東方唄夢幻 〜幽閉サテライトの歌に乗せて〜 (★nuts★ ~アニメとゲームは宝物)
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第1歌 色は匂えど散りぬるを by河城にとり
色は匂えど散りぬるを 前編


今回は、「色は匂えど散りぬるを」を元にしたお話です。
主人公は、原曲的に、河城にとり。
幻想郷の1日の、始まり、始まり…


博麗神社の、とある春の日。

神社の巫女を務めている博麗霊夢は、

少ないお賽銭に溜息をつきながらも、

散りゆく美しい桜の花びらを眺めていた。

 

()の花びら達…

いくら、力強く柔らかい見事な桃色に染まっていても、

いつかは散ってしまうのだから、悲しい運命である。

()れは、懸命に努力をしなくてもすぐには散る事が無い、幸福な運命の私達に、

「生きるだけでは罪」と訴えかけている様にも見えた…

 

そして、普段から来客が多い()の神社には、

今日もお客がやってきた。

 

「あら、山に住んでいる河童じゃない。…遠くから遥々(はるばる)如何(どう)したの?」

そう、今日来たのは、河城にとりだった。

にとりが来る事は珍しいといえば珍しい。商品の売り付けか何かだろうか。

 

「霊夢さんよ、今日は少し相談事があって…」

 

「商売についての?私はそういうのには詳しくないけど?」

 

「いや、恋の悩みというか…恋愛相談といえば霊夢さんかと…」

 

「ふぅん。…今日は珍しい事ばかりね。まあ、ゆっくりしていけば?」

 

「あ、で、結局相談は聞いてくれるの?」

 

「聞かないとは言ってない。」

 

「じゃ、始めさせて貰うよ。()れは、1週間前の事…」

 

いつも通り、河の家具屋さん…ではなく、

河の便利屋さんを営業していたあの日。

河の中で道具探しをしていると、

1人の人間の男の子が河に溺れている事に気づく。

()(まま)ではあの子は死んでしまう…

人間は古くからの盟友だし、私は水を操って、彼を助けた。

どうやら、意識を(うしな)っている様だ。

回復するまで、彼を、草の上で寝かせる事にした。

 

(しばら)くすると、彼の目がゆっくりと開いた。

 

「ん?此処(ここ)は…。」

 

「気がついた?死んでなくて良かった良かった…」

 

「君はもしや…谷カッパのにとり…さんでしょうか?」

 

「え?何で私の事を知っているの?」

 

彼は、外の世界に住んでいた人間らしい。

しかし、彼の家では、家庭内の問題が色々あって、

彼に八つ当たりが来る事も日常茶飯時だったという。

彼はそんな現実から逃避しようと、

ゲームやネットに打ち込む日々が続いた。

()の日々の中で、「幻想郷」の存在と、

其処(そこ)に住まう様々な人妖について知ったという。

だが、変わる事が無い辛い毎日に、

()の世界から消えたいと(まで)感じる様になった彼。

ある日、彼は、流れの速い河へと飛び込んだ…

 

「…そしたら、幻想郷に来ていた…と?」

 

「はい、突然の事なので、驚いてはいますが…でも、あの世界から解放されて、良かったです。」

彼はそういうとニコリと笑った。

 

うーん…でも、外の世界で河に飛び込んだら幻想入りしていたなんて…

如何(どう)にも納得いかないなぁ…紫の仕業かも…

 

如何(どう)したのですか?悩み事でも…?」

 

「いや、何でも無いよ。()れより…貴方、名前は?」

 

河口(かわぐち) 輝一(こういち)と言います。コウイチ、と呼んで下さい。」

コウイチかぁ。良い名前じゃん。

 

「敬語なんて使わなくて良いよ。

()れより、貴方、住む処が無いでしょう。私の家に泊めてあげる。」

 

「良いんですか!噂には聞いていましたが、優しいんですね!」

 

優しい…初めて言われた気がする。

()の言葉は、私の頬を赤らめていった。

 

「あ、何か悪い事言ってしまいましたか?すみません…」

 

「だから、敬語使わなくても良いってば…」

何だか、コウイチと話している事自体が、照れくさく思えた。

 

彼から離れられない様な、彼を離せはしない様な、不思議な感情に包まれた。

初めて抱いたこの思いは、心を躍らせるばかり…だった…

 

「あ、あの、私は、道具集めに行って来るから…待っててね!」

 

「分かりました!気をつけて行って来て下さい!」

 

彼の柔らかい言葉が、私の耳の中で響いた。

だがしかし…今日は良い道具が、1つも見つからなかった。

全く集中出来なかったのだ。

犬走 椛から、いつもの様に将棋に誘われたが、()れも断って来てしまった。

そんな自分が滑稽にも思えて、もどかしかった。

まだろくに仕事もしていないが、倉皇(そそくさ)と家に帰った。

 

「お帰りなさい!夕飯作っておきましたよ!」

帰ってきて誰か居るという事は、こんなに心が温まる事…なのだろうか。

 

「…自分の分くらい、自分で作るから良いって…

今日は貴方、疲れてるんだから、全部自分で食べな。」

彼は、料理に慣れていないのだろう、如何(どう)見ても、2人で分けるには足りない量だ。

 

「えー、折角、キュウリ沢山入れておいたのに…食べて下さいよー。」

キュウリ!()の言葉に、頭に有るであろうお皿がピクッと反応した。

 

「じゃあ…少し頂くとするかな。」

 

2人で、食卓に座り、ゆっくりと夕飯を食べる。

シアワセな時間は、刻々と流れていってしまう…

さ迷う暇は無い。一刻も早く、彼に伝えたいのだ。

けれど、後ずさりしてしまう自分にうんざりしていた。

いつの間にか彼の親切に甘えてしまうか弱さと、

何故か素直に甘えられぬ弱さ。

()れは、悪魔が優しく、私を弄んでいる様だった…




えっと、どうだったでしょうか。
東方の物語作りは初めてなので、感想頂けると物凄く感動です★

何処(どこ)の文章が、歌詞の何処(どこ)にあたるか、解りましたでしょうか。
歌詞を付けましたので、照らし合わせながら読んでみて下さい!

色は匂へど いつか散りぬるを
さ迷うことさえ 許せなかった…

咲き誇る花はいつか
教えてくれた 生きるだけでは罪と
離れられない 離せはしないと
抱く思いは 心を躍らせるばかり

色は匂へど いつか散りぬるを
さ迷う暇はない けれど後ずさり
甘えるか弱さと 甘えられぬ弱さで
悪夢が優しく 私を弄ぶ


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色は匂えど散りぬるを 後編

色は匂えど散りぬるを、後編です。

河城にとりの元に突然現れた人間の男の子、河口 輝一。
彼の優しさに、にとりは不思議な感情を抱く様になる。
しかし、予知せぬあるトラブルが起こる。
()のトラブルもまた、彼の優しさから生じた物だった…



「へぇ…あんたにもそんな事あるのね…」

霊夢が呟く。

 

「いつもはそんな事無いけど、彼は特別なんだよ。一種の能力かな?」

ニヤリと笑みを浮かべながら、にとりは言葉を返す。

 

「にとりを(とりこ)にする程度の能力。面白いじゃない。」

馬鹿にする様な口調で霊夢は言う。

 

「まあ、本当に()れだけの能力だったら良かったんだけどねぇ。」

にとりは顔を曇らせた。

 

「何かあったの?まさか、三角関係的な?」

勘だけは鋭い自分を見込んで、直感で答える霊夢。

 

「何その数学みたいな関係。よく分かんないけど、話を続けさせて貰おうか…」

にとりは"三角関係"という言葉を知らない様だ。

お茶を一口飲むと、にとりは話し始めた…

 

 

いつも通りの道具集め。

いつも通りの研究。

いつも通りの生活。

()れを、"アナタ"は変えてくれた。

 

それに…"アナタ"は私の弱さも知っていた。

最初に出す料理にキュウリを出す所とか。

私が大好物な物=弱点を突いてくるなんて…

私が求める物、実は優しくされたいという欲も、

"アナタ"は許してくれた…

 

 

「また考え事ですか、にとりさん?」

コウイチだった。

 

「いや別に…私が考え事なんてする訳無いじゃん。」

また私は嘘をつく。彼が来てから何度目の嘘だろうか。

 

「何だか、にとりさんが悩んでいないか心配で…何かあったら、すぐ言って下さいね!」

彼の笑顔がキラリと輝く。

 

「あ、うん…」

彼がたまに見せてくれる笑顔は、刹那の美しさを私の目に映す。

健気に咲いた花の様な明るい笑顔には、度々元気付けられるのだった。

 

…何か話さなければ。彼がまた心配する…

 

「あ、あのさ、私の事、正直、如何(どう)思ってる?」

口から咄嗟(とっさ)に出た言葉は、()れだった。

 

「言いづらいですが…君が好きそうな、科学知識を交えて言わせて貰うと…」

 

彼は少し間を置くと、こう言った。

「エジソンは偉い人。だったら、にとりさんは、偉く可愛い人。」

 

「え………」

私は言葉が出なかった。

そんな風に私を褒める彼に、怖ささえ感じた。

空耳だった様な気さえしてくる。

だから、私はもう一度確認する。

 

「…本当?」

 

「疑わないで下さいよ、続きは歌詞の通りですよ、そんなの常識、ってね。」

彼は素直な笑顔で、そう言っていた。

 

「…バカじゃないの」

今日、2回目の嘘をついた。

 

時は静かに過ぎていった。()の時。

 

「こんにちは〜!あんまり将棋に来ないから、遊びに来ちゃった。」

訪れたのは、犬走椛だった。

 

「あ、椛!最近行けてなくてごめん!色々あってさ…」

自分が今、複雑な悩みを持っているなんて言えない。幾ら友達でも。

 

「ううん、全然大丈夫!…ところで、()の子は?」

そうか、椛には、まだ話してなかったんだった。

 

「河口 輝一っていう、人間の男の子。

色々あって幻想入りしてさ、(しばら)くウチで泊めてるんだよね〜。」

何故か、口調が自慢気になってしまう。

彼の事を話しているだけなのに…。

 

「そうなんだ。こんにちは、輝一さん。宜しくね。」

「初めまして、此方(こちら)こそ宜しくお願いします。」

彼はそう言うと、また、いつもの笑顔を見せる。

何だか気に入らない。

 

「貴方は…何の種族でしたっけ…?」

…椛は立ち絵が無いから、彼もよく覚えてないのかな?

 

「白狼天狗です。天狗の中では下っ端なのですが…」

「全然下っ端に見えないですよ。勇ましそうだし。」

 

楽しそうに会話を続ける2人の気持ちとは裏腹に、

私は少し苛立っていた。

話はまだ続く。

 

「いえいえ、とんでもない。下っ端は下っ端ですし…」

「そうだとしても…()のけも耳とか、可愛いですよ。」

(けも耳無し派の方々、御免なさい!)

 

え…何だって?

コウイチよ、今なんて言った?

 

私は、自分の中で、大きな誤算をしていた。

彼と2人で居たから分からなかったけれど、

彼は、私だけに優しい訳では無かった。

彼は、誰にでも優しい、温厚な人柄だったのだ。

 

許せぬ、彼の優しさ。

同時に揺るぐ、私の独占欲。

()れを巻き起こしているのは、

どんな物とも秤にかけられない、我儘(わがまま)な愛だった…

 

 

「…()れは残念だったわね。」

霊夢が静かに言う。

 

「まぁ、もう気にして無いんだけどさ、なんか誰かに相談したくなって。」

 

「じゃあ、魔理沙に相談すれば良いのに。仲良いんでしょ?」

地霊伝の時は、魔理沙のサポート役をしていた程だ。

 

「いつもは話さない人にこそ言える事って…有るじゃん。」

 

()(かく)、いつも通りのあんたでいる事が大切だと思うわよ、

例え()の恋が枯れゆいたとしてもね。あんたという存在は儚く強くなきゃ。」

 

「儚く、強く、かぁ…」

ふと外を見れば、桜の花びらは今も散り続けている。

()の桜も、いつか全て散ってしまう時が来るのであろう。

確かに儚くもあるが、何故だろうか、力強さもあった。

 

「それにしても、あのシアワセな時間に戻りたいなぁ…

…何で、時間っていうのは、そう簡単に戻せ無いのかなぁ…」

 

ぼそっと呟くにとりに、すかさず霊夢が答えた。

「時間っていうのは無慈悲で優しいモノなのよ。

私達に関係無く、淡々と流れていきながら、私達を見守っている…。」

 

「うーん…時間が優しいモノとは思えないなぁ…」

 

「でも、()の今回の幸せな時間を過ごせたのも、やっぱり"時間"のお陰でしょ?

時間っていうのは、過ぎていってしまうモノだから、実感は湧かないかもしれないけど…

生きるって、時間を過ごせるコトって、ステキなコトじゃないかしら?」

 

霊夢はそう言って微笑んだ。

一方にとりは、深いため息をつく。

 

「はぁ…生きるって、何だか面倒臭いねぇ…最近は商売も上手くいかないし。」

 

「私も、異変解決とか妖怪退治とか、充分面倒臭いわよ。でも…」

 

「でも?」

 

「でも、私達が気づかない所にシアワセは沢山あるのよ。

例えば、今、こうやって、あんたが私に気軽に相談出来る事とか、ね。」

 

「まーね…」

 

「今回の事だけでガッカリしないで、前向きに生きなさいよ、私からのアドバイス、以上終了。」

 

あの巫女にしては、中々良い事言うじゃん。

ゆっくりと泳ぎながら、私は家に帰っていった。

 

「ただいま〜。ん?」

 

「お帰りなさい、今日は遅かったですね。心配しましたよ。」

 

「今日は椛に、妖怪の山を案内して貰っていたんじゃあ…」

 

「僕を助けてくれたのは、にとりさんなんですから。忘れやしませんよ。」

 

胸がきゅうっとなった。

次第に、視界がぼんやりしていく。

あれ?私、泣いてる…?

 

「悪い事…してしまったでしょうか。」

 

「コウイチは何も悪くないよ、何度も言ってるじゃん。」

 

…私はまた嘘をついた。

 

ー2人の輝かしい日々が、また始まるのであった…




えっと、どうだったでしょうか。
感想を下さると、本当に嬉しいです!
UAも、皆様のお陰で、100に行きそうです!
本当にありがとうございます★

今回に該当する歌詞も、載せておきますね!
弱さ知るアナタは今
許してくれた 求める者の欲を
健気に咲いた 刹那の美しさ
それを知るには
遅すぎたのかもしれない…

色は匂へど いつか散りぬるを
アナタのすべてに 幼く委ねたい…
許せぬ優しさと 揺るぐ独占欲は
秤にかけれぬ 我儘な愛

色は匂へど すべて散りぬるを
短き記憶に 零れる想い
枯れゆく命よ 儚く強くあれ
無慈悲で優しい 時のように


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第2歌 ヒトリシズカ byルーミア
ヒトリシズカ 前編


前回の、「色は匂えど散りぬるを」。
UAが200(まで)行きまして…本当に有難うございます!
毎度見て下さる方々には、本当っに感謝です★★★

今回は、「ヒトリシズカ」で書かせて頂きます。
主人公は、原曲的に、ルーミアです。
注意:元ネタである小説とは何の関係も有りません。
そして()の時、異変は既に始まっていた…


「わはっ!」

闇を自分の周りに(まと)わせて、今日も華麗に手を広げて飛んでいる…

(はず)だったのだが、自分の操る闇で自分も周囲が見えなくなり、

いつもの様に木に()つかる始末…である。

 

「何かに当たった…のかー?」

勢いよく飛んでいた所為(せい)か、打ち所が悪かった所為(せい)か、

彼女は気を(うしな)ってしまった様だ。

ルーミア、大変です!気を(うしな)ったら真っ暗です!

(キャラ違いますね、すみません…)

 

そんなルーミアの前に、

怪しげに笑いながら能力を(つか)う1人の妖怪がいた…

 

「…此処(ここ)何処(どこ)だー?」

窓の外を見れば、

でっかい四角の積み木の様な物に、

リグルみたいにピカピカ光る物が付いていて…

まさか、"外の世界"っていう所…なのか…?

 

そして此処(ここ)は、誰かの家…か…?

目の前には…取って食べれる人類!

…でも、今は生憎(あいにく)お腹いっぱいだ。

っていうか、何であの人間は、自分に(やいば)を向けてるんだ?

こういう時って、助けた方が良い系だよね?

うん、助けよう。

 

月符「ムーンライトレイ」

 

「うわっ!」

1人の人間の女の子は、慌てて手から(やいば)を放すと、

私が発した弾幕を、ギリギリの所で避けた。

 

吃驚(びっくり)した…って、何するのよ!」

彼女は、スペルカードの時間が切れるなり、

凄い形相で此方(こちら)(にら)んできた。

 

()れはこっちのセリフだ。

思わず私は言い返した。

「何故あんたは、部屋の片隅で、態々(わざわざ)(おのれ)(やいば)を向けていたんだー?」

 

「そんなの、貴方が知る事じゃあないでしょ?ほっといて。…って、貴方、誰?」

 

「私はルーミア。宵闇の妖怪。あんたは、人間だよね?美味しそうだし。」

 

「妖怪?そんなオカルト的な物、私は信じないよ。()に角、1秒でも早く帰って。解った?」

 

はっ。そうだ。幻想郷に帰らなければ。

でも、何処に行けば良いんだ…?

下手に動いて人を喰うといけないし、

(しばら)く、闇の中で身を隠している事にしようっと。

 

…ん?あの子が泣いてい…る…?

何かボソボソ言っている様だけど…

「何で自分だけ辛い思いをしているのか」だって?

そう、彼女は、1人静かに、緋色の記憶にすがり、泣いていたのだった…

私は、自分が隠れている事も忘れて、彼女に声をかけた。

 

「何が…辛いの?」

 

「貴方はさっきの…。帰れって言ったでしょ?」

彼女はまた、怒った様に言ってきた。

でも、さっきよりは怒って無いみたい。多分。

 

「何でも相談した方が良いって、()の前、河童が言ってたよー?」

にとりが、「霊夢に相談したらスッキリした」

みたいな事を、()の前呟いていた…様な気がする。

 

「こっちに来ないで頂戴。」

 

「何でー?何方(どっち)にしても、独りじゃない方が楽しいよー?」

 

()の"独り"という言葉に、彼女は反応した。

「…孤独を嫌っている訳じゃない。

ただ、みんなの闇というか、陰湿な所というか…(いびつ)な隙間が怖いだけ…なの…」

 

彼女はそう言うと、何滴か雫を落とした。

さっき自分でつけた傷からの血だろうか、()れとも涙だろうか。

薄暗い部屋で、また(すす)り泣き始める彼女が、

とても可哀想に思えてきた。

やっぱり…話を聞いてあげた方が…良いのか…?

 

「もう一回聞くんだけどさ、何が辛いの?」

 

彼女は顏を上げようとしたが、また(うつむ)いてしまった。

すると、彼女は、小さな声で(ささや)く様に言った。

「相談に…本当に、のってくれるの?」

 

「そりゃあね。人間には色々な意味で御世話になってるし…」

 

彼女はやっと顔をあげた。

初めて見えた彼女の瞳は、鮮やかなマリンブルー色。

淋しく、切ない、今にも泣き出しそうな瞳だった。

 

「あのね、私、誰にも言えなかった事が有るの…

 

私は、お父さんと2人暮らし。

両親は、私がずっと幼い時に離婚しちゃった。

だから、入学式にも、卒業式にも、いつも父親が来ていたの。

私の保護者は父親だけ。

小さい頃からの事だし、()の生活には慣れていた。

 

…でも、私が行った小学校は荒れていて…

「母親が居ない」って事から、(いじ)めが始まった。

母の日に、お母さんへのプレゼントを作る授業の時だっけ…

誰かが、"お前は、母ちゃん居ないから、作る必要無いよな。"

って、私の事をからかったの。

其処(そこ)から、色々な噂がどんどん広まっていって…

 

私は、信用出来る人が、居なくなった。

周りが、全員敵に見える様になった。

私に向けられる視線が、怖くなった。

そして、父親にさえも、憤りを感じる様になったんだ…

 

ぐしゃぐしゃに汚れゆく私に、

幼い時の、鮮やかで(きら)びやかな思い出が

胸を刺していく毎日。

だから、家にずっと引き(こも)ったまま…

どうせ、お父さんも遅く(まで)帰って来ないし、ね。

 

生きる意味を、私は、見失った。

だから、今日こそは、()の世界から

逃げ出そうと思ったのに…

 

私、如何(どう)すれば…良いのかな…」

 

私は、言葉が見つからなかった。

そんな膨大な悩みを抱えていたなんて…

うーん…こういう時は…どーすれば良いのかー…?

 

そうだ。

人間達に、空が紅くなった時に倒された事を思い出した。

確か、紅白の人間が、夜の事を、

気持ちいいだとかロマンティックだとか言ってったけ…

 

今は丁度夜だ。

彼女も、(しばら)く外に出ていない…と思う。

外の気持ち良い空気を吸ってみたらどうか。

彼女の心も落ち着くかも…

 

それにしても…

外の世界では、15分に一回、1人は自殺している、

って、()の前寺子屋で聞いたけど…

ガチなのかー…。

外の世界は大変だなぁー…。

 

あれ、で、結局何をしようと…あ、そうだった。

 

「ねーねー、一回、外に出てみない?心が落ち着くと思うよ?」

 

「外、ねぇ…」

"外"というモノに、彼女は恐れを感じている様だ。

 

「大丈夫、取り敢えず行こーよ!」

私は、彼女の手を繋ぐと、勢いよく外に飛び出した。

 

無口な彼女が、急に口を開いた。

「…1つ…思ったんだけど…」

 

「?」

 

「…貴方に出会えて、良かったなぁ…って…」

 

思いがけない言葉に、私は驚いた。

そして、人を喰う事も忘れて、彼女に優しく接している…

そんな自分自信にも、驚いた。

ー彼女の緋色の記憶も、()の事で、

美しい思い出になると良いなぁ…

 

彼女は、()の空間にも馴染(なじ)んだ様だ。

そして、彼女の泣き顔は、醜さを忘れ、

いつの間にか、感謝へと変わっていたのだった…

 

「ルーミア、ありがとう…」




えっと、どうだったでしょうか。
ご感想や、「次はこの曲が良い!」というご意見、お待ちしております!
今回も、歌詞を載せておきます!↓

部屋の片隅で
容易な(やいば)に触れて
(したた)る血を(なが)めていた
ヒトリシズカ 緋色(ひいろ)の記憶にすがり
泣いていた

孤独を嫌うこととは違う
(いびつ)な隙間怖いだけ
慣れぬ暗闇 肌に(しずく)ひとつ
血か涙かさえ わからない

グシャグシャの汚れゆく私に
鮮やかな思い出が胸を刺していく

部屋は冷たくて少し広くなり
やがて この空間にも馴染(なじ)んで
ヒトリシズカ
緋色の記憶も不意に
美しい思い出になる
濡れた床も(あか)く乾いてく日々に
時の流れは非常だ・・・と
泣き顔さえ(みにく)さを忘れ
いつか感謝へと


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ヒトリシズカ 後編

ヒトリシズカ、後編になります★

自殺未遂をした時に、ルーミアと出会った少女。
彼女は、ルーミアと次第に打ち解けていく…
彼女の未来は、人生は、そして彼女自身は、
果たして、変わっていく事が出来るのだろうか…

そして、()の事自体も、既に、"仕組まれた事"であった…
注:今回は、ルーミアが出会った少女視点から書いています。


…目を開ければ、部屋の外には眩しい朝が広がっていた。

部屋の一部分だけ、穴が空いた様に、異様な暗闇が有る。

 

「まだ居たんだ。」

 

「うん…帰る所もよく解んなくてさ。」

 

ルーミア…だっけ…。闇を操る程度の能力を持っている…

何だか強そうだけど、真の力は、リボンで封印されているらしい。

ルーミアの事について思い出すと、

同時に、昨日の愛しい記憶も、静寂の中に舞い降りた。

 

「外に…出てみる?」

朝の日光で、若葉達が(きら)びやかに輝いている。

希望に満ち溢れた朝の空気は、如何(いか)にも気持ち良さそうだ。

 

「いいよー。やっぱり、外は気持ち良いよね〜!

…まあ、実際の所、朝は自分の闇がよく目立つからちょっと…」

ルーミアは顔を曇らせる。

 

「そんな事、気にしなくても大丈夫よ。早く行きましょう!」

今日は、私がルーミアの手を引っ張っていく。

 

私は、自分に自信を持てる強さが身についた事がはっきりと感じられた。

そして、"強さを持つ"という事は、少しだけ寂しい感情である事も、解った。

()の事を噛み締めながら、今日も、私は、ルーミアと街を歩く。

自分自身の人生も、前へ前へと、進んでいく…

 

「そういえばさ、」

ルーミアが話し始める。

 

「あんたの名前…聞いてなかったね。」

 

私の、名前…

私が1番嫌いだったのは、私の名前だった。

私に、私の名前という物が付いている事。

()の名前が他人から聞こえてくるだけで、

また悪口を言われているのではないかと怯えていた日々。

私の名前なんて、捨ててしまいたかった。

…でも、今なら。ルーミアになら。

打ち明けても良い、そんな気がする…

 

闇月(やみづき) 夜重(やえ)っていうの。」

 

「へぇ…なんかかっこいい名前なのねー…!」

 

あんな出会い方だったからしょうがないけど…

そういえば、私達、正式に挨拶をしてなかった気がする。

今更だけど、しておこうかな…

「改めて、宜しくお願いします。」

 

「うん、よろしく〜!夜重(やえ)〜!」

ルーミアはそう言うと、突然、道の向こうをじっと見た。

 

「あれ、綺麗!外の世界でも、お花って咲くのね!」

其処(そこ)には、小さくて綺麗な黄色の花が咲き乱れていた。

 

「そうね…いつか枯れてしまうのが、勿体無いくらい…」

 

咲き誇る花もいつか枯れてしまう。

そして、自分の命の源である土へと還っていく。

()の繰り返しだ。

人も、()れと同じ様に、喜怒哀楽を繰り返している。

哀しい事があっても、()れを通過点として、

人は無意識に、笑顔を、幸せを、求め続ける…

 

()れからも、母親が居ない事実は変わらない。

くすぐる未来に、明るい未来に、私は恐らく出てこないであろう。

()れでも、今こうして歩み続けている私を見せつける様に、

今日を、生きていきたい。

いつ(まで)も、永遠に…

 

「1つ思ったのだけれどね、」

 

「 何ー?」

 

「何で、そんなに手を広げているの?」

ルーミアは、いつでも、手を広げたポーズをとっている。

滑稽で、少し異様にも思えたので、一回聞いてみたかったのだ。

 

すると、ルーミアは、此処(ここ)ぞとばかりに言った。

「『聖者は十字架に磔られました』っていっているように見える?」

 

だから、私は答えた。

「『私は十日一雨の日々を(もたら)しました』って見えるわよ。」

(十日一雨…農業にまつわる(ことわざ)。安泰な世の中の事を表す。)

 

そして、2人で顔を見合わせて、笑った。

 

(まで)流してきた涙さえも誇りに思える風が、そよいでる…

 

 

 

「ルーミア。お帰りの時間よ?」

家の中で、夜重(やえ)と戯れていたルーミアの元に、突如、八雲 紫が現れた。

 

「…!?」

状況を1番理解出来ていなかったのは、夜重(やえ)であった。

何も無い所に、スキマが現れ、其処(そこ)からまた妖怪が出てくるなんて…

 

「…なんで紫が迎えに来るのかー…?もしや、私を外の世界に送ったのも…」

 

紫は、ニヤリと笑う。

「そう、勿論私よ?」

 

「なんでそんな事したのかー…?私、別に何もやってないよ…!」

 

「ルーミアが知る事では無いわ。

少し言うと、他の妖怪と協力して、異変を起こしている感じだけど。」

 

「また…?こんな異変、誰も気づかないって…!」

 

「気づかないんじゃなくて、」

紫は、またニヤリと笑うと、ウインクをした。

まるで、誰かに合図を送る様に…

 

「気づかせる、のよ…」

ルーミアの周りを、生暖かい風が通り過ぎた。

 

「じゃあ、ルーミアとは、お別れって事ですか…?」

私は、()の紫という妖怪に問いかけた。

 

「…そういう事になるわね、夜重(やえ)さん。

貴方には、充分に、生きる力を授けたわ。()れからも、頑張って頂戴(ちょうだい)。」

 

私の名前を…知っている?本当に、何者なんだろう…

生きる力…あまり自信は無いけど、1人でもやっていけそうな気がするな…

 

「ほら、ルーミア。最期の挨拶は?」

紫がルーミアに(ささや)く。

 

夜重(やえ)ー!またねー!」

ルーミアの元気な声が、耳に響いた。

 

「うん、さようなら!ルーミア!」

()の言葉の余韻が消える頃、

ルーミアは、スキマの向こうへと、行ってしまった。

何だか、微笑ましくも、寂しくもある複雑な気持ちに、なった。

 

 

 

()の日の晩、博麗神社には、

また1人の妖怪が、相談をしに行っていたのだった。

()の側では、濃い霧が、静かに漂っていた…




えっと、どうだったでしょうか。
次はこの曲が良い!等のご意見、お待ちしています!
今回に該当する歌詞は、此方(こちら)です!↓

(まぶ)しい朝に(いと)しい記憶
この静寂に舞い降りた
部屋を抜ければ新しい風たち
慰めてくれたイタズラに

強さとは少しだけ寂しい感情だね
噛み締め今日を歩いてく

咲き誇る花が土に還るように
人は喜怒哀楽を繰り返し
(かな)しみさえ通過点にして明日(あす)
無意識に求める笑顔
ヒトリシズカ
くすぐる未来に君は
おそらく出てこないでしょう
それでもまた見せつけるように今日を生きていこう

濡れた床も(あか)く乾いてく日々に
時の流れは非常だ・・・と
泣き顔さえ(みにく)さを忘れ
いつか感謝へと

咲き誇る花が土に還るように
人は喜怒哀楽を繰り返し
哀しみさえ通過点にして明日も
無意識に求める笑顔
ヒトリシズカ
くすぐる未来に君は
おそらく出てこないでしょう
それでもまた見せつけるように今日を生きていこう
涙さえも誇りに思える風がそよいでる・・


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第3歌 月に叢雲華に風 by東風谷早苗
月に叢雲 華に風 前編


今回から三章は、「月に叢雲華に風」で書きます!
丁度考えていた物だった&リクエストがあったので…
次回は、リクエストの中から、書きやすそうな歌を選ばせて頂きます!

主人公は…原曲が道中だし…うーん…
でも、早苗は他の歌でも使いそうだな…
…では、早苗のエピソードは、()の歌を含め2つ作る事にします!
常識に囚われてはいけないのですね!

今回は、実際に歌詞で書く、というよりも、
中編以降で歌詞で書いていく物語の前提として、という感じの章です。
()の為、歌詞の引用部分?が途轍(とてつ)もなく少ないですが…
理解して頂けると嬉しいです!
異変の真相も段々見えて来るかと…


「最近、どうしたのかしらね。みんな悩み事なんかしちゃって。」

 

博麗神社に訪れる客が、最近、増えている。

しかも、ただ単に暇だから話しに来た、というのでは無く、

相談をしに来た、という者が、1日に1度はやって来る。

普段、滅多に来ない様な奴まで来るから、本当に意味不明だ。

だからと言って、相談料をお賽銭箱に入れてくれる訳でも無いし…

あーあ、嫌になっちゃう。

こんな変な神社だから、参拝客も減るのよねぇ…

 

…どっかの巫女が言ってたみたいに、信仰っていうのが必要なのかしら。

最近、守矢神社にも行ってないし、出かけてみようかな…

 

「あ、霊夢さん。何か御用でしょうか?」

早苗は、丁度、神社前の掃除をしている所だった。

 

「用というか、どうしたら参拝客が増えるのかなぁと…」

 

すると、早苗からは、思っていた通りの言葉が返ってくる。

「信仰です。信仰が失われれば、奇跡を起こす力を失うのです。」

 

「だから()の信仰って言うのが解らないのよ!」

ストレスが溜まっていた事もあり、思わず怒り口調になってしまった。

と、()の時。

 

「早苗、何か有ったのか?」

…浴衣?姿の若い男性が神社から出てきた。

新しい神様…?でも、()れにしてはなんか変だな…

 

「あ、大丈夫です!今、行きますね!」

早苗は、私に軽く会釈すると、さっさと神社の中に行ってしまった。

 

何だか、良い様な、悪い様な、変な予感がする…

今日の所は、帰ってお茶でも飲もうかな…

 

「おや、(ふもと)の巫女じゃないか。」

後ろから突然聞こえた声に驚き、振り向く。

 

「ああ、神奈子(あんた)ね。別に特別な用はないわよ。じゃ、また。」

面倒臭そうだから、御構い無しに帰ろうとした、が…

今度はまた別の神様に足止めされた。

 

「私達も早苗の事で困っているの!少し位聞いてくれても良いでしょ!」

諏訪子だ。

あーあ、また面倒な事に関わっちゃった…

 

「私も忙しいのよ!相談料くれるなら良いけど…」

 

諏訪子は、少し困った顔をしながら答えた。

「あーうー。じゃあ払うから聞いて。巫女の事は巫女が1番解ると思ってね。」

 

「全く…ま、お賽銭の心配は、()れで(しばら)くしなくて良い訳だし、聞いてあげるわよ。」

そんな霊夢達の周りには、あの時の霧が、また、漂っていたのだった…

 

諏訪子は、あの若い男性…と掃除をする早苗に目を向けながら、話し始めた。

()の前、神社にあの1人の若者が来たのだけど…

 

 

ー早苗は、最近、何かと信仰を求めている。

祈ったり、外の世界の御(まじな)いを唱えたりしている。

独り言もやたらと多い。

「月に叢雲華に風。何事も、順風満帆には行かないのですね…」

みたいな事を度々呟いている。

(順風満帆…物事が順調に進む様子の事を言う)

 

()れも全て、あの男が来てから。

あの男はまず誰かっていうと、本当の所、私達も正体は解らない。

人間だっていうのは確かだ。

あの男は、突然神社の前に現れ、私達に声をかけて来たんだ。

 

「目が覚めたら此処(ここ)に来ていて…俺、こんな所見るのも初めてなんです。

取り敢えず今日だけでも、泊めさせて頂きたい…。無理ですか…?」

 

って言ってね。

どうやら、外の世界で生きていたらしいんだけど、

()の頃の事や自分の名前(まで)覚えてないって言うもんだから…

彼も困っている様だったし、泊めてやる事にしたんだ。」

 

 

「え?」

 

「どうかした?」

 

「いや、別に…ただ、同じ様な話が前にも有った気がして…」

 

「ふぅん…ちょっとした異変なのかな…?」

 

「まあ良いわ。話を続けて。」

私の勘が、異変の可能性が高いと言っている。

異変解決は面倒だけど、()の話は聞いておいた方が良い気がするな…

 

「うん、解った。

 

 

ーそしたらね、早苗は、彼が来た事を喜んだ。

それで、名前の無い彼に、名前を付けてあげたらしい。

蛙田(かわずた) 奇跡(きせき)」っていう名前を。

()れ以外にも、早苗は、彼に色々親切にしていて…

彼が新しい世界に悩みを抱えていれば、早苗はすぐ相談にのるし、

最近は、彼が場慣れする様に、神社の仕事も一緒にしている。

だから、ある日、聞いてみたんだ…

 

 

「早苗、聞きたいんだけど…。」

 

「あ、諏訪子様。どうかされましたか?」

 

「彼…早苗が、名前を付けた彼は、正体さえ解らない。

それなのに、其処(そこ)(まで)優しくするのはなんで?」

 

「…()れは…ですね…」

早苗は少し(うつむ)いた。

何か大事な事が有るんだな、と思い、私は更に耳を傾けた。

 

「何だか、彼の顔が、頭から離れないんです。

彼が此処(ここ)ら辺に焼き付いてしまって、いつでも思い出してしまうというか…」

早苗は、そう言いながら、自分の(まぶた)を指差した。

 

早苗は更に続けた。

「彼は、私の事を理解してくれる人…要するに、私の理解者の様な気さえします…

()れはどういう事なのでしょうか…。」

 

私は、()れがどういう事か解った。

でも、答えられなかったの。

早苗もこんな事を思う様になったっていう、実感も出来なくって…

 

無論、私は恋の神でも無いから、アドバイスも出来ないし…。」

 

 

 

「なぁんだ。そんな事か。」

 

「そんな事って…結構大ニュースだと思わない?」

諏訪子は、腕を組みながら言う。

 

()の手の相談は前に受けたばかりだわ…それに…」

 

にとりやルーミアの件も思い出しながら、私はきっぱりと言った。

「私の勘では、()の流れだと、早苗の方から私に相談しに来るわ。

心配しなくても、ね。」

 

すると、周りから、霧が逃げる様に消えていった。

 

「何だか明るくなったわね…じゃ、私は帰るわ。」

 

また、いつ相談者が来るか解らないし、山から(ふもと)へと飛んで帰った。

もうすぐ家に着きそう…という所で、重大な事に気づいてしまった。

 

「…相談料貰うの忘れた。」

 

今から戻るのも面倒だし…

早苗が来た時に請求すればいいかも…

色々気落ちした気分で、私は家の戸を開けた。

 

「ん、今何かが見えた様な…?幻覚か…」

今、スキマの様な物が見えた様な…

疲れているのかな、と思いながら、ゆっくりお茶をすすった。




えっと、どうだったでしょうか。
リクエストをして下されば、
出来るだけ早く実現させる様に頑張りますので…
是非是非、お願いします★

そして…UAが500…!?
毎度読んで頂き、感謝の限りです★★
評価の方も、宜しくお願いします…(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ᵖᵉᵏᵒ

今回は、前書きでも書きましたが、
「プロローグ」に当たる部分で、あまり歌詞の内容を入れていません。
()の為、いつもの様に歌詞は載せませんが、
ご理解お願い致します!


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月に叢雲 華に風 中編其の1

お久しぶりでございます★
月に叢雲 華に風、中編です!

学校も始まり、何かと間が空くと思いますが…
()れからもお願いします!
評価があと少しで5人に行きそうなので…
もしよろしければ、どなたか評価を下さると光栄です!
今回は、早苗視点で書いていこうと思います…

内容の増量化により、題名を、中編其の1に変更しました。


何でだろう。

彼が来てからのあのふわっとした感じ。

まるで弟みたいな和ませてくれる存在。

彼に出会えた事自体、きっと奇跡なんだ…

だから、私はあの日、彼に()の名前を付けた。

 

蛙田(かわずた) 奇跡(きせき)

 

今朝は、朝露がこんなにも輝いているというのに。

()の景色を、彼と一緒に見たかった。

 

柔らかい風が、足元のススキの囁きの音をたてる。

私の緑色の髪を(なび)かせる。

すると、目元には、小さな小さな宝石が、1つ。

涙という名の宝石が、2つ、3つ…

朧見(おぼろみ)に隠れた焦燥(しょうそう)を…

完全に抑え込む事なんて、出来なかった…

 

私は、彼を探して走り出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「早苗ー!こんな人間がやって来たんだけど…泊めても大丈夫?」

諏訪子様が1人の男の人間を連れて、神社にやって来たのだった。

 

()の男の人間は、申し訳なさそうに、

だけど何処(どこ)か手慣れた口調で、私にこう言って来たんだ。

 

「目が覚めたら此処ここに来ていて…俺、こんな所見るのも初めてなんです。

取り敢えず今日だけでも、泊めさせて頂きたい…。無理ですか…?」

 

…凶暴な様子は無かったし、本当に困っている様だった。

それに、神社の信仰集めも手伝って貰えばいいかな、などと、

ほんの軽い気持ちで引き受けた…(はず)だった。

 

神社の朝。

心地よい風が吹く中、神社の掃除をする。

彼に、一緒に掃除をしようかと声をかけようと思ったら、

彼が、1人(うつむ)いてぼーっとしているのが目に入った。

自然に目に入っていた。

 

「何かあったのですか?」

 

「いや…大した事では無いんで…

俺のことは、ほっといて大丈夫ですよ。」

 

掃除をさぼっていれば、諏訪子様と神奈子様に怒られるかも…

でも、自然に、私は次の言葉を発していた。

 

「何かあれば、何でも言ってくださいよ、ね?」

 

彼は少し驚いた様子を見せると、腕を組んで、こう言った。

「何だか…何にも解らない世界で、

俺は一体、どう生きていけば良いんだろうって…」

 

「…外の世界に居た時の事は、本当に覚えていないのですか?」

 

「はい、さっぱり…ワンシーンだけ心の奥に残っているんだけど…

()れ以外は、思い出せないというか…」

 

「うーん…そのワンシーンとはどんな感じなのでしょうか。」

 

「そうだな…何か、描く物、ある?」

 

「はい!用意しますね!」

彼の為に、色々と用意するのは何だか楽しい。

そして、鉛筆と髪を彼に差し出した。

 

「ありがとう。じゃ、早速…」

彼は、少し古びた鉛筆を、シャッシャッと走らせる。

 

単調な線は、少しずつ複雑になっていき、

白紙の上に、はっきりと形作られていく。

今の私の気持ちみたいに…

 

彼と居る時間に、"退屈な隙間"は無かった。

有ったとしても、全て、彼という存在が(あがな)ってくれた。

 

静寂な時間が続いた。

シュッ、シュッ、という鉛筆の音が響き終わると、

彼は紙を持ち上げ、何度か近づけたり、遠ざけたりした。

よし、という感じで頷くと、彼は絵を此方(こちら)に向けた。

 

「こんな感じ…かな?」

 

「…おぉ…なるほど!」

 

鮮やかな赤色の紅葉で覆われた地面。

そんな真っ赤な地面から溢れんばかりに顔を見せる、

美しい木のみや団栗(どんぐり)達。

湖の水面には枯葉が落ち、波紋という幾何学模様を創造している。

神が集う様な…まさしく神秘的な世界。

外の世界には、こんな所も有るのですね…。

でも、何だか懐かしい様な景色…

 

「見覚え…あったりする?」

 

「いや、そういう訳じゃあ…でも、何か、懐かしさを感じます。」

 

「もしかして、俺の故郷の場所と、早苗の故郷の場所は…

結構似ているのかもしれないね!なんか嬉しい!(笑)」

 

私と、奇跡さんは…似ている…?

ううん、別に、そんな事を言われた訳では無い。

故郷である場所が似ているって言われただけ…

だけど、()れだけで、私の心は(くすぶ)られた。

 

不安を感じてしまう程に…私は何かに、胸が熱くなっていた。

 

あ、そろそろ…掃除を始めないと…

「あの…一緒に、掃除しませんか?

泊めておきながら、色々やらせるなんて失礼かもしれないですが…」

 

彼の顔がぱぁっと明るくなる。

「うん、勿論(もちろん)!手伝える事が有ったらやるよ。

俺も、()の場にある程度慣れておきたいからな。」

 

「はい!ありがとうございます!!」

良かった。

神社の裏に回ると、彼の分の(ほうき)を取ってきた。

1人で巫女をやって来た事もあって、

ずっと使って来なかった、ほぼ新品の箒だ。

 

2人で何気ない事を話しながら、

"掃除"という、いつもの何気ない行動をする。

秋風の中、さっ、さっ、という箒の音が共鳴する。

(まで)で1番、幸せな時間…。

 

すっかり神社は綺麗になり、気がついたら夕暮れ。

彼に就寝準備をして貰っている間、私は、もう一度、外に出てみた。

 

「ん、あの華は…」

神社の隅っこには、今にも枯れそうなコスモスの華…

 

私は、手水場(ちょうずば)に行くと、水を柄杓(ひしゃく)ですくい、

()の水を、コスモスの根元に優しくかけてやった。

本当はいけない事なのだけれど…

少しでも早く助けてあげたい一心で、やってしまった行為だ。

神様も許してくれるだろう…

 

注:手水場…神社の中の、拝む前に水で手や口を清める場所。

 

水をやった後のコスモスは、キラキラと輝き出した。

夕陽に染められて、淡い橙色のかかったコスモス。

何ともいえない美しさだ。

 

私は最近、2人の神様が色々な騒動を起こす物だから、

あまりゆっくり過ごせていなかった。

盲目の中で、ただ安らぎだけが消えていく毎日だった。

そう、風の強い日に、暗い場所で(しお)れていた、()のコスモスの様に。

 

でも、彼は、そんな私を、潤わせてくれたんだ。

もう私には解る。自分自身が抱いている気持ちが。

 

ー芽生えた恋情…、誰にも、譲る気など、無い。

 

彼が描いた絵を、私はもう一度見つめ直す。

 

此方(こなた)から彼方(かなた)へと。

()の幸せな時間が永久に続かないのなら…

私は、どんな無理でもしよう。どんな努力でもしよう。

邪魔する雲は突き抜けてしまおう。

邪魔する風は斬り裂いてしまおう。

 

()れでも駄目だったら、もう私から、

久遠(くおん)揺蕩い(たゆたい)へと、彼を誘い込んでしまおう。

 

()れ位、今の私は本気だ。

こんなに自分を変えてくれる人に出会えたのは初めてなのだから。

()の機会を、逃してはいけない。

逃す事など無いと、私は、信じ込んでいた。

 

足元を、生温い霧が通り過ぎた。

ススキを静かにざわめかせながら…




えっと、どうだったでしょうか。
最後の方、なるべく工夫はしてみたのですが…
歌詞をまとめた様な感じになってしまってスミマセン汗!
リクエストあれば、少しずつ実現させますので、
是非、よろしくお願いします★

歌詞、載せておきますね!↓
月には叢雲 華には風と
朧深に隠れた 焦燥

瞼焼き付いた顔
理解者の証さえ

刹那、退屈の隙間贖い 心燻り
不安を産み出した

盲目消えた安らぎに出会って
芽生えた恋情 譲る気は無い

月には叢雲 華には風と
此方より彼方へ永久 築けぬなら
雲突き抜け 風斬り裂いて
久遠の揺蕩いへ 誘う


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月に叢雲 華に風 中編其の2

今回は、歌詞の2番にあたりますね!

早苗と蛙田(かわずた) 奇跡(きせき)の、穏和で悲壮なエピソードと共に、
異変の真相も、少しづつ明かされる…

題名が、内容の増量化により、中編其の2になりました。
つまり、次回も「月に叢雲 華に風」のお話は続きます。
ご理解宜しくお願いします!(*-ω人)


「奇跡…さん?」

 

私は、彼に(おもむ)ろに布団をかけながら、

ふと何かが言いたくなって、彼の目を見た。

 

「何?早苗。」

 

「いや()の…私達、ずっと、一緒に居られますよね?」

 

「どうした急に。そんな当たり前の事、言うなって。」

 

「そうですよね…約束…ですよ?」

 

「うん!」

 

少し私より背の低い彼と、私は、指と指を絡ませて、約束した。

指切り。永遠の約束が結べる御(まじな)い…

 

ずっと、山の中で、2人の神様と暮らしてきた私。

人間なのに、他の人間と、あまり関わって来なかった私。

そんな私の心の中で、孤独は枯れていき、代わりに新芽が芽吹いていた…

 

「じゃあ、おやすみ。早苗。」

 

「おやすみなさい…」

 

私にとって、彼は紳士(しんし)の様だった。

彼は、私の事を、どう思っているんだろう…?

()ればかりが気になった。

 

(しばら)くすると、彼の安らかな寝息が聞こえてきた。

安心して彼が眠っている所を見ると、私も落ち着く。

少し(とぼ)けた様な、可愛い寝顔が、私を笑顔にさせる。

私は、彼の頭を優しく撫でた。

 

神を(まつ)る人間が(まつ)られる事もある。

巫女が神になる事もある。

そう、私は、外の世界では絶え果てた現人神の末裔(まつえい)

そんな私の心を、彼は動かした。

今迄(いままで)、信仰を集める事はしていたが、

自分自身がこんなに信仰を求めたくなる事は…初めてだ。

 

「どうか、彼とずっと幸せにいられますように。」

 

心を込めてお祈りした…

 

()のお願いが、互いの意思を繋ぐ要になるといいなぁ…

 

 

翌朝。

隣に居た(はず)の彼は…居なかった。

 

「そんな…。一体何処(どこ)へ…」

 

朝から散歩にでも出かけたのかもしれない。

あ!あちらに見えるあの白くて大きな尻尾は確か…

 

「椛さん!少しお願いが有るのですが…」

主に山の見回りをしている白狼天狗の1人、犬走 椛。

彼女に声をかけた理由は、言う間でも無い。

彼女は、「千里先まで見通す程度の能力」を持っているのだ。

()れを使って貰えば、奇跡さんも見つかるかも…

 

()れは()れは。守谷神社の巫女さんではありませんか。

まさかお目にかかれるとは…。それで…何のお願いでしょうか?」

 

天狗って、何かと礼儀正しいんだな…

向こうも、私の事を知っているみたい。

あの時の風神録事件もあったし、知ってて当然か…

 

「あのですね、探して欲しい人が居るんです。」

 

「えっと…2人の神様でしょうか?」

 

「いや、人間です。紺色の浴衣を来ていて、蛙柄の巾着袋を持っている男の子…」

 

「男の子ですか。()の前も、にとりさんの所で1人の男の子と会いましたが…

取り敢えず、見てみますね。では、山の(ふもと)の方から…」

 

椛は、耳をピンと立てると、視点を1つに集中させた。

そして、少しずつ視線をずらしていく。

数分後、椛が指をさして、「あ!」という声を上げた。

 

「…何か、見えましたか?」

 

「はい。一応、()の方らしき人は見つかったのですが…」

 

「どうかしたのでしょうか?」

 

「…言いづらいのですが、()の方は倒れています…。」

 

「!?」

声にならない悲鳴をあげた。

彼が…山の(ふもと)の方で倒れている…!?

なんで…なんでそんな事に…

 

「どうしましょう…ひとまず、彼を運んで来ましょうか。」

 

「でも、あんな所(まで)行けるでしょうか…。」

運ぶのに大幅に時間を取られてしまえば、彼の命が危うい。

 

()れについては御心配無く。あまりあの天狗には頼りたく無いのですが…

一応、スピードは幻想郷1と言われている上司を連れて参ります。」

 

そう言うと、椛は、九天の谷の方に飛んでいった。

入れ替わりで、物凄いスピードで鳩天狗がやって来た。

 

「こんにちは!私は射命丸 文。先程は椛がお世話になりました。

用件はお聞きしましたよ。此方(こちら)の男の子でしょうか。」

 

「奇跡さん!」

 

射命丸 文から彼を受け取ると、すかさず抱きかかえた。

 

「奇跡さん…どうして…。何で、急に飛び出したりしたのですか?」

 

「後で詳しい事は話すさ…()の前に、水を貰っても良いかな?」

 

「はい、すぐ持ってきますね!」

 

彼を寝室(まで)運び、そっと置いた後、冷たい麦茶を持って行った。

相当、体力を消費したのだろう。

彼はゴクリゴクリとあっという間に()れを飲み干した。

 

(しばら)く休んでから、詳しくお話しましょう。」

 

「あぁ。」

 

彼は、コップを床に置くと、眠そうに目を擦った。

すると、座ったままウトウトっとして、此方(こちら)に倒れ込んで来た。

 

「あ…。」

 

彼は、私の膝で横になっていた。

()れが、あの、外の世界の恋愛物で流行っていたヤツですよね…

って、私、何て事してるんだ……!?

()れも()れで良いのかもしれない。

 

だって、私と彼の間には、毒にも似た強い絆があるんだもの。

決して、千切れはしない、特別な絆。

だから、少しくらい…特別な事をしたって…良いよね…///

(ラブラブしすぎててすみません…!)

 

 

数時間後。

 

「ん…えぇ!」

 

「お目覚めになりましたか?」

 

「えっと、何でこんな場所で…」

 

自分の膝から慌てて起き上がろうとする彼を、私は思わず抑えた。

 

「とても疲れていらっしゃってた様で、自然に私の膝に倒れ込んで来たので…

だから、()のまま、寝かせといてあげようと思いまして、ね。」

 

「すすす、すみません…。」

 

彼は、顔を少しすくめて、申し訳なさそうに言った。

 

「いえ、良いんですよ。私も楽しかったですし…もう少し、お休みになりますか?」

 

「いや、大丈夫だって…」

 

彼は、さっきよりも勢いよく起き上がると、

顔をプイとそっぽに向けて外へ行ってしまった。

そんな彼の子供らしい所も、好き。

 

私が心に秘める、愛の唄。

彼に届けたい、愛の唄。

もし()れが永久に届かなかったなら、

輪廻の時までも待ち続けよう。

彼を慈しむ心に誓って…

 

輪廻…生まれ変わる事

 

神社の鐘の音が響きわたる。

鳴らしているのは、きっと、彼だろう。

彼は、一体、何を願っているのかな…

彼の様子を見に行く事にした。

 

「早苗!…別に、早苗の事祈った訳じゃ、無いからな…。」

 

そう言って、彼はまたそっぽを向く。

ふふふ。何だか、微笑ましい。

 

「構いませんよ。()れより、何で出て行ったのか…教えて下さいよ。」

 

「言わないと、駄目?」

 

「そんなに言いづらい事…なのですか?」

 

「ううん、別に。…俺、外の世界での事、思い出したんだ…」

 

彼が幻想郷に来る前の事、ですか…

あんなに無理をしたくらいだし、余程大変な事が有ったのでしょうか…

 

「じゃあ、少しずつでも良いので、話してみて下さいよ。」

 

「…うん。」

 

 

 

 

場所は変わって、八雲家。

長身の妖怪と、背が低い鬼が、ひっそりと話し合っていた。

 

「今の所…上手くやっている様ね。」

 

「まあね。というか、紫はなんでこんな異変を起こそうとしたの?

私の好きな宴会みたいに、もっと派手にやっても良かったんじゃない?」

 

「萃香はまだ、本当の目的に気づいていないようね。」

 

「ん?どういう事?」

 

「1つ言うとね、最近異変があまり起きていないでしょう?

だから、霊夢が異変に鈍感になっていないか調べたいだけ。

まあ、他にも幾つか目的は有るんだけれどね。」

 

「ふぅん。やっぱり、霊夢の事が気になるんだね。」

 

「別にそういう訳じゃ…。萃香は、早く次の仕事に移りなさい。」

 

「はいはい、じゃあ行ってくるよ。」

 

障子の隙間から、霧がすり抜けていった。

 

「全く…私も、そろそろ次のターゲットを決めようかしらね…」




えっと、どうだったでしょうか。
リクエストや、ご評価も宜しくお願いします!
一応、歌詞は全て反映させたのですが…
彼の外の世界での事をはっきりさせないまま終わらせたく無いので…
もう一章、延長させて頂きます!

え?椛の登場率が異様に高い?
……察して下さい…!ww

歌詞、今回も載せておきます!↓

指と指が絡まり
孤独を枯らしてゆく

真摯ゆえの想いの偏りは
互いの意思を 繋ぐ要にして

毒にも似たこの絆は
僅かな終焉の予感じゃ
千切れはしない

月には叢雲 華には風と
たとえ愛の唄が永久 届かぬとも
待ち続けよう 輪廻の時を
慈しむ心に誓って

盲目消えた安らぎに出会って
芽生えた恋情 譲る気は無い

月には叢雲 華には風と
此方より彼方へ永久 築けぬなら
雲突き抜け 風斬り裂いて
久遠の揺蕩いへ 誘う

月には叢雲 華には風と
たとえ愛の唄が永久 届かぬとも
待ち続けよう 輪廻の時を
慈しむ心に 誓って


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月に叢雲 華に風 後編

いよいよ後編です!
今回は、歌詞にそって書く…というよりは、
「月に叢雲 華に風」のこれまでのストーリーのオマケ版です!
多少ラブラブしてますがお許し下さい…!w



蛙田(かわずた) 奇跡(きせき)

名付け親は私、東風谷 早苗。

迷い込んできた1人の男の子だ。

でも、今では…特別な人。

 

そんな彼が、外の世界での事を思い出したという。

()れは、しっかり聞いておかないと…

 

「…俺…外の世界では、家出してたみたいなんだ…」

 

え…家出?

想像をもしていなかった言葉に、私は二の句が継げなかった。

 

「ごめんな、突然。俺、外の世界で色々あったみたいで…

()れを、早苗…お前の存在が、思い出させてくれたんだ…

ちょいと話は長くなるかもしれないのだが…聞いてくれるかな?」

 

私が…彼の過去を思い出させた?

頭が少し混乱しながらも、私は答える。

 

勿論(もちろん)…良いですよ。」

 

「ありがと。

 

…俺さ、家庭内の問題が色々あってさ。

あんまり詳しくは言えないんだけど…

家出する事に決めたんだ。

食べ物に金、()れにテントとかも。

とにかく、大きなリュックに詰められるだけ入れて、

準備万端の状態で外に出たんだ…

 

でも、幾ら沢山食べ物を持ってきていても、

足りなくなる時は絶対に来るだろ?

家出して5日後位かな…()の時が来たんだ。

()(まま)じゃ死ぬって思ったけど、

家には帰りたくなかった。

 

…説明が続かないから、言うしかないのかな。

俺の親、育児放棄っていうのをしてたんだ。

食事もろくに出てこなかったし、

1人しかいない親は、他の男と遊んでいるのが常だった。

 

こんな家庭は普通じゃないって気付いてた。

学校で友達と話せば、()れは一目瞭然だった。

おかんと料理したとか、おかんに怒られたとか…

そんな友達の何気ない一言が、羨ましかった。

 

…そんな、"本当の俺"を明かすのが、俺は怖かった。

学校でも、頑張って明るく振舞っていた。

先生にも、悩みを言い出す勇気が無かった。

 

家っていうのは、普通だったら、帰りたい場所だ。

俺は…真逆だ。

 

あんな家に帰る位だったら…

そう、俺は、決心したんだ。

"死ぬ"って事をさ。

 

()の前、早苗に頼まれて描いた絵が有るだろ?

あれは、俺が自殺する直前に見た景色だった。

 

…気がついたら、此処(ここ)に居た。

そして…お前、早苗と出会ったんだ。

お前は何かと俺に親切にしてくれた。

俺を包み込んでくれるような人というか…

 

早苗と過ごした事で、俺の記憶が蘇ったのは…

早苗が、俺の求めていた人だったからかもしれない。

俺は、自分のおかんのような存在の人を…探していたんだ…

 

だけど…ある日、思ったんだ。

早苗にも早苗の暮らしがあるのに、邪魔して良いのかな、って…

勝手に早苗と暮らし、同じ時間を共に過ごして…

そんな事したら、早苗にとっても迷惑かもしれない。

 

で、俺は…お前に気づかれないように、山を降りた。

…元々病弱なのに、()の急な山を降りていくなんて、

最初っから、無理だったのに。

知らぬ間に、俺は、倒れていた。

結果、また早苗に心配をかけてしまった…

ほんと、笑っちゃうよな。」

 

彼は、そう言って、苦笑した。

()の後…彼は、静かに涙を流し始めたのだった。

 

私は、エメラルドグリーン色のハンカチを取り出すと、

涙の溜まった彼の目に、そっと、当てた。

彼の思いを、少しでも受け止めてあげたかった。

 

こういう時って、なんて言えば良いんだろう…

そうだ。今こそ…伝えよう、かな…

 

「奇跡さん、1つ言いたい事があるんです。」

 

「…何?」

 

「私、奇跡さんと居る事が、迷惑なんて、一回も思った事…無いです!

むしろ…奇跡さんと過ごす1日1日が…凄く、楽しかった…」

 

彼は顔をあげると、目を丸くした。

 

「そうなんですか…?」

 

「そんなに驚かなくても…そうに、決まってるじゃないですか。」

 

私は、彼に明るい笑顔を向ける。

 

「あのその…実は、俺も…早苗と過ごす日々が、楽しい…」

 

素直に、嬉しかった。

こんなに広い世界の中で、彼は、私と同じ瞬間に、同じ事を考えてる。

以心伝心って言うんだっけ…

 

思いがけない言葉が、私の口から溢れた。

 

「あの…奇跡さん。私…貴方と一緒に、居たいです…。

だから、もう…出ていったりしないで下さいよ?」

 

「大丈夫。言わなくても、解ってる。だって俺達…以心伝心してるんだもんな。」

 

「…あ…はい…。」

 

どうしよう。

こんな言葉が返って来るなんて…

なんて言えばいいのか、解らなくなるじゃないですか…

 

近くに居れば、ドキドキします。

遠くに見えれば、ワクワクします。

この幸せ…いつまでも…

 

私は、彼の前で、手を合わせた。

そうしたら、彼も、手を合わせた。

 

私達、同じ事、願っている。

恋の神様…聞いてくれていますか?

 

()の晩、博麗神社に相談者が訪れたのは、言う間でも無い。




えっと、どうだったでしょうか。
いやー、ハッピーエンドで良かったです!(*´˘`*)♡

次回予告をしてしまうと、「残響は鳴り止まず」とかになるのかな…
ご期待下さい!!!

評価募集中です〜♪


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第4歌 残響は鳴り止まず by紅美鈴
残響は鳴り止まず 前編


残響は鳴り止まず…悲しい失恋ソングですね…!
悲劇のストーリーと"異変の本質"を絡ませながら書いていきます!
原曲的に主人公は紅美鈴です!

えと、「月に叢雲華に風」の時と同じように、
前編は、あまり歌詞の内容を入れないプロローグ部分になります!
ご理解よろしくですヽ( ・ω- )


私が門番を務める紅魔館。

紅魔館では、毎晩、毎晩、真夜中を告げる鐘が鳴り響く。

でも…どうしてかな。

その鐘の残響は、急に…

私の心の中で鳴り止まなくなってしまった…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

居眠りしながらも、一応門番の仕事をしていたあの日。

私は、1人の少年に起こされたんだ。

 

「…あの…すみません。」

 

「ん…何か私に用かな?」

 

「えっと実は…目が覚めたら此処ここに来ていて…俺、こんな所見るのも初めてなんです。

取り敢えず今日だけでも、泊めさせて頂きたい…。無理ですか…?」

(いつぞやのセリフと一緒じゃないか!と思った皆様。これが伏線になるので、気にせずお読み下さい…)

 

「なるほど…でも、この館の主は吸血鬼だからね…

あんたのような人間が住まうのは危険かもしれない…」

 

「そうか…解りました。」

少年は肩を落として、くるりとあっちを向くと、トボトボと歩き出した。

 

だけど…私はその少年を引き止めた。

私には、泊めさせてあげる事が出来ない、助けてあげられない、って解ってた。

でも何でだろう、彼の為にできる事を頑張って見つけようとしている自分がいた。

気を使う程度の能力、ってこういう意味じゃないのに…

 

「ちょっと待って!」

 

少年は歩みを止め、此方(こちら)に背を向けたまま聞く。

「…何でしょうか?」

 

「幻想入りしたばかりの人間が、こんな夜に外を歩いているのは危険すぎる…

手伝える事があれば、何でも言ってよ。案内でも、家探しでも、何でもやるから…」

 

「本当ですか?ありがとう。なんか、色々心配かけちゃってすまない…」

少年はクルリと私の方に向き直すと、軽くお辞儀をした。

 

「ううん、全然大丈夫よ。」

…なんて言葉を返していたが、実際の所、私は混乱していた。

とにかく、彼の身の安全は守ってあげたいけれど、

すぐに誰かの家に泊めさせてあげる事なんて不可能だろう。

どうすればいいのかも解らずに、無責任に「手伝う」なんて言っている自分が変に思えてくる。

 

その時だった。

 

「美鈴ー!一緒に遊ぼーよ!…ん?その子は?」

 

夜になって活発化した妹様が、外の庭に遊びにきていた。

少年の事にも気づいたようだ。

 

「えっと、この子は…知らない内に幻想入りしていたという人間なのですが…

泊まる所が無いという事で、今、少し話していまして…。」

 

「えー?此処(ここ)に泊まればいいじゃん!」

 

「ですが…妹様もお嬢様も、吸血鬼という種族ですし…。」

 

「私はお友達か他人かの判別も無しに無闇に血を吸う吸血鬼じゃないから、大丈夫だよ!

私もお姉様も、咲夜とか、あの赤い霧の時に出会った霊夢や魔理沙の血は吸った事無いし…!」

 

「確かに…よく考えてみればそうですね…!」

 

「もう、私の事、もっと信頼してよね!

あの時に狂ってたのは、ただ単にずっと閉じ込められてたからなんだから!」

妹様は、頬を膨らませて少し怒ると、少年の方を向いた。

 

「今日からよろしくねー!なんて呼べばいいー?」

 

「……。」

急に妹様から話しかけられたからか、こちらで話を勝手に進めていってしまったからか、

彼は黙り込んでしまった。

 

「…大丈夫ですか?」

彼の肩をポンと軽く叩き、声をかける。

 

すると、彼はボソッと呟くように言った。

「いや、その…俺、実は、自分の名前覚えて無くって…」

 

「そーなんだ…。ねえ、じゃあさ、名前、美鈴が付ければいいじゃん!」

 

「えぇ?私が…?」

 

「うん!だって、この子と1番最初に会ったの美鈴だから!」

 

「まあそうですけど…その、この子が私の付けた名前を気に入ってくれるか心配で…」

 

急に幻想入りした彼にとって、「自分の名前」というのは、自分の存在を示す大事なもの。

彼自身も誇りに思えるようなそんな名前を付けてあげたいが、

ネーミングセンスにはあまり自信が無い私が、

彼に良い名前をつけてあげる事ができるか、何だか不安だったのだ。

 

「ねぇ、美鈴。"咲夜"っていう名前の名付け親は、お姉様だったでしょ?」

 

「はい、そうですが…。」

 

「後から聞いたんだけど、お姉様も、名前を付ける時に色々不安だったんだって。」

 

「お嬢様も…?」

 

「うん。だから、最初は美鈴に名前を付けるのを頼もうか、とも思ったらしいわよ。」

 

「そうなんですか…。」

 

「でも、やっぱり自分が名付け親で良かったって言ってる。

そのお陰で、今のお互いに強く信頼しあえる関係が成り立っているのかもしれない、

やっぱり自分の付けた名前で呼ばれている子が成長していく様子は微笑ましい、って…。」

 

「なるほど…。」

 

「だから、美鈴も自信持って!この子に、素敵な名前付けよーよ!」

 

「そうですね!考えてみます!」

 

すると、また少年は此方(こちら)へ軽くお辞儀をした。

「…名前…考えてくれるんですか?本当に…ありがとう。」

 

「いえいえ、なんせ私は、あんたが幻想郷という世界で初めて会った人。

私から見ても…初めて「名前」というものを付ける大切な人よ。

絶対に、あんたらしい素敵な名前を考えてみせる!」

 

「ふふ。美鈴、乗り気だねー。」

 

「はい!妹様も、励ましてくれて、ありがとうございます!

あ、咲夜に、彼の食事と寝る場所を提供するように頼んでおいて下さい!」

 

「オッケー!お姉様にも、この子の事、伝えとくね!ほら、行こ行こ!」

 

妹様は、彼の手を引いて、館の中へと駆け込んで行った。

 

 

「よし、頑張るぞー!」

 

彼の名前を考える事への妙なやる気は、妹様の励ましだけが原因では無い事に…

まだ、私は気づいていなかった。

 

私の心のなかでは、既に、鐘の音が響き始めていた…。

 

 

 

 

場所は変わって、白玉楼。

薄桃色の髪をした少女が、扇子を仰ぎながら、何か独り言を言っていた。

 

「紫が、私の為に異変を起こすって言ってたけど…

一体どういう事なのかしらね、楽しみだわ。」

 

「…そういえば…、最近、自分から自分の命を無くして

此処(ここ)に来る人が少し減ったって、妖夢が言ってたわね…」

 

「なんでそんな事を私に言う必要があるのかしら、

最近、妖夢も何だか可笑しいわね、可愛いから別に良いけど。」

 

少し微笑んだ後、その少女はふと扇子を閉じて、空を見上げた。

 

「…私は一体…なんで亡霊になったのかしらね…

紫に聞いても、"そんなの知る訳ないじゃない"の一点張りだし…」

 

「ま、気にしなくていっか。今は今だものね。」

 

少女は扇子を片付け、布団を被ると、ゆっくりと眠りについたのであった…




えっと、どうだったでしょうか。

…この曲、歌詞が、失恋した所から始まるので、前置きが結構長くなりそうです…!
なんだかシチュエーションがネタ切れしそうなので、
何か恋愛系で良いシチュエーションとか行動とかあったら教えて下さい!w

感想・評価下さると嬉しいです!(*>∀<)
曲のリクエストはいつでも受け付けてます!!!

今のところ、「残響は鳴り止まず」の後は、
今3票入っている「カフカなる群青へ」になる予定です!


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残響は鳴り止まず 中編其の1

中編になります!!

やっぱりコレは失恋ソングですので、前置き長くなりそうです…
ですので、今回も歌詞の内容入らないかもですが、御理解よろしくです!!



「うーん…優しそうな目つき、紺色の浴衣、濃いブラウンで少し内巻きの髪、

ぴょんと飛び出た癖っ毛、よく透き通る落ち着いた音色の声…あとはあとは…」

 

深夜の2時。

門前では、必死に彼の特徴を探し、彼の名前を考えている私がいた。

 

「苗字には"紅"の時を入れて…あとあと、月が綺麗な夜に来たから、

紅月(こうづき)、とか如何(どう)でしょうか…下の名前は…えーっと…」

 

「ん?月が綺麗な夜…?考えすぎですよ、私…、言われてもないのに…」

 

「…それより、早く下の名前を考えなければ…むにゃむにゃ」

 

久しぶりに頭をよく使った上、いつもより長く起きていた為、

いつの間にかぐっすりと眠りについてしまっていたのであった。

 

 

朝。雀が軽やかに飛び立ち、木々でチュンチュンと鳴き声を立てている。

誰かが私を呼ぶ声が聞こえる…

 

「あれ…朝…?って!」

 

「おはよう、美鈴。」

 

目の前には彼が立っていた。

名前を考え終わる前に寝てしまっていたことに気づいた私は、

しどろもどろになりながらも返事をした。

 

「お、おはようございます!紅月、さん…。」

 

そう言った後に、私は慌てて口を抑える。

昨日考え途中だった名前…まだ苗字しか決まっていないのに、思わず口に出してしまったのだ。

 

「あ、紅月って…俺の名前ですか?」

 

彼は興味津々な顔で聞いてくる。

正直私は困った。

昨日たまたま考えついた名前。私の中で全然満足できていない。

しかも、まだ下の名前も考えていないのに…

 

だけど。

自然に言葉は口から出ていた。

 

「そうよ。コウヅキ。これがあんたの名前…」

 

彼は、コウヅキ、コウヅキ、とその名前を繰り返し呟いた。

その名前を繰り返されるたびに、

彼がこんな名前を気に入ってくれるのかどうかの不安と緊張が高まった。

たかが名前1つ、されど名前1つ。

こんなに神妙に1つの物事を決めたことなんて…なかった。

 

コウヅキ。

 

ペットに名前を付けるとき。

そのペットが一生で1番多くかけられる言葉、それは名前だ。

だから人は迷う。どんな名前にしようか迷う。

その犬に思い入れがあるほど、迷う。

 

コウヅキ。

 

我が子に名前をつけるとき。

我が子に託したい思いを、1番ギュッと詰め込んだもの、それは名前だ。

愛する我が子の名前を付けるとき、人は迷う。

迷いは、悩みに変わる。

 

"寿限無"という話があるだろう。

あの長い名前、確かにあれは少し可笑しい話だが、

それ程、願いを込めて付けられた名前であることは間違いないのだ。

 

親は考え悩んで、子供の名前を付ける。

毎日毎日、少しずつ書き込んでいった作文帳に、

思いが詰まったその作文帳に、たった1つの題名(タイトル)をつけるように。

特に今の時代は、そうだ。

 

コ、ウ、ヅ、キ…。

 

そして、私が今考えているもの。

なぜか、側にいたい人の名前。

一緒にいると、ほんのり甘酸っぱい気持ちになる人の名前。

 

彼は…こんな私が付けた、

こんな名前でいいのかな…

 

 

「すっげーいい!この名前!」

 

私は目を見開き、顔をあげた。

嬉しかった。

彼から聞けたその第一声が、嬉しかった。

 

「かっこいいし、なんかゲームの主人公みたい!

美鈴が考えてくれたんだよね?良い名前ありがとな!」

 

彼は笑顔を輝かせた。

まるで無邪気な子供のように。

 

可愛い。

愛しい。

 

そんな言葉が私の頭をよぎった。

安心というか、喜ばしいというか。

よく分からないけれど、自然に微笑みが生まれていた。

 

ふふ、と微かな笑い声をたてる私。

彼も、あはは、と歯を少し見せてにこやかに笑う。

 

言葉にできない幸せは、こうやって、

世界のどこでもおんなじの、

"ほほえみ"となって表れる。

ほほえめる時間(とき)は、幸せな時間(とき)

ほほえめることは、幸せなこと。

 

彼ともっとほほえんでいたいな。

 

そんなささやかな思いは、

心の中でゆっくりと、

透き通るような鐘の音を響かせていました…

 

 

「気に入って頂けて…よかったです!ありがとうございます!」

 

私は彼に向かって、ペコリと軽くお辞儀をする。

彼は、そんな私の頭を軽く掴み、ぐいと上げたのだった。

 

「美鈴が頭を下げる理由なんて…無いだろ?」

 

「え……」

 

思いもしない出来事に、私は目を丸くする。

同時に、鼓動が早くなっていくのを感じた。

 

「ありがとうは、こっちのセリフだよ。…ありがとな。美鈴。

…って!?美鈴!?」

 

私は彼の手を振り払って、館の中へと一目散に逃げていた。

彼との顔の距離の近さに緊張感を覚えたのと、

それによって自分の顔が熱くなっていることを彼に知られなくなかった、

そんなことで、ただ訳も分からず彼から逃げ出していたのである。

 

館のホールまで来た私は、一旦大きく深呼吸をし、心を落ち着かせる。

まだ熱は冷めきらず、頬がほんのり紅色に染まっていた。

 

「…はぁ…どうして逃げてしまったのでしょう…」

 

「コウヅキさん、私に嫌われたとか思ってらっしゃらなければ良いのですが…」

 

今更ながらもそんな後悔をしながら、私はホールの真ん中で(たたず)んでいた。

頭の中で、彼のことが、自然に流れ着いてきたかのように浮かんでは消えて、浮かんでは消えて。

それがただただ繰り返されていた。

 

 

「美鈴!」

 

突然耳に入ってきた彼の声に、一瞬ビクっとする。

彼は私の顔を覗き込んで来た。

私は急いで彼から目を背ける。

 

「なんで逃げたんだよ!心配してたんだぞ…ん?」

 

彼は私の方をじっと見つめ、眉をひそめた。

 

「な…何かございましたか…?」

 

何だか不安になって、少し(かす)れた声のまま聞いた。

だが返って来たのは、私が1番気にしていたことについての答えだった。

 

「美鈴お前…熱あるのか?顔赤いぞ。声も掠れてるし…風邪か?」

 

彼は熱があるか確認しようと、私の頭に手を当てようとする。

私はその手を退けて、言い返した。

 

「…違いますよ!こ、これは…!」

 

なんて答えれば良いのか頭が混乱し、思わず声が大きくなってしまう。

 

「これは……なんだ?」

 

うぅ…

ここは敢えて聞かないっていうのが普通じゃないの…!?

 

「あーもうっ!妖怪は風邪なんてひきません!

とにかく、どれもこれもコウヅキの所為なんですよっ!

もうこれ以上このことについて言わないでください!良いわね!?」

 

私は彼にくるりと背を向けると、またもや館の中へ中へと逃げてしまった。

 

彼はそんな私を見て、小さくほほえんでいた…

 

 

 

そんな2人を、影から見つめている者達がいた。

そして、気まずそうに、ヒソヒソと話し合っている。

 

「私としたことが…計画失敗ね…」

 

1人の妖怪は深くため息をつき、そして頬杖をついた。

 

「別に紫のせいだけじゃないよ。私も気づかなかったんだし。」

 

鬼も、妖怪と同じように深くため息をつく。

その気を紛らわせるかのように、酒をぐぐっと勢いよく喉に流し込んだ。

 

「これは…やるしかないわね、萃香。あの子には悪いんだけど。」

 

「まあしょうがないよ。あとは紫の能力でどうにかすればいいじゃん?」

 

鬼は妖怪が出す"スキマ"を見つめて言う。

 

「確か…紫は"あの境界"も操れるんでしょ?」

 

そう、その妖怪は、"境界を操る程度の能力"を持っているのだ。

だが、今回のことについては自信がないようで、少し俯いた。

 

「まあ…"あの境界"も操れるっちゃ操れるわ。でも…」

 

「でも?」

 

「少しややこしいことが起こるのよね…」

 

そう言うと妖怪は、鬼に何かを耳打ちした。

鬼が了解、と目で合図を送ったと同時に、鬼の姿はすぅっと消えていったのだった。

 

 




ああ…この美鈴の愛がいつか壊れてしまうと思うと悲しい…(>︿<。)
失恋系の話は、書いているこっちまで途中で泣けてしまうのが困ります…
まぁ、今は幸せシーンですのでまだまだ大丈夫ですけどね!w

最近更新遅れていてすみません…汗
感想・ 評価、またリクエストあれば、ぜひお願いします!!


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