目は論外。

 

一応擁護するなら、二番目のチームはほかのチームと違う点がいくつかあるので少々連携しにくい、とは言っておこう。

 

 

 

まず後衛の負担が大きい。魔法を撃てるのが下原だけなのでその分魔法の援護が途切れがちだ。そして前衛の片方である田中のリーチが少し長いので他に比べ前衛同士で協力しづらい。

 

なのに二人そろって協調性を見せないせいで互いが互いの邪魔をして、連携とかとてもできない。あの二人をそのままにしたら大惨事を招く。

 

 

 

篠原のチームが一番単純だ。<勇者>が唯一の前衛で攻撃・ヘイトを集め、他の四人はそれを削ればよかった。

 

三番目のチームも似たような感じだ。役割分担もしっかりできていてそれが機能している。

 

 

 

それに比べ、二番目のチームはかなりばらばらだ。これがもっと広い戦場であればおそらく二番目のチームもより活躍できただろう、というか前衛の数的には一番活躍できたはずだ。采配ミスというよりは戦場が悪い……いや、それも一種の采配ミスか。

 

難しいな。人数が多いとこんな弊害もあるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一巡したので、先ほど言っていた通り、メンバーを入れ替えた。桑原と水山を入れ替えて、再び篠原チームから。この入れ替えは納得である。桑原は相手に合わせるのがうまいから田中のカバーもしてくれるだろう。一方で太刀山なら得物は剣なので水山も先ほどのように互いに邪魔になるようなことはないはずだ。現状ではベストの選択のはず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二巡目、篠原チームは先ほどと同じように、そつなく連携をこなしていた。まあ相手がわかっていてちゃんと嵌め殺し出来るなら構わないんだけど。四隊撃破で交代。

 

 

 

二番目、問題のチーム。こちらはやはり桑原を加えた事が功を奏したようだ。田中が槍をぶん回して桑原と鳴川が取りこぼしを確実に仕留め、空いた隙間を通すように<光槍>が後続をまとめて貫きそれでも残った敵は傀儡が始末。ただ時々、槍が桑原を掠っているのはやはり剣との間合いの差のせいか。

 

だがまあ全体的に見て、さっきよりははるかにマシだ。こちらも四隊撃破で交代。

 

 

 

三番目。二番目がまともになった代わりこちらが少し崩れた。

 

幸い予想していたのか、太刀山がすぐ補助に回ったので最初の二番目ほど悲惨な事にはならなかった。何かなぁ、水山と田中はやっぱり楯役じゃなくて近接アタッカーなんだよな。でも楯の立ち回りも覚えてもらわないと。

 

四隊撃破で交代。

 

 

 

現状上手く回ってるのは、二番目三番目で楯役になってる桑原と太刀山が完全に受動で動いているのと相手が弱すぎるからだ。相手が強くなった時の事を考えると、できれば楯がいる事を前提に立ち回れるようになっていただきたい。

 

全般的に見れば最初よりはマシだったので、編成は変えないまま行くとのこと。

 

さらに一巡したところで、一番奥に着いた。そういえば敵の強さ大して変わらなかったな。判断ミスった恥ずかしい。

 

ここは自然の洞窟を利用して、自然にできたように偽装した場所。ゆえに一番奥にあるのは祭壇でも宝箱でもなく、ガラクタの山とボス的存在……と思っていた。

 

いや正解ではあったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で<不死身の死霊術師(アンデッド・ネクロマンサー)>がこんなとこにいるんだよ」

 

 

 

やたら開けたドーム状の場所で待っていたのはゾンビ系中位種特殊型アンデッド<不死の>シリーズの中でも特殊も良いところの少し面倒な奴と、大量のスケルトン。大して気にも留めていなかったがここはもしかして死火山の中か?

 

 

 

大量のアンデッドが生者の気配を察知、襲い掛かってくる。前衛がばらけて即座に迎撃。広い場所に出たので本領発揮とばかりに槍がぶん回されている。後衛が<属性付与>で光属性を付与しているので当たれば骨がばらける。槍の勢いに乗って骨のかけらがこちらまで……あ、まずい。

 

 

 

『<不死者創造(クリエイト・アンデッド)>』

 

「<神楯(イージス)>」

 

 

 

<不死身の死霊術師>がこちらに指を向け、魔法を発動したのと<神楯>を発動したのはほぼ同時だった。ばらけたはずの骨がひとりでに組みあがり、もう一度その空虚な眼窩に火をともす。手にした剣を振り上げ、振り下ろしたところで魔力弾に吹き飛ばされる。

 

とりあえず危機を回避し、前衛に目をやる。水山と田中が水を得た魚のように暴れ、骨を散らしながら<不死身の死霊術師>の下へ向かおうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

一見、こちらが有利なようにも思えるだろうが。

 

 

 

「まずいな、キリが無くなるぞ」

 

 

 

この状況、戦場に<不死身の死霊術師>は少々相性が良すぎる。逆に言えばこちら側は少々相性が悪い。

 




以上です!

感想評価批評など、お待ちしております!

また数日中に続きを投下します!


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第六十九話  実戦訓練③

はいまた普通に上げる上げる詐欺になってました。

今回のは前回とは別件で新規更新分が根こそぎ消えてたというのが原因なんですが……書いたのが理由もなく消えるとやる気ってがた落ちするんですね……



そんなこんなですがどうにか修復した最新話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

「まずいな、キリが無くなるぞ」

 

「え?」

 

 

 

敵を圧倒しているように見えて実はこちらがかなり不利な状況に陥っている。いや周りを見なかった俺も悪いが。

 

 

 

「足元を見ろ。ここだけじゃないが。あちこちに古びてはいるが武器がある。質の悪いことに弓矢もな」

 

「多分これまでに来た人間達の者では?」

 

「そうだろうな。ああ、そうか。<地雷原(ランドマインフィールド)>」

 

 

 

話しながら<地雷原>が一番楽だと気付き、空間を埋め尽くすほど魔力の地雷を敷き詰める。

 

 

 

「相手は<死せる大魔法使い(エルダーリッチ)>でもその同類の<不死身の魔法詠唱者(アンデッド・マジックキャスター)>でもない。<不死身の死霊術師(アンデッド・ネクロマンサー)>ってやつで、まあ名前の通りアンデッド使役に特化したアンデッドだ。おまけにここは魔力が潤沢で、アンデッドにする材料も豊富」

 

「つまり大本潰さないと前衛は延々と骨を相手するだけになる。しかも前衛が蹴散らした骨が勢いのまま前衛ラインを飛び越えて後衛近くに飛んでくれば、ある程度骨の数がそろったところで」

 

 

 

『<不死者創造(クリエイト・アンデッド)>』

「その場で不死者として復活して後衛に遅いかかる。足元に落ちている武器を拾って。あんな感じでな。<絶対障壁(バリア)>」

 

 

 

前衛に出した傀儡の操作に集中する加藤の目の前に突然出現し、襲い掛かるスケルトン。振り下ろした剣は透明な障壁に弾かれた。

 

 

 

「しまった、<光球(ライトボール)>!」

 

 

 

それに気づいた高山がすぐさま短詠唱で魔法を放つ。消費魔力が軽く、連射が可能な代わり威力の落ちる<球>系、しかも短詠唱だけだからさらに威力は下がる。だがそれでもスケルトン一体消し飛ばすには十分。

 

 

 

「というわけだから俺はちょっと高山のところに行ってくる。すまないが守りを頼む」

 

「あ、ああ……<聖壁>」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、今回の場合は、後衛が前衛の無限召喚をしている状況なので、奇襲役か後衛を使って後衛から潰すのがセオリー。この場合だと<暗殺者><狩人><探索者>あるいは<魔道士><魔導師><賢者>が後衛を潰す役割を担うことになる。しかしここは空間が広いドーム状になっているので、奇襲役はたぶん前衛を突破できない。となると、前衛で骨の群れを止めてもらい、遠距離が可能な後衛と<狩人>に総攻撃を叩き込んでもらうしかない。

 

 

 

こちら側にも<死霊術師>がいればもう少し楽だったかもしれない。淀んで溜まっている魔力は死霊術ならほぼ何もせず流用可能だからな。だが、まあ無いものねだりなんてしてもしょうがない。

 

 

 

「<絶対障壁><地雷原><神楯(イージス)>。地雷撒いたからあまりむやみに動くな」

 

 

 

回復役防衛のために<地雷>を周囲に大量にばら撒いて、最後の守りに壁。これに<聖壁>が加わればとりあえずは安全地帯のはずだ。

 

<神楯>は自分の防御用。基本的に<防衛者>ステータスで固定している今、基本的な身体能力は根こそぎほぼ素まで低下している。そんな状況で遠くから放たれた矢とか避けられない。流石に危なくなったら固定外すけど出来ればそれは避けたい。

 

ほどなくして必死に指示を出す高山のところに到着する。

 

 

 

「高山」

 

「! 国崎君ですか」

 

「少々助言だ。相手は<不死身の魔法詠唱者>じゃない。その亜種の<不死身の死霊術師>。能力は死霊の創造と使役。ここはおそらく死火山の火口か何かで、足元には骨と武器が散らばってる。地形の関係上遊撃系は使えない。最悪の場合俺もカバーに入れろ。以上だ、健闘を祈る」

 

 

 

戦闘中の高山に、一方的に情報だけを叩き込んだ形になるが、<賢者>なら戦闘しながらでも情報を理解し、吟味し、作戦を立てることは可能なはずだ。あまり下手に介入しちゃいけない。もう遅い気がするけどあくまで俺は消えた誰かの代理人。過度な手出しは厳禁、って事にしてるんだから。

 

さて、とっとと戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、待たせた。<撤収(リムーヴァル)><絶対障壁>」

 

 

 

地雷原が何か所か突破され、<絶対障壁>も破られていたので張りなおす。それに合わせて戸谷は<聖壁>を解いた。お疲れ様。

 

 

 

「一応報告はしてきた。あとはあいつに任せよう」

 

「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのまま数分が経過した。

少しずつ前衛の動きが悪くなってる気がする。少しずつダメージを受ける事が多くなってきた。回復役も魔法を飛ばしているが、疲労回復は回復・再生魔法じゃどうにもならないからな。

 

回復役二人じゃあの数の前衛のカバーはちょっと厳しいか。<結界術師>がこっちにいるのも少々まずいかもしれない。初っ端前衛が我先に突撃したのも痛かったな。前線が薄い。ここは出来れば一度入口まで退いて陣形を組みなおし、休憩も入れて改めて突入したいところ。

 

さてどうするんだろう。

 

 

 

「失礼」

 

「……なんだ、白井か。どうした」

 

「高山から伝言だ。これは戸谷にもだ、『一度入口まで引いて立て直す。全員が退却完了したら壁を作ってくれ』と」

 

「わかった。前衛は?」

 

「正輝が行った」

 

「了解した。タイミングは適当に、と伝えてくれ。俺が殿になろう」

 

 

 

手空きの遊撃職を連絡役にしたか。良い判断だ。

 

やはり撤退か。んでもって躊躇なく俺を壁役にしやがったな。いや戸谷もって事はあと加藤あたりも指名されてそうだし妥当な判断ではあるので構わない。

 

俺が殿になるのは壁を構築しやすいからだ。<地雷>は発動時の俺を中心に敷かれる敵味方無差別の設置型魔法。味方が踏んでも発動してしまう。俺が最後なら撤退時の足止めにしつつそのまま楽に引き籠れるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、威力と範囲がひときわでかい魔法が複数放たれると同時に前衛が退いた。撤退の時間か。魔法を撃った後衛を下がった前衛が守る形で退いてきた。

 

 

 

「よし、先行ってろ」

 

「おう」

 

 

 

後衛とすれ違うタイミングでそのまま回復役二人と戸谷を合流させ、前衛組の最後尾についた篠原についていく形で走り始める。

 

 

 

「<地雷原>」

 

 

 

撤退しながら自分の後ろに適度に地雷を撒いていく。

 

 

 

『<不死動物創造(クリエイト・アンデッド)>』

 

「……ありゃ犬か。器用な事を。<神楯>!」

 

 

 

骨は人のなのにどうやったのか多分犬と思しき<骸骨(スケルトン)>、まあつまり人骨製の<骨犬(ボーンドッグ)>が襲い掛かってくる。いやこれ人面犬じゃねえかこっわ。まあ<神楯>が吹き飛ばすんですけど。

 

いや詠唱から判断できないのがつらいところだよね。不死動物でも不死者でも同じ呼び名だから。あ、待てよ、動物って事は。

 

 

 

『<不死動物創造>』

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

味方全体に障壁を張る。と同時にその障壁に攻撃が加えられた、上から。

 

 

 

「<迎撃(インターセプト)>」

 

 

 

即座に放たれた魔力弾が撃墜したのは、鳥。お前どうやって飛んでるんだよ、と大抵の召喚者が突っ込むであろう、骨だけの鳥である。本当だよお前どうやって飛んでるんだ。ちなみにこちらは本物の鳥の骨のようだ。

 

まあ魔法がある世界だからなんでもありなのだが。

 

 

 

魔力弾が矢と魔法を撃ち落とし、剣を弾き、何度でも復活する<骨鳥(ボーンバード)>をその度に砕き叩き落す。対象範囲に目標を捉えた地雷が地中地上空中問わず起爆し、周囲の骨を巻き込み吹き飛ばす。

 

 

 

なおこの間俺は一度たりとも敵を見ていないし後ろを振り返ってすらいない。<防衛魔法>が便利すぎる。流石魔法。

 

 

 

 

 

 

部屋の入口に滑り込む。

 

 

 

「<神楯><絶対障壁><地雷原>!」

 

 

 

入口を障壁で閉じ、そのすぐ内側に俺が立つ事で<神楯>の防戦能力を発揮させる。さらに<地雷原>で空中地上地中問わず地雷を敷設し最悪俺の魔力が尽きても準備時間くらいは稼げるように。

 

 

 

「<撤収>」

 

 

 

道中置いてきた<地雷>のうち起爆していないものを回収。魔力を回復させる。実はそこそこギリギリで回していたので常人だったら倒れているレベルの魔力枯渇状態だったりする。だからそれだけじゃ当然足りないので中級魔力回復薬を飲む。一息つく。

 

そこで気付いた。思ったより回復できてない。魔力量が上がってるのか、だとすればレベルアップした?

 

ああ、なるほど<死霊馬>と<地雷原>で吹っ飛ばしたアンデッドか。まともに直撃したら実体化していようがいまいが消し飛ばされるもんな。<現代装備召喚>についで経験値効率は高いか。

 

 

 

「ちょっといいですか国崎君、こっちに来れませんか」

 

「……<神楯>解除していいのなら」

 

「それぐらいはどうにかするよ。<聖壁>。俺だってそこまで魔力量が少ないわけじゃないんだ。会議の間くらいは持たせるさ」

 

「頼む」

 

 

 

 

ああ、そうかよく考えたらコイツも<勇者>じゃん。なら高いステータス持ってるわな。じゃあ任せよう。

 

 




圧倒的今更感な主人公。


次回更新ですが、なろう版にも少しずつ手を加えたいので二週間後となります。


それでは感想評価批評などお待ちしております!


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第七十話  実戦訓練④

遅れに遅れました、言い訳はございません!

続きが思い付かなかっただけなので。

クリスマス短編書く予定あったのですが止めました。去年あげてました。今代サイド書けば良いと気付いたのはクリスマス翌日でした。

まあそんなわけで第七十話です、どうぞ!


 

 

 

 

「で、俺を呼んでどうしたいんだ」

 

「僕がこれからやろうと思ってる事が正解かどうか、助言

が欲しいので呼びました」

 

「……聞かせてくれ」

 

 

「まず、相手の後衛、つまりボスへの攻撃は自分を含め魔法職が行います。加藤さんの傀儡と前衛職の人たちには、自分たちの前で、何チームかに分かれて<骸骨>の迎撃をしてもらおうと思ってます」

 

「それから戸谷君と桐崎さん、荒山さんと我々魔法職は同じグループで動きます。皆本君、鳴川君、白井君には自分たちの周りで護衛をしてもらいます。後衛を守る最後の楯として、国崎君の力を借りたいのですが」

 

 

「了解した。俺は構わない。ああ、相手についていくつか付け加えを」

 

「なんですか?」

 

「相手の<死霊術師>だが、人型の骸骨以外も作れるようだ。後衛は俺が護衛に着くからいいとして、それ以外には注意を促しておいてくれ。どうも鳥や犬も作れるようだ。予想外の方向から攻撃があるかもしれない。地中とかな」

 

 

 

当然ではあるが、この世界には地中に住む魔物だっている。それらを人間の骨を使って模らないとは言えないだろう。最悪というほどでもないが、<骨竜(ボーンドラゴン)>の可能性も考えなくてはならない。

 

身体伽藍洞なのにブレス使える、<骨鳥>同様に物理に喧嘩売ってる魔物(今更)。

 

このブレスがなかなか曲者で、魔物の攻撃としては魔法攻撃のくせに、完全に効果を遮断するなら対物理障壁を使わなきゃいけない。

 

 

 

対魔法障壁でも直接的なダメージと付随する特殊効果は防げるが臭いは透過する。んでもってその臭いはHPには異常をもたらさないが場合によっては状態異常を引き起こす。あと単純に臭いというか刺激臭というか、アンモニアとか硫化水素とかを考えると分かりやすいかもしれない。ああ、うんそりゃ吸ったら状態異常なるだろうしダメージも入るだろうさ。

 

ゲームだったら臭いとか存在しないのでブレスは障壁で良いかとか思ってたら悪臭でしばらくまともに戦えなくなったのは今となっては懐かしい思い出であるが、二度と喰らいたくない攻撃の一つである。

 

 

 

まあそんな事はさておく。<骨竜>はそれ以外でも、体の大きさ、耐久力を利用した前衛が得意な魔物である。あと種類によっては飛べるので遊撃の駒として使いやすいアンデッドの一つである。まあだだっ広いとは言え、流石に竜が飛び回れるほどの広さは……いや普通に飛ぶだけならできそうか。飛べる種類だと面倒くさそうだなこれ。一応伝えておくか。

 

 

 

「……後、場合によっては<骨竜>とか出てくるかもしれない」

 

「<竜>?!」

 

「……成程、確かに人間の骨で……犬を作ったくらいだから、竜くらいは作れるかもしれないか」

 

「飛べるタイプのだったらかなり厄介だ、飛ぶ前に潰すか飛んだあと潰す策を考えておいてくれ」

 

「……わかりました」

 

「あと別に骸骨(スケルトン)だけじゃなく、ほかの死霊系アンデッドを使役する可能性も考えておいてくれ。骸骨しか扱えないわけでは無いはずだ」

 

 

 

骸骨しか使わないのは再利用が簡単だからだろう。実体のあるアンデッドは死体に魔力の塊もしくは魂がとりついて動かす傀儡。本来の姿かたちさえ、保つ必要はない(デュラハン系除く)。人面犬が良い例だ。本体の魔力・魂をどうにかしなければ骨を砕いたところで、魔力で繋がれ復活する。流石に粉々にされてしまうと諦めるだろうが。

 

 

骨が無くなったら無くなったで、淀んで死霊術向きになった魔力をそのままそっくり死霊に仕立て上げるだろう。なんならまだ骨があるうちでも攪乱目的に死霊を突っ込ませる可能性が無いとは言えない。

 

 

神楯(イージス)>であれば死霊系であれ骸骨であれ、攻撃態勢に入った瞬間に弾くか消し飛ばすかどっちかだから大丈夫だが、前衛組が死霊系を相手にするなら<聖剣>を除き確実に属性付与が必要となる。

 

しかし最初からかけっぱなしでは確実に途中で付与が切れる、そのあとどうしようもありません、じゃあ話にならないのでそこをどうするか。まあそれは俺が考える事じゃないが。そこまでいくと多分助言の域を超える。

 

 

 

「まあ、考えるのは<賢者>の仕事だ、頑張ってくれ。守りはしっかりするから安心しろ」

 

「お願いします」

 

「ああ」

 

 

 

あと敬語使わなくていいんだけどな。俺が外見変えてるから仕方なくはあるけど、同級生に敬語使われるのってくっそムズムズする。あ、そういえば腕輪の魔石はまだ交換しなくて良いだろうか? ここから出たら確認しよう。

 

 

 

「終わった、変わろう」

 

「おお、そりゃよかった」

 

「<神楯><地雷原(ランドマインフィールド)><周辺警戒(レーダーマップ)>」

 

 

 

「皆! 今から説明をするからよく聞いてくれ! まず敵についてだけど……」

 

 

 

あと一応超過回復させるつもりで中級の魔力回復薬をもう一本飲む。自然回復と合わせて満タン+ちょい位になった。あと突撃するときに<地雷>回収すれば凡そ平常時の1.5倍くらいにはなるのである程度の長丁場は耐えられるはず。あとは標準量の半分切ったら少しずつ回復薬飲む感じで。

 

後は説明が終わるのを待つだけ。

 

 

 

「……だから今回、僕達後衛職業の人達と、白井君、鳴川君、皆本君、平井君は、国崎君と行動を共にします。基本的な動きはさっき言った通りですが、もし別途何か指示がある場合は僕から出します。ただ緊急性が高い場合は後衛組には国崎君から何かしら指示が出ると思いますので、それにも従ってください」

 

 

 

え、俺? いや、当然と言えば当然なのか。でも俺の指示に従ってくれるのか? 

 

 

 

「……俺から指示を出すことがあるとすればそれはよほどのことがある時だ。俺に何かしら思うところがあったとしてもその時は従ってくれ、死にたくなければな」

 

 

 

というわけで半ば脅しのような指示をしておくことにした。<神楯>あるし<絶対障壁>に<地雷>もある。相手は魔王ですらないので最悪は想定しなくても良いはず。最悪限定的なスキルだと称して<防衛装備召喚(サモン・ディフェンスフォース)>で拳銃でも使うか職業を&表示に変えて<勇者>として戦えばいい。理由は女神様を立てれば詳しく言わなくても納得するだろう。

 

 

 

「準備は良いですか?」

 

「ああ」

 

「大丈夫」

 

「問題は無いよ」

 

 

 

おい。なんでそれが繋がった。

 

 

 

「いつでもどうぞ」

 

「任せておけ」

 

「じゃあ手はず通りに……国崎君お願いします」

 

「……3、2、1、<撤収(リムーヴァル)>!」

 

 

 

<地雷原>解除と同時に他の魔法も解除。同時に前衛組が飛び出した。グループ分けは最初洞窟を進んでいた時と同じグループで、順番に並んで走っている。続いて後衛が走りだす。

 

 

 

「<神楯>」

 

 

 

どうにか後衛組を範囲内に収めるように走りつつ<神楯>を発動。

 

ほぼ同時に前衛の第一班が骸骨と交戦開始。横と背後を第二班がカバー。それでも止めきれなかった骸骨を遊撃隊がすれ違いざまに蹴り飛ばす。

 

 

 

「ここらへんで良いかな……攻撃開始!」

 

「「「『光よ、闇を照らし悪しき者を祓え』<誘導弾(ホーミング)光球(ライトボール)>」」」

 

 

 

だから何で<光槍>と詠唱が一緒なんだ。もう少しこう、誘導弾っぽさ出そうよ……誘導弾っぽさってなんだ。にしても<誘導弾>になると多重化できないのか。<連続発動>してないのはまあまだスキルレベル10に到達していないからだろうが……いや、待てそういえばただの<球>なら多重化してたな。

 

 

 

ああ、そうか。<誘導弾>だからか。そういや<魔導師><魔導士>連中って<並列思考>とか<思考加速>的なスキル持ってないんだっけか。そりゃ誘導するならまだ一個が限界か。

 

まあ何はともあれ放たれた魔力弾は敵の前衛や骨鳥の間を抜けて<不死身の死霊術師>の下へ。

 

 

 

『<不死者創造(クリエイト・アンデッド)>』

 

 

 

それに対して相手は<骨巨人(ボーンジャイアント)>を作り出すことで対抗。

が、骨の隙間を潜り抜けて命中する。誘導上手いな。ダメージは入ったがさてどれだけ削れてるのやら。

 

 

 

「よっしゃ当たった!」

 

「<解析眼(アナリシス)>……あまり削れてはいませんね……」

 

 

 

そういえばそんなスキルあったね。<賢者>限定便利スキル。

 

まああまり削れないのは当然と言えば当然だろう。<誘導弾>スキルはあくまで狙った場所に確実に当てるために魔力消費が多いだけで、威力そのものは第一位階の<球>シリーズと変わらないのだから。だからこそ<支援者>の<誘導付与(エンチャント・ホーミング)>が重要と言われるわけで。

 

 

 

「<地雷原>」

 

 

 

<地雷>を撒きながら中級魔力回復薬を半分ほど飲み込んだ。持久戦は少々つらいけどまあ頑張りますか。

 

 

 

 

 

 




<解析眼>……<魔力探知>と同類の視界に直接投影する形の情報スキル。基本的には相手のレベル、残存HP・MPなどが相手に重なる形で投影される。
直接的なレベルは存在せず、<多重思考>や<並列思考>などのレベル、本人の魔力量などによって投影される情報量は変化する。
本気モードの主人公であれば対抗策無しの相手であれば上記した情報に加えほとんどのステータス、装備に関する情報などが開示される。
ぶっちゃけ脳みそへの負担が半端ないスキル。
隠蔽系や情報偽装系のスキル・装備品で対抗が可能。例としては主人公の偽装腕輪など。

さて、本編第七十話を持ちまして、2018年最後の投稿とさせていただきます。今年も、更新頻度が主に低くなる方に揺れまくった本作にお付き合いいただきありがとうございました。

UA13万、お気に入り1155件、ありがとうございます!

来年というか来月辺りからそろそろ動きが変わり始めます。今の停滞が退屈という方は少々お待ちいただけると幸いです。

来年も本作にお付き合いいただければ作者としては嬉しいです。それでは皆様。

よいお年を!


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第七十一話  突破

こんばんは、二週間ぶりの更新です


中々進まず申し訳ありません。そろそろ激しく、というほどでもありませんがそこそこ時間が流れ始めます。


そんなわけで、停滞地点最終話です、どうぞ!


 

「<地雷原>」

 

 

 

中級魔力回復薬は二本目をちびちび飲んでいるところ。正直座るのもありかと思いながらも万一を考えて立っている。

 

<絶対障壁>も既に地中まで拡張済み。とはいえさっきから近くの地面から土がぼこぼこ盛り上がってる様子と魔力の減り具合的に必要は無さげだが。<神楯>と<地雷>は相変わらずの大活躍。

 

前衛も良く頑張っていてほとんど通さないし、撃ち漏らしは遊撃手が仕留めてくれている。おかげで基本的に俺の相手は空中と地中なので魔力消費量も少なくて助かっている。

 

相手のHPはどうかというと、<賢者>君の方をうかがうに、おおよそ半分まで削りきれたというところだろうか。延々と復活を繰り返した骨も、少しずつその数を減らしている。粉々、とまではいかなくても、度重なる打撃で修復不可能なまでに損傷した、もしくは修復するには魔力が余分に必要なレベルまで損傷した骨が増えたのだろう。多分主な原因は<神楯>と<地雷>なんだよな。

 

とはいえ相手の骨を全部削り切れるかと言われるとそんなんではないので、多分作戦は当初通りに進むのだろう。前衛組もうまく後退できているようだし。あとは後衛組の魔力が足りるかどうかだ。

 

まあ足りなかったら俺の手持ちの魔力回復薬……ああ、でもそこまでたくさんは無いな。うん、頑張れ。本当なら多分魔力回復薬の補充とか要らなかったんだろうから。終わった事でぐちぐち言うなと思われるかもしれないが、割とこれは痛い事だ。もちろんいい事もあるがデメリットが大きすぎる。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

自然回復した微量の魔力で<周辺警戒>を一瞬だけ発動させる。敵を示す無数の赤点と、一応の味方である<勇者>達を示す青点、そしてマップ内のこの()()()()()()()()()()を確認した。

 

さっきに比べてかなり薄れてきている。

 

この反応は敵の魔力だ。本来魔力だけなら<周辺警戒>は反応しないのだが、今回の敵は、自分の魔力を全体に薄く展開し、空間に溜まった魔力と混ぜ合わせる事で、空間の魔力を利用し、どこでも<不死者創造>できるようにしている。つまり相手の魔力そのものがこちらに対する攻撃魔法と判断されたのだろう。

 

それが薄れているという事は、相手の魔力と空間に溜まっていた魔力の両方が削れているという事だ。

 

無論、相手の身体にとどまっている魔力もかなりあるだろうし、核から供給される魔力もあるので相手の魔力が完全に尽きるのはかなり先になる。それよりHP削りきるのが早いだろう。ぜひぜひ頑張ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<聖剣>が突き出された骨の間を縫って核を断ち割った。

 

 

 

『オ……ノ……レ……』

 

 

 

だから何でしゃべるんですかね。

 

 

 

まあ何はともあれ倒せた。思ったより魔力を削りきるのが早かったような気がする。まあ早い分には構わないから良いけどさ。残存魔力薬はいつもの中級が一本と半分。腰回りに十本以上はぶら下げてたんだけどな。半分くらいは後衛部隊に渡したけど、それにしても五本半は消費したことになる。この前ぶっ倒れたのが確か六本消費だったから、やはり問題なのは一気飲みか。

 

最終的には前衛の骨骨軍団の隙を突く形で<勇者>が単独で前線を突破、疎外しようとする魔法をこちらの後衛の魔法でさらに阻害しながら、止めを<勇者>が刺した。最初の予想とは違う形になったがまあそれはそれでよしとする。

 

さて、この自然形成型ダンジョン的何かは、たった今ボスを倒し、またボスが倒される前に淀んだ魔力をほとんど使い切ったので魔物が新たに出現する可能性も低い。ここは安全地帯になった。まあ完全に気を抜くのはよろしくないが、そろそろ一度気を抜いてもらわねばなるまい。

 

 

 

もうとっくの昔に昼は過ぎてるんだから。

 

 

 

「お疲れ様だ」

 

「ん、おう」

 

 

 

そういうと些か疲れたような顔で、右手を上げてきた。ああはいはい。

 

 

 

「ナイス」

 

 

 

パチンと手を合わせた。つまりハイタッチである。そのまま俺とすれ違い、ほかの連中とハイタッチをかわしている途中で、篠原は崩れ落ちた。

 

 

 

「勇人!?」

 

 

 

のでそれを受け止める。やっぱりな。

 

 

 

「起きてるか?」

 

「あ、ああ……ただ、動かない」

 

 

 

意識はあるが、体が動かねえと。

 

疲労だな。

 

 

 

「誰か……ああいや良いか」

 

 

 

そのまま背負うと部屋の外側、地面が見えているところに向かう。流石に骨と武器が積もったところに寝かせるのはどうかと思ったからだ。

 

そこで上着を脱いで地面に敷き、そこに横たえた。心配そうについてきた連中に告げる。

 

 

 

「誰か食料品持ってないか?」

 

「え?」

 

「篠原の体調に異常はない。強いて言うなら疲労だな。極度の緊張から解放されたんで気が抜けたと同時に力も抜けただけだ。それで疲れと空腹が襲い掛かって来たんだろう。休めば回復するが、時間的にはとっくの昔に昼過ぎてるからついでに昼飯も食べて全員休憩した方がいいと思ってな」

 

 

 

昼過ぎてるというか既にほぼおやつの時間に近いのだが。

 

 

 

「ああ、えっと食料品は……」

 

「私が持ってます」

 

「ああ、じゃあ頼む。ああ、あと俺にも少しくれ」

 

「……はい、どうぞ」

 

「よし。えっと、高山」

 

「……なんですか?」

 

「湧いた場合の対処考えておいてくれ。警戒は俺がやるから。<周辺警戒><神楯>」

 

 

 

もらった堅パンを齧りながら魔力回復薬をお供にスキル発動。堅いが慣れれば美味しい物である。

 

湧いた場合の対処といったが何も湧かないだろう。よし座ろう。

 

座り込んで堅パンをもぐもぐしつつ魔力回復薬を呷る、傍から見たらやべー奴。やっぱ地面に直で座ると色々痛いな、特に骨というか肉。

 

 

 

「あの」

 

「なんだ」

 

 

 

真後ろから声を掛けられたが<勇者>の誰かが近づいてるのだけは分かってたので返答。女子っぽいから後衛組だよな多分。

 

 

 

「……なんでわかったんですか」

 

「どっちがだ。お前が近づいてきたのが分かったのは警戒スキルの恩恵だが」

 

「勇人君の方です」

 

「ああ、篠原か、あれは一度俺もなった事があるんだ。戦いに集中していると案外自分の状態なんて気にしなくなるからな。時間も時間だった上にあの連戦なら体力は消耗してると思っていた」

 

 

 

スタンピードを迎撃してた時に昼前から休憩なしで延々と戦闘を続けて完全に殲滅した後、不意に足から力が抜けて動けなくなった時があった。その時はまだキースに腕があった時期だからキースに支えてもらったはずだな。

 

 

 

「観察してたら案の定だった」

 

 

 

あれ本気で動けなくなるんだよな。流石に骨だらけの地面とキスさせるのは少々罪悪感があったので崩れ落ちたのを受け止めた。

 

 

 

「お前も座って休憩した方が良い。後衛連中もみんな立ちっぱなしな上に魔法そこそこ使ってただろう。休めるときに休んでおく癖は付けておいて損はないぞ」

 

 

 

と言いながらパンをかじる。

 

 

 

「……わかりました」

 

 

 

戦う時戦いに集中できるように、短時間でも休めるときは休む。これはこの世界だけじゃなくてもとの世界に戻ったときも使える技能なので身に付けておいて損は無い。実際コレのおかげで成績が底上げ出来た感じはある。

 

 

 

「基本的に長時間の戦闘が終わった少し後とかはしばらくはああなる事が多くなると思う。そこら辺気を配ってやるよう伝えといてくれ。俺も後から高山には伝えるが」

 

 

 

というかはよ立ち去って。もうパン食べちまったから本気で気まずいんだよ。

 

 

 

「わかりました」

 

 

 

立ち去る気配と脳裏で遠ざかる点。そいや結局誰が来てたんだろうな。

 

 

 

 

 

まあいっか。





この辺りから軽く設定を組み込んでいきます。

さらっと語られる千年前の剣聖の戦線離脱理由。


そんなこんなで停滞地点最終話でした
質問感想批評などお待ちしております


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第七十二話  帰還

なろう版の修正(フォルダデータ側のみ)と何より車校に時間とられましたね、誰だ二週間に一回とか抜かしたの

自分です



そろそろ動きますよぉ……(消えゆく声)

そんな感じで最新話です、どうぞ


 

帰還!

 

久々、というほどでもない王都だがしかし結構長く離れていたように感じるのはなぜだろうな? いや、二週間か、長い方と言えば長い方か。

 

 

 

そして今日は元の世界で言うところの十二月二十三日。この世界風にいうなれば下六の月、第三旬……じゃなかった、今の言い方だとラボルファ(魔神)の月、第三旬三の日、って言ってたはずだ。

 

 

 

気候帯は千年前同様いまいち不明ながら、気温は低いが雪は降っていないところを見るに、多分緯度と気候帯の一致は望めないな。イギリスみたいなものだろうか、しかしこの国は別に海に面しているわけでは無い。謎だな。

 

改めて思うが元の世界と暦も季節も時間の進み方も一緒とか都合いい世界だよな。まあなんとなく理由は分かるからいいけど。

 

 

 

さて、そんな事はどうでもいい。十二月二十三日である。そう、クリスマスの前日である、元の世界では。この世界では元の世界における季節イベントの多くが形を変えて、あるいはそのまま存在している。

 

クリスマスは前者に当たり、この世界では神が世界を創った日だとされる。何でそんな事を人族が知ってるのかは俺が知りたい。

 

さて、つまりクリスマスはこの世界の誕生日ともいえる日で、人・亜人族は神に祈りを捧げ、家族や親友と共に穏やかに過ごし、御馳走を食べ世界の誕生を祝すというのが定番である。

 

 

 

ちなみにこの創世だが、聖書的サムシングによればちょうど七日間あり、ちょうど大晦日、第四旬一の日に今の世界が完成したとされる。そのため世界生誕祭は七日間続く。この七日間とその翌日、つまり世界が始まった日であるところの一月一日、リシュテ(創世女神)の月第一旬一の日までは国営民営に関わらずほとんどの業務が停止する。

 

 

 

静かに家か教会で神に祈りと感謝をささげる日が計八日間ほどあるわけだ。

 

そしてその分の反動でもあるのか知らないが、二十四日、場所によっては二十三日もだが、お祭り騒ぎの日になっている。そして王都もまたその真っ最中、というわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで俺はなぜか<鍛冶>佐々木(ささき)、<探索者>白井(しらい)、<巫女>石縄(いしなわ)、<回復術師>荒山(あらやま)などのメンバーと共に街にいた。いやなんでだ。

 

 

 

「いや国崎ってこういう時あまり騒がないというか静かに部屋に籠ってそうだからさ」

 

 

 

と佐々木が楽しそうに広場を眺めながら言った。そりゃああまり騒がしいのは好きじゃないからな。

 

 

 

「あまり楽しくなさそうだけど自分からは絶対に来ねえだろうなと思って誘ってみたんだ」

 

 

 

お、おう、そうか。

 

というか何で佐々木は俺にそんなにフレンドリーなの。篠原と洞窟戦後の白井以外大抵皆敬語だし距離取ってるし何なら敵意向ける連中もいるのに。最近ようやくフレンドリーファイアを完全に諦めたように思えてきたレベルだぞ。

 

 

 

篠原はわかる。少し理想主義的なところがあるからな。白井……は、まあ多分洞窟戦で協力したのが良かったのかもしれない。

 

 

 

多分ものすごく怪訝な顔を浮かべていたのだろう。俺の方を見た佐々木が少し心配そうな顔になった。

 

 

 

「……もしかして迷惑だったか?」

 

 

 

その聞き方ずるくないか。

 

 

 

「……いや、迷惑ではない。賑やかなのは得意ではないが嫌いではないからな。ただ、何でそこまでフレンドリーなのかと思っただけだ」

 

「ああ、確かになぁ、水山と川島辺り仲良くないもんな」

 

「仲良くないなんてもんじゃねえぞ佐々木。全部捻り潰してもみ消してるけど味方撃ちとかされてたからな」

 

「はぁ? あいつらそんなことまでやってたのかよ! ていうか捻り潰してって」

 

「まあレベルが低いからな。<防衛者>なら双方無傷で収められる」

 

「……よくキレないな」

 

「まあ、こうなる事は予想出来ていた。全員から恨み買うのは承知の上で全部やったし、それは<防衛者>として来た時に言った。だから明確に何か被害が出るか、<勇者>としての義務に何か支障が出ない限りは見逃す事にしている」

 

「凄いな、俺なら絶対我慢できねえよ」

 

 

 

面倒事が嫌いなだけなのさ。

 

 

 

「俺が君達に危害を加えたのは明白だからな。理由があったとはいえ、ある程度の恨みは已む無しだと考えている。だからこそ逆に俺にこうも気安く接してくるお前が少しわからなかった。篠原は、まあおおよそそういう性格なのだろうと思ったが」

 

「はは、確かにな。そうか、確かに俺みたいなのは少数派だろうな」

 

「というかここにいる俺と佐々木、あといないけど篠原くらいだと思うぞ、国崎に気安く出来るのは」

 

「……それが不思議なんだよ」

 

「あー、俺はな、なんとなく励まされたように感じたんだよ」

 

「励まされた?」

 

「そう。ほら、ここで最初に魔族と戦った時言ってただろ、夜にさ。

 

『例え戦闘向きでなくとも、その職業で召喚された以上は、何かしら果たす役割、出来る事はある』

 

みたいな事。俺は<鍛冶>じゃんか、普通<勇者>の中にそんな奴いないだろ。だからもしかして俺は余計な人間なんじゃねえかって思ってたんだよ。

 

ステータスは高いけど鍛冶屋だぜ? 元ただの高校生に何をしろってんだってな。だから少し焦ってたというか、不安だったというか?」

 

 

 

なるほど。間違ってはいない。<鍛冶>は直接戦闘に寄与する事はほとんどないため、いつか見せられた『<召喚者>割当職業一覧』でもそこそこ下の方、つまり優先順位は低い。俺が<鍛冶>称号を持っていなかった事からもそれは分かる。

 

 

 

ただ<鍛冶>、あとは同系統として<錬成師>や<錬金術師>は優先度こそ低いものの全体的に見れば実は『当たり』の職業である。どちらとも職業の関係上最初から<鑑定>を持ち、それぞれに職業固有のスキルを持つ。最大の特長は魔道具を作れる事だ。それも<勇者>の言わば規格に準じたものを。

 

優先順位が低いのは、先ほども言った通り直接戦闘に寄与しないため。具体的に言うと、人族に余裕がある状態で、かつ大人数での<勇者召喚>であれば、<鍛冶>や今回はいないが一覧にはあった<錬成師>あるいは<錬金術師>等の職業が<召喚>される可能性が高い。

 

……あ、そうだよ<鍛冶>に加えて<巫女>と<調教師>がいるって事は余裕ありまくりだったって事じゃんか。何で気付かなかった数か月前の俺。分かってたら色々仕込めたし対策も出来ただろうに。

 

どうせ結果分かり切ってるからってステータス公表見逃したのはミスだったな。

 

 

 

「それで、まあお前の言葉でそれがなんとなく落ち着いたから、自分ができる事を探してみようと思って、勇人達が居ない間にさ、弟子入りしたんだ」

 

 

 

え?

 

 

 

「ここから少し西に外れたところの村に、凄腕ベテランの<鍛冶>職のじいさんが居てさ。その人から色々教えてもらってるんだ。今は創世記念旬だから王都に戻ってるけど、来年からはまた向こうに通うんだ。何か結構筋が良いってさ」

 

 

 

それは中々積極的だな。筋が良いのは分かる。だからこそ<鍛冶>が割り当てられたのだろうし。

 

 

 

「んで、まあそういう行動に出た根底にはお前のあの言葉があったからこそなわけで。だからこう、今の聞いてても思ったけどなんだかんだ色々言ってるけどちゃんとしてるなって」

 

「……どういう意味だよそれ」

 

「あーなんか言葉にしづらいんだけどな。結構最初の方で敵愾心煽るような事言ってたし、女神さまから言われたから、みたいなやりたくないけど義務だから、みたいな感じで嫌々動いてるかなって思ってたんだ。ほら、公国の一件でも次に会う時は敵同士、みたいな事言ってたし。

 

だけどちゃんと色々助言とかあったしきちんと考えて夜の襲撃の時も独自に動いてただろ?」

 

 

 

あーそういえばそういう事にしてたな。

 

 

 

「女神様からの頼み事なら全力でやるほかない。それに、助けられる命を見捨てるような趣味は無いからな」

 

「だろ? だからだよ、本当は優しい良い奴なんだろうなって思ったからだ」

 

 

 

純粋過ぎやしないか。そう突っ込もうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごめんなさい、助けてもらえない?』

 

 

 

は?

 

 

 

『何があった』

 

『魔族の襲撃、70レベル前後の完全魔法無効型が一人。私とセレスじゃ攻撃が通らない』

 

 

 

くたばれ魔族。反射的にそう思った。

 

 

 

『了解した』

 

 

 

 

 

 

「……すまない、急用ができた」

 

「どうしたんだ?」

 

「俺と一緒に再召喚された<聖女>からの救援要請が来た。詳しく知りたければ後で聞け」

 

 

 

さてと。

 

 

 

「創世の女神リシュテリア様に、<再び喚ばれし者>ケイ・クニサキが願い奉る。我が力を我が下に、我が身を我が同胞の下に、我が力を以て我が友を護らせ給え」

 

 

 

幻影(ファントム)六重(ゼクス)><隠蔽(コンシール)><陽炎(ミラージュ)>。

 

 

 

俺の体の周りを光が包む。腕輪が消えた、ように見せる。ステータスを変えるために俺の周囲をぼやかして。

 

<聖剣召喚・犠牲><神剣召喚・孤独>。

 

 

 

「……慈悲に感謝を」

 

 

 

<転移点><空間門>。俺の目の前にぽっかりと黒い穴が開く。

 

 

 

「ついてくるなよ、命の保証は出来ん」

 

 

 

大袈裟に言い立ててるわけでは無く事実だからな。

 

 

 

では行こうか。

 




以上です

はい、クリスマス短編に繋がる動きで、一応次の大きな動きに繋がる引き金でもあります

まあ、全部魔法で片付くのなら苦労しないんですよねって話です

感想評価批評などお待ちしております


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第七十三話  対魔族戦

新学期始まるから書き溜めしなければ、と思い続けて肝心の更新をしてなかった件

完全に私の手落ちです、申し訳ございません

私事ではございますが上記したように来週月曜から学校が始まります、それにともない執筆にかけられる時間がこれまで以上に少なくなります
必死こいて二週間に一回がギリギリ微妙なところであります


取り敢えず最新話です、今回は視点がさくら視点からの始まりとなってます
それではどうぞ


 

 

 

 

「<神光・六重>!」

 

 

 

光の束が六本、少しずつずれた状態で放たれる。

 

 

 

「……やっぱり足止めにもならないわね。<防衛業務委託・絶対障壁><防衛業務委託・神楯><魔法封印(マジックシール)爆裂(バースト)>」

 

 

 

魔族に対して最高効果を発揮する聖属性魔法。その最上位レベルの殲滅力を誇る<神光>が六本。<支援者>による援護を受け威力が上昇したそれを耐えうる魔族など、魔王かその側近程度しかいないと言っていいはず。

 

実際外した分の直撃を受けた後列は致命傷ギリギリ。

 

しかし本来狙っていた魔族の男──現在交戦中の魔族軍部隊の隊長と思しき魔族は、何事も無かったかのように光の砲撃を潜り抜けてきた。

 

<神楯>が魔力弾を放つが、魔族に触れた瞬間に掻き消えた。

 

 

 

「魔法攻撃無効体質……本当に厄介ね」

 

 

 

魔法攻撃無効体質。もしくは魔力吸収体質と呼ばれるそれは、人族魔族問わず、あらゆる種族で稀に生まれる特殊な個体が持つ体質。どんな魔法であれ、自分に接触すれば、魔力を吸収し魔法を無効化してしまう。基本的に通るのは物理攻撃だけ。

 

厄介なのは魔力を吸収してしまうという事。<防衛装備召喚>によって召喚される現代兵器も、弾薬は使用者の魔力だ。直撃すると同時に魔力として吸収されてしまう。直撃の衝撃は小さなノックバックという形で現れるが、ダメージはないし本当に微々たる物だ。地雷や手榴弾も試したが与えられたのは爆風によるノックバックのみ。破片は全て当たった瞬間に魔力として吸収される。

 

 

 

魔法攻撃が主体の私にとっては天敵に等しい相手だ。とはいえそういう体質の魔族は千年前にも居たし、交戦経験もある。直接がダメだとしてもやりようはある。

 

<絶対障壁>に触れると一瞬だけ食い止められるが、すぐさま<絶対障壁>が消えて行く。

 

 

 

「<魔法封印・解放(リリース)><噴流(ジェット)>」

 

 

 

<爆裂>を用いて目標の周辺空間と地面を爆破。爆風に<噴流>を重ね、距離を離す。やはり魔力そのものによる干渉は無効化できても、魔法による影響全てを遮断できるわけでは無いらしい。

 

<爆裂>の爆風と爆破され飛び散る石礫、<噴流>によって作られる空気の流れ。これらは全て魔法によって作られた、現存する物質の影響。それまでは防げないのなら現存する物質で攻撃をすればいい。

 

ただそれには問題がいくつかある。

 

 

 

「……私<錬成>系統は不得意なんだけど」

 

 

 

土属性の派生系統に当たる<錬成>系統を得意としているのは私ではなくケイだ。

 

 

 

「……<錬成>」

 

 

 

地面の下から岩を引きずりだし、手ごろな大きさに分断、矢のような形を作る。

 

 

 

「<空間圧縮(エアコンプレッション)><魔法封印・爆裂><限定解除(パーティカルリリース)><魔法封印・接続(コネクト)雷霆(ケラウノス)>」

 

 

 

造り上げた岩の弾頭を覆うように空間を圧縮、空気の砲身と砲室を作る。

 

 

 

「<魔法封印・解放>」

 

 

 

砲室内部で<爆裂>を発動。その勢いを以て弾頭を射出。直後に<雷霆>が発動し弾頭はさらに加速する。

 

疑似的な火薬電磁複合砲、のはず、多分。

 

高速射出された砲弾は、しかし相手が装着している防具に弾かれた。

 

 

 

「……やっぱり岩じゃどうにもならないか」

 

 

 

分かってはいたけれど。となるとアレに今一番楽に攻撃が通せる可能性があるのはセレスだけだろう。

 

 

 

「セレス! これ使ってアイツの相手して! 少しだけで良いから! <全身体能力上昇(オールフィジカルライズ)>」

 

 

 

当初展開していた二両目の装甲戦闘車からセレスを呼び、<空間収納>から一本の剣を取りだす。かつてケイが作り上げた剣の一つ。物理攻撃力への補正がかかる特殊な効果のある剣だ。

 

 

 

「わかった!」

 

「あまり使いたい手ではなかったけど……」

 

 

 

<念話>を使ってアレを倒せる相手を呼ぶことにする。

 

 

 

『……ごめんなさい、助けてもらえない?』

 

 

 

ややあって返事が返ってくる。

 

 

 

『何があった』

 

『魔族の襲撃、70レベル前後の完全魔法無効型が一人。私とセレスじゃ攻撃が通らない』

 

『了解した』

 

 

 

即答すると<念話>は切れた。

 

 

 

 

「……くっそ!」

 

 

 

普段吐かないような言葉遣いで悪態をつきながら、素手の相手に喰い下がるセレス。

 

彼女の現在のレベルは30~40無い程。そのステータスを<支援魔法>で60以上相当に押し上げている。そこに魔剣でどうにか攻撃力だけは70レベルに届かせている状態。

 

<支援魔法>で重ね掛けすればもっと上げられるがそれではセレスの思考が追い付けない。むやみやたらに身体能力だけ上げればいいという物じゃないのだ。一応それも対応できる<支援魔法>はあるが、<支援者>としてのレベルがまだ十分でない私は使えない。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

斬りかかった剣を防具で弾かれ、さらに殴り飛ばされる。間髪入れず敵は後衛の私の方へ。

 

 

 

「──<電磁砲(レールガン)>」

 

 

 

その突進は傍から聞えた一言と同時に強制的に停止させられた。踏み出そうとした右足がその場に縫い留められ、その場に転倒したのだ。

 

 

 

「悪い、遅くなった」

 

「……いいえ、急に呼び出したのはこちらだもの。<聖天結界>」

 

 

 

セレスに回復・治癒効果のある範囲魔法を適用。

 

 

 

「ほかの連中は」

 

「殺しちゃいないわ、四肢全部取ったけれど」

 

「上等、そんじゃアレも瀕死にして記憶消せばいいんだな」

 

「お願い」

 

「任せろ」

 

 

 

声と共に姿が消えて、気付いたら敵の四肢を全部切り落としていた。速い、そして強い。

 

 

 

「……あ、まだいんのか。<空間収納><竜巻(トルネード)><電磁砲>」

 

 

 

傍らに空いた<空間収納>から杭が上空に射出される。

 

 

 

「当たったな。<竜巻・五重(クインテット)><電磁砲・五重>」

 

 

 

<空間収納>の出口を下方に向けて落ちてきた金属杭を<竜巻>で水平に安定化、<雷霆>と多分電磁力系の魔法もう一つか二つの複合魔法<電磁砲>で上方に射出している。ああそうだ、魔力を感知させない遠距離戦闘はいつもこれだった。

 

空中に突き立った六本の杭、不意にそこに影ができたかと思うと落ちてきた。いや、光学系魔法を使って透明化していたのか。

 

 

 

「いや危なかったな。一人でも取り逃したら拙かった。監視の目が無かったのが幸いか」

 

「……ええ、そうね」

 

「<睡眠(スリープ)多重(マルチプル)>……よし、治療は任せていいか?」

 

「ええ」

 

「あ、記憶はどうそろえる?」

 

「……興奮した雑魚の魔物の群れに遭遇しこれを殲滅」

 

「了解」

 

 

 

倒れ伏した隊長格の魔族の方へ向かうケイを見送って、眠っている隊員の方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何のつもりだ」

 

「あ?」

 

「なぜ我等をすぐに殺さない? その服装と、剣から見て、貴様は勇者だろう。拷問にでもかけるつもりか? 生憎だが我が部隊の隊員にそのような……」

 

「ほいどーん」

 

「ぐっ」

 

「一丁上がり」

 

 

 

頭をぶん殴って脳を揺らして気絶させる。<睡眠>が効かないならこうするほかない。

 

 

 

「そんでまずは治療からか」

 

 

 

当然ながら治癒魔法は使えないので回復薬を使うしかない。体力回復薬と万能治癒薬をドバドバかけて足に空いた穴を埋めて切断した四肢を結合させる。防具に損傷は無いように戦ったので問題は無い。

 

 

 

「さてと、上手く出来るかな。<並列思考><護魂障壁(ソウルバリア)><精神同期(シンクロマインド)>──」

 

 

 

相手と自分の頭に手をかざす。自分の頭から伸びた意識が自分の両腕を伝って相手の頭の中に入るイメージ。並列思考の片方が、意識から消えた。

 

<護魂障壁>で包む事で、並列思考の片方は魔力の塊となる。身体に触れた魔力を吸収してしまう体質を利用して体内、魂のある場所へと送り出す。<護魂障壁>と<精神同期>のおかげで魂が混ざり合う事無く記憶を操作できる。

 

 

 

「あとは待つだけ、か」

 

 

 

人の記憶というのは特殊な例外を除けばかなり曖昧なものだ。印象的なものはより印象強く、嫌な物は曖昧に、あるいは逆に印象的に。正しい事実のまま残る記憶はそう多くはない。今回やるのはそれを利用した物だ。つまり、ある程度の道筋を残しつつ、記憶を最大限に捻じ曲げる。

 

前後の状況と矛盾せず、かつそれでいて俺達の存在を抹消する。

 

まず会敵状況について、上空から地上を爆走する装甲車を見かけた、となっているそれを、地上を驀進する不死系魔物の群れに改変する。刷り込むイメージは俺が前に上空から見た魔物大暴走。この時に魔物の群れに混じった<不死身の魔法詠唱者(アンデッド・マジックキャスター)>から攻撃を受けた事にする。アンデッドは生者全般に対して強い憎しみを抱くから攻撃する事は不自然ではない。

 

そこで自衛のために降下し戦闘に入る、と。どうも見た感じ特に急ぎの任務では無かったようなのでそれも理由に加えた事にする。雑魚の掃討に少々手間取ったものの損害はほとんどない状態で殲滅に成功。やや休憩を挟んだが異常は無し、良くある遭遇戦だ。

 

まあこんなところだろう。

 

 

 

「<同期解除>」

 

 

 

分離していた並列思考を回収。

 

 

 

「よし」

 

 

 

記憶の改変に成功。

 

 

 

「終わった?」

 

「ああ」

 

「じゃあこっちお願い」

 

「了解」

 

 

 

 

 




以上です

お分かりかと思いますがクリスマス短編との接続点になります

感想質問批評などありましたらどうぞ!


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第七十四話  滞在

サブタイは仮


一ヶ月ぶりです
申し訳ございません!
今回更新が遅れたのは非常に馬鹿馬鹿しい理由なのですが
やっべ続き中々書けねえ次の一話の終わりが見つかんない!って言いながら書いてたら一話の平均文字数の1.5倍書いてました。
これ投稿できる!と気づいたのは数日前。この数日レポートや私事の推し事で忙しく小説に時間を割けませんでした。

というわけで一ヶ月ぶり、第七十四話でございます。




 

 

 

 

 

 

「これで全員か」

 

 

 

透明化していた有翼系の魔族の記憶を改竄して、全員分の記憶改竄を終了。後は気が付いて起きるのを待つだけだ。

 

 

 

「ええ。ありがとう」

 

 

 

傷は小さな物を除いてさくらに風属性魔法で治癒・回復を行ってもらった。とりあえず編集した記憶と大きな齟齬は無いはずだ。

 

 

 

「あとごめんなさい、わざわざ呼び出して」

 

「気にするな、いくら稀とはいえ魔法無効体質の存在を忘れていた俺のミスでもある」

 

 

 

魔法無効体質、魔力吸収体質と呼ばれる彼らは自分達に向けられた魔力を吸収する事で無効化する。それは攻撃魔法にとどまらず、回復系の魔法や自分に対する付与系魔法、さらには自分に接触した武器に付与された魔法までも無効化される。

 

人族が魔族と戦う時、基本的なダメージソースは光・聖属性の魔法もしくは光・聖属性魔法付与の武具だ。これらを用いればレベルが同等以下でステータスに差が生じていても無視できない攻撃を加える事が可能となる。

 

が、魔法無効体質であればそれらの効力を一切無視できる。例え低レベルであっても種族間のステータス差から自分よりある程度上の人族を相手できるし、高レベルであれば強力な戦力となる。

 

ただ稀な体質である上、戦力として運用するにはそれ相応の欠点もあるのだ。まず回復・治癒にはいちいち回復薬が必要である事。そして最大の欠点として移動が困難な事。何せ魔法を用いた移動が困難なのだ。

 

 

 

戦争において初期から終戦まで最も多く用いられる移動手段は基本飛行可能な動物を用いた空輸、そして数は限られるが転移系の魔法である。しかし、魔法無効体質の場合、転移系の魔法は使えない。厳密に言えば出来ない事も無いがそれが可能なのは今のところ俺と時空帝竜、始祖竜くらいだろう。動物を用いる場合も、飛行ルートや高度、速度に大幅な制限をかけられてしまう。

 

そのために遠隔地での前線投入は非常に困難であり、敵地への潜入などは以ての外だと考えていた。しかし記憶を見た感じ、有翼系人種の魔族が運ぶ形で空中を移動してきたらしい。速度が必要な作戦ではないためにできた事だろう。

 

 

 

にしても中々面白い作戦を考えたな。普通は西大陸の南側をどうにかする事を考えそうだが無視するとはね。

 

 

 

「とりあえず移動しよう、いつ目覚めるか分かったもんじゃない」

 

「そうね」

 

「あと片方の八九式消しとこう、煩いからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、助かったわ、ありがとう」

 

「俺のミスの部分もあるんだ、気にするな。それよりちょっと気になったんだが」

 

「なに?」

 

「いや、セレスに俺の剣持たせてただろ?」

 

「ええ」

 

「何であれ撃たなかったんだ? <雷霆>使えるだろうに」

 

「……それ本気で言ってるの?」

 

「おう」

 

「……あのね、あんな神器級の剣ほぼ使い捨ての弾頭にしろとか無理だから」

 

「神器級って言っても所詮素人製作のだから剣としての性能は微妙だからバリバリ使い捨ててもらって構わんかったんだが」

 

「最初からそう言いなさいよ。総合性能は一級品どころじゃないんだから気軽に使い捨てなんて無理よ。それにこれロストしたらそれこそ次に使える物が無くなるじゃない」

 

「次が無いって、え、マジで?」

 

「ええ、私が持ってる近接武器はアレだけよ」

 

 

 

え?

 

 

 

「まだ他にも持ってると思ってた」

 

「何でよ。私は完全魔法職なのよ、寧ろ護身用とはいえ神器級の直剣持ってる方がおかしいわ」

 

 

 

ふむ、つまりだ。

 

 

 

「あれ全部コレ俺のミスじゃね?」

 

「それは同様に思いつかなかった私のミスでもある。まあ上手く解決できたから良いじゃない。それでどうするの?」

 

「そうだな……まだしばらくここにいる事にする。さっき連中の記憶を覗いた感じ、同規模の部隊が複数この近辺をうろついているっぽい。一部隊相手なら多分兵装あげるだけでなんとかなるだろうけど、二部隊相手じゃ取り逃がすだろ?」

 

「そう、ね」

 

「俺がいれば最悪三部隊でもどうにかなる。作戦実施地域は頭に叩き込んだからそこを抜けるまでは護衛として付き添うよ。最大でも三日か四日くらいで済む」

 

「今代の方はどうするのよ」

 

「篠原はまあそこそこ強い。<賢者>も二人ついているし<巫女>は<防衛魔法>委託したままだ。何より王都に襲来した魔族軍部隊を一度潰走させた。次に来るのはもっと後だ。俺だったらそうするし、ああいう作戦を立てる奴なら何するにしても準備を入念にする、多分しばらくは王都には来ねえよ」

 

 

 

そこそこ定石から外れてはいるがそれでも常識の範囲内。<勇者>が成長しきってない初手で王都を狙ったのも、作戦としては王道というか相手がこちらを真正面から対等な敵として見ている証拠だ。

 

レベルはそうでもないとはいえ魔眼持ちを隊長に、<変化>できる奴を編成したそこそこの戦力を綺麗に撃退されているのだ。下手な部隊を送り込んだら再び返り討ちされるのは目に見えている。

 

 

 

「……そうね」

 

「こっちの方が会敵の可能性は高いし、会敵した場合の対処の難易度もこっちが上だ」

 

 

 

相手を捕えて遭遇の記憶を消して無傷で解放しなくてはならない。どうも見た感じ魔法無効化体質者は各部隊に一人はいるようで正直さくら達じゃ荷が重い気がする。

 

戦うにしても姿を消すにしても、だ。

 

完全な偽装は俺かさくら片方では不可能だが、俺とさくら二人でならかなりの精度で偽装できる、と思う。二人いなければ無理でその上、偽装中は二人とも戦闘不能になるので現実的な手段ではないが。

 

 

 

「だからついて行く。お前に渡す分の金属杭も作りたいしな」

 

 

 

<電磁砲>は電磁系の複合魔法の一つだが、イメージの仕方が少々特殊なせいで俺しか使えないような構成になっている。いや普通に魔法を使えたなら春馬さんも使えただろうけれど。

 

この魔法の核はかなりいい加減というか感覚に頼ったものだからな。

 

まあ<雷霆>で打ち出すだけでも十分なはず。だから渡しておきたいのだが、この金属杭魔法で魔力を材料にしたものじゃない。地下から金属だけ引っこ抜いて魔法で杭の形に加工したもの。

 

そしてさくらは錬成系をあまりレベル上げしてないし使い慣れても無いので金属だけ引っこ抜くという器用な真似は出来ない。つまり作れるのは俺だけ。

 

現在俺が所有する金属杭の在庫は先程使った物を回収したのを合わせて20本ほど。これを全部さくらに渡す、でも良いのだがそれをすると俺の分が無い。備えあれば憂いなし、俺は極度の心配性にして物を捨てられないタイプの人である。

 

 

 

折角だし増産してストックも増やしておこう。んでついでに金属杭に思いつくだけ思いついて施す事は出来なかった改良でも加えておこう。楽しい楽しい工作の時間だ。

 

 

 

 

 




以上です。

次の投稿は今回のようには遅れないとは思いますが二週間は開く可能性があります。

とっとと動けよ、と思われるかもしれませんが、次くらいまでジャングルと平原をゆっくり進み(時系列的には間にクリスマス短編を挟みます)、その次からようやく勇者本隊と動き始めます。

これからも本作をよろしくお願いいたします。
感想質問批評など、お待ちしております。


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第七十五話  王都へ

今回を持ちましてクリスマス短編前後回終わりとなります。

次から動くはずです、頑張れ主人公。



それでは第七十五話です、どうぞ!


 

 

 

 

 

動き始めた装甲戦闘車の中で試作を開始する。運転は理沙だ。

 

とりあえず対魔法無効化体質者として使いやすいよう<加速><貫通>の刻印を組み込む。<誘導>も付与したいところだが使い手を制限しないようにするのが難しいので放置。先端は手持ちの合金、本体は鉄が主成分の金属杭。ミスリルとも称される魔銀は魔力あってこそのあの硬さなので対魔法無効化体質者兵装には使えないのが痛い。

 

 

 

こういうのを考えてる時は楽しい。まるで……ああそうか……まるで、ゲームみたい、で。

 

ふぁっきゅー。人の事言えねえじゃんか。

 

やっぱ痛覚封印に死なないってのはだめだな。いや自分勝手も良いところだけど。

 

 

 

「……何、それ」

 

 

 

そういえば理沙とセレスには見せた事が無かったか。

 

 

 

「魔法刻印。あれだ、鍛冶とか錬金系統の付与」

 

「あぁ、魔剣の基本技術……え?」

 

 

 

正直に答えたら何か驚かれた。理由はさくらからもたらされた。

 

 

 

「今では廃れているという」

 

「マジで?」

 

「魔法職に仕事取られたみたいで」

 

「あー付与魔法が発達したからか」

 

「そうそう、あと自己強化魔法ね」

 

「……まあ確かに見た目手間も金もかかるからな」

 

「長期的に見れば違うのだけれど、まあ戦争やってない限り分かりにくいから」

 

「……それで錬金術と鍛冶を両方極める人間が減って、現在では技術を身に付けている人どころかその技術の存在自体がほとんど知られていないみたいね。私もラビラスから聞いて調べて初めて知ったわ」

 

 

 

さくらが出した答を理沙が雷帝竜からもたらされた情報で補足した。なるほどね、進化する技術(魔法)もあれば退化する技術(魔法刻印)もある、と。

 

 

 

「……私初耳なんだけど」

 

「魔剣が伝説級の代物扱いされてるのはそれもあるのよね。魔剣が造られたものである事は分かっているのに、造る技術もそれに至る道筋も消えているのだから」

 

 

 

かつては当たり前の技術。魔剣を造れて初めて優秀な鍛冶と認められる。まあ例外もあるが。故に文書には残ってない……いや、多分()()()()()()んだろう。

 

 

 

「なのにギミック自体はほとんど簡単だからな。最初に使用者が魔力を通すことで刻印が起動、<魔力吸収>で周囲の魔力を吸収しながら他の刻印が発動する、それだけだ」

 

「あれ、じゃあ普通に<魔力吸収>付与すればいける?」

 

「いや。それだと最初に吸い取られるの剣の持ち主の魔力だぞ。あれ術者以外の魔力を近い所から吸っていく魔法だから」

 

「あっ」

 

「あれは魔法刻印だからこそ成立する機構。普通の魔法じゃトレース出来ない。剣の持ち主が<魔力吸収>を付与できるなら話は別だが」

 

 

 

魔法陣の術者を示す部位を除いた残りを刻み込むという言ってみればそれだけなのだが、それが出来るようになるのは鍛冶と錬金術を修めてから。いつでも誰でも何度でも使える魔法陣とかいう超絶便利アイテムを作るにはそれなりの努力と年月が必要なのだ。

 

 

 

「私も鍛冶職修めておくべきだったかしら」

 

「……似合わないな。というかあの時は無理だっただろ、お前『完璧な聖女ム―ヴ』してたんだし」

 

 

 

異なる世界から来たにも関わらず、この世界の人族を救うために絶大な力を振るう<勇者>と並びたち、人族に癒しの力を届ける。常に微笑みを絶やさず、身分にかかわらずその力で直接的に人族を救い続けた優しい少女。

 

 

 

それが、当時さくらが作り上げていた<聖女>像。まさしく完璧に<女神の使徒>だった。ただし、汗水垂らして剣を打つ<鍛冶>は絶望的なまでにかみ合わない。

 

 

 

「できた」

 

 

 

そんな事を考えている間にとりあえず完成した。

 

<加速>と<貫通>の魔法刻印を組み込んだ試作金属杭。<雷霆>だけで射出しても最終的に多分<電磁砲>と同クラスの速度は出せる。攻撃力は完全に金属杭そのものの性能に依存。魔法で上げる事も出来るけど対魔法無効体質者には向かない。

 

 

 

「これでどうだ? 重さとか長さとか」

 

「<竜巻>……ええ、大丈夫よ。魔力消費量もそれほど気にならないし……うん、魔力の通りも良い」

 

「よし、じゃあこのタイプを量産すればいいな」

 

「……仮にも魔剣クラスの魔道具を量産って」

 

「使い道が限定的過ぎるから俺でも作れるってだけだ。本物の魔剣だったら専用設備ないと無理だし用意したとしても俺が作れるのは微妙な性能な物だけだからな」

 

「ステータス直接干渉型固定値上昇とかいう原理不明チート支援魔法刻印付与を微妙と言い切るかこの<勇者>は」

 

「性能としては微妙の一言に尽きるだろう。過程は凄いが、結果を見ればそうでもない。それを足掛かりにできれば良かったが俺は専門の研究者じゃないからな」

 

 

 

固定値上昇については、魔族領の森の奥で見つけた魔剣にあった魔法刻印を発動術式のところのみ書き換えて転写しただけなので原理は知らない。発動術式以外の術式が現地語に類似した別の言語体系によるものらしく解読できなかったのだ。わかりやすく言うなら文字化け状態。何がおかしいって現地語は根こそぎ翻訳スキルが働くはずなのにそれを通しても文字化けしていた事。

 

 

 

<鑑定>した結果も文字化けだらけながら、とりあえずミストなる人物の制作で銘は<守護>、付与された魔法も同じ名前で<守護>であると判明。効果はこの剣を所持している時のステータス直接干渉による防御力の上昇と対物理・対魔法障壁の任意展開なので恐らくはオリジナルの複合魔法。<破撃>という魔剣と対になるらしいがそちらは発見できなかった。

 

 

 

使い勝手は中々良かったので別行動をするときにさくらや陽菜乃さんに護身用として貸したりした記憶がある。

 

 

 

後に文字化けの理由は判明した。ほとんどが読めないのは変わらなかったが正直それはどうでもいい。作者は既に死んでいるだろうし、術式の重要な部分さえわかればよかった。

 

 

 

問題はその上昇値。俺が作った魔剣の上昇値は300、おおよそ平均的な騎士の10レベル分、<防衛者>の純粋な1レベル分の上昇だった。いやそれでも十分な性能に見えるが、<守護>の上昇値は固定で1000。あろうことか四桁である。誰が作って誰が使ったんだそんな代物。<勇者>、それもそこそこ防御系に寄る<孤独の勇者>たる俺の純粋な10レベル分、<防衛者>換算でも純粋な3レベル分とかいう壊れた値を誇る。

 

 

 

それを基準に考えるなら俺の作ったものは微妙以外の何物でもない。というか戦場に出ると仮定すれば<支援者>の支援魔法にこちらはパーセンテージだが同程度の効果がある魔法もある。

 

 

 

「とりあえず100、造って渡す。使い捨てにしても問題は無い」

 

「こんな国宝級の代物使い捨てに出来るか」

 

「命には代えられん。言っただろ、それくらいなら量産できるって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで100。ほれ」

 

「ありがと」

 

「<雷霆>で打ち出すだけで良い。最初に少々余計に魔力を流し込めばより速く飛ばせる」

 

「了解」

 

 

 

休憩を挟みながら三日目の昼。200本の金属杭の新規作成・アップグレードを完了。100本はさくらに、残りは自分用の予備、備えあれば憂いなしというヤツだ。

 

ついでに言うととくに何事もなく魔族軍の作戦行動予定範囲から抜ける事が出来たので今日から今代たちのところへ戻る事にしている……のだが。

 

 

 

「言い訳どうしようか」

 

「今更?」

 

「<聖女>助けるっつって出てきたのは良いんだけどさ。それだといくつか不審な点とか出てきそうで」

 

「……今、連中のなかで私達はどういう立ち位置?」

 

「<勇者>だったけど今は別な使命を帯びて活動中」

 

「<管理者>って単語は?」

 

「出してない。<勇者>ではない、としか言ってない」

 

 

 

流した情報について答えるとさくらは暫く考え込んだが、なにか思い付いたように顔を上げた。

 

 

 

 

「……<守護者>でも名乗る?」

 

「<守護者>、<守護者>か……世界の?」

 

「ええ」

 

「間違ってはない、か」

 

 

 

悪くはない。

 

 

 

 

「まあその他の巧い言い訳は自分で考えておいて、そういうのは多分アンタの方が得意でしょ?」

 

「遠回しに妄想野郎って言われた気がした」

 

「いえ純粋に褒めてるわ。こういう時は使える技能だもの。特に私達は話を作る必要が多いから。あ、あともう一つ」

 

「なんだ」

 

「理沙、というかレイシアの事ちゃんと説明してね。できれば<守護者>辺りと絡めて、あまり深入りされないように」

 

「あーそれもあったか。あれは確か<勇者>名乗って全部責任押し付けたんだっけな。面倒だが自分で蒔いた種か」

 

「頑張れ」

 

「あいよ──それじゃあまた。<転移点記録><空間門>」

 

 

 

<空間門>使用履歴を探ることで王都へは直で行ける。

車内に黒い穴が出現する。

 

 

 

「行ってらっしゃい、頑張ってね」

 

「またね」

 

「行ってらっしゃい!」

 

 

 

三人の声に軽く右手を挙げて答え、<空間門>に足を踏み入れた。

 




以上です。



魔法刻印について軽く説明

作中では主人公がさらっと言っちゃってる事について、気になった場合の追加説明をしておきます。

魔法陣は簡単に、「発動魔法」「発動者指定」(場合によっては「主神の名」)を、基本は円状に書き、それを魔力を通す経路で繋ぐ事で描画します。それに魔力を通す事で発動します。
そのうち「発動者指定」の発動者の名前部分を消し、代わりに「発動時流される魔力で発動者を特定できる術式」を組み込んだ状態で武器に転写したのが魔法武器です。この術式を弄ることで使用者を限定したりすることも出来る、という設定です。
物語にはほとんど関係在りませんが一応こういう設定あるよって事で。


他にも質問等ございましたら感想欄へどうぞ。

質問だけでなく感想批評などもお待ちしております。

追記:次の更新は遅れるかもしれません。もやもやした前半部分の改稿を思い付いたので加筆改稿しようと思ってます。


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閑話  管理者な彼ら

数週間ぶりです。レポートデスマーチ終了、前半部分の細々した改稿も無事完了しました(徐々に修正かけます)

本編ではないのはご容赦ください、こちらの方が先に浮かんでしまったので。



それでは、閑話、最新話です、どうぞ!


 

 

 

「……中々ギリギリの綱渡りをしてやがる」

 

 

 

苦虫を噛み潰したようにグラディウスが呟いた。

 

 

 

「<正義>殺しに規定ギリギリの情報開示。<偽装腕輪>と三重ステータスに女神まで利用した<防衛者>の復活。かなり思い切った事をやる。流石は元<勇者>と言うべきか」

 

 

 

淡々と事実を述べるのは人間態を取る始祖竜。

 

 

 

「しかもこっちと連絡とってないってのにこっちが欲しい動きを先取りしてくれてるしな。期待通り……期待以上か」

 

「少なくとも人魔大戦はアイツにとっては想定外の出来事のはずだが、中々柔軟な対応をしてくれた。さくら助けに飛び出したときは少し焦ったがな」

 

「<システム>が要請を蹴らなかったって事は不要な事でもなかったという事だ。気にするほどの事ではないだろう」

 

「それもそうか」

 

「問題はここからか」

 

「そうだ。時空帝竜の話では、今代においても前回と同様の経過をたどる可能性があるらしい」

 

「人族と魔族の連合軍か?」

 

「ああ」

 

「あの状況から? 人族側から戦争を仕掛けたあの状態から?」

 

「ああ。理由も戦況も不明だが──ケイトが単独で、『人形化』を使う、らしい」

 

「は?! 『人形化』ってあれアイツの切り札の一つだろ? それ切らなきゃいけないレベルなのか?」

 

「相手が<正義>だからな。多分固有技能使われたんだと思う」

 

「……<正義>の固有技能か。あれは厄介だが……」

 

「<孤独>は破れない。ただ数で押されたらしい。同レベル帯、つまりステータス的に同等の相手が多数」

 

「……その状態だと切れる札も多くは無い」

 

「多くは無いがないわけじゃない」

 

「その中で『人形化』を選んだ理由、か」

 

 

 

グラディウスは考え込んだ。

 

 

 

「痛覚や肉体の損傷をほぼ無視して魔力と気力が続く限り戦い続けることができる前衛傀儡術師の切り札。デメリットは自分という人形にさえも強化魔法を使えなくなることと終了時に長期間戦闘不能状態に陥る事だ」

 

「しかし<孤独>の素の防御力ならばまず並大抵の敵では破る事は出来ない、から基本的に最初のデメリットは無視していい。ただ二つ目はどうしようもない。おまけに単独でとなれば」

 

「詰んでるな。らしくない」

 

「ああ、らしくない」

 

 

 

彼自身は凡人だ凡人だと言い張る。実際彼自身だけならば凡人以外の何物でもないが、<賢者>という称号職業と<勇者>としての力が、彼の臆病な思考を結果として非凡レベルに押し上げていた。

 

失敗と死を恐れる凡人の臆病な思考に応えるために、<賢者>は数多の予想を導き出し、幾重の予防線を伴う困難な道を示す。しかし<勇者>の力は、その道を安易な道のりへ変え、彼はそれを突き進む。

 

このスタンスは例え戦闘中であろうと変わらない。現在の敵の動きから予想される攻撃、予想できない攻撃、そのすべてに対応できるような動き、あるいはそれら全てを避けられる動きで攻撃。それが彼らの知る<孤独の勇者>啓斗の戦い方の基本だ。

 

だから、らしくない。一対多、それも同格を敵に回して自分が動けなくなるようなスキルを使ってまで戦い続けるなんて、彼らしくないにも程がある。

 

 

 

「アイツがそういう手を使うしかないとなると……<システム>側の問題か?」

 

「まさか相手に全部バレた?」

 

「いや、だとしても時空帝竜の防御は破れない。むしろ全員で引き籠った方が簡単なはずだ……それ以外の問題が生じた?」

 

「その問題は<勇者>の命を天秤に掛ける必要がある程重大なものか?」

 

「……ないな。ありえないだろう。そんな事は<システム>が統べるこの世界であり得るわけがない。<システム>は絶対にそれを許さない。それにそもそもそんな事が起こらないようにするための我々で、<システム>だ。よしんばそんな事態になったとしても<システム>はそれを選ばないな」

 

 

 

グラディウスの質問に、始祖竜は自らの考えを即座に否定した。

 

 

 

「……という事は完全なアイツの独断というわけか。珍しい」

 

「経緯が分かっても理由が分からないと手の打ちようがないぞ、どうする」

 

「……お前達は動けないのだろう?」

 

「ああ」

 

「……俺が動く。あとアリスと出来ればアカリを起こしておきたい。万一の場合はアイツより早く動いてもらう。<勇者>の動きを先取りするなら<勇者>が要る」

 

「ならその間あの二人の代わりは」

 

「俺がどうにかしよう。その程度できずして<魔王>を名乗れるわけがないだろう。それに……娘が頑張ってるのに俺が何もしないとか許されるわけがない」

 

「……苦労をかけるな」

 

「元は自分達で蒔いた種だ。少々手間がかかったところで変わるものか。安心しろ、賃金は全部終わってから啓斗に請求してやるから」

 

「……ははっ、それは良かった。じゃあ、任せる」

 

「ああ、お前達はこの世界と<システム>の心配だけしてろ」

 

 

 

珍しく力なく笑った始祖竜に返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の後輩はどう動いてくれるのかねぇ……まだ八歳の子供だってのによ。<システム>も中々酷な事を」

 

 

 

闇帝竜の様子を見てくると言って始祖竜が去った後。一人夜空を見上げグラディウスは呟いた。

 

本来のプログラムとは異なる形ながら、<システム>は人魔大戦を始めてしまった。つまり<正義の勇者>の存在が正当化され、魔族との戦闘を開始したために、竜種が手を出す大義名分が消滅してしまった。

 

一度こうなってしまえば、彼等自身の誓約により<正義の勇者>が何をやろうと彼等は手出しできない。ただひたすらに約定に則り、全てが終わるまでそれを見守り続けるだけ。

 

だからここは、<システム>発動の際、きっと存在を想定されていなかったであろう自分や、自分の娘が動くべきなのだ。何のために?

 

 

 

「……なるほど、俺はアイツに死んでほしくないと思っているのか。それも自分の命を天秤に乗せていいと考えるほどには」

 

 

 

初めて会った時は敵だった。どう攻撃をしても避けられるか受け流される未来しか見えずゾッとした。異世界とはそこまで過酷なものかと。

 

印象が変わったのは、大平原での対談後。その後で、それが<勇者>の、彼自身曰くの『チート性能』による物であると聞き、笑うしかなかった。<魔王>がどうやってあんな代物に勝てるというのか。

 

そしてなぜかあっさり背中を預けてくる<勇者>に戸惑いながら、何年か共に戦って。

 

 

 

「……ああ、そうか。命を拾われていたか。それでか」

 

 

 

人魔大戦プログラムは、基本的には<魔王>の指定を第一フェイズとして開始され、<召喚者>の回収を第九フェイズとしてそれを以て終了とする。そのうち現地人が関わるのは第七フェイズ:<魔王>と<勇者>の対決 と、その直後に短期間設けられる第八フェイズ:戦後処理 まで。

 

<勇者>が<魔王>を()()()()()()()()、第七フェイズは終了。第八フェイズを経て女神の力により<召喚者>は元の世界へ<送還>される……と見せかけて一度<システム>管理区域に飛ばされ、<管理者>その他諸々の処理を受けてようやく<送還>となる。

 

 

 

そう、<勇者>の帰還は、<魔王>討伐が前提。それを小細工だけでどうにか辻褄を合わせたのは、かつての<防衛者>と<孤独の勇者>。<魔王>としての圧倒的なステータスと、ほとんどの戦闘用スキルの喪失、<元魔王>という称号への変更を以て、<システム>は<魔王>の消滅を確認、その後少々揉め事はあったものの、<孤独の勇者>パーティー4人全員<送還>となった。

 

 

 

『できれば、一度交流し親交を深めた相手を完全な自己利益のためだけに殺したくはない』というその判断は、『甘い』。自分が元の世界に戻れるかどうかが掛かっているというのに殺したくない、とは。

 

 

 

しかし彼等は紛れもなくやり遂げた。その代わり少々面倒な役割を押し付けられたが、娘との穏やかな生活を考えれば、過剰なまでの報酬を貰っていた。

 

そして千年が経った。二度と来ないはずの彼らは再度この世界に現れた。

 

 

 

「給料分の仕事はしようか」

 

 

 

久しぶり、それこそ数百年ぶりに、彼は一つの鎧を手に取った。それはかつて彼が全盛期に使っていた装備で、当時から今まで手元に残し続けた唯一の装備でもある。

 

それは煌びやかな宝石で飾られた、いわゆる見た目だけは立派だが、という品にも見える装備。しかし魔力を使える人間なら、それらの宝石が見た目だけではないとすぐにわかる。

 

鎧の各所に飾られた大粒小粒の宝石、それらは全て、潤沢に魔力を蓄えた魔石。必要時に魔力を供給できる魔力タンク。

 

人より魔法に優れる魔族を統率する、<魔王>にこの上なく適した装備。それを着る事、それは彼が臨戦態勢に入る事と同義。

 

ほぼ全て一般化されたステータスの中で、ただ一つ文字通り桁が違う項目に意識を向ける。

 

 

 

 

MP:120000(+12000000)/120000

 

 

 

 

かつて<勇者>に命を救われ、平穏な生活を与えられた<元魔王>は、恩に報いるべく、あるいはただ友を救うために、動き出した。

 

ほとんどが空白のスキル欄に記されたただ一つの初歩スキル。

 

それは単体では役には立たないスキルで、軽視されがちなスキル。

 

<魔力譲渡>。

 

 

 

「宝の持ち腐れだと思ってたんだが、良い偶然もあるものだな」

 

 

 

ニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 




<魔王>一人≦<勇者>パーティー

当然ながらやべーやつ。

というわけで魔力タンクが動き始めました。一度前回の決戦時に全部使いきった後1000年かけて自動回復する魔力で充填かけてます。
魔力量は魂の容量みたいな物なので変更する事が出来ませんでした。ちなみにHPは並ですコイツ。

それでは感想評価批評などお待ちしております。


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第七十六話  守護者

ほぼ一か月ぶりの更新です……すみません

実は先月半ばから体調を若干崩しまして、しばらく学校行くことと学校の課題を終わらせる事だけで手一杯でここの小説どころか趣味で個人的に書いてた小説も文字数は増えませんでした。

なので今回はお詫びも兼ねて若干文字数多めです。

また今回はパソコンから更新しているため、以前より行間や改行などが変わっている可能性があります、ご注意ください。


 

 

<空間門>を出たら街の一角だった。なお誰もいない。

 

 

 

「……世界誕生祭だったか」

 

 

 

ずっと前から、千年前から変わらない、宗教行事の一つ。しかも昼間ともなればおそらく皆教会に居るのだろう。

 

今代達はどこだろう? 

 

俺達の時は一応参加していたが、王女殿下からは自由参加と言われていた。今代達はどうなのだろう。

 

 

 

「<周辺警戒>」

 

 

 

反応があるのは王城では無かった。成程こういう時はこの国がおおよそ敵判定なのが役に立つのか。どこだこれ。

 

反応がある方位を見れば燦然と輝く女神教のシンボルマーク。ああ、教会。という事は参加させられてるか篠原が参加を決定したかのどちらかか。ふむ……終わるまで王城近くで待つかな。

 

 

 

……女神教。ほぼ完璧に自然を体現する事に成功したこの世界の数少ない歪みの一つ。<システム>の製作者はなぜ完璧なものにしなかったのだろう。彼らは、推定でしかないが、分野の専門家集団、それも環境適応力の高い本物の天才だと思われた。<システム>を見るだけでもそれは明らかだ。そんな彼らがこんな事を見逃すだろうか。

誤魔化せると思っていたのか、別の意図があったのか。別の意図があるとすればそれは一体。

 

 

 

……やめようか。この問題は俺だけじゃ多分解けないし、解けたところで何か利益があるわけでもない。

 

それにしても良い天気だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ佐々木」

 

 

 

王城前の広場で待つ事数時間。帰ってきた今代集団が見えたので、話しかけやすい奴に声をかけてみた。

 

 

 

「……国崎! 戻ってたのか?」

 

「ああ、ついさっきな」

 

 

 

言いながら右腕の腕輪を見せるように軽く振る。<勇者>としての力を封じ、<防衛者>としての能力を付与してくれる、女神様から下賜された魔道具──という設定の偽装用魔道具。

 

 

 

「大丈夫だったのか?」

 

「ああ、一時の感情に任せてだったが、<勇者>として戦えたからな。戦闘自体はすぐ終わったんだ、後処理に時間かかってな」

 

「後処理?」

 

「まあ色々とな。よっぽどのことが無い限り俺は<防衛者>として、つまり<勇者>の力は使っちゃいけないはずだったからな。今回はなかったがもし周りに一般人がいたら色々面倒な事になるだろ? <勇者>は王国にいるはずなのにって」

 

「ああ、なるほど」

 

「まあ今回は来るはずのない連絡だったからよほどの事態なんだろうと思って行ったんだ。最悪の事態も想定できたからな」

 

「へー……ん? 来るはずのない?」

 

「ああ。再召喚されて少ししたくらいから別行動してるんだ……いつだったか……あ、アレだ、お前らが二回目に公国に来た後くらいからだ。俺は多分女神様の関係で<勇者>で召喚されてるんだが、<聖女>の方は<聖女>じゃなくてな。流石に俺に付き合わせるわけにいかないから自由行動させてる。一応女子の旅って事で俺が持ってた魔道具とか結構渡してな」

 

 

 

理由としてはこんなもんかね。

 

 

 

「一人でか?!」

 

「いや、一人じゃなくて二人だけど……あ、そうだ、忘れてた。篠原!」

 

 

 

やったぜ巧い具合に話を繋げそうだ。

 

 

 

「なんだ?」

 

「お前に謝らなきゃいけない事があるのを忘れていた」

 

「うん?」

 

「スルヴァニア皇国って覚えてるか?」

 

「スルヴァニア皇国……あっ、確か『勇者を名乗る人間が反逆罪で処刑される直前の貴族の娘を浚って消えた』とかでなんか文句を言われた記憶があるけど」

 

「そうそう、その件についてなんだけど、それ俺なんだ。正直済まないと思っている」

 

「……え?」

 

「色々複雑な事情があって、その処刑寸前の貴族の娘は冤罪だったんだよ。んでその娘の出自がやや特殊でな? やむなく元<勇者>の俺が起用されたんだ」

 

 

 

周囲にほとんど被害なく、処刑直前の貴族の娘(つまりお荷物)を救い出して脱出しろ、とかたった今その任務を捏造した俺でさえ無茶振りにも程があると思うが、それをこなせるのが<勇者>である。

 

さて、では喋り倒すとしよう。

 

 

 

「まあ前散々言ったと思うが、<勇者>は基本人族に手を出してはならない。俺はその時も<勇者>じゃなかったが、まあどちらにせよ、人族の貴重な戦力を内輪もめですりつぶすわけにもいかないだろう?

 

つまりその少女を助けるには、攻撃されても無傷で切り抜けられるか負傷が問題ないレベルである必要がある上に、帰りはお荷物を背負ってなお人族の一線級戦力を振り切れるような人間である必要がある。それでいてフリーかつ後腐れない人間って事で俺が派遣された。

 

<勇者>を名乗ったのは、俺の肩書の中でそれが一番威圧するのにぴったりだったってのと、おいそれと手を出せなくなるからだ。基本的には<勇者>っていうのは女神様の使徒とかの高位の存在だからな。

 

貴族の少女の出自っていうのがまたかなり面倒なんだが、死んだらヤバイって事だけ覚えておいてくれ。少なくとも人族……あの国は確実に滅ぶ。そのレベルの爆弾だったんだ。女神様が俺に命令に近いような救助依頼を出したっていえば重要度はわかると思う。

 

ちなみに彼女は今、どこかの国で、俺の代の元<聖女>と一緒に旅をしている。俺が今回飛び出したのも元<聖女>から救援要請が来たからだが、まあ基本的には安全なところにいると考えてくれ」

 

 

 

これだけの話を帰ってきてからの短時間で組み上げる事が出来たのは<賢者>の能力のお陰である。無駄遣い……ではないがまあもったいない使い方だな。

 

 

 

「それは……」

 

「その貴族の少女の出自とやらが気になりますが」

 

「あー……これ言って良いのかね……良いか、構わんか。あ、ただ出来れば他には伏せといてくれ、頼む」

 

「あ、ああ」

 

「その貴族の少女はな、雷帝竜の子孫なんだよ」

 

「……は?」

 

 

 

さてフェイク交えてどこまでいけるか試してみよう。

 

 

 

「変化魔法分かるか?」

 

「ああ」

 

「……使えはしないが、効果くらいは。確か竜種クラスの高位の魔物が使えるとか」

 

 

 

OK、流石は<賢者>に<魔導師>。

 

 

 

「それを雷帝竜が使ってな、人間に化けて人間と子を為した。遥か昔……俺が召喚される寄りももっと昔、実をいうと詳しい時期は俺も知らん、そのレベルの話だ。ただまあその家に稀に、先祖返りとでも言うべき、雷属性魔法に特化した化け物じみた魔力量の、それこそあれだな、俺達<召喚者>レベルの魔力量を持つ人間が生まれていたんで、本当の話だという事は推定出来ているんだ。

 

ただ当然ながら血は薄まっていくからな、だんだんと先祖返りが生まれる頻度も下がっていったんだろう。俺が居た時代も俺に<雷属性魔導>を教えてくれた、少し年を召した男性が一人いただけだったし、多分その後ももっと下がっていったのだと思う。

 

証拠が少なく乏しい事象は信憑性に欠ける。時を超えるのは神の領域の魔法だ、一般人には扱えないから確かめる事も出来ない、多分そんな形で雷帝竜の子孫である事は忘れられていったのだろうが、血は脈々と受け継がれ、そしてまた一人の先祖返りを生み出した、それが今回の少女の出自だ。ついでに言うとこの事実一つで、今回の件については解決できる」

 

 

 

嘘をつく時は少しの真実を混ぜると良いとの事。

 

 

 

「死んだらヤバイっていうのは……?」

 

「それも彼女が雷帝竜の子孫である事に由来する。雷帝竜を含め竜種と呼ばれる生物は、基本的に自身の縄張りに生息する魔物を統率している、特に知性のある魔物であれば、それは主従と言って良いようなものになる。故に竜種を殺した場合、それらの魔物は主殺しを殺しに来る。

 

今回処刑されそうだった少女はただの人間だが、先祖返りで竜種に近い力を持っていた。竜種の力は少々独特でな、通常より広域で探知が可能だ。故に彼女の存在が雷帝竜麾下の魔物に察知されていてもおかしくはない、というか多分察知されてる上に娘認識されていると考えていい。

 

主君の娘が殺されたら報復に来るのは当然だろう。知能が高い魔物は、人と同等レベルに考えなければどこかで致命的な失敗をするぞ、頭に入れておけ。

 

……冤罪だと断定した理由も彼女が竜種の血族であることに由来する。竜種は、嘘を話す事は出来ない。それが彼等あるいは彼女等が持つ強大な力に対するペナルティだ。

 

そもそも竜種は由来が特別だからな。彼らは世界の<守護者>という存在に当たり、過度な力を持ってしまった<勇者>や<魔王>に対する万が一の抑止力、まあ言ってしまえば女神様直属の家来みたいな物だ、嘘なんて付けない。それと同じだ、竜種の血族もまた嘘をつくことは出来ない。無論真実を言わないでいる事は可能だが、口に出したのならそれは真実だ。

 

血族にまでこの縛りが適用される理由は残念ながら不明だが歴然たる事実だ。ゆえに彼女達は無罪だ。冤罪で殺されようものなら魔物達による報復であの国は間違いなく滅びていた。

 

が、まあ俺が救出して、今は俺の元相方……もう彼女は<聖女>ではないが、それでもちょっとした特例はあってな。多分そのせいで人が滅ぶ事はもう考えなくていいだろう。

 

……言っても良いなこれは。良し……いつだったか、俺が、今は<勇者>じゃない、といったのを覚えているか」

 

「ああ」

 

「あれは半分本当で半分嘘だ。あの時の俺は、女神様直属の……何だろうな、駒というか遊兵みたいなもので、<守護者>として立っていた。次に会う時は敵同士だといったのも、あの時のお前達はその力を本来守護対象である人に向けていたため……ってのは話したな。

 

……ああ、そうそう、俺がここに居るのは<勇者>ではない別の役割を背負っているから、と言ったのだったか。つまりそれが<守護者>だ。いずれ分かる、というのは、お前達が重大な危機に陥ったらまず間違いなく女神様が救援の命令を下すだろうと思っていたからだ」

 

 

 

あーちょっと苦しい言い訳な気もするが……まあ良いか、気にしねえだろ。

 

 

 

「ちなみに問題の少女を預けた先の元<聖女>も<守護者>だ。こっちは称号じゃなくて職業がな。<聖女>としての力はほぼ無い。今回の件で彼女を守るためだけにある程度の力が与えられただけだ。

 

あと一応言っておくが彼女達がどこにいるのかは俺も知らない。助けに行ったとは言ったが、あれ女神様の力をお借りしてワープしただけだからな……森の中にいたがどこの森かは分からん。だから悪いが彼女達の力を借りる事は出来ないぞ」

 

 

 

ついでに釘を刺しておく。

 

 

 

『……こんな感じでどうだ?』

 

 

 

予め開いた念話でさくらに評価を求める。

 

 

 

『んー……ケイの台詞の言い訳が若干苦しいかなって気はする。あと全般的に長い』

 

『だよなぁ』

 

『でも今回のは別に正しい説明をする事が目的ではないから良いと思うわ。ただ<賢者>は全部理解しようと思えばできてるはずだから一応ボロを出さないように注意しておいて』

 

『了解』

 

 

 

「とりあえず何か質問ある?」

 

 

 

頼むからないと言ってくれ。

 

 

 




以上です、若干長めでした(通常3000前後、今回4200)。

フェイク混じり、ではなく、一つまみの真実混じり、の方が正しいですねこれ。

これを書く時以前の投稿分を読み返していたんですが今読み返すとなかなかの駄文ですね、暇があれば改稿したいのですがストーリーをうまく運べる気がしません。

次回更新予定となる再来週ですが、学校のテスト前なので正直微妙なところです。もしかしたら更新をお休みする可能性がありますがご理解いただければ幸いです。

最後になりますが質問感想批評などありましたら感想欄へどうぞ!お待ちしております。


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閑話  管理者な彼ら②

お久しぶりです、テスト期間をどうにかこうにか乗り越えました
更新を再開します、夏季長期休暇なので頻度を頑張ってあげていきたいと思います。

とりあえず執筆のリハビリ的な意味を込めて前々話の続きからです、どうぞ


 

 

「――よう、アカリ。具合はどうだ?」

 

「悪くはないわ。それで、私は何をすればいいの?」

 

「とりあえずはアイツの援軍だが……しばらくは何もない。保険として早めに起こしただけだ」

 

「……エネルギー供給は?」

 

「俺がやる。万一の場合に備えて魔石もある。数年は外部供給無しで耐えるぞ」

 

「なら良いか……状況を詳しく教えてもらえる?」

 

「待て、アリスも起こす」

 

「あの娘も? そう、相当厄介なのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「珍しいですね、お父様」

 

「厄介事だアリス。給料分の仕事はしなきゃいけないだろう?」

 

「<先代勇者>様に何かしらあるのですね。わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ詳しく教えて。ケイに何が起こるのか」

 

「『夢』の中で<正義>含む人魔連合軍相手に単独で、最悪の切り札を切った。経過は不明だ」

 

「最悪の切り札……まさか『人形化』を?」

 

「その通り」

 

「単独で、本当に『強化』ではなく『人形化』を?」

 

「ああ。理由は知らん」

 

「それなら殺される事も有り得る、か」

 

「単独で挑んだ理由は何か?」

 

「不明だ」

 

「ほかに何かわかることはありますか? 相手、相手が使っている武器、こちらの状況、場所とか」

 

「相手についてはさっき言った通り、人魔連合軍に<正義の勇者>だ。あとは……ああ、そうだ。相手は<魔剣>を使っていて、ケイトは<聖剣>を二つ持っていた」

 

「<魔剣>……! よりによってあんなものを……」

 

「仕方ない、あれは魔族側の『希望』だからな、当然ケイトも想定済みのはずだ」

 

「……ということは<正義の勇者>は<正義>を持っていなかったのですね?」

 

「ん? ……ちょっと待て、聞いてみよう。

 

――よお、一つ聞きたいことがあるんだが、お前が見た『夢』の中で、<勇気>は<聖剣>の方を使ってはいなかったのか? 

 

……ああ、了解した。いや、娘が何か思いついたらしくてなぁ。おお悪い悪い。すまんな

 

――使ってなかったらしいぞ」

 

「じゃあ、そこまで悪い事態じゃなさそうね……でも<聖剣>二本も抱えてたってことは私も起きてるはずよね」

 

「……今目指しているのは先代勇者様の助命ですよね?」

 

「ああ」

 

「……とりあえずその時が来るまでは動かない方がいいかもしれません」

 

「そうね。道を外すのはあまり得策ではないもの。直前まではそのままに」

 

「時期が来たらお願いします、<犠牲>と<孤独>が二人で揃えば<正義>と<魔剣>では打ち勝てない。そうでしょう、お父様?」

 

「……どこでそれを知ったのか知らんが……まあ間違ってはない。<犠牲>と<孤独>ならまず拮抗状態には持ち込めるだろう」

 

「失礼、暇でしたので記録には目を通したのですが確証がなかったので確認したのです。お父様がそうおっしゃるなら大丈夫でしょう。そこに私とお父様、先代<聖女>様や<雷帝の巫女>様がいらっしゃるのなら<勇者>の集団など一ひねりで揉み潰せるでしょう」

 

「わが娘ながら台詞がえげつねえ」

 

「とはいえ、それは先代勇者様も望んではいないでしょうから、救出を行うだけでいいでしょう。問題はそのあとですね」

 

「ケイトみたいにできるか?」

 

「人数が多すぎます、説得は現実的とは思えませんね。あれだけいるとなると暴走する人間がいてもおかしくはないでしょう。それに連中は連合軍で来ているとのことです。<勇者>ならともかく、一般にまでこれを知られるのはどう考えてもまずいです」

 

「となると」

 

「一番良いのはこの拠点を放棄したうえで相手に<システム>の停止を確認させるのが一番……ああだから」

 

「! そういう事!」

 

「確かに現状ではこれが最善です。最善ですがこれは」

 

「なるほど、ケイトが一番動きそうな理由だわ……駄目、この方法は絶対にとっちゃいけない」

 

「となれば別の方法ですか」

 

「場所を移して徹底抗戦とか……いえ、駄目ね」

 

「……そもそも今代はどうやって<システム>について知ったのでしょう?」

 

「<巫女>の予知夢か、可能性は低いけど外からの入れ知恵とかかも」

 

「外からだと竜種案件ですから私達の領分じゃないですね」

 

「どちらかといえば予知夢の可能性が高い。確か今代の中には専門の<巫女>がいたはずだ」

 

「となると知る経路については私達でどうにかできることじゃなさそうね」

 

「場当たり的な対処しかできないのは厳しいですね……泥人形使いますか?」

 

「ありったけの<付与魔法>かけた泥人形……いいわねそれ。でも私そこまで<付与魔法>得意じゃないわよ」

 

「ある程度なら力押しでどうにかなるでしょう……お父様?」

 

「ああ、魔力なら好きなだけもってけ」

 

「細かい調整はケイと合流してからにしましょう。とりあえずの対策としてはこんなところ?」

 

「救出後一時撤退から、俺達を模した泥人形での茶番決戦な」

 

「可能であれば最初の戦闘から泥人形でもいいかもしれません。その時になってみないとわかりませんし、あるいは先代勇者様の抑止が間に合わない可能性の方が高いですが」

 

「助けられるから大丈夫でしょ。土壇場で適正得られたとしても両方の固有技能を扱うことはできない。こちらの<聖剣>は二本とも固有技能を使えるけれど相手の<聖剣>は使えない。だからこちらに分がある」

 

「……お前もか」

 

「情報は武器なりってね。まあ薄々怪しいなとは思っていたのよ」

 

「大丈夫です、情報手に入れたところで拡散する相手もいません」

 

「一応機密情報だからな。現地人が知ればそれだけで軽く戦争が起きかねん」

 

「分かってる」

 

「じゃあ、後は時期が来るまで待機だ――任せたぞ」

 

「ええ」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




終盤辺りで主人公が死にかけたときに

「待たせたな!」

ってやるための戦力がウォーミングアップを始めました。


次は一週間くらいで本編の続きを投稿できたらなと思ってます。
それでは、感想質問批評など受け付けております


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第七十七話  守護者②

結局定期的な投稿になってしまいました
次の話は実はもう結構できているので、次の投稿は早めになる気がします。
あれもこれもと書いていたら予定していた話にたどり着きませんでした……





お話が全然進まない本作ですがそれでも読んでいただける事に喜びを感じております

それでは第七十七話、どうぞ!


 

 

願いは通じなかったらしい、この世界に神はいないようだ。いや居なかったわ。

 

 

 

「じゃあ、一つ」

 

「なんだ?」

 

「<守護者>ってつまり、職業なんですよね?」

 

「ん? ああ、そういう事か。<守護者>ってのは確かに括りとしては職業になるんだが、俺にとっては称号のようなものだ、と思う。竜種は最初から強大な力を持つから職業は<守護者>が割り当てられていたが、俺は<勇者>としての力が無ければ戦力としては半減する。だから職業は鑑定結果がどうであれ、実質は<勇者>だった。それに、俺に与えられた<守護者>の役割は、今回の再召喚というイレギュラーにおける一時的な割り当てに過ぎない。特例だと考えてくれ。

 

――他に何かあるか?」

 

「その貴族の少女の今後の取り扱いはどうなるのかわかりますか?」

 

「おそらく、どこかの国で生活を始めてもらうことになるだろう。しばらくは護衛も兼ねて俺の元相方が付いているだろうが、いずれはどこかで一人暮らしを始めるのだろうと思う。場所は分からないが、彼女個人の希望には沿うようにすると言っていた。森、という事は少なくともあまり南の方にはいっていないはずだから、案外神国周辺辺りに落ち着く可能性もある。

 

――それを知ってどうするんだ?」

 

「話が正しければ、彼女は、竜種に匹敵する力を持つ人族である、という事ですよね。なら、彼女に魔族との戦争への協力をお願いできないか、と」

 

「……確かに、彼女は雷帝竜の末裔で、先祖返りと言えるレベルの魔導師だ。雷属性の魔法に限るならば、おそらく君達の一員である<魔導師>、確か川島だったか? 彼に引けを取らないレベルの使い手だろう。

 

……ただ、彼女は、言いがかりで反逆罪に問われ、無実を主張しても周囲の誰からも信じてもらえず、処刑されかけている。加えて言うが彼女の両親は彼女の前で殺された。その結果として彼女は軽い人間不信に陥っている。俺と元相方も、かつて<勇者>であったという事実を以て彼女に信じてもらっているような状態だ。いや、信じてもらえてると信じたいところだ。

 

そして何より、彼女は我々と同年齢、未だ一般的な貴族の十七の少女に過ぎない。彼女を戦場へ連れて行く事はあまりお勧めできない。尤もそう言っている俺、そして君達もまた十七の子供であるにも関わらず戦場へ向かう事については何も言えないが」

 

 

 

さらっと息を吐くように嘘をついた。と言っても完全な嘘とは言い切れない。理沙の精神状態は正直俺が今一番恐れている物でもある。幾度となく破滅に至る人生を繰り返し、時には両親さえも敵でしかなかった。何度も十七で殺され続けたという少女の心が、正常な機能を保てるものなのか?

 

俺は精神干渉系の魔法による<システム>からのサポートはあったと踏んでいる。いくら外界から迷い込んできた魂とはいえ、大概なんでも可能な上に進化する<システム>が、不可能をそのまま不可能として置いておくはずが無い。恐らくは記憶を消す際に大まかな形で消しているのだろう。

 

それでもなお、彼女の悪しき記憶が全て消えるわけでもないのだ。女子同士での雑談に花を咲かせていた、俺のつまらない冗談で笑っていた、和食っぽい料理に喜んでいた、その表情に裏がない事を俺は願っている。

 

魔法はイメージだ。今系統付けられているのはイメージしやすくするための後付けでしかない。本来の魔法は、魔力さえあれば位階制限などなく、想像に沿って自由に放てる代物であったと聞く。魔力量の操作はその残滓。今違うのは人族も亜人族も魔族も無意識下で常識が制限をかけているからだとも。

 

竜種は太古より、それこそ位階付けがされる前から生き続けるモノ。ならその力に無意識下の制限など及ぶはずもない。彼等の放つ魔法は、例えスキルが低位階であっても威力は最高位を超える。

 

理性の箍が外れた時に外へ向けてどれほどの力が振るわれるかなんて想像したくもない。少なくとも人の身体が耐えられる代物ではないだろうと、あっさり<賢者>が辿り着いていた。さくらで押しとどめられるようなレベルであればいいのだが。

 

 

 

「積極的に探し、勧誘するのは止めた方が良い、とは思っている。彼女は人族としては強大な力を持つ。だがあくまで一般人だ。下手を打てば<勇者>という権威に脅威を感じる可能性があるからな。<勇者>の権威の強さは君達も良く分かっていると思う。

 

その結果としてどういった事態を招くのか、正直これは俺にもわからないが、いい方向に転ぶ可能性は低いぞ。

 

それに彼女は、魔法と魔力こそ竜種クラスだが、肉体的にはこちらの世界の普通の少女に過ぎない。彼女に何かあった場合の雷帝とかその麾下の魔物への完全なフォローなんて俺でも無理だ」

 

 

 

単純に時間がかかるというのもあるけどな、と続けながら思考を巡らせていく。

 

いや雷帝はとっくの昔に死んでるのでフォローとか要らないし、理沙本人も探しても見つからないだろうから大丈夫なんだが、できればここで理沙の参戦フラグはへし折っておきたい。

 

 

 

「至極個人的な意見としては、彼女はそのままそっとしておく方が良いと思う。まあ、個人的な意見だ、参考程度に考えてくれ。もし君達が彼女を探し、協力を願うというのならそれでも構わない。それならば俺が彼女を全力で守るだけの事。それでなお雷帝あるいはその麾下にある魔物が怒るようなら俺も雷帝の知人として、今代<防衛者>代理として、最善を尽くそう。どうするかの選択は君達に託す。俺は代理人だからな」

 

 

 

絶対起きないと分かってる事なので軽々しく約束させてもらった。いやあ良く回るね俺の舌。しかも最善を尽くすとしか言ってない辺り責任逃れし過ぎにも程がある。

 

まあ俺がペラペラしゃべったことを全部事実とするなら、攻撃される事はないと分かってるだろうから別に構わないか。

 

 

 

<賢者>スキルがあると長文を考えながら話すときでも吟味しながら話せるから、嘘をつく時に便利だ。とはいえこれがある状況に慣れすぎると攻撃を受けた時なんかに低レベル<防衛者>としては不自然になるから意識しておかないといけない。

 

 

 

「他に質問は?」

 

 

 

黙り込んだ<勇者>に問いかけてみる。応えはない。

 

勝った。とはいえ後で設定を覚えておかないと詰む。

 

 

 

『最後の台詞必要だった?』

 

『ああ、だってこれは彼等自身や外部要因が捻じ曲げたとはいえ、あくまで彼等の旅路なんだ。今の俺の介在は特例で、俺の立場はただのアドバイザー。俺達は外部者なんだから、ちゃんと責任は彼等自身にとってもらわないといけないだろ』

 

『責任取りたくないだけなくせして』

 

『まあね。とはいえ、俺の存在によって、少なくとも人族領にいる間は身の安全が保障されるんだ。想定外選択肢を取らない決断の責任なんて安いものだろう。ギブアンドテイクって事で』

 

 これは突然降って湧いた選択肢である。彼女の力を借りる事は、最初の想定には無かったから、必須戦力であるとは言えない。<勇者>仲間の負担の軽減になるという若干の感情が混じる理論は彼女の悲惨な境遇というさらなる感情論を以て封殺した。

 

あとは完全に冷徹な戦力論からの考えから詰めるくらいだが、さて。平和国家を自称する現代日本で教育を受けて育った<勇者>達はその考え方を許容できるかな。

 

無理だろな。

 

 

 

「……いや。教えてくれてありがとう」

 

「まあ、情報提供は厄介ごと押し付けた詫びだとでも思ってくれ。まさか<勇者>に噛みつく人間がいるとは思わなかったのでな。それで、今のところ彼女についてはどうするつもりでいる?」

 

「今のところは、積極的に探す事はしない事にするよ」

 

 

 

勝った。

 

 

 

『勝ったわね』

 

「そうか、わかった。じゃあ、とりあえず、移動しようか。行き先は城か?」

 

「ああ」

 

「了解。ああ、あと、<魔導師>か。手間かけさせて済まなかったな」

 

「……気付いていたのか」

 

「こんなところで長時間話してるのに人影が無いとか不自然にも程がある。消音系と人除けの類でも張っているのだろうとは予想出来る。これはこんな所で出待ちした挙句にそこそこ重要な話を始めようとした俺の責任だ」

 

 

 

まあ張った事に気付いてたから<守護者>関連の話を垂れ流せたわけだが。

 

<勇者>としてそれなりの成長を遂げ続けているという事なのだろう。

 

世界誕生祭は彼等が<勇者>として召喚されてから、確実に長く市井に身をさらけ出す期間である。向けられる注目が鬱陶しくて結界を張る事にしたのだろう。

 

 

 

「なんとなく目的も理由もわかるが、ほどほどにしろよ。実情がどうであれ、君達は今、この世界の人族にとっては救世主そのものなのだから、あまり姿を隠し続けるのは得策じゃない。視線が鬱陶しいのは分かるがな。行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上です。



<賢者>は優秀。下手な嘘をつけば一瞬で見抜かれてしまいます。



それでは、質問感想批評など、感想欄にてお待ちしております。


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第七十八話  すり合わせ

夏休みって、曜日感覚消えますよね……

昨日が土曜だと思ってました、そんなわけで更新遅れてます……

相変わらず議論こねくり回してますがどうぞよろしくお願いします


それでは第七十八話です、どうぞ


 

お風呂は良いね。なんかこう、良いね。疲れを洗い流せている感じが素晴らしい。この世界にお湯のお風呂という概念を持ち込んだ聖人に拍手。

 

頭を洗い、身体を洗い始めたところで隣に人が来た。

 

 

 

「……あの、すみません」

 

「ん? ああ、確か……高山君だったか。何か話でも?」

 

 

 

一瞬顔だけ向けた。身体洗うのは続行。

 

 

 

「いくつか、気になる事があったので」

 

「いいよ。<賢者>ならばあの話も全て理解できているだろうとは思っていたからね。俺が答える事が出来る範囲内であれば答えよう」

 

「……公国との戦場で会った時の、『いつか分かるだろう』という台詞の意味、昼に言っていた事は、嘘ではないのですか?」

 

 

 

【悲報】嘘がバレた。

 

 

 

「嘘だよ」

 

「え?」

 

 

 

だとしても問題はない。さらなる嘘で塗り固めよう。時間があったのに何も対策をしていないわけがない。俺は失敗が何より嫌いな臆病者。備えあれば憂いなしってね。

 

 

 

「ちなみになぜそう思ったんだ?」

 

「何か、うまく説明はできないのですが、取ってつけたような気がしたもので」

 

 

 

<直感>か。

 

 

 

「だろうな。あれは<守護者>に関してある程度納得させるための物だ。といっても実際、嘘ではないんだ。<勇者>がどうにも立ち行かなくなった時、<守護者>は手を差し伸べる。<守護者>は女神の直属部下のような物であり、世界を守護する者。彼らにとって<魔王>は絶対的に敵であり、<勇者>は基本的に味方だからな」

 

「……彼らが直接的に動かないのはなぜでしょうか?」

 

「彼らは本来、外、あるいは神に対する守りだ。だから強大な力を与えられている。それに彼らは普段、自分の縄張りの魔物をすべて統制しているのでね、中々自分の持ち場を離れるわけにはいかない。例えば<勇者>がヤバいとかそんな状況でもない限りは」

 

「では、いずれ分かるという言葉の真意は?」

 

「……少し長くなるな。良ければこの後個室で話そう。ほかにあるか?」

 

「いえ、その時にまとめて聞くことにします」

 

「部屋の場所は……わかるか。じゃあまた後で」

 

 

 

さあ浴槽に浸かろう、あそこが極楽だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ説明をしようか。俺が言った『いずれ』、この言葉が指すのは実はそこそこ先の時系列になる。」

 

「先?」

 

「この戦争、つまり魔族と人族の戦争が終わった後、の話になる」

 

「この戦争が、終わった後……」

 

 

 

何かを噛み締めるように呟いた言葉を回収するように続ける。

 

 

 

「おとぎ話なら、魔王を倒してめでたしめでたしだが、現実ではそうはいかないのはわかるだろう? 待てよ……お前達は、元の世界に帰る方法とか聞いたりしているか?」

 

「ええ、なんでも<魔王>を倒せば力を貸していた<魔神>も弱り、女神様の負担が減るからその権能を使って、と」

 

 

 

なるほど。ならば。

 

 

 

「その通り、我々は女神様の力によって、元の世界に帰ることになる。つまりだ、俺達が元の世界に帰る時期は女神様の考えに依存する。それは<魔王>を倒してから一週間かもしれない、一か月かもしれない、あるいは一年以上かもしれない。実際に俺が召喚されたとき、<魔王>を打倒してから帰還までには一年ほど掛かっている」

 

「一年……」

 

「まあ、俺が召喚されたとき、人族はかなり追い詰められていたが、今回はかなり早い段階での<勇者召喚>を行ったようだからな。おそらくそこまではかからないと思うが、なんとも言えない。

 

そして問題はここからだ。<勇者>というのは人族側の<魔王>に対するカウンターだ。女神様は<魔王>に対抗するという名目の下に世界の外から力を呼び込む。<魔王>が打倒されたとき、その存在意義は無くなってしまう。つまり強大な力が意味も目的もなく、この世界に存在する事になってしまう。

 

そのまま放置するのは大変よろしくない。という理論に基づき、<守護者>が動き出す。つまり知恵と強大な力を備えた竜種が、外側からやってきた強大な力を排除するために、動き出す。これは本意不本意関係なく、<守護者>としての義務だ。『世界そのものからの強制力』、あるいは自浄作用と言い換えてもいいかもしれない。

 

ただそれは恩知らずにも程があるだろう? だからすでに存在意義を失った、<魔王>に対応すべき<勇者>から、別の職業へ、いわば『転職』させる。その先が<守護者>だ」

 

「その時が『いずれ』、ですか?」

 

「そうだ。まあ、随分先の話だろう? 今の目標を達成した後の話だからな。それで、他に何かあるんだったか?」

 

「ええ。竜種、あるいは<守護者>について、です」

 

「俺もそこまで多くを知っているわけではないぞ、彼らと親交はあったが……」

 

「氷帝竜についてです」

 

 

 

あっ。待って。

 

 

 

「氷帝……水属性を極めた竜種、か。それが何かあったのか」

 

「その……私達が召喚されてから少ししてからの話なのですが、氷帝竜が突然、襲撃してきて、良く分からないことを言っていました」

 

「氷帝竜……クトゥルフが? なるほど、何を言っていたんだ?」

 

「『現在貴殿等の必要とされる事態は発生していない。よって送還魔法による元の世界への帰還を勧める。その際に必要であれば我らも力を貸そう』、だったはずです」

 

 

 

流石<賢者>ほぼそのまんまだよ。

 

 

 

「……他には?」

 

「そのあとに続けて、『現時点において異世界より<勇者>の素質ある者を召喚する必要性のある事態は何一つとして発生していない。我らは必要以上の争いを好まぬ』と」

 

「……何?」

 

 

 

さてこの状況下で先代<勇者>かつ<守護者>として正しい判断は……。

 

 

 

「本当にそういったのか? アイツが? アイツ自身の意見として?」

 

 

 

クトゥルフがそう言ったという事実を疑う事だ。

 

 

 

「あ、いえ、最初の言葉は、確か……シソ竜?」

 

「始まりの始祖だな。竜を束ねる始祖竜からの伝言、か?」

 

「あ、はい」

 

「そう、か」

 

 

 

さて長考ターイム。<守護者>として知っている事と、クトゥルフの台詞をすり合わせていく。国崎啓は何を知っていて何を知らないか。

 

 

 

「……ちなみにそれに対して君達はどういう反応を?」

 

「受け入れられるわけがない、と言いました、実際に魔物による被害が出ているのなら、<勇者>である自分達が見逃すわけにはいかない、と」

 

「全員がそれで一致したのか?」

 

「……いいえ、神崎と内山だけは氷帝竜の提案に従うと言いました」

 

「そのあとは?」

 

「氷帝竜は一週間後にまた来ると言って去りました」

 

「……そうか。という事はその一週間後が来る前に、神崎君とやらと内山さんとやらは死んだわけだ」

 

「……はい、そうです」

 

「タイミングが良過ぎるな……そういえば、国の人間は、氷帝に対しなんと?」

 

「……その、竜種は魔物の一つだから、甘言に乗ってはいけないと」

 

「……なるほどねぇ……」

 

 

 

そう見えるのも不自然ではないものなぁ。

 

 

 

「……しかし、竜種が<守護者>あるいは人の味方であるとするならば、なぜ氷帝竜はあのような事を……?」

 

「それは簡単だな。<勇者>が必要な事態は発生していない、つまり<魔王>が出現していなかったのだろう」

 

 

 

すり合わせ完了。

 

 

 

「え?」

 

 

 




頑張れ主人公、この世界の命運はあろうことか君の双肩にかかっている!

質問感想批評などお待ちしております。


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第七十九話  正解ではない解説

お久しぶりです、前回の投稿からなんと一か月以上経ってます、つまり一回投稿をすっぽかしてます。

一応理由は二つ、後書きの方に載ってます、前書きでは謝罪のみにとどめておきます。

投稿が遅れて申し訳ございませんでした。



前回、<賢者>の説明により、表面上状況のすり合わせが完了した主人公、解説を頑張るらしいです。
それでは第七十九話、どうぞ。


「<勇者>の役割は言ってしまえば世界にとっては<魔王>という魔族側の最大戦力及びステータスが人族を上回る魔族全般に対する調整、ただその一点に尽きる。<魔王>を倒した後となれば女神様でさえ、『転職』という誤魔化しを使わないと維持が不可能となっている。

 

つまり、竜種が来てそういったという事は、<魔王>と言える程の強さを持つ魔族が存在しないという事に他ならない。目的もなく<勇者>という強大な戦力が存在している。ついでに言えば<防衛者>もな。単純に見れば<勇者>がかなりの脅威だが、世界あるいは国家のバランスブレイカーという点においては<防衛者>程の存在もいない。外界からの脅威に対抗する<守護者>が動くには十分すぎる。

 

ただし、<勇者>として呼ばれた、という事は少なくとも女神様は許可を出された、という事になる。世界・時空を超えた魔法行使は神の領域に片足突っ込んでいるのでな。それに、召喚されてすぐの<勇者>は言っては何だが弱い。

 

この世界を守る<守護者>のトップでもある女神様が、外界から滅びの原因にもなり得る力を目的も理由もなく召喚するわけはない。しかし看過するのは<守護者>としてはどうか。何かしら対処は必要だが、突然召喚された君達とて被害者でもある。

 

ゆえに<送還>という話になったのだろう。<送還>――つまり外の世界の存在を元の世界に戻す魔法だが、その魔法陣だけであれば俺でも書く事は出来る、竜種でも可能だろう。

 

俺では魔力量が足りず発動させる事は出来ないが、竜種であれば、特に始祖竜が決断を下したのであれば、竜種の総意と考えていい。魔力量は十分だろうし女神様も無視はできない。それ相応の理由があるなら発動時に説明がなされるだろうしな」

 

 

 

あ、話題ずれちゃった。

 

 

 

「<魔王>が出現していない……?」

 

「ああ、それはほぼ確定だ。竜種はおそらく<守護者>、つまり女神の直属として動いていた。間違いなく、嘘でも誤報でもない」

 

「でも王国の人達は」

 

「ああ、語弊があったな、『出現していなかった』、だ。おそらく今は居る。とはいえ王国の人々が嘘をついたというわけではあるまい。彼らにとっての魔王を、彼らは見たのだろうよ。

 

魔族は人族よりステータスが全般的に優れる。そのうえ魔族領の魔物はこちらより強く、多い。つまりそれを相手にしている魔族のレベルもこちらより上だ。そういう連中の親玉だ、人族がまともに太刀打ちできる相手ではない事は変わらない。だがまともでなければどうにかできる程度ではある。

 

つまり王国の人々が見たのは、あるいは知っているのはそういう者なのだろう。どちらにしろ一般人では力の違いなぞ分からないだろうが。

 

ああ、なるほど、合点がいった。<勇者>が召喚されているにも関わらず各地にそこまで大きな被害が出ていなかったのが不思議だったが、そうか、そのおかげか」

 

 

 

あ、一人で納得しちまった。

 

 

 

「待ってくれ、どういうことだ、魔王は魔王なんじゃないのか」

 

 

 

絶賛混乱中か。

 

 

 

「魔王は魔王だ、それは変わらない。人より強く、闇属性に長けた種族の王だ。俺が昔……倒したのも魔王だし、君達が将来倒すべき敵も魔王だ」

 

 

 

しかもロリだ、喜べ。いやそうじゃなくて。

 

 

 

「何といえばいいか……魔王にも種類があるという事だ。実を言うと、大抵の、平均クラスの魔王であれば、この世界の人族・亜人族でどうにかなってしまうらしい。とんでもない被害が出るらしいがな。これも魔族の王、という意味で魔王だ。おそらく王国の人間が魔王と呼んだのはこれだろう」

 

 

 

魔法に長けたエルフなどが後衛、肉弾戦に長けた獣人が前衛、人族はサポートがメインだが、人によっては主力や補欠に混じる事も出来よう。

 

 

 

「ただ、ある時、理由は不明ながら恐ろしいほど強大な力を持った魔王が現れた。魔神が手を加えているのか、単純な突然変異か、別の生物学的理由か、おそらくは後者だが。まあ理由はともあれ、人族や亜人族では手の届かないようなレベルの強さの魔王が出現した。ゆえに女神は外の世界から来た人間に力を付与し<勇者>となし、魔神と

戦う自分の代理として魔王と戦わせる事にした。

 

俺、あるいは氷帝などの<守護者>が特に<魔王>と呼ぶのは、この種類の個体に限られる。世界の条理から外れるような理不尽な力を持つ個体。まさしく我々異世界人がゲームなどから考える魔王像そのもの、そうだろう?

 

基本的に、人族のいるところに侵略してくるときの魔王はこのタイプであるらしいが、今回は違った、という事なのだろう。俺はともかく、<守護者>の連中は基本的に自分のスケールで物事を考えるからな。人族サイドではあるが、人族とは物差しが根本的に異なるが故の物言いだな。

 

一般人から見れば、どうにかすれば打倒出来るのか、あるいは外からの力が要るのか、なんて違いは分からない。どちらも彼らにとっては脅威には変わらない」

 

 

 

つまりはまあ、何だ。

 

 

 

「分かりやすさを求めれば、最終的には『その魔王の対処に<勇者>が必要か否か』という話になる。

 

忘れてはいけないのは、我々とて、『この世界』にとっては『異分子』でしかないという事だ。例えるならば、劇薬だな。扱いを間違えば毒にもなりうる薬品だ。できれば使いたくないが、使わなければ世界そのものが滅びる。

 

<勇者>が必要な事態、<魔王>とはつまりそういうものだ。そしてどうも今回は、途中からそういう個体が出現したらしい。現実はおとぎ話ではないのでな、そういう事もあり得るのだろう。

 

この流れであれば、王国の人間が嘘をついていない事と氷帝竜の言動に矛盾は無くなる。王国の人間は自分の判断によって女神、ひいては<勇者>に縋ったにすぎず、氷帝は自らの義務を若干曲げてはいるが全うしようとした。どちらにも悪意は無い。

 

疑問は解決したか?」

 

 

 

まあこれは正解じゃないんだけども。

 

 

 

「……はい」

 

「他にはあるか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「なら良かった。ああ、俺からも一つ質問して良いか」

 

「なんです?」

 

「<防衛者>と<支援者>は、なんで氷帝に同意したのかとか言ってたか?」

 

「あぁ……えっと、氷帝の発言、それに元の世界に戻った時の事を考えてと言っていました」

 

「……なるほど。分かった。ありがとう」

 

「いえ」

 

「……もう若干遅い時間帯だな、そろそろ部屋に戻った方が良いだろう」

 

「ありがとうございました」

 

「気にするな。おやすみ、良い夢を」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 




以上です。

今回もほぼ説明回でしたね、一応次回からゆっくり動き出します。

投稿が遅れた理由は箇条書きします
・自動車免許の勉強をしていた
・PCがwifiを拾わなくなった(サイトに一切アクセスできなくなった)

現在では既にどちらとも解決済です、同時に学校が既に始まってるので投稿ペースが上がる事はないです……orz

今後もどうにかこうにか最低でも一か月に一回は更新していきますので、読んでいただければと思います。

最後になりますが、感想批評質問などありましたら感想欄へよろしくお願いします。


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第八十話  王女殿下

二週間ぶりです、どうも。

もう八十話ですね。

内容はタイトルからもう察してください。

勇者に休みなどなかった。

それでは第八十話です、どうぞ!


賢者を帰し、廊下の角を曲がったのを確認する。そして呟くように言った。

 

 

 

「さて、もう大丈夫だと思いますが」

 

「……なぜ?」

 

 

 

何もない虚空から声が聞こえた。

 

 

 

「その問いかけはなぜ分かったのか、という事ですかね。<防衛者>には自分の周囲を警戒する魔法があるんですよ。今度はこちらから質問してもよろしいでしょうか、()()殿()()。なぜこんな時間に私の部屋にいらっしゃるのです?」

 

「それは……」

 

「――失礼、誰か来ます、部屋の中に入っていただいても?」

 

「え、ええ」

 

「ではこちらへ」

 

 

 

「さて、改めまして。こうして言葉を交わすのは初めてですね。初めまして、先代<勇者>、ケイ・クニサキです。お茶も出せませんがご容赦ください」

 

 

 

透明マントのような、自己を透明化する類の魔道具を使用していたらしい。部屋に入ってすぐ、何もない虚空から王女が姿を現した。どうでもいいが簡素なドレス姿だった。

 

 

 

「お初にお目にかかります、先代<勇者>様。私はシルファイド王国第一王女、シルフィアーナ・シルファイドと申します。このような場でご挨拶申し上げる無礼をお許しくださいませ」

 

 

 

どうしよう、敬語で対応したらそれを上回る敬語で返された。対応に困る。

 

 

 

「……あまりへりくだる必要はありません。私は確かにこの世界で千年前に<魔王>を打倒しましたが、今は女神様の下令によって<防衛者>の代理として動いている身。普通の<勇者>と接するように接していただいて構いませんよ。個人的にそういった扱いは疲れますし」

 

「……ではクニサキ様とお呼びします。私の事はどのようにでも」

 

「ではシルフィア殿と呼ばせていただきます。時間も遅いですし、本題に戻りましょうか。なぜ私の部屋に?」

 

「……クニサキ様が、<勇者>の御力を使われたとお聞きしました」

 

 

 

なるほど、それか。

 

 

 

「ええ、女神様に無理を承知で祈願したのですが、なぜか快く聞き入れてくださいまして」

 

「その御力、どうか人族のために振るっては頂けませんか?」

 

 

 

そう来るよなぁ……うん、こっから気を抜けない。結論をどう持っていくにしても、だ。

 

思い悩むふりをしながら、背中に隠した左手と<警戒地点設置>でシステムウィンドウを操作、<特務管理者>権限から俺自身のスキルのうち<自動翻訳>系のスキルを全カット。

 

ここから先は全部現地言語だ、俺の言語力と表現力が試される、と言いたいところだが俺だけとかどうやっても地雷を踏んでしまいそうなので、助っ人を使う。

 

 

 

『というわけで校正よろしく』

 

『了解。方向性は全部任せるわ』

 

「……えぇ、私もそれが叶えばどれほどいいだろうと、何度も思いました」

 

 

 

ゆっくりと話し出す。

 

 

 

「なら!」

 

「落ち着いてください。それが出来ないのです。私とて、全てが自由にいくわけではない。私自身、本来は今この世界にいて良い存在ではない事をご理解ください。全てが偶然の事故とはいえ、<勇者>の、それも一度<魔王>を打倒するに至った<勇者>の力は、自由にするには大きすぎるのですよ。ゆえに私には私も同意した上で、女神様によって枷を掛けられた状態です」

 

 

 

理由以外は事実だ。<勇者>の力は二人分も要らないし、今代の<勇者>は<正義>だ。

 

 

 

「それは……どうにか、どうにかできないのですか!」

 

「私ではどうにも」

 

 

 

残念そうに首を振る。<システム>の掟は俺一人でどうにかできるもんじゃない。別にさくらが居てもグラディウスが居てもそれこそ<正義>に朱梨先輩を加えたところでどうにかなる問題でもないが。

 

 

 

「そんな……わ、私に出来る事ならなんでも――」

 

「そこまで」

 

「はい?」

 

『あら、美少女の『なんでもするから』って聞きたくなかったの?』

 

『この文脈で聞かされるとは思わなかった。っつーかこの状況で聞いてどうすんだ』

 

『おいしく頂かないの?』

 

『んな事するか馬鹿』

 

『じゃあ早目に取り繕いなさいな』

 

「失礼。ですが、『自分に出来る事なら何でもする』というのは、あまり軽々しく口に出して良い言葉ではありませんよ、特に王女殿下、貴女のような人は特に」

 

『随分と優しい事。まさか狙ってるの?』

 

『お前これでOK出しただろ』

 

『私は校正だけだし? 外見に沿ってるからねぇ。でも巧く捌いてね』

 

『ですよねー』

 

「それはどういう……?」

 

「ご自分でお考え下さい、自分がいまどんな状況でどこに誰と居るか、とかを特に……話を戻しますが、私の枷についてはどうにもなりません。先ほど<賢者>にも同じ話をしましたが、簡単に説明しましょうか」

 

『うわさらりと流しやがった』

 

『任せるっつったじゃねーか……なあ、さっき話したこと交えて良いか?』

 

『どれ?』

 

『魔王未出現の召喚』

 

『んー……まあいいわ。ちゃんと巧く纏めてよ、何かあったらこっちで弾くから』

 

『了解』

 

「<勇者>というのはこの世界において基本的に異物です。当然ですね、この世界の法則に従わない、外の世界から来た人間です。だからこそ<勇者>の力を与える事が出来るわけですが、その力で好き勝手される事は許容できないでしょう? ゆえに枷を嵌めるわけです。

 

最初私がこの世界に来た時、私ともう一人、かつての<聖女>はどこかの森にいました。召喚されたことは把握しましたが、其れ以外は何もわからなかったところに女神様から神託が下りました。

 

『理由は不明ながら再召喚されたようである、現時点で<魔王>は存在しない。排除されるか送還されるか留まるかを選べ』と。排除されるのは御免でしたが、送還されるのも腑に落ちませんでした。

 

女神様が、()()()()()()()()、と。明らかに異常でしょう? しかも今代の勇者は別の国で召喚済みであると。留まって万一の役割と調査役を果たそうかと思い、留まる事にしました。

 

女神様は、自分がどれだけの苦行を私達異世界人に託しているか良くご存知です。ですからこの世界に留まると決めた私に枷を嵌めるときも、私に同意をお求めになった。これは信頼の証です。女神様は私がそれを拒まない事、つまり私が<勇者>としての任を解かれてもその力を自分のために世界を荒らすような事に使わない性質である事を信頼なさっている。

 

であれば私はその信頼を裏切るわけにはいかない。最初の選択は間違いなく自分の判断です。だから私はこの状況に甘んじるしかないのです」

 

『……まあよくも次から次へとそんな話思いつけるわね?』

 

『なんでだろうなぁ』

 

 

 

俺が知りたい。

 

 

 

「今の私は殺された<防衛者>の代理。<防衛者>として全力を尽くす事は確約しましょう。それに前回召喚されたときの知識は残されたまま、これも何かの役には立つでしょう。それでは不足でしょうか?」

 

『鬼かおのれは』

 

『巧く纏めろって言ったじゃんか』

 

「……いえ、無理を言って申し訳ありませんでした」

 

「お気になさらずに。取れそうな手段はとりあえず取ってみるというのは私にも経験がありますので」

 

『修行デスマーチ?』

 

『何だその名前は』

 

「さて、時間も時間です。必要であれば途中までなりともエスコートいたしますが……」

 

「いいえ、ここは城内です。私に手を出すような不届き者があるとは思えません。それにこれもありますので」

 

「……なるほど、透過の衣ですか。では、おやすみなさいませ、いい夢を」

 

「ありがとうございました、失礼いたします」

 

『お疲れさまー』

 

『……こんな時間に協力ありがとな』

 

『これくらいならお安い御用。後で何か奢れ』

 

『お安い御用じゃねえのか』

 

『値段は気にしないから安いでしょ』

 

『そうじゃねえだろ……いいや、了解、お休み』

 

『お休み』

 

 

 

 

「楽しいな」

 

 

 

 




以上です。


感想批評質問などあれば、感想欄にていつでも受け付けております。お気軽にどうぞ。


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第八十一話  作戦会議

一日遅れですが更新です。

毎度ながら読んでいただき誠にありがとうございます。

今話においては視点変更があります。

第八十一話、どうぞ。



「――つまり、今回の遠征で北方への侵略は無くなったと考えていいと?」

 

「確信は無い。ただ、南方の報せを受けて派遣した王都への部隊を潰走させ、ほとんど時期を置かずに北方への侵略部隊の先鋒を叩き潰した。つまり、こちら側がそれなりの機動力と戦力を併せ持った存在であると誇示できた。対応するにはどうする?」

 

「二か所への同時攻撃か、一か所に大戦力を集中して叩くか、の二択ですね?」

 

「そうだ。それをもう一度行うのに一番手っ取り早いのは南方だ。スルヴェニアのさらに南、亜人族の勢力圏には既に侵略を開始したまとまった戦力が存在するはずだから再編と応援を送り込むだけで良い。

 

 連中が欲しいのは、速さだ。時間を置けば置くほど<勇者>は強くなる。だから強くなる前に叩いて勝利を確実なものにしたい。王都への先遣隊がそれだったが、まあ俺の介入もあって殲滅に成功した。

 次いで北方への先遣隊を叩いた。つまり、既に<勇者>がその程度の戦力では抑えきれない事を意味している。であれば、次はそれに加えて<勇者>の成長度合いを見積もった大戦力を送り込む必要があるが、それには時間がかかる」

 

「時間をかけるのはこちらに利があるだけですね」

 

「なら選択肢は一つだ。南方へ増援を送り込み、陣地を整えて、過大なほどの戦力を以て<勇者>を討つ。これが最良だろう。どういう状況になっても<勇者>が健在であれば連中は警戒し続けなければならないからな」

 

 

 

かつて、たった一つの小さな国以外が占領された状況において、道を切り拓いた<勇者>が居た。

 

かつて、人族に残されたのは二つの国のみ、健在な都市は六つという絶望的状況を、ひっくり返した<勇者>が居た。

 

前者の記録は恐らくないが、後者の記録は残っている可能性が高い。彼らに相対した魔族の敗因は、時間をかけてしまった事と、<勇者>を侮り、各個撃破を招いた事だ。どんな状況であっても、<勇者>が居る限り、必ず逆転される。

 

 

 

「逆に言えば、それは我々にとって最悪だ。だが俺が今思いつく手段は限られる上にどれもかなりの危険を伴う。何か案は無いか?」

 

「……今から南下すれば間に合いますか?」

 

「微妙なところだ。北方先遣隊が壊滅した事、加えて我々が今もう既に王都にいるという事が相手の本丸に伝わるのにどれくらい時間がかかるか分からないからな。

冒険者組合には物質転送装置があると聞くがおそらく今回潰走した部隊は持ってなかった可能性が高い。一種の偵察部隊に近いからな。となると新しく偵察任務専門の部隊を送り込みそれが目的地に着くまでと、目的地での偵察が終わって戻るか報告を届けるかするのに時間が要る。

 

 南下が間に合えば相手の先遣を潰し経験を積んだ上で本隊を迎え撃つ各個撃破が可能だ。間に合わなければあまり強くない状態で敵に立ち向かう必要がある。一戦程度であれば俺が守り切れるがその後は……いや、そうか、分からないなら聞けばいい」

 

「誰にです?」

 

「石縄、だったか。彼女が確か、<巫女>だっただろう。彼女の力を借りて、女神様に聞けばいい。<勇者>の一人にして<巫女>である彼女なら女神様に直接尋ねる事が可能だ」

 

 

 

女神に直接能動的にコンタクトを取れる稀有な存在。それが召喚者である<巫女>。

 

女神の視界は人族のある世界全て。時間も空間も関係なく、この世界の人族領の事であれば大抵の事はつかめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「女神様に、ですか?」

 

「ええ、そうです」

 

「内容は?」

 

「私達がこれから南下した時の魔族軍の動きについて、です」

 

 

 

間に合うかどうか、ではなく、魔族軍の動きについて。

 

 

 

「……わかりました。では」

 

「ああ、よろしく――よし出るぞ<賢者>殿」

 

「え?」

 

「<巫女>が神託を求めるには儀式が伴うんだ、<巫女>一人だけのな。基本的にはどこでもできるが『部屋の中に一人でいる』事が絶対的な条件の一つだ。扉の外で結果を待とう」

 

「わ、わかりました」

 

 

 

 

 

「……詳しいですね。確か貴方がかつて<勇者>として召喚されたときは<巫女>は」

 

「ああ、いなかった。代わりに、と言っていいか知らないが、俺が<巫>という称号を持っていた。何度かその力も使った事があるんでね、本職ではないが一応何をするかはわかる」

 

 

 

ん? そうか、前説明したのは<巫女>にか。

 

 

 

「本職の神託の儀式を間近にするのは俺も初めてだ。俺の時以上なら、腰を抜かさないように身構えておいた方が良いぞ」

 

 

 

少し笑いながら冗談半分に告げておく。

 

儀式はそこまで長くない。祈りの言葉は二文だし、時間のかかる魔法を使うわけでもない。『女神』の応答に若干の誤差が生じるが、全体として短時間で終わる、だから。

 

 

 

「身構える、とは一体……っ! これは……」

 

「女神様直々の降臨だな」

 

「この巨大な気配が……?」

 

 

 

風が吹いたわけでもなく、拳が飛んできたわけでもない。しかし反射的に腕を顔の前に構えてしまうほどの圧力。扉を一枚隔てているというのにこの存在感。まさしく人ではありえない。

 

『女神』――正しくはその分体の化身――がその圧倒的な力と共に顕現したのだろう。この周囲全てにふりまかれる威圧感は、儀式実行者以外の全てに降り注ぐ。神託を受ける間は基本的に実行者が無防備になる。その時に危害を加えられるのを防ぐためだ。

 

 

 

「……これは女神様のその巨大な力の一端に過ぎない。言っただろう、神と呼ぶにふさわしい力の持ち主が居るのだと」

 

 

 

聞いた話ではこんな感じで呼ばれたときに派遣される分体は、大体レベル200を超えた<勇者>でどうにか戦いと呼べる外見に持ち込める程の力を持つ。つまるところ全力の俺が十秒打ち合えるかといったところ。今の段階の<勇者>達からすれば圧倒的な存在だろう。

 

 

 

「これだけの力が一端……」

 

 

 

まあ基本伝令以外の能力は無いらしいが。ただ存在そのもので威嚇するためだけにこれだけの力が付属している。

 

 

 

「さて、吉が出るか凶が出るか、賭けの結果はどっちだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

威圧感が去った後、扉をノックし許可を得たのちに入室した。若干気分が悪そうだったが、まあ無理もあるまい、レベルが低いのに女神の分体を呼んだのだから、多分魔力はかなり持っていかれただろう。

 

 

 

「結果はどうでした?」

 

「一週間以内に出発すれば、ある程度余裕を持った日程でも、私達が南方の亜人族領域に到着して一週間は大きな動きは見られないそうです。それ以降の保証は出来ないと」

 

 

 

まあそんなものか。逆にいえば最短で動ければ数日の余裕が上乗せできることになる。その一週間プラスアルファで南方の魔族軍を可能な限り叩き潰せばいい。

 

 

 

「ただ……」

 

 

 

ん?

 

 

 

「南に行くとき、<勇者>と<防衛者>指名で、厳重な警戒を怠るなと。命の危険がある、とおっしゃってました」

 

「命の危険……勇人と国崎君限定で、ですか」

 

「はい。他の人にも警戒は怠るなとは出ていましたが、二人だけは特別に何かあるようで」

 

「分かりました、勇人には後で伝えておきます。国崎君は……」

 

「肝に銘じておこう、しかし命の危険、か……」

 

 

 

分体呼んでそこから俺の話が出てきたって事はやはり<システム>は現状を黙認して、<管理者>連中にも軒並み伝わってるな。その上で何も突っ込みはお咎め無し。

良くないんだろうけどわくわくするんだよな。さて、その危険とやらをどう捌こうかね。

 

 

 

「では今日はこれで。もし他に何かあったらまた来ますね」

 

「はい」

 

「では」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

扉が閉まり、二人の姿が見えなくなる。さらに展開した<周辺警戒>で二人が間違いなく遠ざかっていったことを確認。

 

 

 

「……っはぁ、はぁ」

 

 

 

詰まっていた息を吐きだすと同時に全身から緊張と力が抜け、思わずその場に座り込んでしまった。隠し通せただろうか。

 

 

 

『いいえ、それは存在しません』

 

 

 

それは興味本位の問いだった。

 

 

 

『なぜなら彼女は()()()()()()()()()です』

 

 

 

彼に悪意があるとは信じがたい。

 

 

 

『……先代の<勇者>達の名前は――』

 

 

 

勘違いだと信じたい。同姓同名の別人で、あの二人には何の関係も無いのだと。

 

 

 

だって彼はその名前に聞き覚えがなさそうだった。

 

そんな偶然が存在するはずがない。

 

 

 

必死に積み上げた根拠は、しかし頭の中に居座る考えに否定された。

 

それが真実であると、『天啓』が無慈悲に主張し続けていた。

 

 

 

 




以上です。

感想いただけると創作の励みになります。
質問いただけるとテンションが若干上がります。
評価していただけると泣いて喜びます。
(露骨なクレクレ)



今後とも本作をよろしくお願いいたします。
11/12 加筆


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第八十二話  慣らし

レポート多すぎて死にかけてました、生きてます。

更新一回分すっ飛ばして申し訳ありません。










「じゃあ、全員連れて行くのか?」

 

「いいえ、佐々木君は残るそうです」

 

「……<鍛冶>か。ああ、弟子入りをしていたか。しかし一人残すのは少し心配だが……」

 

「どうしても残ると言うので、一応騎士団には話を通してあります」

 

「それだけでは不安だな。彼がここにいる間に<防衛魔法>を渡しておこう。少なくとも単独でも自分の身は守れるはずだ」

 

 

 

そういう時のための<防衛任務委託>だ。

 

 

 

「分かりました、彼についてはお願いします」

 

「出立は結局いつにするんだ?」

 

「五日後、元旦、じゃなくて世界の始まりの日にします。ちょうど佐々木君もその日に戻るそうなので」

 

 

 

まあまあ余裕がある。まあ今回は救援要請があったわけではないし、人数も多い。可能な準備は済ませてからという事だろう。町もお祭りムードでお見送り、タイミングとしてはちょうどいいか。

 

 

 

「じゃあそれまでに渡しておく。あと、今日の夜、篠原と話すべきだな」

 

「……神託の事ですか」

 

「ああ、名指しで警告を受けたとなっては何かしら考えられることは考えておくべきだろう」

 

 

 

いやしかし何があるんだろうね。聖剣はともかく防御よりの<勇者>にして<防衛者>でもある俺にもわざわざ名指しで警告が来るとは。

 

逆か? 俺だから警告が来たのか? だとすると相手はよほどの手練れか。それとも『俺達』の敵か。まあ強くなくても搦め手かもしれない。常時狭い範囲で良いから<神楯>か<周辺警戒>を展開させておく必要があるか。

 

 

 

「そうですね。では今夜、自分の部屋でどうでしょう」

 

「了解した」

 

 

 

さて、夜まで暇ができた。

 

 

 


 

 

 

今の俺は<防衛者>だ。<勇者>の力は現在女神に渡された腕輪によって封じられ、自由に扱う事は出来なくなっており、ステータスは本来あるべき<防衛者>と同等まで落ち込んでいる。

 

つまり自然にあるためには<勇者>の力で戦闘を行うのは極力避けるべきだ。直接的な戦闘は前衛職に任せ、<防衛魔法>で味方全域をカバーするのが俺の戦術のメインとなる。何かしら戦術を立てる上で俺を駒として数えてはならない。

 

ただ、人の慣れとは恐ろしいもので、俺の思考の中で無意識に想定している俺自身のスペックは<勇者>の俺だ。

 

召喚直後は若干のずれを感じたものの、殺されてから数か月間、<勇者>あるいは<防衛者>と<勇者>の並列的存在として動いていたせいか、<勇者>の身体能力が思いの外しっくり来ている。来てしまっている。本来は望ましい事だが、今の状況に限っては望ましくない。

 

つまり咄嗟の時に無意識に自分を戦力として計上し、レベル200超えの魔法剣士として考えてしまう可能性が高い。<賢者>としての能力が使えない今だからこそ、いつもの予防線を複数張った思考回路を使えず、無意識領域に頼る部分が大きい。

 

ではどうするか。

 

答えは簡単だ。今の自分がレベル50にさえも満たない<防衛者>であることを頭に叩き込めばいい。

 

 

 

「──ああ、ちょうどよかった。お願いがあるのですが」

 

「なんでしょう?」

 

「少し、剣の、手合わせといいますか、稽古をつけていただけませんか。<防衛者>として任じられているために今の自分がどれだけできるのかを知っておきたいのです」

 

 

 

誰か、<勇者>であれば勝てるが、<防衛者>であれば勝てない相手に叩き潰してもらえば良い。

 

 

 

「……分かりました」

 

「本気で、生意気なガキを叩きのめす感じでお願いします」

 

「ご要望に応えられるかわかりませんが、全力で臨ませていただきます。剣はこちらの物をお使いになられますか?」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

訓練用の剣を正眼に構える。なんだかんだいってこれが一番しっくり来るのは身体に染み付いた癖のせいか。正しいかどうかは知らない。

 

相手もほぼ同じような構えだ。

 

 

 

「……先手はお譲りします、いつでもどうぞ」

 

 

 

 

なるほど、どうやら頼み事は聞いてくれるらしい。ならば遠慮は要らない。

 

息をゆっくりと吐いて、吸う。姿勢を低く、前傾姿勢に、重心を前へ。剣を引きつける。

 

剣を構えて無言で、全力で地面を蹴って飛び出した。挑む先は騎士団長、この国で有数の剣士だ。

 

 

 


 

 

 

キツい。分かってたけどキツい。全然太刀打ちできない。動体視力と素の身体能力はほぼそのままなおかげでどうにか攻撃を避けられているが、その先が出来ない。

 

<勇者>から<防衛者>になる事で失ったものは二つ。

 

魔法及び魔力操作による戦闘補助能力と<並列思考><思考加速>による予測能力だ。

 

いつものように安全のために予防線を張り巡らせた戦いがまったくできないために防戦一方になっている。

 

剣の腕は多分互角。でも多分向こうはまだ余裕がある。まともな教練と実戦経験による洗練された剣技といったところか。

 

さてどうしたものか。

 

 

 


 

 

 

強い。

 

剣を交えてみて確信する。おそらくそこらの騎士相手でもまともに戦える程の強さだ。

 

これで<勇者>の力をかなり封じられているというのだから驚くほかない。確かに攻撃は一切こちらへ届いていない。全般的に攻撃の速度が遅く、迎撃は容易い。

 

ただしそれは基準を自分に置いているが故の判定だ。彼の動きは普通の騎士と遜色がない。しかも一切の詠唱が聞こえないという事は、戦闘系スキルをまったく使っていない、つまりこれが彼の素の身体能力であるという事。

 

そして一方でこちらの攻撃もまた相手には届かない。全て剣で逸らされるか避けられてしまう。つまりこちらの剣が相手には見えている。

 

彼の剣は『受ける』剣の性質が強い我流の剣だ。自分が生き延びる事を主軸に置いた『生き残る』剣。それも多数を相手にすることを想定した剣に見える。

 

動きにところどころ違和感があるのは、おそらく本来であれば支援系の魔法があるという事なのだろう。付け込む隙があるとすればそこだ。しかし残された時間はあまりない。この短時間の間に徐々に修正されつつある。異常なまでの成長速度だ。早めに決めなくてはならない。

 

 

 


 

 

 

どうしたものかとは言ったがこの模擬戦闘、勝つ必要はない。現在拮抗しているというこの状態において既に俺の目的は半分ほど達成されている。

 

久々の負け寄りの勝負という事もあってか、全ての感覚が急速に現在の状態に最適化されつつある。ぶっちゃけ非常に楽しい。とても楽しい。多分口角は上がっている。

 

 

 

「ここっ!」

 

 

 

鋭く振られた剣に自分の剣を添えて振り払う。力負けはするが避ける事は出来る。そのまま返す形で切りかかるが避けられた。そのまま距離を取る。

 

示し合わせたように息を整え、剣を構え直す。

 

 

 

「──<縮地>」

 

 

 

次の瞬間、団長の姿は俺の真横にあった。

 

 

 

「っつ……!」

 

 

 

咄嗟に剣を差し出し身体の前に滑り込ませる。直撃は避けられたが衝撃を受け止められず姿勢を崩された。ああうんこれは良くないな。倒れこむと同時に右側へ転がり、起き上がりつつとりあえず一閃。

 

 

 

「<縮地>」

 

 

 

振り切った時には剣の射程外に団長が剣を構えていて、しまったと思う間も無く、首元に剣を突き付けられた。

 

 

 

「──参りました」

 

 

 

両手を挙げて降参の意を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……質問をしてもよろしいですか?」

 

 

 

団員の方が差し出してくれた水をありがたく受けとって飲んでいると団長に声を掛けられた。

 

 

 

「ええ、なんでしょう?」

 

「その『剣』は……どこで身につけたのですか?」

 

「……かつての<剣聖>、そして召喚した国に居た騎士団長、二人から教えを受けて、後は戦場で、ですね」

 

「なるほど、道理で。強いと思いました」

 

「無茶なお願いを承諾してくださりありがとうございました」

 

「いいえ、私にとっても良い模擬戦になりました。希望には添えましたか?」

 

「はい」

 

 

 

多分、大丈夫だ、と思う。

 

団長を真っすぐ見据え、右手に剣を握る。それと同時にほぼ反射的に呟く。

 

 

 

「<絶対障壁>」

 

 

 

構築される絶対の護り。これでいい。襲撃を掛けられたときに、時間を稼ぐ事ができるならそれで良い。障壁を解いて、剣を近くの団員に返す。

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

 

改めて頭を下げた。

 

 

 


 

 

 

頭を上げて去っていく少年の後ろ姿を見つめながら先ほど言葉にしなかった疑問を思い浮かべる。

 

『その剣は、貴方がこの世界に初めて来る前から身に着けていたものなのか』

 

両手で剣を握り、相手の眼に切っ先を向ける構えは、一度だけ見た事があった。今は亡き<防衛者>ケイト・カンザキが<剣聖>の称号を与えられたタカヒロ・ミズヤマと模擬戦をした時、確か彼は適当に見えて妙に様になっている構えを取っていた。その状態から滑るように動き出し、相手の剣を弾いて叩き落し喉元に剣を突き付けた。

 

その時の構えと、今回の構え方は良く似ていた。それが少し気になっていたのだが、確信は無かった。

 

ただそれだけだ。気のせいと言われればそうかもしれない。そういえばあの時ケイト・カンザキは『ケンドー』という言葉を口にしていた。文脈的にはそれが彼が元の世界で予め修めていた剣技なのだろう。元<勇者>ももしかしたらそうなのかもしれない。

 

ただどうしても気になる。どうしても彼と元<勇者>の少年の構えが被る気がしてならなかった。




以上です。

感想評価質問などお待ちしております。

次回更新も遅れるかもしれません、予想を上回る頻度で実験が叩き込まれました……


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第八十三話  真夜中の対策会議

はい、今年最後の投稿になります。


最新話です。


 

 

防衛業務委託(サブコンストラクト)>は、俺が知るスキル・魔法の中でもトップクラスにバランスブレイカーのだと言えるが、だからこそ取り扱いには細心の注意を要する。

 

<防衛魔法>は<防衛者>にとって唯一の手札であり、切り札である。精神干渉系統の魔法が存在するこの世界で生き残る事を目的としたとき、自分の切り札を自分以外の誰かに使わせる事はリスクが大きい。特に、残念な事に<防衛者>にとって<支援者>以外の全ては仮想敵になるから余計にだ。

 

 

 

とはいえ、二次委託は存在しないし最悪回収できるので、戦闘能力をあまり持たない相手への付与は割と気安く出来る。

 

 

 

「では付与を始める。使い方は多分使えるようになったら分かるはずだが、一応かけた後で練習しよう」

 

「おう」

 

「付与するスキルは三つ。<絶対障壁><神楯><周辺警戒>だ。これだけあれば最低限自分の身、巧く使えば周囲の人間まで護る事ができるだろう」

 

 

 

警戒地点設置(レーダーサイト)>は省いた。前回<巫女>に付与した時から薄々わかってはいたが、これは多分、思考を複数に分割できるかその経験がある人間でなければ利点と術者の脳が死ぬ。言ってしまえば<周辺警戒>もどっちかと言えばこちらなのだが、視点が複数あるという生物的な違和感よりは慣れやすいだろうし、見張りは必須だと思うので入れておいた。慣れれば視界潰されても動ける。

 

 

 

あとあまり口に出せない理由として、残る<勇者>が単独である以上、複数地点での警戒を主要用途とする<警戒地点設置>は不要であるという理由が挙げられる。最悪<勇者>である彼さえ守れればそれでいい。

 

俺も彼も、<勇者>ではあるが万能ではない。

 

魔力消費は少ないとはいえ、<鍛冶>である彼の魔力量は高くない。不要な選択肢を増やすのはあまり得策とも言えない。

 

 

 

「おう」

 

「では──<防衛業務委託・絶対障壁><防衛業務委託・神楯><防衛業務委託・周辺警戒>」

 

 

 

<巫女>に付与した時よりレベルが上がり、魔力量が増えている事と、<巫女>より付与したスキルが少ないせいか、魔力消費はだいぶ軽い。

 

そういえば<巫女>に付与したスキルはどうしようか。<神楯>はかなり有用、<周辺警戒>と<絶対障壁>はそれに準じるが……<警戒地点設置>要るかなぁ……剥がすか、うん、剥がそう。

 

<防衛業務委託>により、俺と委託先にはちょっとした繋がりが生じる。魔力的な何かでもなく、なんというか、そこに何か繋がりがあるとわかるだけだが。多分業務委託というくらいだから契約的な何かだろうと思う。

 

剥がす時にはその繋がりに意識を集中し、取り外せばいい。なので顔を合わせる必要はないのだが、俺から付与をお願いしたし、一応話した上で剥がすか。

 

 

 

「じゃあとりあえず使ってみてくれ。詠唱は<防衛業務委託>の後にそれぞれスキル名をつけるだけだ。スキル名はそれぞれ<神楯><周辺警戒><絶対障壁>。一応簡単

な説明を入れると、<神楯>が一定範囲内の自動迎撃、<周辺警戒>は、まあゲームのマップみたいな物が頭の中に浮かぶ、<絶対障壁>は名前通り、全ての攻撃に対処できるバリアを張れる」

 

「改めて聞くとゲームより凄いな……」

 

 

 

超わかる。

 

これに加えて現代兵器召喚が使えるんだ、防衛系兵器限定だけど。ネット小説かな?

 

 

 

「魔力は君の魔力を消費する。戦闘職ではないから魔力は多くないはずだ、消費量もかなり少なくはあるが一応発動中は注意しておけ。あとこれはあくまで時間を稼ぐ程度の代物に過ぎない。護衛はちゃんと付けておくことを忘れるな」

 

 

 

<周辺警戒>を発動して頭を抱えたり、<絶対障壁>を発動して小さい子供のように目を輝かせたりする佐々木を見ながら、一応の忠告をしておいた。そういえば春馬さんが使ってた<反応障壁(リアクティヴバリア)>使ってみたいんだけど未だに出てこないのはなんでだろうか。多分爆発反応装甲と同じような魔法だと思うんだけど、魔法なだけあって反応装甲より使い道は多いので、早めに出てきてほしい。

 

この後は、篠原と若干話して……流石に今日<巫女>に接触するのはやめた方が良いか。夜中に女子の部屋に行くのはあまりよろしくなかろう。大した用事でもない、明日行くとしようか。

 

 

 

「さて、とりあえず来てもらったわけだけど」

 

「ああ、命の危険がある、だって?」

 

「少なくとも現状維持ならば確定でな。だからそれをどうにかする」

 

「どうやってですか?」

 

「ひたすら訓練だ。今までと変わらないが……模擬戦形式で稽古を付けてもらうと良い、と思う。俺も今日同じことをしたが……近衛騎士団長か、あるいか彼に頼んで腕の良い騎士とね」

 

「理由を聞いても?」

 

「警戒を厳に、命の危険がある、というのが<神託>の内容だった。しかも<勇者>である篠原と、<防衛者>たる俺にだ。逆に言えばこの二人以外にはその危険は及ばない事になる。つまりこの危険は俺と篠原だけを狙ってきている」

 

 

 

全員が狙われるのなら、わざわざ名前を出して言及する必要はないからね。

 

 

 

「俺と篠原だけを狙って殺すなら、方法は限られる。暗殺か直接戦闘で殺すかだ。暗殺だとまあ、順当に刺客送り込んでくるか毒か、だろう。このうち毒については考えなくていい。万一命に関わる事だとしても、今回も――今代の<聖女>が同行するのだからな。彼女でなくとも<回復術師>も<治癒術師>もいる、状態異常は即時治癒が可能だ」

 

 

 

この世界で使われる毒は魔法でどうにかなってしまう。魔法マジチート。自然毒? ……あー……個人的に警戒しとくか。

 

 

 

「となると警戒すべきは直接戦闘と暗殺者。直接戦闘で、相手が<勇者>を殺すために送り込んでくるのなら、間違いなくそいつは今の篠原よりも強い。だから確実に格上である相手に持ち堪える事に慣れてもらおうというわけだ」

 

 

 

この短期間で劇的にステータスを上げる事はまず無理だ。ならば別の部分で成長してもらおう。つまりは自分より強い相手との戦闘に慣れてもらう。ぶっちゃけ最初の攻勢を防げれば数で叩ける。

 

 

 

「暗殺者は気にしなくていい。俺が対処する。どうしても気になるようだったら、同じ<勇者>にもいるのだろう、彼らに協力してもらってくれ。遠距離魔法の狙撃も同様だ」

 

 

 

<周辺警戒>というメタ暗殺者な魔法あるし、<神楯>であれば俺の近くに俺を標的とした魔法が入った瞬間に迎撃される。

 

 

 

「後、ランニングとかの自主トレーニング、やっているのなら、模擬戦と合わせて無理のない程度まで負荷を落として構わないから続けた方が良い」

 

 

 

この世界におけるステータス、というのは当人の能力をある程度の目安として可視化したものになる。それはレベルが上がらないとほとんど変わらない。となると単独でやる鍛錬やら筋トレやらは意味がないように見える。

 

しかしそんな事はない。筋トレして腕力が上がればそれは物理攻撃力に+される。そもそもステータスに反映されない身体能力だってある。持久力、移動速度、動体視力等。この世界ではステータスは一つの目安に過ぎない。ステータスを封じられてもスキル無しなら騎士団長とも鍔迫り合いが可能な俺が証拠だ。

 

 

 

「この世界では努力が全て生き残る事に直結する。やれる事は全てやっておくべきだ」

 

 

 

正直わざと毒キノコとか毒草を致死量未満程度食べさせて毒耐性つけさせるか悩む……止めとこうか、間違ったら死ぬ。

 

 

 

「出来る事を全てやってもなお、足りないならば、俺がフォローしよう」

 

 

 

先ずは毒、匂いは正直分からないが味であれば判別できる。俺さえ生きていれば耐久戦は容易い。

 

暗殺者、これは簡単だ。敵意は<周辺警戒>に引っかかり、攻撃は<神楯>に引っかかる。<反応障壁>があれば少し工夫できるがまあ今無い物は放っておく。

 

遠距離狙撃、これは<神楯>に祈るしかない。頼むぞ。

 

直接戦闘、相手の剣を見て避け防ぎ続ける事が重要。最悪は<神楯>頼りだが、よほどの相手でない限り対応は出来る。

 

……死角は、強いて言うなら毒か。これだけは俺の感覚頼りになる。毒探知……採取系のスキルにあったような、となると<狩人>か。<暗殺者>の罠探知系では微妙なところだが……毒系って自然習得だったか、教わらないと駄目だったか?

 

<賢者>の<解析眼>って毒探知できたっけ。

 

毒の耐性って直接摂取以外に取得する方法なかったか……あ、女神の加護。南に到着する前にもう一つ洞窟無いかな。

 

 

 

「国崎?」

 

「うん? ああ、悪い。少し考え事をしていた。何かあるか?」

 

「いや、もう何もないなら解散にしようと思ったんだが」

 

「そうか。いや、俺には何も無い」

 

「じゃあ、今夜はこれで解散という事で。高山、また明日」

 

「ああ、篠原君も、国崎君も、お疲れ」

 

「お疲れ」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ俺の部屋は向こうだから」

 

「そうか、じゃあな」

 

 

 

さて、俺も色々やんないと……自力で戦えない後衛職に<防衛業務委託>使ってみるか?

 




以上です。

今年も本作品を読んでいただきありがとうございました。来年も読んでいただければ幸いです。

いつも通り、感想質問批評評価等お待ちしております。

それでは皆様良いお年を。


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第八十四話  警戒

お待たせしました、皆様明けましておめでとうございます。

ちょっと構成に悩んだので時間がかかってしまいました、深くお詫び申し上げます。


第八十四話です、どうぞ!


 

『それで、ケイ、お前はどうする』

 

『賛同します』

 

『それは良かった。一応聞いておこうか、理由は?』

 

『俺は死の商人にはなりたくないので』

 

『何だ、最初から分かってたのか』

 

『全部じゃないですが、それでもわかります。ただでさえ魔法があるというのに、科学を置いたら確実に悲惨な事になります』

 

『断言とは珍しい』

 

『逆ですよ。そうならないという事に確信がないだけです。確率論みたいなものですよ。1から1未満の数を引けば0よりは大きくなる。起こらない確率が1だと断定するには人が不確定要素過ぎます。

 

良くも悪くもこの世界でも人は変わらない。生存さえ確立されてしまえば、後は利権争いになる。それはもう十分見てきたので』

 

『現実見てくれるのはありがたいけどその年でそこまで考えてるの俺はどうかと思う』

 

『小説やマンガじゃないんですから。今時そこまで純粋じゃないですし、俺にそこまで期待するのは無理がありませんかね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、起床してすぐに<周辺警戒>を確認。赤印は無し、黄色が複数、緑と青が多数。

 

<巫女>の部屋は知っているが日中部屋にいるかは確定じゃないし、俺が単独で前置き無しに女子の部屋に行くのはどうかと思う。ので朝食の時に声をかけ、会う約束を取り付けたいところである。

 

今日の任務は以上。

 

続いて継続中の任務を確認する。<防衛者>としての<勇者>の防衛、必要であれば現地人の防衛も含まれる。ステータスは<防衛者>固定、<神剣>は戦闘への使用は原則不可。身体能力が一部封印されていないので<勇者>と試合形式の模擬戦も避ける事。

 

ОK、今日も絶好調。国崎啓、本日の業務を開始します。こういうの時々やると気合を補填できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、朝からすまないが、隣の席、良いだろうか?」

 

 

 

<巫女>石縄を見つけ、そう声をかけた瞬間に一瞬肩が跳ねた。食事中に後ろから声かけられるとか驚くよねわかる。

 

 

 

「……ええ、はい」

 

「では失礼する」

 

 

 

席に着き、食事を始める。さてどこで切り出そうか。半分ほど食べたところで、小さな声で問いかけがあった。

 

 

 

「……それで、何の用なの?」

 

「ああ、実は以前付与した防衛魔法について相談があってね、日中どこか時間は空いていないか?」

 

「城にいる間は日中ほとんど暇になってる」

 

「そうか。なら適当な時間に部屋に行くから……」

 

「それなら私がそっちに」

 

「いいのか? それなら助かるが」

 

「ええ。お昼ごろで良い?」

 

「構わない。ではそれで」

 

 

 

食べ終わると同時に席を立つ、さてお昼までどうしようかな……なんかデジャヴ。

 

 

 


 

 

 

「どうしよう」

 

 

 

興味本位の問いかけから、思いも寄らぬ事を知ってしまった翌日。誰かに相談するかどうかを考えようとした矢先、災厄は向こうからやってきた。

 

声をかけてきて普通に隣に座り、用を問いかければ以前の付与魔法で相談があるという。

 

咄嗟に自分が彼の部屋に行くと言えたのは良案だったと思う。攻め込まれたときの事を考えてか、女子の部屋は男子の部屋より奥にある。何かあって逃げなければならない事を考えると、少しでも早く外に出れる男子の部屋の方が良いと思った。お昼であれば外に出なくても食堂に行けば誰かしら助けを求める相手もいる。

 

そして最初に戻る。自分はどうすればいいのか。

 

バレてはいないはずだ。できるだけ平常心でいるようにふるまえていたはず。ただなぜこのタイミングで付与魔法について相談があるのかが分からない。

 

バレていたとして、何をされるのだろう。口封じ? いや、自分が彼の部屋に行く事は近くの机にいる女子にも聞こえていたはず、自分が消えれば真っ先に疑いがかかるだろうからそれは無い。

 

では何を?

 

 

 

「……分からない」

 

 

 

最善は尽くした。自分はあの事実をどう扱うべきか。

 

彼がついている嘘は、決して私達に敵対するような類のものじゃない。確かに彼女は既に<聖女>じゃないから、力を喪失している。気になる事があるとすれば一つ。

不意を突かれて殺されたはずの彼女がどうして生きているのか。逆にどうして彼は死んだのか。

 

私達は確かに彼女が不意を突かれて殺され、それによって彼が追い込まれ、最後は自爆に巻き込まれ死んだ、と聞いた。遺体は見つからなかったと……

 

 

 

「――おーい、聞こえてる?」

 

「……へ? うわっ」

 

「おぉ、良かった。大丈夫? さっきからスプーン持ったまま動いてなかったからさ」

 

「あ、うん、大丈夫、ちょっと考え事してただけだから、ありがと」

 

 

 


 

 

 

ドアをノックする音。来たか。

 

 

 

「入って良いよ」

 

「失礼します……」

 

「そこに座ってくれ。飲み物は要るか?」

 

「あ、大丈夫」

 

「そうか」

 

 

 

? なんか、警戒されてる? いや女子が一人で男子の部屋来るんだから当然と言えば当然だが。

 

「じゃあさっそく用件に入ろう。俺を含めて、二十人ほどで北に行った時、石縄に全部で……四つか。<絶対障壁><周辺警戒><警戒地点設置><神楯>の付与をした。そしてそれは今でも解かれてないな?」

 

「うん」

 

「よし。で、相談があると言ったのは、このうち<警戒地点設置>についてだ。俺の予想が正しければこのスキル、最初の一回以外で使った事は無いな?」

 

「うん」

 

「というわけでそれだけ外そうかというのが相談というか用件だ。このスキルはこういうのに慣れてる人じゃないと使いにくい、と気付いたのが昨日でね。俺は<防衛者>として完全に適応してしまっているから気が付かなかったんだが、改めて冷静になって考えてみるとこれは恐らくほとんどの人間が運用に向いていないと思えてな。

 

外すのは解除の文言を唱えるだけで、顔を合わせる必要すらないんだが、付与されていた側には抜かれた感覚が残る。一応味方だから連絡はしておくべきだろうと思ってね」

 

「理由を、聞いても?」

 

「ああ、大きな理由としては、『選択肢を減らす』というのが挙げられる。このスキルは本来、各都市の指揮官のような人に渡して、<防衛者>がいない間の街の防衛を担ってもらう、という用途が本命だ。

 

これは、本来『練習に時間を割いても問題ないような人間』に軽く練習してもらって、防衛を果たしてもらおう、というスキルだ。でも<勇者>はそれに当てはまらない。俺自身が召喚されて未だ三か月、君達もそれは変わらないはずだ。当然、未熟でもある。本来ならこのスキルに時間を充てるんじゃなくてそれぞれの本来の職業に重点を置いて励んでほしいところだ。

 

まあ、俺の時とは違って、人族がそこまで追い詰められているわけじゃないから、ある程度の余裕はある。といっても<警戒地点設置>は本来二つある目を増やすようなスキルで、慣れている人間じゃないと使えない。それに慣れるための時間を割くのは流石に勿体なさすぎる。抜いておけば練習もできないからな。その分他のスキルや自分自身の職業に時間を充ててほしい」

 

 

 

<巫女>の場合はどうなのか正直分からない。俺の<巫>はあくまで所持しているだけでほぼオマケに近いものだった。現地の<巫女><巫>は、毎日祈りを捧げる事を修練と呼ぶが、<召喚者>の<巫女>にそれは違うだろう。だって彼女にこの世界の女神への信仰心なんて無いのだから。少なくとも彼女にとってこの世界における創世の女神リシュテリアは、信仰対象ではない。

 

<召喚者>における<巫女>は、案内役のようなモノである。俺がやったのは次の三つ。<降神の儀>によって女神の声を聞き、時に<予知夢>によって危機を察知し、<天啓>によってあやふやな情報を確定まで持ち込む。他にもおそらく細々したスキルはあるのだろうが、俺が使っていたのはその三つだけだった。

 

称号職業はレベルが上がらない。スキルや魔法は使えばレベルが上がるが、<巫>のスキルはあまり使っていないからレベルは低いままだった。それで問題も無かった。でも当然ながら普通の職業はレベルが上がる。レベルの上昇によって使えるスキルも増えるしスキルのレベルが上がる事もある。

 

レベル上げに最適なのは職業系スキルをひたすら行使する事だが、<予知夢>は発生を予期できないランダムパッシヴ、<天啓>は基となる何かが無いと動かない特殊系、<降神の儀>? 毎日ポンポン女神呼ぶとか正直頭がおかしいので却下。

 

 

 

「自分の、職業?」

 

「そうだ。職業というのは女神様によって、当人にとって一番適正の高い職業を割り当てられる。それはこの世界の人間も召喚されてきた人間も変わらない。つまり例えば石縄は<巫女>が最良の結果を出せるのだろう。己に適した分野で仲間に貢献する、至極まっとうな事だと思う」

 

「でも一体何をすれば?」

 

「<巫女>として使えるスキルをひたすら回数を重ねるのが一番良いんだが、俺はなんちゃって<巫>でな、<予知夢><降神の儀><天啓>以外のスキルを使った事が無い。できれば連続で発動しても無理のないようなスキルが望ましいが、あるか?」

 

「……ある!」

 

「ならそれを使い続けると良い。話が若干ずれたが、<警戒地点設置>は外して構わないか?」

 

「ええ」

 

「<契約解除(キャンセレーション)>」

 

 

 

この魔法なんでこんなビジネス感漂う言葉選びなの?

 

 

 


 

 

 

「<契約解除>」

 

 

 

詠唱と共に何か、力が失われたような感覚。<警戒地点設置>が使えなくなった、直感的に感じる。

 

 

 

「これで完了、俺の用事は消化した。石縄に何か他の用事が無いならここで解散って事で」

 

 

 

……どうしよう。なぜ嘘をついたのか聞くべきだろうか。彼女を知らないかのように振舞った事、彼女が生きているとは告げなかった事、聞きたい事はたくさんある。それを聞いて……

 

聞いて、()()()()()() どうすればいい。分からない。篠原君に告げる? 今彼らには明らかに一定の信頼関係がある。皆あまり良い印象を持って居なかったけれど、それが薄れ、ある程度信用しているようにも見える。

 

彼がついた嘘は、決して私達に敵対するものじゃない。皆が築いた関係をもとはと言えば私の好奇心で崩してしまっていいの?

 

 

 

「……どうかしたか、何か用事が? さっきも言ったが俺は本職の<巫>じゃないからそこら辺相談されてもあまり詳しい答えは返せないがそれ以外なら……」

「あっ、いや、うん、大丈夫。ありがとう。それじゃあ!」

 

「お、おう」

 

 

 

 

 




主人公「おや? <巫女>の様子が……?」
<勇者>ステータスを封じたので<直感>が働いてくれなくなった結果。

神はそう気軽に呼び出しちゃいけない(戒め)。

感想評価質問など、お待ちしております。

本年もどうか本作品をよろしくお願いします。


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