異世界侵略 ~転生者たちが侵略す~ (グレン×グレン)
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異世界侵略 ~転生者たちが侵略す~

「死んで、くれないかな?」

 

 いきなり彼女になったばかりの子にそんなことを言われて、俺こと兵藤一誠は後ろにとんだ。

 

 おいおいおいおいマジで殺気出てるよ。マジか、マジかコレ。

 

「た、ただの女子高生がなんでそんな殺気だせるのかな? ちょっとマジで勘弁してくれない?」

 

 俺は冷や汗をかきながら軽口をたたくが、そしたら俺の彼女こと夕麻ちゃんは、けげんな表情を浮かべた。

 

「あら? あなたはただの一般人のはずだけど、なんで殺気がわかるのかしら」

 

 ・・・あ、やべ。

 

 普通の日本人は殺気なんて察知できないの忘れてた。これちょっと怪しまれるか?

 

 いやいやいやいや。殺されかけてんだから気にしてる場合じゃねえだろ。そんなことしてる場合じゃねえだろ。

 

 ま、とりあえずここは何とかするしかないか。

 

 幸い体は鍛えてるし、戦闘の心得もだいぶ鈍ったけどあるにはある。だから襲い掛かってきても戦えないことは―

 

「まあいいわ。恨むなら神をうらみなさい」

 

 と、そんなよくわからないことを言いながら夕麻ちゃんは右手に光の槍を出す。

 

 ・・・ってさらりと自分で言ったけど、光でできた槍ってなんだよ一体!

 

 っていうかよく見たら、夕麻ちゃんの背中から黒い翼が生えてる!?

 

 なに、なにあれ!? なんなんだあれ!?

 

「さあ、死んで頂戴!!」

 

 うぉおおおお投げてきたぁあああああ!!!

 

 俺は慌てて横に飛んでかわすけど、槍は地面に深々と突き刺さった。

 

 あ、これ喰らったらダメなやつだ。ちょっとした対物ライフルより威力あるよ。

 

「あらあら、結構逃げちゃうんだ。・・・いいわ、少しは楽しめそうね」

 

 ああ、あああ、あああああ!

 

 なんでこんなことになったんだぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中、多くの少年少女がそこにはいた。

 

 彼らの来歴はわからない。わからないが、想像ができた。

 

 なぜなら、彼らは全員銃を手にしていた。硝煙の匂いを放っていた。死んだ目をしていた。

 

 彼らはみな少年兵だ。

 

 紛争地帯で親から捨てられ、そしてそれを武装勢力に利用されて訓練を受けた。

 

 人を殺すための訓練を積んで、ただ人を殺すための道具として使われる。そんな糞みたいな人生。

 

 それがひどいということすら理解できないものの多く、その大半がそのまま使いつぶされる。

 

 少女であるならばさらに悲惨だろう。それがどうしてかなど口にしたくもない。

 

 そんな、少年少女たちが集められていた。

 

 そして、彼らはそれがあり得ないことであることも理解していた。

 

 なぜなら、彼らは戦場で死んだはずの少年兵だからだ。

 

 銃で撃ち殺された。ナイフで首を切り裂かれた。爆弾で体が四散した。車で跳ね飛ばされた。

 

 全員理由はまちまちだろうが、しかし死んだはずだということはわかる。

 

 その多くがそれに憤りすら感じず、何がどういうことかも理解できていなかった。

 

 そして、そんな彼らに声が響く。

 

―我は、ワールマター。この世界の言葉でいうならば、神に近いもの。

 

 その言葉は、強大な力を感じさせる。

 

―哀れな者たちよ、汝らは選ばれた。

 

 その言葉は、説得力を感じさせる。

 

 彼らは、意図的にこの存在によって集められたのだ。

 

―汝らはこれより、神と呼べる我の尖兵としてある世界へと送られる。

 

 その言葉に対して、彼らの多くは感慨を得なかった。

 

 なぜなら彼らは道具として育てられたもの。中には感情が喪失しているものも多く、だからこそそれはただの上が変わっただけと認識していた。

 

―そして、きみたちに力を与えよう。

 

 と、その声は彼らに力を与えた。

 

 それは、銀色の大きな硬貨のようなものだった。

 

 それは彼らの体にするりと飲み込まれ―

 

「あ、ああ・・・っ」

 

 そのとたん、彼らの心に欲望が生み出された。

 

 女を抱いてみたい。

 

 おいしいものが食べたい。

 

 ゆっくり眠りたい

 

 もっと殺したい。

 

 強くなりたい。

 

 そんな感情が強くなり、そして抑えられなくなる。

 

―その気持ちを忘れるな。そして、それを行使するための力を与えたことを忘れるな。

 

 声はそうつげ、そして送り出す。

 

―覚えよ。我はワールマター。汝らに欲望を与えし恩人なり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・なんてことがあったけど、まさかこうなるとは思わなかったよ!!

 

 いや、俺もね? いろいろとしたいことはあるよ?

 

 おいしいものは食べたいし、友達っていうのも欲しいし、できれば彼女も欲しかった。

 

 そんな欲望を与えてくれたことには感謝してるけど、してるけど!!

 

 別に普通に生きていけば普通に手に入るもんじゃん!!

 

 記憶を取り戻した後、俺はそれを素直に両親に打ち明けたとも。

 

 取り戻したのが三歳の時で、もともと生まれたときから少年兵として育てられた俺は何かあったら上に報告するっていうのが当たり前にあった。

 

 今思えば、普通にそんなことをすれば大変なことになるのは当然だっただろう。

 

 だけど父さんと母さんは普通に接してくれた。

 

 親として、子供に当たり前の愛情を与えてくれた。

 

 だから俺も、子供として当たり前の人物になろうと決めたんだ。

 

 親を悲しませるような悪党にはならない。平和に生きて人として正しいやり方で幸せを手にするって。

 

 ・・・まあ、友達がなぜか覗きを繰り返すうえに、俺も初めて女性の裸を見て暴走しかけたのはいい思い出だ。

 

 エロいお姉さんの友達に土下座で童貞卒業させてくれと言って、白い目で見られたのもいい思い出だ。

 

 そしてできれば付き合いたいと思っていた女の子が、よりにもよって彼氏を作ったと聞いた時は死にたかった。

 

 だけど人生はまだまだこれからだ。だから俺は生きていようと思ったし、最近になっていきなり女の子に告白されてハイテンションだった。

 

 それなのに!

 

 それなのに!

 

 それなのに!!

 

 なんでその女の子に殺されそうになってるんだぁああああああああ!!!

 




・・・続き? どうしようかな?

とりあえず書いて人気が出るかを調べるために、念のために投稿してみました。









続きが気になる? でしたらぜひ感想を!!


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当主候補は転生者。~リアス・グレモリーは姉御肌

とりあえず、もう一話投稿して反応をテスト。


 それは数日前の事。

 

 学校返りのハンバーガーショップで、俺たちはだべっていた。

 

「くっそー! 全然モテねえぞ本当に!!」

 

 俺の悪友の松田が、日ごろの不満を炭酸と共に吐き出した。

 

 身体能力がかなり高く、運動部にでも入れば全国だって狙える坊主頭。だけど写真部に入ってエロいショットばかり狙っているため、ついたあだ名がエロ坊主。

 

「まったくだ。何のために女の子ばかりの駒王学園に入ったと思っている!」

 

 と、同じくぼやくのは元浜ってやつ。

 

 おっぱいのサイズを計測できるっていう、スカウターじみた能力を持つエロ眼鏡だ。

 

 二人とも、女にもてたいハーレム作りたいという願望を持っているエロスに生きるエロ餓鬼だ。どんだけエロいかって女の子が多いって理由で偏差値の高い駒王学園を受けて本当に受かっちまうぐらいすごい。

 

 まあ、俺も入学はしたんだけどね? なんたって女の子多いもん。

 

 だけどまあ、そのせいでほかの友達は入れなかったりするんだけど。

 

「ま、あったりまえじゃない。モテたいんだったら持てるためにすることがいっぱいあるでしょうが、いっぱい」

 

 と、ツッコミを入れるのはこのハンバーガーショップでバイトをしている俺たちの二つ上の先輩。名前を蛇野一樹。因みに女だ。

 

 高校生の時から男遊びをそこそこしていたという割とビッチな姉ちゃんだが、家が近くだった俺は、彼女が中学を卒業するまで本当に付き合いが長かった。

 

 大学生活はそこそこ楽しいらしく、高校を卒業してからはだいぶ疎遠になっちまった。だけど、俺たちの面倒を見てくれるいい姉さんだ。

 

「・・・それに、覗きばっかりしてるから女に嫌われるんだっての。モテたいのか嫌われたいのかどっちなんだか。ホントどっちなんだか」

 

「あ、それもそうか」

 

 うん、松田も元浜もその辺全然自重しないからな~。

 

 ま、俺もエロ本を貸し借りしたりはしてるし、エロい会話は学校でもしてるんだけどね。だって楽しいんだもん。

 

 だが、松田も元浜も駒王学園に入ってからはピタリとやめてるはずだ。

 

 なのになんで欠片も女子がやってこないのか・・・。

 

「「その節は本当にありがとうございます、蛇野の姉さん!」」

 

 と、二人そろってぴしっとしたお辞儀を一樹にする。

 

 え、どゆこと?

 

「な、なに? 何やってんの?」

 

 よくわからず俺は首をかしげると、二人は何言ってんだお前って顔を向けてきた。

 

 だが数秒立って納得すると、かわいそうなものを見る目で見やがった。

 

「いや、覗きをやめたら筆卸ししてくれるって蛇野姉さんが言ってきて・・・」

 

「今でも覗きたくなったら吸い取ってもらってるんだ」

 

「オイちょっと待て一樹! 俺が土下座した時は「バーカ」の一言じゃねえか!!」

 

 どういうことだとこの女! 俺の童貞も食べてくれよ!!

 

 彼女できたときに夜は上手に決めたいんだよ! 上手とまではいわなくても、大失敗はしたくないんだよ!!

 

 あときれいなお姉さんとエッチなことしたいんだよ!!

 

 だが、一樹は目を閉じるとため息をついた。

 

 しかも長い長い溜息をついた。

 

「・・・いや、その、アンタはそういう目で見られないと、いうか・・・」

 

 ガーン!

 

 かっこよさでは高校でも松田や元浜より上扱いされてるのに、されてるのに!?

 

「付き合い長いせいで弟扱いしかされないだなんて! なんてこった!!」

 

「いや、そうじゃねムグ」

 

「はーい松田はちょっと黙ってようね。ホント黙ってようね?」

 

「いや、蛇野姉さんにも問題あるでしょ。遊びすぎ」

 

 ん? 何が何やらわからないけど、しかし俺はショックだ!

 

 ショックのあまり、代金注文時に払っているから気にせずに走り出した。

 

「ちくしょおおおおおおお! 狙ってた女の子に寄りにもよって彼女ができた俺を馬鹿にするならしてやがれぇえええええ!!!」

 

 ・・・ああ、本当に事実だ。

 

 竹虎一美。中学時代のマドンナで、とてもいい子でかわいかった。

 

 どんだけいい子かって? 覗きをそのころから繰り返していた松田と元浜を相手にしても「友達のために親身になれるいい人」として優しく接してくれた子だといえばわかるだろう。

 

 駒王学園にこそ入学しなかったが、一緒に勉強をしたのもいい思い出だ。

 

 だが、大学デビューならぬ高校デビューをしたのか、高校で彼女ははっちゃけた。

 

 なんでも彼女ができたらしい。彼女がだ。

 

 ()()

 

 ・・・女の子が好きな人だったなんてぇえええええ!!

 

 俺脈無しじゃん! 畜生、畜生!!

 

 いつの間にか走るのではなくとぼとぼ歩いていた俺。

 

 ああ、覗きなんてしないようにしていたのに、結局こんなことになるなんてショックだ畜生

 

「あ・・・せ・・・」

 

「そりゃ、俺だってあいつらにたぶらかされて一回や二回は覗きをしたけどさ? 断られる可能性とかあったけどさ? そんなレベルじゃないとかショックだよ」

 

「あの・・・うど・・・」

 

 なんだろう。俺、割と本気で死にたくなってきた。

 

 これが、失恋の悲しみってやつなのか―

 

「あの、兵藤一誠くん!!」

 

 と、大きな声で呼ばれて思わず振り返った。

 

 そこには、黒髪の美少女がいた。

 

「その・・・私と付き合ってください!」

 

 それが、天野夕麻ちゃんとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冷静に考えれば、だれがどう見ても怪しいだろう、コレ。

 

 くそぉおおおお! 振られることすらできなくてやけになった俺の馬鹿! 本当に馬鹿!!

 

 これ、冗談抜きで死ぬぞマジで!!

 

 投擲モーションで方向が読めるから回避ぐらいは容易だけど、いい加減バテてきた。

 

 このままだとやばいな。どうも向こうはイラついてるけど汗一つ書いてないし・・・体力の差で負ける。

 

 くそ、しかし何者だ夕麻ちゃん!?

 

 これでも一応特訓は積んできたんだぜ? ワールマターとかが変なこと仕掛けてくるんだったら、そいつから父さんや母さん、一樹たちを守るために自衛隊に入ろうと思ってたからな。

 

 だから、身体能力はすでに軍人クラス。松田を身体能力で上回れるのは俺ぐらいなもんだ。

 

 それなのに、俺がバテかけてるのにこいつはぴんぴんしてる。

 

 なんだ? マジで人間か?

 

 と、思ったらバランスを崩してすッ転んでしまった。

 

 ・・・ヤバイ、これ最悪のタイミングだ。夕麻ちゃんは槍を投げようとしてる。

 

 くそ、どうするどうするどうするどうする!?

 

「さようなら、イッセーくん!!」

 

 そして、光の槍が放たれて―

 

「・・・ちょぉおおおおおおっと待ちやがれぇええええええええ!!!」

 

 その瞬間、槍を踏み下りながら空から美女が落ちてきた。

 

 ただ一つ問題がある。

 

 落ちた美女は地面にクレーターを作ったのだ。

 

 えええええええええ!? 人間の重さじゃないよぉおおおおおお!?

 

 これどう考えても一tはあるよ!? キロでいうと千キロはあるよ!?

 

 馬鹿な!? あんな細い美女がそんな重量級なわけが―

 

「―そこの坊主、大丈夫だな?」

 

 と、その赤い髪の美女はものすごい頼りになる笑顔を見せた。

 

 よくわからないけど、この人味方か!?

 

「・・・あなた、リアス・グレモリー!?」

 

「おうともよ! 俺様がリアス・グレモリーだ。・・・ここが俺の領地だって知ってて堅気に手を出してんのか、ああ?」

 

 どすの利いた声で警告するが、リアス・グレモリーって・・・思い出した!!

 

 駒王学園において絶世の美女でありながら、スケ番(死語だろこれ)をやっているとしか思えない男勝りの性格を持つ女傑。そして部活はオカルト研究部という謎の趣味をもつ御仁。

 

 そ、その彼女が何でここに!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちっ! 見回りしてたら胸糞悪い光景に出会っちまったぜ!

 

 俺様の名前はリアス・グレモリー。世間の言葉でいうなら悪魔ってやつだな。

 

 ああ、安心しろ。別に悪魔だからって魂取って食ったりはしねえよ。最近はちゃんと何が対価になるかある程度調べてからやるし、等価交換で動いてるのが基本だぜ? ま、人は平等じゃねえからそううまくはいかねえがな。

 

 それに俺様はこれでも貴族の跡取り娘だからな。72柱の貴族の本家、グレモリーの次期当主ってやつだ。

 

 ・・・あん? 次期当主にしては口調が荒いぃ?

 

 仕方がねえだろ、産まれたときからこうなんだからよ。

 

 自慢じゃねえが、俺様は前世の記憶ってやつがある。

 

 悪魔なんて迷信の存在扱いされてる世界で、少年兵ならぬ少女兵をやってくたばった雌餓鬼だ。

 

 いろいろと嫌な目にも合ってきたが、ワールマターってやつには感謝するべきか怒るべきか。

 

 なにせ異世界侵略とかふざけたことぶちかましてやがるからな。欲望に目覚めさせてくれたことには感謝するがぁ、それとこれとは話が別だ。

 

 ・・・家族にはそういうわけでちゃんと説明した。兄貴も親父殿もお袋も、ショックは受けたが受けれいてくれたのは感謝しかねえ。

 

 だからまあ、素を出すのはプライベートの時とかなんだが、まあ相手は堕天使だし気にしなくてもいいだろっと。

 

「オラ堕天使! 中級ごときでこのリアス・グレモリーをどうにかできると思ってんのか、ああ!?」

 

 ちょっとすごみを入れてやりゃぁ、堕天使の女はビビッて後ろに下がる。

 

 ま、上級と中級の間にゃ大きな差があるからよ。敵にまわしちまったらそりゃビビるか。

 

「・・・仕方がないわね。今日のところは引かせてもらうわ。だけどどうしてそんなことしてるのか、わかってんでしょ?」

 

「へいへい。俺様が面倒見ろってか?」

 

 まあ、仕方がねえか。それぐらいしねえと、この餓鬼殺されそうだしな。

 

 ま、転生させりゃあ殺されることはねえだろ。駒も余ってるちょうどいい。

 

 舎弟はそこそこ多い方がいいからな。ここはしっかりと恩を売っとくとするか。

 

 ・・・堕天使の女がいなくなってから、俺は後ろを振り向いた。

 

「おう! 悪いが今からこっち来い。今から少し話があるぜ」

 




リアスも転生者。インパクト重視で姉御!って感じのキャラにしました。

イッセーが転生者の作品はそこそこあるけど、リアスが転生者の作品は少ないような気がします。


面白かったら一言でいいんで感想をくれるとうれしいです。マジモチベーションなんです。


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悪魔転生 ~異世界行ったし本気出す

 

 ・・・俺は、どうすればいいんだろうか。

 

 助けられたと思ったら、いきなり連行されてしまった。

 

 え? なに? もしかして俺結局殺されるの!?

 

 くそ、こうなったら俺もやけだ。殺してでも逃げ出して・・・。

 

「大丈夫だよ」

 

 と、部屋の中にいたイケメンがそう答える。

 

 このイケメンの名前は木場祐斗。駒王学園が誇るイケメン男子として有名だ。

 

 そして、部屋の中にはもう一人。お菓子を黙々と食べてるロリ可愛い子。

 

 名前は塔城小猫。この子も駒王学園の有名美少女だ。

 

「・・・あげませんよ」

 

 見てたらそう返された。いや、いろいろあって食欲無いです。

 

「おう! 待たせたな!」

 

 と、リアスさんが部屋の中に戻ってきた。

 

「一応兄貴に伝えておかねえとよ、こういうことは筋を通さねえとな」

 

 と、リアスさんは快活に笑う。

 

 ・・・そこから先はマジ驚くぜ。

 

 なんでも、夕麻ちゃんの正体は俺を殺すために送り込まれた堕天使だそうだ。

 

 ま、確かに人間とは思えないからな。と、思ったけど人間でも異能業界の実力者にはそれぐらいできる連中が意外と多いそうだ。驚くぜ!

 

 そしてリアスさんたちの正体は悪魔。厳密には純粋な悪魔はリアスさんだけで、木場と塔城ちゃんはほかの種族だったらしい。

 

 悪魔と堕天使、そしてもちろんいるだろう天使は、数千年前から殺し合っていた。今でもしっかり冷戦状態で小競り合いが頻発しているそうだ。

 

 その戦いで、悪魔はかなり数を減らした。悪魔を率いている四大魔王に至っては、全員死んで今は称号みたいになってるそうだ。そのうち一人をリアスさんのお兄さんがやってるとか。

 

 そして、減った悪魔を増やすために貴族は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ってのを使って転生悪魔ってのを作ってるそうだ。

 

 たいていは実力があったり特殊な能力がある奴を選ぶようで、いわば貴族たちの親衛隊ってことになるらしい。純粋な悪魔からも選ばれるとか。それ本末転倒じゃね?

 

 ついでに言うと、チェスの駒をモチーフにしていることもあってか、眷属同士を戦わせるレーティングゲームってのがある。これで活躍すると出世できるようで、中には上級悪魔にまで出世して悪魔の駒をもらうやつもいるとか。さすがにそれはいいのか?

 

 で、俺が殺されそうになった理由は神器(セイクリッド・ギア)っていうらしい。

 

 なんでも天使を率いる聖書にしるされし神が作ったっていう神の奇跡。中にはかなり強い悪魔や天使をそれだけで殺せるすごいのもあるっていう話だ。

 

 で、堕天使はそれを使いこなせないと判断した連中を殺してるとか。

 

 まあ、わからない話ではないな。思うがままに暴れてる銃持った連中なんて害でしかないし、誰かが捕まえるか殺すかしないと被害が増える。そういう意味では言いたいことはわかるぞ。

 

 だけどあんなやり方はねえだろう。俺、心が死にかけたぞ。

 

 なんで初恋がある意味最悪の形で砕け散った後に、美人局なんぞ味わわなきゃいけないんだよクソッタレが! 女に逃げることすら俺には許されんのかい!

 

「・・・つーわけで、本来なら俺らも始末する選択肢を突き付けられてるわけなんだがな?」

 

 と、言いにくそうに付け加えてからリアスさんは告げる。

 

「お前、俺様の眷属にならねえか?」

 

 へ? 眷属?

 

「ああ、俺様は駒が余ってるからよ。それで俺様の眷属悪魔にすればなんとかなるんじゃねえかっておもってるんだ」

 

 っていうかそれ、選択肢ないですよね

 

「大丈夫。上級悪魔の中には眷属悪魔を奴隷扱いする人もいるけど、部長は舎弟扱いだけど情はあるから」

 

「グレモリーは情愛にあふれることで有名な一族です。大丈夫です」

 

 と、木場と塔城ちゃんが安心させるように言う。

 

 ・・・う~ん。これ、断れないよな。

 

「因みに、眷属悪魔でハーレム作ってるやつもいるぜ? 冥界は実力さえあればハーレム作っても誰も文句言わねえからよ」

 

「失恋の苦しみを数で補いたいのでよろしくお願いしまっす!」

 

 即答してしまった。

 

 いっけねー。やっちゃったー。

 

 否でもほかに選択肢ないっぽいしなぁ。これは仕方がねえか。

 

「うん、仕方ないよなぁ。・・・はあ」

 

「気が乗らねえ返事だな。なんか夢でもあったのかよ?」

 

「いや、家族と友人を侵略者から守るために、自衛隊に入るつもりだったんで」

 

 さすがに悪魔と自衛隊の兼業は許されないよなぁ。

 

「侵略者って、日本が戦争に巻き込まれると思ってるのかい?」

 

「・・・・・・・・・せ、戦争しかけてくる連中は、いるんじゃ、ないか? ほら、俺はそこが不安だからだし、必要な職業だろ?」

 

 やっべえ! うっかりやばい子と口走った。

 

 前世の記憶で侵略するつもりの奴が出たんですよー。なんて言えるわけがない!

 

 しかしリアスさんは納得してくれたのか、うんうんとうなづいてくれた。

 

「ああ、わかるわかる。自分を産んでくれた親には俺様も感謝してるからよ。そういうのってやっぱあるよなぁ」

 

「そ、そうなんですよ」

 

 よ、よし! このまま乗ってごまかそう!

 

「祖国防衛。愛国心あるんですか?」

 

「そうなんだよ塔城ちゃん。でもやっぱ自分の国は自分で守るべきっつーか、いい国だろ、ここ」

 

「結構不満を持ってる人も多いと思うけど?」

 

「そりゃぁ恵まれてることがわかってねえんだよ。生まれた子供がこんな平和に生きていける国なんて、実は意外と珍しいだろ。売られて子供を産むための道具にされたり、内臓取られたり・・・」

 

 前世的にシャレにならないことをいうが、リアスさんはうんうんとうなづいてくれる。

 

 話聞くと貴族の産まれっぽいけど、理解してくれるだなんてありがたいな。

 

 よし、このままストリートチルドレンや少年兵に対する問題を語り合ってごまかそう!

 

「そうだよなぁ。そういうのどうにかしたいよなぁ。冥界もストリートチルドレン集めて教育してるけど、兵士を目指してほしいから軍事教育中心だしなぁ」

 

「そ、そうなの? まあ、戦力を増やしたいんだから仕方がないんですかね?」

 

「ちょっと事情があって急いで戦力集めないといけなくてよぉ。俺様から進言したんだが、一応ほかの選択肢だって与えてるんだぜ?」

 

 リアスさんはそう困った顔を浮かべた。

 

 この人も、しょせんは跡取りの一人でしかないから苦労してんだろうなぁ。

 

「・・・ホント、ワールマターの奴は迷惑だよなぁ」

 

「あ、それ同感。欲望を与えてくれたことはありがたいんだけど異世界侵略とかどうかしてるって―」

 

 その瞬間、リアスさんは俺の肩をがっしり掴んで歓喜の表情を見せた。

 

「見つけたぜ同胞!!」

 

「え、あ、え!? ああ!? あれぇ!?」

 

 ど、どどどどどどどうしようってかどういうことだぁ!?

 

 しまったやばいこと口走った!? っていうかなんでリアスさん喜んでるのぉおおおおお!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと、リアスさんが俺と同じ来歴の転生者だってことを説明された。

 

 だけどリアスさんは俺なんかよりもっとすごかった。

 

 魔王であるお兄さんに直談判して、戦力を増強するための動きを活発化させたらしい。

 

 戦争が再発しかねないってことでいろいろあったらしいけど、一生懸命頑張って何とか説得したそうだ。ついでに転生者を探すための研究機関も秘密裏に結成しているらしい。

 

 さっき言ってたストリートチルドレンの軍事教育もその一環。ワールマターの異世界侵略に対抗するための富国強兵政策もあるけど、もう一つある。自分と同じ境遇のストリートチルドレンや少年兵に、せめてまともな環境を与えたくて動いてもらったらしい。

 

 確かにそうだ。ただの道具として劣悪な環境で使われるより、魔王直属の兵団として誇りを持って生活できる方がいいに決まっている。

 

 実際、魔王ルシファー直属ということで扱いはいいらしい。っていうか奴隷扱いした場合ルシファーの侮辱と受け取るとまで公言しているそうだ。

 

 そのせいで戦争を起こすのが狙いかと教会にはにらまれてるけど、教会も孤児を拾って育てる過程で悪魔祓いに育成しているから文句を言われる筋合いはないとか言ってた。

 

 人生の選択肢そのものは多いし、俺らよりはだいぶましだ。

 

 だけど、俺のほかにも侵略なんて考えてない転生者がいたなんて驚きだ。

 

「・・・苦労したこともあるだろ? もう大丈夫だ、俺様がいるぜ?」

 

 そういってにやりと笑うリアスさんに、俺は心底涙を流した。

 

 両親が受け入れてくれているって言っても、俺が転生者という異物なのは事実だ。

 

 心のどこかで、孤独を感じてた。

 

 もし、ほかの転生者にあってもそれは言えない。だって俺は裏切り者なんだから。

 

 だけど、これからはリアスさんがいてくれる。同じ思いをもってそれ以上に行動している人が俺の主なんだ。

 

 マジで忠誠誓うぜこれは!

 

「これからよろしくお願いします、部長!!」

 

「おうよ! これからよろしく頼むぜ、イッセー!!」

 




原作よりも大幅に軍備が強化されている冥界。理由はワールマター対策。

つっても理由がリアスの言葉以外にない以上、ほかに対して説得力がないからこれまた大変。

さてさて、本格的にワールマターが出てきたらどうなるのかな?


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龍の影 ・・・え、そっち!?

 

 つっても、俺の悪魔人生はいろいろと大変だった。

 

 ・・・だって、まず転移できないんだぜ?

 

 悪魔は契約した相手の元に行くために、魔方陣を使って転移するんだと。

 

 で、俺は魔力不足で転移できず、自転車で行く羽目になった。

 

 そして依頼には失敗した。

 

 ・・・厳密にいえば、依頼を遂行した場合、依頼人が死ぬことが発覚した。

 

 仕方ないので馬鹿話を朝までしたが、結局依頼をかなえられなかったことに変わりはない。

 

 そして次の夜だ。俺は新たな依頼人の元に向かうことになった。

 

 ・・・漢の娘としか言いようのない人がいた。

 

 ミルたんを名乗る魔法少女の恰好をした人は、異世界に行ったけど魔法少女になれなかったから魔法を教えてくださいといってきた。

 

 ・・・電話したけど、今から魔法使いを呼ぶ暇はないといわれてしまった。魔法使いがいたってことに驚きだよ。

 

 仕方がないので魔法少女アニメを一緒に見た。うん、最近の魔法少女アニメって大人でも楽しめるんだ。すっごい燃える展開がいっぱいで楽しかったし、振り付けの練習もした。

 

 この国娯楽がいっぱいあっていいよ。少年兵時代は娯楽なんて無縁の世界だったもん。

 

 で、今回も人気は抜群だったけど結局依頼はできなかった。

 

 ・・・俺、どうしたら依頼を遂行できるんだろう。

 

 などと考えながらぼけーっとしていると、そこに女の子が一人いた。

 

 どうも道に迷っているようだ。この辺なら詳しいから、声をかけるべきなんだと思う。

 

 だけど、どうしてもそれができない理由があった。

 

 だって、シスターなんだもん!

 

 シスターってあれだよね? 教会の人だよね!? まさかこんなところでコスプレだなんて落ちはないよね!?

 

 うん、逃げよう。逃げないと殺される。

 

 そう思って逃げようとしたが、それより早く女の子はスッ転んだ。

 

「ちょ、大丈夫!?」

 

 あ、ヤベ。

 

 思わず声かけちまった。

 

「あ・・・言葉、わかるんですか?」

 

 と、そのシスターは俺に期待のまなざしを向ける。

 

 そういえば、この子どう見ても外国人だ。どうやら日本語がわからないらしい。

 

 悪魔はどんな国の言葉でもわかるようになるっていうし、それを実感できるなこれは。

 

 えっと、でもこれは、俺が悪魔だって気づいてない?

 

 ・・・よし。少し相手をしたらすぐに逃げよう。

 

「えっと、俺は兵藤一誠っていうんだけど、アンタは?」

 

「あ、申し遅れました。アーシア・アルジェントっていいます」

 

 と、そのシスターはお辞儀をした。

 

 どうやらこのあたりの教会に赴任するそうなんだけど、道がわからなくなったらしい。

 

 しかも、どうやら神器を持っているようだ。さっき怪我した男の子を直していた。

 

 でもどうしたもんか。

 

 このままいくと、俺、教会についちゃいそうなんだけど・・・。

 

「あれ? どうしたのよイッセー」

 

 と、そこに一樹が通りがかった。

 

「お知合いですか、イッセーさん」

 

「ああ、あたしはこの馬鹿の姉貴分よ。・・・どうしたのさ、イッセー」

 

「え、あ、えっと・・・」

 

 やべえ、どう言い訳したもんか。

 

「イッセーさんには道を教えてもらっていたんです。ここの教会に赴任する予定だったんですが、道に迷ってしまって」

 

「・・・あーそういうこと。馬鹿イッセー、アンタ学校あるでしょうが」

 

 はい、その通りです。大学生だから余裕のある一樹さん。

 

 と、一樹はアーシアの手を取るともう片方の手をひらひらと降った。

 

「ほら、さっさと行きなさい、あとはあたしがやっとくから」

 

「お、おう! 助かったぜ一樹。じゃあアーシア、俺はこれで」

 

 これ幸いと俺は逃げることにした。

 

 うん、このままだとやばいもん。天使に襲われたりしたら大惨事だよ。

 

「あ、イッセーさん!」

 

 と、アーシアが呼び止める。

 

「・・・また、会えますか?」

 

「・・・縁があったら、また会おう」

 

 俺は、そう答えるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない危ない。下手したらイッセーが天使に殺されるところだったわ」

 

「・・・? 何か言いましたが、一樹さん」

 

「え? あ、ごめんごめん独り言独り言」

 

「ならいいんですけど。・・・あ、でも一樹さんもフランス語わかるんですね」

 

「え!? あ、えっと大学でちょっとかじってるのよ!」

 

『・・・無理があるだろう、相棒』

 

「あれ? いま男の人の声が」

 

「き、気のせい気のせい!! この辺家で大声出す男が多いからそのせいでしょ!! ・・・ちょっと黙ってなさい、馬鹿龍」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうことがあったんです。マジすいませんでした!」

 

「ったくこの馬鹿イッセー。せっかく駒を与えてやったってのに、真価を発揮することなくくたばるところだったじゃねえか」

 

 ふいー、とため息をつく部長。冷や汗まで浮かんでいる。

 

「危なかったねイッセーくん。あいつらは信仰のためとやらをお題目に何をするかわからないから、連れて言ったとたんに集中砲火どころかそのシスターすら巻き添えにするかもしれない」

 

 と、木場が苛立たしげに吐き捨てる。

 

 いや、悪魔と教会が敵対しているのは当然なんだけどそこまで言うのかよ。

 

「教会は、敵です」

 

 と、小猫ちゃんが嫌そうに告げる。

 

 どうにも相当嫌われてるようだ。さすがは悪魔。

 

「まあ、ワールマターがいつ仕掛けてくるかわからねえ以上教会とやり合う気はねえんだがな。むしろ和平とまではいわねえが、本格的な停戦条約は結んでくれねーかな」

 

 と、部長はふいーっとため息をついた。

 

 だよなぁ。ワールマターがどれだけの化け物なのかはわからないけど、たぶん悪魔だけでどうにかできるほど甘くはないだろ。

 

 そういうことを考えると、確かに三大勢力のにらみ合いはどうにかした方がいいよな。

 

 少年兵だったからこそ、戦わなくて済むならそれに越したことはないってわかる。そもそも転生悪魔である俺は、天使や教会に恨みはない。

 

 堕天使だってそうだ。殺されかけた理由もわかるし、やり口にはむかつくが、これ以上かかわらないっていうなら仕掛ける気はない。

 

 だけどまあ、アーシアには悪いことするかもな。

 

 そんなレベルならまた会うなんてヤバイ。それこそアーシアに迷惑がかかる。

 

「残念か?」

 

「ええ、まあ」

 

 可愛い子だったしなぁ。

 

 うん、ちょっと残念。

 

 と、そこに魔方陣が展開される。

 

 素の魔方陣から放たれる声を聴いて、部長は顔をしかめた。

 

「チッ! ゲスがまた出やがったか」

 

「どうしたんです?」

 

 何があったのかと思って聞くと、部長は苦い顔でつぶやいた。

 

「・・・はぐれ悪魔だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、驚愕の伏線が張られました。

そりゃオリジナルキャラクターなんだから重要ポジションですよ? 割と


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異世界能力 ~転生者だったら当たり前!?

それでは皆さん、お待たせいたしました。

転生特典をお披露目します!


 はぐれ悪魔。それは、転生悪魔のうち、主の下から脱走したもののことを指すらしい。

 

 転生悪魔の扱いは、かなり上下の幅が広い。

 

 これは領民の扱いなどにも表れるが、上級悪魔というのは下に対する発言権が圧倒的に違う。

 

 リアス部長の場合は、グレモリーの末裔であることもあるのか強い情愛をもって接してくれている。イメージ的には舎弟だが、しかし可愛がってくれるのには変わりがない。

 

 が、中には奴隷のような扱いをする者もいるらしい。

 

 そういうところから脱走することもあれば、時には悪魔化したことによって増大した力にのまれて好き勝手に生きようとする悪魔もいるとか。

 

 細かいところは教えてくれなかったが、小猫ちゃんはそういう被害を受けたとかなんとか。

 

 とまあ、そういうわけで今回はそのはぐれ悪魔の討伐に参加することになった。

 

 ・・・はあ。気が重い

 

「憂鬱そうだね。そんなに気にしなくても、今回は僕たちが動くだけだから心配しなくていいよ」

 

 と、木場が励ましてくれるけど、俺が気にしているのはそういうところではない。

 

「いや、俺が嫌なのは殺し合いを見ることそのものだよ。・・・そりゃそうなるけどさ、やっぱ久しぶりだから気になるっていうか落ち込むっていうか」

 

「そこまで気にすることはないよ。今回は力によって暴走した手合いだし、彼らは人間にも危害を加えている。討滅するのは当然さ」

 

 と、木場は特に気にしたことがないように言う。

 

 う~ん。ちょっと聞いてみた方がいいかな?

 

「木場に小猫ちゃん。二人はこういったのはもう何度も?」

 

「そうだね。リアス部長がこういう仕事は積極的に行ってるから、結構経験はあるね。・・・堅気の連中に危害を加える連中は、即時ぶっ潰す・・・って」

 

「一応、降伏勧告はしてます。相手が聞いてくれないだけです」

 

 と、特に気にしてないようだ。

 

 なるほどねぇ。

 

「俺は結構気にするな。・・・相手の命を奪うってことに」

 

 少年兵のころは、気にしてる余裕なんて欠片もなかった。

 

 相手を殺さなければ俺が死ぬだけなんだ。そんな状況下で、そんなことを気にしている暇はない。

 

 いや、そもそも気にできるほど心が成長しなかったんだと思う。そんな暇があるのなら、もっと鍛えて死なないようにすることが基本で、殺せるようにすることが俺たちを育てている連中の基本だった。

 

 だからだろうか、平和な日本に生を受けて成長していると、どうしてもその時殺した人の顔が浮かぶことがある。

 

 あんなのは、しないで済むならそれに越したことはないんだ。

 

「三大勢力の間で、戦争をやめるって動きはないのかな」

 

「難しいだろうね。四大魔王様の間では戦争に乗り気の人はいないようだけど、そもそも教会の連中がそんなことを考えるかどうか。あいつらは天のためならば何をしても構わないと思っている節があるからね」

 

 木場、お前は個人的に教会に恨みでもあるのか? 天界じゃなくて教会っていうのが気になるんだが。

 

「堕天使や天界が、そんなことをしたがるイメージがわきません」

 

 そうなのか小猫ちゃん。それは残念だよ。

 

 戦争なんて起きなきゃそれに越したことはないだろうになぁ。マジで勘弁してほしいぜ。

 

 憂鬱な気持ちになっていると、

 

「ま、気にすんじゃねえよイッセー。鉄火場がいやだって気持ちはわかるし、逃げ場を封じるぐらいしてくれれば直接殺しはさせねえよ」

 

「え、でも・・・」

 

 それはそれで無責任な気がする。

 

 と、思った時に部長はさらに続けた。

 

「ただ、いざというときはためらうな。俺様も眷属が殺されるところを見るのは嫌だからな」

 

「・・・うっす」

 

 ああ、確かにその通り。

 

 ためらって俺が死んだら元も子もない。そもそも俺だって自衛隊に入るつもりだったら殺し合いに参加するのは当然なんだ。

 

 気は乗らないけど誰かがやらなきゃならないこと。だったら、ためらっちゃいけないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んでもって、はぐれ悪魔がいるとされる廃工場に入った俺たち。

 

 はぐれ悪魔が本当にいるかどうかは気になるところもあった。だけどそんなものは、入ったとたんにすぐわかった。

 

 血の匂いがものすごくしてやがる。これ、一人や二人じゃねえぞこれは!

 

「・・・おいしそうなにおいがするぞぉ?」

 

 ・・・ああ、こりゃダメだ。完全に力に酔ってやがる。

 

 少年兵の中にもこういった手合いがいた。こうなったらもう、手遅れだ。

 

「部長。俺も参加させてください」

 

「落ち着けイッセー。今回はあくまで見学だ。・・・で、一応聞くが降伏する気はあるかい?」

 

 ダメもとで一応部長がそう聞くが、はぐれ悪魔は意にも介さない。

 

「全員食べてやるわぁあああああ!!」

 

「・・・祐斗、小猫。やれ」

 

「「はい、部長!」」

 

 そこから先は圧倒的だった。

 

 像のような巨体の悪魔を小猫ちゃんはいとも簡単に投げ飛ばし、さらに木場が全身を切り刻む。

 

 あっという間にはぐれ悪魔は動けなくなり、そしてリアス部長はその目の前に立った。

 

「・・・もう一度言うぜ? 投降しろ、さもなけりゃあ殺す」

 

「なら、殺せばいい。・・・だが」

 

 その瞬間、はぐれ悪魔は部長にとびかかる。

 

「貴様も道ずれだぁあああああああ!!!」

 

 ヤバイ、部長!!

 

「誰がてめえごときにやられるかよ」

 

 が、あっさりと飛び上がって回避すると、リアス部長は天井まで飛び上がる。

 

「・・・キロキロ、5000キロプレス」

 

 と、告げた後、リアス部長は一気に落下。そのままはぐれ悪魔を踏み潰した。

 

 す、すげえ・・・。いや、でもそんな馬鹿な。

 

 あれは人間の重さじゃねえぞ!? ってそんなことを考えるのは失礼か。

 

「・・・大丈夫です。あれが部長の能力ですから」

 

 小猫ちゃん。心読まないでくれるかな?

 

「っていうか能力って何?」

 

「あん? お前知らねえのか?」

 

 お、返り血を拭きながら、リアス部長は腕をポンポンとたたく。

 

「ワールマターが言ってなかったか? 俺らにはもとから持ってるもの以外に、力が与えられてんだよ」

 

 ・・・・・・・・・。

 

 な、なんだってぇええええええええええ!?

 




と、いうことで記念すべき第一弾はONEPIECEから! ・・・この選択肢は想定できなかったのではないだろうか?

ですが、この能力割と応用が利くとは思いませんか? 特にドレスローザ編で出てきた覚醒と合わせればあんなことやこんなことも!


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狂人神父 ~外道の悪魔祓い~

 

 リアス部長が言うには、ワールマターは俺たちに力を与えたらしい。なんでもギフトとか言うそうだ。

 

 それはこことは違う異世界の特殊能力などを、ワールマターの力で再現させたもの。その再現度はかなり近いらしい。

 

 それがどういうものかは自分で試してみないとわからないが、リアス部長はその能力を覚醒させていた。

 

 リアス部長が持っているのはキロキロの実。

 

 どっかの異世界で生えている悪魔の実とか言うものを模倣した能力だそうで、自分の体重を1キロから10000キロの間で自由に操作できるようだ。

 

 今の段階だと操作速度に限界があるみたいだけど、それでものしかかられたら大変なことになりそうだ。

 

 っていうか、俺の場合神器がどういうものかもわからないんだよなぁ。そこからさらにギフトの能力まで調べなきゃいけないんだから大変だ。

 

 と、思いながら俺は次の依頼人の家にまでたどり着いた。

 

 そして、すぐに異常事態に気が付いた。

 

 ・・・これは、血の匂いか!?

 

 何か起こってると判断して、俺はすぐにドアをけ破って突入する。

 

 そして、手近にある部屋に入って手遅れだって気が付いた。

 

「・・・クソッ!」

 

 そこにあるのは、ずたずたに切り裂かれた死体。

 

 しかも、流れ出た血で文字まで書いてある悪趣味さだ。

 

「誰だ、こんなことしやがったのは・・・。なんでこんなひどいことを―」

 

「そりゃ当然。悪魔なんかと仲良くするようなクソッタレはお仕置きですよー」

 

 と、後ろから能天気な声が聞こえて俺は振り向いた。

 

 そこにいるのは白髪の神父。だが、眼を見ればすぐにわかる。

 

 この野郎、徹底的にいかれてやがる。殺しを楽しんでる手合いの眼だ。

 

 ・・・遠慮をしている暇はない!

 

「オラ!!」

 

 躊躇することなくケリをぶちかまし、しかし神父はあっさりとかわす。

 

「おいちょっとちょっと! ここはこの天才神父フリード君の自己紹介を聞くところでしょう! なんなのこの悪魔! 人の話を聞きなさいって!」

 

「お前の名前なんて覚えたくもねえよ!」

 

「そりゃどうもー。あ、俺もあんたの名前なんて聞きたくないしすぐ殺すからいいよっと!」

 

 というなり、フリードとか言う神父は光でできた剣を取り出すといきなり切りかかる。

 

 チッ! こいつ、場慣れしてやがるな!

 

 俺は素早くかわすと、いったん距離をとってリビングにある置物を手に取る。

 

 切り結べば切り裂かれる気もするけど、鈍器ができるのはなかなかに有効なはずだ。

 

 と思ったがとっさに横に飛ぶ。

 

 足に激痛が走るが、すぐに体勢を整えた。

 

 大丈夫、かすり傷だ。

 

 見れば、フリードの手には拳銃があった。

 

 あれで俺を撃ったのか? 特に銃声は聞こえなかったぞ?

 

「へっへっへ。光の弾丸は結構きくだろう~? そのまま動かないてくれれば、簡単に殺せるんだけどねーっと!」

 

 そのままフリードは俺に切りかかる。

 

 チッ! 何とか逃げたいところだが―

 

「キャァアアアアア!?」

 

 と、俺たちは悲鳴で戦闘を中断する。

 

 隙を見て距離をとった俺の視界に、一度見かけたシスターの姿が映った。

 

 あれは、アーシア!?

 

「こ、これは一体!?」

 

 顔を真っ青にするアーシアを見て、フリードはにやにやと面白そうに笑い始める。

 

 この野郎、アーシアが恐怖に震えてるのを見て楽しんでやがる。

 

「おんやー? アーシアちゃんは死体見るの初めて? これはねー、クソ悪魔なんかにお願い事しようとした糞人間だよー。アーシアちゃんもしっかり殺してあげましょうねー?」

 

「な、なにを言っているんですかフリードさん! ひ、人を殺すなんて!?」

 

 顔を真っ青にさせているアーシアをかばうため、俺は割って入った。

 

 これ以上いかれ神父のいかれ発言を聞かせる必要はないだろう。そんなものは必要ない。

 

「アーシア。すぐに走って逃げろ」

 

「え? でもイッセーさん―」

 

「いいから走れ!! 足手まといだ!!」

 

 残酷なことを言うが、今アーシアをかばっている余裕はない。

 

 アーシアもそれはわかっているのか、涙を浮かべながらもうなづいた。

 

「すぐに、すぐにレイナーレ様を呼んできますから!!」

 

 そう言って、アーシアが走り出す。

 

 それを追わせないために立ちはだかった俺だったが、フリードは面白そうに笑うだけだ。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 馬鹿だねー。これはレイナーレの姐さんに許可取ってるんだけどぉ?」

 

 マジかよ。アーシアの奴騙されてるんじゃないのか?

 

 こりゃ、少し本気出した方がいいかもな。

 

「もういいよ。お前黙れ」

 

 素早く顔面に拳をたたきつけようとする。

 

 フリードはそれをかわすと切り裂こうと剣をふるう。

 

 俺はそれを交わしながら、俺は何とか反撃の機会をうかがう。

 

 こいつ、割とセンスがいいな。この調子だと押し切られるかもしれない。

 

 だが距離をとられると銃で襲われる、これはきついな。

 

「ほらほら死ねよ、ほら死ねよ! すぐ死ねよ!」

 

「ぎゃーぎゃーやかましい。お前が死ね」

 

 さすがに、ここは殺しに行った方がいいんじゃないか?

 

 できれば殺しはしたくないが、はぐれ悪魔の始末とかもある。ここらで殺しの覚悟を決めた方がいいような気もしないでもない。

 

 ここは気合を入れた方がいいな。

 

 ・・・・・・・・・あ。

 

「・・・武器持ってない!?」

 

 すっかり忘れてた! 俺武器ないよ!?

 

「うひゃひゃ! お前さん、悪魔のくせに魔力使えないのー? だっさ!プークスクスー」

 

 この野郎ぅうううう!!

 

 このままだとまずい、マジでまずい!!

 

 いや、素手でも戦闘はできるけど、それでも武器持ち相手にこれはまずい!!

 

 うぉおおお! だ、誰か助けを呼びたいけど、そんなことさせてくれるわけがねえ!?

 

 どうしたもんかと心の中で頭を抱えたその時、魔法陣が出てきて光り輝いた。

 

「な!?」

 

「あ、くそ! 増援来ちゃったよコレ!!」

 

 フリードが舌打ちしてこっちに急いで切りかかるが、魔法陣から飛び出た影がそれを受け止める。

 

「大丈夫かい、イッセーくん」

 

「木場ぁ!!」

 

 木場が、剣をもって俺を助けに来てくれた!?

 

「・・・お待たせしました」

 

 そして小猫ちゃんがその辺のソファーをもって同じく助けに来てくれた!!

 

 おお、なんか感動!!

 

「チッ! 悪魔のくせに友情のお助けモードとかマジむかつくんだけどねぇ」

 

「それはどうも。僕も悪魔祓いは基本的にイラつくからお互い様さ」

 

 フリードの軽口に木場もさらりと毒を吐く。

 

 そしてにらみ合いが続く中、堂々と胸を張る女傑の姿が!!

 

「おう、俺の下僕が世話になったじゃねえか?」

 

 おお、リアス・グレモリー部長!

 

 すっげぇ頼もしいぜ!!

 

「人の下僕に手を出して、ただで済むと思ってんのか、ああ?」

 

「うっわぁ。外見はお姉さんなのに中身は姉御だよこの人。怖っ」

 

 フリードはそういいながら何かを取り出す。

 

「まあいいや。んじゃ、この辺でサヨナラバイバーイ!」

 

 そういいながら取り出した何かを地面にたたきつける。

 

 と、一気に閃光が放たれた。って閃光弾!?

 

 俺は後ろに下がって攻撃を警戒しながら、そして警戒する。

 

 ・・・光が消えたとき、すでにフリードの姿はいなかった。

 

 と、とりあえずは大丈夫ってことか・・・?

 

「悪かったなイッセー。まさかはぐれ悪魔祓いが出てくるとは思わなかったぜ」

 

 苦い表情を浮かべながら、部長は俺の頭をなでる。

 

「ここは俺様の領地だから警戒すると思ったんだがな。・・・とりあえず、無事で何よりだ」

 

 ああ、何とか今回は切り抜けた。

 

 切り抜けたけど―

 

「―アーシア」

 

 アーシア、大丈夫なのか?

 



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聖女再開 ~再開はハンバーガーとともに

・・・感想がなかった(ノд・。) グスン


 

 部長が説明してくれたことによると、はぐれ悪魔祓いという存在がいるらしい。

 

 悪魔祓いは教会に所属して悪魔を倒すのが仕事で、それは信仰のために行われる。

 

 だが、殺人というものはストレスを与えるもので、そして同時に快楽を与えることがある。悪魔払いの仲にも当然そういうたぐいはいて、それに屈する者たちが何人もいるそうだ。

 

 たいていそういう快楽殺人鬼と化した手合いは処罰されるのが常だが、中には堕天使の側に逃げ込む者もいるそうだ。

 

 そのうちの一人があのフリードなのだろう。つまりは、あいつは堕天使側だということだ。

 

 と、言うことは当然アーシアも・・・。

 

 なんか、性格的に全然悪とは思えないんだけど。まあ、悪魔の部長たちもいい人ぞろいだからな。堕天使にもいいやつと悪い奴がいると考えるべきか。

 

「しっかし人様の陣地で何やってんだあいつら? よりにもよって俺様の担当で暴れやがって、戦争起こす気か?」

 

「部長がこの街の担当なのはそこまで有名ではありませんからね。気づいていない可能性があるのでは?」

 

 イラついている部長に木場はそういうが、しっかしそれにしたってなんでこんなところにいるんだよ。

 

「部長、どうします?」

 

「一応上には報告しておくが、警戒はした方がいいな。当面は家業は中止して防御を固めるぞ」

 

 小猫ちゃんにそう指示しながら、部長は死体のそばに近寄ると、布をかぶせる。

 

「・・・悪いな。念仏でも唱えるべきなんだろうが、そうするとこっちがダメージ入るんだよ」

 

 この人もかわいそうに。別に日本じゃ悪魔だからって即抹殺なんて考えないってのに。

 

 だが、彼には悪いけど心配なのはそこだけじゃない。

 

「部長。アーシアって子が堕天使に騙されてるかも―」

 

「落ち着け。うかつに堕天使と揉めるとことになる。まずは少し鎌をかけてみるさ」

 

 俺の言葉を遮りながら、部長は俺の頭をなでる。

 

「安心しろ。教会のシスターは基本敵だが、仕掛けてこねえ堅気をボコるほど俺様は外道じゃねえよ」

 

 そういって微笑んでくれるが、やっぱり少し心配だ。

 

 ・・・アーシア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、俺は一応休んでおけと言われた。

 

 光は悪魔にとって強力な毒だから、警戒しないといけないってことだ。

 

 だけど、俺は休む気になれなくて外に出ていた。

 

 アーシアのことが気になったからだ。

 

 部長は一応気にかけてくれているみたいだけど、悪魔が教会にいろいろとかかわるわけにはいかないだろうし、難しいだろう。

 

 もちろん、俺から手を出すなんてもってのほかだ。

 

 だけど、どうしても気になるんだよなぁ。

 

「アーシア、大丈夫かな」

 

「あ、はい。私は大丈夫です」

 

 と、後ろから返事が返ってきた。

 

 五秒ぐらい固まってから、俺は慌てて振り返った。

 

「あ、アーシア!?」

 

「はいっ。アーシアです、イッセーさん」

 

 な、な、ななな!?

 

 なんでアーシアがここに!?

 

 俺はどうしたものかと思ったが、しかしいいタイミングでいい音が鳴った。

 

 具体的には、アーシアのおなかから腹の虫が鳴った。

 

「・・・あ、あうう」

 

「も、もしかしておなか減ってる?」

 

「はい・・・」

 

 俺は、家に連れて行こうかと思ったが少し思いとどまった。

 

 さすがに親に迷惑をかけるわけにもいかない。ここは俺の金で飯をおごるとしよう。

 

「なんか、食いたいものある? 可愛い子と話すのは大好きだから、おごるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあとは、けっこう楽しい時間だった。

 

 教会の生活はいろいろと箱入りお嬢様みたいなのか、ハンバーガーの食べ方を知らなかったというのは驚いた。

 

 クレーンゲームでとったぬいぐるみで喜ばれるのは結構後ろめたいな。いや、一発で取ったから百円なんだよ。

 

「こんなに楽しかったのは、生まれて初めてです」

 

「そいつは光栄。・・・で? なんでこんなところに?」

 

 俺は視線を鋭くして問いただす。

 

 フリードが堕天使に与しているっていうなら、堕天使はフリードの行動を容認したことになる。

 

 アーシアはそれに恐怖すら抱いていた。ってことはつまり・・・。

 

「逃げてきたんだな?」

 

「・・・はい」

 

 弱った。このまま部長のところに連れていくべきか? いや、そんなことをうかつにしたら部長に迷惑がかかる。

 

 だったら、せめて人の多いところに連れ込んで牽制をするべきか? いや、フリードみたいなやつの性格だと躊躇なく暴れかねない。堅気の方々に危害を加えるわけにはいかないはずだ。

 

 そう思って悩んだけど、だけど答えは出てこない。

 

 そこまで考えて、ふと気になることが出てきた。

 

「そもそも、なんでアーシアは堕天使のところに?」

 

 冷静に考えるとそこからして先ずおかしい。

 

 アーシアが殺しを楽しんでいる風には全く見えない。なのになんでアーシアは堕天使側にいるんだ?

 

 その言葉に、アーシアは言いよどんだが、やがて顔を上げた。

 

 そして、俺はアーシアの過去を知ることになる。

 



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堕天使強襲 ~イッセー、決意する~

 

 今から十五年ぐらい前、イタリアの教会で子供が捨てられたことからすべてが始まる。

 

 もとから心優しい少女は信心深く育ったが、しかし彼女の人生に転機が訪れる。

 

 それは強力な癒しの力。彼女は大けがすら簡単に直す治癒能力を持っていたのだ。

 

 その後彼女は聖女と担ぎ出され、またそれにふさわしい力を持つ少女は崇められることとなる。

 

 信仰に生きる教会の人間は、聖女と呼ばれる少女にとても良くしてくれた。また、彼女自身他人のけがを治すのは嫌いではない。もちろん治癒の力を与えてくれた神に感謝したこともある。

 

 だが、祭り上げられ崇められる彼女には友と呼べるものが一人もいなかった。それだけがどうしても寂しかった。

 

 同時に、根本的に人と違う異能を持っている彼女に対する異物としての視線もあった。

 

 まあ、当然だろう。人間は異物を恐怖する生き物だ。

 

 だが、其れがあることが原因で爆発した。

 

 きっかけは、教会に大けがを負った悪魔が侵入したことだ。

 

 彼女は、生来のやさしさのあまりその悪魔を治療してしまった。それが、転落のきっかけになった。

 

 治癒の力を持つものはほかにもいたらしいが、その力が該当するのは基本的に信仰心を持つもの、よくて人間が限界らしい。悪魔を治療するなんてことは、彼女以外にはできなかった。

 

 ましてや一神教っていうのは排他的になりやすい側面がある。十字軍やらコンキスタドールやらが有名だろう。

 

 そして、聖女と呼ばれた彼女は魔女と呼ばれて追放された。

 

 流れ流れて堕天使の組織の庇護を受けることになった彼女だが、しかし信仰を捨てたことは一度もない。

 

 そして、彼女に神の奇跡が訪れることは一度もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんていうか、どういうか、うん。

 

 これが現実、なんだろうな。

 

 こういう人を見ていると、信仰している人に見返りを与えないなんて何事かって思う。

 

 だけど、見返りが与えられたら与えられたで、見返り前提の信仰になっちまったら本末転倒だとも思う。

 

 ワールマターとかがいい例だろう。あれは先に見返りを与えてから信仰しろって感じだったりするわけだしな。

 

 日本の神様とかはなんかすごい存在ってわけだから、ギブアンドテイクによる信仰でいいのかもしれない。だけど絶対存在の一神教の神様は、どうしたもんかと思うわけだよ。

 

 だから、神様にとやかく言うのは無理がある。

 

 無理があるから・・・。

 

「じゃあ、俺が友達になってやるよ」

 

 まあ、これぐらいはさせてもらうぜ、神様。

 

「え、でも・・・」

 

「俺も実は悪魔なんだ。だから、同類を助けてくれたアーシアは恩人。だったら俺に友達にしてくれよ」

 

 そうおれは告げる。

 

 ああ、どうせ追放されたんだからそれぐらいはいいだろう。

 

 うん、メルアド交換しようか。あ、でもスマホ持ってなさそうだな。

 

「い、いいんですか?」

 

「OKOK! 俺可愛い子大好きだし、ぜひ俺と契約して友達になってよ!」

 

 俺が笑顔でそう告げると、アーシアは涙まで流し始める。

 

 そ、そこまで友達欲しかったのか。なんかすごいことをした気分になってきた―

 

「無理よ」

 

 ―聞き覚えのある声が響いた。

 

 おいおい、まさかとは思ってたけど、アンタが来るのかよ。

 

 俺は振り返ると、その懐かしい姿を目に焼き付ける。

 

「久しぶりだな、夕麻ちゃん」

 

「レイナーレって呼びなさい、下等な悪魔くん」

 

 心からさげすむ目で見てくることで、デートの時の態度が演技だったってよくわかる。

 

 ああ、まったく俺の二度目の恋は無残に砕け散ったぜ!

 

「アーシア、下がってろ」

 

「い、イッセーさん!?」

 

 ああもう。追手が来るとは思ったけど、いくらなんでも早いだろ!!

 

「その子を返してもらえるかしら? そろそろ儀式が始まるから、その子には戻ってもらわないと」

 

 うわぁ、むちゃくちゃいやな予感がする。

 

「させると思ってんのかよ!」

 

「そう? なら死んでもらわないとねぇ?」

 

 にやりと、レイナーレは笑う。

 

 なめんじゃない。こっちだってさすがに対策の他の字ぐらいは立てている。

 

 部長に頼んで用意してもらった警棒を取り出すと、俺はジグザグに移動しながら攻撃を仕掛ける。

 

 さすがに武器無しはヤバイと思ったんで、反撃準備は整えてたんだよ!

 

 だが、レイナーレはそれを簡単にかわすと空を飛ぶ。

 

 あ、ヤベ! これじゃ届かない!!

 

 糞! こんなことなら銃の一丁でも用意してもらうんだった!

 

 夕麻ちゃんはそのままにやりと笑うと、光の槍を生み出して投げつける。

 

 うぉおおおお! このままじゃなぶり殺しだ!!

 

「あらあら、なりたての悪魔は飛ぶのも大変だから苦労するわね!」

 

 クソ! 動きからして接近戦に持ち込めればやりようはあるってのに!!

 

 何度も何度も光の槍が飛んできて、それが体をかすめて激痛が走る。

 

 なぶり殺しの状態で、俺は心から嫌な気持ちを味わっていた。

 

 クソが! なんでこうなる!

 

 少年兵の時は、何かを守るだなんてできなかった。

 

 当然だ。あの時の俺は機械的に殺し合いに参加していたようなもの。守りたいものなんてないのに、何かを守れるわけがない。

 

 だけど、今は違うんだ。

 

 この子は俺なんかよりもっとひどい目にあった。

 

 持ち上げれて落とされたんだ。プラスを味わった分、落差は大きいし苦しい思いもあったはずだ。

 

 それなのに、この子は誰も恨まない。悪意なんかとは無縁なんだ。

 

 こんな子が報われる世界じゃなきゃ嘘だろう! 神様はうかつに動けないかもしれないけど、目の前の俺ぐらいは動かなけりゃ嘘だろう!!

 

 俺は、この子を守りたいのに!!

 

「・・・待ってください、レイナーレさま!」

 

 アーシアが声を上げる。

 

 俺はすごい嫌な予感がした。

 

 待て、待つんだアーシア。

 

 それは言っちゃだめだ。言っちゃだめだ。

 

「・・・私、戻ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺様ことリアス・グレモリーは大体の事情をつかんでいた。

 

 どうやら、あの堕天使は少人数の独断行動をとっているらしい。悪魔の管轄であるこの駒王町で動いているのがその証拠だ。

 

 以前家出していた堕天使の同類に聞いてみた。調べてもらったが、レイナーレとかいう堕天使が受けた仕事はイッセーの始末だけ。悪魔に転生したことで当面は問題なしという結論になって見逃すことも把握済み。つまりあいつはもう戻ってなければおかしい立場だ。

 

 勝手に動いていることが分かったなら何の問題もねえ。死なない程度にボコって、お前ら監視しろと突っ返せば特に揉めることなく終わるだろうよ。

 

「祐斗、小猫。イッセーを呼んだらすぐに仕掛けるぞ。・・・人様の管轄で好き勝手やる連中にゃあお灸をすえてやらねえとな」

 

「いうと思いました」

 

「同感」

 

 いうじゃん。だいぶ俺様の思考が読めてきたようだな。

 

 さて、それじゃあ落とし前をつけるとするか。

 

 そういうわけでイッセーを呼ぶとするか。なんでも堕天使側にいるらしいシスターのことが気になってるようだ―

 

「部長!!」

 

 と、イッセーが飛び込んできやがった。

 

 ふむ、眼の色がかなりヤバイな。こりゃいらん事考えてるぞ?

 

「これを、受け取ってください」

 

 そういってイッセーは封筒を出した。

 

 そこに書いてあんのは辞表の二文字。

 

 あーあーあーあー。つまりそういうこと?

 

「・・・イッセー。これを俺様に出すってことは、覚悟できてんのか?」

 

「はい。・・・一人じゃ死ぬかもしれませんけど、俺はアーシアを助けに行きます」

 

 はぁあああああ。調べておいてよかったぜ。

 

 この手の目をした連中は、口で言ってもいうこと聞いてくれないからよ。

 

 だが、その前に聞いとかねえといけねえことがあるよな、うん。

 

「アーシアって娘が助けてくれって言ったのか? お前が勝手に助けに言って傷ついて、死んだらそいつはもっと苦しむぞ?」

 

「わかってます。これは俺のわがままで、下手したらアーシアはもっと苦しむってわかってます」

 

 そういって、だがイッセーはまっすぐ俺の目を見た。

 

 ・・・いい目、してんじゃねえか

 

「それでも、俺はあの子みたいなやつが報われてほしいって心から思う。道具になって人を殺した俺みたいな屑なんかじゃない、ああいうイイ子がいい目に合わなきゃ嘘だって思うから!!」

 

 なるほどな。

 

 確かに、理由はどうあれ悪いことした俺らよりも、悪いことしてねえそういうやつらが得しなきゃ嘘だ。

 

 アーシアは、そういうやつだってことだな。

 

「だから―」

 

「みなまで言うな。安心しろ!」

 

 俺はそう言って、イッセーの肩をがっしり掴んだ。

 

「堕天使側のパイプで調べた。あいつらは独断専行だから、殺さずボコるにとどめときゃあ大丈夫だ!」

 

「え、マジですか!?」

 

 イッセーはなんか驚いてるが、堕天使側とのパイプがあるとそんなに不思議か?

 

 どこの国だってそういうつながりの一つぐらいあんだろ。個人的な親交だから組織の損得には関われねえが、勝手に動いてる馬鹿の報告ぐらいは受けれるんだぜ?

 

「大丈夫。あの人は穏健派の重鎮の娘だから戦争を起こそうとはしないよ」

 

「変態なのが難点ですが、意識は高いです」

 

 そういうことだ。今頃報告して「総督の意向を守るためです。ですが示しをつけていただきたい!」・・・と喜んで尻を出してるところだろう。意識高いMだからな、あいつ。

 

 ま、そういうわけで俺様達の行動はすでに決定。やることやるぜ。

 

「行くぜ野郎ども! これから殴り込みだ!!」

 



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奇襲攻撃 ~イッセー覚醒~

今回で、ついに、ついに、ついに!


イッセーのギフトが判明します!!


 そこから先は圧倒的だった。

 

「遅いよ!」

 

「くそ、こいつ神器使いか!?」

 

「光が、喰われる!?」

 

 木場が光の剣を消滅させながら、敵を切り裂く。

 

「えい」

 

「ぎゃああ!? こいつ強いぞ!!」

 

「なんて怪力だ!!」

 

 小猫ちゃんも素手で殴り飛ばすわ、その辺の像をつかんで投げるわと大暴れ。

 

 すげえ、二人ともむちゃくちゃ強い!?

 

「こんなんでも、せいぜい中級悪魔程度なんだぜ?」

 

 と、恐ろしいことを部長は言ってくれる。

 

 おいおい、どんだけインフレな世界なんだよ。

 

 これで中級って、それじゃあ上級クラスはどんな化け物なんだ!?

 

 と、思ったら素直に見せてくれました。

 

「オラオラぁ!? 白髪神父はどこにいやがる? イッセーボコったお礼参りだ、アァ!?」

 

 小猫ちゃんもびっくりするぐらいの大暴れっぷりで、はぐれ悪魔祓いをふっとばしていく。

 

 うわぁ、同情しちゃうぜ。小猫ちゃんに殴られた連中は内出血程度だけど、あれ完璧に骨が折れてるよ。

 

「部長は基本、戦闘時は数百キロ程度で暴れてるんだ。十分凶器だよね?」

 

「あれが、機動力も維持できるバランスだそうです」

 

 おお、そりゃすごい。

 

 なんかこれ、俺の出番なくね?

 

「っていうか急いでください」

 

 と思ったら、小猫ちゃんにケツを蹴られてしまう。

 

「その通り! ここは僕たちに任せて、君はアーシアさんという人を助けるんだ!!」

 

 木場も、俺をかばいながら道を切り開いてくれる。

 

 そして、無双状態の部長が発破をかけた。

 

「露払いは任せときな! ほら、さっさと助けに行けよ王子様!!」

 

 部長、皆・・・っ

 

 ああ、そうだ。

 

 俺が助けるって言ったんだ。だったら俺が行かないでどうするんだ!

 

「・・・行ってきます!!」

 

 俺は、全力でアーシアを助けに突貫する。

 

「この・・・クソガキがぁ!!」

 

 レイナーレは光の槍を投げるが、そう簡単に喰らうかよ!!

 

 俺は素早くかわしながら、一気にレイナーレに突撃すると警棒を振り下ろす。

 

 それを、レイナーレは槍で受け止めた。

 

 つばぜり合いをしながら、俺たちはにらみ合う。

 

「惚れた女に彼女ができたと思ったら、告白してきた女は殺しに来るし、挙句の果てに知り合った可愛い子は殺されそうとか、なんだ俺の人生は! 女難か今年は!!」

 

「だったら悲観して死んでなさい! 本当に迷惑よ!!」

 

 くそ! さすが中級堕天使、身体能力も高い!!

 

 このままだと力押しで押し切られるぞ!? マジやばいんだけどどうする!?

 

「イッセー! 駒をプロモーションさせろ!!」

 

 ついに堕天使と戦闘しながら、リアス部長が俺に叫ぶ!!

 

「兵士の駒で転生した奴は、能力を変更できる!! 女王は無理だが戦車なら・・・!」

 

 え、マジで!? そんなことできるの!?

 

 おっしゃあ! だったらやってやるぜ!!

 

「プロモーション、戦車(ルーク)!!」

 

 そのとたん、俺から力が沸き上がる。

 

 このまま勢いで押し切れるか!

 

「なめるなクソガキぃ!!」

 

 と、思ったその瞬間にレイナーレは空を飛ぶ!

 

 あ、まだ俺飛べないのに!!

 

「ハッ! 堕天使の戦闘は空中戦が基本! 飛び方もまだわからない屑悪魔に、私を殺せると思ったのかしら!?」

 

 そういいながら、レイナーレは俺に向かって光の槍を連続して投げつける。

 

 っていうか、このままだとアーシアに当たる!?

 

 俺は警棒を使って何とか防ごうとするが、まったく防げず足を貫かれた。

 

「・・・ぐぅ・・・っ!」

 

 ちっ! マジで痛いな、これは!

 

「これでも中級堕天使のなかじゃあ、光の密度は高い方なのよ。さあ、これで終わりよ?」

 

 そういいながら、レイナーレはかなり全力で光の槍を形成し始める。

 

 まずい、このままだと一撃で終わるぞ!?

 

「イッセーさん! 逃げてください!!」

 

 後ろでアーシアが叫ぶが、それは聞けない相談だ。

 

「馬鹿だなぁ、アーシア」

 

「え?」

 

 逃げるだなんて選択肢。俺には全くないんだよ。

 

 当たれば死ぬ? ああ、確かにそうだ。

 

 だけどよ―

 

「ここでアーシアを助けなかったら、俺は一生後悔する。・・・そんなもん、一つだってごめんだね」

 

 俺の前の人生、振り返れば後悔ばかりだ。

 

 知らなかったとはいえ、俺は生きてるなんて一つも言えない人生だった。何も知らない道具としてしか生きていなかった。

 

 ああ、正直本気で後悔する人生だったとも。

 

 そんなもん、一つたりともおれのこんどの人生に入らねえんだよ!

 

 ただでさえ、降られることすらできなかったことですでに後悔してんのによぉ!!

 

「助けられないなんて、そんな後悔(結末)受け入れられるかぁあああ!!!」

 

 ああ、それだけは絶対にないんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それに俺の力は応えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺様は、その時同類の覚醒に心底心から感動した。

 

 突如、イッセーの持っている警棒が黒いオーラに包まれた。

 

 さらに赤い血管のようなものが浮かび上がり、半ばから砕けた警棒を覆っていく。

 

「ようやくか、ようやくなのか」

 

 あまりの感動に周りが見えない。見えないが襲い掛かってくる堕天使はとりあえず殴っておく。

 

 無粋な真似をするんじゃねえ。俺は今、心から喜んでるんだ。

 

 ああ、まったく。遅かったじゃねえか。

 

「やればできると思ってたぜ! やったじゃねえか、イッセー!!」

 

 さあ、やっちまえ。

 

 異世界侵略の尖兵なんてふざけた仕事用の力なんだ。

 

 中級堕天使ぐらい屁じゃねえだろ!!

 

「・・・暴れるぞ、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 

 静かに言葉を告げ、イッセーは光の槍を迎え撃つ。

 

 まあ、普通なら防ぐ余裕なんてねえんだが、イッセーはあっさり弾き飛ばした。

 

「・・・なっ!? なんで私の槍を―」

 

 驚くのはそこだけじゃねえぜ、レイナーレ。

 

 ワールマターのギフトは、基本的に最低限の使い方を教えてくれる。

 

 発動した瞬間に、最低限の戦闘は可能なんだよ!!

 

「木場ぁあああああ!! その辺に堕ちてる拳銃投げてくれ!!」

 

「え? あ、これね」

 

 いわれるままに祐斗が投げた拳銃をつかみ、イッセーは即座に狙いを付ける。

 

 仮にも少年兵なら銃の扱いにはなれている。この距離なら外さない。

 

 まあ、中級堕天使には光の拳銃なんてちゃちな威力しかねえんだがな。レイナーレもそれはわかってるのか安心している。

 

 だが、今のイッセーは普通じゃねえ。

 

「グッバイ! 俺の初デート!!」

 

 その言葉とともに放たれた光の弾丸が、一発でレイナーレの翼を打ち抜いた。

 

「・・・そ、そんな馬鹿な!?」

 

 翼を打ち抜かれたことで、レイナーレは地面に墜落する。そして驚愕の事態にレイナーレは動けない。

 

 その隙を逃さず、イッセーはすぐに走り出した。

 

「・・・これからアーシアは俺のモノだ」

 

 おお、感情のままにすごいこと口走ってやがるなアイツ。

 

 だがまあ、それでこそ悪魔ってもんだ。

 

 おめでとうイッセー。今このタイミングで―

 

「―お前になんか渡さねえ!!」

 

 ―お前は真の意味で転生悪魔になったんだぜ?

 




騎士は徒手にて死さず。

手に持ったものを自分の宝具にして使用できる宝具。ランクが無かったりしたものはDランク相当として扱われるが、高ランクの宝具の場合はランクをそのままにして運用することができる。


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五の価値と赤龍帝

まあ、想像している人は何人もいるよね?


 

 兵藤一誠の転生者としての覚醒を、一人の女性が遠くから見ていた。

 

 本来なら、肉眼で見えるような距離ではない。だが、女はそれを確かに視認していた。

 

「・・・やるじゃんイッセー」

 

 そうほめる女はしかし、喜色だけでなく苦い感情すら浮かべてしまう。

 

 まさかと思ったが、本当に悪魔に転生しているとは思わなかった。これは本当に残念な事実だろう。

 

 ああ、これで彼と戦うことが確定してしまった。

 

 偽りの魔王たるサーゼクス・ルシファーの妹の眷属悪魔になった以上、直接か間接かの違いこそあれ、自分たちが殺し合う関係になることは確定だ。

 

『いやなら、抵抗すればいいんだぞ?』

 

 と、どこからともなく声が響く。

 

 否、その声は彼女の左腕から響いていた。

 

 その気づかわしげな声にしかし、女は首を振った。

 

「無理無理。あいつの保護が無けりゃあ、あたしはあんたのライバルに殺されるって。まだ禁手にすら目覚めてないのに、覇龍使える男となんて戦えないって」

 

『だが、()()()を使えば戦えないこともないだろう?』

 

「アンタにとっては嫌でしょうが。第一、其れだって覇には届かないって」

 

 苦笑交じりに相棒に言葉を告げ、女はため息をつきながら来た道を戻る。

 

 そう。もう戻れない。

 

 なら、せめて欲望のままに暴れよう。

 

 思うがままに生きる。それこそが龍という生き物の本来の在り方なのだから。

 

「帰る前にCDショップ寄ってくわよ、ドライグ」

 

『お前、最近本当に音楽を聴くようになったな、相棒』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、俺はやけに早く目が覚めて旧校舎に来ていた.

 

 どうせだし掃除でもしようかと思って部室に顔を出してみたら、そこでは部長が立っていた。

 

「よ! 昨日はかっこよかったじゃねえか」

 

「うっす! 昨日はありがとうございました!」

 

 なんか、口調が感染してるけどまあいいや。

 

 この人についていきたいと思わせる、そんな何かを感じさせる人だ。

 

「それで? お前の能力の詳細は分かったのかよ?」

 

「あ、あの時使ったやつだけですけど」

 

「上等。教えてくれや」

 

 あの時俺が使ったのは、こことは違う地球の能力。

 

 英霊(サーヴァント)。神話や伝説、歴史に名を残したものが、死後信仰によって精霊の域へと昇華された存在。

 

 俺が使えるのはそのうちの一人。円卓の騎士ランスロットの力だった。

 

 騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)。騎士ランスロットの伝承に存在する、相手の武器やその辺にあったものを使って勝利をつかんだ伝承を基にした宝具と呼ばれる能力。

 

 それは、手にしたものを自身の宝具へと変換する能力だ。

 

「・・・見た感じ、並の神器の禁手クラスには性能が引き上げられてたな。そこそこの武器を用意すれば、お前すごいことできんぞ」

 

「はい。突撃銃とか手に入りませんかね?」

 

 少年兵だった俺が使うなら、近代兵器が一番だろう。

 

 使い慣れているし、宝具化すればそこそこの偉業にも対応できる。

 

 それは同じく少年兵だった部長も同感なのか、うんうんとうなづいた。

 

「拳銃程度じゃ悪魔は殺せねえが、お前の能力が追加されりゃぁ話は別だ。何とか用意してやるぜ?」

 

「ありがとうございます!!」

 

 などといろいろ銃談義に花を咲かせていたら、リアス部長はにやりと笑う。

 

「しっかし、言い方は悪いがいい拾い物をしたぜ」

 

 そういうと、部長は俺の首に手をまわして引き寄せる。

 

 う、うぉおおおおおおおおお! 頬に胸が当たって俺のドラグノフがブーストぉおおおおおおお!!!

 

「知ってるか? 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ってのは、一つの駒で転生させれる限界があるんだよ」

 

 へえ。一つの駒さえあれば何でもできるもんだと思ってた。

 

「そのレベルはチェスの駒の価値とされるもので決定されてる。兵士の駒は一つにつき一だ。騎士と僧侶は3で戦車は5。女王の駒は9だな」

 

「え、えっと・・・じゃあ兵士の俺は、一?」

 

 マジか! ワールマターめちゃちな能力与えやがって!!

 

 一瞬マジでワールマターに怒りを覚えたが、しかし部長は首を振った。

 

「否、五だ」

 

 ・・・え? マジで?

 

 俺、戦車一駒と同じぐらいあるの!?

 

「あとギフトはそれに換算されねえ。つまりお前は神器だけでもシャレにならねえ力を持ってるってわけさ」

 

 え、マジで!?

 

 驚愕する俺をみて、部長はにやりと笑う。

 

「駒価値分は働いてもらうぜ、イッセー。・・・これでも期待してんだからよ!」

 

 そういう部長の笑顔は、なんていうか本当に格好良くて・・・。

 

「は、はぅ~」

 

 と、後ろからかわいらしい声が聞こえてきた。

 

 振り返ると、そこにはアーシアの姿が・・・って!?

 

「なんで駒王学園の制服を!?」

 

 そう、なぜか駒王学園の制服を着ていたのだ。しかも高等部のを!!

 

「眷属にするなら近くで見れた方がいいからな。俺の権力で無理やりねじ込んだんだよ。・・・一応国語以外の学力テストは合格したぞ? つまりは留学生ってやつだな」

 

 おおおおお! 職権乱用・・・の割には律儀に試験は受けさせてるんだ。 微妙にまじめだ。

 

 それはともかく、ってことはアーシアって十代後半? かわいらしいからまだ中学生ぐらいかと思ってた。

 

「一応イッセーと同じクラスにしといたからよ! いろんな意味で頑張れ若人!!」

 

「え、同い年!?」

 

 さすがにそれはびっくりだぜ。

 

 あれ? でもアーシアは日本語できないんじゃ・・・。

 

「あ、実は部長さんのお世話になるということで・・・その・・・」

 

 いろいろと悩んでいたが、アーシアはかわいらしく気合を入れる。

 

 と、そこに悪魔の翼が!?

 

「いやぁ、こいつの神器は聖母の微笑《トワイライト・ヒーリング》っつーんだけどよ? まさか駒一つでできるとは思わなかったぜ!」

 

 そういいながら、リアス部長は嬉しそうにカラカラ笑う。

 

 お、おおお? いいの? いいのアーシアちゃん?

 

「あ、あぅぅ。いくらイッセーさんと一緒にいられるからって、少し勢い余ったような気もします。ああ、主よおゆるしくださはぅう!?」

 

「おいおい。祈るんだったら覚悟決めとけよ。割とその辺融通きかねえぞ、ヤハウェはよ」

 

 ああ、アーシア悪魔になったから神に祈ると天罰が下るんだ。

 

 おいおい神様。救いを与えろとは言わないけど、せめて祈るぐらいは許してやれよ。

 

 悪魔だって改心したら祈るかもしれないじゃん。融通きかないなぁ。

 

「・・・なあ、俺様一応考えるだけでいいっていったぜ? ちょっと勢い任せにもほどがあるんじゃねえか?」

 

「で、でも、イッセーさんと一緒にいるなら悪魔の方が長く一緒にいられるわけで」

 

 などと二人して話し合うけど、其れってつまり・・・!

 

「え、ちょ、マジで!?」

 

 やべ、顔が真っ赤になってきたんだけど。

 

 え、でもいきなりすぎてどう反応していいかわからない! レイナーレのこともあるから、ちょっとすぐに恋愛は勘弁してほしいところもあるんだけど!?

 

「ま、まだあったばかりなんだからそういうのはゆっくり考えりゃいいさ。よく言うだろ、まずはお友達から・・・ってな?」

 

 そうにやりと笑うと、部長は指を鳴らした。

 

「お前ら! そろそろ出てきていいぞ?」

 

 と部長が言うと、扉が開いて気まずそうに木場が顔を出した。

 

「あ、あはは・・・。実はイッセーくんが来るんじゃないかって部長に言われてね」

 

 え、観られてた?

 

 部長の胸で興奮していたことも?

 

 アーシアから事実上の告白されたことも?

 

 うっわぁあああああ! 恥ずかしいいいいいいいいい!!!

 

「・・・これ以上待たせないでください、イッセー先輩」

 

 小猫ちゃんにまで見られてるぅ!?

 

 と、小猫ちゃんが視線を別の方向に向けていたので顔を剥ければ、そこには何ともおいしそうなケーキが!

 

「アーシアとイッセーの眷属入り祝いだ。祐斗のケーキはうまいぜ?」

 

 え、これ木場が作ったのかよ!? ふつうこれ部長か小猫ちゃんじゃね?

 

「一番うまい奴が作るのがいいだろ? ま、俺様と小猫もクッキーぐらいは手伝ったがな?」

 

「おなかが減りました。早く一緒に食べましょう」

 

 小猫ちゃん、眼の色怖いよ。

 

 ・・・うん。だけど。

 

「・・・食べよっか、アーシア」

 

「・・・はいっ」

 

 こんなうれしそうな笑顔を見れたんだし、早く食べるとするか。

 




と、いうわけで今代の赤龍帝はイッセーではありません。

転生によるイレギュラーを入れたいというのもありましたが、赤龍帝の籠手にギフトまでつかされたらどう考えてもチートすぎると思いました。

敵がチートなのはともかく、味方がチートでは戦闘の面白さが低下すると思いましたので。

ですがもちろん、赤龍帝もがっつり物語にかかわってきますのでご安心を


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早朝特訓 ~聖女の家に来た日~

フェニックス編が遂にスタートします!


 

 いろいろとうれしいことが起こったけど、それにのまれてばかりもいられない。

 

 なにせ、ワールマターの侵略が始まれば大変なことになるのがわかったんだ。それも、ほかならぬ俺自身の手で証明した。

 

 ギフト。この世界とは別の世界にある、様々な異能力を再現した、ワールマターが転生者に与えた特殊能力。

 

 リアス部長は体重を操作する能力をもち、俺は武器を宝具という強力なマジックアイテムに変える力を持つ。

 

 その力は下手な神器を上回る。それは、いざ侵略が始まれば人類は苦戦することの証明だ。

 

 そんなことになれば、俺の両親は、友人は、仲間は、主は、皆大変なことになる。

 

 だから、俺は特訓をしないわけにはいかなかった。

 

「よしイッセー! あと十キロ走ったら休憩だ!」

 

「うっす!」

 

 そして、俺はリアス部長と一緒にランニングを続けていた。

 

 同じ目的を持つ主に出会えるだなんて、俺はすごくついてるんじゃないかと思う。

 

 一人でやってたらいつか挫折してたかもしれない。ある意味それぐらい孤独な戦いだったんだ。

 

 だけど、同じようにワールマターに立ち向かおうとするものが、しかもお礼状に動いている人がいる。

 

 そんな事実が、たまらなくうれしい。

 

「よしイッセー! あと一キロだ!」

 

「はい! でも部長、トレーニングとか好きなんですか?」

 

 なんていうか、口調からはそういうたぐいには全然見えない。

 

 だが、部長は何を言ってるんだかとでも言わんばかりに笑みを浮かべる。

 

「体動かすのは気持ちいいだろ? 第一、磨かなきゃ原石ってのはなかなか輝かねえんだよ!」

 

 確かに、日々の訓練はとても大事だ。

 

 限界まで努力してても、実践では死んでしまうことだっていくらでもある。そんな状態で最低限の努力もせずに戦場に向かおうだなんて、俺にはとてもできない。

 

「悪魔はその辺が緩くてな! 寿命が長い上に血統間で才能に差が出るから、なかなか努力が身につかねえ!」

 

 へぇ。悪魔ってそんなに差が出るんだ。

 

 そりゃぁ、努力も馬鹿らしくなるのかもなぁ。

 

「そりゃあ、努力すれば願いがかなうなんて幻想なのはよく知ってる! だが、努力もしないで夢がつかめるほど俺様は無敵じゃねえんだよ!」

 

 ああ、そうだ。

 

 いわれるがままとはいえそれ相応の訓練を積んで、それでも死んだのが俺たちだ。だから努力が必ず成果につながるなんてことは言えない。

 

 だけど、何の努力もしなかったらそれこそ何もできやしない。

 

 だから、できるだけ俺は努力をしている。勉強も運動も戦闘も。

 

 そして、それはリアス部長も同じだった。

 

 ああ、俺はこの人の下僕になって本当に良かった。

 

 そして、ランニングが終わって家に帰ると、そのタイミングを見計らったかのように一人の少女が家から出てきた。

 

「おかえりなさい、イッセーさん!」

 

 アーシアだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは数日前。リアス部長がこんなことを言ってきた。

 

「イッセー。お前ん家に空き部屋があるなら、アーシアを住まわせてやってほしんだけどよ?」

 

 いきなりそんなことを言われたときは度肝を抜かれたね。

 

 なんでも、アーシアにどこに住みたいか聞いたら俺の家に住みたいと言ってきたらしい。

 

 アーシアが俺に気があるのは知っていたけど、まさかここまで大胆に行くとは思わなかった。おいおいこの子シスターでしょ!?

 

 で、仕方がないので両親に相談した。

 

「・・・えっと、一応事情はイッセーから聞きました」

 

「リアスさんも・・・その、同じ境遇なんですよね」

 

「うっす! 同じ世界からかどうかはわからないっすけど、とりあえずワールマターにこの世界に連れてこられたっす!」

 

 部長、この手の礼儀はある程度わきまえてたんだ。ちょっと意外。

 

「それで、その、アーシアさんのことなんですけどいいんですか?」

 

 と、父さんが本題に入る。

 

 うん、やっぱりそこだよね!?

 

「年頃の男女が同じ屋根の下になると、やっぱり間違いがあるかもしれないですし・・・」

 

 母さんもやっぱりそこが気になるのか。

 

「うんうん。特にイッセーはすごい失恋したばかりだからね。もとからスケベなところがあるし、暴発してすごいことになりそうで怖いんだよ」

 

「いや、ぶっちゃけその辺は何の問題のねえんすけど」

 

 部長! そんなこったろうとは思ったけどはっきり言わないでくれ!

 

 アーシアちゃんも顔真っ赤にするんだったらあんなこと言わなきゃいいのに!!

 

 とはいえ、さすがに日本の普通の人間である父さんや母さんにこの緊急展開はあれか―

 

「親父さん、お袋さん。・・・冥界では実力者がハーレム作ることはよくあるんでさぁ」

 

 ―え、その爆弾ここで投下するの!?

 

「なん・・・だと?」

 

「え? え? え?」

 

 うん、混乱するよね!?

 

「そして、俺様は眷属悪魔に対して、上級悪魔になって自分も眷属悪魔を作ることを願っていやす。・・・やっぱり舎弟にもでかいやつになってほしいんでさぁ」

 

 え? そうなの?

 

 俺の視線をみて、部長は軽く肩をすくめた。

 

「まあ、俺様のカリスマ性が高すぎるせいで、なかなか三人とも独立する気が出てこねえんだけどな」

 

 なるほど。姉御肌がありすぎるのも考え物だ。

 

 っていうか三人? ほかにもう一人いるの?

 

 と、思っていたら部長は話を戻し始める。

 

「もちろん純愛で一筋にやっている人もいますぜ? 親父殿や兄貴は嫁さん一筋でさぁ。・・・ですが、俺様はこう思うんです。男なら、ハーレムの一つぐらい作って見せろと」

 

「・・・あなた?」

 

「若気の至りぐらいだからね!? 父さんは母さん一筋だからね!?」

 

 部長! 俺の家族をドロドロにするのやめてください!

 

「は、は、ハーレム・・・。そ、それでは主の教えに反してしまいますし・・・ああでも・・・主よはぅう!?」

 

 ああ、アーシアもいろいろ大変なことに!!

 

「もちろん、生活費に関してはこちらが持ちまさぁ! と、いうわけでちょっくら花嫁修業でもどうっすか?」

 

 な、なんかすごいことになってきた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、勢いに流されたところもあるが、アーシアは俺の家に住むことになった。

 

 最終的に俺の嫁になることが前提になっているけど、俺、もう少し考える時間がほしいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、説明してもらおうか、イッセー!」

 

 と、俺は松田にいつものハンバーガーショップで詰め寄られた。

 

 具体的にはアーシアのことである。俺の家にホームステイしていることである。

 

 そんなことが知られればいろいろと大騒ぎになるのがわかりそうなものなのだが、教会育ちで世間知らずなところのあるアーシアはストレートにばらしていたのだ。

 

 しかも、覗きをぶちかました経験が一応ある俺の家に住んでいるということでもちろん大騒ぎだ。

 

 気づいたら妊娠してるんじゃないか? とかね。

 

 うん、人のことなんだと思ってんだ!

 

 一回しかしてないし。それだけで終わったし!

 

 そして、それに対しても。

 

「い、イッセーさんの子供!? で、できれば二人ぐらい欲しいで・・・あぅう」

 

 ハイ、大爆発。

 

 それで全力で逃げてきたけど、先回りされて尋問されているのが今の現状だ。

 

「へー。あんたそんなにベタ惚れされてるんだー。へー」

 

 一樹もジト目で見てくるし! なんだよその軽蔑しているような眼は!!

 

「蛇野さん。俺らは困りますけど、いい加減素直になった方が痛い痛い痛い!?」

 

「ちょっと黙っててね?」

 

 うわぁ、元浜がアイアンクローされてるよ。痛そう。

 

「なんで一樹はあんなにキレてんだよ?」

 

「言ったら殺されるから言わねえよ。っていうかお前はそれ直した方がいいって。いや、蛇野さんにも問題あるんだけど」

 

 ?

 

 まあいいや。とりあえず素直に説明するべきだが・・・どうしたものか。

 

「・・・では、私が説明します」

 

 うぉ!? 小猫ちゃん!?

 

「ああ、じゃあ僕も協力するよ」

 

 木場も!? なんでこんなところに!

 

「部長から頼まれてね」

 

 部長、アンタ本当にいい人だ。

 

 あれ? でも部長本人が来ればいいだけじゃねえの?

 

「部長はアーシア先輩の方に行ってます」

 

 あ、そうなんだ小猫ちゃん。

 

「・・・それで、イケメン野郎。どういうことだ?」

 

「俺らに納得いく説明してくれるんだろうな。ああ?」

 

 女を集めるイケメンが憎い二人が、すごい視線ですごみながら木場に説明を求めてきた。

 

「はいはい。説明はともかくとりあえずなんか注文してくんない?」

 

「では、これとこれとこれとこれを」

 

 一樹! 聞き耳立てながらとはいえ注文を促すとは店員の鑑だなお前! 小猫ちゃんもいっぱい頼んでお客の鑑だよ!

 

「まあ、あまり人に言えないこともあるけど・・・」

 

 そう前置きして、木場はわかりやすくうまくぼかした説明をしてくれる。

 

 オカルト研究部は事実上のリアス・グレモリーの舎弟集団で、見込んだ人物を入部させていること。

 

 部長はいずれ自国で親の跡を継いで企業の社長になる予定であり、その際の側近として部員をあてがうつもりだということ。

 

 そして、部員達には何らかの形で独立して事業を始めてほしいと願っていること。

 

 でもって、部長の故国はハーレムOKで、むしろ男なら作ってなんぼだろ派であること。

 

 あとアーシアが教義に反したことで教会を追放されていて、其れがらみのごたごたに部長が介入した結果、俺が頑張ったことでアーシアが俺に惚れていることも説明した。

 

「うわぁ、わかりやすくそれでいて嘘を言っていない説明」

 

 一樹があきれ半分でそう漏らす中、松田と元浜は崩れ落ちていた。

 

「そ、それじゃあ俺たちはお眼鏡にかなわなかったということか・・・っ!」

 

「ハーレム! 男のロマンがぁああああああ!!!」

 

 うんうん。気持ちはわかるぞ二人とも。

 

 だけど、ほかにお客さんもいるからその辺にしとこうか。

 

 と、ドアを開けてさらにお客さんが入ってきた。

 

 ほらお前らしっかりしろ。お客さんの迷惑だぞ?

 

 と、思ったら、その姿は見覚えがあった。

 

「あ、イッセーくんじゃないぃ。久しぶりぃ」

 

 と、少し間延びしたその声は、懐かしい彼女の声だった。

 

「一美ちゃん! 元気だったか?」

 

「そうだねぇ。最近は毎日が楽しいかなぁ」

 

 と、黒髪がまぶしい竹虎一美は、誰もが見ほれる笑顔を浮かべてほほ笑んだ。

 

「お、竹虎! 久しぶりだな」

 

「うん。元浜君も元気だねぇ。どうしたのぉ?」

 

「それがきいてくれよ竹虎! イッセーの奴、結婚を前提としたホームステイをだな・・・」

 

 松田と元浜が元気よく話だす。

 

 いや、下心があまりないのはわかるんだけどさ。忘れてるようだけどそいつ彼女持ちの女だよ?

 

「・・・どうしたのさ。初恋の女の子なんだから少しぐらい話したらどうよ?」

 

 と、ニヤニヤしながら一樹が肘で突っついてきた。

 

「意外。もっと片思いばっかりしてる人だと」

 

 小猫ちゃん? 俺のことなんだと思ってるんだよ。

 

 しっかし話せと言われてもなぁ。

 

「なんていうか距離をつかみにくいっていうか、勝手に俺が気まずくなってるっていうか」

 

 俺が勝手にそう思ってるだけなんだろうけど、どうしてのなんか話しかけずらい。

 

 彼女ができたことでいろいろ変わったのか、なんか距離が遠くなった気も知るしな。

 

 それをみて、一樹はほっと息を吐いたような気がした。

 

 けど、すぐにあきれたような顔を浮かべると肩をすくめる。

 

「あんたそもそも告ってもないくせして、後ろめたい気になってんの? 馬鹿よねぇ男って」

 

「あはは、まあ初恋ですし気になるんじゃありませんか?」

 

 木場、フォローしてくれてありがとう!

 

 とはいえ、久しぶりの一美とのおしゃべりは結構楽しかった。

 

 うん、この時は、本当に楽しく話し合えてたんだなぁってマジ思う。

 

 

 



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不死鳥来訪 ~出会いは炎とともに?~

 

 

 

 

 その日の夜、俺とアーシアは悪魔稼業も終えて帰ってきた。

 

「んじゃ、先にシャワー浴びてなよ」

 

「はい。お先にいただきますね」

 

 アーシアに先にシャワーを譲って、俺は自分の部屋でくつろいでいた。

 

 ・・・しっかし、最近はだいぶ平和だなぁ。

 

 はぐれ悪魔の討伐もあれ以来ないし、何より堕天使とのもめ事もない。本当に話は通ってたらしい。

 

 悪魔になってから短い間に、やれはぐれ悪魔やらやれ堕天使やら大変な目にあってたけど、意外とこの業界は平和らしい。

 

 でも、それもいつかは崩れ去る。

 

 ワールマターは必ず来る。そのつもりがなければ、俺たちに力を渡したりなんてしないはずだ。

 

 部長のキロキロの実も、俺の騎士は徒手にて死せずも強力だ。部長曰く、神器の究極形態である禁手(バランス・ブレイク)に匹敵するとか。

 

 それだけの代物を持っている連中が何十人もいるはずなんだ。そして、そいつらが俺たちと同じようにワールマターに反旗を翻すとは限らない。

 

 ああ、これは覚悟を決めないといけないだろう。

 

 一美とアーシアの顔が脳裏をよぎる。次に父さんと母さんの顔が、一樹や松田や元浜の笑顔がよぎる。最期に、部長たちの顔もよぎった。

 

 ・・・ああ、絶対になくしてたまるものか。

 

 あの時は、結局守りたいものすら手に入らず、そのまま無残に朽ち果てた。

 

 今回は、そんなことをしてたまるものかよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、義姉貴(あねき)? 話が違うんじゃねえか?」

 

『グレイフィアとお呼びくださいリアス様。・・・それに関しては旦那様にお聞きください』

 

「いや、受けないだなんて誰も言ってねえだろ? だけど、今のあいつはガラスのエリートだからよぉ・・・ちょっと気後れが」

 

『旦那様の意向に従うとおっしゃったのはリアス様ですよ?』

 

「いや、そうなんだけどな? それでも大学出るまでは好き勝手させてくれるって話だったろうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の午後、俺たちは部室に向かっていた。

 

「しっかし部長ってかなり男勝りな口調だよな?」

 

「そうだね。前世(まえ)からあんな感じだったらしいよ?」

 

 木場たちとしゃべりながら、俺たちは旧校舎の前にまでくる。

 

「そういえば小猫ちゃん、部長さんはもう部室でしょうか?」

 

「部長はたいてい一番についてます。なんでも頭が常にいなければ格好がつかないとか」

 

「なにそれ、すっげえかっこいいんだけど」

 

 部長。なんであんたはそんなに漢なんだ。畜生かっこよすぎてグラマラスな体系なのに立たねえよ。

 

「そういえばアーシアさん。日本語のほうは慣れたかな?」

 

「漢字というのが難しいですけど、ひらがなのほうは大体わかるようになりました」

 

 アーシアは木場にそう答える。

 

 そう。アーシアちゃんは勉強もすごくできる頭のいい子なんだ。

 

 この調子だと、俺がアーシアに勉強を教えられる日が来るのかもしれない。そ、そんなことになったら立ち直れなくなるかも!

 

 うん、しっかり毎日勉強しないとな!!

 

 と、思いながら部室の近くまで来ると、何やら人の気配が多かった。

 

「あれ? お客さんでも来てるのか?」

 

 しかもこれ、そうとうできるぞ?

 

「・・・僕が、この距離まで気づかないだなんてね」

 

 木場は戦慄すらしているが、特に殺気は感じないな。

 

 うん、とりあえず開けよう。

 

「失礼します! お客様ですか?」

 

「・・・せめてノックをしてください先輩」

 

 あ、いけね! ツッコミありがとう小猫ちゃん!

 

 と、そこにいたのは銀髪のすっごい美人さんだった。

 

 俺たちに気づいた部長が、片手をあげて声をかける。

 

「おうお前ら! ちょうどいいところにきやがったな」

 

 そういうと、俺とアーシアにその銀髪の人を紹介する。

 

「兄貴の嫁さんのグレイフィアだ。いろいろややこしいことがあるんで、普段はメイドに徹してるから恰好は気に擦んな!」

 

「・・・はあ。ご紹介にあずかりましたグレイフィア・ルキフグスと申します。以後お見知りおきを」

 

 な、なんかややこしいお姉さんだな。

 

 部長の性格上、結構扱いに困ってるかもしれない。あとでお茶でも入れよう。

 

 しっかし、そんな人が何でここに?

 

「あの、それでグレイフィアさんはなんで駒王学園に?」

 

「・・・あー。それがだなぁ・・・」

 

 と、部長がすごくいいズラそうな顔をした。

 

 なんだ? なんだなんだ?

 

「お嬢様。ここは私が説明します」

 

 と、グレイフィアさんが前に出る。

 

「実は・・・」

 

 その時、部屋中に炎があふれかえった。

 

 な、な、なんだ?

 

「とりあえず消火しないと。消火器消火器」

 

「落ち着いてください先輩。魔力的なものなので燃え移りません」

 

 あ、そうなの?

 

 俺は小猫ちゃんの言葉にちょっと安心しながら、その炎をを警戒する。

 

 見れば、炎の中には魔方陣が展開されている。

 

 なんだ? これ、たぶん転移の魔方陣か何かだとは思うけど。

 

「フェニックスか。なるほど、そういうことか」

 

 と、木場がため息をついた。

 

 おいおい、俺にも説明してくれよ。

 

 そんなことを思った時、ついに炎が消え、そして一人の男が其の場に立っていた。

 

 なんていうか、ホスト風の男。あとあの髪は染めたんじゃなくて天然の金髪だな。それにしてもなんていうか悪ガキっていうイメージが浮かんでくる。

 

「・・・相変わらず不愉快な風だ。人間界はこれだから嫌いなんだ」

 

 そんなことを言いながら、その男は部長に近づいた。

 

「会いたかったぜ、愛しのリアス」

 

「・・・よぉライザー。元気してたか?」

 

 と、微妙にうんざりした様子で部長が返事をした。

 

 って、え? ええ?

 

「「えぇえええええ!?」」

 

 俺とアーシアは同時に驚いてしまった。

 

 つまり、えっと、これは。

 

 部長の恋人―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―じゃあないな、うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・でさぁ、飲んだら帰ってくれねえ?」

 

 とりあえずジュースを出しながら、部長ははっきりと言い切った。

 

 うっわぁ、言い切ったよこの人。

 

「そういうつれないこと言うなよ、リアス。俺ぐらいだぜ? お前の本性を知って婿入りしたいなんて上級悪魔」

 

 と、ライザーも負けてない。

 

 ・・・あ、確かに貴族とかにあのキャラは受けが悪いかも。

 

「実際、上級悪魔の当主候補で部長以外にあの手のキャラをしてるのはいなくてね」

 

 木場が補足してくれるが、確かにその通りだよなぁ。

 

 貴族があのキャラって、冷静に考えたら間違いなく問題だよ。普通に考えて敬遠するって。

 

「それに、貴族の跡取りとしてグレモリーだって割と切羽詰まっているんじゃないか? だから話が進んだんだと思うんだが」

 

 と、ライザーが本格的に話を切り出した。

 

 それを聞いて、部長はため息をついた。

 

「確かに、貴族だなんて跡取り候補を何人も用意しなきゃならねえのに俺様とミリキャスしかいないってのはあれだけどよぉ。それにしたって話が違うだろうが」

 

 と、割と本気で不機嫌な部長。

 

「大学を出るまでは好きにしていいって話しだったろうが。なんでいきなり婚約って話になるんだよ」

 

「ああ、確かに大学に行ってもいいし下僕も好きにすればいい。だが、君のお父様も心配なんだよ。72柱と呼ばれた御家も、その半数以上が断絶している。転生悪魔や人間の混血と子をなす旧家もあるが、できることなら純潔の悪魔を途絶えさせたくないっていうのは当然だろう?」

 

「それとこれとは別問題だろうが。・・・第一、結婚しないなんて言ってねえだろ」

 

 ライザーの説得に再び肩をすくめながら、部長はどっかりとソファーに座る。

 

「お前ができる男なのはわかってる。親父殿の人を見る目も信用している。・・・これはただ単に筋が通ってねえってだけだろうが」

 

「そういうわけにもいかないさ。・・・君の事情はお父さんからちゃんと聞いている」

 

 と、ライザーも返す。

 

 ・・・って待て? つまりライザーは、部長が転生者だってことも知っているのか?

 

「・・・コレクター魂が燃え上がったか? 俺様系転生者貴族悪魔なんて、俺様ぐらいしかいねえだろうしなぁ」

 

「おいおい失礼なこと言うなよ。俺は全員愛してるぜ?」

 

 ん? 何やら不穏なことになってきたような・・・。

 

 と、思ったら魔力が吹き荒れる。

 

「・・・物理的にたたき返されねえとわからねえようだな。俺様は、必要なら半殺しぐらいなら平然とするぜ?」

 

「・・・なら俺も、君の眷属を全員燃やし尽くしてでも連れて帰るとするか」

 

 えええええええ!? いきなり戦闘ですかぁああああ!?

 

「・・・ヒっ」

 

 ああ! アーシアが悲鳴を上げてる!

 

 うん、怖いよね!? いきなり殺し合いとか、いくらなんでもアーシアには荷が重いよね!

 

 クソッタレ! こんなところで戦闘までする羽目になるのかよ!!

 

 そんな風に俺がみがまえたとき、グレイフィアさんが二人の間に割って入った。

 

「お二人とも落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、サーゼクス様の名誉のためにも鎮圧させていただきます」

 

 静かだけど迫力のこもった声が、二人に冷徹にたたきつけられる。

 

「・・・最強の女王(クイーン)と称される貴方にそんなことを言われたら、俺もさすがに怖いよ」

 

「それはそれで望むところ・・・と言いてぇけど、さすがに無謀な勝負を挑むのは馬鹿のすることだな」

 

 魔力を霧散させる二人を見るに、それだけ強い人なんだな、この人。

 

 っていうか最強って言った? なんでそんな人がメイドやってんの!?

 

「こうなることは旦那様もサーゼクス様も、フェニックス家の方々も承知しておりました。そのため、最終手段は用意しております」

 

 グレイフィアさんがそういうと、部長はやれやれといわんばかりにいやそうな表情を浮かべた。

 

「・・・つーとあれか? レーティングゲームをやれってか?」

 

「その通りです。貴族同士のいさかいを、レーティングゲームでつけることはよくあることですから」

 

 えっと、レーティングゲームって悪魔の競技だよな?

 

 つまり、それって・・・。

 

 俺たち、いきなりレーティングゲームですかぁああああ!?

 



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闘争締結 ~いざ山奥へ修行の旅に~

 

「・・・俺様はそれでもかまわねえが、まさか嫌とは言わねえよな、ライザー?」

 

「へえ、受けるのか。それはかまわないが俺たちはすでに公式のゲーム経験もあれば勝ち星も多いぜ?」

 

 部長とライザーが不敵ににらみ合う。

 

 ああ、なんてこった。

 

 悪魔になっていきなり堕天使と揉めたと思ったら、今度はいきなりレーティングゲームですよ。

 

「俺様が勝ったら、もちろんこの話はなかったことになるわけだ。・・・文句はねえよな?」

 

「もちろんだ。まあ、万が一・・・の話だけどな」

 

 再び鋭いにらみ合いが勃発するが、しかしライザーはふと嘲笑を浮かべた。

 

「しかし、君の眷属はこれっぽっちか?」

 

「あ? なんか文句でもあんのか?」

 

 部長が馬鹿にされたと思ったのかかなり表情を険しくするが、ライザーも全く動じない。

 

「いや? まだデビューもしてない悪魔にしてはそこそこかもしれないが、俺の下僕の相手をするにはまだまだだともってな」

 

 そういうと、ライザーは指をパチンと鳴らす。

 

 その瞬間、また魔方陣と炎が巻き起こった。

 

 そして、その中から何人もの女の子が・・・女の子しかいない!?

 

「・・・なあ、これって、まさか?」

 

「そのまさかです」

 

 小猫ちゃんが俺の心を読んだかのように答えてくれる。

 

 ああ、間違いないだろう。これは間違いなくあれだ。

 

 この野郎、ハーレム作ってやがる!

 

「くそがぁああああああああああああああああああああ!!!」

 

 俺は心の底から崩れ落ちた。

 

 ああ、崩れ落ちるとも!

 

 だって俺は、初恋の女の子を女に取られた挙句、こくってきた女が殺すための刺客だという女運の悪さを誇る男だぜ!?

 

 いや、アーシアがそのつもりなのはうれしいんですが、さすがにこの連発はきついからまだその気にはなれねえしさ!

 

 なんか涙すら出てきたぁあああああ!!!

 

「謝れ! 告白する前に女に寝取られた俺に謝れぇええええ!!」

 

「うぉ!? なんだ!?」

 

 思わずつかみかかりそうになってしまうが、部長に首根っこを捕まえられて止められる。

 

「あ、悪いな。こいつ、初恋の女に彼女ができたらしくって」

 

 部長! 言わないでください!

 

 と、ライザーはそんな俺に肩に手を置いた。

 

「・・・頑張れ」

 

「うるせえぇええええ!!」

 

 そうじゃねえんだよぉおおおお!!!

 

 くそ! 殴り飛ばしてやりたいけど、そうすると部長に迷惑がかかる!

 

 ええい! こうなったらレーティングゲームでケリをつけてやる!!

 

「レーティングゲームを待ってやがれよよこの野郎! 焼き鳥にして食べてやる!」

 

「ハッ! 元人間ごときにやられる俺じゃない。・・・それに、ゲームは十日後ぐらいでいいだろう?」

 

 あれ? てっきり今すぐ始めるのかと思ったけど、そんなに待つの?

 

「それはかまいませんが、よろしいので?」

 

「かまわないさ。数の差はあるんだしちょうどいいハンデだろう」

 

 うっわぁ。確かにその通りだけど余裕満々だなこの野郎。

 

 だが、少年兵としての記憶が事実であることを証明する。

 

 敵はフルメンバー(16人)でこっちは全く足りない(5人)。三倍以上の数の差は、普通に考えたら絶対負ける戦いだ。

 

 だけど、ここで尻込みするわけにもいかないわけだ。

 

 ・・・絶対勝ってやるからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ライザーたちが帰った後、俺たちは会議をすることになった。

 

「いや、マジで悪かった!」

 

 と、真っ先に部長が頭を下げる。

 

「親父殿が筋の通らない真似をしたせいで、頭がカッとなっちまった。おかげで不利な勝負を受けさせちまって済まねえ!」

 

「顔を上げてください部長。実際、約束をたがえているのはジオティクス様の方なのですから」

 

 おお、さすがはイケメン王子の木場祐斗だ。こういう時も完璧な対応だよ。

 

「でも、なんで急にそんなことを決定したのでしょうか?」

 

 と、疑問符を浮かべるアーシアだが、其れに堪えらえる人はいない。

 

 部長もさっぱりわからないらしく、胴にも首をかしげていた。

 

「そうなんだよなぁ。親父殿は娘の俺様がいうのもあれなぐらい親馬鹿だが、理由もなく筋を曲げるような人じゃねえのに・・・」

 

 うーん。どういうことなんだろう。

 

「部長が知ると、余計なもめ事になるような理由があるからでは? 部長は不用意な喧嘩はしませんが、理由があるとすぐに動くタイプじゃないですか」

 

「俺様の縄張りでなんか妙な動きがあったとでも? それにしたって無意味な喧嘩なんてする気はねえぞ?」

 

 確かに部長はそういう人物だが、となれば喧嘩を確実に売るような相手が動ているということになる。

 

 そんな相手、心当たりは一つしかいない。

 

「・・・ワールマターとかいうのが、動いた?」

 

 小猫ちゃんが言葉にする中、全員が少し沈黙した。

 

 あの野郎、ついに侵攻を開始したってのか?

 

「いや、それなら親父殿もちゃんと言ってくるはずだ。・・・第一、全軍総出で動き出すレベルだよ、そいつぁな」

 

 部長はそういうが、しかしなんか不安になってきた。

 

 なんでだろう、すごい嫌な予感がしてきてるんだけど、俺。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、今はレーティングゲーム。

 

 俺たちは、十日間も何もしないわけにはいかないので修行を行うことになった。

 

 そのためにとりあえず、部長の別荘がある山の中にレッツゴー!

 

 ・・・なんだけど、ね?

 

「部長! なんか荷物多くありませんか!?」

 

「おう! どうせなら行きも含めて特訓した方がいいと思ってよ! 大量に缶詰を入れてきたぜ!」

 

 うわっはー! 道理で重いと思った!

 

 今、俺の背中には俺の全身よりでかい荷物が背負われている。

 

 うん、確かに鍛えてるし悪魔にもなったけど、ひどくね?

 

 内心でそう思うけど口には出さない。

 

 なにせ、隣の木場も同じぐらいの荷物を背負っている。部長はその倍ぐらいの荷物を背負っている。小猫ちゃんに至っては、五倍ぐらいの荷物を背負って平然としている。

 

 これじゃあ文句は言えないぜ! アーシアにこんな思いに持つを背負わせるわけにはいかないしね!

 

「それにしたって、どうするんですか部長? 数の差は圧倒的なんですけど」

 

 と、俺は歩きながら懸念を口にする。

 

 なにせ数は圧倒的だ。そして数は間違いなく力だ。

 

 戦闘において敵より多くの数を用意するのは当然の理屈。三倍以上の数を用意されてるなんて、その時点で負け確定といっても過言じゃない。

 

「ま、前世()の戦いじゃあ確実に負ける戦いだな。俺様としても普通は逃げるような戦いだ」

 

 と、前もって告げてから部長はにやりと笑った。

 

「だけど、この世界はインフレが激しいんだぜ、イッセー?」

 

 まあ確かに。

 

 レイナーレとの一件がいい例だ。

 

 あの時の数の差はこんなもんじゃなかった。そして、部長たちは割と無双していた。

 

「群と数と範囲が中心だった人間世界の争いと違って、異形たちの争いは個と質と深度が重要だ。実力者ならマジで無双ゲームみたいなことが平然とできるし、その気になれば小さな島ぐらいなら吹き飛ばせるぜ?」

 

「うっわぁ、なんでそれを隠し通せてきたんですか?」

 

 ちょっと戦闘したら地形変わるじゃん。人間にばれないように争いとかできないよ。

 

「まあ、作る力が強ければ直す力も強くなるってことさ。・・・実際、レーティングゲームの舞台とかはその都度作ることも多いけど、ショッピングモール程度の空間なら簡単に作れるんだよ」

 

 マジか木場。悪魔ってすごいんだなぁ。

 

「はぅう。そんなことになったら迷ってしまいそうです」

 

「大丈夫。アーシア先輩は護衛しますから」

 

 怖気づくアーシアに小猫ちゃんが安心させるようにそう告げる。

 

 小猫ちゃんって無表情に見えて、実は意外とかわいらしいよなぁ。

 

 そんな子が怪力で戦うんだからすごいなぁ。

 

 俺も、しっかり頑張らないと。

 

気合を入れますか、俺も!!

 



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修行開始 ~いざ、レーティングゲームのために~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、別荘についた俺たちは、ジャージに着替えて到着した。

 

「・・・特訓を始める前に一つ言っとくことがある!」

 

 と、部長がそう告げると頭を下げた。

 

「改めて詫びるが、今回は俺のわがままに突き合せちまって悪い!!」

 

「顔を上げてください。僕たちは部長の眷属なんですから、部長の命令に従って戦うのは当然のことです」

 

 木場は本当にイケメンだなぁ。

 

「だが、初のレーティングゲームが俺様のわがままだなんてある意味恥だろう。特にイッセーとアーシアはいきなりのトラブルだ。・・・マジ悪ぃ」

 

「気にしないでください部長さん。私なんて、足手まといになりますし」

 

 アーシアはそういってなだめようとするが、部長はそんなアーシアの頭に手を当てるとなでる。

 

「んなこたぁねえよ。回復能力なんてレーティングゲームじゃイレギュラーだ。むしろ切り札だぜ?」

 

「そんなにですか?」

 

 なんていうかファンタジーだし、結構いろいろとあると思うんだけど。

 

「そりゃぁ魔力を流せば治癒力も高まるが、戦闘中に使えるようなもんじゃねえ。フェニックスの涙っつー回復アイテムはあるが、あれは金はかかるし希少だしで、レーティングゲームじゃ使用は制限されるしな」

 

 と、部長が告げる。

 

 ふぅん。そんなに希少なんだ。

 

「基本、二個以上は使用できないです」

 

 小猫ちゃん、補足ありがと。

 

「ま、そういうわけなんで改めてよろしく頼む! 貴族として政略結婚を全否定する気はねえが、それでも限度はある」

 

 そういうと、また部長は頭を下げる。

 

「・・・俺様に力を貸してくれ!」

 

「「「「はい、部長!」」」」

 

 当然ですよ部長。俺たちは最初から断る気はありませんから。

 

 さて、特訓開始しますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけで特訓スタート。

 

 第一弾、木場との武器戦闘講座!

 

「ま、イッセーの場合はナイフとかの方がやれそうだがな」

 

 とはリアス部長の弁で俺も同感だけど、とりあえず剣の練習もやっとくことになった。

 

 ・・・刃物といえばナイフとかマチェットなんだけど、両手持ちは慣れてないから意外ときつい!

 

「ちゃんと目で追えてるし、動きもいいけど・・・っと!」

 

「うおっと!?」

 

 俺が降る木刀は全然当たらなくて、少しの間は粘ったけどすぐに叩き落されてしまった。

 

「・・・すぐに直すのは無理っぽいね。今度はナイフサイズで行ってみようか」

 

「おう! そっちなら負けないぜ!」

 

 今度はナイフサイズで挑戦。

 

 うん、俺はこっちの方が使いやすいな。慣れてるし。

 

 と、いうわけで今度は何とか打ち合えてる。

 

 片手が空いてるから格闘戦に持ち込むけど、木場はそれにも反応した。

 

「やるじゃねえか木場! 武器戦闘って、武器に注意が行くから結構徒手空拳の組み合わせが効果的なんだが・・・なっと!」

 

「戦闘するときは視野を広げて相手と周囲を見ないと行けないしね」

 

 ああ、動きに全くスキがない。

 

 いい指導者に恵まれたんだろうなぁ。俺の時も将来の戦力にするつもりだったのか、結構スパルタだったから少しは長生きできたぜ。

 

 おっと、集中集中!

 

第二弾 魔力特訓編!

 

「つっても、俺様は殴り合いが基本だからそんなに詳しくはできねえがな」

 

 と、前もって断ってから部長が魔力の塊を作って見せた。

 

「魔力ってのは大体イメージがものをいうんだよ。体全体から流れるように集めて、意識を集中させてだなぁ・・・」

 

 と、部長のアドバイスに従ってやるけど・・・うぉおお! 米粒サイズが限界じゃねえか!

 

 詳しくないって言ってる部長ですら、サッカーボールサイズをなん十個も作ってるのに! 残酷すぎるだろ神様! ・・・あ、敵だった。

 

 そして、なんとアーシアちゃんはテニスボールサイズぐらいはできていた。

 

「お、アーシアはやるじゃねえか。僧侶(ビショップ)向きなやつだと思ってたぜ」

 

「はい! この調子ならお役に立てそうです!」

 

 うぉおお! アーシアが役に立つならそれはそれでいいけど、それにしたってどうしたもんか!

 

 ん? 待てよ?

 

 イメージってことは・・・。

 

「部長! ちょっとご相談があるのですが!!」

 

 俺は手を挙げてから、こっそりと耳打ちする。

 

「バトル漫画とかでよくある、女性の服がいやらしい感じにはじけ飛ぶってイメージとか形にできませんかね?」

 

「・・・面白そうじゃねえか! いっそ全裸に向いちまった方がライザーの奴が悔しがりそうだぜ?」

 

 ・・・その結果、テストのために使い捨てる服を大量に持ってくる羽目になった。

 

 金は部長が持ってくれたし半分持ってくれたけど、これは大変だぜ!

 

 

第三弾! 小猫ちゃんとの体術練習!

 

 これに関してはだいぶ楽にできる。

 

 なんたって、兵士が格闘技を練習するのは当然だ。

 

 弾が切れ、そしてナイフも折れたとき、最後に頼るのは肉体だ。

 

 だから当然格闘技の練習はしてるんだけど―

 

「えい」

 

「うぉおおおお!?」

 

 強い! 小猫ちゃん強い!

 

 小柄な体は当てづらく、そして反比例してパワーは抜群!

 

 おお、これはキッツい!

 

「すごいね小猫ちゃん! 俺、結構自信があったんだけど!」

 

「イッセー先輩もなかなか」

 

 とはいうけど、これは確実に圧倒されてるって!

 

 うん、俺人生二週目なのに弱くない!? これが少年兵の現実か!

 

「イッセー先輩の攻撃は急所を狙ってますね。ここまで完成してると、教えづらいです」

 

「小猫ちゃんの場合は?」

 

「えい」

 

 ぐはぁ! 物理的に教えられた!?

 

「体の中心線を狙っています」

 

 そして言葉でも教えてくれるのね・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺たちは晩御飯を食べていた。

 

 ああ、やっぱり重労働の後のご飯はうまく感じるぜ!

 

 山で採れた山菜を使ったお浸し。部長が自ら狩ってきたイノシシを使ったジビエ料理。そして取れたての魚は焼き魚に!

 

 んでもってアーシアもスープを作ってくれた。これに感謝しなきゃ男じゃない!

 

「うまい! アーシアのスープもうまいけど、ほかの料理もすごくうまい!」

 

「因みに、基本的に祐斗が作ったやつだ。いや、俺様もいくらか作ったがな?」

 

「畜生! イケメンの上に料理もうまいとか欠点ねえのかお前は!!」

 

 なんか完璧すぎて妬みが一周回って尊敬になってきたぜ!

 

「・・・おかわり」

 

 小猫ちゃんもがっつり食べるね。すごい!

 

「しかしまあ、いい拾いもんしたぜ! あ、もちろん二人ともな?」

 

 とまあ言ってくれるけど、アーシアはともかく俺も?

 

「回復の力は確かにすごいですけど、俺そこまで役に立ちますかね?」

 

「あ? なぁに言ってんだお前」

 

 声に出して聞いてみたら、この「お前馬鹿なの?」的な返事だよ!

 

「拳銃一丁を中級堕天使を一発でぶち抜くような凶悪兵器に変える奴が何言ってんだ? 十分戦力だっつの」

 

「確かにね。これで神器がまだあるんだからすごいと思うよ?」

 

「十分脅威です」

 

 おお、思いもよらぬ三連続べた褒めだ。

 

「はい。あの時のイッセーさんは本当にすごかったです・・・はうぅ」

 

 うわぁ、アーシア顔真っ赤。

 

 こ、これは責任を取らなければいけないのでしょうか! 神よ教えてください! 敵でもいいから教えてプリーズ!

 

 な、なんか恥ずかしくなってきた! 話題変えよ!

 

「しっかし、政略結婚であんな奴と結婚って、部長も大変ですね」

 

「いや、んなこたぁねえぞ?」

 

 あれ? 結構マジで反対してなかったっけ?

 

「政略結婚つったって、親バカの親父殿が俺の好みの範疇外ってやつにするわけがねえだろ。あれはあれでできる男だと思ってるぜ?」

 

 そ、そうなの?

 

「確かに、ライザー氏はすでにいくつものレーティングゲームを勝利した実力者だ。敗北はお家事情でわざとしたらしいし、事実上の無敗だね」

 

 木場の説明に、確かに俺は納得する。

 

 そうか、そんなに実力があるのか。

 

 なんか感心していると、部長がさらに驚愕の事実を突きつける。

 

「第一、ハーレムなんてもんは男の器量が無けりゃあうまくいかねえもんだろうが。一応言っとくが、あいつ自分で口説いてるぜ?」

 

 そうなの!? くっ! 俺にもそれぐらいの気量があれば!

 

 などと悔やんでいると、部長が少し暗い顔になる。

 

「・・・まあ、問題がないわけじゃねえんだけどな」

 

 ん? 何か問題が?

 

「奴には挫折の経験がねえ。才児なせいでろくに負けたことがねえから、もし負けたらそのまま折れるかもしれねえんだ」

 

 その表情は、心底ライザーを心配している表情だった。

 

「挫折ってのは早いうちにしといた方がいいんだよ。ほら、高いところから落ちるより低いところから落ちた方が傷はすくねえし、堕ちたときのやり方も覚えられるだろ?」

 

「あ、確かに」

 

 いわれてみるとすごい納得。

 

 なるほど、昔テレビでやってたガラスのエリートってやつだ。

 

「・・・だからいい機会だし、ついでに負けの経験も教えてやろうかと思ってんだ。折れきっちまったらそれまでかもしれねえが、乗り越えればあいつはもっといい男になるだろ?」

 

「部長、人が良すぎです」

 

 小猫ちゃんが半ばあきれながらも小さく笑顔を浮かべてそう答える。

 

 ああ、俺たちの部長はなんて姉御肌なんだ!

 

「なぁに! 将来俺の男になるかもしれねえんだ。先行投資ってやつだよ」

 

 すげえぜ部長! 俺は、部長と会えて本当に良かった!

 

「・・・あれ? でも部長さんが結婚を嫌がる必要はないんじゃありませんか?」

 

 と、そこでアーシアが首をひねる。

 

 それもそうだな。いったいなんで?

 

「いや、それはそれとして俺様としてもまだ若いから遊びたいっていうか暴れたいっていうか・・・」

 

 と、いきなりしどろもどろになってきたぞ部長。

 

 あれ? もしかして勢いとかだったりする?

 

「まあ、素直にいうとだな? ・・・最初に約束破ったのは親父殿の方なのに、俺様が素直に納得するのが気に入らねえ。事情も説明してくれねえとか、ひどいとは思わねえか?」

 

 ああ、なるほど。

 

 つまりお父さんに拗ねていると。

 

「だあああああ! 何ニヤニヤ笑ってやがる! 恥ずかしいからやめろ!!」

 

 いや、いい親子関係だと素直に思いますよ?

 

 だって、それだけお父さんのことを信頼しているってことじゃないですか。そんな関係になれるのっていいことじゃないですか。

 

 ・・・ホント、俺たち親に恵まれてるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと、俺たちは一生懸命特訓を続けた。

 

 悪魔の事情や教会の事情とかを勉強もした。これでだいぶ知識が身についたと思っている。

 

 ものは試しと十字架や聖水に触れたときは思いっきりやけど状態だった。アーシアに直してもらったからよかったけど、言ってほしいと心から思ったぜ。

 

 部長ってば「こういうのは一度経験した方がいいんだよ」とか言って平然としてるんだもん。割とスパルタだぜ俺の部長は。

 

「それでどうよ? 修行の成果は出てきたと思うか?」

 

 帰り道、部長は俺にそう尋ねる。

 

 う~ん、どうなんだろう。

 

 じっさい、最後にギフトありで模擬戦をした時は木場に肉薄できた。

 

 武器の性能が桁違いに上がるから、だいぶ戦えたんだよなぁ。

 

 とはいえ、木場も本気は出してないだろうし過信は禁物。

 

 小猫ちゃんとの格闘戦は負け越しだし、まだまだだ。

 

 だけど、勘は取り戻せた。

 

「・・・まあ、足は引っ張らないと思いますよ」

 

 新技も完成したしなっと!

 

 その答えに、部長もにやりと笑うと親指を立てる。

 

「おう! 期待してるぜ?」

 

 ええ、その期待、応えて見せます!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、レーティングゲーム当日。

 

 俺は、自分の部屋で準備を万端にしていた。

 

 部長からは服は特に指定されていなかったけど、なんとなく制服を着てみる。ただし、それだけじゃない。

 

 上着の下には防刃ベスト。さらに奥の手として部長が用意した最終兵器を隠し持つ。

 

 そのあと上着を着てから、同じく部長が用意してくれたアサルトライフル。すでに銃剣も着剣済みだ。

 

 さらにサブウェポンとしてナイフとサブマシンガンを用意。いっそのこと鎖帷子でも仕込んどくべきだったかね。

 

 しかしなんていうか、少し緊張するな。

 

 命がけの殺し合いなんて何度もしたはずなのに、それ以上に緊張する。殺し合いじゃなくて競技だからこその緊張感ってやつだろうか。

 

 だから、ちょっと違和感があって困ってる。

 

 とはいえ、部長も結婚を勝手にはやめられて怒ってるからな。ここはひとつ頑張らないとな。

 

 それに、これからワールマターが仕掛けてくるならライザーの奴も戦うことになるだろう。

 

 その時、一回負けて心が折れたら大変だ。

 

 その前に一回負けの経験をつませてやるか。ああ、責任重大だぜ。

 

「・・・あ、イッセーさん」

 

 と、アーシアが部屋に入ってくる。

 

 その恰好は、シスターの服だった。

 

「その恰好にしたんだ」

 

「はい。部長さんが好きな服でいいといってくれたので」

 

 よっぽどシスターの服が気に入ってるんだなぁ。信仰心は捨ててないんだ。

 

「悪魔がこのような格好をするのもどうかと思ったんですが、やっぱり私は主の信仰を捨てれませんから」

 

「そっか。天の上で神様が困った顔をしてるかもな」

 

 まったく。本当にアーシアは・・・。

 

 ま、いっか。

 

「頑張ろうぜアーシア。俺とお前が切り札らしいからさ」

 

「はい!」




本作の部長は政略結婚そのものはまあ納得してます。

貴族とはそんなものだと思ってますし、嫌な相手を紹介しないと父親を信頼しているからです。

だが、其れはそれとして筋が通らないなら反発する。つくづく姉御肌というか極道気質というか・・・。


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初戦優先 ~vsフェニックス第一ラウンド~

 

 そしてレーティングゲームが始まったんだけど・・・。

 

「嘘だろ」

 

 俺はそうぽかんとつぶやくしかできなかった。

 

 だって、だって、だって!

 

 レーティングゲームのフィールド。このためだけに用意した駒王学園のレプリカなんだぜ!?

 

 嘘だろ!? あんなでかい施設をこのためだけに用意したのかよ! あ、壁の傷まで再現してやがる!

 

 悪魔の技術すごい!! 少しぐらい人間界に分けてくれてもいいんじゃないの? いやマジで!

 

「建設業界とか機能してないんだろうなぁ」

 

「ま、悪魔になりたての人間はよく驚くぜ?」

 

 とまあ部長が面白がりながら付け加える。

 

 あれ? 意外と余裕?

 

「ま、負けたら負けたで仕方がねえ。とはいえ負けてやる義理もねえ」

 

 そういいながら部長はソファーにどっかりと座る。

 

「その割には全然動かないんですけど、いいんですか?」

 

「レーティングゲームっていうのはね、結構長期戦なんだよ」

 

 そう言いながら、木場が地図を広げる。

 

 あ、駒王学園の地図だな。しかもちぇず版みたいにマス目がついてるな。

 

「とにもかくにも、俺様達は数で圧倒的に不利なうえにレーティングゲームの経験でも劣ってる。こいつぁ間違いなくきつい戦いだ」

 

 と、部長が前置きした。

 

 俺もそれは同感だ。

 

 経験豊富な連中が圧倒的な人数差で攻めてくる。普通にかんげて勝負を挑む方がどうかしているレベルだ。

 

「部長、とにかく何とかして数を減らさないとまずいですよ。ライザーだけでもやばいのに」

 

 そう、何がやばいってライザーだ。

 

 十戦八勝。それがライザーのレーティングゲームの戦績。そしてそのうち二敗はお家事情でわざと負けている。

 

 ぶっちゃけそんな理由で勝ち負けを堂々と操作して意味あるのか疑問だけど、それはまあおいとこう。

 

 そして、それだけの圧倒的な成績を収めた理由は単純明快。

 

 ソロモン72柱に連なる上級悪魔。その序列37番目のフェニックス。その特性は、不死。

 

 傷を負っても炎とともによみがえり、さらには特殊な条件下で流した涙は聖母の微笑に匹敵する治癒の力を発揮する。

 

 冗談抜きでシャレにならない。伯爵って、爵位としては低めだよな。なんでそんなことになってんのかさっぱりなぐらいすごい能力だろうに。

 

 どうもレーティングゲームに入ってからメキメキと勢力を伸ばしているらしい。倒されないって本当にすごい。あと回復とか医療産業で莫大な利益もだせるからな。

 

 そういうわけで、フェニックスはかなり強いそうだ。ライザーの一番上のお兄さんは近々最上級悪魔に昇格するとか。

 

 そんなチートじみた奴を相手にする以上、それ以外の奴には退場してもらわないとマジで困る。

 

 さて、問題はどうしたらいいか・・・。

 

「とりあえず、何人かはどうにかできるはずだな」

 

 と、部長は校舎裏の運動場を指さす。

 

「ここから移動するのが一番わかりやすい以上、何かしらの形で何人かおいているはずだ。ここを祐斗、小猫、イッセーの三人で強襲する」

 

 おお、戦力のほとんどを投入するのか。あれ? でもアーシアは。

 

「アーシアの護衛は俺様がする。とにかく数で劣っている以上、囲まれたらアーシアが狙われるのは間違いねえからな」

 

「あ、足を引っ張ってしまって申し訳ありません」

 

 恐縮するアーシアの頭をなでながら、部長は安心させるように微笑んだ。

 

「大丈夫。アーシアの出番はライザーを倒すまで取っとくだけだよ。・・・そういうわけで、いけるな三人とも?」

 

 と、部長が答えをわかっているのにそう聞いてくる。

 

 ええ、わかってますよ部長!

 

「「「はい、部長!!」」」

 

 絶対、あいつらをぎゃふんといわせて見せますとも!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけで俺はアサルトライフルを構えている。

 

『イッセーくん。そろそろいいかい?』

 

 木場たちはすでに準備万端のようだ。

 

 よし。なら俺がやることはただ一つ。

 

「タイミングはそっちに合わせる。・・・よろしく頼むぜ?」

 

『では、私がやります』

 

 と、子猫ちゃんが代表した。

 

 俺は、呼吸を落ち着けて手のぶれを抑える。

 

 アサルトライフルとは、第二次世界大戦でドイツが開発した銃の種類。

 

 戦争における射撃の基本距離が、四百メートルぐらいだったことからそれに合わせて開発された装備だ。

 

 そして、テレビとかのイメージで勘違いされやすいけど、基本的に一発ずつ打つのがこの銃の在り方。

 

 つまり、ある程度の遠距離狙撃が可能なわけだ。少なくとも学校規模なら十分すぎる。

 

『では、カウント3で突入します』

 

 よし、こっちも狙いが付いた。

 

 ターゲットは明らかに僧侶っぽい和装の少女。

 

 女の子を撃つのは気が引けるけど、頭は狙わないから即死はしないだろう。

 

 どうせやられても退場して治療を受けるんだし、それぐらいなら大丈夫だろう?

 

『3、2、・・・1!』

 

 悪く思うな!

 

 久しぶりの突撃銃だったが、一発でど真ん中をぶち抜くことに成功した。

 

 よし! この感覚ならこのまま終了! 騎士は徒手にて死せずすごい!!

 

 それに気づいた相手の大剣をもった騎士と歩兵二人が飛びのくが、しかしそれは木場と小猫ちゃんに任せる。

 

 俺はすぐにサブマシンガンとグレネードランチャーに切り替えると、すぐに振り向いた。

 

 ・・・おそらく向こうも攻めるために歩兵を送り込んでいる。

 

 土壇場でその当たり前のことに気づいた俺たちは、迂回しながらこっちに移動した。

 

「そっちから仕掛けるとは思わなかったわよ!」

 

「ライザー様に怒られちゃうじゃない!」

 

 予想通り来たよ三人も!

 

 あとメイド服萌える! 写真撮りたい!!

 

 けど悪いが―

 

「そっちはワイヤートラップの群れなんだよ!!」

 

 何人かがワイヤーに引っかかってつんのめるから、それを正確にサブマシンガンで撃ち抜いていく。

 

 魔力式のトラップなら勘付かれただろうが、ただのワイヤーなら悪魔は勘付きにくいと思ったがその通りだ。

 

 もちろんなんの魔力も込めてないからすぐ千切れるけど、一瞬隙ができればすぐに倒せる。

 

 それでもかいくぐって接近してくる子がいたけど―

 

「その程度なら怖くない!」

 

 素早くナイフで切り捨てて、ハイ終了。

 

「な、つ、強い・・・!」

 

「そりゃあ、異世界からの尖兵だったわけだしね」

 

 これぐらいはできなきゃ、駒価値5の兵士は名乗れないってね。

 

「木場、小猫ちゃん! そっちは!?」

 

『兵士は小猫ちゃんが片付けた。騎士のほうはできれば一対一で倒したいけど・・・』

 

『では、私はいったんイッセー先輩と合流します』

 

 向こうもどうやら順調のようだ。

 

 ただ、順調に行き過ぎてるからか少し油断してる気がするな。単騎の討伐に慣れてるから、こういういつ援軍が来るかについては慣れてなさそうだ。ちょっと急ぐか。

 

「二人とも気を抜くなよ! 死人が出ないんだから、向こうだって平気でおとりの一人ぐら・・・ぃい!?」

 

 と、思ったら校舎の影から一人ドレス姿の女が小猫ちゃんを狙っている!?

 

 俺はとっさに片手もちでアサルトライフルとサブマシンガンをフルオートでぶっ放す!!

 

 そんな打ち方であの距離の人に当てれるわけない。

 

 だが、弾が飛んできているのなら向こうだって対応するのは当然だ。少なくとも、弾丸が近くを飛んできてるのにそのまま狙撃できる猛者は相違ない。当然注意はこっちに向く。

 

 一種の制圧射撃だ。本来マシンガンってのはこういう用途のために使われるのでみんな覚えておくように!

 

「周囲の警戒は、集団戦じゃ怠っちゃだめだぜ! お互いに覚えておこうか!!」

 

「・・・手間をかけさせてしまい、すいません」

 

 少し顔を赤らめる子猫ちゃんがかわいらしいけど、残念ながら気にしてる余裕がない。

 

 さすがに両手持ちはきついし弾倉を変えられないので、泣く泣くサブマシンガンは投げ捨てる。

 

 屋内戦に持ち込まれませんように! お願いします!

 

「やってくれるわね。駒価値5とはいえ、ろくに戦いの経験もない日本の学生と聞いてたけど」

 

 おやおや、俺のことも少しは調べてるようだな。

 

 だが、さらにその前のことまでは調べようがないだろう? そういう意味でも俺は伏せ札(ジョーカー)なんだよ!

 

「・・・じゃあ、さらに反撃と行きますか! このままキルスコアを増やさせてもらうぜ!!」

 

 ・・・これ以上的が増える前に、なんとしてもこの女をぶちのめす!!

 

 と、思ったその時、女から莫大な魔力が集められる。

 

「気を付けてください。・・・あの女王(クイーン)は爆発の魔力を使ってきます」

 

 え、マジで、小猫ちゃん?

 

 それって、こんな広いところじゃ不利―

 

 とたん、俺は爆風にあおられて十メートルぐらいふっとんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、俺は相手の女王のプライドをかなり傷つけてしまったらしい。

 

 さっきから集中的に攻撃されている。このままだとやばい。

 

「う、うぉおおおお!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?」

 

「安心しなさい。レーティングゲームだからよほどのことがない限り死なないわ。・・・だからいたぶってあげる」

 

 この女性格悪い!

 

 くそ、サブマシンガンのほうを残した方がよかったか? アサルトライフルだと狙いをつける前に攻撃が飛んでくる。

 

 まるで攻撃ヘリだ。それもロケットランチャーを満載したタイプ。

 

 これが、悪魔の戦闘能力! 人間の兵士なんて目じゃないぐらい強い!!

 

 だが、其れでもいい加減パターンは読めた。

 

 まだまだ新入りだな。動きにパターンがあるから慣れてくればやりようはあるんだぜ?

 

「反撃開始!!」

 

 俺はバースト射撃で女王を誘導。同時に型手持ちでグレネードランチャーを構えて、ぶっ放す。

 

「あらあら、そんな攻撃に当たると思って?」

 

 そういって女王は動きを止めるが―

 

「残念、近接信管だ」

 

 その隣で、グレネードは爆発した。

 

 設定した弾丸は破片で攻撃するタイプのグレネード。

 

 手榴弾の方が少し大きいから威力は大きいが、宝具化は手に持つことで意味を発揮するし、こっちの方が射程距離は長いのでグレネードランチャーを携行していた。

 

 よっしゃ! これは一撃でリタイア―

 

「・・・やってくれるわね!」

 

 と、光に包まれかけた女王が懐から瓶を取り出す。

 

 そのまま中身を体にかけると、傷があっという間にいえてしまった。

 

 げ! これが噂のフェニックスの涙!?

 

「・・・その分お仕置きをしてあげないといけないようね。・・・覚悟しなさい!!」

 

 こ、これはさすがにまずい!?

 




人間世界での実戦形式に慣れているせいで、結果的に相手側はかみ合わず大苦戦。あと実戦経験があるのでそこら辺のスキも少ない。

決してギフト抜きではそんなに強い方ではありませんが、それでも経験豊富なのはルーキー同士の戦いでは十分すぎる力だと思います。はぐれ悪魔の討滅とかは一体複数で挑むことが多いので、戦闘終了後の不意打ちとかも少ないでしょうが、イッセーはリアルな戦争経験者ですのでそのあたり優勢という感じで。

とはいえ、かみ合ってないのはイッセーも同じ。さてさてこれからどうなるか?


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紅姫隕石 ~必殺、メテオフォール~

 

 戦闘を繰り広げながら、僕と小猫ちゃんは続いてきた増援を相手にしていた。

 

 イッセー君が四人、小猫ちゃんが兵士三人、そして僕が騎士を一人。これで合計八人を撃破したことになる。つまりは数の上なら半分だ。

 

 質の面ではまだまだ半分以上残っているけど、それでも数の差は大きく縮まった。

 

 残りの兵士が本陣に突入している可能性はあるけれど、そこにはすでに部長もアーシアさんもいない。

 

 あえて敵にプロモーションされる可能性を受け入れて、とにかく奇襲で数を減らす方向にシフトしたからだ。

 

 なかなか博打じみた作戦だけど、おかげでうまくいった。

 

 だが、ここからが本番だろう。

 

「・・・まさか、いきなりここまで減らされるとは思いませんでしたわ」

 

 と、そこにいるのはライザー氏の僧侶の一人にして、実の妹。レイヴェル・フェニックス嬢だ。

 

 彼女はレーティングゲームに参加しているわけではないが、しかしそれはともかくといてフェニックスの一人でもある。決して油断できる相手ではない。

 

 そう思い身構えているが、レイヴェル嬢は近くにあるベンチに座ると、そのまま軽く微笑んだ。

 

「ああ、あなたの相手は別にいますわ。わたくしは戦わないので安心してくださいまし」

 

 ・・・本当に戦わないんだ。これは、まさかうわさは本当なのか?

 

「妹萌えをコンプリートするために、本当に眷属悪魔にしたようですね」

 

 と、小猫ちゃんが戻ってきながら同じく構える。

 

 そう、ライザー氏は女好きで眷属全員をハーレムにした男。しかも様々な属性の女性を集めている。

 

 その一つとして妹属性を追加しようと、実の妹であるレイヴェル嬢を眷属悪魔にしたという噂は本当だったのか!

 

 あ、レイヴェル嬢もそれに気づいたのか嫌な顔をしている。

 

「・・・本当に面倒なことになりましたこと。でも、わたくしがいなくてもこの戦いは負けたりなんてしませんわ」

 

 と、彼女が視線をよそに向ける。

 

 警戒しながらも視線を向ければ、そこには残っている全眷属が総出で姿を現していた。

 

 意外と判断が速い! 部長の捜索を切り上げてまずは僕たちをつぶすつもりか!

 

「さて、あなた方はいつまで持つのかしら?」

 

 そう自信に満ちた笑みを浮かべながら、レイヴェル嬢は片手を上げる。

 

 それを合図として、全眷属が一斉に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は割と追い詰められていた。

 

 くそ! すでに弾薬が心もとない! ついでに言うとグレネードは誘爆しそうだから捨てるしかなかった! しかも俺飛べないから接近戦できない!!

 

 なんだこれ、割と詰んでるんじゃないか!?

 

「さあ、これ以上はどうしようもないでしょう? あきらめて負けを認めなさい」

 

 勝利の笑みを浮かべながら、敵の女王が魔力を集めている。

 

 この女! 俺が抵抗することを確信したうえでとどめを刺すつもりかよ!!

 

「そもそも、あなた方がどう戦おうと勝ち目がないのがこの戦いでしょうに」

 

 そう、あきれ半分で女王は告げる。

 

 あ? なんだその自信は。

 

「いかに私たちを全員倒したところで、レイヴェル様とライザー様を倒せるわけがない。フェニックスとはすなわち不死。それをどう突破すると?」

 

 よほどライザーが負けないことを確信しているようだ。

 

 ああ、確かに不死身なんてそれだけでやばいってのはよくわかるさ。

 

 だがな?

 

「知らないとでも思ってんのか? フェニックスの不死には限界があるんだろう?」

 

 ああ、それについてはしっかりと聞いている。

 

 フェニックスの不死といえど、精神的にへばったりしたら再生できなくなるそうじゃないか。さらに神クラスなどの圧倒的な一撃を喰らって消し飛ばされれば、復活することはできないって聞いたぜ?

 

 それならまだやりようはある。有象無象を全員なぎ倒して、ライザー相手に消耗戦。それ以外にも倒し方は用意してある。

 

 だが、女王は何を言ってるんだこいつらはとばかりにあざ笑う。

 

「馬鹿馬鹿しい。あなた方下級悪魔風情が、その条件を突破できるわけがないでしょう? フェニックスは至高の一族なのですから」

 

 ああ、そうかい。マジで腹立つ女だな。

 

 俺も負けずと、馬鹿なこと言ってんじゃねえよって感じで笑ってみる。

 

「・・・何がおかしい?」

 

「いや別に? そもそもこれはレーティングゲームだって忘れてねえかって思ってよ」

 

 そう、実践においてなら確かにこれはかなり危険な相手だろう。

 

 だが、レーティングゲームは殺し合いじゃない。

 

 だったら、別に殺せなくたってかまわない。

 

「まあいいさ。そろそろお前ら詰んでるしな」

 

「・・・なんですって?」

 

 疑問を顔に浮かべた女王の耳に、その声が届いた。

 

『ライザーさまの兵士二名、騎士一名、戦車二名、リタイア』

 

「なんですって!?」

 

 あまりの事態に驚愕して、女王が後ろを振り向く。

 

 馬鹿め。それは致命的な隙だ!

 

 俺は躊躇することなくアサルトライフルを構えると、急所をためらうことなく撃ち抜いた。

 

「・・・しま―」

 

「油断大敵。まだまだ場数が足りなかったな」

 

 実戦経験が豊富なら、後方に注意を向ける程度はできたはずだぜ?

 

 真正面の敵を忘れて後ろを振り向いたら駄目だろう? 女王さまよぉ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・キロキロ百キロ・・・千キロ・・・二千キロ・・・四千キロ・・・」

 

 俺様、リアスグレモリーはただいま絶賛降下中だ。

 

 奇襲作戦はうまくいったんだが、胴にも即座に戦力を集中させたようなので、こっちもさらにギャンブルを入れることにした。

 

『部長さん! 頑張ってください!!』

 

 と、通信越しにアーシアのかわいらしい声援が耳に届いた。

 

 くぅー! 可愛い女の子の声援は、性別とわずやる気をみなぎらせるぜ!!

 

 今俺は、フィールドの範囲ギリギリの高さから急降下。加えて全力で重さを荷重している。

 

 高度数百メートルからの一万キロのフリーフォール。

 

 さあ、受けてみやがれ!!

 

「キロキロ、メテオストライク!」

 

 そして、今まさに突撃しようとしていた連中に大激突!!

 

 俺様も地面に埋まっちまうが、しかし衝撃波で何人か撃破しながらふっとばした!

 

「小猫、祐斗!!」

 

「「はい!!」」

 

 そしてその隙を逃さず、二人が残った連中を隙を突いてぶちのめす!

 

 よっしゃ! できる下僕をもって俺様はうれしいぜ!!

 

「な・・・な・・・ななな・・・」

 

 そして、レイヴェルは目を大きく見開いて驚愕していた。

 

「ようレイヴェル。久しぶりだなぁ?」

 

 俺様は挑発もかねて片手をあげてあいさつするが、レイヴェルはそれどころではない。

 

「な、なんですの今の攻撃は!? 悪魔の能力ともまた違いますわよ!?」

 

 ああ、レイヴェルには話してなかったか。

 

「あ、言ってなかったな。俺様、体重を自由に操作できるんだよ?」

 

「き、聞いてませんわよ!?」

 

 だろうな。言ってねえもん。

 

 ライザーは事情は知ってるようだが、細かい能力までは知らないだろう。親父殿にもそこまで詳しく説明してねえからな。

 

 この技は出しずらいが決まれば凶悪。俺様としては決め技として使いたい奥の手ってやつだ。

 

『ライザーさまの女王、リタイア』

 

 お、イッセーの奴も決めたようだな。

 

「で、どうすんだレイヴェル? やるか?」

 

「やりませんわよ!」

 

 お、この期に及んで戦闘しないとは、別の意味で根性あるな。

 

「・・・腑抜け」

 

「そこの小娘! 今何か言いました!?」

 

 小猫、変な挑発すんな。

 

 しかしまあ、圧倒的な人数差で追い込まれたかと思ったら、ゲームが始まって見りゃぁなかなかすごいな。

 

 誰一人として掛けることなく、敵は残り二人。レイヴェルはやる気がないようだから事実上あと一人か。

 

 ・・・根本的にライザーの不死あってのチーム構成だな。それを頼りにしてるようじゃあ、まだまだ意味がねえ。

 

 そいつを教えてやらねえと、俺様の婿にはさせてやれねえな。

 

「・・・出て来いよ、ライザー」

 

「・・・油断を一切してないな。さすがは元兵士といったところか」

 

 そういいながら、ライザーが校舎から姿を見せる。

 

「まさか全員やられるとはな。十日はハンデがありすぎたか?」

 

「調子ぶっこくからそういうことになるんだよ。敵の準備が整ってないときに仕掛けるのは立派な戦術だぜ?」

 

 そう、ライザーはまだまだ油断している。

 

 余裕は戦場において生存に役立つが、油断はむしろ致命的だ。

 

 本当の意味で死ぬ危険性が薄いレーティングゲーム。それにフェニックスの不死身の特性。この二つが、ライザーに余裕ではなく油断を作っている。

 

 もし、このままワールマターが動き出せば、ライザーも戦場に出てくることになるだろう。

 

 そして、おそらくワールマターに殺される。

 

 それはだめだ。こいつが死んだらハーレムの連中が必ず悲しむ。レイヴェルも悲しむだろう。

 

 だから、ここで俺様が鍛えてやろう。

 

「かかって来いよライザー。・・・不死身ってだけで無敵を名乗れるほど、世の中は甘くないって教えてやらぁ」

 

「言ったなリアス。・・・なら、俺はお前を倒して男としての株を上げるとしよう」

 

 レーティングゲームもクライマックス!

 

 さあ、本気で暴れようか!!



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不死鳥撃破 ~決定打はおもちゃ~

 

 俺が合流した時には、すでに戦闘はシャレにならないほど激戦になっていた。

 

 っていうか熱い! 炎で熱い!!

 

「不死鳥とたたえられし我が一族の業火! いくらお前が重かろうと、炎を押さえつけれるものか!」

 

「舐めんなライザー! 祐斗は炎ならどうとでもできるんだよ!!」

 

「部長! ライザー氏の焔を僕一人でどうにかするのは無理ですよ!? 魔力使ってください!!」

 

 と、至近距離で部長がライザーとガチンコ勝負してるぅうううう!?

 

 なにこれ! どこの最終決戦!?

 

 校舎中が燃え盛っていて、とてもじゃないけど近づけないし!!

 

 部長は魔力で炎をシャットアウトしているようだけど、それでもこれは大変だ。マジカマジカマジですか!

 

「あら、こんなところにいましたの?」

 

 と、そこにツインテールのかわいい女の子がいた。

 

「あれ? あんたライザーの妹さんだっけ? 戦わないの?」

 

「もちろんですわ。・・・妹萌えなんてニッチな趣味に配慮するために眷属悪魔にされたんですもの。これ以上戦うつもりはありませんわ」

 

 何やってんだろうあの男。

 

 ってそんなことを言っている場合じゃなかった!

 

 今まさに戦いは大一番! ここで俺が出ないわけにはいかないぜ!!

 

「んじゃ、俺はそろそろ行ってくるぜ! そっちは巻き込まれないように気をつけな」

 

「あら本気ですの? 怪我しても知りませんわよ?」

 

 心配してくれるのはうれしいが、そういうわけにもいかないのさ。

 

 なんたって・・・。

 

「俺は世界を侵略する魔王を相手をする男なんでな。…不死鳥程度にビビってるわけにはいかねえのさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 偉そうなことを言ったが、ライザーの奴は本当に強いな。

 

 炎の出力も、不死の回復力も、フェニックス全体で見ても上位の部類だ。若手でここまでやるとは感心するぜ。

 

「なかなかしぶといな、リアス」

 

「そいつぁどうも。お前も少しはへばってきたか?」

 

 アーシアを祐斗にかばわせながら、俺様はにやりと笑って見せる。

 

 じっさいは結構疲れてるが、しかしこういうのは大事なんでな。

 

 俺は余裕があるぞー平気だぞーって思わせるのは重要だ。それだけで向こうは警戒してくれるからな。

 

 とはいえ、このままだとちぃとばかしきついか?

 

 怪我はアーシアが直してくれるし、炎も祐斗が抑えてくれるが、しかしこのままだとジリ貧だ。

 

 早くイッセーが来てくれねえと、さすがにまずいか?

 

「いい加減投降(リザイン)したらどうだ、リアス?」

 

 と、ライザーがそんなふざけたことを言いやがった。

 

 あ? 何言ってんだこいつは。

 

「このままいけば俺が勝つ。だがそれでも大苦戦で、どう見てもお前の健闘だ。それで十分じゃないか。無様をさらすよりもっといい」

 

 と、そういうライザーは素直にこっちに気を使てくれてんだろうな。

 

 ああ、其れには素直に感謝するぜ。

 

 だが―

 

「―っざっけんじゃねえぞ、ライザー!!」

 

 ―なめてかかるのもいい加減にしろ!

 

「意地通しに来てる勝負で、ギブアップしろだぁ? 俺様は、まだひとかけらたりとも折れてねえぞ!!」

 

 周りを見てみろやこの野郎!

 

 祐斗も、小猫も、アーシアも! まだ誰一人として倒れてねえしあきらめてもいねえ!

 

 そして何より価値の目は十分すぎるほどに残ってる!

 

 それを、負けが確定とかよくほざいた!!

 

「・・・筋が通らない時期の繰り上げに文句があっただけで、結婚そのものはいつかはしていいと思っていたぜ、俺は」

 

 だが、其れもここまでだ。

 

「だが、今のお前の腑抜け発言にゃあ心底ドタマに来たぜ! しっかり叩き潰したうえで、婚約は解消させてもらう!!」

 

 ああ、これは認められねえ。

 

 意地と意地との張り合いで、趨勢も決まってないのに降伏しろとは言ってくれたなこの野郎!

 

 俺様が、このリアス・グレモリーが! 正面勝負でそんなことをほざく腑抜けなんぞに処女を暮れてやるとでも思ってんのか!? ふざけんな!!

 

「この俺様の処女を欲しいってんなら、決闘ぐらい真剣に勝負しやがれ! 散々眷属ぶちのめされて、そんなことほざくような焼き鳥なんぞにゃぁ俺様の処女はもったいねえんだよ!!」

 

「や、や、焼き鳥!?」

 

 思いっきり馬鹿にされてライザーは狼狽するが、ついでに中指も立ててやるぜ!

 

「てめえは、俺たちが叩き潰す!! なあ、そうだろう!?」

 

 マジで叩き潰してやらねえと、俺様の気が収まらねえ!

 

 なあ、そうだよな―

 

「―応ともよ!!」

 

 ―イッセー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は銃剣をライザーに突き刺した。

 

 正面から刺してやったんだ。まさか卑怯とは言わないよな!!

 

「このクソガキぃ! 今俺はリアスと話してるんだぞ!?」

 

「戦闘の真っ最中で警戒といたお前が悪い!!」

 

 俺は即座に五連発で突き刺すが、ライザーはものともしない。

 

 それどころか、反撃で殴り飛ばしてきやがった。

 

 ・・・ちっ! 骨にひびが入ったか!

 

「イッセーさん!」

 

 即座に小猫ちゃんに抱えられたアーシアが近づいて回復してくれる。

 

 ライザーは炎を出して攻撃するが、それは木場が魔剣を出して防御した。

 

 木場は俺やアーシアと同じで神器を持っている。

 

 その名も魔剣創造(ソード・バース)! 思い描いた魔剣を作り出すことができるというチート能力!

 

 すごいぜ木場! お前みたいなやつが部長の騎士やってるとかかっこいいなおい!!

 

「チィ! 勝ち目もないのにしぶとい奴らだ! 俺の全力をその程度の神器で防ぎきれると思うなよ!!」

 

「だったらこれならどうだ!!」

 

 と、そこに部長の魔力が激突する。

 

 ライザーは全身が吹き飛ぶが、しかしすぐに炎に包まれて再生する。

 

 なんて回復力だ。これが、フェニックスの直系の力なのか!?

 

「しぶといんだよお前らは! この婚姻が、72柱の悪魔にとってどれだけ重要かわかってるのか!?」

 

 ライザーの焔が燃え広がり、木場の防御すら突破して俺たちを焼いていく。

 

「72柱の悪魔の本家当主が、混じり物などと自慢になるか! お前ら元人間だって、犬や馬は血統で選ぶだろう! それと同じように純血の悪魔で血統を維持しようと努力することの何が問題だ!!」

 

「そういう問題じゃねえんだよ!」

 

 リアス部長はその炎に焼かれることもいとわず、無理やり突進してライザーにつかみかかる。

 

 そのまま全力で頭突きを叩き込んだ!

 

「血統主義大いに結構! 悪魔は血統で能力が左右されるからな! 犬や馬と同じで努力だけじゃあどうにもならねえ性能差がいっぱいあるわなそりゃぁ!!」

 

 おお、増大化した全体重を込めた一撃だ。

 

 余波で地面にひびすら入る。なんていう重量、そしてそれを動かす身体能力!!

 

「だが! お前はその才能頼りにもほどがある! 磨けば光る原石なのに、川の流れに任せるままだ!」

 

 そのまま掴んで連続して頭突きを叩き込む!

 

「そんな自堕落な成長で、貴族の誇りだなんて笑わせるな! 少なくとも兄貴は持てる才能を努力で磨いてるからこその超越者だぜ!!」

 

 さらにそのまま俺の方に投げ飛ばす!!

 

「それをこの場で証明してやる! やれイッセー! 転生悪魔風情に叩きのめされる屈辱を教えてやりな!!」

 

「了解です!!」

 

 俺はこれがその機会だと判断し、奥の手を取り出した。

 

 そして、それを見たライザーの目が点になる。

 

「水鉄砲? おいおい、それで何を―」

 

 俺は、何も言わずに引き金を引いた。

 

 一応言っておくが、この水鉄砲は宝具化されている。

 

 つまり、むちゃくちゃ強化されている。

 

 だから―

 

「・・・ぎ、があああああああ!?」

 

 ―こうなる。

 

「お兄様!? い、いったい何が!?」

 

「あれは、中身が聖水の水鉄砲」

 

 狼狽するレイヴェルの耳に届くように、子猫ちゃんがその種を説明する。

 

 俺のギフト、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)は、手にしたものを超強化する宝具。

 

 手に持っているという必要はあるが、その強化は並の神器の禁手に匹敵する。飛び道具を宝具かすれば、遠隔攻撃も可能だ。

 

 そして、この水鉄砲には聖水を入れている。

 

 そんなもんが宝具化してたたきつけられれば、相手がフェニックスであろうと大ダメージだ。

 

 そして、苦痛は相手の精神を傷つける。

 

 たとえ肉体は不死だろうと、精神はそうじゃない。そして精神っていうのは苦難に打ち勝ったりしてこそ鍛えらえるもんだ。

 

 フェニックスの不死に頼ったお前では、この激痛に心が耐えられないだろう!

 

「・・・部長の言うとおりだ。お前、いっぺん地の底から出直してきな」

 

「ぐ・・・あ・・・く、くそが、ふざ、ふざけるなぁああああ!!」

 

 ライザーはそれでもなお炎をまき散らすが、それは木場の魔剣でかき消される。

 

「追い詰められて余裕をなくしたね。周りが見えてないよ!」

 

 そしてそのまま全身を切り裂かれた。

 

 それでもライザーは俺を殴り飛ばそうとするが、俺はそれを難なくよける。

 

 そして、子猫ちゃんの拳が突き刺さった。

 

「ガハッ!?」

 

「打撃は体の中心線を狙ってください。・・・急所も狙ってなければ簡単に躱せます」

 

 それでもライザーは魔力を放とうとするが、部長がそれを押し切った。

 

「イメージが集中できてねえ。魔力をあまり使わねえ俺様でもなんとかできたぜ?」

 

 ため息をついた後、部長は俺の肩に手を置いた。

 

「MVPに譲ってやる。決めて来い、イッセー」

 

「うっす!」

 

 俺はよろよろと他党としてるライザーに、水鉄砲を突き付けた。

 

「俺たちの部長をめとりたいなら、リベンジマッチは受け付けるぜ。・・・だから立ち上がって来い、ライザー・フェニックス」

 

「ま、まて、やめろぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

 心が折れかけているライザーに、俺は躊躇なく強化された聖水をぶっかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ライザー・フェニックス様の投了(リザイン)を確認。リアス・グレモリーさまの勝利です』

 




まさかおもちゃで決着がつくとはだれも思うまい・・・。


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天龍警告 ~起こり得るかもしれない脅威~

 

 その観客席で、試合を観戦していた貴族たちは唖然としていた。

 

 優秀とはいえレーティングゲームを経験しないリアス・グレモリー。そして眷属はわずかに五人で、うち一人は封印されている。圧倒的に不利なのは間違いない。

 

 新進気鋭のルーキーで、事実上の全戦全勝のライザー・フェニックス。眷属は全員集まっている。圧倒的に有利なのは間違いない。

 

 どう見ても勝つのはライザーだと思われていた。むしろどれだけ圧倒的に勝てるのかどうかを賭けていたほどだ。

 

 それが、終わってみればリアス・グレモリーのワンサイドゲーム。ライザーこそ奮闘したが、一人も倒されずに勝利されるという結果に終わった。

 

 その光景に、貴族たちは驚きを隠せない。

 

「あれが、リアス・グレモリー・・・」

 

「なんというはしたない・・・だが、あれだけの強さを持っているとは」

 

魔剣創造(ソード・バース)とはなかなかに優秀な騎士を持っているようだ」

 

「シスターの恰好をしている少女もなかなかですな。あの回復力がなければ危なかった」

 

 驚きながらも、しかしそれゆえに貴族たちはリアスの眷属を褒めたたえる。

 

 そして、誰もが思っていたことを口に出すものがいた。

 

「何より、あの男の能力は一体なんだ?」

 

 それこそが、このレーティングゲームで一番の争点になるだろう。

 

 ワールマターによる転生者の送り込み及び異世界侵略の情報は、冥界政府の重鎮は一応話を聞いている。

 

 だが、いかんせん当時十歳にも満たない子供の異能力と言葉だけでは信憑性に乏しいのが実情だった。

 

 確かに重量操作能力は悪魔のそれではなく、言った通りに水に対する弱さもある。だが、其れだけで全部を信用するのはまともな大人のすることではない。

 

 ましてや、対策準備のために行った大量の転生悪魔採用は天界に牽制されている。戦力のあまりにも急激な拡充は、必然的に戦争に備えていると思われるのだ。堕天使が刃狗(スラッシュ・ドッグ)白龍皇(アルビオン)を確保しているなど緊張感が高まっている状態ではなおさらだ。あまり多くは用意できない。

 

 しかも、その多くには人生の選択肢を用意している。古い悪魔からしてみれば成果もあげていない人間風情に権利を与えすぎだというものもいる。

 

 だが、其れに一石が投じられた。

 

 機密事項として一部の貴族だけにだが、兵藤一誠もまた転生者であるという事実が伝えられている。そして、その能力もだ。

 

「あのような神器の情報は聞いたことがない。それにそもそも反応が違う」

 

「では、リアス嬢の言っていることは本当だと?」

 

「聖水を使ったとはいえ、子供のおもちゃをあのような危険な兵器へと変えるとは。これは想像以上に恐ろしいですな」

 

 その戦いぶりに、一同はみな大きな衝撃を受けていた。

 

 そんな中、一人の老人が声を上げる。

 

「・・・だが、其れはすなわちワールマターという存在の異世界侵略が進んでいることともいえるな」

 

 老人の名はゼクラム・バアル。

 

 リアス・グレモリーの曽祖父に当たる、初代バアルの悪魔だった。

 

「その通りです。私も妹の言うこととはいえ正直確信するわけにはいきませんでしたが、もう一人の実例がいるのならば確信せざるをえません」

 

 魔王、サーゼクス・ルシファーが敬意をもってそう続ける。

 

 ゼクラム・バアルの影響力は、貴族の間でならば現魔王すら遥かに凌ぐ。ただでさえ礼儀正しいサーゼクスが、丁寧な対応をとるのは当然。

 

 そして、何より理解されている以上喜びを示すべきだ。

 

「これは非常に火急の事態だ。・・・すべてのパイプを使い、神の子を見張るもの(グリゴリ)や、天界及びバチカンと連絡を取るべきだろう。私個人は変化を求めぬ老人だが、ことはもはや悪魔だけでどうにかできる問題でもなさそうだ」

 

 ゼクラムは目を伏せそう告げる。

 

 敵対する三大勢力相手に手を取り合うなど不満ではあるが、しかしそんなことを言っている場合ではない。

 

 高貴たる上級悪魔。その真なる悪魔を守るため、ゼクラムは決断を下した。

 

「魔王ルシファー様。我々はどうやら三大勢力での諍いを終わらせる必要があるようだ。・・・細かい判断はそちらに任せよう」

 

「は。ありがとうございます」

 

 サーゼクスはその言葉を受け、頭を下げる。

 

 もとより若い身であるサーゼクスとしては、三大勢力の戦争は不満があるものだった。

 

 終わらせられるならそれに越したことはない。

 

「ですが、我々の中にも最終的な勝利を望んだものは多いでしょう。それらによる反乱が起こる可能性があるのでは?」

 

「それは当然の摩擦と受け止めるべきだ。なに、三勢力で連携が取れるのなら、にらみ合っている反対勢力とは事実上の四つどもえだよ」

 

「なるほど、それなら規模の大きい我らの方が有利ですな・・・」

 

 と、老人たちが言葉を交わす中、サーゼクスはその場を離れると一人の男の前に立った。

 

「サーゼクスか。いま、フェニックス卿と話していたところだよ」

 

 ジオティクス・グレモリー。サーゼクスとリアスの父親だ。

 

 今回の騒動の元凶といえば元凶。だが、其れにも多少の事情はある。

 

「フェニックス卿には、私からも後で謝っておきましょう。あれではライザー君は当分立ち直れそうにない」

 

「なに、フェニックス卿はライザーくんに負けの経験ができたと喜んでいるよ。・・・それに、彼では荷が重すぎるようだ」

 

 と、ジオティクスは静かに視線を映像へとむける。

 

『・・・お兄様を倒すとは、あなたはいったい何者なんですの?』

 

『兵藤一誠。リアス部長の兵士だよ。ま、ボコボコにしたのは悪かったけど、それはお互い様だし勘弁してくれないか?』

 

 と、畏怖の感情すら浮かべるレイヴェルにほほ笑むイッセーの姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レーティングゲームが終わって、俺はランニングを続けていた。

 

 修行とレーティングゲームの疲れが抜けるまでは修行をやめてたからな。少し緩んでるかもしれないし、しっかり鍛えなおしておかないと。

 

 しっかしまあ、レーティングゲームは疲れたぜ。

 

 実戦とはやっぱりなんとなく緊張感が違った。これが実際のゲームの場合、旗とかボールとか使うらしいからな。これでも楽な方なんだろう。

 

 だが、この世界の偉業の担い手の強力さがよく理解できたと思う。

 

 あの女王ですらしょせん下級悪魔だっていうから驚きだ。人間が相手なら銃で武装しようが何十人も蹂躙できる。まさに対地攻撃用のヘリコプターだろう。

 

 そんなのが相手にもならないような上級クラスが何百人もいるとなれば、そりゃもう脅威だ。

 

 そんなものに喧嘩を売ろうとしているワールマターは、きっとほかにもいろいろ仕込んでいるに違いない。

 

 真剣に警戒しないといけないな。これは、間違いなく大変なことになる。

 

 そんな風に気合を入れなおしながら走っていると、同じようにランニングをしてる外国の方と並んだ。

 

 赤い髪がまるで部長を思い起こさせる人だ。

 

「・・・初めまして。リアスの父のジオティクス・グレモリーだ」

 

 ・・・・・・・・・。

 

「いや、どんなタイミングで出てきてんですか!?」

 

 ランニング中にランニングしながら出てきたよ!? っていうかこの人ジャージ似合わないよ!?

 

「・・・走りながらでいい。すこし、話を聞いてくれないかね?」

 

 そういわれて、俺は速度を少し落としながらジオティクスさんに付き合う。

 

 しばらくの間無言で走っていたけど、やがてジオティクスさまが口を開いた。

 

「リアスや私がいろいろと迷惑をかけてしまった。いや、すまないね」

 

「それはまあ、下僕悪魔なんでかまいませんが。それにしたっていきなり結婚時期を変える必要はなかったんじゃありませんか?」

 

 そう。それがとても気になることだ。

 

 話を聞く限り、部長は婚約そのものは受け入れていた。普通に成長を待っていればそのままスムーズに結婚できていただろう。

 

 なのに、この人はわざわざ結婚時期を早めるような真似をした。

 

 なんでそれをしたのか。俺は、それが結構気になっている。

 

「・・・そうでもしなければ、リアスをここから引き離せないと思ったからだ」

 

 ジオティクスさんはそういうと、俺に質問をする。

 

「二天龍、という言葉に聞き覚えはあるかね?」

 

「えっと、三大勢力の戦争を引っ掻き回したっていう?」

 

 一応勉強はしてるので、少しは知っている。

 

 かつて三大勢力が一生懸命戦争をしていたころ、同じタイミングで喧嘩をしていた二匹のドラゴンのせいで大打撃を受けたそうだ。

 

 その後、三大勢力はいったん手を取り合ってそのドラゴンと戦った。激戦の末二天龍は倒され、肉体をバラバラにし魂は封印された。それが神器として使われているらしい。

 

「そう。赤龍帝ドライグと、白龍皇アルビオン。私は当時の戦争で現役だったから、その恐ろしさはとてもわかっている」

 

 そういうジオティクスさんの頬には、運動によるものとは違った理由でできた汗が流れていた。

 

「二天龍を宿した歴代の使い手は、二天龍どうしや神クラス、ほかの神滅具の持ち主などと戦い大いなる被害を生み出した。我々が秘匿しているから人間世界に走られていないが、標高百メートル程度の山なら軽々消し飛ぶほどの被害を何度も生んだよ」

 

 うっわぁ迷惑!

 

 なんで、強大な力を手にした連中ってのは暴走するんだ? その力を誓わずに生活することだってできるだろうに、力をふるって暴れまわることを前提にするなんて馬鹿らしい。やるならやるでもっといいことに使えってんだ。

 

 本当に迷惑な連中だ。できることなら一生関わりたくない。

 

「そのうち赤龍帝の反応が、この駒王町で観測された」

 

 俺は、その言葉に凍り付いた。

 

 なんだと? こ、この街に!?

 

「私が結婚を繰り上げた理由はそれだ。リアスの性格ではうかつに手を出さないだろうが、もし赤龍帝がリアスと接触したらと思うと気が気でない。ましてや堕天使側に与している白龍皇とに天龍対決がこの街で起これば」

 

 そこから先をジオティクスさんは言わなかったが、俺もすごい嫌な予感がする。

 

 おい、下手をしたらこの街が吹き飛ぶんじゃないか?

 

「だから、君にこれを渡しておこう」

 

 そういうと、ジオティクスさんは鞘に入った一本のナイフを取り出した。

 

「これは、冥界の実力あふれるナイフマイスターが作り出した一本だ。貴重な龍殺しの力を秘めている」

 

 それを俺に渡す意味。それがわからないほど俺も馬鹿じゃない。

 

 つまり、俺が二天龍を相手にしろと言っているのだ。

 

「手に持つものを禁手クラスにまで強化する君のギフト。それがあれば、ライザー君以上に二天龍に対する切り札となる。ライザーくんは当分再起できない以上、君だけが頼りだ」

 

 ああ、そのために部長の結婚を繰り上げたのか。

 

 でもライザーは日本で活動すること自体は許してるっぽいし、結局意味がないような気がする。企画倒れ?

 

「幸い、君たちはライザー君を倒した実力者。君に龍殺しが加われば、二天龍に対する抑止力になるんじゃないかと思っている」

 

 いや、それ言いすぎ!

 

 言っとくけど前はただの少年兵だからね? そんなにすごい奴じゃなかったからね?

 

 だが、ジオティクスさんは感極まって涙すら流すと、俺の両手をつかんでくる。

 

「リアスを・・・娘をお願いします!」

 

「いや、そんなんじゃないからねぇえええええ!?」

 

 おいおいこれどう言う状況ぅううううう!?

 

 いや、それにしてもあれだな。

 

 二天龍、こんなところにいるのか?

 




本作品における独自設定として、リアスの婚約の強硬は赤龍帝が原因ということにしました。



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過去襲来 ~思わぬ異形との接点~

 

 今日のオカルト研究部は、なんと俺の部屋で行われてる。

 

 なんでも旧校舎を大掃除するとかで、部室が使えないとのことだ。

 

 そういうわけで、いまやってるのは悪魔稼業をどれだけで来たかの確認。

 

「うぉっしゃぁあああああ! 何とか依頼がそこそここなせるようになったぁああああ!」

 

 俺は自分の部屋で心の底からガッツポーズをした。

 

 最近ようやく悪魔の契約もまともになるようになってきた! この調子でどんどん契約をとっていきたいところだぜ!!

 

「イッセーも最近は契約をちゃんと履行できるようになったもんだ。俺様も安心してきたぜ。・・・涙腺が緩むなぁこりゃ」

 

「部長、ハンカチです」

 

 うぉおおい部長! それ一周回って酷いです! あと小猫ちゃんもね!

 

 だけど、この調子なら上級悪魔とまではいかずとも、中級悪魔ぐらいなら狙えるかもしれない。

 

 この調子で頑張っていけば、昇格も間違いなしだ!

 

「イッセーさんすごいです! もう仕事をこんなにこなせるだなんて」

 

「いやいや、アーシアさんもだいぶできてるから人のことは言えないよ」

 

「悪魔としての後輩はみんな優秀で自慢になります」

 

 おお、仲間たちからも良好な反応! こりゃ気合が入るってもんだ。

 

「しっかし、それに比べてライザーの奴は情けねえ。一時はあいつに股を開いてもいいと思った自分に泣けてくらぁ」

 

 と、部長は先日のレーティングゲームを思い出したのかため息をついた。

 

 あのあと、ライザーは寝込んだうえに引きこもってしまったらしい。

 

 特に俺にやられたのがよっぽどショックだったらしい。なんでもおもちゃ恐怖症を発症しているとか。

 

 いや、確かに水鉄砲はおもちゃだけど、宝具化してるんだからそこまで落ち込まなくたっていいだろうに。

 

「脆いとは思ってたけどここまでとはな。もしかしたら二度と立ち直れねえかもしれねぇし、情けねえにもほどがあるぜ」

 

「とはいえ、新進気鋭のルーキーとして自他ともに認める実力者だったのです。悪魔になって日が浅いイッセーくんにやられれば仕方がないでしょう。彼はイッセーくんが転生者だということを知らないのですから」

 

 木場がフォローを入れるが、しかしそれにしたって脆すぎだろう。

 

 部長の言った通りだ。今まで負け知らずだったから、いざ負けるとショックが大きくて動けなくなってる。

 

「あらあら、せっかくの部活動なのに表情が暗いわねぇ」

 

 と、母さんがお菓子を持って部屋に入ってきた。

 

「お、すいやせんお袋さん。お菓子までもらっちまって」

 

 部長が頭を下げようとするが、母さんはそれを手で制した。

 

「いいのよ。この家に女の子が来るなんて、一樹ちゃんが大学に入るまでの間以来なんだもの」

 

「一樹ちゃんというと、蛇野さんのことですよね? 彼女はそんなに仲が良かったのですか?」

 

 一樹と面識のある木場が訪ねるけど、実際冷静に考えるとすごいことだよな。

 

 母さんはそれにうなづくけど、しかし俺をジト目でみる。

 

「それにしたって。一樹ちゃんが男遊びしてるのはどうかと思ったけど、イッセーもそれで「童貞食べてください」って土下座するのはどうかと思うわ。一樹ちゃんが泣いてもおかしくないのよ?」

 

「何で知ってんの!? そしてなんで一樹が泣くの!?」

 

 一樹ぃいいいいい! 何を母さんに言ってんだ恥ずかしいだろうがぁああああああ!!!

 

 第一あいつ男遊びしてんだから、その程度でなく分けないだろうに。

 

 と、思ったらなんか一斉に半目で見られている。

 

「イッセー。俺様ですら今のですぐにわかったぞ」

 

「向こうに責任はありますが、イッセー先輩もイッセー先輩です」

 

「イッセーさんはいろいろと勉強するべきです」

 

「あ・・・あはは。イッセーくん、フォローできそうにないよ」

 

 え? なに? どういうこと?

 

 童貞食べてなんて言ったのがそんなにひどいの?

 

 でも、でも、でも、

 

「彼女とエッチするときぐらい、格好つけたかったんだよぉおおおお!!!」

 

「「「「「いや、そうじゃない」」」」」

 

 じゃあなんなんだぁあああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜか罰ゲームを受けることになった。

 

 そして、ノリノリで母さんがアルバムなんか取り出してきやがった。

 

 うぉおおおおお! 記憶が戻る前の子供のころの写真とか恥ずかしいよぉおおおお!!!

 

「はぅうう。小さい頃のイッセーさん素敵ですぅ」

 

 アーシアの顔が怖い!?

 

「イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「おうおうちっこくてかわいいじゃねえか? お前にもこんな頃があったんだぁ?」

 

 小猫ちゃんと部長も容赦なく見てきやがる。くそ、止めたいけど止めれない!

 

 っていうかマジでなんで罰ゲーム!? 俺が童貞捨てようと思うことは、そんなにひどいことなのかよ!?

 

「イッセー先輩は根本の失態に気づいてません。零点です」

 

 マジですか小猫さん!

 

 え? 何に気づいてないの? 教えてプリーズ!!

 

「いやはや。イッセーくんは僕のこと悪く言えないよね?」

 

 どういう意味だ木場!

 

 確かにアーシアのことにはまだ答えは出せてない。アーシアはいまだに信仰を捨ててないから、付き合うなら純粋にしないといけない。ハーレムとかは難しいだろう。

 

 だが、俺は悪魔になったのならハーレムを作ってみたいという願望がある。それに若いからまだ遊びたいんだ! ワールマターのおかげで欲望も強いしな。

 

 だから、どうしたものかと思ってるんだ。

 

 でも、もう数かヶ月もたつし答えを出した方がいいだろうか・・・。

 

 その辺も相談しようと思って木場の方を向くが、何やらおかしな表情になっていた。

 

 俺は、その表情を知っている。

 

 戦場で同僚を殺された人たちがよく目にする感情。戦争なんだってわかっていても、どうしても脳裏をよぎってしまう負の感情。

 

 それを、人は憎悪という。

 

 だけど、そんな感情を浮かべるような奴が俺の写真にいるか?

 

 リアス部長に合うまで、俺は異形社会になんて欠片もかかわってないぞ?

 

「イッセーくん。この写真について聞きたいんだけど」

 

 そういって木場が差し出すのは、かなり小さなころの写真だ。

 

 ああ、それはたしかあれだ。

 

「小学校に上がる前に引っ越した女の子の写真だな。たしか一樹とは別口でかかわってなかった子だよ。・・・ヤバイ、名前はもちろん男が女かも思い出せない」

 

 うろ覚えすぎて全然思い出せない。このころの子供って男と女の区別すらつきにくいからな。

 

 見る限り中性的だし、さらに区別がつきにくい。

 

 あ、でも一つ言えることがある。

 

「確かその子クリスチャンだったけど・・・まさかそれでキレてるんじゃないよな?」

 

 さすがにそれはどうかと思うぞ? ほら、日本って一応信仰の自由認めてるし。

 

「さすがにそれはないよ。・・・だけど、この真ん中にある剣が問題だ」

 

 そういって木場が指さすのは、部屋に飾ってある一本の剣。

 

 装飾が施されていて結構高そうな剣だ。っていうか今更思うけど、銃刀法違反に引っかからないか、コレ?

 

 だが、そんな感想がぶっ飛びそうなほど、木場の表情は真剣だった。

 

「・・・これは、聖剣だよ」

 

 そして、この子と聖剣が駒王町を大きく揺るがす事件の重要関係者だということを、俺はまだ知らない。

 

 

 

 

 



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過去襲来 ~再開はエクスカリバーとともに~

 

 

 

 

 

「確かに、名が知られているタイプじゃねえがこれは聖剣だな。・・・チッ、面倒なことになってきたぜ」

 

 念のため写真を部長に見せたところ、かなり真剣に部長は舌打ちした。

 

 聖剣ねえ。確かにファンタジー要素強いこの世界なら、かなりすごいことになるとは思うけど・・・。

 

「そんなにすごいんですか、その聖剣って」

 

「たりめーだ。俺たち悪魔にとって見りゃ、半端な禁手よりよっぽど危険な能力だぜ?」

 

 と、部長がため息交じりにそう告げる。

 

 マジか。俺も悪魔だからかなりやばくね?

 

「聖剣ですか。できれば一度実物を見てみたかったです」

 

 クリスチャンのアーシアはうらやましそうにするが、部長は何やら苦い顔だ。

 

「そんなにいいもんでもねえよ。祐斗はそれで人生狂わされてるようなもんだからな」

 

 どういうことかと疑問を浮かべた俺たちに、部長は説明する。

 

 確かに、聖剣は悪魔に対して非常に有効な効果を発揮する。使い手に選ばれたものは、すべからく教会の精鋭として認識されるほどだ。最強格のエクスカリバーやカリバーン、デュランダルに至っては最上級クラスですら脅威と感じるだろう。

 

 そう、使い手に選ばれれば。

 

 聖剣はその多くが使い手を選ぶ。こと強力な政権であればあるほどその要素が強く、一世代にわたって使い手が現れないこともざらにある。

 

 そして、それを克服しようとする聖剣計画というプロジェクトが存在した。

 

 だが、其れは人体実験はおろか失敗したものの殺戮すらあったそうだ。

 

「・・・さすがに現場の独断とか一部の連中が土地狂っただけだと思いてぇが、監督責任ってもんもあるわけだしなぁ」

 

「うっへぇ。どこもかしこもひどいところはとことんひどいなぁ」

 

 仮にも教会がそんなことするなよ・・・といいたいが、人間の世界なら結構よくある話だ。

 

 俺が少年兵やってた組織も正義を謳ってたし、正義のためというお題目は人をたやすく暴走させる。それほどまでに正義ってのは麻薬じみた特性を持っている。

 

「教会が・・・そんな人の道に反することをしてただなんて・・・」

 

「ショックを受ける必要はねえ。悪魔だって一部の連中の下僕や領民の扱いは問題があるからな。・・・これは人間だか悪魔だかの問題じゃねえよ」

 

 そう部長は諭すけど、表情は暗かった。

 

「毒ガスで致命傷を負っていた祐斗を、たまたま通りがかった俺様は転生させて助けたんだ。なんていうか・・・同病類憐れむってやつだな」

 

 ああ、そうだろう。

 

 俺も部長も近いところのある境遇だ。そんな目にあっている人を見つけたら放っては置けない。

 

「最初のころの祐斗はそりゃもう荒れてたぜ。教会の教えがあったから悪魔を敵視しているし、そんな経緯だったから俺様たちにも心を開かないし」

 

 そう懐かしむように部長は言うが、あいつそんな感じだったの?

 

 今の優男からは全く想像もできない。

 

「兄貴の騎士が師匠役になって、復讐するにしても力をつけろっていうことで鍛えられてからはだいぶ丸くなったんだが・・・」

 

 そこで区切り、部長は写真を見る。

 

 そこに映っている聖剣をみて、部長は渋い顔になった。

 

「聖剣をみてぶり返したみてぇだな。まったく、どうしたもんかねえ」

 

 部長はそういいながら、ソファーにどっかりと座り込む。

 

「まあ、ここにいる限り聖剣なんぞとかかわる機会もねえだろうし、ここはおとなしく待っとくとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが甘い見積もりだと知ったのは、ここから数日後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、僕こと木場祐斗は深夜の中町を歩いていた。

 

 少し気分が高ぶっているので、気晴らしに散歩に出かけてみた。

 

 ああ、まさかイッセー君が聖剣とかかわりを持っているとは思わなかった。彼は割と数奇な運命を背負っているけど、それにしてもこれはご都合主義といってもいいだろう。

 

 彼の知り合いに聖剣使いがいるとはね。うまくすれば、彼らと会って話をする機会があるかもしれない。その時は、聖剣を切り捨てて・・・。

 

「落ち着け」

 

 思わず口に出しながら冷静さを取り戻す。

 

 さすがにイッセー君の知り合いを切り殺すのはだめだろう。そんなことをしたらイッセーくんに恨まれてしまうし、リアス部長も激怒するはずだ。

 

 だが、其れでも僕はエクスカリバーが許せない。

 

『なあ、祐斗。エクスカリバーに恨みを向けるのはやめとけよ』

 

 以前、部長はそうおっしゃった。

 

『エクスカリバーはただのもの。悪いのは、人体実験の後切り捨てた当時の研究者だからな。この国じゃあ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いっていうらしいぜ、それは』

 

 確かに、エクスカリバーはただの剣だ。そこに意志はないといってもいい。

 

 だけど、あれに振り回された人々のせいで僕たちは無残に殺された。

 

 おいしいものを食べたかっただろう。

 

 素敵な景色を見てみたかっただろう。

 

 もっといろいろ遊んでみたかっただろう。

 

 そして何より、生きたかっただろう。

 

 選ばれたものになれるといわれ、それを信じてきた僕たちはものの見事に裏切られた。

 

 許せない。許せるものか。許せるわけがない・・・。

 

 その感情が、久しぶりにぶり返した。

 

 と、その時僕の視界に神父が一人映る。

 

 ここはリアス・グレモリーの管轄地だということをわすれて、またも派遣されてきたのか。

 

 褒められたことじゃないけど、八つ当たりじみた牽制でもした方がいいだろうか。

 

 そう思って剣を取り出すが、しかし彼はそのまま倒れてしまう。

 

 血だまりが生まれる。

 

 これは、人に襲われたのか?

 

「おやおやー? これはグレモリー眷属の騎士(ナイト)じゃーありませんかー?」

 

 と、聞いたことのある声が響いてくる。

 

 彼は、確かフリードとか言ったか。

 

 相変わらずいい加減な表情を浮かべている。実に腹立たしい。

 

「さっさと消えてくれないかな? 悪いけど僕は不機嫌なんだ」

 

「え、そうなの? 俺様は超ご機嫌なんだよねー。ぶっ殺したいって思ったやつを、ぶっ殺せるステキ武装を手にした状態で出会ったんだもんよぉ」

 

 そういいながら全身を脱力させながらフリードは接近しようとし―

 

「―そこまでにしろ、フリード」

 

 後ろから、さらに声が響いた。

 

 そこにいるのは白っぽい金の髪をなびかせた、鋭い目つきの少女。

 

 ・・・彼女をみて、僕は固まった。

 

 そんな、馬鹿な。

 

 彼女は・・・彼女は・・・!

 

「久しぶり、イザイヤ」

 

「トリア、トリア・・・なのかい?」

 

 そう、彼女はトリア。

 

 僕とともに、聖剣計画で実験体となっていた少女の一人だ。

 

 処分される少し前に別の実験で連れられて行方が分からなかったが、彼女が生きていたのか!

 

「トリアの姐さん? 俺、この糞剣士と因縁があるからすっぱり行きたいんですよぉ? ねえ、切っていいでしょ?」

 

「却下。まだ準備も整ってないのにグレモリーとことを立てるわけ位にはいかないから」

 

 そう告げる彼女は、しかし僕を見ると一振りの剣を見せる。

 

 それを見て、僕は固まった。

 

 そんな、そんな、馬鹿な。

 

 あれは、あの剣は、忘れもしない・・・!

 

「聖剣エクスカリバー。私は、この剣を使えるようになった。・・・お前たちとは、違うんだ」

 

 なぜ、エクスカリバーを彼女が持っているんだ!!

 



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過去襲来 ~子供の頃って結構聖別間違えるよね?

 その日の部活動、木場は姿を現さなかった。

 

「部長、木場は?」

 

「ああ、今日は休むってよ。なんか様子がおかしかったが、よっぽどぶり返してるみてぇだな」

 

 そういいながら、部長はため息をついた。

 

 木場の奴、相当追い詰められてんだなぁ。

 

 いや、いくらなんでもいきなりすぎやしないか?

 

 部長も同感のようだ。少し考え込んでいると、すぐに立ち上がった。

 

「何かあったのは間違いねえな。本人に聞くのは少し待つが、ちょっと兄貴に頼んで人を送ってもらうわ」

 

 少し調べた方がいいようだ。俺もちょっと動いた方がいいかもしれない。

 

 と、思った時だ、ノックが響いた。

 

「・・・空いてるぜぇ」

 

 タイミングがある意味抜群すぎたノックに、部長は少しいやそうな顔をしながらしかし応対のためにお茶を取り出した。

 

「失礼します、リアス」

 

 と、そこに入ってきたのはこれまた美少女。

 

 って、支取蒼那生徒会長!?

 

 姉御肌の部長を追随する、氷の美女と名高い生徒会長が、なんか一人男を連れて入ってきたぞ?

 

「ちなみに、生徒会は基本悪魔です」

 

 と、子猫ちゃんが補足説明を入れてくれる。

 

 って、ちょっとまって?

 

「生徒会も悪魔ぁ!?」

 

「はわわ、そうだったんですか!?」

 

 俺とアーシアは同時に驚いた。

 

 そりゃそうだ。ここは部長の縄張りだから、てっきり部長だけだとばっかり思ってたぞ!

 

 と、俺たちの驚きっぷりを見て男子生徒の方が怪訝な表情を浮かべる。

 

「・・・え? 俺たちが悪魔だって知らなかったのかよ? 何やってんだお前ら」

 

 む、ちょっといらってくるな。なんか敵視してるのかこいつ。

 

「ああ、悪い悪い。言ってなかったな」

 

 と、部長がとりなすように立ち上がると、そのまま会長の肩に手を置く。

 

「会長の本名はソーナ・シトリー。グレモリーと同じ72柱の一つのシトリー家の次期当主だ」

 

「リアスの幼馴染・・・とでもいえばいいのでしょうか。いろいろと破天荒なのは相変わらずですね」

 

 快活に笑う部長と、クールに微笑を浮かべる会長。

 

 ふむ、対照的だけどいいコンビな気がしてきたぞ?

 

 そして、部長の視線が会長が連れてきた男に向けられる?

 

「で、そっちは最近ソーナの眷属になったとかいう・・・ハジだっけ?」

 

「匙です! 匙元士郎です! ・・・くそ、これでも駒四つなのに・・・」

 

 と、なんかすごい釈然としない顔をする匙とかいう転生悪魔。

 

 ふむ、つまり俺の同期とうことか。

 

「とりあえずはよろしくな。・・・俺は駒五つだけど」

 

「あ、てめえ喧嘩売ってんのか!? レーティングゲームであったらボコボコにしてやるからな!?」

 

 お、元気なやつじゃん。

 

「よろしくお願いします。私は、アーシア・アルジェントです」

 

「アーシアさんは末永くよろしくね」

 

 おい! 気持ちはわかるがものすごく態度がわかりやすいぞ!

 

 まあ、気持ちはわかるがしかしそれは・・・きつい!

 

 何か一言言おうかと思ったが、そこで部長は匙の肩に手を置くと、静かに首を振る。

 

「残念だが、アーシアはイッセーにぞっこんだ。・・・あきらめろ」

 

「すでに同棲済みです」

 

「な、なんだとぅ!?」

 

 小猫ちゃんにまで告げられて、匙は愕然となった。

 

「・・・き、金髪美少女と同棲とか、お前それは罪だぞ!」

 

「いや、両親の許可もちゃんともらってんだけど?」

 

「アーシアさんのご両親からだと!? なんて奴だ、なんて奴だ!!」

 

 あ、眼が血走ってる。

 

「あ、すいません。私両親いないんです」

 

「・・・ごめんなさい!!」

 

 そして速攻で土下座したよ。

 

「面白い眷属じゃねえか。いいの拾ったなソーナ」

 

「割と苦労してますが。・・・それよりリアス。少し話があります」

 

 ソーナ会長はそういって耳打ちすると、部長は顔色がすぐに曇った。

 

「・・・イッセー、アーシア。部活は悪いが中止だ。小猫は木場を探してすぐに連れ戻してこい」

 

 な、なんだなんだ?

 

 なんか、すっごい嫌な予感がするぞ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日後の帰り道、俺とアーシアは少し沈んでいた。

 

「木場さん、いったいどこに行ってしまったのでしょう?」

 

「まったくだよなぁ」

 

 どうにもこうにも、聖剣を見たせいでいろいろ感情が高ぶってるようだ。

 

 まさか教会に殴り込みをかけることはないだろうけど、少し心配だな。

 

「アーシアは、当分木場には触れない方がいいかもな。ほら、シスターとか教会を連想させるし」

 

「駄目ですか? むしろお話を聞いてあげれば気が晴れるかと思ったんですが」

 

「確かにそうだけど、これは結構デリケートな問題だもんな。うかつに触れると爆発するから、気を付けた方がいい」

 

 木場、割と本気でいろいろとたまってるようだからなぁ。

 

 普段は優男だけど、時々狂気めいたところを見せてたのはそれが原因か。

 

 おかげで部活動もみんな気が入っていなかった。木場はみんなに愛されてるぜ。

 

 だけど、どうしたもんだろうか。

 

 このままいって、木場は大丈夫なのだろうか・・・。

 

 それに部長の様子がおかしくなったことも気になる。

 

「木場を呼び戻せって、其れって結構荒事っぽいよなぁ」

 

「でも、なんで私たちに先に帰るように言ったんでしょう?」

 

 そう、部長は俺とアーシアに家に帰るように言ってきたのだ。

 

 悪魔としての家業も今日は中止。とにかく明日説明するから、家でおとなしくしているようにといってきた。

 

 一体どういうことだ? なんかもう嫌な予感しかしないんだけど?

 

 そんなことを悩みながら家の近くまで来たとき、俺とアーシアに寒気が走った。

 

 ・・・なんだ、この感覚は?

 

 嫌な予感がしたので、俺は速攻で携帯を出すと部長と連絡を取る。

 

「・・・部長! なんか家の近くに来たら寒気が走ったんですが!?」

 

『あんだって? ・・・ああ、それならたぶん大丈夫だ。だが、警戒して家に入れ。俺様も小猫を連れてすぐに行く』

 

 部長がそういったので、俺とアーシアは顔を見合わせると、警戒しながらも家に入る。

 

 なんか寒気が強くなってるんだけど、いったいなんだよこれは?

 

 と、家の中に入ったら母さんがすぐに出てきてくれた。

 

 よかった、無事だったんだな!

 

 ・・・あれ? なんだか様子がおかしい。

 

「あらイッセー! ちょうどいいところに来た・・・んだけどね?」

 

 と、母さんは何やら気づかわし気に俺たちをリビングに連れていく。

 

 そこには、二人のかわいい美少女がいた。

 

 一人は不愛想な青い髪に緑のメッシュの少女。もう一人は茶髪をツインテールにした見覚えのある少女。

 

 そして、寒気は青い髪の少女の持っている布にくるまれたものから放たれていた。

 

 そして、問題なのはその格好だ。

 

 二人とも、装飾の施されたマントに身を包んでいる。そして、その内側にあるのは黒いレザーみたいな衣装。

 

 普通の人間が着る衣装じゃない。なんていうか、バトル系の作品で切るような衣装だ。

 

 そして、茶髪の少女の胸元には、十字架があった。

 

 ああ、部長が言っていたことの意味が分かった。

 

 こいつら、すでに部長に何かしらのコンタクトをとっている。だから、ここでいきなり仕掛けてくることはないと部長はわかってたんだ。

 

「覚えてる? 昔この近くに住んでた紫藤イリナちゃん。一樹ちゃんと仲良くなる前に外国に行っちゃった子なんだけど・・・」

 

「・・・うろ覚えすぎて、男か女かよくわかってなかったのが後悔もんだぜ」

 

 あの子かよ! 中性的な感じだったのがなんて魅力的でおっぱいのある女の子に育ったんだ! オパーイ!

 

 って言ってる場合じゃねえ! クリスチャンなのは思い出したけど、これそんなレベルじゃないな。完璧に教会の戦士とかエージェントとかレベルだよなぁ。

 

「ええ~。イッセーくん私の性別忘れてたの? 別の理由でショックになっちゃったわ・・・」

 

「ああ、マジで悪い。俺もなんていうか衝撃が強いというか、そりゃあショックだよなぁ」

 

 もう一つの理由がわかりきってるので、俺としても割と悪いと思ってしまう。

 

 信徒の幼馴染が悪魔になったなんて、それは確かにショックだろう。いや、悪いな。

 

「ま、まあ生きていればいろいろとあるわよね? 人にはそれぞれの人生があるんだしねぇ?」

 

 と、母さんが場をとりなそうとするが、しかしそこで青い髪の少女の方が立ち上がった。

 

「いや、これ以上隠さなくてもかまわないさ、ご婦人」

 

 そこで、その少女が俺たちに鋭い視線を向ける。

 

「ご両親には伝えているようだな。まあ、それぐらいの礼儀があるなら少しは安心だ。・・・帰ろうイリナ、これ以上は揉める」

 

「そうかしら? でもまあ、確かにそうよね」

 

 と、イリナは少し寂しげな表情を浮かべるが、すぐに笑顔になると手を振った。

 

「バイバイ、イッセーくん。・・・貴方と過ごした日々、楽しかったわ」

 

 ・・・いや、なんか本当にすいません。

 

 でも、そうでもしないと俺死んでたんで、その辺情状酌量してください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が帰った後、すぐに部長が小猫ちゃんを連れてやってきた。

 

「まさか、イッセーの友達がバチカンの悪魔祓いだとはなぁ」

 

「どういう縁ですか、イッセー先輩」

 

 などとあきれ半分で言われたけど、俺だって困ってるよ。

 

 あんな中性的な子が、むちゃくちゃ女の子っぽい美少女に・・・いたたたたた!?

 

「イッセーさん? そういうことを言っているわけではありませんよ?」

 

「意外とダメ男ですね先輩」

 

 アーシアちゃんと小猫ちゃんのダブルアタック!? 心と体が同時に傷ついたよ!

 

「まあ、それはともかくとしてだ。あいつらは今ここでやり合う気はないことだけは確かだ」

 

 そう前置きしてから、部長は何があったのかを告げてくれる。

 

 なんでも、ソーナ会長が伝えてきたのは、教会がこの地の担当者であるリアス部長とコンタクトを取りたいといってきたことだ。

 

「アーシアは教会に追放されてるからな。合わせたら揉めると思って先に帰らせたんだが・・・」

 

 ああ、まさかイリナがその教会の人間だったとは。

 

 そのせいでむしろ鉢合わせになっちまった。向こうはまだ気づいてないみたいだけど、これ揉めるんじゃないか?

 

「しかも堕天使のダチからも火急の相談があると来てよ。これはつながってるんじゃねえかって思うんだが」

 

 うわぁ、確かにその可能性はすっごい高い。

 

「ど、どうしましょう? 三大勢力が同時にもめたら、戦争が再発するんじゃありませんか?」

 

 アーシアは、たくさん人が死ぬのが苦しいのかすごく悲しそうな表情を浮かべる。

 

 そんなアーシアを抱き寄せると、部長はぽんぽんと背中を安心させるようにたたいた。

 

「安心しろって! 悪魔は兄貴たちが平和路線だし、堕天使側も上層部でタカ派なのは一人だけだからよ?」

 

「教会だけが揉めても、二勢力で抑え込めるって感じですか?」

 

 確かにそれなら何とかなりそうだけど、それでも冥界と天界の戦争になりそうな予感がするんだけど。

 

 俺は少しそれが不安になるが、子猫ちゃんはそんな俺の袖を引っ張った。

 

「教会だけが暴れても、ほかの神話体系がにらんでくるので大丈夫です」

 

 うん。君は読心能力でもあるのかな?

 

「とにかくそういうわけだ。・・・それに、どうもこのあたりで教会の人間が殺されてるらしい」

 

 その言葉に、アーシアが顔を青くする。

 

 ああ、ものすごい物騒な展開になってきてるじゃねえか!

 

「・・・それで、木場はどうしますか?」

 

「呼ばねえわけにはいかねえだろ。下手に鉢合わせて揉めるぐらいなら、目の届く範囲内に置いておいた方がまだ安心だ」

 

 苦い顔で部長はそう告げると、俺たちを見渡した。

 

「万が一の場合は、俺様達で止めるぞ。・・・向こうが仕掛けてくる可能性もあるから、気をつけろよ?」

 

 おいおい、俺は悪魔になって一年もたってないんだぞ。

 

 いくらなんでももめ事多すぎだろこれは。

 



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会談混乱 ~思わぬところで三大勢力!?

ハイスクールD×Dのまとめウィキを我慢できずに作ってみました。

URLは活動報告に記載してあります/)`;ω;´)


 そして次の日、俺たちは部室でイリナたちを待っていた。

 

 ああ、こういうのはなんか緊張するな。

 

「大丈夫ですか、イッセー先輩」

 

 小猫ちゃんが俺を気にしてかそう尋ねてくれる。

 

 いっけね、後輩を心配させたらいけないよな。

 

 でもここで嘘を言うわけにもいかないか。素直に行った方が安心してくれそうだ。

 

「ま、ちょっと緊張してるかな?」

 

「転生者は戦闘経験があると聞きましたが?」

 

「下っ端の少年兵が、敵との会談なんて参加するわけないだろ? だからこういうのは慣れてないんだよ」

 

 ほんと、将来的な戦力と使い捨ての間ぐらいの俺たちにそんな任務は言い渡されない。せいぜい離れたところで睨み合いをするぐらいだ。

 

 だから少し緊張してる。うん、どうしたもんかね。

 

 何より不安なのはアーシアと木場だ。

 

 アーシアはアーシアで青い顔をしてるし、木場はすごい殺気立ってる。

 

 教会の連中がアーシアの正体に気づいたら、間違いなく嫌なことを言いそうだ。

 

 まあ、敵を助けたなんて知っていい顔をする連中はそうはいないだろう。滅ぼすことが目的なら当然だ。殺すつもりで活動している人からしたら、むしろ不快感だらけのはずだ。

 

 木場は木場で教会にいい感情を抱いているわけがない。むしろ殺意とか憎悪とかがいっぱいのはずで、実際そういうところを何度か見せている。

 

「いざとなったら俺たちが動かないとな。頑張ろうぜ小猫ちゃん」

 

「はい。祐斗先輩を止めるのか教会の連中を止めるのかはわかりませんが」

 

 そう不安げな声を上げる小猫ちゃんだが、しかし気合は入っている。

 

 ああ、頼もしい限りだ。

 

「おう、そろってるな?」

 

 と、部長が部室に入ってきた。

 

 そして、真剣な表情で俺たちを見渡す。

 

「いいかお前ら。俺様の顔に泥を塗るな、以上!」

 

 と、はっきりばっさり言い切った。

 

 間違いなく木場を牽制する言葉だ。これはまた間違いない。

 

 そして、木場が何か言うよりも早く魔方陣が展開されて声が聞こえた。

 

『リアス。・・・教会の方がいらっしゃいましたよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入ってきたのは、やはり昨日の二人組だった。

 

 青い髪の方はゼノヴィアと言うらしい。

 

 そして、話の内容はもっと危険だった。

 

 なんでも、エクスカリバーが堕天使幹部のコカビエルに盗まれたとかいうのだ。それも四本。しかもこの街に潜伏したとか言っている。

 

 おいおいおい、おいおいおいおい。なんでそんなもん盗まれてんだよ! っていうかなんで四本なんだよ!?

 

 心底疑問が頭の中に浮かんだ俺に気づいて、部長が軽く手を挙げて会話を遮る。

 

「お、言ってなかった。悪いがイッセーは新米なんで、補足説明させてくれよ」

 

「あ、そうなの? 実はねイッセーくん、エクスカリバーは先の大戦で折れちゃったのよ」

 

 と、イリナが簡単に説明してくれる。

 

 なんでもエクスカリバーは三大勢力の大戦で砕け散ったらしい。

 

 だけど、エクスカリバーの力は貴重。そのままなくすのはもったいなく、そして欠片の状態でも十分すぎる力があった。

 

 そこで、七本に分かれた欠片をそれぞれ核として、新たに七本のエクスカリバーが作られたそうだ。

 

 そして教会側が六本のエクスカリバーを保有していたのだが、そのうちの四本が盗まれたと。

 

「今はこのような姿になっている」

 

 といって、ゼノヴィアと名乗った青い髪の少女が布をはいだ。

 

 そこにあるのは、斧のような鍔を持つ大剣。

 

 ああ、一瞬でわかった。これ、マジでやばい奴だ。

 

 そしてイリナも反応するかのように、腕に巻き付けてあった紐を解く。

 

 引っ張られたひもはあっという間に日本刀になった。え? それもエクスカリバー?

 

「私のエクスカリバーは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)よ。こんな風に自由に形を変えることができるの」

 

 へえ。そんなことができるのか。

 

「イリナ。悪魔に能力を説明する必要はないだろう」

 

「あらゼノヴィア。悪魔が相手だからって教会の信徒として誠意は見せるべきだわ。それに、種バレたからって負けると思ってるの?」

 

「言ってくれるじゃねえか。タネさえ分かれば倒せる奴らは何人もいるぜ?」

 

 と、教会二人組と部長とで微妙に火花が散ったが、しかしコレどうしたもんか。

 

 特に木場だ。いまのを挑発と受け取ったのか、割と本気で殺意が放たれている。

 

 先に部長に牽制球を放たれいてるから大丈夫だと思うけど、このままだとキレかねないな。

 

「・・・で? そっちの話の本題はなんなんだよ?」

 

「簡単な話だ。今回の騒動に、悪魔側の介入を認めない・・・とね」

 

 おいおい、むちゃくちゃ言ってくれるな。

 

 部長もそう思ったのか、割と切れ気味で鋭い視線を向ける。

 

「ハッ! 自分の縄張りで好き勝手してる馬鹿をほおっとけってか!? ・・・喧嘩売ってんのか、お前ら」

 

「上は悪魔も堕天使も信用していないのさ。欲望に染まった悪徳の存在同士、同盟を結んでいる可能性を考えている」

 

 うっわぁ、はっきり言いきったよ。

 

 あ、だけど・・・。

 

「まあ、あながち間違っちゃいないな」

 

 部長ぅうううう!? 確かに的外れじゃないけどそれを往ったらいかんでしょう!?

 

「・・・なんだと?」

 

 想定外だったのか、ゼノヴィアの表情が愕然とする。

 

 その態度が見たかったのか、部長は面白そうににやりと笑うとふんぞり返った。

 

「的外れじゃねえっていったんだよ。直接関係を持ってるわけじゃねえが、神の子を見張るもの(グリゴリ)幹部の娘と俺様はメル友。そして、最頂点は戦争反対派だということで意見が一致している」

 

 あれ? お前だけ仲間外れなんだやーいやーい。とでも言いたげに部長は言い放った。

 

 そして、声もなく驚愕している二人を見てから、指を鳴らした。

 

「つーわけだ。そろそろ入って来いよ」

 

「あら、ようやく出番なのね?」

 

 といって、別のドアが開いてそこから一人の美少女が入ってくる。

 

 おお! 黒髪ポニーテールの美少女だ! マジすげえ!!

 

 と、思ったら小猫ちゃんとアーシアに同時に足を踏まれた。

 

「イッセー先輩。緊張感を保ってください」

 

「イッセーさん! そんなに大きい胸がいいんですか!?」

 

 ごめんなさい!

 

 と、その様子を面白そうに眺めながら、部長が立ち上がるとその美少女の肩に手を置いた。

 

「紹介しよう。こいつが神の子を見張るものの1人、バラキエルの娘だ」

 

「朱乃といいます。どうぞよろしく?」

 

 にやにやと笑う部長に、ニコニコと笑う朱乃さんという人。

 

 その二人をにらみつけながら、ゼノヴィアは今にも切りかかりそうな表情を浮かべた。

 

「欲望に忠実な悪魔と堕天使らしい。・・・上の懸念は当たっていたということか」

 

「あらあら。圧倒的に不利な状況で真正面から文句を言う。・・・好意を抱きますわ」

 

 本気で剣を構えるゼノヴィアにたいし、朱乃さんはニコニコとほほ笑んだままだ。

 

 すごい、すごい胆力だ。

 

 そして、そんなニコニコとほほ笑んだまま朱乃さんは告げる。

 

「それでは、神の子を見張るもの(グリゴリ)幹部である私の父バラキエルよりリアス・グレモリーに依頼を言付かっておりますの」

 

「なんだと?」

 

「え、それってなに?」

 

 思わぬ展開に聖剣使いがどよめく中、朱乃さんはこう言い放った。

 

「堕天使側が捕縛準備を整えるまでの間、ことの調査などをグレモリーに依頼しますわ。可能ならコカビエルの捕縛、場合によっては抹殺すら許可いたします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんですって!?」

 

 その言葉に、イリナが驚愕してゼノヴィアに至っては言葉もない。

 

 そりゃ当然だ。教会としては悪魔に今回の件に関わってほしくない。にも関わらず堕天使側が今回の件に関わるようにといってきた。

 

「どういうつもりだ! コカビエルはそちらの幹部だろう!?」

 

「簡単ですわ。エクスカリバー強奪はコカビエル様の独断です。彼は残存する神の子を見張るものの中で唯一の戦争再開派ですので、ほかの三大勢力の挑発目的で行っているものと思われます」

 

 ゼノヴィアの問いただしに、朱乃さんがそう告げる。

 

 なるほど。エクスカリバーは教会が大事にしているものだし、部長は魔王の妹だ。

 

 下手すれば戦争が再開してもおかしくない。それが目的だってわけか。

 

 だけど、その後始末・・・の下準備を悪魔であるリアス部長に依頼するとは同意つもりだ?

 

「アザゼル総督は今回の件を逆に利用し、三大勢力での和平会談を望んでおります。ですので、先手を打って悪魔側に協力を依頼しようということですのよ?」

 

「・・・欲望に堕ち、人々を堕落させる悪魔や堕天使と和平だと!? ふざけるな!!」

 

 今まさに切りかからんといわんばかりの勢いでゼノヴィアがまくしたてるが、しかし朱乃さんは意にも介さない。

 

「それならそれで結構。悪魔と堕天使だけで和平を結んだとして、天界に対する牽制球としては十分ですわ。・・・それとも、今の天界に悪魔と堕天使を両方相手にする戦力が残っていると?」

 

「あら、私達信徒たちの協力をもってすれば簡単にできるわ。信徒20億は伊達じゃないのよ?」

 

 自慢げにイリナがそう答えるが、しかし部長はそれを鼻で笑う。

 

「ハッ! 20億人信徒がいるからって、そいつら全員が戦闘要員ってわけでもねえだろ。それなら悪魔の契約者だって億を超えるってんだ」

 

「実に情けない話だが、まあ確かに総力戦となればそう簡単にはいかないか」

 

 ゼノヴィアはそれを聞いてうなづいて、そして席を立ちあがる。

 

「話は無意味だったようだ。まあ、一応の仕事は果たしたからな。それでいいだろう」

 

「そうね。私とゼノヴィアでコカビエルを倒せばそれで済む話だわ」

 

 イリナも立ち上がるが、ちょっと待て。

 

「オイ! まさかお前ら二人だけでコカビエルとかいうのを相手にするのか!?」

 

「その通りだ。サポート班として神父を何人か送っていたが、全員殺されているようでね」

 

 ゼノヴィアが当たり前のように答えるが、正気かよ!?

 

「信心深い連中ってのは本当に殉教を恐れねえな。この国にいると正気を疑うぜ」

 

「無宗教だらけのこの国を基準にされるのは不愉快だ。・・・それに、魔女を従えているそちらに正気を問われたくはないな」

 

 反論しながら、ゼノヴィアは視線をアーシアに向ける。

 

 ・・・ついに来やがった。

 

「なあ、アーシア・アルジェント?」

 



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洋服崩壊! ~うなれ、新たな必殺技

 

 ついに、ついに来やがったか。

 

「アーシア・アルジェントって、悪魔を治しちゃったあの魔女?」

 

 イリナは意外なものを見るかのような目で見るが、このチャンスを逃さず話を逸らすべきか?

 

 と、思っていたらアーシアがすぐにうなづいた。

 

「はい。そうです」

 

「・・・悪魔を治した魔女がそのまま悪魔に堕ちるだなんて! ああ、なんて悲劇!」

 

 微妙にコミカルに反応しないでくれない、イリナ。

 

 それはともかく、ゼノヴィアはまっすぐにアーシアを見据えるが、そこにはそこはかとなく冷たい敵意が見える。

 

 まあ、悪魔を滅ぼすために動いている悪魔祓いからしてみれば、悪魔を治した元聖女だなんてぶち殺し案件ではあるが・・・。

 

「一つ聞きたい。君はまだ主を信仰しているのか?」

 

「いやゼノヴィア? 悪魔に転生した人が主を信じているわけないじゃない」

 

「いいや。彼女の目にはまだ信仰が残っている。・・・偶にいるんだよ、そういうのが」

 

 へえ。少しはわかってるんじゃないか。

 

 だけど、ゼノヴィアの表情は別に許しを与えるとかそういうわけでもなさそうだ・・・。

 

「・・・捨てられないだけかもしれません」

 

「なら、我が刃で主の身元に送って―」

 

「おぉっとそこまでだ」

 

 と、ゼノヴィアが動くより早く部長が立ち上がった。

 

「てめえら少し礼儀ってもんをわきまえたらどうだ? 人様の縄張りで好き勝手しようとか言ったうえに、人の舎弟に手を出そうとか・・・戦争再開を願ってるんじゃねえだろうな、ああ?」

 

「堕ちたまま苦しむ者に慈悲の一撃を与えるのは戦士として当然のことだ。なにより、悪魔と堕天使はいずれ倒すべき敵だろう?」

 

 まずいな、コレ。

 

 ゼノヴィアの奴、ここで俺たち全員を倒すつもりか?

 

 緊張感が高まる中、部長はゼノヴィアを見ながら口を開いた。

 

「言っとくが、俺様は人様の縄張りで敵対している連中を好きに動かさせるつもりはねえぞ?」

 

「なるほど。ではまずはお前たちを倒すしかないようだな」

 

 にらみ合い、そして腰を下ろすゼノヴィア。

 

 だが、部長はそれに対して片手を上げる。

 

「まあ待て。何も動くななんて言ってねえ。・・・条件がある」

 

「なんだと?」

 

「落ち着きなさいよゼノヴィア。聞くだけ聞いてみましょうよ?」

 

 割と本気で戦闘体勢のゼノヴィアを押しとどめながら、イリナは話を促した。

 

 おお、実は話が分かるのか?

 

「それで条件は何かしら? ・・・はっ! 実はアーシア・アルジェントに感化されて悪魔でありながら信仰に目覚めたとか!?」

 

 いや、ただのアレな人だ。

 

 こんなのが幼馴染だという事実を記憶から忘却したいです。

 

「その前に一つ聞きてえことがある。・・・聖剣計画、知ってるよな?」

 

 部長がそれを訪ねると、ゼノヴィアとイリナは同時に渋い顔をした。

 

「どこで聞いたかは知らないが、確かにその技術は使われている」

 

「でも最初の研究者が非人道的な研究を行ったそうなのよ。まったくもう! 誇るべき偉大な計画に汚点を作るだなんて怒っちゃうわ!」

 

 ああ、あれってやっぱり現場の独断なのか。

 

「それは神に誓えるか?」

 

「当然だ。少なくとも、当時の研究主任は異端の認定を受けているとも」

 

「名前はバルパー・ガリレイ。確か堕天使のところに逃げ込んだって聞いたけど?」

 

 とイリナが効いて、朱乃さんはふむと指に手を当てる。

 

「私も全部を知っているわけではありませんので。・・・ただ、コカビエル様は聖剣に興味があるそうなので、個人的に囲っていたかもしれませんね」

 

 まあ、神の子を見張るものも相当にでかい組織らしいしなぁ。一枚岩じゃないってことか。

 

「しかしまあ、どこもかしこも一枚岩ではございませんわ。そういう意味ではリアスはどんな側なのでしょうか?」

 

 そう、確かめるように響く言葉に、リアスは静かに周りを見ると、胸を張って声を出す。

 

「そちらに対する行動の許可は単純明白! うちから二人、そしてシトリー眷属から一人、監視役をつけることだ!! そうじゃない限り、縄張り内での好き勝手は一切許さねえ!!」

 

「そう来るか・・・っ」

 

感心したかのようにゼノヴィアは納得したようだ。

 

 これなら、朱乃さんの依頼を果たしながら、教会の二人組の監視を続けることができる。

 

 そして、その担当は―

 

「ソーナのところからはソーナに選ばせる。俺様は、木場祐斗と兵藤一誠を指名するぜ?」

 

 あ、やっぱり俺ですかそうですか。

 

 木場の監視役も兼ねろということですね。

 

「・・・いいだろう。だが、こちらからも一ついいだろうか」

 

 ゼノヴィアは少し考え込んでいたが、しかし肯定的な返事を返す。

 

「え、ちょっとちょっと! いいの!?」

 

「まあ、上の意見を伝えれば不機嫌になるのはわかっていた。動く肉の楯ができたと思えばいいし、相手の側から見てもそれが妥協点だろう」

 

 あれ? 発現こそ辛らつだけど割とスムーズだよ?

 

 だが、こっから先が大変だった。

 

「その前に、実力を見せてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧校舎の外で、俺と木場と匙が聖剣使いの二人と対峙していた。

 

 向こう側が出した条件は極めて単純。戦力になるかどうかを模擬戦でテストすることだ。

 

 そういうわけで、旧校舎の外に結界を張って模擬戦の場を作ってやることになった。とりあえず多少暴れた程度では外に気づかれることはないようだ。

 

「匙? これは私の名代のようなものなので、恥かしくないようにしなさい」

 

「え、あ、はい! が、頑張ります!」

 

 割とてんぱりながら匙はうなづき、そして俺をぐいと引き寄せた。

 

「どういうことだよ! なんで俺がこんなことに巻き込まれてんだ!」

 

「いや、俺に言われても。お前を選んだのは会長だし、信頼されてんじゃないの? 駒価値4だろ?」

 

「それはうれしいけどすごく怖いんだよ! だって聖剣エクスカリバーだぞ? 生半可な聖剣よりはるかにすごいんだぞ!?」

 

「それはそうだよ。七分割されているとはいえどエクスカリバーだからね」

 

 そういう木場は、なんていうかものすごい微妙な表情を浮かべている。

 

「どうしたんだよ木場。せっかくのエクスカリバーとの戦いだぜ? 少しぐらいテンション上がるかと思ったんだけどな」

 

 かなり意外なぐらいだ。ぶっちゃけ何かきっかけがあったらすぐにでも切りかかりそうだったけど、最後の最後まで何とか抑え込んでいる。

 

 木場は何も答えなかったが、だけど何か複雑な表情を浮かべていた。

 

「・・・なあ、木場ってエクスカリバーとなんか因縁でもあるのか?」

 

「ああ、もともと教会出身だったんだけど、エクスカリバーがらみで転生する羽目になったらしい。さすがに詳しいことは俺の口からは・・・」

 

 俺たちは想小声で話し合うが、しかしそこでゼノヴィアが剣を抜いた。

 

「私達と肩を並べるというのならば、せめて三人がかりで五分は持ってもらわないとな」

 

 そしてイリナも擬態の聖剣を抜く。

 

 なんだろう。涙を浮かべながら生き生きとしている。

 

「アーメン! これもまた主の与えた試練なのよきっと! 悪魔に堕ちた幼馴染を乗り越えることで、私は新たな信仰に目覚めるのだわ!!」

 

 あれ? もしかして俺がターゲット?

 

「行くわよイッセー君! 私がエクスカリバーで裁いてあげる!!」

 

「いやこれ模擬戦うぉわぁ!?」

 

 真正面から全力で切りかかってきたよこの子!?

 

 ヤバイ。この人間違いなく危ない人だ! 信仰に酔っぱらってるよこの人!!

 

「アンタ狂信者と呼ばれる類だよ!!」

 

「失礼ね! せめて純信者とかうまいことは言えないの!?」

 

 ひぃいいいいい! お助けぇえええええ!!!

 

 確かに純真な信者だけど! これは悪魔になってなくてもごめんだっての!

 

 くそ、木場と匙はどうした!

 

 と、思ったら木場はいきなりゼノヴィアに追い込まれていた。

 

 ゼノヴィアがエクスカリバーを振るうと、余波で地面が粉砕される。

 

 なんだあの破壊力!? 接近戦用の武装であれって、ライザーと火力で打ち合えるんじゃないか!?

 

「我が破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)はすべてを打ち砕く・・・が」

 

 木場の聖剣をやすやすと弾き飛ばしながら。ゼノヴィアは嘆息した。

 

「そもそも下級悪魔風情が、集中力を欠いた状態で聖剣使いを倒そうなどと片腹痛い。・・・いくら私が聖剣計画とは無関係の天然ものとはいえ、これはいささかどうだろうな」

 

「く・・・っ!」

 

 どうしたんだ木場の奴。

 

 いつものように冷静なわけでもなければ、ブチギレているわけでもない。

 

 敵意こそあれ、なんか集中できてないぞ!

 

「その程度で監視役など侮蔑に等しい。模擬戦といえど骨の一本は覚悟してもらう!」

 

 あ、やべ! このままだと―

 

「おぉっとそうはいかねえな!!」

 

 と、エクスカリバーに黒い鞭のようなものが絡み憑いた。

 

 そのとたん、破壊の聖剣の力が明らかに落ちる。

 

「・・・神器か!?」

 

「その通り! 俺の神器はくっつけた相手の力を吸い取るのさ!」

 

 見れば、匙が得意げな表情を浮かべながら腕にトカゲの頭のようなものをつけていた。

 

 さすがは駒価値4! 俺も負けてられねえな!

 

騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)! 力貸せ!!」

 

 俺はジオティクス様にもらったナイフを抜くと、宝具化させたうえで真正面からエクスカリバーを迎え撃つ。

 

「そんな! 確かにすごいナイフだけど、エクスカリバーとまともに打ち合うなんて!?」

 

 驚愕するイリナだが、そもそも甘い!!

 

「形状変化が持ち味なのに、そんな真正面から使うからだよ!!」

 

 隙を突いて俺はぶん投げるが、しかしイリナはすぐに態勢と整えると着地する。

 

「やってくれるわねイッセーくん! だけど勝負はここからなんだから!!」

 

 そうか? だがすでに終わっている。

 

 見るがいい、レーティングゲームではいろいろあって使う暇がなかった俺の新しい必殺技!

 

「一糸まとわぬ姿を見せろ! 必殺、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

 そういって俺がパチンと指を鳴らすと同時、イリナの服がはじけ飛んだ。

 

「・・・いやぁああああああ!? な、ナニコレぇえええええ!?」

 

「ふっ! イメージこそが魔力の根源と聞かされたんでな。女の裸を見たいというイメージでちっぽけな魔力を凝縮したのがこの技だ」

 

 ああ、俺は女の裸を見てみたかった。

 

 戦闘中なら合法だと思ったんだ! だから習得したんだよ!!

 

 フハハハハ! 眼福だが、しかしそんなことをしている暇はない。

 

「次はお前だ、ゼノヴィアぁああああ!!!」

 

「む、来るか」

 

 木場と匙を相手に渡り合っていたゼノヴィアに、俺は真正面から切りかかる。

 

「人のアーシアちゃんをさんざん罵倒しやがって! ちょっと落とし前つけてやるよ!!」

 

「異端を異端といっただけでそこまで言われるとはね。だが、私はイリナのようにはいかないぞ」

 

 ゼノヴィアは無理やり俺を弾き飛ばすと、匙のラインを強引に引きちぎる。

 

「なんだと!? 俺のラインを引きちぎった!?」

 

「伊達に破壊の二文字を与えられているわけではない。これでも『切姫』の名を与えられたのでな!」

 

 そのまま強引にゼノヴィアが切りかかるが、しかし舐めるな!

 

「ふん!」

 

 俺はグローブを宝具化させると、真正面から真剣白羽どりした。

 

 宝具化されたグローブ越しなら、聖剣のオーラも届くまい!!

 

「・・・なんだと!? グローブ越しとはいえ悪魔が聖剣をつかんで無事なはずがない!!」

 

「俺の両手は特別製でね。それと―」

 

 俺が視線で後ろを示すが、其れより早く木場が首元に剣を突き付けていた。

 

「油断大敵だよ。いくら腑抜けていても、これぐらいはできる」

 

 木場がそう告げ、ゼノヴィアは十秒ぐらい黙っていたがやがて剣を下す。

 

「さすがに三対二は無理があったか。・・・よくぞ私とイリナを相手にして勝利を掴んだといっておこうか」

 

 不満気だが、しかしこれで実力を認めざるを得ないだろう。

 

「よくやったじゃねえかイッセー! っていうか・・・マジで習得しやがったのかよ! ブ、ブハハハハハ!!」

 

「イッセーさん!? ひ、卑猥です、エッチです、恥ずかしいです!!」

 

「・・・最低です、イッセー先輩」

 

「まあ、悪魔らしいといえば悪魔らしいのですが・・・」

 

 あ、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)は一部を除いて女性陣には不満のようで。

 

 だけどまあ、これぐらいはしておかないと俺の気がすまなかったからな。

 

 なにせアーシアをさんざん魔女呼ばわりしてくれたんだ。

 

 教会の教えはよくわからないけど、アーシアは全然文句を言うとしない。それどころか当然の罰だと思っている節すらあるからな。

 

 俺が、文句を言うぐらいのことはしてもいいだろう。

 

「まあ、教会の教えからしてみれば悪魔を助けるなんて罰当たりもいいところなんだろうけどな」

 

 俺は、ゼノヴィアに真正面から向き合って告げる。

 

「この国じゃあ。悪魔だからって理由だけで排斥する理由にはならないんだよ。郷に入っては郷に従えって言葉を知ってくれ」

 

「・・・ふむ。納得はできんが理解はした。一応の共闘が受け入れよう」

 

 思ったよりスムーズに納得すると、しかしゼノヴィアは苦笑を浮かべながら指をさした。

 

「だが、彼女は納得しなさそうだぞ?」

 

 ん?

 

「イッセーく~ん?」

 

 後ろを振り返った俺の目の前には、聖なるオーラを身にまとった、貫頭衣姿のイリナの姿があった。

 

 な、なんだその服? あ、擬態の聖剣を利用して服にしたのか!

 

 なかなか使いこなしてるじゃないか。見直したぜ。

 

 なんて思いながら親指を立てるが、そのとたんにイリナの額に青筋が浮かんだ。

 

 あ、これやばい。

 

「主よ! この変態をこの世から完全に抹消するために力をお貸しください!!」

 

 ぎゃぁあああああああああああああああああ!?

 



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聖剣襲撃 ~再開は殺意とともに

 

 そんなこんなでエクスカリバー破壊団を結成した俺たち。

 

 そういうわけで、親睦会もかねてハンバーガーショップでハンバーガーを食べながら、作戦会議を開いている。

 

「にしても、全然見つからねえな」

 

 匙がポテトを食べながらそうぼやいた。

 

 ああ、まったくもってその通り。

 

 探し始めてかれこれ一瞬間だけど、結局全然見つかってない。

 

 コカビエルが戦争を勃発させたがっているっていうのは、悪魔で堕天使側の想像なだけで実は違ったのか?

 

「なあ、これって前提が間違ってて、実はほかの堕天使との合流に選んだだけなんじゃないか?」

 

「それはないだろう。言われて初めて気が付いたが、グレモリーの管轄でわざわざ堕天使の幹部が潜む必要がない。そんなことをしなくても自分の管轄地ぐらい持っているはずだ」

 

 と、俺の疑問をゼノヴィアが一蹴する。

 

 うーん。確かに一理通ってるんだけどさ?

 

「そもそも戦争を不用意に起こしたって何の得にもならないだろ? 基本的にデメリットの方が多いじゃねえか」

 

 金はかかるし人は死ぬし、消耗の方がはるかに大きい。なんでそんなことを自分から進んでやるのかよくわからないな、俺は。

 

 心底不思議な気持ちだったのだが、ゼノヴィアは意外そうな顔をする。

 

「何をいう。我々信徒からしてみれば信仰を広げ悪徳を正すという十分すぎる理由がある。悪魔にしてみても人類を欲に沈めるのに我々教会や天使は邪魔ものだろう? 堕天使からしてみてもいい気持になるとは到底思えん」

 

 そうなのか?

 

 う~ん。よくわからないなぁ。

 

「首をかしげてるところ悪いんだけどさ。それなら俺も分からないことがある」

 

 と、匙が手を挙げた。

 

「そもそも、なんで木場は聖剣に恨みがあるんだ? 俺、その辺の事情が全く分かってないんだけど」

 

 ・・・ああ、そういえば。

 

「簡単にいうとね? 聖剣計画の初代担当者が外道だったの」

 

 と、イリナがすごい簡単にまとめる。

 

「あの件は我々にとっても大きな汚点だ。聖なる剣の担い手を作り出す計画に、邪悪たるものがかかわっていたのだから。・・・しかも主のいとし子たちを何人も犠牲にしたのだ。・・・殉教ではなくてな」

 

 と、ゼノヴィアも心底苦い顔をする。

 

 ああ、そういえばそんなことを言ってたけど、向こうとしてもよっぽど嫌な話だったらしい。

 

「その成果があるからこそ私は晴れて聖剣使いになれたんだけど、それを思うとちょっと嫌な気分になるのよねぇ」

 

「マジか。いったいどんなことしたんだよ?」

 

 イリナが苦い顔をするので、匙も割とドンビキする。

 

 と、コーヒーを飲んで静かにしていた木場が、コップの水面を見ながら小さくうなづいた。

 

「そうだね。協力してくれる以上、詳しく話した方がいいのかもしれない」

 

 そういうと、木場は静かに話し出した。

 

 もともと孤児だった木場は、教会の聖剣計画の被験者として拾われたらしい。

 

 それまでは名無しだったらしいが、木場祐斗というのは部長がつけな名前だそうだ。聖剣計画では別の名前を当たられていたという。

 

 まあ、言われてみればすごい納得。木場ってコーカソイド系の見た目だもん。純日本人の名前って、部長ってもしかして日本オタク?

 

 まあそれは置いといて、実験は割と過酷だったらしく、それが原因で死ぬものもいたらしい。

 

 それでも木場たちは一生懸命耐えた。主に選ばれた存在だと固く信じたから。この苦しい思いが報われると、そう信じていたから。

 

 聖歌を口ずさみ、自分が報われた後のことを信じながら、そして処分の日を迎えた。

 

「アーメン。そう告げながら、彼らは僕らに毒ガスを巻いたよ」

 

 毒ガスに苦しむ中、比較的ガスを吸わなかった木場は、ほかの仲間たちに助けられて何とか施設を逃げ出したという。

 

 だが、毒ガスに蝕まれた木場もまた長くはもたなかった。

 

 だが、奇跡的な確率で近くを視察していた部長に拾われて、いまに至るらしい。

 

「・・・概要を聞いた時から腹立たしかったが、バルパー・ガリレイめ、虫唾が走る」

 

「まったくだわ! 私たちの同胞になったかもしれない子達にそんなことして! 私がエクスカリバーで裁いてあげるわ!」

 

 と、ゼノヴィアとイリナもかなり怒っている。

 

 うん、さすがに信徒なだけあって基本は善の人たちなようだ。信仰心が強くて変な方向に行ってるだけなんだな。

 

 だが、そんな二人より過剰に反応している人がいた。

 

「・・・う、うぅううううう」

 

 匙が、すごい勢いで大泣きしていた。

 

 あの、ここ確かに今俺たち以外いない時間帯なんだけどね? 場所考えてね!

 

「なんて話だ! クソッタレ! 何が信徒だその野郎は! マジで許せねえ!!」

 

 お、おう。確かにその通りなんだけど、お前が大泣きしすぎて俺たちは戸惑ってるよ!

 

「ぶっちゃけていうと今回、俺は流されてここにいただけだったよ。だが、こっからは本気で手を貸してやる!! そのバルパーとかいうやつを、俺たちでとっちめてやろうぜ!!」

 

 匙、バルパーが今回の事件にかかわっているかどうかはまだ確証ないぞ?

 

 だけど、やる気になってくれたならいいことだ。

 

 ああ、こいつも結構いいやつだな。

 

「その通りだわ! 匙くんだっけ? あなた悪魔の割にはいい人なのね?」

 

「おう! あんたも教会の人間にしちゃぁ話が分かるぜ! こうなりゃ本気でエクスカリバーを取り戻すぞ!」

 

 と、テンションが基本高いイリナも一緒にテンションを上げていく。

 

「・・・なあ、気持ちはわかるのだが店員もいるのを忘れてないか?」

 

 ・・・あ。

 

「や、やべえ! 俺たち変なやつに思われるのか!?」

 

「大丈夫よ! 聖書を渡して布教をすれば―」

 

「いいわけないでしょ」

 

 と、聖書を取り出したイリナの高等部にチョップが叩き込まれた。

 

 そこには、心底あきれた顔をした一樹の姿があった。

 

「はあ。あんたら演劇の練習でもしてんの? 見てて恥ずかしいからカラオケボックスとかでやってくんない?」

 

「え、あ、ごめん! これから気を付ける!!」

 

 なんか勘違いしてくれているようだし、とりあえずそれに乗っかろう!!

 

「すいません蛇野さん。騒がしかったですね」

 

「まあ、今は静かな時間帯だからいいんだけどね? 他のお客さんがいつ来るかわからないからもうちょっと静かにお願い」

 

 いや、本当にすいません!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、夜になってから俺たちはエクスカリバーを探していた。

 

 いま、俺たちは神父の恰好をしている。

 

 まあ簡単にいえばただの囮作戦だ。

 

 神父を何度も襲っているのだから、神父の恰好をすれば襲い掛かってくるかもしれないという単純な作戦。

 

 とはいえ、向こうも見つけてくれないせいでなかなか襲われない。いい加減少し飽きてきたな。

 

 ちなみにイリナとゼノヴィアは少し離れたところで移動している。彼女たちがいると向こうが警戒するかもしれないからだ。

 

 そういうわけで俺たちは気合を入れて探しているんだけど・・・。

 

「全然出てこないな。怪しまれてんのか?」

 

「だろうな。何度も殺していれば向こうも武闘派を送り込んでくるって想定するだろうしよ」

 

 匙の推測にそう答えながら、俺たちはそれでも襲われやすい人通りの少ないところを歩いている。

 

『だが、そろそろ向こうも動くはずだ。これまで犠牲になってきた神父たちのタイミングからしてそろそろ周期的なタイミングだ』

 

 と、電話越しにゼノヴィアが告げてくれるけど、全然うれしくない。

 

「・・・そういえば、まだ言ってなかったことがある」

 

 と、戦闘を歩く木場が言った。

 

 なんだ?

 

「実は先日、エクスカリバーを持ってるものと交戦している。一人はフリード・セルゼンというはぐれ悪魔祓いだ。・・・知っているかい?」

 

 な!?

 

 フリードの奴、まだ駒王町に潜伏してやがったのか!?

 

「黙っていて済まないねイッセーくん。ちょっと別件で思うところがあって、言い出せなかった」

 

 と、複雑な表情で木場が謝る。

 

 別件? いったいなんだ?

 

『フリードってあれよね? 14歳で悪魔祓いになったけど、味方まで殺して追放されたっていう』

 

 イリナ、それマジで?

 

 あいつ確かに危ない奴だったけど、そっちでも扱いに困ってたのか。

 

「また物騒なやつがエクスカリバー持ってるんだな。・・・聖剣も使い手選べよ」

 

『それについては同意見だ。あのような外道にエクスカリバーを使われるとは、心底腹が立つね』

 

 ゼノヴィアの方も心から不満らしい。

 

 まあ、あんな奴と同じ種類の件を持っているだなんて腹が立ってもおかしくないか。

 

 だが、木場は顔色が悪くなっている。

 

 なんだ? 別件っていったいなんだ?

 

「もう一人のエクスカリバー使いは、トリアという。聞き覚えはあるかい?」

 

『いや、そんな名前の悪魔祓いは聞いたことがない』

 

『でも、私達だって悪魔祓いの顔と名前全部把握してるわけじゃないわ? そういう人の一人じゃない?』

 

 ゼノヴィアとイリナの声を聴きながら、木場は静かに首を振った。

 

「いや、彼女は聖剣計画の被験者だよ。・・・僕たちの同期だった」

 

 ・・・え?

 

 ちょ、ちょっとまて!

 

「聖剣計画の被験者って、全員殺されたんじゃなかったのか!?」

 

 思わず大声を上げる。

 

 だけど、それにしたっておかしいだろう。

 

 だって聖剣計画の被験者はほとんどが殺されたんだぞ!?

 

「生き残ってるにしたって、なんでバルパーなんかに従ってるんだ!? ・・・いや、もしかして別件なのか?」

 

 匙の推測があたりと思うしかない。

 

 バルパーの研究で聖剣使いを作ってるのなら、木場の同期が従ってるだなんて信じられない。

 

 俺はそう思ったが、しかし―

 

「いやー? バルパーのおっさんが俺たちを聖剣使いにしてくれたんでござんすよ?」

 

 と、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 その声は―

 

「フリード!!」

 

「おっひさー! 久しぶりイッセー君? 俺に殺されるまで死んでなくってうれしいよん?」

 

 そう不愉快な声をだすフリードは、その手に耶馬気なものを持っていた。

 

 聖なるオーラを垂れ流すすごそうな剣。

 

 ああ、あれが―

 

「さあ、俺の天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)で切り刻まれて頂戴な!」

 

 エクスカリバーか!!

 



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聖剣激突 ~激突、木場対フリード!!

 

 フリードがエクスカリバーをふるって、狂気の笑みすら浮かべて襲い掛かる。

 

 真正面から迎え撃ったのは俺だ。

 

 エクスカリバーがナイフとぶつかり合いながら火花を散らす。・・・結構重いなこの一撃!

 

「おやぁ? 武器を手に入れてすっごい強くなったねイッセー君。そそるぜ!」

 

「そりゃどうも!」

 

 と、俺は蹴りを放ってフリードを狙うが即座に躱される。

 

 こいつも腕を上げた? いや、これはそれ以上のそれだ。

 

「どうよ、俺様の天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)は! 持ち主のスピードを上げる効果があるんだよん?」

 

 スピードの上昇か。シンプルだが効果的な装備だな。

 

 さて、どう攻めるかと考えていると、木場が魔剣を両手にそれぞれ持って切りかかった。

 

「君には聞きたいことがある!!」

 

 そこから超スピードで切り合いが発生する。

 

 うぉおおおお! 早すぎて動きが見切れねえ!?

 

「なんだぁい? フリードお兄さんが知ってることなら、教えてあげてもいいかなぁ?」

 

「トリアのことだ! なぜ彼女が君と一緒にいる!!」

 

 高速での剣劇が発生するが、押されているのは木場のほう。

 

 俺たちも割って入りたいが、動きが激しすぎて、いったん仕切り直してくれないと割って入れない。

 

「バルパーが君たちを聖剣使いにしたんだろう!? なら、トリアがそれに従っているはずがない!!」

 

「おいおい何のことだか知らなけど、決めつけはよくないぜぇー」

 

 まずい、エクスカリバーの相手ってだけでも厄介なのに、木場のメンタルが追い込まれてる!!

 

「トリアの姐さんは俺が聖剣使いになる前からバルパーのおっさんの直属だぜ? 何があったか知らないけど、一番の側近ってやつだなぁ?」

 

「嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だ!!」

 

 信じられないように激昂する木場だが、其れは致命的な隙だった。

 

 足払いを仕掛けられ、木場が転んでしまう。

 

 そして、その隙を逃さずフリードは剣を振り上げて―

 

「おぉっと!」

 

 その腕に、匙の触手が絡みついた。

 

「いまだ兵藤!!」

 

「ああ!」

 

 その隙を逃さず、俺は二人の間に割って入る!

 

「なめんじゃねえぞこの野郎!!」

 

「うぉっと! ちょ、ちょっとタンマ!!」

 

 フリードは慌てて攻撃を回避するが、しかし動きを阻害されているためかわしずらいようだ。

 

 とにかく、死なない程度に切り刻んで後でしっかり話しを聞かせてもらう!

 

「木場! とにかくこいつをとっ捕まえてからすべて聞き出すぞ! それまでしっかりしろ!!」

 

「・・・そうだね、少し冷静さを失っていたようだ」

 

 木場も冷静さを取り戻すと、魔剣を構えてフリードをにらみつける。

 

「そしてここまでだ。いくら君でも、動きを封じられた状態で僕とイッセーくんを同時に相手にできるわけがないだろう?」

 

「うっそーん! エクスカリバーに選ばれたぼくちゃんが、一転して大・ピンチ! これも武器に頼ったのが原因か!? ああ、過去に戻れるならやり直したい!!」

 

 ふざけたことを言っているが、しかし動揺しているのが目に見える。

 

 よし、このチャンスを逃さず一気に取り押さえて―

 

「何やってるの、フリード」

 

 次の瞬間、触手があっさりと切り裂かれた。

 

「・・・嘘だろ!? 俺のラインをあっさりと!?」

 

 匙が驚愕しているが、其れより驚愕しているのは木場だった。

 

「イザイヤ、やっぱり邪魔するんだ」

 

「トリア! なんで君がバルパーと一緒にいるんだ!?」

 

 その金髪の女性に、木場は大声でなじる。

 

「バルパー・ガリレイは僕たちの、あの子たちの仇だぞ!? そんな奴とどうして!?」

 

 信じられないだろうな。

 

 同胞たちの仇と、同胞が一緒にいるだなんてそりゃあ信じたくないだろう。

 

 だけど、木場。俺は一目見た瞬間にわかったよ。

 

「それがどうかしたの?」

 

 ・・・この女は、そんなことを一切気にしていない。欠片も悔やんでなんていない。

 

 この女にとって、それはその程度のことでしかないんだよ。

 

「まったく、トリアに比べるとフリードは一歩劣るな」

 

 と、そこに一人の男が姿を現した。

 

 初老の神父の恰好をした男をみて、俺たちは警戒する。

 

 っていうか、タイミングから考えると一人しかいないよな。

 

「アンタがバルパー・ガリレイか!」

 

「いかにも。私がバルパー・ガリレイだ」

 

 殺意のこもった木場の言葉に、平然としてバルパーが答える。

 

 ああ、こっちも目を見てすぐにわかったぜ。

 

 この野郎、わかりやすいマッドサイエンティストだ。

 

「バルパー。危ないから下がってて。あなたが死んだら私がエクスカリバーを使えない」

 

「心配することはないだろう。君たち二人ならその程度の雑魚悪魔三人を滅ぼすことなど簡単だ」

 

 この野郎、言ってくれるじゃねえか!

 

「お前が・・・お前がっ!」

 

 木場は激昂してつかみかかろうとするが、それを匙が取り押さえる。

 

「落ち着け木場! ゼノヴィア達が来るまで待つんだ!」

 

 ああ、それが一番妥当な選択肢だろう。

 

 ゼノヴィアとイリナが来てくれれば、まだ何とか勝機が・・・っ

 

「なら安心しろ。もう来たぞ」

 

「お待たせ♪」

 

 と、トリアの真上から二人が現れて切りかかった!

 

 おお、ナイスタイミングだ!

 

「っ。雑魚が増えた」

 

 それをあっさりとかわすトリアだが、しかし顔をしかめると構えを取り直す。

 

「さすがに五人相手だとかばいきれない。いったん引くよ」

 

「仕方があるまい。フリード、頼む」

 

「OKおっさん! そんじゃあな諸君、次あったときが、本当のバトルだ!」

 

 そういうと、フリードが地面に何かをたたきつけると閃光がほとばしった。

 

 閃光弾! あの野郎味な真似を!!

 

 暗待った視界が収まる時には、フリードたちの姿はかなり遠くになっていた。

 

 この状況下で追いかけても追いつくころには時間がかかる。そうなればコカビエルも相手にすることになるかもしれないし、ここは不利か。

 

 俺はそう思って矛を収めたが、しかし冷静じゃなかったのが一人いた。

 

「逃がすかぁああああ!!」

 

 木場が、全力で駆け出していく。

 

「同感だ。これ以上好きにさせるわけにはいかない」

 

「アーメン! これも主のため神のためよ!」

 

 と、イリナとゼノヴィアまで駆け出してしまう。

 

「あ、おい!」

 

 俺は慌てて止めるが、三人とも聞きゃしない。

 

 あっという間に、三人は姿を消してしまった。

 

「・・・どうするんだよ、コレ」

 

「下手に追いかけたら二の舞だ。・・・部長と会長の支持を仰ごう」

 

 冷静になったら、すぐにでも俺たちに連絡をしてくれるはず。それを待つしかない。

 

 ああもう、あいつの追い込まれ具合を甘く見てた!

 

 ・・・大丈夫だよな、木場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、部長たちに連絡をしたら今日は休むように言われてしまった。

 

 戦闘をしていて疲れただろうから、ここは待った方がいいと行ってきたのだ。

 

 木場たちはほかの眷属が探してくれているし、ここは待機した方がいいだろう。

 

 それはそれなんだけど、だけどやっぱり心配だな。

 

「あ、イッセーさん」

 

 と、俺の部屋にアーシアが入ってきた。

 

「眠れないのか? ま、俺もなんだけどな」

 

「はい。木場さんが心配で・・・」

 

 だよな。俺も心配だよ。

 

 それに、アーシアの場合にはほかにもいろいろあるしなぁ。

 

「あいつらに言われたこと、気にしてるか?」

 

 魔女・・・か。

 

 確かに、滅ぼすべき邪悪である悪魔を治しちゃったんだから、倒そうとしている側からしたら腹も立つのかもしれないな。

 

 人間界じゃ赤十字とかいって、怪我人は敵味方かかわらず治療するのを美徳としている。だけど異形業界ではそういうのはないようだ。

 

 だからだろう。割と本気で敵意があった。

 

 それを思い出したのか、アーシアは少し肩を震わせていた。

 

「ゼノヴィアさんは善意でああしたんだと思います。聖書の教えでは自殺を禁じていますから、楽にするというのならほかの人がしてあげないといけませんし」

 

慈悲の一撃(ミセルコリデ)だっけ? 本で読んだよ」

 

 そういえばそういうのがあった。

 

 助からない人間を楽にするための短剣だそうだ。自決が禁じられている宗教だからこそ生まれた短剣だよな。今回のもそれと同じか。

 

 そういう意味では、確かにゼノヴィアのそれは善意だったんだろうな。

 

 それをわかったうえで、だけどアーシアは首を横に振った。

 

「ですが、それは受け取れません。私はまだ死にたくいないですから」

 

「アーシアなら、たぶん絶対神様のところに行けると思うぜ?」

 

 俺は茶化してそういうが、アーシアは静かにほほ笑んだ。

 

「今、ここにいたいと思ってしまったんです。罰当たりなことだとは思いますが、リアス部長や木場さん、小猫ちゃんに・・・そしてなによりイッセーさんがいますから」

 

 そっか。それは、うれしいこと言ってくれるな。

 

「ありがとう、アーシア。だったら俺もアーシアを守るよ」

 

 俺はそういうと、アーシアを抱き寄せる。

 

「まだ気持ちの整理がついてないけど、それでもアーシアは大事な女の子だ。そんな子が嫌がることを無理やりしようっていうのなら、それは俺の敵だよ」

 

 ああ、そんなことは許しはしない。

 

「大丈夫。俺も結構強いんだぜ」

 

「はい。イッセーさんが強いのは、私が一番よく知ってます」

 

 そういうと、アーシアは俺の胸に顔をこすりつける。

 

 ・・・ヤバイ、すごい興奮する。

 

「大好きですイッセーさん。ずっと一緒にいたいです」

 

「そっか。アーシアみたいな可愛い子にそんなことを言われるのなら、それはすっごい光栄だ」

 

 うん、まだ答えは出ないけど、これだけは言える。

 

 俺は、アーシアを守るために全力を出すぜ、絶対。

 



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戦争間近!? ~決戦は駒王学園

 

 すでに日をまたいだころに、俺たちは部長に呼び出された。

 

 なんでもコカビエルが宣戦布告をしたらしい。

 

 部長が住んでるマンションに到着すると、そこには部長が一人の少女を抱きかかえて立っていた。

 

「アーシア! すぐに治療してくれ!」

 

 そういって部長がつきだしたのは、イリナ!?

 

「イリナ!? お前大丈夫かよ!?」

 

「イリナさん! しっかりしてください!!」

 

 慌ててアーシアが癒しのオーラを放つけど、これは一体どういうことだ?

 

「どういうことですか部長! なんでイリナがここに?」

 

「コカビエルが連れてきたんだよ。土産、だとよ」

 

「・・・悪趣味」

 

 小猫ちゃんがいやそうな顔をするが、当然だ。

 

 さすがは戦争賛成派。イイ趣味をしてるようだな!

 

 って待てよ? イリナは木場やゼノヴィアと一緒にフリードたちを追いかけて行ったんだ。

 

 つまり、三人は一緒に行動していた。そして、そのままコカビエルと戦闘になったと考えるべきだろう。その結果としてやられたわけで・・・。

 

「木場とゼノヴィアは!?」

 

「わからねえ。だが、ゼノヴィアはともかく祐斗は殺したなら挑発目的でそういうはずだ」

 

 だよな。木場が部長の眷属悪魔なことぐらいはわかっている可能性があるし、そもそも死体を見せる方が挑発には便利なはずだ。

 

 だけど、あの野郎なんでわざわざこんなことを・・・。

 

「コカビエルは、駒王学園で戦争再開の狼煙を上げるとか言ってやがった。何をしでかすのかはわからねえが、とにかく急がねえとまずいぜ!」

 

「うっす! 速攻で言ってカタを付けましょう!!」

 

 待ってろよ、コカビエル!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王学園の前で、俺たちはいったん集合していた。

 

 なにせ相手は聖書に名を遺すコカビエルと、伝説の聖剣エクスカリバー。当然難易度はこれまででも桁違いレベルだろうし、こっちもそれ相応の準備を整えないといけない。

 

「駒王学園の周囲には、結界を張り終えました」

 

 と、会長が告げる。

 

 とはいえこれは気休めだ。若手悪魔の結界ぐらい、コカビエルが本気を出せば簡単に壊せるだろう。

 

 それでも、少しでも被害を減らすにはそれぐらいしないといけないのがつらいところだ。

 

「私達は、閣員で分散して結界を補強します。焼け石に水だとは思いますが、それでもしなければいけないでしょう」

 

「悪ぃな。おいしいところはこっちでもらうぜ?」

 

「貧乏くじを引き受ける・・・でしょう?」

 

 部長の軽口に会長も答え、そして空を見上げる。

 

「リアス。魔王様に連絡は」

 

「一応しておいたが、ここまで急に動くとは思ってなかったからな。あと三十分か四十分か」

 

 はあ、とため息をつく部長。

 

 どうにもこうにも、魔王様の力を借りることは不本意なようだ。

 

「相手がコカビエルな以上仕方がねえが、領地の防備も自力でできねえとは悔しいもんだぜ」

 

「仕方がないでしょう。最上級のそのまた上がコカビエル。勝算が一割あっても奇跡というものです」

 

 そう慰める会長だが、こっちに視線を向けるときには、かなり険しい表情になっていた。

 

「申し訳ありませんが、リアスのことをお願いします」

 

「もちろんです。部長は俺たちの主ですから」

 

 ああ、それに関してはもちろんだ。

 

 それにこの街は俺の故郷。コカビエルなんかに破壊させてたまるものか。

 

 なんとして、命に代えても必ず駒王町を守り通す。それが俺がやるべきことだって、心の底から言い切れる。

 

「兵藤、木場はどうなんだ?」

 

 と、結界を張る準備をしながら匙が聞いてくる。

 

 やっぱり、匙も木場のことが心配なんだな。やっぱりこいつ、俺と同じでスケベだけど、いいやつじゃないか。

 

「まだ連絡はない。コカビエルなら捕まえれたら堂々と見せるだろうけど・・・」

 

「そうか。まあ、あのイケメンなら大丈夫だろ」

 

 そう、自分をに言い聞かすように匙は言って、俺の肩をたたいた。

 

「俺たちもやれるだけのことはやる。だから死ぬなよ」

 

「もちろん。なんとしても俺たちの力でこの街を守ろうぜ?」

 

 敵は圧倒的に強いコカビエルと、最強クラスの聖剣エクスカリバー。鬼に金棒とか言えるようなレベルでもない、圧倒的な戦力。

 

 だけど、そんなことでビビっている余裕はない。

 

 なんたってなわばりの危機だ。ここで立たなきゃダメってもんだろう。

 

 そして、俺たちを代表して部長が堂々と前に出る。

 

「野郎ども! 今回の戦闘は間違いなく死戦だ!」

 

 ああ、やっぱりそれぐらい難易度高いのか。まあ、普通にかんげえたら新米が担当するような類の戦闘じゃあ絶対あり得ないからなぁ。

 

 使い捨て一歩手間の少年兵でも、そんな過酷な乱用はされなかったぜ。

 

 だけど、それでも・・・。

 

「だが勝つのは俺たちだ! 全員で生きて帰って、勝利の美酒を味わおうぜ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

 俺たちは気合を入れると、そのまま一気に結界の中へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界の中、校庭のど真ん中で巨大な魔方陣が書かれていた。

 

 その中心にいるのはバルパー。そしてその周囲には五本のエクスカリバーが立っている。

 

 やっぱりイリナの聖剣も奪われてたか。これは戦闘の難易度が大きく跳ね上がるぜ。

 

 そして、祖の魔方陣の真上でコカビエルが椅子に座っていた。

 

 宙に椅子を浮かべてふんぞり返っている。なんて余裕なんだあの野郎は! っていうか椅子は堕天使の力で浮かべてるのか、無駄に優れた技術だな。

 

「遅かったな。もうだいぶ儀式は完成したぞ?」

 

 と、待ちくたびれたかのようにコカビエルが言ってくる。

 

 儀式? それが開戦の狼煙ってやつか?

 

「人様の縄張りで好き勝手やってくれるじゃねえか。言っとくが、堕天使側からお前は始末していいって許可は出てるぜ?」

 

「アザゼルめ、そこまで戦争がいやか」

 

 部長の言葉に苛立たし気に吐き捨てるコカビエルだが、すぐに気を取り直したのは獰猛な笑みを口元に浮かべ始める。

 

「なら、エクスカリバーを使って俺一人でも戦争を始めるだけだ。その御旗はお前たちの血で染めるか」

 

「ならエクスカリバーを使うといい。あと五分もあれば完成するからな」

 

 と、バルパーも割と乗り気だ。この野郎マジでむかつくぜ。

 

「それで? セラフォルーかサーゼクスが来るんだろう? あとどれぐらいなだ」

 

「その前に俺様達で倒してやるよ。てめえにゃ前菜で十分だな」

 

 と、部長ははっきりと告げ。それにコカビエルも乗り気になったのか笑顔を浮かべる。

 

 そして、部長もそれに呼応するかのようににやりと笑う。

 

「面白いじゃねえか。その顔を苦悶にゆがめてやるぜ、なあ野郎ども!!」

 

「はい部長。やってしまいましょう」

 

 小猫ちゃんも割とノリノリだ。結構テンション高いね、ホント。

 

 うん、だけどまあ・・・。

 

「やってやりますよ、部長!」

 

 俺も、やる気だけはみなぎってるぜ!

 

 そして、今この場で駒王町一度目の危機が始まることとなった。

 



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学校防衛! ~衝撃の事実

 

「では、余興として俺のペットと戦ってもらおうか」

 

 そういってコカビエルは指を鳴らす。

 

 次の瞬間、炎とともに巨大な存在が姿を現した。

 

 一番簡単にたとえらえるのは狗。だが、そのサイズはむしろ象、って感じで非常に大きい。んでもって首は三つあるという化け物っぷり。

 

 あ、俺これ知ってる。ケルベロスってやつだよね!?

 

「部長! あれ、ギリシャ神話の化け物では!?」

 

「そうだよ! あんにゃろう、そんなもんまでこんなところに持ち出しやがったのか!」

 

 部長が舌打ちしながら、重量を上げて接近戦を挑む。

 

 あの巨体にもひるまず殴りかかれるとか、部長マジ(おとこ)ですね!?

 

「さっさと帰ってもらいましょう」

 

 って子猫ちゃんも!? 君ら根性ありすぎだよ!!

 

 ええい! 俺は素直に後衛に回って援護射撃していると使用。

 

 アサルトライフルを構えて、俺は狙撃体制に入る。

 

 部長たちもそれをわかっているのか、大きめに動いて射線を作ってくれている。本当にいい人なうえに戦闘センスがある人たちだ。

 

 と、いうわけででかいことをいいことにバースト射撃で俺はケルベロスを撃つ。

 

 宝具化しているから、神話の化け物相手でも十分なダメージが見込めている。そしてもちろん部長と小猫ちゃんの拳も強力だ。

 

 あっというまにケルベロスは倒された。おお、これマジですごい!!

 

 どうだコカビエル! 少しは驚いたか!

 

「なるほど、どうやら少しは楽しめそうだ。・・・では、こんどは三体出すぞ!」

 

 ・・・えええええええええええ!? 今度は三体!?

 

 くそ、つまりは一人一体! それはきついか?

 

「イッセー、小猫! 一匹はこっちでつぶすから、お前らは残り二体を足止め―」

 

「いや、一匹は任せてもらおう」

 

 と、そこにやばいオーラが放たれた。

 

 こ、このオーラは!

 

「・・・ゼノヴィア!?」

 

「加勢に来たぞ。もともと、これはこちら側の問題なのでな」

 

 そういうなり、ゼノヴィアはエクスカリバーを一閃。ケルベロスの首の一つをあっさり切り捨てた。

 

 おお、なんて破壊力だ!

 

「さすがは聖剣だな、魔獣の類にも効果てきめんかよ」

 

 そう感心しながら、部長はケルベロスの一匹の真上に飛び乗る。

 

「最高速荷重、合計一万キロ!!」

 

 そのまま、体重増加で一気に押しつぶした!!

 

 エグイ! えぐいけど確かに必殺技じみた攻撃力だ!!

 

「イッセー先輩、動きを止めました」

 

 と、気づけば小猫ちゃんがケルベロスの足にしがみついて、祖の怪力で動きを止めている。

 

 ・・・あ、これ、俺が倒す流れか!

 

 とりあえず顔面にグレネードでも叩き込もうとライフルを構えるが、しかしそこにさらにもう一匹!

 

「おっと、俺としたことが数え間違えたな」

 

 わざとらしぞコカビエル!!

 

 あ、ヤバイ! あいつアーシアを狙ってる!?

 

「逃げろアーシア!」

 

「は、はい!!」

 

 走り出すアーシアを援護するため、俺はアサルトライフルをそっちに向ける。

 

 くっ! 間に合え―

 

「そっちは任せてもらおうかな?」

 

 その時、ケルベロスの足元から莫大な量の魔剣が出現した。

 

 こ、この魔剣は!

 

「・・・祐斗! 無事だったか!」

 

「心配しました」

 

 部長と小猫ちゃんが声を上げる中、木場は苦笑でそれにこたえる。

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません。・・・この通り、かろうじて無事です」

 

「お前なぁ、先走っていくからこういうことになるんだろうが!」

 

 本当に心配したんだからな!?

 

「さすがは情愛の深いグレモリー。なかなか愛されているようだな」

 

 と、ケルベロスをさらに倒しながらゼノヴィアが関心する。

 

 それはともかく、これでケルベロスは打ち止めか?

 

「・・・へえ、ケルベロスをそんな簡単に倒せるのか」

 

 と、そこにトリアとか言った女が現れる。

 

 彼女は光の剣を手に取ると、いきなりこっちに切りかかった。

 

「やめてくれ、トリア!」

 

 木場がそれを真正面から魔剣で受け止める。

 

 そのままつばぜり合いながら、木場はそれでも止めようと声をかけた。

 

「なぜだ! 選ばれたものになるために努力してきた彼らをみなごろしにしたバルパーに、なぜ君がついてくる!?」

 

「選ばれたものになるためにぃ? は! あいつらはそんなことなど考えてもいなかったでしょう! そんなことも忘れてるのか!」

 

 トリアは激高したのか木場を殴りつける。

 

 まさか拳で来るのかとは思わなかったのか、木場はそのまま殴り倒された。

 

「イザイヤ。お前はそんなことまで忘れたの? あの屑どもなそんなことなんて一度たりとも考えてはいなかった」

 

 心の底から嫌な思い出なのか、トリアは唾を吐き捨てる。

 

「どん底の人生を送ってきて、そんな人生を這い上がる機会が得られたのが私達。エクスカリバー使いという桁違いの栄光は、今まで私達を見下ろしてきたゲスどもを見下ろすのにふさわしい。私は心からその機会を得るために死に物狂いで実験に参加してきた」

 

 トリアは静かにそう語る。

 

 その目は曇りなく真剣で、それが彼女の本音だってことがよくわかる。

 

 そして、その目からは怒りの色があふれ出していた。

 

「それをあの屑どもは! レーサーならまだいい。だけどお花屋さん? サラリーマン? 何よりみんなで一緒にいたい!?」

 

 履き捨てるようにそう言うと、トリアは苛立たし気に地面を踏みつける。

 

「何だあいつらは! なんで高みを目指さない! 私達を塵屑に扱ってきた糞どもを踏みにじる機会を得ながら、あいつらはただ普通に生きれればそれでいいだなんて腑抜けたことを!」

 

 髪の毛をかきむしりながら、トリアは木場を見下ろした。

 

「だから、頼んだよ心から。「あんな屑どもより私を聖剣使いにしてください」ってね」

 

「・・・・・・なんだって?」

 

 その言葉に、木場は固まった。

 

 そしてその様子をみて、バルパーは得心したかのように手を打った。

 

「なんだ。そいつもあの時の被検体か」

 

「ええ。エクスカリバー使いになろうだなんて特に思ってない、普通に生きたいだなんて欲のない屑の1人」

 

「そこまで言うな。そいつらのおかげお前もエクスカリバー使いにはなれなかったんだろう?」

 

 その会話に、俺は首を傾げそうになって・・・肝が冷えた。

 

「オイオッサン。人造聖剣使いって、どうやって作るんだ?」

 

 なんか、すごい嫌な予感がしてきたぞ。

 

 まさか、まさかだけど・・・。

 

「人口聖剣使いを作るには、死体が必要だなんて言うんじゃないだろうな!!」

 

 その言葉に木場は目を見開いて、バルパーはにやりと笑った。

 

「いい線をついているな。まあ、殺す必要はないのだが・・・」

 

 そういいながら、バルパーは懐から結晶を取り出した。

 

「研究の結果、聖剣を使用するにはある種の因子が必要だということが判明した。人工聖剣使いとは、その因子を外から補充して適正値まで押し上げたもののことを言うのだよ」

 

「そう、私はのし上がるために必要なものを雑魚から奪って手に入れたの。・・・別にいいでしょ、必要としてなかったんだし」

 

 そう告げる二人の表情は、間違いなく醜悪だった。

 

「そ、そんな・・・」

 

 木場は力なく膝をつく。

 

 そうだろう。やっと出会えたと思った生き残りが、寄りにもよって仲間たちを殺した元凶の1人も同じなんだから。

 

「・・・待て! 確かにイリナ達人工聖剣使いはそれと似た結晶を移植されているが、それが他者の命を奪い取っただなんて話は聞いてないぞ!」

 

「それはそうだ。用済みなった被験者を殺したことが私の追放された原因だからな。さすがにそのうえで殺しを容認するわけがあるまいて」

 

 ゼノヴィアの言葉に、バルパーはそう返答する。

 

 ま、まあそれなら献血と大して変わらないから問題ない・・・のか?

 

「だが、私の研究を勝手に使うなど許せるものか。聖剣使いの量産体制は確立された、エクスカリバーの力で協会の聖剣を奪い、そのまま奴らを蹂躙してくれるわ!」

 

「ああ、実にいいぞバルパー。それぐらいでなければ戦争なんてできはしないだろう」

 

「うひゃひゃひゃ! 頭の枯れたおっさんたちだろ? ホント気前良いよねー」

 

 ふざけた連中がどいつもこいつもテンションを上げていく。

 

 クソッタレ! ワールマターがいつ動くかもわからないのにこんな連中まで相手しないといけないのかよ!

 

「外道どもが・・・っ!」

 

 リアス部長もマジギレ寸前だが、しかしそんなことをしている間に魔方陣が光り輝いた。

 

「おお、完成だ」

 

 そう硬骨な表情を浮かべるバルパーの目の前で、一振りになったエクスカリバーがゆっくりと降りてくる。

 

「これで魔方陣も完成だ。あとに十分もたたずにこの街は滅びるだろう」

 

 ・・・まずい、このままだと間に合わねえ!

 

 どうする、どうする!?

 



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禁手覚醒 ~吠えろ聖魔剣

 

「ふむ、では余興に暴れてもらいたいが・・・どっちが使う?」

 

「私は最後に渡してくれればいい。フリードが使えば?」

 

「お、姐さん気前がいいねー! んじゃ、このまま悪魔をずんばらりんと行きますか!」

 

 そうテンションを上げていくフリードは、エクスカリバーを片手にこっちに近づいてくる。

 

「そんな・・・そんな・・・」

 

 だめだ、木場はショックのあまり動けない。

 

 それを見て、トリアは特に何の感慨も浮かべずに静かに見る。

 

「・・・ここまでされて落ち込むだけ? ホントにどうしようもないんだ」

 

 心底見下げ果てたかのような目で見ながら、トリアは光の剣を振り上げた。

 

「もういいや。死ねば?」

 

 そして剣が振り下ろされて―

 

「させねえよ」

 

 それを、部長が魔力を込めた腕で受け止めた。

 

「おお! なかなかすごいねお姉さん! トリアの姐さん、負けるなー!」

 

 やんやとフリードがはやし立てる中、部長は振り向かずに木場に語り掛ける。

 

「お前、このままでいいのか?」

 

「ぶ、部長・・・」

 

 弱弱しく、しかし木場は顔を上げる。

 

「このまま、大事な仲間の一部がこんな外道どもに使われるのを、黙ってみてるつもりか?」

 

「で、でも・・・」

 

 それでも、木場は動けない。

 

 そんな中、部長はにやりと笑って見せた。

 

「いいじゃねえか平凡な生活。届くかどうかも分からない光を目指すのはかっこいいかもしれねえけどよ、日常をしっかり守っていくのも十分かっこいいだろうがよ」

 

 真正面から光の剣を受け止めながら、部長は木場に語り掛ける。

 

「気合を入れやがれ祐斗! てめえ、このまま仲間たちをこんなゲスどもに好き勝手にされていいのかよ!?」

 

「ああ、まったくその通りだ!!」

 

 俺はすぐにナイフを引き抜くと、フリードと切り結ぶ。

 

「・・・おいおいマジですか! そんなナイフがエクスカリバーと打ち合えるんですか!?」

 

「案外大したことねえな! この程度ならどうとでもできるんだよ、ガキ!」

 

 冥界の技術の粋が詰まった一品を宝具化してんだ。それぐらいはできないとな!

 

 つってもナイフと剣だとリーチが違う。この調子だと押し切られるか・・・っ!

 

「木場ぁ! 立ち上がれ、このまま、このまま、このまま・・・」

 

 俺はフリードと打ち合いながら大きく声を上げる。

 

「このまま、お前の同胞を苦しめさせるなぁ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・そうだね」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと木場は立ち上がった。

 

 その目はまっすぐ特盛なく、バルパー達を見つめている。

 

「もうこれ以上、僕の同胞たちを苦しめさせはしない!」

 

 そのまま、高出力の魔力が放出される。

 

 な、なんだなんだ?

 

「・・・ちっ! 面倒ね」

 

 トリアが警戒したのか飛び退って距離をとる。

 

 おい、これっていったいなんだ。

 

「ほう? これは面白いものが見られるな」

 

 と、コカビエルが面白そうに木場を見る。

 

 すると、その現象が放たれた。

 

 バルパーが持っていた決勝から、そしてフリードやトリアの体から、光の粒子が放たれると木場に集まっていく。

 

「な、なんだこりゃぁ!?」

 

「・・・屑どもが! 私の邪魔を・・・するな!!」

 

 フリードとトリアは狼狽し、そしてそれ以上にバルパーは驚愕する。

 

「馬鹿な、粒子たちがあつまって行くだと!? こいつらに意志があるとでもいうのか!?」

 

 そんな狼狽する状況の中、木場が何かを謳っている。

 

 なんだろう、これ、すごい素敵な歌な気がする。

 

「聖歌ですね。悪魔の私たちが、頭痛を感じずにこの歌を聴けるだなんて・・・」

 

「ああ、これもきっと、主のお導きです」

 

 小猫ちゃんが唖然とし、アーシアは涙すら浮かべて感動する。

 

 そして、そんな中木場はたった。

 

「―禁手化(バランス・ブレイク)

 

 それは静かな変化だった。

 

 木場が手に持つ魔剣。それが静かに変化する。

 

 光と闇が入り混じったかのような、そんな不思議な剣に変化した。

 

「・・・まさか至る奴がいるとはな」

 

 コカビエルが想本音で褒めると、俺たちを見下ろした。

 

「やるじゃないかグレモリー眷属。まさか禁手(バランス・ブレイカー)に目覚めるとはな」

 

 ば、ばらんすぶれいかー?

 

 それって、確か神器の進化形態!

 

「・・・僕は、剣になる」

 

 そう漏らし、そして木場はバルパーに剣を向ける。

 

「復讐・・・だなんて言わない。だが、これ以上同士達のような被害者を生み出したりはしない!!」

 

「ほざくなよ、たかだか禁手程度でエクスカリバーをどうにかできる者か! フリード!!」

 

「はいはいお任せあれぇ!」

 

 そういいながらフリードは危機としてエクスカリバーを伸ばすとそのままたたきつけようとして―

 

「甘いね」

 

 そのまま、木場はエクスカリバーを弾き飛ばした。

 

「・・・な、エクスカリバーを上回るってのか、その駄剣が!?」

 

「本来のエクスカリバーならそうはいかないだろう。だけど―」

 

 続けざまに、こんどは刀身を透明にして放たれる一撃を、しかし木場はあっさりと迎撃する。

 

「―そんな寄せ集めで、僕たちの聖魔剣は倒せない!!」

 

「おいおいおいおいふざけんなよ!? お前さん伝説の聖剣なんだろうが! 気合入れてよねえ!?」

 

 フリードは焦りの表情を浮かべながら、反撃のために攻撃をしようとする。

 

 だが、そんなフリードに迫る影があった。

 

「では、伝説の聖剣同士で勝負と行こうか」

 

 そういいながら、ゼノヴィアは破壊の聖剣を下すとすぐさま一振りのでかい剣を呼び出した。

 

 な、なんだあれ!?

 

「デュランダルだと!?」

 

 コカビエルも余裕が欠けるほどに驚愕する。

 

「ああ、私はもともとデュランダル使いの天然品でね、エクスカリバーは兼任していただけに過ぎない」

 

「・・・ぁ・・・ぁあ・・・っ」

 

 バルパーも絶句してるよ。よっぽど緊急事態何だろうな、コレ。

 

「こいつは暴れ馬だが、合一化されたエクスカリバーが相手となればちょうどいい。できれば一度戦ってみたいと思っていた!!」

 

「ふっざけんじゃねえぞクソビッチがあああああ!!!」

 

 想定外の展開にキレながらフリードはましょうめんから切りかかり。

 

「・・・折れたぁああああああ!?」

 

 エクスカリバーはましょうめんから粉砕された。

 

「・・・所詮は折れた聖剣か。ああ、私は気が済んだぞ、あとは終わらせるといい」

 

 ゼノヴィアはそういうと興味をなくしたかのように木場にバトンタッチする。

 

「ああ、観ているかい皆」

 

 そして木場は獲物をなくしたフリードに迫り、一気に切りかかる。

 

「僕らの剣は、エクスカリバーを超えたよ」

 

 そのまま一気に振り抜いた。

 



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衝撃事実 ~無限剣製と白龍皇と

 

 振り下ろされた聖魔剣を前に、フリードはなすすべもない。

 

 なぜなら、フリードは獲物をなくしている。

 

 もしあったとしても、合一化されたエクスカリバークラスで初めて勝負になるようなものをどう知ればいいというのか。

 

 脳内で適当な念仏を唱えたそんな俺の前で、しかしフリードは一つの行動をとった。

 

「・・・投影(トレース)開始(オン)

 

 そんな言葉がぽつりと漏れた瞬間に、フリードの両腕から光が漏れる。

 

 それは一瞬で剣の形になると、二刀流となったフリードがあっさりと木場の聖魔剣を真正面から受け止めた。

 

「ほう、やるじゃないかフリード」

 

 コカビエルが感心する中、さっきまで優勢だった戦いは互角にまで持っていかれる。

 

 というより、狼狽した木場が押されているといってもいい。

 

 ああ、そうだろう。

 

 俺も驚いている。

 

 部長もアーシアも小猫ちゃんも驚いている。

 

 ゼノヴィアとバルパーに至っては目も口もでかく開いている位驚いている。

 

 そうだろう、なんてったって・・・。

 

「合一化されたエクスカリバーが・・・二本も!?」

 

 今フリードが持っているのは、さっき砕かれたばかりのエクスカリバーだった。それも、二本だった。

 

「な、な、なんでだぁあああああああ!? エクスカリバーが、エクスカリバーがそんなにあるはずがないだろう!?」

 

 特にバルパーの狼狽がすさまじい。

 

 これ、どう見てもバルパーは何も知らなかったということだろう。

 

 ああ、マジかよさすがに驚きだよ。どういう状況なんだよこれは!!

 

「あ、驚いた? 大丈夫大丈夫、基本的には劣化品だからさ?」

 

 そんな風に軽く言いながら、フリードは連続で牙を攻撃する。

 

「・・・なめるな!」

 

 何とか攻撃から逃れた木場は回り込んで一撃を叩き込む。

 

 エクスカリバーを上回る聖魔剣の一撃! これならもろに喰らえばアイツだって・・・。

 

「あまいよん♪」

 

 だが、その脇腹には金属製の鎧が。

 

 気づけばその鎧は一気に全身を包み込んで、フリードは鎧騎士の姿となる。

 

 ま、間違いない、あれもエクスカリバーだ!

 

「な、なんなんだそれは!? なんでエクスカリバーを、量産・・・っ」

 

「いいリアクションだねぇバルパーのオッサン! そう、これが俺様ちゃんの特殊能力!」

 

 そういいながらさらに腰に二本のエクスカリバーを呼び出したフリードは、目にもとまらぬ速度で俺たちに攻撃を仕掛ける。

 

「グァ!?」

 

「きゃぁ!」

 

 まずい、早すぎて欠片も動きが見えない!

 

「視認した剣を、歴史ごと再現して模造品を作る。これがフリードさんのギフト「無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)」さ!」

 

 ぎ、ギフトだとぅ!?

 

「てめえもギフトを持ってるのかよ!?」

 

「持ちのろんさぁ! さあ、さあ、さあさあさあ!」

 

 フリードはいやらしい笑顔を浮かべると、そのまま切っ先を俺たちに向ける。

 

「このフリードくんをどうやって倒すのかなぁん? 行ってごらん?」

 

「・・・それでも!」

 

 ゼノヴィアは、気合を入れて立ち上がると、デュランダルの切っ先をフリードに向ける。

 

「それでも主の命は必ず果たす! ここでお前たちの好きになどさせる者か!!」

 

 おお、さすがは信仰心に強い信徒だ。命かける覚悟はすでに抜群ということか!

 

 そんな光景を見て、コカビエルはそれに対してあざ笑う。

 

「・・・はっ! お前たちは本当愚かな連中だ」

 

 確かに、欲望に堕ちて神様捨てたあんたからすればそうだろうよ。

 

 だが、その次のコカビエルの言葉に全員が固まった。

 

「もうとっくの昔に死んでいる者のために、命を懸けるなど馬鹿らしいぞ」

 

 ・・・ん?

 

 ん?

 

 んん?

 

「待ちやがれコカビエル! いまの、どういう意味だ?」

 

 と、それに気が付いたのか部長も声を上げる。

 

 あ、やっぱり気になりますよね!? そうですよね!?

 

 そんな部長の声を聴いて、コカビエルは得心が言ったかのようにうなづいた。

 

「ふむ、そういえば我ら堕天使でも下のものは知らなかったな。ああ、ちょうどいいから話してやろう」

 

 と前置きしてから、コカビエルはとんでもないことを告げる。

 

「かつての戦争で死んだのは魔王だけではない。聖書にしるされし神もまた、あの戦争で死んでるのさ!」

 

 ・・・な、な、なんだと!?

 

 おい、確かキリスト教って一神教だよな。

 

 自分たちの神様を唯一の神と崇めて奉る宗教だよな!?

 

 そんな宗教の神様がすでに死んでるって、シャレにならない緊急事態じゃねえか!?

 

「・・・う、うそ・・・うそだ」

 

「そんな、では、私達の救いは・・・」

 

 特にマジ信徒のゼノヴィアとアーシアが深刻だ。顔色が真っ白になっている。

 

「神がいなくとも神が残したシステムがあればある程度は代役がたてられる。・・・だが、切り捨てなければならないものは多くなるな」

 

 特に何の感情も込めず、淡々と事実をコカビエルは語る。

 

 それを聞いて二人は崩れ落ちた。

 

「・・・ミカエルは正直よくやってる。この数百年以上の間信仰を維持させているのだからな。だが、その結果はなんだ?」

 

 コカビエルはわなわなと手を震わすと、俺たちをにらみつけた。

 

「弱体化した三大勢力はどいつもこいつも戦争に消極的で、誰一人として最強を目指そうとしない! 腑抜けているにもほどがあるわ!」

 

 なるほど。それがお前の本音かよ。

 

「・・・っざけんじゃぁねえ!!」

 

 俺は、つい我慢できなくて大声をあげちまった。

 

「・・・なんだ?」

 

 演説の邪魔をされたんか、コカビエルが明らかに不機嫌な顔をしている。

 

 ああ、これは一歩間違えたら即死だろう。

 

 だが、それがどうした。

 

「聖書の神が死のうが、俺らの国になんて大した影響は出ないんだよ! んじゃ、ほかの神様頼るかで済む話なんでな! ・・・んなもん御大層に言われても、俺にはマジで迷惑だね!!」

 

「無宗教国家ゆえの罪か・・・。ほざくなよ、餓鬼。貴様ごとき下級悪魔が、世界の流れに逆らえると本気で思っているのか?」

 

 コカビエルは俺をそう見据えるが、俺だって負ける気はない。

 

「アンタがそんな勝手な理由で戦争起こそうってなら、それを俺たちが勝手な理由で止めようが問題ねえだろうが?」

 

「そりゃそうだ。いいこと言うじゃねえか、イッセー」

 

 と、部長が俺の頭に手をのせてから並び立つ。

 

「てめえが戦争したいっていうなら構わねえ。だが、堅気に迷惑かけるってなら、こっちも容赦は一切しねえ!」

 

 部長はそうはっきりと啖呵を切ると、中指を突き立てた。

 

「てめえらはここでぶちのめす! 特にコカビエル! お前はかけらも時間がないんで真っ先にだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうが早いか、部長は一気に駆け出した。

 

 俺もそれに続きたいが、それよりも反撃のためには手段が必要だ。

 

 ・・・よし、あれを使おう。

 

「ゼノヴィア、借りるぜ!」

 

「なに? いったい何を―」

 

 ゼノヴィアが何か言うよりも早く、俺はゼノヴィアが手放した破壊の聖剣をとって走り出す。

 

「馬鹿め! 聖剣因子も抜きに聖剣を使えるもの―」

 

「ああ、言ってなかったな」

 

 俺は素早く聖剣を侵食し、己のものとして奪い取る。

 

 ああ、因子が無かろうが関係ない。そんなものは俺には必要ない。

 

「俺もギフト持ちなんだよ!!」

 

 いうが早いか、俺はコカビエルに切りかかった。

 

 黒に染まった破壊の聖剣が、コカビエルを押し飛ばす。

 

「・・・分割されたエクスカリバー風情でこの出力! いいな、お前本当にいいぞ!!」

 

 コカビエルは光の剣を生み出すと、そのまま俺と切り結ぶ。

 

 俺はナイフも同時に使って何とか裁くが、これかなりきつい!

 

 ええい! 長剣は使いにくい!!

 

「どうした? 威力はあるが剣技のほうはなってないな!! その程度ではすぐに押し切れるぞ!!」

 

「言ってろこの野郎! すぐに慣れてやるから待ってろよ!!」

 

 今度真剣に剣術教えてもらおう! さすがにこのあっまだとヤバイ!

 

「僕たちも忘れないでもらえるかな!」

 

「油断大敵」

 

 横から木場と小猫ちゃんも攻撃を開始するが、コカビエルはものともしない。

 

「黙っていろ雑魚どもが! 貴様らなどで俺を倒せるものか!!」

 

 コカビエルは翼を開くと、俺たちを一斉には時期とばす。

 

 うぉ!? 翼も武器にできるのかよ!?

 

「禁手に目覚めたからといって、目覚めた手で俺を足せると思っているなら甘いわ! すでに消耗が大きすぎて出力が堕ちているぞ!!」

 

「くっ!」

 

 エクスカリバーを押し切った木場を圧倒するのかよ、あの野郎は!!

 

「どうした? まさかと思うがこの程度か?」

 

「ハッ! んなわけねえだろカラス野郎が!!」

 

 あざ笑うコカビエルの真上から、部長が一気に落下する。

 

 おお、重量を増大化させての墜落攻撃! 部長の十八番だ!!

 

 ライザーの眷属を一斉に吹っ飛ばしたあの一撃なら、まともに喰らえばコカビエルも。

 

「おっと。それは危ないな」

 

 あっさりかわした!? そりゃそうだよね、かわすよね!!

 

「ぬぉおおおおおお!?」

 

 勢い余って部長はそのまま地面に埋まる。

 

 そして、そこにコカビエルが大量に光の槍を生み出した。

 

「下らん。その程度ならここで死ぬといい!」

 

「あ、やべ、動けねえ!?」

 

 部長ぅうううう!? 危ない!!

 

「させるかこの野郎!!」

 

 俺は割って入るが、しかしこれは防ぎきれるか?

 

 いや、防ぎきらないといけないだろう。

 

 そうしなければ部長が―

 

「・・・お待たせいたしました。もう大丈夫ですわ」

 

 そのとき、声が響いて光の槍がすべて撃ち落とされた。

 

 撃ち落とすのは白く輝く稲光。

 

 雷光とでもいうべきそれが、すべての槍を問答無用で撃ち落とした。

 

「バラキエル? ・・・いや、その娘か!」

 

 コカビエルがいやそうな表情を浮かべると同時に、即座に光の槍を放つ。

 

 それが何かに直撃して爆発するが、しかしそこから声が響いた。

 

「・・・あまりにぬるい。戦争を望むものならば強い意志が込められていると思いましたが、その程度ですか」

 

「バラキエルの娘が、俺の邪魔をするか!」

 

 蔑み交じりで煙から現れた朱乃さんに、コカビエルが吼える。

 

「当然ですわ。・・・神の子を見張る者(グリゴリ)の決定を無視してそんなことをしているのです、問題しかありませんわね」

 

 そう言い放つ朱乃さんと、コカビエルはにらみ合う。

 

「混じり物風情がよくほざく。お前程度で俺を倒せると思っているのか?」

 

「あらあら、そんなことも分からないのに戦争を起こすつもりでしたの?」

 

「なに?」

 

 あざけりすら感じられる朱乃さんの言葉にコカビエルはいぶかしみ―

 

「―勝てる者がいるからこその余裕ですのよ?」

 

 その瞬間、コカビエルは地面にたたきつけられた。

 

「ごあ・・・っ!」

 

「油断大敵にもほどがある。これが神の子を見張る者の幹部とは、情けないな」

 

 そこにいたのは、白だった。

 

 龍を模した鎧に身を包んだ男が、コカビエルを一撃で血にたたきつけていた。

 

「貴様・・・アルビオン!」

 

 コカビエルはすぐに反撃の光の槍を放つが、アルビオンと呼ばれた男は人にらみでそれを縮小させると弾き飛ばす。

 

 な、なんだあの野郎、強い!

 

「ああ、悪いなコカビエル。俺としては戦争には賛成なんだが、アザゼルがうるさいんだ」

 

 そう言い放つと、アルビオンは一気に接近してコカビエルに一撃を叩き込んだ。

 

「・・・がぁ・・・馬鹿、な・・・っ!」

 

「悪いが寝てるといい。起きるころにはすべてが終わっているさ」

 

 ・・・なんだ、あの野郎。

 

 あんなに強かったコカビエルを、一蹴しやがった!

 

「さて、ほかの連中もどうにかしたいところだったが・・・」

 

 と、アルビオンは視線を向ける先には誰もいない。

 

「どうやら逃げ出したようですわね。私たちが近づいていることに気づかれましたか」

 

「実力差がわかるのは良いことさ。少なくとも、わからずに突っかかるコカビエルよりはましだ」

 

 あいつら逃げやがったのかよ!? あれ、でもエクスカリバーはあるぞ?

 

 あ、もうコピーが量産できるから必要ないってか? くそ、これはヤバイな。 

 

「はあ、あなたが面白がって様子を見なければ、もっと早く決着がついてましたのに。アザゼルさまにどう報告いたしますの?」

 

「責任なら俺がとるさ。なに、コカビエルを捕まえられたのだから最低限の責任は果たしているさ」

 

 朱乃さんにそう返しながら、アルビオンは気絶したコカビエルを抱え上げえる。

 

 そのとき、視線が俺の方を向いた。

 

「君は面白いな。ぜひ一度戦ってみたい」

 

「・・・・・・勘弁してくれない?」

 

 俺は、平和に生きれればそれでいいんだけど。

 

「それは残念だ。まあ、いずれ戦うことになるとは思うけどね」

 

 そんな不吉な言葉を残して、アルビオンは空を飛んで行った。

 



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