学園黙示録〜転生者はプロの傭兵 (i-pod男)
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プロローグ

久し振りの投稿が出来ました。スランプだったので自棄糞になって書いた物です。主人公はチートな武器を手に入れますが、武器だけで、後は普通の人間と大差無いです。


『人間、一度しか死ぬ事は出来ない。命は神様からの借り物だ。』

————シェイクスピア(1564-1616)

 

爆発、爆発、叫び声、また爆発。残りは後何人だろうか?物陰に身を潜めた俺は、奇襲を仕掛けて来た武装集団の男の一人からライフルを取り上げ、マガジンも拝借した。左肩からは血が溢れていた。銃弾が貫いた。相変わらず鈍痛が響く。

 

言い忘れていたが、俺はとある民間軍事会社 所属の傭兵だ。どこかは守秘義務の為に明かせない。で、現在キューバにいる。最近多発している武装集団の襲撃事件に俺のチームが派遣された。だが奴らは予想以上の兵器を持っていた。

 

「動け、畜生め。」

 

壁を背にして悲鳴を上げる体に鞭打ってどうにか立ち上がると、そこからチラリと向こう側の様子を覗く。途端に再び銃声が部屋中に木霊し始めた。死体となって横たわっている男が肩にかけているベルトから手榴弾二つを抜き取り、見当をつけて放った。数秒程すると立て続けに爆発が起こり、断末魔の叫び声が幾つか聞こえた。これで何人かは無力化されただろう。

 

ライフルのセーフティーを外すと、俺はそのままゆっくりと前進した。後衛もバックアップもいない以上、細心の注意を尚更払う必要がある。

 

「こちらアルファリーダー。ブラボーユニット、応答してくれ。誰でも良い。」

 

再三再四無線で呼び掛けたが、返事が無い。仲間が何人残っているかは分からないが、無線での連絡が無い所を考えると無線が破壊されたのか、全滅したのだろう。向こうから通信が途絶した以上、無事を祈るだけ無駄な事か。

 

このフロアをざっと見て回ったが、誰もいない。俺はそのまま階段を使ってゆっくりと下に降りた。途中で見張りを何人か始末して行った。奴らの無線での会話を聞いている様子では、俺の予想通り戦力が下に集結しているらしい。ようやく地上階に降りる事に成功したが、ライフルの弾が尽きた。手近に使える物も無い。ある物と言えば愛用のシグサウエルP226X6と、FN ファイブセブンだけだ。

 

「どうにでもなれ。」

 

俺は残りの手榴弾を全てそこら中に投げ込むと、まずはファイブセブンで怯んだ奴らを撃ち始めた。この銃から撃ち出されるライフルの弾に似た銃弾は、200メートル先のケブラーヘルメットすら貫通し、被弾すれば銃弾の回転によって傷口を広げる。装弾数も薬室を加えて二十一発、 そしてえげつない威力を併せ持つ、持ち主次第では敵に回せば恐ろしい銃だ。

 

一頻り撃つと、物陰に身を潜めて相手が動くのを待った。あの喧騒の中で四、五人は仕留めた筈だが、油断は出来ない。バシュッと、ガスが抜ける様な大きな音が俺の耳に入った。本能的に俺はその場から逃げ出そうとしたが、遅かった。俺は爆発に巻き込まれて、視界が暗転した。

 

 

 

 

 

爆発の後、どれ位の時間が経ったか分からないが、俺の目が再び開いた時、俺は蛍光灯を設置した白い天井を見上げていた。グレネード弾の一撃をまともに食らっても、奇跡的に五体満足で生き残っているらしい。何とか喋ろうとしたが、口が回らない。自分の手足を見ると、見知っているゴツゴツした物ではなかった。それは、まるでと言うより、赤ん坊の手足その物だった。俺は二十六だぞ?誰がどう見てもガキに見間違えられる様な年齢じゃない。何が起こっている?

 

「おめでとうございます。元気な男の子ですよ。」

 

不明瞭だったが、どうにか聞き取る事に成功した。いや、待て・・・『男の子』だと?

 



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セカンド・ライフ

オリ主のヒロインは南リカ&静香先生になります。


皆は誰しも『転生』と言う言葉を一度は聞いた事がある筈だ。その人生を終えた魂が再び別の生物として生を受ける、と言う宗教や言い伝えにも頻繁に出て来る説だ。俺はそんな事を考えた事も無いし、神の存在も信じていない。

 

だが、どうやら俺はその『転生』を今経験してしまった様だ。やはりあの爆発で俺はあの時死んだのだ。俺が再び生を受けた理由は分からないが、現在地は日本らしく、『滝沢圭吾』と名付けられた。 日付は確認出来たが、前世の命日が今世の誕生日とはな。だがここで、俺はやらなければならない事があると気付いた。問題が二つあるのだ。

 

一つは、またガキの真似事をする破目になると言う事だ。 死ぬ直前まで二十六だった俺には黒歴史以外の何物でも無い。特に通学が一番の問題になった。傭兵になる前に大学を卒業した俺にとってはやる気すら起きない物だったが、日本語を覚える為にも止む無く通い続けた。二つは、肉体が幼児の物である故に、体力も膂力も総合的に傭兵としての俺の能力が比べ物にならない位低くなっていると言う事だ。この体じゃ銃を撃つ事もままならない。

 

ようやく二の足を踏んで歩く事が出来る様になると、衰えた体を元に戻す為に、俺は取り憑かれたかの様に訓練をした。俺のその姿を見て親父は冗談で俺に質問した。

 

「圭吾、何故そこまでして体を鍛える?戦争にでも行くのか?」

 

「俺達の人生その物が戦争だよ。生きる為の物資、生存の確率を高める為の担保。人間戦わずして生きて行くなんて事は出来ない。じゃなきゃ、戦争なんて始まらないし、軍なんて存在すらしなくなる。」

 

俺はそう言い返した。ジョギング、筋トレ、アイソメトリックス、ストレッチ、そしてキックボクシング。それら全てを体力が続く限り、筋肉が悲鳴を上げるまで毎日続けること十数年。俺の体は二十歳でようやく全盛期の七割位に回復した。

 

俺の親父は海外での暮らしが長く、それに影響されたのか、趣味は射撃競技だった。俺も中学に上がる頃には既に銃に触れていた。と言っても、本物に触れるのは十八になってからだったが。それまではエアライフルやエアピストルで我慢していた。だが、やはり銃弾を薬室に送り込んだ刻の感覚、撃発音と共に体中に伝わる衝撃、そして撃った後に立ち上る硝煙の臭いは今でも忘れられない。実銃に触れる事が出来た時、俺は筆舌し難い快感を覚えた。ショットガン、ライフル、ピストル、全てが懐かしい。当然ブランクはあったが、一ヶ月前後でようやく感覚を取り戻す事が出来た。お陰で『現代のビリー・ザ・キッド』や『カルロス・ハスコック二世』とまで呼ばれる様になってしまった。

 

話は変わるが、二十歳になった時、妙な事が起こった。親の留守中に、俺宛に箱が送られて来たのだ。送り主本人が送り届けて来たのか、俺宛であると言う事を示す物以外は送り主の住所も名前も何も書かれていない。

 

それを開くと、中に入っていたのは奇妙な物だった。具体的に説明するとベースは黒に銀のライン、そして赤い円があり、それを中心に金色の羽が一対広げられている様に見える、近未来的なデザインを持ったマシンピストルだ。持ってみると特に違和感は無いし、ズシリとそれなりの目方もある。装飾を除けば、単純な形状は延長マガジンを差し込んだグロック18Cに近い。ご丁寧に腰背面に固定する為のホルスターも付いている。だが普通の銃とは違うのは、スライドや撃鉄、マガジンキャッチはおろか、セーフティーすらも無いと言う事。銃にしては危なっかし過ぎる。特に使う必要も理由も無いので、今も俺の洋服箪笥の中にしまわれたままだ。

 

そんな俺も自立して、進行形で同居中の女友達が二人出来た。俺から言わせれば、心身共にどんな男も悩殺出来る様な二人だ。一人は南リカ。警察官を目指しているクールな奴で、良く飲みに行くが中々の酒豪で簡単には潰れない。それに葉巻煙草と言う風変わりな趣味を持ってる。親父が土産に持って帰って来るのを幾つか渡したら大喜びしてたな。で、もう一人が更に変わり者の鞠川静香。プロポーションはあり得るのかと思ってしまう程の物で、医者を目指しているが、あの天然な性格でなれるかどうか、リカも俺も心配している。今は大学病院から臨時の校医として藤美学園に派遣されているそうだ。

 

「リカ。」

 

「ん?」

 

「お前は死んだらどこに行くか、何て事を考えた事はあるか?」

 

深夜に近付き、下着姿のままで寄り添って寝ているリカにふとそう聞いてみた。 酔った勢いでヤってしまったのが原因でくっついた訳なんだが、特にお互い問題は無い。常識的に考えてこれを喜ばない男はいないが、こいつは、まあ・・・・・襲って来る時は女豹になる、とだけ言っておこう。

 

「ん〜〜・・・・無いわね。先の事なんて誰にも分からないんだから、来るがままに対応するしか無いと思うわ。それがたとえ死であろうと。でも、死後の世界が本当にあるなら、また圭吾とくっ付きたいわね。」

 

俺の腹の上に乗っかってるリカは胸板に顎を乗せてそう答えた。

 

「おいおい、俺より静香の方を優先してやれ。あんなゆるふわ女、何に巻き込まれるか、はたまた何を仕出かすか分かったもんじゃ無いぞ。」

 

「あの子は大丈夫よ。ああ見えてもやる時はやるから。」

机で突っ伏して涎垂らしながら寝ている様な医者を信用しろってのは難しいだろうが、と言いそうになったが、そこは大人の一人として慎んだ。

 

「だと良いが。後、お前そんなに警察寮が嫌いか?一応家賃払ってるのお前なのに俺名義でこのメゾネット借りさせるなんて。」

 

そう、一応付き合ってはいるが、独身であるリカは規則の一環として警察の寮で寝泊まりする義務があるらしいが、敢えてマンションに住んでいる。

 

「面倒なのよ、向こうに物を持ってくのが。」

 

言うだろうと思っていたが、随分と不純な理由だな、おい。まあ俺も似た様な事をやった覚えが過去+生前あるから人の事は言えないが。

 

「それに、あのロッカー。鍵がかかっているから良い様な物の、バレたら懲戒免職じゃ済まないぞ?」

 

「バレたら、の話でしょ?バレなきゃ良いの。それに、貴方の物も幾つか入ってるんだから、お互い様よ。明日は空港に行かなきゃいけないから早く寝ましょ。」

 

夜遅くまで人を起こしておく奴が言うな、と言ってやりたかったが、その時の俺の意識は疲労で既に半分近く飛んでいた。

 



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Dead Bite

話数が僅か二つなのにお気に入りが三十一件で500pt超えだと・・・・・!?読んで下さった皆様、こう評価をくれた皆様、本当にありがとうございます。この調子で頑張って行きたいと思います。他の作品も上手く行けば投稿して行きますので、そちらもよろしくお願いします。

ちなみにサブタイトルの方ですが、ハリウッド・アンデッドと言うグループの歌う曲でもあります。お暇があればyoutubeで検索してみて下さい。ちなみに作者のお気に入りの一つです。


俺の目が覚めたのは、十時近く。リカも静香も、既にそれぞれの勤め先に向かって、ここにいるのは俺だけだ。起き上がってリビングに向かうと、ラップに包まれた冷蔵庫の残り物がテーブルに並べてあった。ちなみに俺が作った物である。

 

『後始末ヨロシク♡ S&R』

 

「こいつら・・・」

 

このマンションに住む一人として、俺も家賃の一部を納める為にそれなりにハードなバイトをしている。だが、それ以外は別に大した職務に就いている訳じゃないから、基本はマンションでの炊事・洗濯をやっている。並べてある料理を全て電子レンジで温めると、直ぐにそれを平らげた。

 

未だに寝ぼけたままの体を目覚めさせる為に、浴室に向かった。シャワーの蛇口を捻り、冷水が頭から首筋、そして更に下へと広がって行く。実に心地良い気分だ。冷たいシャワーはサラリーマンが飲むコーヒーに相当する物で、朝はこれが無ければ始まらない。

 

次に俺は大画面プラズマテレビ(親父に強請って買って貰った)の隣にある四人用のロッカーを解錠し、中に入っている物を全て取り出した。大量の弾薬、双眼鏡の他には、バーネットワイルドキャットC-5と言うイギリス製のクロスボウ。その隣の区画はイサカM-37ライオット・ショットガン、銃剣付きのスプリングフィールドM1A1スーパーマッチ、そしてナイツSR25風に改造されたバイポッド付きのAR-10。どれも日本では違法の銃ばかりだ。

 

最後に俺のロッカー二つ。リカと同じ様に一つのロッカーは大量の弾薬、もう一つには銃が入っている。俺のお気に入りが。正直言うと、日本では銃の規制が厳し過ぎるし、使っている銃も最適とは言えない。銃が入ったケースを引っ張りだし、それを開いた。

 

「何時見ても、飽きないな。」

 

俺のお気に入りが、姿を現した。まずはシグザウエルP226X6 LW、各所にシェルホルダーを付けたモスバーグ590A1、八連発のS&W M327リボルバー、そしてナイフ数種類。このロッカーを他人が見たら、戦争でもしに行くのではないだろうかと思ってしまうだろう。定期的な点検とメンテナンスを一通り終えてそれらを全てロッカーに戻し、厳重に鍵をかけると、洋服箪笥の一番下の引き出しを開けた。あの不思議な銃を保管しているあの引き出しだ。

 

俺は一度これを撃った事がある。反動は殆ど無く、排莢する事も無かったが、試射した壁に親指が楽に通る位の穴が開通していたのだ。これには流石に驚いた。幸い回りに人はいなかったが、あれ以来俺は初めて自分が持っている武器が怖くなった。傭兵の初仕事に入った日の事を思い出す。あの時は手が震えて碌に弾が当たらなかったな。そんな時、俺の携帯が鳴った。リカからだ。

 

「どうした?勤務中に電話かけて来るなんて珍しい。」

 

『冗談言ってる場合じゃないわ。圭吾、今すぐ藤見学園に行って頂戴。静香が危ないわ。何でか分からないけど、今外がゾンビ映画みたいになってるから。』

 

リカの声は何時に無く重く、切羽詰まっていた。最初は何かの冗談だと思っていたが、俺は直ぐに窓を開け放ってベランダに出た。都市ゲリラ戦の真っ最中宛らの光景が俺の目の前に広がっている。街の所々から煙が上がっていたのだ。微かだが生前から聞き慣れている断末魔らしき声も耳に届いた。

 

「どう言う事だ?何が原因でそうなった?」

 

『こっちが聞きたいわよ。いざとなったらロッカーの物、使っても構わないわ。兎に角、静香を助けに行って。私は床主洋上空港で暫く持ち堪えなきゃいけないの。連絡も出来る限り取るから。』

 

理由も分からないまま、B級映画並のベタな黙示録が始まった。だが、そう簡単にくたばるつもりは無い。

 

「リカ、分かってると思うが、死ぬなよ?SATも、弾が無限にある訳じゃない。手持ちが切れたら死人からでもふんだくってヤバくなったらすぐ逃げろ。お前に死なれたら静香を慰めるのが面倒になる。」

 

『分かった。その台詞、そっくり返すわ。アンタこそ死ぬんじゃないわよ?』

 

「俺を誰だと思ってる?また後で連絡する。」

 

生前はプロの傭兵だぞ。電話を切ると、早速準備を始めた。不謹慎かもしれないが、俺は知らず知らずの内に鼻歌混じりで着替え始めていた。やはり、心のどこかで俺は闘争を求めていたのかもしれない。傭兵としての人生に味を占め過ぎたからだろう。

 

ミリタリーショップや最近嵌っていたサバイバルゲームで使う物も引っ張りだした。ポケットが多いカモフラージュグリーンのカーゴパンツ、そしてタンクトップの上に膝辺りまである革ジャンを身につけた。弾を籠めたシグ、M327、ナイフ、予備のマガジンにスピードローダー数個、そしてあのメカメカしいマシンピストルをそれぞれホルスターや、収納に適した場所に納めて行く。本当ならば威力が高いライフルやショットガンを使う方が望ましいが、今は持ち運びに困らない、尚且つ目立たない物が良い。万一警察に止められたりでもしたら洒落にならない。

 

ガレージのホンダ『ファイヤーストーム』のエンジンをスタートさせて、俺は藤見学園を目指した。丁度昨日燃料を入れ直した所だから、ガス欠は無いだろう。

 

「さてと。行くか。」

 




オリ主が本格的に小室一行とコミュニケーションを取るのはもう暫く後になります。感想、誤字脱字の指摘、登場武器のリクエスト(チート過ぎない範囲で)、評価等、お待ちしております。

それでは。


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本領発揮

総合評価が僅か一日ちょいで三千以上とは・・・・・・ヒャッッッッッハアアアアアアーーーーーー!!!失礼いたしました、マジで読者の皆様に感謝です。これからも出来る限り執筆作業を続けて行きたいです。よろしくお願いします。


バイクのエンジンを吹かし、車道を疾走した。流し目で周りの状況を確認して行く。車は横転し、明らかにゾンビとしか呼べない様な姿に変わり果てた哀れな元人間、その元人間に食われて行く人間。まんま映画のワンシーンだ。中には内蔵がはみ出ている奴、首が正位置から百八十度回転したグロテスクな奴もいる。

 

「まるでハウス・オブ・ザ・デッドみたいな光景だな。笑えないぜ。」

 

ヨロヨロと動きは遅いが、力だけならかなりあるらしい。園児が暴れて泣き叫ぶ母親の両腕を押さえ付け、別の園児がふくらはぎの肉をまだ発達していない歯で大きく裂くのを見て確信した。どうやら一度死んでから蘇る様だ。そして今現在、大多数の奴らが俺の後を追って来る。五感が全て働いているかどうかは分からないが、少なくとも音には反応している。効率のいい移動手段が限られて来るな。

 

何度か回り道をしてようやく藤見学園にたどり着いた。行く途中で死んでいる警官が持っている銃やら銃弾を荷台のバッグに放り込んで時間を少し食ったが。これから先、使える銃と使う為の弾薬は必要になる。多ければ多い程良い。特に、規制が厳しい日本じゃ銃火器は尚更手に入り難い為、持てるだけ持つべきだ。

 

「全く、アメリカならもっと簡単に武器を調達出来たんだがな・・・・・」

 

バイクに付いたバッグから双眼鏡を引っ張りだして敷地内を確認すると、学生がそれぞれ武器を手に互いをカバーしながら駐車場を目指していた。即席の連携とは言え、中々統制が取れているな。その中で、俺は金髪の女を見た。黒いスカート、赤い紐ネクタイ、そして溢れんばかりのバストを押し込んだ白のカッターシャツ。見間違える筈が無い、静香だ。彼らはマイクロバスに乗り込むと、エンジンをスタートさせた。俺はそれを見て双眼鏡をしまうと、学園の駐車場に向かった。

 

途中死人共が襲って来たが、そこはあのマシンピストルで弾幕を張って道を切り開いた。反動が無いのはありがたいな。狙いがブレない。それに、これ一発で二、三匹は片付けられる事に気付いた。貫通力も並じゃないって事か。

 

「静香、無事か?」

 

「え・・・・・?」

 

あ、そう言えばヘルメットは被ったままだったな。声もくぐもってるし、これじゃ分かる物も分からないか。チンガードとバイザーを上げて顔を晒した。

 

「圭吾?!」

 

「生きてる様で何よりだ。これで俺もリカに殺されずに済む。さっさとここから脱出しろ、詳しい話はそれからだ。」

 

「ちょ、待っ」

 

何故俺がここにいるのか、何が起こっているのか、そんな質問を一々聞いていたらキリが無い。静香の言葉には耳も貸さず、俺はマイクロバスのドアを乱暴に閉めた。バイクに飛び乗って死人を避けながら脱出し、程無くしてマイクロバスも屍を蹴散らしながら車道に飛び出た。一先ずマイクロバスの先導に従って後ろに付いて行く。ハンドルにマウントしたGPSで確認すると、このルートは御別橋辺りに向かっている事が分かった。

 

「ここからが問題になるな。」

 

今の所は快走しているが、いつまでもこれが続くとは考え難かった。この街からの脱出ルートは限られてる。床主の人口密度はそれになりに高い。数少ないルートを住民全員が挙って集まれば、鮨詰め状態になってしまう。移動スピードは格段に落ちるだろう。

 

すると突然バスがタイヤを軋らせて急ブレーキを掛けた。今なら情報伝達が出来る。二、三度軽くノックすると、金属バットを持った男子生徒がドアを開けた。

 

「よう。鞠川静香は乗ってるか?」

 

「え、あの」

 

「圭吾ーーーーーーー!!」

 

ソイツを押しのけて静香が俺に抱きついて来た。危うく倒れそうになったが、どうにかバイクごと倒れずに踏ん張った。落ち着かせる為に頭を撫でてやる。

 

「良くここまで生き延びたな。無事で良かった、心配したぞ。後、声押さえろ。」

 

「ごめん・・・・でも、何で・・・・?」

 

「リカから連絡があってな。直ぐに飛び出して来たんだ。俺が強いのは知ってるだろ?」

 

「そうだけどぉ〜、でも心配だったよぉ〜。リカは?」

 

「洋上空港にいる。ひとまずは無事だ。俺の女だぞ?あいつの事だ、しぶとく生きてるだろうさ。」

 

「あの〜・・・・」

 

押しのけられた奴が復活して声をかけてきた。あ、そう言えばいたなコイツ。

 

「ああ、悪い。俺はこの天然ゆるふわドクターの同居人、滝沢圭吾だ。よろしく。」

 

「乗って行く?バイクじゃ危ないわよ?」

 

「そうした方が良いのは分かってるが、如何せん愛着が湧いてる物でな。」

 

これは事実だ。ツーリングもリカや静香を乗せて行った事があるし、結構楽しめた。だがまあ、確かにこれは危ないな。

 

「分かった。乗ってくよ。しかしお前が運転してるとは思わなかったぞ。あのショッボいコペンに乗ってたお前が逃走車をねえ・・・・」

 

「うっ・・・・」

 

冗談もそこそこに、俺はバイクに積んだバッグを取ると、マイクロバスに乗り込んだ。

 

「さてと・・・・静香、状況を説明してくれないか?」

 

「えーとねー」

 

「この先どうするかって事で議論してたのよ。幸い宮本がこの馬鹿を押さえてくれたから良いけど。」

 

ピンク色のツインテールの生徒が真っ先に答えた。お、なんか床で腹押さえて悶えている哀れなヤンキーが一人いる。馬鹿ってのはコイツだろうな。まあ、放って置こう。

 

「そうです。ですが、こう言った事の再発防止の為にもやはり我々にはリーダーが必要になりますね。全てを担うリーダーが・・・・」

 

ピンストライプスーツの上下を着た黒縁眼鏡が進み出て言い放った。確かに、統制を取ればグループの犠牲は抑えられる。

 

「で、候補者は一人って訳、紫藤先生?」

 

ピンク頭が紫藤とか言う奴を見据える。不満だと言うのがありありと表情に出ている。

 

「私は教師ですよ、高城さん。貴方達は生徒です。それだけでも資格の有無はハッキリしています。どうです、皆さん?私なら、問題が無い様に手を打てます!」

 

大仰な手振りで生徒達に語りかける。コイツの洗脳めいた喋り方は、まるでヒトラーだ。問題が無い様に手を打つだと?阿呆だな。

 

「だったら俺も立候補しよう。生まれてこのかた喧嘩すらした事も無い、前線では役立たずのアマチュアがリーダーなんて、棺桶に片足どころか、両手両足突っ込んでる様なもんだ。お前らはどうか知らないが、俺はゴメンだぜ。」

 

これを聞いた一部の生徒達にはかなりウケたらしく、笑うのを必死に堪えている。勿論、静香もだ。

 

「それに、教師なんて肩書きはもう無意味だ。そもそも一教師がどうこう出来る様な問題か?俺はと言うと、教師ではないが、一時期SATで働いていた。戦闘経験は当然あるし、この街の道筋なら大抵知ってる。」

 

「では、多数決で決めましょうか?公平に。」

 

来た。学園関係者と言う共通点を持たない部外者の俺を不愉快に思ったのか、さっさと懐柔を済ませようとしている。自信満々に紫藤が俺の誘いに乗って来た。SATにいたと言うのも、床主全体のルートを把握していると言うのも、全て事実だ。勝率は充分ある。この車内の空気が物語っている。後部はあの教師に付いて行きたい、前部は別行動を取りたいと、そう言っている。

 

「良いぜ。じゃあ、俺について来る方がマシだと言う奴、手を挙げろ。」

 

狙い通り、静香と一緒に先にマイクロバスに乗って脱出を計ろうとしたグループ六名が手を挙げた。

 

「票は俺の立候補を加えて七。対するアンタも立候補を加えて手を挙げてない奴が六人。真っ二つに割れたなぁ、紫藤先生?」

 

「ホントだ・・・・票が割れてる。」

 

車内の人数を確認したピンク頭に小さくサムズアップをしてみせた。おお、紫藤の奴、こめかみがピクピクなってるな。初めて見たぜ。

 

「ま、まあ良いでしょう。考えが変わる、と言う事も充分ありますから、もう少し時間をおいて再票決と言う事で。」

 

勝った・・・・・・多数決は、こう言ったコミュニティーではシンプルにして最早絶対の正義。膠着状態になれば自ずと不満は重なる。

 

だが、勝利も束の間、俺の思考を中断したのは、突如鳴ったクラクションの音だ。右の方から車道を逆走して来る市バスが見える。それが乗用車に衝突し、ひっくり返るとそのまま勢いが衰えずに猛スピードで転がり始めた。それも、俺達が乗ってるマイクロバス目掛けて。

 

「静香!さっさとトンネルを通れ!バスに塞がれちまう!」

 

静香はアクセルを踏んで、マイクロバスはトンネルを猛スピードで走り抜けた。幸いバスは横向きに倒れた為、トンネルにつっかえたまま止まったが、数秒後にバスは爆発した。

 

「ふう・・・・」

 

「あ、危なかったわ・・・・・」

 

「別のルートを通ってたら、かなり遅れてたぜ。ギリギリ通れたから良かった。」

 




紫藤のリーダー決定を覆しました。あの小物先生は主人公にムッコロさせようかどうかはまだ決めていませんが、まあ痛い目にはあってもらいます。


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計画

原作よりも早くマイクロバスを捨てさせてマンションに向かわせます。既に四千pt近くとは・・・・・
予想外です(ソフトバンク風に)。・・・・・ゴホン。では、どうぞ。


やがて日は暮れ、時刻は十一時四十五分になった。一時の休息を得られた事に安心したのか、生徒の何人かは緊張がほぐれて眠ってしまっている。俺はと言うと、全く眠くない。こんな状況で寝てはいられない。特に銃を持っている事がバレて奪われでもしたら・・・・いや、考えるのはよそう。

 

「麗、あのまま歩いてったらお前、今頃死んでるぞ。」

 

だが、麗と呼ばれた折ったモップの柄を持っていた女は顔を背けて座席に腰を下ろした。

 

「あー、静香。お前が付いて来たグループ皆の名前、教えてくれるか?」

 

「小室孝です。ありがとうございます、あそこで邪魔してくれて。」

 

金属バットを持った青年が軽く頭を下げて来た。見た所コイツがこのグループの暫定的なリーダーか。まあ、コイツなら心配無いだろうな。躊躇い無く死人の頭をあのバットでカチ割りながら前進するのが容易に想像出来る。

 

「毒島冴子と言います。滝沢さん、鞠川校医とは一体どう言う・・・・?」

 

他に俺に票を入れてくれた奴が座っている席に近付くと、木刀から血糊を拭き終わったロングスカートを履いた生徒の一人が名乗った。静香と同じ位の長髪を生やしている。

 

「ああ、静香の同居人の一人だ。」

 

「え、先生って彼氏いたの?」

 

野次馬根性丸出しの麗が静香に聞く。

 

「んふふふ〜、さあねぇ〜。」

 

おいはぐらかすな、話が余計にこじれるだろうが。揉むぞ、コラ。

 

「静香をここまで守ってくれた事は礼を言う。ついでに言うと、お前らのチームに俺を加えて欲しい。」

 

「それは別に構わないけど、計画でもあるの?」

 

ピンク頭が眼鏡越しに俺を軽く睨んだ。やはり静香の知り合いでもそう簡単に信用はされないか。まあ、それは後でどうにかしよう。

 

「ある。あるが、今この場では言えない。お前、名前は?」

 

「高城沙耶よ。よろしく。」

 

「こちらこそ。」

 

「あ、あの、滝沢さん、でしたっけ?」

 

沙耶の隣に座っていた小太りで黒縁眼鏡を掛けた男子生徒が俺を小声で呼んだ。

 

「僕、平野コータって言います。僕からもお礼を言わせて下さい。なんか、滝沢さんの言葉、聞いててすっとしました。」

 

コータの手にはガス式のネイルガンがあった。即席で作った割には出来が良いストックとサイトが付いてる。見た目は手作りのアサルトライフルだ。重さもそれに近いだろう。

 

「それは何よりだ。だが、気にする事は無い。ああ言うタイプの人間はそう碌な死に方はしないと相場は決まってる。寧ろ、早々に始末した方がプラスになる。」

 

そう言うと、彼の肩に手を置いて小声で続けた。

 

「後、お前銃の扱いに馴れてるだろ?そのネイルガン、見た所TDI・ベクターをイメージして作ったな。遠巻きからだが、見てたぜ、ヘッドショット。移動しながらの射撃は存外難しいのに、良く撃てるな。」

 

「あ、あの・・・・ブラックウォーターで、一ヶ月・・・・訓練しました。」

 

照れながら明かした新事実には俺も驚いた。まさか民間軍事会社で訓練を受けたとはな。生前とは言え、一時は同じ境遇だった者として、親近感を禁じえなかった。

 

「ほーう、あのブラックウォーターでか。だったら、お前に少しプレゼントがある。一応聞いておくが、ハンドガンのヘッドショットで奴らを確実に仕留められる自信は?」

 

「あります。」

 

駐車場への脱出劇がマグレでなければ、コータなら間違い無く使いこなせると、俺の勘が言っていた。ブラックウォーターで働いているのは古参の軍人、またはそれに相当する訓練を受けた実力者。こいつの腕が衰えてなければ、狙いを外す事は無いだろう。

 

「よし。ほらよ。」

 

俺はバイクのバッグから死んだ警官が身につけていた銃を引っ張り出した。どちらも日本の私服・制服警官に最近支給されている銃だ。

 

「これ・・・・日本警察で配備されてるS&W M36エアウェイトとH&KP2000だ!ど、どこで、どうやってこんな物を?」

 

いそいそと銃を制服のポケットに忍ばせて質問して興奮をギリギリ抑えながら来た。

 

「学園に向かう途中で死んだ警官が何人かいたからな。予備弾や手錠、後は無線機とかもその時出来る限り拝借したんだ。この先武器の有無は生存率を大幅に左右する。どちらもセーフティーを外せばすぐ撃てる状態だ。だが、今はそのネイルガンを使ってろ。学生が拳銃振り回してるの見たら、どんな反応が出るか容易に想像出来る。釘は?」

 

「残り少ないです。ガスボンベも、使ってない奴が一本ありますけど。」

 

「よし。上出来だ。」

 

にしても、予想通りになったな。GPSで調べてみたが、案の定、床主のあちこちで渋滞が多発していた。今のペースでは一時間に一キロ、と言った所だな。すると、突然外で発砲音が聞こえた。警察が発砲を開始したのだ。今でも拡声器からの警告が聞こえる。

 

『何があっても、車外に出ないで下さい!繰り返します、何があっても車外には出ないで下さい!』

 

だが、そのシリアスな空気をぶち壊したのは腹の虫の声だった。

 

「あ、あははは・・・・お腹空いた・・・・」

 

「このデブオタ・・・・・」

 

「ほらよ。とりあえずそれ噛んでろ。」

 

沙耶が睨んでるのを見て、俺は笑いを堪えながらガムを一枚差し出した。

「空腹感を一時的にだが誤摩化せる。後、全員今は少し休め。明日は恐らくかなり体力を消耗する事になる。」

 

ここは頃合いを見てバスを捨てる必要があるか。いざとなれば、紫藤一派の奴らを皆殺しにする事になるが、これはあくまで最終手段だ。流石に十年以上も戦争から離れていたから、意識的にしろ無意識的にしろ、心がそれに馴れてしまっている。

 

「静香。大丈夫か?」

 

運転席の中で強張ったままだったから、緊張を解してやる為に両肩と首筋を揉んでやる。思った通り、ガチガチに凝っていた。こら、そこ、胸がデカイからだろうとか言わない。収納されていた座席を展開し、隣に座ると、静香は俺の肩に体を預けて来た。腰に手を回すと、俺の頬にちょっと湿った何かが当たる。見なくても何かは分かってるが。

 

「ごめんな、遅くなって。」

 

「良い。来てくれたから。」

 

「俺が運転するから、少し寝てろ。」

 

運転席に腰を下ろすと、ポケットから携帯を引っ張りだした。普通なら電波は良好な筈なのに、この時ばかりは圏外一歩手前と言う程にまで悪化していた。やはりそれだけ警察に通報が行っているんだろう。片手で携帯を操って、メールをリカに打ち始めた。

 

『静香と合流した。

学園の生徒数名とチームを結成。

これからマンションに向かって武器の調達をする。

連絡を待っている。』

 

簡潔に状況とこれからの計画を手短に打って送信を確認すると、携帯の液晶から道路に目を戻した。渋滞はやはり全く改善されない。この調子じゃ街から出る前に衰弱でくたばる奴が出て来るぞ。それに、腹が減り、喉が渇いた奴がいつまでもそれを抑圧出来るとも思えない。車から出て食われるのがオチだな。

 

「ふーー・・・・」

 

ポケットからラスト一本の煙草を拉げた箱から取り出して着火すると、ゆっくりと煙を吐き出した。基本はすわないんだが、今回ばかりは一本やらなきゃやってられん。




感想でも言われました通り、改めてオリ主が使う武器のアンケートをやりたいと思います。あまり強過ぎる兵器、かさばる様な物などはNGです。実際に存在する武器も出来る限りだしますが、全部は無理です。


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新機能

朝方になると、俺のポケットの携帯が震えた。リカからのメールだった。

 

『了解。しばらく空港からは動けないみたい。連絡はこれから出来る限り取って

 

孝を軽く揺すって起こした。

 

「どうし」

 

俺は慌てて彼の口を手で塞いだ。

 

「このままバスに乗って橋を渡るのを待っていても埒が空かない。俺のマンションに行こうと思ってる。そこなら暫くは安全だ。チームの皆を起こせ。静香を起こすにはちょっとコツがいるんでな。」

 

「分かりました。」

 

俺の肩を枕に涎垂らしながら眠ってる静香の顔を自分の方に向けると、そのままキスした。当然ながら舌も口の中に差し込んでやる。朝に弱い奴(当然静香とリカに限るが)には丁度良い薬だ。リカは兎も角、静香は普通に起こしたら十五分前後は寝ぼけたままだからな。それに、こんな状況で寝ぼけてたら命が幾つあっても足りない。

 

「んーー!んーーー!」

 

お、起きたな。よし。舌を引っ込め、唇を話してやる。

 

「目が覚めたか?準備しろ、バスを出る。」

 

涎が俺と静香の唇の間で糸を引いていたが、直ぐに切れた。

 

「もお・・・・・馬鹿。起き抜けは駄目って言ってるのに。」

 

静香は目元を赤くして口を抑えた。

 

「うわぁ・・・・すご・・・」

 

麗の奴は起き抜けにそれが目に入ってしまったらしく、完全に目を覚ましていた。まあ、ガキには多少刺激が強い光景ではあるな。沙耶の奴顔真っ赤にしてそっぽ向いてやがる。

 

「全員起きたな。今から俺達はバスを捨ててここを離れる。孝と俺は前衛、冴子と麗はそれぞれ静香と沙耶をカバー。可能な限り動き続けろ、一々全員を相手にする必要は無い。コータ、後ろを任せる。いざとなれば、分かってるな?」

 

「サー、イェッサー!」

 

ネイルガンを左手に敬礼をした。敬礼が様になる高校生がいるとはな。それにこいつ、銃を渡してからノリノリだ。昨日コータから貰った余分なガスボンベがしっかりとポケットに入っている事を確認すると、マイクロバスのドアを開けて出た。時には小走り、時には全力疾走で死人共の間を駆け抜け、只管にマンションを目指した。俺はグループの十数歩先を行っていたが、途中一人に足を掴まれた。

 

「離せよ。」

 

素早くあのマシンピストルを引き抜くと、奴の頭をぶち抜いた。乱暴に足を振って手を振り払う。すると、偶然俺はグリップに付いているトリガーとは違うスイッチを押してしまった。ギアが回転する様な音が聞こえ始める。グリップの中にマガジン部分が収納されて行き、銃身から反りが無い刀身らしき物が伸びた。試しに擦れ違い様に適当な奴に向かってその剣を振り下ろす。まるで紙でも切るかの様に左腕を切断した。

 

「すげえ・・・・・」

 

これから先、コイツは有力な切り札になる。遠近一体の武器とは、架空の世界にしかない物と思っていたが、その空想の産物が今俺の手の中にあると思うと、震えが止まらなかった。自然と、ヘルメットの奥でニヤリと顔がほころぶ。向かって来る奴らをまるで雑草の様にバッタバッタときり倒して行く。銃弾も無駄にせずに済む。

 

「滝沢さん!大丈夫ですか?それに武器は・・・・・」

 

「ああ、俺も詳しくは知らないが、コイツは剣にも変形する銃らしい。お前達と合流するまではこれをずっと使っていたが、全く弾切れを起こす兆しが無い。こっちだ、行くぞ。」

 

だが、角を曲がった所で俺は下がって手を頭の辺りまで上げて拳を握った。唯一コータが俺の言わんとする事に気付いたのか、追い付いた全員を引き止めた。やっぱりこいつはプロの傭兵になれる気がするぜ。

 

「凄い数・・・・この道は通れないわね。」

 

そう、俺が普段使う近道のルートはざっと数えただけでも二十体前後はいたのだ。麗はそれを見て悔しそうに頭に手をやった。だが、辺りには横転したり、鎮座したままの車が何台かある。

 

「俺が手で合図したら来い。それまではここにいろ。ハンドシグナルの意味はコータが知ってる。」

 

俺は足音を殺して剣に変わったマシンピストルを銃に戻し、そこら辺にある車のエンジンやら燃料タンクを狙って撃ちまくった。二、三度の爆発で火が死人どもに燃え移って行く。更にガスボンベを爆発に巻き込まれなかった奴らの方に投げつけると、後ろから来た乾いた破裂音の直後にボンベが爆発した。

 

「ナイスショット。」

 

手で合図を送ると、全員がそれぞれのポジションを保ちながら残り僅かとなった奴らを殲滅した。これで進める。今の所トントン拍子で事が進んで行く。幸先は良さそうだ。

 



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安住 part 1

いやいや、UA、総合評価、お気に入り件数が物凄い事になってます。読者の皆様、後悔評価をして下さった皆様、本当にありがとうございます。では、七話です。どうぞ。


徒歩での移動を開始して約一時間が経過し、マンションが見えて来た。<奴ら>(孝達がそう呼んでいる理由を聞いて俺もそうする事にした)は相変わらず道の邪魔をして来る。

 

「キリが無いな・・・・」

 

だが、幸いと言うべきか、丁度八体いる。左腰のホルスターからリボルバーを引き抜き、前進しながら一体ずつにマグナム弾をお見舞いした。ゲーム並みに呆気無く脳味噌を吹っ飛ばされた<奴ら>はバタバタと倒れる。銃口から立ち上る硝煙を吹いて霧散させると、シリンダーから薬莢を抜いた。

 

「ス、スミス&ウェッソンのM327八連リボルバー・・・・!!ネットでしか見た事無いけど、スゲーーーーーー!!!」

 

ガンマニアめ、感心してる場合か。ロッカーの中身見たらコイツ発狂するだろうな。

 

「今のは結構響いた。もっと来る前に走れ。」

 

マンションの鍵を開け、全員が入ると、再び施錠をした。全員をリビングに上げると、それぞれ椅子に座ったり、地面に寝転んだり、ソファーに体を預けたりして溜め息をついた。一先ず安全だな。

 

「さてと・・・・・静香。」

 

「何?」

 

「とりあえず女子連れて風呂入って来い。風呂場は広いから全員入っても広い。服は洗濯機に放り込んでろ、洗うから。」

 

「うん・・・・」

 

「さてと。」

 

まずは飯の支度だな。俺はとりあえず肉やら卵、魚等の冷凍保存しないと腐る食材を冷蔵庫から引っ張り出した。本格的にやるのは久し振りだな。

 

「滝沢さん、何してるんですか?」

 

「あ?見りゃ分かんだろ?全員分の飯作ってんだよ。電気や水は現代社会では生きる為のライフラインだ、使える内に有効活用する。それに、ここにはそう長くはいられない。コータ。」

 

「は、はい!」

 

「椅子にかけた俺のジャケットの左内ポケットに鍵束が入ってる。左から三つ目の鍵で、あのテレビの隣にある右側のロッカー二つを開けろ。中にライフル二つ、ショットガン、後は弾薬とクロスボウが入ってる。マガジンに弾詰めとけ。孝は食器出して飯の支度を手伝ってくれ。流石に七人分の飯の準備は骨が折れる。それが終わったらコータに手を貸してやれ。」

 

「分かりました。」

 

簡単に作れる全員用の料理って言ったらカレー位しか無いからな。とりあえず保存が利かない野菜やら肉を刻んでぶち込んだ。そこら辺にある香辛料も適当に入れると、まあ良い匂いがして来た。自分で言うのもあれだが、味見してみると結構美味い。飯が炊けるまでは時間が掛かるし、女子は風呂が長いからまあ大丈夫だろう。適当な付け合わせも幾つか出来た。

 

片付けを済ませると、自室のノートパソコンで情報を集め始めた。どうやら日本だけじゃなく、ヨーロッパやアメリカでも同じ様なことが起こっているらしい。俺はいよいよ心配になって来た。ゾンビ映画の大半では電力や水道はダウンせずに登場人物達が使える状態にあった。だが、この世界は映画じゃない。世界中でこんなことが起こってるなら、核戦争だってありえる。もし核兵器をぶっ放されたら黙示録の何百倍も悲惨な事になる。

 

「こりゃあ、いよいよまずいな。」

 

更に最近の兵器は使われる側に回るとかなり面倒だ。原爆とミサイルもそうだが、こんなパニック状態の社会に一番の大ダメージを与える兵器はEMP、電磁パルス。電気を使う物の大多数を只のがらくたに変えてしまう。生きる為のライフラインと、情報入手・伝達の手段を一気に失ってしまう。

 

「対策が無い訳じゃないが、EMP対策をしてる所なんて限られてるからなあ・・・・」

 

そんな中、段々と風呂場が騒がしくなって来た。集中出来ねえ。パソコンの電源を落とすと、俺は浴室に繋がる洗面所でドアをノックした。

 

「お前ら、仲良くふざけ合うのは結構だが、 そろそろ飯が出来上がる。着替えは静香やリカの物があるから、それで今は我慢してくれ。」

 

返事を待たずにコータがどうしてるか見に行ったら、思った通り鼻歌混じりでマガジンに弾を込めていた。孝はそれを苦笑しながらも手伝っている。

 

「よう、楽しそうだな。」

 

「滝沢さん、これどこで手に入れたんですか!?マジヤバな銃ばっかりですよ、これ?!このM1A1の装弾数とか、全部違法ですよ違法!?」

 

目の色変わって輝いてるし、鼻息も荒い。エクスタシーでも摂取したみたいだ。そんなに実銃に触れて嬉しいのか?

 

「ああ、まあな。俺がSATの現役時代にコレと海外で買い物に行って、それを分解して自宅に速達で届けた。殆ど俺が払わされたが。結構良い物が手に入ったぜ?」

 

小指を立てて答えてやる。実際部品を組み合わせて銃を組み立ててこそ本当に違法になる微妙な所なんだがな。鍵を返還してもらって俺のロッカー二つを開けると、中からモスバーグM590A1を取り出した。

 

「俺の相棒だ。」

 

「銃剣を付けられる軍用モデルのモスバーグ!!ライトもシェルホルダーも付いてる!!それに滝沢さんのホルスターに入ってるそれはシグザウエルP226X6 LW!マンションに入る前のM327も・・・・あ〜〜〜〜、俺もう死んでも良い。ここは天国だ。」

 

何を大袈裟な。

 

「基本銃の扱いと誰にどれを使わせるとかはお前に任せる。だが、本当に必要になるまで絶対使うな。音で<奴ら>が寄って来る。それと、飯の用意が出来たから食いに来い。」

 

しばらくしてからようやく全員が揃い、食事が始まった。

 

「量もあるし、物によったら多少ヘビーかもしれないが、丸一日何も口にしていなかっただろ?作れるだけ作った、好きなだけ食え。」

 

「圭吾のご飯美味しいんだよ〜。」

 

ほくほく顔で静香は小躍りしながらバスローブ姿の沙耶、麗、そして冴子の三人を食卓へ押しやった。

 




感想、評価、誤字脱字の報告、こうして欲しい、等と言うお声、お待ちしております。


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安住 part 2

お待たせしました。話数ストックの作業をしていたので投稿が遅くなりました。どうぞ。


暫くは食器と咀嚼の音しかしなかった。よっぽど腹が減ってたんだな。特に麗と冴子は武術の有段者でもあると言う事もあってか、孝や俺と同じ位の量を食べていた。

 

「あ”ー・・・・美味かった・・・・」

 

「本当。先生羨ましい、料理美味い人が彼氏なんて。」

 

麗も口元をナプキンで拭いて自分の食器を流し台に運んだ。食後の一服にコーヒーやら紅茶が振る舞われている。

 

「滝沢さん、実際の所どうなんですか?先生とは。」

 

期待に満ちた顔で俺の方を見るな、麗。昼ドラの登場人物じゃねえんだよ、俺は。何修羅場を欲してやがんだ。

 

「あー・・・・言ってしまえば、」

 

「うん、」

 

「「双方合意の上での二股かな?」」

 

俺と静香は顔を見合わせて頷き合い、口を揃えた。実際そうなのだ。今の所、特に問題が無い為そのままにしていた。しかも俺とリカ、そして静香の『初体験』が3Pだったからそう言う協定が出来てしまったのだ。

 

「合意の上での二股って・・・・ヌルいエロゲじゃあるまいし。」

 

沙耶が半ば呆れた様子で静香を見やる。まあ、確かに普通やる様な事じゃないからそう思ってしまうのも無理は無いが。

 

「良いんだよ。さて、飯も食ったし、空腹も収まった所で次の話だ。」

 

俺は自分のマグに入ったコーヒーを飲み干して更に続けた。

 

「今はここを一時的な拠点にする。食料も水も、ネットからの情報も手に入る。だがその次のプランが必要だ。ここにいても、いずれ物資は尽きる。誰か使える場所の心当たりはあるか?」

 

「あ・・・・あります。高城の、沙耶の家なら。あそこ、かなりデカいし。」

 

「そ、そうね!パパとママなら何とかやってる筈よ。」

 

おお、名前で呼ばれた事に反応したのか目元が少し赤い。はは〜ん、こいつ麗と同じで孝に惚れてるってクチか。

 

「高城のご両親は一体・・・?」

 

「右翼団体、憂国一心会のトップよ。」

 

冴子の質問に沙耶がさらりと答える。一心会か。百合子さん元気かな〜。

 

「決まりだな。そこに向かって出来るだけの間そこにいよう。出発は明朝、今は各自ゆっくり休め。ここの物は好きに使ってくれて構わない。だが、注意事項が幾つかある。遵守しなければ俺達全員が危険に晒される可能性だって僅かながらあるんだ。一つは、カーテンを閉める事だ。外界の生き残ってる奴らは俺達の加護に預かろうとするだろう。だが当然、俺達は全員の面倒を見切れる程余裕が無い。互いの、そして自分の身を守るだけで精一杯だ。二つは、夜には灯りを消す事、理由は同じだ。以上、解散。」

 

さてと、着替える前に風呂にでも入るか。脱衣所で服を脱いで冷水がシャワーヘッドから噴き出した。汗でべたついた時にはこれが一番の薬だ。床に座り込んで胡座をかくと、背筋から水が流れ落ちる。

 

「あー、気持ち良い〜。」

 

・・・・・とは言った物の、やっぱりきついな。撃発音と共に脳味噌やらが吹っ飛ぶあの光景は、傭兵を始めてまだ日が浅い頃を思い出す。初めての仕事で送られたのは、あろう事かソマリアだった。その時の任務は、海賊退治。何故かは分からないがヨーロッパの貿易会社が輸出を急ぎたかったらしく、奴らの縄張りであろう海域を突っ切る自殺ルートを通ると言って聞かない。小隊(約三十人)三つを雇い、運悪く俺はアルファチーム、つまり第一の遊撃部隊に配属された。波の所為で照準は定まらないから、銃撃なんて碌に当たらず、向こうは馴れた様子で回避し、マシンガンやRPGなんかをぶっ放して来る。

 

最終的には傭兵全部隊の約三分の一が負傷、または死亡したが、仕事はしっかりこなして一小隊に付き百万、合計三百万ユーロがキャッシュで支払われた。ドルに変えたらものすげえ額になったっけ?あの時、正直海にいて良かったと思う。恥ずかしい話、俺はあの時ビビって失禁していた。と言うのも、俺は一際デカい波で船から落っこちてしまい、偶然海賊のモーターボートのヘリに掴まって乗り込むと、ソイツらを殺してボートを奪った。だが、奴らの中には、ガキが一人いた。十歳にもならない様なガキが俺に銃を突き付けて来たのを、俺は咄嗟に持っていたライフルを棍棒の様に振って頭をかち割り、死体を海に蹴り込んだ。それからの事は朧げにしか覚えていない。設置されたマシンガンで海賊達を船から引き離し、RPGや手榴弾で二艘ほど吹き飛ばした。気付いた時には本船のデッキに引き上げられて傷の手当を受けていたが、あの瞬間は忘れない。

 

「圭吾、どうしたの?そんなに冷たい水浴びてたら風邪引くよ?」

 

いつの間に入ったのか、タオルを巻いた静香が冷水の温度を微温湯に上げて俺の後ろに座っていた。

 

「静香・・・・お前、もう風呂入ったのにまた入ってどうするんだ?」

 

「圭吾と入りたかったの。それに、食べてる時もずーっと暗い顔してたんだもん。」

 

「何時もこう言う顔だよ、俺は。よっぽどの事が無い限り表情が変わらない事位知ってるだろ?それに、一日足らずで世界は壊れたんだ、暗くもなるさ。それ以上に、心配なんだ。俺は言うなればお前を助けに行った成り行きでチームの一人となった。この先、お前を守れるかどうか、リカが無事か否か。解消したくても出来ない問題が山積みだからな。」

 

水を止めると、俺は静香に連れられて自分の部屋に行った。掛け布団やシーツ、枕があちこちにあるが。そう言えば、そのまま静香助ける為に出て行ったんだっけ?

 

「悩みまくってたら白髪増えるよ?ほら、疲れたんだからさっさと寝る!今日は大変だったんだから。丸一日寝てないし!」

 

ボーンと俺をベッドの上に突き飛ばした。

 

「大変はお互い様だろ。悪いな、運転は俺が行くまで殆ど任せっきりで。お前も寝ろ。」

 

「ん、そうする。」

 

僅かばかりの休息を得る為に、俺は目を閉じて以外と直ぐに眠りについてしまった。

 




はい、と言う事でした。リクエストで若干無理矢理感がありますが、FMG9を出せました。ダネルMGLはこう言う状況ではかなり使える気がしましたのでこれも(無理矢理)入れました。感想、評価、お待ちしております。それでは。


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計画変更

今回は圭吾が重火器でちょい暴れます。今回も短めです、すいません。


かなりの間眠っていたらしく、俺が目を覚ました頃には既に夜になっていた。静香はまだ寝ている。そりゃそうか。まあ出来る事つったら、静香を守って<奴ら>を可能な限りぶっ殺す事位しかないからなあ・・・・・・

 

起き上がると、俺は着替えてロッカーを開けた。そして絶句した。入れた覚えが無い物が入ってるんだから、そりゃそうだろ。しかも開けた瞬間中身が雪崩の様に零れ落ちてきたし。それに、厳重に鍵をかけていた筈なのに物が入っている。荒らされた形跡も、鍵を壊した痕跡も無いのに。とりあえず整理して行くと、入っていた物は回転式グレネードランチャー、通称ダネルMGL、更にはマグプル・インダストリーズが作ったサブマシンガンFMG9だった。残りは全て四十ミリグレネード弾頭やマガジン、そして弾薬だった。

 

「まあ、広域殲滅は楽になるな。」

 

とりあえず弾は籠めておいて使える様にしておこう。

 

「・・・・ってどうするつもりだ?」

 

「決まってんだろ!あれを放って置けるか!」

 

「うるせーぞ。何の騒ぎだ。」

 

ベランダ付近で言い争ってる。この声は・・・・コータ、と孝、後は冴子か。お、コータは見張りか。感心感心。流石は軍オタ、踏査もしっかりやってやがる。って冴子は何つーカッコしてんだ、AV女優じゃあるまいし、裸エプロンて。まあ、罰ゲームで一度は誰かさんにやらせた事はあるからな。

 

「滝沢さんも何か言って下さいよ!この状況見て何とも思わないんですか?!」

 

「おい、俺が朝に言った事、もう忘れたのか?」

 

俺は孝を顰めっ面で見る。まあ、助けたいと言うのは分からなくもないが・・・・

 

「俺達は地球上の生存者全員を救う事なんて出来やしない。助けたいと思うのは悪くないさ、それが普通だ。だが、まずは俺達が生き残らなきゃならない。」

 

「けど」

 

「お前、自分が殺される一歩手前で、他人の心配なんか出来るのか?」

 

尚も食い下がる孝にシースに収まったままのナイフを向けて聞いた。

 

「それに、銃声は響くし、灯りや俺達の姿も人を寄せ付ける。いざとなれば俺が対処するが、所詮俺も一人の人間、全員を相手には出来ねえ。早いとここの世界に馴れろ。秩序なんて物は既に消えた。コータ、俺達がいる、ここは何だ?」

 

「和平交渉も、降伏も無い、戦場です。」

 

「その通りだ。孝、お前はどうか知らないが、俺は和平交渉や降伏は嫌いなんだ。負けを認めるなんて男がする事じゃねえからな。さてと、俺は自分の武器の準備をしますかねー。冴子、服はもう乾いてるからいい加減着替えて来い。」

 

「分かりました。」

 

「ああ、ところで、他の奴らはまだ寝てるか?」

 

「今の所は。」

 

「そうか。分かった。あいつらの分の服も出しといてくれ。」

 

「滝沢さんは兎も角、毒島先輩は違う考えだと思ってました。」

 

未だにグダグダ言う孝。

 

「誤解はしないでくれ。私とて気分が良い物では無い。だが、滝沢さんが言った様に世界は変わってしまったのだ。最早男らしくあれば生き残れる様な時では無い。」

 

俺はロッカーからモスバーグのショットガンを取り出してシェルをチューブマガジンに押し込み、薬室に一発送り込んだ。もう一発をチューブに入れると、ストック、銃身、そしてスリングベルトに設けたシェルホルダーにもシェルをセットした。後はポーチに入れられるだけ入れて、セーフティーを掛ける。これでこっちの準備は良しと。

 

他の銃も同じ様に準備し、予備弾もすぐ取り出せる所に持てるだけ持った。リボルバーとローダーは左腰、ナイフ二本は左足、シグとマガジンは右腿、シェルポーチは右腰、マシンピストルは左脇、そしてショットガン。残った武器はまあ、車にでも積み込もう。頭の上にサングラスを乗っけると、静香を起こしに行った。いつも通りのやり方でな。

 

そんな時、束の間の日常を一気に打ち破る音がした。その音とは、銃声。ベランダからの一発の銃声だった。あの阿呆共が。

 



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Break! GO!

今回は長めに書けました、ありすちゃん&ジーク救出編です。今回のタイトルも曲名です。DA PUMPの曲でお気に入りです。では、どうぞ。

UA遂に一万突破、総合評価も五千を超えました。読者の皆様、評価して下さった皆様、重ね重ねお礼を申し上げます。特に新しく高評価を下さった謎の通行人Bさん、そしてseekさん、ありがとうございます。御陰様で評価が7.5にカムバックしました。


「おい、コータ!何やってる?」

 

「あ、あそこで、女の子が・・・・・小室が助けに行くって。」

 

不機嫌丸出しの俺を見て歯切れ悪そうに言うコータ。つーか、そのミリタリージャケット、俺のだぞ。しかもそのシャツ、どこから引っ張りだして来たんだよ?今時『八つ墓Village』のプリントが入ったシャツなんか着てたら奇人扱いされるぞ?

 

話が逸れたな。双眼鏡を覗くと、確かに小学生位の子供が泣いているのが見える。倒れているのは保護者だろうな、可哀想に。

 

「助けに行く?どうやって?言っておくが、今の一発で予定が大幅に変わってしまったんだぞ。明日早朝で河の向こう側に渡ろうと思っていたのに・・・・あーまあ、やっちまった事はしかたねーか。」

 

「すいません、どうもこう言う性格で。」

 

下に降りると、出る準備をしている孝が苦笑していた。全くどいつもこいつも。俺は溜め息をつくと、鳩尾に拳を叩き込んだ。そこまで強くはやらなかったが、息が詰まる位の威力はある。軽く咳き込んでいた。

 

「 謝らなくても良い。だが、二度とこんなふざけた真似をするな。やるんだったらお前が一人でやれ。仮にお前がしくじっても、俺はお前を助けには行かねーぞ。そもそもどうやって向こう側まで渡って戻るつもりだ?<奴ら>を一人ずつ倒していては・・・・」

 

そこで俺は口を噤むと、ニヤリと笑った。アレがあったじゃねえか。

 

「ちょっと待ってろ。」

 

俺は玄関先の下駄箱の上に立てかけてあるコルクボードにかかってる防犯ブザーを外して孝に渡した。随分前に何かの集会で配っていたのを貰った覚えがあるが、こんな所で役に立つとはな。

 

「孝、せめてこれ持って行って。」

 

麗がエアーウェイトを孝に渡す。俺はそのまま上に戻ってダネルMGLの弾を込めると、狙いをつけて最も<奴ら>が密集している所に丁寧にグレネード弾を発射した。効果範囲は俺が思っていたよりもかなり広く、二発位で<奴ら>ごと壁の一角を吹き飛ばした。孝は乗り捨ててあったマウンテンバイクでそのまま先を急ぐ。コータの狙撃と俺の擲弾による爆撃で道はかなり開いたらしく、その子を乗せて急いで取って返して来た。後ろから垂れ耳のワンコが全速力で付いて来てるのが見える。そして戻りながらも、後ろに向かって電源を入れた防犯ブザーを全力でぶん投げた。けたたましいアラーム音は当然奴らを引きつけ、狙い通り<奴ら>を孝とマンションから引き離した。

 

「やった!」

 

「ああ。コータ、ナイスシューティングだ。もう暫くここに残れ、念の為に。」

 

装填したグレネードの最後の一発を撃つと、再装填を済ませて俺は中に戻った。

 

「静香!女子全員と荷物をハンヴィーと俺のジープに積み込んでくれ!積み終わったらコータに合図だ!予定が狂ったからさっさとここを出るぞ!」

 

「わ、分かった!」

 

俺は自分で作った荷物を持ち、下に降りた。とりあえずそれを運転席に放り込むと、丁度孝が戻って来た。

 

「お前、やるな。」

 

「どうも・・・・」

 

「彼女も乗せろ。数は粗方減った。ハンヴィーで突破しても問題は無さそうだし。」

 

下に降りると、沙耶が懐中電灯でコータの顔を照らす。ハンヴィーの方には俺以外の全員が乗った。

 

「静香!突っ切れ!」

 

アクセルを踏み込み、俺達は大量の<奴ら>を轢殺しながらマンションを後にした。

 

行き先は、勿論沙耶の実家・・・・一心会の本拠地だ。

 

俺の先導に従ってハンヴィーが後ろから来ている。床主大橋も御別橋も使えないとなると、河がまだ比較的に浅い所を通るしか無い。一旦止まると、ルーフを開けて行く方向を示した。渡る事自体は比較的簡単だが、地面を走るより少し遅いと言う位だ。

 

「Shoot, shoot, shoot your gun, kill them all now〜♪」

 

何かマザーグース調の物騒極まる替え歌が聞こえて来るが、まあ、気にしないでおこう。双眼鏡片手に見張りをやってる沙耶が直ぐに止めた。それを聞きながら携帯を引っ張りだすが、やはり圏外だ。面倒だな、まだ連絡がつかないなんて。向こう岸に着くと、まずは敵影の有無を確認。無しと。全員が下車した。

 

「さてと。」

 

俺は自分の荷物を持って背筋を伸ばしながらハンヴィーの方に近付いてトランクを開けた。ジークが俺の臑にに前足を置いて、俺の顔を見上げる。俺が気に入ったのか?まあ、とりあえず頭とか耳の後ろ、顎を撫でると、甘えて来た。尻尾も凄い勢いで振ってる。

 

『クゥン・・・・ワゥ、ワゥ!』

 

それは兎も角。

 

「コータ。銃はどうする?流石に腕は二つしか無い。俺とお前じゃ全部の面倒は見切れない。只の重荷にしかならないぞ。かと言って使わずにいるのは宝の持ち腐れだ。」

 

「じゃあ・・・・んーっと・・・・小室、宮本さん、ちょっと。」

 

「何?」

 

「どうした、平野?」

 

「お前らに銃を貸してやる。ありがたく思え。」

 

孝にはM-37ライオット、麗にはM1A1を渡した。

 

「さてと。このグループ内では俺とコータ以外、プロの指導の元で銃を扱った経験は皆無だ。正直言うと、お前らに銃を渡すのは気が引ける、絶対弾がいくらか無駄になる。」

 

「ああでも、小室は兎も角、宮本さんなら銃剣機能付きのM1A1を槍に見立てて使えますから。」

 

「う・・・・」

 

お、何か心にダメージを負ったな、孝。いと哀れ、と、言ってやりたい所だが事実である以上何も言えまい。

 

「そう言えばモップを槍みたいに使ってたのはそう言う訳か。知らなかったなあ。」

 

「はい、父が警察の公安で働いてて銃剣術を教わってたんです。」

 

得意気に胸を張る麗。今更ながら疑問になって来たが、何で内のグループの女はこうも悩殺ボディーの持ち主が多いんだ?まあ、静香には勝てないだろうが。

 

「そうか。なら、たとえ撃てなくてもまあ自分の身は守れるって事だな。よし。コータ、ライフルに銃剣付けてやれ。後、念の為撃ち方もレクチャー頼む。」

 

「はい!」

 

手荷物からナイフを引っ張りだしてシース後と投げ渡すと、孝に向き直った。

 

「 孝、 俺は説明が嫌いだ、一度しか言わないから良く聞け。ショットガンは散弾を散撒ける、近距離では威力が高い銃だ。この銃身の下の動く部分、フォアエンドを一往復させると、散弾が送り込まれる。やってみ。」

 

実際に持たせてやらせてみた。

 

「これで、弾が入ってる場合撃てる状態になる。狙いをつけて<奴ら>を撃て。一回構えて見せろ。」

 

左手はフォアエンド、右手はグリップ、基本的な持ち方は間違っちゃいないが、まだ甘いな。所々が雑だ。

 

「反動が強いからそんな構えじゃ肩が外れるぞ。もっと脇を閉めて上半身を突き出せ。後、いくら構えが良くても撃った時の反動の強さは変わらない。特に素人のお前は照準がブレるだろうからな、スコープのドットが胸辺りまで来たら撃て。密集してれば三、四人は吹き飛ぶ。弾を込める時はトリガーの手前にある、この部分に弾を押し込め。だが薬室を加えて五発しか入らないから手近にいる奴らだけを狙えよ?弾切れならその金属バットを使う事を推奨する。絶対に銃を棍棒代わりに使うな。」

 

銃ってのは女や車と同じで、しっかり丁寧に扱えば向こうもそれ相応に応対してくれると言うのが俺の持論だ。意志を持たぬ物とは言え、自分の身を守ってくれる武器だからな、それ位の敬意は最低限払うべきだ。

 

「は、はい・・・・」

 

この様子じゃ全然分かってねえな。ま、後でしっかり指導してやるか。その内嫌と言う程馴れる事になるだろうし。

 

「男二人!ハンヴィーとジープ上げるから、安全確保!」

 

「イエス、マァム!」

 

相変わらずだな、あいつは。俺はジープに戻って行ったが、犬が付いて来た。確か、ジークって名前付けたんだっけか?ゼロ戦にちなんで。助手席に行儀良く座ってる。二人が上に上がり、再び敵影の有無を確認した。

 

「クリア。」

 

「良いぞー!」

 

まず俺が四輪駆動に切り替えて坂を登った。途中コータの悲鳴が聞こえたな。ラットパトロールがどうとか。一応避けはしたがな。

 

「チュニジアにいるのかな、俺・・・・」

 

それを聞いた俺は思いっきり笑ってしまった。その歳でラットパトロールとかチュニジアとか・・・・・あーやべえ、久々に爆笑したぜ。

 




いかがでしょうか?感想、評価、質問等、お待ちしております。それでは、また次回まで。


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The Enemy

今回はも少し長めに書く事が出来ました。では、どうぞ。


「河で阻止出来た・・・・・訳じゃないみたいね。」

 

沙耶が双眼鏡を覗いて辺りを見渡しながら呟いた。

 

「世界中が同じだと、ニュースで伝えていた。」

 

「でも、警察が残ってたらきっと・・・・」

 

「大丈夫よ。日本の警察は仕事熱心だから。」

 

心配そうな麗を元気付ける沙耶。

 

「皆、これからどうするの?」

 

静香が運転席から頭を乗り出して来た。

 

「とりあえず計画としては、沙耶の家に行く予定だが・・・・もしかしてあのデカい要塞みたいな家がそうか?」

 

「ええ。」

 

「ここからは一番近いですから、まずはそこに行きましょう。」

 

友人同士ならそう言う事も分かるってか。ま、孝がそう言うなら間違い無いだろう。

 

「決まりだな。後、何人かジープの方に乗れ。流石に全員はハンヴィーの中には収まらないだろうし、万一振り落とされでもしたら死亡確定だ。コータ、ほれ。」

 

警察の無線機をちょこっと弄って作った即席のトランシーバーを渡した。

 

「これで車間での連絡が取れる。行くぞ。」

 

ジープの方には沙耶、孝、ジークそして昨日助けた小学生、たしか、ありすだったか?まあ、後で聞けば良いか。兎に角、俺を含めた四人と一匹が乗って先導した。車内が静かなのは面白くないので、俺は内蔵されているCDプレイヤーの電源を入れた。リズム感が良い英語のラップが流れ始める。実は俺が動画等をmp3に変換してCDに焼いているのだ。サングラス掛けて膝丈のジャケット、更には武装、もうまるっきりヒットマンだ。

 

天気は快晴、開いた窓から吹き込む風が気持ち良い。ルーフを開けて小室はハンヴィーに乗ってるコータ同様、見張りをしている。

 

「うわぁ〜〜、おっきいバイクが沢山ある〜!」

 

「あそこは輸入物とか軍の払い下げがある。このジープもあそこで買ったんだ。」

 

助手席に座ったありすはジークを膝に乗せて道路脇のモーターショップを見てはしゃいでいた。

 

「滝沢さん、前から聞こうと思ってたんだけど、あんた何者?」

 

いずれは来るだろうと思っていたが、まさか沙耶からとはな。

 

「どう言う意味だ?」

 

「馴れ過ぎてるし、順応が早くない?普通こんな状況に置かれてるのに冷静な判断で的確な指示を出せる人間はいないわ。それこそ、軍人でもなければね。」

 

「この手のB級映画は結構見てたからな、大体何をすべきか、何が必要かは分かる。後、忘れてるかもしれないが、俺は元SAT隊員、突入部隊の隊長をやっていた。ある時期俺の行動が問題になって首を切られてね。」

 

「行動?」

 

「基本的に日本はアメリカみたいに犯罪者を見つけたら即発砲、なんて事はしないだろ?俺の場合は、突入時に出くわす奴全員が銃を向けて来るから撃ってる。上の奴ら、発砲許可出しておいて殺すな、なんて生温いと思ったんだよ。銃は傷つける為じゃなく、殺す為に作られた道具だ。立てこもり、人質事件、ジャック事件、こう言う物に俺は常に駆り出されて、突入の都度犯人グループを皆殺しにした。今更殺す人数が増えた所で、何も変わらん。寧ろ、もの言わぬリビングデッドが相手だから尚更気が楽だ。」

 

「滝沢さん!<奴ら>です!」

 

『右前方、距離、300メートル!凄い数です!』

 

ルーフの孝と無線機からコータがほぼ同時に叫んだ。

 

「右に行って!」

 

「了解。静香、右だ!」

 

急カーブを右折したが、ここにもさっき以上の数の<奴ら>がいた。

 

「ここもかよ、糞!」

 

「じゃあ、そこ左!左よ!」

 

「静香、次の角左だ!」

 

沙耶の言葉に従って運転しながら無線機に向かって怒鳴る。

 

「二丁目に近付く程増えてる・・・・」

 

「静香、隣に並べ!このままコイツらを押しのける!」

 

俺のジープとハンヴィーが並んで<奴ら>を吹き飛ばした。

 

「待って!駄目、駄目!止めてーーー!」

 

無線機から麗の叫び声が聞こえる。止まれ?何を言ってる?

 

「滝沢さん、前!ワイヤーが張られてます!」

 

「Dammit(畜生)!」

 

喋り馴れた英語で思わず悪態をついた。ワイヤーか・・・・流石に車は刻めないだろうがタイヤが危ないな。俺はハンドルを大きく切って車体を横に向けた。ハンヴィーも同じ様にドリフトして<奴ら>をワイヤーに押し付ける。ウィンドーに血飛沫が待ったが、咄嗟に沙耶がありすの目を覆う。その瞬間、ウィンドーが血飛沫で赤黒く汚れた。

 

「見るんじゃないわよ、ガキンチョ!」

 

「糞、数が多いな・・・・・戦闘開始だ。コータはハンヴィーからの援護射撃、冴子、麗、孝は近距離で近付く奴らを潰せ。こっちは非戦闘員が三人もいる。不必要にカバーする距離を伸ばすな、時間を稼ぐだけで良い。非戦闘員三人は荷物を持って、ワイヤーの上を超えろ。俺達が支える。」

 

リュックとショットガンを背負ったまま俺はジープを飛び出し、指ぬきグローブをしっかりとはめると、マシンピストルを引っ張りだして剣に変形させた。反りの無い真っ赤な刃が日の光に照らされてギラリと光った。FMGを右手に持ち、俺は深呼吸をすると、何百とも付かない大群との戦争に飛び込んだ。

 




はい、ここで一旦切ります。続きは後日、と言う事で(オイ)。他の銃も上手い具合に出せないかな〜、でも原作からはあまり脱線させたくないし・・・・まあ、兎に角頑張りますんで次回もよろしくお願いします。

感想、誤字脱字の報告、評価、お待ちしております。


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F*ck Dying

日間ランキングトップ20(現在17位)に食い込んだゼィーーーー!!年甲斐も無く思わず拳を突き上げてジャンプしてしまいました。本当に読者の皆様に感謝感謝、そして更に感謝です。

最近サブタイトルが曲名にしかならない・・・・何とか他の案も絞り出しますので、よろしくお願いします。


「うぉらああああああああああーーーーーー!!!」

 

正直に言うと、今の俺は自棄糞になっていた。左手には剣、右手にはFMG-9を携えて、獣の様な雄叫びを上げながら<奴ら>を薙ぎ倒して行く。傭兵時代に何度も逆境に立たされ、死にかけたが、俺は生き残り、それに打ち勝って来た。だが、今回ばかりは悔しいがヤバい。例えるならば、第二次世界大戦のウェーク島の戦い(アメリカ側)だな。いや、それよりも酷いか。FMGのマガジン内の弾が切れるが、やはり<奴ら>が減る兆しは無い。

 

「しゃーねー。とっておき使うか。孝!ジープの後ろにグレネードランチャーとグレネード弾がある!持てるだけ持って来い、ショットガンもだ!」

 

孝は走ってジープのトランクを開けると、ダネルMGLと予備のグレネード弾六発、そしてイサカM-37を持って来た。

 

「よし、実戦だ。撃ちたきゃ撃て。だが、無駄弾は撃つな。撃った分だけ仕留めろ。俺が言った事、覚えてるな?」

 

「「フォアエンドを一往復、胸を狙い、脇を締め、突き出す様に構えて、撃つ!」」

 

俺と同じ言葉を復唱した。ほう、全部頭に入り切っていなかったとばかり思ってたのに。これは認識を改める必要があるな。そう思いながら、ジープの上に登ると、<奴ら>をグレネードランチャーで吹き飛ばし始めた。当然、麗や冴子がいる所は避けた。

 

「はぁっ!!」

 

「セイッ!!」

 

気合いの籠ったかけ声で突き、殴り、薙ぐ。改めて間近で見ると、つええな、コイツら。

 

ちらりと非戦闘員三人組の静香、ありす、沙耶の順で向こう側に荷物を殆ど運び終わり、ワイヤーの向こう側に渡り始めたのを見た。だが、<奴ら>が一匹、俺達の包囲網を突破してしまい、最後尾の沙耶の足を掴んで引っ張り始める。

 

「は、離しなさいよ、この!!」

 

暴れた所でどうにもならず、力任せに引き摺り下ろされた。この時背中を車体に強かに打ち付けてしまう。俺じゃ間に合わねえ!

 

「孝!」

 

顎で沙耶の方を指し示した。

 

「やばい・・・沙耶!」

 

沙耶の足に今にも噛み付かんとする<奴>の頭に銃口を向けて頭の上半分を吹っ飛ばした。彼女を助け起こすと、向こう側に渡らせた。ん?名前で呼んだの初めてだな。

 

「大丈夫か?背中は?」

 

「だ、大丈夫よ!ほら、来てるからさっさと戦いなさい!」

 

残るは俺を含めた戦闘員五人か。

 

「やっぱり高台じゃなきゃこいつは使えないか。つーか、もう少し密集しろよ、使う意味が無くなっちまうだろうが。」

 

俺はそう愚痴りながら六発撃ち尽くすと薬莢を排出して新たにグレネードを入れ直した。

 

「圭吾!荷物、全部運んだよ!」

 

俺の以外はな。ここで死ぬ気は無いが、殿は年長者・経験者の意地としてやるしかねーか。

 

「コータ、冴子、麗、孝!お前らも早くワイヤーの向こう側に渡れ!」

 

「ラジャー!」

 

「はい!」

 

「承知しました!」

 

「良いですけど、でも、滝沢さんは?」

 

「年長者の意地って奴さ。行くまで俺が持ち堪えてやる。さっさとしろ、でなきゃお前を撃つぞ?」

 

車の上から飛び降りると、グレネードランチャーの薬室の残弾を撃ち尽くし、薬莢を排出した。ワイヤーの隙間にそれを滑り込ませて、バッグもワイヤーの向こう側に投げ込む。残りは百数十体前後か。死ななきゃ良いな、俺。

 

「圭吾!早くこっち側に来て!」

 

声が聞こえるが、度重なる撃発音と心臓がバクバク言う音でで上手く聞き取れない。FMG-9とマシンピストルの2丁撃ちで迫り来る奴らを撃ち殺して行く。俺とワイヤーの距離はどんどん縮まって来た。目測で言えば四、五メートル。俺の体力もそろそろ限界だ、大声張り上げながら剣を振り回すんじゃなかったぜ。FMGのマガジンも今入ってる奴を加えて残す所後二つ。隠し持つにはうってつけだが、取り回しが微妙だな。

 

「一旦しまうか。」

 

FMGを畳んでジャケットの中に押し込むと、マシンピストルを剣に変形させて両手で構えた。と言っても、反動で右手が痺れてるから力が入らないし、腕が殆ど上がらない。享年は以前と同じかよ。

 

「皆!その場で伏せなさい!」

 



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日常、再び

連続投稿だZE!原作では何故リカのロッカーに銃があったのかと言う設定を考えていたので、ちょっと難産でした。もしかしたら無理矢理感があると思う方も多少入るとは思いますが、そこは長い目で見て下さいm(_ _)m

ではどうぞ。


後ろから声がして振り向くと、消防の服らしき物を着た集団がどこからか現れ、肩に乗せたバズーカらしき物を<奴ら>に向けてぶっ放した。俺はジープの上に這い上がり、向こう側に飛び移った。当然バッグとその他の武器も向こう側に放り込んでおいたので回収しておく。

 

「危ない所を助けてくれて、本当にありがとうございました!」

 

静香が耐火服を着た連中に深々と頭を下げる。

 

「当然ですよ。娘と、娘を守ってくれた方々を放って置く等、義に反しますから。」

 

ヘルメットを取って顔を見せると、俺は開いた口が塞がらなかった。

 

「ママ!!」

 

沙耶は大きく顔を綻ばせると、母親に抱きついた。母親?あの人が?赤紫色の特徴的な髪の色。あれは、まさか・・・・・

 

「百合子さん?芹沢百合子さんですよね?」

 

「芹沢は旧姓ですが・・・・・貴方は・・・・あら。久し振りね、滝沢君。」

 

他の奴らに助け起こされて彼女の前に立つと、深々と頭を下げた。

 

「やっぱりか。お久し振りです。」

 

まわりがざわつき、沙耶も驚いた表情を俺に向ける。

 

「え、何?ママと知り合いなの?」

 

「昔ちょっとな。俺の親父がコータに負けず劣らずかなりのガンマニアだったから。銃の免許を持てる歳になってしばらくしてからリカにも紹介したんだ。それで彼女はライオットやらAR10を手に入れられた。右翼団体の総帥と結婚したって噂は聞いてたけど、本当だったとはね。あれからかなり経つのに生存率の高さも相変わらずだ。腕は鈍ってないし。」

 

「ここでは何ですから、屋敷へどうぞ。その方が落ち着いて話も出来ます。車は後から回収します。」

 

警察が使う様な大型の護送車両に俺達と荷物を乗せて高城邸へと向かった。どうなる事か一時はヒヤヒヤしたが、まあ、死なずに済んだな。俺は以前神は信じないと言ったが、それは今でも変わらない。だが、人生とは乗り越えられない試練は与えない。何にでもloophole、抜け道は存在する。

 

余談だが、屋敷に到着するまで静香は俺の腕にくっ付いたまま離れなかった。

 

 

 

 

 

 

「沙耶、ここがお前の家か。始めて来たな。」

 

背中を強打した彼女に肩を貸しながら孝は辺りを見回す。途轍も無くデカい屋敷だな。ジャパニーズ・ブルジョワ、ここに極まれりだ。

 

「そう言えばそうだったわね。まあ、無理も無いわ。でも、驚いたわ。元SAT隊員で、独身時代のママの知り合いだなんて。ほんと何者?」

 

「生きるのに必死なだけの大人だよ。」

 

屋敷に通されると、数ある客室に通された。中に入る途中で他の避難した住民達が見えたが、明らかに空気は良い物とは言えなかった。まあ、無理も無いだろう。俺達みたいに崩れた秩序の上に成り立った新たな秩序にそれなりに早く順応するのは言う程簡単ではないし、そんな中他人だらけの集団内で輪を乱すのは当たり前の事だ。

 

「ふー・・・・」

 

腰を落ち着けた全員が大きく息を吐いた。静香は屋敷の人間から飲み物を受け取っていたらしく、ミネラルウォーターが振る舞われた。とりあえず今は各自休憩だな。車も回収すると言っていたから、当面問題は無さそうだ。

 

「危なかったですね、沙耶のお母さんが来てなければ、今頃・・・・」

 

「ああ。あの人には毎度毎度美味しい所持ってかれるんだよな。」

 

俺はポケットから携帯を取り出して開いた。電波は良好。これなら通るか?リカの携帯にかけてみる。コールが暫く鳴った。

 

『圭吾?』

 

「リカ!やっと繋がったぜ。良かった。」

 

携帯をスピーカーに切り替えて、静香も安心させる。

 

「リカ!!よかったぁ〜〜、生きてたぁ〜〜!!」

 

静香は感極まって泣き始めていた。それをありすとジークが慰める。

 

「良かったね、先生。」

 

『まあ、何とか生きてるわ。静香が無事だって分かって安心した。今どこにいるの?』

 

「一心会総本部だ。お前の銃とかも持ち出してるけど。」

 

『それは別に良いわ。二人で買った物だし。現在地があの右翼団体ねぇ・・・・ま、そこなら暫くは安全だわ。ライフラインも無限に、とは言えないだろうけど、ある程度は確保出来るし。私は残念ながらまだ洋上空港よ。残ってる市民を守らなきゃ行けないから。』

 

相変わらず、仕事熱心な事で。

 

「馬鹿な質問だと思うが、近い内にそこから抜けてこっちに来るなんて事は無いか?」

 

『出来るし、やるけど、今はまだ駄目。部下を放って置く訳には行かないもの。部下を連れて行ったら、逆に皆をほったらかしにしてゾンビもどきが増えるし。死なない程度にこっちで頑張るわ。』

 

「だろうと思ったぜ。ここを出る前にもう一度連絡を取る。静香も話したい事は山ほどあると思うし、暫く相手してやってくれ。俺は寝てる。今日のキルカウント、三百は超えた気がするぜ。」

 

『オッケー、お休み。会えたらたっぷり「相手」して貰うからね、静香と一緒に。』

 

「まあ、その時は、お手柔らかに。」

 

携帯を静香に渡すと、静香は小躍りしながら別の部屋でリカと話し始めた。

 

「今のって・・・・」

 

「ああ。マンションの方で話してた、俺のコレだ。」

 

小指を立ててニヤリと笑った。ポケットから財布を取り出してそこにガムテープで貼り付けた写真を見せてやる。

 

「綺麗な人ですね。」

 

「ああ。気さくで話し易い、面倒見も良い、腕っ節も強いの三拍子。良い女だぜ。」

 



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選択肢

オリ主の設定です。


名前:滝沢圭吾
年齢:26歳
身長:182cm

備考:生前は傭兵だった為、戦闘、武器、運転等の知識は豊富である。また本人曰く『B級映画の見過ぎ』で取るべき行動、起こる事象等も、ある程度は熟知している。その為、小室一行では戦闘要員も兼ねており、高城沙耶にも勝る参謀。長年に渡って人を殺し続けて来た為に、<奴ら>を殺す事に一行の中では最も躊躇いが無い。SAT小隊隊長の南リカとは元同僚であり、後輩だが、射撃大会で僅差でリカに勝った事がある。宴会で静香を加えた三人と飲み過ぎた結果、酔った勢いで二人と関係を持ってしまったが、何ら問題は無い様子。<奴ら>が出現するまでは三人で同棲していた。<奴ら>出現に伴い謎の人物から武装等の物的支援を送られている。

愛銃:Sig Sauer P226 X6 S&W M327 Mossberg 590A1 イクサカリバー

特徴・服装
ツンツンに尖った黒いショートヘアー
濃い茶色の目
タンクトップにタクティカルパンツ
ホルスター多数
それを隠せる位の大きさを持つ膝まである薄手のジャケット。



俺達が高城邸に辿り着いて一日が経過した。図らずも、仮初めとは言え安住の時が再び訪れた。リカとも定期的な連絡を取れた事によって、静香も閊えが下りていくらか元気になっている。閨の相手を毎度する必要も無い。と言うか、昨日の夜は父親を亡くしたありすに付きっきりだったな。泣き付かれるまで添い寝してやったり。年甲斐も無く子供の様に小躍りしながらありすやジークとも遊んだりしていた。

 

「こうして見ると、まるで母親だな。」

 

「そう言う圭吾さんはあの中に加わったら父親ですよ?」

 

そう独り言ちたのを、聞いていた孝が茶化す。俺はそれを聞いて頭を横に振った。

 

「馬鹿言え。俺にゃ似合わないよ、そんな事。それより、沙耶は大丈夫か?」

 

「あ、はい。今、静香先生が薬を背中に塗るって。結構強く撃ったみたいで、痣とかもちょっと出来てるらしいです。大した事無いと言えば大した事無いですけど。」

 

呆れたな、全く。

 

「で、お前は何でここにいるんだ?」

 

「何でって、俺がいたら追い出されますし・・・・」

 

孝、お前はつくづくチャンスをドブに捨てる様な奴だな、麗と言い、沙耶と良い。勿体無いったらありゃしない。俺は孝の襟首を掴むと静香と沙耶がいるその部屋へ案内させた。念の為ノックして入ると、ベッドでシーツ以外は全裸(の筈)の沙耶がうつぶせに寝ており、静香は瓶からどろりとしたローションの様な物を手に取り始めていた。

 

「あ、圭吾!小室君も!丁度良かった。どっちか高城さんを抑えててくれる?この塗り薬ちょ〜ッぴりしみるから。暴れたらシーツ汚れちゃうし。」

 

「え?ちょ、待って。やだ、やだやだ、痛いのイヤーーー!!」

 

逃げようとするが、そこはやはり打撲の痕が痛むのか、動けない。

 

「小室、最初抑えててやれ。静香、手に取った分塗り終わったら小室に交替な。塗る場所はお前が教えりゃ良いから。」

 

「え?うん。でも圭吾はどこ行くの?」

 

「散歩がてらでコータ探しに行くんだよ。あいつならやってるだろうからな、銃のメンテとか。俺も自分のをやらなきゃならない。んじゃ、沙耶。負けるな。それと頑張れよ、色々とな。」

 

ドアを閉じてからは悲鳴を上げる沙耶と戸惑いながらもそれを押さえ付ける孝の声、そして明らかに沙耶の反応を楽しんでいるとしか思えない軟膏を塗り始めた静香の声が暫く聞こえたが、歩いて行く内にそれもやがて消えた。

 

「ガレージは確かこっちか。」

 

今朝方俺のジープとハンヴィーが回収されたらしく、今はガレージで修理されている。すると、ブツブツと喋る声が聞こえた。見ると、大型の業務用テーブルで銃の分解されたパーツが綺麗に並んで手入れされていた。

 

「キャリア、スプリング、エジェクター、と・・・・でこれが・・・」

 

「精が出るな、おい。」

 

「うわっ!?た、滝沢さん、脅かさないで下さいよ、もう。部品落としそうになったじゃないですか。」

 

作業用軍手を付けてツナギの服に着替えていたコータは恨めしそうに俺を睨んだ。

 

「悪い悪い。俺も手伝いに来たんだよ。一応持ち主は俺だからな。それ、縁がちょっと汚れてるからもう少し磨いといてくれ。俺も自分のをメンテナンスしなきゃならない。」

 

「ああ、滝沢さんのだったら勝手ながら昨日の内に僕がやりました。いやー、嬉しかったな、八連リボルバー。あれ、触れたのあの時が初めてでしたよ!あのシグも、物凄いカスタマイズされてました。、サプレッサーの為にネジを切った銃身付けてましたよね?」

 

こうして見ると、コイツもまだガキだな。

 

「ああ。そうだ。分解してあるこれは、全部済ませたんだよな?」

 

「はい、終わってます。」

 

俺はコータの隣に立つと、分解された銃を再び組み立てた。まずはM1A1。銃剣はもう研いである。ナイフだけは緊急用の武器としても使えるから、こればっかりは手放せない。俺の手持ちのM-9 銃剣もそうだが、折り畳めるESPADA (Large)と機能盛り沢山のスイス・アーミーも念の為にチェックしておく必要がある。本当なら鉈でも欲しい所だが、そう都合良く見つかる筈も無い。AR10も、スコープレンズを磨いて作動桿を引くと、一度空のまま引き金を引いた。

 

「作動は良好と。」

 

「こっちも、異常なしです。」

 

「弾薬は?」

 

「ショットガンはまだなんとか大丈夫だと思います。滝沢さんが僕達と合流する前に拾ってくれたお陰で少しはマシですけど、7.62mm NATO弾は微妙な量です。使い所さえ間違えなきゃ大丈夫だとは思いますけど、いざとなったら自衛隊員の死体とか警察署からでも拾わないと。」

 

「まあな。毎度思うんだが、何で日本が使う武器はここまでしょぼいんだ?テキサスに行ってみろ、種類問わずで一家に二丁は銃が置いてあるぞ。あそこなら生存率は高そうなんだがな。銃弾もそこら中に転がってるし。屋敷の中は探したのか?銃弾の箱はあるだけ頂くって訳には行かないだろうが、少し位頂戴してもバチは当たらないだろ?」

 

「ちょっとは見つけたんですけど、大量にはそう都合良く見つからないですよ。幾ら高城さんと一緒に来たからと言って、あんまり不用意にうろうろしてたら・・・・」

 

まあ、高校生ならポン刀引っ下げてる強面の連中を怖がるのも無理は無いな。銃を全て組み立てると、俺は自分の物を全てホルスターに納めた。内側にもマシンピストルをしまいこみ、ジャケットを着た。

 

「おいおい。兄ちゃん、それ本物だろ?子供が弄っていい物じゃないぞ。」

 

首に赤いスカーフを巻いた中年のおっさんがコータに注意する。まあ、そりゃ当然の反応だろうな。

 

「良いんだよ、この銃は俺のだ。メンテを手伝ってくれてるだけだし。それに、銃の扱いなら一級品だ。コイツのお陰で俺も沙耶も、チーム全員が生きてる。」

 

「マッドさん、用はそれだけかしら?」

 

「高城のお母さん・・・・!」

 

赤いドレスに白いストールを纏った百合子さんが現れた。ガレージと言う場違いな所にいる為、より一層彼女の美貌が目立つ。

 

「お、奥様。いや、乗って来られた車二台の整備が終わった事をお伝えしようと・・・・」

 

マッドさん、だっけか?一変して歯切れ悪くなったな、おい。まあ、見かけによらず強気なこの人だったら引くのも頷けるが。

 

「分かったわ。ありがとう。」

 

マッドと呼ばれた男は頭を下げると、去って行った。

 

「平野君、だったかしら?ごめんなさいね、こんな怖い所で。」

 

「いえ、その、自分は別に・・・・」

 

「コータ、とりあえず長物の銃は隠しとけ。」

 

「何でですか?」

 

「今のあいつのリアクションで分からないか?まあ、俺は一応大人だから文句は言われないだろうが、お前らは別だ。俺以外の大人から見れば、お前らは情緒不安定、予測不可能。暴走したら最も危険視される年齢層にある。そんな奴らが銃振り回してるの見せてみろ、怖がるのは当たり前だ。何時自分に凶器の矛先が向けられるかビビッてるからな。」

 

「あ、いたいた。平野君、圭吾!ちょっと来て!会議があるからって高城さんが。」

 

「会議?」

 

その言葉に俺は顔を顰めた。それも沙耶からとは、これは結構重大だろうな。銃を片付けると、コータにも来る様に言って静香に客室の一つに通された。沙耶は相変わらずうつぶせに寝たままである。塗り薬の所為で背中と腰の一部がテカっている。

 

「ここでするのか?その格好で。」

 

「し、仕方無いでしょ、小室!背中と腰打ったんだから、無理して動けないのよ!」

 

「でも、孝が塗ったんだからその内治るだろ?愛の力って奴で。」

 

「う、うううううるさいわね!」

 

兎に角、と沙耶は強引に話を戻した。

 

「これから重要な話があるから皆ちゃんと聞きなさいよ。」

 

「重要な話?何?」

 

「これから先も私達がチームでいるか否かって事よ。




感想、評価、質問等、お待ちしております。


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The Choice is yours

UAが遂に二万を突破しました。ヤッタゼー!


暫く沈黙が続いた。

 

「これから先って・・・」

 

「そこに行き着くのは当然だぞ、宮本君。我々は現在、より大きく、力のある集団の元に合流した。選択肢は二つのみ。飲み込まれるか、」

 

「分かれるか、ですか。」

 

色鮮やかな着物に身を包んだ冴子の言葉を孝が引き継ぐ。まあそうだろうな。俺や静香は兎も角、沙耶は両親との再会を果たした。冴子もコータも親は海外にいる。言ってしまえば他の奴らの親探しに付き合う必要は無い。それにここはちょっとした要塞だ。<奴ら>が人海戦術で攻めて来ない限り、簡単に陥落はしないだろう。

 

「でも、そんな必要あるのか?街は荒廃する一方だけど、お前の親父さんは手際が良い。お袋さんも凄いし。」

 

「ええそう。自慢のパパとママだった。これだけの事をたった二日位でやってのけたんだもの。」

 

沙耶の目には涙が光っているのが見える。恐らく孝も見えているだろう。

 

「でも、それが出来るなら・・・・」

 

「何故真っ先にお前を助けに来なかったか、そう言いたいのか?」

 

俺はシガーケースから葉巻を一本取りだして火を点けた。

 

「甘ったれるなよ、沙耶。確かに、百合子さん達は学園まで助けには来なかった。だが、お前はまだマシだろ?両親は手も目も届く所にいて、<奴ら>になっていないんだ。」

 

ただで<奴ら>になる程弱い人じゃないし。葉巻の煙をゆっくりと吐き出して俺は更に続けた。また説教臭い事言う破目になるとはな。ガラじゃ無いってのに。

 

「冴子やコータ、そして俺も、家族は海外にいる。安否を確かめる術など、ありはしないんだよ。無傷で両親に会えるだけお前は遥かにマシだ。再開出来た事を、お前だけを置いて死ななかった事を喜べ。ありがたいと思え。感謝こそすれ、恨み言を言う権利はお前には無い。」

 

そんな時、大量のエンジン音が聞こえた。外を見ると、黒い高級車を筆頭に大量のトラックが正門を通って来た。

 

「百合子さんの旦那のお帰りか。」

 

「って事はまさか沙耶の親父さん・・・・?」

 

「ええ、そうよ。高城家現頭首にして、憂国一心会会長。己の掟で全てを決めて来た男。私のパパ、高城壮一郎よ!」

 

ドアが開き、鋭い目付きの男が上下がマッチした日本の軍服らしき物に身を包んだ巨漢が、左手に刀を引っ下げて出て来た。威圧感がこっちまで来てる。生粋の武人ってのは、ああ言う人種か。周りの同じ服装をした男達が百合子さんの後ろで整列し、頭を下げていた。葉巻を吹かしている俺はさぞ暢気に見えただろう。

 

「この男の名は、土井哲太郎。高城家に仕えてくれた旧家臣であり、私の親友でもある。しかし今日、救出活動の最中、仲間を救おうとし、噛まれた!」

 

フォークリフトで鉄の檻に入れられた<奴ら>に成り果てた土井と言う男が避難した住民の前に現れた。反応は様々だったが、一番多かったのが『恐れ』だ。檻を破ろうと動くその様は、住民を数歩後ずさりさせるには十分な効果があった。

 

「正に自己犠牲の極み。人として最も高貴な行いである。しかし、今や彼は、最早人では無い。唯只管危険な『モノ』へと成り果てた。だからこそ、私はここで友として、そして高城の男としての義務を果たす。」

 

檻が開き、高城壮一郎に向かって土井が襲いかかる。日の光を受けてぎらりと光った刃はぶれず、土井の首をバッサリと何の躊躇いも無く叩き斬った。胴から離れた首は宙を舞い、噴水の中に軽い音を立てて着水した。虚ろな目が皆を見渡し、水が徐々に赤く染まって行く。

 

「これが、これこそが、我々の『今』なのだ!素晴しい友、愛する家族、恋人だった者であろうと躊躇わずに倒さねばならない。生き残りたくば、戦えっ!!!!」

 

その声は、群衆、更には空気も震わせるには充分だった。あの覇気に逆らえる様な人間はそうはいないだろう。それに、あのやり方は原始的且つ典型的だが、実に効果的だ。特に、受け入れようとしない現実からの逃避行をしている輩には。何が起こっているか、何をすべきかを包み隠さず有り体に見せる。

 

「刀じゃ・・・・効率が悪過ぎる・・・・」

 

「あ?」

 

「効率が悪いんだよ!日本刀の刃は骨に当たれば掛けるし、三、四人も切ったら役に立たない!」

 

「それは人によりけりだろ。俺は鉈位しか使った事が無いから何とも言えないが。でも、見せ物としては充分効果はあった。実用性に関しては経験者の冴子に聞け。刀を持たせたら、それこそ時代劇並みに凄い物が見れるんじゃないかと思うぞ?なあ?」

 

俺は期待大で冴子の方を見やる。当然まだ葉巻は持ったままだ。

 

「流石にそこまでは・・・・でも、確かに、刀での戦闘は効率が悪いと言うのは決めつけが過ぎる。剣の道では、強さは乗数で表されるのだ。剣士の技量、刀の出来、そして精神の強固さ。この三つが高いレベルで掛け合わされれば何人切ろうが戦闘力は落ちない。」

 

「じゃ、じゃあ、血脂が」

 

「んなもんは拭けば済むだろうが。」

 

コータの銃に対する異常と言っても過言ではない位の執着に、俺も段々と辟易して来た。

 

「お前は銃の方が効率が良いと言うが、俺は百パーそうだとは言い切れない。便利だと言う事は認めよう。ワザワザ受傷のリスクを被らずに相手を殺せる。だが、銃も幾らメンテを重ねようと所詮は人間と言う不完全な生き物に作られた機械仕掛けの武器だ。不完全な者に作られた不完全な物は、時を重ねる内に、いずれは壊れる。」

 

「滝沢さんまで・・・・何でだよ!」

 

俺はキレた。葉巻を投げ捨て、手加減をしながらもコータの両足を払ってマウントポジションを取ると、ESPADA Largeの刃を開いて彼の喉に押し付けた。

 

「ちょ、圭吾!」

 

「滝沢さん、やめて下さい!」

 

「お前らは黙ってろ。口で言っても分からない奴を再三再四諭す程俺も気は長くない。」

 

静香と孝が俺の暴挙に非難の声を上げるが、無視した。

「コータ、いや平野。いい加減に分かれ。戦うと言う事は只銃を扱えれば良いと言う事じゃない。先の先を考慮する事こそ、戦闘員に求められる事だ。銃は弾が無くなれば意味は無い、それ位分かってるだろう?」

 

それを聞いたコータは目を見開いた。まあ、ナイフの刃が喉に押し付けられているからそれ所じゃないだろうが。

 

「それに、緊急時は近接の方が早いんだぞ。今のこの状況が良い証拠だ。銃は抜き、構え、狙い、撃たなければならないが、ナイフや刀はブラスチェック、ジャミング、弾切れの心配も無い。この状況なら、お前が銃を俺に向けるより早く、俺はお前の喉掻っ捌けるんだ。総帥はインパクトの為に銃を使わなかっただけだよ。」

 

ナイフを閉じると、コータの手を掴んで立たせた。

 

「落ち着いたか?」

 

「はい・・・・・すいませんでした・・・・・」

 

「いや、俺もあんな真似して悪かった。」

 

落とした葉巻の灰を携帯灰皿に落とし、最後にもう一服深く吸い込むと、短くなった葉巻を揉み消して屋敷の中に戻った。この状況の歯痒さが、また俺の怒りと言う名の火に油を注いでいる。

 

「俺はどうすれば良い?」

 

当然誰も答えてくれない。最初は静香を守ってリカとの約束を果たせれば良いと思っていたが、俺もマイクロバスを捨ててマンションに向かった時以来、チームの一員となった。傭兵としての自分が、出て来てしまった。金の為に人を虐殺する自分が。誰でも良い、何でも良い、俺の怒りを収めてくれる奴はいないのか?

 

「あいつは・・・・」

 

そんな時、俺は偶々開いていたドアから見えた窓の外でバスに乗っていた紫藤一派の奴の一人が携帯を持っているのを見つけた。見つけた・・・・獲物を!!!!俺は窓を開け放ち、二階から飛び降りると、その生徒の上半身を衝撃吸収に使った。叫び声を上げる前に口を押さえる。馬乗りになってナイフを突き付けると、すぐ静かになった。手に握られた携帯を奪い取って耳に当てる。

 

『どうしたんですか?もしもし?』

 

この声は・・・・この時の俺の顔は誰にも見せられない程邪悪に歪んでいた。ポケットに入っていた音楽プレイヤーには録音機能がついている。スピーカーモードに切り替えた。

 

「よう。誰かと思えば黒のピンストライプ着てた自分の身も守れない貧弱教師じゃないか。そっち側は随分と楽しそうだな、喘ぎ声が聞こえるぞ?車内乱交は楽しんでるのか?」

 

『おや、貴方はバスを皆さんに捨てさせた方ですか。生きていたんですね。』

 

平静を装ったつもりだろうが、声が震えてるぞ?

 

「心にも無い事ほざいてんじゃねーぞ、大根役者。警告しておく。もし、お前が屋敷に近付いて来る様な事があれば、殺す。俺はお前をぶっ殺しに行く。そのボロ車をお前らごとバラバラに吹き飛ばす。必ずだ。偵察に寄越したコイツはもう諦めろ。俺に見つかった時点でもう終わりだ。」

 

『別に構いはしませんよ。あなたがいる場所が安全だと言う事は分かったのですから、彼はもう用済みです。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。』

 

「ではそうさせてもらおう。」

 

通話を切ると、俺は携帯をソイツに返した。

 

「失せろ。」

 

「へ・・・・?」

 

「失せろと言っている。どうせおまえも殺す事になるが、お前だってまだ生きていたい。そうだろ?」

 

無言でソイツは頷いた。

 

「お前がここに来た事は誰にも言わない。五数えるうちに消えなければ殺すぞ。一。二。三。」

 

そいつは脱兎の如く駆け出して姿を消した。

 



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嵐の前の静けさ

深夜投稿です、お待たせしました。活動報告で2の紫藤先生を処刑する事になりました。次話かその次位に出ます。それまでしばしお待ちを。ではどうぞ。


「お前ら、やばいぞ。」

 

お茶を飲んでいた静香、麗、沙耶、冴子、ありす、そしてジークの五人と一匹の所へ大股で駆け寄った。

 

「どうしたんですか?」

 

「紫藤の奴が安全な場所を、ここの存在を嗅ぎ付けた。」

 

「え?!」

 

これに一番反応したのは麗だった。プライバシーの事もあるので、深入りはしなかったが、かなり因縁があるらしい。温厚だった顔が一気に殺意に満ちた物に豹変した。

 

「斥候としてやって来た奴がいたが、携帯を奪って叩き出したよ。」

 

携帯を引っ張りだしてヒラヒラと振って見せる。

 

「そんな・・・・!」

 

「心配無い。辿り着いたと仮定しても、俺が奴らを全員殺す。そして仮に俺がやらなくとも、総帥があんな奴を放って置くとも思えない。只の疫病神だ、いない方が遥かにマシだろ。それにこれを聞け。」

 

先程録音した会話を聞かせた。当然この時俺はありすの耳を塞いだ。お子様の教育上よろしくない音声が入っている。

 

「何なのだ、これは・・・・?」

 

冴子の表情は怒りと侮蔑が入り交じった顔になった。

 

「これがコイツの本性って奴だ。これで赤っ恥をかかせてやろうと思ってな。」

 

「い、嫌だ!」

 

「ざけんじゃねえっ!!」

 

「さっさと渡せ!」

 

外か。俺はショットガンを肩に掛けるとコータの声がした方に向かった。銃を奪われたらまずい・・・・・隠しとけって言ったのに。それに何でここまで道が入り組んでるんだ。五分位してやっと辿り着いた。右翼の奴らが合計八人ロッカーから拝借した銃三丁を抱きかかえたコータを取り囲んでいる。

 

「なあ君、こう言うご時世だ。それだけの武器を独り占めしちゃいけない。」

 

「だからと言って人が貸している私物を持ち主に断り無く借りようとするのもいけないと思うがな?」

 

リボルバーの撃鉄を起こして適当な奴に向ける。

 

「な、何だてめえは?!」

 

「その銃の持ち主だ。チームを組んだ奴らにそれを貸してやってたのさ。だけど、お前らに渡す義理は無いな。一心会なら子供から物を巻き上げる必要は無いだろ?一般家庭に比べれば、武装も資源も充実してる。こっちはなけなしの金はたいて買った物なんだ。」

 

「た、滝沢さん・・・・・・」

 

「それに、言っておくが銃の扱いに於いて、この場でコイツの右に出る奴はいない。いたとしても、俺位だ。そんなに欲しけりゃ、腕ずくで来い。けど、こっちもマグナム弾八発も無駄にしたくないから大人しく引き下がってくれればお互いの為になるんだ。」

 

胴体に狙いをつけたが、やはり諦める気配は無い。撃つしか無いか。俺が引き金にかけた指に力を入れようとした時、

 

「コータちゃん!!」

 

俺と同じ様にコータの声を聞きつけたありすがジークと一緒に彼の前に立ち塞がり、右翼の奴らを精一杯睨んだ。肝の座った奴だな、将来は大物になるぞ。

 

「平野!!」

 

少し遅れて孝もやって来た。ありすにコータの身の危険を伝えられたんだろうな。

 

「何を騒いでいる?」

 

高城総帥に百合子さん。少しは話の分かる人達が来たな。起こした撃鉄を寝かせると、銃をホルスターに戻した。

 

「総帥!この子供が銃を玩具と間違えている様で・・・・」

 

「おい。俺の言った事ちゃんと聞いてたか?その銃は俺のだ。コータは銃が何であるか、何が出来るか、どう撃つのが最も効果的かを熟知している。戦闘員としては、お前らよりよっぽどマシだぞ。」

 

「私は高城壮一郎。右翼団体憂国一心会会長である。名を聞こう!」

 

「ひ、ひひひ平野コータ、藤見学園二年B組、出席番号三十二番、です・・・・。」

 

総帥の覇気に気圧されるあまり、コータの声は震えた。どもりながらも名を伝える。

 

「俺は滝沢圭吾。コイツが持っている銃の持ち主だ。」

 

「どうあっても銃は渡さぬつもりか?」

 

「だ、駄目です!嫌です・・・銃が無かったら俺はまた元通りになる、元通りにされてしまう!自分に出来る事がようやく見つかったと、思ったのに・・・・!!」

 

泣きながら頭を横に振るコータ。

 

「出来る事とは何だ?」

 

「そ、それは・・・・それはぁ・・・・・・!!」

 

「貴方のお嬢さんを、沙耶を守る事です!」

 

俺が何か言う前に孝がコータの前に飛び出して来た。

 

「小室・・・・!」

 

「小室?そうか、成る程。君の名前には覚えがある。幼い頃より娘とは親しくしてくれているな。」

 

そう言う仲だったのか、沙耶と孝は。成る程。

 

「はい。でも、この地獄が始まって以来、最初に沙耶を守って来たのは平野です!」

 

「彼の勇気は私も目にしています、高城総帥。」

 

「私もよ、パパ!」

 

いつの間にか冴子や麗、そして沙耶に肩を貸している静香も来ていた。全員集合かよ。麗、何さり気なく孝に抱きついてるんだ?

 

「確かに、ちんちくりんのどうしようも無い軍オタだけど、コイツがいなければ私は今頃死体の仲間入りよ。今まで私を守って来てくれたのは、コイツと、ここにいる皆よ。パパじゃないわ!」

 

「高城、さん・・・・」

 

暫くは俺達の睨み合いが続いたが、壮一郎はフッと顔を綻ばせた。

 

「お前達、この少年に構うな。持たせてやれ。」

 

「総帥?!ですが」

 

「そこまで言うのならば、いずれその腕前を見せて貰おう、平野君。」

 

そう言うと、踵を返して壮一郎は右翼のメンバーを引き連れて去った。内心俺はほっとしていた。あくまで脅しの為に銃を引っぱり出したが、あの場でもし本当に発砲する事になったらと考えると、幸い見られはしなかったが体が震えた。

 

「何とか、なったな。」

 

「けど滝沢さん、いきなり銃を引っ張りだすのは流石にやり過ぎですよ?保護してくれた相手に対して。」

 

「分かってる。悪かった。」

 

両手を上げてすまなそうな顔をしてみせた。

 

「で?皆はどうするか決めたのか?俺は不測の事態が起こらなければここに残るつもりだ。安全である限りここを拠点にして洋上空港に向かう。リカを探さなきゃならない。」

 

「僕も、それに賛成です。一時的にとは言え、ここなら安全ですし。」

 

「僕と麗は、両親を捜しに行かなきゃならない。別行動になる。一日経ってもし戻らなかったら、両親といる事に決めたと思って下さい。」

 

「そうか。わかった。とりあえず荷造りだけは始めよう。雨も降りそうだ。」

 




何かオリ主が説教臭くなってると思うのは自分だけでしょうか?

感想、評価、質問などお待ちしております。


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You’re Going Down

お待たせしました。紫藤処刑Timeです。もっと酷い物を予想していた方はすいません。でも結構屈辱的な物だと思います。それでは、どうぞ。


雨が降り始め、徐々に勢いを増し始めた。ここで俺達は新たな問題に直面した。避難した住民達だ。幾ら要塞とは言え、内側からの防御並びに結束の崩しは防ぎようが無い。手っ取り早い方法はコイツらを一人残らずぶち殺せば良いが、流石にそれも気がひける。

 

今も苦情を垂れ流す市民に痺れを切らした沙耶が対処に向かっている。孝とコータは念の為一緒に付いて行った。病み上がりだから心配なのだろう。俺も沙耶に呼ばれて一応避難した奴らがいるテントの入り口でこの様子を見ていた。チームの仲で唯一威厳がある大人である俺が話をつける手筈になっている。沙耶曰く、いざとなったら『パパがやった事と同じ位インパクトのある方法で』やって欲しいと。

 

「何度言ったら分かるのよ!殺人病なんてまるっきりの戯言!何故死体が動き回っているか政府が把握出来ていないからそう言ってるだけ。只のパニック対策よ!大好きな日本的気遣いって訳!」

 

「じゃあ、本当に死体が立って歩き回ってるってのか?!馬鹿馬鹿しい。あれは新種の病気か何かだよ!そうに決まってる!」

 

中年の男性がふんと鼻を鳴らして沙耶の言葉を一蹴した。

 

「そうよ!理由も無しでこんな事が起きる筈無いわ!」

 

けばけばしい化粧の女がそれに便乗して付け加える。

 

「それならそれで良いけど!理由を確かめるには素人じゃ無理!専門家が落ち着いた環境でたっぷり時間をかけなきゃ出来ないし、私達には不可能よ!それとも、貴方達の中にそれが出来ると言う人はいるの?出来ないでしょ?!だったら今この場で最も重要なのは<奴ら>に食われずに生き残る事よ!どうしたら良いかは、パパが教えてくれたでしょ?」

 

「そうなのね・・・・結局はそれが言いたいのね?高校生の癖に銃なんか振り回してると思ったら・・・!」

 

「「「はあ?」」」

 

「皆さん、聞いて下さい。ここの連中は我々を暴力で屈服させようとしている!世界がこんなになって、アジアにも無数に困っている人がいると言うのに!」

 

この時ばかりは俺達の思考はシンクロしたであろう。何故ここでアジアを引き合いに出すんだ?コイツら議論するまでもなく馬鹿だろ?

 

「皆さん、聞いて下さい!我々に殺人者になれと強制しているのは殺人を肯定するあの男の娘なのです!」

 

もう黙れよ!俺もいい加減我慢の限界だ。どいつもこいつもピーピーとうるさい事だ。

 

「あの、一体何の話をしてるんですか?」

 

「子供が口を挟む事じゃない!」

 

「子供って・・・・僕達が今までどんな目にあって来たか」

 

「ナンセンス!ここからは大人が決める事よ!搾取階級の豚共や、暴力に酔った高校生ではなく、平和を愛する大人がね!」

 

とうとう我慢の限界が来た俺はホルスターからマシンピストルを持って大股で中に入ると、ソイツらの足元に向かって銃弾を散撒いた。泥や土、そして水を巻き上げると、グリップ内部にマガジンを押し込んで剣に変形させた。右手にはシグを持ち、構える。

 

「平和を愛する大人?お前ら現実逃避も大概にしろ。俺から見れば大人こそが社会で最も汚れた生き物だと思う。俺だって例外じゃない。それは兎も角、どっちみち原因の解明なんて出来やしないんだ、病気だと思うのならそれは結構、そっちの想像に任せる。」

 

だが、と俺は続けた。

 

「はっきり言ってお前らは屑だ。現実を受け入れようともせず、自分の身を自分の手で守ろうともしない、身勝手な腰抜けだ。力のある者の加護下にあると言うのに、何かに付けてソイツらを非難し、協力を拒む。まるで安全な所にお前らを避難させるのがソイツらの義務だとでも言う様に。」

 

「当たり前でしょそんな事!」

 

「お前は黙ってろよ、ケバ女。次にその口開けたら、朝方の総帥がやったみたいにお前の頭もこの場でぶった切るぞ。分かったか。」

 

俺は左手の剣の切っ先を彼女に突き付けた。

 

「ここは、右翼団体の本拠地だ。ここにいる奴らは、警察でも、ましてやその他の公僕や公務員じゃない。お前らを助ける義理なんて無かったのに、命を張ってお前らを助けた。お前らは生きてる。それが不満だと言うのなら、今すぐ立ち去れ。だが忘れるな、お前らには後が無い。先も無いがな。」

 

皆の反応を観察した。このまま不満の火種は燻り続け、いずれは爆発するだろう。

 

「どこぞで死のうと俺達に関係は無いが、手前勝手な都合で他人を巻き込むな。」

 

そう締めくくると、俺もテントを出て孝達と一緒に屋敷に戻った。

 

「あの、二人共、お疲れ様でした。」

 

コータがなんとか労いの言葉を捻り出した。

 

「ああ。孝も言ってたろ、沙耶?時間の無駄だって。お前が怪我を無視して何かを言う必要なんか無かった。いざとなれば、あいつらは囮にする。使えない奴が多い程組織の移動スピードは落ちる。グズる奴はわんさかいるからな。」

 

「何も見て来なかった訳じゃないかもしれないけど・・・・でも、連中の気持ち、ちょっとは分かりますよ。」

 

「私に喧嘩売ってるの、デブチン!?」

 

「まあまあ・・・・」

 

気色ばんだ沙耶を孝が宥めた。だが、コータの言葉に孝の表情が暗くなるのを俺は見逃さなかった。コイツも思う所があるんだろうな。

 

「誰も自分を否定されたくない。だから分かっていても何もしないんです。こう言う時、一番最初に出て来る反応は、現状を元に戻そうとするんです。たとえそれが出来ないと始めから分かっていても。何故なら、」

 

「「変化を認めなければ自分の過ちと愚かさを認めずに済むから。」」

 

ほぼ同時に沙耶と俺が続けた。

 

「なるほどなあ・・・・勉強になったよ。」

 

それを聞いて孝と俺以外の奴らは目を丸くすると、にっこり笑った。

 

「やっぱりこいつが適任だな。そう思わないか?」

 

「はい。そうですね。」

 

「だよね。」

 

「だから、何の話だよ?恥ずかしいけど、本当の事だぜ?」

 

「そう言う所がお前の良い所なんだよ。」

 

「そうね、だからアンタはあたし達のリーダーたり得てるって事よ!」

 

「ちょ、待てよ!リーダーだったら、俺じゃなくて滝沢さんの方が適任じゃないか?強いし、何をするべきかもちゃんと分かってるし。」

 

「だが俺はお前みたいに人を纏める様な能力は無い。俺は基本的にスタンドプレーしかしない。SATにいた頃もそうだ。やるなら精々、沙耶と同じ参謀役って所だろうな。助言はするが、最終的な判断はお前に任せるよ。」

 

孝は今後の活動を高城総帥に伝える為にどこかに行き、沙耶と静香はまだ治療の為に別室にいる。恐らくありすとジークもそこだろう。そんな中俺は微かにだが雨の中で聞き取る事が出来た。車のエンジン音が。それが誰なのかは、考えるまでも無い。良いだろう、俺の忠告を聞かなかったのはお前だ。命で償ってもらおう。

 

 

 

 

屋敷の広間で座っているとどこから持って来たのか、日本刀を腰に下げた冴子が階段から下りて来た。麗もライフル保持用のガンベルトにM1A1が吊ってある。荷物も俺達がテントに出ている間から纏めていたのだろう。

 

「滝沢さんはどうするんですか?ここに残るんですか?」

 

「まだどっち付かずだ。」

 

麗に聞かれて俺は頭を掻き毟る。

 

「お前達と一緒に静香を連れて行けば危険は少なからず伴うがここもそれなりに危ない。静香をどうこうしたいと言う下衆な輩もいるからな。ありすは、まあ、静香の事を気に入ってるみたいだし・・・・分からん。正直俺はどうするべきか分からない。」

 

「孝、準備出来たよ?毒島さんも連れて行って欲しいって言ってるけど。」

 

「それは別に良いけど、何もワザワザ僕達の為に先輩が命を張る必要は無いのに。」

 

「ご家族を明後日までに連れて帰るのだろう?だったら二人だけでは物足りない、誘導すらままならなくなる。」

 

「それはそうですけど。」

 

すると突然麗が足早に玄関の方に向かって走って行った。行き先は紫藤だ。

 

「麗っ!!」

 

雨の中濡れていて、右翼のメンバーの一人と笑顔をその顔に貼り付けたままで話していた。麗は紫藤の顔にライフルの銃剣を突き付けた。

 

「随分とご立派じゃない?紫藤先生!」

 

「み、宮本さん、ご無事で何より・・・・」

 

銃剣の先を顔に突き付けられ、紫藤の顔は恐怖に引き攣った。

 

「何で私が槍術が強いか知ってる?銃剣術も教わってるからよ。県警の大会じゃ負け知らずのお父さんに。そんな彼を貴方は苦しめた。どんな事にも動じなかったお父さんが私に泣いて謝った。自分の所為で私を留年させたって!そして私には分かってる!成績を操作出来るのは貴方だけだって!」

 

そう言う事か。麗の父親は公安の刑事。紫藤の父親、一郎に何かを嗅ぎ付けられて警告代わりに留年させた。なるほど。聞けば聞く程殺意が増した。

 

「でも、我慢した・・・・お父さんの操作が上手く行けば、アンタも紫藤議員も逮捕出来るって聞かされたから!」

 

銃剣が紫藤の顔に更に近付き、切っ先が彼の頬に食い込んだ。たらりと一筋の血が流れ落ちて行く。

 

「さ、殺人を犯すつもりですか・・・・?刑事の娘でありながら、は、犯罪者になると・・・・?」

 

「アンタになんか言われたくないわよ、偽善者!!!」

 

麗のライフルを握る手に更に力が籠った。

 

「ならば殺すが良い!!!」

 

高城壮一郎の霹靂一声が雷鳴と共に轟いた。相変わらずその表情は一睨みで死に至る様な迫力を持っていた。

 

「その男の父親とはいくらかの関わりがある。だが今となっては無意味だ。望むのならば・・・・・殺せ!」

 

「ちょ、総帥!」

 

「無論!私ならばそうする!」

 

孝は麗を止めようとするが、冴子が止めた。無言で首を振り、麗の方に再び視線を移す。彼女が自分自身で決めなければならない。

 

「良いでしょう!殺しなさい!私を殺して、命ある限りその事実に苦しみ続けるが良い。それこそが、教師である私が生徒の貴方に与えられる最高の教育です!」

 

銃剣の先は一分程してからようやく下ろされ、チームの皆が安堵の溜め息をついた。

 

「それが君の判断なのだな?」

 

「殺す価値もありませんから。」

 

麗は汚物を見るかの様にもう一度紫藤の顔を見やり、そう吐き捨てた。

 

「だったら次は俺の番だな。」

 

俺は助走を付けると、紫藤の元へ一直線に駆け出し、ジャンプした。そしてそのまま両足での飛び蹴りを叩き込んだ。片方は胸、もう片方は鳩尾に。玄関から階段の下まで吹き飛び、剣を引き抜いた。

 

「お前は公正無私な教師なんかじゃ無い。ただの疫病神だ。お前ら良く聞け。こいつは人間の風上にも置けない様なお前ら以下の屑だ。生徒は洗脳されてて、電話したら交わりの真っ最中だったぞ。」

 

「な、何を馬鹿な事を・・・・」

 

腹を蹴られてまともに呼吸が出来ていないが、やっとその言葉を吐き出した。顔は恐怖で引き攣っている。

 

「そうよ!証拠も無しに勝手な事を言ってるんじゃないわよ!」

 

「証拠があるから言ってるんだよ。こいつはここに来る前に斥候を寄越してる。」

 

痩せっぽちのガキを剣で指差した。そしてソイツの持ち物だった携帯を引っ張りだし、発信履歴を確認した。

 

「一番最近の電話が紫藤先生、通話時間はおよそ三分二十五秒。紫藤、勝手ながらお前の斥候から携帯を奪って話していた時に、会話全てを録音させてもらった。これを聞け。これでもこいつが、教師の鑑だと思うのなら、お前達の目は節穴だ。」

 

紫藤の顔が恐怖で歪む。再生ボタンを押して、俺達の会話が全て流れた。

 

『よう。誰かと思えば黒のピンストライプ着てた自分の身も守れない貧弱教師じゃないか。そっち側は随分と楽しそうだな、喘ぎ声が聞こえるぞ?車内乱交は楽しんでるのか?』

 

『おや、貴方はバスを皆さんに捨てさせた方ですか。生きていたんですね。』

 

『心にも無い事ほざいてんじゃねーぞ、大根役者。警告しておく。もし、お前が屋敷に近付いて来る様な事があれば、殺す。俺はお前をぶっ殺しに行く。そのボロ車をお前らごとバラバラに吹き飛ばす。必ずだ。偵察に寄越したコイツはもう諦めろ。俺に見つかった時点でもう終わりだ。』

 

『別に構いはしませんよ。あなたがいる場所が安全だと言う事は分かったのですから、彼はもう用済みです。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ。』

 

「そう言う事だ。」

 

「最っ低・・・・」

 

「出来損ないの下らん屑めが。」

 

「何でこんな奴が生きてるんだ。」

 

麗が呟き、高城総帥も刀を抜かずにいて精一杯の様だ。コータはAR-10の引き金に指を掛けるまでに至っている。先程まで紫藤の元に集まっていた避難民達も今は侮蔑的な視線を彼に向けている。紫藤は絶望した。これでコイツの居場所はここには無い。顔から血の気が引き、殆ど真っ白になったソイツの目の前で手を振っても反応しない。俺は紫藤のシャツを握って噴水辺りまで引き摺って行った。

 

「麗、本当に何もしなくていいんだな?やるなら今だ。殺すのは俺だ、お前じゃないぞ。」

 

麗は無言で頭を横に振った。俺は頷いて深呼吸をすると、紫藤の心臓を的確に貫いた。刃を水の中に付けて血を洗い流すと、マシンピストルに戻してマイクロバスに乗って来た学生達に向けた。

 

「ガキを殺す趣味は無い。バスを置いて失せろ。お前らの存在もコイツと同じ、百害あって一利無しだ。」

 

生徒達が去り、門が閉まるのを確認するまで、俺はその場を動かなかった。

 

「君には借りが出来たな、滝沢君。」

 

「総帥でも同じ事をした筈ですよ。違いますか? 俺はあくまで貴方の代わりに彼を殺したまでです。貴方が殺せば、この組織のインフラが崩れる。まあ、あの住民を背負い込んだ時点で少し崩れてますがね。」

 

「その様子では、彼らは見捨てると言う事だな。」

 

それは質問ではなく確信の言葉だった。

 

「百合子がお前を捜していた。ガレージに行ってくれ。ここにいる坂本が案内する。」

 




最初にあった自分の考えは、S&W エアウェイトで五秒以内に紫藤一派の生徒を五数える内に一人ずつ(合計五人います)殺して行く。止める方法は紫藤がオリ主を止めるしか無い。止めなければ生徒が全員死に、『生徒の命を救った教師』のレッテルが剥がされ、本性が露わになる。

と言った物です。感想、指摘、質問、評価、お待ちしております。


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決まった指針が指す先は

お待たせしました、いよいよ小室パーティーの捜索編が次話からスタートします。どういう風にしようか迷い所です。そして祝UA三万突破!何故か偉業を成し遂げた気がして嬉しさで一杯です。読者の皆様、評価を下さった皆様、そしてお気に入り登録してくれた皆様、本当にありがとうございます。

ではどうぞ。


ガレージに向かうと、以前中を持っていたコータを叱っていた松戸とか言うおっさんが俺のジープとハンヴィーを弄っていた。そこには百合子さんもいた。何か大きな物がブルーシートに覆われている。

 

「奥様、お連れしました。」

 

「ありがとう。滝沢君、ハンヴィーもジープも両方とも最終整備が終わったわ。」

 

「そうですか。ありがとうございます。俺に用があるって言ってましたけど。」

 

「ええ。貴方宛の物を預かっていたの。」

 

ブルーシートを外すと、下から大きな白と青のバイクが現れた。見た所改造された白バイに見えるが、後ろのラックにはアタッシュケース、ハンドル部分にも見慣れないスイッチが幾つも付いていた。何だこれは?

 

「ご丁寧に説明書まで付いてるみたいよ。」

 

二十ページはありそうなマニュアルを俺に投げて寄越した。

 

「ちょっと待って下さい、これ誰から来たんですか?俺宛なら俺に来る筈じゃ・・・?」

 

「分かってる。私も得体の知れない物は受け取れないと最初は断ってたんだけど、貴方の事を持ち出されたらついつい断れなくて。一応命の恩人だし。」

 

「そうですか。でも、お互い様ですよ、それは。」

 

マニュアル片手に鍵を受け取ってエンジンをかけると、軽快なエンジン音がした。次にハンヴィーとジープのエンジンをかけた。こちらも問題は無い。いざ脱出する必要があれば逃げられる。だが突然ジープのエンジンが死に、電気も消えた。何度鍵を回してもかからない。

 

「クソッ!」

 

思った通り電磁パルスか。まさかこの状況で入るとはな。

 

「百合子さん、この建物の設備、対EMPの処置って・・・」

 

「残念ながらしてないわ。この建物全体への処置費用って馬鹿にならないのよ?資産が一遍に無くなっちゃう。」

 

そりゃそうだな。ジープは駄目でもどうやら幸いバイクとハンヴィーの方は問題が無かった様だ。あいつらにも伝えないと。俺は急いでガレージから屋敷の玄関の方へ向かった。雨は止んでいる。

 

「もしもし?リカ?!」

 

「静香、どうした?」

 

「電話、壊れちゃった・・・・」

 

画面からきな臭い煙が上がっていた。俺はそれを握り締めると、力任せに地面に叩き付けた。リカとの唯一の通信手段が断たれてしまった。

 

「EMPか?」

 

「ええ、そうよ。空が光った。宮本と孝もドットサイトのICがやられてるのを確認したから間違い無いわ。建物の電気も切れたし。ライフラインが使えなくなったわね。」

 

「じゃあ、もう携帯使えないの?」

 

静香がこの世の終わりが来たかの様な顔付きで沙耶に訪ねた。

 

「携帯所か、パソコン、発電所、そして大多数の車とかも駄目だ。俺のGPSとジープもお釈迦になっちまったし。電池を使う懐中電灯やロールスロイスみたいな物位ならまだ無事かもしれないが、電子機器類はほぼ完全にアウトだろうな。」

 

「誰か!助けて下さい!主人のペースメーカーが壊れたみたいなんです!」

 

ペースメーカーまでぶっ壊すとはな。現代の武器は恐ろしいぜ。

 

「EMPって・・・・」

 

「電磁パルスの事だ孝。High Altitude Nuclear Explosion.」

 

「通称HANE、高高度核爆発。大気圏上層で核弾頭が爆発すると、ガンマ線が大気分子から電子を弾き出すコンプトン効果が起きる。飛ばされた電子は地球の磁場に捕まって広範囲へ放射される電磁パルスになるの。電子機器には致命的な攻撃よ。集積回路を全て焼き切って駄目にしちゃうの。」

 

「政府機関や自衛隊のごく一部位しかEMPの処置はしていないだろうしな。百合子さんに聞いた所、馬鹿にならない値段らしい。それで、どうするよ?資源はあってもいずれは尽きるし、ライフラインが断たれたんじゃ出来る事も限られる。」

 

「治す方法はあるのか?」

 

高城総帥が百合子さんと一緒に下りて来て聞いた。

 

「パパ・・・焼けた部品を取り変える事が出来ればどうにかなる筈よ。それに、偶々影響が他よりも微量ながらあるだろうし、滝沢さんが言ったみたいにクラシックカーや電池で動く物は影響は受けないと思う。」

 

「直ぐに調べろ。」

 

「はい!」

 

「沙耶!混乱の中、良く冷静さを保った。誉めてやる。」

 

不器用な面構えとは裏腹に贈られた賞賛の言葉に、沙耶も思わず破顔した。

 

「さてと、それはそうと、皆はどうするか決めたのか?」

 

そう。まだ全員の答えは出ていない。それぞれの事情もプランもある。俺は只チームのメンバー全員の思惑が上手い具合に噛み合う事を何にとは言えないが、祈るばかりだった。

 

「私も孝も両親を捜しに行かなきゃ行けないし・・・・」

 

「私もそれに付き合うと言った。今更それを違えれば、毒島家の名折れだ。」

 

「ぼ、僕も連れて行って下さい!役に立ちますから!」

 

「沙耶と静香はどうする?ここに残るか?百合子さんと一緒にいれば一応安全だぞ。」

 

「うーん・・・・・でも、リカにも会いたいし・・・この中じゃ医療の専門知識があるのって私位だから・・・・うん、私も行くわ。」

 

これには正直俺を加えた皆が驚いた。あれだけの地獄を生き抜いて来て神経が図太くなったのだろうか?ドライブテクは確かに重宝するが・・・・

 

「俺が探しに行く。ここでじっとしてるよりは鉢合わせる確率が高い。それに、お前に死なれたら困るんだよ。」

 

「お互い様でしょ、そんな事。ね?」

 

静香は俺の腕に抱きついて満面の笑みを浮かべた。寄り添う彼女の体が震えているのが分かる。やっぱり怖いんじゃないかよ、バーカ、と言ってやりたかったが、確かに彼女の知識は必要だし、何より勇気ある決意を無駄にしたくはない。俺は何も言わずに頷くと、何時もみたいに彼女の頭を撫でてやった。

 

「ありすとジークはここに残った方が良いんじゃないか?流石にまたこのメンバーが全員出て行く訳にはいかないだろう?何より、彼女は小学生で、まともには戦えない。」

 

彼女は不要だ、足手纏いだなどと言う言葉は心の中にしまっておく。

 

「お兄ちゃん達、また行っちゃうの?」

 

「直ぐに戻って来るから、安心してここで」

 

「やだ!」

 

孝の言葉をありすが遮った。短い間とは言えアリスに取ってはこのチーム全員が家族となったのだろう。だが、それは彼女を連れて行く理由にはならない。ここに来る途中で拾ったのは仕方無かったが、ここから先避けられるリスクは極力避けた方がベストだ。

 

「頼むから聞き分けてくれ。ありすは俺達みたいに戦えない。それに、最悪の場合ありすを最後まで守り抜けるかどうか分からないんだ。ここの方が、絶対安全だ。君の父さんだって、君には死んで欲しくないだろう?ここにいる沙耶の両親は優しいし、強い。俺達は絶対に戻る。だから、そんな顔するな。」

 

「クウゥン・・・・」

 

「ほら、ジークも。俺達がいない間、ありすを頼むぞ。」

 

ジークの耳の裏側を掻いてやると、より一層キュンキュンと泣き始めた。まるで『行かないでくれ』と訴える様に。最後にもう一度頭を撫でると、俺は立ち上がった。

 

「さてと。最後はお前だな、沙耶。」

 

唯一答えを出してないのは彼女だ。苦渋の決断ではあるから無理も無い。彼女は親と再会し、無事に生きている。皆の様に親探しに付き合う必要は無い。既に自分の目的は果たしているのだから。彼女は俯いていたが、やがて顔を上げた。

 

「この天才沙耶様が付いて行ってあげない事も無いわよ?参謀は一人より二人の方が有利だし。」

 

「意外だな。目的を果たせば後はどうでも良い、とかその類いの言葉を聞かされると思ったが・・・・まあ、良いか。あ、でも、自分の身は自分で守れよ?」

 

「分かってるわよ。自分で出来る事位ちゃんとするわ。パパとママに会えて、無事だって分かったから少し気が楽になったから。すっきりした。」

 

そして孝の腕を抱き込んで麗を見やる。

 

「何よりリーダーに死なれたら女のプライドが許さないのよ。」

 

素直じゃないな。まあ、何にせよ話は纏まった。

 

「よし、じゃあ決まりだな。何時まで続くかは分からんが、皆改めてよろしく。」

 

俺の言葉に皆が笑った。勿論アリスも、涙を堪えながら笑顔を見せてくれた。

 




最初ありすの事はどうしようかと思いましたが、オリ主が代わりに入ると言う形で今回の話は終わりにしました。確かに小室パーティーの中では癒し・マスコット的要素がありますが、流石にちょっとどうかと思ったので。

感想、質問、誤字脱字の指摘、評価を首を長くしてお待ちしております。


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まずは・・・・

更新が遅れてすいません。TINAMIの方でも作品を投稿しているので、そちらの方に時間を少し割いていました。いよいよ原作五巻突入です。では、どうぞ。あさみ巡査は生き残らせた方が良いですかね・・・・?


その日の内に、俺達は出発した。俺はバイク(マニュアルによると正式な名前はガードチェイサーとか言うらしいが)に打ち跨がり、ハンヴィーを運転する静香の隣で走行していた。国道に差し掛かると、一旦エンジンを止める。どこまで行けるかどうかは分からないがな。EMPのお陰で市街地からの音は消されたが、俺達の移動手段が発するエンジンの音はかなり響いている。

 

「そんなにいないな。」

 

「うん・・・・」

 

開いた窓から頭を突き出した静香が辺りを見回す。

 

「これからどうするの?」

 

「行ける所まで行こう。幸い<奴ら>はまだそこまで車道を埋め尽くしていない。突っ切っても問題無い数だ。俺も避け切れる。銃弾もある程度は百合子さんのお陰で補充出来たけど、避けられる限り消費は避けよう。」

 

俺はそう言いながらポケットから床主の地図を取り出して現在地を確認した。結構デカい上に細かいから現在地の把握が少し面倒だ。GPSがいかれてしまったから無い物強請りは出来ないが。

 

「俺達が今いるのがここだ。孝、俺達が向かってるのは、お前の母親が働いてる新床第三小学校だよな?」

 

「はい。」

 

「この近くは確か・・・・あ、そうだ。ここ、ショッピングモールがある。」

 

俺は現在地から人差し指約一本分離れた所にある。距離はそれなりにある。

 

「食料はどうか分からないが、他の物資は手に入れられる筈だ。」

 

「化粧品とか洗面用具ね。確かにウェットティッシュとかは水道が使えない今、必要になるわ。」

 

「近道を知ってる、ついて来い。」

 

俺はバイクで<奴ら>の間を縫いながら、静香はハンヴィーで<奴ら>を蹴散らしながら前進した。だが近道に差し掛かると、段々と<奴ら>の量が増えて来た。当然と言えば当然だが、それでも不愉快だ。

 

「一杯いる・・・・・」

 

「迂回するぞ。別のルートがある。」

 

直ぐに向きを変えてスピードを上げた。かなりの間運転していたが、日が完全に暮れる半歩手前でショッピングモールに到着した。ハンヴィーは建物の中に入れられなかった物の、バイクにも武器は積んであるので押して入った。

 

「まずは一休みだな。」

 

エンジンを切ると、バイクハンドルに付いているボタンの事を記述しているマニュアルのページを探した。最初の奴が左側の収納スペースを空けて、真ん中が左側、最後の右端が荷台に固定された奴のロックを解除すると言う訳か。武器の説明が掻いてあるページを探し当てると、それを読み始めた。ピストル型のマシンガン、GM-01スコーピオン。装弾数は七十二発?それに十口径って・・・・威力低くないか?まあ、22LR弾で倒せない事は無いだろうが、使ってみてからのお楽しみだな。お次がGG-02サラマンダー。スコーピオンに接続するポンプアクション式のグレネードランチャー。こいつはまあダネルMGLが使えなくなったら使うとしよう。最後がGX-05ケルベロス。暗証番号1・3・2でアタッシュケースみたいな物からガトリングに変わる。コイツは威力が高い代わりにかなり弾食うんだよなあ・・・・

 

「よしと。」

 

一通りマニュアルを読み終えると、雨の日に使う防水シートをかぶせた。コイツは見つかったらヤバい。皆もそれぞれ銃を隠し終わると、集合した。

 

「これからどうする?」

 

「まずは食料調達ね。EMPが使われてから一日経った。生の魚や肉類は腐って行くわ。使える物は拾って、後は保存食を探しましょう。」

 

少しずつしか食べていないとは言え、残り物を手早く料理して作った食料もいずれは鮮度が落ちて悪くなる。医療設備が無いのに食あたりを起こしたらそれこそ冗談では済まない。

 

「缶詰、瓶詰め、発酵食品、後は乾き物とか薫製だな。後出来ればビタミン剤と洗面道具だ。歯ブラシ、フロス、歯磨き粉、後はウェットティッシュ。あ、後さ、着替えたければ各自勝手に服屋を物色してろ。最後に、二人一組で行動するんだ、絶対一人では動くな。特に肉弾戦が出来ない三人。頭に血が上っておかしくなってるヤバい奴だっているんだ。襲いかかって来たら、遠慮はいらない、ぶちかませ。冴子は静香と、孝はコータ、麗は沙耶と行ってくれ。」

 

「滝沢さんはどうするんですか?」

 

「この中に生存者がいるかどうか確かめに行く。」

 

バイクに座りっぱなしだったから背筋を伸ばし、肩を回しながら麗の質問に答えた。

 

「危険なら排除、そうでないなら、情報を貰う。街から離れてそれなりに時間は経つ、何かが変わったかどうか、それが俺達の今後の行動にどう影響するか。そうすればプランも立て易い。」

 

「でも一人じゃ・・・・」

 

「お前らの命に比べたら、俺のなんて軽い軽い。それに、戦いなら、俺の方がお前らより断然強い。お前らが束になって来ても、俺は負けないぜ?」

 

そう言って踵を返すと、俺は適当にモールの中を練り歩き始めた。エアウェイトとM327は緊急用に持っている。後は足と袖の中に仕込んだナイフだ。歩き回りながら適当な店を物色し、俺はまず汗だくになった服を脱いで別の物を適当に棚から取って着替えた。後ろで足音がしたので棚の後ろにしゃがんで身を隠す。足音の主は元々俺の事が視界に入っていなかったのか、直ぐに歩き去った。足音が遠ざかると立ち上がってソイツを呼び止めた。

 

「おい。」

 

「は、はひぃ!?」

 

よく見ると、俺が呼び止めたのは制服姿の婦警だった。

 

「お、警察官でもここら辺でまだ生きてる奴っていたんだな。」

 

「あ、あの・・・・さっきここに来たんですか?」

 

「ああ。ここの状況を教えてくれないか?街で何が起こってるか、ここにいる人数は君を含めて何人か。落ち着いて教えてくれ、俺は元警察官だ。」

 

こう言った方が接し易いと思うからついそう言ってしまった。それにしても、警官が及び腰でどうするんだ、もっと堂々としろよ、堂々と。そんなんだから最近の警察は嘗められるんだよ。

 

「え、そうなんですか?」

 

「ああ。元SAT第一小隊制圧一班班長、滝沢圭吾って言えば分かるか?」

 

「え・・・・・?滝沢、圭吾・・・・って射撃大会で『カルロス・ハスコック二世』って呼ばれていた、あの、滝沢巡査長ですか?!」

 

「そうそう、それそれ。で、教えてくれるか?」

 

「はい・・・本官も加えて十人弱であります!」

 

ピシッと敬礼をして返してくれた。

 

「そんなに堅苦しくする必要は無い。今の俺は一般人だ。えーと・・・・」

 

俺とした事が名前聞いてなかったな。

 

「床主東署交通課所属の中岡あさみ巡査であります!」

 

相変わらず敬礼を崩さない。まあ、職務に忠実なのは良い事だが、正直コイツのメンタル面が心配だ。こう言うピュアで真っ直ぐな奴程、自分ではどうしようも無い状況に陥るとパニくってどこかミスをする。

 

「オッケー。今から俺らの仲間と合流するから、ソイツらとも話してくれるか?その中の一人、親父が公安の刑事なんだ。所轄の警官が生きてるって分かれば少しは安心するだろうし。」

 

「わ、分かりました!」

 



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無意味な会議

ようやくパソコンを返却してもらえました。間に入れるエピソードを忘れていたので、入れます。どうぞ。


孝達は必要な物を集め終え、それをハンヴィーの中に運んだらしく、武器として使える金属バットやらの鈍器しか持っていない。耳打ちしながらの会話で武器や物資、まだ来ていない他のメンバーの所在を確認し終えると、あさみを紹介した。

 

「あの、中岡さん、父の事は聞いてませんか?宮本正って名前で、公安の係長なんです。何か知りませんか?」

 

「残念ながら、あさ、いえ、本官は交通課に配属されて日が浅いので、公安の事までは・・・・・」

 

「そうですか・・・・」

 

しょんぼりとした麗の肩を孝が抱いて笑いかけた。まあ、死んだと決まった訳じゃないが生存率は極めて低いだろう。生きてる事を祈るしか無いな。

 

「お役に立てなくてすいません。」

 

「いや、新米とは言え現役の警察官がいるってだけでも十分だ。お前一人、じゃ無いよな?」

 

「はい、松島先輩が応援を呼びに出ました。自分よりも経験豊富なので、絶対に戻ってきます!」

 

「おい、婦警さん!今日の会議始めるぞ!」

 

「あ、はいはいはい、今行きます!」

 

「俺も行っておこう。コータ、俺と来てくれ。孝はここに残って皆を待て。いざとなったら・・・・」

 

言わんとする事が分かったのか、孝は表情が険しくなり、バットを握り直すと、頷いた。

 

「滝沢さん、何で僕を・・・・?」

 

「この会議には何の意味も無い。だが先客達はそれを分かっていない。だから・・・・」

 

コータに何をすれば良いか耳打ちした。

 

「成る程。面白いっすね!」

 

おいおい、コータ、凶悪面を引っ込めろ。指名手配のポスターに乗せたらチビは泣くぞ?

 

「だろ?」

 

俺はあさみの後について行き、考え始めた。コイツらは一心会みたいに統治されていない。俺みたいな、いや予測不能であるから俺よりも危険だ。下手をすればここにいる全員が殺されかねない。非常口が使えるかどうか見ておくべきだったな。完全にバリケードがどこもかしこも張ってあったら、俺達は十中八九ここで死ぬ。一応聞いておくか。

 

「あさみ、ここの出入り口に全部バリケードが張ってあるのか?」

 

「一階に複数ある非常口と、後は屋上への階段以外は全部塞いであります。脱出する為の通路が無いと行けませんから。」

 

「そうか。」

 

成る程、メンタル弱くても、ある程度の常識は持ち合わせてると言う事か。完全に駄目って訳じゃ無さそうだな。お、来た来た。ここか。えーと、天辺ハゲの冴えない中年、スキンヘッドのメガネ、老夫婦、頭がイッちまってる刃物を持ったガキ、体育座りで泣いてるガキ、禿げたおっさん、そして若作りしてる三十路過ぎの女。これは絶対助からんな。

 

「助けはすぐにくるっつってたけどよお、外にいる糞共は後から後から湧いて来やがる。その上電力も携帯も使えなくなっちまってる!」

 

「わ、私は別にどうなろうが構わない。妻の週間的な輸血が近いんだ、診療所に行けないかね?」

 

「私もどうにか会社に連絡を取らなければならない!」

 

「あの、でも、えっと、せんぱ・・・松島巡査がここに来るまで待つ様に言われました。だからあさ、いえ本官が自分にやれるだけの事は」

 

「あんたには、俺達を囚人みたくここに閉じ込める権利なんか無い!俺達を守るのが仕事だろう!!」

 

溝は深まるばかりか。マズいな・・・・コイツらは俺達みたいに目的があって行動している集団じゃない。只警察の権力に縋り付いて助かろうとしているだけの、自分で何もしようとしない腰抜けだ。高城邸の避難民と何も変わらない。しかたないな。泣きべそ巡査を少し手伝ってやるか。

 

「だったら出て行け。自分が囚人だと思うなら、非常口は開いてる。残るのも出るのも、お宅らの自由だ。彼女はお前らを救おうと頑張ってる。一人でだ。なのにお前らは彼女に何の助けも寄越さず、自分の手で何かしようとも思わない。恩知らずのお前らよりはよっぽどマシな人間だ。確かに、警察にはこの状況を打破する起死回生の策は無い。だが、彼女を責めても状況が好転する訳でもない。良い大人ならそれ位分かるだろ?」

 

「後から来ておいて、何知った風な口聞いてんのよ!?」

 

「黙ってろ、年増。知った風な口じゃない、知ってるから言ってるんだ。俺も元警察官だし、組織としての内部構造、そしてそのシステム内で出来る事と出来ない事ぐらい分かっている。彼女がやって来た事は、どう見てもお前らの為だ。恨み言を言う筋合いは無いぞ?」

 

「あのーー・・・・」

 

張り詰めた空気をぶち壊す様な声で今しがた現れたかの様に振る舞うコータ。

 

「今大事な会議の途中だと言う事が分からんのかね、君は?!」

 

天辺はげが眼鏡を押し上げてコータを睨む。やはりまだ自分は『大人』、コータは『子供』であると言う認識があるんだな。迷惑な事だ。

 

「いやいや、婦警さんが落とした物を届けに来ようと思ったんですよ〜」

 

余りにも慇懃無礼な言葉遣いとその白々しいトーンで、俺は笑わずにいるのが非常に困難だった。そしてコータは、ここに向かう途中こっそり後ろに回した手で渡しておいたエアウェイトをあさみに差し出した。

 

「落とし物?私が?」

 

「はい、これです。これ、警察官が使ってる銃ですよね?」

 

全員に見える様に両手でそれを差し出した。途端に全員の顔色が変わる。

 

「ああああああ!はい、そう、そうです!スミス&ウェッソンのM-37エアウェイトです!県警に支給されてる銃ですよ!」

 

目尻に涙を浮かべたあさみの顔が突然パァっと明るくなった。

 

「うぉお!すげえ!外にいるクソッタレ共ぶち殺せるじゃねえか!」

 

ハゲメガネ、黙ってろ。一々暑苦しいんだよ。

 

「でも、銃声がなったら<奴ら>が全員音源に向かってきますよね?もし銃を撃たなければならない状況になれば、全員が危険に晒されます。警察の銃は警察官が持つべきですよね?」

 

ニタリとしたり顔で笑うコータは悪の策士にしか見えない。マジで邪悪過ぎるぞ、お前の笑い方は。映画に出たらオスカー級だぜ。

 

「それでは、貴方の判断に任せてこれをお預けします!」

 

コータは最後に敬礼をして、立ち去った。

 

「はい!ご協力感謝いたします!」

 

あさみも涙を拭き、敬礼を立ち去るコータの背中に返した。よしと。これでまあ一時的とはいえ、場は収まった。小室達の所に戻って一部始終を説明すると、小室が怪訝そうな顔を俺に向けた。

 

「本当に銃を渡して良かったんですか?彼女が取れる以上の責任を持つ事になるかもしれないのに。それに万一奪われたら・・・」

 

「それは無い。あそこにいる馬鹿共はまだ今までの生活に戻れると信じ切っている。<奴ら>を殺せば殺人で逮捕されると思って、行動する事を躊躇している。汚れ仕事は必要とあらば射殺の許可が下りる警察に任せるだろう。」

 

「何年も前、イギリス軍の曹長はマスケットじゃなく槍を使った。現代でも、戦場で軍の高官は比較的威力が弱いハンドガンを使う。何故だと思う?」

 

「うーーんと・・・・・自衛の為、かな?」

 

外れだ、孝。

 

「部隊の結束を維持する為さ。命令に逆らう兵士を刺し殺すか、撃ち殺せる立ち場にあると言う事を理解させる為に。今の彼女の立ち場を考えてみてよ。この方がずっと良い。」

 

「そうは思えないわね。」

 

沙耶が普段着姿で腕組みしながらコータを睨み付ける。お、麗と冴子も着替えて戻って来たな。よし。

 

「あの連中、もう気が立ってるんでしょ?そもそも、彼女があの銃を扱えるかどうかも分かってるの?」

 

「彼女は警察官だ、適切な訓練は受けてる筈だぞ?扱えるかどうかは問題じゃない。」

 

「そうですよ!」

 

「でも、もしあいつらが彼女が撃たないと思っていたら・・・・」

 

「それも可能性の一つとして挙げられるわね。誰かに会ったその都度ソイツを助けられる訳じゃないんだから。」

 

「ちょっと待って、静香先生は?毒島先輩が一緒に行動してる筈でしたよね?」

 

「トイレに行ってすぐ戻ると言っていたが・・・・」

 

その時、叫び声が聞こえた。声がした方向に向かって全力で走り出すと、俺は両手にナイフを握り締めていた。トイレの近くにあったのは寝具のコーナー。何が起こってるのかは容易に想像出来た。頼むから間に合ってくれ・・・

 



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焦れば、負ける

キングサイズのベッドの上で退路を断たれた静香の前に、腰に鉈を差した男がいた。あの野郎・・・・

 

「武器を捨てて彼女から離れて下さい!でないと・・・・」

 

俺より先にあさみが到着していたらしく、コータに渡させた銃を構えてそいつに向けていた。だが、手が震えている。あんなんじゃ長髪にすらなりはしない。

 

「でないと、何だ?俺を撃つってか?そんなにビビッて震えてて、本気で撃てると思ってんのか?」

 

思った通り、男はあさみのメンタルの弱さを見抜き、ベッドの縁に腰掛けて挑発して来た。

 

「撃てるもんなら撃ってみろよ!ほら、どうした!?ポリ公の嬢ちゃんはビビって何も出来ねえってか?」

 

直ぐにでも飛び込みたい所だが、あさみが銃を持ってる。ああ言う人を撃つ事を想定していない、もしくはそんな経験が無い奴に限ってAD(Accidental Discharge) 、所謂暴発を引き起こす。あの糞野郎に当たる可能性はあるが、俺が飛び込んで行って間違って流れ弾が静香に当たったらマズい。ぞろぞろと喧騒を聞きつけた他の奴らも近付いて来た。

 

「撃てる・・・撃てるんです!あさみは警察官で市民の安全を守る為に撃たなきゃいけないんです!」

 

目を閉じるな、馬鹿野郎!だが、次の瞬間、いつの間にあいつの後ろに回り込んだのか、コータが細い紐に取っ手を結びつけた物を男の首に巻き付けて力一杯器官を締め付けた。

 

「お喋りは終わったかい?暴れても無駄だよ、紐は皮膚に食い込んでる。だから外れない。」

 

声にならない叫び声を挙げながら男はバタバタと暴れるが、酸欠で体に力が入らず、徐々に動きが鈍くなって行った。

 

「さあどうする?婦警さんの指示に従うか、今この場で僕に縊り殺されるか・・・・」

 

鉈を取り落とした所で孝がそれを回収、そしてコータはそいつをベッドから引き離す為に蹴っ飛ばした。

 

「ナイスだ、ありがとうよコータ!」

 

走った勢いを利用してタックルをかますと、ソイツの背中に乗ると後頭部をナイフの柄で殴り付けた。暴れる力は無いだろうが、念の為だ。ソイツの腕を掴んで捩じ上げると、空いた手でナイフを喉に押し付けた。

 

「てめえ人の女に何しようとしてた?良いか、俺の女に触れるな。次は殺す、必ず殺す!分かったな?」

 

だが痛みに呻くだけで返事になっていない。締め上げる力を強め、その手の指三本を全力で逆方向に折り曲げた。

 

「返事をしろ、糞が!」

 

耳元で怒鳴ると、か細い声で返事が返って来た。

 

「分がり、まじだ・・・・・」

 

ソイツの腕を離して立ち上がると、腹いせにソイツの腹を思い切り後程二回蹴飛ばした。しばらくすると、嘔吐物の酸っぱい臭いが辺りに漂い始めた。

 

「中岡さん、銃をしまってください。」

 

「え?え?」

 

コータの言葉にあさみは呆然としていた。緊張でカチンコチンに固まってる上、接着剤で貼り付けたかの様に手が銃から離れない。その手は相変わらず震えている。

 

「誰も撃たなくていいですから、銃をしまって下さい。」

 

銃口を下に向けさせ、起こした撃鉄を寝かせた。

 

「後、手錠も貸して下さい。」

 

「あ、はい・・・」

 

手錠を孝に投げ渡すと、孝は鎖をベッドフレームに通し、その男の手に手錠を後ろ手にかけた。良い判断だ。本当ならコイツの目玉抉ってからコロンビアンネクタイでも仕立ててやろうと思ったが、流石に静かにそんな残酷な場面を見せる訳にも行かない。

 

「冴子、俺は二人一組で固まれって言ったよな?」

 

「・・・・・すいませんでした・・・・」

 

大きく舌打ちをすると、ナイフをしまって静香の所に戻った。乱れた衣服を直してやり、抱き寄せた。あー、落ち着くぜ。

 

「静香、無事か?」

 

「ん、平気。ありがと。ちょっと怖かったけど・・・・でも、毒島さんを責めないで欲しいの。先に行ってって言ったの私だし。許してあげて。」

 

冴子は俺が睨んだ所為で目を伏せていた。静香がそう言うなら仕方無いな。惚れた弱み、だよな、これ・・・・・

 

「冴子、次は無いぞ。いいな?」

 

「はい。以後、気を付けます。」

 

気持ちを落ち着ける為に近くのオープンカフェの席にそれぞれ陣取った。だが、一番最初に感情を爆発させたのは麗だった。

 

「何時までここにいるつもり?!人前で誰かを平気で犯そうとする奴がいて暢気に休んでられないでしょ?!このチームの中で、私を加えた四人が一番その危険があるわ!」

 

「確かにそうだ。でも、今はここを迂闊に動く訳にはいかない。皆疲れてる。休める時は休んで状況に対応しないと。ここぞと言う所でミスをしたら、共倒れだ。」

 

ほう・・・・以前の孝ならヒートアップして言い返すかと思ってたのに、随分と冷静な対応が出来る様になったな。リ—ダーとしての貫禄がでて来たって所か?

 

「麗、身も蓋も無い言い方であることを承知の上で言うが、今は我慢するしか無い。ま、お前がが言うみたいに俺もカマ掘られるのはごめん被る。それは認めようだが、俺もリーダーの言葉に賛成だ。」

 

「宮本、私からも良い?この馬鹿はちょっと置いときなさい。目的達成の為には常に先の事を計画しなきゃ行けない。そして綿密に計画を練るにはそれなりに時間は掛かるの。」

 

「私も賛成だ。一番の問題はまずここをどうでるかだ。そのとき初めて他の問題も視野に入れる余裕が出来る。どれだけ水や食料が必要か、そして私達の間で連絡を取る事が出来るか。それを全て考慮した上で一番安全なルートで最初の目的地へ」

 

「私の家はここから歩けば二十分もあれば着くのよ!!」

 

焦ってるのはその所為か。気持ちは分からなくはないが。

 

「二十分の距離は、今の状況において夜明けまでかかるかもしれない。それ位分かっているだろう、宮本君。」

 

麗はそっぽを向いて歯軋りした。近くまで来ているのにまだ何も出来ない。本当なら今直ぐにでも飛び出して行って両親を捜したい。そんな思考が在り在りと顔に出ていた。肩をポンポンと何度か叩いてやった。

 

「冴子の言う通りだ、麗。気持ちは分かるが、焦るな。何も考えられなくなったり、考えようとしない時点で、死ぬ確率は大幅に上がる。今までの経験でそれは分かったろ?」

 

麗は肩を怒らせて俺の手を振り払うと椅子に腰掛けて窓の外を眺めた。

 

「あの、高城さん。僕は電磁波とかの事は良く分かりませんけど・・・・本当にあのEMP攻撃で全ての電子機器が使用不能になったんですか?雷とかに耐えられる物だってありそうですし、無事な機器もいくらかはあるんじゃないかと・・・・」

 

「駄目だ。そんな物はEMPの前じゃ紙の楯だ。遮断物があっても無駄だ。建物は内部の電子機器が外のアンテナから電波を受信出来る様に設計されてる。」

 

「確かに、滝沢さんの言う通りだわ。でもまあ、EMP攻撃が当たった所がどれだけ晒されているかと言うのも機器の無事を左右する筈よ。確かめる術は無いけど。」

 

コータの質問に俺がダメ出しをして、それを更に沙耶が畳み掛けるとコータは撃沈した。そこまで落ち込む事なんて無いだろうに。

 

「じゃあ、車は?沙耶の家でも、クラシックカーとかなら動くって言ってたろ?」

 

「良く覚えてたわね、孝。でも点火プラグが無事じゃなきゃエンジンがかからないわ。」

 

「それに、使える点火プラグなんてそう都合良く見つかる訳じゃないからな。ディーゼル車はマニュアルトランスミッションで、クランクがあればピストンを動かせるかもしれないが、これが中々掛かり難い。下手すりゃ五分、十分は掛かるし、車を探す為に弾も時間も浪費する事になって俺達の計画を大幅に狂わせるぞ。」

 

「では、銀行にある金庫の中はどうだろうか?」

 

「んーーー・・・・可能性としてはあるわね。滝沢さんは?どう思う?」

 

「行ってみる価値は有ると思うな。」

 

「銀行ならここにあるし、おっきい金庫位あると思うわ!運が良ければパソコンとかも見つかるかもしれないし。そう思わない?それに、マウンテンバイクを扱ってるお店で組み立ててある奴が沢山あったから、車が使えなくても<奴ら>よりは速く動けるわ。」

 

・・・・静香にしては結構まともな事言うな。

 

「でも、もしあのグループが取ろうとしたら?」

 

そう、問題はもう一つのあのグループだ。俺達の動きに感付いて排除しようとするかもしれない。沙耶の質問に皆が押し黙った。こんな世界でも、出来る限り<奴ら>になってない人間は殺したくないんだろうな。

 

「物資の共有に文句は無いけど・・・・同じ物が二つあればの話だ。」

 

「流石リーダー。即断即決、素晴らしい。さて、リーダーのお言葉だ。二人一組で行くぞ。今度は静香は俺と来い。」

 

「あ、ちょっとタンマ。」

 

移動を始めようとした所で麗が全員を呼び止めた。おい・・・これからって時に何だよ?

 

「氷は無かったけど、ディスペンサーはちゃんと使えるみたいだから。ここ、他の人達には見つかってないみたいだし、ボトルに入った水もあるわ。全員に行き渡っても余りある位にね。」

 

さっき思った事を取り消そう。麗、グッジョブ!

 

「にしても、手慣れているな。」

 

「夏に、一度喫茶店でバイトしてたの。お父さんにバレてから一週間でやめさせられたけどね。」

 

「そりゃそうだろ・・・・」

 

刑事の娘ともなれば尚更だ。俺もグラスを取って氷抜きのアイスコーヒーを一気に飲み干した。

 

「よしと。じゃあ、改めて。冴子、麗、沙耶、そして孝は銀行の方を調べろ。俺は静香と一緒にオフィスとかを見て使える物が無いか探す。」

 

「あ、じゃあ僕屋上に行きます。本屋とカメラ屋から地図と予備の双眼鏡を見つけたんで、使えるルートがあるかどうか・・・・」

 

「分かった、頼むぞ。気をつけろよ。」

 

それぞれが別方向に散った後、コータの後をあさみが追って行くのを見て思わずニヤリと笑ってしまった。あの顔を見れば馬鹿でも分かる筈だ。あさみはコータに惚れてる。陳腐な言い方にしてしまえば、自分を助けてくれた王子様だからな。まあ、銃を渡す様に指示したのは俺だけど。

 

「どしたの、圭吾?そんな変な顔して。」

 

「いや、なに、チームきってのガンマニアにも春が来たのかなーと思ってさ。」




あさみにコータへのヒロインフラグです!そして感想でも書いた通り、彼女は生き残らせます。これが恐らくパソコンを返してもらうまでに出来る最後の更新かもしれません。一ヶ月ちょっとですので、それまでどうかお待ち下さい。


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一難去ってまた一難

お待たせしました。ある程度書き溜めしていたのと他の作品も執筆していたのとで投稿が遅れてしまいました。


俺はナイフを片手で弄びながら静香と使えるパソコンか電話、または何らかの連絡手段となり得る物がまだ無事で使えるかどうか探していた。今の所、かなり状況は絶望的だ。固定電話や子機、そこら辺に放り出されてる携帯などは只のガラクタとなってしまった。

 

「う〜ん、見つからないわね・・・・」

 

「まあ、俺も流石に軍隊にいた訳じゃないから、EMPに関しての知識も素人に毛が生えた程度の物だ。的確にどこを探せば良いか分かってれば無駄に時間を浪費する必要は無いんだがな。」

 

「まあまあ、こっちは駄目でも、小室君達が何か探してくれるかもしれないし。諦めるにはまだ早いと思うな。大丈夫だよ、たとえ使える電子機器が無くても、私達は生き残れる、って自分に言い聞かせなきゃこの先やってけないもん。いつもいつも私を助けてくれて、私よりもしっかりしてる人がそんな弱音吐いちゃダーメ。」

 

俺の頬に軽くキスすると、俺の手を引いて別の部屋を物色しに行く。全てをチェックし終えたが、結局使える物は何も見つからなかった。

 

「駄目だったね・・・」

 

「おい、俺を励ました奴がしょんぼりしてんじゃねーぞコラ。孝達の所に行こう。」

 

額を指で軽く小突いて俺も彼女がした様に軽くキスしてやると、下に降りた。

 

「あ、いた・・・!!滝沢さん!大変です!」

 

「どうした?」

 

「あ、あの、お婆さんが・・・倒れたらしくて・・・輸血をしないと死んじゃうかもしれません。」

 

それを聞いた静香は普段とは考えもつかない様なスピードでコータの後を追った。やっぱあいつは、一人の医者として出来る事はしたいんだろうな。昔からそうだった、優しい奴だ。俺も一応付いて行った。

 

 

 

 

孝達もコータの呼び掛けに答えてどうやら寝具コーナーで寝かされているご老婦の旦那によると彼女は脊髄の病気で定期的に輸血をしていたらしい。それを聞いた静香は閃いたのか、ポンと手を叩いた。

 

「これ、多分R.Aだわ!」

 

「儂はそれが何なのか知らんのだが・・・・?素人が分かる様に説明してくれんかね?」

 

「只の略語です。体が正常な血液を精製する事が出来なくなる、良くある失調なんですよ。正式名称はリューマチ性関節炎。」

 

「そう、それだ!」

 

「輸血されたのはプラズマか血小板のどちらですか?それと、彼女の血液型は?」

 

老人は眉を寄せて記憶をたどり始める。

 

「種類までは儂も良くは知らんが、妻の血液型はO型です。」

 

「輸血に使われた血液パックの色を覚えていますか?例えば、黄色か赤だったかとか。」

 

「・・・・・黄色だ!間違い無い、黄色の輸血パックだ!」

 

「う〜〜ん、R.A.で黄色いパックなら、PC輸血よね。」

 

「難しい所だな、電力が完全にダウンしてから一日経つが、診療所は近い。使える輸血パックがあるかどうかも分からないのにワザワザ命を捨てる様な行動に出るのはお勧め出来ない。それに、何人かが出たら最後、ここに残ってる他の奴らが入れない様にしたらどうする?」

 

「その時は、ここに残ってるチームの皆が説得すれば良いだけの話です。いざとなれば、無理にでも開ける様に言えます。」

 

ここに来るまでずっと走って来たのか、コータとあさみは肩で息をしていた。

 

「あのー、輸血だけなら俺が出来ますよ?俺、O型ですから。」

 

「そんな風に全血輸血をするのは危険よ。それに、彼女の血液型がO型なら、誰の血を使うかは問題じゃないの。」

 

「プラズマの場合はそう言う分けにはいかない。小室が言ってるのは、赤血球を輸血しなきゃならない時だ。」

 

「良く知ってますね、コータさん!」

 

「あははは・・・・」

 

流石はミリオタ、医療の知識も多少なりとはある訳か。あさみに誉められていい気になってるコータはほっといてと。

 

「けど先生、何で私達が行かなきゃならないの?」

 

「確かに、そうだ。静香先生、次はどうするんですか?定期的な輸血なんですよね?何度もそこまで冒険するにはリスクが大き過ぎます。」

 

孝の言葉を聞いて、静香は絶句した。だが、孝の言葉は尤もだ。確かに、一度の輸血で全てが解決する訳ではない。週一ペースでやっている輸血は、只の一時的な延命措置だ。使い物になる輸血パックを見つける確率も格段に下がる。

 

「本官が行きます!」

 

ここで名乗り出たのは意外や意外、中岡あさみ巡査だった。

 

「だ、駄目ですよ!危険過ぎます!」

 

「そうだぜ、交通課には荷が重過ぎる。お前死ぬぞ?」

 

「市民の為に危険を顧みないのは、警察官の仕事です!滝沢先輩だって、毎度毎度死に向かってまっしぐらに突入してました!これ位出来なきゃ、警察官なんて勤まりません!」

 

「参ったな・・・・分かった。好きにしろ。」

 

「じゃあ、僕も行く。中岡さん一人じゃ危険過ぎる。」

 

「俺も行くよ。二人じゃ幾らなんでも分が悪過ぎる。」

 

コータに続き孝も進み出て、輸血パック確保に名乗り出た。

 

「どいつもこいつも馬鹿ばっかだな。孝、お前は残ってろ。リーダーが万一死んだら残った奴はどうなるよ?」

 

「でも・・・」

 

「良いから、俺に任せろ。」

 

「じゃ、じゃあ、俺も連れてってくれ。自分の身は自分で守る。」

 

スキンヘッドのフリーターも進み出た。

 

「・・・・・途中で逃げるなよ?逃げたら俺がお前をぶっ殺すって事を忘れるな。」

 

「馬鹿言え、俺だって男だ。二言はねーよ。」

 

俺のあの時のブチキレ状態を見ていたからさっきの言葉は冗談に聞こえなかったのだろう、若干だが声が震え、顔も引き攣っていた。最終的には、俺、コータ、あさみ、そしてフリーター(名前を聞いたら田丸ヒロと名乗った)が輸血パック+その他の医療器具確保のミッションに出向く事になった。




田丸さんは死なない方が良いですかね・・・・?


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閉ざされた希望

短いです、はい。すいません。

あさみがパニクります。


命辛々ショッピングモールに辿り着いた俺達は輸血パックや医療器具を設置し、老婆に輸血の処置を施した。一先ずどうにかなった。俺は手近な椅子に体を投げ出し、深く息を付いた。シガーケースから葉巻を取り出して着火した。深呼吸するかの様にゆっくりと小さく、少しずつ吸い込み、吐き出した。サングラスを外して、天井を見ると、さっき吐き出した煙が立ち上って消えるのが見える。

 

「けーいーごー。」

 

静香が俺の顔を覗いて来る。

 

「おお。あの婆さんは大丈夫なのか?」

 

「今は、ね・・・・・」

 

静かの表情が曇る。そう、最早輸血は延命処置でしかない。週間的にやっていると言う事は、また七日後に輸血をしなければならないと言う事、つまり使える輸血パックを探す為に危険を冒す事になると言う事だ。

 

「すまない。今は俺達を死なせずに済む事で手一杯なんだ。」

 

俺は立ち上がると、オープンカフェにいる孝、あさみ、そしてコータの所に向かった。丁度何か話しているが、沙耶、冴子、そして麗の三人が聞き耳を立てていた。

 

「どうした?」

 

「次のステップの会議中よ。彼女の先輩の松島、だっけ?彼女が来るまで待つか、準備が整い次第この場を脱出するか。あの巡査は良いとして、残りの人達はどうするべきか、って事もあるし。」

 

沙耶が胸の前で腕を組んで目を細めた。

 

「平野君は人がどれだけ野蛮になっているか理解し始めている。私達以外の人間も、また然りだ。」

 

冴子が静かに口を添えた。

 

「それに、人を殺すと言う事がどう言う事か、あいつは分かっている。死への恐怖、生き残る為に繰り返す殺戮、どれだけ強固な精神を持っていようが、いずれは壊れる。それがPTSDを引き起こす。」

 

人間の脳は鉄板みたいな物だ。トラウマと言う名の折れ目が付いたら、それは中々消えない。

 

「でも、私達はまだ」

 

「あれは<奴ら>よ。人間じゃないわ!」

 

麗の言葉を沙耶が力強く遮った。

 

「少なくとも、私達はそう割り切って来た。自分の正気を保つ事も、<奴ら>になるのを避けるのと同じ位大事よ。誰だか知らないけど、<奴ら>と呼ぶアイデアを思い付いた人に感謝しないとね。人に似た人ならざる『モノ』を殺し続けなきゃ行けないんだから!」

 

「だが、それだけじゃ無いだろう?お前は両親と再会してから、完全に、百パーセント全ての変化を受け入れた。お前らは全員、支えとなってくれる存在がある。そうだろ?」

 

意味ありげに俺は麗と沙耶を見やる。二人は孝を支えとしていると言う事は最早確定だ。さっさと押し倒してやる事をやってしまえば良いだろうに。男は『そう言うこと』に関しては流れに身を任せるしか無い。

 

「コータの支えは俺達意外に、あさみがいる。彼女がメインの支えだ。お互いの為になる。俺は静香がいるから当面は大丈夫だが。一番の問題は男子二人だ。あいつら、何時プッツンと切れるか分からんぞ。」

 

「その時は私達が『仲間として』やれるだけの事は全てやるべきでしょうね。」

 

俺の言わんとする事が分かったのか、冴子が妖艶な微笑を浮かべた。

 

「ど、どう言う意味よ、それ!?」

 

「ただ、私が女であると言う事を忘れたくないだけの事だ。」

 

「それでこそ本当の女だな、お前。」

 

「あさみもやれるだけの事は全部やります。少なくとも松島先輩が本部から戻るまであさみはここに残ります。」

 

いつの間に来たのか、ひょっこりと俺達が立っている所に頭を突き出したあさみが拳を作った。

 

「あさみはもう安心です。まだ警察学校にいた頃、酷い現場から戻って来た後は必ず上司と話す様にって言われました。でも、」

 

あさみの目が潤み始め、そしてコータに向き直った。

 

「コータさん、まだ高校生なのにそう言う事はもう知ってるし・・・・あさみは警察官なのに、何も出来なくて・・・・」

 

「そ、そんな事無いですよ!あさみさんは本当に凄いです。何も出来ない人に、今まで生き残る事なんか出来ません!」

 

自分を卑下するあさみの両肩にコータが手を置いた。

 

「あさみさん、僕達と一緒に来て下さい。」

 

「え、でも・・・・あさみは」

 

「おい。」

 

痺れを切らした俺は大股で歩み寄った。

 

「使命感に捉われ過ぎだ。確かに、お前は警察官だ。だが、お前は本当にここにいる奴らを救う為に自分の命を投げ出すのか?警察官である以前にお前は一人の人間だ。お前だって生き残りたいだろう?Yes か No で答えろ。コータが大事か?」

 

「・・・・・・はい。」

 

「生き残りたいか?」

 

「・・・・はい。」

 

「ならここを出ろ。はっきり言って今この場に残るのは自殺行為だ。<奴ら>が侵入するのが先か、物資が底を突くのが先か、どちらにせよ死ぬのは時間の問題なんだよ。」

 

「あれは・・・・・警察官だ!」

 

孝の声に、あさみは窓の方に走り寄った。まさか・・・・

 

「そんな・・・・・先輩!!嫌・・・嫌嫌嫌!!こんなの嘘!松島先輩!何で?!どうして!?」

 

気が狂ったかの様にガラスを何度もバレーボールのアタッカーの様に叩き始めた。止めど無く涙が溢れ出す。

 

「警察署にたどり着けなかった・・・・・出て行った後に死んじゃった!!」

 

元より期待はしていなかったが、あさみに取って彼女は唯一の一筋の希望だったんだろう。それが消えた今、何をするか分からない。

 

「誰も・・・・誰も助けに来ない!!!」

 

彼女の悲痛な叫び声がショッピングモールに木霊した。




原作が段々と無くなって行きます。果たしてこのまま好評価を維持する事が出来るか心配です。

感想、報告、質問など、お待ちしております。それでは!


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決別の時

いよいよショッピングモールから脱出を始めます。感想で皆様があさみを死なせて欲しくないとの声が多々上がりましたので、その様にいたします。ではどうぞ。


マズい・・・・あいつがパニクり始めて彼女の言葉が全員に聞こえてしまった。もし全員が暴挙を起こしてしまえばそれこそ取り返しがつかなくなる。この中の誰かは間違い無くPTSDになる。

 

「お前ら、あさみを抑えろ。必要なら気絶させても構わない。今のあいつは精神的に危険な状態にある。これ以上不必要に喚かれては大変だ。」

 

コータが止めようとしたが、彼の手を振り払ってあさみは屋上に続く階段を駆け上がった。先程の叫び声を聞きつけて先にここに辿り着いた奴らも騒がしくなり始めている。警察が当てにならない事と、誰も助けに来る事が無いと分かった今、勝手な行動を起こす筈だ。

 

「孝、荷物を全部集めて皆と逃げる準備をしろ。着替えとかもな。」

 

「分かりました。」

 

「コータ。俺と来い。 お前の女だろ?連れ戻しに行くぞ。」

 

「え?でも・・・・」

 

「あいつが死んだら、お前がPTSDになって、俺達の内の誰かがくたばる、なんてふざけたシナリオを作りたくないんでね。嫌でも引っ張ってくぞ。」

 

「行けよ、平野。後悔したくないんだろ?だったら後腐れの無い様にして来いよ。皆も、別に良いだろ?」

 

孝もコータの肩をポンポン叩いて後押しする。息を切らしながらもしっかりと俺の後ろに張り付いているのは、男のプライドによる執念なのだろう。

 

隠す前に確認したが、7.62mm弾は百五十発弱、ショットガンの弾は俺と孝の手持ちの合計で百発弱。グレネードランチャーも二十発を切った。ハンドガンの弾はコータのP2000と俺のシグ、そしてFMG-9。勿体無いがあれは捨てるか。あれも九ミリ弾を使う。となると、合計は百三十発前後。バイクに積んである武器はまだ手付かずだが、あれは最後まで取っておいた方が良い様な気がする。

 

「馬鹿共が。」

 

相変わらずいがみ合う奴らを他所に、俺は階段を上りながら脱出方法を考えた。ここはやはり近距離で<奴ら>を突破して行くしか無い。孝はバット、冴子は刀、俺にはあの剣、麗はスーパーマッチの銃剣。コータと沙耶、静香は俺達がカバーするしかないな。コータは俺達と違って弾が無いと戦えない。屋上のドアを蹴り開けると、欄干の前に腰を下ろして体育座りをしているあさみがいた。老夫婦が彼女を慰めている。

 

「おい。何時まで自己嫌悪に陥ってるつもりだ。」

 

「でも・・・・自分は何も」

 

「お前はコータを支えると言う大事な役目があるだろ。お前に死なれたら、俺がいるチームの中の誰かが、もしくは全員が死んでしまう。もしお前が死んだら、お前に責任を取らせる事が出来なくなるからな。そう簡単には死なせねえぞ?堂々としろとは言わない。お前がやってもちっとも怖かないし。」

 

「あさみさん。僕達と一緒に来てください!」

 

警察官と言う立ち場はもう意味は無いが、仮に麗の両親と合流する事が出来れば何かしらの益は出る筈だ。あさみはぽろぽろと涙をこぼしていたが、袖で拭い去るとコータに抱きついた。決まったな。

 

「僕を嘗めるな!」

 

あの声は・・・・避難していたガキの一人か。

 

「何かあったみたいです。行きましょう。」

 

コータがあさみと一緒に下りて行った。老夫婦は笑顔を貼り付けたまま俺の方を見やる。

 

「ありがとうございます。皆さんのお陰で、もう少しだけ長く生きる事が出来ました。」

 

老婆の方が深々と頭を下げる。

 

「いや、俺も惚れた女に頼まれたら流石に断り辛くてな。あんたら、これから死ぬつもりだろ?」

 

二人は顔を見合わせると、ゆっくりと小さく頷いた。

 

「もう充分長生きしましたし、こんな世界じゃ私達みたいな年寄りは生きては行けないよ。あの娘みたいな孫が欲しいな。」

 

老人は長年寄り添って生きて来た老婆に語りかけた。

 

「そうか。俺は神の存在は信じないが、来世があると言う事は信じている。願わくば、そこでもっと安全な人生を送ってくれ。」

 

軽く頭を下げると、俺も階段を下りてコータとあさみの後を追った。だが、この時俺は気付かなかった。俺の、俺達の、初めての『ハズレ』が目前に迫っている事を・・・・・

 

 

 

 

俺が下りて来た頃には、既に<奴ら>が一階に侵入していた。恐らく頭に血が上った一人が遂にキレて、パニクった末に塞がれていない非常口を開けたんだろう。

 

「糞・・・・・どこのどいつだ、非常口を開けたのは?あの中に放り込んでやる。」

 

冷静に対応出来ているヒロとその他の何人かは家具を階段の前に積み始めたが、到底時間も人手も足りない。今回ばかりは後手に回ってしまった。計画は都合良く行くとは限らないのが世の常だが、鬱陶しい事この上無い。静香達は既に出る準備が出来ているらしい。

 

「準備は出来た様だな。ん・・・・?沙耶、お前ソイツをどこで手に入れた?」

 

彼女が持っていたのはスネイルマガジンとストックが付いたルガーP08だった。

 

「ああ、これ?ウチを出る前にママがこっそり渡してくれたのよ。」

 

今の今まで隠してたのは扱えない事がバレて恥をかきたくないからか。ま、コータに教えさせれば良いな。

 

「脱出する方法はあるのか?」

 

「二階から一階に続く非常口があるわ。」

 

「先生、高い所苦手なんだけど・・・・」

 

沙耶の言葉に静香の顔が青くなる。

 

「そんな事を気にしてる場合じゃないですよ!」

 

あさみが静香を嗜めた。確かにな。

 

「うし、孝。麗と一緒に先に切り込め。後衛は俺がやる。コータ、孝が許可を出すか、本当に撃つ必要があるまでは絶対に撃つな。沙耶も。冴子とあさみは静香をカバー。車に辿り着くまでの辛抱だ。」

 

「ま、待てよ!」

 

男の一人が走り寄って来た。

 

「俺達はどうなる?俺達はどうすれば」

 

「それは自分で考える事です。もうここは終わりです。これから先、どうするべきかは、自分で決めて下さい。あさみは決めました。警察官は、もうやめます。」

 

ほう、まさか屋上で泣いていた意気地無しがここまで成長するとはな。コータ、大事にしてやれよ?

 

「やっぱり、行くんだな。」

 

「ああ。お前はどうする?包んだったら別に構わないが、自分の面倒は自分で見ろよ?」

 

「・・・・・いや、良い。俺はここに残って頑張ってみるよ。あんな怖い真似、一度で十分だ。」

 

暫くは黙っていたヒロが頭を横に振って同行を拒否した。

 

「そうか。コータ。」

 

「はい?」

 

「それ、渡してやれ。」

 

顎をしゃくってH&K P2000を指し示した。コータは逡巡していたが、渡すに忍びないハンドガンを彼に渡した。まあ良いや、後で機嫌を直す為にFMG-9を渡してやろう。予備のマガジンは持ってるだろうし、俺もFMGの弾があるから、まあまだ困りはしない筈だ。

 

「良いのか?」

 

ヒロが投げ渡された銃と俺を見比べた。まあ、いきなり銃を渡されたら困惑もするな。

 

「良いさ。ただし使い所には気をつけろよ?奴らは音で寄って来る。」

 

「急いだ方が良い。時間が、」

 

冴子は抜刀し、積み上げた家具に辿り着いた<奴ら>の一人の頭を貫き、骸を階段の下に蹴り落とした。

 

「無いぞ!」

 

「だな。」

 

「皆、行くぞ!」

 




そろそろイクサカリバーを弾切れにさせたいと思っています。片手で扱えるハンドガンや剣に変形出来る武器って他に何があったかな・・・・?


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Dig two graves when you kill

装備確認

滝沢圭吾
モスバーグM590A1 (銃剣付き)
シグザウエル P226 X6LW (サイレンサー付き)
イクサカリバー
ダネルMGL
S&W M327 4インチモデル
FMG9
Espada Large(折り畳み式ナイフ)
GM-01スコーピオン
GG-02 サラマンダー
GX-05 ケルベロス

小室孝
イサカM37ライオット
金属バット

宮本麗
M1A1スーパーマッチ(銃剣付き)

平野コータ
改造AR-10

毒島冴子
小銃兼正・村田刀

高城沙耶
ルガーP08

中岡あさみ
三段式警棒
S&W M36 エアウェイト

鞠川静香
医療知識
巨乳

主に自分の為です、はい。ではどうぞ。


 

俺達は急造のバリケードを張っている所に向かって全力で走った。既に一体が侵入してしまっている。いつの間に付けたのか、鋭利な針の様な銃剣が付いたイサカを突き出し、喉を貫いた。だがやはり紛い物の悲しさだ、一度使っただけで直ぐに折れてしまう。二体目が一体目の後ろから現れ、大口開けて孝に噛み付こうとした。だが俺が銃剣を突き出すよりも早くあさみが三段式警棒を引き抜き、野球のフルスイングよろしく二体目の<奴ら>の顔面に叩き付けた。

 

「こんな風に人を殺すのに馴れるなんて絶対嫌よ!」

 

階段に背を向けたあさみの背後から襲いかかる<奴ら>の口に麗が銃剣を突っ込んで押し返した。

 

「案ずるな・・・・・少なくとも私よりはマシだろう?」

 

好戦的な笑みを浮かべた冴子が止めに首を刎ねた。だが、何故かその瞳の奥に何かしら陰惨な物を感じた。

 

「あー・・・・聞いても良いか?」

 

静香を犯そうとして俺がシメた奴が恐る恐る訪ねて来る。

 

「何だ?」

 

「お前ら、何なんだ?」

 

確かに、尤もな疑問だろう。二本では規制が厳しい重火器や刀を引っ下げた高校生数名と同じく武器を持った男一人、そして医者である女一人。統制の取れ方は即興のコンビネーションとは思えない。正直俺も驚いている。

 

「・・・・・聞かない方が良い。」

 

「僕も同感です。」

 

俺の言葉に孝が苦笑いを見せる。

 

「あ・・・・向こうからも来てる!撃つわよ!」

 

向かいの通路からも<奴ら>が集まって来る。ルガーを構えて撃つ体制に入ろうとする。

 

「駄目!駄目です!待って!」

 

「何よ、デブちん!?他にいい方法があるの?!」

 

止められた事が気に入らないのか、体を射抜かんばかりの鋭い眼光を自分の邪魔をしたコータに浴びせる。途端にコータは蛇に睨まれた蛙の様に竦み上がってしまった。

 

「そうじゃない。お前は銃を一度も撃った事が無いし、その上目測でしかないが、向こう側から来る<奴ら>は五十メートル前後離れている。ストックがあっても、ライフルでもない限り一発ずつで確実に仕留めるのは難しい。それに、」

 

「リーダーの小室から撃つ命令が下りてません!」

 

俺のバックアップが功を奏したのか、息を吹き返したコータが後を続けた。

 

「分かったわよ!悪かったわね!」

 

「謝る必要は無いさ。沙耶が言うまで俺は気付かなかった。ありがとな。」

 

孝が沙耶の肩をポンポンと叩いて笑顔を見せてやる。

 

「分かったわよ・・・・でも、あっちはどうするの?すぐに追い付かれるわよ?」

 

そう、俺達の後ろからも<奴ら>はやって来ている。距離は十メートルも無い。

 

「滝沢さん、お願い出来ますか?」

 

「リ—ダー直々のご指名か。良いぜ。」

 

マシンピストルを引き抜いて、トリガーを絞った。銃口から吐き出される弾は<奴ら>を引き裂き、窓ガラスを貫いた。床にも穴が幾つか開いていた。

 

「キリがねーな・・・・」

 

まだ<やつら>の数は一向に減らない。俺はゆっくり前進して引き金を引き続けた。二分程してからようやくある程度の<奴ら>を一掃する事に成功した。

 

「俺はバイクを取って来る。バックアップ頼める奴いねえか?」

 

「では、私が行きます。」

 

「オッケー。孝、俺と冴子はバイクで暫く奴らを引き離す。非常口を押さえたらハンヴィーで合流する。誰を活かせるかはお前次第だ。良いな?」

 

「はい!」

 

「冴子、行くぞ。」

 

「はい。」

 

俺は冴子と一緒にバリケードを乗り越えると、<奴ら>を切り刻みながら前進を始めた。エスカレーターの影に防水シートがチラリと見える。あれだ。鍵を差し込んでエンジンをスタートさせると、冴子の頭にヘルメットをかぶせる。

 

「刀しまっとけ。掴まらねえと振り落とされるぞ。」

 

冴子を後ろに乗せてアクセルを捻ると、ガラスを突き破って駐車場に飛び出した。だが、ここで俺は致命的なミスを犯した事に気付いた。それは<奴ら>の数。駐車場にはざっと数えても百体以上はいる。全部を引き離すのは恐らく無理だろう。高威力のダネルMGLとその弾はハンヴィーの中に入っている。

 

「糞・・・・」

 

「どうしますか?このままでは」

 

「出来る限り<奴ら>をハンヴィーから引き離して始末する。まずお前をハンヴィーまで届ける。」

 

「その必要はありません。私も」

 

「駄目だ。近距離での戦闘はチームの中じゃお前は上位だ。お前が死ねば後々チームの行動に支障を来す。ハンヴィーで下ろしてやるから中に籠ってろ。俺は<奴ら>の数を少しでも減らす。」

 

バイクのエンジン音をワザと響かせ、<奴ら>ショッピングモールから引き離した。カーブし、ドリフトをかますと、冴子をハンヴィーの上に登らせる。

 

「良いか?俺に何があっても絶対に助けに来るな。」

 

「貴方は何故そこまで自分の命を捨てようとするのですか?!貴方は私達のチームの一人・・・・仲間です!貴方を死なせれば、鞠川校医がどれだけ悲しむか!」

 

俺の捨て身の行動に遂に堪忍袋の緒が切れたのか、冴子が怒鳴った。滅多に見れる様な物じゃないが、中々威圧的だ。

 

「分かってる。だが、俺はお前が思ってる様な人間じゃない。俺は、今まで何人も人を殺して来た。静香と関係を持つ事で過去を忘れ、逃げてただけなんだよ。だが、もうやめた。俺は人殺しだ。その事実を、今は受け入れるしか無い。俺はこうして<奴ら>を殺すこの戦いに身を投じた。殺されても文句は言えないし、今更死は恐れない。ハッチから中に入れる。行け。」

 

この時何故冴子の手からヘルメットを奪い取り、バイザーを下ろして再びエンジン音を轟かせた。

 

「This way, motherf●●●ers!!」

 

ハンヴィーから離れた所でエンジンを暫く吹かすと、かなりの数の<奴ら>がやって来た。

 

「さてと。」

 

ガードチェイサーのハンドルのボタン二つを押してスコーピオンを取り出し、サラマンダーに変える為のアタッチメントを銃口に取り付けた。腰撓めに構えて少しだけ上に傾けると、フォアエンドを一往復させ、引き金を引いた。大砲の様な音と共に銃口からグレネード弾が飛び出し、前方にいた<奴ら>が多数吹き飛んだ。すげえ威力だな・・・・一度アタッチメントを外すと、スコーピオンを両手で構えてスコープを片目で覗きながら息を吐き出し、引き金を絞った。バスゥン、と普通の銃では聞かない様な銃声が木霊し、奴らの頭を貫いた。続けて引き金を引き続け、マガジンの半分位を撃った所で二つを収納スペースに押し込んだ。右端のボタンを押すと、荷台のロックが外れた。コードを入力すると、

 

『解除シマス』

 

ケースみたいな形をしていた物が巨大なガトリングに変わった。これがかなり重く、ズシリと来た。これも腰撓めに構えて引き金を絞ると、銃身が回転を始める。回転の速度が上がり始め、銃弾を吐き出し始めた。<奴ら>は体中に穴が開くどころかスイカを454カスールで撃ったみたいにバラバラに弾け飛んだ。そのマガジンの弾が尽きる頃には、かなりの数の<奴ら>の破片が辺りに散乱していた。使う前に幸い耳栓をしていたから突発性の難聴にはなっていないが、あまり上手く聞こえないし、更には両腕が痺れている。

 

「これじゃあバイクの操縦も出来ねえな。糞・・・・・」

 




G3-Xの装備を活躍させました。やっぱ広域殲滅はガトリングとグレランでしょう、と思ったので。

コメント、報告、指摘、ストーリ—展開のこうしたらどうだろう?と言う様な案など、いろいろとおまちしております。それでは。


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床主東署

東署到着です。


両手を振って血行を取り戻そうとしたが、相変わらず殆ど感触が無い。何度か力一杯拳を打ち合わせてようやく感触が少しだが戻って来た。バイクのハンドルに手をかけるが、ケルベロスを撃った所為で手が震えてアクセルが捻れない。あれは使い所の見極めが大事だな。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ヒロ・・・・?お前、何で・・・・?」

 

コータに渡させたハンドガンとさすまたを持った田丸ヒロが俺の手をハンドルから外し、俺を後ろにズラして前に座った。

 

「あんたの連れと一緒に逃げて来て、刀持ったコがあんたが一人で戦ってるって・・・・銃声が止んだから見に来たんだが、噛まれちゃいねーみたいだから安心したぜ。どんだけダイハードなんだお前?」

 

バイクの操縦方法は心得ているのか、ハンヴィーの方にバイクが前進し始めた。思ったより体力を消耗したのか、タンデムシートから落ちない様にするのも一苦労だ。

 

「ほらよ、姉ちゃん。噛まれちゃいねえよ。かなりばててる様子だがな。」

 

孝と冴子が俺をハンヴィーの中に押し込み、孝がガードチェイサーに乗ってヘルメットを被った。

 

「次は・・・・どこに行くんだ?」

 

俺は乱れた呼吸を整えながら訪ねた。

 

「麗のお父さんを探しに行きます。ですから、今から僕達が目指すのは床主東署です。滝沢さんは少し眠ってて下さい。一人であの数の<奴ら>を相手にしたんですから・・・」

 

「着いたら起こしてくれ。バイク、壊すんじゃねーぞ。」

 

そう言って俺は目を閉じて、意識は薄れて行った。

 

 

 

 

どれ位の時間が経ったかは分からないが、俺が目を覚ました頃には空が段々と曇り始めていた。その内雨でも振るんだろうな。随分と柔らかい枕があったお陰で良く眠れ・・・・

 

待て、『枕』?そんな物を積んだ覚えは無いが・・・・

 

「ようやく目を覚ましましたね、滝沢さん。」

 

俺は上を見ると、冴子が俺を見下ろした。つまり俺は冴子の膝枕で恐らく鼾を盛大にかきながら眠っていたらしい。起き上がって口の端から垂れている涎を拭くと、背筋を伸ばした。

 

「ここは?」

 

「東署の駐車場です。皆疲れていたので仮眠を取っていました。ですが滝沢さんが中々目を覚まさないのでしばらく待っていたんです。」

 

「悪いな。で、今回の目的は何だっけ?武器調達だったか?」

 

「お父さんを探してるんです!」

 

起き抜けで思考がクリアーではない俺にジガジガしている麗が噛み付いた。

 

「だからと言っていつまでもこんな所に籠っているとは考え難いぞ。雨風は凌げても食料も水も無い。常識的に考えてここにいるとは思えない。」

 

「あの、自分もそう思います・・・・ここは武器はあってもその他に必要な物とかはあんまりないですし。」

 

あさみが俺の言葉に同調して恐る恐る手を挙げる。

 

「そんな事、行って見ないと分からないじゃない!」

 

「確かにな。だが俺はあくまで可能性の話をしている。落ち着け。」

 

俺は起き上がると、立てかけてあるモスバーグを取って中に弾が入っているのを確認した。両腿のホルスターのシグ、サイレンサーとM327、その予備弾もちゃんとある。

 

「あ、滝沢さん、このマシンピストルですけども・・・・」

 

「ああ?」

 

「弾切れになりました。」

 

孝が申し訳無さそうに引き金を何度か引いて空になった事をアピールする。どうやらここに来る途中で<奴ら>を殲滅する為に使いまくったらしい。まあその内弾切れになるとは予想していたがな。仕方無いか。

 

「冴子、お前にやるよ。コイツは剣にも変形出来る。使い慣れてる刀とは違うだろうが、いざその刀が折れたら使え。普通の物よりは丈夫だ。」

 

少なくともその筈だ。数百ともつかない数の<奴ら>を斬って来たこの反りの無い赤い刃は、罅所か刃毀れの兆しすら見せない。剣に変形させて冴子に渡す。ひゅっと振って感触を確かめる。

 

「重さも丁度良い・・・・」

 

「だろ?まあ、鞘が無いのが唯一の難点だが、銃の形に戻してこのホルスターで背面に収納しろ。俺よりも剣術に特化したお前が持っていた方が効果がある。さてと、この中は俺の庭だ。どこに何があるかも分かってる。それに、万一場所が変わってても現役の奴がいるからな。」

 

俺達は車から降りると、東署の駐車場を見回した。血にまみれた<奴ら>の死体、散乱した機動隊のポリカーボネート製の楯や制服の帽子、書類、ビラなどなど。だが、それ以外には人らしき人は見えない。ショットガンのベルトを肩に掛けると、シグを抜いてサイレンサーを装着した。ブラスチェックを行うと、セーフティーを外し、左手にマグナムを持つ。

 

「最悪の事態は覚悟してたけど、ここまで酷いとは・・・・・」

 

「覚悟してたって、どう言う事よ!?」

 

暗にここにいた奴ら全員が死んだと言う事を仄めかす孝に麗が逆上する。だが、自分の言葉が示していた事を思い返すと、下唇を噛んで何も言わない。

 

「何よ!?何で何も言わないの!?」

 

俺は振り向き様に麗の横っ面を張り飛ばした。

 

「落ち着け。あくまで可能性の話だ。充分あり得るだろう?」

 

「あのお〜・・・・」

 

「どうした?」

 

「ここにタイヤの跡が沢山あるんで、恐らく乗った人達の一部は無事かと思います。EMPの効果が現れなかった電子機器を積んでないタイプの車は。」

 

「そうね。恐らく私達がショッピングモールを出た後位にはもういなくなってるわ。でも中に誰かがいると言う可能性も捨て切れない。」

 

「中に入って確かめるしか無いな。この中なら武器や弾薬は補充出来るから、その後に麗の親父さんを見つける手掛かりを探そう。他に何かあるか?」

 

「リーダーならちょっとは自分で考える物よ?」

 

「作戦を立てられる優秀なスタッフがいてこそリーダーだろ?」

 

俺と沙耶を見やる孝に、俺は嘆息した。善くも悪くもコイツはリ—ダーに向いてるな。

 

「中岡さん、銃が置いてある場所って分かる?」

 

「ん〜〜と・・・・あさみは交通課であんまり銃を使う事は無いですから。でもあるとしたら拳銃保管庫です。」

 

沙耶に指名されたあさみは目をきつく閉じて記憶の中を漁りながら答えた。

 

「だが、保管庫は恐らくもう漁られてるだろう。そこは使えねえ。それにああ言う部屋は暗証番号で開くタイプの厳重なロックが掛かってる。今でもそうだろ、あさみ?」

 

「あ、はい。先輩に寄ると六桁の暗証番号を入力してから初めて開くって言ってました。」

 

「でも、もういーえむぴーとかの所為でもう使えないんじゃない?」

 

静香が口を添えた。そう考えるのが自然だろう。

 

「ああ。静香の言う通り恐らくもう使い物にならない。行くとしたら・・・・証拠品保管庫だ。だろ?」

 

「はい!そこなら色々と違法な物も置いてありますから!」

 

あさみの表情がぱっと明るくなった。

 

「そうだ!警察の支給品じゃないから仮に銃があるとしたらきっとそこにある筈です!」

 

コータもあさみの『違法な物』と言う言葉に反応して興奮気味に捲し立てた。

 

「内装を変えてない限り、あれは確か三階だ。そうだろ、麗?」

 

「はい!中学の時にちらっと見ました!銃も入ってます!」

 

「よし、じゃあ上に行くぞ!麗と俺が先頭に行く!」

 

「後ろは任せろ。冴子、行けるな?」

 

「勿論です。」

 

階段の方では幸い<奴ら>の数は少なく、かなりスムーズに登る事が出来た。三階でも大して<奴ら>の姿は無い。

 

「あれよ!廊下の突き当たり!」

 

SATの服装をした<奴ら>が前と後ろから現れた。サプレッサーを付けたシグをシングルハンドで構え、引き金を引いた。籠った低い撃発音と共に九ミリ弾が頭を貫き、壁に血と脳味噌の欠片を撒き散らす。倒れてはいるが、念の為に頭にもう一発ずつ銃弾を食らわせるとサプレッサーを外してシグをホルスターに納めた。

 

「ヒャッッホオオオオオオオオイイイ!!」

 

コータが狂喜が孕んだ歓声を上げた。

 




次辺りで新しい武器を出そうと思います。当然特撮物です。色々とアイデアを頂きました。ありがとうございます。

感想、報告、指摘、ストーリー展開のリクエストなど、お待ちしております。


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強化と手掛かり

武器入手編です。次話かその次辺りで新しいキャラを出そうかと思います。


コータが死んだ<奴ら>の死体を漁り始めた。俺はとりあえず一体目の<奴ら>のホルスターにあるベレッタの弾を抜いて仕切りが付いたダッフルバッグにぶち込んだ。九ミリ弾が増えて助かったぜ。

 

「これは連射タイプのH&K MP5SFKだ!サプレッサーもライトも付いてる!予備のマガジンも三つ!こっちはM92FS VerTecと予備のマガジンが二つ!」

 

予想以上の収穫だと言うべきだな。

 

「コータ。ほら。これを使うかどうかは分からないが、一応渡しておく。」

 

「FMG-9!コンパクトに畳める9ミリ弾を使うサブマシンガンだ!・・・でも、なあ。」

 

物欲しそうに他の銃を見やった。確かに他の銃は必要だが、FMGは消費が半端無い。フルオートで撃つ必要も無い。更に、九ミリ弾は当たり所に寄っては一発で<奴ら>を倒すのに十分な破壊力を持ってる。

 

「いらないなら別に捨てても構わない。九ミリ弾は7.62ミリが切れたら必要になる。」

 

コータは意を決した様にFMGを投げ捨てた。俺はシグのマガジンに弾を押し込んで再び満タンになると、もう一丁のベレッタと予備のマガジン一本をコータに渡した。

 

「あさみさん、毒島さん、これ、使って下さい。」

 

レーザーサイトがマウントされたベレッタM92FSVerTec二丁とホルスターをそれぞれ冴子とあさみに渡した。

 

「こ、これ、あさみが使った奴と全然違いますよコータさん!どう使うんですか?!」

 

「私も銃を扱った事など無いんだが・・・・」

 

「俺が教えてやる。あさみはコータにレクチャーしてもらえ。これで少しは持つかな?」

 

「でも、新しいサブマシンガンとハンドガンだけじゃ頼り無い。」

 

コータは狂喜を押さえ込んで厳しい表情を作ろうと努力するが、しばらくしてからやめてしまう。やっぱりガンマニアはガンマニアだな。

 

「バルカン砲とグレネードランチャーがあるだろうが。」

 

「でもあれは特殊ですし、いざって時の為に取っておかないと・・・・それに、今必要なのは新しい銃じゃなくて弾です。サプレッサーでも完全に音を消せる訳じゃないし、どちらにせよいつでも撃てる訳じゃない。」

 

「じゃあ、あのクロスボウはどうするんだよ?」

 

孝がイサカを担いで訪ねる。

 

「矢の本数が限られてるから無駄撃ちは出来ない。」

 

まあ、何はともあれ、証拠品保管庫には着いたな。俺はドアノブに手を伸ばして開こうとしたが、動かない。やはり鍵はかかってるか。まあ、当然と言えば当然だろうな。

 

「・・・・・糞。」

 

「ヌフフフフフフ、こんな時は・・・・高城さん!」

 

「え?あ!」

 

沙耶はバッグの中からドリルを取り出した。成る程。隠密行動では必要な物だな。見た所学校の備品らしい。数分後に、ようやく鍵を抉じ開ける事に成功した。乱暴に蹴り開けて中に入って<奴ら>の有無を確認する。誰もいない。薄暗い部屋の中で幾つも棚が並んでいて、その棚の上に段ボール箱が乱雑に置かれていた。

 

「どこから始めるかな・・・・?」

 

「見るとしたら、刑事課とか銃刀法違反て書いてある筈だから。」

 

「あ。」

 

孝は黒い大きなケースを引っ張りだして開けた。中に入っていたのは大きなピストルグリップのショットガンだった。

 

「うわ、M1014 JSCS・・・・ベネルM4 スーパー90!アメリカ海兵とイギリス軍が使ってるコンバットショットガンだ!小室、君が使いなよ!」

 

「入る弾は八発、それにセミオートか。ご丁寧に弾薬の入った箱まであるとは。」

 

「何だこれ。イサカより重いぞ。」

 

孝はイサカとベネリを持って比べると顔を顰めた。確かにイサカの方が軽いから取り回しが良いだろうが、ベネリは撃つ度に一々フォアエンドを操作する必要が無い上に、銃床で殴り付けた時の威力が違う。ロスでマフィアの一員に殴られた覚えがある。中々に痛かった。

 

「そりゃそうだろう。こっちは軍隊に正式採用されてる本格的な戦争用の道具だからな。だが、扱い自体は簡単だ。そのボルトを引いて、イサカみたいにシェルを中に押し込めば良い。銃口がドアブリ—チャーになってるからポールアームみたいにも使える。」

 

「撃つのは出来る限り避けたいからな、助かる。他のはどうするんだ?」

 

孝がトカレフやクレー射撃で使う様な二連ショットガンを指し示す。

 

「コイツはやめとけ。ショットガンならもうあるし、トカレフは危な過ぎる。共産圏の銃は大量生産のみを重視してる。機能性も銃自体のクオリティーも低い。昔は良く暴発事故があった。グリップも撃った反動をまともに吸収し切れない位細っこいし、セーフティーすらない。弾は使える物を持てるだけ持て。」

 

俺はポケットからペンライトを取り出して辺りを照らし出す。

 

「あれ?滝沢さん、何でそのライト使えるの?」

 

「ん?いや、試しに点けてみたらな。点いた。」

 

「あーーーー!!忘れてたわ!集積回路を使ってない電池で動く物なら何の問題も無く動くわ!!ホンットあたしって馬鹿になってる!!」

 

「落ち着け。俺だって今しがた思い出したばっかりなんだよ。」

 

己の大事な見落としに気付いて自己嫌悪を始める沙耶にそう言って俺は箱を漁って7.62ミリ弾や357マグナム弾、ショットシェル、そして九ミリ弾を見つけてはバッグに放り込んで行った。

 

全員がそれぞれ武器をすぐ取り出せる様な所に収納、装着し始める。俺はとりあえず左腿のホルスターを外し、腰背面のナインオクロックポジションに納めた。もし使える近接武器が見つかればそこに差せる。

 

「圭吾・・・・」

 

「どうした?」

 

静香が俺の袖を摘んで引っ張る。彼女の顔には心配の色しか浮かんでいない。だがリカは空港に配属されているからここにはいなかった。少なくとも電話で話した時はそうだった。今はその可能性に賭けるしかないな。

 

「リカ、大丈夫よね・・・・?」

 

財布に入れてある俺達三人が写った写真を握っていた。

 

「分からん。」


無責任な事を言って無駄な希望を持たせたくはない。故に俺はそうとしか言えなかった。正直、連絡をEMPによって絶たれて以来リカの足取りは完全に掴めなくなった。洋上空港ならば自衛艦が救助しただろう。だがあいつの事だ、持てるだけの武器を持って俺達を探そうとまた床主に飛び込もうと躍起になる。

 

「俺は神は信じないが、お前達やリカは信じる。今出来るのはそれしかない。だから、お前も俺やリカを信じてくれ。な?」

 

静香を抱き寄せて抱きしめてやる。ふわりと何か甘い匂いが俺の鼻孔をくすぐった。静香もまた俺に腕をきつく巻き付けて放そうとしない。俺もそれに答えてさっきよりも腕の力を強めて更に密着する。

 

「あのぉ、滝沢さん・・・・?静香先生・・・?」

 

「「ん?」」

 

抱き合ってるのを見てコータやあさみが赤くなっている。意外や意外、冴子もそっぽを向いていた。やっぱこう言う事には免疫が無いみたいだな。

 

「何だ?ケアだよケア。こう言う時だ、ストレスも恐怖も溜まりまくってる。」

 

「それを発散、共有するのも大事な事よ。心と体にも、ね?」

 

軽く唇を合わせると直ぐに離れた。

 

「お前らも好きな奴がいるんだったら出来る事は今の内にやっとけ。死んだら何も出来ねえぞ。特にお前ら童貞&処女諸君。」

 

図星を突かれたのか、沙耶、麗、あさみ、冴子は赤くなり、コータや孝は項垂れていた。

 



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希望、再び

もうちょい冴子さんをデレさせようかなと思います。オリキャラ登場は次話です。


「さてと・・・・」

 

全員が身支度を整えると、あさみ、麗、そして孝を筆頭に最上階の通信指令室に向かった。僅かばかりの<奴ら>の残党を一掃すると、中に踏み込んだ。

 

「後ろはどうだ?」

 

「クリアです!」

 

「まだ生きてるコンピューターがあるかどうか探せ。」

 

暗い部屋の中を捜索して、たった一台画面が光を発しているのを発見した。

 

「あ、おい。沙耶、これ生きてるぞ!」

 

それを聞いた沙耶は孝を押しのけて画面を確認し、マウスを滑らせた。彼女の顔に希望の色が見えた。

 

「J-Alertシステムがまだ動いてる!」

 

「ジェイ、アラート?なんだそりゃ?」

 

「日本全土に向けてる緊急警報システムさ。地震とかミサイル攻撃とかの非常事態に警告と情報を市民に与える衛星システムだ!対EMP処置もしてある!」

 

「電力はどこから供給されているのだ?近くにまだ生きている発電所でもあったのだろうか・・・・」

 

「信じられない!」

 

素早くキーを叩きながら画面に目を走らせる。

 

「恐らくバックアップの非常用バッテリーで動いてるわ。既に警告を発信してるからかなり持つみたいね。」

 

「あら、病院と同じね。」

 

静香がいらん事を言ったんで脇腹を小突いた。

 

「あーもう!!」

 

だが暫くして沙耶はテーブルを叩く。

 

「いらない情報が多過ぎて検索が出来ない!」

 

「貸してみろ。」

 

俺が代わりにキーを叩いて、複数のスクリーンが入り乱れる。

 

「見つけた。治安維持困難地域よりの緊急住民避難計画について・・・・どうやら自衛隊は床主を捨てる事にした様だな。」

 

「避難?応援じゃなくて?」

 

「しかたねーだろ、今の状況を考えると。生存者を出来る限り助けるしか方法は無い。これによると、明後日の間、僅か数時間しか避難を行わないらしい。場所は・・・・・・・新床第三小学校。孝、確かお前のお袋がそこにいるんだったな?」

 

「はい・・・・」

 

「手間が省けましたね。」

 

冴子が微笑を浮かべた。

 

「ちょっと待って!私の家族は?!」

 

「当然探す。この建物にいるとしたらどこだ、麗?」

 

孝が麗の両肩を掴んで訪ねた。

 

「こっちよ!」

 

麗は真っ先に公安係と書かれた部屋に飛び込んだが、そこには誰もいなかった。デスクやバインダー、書類が荒らされた様にあちこちに散乱している。ん・・・・

 

「おい!このボード・・・・」

 

マジックでホワイトボードに大きくこう書かれていた。『生存者は新床第三小学校へ!』

 

「これ・・・・お父さんの筆跡!生きてる!お父さんが生きてる!生きてるよぉ、孝!」

 

感極まって泣き出し、それだけでは飽き足らず孝に思いっきり熱烈なキスをプレゼントしてやった。

 

「な、なななな何やってんのよ宮本!?」

 

「え?あ・・・・・」

 

孝は何が起こったのか上手く脳の情報処理が追い付かずパンクしている。石像の様に突っ立ったまま動かない。沙耶に関しては顔が真っ赤だ。初心だな。

 

「さてと。手掛かりも武器も手に入れた事だし、下に降りるか。・・・・あ。」

 

「どうしたんですか?」

 

「そう言えば、地下に何かあるのを忘れてた。」

 

「地下?」

 

「駐車場がある。そこで使える物が無いか探してくる。ハンヴィーで待ってろ。全員だ。」

 

「私が後衛を勤めます。」

 

「お前も待ってろ。」

 

「いいえ、行きます。」

 

全くコイツは・・・・頑固者は嫌いだぜ。言い出したらてこでも聞かない。

 

「撃ち方をまだ教えてもらってませんから・・・・」

 

「直ぐに戻る。」

 

一階に下りると、別の階段で地下に向かった。地下フロアの一部は留置所、残りは駐車場だ。EMPの効果がここまで広がっている可能性はあるが、見るだけ見ておこう。足音を殺し、息を潜め、感覚を研ぎ澄ませる。ドアを開けようとしたが、うめき声の様な物が聞こえる。<奴ら>だ。ドアの隙間から覗いて見たが、だいたい十体前後いる。まあ大丈夫だろう。

 

「通れ、ますか?」

 

「ああ。とりあえず銃の撃ち方を教えてやる。そこまで難しくはない。右側の側面に赤い点があるだろ?それが発射準備完了の意味を示す。このまま引き金を引けば、弾が出る。そのレバーを下ろして赤い点が隠れたら安全装置が作動している事になる。」

 

冴子の銃を取って簡単に説明する。レーザーポインターのスイッチを入れると、糸の様に細い赤い線がポインターから放たれる。彼女の手に銃を握らせると、後ろに回り込んで俺の手を重ねた。

 

「お前はまだ不慣れだから片手撃ちは無理だ。右手でグリップをしっかり握って、左手は添えろ。撃つ前にゆっくり息を吐き出して引き金を絞れ。」

 

「あ、あの、滝沢、さん・・・・・く、くすぐったいです。息が・・・・」

 

「はあ?」

 

見ると、濡れ羽色の長い頭髪から覗く耳が真っ赤になっていた。しかも今の俺は銃を両手で構えた冴子の両手に自分の手を重ねている。下手なあすなろ抱きみたいな物だ。

 

「おお、悪い悪い。まあ、とりあえずはそんな所だ。<奴ら>が二、三体現れたら撃ってみろ。」

 

「あ、あの。」

 

「ん?」

 

「ショッピングモールから逃げる時、こう言いましたよね?『俺は人殺しだ』と。私も、同じなんです。数年前、夜道で私は男に襲われました。無論木刀を携えていたので負けはしませんでした。ですが・・・・・『楽しかった』んです。明確な敵が得られた事、それは悦楽その物でした。あの時木刀を持っている自分が圧倒的に有利な立場にいました。躊躇う事無く逆襲しました。本当に楽しくてたまらなかった・・・・それが真実の私なんです。今となっては、益々酷くなっています。」

 

その時、俺は初めて気付いた。彼女の澄んだ眼の奥に潜む、奈落の様な底知れぬ『闇』に。傭兵時代の俺と同じだった。一つの仕事を終えてから何度も精神を死者の怨念の声によって蝕まれ、狂気の縁に追いやられた事も一度や二度ではない。

 

「それがどうした?お前は、自分を汚れた存在だと蔑んでいるが、俺だって充分汚れている。お前は人を殺しかけたが、俺はその何十倍と言う数の人間の命を奪った。俺はそれを受け入れ、受け入れてくれる人を見つけた。受け入れる事が出来る奴がいないと思うなら、お前の全てを、お前の『闇』を俺が受け入れる。だから、ありのままの自分を忘れるな。」

 




あー・・・・早く新しい武器を登場させたい・・・・次位で出る筈です。原作再開、もしくはアニメ二期をやってほしいですねー。


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思いがけない助っ人

留置所は不気味な程に静まり返っていた。閉じ込められた<奴ら>が何体かいたが、どうでも良かった。目的の物はここには無い。駐車場の方へ向かって行く。だが、使える車は一台も無かった。まだ手付かずで残っていたのは、巨大な青と白のトラックだ。物陰に身を潜めて様子を見ると、トラックの運転席が開き、私服姿の男が降りて来た。あいつは・・・・!

 

「しぶといな、片桐。」

 

「滝沢!お前生きてたのか?!」

 

「まあな。その台詞、そっくり返すぜ。そのしょぼい装備で良く生き残れたもんだ。所で、そのトラック、動くのか?」

 

「幸いな。鍵もあるし。あれ?後ろにいるポン刀引っ下げたビューティフォーなお嬢ちゃんは?」

 

「チームの一人だ。残りは全員上で待ってる。」

 

「チーム?」

 

俺はとりあえず今まで起こった出来事をかいつまんで話した。冴子も自己紹介をする。

 

「お前も来るか?こんな戦車みたいなトラックがあれば、移動が楽になる。<奴ら>をある程度は強行突破で轢き殺せるし。」

 

まさかと言う所で俺が出会ったのは片桐竜二、床主東署警備部門所属のSPだ。上はタンクトップにベスト、ヒップホルスターにシグP230、ショルダーホルスターにはH&K P2000、そして右手にはコルト・ガバメントらしき銃が握られている。左腰には幅が広いマチェットみたいな物がシースに入れてある。言ってしまえばランボーのアジアンバージョンだ。見た目と身長の所為でまだ幼く見えがちだが、片桐は俺と年齢は同じで銃の腕前はハンドガンだけなら俺よりも上だ。何より反射神経とクイックドローの速さが半端無い。要人警護中に、誰よりも速く武装した不審者三人に反応して一人は脳天、残り二人は腹をぶち抜いた。あれを見た時久々にすげえと思ったな。他にもとある財閥の会長を狙って来た犯罪集団を近年稀に見るニューナンブとシグの2丁拳銃で皆殺しにしたと聞いた。

 

「良いぜ。乗りな。電力がダウンした筈なのに何故かこのトラックだけは動くらしい。中もすげーんだ。かなり広いぞ?」

 

中に乗り込むと、片桐はハンドルを切ってトラックを巧みに操り、地上階に続く坂を登って行くと、正面の出入り口前に停まった。

 

「孝、静香!」

 

「滝沢さん!どうしたんですか、これ?!警察車両じゃないスか!!」

 

「説明は後でする。静香、トレーラーの中にハンヴィーをバックで入れろ。バイクは俺が横付けして入れる。」

 

作業を終わらせると、トラックは走り出した。とりあえず自己紹介やら片桐と俺の関係を簡単に話してやると、やっと安心してくれた。あさみは過去に良く片桐にからかわれていたらしく、コータの後ろに隠れた。

 

「にしても、凄いわね、この中。何なの?」

 

沙耶がいぶかし気に車内を見て回る。ラックには銃弾の紙箱やガードチェイサーに積んである武器の銃弾などが入っている。コータは目を輝かせて辺りを見回していた。あさみもガキみたいにはしゃぎ始めた。

 

「警察車両には間違い無いが、多分これはSATやSITとはまた違う特殊班の車両だろう。見た所防弾仕様だし、EMPの処置もしてある。外のマークも警察の物だが、SAULとしか書かれていない。」

 

「大方上層部が作ったんだろうよ。あのバイクの方も納入中に手違いでどっか行っちまったらしいが、まさかお前が持ってたとはな。」

 

「偶然だよ、偶然。」

 

「さてと、僕達がやる事で残っているのは二つ。一つは麗の家に向かって、麗のお母さんがいるかどうか調べるのと、明後日までに新床第三小学校に向かう事だ。片桐さん、良いですか?」

 

地図を見ながら運転をしている片桐に孝が訪ねた。

 

「んー、まあな。親は俺がガキの頃に死んじまったし、俺にゃ嫁もガキもいねえ。ただ、問題があるとするならこのトラックだ。転がす自信はあるが、民家の路地をこの小回りが利かないトラックが上手い事移動出来るとは思えないんだ。コイツは横幅があるから横転の可能性は低いが、急カーブとかはほぼ間違い無くアウトになる。後孝、俺の事は名前で読んでくれて構わない。」

 

「はあ・・・・まあともかく、ここら辺の道筋は僕や麗、後滝沢さんが知ってますから大丈夫な筈です。」

 

「そっか。お前らは会って間も無いが、滝沢が信頼してるなら俺も信頼してやるよ。暫く寝てな。特にあさみ、やっと男見つけたんだから、添い寝位してやりな?」

 

「ちょちょちょ、なな何言ってるんですか片桐しゃん!?あいた!?」

 

「クハハハハハ!盛大に舌噛みやがったな。やっぱお前弄くるの面しれーわ。なあ、滝沢?」

 

爆笑しながら運転を続ける片桐に吊られて最初にコータ、次に孝、数分後には俺を含めた全員が笑い始めた。こんな地獄の中で、僅かでも緊張を解せる事が分かると、皆が安心し始めた。笑いが収まってから、運転している片桐以外がそれぞれ目を閉じて体力補給の為にしばしの休息を取った。しばらくしてから殆ど全員が思い思いの体勢で眠り始めた。

 

「ふぅ〜〜・・・・」

 

俺はと言うと、静香と一緒に近くの酒屋からかっぱらったウィスキーの瓶を傾けていた。当然葉巻も吸ってる(俺だけだが)。

 

「あら、毒島さん。眠れないの?」

 

「はい・・・・」

 

「お前なあ、言っただろ?汚れた者同士、俺が受け入れてやるって。」

 

俺は着ていた革ジャケットを脱いで頭に乗っけていたサングラスを外すと、冴子を差し招いた。今の俺はカーゴパンツとタンクトップだけだ。静香はと言うと、XXLサイズのシャツと動き易いホットパンツで肉付きの良い太腿を惜しげも無く見せていた。

 

「それを言うなら俺達、じゃないかしら?」

 

アルコールが回り始めた静香は意外とスイッチが入ってリビドー全開になる。俺のタンクトップの中に彼女の手が滑り込んで来た。火照った体が冷房で冷えた俺の体を温める感触が心地良い。最初に会った頃は、傭兵時代の悪夢にうなされて何度こうしてもらった事か。本当に、色んな意味で静香は良い女だ。

 

「こー言うスキンシップはね、自分と相手に精神的な安心感を与えてくれるのよ?人間て一人じゃ生きては行けないの。支えが必要なのよ。私には皆がいるし、リカもまだどこかで必ず生きてる。だから、私は生きて行ける。でも、毒島さんにはそれが無い。」

 

「だから、俺達が与えてやる。来いよ。」

 

まあ、コイツの場合は母性の象徴とも言える胸がデカ過ぎるってのがあるんだがな。それは兎も角。俺はナチュラルに彼女の細いウェストに腕を回して体を密着させた。それを見て冴子は顔が赤くなる。彼女が答える前に、俺は静香と一緒に彼女の腰回りに手を伸ばして引き込んだ。俺達の間に倒れ込んだ彼女からは、静香とはまた違う甘い匂いがした。

 

「あ・・・・・・」

 

「自分を受け入れられないなら、まずは俺を受け入れさせてやる。」

 

顎に手を添え、自分の方を向かせる。

 

「俺の目を見ろ。俺の瞳はお前よりも汚れているだろう?」

 

「はい・・・」

 

「だからお前が負い目を感じる事は無い。」

 

ゆっくりと、だが確実に彼女の唇を奪った。まあ、後々調子に乗り過ぎて後々沙耶がマジギレしたのはお約束って奴だ。

 




はい、ここで新キャラ登場です。


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In the Rain

お待たせいたしました。


「ホンッッットにもう!!」

 

沙耶が俺達の情事を目にしてから真っ赤な顔で二十分近くは冴子や静香と共にお小言を拝聴する破目になった。助手席の方に向かうと、フロントガラスにパラパラと雨粒が落ちて来るのが見える。そろそろ天気がヤバいな。

 

「片桐、この中には雨具とかは・・・・?」

 

「ああ。あるぜ。傘も二、三本は。人数分かどうかは分からないがな。だが、」

 

溜め息をついて片桐は続けた。

 

「これじゃ移動が難しくなってくる。雨の中じゃスピードを出し過ぎればスリップするし、徒歩じゃ時間が掛かり過ぎる上に銃がお釈迦になるかもしれない。」

 

確かに。雨は銃の内部に多大な、とまでは行かないが、ある程度影響を及ぼす。長時間晒されていたら尚更だ。特に砂や泥が入ったら確実にアウト、使い物にならなくなる。

 

「一本どうだ?美味いぞ?」

 

ケースから葉巻を取り出して一本差し出した。

 

「お、マジで?これコヒバ?」

 

「ああ。現地直送だ。」

 

先端に火を点けてやり、俺も一本銜えた。

 

「こいつぁ、上等だな。うん、今の内に味わっといた方が良いな。」

 

「まるでこれから死にに行く様な口振りだな。」

 

「そうじゃないのか?お前はどうか知らないが、俺は良く知りもしない銃を引っ下げた高校生のガキ共を乗せてアイツらの親探しを手伝ってる。お前の事は信用してるから同期のよしみって事で手を貸してるけど・・・・」

 

「分かってる。ヤバくなったら、好きにすれば良い。ただ、二つ頼みがある。」

 

「珍しいね、普通なら頼み事をするのは俺なのにさ。どう言う風の吹き回しだよ?」

 

「良いから聞け。」

 

俺は煙を吐き出すと、ゆっくりと喋った。

 

「一つは、もし万が一、俺が<奴ら>になったら俺を殺せ。あいつらは、躊躇う。二つ目は、もし俺が<奴ら>になるか、何らかの事情で行動を共にする事が出来なくなったら、チームの皆を新床第三小学校まで連れて行ってくれないか?」

 

「分かった。アンタみたいな人を殺すのは気が引けるし、想像したくないけど。でも生き延びたら、これデカい貸しだからな?」

 

「分かってる。何らかの形で借りは返すさ。それまでの間、背中位は守ってやるよ。」

 

「言うねえ。じゃ、頼む。」

 

「おう。」

 

車道に目を戻すと、片桐は<奴ら>を蹴散らしながらトラックを飛ばした。俺はその間生き残っている人間がいるかどうか流し目で探す。

 

「糞・・・・数が多過ぎる。」

 

「住宅街だからだろ?元々ここら辺で彷徨いてたと思うぞ。ここで一旦止めろ。」

 

トラックはゆっくりと停車し、俺は後ろに下がった。

 

「麗、ここら辺はお前の家からどれ位だ?」

 

「そんなに掛からないと思いますけど・・・・」

 

「よし。一旦降りるぞ。これ以上エンジンの音で<奴ら>を引きつけたら動けなくなる。麗の親はこの近辺にいる筈だ。」

 

「じゃあ、僕と麗が道案内します。ここら辺は知ってますから。」

 

「私も、お父さんとお母さんに会いたいし・・・・」

 

「それは構わないが、この付近一帯はお前らの知り合いや家族が住んでいる所だ。もう既に<奴ら>になったとは言え、お前らいざとなったら殺せるのか?」

 

「・・・・・多分、無理です。」

 

「だろうな。冴子、沙耶、一緒に来てくれ。残りは待機だ。人数は出来るだけ少ない方が動き易い。何より、ここで大事な『足』を根こそぎ奪われちゃそれこそ何をやってるのか分からない。」

 

俺は脱いでいたジャケットに腕を通し、フードを被った。外していたM327、シグのホルスター、ナイフを身につけると、ガードチェイサーからスコーピオンとサラマンダーのアタッチメントを取り出した。

 

「コータ、それ寄越しなさい。」

 

沙耶は顎をしゃくってMP5を指し示す。

 

「良いですけど、サイト死んでますよ?」

 

「良いわよ、別に。今まであたし一発も撃ってないから、むしゃくしゃしてんの。あんたにはアンタなりの戦い方があるんだろうけど、あたしも戦いたいの。コータみたいに。」

 

「コータ、渡してやれよ。」

 

コータは薄く笑うと、頷いてサイレンサー付きのMP5を沙耶に渡した。すると、沙耶はルガーを彼に差し出した。

 

「え?」

 

「預けとくわ。失くしたら殺すわよ?」

 

「んじゃ、行くか。ここ、頼むぞ?俺のショットガンはここに置いておく。ヤバくなったら遠慮無く使え。壊すなよ。」

 

「分かってるって。あ、そうそう。これ、渡しとく。」

 

ダッシュボードを開けると、中からハンドガンらしき物を引っ張りだした。グリップの底はマガジンを入れる場所が無く、斧の刃の様な物がついていた。更に言うと、銃身も握りがついており、トマホークみたいにも見える。

 

「特撮にでも出てきそうな代物を見つけたんだ。結構使えるぞ、今の所弾切れもしてない。セミ、フル両方行けるし、反動も無い。」

 

「助かる。ありがとうな。」

 

「これで貸し二つだぞ?」

 

言ってろ、バーカ。内心そう思いながら、分解したクロスボウを丁寧にリュックに入れると、孝、麗、沙耶、冴子、そして俺の合計五人で、雨が降りしきる外界に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

雨の中、<奴ら>を撃たずに様々な隠密行動で突破する事十数分、地面に何かを打ち付ける様な音が聞こえた。そして俺の耳に飛び込んで来たのは、気の強い女の声だった。誰かと口論の最中らしい。

 

「あの声は・・・・麗。」

 

「お母さんだ!!」

 

「おい、待て!」

 

俺が止めるのも聞かず、麗と孝は駆け出していた。俺や冴子、沙耶も慌てて後を追う。

 

「必要な物を取りに行かせておいて私を中に入れないつもり!?この宮本貴理子をなめんじゃねーぞ!?」

 

声がした方に向かって行くと、ライダーファッションに身を包み、バックパックを背負った女が十文字槍を手にしてバリケードに向かって怒鳴っていた。あれは白バイの制服か?

 

「・・・・相変わらず元気そうで良かった・・・・」

 

孝は苦笑いをしてそう零す。知り合いである故に彼女の性格を知っているのだろう。勝ち気なタイプらしい。

 

「うるさい!とっとと出て行け!じゃなきゃ、まじで撃つぞ!」

 

バリケードの隙間から銃身が伸びて彼女、宮本貴理子に向けられる。音からしてショットガンだな。

 

「ったく・・・・ろくでなし共が!」

 

「お母さん!!」

 

麗は母親が生きている姿を見て、溜まらず後ろから彼女に抱きついた。

 

「お母さん・・・!!」

 

「麗!?あら、孝君も?」

 

「どうも。無事で良かった。まあ、貴理子さんがそう簡単に死ぬ様な人には思えないんですけどね・・・・」

 

「あははは。まあね。にしても、随分と物々しいわね、どこから手に入れたのそんな物?」

 

俺達が手にしている銃器やら刀を目にして首を傾げた。

 

「色々事情があったんでね。東署の証拠品を幾つか拝借した。」

 

「あら、そう。」

 

特に怒る様子も無く納得してくれたのは僥倖だ。

 

「貴理子さん、一緒に逃げましょう。」

 

「あら、まるで駆け落ちして欲しい見たいな口振りね。」

 

おい、ボケるのも大概にしろ。

 

「でも、ちゃんと何をするか考えてないと、意味無いわよ。生き残るのも大事だけど、先の事を考えないと。明確な目的を定めた上で行動してるんでしょうね?」

 

「勿論。宮本のお父さんがご丁寧に自衛隊の救助が明後日新床第三小学校で行われると言う書き置きをホワイトボードに残していたわ。これからそこに向かうの。孝の家族もそこにいる筈だし。」

 

「あれを逃したらもう次は無い。出来るだけ早く着きたいんだ。」

 

貴理子はバリケードの向こう側にいる奴らにこの事を伝えたが、一向に出て来る気配が無い。まあ、先方が動きたくないってんなら無理強いする必要は無いからな。

 

「行くぞ。警告はした。コイツらまで助ける義理は無い。」

 

後方を確認すると、<奴ら>が二十体前後こちらに向かって来ている。距離は約六十メートル。あの家具で作ったバリケードはそうは持たないだろう。

 

「おいお前ら、歓談するのは結構だが後ろからかなりの数のお客さんが来てる。とっとと移動するぞ。」

 

右手に片桐がくれた銃を手にして引き金に指をかけた。銃身の周りにある三つのレーザーポインターが<奴ら>の頭を照らし、俺は引き金を絞った。片桐が言った通り反動はほぼゼロで、撃った<奴ら>の頭が吹き飛んだ。どうやら俺は熟強力な武器を手に入れる運に恵まれているらしい。掃射でバタバタと薙ぎ倒してそのまま進んで行く。これなら直ぐにどうにか出来そうだ。

 




新たな武器はカブトクナイガンになりました。案を下さった皆様、本当にありがとうございます。


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To the Destination

今回は短めです。そして長らくほったらかしにしてすみません。プロットをどうするかと言う問題がどうしても解消されない物で・・・・次話は人間相手にも戦います。


トラックに戻る途中で、俺達の耳に飛び込んで来たのは銃声とエンジンの音だった。それもバイクやスクーターらしい音だ。まさかとは思うが・・・・俺は歩くペースを早め、銃を斧の様に左手に持ち替え、シグを抜いた。安全装置を外し、寝かせていた撃鉄を起こした。サイレンサーは既に取り付けてある。断続的に再び銃声が聞こえて来た。疑惑が確信に変わって行く。外に何台かスクーターが見えた。三台は大破、残り一台はタイヤがぶち抜かれていた。死体も転がっている。

 

「滝沢さ」

 

「静かに。」

 

口を開いた冴子の口を塞いだ。俺達の現在地は距離としては大体十メートル離れている。コータや片桐がいる以上不意を突かれでもしない限り問題は無いと思うが、如何せん確認する方法が無い。そんな時、一つ考えが浮かんだ。徐にM327を引き抜くと空に向かって 一発だけ発砲した。しばらく待つと、改造AR10を持ったコータがトレーラー後方、前方は片桐がシグP230とガバメントを構えて車外に現れた。

 

「大丈夫っぽいな。行くぞ。」

 

俺達の姿を見て顔を顰めた。かなり緊張していたのだろうか、コータは大袈裟に息を吐き出して銃口を下げた。

 

「滝沢、さっきの銃声お前か?」

 

「ああ。外に原チャリ止めてあるのを見てな。もしかしたらやられたのかと思って一発撃ったんだ。」

 

「おいおい、俺がそう簡単に死ぬと思うのか?確かに八人位来たけど、愚かにも雨の中タンデムやってたから。にしても、コータだっけ?こいつマジやるよな、一発ヘッドショットだぜ?あれ、貴理子先輩?!」

 

「あらぁ〜、竜ちゃんじゃな〜い。」

 

まるで甥っ子に再開したかの様な口振りに、俺は思わず吹き出してしまった。こいつがここまでたじろぐのを見たのは久し振りだ。

 

「その呼び方やめて下さい・・・・・ガキじゃないんですから。って、その槍どうしたんすか?」

 

「ん?ああコレ?正ちゃんの勝手に持ち出しちゃった♡」

 

『持ち出しちゃった』じゃねえよ・・・・良い歳こいて。

 

「知り合いなのか?」

 

「警察に入ってSPになる前は少しの間交通機動隊にいたからな。その時にちょっと。」

 

「麗、お前生粋の警察官家族だな。社内恋愛ならぬ署内恋愛で生まれたとは・・・・それに、こう言う気の強さは母親譲りだし。」

 

「まあ・・・お母さん警察に入る前はレディーズの暴走族のアタマだったからね。白バイ警官だった頃は『PSの貴理子』なんて呼ばれてたし・・・」

 

苦笑いしながら言われる。まあ、想像は難しくないわな。しかも百八十度立場が変わった職業に就くとは・・・・

 

「話は終わったか?さっさと行くぞ。いい加減寒くなって来た。」




感想&評価、お待ちしております。


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Assault & Counterstrike

<奴ら>をはね飛ばしながら移動を続けていた。しばらくすると、雨音の勢いがようやく衰え始め、やがて止まる。

 

「雨、止んだな。」

 

「ですね・・・・・」

 

砥石で刀を研ぎ終わった冴子は刃毀れが無いか見ていたが、やがて満足したのか刀を鞘に納めた。俺は一応暴発防止の為にリボルバー以外銃の薬室から弾は抜いてセーフティーをかけてある。ずっとそのままにするのはバネが傷み過ぎるのを防ぐと言う理由もあるのだが。

 

「冴子、心配事でもあるのか?」

 

「無い、と言えば嘘になりますが、この場でどうこう出来る様な事ではないので。」

 

「そうか。」

 

俺はそれ以上何も聞かなかった。立ち上がると、話し込んでいる貴理子と片桐の間に割って入る。

 

「どうだ?着きそうか?」

 

「俺達が今いる所からこのペースだと、大体一時間前後はかかる。回り道も想定していたら、もっとだ。いざとなればトラックは捨てられるが、ハンヴィーとバイクだけじゃ全員は流石に乗せられないだろう?」

 

確かに。俺を加えて、乗車する人数は合計十人。とてもじゃないが、座席に全員は乗せられない。バイクを使っても乗れない奴が二人から四人は出る。人間を相手にするのを想定すると屋根の上にいさせるのも危険だ。と言っても、今この場で動いている車は無さそうだし・・・・

 

「うぉっと!?」

 

トラックが急停止する。途端に銃声。フロントガラスに何発か銃弾が突き刺さっていた。7.62ミリ弾だ。またか・・・・俺はすぐさまベストやホルスターなどを装着し、コータや貴理子、片桐も戦闘準備を整える。トレーラーの屋根に上って辺りを見渡すと、再び指切りバーストの射撃音が聞こえる。トラックは防弾仕様だから大丈夫とは思うが、向こうもそれなりに重武装らしい。人数も分からない。次から次へと・・・・都市ゲリラは嫌いなんだよなあ・・・・特にこう言う予期せぬ自体が毎回起こる時は。

 

「コータ!トレーラーの上に登って援護だ。相手の数と武器を把握する必要がある。あさみ、手を貸してやれ。遮断物が無いから気を付けろよ?」

 

「「はい!!」」

 

「冴子は静香をカバー。沙耶、孝、貴理子は中に残って出入り口の安全を確保。チームメンバー以外の奴がドアを開けたら遠慮はいらない。頭か、胴体を狙って撃て。 お前ら、絶対に躊躇うなよ? 」

 

「心配ご無用よ、いざとなれば私がいるから。」

 

貴理子は槍の柄を握り締めて俺達に笑いかけた。確かに、彼女なら殺ってくれるだろう。

 

「行くぞ、片桐。」

 

「ラジャーっす。バイクの銃、借りますよ?流石に手持ちの物じゃ心許無い。」

 

「構わないがしっかり狙え、小口径でも反動はそれなりにある。一発でも十分効果ありだと思うが、念の為だ。『ダブルタップ』か『モザンビーク・ドリル』で行け。」

 

俺の言わんとする事を理解したのか、片桐は片方の口の端を吊り上げて、にやりと笑う。手持ちの銃のブラスチェックを行い、撃鉄を起こした。安全装置を外して発砲準備が完了する。俺もシグの薬室に弾を送り込むとホルスターに納め、そしてこのアックスガンとしか形容出来ない銃を左手に持った。

 

「麗。俺のモスバーグを貸してやる。至近距離なら相手は吹き飛ぶからな。ライフル撃った事無いお前には丁度良いだろう?」

 

そう言って俺の銃剣付きのショットガンを渡してやり、代わりに彼女が使っていたM1A1ライフルをラックから取った。作動桿を引いて7.62ミリ弾が薬室に送り込まれる。死んだ光学サイトをスコープに取り替えておいたから、実質的に中距離用の狙撃ライフルと変わらない。精度が良い物でコータのAR-10と同じ様にバイポッドが付いていたら、有効射程が倍以上に跳ね上がる。まあ、碌に狙いをつける時間があるとも思えないが、あった方が心強い。

 

「最初の移動地点は?」

 

「あの横転したセダンの後ろだ。後衛、頼むぞ?」

 

「お任せを♪」

 

銃声が一旦止むと、姿勢を低くして移動地点まで全力で走った。

 

「敵影、十二時から二時の方向、距離十メートル、合計十名前後です!旧式モデルですけどM16系ライフルとかMP5、UZIのサブマシンガンも見えました!」

 

厄介だな。特にM16から撃たれる5.56ミリNATOは銃身が長い分発射された時殺傷能力が上がる。殺したらあいつらの武器もふんだくるか。スコープを覗いて相手の位置を確認して引き金を引いた。マイ・耳栓でしっかり難聴対策をしている為問題は無かったが、やはりやかましい。遮断物から覗いた相手の膝頭をぶち抜いてからそいつの頭にもう一発7.62ミリ弾をお見舞いし、ようやく息の根を止めた。後ろからも銃声が聞こえて、ドサリと何かが落ちる音も聞こえた。

 

「お見事。あの平野って奴も中々やるぅ〜。SATとか入れますよ、彼?」

 

「あいつならSEALSだって入れるさ。何より、素人が相手だからな。」

 

「んじゃ、次俺行きま〜す。」

 

防弾ベストを着けた片桐はガバメントを持って片目を瞑ると、道路の向こう側にある車に向かって一発、二発、三発と丁寧にシグを撃った。するとその車は大爆発を起こし、叫び声や悲鳴が小さく聞こえた。断末魔である事を祈ろう。

 

「ガソリンタンクか。」

 

「撹乱にはやっぱり爆発でしょ?」

 

「行くぞ。あれだけで全員がくたばったとは思えない。」

 

俺は指笛で平野の注意を引き、俺達の後ろに付いて前進する事をハンドシグナルで伝えた。移動は足音を殺しながらも素早く遮断物の陰に隠れた。と言っても、大して物がある訳じゃない。精々乗用車やスクーターが二、三台ある程度。

 

電柱に付いているカーブミラーを使って相手の位置と人数を把握する。何やら怪し気な信用金庫のボロ臭いビルを本拠地にしているらしい。中にも何人かいると言うのもあり得るだろうな。見張りを何人か残して残りの男達はビルの中へと消えて行く。

 

「どうしますかね?隠密は無理ですよ?ビルの窓から見張りの様子は丸見えですし。」

 

「構わない。元々只で済むとは思ってないからな。」

 

念の為と言う事もあるのでクロスボウを引っ張りだして矢をセットする。

 

「んじゃ、遠慮無く。」

 

片桐は見張り四人をモザンビーク・ドリルで仕留めた。胴体に二発、そして止めに近付きながら丁寧に全員の頭に一発ずつヘッドショット。階段下でそれを見ていた奴が逃げようとしたので、そいつの背中にクロスボウの矢をぶち込んだ。流石ドローウェイトが百ポンド越えの事はある。殺傷能力は抜群だ。リカに言っとかなきゃな。

 

「下の方を頼む、後ろから回り込まれたくない。これ使え。」

 

「えー・・・・・俺ライフル撃てなくはないけど、戦争屋じゃないからさあ・・・」

 

黙って持って来た予備のマガジン二つを押し付けると、チンピラの一人が持っていたベネリM-1ショットガンを拾い上げて持ち主の死体を漁った。予備の弾は八発。無駄撃ちは出来ないな。チューブマガジンに弾を詰められるだけ詰め込むと、残りは着ているジャケットのポケットに入れた。

 

「殺した奴らから使える物があったらふんだくれ。」

 

「りょーかい。後、余計なお世話かもしれないけど。」

 

「あ?」

 

「死ぬなよ?床主脱出したら、お前に色々奢ってもらいたいんだから。まだ貸し一つ残ってるし。」

 

「言ってくれるぜ。その前に借りを返してやるよ。」

 

ショットガンを構えて上に登った。鼻から息を吸い、細く、長く口から吐き出す。吐息で位置を悟られるなんて事はたまにある。正確な位置が分からなくても、傭兵時代に見当付けて撃って来られて当たった事があった。

 

「死にやがれ、サンピンがぁぁぁーーーー!!!」

 

後ろからゴルフクラブで血まみれの開襟シャツを着た奴が殴り掛かって来た。いつの間に俺の後ろに来たのか、叫び声をあげるまで気付かなかった。振り下ろされるドライバーをベネリで受け止めると右手を離し、シグを引き抜いて左胸に二発、頭に一発弾丸を撃ち込んだ。これがモザンビーク・ドリルと言う、俺が知る中で9ミリ拳銃を使った最も効果的な撃ち方だ。

 

「俺も腕が錆び付いて来たな。」

 

サイレンサーを付けているとは言え、九ミリ弾との相性はイマイチだ。本当ならH&K USPを使った45ACPかスタームルガーの22LRが良いんだが、無い物を強請っても仕方無い。シグをホルスターに納めると、ショットガンのスリングを肩に引っ掛けてクロスボウを構えた。いざ撃つとなればサイレンサーが付いていても銃に比べて音は遥かに静かだ。部屋の中を手早く確認し、使えそうな物———弾薬や火炎瓶など———を片っ端からリュックに入れて行った。だが、突如聞こえて来た話し声に足を止める。

 

「何なんだ、あの野郎共は?」

 

「分からねえ。だがあの青いトラック、ありゃあ間違い無くサツのトラックだ。武器も必ずある。屋根の上のガキを先に仕留めろ。屋上の窓から撃て。」

 

させるかっての。クロスボウを一旦置くと、ベネリを構えて話し声がした部屋の扉の隙間から着火した火炎瓶を一つ投げ込んだ。悲鳴と怒声が入り交じる中、扉を蹴り開けた。銃を持っていてもまともに構えてすらいないのは幸運と言うべきだろう。全員を撃ち殺すと、壁に立てかけてあったスコープ付きのボルトアクション式のライフルと弾が詰まった紙箱を失敬した。クロスボウを構え直す。悲鳴を聞いた一人がやって来た。マカロフの、それも中国製のコピーを持っている。至極無感情にトリガーを絞り、カーボン製の矢は空を切りながら男の喉を貫いた。

 

「おっとと。」

 

痙攣してたたらを踏んで倒れる前に骸の一歩手前となったソイツの体を受け止める。ゆっくり寝かせて矢を引き抜くと首の静脈を切断した。その矢をもう一度クロスボウに装填する。下からも銃声が聞こえる。やっぱり片桐は優秀だな。最上階に登って誰もいない事を確認すると、下に降りて片桐と合流した。二、三分程してから返り血を浴びまくった片桐が現れる。M1A1と鉈を両肩に担いで。持っていたシグとガバメントは弾切れになったのか、二つのホルスターが空になっていた。

 

「一瞬死んだかと思ったぜ。」

 

「言っただろ?借り、返してもらわないと行けないんだ。色々奢ってもらうからそのつもりで。」

 

「へいへい、分かった分かった。さっさと降りるぞ。必要な物は持てるだけふんだくって来た。お前もちょっと持て。」

 

そう言う訳で、俺達は建物一つ分のチンピラ・ヤクザを皆殺しにして建物を後にした。すぐ近くにトラックが止まっている。運転席には貴理子が座っている。

 

「はぁ〜い、二人共♪ご苦労様。こっちも結構やっつけたわよ?」

 

「だれか怪我した奴はいないか?」

 

「ん〜、コータ君が左肩撃たれちゃってね。あ、でも掠り傷だからちゃんと治療すれば治るわ。他は、突発性の難聴位ね。」

 

それを聞いた俺達は、苦笑するしか無かった。余談だ、が俺が中に入るとすぐさま静香と冴子の世話焼き女房(仮)モードに出くわして体の隅々までウェットティッシュやら濡れタオルで拭かれた。

 




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到達点では

とりあえず新床第三小学校に到着した所で本編終了とさせて頂きます。読了して下さった皆様、本当にありがとうございました。初めての学園黙示録作品がここまでヒットするとは思いませんでした。お気に入り件数も千を突破して『ウォ〜〜〜、マジか!?』と思わず漏らしました。

ご要望があれば番外編なども出そうかなと思います。


俺達は燃料が切れるギリギリの所でようやく新床第三小学校に辿り着いた。孝は母親の小室美咲と、麗と貴理子は宮本正係長と感動の再開を果たした。

 

「片桐君、中岡君、妻や娘とその友人達を守ってくれて、本当にありがとう。いや、ありがとうでは私の気持ちは形容し切れないな。」

 

<奴ら>と化していない家族を目にして胸が一杯になった所為か、目尻から一筋の涙が流れた。それを拭いながら姿勢を正し、敬礼する二人に労いの言葉をかけてくれた。

 

「そんな!とんでもないです、係長!あさ・・・本官だけでは全く何も出来ませんでした!」

 

「そうですよ。自分だって偶々東署の地下でこのトラック拾って、その時に滝沢と合流したんです。一人じゃ間違い無く<奴ら>の仲間入りでしたよ。本当にお礼を言いたいなら、滝沢に言って下さい。ってあれ?いない・・・・」

 

だが、二人は謙遜して俺がいた所を見やる。そう、その場に俺の姿はもう無かった。静香の手を取って、人込みの中を走り回っている。俺達にはそんな事よりもまだ大事な存在の有無を確認しなければならない。リカだ。洋上空港にいたなら、床主の中で一番先に海上自衛隊に助けられた筈・・・・・

 

「圭吾!!」

 

この声。二度と聞けないと思っていた声。俺はゆっくりと振り向いた。前を大きく開けた黒いSATの制服、その下から覗く白いタンクトップ、褐色の肌、不敵な笑みを浮かべた女の顔、そして紫色の髪。

 

「「リカ・・・・!!」」

 

「やっぱり生きてたわね、ダイハード・ガイ。」

 

俺の愛しい女の一人、南リカが葉巻を銜えて俺を見ていた。

 

「お前も相変わらずしぶといな、ダイハード・ガール。」

 

全力で駆け寄って来る彼女を抱き止めてしっかりと抱きしめた。リカが目を閉じて顔を近づけて来る。俺もそれに答えてキスしてやる。久し振りの感触+味だ。ついさっきまで吸っていた葉巻の味が唾液と混ざっている。

 

「ちゃんと帰って来たぜ?」

 

「リ”ガぁぁ〜〜〜〜!!怖がったよぉぉ〜〜〜〜!!」

 

安心して緊張の糸が切れたのか、涙腺のダムが崩壊して静香の顔は瞬く間に涙やら鼻水やらでぐしゃぐしゃになってしまった。普段とのギャップがすげえのなんの。ちなみに静香を宥めて泣き止むのにチーム全員がてこずったのはお約束だ。そして俺達の側から片時も離れようとしなかった。

 

「お互い掠り傷一つ付いてない。来てくれ、ここに来るまで一緒に戦ってくれた仲間を紹介したい。」

 

リカのメンバーに対する評価はかなり高く、時が来たらコータをSATかどこかに正式採用出来るかどうか話してみると言っていた。それに便乗して宮本係長も同じ事を言い始める。これを聞いたコータは手放しで喜び、嬉しさのあまり気が狂った様に叫んで踊り始めた。

 

「本当に良いのか?こいつに日本警察のルールを守らせるのは一苦労だぞ?場合によっちゃ俺の二の舞だ。」

 

「そうはならないと思うわ。日本政府の間抜け共は今回の事を反省してちゃんと『色々な』便宜を図ってくれる事を願うしか無いし。」

 

「あの・・・・」

 

「冴子ちゃんだっけ?」

 

「はい・・・・」

 

「聞いたわよ、圭吾。このコに手出したんだって?あたしにはもう飽きたの?」

 

リカがジト目で俺を睨む。

 

「ちげぇよ。事情が色々と込み入っててな。」

 

とりあえず簡潔に事の次第を説明すると、彼女も納得してくれた。

 

「そう言う事なら、まあ仕方無いわね。誰だって後ろ暗い事の二つや三つあるわ。今回は多目に見てあげる。」

 

「じゃあ・・・!!」

 

「ああ。大丈夫だ。ウチに住みたきゃ住め。」

 

冴子は人目も憚らず思いっきり俺の腕に抱きついて来た。リカと静香に加えてこいつもか・・・・こりゃあかなり大変になるだろうな。

 

「さてと。髭剃って水浴びでもしたいんだが・・・後、腹も少し減った。今夜はゆっくり眠りたいもんだよ。悪夢抜きで。だろ?」

 

「そうね。圭吾には色々と『相手』して貰わなきゃ行けないから。勿論静香や冴子ちゃんも一緒に。」

 

「言うだろうと思ったぜ。分かった。好きなだけ相手してやる。どうなっても俺は知らんぞ?

 

俺は仲間達と多くの苦難を乗り越え、生き残った。もう二度と『日常的な生活』と言う物は戻って来ない。世界に残された傷跡も、永遠に残るだろう。この日、孝、コータ、麗、沙耶、冴子、片桐、あさみ、貴理子、静香、リカ、そして俺は多いに泣き、大いに笑った。俺達と<奴ら>で溢れる地獄と化したこの世界との戦いは、これで幕を閉じた。



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番外編#1:SATにいた頃

番外編パート1です。


『本事案は、権限が我々に委譲された。失敗は許されない。空港に向かいそこにいる極門会の構成員、幹部、並びに会長を拘束せよ。時限装置を解除させるんだ。』

 

耳に付けたインカムに宮本係長の声が飛び込んで来た。現在俺は、空港に向かっている。今度の事件は中々に規模がデカい。

 

「圭吾・・・・」

 

「分かってる。今回は何時もより更に慎重に、だな。」

 

今の俺は、最高に気分が悪かった。と言うのも、休日でしかも非番だった時に事件だからとリカと一緒に本部への呼び出しを食らったのだ。リカには俺がイライラしている事が目に見えている。戻って任務内容をおさらいしてサイドアームだけを装備すると、覆面パトカーに乗って空港に向かわされた。

 

「まさか極道がここまで大それた事をするとはねぇ。」

 

「だな。それも空港でなんて・・・・随分と馬鹿な事をしてくれる物だ。」

 

リカと軽口を叩き合いながらアクセルを踏む力を強めた。

 

『班長、真面目にやって下さい!』

 

無線から後ろの覆面パトに乗った俺の部下の一人が叱責を飛ばす。コイツはSATに入り立ての頃もこんな感じで堅さが中々消えない頑固者の一人だ。もっとフランクになれって何度も言ってるのに。

 

「おお、岩下か、悪い悪い。けど、こっちの身にもなってくれよ、有給休暇で非番の時に呼び出しだぞ?俺以外にも優秀な人材はいるってのに。」

 

欠伸を噛み殺しながら愚痴を零す。それを聞いたリカもダッシュボードを何度もトントンと指で叩き始めた。コイツはイライラしだすと何時もこう言う事をする。考える事は同じって事だな。

 

「確かにね。それは言えてる。」

 

助手席に座っているリカは、ベレッタにマガジンを差し込んでショルダーホルスターに突っ込んだ。予備のマガジン三本も、防弾ベストの上に着ている薄手のブルゾンの内側に収納されている。

 

「先輩達、随分落ち着いてますね・・・・」

 

「何か、馴れてるっていうか・・・・?」

 

「落ち着かなきゃ弾は当たらないし、当たらなければ私達が死ぬかもしれないのよ?落ち着かないでどうするの。それに、SATに入った以上、貴方達は常に誰かを殺さなければならない状況にいると言う事を自覚して。」

 

リカが冷めた声で後ろの席に座っている狙撃班の部下二人を黙らせた。流石県警ベスト5の射撃の名手、言う事が違う。言い忘れたが、現在俺はリカと一緒に部下をそれぞれ二人、合計六人で空港に向かっている。床主中心部上空に浮かんでいる気球に爆弾が設置され、時限装置に繋がれていると言う事が分かった。爆破時刻は午前十時半から一時間三十分後。目的は当然、政府からの多額の金だ。

 

「随分と無茶な任務を任されたもんだよ。空港なんて何時も人が出入りしてるし、混んでいない日なんて殆ど無い。」

 

「見つけられなくはないだろうけど、時間は掛かるでしょうね。それに、無謀無茶は貴方の専売特許でしょ?」

 

そう言われてしまっては言い返せないな。空港に到着すると車を適当な所に停めた。

 

「二人一組で行動しろと言いたい所だが、捜索範囲がクソ広い上に時間も一時間弱。今回は単独行動を許す。ただし、見つけたら一人で全員を相手にしようとするな。位置を皆に知らせろ。良いな?」

 

『了解!』

 

「よし、散れ。」

 

俺は手始めにチェックインカウンターがある階から始めた。足早に歩きながら周りの人間を眺める。頭の中に探している人物の顔は入っている。

 

『圭吾、こっちにはいないわ。』

 

「みたいだな。別のターミナルは?」

 

『岩下と田島がいる筈よ。』

 

『岩下です。あいつら、第二ターミナルからターミナル間を移動するモノレールに乗りました。田島さんと尾行中です。』

 

噂をすれば何とやら。通信中に岩下が回線に割り込んで来た。何故息切れしてるかが不思議だが、まあ今はほっとこう。

 

「どっちに向かってる?」

 

『班長達がいる所です。第一ターミナルコンコースを横切っています。』

 

「聞いたか?」

 

『ええ、しっかりと。』

 

「リカ、どうするよ?」

 

『相手の人数が確認出来ない以上、私達だけで行くのは得策じゃない。何より、誰が時限装置を解除出来るかも知らない。』

 

殺すとすれば、無力化して尚且つあいつらが抵抗した時位か。

 

『何考えてるか知らないけど、発砲許可が降りないと撃てないわよ?』

 

俺の考えを見透かしたかの様にリカが若干棘のある声で俺を窘める。

 

「どうせならマイアミの刑事にでもなりたかったぜ、あそこなら脅威だと感じたら普通にぶっ放せるからな。武器も、ベレッタより精度も威力も高い物が手に入る。・・・・お、言ってる間に到着だ。本部、こちら班長の滝沢だ。構成員及び幹部、会長を確認。」

 

『了解。直ちに確保しろ。時限装置を解除させなければならない。』

 

「発砲許可を出してくれ。あいつらは過激派だ、大人しく投降する筈も無い。恐らく武器も持ってる。俺とリカなら殺さずにやれる。頼む、このままじゃ爆発する。」

 

『・・・・・良いだろう。ただし、滝沢。何があっても絶対に殺すな。』

 

「それは向こうの出方次第だな。こっちだって銃突き付けられて棒立ちになる程の間抜けじゃない。まあ、もし死んだら懲戒免職なり何なり好きにするが良いさ。各員に通達、既に聞いているかもしれないが、発砲許可は降りた。残り時間は十分。狙うのは足や膝、腕だ。それでも尚手向かおうとする奴がいればやむを得ない、撃ち殺せ。」

 

リカと合流すると、ベレッタを引き抜いた。スライドを引いて薬室に弾を装填する。極門会の奴らが俺達を通過するまで五秒。俺はリカにも見える様に指を折りながら数え、飛び出すと、引き金を引いた。発射された九ミリ弾は構成員の足を撃ち抜く。悲鳴や怒号が飛び交い、空港内は大パニックになった。一般人は全員蜘蛛の子を散らす様に離れて行き、我先にと出入り口を目指して走り始める。

 

「全員配置に付いたな。リカ、やれ!」

 

「オッケー。」

 

リカも片膝をついたまま全員の足や膝を狙ってベレッタの引き金を引く。極門会の奴らもやはりと言うべきか、武装していた銃で応戦した。だが、いくらやくざとは言え所詮は素人、銃の狙いも構え方もなっちゃいない。上階からは田島や岩下、別方向からリカのお気に入りの熊野と吉永の援護で、あっと言う間に全員を無力化した。リカと俺はソイツらの銃を拾い上げ、頭に突き付ける。

 

「時限装置を今すぐ解除しろ、でなきゃてめえらの頭を今すぐこの場でザクロみたいに弾けさせてやる。」

 

視界の端で未だ銃に手を伸ばそうとする奴がいたので、ソイツの肘に一発打ち込んだ。

 

「もう一度言う、解除しろ。次は助からんぞ。」

 

会長の目に銃口を突き付けた。銃身の奥に見える装填された銃弾を目にして冷や汗が一筋流れるのを目にした。

 

「早くしろ。俺は気が長い方じゃない。」

 

もっと抵抗すると思ったら、持っていた鞄から取り出したPDAを操作し、すんなりと時限装置を解除した。

 

「本部、増員だ。被疑者及び共犯者の無力化に成功した。」

 

やっとこれで家に帰って眠れるぜ。

 




感想、評価、お待ちしております。


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番外編#2:時は流れ・・・

番外編その二です。


あの地獄を生き抜いて十年近く時間が経った。荒廃した世界はようやく六、七割復興していた。電気、水道、ガスも、一時的にしか使えないが、回復した。とは言え、世界が受けたダメージは壊滅的な物だった。数十億の人口が一気に減ってしまったのだ。様々な面のインフラが破壊され、EMPの所為で石器時代に一時的に逆戻りしたとは言え、俺の予想では少なくとも二十年は掛かると思っていた物が半分の時間でここまで来るとは思わなかった。一番驚いたのが、俺やリカ、そして静香が住んでいるマンションがなんと無傷で残っていると言う事だ。通帳やパスポートなどの重要な私物までもがしっかりと保管されたままで残されている。

 

「驚いたな。」

 

「そうね。悪臭もそこまで酷くないわ。」

 

「まあ、あの時、出る前に生モノは全部食っちまったからな。」

 

今の俺達は、SATの制服を着ていた。SAT隊員には当然ながら出動時に制服の着用を識別の為に義務づけられている。だが、俺からすれば一部は大して要らない。精々必要になるのはアサルトスーツ、タクティカル・防弾ベスト、ヘルメット、手袋、無線機、予備弾、そしてメインとサイドアーム程度だ。もし戦場ならおよそ二十キロ前後はある装備を持ち歩かなきゃ行けないがここはもう戦場じゃない。寧ろドイツ連邦警察の特殊部隊GSG9みたいに必要な装備だけを持って行くべきだ。簡易手錠なんて使う事はほぼ間違い無くない。

 

「静香も忙しいわね、相変わらず。保険医どころか本当の医者並みの知識を今は持ってるんだから。」

 

静香は避難してからずっと<奴ら>に噛まれていない普通の怪我や病気の治療、体が不自由な奴、子持ちの奴の介護や包帯の取り替えなどをする日々に追われていた。衛生兵や軍医など医療経験が周りに比べると格段に経験が浅い中、努力だけで今はどこに出しても恥ずかしくない立派な医者になっている。

 

「ああ。本人は俺達に会えないってぼやいていたがな。」

 

サングラスを頭の上に乗っけると、ベランダに続く窓を開けて空気を入れ替えた。幾ら放って置かれたままとは言え、空気が埃で淀んでカビやら何やらが侵食していて不快極まりない。肩にスリングで引っ掛けてあるH&K HK417アサルトライフルを外した。

 

「・・・・・・にしても、長かったな。俺らももう三十路過ぎて、四十歳近くのオッサンオバサンになっちまったよ。はあ、孝は麗や沙耶と、コータはあさみとよろしくやってるし。冴子も早く帰って来ねえかなー。あいつがいると料理が捗るんだが。冷蔵庫も空だしよお。」

 

「あのコ達も治安維持とその部隊訓練で忙しく働いてるんだから文句言わないの。」

 

俺と一緒に簡単な片付けと掃除をしていたリカがブッシュマスターACRのストックで俺の脇腹を小突いた。

 

「いてっ。」

 

「でも、確かにレーションの質は良いとは言えないわね。お腹が膨れるだけであんまり美味しくないもの。」

 

治安維持部隊と言うのは、世界各国の警察組織及び軍が民間人と手を組んで作った物だ。最初は馬鹿な事をして人が死にかけた奴も死んでしまったも多々いた。だが、やがてそんな命知らずな事をする人間は少なくなり、どんどん様になって行く。中でも突出した能力を持っているのが俺達の仲間だ。孝はやはり隠れた素質と言う物があったらしく、リーダーとしての頭角を現し、『切り込み隊長』とすら呼ばれる様になった。格闘等も俺が鍛えてやったお陰で負け無しだ。麗も両親に負けず劣らずの槍の名手となり、『二代目PSの貴理子』と呼ばれたり呼ばれなかったり。コータはと言うと、リカや宮本係長、そして俺の口添えもあってSATには仮入隊と言う形で行動を共にしている。<奴ら>の生き残りを見つけるその都度トリガーハッピーになってしまうのが玉に傷だが。沙耶は奇跡的に脱出に成功した両親や一心会の残党と共に参謀のポジションに収まった。

 

「あ”ー、疲れた。」

 

「そう言う所がジジ臭いのよ、圭吾?お互い四十近くだとは言っても全然そう見えないでしょ?」

 

「そう言ってくれる人間がいるのがせめてもの救いだ。年を食うのは嫌なんだよ。分かるだろう、俺がそう言う理由。年齢と共に、精神も肉体も徐々に衰えてしまう。衰えとは勘が鈍ると言う事。勘が鈍れば、死に繋がる。」

 

「ええ、分かってるわ。十年以上もの間私達はその自然の摂理から完全に外れたモノと戦い続けたけど、何も変わらないわ。人は世に生まれ、歳を取り、子孫を残し、やがて死ぬ。」

 

くっ、ここまで言われるとちょっとなあ。そうに違いないんだけどよお、あーーーーー、納得行かねーーーー。

 

「だよなあ・・・・願わくばこの平和が生きている間は続きます様に、としか言えない。人生にスリルは大事だとは思うが、あれは度が過ぎる。」

 

「同感・・・・あんなの、ゲームの中で十分。」

 

ソファーに腰を下ろした俺達は笑い合うと、久々にキスを交わした。

 

「・・・・・禁煙、するべきかしらね?」

 

どうやらキスの味がお気に召さないらしい。まあずっと葉巻吸ってりゃそうもなるわな。

 

「好きな物をやめるのは大変だぞ?まあ、俺は吸う頻度がホント低いからまだ大丈夫だが。葉巻の代わりにガムとかどうだ、眠気覚ましにも使えるし、顎も鍛えられる。脳の刺激はボケ対策にもなるらしいぞ?」

 

「なぁ〜〜にを言いたいのかしらぁ〜〜?」

 

俺の足の上に跨がると、両肩を強く掴んで来た。これが結構痛い。四十キロ以上の握力はやはりキツいな。それに加え軽量装備と言ってもそこそこ重い。

 

「老後の為って奴さ。分かるだろ?特に静香なんか天然ボケ過ぎるからその内自分の名前まで忘れちまわないか心配になるんだ。あいつも四十近くとは思えないからな。」

 

『滝沢、何やってんだ、おい?』

 

「おお、片桐。元気か?」

 

『まあな。係長のお達しだ、そろそろ戻って来いってよ。塒、大丈夫なんだろ?だったら配給品のビール一本奢ってくれ。』

 

「ああ、分かったよ。ちょっとな、昔を懐かしんでたのさ。リカ、行くか。」

 

「うん。」

 

懐に入れる写真が、もう一枚増えた。リカや静香とのツーショット、三人で撮影した写真、そして今まで生き残る為に力を貸してくれた孝達全員が入った集合写真。少し色褪せてはいるが、くっきりと全員が写っている。

「まだ持ってたの、それ?」

 

「お守りって訳じゃないんだが、側にある方が落ち着くのさ。」

 

俺は小さく微笑むと、その写真を戻し、リカと一緒にメゾネットを後にした。

 



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番外編#3:海外でのお買い物

リカとの絡みです。あの数々の銃をどうやって手に入れたか、その経緯を書きました。では、どうぞ。


SATに入ってようやく安定して来た時期、久々に出た有給。俺はリカと一緒に海外旅行に行く事にした。本来は静香も一緒に連れて行きたかった所だが、大型連休でもない限り学校の業務からは解放されない。そう言う事情もあり、二人で楽しんで来いと後押しされて踏み切った。

 

「良い所だな。」

 

床主洋上空港から出航して十時間以上経ち、俺とリカはマイアミ空港に降り立った。

 

「ここがマイアミ?良いわね。大型連休の時に静香も連れてきましょう。」

 

「そのつもりだ。時差ボケを直したいから、そうだな・・・・・ホテルにチェックインしたら海にでも行くか?」

 

「良いわね。ほら、行くわよ。」

 

「待て待て、落ち着け。迎えがまだなんだよ。」

 

そう言った直後、黒いアウディーA8が俺達の前に停まった。

 

「これ、レンタカーよね?」

 

「知り合いにやり手のトレーダーがいてな、その人のツテで色々世話になってるんだ。車も、レンタカーではあるがタダ同然で借りてる。仮にお釈迦にしても保険が利くしな。」

 

『おい、乗らねえなら帰るぞ?』

 

『分かったよ、俺の女と話ぐらいさせろって。せっかちな野郎だなお前は。』

 

乗って来た奴がクラクションを鳴らす。運転席を空けると、握手すると同時に二十ドル札をそいつの手に握らせた。

 

『ありがとよ。』

 

荷物をトランクに押し込んでホテルまで飛ばした。久々に乗る高級車は文句無し、気分は黒い外車を乗り回す元軍人の某運び屋だ。と言ってもスーツは着てないがな。ホテルに到着すると、ボーイが荷物を運んだ。三十フロアはある建物の中で、スイートルームに通された。内装はシンプルだが、部屋自体はかなり広い。流石はスイートと言うべきか。奥の方には巨大なダブルベッドが鎮座している。

 

「凄いわね。」

 

窓を開けてベランダに身を乗り出し、少しばかり傾き始めた太陽を見てリカはそう零した。言い忘れていたが、彼女の着ている物は結構肌を露出させている。

 

「庶民的な所も良いが、こう言う高尚な所もたまには良いだろ?」

 

「ええ、スッゴイわ。滞在期間はどれぐらい?」

 

「二泊三日だ。ここにいる間に色々と『買い物』があるからな。」

 

パソコンを立ち上げてネットマップに記載された複数の場所を見せた。

 

「ガンショップ・・・・?まさか」

 

「そのまさかだ。俺もかねてから欲しいと思っている物が幾つかある。場所も幾らか当たりを付けている。どうだ、行く気は無いか?殆どの事業もそのトレーダーがちょいと噛んでるから、ソイツの知り合いだって事を伝えればある程度値切ってくれる。」

 

「やっぱりあんた最高。」

 

後ろから抱きつかれてふわりと甘い匂いがした。俺にしか分からない、リカの匂い。そのまま首筋を舐り始めた。小麦色の細い指をタンクトップの下に滑り込ませる。

 

「おいおい、お前欲情し過ぎ。そう言う事は夜にでもシてくれ。」

 

「良いじゃない別に〜。好きな男に触れてると安心するのよ?」

 

「意外だな、お前の口からそんな言葉が出るなんて。俺が知ってる中でそう言う事を口にするのは静香位しかいないと思っていたんだが。」

 

まあ別に嫌な訳じゃないんだがな。ともかくその夜俺達は早めに寝た。と言っても、二時間位はリカに色々と搾り取られた末にやっと解放されてから就寝したんだがな。

 

 

 

 

次の日、時差ボケをある程度は直す事が出来たので昨日の内に作成した店の候補リストと俺達が探している品物のリストを手に早速車を飛ばした。

 

「よしと、着いた。」

 

「一件目で全部見つかれば良いんだけど。」

 

目当てのガンショップは、マイアミの外れにある少しガタついた木造の家だった。こんな所に盗みにはいる様な命知らずはいないだろうな。強盗も裸足で逃げ出す。丁度在庫の一掃セールをしていると張り紙があった。

 

「ここ?」

 

「ああ。何でもそれなりの老舗らしい。ご老体の兄弟二人で商売をしてるんだが、片方はガンスミス、もう片方は売ると言う風に役割分担をしている。どっちも銃の知識はそこいらにいる軍人以上だ。騙されたと思って一度見に行こう。」

 

俺と腕を組んで店の中に入ると、恰幅の良いフレーム無しの眼鏡をかけた白髪の老人が出て来た。

 

『らっしゃい。お二人で何をお探しで?』

 

『いや、一掃セールをしてるって聞いてね。お目当ての物があるか探しに来たんだ。』

 

流暢な英語で返すと、早速探しに来た銃のリストを見せる。外装は兎も角、内装は中々綺麗で銃もしっかりラックに並べてあるし、掃除も行き届いている。

 

『隠居でもするのかい?』

 

『ああ、まあな。息子夫婦と孫がいい加減商売畳んで一緒に暮らそうってうるせえんだ。弟のマーカスは反対してたんだが、あいつもカミさんには相変わらず勝てねえからな。』

 

『盥回しにされないだけマシよ、一緒に住もうって言ってくれるだけでも喜ぶべき。日本じゃそう言う人、あんまり見ないもの。』

 

『ほ〜、あんたら日本人かい?俺も一度は行ったが、銃が余りにもしょぼい所だ。特に警察じゃあ特殊部隊でもない限り銃なんざ早々触れねえしなあ。』

 

後三、四十年程若返っていたらコイツとは是非どこぞの居酒屋で銃の話を肴に酒を奢ってやりたい。リカも恐らくそう思っているだろう。彼女も俺と同じく筋金入りのガンオタだ。

 

『よくぞ言ってくれたわね、ホントその通り。だからここで幾つか買う事にしようって有給取って来たのよ。こう見えても私達二人とも警察の特殊部隊SATの隊員だから。』

 

『そいつぁ良い客が来てくれたな。どれどれ。ん〜、あんたら良い趣味してるねえ。ここに書いてある奴ぁ殆ど手に入るよ。まあ、ちょいと待っててくんな。』

 

カウンターの奥にある扉のを開けて姿を消すと、その間にリカと俺は中にある銃を幾つか見て回った。中にはコルトM1911のオリジナル、ワルサーP99、ルガー・レッドホーク、M4A1カービンなど、古い物から新しい物まで品揃えはかなり豊富だった。

 

『待たせてすまんね。ほら、そこの美人の姉ちゃんのご注文の品だ。』

 

店主が持ち出して来た物は、イサカM37ライオット、M1A1スーパーマッチ、そしてAR10だ。全てリカが欲しがっている物である。それを見た瞬間リカの顔が喜色満面になった。作動桿を引いて調子を確かめたり、実際に構えたり、まるで子供だ。

 

『このM14に使える銃剣はある?』

 

『一緒に付いて来るよ。中々良いだろう?ドットサイトやスコープ、フォアグリップとかのオプションパーツもあるけど、どうする?』

 

『じゃあ・・・・フォアグリップ、ライト、スコープ、後バイポッドを一つずつ、ドットサイトは二つ。改造する為のパーツは他にもある?SR-25みたいな。』

 

『ん〜〜、そいつぁちと無理だなあ。』

 

『あるよ、トーマス。倉庫で埃被ってるパーツが幾つか持って来たよ。』

 

奥の方から声がして、店主とは真逆の痩せた男が現れた。髭も綺麗に剃ってある。恐らく彼が店主トーマスの兄弟マーカスだろう。彼が持って来た黒いケースの中を見ると、確かに見紛う事無きナイツSR25狙撃ライフルのパーツがあった。

 

『ここまでマニアックな物を買う物好きはいないし、元々一部使い物にならない部品があったからね。良かったら只であげるよ?』

 

棚牡丹万歳だな。普段はクール&気丈に振る舞うリカも少女の様にはしゃぎ回っている。

 

『トーマス、そっちのリスト貸してくれ。』

 

半ばトーマスから奪い取る様な形で俺が欲しい銃を見て行くと、カウンターの後ろにある一番上にあるラックからスリングベルト、シェルホルダー、ライト、そしてシース付きの銃剣が付いたモスバーグM590A1を下ろして来た。

 

『ここに書いてある物は丁度あの美人トレーダーが買ってくれって言った奴だよ。あんたらあの人と知り合いかい?』

 

『俺はな。以前にもちょいと世話になったんだ。』

 

『そうかい。じゃあ、サービスしなきゃあな。』

 

マーカスはカウンターの下から二つのケースを取り出して開いた。一つは木製グリップとサイレンサーが付属しているシグザウエルP226 X LW、九ミリ弾を十九発装填出来るマガジンを使う化け物みたいな拳銃だ。俺も傭兵時代は防弾ベストやケブラーヘルメットの事を考慮して45ACPをよく使っていたが、九ミリ弾でも当たり所次第では充分高い威力を発揮する。

 

『すげえだろう?』

 

俺の反応が気に入ったのか、ニヤニヤしながら銃を手に取ってスライドを引いてみせる。

 

『ああ、すげえよ。じゃあ、こっちは・・・?』

 

マーカスは残ったケースを俺に見せた。

 

『スミス&ウェッソンのM327 357マグナム。M19なんざ簡単に上回る代物さ、何せシリンダーには八発入るんだからなあ。』

 

『正に人を殺す為だけに作られた、パワー重視の銃って事か。良いぜ、買った。』

 

値段は思っていたよりも安く、弾丸の紙箱を幾つかと銃を六丁で以外に手軽な値段だった。後で百合子さんに電話しとかなきゃな。

 




他にも静香先生や冴子さんとのIF日常パート等ももう暫く書くつもりですので、どうかよろしくお願いします。

感想&評価、お待ちしております。

それでは。


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IF編〜もしオリ主がまだSAT隊員だったら

そのまんまです。IF物です。多少現実では普通無いだろうと思う所が少しあるかもしれませんが、そこら辺はスルーして頂ければ助かります。


桜が散る春のある日。俺は目覚ましのアラームと共に目覚めた。時計を見ると、午前五時半を指している。普通に起きるにはまだ少し早い時間だ。だが、そうも言ってはいられない。何故なら、俺はSAT隊員と言う仕事があるからだ。

 

「リカ、朝だ。起きろ。」

 

同僚の南リカを揺り起こすと、俺はシャワーを浴びに行った。こう言う、もう少し眠っていたい様な日には、必ず冷水のシャワーが意識を夢の中から無理矢理引き摺り出してくれる。入れ違いで寝癖ヘアーのリカがバスタオルをその艶っぽい褐色の体に巻き付けてユニットバスに入って行く。

 

「う〜〜・・・・」

 

肩や首を揉んでボキボキと鳴らしながら朝飯の支度を始めた。昨日の残り物を始末する必要もあるのでそれらを冷蔵庫から取り出して電子レンジに入れた。後はコーヒーとかぐらいだな。三人分の朝食を用意するとそれをテーブルに並べた。不意に漠然と嫌な予感を感じた俺は自分のロッカーを開けた。中に入っている仕切り付きの特大サイズのダッフルバッグに散弾やマグナム弾の紙箱、ハンドガンと予備マガジンのケース二つ、銃剣などのナイフ、軍用モデルのモスバーグM590A1、そして買った覚えが無いダネルMGLとグレネード弾数十発を中に入れた。バッグを閉めてジッパーに鍵をかけると、玄関先に置いた。

 

「静香、起きたか?」

 

「まだ寝てるわよ。全く・・・・週末だったからって張り切り過ぎ。あんなんじゃ寝坊しちゃっても仕方無いわよ、アンタに起こされなかったら私も多分あのまま寝てたわ。」

 

リカはタンクトップにホットパンツ姿でコーヒーマグ片手に朝食を食べ始めていた。

 

「お前ら酔っぱらって襲って来る時=盛ってる猫だからな?相手する俺の身にもなってくれよ。イニシアチブ握るどころか握られてるんだぞ、俺は?」

 

俺も席に着いてとりあえず食べ始めた。夜の運動の後はどうしても腹が減る。その上少し窶れる。それに反してリカは艶々だ。

 

「今日は、確かテロ対策の為って事で空港に行く事になるんだよな?」

 

「ええ。ロッカーの中身出しちゃってるけど、良いの?バレたら只じゃ済まないわよ?」

 

「良いんだよ。免許やその他諸々の必要な書類は持ってるし、後ろ暗い事は(今世では)何もしちゃいない。お前の方がもっとヤバいだろ?アレ日本じゃ違法だぞ、違法。でも、まあ、」

 

「「バレなきゃ良いか。」」

 

朝食を済ませると、静香の分をラップに包んでそのままにしておく。最後に手早く荷物を点検してから出発した。

 

 

 

 

 

 

「う〜っす、お前ら。どれぐらいの期間かは分からないがここにいる事になる。その間はよろしく頼むぞ。テロ対策って言っても本当に何かが起こったら、俺達が全力で戦わなきゃ行けない。間違っても気ぃ抜くんじゃねえぞ、分かったな?」

 

「「「「はい!!!」」」」

 

俺の言葉に全員が敬礼して返事を返す。うん、良い部下だ。うん。

 

「何時も以上に周囲に気を配る様に。そして空港警備員とも協力的にする事。彼らはあたしらより空港の構造を良く知ってる。反抗的な態度は出来るだけ取らない様に。最後に各自連絡を常に取り合う様に。何かあったらすぐ報告・連絡・相談!以上!」

 

リカの言葉を皮切りに、全員が散開してそれぞれの配置に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

あれから数時間、もうそろそろ正午だ。滑走路付近に停車した警備車両の中から外の様子を見ている。今の所、何も問題は無い。少なくとも、俺の知る限りでは異常事態は何も・・・・

 

『班長!滑走路に人影が見えます!首から血を流している。あ、人に、人に噛み付きました!!』

 

起こらない筈だった。人が人に噛み付く?『羊達の沈黙』じゃあるまいし、ハンニバル・レクターみたいな奴がいるとでも・・・・・

 

「おいおいおいおい、何の冗談だこれは?田島、これ現実だよな?」

 

無線でリカの観測手の田島に無線を通して聞く。

 

『圭吾、嘘だと思うんなら外見てみなさい。』

 

リカに言われた通り。双眼鏡で外を覗くと、田島が行った通りの現象が起こっていた。人間が人間に噛み付き、噛み付かれた人間がまた別の人間に噛み付く。リアル『バイオハザード』が始まってしまった様だ。

 

『どうするんだ?流石に歩く死体がいますなんて指揮班には報告出来ない。頭がおかしいんじゃないかって言われるのがオチだ。かと言って今直ぐアレを撃つ訳にも行かない。』

 

「上からの苦情が無きゃこっちも発砲許可なんか無視して頭に一発ブチ込め、と言いたい所だがな。リカ、そっちの様子、どうだ?」

 

『幸い、と言うべきかどうかは兎も角、空港の中は大丈夫。噛まれて「なった」人間はいないから。』

 

「少なくとも、まだ、な。こんな事態だ、自衛隊も遅かれ早かれ動き始めているだろう。それに、ここは洋上空港だ、海上自衛隊がその内ここに来る筈だぞ。」

 

暴発防止の為に薬室から抜いていた銃弾を警察に支給された手持ちの武器に装填した。H&K USP、MP5SD6、そして八十九式。自前の銃とナイフ等は残念ながら表に出す訳にはいかないので車両内で俺の隣に置いてある。あー、こんな事ならリカのも入れときゃ良かったな。どこぞの馬鹿がウチに侵入して中身をパクったら・・・・・どうなるかは知りたくもないが、誰が取ろうとソイツらにはあまりにも勿体無さ過ぎる。

 

「今更言っても、遅いよな・・・・」

 

『滝沢、聞こえるか?』

 

「宮本係長、おひさです。何か?」

 

『状況は既に把握しているな?』

 

「細かい事は分からないですけど、ゾンビ映画が日本で実現しているって事なら。」

 

『日本だけでは無い。世界規模で起こっている。これから自衛隊と合流して避難所を設立する。君達の部隊は空港でそこにいる民間人の安全を確保してくれ。』

 

「歩く死体に関しては?発砲許可すら下されてないこちらとしては、勝手にドンパチやったら、後が面倒なんで。」

 

『君と南君に任せるとするよ。発砲許可は出す様に私が進言しておいた。ああ、それと個人的な頼みがあるんだが。』

 

「と、言いますと?」

 

『床主のどこかに妻と娘がいるんだ。妻は恐らく自宅付近で、娘の麗は藤見学園に。出来る事なら助けてくれないか?』

 

家族の安否はやっぱり大事か。藤見学園・・・・・静香がいる所だったな。あいつも無事だと良いが。



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ジレンマ:事情と私情の狭間で

少し短めかもしれませんが、どうぞ。


「リカ、係長から連絡が来た。グリーンライト。とりあえず今は滑走路付近の奴らを全員片付けろ。飛ばせる飛行機は全部飛ばせる様にするぞ。」

 

『OK、分かったわ。狙撃班、警備車両の上から「アレ」を狙撃するわよ。ほら、グズグズしない!観測手も持つ物持ったらさっさと動く!』

 

インカムに慌ただしく動く人間の声が幾つか聞こえる。流石南隊長、肝が据わってらっしゃる。俺は警備車両から空港内に戻ると、再びインカムに話しかけた。

 

「俺が着くまで待っていろ。制圧二班、空港内の一般人の気を落ち着けろ。ここでパニックになって空港の外に飛び出されては面倒事が更に増えてしまう。一班は非常口以外の出入り口を全てバリケードで封鎖しろ。それが終わったら一般人の捜索、発見したらゲートへと誘導だ。」

 

『副隊長、でももし感染者がそこにいた場合は・・・・?』

 

俺は少し間を置いてそれに答えた。

 

「撃ち殺せ。俺が見た所ソイツらは話し合いが通じる様な輩じゃない。後何匹感染者がいるか分からないから、確実に全員一撃で始末しろ。ジャック事件や立て篭り、テロ事件と何も変わらない。」

 

『し、しかし!』

 

「 気が進まないのは分かる。だが、俺も制圧班のリーダーとして、部下や同僚は健常者のままでいて欲しい。敵意を剥き出して殺されると直感したら、引き金を引け。これは命令だ。二度は言わんぞ。」

 

一班と合流すると、チェックインカウンターへ続くメインエントランスへと降りた。椅子や巨大な鉢植えを自動ドア前に移動させ、ドアを開かない様にモップなどの掃除用具を支え棒にする。少し探したが逃げ遅れてその場に取り残された人間はいない。

 

『二班、交替だ。地上から通れる様なデカい出入り口は全て塞げ。方法は問わない。こちらが到着次第直ぐに行動しろ。』

 

既に外から銃声が聞こえ始めている。その所為でガラスがビリビリと震えた。それを怖がって叫んだり泣き始めたりする女子供が出る。それを全員で宥めて気を落ち着けるのは大変だ。俺はヘルメットとマスクを外して蒸れた頭を外気に晒した。

 

『こちら狙撃班の田島。滑走路付近の感染者を撃破。鳥は飛び立ったよ。』

 

確かに航空機が丁度離陸して空の彼方へと吸い込まれる様に姿を消して行く様が見えた。あれで最後だな。まあ、どの空港が安全かなんて分からないだろうし。中に感染者が一人もいない事を祈ろう。もしいたら、全員どっちみち終わりだ。

 

「お疲れー。あーそうそう、今こっちにどれぐらい武器持って来てるんだっけ?」

 

『一小隊全員に行き渡る分がある。何で?』

 

「必要になるかもしれないから。仮に、仮にだ。これが世界規模で起こっている出来事だとして、海上自衛隊がここに到着するまで何日掛かるか分からない。だから、その間ここに篭城するのに必要な物、特に火器・弾薬・その他の支援物資が。後、念の為に手錠とかもな。」

 

『何故?』

 

「お前人間がこんなB級映画のシナリオが現実だと簡単に受け入れると本当に思ってるのか?んな訳無いだろうが。もし一般人が暴動を起こしたらどうなる?俺達が止めなきゃいけない。たとえ最後の手段でソイツらを撃ち殺す事になっても。」

 

『いや、流石にそこまでの事には』

 

「ならないと言い切れるか?」

 

田島の言葉をぶった切った。

 

「良いか、警視庁や警察庁は市民に媚びるべき存在では無い。幾ら公僕とは言え、前代未聞で前例が無い状況にぶちあたった時、こっちとしちゃ応急の対応しか出来ない。それも全力で取り組んでいるのにも拘らず無能だなんだと非難されるのは極めて心外だ。自分達は役に立つ事なんか何一つ出来ないししようともしない。」

 

『・・・・圭吾の言う通りね、今回ばかりは。田島、いざという時は腹、括りなさい。』

 

『了解・・・・・』

 

「心配すんな。俺達なら生き残れる。」

 

『こちら二班。非常口以外の出入り口を全て封鎖完了。捜索しましたが、逃げ遅れた市民はいません。直ちに帰還します。』

 

「おう。お疲れ。」

 

『圭吾。』

 

「ん?」

 

『あたし、ここでの仕事が終わったら街に出るわ。』

 

「静香を探しにか?言うだろうと思ったぜ。俺も行く。お前一人じゃ頭に血が上った男共に捕まったら最後、何されるか分かったもんじゃ無いからな。文句は言わせねえぞ?」

 

『分かってる。』

 

無線を通じて伝わっている。彼女の、リカの苛立ちが。隠そうとはしているが、分かる。今直ぐにでもここを飛び出して彼女を助け出しに行きたいと言うのが本心だろう。かく言う俺も正にそう思っている。だが、部下を残して行けない。第一小隊のリーダーとその片腕がいなくなったらそれこそ収拾がつかなくなる。苛立ち紛れに柱の一つを蹴った。ブーツの爪先が命中し、小さくへこんだ。

 

「クソッタレが・・・・・何がどうなっちまったんだよ?」



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ストレス解消

お待たせしました。では、どうぞ。オリ主が少し暴れます。


日が暮れ始め、夜が近付いて来た。再び滑走路付近に現れた感染者をリカ率いる狙撃班が撃ち殺す。そう言った情報を不必要に与えない様にする為に窓から離れたラウンジや購買などがあるエリアに生存者を移動させた。だが、今空港内の空気は悪化の一途を辿っている。

 

「もう沢山だ!さっさとウチに帰してくれ!」

 

「ですから、外は危険です。安全が確認出来るまでここに」

 

「ふざけるな!アンタ達警官だろう!私達をこんな所に監禁する権利は無い!!」

 

忍の一文字で応対するSAT隊員に向かって罵声を浴びせる馬鹿共。空港の警備員がソイツを引き離そうとしているが、遅かれ早かれ乱闘になって誰かが怪我をする。そう思った矢先、誰かが隙を突いて背後から警備員が携行している特殊警棒を引き抜いて伸ばした。

 

「馬鹿が。」

 

手伝ってやるか。振り上げられた警棒を掴むと、手首を捻り上げてがら空きになった鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。少しは手加減したが、膝に付けたプロテクターは落下時の怪我防止の目的で着用している為、かなり丈夫だ。踞った所で警棒を奪い取り、手錠で少し離れた階段の欄干に繋いだ。

 

「畜生、外せ!外しやがれこの野郎!!」

 

「人の頭を伸縮式警棒でかち割ろうとした殺人未遂の犯人を放って置くSAT副隊長だと思うのか?確かに、お前が言った通り俺達にはお前らを監禁する権利は無い。出たければ好きにしろ、非常口は開けたままにしてある。だが、今この場で外に出てどうなる?」

 

喋りながら警備員に警棒を渡した。四十代前半の眼鏡をかけた中年の男性で、俺は別の場所に行く様に目で合図する。男はすまなそうな顔付きで軽く会釈をするとその場から離れた。集団の中で気色ばんでいた連中は段々と落ち着きを取り戻し始める。もう少しだ。

 

「我々SATはこの場で市民を守ると言う任務がある。今あの男がしたのは、その邪魔だ。つまり公務執行妨害、故にそれ相応の処置を取らせてもらった。それと、文句を言う位ならお互いの為に何らかの形で手伝って貰いたい。確かに我々は国民の公僕だ。だがその国民の手助けがあってこそSATは、いや、警察と言う組織は初めて真価を発揮する。生き残る為にも、どうか手を貸して欲しい。お前達にも友人や家族がこの場にいるだろう?一人の行動が、皆を死に至らせる可能性を持っていると言う事を良く考えてくれ。以上だ。」

 

ようやく静かになった所で、俺はリカが田島と待機している警備車両の上に登った。リカはバイポッド付きのH&K PSG-1狙撃ライフルでうつぶせに寝ていた。

 

「随分と爽やかな弁舌をお持ちだな。」

 

白いキャップを被った田島が観測用のスコープレンズの手入れをしていた。

 

「誉められた気がしないな。俺は説教されるのもするのも嫌いなんだよ。」

 

葉巻を一本口に銜えて着火する。数少ない趣味の一つだ。

 

「でも間違った事は言ってない。説教がうざがられるのは当然よ。」

 

ゆっくり吸い込むと、火先の色が明るくなった。煙を吐き出すと、リカが無言で手招きする。俺は何も言わずに吸っていた葉巻を彼女に渡した。これも手に入り難くなるな。俺はルーフから降りると、大股で感染者達がいる所に向かって歩いて行った。

 

「少し『的撃ち』に行く。あいつらの相手してたらイライラして来た。 ハチキューは置いて行くから、いざとなったら援護頼む。」

 

MP5SD6の有効射程は約200メートル。一発ずつヘッドショットで行くか。セミオートなら弾を無駄に使う事も無い。歩きながらMP5SD6のセーフティーを外し、スコープを覗いた。ストックを少し強めに右肩に押し込み、軽く人差し指をトリガーに掛ける。鼻から息を吸い込み、五秒間それを止めた。その間に手近な『的』に向かってドットを合わせると、引き金を絞った。プシュン、と炭酸飲料の蓋を開けたみたいな音がして、一体の頭が破裂した。

 

「One」

 

崩れ落ちるのを確認し、狙いをつけ、発砲。

 

「Two」

 

狙い、発砲。次。

 

「Three」

 

Four, five, six。バタバタと倒れて行く感染者を眺めながら、俺はトリガーを絞り続けた。死ね、死ね、死ね、 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね 死ね。

 

サプレッサーで抑えられた銃声と薬莢が地面に落ちる音が鳴り響く。マガジン一本分、つまり三十発撃ち終えた所でリカがストップを掛けた。

 

『もう良いでしょ?噛まれる前に戻りなさい。死んだら承知しないわよ?貴方一応私の副官なんだから。』

 

『ラジャー。』

 

空になったマガジンをダンプポケットに突っ込んで新たにマガジンを装填した。少しは気が晴れたが、まだ足りなかった。どう言う訳か、今の俺は俺であって俺じゃない。傭兵時代でしか感じなかった突発的な暴力衝動に襲われていた。感染者を・・・・・<奴ら>を・・・・・殺したい。もっと、沢山、殺シタイ。

 

『圭吾?』

 

拳を握って額を二度、強く殴り付けた。やっぱり変わらない。俺は生まれながらの人殺し、か。感染者に背を向けて急ぎ足で戻った。

 

「大丈夫だ。何も問題無い。何も・・・・」

 

俺は警備車両の中に入ると、エスパーダXL フォールディングナイフをダッフルバッグから引っ張りだし、ブレードを開いた。二十センチはある幅広の刃に映った俺の顔は、鬼気迫る物に変わっていた。

 

「クソッタレがっ・・・・・」

 

震える手で水筒に手を伸ばして一口飲んだ。

 

「大丈夫?」

 

「ああ。」

 

「ほら、吸いな。」

 

差し出された葉巻を震える手で支え、口元に持って行く。『精神安定剤』の効果が出始めたのか、脈拍も下がり、俺の表情も少しずつ和らいだ。リカが俺の顔に手を添えてじっと俺の目を見つめた。少し冷たい彼女の手は、スベスベしていてとても気持ち良い。

 

「悪い・・・・・ありがと・・・・」

 

「しっかりしなさいよ。あたしに射撃で勝った男がそんなんじゃあ、示し付かないじゃない。」

 

 

「悪い・・・・・」

 

今の俺はそうとしか言えなかった。

 

「無茶しないでよ。バカ。」

 

軽く横っ面を張り飛ばされた。地味に痛いが、まあ我慢しよう。

 

「三十分だけ寝てなさい。三十分経ったら起こしに来るから。」

 

俺は葉巻の灰を外に落とすと、目を閉じた。

 



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Thirty Minutes Later.....

三十分の仮眠の後、圭吾らSATの耳に飛び込んで来た情報とは・・・・?


三十分後、比喩表現無く俺は叩き起こされた。起き上がって装備を確認すると空港の中に戻った。幾らか新しい情報が入ったらしい。

 

「それで、何て?」

 

「床主はどこも渋滞らしい。御別橋も、床主大橋も、この都市から出るルート全部。デモ隊なんかも出始めてる。馬鹿だよな、何がアメリカと共同開発したバイオウェポンだよ?呆れて物も言えない。」

 

田島は頭を掻いて溜め息をついた。まあその気持ちは分からなくもない。目の前で理解出来ない現象、何が起こっているか分からない状況に直面した人間は錯乱する。それが普通だ。そしてそれを元に戻そうとする。たとえ無駄だと分かっていても。

 

「で、どうするよ?ここに篭城するのは良いとして、何時までそれが保つかだ。SAT隊員の神経は一般人に比べて図太いが所詮は人間。飢えと渇き、疫病には勝てない。弾だって無限にある訳じゃないし、最悪ここから逃げる時は所轄の拳銃保管庫か、証拠品保管庫にある物を失敬するしか無いぞ。」

 

「その時はその時だな。」

 

田島はキャップを被り直した。

 

「何だよ、逃げる気か?」

 

「いや。少なくともまだ、ね。俺だって男だし、SAT隊員だよ?」

 

その割にはノリが軽過ぎる所があるがな。まあ、すべき事はきちんとしてるから文句は言えないが。さてと・・・・・

 

『こちら一班、笹塚です!誰かがバリケードを破って・・・・!!』

 

「何だと!?どこだ!?」

 

『に、西側の出入り口です!噴水が目印の・・・・!!』

 

直後、銃声が聞こえる。恐らく侵入されたな。

 

「了解。直ぐに向かう。感染者が突破しているなら撃ち殺せ。ただし、討ち漏らすな。感染者に噛まれた奴も確実に一撃で仕留めろ。変体するのも時間の問題だ。なんとか持ち堪えてくれ。」

 

西口・・・・こことは逆方向だ。どれだけ速く走っても十分弱はかかる。

 

「リカ、田島。聞いたよな?走るぞ。」

 

二人は銃を取って頷いた。リカを前衛、つまりポイントマンにして、俺は右翼、田島は左翼のポジションを取って前進した。途中開いたドアから紛れ込んだ感染者が何人か行く手を阻む。

 

「二人共、ハチキューはあんまり使わない方が良い。」

 

「「了解。」」

 

MP5で感染者達を突破し、遂に西口に辿り着いた。むせ返る様な鉄の臭い。粗末な塗装みたいに赤黒い血液が壁と言わず床と言わず、辺り一面に広がっていた。銃声も聞こえる。あそこか。

 

「おい!大丈夫か?!」

 

「た、隊長!!副隊長!!」

 

「笹塚、班で噛まれた人は?」

 

「い、いません。大丈夫です!」

 

まあ、とりあえず先にアレを始末するか。リカ、田島、そして俺の三人と制圧一班であっという間に残りの感染者を一掃した。

 

「本当か?しっかり調べろ。少しでも咬み傷があればもう助からない。有効なワクチンは見つかっていない、だから・・・・・」

 

「分かりました。全員咬み傷を調べろ!」

 

三十分程でようやく全員が調べるのを終えた。幸い誰も噛まれてはいないらしい。だがバリケードが破壊されたと言うのはかなりの痛手だ。

 

「全く、馬鹿な事をしてくれた物だ。これなら今あの場にいる奴らを皆殺しにしてSAT部隊だけでも脱出を図る方が遥かにマシに思えて来たよ。まったく・・・・うーし。二班、適当に分かれてでかい出入り口を二人か、三人に分かれてカバーしろ。何かあれば必ず俺達に連絡する様に。無理矢理にでも突破しようとする奴らがいたら押し返せ。多少手荒な真似も覚悟しろ。いざとなれば、」

 

俺はホルスターのH&K USPを引き抜いた。全員俺の言わんとする事を察したのだろう。姿勢を正し、返事の代わりに敬礼を返した。

 

「以上だ。解散!」

 

「いやー、緊張したな。」

 

「そんな顔で言われても説得力を全く感じない。悪いな、リカ。隊長はお前なのに俺が仕切っちまって。」

 

「良いわよ、別に。いざ戦闘になったら、ウチの部隊はアンタが本当のブレーンだから。頼りにしてるわよ?」

 

「そりゃどーも。」

 

俺はタクティカルベストと防弾ベストを脱ぐと、懐から携帯を引っ張りだして開いた。お、今まで圏外だったけど今は辛うじて繋がるな。早速発信履歴で静香の番号を探し当てて電話をかけた。だが、繋がらない。電源が入っていないか圏外の所にいると言う例の録音されたメッセージが虚しく流れるだけだった。メカ音痴でも使える様な簡素な携帯を探して買ったが、どうやらマンションに忘れたままらしい。それも電源を切ったまま。

 

「糞ぉ・・・・こんな時にまでドジ踏んでんじゃねえよ。」

 

別の番号に電話をかけてみる。ワンキリする馬鹿も真っ青なスピードだ。

 

『ちーっす。お疲れ。』

 

片桐竜二の割れた声が俺の耳に飛び込んで来た。やはり電波が悪いのは変わらない様だ。110番も昨日かけた奴がいたが、一杯だったし。

 

「よう、片桐。お前今どこにいる?」

 

『えーと、どこでしょうね?標識とかが車の所為でぶっ壊れたりしてるんで、正直分からないけど。大体、あー、そうそう。良い情報あるけど、聞く?』

 

相変わらずマイペースで陽気なトーンに若干イラついた。これでもSPと言うんだから笑ってしまう。高いテンションと高い能力を持つ野郎だから文句も言われない。

 

「何の情報かにもよるな。」

 

『ある学校のマイクロバスが床主大橋辺りに向かうのを見た。生徒が何人か乗ってたし、教師も恐らく一人か二人はいる筈だ。』

 

「本当か?金髪の女は?乗ってたか?」

 

『ああ。運転席で険しい表情浮かべてたぜ。』

 

「そうか・・・・・」

 

俺は安堵の溜め息をついた。良かった・・・・・静香は無事だ。少なくとも、今は。それに生徒と一緒にいるなら恐らくそれなりに肝の据わった奴らだろう。平日に、それも、だだっ広い校庭みたいな所で感染者と戦わずに脱出する方法なんて考えつきはするが、余程訓練された人間でなければ、ほぼ不可能だ。医療知識もあれば、そう簡単に斬り捨てられる事は無い。まあ、俺達の敵は感染者だけじゃなく、人類全体になっているだろうがな。

 

「分かった。ありがとう。それを聞いて、少し気が楽になった。お前はこれからどうする?」

 

『ん?ああ、まあ何とかするさ。じゃあな。』

 

「ああ。」

 

「どうしたの?」

 

リカが俺と片桐のやり取りを聞いて表情を伺う。

 

「静香の奴、しぶといぞ。あいつまだ生きてた。」

 

「え?」

 

「SPの片桐から確認が取れた。校章の塗装が付いたマイクロバスに乗っていたのは生徒数名と教師。運転席に座っていたのは金髪の女だ。」

 

リカの心に、希望の光が灯った瞬間だった。

 




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トモダチ

お待たせいたしました。どうぞ。


人を生ける屍に変える原因不明のパンデミックが始まってから一日と少しが経過した。空港に残っている連中も、幸いようやくルールが変わったのだと言う事を認識する奴が少しは増えて、尚且つ協力的になって来た。俺はと言うと、現在リカと一緒にまた滑走路付近に出没し始めた感染者の排除を行っている。部隊の奴らはそれぞれ乗って来た警備車両内で仮眠を取らせた。いざと言う時にはしっかり起きて働いてもらわなきゃな。

 

「距離、450。仰角、-6。左右の風はほぼ無風。修正の要、ナシ。射撃許可、確認した。」

 

俺は八十九式を、リカはPSG-1を使って撃ち始めた。立て続けに撃ち出される銃弾は言葉になっていない呻き声を上げる感染者の脳味噌を滑走路にぶちまけ、バタバタと倒れて行った。

 

「お見事。流石は全国ベスト5の腕前だ。」

 

「チッチッチ。俺はベスト3だよ。あ”ー、スッキリした。いてぇ〜〜〜。」

 

長時間寝転びっぱなしだった為に首筋、肩、背中、そして腰が痛む。着ていた装備の一部を外して、伸びをした。ボキボキと首や腰が鳴る。屈伸運動も少しやってようやく痛みが引いた。リカはと言うと、アサルトスーツの前を開けて白いスポーツブラを露わにすると自分の胸を揉み始めた。

 

「う〜〜、痺れちゃった。」

 

「お前なあ・・・・・人前でそう言う事をやるな。」

 

「仕方無いでしょ?早朝から寝転びっぱなしで痺れちゃったんだから。何なら貴方がやる?あたしより射撃上手いんだしさ。」

 

「願ったり叶ったりだが、流石に人前じゃあちょっとな。それに、相棒が見てるぞ?」

 

「全く、お熱い事で。」

 

「うるせえよ。撃つぞ?」

 

茶化す田島の頭をストックで小突いた。

 

「悪い悪い。新しい情報は何か入ったのかい?まあ、あってもあんまり芳しい物とは思えないけど。」

 

「ああ。あちこちで人がぶっ殺されてる。大橋の方も相変わらず封鎖されたままだ。ありゃあ恐らく所轄の連中を総動員しただろうな、会計課も含めて。二日足らずでアポカリプス・ナウだ。改めてどれだけインフラが簡単に崩れるか思い知らされた気がする。」

 

今俺は切実にシャワーを浴びたい。別に堪えられない訳ではないが、小綺麗にする事に馴れている為に体を綺麗にしたいと思っている。ウェットティッシュでも十分だ。

 

「まあ、確かに映画じゃ登場人物が取る一つの行動が世界の崩壊に繋がるってのが常套なシナリオなんだけどね。感染者は後どれだけ残っているやら・・・・・」

 

リカの言う通り懸念すべき事ではあるが、俺はそこまで心配はしていなかった。四桁、最悪の場合五桁は間違い無い。堅実にヘッドショットで一匹ずつ撃ち殺して行けば全滅とまでは行かなくとも、銃が故障するか弾切れになるまで撃ち続ければかなり数を減らす事は出来る筈。感染する事に関しては不用意に建物の外に出なければ大丈夫だ。

 

「あ。」

 

「ん?」

 

「どうかした?」

 

俺は今重大な事に気付いた。俺にはまだ強力な助っ人がいるのをすっかり忘れていた。最近はあまり連絡を取っていないので俺を覚えているかどうかは不安だが・・・・・・・・ここまで来たらもう賭けだな。電波はまあまあと。電池も切れていない。携帯のキーを手早く押し始めたのを見て田島は不思議そうに横から画面を覗き込んだ。

 

「こんな時に誰に電話するんだよ?」

 

コールをしばらく待った。一回、二回、三回、そして四回目が鳴った直後に繋がった。

 

『はい、高城です。』

 

声の音域についてはあまり詳しくないが、確かアルト、かな・・・?それ位のトーンを持った女性の声が聞こえた。

 

「百合子さん!繋がった・・・・・」

 

『あら、滝沢君?お久し振りね。今は確か・・・・洋上空港かしら?』

 

「はい。酷い有様ですよ。今、大丈夫ですか?」

 

『ええ。丁度一段落ついた所よ。避難して来た市民の皆をテントに移動させているから。まだ来るかもしれないけど。今でざっと三百人前後ね。』

 

「なるほど。今、情報供してもらっても?」

 

『ええ。ひとまずこのパンデミックが世界中で起こっている事、そして感染者は咬み傷のみによって新たな感染者を生み出す事が出来ると言う事は知ってるわよね?マスコミもパニックを恐れて役に立つ様な情報は殆ど公開していない。アメリカ大統領はホワイトハウスから洋上空母に避難したわ。』

 

洋上空母・・・・大統領は米軍の指揮権を持っている。空母と言うのは軍事的な拠点。そこから導きだされる答えは、

 

「核兵器を使う可能性が?」

 

それを聞いたリカと田島は息を飲んだ。

 

「ええ。モスクワとの通信が途絶し、北京は全市が炎上。核に関しては、ICBMが正常に作動してくれさえすれば心配は無い筈だけど。」

 

「自衛隊に任せるしか無いか。」

 

こればかりは俺達ではどうにも出来ない。曲がりなりにも軍隊みたいな物だから、そこまでのヘマはしない筈だ。少なくとも俺はそう願っている。

 

『でも、唯一治安が他よりも保たれていると言う事が確認出来たのは、イギリスよ。』

 

愛国心を持ってる奴らだからな。国のシンボルとしてまだ女王はいる。彼女が恐らく重要な支えの一つとなっているのだろう。何より、特殊空挺隊、通称『SAS』も場合によっちゃSEALSよりも優秀な部隊だ。纏まるのにもそこまでまごつく様な訓練を受けちゃいない。

 

「イギリス、ねえ・・・・それはそうと、避難した人の中に藤見学園から脱出して来たって人間は?長い金髪でちょっとゆるふわな感じの鞠川静香って人ですけど。」

 

『いいえ、いないわ。藤見学園に関しては、私の一人娘もそこにいる。』

 

次期後継者でもあり肉親をここまであっさり斬り捨てられるなんて。メンタル面の強固さは今も昔も変わらないな、この人は。

 

「助けなかったのは高城の女として優先すべき事があるから、ですか?」

 

『ええ。物理的に手が届かない人を心配していても何も変わらない。出来る事を、すべき事をやるだけ。海上自衛隊についてだけど、当分は洋上空港には着かないわ。向こうも向こうで厳戒態勢を取っている。私達が救援を送り込みたい所だけど、今はこちらの事で手一杯出し、何よりこの状況じゃリスクが大き過ぎるの。新しい情報は定期的にメールで送るわ。住所は分かってるわよね?』

 

「東坂の二丁目で、一番デカい家ですよね。ありがとうございます。それじゃあ。」

 

携帯を乱暴にポケットの仲に押し込むと、深く息をついた。あーあ。

 

「どうした?悪い知らせか?」

 

「それしか無いよ。向こうも向こうで避難民を誘導してるから手が離せないんだと。合衆国大統領はホワイトハウスから避難して空母を新たな軍事的拠点にしている。さっきも言ったみたいに戦術核の使用もあり得る。唯一破綻していない国は、イギリスだ。後、海自は当分厳戒態勢の状態でここに来るのはまだ先だとさ。新しい情報もメールで追って送るって。」

 

「その友達って誰だ?」

 

「悪いがそれは言えない。ただ、コネは色んな所にあるとても頼りになる人物、とだけ言っておこう。政治家では無いと言う事は予め教えといてやる。」

 

流石に右翼団体リーダーの妻ですなんて言えない。




はい、今回はまた百合子さんをチョイ役で出しました。

感想、評価、お待ちしております。


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作戦名:Towering Inferno 前編

今回は少し短めです、すいません。

脳内BGMはV6のJustice、またはLinkin Park の Points of Authorityでお願いします。


『床主洋上空港の皆様、こちらは空港警備員です。現在空港では殺人病の感染者が大量に出没しておりますので、安全を確保する事は極めて困難です!この場で安全なのは、ターミナルです!状況が好転するまで、窓やドアを施錠出来る所に避難して下さい。その場で連絡を取る手段をお持ちの方は現在地、人数、その他をお報せ下さい。尚、感染者に噛まれた方は擁護出来ません!繰り返します!感染者に噛まれた方は擁護出来ません!』

 

空港のアナウンスがターミナル内で響いた。悪い意味で、俺の予想は見事に当たった。何度もあのアナウンスは聞いて来た。現在ターミナル内にいる人間は、SATも加えて千人と少し。聞いた所によると、空港のスタッフは少なくとも二万近く入る筈らしい。その他の乗客とかも加えれば約三万前後。

 

「ビビって何も出来ないか、する気が起きないか、それかもう既に『なって』しまったのか・・・・」

 

「どちらにせよ、マズいわね。今は狙撃よりも爆撃の方が効果的の様な気がするわ。」

 

「ナパームとかな。」

 

現在俺はリカと葉巻を吸い回ししていた。

 

「コラァ!ここは禁煙だぞ!」

 

若手の空港警備員が声を張り上げて注意して来るが、俺達はどこ吹く風とスパスパ吸い続けた。

 

「今そんな事を心配してる場合かよ?」

 

田島が思わず吹き出し、リカもクスクス笑い始めた。

 

「世界は今大パニックに陥ってるのよ?無くなったらやめるわ。狙撃支援部隊所属の隊員は今すぐプレミアムラウンジ内に集合して。」

 

 

 

 

ラウンジ内では銃と弾薬が種類ごとに分けられており、テーブルとソファー五つが占領されていた。正直俺もその数には驚いている。普通日本の空港にそこまで武器は無いと思っていたが思いのほか数が多かった。ライフルやサブマシンガンはMP5、ハチキュー、そしてHK417、拳銃はベレッタ、シグザウエル、USP、そしてグロックらしき物も置いてある。

 

「良くこれだけ集まったな。俺も未だに開いた口が塞がらないよ。笹塚、どっから掘り出して来たんだ、コレ?」

 

「空港警備が予備の武装と弾薬を非常時に備えて保管していましたので。唯一の問題は、」

 

「銃の扱い方を知っている人間の数が圧倒的に足りないって事ね?」

 

笹塚の言葉をリカが引き継いだ。相変わらず吸いさしの葉巻をくわえている。そうしながらもハチキューの作動桿を引いて調子を確かめる。俺もベレッタの銃身下部についたレーザーポインターが変な方向に曲がっていないか確かめた。

 

「そうです。南隊長、現在は他のSAT隊員、空港警備員等に武装させます。他にも海保のSST部隊、更には麻取りの捜査官も要請に応じてくれました。後は、民間で銃の扱い方を知っている者にも・・・・・」

 

「それは流石にマズいだろ?」

 

調整したベレッタを置いてシグのスライドを引いて調子を確かめながらそう言った。

 

「幾ら人手が足りないからと言って、民間人に銃を与えるのは得策とは思えない。俺達に銃口を向けて来ないなんて断言出来るのか?銃撃戦になってみろ、それこそ取り返しがつかない事になるぞ。」

 

守るべき市民を最悪の場合殺す事になるんだからな。現に俺は警備員をぶん殴ろうとした暴徒を取り押さえた。飛び道具じゃなかったから良かった物の・・・・まあ、撃つ事になれば撃てるけど。

 

「それはそうだけど、貴方も言ってたでしょ?『国民の手助けがあってこそSATは、警察と言う組織は、初めて真価を発揮する。生き残る為にも、どうか手を貸して欲しい。』今は正しくその時だと私は思うけどな。」

 

「僭越ながら、じ、自分もそう思います!」

 

「・・・・・・・分かった。ただし、空港内で銃撃戦になったら、俺を止めるなよ?若い血の気の多そうな奴らは避けろ。選別は俺とリカがする。それが条件だ。良いなリカ?」

 

文句は言わせないぞとばかりにちょっぴりだけメンチを切ってやった。

 

「分かったわ。」

 

 

 

 

 

 

結局、銃を扱えて尚且つ信用に足ると俺やリカが判断した人間は二十人にもならなかったが、誰もいないよりは遥かにマシだ。俺も俺で使ってない武器があるしな。だが、アレは静香捜索・救出の為に取っておく必要がある。ここで消費する訳にはいかない。そうせずになんとか出来るだけ沢山の感染者を潰す事が急務・・・・ある程度賭けにはなるが・・・・・

 

「リカ。」

 

「ん?」

 

「ゾンビって、燃えたら死ぬと思うか?」

 

「何らかの物理的欠損があれば活動停止に追い込む事は出来るかもしれないけど、何で?」

 

「策を見つけた。かなり無茶だし、下手すりゃ死ぬ。それでもやるか?流石に一人じゃちっと無理があるが、二人か三人なら絶対どうにかなる。」

 




感想、評価、誤字報告、お待ちしております。


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作戦名:Towering Inferno 後編

洋上空港からの脱出手段ですが・・・・どうしましょうねえ・・・・

まあどうぞ。


「俺はあんまり良い考えとは思えないんだがなあ・・・・」

 

「それは承知の上だ。言っただろう、これはかなり無茶な賭けだし、下手すりゃ死ぬ。が、今現在他に効果的な手立ては考えられない。俺達は警察であり軍や自衛隊じゃない。戦闘機の機銃掃射かロケットランチャー数十発でもぶち込まない限り感染者の数は減らない。だから、それに近い事をするしか無い。勿論、強制はしない。」

 

「行くに決まってるだろう。」

 

即答した田島に

 

とりあえず持てるだけ武器を持った俺達———俺、リカ、そして田島———の三人は空港の作業車が出入りする区域に降りて行った。当然とは言え、やはりシャッターは全開になっていた。

 

「クリア・・・・な訳ねえよなあ。」

 

「田島、撃つな。感染者は聴覚以外の感覚は無い。ここで囲まれたらアウトだ。」

 

早速撃とうとした田島のハチキューの銃身を下に向けさせた。

 

「あのミニバンに乗って。」

 

静かに、だが早足でミニバンに乗り込んだ。運転席に座った田島はアクセルを吹かし、一気にスピードを上げる。その間にもスピードは上がって行き、感染者の群れを突っ切って行く。ペンキの缶をぶちまけたかの様にフロントウィンドウが内蔵やら体液やらに覆われた。

 

「何だよこれ、まるで悪い冗談だ!警察官が人を轢殺するなんて!」

 

「ああ、確かにな。悪い冗談だ。レキサスのミニバンで人を轢殺なんて。」

 

「もう人間じゃないわよ。一キロ先まで前進して右のガレージに曲がって。」

 

ガレージには給油タンクを乗せたトラックが一台止まっていた。飛行機は出航しろと言われれば直ぐに出航しなければならない為、給油も迅速に行わなければならない。その為緊急の給油車があるのだ。

 

「「「ジャンケンポン!!!」」」

 

何も言わずに俺達はパー、もしくはグーを突き出した。結果は、

 

俺:パー

 

田島:パー

 

リカ:グー

 

である。

 

「リカ、エンジンスタートさせろ。田島と俺でカバーする。」

 

「分かったわ、三分頂戴。」

 

田島と背中合わせになった俺は、次々に八十九式で感染者を葬って行く。サイトを覗き、引き金を引く、引く、引く。女だろうと、老人だろうと、男だろうと関係無い。危険は・・・・脅威は全て排除する。今この場に子供の感染者がいないのが唯一の救いだろうか。リカはどうか分からないが、田島なら恐らく迷うだろう。昔から子供が好きで、面倒見が良い奴だ。

 

「リロード!」

 

「了解。」

 

八十九式を左手に、USPを右手に持ち、両サイドに目を光らせ、近付いて来た奴らの頭を吹き飛ばす。リロードが終わった所でエンジンの唸りが聞こえた。給油車の階段を上っても感染者の数が減る様子は無い。新しいマガジンを押し込み、再び構えを取って田島が乗るまでの間カバーしてやる。

 

「早く乗れ!!」

 

俺も急ぎ足でその階段を上った。

 

「良いぞ!飛ばせ!!」

 

「了解!!」

 

それを確認すると、トラックを全速力で走らせ始めた。感染者もグチャグチャのペーストみたいになりながら轢殺されて行った。このトラックはレキサスでは無いがな。すると、ゴトン、上から音がした。田島が反応するよりも早く俺はUSPを抜いて三発撃った。若い男の感染者だった。一発はこめかみ、残りは目玉と左頬の肉を抉った。

 

「あっぶねえ・・・・・」

 

「死ぬかと思ったぜ。ありがとな。今度なんか奢ってやるよ。」

 

「出来ない約束はするな。俺が反応しなきゃ俺は今頃お前の頭を吹き飛ばさなきゃならないんだぞ?」

 

『もうそろそろターミナルの一番ヤバい所に到着するわ。燃料のバルブ開いて!』

 

彼女の言われた通りバルブを開くとホースから放射される水の様に燃料が吹き出し、放物線を描きながら地面、そして感染者に掛かって行く。こんなもんか。バルブを閉めた。

 

「さてと。」

 

紙マッチのマッチブックを開いて全て着火すると、マッチブックも燃やした。十分に燃えているのを確認すると、それを投げた。だが、投げた時の風で消えてしまう。

 

「Shit・・・・・」

 

「どうせなら、コッチの方がもっと確実だと思うぞ?」

 

田島が取り出したのはC-4爆薬だった。なるほど、考えたな。大方技術支援班からいくらか拝借して来たんだろう。

 

「お前、以外と手癖の悪い奴なんだな。見直したよ。」

 

「良いのやら悪いのやら・・・・」

 

『何してるの、早く着火して!』

 

既に降りたらしいリカが切羽詰まった声で出発を促す。起爆の準備を整えると、タンクにそれを貼り付けた。デカい洗濯バサミみたいな起爆装置を手にトラックから下車し、リカと合流した。トラックの方にスタングレネードをアンダーハンドで投げると、俺達は走り出した。凄まじい破裂音と共に後ろが明るくなり、感染者がゾロゾロと飴に群がる蟻の様にトラックの方に向かって行く。

 

「Burn in Hell.」

 

それだけ言うと、田島は起爆装置を起動した。スタングレネードとは比べ物にならない程の巨大な爆発が起こり、走り去ろうとしている俺達ですらその爆風で前のめりに倒れそうになった。

 

「振り向かないで、走るわよ!」

 

「おう。」

 

さてと、ターミナルに辿り着くまで約一キロ。全方向には幾百幾千ともつかない数の感染者。こちらの弾薬はそれ以下。四面楚歌どころの話じゃねえな、地獄道をジョギングなんてさあ。

 

「サクラ、こちらダリア。今すぐ狙撃支援班と消防を出動させて。私達だけじゃこれは切り抜けられないわ!」

 

「良いか、胴体じゃなく頭だ!頭を狙え!頭をぶち抜けば弾を無駄にしないで済む!」

 

左から来た感染者五人ををUSPで駆逐し、更に歩を進める。残りの距離は約五百メートル。これで半分・・・・・

 

「田島!お前、まだC-4持ってるか?!」

 

前方と左右をカバーする田島とリカの後ろで、殿を勤めている俺は断続的に聞こえる撃発音に負けじと大声で聞いた。

 

「あるが、あれだけの数にこれだけじゃあ焼け石に水だ!使っても意味は無い!全力で走って噛まれない事を祈るしか無いよ!!」

 

狙撃支援班が配置に付いたらしく、後ろで感染者達が一人、また一人と後ろに吹き飛ばされて行く。後ろから追って来る奴らの数が徐々に減っている。前方は出る時に使った出入り口でSAT隊員と武装した警備員何人かが俺達を援護していた。

 

「行ける・・・・これなら、行ける!!」

 

残りの体力を振り絞って、俺達は感染者達を縫う様にしては知るスピードを更に上げた。近過ぎる奴だけ撃って行き、後は前進あるのみ。そして遂に・・・・・

 

 

「こっちです!早く!」

 

ターミナル内に再び入った俺達は、深い溜め息をついた。今度ばかりは正直死ぬかと思ったぜ。誰も噛まれずに済んだ。

 

「狙撃班、どう?感染者を燃やすのは効果的?」

 

『連中の一部には有効です!ただ、効果の現れが顕著になるまでは幾らか時間が掛かります。』

 

やっぱりか。感覚が死んでいるから燃やしても完全に灰になるまでは止まらねえらしい。

 

「悪い、リカ、田島。結局無駄足だった。」

 

「ほんと、ヒヤヒヤしたぜ、副隊長殿。あんなのは二度とやりたくないね。」

 

「そう言わないの。やる価値はあったわ。効果は今一つだったけど。」

 

ポフポフと俺の頭を叩くリカの手を払い除けて葉巻を一本取り出した。

 

「コヒバ?」

 

「ああ。やるか?」

 

「勿論。」

 

先に火を点けて二、三度吹かすと、リカに渡した。

 

「圭吾、携帯貸して。」

 

「静香にはもう何十回もかけたが、出なかったぞ?」

 

まあ別に断る理由も無いので渡してやった。

 

「やっぱり繋がらないわね、警察には。」

 

静香に繋がらないのはマズいが、それもそれで結構ヤバいな。本部との連絡が途絶えたのなら、第一小隊の連中は俺達が引っ張って行くしかない。

 




感想、評価、お待ちしております

では。


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最悪のBlackout

いよいよ脱出の手筈を整えて行きます。それと、そろそろ学校が始まりますので更新のスピードが若干落ちる事を先んじてお伝えします。では、どうぞ。


リカの手から携帯をもぎ取ろうとしたその矢先、携帯が高らかに着信音を上げた。液晶を覗いた。発信者は・・・・・・鞠川静香だった。

 

「貸せ!」

 

携帯を奪い取ると、耳に当てた。

 

『圭吾?』

 

スピーカーモードに切り替えてリカにも彼女の声が聞こえる様にする。

 

「静香!良かった・・・・・無事だったか。俺とリカも大丈夫だ。今どこにいる?」

 

『東坂二丁目の高城さんのおっきい家だけど・・・・・あ、後リカの鉄砲とか持ち出しちゃったんだ。』

 

一心会の所か。よし・・・・それなら一先ず安全だ。装備も食料も、必要な物は潤沢にある。それにリカの銃を引っ張りだしたのなら一先ずは安全だろう。恐らく扱い馴れてる生徒が一人入る筈だ。

 

「それは別に構わないわ。本当に無事で良かった。」

 

「今からどこに向かうつもりだ?」

 

『私以外のグループにいるのは生徒だから、家を回って行くつもりだけ』

 

ブツッ!

 

「おい!」

 

「静香!?」

 

突如、電話が切れた。画面からきな臭い異臭が漂っている。幾らボタンを押してもうんともすんとも言わない。

 

「見て、空が・・・・!」

 

俺の前に影が現れた。それもハッキリと。夜に近付きつつあるのに、影がある。明らかに何かがおかしい。振り向いた瞬間、空が十数秒間明るくなり、空港の蛍光灯や滑走路のランプなどが全て消えた。無線もうんともすんとも言わなくなった。

 

「リカ・・・・」

 

「ええ。可能性ありと思っていた事が現実になってしまった。」

 

リカは手持ちの銃のサイトを覗き、ドットが無いのを確認すると、全ての銃からそれを取り外し、投げ捨てた。今さっき起こった現象の呼び名は色々ある。高高度核爆発、電磁パルス。

 

「おい!一体何がどうなってるんだ!あんた警官だろ!?説明してくれ!何で携帯が使えないんだよ!」

 

「EMP攻撃だ。」

 

噛み付いて来たアラサーのサラリーマンの質問に答えてやった。

 

「簡単に言えば、今後一切電子機器は使えないって事よ。集積回路が焼けてもう使い物にならない。」

 

俺が吸っていた葉巻を俺に返したリカが代わりに分かり易く簡潔に説明した。何時に無く厳しい表情で。これで現在の状況変化はBadからWorseどころの話じゃない。無線で部隊の連中と連絡を取れなくなると言うのは非常に不都合だ。部隊の命は団結と連携。それが今たった一つの行動によって一気に突き崩されてしまった。

 

「更に言えば、私達はこれから本当の闇を知る事になる。まあ、懐中電灯位ならまだ使える筈だから大丈夫よ。それに給油車で起こした爆発もある。あれも篝火ぐらいにはなると思うし。」

 

燃え続けてくれればの話だがな。島にいる以上、灯りがどこにも見えないと言うのはかなりの痛手だ。仮に海自が来る前に洋上空港から脱出する事が出来たとしても、見当違いの方向に進んでしまってはそれこそ自殺行為でしかない。

 

「リカ、どうするよ?部隊の統制が乱れて完全に崩れるのは時間の問題だぞ?」

 

「確かにな。けど、だからと言ってここにいる人間を放って置く訳には行かないだろ。」

 

「それは、警察官としての言葉か?それとも田島博之と言う一人の人間としての言葉か?」

 

「・・・・・何が言いたい?」

 

俺の言葉に田島は眉根を寄せた。

 

「お前に大切な物が存在する様に、俺にも存在する。悪いが、今の俺にとってリカや静香より大事な人はこの世に存在しない。まあ、俺と両親も含めたら五本の指に入るが。」

 

それはともかく、と俺は続けた。

 

「気を悪くしないで欲しいが、二人が側にいれば、俺は他の人間がどうなろうがどうでも良い。正直、今俺達が守る様に言われた市民は足手纏いだとしか思えない。やる事と言えばぎゃーぎゃー文句やら御託を並べるだけ。役に立つ奴、立とうとする奴は両手足の指で数えられる。海自が救出に来るまでここに留まれば、確かに安全だ。けど、俺はそれを待てる程が気が長くない。加えて、静香も今現在感染者から逃げ惑ってる。どこの誰と一緒にいるかは知らないが、俺達みたいなプロが不在でどれだけの間生き延びられるか分からない。だから、街に出る。」

 

「圭吾・・・・」

 

「止めても無駄だぞリカ。俺は行く。一人ででもな。海保か海自の小型船が何隻かメンテの為にここに出されているのを覚えてる。対EMP処置はしてある筈だから、問題は無い。リブボートか何かで街に向かうさ。明け方に俺は出る。」

 

それだけ言い残すと、俺は警備車両に放置したままの荷物を取りに行った。重火器を入れた黒いダッフルバッグは何故か最初に運んだ時よりも重く感じた。ふと右手を見ると、震えている。

 

「震えるな・・・・・」

 

ビビってる場合じゃない。そんな事は後で幾らでも出来る。だが、やるのは今じゃない。俺は、ここで一人助かるつもりは無い。静香を助けて守らなければならない。あいつ一人じゃ、危なっかし過ぎるからな。

 

「さてと、明日に備えて寝るか。」

 

腕時計のアラームを設定すると、堅い床の上に横たわって目を閉じた。そして腹式呼吸を繰り返すと、ゆっくりと微睡んだ。




感想でも提案して頂いた様に、リブボートで空港から脱出して床主市に向かいます。

新しく書き直して連載を始めた牙狼作品の方もよろしくお願いします。

それでは。


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Dawn of the Dead

お待たせしました。学校が始まったので更新スピードが大幅に落ちます。ですが、完結まで持って行きたいので、よろしくお願いします。ではどうぞ。

遂に脱出です。


タイマー音。俺は目を開き、飲み止しのミネラルウォーターを顔にかけ、残りを飲み干した。銃の点検を済ませると、身支度を整え、ダッフルバッグを持って船着場に向かった。ターミナルにいる連中は警備員と一部のSAT隊員を除いて殆ど熟睡していた。

 

「圭吾、待ちなさい。」

 

「止めるな、リカ。言っただろう。静香やお前の方がここにいる連中より俺に取っては最優先すべき存在だと。賭ける命は俺一つの物で十分だ。お前までいなくなったら、誰が部隊を仕切る?田島の相棒も、お前しかいない。」

 

「だから、副隊長殿について行く相棒について行くんだよ。」

 

「お前・・・・!」

 

俺の後ろから田島が現れた。

 

「その通りよ。田島は私のパートナー。貴方は私の片腕。私より階級も年齢も上の人がいるから、彼に任せておけば大丈夫よ。どうしても行くなら、私達も付き合うわ。」

 

ほんと、言い出したら聞かない女だな、こいつは。田島も田島で変な所で頑固だし。

 

「それ、家から持って来た『ブツ』でしょ?一人じゃ全部は扱えないし、一人で持つには少し重過ぎるわよ。」

 

「そんなに重くはない。後、買った覚えの無い物も入っているがな。そんなに俺と地獄へのランデブーに行きたいか?死ぬか、それより酷い目にあっても、俺は責任取らねえぞ?いざとなりゃ俺達にチャカ向けて来る連中もぶっ殺す事になる。ってまあそりゃ毎度毎度出動命令が出たらやってるか。」

 

「ええ。行きましょう。」

 

「俺も、流石に一人ここに残されるのはちょっと心苦しいからな。精々死なない様に頑張るよ、このしがない観測手は。」

 

「そうかよ。揃いも揃って死に急ぎの馬鹿ばっかりだな。来るなら来いよ。」

 

 

 

案の定、リブボートが何艘か陸に引き上げられていた。メンテナンスの途中で放り出されたらしく、パーツが幾つか作業台の上に散乱していた。

 

「あらら・・・・・・こりゃあ出発まで時間が掛かりそうだな。」

 

「俺に任せろ。三十分あれば元に戻せる。燃料は・・・・・当然あるか。二人共今から俺が言う事を今からその通りにやれ。久し振りにやるから少々勘が鈍ってるかもしれないから。」

 

暫くの間悪戦苦闘した。当初の計画よりも更に三十分、合計一時間近く掛かってようやく修理出来た。頼むぞ。俺はボートのキーを慎重に回した。刹那、心臓であるエンジンが息を吹き返した。

 

「思ったよりてこずったな。」

 

田島が地図を出して広げた。船着き場から街への再誕ルートを見つけると、地図の上に指先を滑らせながら示す。

 

「これなら、全速力で行けば大して時間は掛からない。殆ど直進ルートだ。」

 

「本当に良いんだな?生き残ったら、懲戒免職確定だぞ?」

 

「そんな事を気にしてる様な時と場所と場合じゃない。

 

「振り落とされるなよ?後、喋ったら舌噛むからな。」

 

田島とリカ、そして俺を乗せたリブボートを全速力で走らせ、日の光に照らし出される床主市が見えて来た。波止場で停泊し、上陸した。

 

「わーお。もしこれが小説か何かなら、随分と都合が良い事があるものね。」

 

「あ?」

 

リカが指差した物に目を向けた。そこにあったのは、海上自衛隊の73式小型トラックだった。自衛隊の移動車両だからEMPの被害は受けていないから使える筈だ。鍵が無ければエンジンの始動はリカに任せれば良い。ともかく、これで移動には必要不可欠な『足』が手に入った。

 

「あいつ、確か東坂の二丁目って言ってたな。まずはそこに向かおう。田島、ナビゲーションよろしく。最短ルートを探してくれ。」

 

田島は地図を引っ張りだして現在地を確認、東坂二丁目に向かう為のルートをなぞり始めた。

 

「分かった。まずはここから二十キロ前進、そして左折だ。」

 

通り過ぎながら、街の情景を初めて目にした。そこら中にぶちまけられた血肉に内蔵、手足。現実を受け入れられず、己の命を絶って逝った者、食われて感染してしまった者。思わず胃の中の物が逆流しそうになった事が何度かあった。こう言う事に関しては結構タフなメンタルを持ち合わせる田島やリカも青い顔をしている。

 

「吐くなよ?あの独特の悪臭を漂わせながら走るなんて、それこそ俺が貰い吐きしちまいそうだ。そもそも、こんな事になってるって事はもう分かってた筈だろ?」

 

ハンドルを切って路地を曲がり、感染者の群れを突っ切って進む。フロントウィンドウや車体に人体がぶつかる生々しい音と、ボールの様にバウンドして壁か電柱か何かに激突する鈍い音とが地獄のオーケストラを奏でる。

 

「バリケードが破られたのか。それに、こいつは、ハンヴィーの扉か?!」

 

ポイ捨てされた空き缶が踏まれたかの様な拉げ方をした濃いカモフラージュグリーンの塗装が一部剥げたハンヴィーのドアが見えた。バリケードに阻まれて車体が通る程のスペースは無い。一旦降りると、固まった血糊で出来た赤黒いタイヤのスキッドマークが目に入った。

 

「ハンヴィーがガラクタになってない様子から見ると、多分静香はもう脱出した後みたいね。どうやってここを通り抜けたのかは知らないけど。」

 

「何故そう言える?」

 

「静香は天然ではあるけど、無責任じゃないわ。行動を共にしてる生徒に運転なんかさせると思う?」

 

「それもそうか。まあ、脱出した後かどうかは分からないが、とりあえず人がいるかどうか確かめてみますかねえ?」

 

互いの死角をカバーしながら前進した。坂道に沿って張られたバリケードを探しながら登って行く。

 

「もうすぐだ。ここを左に曲がれば—————っ・・・・・・」

 

高城邸は、右翼団体憂国一心会は、半壊どころかほぼ壊滅状態へと追い込まれている様だ。鉄門は破られ、玄関へと続く石畳の道は所々クレーターが出来て、芝生は焼けただれ、車も横転し、屋敷も半壊状態だ。とりあえず深呼吸をしてから頭の中を整理する。

 

「リカ、仮に、仮にだ。奇跡的に静香が助かってここから脱出したと言うのが本当だとしよう。あいつは生徒で構成されたグループの中にいる。次に向かうとしたら生徒の家の方だ。電話でもそう言ってた。そうだろ?」

 

彼女が死んだかもしれないと言う事を信じたくないのか、俺の呼吸は乱れ始めていた。

 

「そうだとしても、私達は静香が知っている生徒の名前も顔も、ましてや住所も知らないのよ?一々探してたらキリが無いわ。」

 

だよな。知らずに行き違いになったらそれこそ何をやっているのか分からない。

 

「だが、高城の人間が生徒だと静香は言っていた。助けに行くとするなら、常識的に考えて、まず近場にいる奴らから始めるだろう。捜索範囲はそこまで広い訳じゃない、この二丁目だけだ。虱潰しに探すぞ。」

 

待ってろ静香。今から行くから、それまで絶対に死んでんじゃねえぞ。

 




少し短めになってしまいました。次回は他の人間との銃撃戦も取り入れようかと思います。


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見敵必殺 Search & Destroy

どうもこんにちわ。作者です。書き溜めしてからちょくちょく投稿して行きます。

ああ・・・・大学の願書作りが(泣)


MP5を肩に掛けると、USPを抜いてフラッシュライトとレーザーの電源を入れた。LEDの眩く白い光が薄暗い陽光が届かないガレージの一角を照らし出した。

 

「まずはこの中で手掛かりの捜索しましょう。捜査は私達の専売特許だし。」

 

「だな。どこから始める?」

 

「まずガレージだ。」

 

田島の質問に俺が口を開いた。

 

「こんなデカい家だし、燃えてはいたが、大型のテントに使うキャンバスも幾つか見つかった。恐らく一心会の連中は避難民と一緒にここから脱出したんだろう。中に残ってる奴はいないと考えるのが妥当だ。」

 

ゆっくりとガレージ内に足を踏み入れ、銃に装着したフラッシュライトで中を捜索する。誰もいない。

 

「道具が散らばっているって事は、修理でもしていたんだろうな。ハンヴィーのスペア・タイヤが二つ転がってる。他の車がタッチされてないって事は、全部EMPによってやられたみたいだ。ガソリンの入ったポリタンクでも残ってりゃ良いんだが。」

 

田島がすり減ったタイヤを足でどかし、座り込んだ。

 

「正門を突破した時のタイヤ痕は見たか?」

 

「ああ。ハンヴィーのタイヤと同じだ。血が付着してハッキリとセメントに残ってたよ。リカ、間違い無く静香は存命中だ。」

 

その瞬間、ガシャンと音がした。何かが壊れる音が。上か。さて、テロリストかヤクザか、はたまた避難している市民か。どちらにせよ、無視は出来ない。

 

「どうやら火事場泥棒と言う名の先客がいるみたいだな。」

 

俺の好戦的な笑みを見て、リカは太腿のホルスターに収納されたシグを引き抜いた。俺もUSPのスライドを引いて装弾を確かめると、構え直した。室内ではハンドガンの方がサブマシンガンやライフルとは違い小回りが利くし、いざとなればシングルハンドでも命中率に支障を出さずに撃てる。

 

「田島、ここの守備をお願い。広いし、後ろから回り込まれるなんてのは嫌だから。」

 

「了解。」

 

小柄なリカがポイントマン(前衛)、俺が後衛を勤め、屋敷内に侵入した。床は木製のフローリングに絨毯が敷かれている。木が軋む音を出さない様に絨毯の上を歩こうとしたが、割れたガラスの破片が踏む度にジャリジャリと音を立てるので、二十歩前進するだけでも一分近くは掛かった。

 

「すぅ〜〜〜〜、はーーーーー・・・・・」

 

俺はリカに合わせて呼吸を整える。自分でも何故かは分からないが、リカを引き寄せてキスした。葉巻独特の甘い匂いが吐息に混ざって俺の鼻孔に流れ込んで来る。

 

「いきなり何?」

 

不機嫌そうに俺を睨むリカ。こう言う顔もまたたまらなくイイんだがな。

 

「興奮剤だ。久し振りだったしな。」

 

「そー言う事は後にして。」

 

死角となるドアの後ろや、他の隠れられそうな所を探した。屋敷の中は庭や正門付近に比べると幾らかはマシだが、荒れている事に変わりは無い。家具はひっくり返され、破損し、窓ガラスも割れ、大抵の金目の物は恐らく盗まれただろう。広い客間から中庭らしき庭園に続く所が少し開かれたガラスの引き戸から見えた。

 

ジャリッ

 

カチンッ・・・・

 

ガラスを踏みしめる俺達以外の足音、そして金属音。脳内の警報全てが凄まじい勢いで鳴り始めた。する事は一つ。

 

「伏せろ!!」

 

リカの襟首を掴んで本革で作った大型ソファーの後ろに隠れた。銃声の嵐が突如として巻き起こる。ソファーに詰められた羽毛も着弾と同時に空に撒き散らされ、粉雪の様にヒラヒラと落ちて来る。

 

「NVG(暗視ゴーグル)でもあれば楽なんだがな・・・・」

 

サイレンサーを銃口に取り付けながらぼやいた。こんな状況にいながらも我ながら随分と能天気だなと思う。銃声から察するに、恐らくコイツらはどこからか銃を手に入れて碌に訓練もしなかった素人だろう。マガジン一本分撃ち尽くす勢いで連射音が続くのだから。音から察するに5.56ミリと時折12ゲージ、そして9ミリ弾。

 

「どうする?」

 

「弾なら一応あるけど、あんまり使いたくはないわね。」

 

「今使わなくていつ使うんだよ?」

 

マズルフラッシュが見えた所に適当に銃弾を二発ずつ散撒いた。あいつらが弾切れになるのを待つのも良いが、それまでカバーとして使っているこの哀れなソファーが保つかどうかだ。銃声が鳴り止んだ所でUSPを左手に持ち替え、MP5を右手に構えた。片手じゃ保持し難い上に命中率もアレだが、左腕と右腕を重ねて交差させ、支点を作る事である程度安定させる事が出来た。

 

「行くぞ。」

 

左手はUSPのセミオート、右手はMP5の指切りバーストで壁やらキャビネットが穴ぼこだらけになって行く。百合子さん、すんません。と、心の中で両手を合わせた。

 

「ぅあっ!?」

 

一人仕留めた。

 

「ぐぅっ・・・」

 

「あっ・・・・・・」

 

二人、そして三人目。壁に視界を一部遮られてハッキリとは見えなかった寝室らしき部屋からライフルを構えた男が降りて来た。

 

「おやすみ。」

 

しばらく待ったが、銃声も足音ももう聞こえない。後一人、二人はいそうなんだが、探してるうちに静香達がどんどん離れてしまう。ガレージに戻ると、田島から少し離れた所に腹に銃弾を三発食らった哀れなチンピラが見えた。右手には死して尚握り締めたトカレフが握られている。心の中で合掌する。

 

「とりあえずこれで恐らく全員だろう。さっさとトラックに戻ろうぜ、あそこに起きっぱなしにして置き引きされないか気が気じゃないんだ。」

 

田島は立ち上がってトラックの方に戻り、リカと俺ももう一度だけざっと中を見回してからトラックに乗り込んだ。だが、田島は直ぐにバリケードに使われていたコンクリートのブロックの影に身を潜めた。

 

『トラック、敵影三つ。全員武装。』

 

身振り手振りでどうなっているかを説明する。こんな時にか。まあ、あれだけ銃をバカスカ撃ちまくってたら気付くだろう。暗くて見えなかったが屋敷の中を物色していた奴らの仲間っぽい。俺もチラリとだけトラックを止めた所を見た。ガラの悪そうな男三人がトラックに乗ろうとしていた。一人は開襟シャツから桜の代紋らしき刺青が覗いている。クレー射撃の——正確にはダブルトラップと言う種目——で使う上下二連のショットガンを持っていた。あのトラックの中には俺の『荷物』も入っている。流石にあれを取られちゃマズい。

 

「殺すか。」

 

俺はMP5のアイアンサイトで狙いをつけ、至極無感動に引き金を引いた。乾いた銃声と共に三人は例外無く喉や眉間などの急所を9ミリ弾によって貫かれ、糸が切れたマリオネットの様にバタバタと倒れた。

 

「ほ〜、こいつら桜庭会の奴らか。刺青が見えたからまさかとは思ったが。」

 

倒れた奴を仰向けにひっくり返してさっきの刺青を確認した。一心会と同じ位危険視していた暴力団の組員だ。

 

「結構危ない橋を渡りまくってる連中だとは聞いてたわ。ヤクだろうと何だろうと、金になるなら何でもする、外道の風上にも置けない様な奴らよ。一昔前は、ワルにもワルの掟って物があったのにね。」

 

「まあ、今となっちゃ動く死体の仲間入りだろう。金で雇われた連中ってのは殆どの場合目先の事しか気にしてないしな。」

 

一人一体ずつ死体を路肩に向かって無造作に蹴り飛ばすと、持っていたショットシェルや匕首、バタフライナイフなどの使えそうな物を奪って移動を開始した。本来ならあのバリケードを突破したい所だが、折角の『新車』をお釈迦にしたくない。陸上自衛隊が使う対戦車弾、通称『パンツァーファウストIII』があったが、これもいざという時の為に取っておこう。何よりここで使うには音がデカ過ぎる。

 

「隣家の方も見てみるか?脱出するとすればそこ位しか無い。広い空き地が幾つかあったのを覚えてる。物資も運ぶとすればそこら辺だろう。この屋敷の広さを考えたらあり得なくはない。」

 

「でも、大丈夫なの?一心会って言ったら、警察でも目を光らせてる相手よ。私達が出向いて歓迎されない可能性は無いとは言えないでしょ?」

 

「大丈夫・・・・・とは言い切れないが、」

 

「じゃあ」

 

「その筈だ。空港では他の隊員がいたから詳しくは言えなかったが、携帯が使えなくなる前に何度か静香以外にも電話していたろ?強力な友達がいるって。」

 

「もしかして・・・・」

 

察しが早いリカは直ぐに俺の言わんとする事を理解した。

 

「ああ。あの時電話していたのは、憂国一心会会長夫人、高城百合子さんだ。後ろに積んであるバッグの荷物も、リカが貸し出した銃も、彼女のツテで手に入れた。あの人はそれだけの力がある。独身時代、ウォール街でエグゼクティブの護身術コースに通っていたらしい。射撃の腕なら、俺やリカと同じ位だと思うぞ。少なくともそこらにいる人間よりずっと頼もしいし、只でやられる様な人じゃない。」

 

俺は一呼吸して、間を置いてから再び続けた。

 

「彼女が死んでいなければ、ある程度の情報と一緒に物資も確保出来る可能性がある。戦地並みの被害状況を見て分かったと思うが、生存率は低い。ハイリスクハイリターンのギャンブルになるだろう。が、やってみる価値は有る。」

 

リカと田島は暫く沈黙していた。まあ、無理も無いわな。百合子さんは一心会会長夫人と言う俺達とは立場的には対極の存在である。今更とは言え、会いに行くのは多少抵抗はあるだろう。それに、彼女が俺の事を会員や旦那にに喋ったとは思えない。もし彼女が俺の事を知らないと言ったら、その時点でゲームオーバーだ。

 

「・・・・・行きましょう。静香の命には変えられないわ。」

 

「仕方無い、付き合うとしますか。」




少し早いかもしれませんが、一心会との遭遇も近い内に書こうかと思います。

感想、評価、報告etc、お待ちしております。

では


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一悶着

隣家は車で行けば五分近くで着く。荒廃した屋敷を後にして、俺達はトラックに乗り込んだ。

 

「圭吾、見張りよろしくね。」

 

「へいへい、分かってるよ。」

 

開閉出来るルーフから顔を覗かせ、周囲に気を配りながら静香達を探した。だが、期待とは裏腹に見えるのは感染者の群れ、群れ、群れ。と言っても、殆ど歩ける状態にない奴が多いがな。歩けても足の殆どを吹き飛ばされて匍匐前進しているか、その場に転がったままで呻いているかだ。高城邸のクレーターは恐らく手榴弾かダイナマイトによる爆発で出来た物だから、察するにコイツらはその生き残りか何かだろうな。車体がバウンドする度にグシャっと音がして壁や電柱に血飛沫が飛ぶ。

 

「うぉっとと。」

 

俺も体液が掛からない様に時偶ルーフの中に頭を引っ込めた。

 

「お、何か見えて来たぞ。」

 

左側の角に見えて来たカーブミラーを注意深く見つめた。そこに武装した屈強な男達が何人か見えて来る。ショットガンやらレミントンのボルトアクション、ガバメント、更には日本刀と、随分と物々しい。大日本帝国の軍服らしき服を着ている。と言う事は・・・?

 

「リカ、止めろ。」

 

「え?」

 

「止めろって。見ろ。路地の角に隠れてるのは一心会の連中だ。恐らく屋敷の方から聞こえた銃声と俺達のトラックの音を聞いて様子を見に来たらしい。お〜〜〜い!!」

 

「おい、バカ、止せ!」

 

田島が俺を止めたが、返事の代わりに銃声が飛んで来た。にゃろう・・・・・

 

「先走った結果がこれだよ、全く!!」

 

田島がトラックを猛スピードでバックさせた。幸い防弾装甲、防弾ガラスのお陰で誰も被弾せずに済んだが、出鼻からミスったな。そりゃそうか。カモフラージュグリーンのトラックに黒服、サブマシンガンで武装。間違い無く危険視されても仕方無いな。俺でも恐らく十中八九ぶっ放してた気がする。

 

「しゃーねえ。荒療治だ。」

 

俺はそこら辺に倒れていたバイクを起こした。幸い持ち主はキーをイグニッションに差し込んだままで逃げたらしい。サイドミラーの一本とヘッドライトが壊れているが、特に問題は無い。安全運転なんてするつもりは毛頭無いからな。

 

「何するつもり?!」

 

「ちょっくらそこら辺までツーリングだ。二十まで数えたら来い。」

 

アクセルを目一杯捻り、メタリックレッドのヤマハDragStar 400のエンジンは息を吹き返した。もう何度か捻って調子を確かめると、一度だけクラッチを操作した。

 

「YEEEEEEEEEEEEEEEEHAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

我ながら凄まじく怖い奇声が俺の腹の底から飛び出して来た。まるでトリガーハッピー状態の新兵だ。

 

「うおぉう?!」

 

牽制の為に矢継ぎ早に放たれる銃弾。俺は出来るだけ体勢を低くした。弾丸が肩や頬、耳、そして脇腹を掠る。だが、スピードは緩めない。あっという間にさっきの曲がり角に辿り着く。そして右折時にドリフト。女の悲鳴みたいな凄まじいタイヤのスクリ—チ音がした。やっぱ一気に最高速度に入れるのは気持ち良いな。あれは確か、メキシコの外れにあるコカインの製造所をハンヴィー三台とハーレーダビッドソン十二台のアサルトチームでバラバラに吹き飛ばしたんだっけ?あの時は楽しかった、オフロードバイクでドラムマガジン付きのM4A1片手にカルテルのメンバーを皆殺しにしたからなあ〜。っとと、感傷に浸ってる場合じゃないな。

 

「おい、待て!待てって!待てと、言ってんだろうが!!!!!」

 

痺れを切らした俺は、逃げるソイツらの頭上にスタングレネードを投げつけた。

 

「5, 4, 3, 2, 1!」

 

凄まじい光と破裂音で、全員が足を止めて、耳や目を押さえる。勢い余って蹴躓いて倒れ込んだ奴らもいる。俺はと言うと、事前に耳栓とサングラスをかけていたからそこまで影響を受けていない。多少目はチカチカするが。バイクを止めると、そいつらの所に歩いて行った。

 

「手間、かけさせやがって。」

 

懐から警察手帳を取り出し、仰向けに倒れている奴の前に突き出した。自分の手に武器が無い事、敵意が無い事を出来るだけアピールしようとしたんだが、思ったより早く回復した奴が俺を後ろから羽交い締めにして来た。おおかた俺がソイツを殺そうとしている様に見えたのだろう。

 

「だ、か、ら、」

 

脇腹に肘を打ち込む。うっと呻くのが聞こえた。若干難聴になっているのと、耳栓をしているのとで辛うじて聞き取る事が出来たのだ。

 

「俺は警察だと、」

 

僅かに拘束が緩んだ所でソイツの両手を振り解き、振り向き様に右フックの要領で肘を顎に叩き込んだ。見よう見まねのムエタイの肘だ。我ながら上手い具合に下顎の付け根に直撃する。

 

「言ってんだろうが、Rightist(右翼派)が!」

 

グリン、と首が九十度左に回転し、頭から地面に突っ込んだ。合掌。後、手帳は紐で固定されていたから失くしはしなかった。なので、少し離れて何人かが回復するのを待ってから見せる事にした。

 

「ってててて・・・・・」

 

「全く、声かけた瞬間いきなりポリ公に向かってチャカぶっ放す奴があるか。」

 

「け、警察・・・?」

 

腫れた顎をさすりながら奇襲をかけた男を助け起こした。

 

「ああ。アンタら、見た所一心会の連中だよな?昨日の午後辺りに高城百合子さんに電話をかけたモンだ。」

 

「奥様に電話?」

 

疑いの眼差しを向けられる。銃でないだけマシか。まあ信用出来ないのも分かるが。

 

「当然EMPが発射される前だ。一心会程の規模もデカくコネもある組織なら、警察とのパイプも多かれ少なかれあるだろう?俺は百合子さんとはちょっと付き合いがあってね。アメリカで銃を買った時に日本への輸出も世話してくれたんだ。」

 

「証拠はあるのか?」

 

口ひげを薄く生やした男が落ち着き払って聞いて来る。

 

「高城百合子。旧姓は富樫。髪の色はダークピンク、趣味はエクストリームスポーツ、特技は暗算、好物はフルーツ、特に苺を使ったスイーツ。独身時代はやり手のトレーダーとしてアメリカにその名を轟かせた大物。ウォール街でエグゼクティブの護身術コースに通い、大手の銀行を選挙した五人の強盗を銃一丁で制圧した。二十代で一心会の現総帥高城壮一郎と結婚、一人娘の名は高樹沙耶。」

 

スラスラと彼女の特徴、経歴をそらで読み上げる。

 

「どうだ?警察のデータベースでもここまで詳しい情報は無いだろう?これでもまだ疑うなら、俺と顔見知りか否か彼女に直接聞けば良い。」

 

「・・・・・・分かった。良いだろう。」

 

「ちょ、吉岡さん!?」

 

「駄目ですよ、こんな事聞いて納得するんですか?!」

 

外野がヤイヤイ俺を信用するなと先程口を開いた吉岡と言う男に口々に文句を並べ始めた。

 

「勘違いするな。俺も得心した訳じゃない。だが、彼が今喋った事は我々では知りえない情報も混ざっている。事実確認の為に同行してもらおう。ただし、もし奥様が知らないと答えた場合は」

 

「その時は俺の首をくれてやる。」

 

手刀を首にトントンと当てて自信たっぷりに遮って言い返した。

 

「あ、出来れば俺の首一つで勘弁してもらえないか?言い出しっぺは俺だ、コイツらに俺の尻拭いをさせたくない。」

 

「・・・・・・良いだろう。だが念の為と言う事もある。武装は解除してもらいたい。事実確認が出来たら、返却する。」

 

「構わない。」

 

リカと田島は大丈夫なのかと視線で訴えて来たが、俺が自信満々の笑みを浮かべてサムズアップを見せると、渋々と言った様子でホルスターやらを取り外し始めた。

 

 

 

 

 

因みに道中では何故俺がそこまで詳しくリカや静香以外の女の事を知っているか問い詰められたのは別の話だ。

 




いよいよ一心会と邂逅します。

感想、評価、誤字脱字の報告、お待ちしております。

では。


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Reunion#1: Lily Lady

一心会との遭遇です。

明日はAmerican College Testing Program 通称ACTのテストがあります。言ってしまえば大学の入学試験です。あ〜、どうしよ・・・・


隣家の方もどうやら大部分は高城家の私有地らしい。トラックやらスモークガラスを張った車等が脇に寄せられて止めてある。大型のテントも再び張られているが、屋敷で見た時よりは断然少ない。恐らく感染者の襲撃で大半が殺されたみたいだな。

 

現在俺達は武装を取り上げられて前方を歩かされていた。この人生ではまたと無い屈辱だ。アフリカの密林で猟師のトラップに引っ掛かった時以来かな?足首から縄で逆さ吊りにされたのは無様の一言に尽きる。

 

「良く戻ったな、吉岡。ん・・・・・?そやつらは何者だ?」

 

銃口で背中を小突かれた。膝をついて、両手を背中に回す。こいつが、己の判断で全てを決めて来た男・・・・右翼団体憂国一心会の総帥。高城壮一郎。下手に相手にしたら刃の如き鋭い目は、合わせただけでゾワゾワと鳥肌が立って、鼓動もバクバクと加速し始めた。声も、覇気がある。いや、有り過ぎる。喋る度にこんなに威圧感バリバリだったら聞く方も大変だな。

 

着衣の上からでも鍛え抜かれた筋肉が盛り上がっているのが見えた。目立つ外傷も無い。腰には刀が吊り帯で下げてあり、いつでも抜ける様に左手を添えていた。こいつ、まさか屋敷からこれ一本だけで感染者の群れを突破して来たんじゃねえだろうな?どこの剣豪?

 

「警察の特殊部隊SATの隊員だと。何でも、奥様の古い知り合いだとか。総帥と奥様しか知らない様な事まで知っていたので、事実確認の為に。」

 

「そうか。百合子を呼んで来い。」

 

「はっ。」

 

同行していた吉岡と呼ばれた男が百合子さんを捜しに行った。いなくなったのを確認すると、刀片手に俺達に近付いて来た。

 

「諸君の名を聞こう。」

 

下手に動いたら首か、少なくとも腕の一本は落とされるな。

 

「南リカ、県警特殊部隊SAT第一小隊隊長。」

 

「同じく副隊長、滝沢圭吾。」

 

「同じく狙撃支援班所属。田島博之。」

 

俺達三人の顔をゆっくりと順番に見て行く。まるで俺達の目の中に俺達の真意が見えるかの様に、目玉を射抜かんばかりの視線を真っ向から浴びせて来た。

 

「どうやってここまで辿り着いた?」

 

「話せば長くなります。」

 

俺よりも先にリカが口を開いて答えた。

 

「只言えるのは、我々の——正確には私と圭吾の、ですが——目的は友人を救う事です。その為に洋上空港から脱出してここまで辿り着きました。」

 

「ほう、洋上空港から。ここまで辿り着くのは容易ではあるまいな。覚悟も生半可な物ではやり通せまい。」

 

え?笑った。笑いやがった。鉄面皮と思ってたこいつが笑った!!ありえねーーー。

 

「貴方、お呼びですか?」

 

ワーオ。昔のまんまの百合子さんが現れた。裂かれた赤いドレスのスカートから覗く陶磁の様な肌は今でも見惚れてしまう。やっぱ百合子さんは幾つになっても百合子さんだ。英語で言うなら、正しく『Cool Beauty』だ。美脚に装着されたホルスターには小型のハンドガン、肩にはVz61スコーピオンが掛かってる。

 

「うむ。話は吉岡から聞いている筈だ。この男に見覚えはあるのか?」

 

「ええ。あります。独身時代にお互い仕事でお世話になりました。お久し振りね、滝沢君。」

 

何時もと変わらぬ聖母の様な神々しいスマイルを向けてくれる。田島も何か魅了されてるが。とりあえず頭を下げて挨拶する。

 

「はい。お元気そうで良かった。屋敷がカルテルにでも襲われたみたいだったんで心配しましたよ。」

 

「私はご覧の通り無事。」

 

でも、と彼女の表情が曇る。

 

「部下の大半を失ってしまったわ。住民の何人かが噛まれてそのまま・・・・予想よりもここを襲撃した感染者の数も多かったの・・・・」

 

「そうですか。あ、総帥。あんたが考えてるかどうかは分からないが、『そういう』関係は当然無い。こっちは女二人がいるんで手一杯だからな。」

 

痛い痛い。リカが踵で俺の爪先を踏み潰してます。地味に痛い。

 

「フッフッフ・・・・・フッハッハッハッハッハッハッハッハ!」

 

いきなりの高笑いにリカも思わず踏み躙る作業を一時的に中断した。その隙にまた足を踏まれない距離へ避難しておく。

 

「中々肝の据わった男ではないか。百合子が気に入るのも頷ける。その友人とは?」

 

「生徒を何人か引き連れていた筈です。長い金髪で、少しポワポワしている・・・・」

 

「成る程。小室君達と一緒にいた養護教諭の事か。」

 

「ここに来たの?!」

 

それを聞いてリカが立ち上がり、自分が捕虜と変わらない立場にある事も忘れて彼に詰め寄った。立ち上がって一歩踏み出した瞬間、一心会のメンバーが何人か彼女に銃を向けた。それを見た俺も反射的に彼女の前に立つ。田島も一歩遅れて彼女の楯になった。

 

「やめよ。事の真偽は確かめる事が出来た。我々の敵ではない。解放しろ。武器も返してやれ。全てだ。」

 

が、総帥がそれを止め、俺達に全ての武器を返却させた。やっぱり銃を持ってると安心するってのは生前の病気みたいなもんだな。

 

これで改めて静香が生きていると言う確信を持つ事が出来たのだ。俺も肩の荷がまた一つ降りた気がする。

 

「脱出させる為に我々が僅かばかりの時間を稼いだ。」

 

「どこに行ったかは?」

 

「この近辺に済んでいる仲間の両親を捜しに行った。私の娘と一緒にな。」

 

「そいつらの特徴と名前、住所とか、後は向かった大まかな方角を教えてくれ。」

 

俺達が広げた地図に吉岡のおっさんや他の会員が地図にマジックやらで住所を書き出し、全員の写真を差し出した。

 

「ほー。男二人、静香を加えて女四人、後は子供が一人・・・・・」

 

どんなハーレムだ、全く。

 

「一番近いのが、この宮本麗とか言う女の家か。」

 

重ねて礼をすると、停車したトラックに向かって駆け———

 

「待ちなさい。」

 

だそうとした所で百合子さんに止められた。

 

「貴方達、ここに来る前に屋敷に行ったの?」

 

「はい。火事場泥棒やってる奴らがいたんで、ちょこっと。」

 

左手でトリガーを絞る仕草を見せる。

 

「部下を何人かあそこに寄越したんだけど、見なかったかしら?」

 

「いえ。いませんでした。桜庭会の奴らが中を物色してましたから。で、撃って来たんで返り討ちにしました。」

 

暫くの間、百合子さんは俺の顔をじっと見つめた。総帥とはまた違う、心の底まで見透かそうとする様な透き通った目だ。

 

「そう。じゃあ、良いわ。」

 

トラックの荷台からスモークグレネード、手榴弾、スタングレネード各種を収納した大型のベルトを取り、俺に差し出した。こいつは使えるな。

 

「お使いなさい。トラックも給油しておいたわ。」

 

「何時もすいません。」

 

「娘に会えたら、伝えて頂戴。壮一郎さんみたいに良い男を見つけなさいと。」

 

「はい。」

 

もう一度頭を下げると、トラックに乗って隣家を後にした。これで行くべき場所はハッキリとした。寄り道した所為で大分距離が離れてしまっているが、今からそれらを全て挽回する。恐らく床主で二つしか無い稼働する車の一つを加速させ、地図が示す場所へ向かって行く。

 




後もう一、二話ぐらいで再会させようかと思っています。これからも応援よろしくお願いします。


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Found you

俺達は現在国道を走っている。三時間半は経ったな。横転した車、炎上している軽トラ、そして屍。とりあえずこの道を辿る事にした。

 

「なあ、俺少し腹減って来たんだけど?」

 

「我慢しろ。富裕層の癖に。」

 

田島が軽く俺を睨んで来た。そんなに裕福でもねえよ。非番の時は生活費の為に他の日雇いの仕事をしてるんだよ。俺の身にもなってみろ。『夜の運動』も一週間に何度かする破目になる。

 

「んな事ねえよ。俺だって家事とかやってんだからな?」

 

掃除と言うか家事の一部は最早傭兵時代に染み付いた生活習慣病としか言えない物だ。流石に女の部屋に本人の断りも無くズカズカ入り込むなんて無粋な真似はしないが、掃除の時となると話は別だ。掃除の時、リカはまるで俺が別宇宙から来た未知の生命体に変異したかの様な目で見て来る。

 

静香はこの事に関しては職業上敏感であり、それなりに出来る。まあ、極稀にドジを踏む事はあるが。だが、他の所謂『家事のさしすせそ』の『そ』以外は壊滅的だ。洗濯機から紫色の泡が溢れるなんて何をどうしたらそうなるんだよ・・・・

 

「そうよ、田島。私の代わりに彼と静香が家事をしてくれてるから助かってるの。富裕層って言っても、他より少しってだけだからさ。あ、あのショッピングモール行ってみましょう。あそこなら食料とか他の必需品も絶対見つかるし。」

 

「後ろに駐車した方が良い。あんまりおおっぴらにしてると碌な事にならない。」

 

後ろの方が車が多かったが、その方が都合が良い。他の車に出来るだけ紛れ込ませれば奪われる心配も無い。だが、問題はエンジンだ。キー無しでエンジンをかけた物だから、一度切ってしまえば次に掛かる保証はどこにも無い。

 

「リカ、大丈夫なのか?」

 

「出来る事はする。無責任な約束はしないわ。」

 

結んだワイヤーを引き剥がし、エンジンが止まった。

 

「俺は先に降りる。武器は持ったままでも良いよな。二人はまあ、どうぞご勝手に。」

 

田島は手持ちの武器(MP5、八十九式、手榴弾など、軽量の銃器)を積んであるダッフルバッグに入れられるだけ入れると、それを持って非常口付近で待った。取り残された俺とリカの間に沈黙が流れた。防弾ベストと手袋を外し、アサルトスーツを脱いで作業着みたいに袖を腰回りに結んだ。多分これは脱いだ方が良いな。汗で途轍も無く気持ち悪い。リカも同じ様に気持ち悪そうに自分の体を眺めた。

 

「リカ。」

 

「ん?」

 

「分かってると思うが、もし俺が」

 

「言わなくても良い。分かってる。」

 

俺達は目を閉じた。唇を合わせるだけの、ハードじゃないキス。ただそれだけの筈なのに、まるでヤクでもキメた見たいに心身共に疲労が吹き飛んだかの様な体が軽くなった。頭も俗にいう花畑状態に陥っている。車内でなければ何の躊躇いも無くどちらかが押し倒して更に先へ行っているだろう。少なくとも上はお互い大して重ね着してないしな。が、俺の考えとは裏腹に、先に離れたのはリカだった。口角についた唾液を舐め取るのがたまらなくエロい。

 

「今はまだ駄目。もう少し我慢して。」

 

「へいへい。俺だってTPOぐらい弁えてるっての。」

 

俺が先頭に立ち、USPを引き抜いた。ドアノブを回して中に入った瞬間、殺気を感じ、俺は瞬時に身構えた。扉を開いた時に隙間から溢れ出た日の光が暗がりを照らし、何かに反射したのだ。恐らく何らかの刃物だろう。持ち主の顔はよく見えない。

 

「・・・・・誰だ、お前?」

 

「それはこちらの台詞です。」

 

女か。その割には少し声が低めだが。

 

「俺は警官だ。」

 

とりあえず警察手帳を見せた。当然銃は構えたまま。手帳を見て納得したのか、カチンと音がした。マウントしてあるライトの電源を入れると、日本刀を腰に差した制服姿の女が立っていた。さっきの反射はあれの刃だったのか。

 

「確か、毒島冴子、だったかな?高城総帥の資料によると。」

 

「失礼ですが、貴方は?」

 

「滝沢圭吾。SAT第一小隊副隊長だ。後ろにいるのが俺の上司と同期。所属は同じだ。よろしく。」

 

「こちらこそ。SAT・・・・と言う事は、鞠川校医の・・・?」

 

「いるのか?ここに?」

 

頼むぞ・・・・いてくれよ、静香・・・・

 

「はい。」

 

「連れて行ってくれ。俺もそうだが、リカの方が一番会いたがっている。」

 

彼女は無言で頷き、付いて来る様に目配せした。映画では良く使われる場所、ショッピングモール。映画だけじゃなく、現実でもこう言う所は意外に役に立つ物資が大量に手に入る。それにここは確か結構大手の筈だから色々と手に入る筈だ。いざとなればモロトブ・カクテルでも作ればいい。スプレー缶などは一カ所に集めて一発弾をぶち込めばかなりデカい爆発を起こせる。

 

暫く歩き、ベッドに横たわっている老婆を懸命に看病している金髪の美女。やっとだ・・・・やっと見つけた。

 

「「静香!!」」

 

「え・・・・リカ!?圭吾!?え、えええええ?何で?どうやって・・・・・?!えええ?!」

 

これは夢なのだろうか。そんな惚けた顔の静香を俺達は笑顔で迎える。

 

「全く・・・・・あんたドジだから心配したのよ?」

 

「本当だぜ、手間かけさせやがって。探すのに苦労したんだぞ?洋上空港の仕事ほっぽり出す破目になるわ、撃ち殺されそうになるわ、銃撃戦に遭遇するわ、大変だった。けど、お前の為にここまで来たんだからな?」

 

足腰の力が抜けたのか、立ち上がった瞬間生まれたての子鹿の様にヘタリと座り込んでしまった。田島は空気を読んで少し離れたベッドの上に寝転がる。あのままじゃ恐らくすぐ眠っちまうな。運転を任せっぱなしですまんと心の中で謝っておく。

 

「うぅ・・・・うぇええ〜〜〜〜〜〜ん!!!!」

 

あ〜、始まった・・・・・・

 

「ほら、大人でしょ?泣かないの。」

 

静香は言うなれば赤ん坊みたいな所がある。一度泣き出したらそうそう簡単には泣き止んではくれないのだ。リカが幼児をあやすかの様に静香を抱きしめ頭を撫でてやる。こうして見るとまるで本当の姉妹だな。

 

だが、これで良い。これでやっと静香が俺達の目と手が届く所にいる。これで、やっと少しは安心出来る。

 



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Reunion #2: My Fair Lady

忙し過ぎて書き溜めが出来ない・・・・(泣)

そして祝!!五十話到達!!これからもよろしくお願いします!


「あ”—————・・・・・」

 

と、だらし無い声を上げ、カフェで氷無しのアイスコーヒーを飲んでいる俺。やっと泣き止んだ静香と一緒にテーブルを挟んで彼女の口から溢れる言葉を全て受け止める事に専念した。ここに来るまで色々あったらしい。逃走車両さながらの運転を遠征用のマイクロバスで行ったり、ハンヴィーを運転して<奴ら>と名付けた感染者を何十体も轢殺したり、俺達のメゾネットで銃やらクロスボウを拝借したり。

 

「・・・・と言う事なの。」

 

「お前も中々大変だったみたいだな。無事で良かったよ。」

 

「えへへ〜、コレとコレのお陰!」

 

静香は首から下げているペンダントトップを見せた。大学の卒業祝いに俺が内緒で買ってやった物だ。シンプルなシルバーだが、紋章は百合の花、フルール・ド・リス。更にもう一方の手には財布にテープで貼り付けた写真。無理矢理くっつけた感じがあるが、本人は全く気にしていない。写真は合計で三枚。一枚目は俺とのツーショット、二枚目はリカとの、三枚目は俺を中心に三人全員が肩を組んで笑っている写真だった。

 

「まだ持ってたのか。ま、俺もリカもそれぞれ持ってるけどな。」

 

俺も首から下げているドッグタグに歯車型のリングを二つ通したペンダントを着替えたシャツの下から引っ張りだす。写真も財布にしっかりと入っている事を見せた。

 

「リカと圭吾のお陰でここまでやれたんだよ?」

 

俺は何も言わずに静香の手を握って笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「〜〜〜と言う事。」

 

「何か、凄いですね・・・・・・映画でしか見ない様な事ばっかり・・・・」

 

「あそこで静香に袖を掴まれてるウチの副隊長が規格外なだけさ。」

 

リカと田島はと言うと、別のテーブルで静香と一緒にここまで生き延びて来た連中にここへ来るまでの冒険をかいつまんで話したり、情報を交換していた。百合子さんから貰った資料に記載されていた藤美学園の生徒達だ。話を聞いているのは、(染めているかどうかは知らんが)ピンクの髪をツインテールにして眼鏡をかけた鋭い目付きの高城沙耶、さっき非常口で刀を突き付けて来た毒島冴子、そして触覚みたいにアホ毛が二本ある宮本麗。後は垂れ耳の子犬とそいつとじゃれ合っている小学生位のガキ。

 

「ワゥ!」

 

「あ、こらジーク!!」

 

突如ガキとじゃれ合っていたジークと名付けられた犬が静香が寝ているベッドの上に飛び乗り、静香の顔を思いっきり嘗め回した。

 

「うわひゃあぁあああ?!」

 

間抜けな悲鳴を上げた静香。驚きの余り、勢い余って椅子から転げ落ちそうになった所で、

 

「おっと。」

 

空いた手を膝裏に突っ込んで引っ張り上げ、膝の上に乗せた。

 

「もう離さねえぞ。」

 

ナチュラルに手を腰に巻き付けて彼女を引き寄せると、体を更に密着させた。

 

「圭吾・・・・」

 

率直に言おう。リカが先に引いた所為で少し、というか、全然物足りなかった。なので、初っ端から思いっきりディープでやった。静香もよっぽど欲求不満だったらしく、逆らうどころかむしろ積極的だった。まあ、俺よりも『お預け期間』が長かったから仕方無いと言えば仕方無いが。五分程経っただろうか。離れた時には静香の唇から俺の唇に唾液の糸が引いていた。

 

「ふぅ・・・・・悪い。落ち着いたか?」

 

「ん・・・・もう、馬鹿ぁ・・・・」

 

上気した顔を枕に埋め、目だけを晒して俺を上目遣いで睨み付ける。

 

「そんな顔が恐いと本気で思ってるのか?お前はホント怒るのには向いてない人間だ。後は、そこの馬鹿犬だ。」

 

静香の顔を思いっきり唾液で汚しやがった駄犬を睨み付けた。

 

「クゥゥン・・・・・」

 

殴らないで、許してくれ、とでも言いた気に腹這いになり、凄まじい勢いでぶんぶん振っていた尻尾も後ろ足の間に隠してしまう。

 

「もう、ジークってば・・・・ごめんなさい・・・・」

 

「まあ、次は気を付けてくれ。」

 

ジークを抱き上げてガキが申し訳無さそうに俺を見て離れて行った。立ち上がってリカ達が座っているテーブルへと椅子を引っ張って行って再び腰を下ろす。

 

「静香をここまで守ってくれて本当にありがとう。いや、ありがとうじゃ済まないわね、これは。連絡が途絶えてからずっと気掛かりだったから・・・・」

 

「俺からも、改めて礼を言わせてくれ。」

 

「現状で医療の専門知識を持つ人を見殺しにするなんてマイナスにしかならないし、何より養護の先生だから気心が知れた仲だったのよ。それよりも、何で私達の名前を知ってるの?」

 

疑り深い奴だ。まあ、気持ちは分かるが。流石はあの一心会の武闘派夫婦の娘だ。目元は父親、鼻梁や耳の形、スタイルは母親譲りだ。ほんと、良く似る物だな、親子って。

 

「ここに来る途中で、一心会の生き残りに遭遇したのよ。ちょっと話し合いをしたら直ぐに了承してくれたわ。沙耶ちゃんの両親は無事。と言っても、避難民の殆どと部下も何割かを失ったらしいの。餞別にグレネード各種を貰ったわ。」

 

リカが百合子さんから貰った資料の一部を高城に見せた。念の為という事もあるのか、ページの一枚に総帥と百合子さん両方の署名が万年筆で丁寧に書かれていた。流石、抜け目無い。

 

「後、伝言も預かってるわ。壮一郎さんみたいに良い男を見つけなさいってさ。」

 

高城は涙腺が緩み始めたのを悟られたくないのか、背を向けた。

 

「それより、男二人が見当たらないんだが。」

 

俺の言葉に、田島もあ、そう言えば、と言う顔を見せる。

 

「たしか、えー・・・・小室孝、平野コータだっけ?」

 

「はい。あのお婆さんの為に近くの診療所から血液パックとかを取りに行ってます。」

 

毒島が掛け布団の下で苦しそうにしている老婆の方を頭でクイッと示した。

 

「なるほど、あたしの銃をパクったの、そいつらか。全部無事なんでしょうね?」

 

おー、怒ってる怒ってる。リカお姉様が怒ってらっしゃる。まあ、分からなくもないが。俺も他人に私物を触られるのは嫌だし。特に銃だったら恐らく威嚇射撃位はしてるかもしれん。

 

「あ、そ、それなら大丈夫です!『安全な場所』に隠してありますんで・・・」

 

麗は慌ててバタバタと手を前に突き出して振る。そして声のトーンを落として続けた。

 

「SATって事は、他にも武器、持って来てますよね?」

 

俺達の大きな『荷物』に気付いたのだろう。まあ、あれだけの黒くてデカいダッフルバッグなら、まあ目立つわな。

 

「ええ。あるわ。大き過ぎて目立つから持って来なかったけど、トラックの中にも重火器はあるの。ミサイルよ。凄いでしょ?」

 

リカは悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。コイツも俺と同じぐらい武器には詳しいからな。まあ、俺の方が一番詳しくてリカがそれに便乗して俺から情報を得ているんだが。

 

「なあ、ここには俺達が来る前にお前ら以外に生き残りはいたのか?」

 

「はい、一応。大体、七、いや八人かな?」

 

「八人・・・・俺達も加えたら二十人近くになる。まあ、幸いと言うべきか、色々と物資は潤沢にある。ここに来てからどうするつもりだったんだ?」

 

「暫くはここに逗留しようかと思います。ですが・・・・」

 

なるほど。

 

「いや、良い。皆まで言うな。大体分かった。」

 

俺達以外の生き残りの方が一番の問題になるか。コイツらと違って明確な目的を持たず、只安全な場所に偶然集まった市民の集まりでしかない。警察だと示してもいい結果が得られるとは思えない。この事は既に空港で実証済みだ。コーヒーの残りを飲み干すと、非常口のドアが開く音がした。

 



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連合結成

お待たせしました。やっぱり高校最後の年となると忙しくなります。更新スピードも週一回かそれ以下に落ちる可能性もありますが、完結まで持って行きたいので何卒よろしくお願いします。


どうやら学生組のお仲間達が戻って来たらしいな。一人は写真の通り黒縁の眼鏡をかけている平野コータ。俗に言うオタクの典型的な見た目をしていた。まあ、学生服の上に着込んでいるタクティカルベストと銃剣付きM1A1を無視すればの話だが。それに持ち方や動きからして、コイツは恐らく銃の知識に於いてグループ一番の玄人だ。

 

俺やリカ、田島には劣るかもしれないが、それでも海外留学生でもない限り、銃火器に精通する奴はそうはいない。隣にいる奴もライオットショットガンを肩に担いでいる。小室孝。リーダーは恐らくコイツだろうな。その後ろを歩いているのは女の制服警官・・・・なのか?頼り無さ過ぎるオーラがだだ漏れだぞ?下手したら警官のコスプレしてる学生に見える。

 

「孝!良かっ・・・・!・・・・ごめん・・・・」

 

宮本が何かに気付いたらしく喜色満面が一変して真っ青になる。

 

「・・・・あのお婆さんに早く輸血してやってくれ。後、これも例の『隠し場所』に。」

 

暗い表情を変えずに素っ気無く言うと、バッグの中から血液パックや輸血に必要な医療器具を取り出し、ライオットのスリングベルトを外して宮本に押し付けると、カフェのテーブル席にどっかりと腰を下ろした。苛立ち、怒り、不甲斐無さ。そんな感情が綯い交ぜになった顔をしている。

 

「隣、良いか?」

 

「どう、ぞ・・・・?え?」

 

「ああ、そういやお前とは初対面だったな。警視庁特殊急襲部隊SATの第一小隊副隊長、名前は滝沢圭吾だ。以後よろしく。」

 

「SAT・・・・?って事は、鞠川先生の・・・?」

 

「ああ。まあ、正確にはその一人、だがな。友達ってのは、今現在あそこで静香と話してるリカだ。ちなみに、お前らがメゾネットからかっぱらった銃は、全部あいつの私物。壊したらぶっ殺されるからそのつもりで。で、彼女は俺の上司。白いキャップ被ってあの子供と犬の、ジーク、だったか?そいつと遊んでるのが、観測手兼相棒の田島博之。」

 

指で示しながら紹介して行き、そこで一旦俺は言葉を切った。とりあえず今の情報を反芻させるべきだ。一度に全部話したら無効も混乱するし、情報が効率良く伝わらない。

 

「ここまでで何か質問は?」

 

「何で、僕達の名前を・・・・?」

 

「ああ。一心会とちょっとな。百合子さんとは知り合いなんだ。彼女のお陰で猜疑心剥き出しの高城に俺達の素性の事を納得してもらえたからな。他には?」

 

「無い、です。沙耶が信用するなら、僕も信用します。」

 

理解が早くて助かる。これなら提案も簡単に受け入れてくれそうだ。

 

「なら良い。確か、小室孝、だったか?さっきのお前の表情・・・・・誰か死なせたな。」

 

一瞬背けられる視線。当たりだな。半信半疑で発破をかけてみたんだが、小室は見事に掛かった。ワザとそう言ったのだ。『死んだな』ではなく、『死なせたな』と。その言葉に過剰な反応を示した。当たりだ。これで俺の直感に確証が加わった。彼の反応は、こいつが外に出た時にそのグループの指揮を執っていた事を意味する。

 

「やっぱりか。さっき輸血がどうとか言ってたから、それを取りに行く途中で一人やられたんだな。まあ、グループ内で誰も死者を出さずにここまで生きて来たのは見事としか言い様が無い。日本人の大半は一部を除いてどこか平和ボケしてる所があるからな。」

 

「どうも・・・・・」

 

「俺達三人は洋上空港をほっぽり出して静香を探し、安全を確保すると言う当初の目的はこれで達成された。そこで、だ。お前達と行動を共にしたい。」

 

「え?」

 

「そりゃそうだろう?」

 

最初は静香を連れてグループから離れようかと思ったが、彼女がそれに納得する筈も無い。生徒を助ける養護教諭としての意地だろうな。それにまあ、確かに年端も行かないガキを静香と言う立場上唯一の衛生兵である存在を失うのはデメリットが大き過ぎる。

 

コイツらは手持ちの武器の扱い方を熟知とまでは行かないが、ド素人でもない。言うなれば中の上、もしくは上の下ぐらいだ。俺やリカ、そして田島の適切な訓練を受ければ、傭兵時代の俺の全盛期の数割程度の戦力に昇華させられる。大人数になって少しは動き難くなるが、トラックとハンヴィーがあるし、どちらかを別働隊として行動させる事も容易い。

 

「まあ、静香をここまで守ってくれた謝礼と思ってくれ。元々そのつもりだったんだ。こっちは探してた目当ての人間を守ってもらったんだ。お前らが探している人間の捜索を手伝ってやるよ。捜索は人数が多ければ多い程良い。カバー出来る範囲が広くなる。」

 

「そうしなよ、小室!」

 

「平野・・・・・・」

 

いつの間に来たのか、平野コータが小室の後ろからひょっこりと顔を覗かせる。

 

「SATは立て篭り事件とかジャック事件の非常事態が発生した時、本当に事がヤバくなった時に出動する。前線にいる小隊の隊長格が三人も加わったら、戦力は大幅に上がる。別行動もやり易くなるし、弾も使える銃もこれで更に増える。損は無いと思うよ。」

 

小室は目を閉じ、一度息をついた。メリットやデメリット、今後の動きについて色々と情報を整理、及び反芻しているのだろう。しばらく待って目を開けると、立ち上がって右手を差し出して来た。

 

「じゃあ、よろしくお願いします。」

 

「ああ。こちらこそ。」

 

連合結成、完了だ。さてと。俺は立ち上がり、踵を返した。

 

「あ、あの、どこに行くんですか、滝沢さん?」

 

「ん?即席の爆発物を作りに行くんだが。ここら辺なら安酒の瓶とかスプレー缶はゴロゴロあるだろうからな。モロトブ・カクテルやらFPSのゲームにある撃てば爆発するドラム缶の縮小版みたいな物も作れる。<奴ら>は頭さえ吹っ飛ばせば倒せるんだろ?全身を木っ端微塵にしてもそれは変わらない。動く為の両手足が完全に消えてしまえば、動きは芋虫以下のスピードに落ちるし、弾も消費を抑えられる。一石二鳥が三鳥、四鳥だ。」

 

「あ、じゃあ、僕が案内します!小室、後で中岡さんと話があるから。」

 

平野を先頭に立たせて俺はショッピングモールの探索に行った。

 

「で、具体的に何を作るつもりなんですか?」

 

「あー、そうだな。ホームセンターはあるか?肥料とか化学薬品を混ぜれば着火次第爆破出来る物を作れるんだが・・・・」

 

だが、俺にはその制作する為の知識は無い。本当なら銃弾の火薬を使って何かを作りたいが、弾が勿体無い上に上手く行くかどうかも分からない作業だ。もし失敗したらそれこそ何をやっているのか分からない。

 

「そうだな・・・・・HMEを作るには・・・・そうだ。良い事を思い付いたぜ。平野、でかいショッピングカート用意しろ。良いか、必要な物を言うぞ。リチウム電池、肥料、それが無ければ硝酸カリウムを多く含む歯磨き粉、酒、タオル、後は・・・・・」

 

そこで止まる。ああ、糞っ!思い出せない!リチウム、硝酸カリウムと、え〜、共有結合がああなって・・・・

 

「後は?他に何がいるんですか?これで何をするんですか?」

 

もどかしそうにうずうずし始める平野。あ”ー、もう!後、必要なのは・・・・火薬・・・火薬が入っている物・・・・火薬・・・・・

 

そして俺は思い出した。ここに入る途中で玩具売り場の入り口付近に掛かっていた物を・・・・そうだ!あれだ!あれがあった!

 

「花火、花火だ!花火、爆竹、そして癇癪玉を全部。」

 

ショッピングカート四つに『商品』を全て詰めると、それを皆が待っている所に持って行った。静香は未だにリカの側から離れようとしない。田島はジークと暫定的な飼い主であるありすと遊んでいる。やはりどこか父性を感じる何かを持っているのだろうか。

 

「あ、圭吾!急に行っちゃうから心配したの・・・・よ?」

 

文句を言い始めた静香。だがそれもすぐに尻窄みになった。俺と平野のショッピングカートに堆く積まれた物を見て目を丸くしているのだ。まあ、端から見れば何の変哲も無い物ばかりに見えるが、これはいずれ強力な武器になる可能性があるのを彼女は知らない。

 

「なあに、それ?」

 

「爆弾の材料だ。まあ、当然爆弾に使う分と本来の用途で使用する分に分けるが。割合として・・・・3:7、いや、4:6 か。」

 

「癇癪玉と爆竹なら撹乱に使えるわね。」

 

沙耶は籠の中身を見ながら満足げに頷いた。

 

「弾と同様、数に限りがあるがな。爆弾作りは後にしよう。ここ最近まともに眠れてないから、俺は寝る。<奴ら>が入って来ない限りは極力起こさないでくれ。」

 

静香と再開出来てグループが更に強力な物に昇華したのを確認してから張り詰めた神経が多少は解れたのか、どっと疲労と睡魔が押し寄せて来た。それに抗おうともせず、家具売り場の寝具コーナーにある手近なベッドに体を投げ出すと、意識と目を閉ざした。

 




後二、三話でショッピングモールから脱出させようと思います。

感想、誤字脱字の報告、質問、色々とお待ちしています。

それでは。


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目覚めた時には・・・・

一週間ぶりの投稿です。お待たせしました。今週は予想の斜め上を行く量の課題がありましたのでそれらを全てこなすのに時間を割く事になりました。(汗+泣)では、どうぞ。ショッピングセンター脱出はまだもう少し先になります。


「僕を嘗めるな!!」

 

久々に訪れた俺の安眠を妨げたのは叫び声だった。腕時計を確認すると、眠ってから数時間しか経過していない。今度は一体何を仕出かしやがったんだ?

 

「あ”あ”っ、畜生痛ぇ!!ああああああ、クソッ、クソッ!!」

 

「うるせえんだよさっきから!!ぎゃーぎゃー、ぎゃーぎゃー、ゴジラの真似でもしてえのか、てめえは、ああ?!」

 

装備を再び身に付けると、叫び声がした方に向かう。見ると、避難していた市民の一人が刺された腹を抑えて、陸に引き上げられたカジキマグロの様にバタバタと暴れ回っていた。痛いかもしれないが、あれだけ叫べて動き回れるなら、命に別状は無さそうだ。

 

「は、は・・・あはは、あははははははははははは!!!」

 

そいつを刺したらしいガキは刃に血がべっとりと付着した果物ナイフを片手にその場から逃走した。

 

「田島!回り込んであのガキを止めろ!」

 

「はいよ!」

 

さっきの奴みたいに田島もナイフで刺して突破しようとしたが、あいつは柔道四段、合気道三段の実力者だ。刃物を持ったチンピラ以下のガキ位直ぐにどうとでもなる。走っていたからそのまま足を払って躓かせると、手首を攻めてナイフを落とさせた。腹這いに押さえ付け、腕を捩じ上げたまま引き摺って連れ戻す。

 

「あっぶねえ・・・・・」

 

俺はそのガキの頭を思いっきりはたいた。

 

「ふざけんなよ、てめえ!何をしようとしていたかは知らないが、ナイフ一本だけであの数の<奴ら>に挑むなんて自殺行為だ。次にこんなふざけた真似してみろ、屋上から蹴り落とすぞ?」

 

めそめそと泣き始めるそいつを尻目に、俺は小室達が集まっている所に向かった。俺が寝ている間に考えは纏まったのかね?

 

「やっと起きたわね。まあ、私も田島も三十分前位に起きたばっかりなんだけど。」

 

リカは既に装備を身につけており、防弾ベストを丁度付けていた。

 

「久々にベッドで眠れたよ。」

 

欠伸混じりに田島がそう零した。

 

「それで?プランは練れたのか?」

 

「はい。行ける所までは自転車で行こうと思います。ハンヴィーが駄目になってしまったので・・・・」

 

ハンヴィーが駄目になったか・・・・移動手段もまた微妙に遅いんだか遅くないんだか良く分からない物を使うし。

 

「俺達はここまで乗って来たトラックがある。裏口に止めてあるからまずそれを取りに行かなきゃならないが。全員が乗るのは無理だし危険だろうが、荷物を積み込むだけのスペースはあるぞ。身軽になれば移動スピードも上がる。荷物を全部入れるとしたら・・・・静香、ありす、後はあの中岡とか言う婦警ぐらいだろうな。出発は?」

 

「明日です。もしさっき彼が非常口を開いていたら今すぐに出る事になったんですけど、助かりました。ありがとうございます。」

 

「気にするな。」

 

さてと、爆弾を作って性能テストをしなきゃな。

 

「平野。化学薬品の混合で爆弾を作る。やるか?」

 

「はいよろこんでー!」

 

「居酒屋じゃないのよ、デブちん!」

 

目を輝かせる平野を高城が蹴り飛ばす。

 

「あうんっ!」

 

変な声を出して吹っ飛んだ平野を連れて二階の非常口の扉を開けた。ボトルを開く。蒸留酒の芳醇な香りがする。バーボンだ。ラベルが正しければ、ハーパーの101と言う上物らしい。中々にレアな物なので一口飲んだ。熱い塊が食道から胃の中に落ちて行くのを感じ、ほぼその直後に酩酊が波の様に押し寄せた。

 

「おぅふ・・・・良いね。美味いぜ。」

 

悪酔いしない程度の量を飲むと、その瓶の中にリチウムの単四電池を二本とチューブに入った歯磨き粉を半分投入し、素早く瓶を締めると、二秒程激しく振った。すぐにそれを全力で投げた。回転して放物線を描く瓶は偶然<奴ら>の頭に命中して・・・・・・爆発しなかった。

 

「あれ?」

 

暫く間を置いてもまだ爆発しない。やはり歯磨き粉じゃ無理があったか?

 

「失敗、ですね・・・・」

 

「ちょっと待ってろ。」

 

アレでは、確か・・・・今度はウィスキーが入ったボトルに電池を投げ入れ、九ミリ弾一発分の火薬も投入した。再びそれを激しくシェイク、そして投擲。

 

「やっぱ駄目ですって、これj」

 

だが、平野の言葉とは裏腹に瓶は数秒の間を置いて爆発した。半径一メートル以内にいた<奴ら>も二体程ガラスの破片を頭に食らって無惨に吹き飛ばされた。平野は目を輝かせ、あんぐりと口を開けたまま突っ立っていた。

 

「よし、実験成功だ。後はこれにさっきよりも大量の火薬をぶち込みゃ更に威力は上がる。」

 

爆発の音に反応して<奴ら>が数体その方向に向かって行く。爆竹や癇癪玉も同じ効果があるから、これで検証は出来た。

 

「すげぇ〜・・・・どこでこんなの知ったんですか?」

 

「ん?『21 Jump Street』だ。」

 

「はい?」

 

知らないのは無理も無いか。元々『この世界』で放映していたかどうかも分からない。あったとしても別のタイトルで放映されていただろうし。

 

「いや、知らねえなら別に良い。兎に角アイディアはそこから取ったって事だ。実際に上手く行くかどうかは半信半疑だったんだが、モロトブよりは使えると思うぞ?まあ、その分銃弾が減るが。」

 

「でも、別の手段があるってだけでも十分ですよ。爆薬なら投げればその方向に<奴ら>を引きつけられますし。まあ、問題はガラスの瓶じゃ何にもならないって事ですけど。さっきは偶々当たったみたいな物ですから。」

 

「ああ。ところで、一つ聞きたい。」

 

色々あったから聞くのを忘れていた。

 

「お前は何故そこまで銃の扱いに馴れてる?海外の射撃ツアーを二、三度経験しただけとは思えないんだが。」

 

「あ、実は、ブラックウォーターで一ヶ月の間使い方を教えてもらってました。こんな風に役に立つ日が来るなんて想像もしませんでしたけど。」

 

ブラックウォーター。旧名Xe Services LLC。1997年にSEALs所属の退役した軍人が設立した、俺が勤めていた様な民間軍事会社か。軍事サービスのみならず訓練サービスも提供する・・・・・成る程、レクチャーしたのは現役の傭兵か。道理で動き方が『学校臭くない』訳だ。同じ穴の狢とまでは行かなくても、ほぼ『同類』にして『同格』と見なしても問題は無さそうか。

 

「ぅし、遊びは終わりだ。戻って小室達に伝えろ。明日に出発するのは別に構わないが、やるのは早朝。夜明けと共に、ここを出る。後、遅れたら全員揃ってなくても置き去りにして行くとな。」

 



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Let’s go with a BANG!

オリ主クレイジータイム一歩手前に突入します。ショッピングモール脱出はもうすぐそこです。

ではどうぞ。


白々と夜が明け始めた。デジタルの腕時計の時刻は午前四時二十二分を指していた。右腰にはサイレンサー付きのUSP、左足には緊急用のコルト・ディテクティブ、後はスリングを付けたサブマシンガンMP5。

 

「OK、行くか。」

 

隠していた黒いバッグの中から自前の銃を全て取り出した。

 

「会いたかったぜ。」

 

ピストルグリップを装着して携行性の向上を図ったモスバーグM590A1の先にシースを付けた銃剣ナイフを装着し、銃身の下にある延長したチューブマガジンにショットシェルを押し込んだ。狩猟でも使うダブルオーバックは対人でも有効打を与える事が出来る。大型動物でない限り、一撃で殺せる。射程距離もライフルには劣るが、面での攻撃は銃の中ではトップクラス。後は側面とスリングベルトに付けたシェルホルダーに弾を押し込み、準備完了。

 

次に分解されていたシグザウエルP226 X6 LWを組み立て、紙箱に入った9ミリ弾を三本あるマガジンに押し込み、弾を装填。装着したタクティカルレッグホルスターに差し込んだ。オートマチックの拳銃はやはり大容量に限る。ベレッタはコルトM1911を破った米軍で正式採用されているサイドアームだが、どうも俺にはしっくり来ない。

 

更に四インチモデルの357マグナム、S&W M627を腰背面のホルスターに入れる。俺にとって一番抜き取り易いナインオクロックのポジションに差し込んである。シリンダーは右側にスイングアウトする最近では珍しい左利き用のオーダーメイドだ。俺は両利きだから、万が一右腕が駄目になっても全く反撃出来ないと言う訳ではない。最後はハーフセレーションがついたアーミーナイフ、そしてブーツの中にはEspadaXLと言う大振りのフォールディングナイフを押し込んで準備は完了だ。

 

「・・・・・重い。」

 

だが、拳銃四丁、ライフル一丁、そしてショットガン一丁の計六丁は流石に重過ぎる。加えて予備の弾も持たなきゃならないから尚更だ。MP5は小室達の誰かに・・・・平野にでも渡すか。流石にAR-10だけじゃマズイ。あれは中距離から遠距離用のライフルだ。MP5の方が取り回しが利く。

 

「随分と『荷物』が多いな。それ全部持つつもりか?」

 

「田島、こいつを平野に渡してやってくれ。」

 

皮肉をスルーしてMP5とマガジンをベストから抜き取って渡した。

 

「了解。」

 

「使うルートはどうだ?確保出来たか?」

 

「一応な。婦警の中岡と平野君が屋上からずっと地図や路上と睨めっこしてくれたお陰で使えるルートの目星が幾つかついた。皆もそろそろ起き始めている。リカはありすちゃんやジーク、後先生と一緒にトラックの方に向かった。二階から下りる非常口の前に転がして来るらしい。ハンヴィーは何度か試したんだが、やっぱり駄目だった。銅の三重被覆でもEMPには耐えられなかったらしい。非戦闘員以外は全員チャリで移動するってよ。」

 

「そうか。いや、待てよ・・・・あのガキも一緒に来るってのか?」

 

「ああ。それがどうかしたか?」

 

どうかしたかじゃねえよ!何真顔で連れて行く気満々って顔してるんだ、お前は?!

 

「あいつを同行させて何になる?」

 

小学生のガキを一緒に連れ回しても何も意味をなさない。直接的な役目は何も果たしていないし、果たせない。今精々出来るのはジークの遊び相手とグループに癒しのマイナスイオンを振り撒く位だろう。

 

「それは重々承知している。何度も言い聞かせたんだが、彼女は自衛隊の救助をここで待つ事に猛反対している。遂には泣き出す一歩手前だったんで、俺が折れちまった。本人が言っても聞かないんだ、仕方無いだろう?」

 

再び反論しようとした俺を遮り、田島は更に続けた。

 

「それに、両親を失った今、曲がりなりにも小室達は彼女の家族だ。一度家族と永遠に引き離されてしまったんだぞ?また同じ様に家族と引き離されたら、彼女は精神的に壊れてしまう。俺はそんな事をしたくない。」

 

完全に論破された俺は二の句が出ない。開きかけた口も引き結んで黙り込んだ。

 

「・・・・好きにすれば良い。ま、お前は元々子供好きだからな。面倒を見たきゃ勝手にしろ。俺は関知しない。一応聞くが、あいつが噛まれたら、お前責任取れるんだろうな?」

 

「・・・・・その時が来ればな。」

 

俺の言わんとする事を理解した田島は暫く黙っていたが、ぼそりとそう返事を返した。どうだかな。俺は少年兵を何人も殺して生き延びて来た経験があるが、田島は違う。俺は頭に手をやってガシガシと乱暴に頭を掻く。

 

「大丈夫かお前?どこかに頭ぶつけたか?それともあのバーボン飲み過ぎてまだ酔ってるのか?」

 

お返しとばかりに皮肉を言う田島。だが、どっちも違う。俺は二日酔いはしても、あの程度の量じゃ絶対酔わない。それに、頭をぶつけた程度でおかしくなる様な頭は持ってない。俺は精神的な年齢は五十二だが、肉体的にはその半分だ。今までの経験から俺は色んな受傷行為に『馴れた』。シェルショックからも立ち直りは早い。

 

俺は、『飢えて』いるのだ。体が疼く程に。昨晩はリカや静香と結構激しく絡み合ったからソッチは全く問題無い。俺が飢えているのは、闘争、戦い。明確な敵意を持って俺を殺そうとする『敵』に飢えているのだ。敵が、欲しい。スリルが、欲しい。戦場が、欲しい。それも、股座が熱り立つ様な熾烈を極める様な!!そして、その状況で、もぎ取れる勝利が欲しい!!!

 

リボルバーと同じレンコン型の薬室を持つダネルMGLのシリンダーに四十ミリグレネード弾を六発装填した。

 

「グレネードの方が銃弾より手に入り難い。自衛隊にでも行かない限り手に入らないだろうからな。先にコイツで固まってる<奴ら>を全員纏めて吹き飛ばす。フフフフフ・・・・・・フハハハハハハハ!」

 

田島は俺の豹変振りに引き笑いを浮かべて、本当に二、三歩後ずさった。さてと・・・・・おっ始めるとするか。

 

「田島。小室達を集めろ。<奴ら>が人海戦術で来ようが所詮は数百体。徹底的な面での攻撃を食らえば吹き飛ぶ。個体での能力は低いからな。」

 

「それは別に構わないが、お前が先頭に行くのは難しいぞ。MGLは片手で撃てる様な代物じゃないだろうが。特にチャリだったら」

 

「俺が何時チャリに乗ると言った?俺が使うのは、コイツだよ。」

 

小室達がチャリを見つけたスポーツショップは一輪車やスケボーが陳列していた。その中から俺が選んだのは、普通のどこにでもあるスケートボードとスケートボードの亜種であるキャスターボードだ。普通のボードとは違い車輪は二つしかなく、板が前後二枚に分かれてトーションバーで連結させた不思議な形をしている。板が二枚あるから前輪と後輪を左右の足で独立した操舵が可能になる。乗り始めは難しいが、馴れて走らせれば中々楽しい。それにスケボーとは違って小回りが利くから更に動き易くなるから、うってつけだ。久し振りだから勘が鈍っているかもしれんが、まあ何とかなるだろう。

 

「よっ、とっ、ほっ!」

 

キャスターボードに足を乗せ、押し出した。初めの撃ちは何度か壁やショーウィンドーに激突しそうになったが、数分してから勘が戻って来てテーブルや椅子の間を自在にすり抜けて行った。

 

「よしと。」

 

やはり銃と弾薬の重量がある所為か、少しコントロールに難がある。

 

「お、来たな。」

 

自転車を押して来る小室達を見て、俺は満足げに頷いた。全員それぞれ武装してる。覚悟を決めた様だ。

 

「準備は出来たみたいだな。じゃあ、派手にやろうぜ。」

 

MGLのセーフティーを外し、トリガーガードにかけていた指を引き金にかけた。

 

「お前らは先に出ろ、俺はこいつで屋根から<奴ら>を迎撃する。」

 

「滝沢さん・・・・?」

 

俺の言っている事が理解出来ないのか、眉根を寄せる小室。俺は鼻から大きく息を吸うと、一気にこう捲し立てた。

 

「小室、全員連れてここから離れろ。全速力でだ。グレネードの爆発で<奴ら>を出来るだけ殲滅して、音で<奴ら>をお前らから引き離す。」

 




ググッて見た所、MGLの射程距離は三百メートル以上あるそうです。ペイント入りでも実銃を撃つ所をyoutubeで見ましたが、ペイントでも中々凶悪な威力をお持ちでした(汗)。対人、対戦車榴弾も平均で四百メートルの射程距離を誇るとか・・・・・コワイ。

感想、評価、質問、お待ちしております。


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The Crazy Mother F*cker

今回はタイトル通り、主人公がグレラン片手に大暴れしちゃいます!


それを聞いて、田島を含む全員が唖然とした。

 

「・・・・・え?」

 

数秒遅れてやっと俺の発した言葉の意味を理解したのか、小室の口からそんな間の抜けた返事が返って来た。

 

「 グレネードの爆発で<奴ら>を出来るだけ殲滅して、音で<奴ら>をお前らから引き離すと言ったんだ。」

 

「そんな無茶な」

 

「ああ、無茶だ。だが、今になって始まった事じゃないだろうが。元々こんな大所帯で移動する事自体が結構な無茶さ。今更度合いが多少上がった所で一々怖じ気づいていたらキリが無い。寧ろ疲れる。」

 

そんな事は馬鹿でも分かる。だが今更そんな事を指摘されても俺は考えを変えるつもりは無い。

 

「トラックのエンジン音がある以上成功率はかなり低い。その上失敗すれば、死ぬか最悪『仲間入り』するかもしれない。だが、ほぼノーリスクここを脱出する為の一番確実な方法だ。策は既に練ってある。」

 

俺の言っている事はメチャクチャだ。自信たっぷりで言っている反面、コイツらは絶対納得していない。だが、唯一田島だけは小さく何度か小刻みに頷いた。また何かとんでもなく無茶な事をするつもりだな、滝沢?——あいつの目はそう訪ねている。俺は何も言わずに目配せすると、小さく笑った。田島は顔に手をやり、掌で顔を覆う。よっぽど俺の無謀過ぎる行動に呆れ果てたらしい。

 

「どんな策よ?屋根から擲弾の攻撃をするまでは良いわ。けど、どうやってあたし達に追い付くつもりなの?!それに、ワザワザそんな事しなくても癇癪玉と爆竹で<奴ら>を遠ざける事位出来る筈じゃない。」

 

高城が噛み付く。大所帯になってようやく統制が取れつつあったグループから離れて一人勝手な行動を起こそうとしている俺に我慢ならないのだろう。と言っても、スタンドプレーは俺の専売特許なんだがな。

 

「そ、そうですよ、滝沢さん!いざとなれば自分が爆竹を」

「確かにな。だがソイツは後々必要になるかもしれない。」

 

外に飛び出そうとする中岡を俺と慌てる平野がそれぞれ腕を掴んで引き戻す。

 

「今ここでそれを大量に消費してしまえばどうなるか分からない。それに屋上から降りる方法は階段だけじゃないさ。あいつらの仲間入りをするか死ぬかの二者択一を迫られたら、俺は死を選ぶね。分かったら行け。そして何があっても絶対に陣形を崩すな。グレネードランチャーはショットガンよりも長い射程とそれ以上のパワーを持っている。巻き添えを食らったら怪我では済まない。」

 

「でも」

 

「小室。」

 

俺は尚反論しようとする小室を黙らせ、非常口を指差した。

 

「良いな?今直ぐだ。行け。同じ事を何度も言わせるんじゃない。俺は今までお前らよりも長く人を殺して来たし、危機的状況も切り抜けて来た。そもそも、俺がそう簡単に死ぬ様な男に見えるのか?」

 

答えを待たずに走り出し、階段を三段飛ばしで登って行った。そしてそこに用意されている束ねられた登山用の丈夫なロープで堅く何重にも重なる結び目を作って手摺に括り付け、更にカラビナも柵に引っ掛けた。両手で思い切り引っ張ったが、結び目は解けないし、カラビナもしっかりと固定されている。

 

「作戦開始。」

 

仰角付きのサイトを覗き、引き金を二度引いた。バスバスッと勢い良くガスが抜ける様な音と共に銃口から四十ミリのグレネード弾が二発飛び出し、放物線を描きながら<奴ら>が密集している所に着弾、爆発した。

 

「よし・・・・」

 

狙い通り、<奴ら>は爆発音によって移動を始めた小室達から離れて行く。仰角を調整、もう二発グレネードを発射。再び爆発と共に<奴ら>の頭や手足、内蔵の破片が爆風で空中高く放り投げられては重力に従って落ちて来る。腐った果実が踏み躙られたかの様に、アスファルトが体液で汚れて行く。

 

「ラスト。」

 

再び<奴ら>が一番密集し始めた所に向かってグレネードを一発ずつお見舞いした。これでシリンダーは空になる。未だに硝煙の臭いを立ち上らせる薬莢を抜き取って地面に落とすと、シリンダーを半時計回りに回転させて定位置に戻し、残った手持ちのグレネード弾六発を押し込んだ。

 

スリングベルトを肩に引っ掛けると、ロープの端を腕に何度か巻き付けて掴み、一度深呼吸をした。今から俺がやる事は出来の悪いアクション映画の典型的な行動だ。傭兵時代のビル占拠の強襲オペレーションや訓練とも違う。ハーネスは疎かヘルメットや安全マットも何も無い、失敗は許されない場面(シーン)だ。アクションは全てスタント抜きでやってのけたかの有名な香港アクションスター、ジャッキー・チェンもこんな気持ちだったのだろうか?

 

そんな下らない事を考えながら、助走を付けて走り出す。アドレナリンが分泌され始め、血圧と鼓動のスピードが急上昇し始める。既に飲み込む唾の味は血の味に変わりつつあった。息も浅くなっているが、スピードは緩めない。これをやるには欄干をハードルに見立てて飛び越える位の速さが必要だ。欄干への距離はどんどん縮まって行く。五メートル。三メートル。二メートル五十。一メートル。そして、

 

俺は欄干を飛び越えた。刹那に訪れる不思議な浮遊感。そして重力に従って俺は落ちて行く。両手でしっかりとロープを握り締め、張り詰めた所で俺はブランコにでも乗っているかの様に勢い良く前後に振られ始めた。再び前方に振られた所でロープから手を離して、着地の瞬間に生まれる衝撃を殺す為に受け身を取った。リュックからキャスターボードを抜き取り、足を乗せる。

 

「おぅらぁ!こっちだ化け物共!」

 

MGLが火を吹き、立て続けに三つの爆発が起こる。地面を蹴ってキャスターボードを操舵して小室達が向かって行った方向へ急いだ。加速する為に体を捻るテンポを更に上げて、S字型の軌道を描きながら移動する。

 

そしてしばらくしてからクラクションが聞こえた。トラックだ。ボードから降りて肩に担ぐと、それをトラックに押し込む。リュックに背負ったままのスケートボードに乗り、自転車組の方へ悠々と歩いて行く。チェシャ猫の様な狂気を帯びた笑顔を貼り付けて。

 

「あ、あは、あははははは・・・・・・・」

 

俺の無謀にして自殺まっしぐらな行動の大部分を目にしていたらしく、リカと田島以外の全員は乾いた笑い声しか出せない様だ。慣れってのは、恐ろしい物だな。唯一の例外が高城と平野だ。高城はまるで俺が別世界からやって来た超人を見ている様な驚きに若干の恐れが混じった眼差しを向けている。平野の方を見ると、まるで神を崇めるかの様な熱い眼差しを向けて来る。やめろ、俺は人間だ。

 

「あ〜・・・・・言いたい事は色々あるだろうが、まあ、何とかなったな。うん。」

 

小さく何度か頷きながら俺はそう呟いた。

 

「おじさんすご〜い・・・・」

 

「ああ、まあね。ウチの副隊長は隊長と同じエキセントリックでエクストリームな物が大好きだから。流石の俺もあそこまで命知らずな荒技は・・・・・」

 

田島も苦笑いを見せながら唯一俺に拍手を送っているありすの頭を撫でる。

 

「スカイダイビングをやるのは久し振りだったから、恥ずかしながら少しビビっちまったぜ。と言う訳で、俺は寝る。」

 

宣言通り、俺は少しばかり惰眠を貪る事にした。荷物を入れたのと、田島やリカ以外に、静香やありす、そして中岡の三人を同乗させた為にトラックのスペースが結構潰されてしまっている。ぎりぎり後一人収まるか収まらないか位のスペースに滑り込み、備え付けられたラックにショットガンとMGLを押し込んで深くシートに腰掛け、目を閉じた。

 




如何でしょうか?流石にビルから飛び降りるのは使い古されているネタなんじゃないかなと最初は思ったんですけど、他に使えそうな物が無くてorzしてしまい、仕方なしにこういう風に収まりました。

質問、感想、報告、評価、色々お待ちしております。


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Shoot ‘em & GO!

次話で東署に到着します。


トラックに揺られる事数時間。高速道路もそろそろ降りる地点に達している。そして、高城と平野の発案で陣形を組む事になった。自転車に乗った小室達の半分がトラックの右前方と左前方、もう半分が左右の後方と言うコンボイもどきとなって動いている。最初は名案だと思っていたが、段々とそうでは無いと言う事に皆が薄々気付き始めていた。移動のスピードが遅過ぎるのだ。人間が出せる自転車の速度なんて高が知れている。トラックの方はスピードはあるし持ち物を運ぶのには書かせない交通手段だ。だが如何せん自然環境を考慮したハイブリッドの車とは違いエンジンの音がうるさい。この移動スピードでこの音量だったら、<奴ら>が群がって来るのも時間の問題だ。

 

「どうした物かね・・・・・」

 

高速道路は幸い<奴ら>に囲まれる心配は無い。唯一問題があるとすれば、衝突して拉げた車をどかす作業だ。物によってはびくともしない為、トラックでそのまま無理矢理リカが突っ切った事も何度かあった。

 

「で、結局俺達の行き先はどうなった?」

 

「とりあえずは小室君達の家に向かうらしいわ。このトラックじゃやっぱり通り抜けられない道があるみたいだから、いざとなったらガス欠になるか、頃合いを見てからガソリン抜いて乗り捨てる事になるわ。」

 

「そりゃまた残念だな。」

 

「本当にね。乗り心地はイマイチだけど、アタシのハンヴィー以上のスペースと馬力があるし。あーあ、残念。」

 

高速道路を降りると、一旦停まった。自転車組の奴らが少し疲れ始めている。俺も小休止を終えたのでトラックから降り手足を伸ばした。至る所の交差点や曲がり角ではやはり事故って衝突した車が道を塞いでいた。

 

「小室、宮本、ここら辺はお前達のホームグラウンドだ。道案内を頼むぞ。」

 

「勿論。」

 

「だが、」

 

と俺は続けた。

 

「先頭はリカと毒島に任せる。」

 

「え?でも私達が先頭にいた方がすぐに次の行動に移れるんじゃないですか?」

 

周りを警戒しながらM1A1を構える宮本。確かにそうなんだがな。

 

「お前らが住んでいた辺りと言う事はここら辺にいる大半の<奴ら>はお前らの友人、知人、隣人だ。<奴ら>になってしまったとは言え、お前らが撃てるかどうか分からなくてな。」

 

ここぞと言う所で躊躇い、その一瞬の隙が命を落とす要因となる。俺はその光景を何度も見て来たし、その内の幾つかは俺も経験して本当に死にかけた。コイツらの誰か一人でも欠ければグループは総崩れとなってしまう。念の為の予防線って奴だ。

 

「うわぁ〜・・・・滝沢さん、これヤバいですよ。」

 

「ん?どうした?」

 

双眼鏡を覗く平野の方を見やる。裸眼だからハッキリとした数は分からないが、それなりに纏まった数の<奴ら>がこっちに向かって来るのが見えた。距離は百メートル以上、数は数十ちょい。

 

「う〜ん。」

 

弾は出来るだけセーブしておきたいと言うのは本当だが、実際この騒動が始まってから俺は大して銃を撃っていない。隠密の方が無駄な弾の消費を抑えられる事は確かだが、これはある意味病気みたいな物だ。殆ど反射的にホルスターに納めたシグとUSPのグリップに手を伸ばす。当然どちらも既にサイレンサーを装着している。

 

「アレ、撃ちたいな・・・・」

 

「駄目ですよ、もっと寄ってきます。」

 

「だよなあ・・・・・あー、でもトリガーフィンガーが疼いて仕方が無いんだ。あーあ、撃ちてぇーなー。」

 

「もうぶっちゃけそれしか手は無いと思うわ。」

 

「え?」

 

やれやれと言った様子で俺を見る沙耶の口から出た言葉に孝が驚きを見せた。

 

「第一に、撃たずに倒すには数が多過ぎる。第二に、家の近所に向かう為のルートは車とかが横転してるし、場所に寄っちゃ道幅がトラックよりも狭いから通れない。だからたとえ回り道でも通れる道を通る方が良い。第三に、コンボイと言っても所詮は急造だし、自転車とトラックじゃ出せるスピードの差が大き過ぎる。」

 

「確かに。<奴ら>の強行突破も全員が同乗しているからこそ出来た事。トラックではね飛ばした時に自転車に乗っている誰かに当たらないとも限らないしな。」

 

沙耶の言葉にトントンと指を刀の鞘に打ち付けながら冴子もそれに賛成した。どこか嬉しそうなのは・・・・・多分気のせい、と言う事は無さそうだ。

 

「よし、そうと決まれば、」

 

スケートボードを足元に於いて飛び乗ると、左手にUSP、右手にシグを構えた。左右に軽く曲がりながら<奴ら>の群れに突っ込んで行く。一瞬だけ後ろを向くと、呆気にとられる小室達の顔が目に映った。にやけ顔が止まらない。また、戦える!

 

「いっちょ派手にやってやろうぜ!」

 

両腕をクロスさせて移動しながら矢継ぎ早にトリガーを引く。九ミリ弾がサプレッサーの甲高い四捨五入すれば合計で四十発近くの銃弾が二つのマガジンに装填されているのだ。眼孔、眉間、額、鼻腔、典型的なゾンビの弱点である頭を徹底的に狙う。弾が切れると、両方のスライドストップ状態を解除、瞬時にホルスターに押し込む。

 

「またまたやらせて頂きます!!」

 

残っている<奴ら>三体が並んだ所でM627を引き抜き、撃鉄を起こした。357マグナム弾の貫通力はスラッグ弾には劣るかもしれないが、零距離なら人体を余裕で貫通する位の運動エネルギーは有している。三体は脳髄をそこら中にぶちまけて倒れ、残り三体も一発ずつマグナム弾をおみまいした。

 

サングラスに革のジャケット、そして何丁もの銃を扱う様。まんま『マトリッ○ス』のアレだな、俺。振り向くと、唖然とする小室達に向かって手を振る。マグナムから立ち上る硝煙を吹き消すと、再び背中のホルスターに押し込んだ。背中に背負ったモスバーグを外し、取り付けた銃剣のシースを外した。ギラリと鋭利な刃が光る。

 

「あ〜、すっきりした。」

 

今さっき消費した弾の数は合計四十三発。オートマチックは二丁とも新たなマガジンを装填しておく。爽快感は確かにあった。だが、今一つ物足りない。何故か?既にグループ内では周知の事実なのだが、<奴ら>には感覚と知能が全く無い。只々鈍重な動きで音のする方に向かい、何かを掴んだと感じ取ればそれに食らい付く化け物だ。言うなれば、ゲームの単調な動きを繰り返す的と大差無い。俺達を出し抜く為に策を弄して来る訳でも無く、俺達に銃を向けて来る訳でも無く、血肉を求めてただ彷徨うだけの木偶人形だ。唯一の問題はその数は気が遠くなる程の規模であると言う事だけ。達成感らしい達成感は何も無い。

 

「張り合いがねえなぁ、おい!」

 

その苛立ちが未だに胸中で燻っている俺は、そう低く唸ると、後頭部がザクロの様に弾けた<奴ら>の一人の頭をサッカーのPKよろしく顎を狙って思い切り蹴り上げた。小枝が折れる様な音と共に頸椎が破断する。普通の人間ならこれで即死だ。直線的な圧力に強くても、捻る力には頗る弱いのが人体の弱点の一つである。だが、<奴ら>は首を切り落とすか脳を破壊しなければ完全に活動を停止しない。スケートボードを蹴り上げて掴むと、小室達と合流する。

 

「車が後二、三台位あればなあ・・・・」

 

平野が愚痴を零す。やはり急造のコンボイ作戦が上手く行かなかった事が少なからずショックらしい。

 

「ここから先もこの調子だと、移動は時間が掛かるわね。それにさっき見たいに毎回毎回あんな規模の<奴ら>を相手にしていたらあっという間に弾が無くなってしまう。かと言って毎回<奴ら>の大群を見るなり迂回していたら時間が掛かり過ぎる。どうするの、小室?」

 

沙耶が眼鏡を押し上げて小室にそう訪ねた。

 

「・・・・・確かにな・・・・・」

 

顎に手を当てて、思案に耽りながら小室は目を閉じた。

 

「麗。悪いが、俺達の親探しは一旦後回しにしよう。」

 

「ええ?!」

 

「確かに麗の親父さんやお母さんの事も、僕の母さんの事も心配だけど、今この場でどうこう出来ない。それに、この大人数じゃ弾の数がいずれは逼迫する。後、麗の親父さんがこんな非常事態で自宅にいる筈は無い。」

 

「あ、そっか・・・・・東署!東署に行けば!」

 

「いる可能性はあるっちゃある。階級もそれなりに高い人だろ?だから、署内で指示を飛ばしていたかもしれない。調べてみる価値は有ると思う。それに警察だったら銃位置いてある筈だ。ですよね、リカさん?」

 

「ええ。目当ての弾薬があるかどうかは分からないけど。にしても、貴方やるわね。短時間でそこまで考えられるなんて。」

 

運転席から上半身を乗り出して小室に賞賛の言葉を贈るリカ。

 

「周りが優秀なだけですし、僕は自分が出来る事をやるだけですから。」

 

「その割には随分とそれを秀逸な手腕でこなしている様だけど?」

 

田島もルーフから顔を覗かせて付け加えた。ビシッと親指を立てて歯を見せる笑顔だ。

 

「ああ。二人の言う通りだ。もう少し自信を持て。今ん所俺達は誰一人死んでない。お前のお陰だ。最初はお前みたいなガキに任せて大丈夫かと正直半信半疑だったんだが、甘く見てたよ。お前、意外とこう言う事に向いてるんだな。その調子で頼む。」

 

「はい!」

 

さてと、行き先も決まった事だし、さっさと向かうか。床主市東署へ。

 



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Upgrading

深夜投稿です。


予想通りと言うべきか、東署は無人だった。心底落胆した宮本は小室が慰めている。とりあえず敷地の周りをボードで一周したが、<奴ら>と俺達以外は誰もいない。いざ脱出する必要があれば出来るだけ素早く出来る方が良い。田島、リカ、ありす、静香、中岡、そして平野の六人を残し、俺を含む五人で中に入った。空のダッフルバッグを肩に掛けると、手持ちの武器で最も静かな武器を選んだ。クロスボウ、『バーネットワイルドキャットC-5』だ。矢を番えると、それを構えてゆっくりと足音を立てずに前進する。

 

「無人に近い、かな・・・・?」

 

「建物の周りを一周した時にタイヤの跡が見えた。恐らくまだ署内に残って生きてた奴が何人かいたんだろう。書類にも砂利とか泥で出来た足跡が見える。」

 

足でくしゃくしゃになった紙の束を軽く突いた。

 

「まずは弾と武器の調達だな。他に何か思い当たる事は?」

 

「特に無いな。銃を置いてる場所に案内しよう。保管庫は・・・・あ。」

 

保管庫に案内する、と言おうとしたが、俺はある事に気付いた。警察やっててこんな単純な事を見落とすとはな。いよいよの勘が鈍って来たらしい。

 

「え?何ですか?」

 

「いや、銃を保管している部屋を探すなんて時間の無駄だと気付いただけさ。恐らくもう何も残ってないだろう。警察に支給されてる銃だ、持ち出されてない方がおかしい。行くとしたら、証拠品とか押収したブツを保管している倉庫だろう。ヤー公やマル暴の方々から色々と玩具を取り上げた時期があったからな。押収された密輸品なんて結構あるんだぜ?勿論、持ち出されていなければの話だが。」

 

警察は証拠品の紛失とかで首を飛ばされたりした事は過去に何度かあった。保管場所の移動、事情聴取、取り調べ、もしくは鑑識に改めて回すとか、そう言った余程の理由が無い限りあの中にある物は持ち出せない。最後に見た時はトカレフとかマカロフやらがあったな。ヨーロッパ圏の銃は確かに良いが、あれは駄目だ。共産圏の銃は大量生産の方にばかり目が行き過ぎて安全も精度もほぼ完全に無視している。トカレフにセーフティーを付けないってどう言う神経してやがんだ?アホだろ?

 

「話している途中悪いが、客人が来たみたいだぞ?」

 

毒島の言葉に俺は彼女が目を向けている所に視線を移した。男女一組の<奴ら>だ。無造作に構えていたクロスボウの引き金を引く。シュッと矢が空を切り裂く音がして矢が解き放たれた。鼻腔を貫通した一体目<奴ら>の屍から矢を抜き取ると、それを使って女の<奴ら>の眼孔を貫いた。ソイツの服で矢についた血を拭うと、再びその矢をつがえた。

 

「この様子じゃ恐らくまだまだいそうな感じがするな。 小室、毒島や宮本と先に上に登ってろ。先に三階に登れ。高城、援護を頼んでも良いか?」

 

「え、わ、私!?」

 

「今この場でお前以外に高城って名前の奴はいないだろうが?」

 

それに、高城は未だに持っているそのルガーを撃っていない。少しは撃って経験を積んだ方が良い。たとえ音が少し響いても建物の中だ。外よりも多少は閉め切られた部屋の中の方が銃声は響かないからな。

 

「一階と二階を探査してからついて行く。もし<奴ら>が上と下から迫って来て挟み撃ちにされたら、それこそヤバい。急げ。すぐに済ませる。」

 

「沙耶、気をつけろよ?」

 

「分かってるわよ。私は天才なんだから。」

 

ほらほら、ストロベリってる暇があるならさっさとついて来い、時間も押してるんだから。

 

「小室、見つけた銃と弾は全部この中に入れられるだけ入れろ。後は・・・・懐中電灯とかの乾電池を使う物も、もしあれば。」

 

小室にダッフルバッグを投げ渡すと、さっさと一階の探索を開始した。静かに、だが足早に歩く。周りを警戒しながら廊下を歩き回り、部屋の中を二、三秒欠けて見回し、<奴ら>がいればクロスボウで二体ずつぐらいを纏めて串刺しにする事で仕留める。次に窓とドアを締め、完全に部屋が密室になる様にした。

 

「よしと。あそこに二体いるだろ?あれを撃ち殺すんだ。ストックをしっかり右肩に押し込めろ、下手な持ち方したら肩が脱臼するぞ。」

 

「こ、これで良いの?」

 

四インチモデルのルガーはストックがついていると命中率は上がるが、俺からすれば持ち難い。どうせならストック無しのダブルハンドで撃った方がマシだ。

 

「脇の締めが甘い。肘をもっと下げろ。狙う時は息を止めるんだ。それでブレの補正が出来る。リアサイトとフロントサイトが一列に並んだら引き金を引け。その瞬間、腹に力入れて口から一気に息を吐き出すんだ。」

 

暫くどうか舞えれば良いか数分程苦戦していたが、すぐに撃ち易い構えでルガーを保持した。引き金を引くと、乾いた銃声と共にトグルアクションによって薬莢が弾き出され、九ミリ弾は顔の右半分を大きく削ぎ落としたが、まだ倒れない。再び銃声。マグレかどうかは分からないが、二発目は眉間を貫き、一体目が倒れた。

 

「やった・・・・・!」

 

「次の一体も同じ様に撃つんだ。ストックを外しても撃てる様になれ。それが壊れたり弾が切れれば他の銃を使う事になる。ストックを付けるハンドガンはあまり無いから、馴れておく為だ。」

 

俺が知ってる中でもオプションでストックを付けられる銃はマシンピストルの様な片手で持てる自動小銃だ。例えばベレッタM93、グロック18C、UZI、TEC-9、MAC-11、MPL SMGなど。映画の様に2丁拳銃でフルオート連射なんて事は実質的に不可能だ。撃発によって生じる反動で銃口の向きが上へ上へと向いて行くからだ。フルオートの片手撃ちが出来る様になりたいなら、腕の力はゴリラ並みにならなければ出来ない。そしてマシンピストルはアサルトライフルとは違って装弾数がかなり少ないから、フルオートで撃てば三十秒と立たずに弾切れになる。

 

「こ、のっ!」

 

ダダンッと二発。一発は喉笛、もう一発は目玉を抉り、二体の<奴ら>は沈黙した。

 

「天才と言うだけの事はあるな。百合子さんの娘だ。強い女だよ、お前は。」

 

「あったりまえでしょ!」

 

どうだとばかりに胸を張る。ソレも母親譲りだな、うん。さてと、次は二階か。だが、階段に向かおうとした瞬間、金属に何かがぶつかる音が聞こえた。

 

「・・・・・嫌な予感がする。ここ、留置所あるんだよな・・・・」

 

格子は鉄製だし、当然鍵が無ければ開けられないが、万が一と言う事もある。

 

「どうするの?檻を見に行くのは良いけど、小室達とはぐれちゃうわよ?」

 

「いや、閉まってるから大丈夫だろう。二階に急ぐぞ。」

 

本音は見に行ってもし檻の外にいる<奴ら>がいるなら始末したい。だが、当初に定めたグループの目的がある。装備の大部分を持っている仲間とはぐれそうになる状況に身を投じるなんて馬鹿過ぎる。それに、戦争を生き抜いて来た俺と違い、高城はまだまだガキだ。肝心な所でメンタル崩されたらそれこそ取り返しがつかない事になる。

 

「俺の三歩後ろをついて来い。」

 

小走りで足音を立てずに階段を登って行く。殆ど無人だったが、ハンドシグナルで高城に止まる様指示する。<奴ら>の蠢く音も、呻き声も、誰かの断末魔も聞こえない。ここはクリアだな。天井を指差して上に行く事を無言で伝えると、再び三階を目指して走った。そこでは小室達が新しい武器を手に持っている。小室は肩にイサカを引っ掛け、代わりにベネリM4スーパー90セミオートショットガンを携えていた。大量の銃器と弾を詰め込んでいる所為で重くなっているらしく、少しよろめいていた。

 

「その中、何が入ってる?」

 

「ハンドガンが幾つかと、ライフルっぽい奴が二つ。後は、田島さん達が持ってるサブマシンガンみたいなのも二丁位入ってますけど。残りは使えそうな弾全部です。」

 

「上出来だ。渡せ、俺が運ぶ。」

 

クロスボウを携行する為のストラップでクロスボウを背負うと、片手でバッグを、もう片方の手でシグを持った。さてと、行くとしますかね。階段の方へと足を向けると、外から入り乱れる銃声が聞こえた。

 

「銃声?!」

 

「滝沢さん、早く下に・・・・!」

 

「お前らが行け。地上からじゃ電柱や壁が死角になって撃てない所が幾つかあるんだ。俺は屋上から狙撃する。留置所の方は見なかったから<奴ら>がまだいるかもしれない。もしいたら遠慮無く殺せ。」

 

銃声が聞こえた瞬間から、俺は無意識の内に口角を吊り上げてにんまりと笑っていた。敵襲・・・・・つまり相手は人間。つまりは脳味噌を働かせて策を練れる。つまりは出し抜く甲斐がありそうだと言う事。バッグの中からL96A1とマガジン二つ、そして弾も一掴み持った。グズグズはしていられない。二十発前後と矢が六本でどうにか出来れば良いんだが。

 




次話はまたオリ主を含むSATが暴れます。


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負傷と勝利の代償

今回は結構ダークになります。特に最後が・・・・


階段を四段飛ばしで登って屋上に到着すると、準備を始めた。クロスボウの弦を引いて矢をセット、次にL96A1にマガジンを押し込んでボルトを操作し、第一弾を装填した。だが、問題がある。階段を上っている間に気付いた。ボルトアクションのライフルやクロスボウで複数の標的を狙うのは不可能ではないがかなり難しい。と言うのも、ボルトアクション式は一発撃つごとの動作時間がオートマチックのライフルに比べてかなり遅い。それに一発目を撃ってから別の標的を捕捉、そして再び狙撃するまで平均的に3.5秒の時間を有する。

 

クロスボウともなれば更にそれ以上の時間が必要になるだろう。ドローウェイトによって破壊力、射程距離、リロードタイム、全てが左右される。幾ら腕利きでもメカの仕様を変えるなんて事は出来ない。一瞬の選択が生死を分けるこの世界で、リロードに使うその数秒は貴重な時間だ。だが、無い物強請りをして状況が好転する訳でも無いので、俺は意を決した。

 

「やるか。」

 

バイポッドを展開して欄干の上に乗せると、スコープを覗いて撃って来る場所を探す。サイレンサーやフラッシュハイダーなんて大層なモンを持ってる訳も無いから、撃発で見える閃光を追うのは容易だった。階段を登った際に上がった心拍数を深呼吸で再び下げると、鼻からもう一度大きく息を吸って止めた。スコープを調整し、レティクルを合わせた。幸いほぼ無風である。

 

「一。」

 

発射。M-16ライフルを持っていた男の喉に穴が開通し、そこから噴水の様に血が噴き出した。素早く排莢、リロード、そして補足。まだ息は止まったままだ。幸い俺の存在と位置はまだ気取られてはいない。

 

「二。」

 

第二弾を発射。電柱の影から現れたヒョウ柄のジャンパーを着た男の頭が破裂し、頭蓋骨の破片と脳味噌の欠片を撒き散らしながら倒れた。三、四人目を倒してから、こちらに銃弾が向かい始めた。ようやく俺の存在に気付いたらしい。うつぶせに寝転んで再び銃を構えた。

 

「俺はここにいるぞ。さあ、来い。来い。来い!」

 

そう呟きながら五人目を撃った。苦痛に顔を歪め、腹を抑えて倒れ込むとそのまま踞った。腹を抑えた手が血に染まっている。黒くなっていると言う事は、多分肝臓に当たったな。止めを刺す必要も無くなった。現在マガジン内は残り五発。相変わらず銃声が鳴り止まない。早々に決着をつけなきゃ折角俺達が集めた銃弾が無駄になって振り出しに戻っちまう。スコープを覗いて残りの襲撃者達の姿を探したが、車の陰に隠れてしまったらしく、まともに狙えない。小室達も無駄だ魔を撃ちたくないのもあって引き金を引く手を止めた。訪れた静寂。そして、俺の後ろからドアが叩かれる音がした。瞬時に反応してUSPとシグを引き抜いて振り向いた。鍵をかけられなかったのが残念だったな。気を付けてはいたんだが。

 

「クソッタレ・・・・!!」

 

だが、俺が見たのは銃を持った人間の姿ではなく、<奴ら>の姿だった。何体いるか、正確な数は分からないが、どうやら留置所から出て来た様だ。その証拠に、何人かの食い千切られた手首には血錆で変色した手錠が光っている。噛まれた人間を暴徒と勘違いしてしょっぴいた結果がこの様か。

 

「邪魔だ。」

 

シグをしまってライフルとクロスボウを回収すると、左手のUSPをシングルハンドで構え、戸口に向かって来る<奴ら>を現れる側から射殺して行く。こりゃあそろそろ退散した方が良いかな。散乱した死体が垂れ流す脳味噌や血で滑らない様に階段を降りて、残りは素早く静かに降りて地上を目指した。殆どの<奴ら>は外の銃撃戦の音に反応してそちらに向かっており、俺には背を向けている。その為スムーズに一階に降りる事は出来た。俺の存在は一時的にとは言え無視されている。少し考えてから俺は銃をしまい、右手にクロスボウ、左手にエスパーダ Xtra Largeを構えた。このナイフは小型の鉈とも言えるな。ブレードを開くと、逆手に持って一匹ずつ確実に盆の窪を狙って脳幹を破壊した。襲って来る<奴ら>の腕を屈みながら回避し、出口を目指した。東署の出入り口に到達すると、仕留め損ねた<奴ら>が群がって来る。その時、念の為に持って来ていた手榴弾の存在を思い出した。

 

「地獄でまた後で遊んでやる。」

 

ナイフを口に銜えると手榴弾のピンを抜いて投げ打つ。そして全力で走って小室達の方に向かった。耳を塞いで口を大きく開けた状態で。俺の後ろで凄まじい爆発が起こった。あれで全員は倒せなくても恐らくもう動く事は出来まい。クロスボウとナイフを構えたままハンヴィーの方に戻った。

 

「おーい、無事かー?」

 

「僕はなんとか大丈夫ですけど。滝沢さんは?上から狙撃してましたよね?」

 

「おう。負傷した奴は?」

 

「宮本さんと高城さんは銃弾が掠めた程度ですけど・・・・田島さんと、小室と、それに、それに・・・・ありすちゃんが・・・」

 

平野の青ざめた半泣き顔を見て俺は舌打ちせずにいられなかった。参ったぜ。重傷者が田島に小室に、しかもあのガキとはな。堪える筈だぜ。襲撃者は幸い先程の爆発を見て逃げ去ったらしい。ご丁寧に車と武器を残して。

 

「分かった。落ち着け。ここに来る途中で空き家を見つけた。そこで処置をする。重傷者はあの車の中に運び込め。小室にはコイツらが持ってる銃と弾を全部回収する様に言え。後、静香も呼んで来い。良いな?」

 

「わ、分かりました。」

 

小室は慌ててハンヴィーの方に戻って行った。俺は置いてきぼりのニッサン・スカイラインを見てほくそ笑んだ。コイツはそれなりに旧車だからディーゼルで動くタイプのクラシックカーだ。L96A1からマガジンと薬室に残った弾を排莢すると、それをクロスボウと一緒にトランクに入れた。

 

「おいリカ!ハンヴィーに入ってる荷物とガソリンのポリタンクこっちに持って来てくれ!『新車』が手に入ったからこれでハンヴィーの方にスペースが出来るぞ!」

 

「分かったわ、ちょっと待って!」

 

しばらくしてからガソリンと荷物の一部を担いでリカと毒島がやって来た。

 

「よしと・・・・んじゃ、この銃とクロスボウ、ハンヴィーに戻して来てくれ。荷物は詰めとくから。静香は?」

 

「ありすちゃんと高城と、宮本君の面倒を見ています。孝は平野君が連れて来ていますので・・・・」

 

毒島は隠そうとしているが表情が心配と怒りが入り交じった、何とも言えない様な顔になっていた。右手は刀の柄をしっかり握っており、左手はその右手のうずきを抑えるかの様に手首を握っていた。殺人の衝動を抑えようと必死で努力しているのだろう。小室を撃った張本人が目の前にいたら恐らく骨の髄までバラバラに斬り殺されてしまう。

 

「よしと。リカ、俺が先導するからついて来てくれ。」

 

「オッケー。」

 

助手席には静香、後ろの席には田島と小室、その間にはありすを座らせた。

 

「圭吾、急いで!早くしないとありすちゃんが・・・・ありすちゃんが・・・・・!!」

 

「分かってる。だが、今この場に医療知識を備えて免許を持ってるのは現在お前だけだ。だから落ち着け。お前がパニクッたところでどうにもならん。」

 

空き家に辿り着くと、全員で重傷者達を移動させた。田島は防弾ベストを着ていたお陰で被弾はしていないが、あばらの何本かが何カ所かに渡って罅が入っているか、最悪骨折している。リカは田島の上半身から服を脱がせていた。

 

「小室、しっかりしろよ、小室!」

 

「落ち着け、ゆするな。脇腹なら比較的軽傷だ。内蔵も無傷だし。」

 

小室はと言うと、こう言っちゃ不謹慎だが、大した事は無い。銃弾が脇腹に一発入っただけの事だ。まあ、唯一の問題は弾が中に残ったままだって事だが。穴の大きさからしてライフルだな。傷口は縫合するか、焼灼位しか塞げない。

 

「ありすちゃん、しっかりして!」

 

「クゥ〜ン・・・・クゥ〜ン・・・」

 

だが、一番の重傷者はありすだった。脇腹ではなくどてっ腹が銃弾で貫かれているのだ。 本当に死んでしまったかの様に殆ど動きは無い。ジークはありすの顔を何度も嘗めて起こそうとしている。静香は頻りに手首や首筋に指先を当てて脈を調べていた。

 

定かではないが、使われたのは恐らく一番面倒なホローポイント弾だ。体内に残留する弾は中で膨れて広がり、内部組織を破壊する。俺からすれば殺傷能力はフルメタルジャケットや45ACPとほぼ同列、当たり所が悪ければそれ以上だ。実際に食らった事があるが、あれはやばかった。

 

「っしと。平野。中岡に今から言う物を全部持って来る様に言え。これは時間との勝負だから一度しか言わないからな?消毒液、酒、工具箱、タオル、包帯、携帯コンロ、鍋、そして水。小室の腹ん中にある弾取り出すぞ。」

 

野戦病院のお医者さんごっこをまたやる破目になるとはな。

 




と言う事になりました。いつまでも全員が無傷ってのはあり得ないだろうなと思いましたので、負傷者、重傷者を出しました。

感想、質問、評価、報告、色々お待ちしております。ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございます。


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治せる傷と残る傷

そろそろこのIF編も完結させた方が良いですかね・・・?原作未完の小説なんてずるずると長引かせたらつまらなくなって来るだろうし。そんな事を考えながら書き上げました。ありすちゃんの生死もどうした物か・・・・?


「あぅ、ぐ・・・・!」

 

床に転がした小室は痛みに堪えて歯を食い縛っている。平野は携帯コンロの上に乗った鍋で湯を沸かし、中にナイフやラジオペンチ、そしてマイナスドライバーを入れて消毒していた。中岡は心配そうに小室の顔を覗き込み、流れ落ちる汗をしきりにタオルで拭き取っていた。

 

「さてと。平野。小室にこれ飲ませろ。コイツなら四分の一位で足りると思うから。」

 

魔法瓶に付属しているプラカップにウィスキーを注ぎ込むと、それを平野に渡した。

 

「ゆっくりと飲ませるんだ。慌てて飲ませたら詰まって咳が出る。咳の所為で腹筋が収縮する。それによって息むし、腹の痛みがさらに酷くなるからな。」

 

「はい。小室、ほら。」

 

平野はゆっくりと小室の頭を起こし、震える手で慎重にウィスキーを小室の口の中に流し込んだ。残念ながら麻酔は見つからなかったので酒で感覚を鈍らせる位しかない。

 

「何だ、これ・・・・・まず・・・・」

 

当たり前だろ。コンビニで売ってる様なパチモンなんざ安酒に決まってる。全部飲み干したのを確認すると、再びプラカップにウィスキーを注ぎこみ、それを傷口とその周りに万遍無くかけた。小室は痛みに悲鳴を上げ、背筋を弓なりに反らして身を捩った。

 

「平野、中岡、全力で抑えろ。暴れられたら弾を抜く時に余計に傷口を広げる破目になる。」

 

平野は痛みにのたうち回ろうとする小室の胸を押し下げる。中岡は両足を押さえ込んだ。その間にガーゼで酒と生乾きの血を拭き取り、傷の周りを清潔にした。よしと。これで準備は整った。舌を間違って噛み切らない様に手ぬぐいを小室に噛ませると、マイナスドライバーとペンチを手に取った。

 

「行くぞ?」

 

マイナスドライバーを傷口の中にゆっくりと差し込み、肉の中に埋まった銃弾を穿り返し始めた。だが案の定、小室はバタバタと暴れ回る。中岡も思わず尻餅をついた。クソッタレが。一旦ドライバーを引き抜くと、足をばたつかせない様に太腿の上に座り、再びドライバーを傷口に挿入した。堅い物に当たるのを感じると、何度かテコで弾を押し上げた。そしてペンチでしっかりと弾を掴むと、中から一気に引き抜く。

 

「出来た・・・・・あ〜〜・・・・」

 

平野は肩で息をしながら尻餅をついた。

 

「いや、まだだ。弾を抜いたとは言え、コイツの腹にはまだ風穴が開いたまんまだぞ。それに、ここからまだ血は出るんだ。化膿を防ぐにはこれを塞がなきゃならない。」

 

「焼灼、ですか・・・・?」

 

平野の表情が少し青ざめた。そりゃまあ、間近で野戦病院の治療を見た事はねえだろうからな。

 

「しょうしゃくって、何ですか?」

 

中岡が聞き慣れない単語に首を傾げた。

 

「傷口を焼きごてで塞ぐ、原始的な方法だ。本来なら電気メスかレーザーの方が良いんだが生憎とそんな都合の良い物は転がってない・・・・それ以外に残ってる手段は、まあ、縫合位だ。だが、生憎と針仕事は下手糞でな。焼くしかねえわ。」

 

小室に再びウィスキーを飲ませた。コンロのつまみを捻って再び火を出すと、上に随分前に買った安物のフォールディングナイフを乗せた。刃が赤くなる程の熱を持ち始めると、それを一気に傷口に押し当てた。ジュッと肉が焼ける匂いがして、心の中で三数えてからナイフを離す。

 

「これで良い。傷口に水をかけてやれ。で、包帯を巻いたら、暫く寝かせておけ。二人共、こいつ見ててくれるか?」

 

「はい。それよりありすちゃんの方を・・・・」

 

「ああ。」

 

銃弾が脇や肩、足を掠った宮本や高城、そして防弾ベストのお陰であばらはいくつか罅が入った位で事無きを得た田島は一つの部屋で休息を取り、毒島は三人の世話をしていた。そして、あのガキ・・・・・ありすは二階の別室でリカと静香の手厚い看護を受けていた。ベッドやシーツは血だらけになっている。直接圧迫で止血をしている所を見ると、恐らく弾はもう摘出する事は出来たんだろう。俺が使ったのと同じ様な血まみれの道具がテーブルに置かれていた。

 

「静香、そいつの調子はどうだ?」

 

「脈は弱いけど、まだちゃんとあるわ。後は回復を待つしか無い。でも、出血が酷くて、止血に時間が掛かっちゃったの・・・・輸血したいけど、血液型知らないし・・・・どうしよう・・・・ねえ、圭吾、どうしよう!?」

 

「落ち着け!」

 

涙と鼻水と血で顔がぐしゃぐしゃになった静香の両肩を掴んで抱き寄せた。

 

「今この場にいる本当の医者はお前だけだ。お前がパニクってどうする?落ち着いて、自分の腕を信じろ。な?血液型がO型の奴なら誰にでも輸血出来る。俺らのグループの中にも一人はいる筈だ。」

 

持っていたタオルで静香の顔を拭いてやる。目は赤く泣き腫らしたままだが、目付きは変わった。

 

「それより、お前らと撃ち合ったあいつら。何物なんだ?」

 

「分からないわ。」

 

ゴム手袋を外したリカは、灰皿に乗せたままの葉巻を口に銜えた。

 

「まあ、見た所まともな人種じゃ無さそうだったけど。でも、その内の一人は見覚えがあったわ。広域指定犯罪グループ8803(ハヤブサ)のダニエル・松田。」

 

「何だ、その売れないピン芸人みたいな名前は?けど、ハヤブサか・・・・面倒な相手だなぁ、おい。」

 

この犯罪グループは恐喝、詐欺、銃器、臓器、麻薬、人身の密売、マネーロンダリング、何でもござれの組織だ。外道の風上にも置けない様な屑の集まりだが、頭が回る屑の集まりでもある。下の下から中の下クラスの奴らしか今まで逮捕出来ていない。

 

「あいつらなら海外まで取引先を広げてる筈だ。装備が充実しているのは当然と言えば当然だろうな。屋上から狙撃した時に、横流しされたであろう軍で支給される武器を幾つか持っているのが見えた。M4A1やM16とかを。後は恐らく東南アジア辺りで出回ってる本物の複製品だろうな。最近は銃の値段は馬鹿にならないし。」

 

「うぅ・・・・・」

 

明るい笑顔は見る影もない、血の気が失せた土気色の顔をしたありすが呻き、目を開けた。とりあえずは大丈夫みたいだな。さてと。これでやる事が出来た。

 

「リカ。」

 

「ん?」

 

「少しここを出る。それまでの間、ここ頼めるか?」

 

「・・・・何しに行くか大凡見当はついてるけど、敢えて聞くわ。良いけど、何で?」

 

「なに、ちょっとおいたが過ぎた鳥を撃ち落として羽と翼を毟ろうと思ってな。」

 

「一人で行くつもり?」

 

「現在、万全の状態で動ける残存兵力は俺を加えて五人だ。予備兵は三人。」

 

まあ、中岡はどうか分からないが・・・・あいつには悪いが、いざ戦闘になればあまり役に立つとは思えない。それは兎も角、完全に回復するまで、かなりの時間が掛かる事は間違い無い。それまでの間ここに篭城して物資を集められるだけ集める事こそが急務。明日の命より今日の命ってな。

 

「また一人で勝手に動くつもり?」

 

「正直言うと、お前にも来て欲しいってのが本音だよ。けど、静香を一人放って置く訳にも行かない。だから、頼むわ。」

 

「駄目。今回ばっかりは反対よ。物資を取りに行くなら私でも行けるわ。でも、ハヤブサのメンバーが何人いるか、装備がどんな物か、どこにいるかすらも分からない。そんな不確定要素だらけの状況で闇雲に外に飛び出すなんて馬鹿な真似、アンタの女としても上司としても黙認出来ない。」

 

久々に見た。リカの目に不安の色が過るのを。俺はリカの顔を両手で包むと、額を軽く突き合わせた。

 

「・・・・・分かった。それもそうだな、悪い。田島の様子、見てくるわ。」

 

唇を合わせるだけの軽いキスを交わすと、俺は部屋を出た。確かに、悔しいがその通りだ。俺の闘争本能もホント考え物だな。田島達が休んでいる部屋の扉をノックして足を踏み入れた。

 

「お〜い、田島〜、生きてっかコラー。」

 

「うるせ・・・・いつつつ・・・・」

 

「見立てではどんな感じだ?」

 

「あばらが二、三本折れてて、他に四本幾つか罅が入ってるとさ。暫くは動けないらしい。」

 

「まあ、足や腕じゃなくて良かったな。銃もまともに撃てなくなったら、お前どうするよ?」

 

「・・・・・隊長に守ってもらうさ。」

 

冗談がまた予想の斜め上を行く返事が返って来た。こいつめ。

 

「お前らも大丈夫か?」

 

「私達は平気です。肩と二の腕を銃弾が掠っただけですから。数日で治ります。」

 

「私は左足掠ったから走ったりするのはまだもう少し先だけど、日常生活に支障は無いわ。」

 

まあ、大した怪我じゃなくて良かったぜ。けど・・・・・やっぱ殺しといた方が良いんじゃないかな?

 




恐らくまた主人公が暴れますね。そんなフラグを図らずも立ててしまいましたよ。

感想、質問、評価、報告、色々とお待ちしております。ここまで読んで下さってありがとうございます。ここまで来たからには完結まで絶対に引っ張って行きますので、よろしくお願いします。

m (_ _) m


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夜襲、決行

主人公無双、再びです。今回はちょいネタありです。ではどうぞ。


日光は地平線の向こう側に沈んで行き、夜の闇が訪れた。ようやくありすの容態も落ち着きを取り戻し、静香は緊張の糸が切れて彼女の隣で眠りこけてしまった。リカにああ言われて頭の中ではそれが正しい判断だと分かってはいる。だが、彼女の言葉を何度も反芻してもやはり排除すべきは排除した方が良いと思うと考えてしまう。逡巡した末、俺は夜襲を掛ける事にした。日が暮れる前に警察署や周辺にある薬局やコンビニに行って、物資を集める以外にも俺をハヤブサの残党へと導く手掛かりを探し当てた。余分な地図があったのでそれにアジトと思しき場所を記す。

 

「もう少しか・・・・・」

 

全員が寝静まるのを待ってから出た、と都合良くは行かない。見張りがいる。一人は高城、もう一人は運の悪い事にリカだった。一応必要な分だけ武器を持った。残りは俺が死ぬのを想定して残った皆に役立ててもらおう。準備はこれで出来た。スケボーは夜では危ないから、代わりにバイクを使う事にした。幸いガレージに一台のバルカン400クラシックが停めてあったのだ。燃料も度々EMPで廃車となった車のタンクから回収していた為、満タンである。

 

「やっぱり行くつもりなのね?」

 

「ああ。無理を承知で頼んでる。行かせてくれ。奴らがいる大まかな位置情報は掴んだ。移動手段もあるしな。」

だがリカは両腕を胸の前で組んで俺の前に立ち塞がる。

 

「でも、手持ちの銃弾だけで全員殺せるって保証は無いわ。それに、戻って来る時はどうするの?<奴ら>が銃声を聞きつけて一斉に圭吾達がいる所に群がってくるわ。全員倒し終わって体力も装備も消耗している所で襲われたら、終わりよ?」

 

「大丈夫だ。何もハヤブサの連中と真っ向からやり合うなんて少しも思ってない。そんな事して生き残れる確率は俺が神を信じる確率と同じか、それよりも低い。まあ、仮に死にはしなくとも、只では済まないだろうな。」

 

「じゃあどうするの?」

 

リカの声に苛立ちと必死さが見て取れる。

 

「トラックに残して置いた虎の子があるだろ?パンツァーファウストIIIが。後、グレネードランチャーもある。最悪俺自身の手で一人ずつ丁寧に皆殺しって事は出来なくても、あれを使って建物自体をぶっ壊せば片はつく。で、止めにパンツァーファウストをぶち込む。爆発で死にはしなくても、音で<奴ら>が寄って来るし、助かっていても噛まれて終わりだ。バイクで移動すりゃ<奴ら>よりは速い。脱出のルートも幾つか見つけたし。」

 

頭を高速で回転させながらプランを立てて行き、それを披露して行く。傭兵時代、当然だが作戦が必ずしもその通りに行く訳では無いと言う事を思い知った。状況に応じて戦法を一々切り替えなければならない事の方が多かった。手間だったが、生き残る為に嫌でも覚えた。

 

「・・・・・本当に大丈夫なのね?」

 

「リカよぉ、俺が嘘をお前に言った覚えあるか?まあ、確かに真実を全て包み隠さず話さなかった事は多少あるだろうが、それでも嘘を言った事は無いだろうが。」

 

そう。俺は前世でも今世でも、老若男女問わず、本当に信頼に足ると判断した奴に対して嘘をついたり騙したりした事は無い。このチームの皆にも、俺は何一つ偽っていない。

 

「確かに。悔しいけど、認めざるを得ないわ。このチームの中で一番頭の回転が速いのは滝沢さんだって。」

 

高城が双眼鏡片手にフォローしてくれる。嬉しい事を言ってくれるね。だが、やはり俺が単騎決戦をするのはリカ同様気に食わないのか、顰めっ面は崩さない。

 

「けど、そんなVIPが今この場で離れるのは最良の選択とは思えないわ。特に今は。あのガキンチョも死にかけてるし、田島さんは満足に動ける状態じゃないし、小室も撃たれた。今まともに戦える『一軍』メンバーは片手で数えられる程度なのよ?」

 

それもまた正しい。万全の状態で戦力になるメンバーは、リカ、毒島、平野、そして俺だ。少し無茶をすれば宮本や高城も戦えるだろうが、手負いの男と手負いの女は根本的に違う。故に無茶をさせるのは気が引ける。

 

「確かにな。だが、お前らは俺やリカ、田島が不在の間お前達だけで生き延びて来た。俺の助け無しで、ありすや静香を今まで守り抜いて来た。暫くの間俺がいなくても充分生きて行けるだろうが?まあ、俺の能力をそこまで買ってくれるのはありがたいが、俺は不可欠な人材じゃ無いだろう?。それに高城、お前だって十分に頭の回転が速い。ある意味お前の知識で小室達は生かされて来たんだからな。」

 

装備を改めて確認し直すと、再び二人に向き直る。

 

「出来るだけすぐに片をつける。だから行かせてくれ。」

 

「どうせ止めても行くんだから、勝手にしなさい。でも、条件が幾つか。」

 

「俺に出来る範囲の事なら何でも。」

 

「一つ、当然死なない事。もう一つは、」

 

高城に聞こえない様に俺の耳元でこう囁いて来た。戻って来たら、私の気が済むまで一杯楽しませて欲しい、と。その意味が分からない程俺も野暮な男ではない。益々早急に片をつけなければならなくなったぜ。

 

「分かった。あ、後、多少の怪我は勘弁な。防弾ベスト付けてるとは言え流石に無傷はあり得ないから。」

 

さてと。行くか。ガレージのヘルメットを被ったが、持ち主は頭が小さめだったのか俺の頭が締め付けられる。ノーヘルは危険なのだが、この際仕方無い。現在俺が持って行く銃は、以下の通り。

 

H&K USP

 

SIG Sauer P226 X6 LW

 

コルト・ディテクティブ

 

モスバーグM590

 

ダネルMGL

 

パンツァーファウストIII

 

手榴弾・フラッシュグレネード

 

モスバーグとMGLは荷台に荷掛けネットで括り付け、パンツァーファウストは背負う事にした。ビニール紐しか無かったのが不安だが、まあ、どうにかなるだろう。一度撃てば只の鉄の塊になるんだし。そう言う使い方をする様な奴はいないと思うが いざとなりゃ鈍器にもなる。何度も見て記憶した地図のルートを頭の中で確認しながら、俺は出発した。

 

「一番可能性が高い場所ってのがここなんだよなあ。」

 

停車したのは何の変哲も無い事務所があるビルの前。その手前にある駐車場から数メートル離れた所でバイクを置いて徒歩で移動した。何の変哲も無いと言っといてなんだが、実際はハヤブサの集会や闇金などで頻繁に使用されている建物である。灯りはついていない為、中に何人いるか、元々人がその中にいるか否かも確認は出来ない。中に入って確認する以外は。暫く外で見ていたが、暗い窓から蝋燭らしき微かな光が灯るのを見た。

 

「当たり、かな?」

 

暗視や赤外線ゴーグルが無いのが残念だ。だがそう思った矢先、建物の方からマズルフラッシュが見え、くぐもった銃声が聞こえた。

 

訂正。当たりだな。

 

ニヤリと笑う。今の俺は恐らくとてつもなくエグい顔をしているだろう。月明かりが雲に遮られるのを合図に、俺はバイクを押しながら影から影へと移動し、建物に近付いた。茂みの中に身を潜め、パンツァーファウストを構えた。

 

「Time to go♪」

 

バシュウッと弾頭が勢い良く放たれ、丁度建物の中間———五階建ての建物なので三階の現在見ている側面のほぼど真ん中———に命中した。凄まじい爆発と共に窓ガラスやらコンクリートの欠片がぱらぱらと落ちて来る。

 

「Game time, boys.」

 

傭兵時代、作戦開始前に部下や別働隊の奴らに言った台詞を口にした。亡霊となったあいつらの分も生きる。即座にパンツァーファウストを投げ捨て、ショットガンに持ち替え、ライトを点灯、ナイフのシースを外し、着剣。フォアエンドを一往復し、準備完了。先程の爆発で敵の大部分は音を聞きつけ、そこに集結している。身を低く落とし、足音を殺しながら素早く階段を登って行く。段々と怒号や悲鳴、指示を飛ばすドスの効いた野太い声が近付いて来た。爆発でドアが蝶番から引き剥がされた部屋だ。心の中で三つ数えると、中に踏み込み、至極無感動に引き金を引いた。耳を劈く撃発音と共に、対人用の12ゲージダブルオーバックの散弾が一人目の胸と顔を穿ち、倒れ込むと童子に後ろにある戸棚に激突して崩れ落ちて事切れた。

 

「なん」

 

口を開いて言葉を形作りながら惜しげも無く刺青を晒したスキンヘッドのチンピラがマカロフを構えようとした。だが、俺は大股で前進しながらも既に排莢操作を終えて次弾を装填しており、ソイツの顔に向けて散弾を発射した。その偏った狙いの所為で顔面から後頭部まで拳大の穴が開通しており、脳や頭蓋骨の破片が割れた窓ガラスを彩った。射撃場の人型の的の様に仰向けに吹き飛ぶ。三人目はパニクって碌に狙いもつけずにリボルバーの全弾を撃ち尽くして丸腰になってしまう。

 

「や、やめ・・・たすけ」

 

ソイツの股間を蹴り上げ、踞った所でがら空きになった後頭部に銃剣を突き立て、沈黙させる。これで三人。恐らくまだいるだろう。

 

「さあ来い。Hunting season はまだ始まったばかりだぞ。足掻け足掻け。」

 

空薬莢となった二発目のシェルをエジェクト。血に塗れたナイフを眺めながらそう呟いた。そして、敵に自分の位置を知らせる様に、口笛を吹いた。カール・マリア・フォン・ウェイバー、『魔弾の射手』この建物は森、愚かな狩人のカスパール達はあいつら。そしてこの俺が、魔王ザミエル。俺の仲間を弄んだ罪、その命で償え。

 

「さあ、来い。谷底にその屍を投げ落としてやる。」

 

魔弾の射手のラストのカスパールの様にな。

 

更に迫る足音。破壊されたガラスが踏みしめられる。さて。全滅するのは問題無いが、俺は色々な物と勝負する事になる。一つはあいつら、二つは時間、三つは弾の数、四つは銃撃戦の音に反応して引き寄せられる<奴ら>の群れ。一番厄介な敵は時間だな。




いやー、この作品も投稿し続けはや五ヶ月。長い様な短い様な期間、ここまで読んで下さったユーザーの皆々様、本当にありがとうございます。この戦闘を終わらせて、オリ主が帰還した所でそろそろ締めくくりたいと思っておりますが、如何でしょうか?

お返事お待ちしておりま〜す。


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Win Some, Lose Some

いよいよですが、これで最終回となります。長かったですね・・・・今まで沢山の応援ありがとうございます。


一度立ち止まり、足音を確認する。耳栓をしているお陰で、着用していない場合に発生する突発的な難聴で聴力を犯される事も無い。入り乱れる足音は三つ、いや二つか。ショットガンを収納し、代わりにUSPを抜いた。サプレッサーを装着し、フラッシュライトとレーザーの電源を入れる。あいつらなら懐中電灯位は持っているだろうが、いざ遭遇した時は十中八九タクティカルアドバンテージはこちらにある。

 

片手で対応出来る俺に対してあいつらは片手は銃、もう片手は懐中電灯と、両手が塞がってしまう。もう片方の手にショットガンから外した銃剣を構えた。対して、俺は片手にUSP、もう片方の手にナイフ。遠近どちらも対応出来る状態だ。

 

「どこにいやがる!?」

 

「探せぇ!出て来いやぶっ殺したるぞ、ワレェ!」

 

うるさい奴らだ。そもそも出て来いと言われて出て来る様な馬鹿が存在すると思うのか、常識的に考えて?ボロボロになったカーテンの中に割れたガラスの破片を入れて床中に散撒き、相手が近付けばすぐに分かる様に細工した。

 

ジャリッとガラスを踏みしめる足音。

 

お、更に二人来た。一人は普通に歩いており、もう一人は足が悪いらしく、足音の感覚が不規則で、僅かに引き摺っている音が聞こえる。位置を知られてはマズいのでライトだけを消し、人影に向かって銃口を向けた。レーザーポインターがハッキリと人型の輪郭に当たるのが見える。リズミカルにタタン、タタンと、一人に二発ずつ弾を食らわせてから銃を奪った。一丁はベレッタ、もう一人はコルト・ガバメントを持っていた。と言っても粗悪な中国製のコピーだが。弾だけ貰っとこ。だが、その前に両方の銃で数発ずつ撃った。サイレンサーはついていないから当然銃声(と言う名の撒き餌)は響くし、これで更に敵が寄って来る。死体は隠れた部屋に移動させた。

 

「移動、移動っと。」

 

仮に全員が固まってやって来たら・・・・・考えただけでゾクゾクする。手榴弾で木っ端微塵に吹き飛ばせるが、全員がやって来ると言うのは考え難い。だが、念の為に持って来た手榴弾二つを用意し、更に迫って来る足音が止まって餌に食い付いて来るのを待った。

 

「おい、血ぃや!この部屋に続いとる!」

 

「いてこましたらぁ!!」

 

「全員こっちだ!さっさと動け!もたもたするな!!」

 

いや、訂正しよう。敵は思ったより馬鹿だったらしい。かなりの足音が近付いて来るのが聞こえる。恐らく引き摺った時の結婚を辿っているのだろう。まず一つ目。ピンを抜き、数秒待ってから手榴弾をアンダーハンドで投げ込んだ。戸口の角にヒット、跳ね返り、室内に転がり込んだ。耳を塞ぎ、口を開く。

 

3、2、1・・・・・爆破!!!!

 

さあて、とりあえず室内を調べますかね。むせ返る様な人肉と髪の毛が焼ける悪臭が立込める部屋に足を踏み入れ、邪魔な死体を蹴って転がす。殆どの死体は主に手や腕そのものが欠損していた。恐らく爆発の際に銃弾が暴発したんだろうな。だから銃は本場の物が良いんだよ。だが、僅かにその中の一人がうめき声を上げた。丁度良い。数を知るのには丁度良いカモが手に入った。

 

「よう。しぶといな。これでお宅らのお仲間は十人以上殺した。後何人いる?」

 

だが呻くだけで言葉を形作っていない。

 

「何人いるかと聞いてるんだ。答えろ。」

 

「ろ、く・・・・ぅ・・・」

 

六人か。まあ、大した数じゃなくて良かった。銃剣で左から右に寿司職人が魚をさばく様に瀕死になったソイツの喉笛を左から右に一直線に掻き切った。回収出来る銃弾は回収し、簡易キッチンとトイレに向かった。用を足すと言うのもあるが、清掃の際に使われる石鹸や洗剤、油をくすねると言う目的もある。それをワザと大きな音を立てて下の階に下りて行きながら万遍無く階段に撒き散らした。これで運良くあいつらが滑れば捻挫か骨折をする。仮にそうはならなくても当分は痛みの所為で碌に動く事は出来ないだろう。

 

上にまだ敵がいるのを想定すると、これに掛かる奴はかなり出る。焦って自分達を襲って来た正体不明のハンターを探すのに躍起になり、恐怖と怒りで冷静な判断が出来なくなって引っ掛かる。下から来る奴らもそうだ。まあ、いないとは思うがな。パンツァーファウストの爆発で撹乱した時に建物にいる全勢力の殆どが命中した一角に集結した筈だ。階段を下りる途中、二階で止まった。窓を開き、外に飛び出した。着地の衝撃が足に響かない様に受け身を取って落下のエネルギーを殺し、立ち上がった。全員を相手にする必要は無い。相手は俺の名前どころか顔すら知らないのだから。

 

「勝ったな。」

 

俺はほくそ笑んでそう独りごちる。だがその矢先、聞き慣れた不特定多数の呻き声が耳に飛び込んで来た。予想通りやって来た<奴ら>の大群だ。グズグズしてはいられない。バイクの方へと走り出した。 駐車場は元々あまり大きくない上、出入り口は同じ方向にしか無い。走りながらMGLを発射。前方の<奴ら>が複数爆発で吹き飛ぶ。血飛沫の中を俺は駆け抜けた。爆発で恐らく生き残りの六人のチンピラも何事かと覗きに来るだろう。後ろから銃弾を食らったら暫くとは言え今みたいに動く事は出来なくなる。そうなれば俺は終わりだ。足を動かすペースを上げ、歩幅を更に広げる。

 

ようやくバイクに辿り着き、すぐさまエンジンをスタートさせる。ヘッドライトが点灯し、前方を明るく照らし出した。MGLを荷台に固定し、左手にUSPを構えた。ドライブバイ・シューティングは利き手じゃない方であっても当てるのは存外難しいが、やるしか無い。右手でアクセルを捻り、発車。去り際に駐車場の中にフラッシュグレネードを投げ込んだ。音と光で<奴ら>があの建物に寄って来る確率を更に高める為だ。

 

「勝ったぞ・・・・俺の勝ちだ。」

 

そう。俺は勝ったのだ。時間、銃弾、敵の人数、<奴ら>。様々な物が勝利を掴む事を困難として来たが、俺は勝った。全てのオッズに打ち勝ったのだ。そして、俺は笑った。傲岸に、不遜に笑った。前方から迫って来るバイクでは避け切れない<奴ら>を何体か始末しながらもそれは続いた。

 

 

 

 

運転する事数十分、ようやく俺達が一時的な塒にしている建物に辿り着いた。

 

「帰ったぞ。ちゃんと無傷だ。相手も恐らくあれで全滅した。歯応えが無さ過ぎたぜ、所詮は素人だったよ。いやー大漁大漁。弾薬も銃もどっさりだぜ。おーい、お前ら。」

 

だが、家の中は静まり返っていた。おいおい、まさか俺が出てる間にトンズラこいたんじゃねえだろうな?念の為に武装は解かずに中に入った。一階には誰もいない。

 

「上か。」

 

だが、代わりに二階が少し騒がしい。まさか・・・・・俺はすぐに階段を駆け上がり、ありすが安静にしている部屋の扉を開いた。

 

「おい・・・・!」

 

部屋には全員が集結していた。ありすに次いで重傷の田島や小室でさえ平野と中岡の肩を借りてその場にいた。中岡や学園の女子は互いの胸に顔を埋めて声を殺して泣いていた。中心にあるベッドからも、啜り泣く声が。俺が聞き違える筈も無い。静香の嗚咽だった。泣き腫らして真っ赤になった目は絶望一色に染まっている。

 

ありすは、まるで眠っているかの様に穏やかな死に顔をしていた。先程まで体内に埋まった銃弾の痛みに苦しんでいた様子はけら程も無い。眠る様に既に息を引き取ったであろうその幼子の屍をまるで我が子の様に胸に抱いた静香の肩に手を置く。

 

「静香。」

 

だが、二の句がつげない。俺はこんな時に何を言えば良いか分からない。俺は前世も今世も死神とは今では合計五十二年の長い付き合いだ。人が死ぬなんて当たり前の事にしか思っていない。静香も医者であるからそれを十分に理解して入るが、やはり受け入れられないのだろう。自然の摂理と、その理不尽さを。

 

「やだ・・・やだよぉ・・・!!圭吾ぉ・・・・私・・・・私ぃ・・・・!!」

 

俺を見てしゃくり上げる静香の頭に手を置いた。やっぱり駄目だったみたいだな。俺は久し振りに葉巻を一本取りだして着火し、口に銜えた。

 

「・・・・墓、建てるぞ。」

 

こう言っちゃ悪いが、至極当然、大人でも銃弾なんて当たる所に当てりゃ死んじまう。設備が整った病院で弾を摘出した後でもその可能性は消えないのだ。それが年端も行かない小学生のガキとなりゃ尚更生存率は低くなる。大の大人の免疫機能や回復力と比べると子供の方が格段に劣るからだ。

 

 

 

 

学生組の奴らと静香は終始嗚咽を飲み、涙を流していた。全員で広い中庭に穴を堀り、青白く、冷たくなったありすを毛布に包み、枕やクッション、を入れてその穴の中に寝かせた。それぞれがお別れの言葉をしゃくり上げながら言い終わると、穴を埋めてからそこに花を添えた。

 

「やっぱり、死と言う絶対的なオッズには誰も勝てない、か。」

 

「圭吾。あの子達や静香には悪いけど、明日の朝、ここ出るよ。」

 

リカは落ち着き払った声でそう言ったが、握り拳が震えているのが見えた。少なからず怒りと悔しさを感じているのがその拳一つからありありと伝わって来る。俺はその手を握ってやった。

 

「ああ。いつまでもここにいられる訳じゃないしな。傷を舐められる時間も今夜ぐらいしかない。、死とは枷・・・・錘だ。引き摺っていたらいつかその重みに堪え切れずに死ぬ。」

 

俺は死と言う事象に馴れ過ぎている。傭兵として世界を渡り歩いて、俺は常にそれを見て来た。硝煙と血、腐食する肉、金の為なら何でもする人間の屑の連中が跋扈する戦場こそが俺の『日常』だから。一般人の日常は俺にとって『非日常』であり、緩慢でしかない。戦いの中でしか生きられないと俺は悟った。世界が<奴ら>で溢れたその瞬間から、俺の『日常』が戻って来た。ルールはただ一つ:生き残れ。

 

「さてと。リカ、静香の奴慰めに行くぞ。あの不安定なまんまじゃ心配だ。」

 

後数時間で、朝日が・・・・・血みどろの日常が戻って来る。俺は墓を一瞥してから背を向けた。

 

無秩序と言う名の新世界秩序の一日が終わり、また始まる。

 

俺の名は滝沢圭吾。元SAT隊員にして、元傭兵だ。

 




これでまた一つ完結しました。長かった・・・・・・

今まで沢山のコメント、高評価、そして応援をありがとうございました。ここまで書けたのも、偏に読者の皆様の声援があってこそです。本当にありがとうございました。これで未完結のままで残っている作品も、残す所後一つとなりました。これからも色々と頑張って書いて行きますので、どうぞよろしくお願いします。


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