鉄華団のメンバーが1人増えました《完結》 (アグニ会幹部)
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おまけコーナー説明
アグニカポイントシステム 概要


しばらく原作通りの展開なので、簡単なおまけコーナーを付けてみます。
シリアス崩壊注意。


アグニカポイントシステムとは、アグニカポイントを一定数獲得する事で、様々な物、サービスと交換出来るポイントシステムである。

アグニカポイントは、特定の行動を取る事で入手出来る。

入手回数に制限は無く、何度でも同じ行動で同じ分のアグニカポイントを入手出来る。

交換制の為、物を貰ったりサービスを受けたりすると、その分のアグニカポイントは失われる。

 

 

 

 

アグニカポイント(AP)獲得方法

・アグニカ叙事詩を1P読む→1AP

・MSに1回乗る→10AP

・阿頼耶織システムの付いたMSに1回乗る→30AP

・ガンダム・フレームのMSに1回乗る→50AP

・アグニカ叙事詩を1冊読み終える→100AP

・ギャラルホルンに入隊する→110AP

・セブンスターズになる→120AP

・アグニ会に入る→200AP

・阿頼耶織手術を1回受ける→300AP

・剣の二刀流で戦う→500AP

・MSと一体化する→1,000AP

・MAを1機撃墜する→2,000AP

 

 

※アグニ会

彼の伝説を後世に伝える為設立された…と言う結成経緯を掲げるアグニカファンクラブ。

その実態は、アグニカを盲信する過激なアグニカファンの集った過激派アグニカ団体である。

月に一度、会員全員が一同に会してアグニカポイントシステムの進展状況などを確認しあう。

その時、聖典(アグニカ叙事詩)を全員で音読する様は、どう見ても狂気としか思えない。

現会長はマクギリス・ファリド。

終身名誉会長はアグニカ・カイエルだが、勝手に終身名誉会長にされたのにはアグニカ本人も苦笑い。

と言うか、関わる気が毛頭無かった様子。

「アグニ会には関わらない、いや絶対に関わりたくない」は、アグニカが残した名台詞の1つとされている。

 

 

 

 

物、サービス一覧

200APで

・「アグニカペンセット」×1と交換可能

300APで

・「アグニカ学習帳」×1と交換可能

400APで

・「アグニカ叙事詩」×1と交換可能

500APで

・「バエル宮殿」に1回入れる

600APで

・「アグニカテーブル」×1と交換可能

700APで

・「HG ガンダム・バエル」×1と交換可能

800APで

・「バエルポスター」×1と交換可能

・「アグニカポスター」×1と交換可能

900APで

・「1/100フルメカニクス ガンダム・バエル」×1と交換可能

1,000APで

・「日めくりアグニカレンダー」×1と交換可能

2,000APで

・「アグニカなりきりセット」×1と交換可能

3,000APで

・「アグニカハウス」×1と交換可能

4,000APで

・「バエルビッグタペストリー」×1と交換可能

・「アグニカビッグタペストリー」×1と交換可能

5,000APで

・「ASW-G-01 ガンダム・バエル」に1回乗れる

10,000APで

・アグニを感じてバエれる

20,000APで

・君もアグニカになれる

∞APで

・君がアグニカ・カイエルだ

 

 

※アグニカペンセット

アグニカが愛用していたペンセットシリーズと同じペンセット。

黒、赤、青の3色セット。

 

※アグニカ学習帳

アグニ会が勝手に作った学習帳。

表紙にはバエルが、裏表紙にはアグニカが描かれている。

 

※アグニカ叙事詩

ギャラルホルンが正式出版しているアグニカ・カイエルの英雄譚。

厄祭戦の様子とその終結、それ以降のギャラルホルン設立までがアグニカ・カイエルの視点から描かれている。

全世界での発行部数は10億部を突破しており、アグニカ関連の商品の中で唯一、アグニカ本人が監修した。

この本の出版に際し、アグニカは「誰得だ?」と言う台詞を残している。

「残念、皆得でした」は、当時のセブンスターズ当主達が声を揃えてアグニカに返したとされる台詞である。

 

※バエル宮殿

ガンダム・バエルが安置されている、ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」にある宮殿。

「バエル宮殿」は、アグニカが適当に呼んでた結果正式名称になってしまったとか。

 

※アグニカテーブル

アグニ会が勝手に作った机。

アグニカの部屋に有った机と同じ机に、バエルとアグニカが描かれている。

 

※バエルポスター

アグニ会が勝手に作ったポスター。

B2サイズのポスターに、バエルが描かれている。

アグニカも1枚貰って行ったとか。

 

※アグニカポスター

アグニ会が勝手に作ったポスター。

B2サイズのポスターに、アグニカが描かれている。

 

※日めくりアグニカレンダー

アグニ会が勝手に作った日めくりカレンダー。

全365Pで、1Pに1つアグニカの名台詞が書かれている。

中には普通の台詞も含まれているらしいが、アグニ会初代会長は「アグニカの言葉は全て名言」と言った。

 

※アグニカなりきりセット

アグニ会が勝手に作ったなりきりセット。

アグニカの軍服のレプリカ、アグニカの特徴的な髪を再現したカツラ、バエル・ソードのレプリカが揃った文句無しのアグニカなりきりセット。

ただし、階級証は付いていない。

アグニカ本人がノリでこれを使った事があり、その時使われたアグニカなりきりセットはアグニ会永遠の秘宝とされている。

 

※アグニカハウス

彼の生家をモチーフにして、アグニ会が勝手に設計した一軒家。

門にはバエルとアグニカの銅像、中にはバエルとアグニカの絵が全面に貼り付けられており、アグニカファンならば感激のあまり卒倒モノの家。

本物のアグニカハウス(アグニカの生家)は、とっくに潰れたらしい。

アグニカは「バカじゃねェの」と言ったが、アグニ会会員にとってはただのご褒美である。

 

※バエルビッグタペストリー

アグニ会が勝手に作った超巨大タペストリー。

バエルの絵が全面にプリントされており、その大きさは10m×10mである。

 

※アグニカビッグタペストリー

アグニ会が勝手に作った超巨大タペストリー。

アグニカの絵が全面にプリントされており、その大きさは10m×10mである。

 

※∞AP

どうすれば達成出来るかが誰にも分からない、誰も達成した事の無いアグニカポイントシステムの到達点。

達成すればアグニカ・カイエルそのものになれると言う逸話のみが、アグニ会に伝えられている。




…酷いな(確信)
と言う事で、蛇足コーナーの説明でした。


勝手に色々なアイテムとかを考えました。
アグニ会の設定とか、特にアグニカの伝記について。

公式で名前が明言されてなかったと思うので、ギルガメシュ叙事詩みたいな感じで「アグニカ叙事詩」と命名。
制作に関する経緯や内容、発行部数なども全て公式の設定ではない事をご理解下さい。

「バエル宮殿」は、鉄華団放送局で三日月役の河西健吾さんがそう呼んでいた為そのまま使いました。
公式かは不明です。


なお、4話は夜に更新します。
しばしお待ちの程をm(__)m


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オリジナル設定まとめ
本作オリジナル設定集


本作でのオリジナル設定を纏めました。
各話の後書きで記載したモノを、全て記載します。
こちらには、オリジナルのモビルスーツのデータを。

※一部本編のネタバレを含みますので、ご注意下さい。


【オリジナルモビルスーツ】

・オリジナルのMS、またMSに関するオリジナル設定や設定改変について纏めます。

 

 

《オリジナル設定》

誕生経緯について。

ガンダム・フレームは、MAを倒す為スリーヤ・カイエル(後述)らの手で作られました。

原作では「MSがMAを倒す為作られた」とされていましたが、本作では「MSは元々作業機械として作られ、それが戦争に利用された物。MAを倒す為に作られたのは、ガンダム・フレームとヴァルキュリア・フレームのみ」となります。

 

ナノラミネートアーマーの誕生経緯について。

この硬い装甲の誕生経緯は語られてなかったと思うので、元々ガンダム用に造られた設定になりました。

それが他のフレームにも流用された、と言う事で。

 

ガンダムの意志について。

ガンダム・フレームには、マジモンの悪魔が宿っていると言うオリジナル設定です。

アニメを見ていた時にバルバトスが三日月に意志を持って呼応していたように感じまして、そこから出て来た設定となります。

 

阿頼耶織のリミッターについて。

原作のハシュマル戦で、バルバトスとグシオンは動きが鈍くなっています。

これは阿頼耶織からの情報を制限するシステムの安全装置と出力を全開にしたい機体がぶつかった結果だったのですが、ガンダム元々のコクピットには安全装置が付いていないと言う設定です。

だから、動きが鈍くなる所か活発化してMAにも追い付けるようになります。

 

ヴァルキュリア・フレームについて。

ヴァルキュリア・フレームはスリーヤが建造した、これはオリジナル設定です。

 

 

《オリジナルMS》

EB-06tg テルギア・グレイズ

全高:18.0m

本体重量:35.2t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:グレイズ・フレーム

武装:ライフル×1

   バトルアックス×2

概要

コーラル機を強奪し、塗り替えたアラズ専用の機体。

2本のバトルアックスを装備する他、百里のスラスターを流用した追加スラスターを取り付けられた。

百里の肩にくっついてる部分を取り外し、百里の背中についてる部分をそのまま持って来たような外観を持つが、裏側にバーニアが増設されている。

更には縦に3分割され、それぞれが独立して動く。

このスラスターはエイハブ・リアクターに直結されており、バルバトスと同等の機動力を誇る。

また、全身に姿勢制御用バーニアを搭載する。

名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王の執筆した魔術書である「レメゲトン」第二部の題名「テルギア・ゲーティカ」より取られている。

エドモントンでの戦闘で、ガンダム・ヴィネの鎌に貫かれて大破した。

 

ASW-G-09 ガンダム・パイモン

全高:19.1m

本体重量:31.7t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:クサナギノツルギ×1

概要

カロム・イシューの専用機。

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されていた、イシュー家に伝わるガンダム・フレーム。

紅白に染め上げられた機体色は、日本かぶれなカロムの意向によるモノ。

カロム曰く、「源平合わされば最強」。

300年の時を越え、カルタ・イシューにより再び戦線に投入された。

専用武器として「クサナギノツルギ」を持つが、それ以外の武装は一切装備していない潔さを誇る。

クサナギノツルギは名前の通り日本刀であり、バエル・ソードと同じ特殊超合金で錬成されている黄金の太刀。

故に決して折れる事は無く、あらゆる物を斬り裂くとされる。

普段は鞘に納められ、左側の腰に接続されている。

大型の飛行用ユニットを装備しており、地上では高い敏捷性を、宇宙では高い機動性を獲得している。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第九位の悪魔「パイモン」から。

パイモンは空の軍勢に属し、200もの軍を率いる地獄の王だとされる。

 

ASW-G-45 ガンダム・ヴィネ

全高:18.7m

本体重量:28.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:エインヘリヤル×1

   ユグドラシル×1

概要

リック・バクラザンの専用機。

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されていた、バクラザン家に伝わるガンダム・フレーム。

青系の色に纏められており、機体カラーからは爽やかな印象を受ける。

リック曰く「水は美しい、俺は水になりたい」。

300年後には、子孫であるディジェ・バクラザンが運用している。

専用武器として、「エインヘリヤル」と「ユグドラシル」を持つ。

エインヘリヤルは全長20m、刃渡り13m、鎖の長さ100mの巨大な鎖鎌である。

ユグドラシルは後述のサブアームに接続された電磁砲だが、あくまで緊急の武装である為ほとんど使用されない。

本体は両腕が長めに作られており、腕に巨大な鎖鎌を振り回す為のバーニアが多いのが特徴。

また、巨大武装を扱う為の巨大なサブアームがバックパックに取り付けられている。

こちらはとてもフレキシブルに稼働し、かなり自由度が高い。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十五位の悪魔「ヴィネ(ヴィネアとも)」から。

ヴィネは36の軍団を率いる地獄の伯爵にして、偉大なる王だとされる。

 

V08-1228p グリム・パウリナ

全高:18.5m

本体重量:29.2t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・ブレード×2

   ヴァルキュリア・ライフル×1

概要

エドモントンの戦いの後、モンターク商会から鉄華団が譲り受けた「グリムゲルデ」を改造した機体。

白と青のパーソナルカラーに塗り替えられ、シールドは取り外されている。

代わりに、シールドに付けられていたヴァルキュリア・ブレード懸架用ジョイントは腰に移植された。

予め回収していたシュヴァルベ・グレイズのバックパックが取り付けられており、大気圏内でも飛行出来る程に機動性が高い。

その他、シュヴァルベの各部に有る姿勢制御用バーニアも移植されている。

また、コクピットブロックは阿頼耶織に対応した物に変えられている。

ただし、ヴァルキュリア・ブレードの軽さからの扱い辛さと機体の行き過ぎた機動性から操作は非常に難しい。

名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王が執筆した魔術書「レメゲトン」第三部の題名「パウリナ」から取られている。

火星での「天使長」ハシュマルとの戦闘で、大破した。

 

ASW-G-01 ガンダム・バエル

全高:18.0m

本体重量:30.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:バエル・ソード×2

   ヴァルキュリア・ブレード×2

   電磁砲×2

   アガレス・ナイフ×1

   アガレス・ライフル×1

概要

アグニカ・カイエルの専用機。

厄祭戦後、ギャラルホルンの権力を象徴するMSとして動態保存されていた。

アラズ・アフトル…もといアグニカ・カイエルの手でギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の地下にある「バエル宮殿」より強奪…もとい奪還。

専用武器「バエル・ソード」と、グリム・パウリナより継続使用の「ヴァルキュリア・ブレード」を使う。

バエル・ソードとヴァルキュリア・ブレードは同じ特殊超硬合金で錬成されており、決して折れないとされる。

電磁砲は補助装備としてそれぞれバックパックの左右に取り付けられているが、使用される事は殆ど無い。

また、アグニカが命を賭して戦う際には「アガレス・ナイフ」と「アガレス・ライフル」が装備される。

2機のエイハブ・リアクターと直結された超高出力のスラスターを持ち、大気圏内でも自由に飛び回る機動力を誇る。

名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第一位の悪魔「バエル(バアルとも)」から。

バエルは東方を支配し、66の軍団を率いる大いなる王だとされる。

 

ASW-G-02 ガンダム・アガレス

全高:18.0m

本体重量:30.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:アガレス・ライフル×2

   アガレス・ナイフ×2

   電磁砲×2

概要

スヴァハ・クニギンの専用機。

専用武器「アガレス・ライフル」と「アガレス・ナイフ」を2つずつ持つ。

武器と色こそ違うが、本体の構造はバエルと同一。

バエルの青い部分が、アガレスではピンクになっている。

また、目の色はバエルがピンク or 赤、アガレスが水色 or 赤。

バエルと同じく2機のエイハブ・リアクターに直結された超高出力のスラスターを持ち、大気圏内でも自由に飛び回る機動力を持つ。

武装はとてもコンパクトかつ軽量で、取り回しが良い。

アガレス・ライフルは正確にはピストルだが、スヴァハの高い射撃能力により最大の脅威となる。

装弾数は35発で、予備カートリッジを腰に10個ほど装備する事が出来る。

アガレス・ナイフはバエル・ソードと同じ素材で錬成されており、決して折れる事は無い。

しかし普段は使われず、膝の側面辺りの鞘に格納されている。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二位の悪魔「アガレス」から。

アガレスは東方に属し、31の軍団を率いる大公爵だとされる。

「四大天使」ミカエルに全身を貫かれて大破し、エイハブ・リアクターや装甲の一部がバエルに使われる事となった。

 

ASW-G-41 ガンダム・フォカロル

全高:18.5m

本体重量:34.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:トライデント×1

   ハープーン×2

   ティザーアンカー×4

   ネプチューン×1

概要

アマディス・クアークの専用機。

水中戦を想定して開発されたが、それ以外でもある程度の戦闘能力を発揮する。

水中でも高い機動力と運動性能、長時間運用を可能にすべく装備される専用装備「ネプチューン」が大きな特徴である。

専用武器「トライデント」と「ハープーン」、「ティザーアンカー」は、水中での使用が前提とされている。

トライデントは三叉の長槍であり、水の抵抗を受けにくいよう刃は極限まで薄く錬成されている。

ハープーンは、「水中用ダインスレイヴ」である。ダインスレイヴ専用弾頭を装填し、射出する事が可能。

水中でも高い破壊力が実現されているが、射程は大幅に短くなっている。

ティザーアンカーはティザーガンとアンカーガンを組み合わせた物であり、腰と両腕に装備されている。

相手を拘束して電撃を放てる他、様々な用途で活用される。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十一位の悪魔「フォカロル(フルカロルとも)」から。

フォカロルは30の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

逸般Peopleさんより頂いた案を元に、設定しました。

 

ASW-G-25 ガンダム・グラシャラボラス

全高:18.9m

本体重量:29.7t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:有線式テイルブレード×1

   マウスファング×1

   クロー×4

概要

大駕・コリンズの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用された、最凶のガンダム・フレーム。

機体は漆黒と真紅に塗られている。

手に持つような武器は無く、両手両足の巨大な「クロー」と特殊な口で咬み千切る「マウスファング」に「有線式テイルブレード」を装備する。

中距離の敵はテイルブレードで凪払い、近距離の敵は引き裂き咬み千切る事を前提とした獣の如きコンセプトで建造された。

対価や負担は、他のガンダムとは比較にならない。

背中には巨大なウイングが取り付けられており、機動力はバエルにすら迫り一瞬ならば上回れる程。

また、ステルスシステムを装備していて、一時的ならば他の機体を透明化する事も可能。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十五位の悪魔「グラシャラボラス(グラシャ=ラボラス、カークリノラース、カーシモラルとも)」から。

グラシャラボラスは、36の軍団を率いる地獄の大総裁だとされる。

VOLTEXさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ミカエル戦で暴走し、バエルにコクピットを貫かれて沈黙した。

 

ASW-G-06 ガンダム・ヴァレファール

全高:18.3m

本体重量:33.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:マレファル・ソード×1

   マシンガン×1

   ショートバレルキャノン×2

   閃光弾×1

   チャフ配合煙弾×1

概要

響・コフリンの専用機。

専用武器として「マレファル・ソード」、汎用武器として「マシンガン」「ショートバレルキャノン」を装備する。

マレファル・ソードはバエル・ソードと同型の近接武器だが、素材不足だった為に剣はレアアロイで錬成されている。

エイハブ・ウェーブ反応をジャミングする特殊兵装「トリッキー」を搭載しており、隠れた上でデータ回収を行って「プリディクションシステム」なる戦術予測プログラムを走らせる。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六位の悪魔「ヴァレファール(ヴァラハール、ウァレフォル、マラファル、マレファルとも)」から。

ヴァレファールは、10の軍団を率いる地獄の公爵だとされる。

N-N-Nさんより頂いた案を参考に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、「天使王」ルシフェルに破壊された。

 

ASW-G-16 ガンダム・ゼパル

全高:18.6m

本体重量:37.1t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:アメノハバキリ×1

   大型カイトシールド×1

   ブロードソード×1

   ライフル×1

概要

遼真・ウェルティの専用機。

専用武器として「アメノハバキリ」「大型カイトシールド」「ブロードソード」を、汎用武器として「ライフル」を装備する。

アメノハバキリはソードアックスであり、剣型と斧型を使い分けられる。

大型カイトシールドは巨大な盾であり、ブロードソードを内側に納めている。

ライフルも持っており、これらの武器はバックパックに纏めて取り付けられる。

また「ソードコア」と言う機能が備えられており、高圧電流を剣に纏わせる事が可能である。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十六位の悪魔「ゼパル」から。

ゼパルは26の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

オストラヴァさんより頂いた案を元に、設定しました。

ヘイムダルが日本基地より離脱する際、MAと相討ちとなって大破。

その後オセアニア連邦に回収され、ガンダム・ミシャンドラとして使われた。

 

ASW-G-03 ガンダム・ヴァッサゴ

全高:21.5m

本体重量:37.4t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:頭部バルカン砲×2

   クローアーム×2

   大型バスターアンカー×3

   迫撃砲×4

概要

悠矢・スパークの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用されたガンダム・フレーム。

機体は深紅と黒で塗られており、背中に背負う大型バックパックと頭部のレドームが特徴的。

武装は「頭部バルカン砲」「クローアーム」「大型バスターアンカー」「迫撃砲」と、汎用武器を中心としている。

クローアームは、腕を伸縮させる特殊兵装。

近接戦で優位に働き、大型バスターアンカーを放つ際に機体を固定する役割を持つ。

迫撃砲はそれぞれのクローアームに2基ずつ内蔵され、大型バスターアンカーは胸部に2つと腹部に1つとなっている。

ただヴァッサゴの真価は戦闘ではなく、バックパックとレドームからなるセンサーユニットと演算ユニット、ハッキングシステムに有る。

これらの兵装により、接近するMAの感知と行動予測を可能とした。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三位の悪魔「ヴァッサゴ(ウァサゴ、ウァッサゴ、ヴァサゴとも)」から。

ヴァッサゴは26の軍団を率いる、地獄の君主だとされる。

N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。

武装は、「機動新世紀ガンダムX」に登場する「ガンダムヴァサーゴチェストブレイク」を参考に。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後の消息は不明。

 

ASW-G-07 ガンダム・アモン

全高:18.2m

本体重量:30.4t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ミョルニル×1

   ヒュルム×1

   アングルボザ×1

   ショットガン×1

概要

ミズガルズ・ファルクの専用機。

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、ファルク家に伝わるガンダム・フレーム。

全身に配置されたバーニア、スラスターが目を引く。

専用武器として、「ミョルニル」と「ヒュルム」、「アングルボザ」を持つ。

ミョルニルは巨大なハンマーであり、敵を叩き潰す強力な質量兵器。

ヒュルムは狙撃に特化した砲身の長いスナイパーライフルであり、宇宙であれば400km先の標的までロックオンする事が可能。

また、一部パーツの差し換えでダインスレイヴ用の弾頭も運用出来る。

本体には高精度の狙撃を可能とする為のスコープがバックパックに取り付けられており、狙撃時はそれをメインカメラの前に展開する。

アングルボザは小太刀であり、ミョルニルが使えない緊急時に使用される。

他にも、汎用武器として「ショットガン」を装備する。

機体色は黄色と白で纏められている他、バックパックには4本のサブアームが有る。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第七位の悪魔「アモン」から。

アモンは40もの軍団を率いる、大いなる侯爵だとされる。

みっつ―さん、N-N-Nさん、ヨフカシさんから頂いた案も、参考に致しました。

 

ガンダム・フラウロス。

コクピットが複座式となっています。

 

ASW-G-56 ガンダム・グレモリー

全高:18.2m

本体重量:32.3t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:グレモリー・スナイパーライフル×1

   マシンガン×2

概要

クジナ・ウーリーの専用機。

全身に高感度スコープが内蔵されており、連射速度こそ低いがアモンの「ヒュルム」より長大な射程を誇る「グレモリー・スナイパーライフル」を専用武器とする。

クジナの狙撃技術により、何百kmと離れた敵を破壊する事が可能。

また、接近された時の為に汎用武器「マシンガン」を2丁持つ。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十六位の悪魔「グレモリー(ゴモリー、ガモリー、ゲモリーとも)」から。

グレモリーは26の軍団を率いる、強壮な公爵だとされる。

パニックさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ミカエル戦で大破し、パイロットをイシュメル・ナディラとして改装されて使われた。

厄祭戦後は、ギャラルホルンの名家ナディラ家が所有している。

 

ASW-G-68 ガンダム・ベリアル

全高:19.0m

本体重量:31.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:グラム×1

   アンドヴァリ×2

   閃光弾×2

概要

ドワーム・エリオンの専用機。

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、エリオン家に伝わるガンダム・フレーム。

専用武器として、「グラム」と「アンドヴァリ」が用意されている。

グラムはバエル・ソードと同じ素材で錬成された剣を更にレアアロイで覆う形となっている大剣であり、基本は両手での運用を前提としている。

ただ、ガンダムの出力なら片手での運用が可能。

アンドヴァリは、膝に取り付けられた迫撃砲。

大剣を持っている為に機動性は若干低いが、強度は折り紙付きなので接近して大剣で攻撃を捌きつつ叩き斬る戦法を取る。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十八位の悪魔「ベリアル」から。

ベリアルは80もの軍団と72の悪魔を率いており、元はルシファーと同じレベルの大天使であった強大な王だとされる。

 

ASW-G-67 ガンダム・アムドゥスキアス

全高:20.8m

本体重量:38.3t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:肩部ミサイルポッド×2

   迫撃砲×2

概要

名無し/サミュエルの専用機。

戦車形態への移行を可能としている、砂漠と地上と宇宙での使用を想定した機体。

武装は少なく、格闘戦を主体とする。

変形の際には胸部装甲が上がる事で頭部を覆い、肩部が背後に回って腕部が腰と胸部装甲の間に入り、両足が前方へと突き出されて背部のウィングが展開すると言う動きを取る。

変形によって高速移動が可能になるが、15Gを超えてしまうので最高速度は出せない。

複雑な変形を行う為に整備が困難であり、装甲が薄くならざるを得ず防御力が著しく低い。

ただ、デザインが結構芸術的。

ソナーやレーダー、大型ブースターも常備する。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十七位の悪魔「アムドゥスキアス(アムドゥシアス、アムドゥキアス、アムブスキアスとも)」から。

アムドゥスキアスは29の軍団を率いる、地獄の公爵だとされる。

一風の陣さんより頂いた案を参考に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後は消息不明。

 

ASW-G-32 ガンダム・アスモデウス

全高:20.0m

本体重量:39.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ヴァナルガンド×1

   アームスヴァルトニル×2

   グレイプニル×2

   スラッシュディスク×2

概要

フェンリス・ファリドの専用機。

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、ファリド家に伝わるガンダム・フレーム。

専用武器として、「ヴァナルガンド」と「アームスヴァルトニル」更に「グレイプニル」が用意されている。

その他、汎用武器の「スラッシュディスク」を肩部に装備する。

ヴァナルガンドは全長25mにもなる長大な槍状のメイン武装であり、基本的にはこれを振り回して接近戦を行う。

先端部分は、バエル・ソードと同じ素材で錬成されている。

グレイプニルは巨大なレールガンで、2基がバックパックに接続されている。

これは、ダインスレイヴ用弾頭の運用が可能。

アームスヴァルトニルは腕部に取り付けられており、全長5mにもなる巨大なカギ爪である。

肩、腰、足が大きく太いのが特徴だが、腕や胴体は平均的なガンダムの太さと変わらない。

また、全身にバーニアを搭載している為機動力はかなり高い。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十二位の悪魔「アスモデウス(アスモダイとも)」から。

アスモデウスは四大悪魔の1体アマイモン配下の東方の悪魔の首座で、72の軍団を率いる大いなる王だとされる。

また、ソロモン王が72体の悪魔を従える際に唯一反抗した悪魔だとも言われる。

 

ASW-G-08 ガンダム・バルバトス

全高:18.0m

本体重量:28.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:メイス×1

   ガントレット×2

   マシンガン×1

概要

クレイグ・オーガスの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用されたが、CGSによりアグニカと共に発掘される。

以降は三日月・オーガスの専用機として暴れ回り、「鉄華団の悪魔」として恐れられている。

武装は質量兵器「メイス」と小型盾「ガントレット」が2つ、後は「マシンガン」のみと言う簡素なモノだが、クレイグの戦闘力も有り前線で活躍した。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第八位の悪魔「バルバトス」から。

バルバトスは30の軍団を率いる、伯爵にして侯爵だとされる。

 

ASW-G-11 ガンダム・グシオン

全高:18.0m

本体重量:42.1t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:グシオン・ハンマー×1

   グシオン・チョッパー×1

   シザースアーマー×1

   ナックルガード×2

   腕部グレネードランチャー×2

   バスターアンカー×4

概要

和弘・アルトランドの専用機。

グシオン本来の姿、言わば「ガンダム・グシオンオリジン」とも呼ぶべき機体。

300年後には、鉄華団の昭弘・アルトランドの手で「ガンダム・グシオンフルシティ」となり運用されている。

初登場時のグシオンより装甲が薄めで、全身のバーニアにより高速戦闘さえ可能。

グシオン・ハンマー、グシオン・チョッパー、シザースアーマーと近接武器が充実している。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十一位の悪魔「グシオン(グソイン、グサインとも)」から。

グシオンは40の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

N-N-Nさんより頂いた案も元に、設定しました。

 

ASW-G-20 ガンダム・プルソン

全高:19.4m

本体重量:30.9t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:レイヴン×2

   レーヴァン×4

概要

ケニング・クジャンの専用機。

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、クジャン家に伝わるガンダム・フレーム。

専用武器として「レイヴン」と「レーヴァン」を持つ。

レイヴンはハンマーであり、とにかくこれで敵を殴りまくってスクラップにする。

レーヴァンは両腕両足に取り付けられた鉄塊で、ハンマーが無くなったらこれらで殴って蹴って倒す。

また、鉄塊を射出してロケットパンチ的な事も。

機動性、強度は平均的なガンダムと変わらない。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十位の悪魔「プルソン」から。

プルソンは、22の軍団を指揮する王だとされる。

 

ASW-G-37 ガンダム・フェニクス

全高:19.0m

本体重量:30.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:フェニクス・ランサー×1

   フェニクス・アーマー×1

   レールガン×2

概要

ナトリア・デヴリンの専用機。

ガンダム・ハルファスとの同時運用を想定して開発された。

装甲は通常のガンダムより分厚く小回りが効きにくいものの、各所に追加されたバーニアと背部ウイングバインダーにより機動性はかなり高い。

白と赤のツートンカラーに塗られている。

専用武器として「フェニクス・ランサー」と「フェニクス・アーマー」、汎用武器として「レールガン」…別名「ダインスレイヴ」を持つ。

フェニクス・ランサーはレアアロイで錬成されており、斬撃武器もしくは打撃武器として使用可能。

フェニクス・アーマーは僅かな宇宙世紀時代の文献から製作された、超振動破壊兵器。

普段は畳まれて左腕に装備されるが、使用時は4つに分かれて展開し刃を超振動させて敵を粉砕する。

宇宙世紀時代には「アームド・アーマーVN」と呼ばれていたらしいが、攻撃力と振動数はオリジナルのそれに及ばない。

レールガンは両肩に取り付けられており、開幕でダインスレイヴ専用弾頭をぶっ放した後は通常弾頭とフェニクス・ランサーを使って接近戦を行う。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十七位の悪魔「フェニクス(フェニックス、フェネクスとも)」から。

フェニクスは、大いなる公爵だとされる。

飛鳥さんと赤くて3倍な彗星さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後は消息不明。

 

ASW-G-38 ガンダム・ハルファス

全高:19.0m

本体重量:28.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ハルファス・ブレード×2

   ライフル×2

   有線式レアアロイブレード×4

概要

エドゥアルダ・デヴリンの専用機。

ガンダム・フェニクスとの同時運用を想定して開発された。

バックパックのウイングバインダーにより高機動を実現しており、その速度はバエルに迫る程。

白と紫のツートンカラーに塗られている。

専用武器として「ハルファス・ブレード」「ライフル」「有線式レアアロイブレード」を持つ。

ライフルはハルファス・ブレードを装備可能で、2丁が標準装備となる。

近接戦時のブレードを外しての戦闘はもとより、ブレードは付けたまま刃を展開する事も可能。

有線式レアアロイブレードはウイングバインダーに4基内蔵されており、阿頼耶織による制御で高速機動する。

原理としては、天使長以上が装備する「ワイヤーブレード」と同様である。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十八位の悪魔「ハルファス(ハルパス、マルサスとも)」から。

ハルファスは26の軍団を率いる、地獄の伯爵であるとされる。

飛鳥さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後は消息不明。

 

ASW-G-10 ガンダム・ブエル

全高:18.1m

本体重量:31.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:アガリアレプト×1

   マシンガン×2

   アサルトナイフ×4

概要

オーウェン・フレッチャーの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用され、ガンダム・フレームの中でも悪用が許されない機体。

バックパック「アガリアレプト」が印象的な、紫系の色で纏められた機体。

アガリアレプトは8本のサブアームを纏めたバックパックであり、サブアームの先にはビーム砲が内蔵されている。

本体はマシンガン2丁とアサルトナイフ2本、足裏に仕込まれたアサルトナイフ2本だけと言うシンプルな武装となっている。

アガリアレプトには「フォールダウン」なる特殊兵装が組み込まれており、悪用が許されない理由はこの兵装に有る。

フォールダウンは言わばコンピューターウイルスの解析、対応、製造を行えるシステムである。

敵MAの一部が持つコンピューターウイルスに対抗すると共に、敵MAのコンピューターをウイルス感染させる事すら可能となる。

ただし、天使長以上のMAには効果が無い。

悪用されれば全世界が混乱に陥る事も有る為、この機体は常に厳重管理されている。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十位の悪魔「ブエル」から。

ブエルは50の軍団を率いる、地獄の大総裁だとされる。

N-N-Nさんより頂いた幾つかの案を参考に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後は消息不明。

 

ASW-G-35 ガンダム・マルコシアス

全高:18.8m

本体重量:38.3t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ギガント・アックス×1

   ギガント・パイルバンカー×2

   インコム×2

   サブギガント・アーム×2

   ミスティルテイン×2

概要

金元・カーゾンの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用されたガンダム・フレーム。

背部の翼に似た巨大バックパックと、足に取り付けられた巨大バーニアが特徴。

ギガント・アックスは巨大な斧で、主武装となる。

ギガント・パイルバンカーは、両腕に取り付けられた連打機能付きの巨大パイルバンカー。

インコムは翼に付けられた有線式のファンネル。

弾は実弾方式が取られており、これでプルーマを撃破しながら接近戦に持ち込む。

サブギガント・アームは、翼に内蔵された巨大なサブアーム。

ただ、補助用では無くこれで殴りまくる。

小型バーニアを付けられている他、二の腕にはチェーンソーが外付けにされている。

ミスティルテインは、小型のレールガン。

小型の為ダインスレイヴ専用弾頭は運用出来ないものの、通常弾頭でも充分な攻撃力を持つ。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十五位の悪魔「マルコシアス」から。

マルコシアスは30の軍団を率いる、地獄の侯爵だとされる。

ツチノコさん、Astray Noirさんより頂いた案を合わせて設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、「天使王」ルシフェルに撃破された。

 

ASW-G-36 ガンダム・ストラス

全高:18.9m

本体重量:33.7t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ストラス・ルークソード×1

   ストラス・ランサー×1

   ガントレット×2

   ティルフィング×2

概要

ドリス・マクソーリーの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用されたガンダム・フレーム。

機体の見た目に大きな特徴は無いが、全身にバーニアが内蔵されており機動力がかなり高い。

ストラス・ルークソードは、剣型と弓型に変化させられる専用武器。

剣型での近接戦は言うまでも無いが、変わった所はやはり弓型になる所。

弓型では試作型ダインスレイヴとしてダインスレイヴ専用弾頭を運用可能な他、ブーメランとして投げる事も可能。

ストラス・ランサーは、フェニクスが持つ「フェニクス・ランサー」と同型の物。

ティルフィングは腰部に接続されたレールガンで、ダインスレイヴ用弾頭が運用出来る。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十六位の悪魔「ストラス(ストロス、ソラスとも)」から。

ストラスは26の軍団を率いる、地獄の大君主だとされる。

鮭ふりかけさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-55 ガンダム・オロバス

全高:18.4m

本体重量:44.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ソード・ショーテル×2

概要

雅斗・コナーの専用機。

フレームの露出部分の無い重装甲で有りながら高機動のジ・Oタイプで、乱戦を得意とする。

武装は巨大なソード・ショーテルを2本装備するのみだが、充分な戦闘力を発揮する。

内部温度が上がりやすい為、全身の至る所に排熱用の排出口が配置されている。

排出口と同じく全身にバーニアが有り、高機動を実現している。

悪魔オロバスの誠実さから、対価無しで悪魔の力を最大限振るえる事も高機動の所以である。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十五位の悪魔「オロバス」から。

オロバスは20の軍団を率いる、地獄の君主だとされる。

パニックさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-05 ガンダム・マルバス

全高:18.0m

本体重量:32.6t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ケーニヒス・ティーゲル×1

   セシル&ローズ×1

   クロー×2

   肩部小型ビーム砲×2

概要

ミランダ・アリンガムの専用機。

漆黒と黄金の機体色が特徴的で、MAの破片を再利用出来ないかをテストすべく開発された。

ケーニヒス・ティーゲルはダインスレイヴに加速装置を増設したモノだが、フラウロスのような照準機能を搭載しないので命中率はあまり高くない。

セシル&ローズは専用のダブルピストルで、肩にはビーム兵器が装備されている。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五位の悪魔「マルバス(バルバスとも)」から。

マルバスは36の軍団を率いる、地獄の大総裁だとされる。

一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-30 ガンダム・フォルネウス

全高:17.9m

本体重量:34.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:伏龍×1

   臥龍×1

   チェーンマイン×1

   高周波振動ナイフ×2

概要

()(ズー)(シュエン)の専用機。

水中でも使用可能で、装甲は分厚め。

右手の「伏龍」はショットガンで、敵の装甲を傷付ける為に使用される。

左手の「臥龍」は小型のレールガンで、ダインスレイヴ弾頭の運用も可能。

伏龍で敵の防御力を落とし、臥龍で一気に貫く戦法を得意とする。

チェーンマインは最大で20発、高周波振動ナイフはナノラミネートアーマーをも切断可能である。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十位の悪魔「フォルネウス」から。

フォルネウスは、堕天使の29軍団を率いる侯爵だとされる。

ドラゴンノーツさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-72 ガンダム・アンドロマリウス

全高:18.4m

本体重量:29.6t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ナノラミネート・バスターソード×1

   迫撃砲×1

   マシンガン×1

   ビームマント×1

   アイギス×1

概要

ロブ・ダリモアの専用機。

機体は黒と白で塗られており、4つ眼かつ4本角。

ナノラミネート・バスターソードによる、近接戦を得意とする。

左利きの機体で、左腕には迫撃砲が取り付けられている。

右腕ではマシンガンを持ち、右肩にはビームマント発生装置と右腕にアイギスが装備されている。

背中と腰には大型スラスターが有り、バエルをも越える高機動を実現した。

機体はシンプルだが、それ故に扱いやすい。

名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第七十二位の悪魔「アンドロマリウス」から。

アンドロマリウスは36の軍団を率いる、地獄の伯爵だとされる。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、バエル救出の際に核爆弾の爆発に巻き込まれた。

その後の消息は不明だが、撃墜されたモノと思われる。

 

ASW-G-14 ガンダム・レラージェ

全高:18.6m

本体重量:35.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:レラージェ・ライフル×1

   ワイヤーブレード×1

   ハンドナイフ×4

概要

アマーリア・ウィーデンの専用機。

背中と腰にブースターが装備され、一撃離脱戦法を得意とする。

武器は「レラージェ・ライフル」と「ワイヤーブレード」、「ハンドナイフ」。

レラージェ・ライフルは折り畳み可能な専用ライフル。

ライフルモードとスナイパーライフルモードを使い分けられ、それぞれのモードの専用マガジンを携行している。

展開方法が複雑で、整備には時間が掛かる。

ワイヤーブレードが左腕に取り付けられ、ハンドナイフは近接戦で使用される。

名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十四位の悪魔「レラージェ(レラジェ、レライエ、レライハ、ロレイ、オライとも)」から。

レラージェは30の軍団を率いる、地獄の大侯爵だとされる。

ダラク・ニンジャさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ウリエル戦に参加し、大破した。

 

ASW-G-53 ガンダム・カイム

全高:18.4m

本体重量:32.8t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:カイム・サーベル×1

   ショートバレルキャノン×2

概要

ピラール・ハーディングの専用機。

背部に装備された2基の大型スラスターを利用した、一撃離脱の戦法を得意とする。

武装は専用の「カイム・サーベル」と汎用武器の「ショートバレルキャノン」。

カイム・サーベルはレアアロイで錬成されており、場合によってはフレームごとMSを叩き斬る事が可能。

ショートバレルキャノンによる牽制と、カイム・サーベルによる接近戦が主な戦闘スタイルとなる。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十三位の悪魔「カイム」から。

カイムは30の軍団を率いる、大総裁だとされる。

クルガンさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、バエル救出の際に核爆弾の爆発に巻き込まれた。

その後の消息は不明だが、撃墜されたモノと思われる。

 

ASW-G-41 ガンダム・フォカロルテンペスト

全高:18.5m

本体重量:41.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:バスターオール×2

   キャニスターガトリング/ダインスレイヴ×2

   マシンガングレネード×2

   ティザーアンカー×4

   多目的ランチャーポッド×4

   ネプチューンⅡ×1

概要

アマディス・クアークの専用機。

水中戦を想定して開発されたガンダム・フォカロルを、水中以外の場所で最大出力の戦闘を可能とすべく改装した機体。

水中でも高い機動力と運動性能、長時間運用を可能にすべく装備される専用装備「ネプチューン」は、水中以外の場所では高出力スラスターとなるよう再調整された。

専用武器「トライデント」は「バスターオール」に、「ハープーン」は「キャニスターガトリング」と選択式になり、「ティザーアンカー」の他にも「マシンガングレネード」と「多目的ランチャーポッド」が増設されている。

バスターオールはトライデントに代わるオールを模した主武装で、柄を繋げればトライデントと同じように使用出来る。

ハープーンはキャニスターガトリング、ダインスレイヴの選択式に。

キャニスターガトリングは散弾をバラまくガトリング砲で、広範囲かつ大多数の敵に対して真価を発揮する。

マシンガングレネードは両腕部に取り付けられ、鉄甲榴弾とナパーム弾と魚雷を選んで装填可能。

多目的ランチャーポッドは両肩と両脚側面に装備されており、ミサイルか魚雷かを選んで装填出来る。

名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十一位の悪魔で、30の軍団を率いる地獄の大公爵「フォカロル(フルカロルとも)」から。

テンペストは「弾幕の嵐」の意。

逸般Peopleさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦で、ガブリエルと戦い大破した。

 

ASW-G-47 ガンダム・ウヴァル

全高:18.7m

本体重量:34.2t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:γエイハブビームソード×1

   ショットガン×2

   可変型ブレードシールド×4

概要

アイトル・サックウィルの専用機。

かつて「ヘイムダル」で運用されたが、現在はアスタロトの装甲を装備して宇宙のどこかにいるとか。

当時は専用武器として「γエイハブビームソード」が有り、汎用武器の「ショットガン」と「可変型ブレードシールド」を装備していた。

主武装であるγエイハブビームソードは大型剣で、側面にはエイハブ粒子の活動抑制機能が備えられている。

その為、敵のビームを通常のエイハブ粒子に戻す事で無効化する事が可能である。

この剣は普段、折り畳まれて背部バックパックに取り付けられている。

無論、大型剣は強力な武装なので、ビームを弾きながら敵に接近して叩き斬るのが主な戦法となる。

ビームを弾く際はビームが跳ねる場合が有る為、普段は対ビームコーティングを施したマントを羽織っている。

また、可変型ブレードシールドをバックパックと両肩に2つずつ装備しているのが特徴の1つ。

機体全体はどこか角張った印象を受け、黒く染め上げられている。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十七位の悪魔「ウヴァル(ヴアル、ヴォヴァルとも)」から。

ウヴァルは、37の軍団を率いる大いなる公爵だとされる。

 

ASW-G-69 ガンダム・デカラビア

全高:17.8m

本体重量:32.9t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:アサルトナイフ×2

   マシンガン×2

   レーヴァテイン×2

概要

イシュメル・ナディラの専用機。

ガンダム・フラウロスの同型機だが、背部のダインスレイヴが「レーヴァテイン」に変えられている。

レーヴァテインは、言わば「散弾型ダインスレイヴ」となる。

大量のレアアロイ製フレシェット弾をダインスレイヴの速度で発射してバラまく事で、高機動MAやプルーマの一掃に役立つ。

ただし、精密射撃には向かない。

砲身が太くなっていて口径もダインスレイヴの数倍になった為、アグニカに「土管」と言われる始末。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十九位の悪魔「デカラビア」から。

デカラビアは30の軍団を率いる、侯爵だとされる。

トラクシオンさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ミカエル戦で大破した。

 

ASW-G-15 ガンダム・エリゴール

全高:18.3m

本体重量:36.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:マシンガン×1

   アビゴル・ランス×1

   腰部ブレードコンテナ×2

概要

レグロ・サッチの専用機。

後方支援とヴァッサゴとの連携を前提として開発された機体で、高性能量子コンピューターと予測演算を行って対応する「ノルンシステム」を搭載している。

アビゴル・ランスはヴィダールのランスと同じであり、腰部ブレードコンテナに2本ずつ予備の刀身が用意されている。

高性能量子コンピューターは、背部に3基装備。

冷却の為に展開される極薄の金属板が靡く光景は、さながら旗を掲げる者のようでありマントを羽織る者のようでもある。

この高性能量子コンピューターによる予測演算システムこそが、ノルンシステム。

パイロットの脳とリンクさせる事で体感を1000倍にまで跳ね上げる「ヴェルダンディ・モード」と観測データから未来の戦局を予測する「スグルド・モード」の2つが有る。

これにはかなりのエネルギーを使う為、戦闘に回せるエネルギーは少ない。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十五位の悪魔「エリゴール(エリゴス、アビゴルとも)」から。

エリゴールは60の軍団を率いる、地獄の公爵だとされる。

音無紫聖さんから頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後の消息は不明。

 

ASW-G-24 ガンダム・ナベリウス

全高:18.5m

本体重量:31.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ライトヘッド×1

   レフトヘッド×1

   センターヘッド×1

概要

レスリー・ホルブルックの専用機。

機体色は濃い碧を基調とし、関節は赤色。

両肩は、頭部のような形を取っている。

ライトヘッドとレフトヘッドはジュッテが付いた小型のハンドガンで、それぞれ手に装備する。

センターヘッドは背部に備えられている大型ライフルで、股下や肩上から前方に構えて使用する。

弾速は遅めだが、炸裂弾となっているので威力は高い。

機動力は高いが装甲が薄く、相手の攻撃はかわす事が前提となっている。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十四位の悪魔「ナベリウス(ケルベロス、ナベルスとも)」から。

ナベリウスは19の軍団を率い、地獄の侯爵だとされる。

ドラゴンノーツさんより頂いた案を参考に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-65 ガンダム・アンドレアルフス

全高:19.0m

本体重量:32.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ライフル×1

   オオデンタミツヨ(太刀)×1

   アトミック・バズーカ×1

   ハイパー・バズーカ×1

   ハイパー・ジャマー×1

概要

アーヴィング・リーコックの専用機。

奇襲、強襲を想定して調整された、隠密用機体。

武装は汎用武器のライフル、レアアロイで錬成された太刀(アーヴィは「オオデンタミツヨ」と呼ぶ)、隠密用のハイパー・ジャマー、5発の弾頭を装填するバズーカ。

バズーカには通常弾頭は勿論、核弾頭も搭載可能。

ただ、継戦と正面戦闘には向かない。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十五位の悪魔「アンドレアルフス」から。

アンドレアルフスは30の軍団を率いる、地獄の侯爵だとされる。

一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-57 ガンダム・オセ

全高:17.8m

本体重量:29.8t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:フレイヤ×1

   マウスファング×1

   ネイルクロー×4

概要

ローズ・ランフランクの専用機。

四脚獣形態への変形を可能とし、主に陸上での近接戦を想定している。

変形機構はフラウロスと同様だが、より獣に近い動きが出来るよう調整されている。

主武装は三日月(キャラじゃない)型のレアアロイ製双剣「フレイヤ」で、獣形態の時は背部に連結される。

また、柄を繋げる事も可能。

マウスファングは獣形態の際使われ、ネイルクローは接近戦でも使用される。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十七位の悪魔「オセ」から。

オセは3もしくは30の軍団を率いる、地獄の大総裁だとされる。

パニックさんより頂いた案を元に、設定しました。

機体モチーフは「ZGMF-X88S/RGX-03 ガイアガンダム」だそうで。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、バエル救出の際に核爆弾の爆発に巻き込まれた。

その後の消息は不明だが、生存確率は低い。

 

ASW-G-22 ガンダム・イポス

全高:18.2m

本体重量:36.4t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:アルマーズ×1

   アイポロス・ソード×2

   ダインスレイヴ×2

   クロー×4

概要

レオナルド・マクティアの専用機。

超大型のレアアロイ製ハルバード「アルマーズ」、超大型のレアアロイ製大剣「アイポロス・ソード」、超大型のクローを両脚に持った近接型機体。

背部にはダインスレイヴも有り、遠距離火力も確保している。

武装の巨大さ故に扱い辛い機体であり、それを補助する為に過去や未来が視えるとされるシステムが搭載されているとか。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十二位の悪魔「イポス(イペス、アイポロス、アイペロスとも)」から。

イポスはネビロスの支配下にあり、36の軍団を率いる伯爵にして君主だとされる。

一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

 

UGY-R35 グレイブ・ロディ

全高:17.0m

本体重量:39.8t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ロディ・フレーム

武装:90mmマシンガン×1

   グレイブ・シールド×1

   ヒート・チョッパー×1

   ハルバード×1

概要

ロディ・フレームのMS。

圏外圏で多く建造され、主力機として活躍した。

際立った特徴は無いが、コストが低く汎用性が高く重装備の運用が可能だった為大量生産された。

機体色は、ダークグレーで纏められている。

グレイブ・シールドはレアアロイで錬成され、高い防御力を誇る。

ただし重量がかなり有り、棺桶型な事から取り回しも悪い為地上での運用には不向きである。

カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

 

UGY-R51 フラム・ロディ

全高:17.7m

本体重量:41.2t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ロディ・フレーム

武装:6連装ミサイルポッド×1

   90mmマシンガン×1

   ヒート・チョッパー×1

   肩部シールド×1(指揮官機は2)

概要

ロディ・フレームのMS。

グレイブ・ロディと同じく大量生産され、圏外圏で使用された。

機体色は、主に赤で纏められている。

スピナに似た形状の四肢と頭部を持ち、グレイブ・ロディより防御に優れる。

ミサイルは散弾タイプ。

プルーマの牽制、撃破を主な使用法とするが、市街地での使用には課題が残る。

カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

 

IPP-66305D ユーゴー(ダインスレイヴ搭載型)

全高:19.8m

本体重量:30.1t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヘキサ・フレーム

武装:頭部バルカン砲×2

   ワイヤーアンカー×6

   ダインスレイヴ×1

概要

ヘキサ・フレームのMS「ユーゴー」に、ダインスレイヴを持たせた機体。

機体色はグレーとネイビーの組み合わせ。

ロディ・フレーム並みのコストの低さから大量生産されたものの、機動力を高めた結果装甲が脆弱化した為に撃墜数も多かった。

コクピットが頭部に有るのが他のフレームとは一線を画す部分で有り、撃墜確率が高い代わりにパイロットの生存確率が高かった。

本機は腕のどちらか一方(パイロットが右利きか左利きかによる)をダインスレイヴに換装しており、軽い機体を固定する為のワイヤーアンカーが6基装備されている。

また、弾の装填は別の機体の手助けが必要。

ダインスレイヴを正確射撃する為に頭部は大型観測用センサーへと換装されており、コクピットのモニターと直結している。

カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

 

ASW-G-04 ガンダム・ガミジン

全高:19.1m

本体重量:34.7t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ミズガルオムズ×1

   大口径ハンドガン×1

   ワイヤーアンカー×2

   ユーミル×1

概要

バリシア・オリファントの専用機。

背部のスラスターと、スタビライザーが印象的な機体。

特殊なシステムとして、「MASTERシステム」を搭載している。

戦闘状況を予測し、パイロットの脳内信号を加速させて超高速反射を可能とする。

システム使用の代償は決して小さくなく、徐々に蓄積されて行く。

ミズガルオムズはアサルトナイフ2本とマシンガン、小型ミサイルが1基ずつとスラスターが付いている複合装備で、普段は右腕に取り付けられている。

ナイフは交差させてハサミ状に出来る他、柄にワイヤーが付いているので飛ばせる。

大口径ハンドガンはアガレスの物を威力重視にした物だが、反動が大きく装弾数も減少した。

ユーミルは背部ユニットに接続されている言わば「プロトダインスレイヴ」と呼ぶべき物で、威力のみを論ずるならばダインスレイヴより大きく取り回しも良好。

ただ、発見された謎の金属で本体が造られた為増産はされなかった。

また、発射時の後方排熱噴射がかなり激しい。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四位の悪魔「ガミジン(サミジナとも)」から。

ガミジンは30の軍団を率いる、地獄の大侯爵だとされる。

kanakutoさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、MAと相討ちになった。

 

ASW-G-12 ガンダム・シトリー

全高:19.7m

本体重量:31.4t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ビトル・チョッパー×2

   ガントレット×2

   試作型ダインスレイヴ×1

概要

ラッセル・クリーズの専用機。

背部の巨大な翼のようなスラスターユニットと、頭部の大型センサーが特徴的な機体。

武装は「ビトル・チョッパー」「ガントレット」が2つと、「試作型ダインスレイヴ」の1つ。

ビトル・チョッパーは鉈であり、両手に持って使用される。

普段は、腰にマウントされている。

ガントレットは両腕に付けられており、防御を担っている。

試作型ダインスレイヴは折り畳み可能な大弓の形を取っており、引き絞る強さによって威力と弾速が変化する。

その照準を行う為、頭部が大型センサーとなった。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十二位の悪魔「シトリー(シュトリ、ビトルとも)」から。

シトリーは60の軍団を率いる、地獄の君主だとされる。

N-N-Nさんより頂いた幾つかの案を折衷して、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明に。

 

ASW-G-17 ガンダム・ボティス

全高:19.7m

本体重量:34.4t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ボティス・レイピア×1

   有線式テイルブレード×2

概要

マリベル・コルケットの専用機。

頭部の両側面に配された、剣に似たセンサーユニットが大きな特徴。

武装は「ボティス・レイピア」と「有線式テイルブレード」。

ボティス・レイピアは、後にキマリスの偽装として建造される「ガンダム・ヴィダール」の物に酷似している。

細身の両刃で、ヴィダールの物と同じく刀身の爆破と交換が可能。

レアアロイ製の刀身が両腰に4本ずつと、特殊超硬合金製の刀身が両腰に1本ずつ有る。

有線式テイルブレードは背部と腰部に装備され、自由に動かせる。

特殊装備として限定的に未来予測を可能とするシステムが存在しているが、代わりに冷却用のシステムが大型化して若干の機動力低下を招いている。

また、数秒後の未来しか分からない。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十七位の悪魔「ボティス(オティス、オティウスとも)」から。

ボティスは60の軍団を率いる、地獄の大総裁にして伯爵だとされる。

Crow・Hraesvelgrさんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-18 ガンダム・バティン

全高:18.7m

本体重量:40.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ライフル×1

   マルティム・ソード×1

   アサルトナイフ×2

概要

ウィルフレッド・ランドルの専用機。

全身にナノラミネートコートを採用しつつも、追加ブースターと全身のバーニアによって高い機動力を実現した機体。

武装はライフルとアサルトナイフ、折り畳み式のレアアロイ製直剣「マルティム・ソード」のみとなるが、圧倒的な加速と防御力で電撃作戦を得意としている。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十八位の悪魔「バティン(バティム、マルティムとも)」から。

バティンは30の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-63 ガンダム・アンドラス

全高:18.1m

本体重量:28.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:アンドラス・ソード×2

   プロトタイプ・アイギス×1

   胸部バルカン砲×1

   アンドラス・ライフル×2

   クラッカー×4

   ダインスレイヴ×1

概要

トビー・メイの専用機。

機体自体に特徴は無く、シンプルに纏まっている。

アンドラス・ソードはバエル・ソードと同型だが、レアアロイ製の為に折れる時は折れる。

中距離から遠距離での戦闘を想定している為、使われる事は殆ど無い。

アンドラス・ライフルで撃ち、ダインスレイヴでトドメを刺すのが基本戦法。

バルカン砲を胸部に備える他、アイギスの試作型も装備している。

機体が非常にピーキーである為に、繊細な者にしか扱えない。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十三位の悪魔「アンドラス」から。

アンドラスは30の軍団を率いる大侯爵だとされる。

みっつ―さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

UGR-G74 マドナッグ

全高:17.3m

本体重量:35.8t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ロディ・フレーム

武装:90mmマシンガン×1

   グレイブ・シールド×1

   ヒート・チョッパー×1

   ハルバード×1

   ダインスレイヴ×1

概要

ロディ・フレームのMS。

ガンダム・ミシャンドラと共に、オセアニア連邦が開発したガンダムに似せて造られた機体。

ガンダムの残骸を解析し、それを元に量産したパチモン。

要はにせガンダム。

エイハブ・リアクターを2基搭載しているが、これは言わば「ダブルリアクターシステム」なのでオリジナルの「ツインリアクターシステム」のように同調はしていない。

僅かな数が生産されたが、現在となってはその全てが失われている。

Astray Noirさんから頂いた案を元に、設定しました。

名前は「ガンダム(GUNDAM)」の逆さ読み「マドナッグ(MADNUG)」とのことです。

 

ASW-G-73 ガンダム・ミシャンドラ

全高:20.3m

本体重量:37.5t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:ハルバード×1

   90mmマシンガン×2

   ダインスレイヴ×1

概要

ラーペ・グランの専用機。

京都に残されたガンダム・ゼパルを回収したオセアニア連邦によって、建造した。

これ以外の残骸は使用不可能になっていたモノが殆どだった為、武装はかろうじて原型を留めていたダインスレイヴとロディ・フレームの汎用武器が使われる。

名前の由来は、創作上で「ソロモン七十二柱」に於ける第七十三位の悪魔とされる「ミシャンドラ」から。

既にゼパルが消えた事、ミシャンドラがあくまで創作された悪魔である事から、この機体には悪魔が宿っていない。

秋津秀久郎さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、その後は消息不明。

 

ASW-G-43 ガンダム・サブナック

全高:20.2m

本体重量:55.1t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:イチイバル×1

   ライフル×1

   アサルトナイフ×1

   マシンガン×2

   爆導索×2

   ホルスターシールド×4

   マイクロミサイル×8

概要

サイラス・セクストンの専用機。

全身に火砲を搭載した、制圧を得意とする機体。

イチイバルはダインスレイヴを運用可能なクロスボウで、普段は左腕に装着されている。

また、両肩や両腰など全身にミサイルポッドが取り付けられている。

6基ものサブアームによって各武器への補給を行いつつ、ホルスターシールドで防御も行う。

ただ、補給はサブアームありきな為に破壊されると補充が出来ず、重量過多になった事でガンダム・フレームの持ち味である機動性が失われた。

これにより、味方機による支援に頼る場面が多い。

名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十三位の悪魔「サブナック(サブナッケ、サブノック、サヴノック、サブラック、サルマクとも)」から。

サブナックは50の軍団を率いる、地獄の侯爵だとされる。

一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明に。

 

V02-0621 ゲルヒルデ

全高:18.5m

本体重量:30.4t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・スピアー×1

   ヴァルキュリア・バックラー×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの2番機。

全身で曲面装甲を採用しており、被弾した際の機体の損傷を減らす事で生存性を高めている。

ヴァルキュリア・スピアーは穂先が特殊超硬合金、柄がレアアロイで錬成されており高い強度を誇る。

ただ、曲面装甲錬成と整備の難しさからガンダム・フレーム並みにコストが高くなってしまった。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ゲルヒルデ」から。

名前の意味は、「戦いの槍」。

クルガンさんより頂いた案を元に、設定しました。

形式番号の「0621」は、「Fate」シリーズに登場するサーヴァント「クー・フーリン」の誕生日から。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明に。

 

V03-0907 オルトリンデ

全高:

本体重量:

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・ダブルブレード×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの3番機。

希少極まりないヴァルキュリア・フレームの現存する1機で、高速一撃離脱戦闘を想定している。

300年後には、ジジン家のジジル・ジジンが運用。

武装は、特殊超硬合金を採用した「ヴァルキュリア・ダブルブレード」。

2本のブレードが繋がっており、分離させる事で双剣として戦う事が可能。

また、柄と柄を繋げる際に特殊なコネクトを介し、ブレードの先から弦を展開させる事でダインスレイヴ専用弾頭を運用出来るようになる。

高速で接近してダインスレイヴを撃ち、そのまま撤退(緊急時は双剣で対応)するのが主な戦闘法。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「オルトリンデ」から。

名前の意味は、「剣の切っ先」。

形式番号の「0907」の由来は不明。

 

V01-0206 ブリュンヒルデ

全高:18.6m

本体重量:30.9t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・ノートゥング×1

   ヴァルキュリア・グラーネ×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの1番機。

機体コンセプトは「ガンダム・ベリアル」が参考とされており、ヴァルキュリア・ノートゥングはベリアルのグラムと同じ形状である。

ヴァルキュリア・グラーネは背部に在る2枚の翼に似たウイングが特徴のバックパックで、背中から分離させて展開させれば、機動戦士ガンダムSEEDに登場するジャスティスガンダムのような戦闘も可能となる。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ブリュンヒルデ」から。

名前の意味は、「戦いの甲冑」。

形式番号の「0206」は、「Fate」シリーズに登場するサーヴァント「ブリュンヒルデ」の声優である能登麻美子さんの誕生日から。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、大破。

 

V06-0526 ヘルムヴィーゲ

全高:21.1m

本体重量:43.9t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・バスターソード×1

   電撃角×2

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの6番機。

対MA戦を想定した巨大武器「ヴァルキュリア・バスターソード」と超重装甲が、本機の大きな特徴である。

フレームの稼働限界ギリギリまで施された重装備で敵の攻撃を受け止め、その状態からの極至近距離戦闘を想定している。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ヘルムヴィーゲ」から。

名前の意味は、「兜の揺り籠」。

形式番号の「0526」は、石動・カミーチェの声優である前野智昭さんの誕生日から。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明。

 

V04-0210 ヴァルトラウテ

全高:18.5m

本体重量:38.1t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・レールガン×1

   ヴァルキュリア・アックス×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの4番機。

ヴァルキュリア・レールガンは、後に一部のレギンレイズに搭載されるレールガンのプロトタイプ。

レギンレイズの物と比べて威力は高い上に、ダインスレイヴ弾頭も運用可能。

ヴァルキュリア・アックスは、長柄の巨大な斧。

全身の装甲は分厚めに造られており、ヘルムヴィーゲ程ではないが結構な重量が有る。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ヴァルトラウテ」から。

名前の意味は、「戦場の勇気」。

形式番号の「0210」は、メカデザイナーの鷲尾直広さんの誕生日から。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明。

 

V05-0913 シュヴェルトライテ

全高:18.5m

本体重量:34.2t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・ソード×1

   ヴァルキュリア・ライフル×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの5番機。

片手用の西洋剣「ヴァルキュリア・ソード」を主武装とし、これとヴァルキュリア・ライフルを用いて戦う。

機体コンセプトは「ガンダム・パイモン」で、背部には同系統の高機動バックパックが装備される。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「シュヴェルトライテ」から。

名前の意味は、「剣の支配」。

形式番号「0913」の由来は――忘れました。

誰か突き止めて下さい。

私が一体、どういった思考の下でこの数にしたかを(無茶言うな)

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明。

 

V07-0402 ジークルーネ

全高:18.5m

本体重量:31.3t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・ランス×1

   ヴァルキュリア・シールド×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの7番機。

馬上槍に似たヴァルキュリア・ランス、ヴァルキュリア・シールドを装備する。

機体コンセプトは「ガンダム・キマリス」で、元機体と同じく敵に突撃する人間ダインスレイヴ。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ジークルーネ」から。

名前の意味は、「神聖の勝利」。

形式番号「0402」の由来は――忘れました。

誰か突き止めて下s(ry

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明。

 

V09-0330 ロスヴァイセ

全高:18.5m

本体重量:30.3t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム

武装:ヴァルキュリア・ナノラミソード×1

   ヴァルキュリア・ビームマント×1

概要

「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの9番機。

「ガンダム・アンドロマリウス」が参考にされており、ナノラミネートソードとビームマントを装備している。

ただ、漆黒の機体色を持つアンドロマリウスとは対象的な純白の機体色をしている。

名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ロスヴァイセ」から。

名前の意味は、「白き戦場の馬」。

形式番号の「0330」は、作者の誕生日から。

――これくらい許してね(テヘペロ、と言う感じの悪ふざけです。

「四大天使」ガブリエル戦に参加するも、消息不明。

 

EB-01 ヘリヤル

全高:18.0m

本体重量:30.0t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:ヘリヤル・フレーム

武装:100mmライフル×1

   ヘリヤル・ブレード×1

   シールド×1

   胸部60mm機関砲×2

   280mmバズーカ×1

   対艦用バスターソード×1

   レールガン(ダインスレイヴ対応)×1

概要

厄祭戦後、ギャラルホルンが開発した量産型MS。

ヴァルキュリア・フレームを素体としており、ゲイレールやグレイズの先祖にあたるフレーム。

性能はロディ・フレームやヘキサ・フレームより高く、調整された機体ならばヴァルキュリア・フレームに匹敵する。

ただ「量産機」としては失敗したMSであり、数十機が造られた時点で生産は打ち切られた。

ヘリヤル・ブレードの錬成に手間がかかる事、ヘリヤル・ブレードと対艦用バスターソードの扱いには相応の技量が求められる事、フレームに希少金属部品を使用する事などが問題点として上げられる。

また条約でダインスレイヴが禁止兵器とされた事も追い討ちをかけ、生産中止とされた。

しかし、この機体の反省点はゲイレールなどに受け継がれる事となる。

カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

 

ASW-G-14j ガンダム・レラージュリア

全高:30.3m

本体重量:45.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

武装:レギンレイズ・ソード×1

   レギンレイズ・シールド×2

   ジュリアン・ソード×2

   バルカン×2

   機関砲×2

   脚部クロー×2

   脚部ブレード×2

概要

アリアンロッド艦隊が宇宙で拾ったガンダム・レラージェを、建造中だったレギンレイズ・ジュリアのパーツを使って強化した機体。

ジュリエッタ・ジュリスの専用機とされ、アリアンロッド艦隊でこの機体を十全に扱えるパイロットはガエリオとジュリエッタくらいである。

武装はレギンレイズ・ジュリアと同一だが、ガンダム・フレームとなったことで出力は段違いとなる。

全高が30mもあり、20mが平均のMSとしては大型となった。

 

 

《番外編》

EB-05s シュヴァルベ・グレイズ(ディジェ機)

スペル:SCHWALBE GRAZE

全高:18.1m

本体重量:32.5t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:グレイズ・フレーム

装甲材質:ナノラミネートアーマー

武装:ライフル×1

   バトルスピアー×1

   ワイヤークロー×2

パイロット:ディジェ・バクラザン

 

概要

「EB-06 グレイズ」と共通の試作機から発展したカスタム機であり、指揮官機、エースパイロット機として開発されたMS。

背部に惑星間航行艦の技術を用いた「GR-Es01 フライトユニット」を装着しており、肩部、腰部、脚部のブースターを併用すれば、重力下でも高い飛行能力を発揮する。

頭部は上下二段式のセンサーと大型アンテナを採用し、独自の形状を持つ。

パイロットに合わせたカラーリングやカスタマイズを施された機体が多く、パイロットの個性が際立つ傾向が有る。

ディジェ・バクラザンの専用機は、全長二十メートルにもなるバトルスピアーを装備するのが特徴である他、本来ならば左腕のみに装備されるワイヤークローを両腕に装備している。

 

 

EB-05s シュヴァルベ・グレイズ(トリク機)

スペル:SCHWALBE GRAZE

全高:18.1m

本体重量:32.5t

動力源:エイハブ・リアクター×1

使用フレーム:グレイズ・フレーム

装甲材質:ナノラミネートアーマー

武装:スナイパーライフル×1

   バトルハンマー×1

   バトルブレード×1

   ワイヤークロー×1

パイロット:トリク・ファルク

 

概要

「EB-06 グレイズ」と共通の試作機から発展したカスタム機であり、指揮官機、エースパイロット機として開発されたMS。

背部に惑星間航行艦の技術を用いた「GR-Es01 フライトユニット」を装着しており、肩部、腰部、脚部のブースターを併用すれば、重力下でも高い飛行能力を発揮する。

頭部は上下二段式のセンサーと大型アンテナを採用し、独自の形状を持つ。

パイロットに合わせたカラーリングやカスタマイズを施された機体が多く、パイロットの個性が際立つ傾向が有る。

トリク・ファルクの専用機は、大型のスナイパーライフルと特注のバトルハンマーを装備している他、通常ならばグレイズにのみ装備されるバトルブレードを腰背部に懸架している。

 

 

ASW-G-14 ガンダム・レラージェ

スペル:GUNDAM LERAJE

全高:18.6m

本体重量:35.0t

動力源:エイハブ・リアクター×2

使用フレーム:ガンダム・フレーム

装甲材質:ナノラミネートアーマー

武装:ワイヤーブレード×1

   ロングライフル×1

   バスターソード×1

   ハンドナイフ×2

パイロット:ゾレイ・サルガタナス

 

概要

背中と腰に計三基のブースターが装備されており、一撃離脱戦法を得意とする機体。

元々は緑と白で塗装されていたが、宇宙海賊「夜明けの地平線団」の首領であるゾレイ・サルガタナスの手によって、真紅に塗り直されている。

ワイヤーブレードは左腕に取り付けられた近中距離での格闘兵装で、ワイヤーの先に接続されたブレードを自在に操る物。

ハンドナイフは袖に仕込まれており、ワイヤーブレードを使用出来ない超近接戦で本領を発揮する。

その他、ガルム・ロディが使用する口径三百ミリのロングライフルと、近接武器としてバスターソードを流用している。

 

名前の由来

ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十四位の悪魔「レラージェ(レラジェ、レライエ、レライハ、ロレイ、オライとも)」から。

レラージェは三十の軍団を率いる、地獄の大侯爵だとされる。



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本作オリジナル設定集 ②

本作でのオリジナル設定を纏めました。
各話の後書きで記載したモノを、全て記載します。
こちらには、オリジナルの設定、オリジナルモビルアーマーのデータ、オリジナル戦艦のデータ、オリジナルキャラクターの簡潔な概要を。

※一部本編のネタバレを含みますので、ご注意下さい。


【オリジナル設定、設定改変】

・オリジナル設定、原作から変えた設定を纏めます。

MS、MAに関するオリジナル設定、設定改変は後述します。

 

バルバトスの状態について。

公式の設定だと発見時にはコクピットブロックが無くなっていたらしいですが、主人公登場にあたって変更。

モニターが割れまくっていて使えなくなった為、コクピットブロックは取り外された事となりました。

 

決闘について。

「交わされた約束を違えた場合、破られた方は交わした相手を躊戮しなければならない」は、オリジナル設定です。

 

厄祭戦での被害について。

公式では厄祭戦時代の総人口が明言されていなかった為、勝手に「約120億人」としました。

それから、公式設定での「厄祭戦で人類の約4分の1死亡」は本作に於いて「約4分の3」に変わっています。

 

宇宙世紀との繋がりについて。

今作では、やんわり繋がっていると言う設定です。

様々な文献が残されていますが、事実であったかは疑われています。

また、何故か技術水準が下がっていたり。

 

モンターク商会について。

原作では「モンターク商会は100年程前から実在する老舗の商会」との説明が有りましたが、マクギリス・ファリドとの関係は描写されていませんでした。

その後2期で「マクギリスは、娼夫だった所をイズナリオに拾われた」とマクギリスの過去が明かされましたが、ここに不明瞭な点が有ります。

マクギリスが何故、モンターク商会として鉄華団に接触出来たのか。

モンターク商会とマクギリスの間にどんな関係が有ったのかは作品の矛盾点となっており、マクギリス役の櫻井孝宏さんも疑問に思っていたとか。

その矛盾を無くすべく、今作では「モンターク商会は100年程前から使われるファリド家の裏の顔」と言う設定にしました。

あの怪し過ぎる仮面も、ファリド家に代々伝わるモンターク商会として活動する時の当主専用の顔隠し用マスクと言う事で。

なお、ファリド=モンタークと言うのはセブンスターズ内で公然の秘密となっています。

普段のモンターク商会はファリド家傘下の一家が経営&運営しており、表向きは何の変哲も無い老舗商会で実際仕事もちゃんとしています。

 

ギャラルホルンの成り立ちについて。

旧名を「ヘイムダル」。

名前の由来は、北欧神話に於いて角笛「ギャラルホルン」の持ち主である光の神です。

そして彼の角笛は、北欧神話での神々の最終戦争「神々の黄昏(ラグナロク)」の始まりを告げるとされます。

ヘイムダルは「世界の光」とも言われる為、アグニカは自らの組織が世界に光…希望をもたらせるように、と言う願いを込めて名付けました。

そして戦争が終わり、アグニカはヘイムダルを巨大化して世界の警察組織へと作り替えます。

名前が「ギャラルホルン」となったのも、その時。

いざと言う時は戦争の始まりを世界に知らせ、それを収められるような組織になれ、との願いを込めたようです。

以上、全てオリジナル設定です。

公式では、ギャラルホルンの前身なる組織の名前は語られていませんでした。

 

厄祭戦の期間。

オリジナル設定です。

本作では、3年程になります。

 

アグニカの階級、最高幕僚長について。

こちら、オリジナル設定になります。

各局やセブンスターズを飛び越え、全体へと命令可能な

ギャラルホルンの最高階級です。

 

核爆弾について。

原作で登場、言及が有りませんでしたが、今作ではダインスレイヴと同じく禁止兵器と言う扱いでギャラルホルンが厳重管理しています。

 

七星十字勲章について。

概要は公式と変わりませんが、与えられる条件はオリジナル設定。

「トドメを刺す」事が条件で、トドメを刺した者のみに授与されます(協力しただけでは貰えない)。

貰える個数は倒したMAの位階によって異なり、天使なら1個、天使長なら2個、四大天使なら5個、天使王なら10個貰えます。

 

阿頼耶織システムの誕生経緯。

公式では明言されてなかったと思うので、設定。

アグニカ祖父が考案し、その理論をアグニカ父が発見し、マッドサイエンティストが手を加えて完成させた事になっています。

 

ビームの原理。

鉄血世界に於けるビームの原理が説明されてなかったので、設定を作りました。

エイハブ・リアクターによって生み出されるエイハブ粒子を超高速振動させる事で高熱を持たせ、物質を溶解する新兵器です。

 

月面の巨大都市。

鉄血世界に存在した事自体が、オリジナル設定となります。

場所は、フォン・ブラウンと同じ所です。

 

各地に散らばるヘイムダル基地について。

オリジナル設定として、これが後にギャラルホルンの基地となって300年後も残っているモノも有ります。

 

スリーヤの持つ海上移動研究所。

オリジナル設定として、これが後に施設拡張されてギャラルホルン地球本部基地「ヴィーンゴールヴ」となりました。

 

オーストラリアの穴について。

宇宙世紀での「コロニー落とし」…「ブリティッシュ作戦」の爪痕です。

原作では言及が有りませんでしたが、世界地図にはクレーターが出来ています。

 

オセアニア連邦首都トリントン。

原作ではオセアニア連邦の首都が語られてなかったと思うので、勝手にトリントンとしました。

UCのep.4を見る限りかなりの大都市でしたので、鉄血世界でも変わらず大都市に発展していておかしくないかと。

 

カラドボルグ。

オリジナル兵器で、バージニア級戦艦に搭載されています。

後に禁止兵器とされる、ダインスレイヴの凄い版。

弾頭はダインスレイヴの物とは違って25mと巨大で捻れており、ドリルに似た形状をした専用の弾頭を巨大な弩に似た砲身で高速回転させながら高速射出する凶悪な兵器です。

 

SAUの首都について。

本作では、ニューヤークとなっています。

公式では明言されていなかった為、救いようのないガンダム脳からニューヤークを抜擢。

「ニューヨーク」じゃないのかって?

宇宙世紀時代には既に「ニューヤーク」なので、是非もございません。

 

アフリカンユニオンの首都について。

本作では、ダカールになっています。

こちらも公式で明言されていないので、救いようのないガンダム脳からダカールになりました。

シャアの演説、好きです。

 

アリアドネについて。

MAによって既存の通信が使えなくなったから、ヘイムダルが独自に設置したと言う事に。

公式では、設置経緯は語られていません。

 

ダインスレイヴについて。

造られる時期は語られてなかったので、オリジナル設定として決めました。

運用方式については、双葉社より出版されている「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ メカニック&ワールド弐」での記述を参考に。

 

煽動屋について。

各経済圏などから依頼を受け、指定された場所にMAを誘導する仕事をする者達の総称。

依頼者は主に、敵対者に大きな被害を与える為に彼らを必要とします。

依頼者から払われる報酬は絶大で、行き場を無くした者が煽動屋に身をやつす例も少なくありません。

「フヴェズルング」は、その中で最大勢力を誇る組織です。

 

クラウ・ソラス。

バージニア級戦艦の右舷に取り付けられた、エイハブ・リアクターと直結して放たれる超強力なビーム砲。

 

この作品で最も硬いものは?

ナノラミネートアーマー<レアアロイ<ナノラミネートコート<特殊超硬合金<エイハブ・リアクター

物の硬さはこんな感じです。

ナノラミネートコートは、レアアロイの武器で破壊出来ません。

特殊超硬合金の武器ならばナノラミネートコートを破壊出来ますが、エイハブ・リアクターを壊す事は不可能となります。

 

アデレード禁止条約について。

原作に於いては「禁止条約」としか言われていなかったため、命名。

オーストラリアのアデレードで調印が行われた事から、こう呼ばれている――と言うオリジナル設定です。

 

地球外縁軌道統制統合艦隊について。

いちいち「地球外縁軌道統制統合艦隊」って打つのは面倒ですし文字数稼ぎと思われかねないので、「月外縁軌道統制統合艦隊」→「アリアンロッド」みたく通称を付けました。

「地球外縁軌道統制統合艦隊」、通称して「グウィディオン」と呼ぶことにしたいと思います。

通称の由来はケルト神話の英雄「グウィディオン」から来ており、この英雄の姉の名が「アリアンロッド」となっております。

 

 

 

 

【オリジナルモビルアーマー】

・オリジナルのMA、またMAに関するオリジナル設定や設定改変について纏めます。

 

 

《オリジナル設定》

「位階」について。

MAには、位階が存在しています。

下の「オリジナルMA」では、位階が分かるよう名前の前に記号を付けます。

 天使

一般的なMA。

ガンダムに換算すると、およそ2機分の戦闘力を持つとされる。

種類が多く、1種類につき5機が存在していた。

○天使長

天使より、少し力の強いMA。

およそ、ガンダム3機分の戦闘力を持つとされる。

ザドキエルとハシュマルの2種類が有り、1種類につき3機が存在していた。

◎四大天使

天使長より、かなり強いMA。

およそガンダム10~30機分(個体差有り)の戦闘力を持つとされる。

4種類が有り、1種類につき1機しか存在しない。

その中でも最強とされるのは「ミカエル」。

後2機の名前は「ガブリエル」「ウリエル」で、後1機の名はアグニカ叙事詩にも記載無し。

☆天使王

四大天使を遥かに上回る、最強のMA。

ガンダムに換算すると、50機分とも100機分とも言われる。

1種類が1機しか存在しない。

名前は「ルシフェル」(アグニカによると、僅か二度しか確認されていない)

 

誕生経緯について。

プラージャ・カイエル(後述)と、エイハブ・バーラエナによって建造されたマザーMAにして「四大天使」の「ガブリエル」が、ほぼ全てのMAを生み出しました。

 

個体数について。

同じ名前のMAは、それぞれ5機ずつ存在しています。

なお、「天使長」であるザドキエルとハシュマルは3機ずつ存在。

「四大天使」であるガブリエル、ラファエル、ウリエル、ミカエルに限ってはそれぞれ1機しか存在しません。

また、「天使王」ルシフェルもたった1機のみが存在します。

 

動力源について。

原作では通常動力だったようですが、本作ではエイハブ・リアクターが使われています。

リアクター数は基本1基ですが、四大天使以上になると多くなったりします。

 

 

《オリジナルMA》

☆ルシフェル

全長:221.3m

本体重量:不明

動力源:不明

武装:頭部ビーム砲×1

   腹部高濃度圧縮ビーム砲×1

   翼部拡散ビーム砲×8

   超硬ワイヤーブレード×45

   ダインスレイヴ×16

   プルーマ×∞

   カイラスギリー×1

特殊機能:自己再生、自己進化

搭載機:不明

概要

「天使王」と称される、最強のMA。

巨大な翼を8枚持ち、翼、胴体、頭部のそれぞれを本体から分離させて独自稼働させる事が出来る。

また、動力源はエイハブ・リアクターでないらしいが、何で動いているかは全く分からない。

腹部に取り付けられた高濃度圧縮ビーム砲から放たれる一撃は、宇宙世紀時代の「コロニーレーザー」にも匹敵する。

また、「カイラスギリー」なる要塞を制御出来る。

カイラスギリーは、かつて「ザンスカール帝国」が初めて建造したとされる宇宙要塞。

その主砲「ビッグキャノン」の破壊力は、コロニーレーザーを遥かに凌駕する。

大量のプルーマを製造可能とし、8枚の翼にはダインスレイヴが2基ずつと拡散ビーム砲が1基ずつ、更にワイヤーブレードが5基ずつ。

胴体にはワイヤーブレードを5本と高濃度圧縮ビーム砲を持ち、頭部にもビーム砲を備える正真正銘の鬼畜最強兵器。

特殊機能は「自己再生」と「自己進化」。

デビルガンダムで言う、ガンダムゴッドマスターに該当する存在(このネタが分かる人は何人いるのだろうか)。

と言うか、存在自体が反則。

それもこれも、隠されたMSが原因となる。

ビームの色も特徴的で、通常が桃色であるのに対してルシフェルのビームは黄色である。

名前の由来は、熾天使ミカエルと同等の力を持っていたとされ、多くの文献で語られる大天使「ルシフェル(ルシファー、ルキフェルなど表記揺れ多数)」から。

後に魔王サタンと呼ばれるようになる堕天使で、ルシフェルと言う名は「明けの明星」と言った意味を持つ。

 

◎ガブリエル

全長:223.6m

本体重量:不明

動力源:エイハブ・リアクター×5

武装:頭部ビーム砲×1

   腕部クロー×2

   ダインスレイヴ×2

   超硬ワイヤーブレード×3

   プルーマ×∞

特殊機能:個体増殖

概要

「四大天使」の一角。

最初のMAで、全てのMAを生み出した存在。

2枚の翼と2本の腕を胴体から生やし、尻尾を3本持つ他、翼にはダインスレイヴを備える。

「個体増殖」の機能によって、多くのMAを生み出して来た。

自分より強いMAは3機しか作る事が出来ない、と言う制限付きでは有るが。

護衛用MA「ハニエル」と、対ガンダム用MA「メタトロン」を侍らせている。

普段は月面都市が有った場所に造り上げたプラント「百合の花園(ヘブンズフィア)」にいて、MAを生み出す。

生み出されたMAは、基本的にガブリエルの命令は絶対遵守する。

ただし、「天使王」ルシフェルのみは意のままに出来ない模様。

エイハブ・リアクターの数は5基とオーバーパワーぎみだが、これはMA生産に膨大なエネルギーを使用する為。

要は、鉄血版デビルガンダム。

天使王がガンダムゴッドマスター、四大天使がデビルガンダム四天王、それ以外のMAがデスアーミー、それぞれのMAが生み出すプルーマがゾンビ兵みたいな感じである。

名前の由来は、旧約聖書にて語られる「四大天使」の一柱にして「神の言葉を伝える」とされる大天使「ガブリエル(ガウリイル、イスラームではジブリールとも)」から。

大天使ガブリエルはキリスト教の聖母マリアに「受胎告知」をした事で知られ、旧約/新約聖書では清らかな青年として描かれる。

また、イスラームでは預言者マホメットに啓示を与えたとされ、ミカエルを差し置いて最重要な天使となる。

厄祭戦最後の戦いにおいて「百合の花園(ヘブンズフィア)」最奥でガンダム・バエルと戦い、ルシフェルの乱入により破壊された。

 

◎ラファエル

全長:183.0m

本体重量:不明

動力源:■■■■■(■■■)×2

武装:無し

特殊機能:万物修復

搭載機:ASW-G-00 ガンダム・ソロモン

概要

「四大天使」の一角とされるMA。

攻撃武装を一切持たず、ナノマシンによる「万物修復」の機能を持つ機体。

この特殊機能の応用により原子レベルで放射能が分解出来たので、汚れた海は美しく浄化された。

ガブリエルに造られたモノではなく、このMAのみガンダム・フレームの開発者であるスリーヤ・カイエルが建造した。

現在は海に沈んでおり、ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」の真下に隠されている。

バエルが安置されていた場所の近くにあるコンソールを用いるで、意思疎通を可能とする。

内部には、スリーヤ・カイエルが発見した1機のMS「ASW-G-00 ガンダム・ソロモン」が隠されている。

名前の由来は、旧約聖書「トビト記」の「エノク書」に記される大天使「ラファエル」から。

この名には「神は癒される」「癒やす者」と言った意味が有り、名の通り癒やしを司るとされる。

 

◎ウリエル

全長:159.9m

本体重量:不明

動力源:エイハブ・リアクター×5

武装:頭部ビーム砲×1

   腕部クロー×2

   パイルバンカー×2

   翼部拡散ビーム砲×4

   超硬ワイヤーブレード×5

   ダインスレイヴ×4

   プルーマ×∞

特殊機能:無差別破壊

概要

「四大天使」の一角。

「無差別破壊」の機能に基づき、近付いたモノの全てを破壊する最も危険で無慈悲なMA。

4枚の翼と2本の腕を持ち、尻尾5本を胴体から生やす他にも翼には1基ずつダインスレイヴを備える。

腕部にはパイルバンカーが内蔵され、頭部ビーム砲は拡散と収束を使い分けられる。

破壊対象は、他のMAすら例外では無い。

デビルガンダム四天王で言うと、ウォルターガンダムに当たる存在。

月面都市を破壊する際にガブリエルに造られ、それ以降多くのコロニーを破壊している。

ガブリエルの指示で火星の衛星軌道に現れ、四大経済圏の火星駐屯軍&ヘイムダル&フヴェズルング&バルドルの連合軍と戦闘。

連合軍の戦力をほぼ全て無力化させたが、悪魔の力を引き出したガンダム達によって撃破された。

名前の由来は、旧約聖書や新約聖書などで「四大天使」の一柱とされ、「破壊」を司るとも言われる大天使「ウリエル」から。

この名は預言者ウリアから取られており、「神の炎」「神の光」と言った意味を持つ。

 

◎ミカエル

全長:172.7m

本体重量:不明

動力源:エイハブ・リアクター×7

武装:頭部ビーム砲×1

   腹部圧縮ビーム砲×1

   翼部拡散ビーム砲×2

   腕部クロー×2

   超硬ワイヤーブレード×10

   リフレクター・ビット×30

   ファンネル×100

   ブレード・ファンネル×100

   ダインスレイヴ×6

   プルーマ×∞

特殊機能:自己進化

概要

「四大天使」の一角にして、その中で最強のMA。

全長170mを超える長大な翼を2枚と巨大な腕2本を持ち、それを7機搭載されたエイハブ・リアクターの超出力によって運用している。

体には4門ものビーム砲を持つ他、ワイヤーブレードを10本も装備する。

また、「ファンネル」を使用可能。

ファンネルはビーム砲を積んだ漏斗型ファンネルとブレード・ファンネルの2種に分けられ、100機ずつ搭載している。

翼にはダインスレイヴを3基ずつ搭載しており、特殊機能として「自己進化」を持つ。

デビルガンダムで言うグランドマスターガンダム。

名前の由来は、旧約聖書など多くの文献で語られている「四大天使」の一柱であり、「慈悲」や「正義」を司るとされる大天使「ミカエル」から。

熾天使ミカエルは魔王サタンを滅ぼした最強の天使であり、この名は「神の如き者」「神に似たもの」と言った意味を持つ。

「オルレアンの乙女」などと讃えられる聖女ジャンヌ・ダルクに啓示を与えたのは、他ならぬミカエルであるとか。

地球上で活動し、ヘイムダルの日本基地とベルファスト基地を襲撃したりして多くの犠牲を出した。

最後は覚醒したバエルとの一騎打ちになり、破壊された。

 

○ザドキエル

ハシュマルと双璧を成す、もう1機の「天使長」。

武装はハシュマルとほぼ同じだが、腕の位置が翼の上になって翼の裏にはスラスターが大量設置された事で、ハシュマルより異形のMA。

 

 サキエル

エヴァでお馴染み、かませ犬役のサキエルたん。

バキシムさんより頂いた案を元に、設定しました。

イメージは「機動戦士ガンダムOO」の水中用MA「トリロバイト」だそうで。

水中用MAで細長い胴体の側面から2本の腕が生えており、胴体の正面にビーム砲を内蔵し背面にはミサイル、魚雷発射管が存在する。

水中以外では行動出来ず、プルーマは生産、随伴しない。

 

 ガギエル

旧劇エヴァでお馴染み、アスカのかませ犬ガギエルさん。

お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。

サキエルと同じ水中用のMAで、分厚い装甲に覆われて魚雷やミサイルが充実している。

ただしビーム砲は無く水中ではプルーマも作れず、機動力はサキエル程高くない。

 

 サハクィエル

バキシムさんより頂いた案を元に、設定しました。

巨大な6枚の翼を持っている為飛行に特化し、翼1枚につき1機の陸戦用MAの運搬と補給、投下を行う輸送用MA。

空中の他、宇宙でも運用される。

ただ、戦闘力は無くプルーマも生み出せない。

 

 スイエル

バキシムさんより頂いた案を元に、設定しました。

翼は無く、8本の足で移動する蜘蛛に似た形状の陸戦用MA。

胴体は横向きになっていて側面からは足が生え、上面からはビーム砲を内蔵した腕が生えている。

また、胴体の正面にもビーム砲が取り付けられており破壊力抜群。

機動性は低いが、プルーマの生産能力に優れている。

 

 バラキエル

pakuyasaさんより頂いた案を元に、設定しました。

本体の武装は無く、プルーマの生産と運用に長けた陸戦用MA。

生産速度は1秒に2機と言う、数で攻める怖いタイプ。

 

 サリエル

カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

蝶に似た翼と、1本の腕を持つ飛行型MA。

胴体にはビームランチャーが取り付けられており、上空からの狙撃を行う。

また、毒ガス兵器を搭載している。

ただ、プルーマの生産力は無い。

 

 ザフィエル

オストラヴァさんより頂いた案を元に、設定しました。

全長48mにもなる傘にも似た巨大な翼を持ち、高高度からの爆撃を行うMA。

核ミサイルも搭載可能であるが、装甲の強度は大した物ではなくミサイル以外の武装を持たずプルーマの生産も出来ない。

 

 マルティエル

お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。

巨大な3枚の翼を持ち、そこに多くの拡散ビーム砲が内蔵するMA。

ただし、プルーマの生産能力は控えめ。

 

 アズライル

-wind-さんより頂いた案を元に、設定しました。

水陸両用で、湾岸都市攻撃を想定しているMA。

頭部に拡散ビーム砲を内蔵し、翼からは「プラズマ・リーダー」を射出可能。

プルーマ生産能力が高く多量のプルーマを随伴するが、水中ではプルーマを展開出来ない。

 

 ケルビム

pakuyasaさんより頂いた案を元に、設定しました。

4枚の翼と4つの頭、1本の腕を持つMA。

腕にはビーム砲が内蔵されており、4つの頭による索敵と照準から高い狙撃精度を誇る。

全ての翼の裏にはスラスターが取り付けられ、非常に高機動。

 

 アザゼル

N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。

2本の腕と2枚の翼を持ち、光学迷彩を搭載した隠密用MA。

翼には4基ずつアンカーが備えられ、アンカーの先端に付いたパイルバンカーで攻撃を行う。

また、ジャミングでエイハブ・ウェーブを隠匿する為発見が困難。

ただし本体の装甲は脆弱であり、プルーマ生産力も持たずビーム砲も内蔵しない。

 

 シャクジエル

トラクシオンさんより頂いた案を元に、設定しました。

18mと小型のMAで、機体の大半をエイハブ・リアクターと直結されたビーム砲が占めている。

数cm程度の小型プルーマを無尽蔵に製造し、街を埋め尽くし虐殺する。

あまりに小型のプルーマである為MSのセンサーに反応せず、取り付いて装甲を剥がした所でビームを使う戦法を取る。

 

 カマエル

Crow・Hrasvelgrさんより頂いた案を元に、設定しました。

胴体から生えた腕と巨大な翼を2枚持ち、それぞれレールガンを3門ずつ搭載するMA。

胴体の正面にはビーム砲、背面にはミサイルポッドを備えている。

また、2本の腕にはパイルバンカーが内蔵される。

 

 イスラフィル

お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。

ビーム砲を持たないものの怪音波を放ち、範囲内の人間を抹殺するMA。

また、敵探知にも優れる。

プルーマの生産能力が高く、自衛はプルーマに任せている。

 

 ゼルエル

DOBONさん、ヨフカシさんより頂いた案を元に設定しました。

50m越えの巨体を誇る、都市攻撃専用のMA。

ミサイルポッドを大量に所持している他、翼に拡散ビーム砲を内蔵する。

防御力が非常に高いが、プルーマ生産能力は並程度である。

 

 アラエル

お野菜さんより頂いた案を参考に、設定しました。

巨大なブースターと胴体が直結され、翼にスラスターが敷き詰められた高機動型MA。

核爆弾による、一撃離脱作戦を得意とする。

ただし、プルーマは生産出来ない。

 

 メタトロン

パニックさんとorotidaさんより頂いた案を元に、設定しました。

対ガンダム・フレーム戦用MA。

ビーム砲、プルーマ生産能力、補給機能を排除して機体の軽量化が図られている。

全身はスラスターとバーニアに埋め尽くされ、4本の腕で格闘戦を行う。

また、テイルブレードの代わりとしてヒートロッドが取り付けられている。

普段は、ガブリエルの随伴機となっている。

 

 アサエル

orotidaさんより頂いた案を元に、設定しました。

ガンダム・フレームに似せて作られたMA。

40m越えの巨体で有り、胸部と腰部、頭部にビーム砲を内蔵する。

背中には巨大な翼が有り、空を飛ぶ事すら可能。 ただし、プルーマの生産能力は無い。

 

 マスティマ

N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。

アサエルを生んだ後に捕獲したガンダム・フレームを解析し、ガブリエルが建造したMA。

リアクター数は1基だが、巨大な翼を持つ為に機動力が高い。

ビーム砲を内蔵した剣と、レールガンを持つ。

当然、プルーマの生産力は無い。

 

 ハニエル

daipinさんより頂いた案を元に、設定しました。

ガブリエルが侍らせる、護衛用MA。

武装はプルーマとほぼ変わり無いが、大型化と共にビーム砲が追加されている。

 

 シャティエル

GORISANさんより頂いた案を元に、設定しました。

攻撃武装こそ装備しないが、電子戦に長けたMA。

厄祭戦時にはそれぞれの機体が各経済圏と火星の通信網を掌握し断絶させ、ハッキングによるデータ破壊と改竄を行って各経済圏の連携を断った。

これを受け、ヘイムダルは独自通信方法として「アリアドネ」を世界各地にバラまいた。

 

 アルミサエル

お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。

翼さえ持たず、武装も持たないMA。

プルーマを大量生産し、他のプルーマを持たないMAを援護する役割を担う。

 

 マルキダエル

ムリエルさんより頂いた案を元に、設定しました。

防御力の高い、宇宙防衛用MA。

装甲が異常な程分厚いが、近接武器を持たない。

2枚の翼にはガトリングガンが装備されており、頭部にビーム砲を内蔵する。

また、プルーマの生産力が非常に高い。

自分から攻撃をしない、珍しい特性を持つ。

 

 サンダルフォン

お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。

2枚の翼に拡散ビーム砲、頭と胴体にビーム砲を備えている。

1回ビームを撃つごとに敵を解析し、予測射撃を行う。

ただし、プルーマ生産能力を持たない。

 

 レリエル

お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。

漆黒の身体と翼を持ち、胴体にビーム砲、翼に散弾銃を内蔵するMA。

光学迷彩を搭載しており、奇襲と速攻が得意。

ただし、光学迷彩使用時にはあらゆる武装が使用不能になる上にプルーマの生産能力は低い。

 

 ラグエル

pakuyasaさんより頂いた案を元に、設定しました。

亀のように丸く、分厚い装甲で覆われたMA。

底面にはスラスターが付けられており、地上ではホバー走行を行う。

本体に武装は無いが、プルーマの生産能力がかなり高い。

 

 オファニエル

ツチノコさんより頂いた案を元に、設定しました。

UFO型のMAで、機体側面の全方位にビーム砲を備えている。

また、プルーマの生産能力が高い。

 

 タブリス

トラクシオンさんより頂いた案を元に、設定しました。

ナノマシンによって造られた後期型MAで、機体を様々に変質させる事が可能。

戦艦に張り付いて穴を開け、小型化して侵入したりもする。

プルーマの生産能力は持たない。

 

 シャムシャエル

Astray noirさんより頂いた案を元に、設定しました。

プルーマ以下の大きさである、最小のMA。

ナノマシンウイルスを散布してコンピューターを掌握し自壊させる、凶悪な能力を持つ。

本体はかなり脆弱である為、普段は隠匿している。

 

 ザフキエル

Astray Noirさんより頂いた案を元に、設定しました。

コロニー破壊用のMA。

高速巡航形態と戦闘形態に移行出来、尻尾のように本体と同等の長さを持つビームランチャーを持つ。

プルーマ生産能力が高い他、鈍重なMAの移送も行う。

 

 ラムエル

N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。

頭部が異様に巨大化しており、そこにはビーム砲が内蔵されている。

頭部は360度高速回転させる事が出来、拡散ビーム、歪曲ビーム、高出力ビームを使い分けられる。

ただ、接近戦用の武器を持たない。

プルーマ生産能力は並。

 

 ラメエル

N-N-Nさんより案を頂いた「ラファエル」を参考に、設定させて頂きました。

2枚の翼と腕を持つ、典型的なMA。

翼にはそれぞれ拡散ビーム砲が内蔵されており、翼を分離させて自由度の高い攻撃が可能となる。

翼へのエネルギー供給は、プルーマへの給電能力を応用している。

しかし、その為プルーマの随伴数は少ない。

 

 イロウエル

赤くて3倍な彗星さんから頂いた案を元に、設定しました。

2枚の翼を持ち、胴体にミサイルポッドが搭載されたMA。

頭部にはビーム砲が備えられている他、胸部には大型火砲「バスターアンカー」が内蔵されている。

プルーマ生産能力は並程度。

 

 セラフィム

VOLTEXさんより頂いた案を元に、設定しました。

胴体は細長く、6枚の翼を持つ宇宙用MA。

内2枚は前方へ展開してビームを放ち、他2枚はそれぞれレールガンを内蔵し、残りの翼はスラスターが敷き詰められていて高機動を実現している。

ただ、プルーマの随伴数が少ない。

 

 

 

 

【オリジナル戦艦】

・オリジナルの戦艦について纏めます。

 

《バージニア級》

ゲーティア

階級:バージニア級汎用戦艦

全長:624m

動力源:エイハブ・リアクター×5

武装:2連装主砲×4

   ミサイルランチャー×8

   対空砲×20

   クラウ・ソラス×1

   カラドボルグ×1

艦載可能数:20機

艦載機:ガンダム・フレームなど

艦長:ルベルト・ノア

概要

「ヘイムダル」のスリーヤ・カイエルが開発し、ヴィーンゴールヴで建造されたバージニア級汎用戦艦の1隻。

600mと言う、スキップジャック級には届かないもののハーフビーク級を上回る巨大な船体を持つ。

スリーヤ曰く、宇宙世紀時代のとあるラー・カイラム級汎用戦艦を形状の参考にしたとか。

ハーフビーク級やスキップジャック級に比べて装甲は少し薄いが、武装はバージニア級の方が充実している。

特に、右舷側面に取り付けられた「カラドボルグ」と左舷側面に取り付けられた「クラウ・ソラス」が強力である。

カラドボルグはダインスレイヴの強化発展版で、命中しなければ威力を発揮しないダインスレイヴとは異なり、命中せずとも絶大な破壊力を発揮する。

大型化してしまった為ガンダムに載せられず、バージニア級に搭載されている。

クラウ・ソラスは高出力のビーム砲で、その威力は宇宙世紀時代のハイパーメガ粒子砲に匹敵する。

エイハブ粒子の使用量が膨大な為、連発は不可能である。

MSの艦載可能数は20機であり、主な艦載機はガンダム・フレーム。

火星衛星軌道上で行われたウリエル戦に於いて、ウリエルの頭部ビーム砲とダインスレイヴにより撃沈した。

 

サロモニス

階級:バージニア級汎用戦艦

全長:624m

動力源:エイハブ・リアクター×5

武装:2連装主砲×4

   ミサイルランチャー×8

   対空砲×20

   クラウ・ソラス×1

   カラドボルグ×1

艦載可能数:20機

艦載機:ガンダム・フレームなど

艦長:ドワーム・エリオン

概要

日本基地で建造された、バージニア級汎用戦艦。

形状、武装は「ゲーティア」と同一。

「四大天使」ガブリエル戦で轟沈。

 

 

《マンリー級》

マンリー級強襲揚陸艦

全長:192m

動力源:エイハブ・リアクター×1

武装:2連装主砲×2

   対空ミサイル×4

   魚雷×4

   対空砲×10

艦載可能数:5機

艦載機:ガンダム・フレーム

    ヘキサ・フレーム

    ロディ・フレーム  など

概要

「ヘイムダル」を始め、世界中で運用されている海上戦艦。

5機のMSを運用可能で、武装もそれなりに充実している。

厄祭戦時代に建造され、現在もギャラルホルンで使用される。

 

 

《レキシントン級》

レキシントン級大型輸送機

全長:325m

動力源:エイハブ・リアクター×5

武装:対空拡散ビーム砲×3

   ミサイルランチャー×6

   対空砲×30

艦載可能数:40機

艦載機:ガンダム・フレーム

    ロディ・フレーム

    ヘキサ・フレーム

概要

「ヘイムダル」を始め、世界中で運用されている大型輸送機。

全長が325m、翼の全幅は530m。

宇宙世紀時代に建造されたガルダ級大型輸送機が参考とされているが、大きさはそれを凌駕している。

半永久機関である5基のエイハブ・リアクターを動力源としており、食糧などを考慮しないならば航続距離に制限は無い。

対空拡散ビーム砲と対空砲により、圧倒的な火力を誇る。

 

 

《ハーフビーク級》

ヴァイシュヴァーナラ

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

艦長:アグニカ・カイエル

概要

主力戦艦として「ヘイムダル」時代より現在の「ギャラルホルン」でも運用される宇宙戦艦。

400m級の戦艦であり、最も多く建造され運用されている艦種でもある。

「カイエル家」が個人所有する戦艦であり、ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルが艦長を務める。

ガンダム・バエルと同じく、白と青で塗装されている。

厄祭戦の数年後に火星へ出現した「天使長」ハシュマル撃破の為にグラズヘイムⅠより出航し火星へ向かったが、「天使王」ルシフェルによって撃沈させられた。

 

ラタトスク

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

    グレイズ・フレーム

艦長:カロム・イシュー

   カルタ・イシュー

概要

セブンスターズ第一席「イシュー家」が個人所有するハーフビーク級戦艦。

300年前はカロム・イシューが、現在はカルタ・イシューが艦長を務める。

ガンダム・パイモンと同じく、白と赤で塗装されている。

 

フェンリル

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

    ヴァルキュリア・フレーム

    グレイズ・フレーム

艦長:フェンリス・ファリド

   イズナリオ・ファリド

   マクギリス・ファリド

概要

セブンスターズ第二席「ファリド家」が個人所有するハーフビーク級戦艦。

300年前はフェンリス・ファリドが、現在はマクギリス・ファリドが艦長を務める。

ガンダム・アスモデウスと同じ塗装をされていたが、マクギリスの趣味で白と青に塗り直された。

 

スレイプニル

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

    グレイズ・フレーム

艦長:クリウス・ボードウィン

   ガルス・ボードウィン

   ガエリオ・ボードウィン

概要

セブンスターズ第三席「ボードウィン家」が個人所有するハーフビーク級戦艦。

300年前はクリウス・ボードウィンが、現在はガエリオ・ボードウィンが艦長を務める。

ガンダム・キマリスより少し濃い紫で塗装されている。

 

フギン・ムニン

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

    グレイズ・フレーム

    レギンレイズ・フレーム

艦長:ケニング・クジャン

   イオク・クジャン

概要

セブンスターズ第五席「クジャン家」が個人所有するハーフビーク級戦艦。

300年前はケニング・クジャンが、現在はイオク・クジャンが艦長を務める。

ガンダム・プルソンと同じく、黒と黄で塗装されている。

 

グリムカンビ

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

    グレイズ・フレーム

艦長:リック・バクラザン

   ネモ・バクラザン

   ディジェ・バクラザン

概要

セブンスターズ第六席「バクラザン家」が個人所有するハーフビーク級戦艦。

300年前はリック・バクラザンが、現在はディジェ・バクラザンが艦長を務める。

ガンダム・ヴィネと同じく、水色で塗装されている。

 

ヨルムンガンド

階級:ハーフビーク級宇宙戦艦

全長:403m

動力源:エイハブ・リアクター×3

武装:2連装主砲×2

   対空砲×4

   ミサイルランチャー×6

艦載可能数:35機

艦載機:ガンダム・フレーム

    グレイズ・フレーム

艦長:ミズガルズ・ファルク

   エレク・ファルク

   トリク・ファルク

概要

セブンスターズ第七席「ファルク家」が個人所有するハーフビーク級戦艦。

300年前はミズガルズ・ファルクが、現在はトリク・ファルクが艦長を務める。

ガンダム・アモンと同じ塗装が施されている。

 

 

《スキップジャック級》

ファフニール

階級:スキップジャック級大型戦艦

全長:820m

動力源:エイハブ・リアクター×6

武装:2連装主砲×6

   対空砲×8

   ミサイルランチャー×12

艦載可能数:70機

艦載機:ガンダム・フレーム

    グレイズ・フレーム

    レギンレイズ・フレーム

艦長:ドワーム・エリオン

   ラスタル・エリオン

概要

800mと言う世界最大の全長を誇るアリアンロッド艦隊の旗艦にして、セブンスターズ第四席「エリオン家」が個人所有する戦艦。

とりあえずハーフビーク級の2倍のスペックを持つ。

300年前はドワーム・エリオンが、現在はラスタル・エリオンが艦長を務める。

元々有ったアリアンロッド艦隊の旗艦はハーフビーク級であったが、ラスタルが司令官となった事でこのファフニールが旗艦となった。

白で塗装されている。

 

 

 

 

【オリジナルキャラクター】

・オリジナルのキャラクターを纏めます。

・♂:男性、♀:女性を表します。

 

《現代》

アラズ・アフトル

男性

本作の主人公。

赤髪蒼眼で、身長は高め。

阿頼耶織の手術を3回受けており、猛毒を舐めてもケロリとしている人外。

CGSが発掘したMS「ガンダム・バルバトス」のコクピットで発見され、CGSへ加入した。

MSやMA、ギャラルホルンについて豊富な知識を持つ。

名前は本名ではなく、歴史上のとある人物と容姿が似通っているようだが…?

 

魚屋の店主

男性

友切包丁(メイトチョッパー)の二刀流で、ありとあらゆるモノを捌く凄腕の魚屋。

工業コロニー、ドルト3に店を構える。

昔はジェイ●ンのコスプレをした殺人鬼だったが、元々の魚屋の店主を解体するついでに魚屋に置いてあったマグロを解体してみた所、魚の素晴らしさに魅せられて翌日にはその魚屋の店主を名乗っていたとか。

見た目と動機と経歴はともかく腕は確かで、依頼すれば完璧な仕事をしてくれる。

魚の骨が苦手な人や自分で捌くのが不安な人には人気が有り、売上は常日頃黒字を維持している。

ただ、夜になると魚と一緒に客も解体してしまうと言う悪癖が有る為、営業は昼間のみ。

以上、5分で考えた設定。

 

ディジェ・バクラザン

男性

「ガンダム・ヴィネ」のパイロットで、バクラザン家の次期当主。

口汚いが、部下想いで優しい性格。

ツンデレ。

 

トリク・ファルク

男性

「ガンダム・アモン」のパイロットで、ファルク家の次期当主。

「植物の心のような生活」が座右の銘で、どこぞの殺人鬼みたいだが、別に殺人鬼ではないのでご安心あれ。

と言うか、穏やかなのでマクギリスよりマトモ。

 

オルセー・イシュー

男性

番外編に登場。

セブンスターズ第一席「イシュー家」の先代当主であり、カルタ・イシューの父親。

地球外縁軌道統制統合艦隊「グウィディオン」の最高司令官、並びに地球衛星軌道上に存在する三基の衛星基地「グラズヘイム」の総司令官を務める。

まだ三十を過ぎたばかりだが、病弱である為に頻繁に寝込んでしまう。

また、その為に痩身で、肌も不健康なほどに白い。

心配性だが、その分気配りが出来る。

 

アビド・クジャン

男性

番外編に登場。

セブンスターズ第五席「クジャン家」の先代当主であり、イオク・クジャンの父親。

先代エリオン公の死後、役職を引き継ぐ形で月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の最高司令官を務めている。

非常に優秀な人物で、艦隊指揮からモビルスーツ操縦までそつなくこなす完璧超人。

それに加えて人望が有り、部下からの信頼が厚い。

 

キュル・ミュンヘン

男性

番外編に登場。

アリアンロッドから火星監査団に貸し出されたハーフビーク級宇宙戦艦、その艦長。

階級は一佐であり、アビド・クジャンの右腕だとも言われる凄腕。

艦隊指揮、MS部隊指揮に加えて、操縦も出来る。

 

ゾレイ・サルガタナス

男性

番外編に登場。

「夜明けの地平線団」の首領(P.D.0315年時)。

真紅の服を纏って真紅の機体に乗り込む、三十前半と目される人物。

シャアとかフロンタルとかと同じ匂いがする。

阿頼耶識手術を受けており、通常の三倍の速度で機体をかっ飛ばし、「朝陽の男」との異名を取る。

その素性は、謎に包まれている。

 

 

《厄祭戦》

アグニカ・カイエル

男性

主人公、アラズ・アフトルの正体。

「ガンダム・バエル」のパイロットで、ギャラルホルンの最高幕僚長でもある。

300年前の人物だが、厄祭戦中にアンドロイドとなったために時を越えて現代も稼働している。

動力源は大体ドラえもんと同じ。

にも関わらず、四次元ポケットは持っていない。

 

スリーヤ・カイエル

男性

天才科学者で、アグニカの父。

「ツインリアクターシステム」を立証し、「ガンダム・フレーム」を開発した。

「ヴァルキュリア・フレーム」などを初めとして、戦艦なども開発して厄祭戦に於ける人類の戦線を支えた。

また、厄祭戦中に何かしらやべーやつを拾ったようだが…?

300年前の人物。

 

プラージャ・カイエル

男性

天才科学者で、アグニカの祖父。

「エイハブ・リアクター」を利用して作業機械「モビルスーツ」を造ったが、MSが戦争に利用された事から人類に憤る。

人類の結束を促すべくエイハブ・バーラエナと共に殺戮兵器「モビルアーマー」を開発し、起動させた際に死亡した。

300年前の人物。

 

スヴァハ・クニギン

女性

「ガンダム・アガレス」のパイロットで、アグニカの幼なじみ兼恋人。

桃色の髪と金の瞳を持ち、身長は165cm前後。

家事万能で性格も良いが、SAN値の上限が低い。

アグニカ曰く「かわいい」。

――アグニカの語彙力を奪うくらいの可愛さだと思おう。

具体的に分からないって? 考えるな、感じろ。

ミカエル戦に於いて、ブレード・ファンネルにコクピットごと身体を引き裂かれて戦死した。

300年前の人物。

 

ヴィヴァト・クニギン

男性

天才科学者で、スヴァハの父。

アグニカからは「マッドサイエンティスト」と呼ばれており、本人も否定はしない。

「魔術的な現象を科学的に発生させる」事が彼の研究であり、実際に成功した為「ガンダム・フレーム」開発にも利用される。

プラージャ・カイエルが基礎理論を遺した「阿頼耶織システム」を、難なく実用化させた。

バージニア級戦艦「ゲーティア」に乗り込み、技術長を勤めている。

火星衛星軌道上で行われたウリエル戦に於いて、ゲーティアの「クラウ・ソラス」でウリエルに逆転の一射を放つ。

その後、ウリエルのダインスレイヴによる反撃でゲーティアの爆発に巻き込まれて戦死した。

300年前の人物。

 

カロム・イシュー

女性

セブンスターズ第一席「イシュー家」の初代当主で、カルタ・イシューの先祖。

「ガンダム・パイモン」のパイロット。

銀髪の美人で、常に帯刀する日本かぶれ。

彼女は麻呂眉ではないが、イシュー家の遺伝子が300年間頑張った結果、カルタ様に行き着いた。

イシュー家の遺伝子、恐ろしや。

300年前の人物。

 

フェンリス・ファリド

男性

セブンスターズ第二席「ファリド家」の初代当主で、イズナリオ・ファリドの先祖。

「ガンダム・アスモデウス」のパイロット。

黒髪で、身長はクリウスと同じくらい。

前髪が凄い。

とにかく凄い。

凄く長い上に跳ねている。

セットとかはしておらず、クセっ毛とのこと。

300年前の人物。

 

クリウス・ボードウィン

男性

セブンスターズ第三席「ボードウィン家」の初代当主で、ガエリオ・ボードウィンらの先祖。

「ガンダム・キマリス」のパイロット。

髪の色は子孫達と同一。

イシュー家に続いて、遺伝子が強いらしい。

髪の毛がもう訳わからない事になっている。

本人曰く「クセっ毛」らしいが、毎朝時間を掛けてセットしているのではと言う疑惑が有る。

300年前の人物。

 

ドワーム・エリオン

男性

セブンスターズ第四席「エリオン家」の初代当主で、ラスタル・エリオンの先祖。

「ガンダム・ベリアル」のパイロット兼、バージニア級戦艦「サロモニス」の艦長。

髪の毛がボッサボサしているが、サラサラらしい。

基本、常に何かを羽織っている。

300年前の人物。

 

ケニング・クジャン

男性

セブンスターズ第五席「クジャン家」の初代当主で、イオク・クジャンの先祖。

「ガンダム・プルソン」のパイロット。

愛すべきバカであるが、頭はとてつもなく回るのでアホではない。

と言うか、普通に有能。

子孫(イオク)よ、何故バカ兼アホのたわけなどになった?

300年前の人物。

 

リック・バクラザン

男性

セブンスターズ第六席「バクラザン家」の初代当主で、ネモ・バクラザンらの先祖。

「ガンダム・ヴィネ」のパイロット。

髪をとりあえず伸ばしており、風に靡かせるのが好きらしい。

その事について数時間熱弁したコトがあるが、誰にも理解してもらえなかったとか。

300年前の人物。

 

ミズガルズ・ファルク

男性

セブンスターズ第七席「ファルク家」の初代当主で、エレク・ファルクの先祖。

「ガンダム・アモン」のパイロット。

フェンリスよりも前髪が凄い。

凄い勢いで跳ねているため、あの前髪には重力が作用していないのではと疑われて一時期は前髪研究のモルモットにされていた。

300年前の人物。

 

浦上(うらがみ)駿(はや)()

男性

「ヘイムダル」日本基地でガンダムを建造した天才科学者の1人。

MA「ミカエル」のダインスレイヴにより、死亡した。

300年前の人物。

 

アドルフ・オファロン

男性

「ヘイムダル」日本基地でガンダムを建造した天才科学者の1人。

MA「ミカエル」のダインスレイヴにより、死亡した。

300年前の人物。

 

アマディス・クアーク

男性

「ガンダム・フォカロル」のパイロット。

18歳で彼女いない歴=年齢の童貞、彼女募集中。

300年前の人物。

 

エセリオ・プラウドフット

男性

オセアニア連邦第三代大統領。

頭はハゲ散らかっており、ヨレヨレのスーツを着る。

しかし、狡猾で周到な敏腕政治家。

300年前の人物。

 

(たい)()・コリンズ

男性

トリントンへのMA襲撃で姉を喪い、MAへの復讐を目的として戦う。

「ガンダム・グラシャラボラス」のパイロット。

初戦闘でガンダムの力を引き出し、右腕の神経を無くした。

後にミカエル戦でグラシャラボラスを暴走させ、バエルによって殺された。

300年前の人物。

 

ゴドフレド・タスカー

男性

「ガンダム・フラウロス」のパイロットで、操縦担当。

メイベル・タスカーの夫。

ハシュマル戦にて死亡。

300年前の人物。

 

メイベル・タスカー

女性

「ガンダム・フラウロス」のパイロットで、狙撃担当。

ゴドフレド・タスカーの妻。

ハシュマル戦にて死亡。

300年前の人物。

 

(ひびき)・コフリン

男性

「ガンダム・ヴァレファール」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦で戦死。

300年前の人物。

 

(りょう)()・ウェルティ

男性

「ガンダム・ゼパル」のパイロット。

MA「アザゼル」と相討ちになり、戦死。

300年前の人物。

 

クジナ・ウーリー

女性

「ガンダム・グレモリー」のパイロット。

元狙撃選手だったりする。

ミカエルのファンネルにより、戦死。

300年前の人物。

 

(ゆう)()・スパーク

男性

「ガンダム・ヴァッサゴ」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後は消息不明。

300年前の人物。

 

カサンドラ・ウォーレン

男性

「ガンダム・アスタロト」のパイロットで、ギャラルホルンの一家だった「ウォーレン家」の初代当主。

300年前の人物。

 

名無し/サミュエル

男性

「ガンダム・アムドゥスキアス」のパイロット。

寡黙な天才。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、その後は消息不明。

300年前の人物。

 

クレイグ・オーガス

男性

「ガンダム・バルバトス」のパイロット。

三日月・オーガスの先祖?

火星へ移住し、その後は消息不明。

300年前の人物。

 

和弘・アルトランド

男性

「ガンダム・グシオン」のパイロット。

昭弘・アルトランドの先祖?

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、消息不明に。

300年前の人物。

 

トム・ダレイニー

男性

「ヘイムダル」ベルファスト基地でガンダムを建造した、天才科学者の1人。

 

イーモン・ハットン

男性

「ヘイムダル」ベルファスト基地でガンダムを建造した、天才科学者の1人。

 

オーウェン・フレッチャー

男性

「ガンダム・ブエル」のパイロット。

電子戦が得意。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

ナトリア・デヴリン

女性

「ガンダム・フェニクス」のパイロット。

エドゥアルダ・デヴリンの姉で、高飛車なお嬢様。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

エドゥアルダ・デヴリン

女性

「ガンダム・ハルファス」のパイロット。

ナトリア・デヴリンの妹で、内気な幸薄系。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

金元(かねもと)・カーゾン

男性

「ガンダム・マルコシアス」のパイロット。

粗暴な性格で、うるさい。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

ドリス・マクソーリー

女性

「ガンダム・ストラス」のパイロット。

うっかり系。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

(まさ)()・コナー

男性

「ガンダム・オロバス」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

ミランダ・アリンガム

女性

「ガンダム・マルバス」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

ローズ・ランフランク

女性

「ガンダム・オセ」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

()(ズー)(シュエン)

男性

「ガンダム・フォルネウス」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

ラッセル・クリーズ

男性

アグニカとスヴァハに拾われた孤児。

「ガンダム・シトリー」のパイロットになる。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

マリベル・コルケット

女性

アグニカとスヴァハに拾われた孤児。

「ガンダム・ボティス」のパイロットになる。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

トビー・メイ

男性

アグニカとスヴァハに拾われた孤児。

無気力だが、「ガンダム・アンドラス」のパイロットになる。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

ルベルト・ノア

男性

バージニア級戦艦「ゲーティア」の艦長。

ウリエル戦に於いて、ウリエルの頭部ビームを受け戦死した。

300年前の人物。

 

ウィリアム・ウェストコット

男性

「ヘイムダル」火星基地の科学者。

名無し/サミュエルの育ての親。

300年前の人物。

 

ロブ・ダリモア

男性

汚れ仕事の代表である「煽動屋」の最大勢力「フヴェズルング」のリーダー。

ヘイムダルより強奪した「ガンダム・アンドロマリウス」のパイロット。

初めて「煽動屋」となり、以後組織として巨大化させた。

まず自分を第一に考える為、仕事をした結果人々がどうなるかには関心が無い。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、バエル救出の際に爆発に巻き込まれて消息不明。

300年前の人物。

 

アマーリア・ウィーデン

女性

「煽動屋」フヴェズルングのメンバーで、ロブの側近の1人。

ヘイムダルより強奪した「ガンダム・レラージェ」のパイロット。

「四大天使」ウリエル戦で、戦死。

300年前の人物。

 

ピラール・ハーディング

女性

「煽動屋」フヴェズルングのメンバーで、ロブの側近の1人。

ヘイムダルより強奪した「ガンダム・カイム」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、バエル救出の際に爆発に巻き込まれて消息不明。

300年前の人物。

 

シプリアノ・ザルムフォート

男性

「ヘイムダル」火星基地のメンバーで、「ガンダム・ダンタリオン」のパイロット。

後にギャラルホルンの名家となるザルムフォート家の初代当主。

300年前の人物。

 

レオナルド・マクティア

男性

「ヘイムダル」火星基地のメンバーで、「ガンダム・イポス」のパイロット。

変人なのは、元芸術家志望であったから?

300年前の人物。

 

アイトル・サックウィル

男性

「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・ウヴァル」のパイロット。

「四大天使」ガブリエル戦で死亡。

300年前の人物。

 

イシュメル・ナディラ

男性

「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・デカラビア」のパイロット。

ミカエルにデカラビアが破壊された後は、「ガンダム・グレモリー」に乗り換えた。

後のギャラルホルンで名家となる「ナディラ家」の初代当主。

300年前の人物。

 

レグロ・サッチ

男性

「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・エリゴール」のパイロット。

300年前の人物。

 

レスリー・ホルブルック

男性

「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・ナベリウス」のパイロット。

300年前の人物。

 

アーヴィング・リーコック

男性

傭兵団「バルドル」の団長だが、現在は雇われてアーレスにいる。

「ガンダム・アンドレアルフス」のパイロット。

300年前の人物。

 

バリシア・オリファント

女性

「ヘイムダル」メンバーで、「ガンダム・ガミジン」のパイロット。

元は整備士だったが、パイロットがいなかった為乗るハメになった。

メタトロンと相討ちになり、戦死。

300年前の人物。

 

ウィルフレッド・ランドル

男性

「ガンダム・バティン」のパイロット。

新聞記者であり、拾ったガンダムを使って世界を廻りながら取材をした後ヘイムダルと合流した。

300年前の人物。

 

ルーベン・ハフィントン

男性

SAU第十七代総理大臣。

300年前の人物。

 

リンジー・フォーサイス

男性

アフリカンユニオン第八代大統領。

300年前の人物。

 

モーガン・ハスケル

男性

アーブラウ議会第十六回代表。

300年前の人物。

 

ラーペ・グラン

男性

「ガンダム・ミシャンドラ」のパイロット。

オセアニア連邦軍の少将で、オセアニア連邦MS隊の隊長。

セリフには必ず「だ」が含まれる。

「四大天使」ガブリエル戦に参加したが、消息不明。

300年前の人物。

 

サイラス・セクストン

男性

「ガンダム・サブナック」のパイロット。

階級は大佐で、SAUのMS全隊を率いる。

「四大天使」ガブリエル戦に参加し、消息不明。

300年前の人物。



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CGS編
#01 謎の男


まず第1話…プロローグなのですが、早速設定改変有りです。
どこにあるかは、後書きにて。


「…何だこりゃ」

 

それを見て、クリュセ・ガード・セキュリティー社長のマルバ・アーケイはそう呟いた。

 

クリュセ・ガード・セキュリティー…通称CGSは、立ち上がったばかりの会社である。

つい最近本部施設の建設に着手して、労働力として沢山の行き場のない子供達を雇用した所だ。

 

農場も開拓途中で、仕事もまだ無い。

本部施設の建設費用に私財の大半を投げ打ったので、最近の食事内容は酷いモノだったりする。

 

そんな、まだまだこれからな会社の社長である彼が、砂漠の中で何を見たかと言うと。

 

「…マルバ、こりゃあ…」

「…ああ。モビルスーツだ」

 

モビルスーツ。

300年もの昔に開発された、白兵戦専用の大型機械だ。

 

マルバは砂漠を超えた先に有るプラントに行く途中で、それを発見した。

 

MSは顔までしか見えていなかったが、明らかにボロボロだった。

 

「どうする、マルバ?」

「どうするも何も…とりあえず掘り出して、本部に運ぶしかないだろ。それに、本当にMSなら『エイハブ・リアクター』を積んでるハズだ。わざわざ本部施設に発電所を建設する手間が省ける」

 

エイハブ・リアクター。

MSや艦船、スペースコロニーの動力に使用されている相転移炉だ。

発明者の「エイハブ・バーラエナ」にちなんで、この名が付けられたとか。

物理的な破壊は不可能とされるほど耐久性が高く、稼働中は半永久的にエネルギーを生み出し続ける。厄祭戦後の世界ではギャラルホルンのみが製造技術を独占している為、希少価値が高い。

他勢力は厄祭戦時代の残存兵器に搭載されていたリアクターをレストアして使用しているのが殆ど。

回収困難となって稼働状態で宇宙に放棄されたリアクターも存在し、エイハブ粒子が発する疑似重力によって高密度のデブリ帯を形成する原因となっている。

また、リアクター内の真空素子が相転移して生成される「エイハブ粒子」によって発生する磁気嵐「エイハブ・ウェーブ」の影響で、地球では都市部への持ち込みが禁止されている。

 

エイハブ・リアクターが有れば、本部施設の建設費が安くなる。

食事も、多少マシになるかも知れない。

 

マルバは本部施設に戻った後、手の空いた子供達を砂漠に向かわせ、MSを掘り出す事にしたのだった。

 

 

 

 

そして、その角とツインアイを持つMSは何日かかけて掘り出され、本部へと運ばれた。

現在、そのMSはモビルワーカーの整備場に転がされている。

 

「マルバ。これ、中に誰かいるみてえだが」

 

モビルワーカーの整備長であり、マルバの古い友人でもあるナディ・雪之丞・カッサパは、そう言うのだが。

 

「オイ、これは埋まってたんだぞ? 何で中に人がいるんだ?」

「んな事俺に聞かれてもなあ…どうする? 300年前から埋まってたなら、パイロットは間違い無く死んでるだろうが…一応、埋葬くらいはしてやるか?」

「ああ…そうだな。死体がパイロットに残ったままのMSとか、不気味だしな…雪之丞、コクピットを開けられるか?」

「開けるくらいなら、何とかなるさ」

 

そう言って雪之丞はコクピットの近くに行き、幾つかの導線をMSに繋げる。

そして、手元のパネルを操作する。

 

「よし、開くぞ」

 

雪之丞が操作を確定すると、プシューと言う音がしてコクピットが開かれた。

 

「さて、何が出て来るかな」

 

そう言いながら、マルバはコクピットを覗き込む。

白骨死体が転がっている光景を想像していた…のだが。

 

「…おーい、どうした?」

「……見てみろ、雪之丞」

「? ……こいつぁ…!?」

 

 

そこには、1人の男がいた。

 

 

身長が180cmを越えていて、火星のように赤い髪を持つ長身の男。

不細工と言う訳では無いが、美形と言う程でも無い顔立ちをしている。

どこの組織の物か分からない、白と青のパイロットスーツを着ている。

そして、そのコクピットの隅には1つのトランクが置いてある。

 

だが、何より驚くべき事は。

 

「……阿頼耶織が、動いてやがる…」

 

そんな外見が細かく分かってしまう程、男には傷が無い。

そして、「阿頼耶織システム」がまだ動いているのだ。

 

阿頼耶織システム。

厄祭戦時代のMSのコクピットに採用された有機デバイスシステムだ。

本来は宇宙作業機械の操縦用に開発されたが、MSの性能を限界まで引き出す目的で軍事転用された。

パイロットの脊髄に埋め込まれた「ピアス」と呼ばれるインプラント機器と操縦席側の端子を接続し、ナノマシンを介してパイロットの脳神経と機体のコンピュータを直結させる。

それにより、脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成される。

これによって、通常はディスプレイなどから得る情報がパイロットの脳に直接伝達され、機械的プログラムに縛られない操作が可能となるのだ。

端子の埋め込みは複数回行うことも可能で、回数を重ねる程伝達される情報量も増加する。

 

それが動いていると言う事は。

 

 

「生きて、いやがるのか…!?」

 

 

脳がまだ機能している。

即ち、この男がまだ生きている事を表しているのだ--。

 

 

 

 

「…んん……」

 

俺が目を覚ました時、バルバトスのコクピットハッチは開かれていた。

 

「おう、気が付きやがったか」

 

そのコクピットを、ガタイが良く肌の黒い男が覗き込んでいる。

その男が手元のパネルを操作すると、背中の阿頼耶織が外された。

 

「ここは…?」

「クリュセ・ガード・セキュリティー…通称CGSの本部だ。お前のMSをうちの社長が発見して、ここまで連れて来たんだよ。出られるか?」

 

そう聞いて来たので、俺はハッチに手をかけて外に出る。

 

「……色々聞きてえ事はあるんだが、その前にだ。俺はナディ・雪之丞・カッサパ。ここで整備長をやってる」

 

と、その男は名乗った。

自己紹介をされたのだから、ここは仕返すのが筋だろう。

 

「俺は…アラズ。アラズ・アフトルだ。なあカッサパさん、幾つか質問して良いか?」

「良いぞ。ただ、社長室への移動途中で構わねえか?」

「ああ、感謝する」

 

それから、そのカッサパさんに色々な事を聞いた。

 

今はP.D.(Post.Disaster.)313年。

あの「厄祭戦」から約300年が過ぎた時代。

世界は治安維持組織「ギャラルホルン」によって監視され、4つの経済圏による分割統治に移行していた。

しかし、長きに渡る平和の中でギャラルホルンは当初の理念を失い腐敗。

その余波は、一般民衆にも差別や貧困という形で蔓延した。

生活難から過酷な労働に就くストリートチルドレンや、人身売買される「ヒューマンデブリ」といった孤児達が数多く存在していると言う。

 

「ありがとう。俺の境遇については、社長室で話した方が良いよな?」

「あ…ああ」

 

そして、カッサパさんと共に社長室に入る。

 

「マルバ、例のパイロットが目を覚ましたぞ」

「おう…って、うおおおお!? 何で普通にお前の後ろで立って歩いてるんだ!? 不用心過ぎるぞ、オイ!!」

 

マルバと言うらしいその社長は、俺を見るなり慌てふためき銃を向けて来る。

 

「社長、落ち着いて下さい。俺がアンタらに敵対する気なら、とっくにMSで暴れてるよ。俺は寝起きで右も左も分かんないんですよ?」

「何故貴様に馴れ馴れしく『社長』などと呼ばれねばならんのだ!? マルバ・アーケイだ、アーケイさんとでも呼べ!」

「落ち着けマルバ、こいつは悪い奴じゃなさそうだしな」

 

カッサパさんの言葉で、アーケイ社長は落ち着いたらしい。

俺を睨んでいる事に変わりは有りませんでした、悲しいです。

 

「…それで、貴様は何故あのMSに乗っていたのだ? 何故、生きてるのだ?」

「とりあえず、俺が生きてる理由は簡単ですよアーケイ社長」

 

そして、パイロットスーツの前チャックを胸より下まで開ける。

 

「…それは…!」

「見ての通り、俺はただの人間じゃない。昔、戦いで体がブッ壊れてしまってな。それから、こんな感じだ」

 

昔、戦いで体の大半を失った。

それを機械に変えていたおかげ…せいで、死なずに済んだらしい。

 

「1つ目の質問についてなんだが…どうも、記憶が混濁してるらしいんだ。全然思い出せない」

「…まあ、あんな状態だったなら仕方ないかも知れんな」

「じゃあ、思い出したら言えば良いんじゃねえか? いつか思い出すだろ」

 

カッサパさんの言葉に頷く。

すると、アーケイ社長は次の質問を投げて来る。

 

「じゃあ次だ。覚えてないなら良いが、あのMSは何だ?」

「あ、それならさっきまで繋がってたから分かる。あれは『ASW-G-08 ガンダム・バルバトス』。『ガンダム・フレーム』の1機だ」

「「!?」」

 

ガンダム・フレーム。

厄祭戦末期、ギャラルホルンの前身組織が開発したフレームの1つ。

通常のMSでは1基のみ搭載されるエイハブ・リアクターを2基搭載しており、現行MSをも凌駕する出力を発揮する。

反面、2基のリアクターの並列稼働が技術的に困難を極めた事から、総生産数は72機にとどまった。

コクピットブロックはフレームと一体化しており、パイロットの生残性に優れる。

終戦から約300年後の現在では26機の存在が確認されているが、当時の資料の多くが失われている為に整備やパーツの調達が難しく、満足な稼働状態の機体は少ない。

 

「リアクターは無傷だが、パーツの大半は落ちてる上に機体のあちこちに砂が入ってやがる。あれを戦場に出すのは無理だ。せいぜい、動力源くらいにしかならない」

「……そんだけでも充分だ。本部施設の動力源に使いたいしな」

「構わない、好きに使ってくれ。後、コクピットブロックはもう使えないぞ。モニターとかひび割れてるし」

 

バルバトスのコクピットは、一目で「使えない」と分かる程に酷い状態だ。

モニターはバッキバキにひび割れてて、レバーも一部が壊れているようだし。

 

「ところでアーケイ社長、お願いがあるのですが」

「何だ?」

 

そんなアーケイ社長に、俺は頭を下げてこうお願いする。

 

「この『CGS』に入れてくれ。と言うか雇って下さいお願いします」

「………はあ!?」

 

唖然とするアーケイ社長に、頭を更に深々と下げて自己アピール。

 

「何でもしますから、お願いします! MWの操縦とか整備は勿論、経理とかの仕事もやれますから! お願いします社長! 金無いんです!!」

 

そう。

行くアテも無く、金も無い。

とりあえず雇って頂かないと、何も出来ないんすよ社長!!

 

「……はあ、分かった。お前を雇ってやる。名前は?」

「ありがとうございます、社長! 俺はアラズ・アフトルって言います。よろしくお願いします!!」

 

やったぜ。

 

「じゃあとりあえず、雪之丞と一緒にMWの整備頼む。後、ガキ共の訓練も頼みたい。MSに乗ってたんだから、アイツらをしごいてやってくれ」

 

と、最初の仕事が早速回って来た。

 

 

 

 

こうして、俺はCGSの社員になった。

それから10年後。

 

かなりの大企業になったCGS。

子供達が集まった「参番組」の訓練を、俺は任される事になった--




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アラズ・アフトル 90AP


バルバトスの発見について。
公式の設定だと、発見時からコクピットブロックは無くなっていたらしいですが、登場にあたってそこを変えました。

ちなみに、「アラズ・アフトル」は本名では有りません。

次回はミカ達が出て来る…ハズ。


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#02 夜明け

うろ覚えで書いたので、原作と違う所が有ると思います。
どうか、ご了承をm(__)m


P.D.323年。

10年間CGSに勤め、最近では最古参の1人に数えられるようになった俺は、変わらず子供達の訓練を担当していた。

 

阿頼耶織システムの手術を生き延び、参番組に配属された子供達の訓練…それが、俺の仕事である。

 

元から3回も受けていた俺の言う事でも無いだろうが、いつからCGSはこんな非道を行うようになったのだろうか。

反対はしたのだが、社長に押し切られてしまったしなあ。

 

ともかく、今日は中でも優秀な三日月・オーガスと昭弘・アルトランドの模擬戦が行われている。

2人への通信によるアドバイスは勿論、見ている奴らにも色々教えるのだ。

まあ、見ている奴らは上から地雷の設置訓練を下されてしまったが。

 

「昭弘! 旋回がいちいち大きすぎる、隙だらけだぞ!」

『マジかよ…って、うおおおお!?』

 

これまた、旋回中に三日月の攻撃。

カラーボールが、昭弘のMWに直撃する。

 

「被弾数、三日月3発に昭弘4発! 旋回と攻撃、旋回と攻撃だといずれ見切られるぞ! バリエーション持たせろ!」

『バリエーション…了解』

『クッソ、やってやらァ!!』

 

早速実践に移す2人。

やはり、操縦技術はあの2人が特に秀でている。

 

逆に頭はビスケット・グリフォンが優秀だし、統率力で言うならオルガ・イツカとユージン・セブンスタークか。

 

この参番組は、なかなか優秀な奴が揃っているようだ。

 

『うおおおお!』

 

言ってる側から、昭弘のMWがまた被弾。

 

「ふむ…ビスケット、これをどう見る?」

「そうですね……三日月の俊敏さに、昭弘が付いて行けてない感じが有ります。昭弘はパワー型なので、こう言う模擬戦だと不利かも」

「それ、単純に昭弘がパワーバカって言ってるモンじゃねェか?」

「そ、そんな事無いよ!」

 

ユージンのツッコミを、ビスケットは否定する。

 

「パワーバカって所はまあ、正しいかもな…今度やる時は、単純なぶつかり合いだけの模擬戦にしよっかな」

「おやっさんに怒られますよ?」

「はは、違い無い」

 

んな事したら、MWがボッコボコになるのは目に見えて明らかだからなあ。

参番組はともかく、俺がどやされる。

 

『ぬうううう!!』

 

昭弘のMWが、三日月のMWに急接近する。

 

『よっと』

『うおおおお!?』

 

三日月はヒラリとかわしたが、昭弘のMWは地表の段差に引っかかって横転した。

 

「そこまで! 勝者、三日月・オーガス!」

 

子供達の歓声が、火星の空に響き渡る。

俺は昭弘のMWを助けるべく、MWに飛び乗るのだった。

 

 

 

 

昼になり、一時休憩で食事の時間。

昼飯でも落ち着きの無い参番組は、騒がしく暴れ回っている。

 

まあ、それくらい元気が無いと子供らしく無いので微笑ましく見守っているのだが。

 

「そう言えば教官。アンタ、何で毎回こんな騒がしい所で飯食ってんだ? 俺らは行けないような、静かな食堂とかもあるんだろ?」

 

と、話しかけて来たのはオルガ・イツカ。

参番組のリーダーに抜擢されている。

 

「ああ、有るな。でも、俺はあそこが嫌いでね。静かな所で食うより、騒がしい所でバカやりながら飯食う方が楽しいだろう?」

「そりゃまあ、そうかも知れねえが…」

「ねえ教官」

「ん?」

 

今度話しかけて来たのは、三日月・オーガスだ。

 

「珍しいなミカ、お前が自分から話しかけるなんてな」

「オルガこそ、大人に自分から話しかけるのは珍しいんじゃない?」

「いや三日月、それは仕方無いだろ。余程の事が無けりゃ、社長に話しかけようなんて思わないだろうし」

 

そも、基本的に社長と話す事が無いと思うのだ。

 

「あの、昭弘を助けた時。あれ、どうやって戻したの?」

 

三日月が聞いているのは、横転した昭弘のMWを元に戻した所だろう。

 

「あれか? 単に、上に取り付けられたマシンガンを俺のMWの前足で勢い良く跳ね上げただけさ」

「宙に浮いてたんだけど」

「その勢いで昭弘のMWを飛び越えて、着地すれば問題無し」

 

わざわざ回収するより、自分で走らせた方が断然楽だしな。

曲芸に近い、こんな時くらいしか使えない荒技である。

 

「アンタ、あの技で金稼げるんじゃねえか?」

「生憎、金なら間に合ってます」

 

と、雑談をする内に昼飯を食べ終えた。

 

「オイお前ら、20分後に集合するからな! それまでに飯食って、広場に来い! 遅れたらソイツだけ基地10周!」

 

ヤジが飛んで来るが、異論は認めないとだけ返して食器を置きに行く。

 

さて、遅れる奴がいるのかいないのか。

俺はいない事を祈るぜ…。

 

 

 

 

で、何故広場に参番組を集合させたのか。

それは仕事の依頼人が来るにあたり、社長から説明が有るからだ。

 

今回の依頼人は、一部で「革命の乙女」と言われるクーデリア・藍那・バーンスタイン。

火星の独立自治都市「クリュセ」の代表首相ノーマン・バーンスタインの娘だ。 

富裕層の出身ではあるが、思想家アリウム・ギョウジャンの影響を受けてクリュセ独立運動の先頭に立ち、16歳という若さで独立運動家をまとめた「ノアキスの七月会議」を成功させた。

 

その事から、現在火星で注目されている。

 

そんなクーデリア・藍那・バーンスタインは、独立運動の一環として火星のハーフメタルの貿易自由化を求めてアーブラウ首長蒔苗東護ノ介氏との交渉に赴くべく地球に行きたいらしい。

その道中の護衛を、CGS参番組に依頼して来たらしいのだ。

 

参番組を護衛に指名したのは、社長の弁によると「貧困の象徴である彼らと行動する事によって運動の意義を高めようというロジックに従ったモノ」らしい。

 

随分と上から目線の見下した物言いである。

 

社長の言い方がクーデリア・藍那・バーンスタインと全く同じだったかは分からないが、とりあえずその上から目線を直さないと革命は出来ない…成功しないと俺は思う。

 

しかし、未だ世間知らずの箱入りお嬢様な感じが見られるものの、あの一癖も二癖もある革命家共をまとめた手腕は大したモノだ。

これから、存分に化ける可能性がある。

 

「アラズ、お前はお守り役だ。きっちりコイツらを監督して、仕事を達成しろ」

「了解ですよ、社長。とりあえず、参番組全体の指揮は今まで通りオルガ・イツカに一任する。俺はあくまでそのサポート…問題無いですね?」

「構わん、好きにやれ。それで、仕事が達成されるならな」

 

去って行く社長に軽く礼をして、参番組に一通り指示を出す。

 

ただ、仕事に対する不安はどうしても消えなかったのだが。

 

 

 

 

夜。

CGSに、ギャラルホルン火星支部の部隊が襲撃して来た。

大方、クーデリアの活動を良く思っていなかった父ノーマンがギャラルホルンに密告した事が原因だと思われる。

 

参番組は正面から迎撃にあたり、社長達の本隊は回り込んで挟撃する…ハズだったのだが。

 

「!? どうした、教官!?」

「…あのクソ社長、逃げやがったわ」

『はあ!?』

 

クソ社長マルバ・アーケイとその仲間達、逃亡。

挟撃作戦、大失敗である。

 

「どーすんだオルガ!? このままじゃ全滅だぞ!?」

「クソ…!!」

 

こちら側のMWは、既に10機は潰されている。

最初はまあまあ善戦していたのだが、ギャラルホルン側がMSを投入してからと言うもの、不利に追い込まれていた。

 

「いや、これからだよ。予め動いておいて良かった。アラズさん、例の物は?」

「安心しろ、きっちりたっぷり仕掛けたぜ」

「ありがとうございます。スイッチオン!」

 

ビスケットが、スイッチを押す。

すると、社長達の逃げた方向から信号弾が上がる。

 

「あれは…!?」

「ビスケットの機転で、クソ社長共の乗ってる奴に仕掛けたんだよ。これで時間が稼げる」

 

直後。

ズドドドン、と言う音と巨大な煙が巻き上がる。

 

「地雷訓練で埋めた地雷!?」

「ありがとうクソ社長。囮ご苦労様でした」

 

恩知らずじゃないよ、これが合理的だったんだよ。

 

「オルガ、通信機貸せ。手が有る」

「お、おう…?」

 

MWをよじ登ってオルガから通信機をブン取り、三日月に通信する。

 

「三日月、一旦戻って来い。今おやっさんに、バルバトスの準備をして貰ってる」

『バルバトス?』

「あのMSを潰せる戦力だよ。とりあえず、MWに乗ったまま基地の中心部に乗り付けろ!」

『…うん、了解』

 

三日月のMW、後退を開始。

 

「昭弘、後MW隊! 三日月が抜けた穴は俺が埋める、後少し持ちこたえろ!!」

『了解!』

 

各MWからの返事を確認し、オルガに通信機を投げ返す。

 

「そう言う事だ、後の指揮とかは全部任せるぞ!」

「おう、分かった!」

 

MWから飛び降り、自分のMWへと走る。

 

 

 

 

それから持ちこたえる事、実に20分。

 

『クッソ、三日月はまだかよ!?』

「後少しで終わるハズだ! 昭弘、MSの後ろ側に回り込んで関節を狙え!」

 

指揮官機と思われるMS「グレイズ」の後ろに昭弘と俺は回り込み、右足の関節に弾をぶち込む。

関節の隙間に上手く入ったのか、関節が爆発する。

 

『おのれ!』

 

部下の機体が振り下ろして来たバトルアックスを間一髪でかわし、露わになった左手の関節に弾をぶち込む。

爆発はしなかったものの、機能不全くらいには陥るハズだ。

 

『クソ、MW風情があ!!』

「…! しまった!!」

 

激昂した指揮官が、基地の方に吶喊する。

部下の機体に背を向けて昭弘機と共に追走するが、MWではMSに追い付けない。

 

『死ねえええ!!』

 

指揮官機が、バトルアックスを振り上げる。

その真下には、オルガの乗るMWがある。

 

『…まだだ……このままじゃ、終われねえ!!』

 

オルガの叫びが、通信機を通して戦場に響く。

 

 

『そうだろ、ミカアアア!!!!』

 

 

その声を待っていたかのように、オルガの真後ろの地面がめくれ上がり、そこから1機のMSが現れる。

 

『貴様h』

 

MSの持つメイスと言う大型武器が、グレイズの指揮官機を上から潰す。

断末魔を上げる事も無く、指揮官は機体と共に潰された。

 

それは、たった1機のMS。

黒きフレームを純白の装甲で覆い隠した、悪魔の名を冠するには余りにも美しい機体。

 

輝く太陽が地平線から昇り、その機体を輝かせる。

 

その光景に、誰もが言葉を失った。

 

 

美しいそれは、悪魔からは程遠い。

まるで祝福される天使のようだと、その場にいる誰もが思った程に。

 

 

ASW-G-08「ガンダム・バルバトス」。

伝説の「ガンダム・フレーム」の1機だ。

 

300年の時を経て、伝説は蘇ったのだ。




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三日月・オーガス 90AP
オーリス・ステンジャ 10AP
クランク・ゼント 10AP
アイン・ダルトン 10AP


と言う事で、バルバトス起動回&オーリスさんさようなら回でした。

アラズはパイロットだけで無く、政治とかにも見聞が有ります。
彼が何故こんなに強かったり、阿頼耶織を付けているような境遇にあるにも関わらず政治に詳しかったりするのかは、これから明かされて行きます。

後、アラズは阿頼耶織を3つ付けています。
最低でも操縦技術はミカレベルです。
何故そんな感じなのかも、これから明かされますとも。


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#03 謀略

最初の方なので、やる気を出して連日投稿。

今回は、原作で言う2話の部分です。
カットされた部分も多いですが、ご了承下さいm(__)m


「今だ、全員後退!」

 

敵が三日月のバルバトスに気を取られている内に、アラズは全MWを後退させる。

 

「そんな、オーリス隊長が…! MSがあるなんて、聞いてませんよ…クランク二尉!?」

「アイン、貴様は援護だ!」

 

MSの1機が近づいて来るのを確認した三日月は、バルバトスを横に動かす。

動いたバルバトスの背後には、後退中のギャラルホルンのMW隊が有る。

 

「これなら撃って来れないだろ」

「クソ、何て卑怯な!!」

 

言いながら、アイン・ダルトンはMSを動かす。

バトルアックスを振り上げ、バルバトスに突撃する。

 

すると、バルバトスはメイスをグレイズに向けて投げる。

 

「何!?」

 

驚愕するアインの乗るグレイズに、メイスが直撃。

その勢いで、アインは後退を余儀無くさせる。

 

バルバトスはグレイズに急接近し、メイスを掴んで振り回す。

 

「ぐはあッ!」

 

メイスはグレイズの左腕を吹き飛ばす。

 

「アイン!」

 

クランク・ゼントは、バルバトスに接近してバトルアックスを振り下ろす。

バルバトスは高速で後退して、それをかわした…のだが。

 

「ん?」

 

スラスターの出力がダウンし、バルバトスは背中を地面に打ち付けた。

 

 

 

 

一方その頃、バルバトスが有った基地中心部では。

 

「しまったああああ!!」

 

おやっさん…もとい雪之丞が頭を抱えていた。

 

「どうしたんですか?」

 

近くにいたヤマギ・ギルマトンが、雪之丞に尋ねる。

すると、雪之丞はこう供述した。

 

「スラスターのガス…補給すんの忘れたああああああああ!!!」

「えっ」

 

 

 

 

「? 三日月の奴、どうしたんだ?」

 

オルガの疑問に対し、アラズはあまり考えたくない事を言う。

 

「…ガス欠じゃね?」

「えっ」

 

そう、ガス欠である。

初っ端から吹かしまくってたので、残量僅かだったガスが尽きたのである。

 

「おやっさんが補給し忘れたとか、どう?」

「おやっさん、しっかりしてくれえええええ!!」

 

しかし、嘆いても状況は変わらないのだ。

 

相変わらず、三日月は2機のMSを圧倒しているのだから。

 

「アイン、撤退だ」

「しかし!!」

「向こうはガス欠、こちらのMW隊も離脱した。今しか退くタイミングは無い」

「……了解です」

 

2機のMSは、速やかに撤退して行った。

 

「逃がすわk」

『戻れ、三日月。どの道ガス欠じゃ追い付けない。それに、お前も限界だろう』

「え…あ……」

 

そして、三日月は意識を失った。

 

「三日月の意識が戻ったら、バルバトスを帰還させる。今の内にMWを収容、被害確認。良いな?」

「あ、ああ…全員、帰還だ!」

 

こうして、バルバトスの初戦は終わった。

 

「三日月は、大丈夫何ですか?」

「ああ、多分な。いきなりMSに乗って戦闘までしたんだ。機体からの情報量に脳が耐えきれず、意識を失った…寝ている状態だ。起きた時には、情報の整理も出来てるだろうさ」

 

 

 

 

「失敗だと!?」

 

ギャラルホルン火星支部第3地上基地からの報告に、火星支部支部長コーラル・コンラッドは頭を抱えていた。

 

「ノアキスの七月会議」を成功させた事で、一部界隈では「革命の乙女」と呼ばれるクーデリア・藍那・バーンスタイン。

その父であるノーマン・バーンスタインの密告によって、コーラルは彼女がCGSの助けで地球に行く事を掴んだ。

 

だからこそこのCGSを襲撃し、彼女を亡き者にしようとした。

それにより、火星の独立運動がより大きくなる。

 

そして、それを裏で援助しているノブリス・ゴルドンに援助をより強めて貰う…そう言う魂胆だった。

 

しかし、現実はどうだ。

 

指揮官のオーリス・ステンジャは死亡。

出した兵の3割が戦死し、MSを1機失った。

 

じき、地球から監査局が視察に来る。

それまでに何としてでもクーデリア・藍那・バーンスタインを捕らえ、相手ごと戦闘の痕跡をもみ消し隠蔽しなければならない。

 

そう伝えるが、向こうの現最高責任者であるクランク・ゼント二尉は渋い顔をしている。

 

『相手は、子供でした』

「子供だと!? 雁首揃えて子供にしてやられたと言うのか!?」

『子供を! 子供を相手に、戦う事など出来ません!!』

「フザケた事を抜かすな!! 相手が子供だろうと何だろうと、1人も残さず殲滅しろ!! これは命令だ、失敗は許さんぞ!!!」

 

そして、通信は終了した。

 

 

 

 

戦闘終了から約2時間。

役立たず囮役の一軍が帰って来た。

 

「アラズ!!」

「はい?」

 

一軍の司令官がやって来て、俺の胸倉を掴む。

 

「そう言えば、社長はどこに?」

「んな事はどうでも良い! テメェ、やってくれやがったな!! よくも俺達をコケに…!」

「コケ? いやはや何の事だか。アンタらが挟撃作戦に向かう途中、不慮の事態に見舞われた事は知ってるが…それと、俺に何の関係が有るんだ?」

「黙れ!!」

 

司令官は右手を振りかぶり、俺に拳を放つ。

なので、それを左手で受け止めてから司令官を睨みつける。

 

「…ッ! よ、よくも白々と…! あの信号弾、設置したのはテメェだろ!?」

「だから、知らないと言ってるだろうが。いい加減離してくれ、俺もヒマじゃないんだ」

 

司令官の左手を払って、横を通り過ぎる。

一方、司令官は怒りが収まらないらしい。

 

「クソが…トド! ガキ共を呼んで来い!!」

「へいへい」

 

声を掛けられたトド・ミルコネンが、オルガ達を呼ぶ為に整備場に向かう。

 

「オイ待て、聞いてない事が有った。トド、社長はどうした?」

「とっくにずらかっちまったみたいですぜ」

 

ですよね。

 

「あのクソ社長…まあ良いや。アンタはどうするんだ? 良い感じでずらかりそうだが」

「そうさせて貰いやすぜ。旦那も、引き際を見誤らねえように」

「それで、行くとこが有れば苦労は無いさ」

 

軽口を叩きながらトドと別れ、一軍の被害確認に行く。

参番組の死者は57人、一軍の死者は34人。

後分かっていないのは、MWの被害のみ。

 

ため息を1つつき、最後の確認に向かうのだった。

 

 

 

 

夕方。

一軍の司令官から体罰を受けたらしいオルガと、参番組の何人かが何かの会議をしていた。

 

「どうした、こんなに集まって。クーデターか?」

「!? いや、あはは…」

 

笑って誤魔化す参番組メンバー。

 

「安心しろ、密告なんてしないさ。むしろ、全面的に応援したいくらいだ。社長がずらかりやがった以上、一軍には無能なクズしかいないからな。お前らが上になった方が、よっぽど良い」

「いや、上はアンタがやれば良いだろ…」

「オイオイ、冗談は前髪だけにしろよオルガ。俺はそんなの嫌だ。何故って、面倒だからだ」

 

組織のリーダーと言うのは、総じて面倒臭い。

加えて忙しい。

そんなモノ、俺はもう御免である。

 

「んじゃあ、作戦会議だな」

「三日月は、呼ばなくて良いのか?」

「ああ、そうだな…悪いが、ミカが反対したら中止だ。まあ、それはねえだろうがな」

 

 

 

 

「部隊を動かさない!?」

 

クランク二尉の決定を聞き、アインは衝撃を受ける。

 

「ならせめて、俺だけでも連れて行ってk」

「そんな体で付いて来られても、足手まといになるだけだ」

 

アインは先の戦いで負傷した。

MSに乗れない事は無いが、戦闘は不可能だろう。

 

「頼む、行かせてくれ。子供殺しの汚名を被るのは、俺だけで充分だ」

 

 

 

 

「遠路遙々、ご苦労様でした。ファリド特務三佐、ボードウィン特務三佐」

 

火星支部支部長コーラル・コンラッドは、監査局の使いを迎え入れていた。

 

マクギリス・ファリド特務三佐と、ガエリオ・ボードウィン特務三佐。

どちらの家も、ギャラルホルンのトップである「セブンスターズ」7家門に属する。

 

「私が力になれる事は、何でも言ってくれ。必要なデータもこちらd」

「待って下さい」

 

マクギリスが、コーラルを制止する。

 

「監査は、我々の裁量のみで行わせて頂きたく。そのお心のみ、頂戴致します」

…承知致しました。それでは、私は失礼致します」

 

そして、コーラルとマクギリス達は別れた。

 

「慌ただしい事だ、『後ろめたい事隠してます』と顔に書いてある」

「ああ、そうだな」

 

コーラルと別れた2人は、完全に見抜いていた。

当のコーラルも、このままではボロが出ると気付いている。

 

(クソ、若造共が…! 時間が無い…クランク、しっかり仕事を果たせよ…!)




主人公、オルガ側に付く。
まあ、一軍に付いても得は無いですし。

そして、トクムサンサー共が登場。
コーラルさん戦死へのカウントダウンが始まっております。

次回は、クランク・ニーがやって来ます。


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#04 決闘

おまけコーナーの説明に引き続き、本編です。
今回は、少しだけ原作と違います。


その夜。

オルガ達参番組による、CGS乗っ取り作戦が実行されていた。

 

作戦は極めてシンプル。

夕食に睡眠薬を仕込み、一軍の全員が眠ったら縛り付ける。

そして、そのまま一軍の奴らを追放して成り上がろうと言う事だ。

 

結論から言って、作戦は成功した。

途中でハエダ・グンネルとササイ・ヤンカスが殉職なされたが、まあ些細な事だ。

ササイだけに。

 

会計担当のデクスター・キュラスターさん(有能)にはお残り頂き、他の一軍(無能)は全員退職。

これからのCGSはホワイト企業なので、退職金もちゃんと渡された。

残った大人は俺とおやっさん、デクスターさんに…トドである。

 

裏切りそう。

 

その翌日、デクスターさんが改めて資金面で会計した結果、今のままでは3ヶ月組織を維持するのが限度とか。

何とか仕事を見つけて、稼ぎを得なければ破綻は避けられないだろう。

 

すると、館内放送が。

 

『監視班より報告。ギャラルホルンのMSが1機、赤い布を付けてこっちに向かってる!』

「何だと!?」

 

と言う事で、会計報告を中断。

全員で、様子を見に向かうのだった。

 

 

 

 

タカキ・ウノが、望遠鏡でMSを確認する。

 

「赤い布って事は、決闘の合図だろう」

 

と、アラズは言う。

 

「決闘?」

「ああ。300年以上前、厄祭戦前の古いしきたりだがな。昔は1対1で決闘して、負けた方は勝った方に従うのがルールだったんだよ」

 

とにかく、相手はすぐ攻撃して来ないさ、とアラズは付け加えた。

クランク・ゼント二尉が乗るMS「グレイズ」は、基地の目の前で止まった。

 

そして、ハッチが開けてクランクが出て来る。

 

「私はギャラルホルン実働部隊所属、クランク・ゼント二尉だ。そちらの代表との、1対1の勝負を望む。私が勝利したなら、そちらで鹵獲されたグレイズとクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡してもらう」

 

すると、アラズはどこからか拡声器を持ち出して言う。

 

『その後は? そっちの戦力を総動員して、俺らを叩き潰すってか?』

「それは違う。勝負がついた後グレイズとクーデリアの引き渡しが無事済めば、そこから先は全て私が預かる。ギャラルホルンとCGSの因縁は、この場で断ち切ると約束しよう」

 

クランクはそう断言したが、アラズは半信半疑だ。

 

『成る程な、明らかにこちらが有利の条件だ。例えこちらが負けたとしても、CGSへの被害はゼロに近い。だが、1つ問おう。アンタに、()()()()()()()()()()?』

「……クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄と奪還したグレイズが有れば、上と交渉出来る。絶対に…例え私の首と引き換えにしてでも、因縁を断ち切って見せる」

 

その答えを聞いて、アラズはため息を1つ付いた。

そして、オルガに向き直る。

 

「だ、そうだ。どうする、()()?」

「……受けるしかn」

「私が行きます!!」

 

そう言ったのは、他でもないクーデリアだった。

 

「でも、そうしたらクーデリアさんは…!」

「無意味な戦いは避けるべきです。私が行って全てが済むのなら、それで…」

「やめとけ」

 

クーデリアを制止したのは、先程までクランクと交渉していたアラズだ。

 

「何の保証も無い、当の相手も信用出来ない。アンタに、そんな口約束に乗って命を落とすような事が有ってもらっちゃ困る」

「しかし…!!」

「甘えるのもいい加減にしろ!」

「!!?」

 

渋るクーデリアに、アラズは一喝した。

それは、一番長い付き合いである雪之丞すら見た事の無い、彼の純粋な憤りだった。

 

「世界を変えたい、でも人が死ぬのは嫌だ? そんな甘っちょろい考えで革命なんて出来る訳ねェだろうが!! 確かに、先の戦いでは多くの人が死んだ。それは哀しむべき事だ、嘆くべき事だ!! だがな、奴らが何の為に死んだと思う!? 決まってる、()()()()()()()()()()()()()()!! クーデリア・藍那・バーンスタインと言う『希望』を守る為だ!! そうして生き長らえたアンタが、こんな事で自らを犠牲にして、何も成し得ず何も変えないまま死んだらどうなる!? アンタを守って死んだ奴らは、()()()()()()()()()()!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! 生きて世界を変えてみろ!!!」

「…!! で、ですが…」

「アンタは革命を起こしたいんだろう? 火星を独立させて、貧困に喘ぐ人々を助けたいんだろう? 火星に住む人々の、『希望』になりたいんだろう? だったら、その歩みが止まるなど決して有ってはならない。()()()()()()()()()()()! 目の前で人が何人死のうが、どれだけ惨めになろうが、貪欲に生にしがみついて、何が何でも生き延びろ!! そして、その先で世界を変えろ!! 『希望』になるとは、革命とはそう言う事だ!! アンタにはその力が有る、その可能性が有る!! 自分からそれを捨てる事は、この世で何事も比肩せぬ愚行と知れ!!!」

 

クーデリアを完全に退かせて、アラズは三日月に言う。

 

「三日月。悪いが、バルバトスを貸してくれ。ここまで偉そうにご高説を並べた以上、俺が姿で示さないと話にならん。『俺らは絶対にアンタを守ってやるから、アンタは俺らに変わった世界を見せろ』と言う事がどう言う事か、あの箱入りお嬢様に見せ付けてやらねばならん」

「うん、いいよ」

「軽っ。だがまあ、ありがとう」

 

三日月から了承を得ると、アラズはオルガに拡声器をブン投げる。

 

「返事は任せた」

「ああ。待たせたな! この勝負、謹んで受けさせてもらう。こっちの準備が終わるまで、後ちょっと待ってくれ』

「感謝する」

 

そう返して、クランクはコクピットに戻る。

対するアラズは、バルバトスに走るのだった。

 

 

 

 

バルバトスが、グレイズの前に立つ。

 

『ギャラルホルン火星支部実働部隊、クランク・ゼント!』

『CGS参番組教官、アラズ・アフトル』

 

両者とも名乗ると、クランクのグレイズはバトルアックスを構える。

対するアラズのバルバトスは、武器を持たず素手で構える。

 

『参る!!』

『出るぞ!!』

 

掛け声と共に、グレイズは接近してバトルアックスを振り上げる。

バルバトスは地面を滑るかのように水平移動し、グレイズの右側に回り込む。

 

『!?』

『よっ!』

 

バルバトスは左手の手刀でグレイズの手首を叩き、バトルアックスを零れさせる。

その零れたバトルアックスを右手で掴み、グレイズの肩を左手で捕まえてバトルアックスをコクピットに向けて振る。

 

そして、コクピット装甲から1mの所でバトルアックスを停止させた。

 

『まだ、やるかい?』

『……参った』

 

クランクは、あっさりと降参した。

 

何故か。

無論、相手がいつでも自分を殺せた事も有る。

 

 

だが何より、バルバトスの動きが()()()()()()()()からだ。

 

 

「…凄い」

 

三日月が、そう呟いた。

だが、オルガは別の事を考えていたようだ。

 

「『(てっ)()(だん)』」

「? オルガ、何それ?」

 

三日月の質問に、オルガは笑いながら答える。

 

「俺達の新しい名前だよ。CGSなんてカビ臭え名前を名乗るのは、癪に触るからな」

「『てっか』……『鉄の火』ですか?」

 

クーデリアの推測に、オルガは首を横に振る。

 

 

「いいや、鉄の華さ。決して散らない、鉄の華」

 

 

そんなオルガ達をよそに、アラズは話を進める。

 

『とりあえず、銃を捨ててMSから降りろ。直接話をしよう』

『…負けたのはこちらだ、大人しく従おう』

 

クランクはコクピットハッチを開き、投降のポーズを取る。

対するアラズは、バルバトスのコクピットハッチを開けて座席を上昇させた上で、オルガに通信する。

 

「オルガ、何人かこっちにくれ。このおっさん捕まえて、本部の食堂に連行する。そこで話を付けようじゃないか」




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 90AP 
クランク・ゼント 10AP


と言う事で、パンパンパン無しからの交渉へ。
アラズさん、クーデリアさんを説き伏せたりクランクさんを瞬殺(殺してない)と大活躍。
かなりの万能人間です。
一体何者なんだ…?


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鉄血編
#05 腐敗


更新遅れてすいません。
全然進みません、すいません。

タイトルはギャラルホルンの事です。


CGS参番組…いや、鉄華団に敗北したクランク・ゼントは、その基地の食堂に連行されていた。

その腕は、後ろで縛られている。

 

そして彼の前には、鉄華団のアラズ・アフトル、三日月・オーガス、オルガ・イツカ、ビスケット・グリフォン、ユージン・セブンスタークなどがいる。

 

「そんじゃあオルガ団長、こちらの条件を提示してくれ」

 

鉄華団が勝利した場合の条件は、先程オルガ、ビスケット、アラズが話し合って決めた。

 

「ああ。こちらの条件は…」

 

1つ、クランクのグレイズは鉄華団が回収する。

2つ、クランクはギャラルホルン火星支部第三地上基地に戻る。

3つ、クランクは監査局に火星支部の腐敗状況を、火星支部司令官に知られないよう通達する。

4つ、鉄華団基地には二度と強襲しない。

 

「以上だ。質問は?」

「…どうやって、基地に戻れと?」

「あ、バギーを貸します。砂漠も強行突破出来る四輪駆動の奴を」

 

基地までの距離は鉄華団に分からないが、モビルワーカーで来れると言う事はそこまで離れていないだろう。

 

「何故、私を殺さないのだ?」

「アンタは、本気でコイツらと戦いたくないんだろう?」

 

アラズは、そう即答した。

クランクは一瞬目を見開いたが、すぐに口角を緩める。

 

「…ありがとう」

 

 

 

 

その夜。

バギーに乗り込むと、クランクはアラズを見る。

 

「ん?」

「…君は、何者だ?」

 

その質問に、アラズは少し考えて答えた。

 

「コイツらと同じさ。昔『阿頼耶織』の手術を受けて、MSに乗って戦った。コイツらくらいの時には、戦う事しか知らなかった。今もそう変わらない。違う所と言えば、政治や駆け引きを知っているか否か」

 

それらを知っていれば、クーデリア・藍那・バーンスタインの影響力やギャラルホルンの現状も理解出来る。

だからこそ、アラズは彼女を止めたのだ。

 

「アンタみたいな大人がCGSに1人でもいれば、コイツらはこうならずに済んでいたかも知れん。アンタの思いは、これからの時代に必要だ。--だが、アンタが大変なのはこれからだぞ」

「分かっている。まずは、監査局への密告…やり遂げて見せよう」

 

クランクの返事を聞いて、アラズはクランクに背を向ける。

 

「ああ、クランク二尉…だったか? 1つ、良い事を教えてやる。今、監査局の人間が火星支部の監査に来ている。密告は、そいつらにすると良いぞ」

「…本当か!?」

「本当だ。代表はマクギリス・ファリド特務三佐とガエリオ・ボードウィン特務三佐だったか。彼らならば、アンタの意見を受けて即動きだせるだろう」

 

それを聞いて、クランクは腑に落ちた。

コーラルが何故、クーデリア・藍那・バーンスタインの抹殺を焦っていたか。

それの理由を「監査局が来るから」と考えれば、合点が行く。

 

だが。

 

 

「何故、それを知っている?」

 

 

下っ端とは言えギャラルホルンの一員であるクランクが知らない事を、彼は知っていた。

それは一体、どう言う事なのか。

 

「生憎、そこまで教える義理は無い。だが急げよ、司令官が何をして来るか分からんからな」

「…ああ」

 

そして、クランクはバギーで走り出す。

バギーが去った後、その場にはアラズのみが残された。

 

 

「組織内の情報共有すらままならないとは……そこまで堕ちたか、ギャラルホルン」

 

 

アラズは誰にも聞こえない程の小声でそう呟き、屋内に戻って行った。

 

 

 

 

翌日。

クーデリア・藍那・バーンスタインとその従者フミタン・アドモスを団長室に迎え、オルガとビスケットにユージン、そしてアラズとトドが揃って地球に行くルートの説明を行っていた。

 

方法はそう難しくない。

まず火星の低軌道ステーションまで上がり、案内役の船を待つ。

その後、静止軌道上で鉄華団の船に乗り換えて地球に向かう。

 

これだけだ。

だが、これが鉄華団に取っては難しい。

 

通常の地球への航路は、全てギャラルホルンの管理下に置かれている。

今回のメンバーの1人は、そのギャラルホルンに狙われているクーデリア。

故に、通常の合法的な方法で地球に行く事は不可能なのだ。

 

それら全てに引っ掛からない為には、所謂裏ルートを行く必要がある。

しかしその航路は複雑で、かつ鉄華団は地球への旅は初めてだ。

地球への旅に限るならアラズとトド、雪之丞が経験しているのだが、それも通常ルートでしか行った事が無い。

 

更に、この裏ルートには民間業者間の縄張りが存在している。

 

「案内役なら、安心と実績のオルクス商会をお勧めするぜ。会長のオルクスさんとは昔馴染みでな、俺はいつでも連絡取れるぜ」

 

と、トドは(のたま)う。

 

「なあオルガ、こんな奴本当に信用すんのか?」

「あっ、酷いな君! 仲間だろ、な・か・ま!」

 

ユージンのもっともな疑惑に、白々しく返すトド。

その時、アラズはこう思っていた。

 

(裏切るだろうな、コイツ。まあ、ここはあえて静観しよう。トドのコネは恐ろしいが、結果オーライになるなら良い)

「な~に、下手打ちゃどうなるか…嫌ってほど分かってるだろうさ。なあ、トド」

「うっ…お、おっしゃるとおりですよ団長さん」

 

ゴマすりのポーズを取り、冷や汗を流しながら白々しく返すトドだった。

 

「船は、在るのですね?」

 

と、フミタンの質問。

それに、ビスケットが返す。

 

「はい、方舟にCGSの船『ウィル・オー・ザ・ウィスプ』が在ります」

 

方舟とは、民間共同宇宙港の愛称のようなモノだ。

 

ただ、この船を使う為には、正式に鉄華団所属のモノにしなければならない。

 

「よし、ここからが本番だな」

「鉄華団の初仕事だもんね、気合入れて行こう」

 

方針はまとまった。

その陰であくどい笑みを浮かべるトドがいて、それを冷たい目で睨むアラズがいなければ、もっと気合が入っただろうが。

 

 

 

 

火星の静止軌道基地「アーレス」にある、ギャラルホルン火星支部の本部基地。

そこでは、監査局から派遣されたマクギリス・ファリド特務三佐とガエリオ・ボードウィン特務三佐が午前のティータイムを迎えていた。

 

彼らは雑談しながら、優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「部下達が皆、死にそうな顔をしていたぞ。お前のペースで働かされては、体がもたないだろう。優秀過ぎる上官を持つと、苦労するからな」

「そうか、気をつけよう」

 

そうは言うが、本当に改善する気が有るかは不明である。

 

「時間稼ぎのつもりだったんだろうが…コーラルの奴、驚くだろうな」

「ああ」

「朝からご苦労だな。ファリド特務三佐、ボードウィン特務三佐」

 

噂をすれば何とやら。

火星支部司令官、コーラル・コンラッドが現れた。

 

彼は白々しく、監査について聞くが。

 

「作業の方はどうかね? いや~すまんね、こちらの不手際でデータの整理がまるで間に合わず。あれでは、目を通すのも一苦労だろう?」

「いえ。お預かりしていた資料の精査は、ほぼ終了しました」

 

マクギリスは、そう即答する。

 

監査局、有能。

腐敗仕切った現在のギャラルホルンで唯一、上層部が腐っていないのが監査局なのである。

 

まあ、実際に監査をする者達は賄賂を受け取っていたりするのだが。

 

「監査の結果も、もうじきご報告できるでしょう。ところで、一個中隊が出動したまま帰投していないようなのですが」

 

出動したまま戻らない一個中隊。

言わずもがな、CGSを襲撃した部隊である。

 

「ああ~それは、暴動の鎮圧に出ていてな」

「暴動? 火星で活発化している独立運動の事ですか?」

「所詮は、市民のガス抜きにすぎんがね。この所、多くて難儀しているよ」

 

一滴の冷や汗を流しながらも、悟られぬべくそれらしく報告するコーラル。

 

独立運動による暴動は確かに活発化しているが、その全てはMWによって鎮圧されている。

所詮は武器を持たない一般人なのだから、MSを出す必要性は薄い。

加えて、一個中隊が帰投出来ない程独立運動が活発な訳では無い。

 

言い訳としては、少々厳しいだろう。

 

「地球でも噂は聞いていましたが、鎮圧に中隊規模の戦力が必要とは…ご苦労、お察し致します」

 

見透かしたかのような白々しさで、マクギリスはコーラルを労う。

実際、見透かしているが。

 

「あ…ああ。では、執務があるのでこれで失礼させて貰う。ところで、何か不便はないかな? 滞在中入り用なものがあれば、まあ些少だが何かの足しにでも…」

「それを出されれば、貴方を拘束しなければならなくなります。ご自重を」

 

賄賂の要請は、あっさりとはねのけられた。

失意のまま、コーラルは部屋を後にする。

 

「…どうやら、腐敗は本当のようだ。第三地上基地からの密告は正しかったな」

「ああ。今度の火星支部再編時の幹部には、クランク・ゼントを推薦してみようか。階級に関しては、二階級特進も有り得てしまうが」

 

彼の階級は、現在三尉。

最低でも一尉くらいまで押し上げねばならないが、そうするとかなりの大問題になる。

 

戦死でも無いのに二階級特進するのは、今までに無い例だからだ。

 

「何、功績は大きいから問題は無いだろう。監査局としては、監査の結果を裏付けする克明な証言となる。これで心置き無く、コーラルを追放出来る。それに、この前例によってギャラルホルンの腐敗が改善されるかも知れない」

「そうだな。さすれば、アグニカ・カイエルがいた頃の正しきギャラルホルンに戻るかも知れん」

 

子供のように目を輝かせて、マクギリスはそう宣言する。

 

「……お前、本当にアグニカ・カイエルが好きだよな。あの『アグニカ叙事詩』、何回読んだんだ?」

「フッ。3桁を越えた辺りで、数えるのを止めてしまったよ」

「うわッ」

 

そして、2人は紅茶の香りを楽しみながら仕事に戻るのだった。

 

 

 

 

「オルクスに連絡入れたぜ。地球までの案内、請け負ってくれるとよ」

 

トドが、オルガ団長にそう報告する。

 

「手数料は?」

「報酬の45%」

「クソだな」

 

一瞬で判断するアラズ。

だが、実際クソなので仕方が無い。

 

いくら裏ルートとは言え、45%は高すぎるだろう。

 

「気に入らねえってんなら、テメェでナシつけな」

「ああ、気に入らないね。だがまあ……背に腹は変えられない時も有るからな」

 

そして、オルガ達は地球行きのメンバー選定を始める。

それと同時に、アラズは立ち上がる。

 

「? 旦那、どちらへ?」

「いや、ここからは俺がいなくても大丈夫かなと。ちょっと農場を手伝って来る」

 

アラズは掛けてあったコートを羽織り、団長室を後にした。

 

 

 

 

火星に降りたマクギリスとガエリオは、とある所で車を止める。

車を降りると、マクギリスは双眼鏡を取り出した。

 

「まさに不毛の大地だな。しかし、何故こんな所に?」

「クーデリア・藍那・バーンスタインが、行方をくらましている」

 

ガエリオの問いに、マクギリスはそう返答した。

 

「クーデリア? 資料に有った、『ノアキスの七月会議』のか?」

「ああ。実は地球を出る際、彼女がアーブラウ政府と独自に交渉しているとの情報を耳にした」

「何だと? まさかそんな、圏外圏の人間が地球経済圏の1つと直接交渉を持つ事などあるはずが…」

 

ガエリオは、そう言って頭を振る。

 

厄祭戦終結後、ギャラルホルンの提案の下で地球の国家群は統合された。

そうして出来た4つの経済圏に、現在の地球は分割統治されている。

 

ロシアやカナダ、アラスカ地域を中心とする「アーブラウ」。

アメリカとラテンアメリカ地域を中心とする「STRATEGIC ALLIANCE UNION」…通称「SAU」。

ヨーロッパとアフリカ、中東や中央アジア地域を中心とする「アフリカンユニオン」。

日本や中国、インド、東南アジア、オセアニア地域を中心とする「オセアニア連邦」。

 

この4つの経済圏は、300年の間紛争を繰り返している。

 

「ここで数日前戦闘が行われた、と言う情報が有ってな。そしてその前日、クーデリアの父ノーマン・バーンスタインはコーラルの下を訪れている」

「コーラルが彼女を狙った、って事か。そうか、あの行方不明の一個中隊はここで…」

 

ガエリオの考察に、マクギリスは無言で頷く。

 

「彼女の身柄が拘束出来れば、統制局の覚えもめでたいだろうからな。我々の監査など、どうと言う事も無い程にな」

 

マクギリスは双眼鏡をしまい、2人はまた車に乗り込む。

車を出し、火星の大地を走る。

 

「調査なんか止めて、さっさとコーラルを尋問してみれば良いんじゃないか?」

「どうせ、シラを切られるだけさ。密告だけで無く、もう1つくらい確かな証拠を掴まないとな」

 

正式な通達ではない以上、裏付けとするには後1つ足りない。

その抜け道が有る以上、コーラルがしらばっくれるのも目に見えている。

 

「ところで、今夜妹に連絡をするんだが一緒にどうだ?」

「アルミリアに?」

「お前に会えないと、うるさくて仕方なくてな」

 

アルミリア・ボードウィン。

ガエリオ・ボードウィンの妹である。

 

「しかし、親同士が決めたとは言え許嫁が9つとはな…全く、お前にも苦労をかけるな」

「構わないさ、旧友の妹だ」

 

マクギリスとアルミリアは、婚姻関係にある。

俗に言う、政略結婚と言う奴だが。

 

「ありがとう。だが、無理はするなよ」

「無理なんてしてないさ。お気遣い感謝するよ、お義兄様」

「頼むから止めてくれ、落ち着かない」




アラズさん関係の新情報↓
・ギャラルホルンの情勢に詳しい
・ギャラルホルンの腐敗を嘆いている

…そろそろバレそう(汗)


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#06 邂逅

皆様、早くも主人公の正体推測を始めている様子。

オカシイナー、コンナハズジャナカッタノニナー。
アハハハハ、ナンデカナ。
ワカラナイヨウニシテタノニナー。
ミンナスゴイナー。


三日月、クーデリア、フミタン、ビスケット、そしてアラズは、ビスケットの祖母のトウモロコシ畑に収穫の手伝いに来ていた。

そこで三日月の幼なじみのアトラ・ミクスタとビスケットの妹であるクッキー・グリフォン、クラッカ・グリフォンにその祖母である桜・プレッツェルが合流。

トウモロコシの収穫を始める。

 

「アンタも物好きだね」

「んん? いきなりどうした、婆さん?」

「いや何、こんな作業を毎回手伝いに来るなんて。アンタくらいの大人がいるのは助かるけど、他にやる事あるんじゃないかね?」

 

桜婆さんのその質問に、アラズは少し考えてから答える。

 

「…昔はな、こう言う機会があんまり無かったんだよ。それに、俺は基本的に暇人だし。部屋でゴロゴロするよりは、誰かの為になった方が良いだろ?」

「そりゃ、まあ…そうだけど。でも、こんな買い叩かれるモノの収穫の手伝いより有意義な事は無いのかい?」

「無いね。まあ、探せば有るかも知れないが」

 

このトウモロコシは、10kgにつき50ギャラーで買い叩かれる。

トウモロコシやサトウキビと言ったモノのほとんどは、バイオ燃料の原料に使われるからだ。

桜婆さんも、ビスケットの給料の一部の仕送りが無いと厳しい生活を強いられる。

 

これは何も、桜婆さんに限った事では無い。

火星に住む者達の大半が、桜婆さんと同じかそれ以下の境遇にある。

 

その際たるモノが、「ヒューマンデブリ」。

クソみたいな値段で取引される、奴隷のような…いや、それ以下かも知れない者達の総称だ。

名前からして「人間のゴミ」と言う意味なのだから、まともな待遇を受ける者は殆どいない。

大半は使い潰され、自由を得たとしても仕事にはありつけない。

 

そんな者達が腐る程存在している腐った世界が、この世界なのだ。

 

そんな世界に秩序を与える存在であるハズのギャラルホルンも、とうの昔に腐敗している。

クーデリアのような者達が、そんな実態を何とかすべく革命を起こそうとしているのも、致し方無い…いや、必要な事なのだろう。

 

と、アラズがそんな事を考えていた時。

 

キキィー、と言うブレーキの音がした。

 

「何だ…って、オイオイ!!」

 

アラズは、その音がした方向に走り出す。

その後で、桜婆さんも歩いてそちらに向かう。

 

そこには、急ブレーキをしたらしい車が一台。

そしてその横で、横たわっているクッキー&クラッカ姉妹。

 

状況から推察するに、跳ねられたと思われる。

 

「お、おい…お前達、大丈夫か?」

 

車から、紫髪の男が出て来る。

言わずもがな、ガエリオ・ボードウィンだ。

 

三日月はガエリオに近寄り、その首を掴んで持ち上げる。

 

間違い無く、殺しにかかっている。

 

「ぐはッ……お前、何を……!?」

「「三日月、違う! 違うの三日月!!」」

 

双子姉妹が声を揃えて、三日月を静止する。

 

「そこまでだ、三日月」

「いい加減にしないか、この慌て者」

 

アラズが三日月の腕、桜婆さんが三日月の頭をそれぞれ叩く。

それ故か三日月の腕はガエリオの首を離れ、ガエリオを解放する。

 

「私達が飛び出しちゃって…」

「あの車がよけてくれたの」

 

双子姉妹の説明を受け、アラズは頷く。

 

「成る程。でもな、倒れ伏すのは悪ふざけが過ぎるぞ」

「「ごめんなさい…」」

「分かれば良い、次から気を付けろよ」

「「はーい!」」

 

アラズは満足げにもう一度頷き、車に向き直る。

その時、車からもう1人、金髪の男が出て来る。

 

言わずもがな、マクギリス・ファリドである。

 

「こちらも不注意だった、謝罪しよう」

(あの車の紋章…ギャラルホルン)

 

マクギリスが謝罪する。

それと同時に、ビスケットはフミタンに言ってクーデリアを隠れさせる。

 

「カッとなるとすぐこれだ、気を付けな」

「ゴメン、桜ちゃん」

「謝る相手が違うだろ、全く」

 

桜ちゃん…もとい、桜婆さんはご立腹だ。

三日月はガエリオの前に行き、少し頭を下げてこう言う。

 

「あの…すいませんでした」

「何が『すいません』だ!!」

「オイ、ガエリオ!」

 

マクギリスの静止に構わず、ガエリオは拳を三日月に突き出す。

それを三日月はヒョイ、と容易くよける。

 

「ク…オイ貴様、何だその背中の物は!」

「『阿頼耶織システム』…人の脊髄に埋め込むタイプの、有機デバイスシステムだったか。未だに使われている、と聞いたことはあったが」

 

マクギリスは、三日月の背中を見て言う。

 

「阿頼耶織」なんて物は、地球ではもう使われていない。

むしろ、知らないガエリオの方が一般的だろう。

 

「身体に異物を埋め込むなんて…ウエェッ!」

 

ガエリオは口を押さえ、車の陰に隠れて行く。

キラキラあるいはモザイクか、ロクな物は出さないだろう。

 

「そんな物を、一体何故?」

「火星に有るMWは、地球に有る物と違って中古品ですからね。『阿頼耶織』なんて物騒な物を付けないと、農作業すら出来ない場合も有るんですよ」

 

アラズは、淡々とそう答える。

マクギリスは「そうか」とだけ返し、クッキー&クラッカ姉妹に歩み寄る。

 

「怖い思いをさせてしまって、すまなかったね。こんな物しかないが、お詫びのしるしに受け取ってもらえないだろうか」

 

と言って、マクギリスはポケットからお菓子を取り出す。

それを見た双子姉妹は、そのつぶらな瞳を輝かせる。

 

「ありがとう!」

「ございます!」

 

双子姉妹はお菓子を受け取り、桜婆さんの下へ元気良く走って行く。

 

(一瞬で子供を買収するとは--恐ろしいな。奴め、さてはロリコンだな)

 

などとアラズは思っているが、マクギリスは知るよしも無い。

 

「念の為、医者に診せるといい。何か有れば、ギャラルホルン火星支部まで連絡をくれたまえ。私の名は、マクギリス・ファリドだ。ああ、それと。この付近で最近、戦闘が有ったようなのだが…何か気付いた事はないか?」

「そう言えば2~3日前、ドンパチやってる音が聞こえてたような…」

「この近くに、民兵の組織が有りますから。多分、そこの訓練か何かじゃないですか?」

 

ビスケットの答えに、アラズが補足する。

 

「…成る程。協力、感謝する」

 

すると、マクギリスは三日月を見てこう言う。

 

「君、さっきは見事な動きだった。何かトレーニングを?」

「うん。まあ、色々」

「そうか。…良い、戦士になるな」

 

それだけを言い残し、マクギリスはガエリオの肩を叩いてから車に乗り込もうとする。

 

「待て、ファリド」

「…何かな?」

 

アラズが、マクギリスを呼び止める。

 

「貴様は、何が目的だ?」

「…そうだな。『腐敗したギャラルホルンの改革』とでも。貴方に分かってもらえるかは知らないが。それと、私も1つ貴方に問おう。貴方は、()()()()()? 貴方の顔には、何か見覚えがあるような気がするのだが」

「ただのしがない労働者だよ。そう言われても、俺には心辺りが無い。世界には同じ顔の人間が3人いるとも言うから、他人の空似だろう?」

 

そう返して、アラズはマクギリスに背を向けて歩き出す。

そして、こう言った。

 

 

「クーデターと言うのは、市民を味方に付けねば成功しない。その第一歩として、身近な人間から味方に付けてみよ」

 

 

「…! 貴方は、まさか…いや、そんな……?」

 

マクギリスの疑問に答えを返さず、アラズは立ち去った。

 

 

 

 

「登録名称は、これで良いんですね?」

 

火星共同宇宙港「方舟」。

そこで、デクスターは昭弘に確認を取る。

 

「ああ、団長の命名だ。CGS時代の名前は嫌なんだと」

「分かりました。では、これで登録します。『ウィル・オー・ザ・ウィスプ』改め、『イサリビ』と」

 

 

 

 

「農場にいた男の証言通り、あの近くにはCGSという民兵組織が存在していたよ」

 

基地への帰り道で、マクギリスはガエリオに言う。

 

「経営者が替わり、社名も変更になっている。新しい名前は『鉄華団』。消したかったのは名前だけなのか、それとも…いや、いずれ分かるだろう」

「ん? 珍しいな、マクギリス。お前が疑問を先延ばしにするなんて」

「そうか? いや、そうかも知れない。私は今、その鉄華団以上に農場にいた赤髪の男が気になっているからな」

 

そう言って、マクギリスは懐から1冊の本を取り出す。

 

「あの男か? 確かに、酷く既視感を覚えたが…」

「私もだ。そして、最後の言葉で何故見覚えが有ったのか分かったよ。彼は、この本に出て来るお方に似ている」

 

マクギリスが掲げる本の名は、「アグニカ叙事詩」。

300年前の厄祭戦時代、伝説の悪魔に乗り厄祭の天使を狩った者。

そうして、ギャラルホルンを創設した男の半生が描かれた作品。

 

即ち、「アグニカ・カイエル」の英雄譚に他ならない。

 

「…まさか、アグニカ・カイエルか? 確かに、彼も赤髪だったと言うが…だが、そんな馬鹿な。アグニカは300年前の人間だぞ? その男の言う通り、他人の空似だろう?」

「ああ、そう考えるのが妥当だろう。だが、かのアグニカ・カイエルならば--」

「オイ待て、落ち着けマクギリス」

 

不敵な笑みを浮かべて陶酔した表情で本を見つめるマクギリスを、ガエリオは静止する。

 

「お前は、アグニカの事になると途端にバカになる癖が有るからな。落ち着いて冷静に、科学的に考えろ。300年だぞ? セブンスターズの初代当主が生きていた時代だぞ? お前は、フェンリス・ファリドが目の前に現れると思うか? 俺はクリウス・ボードウィンが目の前に現れるとは思わないし、億が一現れても信じれないぞ」

「確かに、その通りだな。だが、かのアグニカ・カイエルならば--」

「ダメだこりゃ」

 

同じ言葉を繰り返す親友の姿を見て、ガエリオはため息を付く。

 

(コイツに妹を任せて本当に大丈夫なのか? アルミリアがアグニ会に入ったりしないよな?)

 

とガエリオは思い始めていた。




アラズさん関係の新情報
・マクギリス&ガエリオ、既視感を覚える。
・マクギリス、アラズにアグニカみを見る。

いやはや、主人公。
一体何者なんだ…?

ファリド家とボードウィン家の初代当主の名前は、私が考えました。
無論、公式では有りません。


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#07 宇宙へ

タイトルは「宇宙(そら)へ」と呼んで下さい。
ガンダムで良くある読み方ですね。
普段からこう読む私はおかしいのだろうか…。

後、不定期更新ですみませんm(__)m
今回、最初の方は幕間が重なっております。


鉄華団の本部では、団長オルガ・イツカとオルクス商会社長のオルクスが交渉していた。

 

「確認しました」

「ああ、こちらも」

 

そう言って、オルガとオルクスは頷き合う。

 

「交渉は成立だ。社長自ら顔を出してくれた事、感謝するぜオルクスさん」

「商売ってのは、信用が全てだからな。よろしく頼むぜ、CG…えーっと、鉄華団」

 

 

 

 

「クソ、クソ! クソが!!」

 

全面タッチパネルで、投影機能まで持ち合わせる割と高性能で高い机を勢い良く何度もブッ叩くのは、コーラル・コンラッド。

ギャラルホルン火星支部の支部長で有りながら、裏とも繋がる商人ノブリス・ゴルドンと密約し、彼に都合の良い行動を行って支援金を受け取っていた。

 

だが、そこで監査局が派遣して来たのはセブンスターズの次期当主である小僧達だ。

 

ただの七光りかと思っていたが、彼らはかなり優秀だった。

恐らく、セブンスターズで無くとも今と同じ役職に付いていた程には。

 

情報は全て独自で集められた為隠蔽工作が出来ず、膨大な資料を僅かな時間で監査され、腐敗を許さないと言わんばかりの眼で賄賂を断られた。

 

俗に言って、詰みゲーだ。

バッドエンドだ。

監査局本部から通達が来るのも、そう遠く無い未来だ。

 

有りとあらゆる手管を使い、地道な努力を積み重ね、少しずつ成果を上げ、己の優秀さを猛アピールし。

20年程を掛けて火星支部支部長までのし上がったコーラルの大勝利人生は、30年も生きていない若僧に打ち砕かれる事になる。

 

「これも全てクランクのせいだ、あの馬鹿が余計な事をしなければ…!!」

 

このままではマズい。

しでかした恥は(そそ)がねばならん。

 

何とかしてこの失態を帳消しにして信頼を取り戻さねば、コーラル・コンラッドと言う男の人生は終わってしまう。

 

『司令』

 

頭を抱えていたコーラルの下に、通信が入る。

 

『オルクス商会の代表を名乗る男が、バーンスタインのご息女の件で取り次いで欲しいと…』

「…ほう」

 

その言葉で、コーラルの目に希望が戻る。

 

「良いだろう、繋げ」

 

運はまだ、コーラルを見放してはいなかった。

口角を吊り上げながら、コーラルはそのオルクスと言う男と通信を始めた。

 

 

 

 

その頃、ギャラルホルン火星支部の第3地上基地では。

 

「クランク二尉、命令に背くとはどう言う…!?」

「落ち着け、アイン。例え命令で有ろうと、俺に子供を殺す事は出来なかった。ただ、それだけの事」

 

問い詰めるアインに、クランクは一切の迷い無く…むしろ清々しくそう答えた。

と、そこに部下の1人が入って来た。

 

「クランク二尉、火星支部本部基地から通信が!」

「どうした?」

「はい。『クランク・ゼントとアイン・ダルトンは、自分のグレイズと共に今日中に宇宙に上がれ』と」

「「…!」」

 

 

 

 

交渉の翌日。

朝食中だった鉄華団の基地に、1人の女の子が滑り込んで来た。

 

「私を、炊事係として鉄華団で雇ってください! 女将さんには事情を話して、お店は辞めてきましたから!」

 

三日月の幼なじみ、アトラ・ミクスタである。

突然飛び込んで来た彼女と、彼女の放った言葉を受けて、鉄華団メンバーは固まっている。

 

「これはまた…鉄華団に入る為だけに、店辞めて来たとは。どうするオルガ、彼女は今無職だぞ?」

 

固まった鉄華団メンバーを溶かしたのは、アラズの一言。

 

「あー、そうだな。まあ…良いんじゃねえの?」

「うん。アトラのご飯、美味しいし」

 

オルガの言葉に、三日月も頷く。

彼女が調理した料理は、今は亡き(死んでない)一軍のクズ達にも好評だったのだ。

 

「あ、ありがとうございます! 一生懸命、頑張ります!」

「うん、よろしく」

 

鉄華団、思わぬ所で炊事係をゲット。

クソマズい飯、なんて物は回避出来るだろう。

 

「よ~し、お前ら! 地球行きは鉄華団初の大仕事だ、気ぃ引き締めて行くぞ!」

『おー!!』

 

オルガが立ち上がって、メンバーに呼び掛ける。

呼び掛けられたメンバーも、全員が立ち上がって叫ぶ。

 

「食事中に立つな、不作法だ」

『すんません』

 

アラズの注意で、全員が座って上品(?)に食事を再開したが。

注意しながら飯を食べ終わったアラズは、改めて鉄華団の全員を見る。

 

(しかし、最初の仕事がこんな大仕事とはな。オルクス商会とトドは当てにならなさそうだし、かなりお先真っ暗だぞ…加えて、ギャラルホルンに目を付けられていると来た。これは、思ったより骨が折れそうだ)

 

 

 

 

エレベーターの中で、マクギリスとガエリオは先程のコーラルの進言を思い返す。

 

「お前が睨んだ通りだったな。クーデリア失踪の件、コーラルが絡んでいたようだ。そのコーラルのゲスな申し出を、お前が受けるとは思わなかったよマクギリス」

 

数分前。

コーラルの部屋に呼び出されたマクギリスとガエリオは、コーラルから提案を受けた。

 

何でも、マクギリスとガエリオに同道して貰いたい作戦が有るとか。

 

「失態の穴埋めに必死なのだろう。笑ってやるな、ガエリオ。今やクーデリア・藍那・バーンスタインは、火星独立運動の象徴だ。その娘1人を飼い慣らすだけで火星の市民を黙らせられるのなら、利用価値は有ると思わないか?」

 

 

 

 

シャトルに乗り、鉄華団の主要メンバーは宇宙(そら)に上がった。

この後オルクス商会の低軌道輸送船に拾って貰い、低軌道ステーションに入る予定だ。

 

「あ、あれがオルクスの船じゃないですか?」

 

タカキ・ウノが、近付く光を指差す。

アラズはそれを聞くなり立ち上がり、シャトルの操縦席に向かう。

 

「予定より少し早いな…! あれは!?」

「ギャラルホルンの…MS!?」

「オイ、その奥にも何かいるぞ!!」

 

シャトルに、ギャラルホルンのMSが4機接近して来る。

その奥には、戦艦が2隻。

 

「はあ!? どうなってやがる!」

「トド、説明しろ!」

「お…俺が知るか! ギャラルホルンなんて聞いてねえ! くそっ!」

「白々s…いや、まさか本当に知らないとか? 俺らと一緒に切り捨てられたとか、そう言うバカなオチですかトドさん?」

 

トドは呆れ顔で憐れむアラズに掴みかかり、通信機を引ったくる。

 

「あ」

「俺がオルクスと話をつける! ………はい?」

 

トドが、通信機を耳に当てたまま固まる。

 

「トドさんや、『昔馴染みのオルクスさん』は何て言った?」

「…『我々への協力に感謝する』ですとよ。……クソったれがあ!!!」

 

トドが通信機を放り出す。

アラズはその通信機を取り返した上で、ユージンとノルバ・シノに目配せする。

 

そして、トドを親指で指差してこう言う。

 

「やっちまえ」

「言われ無くとも!!」

 

ユージンとシノが、トドをシャトルの後方に連れて行く。

鈍い音が聞こえて来るが、気にする者はクーデリアとアトラくらいである。

 

「全く、これだから汚い奴らは。裏切った者は裏切られる、世界に有るべくして存在する理だな。いやはやトド、何て無様な奴なんだ?」

「クソ! アラズテメェ、絶対許さねぇぞ!!」

「いや、何で俺? アンタの自業自得では?」

 

アラズの嘲笑に、トドの遠吠えが重なる。

その遠吠えすら嘲笑で掻き消したアラズは、操縦席に通信機を返す。

 

「…アンタ、そんなキャラだったか?」

「いや、別にそんな事ないぞ。何か、笑っとかなきゃいけない気がしたから…こう言うのは本来、俺の役割じゃないんだが」

 

などと軽口を叩いている時、接近するグレイズが通信ワイヤーをシャトルに接触させる。

 

「MSから有線通信! 『クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡せ』とか言ってますけど!?」

「ですよねー。どうする、オルガ?」

「ミカ、頼めるか?」

 

オルガが、パイロットスーツを着た三日月を見ながら言う。

しかし。

 

「じゃあ、よろしく教官」

「俺はもう教官じゃn……ん? 俺? 何で?」

 

三日月が、アラズを指名した。

「?」を浮かべるアラズに、三日月は理由を言う。

 

「もう少し、アンタが戦う所を見てみたい」

「…へいへい、ご指名とあらば働きますよ。ただな三日月、その代わりと言っちゃなんだがシャトルは頼む。もしヤバくなったら、操縦もな」

 

三日月が頷いたのを確認し、アラズは荷物置きに置いた2つのトランクの片方を開き、専用のパイロットスーツを取り出す。

それを20秒も掛けずに着込み、ヘルメットを着けてシャトル後方に消えて行った。

 

そして、その30秒後。

 

『ビスケット!』

「はい!」

 

シャトル後方のハッチが開き、煙幕が放出される。

 

『小細工を--な!?』

 

シャトルに通信ワイヤーを繋げていたグレイズの頭に、滑空砲の先端が突き付けられる。

 

そして、その引き金は容赦無く引かれた。

 

グレイズの頭が吹き飛び、ハッチから現れたMSにそのまま突き飛ばされた。

 

「三日月め、面倒臭がってるだけじゃないのか? 今度、おやっさんにシミュレーターか何か作って貰って存分にしごき倒すか」

 

穏やかじゃない事を言いつつ、アラズはバルバトスをシャトルから離す。

 

『目標の確保、失敗したようです』

『クーデリアがそこにいるなら、それで良い』

 

アインの報告に、自らMSに乗って出陣したコーラルは言う。

 

『コーラル司令、ファリド特務三佐より殺すなという指示が…』

『クランク! 貴様、いつから監査局の犬になったのだ!? 貴様の上官はこの私だ、貴様は私の命令に従えば良い! 船ごと撃ち落とせ、出来んと言うなら今この場で私がお前を撃ち落とすぞ!』

『……!』

(ふむ、仲間割れでズタズタか。しかし、司令官自ら出て来るとは…)

 

通信周波数をギャラルホルンのモノに合わせて、ア

ラズは彼らの会話を盗聴する。

 

(監査官自らが参加している作戦中の事故ならば、いくらでも言い訳が立つ。その後はノブリスとの契約だ。華々しく散ってもらうぞ、クーデリア!)

 

などと企みつつ、コーラルはシャトル目掛けて攻撃を仕掛ける。

バルバトスはその弾を左手の装甲で逸らしつつ、滑空砲を撃つ。

その滑空砲から放たれた弾は、コーラルのグレイズが持つライフルに直撃する。

 

『く、あっちだ! あのMSから落とすぞ!』

(しめしめ)

 

鉄華団の思い通りと知らず、MS隊はバルバトスを追撃する。

 

「MS隊は敵に釣られたか。オイ、こちらで船を沈めるぞ。コーラルに恩を売るいい機会だ。引導を渡してy」

「社長! 右舷上部後方から、敵艦が!」

「何だと!?」

 

敵艦からの砲撃を受けて、低軌道輸送船が揺らぐ。

 

「迎えに来たぜ、大将!」

 

その敵艦こそ、鉄華団の艦「イサリビ」に他ならない。

イサリビのブリッジにいるのは、艦の名義変更を行っていた明弘だ。

 

「時間通り。良い仕事だぜ、明弘!」

 

 

 

 

イサリビに乗り込み、オルガはブリッジの艦長席…いや、団長席に座る。

 

「オイ、何でこの艦がここにいる!? 静止軌道で合流する手筈だったハズだ!」

「トド。これまでお前が、信用に足る仕事をした事が有ったか? シノ、倉庫にでもぶち込んどけ!」

「あいよ!」

 

シノがトドを連れて行く。

 

何故、ここにイサリビがいるのか。

始めからトドとオルクスを信用していなかったオルガとビスケット、アラズは予め策を練っていた。

だからこそシャトルにバルバトスを積み、イサリビを手配したのだ。

 

『オルガ、()()を出してくれ』

「了解だ。ヤマギに、あれを用意させろ!」

「って…売り物を使う気?」

「ここで死んだら、元も子も無いだろ。ミカ」

「うん」

 

と言いながら、アラズは今もグレイズの攻撃を間一髪でかわしたり防いだりしている。

 

『クソ、ちょこまかと! 援護しろ、接近戦をやる!』

 

右手でバトルアックスを抜き、コーラルのグレイズがバルバトスとの距離を詰める。

その背後には、クランクとアインのグレイズが回り込む。

 

「チ…三日月! どちらかで良い、引きつけろ!」

『分かった』

 

アインのグレイズに、三日月の乗るグレイズの攻撃が当たる。

 

『扱い辛いなあ』

「グレイズに阿頼耶織は付いていないからな。手足を使うのは変わらないんだ、すぐ慣れるさ。とりあえず、ソイツは任せる」

 

三日月に指示を出し、コーラルの攻撃を左側にすっと避ける。

右手に持った滑空砲の先端をコーラルのグレイズの右手に突き付け、引き金を引く。

 

『く!?』

 

右手が吹き飛び、バルバトスはその右手からバトルアックスを奪い取る。

 

「うーん、剣が良いんだがなあ。まあ、贅沢は言わんさ」

 

ぼやきながら、バルバトスはグレイズの頭を左手で掴む。

 

『んな…!?』

「よ」

 

バルバトスは右手でバトルアックスを振り上げ、グレイズのコクピットハッチを吹き飛ばす。

 

「ん?」

 

その時、バルバトスの肩に攻撃が当たる。

クランクのグレイズによる攻撃だ。

 

「チ、面倒な…」

 

バルバトスは頭から左手を放し、その指をコクピットに突き刺す。

コーラルは呆気なく潰され、その命を華々しく散らした。

 

「よし、機体確保。次は--」

 

バルバトスはアインのグレイズに突撃し、バトルアックスを振り下ろす。

その攻撃は右肩に直撃し、右腕を斬り落とした。

 

『!?』

 

三日月もバトルアックスを振り、グレイズの頭を吹き飛ばした。

 

『アイン!』

 

クランクのグレイズが、バルバトスに斬り掛かる。

バルバトスはそれを難なくかわし、反撃。

クランクのグレイズは、逆にその両腕を失う事になった。

 

『ぐうッ…!』

『クランク二尉! ぐわっ!』

 

アインのグレイズは、三日月に掛かり切りだ。

クランクのグレイズを見下ろすバルバトスは、もう1つバトルアックスを拾って両手で2本のバトルアックスを構える。

 

「アンタ、一体何をやっている? 決闘でこちらが出した条件を忘れたか?」

『……ああ、何をやっているんだろうな。本当に、組織とはままならない』

「言い訳を聞く気は無い。--ああ、1つ世界のルールを教えてやる。『決闘で持ち掛けられた条件を破った者。この者は、破られた者に誅戮されなければならない』…300年以上前のルールだがな」

 

そして、バルバトスはバトルアックスを振り上げ--

 

「!」

 

た瞬間、マシンガンか何かによる攻撃がバルバトスを襲った。

 

「上か…!」

 

ギリギリでそれをかわし、バルバトスは攻撃の飛んで来た方向を見る。

 

「コーラルめ、我々を出し抜こうとしておきながらこの始末か」

 

紫色に染め上げられた専用機のコクピットで、ガエリオ・ボードウィンはそう呟いた。

 

 

 

 

その頃、三日月はアインのグレイズの肩を吹き飛ばしていた。

そこに、バルバトスが合流する。

 

『三日月、後は任せろ。一旦イサリビに戻れ。それと、これ持ってって』

『? 何に使うの?』

『俺色に染め上げて、俺の専用機にするんだよ』

 

三日月はアラズからコクピットハッチが吹き飛んでコクピットが潰れたグレイズを受け取り、イサリビ方面に飛ぶ。

 

『逃がすkぐはあ!』

 

一瞬で回り込まれたバルバトスに、アインのグレイズは残った両腕両足を斬り落とされた。

 

「しかし、あのグレイズ…間違い無くエリートのエリートによるエリートの為のエリート専用機だよ。面倒だなー。紫にランス…って事は、ボードウィンかな?」

 

EB-05s シュヴァルベ・グレイズ。

ギャラルホルンの主力モビルスーツである、グレイズの開発過程で生まれた試験機。 

グレイズと同一のフレームをベースとして機体の高出力及び高機動化を目的に開発された姉妹機であるが、組織内に於いてはグレイズの同型機または上位機として認識されている。 

ノーマルのグレイズとは頭部、胸部中央、肩部、腕甲部、腰部、大腿部、バックパックの構成が異なる。

特に、各部に増設された大型スラスターや姿勢制御バーニア等の推進、制動装置が目を引く。 

また、指揮官機として運用される機体は、その指揮官の専用機として扱われている事も多い。

パイロットに合わせたカスタマイズやカラーリングが施され、機体ごとに搭乗者の個性が際立つ傾向にある。

 

「MSを一瞬で…見てくれよりは出来るようだな!」

 

背中のスラスターを吹かせて、シュヴァルベ・グレイズ(ガエリオ機)はバルバトスに突撃する。

 

「クソ、満足に整備も出来てないってのに! まさか、セブンスターズが相手とはな!」




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 90AP
三日月・オーガス 10AP
コーラル・コンラッド 10AP
クランク・ゼント 10AP
アイン・ダルトン 10AP
ガエリオ・ボードウィン 10AP


※決闘の条件を破った場合のルールは、本作オリジナルです。

トドェ…。
愉悦なアラズさんェ…。
ギャラルホルンの通信周波数を知ってるアラズさんェ…。
機体の色とランスからパイロットがボードウィン家の人間だと気付いてしまったアラズさんェ…。

後、一カ所∀ネタが有ります。
気付いた方はいたのでしょうか…?(多分分かりにくい)


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#08 鉄則

お待たせしてしまいました、申し訳有りませんm(__)m

今回も戦闘回です。
色々な独自設定も出て来ますが、それは後書きで記載します。


自分専用のシュヴァルベ・グレイズのコクピットに座りながら、マクギリスはブリッジと通信する。

 

「あの機体、あまり見ない機体だな。データベースとの照合、出来るか?」

『距離は有りますが、エイハブ・ウェーブの固有周波数は拾えています。…照合結果、出ました。…? これは?』

 

コクピットのモニターに、結果が送られて来る。

そこには、「GUNDAM FRAME ASW-G-08 GUNDAM BARBATOS」と言う表示が出ている。

 

「--『ガンダム・フレーム』だと?」

『「ガンダム」…厄祭戦時代、ギャラルホルンの最高幕僚長「アグニカ・カイエル」も乗ったとされる伝説のMSの名前ですね。それが何故、こんな所に有るのでしょうか? マッチングエラーでは?』

「…いや、必然かも知れんぞ。その名を冠する機体は幾度と無く歴史の節目に姿を現し、人類史に多大な影響を与えて来た。ガンダムに乗って世界を変えたのは、何もアグニカ・カイエルだけでは無い。アグニカはあくまで、その中で最も新しく…そして、最も偉大なだけだ」

 

マクギリスは笑みを浮かべ、こう続ける。

 

「火星の独立を謳うクーデリア・藍那・バーンスタインがそれを従えている。これは、なかなかに面白い。船は任せるぞ」

『は!』

「では…マクギリス・ファリド、シュヴァルベ・グレイズ。出るぞ」

 

そして、青く染められたマクギリス専用シュヴァルベ・グレイズが出撃した。

 

 

 

 

「あれか。ああもおかしなかわされ方をすれば苛立つのも分かるが、ガエリオ機の照準システムに異常は見られない。機体の問題と見るのが妥当だな」

 

ガエリオのシュヴァルベ・グレイズはランスを振り回して攻撃を仕掛けているが、バルバトスはそれをスレスレでかわしている。

 

「姿勢制御プログラム特有の回避パターンは見られない。まるで生身のような重心制御が、回避動作を最小限に留めている。『阿頼耶織システム』は、空間認識能力の拡大を謳ってアグニカの祖父である科学者プラージャ・カイエルが設計し、それをガンダム・フレームの開発者であるアグニカの父スリーヤ・カイエルが実現化して機体に組み込んだ事で知名度が向上した。その為に、他のフレームにも使われるようになったモノだったか」

 

シュヴァルベの強化されたセンサーでバルバトスを捕捉し、「アグニカ叙事詩」の一節を思い起こしながらマクギリスは冷静に観察する。

 

ライフルを構え、バルバトスに照準を合わせて引き金を引く。

 

「!」

 

マクギリス機に気付いたバルバトスは、間一髪でそれを回避する。

 

「ほう、あれをかわすか。動きにも隙が無い…ガエリオ、回り込みを頼む」

「了解だ!」

「来るか」

 

 

 

 

一方、三日月のグレイズと鹵獲したグレイズを収容した鉄華団の船「イサリビ」では。

現在、高速離脱作戦を考案中だった。

 

「ビスケット、あれは使えねぇか?」

 

と言って、オルガはモニターに映る小惑星を指差す。

資源採掘用に、火星の衛星軌道に乗せられた小惑星だ。

 

「あっ…使うってまさか!」

 

オルガの提唱する作戦とは、小惑星に船のアンカーを打ち込んでスイングバイし、そのまま火星の重力から脱して最大戦速でギャラルホルンの船を撒く…と言うモノだ。

 

これに、ビスケットも賛同する。

 

「でも、それをやるにしても問題は離脱方法だ。船体が振られた状態での砲撃は、当てに出来ない。誰かがMWでアンカーの接続部に取りついて、直接小惑星の表面を爆破するとかしか無いけど…」

「ねえビスケット、それってMSで出来ないの?」

 

三日月の質問に、ビスケットは首を横に振る。

 

「MSだと大き過ぎて、アンカーの勢いが殺されちゃうんだ。バルバトスならアンカーに追いすがって爆破してから船に掴まる、何て事も出来るかも知れないんだけど、あの『グレイズ』とか言うMSにそこまでの機動性は無いからね」

「成る程なー。その自殺行為を誰がやるんだ?」

「そりゃ、勿論--」

 

シノの言葉を受けて、オルガが立ち上がろうとするが。

 

「テメェは座ってろ」

 

と、ユージンがオルガを静止した。

 

「…まさか、お前がやるつもりか?」

「ああ。俺らに黙って、勝手に船まで用意しやがって。たまには俺にも仕事させろ!」

 

数分後。

 

「ユージンの出撃準備、完了です!」

「さて、鉄華団の門出だ。景気良く、前を向こうじゃねぇか!」

「アンカー、射出!」

 

アンカーがイサリビの正面装甲の右下から撃ち出され、小惑星を捉える。

そして、そのワイヤーの上をユージンのMWが走る。

 

その瞬間にエンジンを吹かし、アンカーを軸として船を急速回頭。

 

「今だ!」

「ユージン!」

「おうよ!!」

 

ユージンはMWの主砲を斉射し、アンカー近くの小惑星の表面とアンカーの接続部に仕掛けた爆弾を起爆させる。

 

アンカーはその勢いで引き抜け、MWはそれに必死でしがみつく。

イサリビは最大戦速のまま、ギャラルホルンの船の真横を通り過ぎにかかる。

 

「主砲、撃て!」

 

イサリビとギャラルホルン艦は、ゼロ距離での撃ち合いに。

 

「続いて閃光弾、撃て!」

「うらァ!」

 

イサリビから閃光弾が放たれ、ギャラルホルンの船からの砲撃が緩む。

 

その隙をついて、イサリビは突破に成功した。

 

「よっしゃあ!!」

「ユージン機、回収完了! 後はアラズさんのバルバトスだけです!」

「発見しました! 現在、MS3機と交戦中!」

 

 

 

 

「ふっ!」

「はああ!」

 

マクギリスとガエリオが、挟み込んでの同時攻撃を行う。

ガエリオ機はランスを構えて突撃し、マクギリス機はワイヤークローを左腕から射出する。

 

「よっ!」

 

バルバトスは始めに飛んで来たワイヤークローを上に移動する事でかわし、次に突撃して来たガエリオ機のランスまで避けた。

更に、すれ違いざまに回転しながら右手に持ったバトルアックスでガエリオ機の背中のスラスターを叩き斬る。

 

「な!?」

「ガエリオ!!」

 

そのスラスターは暴発し、ガエリオ機の動きが止まった瞬間にバルバトスは左手のバトルアックスを振り上げる。

マクギリス機は接近して狙い撃とうとするものの、ガエリオ機が射線に重なっている。

 

「く…!」

「おのれ…!」

 

マクギリスとガエリオの舌打ちを知る事も無く、バルバトスはバトルアックスをガエリオ機に振り下ろす--

 

「!」

 

直前。

しばらく傍観していたクランクのグレイズが動き、バルバトスに吶喊して来た。

両腕を失ってなお、クランクは抗う。

 

「--最後まで、『軍』と言う縛りには逆らえ無かったか。その為に、わざわざ命を落とそうとはな」

 

アラズは感情の籠もらない声でそう吐き捨て、クランク機が吶喊(とっかん)して来る方向に左手のバトルアックスを振る。

 

「ぐh」

 

その攻撃はクランク機のコクピットに直撃し、搭乗していたコクピットごとクランク・ゼントを叩き潰した。

 

「!」

「な…」

「ク…クランク二尉イイイイイ!!!」

 

それはまさに、刹那の出来事だった。

クランクは断末魔を上げる事も無く、あっさりとその命を散らした。

 

「ッ…マクギリス!」

「--分かっている!」

 

マクギリス機とガエリオ機が、バルバトスに突撃する。

 

「ふん」

 

アラズは冷徹な目で搭乗者と操縦席を失ったグレイズを見下ろし、それをガエリオ機に向けて蹴り飛ばした。

ただでさえスラスターの片方をやられているガエリオ機は、それをかわす事が出来ずに衝突する。

 

「がはッ!」

「はあッ!」

 

マクギリス機はそのガエリオ機の横を突破し、バルバトスに向けてバトルアックスを振り下ろす。

マクギリス渾身の一撃は呆気なくかわされ、バルバトスの側を通り過ぎる瞬間にその機体の頭を右手のバトルアックスで両断された。

 

「バカな、()とガエリオをいとも簡単にあしらうなど…!」

 

マクギリスとガエリオは、ギャラルホルン士官学校の主席と次席である。

その期のトップであり、専用機を貰える程優秀な2人が、たった1機のMSに傷を付ける事すら出来なかったのだ。

 

「…来たか、イサリビ」

 

イサリビが、最大戦速で戦闘宙域を通過する。

バルバトスは腰の後ろに付けられたアタッチメントに右手のバトルアックスを接続し、そのまま右手でイサリビに掴まる。

 

「では、最後に攪乱だ」

 

左手に持ったバトルアックスを左側の背中のアタッチメントに接続させ、イサリビに掴まる手を右手から左手に瞬時に入れ替える。

開いた右手で背中に付けられた滑空砲を構え、マクギリス機とガエリオ機に向けてそれを撃つ。

 

「く…!」

「ぐ…!」

 

マクギリス機とガエリオ機は瞬時に盾を構えてその砲撃を受けるが、これで盾に付けられたワイヤークローの投射が封じられた。

バルバトスも弾が尽きたようで、砲撃を終了する。

 

その時、イサリビは既に戦闘宙域からの離脱を完了していた。

 

「待て!」

「…落ち着け、ガエリオ」

 

マクギリスは両腕両足を無くしたアイン機とコクピットを潰されたグレイズを回収しながら、ガエリオを諫める。

 

「だが…!」

「気持ちは分かるが、もう遅い。今から全速で追いかけても、どうせ撒かれるだけさ。それよりも、今は今後の火星支部について考える時だ。コーラルは死に、我々が後釜にと考えていた者も死んだ。この期を持って火星支部を改変する為にも、今は優秀な司令官の選定をしなければならない」

「………ッ!! この屈辱は決して忘れんぞ、鉄華団…!!!」

 

歯を食いしばりながら、ガエリオは鉄華団への報復を宣言する。

その側にいたグレイズのコクピットで、アイン・ダルトンは同じように歯を食いしばっていた。

 

(だが、あの「ガンダム・バルバトス」の力--どうにも引っ掛かる。いくら「阿頼耶織システム」で機体に直結していても、ああも我々が翻弄され遊ばれるモノなのか? プラージャが設計し、スリーヤが作った阿頼耶織が画期的なシステムである事は明らかだが…だからと言って、ああも自然な動きを可能と出来るのか?)

 

とマクギリスは疑問に思ったが、阿頼耶織に詳しくない以上はデータベースでも調べるしか無い。

「アグニカ叙事詩」にも、阿頼耶織の細かなメカニズムなどは書かれていないのだ。

 

 

 

 

母艦に戻ったマクギリスは、部下達に呼び出された。

何でも、珍妙なカプセルが届いたとか。

 

「特務三佐、こちらです」

「どれだ?」

 

そのカプセルには、閉じ込められていた上に今なお転がされているパンツ一丁の男。

男は後ろで手を縛られており、その餓鬼にも似た出っ張った腹に何かが書かれている。

 

「『お前らの仲間らしいから、お前らでけじめをつけやがれ』との事ですが…何の事でしょうか? 特務三佐、何か心辺りg」

「ふはは…ふははは、ははははは!!」

 

マクギリスは、珍しく声を上げて笑い出した。

一頻(ひとしき)り笑った後、放してやれと言って交渉を持ちかけたのは、もはや言うまでも無いだろう。

 

--トドの明日は、ファリド家次期当主の右腕となる日だった。




アグニカポイント新規取得
マクギリス・ファリド 10AP


クランク二尉…お疲れ様でした。
そして、アイン君のメンタルが…。


アグニカ祖父とアグニカ父の名前は、本作オリジナルです。
また、アグニカ祖父が「阿頼耶織」を設計してアグニカ父が完成させたのもオリジナル設定となっています。
ただ、ガンダム・フレームを開発したのがアグニカ父である事は公式です。


次回はいよいよ、タービンズの皆様が登場…?


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テイワズ編
#09 会議


遅れてしまい、誠に申し訳有りません!!m(__)m
次回はもっと早く投稿…出来る…かなあ…。

…善処しますが、期待はしないで下さい。


「無理せず休んでいろ、ガエリオ」

「掠り傷だと言っただろう、マクギリス」

 

火星の衛星軌道を飛ぶギャラルホルンの戦艦。

そのブリッジで、マクギリスとガエリオは話をしていた。

 

「追撃するぞ、マクギリス。ああもコケにされて、黙っている訳にも行k」

「そうしたいのはやまやまだが、そうは出来ない。コーラルが死んだお陰で、今の我々には仕事が山積みだ」

 

火星支部司令官コーラル・コンラッドの戦死。

それにより、新たな司令官を斡旋しなければならないのだが…その候補であったクランク・ゼントも戦死した。

 

新たな候補の斡旋と、それに伴う火星支部組織の一新。

この仕事を片付けなければ、マクギリス達は自由に動けない。

 

「しばらくはそれに忙殺される事になる。連中から届いた荷物から、クーデリア・藍那・バーンスタインがあの船に乗っている事は確認出来た。彼らはいずれ、地球に行く。であらば、再び会い(まみ)える機会も有るだろう」

 

マクギリスとて、雪辱を受けた。

2人とも専用のシュヴァルベ・グレイズを小破させられ、敵の離脱を許してしまった。

加えて、グレイズを1機鹵獲され、武器の幾つかも奪われた。

 

これはもう、むさむざ相手に物資を渡しに行ったようなモノだ。

 

(…しかし、俺とガエリオを同時に相手取ってなおここまでやってのけるとは。あの「ガンダム・バルバトス」のパイロットは、少なくとも俺とガエリオの倍以上の実力を持っている。そんな凄腕のパイロットが、未だ在野にいたとはな…何者だ?)

 

マクギリスはふと考えたが、それは部下の報告に打ち切られるのだった。

 

 

 

 

イサリビの格納庫では、バルバトスの修復と鹵獲したグレイズの改修が行われていた。

 

「MSの装甲の補強って、MWと同じ要領で良いんですか?」

「MSは装甲にナノラミネートアーマーを使ってるんだ、MWとは別モンだと思え」

 

整備兵の質問に、雪之丞はそう返す。

 

「じゃあどうすりゃ良いんですか、おやっさん」

「ちょっと待ってろよ…ったく、ロクな記録が残ってねえなあ」

 

雪之丞は手元のタブレットの画面を叩くが、イマイチ分からないらしい。

 

「おやっさん、鹵獲したグレイズの整備は終わったぜ。何か、手伝う事は有るか?」

 

と、そこにアラズが合流する。

 

「ああ~じゃあ、リアクター回りの整備を頼む。2機のリアクター並列型なんて、俺にはさっぱりだ」

「了解。あ、装甲の補強はこうだな」

 

雪之丞が持つタブレットに幾つかのデータを入力してから、アラズはバルバトスの背面に回る。

 

「おやっさん、俺のグレイズは色塗り替えるけど良いか?」

「構わねえが、何色にする気だ? 紫とかは高えからダメだぞ」

「安心しろ、白と青の2色しか使わないから」

 

ナノラミネートアーマーに蒸着される特殊金属塗料は、色によって塗料の価格は異なる。

最も安価な色が白、逆に最も高価な色が紫だ。

 

ただ、その差は戦場での被視認性の差から来る為、価格による防御性能の差は殆ど無い。

 

「あの、アラズさん?」

「ん? 何だ、ヤマギ?」

 

リアクター回りをチェックしつつ、アラズはヤマギに反応する。

 

「この『ガンダム』って、大昔に造られたんですよね?」

「ああ。昔と言っても約300年前、『厄祭戦』の際に造られた骨董品だ。まあ、ギャラルホルン以外の保有するMSは大半が骨董品だが」

 

ギャラルホルンは、エイハブ・リアクターの建造技術を独占している。

その為、それ以外の組織が保有するMSはサルベージされた骨董品や鹵獲したギャラルホルンMSの改良型が殆どだ。

 

「『厄祭戦』?」

「300年前に有った、地球圏と火星圏を巻き込んだ大戦争の事だ。何千機ものMSが建造されて、天使達との戦いが繰り広げられた。当時の人類総人口の約4分の3が殺された、血と殺戮にまみれた戦争。その弊害はとても大きく、地球の衛星である『月』が霞んだ程だ。この『ガンダム・フレーム』は、その大戦の末期に造られた。時代に名を馳せる伝説の機体『ガンダム』の名を冠した、天使を狩る悪魔」

 

ガンダムの総数は、全72機。

それで100機を大幅に上回る数の天使を潰して回ったのだから、どれ程規格外の存在かは想像に難くないだろう。

 

と、アラズが話していた時。

 

「すいません、アラズさん!」

「今度は何だ?」

「団長達からの呼び出しです! 至急、ブリッジにとの事です!」

 

 

 

 

アラズがブリッジに入ると、そこにはオルガ、ユージン、ビスケット、クーデリア、フミタンなどが揃っていた。

 

「遅れてすまんな。しかし、MSに乗るしか能の無い俺を呼び出すとはどう言う事だ?」

「アラズさん、謙遜し過ぎですよ。とにかく、これからの方針を練らないと」

 

と言う事で、作戦会議の時間だ。

 

ギャラルホルンにあそこまで喧嘩を売ってしまったので、地球への案内はただの案内役では不可能。

ギャラルホルンと肩を並べるくらいの、巨大な後ろ盾が必要になって来る。

 

そして、そんな存在は1つしか無い。

 

「テイワズか」

「テイワズだな」

「テイワズですね」

 

テイワズ。

木星圏を中心に、主に小惑星帯の開発や運送を担う企業複合体だ。

マクマード・パリストンを代表(ボス)とする、実態はマフィアとまで呼ばれる組織。

大型惑星間巡航船「歳星」を拠点として、輸送部門を担当する「タービンズ」や工業部門を担う「エウロ・エレクトロニクス」など、様々な事業に特化した下部組織を複数束ねている。 

一方で、治安の悪い圏外圏という環境で成長を遂げた関係上荒事とは無縁とは言い難い。

宇宙海賊等に対する自衛戦力の拡充を行った結果、マフィアとしての性格を強めている。 

戦力拡大の一環として、独自に入手した厄祭戦時代の設計図からMSの開発や生産を行っており、その技術力と工業力はギャラルホルンにも次ぐ程だ。 

また、開発したMSやその付属部品は複数の企業や組織に対して販売も行われており、組織の資金源の1つとなっている。

 

要するに、ギャラルホルンに一目置かれる程の巨大組織である。

 

「つってもなー。あんなクソデケぇ組織が、俺達なんかの後ろ盾になってくれんのか?」

「そのクソデカい組織を後ろ盾にでもしないと達成出来ないのが、今回の依頼なのだよユージン君。きっちり申請とかして、『筋』を通せば問題無いハズだ。まあ、それが難しいと言えば難しいのだg」

「うおお!? スゲェなアンタ!」

 

アラズの説明は、オペレーター席に座るチャド・チャダーンの声に遮られた。

 

「どうした、チャド?」

「火星の連中と連絡取れねえかと思ってたら、この人が簡単に繋げてくれたんだ」

 

チャドの近くには、クーデリアの従者であるフミタン・アドモスがいる。

 

「まさかの有能な人発掘案件か? で、どうやったんだフミタンさん…だったか?」

「はい、フミタン・アドモスです。方法としては、ギャラルホルンの管理する『アリアドネ』を利用しました」

 

アリアドネ。

レーダーが機能しないエイハブ・ウェーブの影響下で、惑星間航行を可能とする管制システム及びその中継器によって形成される航宙路の総称だ。 

エイハブ・リアクターを搭載した「コクーン」と呼ばれる自律型の宇宙灯台を、約100万キロ間隔で配置し、それらを辿る事で航路を形成する。

厄祭戦時代に設置され、厄祭戦終了後はギャラルホルンが管理している。

 

「それを構成する『コクーン』を中継ポイントとして利用する事で、長距離の通信が可能になります」

「成る程、分からねえ。って言うか、そんな事したらギャラルホルンにバレちまうんじゃねえか?」

 

ユージン、思考放棄。

かろうじて、ギャラルホルンについて考えている。

 

「ユージン君、思考放棄をするな。後、通信は暗号化されてるから問題無し。大体は、な。フミタンさん、アンタ有能じゃないか? オペレーターとして働いて欲しいくらいだ」

「私は構いません。お嬢様のお許しを頂ければ、ですが」

「え? ええ、勿論」

 

クーデリアの許しを受けて、フミタンは軽く一礼する。

 

「決まりだな。じゃあこれから、通信オペレーターとしてよろしく頼む」

「承知しました」

 

オルガの言葉を受け、フミタンは通信機に向き直った。

 

 

 

 

「君がアイン・ダルトン三尉か」

 

アインは、マクギリスの部屋に呼び出されていた。

椅子に座るマクギリスの後ろには、ガエリオが控えている。

 

「君のいた中隊は、圧倒的な戦力で敵を制圧する予定だった。だが、その予定は狂った。それは敵のMSによるモノか?」

「は、間違い有りません。あのMSの出現により、我が方は司令官を失い後退を余儀無くされました」

「率直な印象が聞きたい。奴の戦いぶりは、君に取ってどうだった?」

 

マクギリスの質問に若干戸惑いつつも、アインは思い起こしながら報告する。

 

「最初は、民間組織がMSを持っていた事に動揺しました。しかし戦闘が始まると、すぐに別の驚きに変わりました」

「それは?」

「訓練では体験した事の無い、機動性や反応速度です。それらを駆使した戦法に翻弄され、我々は…」

 

そこで、アインは歯噛みする。

 

「…自分が不甲斐ないばかりに、上官を続けざまに失いました。ぜひとも自分を、追撃部隊の一員に加えて頂きたく」

 

その申し出に、マクギリスは一考する。

 

「君の気持ちは分かった。考慮しよう」

「ああ」

「ありがとうございます!」

 

敬礼し、アインは部屋を去るのだった。

 

 

 

 

イサリビの食堂では、クーデリア先生の文字教室が開かれていた。

三日月を始めとした読み書き出来ないグループが、クーデリア先生に文字を教わっている。

 

「読み書きか…ふむ、良い傾向だ」

 

そこに、文字読めるグループ筆頭のアラズが顔を出した。

 

「貴方は…ええと…」

「ああ、そう言えばまだ自己紹介をしてなかったか? 俺はアラズ・アフトルだ。よろしく、『革命の乙女』さん」

「そ、その呼び方はやめて下さい!」

 

クーデリアの異議を、アラズは笑いながら流す。

 

「ははははは、冗談さ。クーデリア、と呼び捨てにしても良いか?」

「え? ええと…はい、大丈夫です」

「どうも。改めてよろしくと言わせて貰うよ、クーデリア」

 

クーデリアの了承を得てから、アラズは三日月の画面を覗き込む。

 

「? 教官、何の用?」

「だから、もう教官じゃないと何度言えば…まあ良いや、好きに呼べ。後、文字が反対だぞ」

「あっ」

 

アラズの指摘を受けて、三日月は間違いに気付いた。

書き写していた文字が、裏返ってしまっている。

 

「書き直しかあ…教官、ちょっと書いてみてよ」

「いや、俺かよ? まあ良いけど」

 

と良いながら、三日月の持つタブレットで文字をすらすらと書き写すアラズ。

三日月が10分程格闘していた文字を、1秒足らずで流暢に書き写した。

 

「早いけど…これ、書き写したって言えるの?」

「ああ、字体の問題か? これは『筆記体』…普通の文字を崩して早く書けるようにした奴だな」

「筆記体まで書けるんですか…アラズさん、貴方は何者なんですか?」

 

クーデリアの質問を、アラズは。

 

「さあ」

 

とはぐらかした。

その後、アラズがその場にいた全員の追及をはぐらかし続けていると。

 

艦内に、警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

「何が有った?」

「他船からの停止信号です」

 

オルガの問いに、フミタンが返す。

 

「何だ、ギャラルホルンか!?」

 

食堂から直行して来たアラズが、ブリッジに飛び込んで来た。

 

「通信です。モニターに出しても?」

「ああ」

 

と、オルガが承認すると。

 

 

『オイガキども、俺の船を返せ!!』

 

 

どこかで見た気がする、やたらムカつく顔が映った。

 

「あれ? あれ、クソ社長!? マルバ、生きとったんかワレェ!!」

『黙れ泥棒ネズミが!! 俺のウィル・オー・ザ・ウィスプを、今すぐ返せえええええええええ!!!』

 

アラズの驚愕の後、マルバは叫ぶ。

また、面倒を持って来やがったようだ。




公式だと、厄祭戦で死んだのは総人口の4分の1だとされています。
ただ、本作では4分の3が死んだとしました。
4分の1は少ない気がしたので(爆)

また、公式より明言されていなかったので、本作では厄祭戦時代の総人口は約120億人とします。
厄祭戦では、約90億人が死んだと言う事で。


と言う事で、説明回でした。
マルバ、生きとったんかワレェ!!

タービンズの皆様は次回でした…すいませんm(__)m


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#10 タービンズ

--僕はね、定期更新をしたかったんだ。

前回までのあらすじ
マルバ、生きとったんかワレェ!


「あー…あの、クソ社長? とりあえず、1回落ち着け」

『やかましい、この恩知らず野郎が!! MSのコクピットでへばってたテメェを雇って、食わせて来てやったのは誰だと思ってる!? 何当たり前のようにガキ共の味方してんだ!? 何当たり前のようにタメ口だ!? 何当たり前のように「クソ社長」って呼んでんだ!? 今すぐガキ共を脅して、船を俺に返すなら許してやるぞ!!』

 

アホな事を言うマルバに、アラズはこう返す。

 

「うるせェなあ、クソ社長。あれから10年も経ってるのに、まだ引きずってんのかアンタは。確かに、俺はアンタに雇ってもらった。それは感謝してる。だが、この10年間俺は社畜として働いて来た。それ故にCGSは成り立ち、アンタは甘い汁を啜れたんだろ? アンタは俺の命を助けた。俺はアンタに富を与えた。恩をチャラにするには充分だと思うがな」

『ッ…!』

 

切り返しに詰まるマルバを捨て置き、アラズはその後ろにいる白スーツの男に話し掛ける。

 

「クソ社長の後ろの兄さん。アンタもヒマでは無いだろう? もっと建設的な話をしたいんだが」

『何スルーしてんだテメェは!! 良いからさっさと俺に船をk』

『ちょっと退いとけ、オッサン』

『あ、ああはいすいません』

 

白スーツの男に言われ、マルバはそそくさと画面外へ下がって行く。

同時にアラズも、オルガの後ろまで下がる。

 

『アンタ、なかなか話が通じそうじゃねえか。俺の名は名瀬・タービン。「タービンズ」って言う組織の代表を務めている』

「『鉄華団』代表、オルガ・イツカだ」

『何が鉄華団だこの野郎!』

 

マルバが突っかかるが、名瀬はそれを追い払う。

 

『退いとけっつっただろ、オッサン。で、さっきコイツと話してたアンタは?』

「『鉄華団』の1人、アラズ・アフトルだ。MSに乗るくらいしか能の無い男だよ」

 

どこがだ、とブリッジにいる全員は思う。

ひとまず、ここに至る経緯を名瀬は話し始めた。

 

名瀬・タービンとマルバ・アーケイは、以前仕事上の付き合いが有ったと言う。

たまたま立ち寄った火星のバーで久々に再会した所、マルバは酷くボロボロだったとか。

 

そこで愚痴を聞いた所、ギャラルホルンと揉めて困ってるとマルバは言った。

タービンズの上層組織であるテイワズの後ろ盾が有れば、ギャラルホルンも手を出せなくなる。

 

ので、手を貸そうかと言う話になったそうだ。

 

名瀬・タービンの率いるタービンズは、テイワズ直参の組織である。

組織の規模はまだまだ拡大の余地が有るものの、名瀬はテイワズ代表のマクマード・パリストンと親子の杯を交わしている。

 

「さ、最悪の展開だよ! テイワズまで敵に回したらおしまいだ!」

「さて、これをチャンスに変えられるかどうか…お前の手腕次第だぞ、団長さん」

 

アラズの耳打ちを気にせず、名瀬は話を続ける。

 

『手助けの駄賃は、CGSの所有物を全部ウチで預かるって事で纏まったんだがな。調べてみたら、書類上CGSは廃業。全ての資産は鉄華団とか言うのに移譲されていやがる』

「…つまり、アンタはマルバから取り上げ損ねた分を俺らから取り上げる為に来たと」

 

オルガは名瀬を睨み付けるが、当の本人は肩をすくめる。

 

『まあまあ、そう構えんな。ギャラルホルンとの戦闘は、この目で見させて貰った。ガキばかりの組織にしては、大したモンだ。資産の返還にのみ応じてくれれば、悪いようにはしねえよ』

「と、言うと?」

『ウチの傘下で、もっとまともな仕事を紹介してやる。命を張る必要の無え、真っ当な仕事をな。ま、アンタらも結構な大所帯らしいから全員一緒、とは行かねえが』

『何をバカな事を! 俺に逆らう汚えガキなんぞ、皆殺しにして然るべきd』

 

襟を掴まれ、クソ社長退場。

 

「--悪いな、タービンさん。アンタの要求は呑めない。俺達には、鉄華団としての仕事が有る」

「あ、あの! 私は彼らに、地球までの護衛をお願いしています!」

 

と、後ろでやり取りを見ていたクーデリアが言う。

すると、名瀬は頭を抱える。

 

『アンタがクーデリア・藍那・バーンスタインか。お嬢さんの件はどうにも複雑でな…マルバの資産って扱いだし…』

「欲張り過ぎだろ、あのクソ社長。ヒューマンデブリと言い子供達への『阿頼耶織』手術と言い、しまいには依頼主まで資産扱いか。クソだな」

『…? ちょっと待て、アンタ今何つった?』

 

アラズの独り言に、名瀬が反応する。

 

「欲張り過ぎだろ、あのクソ社長。ヒューマンデブリと言い子供達への『阿頼耶織』手術と言い、しまいには依頼主まで資産扱いか。クソだな」

『…ヒューマンデブリに、阿頼耶織だと?』

「ああ。そこのクソ社長はな、ヒューマンデブリやら行き場の無い子供達やらを集めて、阿頼耶織手術を受けさせた。麻酔も何も無いまま、な。そして生き残った奴らをこき使った。1日3食食わせてやってただけでもマシだろうが、それ以外は酷いモンだ。体罰やら何やらを平然と行ったし、ギャラルホルンとの戦いでは捨て石にして自分だけ逃げる始末。止められなかった俺にも非が有るだろうが、少しばかりやり過ぎでは無いか?」

 

アラズのその言葉を受けて、名瀬はマルバを睨み付ける。

 

『テッ、テメェフザケんなよアラズ! んなデタラメ、通ると思ってn』

「じゃあ、これでどうだ!?」

 

マルバの言い訳を遮ったのは、アラズではなくオルガだった。

 

オルガは上半身の服を脱ぎ捨て、背中をモニターに見せ付ける。

それに続いて、三日月やビスケットなどのブリッジにいる鉄華団全員が上半身の服を脱いで背中をモニターに向ける。

 

 

その脊髄の部分に、機械が埋め込まれているのがはっきりと見て取れる。

 

 

『…なあ、マルバ。アンタはアイツらを宇宙ネズミだと言ったな。だが、こればかりは俺も見過ごせないぞ』

『ク、クソ…このゴミ共め、覚えてr』

『悪いが、コイツを拘束してくんねえか?』

『あいよ!!』

 

屈強な女達が動き出し、10秒と経たずにマルバは拘束された。

 

『それと、ラフタを戻してくれ』

『…名瀬、アンタ』

『ああ。アイツらの話、聞いてやろうじゃねえか』

 

 

 

 

それから1時間後。

鉄華団の「イサリビ」と、タービンズの「ハンマーヘッド」は合流。

ハンマーヘッドの艦長室で、会合が行われる。

 

「マルバは、ウチの資源採掘場に放り込む。今回かかった金は、アイツの身体で返して貰うさ」

「そちらに預けた話です、お任せします」

「良い処置だな。悪いが、『お前が子供達にやらせていた重労働、その苦しみを知れ』と伝えてくれ」

「了解」

 

オルガとクーデリア、名瀬とその右腕アミダ・アルカの前に紅茶が運ばれて来る。

女の手で。

 

「…この船、女性しかいませんね?」

 

と、オルガが聞く。

 

ブリッジにいたのは女、MSデッキにいたのも女、MSに乗るのも女である。

男女比が激しすぎる船世界一だろう。

 

 

「そりゃそうだ。ここは、俺のハーレムだからな。この船の乗員は、全員俺の女って訳だ」

 

 

「……………………は?」

「全…員……?」

「奥さん…なの、ですか……?」

 

三者三様に、それぞれ固まる。

 

俺のハーレム。

全員俺の女。

 

名瀬・タービンは、そう言い切った。

 

「まあ、そう言う事だな。後は、子供が5人くらいか。全員俺のかわいい子供だよ。ま、腹違いだが」

「ガチハーレムじゃねェか、このヤ●チン野郎め」

 

アラズが、交渉して貰う側とは思えない暴言を吐いている。

しかし、名瀬はそれを否定する気は無いらしい。

それどころか。

 

「アンタ、そう言う経験無いタイプか?」

 

などと問い返す始末。

対して。

 

「んな訳無いだろ、有るわそんくらい。ただ、その相手は死んで久しいけどな」

 

先程暴言を吐いたとは思えない目で、アラズはそう返していた。

この会話に付いて行けてない子供達は、全員未だに固まっている。

 

「ゴホン。いい加減、下らない会話をしてる場合じゃねえな。仕事、だろ? 鉄華団の団長さんよ」

「あ、ああそうでした」

 

名瀬の声で先程の会話の理解を放棄し、オルガは返事をする。

それを受けて、名瀬は話し始める。

 

「ギャラルホルンとの戦いで、お前らの力は見せてもらった。何が望みだ?」

「…こちらのクーデリア・藍那・バーンスタインさんを地球に送り届けたい。その案内役をお願いしたいんです。後、もう1つ。俺ら鉄華団を、テイワズの傘下に入れて貰えないでしょうか?」

 

オルガの申し出を聞く間、名瀬は紅茶を口に含む。

そして、笑みを浮かべながら言う。

 

「成る程。テイワズなら、ギャラルホルンに対抗する為の後ろ盾になるって訳か。良いぜ、オヤジに話を通してみる」

「『オヤジ』って…お父様の事ですか?」

「いや、オヤジってのは俺らテイワズのボス、マクマード・パリストンの事です」

 

クーデリアの質問に、名瀬はそう返答する。

 

「…アンタそういや、クソ社長の資産がどうとか言ってたな。あれ、クソ社長が欲張ったってだけじゃなかったのか?」

「あー、それ何だがな。どこまで話して良いのか俺には計りかねるんだが…とりあえず、詳しそうなそこのアラズとやら以外の奴に問題だ。お前ら、ギャラルホルンに付いてどう思う?」

「どうって…クソデカイ軍隊だろ? 良く分かんねえけど…」

 

とユージンは答える。

間違ってはいないが、満点回答では無い。

 

「作られたのは300年前。『ガンダム』を駆って厄祭戦を終わらせた人達によって設立され、その後も強大な軍事力を保持して戦争が起きないよう4つの経済圏を外部から監視する組織です」

「満点だ。だが、今はそれを各経済圏が重荷に感じ始めている。ギャラルホルンはすっかり腐敗して、自分達の利益追求に走ってるからな。で、そこに現れたのがクーデリア・藍那・バーンスタインだ」

 

火星の革命家達を纏め上げる「ノアキスの七月会議」を成功させた革命家。

まさに時代のヒロイン、革命の乙女。

 

「だが、今の所は辺境の独立運動家だ。それがギャラルホルンの目を潜り抜け、独自に地球経済圏のトップの1人と会談する。もしそれが実現すれば、歴史に残る一大事だ。ギャラルホルンの支配体制を、根底から揺るがし兼ねねえ程にな」

「…それと資産の話に、一体何の関係が?」

「ここから先はオヤジに聞いてくれ。ま、俺如きが扱える存在じゃねえって事さ、そこのお嬢さんは」

 

ビスケットの質問に、名瀬はそう返す。

オルガ、クーデリア、ビスケット、ユージンは解せない様子だ。

 

たった1人、アラズだけは頷いているが。

 

 

 

 

と言う事で、テイワズのボスであるマクマード・パリストンと交渉する事が決まった。

これから鉄華団は、タービンズと共にテイワズの本拠地である「歳星」に向かう。

 

歳星は、古代に於ける木星の中国名。

即ち、テイワズ=チャイニーズマフィアだ。

 

この交渉如何で、これからの方針が決まるだろう。




マルバさん、お疲れ様でした。

全然戦闘が無いですね…。
ここからしばらく、具体的に言ってブルワーズが出て来るまで戦闘無しな可能性も有りますね…。
後しばらく、平和(?)な話ですがお付き合い頂けると嬉しいです。

どうせ、物語の後半は戦闘がいっぱいですしおすし。


次回、いよいよテイワズの本部「歳星」へ。


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#11 家族

かなり遅れてしまいました…本当に、本当に申し訳有りません!!m(__)m
次回からは早く出来るよう頑張りますので、ご容赦を…ご慈悲を!!

引きこもりたい。
家に引きこもって、執筆と言う現実逃避をしたい。


歳星への航路を取って、早10日余り。

未だ、その影は捕捉出来ない。

その他にも、鉄華団はとある事情を抱えていた。

 

火星の運用資金が、かなりヤバいのである。

 

それを打開する方策として、名瀬に相談する。

ハンマーヘッドの艦長室には、名瀬、オルガ、ビスケット、アラズが集っていた。

 

「…これは…」

 

受け取ったタブレットの画面を見て、名瀬は言う。

 

「はい。僕達が、火星でギャラルホルンから鹵獲した物のリストです。それを売却出来る業者を、紹介してほしいんですが」

「馴染みの業者はいねえのか?」

「CGS時代から付き合いの有る業者はいますが…物が物ですから。並の業者では扱い切れないんじゃないか、と…」

 

ギャラルホルンから鹵獲したのは、ナノラミネートアーマーやらエイハブ・リアクターの部品やら、高値で取引される物ばかりだ。

 

「勿論、仲介料はお支払いします。お願い出来ないでしょうか?」

「出来なかねえがよ…お前ら、そんなに金に困ってんのか?」

 

と、名瀬は前の机に足を乗せながら言う。

 

「困っている。とても、スゴく、めっちゃの三段活用でも足りないくらいには困っている…金は要るんだよ、金が無きゃ艦も動かせねェんだよ…」

 

とても素直に、アラズはそう返答した。

 

「…そりゃ、そうだがな。なら尚更だ。なんで、俺が仕事紹介してやるって言った時に断った?」

「えっ? あ、いや…だって、あの話を受けたら俺達はバラバラになっちまうって…」

「それがどうしたってんだ? なっちゃいけねえのか?」

 

ちぐはぐな答えを返すオルガに、名瀬は続けて質問する。

 

「…俺らは、離れられないんです」

「離れられない? オイオイ気持ち悪ぃな、男同士でベタベタと」

「なんとでも言ってください。俺らは…鉄華団は、離れちゃいけない。繋がっちまってんですよ、俺らは。死んじまった仲間が流した血と、これから俺らが流す血が混ざって…そうして、鉄みたいに固まってる。だから…だから、離れらんねえんです」

「…………」

 

名瀬は立ち上がり、オルガを見据える。

 

「離れられない…そりゃあ結構、何とでもやれ。だがな、鉄華団を守り抜くってんなら…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。お前が団長だってんだから、当然だがな。()()()()()()()()()()()1()()()()()。その責任は、他の誰にも押しつけられねえ。団長であるテメェが、それを1人で背負えんのか?」

「覚悟は出来てるつもりです。仲間でも何でもねえ奴の訳分かんねえ命令で、仲間が無駄死にさせられるのは御免だ。アイツらの死に場所は、鉄華団の団長として俺が作る!」

 

名瀬の視線に怯む事無く、オルガはそう断言した。

 

「それは俺の死に場所も同じです! アイツらの為なら、俺はいつだって死n」

「「馬鹿野郎が」」

「痛ッ!?」

 

名瀬のデコピンとアラズのチョップが、オルガに直撃する。

 

「テメェが死んでどうすんだ。指揮官がいなくなっちまったら、それこそ鉄華団はバラバラだ」

「ああ、コイツの言う通りだ。末端が何人死のうが戦局への影響は微々たるモノだが、指揮官が1人死ねば戦局は途端にガタガタになって崩れ去る」

 

息ピッタリな大人2人から説教を受け、オルガはふてくされる。

 

何故、アラズと名瀬が息ピッタリかと言うと。

タービンズと合流した日の夜に同じバーボンを酌み交わして夜遅くまで語り合った結果、見事に意気投合したからである。

 

「まあでも、血が混ざって繋がって…か。そういうのは、仲間って言うんじゃないぜ」

「…? じゃあ、何です?」

 

首を傾げるオルガに、名瀬はこんな言葉を放った。

 

 

「家族、さ」

 

 

 

 

「だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「っしゃ、勝っち~!」

 

ハンマーヘッドのMS格納庫に、ガチムチの叫び声と美女の喜ぶ声が響く。

後者はともかく、前者は誰得でもない。

 

ちなみに、ガチムチ=明弘で美女=ラフタ・フランクランドである。

 

「ぐっ! はぁ…まだまだ、もう一戦!!」

「やめときな、熱くなってちゃ勝てないよ」

 

明弘を制止するのは、タービンズの1人アジー・グルミンだ。

 

「明弘は休んでて。次は俺がやるから」

「それにしても、アンタ達毎日毎日よく頑張るね」

 

タービンズの所有兵器であるMS「百練」にシミュレーターがあると知って以降、三日月と明弘は模擬戦をしている。

ここにタービンズのMSパイロットであるラフタにアジー、時にはアミダまでも加わって模擬戦に模擬戦を、更に模擬戦をしまくっているのだ。

 

「俺達には、それくらいしか出来る事が無いんだ」

「MS乗りってのは、MSに乗るのが役目だからな」

「…アンタは?」

 

三日月の隣に、アラズがやって来る。

 

「アラズ・アフトル。鉄華団の1人で、たまにMSに乗る。よろしくな」

「ああ。私はアジー・グルミン。向こうのがラフタ・フランクランドだ」

「…? アジー、その人は?」

「鉄華団の、もう1人のMSパイロットらしい」

「へ~」

 

面白そうな奴だなあ、とでも言いたそうな顔で、ラフタはアラズに近付く。

 

「あたしはラフタ。ちょっと私と戦わない?」

「ほほーう、面白い事を言うな。良いぞ、その申し出をした事を後悔させてやろう」

「随分大きく出たじゃない。その言葉、後で振り返って後悔しなさい!」

 

数分後。

 

「だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「ヌルいな、出直して来い」

 

ハンマーヘッドのMS格納庫に、美女の叫び声が響く。

 

「やっぱりね」

「だよなあ…」

「? アンタ達、ラフタの負けを予想してた?」

「うん」

「おう」

 

三日月と明弘が、ほぼ同時に頷く。

 

「この前のギャラルホルンとの戦いで、バルバトスに乗ってたの教官だし」

「ギャラルホルンの奴らを、普通にあしらってたからなあ…」

「…何てこったい」

 

驚愕するアジーに構わず、三日月がこう言う。

 

「次、俺」

「良いぞ、掛かって来い三日月。ただ、俺はもう教官じゃないが」

「待ちなさい三日月! 次コイツとやるのは私よ! このまま引き下がる訳には行かない!!」

「いや、譲れよラフタ」

 

この後結局、全員がアラズと戦った。

その結果纏めてボコされてしまい、ムキになって模擬戦しまくったらしい。

 

 

 

 

鉄華団とタービンズは、無事テイワズの本拠地「歳星」に到着した。

歳星は大型惑星巡航艦。

宇宙世紀で言う、ジュピトリスやサウザンズ・ジュピターのような物だ。

 

この2つと同等に、歳星はとにかくデカい。

その中にある水上の邸宅に、テイワズの首領(ボス)マクマード・バリストンはいる。

 

圏外圏に於いて、ギャラルホルンすら迂闊に手を出せない程の規模を誇る大企業、テイワズ。

その社長が、どんな男だったかと言うと。

 

「成る程、お前らが鉄華団か。名瀬から話は聞いてるぜ。なかなか、良い面構えしてるじゃねえか。オイ、客人にカンノーリでも出してやれ」

 

笑顔と共に、カンノーリまで出してくれる親父だった。

ヤクザ的に。

 

ちなみに、カンノーリと言うのはイタリアの伝統菓子だ。

本来はカンノーロと呼ばれるのだが、日本ではカンノーリとよく言われる。

この事から、テイワズが日本寄りの文化を持つ組織である事が見て取れる。

 

(水分が無いとキツそうだなオイ…カプチーノとか出してくれないんだろうか? いや、ヤクザが優雅にカプチーノ飲んでる所なんて想像出来ねェけど)

 

などとアラズが思っている間に、名瀬は話を進め始める。

 

「俺は、コイツらに盃をやりてえと思ってる」

「お前が男をそこまで認めるとはな。珍しい事もあるモンだ」

(女は認めるのか?)

「まあ、良いだろう。俺の下で義兄弟の盃を交わせば、タービンズと鉄華団は晴れて兄弟分だ。俺らテイワズの後ろ盾も得られる」

 

割とあっさり、マクマードは許可を出した。

 

「タ、タービンズと俺らが兄弟分?」

「そうだ。で、貫目はどうする?」

 

貫目とは、ヤクザ用語で組織内の順列の事である。

 

「五分で良い。どっちが上かなんて、コイツらとは無いからな」

「お前がそこまで言うとはな、名瀬。だがお前が良くても、周りが許さんだろう。お前と同等は、コイツらには荷が重い。せめて四分六にしておけ」

 

と、あっさり話はついた。

お土産を貰って、皆が社長室を出ようとしたが。

 

「ああ、クーデリア嬢は残ってくれないか?」

「はい?」

「ちょっと、話してえ事が有ってな」

 

 

 

 

「後3つのアリアドネを辿れば、地球到着だな」

 

監察局のマクギリスとガエリオは、地球への帰路に付いていた。

 

「ああ、鉄華団の先を越せたのは大きい。非公式のルートを使われる可能性が高い以上、アリアドネでの観測は難しい。必然的に、地球圏で再び会い見える事になるだろう。裏でそちらも探らせているし、迎撃では地球外縁軌道統制統合艦隊にも協力を要請するつもりだ」

 

地球外縁軌道統制統合艦隊。

とても長く仰々しい名前を持つこの艦隊は、地球外縁軌道を統制統合するセブンスターズの一家イシューが指揮する艦隊だ。

ただ、地球外縁軌道で迎撃に当たらなければならないような非常事態は殆ど起こり得ないので、実態はお飾り部隊だが。

 

「カルタに、か。確かに、実戦経験が少なくともイシュー家の親衛隊は腕利き揃いだ。全く、抜かりなしだなマクギリス・ファリド特務三佐」

「誉めても何も出ないぞ、ガエリオ・ボードウィン特務三佐」

「単純に畏敬の念を示しただけさ。この呼び方が出来るのも、後少しだろうしな。地球に帰ったら、准将への昇進が待ってるだろう?」

「ああ、アルミリアとの婚約も有るしな。問題は、鉄華団がカルタの地球外縁軌道統制統合艦隊の管轄地域に入る前にラスタル・エリオンの月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)に潰される可能性も有る事だが」

 

月外縁軌道統制統合艦隊…通称アリアンロッド。

セブンスターズの一家エリオンの当主ラスタル・エリオンが司令官を務める艦隊だ。

その艦隊規模は恐ろしく、月外縁軌道どころか宇宙にポツポツと散らばるコロニー群までも管轄地域としており、ギャラルホルン最大の戦力を誇る。

 

「まあ、そこは彼らの力に期待するしか無いな。ラスタルが失策する事を祈るのも変な話だが」

「全くだ。だが…彼らならば、本当にラスタルの目をかいくぐれるかも知れないしな」

 

 

 

 

「アンタが、火星独立運動家のお嬢さんか。時の人と会えて光栄だ」

「い、いえこちらこそ。テイワズの社長さんに会えて光栄です」

 

歳星の社長室では、マクマードとクーデリアが話を始めた。

クーデリアの護衛として三日月が扉の側に立ち、傍観者としてアラズが応対用のソファーでくつろいでいる。

 

「火星経済の再生策として、地球側が取り纏めていた火星のハーフメタル資源の規制解除を要求。火星での独自流通を実現する為、わざわざ地球くんだりまで交渉に出向く。アンタの目的は、それで間違いないな?」

「はい」

 

ハーフメタルは、火星の地下資源である。

エイハブ・ウェーブによる電波障害を防ぐ特性を持つ金属で、エイハブ・ウェーブの影響下における電子機器の保護に必須と言われる。

MSやMWに用いられる事から、有用な資源となっている。 

 

「うちで仕入れた情報じゃあ、現アーブラウ首長である蒔苗は本気でそれを通そうとしているらしい」

「…! 本当ですか!?」

「ああ。下手すりゃ、戦争になるな。新たな利権を得ようと、東西南北様々な組織が暗躍する。それこそどんなあくどい手を使ってでも、な。しかも、こいつは長引くだろう。利権を勝ち取っても、その後の各組織間では軋轢が残るからな」

 

自らが甘い汁を啜る為、他人を犠牲にする…もしくは搾り取る。

人間は結局の所自分が一番可愛いので、そんな事はごく当たり前のように行う。

 

だからこそ、人間は何千年と戦争を繰り返しているのだ。

 

「その資源の商売役として、テイワズを指名しちゃくれないか? お嬢さんが直々に指名した業者って言う大義名分を得られれば、当座の問題に関しちゃこっちでなんとかやれる。まあ、ちょっとした紛争は避けられないだろうがな」

(このタヌキ、さり気なく儲けを得ようとしているな)

 

と、アラズは心の中で呟く。

その商売人根性を少しばかり賞賛しつつ、世界情勢をもう一度考える。

 

(今の腐敗したギャラルホルンは間違いなくクーデリアの活動を妨害するだろうし、事実としてギャラルホルンと同等の影響力を持つテイワズしか、ハーフメタル資源なんて宝は扱えない。テイワズの単独での膨大な利益取得による財の不均等分配か、世界中で泥沼の利権争い…戦争をするか。現状、選択の余地は無い。格差拡大も世界の大きな課題だが、長期の紛争による更なる人口減少と比べれば小さな課題だからな)

 

厄祭戦以前に約120億人いた人口は、厄祭戦後には約30億人に激減した。

地球全土と地球圏のコロニー、更に火星圏にまで生活の場を拡大した今、人口の少なさは問題になっている。

 

11人で組むサッカーチームを、3人以下で組むようなモノだ。

それではコート全体を使えずサッカーが成り立たないように、約120億人が住む事を前提とした地球圏と火星圏をその4分の1ほどの人口で維持しようと言うのが、無謀な話だった。

 

アグニカ・カイエルの自伝「アグニカ叙事詩」の記述によれば、厄祭戦後に火星圏の維持を諦めて全人類が地球圏に住むべきとの意見も有った。

当時の状況を鑑みれば、それが一番の得策だっただろう。

 

ただ、それによって再び人口が増えた時、人類が火星に生活圏を拡大するのでは無く地球を再開発する方針を取ってしまう可能性が有るのではないか。

遥か昔、「宇宙世紀」と呼ばれた時代を経てようやく元に戻りつつ有った生態系を、再び壊してしまうのではないか。

 

そう言った意見も出され、結局は厄祭戦以前の経済圏を維持しているのが今の世界だ。

ここから更にハーフメタル資源を争って人類が疲弊していったとすれば、人類の未来には衰退と滅亡しか無くなるだろう。

 

現在の世界人口は約50億人にまで回復しているが、それでも経済圏の維持はギリギリだ。

 

「若い衆。名前は?」

 

アラズが考え込んでいる間に、一通りの話は終わってしまったらしい。

マクマードが三日月に話しかけている。

 

「三日月・オーガス」

「MS乗りか。よし、お前のMSをうちで見てやろう」

「は?」

「そう警戒するな、うちの職人は腕が良いぞ? ジジイの気まぐれだ、取り上げようって訳じゃねえ」

 

未だ決めかねている三日月に、アラズはこう言う。

 

「見てもらえ。鉄華団だけじゃ、バルバトスの維持やら改修やらは出来ないからな。何せ、現状世界に28機しか残ってない貴重な『ガンダム・フレーム』だからな」

「…うん、分かった。教官がそう言うなら、見てもらう」

「だ、そうです。また持って来ると思うんで、その時までに『ガンダム・フレーム』に興味の有る腕の良いメカニックに話をお願いしますよ」

「オイオイ、候補を絞り込むまで待ってくれよ。多すぎて困るぜ」

 

灰皿に葉巻を押し付けつつ、マクマードはぼやく。

恐るべし、テイワズ。

 

「それでは、我々はこれで--」

「…アンタ、俺とクーデリア嬢が話してる時に何を考えてた?」

「…何を、ですか? 一介のMS乗りに過ぎない俺に、そんな事聞いてどうするんです?」

 

アラズの質問に、マクマードは近くに有った菓子をほうばりながら答える。

 

「一介のMS乗り、ねえ…ただの勘なんだが、俺にはどうにもそんな風には見えねえ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()--そんな感じがするんだよ。そんなアンタが一体何を考えてたか、聞いて参考にしてえと思ってな」

「過大評価が甚だしいですよ、マクマードさん。…ただまあ、答えろって言われたら答えますけど」

 

そこでアラズは息を吐き、こう答えた。

 

 

「どうすりゃ、世界はもっとマシになるのか。ただの空想ですが、それをクソ真面目に考えていましたよ。話を聞かずにね」

 

 

「いや、そこは聞いとけよ」

 

 

 

 

その後色々な手続きを経て、イサリビとハンマーヘッドは地球へと出発した。

 

--のだが。

 

「ねえ教官、何でアンタまで残ったの?」

「んん? いや、あのMSオタクの面白すぎるメカニックからMSの長距離移動を可能にする支援機の事を長々と…具体的に言うと3時間2分53秒程熱弁されてな。途中から殆ど聞いてなかったけど、なかなか面白いアイデアだったから協力しようと言う事になった。その代わりに俺のグレイズの改修をお願いしたら、ノリノリでやって貰えたし結果オーライだ」

 

三日月とアラズは、歳星に残った。

バルバトスの改修が終了していないのと、MS長距離移動用支援機の開発協力の為である。

 

追加スラスターは百里のスラスターを流用した物であり、グレイズタイプの機体の背中に取り付けてエイハブ・リアクターと直結する方式を採用した。

これにより、アラズ専用グレイズはバルバトスと同等の機動力を得た形になる。

 

その代わりスラスターのバランス操作系がピーキーなモノになってしまったので、機体は並のパイロットでは扱えない代物になった。

今現在そのアラズ専用グレイズはイサリビに詰め込まれ、遥か彼方である。

 

「まあ、追い付くアテは有るし問題ない。心置き無く、バルバトスと支援機の方に集中出来る」

「明弘1人で大丈夫かな…?」

「まあまあ、信じてやれよ。無駄にガチムチな訳でも、無駄にタービンズの奴らとシミュレーションしてた訳でも無い。アイツの根性は筋金入りだし」




大分巻きましたが、地球へ出発。
歳星にいる間、鉄華団とメリビットさんとの出会いとかオルガのキラキラ放出とかシノとユージンのDT卒業とか色々有りましたが、原作通りの為カットさせて頂きました。

後、以前にも後書きで書いた通り、現在の人口とかはオリジナル設定です。
また、この作品世界は宇宙世紀とやんわり繋がっている設定となっております。
何年前なのかは定かでは無い(考えてない)ので、「へー繋がってるんだなー」くらいふんわりとお願いします。
実際、物語に関わるかと言えば微妙な所なので…。

次回、いよいよブルワーズが登場します。
ガチムチの弟を救うか救わないか、迷い中。


この世界、恐ろしくガタガタだなあ…


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ブルワーズ編
#12 宇宙海賊


連日投稿です。
更新が遅れた謝罪込みで頑張りますので、ご了承下さいm(__)m


【注意】
最初のシーンはオリジナルです。
アラズさんのスペシャルアイテムの1つに、サイレンサー付き拳銃(特注)が有るのですが(初出設定)、それが早速活躍します。

もっと早く出しておけば良かった、と猛省中。

アラズクン。
キミ、さては悪党の資格が有るネ?


「ふふふふ~ふふ、ふふふふ~ふふ、ふふふふふ~ふふふ~ふふ~ん」

 

機嫌良く鼻歌を歌いながら、アラズはトイレ中である。

ちなみにこの鼻歌、大昔に頭が狼なバンドが歌ってた奴らしい。

 

「ほう、良いじゃねえか」

「…?」

 

と、そんなアラズに話しかける男が。

黄土色のジャンパーを羽織っており、やけに趣味の悪そうだ。

 

「アンタは?」

 

アラズは、その男に問う。

 

「ジャスレイ・ドノミコルスだ。テイワズのNo.2をやってる。テメェ、あの『鉄華団』の奴だろ?」

「ああ。--」

 

ズボンを履き直しつつ、アラズはジャスレイと言うらしい男の目を見据える。

 

「…んん? 何だ、俺の顔に何か付いてるか?」

「--いや、何でもない」

 

用を足し始めたジャスレイの後ろを通り過ぎながら、アラズは。

 

 

「ただ、ゲロ以下の匂いがプンプンしたのでな」

 

 

「--!?」

 

ジャスレイが振り向くより速くアラズは腰のホルスターから拳銃を抜き、銃口をジャスレイの頭に向けて躊躇い無く引き金を二度引く。

 

特殊なサイレンサーを付けられた特注の拳銃は、銃声を響かせる事無く僅かな空気音と共に銃弾を吐き出し、ジャスレイの眉間を後ろから貫いた。

 

断末魔を上げる事すら許されず、ジャスレイ・ドノミコルスは暗殺されたのだ。

 

ジャスレイの動かなくなった身体は、下半身を晒したままその場に転がった。

 

「悪いな、とは言わんぞ? こちとら、相手がクズかクズじゃないかを瞬時に見分けられなきゃ死ぬだけの世界を必死こいて生きて来たモンでな」

 

ホルスターに銃をしまい、アラズはジャスレイを個室に放り込む。

そしてトイレを出て、アラズは改修中のバルバトスの下へ向かうのだった。

 

ジャスレイの死体が発見されたのは、それから30分後の事。

いくら何でもウ●コ長すぎだろう、と思ったジャスレイの部下が様子を見るべくトイレに入ったら、血痕を発見したのだ。

 

ジャスレイが元々恨みを買うようなやり方をしていた事から組織内でも良くは思われていなかった為、暗殺された事に驚いた者は多くない。

問題は、歳星の中でどうやってジャスレイを暗殺したかと言う事だったが。

 

捜査はされたものの、結局理由は分からずじまい。

ジャスレイ暗殺事件は、迷宮入りになってしまったのだった。

 

 

 

 

『よし三日月、準備は良いか?』

『うん。操縦はよろしくね』

『この野郎、退屈な事を俺に押し付けやがった…まあ良いけど。それじゃあ、出発するぞ。クタン参型&ガンダム・バルバトス、出る!』

 

ブースターが火を噴き、バルバトスを載せたMS輸送機「クタン参型」が出発する。

先行するイサリビとハンマーヘッドに合流すべく、宇宙を駆けて行く。

 

『後数時間もすれば、追い付けるハズだ。そっちのセンサーはどうだ? イサリビとハンマーヘッド、捕捉出来てるか?』

『うん、大丈夫。--待って。これ…』

 

三日月が正面モニターに目を凝らす。

読み書きが出来なくとも、図形を見るのに問題は無い。

 

『どうした?』

『イサリビとハンマーヘッドの周りに、MSの反応が有るよ』

『…! ちょっと、そのデータこっちに送れ』

『分かった…けど、どうやるの?』

 

戸惑う三日月に説明する事、約5分。

ようやく、三日月はデータ送信に成功した。

 

『エイハブ・ウェーブの反応…これは、敵襲だぞ』

『…! 教官、突っ込んで』

『勿論、そのつもりだ。イサリビの隣に付けたら、バルバトスをパージする。ちゃんと武器は持ってけよ』

 

クタン参型は加速し、最大戦速へ。

戦闘中であるイサリビとハンマーヘッドの下へ、小惑星をスレスレでかわしながら向かって行った。

 

 

 

 

「クソ!」

 

宇宙海賊の襲撃。

鉄華団は事前にタービンズから存在を聞かされていたが、まさか本当に遭遇するとは思わなかった。

 

敵は安価のMSマン・ロディを多く使用している。

操縦には「阿頼耶織」が必要なのだが、今の所5機程が出て来ているようだ。

 

明弘はグレイズ改に乗って出撃し、これを抑えているが。

 

「ッ、速え!」

 

阿頼耶織の付いていないグレイズ改と付いているマン・ロディでは、反応速度が段違いだ。

じわじわと、明弘は追い詰められている。

 

「おおおッ!!」

 

マン・ロディの1機がハンマーチョッパーを構え、明弘のグレイズ改に迫る。

 

『明弘さん!!?』

「ぐうううう!!」

 

グレイズ改もバトルアックスを構えようとするが、間に合わない。

ハンマーチョップが、グレイズ改に振り下ろされ--

 

る直前。

 

 

一条の光が、マン・ロディのコクピットに突き刺さった。

 

 

「!?」

『明弘、大丈夫?』

 

それは、合流した三日月が駆るガンダム・バルバトス。

歳星にて新たに鋳造された専用武器「太刀」は、マン・ロディのコクピットを貫いていた。

 

『クッソ、ペドロが!』

『行くぞ、囲んでぶっ殺す!』

「明弘とタカキは下がって。後は、教官と俺がやるから」

 

グレイズ改の撤退を確認し、三日月は突撃して来るマン・ロディ部隊に突撃する。

 

マン・ロディは煙幕を展開し、バルバトスの後ろに回り込む。

 

「へえ、こう言う武器も有るんだ」

『背中が、がら空きだぜえええ!!』

 

後ろから振り下ろされたハンマーチョッパーを、三日月は難なくかわす。

 

『な!?』

「よっと」

 

バルバトスは近距離から滑空砲を構えて引き金を引き、マン・ロディのスラスターを吹き飛ばす。

 

『あの動き、アイツも阿頼耶織かよ!?』

『下がりなさい役立たず共! アンタ達は逃げた方をくびり殺しなさい、こっちは俺がやってやるからねェ!!』

 

緑色の分厚い装甲に包まれ、背中に巨大なハンマーを持ったMSがバルバトスに迫る。

 

 

 

 

「クソ、しつこい!」

 

明弘もまた、マン・ロディ2機の追撃を受けている。

 

『人質を取れ! それから仕留める!』

『了解』

 

近くにいたタカキの乗るMWを捕獲し、マン・ロディ部隊は明弘を殺しにかかる。

 

「させねェよ!」

 

そこに、1機のMSが飛来する。

それは両手にバトルアックスを構えており、右手のバトルアックスをMWを捕獲したマン・ロディの腕に振り下ろす。

 

『ッ!? どこから…!!』

 

マン・ロディの腕は吹き飛び、明弘はMWを回収する。

 

「よっ!」

 

MSは明弘を狙うマン・ロディに左のバトルアックスを投げ、そのメインカメラを吹き飛ばす。

すぐさまそのマン・ロディに近寄り、バトルアックスを回収して右のバトルアックスでマン・ロディのコクピットを破壊する。

 

「アンタ…」

「明弘、タカキ。無事か? どうだ、俺の専用機…名付けて『テルギア・グレイズ』は」

 

その機体は、異形だった。

白と青の鮮やかな色で塗られていながら、背中には全高の半分も有るスラスターが突き出ている。

全身には姿勢制御用のバーニアが増設され、三日月のバルバトスと同等の機動力を獲得した。

 

テルギア・グレイズ。

 

パイロットのアラズ・アフトルは、自分の専用機をそのように命名した。

 

「か、カッコ良いと思います!」

「そうだろうそうだろう、誉めろ誉めろ。さて、三日月の方は…! あれは、ガンダムか」

 

アラズは腕を奪われたマン・ロディを一瞥した後、バルバトスと敵の巨大MS…ガンダムが戦闘する宙域へ飛んで行った。

 

『うおおお!』

 

その直後、敵のマン・ロディは明弘のグレイズ改に突撃して来た。

明弘はそれを受け止めつつ、叫ぶ。

 

「テメェ、いい加減にしやがれえ!!!」

『…!? その声…』

 

その次のマン・ロディのパイロットの言葉に、明弘の身体は固まる事になる。

 

 

『兄貴…?』

 

 

「--まさ、か……お前、昌弘…?」

 

 

 

 

「オラオラオラオラァ!」

 

その海賊の親玉と思われるMSは、保持する巨大なハンマーを振り回す。

直撃すれば問答無用で相手を粉砕する一撃を何とかかわし、バルバトスは太刀を振り下ろすが。

 

「! 効かない!」

「このクダル・カデル様と、グシオンを嘗めるんじゃないよ!!」

 

MS…グシオンの頭部装甲に難なく弾かれる。

グシオンはハンマーを振り、バルバトスを引き離させる。

 

「使い辛いな、この武器…!」

「ぶっ潰れて、しまいなさい!!」

『甘いぞ三日月、装甲の隙間を狙え!』

 

ハンマーを持って回転を始めたグシオンに、アラズのテルギア・グレイズが襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

いきなり現れたテルギアに驚きながらも、グシオンはハンマーをテルギアに振り下ろす。

 

「そーれッ!」

 

グシオンのハンマーをかわしたアラズは、右のバトルアックスをグシオンの右腕の肘に向かって振る。

それは直撃したが、逆に弾かれてしまう。

 

「なあッ!?」

「あ。そう言えば、普通はMSのフレームを斬るなんて無理か。しくった」

 

クダルはハンマーをかわされ接近された事に狼狽し、アラズは腕を吹き飛ばせなかった事に舌打ちする。

そこへ。

 

『大丈夫かい?』

『三日月!』

「チ、タービンズの奴らか! 流石にコイツらとアイツらを相手にするのは分が悪い!!」

 

グシオンはテルギアから離れ、胸部に備えられた400ミリ口径火砲「バスターアンカー」を撃つ。

アラズのテルギアにはあっさり回避されたが、それは背後のデブリを粉砕して破片を撒き散らす。

 

「逃がす訳無いd」

『待て三日月。深追いは厳禁だ』

 

グシオンは頭部バルカンから信号弾を発射し、マン・ロディを随伴してデブリ帯へと消えて行った。

 

 

 

 

「どうアジー、何か分かった?」

 

ハンマーヘッドに帰還した後、敵の戦闘データを解析していたアジーにラフタが話し掛ける。

 

「あの丸い方はね。フレーム構造からして、『ロディ・フレーム』だと思う」

「? ロディって、あんな丸くて可愛い奴だったっけ?」

「丸くて…可愛い?」

 

アジーは首を傾げる。

確かに全身に丸みを帯びているが、可愛いかと言われればそうは思えない。

 

「じゃあ、三日月が戦ったあのデカい奴は?」

「そっちはデータが少なくて良く分からないんだけど…フレーム構造からすると、『ガンダム・フレーム』の可能性がある」

「ウソ、あれが三日月のバルバトスと同型機って言うの?」

「ああ。鉄華団にもデータを送って確認したが、向こう…アラズは『まず間違い無く、ガンダム・フレームのMSだ。形状はともかく、エイハブ・リアクターの固有周波数からして「ガンダム・グシオン」じゃないか?』って言ってる」

 

ガンダム・グシオン。

アラズ曰く、ガンダム・フレーム11番目の機体。

形式番号は「ASW-G-11」だとか。

 

「だとしたら、めちゃくちゃレアな機体よねあれ。てか、そんな事知ってるアイツは何者なの? 姐さんが敵わないなんて、相当よ?」

「私に言われても困る。大方、MSマニアとかじゃないのか? とにかく、問題なのはそこじゃない。アタシらが喧嘩を売られた、ってのが問題さ」

 

 

 

 

オルガとビスケットがハンマーヘッドのブリッジに入ると、アミダは人差し指を立てて唇に当てる。

現在、名瀬は宇宙海賊の首領と通信中だ。

 

「ほう。そんじゃあ、テメェらは本気で俺達にケンカを売ろうってんだな? なあ、ブルック・カバヤンさんよ」

『ケツがテイワズだからって、いつまでもデケェツラしてんじゃねえよ』

 

宇宙海賊の首領ブルック・カバヤンが、モニターには映っていた。

鼻は潰れているが、身体は肥え太っている。

 

その姿は異形としか言えず、人間と言うよりもオークに似た印象を受ける。

 

『何も、テイワズだけが力を持ってる訳じゃねえんだぜ? タービンズの大将さんよ』

「後で吠えヅラかいても知らねえぞ、ブタ野郎」

『その言葉、死に際に後悔しやがれ』

 

そう残し、通信は一方的に途切れた。

 

「ったく…血の気の多いバカがいたもんだよ。なあ?」

「そうですね…連中、何者なんですか?」

「ブルワーズ。主に火星から地球にかけての航路で活躍している、宇宙海賊だ」

 

宇宙海賊自体は、そう珍しい存在では無い。

厄祭戦時代にすら好き勝手していた、有る意味ではこの世界で最もフリーダムな奴らである。

ブルワーズはその中でも強い力を持っており、活発に活動している。

 

そして、ブルワーズの目的はクーデリア・藍那・バーンスタインであると想像出来る。

だが、いくらブルワーズが活発で強力とは言え、テイワズを敵に回してまともに戦える程の戦力は無いハズだ。

 

「--どうにも、面倒臭い裏が有りそうだなあ」




アグニカポイント新規取得
三日月・オーガス 90AP
クダル・カデル 60AP
ブルワーズのパイロットの皆様 40AP
アラズ・アフトル 10AP
明弘・アルトランド 10AP
ラフタ・フランクランド 10AP
アジー・グルミン 10AP


初のアラズ専用機「テルギア・グレイズ」、初御披露目。
グレイズで有りながらバルバトスと同等の機動力を持つと言う、魔改造オリジナル機体です。
魔改造って良いよね、男のロマンだね。
略称は「テルギア」で行きますので、よろしくお願いします。

機体データは以下の通りに。
見辛い? すみませんm(__)m


機体データ
形式番号:EB-06tg
機体名:テルギア・グレイズ
全高:18.0m
本体重量:35.2t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:グレイズ・フレーム
武装:ライフル×1
   バトルアックス×2

概要
コーラル機を強奪し、塗り替えた機体。
2本のバトルアックスを装備する他、百里のスラスターを流用した追加スラスターを取り付けられた。
百里の肩にくっついてる部分を取り外し、百里の背中についてる部分をそのまま持って来たような外観を持つが、裏側にバーニアが増設されている。
更には縦に3分割され、それぞれが独立して動く。
このスラスターはエイハブ・リアクターに直結されており、バルバトスと同等の機動力を誇る。
また、全身に姿勢制御用バーニアを搭載する。
名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王の執筆した魔術書である「レメゲトン」第二部の題名「テルギア・ゲーティカ」より取られている。

武装
ライフル
武装型式番号はGR-W01。 
左右に配する方式のマガジンが特徴的な、120mmの口径砲。 
非使用時には、リアスカートにマウントされる。 
常にマウントされてはいるものの、アラズが「撃つより斬る方が速い」と言う脳筋思考である為、使われる事は殆ど無い。

バトルアックス
武装型式番号はGR-H01。
全長9.8mの専用斧型格闘兵装。 
非使用時には、サイドスカート部のマウントラッチに懸架可能。 
テルギア・グレイズはこれを2本装備しており、高機動と併せてテルギアが強力な近接戦闘力を持つ理由の一端となっている。
ただ、アラズは「斧より剣の方が良い」とボヤいているが。


厄祭戦での宇宙海賊については、オリジナル設定です。
海賊=自由のイメージが拭い切れない…。

ジャスレイの扱いが雑だって?
--あの怪しい服装なら警戒するかと。
殺すまでは行かないって?
--勘弁して下さいm(__)m

次回、ブルワーズ戦2回目です。


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#13 デブリ帯での戦闘

連日投稿はひとまず打ち止めとさせて頂きます。
疲れた…。

地球外縁軌道統制統合艦隊って、漢字が無駄に多い名前ですよね。
地球外縁軌道統制統合艦隊、恐るべし。
地球外縁軌道統制統合艦隊って、とても長くて大層な名前ですよね。
でも地球外縁軌道統制統合艦隊って、何故か言いたくなりますよね。

地球外縁軌道統制統合艦隊。
地球外縁軌道統制統合艦隊!
地球外縁軌道統制統合艦隊!!
地球外縁軌道統制統合艦隊!!!
地球外縁軌道統制統合艦隊!!!!
地球外縁軌道統制統合艦隊!!!!!

地球外縁軌道統制統合艦隊の皆様、すいません。
地球外縁軌道統制統合艦隊の話はここまでですので、地球外縁軌道統制統合艦隊の事は気にせず地球外縁軌道統制統合艦隊の本編へどうぞ。
地球外縁軌道統制統合艦隊の皆様、本当に申し訳有りませ地球外縁軌道統制統合艦隊。


マクギリスとガエリオの率いる火星監査部隊は、地球の衛星軌道上にある2箇所のギャラルホルン基地の1つ「グラズヘイムⅡ」に到着した。

 

「こうして、アイツに会うのも久し振りだな」

「ああ。我々が監査局の特務三佐になり、彼女が地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官となってからは、仕事ですらロクに会わなかったからな。実に数年振りか」

 

雑談をしていると、マクギリスとガエリオはとある部屋に突き当たった。

そこには、地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官がいるハズだ。

 

「どうする? チャイムでも鳴らすか?」

「いや、アポは既に取ってある。突撃するさ」

 

マクギリスはドア付近のパネルを操作し、ドアを開ける。

 

「な!?」

「何!?」

 

そこで、2人が目にしたモノとは!?

 

「我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「右から2番目、遅れてる! もう一度よ! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「右から2番目、場所がズレてる! もう一度よ! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「右から2番目、髪が乱れてる! もう一度よ! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「右から2番目、服が乱れてる! もう一度よ! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「うぅ~ん、カンペキ。良くやったわお前達、休憩にするわ!」

『ははーっ!!』

 

地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官と、その親衛隊の訓練風景だった。

 

「熱心だな、カルタ」

「ええ、地球外縁軌道統制統合艦隊の私の可愛い親衛隊だもの。熱が入るのも当然y--って、ええええ!? マクギリスに、ガエリオ!!?」

「よう、カルタ。元気だったか?」

 

その司令官は驚いた後に頬を染め、マクギリスから距離を取る。

 

カルタ・イシュー。

セブンスターズの第一席イシュー家の1人娘にして、地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官だ。

 

「は、話は聞いていたけれど、思ったより早かったわね」

「そうか? 時間通り来たつもりだが…いや、熱心に訓練をしていれば時間を忘れる事も有るか。アグニカ叙事詩を読んでいたらいつの間にか翌日の昼になっていたなど、良くある話だからな」

「無い。『それは無い』と断言させてもらうぞ、マクギリス。それは無い、断じて」

 

アグニカワールドに突っ込みかけたマクギリスを、ガエリオは否定によってリアルワールドに引きずり戻す。

 

いつも通りの光景を微笑ましく思いつつ、緩んだ気持ちを切り換えてカルタは問う。

 

「…それで、今日は何の要件かしら? 話を聞いた限り、ただ昔みたいに遊ぼうって訳ではなさそうだけど?」

「ああ。そうしたいのは山々なのだが、残念にも今日は地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官と話に来たのだ。だが、彼らの前で話せる内容では無い。悪いが、彼らを下がらせてくれないか?」

 

マクギリスがそう答えると、カルタは休憩中の親衛隊に向き直る。

 

「お前達、今日の訓練はここまでだ。下がれ」

『はっ!』

「右から2番目、返事が遅い!」

『申し訳有りません!!』

 

今度こそ完璧にシンクロし、親衛隊は素早く美しく列を整えてカルタの部屋を後にした。

連帯責任、と言うのがカルタ親衛隊の常識である。

 

「では、本題に入りましょう。地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官に、監査局の特務三佐達が直々に頼みたい事とは?」

「クーデリア・藍那・バーンスタイン。この名に、聞き覚えは有るか?」

「聞いた事くらいなら。一時期、セブンスターズの定例会議でも話題となった事が有ったらしいわ。その時期にお父様がよく口にしていたから、少し聞いたくらいだけど」

 

イシュー家の当主であるカルタの父は今、病床に伏している。

彼が病気で倒れる前のセブンスターズ定例会議に於いて、クーデリア・藍那・バーンスタインの名は議題として上げられた。

 

火星の政治家ノーマン・バーンスタインの娘。

革命家達をまとめる「ノアキスの七月会議」を成功させ、「革命の乙女」とも呼ばれる火星の希望。

今日、火星の独立運動の象徴とされる存在。

 

彼女の要求は、「火星ハーフメタル資源の規制解除」だ。

 

「火星ハーフメタル資源の規制解除がされれば、それを欲する者達が我先にと動き出す。世界の抑止力となり、平和を守る為アグニカ・カイエルとその同胞…セブンスターズの先祖達によって設立された組織であるギャラルホルンとしては、これを許す訳には行かない。だから排除すべきだ、と言うのがギャラルホルンの意向ね」

「良く知っているじゃないか、カルタ。だが、それを邪魔するように『それに協力させて欲しい』と名乗り出た存在がいる」

「…アーヴラウ首長の、蒔苗ね」

 

それに、マクギリスは頷く。

 

あくまで戦争に対する抑止力に過ぎないギャラルホルンには、アーブラウと火星の政治的取引を邪魔だてする事は不可能だ。

ギャラルホルンが世界の政治に対してもここまでの影響力を持つようになったのは、治安維持と言う本来の役割に背き疎かにしてまで組織の利益追求に動いたから。

各経済圏に、裏から合法非合法問わず様々な働きかけを行ったからに他ならない。

 

表向きにはハーフメタル資源に関わって紛争が頻発する恐れが有る、としてクーデリアの地球到着を防ごうとしているものの、クーデリアには強力な護衛が付いている。

 

「護衛?」

「そうだ。組織名は『鉄華団』。ガンダム・フレームを保有する、雇われ組織だ」

「聞いた事無いわね」

「当然だ。この組織が立ち上がったのは、ごく最近の話。このクーデリア護衛任務が、鉄華団の初仕事だからな」

 

初仕事…のハズなのだが。

火星の衛星軌道上で戦闘になった際は、ガンダムとは言えたった1機を相手にマクギリスとガエリオは翻弄され、逃亡を許してしまった。

 

「2人を相手にしながら傷一つ受けず、随伴していた火星支部の司令官を殺してそのMSをほぼ無傷で回収。尚且つ武装まで奪って高速で撤退、追撃をも封じられた--そんな、そんな事が有り得るの?」

「事実だ。クソ、この雪辱は必ず晴らす!!」

 

ガエリオが拳を握り締める。

マクギリスは変わらないように見えるが、その内にはきっと激情をたぎらせている事だろう。

 

「ガエリオは、既に義父上と話を付けた。この後我々は地球に降り、ヴィーンゴールヴに立ち寄る。そこで、『バエル宮殿』からキマリスを出す腹積もりだ」

「…! キマリスを!? しかし、あれらは300年の間動態保存されていた貴重なガンダム・フレームよ!?」

「分かっているさ、カルタ。だが、あそこまでコケにされてはただでは済ませない。俺が今まで、何の為に専用機でランスを運用していたと思う? 例えキマリスのグングニールだろうと、使いこなして見せる」

 

ボードウィン家最大の秘宝と言っても差し支えないキマリスを宮殿から引っ張り出してまで、ガエリオは鉄華団に雪辱を晴らすつもりだ。

 

「カルタ。君には新型の『グレイズ・リッター』が有っただろう? だが、それでは追い付けないかも知れん。最悪の場合、パイモンを出す事も考えておくと良い」

「…分かったわ。マクギリスとガエリオがそこまで言うなんて、余程でしょうから。でもマクギリス、貴方はどうするの?」

「私は取り敢えず、『モンターク商会』として鉄華団に接触してみようと思う」

 

モンターク商会。

100年程前から、ファリド家が裏で動く時に使われる名前だ。

 

これで、手は出揃ったのだが。

 

「でも、いつも通り月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)が潰すんじゃないかしら?」

「無論、その可能性も大いに有る。ラスタル・エリオンの手腕は恐ろしいモノだからな。しかし、突破される可能性も大いに有る。我々は、その突破される可能性を考えて動くのみだ。その為の地球外縁軌道統制統合艦隊だろう?」

「勿論よ!」

 

作戦は決まった。

細部は月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)と相手の動きに左右されるが、地球外縁軌道統制統合艦隊とマクギリス&ガエリオは鉄華団の撃滅に挑む。

 

 

その陰でほくそ笑む者がいた事には、どちらも気付いていなかったが。

 

 

 

 

「悪いな。偉そうな事言っときながら、宇宙海賊なんぞに絡まれてこのザマだ」

「よしてくれ、兄貴。道理の分からねえチンピラが売ってきた、安いケンカだ」

 

ハンマーヘッドの通路で、名瀬とオルガが隣り合っている。

ケンカを売って来た宇宙海賊、ブルワーズ。

明弘の弟である昌弘がいる時点で、無視出来る存在では無くなった。

 

「で…どう思う、兄弟?」

「安いケンカだが嘗められっぱなしってのも面白くねえ」

「同感だ。じゃあいっちょ、俺達の道理ってやつを教えてやろうじゃねえか。鉄華団とタービンズに逆らったらどうなるか、思い知らせてやろうぜ」

 

意見を同じくした2人は、改めて固い握手を交わした。

 

 

 

 

自分のMSの前で、少年は拳を握り締める。

 

「何で、今更…!」

 

遅れて来た自分の兄と、自分自身の非運に憤りながら。

 

 

その少年は、とある話を思い出していた。

 

 

 

 

ブルワーズは、稼働したまま宇宙を漂うエイハブ・リアクターを中心として形成されたデブリ帯に潜むと推察される。

そのデブリ帯では艦内重力も曖昧で、エイハブ・ウェーブの影響も受ける為センサー類も機能しない。

通常の船はアリアドネを経由しながら航行するし、それ以外の船もこのデブリ帯は避けている。

 

テイワズはこのデブリ帯に独自で通路を発見し、隠密性の高い任務の時には重宝するそうだ。

当然視界は悪くセンサー類も使えない中で、曲芸航行をしなければここは抜けられない。

 

だが、宇宙ネズミならやれない事は無い。

 

ブルワーズがデブリ帯にいなかった時の事も考え、ラフタの百里とクタン参型に載せた三日月のバルバトスを先行させる。

航続距離が通常のMSとは段違いな2機を使う事で相手の距離感を狂わせると共に、そちらに注意が向いている間にこちらから奇襲を掛ける。

 

以上が、鉄華団とタービンズの立てた作戦である。

 

「この作戦は、個々の頑張りに掛かってるな。気合いを入れて行かないと、失敗するぞ」

「ああ。デブリにぶつかってサヨウナラなんて、笑い話にもならねえ。やってやるぞ、一泡吹かせてやろうじゃねえか!!」

『おう!!』

 

数時間後。

三日月とラフタが発進し、デブリ帯に突入した。

 

『ゴミが多くて、何も見えないな』

『気を付けて、三日月。もう、いつ来てもおかしく無いよ』

 

そんな百里とバルバトスの機影を、哨戒中のマン・ロディが捕捉した。

その報告を受け、カバヤンとクダルはほくそ笑む。

 

「ネズミが掛かったな」

「ああ。MS隊を出せ!」

「俺も出る。グシオン、準備しろよ!」

 

ブルワーズのMS隊が出撃し、百里とバルバトスとの交戦に入る。

 

「オイ、向こうの船はまだ見えねえのか? 斥候が来たって事は、どのみち後からやってくる。それまでせいz」

「さ、左舷より、エイハブ・ウェーブ!! 敵戦艦です!!」

「何だと!? まさか…!?」

 

余裕を無くしたオークが、左舷を見ると。

 

 

敵戦艦2隻が、こちらに向かって来ていた。

 

 

「デブリ帯を、突っ切って来たってのかあ!!?」

 

イサリビとハンマーヘッドから、本命のMS部隊が出撃する。

それが済むと、ハンマーヘッドは更に加速した。

 

「ようし! タービンズ(ウチ)の船がなんで『ハンマーヘッド』って呼ばれてるか、その由来を教えてやれ!!」

「あいさ! 総員、対ショック用意!!」

「リアクター出力最大、艦内慣性制御いっぱい!」

 

手慣れた手付きで、ハンマーヘッドの乗員達は準備を整える。

 

 

「吶喊!!!」

 

 

加速したハンマーヘッドが、ブルワーズ艦の土手っ腹に衝突した。

ハンマーヘッドは減速する事無く進み続け、大型の小惑星にブルワーズ艦を叩き付ける。

 

『うわあああああああああ!!?』

 

全身を打ち付ける衝撃が、ブルワーズ艦の乗員達に襲い掛かる。

砂煙を上げながら、ブルワーズ艦は小惑星にめり込んで行動不能に陥った。

 

『ハハハハハ! 俺らもそうだが、アンタらも大概だなタービンズ! ハンマーヘッドって、シュモクザメの方じゃ無くて金槌の方かよ!?』

「おうさ! こちとら、突撃する為に造られた船なのよなあ!!」

 

面白い(デタラメな)モノを見せられてご機嫌なアラズの通信に、名瀬は叫び返す。

一方、イサリビもブルワーズ艦に接近する。

 

「俺らも負けてらんねえぞ! シノ!!」

『っしゃあ! 行くぜテメェらあ!!』

『おおおお!!』

 

イサリビからMW隊が発進し、ブルワーズ艦に取り付く。

 

「これ以上、好き勝手させるk」

「シノ達は肉弾戦に突入か。よし、こっちはマン・ロディを殲滅するぞ!」

 

突撃して来たマン・ロディのコクピットを潰してから、アラズはブルワーズ艦に機体を向かわせた。

 

「逆に奇襲されて、取り付かれちゃってんじゃねえの! どうすんのさ!?」

『ギャラルホルンからの仕事だぞ、こんな所で引き下がる訳にはいかねえ!!』

「んなこたァ分かってんだよ! だからどうすんのさっつってんだよ!」

『とにかく、クーデリアとか言う女を手に入れりゃあ勝ちなんだ! こっちは船に取り付いた奴らの相手をする、お前は外から奴らの船を潰せ!!』

「あいよ! クダル・カデル、グシオン出るよ!」

 

開いたハッチから、グシオンが発進する。

と、グシオンがハッチから出た瞬間。

 

「があっ!?」

 

グシオンは何者かに蹴り飛ばされ、小惑星に叩き付けられた。

やったのはアラズのテルギアで、その側には三日月のバルバトスがやって来ている。

 

「ようデカブツ、テメェの相手は俺と三日月だ。無駄に足掻いて、無為に死にやがれ」

「アンタら、一体何だってんのよ!!?」

『行くよ、教官。バルバトスに付いて来れる?』

『俺のテルギアを嘗めるなよ。その言葉、そっくりそのまま返してやる。--付いて来れるか、狩猟の悪魔よ』

 

それだけ言って、テルギアとバルバトスはグシオンとの戦闘を開始した。

 

 

 

 

『待たせたな、昭弘』

 

イサリビの格納庫で待機していた明弘に、オルガは通信する。

 

「悪いな、オルガ。ヒューマン・デブリの俺らなんかの為に、こんな…」

『まだ言ってんのかよ、それ。いい加減、聞き飽きたぜ。確かに、これまでを変える事は出来ねえ。だが、()()()()()()()()()()()。俺らの手で、いくらでもな。それをまず、お前が証明してみせろよ』

「ああ。明弘・アルトランド、グレイズ改。出る!」

 

イサリビから、明弘が発進する。

敵MSのどれかに乗っているであろう、弟昌弘に向かって。




取得アグニカポイント一覧
三日月・オーガス 90AP
クダル・カデル 60AP
ブルワーズのパイロットの皆様 40AP
アラズ・アフトル 10AP
明弘・アルトランド 10AP
アミダ・アルカ 10AP
ラフタ・フランクランド 10AP
アジー・グルミン 10AP


モンターク商会について。
原作では「モンターク商会は100年程前から実在する老舗の商会」との説明が有りましたが、マクギリス・ファリドとの関係は描写されていませんでした。
その後2期で「マクギリスは、娼夫だった所をイズナリオに拾われた」とマクギリスの過去が明かされましたが、ここに不明瞭な点が有ります。

マクギリスが何故、モンターク商会として鉄華団に接触出来たのか。
モンターク商会とマクギリスの間にどんな関係が有ったのかは作品の矛盾点となっており、マクギリス役の櫻井孝宏さんも疑問に思っていたとか。

その矛盾を無くすべく、今作では「モンターク商会は100年程前から使われるファリド家の裏の顔」と言う設定にしました。
あの怪し過ぎる仮面も、ファリド家に代々伝わるモンターク商会として活動する時の当主専用の顔隠し用マスクと言う事で。

なお、ファリド=モンタークと言うのはセブンスターズ内で公然の秘密となっています。
普段のモンターク商会はファリド家傘下の一家が経営&運営しており、表向きは何の変哲も無い老舗商会で実際仕事もちゃんとしています。

こう言う独自設定ですが、ご理解ご了承をお願い致しますm(__)m


ギャラルホルンの動きと、ブルワーズとの戦闘開始でした。
次回で、ブルワーズ編は一応終わる予定です。

気長にお待ち下さるよう、お願い申し上げますm(__)m


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#14 兄弟

何とか、一週間で投稿出来ました。
これからもこの調子でどうにかしたいです。

今回もアラズさんがメチャクチャな事をやらかしておりますが、生暖かい目で見守ってあげて下さい。
本当、アイツのデタラメっぷりはどうなってるんですかねえ…?


それと、さり気ない近況報告。
HGでは有りますが、∀ガンダムを買って作りました。
線が多くて、スミ入れがとても面倒でした。
でも、カッコいいので許すよくやったバンダイ。

プレミアムバンダイで、拡張エフェクトパーツ「月光蝶」の再販をお願いしますよ。
後、HGのターンXはまだですかね?


バルバトスとグシオン、そしてテルギアがデブリ帯の一角で交錯する。

 

「教官、速いな…!」

「ほらほら、どうした? ガンダムに乗ってるクセに、その程度か?」

 

テルギアはデブリを利用してグシオンの前に回り込み、右のバトルアックスを振り下ろす。

それはグシオンの頭部装甲に弾かれたものの、テルギアは左足のバーニアを吹かして蹴りを叩き込む。

 

グシオンが蹴りで揺らぐと同時に、バルバトスがメイスをグシオンに叩き付ける。

 

「ッ、何なのよこのグレイズはァ! 俺のグシオンに付いて来るなんざ、正気かコイツは!?」

「良い調整だ。テイワズのあの技師、MS中毒なのはともかく腕はホンモノだったらしい」

「ああもう、しつこい! 死ねえええ!!」

 

グシオンがテルギアに向けて、至近距離から胸部のバスターアンカーをぶっ放す。

すると、テルギアは両手のバトルアックスを振り上げて。

 

「見え見えなんだよなあ」

 

 

飛んで来る4発の400mm弾頭を、全てバトルアックスで分断した。

 

 

弾頭は大きく外れ、背後のデブリを粉砕して終わった。

 

「ウッ、ソだろォ!?」

「そこ!」

 

うろたえて動きが止まったグシオンに、バルバトスはメイスを突き出す。

メイスはグシオンの左手装甲を抉り、グシオンはハンマーを振りながら距離を取る。

 

『ああもう、お前ら何やってんだよ! コイツを、青い奴を止めろ!!』

 

クダルからの通信を受け、マン・ロディが3機ほどテルギアに攻撃を仕掛ける。

2機のマン・ロディがそれぞれ振り下ろして来るハンマーチョッパーを、テルギアは両手のバトルアックスでそれぞれ受け止めた。

 

『チ…三日月、ちょっとの間グシオンを頼むぞ! 俺はコイツらを片付けたら、すぐ向かう!』

『うん、分かった』

 

逃げるグシオンを、バルバトスは追撃に向かう。

テルギアは上昇し、近接戦を仕掛けて来たマン・ロディ2機の後ろにいたもう1機と距離を詰める。

 

そして、そのコクピットを左のバトルアックスで叩き潰した。

 

『クッソオオオオオ!!』

 

吶喊して来たマン・ロディ2機のハンマーチョッパーを、テルギアは身体を横に向ける事でかわす。

通り過がりざまの両者のスラスターに、それぞれバトルアックスを叩き付ける。

 

突如スラスターが動かなくなって混乱し、マン・ロディ2機の動きが一瞬止まる。

その一瞬に、テルギアのバトルアックスは2機のコクピットを潰していた。

 

「ふぅ…まあ、阿頼耶織が無い機体だとこんなモノか。三日月は…ッ!? グシオン()め、何て方向に向かっていやがる!?」

 

テルギアはスラスターを吹かし、グシオンの下へ向かった。

 

 

 

 

昌弘のマン・ロディを発見するや、昭弘のグレイズ改は最高速度で接近し、接触回線を開く。

 

『待たせたな、昌弘。迎えに来たぞ!』

『迎えに来た、って…今更、何言ってんだよ…! 俺、兄貴をずっと待ってたよ! だけど、途中で分かったんだ。期待するだけ無駄だ、って。期待しただけ、辛くなるって…!』

 

俯いて、昌弘はそうまくし立てる。

それでもなお、昭弘は説得を続ける。

 

『…でも、やっとこうして迎えn』

『それが要らないって言ってるんだよ!! 兄貴が迎えに来てくれた。そうして兄貴に付いて行っても、それで一体何が変わるってんだ!! 遅かれ早かれどうせ死ぬ! そうだろ、俺達は「ヒューマンデブリ」なんだから!!』

 

旧時代の奴隷にも相当する存在、それこそが「ヒューマンデブリ」だ。

クソみたいな価格で取引され、クソみたいに使い潰されて終わるだけの存在。

世間には、そう認知されている。

 

そんなヒューマンデブリとして生きて来た昌弘は、実の兄すら信じられなくなってしまった。

 

『所詮デブリは宇宙で、ゴミみたいに死んで行くだけだ…』

『--ああ、俺もそう思ってた。マルバとか言うクソみてえな奴に買い取られて、ずっとそこで働いて来た。あの時の俺は、完全に腐ってた。正直、お前の事も諦めちまってたよ』

『…なら、どうして……!?』

 

昭弘は顔を上げて、正面から昌弘を見据えながらこう言った。

 

 

『けどな…こんな俺を、自分と同じ人間だって言ってくれた奴がいる。こんな俺の為に、何度もシミュレーターに付き合ってくれる奴がいる。こんな俺に、背中を預けてくれた奴がいる。こんな俺を…ヒューマンデブリの俺達を、「家族」って呼んでくれた奴がいるんだ』

 

 

『--かぞ、く…? 家族、だって…!?』

『ああ、そうだ。皆、お前を待ってくれてる。だから、俺と一緒n』

 

 

『…フザケんなよ』

 

 

昭弘が思わずゾッとするような声で、昌弘はそう呟いた。

 

『家族って、何だよ…! 俺に取っての家族はな、()()()と父さんと母さんと、それだけだったよ!! 俺がアンタを信じて待ってる間に、アンタは1人だけ、良い目に遭ってたのかよ!!?』

『待て昌弘、そう言う事じゃないn』

『やっぱり、アンタは俺を捨ててたんだよ!! それなのに今更、「迎えに来た」って? アハ、アハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 笑わせんなよ!!! アンタもすぐに分かるさ!! 何が「人間」だよ、何が「家族」だよ!! アンタ、とんでもねえバカじゃねえの!!? ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

昌弘がそう兄を蔑んだ時、グシオンからマン・ロディに通信が入った。

 

『昌弘!! ソイツをそのまま、押さえてろおおおおおゥ!!!』

 

グシオン・ハンマーを振りかぶりながら、グシオンが組み合う2機に突撃して来る。

 

「しまった! 昭弘、昌弘!!」

「クソ、間に合えええええええ!!」

 

バルバトスとテルギアが最高速度でグシオンに突っ込むが、僅かに間に合わない。

 

『ハハ、ハ--?』

 

嘲笑していた昌弘はふと、昔の光景を思い出した。

 

それは遠い昔、アルトランド家がヒューマンデブリに堕ちる前の景色。

 

 

1つのテーブルを囲んで笑い合う、ありふれているようで尊い、家族の光景だった。

 

 

マン・ロディの左手が動き、グレイズ改を突き飛ばす。

 

『昌弘…!?』

 

離れて行くマン・ロディ。

無機質なハズのMSに、明弘が昌弘の笑顔を見た瞬間。

 

 

巨大な鉄塊が、マン・ロディのコクピットを叩き潰した。

 

 

「昌弘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

明弘が絶叫している間に、テルギアのバトルアックスがグシオンのスラスターを破壊して離脱を阻止。

バルバトスはメイスを突き出して頭部と胸部の間に押し込み、先端に備えられたパイルバンカーでグシオンのコクピットを破壊する。

 

グシオンは操縦者を失い、そのまま沈黙した。

 

「ッ、クッソがああああああ!!!」

「ごめん、昭弘…!!」

 

間一髪間に合わなかったアラズは側面モニターをブッ叩き、三日月は歯を食いしばる。

アラズに叩かれた側面モニターはヒビが入り、三日月が食いしばった歯からは血が滲んだ。

 

昭弘はグレイズ改を潰されたマン・ロディに近づかせ、コクピットから出てマン・ロディに取り付く。

 

『昌弘、昌弘!! 何でだ、何で俺を…!?』

『…あ、兄貴……面白い話、聞いたんだ…』

 

昌弘は昭弘を見るなり、そんな事を言い始める。

その身体の首から下は装甲に潰されており、血は水滴となってコクピットに浮いている。

 

『良い、喋るな! すぐに助けてやるから…!?』

 

昭弘は昌弘をコクピットから引っ張り出そうとするが、昌弘にコクピットがくっ付いているかのように動かない。

 

『…阿頼耶織、か…!!』

『…ねえ、知ってる? 人間はね…死んでも、魂は生まれ変わるんだって…デブリの、俺達には…関係無いけど…』

 

それは、昌弘が死んだ仲間から聞いた事。

本当かも分からない、おとぎ話だ。

 

『これで、分かったでしょ…ヒューマン、デブリが…どうやって、死んで行くのか…俺達は、こうやっt』

『分からねえ…分からねえよ、昌弘! 分かってたまるかよ!! 俺もお前も、死んだらちゃんと生まれ変われるんだよ!! 生まれ変わって、もう一度みんなで…!!!』

『生まれ変わりが本当かも、もうすぐ分かるよ…先に確かめて来るね、兄貴--兄、ちゃん……

 

昌弘は俯き、そのまま動かなくなった。

 

 

『--ま、さひろ……昌弘、昌弘おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 

宇宙(そら)に、昭弘の叫びが木霊した。

 

 

 

 

ブルワーズ艦は制圧され、首領のブルック・カバヤンには銃が突き付けられていた。

 

「さ~て、ケジメは取って貰うぜ? 言ったろ、吠えヅラかいても知らねえぞってな。何が望みだ、兄弟?」

「そっすね…船1隻と、MSを全部」

「はあ!? オイ、ふっかけ過ぎだろうgづあああああああ!!?」

 

銃を突き付けていたアラズが引き金を引き、オークの右足に風穴が空く。

 

「テメェ、状況分かってるか? 今ここでその汚ェ額に穴空けてやっても良いんだが…ああ、ブタ風情にはそんな事理解する頭は無いか! 悪いなあ、酷な事しちまって!」

「クソ野郎、覚えてrげぇやはああああああ!!」

 

一頻(ひとしき)り煽った後、アラズはもう一度引き金を引く。

左腕に穴を空けられたオークは(わめ)き散らすが、それに構わずオルガはオークの胸倉を掴む。

 

「なあブタ野郎。今すぐテメェをバラバラに解体して、余す事無く売りさばいてやっても良いんだぞ。脂肪が多過ぎるが、犬の餌くらいにはなるだろ」

「「いや、犬も食わねェだろ」」

 

アラズだけでなく、名瀬までツッコミを入れる。

その後もオークは喚き続けたので、コロニーに着いたらジェ●ソンのコスプレをした魚屋の店主に引き渡される事になった。

 

この魚屋の店主、クレイジーな事で有名なコロニーの名物店主なのだ。

そのクレイジーさ故に、ギャラルホルンのMWも店には近寄らないらしい。

 

と、それはともかく。

 

「アラズさん、利益はどんくらいだ?」

 

オルガに問われ、アラズはもう片方の手に持つタブレットを確認する。

 

「…なあ団長、俺はあくまで一介のMS乗りだぞ? こう言う利益やら収入やらは、会計担当デクスターさんの仕事だろ。まあ、俺から言わせれば被害の元は取れたと思うぞ。特に、鹵獲したグシオンは儲け物だ。現在世界に28機しか存在しない希少性の高い『ガンダム・フレーム』だ。売ってもかなりの金になるし、戦力として利用すればバルバトスと同等と考えて良い。個人的には、戦力利用が最善策だとは思うが?」

「いや、全て売却する。マン・ロディとか言うMS達と一緒にな。俺に面識は無いが、昭弘の弟を殺したMSを使う訳には行かない」

 

オルガは、迷う事無くそう即答した。

 

確かに、これからを考えればアラズの言う通り戦力として利用するのが最善策だろう。

しかし、家族の家族を殺したMSは運用しないと言うのがオルガの出した結論だった。

 

「--了解だ。名瀬さん、手続きを頼めるか?」

「あいよ、任しときな」

 

アラズは、タブレットを名瀬に手渡す。

 

「オイ、俺を交えずに勝手に話を進めてんじゃn」

「敗者は黙っとけ」

 

オークが口を挟んで来たが、セリフが終わるより前にアラズはサイレント拳銃の引き金を引く。

吐き出された弾丸は、オークの左肩に穴を空けた。

 

「ヅ、あああああああ!!?」

「団長、後もう1つ。ブルワーズでこき使われてたヒューマンデブリ達なんだが、武器を没収してこの船のMS格納庫に集めてある。どうする?」

 

オークの悲鳴に耳を貸さず、アラズはオルガにそう告げる。

 

「…ソイツら、行き場とかは?」

「お前なら、言わなくても分かるだろう?」

「--ああ。俺は格納庫に向かうんで、手続きとかは頼みます」

 

オルガはブリッジを出て、MS格納庫に向かって行った。

 

「さーて、オルガは彼らをどうすんのかねえ」

「さあな。それを決めるのはアイツだ。殺すなんて事は絶対にしないと断言出来るが、どんな処遇にするかまでは分からん」

「楽しみだな。ところで、ガンダム・フレームはエイハブ・リアクターを2機装備してるって事で良いんだな?」

「ああ」

 

名瀬の質問に、アラズはあっさり答える。

ガンダム・フレームの取引は、流石の名瀬でも初めてのようだ。

それ程までに、ガンダム・フレームのMSは希少な物である。

 

「教官」

 

オルガが出て行ったブリッジに、昭弘が入って来た。

 

「だから、今はもう教官じゃねェって。昭弘、随分と立ち直りが早いが…大丈夫か?」

「ああ、問題無い。教官、アンタに頼みが有る」

「んん? 何だ、改まって」

 

明弘は息を吐いた後、こう言った。

 

 

「あのデカブツ…アイツを、俺にくれねェか?」

 

 

「--グシオンの事か? だが、あれは…」

「ああ。だが、昌弘との記憶はガキの頃の奴しか無え。最後の記憶は、昌弘との別れになっちまった。だからせめて、それを忘れねえようにしてえんだ」

 

昭弘はアラズの蒼い目を、真っ直ぐに見据える。

そして、対するアラズは。

 

 

「良いぞ」

 

 

あっさりと、OKを出した。

 

「そう言う事だ、グシオンの取引中止。代わりにテイワズへ鉄華団から依頼だ。テイワズで、グシオンの整備を頼む。オルガには後で伝えるから安心するが良い」

「あいよ」

 

名瀬は近くのコンソールに近寄って、ハンマーヘッドとの連絡を付け始める。

 

「すまねえ、恩に着ます」

「気にすんな気にすんな。他ならぬお前がそう言うなら、オルガも反対はしねェだろ。それに、ガンダムは貴重な戦力だ。使いこなせよ?」

「…ああ!!」

 

力強く、明弘はそう返した

 

 

 

 

オルガは格納庫に到着し、そこを見回す。

すると、ブルワーズのヒューマンデブリ達は直ぐに発見する事が出来た。

 

彼らに近付き、オルガは話しかける。

 

「よう。火星は特段良い所って訳じゃねえが、ここよりはかなりマシだぞ。経営も安定して来たし、飯は3食出るし、何よりスープが付いて来る。鉄華団の一員にならねえか?」

 

良い所をアピールしつつ、オルガはヒューマンデブリ達の勧誘を始めた。

 

「…俺達は、さっきまでアンタらとやり合ってた。それなのに、どうして--」

「それが、お前らの仕事だったんだろ? なら、仕方ねえ。アラズさん風に言うなら、『不可抗力』って奴だ。それとも、お前らはやりたくてやってたのか?」

 

その言葉に、彼らは首を横に振る。

 

「違う! 俺達は、今まで何にも考えて来なかった。命令された事をするだけで、自分じゃ何も…だって、俺達はh」

 

 

「ヒューマンデブリ。宇宙で産まれて宇宙で生き、宇宙で散る事すら恐れない…そんな、誇り高い奴らだろう?」

 

 

「--え?」

 

オルガの言葉に、他ならぬヒューマンデブリ達は呆然とする。

 

彼らは今まで、「ヒューマンデブリ」と言う肩書きを自らを貶める為に使っていた。

それは、一種の呪いとも言えるだろう。

 

だが、オルガの言葉は違った。

 

それは、「呪い」では無く「誇り」だと。

 

冷たい宇宙で死ぬ事を恐れないなど、誰にでも出来る事ではない。

それは、誇って良い事なのだと。

 

「鉄華団には、お前らと同じヒューマンデブリだった奴らもいる。だが、ソイツらやお前らを含めて鉄華団は『家族』なんだ。鉄華団は、お前らを歓迎する。俺達の、『家族』にならねえか?」

 

入団を拒否するヒューマンデブリは、1人たりともいなかった。

 

 

 

 

手筈は、全て予定通り。

クーデリア・藍那・バーンスタインを伴い、ドルト2へと入港せよ。

 

そのような指令を受け取った彼女は、一息付く。

彼女の瞳には、クーデリアより受け取ったペンダントが映った。




ちょっと出たジ●イソンのコスプレしたクレイジーな魚屋の店主は、オリジナルキャラです(言うまでも無い)。
設定は以下に記載しておきますが、特に重要キャラでも何でも有りません。
100%、ただの悪ふざけで作られたキャラです。

魚屋の店主
CV(作者脳内ボイス):小山剛志
友切包丁(メイトチョッパー)の二刀流で、ありとあらゆるモノを捌く凄腕の魚屋。
昔はジェイ●ンのコスプレをした殺人鬼だったが、元々の魚屋の店主を解体するついでに魚屋に置いてあったマグロを解体してみた所、魚の素晴らしさに魅せられて翌日にはその魚屋の店主を名乗っていたとか。
見た目と動機と経歴はともかく腕は確かで、依頼すれば完璧な仕事をしてくれる。
魚の骨が苦手な人や自分で捌くのが不安な人には人気が有り、売上は常日頃黒字を維持している。
ただ、夜になると魚と一緒に客も解体してしまうと言う悪癖が有る為、営業は昼間のみ。


以上、5分で考えた設定でした。
コロニーに魚が有るのかって?
富属層は食ったりするのではないでしょうか。


原作と全く相違無い為カットしましたが、この頃地球ではロリコンマクギリスとアルミリアの結婚パーティーが行われております。
後、この日の夜には三日月がクーデリアにズキュウウン!!しております。

先越されたアトラェ…。

と言う事で、ブルワーズ編はこれにて終了。
次回より、ドロドロなコロニー編が始まります。

「彼女」を生かすか生かさないか…少しばかり、迷い所です。


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コロニー編
#15 クーデター


今回から、原作で言う1期の2クール目に突入です。
OPが「Raise your flag」から「survivor」になったと言う事ですね。
よーし、これで一応物語の4分の1にまで来た計算だぜ。
そんな感じで、今回からコロニー編スタート。

まあ、オリジナル展開になってからがクソ長そうですけれども。
許して下さい、プロットの時点でクソ長いんですよとにかく。


ドルトコロニー群に到着した鉄華団とタービンズは、各自別行動を取る事になった。

 

オルガ達は、テイワズから預かった荷物を届ける為ドルト2へ。

クーデリアやフミタン、アトラなどはドルト3へ。

タービンズは、テイワズの支部に顔を出すべくドルト6へそれぞれ向かう事になった。

 

一番気を付けなければならないのは、ギャラルホルンの動向だ。

この辺りは、月外縁軌道統制統合艦隊…通称「アリアンロッド」の管轄地域となっている。

 

セブンスターズ第4席エリオン家の当主ラスタル・エリオンが指揮する、ギャラルホルン内でもトップクラスに練度が高い最強艦隊。

それが現在、コロニーの治安悪化に対応すべく出て来ているらしい。

 

更に風の噂に依れば、セブンスターズ第3席ボードウィン家が個人所有する戦艦「スレイプニル」がドルトコロニーのどこかにいるとも。

 

「そんな訳だから、くれぐれも騒ぎを起こすな…と名瀬さんは言ってたが、そんな口頭での忠告で全てが丸く治まるならギャラルホルンは要らねェんだよなあ」

「--アラズさん、とんでもない事言わないで下さい。何やらかすつもりですか?」

 

ドルト3に向かうシャトルの中でそう言ったアラズに、ビスケットはちょっと震えながら聞く。

 

「何もやらかさねェよ。ただ、こっちにその気が無くても暴動ってのは起きる場合が有る。特に、コロニーの労働者達には気を付けろ。不満が溜まりまくってるから、そろそろ爆発する頃合だ」

「爆発、って…クーデター、ですか!?」

「クーデターと言うか革命と言うか無謀と言うか…とにかく、俺の勘と経験則からして暴動が起きる可能性は極めて高い。あのテイワズからの荷物が、重火器でないと言う保証も無いしな。それはともかく、ショッピングはお前らに任せる。俺は後ろに積まれてるオークを魚屋ジェイソ●に引き渡すついでに、適当にコロニーを回って来るから」

「ああ、はい…オルガ達、大丈夫かな?」

 

途端に不安になって来たらしいビスケットが、そんな事を言う。

 

「大丈夫だよ、オルガなら」

 

隣で話を聞いていた三日月が、確信したようにそう返した。

 

 

 

 

「アンタらが鉄華団か、話には聞いてるよ。しっかし、本当に若いんだなあ」

 

テイワズから預かった荷物を渡しに来た鉄華団は、ドルト2の労働者達から熱烈な歓迎を受けていた。

それこそ、異常な程に熱烈な歓迎を。

 

「だから何だ? ガキだからって、嘗めてんのか?」

「いや、そう言う訳じゃないんだ。俺達は皆、アンタ達が来るのを楽しみに待ってたんだよ。『革命の乙女』クーデリア・藍那・バーンスタインと、それを守る若き騎士団! アンタ達は、俺達労働者の希望の星なんだ!」

「なあユージン、『キシダン』ってなんだ?」

「俺が知るかよ。帰ったら、アラズさんにでも聞けよ」

「おう、そうだな!」

 

「騎士団」を解せない鉄華団の団員達。

この事件の後アラズに聞いた所、「遥か昔、『西暦』と呼ばれた時代に存在した軍隊だ。何でも、『十字軍』の時に設立された騎士修道会。及び、それを模して各国の王や貴族が作った騎士とその附属員から構成される団体の事らしい。俺も、詳しくは知らねェけどな」と帰って来たそうだ。

 

結局、シノとユージンは首を傾げる羽目になる。

 

「コロニーの労働環境は最悪だ。低賃金のクセに、重労働を長時間やらなきゃならない。それを、俺達は今まで何十年と耐えて来た。『反抗しても殺されるんだから、大人しく働くしか無い』って。でも、そこに現れたのがクーデリア・藍那・バーンスタインなんだ! 若い子が火星独立運動の矢面に立って、革命家達とアーヴラウの首長を動かした! こんな痛快な話、今まで無かった! しかも、そのクーデリア・藍那・バーンスタインを護衛して地球に送り届けるのが、10代の元宇宙ネズミの子供達と来た! アンタ達はこの状況の打破を願う俺達に取って、まさしく希望の星そのものだ!!」

 

などと、労働者は熱弁を振るった。

要するに、この流れに乗ってコロニーも独立したいと言う事だ。

 

すると、労働者達は早速荷物を開け始める。

 

 

そこには、戦闘用のMWが。

 

 

「MW…!?」

 

他のコンテナには、大量の重火器がどっさり詰まっている。

 

「ちょっと待ってくれ! アンタ達、何を…!?」

「? 聞いてないのか? アンタらは俺達の支援者に頼まれて、コイツを届けてくれたんだろ?」

「俺らは、テイワズに頼まれただけだ! アンタらの支援者は、一体何者なんだ!?」

「名前なんか知らない。ただ、クーデリアさんの代理を名乗ってたぞ。火星に続いて他の場所でも地球への反抗の狼煙を上げよう、とクーデリアさんが呼びかけてるって。その為の武器弾薬を、鉄華団の手を通してクーデリアさんが俺達に無償提供してくれるってな」

 

重火器をコンテナから取り出しながら、彼らはそんな事を言う。

 

「クーデリアは、そんな事絶対にしない! アンタらの支援者ってのは、本当に信用でk」

 

その時、爆音と共に何者かがハッチが破った。

そこから、組織の象徴たる 7つ星の旗が吊られた角笛を吹く馬が描かれた紋章を肩に付けた者達が侵入して来る。

 

「ギャラルホルン!?」

 

ギャラルホルンの警務局に所属する部隊である。

それに、労働者達は瞬く間に制圧されてしまった。

 

 

いや、されかけた。

 

 

「こうなりゃやるしかねえ、うおおおお!!」

 

労働者の1人が引き金を引いた事から、銃撃戦が始まった。

結果ギャラルホルンは撤退し、労働者達は仮初めの勝利を得てしまった。

 

オルガはイサリビにいたメリビットに連絡し、イサリビをコロニーから出すように指示。

これで、鉄華団が暴動の関係者とされる事は無いと思われる。

 

「…なあ。どうすんだ、オルガ?」

「…さて、どうするかな」

 

浮き足立つ労働者達…クーデターの首謀者達を遠目と見守りつつ、オルガは次の動きを考え始めるのだった。

 

 

 

 

ドルト3内の大通りを、1人の男が歩いて行く。

長い銀髪を持ち、黄金の仮面で素顔を隠し、スーツを着た男だ。

 

「大人には成り切れないモノだな。まさか、これ程までに胸が躍るとは」

 

男はそう呟き、雑踏の中に姿を消した。

 

 

 

 

「う゛ふぅぅあ~~」

 

全身に脂肪をくっつけたような男が、サウナの中でくつろいでいる。

このヌード、誰得でも無い。

 

『失礼します、ノブリス様。積み荷は無事、組合員の手に渡ったそうです。調査に来たギャラルホルンとも、さほど大きな争いにはならなかったようで』

 

サウナでくつろぐ脂肪男…もといノブリス・ゴルドンの下に、通信が入る。

 

「ふん。どんなモノかと思えば、地球圏のギャラルホルンも存外大した事がないな」

『それと、クーデリア・藍那・バーンスタインの姿がドルト3で確認されたとの報告が。監視役の女も一緒です』

「…命令違反とはな。あの女、一体何を考えて--まあ良い。実行場所が変わるだけだ、すぐに対応しろ」

『は』

 

通信が切れ、ノブリスはサウナでの至福の一時を再開した。

 

 

 

 

「ほうほう。成る程成る程、ハメられたな。上手く利用されたな、俺達は」

 

オークをクレイジーな魚屋に引き渡したので、適当にドルト3の郊外を歩いていたアラズ。

そこに、ドルト2に荷物引き渡しの為に向かったユージンから電話での連絡が入る。

状況を把握したアラズは、とりあえずそう述べた。

 

「それで、お前らは今どこで足止めを食らってるんだ?」

『クーデターの首謀者サマの自宅だ。目の前の机には飲み物が並んでて、シノはガキ共と遊んでる』

「アイツ、子供好きだったのか…いや、そうじゃない。何か、厄介事を持ちかけられたりしてないよな?」

 

アラズの問いに、ユージンは窓際で紅茶を飲みながら答える。

 

『オルガに、俺らの戦力を使ってクーデターに協力してくれないかって頼みに来てた』

「ほう。それで、オルガは?」

『断ったよ。タービンズにも迷惑がかかるからな』

 

名瀬からは、「絶対に騒ぎを起こすな」と言われている。

アラズにはフリにしか聞こえなかったのだが、切実で有った事は確か。

そして、オルガはそれを真面目に受け止めた。

 

「結構結構。100%、俺よりリーダー気質だなオルガは。そっちは何とかなりそうか?」

『ああ、問題n…なあッ!?』

「? 外野が騒がしいな、どうした?」

 

どうやら、向こうで何か起きたらしい。

10秒ほど経ってから、ユージンはこんな事を叫んで来た。

 

『クーデターしてる奴らの仲間が、そっちに行ってるらしい! そんで、ビスケットとアトラが捕まったって!!』

「! 場所はどこだ、三日月には連絡したか!?」

『今、オルガが連絡付けてる! 場所は分からねえが…!』

「分かった、こっちで探す!」

 

電話を切り、アラズは近くに置いてあったバイクに飛び乗る。

 

「あ゛あ゛ッ!? テメェ、何勝手に俺の愛馬に乗ってんだァ!?」

「返せたら後で返す、悪く思うな! こっちは急ぎなんでな!」

「待てええええ!! 頼むから返してくれ、ローンがまだ残ってるんだよおおおおお!!!」

 

バイクの持ち主である男の悲痛な叫びを背に、アラズは全速力で発進する。

とりあえず、バイクは返そうと心に決めた。

 

「コロニーも広いんだ、見つかるか…いや、見つけてやるよ!!」

 

煌びやかな商店街を横切りながら、アラズは捜索を開始した。

 

 

 

 

「コロニーへの入港許可、下りたのか?」

 

ドルトコロニー近くの宙域で足止めを食っているボードウィン家の戦艦「スレイプニル」。

そのブリッジで、ガエリオは艦長に問う。

 

「いえ、もう少しお待ち頂く事になりそうです。統制局と警務局が合同で行う、例の作戦が関わっているのではと」

「統制局と警務局による、不満分子の大規模鎮圧作戦か」

 

最近、この辺りのドルトコロニーでは労働者達の不満が高まっている。

それを抑えるべく、統制局と警務局は合同で鎮圧作戦を展開する。

 

その実態と言えば、ただの反乱分子の虐殺だが。

 

コロニーの活動家達が警戒する要因にもなる為、セブンスターズの庇護下にある戦艦が歓迎されるハズも無い。

 

「ここで統制局と警務局に花を持たせるのも、後々の為になるかと。こらえて下さい」

「…お前が『政治をしろ』と言うなら、聞き入れよう。家名に泥を塗っては、父上に合わせる顔が無いからな」

 

そう言って、ガエリオはブリッジから出ていった。

 

「MSデッキに打診しろ。ガエリオ特務三佐がキマリスで飛び出さないようにせよ、とな」

「は」

 

 

 

 

「お嬢様!」

「ふわあ!?」

 

ホテルで待っていろ、と言って三日月はアトラとビスケットの救出に向かった。

こっそり抜け出そうとしていたクーデリアを、フミタンは呼び止める。

 

「私が本物だ、と名乗り出れば…そうすれば、アトラさんは…!」

「いけませんお嬢様。アトラさんが偽物だとバレれば、そちらの方が危険かも知れません。彼らに、アトラさんを生かしておく理由が無くなりますから」

 

走って逃げられないよう、フミタンはクーデリアの腕を掴む。

 

「しかし…! 私は、大切な家族を…アトラさんや鉄華団の皆さん、それにフミタンを裏切るような真似はしたくないんです!」

「だからこそ、今は堪えて下さい! お嬢様は、アラズさんに言われたでしょう? 『他人がどうなろうと、自分は生き延びろ。そして、世界を変えろ。それは、お前にしか出来ない』と。ここでお嬢様が犠牲となっては、鉄華団の皆さんの今までの努力が無となります!」

 

フミタンの言葉を受けて、クーデリアは唇を噛み締める。

しかし、その時。

 

「その通り」

「!」

 

金の仮面を被りスーツを着た銀髪の男が、クーデリアとフミタンの前に現れた。

 

「お嬢様、お下がり下さい」

 

見るからに怪しい仮面の男を見るや、フミタンはクーデリアを自分の後ろに隠した。

 

「一度お目にかかりたいと思っていましたよ、『革命の乙女』クーデリア・藍那・バーンスタイン。彼女の言う通り、貴女はここで死すべき方ではない。すぐにこのコロニーを発った方が良い。じきに、ここは労働者達による武装蜂起で荒れる」

「…そんな、クーデターが起こると…!?」

「如何にも。その為の武器を鉄華団に運ばせたのは誰だと思う? 貴女の支援者である、ノブリス・ゴルドンだ。この意味が分からないほど、子供でもあるまい?」

 

仮面の男は粛々と、クーデリアに情報を渡す。

 

「あれは貴女を利用する為に、自らの手の者をすぐ側に潜り込ませているような男だ。己が、利益を得る為にな」

 

仮面の男の言葉を受け、クーデリアはすぐ側のフミタンを見る。

 

「--お嬢様、その男の言葉は真実です。昔から、貴女が嫌いでした。何も知らず、希望に満ち溢れて光輝く貴女の目が。だから現実を知って、濁ってしまえば良いとさえ思っていました」

「……ねえ、ウソよねフミタン。貴女は、私のk」

「ですが、変わったのは私の方でした。変わらなければ、このような思いを抱かずに済んだのに。どんな行為にも、責任は付きまとうものなのですね。貴女の目は変わらず、輝いたままだった。きっと、貴女はそれで良いのです」

 

フミタンは、クーデリアから離れるように歩き出した。

 

 

「さようなら、クーデリアお嬢様」

 

 

そう、言い残して。

 

「待って、フミタン!!」

 

それを追おうとしたクーデリアを、仮面の男は止める。

 

「『革命の乙女』たるその身を、大切にしたまえ。君は人々の希望になれる。それこそ、このようなクーデターが起きない世界を創れるかも知れない」

「--ッ!!」

 

制止を聞かず、クーデリアは走り出した。

 

「…忠告はした。後は任せるぞ、鉄華団」

 

仮面の男は、再びホテルのどこかへ消えていった。

 

 

 

 

バイクを止めて、アラズは近くに展開を始めたギャラルホルンの部隊の通信傍受を開始する。

 

「…ふむ、クーデター隊はドルト3へ進入。戦力はMW3機と銃で武装した労働者達。鎮圧の為、MW10機と一個大隊を配置する--まさか、全員を虐殺するつもりか? この労働環境を継続し、限界まで利益を引き出そうと言うのか? --クズが」

 

通信の傍受を終え、アラズはクーデター隊と共にドルト3に移って来たであろうオルガ達に連絡する。

 

「こちらアラズ、クーデター隊とギャラルホルンの動きは把握出来た。そっちは?」

『アトラとビスケットは救出したが、クーデリアとフミタンさんがいねェ』

「…了解、その2人はこっちで回収する。クーデター隊とギャラルホルンの動きが分かれば、場所の特定は容易だ。必ず連れて帰る。そちらも気を付けろよ」

 

電話を切り、アラズは再びバイクに乗って走り出した。

 

クーデター隊は、大通りを真っ直ぐ演説しながら進んでいる。

ギャラルホルンの掃討作戦が開始される前に、クーデリアとフミタンを回収してオルガ達と合流しなければならない。

 

クーデター隊については、逃げろと言っても聞き入れないだろう。

残念だが、見捨てるしか無い。

最優先事項はクーデリアとフミタンの回収であり、クーデター隊の救出でも支援でもない。

 

「ああクソ、何でこうなる…! ギャラルホルン、腐敗するにも限度があるだろ!? どこでミスったんだ、世襲制が元凶か…!?」

 

そう愚痴りつつ、アラズはクーデリアとフミタンの捜索を開始した。




アニメでノブリスのヌードを見て「やったぜ」と思った方は、感想欄の方へご出頭下さい。
いない事を祈っております。

フミタン裏切り&仮面の男登場。
いやはや、仮面の男。
一体、何ギリス・ファリドなんですかねえ…?

次回、クーデター鎮圧です。


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#16 掃討作戦

今回と次回で、コロニー編はお終いです。
短くて良いですね(面倒だったのでビスケットのお兄さん辺りを丸々カットした怠惰な人)

今回、アラズさんの長台詞が有ります。
話が長い、20文字以内で簡潔に纏めろ!


「フミタン! フミタン、どこ!?」

 

フミタンを追って、クーデリアはドルト3の大通りを走る。

すると、デモ隊に遭遇した。

 

「クーデリアさん!? クーデリアさんですよね! 発見しました、クーデリアさんです!」

「え!?」

 

案の定デモ隊に見つかり、クーデリアはその内の1人に捕まる。

 

「待って下さい、私はこのデモに参加するつもりは…!」

「早速巻き込まれてるんじゃねェよ、クーデリア! 毎回毎回面倒を増やしやがってポンコツ娘が!」

 

デモ隊の中心に引きずられかけたクーデリアに、バイクが突っ込んで来る。

言わずもがな、アラズの乗るバイクである。

 

「きゃっ!?」

「ああっ!?」

 

アラズは通りすがり様にクーデリアを回収し、路地裏に走り去る。

 

「クーデリアさんが…クーデリアさんが、拉致されました!」

「何!?」

「探せ! 会社側と交渉する為にも、絶対に連れ戻すんだ!!」

 

勝手に巻き込もうとしていたデモ隊は、全力でクーデリアの捜索に当たり始めた。

と、その時。

 

ドガアン、と爆発音が響き渡った。

 

爆発したのは、デモ隊が向かっていたドルト本社である。

 

「攻撃するな、と言ったハズです! 誰が…!?」

「こちらは何もしていません!」

 

想定外の事態に、デモ隊のメンバーは慌てふためく。

当然、これはギャラルホルンの「仕込み」だ。

 

『デモ隊からの攻撃を確認。事態窮迫の為、危害射撃を開始する! 世界平和を守る暴力装置として、暴徒を鎮圧せよ!』

「待て、我々では…!」

『射撃、始め!!』

 

流れるようなマッチポンプで、ギャラルホルンは虐殺を開始する。

ドルト本社に取って、反抗する労働者達がどうなろうと知った事ではない。

 

代わりなど、幾らでも効くのだから。

 

デモ隊も迎撃するが、訓練を受けたギャラルホルンと素人同然の労働者達では練度が段違いだ。

次々とデモ隊の者達は倒れて行き、周囲は硝煙と血の匂いに包まれる。

 

「--そんな、こんな事を…彼らはただ、正当な事を主張しているだけなのに…!」

 

路地裏に隠れたクーデリアは、その光景を目の当たりにする。

普通なら鼻を覆う程の悪臭が漂っているが、クーデリアにそんな事を気にする余裕は無い。

 

余りの凄惨さから、クーデリアは思わず目を背けるが。

 

「目を逸らすなよ、クーデリア・藍那・バーンスタイン」

 

アラズによって、顔を強引に向き直させられる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。強者は私腹を肥やし、弱者は使い潰される。支配体制への反逆者は、角笛を棄てた暴力装置に抹殺される。奴らは『世界の秩序を守る為』だと言い張り、アグニカ・カイエルの思想とセブンスターズの威光を振りかざして世界に君臨している。だが、本気でそれを守ろうとしている者は両手で数えられる程だろうよ。見ての通り、奴らは自らの利益追求に走って本来の機能を疎かにした。コロニーの労働環境が改善されれば、作業時間は減り賃金は上がる。それでは運営会社…引いては、そこから賄賂を受け取るギャラルホルンの害となり得る。表向きは労働者達が先制攻撃をしたとし、情報統制で虐殺した事実を隠蔽する。この300年で、ギャラルホルンは宇宙海賊にも劣るゲスに成り果てた」

 

アラズは唇を噛みつつ、続けてクーデリアに諭す。

 

「あのクーデター隊は、例えるならば火に飛び込む虫だ。ごく一部の富属層とギャラルホルンに取っては、奴らは虫程度の価値しか無い。いや、大人しく従わない分虫以下だと思っているやも知れん。 さっき言った、『支配体制への反逆者』そのものだ」

「…………!」

 

クーデリアは、拳を強く握り締める。

 

「…私は、このような惨劇が起こらない世界にしたいと願って活動して来ました。しかし、これは何なのですか…!? 私は無力です。目の前の行為を、止める事すら出来ません…!!」

「ああ、そうさ。誰にも止められない。個人の持つ力など、所詮そんなモノに過ぎん。俺とて、MSが無ければ射撃も料理も洗濯も出来ないただのダメ人間だ。だが兵器が人に戦闘力を与えるように、政治は人に支配力を与える。俺らは、前者の力に頼るしか無い。自らの我を通す為に、他人の命を犠牲にするクソ野郎だ。だが、()()()()()。お前は、他人の命を犠牲にせずとも自らの我を通せる。それが政治の力であり、普通は無い特別な力だ。使い方次第では、この惨劇を世界から無くす事も不可能では無い」

 

アラズはそっと手を放すが、クーデリアは真っ直ぐに惨劇を見る。

その光景を忘れぬよう、目に焼き付ける為に。

 

「だが、政治の力には欠点も有る。力を引き継ぐ事が出来ない点だ。兵器は、持ち主が死んでも次の持ち主が使う事が出来る。しかし、政治は誰かと代わる事が出来ない。政治家が死んだら、その政治家は権力を失う。そして、その次の政治家に権力を受け継がれる事は無い。だからこそ、政治家は自らの命を最優先に行動するべきなのだ。お前には自己犠牲の精神が見られるが、それは今ここで捨てろ。権力を失い傀儡政権と成り果てた政治家の代わりはいても、『革命の乙女』クーデリア・藍那・バーンスタインに代わりはいない。お前のような理想を掲げた者は、今までいなかったと断言しても良い」

 

アラズが長台詞を終えると、ギャラルホルンの銃撃は止んだ。

クーデター隊はギャラルホルンとドルト運営会社のシナリオ通りに無事鎮圧され、華やかな大通りは肉塊が転がり血にまみれていた。

 

「さて、と」

 

アラズはバイクの荷台からヘルメットを取り出し、クーデリアに被せる。

 

「後ろに乗れ。狙撃手(スナイパー)が潜んでいて、お前を狙っているかも知れん。早急に、オルガ達と合流する」

「待って下さい! フミタンを、フミタンを置いては行けません!」

「ああ、分かっている。フミタンは何が何でも引きずって連れ帰ってやるから、お前は安全な所で待ってろって言ってるんだ。話したい事が有るなら、コロニーを出てからたっぷり話せ」

 

アラズは戸惑いながらもヘルメットを固定したクーデリアをバイクに乗せ、自分もその前に乗ってハンドルを握る。

 

狙撃手(スナイパー)がロックオン出来ないよう、最高速度で突っ走る。しっかり掴まって、死んでも放すなよ」

 

狭い路地裏であるにも関わらず、アラズは最高速度で走り出した。

 

「きゃああああああああああああああ!?」

「口を閉じろ、舌噛むzッつああああああああああああああああああああああああああああ!! 舌噛んだッ!!」

 

舌を噛みながらも、アラズは絶妙なハンドル捌きで路地裏を安全運転で脱出。

反対側の大通りに出て、そのままオルガ達の待つホテルへと向かうのだった。

 

 

 

 

「…終わったか」

 

スレイプニルのブリッジでTVの報道を見ていたガエリオは、思わずそう呟く。

統制局と警務局による掃討作戦は、何の滞りも無く成功した。

 

「マッチポンプの模範回答みたいな作戦だな。全く…」

「ええ。しかし、秩序を守る者としては仕方の無い事です」

 

淡々と、艦長は答える。

彼とてギャラルホルンのやり口が非道だとは承知しているが、上の決定に逆らう事は出来ない。

 

「鉄華団が出て来れば、我々の出番も有ります。こらえて下さい」

「何度も言うな、それくらい分かっている」

「いいえ、何度でも言います。若き日の特務三佐殿が何度座学をサボったか、忘れはしません」

「若き日の、って言うな! 俺がもう若くないみたいじゃないか! せめて子供の頃の、と言ってk…って、忘れてくれ! あれは不可抗力だ!」

「いいえ忘れません、何で有ろうと抜け出した事実は揺らぎません! そも、そんな言い訳が通じるとお思いですか!?」

「ぐぬぬ…!」

 

艦長に返す言葉が無く唸るガエリオを、アインは端から見てこう思った。

 

ボードウィン特務三佐殿は、実は不真面目なお方なのでは無いか、と。

 

 

 

 

クーデリア暗殺失敗の報告を受け、ノブリスはとりあえず葉巻を取り出して火を付ける。

 

「全く、今回のクーデターは意味が無かったな…んん?」

 

通信が入ったので、ノブリスはそれを開く。

そして、先立って挨拶をする。

 

「おや、これはこれは。お久しぶりですな、マクマード・パリストン殿。テイワズの代表が、私めに一体何のようで?」

『GNトレーディングからのあれは、無事労働者達に届けさせたぜ』

「ああ。それはご苦労でしたな」

 

通信の相手は、テイワズの代表マクマード・パリストンだ。

クーデター用の武器を用意したのはノブリスで、届けたのはテイワズの傘下である鉄華団。

 

彼らは初めから、全てを知っていた。

 

『そっちの狙いは分かってる。ウチの身内である鉄華団とクーデリア・藍那・バーンスタイン。反体制派のシンボルとなったあの娘を殺す事で、火種を作る』

「--その通りだ。して、こちらの目論みを見抜いてどうする?」

『駆け引きだ。金の成る木の芽を摘み取るのは惜しいだろう? あの娘は、小さな火種程度で終わるようなタマじゃねえ。あの娘がこの騒ぎから上手く抜け出す事が出来たなら、その時は手を組んでみるってのはどうだ?』

 

 

 

 

「…暴動は収まりましたか」

 

静まり返った街で、私は独りそう呟く。

クーデリアお嬢様にスパイであった事を明かし見捨てておきながら、ノブリスの指令には逆らった。

 

私には、行くあてが無い。

このまま野垂れ死ぬのみである事も、充分に理解している。

 

いっそ、あの戦場に飛び込んで死んでおけば良かったとも思える。

 

そう思いながら行くあても無いのに歩いていた私の近くに、1台のバイクが止まった。

 

「よう、フミタンさん。随分とシケた面をしてんなあ」

 

乗っているのは、アラズ・アフトル。

鉄華団のメンバーである。

 

「…貴方、何故? 私はお嬢様を裏切り、貴方達鉄華団も裏切りました。そんな私に何の御用で?」

「加えてふてくされていやがる。全く、面倒だな」

 

頭を掻いた後、アラズさんは私の頭にヘルメットを被せる。

 

「ほら、乗れ。戻るぞ」

「待って下さい。貴方は、私の話を聞いていたのですか? 私は--」

「ノブリスのスパイで、裏切り者だって言うんだろう? クーデリアから全部聞いてる。解せないのも無理は無いだろうが、それを知ってなお、クーデリアが何て言ったかは想像出来るだろう?」

 

私は俯き、それを想像する。

想像の中のお嬢様は、微笑んでいて。

 

 

何であれ、フミタンは私の家族です。

 

 

そう、世迷い言を言っていた。

 

「クーデリアからの伝言だ。『何であれ、フミタンは私の家族です。また、私を守って色々教えて下さい。話したい事も、いっぱい有ります』だとさ」

 

お嬢様の本質は、全く変わっていない。

いつまで経っても希望を捨てない、私の嫌いな箱入り娘だ。

 

けれど、お嬢様はそれで良い。

そうでなければ、人々を導く希望にはなれないだろうから。

 

「とまあ、こんなに言った後で何だが…アンタに拒否権は無い。クーデリアと、『何としても連れて帰る』と約束しちまったからな」

「…何故、それを許したのですか? 貴方なら、私がまた裏切る事を考慮しているでしょう?」

「ああ、考えてるし対応もシミュレートしてる。昔なら、この場で有無を言わさず射殺しているさ。だが、今はそこまで緊迫した世界でもないのでね。少しばかり、甘くなってもバチは当たらないだろうと思ったんだよ。それに、アンタはもうノブリスからも当てにされていないだろう。自分を裏切った女をスパイとして使い続ける程、ノブリス・ゴルドンと言う男はバカではない」

 

先程私に拒否権は無いと言ったのだから、彼はいざとなれば私を気絶させてでも連れて行くつもりだろう。

 

私はバイクの後ろに跨がり、アラズさんに掴まった。

 

「…行って下さい」

「ほう、随分ノリノリだな?」

「貴方が考えを変えるとも思えません。それに、私はクーデリアお嬢様の従者ですから。長く主人の下を離れたお詫びをしなければ」

「律儀な事で」

 

アラズさんは、私が掴まった事を確認してからバイクを走らせ始めた。

私は、お嬢様にどう詫びるかを頭の中で考え始める。

 

あのお人好しなお嬢様が、咎める訳が無いとは分かっていたが。

謝っておかねば、私の気が収まりませんから。




フミタン、生存ルート突入。
彼女はずっと、クーデリアの従者であり続ける事でしょう。

原作ではフミタンの死がクーデリアの成長を促す事となっていますが、出来なくなったのでアラズの説法で代わりとします。
アラズ、便利過ぎだって?
--ハハハハハ、勘弁して下さい。

アラズ「20文字以内で纏めろ? 『理想だけで無く、現状も見据えろ』とか」


次回、久々(?)のMS戦です。


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#17 革命の乙女

今回で、コロニー編は終了です。
久々の戦闘は疲れますねえ…。


『デモ隊とギャラルホルンの衝突は一時激しい銃撃戦となりましたが、守備隊側の素早い対応によって現在メインストリート付近は鎮圧されました。なおデモ隊のリーダーと見られていたナボナ・ミンゴ氏の、死亡が確認されました』

 

報道官は、粛々とギャラルホルンの正義を伝える。

その報道はコロニー全土に放送されており、あちこちで労働者達が武装蜂起を開始した。

 

ある者は銃を取って逆に銃殺され、ある者はMSを奪い外に出てコロニー周辺に展開する月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド)に潰される。

 

その状況は、デモ隊のリーダーであったナボナが最も恐れたモノだった。

ギャラルホルンによる反乱分子の一掃は、滞りも無く順調に進行していた。

 

「ラスタル様。武装勢力が確認されました」

 

アリアンロッドの旗艦であるスキップジャック級のブリッジで、アリアンロッド艦隊司令官ラスタル・エリオンは部下からそう報告を受ける。

 

「MS隊に攻撃命令。こちらのシナリオ通りだ、反乱分子を一掃せよ」

「はっ」

 

ラスタルの指令を受けて、MS隊が攻撃を開始する。

その光景を何の感慨も無く見据えながら、ラスタルは側にいるクジャン家の1人息子に話しかける。

 

「良く見ておけ、イオク。これが世界秩序の維持、ギャラルホルンの本懐と言うモノだ」

「…ラスタル様。このようなマッチポンプに、どのような理由が有るのですか? 私には、ただの虐殺に見えるのですが…」

「ギャラルホルンを良く思わない勢力は多い。それを軒並み黙らせるには、これが最適だと言う事だ。ある意味では、見せしめと言えるだろうがな」

 

 

 

 

「武装勢力の制圧が始まったようですな」

「制圧? 虐殺の間違いだろう。挑発して牙を剥かせ、ギャラルホルンの使命である平和維持の名の下に粛清する。わざわざ、使い物にならない武器まで与えてな。全く、統制局らしいやり方だ」

 

コロニーに置かれたMSは、全てギャラルホルンによって細工されたモノだ。

全ての重火器は発射不可能だし、スラスターも吹かす事すら出来ない。

つまり、これは動けない人形を嬲っているだけに過ぎないのだ。

 

「特務三佐。この状況なら、MSを出しても問題にはならないかと」

「バカを言え! これこそがマクギリスの言う、今の腐ったギャラルホルンの実態だ。こんな卑劣な作戦に参加出来るか!」

 

 

 

 

宇宙港は封鎖され、鉄華団は足止めを食っていた。

現状、イサリビと連絡を付ける事も出来ない。

 

宇宙港に設置された巨大モニターに移るニュースを眺めながら、鉄華団は次の動きを考えていた。

 

「さっきと何も変わらない制圧戦だな。つくづく腐っていやがる」

「だから、何かしようぜ! おっさん達言ってたじゃねえか! 俺達を希望の星だとk」

「はい、ストップだシノ。頭に乗るな。調子に乗っても、良い事なんて何一つ無いからな」

 

シノの口を、アラズは左手で素早く押さえる。

 

鉄華団の仕事は、クーデリアを護衛して地球に送り届ける事だ。

ここで面倒事に巻き込まれてギャラルホルンに本格的に目を付けられれば、それを遂行するに当たって大きな障害となる。

 

「私は…私はこのまま、地球へは行けません」

 

と、クーデリアがそんな事を言った。

 

「お嬢様?」

「私が地球を目指すのは、火星の人々が幸せに暮らせる世界を作る為です。でも、圧制に苦しんでいたのは火星だけじゃなかった。ここの人達も同じように虐げられ、踏みつけられ、挙げ句の果てには命さえも奪われ…そんな人々を守れないなら。立ち上がれないなら、そんな私の言葉など誰も聞くハズが有りません。私は戦います。例え、最後に1人になったとしても--逃げません、決して。見ているだけなんて、私はもう御免です!」

 

クーデリアは、そう宣言した。

彼女は火星だけでは無く、虐げられる人々全ての希望になると誓ったのだ。

 

「だ、そうだが…どうする、団長? 依頼主はな、このコロニーの人々を救いたいんだと」

「しゃあねえ、やるか!!」

『おう!』

 

一致団結した鉄華団は、とりあえずイサリビと連絡を付けられるようにするべく動きだした。

 

「あ、アンタ達!」

 

良い所に現れた報道スタッフ。

カメラから離れるよう、アラズは身を引く。

 

「(…アラズさん? 何を?)」

「(俺、マスコミってのが苦手なんだよ)」

 

報道スタッフにマスコミ専用回線を借り、鉄華団はイサリビに連絡した。

 

「とりあえず、イサリビに行かなきゃならないな。MSは全部置いて来てるし」

「うん」

 

アラズと三日月は、先行して生身で宇宙に飛び出す。

 

「あ、あの…彼らは、大丈夫なんですか?」

「ええ。流石に、斥候の1人2人は必要ですから」

 

イサリビからは、バルバトスを積んだクタン参型が発進してこちらに向かって来た。

タービンズはテイワズとして名が売れている為出られないが、ハンマーヘッドからは昭弘が発進したそうだ。

 

『さてと、じゃあな三日月。俺が来るまでの間、ギャラルホルンの奴らに一方的に殺される痛さと怖さを教えてやれ』

 

お肌の触れ合い回線で、アラズは三日月にそう告げる。

意訳としては、「ぶっ潰せ」と言う事だ。

 

クタン参型に乗り込んだアラズは、バルバトスとその武器を置いてイサリビに戻る。

バルバトスに乗って武器を得た三日月は、ギャラルホルン部隊の一掃にかかる。

 

ある時は滑空砲で狙撃し、ある時はメイスで潰す。

そんなこんなで、バルバトスが10機程を鉄塊にした時。

 

「こんな作戦に参加するなど、不本意だが…行くぞアイン!」

「はっ!」

 

スレイプニルから発進して来たガエリオとアインが、バルバトスに接触する。

 

「ッ!? 速い!!」

 

ガエリオの機体の突撃を受け、バルバトスは遠くに吹き飛ばされる。

 

「この出力にこの機動力、予想を遥かに越えて来たな…だが、そうでなくてはわざわざ父上に許可を頂いて『バエル宮殿』から引っ張り出した意味が無い!」

「あの機体…ボードウィンか。キマリスを出して来るとは、かなり本気のようだな」

 

ASW-G-66 ガンダム・キマリス。

厄祭戦末期に建造された72機の「ガンダム・フレーム」搭載型MSの1機で、300年前には初代当主クリウス・ボードウィンをパイロットとした。

ただ、人体改造を禁忌としたギャラルホルンの思想も有って阿頼耶識システムは取り外されている。

 

キマリスは脚部のバーニアを展開し、高機動形態となってバルバトスへの攻撃を開始した。

 

「相変わらず、デタラメな速さだな。敵にしたくないガンダムの筆頭だが、狙いが甘い。阿頼耶織無しではそんなモノか、キマリス…まあ良い、クリウスレベルだったら打つ手が無いしな。アラズ・アフトル、テルギア出すぞ。良いな?」

『は、はい。ご武運を』

 

イサリビから、アラズのテルギア・グレイズが出撃する。

戦場に、白青の機体が放たれた。

 

「あのランチは…やる!」

 

オルガ達の乗るランチに、アインのシュヴァルベ・グレイズは照準を合わせる。

そして引き金を引こうとした、その時。

 

「おっと」

「な、ぐはァッ!?」

 

テルギアの蹴りを受けて、アインのシュヴァルベが吹き飛ばされる。

 

「この周波数、コーラル司令の…! おのれ、よくも!!」

 

ライフルを撃ちつつ、シュヴァルベはバトルアックスを抜いてテルギアに突撃する。

全身のバーニアを吹かして弾を最小限の動きでかわしながら、テルギアは2本のバトルアックスを構える。

 

「良い覚悟だ。だが、気合いが足りん! 俺を倒したくば、キマリス並みの突撃をしろ!」

 

振り下ろされたバトルアックスを難なくかわし、テルギアはシュヴァルベの背中にバトルアックスを叩き込む。

 

「な、スラスターが!?」

 

一瞬で片方のスラスターを潰されたシュヴァルベは、バランスを崩して一回転する。

 

『シノ、後は任せたぞ!』

 

アラズは、イサリビにグレイズ改弐に通信してそう叫ぶ。

 

「おうよ!! ノルバ・シノ、流星号! 行くぜオラアアアアアア!!!」

「………流星号?」

 

イサリビから、ピンク色に染め上げられたグレイズ改弐…「流星号」(シノ命名)が発進してシュヴァルベに攻撃を仕掛ける。

対するシュヴァルベは、流星号の攻撃を左手のシールドで受け止める。

 

「厳格なクランク二尉のグレイズを、よくもこんな下品な色に…許せん!!」

「下品たァ聞き捨てならねえなあ!! このシノ様の流星号は、最高にカッケェだろうがあ!!!」

「おのれえええええええ!!!」

 

その2人の叫びを、流星号への通信を通して聞いていたアラズは。

 

「--まあいいや」

 

一瞥した後、バルバトスを援護すべく移動を開始した。

その道中で出会ったギャラルホルンのMSを、余す事無く粉砕しながら。

 

 

 

 

コロニーから離れた宙域で、その船は静かに戦闘を見守っていた。

 

「--素晴らしい」

 

船のブリッジで戦闘を見ていた仮面の男は、そう呟いた。

 

「? どうしたんですかい、旦那?」

 

側に立つちょび髭の男が、そう尋ねると。

仮面の男は、息を荒げていきなり叫びだした。

 

「素晴らしいッ!! やはり、私の予想に間違いは無かった!! あの機体カラー、あの戦い方、あの戦闘能力!! その全てが、あの方と同じだ!! あの方は、アグニカ・カイエルは蘇った!! 300年もの時を易々と超越し、アグニカ・カイエルは再びこの世界に変革をもたらすべく復活したのだ!! これが、これが僥倖でなくて何なのだ!! これが運命でなくて、何だと言うのだ!!? ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

のけぞって、仮面の男は陶酔したかのように笑う。

いや、陶酔しまくって酔いつぶれている。

 

「偉大なる大英雄、偉大なる創始者アグニカ・カイエルよ!! 世界は歪み、角笛は腐敗した! この世界に再び、光と秩序を与え賜えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

「いや、んな訳無いじゃないですか。アグニカ・カイエルっつったら、あれですよね? 300年前にギャラルホルンを作った奴ですよね? そんな奴が、何で生きてるんですかい? 人間は、最高でも140年しか生きられないんすよ? 落ち着いて下さいよ旦那、きっとアグニカ決めてるだけですよ」

「フフフハハハハハ、愚問! そんなモノ、アグニカ・カイエルだからに決まっているだろう!!? アグニカ・カイエルに不可能は無い、アグニカ・カイエルは全てを超越した存在なのだからな!! アグニカ・カイエルを我々の常識なぞに当てはめては、アグニカ・カイエルに失礼だ! そうだろう、アグニカ・カイエル! ああアグニカ・カイエル、我が師アグニカ・カイエルよ!! 今すぐガンダム・バエルを献上出来ない、我が非力を許し賜えアグニカ・カイエル! ですがしかし、必ずや私はアグニカ・カイエルの力となって見せます! 貴方に栄光を、アグニカ・カイエルゥゥゥゥゥ!!」

 

アグニカ・カイエルと連呼しまくる仮面の男。

それを端からゴミを見るような目で見ていたちょび髭の男が「コイツもうダメだな」と思っていた事を、仮面の男は知らない。

 

 

 

 

キマリスの攻撃に、バルバトスは苦しめられていた。

 

「どうした、阿頼耶織とやらでも追い切れないのか? --しかし、妙だ。以前の時と比べて、スピードが落ちるような…?」

 

訝りつつも、キマリスはバルバトスに突撃を仕掛ける。

狙うは、細く装甲の無い腰の部分だ。

 

「ッ…!」

『三日月、とりあえず捕まえろ。接近されたキマリスは、大した戦闘力を持ち合わせていない』

「捕まえろ…? 教官、あんなのをどう--一か八か…!」

 

キマリスの突撃を、バルバトスは腰を僅かにひねってかわす。

 

「何!?」

 

避けられると思っていなかったキマリスの動きが、一瞬鈍る。

その隙を付いて、バルバトスはキマリスのグングニールを右手で掴んで引き寄せる。

 

「捕まえ、た!」

「まだ!」

 

キマリスの肩の装甲が上に上がり、隙間からフラッシュディスクが射出される。

それはバルバトスの顔をかすめ、バルバトスが怯んだ隙にキマリスは右手でグングニールを放してコンバットナイフを抜く。

 

「はああ!」

「こんな、武器まで…!」

 

キマリスが振るったコンバットナイフはバルバトスの左手に当たり、メイスが宇宙へ飛んで行く。

 

「しまっ…!」

「終わりだ!!」

 

キマリスが振り下ろしたコンバットナイフが、バルバトスに直撃--する直前。

 

どこからかの狙撃が、キマリスの右手に直撃した。

 

キマリスの右手からコンバットナイフが取りこぼされた瞬間、バルバトスは左手でそれを奪ってキマリスに叩きつける。

 

「く…!」

 

咄嗟の判断でグングニールを回収し、キマリスは大きく距離を取る。

 

「おのれ、誰が…!」

『昭弘? それ、間に合ったんだ』

『おう。これが俺の、ガンダム・グシオンリベイクだ!』

 

グシオンは続けて、狙撃でキマリスを追撃する。

 

「新手のガンダムか…! 奴ら、いつの間にこんな戦力を…何!?」

 

キマリスのセンサーが、ガエリオに危険を告げた数秒後。

 

白と青のグレイズが、キマリスに2本のバトルアックスを振り下ろした。

 

不意打ちであったものの、ガエリオはそれを何とか迎撃。

一瞬の膠着の後に、そのグレイズは背中のスラスターを全開にする。

グレイズにあるまじき異常な出力で不安定な体制のキマリスを押し込み、後ろのデブリに叩き付けた。

 

「ぐはあああ!! コイツ、まさか…!?」

『よう、ボードウィン卿。鉄華団(俺ら)の討伐の為に宮殿からキマリスを引っ張り出して来るとは、なかなか気合いが入っているな。お疲れ様だな、チョコの隣の人』

 

白青のテルギア・グレイズから、接触回線が開かれる。

キマリスの特殊回線から通信をして来た所から、敵が並みの人間ではない事が伺える。

 

「ガエリオ・ボードウィンだ!! その不名誉な名前は訂正しろ!!」

『…ん? 何だって、三日月? --ブッ、フハハハハハハハハハハハハ!! お前、良いセンスだなハハハハハハハハハハハハハハハ!!』

「何がおかしい!?」

『ああスマン、余りに面白かったから笑ってしまった。無視して悪かったよ、ガリガリ君。すまなかったなガリガリ』

「ガエリオ・ボードウィンだ、って言ってるだろうが!! 貴様らわざとか!?」

 

キマリスは脚部バーニアを全開にし、テルギアの押し出しを始める。

 

「チ! 分かってたが、スラスター出力じゃキマリスが遥かに上か…! 昭弘ォ!」

「うらァ!」

 

グシオンは狙撃モードから近接モードに移行し、顔の装甲が開かれてガンダムフェイスを露わにする。

接近戦用のハルバードを引き抜き、キマリスに攻撃を開始した。

 

『ボードウィン特務三佐!!』

「おっと、足が滑った」

『がはッ!?』

 

キマリスの救出に向かって来たシュヴァルベを、テルギアは通りすがりに蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされたシュヴァルベは、グシオンに押されて下がったキマリスに激突した。

 

『申し訳有りません、余計な事を…!』

「アインお前、スラスターをやられた機体で何て無茶を…!」

『特務三佐! ガエリオ特務三佐!』

 

ガエリオの下に、スレイプニルから通信が入る。

 

「どうした、艦長!」

『エリオン公率いるアリアンロッドの本隊が、そちらに向かっています。これ以上の作戦への介入は、いくらセブンスターズでも問題になります!』

「…ッ、ここまでか…!」

 

シュヴァルベを持って、キマリスは撤退して言った。

 

「--さーて、困った事になりそうだ。アリアンロッドの本隊が向かって来てるぞ」

 

イサリビと合流し終え、アラズはそう頭を抱える。

 

『教官、何とかならないの?』

「いや、流石に無理だぞ。さっき推進材を結構使ったし、やれて30機って所だ」

『30はやれんのかよ…』

『逃げてえ…』

「逃がしてくれる訳無いだろ? よりにもよって、エリオンが指揮する艦隊だぞ?」

『ですよねー…』

 

途方に暮れていた鉄華団MSのパイロット達。

しかし、そこで。

 

 

『私は、クーデリア・藍那・バーンスタイン。今、TVを通して皆様に呼び掛けています。私は今日、皆さんにお伝えしたいと思います。宇宙の片隅、ドルトコロニーで起きている事を。そこに生きる人々の真実を』

 

 

「--クーデリアだと? 報道は、統制局が管理していたのではなかったか?」

 

ラスタルは顎に手を当てて、部下にそう尋ねる。

その横ではイオクが、解せない様子で首を傾げているが。

 

「そのハズです。何者かが、裏で手を回したとしか思えません。ギャラルホルンの管轄をかいくぐって」

「一体、誰が…?」

 

ラスタル達には知る由も無かったが、裏で手を回したのはノブリス・ゴルドンである。

クーデリアからの頼みで、利用されてやったのだ。

 

『私はドルトコロニーで、自分達の現状に立ち向かおうとする人々に出会いました。彼らはデモという手段を取り、交渉を行おうと考えていました。しかし、彼らが行動を起こした際。まるで示し合わせたかのように、付近で謎の爆発が起こったのです。勿論、彼らは一切攻撃をしていません』

「ラスタル様、これを止めなければ!」

「--」

 

ラスタルは動じず、クーデリアの演説が流れるモニターを見据えている。

 

『全て、ギャラルホルンが仕掛けた事です。その爆発を口実として、ギャラルホルンは労働者達に攻撃を開始しました。そしてその戦闘…いえ、虐殺は今も続いているのです!』

「発信源、特定! 目の前にある、強襲揚陸艦からです!」

「攻撃します!」

「待て」

 

はやる部下を、ラスタルは短く制止する。

 

「しかし、このままでは…!」

「誰が、この内容を真実だと証明出来る? いいや、誰にも出来ない。だが今攻撃すれば、奴の言葉を我々が自ら証明する事になる。ギャラルホルンが社会的信用を失えば、世界の治安は更に悪化する」

 

それに、と言ってから、ラスタルはこう続けた。

 

「あの演説を、最後まで聞きたくなった。クーデリア・藍那・バーンスタイン、か……」

『今、私の船はギャラルホルンの艦隊に包囲されています。ギャラルホルン…秩序を維持する組織に、私は問いたい。貴方方は正義を守る存在ではないのですか? これが貴方方の…アグニカ・カイエルの提唱した、「正義」なのですか?』

 

戦場は、先程までの様子が嘘のように静まり返っている。

静寂の中で、クーデリアの演説は響く。

 

『ならば私は、そんな正義は認められない。私の発言が間違っているというのならば…構いません。今すぐ、私の船を撃ち落としなさい!!』

「望み通りに落としてやる! 攻撃、開始しまs」

「待て、と言ったハズだ!!」

 

ラスタルは珍しく声を荒げ、言われるまま攻撃しようとした部下を鎮める。

速攻で突っかかろうとした辺り、この部下もクーデリアの演説に呑まれていたのだろう。

 

「統制局から緊急指令です! 戦闘を放棄し、敵艦の通過を許可せよ、との事です!」

「うむ。全軍に、ラスタル・エリオンが命じる! 敵艦が通過し去るまで、全ての武器の使用を禁ずる!!」

 

ラスタルの命を受けて、アリアンロッドは全ての行動を中止した。

停止した艦隊の中を、イサリビは堂々とくぐり抜ける。

 

『…凄いな、アイツ。俺達が1機ずつ潰していった奴を、言葉だけで…』

「それが、言葉の力だ。この世界に於いての力は、武力だけではない」

『アンタ、まさかこれを見越して…?』

「演説をするかなー、とは思ったが、これは予想外だ。盛大に啖呵を切った時は正直焦ったが、何とかなったな。クーデリア・藍那・バーンスタイン。俺…いや、世界が思っていたよりデカい卵だったようだ」

 

ラスタルが乗るスキップジャック級の隣を、イサリビは悠々と通過して戦闘宙域より離脱して行った。

 

 

 

 

「ケッ、悪運の強い野郎共だ。しっかし、何で攻撃しなかったんですかね?」

 

と、ちょび髭の男…トド・ミルコネンが言う。

あの後仮面の男に雇われ、仮面の男の右腕として活躍している。

 

お前が言うな。

 

「恐らく、アフリカンユニオンから圧力がかかったのだろう。かつては秩序を維持する者として頼られていたギャラルホルンも、今となってはその使命を飛び越えて裏から世界を動かす嫌われ者だからな。今のギャラルホルンを良く思わない者は、決して少なくない」

 

トドの手で何とか正気を取り乱したアグニ会会長…仮面の男は、打って変わって冷静にそう評した。

 

「ただ、あそこで部下を黙らせたのはアリアンロッドの司令官ラスタル・エリオンだろうな。--昔から、真意の読めん男だよ」

「? 旦那、あのラスタルとか言う奴と知り合いで?」

「ああ、昔に少し話をしたくらいだがな。あの時の私はまだ幼かったから、記憶も不鮮明だが。--しかし、流石は『革命の乙女』だな」

 

未だモニターに映るクーデリアを見据えながら、仮面の男は口角を上げる。

 

「彼女なら、鉄華団なら。そして、アグニカ・カイエルならば!!! この世界を変えてくれるかも知れんな」

 

アグニカ・カイエルの部分を超強調しながら、仮面の男はそう呟く。

呟く、と言うよりは叫んだが。

 

「--ですから旦那。300年前にいたアグニカ・カイエルが生きてる訳無いでしょう。現実を見ましょうよ。アグニカ決めてるだけですって」

「見ているッ! なればこそ、私はあの白青の機体のパイロットはアグニカ・カイエルだと断言するのだ!!」

「でえすから、人間は140年しか生きられないですって言ってますでsy」

「アグニカは人間を超越した! それ即ち、神!! アグニカは神なのだよ!!」

「ああハイハイ、そうすね凄いっすねアグニカさんは。ほらほら旦那、バカな事言ってないで仕事して下さいよ」

 

トドは、「身の振り方間違えたかねえ?」と本気で自分の人生を振り返り始めるのだった。




アグニカポイント新規取得
三日月・オーガス 90AP
明弘・アルトランド 90AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
アラズ・アフトル 10AP
ノルバ・シノ 10AP
アイン・ダルトン 10AP
アリアンロッド艦隊MSパイロットの皆様 10AP
MSを強奪したコロニー労働者の皆様 10AP

アグニカポイント特別取得
アラズ・アフトル 150AP
※アグニカ決めてる。
マクギリs…仮面の男 100AP
※アグニカ関連の狂化。盲信と狂信の混同は不可。
クーデリア・藍那・バーンスタイン 50AP
※演説でアグニカ・カイエルの名前を出した。
トド・ミルコネン -10AP
※アグニカの生存説を否定。許さん(by 仮面)。


マッキー仮面の男、壊れる。
彼がアグニ会会長からアグニカ教教皇となる日も、そう遠くはないでしょう。
勝手に祀られたアグニカ・カイエル氏には、「ご愁傷様」との言葉を贈らせて頂きます。

それと、初代ボードウィン当主の名前はオリジナル設定です。
初代当主、クリウス・ボードウィン。
とりあえずキマリスに乗って突撃し、敵MAに風穴を開けまくった人間ダインスレイヴさん。

こんな感じでお願いしまーす!(爆)
いや、マジで。


次回、「心配停止! 仮面の男、死す!」。
デュエルスタンヴァイッ!!


--ウソです。
次回、仮面の男が鉄華団と接触します。
仮面の男、一体何ギリス・ファリドなんだ…?


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地球降下編
#18 仮面の男


前回のあらすじ
仮面の男(マッキー)、アグニカ教教皇へ

私がちょこっとプレイしている「ガンダムウォーズ」なるゲームで、バエルのピックアップが始まりました。
とりあえず一度回しました。
爆死しました。
ちくせう。
アグニカポイントが足りなかったか…とりあえず、出るまで回します。


ラスタル・エリオン率いるアリアンロッド艦隊の包囲を無事突破し、イサリビは引き続き地球に向かっていた。

 

だが、問題が有る。

 

元々は地球軌道上に有る2つの共同宇宙港のどちらかで降下船を借り、地球に降りる手筈だった。

しかし、コロニーの件で目を付けられた以上それは不可能になってしまった。

 

「じゃあ、どうすれば…?」

 

全員が頭を捻らせていた、その時。

 

「エイハブ・ウェーブの反応。輸送船が近付いて…通信です」

「通信?」

「開け」

 

フミタンがコンソールを操作すると、モニターに仮面の男が映った。

 

『うおっ!?』

「ぶはっ」

 

全員が驚き、アラズが吹き出した。

 

『突然に申し訳ない。モンターク商会の社長、モンタークと申します。現在、貿易商を営んでおります。そちらの代表者と、お話がしたいのですが』

「タービンズの、名瀬・タービンだ。貿易商が、我々に何の要件で?」

『実は1つ、商談をと思いまして』

 

 

 

 

ボードウィン家の戦艦スレイプニルのMSデッキで、アイン・ダルトンは傷付いたガンダム・キマリスとシュヴァルベ・グレイズを見上げていた。

 

「無理はするなアイン。傷に障るだろ?」

 

アインの下に、ガエリオが近づいて来る。

先の戦闘でアインは負傷し、しばらくベッドに寝かし付けられていたのだ。

 

「申し訳ありません、ボードウィン特務三佐。またしても、あのような者達を相手に不覚を…」

「? 何故謝るんだ、アイン?」

 

心底不思議そうに、ガエリオは首を傾げた。

 

「それは、俺を守ったが故に付いた傷だ。むしろ、謝るのは俺の方だろう。ガンダム・キマリスまで持って来たと言うのに、この体たらく。敵側にガンダムが2機いたとしても、キマリスなら何とか出来たハズ…いや、何を言っても言い訳だ。お前に借りが出来てしまったな」

 

こちらを気遣うガエリオの言葉を聞いて、アインは俯く。

 

「…私も…私も『阿頼耶織』の手術を受ければ、あんな風になれるのでしょうか?」

「オイ、何を言い出すんだアイン。気持ちの悪い事を言うな、あんな物を体に埋め込んだら人間ではなくなってしまう」

 

厄祭戦以後、人体改造は禁忌とされて来た。

だからこそ、ギャラルホルンは「阿頼耶織」の要らないMSフレームであった「ヴァルキュリア・フレーム」を素体として「ゲイレール・フレーム」を開発したのだ。

そのゲイレール・フレームが発達した結果、今のグレイズ・フレームが有る。

 

「人間ではない…その言葉は地球出身の同僚たちにも言われてきました」

 

アイン・ダルトンには、半分火星の血が流れている。

地球人は地球出身の純粋な血しか本来認めておらず、それは火星でも変わらない。

火星人の母を持つアインは、ギャラルホルンの士官であった父のおかげで入隊させてもらった。

 

しかし、差別は続く。

 

「そんな俺を、クランク二尉だけは対等に扱ってくれたんです。クランク二尉は、俺にこう教えてくれました。『良いかアイン、人間としての誇りに出自など関係ない。人間なんて1人1人違う、元々一括りなどには出来ない者だ。自分自身が正しいと思う道を選べ。周囲に惑わされず、お前と言う人間の生き方を見せるんだ』って」

 

それから、アインは自分を取り戻す事が出来た。

アインに取って、クランクは恩師そのものなのだ。

 

「周りからどう見えても良い。俺は俺の考えを…」

「まるで、俺がお前をバカにした連中と同じだと言いたげだな」

「い、いえ決してそのような事は!?」

「いや、良いんだ。俺は、お前のような男を初めて見た。お前の言う通り、鉄華団は絶対に我らの手で倒さねばな」

 

と、2人は拳を握り締める。

 

「しかし、このまま行けば地球外縁軌道統制統合艦隊のテリトリーです。如何にセブンスターズと言えど、勝手な行動は許されないのでは?」

「ああ。だが、策はもう講じてある。地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官であるカルタ・イシューは、俺とマクギリスの幼なじみなんだ。既に交渉は済んでる。地球外縁軌道統制統合艦隊と協力して、鉄華団を叩き潰す」

 

マクギリスの講じた策は完璧だ。

次こそ、鉄華団に未来は無い。

 

彼らは、そう思い込んでいた。

 

 

 

 

「改めましてモンターク商会の社長、モンタークと申します。またお会いしましたね、クーデリア・藍那・バーンスタインさん」

「…? クーデリア、知り合いか?」

「ドルト3のコロニーで、一度お会いしました」

 

オルガの問いに、クーデリアはそう返す。

顔見知り、と言った所だろう。

 

「で、商談ってのは?」

「私には、地球降下船を手配する用意があります。貴女の革命に是非助力したいのですが」

「パトロンの申し込みか? コイツは商談じゃあなかったのか?」

「勿論、商談です。革命成功の際にノブリス・ゴルドン氏とマクマード・バリストン氏が得るであろう、ハーフメタル利権。その中に私のモンターク商会も加えて頂きたい」

 

ハーフメタル利権を目当てに、モンターク商会は接触して来た。

そう考えれば、確かに説明は付く。

 

「まだ、始まってもいない交渉が成功すると?」

「ええ。少なくとも、私はそう考えております。ドルトコロニーでもその兆候は見られましたし、何より貴女には鉄華団と言う強力な助っ人がいる」

「--返事は、いつまでに?」

「現在、貴女方を追撃する為に地球外縁軌道統制統合艦隊がこちらに向かっているようでして。こちらも戦渦に巻き込まれたくはないので、出来る限り早急にお願いします」

 

そして、モンタークは部屋を去った。

 

モンターク商会はこちらと関係を取り付けるべく、様々な物資を無償提供して来た。

ハーフメタル利権を得られれば、利益は充分に上がるからとも言えるが。

 

オルガとビスケットが、モンタークの案内で廊下を歩いていると。

 

「アラズさん、ミカ。荷物の方は?」

「とりあえずの運び込みは済んだ。今、おやっさん達が中身を確認してる」

「--ねえ。何でチョコの人がいるの?」

「「な!?」」

 

三日月、あっさりとネタばらしする。

いや、あっさりと見抜いた。

 

対するモンターク…マクギリスは、仮面の目を隠す部分を開ける。

 

「流石だな、君は。双子のお嬢さん達は元気かね?」

「うん、火星で元気にしてるよ」

 

真っ先にクッキー&クラッカの心配をするロリコンの鏡、マクギリス・ファリド。

 

「って、あの時のギャラルホルン!?」

「ギャラルホルンだと? まさかアンタ、俺らを罠に掛けるつもりで…!?」

 

ビスケットとオルガは、一気に仮面の男マクギリスを警戒する。

 

「そんな小細工をしても、君達は突破してしまうだろう」

「ふむ。では、何が狙いだ?」

「--嘘を言っても、貴方は分かるのでしょうね。私は、現状の腐敗したギャラルホルンを変革したいと考えている。より自由な、新しい組織として。君達にはクーデリア・藍那・バーンスタインとアーヴラウ代表の蒔苗東護ノ介によって行われる交渉を成功させると共に、ギャラルホルンの権威を堕とす手伝いをしてもらいたい」

 

外側から革命の意志を見せる事で、ギャラルホルンを揺るがせと言う事だ。

 

「そんな事、俺達なんかに…!」

「現に、コロニーではそれをやってのけアリアンロッドを退けた。地球外縁軌道統制統合艦隊が動くなど、前代未聞と言っても良い珍事だ。だからこそ私は、君達とクーデリア嬢に手を貸す。利害の一致と言う奴だよ。まだ、信用ならないかね?」

「そんなの分かんないよ」

「フフフ…まあ、よくよく考えてくれたまえ。ああそれと、私の正体については内密に。もしこれが破られるならば、この話は無かったモノとさせてもらう」

 

そして、マクギリスは仮面で目を隠して去って行った。

 

「--どうする?」

「危険な賭けだが、ギャラルホルンに目を付けられた以上乗るしか無いのも確かだ。その辺りは、クーデリアの判断にもよるがな」

 

 

 

 

「モンターク商会。100年以上の歴史を持つ、商人の間でも信頼性の高い老舗商会。何の問題も無い一般企業だ、表向きはな。全く、アイツらまた厄介な事に巻き込まれやがって」

 

モンターク商会について調べ上げた名瀬は、そう困ったように言った。

 

「手のかかる子程可愛いんだろ、アンタはさ」

「でなきゃ、お前みたいな暴れ馬には恐ろしくて手を出せないさ」

 

グラスを煽りつつ、名瀬はクーデリアに結論を促す。

 

「モンターク商会の件、取れるだけの裏は取った。それでも、危険な賭けだぜ」

「他に、手は無いのでしょう? 利用出来る者は、最大限利用させてもらいます」

「成る程、確かにな。毒を食らわば皿まで、か」

 

モンターク商会との商談は成立した。

後は、地球外縁軌道統制統合艦隊をかいくぐって地球に下りるのみである。

 

 

 

 

「アリアドネに反応、エイハブ・ウェーブ確認。報告にあった船と一致しました!」

「来たわね来たわね~!」

 

心底嬉しそうに、地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシューはそう言う。

 

『カルタ、そちらはd』

「カルタ・イシュー司令よ!!」

『……カルタ司令。ご準備は整いましたか?』

「ええ、勿論よ。我々の作戦への参加を許可したのだから、最大限働いて見せなさい」

 

面倒臭そうに、ガエリオはカルタに話を合わせる。

 

「それより、マクギリスはどうしたのよ!?」

「マクギリスは休暇中だ」

「…そう、ああもう! こうなったら、マクギリスが復活する前に奴らを仕留めてやるわ!! 我ら、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「全員、配置に付け!!」

『は!!』

 

そうして通信は切れ、地球外縁軌道統制統合艦隊は作戦行動を開始した。

 

「…不安しか無い」

 

通信を終え、ガエリオは頭を抱える。

地球外縁軌道統制統合艦隊は、新型のグレイズ・リッターが配備される程の戦力は有るものの実戦経験が少ない。

 

作戦通り追い詰めても、最後に切り抜けられる可能性が有る。

 

『ガエリオ特務三佐。目標艦のエイハブ・ウェーブを捉えた、との報告が入りました』

「良し、行くぞアイン!」

「は!」

 

 

 

 

「他者の心を掌握し、その先の行動を操るのは容易だ。過去を紐解く。ただそれだけで、対象者が掴む選択肢の予想は簡単につくモノだ」

 

戦闘宙域より離れた場所に来た輸送船から俯瞰しながら、モンタークはそう呟く。

 

「嫉妬、憎悪、汚辱に恥辱。消えない過去に縛られて、輝かしいハズの未来は全て愚かしい過去の清算のみに消費される。それは、私とて同じ事だ。鉄華団。君達の踏み出す足は、前に進んでいると思うか? もし、そう本気で信じているのなら--」

 

モンタークは笑みを浮かべ、こう締めた。

 

 

「それを見せてくれ、私に」

 

 

 




マッキーの心の声(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け…ここで発狂したら、間違い無く引かれる--それ即ち世界の終わり、我が目論みの終焉だ。だから落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け…!!)
アラズ(このチョコロリコン仮面、目が怖ェ)


次回。
初代ガンダムから代々伝わるガンダムの伝統芸、大気圏突入です。


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#19 大気圏突入

地球降下編、これにて終了。
短いなあ。

アラズに異変が…!?


地球外縁軌道統制統合艦隊は、敵艦を捕捉した。

 

「来ました、奴らです!」

「停船信号、発信!」

 

旗艦から停船信号が発信されるが、鉄華団側の応答は無い。

 

「応答有りません!」

「鉄槌を下してやりなさい! 砲撃開始!」

 

カルタの命の下、戦艦7隻が一斉射撃を開始する。

それは向かって来る鉄華団の船に直撃し、爆発して煙が周囲にまき散らされた。

 

「やったか!?」

「--いいえ、まだよ! 砲撃、続けなさい!! 撃沈するのよ、撃沈撃沈撃沈!!!」

「エイハブ・ウェーブの反応が2つ…カルタ様、敵は2隻です! 1隻が盾となっています!」

「何!? い、いいえ! まとめて撃沈なさい!」

 

鉄華団はブルワーズより没収した船を使って、イサリビの盾としている。

カルタはそのデタラメな戦術に一瞬驚くが、すぐ立て直して迅速に指示を出す。

 

「クッソ、攻撃が止まない! ユージン、このままじゃブルワーズの船が保たねえぞ!」

「んな事ァ見りゃ分かる! 前の船のコントロールも寄越せ! オルガに任された仕事だ、ここでカッコ付けなくてどうする!?」

「ああもう、知らねえぞ!!」

 

ユージンは阿頼耶織で2隻を制御し、ブルワーズの船の陰にイサリビを隠しながら地球外縁軌道統制統合艦隊に突撃する。

 

「今だ!」

「あいよ! 起爆!!」

 

ブルワーズの船が起爆し、細かな金属片が宙域にばらまかれる。

 

「各艦とのリンク、途絶!」

「センサー類、機能停止! ナノミラーチャフです!」

 

ナノミラーチャフ。

ナノラミネートアーマーに用いられる粉末状の素材を利用した対レーダー用デコイである。

エイハブ・ウェーブの影響下で、レーザー通信や光学探知を妨害する事が出来る。

 

「あれは、実戦で使えるような代物ではなかったハズなのですが…!」

「今、有効に使われているじゃない! 良いから撃って、古めかしいチャフを焼き払いなさい!!」

 

カルタの迅速な命令で行われる射撃で、チャフは延焼して焼き払われて行く。

 

「センサー類、回復!」

「捕捉をし直しなs」

「敵艦の残骸がこちらに--熱源反応、起爆します!」

 

ブルワーズ艦の残骸が爆発し、周囲が煙に覆われる。

 

「ぐ--捕捉、やり直しなさい!」

「発見しました--が、これは!? 敵艦、グラズヘイムⅠに特攻して行きます!!!」

「はあ!!?」

 

チャフが展開された間に防衛線を突破したイサリビは、その後ろで衛星軌道に乗っているグラズヘイムⅠに特攻を仕掛けていた。

 

「総員、対ショック姿勢!!」

「おらあああああああああ!!!」

 

 

そして、イサリビはグラズヘイムⅠに突撃した。

 

 

そのまま表面をえぐるようにグラズヘイムを回転させ、即刻宙域を離脱して行った。

 

「グラズヘイムⅠ、軌道からズラされました! 重力に捕まっています!」

「グラズヘイムⅠからの救難信号、受信!」

「ッ、やってくれたわね…! MS隊発進後、全艦はグラズヘイムⅠの救援に向かいなさい!」

 

戦闘の様子をモニターで確認しつつ、オルガ達降下隊は行動を開始する。

 

「最ッ高にイカしてたぜ、ユージン! 俺らも負けてらんねえぞ!」

『敵MSが2機、こちらに来てる。エイハブ・ウェーブからして、キマリスとシュヴァルベだ。三日月、シノ』

『うん』

『おうよ!!』

 

三日月のバルバトスとシノの流星号が、敵の迎撃に向かう。

 

『…オイ、ほっといて良いのか?』

「大丈夫だって。おやっさんと一緒に考えたキマリス対策の追加アーマーも有るし、シノの方は何となく根性で」

『シノの方、適当過ぎない…?』

 

ヤマギの言葉を聞き流しつつ、アラズは一口水を飲んでから観測に戻った。

 

「この反応…突撃態勢の編隊か。行くぞ、昭弘!」

『まあ、行くしかねえからな!』

 

グシオンを引き連れて、テルギアも迎撃に出る。

 

「オラオラ!」

『ちょっと、数が多s--減ってね?』

 

テルギアが一度斧を振るうごとに、敵の数が減って行く。

グシオンも射撃で援護し、3機のMSを撃ち落とす。

 

「んん? 別のエイハブ・ウェーブ? これは…」

『何だい、もうほとんど残ってないじゃないか』

『ちぇっ、少しは出番くれても良いじゃん』

 

現れた2機のMSが、残った部隊を一掃する。

 

『アンタらは…!』

『やっほー、昭弘。コイツは百練改め「漏影」。よろしく~』

 

操縦するのは、タービンズのラフタとアジーだ。

テイワズである事をバラさないべく、偽装してやって来たのだ。

 

「悪いな、助かった」

『一瞬で敵の陣形を崩したのは、アンタだろう』

「ああ、あの陣形は左から3番目をつつくと崩れるぞ」

『…す、すげえ……』

 

 

 

 

キマリスは追加ブースターを全開にし、バルバトスを貫くべく襲い掛かる。

 

「チ、前より速い…!」

「さあ、引導を渡してやる!」

 

正面から突撃し、キマリスはバルバトスのコクピットを貫こうとする。

そして、バルバトスの胸部装甲にキマリスのグングニールが深々と突き刺さった。

 

「よし、チャンス」

「!?」

 

バルバトスの胸部装甲がパージされ、バルバトスは左手でグングニールを掴む。

 

「まさか、反応装甲(リアクティブアーマー)だと!?」

「じゃあ、こっちの番だ。ブッ潰す!」

 

右手のメイスでキマリスにグングニールを手放させ、続けてキマリスのブースターにメイスを突き出してパイルバンカーで破壊する。

 

「が!?」

 

爆発で怯んだ所に両腕の迫撃砲を撃って更に追撃し、トドメとして奪ったグングニールを投げ返す。

 

「しまっ…」

 

避ける暇さえ無く、キマリスに向かってグングニールが突き進み--

 

 

「特務三佐あああああああああ!!!」

 

 

そのコクピットを貫く直前。

シノの流星号を圧倒していたハズのシュヴァルベが滑り込み、キマリスを突き飛ばした。

 

「…!?」

「ぐはああああ!!」

 

身代わりとなったシュヴァルベの腰にグングニールが突き刺さり、シュヴァルベは停止する。

 

「アイン!!」

 

キマリスはシュヴァルベからコクピットブロックをえぐり出し、そのまま撤退して行った。

 

「チッ、ガリガリが…!」

『よう三日月、大活躍じゃねェか』

 

バルバトスの側に、テルギアが寄って来る。

 

「? 教官、そんなの掴んでどうするの?」

『いや、持ち帰ろうかなーと。何かな、シュヴァルベって大気圏内でも飛べるって小耳に挟んだんだ』

 

シュヴァルベ・グレイズには、高出力のフライト・ユニットが背中に搭載されている。

ただし推進力のみで機体を浮かせている為にパイロットの負担が大きく、コントロールにも高い練度が必要となるが。

 

アラズならまあ、問題無いだろう。

 

『ミカ、アラズさん。敵の増援だ』

「分かった、オルガ」

『増援? 地球外縁軌道統制統合艦隊か?』

 

と、アラズはエイハブ・ウェーブの反応が有る方を見る。

そちらには。

 

 

『長蛇の陣にて、敵を殲滅する! 全機、吶喊せよ!!』

『獅子奮迅、疾風怒濤!!』

 

 

腰のアタッチメントからナイトブレードを引き抜きながら、吶喊して来るグレイズ・リッターの部隊がいた。

 

『ッ、数が多いn--え? 教官?』

 

それを見るなり、アラズは突撃を開始する。

 

 

『ひゃっはー!! その剣寄越せェえええええええええええええええ!!!』

 

 

などと叫びながら。

左手で、シュヴァルベを持ったままで。

 

『な、何だあのシュヴァルベを持った白と青のグレイズは!?』

『狼狽えるな、カルタ様の空で好き勝手をさせる訳には行かん!!』

『勇猛果敢、疾風迅雷!!』

石頭(バカ)どもめ、そんな対MA用戦術で何が出来る!? 300年前の戦術では、俺は倒せん! その剣寄越せ、もっと有効活用してやらァ!!!』

 

テルギアは一番手前のリッターの右腕を斬り飛ばし、右手のバトルアックスを放して飛んだ右腕から零れたナイトブレードを掴む。

そのまま右腕を失ったリッターに剣を叩き込み、スラスターを潰されたリッターを蹴って接近し、次のリッターの腕をナイトブレードで吹き飛ばした。

手に持つナイトブレードを背中のブースターに有るアタッチメントにくっつけ、また飛んだ腕からナイトブレードを強奪して目の前のリッターに剣を叩き込む。

 

そんな感じで片手だけで凄腕の親衛隊機から剣を強奪し続ける事、実に4回。

追加ブースターのアタッチメント2つと腰のアタッチメント2つに1本ずつナイトブレードを懸架してホクホクなアラズは、グングニールが突き刺さったままのシュヴァルベを持って降下用のランチに合流した。

 

「よーし、行くぞ地球へ」

『逃がすなああああ!!』

『うおおおおッがあ!?』

 

ナイトブレードを奪われなかった機体の1機が、別方向からの射撃によって撃破される。

 

『上からだと!?』

 

上から来たのは、深紅のMS。

手に持つライフルを腰にマウントし、両手に付けられたシールドにマウントされた2本の黄金の剣を構える。

 

『あの機体は…ぐはッ!?』

 

その剣を巧みに操り、深紅のMSはリッターの1機を撃破する。

 

『あの機体--グリムゲルデか。クソ、相変わらず良い剣持ってんなあチクショウ!!』

 

心底悔しそうに、アラズは叫ぶ。

グリムゲルデは三日月のバルバトスを援護し、背中合わせとなる。

 

「チョコレートの人?」

『ほう、分かるのか。凄まじいなその感覚、アグニカを感じるぞ』

『アグニカを感じるって、何? それはともかく、そろそろ限界高度だぞ』

 

大気圏に突入を開始し、大気との摩擦熱が機体を赤く染め上げる。

 

『ここまでだ、下がれ! 地球に殺されるぞ!』

 

地球外縁軌道統制統合艦隊の親衛隊も、限界高度と有って撤退を開始した。

 

『チョコレートの人も、もう良いよ』

『そうか。では、お言葉に甘えさせて頂こう。それではまた』

 

グリムゲルデは剣をしまい、全身のバーニアを吹かして上昇して行った。

 

『ここから軌道上に戻れるとは…相変わらず、バカげた推進力だな』

『教官、機体は大丈夫?』

『大丈夫だ、問題無い』

 

フラグとも取れる台詞を返しているが、テルギアはしっかり固定されている。

バルバトスもランチに合流した、その時。

 

『オイ、何してるんだ!?』

『手ぶらでは帰れん! ここはカルタ様の空だ!』

『よせ、止めろ!!』

 

親衛隊の1機が、ナイトブレードを構えてランチに吶喊して来る。

 

『ッ、根性の有る奴! だが甘いな、三日月』

『うん』

 

バルバトスはシュヴァルベからグングニールを引き抜き、接近するリッターにブン投げる。

 

『うおおおお!!』

 

リッターはグングニールを腹に受けたが、速度は落ちない。

そのまま、ランチに向かって来る。

 

『落ちろおおおおおおおおお!!』

『させない…!』

 

バルバトスはランチへの機体固定を中断し、リッターのナイトブレードを左腕で受け止める。

ナイトブレードはバルバトスの装甲に深くめり込み、固定されてしまう。

 

『しm…!?』

『教官!』

『ほっと』

 

テルギアは強奪したナイトブレードを引き抜いて右手で突き出し、リッターのコクピットの操縦席に座るパイロットの心臓を寸分違わず貫いた。

 

バルバトスは左腕にナイトブレードがめり込んだ事を気にせず、リッターを蹴り飛ばす。

リッターの手はナイトブレードを放し、機体は大気圏のどこかへ消えて行った。

 

バルバトスは無事ランチに掴まり、機体を固定する。

 

『教官、剣がもう1本増えたよ』

『ナイス。全く、危機一髪だったぜ。地球外縁軌道統制統合艦隊、侮れんな』

 

やがて大気圏を抜け、地球に入った。

鉄華団が初めて見る地球の風景は、美しい夜の海だった。

 

『っしゃあ! 地球だあ!』

『--久し振りだな、この感じ。三日月、あっちを見てみろ。あれが、「三日月」って奴だ』

 

アラズは、モニター越しにそれを指差す。

 

 

その先には、夜空に輝き海にも映る煌々とした三日月が有った。

 

 

『--へえ。あれが…「三日月」』

『ああ。厄祭戦の影響で霞んじまったが--綺麗だろ?』

『うん…凄い、綺麗だ』




アグニカポイント新規取得
マクギリス・ファリd…モンターク 500AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
ノルバ・シノ 40AP
アラズ・アフトル 10AP
アイン・ダルトン 10AP
地球外縁軌道統制統合艦隊親衛隊の皆様 10AP

アグニカポイント特別報酬
アラズ・アフトル 200AP
※剣を収集。それにより、妖怪剣置いてけ(ソードハンター)の称号を獲得。


マクギリス、アグニカを決める。
剣の二刀流とか、確実にアグニカ決めてますわ。

次回、いよいよ地球編。
カルタ様の大暴れは終わらない!!


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地球編
#20 決断


今回から、地球編開始です。
戦闘が無い回ですね。


スレイプニルに帰還した後、アインはすぐに集中治療室へ放り込まれた。

一命こそ取り留めているが、アインの容体は酷かった。

 

「特務三佐、どうか落ち着いて聞いて下さい。我々は、あらゆる手だてを講じております。ただ臓器の大半が機能不全となり、全身の壊死も始まっています。このままでは、アイン・ダルトンはs」

「フザケるな、何としても元に戻せ! 言い訳は聞かん、元に戻せと言っているんだ! 戦士として戦場に戻れる体に…上官の敵を、討てる体に! このまま、このまま終わらせる訳には行かないんだ…!!」

 

医師に掴みかかり、ガエリオは叫ぶ。

 

「しかし、ここまでの怪我では機械的に延命するしか方法は…!」

「機械的…!? アインを機械仕掛けの化け物にするつもりか!?」

 

ガエリオに取って、機械になると言う事は人間をやめる事と等しい。

それに、ギャラルホルンが禁じている人体改造をセブンスターズが破る訳には行かない。

 

『ガエリオ特務三佐。マクギリス・ファリド特務三佐より通信です。至急、ブリッジへお越し下さい』

「…? マクギリスから…?」

 

艦長の艦内放送が、医務室にも響く。

困惑しながら、ガエリオがブリッジに行くと。

 

『やあ、ガエリオ。少しばかり進捗状況を確認しようかと思って通信したが、艦長から話は聞いた。アイン・ダルトンの件--何とかなるかも知れん』

「…!!? 本当か!?」

『ああ。人道的な方法で有るかは疑問が残るが』

 

そして、マクギリスはこう提示した。

 

 

『「阿頼耶識システム」。あのシステムなら、全身が動かなくともMSを動かす事が出来る』

 

 

「…なん、だと……!?」

 

友人の口より発された言葉に、ガエリオは固まる。

 

『元々「阿頼耶識」を始めとする人体改造は、厄祭戦後にギャラルホルンが意図的に広めたモノだ。その全ては、アグニカ・カイエルとその同士--初代セブンスターズの意向だ。自らのような者は、もう要らない時代だとな』

「--以外だな、マクギリス。アグニ会会長で有るお前が、アグニカの意思に逆らうような提案をして来るとは」

『偶々、アイン・ダルトンを生かす為の唯一の手段が阿頼耶識だったと言う事だ。私とて、アグニカの意思には逆らいたくはない。これは致し方ない事なのだよ、ガエリオ。お前とて理解はしているハズだろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ガエリオは歯噛みする。

それは、ガエリオが目を背けていた事だ。

 

最早「阿頼耶識」しか、アインを生かす術は無い。

 

『ガエリオ、時代は変わったのだよ。今の世界は、再び阿頼耶識が必要な時代へと逆行している。それを引き寄せる元凶こそが、クーデリアと鉄華団だ。そして、それを撃破して世界の秩序を守る存在こそがギャラルホルン。大義を成し遂げる為には、ある程度のリスクが必要だ』

「………ッ!!」

 

ガエリオは、決断を迫られている。

 

 

 

 

「い~やいやいやいや、よう来て下さった。儂が蒔苗東護ノ介だ」 

 

鉄華団は、件の蒔苗東護ノ介と面会していた。

太い眉毛にクソ長いヒゲを蓄えた、サンタになる為だけに存在するかのような老人だ。

 

鉄華団側のメンバーは団長のオルガと参謀のビスケット、何故か連れて来られたアラズにテイワズ代表のメリビット、クーデリアとフミタンである。

 

「待ちわびておったよ、長い事な。腹は減っとらんか?」

「ああ、魚の差し入れはどうも。美味かったぞ」

「ほっほ、それは何より」

 

蒔苗の言葉に、アラズがそう返す。

 

「蒔苗さん。悪いんだが、あんまりゆっくりする時間は俺達には無いぞ」

「ふむ。ギャラルホルンの事ならば、心配要らん。ここはオセアニア連邦の管理地域でな。連邦の許可が無ければ、ギャラルホルンとて自由に出入りする事は出来ん」

 

いかに「世界の警察」と言って良いギャラルホルンと言えど、軍を動かす為には各地域の許可がいる。

 

「けど、オセアニア連邦が俺たちを匿う理由も無いでしょう?」

 

のんびり話を進める蒔苗にイラついているのか、オルガが急かすように問う。

 

「ところが大あり。寧ろ、お前さんらに表彰状でも渡したいくらいには連邦は感謝しておるよ。どうも、ドルトの改革が上手く運んだようでな」

 

あそこまでの大事になってしまえば、ギャラルホルンとて隠蔽は不可能。

結果、労働者達の要求が呑まれるのを指を咥えて見る事しか出来なくなったのだ。

 

地球側が指示するのは変わらないが、成功と言って良い結果だ。

ブラックな労働環境の改善で、一時的にドルトの生産力は落ちる。

アフリカンユニオンに取っては大きな痛手だが、他の経済圏に取っては万々歳。

その呼び水となった恩人をギャラルホルンに売り渡すような真似を、オセアニア連邦はしない。

 

要するに、儲けさせて貰えるから歓迎するよと言う事だ。

 

「いや~愉快、実に痛快! それで…ふむ、何だったかな? お前さんらが来た理由は」

(時々ボケて油断を誘っているつもりか…? このジジイ、食えんな)

 

アラズが胡散臭い奴を見る目で蒔苗を見据えるが、蒔苗は全く動じない。

 

「それは、アーブラウとの火星ハーフメタル資源の規制解放の件で…」

「おお、そうだったそうだった。それはもう、儂に取っても実現したいと常々考えておった事だ」

 

と言ったものの、次にはこんな事を言った。

 

 

「だが、今は無理だな。儂は今、失脚して亡命中の身。つまり--()()()()()()()()()()()()

 

 

「--は?」

「オイオイオイオイ、何だそりゃ? 要するに、お前は今ただただヒゲがスゴいだけの普通のジジイって事か」

「うむ、そうなるのう」

 

アラズの失礼な言葉を、蒔苗は否定する事も無く頷く。

 

「ちょっと待て! それじゃあ、俺達は何の力も無い爺さんに会う為にわざわざこんな所まで来たって事なのか!? 俺達が今までやって来た事は、無意味だったって事か!?」

「やれやれ、若者は気が早くていかん。()()()()()()()()()。まだまだ残っておるよ、逆転の目はな」

 

蒔苗が提示したのは、全体会議。

近々、カナダのアルバータ州の州都エドモントンにてアーヴラウの代表指名選挙が行われる。

それまでにエドモントンに行かねばならないので、その道中の護衛を依頼したいと言う。

 

「よし良いな、それで行こう」

「ちょ、アラズさん!? 何を勝手に…!」

「戦争であれ政治であれ、速度ってのは大事だ。今回のアーヴラウ代表選に立候補しているアンリ・フリュウは、ギャラルホルンと癒着しているとか。こちらの動きにギャラルホルンが感づく前に、さっさとエドモントンに入ってしまうのが一番手っ取り早く安全だ」

「ほほう。お前さん、なかなか分かっておるのう」

 

速やかに賛成するアラズ。

対して、オルガ達はまだ決めかねている。

 

「で、ヒゲジジイ。選挙の勝算は?」

「ヒゲジジイとは、これまた酷い言い草だのう。勝算はほぼ10割、と言って良い。アーヴラウの議員達は、ギャラルホルンを良く思わない者が殆ど。アンリ・フリュウを支持しておるのも、ギャラルホルンに取り入ろうと企む極一部の者のみだ」

 

つまり、連れて行けさえすれば何とかなると言う事だ。

 

「--乗る価値は有りそうですが…?」

 

フミタンが、クーデリアとオルガに確認を取る。

クーデリアとオルガは、決断を迫られている。

 

 

 

 

その日の夜。

バルバトスとグシオン、流星号の整備を終えた雪之丞は、アラズの頼みでテルギア・グレイズを改修していた。

 

何でも、阿頼耶識を組み込むとの事だ。

シノの流星号と言う前例が有るので、すぐ終わるだろうとも。

 

MWの1機とコクピットブロックを入れ換える形で、改修は順調に進んでいた。

 

「オルガは、どうするって?」

「ああ。蒔苗の依頼、引き受けるらしいぞ」

「そうか--だが、ビスケットは反対なんだろ?」

 

雪之丞の問いに、アラズは苦い顔をする。

 

「そう、言ってたな。おやっさん、もしかして相談でもされたのか?」

「何でおめえはそう言うの分かるんだ? 相談されたよ…だが、迷いは無くなったみてえだ。俺らはただ、アイツらが死なねえように助けるしかねえ。コイツの改修も、その1つ何だろ?」

「ご明察。まあ、グレイズ・フレームはガンダム・フレームと違って阿頼耶識による運用を想定してないから、少しのミスマッチングは否めないんだが」

 

2人して、コクピットブロックの固定にかかる。

 

「--なあ。アラズって名前、本名じゃねえだろ」

「ほほう。これはまた、珍しく面白い事を言うなおやっさん。その根拠は?」

「根拠は無えが…10年前に何となく、呼ばれ慣れて無いような素振りが有ったような気がしてなあ」

 

雪之丞の推察に、アラズは一瞬考えてから。

 

 

「ああ。アラズ・アフトルってのは、最初に名乗った時に考えた名前だ。本名じゃない」

 

 

と、雪之丞の推察を肯定した。

 

「じゃあ、本名は何て言うんだ?」

「本名は--いや、止めとこう。俺が本名を名乗ったら、世界の情勢は大きく変わる。来るべき時が来たら、堂々と名乗ってやらァ」

 

そして、作業は完了した。

 

「阿頼耶識、マッチングオールグリーン。おやっさん、手伝わせてすまねェな」

「気にすんな。だが、いつまでも本名を隠してるのはどうかと思うぜ」

「だから、来るべき時が来たら名乗るって。全員が腰を抜かすような名前だ、楽しみにしといてくれ」

「アラズさん! アラズさーん!」

 

その時、団員の1人がやって来た。

 

「ようライド、どうした?」

「ああ、やっと見つけた! 大変です、ギャラルホルンが来ます!」

「--何? あのヒゲジジイ、断言してたくせにダメじゃねェか」

 

そっと蒔苗をディスりつつ、アラズはライドに続きを聞く。

 

「で、誰が来るって? オセアニア連邦の圧力を諸ともしないような奴だ、さぞかし偉いんだろ?」

「は、はい…えーっと、確か--そうだ! 地球何チャラ艦隊のバカダ・コイツー!」

「--地球外縁軌道統制統合艦隊の、カルタ・イシューな。流石はセブンスターズ第一席イシュー家、たかが1経済圏を敵に回しても痛くも痒くも無いってか? しかし、どう出て来る…? パイモンとか出されたら、面倒になって来るが…」

 

鉄華団に、安全な場所など無いのだった。

 

 

 

 

「逃がしはしないぞ鉄華団、このカルタ・イシューの名に賭けて! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

「さあ、捻り潰してあげるわ!!!」




この間に、ビスケットとオルガの衝突が有ったりします。
原作と同じなのでカットさせて頂きました、ご了承下さいm(__)m

次回、カルタ様無双。
残念ながら、ここはニチアサじゃ無いんだよなあ。


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#21 地球外縁軌道統制統合艦隊

カルタ様、強く生きろよ!


その日の夜。

モンタークは、トドにこう伝えた。

 

「お嬢様は、地球での足を所望だ。早急に手配を頼む」

「へいへい、っと…しっかし、旦那も物好きですよねえ」

「私をアゴで使うとは、なかなかに肝が座って来たモノだ。思った以上に楽しませてくれる。--さて、私もグリムゲルデと共に地球へ降りる。こちらは任せたぞ」

「あいよ。あーあ、俺も地球に降りてえな~」

 

今行けば鉄華団と鉢合わせだぞ、とだけ返し、モンタークは地球行きのシャトルに乗り込んだ。

 

 

 

 

翌日。

蒔苗が隠遁する島は、ギャラルホルンに包囲されていた。

 

「ステンジャ艦長。投降勧告の刻限を過ぎました」

 

水上戦艦の艦長コーリス・ステンジャは、部下からそう報告を受ける。

 

「そうでなくてはな。これで火星に散った我が弟、オーリス・ステンジャの敵が取れると言うモノだ」

 

オーリス・ステンジャとは、三日月が一番始めに潰したグレイズのパイロットである。

はっきり言って、鉄華団の誰も覚えていないだろうが。

 

「全艦に通達、掃討作戦を開始する! 射撃開始と共に、MS部隊発進! カルタ様の戦場に花を添えよ!」

 

コーリスの指示で、各艦が飽和射撃を開始した。

 

「ふむ…訓練通り、マニュアル通りの飽和攻撃か。全く、マニュアル通りにやってますと言うのは、アホのやる事だ!!

『教官、何そのパワーセンテンスは』

「お、おう…難しめな言葉を使ってきやがったな」

『クーデリアに教わったんだ。それより教官、どうするのこれ?』

 

三日月に問われ、アラズは今一度戦場を俯瞰する。

 

島を取り囲むように、ギャラルホルンの水上戦艦が正面に3隻、裏側に2隻。

正面はMS隊の陽動で、本命は裏側部隊でのクーデリアと蒔苗の確保と言った所。

そして、本隊は上から。

 

ギャラルホルンに残った厄祭戦時代のマニュアル通りの、盤石な戦術だ。

 

「シノ、裏側に回って工作部隊を一掃。昭弘、そこから敵戦艦の狙撃。ラフタさんとアジーさんは、海岸からの上陸部隊を頼む。後、俺と三日月は上から来る敵の本隊を叩く」

『おうよ!』

『やってみる』

『オッケー』

『良いよ』

『分かった』

 

全員が、所定のポイントに移動して行く。

昭弘は早速、滑空砲での狙撃を開始した。

 

「右舷格納ブロックに被弾、被弾部より浸水を確認!」

「チッ、戦いのセオリーすら弁えぬネズミ共め…! そろそろカルタ様が舞い降りて来られる、MSを出し終えたら撤退せよ!」

 

戦艦が、それぞれ後退して行く。

 

「そろそろ来るぞ。昭弘、射撃用意だ」

『人使いが荒いな』

 

と、その時。

 

上空から、MS部隊が舞い降りて来た。

その総数、実に8機。

 

「よし、攻撃準備だな」

 

アラズはテルギアを飛行場に出し、ナイトブレードを2本構える。

 

『クソ、何だあの盾は!? 射撃が効いてねえ!』

「恐らく、大気圏突入用のグライダーだろうな。大気圏の熱を耐え抜くような奴だ、射撃が効くとも考え難い」

『じゃあ、何でやらせたの?』

「攻撃は無意味、ってのが分かっただけでも収穫だ」

 

グレイズ・リッターはそれぞれグライダーを放棄し、飛行場の1箇所へ集まる。

放棄され降って来るグライダーを三日月とアラズがかわす間にグレイズ・リッター部隊はカルタ機を中心に陣形を整え、全機が完璧に揃ったタイミングでナイトブレードを地面に突き刺す。

 

宇宙(そら)での雪辱は、必ず果たして見せるわ! 我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!!」

『面壁九年、堅牢堅固!!』

 

ジャキイイン!!と効果音が聞こえて来る気がする程、地球外縁軌道統制統合艦隊はカッコ良くキメた。

 

 

『ぐはァッ!?』

 

「!?」

 

 

昭弘の狙撃により右から2番目のリッターが狙撃されなければ、もっとカッコ良くキマったのだが。

 

「--撃って、良いん…だよな?」

『当たり前じゃん』

『動きが止まったな、今の内だ。撃ちまくれ』

 

そして、相手に戦隊モノのポーズ決めを待つ怪人くらいの優しさが有れば更に良かったであろうが。

 

残念ながら、ここはニチアサではない。

あまりにも殺伐とした、日曜夕方5時である。

 

『何と、不作法なああああああ!!』

「んん? 戦場に作法もクソも有るかよ。これだから、式典にばっか参加してる奴らは。良いか? 要するに、どんな下法を使おうが勝てば良いんだよ勝てば。と言う事で死にさらせ」

『……』

 

バルバトスとテルギアが、それぞれ得物を構えて突撃を開始した!

 

『く…! 圏外圏より来た無法者どもには、我等地球外縁軌道統制統合艦隊が鉄の裁きを下す!!』

『手加減無用、鉄剣制裁!!』

 

カルタ機はナイトブレードで向かい来る2機を指し示し、他の機体は剣を両手で掲げる。

 

『鋒矢の陣、そのまま吶喊!!』

『全機突撃、一点突破!!』

 

全機がナイトブレードを突く構えを取り、そのままバルバトスとテルギアに吶喊する。

 

しかし、あまりにも相手が悪すぎた。

 

「ふっ!」

「よっ!」

 

三日月はレンチメイスで左から2番目の機体に金的をぶちかまし、アラズは二刀流で右から1番目と2番目の機体のコクピットを正面から貫いた。

 

『カ、カルタ様! 鍛え上げられし我等、地球外縁軌道統制統合艦隊の陣形が!』

『おのれ!!』

「たかが3機が消えた程度でそれか? じゃあ、こっちから行ってやらァ!」

 

テルギアは2機のリッターからナイトブレードを引き抜き、カルタ機に突撃する。

 

『お下がり下さいカルタ様、コイツhだああ!?』

 

カルタ機の前に出た機体の1機が、バルバトスの一撃で地に叩きつけられる。

 

『カルタ様に手出しはさせん!』

 

残った1機のリッターが振り下ろしたナイトブレードを、テルギアは左手のナイトブレードで受け流す。

 

『な…!?』

 

その隙に右手のナイトブレードが突き出され、リッターのコクピットはそれに貫かれた。

 

『ええい、何をしているの!? 海上部隊は!?』

『現在、謎のMS2機の足止めを食らっているとの事です!』

 

海岸線では、タービンズのラフタとアジーがMSを潰して回っている。

 

『じゃあ、裏側のMW部隊は!?』

『それが、敵MSの襲撃を受け戦艦もろとも…!』

『何て事…!!? おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!』

 

部隊を根刮ぎ叩き潰され、作戦を滅茶苦茶にされたカルタは遂に絶叫した。

 

『何故だ、何故この搦め手が通用しない…! 奴らは、こちらの作戦を初めから読み切っていたとでも言うの…!? このような無様は、イシュー家の戦歴に必要無いと言うのに…!!』

 

頭を抱えながら、カルタはふとマクギリスの言葉を思い出す。

 

マクギリスは、イシュー家のガンダム・フレームである「ガンダム・パイモン」を出す事も考えておけと言っていた。

カルタは完全に、鉄華団の戦力と狡猾さを見誤っていたのだ。

 

要は、何の練習も無いまま試合に挑んだのと変わらない。

鉄華団を嘗めていた時点で、カルタの敗北は初めから決まっていた。

 

「さあて、地球外縁軌道統制統合艦隊司令官のカルタ・イシューよ。見ての通り大体は殲滅した訳だが、どうする?」

『カルタ様、このままでは…!』

『ここは退き、態勢を立て直すべきかと…!』

 

カルタが考え込んでいる間に、8機いたMSは既に3機にまで減っていた。

 

倒れ込むリッターの残骸の中に、バルバトスとテルギアは悠然と立っている。

今彼らに挑みかかったとしても、哀れな残骸が3つ増えるだけだろう。

 

『--撤退よ。全軍、撤退なさい……!!』

 

3機のグレイズ・リッターは反転し、海上艦隊に向かって行った。

こうして、島での攻防は鉄華団側に対した被害も出る事無く終了した。

 

 

 

 

「そうか、彼らは無事船に着いたか。ご苦労。彼らの要望には、出来る限り応えてやれ。何か変化があれば、すぐ報告を入れろ」

『は』

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」に戻ったマクギリスは、そう返してモンターク商会の部下からの連絡を切る。

 

「流石は偉大なるアグニカ・カイエル! 期待以上の事をしてくれるモノだ!! ハハハハハハハ!! --それにしても生き残ったとは、カルタもしぶといな。ここらで死んでおけば、これ以上生き恥をさらさずに済んだモノを。義父上の苦り切った顔が、目に浮かぶようだ。フフ、フフフ…」

 

声を殺して、マクギリスはほくそ笑んだ。

 

 

 

 

エドモントンにある、アンリ・フリュウが泊まるホテル。

そのスイートルームで、イズナリオ・ファリドはアンリの抗議を聞き流していた。

 

「イズナリオ様、話が違うではありませんか。蒔苗東護ノ介は亡命先の島から一歩も出る事無く、選挙は私の勝利で終わる。私は無事アーブラウの代表となり、全ての実権は我々の手に…そんなシナリオだったのでは?」

「チッ、カルタ・イシューめ。全く、余計な真似をしてくれたな。セブンスターズにおけるイシュー家の地位を守らせる為にわざわざ後見人となり、ここまで引き立ててやったと言うのに…!」

 

舌打ちした後、イズナリオは立ち上がり部屋を後にした。

 

(全て、この時の為に慎重に事を進めて来たのだ。マクギリスとボードウィン家の娘を縁組みさせイシュー家の娘の後見人となり、セブンスターズ内での地位を固めて来た。アンリ・フリュウを通してアーブラウの実権さえ握れば、私の立場は盤石となる。ここでつまずいてなるモノか…!)

 

 

 

 

ヴィーンゴールヴの医務室の一角で、マクギリスとガエリオは対面していた。

 

「--マクギリス、俺はどうしても踏み切れない。このままではアインを救えないのは分かっている、奴の悲願だった上官の敵も討たせてやりたい。しかし、その為に体に機械を…人間である事を捨てろなどと、俺には口に出来ない…!」

 

ガエリオは歯噛みし、拳を握り締める。

 

「--人間である事を捨てる、か。抵抗が有るのは当然だが、人間を捨てなければ人間を超えたモノには対抗出来ない。300年前の厄祭戦こそが、まさに人間を超えたモノへの挑戦。そして、それに対抗すべく初代セブンスターズとアグニカ・カイエルは()()()()()()()()()()

 

人間を超越した高位の存在「天使」の名を関した存在、モビルアーマー。

厄祭戦は5年にも満たない世界戦争だったが、MAはその間で実に人類の4分の3を抹殺した。

 

アグニカ・カイエルとその同士達が立ち上がらなければ、人類は300年前に滅びていただろう。

 

MAに対抗すべく造られたMSこそが、ガンダム・フレーム。

そのガンダム・フレームのオーバースペックに付いて行き性能を最大限に引き出すシステムこそが、阿頼耶識。

 

天使の対極に位置する「悪魔」の力を借りなければ勝てず、その為に人間を捨てた者達の決断の上に今の世界は成り立っている。

 

「アグニカ・カイエル達が立ち上げた組織『ヘイムダル』…後の『ギャラルホルン』が1年で宇宙を回りMAを蹂躙していなければ、私もお前も今ここに存在出来ていない。だが、そんな彼らは人体改造を禁忌とした」

「そのおかげで人類を救う一因となった阿頼耶識は今、戦争の遺物として嫌悪の対象になっているという事か。皮肉だな」

「ああ、全くだ。300年の間にギャラルホルンは腐敗し弱体化し、権力闘争の温床と成り果てた」

 

マクギリスとガエリオは兵器開発部に移動しつつ、そのような事を話す。

 

「カルタの部隊が、鉄華団の撃退に失敗した。クーデリアと鉄華団は、元アーブラウ代表の蒔苗東護ノ介を連れ逃走。太平洋上で消息を絶った」

「衛星監視網はどうした? 地球は俺たちの庭だろう?」

「分からんが、考えられるのは2つだ。鉄華団が衛星監視網の監視可能範囲を完全に把握して行動をしているか、はたまたギャラルホルンに内通者がいるのか。もし後者が正解だとすれば、腐敗ここに極まれりだな」

 

その内通者が目の前にいると言う事を、ガエリオは知る由も無いが。

 

「クソ、下劣な! アインの忠誠心を、少しは見習うが良い!」

「…そうだな。だがアインのような男こそ、かつてのギャラルホルンの本質に最も近い人間なのかもしれんな。--着いたか」

 

マクギリスは扉の前で立ち止まり、壁のコンソールにカードキーを当てる。

扉が開かれ、2人は部屋の中に入る。

 

「…マクギリス、ここは?」

「表向きに禁止しておきながら、ギャラルホルンは近年にも阿頼耶識の研究を行っていた。ここは、その研究施設だ」

 

部屋のライトが点り、その部屋に置かれたモノを照らす。

 

「…!? コイツは…!?」

「分かるだろう、ガエリオ。これはアインの為でもあり、我々の為でもある。今こそ示すべきなのだ、その身を捧げて人類を救った英雄の姿を。有るべきギャラルホルンの姿をな。ガンダム・キマリスを操るお前と阿頼耶識を纏ったアインで、あの宇宙ネズミどもを駆逐しろ! 我々こそが組織を正しく導ける唯一無二の存在なのだと、腐敗した凡骨どもに分からせてやるのだ!!」

 

ガエリオは真っ直ぐに「それ」を見据えつつ、マクギリスの言葉を聞いていた。

 

「……そう、か……」

 

そんなガエリオを見ながら、マクギリスは邪悪な笑みを浮かべた。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 540AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ノルバ・シノ 40AP
ラフタ・フランクランド 10AP
アジー・グルミン 10AP
カルタ・イシュー 10AP
地球外縁軌道統制統合艦隊の皆様 10AP

アグニカポイント特別報酬
マクギリス・ファリド 200AP
※アグニカ盲信中。


ここで、久々のオリジナル設定解説。
ギャラルホルン、旧名を「ヘイムダル」。
名前の由来は、北欧神話に於いて角笛「ギャラルホルン」の持ち主である光の神です。
そして彼の角笛は、北欧神話での神々の最終戦争「神々の黄昏(ラグナロク)」の始まりを告げるとされます。
ヘイムダルは「世界の光」とも言われる為、アグニカは自らの組織が世界に光…希望をもたらせるように、と言う願いを込めて名付けました。

そして戦争が終わり、アグニカはヘイムダルを巨大化して世界の警察組織へと作り替えます。
名前が「ギャラルホルン」となったのも、その時。
いざと言う時は戦争の始まりを世界に知らせ、それを収められるような組織になれ、との願いを込めたようです。

以上、ギャラルホルンの成り立ちについてのオリジナル設定でした。
後、厄祭戦の期間もオリジナル設定です。


次回こそ、オリジナル機体「ガンダム・パイモン」登場の予定。
しばらくお待ち下さいm(__)m


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#22 地獄の女王

サブタイトルは、あの悪魔の事を指しています。
オリジナル機体であるガンダム・フレーム、その雄姿をご確認下さい。


ヴィーンゴールヴに戻ったカルタは、イズナリオの部屋に呼び出されていた。

 

「申し訳ありません、イズナリオ様。セブンスターズの一員で有りながら、失態を…」

「詫びるならば私にではなく、偉大なる父上に対して詫びるのだな。カルタ、君はセブンスターズの一角イシュー家…引いてはギャラルホルンの名に泥を塗ったのだ。どうなるか、分かっていような?」

 

イズナリオに頭を垂れながら、カルタは歯噛みする。

己の情けなさに、カルタはどうしようも無く怒っていた。

 

「しかし、一度君の後見人となったからには黙って見ているわけにもいかないのでな。今一度、名誉挽回のチャンスを与えよう。頭を上げると良い」

「--有り難き幸せ…!」

 

カルタは感謝し、頭を上げイズナリオを見据える。

 

「蒔苗は鉄華団と名乗る輩と共に、エドモントンへ向かっているとの情報が入っている。世界の秩序を維持するギャラルホルンとしては、何としても阻止せねばならぬ事態だ。敗戦したばかりのお前には荷が重いと感じているが、マクギリスがぜひお前にと言うのでな」

 

それを聞いて、カルタは拳を握り締める。

 

「恩赦の程、感謝致します。--奴らに撃滅するに当たり、1つ許可を頂きたく」

「ほう。良い、申してみよ」

「はい。現在『バエル宮殿』の一角で動態保存されているイシュー家のガンダム・フレーム…『ガンダム・パイモン』。あれを使いたく存じます」

「うむ。それについても、マクギリスから話は聞いている。貴様の父上にも、既に話は通してある。持って行け」

「は!」

 

カルタは深く礼をし、イズナリオの部屋を後にした。

その部屋の前には、マクギリスが控えていた。

 

「やあ。久しいな、カルタ」

「二度も失態を晒した惨めな私に、手を差し伸べてくれる何てね。感謝するわ、マクギリス」

「謙遜するな、カルタ。惨めだなどと、微塵も思ってはいないさ。私とて、ガエリオと2人掛かりで事に当たりながら返り討ちに遭った身だ。むしろ、そんな鉄華団に何度も挑み掛かる君の雄姿には尊敬を感じ得ない」

 

いつも通りの不敵な笑みを浮かべながら、マクギリスはそう返す。

 

「昔からそうだ。君は私に取って、手の届かない憧れの存在だった。養子として引き取られた私に、君は哀れみも情けも向けなかった。ただただ、私を平等に扱ってくれた。それが、私に取っては意外で有り喜びでもあった。そんな君に、屈辱などは似合わない。その雪辱を晴らす為にも、私に出来る事は最大限やるつもりだ。私は共に行く事が出来ないが、君が雪辱を晴らして戻って来るのを願うよ」

 

 

 

 

鉄華団とタービンズ、蒔内の乗る船は今カナダのエドモントンに向かって進んでいる。

だが、船で直行するとどうしてもギャラルホルンの衛星監視網に引っかかるとアラズは言った。

 

何故そんなにギャラルホルンの内情に詳しいのかと鉄華団のメンバーは問いただしたが、上手くはぐらかされたらしい。

 

そんな訳で、船は衛星監視網に引っかからないように進路を変更。

ひとまずはアラスカの都市アンカレッジに行き、そこで陸路に乗り換える。

 

アンカレッジからはテイワズの下部組織の1つが保有する鉄道に乗り、エドモントンへ行くと言う手筈だ。

この鉄道は週に一度往復する定期貨物便であり、アンカレッジからフェアバンクスを経由してエドモントンまで走っているとか。

 

定期便だからこそギャラルホルンには怪しまれず、都市部を外れた路線なのでリアクターによる電子障害も発生しない。

だからこそ、堂々とMSを運搬可能だ。

 

テイワズの方との交渉は既にオルガが済ませており、モンターク商会にもルート変更は伝えられている。

 

念には念を入れ、アンカレッジにいる蒔苗派の有力議員であるラスカー・アレジにも協力を得て鉄道への乗り換えを速やかかつ目立たずに行えるよう手配してもらっている。

更にもう1つ、エドモントンのアーブラウ議会でのロビー活動を蒔苗派の議員達に依頼した。

 

鉄道への乗り換えは全て滞りなく2時間足らずで終了し、鉄華団達は順調に事を運んでいる。

 

(--このまま何も無く、エドモントンに到着出来れば良いのだがな)

 

外の雪景色を眺めながら優雅に珈琲を飲みつつ、アラズはそう願う。

 

「アラズさん、カッコ付けてる?」

「ハハハ、何だろうスゴい面白い」

「オイ、聞こえてるぞテメェら」

 

 

 

 

アインの意識が戻ったと聞きつけたガエリオは、例の研究所に足を運んでいた。

 

「こっちだと? まだ何も--」

『ボードウィン特務三佐!』

 

目の前の大型機から、アインの声が響いて来た。

 

「アイン、お前なのか!?」

『は!』

「--そうか、成功…したんだな。良かった…ああ良かった、本当に…!」

 

上辺ではそう返すが、ガエリオは今すぐ「良い訳が有るか!」と叫びたい気分だった。

 

技師が近寄り、端末の画面を見せて来る。

 

「特務三佐、こちらをご覧ください。ダルトン三尉の、現在の状況です。阿頼耶識との同調は、全て滞りなく進んでおります。ギャラルホルンのデータバンクに残された阿頼耶識本来の同調率にはまだ及びませんが、これならば…!」

『本当にありがとうございます、特務三佐。これでクランク二尉の無念を晴らす事も、特務三佐のお役に立つ事も出来る! 心から尊敬出来る方に、人生の中で2人も出会えた…これ以上の幸せは有りません。この御恩、とても返し切れるような量では有りませんが--この命を持って、必ずや返し切って見せます!』

 

アインの言葉を嬉しく思いながらも、ガエリオはこんな方法しか取れなかった自分を恨んでいた。

 

「--そうか。……そう、か…」

 

ガエリオは、それだけの言葉しか返せなかった。

技師の見せて来た端末の画面にはアインのコネクト状況が移っており、機体はこう題されていた。

 

 

グレイズ・アイン、と。

 

 

ガエリオは足早に研究所を後にし、マクギリスと合流した。

 

「そう自分を責めるな、ガエリオ。これは、彼が自ら望んだ事だ。お前は上官として、彼の望む最高の選択を与える事が出来たのだよ。後はクランク・ゼントの仇を取らせる為の舞台へ、彼を誘うだけだ」

 

マクギリスはそう慰めて来るが、ガエリオの気持ちが元に戻る事は無い。

 

「--ガエリオ。腐敗し堕落したギャラルホルンに於いて、君の心の清らかさはいかに守られて来たのだろうな。お前だけではなく、アイン・ダルトンもそうだ。ギャラルホルンに変革をもたらすのは、君達の良心だと私は思う。今回の作戦が成功すれば、彼がギャラルホルンに残す功績は計り知れない。たとえどのような姿になっても、この戦いで彼は…アグニカ・カイエルに次ぐ、新たな英雄となるのだ」

「--ありがとう、マクギリス」

 

ガエリオは、改めて自らの友人に感謝した。

 

 

 

 

マクギリスからの情報に従い、カルタ達はテイワズの鉄道の線路沿いで鉄華団を待ち構えていた。

地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシューの親衛隊は、カルタを含め既に3人にまで減ってしまっている。

 

しかし、恐れは無い。

 

「分かっているわね? もはや私達に、退路は無いと思いなさい。けれど、この窮地が私を強くする。私はどんな時でも、決して誇りを忘れない。そうよね…マクギリス」

『は。必ずや、勝利を我らの手に!』

『この胸の誇りに懸けて、真価を示しましょう!』

 

残された部下達の掛け声を心から頼もしく思い、カルタは号令を掛ける。

 

「我等、地球外縁軌道統制統合艦隊!」

『『面壁九年、堅牢堅固!』』

 

その時カルタ達の前方から鉄道が走って来て、目の前で止まった。

鉄道の荷台からバルバトスとテルギアが降り、カルタ達のMSを正面から見据える。

 

『教官、あの機体は…?』

 

三日月は、モニター越しにカルタの機体を指差してアラズに問う。

 

カルタの機体には決闘の印である赤い布をくくりつけられているが、以前との違いはそれだけでは無い。

 

その機体は純白と真紅で塗られ、角は黄金の輝きを放っている。

緑に光るツインアイ、背中に付けられた大型のフライトユニットが印象的だが、何よりも特筆すべきはその得物だ。

 

 

華美に飾られる事無く、落ち着いた柄を持ち鞘に納められた専用の日本刀。

それだけしか、その機体は武器を持っていない。

 

 

三日月に問われたアラズは、エイハブ・ウェーブを確認してからこう返した。

 

「--ASW-G-09『ガンダム・パイモン』。セブンスターズの一角イシュー家が所有する、かつてカロム・イシューが搭乗したガンダム・フレームだ」

 

パイモンは刀を右手で掴み鞘走らせ、その刀身を空気に晒す。

素朴な柄や鞘とは打って変わって、刀身は黄金に光り独特かつ絶妙な角度で反っている。

 

グリムゲルデのヴァルキュリア・ブレードと同じ、特殊超合金で錬成されたが故の黄金だ。

 

通信を開き、パイモンに乗るカルタはこう持ち掛けた。

 

『私はギャラルホルン地球本部所属地球外縁軌道統制統合艦隊司令官、カルタ・イシュー! 鉄華団に対し、MS3機による決闘を申し込む! 我々が勝利した場合、クーデリア・藍那・バーンスタインと蒔苗東護ノ介の身柄を引き渡して投降してもらう。我々が敗北したならば、好きに通るg』

「よし行くぞ三日月ザコは任せた」

『うん』

 

カルタの宣言が終わるより早く、バルバトスとテルギアは突撃した。

 

『な!? 貴様ら、カルタ様のお話をs』

 

バルバトスのレンチメイスが、親衛隊の1機を吹き飛ばす。

吹き飛ばされたリッターは、遠くの雪原に叩き付けられた。

 

『おのれ、高潔なカルタ様の計らいをy』

 

バルバトスが吹き飛んだリッターを追撃する間に、テルギアは残った1機が振り下ろしたナイトブレードを白刃取りして根元から叩き折る。

そして腰からナイトブレードを抜き、そのリッターのコクピットを刺し貫く。

 

動かなくなったリッターを線路の遠くまで投げ、テルギアはパイモンに襲いかかった。

 

『何と卑劣な! 誇り高き私の親衛隊が…!?』

「生憎、こちとら誇りなぞ持って無くてな!」

 

テルギアは右のナイトブレードを振り下ろし、パイモンはそれを刀で受け止める。

 

『こんな、こんな戦い…私は認めない!』

「ふん、随分平和ボケしたモノだな。イシューの娘よ、1つ教えてやろう。戦争と言うのはな、如何なる手段を用いてでも勝てば官軍だ。戦争では邪魔にしかならぬ誇りなど、今の内に捨て置け。でなければ--」

 

テルギアは左手のナイトブレードを突き出し、パイモンのコクピットを狙う。

パイモンは何とか刀でそれを弾くが、その時には既に右手のナイトブレードが背中のフライトユニットに振り下ろされていた。

 

 

「死ぬぞ」

 

 

フライトユニットにナイトブレードが直撃し、そのスラスターが潰された。

 

『な…!?』

 

カルタが狼狽した隙にテルギアは左でナイトブレードを振り、パイモンのツインアイの片方を潰す。

 

『ぐうううう…!! 私は戦いたかった、正々堂々と戦いたかった! そうでなければ私らしくない! 私は、カルタ・イシューだ!』

「--」

 

パイモンは刀を振り下ろすが、テルギアは剣を交差させてそれを受け止める。

剣の質が違いすぎる以上、生半可な守り方では叩き折られるのがオチだ。

 

『私は、勝利するしかないのよ! 立場を失い、イシュー家の名に傷を付け、パイモンまで持ち出してこんな…! こんな惨めな私は、アイツの憧れていた私じゃないのよ!!』

「---」

 

テルギアはパイモンの刀を押し返し、パイモンのコクピットの左側にある装甲の隙間に右手のナイトブレードを刺し込んだ。

 

『がああ!! ここで、負けるわけにはいかない…アイツの思いを裏切って、こんな所で終わる訳には行かないのよ!!』

「----」

 

パイモンは蹴り飛ばされ、雪原に叩き付けられる。

テルギアは即座に追撃し、左のナイトブレードでパイモンの右肩を貫く。

 

右手のナイトブレードを逆手で持ち、テルギアはパイモンのコクピットにそれを突き付ける。

後1秒も経たず、パイモンのコクピットは貫かれるだろう。

 

剣を構えるテルギアの姿を、カルタは人間を狩る悪魔だと思った。

 

 

『--助けて、マクギリス…』

 

「-----…!」

 

 

涙声で、カルタは愛する男に助けを請う。

その果たされぬ助けを求める声は、通信を通してアラズの耳にも伝わった。

 

ナイトブレードを突き刺そうとしたテルギアの動きが一瞬止まった、その時。

 

 

テルギアに向かって、何者かが射撃を仕掛けて来た。

 

 

「!?」

 

テルギアはパイモンから距離を取り、その射撃が行われた方向を見据える。

そちらからは、4本脚のMSが近付いて来る。

 

「--ガンダム・キマリス…トルーパー!」

 

2本のナイトブレードでキマリストルーパーの突き出して来た馬上槍を防ぎつつ、テルギアは線路沿いにまで大きく後退する。

 

キマリストルーパーはパイモンの近くで2本脚になって止まり、ボロボロに壊されたパイモンを回収した。

 

「行かせるか!」

 

リッターを片付けたバルバトスが、キマリストルーパーに向かってレンチメイスを構え突撃する。

キマリストルーパーはホバーで雪原を走行しつつ、バルバトスに牽制攻撃を仕掛ける。

 

バルバトスの動きが一瞬鈍った隙にキマリストルーパーは4本脚のトルーパー形態へと変形し、そのまま走り去って行った。

 

「逃がす訳無いだろ…!」

『待て三日月、ここまでだ』

 

追撃しようとする三日月を、アラズは制止する。

 

『如何にパイモンを持っているとは言え、生半可な機体ではキマリストルーパーの速度には追い付けない。ガスを無駄にするだけだ。それより、さっさとエドモントンへ進行した方が良い』

「--了解。でも、教官。何で、あの時」

『ああ、あれか。…何で、だろうな。きっと--あの声が少しだけ、アイツの声に似てたからだ』

 

異常なまでに優しい声音で、アラズはそう返した。

 

三日月は首を傾げるしか無かったが、すぐにオルガからの帰還命令が出たのでその疑問は晴れないままになるのだった。

 

 

 

 

この戦いでカルタ・イシューは一命こそ取り留めたものの、内臓と足に大きな怪我を負った。

持ち出されたガンダム・パイモンは、ある程度修理され再びヴィーンゴールヴの「バエル宮殿」に戻された。

 

そして、鉄華団はエドモントンへ到着した。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 540AP
三日月・オーガス 90AP
カルタ・イシュー 60AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
カルタ親衛隊のお二方 10AP


カルタ様、一命は取り留めながらも大怪我で戦線離脱。
下半身不随で、一生治らないご様子です。

それはともかく、オリジナル機体を出させて頂きました。
活躍? ハハハハハ
ニチアサだったらバンダイにどやされますね、これ。

機体データは、以下の通りです。


ASW-G-09 ガンダム・パイモン
全高:19.1m
本体重量:31.7t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:クサナギノツルギ×1
概要
カロム・イシューの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されていた、イシュー家に伝わるガンダム・フレーム。
紅白に染め上げられた機体色は、日本かぶれなカロムの意向によるモノ。
カロム曰く、「源平合わされば最強」。
300年の時を越え、カルタ・イシューにより再び戦線に投入された。
専用武器として「クサナギノツルギ」を持つが、それ以外の武装は一切装備していない潔さを誇る。
クサナギノツルギは名前の通り日本刀であり、バエル・ソードと同じ特殊超合金で錬成されている黄金の太刀。
故に決して折れる事は無く、あらゆる物を斬り裂くとされる。
普段は鞘に納められ、左側の腰に接続されている。
大型の飛行用ユニットを装備しており、地上では高い敏捷性を、宇宙では高い機動性を獲得している。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第九位の悪魔「パイモン」から。
パイモンは空の軍勢に属し、200もの軍を率いる地獄の王だとされる。


それと、初代イシューはオリジナルキャラです。
名前しか出てませんけれども。

初代イシュー家当主、カロム・イシュー。
日本大好きな、日本かぶれのお方です。
常日頃日本刀を帯刀する、銀髪の美女さんでした。


次回、いよいよエドモントンでの戦いへ。
トクムサンサー


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#23 蹂躙

今回から、エドモントン戦に突入。
もうすぐで1期分が終わります。

「後半分、つまり全45話くらいか」って?
残念ながら、オリジナル展開になった後がクソ長そうなんですよ…。
そんな訳で、もうすぐ終わるのは実質3分の1くらいでしょうか?

まだまだ先は長いですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。


鉄華団は、エドモントンに到着した。

しかしギャラルホルンがかなりの戦力で待ち構えており、鉄華団はその防衛線を突破すべく戦闘を開始せざるを得なかった。

 

そして、それが一昨日の事だ。

 

鉄華団はぶっ通しで戦っているが、未だに防衛線を突破する事が出来ない。

 

現在、夜の8時。

日が沈み、ギャラルホルンも一時撤退をして行った。

 

『がはっ、はあ、はあ…』

『ったく、やっと帰ってくれたぜ』

『流石に、ちょっとキツいね』

 

昭弘、シノ、三日月も疲労困憊だ。

 

「どうしたテメェら、もうへばりやがったのか?」

 

美味くもなければ不味くもない携帯食料にかじりつきつつ、余力を残したアラズがそう聞く。

 

『何でアンタは余裕なんだよ…?』

「たかだか休み無しで2日戦ったくらいでへばってたら、俺は今こんな所にはいねェよ。お前ら、休息はしっかり取っとけよ。後、栄養もな。夜襲が有るかも知れんが、それは俺が対応する。明日はいよいよ、アーブラウ代表選挙の投票日だ。本気で突破に掛かるぞ」

『教官、本気じゃなかったの?』

「ここ2日の戦いで、敵戦力の配置と底は見えた。俺がこの2日間、とりあえず敵MSを細かくしてから倒してたのもその為だ」

 

ここ2日間、アラズは変わった戦い方をしていた。

敵MSの腕や足を斬った後で、コクピットを刺していたのだ。

 

『勝てんのか?』

「勝つしかねェだろ。策は有るし、準備も整った」

 

最後の一口を食べ終わり、アラズは再び警戒態勢に戻った。

 

 

 

 

翌日。

ギャラルホルンの部隊はそれぞれ配置に付き、こちら側への攻撃を開始した。

 

『お前ら! 今日が正念場だ、絶対にあれを突破して仕事を果たすぞ!!』

『おう!!』

 

オルガの喝も有り、団員達の士気は依然高いままだ。

 

「上等! さてと」

 

アラズのテルギアは、付近に転がったグレイズの腕を拾い上げる。

 

『ソイツ、どうすんだよアラズさん』

「こうするんだよ!!」

 

テルギアは左足を上げ、グレイズの腕を持った右手を振りかぶる。

 

「--うらァ!!!」

 

 

テルギアは足を踏み込み、グレイズの腕を放り投げた。

 

 

『な、何!?』

『マズい、逃g』

 

市街地に進入する為に通らねばならない橋の守りを固めるギャラルホルンのMW隊に、その腕は直撃した。

MWは吹き飛ばされ、包囲網に穴が出来る。

 

エイハブ・リアクターの事も有り、市街地へのMSの接近と侵入は認められていない。

だったら遠距離から攻撃すれば良いじゃない、と言うのがアラズの持論だ。

 

『突破を許すな、撃ちまくれ!』

 

しかし、MW隊が砲撃する限り橋には近付けない。

 

「せーの、っと!」

 

テルギアは続けて、腕、足を大量に放り投げて行く。

それらは全て橋の付近に降り注ぎ、MW隊がどんどん潰されて行く。

 

「よし、制圧完了。頼んだぞ、オルガ」

『行くぞ!!』

 

道が開けた隙にオルガとビスケットがMWで、クーデリア、フミタン、蒔内、その秘書がアトラの操る四駆でその橋を渡って都市へ進入して行く。

 

「上出来上出来」

「教官、やっぱり凄いな…向こうから何か…」

 

その頃三日月は、接近して来るキマリストルーパーに気付いた。

キマリストルーパーが槍を突き出し、バルバトスはそれをレンチメイスで受け止めた。

 

「--ッ!!」

「任せてくれ、カルタ。お前の屈辱は、俺が晴らして見せる。そして、俺達の手にギャラルホルンの未来を!」

「邪魔、するな!」

 

再び、キマリストルーパーとバルバトスは激突した。

その頃、テルギアとグシオンはMS隊との戦闘に入っていた。

 

「イシューの部隊か、厄介な!」

「カルタ様の仇いいいいい!!」

「だが!」

 

グレイズの振り上げたバトルブレードを左手のナイトブレードで受け流し、すぐさま戻してそのコクピットを貫く。

 

「5本有ったから、4本懸架して1本使ったが…1本捨てるか」

 

倒れ行くグレイズにナイトブレードを刺したまま放棄し、テルギアはそこから手を離して腰の2本を抜く。

 

「チ、他はMW隊の援護に行ったか? 昭弘、あっちの追撃頼む。こっちが片付いたら、すぐ向かう」

『了解』

 

グシオンが、そちらに移動して行く。

それを確認したテルギアは、自らの目の前に立つ何機ものグレイズ隊に突撃した。

 

 

 

 

戦場の一角を支えていたタービンズの下に、1機のMSが舞い降りて来た。

 

グレイズでありながら、異常な巨体を備えてくれる漆黒の機体だ。

 

『何? このおっきいMS…』

『データには無い…けど! 行くよ!』

 

ラフタとアジーは戸惑いつつも、グレイズへの攻撃を開始した。

 

アジーは砲撃すべく漆黒のグレイズにバズーカを向ける。

 

 

その時、機体がアジーの視界から消滅した。

 

 

「な…!?」

 

アジーが気付いた時、それはアジー機の直上にまで迫っていた。

既にバトルアックスまで振り上げており、それがアジー機に振り下ろされた。

 

『アジー!!』

 

アジー機は頭を潰され、動かなくなった。

 

『アジー! アジー、返事して!』

 

ラフタが叫ぶが、アジーからの応答は無い。

ラフタも銃を撃つが、そのグレイズは異常な動きで弾を全てかわして行く。

 

『何なのよコイツ、全く動きが…! これ--阿頼耶識…!?』

 

漆黒のグレイズが、ラフタ機のロックからロストした。

 

『ラフタさん、左後ろ!』

『え…!?』

 

グレイズは足のドリルを回転させながら、ラフタ機に突っ込んだ。

 

『きゃああああああ!!』

 

ラフタ機はコクピットの近くを抉られ、沈黙する。

 

『ラフタ! ッ!』

『どこを見ている!』

 

三日月がラフタの方に気を取られた瞬間、キマリスは槍を突き出してレンチメイスを吹き飛ばす。

 

『お前達はここで終わりだ! …あれが、阿頼耶識の本来の姿! MSとの一体化を果たしたアインの覚悟は、まがい物のお前達を凌駕する!』

 

キマリスはサブアームでデストロイヤーランスを保持しつつ右手で盾からキマリスサーベルを抜き、バルバトスに振り下ろす。

バルバトスはそれを右手で弾き、左手でキマリスを殴り倒した。

 

「ぐはあ!」

『この野郎gがはあ!?』

 

グレイズ・アインに突っかかったシノの流星号は、瞬時に斧を叩き付けられる。

そのままグレイズ・アインは流星号の頭を掴み、腕に内蔵されたパイルバンカーでそのコクピットハッチ諸共首の一部を吹き飛ばした。

 

『クランク二尉、やりましたよ! 貴方の機体を取り戻しました! きっと見ていてくれますね、クランク二尉。俺は貴方の遺志を継ぐ!』

 

他ならぬアインの手でボコボコになったグレイズを掲げて、アインはそう宣言した。

 

「ったく、テメェら揃いも揃って何してんだ!?」

『はあ…? あれは、コーラル司令の…!』

 

自分の近くにいたMS隊を片付けたテルギアが、グレイズ・アインに向かって来る。

グレイズ・アインは恐るべき速度でテルギアに急接近し、バトルアックスを振り下ろした。

 

テルギアは同じくらいの速度で反応し、それを2本のナイトブレードを交差させて受け止める。

 

「ッ、速い…阿頼耶識か!」

『貴様か、貴様だな!!! 貴様がクランク二尉を殺した、貴様がコーラル司令を殺したのだ!!!』

「--ああ、アイツらか。戦場では弱い奴から死んで行く。いちいち恨まれるのは心外だな、俺達にも事情は有る」

『黙れ!!! 貴様らの事情がどうで有ろうが、俺は貴様らを許さない!!! 消えろおおお!!!』

 

そこから、斧と剣の応酬が始まった。

100合程打ち合った所で、戦闘に変化が訪れた。

 

 

テルギアの持つ左のナイトブレードが、刀身の中心からへし折れたのだ。

 

 

「--ッ!」

『消えて無くなれええええええええ!!!』

 

アインが、両手の斧を振り上げる。

その隙にテルギアはアインの腹を蹴り飛ばして空中で回り、ブースターを吹かせて後退した。

 

『MS隊! クーデリア達は市街地に入った、後少し踏ん張ってくれ!』

『--そうだ。忘れていました、申し訳有りませんクランク二尉! クーデリア…グーデリ゛ア゛・藍゛那゛・バーン゛ズダイ゛ン゛!!!』

 

テルギアが着地し、剣を構え直した頃。

アインはそう叫び、市街地に飛んで行く。

 

「危なかった、が--って、まさかあのグレイズ、市街地で暴れるつもりか!? 昭弘、聞こえるか昭弘! そっちにやべーやつが行った、対応頼む! お前が戦ってる奴らは俺が片付けるから! 急げ、オルガ達がヤバい!!」

 

アラズは慌てて、昭弘と連絡しつつ市街地に向かう。

途中、放棄したナイトブレードを回収して。

 

 

 

 

オルガ達は、議事堂に向かって走っていたが。

 

「オ、オルガ! LCS以外の通信と、レーダーが切れた! こ、これって…!?」

 

ビスケットの狼狽える声を聞いて、オルガは空を見上げる。

 

「…正気か、アイツら。こんな街中に、MSを入れて来ただと!?」

 

オルガ達の前に、グレイズ・アインが降臨した。

 

『そうだ、思い出しました。俺は貴方の命令に従い、クーデリア・藍那・バーンスタインを捕獲しなければならなかった!』

 

アトラの運転していた四駆がひっくり返り、MWも上の銃がへし折れてしまった。

クーデリアで横転した車から飛び降り、恐れずグレイズ・アインの前に立つ。

 

「お嬢様!?」

「私が、クーデリア・藍那・バーンスタインです! 私に何か、御用がおありですか!?」

 

と、クーデリアは盛大に啖呵を切った。

 

『ああ、クーデリア・藍那・バーンスタイン殿。こんな所にいたのですね。以前、CGSまでお迎えに上がったのですが…こちらに付いて来て下されば、クランク二尉が死ぬ事も無かったのに! そも、貴女が独立運動などと…!! ああそうか、貴女のせいでクランク二尉は…!!!』

 

アインは、既に正気を失っている。

 

「仰る通り、私の行動のせいで多くの犠牲が生まれました! しかし、だからこそ私はもう立ち止まれない!! 私は何としても生き残り、世界を変えなければならないのです!!」

『その思い上がり、この私が正す!!』

 

それだけ言い、グレイズ・アインは斧を振り上げる。

 

「お嬢様!!」

「クーデリアさん!!」

 

フミタンとアトラがクーデリアに駆け寄り、突き飛ばした。

そこへ、斧が振り下ろされた--

 

 

のだが。

 

 

『!!』

 

突如滑り込んで来たバルバトスとグシオンが、その斧を受け止めた。

 

「ふう、焦ったぜ…って、三日月。お前、あのキマリスとか言う奴に足止め食らってたんじゃ無かったのか?」

「うん。でも、赤い機体がガリガリを蹴った隙に逃げて来た。行くよ昭弘、教官から任せられた!」

「おう!!」

 

バルバトスはレンチメイスを、グシオンは盾を押し出してグレイズ・アインを吹き飛ばす。

 

『紛い物どもが…! いくらガンダムとは言えど、劣化品風情が本物に勝てるとでも!?』

『知るかよ! 俺達は、テメェをぶっ倒す!!』

 

グシオンは盾と銃を放棄し、両手でハルバードを構える。

バルバトスとグシオンは同時にスラスターを全開にし、グレイズ・アインに襲いかかった。

 

 

 

 

何者かに突き飛ばされたキマリスは、体勢を立て直す。

 

「--貴様か、俺の邪魔をしたのは!!」

 

キマリスが、キマリスサーベルを目の前に立ちふさがった深紅の機体グリムゲルデに向ける。

そのコクピットで、仮面の男モンタークは。

 

「君の相手は、私がしよう」

 

仮面とカツラを取り、マクギリス・ファリドとしての素顔を晒した。

 

 

 

 

市街地に近い場所でMS隊を蹂躙したテルギアは、遭遇したグリムゲルデとキマリストルーパーの間に割って入るべくそちらに向かう。

 

 

いや、向かおうとした。

 

 

「!?」

 

何者かが、テルギアに何かを投げつけた。

テルギアは右手のナイトブレードでそれを弾き飛ばしたが、ナイトブレードは根元から折れてしまう。

 

「また折れたか--しかし、何を投げt」

 

その投げられて来た物を見て、アラズは一瞬思考が停止した。

 

 

先が鋭く尖った、紫色の馬上槍。

 

 

つまり、投げられて来たのはグングニールだった。

 

大気圏での戦闘の際投げられ、グレイズ・リッターの残骸もろともどこかへ落ちて行ったハズの武器。

 

それが何故、こんな所へ投げられて来たのか。

アラズは、それが本気で理解出来なかった。

 

『何でそれが飛んで来たか分かんねえ、ってか?』

「--!!」

 

何者かの声が通信を通して聞こえた時、鎖の付けられた鉄球がテルギアに向かって来た。

テルギアは即座に後退し、その鉄球をかわす。

 

『へえ、良い反応じゃねえか。面白え、面白えぞ』

 

その鉄球は地面に小さなクレーターを作った後、何者かに付けられた鎖を引っ張られてそれの手へ戻って行く。

アラズは鎖の伸びて来た方向に、左手のナイトブレードを向ける。

 

 

そこには、1機のMS…()()()()()()()

 

 

機体の全身は水色と青色で塗装されており、バックパックからはサブアームが飛び出ている。

右手には機体の全長を超える巨大な鎖鎌を持っており、左手では鎖鎌の鎖の先端に取り付けられた鉄球を保持している。

 

アラズは、その機体を見た事が有る。

それこそ、()()()()()()()()

 

 

「ASW-G-45、『ガンダム・ヴィネ』--バクラザンか」

 

 

それはかつて、初代バクラザン家当主リック・バクラザンが搭乗したMS。

即ち、セブンスターズの一角バクラザン家の保有するガンダム・フレームである。

 

『ご明察。んじゃあ、報復させて貰うぜ。このディジェ・バクラザンの顔に泥を塗りたくった罪、その命を持って償ってもらおう』

 

パイロットであるディジェはそれだけを告げ、ヴィネは鎖鎌を振り回し始めた。




アグニカポイント新規取得
アイン・ダルトン 1,940AP

アラズ・アフトル 540AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ノルバ・シノ 40AP
ラフタ・フランクランド 10AP
アジー・グルミン 10AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
ディジェ・バクラザン 60AP
ギャラルホルンMS隊の皆様 10AP


原作通りだと思った?
残念、オリジナルガンダム&オリジナルキャラ初登場回でしたあ!!

そんな訳で、この土壇場でオリジナル機体「ガンダム・ヴィネ」とオリジナルキャラ「ディジェ・バクラザン」が登場。
やったぜ。
2話連続でオリジナル機体登場だぜ。

何故ここで出て来て、何の恨みが有るのかは次回。

以下、機体データです。


ASW-G-45 ガンダム・ヴィネ
全高:18.7m
本体重量:28.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:エインヘリヤル×1
   ユグドラシル×1
概要
リック・バクラザンの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されていた、バクラザン家に伝わるガンダム・フレーム。
青系の色に纏められており、機体カラーからは爽やかな印象を受ける。
リック曰く「水は美しい、俺は水になりたい」。
300年後には、子孫であるディジェ・バクラザンが運用している。
専用武器として、「エインヘリヤル」と「ユグドラシル」を持つ。
エインヘリヤルは全長20m、刃渡り13m、鎖の長さ100mの巨大な鎖鎌である。
ユグドラシルは後述のサブアームに接続された電磁砲だが、あくまで緊急の武装である為ほとんど使用されない。
本体は両腕が長めに作られており、腕に巨大な鎖鎌を振り回す為のバーニアが多いのが特徴。
また、巨大武装を扱う為のサブアームがバックパックに取り付けられている。
こちらはとてもフレキシブルに稼働し、かなり自由度が高い。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十五位の悪魔「ヴィネ(ヴィネアとも)」から。
ヴィネは36の軍団を率いる地獄の伯爵にして、偉大なる王だとされる。


それと、やはり初代バクラザンはオリジナルキャラです。
こちらも名前しか出てませんけれども。

初代バクラザン家当主、リック・バクラザン。
接近戦を得意とし、部隊指揮も可能な有能人間。
落ち着き払っておりノリが悪いが、ごく自然にフザケて来るのでタチが悪い。
イケメン。

バクラザン家の名前は、考えるのが楽で良いです。

リック・バクラザン、ネモ・バクラザン、ディジェ・バクラザン。
この3つの名前の、共通点を答えなさい。(正解者には10APを無条件進呈。期限は次回更新まで)


次回で、エドモントン編は終わるかと。
その後、アグニカポイント獲得状況の中間報告を行ってから2期分に突入して行きます。


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#24 鉄華団

連日投稿です。
何故って?
昨日書いてたら、いつの間にか出来てたからです。

今回で、1期分は終了です。
9000字越え、長し。


グリムゲルデはヴァルキュリア・ブレードを展開し、キマリストルーパーの正面に立つ。

 

「何が目的だ! 何故、俺の邪魔をする!?」

 

通信で、ガエリオはそう問い掛ける。

 

『--何故、か。簡単な事だよ、ガエリオ』

「な……に? そ、その声は--そんな、まさか…」

『彼らには、我々の追い求める理想を具現化する手助けをしてもらわねばならない』

 

淡々と、マクギリスは真実を伝える。

ガエリオは、未だにそれを信じられない。

 

「マクギリス…何故? い、意味が分からない。俺達が追い求める、理想? お前は何を…何を、言っている??」

『ギャラルホルンが提唱してきた、人体改造は悪であると言う思想。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…な、それを提案したのは…」

『アイン・ダルトンは組織の混乱した内情を示す、生きた証拠だ。市街地にMSを持ち込み暴れ回る彼の姿は、多くの目に忌むべき恐怖と映るだろう』

 

完全に正気を失って暴れるアインは、悪魔と思われているだろう。

 

『その唾棄すべき存在と戦うのは、革命の乙女を守り英雄として名を上げ始めた鉄華団。そして乗り込むのは、伝説のガンダム・フレーム。同時に行われる代表選で蒔苗が勝利すれば、政敵であるアンリ・フリュウと我が義父イズナリオ・ファリドの癒着が明るみになる。世界を外側から監視するという建て前も崩れ去り、ギャラルホルンの歪みと腐敗は白日の下に晒される』

「………!」

『劇的な舞台に似つかわしい、劇的な演出だろ?』

 

つまり、全てはマクギリスのシナリオ通り。

鉄華団もギャラルホルンも、マクギリスの掌の上で転がされているのだ。

 

「--マクギリス。お前はギャラルホルンを陥れる手段として、アインを…アインの誇りを! 何て事を…何て非道を! 例え親友でも、そんな行為は許されるハズが無い!」

 

ガエリオはキマリスサーベルを構え、グリムゲルデに突撃する。

 

『では、どうする?』

 

グリムゲルデは右のヴァルキュリア・ブレードを振り、キマリスの攻撃を受け流す。

 

「ぐ…うああああ!」

 

キマリスはサーベルを振り回すが、グリムゲルデはそれを正確無比に弾いてキマリスをめった打ちにする。

デストロイヤーランスを保持するサブアームも斬り落とされ、キマリスシールドも貫かれキマリスの左腕は損傷。

角の1本が叩き折られ、コクピットの上部にもヴァルキュリア・ブレードが突き込まれる。

 

グリムゲルデはキマリスを蹴り飛ばし、少し離れて着地する。

 

『君という跡取りを失ったボードウィン家は、いずれ娘婿である私が継ぐ事になる』

「!?」

『セブンスターズ第一席であるイシュー家の1人娘カルタも、下半身付随で職務全うが困難な為に地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官を下ろされた上、パイモンを傷モノとした』

 

グリムゲルデは落ちたデストロイヤーランスを拾い上げ、キマリスに向けて投げる。

キマリスは左腕を持ち上げて盾で防ごうとしたが、左腕もろとも盾は吹き飛ばされた。

 

『ギャラルホルン内部の力関係は、一気に乱れるだろう。そこからが私の出番だ。ファリド家の実権を手にし、イシュー家とボードウィン家の代理としてセブンスターズ内での権力を拡大。そして--バエルを我が物とする』

「--ウソだ…お前はカルタも、俺も…利用、しようと…? ウ、ウソだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

キマリスは飛び上がり、グリムゲルデの下に舞い降りる。

 

「マクギリスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!」

 

そして力いっぱいにキマリスサーベルを振り下ろしたが、グリムゲルデはそれを右腕のヴァルキュリア・シールドで受け流して回転し、左のヴァルキュリア・ブレードをキマリスの背中に突き刺す。

 

「ぐあああああ!!」

 

キマリスはサーベルを振り、グリムゲルデは剣を交差させて受け止める。

そのままキマリスは無造作にサーベルを振り回し、グリムゲルデに立ち向かう。

 

「カルタは、お前に恋焦がれているんだぞ!! 大怪我を負って殺されかけた時、最後までお前を頼って…助けを求めていたんだ!!」

 

泣きながら、ガエリオはマクギリスに斬り掛かる。

ガエリオは、裏切られた事に対して怒っているのでは無い。

 

カルタの想いを、アインの誇りを裏切った事を糾弾しているのだ。

 

「妹だって、お前になら…お前になら、安心して任せられると…!!」

『アルミリアについては、安心しろ』

「!」

『彼女の幸せは--保証しよう』

 

それは、ガエリオが見た事も聞いた事も無い笑みと声音だった。

 

「ああ……あああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

ガエリオは、遂に絶叫した。

 

「マクギリス、お前はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

マクギリスは避ける事無く、ガエリオの怒りを受け止める。

 

『そうだ、ガエリオ。()への怒りを…哀しみをぶつけて来ると良い。友情、愛情、信頼。そんな生ぬるい感情は、俺には届かない』

 

キマリスの肩装甲が飛ばされ、膝が抉られ、右腕が外される。

キマリスが膝を付き、そこでグリムゲルデは剣先の狙いをキマリスのコクピットに定める。

そして。

 

『怒りの中で生きて来た、俺にはな』

 

 

グリムゲルデのヴァルキュリア・ブレードが、キマリスのコクピットを貫いた。

 

 

キマリスはそのまま崩れ落ち、グリムゲルデの足下に転がる。

66番目の悪魔キマリスは、信頼ごと1人の男の憤怒の前に敗れ去ったのだ。

 

『--ガエリオ。お前に語った言葉に、嘘は無い。私が目的を果たす為には、お前の死とアイン・ダルトンの阿頼耶識…そして、カルタの失脚が必要だった』

 

グリムゲルデは動かず、転がされたキマリスを見下ろす。

機体のアチコチから流れ落ちるオイルは、ガエリオが流した涙のようだった。

 

 

『お前は俺の生涯、ただ1人の--友人だったよ』

 

 

 

 

 

 

ヴィネが鎖鎌エインヘリヤルを両手で構え、テルギアに振り下ろす。

それを、テルギアは両手のナイトブレードで受け止める。

 

ナイトブレードの刃が零れ、刀身にヒビが入る。

 

「--1つ聞かせろ、バクラザン。何故、俺達に襲いかかって来る?」

 

接触回線を開き、アラズはディジェ・バクラザンに問い掛ける。

 

『--降って来たからだ』

「は?」

 

首を傾げるアラズに、ディジェはこう叫んだ。

 

 

『降って来たんだよ、グレイズ・リッターがあ!! オレ達が休息していた所になあ!! オマケにグングニールまで突き刺さってやがってよ!!! そのお陰でMSの何機かが吹き飛んで、結構な損害を被ったんだよ!!! だから償いやがれえ!!!』

 

「知らねェよ!! そんな所にガンダムまで持って部隊を展開してたテメェの運が悪いんだろうが!! 俺らは悪くねェ、文句なら大気圏突入中に襲って来たそのグレイズ・リッターのパイロットか地球外縁軌道統制統合艦隊の司令官に言えよ!!!」

 

 

間髪入れず、アラズは叫び返す。

要するに、単なる逆恨みだ。

 

『言おうと思ったよ!! ウチのクソ親父(ジジイ)から地球外縁軌道統制統合艦隊司令官カルタ・イシューへの通信コードを聞き出していざ連絡してみれば、鉄華団なる組織にパイモンごとボコボコにされて下半身付随の意識不明だ何て言って来やがった!! そんな奴に、罵声を浴びせられる訳無えだろこの人でなしがあ!!!』

「お前、さては優しいな!? 一見チンピラみたいだけど、性根は完全に優しいお兄さんだろ!?」

 

アラズのその指摘は、ディジェの琴線に触れた。

 

『誰がお兄さんだあ!!? このディジェ・バクラザンが、そんな心優しい訳無えだろうがあ!! オレはな、道端に捨てられた子犬を段ボールごと拾って来て毎度毎度世話を仕切れず使用人に押し付けてたクソ野郎だよ!! 勘違いすんなあ!!』

「滅茶滅茶優しいなオイ!? 負い目を感じるのはそこかよ!!? と言うか、ツンデレすんなら去勢してから出直して来い!!」

『そうしたら、名前をガザ・バクラザンにしなきゃいけねえだろうがあ!!』

 

ずっとエゥーゴ系(カラバ含む)で攻めて来た名前が、突如アクシズになるとはこれ如何に。

なるなら、せめてメタス・バクラザンだろう。

 

割と下らない事を言い合いながら、ヴィネは鎌を手前に引き戻す。

その隙に、テルギアは距離を詰めて斬り掛かる。

 

『しまッ…!?』

「とりあえず、お前のは逆恨みだから帰れ!!」

 

テルギアが、ナイトブレードを振り下ろす--直前。

 

 

背部のブースターに、鎖の先に付いた鉄球が直撃した。

 

 

噴射中だったブースターは暴発し、ガスが周囲にばらまかれる。

 

「チィッ、これだからヴィネは…!」

『今度はこっちの番だなあ! 今こそ、傷付いたオレの部下達の怒りと嘆きを受け取れえ!!』

 

振り下ろされた鎌を、テルギアはナイトブレードで受け止める。

 

しかし、2本ともがへし折れた。

 

「武器の性能が…!」

『じゃあ、コイツでどうだあ!?』

 

ヴィネのバックパックから巨大なサブアームが伸び、テルギアに向けられる。

その掌に当たる部分から、内蔵されたユグドラシルが弾を撃ち出した。

 

それは残ったブースターの残骸に大穴を開け、テルギアを揺るがした。

 

「く!!」

 

テルギアはブースターをパージし、転がった破片にくっ付いたままだったナイトブレードを2本回収して距離を取る。

 

(残り2本…! クソ、ヴィネとは戦い辛いな!)

『しぶといな…だが、面白えぞテメェ!』

 

ヴィネは鎖鎌を回転させ、遠心力で鉄球を宙に浮かせる。

 

「--」

『死ねえ!!』

 

ヴィネは充分加速させた鉄球を、テルギアに向かってぶつけにかかる。

 

「一か、八か!」

 

テルギアは、左手のナイトブレードで鉄球を打ち落とす。

遠心力を得た鉄球は何とか落とせたが、その衝撃でナイトブレードが折れる。

 

「よし、次…ッ!」

 

鎖はテルギアの左腕に巻き付き、ヴィネはサブアームでその鎖を掴む。

 

「って、うおおお!?」

『うらああああああ!!』

 

そのままテルギアを持ち上げて、仰向けに地上へ叩き落とした。

煙が舞い、周囲を覆い隠す。

 

『ふう…やったか?』

 

あの衝撃では、叩き落とされた機体のパイロットは確実にシェイクされてミンチになる。

ヴィネはサブアームで器用に鎖を巻き戻し、鉄球を左手の掌に載せる。

 

『ふん…少しは楽しめるかと思ったんだが、所詮この程度か』

 

ヴィネが背中を向け撤退しようとした、その時。

 

 

「油断禁物」

 

 

アラズの声が、ディジェの耳に届いた。

 

『!?』

 

ヴィネが振り返った時、テルギアは既に目の前に迫っていた。

そのまま右手に有る最後のナイトブレードが突き出され、ヴィネはコクピットの近くを穿たれる。

 

『ぐうッ…がああ!!』

 

ヴィネも対抗し、テルギアの右腕に鉄球を持ったまま左手を振り下ろした。

テルギアの右腕は外れ、その手はナイトブレードを離す。

未だナイトブレードはヴィネの胸に刺さったままだが、ディジェはそれを気にせず追撃する。

 

『うおおおお!!!』

 

ヴィネは鎌を持ち上げ、柄の方をテルギアのコクピットに向けて振り下ろす。

テルギアは僅かに傾き、柄はコクピットのすぐ横を貫いて終わる。

 

『今更足掻いた所で、貴様には勝機など…!?』

「果たして、本当にそうかな?」

 

テルギアは、右足を上げてヴィネを蹴る態勢を取った。

 

『まさk』

「逝っとけ!!」

 

刺さったままのナイトブレードに向かって、テルギアは膝蹴りをぶちかました。

それは見事ナイトブレードの柄の先に命中し、ナイトブレードはより深く突き刺さって背中の方へ貫通した。

 

『おのれええ!!』

 

ヴィネは中破させられながらもテルギアを蹴り飛ばし、エインヘリヤルを引き抜く。

 

「ッ、抜かった…!」

『ぐう…!』

 

背中まで貫通したナイトブレードは、バックパックに付けられたサブアームの1本を使い物にならなくした。

追撃しようにも、サブアームには鎖が複雑に巻き付いている。

 

『ディジェ様! これ以上の介入はファリド家との関係に遺恨を残す原因となる、撤退せよとの指令が来ました!』

『誰からだ!?』

『当主、ネモ・バクラザン様からです!』

『あのクソ親父(ジジイ)め…! 帰還する、ヴィネ整備の準備を頼む!』

 

ディジェは舌打ちして通信を切り、動かなくなったテルギアを一瞥した。

 

(オレが性能差に助けられた、か…しかし、何故パイロットはミンチになっていなかったのだ?)

 

ディジェは少し考えたが、大した問題では無い。きっと打ち所が良かったんだろう、と判断した。

 

ヴィネは反転し、母艦へと撤退して行った。

それを見届け、アラズは阿頼耶識を外してコクピットの外へ出る。

 

「この損傷では、続けての使用は困難か…新しい機体を探さなければな。しかし危なかった…まさか、このバカげた身体に感謝する日が来ようとは…皮肉だな」

 

そう呟き、アラズは息を吐いた。

 

 

 

 

蒔苗の到着しない議事堂は、大いに混乱していた。

 

「もう待てないわ。蒔苗東護ノ介は欠席。選挙を始めなさい!」

 

立候補者の1人であるアンリ・フリュウは、そう言った。

それを受け、蒔苗派の議員は反対の声を上げて対抗する。

 

 

「随分騒がしいのう。ここは、いつから動物園になったのだ?」

 

 

喧騒の中に、よく響く渋い声が響き渡った。

 

「蒔苗、東護ノ介…? 何故、ここにいるの!? 正面にはギャラルホルンがいるハズよ!!」

「何故か、だと? 儂はここの代表だぞ。貴様が知らぬ抜け道の1つや2つ、儂が知らないとでも思うのか? しかし、興味深い事を言うなアンリ・フリュウ。ギャラルホルンがいるハズ、だと? 政治に介入しないハズのギャラルホルンが、何故儂を攻撃すると? ギャラルホルンとの関係でも有るのか?」

 

蒔内がアンリを睨み付ける。

そんな中、議長が蒔苗に話し掛けた。

 

「蒔内先生、所信表明をお願いします。後は先生だけです」

「おお、そうかそうか。だが待ってくれ。その時間を貰えるなら、彼女に話させてやってくれ」

 

そう言って、蒔内はクーデリアの背中を押す。

 

「ま、蒔苗さん!?」

「構わんよ。儂の所信表明なぞより、お前さんの演説の方が世界の為になろうて。溜め込んどるモンを、この場で吐き出して来い」

 

後押しを受け、クーデリアは壇上に立つ。

 

「誰? 議会に関係無い者の演説なd」

「私は、クーデリア・藍那・バーンスタイン。火星から、アーブラウ代表である蒔苗氏との交渉の為にやって来ました」

 

その第一声で、議会が大きくざわめく。

 

「ここに来るまでの間、私は幾度となくギャラルホルンからの妨害を受けました。そして今まさに、私の仲間達がその障害と戦っています!」

 

議事堂の外で、鉄華団はLCS用のドローンを有りっ丈上げる。

 

『ドローン、全部上げたよ! これで連絡出来るハズだ!』

「よし、ありがとなビスケット! オイお前ら、聞こえるか!?」

 

オルガは、通信機の前で叫ぶ。

 

『蒔苗とクーデリアは、無事議事堂へ送り届けた。俺達の仕事は成功したんだ! だから、()()()()()()()()()()!! もう、誰も死ぬんじゃねえぞ! こっから先に死んだ奴らは、団長命令違反で俺がもっぺん殺す!!』

「フッ…こんな命令を出せるたァ、やりやがったなオルガめ。少し…いや、かなり羨ましいな」

『だから良いか!!? 何としてでも這ってでも、それこそ死んでも生きやがれ!! 生きて、火星に帰るぞおおおおおおおおおおおお!!!』

 

戦場に、オルガの団長命令が響き渡る。

それと同じく、議事堂でもクーデリアの演説が空気を揺らす。

 

「火星と地球の歪んだ関係を少しでも正そうと始めたこの旅で、私は世界中に広がるより大きな歪みを知りました。そして歪みを正そうと訪れたこの地もまた、その歪みに飲まれようとしている。しかし、ここにいる貴方方は今まさにその歪みと対峙している。そして、それを正す力を持っています!! 選んで下さい、誇れる選択を!! 全人類の、希望となる未来を!!!」

 

 

 

 

バルバトスとグシオンは、それぞれがビルに叩き付けられていた。

 

『罪深き子供達。クランク二尉は、お前達と戦うつもりなど無かった』

「大丈夫、昭弘?」

「おう。ちょっとガタが来てるが、まだ動ける。お前のはどうだ?」

「大丈夫、まだコイツが有るよ」

 

アインの言葉を聞く事無く、三日月と昭弘は接触回線で作戦会議をする。

 

『やはり、貴様らは出来損ない! 清廉なる正しき人道を理解しようとしない、野蛮な獣! それどころか、救いに手を掛け冷たい墓標の下に引きずり込んだ!』

 

アラズが聞けば、即座に「お前には言われたくねェよ」と返した事だろう。

しかし、三日月と昭弘はアインの言葉を聞いていない。

 

「行くぞ、三日月!」

「ああ!」

 

グシオンがアインに襲い掛かりハルバードを構えると、アインは斧をハルバードの柄に振り下ろす。

 

『もう、貴様らは救えない! その身にこびりついた罪の穢れは、決して落とせない!』

「ああ、そうかよ!」

 

グシオンは隠し腕を展開し、アインの両腕を掴む。

 

「三日月!」

 

バルバトスは破壊されたレンチメイスを放棄し、背中から太刀を引き抜く。

 

『小癪なマネを!!』

 

アインは足首を回転させ、ドリルキックをグシオンに仕掛ける。

グシオンはハルバードを捨て、そのキックを両腕で何とか食い止めた。

 

「ぐうううう!! 急げ、三日月!!」

 

三日月はアインの背後に回り込んで太刀をアインの右腕に叩き付ける。

しかし、腕は斬れない。

 

(クソ…! 教官は、どうやって腕を--ッ!!)

 

三日月は今一度振りかぶり、アインの腕を斬りつけた。

 

『な、何!?』

 

アインの右腕が斬り飛ばされ、宙に舞う。

 

「こうか、教官!」

 

続けて左腕に斬り掛かり、同様に左腕が斬り飛ばされた。

 

「うらああ!」

 

グシオンは隠し腕で、アインを殴り倒す。

アインは即座に体勢を立て直すが、その前ではバルバトスが太刀を構えている。

 

『そんな…! クランク二尉、ボードウィン特務三佐!! 私は、私の正s』

 

 

台詞を言い切る前に、グレイズ・アインのコクピットは太刀によって貫かれる。

 

 

沈み行く夕日が、太刀の刃を紅く輝かせた。

 

 

 

 

アーブラウ代表選は、蒔苗東護ノ介が再選した。

それと共にアンリ・フリュウとイズナリオ・ファリドの癒着が明かされる事となり、ギャラルホルンの社会的信用はガタ落ち。

 

イズナリオ・ファリドは、亡命先へ追放される事となった。

 

「義父上、亡命先の用意が整いました」

「マクギリス、貴様…!」

 

イズナリオもバカでは無い。

此度の件が全てマクギリスのシナリオ通りだった事は、とっくに気付いている。

 

「ここで義父上が身をお引きにならねば、監査局も黙ってはいません。我々ファリド家と傘下の家への実刑は愚か、ファリド家の断絶さえ有り得ます」

「どの口が抜かすか! そう仕組んだのは貴様であろうが!! 孤児であった貴様を引き取ってやった恩を、よくも忘れt」

「今は忍耐の時です。ここで身を引かねば、再起も望めなくなります。後の始末は、私にお任せを。必ずや、ファリド家を守って見せましょう」

 

イズナリオは歯噛みし、マクギリスの側を通って亡命先へ向かう船に向かう。

 

「分かっているのだろうな、マクギリス。絶望から救い上げてやった恩義を忘れたお前の先にも、絶望しか待っていないぞ」

「--」

 

そう言い残し、イズナリオは部屋を出ていった。

 

「恩義、か。残念ながら、俺は貴様に憎悪を抱きこそすれ感謝を抱いた事は無い。--では、石動・カミーチェ三尉。例の件は、予定通り頼むぞ」

「はっ」

 

亡命した3日後、イズナリオ・ファリドは何者かに暗殺された。

かつてマクギリスが持っていた短剣で、背中から心臓を一突きにされていたとか。

 

しかし、それが世に伝わる事など無かった。

 

 

 

 

戦闘から、実に4日が経った頃。

 

「兄貴、色々迷惑をおかけしました」

 

地球に降りて来た名瀬に、オルガは頭を下げた。

 

「何言ってるんだ。お前らはきっちり仕事をしたんだ、胸を張れよ。お前がいつか俺に言った言葉は、偽りだったのか?」

 

かつて、オルガはこう言った。

 

訳の分からない命令で、仲間が無駄死させられるのは御免だ。

アイツらの死に場所は、鉄華団の団長として--

 

「--俺が、作る」

「アイツらは、お前の作った場所で散って逝った。張れよ、胸を。今生きてる奴らの為にも、死んじまった奴らの為にも。お前が口にした事は、お前が信じ抜かなきゃならねえだろ」

 

オルガの胸板を叩きながら、名瀬はそう言う。

 

「それが指揮官としての…団長としての、覚悟ってモンだろ」

「--はい」

 

名瀬の激励を受け、オルガは前を見据える。

 

「ようオルガ、こんな所にいたか」

「アラズさん…?」

 

そんなオルガの下に、アラズが現れる。

 

「あの、モンターク商会からの奴はどうでした?」

「うむ。あれは、良い物だ!!

 

アラズは、異常なまでに上機嫌である。

モンターク商会より、是非ともアラズにとMSが贈られて来たのだ。

 

V08-1228 グリムゲルデ。

希少なヴァルキュリア・フレームのMSだ。

現在改装中。

 

バックパックとしてシュヴァルベ・グレイズのフライトユニットが取り付けられる他、阿頼耶識を取り入れて白と青に塗り替えられる予定となっている。

 

「機体名とかは、決めたんですか?」

「おう、『V08-1228p グリム・パウリナ』。今度からはパウリナとでも呼んでやれ。それより、そろそろだ。団長として、ちょっと演説して来い」

 

アラズに言われ、オルガは団員達の前に立つ。

 

「みんな、よく頑張ってくれた。鉄華団としての初仕事、お前らのおかげでやり切る事が出来た。けどな、ここで終わりじゃねえぞ。俺達はもっと、もっともっとデカくなる!」

 

そこで、オルガは笑う。

 

「けどまあ、次の仕事までは間が有る。お前ら、成功祝いのボーナスは期待しとけよ!!」

「ッしゃあああああああああ!!」

 

大人げ無く、アラズがガッツポーズをする。

それにつられ、団員達も騒ぎ始めた。

 

「--終わったな」

「うん」

 

バルバトスの前で、オルガと三日月が並び立つ。

 

「なあ、ミカ。次は、何をすれば良い?」

「そんなの、決まってるでしょ」

 

オルガと三日月は互いに笑みを交わし、拳を打ち合わせた。

 

「帰ろう、火星へ」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

「さて、と。今回の失態、赦されると思うなよ--ギャラルホルン」

 

 

鉄華団団員達が騒ぎ立てる場の片隅で、赤髪の男はそう呟いた。




アグニカポイント新規取得
マクギリス・ファリド 510AP


第1期分、終了です。
疲れた…。
だがしかし、まだ ほ ん へ ですら無い…解せぬ。

せっかくなので、ここでボツ機体の設定を公開します。
アラズはテルギアの後これに載せる予定だったのですが、グリムゲルデの存在とテルギアと余り変わらないと言う理由で日の目を見る事無く…。

機体データは以下の通り。


EB-06sgn グレイズ・ノートリア
全高:18.7m
本体重量:39.1t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:グレイズ・フレーム
武装:ナイトブレード×2
地球外縁軌道統制統合艦隊のカルタ・イシュー親衛隊の「グレイズ・リッター」を強奪し、塗り替えて追加ブースターを載せ替えた機体。
ナイトブレードを2本装備し、それで戦う。
名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王が執筆した魔術書「レメゲトン」第五部の題名「ノートリア」から取られている。


うん、使い所無いね。
新機体「グリム・パウリナ」は、次出て来た時にデータを載せます。

次回は本編では無く、アグニカポイント獲得状況の中間報告を行います。
本編は、しばしお待ち下さいm(__)m


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おまけコーナー報告①
アグニカポイント獲得状況 中間報告


※作者名表記:NToz→NT
※フザケまくりです。
※作者が普通にキャラと喋りまくり&メタ発言満載なので、ご注意下さい。苦手な方はバック推奨です。
※一部台本形式。
※そう言うのダメだけど結果は知りたいと言う方がいれば、お手数ですが感想欄までお願い致します。


NT「これは蛇足(おまけ)コーナー『アグニカポイント獲得状況』の中間報告です。と言うか、それについてアグニ会が定例会を開くらしいんで潜入して一部始終を」

 

アラズ「いや待て、お前が行くのかよ。そう言うのダメな人とかもいるだろ?」

 

NT「じゃあお前が行けよ」

 

アラズ「嫌だ! 俺は今、グリム・パウリナの整備で忙しいんだ!!」

 

NT「お前がそんなだから、私が行く事になるんだよ。お前が行ってくれれば、それで全部解決なんだぞ         君」

 

アラズ「オイ、バレてんぞ。言っちゃってるぞ、俺の正体。空白になってるけど。いや確かに、読者はもう気付いてるみたいだし問題無いだろうけど」

 

NT「ガリガリ君は今、仮面被ってるし私かお前しかいないんだよ…じゃあ、始めましょうか。行きたくねえなあ」

 

 

 

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の一角に存在する、アグニ会専用会議室。

部屋の壁はバエルポスターとアグニカポスター、バエルタペストリーとアグニカタペストリーで埋め尽くされており、部屋に掛けられているカレンダーは勿論日めくりアグニカレンダーだ。

 

怖い。

そして、そこにいる者達は。

 

全員がアグニカなりきりセットを着込んでおり、ある者はアグニカ叙事詩を読みふける。

ある者はバエルのプラモを組んでいる。

 

なお、置かれているテーブルは全てアグニカテーブルである。

 

怖い!

 

帰りたい。

帰らせて。

企画したの私だけどゴメンナサイ帰らせて下さい!

 

「会長が来られたぞ!!」

「全員起立!!」

 

会長--マッキー来ちゃった?

すいません、帰るわ。

 

って、もう締め切られてるし!

帰れないよ、どうしよう!?

 

「号令開始!」

『アグニカ! アグニカ! アグニカ! アグニカ! アグニカ! アグニカ!!』

 

全員が腕を上げてアグニカコールを始めやがった。

もう嫌だ、コイツら…

 

いや、大体は私のせい何ですけどね?

 

助けてアグニカ。

 

「ご苦労。これ以降は声を上げず、心の中でアグニカを讃え続けよ。石動、アグニ会会員は全員出席しているな?」

「はい、全員出席です」

 

満足げにマッキーは頷き、懐からアグニカ叙事詩の文庫版を取り出した。

 

「本日も、アグニカ叙事詩の朗読を行う。では」

 

全員が息を合わせ、朗読を始める。

 

『アグニカ叙事詩 編:ギャラルホルン。協力:アグニカ・カイエル。第零章、エイハブ・リアクターの誕生とMS、MAの誕生。P.D.0001年の10年前--ここでは、B.D.0010年…厄祭(Disaster)(Before)10年と表現しよう。天才科学者であったエイハブ・バーラエナは、画期的な新エネルギーシステム「エイハブ・リアクターを開発s』

「ストップ、ストーップ!! ちょっと待てよお前ら、何ネタバレ満載なアグニカ叙事詩の朗読始めてんの!? しかも声揃いまくってるし怖いぞ!!」

 

マズい。

思わず止めてしまった。

 

いや、練りに練りまくった設定をこんな所で暴露されても困るし。

是非も無い…よね?

 

「--そこの作者、前に出ろ」

「何か、指名来た!?」

 

石動クンに引きずられ、マッキーの隣に放り出されてしまった。

帰りたい。

 

「その懇願を聞き届け、今回は朗読を省こう。早速本題だ。作者、今回の企画について説明したまえ」

「ハイハイ分かりましたよ」

 

マッキーに言われたので、説明します。

 

 

本作「鉄華団のメンバーが1人増えました」は、無事原作1期分を終える事が出来ました。

これからは2期分へ入って行くのですが、その前におまけコーナーの奴を整理して欲しいとの要望がございまして。

 

今までアグニカポイントの獲得状況を、後書きで知らせて来ました。

これはそちらを一度合計し、ランキングにして発表して行こうとの企画です。

 

では、注意書きを。

 

範囲は、「#1 謎の男」から「#24 鉄華団」まで。

本編で描写されていない部分は、一切カウント致しません。

あくまで、本編で獲得が確認された分のみです。

 

ランキングは下から発表しますが、個別コメントは3位より上の者のみに付けます。

それ以外は纏めてコメントします。

 

「1位の栄冠を手にするのは誰か! それでは、カウント~ダウン!!」

「アグニカ、万歳!!」

『アグニカ、万歳!!』

「お前ら、ちょっと1回黙れ」

 

 

24~10位

24位

トド・ミルコネン -10AP

 

18位(同率)

アミダ・アルカ 10AP

コーラル・コンラッド 10AP

オーリス・ステンジャ 10AP

エドモントンにいたギャラルホルンの皆様 10AP

アリアンロッドの皆様 10AP

MSを強奪したコロニー労働者の皆様 10AP

 

16位(同率)

クランク・ゼント 30AP

地球外縁軌道統制統合艦隊の皆様 30AP

 

14位(同率)

ラフタ・フランクランド 40AP

アジー・グルミン 40AP

 

13位

クーデリア・藍那・バーンスタイン 50AP

 

12位

ディジェ・バクラザン 60AP

 

11位

カルタ・イシュー 70AP

 

 

「有象無象どもめ」

『ハッ!(嘲笑)』

 

マッキーに続き、アグニ会は嘲笑する。

 

「オイ待て、酷いなお前ら!? いや確かにトドとか同率の10APな奴らは有象無象かも知れんが、ガンダムに乗ったディジェとかカルタとかは有象無象じゃないだろう!?」

『たかだか2桁? 笑わせてくれるわハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』

 

全員が声を揃えて笑い始める。

やっぱりおかしい、おかしいですよアグニ会さん!

 

「もうコメントすら要らん! 次!」

「マッキー、キャラキャラ。じゃあまあ、うん。次行こうか早く帰りたいし。カウント~ダウン!!」

『アグニカ万歳!!』

「だから黙れよお前ら」

 

 

9位~4位

9位(同率)

昌弘・アルトランド 80AP

ブルワーズの皆様 80AP

 

8位

クダル・カデル 120AP

 

7位

ノルバ・シノ 160AP

 

6位

ガエリオ・ボードウィン 250AP

 

5位

昭弘・アルトランド 380AP

 

4位

三日月・オーガス 730AP

 

 

「--どうだ? そろそろ有象無象じゃなくなって来ただろ?」

「…ふむ。9位は有象無象ですが、それより上はそれなり。3桁とは大したモノです。しかし--5位と4位の差が気になりますね。5位の昭弘殿が300後半なのに対し、4位の三日月殿は700前半と倍近い開きが有る。ここからはインフレなのでは?」

「見事な考察だ、石動」

 

石動の考察に、マッキーが頷く。

そろそろ、私もヒントを出そうか。

 

「正解。3位と1位が、倍近くかけ離れている」

『なぬ』

「では行こう、まずは3位! カウント~ダウン!!」

『アグニカ万歳!!』

「だから…もういいや」

 

 

3位

マクギリス・ファリド 1,320AP

 

 

「--なん、だ…と……!?」

「見下げ果てました、准将」

『会長失格、交代不可避』

 

アグニ会全員が、マッキーをディスる。

酷いな。

 

「有り得ない、有ってはならない! 俺は300年の歴史を持つアグニ会、その現会長を名乗っているのだぞ!! それがこんな無様、こんな失態を晒すとは…!! 申し訳有りません、アグニカ・カイエルよ!!! この命を持って、恥をそそぐ!!」

 

そう叫び、マッキーは窓に向かって走る。

なお、窓の外は海である。

 

「待て、待て待て待て待て!!! お前、何ナチュラルに入水自殺しようとしてんだ!!?」

 

走り出したマッキーを、後ろから取り押さえる。

 

「邪魔するな!! 蒼き清浄なる世界の為に!!」

「ナチュラルって、地球連合の事じゃねェから! と言うか本当にやめろ、この後の展開構想が全部破綻するから!! と言うか手伝えよアグニ会!!」

 

マッキーを縛り付け、ようやく一息付いた。

 

「はー、はー…つ、次へ行こうか。アグニ会会長をも下した2人の内の1人、即ち2位の発表だ! カウント~ダウン!!」

『アグニカ万歳!!』

 

 

2位

アイン・ダルトン 1,980AP

 

 

「--なん、だ…と……!?」

「准将、自爆ですか」

『自業自得、自爆乙(嘲笑)』

 

縛り付けられたまま、マッキーは目を見開く。

対して石動とアグニ会は、ゴミを見る目でマッキーを見下す。

 

「阿頼耶識の手術を3回分受け、阿頼耶識のついたMSで出撃したアインが2位ですね。大体、お前の差し金だよなマッキー」

「違う!! 実際決めたのはガエリオだ! 俺のせいじゃない!!」

「どの口が抜かしていやがる。そのガエリオについてはコメント/Zeroだったクセに」

 

とりあえずマッキーを殴ってから、私は最後の発表へ移る。

 

「それでは、栄冠の第1位!! アグニ会会長と阿頼耶識手術受けたマンを退け、1位に輝いたのは…案の定、コイツだった! カウント~ダウン!!」

『アグニカ万歳!!』

 

 

1位

アラズ・アフトル 2,280AP

 

 

「 知 っ て た 」

 

とりあえず、そうコメントしよう。

予想通り予想通り、まさしく運命の導き。

 

流石は         である。

 

さてさて、アグニ会は…と。

 

 

「アグニカ・カイエル…?」

「アグニカ・カイエル…!」

「アグニカ・カイエルだ!」

 

『アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!!!』

 

うるさい。

と言うか、いつからアラズ・アフトル=アグニカ・カイエルだと錯覚していた?

 

 

『え゛』

 

 

その後、狂乱の檻に捕らわれたアグニ会をなだめる事数時間。

何とか、無事に帰還する事に成功した。

 

 

 

 

NT「ふう、死ぬかと思った」

 

アラズ「自業自得じゃね」

 

NT「それを言うなし。とりあえず、中間報告はこんなモンだな」

 

アラズ「こんな滅茶苦茶な中間報告、有ってたまるか。まあとりあえず、こっから物語は変化するんだろ?」

 

NT「勿論。まあ、2期も中盤までは原作通りだよ多分。    の暴れ具合によるけど」

 

アラズ「お前、普通に言ってるよなもう。じゃあまあ、こんな茶番書いてないで本編書けよ」

 

NT「せやな」




と言う事で、中間報告(茶番)はこれで終わります。
次回からは、普通に本編…2期分へ。
本編更新じゃなくて、すみませんm(__)m

治安の悪化してしまった世界に翻弄される、鉄華団。
今一度目覚める厄祭の記憶、モビルアーマー。
混乱に陥る世界の中で、アラズ・アフトルは遂にその正体とその過去を明かす--

的な感じで。
それではまた、次回の前書きと後書きでお会いしましょう。




あでぅ。(蒼月(古谷)さんボイス)


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地球支部編
#25 開戦の狼煙


今回から2期分…なんですが、まずは何点かについて注意を。

1.夜明けの地平線団との戦闘はカット。主人公はあくまでアラズであり、そのアラズは現在火星にいない為原作と全く同じ展開になるからです。(火星にいない理由は後述)
2.1期と2期の間には2年程の間が有るのですが、そこは詳しく書きません。最初にナレーション的な地の文で説明仕切っています(原作と違って来る状況説明も含まれます)。
3.所々カットしまくり。

細かく見たかった方がいらっしゃれば申し訳ございませんが、オリジナル展開突入後の長さなどの都合上致し方無い部分でも有りますので、ご了承下さいm(__)m

これオリジナル展開を盛り上げなかったり短かったりしたら、ダメな奴ですよね…ガクガクブルブル


アーブラウでの代表選から、約2年。

蒔苗東護ノ介の再選と同時にギャラルホルンの腐敗が暴かれた事により、世界の情勢は少しずつ変化している。

 

クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛任務をやり遂げた鉄華団は、その名を世界に轟かせた。

ハーフメタル利権を得たテイワズは、大きく貢献した鉄華団を直系団体とし莫大な利益を得た。

 

また、ジャスレイ・ドノミコルスが暗殺された事により空席となっていたテイワズNo.2の座には、鉄華団をよく助け仕事達成に貢献したタービンズの名瀬・タービンが納まった。

タービンズが元々築き上げていた輸送網は更に発展し、世界物流は一変。

 

アーブラウはギャラルホルンに頼り切りだった防衛力強化の為、鉄華団に軍事顧問となる事を依頼。

これにより鉄華団は地球支部を開設し、その支部長にはアラズ・アフトルが任命された。

 

アラズの手腕によりアーブラウ防衛軍は急速な軍備増強を果たし、他経済圏からも軍事顧問になれと言う依頼が絶えない。

 

混乱する世界の中を巧く渡り歩く鉄華団は、実績を買われ発展し急成長企業となった。

 

クーデリアは鉄華団を通じてテイワズと協力し、アーブラウ植民地域のハーフメタルの採掘一次加工輸送業務を行う「アドモス商会」を設立。

その社長にはクーデリアが自ら就任し、副社長としてフミタン・アドモスが就任した。

 

更に鉄華団と提携し、桜農園の敷地内に孤児院を設立。

社会的弱者への能動的支援と火星全土の経済的独立の為、休む事無く日々奔走している。

 

しかし、腐敗を暴かれたギャラルホルンは社会的信用と地位を大きく揺るがされた。

それにより各地での紛争が増大し、鉄華団の活躍で有用性が示される事となった少年兵が大量に戦線へと投入されヒューマン・デブリも増加。

 

鉄華団とギャラルホルンの戦いで両者に伝説のガンダム・フレームが用いられた事によりMSの重要性が再認識され、世界各地で厄祭戦時代のMSの復元と改修が盛んに行われるようになった。

これによりMSの総数は爆発的に伸び、戦争の形はMW同士による戦略戦からMSによる白兵戦へ移行した。

 

鉄華団の活躍はギャラルホルンに喝を入れると同時に世界経済の発展へと繋がったが、それ以上に子供達が酷使され使い潰される世界へと繋がってしまった。

P.D.0325年。

何も知らない子供達が搾取される世界は、未だ続いていた--

 

 

 

 

ギャラルホルン本部ヴィーンゴールヴの一角に存在する、セブンスターズ会議場。

床には分厚い絨毯が敷かれ、各家に1つずつ用意された椅子の後ろには荘厳な旗が有り、そこにはそれぞれの家紋が描かれている。

 

現在会議場には、セブンスターズ第二席ファリド家当主マクギリス・ファリド、第三席ボードウィン家当主ガルス・ボードウィン、第四席エリオン家当主ラスタル・エリオン、第五席クジャン家当主イオク・クジャン、第六席バクラザン家当主ネモ・バクラザン、第七席ファルク家当主エレク・ファルクが出席している。

第一席イシュー家の現当主はカルタ・イシューだが、現在は出席出来ない状況にある。

 

「地球外縁軌道統制統合艦隊を組織改編し、アーブラウの件で難しくなった地球上での活動を再編。各経済圏との新たな関係を構築した手腕…見事だな、マクギリス・ファリド公」

 

第三席ボードウィン家当主ガルス・ボードウィンは、そうマクギリスを評価する。

 

「いえ。これも、皆様方のご指導の賜物です」

「いやいや、これでは地球外縁軌道統制統合艦隊をもうお飾りなどと呼べませんな」

「私のこれまでの仕事は、存命で有りながら未だ意識を取り戻していないカルタ・イシューの遺志と仕事を引き継いだに過ぎません。それに私は、過去に大きな問題を抱えています」

 

第七席ファルク家当主エレク・ファルクの言葉にそう返しつつ、マクギリスはさり気なくこう切り出す。

 

「監査局時代、私と故ガエリオ・ボードウィンの査察により火星支部から膨大な量の汚職が発覚しました。我々はすぐこれを摘発し、当時司令官であったコーラル・コンラッドは途中で戦死。火星支部の組織改編を余儀無くされました。しかし、それにより火星支部は弱体化。その管理区域は現在、海賊組織などが跳梁跋扈する無法地帯と化している。正義を執行したからこその副作用とは言え、これは私の撒いた種が原因によるモノ。なので、私にその清算をさせて頂きたいのです。我が地球外縁軌道統制統合艦隊が火星区域へ干渉する事を、この場で許可して頂ければと」

「ファリド公! それは、エリオン公率いるアリアンロッドの職域を侵す行為だぞ!」

 

マクギリスの提案に、第五席クジャン家当主イオク・クジャンが異議を唱える。

 

「そう構えるな、クジャン公。やる気が有るのは良い事だ」

「ラスタルs…エリオン公、それは…」

「クジャン公。我らギャラルホルンは、世界の秩序を守る為に有る。その為ならば、『ギャラルホルンの誰が』などは小さな問題だ。今我々に必要なモノは、秩序を維持する為の『力』なのだから」

 

第四席エリオン家当主ラスタル・エリオンはそう言ってイオクを黙らせ、マクギリスの提案を認可した。

 

その数時間後に会議は終わり、ラスタルとイオクは外に出る。

 

「待たせたな、ジュリエッタ」

 

外で待っていたのは、ジュリエッタ・ジュリス。

ラスタルによって選び出された、MSの凄腕パイロットだ。

 

「どうでしたか…とは、野暮なようですね。イオク様の顔を見れば、大体分かります」

「おのれ、この猿何を…!」

 

イオクが突っかかるが、ラスタルは微笑を浮かべたままだ。

 

「マクギリスは以前から、地球外縁軌道統制統合艦隊を圏外圏で活動させるきっかけを探していた」

 

ジュリエッタは指に止まった蝶を食べつつ、ラスタルの話に耳を傾ける。

 

「火星を自らの拠点とし、その足掛かりを作ろうと言うのだろう」

「…ラスタル様。そこまで把握していながら、何故マクギリス・ファリドの提案を?」

「何を言う。私はギャラルホルン最大最強を誇る月外縁軌道統合艦隊、アリアンロッドの司令だぞ。受けて立つさ、真っ向からな!」

 

ラスタルはそう宣言し、大股で歩き出す。

 

「肉を食って帰るぞ!」

「肉!? 大好物です!」

「わ、私も頂いて良いでしょうか!?」

 

 

 

 

鉄華団の地球支部支部長となったアラズ・アフトルは、広い支部長室のデスクでふんぞり返りながら火星にいるオルガと通信していた。

 

「おう。聞いたぞテメェら、『夜明けの地平線団』とやり合ったんだって?」

 

夜明けの地平線団。

地球と火星の間の航路を主な活動区域とする、最大規模の宇宙海賊だ。 

構成員は実に3000人にも及ぶ大所帯で、ユーゴーやガルム・ロディといったMSに加え10隻にも及ぶ宇宙艦に多数のヒューマンデブリ兵士を抱える。 

団長の名は、サンドバル・ロイターと言う。 

 

『そんな正面切ってやり合った訳じゃないですよ…喧嘩売って来たから、返り討ちにしただけd』

「世の中ではな、それを『やり合った』って言うんだよ。で、どうするんだ? 絶対に目を付けられたぞ」

『分かってます。こうなったら、ぶっ潰すしか…』

「無い、んだよな。まあ好きにやれ、ただしやるからには勝てよ。ああ、そう言えばマクギリス・ファリドなる男から夜明けの地平線団討伐依頼が来ている。何でも、部隊まで送ってくれるとさ。後で、直接通信して依頼を正式に受け取れ。地球にいる俺が、火星の任務を勝手に受ける訳には行かんからな」

 

ついさっき、地球支部にマクギリスから通信が有った。

マクギリスはやけに笑顔であり、アラズがそれを気持ち悪がってマクギリスが傷付くと言う場面も有ったが、鉄華団はその依頼を受け取る事になるだろう。

 

その内容が、夜明けの地平線団の討伐。

また助力にと、マクギリスの副官である石動・カミーチェ率いる部隊が派遣されるとも。

 

『…それは、向こうは本気で?』

「そりゃそうだ。俺も疑って聞き返したら、確約だと返して来た。ありゃマジだろ」

『そうですか…それなら、多少は楽になる。それと、すいません。そっちへの獅電の納期が遅れるかと思います』

「了解だ。こっちはこっちで何とかするが--出来る限り早く片付けろよ」

 

そう言って、アラズは通信を切る。

戦力の到着が遅れるのは多少痛いが、その分はアラズが働いて補えば済む話だ。

 

問題は。

 

「失礼します。獅電の到着が遅れるとは、どう言う事ですか? 予定は守って貰わないと困ります」

 

この頭特殊超合金な嫌味管理職、ラディーチェ・リロトをどう納得させるかである。

アラズは心底嫌だと思いながら、ラディーチェの論破に移る。

 

「火星本部の方が、『夜明けの地平線団』討伐に動く。その影響で、輸送に時間を割く余裕が無いんだとよ」

「それは関係有りません。一度決まった事は、その通りにして頂かないと。アーブラウ防衛軍も成立して近々式典を行うとは言え、こちらの戦力はギリギリです。ランドマン・ロディだけでは限界が有ります」

「そんな事は、言われずとも分かってるよ。予想外の事態が起きるのが人生ってモンだ。戦力に関しちゃ俺が動けばそれで済むし、何より出来なくなった事はこっちが何を言っても無駄だ。俺なんぞに異論を唱えるヒマが有るなら、さっさと事務室に戻って手を動かしやがれ」

 

そう返し、アラズは椅子から立ち上がる。

 

「? どちらへ?」

「式典警備の打ち合わせが入っている。アーブラウ防衛軍もようやく何とか戦場で生き残れるくらいにはなったし、試しに奴らの意見も聞いてやろう」

 

アラズは近くの棚から背中に鉄華団のマークが刻まれたコートを取って羽織り、部屋を後にした。

 

 

 

 

デブリ帯で鉄華団、地球外縁軌道統制統合艦隊との対決も兼ねた「夜明けの地平線団」討伐作戦は、サンドバル・ロイターの身柄を鉄華団に確保された為アリアンロッドの敗戦となった。

 

それから10日。

アーブラウ防衛軍発足式典を翌日に控えた今日、アリアンロッド旗艦スキップジャック級の艦長室ではラスタル、イオク、ジュリエッタが今後の方策を練っている。

 

「申し訳ありません、ラスタル様。マクギリスの思惑を、みすみす見逃す形になってしまいました」

「見逃したと言うより、推し進めたと言う方が適切かもしれませんね」

 

イオクがラスタルに謝罪するが、ジュリエッタはその横からツッコミを入れる。

 

夜明けの地平線団討伐作戦に於いて、イオクとジュリエッタは新型MS「レギンレイズ」に乗って出撃した。

しかし、イオクの狙撃は全く当たらないばかりかジュリエッタの邪魔をするような形にまでなってしまった。

 

たわけめ。

 

「構わん。今回は先を越されたが、次はこちらの番だ。だが、地球はそれこそ地球外縁軌道統制統合艦隊の庭だ。そこで我らアリアンロッドが動くと、セブンスターズ内で問題が生じる。だからこそ、()()()に協力を仰いだ」

「あの男?」

「ラスタル様、それは…」

 

イオクが首を傾げるが、ジュリエッタには思い当たる人物がいたようだ。

 

「ヒゲのおじ様、ですか?」

「ああ」

 

 

 

 

部屋を後にしたジュリエッタは、MSデッキに来ていた。

最近、MSデッキに怪しげな機体が持ち込まれた。

そして、そのパイロットも。

 

何でも、ラスタルの側近だと言う。

仮面を付けた怪しい男を側近にすれば、ラスタル自身のセンスが疑われる。

由々しき問題である。

 

カマを掛けるべく、ジュリエッタはMSデッキにいるその仮面の男に近寄る。

 

「私には理解不能です。ギャラルホルンには多くの人間がいるのに、それを差し置いてどこの馬の骨かも分からない貴方を側近にするなど。これは由々しき問題です」

『ほう?』

 

くぐもった声で、仮面の男は反応した。

 

「端的に言うならば、ラスタル様によるえこひいきです」

『…ふっ』

 

ジュリエッタのその言葉を聞いて、仮面の男は失笑する。

 

「なっ、今笑いましたか!?」

『ああ。君の事も、この艦隊の人間がそう噂していたからな。気分を害したのなら謝ろう』

 

ジュリエッタは無言で仮面の男を見据えた後、続けて話し始める。

 

「--確かに、私には階級も後ろ盾も有りません。けれどMSの操縦の腕だけでラスタル様は私を認めて、取り立てて下さったのです」

『信用しているんだな、ラスタルを』

「当たり前です。ラスタル様は私の誇りであり、尊敬すべき上官なのですから」

 

それを聞いた仮面の男は、少し間を置いて。

 

 

『そうか。--誇り、か…』

 

 

と、感慨深そうに呟いた。

 

「?」

『君、名前は?』

 

仮面の男は唐突に、名前を聞いて来た。

 

「…ジュリエッタ。ジュリエッタ・ジュリスです」

『そうか。俺の事は、ヴィダールと呼んでくれ。よろしく』

 

ジュリエッタはふと、ヴィダールが笑ったような気がした。

 

 

 

 

アーブラウ防衛軍発足式典の当日。

いつも長袖シャツの上にコートを羽織っているアラズは珍しく、黒いスーツに身を包んでいた。

 

「…アラズさん、やけに様になってますね」

「いや、似合ってないだろ。俺は元来、堅苦しいのが苦手なんだよ」

 

タカキの言葉を、アラズは否定する。

赤い髪と黒いスーツを合わせた結果、おかしな事になるのは分かり切っている。

 

「じゃあ、俺は中で式典に参加して来る。警備の指揮は頼むぞ、チャド。もし何か有れば、その場で最適だと思う行動を取れ。配置やら、事後処理やらは考えるな。最悪の事態を阻止しろ」

「り、了解」

 

チャドが頷いたのを確認し、アラズは会場へ入って行った。

 

(…他の経済圏に先立ってのこの式典、無事に終わると良いんだが--)

 

式典の直前、アラズは蒔苗の部屋に顔を出した。

 

「いやはや、感謝感激じゃよ。仕事として頼んでからと言うもの、アーブラウの防衛力は日に日に増大しておる。今日この日を迎えられたのも、鉄華団のお陰だ。礼を言う」

「いや、礼を言われる程じゃ有りません。我々はただ、仕事を果たしただけです。アーブラウ代表、蒔苗東護ノ介殿」

「役立たずのヒゲジジィと言う不名誉な認識、改めてくれたようだ。結構結構」

 

満足げに頷きつつ、蒔苗は紅茶を含む--

 

「ストップです」

「んん?」

 

直前、アラズは蒔苗から紅茶を奪い取る。

そして、掌に少し紅茶を流してそれを舐める。

 

「何だと言うのだ?」

「ッ--! …蒔苗代表。この紅茶、()()()()()

「!」

 

アラズは窓に近寄り、窓を開けてティーカップごと紅茶を外へブン投げた。

 

「毒じゃと? 何者かが、それを仕込んだと?」

「ええ、そうでしょうね。ついでにもう1つ。この紅茶、いつから置いて有りましたか?」

「儂が花を摘みに行って帰って来たら、机の上に置いてあったわ。それと、そこの花も増え--」

 

蒔苗が言い切るより速く、アラズは花瓶を掴んで窓の外にブン投げた。

そして、窓を通過した瞬間。

 

 

花瓶は、大爆発を引き起こした。

 

 

「--!」

「暗殺して、それを誰かになすり付けようってか? あくどいやり方だな」

「蒔苗先生!」

 

爆発音を聞きつけて、蒔苗の秘書が部屋に飛び込んで来た。

 

「--、これは…!?」

「アーブラウ代表蒔苗東護ノ介の暗殺、未遂だ。軍事顧問として、蒔苗東護ノ介氏に進言します。今回のアーブラウ防衛軍発足式典、中止にされるのが賢明かと」

「…致し方有るまいな。しかし、延期ではなく中止かね?」

「はい、取り止めを提案します。どの勢力からの攻撃かは測りかねますが、防衛軍発足を好く思わない者達による犯行である事は明らか。既に、スナイパーなども雇われているかも知れません」

 

会場での式典が終わった後、蒔苗と議員達は防衛軍の演習を見る予定だった。

そこでスナイパーによる狙撃が行われれば、蒔苗を守り切るのは困難である。

 

「うむ、承知した。では、事態への対処は頼むぞ」

「了解しました。既に、外ではチャド達の警備隊が防備を固め始めているようです。今の内に安全な場所へ」

 

蒔苗が秘書とSPに守られて部屋を出るのを確認すると、アラズはもう一度手に付いた毒入り紅茶を舐める。

 

「--マイトトキシン、か。マジでヤベェ奴だぞ、これ…」

 

マイトトキシン。

半致死量は0.00005mg/kgとされ、世界で2番目に毒性の強い物質だ。

具体的には、たった1mgで約10万人の人間を中毒死させる程の猛毒である。

 

毒を取り込んでも何ともないフザケた身体に不本意ながら感謝しつつ、アラズは鉄華団と合流する為に走り出すのだった。

 

 

 

 

その男達は、バーのガラス越しに爆発を確認した。

 

「開幕の狼煙、だな。蒔苗東護ノ介の殺害には失敗したようだが、ここからが本番だ。あれとは比べ物にならない爆炎を上げる」

「それより、報酬の件についてを」

 

もう1人の男に急かされ、ヒゲを蓄えた男はグラスを煽ってから答えを返す。

 

「それは安心してくれ。君の提示した条件は全て呑むつもりだよ、ラディーチェ・リロト君」

 

ヒゲの男と並んで座り取引をしているのは、ラディーチェ・リロトだった。

 

「しかし、君は心が痛まないのかな? 仮にも今まで寝食を共にしてきた者達を戦火に放り込む事になるが」

「あの子供達は、教育さえ受けず野放しにされた獣のようなものです。現支部長も功績は凄まじいですが、ロクに約定を守ろうとしない。そんなモノ、私は人間と認められませんね。私は昔から、人間以外のモノが軒並み嫌いでして」

 

ラディーチェはそう、鉄華団を見限った。

 

「はははは、そうかそうか。いやはや、君は実に面白いな。俺は、面白い男が好きだよ。彼らを疎ましく思う身どうし、協力しようじゃないか」

 

そして、彼らは酒を酌み交わした。




端折り過ぎて私にも分からない!(ダメじゃねェか)
ので、自分用も兼ねて時系列と出来事を整理します。


クーデリアとアリウム・ギョウジャンの会談。

同時刻、セブンスターズ会議。

夜明けの地平線団、鉄華団火星本部を襲う。

翌日、鉄華団地球支部と火星本部の通信。

オルガとマッキー、通信。
マッキーは「夜明けの地平線団討伐」を鉄華団に依頼。

石動の部隊、火星へ到着。
鉄華団と合流。

イオクとジュリエッタ、火星へ。

鉄華団&石動部隊、夜明けの地平線団と開戦。

アリアンロッド、介入。

鉄華団、夜明けの地平線団団長サンドバル・ロイターの身柄を確保。

翌日、アリウム・ギョウジャンはバンバンバン。

戦闘の10日後、イオクとジュリエッタがラスタルの下へ帰還。

ジュリエッタとヴィダール、邂逅。

翌日、アーブラウ防衛軍発足式典。


と、言う流れです。
地球支部支部長に成り上がったアラズが全くと言って良い程関わらなかった「夜明けの地平線団」討伐戦を全てカットした結果、こんな感じに…
反省しております、申し訳ございませんでした。
本当にすみませんm(__)m
ここまで酷いのは今回だけだと思うので、目を瞑ってくれると有り難いです…。


アラズ・アフトルゥ!
何故、お前がマイトトキシンを舐めても何とも無かったのか!
何故、阿頼耶識を当たり前のように3つも付けているのか!
何故、埋まっていたバルバトスのコクピットで発見されたのか!!
それはァ…ハァ…お前が、世界で唯一!
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■男だからだァ!
ハーッハッハッハ、ハハハハハ、ハハハハハハハハハハ!!

そんな感じで、アラズが猛毒舐めてもピンピンしてるのにはちゃんと理由が有ります。
いつか明かしますので、今は首を傾げておくようお願い申し上げますm(__)m


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#26 暴かれた陰謀

今回は、一番最初にアラズの一人称視点が有ります。
何故って?
実験さ。

それと、少し短めです。
ご了承下さいm(__)m


地球支部に戻ると、俺はラディーチェに呼び出された。

そのままラディーチェに付いて部屋に行くと、そこにはヒゲの男が座っていた。

 

「こちら、ガラン・モッサ殿になります。今回の事態を受け雇わせて頂きました、傭兵部隊の代表をされています」

 

ガラン・モッサなる男は、こちらを見るなり微笑を浮かべる。

 

「…頼んだ覚えは無いが?」

「彼らは優秀な傭兵です。火星本部からの獅電が到着していない現状では、練度の高い兵士は貴重ではないかと」

 

ラディーチェの言う事は、正論に思える。

だが、俺は元からラディーチェを信用していない。

 

必然的に、ラディーチェが連れて来たこの男も信用に値しない。

 

「--鉄華団は今回前線に出ず、アーブラウの都市警備をするよう蒔苗代表から依頼された。ただし、傭兵部隊には前線で働いてもらうぞ。練度の高い優秀な傭兵部隊ならば、実戦経験の低いSAU防衛軍の足止めくらいはやって貰わねばな」

「ほほう、これはまた随分な無茶振りだな。鉄華団地球支部は、攻撃を放棄すると言うのか?」

「その通りだ。蒔苗代表も、今はSAUの方へ話し合いで解決するよう持ち掛けている」

 

少なくとも、開戦する可能性は低いと見て問題無いレベルだ。

これで開戦し万が一長引いた場合、何者かが裏で糸を引いていると考えて良いだろう。

 

「では、前線は頼みますよガラン・モッサ殿。我々が払う訳ではないとは言え、雇われた以上は報酬に見合う働きをしてもらおうか」

「貴様、なかなかに面白い男だな。気に入ったぞ」

 

嬉しくない。

さて、後は--

 

「ラディーチェ、ちょっと話が有る。付き合え」

 

ラディーチェを殺すのみだ。

鉄華団に於いて、裏切り者は問答無用で粛清する対象となる。

 

何を持って裏切り者とするかって?

軍事顧問である鉄華団地球支部支部長の俺を通さずに勝手に傭兵部隊を雇った時点で、何かしらの策を巡らせているモノだ。

 

あのガランとか言う傭兵はよく知らないのでともかく、ラディーチェは時々訓練中の団員達をゴミを見る目で見下してたしな。

そもそも、俺の無茶振りに対応出来ないようじゃアグニカポイント低いし。

 

ラディーチェを連れ部屋を出て、支部長室へ入る。

 

「して、何の話ですか? 私は忙しいので、手短にお願いします」

「良かろう。では、2文字で纏めよう」

 

腰からサイレント拳銃を抜き、ラディーチェの額に当てる。

 

「--は?」

 

 

()()

 

 

引き金を引き、ラディーチェの頭に弾丸をブチ込む。

 

ラディーチェは何が起きたのか分からないようで、間抜けな顔をしたまま死んで逝った。

 

さて、後は火星本部に連絡するのみだ。

 

 

 

 

蒔苗暗殺未遂事件より2日。

アーブラウとSAUが睨み合いを始めて数時間後に威力偵察に出たSAUの偵察機が、アーブラウ側が配備していたMSのエイハブ・ウェーブの影響を受け墜落。

アーブラウがMSを配置しているとは予測していなかったSAUは咄嗟に軍備を整え、アーブラウに攻め込んだ。

 

これがアーブラウとSAUによる、地域紛争の幕開けである。

 

SAU側の戦力は、防衛軍(実戦経験無し)とギャラルホルンのSAU駐屯部隊。

それに、地球外縁軌道統制統合艦隊からの派遣部隊による混成軍だ。

 

対するアーブラウ側は、同じく実戦経験無しの防衛軍と作戦参謀として雇われたガラン・モッサ率いる傭兵部隊。

アラズが指揮を取る鉄華団地球支部は、現在前線に出ていない。

 

国境地帯バルフォー平原での散発的な消耗戦が繰り広げられ、早半月。

戦況は完全に膠着状態で、終戦の兆しは見えない。

 

「どう言う事だ、蒔苗代表殿!」

 

後方で都市の最終防衛線を預かる鉄華団地球支部の支部長アラズは、半月が経った時点でアーブラウ議会に乗り込んだ。

 

「何だ貴様は! スーツも着ずに殴り込むな! 退廷せよ!」

「待て、議長。彼は鉄華団の地球支部支部長、アラズ・アフトル君だ。軍事顧問の意見ならば、時間を割く価値は有ろうて」

 

議長を制止し、蒔苗はアラズを見据える。

 

「では、早速問いましょう。SAU代表との交渉は、一体どうなったのですか? 私は精々、睨み合うのは数日だと思っていましたが。開戦しここまで長引くなど、私の予想から大きく外れます」

「ふむ…鉄華団支部長。君も、共に考えて欲しい。()()()()()()()()()()()()()()()、と言う事実を」

「--な、に? そんなハズは無いでしょう。外交チャンネルは、アリアドネが管理している。各経済圏が意図的に閉ざさない限り、外交チャンネルの断絶などはまず有り得ませんが」

 

SAUがアーブラウと全面戦争をするつもりなら、外交チャンネルが閉ざされるのも頷ける。

しかし、SAUの偵察機が墜落したのは事故であると考えるのが無難だ。

 

つまり、外交チャンネルを閉ざしたのは--

 

 

「十中八九、ギャラルホルンの仕業じゃろう。各経済圏以外で外交チャンネルを閉ざせるのは、アリアドネを管理するギャラルホルンのみだからの」

 

 

「--やはり、か…全く、この300年でどこまで腐りやがったのやら。だが、そうなるとギャラルホルンの狙いは…!! いや、違う…!」

「んん? 違う、とは?」

「ギャラルホルン全体の策略ではない、アリアンロッドの策略か! 地球外縁軌道統制統合艦隊がSAU側についているにも関わらず、戦争が一向に終結しなかったら? ギャラルホルンの本質である『秩序の維持』を、地球外縁軌道統制統合艦隊は成し遂げられていない事になる。そうすれば、現在地球外縁軌道統制統合艦隊と権力争いをしている月外縁軌道統制統合艦隊…アリアンロッドは介入する理由を得られる!」

 

そして、アリアンロッドが介入した事で戦争が終結したのなら。

地球外縁軌道統制統合艦隊の無能振りとアリアンロッドの有能振りが世界に証明され、アリアンロッドは世論の支持を得る事になる。

 

そのままアリアンロッドが地球圏にまで手を伸ばせるようになれば、やっとの思いでマクギリス・ファリドが再編した地球外縁軌道統制統合艦隊はただのお飾りに戻る。

アリアンロッドが獅子奮迅の活躍を見せ続けて世界中の紛争を鎮めれば、やがて地球外縁軌道統制統合艦隊は解体される事になる。

 

結果、マクギリス・ファリドはギャラルホルンの覇権争いに敗北する。

アリアンロッドは今以上に強大化し、いずれはギャラルホルンの主導権を握る事すら可能となるのだ。

 

「ガラン・モッサは、アリアンロッドが差し向けた人物。アリアンロッドがこの戦争へ介入する理由を作る為に、戦況を膠着状態にさせる事こそが奴の目的か」

「そんな--つまり、我々はギャラルホルンの内輪もめに巻き込まれただけだと!?」

「残念ながら、そうなるな」

 

議長の言葉に、アラズは頷きを返す。

すると、議員達はざわめき始めた。

 

「これはまた、下らぬ事に巻き込まれたモノだ。して、お前さんらはどうするのだ?」

「そうですね…とりあえず、地球外縁軌道統制統合艦隊と接触する必要が出て来ました。アテは有りますから、連絡自体は容易いでしょう。それから、蒔苗代表には外交チャンネルを開き直してSAU上層部との交渉を」

 

アラズは懐から紙飛行機を取り出し、蒔苗へ向かって投げる。

 

「ひょ!?」

 

それは蒔苗の額に突き進み、ぶつかって止まった。

蒔苗がそれを開くと、その紙には。

 

「これは?」

「アリアドネへの干渉コードです。意図的に閉ざされた外交チャンネルにそのコードを打ち込めば、人為的なロックを解除出来るかと」

 

アラズはそう伝え、議会場の出口へ向かう。

 

「どこへ行く気じゃ?」

「一度地球支部施設に戻って、マクギリス・ファリドにこれを伝えます。その後、私はMSで出ますので…よろしく!」

 

そして、アラズは議会を後にした。

 

 

 

 

地球に下りて策を練っていたマクギリスは、吉報を受け取った。

 

「准将、鉄華団の地球支部から通信です」

「お繋ぎしろ!!」

「は」

 

アグニ会会員ではない部下が、通信を繋げる。

すると、赤髪の男が画面に映った。

 

「ひゃっほう!!」

『--今、地球に向かって来てるユージン達に伝えてもらった方が良かったか。よしそうだなそうしよう。時間を取らせて悪かっt』

「お待ちを!!」

 

通信を切ろうとしたアラズを、マクギリスは必死の形相で制止する。

 

『落ち着け、冗談だ。そんな回りくどい真似をしていたら、感づかれてしまうからな。では、早速本題に入ろう。今回の、戦争についてをな』

 

そして、アラズは今回の戦争の裏事情についてをマクギリスに話した。

彼と話せると言う事で心臓が飛び出したマクギリスだったが、話が進むに連れシリアスキャラに戻って行く。

 

「--その、確証は?」

『無い。貴様に取っては、遺憾だろうがな。だが、今頃アーブラウはSAUとの回線を開いて交渉を始めているだろう。それに伴い、ズラかられる前にガラン・モッサを仕留める。戦場に白青の機体が現れても攻撃しないよう、そちら側の全軍に徹底してもらいたい』

「有り難き幸せ! なればこのアグニ会会長マクギリス・ファリド、全身全霊で貴方様の援護をs」

『要らん。下手に部隊を動かして、ガラン・モッサを警戒させてどうする? それにな、俺の戦闘には付いて来れんだろ』

 

そして、通信は終了した。

 

「--准将、いかが致しますか?」

「全軍へ通信! 白青の機体には、絶対に攻撃するな! 決して邪魔をせず、その雄姿を目に焼き付けろとな! ああもう、こうしてはいられん! 私の機体を用意しろ、私は間近でその戦い振りを見なければ!!」

 

ハイテンションのまま、マッキーは自分のグレイズ・リッターに向かって行く。

部隊を動かしていなくとも、自分が出れば敵は警戒すると言う事をマッキーはすっかり忘れていたが。

 

 

 

 

支部長室を出たアラズは、こうチャドに言った。

 

「ちょっと暴れて来る、こっちは頼むぞ」

「暴…れる? 何を、する気なんです?」

「この戦争を、終わらせて来るわ」

 

アラズはMS格納庫に向かい、そこに置かれた機体に乗り込む。

 

その機体は、モンターク商会から鉄華団に贈られたMS「V08-1228 グリムゲルデ」を改造した物だ。

 

背中のスラスターは取り外されてグレイズ系のアタッチメントを付けられ、そこにシュヴァルベ・グレイズのバックパックが取り付けられた。

ヴァルキュリア・シールドは外され、そこに装備されていたヴァルキュリア・ブレードはシールド側のアタッチメントごと腰に移動させられている。

コクピットブロックは換装され、阿頼耶織システムを介した機体の操縦が可能となった。

 

最後に機体は白と青に塗り分けられ、兵器とは程遠い美しさが感じられる。

 

『気を付けて下さいね、アラズさん』

「おう。アラズ・アフトル、グリム・パウリナ…出る!」

 

形式番号、V08-1228p。

機体名、グリム・パウリナ。

テルギア・グレイズを失ったアラズが新たに乗り込む、高機動MSだ。

 

パウリナは未だ深淵の闇に包まれた森の先、平原に向かって飛び上がった。

 

それは、戦場を駆ける可憐な戦乙女であり。

同時に、敵対者に死を与える無慈悲な悪魔であるようにも思えた。

 

 

 

 

「ガランさん! マクギリス・ファリドが動きました! 単騎で、こちらに向かっているそうです!」

「何? それは、確定情報か?」

「間違い有りません!」

 

ガランは、そんな報告を部下に受けた。

 

「何故、このタイミング…しかも、単騎だと? 錯乱でもしたのか? --まあ良い。せっかくの好機だ! ここで仕留めるぞ!」

『おう!』

 

部下に声を掛けてからガランは立ち上がり、自分のゲイレールに向かう。

 

自分の陰謀が全て暴かれ、悪魔が自分を抹殺すべく向かって来ているとは知る由も無かったが。




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アラズ・アフトル 40AP
マクギリス・ファリド 10AP


またまた巻きながらでした、申し訳有りません。
ラディーチェ退場、是非も無いね。

グリム・パウリナの機体データは以下の通り。


V08-1228p グリム・パウリナ
全高:18.5m
本体重量:29.2t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ブレード×2
   ヴァルキュリア・ライフル×1
概要
エドモントンの戦いの後、モンターク商会から鉄華団が譲り受けた「グリムゲルデ」を改造した機体。
白と青のパーソナルカラーに塗り替えられ、シールドは取り外されている。
代わりに、シールドに付けられていたヴァルキュリア・ブレード懸架用ジョイントは腰に移植された。
予め回収していたシュヴァルベ・グレイズのバックパックが取り付けられており、大気圏内でも飛行出来る程に機動性が高い。
その他、シュヴァルベの各部に有る姿勢制御用バーニアも移植されている。
また、コクピットブロックは阿頼耶織に対応した物に変えられている。
ただし、ヴァルキュリア・ブレードの軽さからの扱い辛さと機体の行き過ぎた機動性から操作は非常に難しい。
名前はアラズが考えたモノで、ソロモン王が執筆した魔術書「レメゲトン」第三部の題名「パウリナ」から取られている。


次回で、地球支部編は終了予定です。
グリム・パウリナの無双とマッキーのリアクションにご期待有れ。


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#27 終戦

連日投稿です。
何故って?
実はもう、昨日の夜には出来ていたからだァ!

今日はお出掛けして映画を見てました。
泣けました。


「随分とご執心ですね、このえこひいきに。一体、いつになったら出来るんです?」

 

機体の整備をするヴィダールの下に、ジュリエッタはまた訪れていた。

 

『コイツは、システム周りが少し独特でね。--地球での紛争。地球外縁軌道統制統合艦隊は苦戦を強いられているようだな』

「当然です! 何と言っても、アーブラウ側は鉄華団を黙らせてヒゲのおじ様が直々に指揮しているのですから! おじ様はラスタル様の信任も厚い、天性の戦術家。組織戦でおじ様に勝てる者など…」

『果たして、それはどうかな』

 

羨望の眼差しでそう語るジュリエッタに、ヴィダールは釘を刺す。

 

「…おじ様に、勝てる者がいるとでも?」

『さあ。ただ、楽には行かないだろう。現在、ファリド司令が直々に戦場へ来ているそうじゃないか。加えて、鉄華団に全く動きが無いのが気になる。あの狡猾な鉄華団地球支部支部長の事だ、何か考えが有るのだろう』

「鉄華団…地球支部支部長? お知り合いで?」

『いや。幾度か顔を合わせた事が有るだけだが--底が知れない。下手すれば、その「ヒゲのおじ様」でも今回はしくじる可能性が有る』

 

ヴィダールは、よほど鉄華団の地球支部支部長を警戒しているようだ。

 

『とにかく、油断禁物と言う事だ。ファリド司令とて、今は苦しい所だ。経済圏同士の武力抗争は、今回が初めて。文字通り全世界が、その行方に注目している。戦争が長引けば長引く程、地球外縁軌道統制統合艦隊の権威は地に落ちる』

「それを考えると、ヒゲのおじ様の手腕は本当に凄いですね。戦力差は歴然であるにも関わらず、戦況を見事な膠着状態にするとは」

『ああ。そうだな』

 

ヴィダールも、そこは評価している。

しかし、戦力的に考えて真っ先に前線へ出るべきであるハズの鉄華団が後方支援に徹し、前線には全く進出していない事が引っかかっていた。

 

 

 

 

ゲイレールに乗り込んだガラン率いる傭兵部隊は、単騎で出て来たマクギリス機を撃破すべく包囲網を展開する。

 

「奴をやれば、それで終わりだ! 包囲して、確実に殲滅する!」

『了k…え? ぐはァ!』

 

部下の1機が何者かにやられたらしく、通信が途切れる。

 

「!?」

 

ガランがそちらの方向を見ると、そこには。

 

 

二振りの黄金の剣を持ち、マクギリス機の方へ飛んで行く白青の機体がいた。

 

 

『ガランさん、あれ…!』

「--何だ、あの機体は。あれは、まるで…」

 

その機体…グリム・パウリナは、マクギリス機に近づいて止まった。

そのままマクギリスのグレイズ・リッターの肩部に剣を当て、接触回線を開く。

 

「オイ、貴様はここで何してる? ガラン・モッサを警戒させるな、と伝えておいたハズだぞ」

「--はっ、しまった! 貴方様が戦闘されると言う事で我を忘れ、部下の制止を無視して出て来てしまった! 申し訳有りません!!」

 

マクギリスの焦った声からして、本気で我を忘れていたようだ。

アラズはアグニ会が平常運転である事を確認してため息を尽き、ガラン・モッサのゲイレールとその周りに展開する傭兵部隊に向き直る。

 

『鉄華団地球支部支部長、アラズ・アフトルで間違い無いな? 一体何故、我々の邪魔をする?』

 

アラズに、ガランは通信する。

 

「何故、かだと? 貴様には、大体想像がついているだろう?」

『…俺を捕まえて、どうするつもりだ? 情報でも引き出すのか?』

「まさか。俺は別に、地球外縁軌道統制統合艦隊の味方ではない。俺はアーブラウの軍事顧問である鉄華団地球支部支部長として、この戦争を終わらせに来ただけだ」

 

戦争を終わらせる。

言葉にすれば短く簡潔なモノだが、実際成し遂げるには難しい。

 

『フッ、ハハハハハ! 貴様、正気か!? 戦争を終わらせる? 既に泥沼化し、終わりの見えないこの名前の無い戦争をか!?』

「当然だ。それと…戦況を膠着状態にしたのは貴様だろう、ガラン・モッサ。なれば--その死を以て償え。話は終わりだ」

 

パウリナはスラスターを吹かせて、ガランのゲイレールに吶喊する。

 

『全員散開! ()()()()()()()()!』

『おう!』

 

10機程のMSが散開し、マクギリスを仕留めに掛かる。

 

「あくまで目的を果たすつもりとは…嘗められたモノだ」

 

パウリナはそれに構わず突撃し、後方でライフルを構えるガラン機に左の剣を振り下ろす。

 

『ぬう!?』

 

剣はライフルを破壊し、続いてパウリナは右の剣を突き出してガラン機の左肘に刺す。

 

『ぐ、ぬう!?』

 

一瞬でライフルと左腕を奪われたガランは、後ろに跳んで後退を始める。

 

『クソ、なんてデタラメな奴だ!』

「逃がさねェよ」

 

パウリナは相手を上回るスペックを利用し、ゲイレールの追撃を始めた。

 

「流石だ…ええい、邪魔だ退け! 貴様らに用は無い、俺はアグニカの戦いを目に焼き付けねばならんのだ!」

 

本人が肯定した訳でもないのにアラズをアグニカと呼びながら、マクギリスは立ちはだかる機体を次々に鉄くずへ変えて行く。

 

このザコ共を急いで片付けてパウリナの後を追わねば、戦闘が終わってしまう。

 

『や、やめr』

 

最後の1機のコクピットを剣で貫き、マクギリスは即座にパウリナの追尾を始めるのだった。

 

『ぐぬおおおおおおおお!!?』

 

ガランのゲイレールは、パウリナに追い付かれて蹴り飛ばされる。

ゲイレールは地面を転がり、廃棄された都市のビルにぶつかって止まった。

 

『ぐ…な!?』

 

そのゲイレールの直上には、左の剣を逆手に構えて降って来るパウリナの姿が有る。

 

左の剣はゲイレールの右肩を貫き、フレームごと右腕の基部を粉砕した。

 

『ぬがああああ!!』

 

ゲイレールは咄嗟に横へ行き、フラつきながら立ち上がる。

 

『この、悪魔めが…!』

「ああ。よく言われるよ」

 

パウリナは突撃しながら、右の剣を突き出す。

それはゲイレールのコクピットのすぐ横を貫通し、そのままゲイレールを押して背後の建物に叩き付けられた。

 

『があ、ぐ…! はあ、はあ…! これしか、無いか…!?』

 

パウリナは剣を刺したままゲイレールを持ち上げ、道路に叩き落とす。

 

『がああああああああ、づ…! 若造にしては、随分やりおる…だが、忘れるな! このロートルの姿は必ずや、貴様の未来の姿となるだろう!!』

「--だろうな。俺なんぞに、平穏な死など有り得ない。戦渦の中で、惨たらしく死んで逝くのがお似合いだ」

『ふ、はは…貴様、やはり面白いな…しかし、さらばだ!』

「!!」

 

そう言い残し、ガランはコクピットモニターに表示した自爆ボタンを押す。

感づいたアラズは剣をゲイレールから抜き、後方へ飛び去る。

 

(悪ィな、ラスタル…)

 

そして、ガランのゲイレールは自爆した。

 

「--見事だな。その執念は、賞賛しよう」

 

自爆を見届けたアラズは、それだけを呟いた。

 

 

 

 

「--素晴らしい」

 

それを見ていたマクギリスは、コクピット内で震えていた。

 

圧倒的な、力。

 

アラズ・アフトルとグリム・パウリナは、マクギリスの信じるモノを実体化させた。

まさしく、マクギリスが信仰するに足りる存在だ。

 

「素晴らしい、素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい素晴らしい!!! 心が躍るようだ、脳が震えるようだ! あれが、厄祭戦を終わらせた力!! 数多の天使を、幾多の天使長を、四大天使さえ斬り伏せた絶対的な力!! 実に、実に実に実に実に素晴らしい!! 素晴らし過ぎる!! 決めたぞ、俺は必ずや追い付いて見せる!! アグニカ・カイエルに!! そして築いて見せる、真の力が成立させた真実の世界を!!! ああアグニカ・カイエル、おおアグニカ・カイエル!! 今こそ、我にその力を貸し与え賜えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」

 

テンションが完全におかしくなったマクギリスは、両手を広げて高笑いを続ける。

それは部下が大声で呼び掛けるまで、決して途絶える事は無かったと言う。

 

 

 

 

ガラン・モッサの戦死と経済圏同士の代表交渉が成立した事で、後に「バルフォー紛争」と呼ばれる戦争は終わった。

初の経済圏間の抗争は、無事地球外縁軌道統制統合艦隊によって鎮圧された--そう、世界には報道された。

 

そして、その1週間後。

火星からの増援部隊が、鉄華団地球支部に到着した。

 

「コイツら、何だったの?」

 

自爆したゲイレールの近くで、三日月はマクギリスにそう問う。

 

「ああ、君か。恐らくはアリアンロッド…ラスタル・エリオンの息が掛かった者だ。まあ、その証拠は見事に灰となってしまったがな。部下達を尋問したが、ニュース以上の情報は出て来ない」

 

ガラン・モッサは用心深い男だった。

部下達に一切の核心を伝えず、情報は自身の頭と機体のソフトウェアのみで管理していたのだ。

 

自爆によりソフトウェアが灰となった事で、全ての証拠は隠滅された。

 

「--しかし、鉄華団地球支部支部長の戦いは実に素晴らしかったよ。腕利きの傭兵であったガラン・モッサに一切の反撃を許さず、完封した」

 

そう言いながらマクギリスはチョコを取り出し、三日月はそれを受け取る。

そして、ラッピングを取って口に放り込む。

 

「ふん。はふはひょうはん(うん。流石教官)」

「あの戦い振りは、普通ではない--まるで、『アグニカ叙事詩』の主人公のようだった」

「? はふには?(? アグニカ?)」

「フフ…ギャラルホルンを創った、伝説の英雄さ。厄祭戦の時代、ガンダム・バエルに乗り込み世界を変えた男…それが、アグニカ・カイエルだ」

 

陶酔仕切った表情を浮かべながら、マクギリスはそう告げた。

 

 

 

 

ラスタルは、ガラン・モッサ戦死の報を受けた。

 

「…そん、な……ヒゲのおじ様、が…」

「--言うな、ジュリエッタ。奴は死んだ、もう生きていない。そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

ガラン・モッサは、戸籍上ではとっくの昔に死亡とされていた男だ。

ガラン・モッサと言う名も偽名であり、そのような人物は戸籍上にも存在しない。

 

(…さらばだ、友よ)

 

彼と過ごした若き日を思い出しつつ、ラスタルは奥歯を噛み締めた。

 

 

 

 

鉄華団地球支部は支部長アラズの団長オルガへの提言も有って解体され、火星本部へ吸収される形となった。

 

いざと言う時に指揮を取れるのがアラズとチャドしかおらず、今回の戦争もアラズが働き詰めたからこそようやく収拾を付けられたのだ。

これからもしアラズとチャドがいなくなった場合、地球支部がバラバラになってしまうのは容易に想像がつく。

 

加えて、元々問題となっていた地球と火星の情報共有や物資の輸送、緊急時の増援部隊到着までの時間なども鑑みる必要がある。

それらの現状からアラズの出した結論が、地球支部の撤廃だっただけだ。

 

鉄華団が地球支部を設置したのは、アーブラウの軍事顧問を引き受けたから。

アーブラウ防衛軍が充分成長した事で、その存在が必要無くなった事も理由の1つとなっている。

 

鉄華団地球支部が使っていた施設は、そのままアーブラウ防衛軍へ譲られた。

そして、アラズは支部長と言う過労死職から解放された。

 

「ふう…疲れた疲れた。やっぱ、こう言う立場って疲れるんだよなあ」

 

グリム・パウリナのコクピットでくつろぎつつ、アラズは胸ポケットから1枚の写真を取り出した。

 

(--そろそろ、腹を括る頃か。さて、どうするかな…)

 

その写真を眺めつつ、アラズは今後の身の振り方について思案し始めるのだった。




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アラズ・アフトル 500AP
マクギリス・ファリド 500AP
ガラン・モッサ 10AP
ガラン率いる傭兵部隊の皆様 10AP

地球支部編は今回で終わると言ったな。


あ れ は ウ ソ だ


と言う事で、もうちょっとだけ続きます。
次回、「火星の王」。


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#28 火星の王

また連日投稿です。
今回こそ、地球支部編は最後になります。


アーブラウとSAUの戦争から、約1ヶ月。

ヴィーンゴールヴでは、セブンスターズの会議が行われていた。

 

「今回のSAUとアーブラウの戦争について、全ての責任は地球外縁軌道統制統合艦隊に有る事は明白! 今回の件で、水面下で行われていた経済圏同士の争いは表に噴出するでしょう。そうなれば、現在のギャラルホルンにどれ程の抑止力が有るk」

「落ち着きたまえ、クジャン公。今回の騒動は、ファリド公だからこそ最小限に被害を抑えられたとの考え方も有る」

 

マクギリスの責任を追求するイオクを、ガルスは諫める。

 

「しかし、気になるのはアーブラウ防衛軍を指揮していた男の事だ。アーブラウ軍事顧問の鉄華団とやらが後方支援に徹していた以上、他の誰かが指揮を取っていたハズ。一体、誰が…」

「地球上の全てのデータを洗い出した結果、該当する人物は見つかりませんでした」

「そも、そのような人物が本当にいたのかが疑問です。鉄華団は後方支援に徹していたと言う情報が、どこまで本当なのか。アーブラウ代表とSAU代表が交渉した日には、鉄華団の施設から発進するMSを衛星監視網で確認していますし」

 

ガルスの追求を、イオクとラスタルは流す。

 

マクギリスも調査を行ったが、ガラン・モッサなる男の正体は追い切れなかった。

ラスタル・エリオンと言う男が後どれぐらいの手駒を持っているのか、全貌は不明瞭なままだ。

 

マクギリスは、次の動き方を考え始めた。

 

 

 

 

「ぬるい! もっと歯応えの有る状況を用意して下さい! これでは訓練にならない!」

「あらあら、大分厳しくしたつもりだったんだけどねえ。じゃあ、次は--これか…いや、これ?」

 

ジュリエッタの要望を受け、技術担当のヤマジン・トーカは新しいシミュレータープログラムを作り始めた。

 

『熱心だな』

「ええ。もっと私に力が有れば、ラスタル様は私が前線に出る事を許して下さったハズ。そうすれば、ヒゲのおじ様を失う事も無かった」

 

ヴィダールの近くに降りつつ、ジュリエッタはそう言う。

 

『君が前線にいれば、戦況は変わっていたと?』

「勿論です!」

『その発言は、亡くなった彼を愚弄する事になると分かって言っているのか?』

「--ッ!」

 

核心を突かれたジュリエッタは歯噛みした後、「ヒゲのおじ様」…ガラン・モッサとの思い出を呼び起こす。

 

「私の戦いは、ヒゲのおじ様に教え込まれたモノです。おじ様が、身寄りもない私をラスタル様に推薦して下さいました。私はラスタル様とヒゲのおじ様への恩返しの為、強く在り続けねばならない」

 

それを聞いたヴィダールは、物思いに耽ってからこう語る。

 

『君のような人間を知っている。尊敬する上官に拾ってもらった恩を忘れず、上官の存在を誇りとして戦い抜いた』

「…その方は、今どちらに?」

『--今は、近くにいる』

 

ヴィダールは、それ以上語る気が無いようだ。

 

「成る程…そのような立派な方とお知り合いだったとは、貴方は想定していたよりも真っ当な方なのかも知れません」

 

ジュリエッタは腕を組んで、頷きながらそう言う。

 

『君は俺が想定していたよりも、シンプルな精神構造をしている』

「…? それは、お褒め頂いているのですか?」

『勿論』

 

一瞬驚くジュリエッタだったが、すぐに満足げな顔を浮かべる。

 

「ふふ~ん…それはどうも」

「オーイ、ジュリー! セッティング、終わったよー! 300年前のデータを引っ張り出して、プログラム組んでみたよ!」

 

その時、ヤマジンから声が掛けられる。

 

「ありがとうございます! しかし、300年前のデータ…とは、具体的にどのような?」

「えーとね、初代エリオン公ドワーム・エリオンの戦闘データを持って来たよ。敵機体は『ASW-G-68 ガンダム・ベリアル』。とりあえず、1対1でやってみな! まあ、所詮シミュレーターだから本物には及ばないけどねー」

 

ジュリエッタはそれを聞き、指を鳴らす。

 

「ラスタル様のご先祖、300年前の英雄が相手ですか。受けて立ちましょう!」

「頑張れー」

 

気合い十分に、ジュリエッタはシミュレーター戦闘を開始した。

 

 

数秒後。

 

 

「………何ですか、あれは」

 

憔悴し切ったジュリエッタが、コクピットから出て来た。

 

「あはは…まさに瞬殺だったねえ。初代エリオン公は基本船で指揮取ってて、前線に出る回数は少なめだったって聞くけど」

「動きが…動きが、全く見えませんでした。気付いたら敵機が目の前にいて、剣を振り下ろして来ていました…強すぎます…速すぎます…昔はこのレベルのパイロットが72人もいたかと思うと、震えが止まりません…」

「じゃあ、止める?」

 

ヤマジンの問いで、ジュリエッタがいつもの元気を取り戻した。

 

「いいえ、もう一度お願いします! 今度は初代クジャン公を! あのイオク様のご先祖なら、もしかしたら…!」

「おっけー」

 

ジュリエッタはその後もそんな感じで、初代セブンスターズのデータを使った仮想敵相手にシミュレーションを繰り返した。

 

いずれも数秒で撃破されたが、ジュリエッタが頑張り続けた結果十数秒持つようになったそうだ。

 

 

 

 

すぐにアーブラウ防衛軍の持ち物となる鉄華団地球支部の本部施設。

その応接室で、マクギリスとオルガ、アラズは向き合っていた。

 

何でもマクギリスから、鉄華団団長に重要な話が有ると言う事だ。

 

「ガラン・モッサには、ラスタル・エリオンの息が掛かっていたと見て間違い無いだろう」

「--また、ラスタルって奴か」

「彼らを討たずして、ギャラルホルンの改革は有り得ない。相手側が仕掛けて来たと言う事は、もはや全面対決も近いだろう。これからは、君達にも手を貸して貰わねば」

「…一度組むって言った以上、筋は通s」

「ハイ、ストップ」

 

オルガの言葉は、アラズに遮られた。

 

「…アラズさん、何のつもりです?」

「いや、面倒事に巻き込まれる前に幾つか確認を取りたいだけだ。何故我々に固執する、マクギリス・ファリド? 地球外縁軌道統制統合艦隊は、先の地域戦争の功績を認められて更なる軍備増強に動いていると聞いている。鉄華団が関わらずとも、いずれはアリアンロッドに届きうる戦力になるハズだが」

 

アラズの問いに、マクギリスはこう返して来た。

 

「象徴が必要なのです。アリアンロッドを討滅し得ると言う、絶対的な力の象徴が。300年前のギャラルホルンには、確かにそれが存在していました。アグニカ・カイエルと、ガンダム・バエル。カロム・イシューと、ガンダム・パイモン。フェンリス・ファリドと、ガンダム・アスモデウス。クリウス・ボードウィンと、ガンダム・キマリス。ドワーム・エリオンと、ガンダム・ベリアル。ケニング・クジャンと、ガンダム・プルソン。リック・バクラザンと、ガンダム・ヴィネ。そして、ミズガルズ・ファルクとガンダム・アモン。天使を1匹残らず殲滅し、世界の平穏を取り戻してギャラルホルンの中核を担う事となった英雄達。彼らの尽力によって、現在のギャラルホルンは創り上げられました。しかし、今のギャラルホルンにそのような崇高なる意志は存在しません。セブンスターズも各局も腐敗し、権力抗争の温床と成り果て、社会的信用も失いつつ有ります。私は、この忌むべき現状に変革をもたらしたいのです。ギャラルホルンを改革し、今一度正しき秩序有る機関へと戻す。その変革に必要なのは、圧倒的な力の象徴と各経済圏の支持です。そして、私はその圧倒的な力を鉄華団に見た。アグニカ・カイエルの姿を。私は、貴方達の力を借りれればギャラルホルンのトップに立てると確信しているのです」

 

マクギリスの答えを受け、アラズは更に質問する。

 

「ギャラルホルンのトップだと? 最高幕僚長アグニカ・カイエルにでも成り代わるつもりか?」

「勿論です。私自身がアグニカ・カイエルとなり、世界を今一度変える。この計画に、鉄華団も力を貸して欲しいのだよ。オルガ・イツカ、鉄華団の団長よ。君達の協力の下、世界を変えた暁には--」

 

マクギリスは続けて、衝撃的な発言をした。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「「--は?」」

 

オルガは愚か、アラズさえも首を傾げた。

 

「火星は各経済圏の植民地だが、実際にそれを束ね管理しているのはギャラルホルンだ。その権限を君達が持つとなれば、それは鉄華団が火星を支配すると言う事だ。つまり--()()()()()()()()()()()()

「火星の…王?」

 

オルガが、全く理解出来ないと言うような顔で固まる。

対して、アラズは少し考え込んだ後。

 

「オルガ、俺の意見を言って良いか?」

「あ、ああ…頼む」

 

オルガの了承を得て、アラズはこう話し出した。

 

()()()()()。先程、地球外縁軌道統制統合艦隊はいずれギャラルホルンに届きうる戦力になると言ったな。あれはあくまで『いずれ』だ。現状を見れば、地球外縁軌道統制統合艦隊の戦力はアリアンロッドに遠く及ばない。そこに鉄華団が加わったとしても、何が変わる訳でも無い。アグニカ・カイエルを始めとする300年前の奴らは、現在のMSパイロットとは次元の違う強さを持っていた。そうだな…三日月と戦ったとしても、10秒有れば奴らはバルバトスをスクラップに出来るだろう。アグニカ・カイエルは元より、初代セブンスターズの誰もがな。三日月のレベルは、当時からすれば最低ラインより少し上って所か。世界をも黙らせ支持を得る圧倒的な力とは、即ちそう言うモノだ。鉄華団にそんな戦力は存在しないし、そもそもだマクギリス・ファリド。貴様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()? ああ、1つだけの道はお断りだぞ。戦場ならまだしも、政治に於いて一点突破は愚者の行いだ。メインの策略が失敗した時にも、それを鑑みてサブの策略に移れるような余裕が無ければ改革などは不可能だぞ」

 

アラズの指摘に、マクギリスは黙り込む。

 

「--策は1つか? ならば、乗る価値は無い。今まで通り、依頼人と仕事人の関係を続けるべきだ。依頼されれば仕事はするが、それ以上は踏み込まない--良いな、マクギリス・ファリド」

「…そう、だな。今回の地球支部の件では、アラズさんの頑張りで鉄華団には怪我人すら出なかった。でも、これからもそうとは限らねえ。悪いな、団員を守るのが俺の仕事だ」

 

マクギリスは、目を瞑って頷く。

 

「そうか、分かった。また依頼しよう」

 

そして、マクギリスは部屋を出て行った。

 

「--アラズさん。本当に、これで良かったんですか?」

「…さあな。あくまで、俺が意見を述べて俺的に判断した事だ。だが、あのマクギリス・ファリドの意見には私情が含まれているように思えた。奴の目的は、ガンダム・バエルと言う力を手に入れる事。それ以外は全て二の次だ、と考えていてもおかしくは無い。そんな奴の賭けに乗るのは、あまりに危険だ」

 

アグニ会会長だし。

アグニ会会長だし!

アグニ会会長だし!!

 

 

 

 

マクギリスとの話が終わり、オルガとアラズが部屋を出ると。

 

「すみません、少し…良いですか?」

 

そこには、タカキとアストンが立っていた。

 

「んん?」

「何だ?」

 

すると、2人はこう聞いて来た。

 

「あの…地球支部が無くなるって事は、これから火星に行くんですよね?」

「--ああ、そうなるな」

 

オルガが肯定すると、2人は頭を下げてこう言った。

 

「俺達は、一緒に行けません」

「鉄華団を--辞めさせて、下さい」

 

オルガとアラズは、続きを促す。

 

「俺達は、地球に慣れてしまいました。フウカも地球の学校に通って、毎日楽しく暮らしています」

「でも、俺達が火星に行ったらフウカは1人になる。そんな事、嫌です」

 

地球支部が開設して、約1年が過ぎている。

鉄華団の家族には地球に順応し、そこで暮らしたいと願う者も少なくない。

 

「分かった」

 

一言、アラズはそう頷いた。

 

「だが、これからどうするんだ? 鉄華団を辞めるって事は、収入が無くなるって事だ。収入が無けりゃ、人間的な生活は送れないぞ」

「--それは…」

 

2人は、言葉に詰まる。

かたや元宇宙ネズミ、かたや元ヒューマンデブリ。

そんな2人が、地球での金の稼ぎ方を知っているハズも無い。

 

「そんな事だろうと思ったよ。オルガ、悪いがちょっと蒔苗代表に繋げてくれ。コイツらに仕事を紹介するよう、頼んでやるよ」

「…あ、ありがとうございます!」

「気にすんな。だが、俺達が手伝えるのは今回までだ。これからは、自分の力で生きて行かなきゃならない。気張れよ」

 

オルガとアラズは、通りすがりに2人の肩を叩いてから去って行く。

 

「「お世話になりました!!」」

 

2人の声を、背中で受け止めて。




地球支部編、終了です。

初代セブンスターズのガンダムと初代セブンスターズの名前を一斉公開しましたが、バエルとキマリス、アグニカ以外は全てオリジナル設定であるとご理解下さいm(__)m

一応、下に一覧をのせて置きます。


ASW-G-01 ガンダム・バエル
最高幕僚長 アグニカ・カイエル

ASW-G-09 ガンダム・パイモン
第一席 カロム・イシュー

ASW-G-32 ガンダム・アスモデウス
第二席 フェンリス・ファリド

ASW-G-66 ガンダム・キマリス
第三席 クリウス・ボードウィン

ASW-G-68 ガンダム・ベリアル
第四席 ドワーム・エリオン

ASW-G-20 ガンダム・プルソン
第五席 ケニング・クジャン

ASW-G-45 ガンダム・ヴィネ
第六席 リック・バクラザン

ASW-G-07 ガンダム・アモン
第七席 ミズガルズ・ファルク


これに加えて、何機かのガンダムを所有した設定。
後、アグニカの階級もオリジナル設定です。
各局やセブンスターズをも越え、ギャラルホルン全体を指揮出来る最高階級です。

次回、いよいよMA戦へ。
たわけめ。


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厄祭編
#29 目覚めし厄祭


今回の話の裏では、ガエr…ヴィダールが頑張っております。
カットですけどね。

そして、厄祭編開始です。(訳:MA戦開始です)


地球支部閉鎖より約1ヶ月後。

鉄華団は、ハーフメタル発掘場でとある物を発見した。

 

「で、そのとある物を俺に見て欲しいと。俺が見て分かるのか?」

「いえ…アラズさんに見せれば、大体何とかなるって団長とビスケットさんが」

 

アラズにそう言ったは、新人らしいザック・ロウだ。

 

「あの野郎共め…まあいいや、否定は出来ないからな」

「…自分で言うんすか?」

「言うよ」

 

ザックは呆れたような顔をした後、「流石、ぶっ壊れって言われてる教官…」などと呟いている。

 

「オイ、それを言った奴について詳しく」

「ええっとですね、シノさんと副団長っす」

「よし、後でシバく」

 

そんな感じで、現地へ到着した。

 

「さて、例のブツは?」

「えっとですね、3つです。1つはあっちのMSで」

 

アラズがハッシュが指差した方を見ると、そこには白いMSが横たわっている。

 

「『ASW-G-64 ガンダム・フラウロス』--アイツらは死んだ、か…そりゃ、そうだよな」

「フラウロス? フラウロス、っと」

 

コクピットは、潰されていた為か外されている。

アラズは一瞬物思いに耽るような表情をしたが、すぐに機体名を書き留めるザックに向き直る。

 

「んじゃあ、次は?」

「コイツです」

 

ザックが指差した、その先には。

 

 

黒い、MWのような()()がいた。

 

 

「--バカ、な……そんな、そんなハズ--」

 

アラズは目を見開き、呆然と「それ」を見つめる。

そして、一歩後ずさった。

 

「--? あの…アラズさん? コイツが何か?」

「…ザック、とか言ったな。これは、どこから見つかった?」

「はい? えーとですね、フラウロスの近くから出て来たって聞いてます」

 

アラズは、もう一歩後ずさる。

それで、ザックは何となく察した。

 

 

これはヤバい奴だ、と。

 

 

「--壊すぞ」

「はい?」

「コイツをブッ壊すぞ!! コイツは、()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

「はい!?」

 

アラズの叫びを、ザックは理解出来なかった。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ! コイツが、このMWみたいな奴が何だって言うんですか!? 落ち着いて下さい!!」

「! --すまん、少しばかり焦ってしまった。コイツはな、『プルーマ』って奴だ」

「プルーマ?」

 

そんな機体、ザックは見た事も聞いた事も無い。

 

「コイツは単体で動く奴じゃない、必ず群体で動く奴だ。恐らく、周囲に同じ奴が何個か埋まっているだろう。そして、コイツらを率いる奴もな」

「率いる奴? そりゃ、一体どんな奴で?」

 

ザックの質問に、アラズはこう告げた。 

 

 

「『()()()()()()()』だ」

 

 

「--モビル…アーマー……?」

「かつて厄祭戦が起こる要因となった、禁忌の存在。300年前の天才科学者プラージャ・カイエルとエイハブ・バーラエナによって造られた、人間を狩る天使。人類の約4分の3を抹殺した、大量殺戮破壊巨大兵器だよ」

 

その解説を聞いてそれを理解した時、ザックの顔は途端に青く染まった。

 

「そ、それヤバい奴じゃないすか!?」

 

恐怖のまま、ザックは数十歩後退する。

それに続いて、アラズもその「プルーマ」から離れる。

 

「その通り。正真正銘、本物の化け物だ。たかだか3年で、コイツらはそれだけの大虐殺をやってのけた。コンピューターによる完全な自動操縦である以上、話し合いすら行えない。猛威を振るった天使達を狩るべくスリーヤ・カイエルとヴィヴァト・クニギンの手で造られた物こそが、『ガンダム・フレーム』--人間の身体を借り人間に供物を捧げられ、その対価として天使を狩る悪魔と言う訳だ」

 

ザックは恐れおののきつつも、アラズの言葉を一句違わず書き留めて行く。

 

「--お前、『アグニカ叙事詩』を読んだ事は?」

「はあ、あれっすか? いや、読んだ事は無いっすね」

「そうか。アグニカ叙事詩には、その様子が綴られている。天使を狩りまくり英雄となったギャラルホルンの祖、アグニカ・カイエルの監修の下書かれた厄祭戦の記録だ。一般向けにされているモノだが、事実はねじ曲がっていないらしい。少しはこれのヤバさが分かるだろうよ」

「ははあ…帰ったら読んでみます。しかし、どうします? ぶっ壊しますか?」

 

ザックの提案を受けて、アラズは少し考え込む。

 

「いや、止めておこう。プルーマが有ると言う事は、近くにMA本体が埋まっている可能性が高い。MSを持ち出しては、そのエイハブ・ウェーブに反応してMAが起動するかも知れん」

「は、はい分かりました。じゃあ、爆破でもしますか?」

「そんな簡単に済むなら、人類は4分の3も殺されてねェよ。MAを壊したかったら、核爆弾でも持ち出さないとな。そもそも、禁止兵器としてギャラルホルンに管理されてるけど」

 

核爆弾でしか壊せない時点で、MAの頑強さは語るまでも無い。

同じく禁止兵器の1つであるダインスレイヴを以てしても、MAの装甲を貫く事が出来るか出来ないかなのだ。

 

「とりあえず戻って、オルガに報告。その後ギャラルホルンにも連絡して、対応を求めよう。鉄華団だけでは、到底手に負えない奴だ」

「了解っす!」

 

そうなれば、善は急げだ。

ザックとアラズは車に飛び乗り、急いで本部施設へ戻るのだった。

 

 

 

 

オルガはアラズとザックの報告を聞き、すぐさまマクギリスに連絡した。

それを聞いたマクギリスは目を見開き狼狽したが、すぐに発掘作業を止める事とすぐに行く事をオルガに伝えた。

 

300年前の遺物を処理するに当たり、オルガはクーデリアから「アグニカ叙事詩」を借りて来て対処方法を探った。

 

しかし、まるでフィクションであるかのようなデタラメなノンフィクションに頭を抱えるばかりだ。

 

「--どうすりゃ良いんだよ…対抗策が思いつかない訳じゃねえが、成功する気がしねえ……」

「思いつくだけまだマシだ。『四大天使』ミカエルや『天使王』ルシフェルに至っては、倒す糸口が見えないからな。ああ、埋まってる奴は『天使長』ハシュマルって事で間違い無い」

 

MAには、強さや脅威の度合いによる位階が設定されている。

これは天使、天使長、四大天使、天使王の順で高く強くなって行く。

 

天使は、およそガンダム・フレーム2機分の強さ。

最も数が多く、1種類につき5機が存在していた。

1機討伐で1つの七星勲章が獲得出来る。

 

天使長は、およそガンダム・フレーム3機分の強さ。

天使ほど数は多くなく、全2種類で1種類につき3機が存在していた。

1機討伐で2つの七星勲章が獲得出来る。

 

四大天使はおよそガンダム・フレーム10機分の強さとされるが、個体差が大きい。

最強の四大天使は、およそガンダム・フレーム30機分とも言われるのだ。

これは全4種類で、全てがワンオフの機体となっている。

1機討伐につき、5つの七星勲章が獲得出来る。

 

最後の天使王は、およそガンダム・フレーム50機分とも100機分の戦闘力とも言われる。

確認されたのは僅か2回で、いずれも撃破には至っていない。

これは1機しか存在しておらず、討伐すれば10もの七星勲章が獲得出来る。

 

まあ、最下位の天使(有象無象?)でも倒すのは至難の技だったのだが。

 

「本当に、アグニカ・カイエルとやらはどうやってこんな化け物を…」

「知るか。とりあえず、その化け物を何とかしないと鉄華団…ついでにクリュセも終わりだ。作戦に失敗は許されんぞ」

 

 

 

 

「マクギリスが、火星に?」

 

そのような報告を受けたラスタルは、首を傾げた。

何故このタイミングでマクギリスが秘密裏に火星へ向かうのか、本気で理解出来ないからだ。

 

「火星の監視衛星が、奇妙な物を捉えたそうです。鉄華団の管理区域なのですが、深くまで掘り起こされてまして…写真からは、何かが埋まっているのが確認出来ます」

 

ラスタルは、そう説明する副官からタブレットを受け取った。

 

「--まさか、コイツは…!?」

「…信じたくは有りませんが、間違い無いかと。これ程の巨大兵器となれば、まずMAです」

「MA?」

 

初耳らしいイオクが、呆然とする。

 

「イオク様。MAは、かつて厄祭戦を引き起こした巨大兵器です」

「厄祭戦を!?」

「…まさか、知らなかったのですか? 入隊時に問答無用で『アグニカ叙事詩』を貰って読まされるギャラルホルン士官ならば、知っていて当然ですが」

 

ジュリエッタのジト目を受け、イオクは腕を組む。

 

「も、勿論知っているさ!」

「これ程しっかりした残骸が、火星に残っているとはな。まだ破壊されていない…とは、思いたくないが」

『破壊されていなかった場合、討伐した者には七星勲章が授与される。そう考えた場合、マクギリス・ファリドの狙いは七星十字勲章だろうな』

 

ヴィダールが、そう推測する。

 

七星十字勲章。

MAを倒した数とMAの種類によって与えられる、英雄の称号だ。

トドメを刺した者にのみ与えられた七星勲章の獲得数により、現在のセブンスターズの席次は決定された。

 

『現在、第一席イシュー家当主のカルタ・イシューは昏睡中。セブンスターズが獲得した七星勲章の数は不明瞭だが、マクギリス・ファリドが七星勲章を手にすれば300年振りに席次が変わる可能性が出て来る』

「300年の時を越えた七星勲章と、戦後体制の破壊--それが、奴の変革か」

 

ラスタルは、ヴィダールの言葉からそう推測した。

 

「そのような事、断じて許してはなりません! ラスタル様、マクギリス・ファリド追跡の任を是非この私に!!」

 

 

 

 

マクギリスは地球外縁軌道統制統合艦隊の持つ艦艇では無く、ファリド家が個人所有するハーフビーク級戦艦「フェンリル」で火星へ向かっていた。

 

「全く、数奇な巡り合わせは有るモノだな。かつて世界から一掃されたハズの、厄祭の天使。だがあの赤い星、鉄華団の住む火星にそれは残っていた。やはり、彼らは持っているのだ。あの厄祭戦の風を、もう一度吹かせる宿命をな」

 

そして、マクギリスは笑みを浮かべた。

 

 

 

 

オルガとビスケット、アラズと三日月、マクギリスと石動は掘り当てられたMAの視察に来ていた。

 

「やっぱり、MSも有った方が良かったんじゃ?」

「いや、要らん。MAに取ってはMS…特に、ガンダム・フレームは宿敵と言える。下手に刺激せず、遠目の観察に留めるべきだ。それを言ったら、俺が来る事自体が大分危険なんだが

「? 教官、何か言った?」

「いや、何も」

 

アラズは双眼鏡を構え、MAを観察する。

 

「--電源は、生きてる可能性が高いな。やはり、MSは持って来なくて正解だった」

「それは、まだ動くと言う事ですか?」

「そうなるな。多分、人間かMSかが近付いたら目覚めるんじゃないか?」

 

などと、アラズが言っていた時。

 

 

空から、何機かのMSが飛来した。

 

 

それらは大気圏突入用ボードを放棄し、MAの近くに着地する。

 

「--は?」

『ふっ。動くな、マクギリス・ファリド!』

 

指揮官機らしい黄色と黒の機体が、通信を垂れ流し始めた。

 

「アイツ、あの時の…」

「? 知り合いか、三日月」

「全然攻撃を当てて来ない人」

「成る程、つまりザコか」

 

三日月の言葉を受けて、アラズはそう結論した。

事実なので、全く持って否定出来ないのだが。

 

『貴様にギャラルホルンへの謀反の気有り、との情報を受けた! 貴様がMAを倒して七星勲章を手にし、セブンスターズ第一席の座を狙っている事は分かっている!』

「七星勲章? ほほう、ラスタル・エリオンがそのような勘違いをしていたとは」

『ギャラルホルン全軍で対処すべきMAの情報を隠匿し、ファリド家の私有戦艦まで使ってこうして貴様が火星へ来た事が何よりの証拠だ! 貴様を拘束する!』

 

全く話を聞かないイオクが、マクギリスに向かってMSを進める。

 

「な、あのアホクソバカたわけ野郎が!!」

「酷いね、教官」

「MSを止めろ、イオク・クジャン! それ以上、MAにMSを近付けるな!!」

 

アラズとマクギリスが叫ぶが、イオクが人の話を聞くハズも無く。

 

『問答無用!! マクギリス・ファリド、覚悟!』

 

更に、イオク機は一歩を踏み出す。

すると。

 

 

MAに、赤い光が点った。

 

 

「--全員、伏せろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

アラズの必死な叫びに反応し、その場にいた鉄華団とマクギリス、石動は地面に伏せた。

 

その瞬間。

 

 

赤い土が舞い上がり、周囲を覆い隠した。

 

 

『なあッ!?』

 

MAは浮上し、ビームを吐き出しながら翼を展開した。

それは純白で有りながら、穢れ血に染まった印象を受ける。

 

天使の吐き出す光が、火星の空を裂いた。




アグニカポイント新規取得
イオク・クジャン 10AP
イオク親衛隊の皆様 10AP


MAに関しての設定は、ハシュマルの存在以外は殆どオリジナルです。
位階とかも、私が勝手に考えたモノです。
それから、ガンダム・フレームの造られた経緯についてもオリジナル設定となっています。
また、核爆弾が禁止兵器になっていると言うのもオリジナルです。

オリジナル、多すぎィ!

とりあえず、MAに関する情報と位階を整理して置きます。


※MAはアグニカの祖父プラージャ・カイエルとエイハブ・リアクターの開発者エイハブ・バーラエナによって造られた。

※MAには、位階が存在する。
天使:一般的なMA。ガンダムに換算すると、およそ2機分の戦闘力を持つ。種類が多く、1種類につき5機が存在していた。

天使長:天使より、少し力の強いMA。およそガンダム3機分の戦闘力を持つ。2種類が有り、1種類につき3機が存在していた。
ハシュマルの他、もう1機の名前は不明。(アグニカ叙事詩には記載有り)

四大天使:天使長より、かなり強いMA。およそガンダム10~30機分(個体差有り)の戦闘力を持つ。4種類が有り、1種類につき1機しか存在しない。
その中でも最強とされるのは「ミカエル」。後3機の名前は不明。(アグニカ叙事詩には、ミカエルを含めた3機の名前が記載されている)

天使王:四大天使を遥かに上回る強大なMA。ガンダムに換算すると、50機分とも100機分とも言われる。1種類が1機しか存在しない。
名前は「ルシフェル」。(アグニカ叙事詩によると、僅か二度しか確認されていない)

※七星勲章はトドメを刺した者にのみ与えられ、その過程は考慮しない。天使1機で1個、天使長1機で2個、四大天使1機で5個、天使王で10個が付与される。

※ガンダム・フレームは、MAに対抗するべくアグニカの父スリーヤ・カイエルとその同志によって造られた。


面倒臭ェ!(オイ)
まあ、これからも地の文とかで説明します。


次回「天使を狩る者」。


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#30 天使を狩る者

MAと相対する前、マクギリス達はヴィダールと遭遇しています。
カットですが、ご了承下さいm(__)m

そして、今回でMA戦は終わりです。
ハシュマル「早くね!?」


イオク親衛隊がミンチにされている間に、鉄華団とマクギリス、石動はその場を離れて遠くに控えていた鉄華団と合流する。

 

「全く、バカ野郎のせいで採掘場がメチャクチャだ…救援は呼んだ、到着すれば何とか…」

「もう採掘場は諦めろ、オルガ。あの最新鋭機を集めたセブンスターズの親衛隊が一方的に鉄クズへと変えられている時点で、その程度で何とか出来る代物ではないと察しは付いているだろう? それよりも、待ち構えて袋叩きにした方がよっぽど撃破の確率は上がる」

 

アラズは地図を取り出して、峡谷を指差す。

 

「あの親衛隊を全滅させた後、奴はこの辺りの人口密集地…即ち、クリュセに向かうハズだ。四大天使ならともかく、天使長レベルのMAには迂回路を使うような優れたAIは無い。あの場所から真っ直ぐ、バカ正直にこの峡谷を通るだろう。その峡谷でプルーマとハシュマルを分断し、殲滅する」

 

その峡谷を通るのが、クリュセへの最短ルートとなる。

 

「異存は?」

「--よし、それで行こう。お前ら、本部へ連絡! これより鉄華団は、クリュセ防衛戦を開始する! コイツは誰かからの依頼じゃねえが、俺達がやらなきゃならねえ!」

『おう!』

 

その場の団員達は頷き、行動を開始した。

 

「待て、シノ」

「おう? 何だ!?」

「ちょっと、()()を取って来い。かつてアイツらが乗ったMS、使いこなせよ」

 

 

 

 

MAはイオク以外のイオク親衛隊と採掘場の基地、更にはギャラルホルン火星支部の第3地上基地を食い潰して補給し、クリュセへの最短ルートを取っていた。

 

「マクギリス・ファリドと石動・カミーチェはMSを取りに。その他鉄華団も、総戦力を揃えつつ有るが--うむ。やはり天使長、バカ正直に向かって来てるようで何より」

 

グリム・パウリナで観測に出たアラズは、遠目でハシュマルを確認した。

向こうに察知されればすぐビームで攻撃されるので、飛び去る準備は万端である。

 

「ん? あっちを走ってるボロボロのMSは、先程のアホクソバカたわけ野郎…確か、イオク・クジャンと言ったか?」

 

イオクのレギンレイズは、農業プラントの方へ向かっていた。

それだけならまだしも、アラズにはその手に有るレールガンが引っかかった。

 

「--何をする気だ、あのたわけは。あんな物で狙撃した所で、MAには掠り傷しか付かんぞ?」

 

咎めるべきか、観測を継続すべきか。

アラズがしばらく悩んでいると。

 

パウリナの存在に気付いたらしいハシュマルが、口に相当する砲門を露出させてビームを放った。

 

「うおッ!?」

 

パウリナは即座に飛び上がって後退し、そのビームをかわす。

ビームは先程までパウリナが立っていた岩盤を溶かし、消えた。

 

「相変わらずのビーム出力だな、オイ…さて、ここからはライド達の担当か」

 

ハシュマルに近付かないよう、アラズは三日月と昭弘に言い含めている。

パウリナは、イオクの向かった方向へ飛び去るのだった。

 

 

 

 

レールガンを構え、イオクはハシュマルを待ち伏せる。

 

「よくも…よくも私の部下達をやってくれたな、化け物め!」

 

レギンレイズの全ての力を、このレールガンの一撃に注ぎ込む。

 

失敗は許されない。

 

イオクはやっとマルチロックオンシステムを使い、ハシュマルに照準を合わせた。

 

「この、イオク・クジャンの裁きを受けろ!!」

 

そして、イオクが引き金を引く直前。

 

 

白青の機体…グリム・パウリナが、イオクのレギンレイズを蹴り飛ばした。

 

 

レールガンの弾道は逸れ、近くの岩盤を崩すだけにとどまった。 

 

「貴様ああああああ、ぐはァ!?」

 

パウリナはレギンレイズのレールガンに右の剣を突き刺し、もう1本の剣を腰から引き抜いてレギンレイズのスラスターに突き刺す。

 

「私の、私の邪魔をするな!!」

『黙れ!! 貴様、今何をしようとしたのか分かっているのか!? この背後には農業プラントが有る、そこの住民を皆殺しにしたいのか!? 答えろクジャン公、貴様は!! 無垢なる一般市民を犠牲にして、MAに掠り傷を付けるつもりなのか!!?』

 

激昂したアラズの怒鳴り声を浴びて、イオクは黙り込んだ。

そのパウリナの背後に、ヴィダールと共に降下して来たジュリエッタのレギンレイズが着地した。

 

「--イオク様を抑えてくれるとは…」

 

ジュリエッタはパウリナの肩に触れ、接触回線を開く。

 

『どなたか存じませんが、たわk…イオク様の暴走を止めて下さった事は感謝します。しかし、そろそろ離れて下さい。私は一応、エリオン公と同盟を結んだクジャン公を助ける義務が有りますので』

 

パウリナはレギンレイズのレールガンとスラスターから剣を引き抜き、腰に納めてどこかへ飛び去って行った。

 

 

 

 

『ヤベェぞ、MAが加速した!』

 

MAは更に加速し、真っ直ぐにクリュセへ向かう。

岩盤を爆破してハシュマルとプルーマを分断するハズだったのだが、MAが加速した事で間に合わなかった。

 

「クッソ! 何なんだよあの化けモンは!!」

 

ユージンから分断失敗の報告を受け、オルガは机を叩き付ける。

しかし、アラズはまだ冷静だ。

 

「何の為に、俺がシノにフラウロスを取りに行かせたと思ってる? ちょっと通信機貸せ」

 

アラズはオルガから通信機を奪い取り、MS隊に連絡する。

 

「MS隊! MAの前方にいるプルーマを根こそぎ叩き潰せ! フラウロスの電磁投射砲(ダインスレイヴ)で岩盤をぶっ壊して、ハシュマルとプルーマを分断する! 分断が済んだら、全MSでプルーマを殲滅しろ! シノ、狙撃は頼んだぞ! ギャラルホルンの貴様らは、MA本体の討伐に参加しろ!」

 

あらかた指示を出し終わったアラズは、通信機をオルガに返してグリム・パウリナに向かう。

 

「--アラズさん。頼む、時間を稼いでくれ。その間に、対抗策を探す」

「承知した。だが、オルガ。--別に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

背中で語りながら、アラズはオルガに問う。

 

「--ああ、遠慮は要らねえ!」

「フッ。では、期待に応えるとしよう」

 

そして、アラズはパウリナで飛んで行った。

 

「後は--俺も出るか」

 

オルガもまた、自分の獅電に向かおうとする。

その前に、三日月が立った。

 

「ダメだよ、オルガ。オルガが出るくらいなら、俺が行く」

「そっちの方がダメだ! アラズさんから聞いたろ、ガンダム・フレームは…!」

「うん。でも、それはダメだ。俺の命は元々オルガに貰ったんだから、オルガの為に使わないと」

 

そう言って、三日月はオルガを見据えた。

 

 

 

 

ハシュマルとプルーマの分断は成功し、プルーマはほぼ全機で殲滅が開始された。

昭弘のグシオンは、アラズの指示でプルーマの掃討に駆り出されている。

 

ハシュマル本体の撃破の為マクギリスはグレイズ・リッターに、石動はグレイズ・フレームから造られたヘルムヴィーゲ・リンカーに乗ってハシュマルの撃破作戦に参加。

そこにジュリエッタのレギンレイズも加わったが、ハシュマルの撃破には至らない。

 

全員纏めて吹き飛ばされ、岩盤に叩き付けられた。

 

「が…! ここまで、なんて…!」

「ぐうう…! 准将、このままでは…!」

「--これが、MA。人間を狩る、天使の力…!」

 

全員は再び立ち向かおうとするが、破壊された機体が言う事を聞いてくれない。

MAはそれらに目もくれず、クリュセへの進攻を再開する。

 

いや、しようとした時。

 

 

「全く、どいつもこいつも情けない。天使長とは言えたかがMA1機を相手にその様とは、笑いを越えて憐れみが湧いて来るぞ?」

 

 

天使長ハシュマルの前に、戦乙女グリム・パウリナが降臨した。

 

『       !!』

 

ハシュマルが口を開き、ビームを吐き出す。

 

「隙有り」

 

ビームを難なくかわし、パウリナは発射中のビーム砲の側面に回り込んで両手の剣を突き刺した。

 

『       !?』

 

ビーム砲が暴発し、ハシュマルの頭は焼き切れて溶ける。

パウリナは剣を抜き、高速軌道でハシュマルを翻弄し始める。

 

ハシュマルは続いてテイルブレードを動かし、パウリナを斬り裂くべく襲いかかる。

 

「せいッ!」

 

パウリナはテイルブレードを受け流し、その刃の側面に剣を突き立てる。

ハシュマルはテイルブレードを岩盤に叩き付け、パウリナを潰し振り払おうとするが。

 

パウリナはハシュマル本体に張り付き、テイルブレードを操るワイヤーと本体の接続部に剣を突き刺した。

テイルブレードが根元から外れ、火星の大地に落ちる。

 

『       !!』

 

張り付いたままコンピューター部に剣を刺そうとしたパウリナだったが、ハシュマルが跳び上がって空中で反転した事でハシュマルと地面に挟まれる形となる。

 

「ッ!?」

 

ハシュマルはそのままスラスターを吹かして、地面と自分の体でパウリナを押し潰した。

 

「ヅ、ぐあッ!」

 

パウリナのバックパックが押し潰され、右肩の装甲が跳ぶように外れた。

コクピットのモニターが割れ、アラズはその破片を全身に受ける。

 

『教官!!』

 

その時、ガンダム・バルバトスルプスが飛来してハシュマルを殴り飛ばした。

殴り飛ばされながらもハシュマルは態勢を即座に立て直し、ルプスに襲い掛かって足で地面に叩き付ける。

 

『ぐ…!』

「バカ野郎、何で出て来た!? でも助かった、ありがとな!」

 

パウリナはハシュマルの左足に両手の剣を突き刺し、横に斬り裂く。

ハシュマルの左足が破片をこぼしながら分断され、ハシュマルはおぞましい駆動音を響かせる。

 

『これで…!』

 

ルプスは自由になった右手で、ソードメイスをハシュマルの残った右足に何度も叩き付ける。

やがてハシュマルはルプスを解放し、パウリナが左側から突撃した事で横向きに倒された。

 

『       !!』

 

ハシュマルは破壊された口を開き、ビームを乱射させた。

ルプスは拡散したビームを食らい、後退を余儀無くされる。

拡散したビームは周囲の岩盤をも砕き、降り注がせる。

 

「悪足掻きを…!」

 

パウリナも壊れた事を承知でバックパックのスラスターを全開にし、ハシュマルに突撃する。

途中に降って来る岩盤を機体に受け、バックパックが爆発して外れる。

 

しかし、パウリナはハシュマルの下に辿り着いた。

 

パウリナは右の剣を投げ、暴発しながらもビームを吐き出し続けるハシュマルの口を完全に破壊する。

ハシュマルの頭部は今一度爆発して見事に吹き飛び、ビームの照射は停止した。

 

「くたばりやがれ!!」

 

手元に残った左の剣を突き出し、パウリナはハシュマルのコンピューター部を装甲ごと貫く。

全身の動きを司るAIがコンピューターごと破壊された事で、ハシュマルの動きが一気に鈍る。

 

 

だが、まだ死んではいない。

 

 

『        …!!!』

 

ハシュマルは最後の力を振り絞り、パウリナを抱え込んでから倒れ込む。

 

「しまッ…!?」

 

ハシュマルの下敷きとなったパウリナの関節が、悲鳴のような嫌な音を上げながら逆の方向に曲がってねじ切れる。

 

戦乙女を道連れに、天使長はその役目を終えた。

 

 

 

 

「--な、にが…?」

「こ、これ…は--」

「…これが、アグニカ・カイエルの力--天使を狩る、英雄の姿か。これならば…!」 

 

ジュリエッタと石動が呆然とする中で、マクギリスのみが謀略を巡らせていた。

それは謀略と言えるような策ではなかったが、マクギリスには唯一にして絶対の策で有ると思えた。

 

「必ずや、バエルをこの手に--!!」

 

そう拳を握り締めたマクギリスの視界には、傷1つ無く突き立つ黄金の剣の姿が有った。

 

 

 

 

飛ばされたルプスと殺されたハシュマルの死体が回収され、続いて破壊されたパウリナが回収された。

 

「ヅ…あー、危なかった…凄く危なかった、めっちゃ危なかった」

 

そのコクピットハッチをこじ開けて、ピンピンしたアラズが出て来る。

 

「--今回ばかりは気持ち悪いんだが。あれ、普通死んでるよな?」

「だろうな。悪いが、俺は簡単に死ねなくてね。パイロットスーツ、直さないとな」

 

アラズが見つかった時に来ていた白と青のパイロットスーツは、全身に割れたモニターの破片が刺さって無惨な姿に成り果てている。

 

「直せるのかよ、それ?」

「直る直る。良いかおやっさん。俺はな、裁縫だけは出来る。アイツに教え込まれたからな」

 

昔を懐かしむように、アラズはボロボロになったパイロットスーツを眺める。

 

「…昔、女でもいたのか? たまに昔を思い出すような遠い目をしてるが」

「そうか? …ああ、昔はな。今はもう、いない。それはともかく、三日月は?」

「何か、右目が見えなくなってたとか…何とか…」

 

ルプスから離れた三日月は、右目が見えなくなっていた。

 

「素人が右目だけなら、全然マシだ。最終的には全てをガンダム・バエルに取り込まれた、アグニカ・カイエルに比べればな。…ルプス、どうするんだ? ハシュマルに全身を打ち付けられて、大分ガタが来ただろ?」

「ああ。テイワズで改修するとさ」

 

三日月の機体はどうにかなるが、アラズの機体はもう無理な感じが有る。

バックパックが天寿を全うされただけでなく、全身の関節がぶっ壊れてダルマになった。

 

ガンダム・フレームのように有名であったり、グレイズ・フレームのように多く出回っていたりするフレームならばまだ何とかなるだろう。

しかし、グリム・パウリナのフレームは貴重極まりないヴァルキュリア・フレーム。

テイワズは愚かギャラルホルンにもデータが少なく、復元は困難だ。

 

よって今後も使えそうなのは、傷1つ付かなかった特殊超合金製のヴァルキュリア・ブレードだけとなる。

 

「次の機体は--よし、あれだな」

「? アテが有んのか?」

「ああ。ちょっと、地球まで行かなきゃだがな」

 

そう言って、アラズはふてぶてしいような笑みを浮かべた。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 2,540AP
マクギリス・ファリド 510AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ノルバ・シノ 90AP
石動・カミーチェ 10AP
イオク・クジャン 10AP
ジュリエッタ・ジュリス 10AP

アグニカポイント特別取得
アラズ・アフトル 4,000AP
※七星勲章を2つ獲得。
三日月・オーガス 2,000AP
※MA討伐に貢献。


ハシュマル戦、終了です。
大分巻きながらの上「教官TUEEEEEE!」になってしまいました、お赦し下さい何でもしますから。

石動の乗っていたヘルムヴィーゲ・リンカーは、グレイズ・フレームから復元された物になります。

ジャスレイが死んでるので、次回は一気にマッキーの叛乱まで飛びます。
次回「叛乱」。


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革命編
#31 叛乱


今回は、少し短めです。
ここで切るのがベストだったんです、許して下さいm(__)m


火星でのMA討伐作戦から、およそ1ヶ月後。

ヴィーンゴールヴには、今回のMA騒動について議論すべくセブンスターズが集まっていた。

 

ようやく意識を取り戻したカルタ・イシューは、車椅子に乗って会議に参加している。

カルタが昏睡して2年の間に、情勢は一変した。

 

急いで勉強して、会議に臨んでいるようだ。

 

「報告書にある通り、私が火星に向かった目的はあくまでもMAの視察。手を出そうなどと、自殺行為を行うつもりは毛頭有りませんでした。ですがそれを邪推したクジャン公の介入が、MAを目覚めさせる事となってしまった。我がファリド家が現地の組織と協力してMAを撃破した事で事なきを得ましたが、一歩間違えれば火星の大都市クリュセは蹂躙されて火星は大惨事となっていた事でしょう」

 

つまり、全てイオク様が悪い。

 

「黙れ! 今回の件は全て、貴様が仕組んだ事ではないか!!」

「私が? 何の為に?」

「七星勲章の獲得による、席次の繰り上げ!」

「そんな事に興味は有りません」

 

イオクの推測を、マクギリスは真っ向から切り捨てる。

 

「シラを切っても無駄だ! そうですね、エリオン公!!」

 

イオクがラスタルに助けを求めたが、ラスタルはこう言った。

 

「MA討伐の手際、お見事だった」

「――え? ラスタル様、何を…!?」

「今後も、地球外縁軌道統制統合艦隊の活躍に期待していますよ」

 

イオクを全無視し、ラスタルは話題を切った。

 

「何故ですか、ラスタル様! マクギリス・ファリドに野心有りと、何故あの場で糾弾なさらなかったのですか!?」

 

会議が終わってから、イオクはそうラスタルに聞いた。

 

「ひとまず落ち着け、イオク。野心の正体を掴めていないと言うのに糾弾した所で、ただの戯れ言にしかならん。我々ギャラルホルンは、世界秩序を維持する者。物事の順序を乱せば、必ずや足元をすくわれる」

「しかし…!」

 

食い下がるイオクを、ラスタルは睨み付ける。

憤怒の業火に燃えた、イオクが見た事の無い目で。

 

「ひ…!?」

「ギャラルホルンの在るべき姿を忘れ、目的を見誤る。そのような家門と手を組む事は、セブンスターズの一角を預かる者として一考せねばなるまい。頭を冷やせ、イオク・クジャン。これ以上の失態、見過ごせんぞ」

 

そして、ラスタルはジュリエッタを侍らせて去って行った。

イオクは、しばらく一歩も動く事が出来なかった。

 

 

 

 

セブンスターズ会議場を後にしたマクギリスは、アグニ会専用の会議室へ入った。

 

「お待ちしておりました、会長!」

『アグニカ万歳!!』

 

全員が声を揃えて、アグニカを讃える。

今日は、会長マッキーの呼び掛けによる臨時アグニ会会合の日だ。

 

「皆、良く集まってくれた。今日のアグニ会は?」

「全員出席です」

 

石動が、出欠確認をしてマクギリスに伝えた。

 

「では、本題に入ろう。まず――君達。今の世界に、失望した事は無いか?」

「失望…ですか?」

「そうだ。現在の世界では、ギャラルホルンは腐敗しアグニカの思想を忘れた。最盛期にはギャラルホルン士官の殆どが所属していたこのアグニ会も衰退の一途を辿り、今となっては会員数は1000人を切った。人類はかつての厄祭を忘れ、醜い権力抗争を繰り広げている。そんな世界に失望した者は、何人だ?」

 

マクギリスの問い掛けに、全員が手を上げる。

 

「――そうか。では、アグニカの時代に憧れた事のある者は?」

 

続いての問い掛けでも、手を下げる者はいない。

 

「最後だ。世界を変えたい、そう思った事がある者は?」

 

最後の質問。

 

アグニ会の会員に、手を下げる者はいなかった。

 

「よく分かった。では、()()()()()()()()()()()()!! 純粋な力のみが成立させる真実の世界を、この300年で腐り果てた人類に見せ付けてやろう!! そして、世界は再びアグニカ・カイエルの威光の下で生まれ変わる!! 立ち上がり、剣を取れ!!」

 

マクギリスは、アグニカなりきりセットに付属するバエル・ソードのレプリカを掲げる。

 

「我らに敗北は無い!! アグニカを信じ、アグニカを拝し、アグニカを讃え、アグニカを心より尊敬する者達、アグニ会の会員達よ!! 今一度、世界にアグニカ・カイエルの威光を示す時だ!!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

全員がバエル・ソードのレプリカを掲げ、叫ぶ。

会議室に、アグニ会の勝ち鬨が響き渡った。

 

勝ってないのに。

 

 

 

 

アグニ会が会議をした後、火星の鉄華団にはマクギリスから依頼が入った。

何でも、地球に来て欲しいとの事だ。

 

それに当たり、団長室でメンバー選定をするオルガの下にアラズがやって来た。

 

「オルガ。この仕事、俺も参加させて欲しい。そして、地球へ行ったら完全な私事を達成する為に三日月の手を借りたい」

「アラズさん? いつも世話になってるし、構わないですけど…何、する気です?」

 

首を傾げるオルガに、アラズはこう返した。

 

 

「ちょっと、世界を変える」

 

 

目を見開くオルガに、アラズはふてぶてしい笑顔を向けた。

 

 

 

 

それより、約1ヶ月。

満を持して、アグニ会は行動を起こした。

 

まずセブンスターズを召集し、ヴィーンゴールヴを制圧。

アリアドネを通じて、アグニ会は声明を発表した。

 

『アグニカ・カイエルを拝する者である我々アグニ会は、遂に立ち上がった! 革命の時は来たのだ!  厄祭戦の時代より300年、今一度風を起こしてギャラルホルンに蔓延する腐敗を一掃する! 我々は、1人1人の力でこの腐った世界を変革しなければならない! 平和と秩序の番人で在るべくしてアグニカ・カイエルによって創設されたギャラルホルンは、今やセブンスターズの面々が特権を享受する為の武装組織に成り果てた! 地球で起きた、アーブラウとSAUの国境紛争。それをコントロールしていたとされるガラン・モッサなる傭兵が、月外縁軌道統制統合艦隊司令官ラスタル・エリオンと繋がっていた事が我々の内偵により明らかになった! セブンスターズの甘言に惑わされるな!! 目を覚まし、共に立ち上がる時だ!!!』

「全く」

 

ラスタルは、バカバカしいとばかりに通信を切る。

 

このタイミングでマクギリスが出したセブンスターズ集合要請は、アグニ会がセブンスターズの命を握る為のモノ。

要請を蹴ったラスタルの判断は、実に正しかった。

 

『俺に、地球へ行く許可をくれ』

 

側で通信を聞いていたヴィダールは、ラスタルにそう告げた。

 

「フッ、やはりな。そう言って来ると思って、既に用意をさせている。ケジメを付けて来い、ヴィダール。フェンリルを狩る者よ」

『感謝する、ラスタル・エリオン』

 

ヴィダールは、地球へと旅立った。

 

 

 

 

「現在、地上部隊がヴィーンゴールヴのおよそ7割を占拠。会議場のセブンスターズメンバーは拘束した他、通信施設の制圧も完了。アグニ会会合で立てた予定通り、ライザ・エンザが声明を全世界に向けて発表中です」

 

石動は淡々と、マクギリスに報告する。

 

「MSは?」

「依頼した鉄華団の手を借り、制圧しました」

 

依頼を受けた鉄華団は、ガンダム・バルバトスルプスレクスと三日月、アラズをヴィーンゴールヴに派遣した。

なお、そのギャラはとんでもなく高い。

高いので、名瀬も何とか目を瞑ったようだ。

 

「流石は鉄華団だ。これはまた、報酬を弾まねばなるまいな。宇宙(うえ)はどうだ?」

「放送を終えたライザ・エンザが、そのまま地球軌道上にて対アリアンロッド艦隊への防衛網を構築中です」

「――そうか、もう二度と引き返せんな。では、私も果たすべき事を果たすとしよう。後は任せるぞ、石動」

 

石動が頷いたのを確認し、マクギリスはとある場所へ向かう。

 

「マクギリス」

 

その道中、マクギリスはカルタ・イシューに呼び止められた。

 

「カルタか」

「どう言うつもりなの、マクギリス。こんな叛乱、アリアンロッドが黙っていないわよ」

「だろうな。その為に、()はあれを我が物とする。邪魔はさせんよ」

 

それだけを話して、マクギリスは足を進め始める。

 

「止めないわ。私にそんな力は無いし、貴方に嫌われかねない事が出来る程の度胸も無い。けどね、マクギリス。これだけは言わせて」

 

マクギリスは、ふと足を止める。

そんなマクギリスの背中を見据えて、カルタはこう言った。

 

 

「帰って来たら、話をさせて欲しい。私は、貴方と一度…じっくり話し合いたい」

 

 

マクギリスは強く頷き、再び足を前へ進め始めた。

 

「――本当、バカね私。そんな事をしたって、マクギリスが振り向いてくれる訳でも無いのに」

 

カルタは手を顔の前で組み、祈るような姿勢を取った。

 

(死なないでね、マクギリス――)

 

 

 

 

マクギリスから貰ったチョコをほうばりながら、三日月は石動と通信する。

 

「チョコは?」

『マクギリス・ファリド准将は、最後の仕上げに取りかかっている。変な名前で呼ぶな』

 

石動は、そう忠告してから通信を切った。

 

「普通に『チョコ』で通じてるのは、一体どう言う事なんだろうな…まあ、良いや」

「教官。教官の目的って…」

「ああ。マクギリス・ファリドの行う『最後の仕上げ』を阻止する事だ。もうちょっと経ったら、俺をバルバトスの右手に乗せてサブアームでヴァルキュリア・ブレードを持って、『バエル宮殿』へ連れて行ってくれ。俺の頼みはそれだけだ」

「分かった」

 

そして、三日月は頷きながら2つ目のチョコを口に入れるのだった。

 

 

 

 

地球付近の宇宙で、アリアンロッド艦隊は全艦を集合させていた。

 

「アグニ会のクーデター鎮圧なら、集合を待たず一刻も早く地球へ向かった方がよろしいのでは?」

「確かに、『兵は拙速を尊ぶ』と言うがな。今は、状況を見極める必要が有るのだ」

 

ラスタルは、地球へ向かったヴィダールの答えを聞くつもりでいる。

 

「エリオン公! この度のクーデター鎮圧作戦、何とぞイオク様の任務参加をお許し下さい!!」

 

ラスタルにそう頭を下げて来たのは、謹慎中のイオク・クジャンの部下達だ。

 

「また、その話か。嘆願に来たのは、これで何人目だ?」

「は。これで、ちょうど40人になります」

「全く、羨ましい話だな。あれだけの失敗をしてなお、これだけ慕ってくれる部下達がいるとは。イオクが謹慎中の今、残されたクジャン家の艦隊を率いるのはお前達だ。主人の名誉は、貴様らで守れ。イオクの戻る場所が残るよう、懸命に働く事だ」

 

ラスタルがそう告げると、部下達は大きい声で返事をして去って行く。

 

「艦隊は、あの何日で揃う?」

「は。後、3日と言った所です」

 

 

 

 

その施設に入れる唯一の扉の前に立ったマクギリスは、扉の近くに備えられた指紋認証パネルに手を触れる。

貯め込んだアグニカポイントを500消費して、その硬き扉は開かれた。

 

 

バエル宮殿。

 

 

ギャラルホルンの所有するガンダムが全て置かれている、ヴィーンゴールヴ…いや、ギャラルホルンの最重要施設だ。

マクギリスはその中に踏み込み、白と青に染め上げられたガンダム・フレームを見上げる。

 

「やっと、出逢えたな。新しい時代を築く為、変革を始めよう。目を覚ませ、バエル――いや、アグニカ・カイエルよ」

 

その時。

 

 

バエル宮殿の天井が破られ、煙が宮殿の中に蔓延した。

 

 

その煙の中から1機のMS…ガンダム・ヴィダールが現れ、バエルの側に着地する。

 

ガンダム・ヴィダールのコクピットハッチが開かれ、中から仮面の男…ヴィダールが出て来た。

 

『やはり、ここに来たか』

 

ヴィダールが仮面に手を当てると、カチカチカチキイン! と言う音が宮殿内に響く。

ヴィダールは、そっとロックの外れた仮面を外す。

 

その仮面の下には、マクギリスが唯一友人だとした人物の顔が有った。

 

 

「――ガエリオ・ボードウィン…!!」

 

 

ガエリオ・ボードウィン。

それが、仮面の男ヴィダールの正体だった。

 

「久し振りだな、マクギリス」

 

再開した2人は、互いに睨み合った。




アグニカポイント新規取得
三日月・オーガス 90AP
ヴィダーr…ガエリオ・ボードウィン 60AP


アグニ会、ギャラルホルン乗っ取りの為クーデターを引き起こす。
酷いなあ、動機がw

そして、衝撃です!
ヴィダールの正体は…ガエリオ・ボードウィンだったのですよ!!

いやー、放送時はビビッタナア。
ガエリオハシンダトオモッテタカラナア。
アンナトコロデガエリオガデテクルナンテ、ソウゾウシテナカッタカラナア。


次回「伝説の英雄」。
遂に、あの男の正体が判明?


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#32 伝説の英雄

前回までのあらすじ
 蘇 リ オ 

今回は短めです、ご了承下さいm(__)m
ここで切るのがベストだったんです、お許しを。

32話だ…もう、アラズ・アフトルとしての時間は充分に楽しんだだろう?
目を覚ませ、ア■■■・■■■ル――


「彼は、まだ戻っていないのですか?」

 

スキップジャック級のMSデッキで、ジュリエッタは整備長のヤマジン・トーカに問う。

 

「ヴィダールなら、地球へ行ったよ。…ははーん。さては、除け者扱いが悔しい?」

「ラスタル様には、きっと何かお考えが有るのでしょう。でも、彼は1人で大丈夫なんですか?」

「さあ、ね。ただ、1つ訂正しておくよ」

 

そして、ヤマジンはこんな事を言った。

 

 

「ここに来てからずっと、アイツは…()()()()()()1()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

バエル宮殿に、MSが突っ込んで行った。

 

「教官、あれ――」

「ああ。頼む、三日月」

 

トランクを持ったアラズを右手に乗せ、サブアームでヴァルキュリア・ブレードを保持したバルバトスルプスレクスはバエル宮殿に向かった。

 

 

 

 

「――ガエリオ・ボードウィン…!!」

「久し振りだな、マクギリス」

 

バエル宮殿で、マクギリスとガエリオは再開を果たした。

以前と違ってガエリオの顔には大きな傷が出来ていたが、変わらず整った顔立ちをしている。

 

「まさか、お前がラスタル・エリオンに飼われているとはな」

「今、彼とは利害が一致している。あくまで対等な立場だ」

「フッ。そうやって、すぐ人を信用するのはお前の悪い癖だなガエリオ」

 

マクギリスの挑発を、ガエリオは反論せず受け止める。

 

「ああ、そうかもしれないな。何せ、親友だったハズの男に一度殺されたのだから。親友…いや、その言葉は違うな。俺は結局、最後までお前を理解出来なかった」

 

昔を思い起こしながら、ガエリオは言葉を紡ぎ出す。

 

「俺に取って、お前は遠い存在だった。だからこそ、俺はお前に憧れた。お前に認められ、隣に立ちたいと願った。そのうちお前は仮面を着け、本来の自分を隠すようになった」

 

マクギリスは、ガエリオの言葉を黙って聞く。

 

「しかし、やっと隣に立てたと思えた。お前は俺の前では仮面を外してくれていると、そう感じた。なのに、お前は俺を殺した」

「――」

「俺は、他ならぬこの目で確かめたかったんだ。カルタや俺や、寄り添おうとしている人間を裏切ってまで…お前が手に入れようとしているモノの正体をな。そして、ようやく辿り着いたのさ」

 

この2年間、ガエリオは常にマクギリスの求める者を知ろうとしていた。

そして、その真意に辿り着いたのだ。

 

()()()()()()()()()()()。それこそが、俺が抱いた疑問の答え。おかげで、決心がついたよ。愛情や信頼、この世の全ての尊い感情――それらは、()()()()()()1()()()()()()()()()()()()

 

心の奥で、マクギリスは失笑した。

友に裏切られてなお、ガエリオはガエリオで在り続けたのだ。

 

「お前に理解出来るのは、権力。気力。威力。実力。活力。勢力。そして、暴力。全て、『力』に変換出来るモノのみ。だからこそ、お前は厄祭戦を終わらせた『力』であるギャラルホルンの最高幕僚長アグニカ・カイエルに憧れアグニ会の会長にまで至ったのだ。ここにいると言う事は、動かせるのだろう? ――マクギリス、()()()()()()

 

と、ガエリオはマクギリスにそう勧めた。

 

「――正気か、ガエリオ? 俺がこれを手に入れる事の意味、分かっているのだろう? それとも、一度は死んだ身で失うモノは持たないと?」

「いいや、逆だ」

 

マクギリスの推測を、ガエリオは真っ向から否定した。

 

「今の俺は、多くのモノを背負っている。しかし、それらは全て()()()()()()()()()()()()()()()()。お前がどんなに投げかけられても、受け入れようともせず否定するモノだ。それら全てを背負い――今この場で、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――いや。その必要は無いようだ、ガエリオ」

 

マクギリスがそう言った瞬間。

 

 

ガエリオの開けた穴から、ガンダム・バルバトスルプスレクスが入って来た。

 

 

「ッ!」

 

ガエリオが、ガンダム・ヴィダールのコクピットに戻る。

レクスは、ガンダム・バエルの側に着地した。

 

「よし、良いぞ三日月。そのまま、バエルの肩に右手を近付けてくれ」

『分かった。剣は?』

「ああ、そこら辺に突き刺しといて」

 

アラズの指示を受け、レクスはヴァルキュリア・ブレードをバエル宮殿の床に突き刺す。

レクスの右手がバエルの肩に近付くと、トランクを持ったアラズはバエルに飛び移った。

 

『あの青いのはどうする?』

「邪魔されても困るし、適当に相手よろしく」

『了解』

 

レクスは、手に持った超大型メイスをヴィダールに打ち付ける。

それを合図として、レクスとヴィダールの戦闘が始まった。

 

「貴方は、一体何を…!?」

 

コクピットハッチの側に飛び移ったアラズを見上げながら、マクギリスはそう問う。

それに、アラズはこう答えた。

 

 

「当然、俺の機体を取りに来たんだよ。勝手に俺のバエルに乗ろうとは、失礼千万だなマクギリス・ファリド」

 

 

そして、アラズはバエルのコクピットハッチを開いてその中へと消えて行った。

 

「―――」

 

マクギリスは声を発する事すら出来ず、目を見開いてその場に呆然と立ち尽くした。

 

 

 

 

「よっと」

 

馴染み深いバエルのコクピットに座ったアラズは、トランクを開いてガンダム・フレーム専用の阿頼耶織コネクトを取り出す。

それを背中から出っ張った阿頼耶織接続用インプラント機器「ピアス」に付け、バエルと接続する。

 

「――およそ300年振りだな、バエル。何を今更と思うかも知れんが、問答無用で付き合って貰うぞ」

 

アラズは胸ポケットから、そっと1枚の写真を取り出した。

そこには、アラズと1人の女性が写っている。

 

アラズはその写真をしばし眺めてから、胸ポケットにしまい直す。

そして、300年前と何1つ変わらない直角スティックを握る。

 

「網膜投影、開始」

 

阿頼耶織を接続したアラズの網膜で、モニターの投影が開始される。

 

「ガンダム・バエル――起動!!」

 

 

ガンダム・バエルの双眼が赤く輝き、原初のガンダム・フレームは動き出した。

 

 

床に突き刺さった2本のヴァルキュリア・ブレードを両手で引き抜き、バエルはウイングを展開して飛び上がる。

 

「教官――?」

「マクギリス…? ――いや!」

 

打ち合うレクスとヴィダールの間に割り込んだバエルは、剣の1振りと1蹴りでヴィダールを吹き飛ばして宮殿の外へ放り出す。

 

「ぐうううう!?」

 

体勢を立て直したヴィダールは、バエル宮殿の天井の穴から飛び上がったガンダム・バエルを見た。

それはとても神々しく、悪魔などとは程遠く思える姿をしている。

 

バエルは施設の屋根に着地し、その側にはレクスが並び立つ。

 

「バエルから――通信?」

 

ヴィダールは、バエルからの通信を受け取った。

 

 

 

 

「ラスタル様、ガンダム・バエルから通信です!」

「――何!?」

 

部下の報告を、ラスタルはにわかに信じられない。

 

「マクギリスか…?」

「開きます!」

 

モニターに開かれた映像を見て、ラスタルは己の目まで疑う事となった。

 

そこには、赤い髪を持つ男が映ったからだ。

 

 

 

 

ヴィーンゴールヴに掲げられるギャラルホルンの御旗の側に立ったバエルに乗るアラズは、アリアドネを通じて全世界に伝わるよう映像通信を開いた。

 

『あー、あー。全人類へ、ガンダム・バエルのコクピットから告げる。セブンスターズを拘束し、バエルを入手してギャラルホルンを乗っ取ろうと画策したアグニ会の目論みは阻止させてもらった。同時に、アグニ会をギャラルホルンへの反乱分子として自らの敵を一掃しようとしたアリアンロッドの企みもこれで潰れた事になる。残念だったな』

 

映像が全世界に流される中で、アラズはそう事実を告げた。

 

『さて、全世界の人類諸君。貴様らはそろそろ、俺が一体何者なのかが気になっているだろう? そんな訳で、とりあえず自己紹介をしよう』

 

続いて息を吸い込み、アラズ・アフトルは自らの名前を名乗る――

 

 

 

 

 

『俺の名は、()()()()()()()()()!! ガンダム・バエルのパイロットにして、かつて厄祭の天使を狩った者!! そして、ギャラルホルンの最高幕僚長である!!』

 

 

 

 

 

全世界が、静寂に包まれた。

 

 

アグニカ・カイエル。

それが、アラズ・アフトルの本当の名前だった。

 

 

『300年の時を越えて俺は目覚め、世界を見た。だがしかし、何なんだこのクソみてェな現状は!? ギャラルホルン、貴様らはこの300年間に一体何をしていた!? 随分と腐り果てたモノだな!! あの時代の、無駄に高尚な組織の存在価値はどこへ消えた!? 世界の秩序を維持する警察であるハズのギャラルホルンは、どこへ消えたのだ!!? カロム・イシューの、フェンリス・ファリドの、クリウス・ボードウィンの、ドワーム・エリオンの、ケニング・クジャンの、リック・バクラザンの、ミズガルズ・ファルクの意志はどこへ消えた!!?』

 

そう、アラズ…アグニカはバエルから叫ぶ。

腐敗したギャラルホルンへの怒りを、世界にぶつける。

 

『そう言う事だから、俺はもう一度ギャラルホルンを創り直す。今更出て来て何のつもりだ、か? この300年お前は何をしていた、か? 何故お前は生きているのだ、か? 俺に直接異論を述べたいならば、このヴィーンゴールヴに来るが良い! ああ、それと。この腐敗を正さず現在の世界を享受していたセブンスターズには、問答無用で集まって貰う。ギャラルホルン最高幕僚長、その権限で命令する。世界の混乱が収まったならば、組織再編を始める。今度はこのように急な放送では無く、ちゃんとした場で会おう』

 

そして、アグニカは映像通信を切った。

こんな急な放送で、細かな事を話す必要は無い。

 

『――教官』

「ん? 何だ、三日月?」

 

レクスが、バエルに通信する。

 

 

「アグニカって、誰?」

 

 

アグニカは、コクピットの中で盛大にズッ転けた。




アグニカポイント新規取得
アラズ・アフトル 590AP

アグニカポイントシステム登録名変更
アラズ・アフトル

アグニカ・カイエル

アグニカポイント所持量公開
アグニカ・カイエル ∞AP


長かった、ここをずっと書きたかったんだ…!
そんな感じで、今作の主人公アラズ・アフトルの本名判明です。


本名をアグニカ・カイエル。
もはや言うまでも無い、ギャラルホルンを創った伝説の英雄でした。


これは難しいですね、ミスター・ブシドーの正体くらい難しいですよ。
良かったですね皆様、これで心置きなくアグニカって呼べますね! ちくしょう!!ww
あ、地の文でもこれからは主人公を「アグニカ」と呼びますので。

後、アグニカの階級はオリジナル設定となります。
セブンスターズも各局も飛び越えてギャラルホルンの全体を指揮出来る最高階級です。


それと、一応言いますと。
「アグニカ・カイエルである事」が、∞APの達成条件です。
うん、絶対無理だね!


ついでに、バエルの機体データを。
公式と変わりはあまり無いんですが、今まで主人公機のデータは載せてたので一応。

ASW-G-01 ガンダム・バエル
全高:18.0m
本体重量:30.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:バエル・ソード×2
   ヴァルキュリア・ブレード×2
   電磁砲×2
   ■■■■・■■■×■
   ■■■■・■■■■×■
概要
アグニカ・カイエルの専用機。
厄祭戦後、ギャラルホルンの権力を象徴するMSとして動態保存されていた。
アラズ・アフトル…もといアグニカ・カイエルの手でギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の地下にある「バエル宮殿」より強奪…もとい奪還。
専用武器「バエル・ソード」と、グリム・パウリナより継続使用の「ヴァルキュリア・ブレード」を使う。
バエル・ソードとヴァルキュリア・ブレードは同じ特殊超硬合金で錬成されており、決して折れないとされる。
電磁砲は補助装備としてそれぞれバックパックの左右に取り付けられているが、使用される事は殆ど無い。
また、アグニカが命を賭して戦う際には「■■■■・■■■」と「■■■■・■■■■」が装備される。
2機のエイハブ・リアクターと直結された超高出力のスラスターを持ち、大気圏内でも自由に飛び回る機動力を誇る。
名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第一位の悪魔「バエル(バアルとも)」から。
バエルは東方を支配し、66の軍団を率いる大いなる王だとされる。


次回より、アグニカの掘り下げに入って行きます。
皆様の中に有る「?」は、それで解決されるでしょう。

次回「天使を造りし科学者達」。
俗に言う、過去編ですね。
まあ、期待せず温かく慈悲深い目でご覧下さいm(__)m


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過去編(厄祭戦編)
#33 天使を造りし人間達


今回から、オリジナル展開に突入します。
何度も言いますが、慈悲深く温かく優しい仏のような目でご覧下さい後生ですm(__)m


アグニカ・カイエルの演説、その翌日。

セブンスターズ会議場には、セブンスターズの血を継ぐ者全員と鉄華団のメンバー。

 

そして、ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルの姿が有る。

彼はギャラルホルンの軍服に身を包み、その首元には最高幕僚長の階級証が輝いている。

 

また、イシュー家の椅子が置かれた机の対岸には椅子が2つ増えていた。

 

片方はカイエル家のモノ。

もう片方が誰のモノなのか、アグニカは語ろうとしない。

 

「――世界は今、大混乱だ。テメェがホンモノか、ニセモノか。ホンモノだとしたら、何故こんな時代にいるのか。ニセモノなら、何が目的なのか…ってな」

 

バクラザン家の椅子の近くに立つディジェ・バクラザンは、睨み付けながらアグニカにそう問う。

 

「ホンモノだ、と言っても納得してくれねェからタチが悪い。どうすれば、納得してくれる? バエルを起動出来た=ホンモノって証明とかは?」

「――確かにテメェは、俺にも起動出来なかったガンダム・バエルを起動した。だが、あれは単に()()()()()()()()()()()。阿頼耶織さえ有れば、簡単に起動出来る。そうだろう?」

「正解だ。って言うか、試したのかよ」

 

ディジェ・バクラザンの推測を、アグニカは肯定した。

 

「ギャラルホルンを創った英雄の機体だ、乗りたくなるだろう。しかし、証明方法を自分で潰してどうするつもりだ?」

「ふむ…ギャラルホルンの機密情報をぶちまけまくると言う手も有るが、鉄華団もいる現状では無理だしな」

 

アグニカは、割と本気で頭を傾げた。

その時、昨夜は歓喜し興奮しまくったせいで寝付けなかったにも関わらず輝くマクギリスが手を挙げる。

 

「アグニカ・カイエルよ。ここは、自らの過去を包み隠さず話せば良いのではないですか? 現在、厄祭戦時代の事を知る手段は『アグニカ叙事詩』しか無い。そのアグニカ叙事詩にすら書かれていない事なども含めて語って行けば、納得させられるのでは?」

「オイ待てアグニ会会長、貴様はただ聞きたいだけだろうが」

 

アグニカがツッコミを入れるが、何故かみんな頷き始めた。

解せない。

 

「え? 何、貴様ら本気か? クソ長いぞ? 救いは無いぞ? 事実はありありと語るには、恥ずかし過ぎるんだけど? 俺個人の惚気話とか入るぞ? これくらいなら言っても良いかなって言う、恥ずかしいか恥ずかしくないかのギリギリを攻めた一般向けのが『アグニカ叙事詩』なんだけど」

「アグニカの惚気話!?」

「是非! 是非とも!!」

「オイオイ、楽しみになって来たなあオイ!」

 

鉄華団含め、何人かが食い付きやがった。

 

「ああもう、分かったよ話せば良いんだろ話せば! じゃあとりあえず――エイハブ・リアクターが創られる所から始めようか」

 

 

 

 

厄祭戦の始まる7年前。

厄祭(Disaster)(Before)10年と、ギャラルホルンは呼んでいる時代。

 

 

B.D.0010。

天才科学者エイハブ・バーラエナが、新動力システム「エイハブ・リアクター」を開発した。

 

エイハブ・リアクターは相転移炉の1種で、極めて高いテクノロジーが使われていた為に建造方法はエイハブ博士とごくごく一部の科学者にしか理解出来なかった。

破壊されればビッグバンが起こりかねない危険なエネルギーだが、半永久的であり構成する物質が頑強な事から物理的に破壊するのは不可能。

 

ただし、エイハブ・ウェーブは通信機を使えなくするなどのデメリットも存在する。

 

それを鑑みても、メリットの方が明らかに大きかった。

エイハブ博士の他に建造方法を理解した科学者達は軋轢を生まないよう各経済圏に行き、それぞれの経済圏で同じ数だけ同時期にエイハブ・リアクターを建造した。

 

もう1人の天才科学者プラージャ・カイエルと、エイハブ・バーラエナが出会ったのもその頃になる。

 

 

B.D.0009。

プラージャ博士は、エイハブ・リアクターを搭載した機械「モビルスーツ」を開発した。

「ヘキサ・フレーム」、「イオ・フレーム」、「ロディ・フレーム」の3種類のフレームが開発され、エイハブ・リアクターの活用法の1つとして全世界に広まった。

 

 

B.D.0008。

アフリカンユニオンが、エイハブ博士と他の科学者達に自国のみでエイハブ・リアクターを建造するよう依頼。

それを受け、他の経済圏もエイハブ・リアクターの技術を独占すべく名乗りを上げた。

 

その軋轢が戦争へと発展するのに、さほど時間は掛からなかった。

 

作業用機械として建造されたMSは戦争用に転用され、各経済圏は四つ巴の戦いを繰り広げ始めた。

 

 

B.D.0007。

世界戦争は泥沼化し、長大化する兆しを見せていた。

戦渦の中で、エイハブ博士とプラージャ博士は人類に失望した。

 

「1年…この老体なんぞの技術を求めて、人類は戦い続けている。もう少し、賢い生物だと思っておったのだが」

「――そうだな。所詮、人類は戦う事でしか我を通す事が出来ん。相手を虐殺しない分、そこらの虫の戦いの方が余程知性的だろう。この愚かな生物は約120億にまで個体を増やし、戦っている。原始時代から、何1つ変わっていない」

 

そして、彼らの出した結論は。

 

「世界を滅ぼせる程の、絶対的な破壊者。それを前にすれば、流石の人類も結託するだろう」

「――大量殺戮破壊兵器の建造など、人道的では無いぞ」

「何千万もの生物が暮らす都市に何の節度も無く核を落とし、自然ごと敵性体を殺戮するよりはマシだと思うがね?」

 

人を殺す為だけの、大量殺戮破壊兵器の建造による危機感の統一。

協力する事によりこれを殲滅すれば、少しは態度が変わるかも知れない。

 

彼らはそんな祈りから、大量殺戮破壊兵器の開発に着手した――

 

 

 

 

時は流れ、B.D.0003。

既に5年、四つ巴の戦いは続いている。

 

地球の海は乱発された核爆弾の放射能の影響をモロに受け、触れただけで被爆する死の海と化した。

 

そんな死海に漂う移動式研究所を持つ科学者スリーヤ・カイエルの下に、プラージャ・カイエルは訪れていた。

 

「海はこんなに蒼いのに、触れる事すら出来ないとは――全く、いつまで戦い続けるつもりだ?」

「親父。わざわざ来た理由は、愚痴を零す為か? どうせまた、下らない物を造ったんだろう?」

 

スリーヤは、プラージャに問い詰める。

 

「下らない物、か――ああ、本当に下らないな。なあ、スリーヤ。俺達は、何の為に生きて何の為に人類の道具を発展させて来たんだろうな?」

「オイオイ、アンタはいつから哲学者にジョブチェンジしたんだ?」

「哲学者になったつもりなど、微塵も無いのだが…お前は、ガキの頃から変わらないな」

 

プラージャは笑顔を見せた後、自分達の研究をスリーヤに教えた。

 

「――人間を、抹殺する兵器…!?」

「ああ。我々は、これを『モビルアーマー』と呼んでいる。慈悲無く人間を殺戮し続ける『天使』。既に、本体は完成した。後はこれを起動すれば、世界は危機を知るだろう」

「共通の危機を前にすれば、人類の全てが戦争を止めて団結するとでも? 随分な理想論を語るモノだな、プラージャ・カイエル博士。人類を滅ぼすつもりか?」

 

突き放した言い方で、スリーヤはプラージャを糾弾する。

 

「戦争を止めさせたかったなら、エイハブ・リアクターの開発技術を持つ科学者が全員死んどけば良かった。ただそれだけの話だ。話を聞かされてさえいれば、俺は迷い無く自分(テメェ)の頭を銃で撃ち抜いた。景品の無くなったゲームに興じる程、人類は酔狂では無い。戦争など、誰が望むモノではないからな」

「――スリーヤ・カイエル博士。お前は本当に、そう思っているのか? もしそうなら、理想論を語っているのは他ならぬお前だ。我らは所詮科学者、ここでこのような事を議論する事には何の価値も無い。だが、意味は有ると信じて俺は語ろう」

 

モビルアーマーの設計図をたたみつつ、プラージャは語る。

 

「戦争を望む者は、確かにこの世界にいる。武器商人達は、戦争が起きなければお役御免だからな。だが、戦争が無くならない最大の理由は()()()()()()()()()()だと俺は考えている。闘争とは即ち、人間の本能だ。理性で商人達を押さえつけても、本能から来る闘争欲求には抗えない。その結果が、今の世界だ。エイハブ・リアクターの開発技術を持つ科学者の殆どが消息を絶っても、戦争は続いている。他者を蹴落として頂点を掴もうとする人間の支配欲は、底が知れんよ。なら――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

その為のMAだ。

プラージャとエイハブに取って、人類が結託してMAを討伐するのでも人類が結託せずMAに滅ぼされるのでも()()()()()()()

 

「――アンタら、間違い無く狂ってるよ」

「熟知している。それでも、我々は止めんよ。1ヶ月後に、マザーMA『ガブリエル』を起動する。最初に天使に虐殺されるべきは、俺とエイハブだ。大量殺戮破壊兵器を造って世界に放って、その結末を見届けずさっさと楽になる。全く、救いようの無いクズだろ?」

 

そう言って、プラージャはスリーヤにその天使の設計図を渡す。

 

マザーMA、ガブリエル。

後に「四大天使」の一角に数えられる、ほぼ全てのMAを生み出す存在だ。

四大天使以上のMAが持つ、固有特殊能力。

ガブリエルは、「個体増殖」の特殊能力を持っていた。

 

ガブリエルは、数多のMAを生み出す母たる存在。

勝手にMAを造って行く、厄介な性質を持つ。

 

「後は任せたぞ、バカ息子。お前がどんな行動を起こすかは知らんが、人類の未来を頼む」

「…アグニカには、会って行かないのか?」

「――こんなクズ野郎に、会う資格など無いさ。クズはクズらしく、ゴミのようにブチ殺されて死ぬのがお似合いだよ」

 

孫に会う事も無く、プラージャは研究所を去って行った。

 

「――バカはアンタらだよ、親父。アンタら、本当は人類が好きなんだろう? 人類を愛する者が、人類史上最悪の殺戮者に成り下がる…本当に、救いようの無い」

 

スリーヤは設計図を握りしめ、自身の研究に戻る。

 

ツインリアクターシステム。

それが、スリーヤ・カイエル取って置きの研究だ。

 

(親父。俺は、最後まで人類側につかせてもらう。アンタが人類を殺すってんなら、俺は人類を生かす存在を用意する。天使を狩る、悪魔をな…)

 

 

 

 

俺とアイツが出会ったのは、俺が7歳の頃だった。

親父の研究組織に入って来た、親父の友人の子供がアイツだ。

 

初めて見た時、俺はアイツから目を離せなかった。

 

アホみたいに呆然と自分を見る俺に、アイツは。

 

「ねえねえ! キミ、名前は?」

 

と聞き、笑顔を浮かべた。

俺は慌てて、自分の名前を言った。

 

「アグニカ――アグニカ・カイエル」

「アグニカ…アグニカね! 私はスヴァハ・クニギン、よろしく!」

 

すると、アイツ…スヴァハは、手を差し出して来た。

俺も手を差し出して、その手を握――

 

 

「ゴホーン! 仲が良くなーりそうなーのは素ー晴らしいが、まだ早ーい!! お父ーさんは赦ーしませーんよ!!」

 

 

る直前、スヴァハのお父さんに阻まれた。

 

「オイ、お前なあ。せっかくニヤニヤしてたのに、釘を刺すんじゃねェよヴィヴァト」

「そーは問屋が卸しまーせん! そーもそもだなスリーヤ、キミの子ー供が私の子ー供に手を出ーそうとしたかーら途中でカットしーたんだよ!?」

 

何だろう、いつ聞いてもコイツの喋り方ムカつく。

まさにマッドサイエンティストの鏡だよな、スヴァハのお父さん。

このマッドサイエンティストの遺伝子からスヴァハが産まれたとか、どう考えてもおかしい。

 

とりあえず、手を出そうとしたとか言う不名誉は挽回しなければならない。

子供ながらにそう結論した俺は、名誉挽回の為供述を始めた。

 

「いや、そんな事してませんけど!?」

「そーれはウソだ」

「聞けよ」

 

親父がヴィヴァトさんをブッ叩く。

ヴィヴァトさんは頭を押さえつつ、目を怪しく輝かせて俺を見た。

 

「私はヴィヴァト・クニギン。よーろしくな、アグニカ君?」

 

自己紹介の後、マッドサイエンティストは手を差し出して来た。

 

「は、はいッて、痛い! 痛いよ!?」

「 よ ろ  く な 」

「字が! 字が1文字おかしいって!」

「オイ」

 

再び、親父がマッドサイエンティストをブッ叩いた。

 

「邪魔すーるなスリーヤ! 娘ーに集る悪ーい虫を抹殺しーていた所だったのーに!」

「お前の言う悪ーい虫、俺の子供だって事分かって言ってるのか? だとしたら戦争だぞ。とりあえず、本題に入らせろ。ああ、アグニカ。スヴァハちゃんに、この施設を案内してやれ」

「あ、うん…」

 

俺はスヴァハを手招きして、施設の案内に繰り出した。

 

「待ーちたまえ!!」

「頼む、俺の話を聞けヴィヴァト。俺が今造ろうとしてるのはな、こんな奴だ。協力しろ、ほらこれが構想図」

「ほほーう?」

 

去り際に、そんな悪巧みをするような声が聞こえてたが。

 

 

 

 

そして、その11年後。

ツインリアクターシステムはようやく形になって来て、俺とスヴァハも普通に手伝わされていた。

 

進展?

何度か手を繋ぐ機会が有ったり手料理食ったりする機会は有ったけど、それだけです。

 

 

あのマッドサイエンティスト、いつかシバく。

 

 

「アグニカー、こっちの理論調整どうなった?」

「ああ、そっちのシステムね。これはこう…」

「ふむふむ、成る程成る程」

 

そんな我々は今、2人でツインリアクターシステムの試作機を製造中だ。

この試作機が完成したら、追加で沢山造って世界にバラまこうぜ大作戦である。

 

大雑把極まりない。

 

「と言うか、本当に出来るのかこれ?」

「さあ…?」

「出ー来るかどーかは問題じゃなーい! 造ーるのだよ、なーんとしてーも!!」

 

んで以てこのスヴァハのお父さん…マッドサイエンティスト、口調に変化なし。

ムカつく。

 

お父さん(悪の科学者)、その理論は論理的じゃないと思うよ」

「ザクッ!? 何やーらルビがおーかしい、お父さんは哀ーしい!! 娘の反抗ー期って、こーんなに辛いんだーな!?」

「18で反抗期なら、遅い方でしょ…アグニカ、そっちの資料取って」

「へいへい、仰せのままに」

 

資料の入ったタブレットを取って、スヴァハに手渡す。

 

いや、マッドサイエンティストことヴィヴァト・クニギン博士よ。

会話してくれるだけ、スヴァハは女神だと思うよ。

 

そんな感じでのんびり作業してた俺達の下に、親父がやって来た。

 

「――作業状況は?」

「ん? 明ー日にはリアクター同ー調実験が出ー来ると思ーうが――何か、有ーったのか? プラージャ氏とーの会ー談は?」

「プラージャ? 爺さんが来てたのか?」

 

そんな話、聞いてない。

そして、親父ことスリーヤ・カイエル博士の持つあの紙の設計図らしきモノは一体…?

 

設計図を古臭い紙に書くのが、ウチの爺さんの変わった所だったりもするのだが…?

 

「――アグニカ、スヴァハちゃん。話が有る」

 

親父はいつになく鬼気迫った顔で、俺達にそう告げた。




オリジナル展開、滑り出しは…こんなモン、ですかねえ?
ダメな気しかしない、すまない…。


オリジナルキャラクター、スヴァハ・クニギンちゃんとマッドサイエンティストことヴィヴァト・クニギンさん初登場。
それから、名前だけは出てたオリジナルキャラクターであるスリーヤ・カイエルとプラージャ・カイエル、ついでに公式設定でエイハブ・リアクターを造ったエイハブ・バーラエナも少し喋りましたね。

ヴィヴァトさんとアグニカ父スリーヤ・カイエルは、学徒時代からの古い友人です。
ヴィヴァトのCVは飛田展男さん(灼眼のシャナの教授に近い感じ)で、私は脳内再生しています。

スヴァハちゃんの方は、かなり本編――と言うかアグニカに関わって来ます。
よろしくお願いします。

アグニカ祖父とアグニカ父の会話でさり気なく登場した、マザーMAにして四大天使の一角「ガブリエル」はオリジナル機体となります。
要するに、「鉄血版デビルガンダム」ですね。
機体解説等は、これからして行きます。
後、MAの誕生理由はオリジナル設定となります。

また、原作でマッキーが「MSはMAを倒す為に造られた」と言っていましたが、今作ではその設定が無くなりました。
MAを倒す為に造られたのは全てのMSでは無く、ガンダム・フレームと言う事でお願いします。

ついでに言っておきますけど、作者はプラージャさんみたいな危険思想の持ち主ではないので悪しからず。


次回「厄祭戦、開幕」。
奴の起動と共に、スリーヤ達も動き始めます。


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#34 厄祭戦、開幕

不穏なタイトルだ…(お前が書いて付けたんだろ)
タイトルから、内容はお察し下さい。

短めですけど、次の所までいれると長くなったんでご了承をm(__)m


「――モビル、アーマー…!?」

「人間を抹殺する兵器、って…」

 

親父…スリーヤ・カイエルから話を聞いた俺とスヴァハは、絶句するしかなかった。

 

「当然、全部真実だ。親父は1ヶ月後、MAの起動をすると言った。マザーMA『ガブリエル』はどんどんMAを生み出し、世界を絶望へと叩き落とすだろう。では、MAに対抗する戦力は? ツインリアクターシステムを搭載した、MSしか無い」

「――待って下さい、スリーヤさん。ツインリアクターシステムは、まだ同調実験すらしてないんですよ? それなのにどうやって…?」

「やらなきゃ、人類は滅亡だ。()()()()()()

 

選択の余地無し、か。

確かに爺さんが残した設計図を見る限り、通常のMSではMAに到底及ばない。

 

しかし、ツインリアクターシステムが現実化したとしても問題は有る。

 

「操縦は、どうするんだ? ツインリアクターなんて過剰パワー、普通じゃ扱い切れないぞ」

「そこは、親父の残したコイツを使う」

 

そう言って、親父は爺さんの研究室から引っ張り出して来たらしい設計図を俺達に見せる。

 

 

「『阿頼耶織システム』。脊髄にナノマシンを注入し『ピアス』と言うインプラント機器を埋め込み、ナノマシンを介して操縦席側の端子と接続。それによって、パイロットの神経と機体のシステムを直結させる操縦システムだ。脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成され、直感的かつ迅速な操作が可能になる。マニュアルを読まなくても操縦が可能であり、文字すら読めない者でもMSの操縦が出来るようになる代物。これを使う」

 

 

「――待て親父、これは…!」

「スリーヤさん、いくら何でも…!」

 

俺とスヴァハは親父を注視するが、親父に譲る気は無さそうだ。

 

「――アンタ、充分狂ってるよ…スリーヤ博士」

「ああそうさ。これを考えた親父より、実現しようとしてる俺の方が余程狂ってるだろうよ。だが、もう一度言おう。()()()()()()。如何に非人道的であろうと、使わねば人類は生き残れない」

 

そこで、と言って。

親父…スリーヤ博士は、俺達に頭を下げて来た。

 

 

「お前達には、これを使ってツインリアクターシステムを搭載したMSに乗って欲しい。あわよくば、MAと戦って欲しい。そして勝て。さすれば、ツインリアクターシステムを使用したMSと阿頼耶織システムの有用性が世界に証明される」

 

 

――何を、言っているんだろうかコイツは。

俺には、本気で理解出来なかった。

 

つまり、俺達に「実験動物(モルモット)になってほしい」と言っているのか?

仮にも実の息子である俺と、友人の娘であるスヴァハに?

俺はともかく、スヴァハまで巻き込んで戦えって言ってるのか?

 

そこまで考えた所で、俺はスリーヤ博士に掴み掛かった。

 

「フザケてんのか、アンタは!!? 俺達に改造人間になって、戦えって!? 人体改造してまだ名前も決まってないMSに乗ればMAを倒せるって言う、プロパガンダになれってのか!? そんな事に、スヴァハ共々協力しろってのか!!?」

「待って、アグニカ!」

 

スヴァハに止められたので、俺はやむなくスリーヤを解放する。

 

「ッ…! 俺はまあともかく、スヴァハに戦えってのを容認する訳には行かねェ。スヴァハはな、そんな――」

「ううん、いいの」

 

スヴァハは俺の服の袖を掴んで、首を横に振る。

 

「良い、って――」

「私、やるよ。だって、人類が生き残る為だもの」

「――悪い、もう一度だけ待ってくれ。俺がまだ納得出来ない。スヴァハ、それはお前が()()()()()()()()()?」

 

スヴァハは少し考えたようだったが、俺を見据えて頷いた。

 

「――じゃあ、俺に止める権利は無しだな…で、クソ親父。どうすんだ?」

「クソが付きやがった…否定出来ないが。とりあえず、今まで通りツインリアクターシステムを仕上げないとどうしようも無い。阿頼耶織の研究は、ツインリアクターシステム開発の合間を縫ってヴィヴァトに進めて貰ってる。両方、同時期に開発が終わるハズだ。それまで、外は天使に蹂躙される事になるが――こればかりは、俺達にはどうにも出来ない」

 

そう言って、クソ親父はツインリアクターシステム試作機の方へ向かって行った。

 

「はあ…俺達、どうも科学者からパイロットにジョブチェンジさせられるみたいだな」

「うん、そうみたいだね――ねえ、アグニカ」

 

すると、スヴァハは笑顔を見せてこう言った。

 

「ありがとう。私を、気にかけてくれて」

「――あ、ああ…どう、致しまして?」

 

いきなり送られて来た感謝の言葉に驚きつつ、俺は何とかそう返した。

 

 

 

 

1ヶ月後。

月面に存在する専用の研究施設で、プラージャ・カイエルとエイハブ・バーラエナは。

 

「――これで、人類が滅ぶかも知れないぞ。本当に良いのだな、プラージャ・カイエル博士。私と違い、君には家族もいるだろう?」

「…ああ」

 

その時、施設が揺らいだ。

 

「――感づかれたか。やるからには急ぐぞ」

「行くぞ。3、2、1――」

 

 

そして、彼らは起動スイッチを押した。

人類に厄祭をもたらす、破滅の天使を起動させるスイッチを。

 

 

『       !!!』

 

最初の天使は、おぞましく吼えた。

 

 

 

 

その頃、施設の外では。

 

『核攻撃、直撃を確認。目標施設の損壊、認められず』

『第二波、用意』

 

オセアニア連邦軍の艦艇とMSが、包囲網を固めていた。

 

かつてスリーヤ・カイエルはオセアニア連邦に赴き、規定数のエイハブ・リアクターを製造した。

そのスリーヤから再三の要請を受け、月面都市防衛艦隊の艦艇1隻とMS3機がようやく月の研究施設を核攻撃したのだ。

 

ただ、少し遅かったようだが。

 

『…! 施設内に、エイハブ・ウェーブ確認!』

『問題無い。第二波、発射せよ』

 

第二波の核爆弾が、施設へと降り注ぐ。

 

(呆気ないモノだな)

 

司令官の余裕は、次の瞬間には消え失せる事となる。

 

 

謎の赤い光が、施設から飛び出したからだ。

 

 

『な、なんだ!?』

 

光は核爆弾を溶かし途中で爆発させ、船が大きく揺らぐ。

それに留まらず、光は船のブリッジを焼き払った。

 

 

彼らには知る由も無かった事だが、光は「ビーム」と呼ばれる熱線だ。

エイハブ・リアクターによって生み出されるエイハブ粒子を超高速振動させる事で高熱を持たせ、物質を溶解する。

 

MAで初めて搭載された新兵器にして、プラージャ・カイエルとエイハブ・バーラエナの研究成果の1つである。

 

『        ――!!』

 

施設を内部から破壊し、原初の天使「ガブリエル」がその姿を晒す。

 

『母艦が、一撃で…!?』

『クッソ、何なんだよあの光は!!』

『狼狽えるな! 殲滅するぞ!』

 

MS隊が動き、MAの討伐作戦に移る。

その時。

 

 

黒い子機が、MS隊に襲いかかった。

 

 

子機は1機に張り付き、尻尾でMSのコクピット付近を貫く。

 

『ぐおああああああああああ!!』

 

コクピット内のパイロットは左腕をもがれ、泣き叫ぶ。

動きが止まったその機体に更に子機が張り付き、機体の各所に穴を開けて行く。

 

子機…正式名を「プルーマ」。

MAが共通して持つ機能として、これの製造機能が有る。

本体からマイクロウェーブによってエネルギーを供給され、MA同様人を殺戮する無人兵器だ。

 

『しっかりしろ、今…!』

『敵性体より、高エネルギー反応!』

『まさk』

 

ガブリエルが再びビームを吐き出し、プルーマ共々3機のMSを破壊した。

 

この時期、まだ「ナノラミネートアーマー」は開発されていない。

 

『          』

 

ガブリエルは施設内に戻り、MAを生産する行動に移った。

 

この近くに存在する巨大月面都市を破壊するには、自身の力だけでは足りない。

圧倒的な力を持つ、破壊のみを行う機体を造らなければならないだろう。

 

この時生み出され月面都市を更地へと変えた機体は、後にこう呼ばれる。

 

 

「四大天使」ウリエル、と。

 

 

この瞬間こそが天使と人間、悪魔による祭りの始まりとされる。

「厄祭戦」――人類の文明発展に大きく貢献した科学者達の絶望と願望によって彩られた、災厄をもたらす祭りの名だ。




四大天使、起動回でした。
ガブリエル、ウリエルについての設定も追々明かします。

オリジナル設定は以下の通りです。


阿頼耶織システムの誕生経緯。
公式では明言されてなかったと思うので、勝手に捏造。
アグニカ祖父が考案し、その理論をアグニカ父が発見し、マッドサイエンティストが手を加えて完成させた事に。

ビームの原理。
鉄血世界に於けるビームの原理が説明されてなかったので、勝手に作りました。

月面の巨大都市。
存在した事自体がオリジナル設定となります。
場所は、フォン・ブラウンと同じ所です。

「四大天使」ウリエル。
位階設定がオリジナルな事は、以前述べた通り。
本作のオリジナル機体となります。
いずれまた、出る予定です。


ようやく、厄祭戦が開幕しました。
まだ序盤ですが、頑張れる範囲で頑張りたいです。


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#35 ヘイムダル、結成

今回は、ちょっとガンダムっぽく無いオリジナル設定が出て来ます。

私もどうかと思ったんですが、私の中二頭では他に思い付かなかったので…情けない。
自分の中二病が恨めしいが、治る気がしない…。

今回限りなので、許して下さいm(__)mm(__)m


巨大月面都市の壊滅。

そのニュースを耳にして、クソ親父の話が真実だったと言う実感がようやく湧いて来た。

 

爺さんは本当に、大量殺戮巨大破壊兵器を造ったのだとも。

 

「――始まった、みたいだね」

「ああ…人類、存亡の危機だ」

 

ほぼ徹夜で試作機を弄ってた俺達は、施設内に流れるラジオのニュースでそれを知った。

 

常駐する防衛艦隊が1時間もかからず殲滅され、都市に住む住民は1人残らず抹殺。

オマケに、都市は完膚無きまでに破壊…いや、蹂躙された。

都市が有った痕跡すら無くなったとあっては、大ニュースになるのも当然だろう。

 

「ツインリアクターシステムの完成、急がないとね…」

「糸口が見えないけどな。何が同調を妨げてるんだよ、これ…」

 

タブレットをブン投げて、アグニカは頭を抱える。

 

クソ親父は新型装甲とやらの開発を始めたし、マッドサイエンティストは「阿ー頼耶織の開発が急ー務なーのだ!」とか言って怪しげな研究をしている。

結局、俺達の頭だけでどうにかするしか無い…のだが。

 

「理論上、問題無しだよね…システム外の何かが有る、のかな?」

「さあ――待てよ。マッドサイエンティストが何か意味深な事を言っていたような…」

「? あの悪の科学者、何か言ってたの?」

 

娘にまで悪の科学者呼ばわりされるマッドサイエンティストェ…。

まあそれはともかく、俺は必死に記憶を呼び戻す。

あのマッドサイエンティスト、何か訳の分からない事を――

 

「――確か、『この試ー作機には悪魔がいるーのだよ!』とか…」

「いや、まさか…そんな、ねえ?」

「本当にいるかも知れんぞ? マッドサイエンティストの思考回路なんざ、常人には理解出来ねェ」

 

悪魔。

特定の宗教文化に根ざした悪しき超自然的存在や、悪を象徴する超越的存在を表す言葉だ。

仏教では仏道を邪魔する悪神を意味し、煩悩の事であるとも捉えられる。

キリスト教ではサタンの事を指し、神を誹謗中傷して人間を誘惑する存在とされる。

また、サタン以外の西洋文化の悪霊(デーモン)も現代日本語では一般に悪魔と呼ばれたりする。

イスラム教に於いて悪魔はシャイターン、イブリースと呼ばれる。

 

この他にも、有名な悪魔群として「ソロモン七十二柱」が存在する。

宇宙世紀なる時代よりも更に前、西暦。

その紀元前10世紀の古代イスラエル――現在ではアフリカンユニオンに併合されている地域を治めていたとされる「ソロモン王」に従うとされる悪魔達。

魔術師の王とも言われるソロモン王はこれらの悪魔を使役し、扱う方法を文献…魔術書に纏めて後世に残している。

 

「何であんなので悪魔が出て来るのか? そも悪魔なんているのか? とか、はっきり言って俺は知らん。とにかく、もしそんなモノのせいで同調に影響が出やがってるなら…あのマッドサイエンティストを生贄にでもしねェとな」

「うん、その時はそうしよう」

 

マッドサイエンティスト生贄化計画を進めつつ、改めて俺達はデータに向き合う。

スヴァハさん、容赦無いっすね。

 

「しっかし、本当に分からねェなこれ…」

「? 待って、この数字は?」

「どれどれ?」

 

スヴァハが、タブレットのプログラムの一部を指差す。

そのまま、数字を変え始めた。

 

「これをこうすれば…」

「本当に行けるのか? まあ、とりあえずもう一度だ」

 

何が変わったのかは分からなかったが、今はスヴァハに縋ろう。

俺達は、再度同調実験を始めるのだった。

 

 

 

 

同調試験の成功から、1ヶ月。

クソ親父ことスリーヤ・カイエルは、エイハブ・リアクター建造技術を持つ科学者の全員を世界中から自分の施設に呼びつけた。

そして、月面都市壊滅の真実とMAの存在についてを告げた。

 

「――MA…人間を狩る天使、か。あのプラージャ博士とエイハブ博士にここまでさせるとは、人類もバカな事をしたモノだ」

「全くだ。だが、当のプラージャ・カイエルとエイハブ・バーラエナはとっくにあの世逝きだ。残された我々で、人類に対抗する力を与えなければならない」

 

MA「ガブリエル」は、プログラム通りにMAを生み出し続けている。

一刻も早く何とかしなければ、人類の生活圏は天使に蹂躙されるのだ。

 

「そーの対抗策こーそ、ツーインリアクターシーステムだ! 既に、試ー作機のリーアクター同調試ー験は完了していーる! 後は量ー産し、天使を狩りまーくるのみ!!」

「――新型MSと、新型制御システム。それに、新型装甲か…行ける、行けるぞ! これならば、天使どもに届きうるかも知れない!」

 

集まったリアクター建造技術を持つ天才科学者達…計8人は、その試験機のデータを見るなりそう確信した。

 

「たーだ、この機ー体には科学では図ーれぬ力も備わーっている! 試験機と同ー等の性能を持ーつ機体は、後71機しか造ーれない!」

「? 科学では図れない力、だと?」

「いかーにも! 天使に対抗すーる力は、人間だけでは得らーれない! なーらば、()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

マッドサイエンティストは、とある本を科学者達の座る机に叩ーき付けた。

 

「――これは…?」

 

 

「魔術書ーさ! 何チャーラ王が残しーた、科学とーは正反ー対の力…魔術ーの学問ー書! 試ー験機に備ーえられた力ーの根源とーは即ーち、『悪魔』!! 機ー体には悪ー魔の力が宿ーるのーさ、ハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハハハハハーハ!!!」

 

 

ヴィヴァト・クニギンがマッドサイエンティストと言われる理由は、その言動のぶっ飛びよう故では無い。

いや、それも多少は関わっているだろうが。

 

ヴィヴァトの研究は科学者の中でも理解されず、学会では「イかれたやべーやつ」だとか言われる。

 

 

魔術を、()()()()()()()()()()()()()()()

それが、マッドサイエンティストことヴィヴァト・クニギンの研究だった。

 

 

そして、それはヴィヴァトの優れた頭脳により成功してしまった。

結果、ツインリアクターシステムを使った機体にも採用されてしまった。

 

スリーヤの開発したツインリアクターシステムによる科学的な力。

プラージャが原案を出し、ヴィヴァトが独自に手を加えて実現した阿頼耶織システムを介した悪魔との契約による魔術的な力。

 

この2つの力が掛け合わされて初めて、人類の牙は天使の首に届く。

 

「貴様、正気か!? 科学者が魔術師めいた事をするなど…いや待て、そもそもどうやって成功させたのだ?」

「全ーて、人類が勝利すーる為! その為なーら、手段を選ーぶ暇など無ーい! 結果とーして、試験機はマーザーMA『ガブリエル』を超えーる力を得ーた!! こーれを量産すーれば、勝ー機が生まれーる!!」

 

マッドサイエンティストの言葉に、反論した科学者が押し黙る。

やる事成す事はメチャクチャだが、ヴィヴァトの意見は確かに的を得ていた。

 

こうでもしなければ、人類は天使に勝てないのだ。

 

俺はスヴァハに近寄り、耳打ちする。

 

「(スヴァハ。お前、あのマッドサイエンティストの研究をどこまで知ってた?)」

「(――阿頼耶織でそんな危険な事を企んでたなんて知らなかったけど、それ以外は知ってたよ。私は神話とかさっぱりだけどね)」

「(あの時、お前が気付けたのはそう言う事か。科学的に魔術的な現象を起こそうとか、バカげた思考回路だなあのマッドサイエンティスト…しかし、後71機しか建造出来ないって事は…)」

 

俺は、少し古い知識を思い起こす。

 

それは、俺が14歳の頃。

中二病に掛かった時にマッドサイエンティストから借りて読み漁った、神話やら魔術書やらの知識だ。

 

「使った悪魔は、『ソロモン七十二柱』か」

「いかーにも! やるでーはないーか、アグーニカ君よ! あの試ー験機には、悪ー魔『バエル』が宿っていーる! 私特ー製の阿頼耶ー織を組み込み起動されーたツイーンリアクターシスーテムの機ー体には、悪ー魔が宿るシスーテムさ!」

 

バエル。

バアルとも呼ばれる、「ソロモン七十二柱」序列1位の大悪魔。

東方を加護し、66の軍団を従える地獄の王だ。

 

マッドサイエンティストが用意したツインリアクターシステム採用機体専用コクピットブロックの数は、残り71個。

そのそれぞれに、ソロモンの悪魔が宿っていると考えて間違い無いだろう。

 

「どうやって契約を…」

「そこーは? まあ? ちょーっとな」

「怪し過ぎるぞ、マッドサイエンティスト。それに乗せられる俺達の気持ちにもなれ」

 

俺の後ろで、スヴァハも頷いている。

しかし、マッドサイエンティストは何となくはぐらかす。

 

「気ーにするな」

「今、そんな事を議論する暇は無い。とりあえず、72機のMSを完成させなければならない。そして、それに手を貸して欲しい。科学者としては受け入れ難いシステムでは有るが、聡明なお前達ならどうすべきか分かるだろう?」

 

クソ親父は、そう問うた。

集った科学者達は、葛藤しながらも全員が頷く。

 

「このツインリアクターシステム採用フレームの名は、『ガンダム・フレーム』。宇宙世紀なる時代、戦場を駆けた伝説の機体の名だ。今在る試験機は、『ガンダム・バエル』と名付ける。こんな感じに、機体に名付けていって欲しい。建造数は、1人につき9機。それから、この組織の名前を決めたい」

 

と、クソ親父はそんな事を言った。

 

「出来るだけカッコ良く、な」

 

とも。

俺は手を挙げて、思い付いた名前を提案してみる。

 

 

「『ヘイムダル』」

 

 

「――意味は?」

「北欧神話に於ける、光の神の名だ。『世界の光』とも言われるな」

 

クソ親父は、しばし考えたが。

 

「我々には過ぎた名だが、カッコ良いので採用。組織名、これを『ヘイムダル』とする! 我等ヘイムダルは、科学によって人類に光をもたらそう! それこそが、天使(きょうしゃ)に抗う人類(じゃくしゃ)の希望とならん事を!」

 

人類(じゃくしゃ)の反抗は、ここから始まった。

敵は殺戮と破壊の化身、天使(きょうしゃ)

普通に考えれば、勝てる道理など存在しない。

 

それでも、人類は抗い刃向かう。

自らの力で成し遂げられぬなら、悪魔(どうぐ)を使うまで。

 

かくして、人類は生態系の頂点にまで君臨するのだから――




――アカン(確信)
すまない、中二病で本当にすまない。
反省も後悔もしている、本当にすまない…とか言いたいけど、Apoアニメ4話のせいでこのネタ使うのに抵抗が生まれました。
すみません。
誰か代わってくれお願いします何でもしますから。

と、とにかくオリジナル設定は以下の通りです。


ナノラミネートアーマーの誕生経緯。
この硬い装甲の誕生経緯は語られてなかったと思うので、元々ガンダム用に造られた設定に。
それが他のフレームにも流用された、と言う事で。

ガンダム・フレームには、マジモンの悪魔が宿っている。
中二臭くなってしまった、全ての元凶たるオリジナル設定です。
アニメを見ていた時にバルバトスが三日月に意志を持って呼応していたように感じまして、そこから出て来た設定となります。

ヘイムダル。
ギャラルホルンの前身組織です。
名前はオリジナル設定となります。


ギャラルホルンの前身組織、ヘイムダルが結成されました。
ガンダム・フレーム建造に必要なモノも全て揃ったので、いよいよ建造が始まります。

次回「初陣」。


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#36 初陣

今回、いよいよ初戦闘回です。

活動報告の方、超久々に更新しました。
厚かましいお願いですが、厄祭戦を描くに当たりましてガンダム・フレームを始めとする様々なMS、MAの案が欲しいのです。
特に、MA。
私は初代セブンスターズ分&スヴァハ分&現存分のガンダム、四大天使&天使王、天使長の設定を考えた時点で力尽きました(33-4)。
もう思い付きません、もう無理です…おのれ公式、何故72機分の設定を公開しない…!?
ので、案を出して頂けるとスゴくとてもメチャクチャ助かります。
無論、有志でそれが可能な方のみで構いません。
出して頂いた案は一部を変えたり増やしたりするかも知れませんが、採用し本編へ出すつもりですのでそこはご了承下さい。

案は私が活動報告で受け付けますが、期間の設定を。
期間は「ガブリエル戦が始まるまで」とします。
作品の展開上仕方無い事ですので、お許し下さい。

お願いします、助けて下さいm(__)m(切実)


B.D.0002。

悪魔の宿るMS「ガンダム・フレーム」の量産は、各地で順調に進んでいた。

 

この海上移動式研究所でも、ガンダム・フレームは18機が生産される予定だ。

現在、その内の15機が完成した。

機体制御用の「阿頼耶織システム」も昨日完成し、明後日に俺達が手術を受ける事になっている。

 

「後3機――もう少しだな」

「そうだね…私とアグニカの機体は何とか完成したし、他はもうちょっとだね。研究所の職員全員で造れば、そう時間は掛からないんじゃない?」

「まともに武器が用意されてんの、バエルとアガレスだけじゃん」

 

この研究所にいるのは、何もアグニカとスヴァハ、スリーヤとヴィヴァトだけではない。

他にも技術者が多数在籍しており、普段は施設内で作物を作ったり機械を製造したりと幅広い仕事をしている。

「ガンダム・フレーム」の建造は職員総手で執り行っているが、アグニカとスヴァハの機体以外は本体のみで武装はまだまだだ。

 

「とりあえず、本体を全部造らないと話にならない。急ごう」

「うん」

 

そして、2人が作業に戻ろうとした時。

 

 

館内に、警報が響き渡った。

 

 

「これは…!?」

「まさか、もうこんな所にまで!?」

 

2人が驚いたのも、束の間。

施設全体が、揺れ動いた。

 

『7時の方角に、敵性体…MAを発見! Dブロックにいる者は、直ちに退避せよ! 繰り返す、7時の方角にMAを確認! Dブロックにいる者は、すぐに退避しろ!!』

 

ブリッジのオペレーターが、館内放送でそう告げる。

これで間違いない。

 

討伐目標――MAが、この施設を襲撃したのだ。

 

「アグニカ、スヴァハちゃん!」

「無ー事かスヴァハ! 後、ついーでにアグニカ君!」

「あッ、クソ親父!」

お父さん(悪の科学者)!」

 

俺達の下に、クソ親父とマッドサイエンティストがやって来る。

これはまた、無茶振りの予感がするぞ。

 

「この時が、遂に来てしまったようだ。ガブリエルが生み出したMAによって外の世界が蹂躙されているのは知っていたが、この施設も狙われるとは…とにかく、チャンスだ」

「は?」

 

クソ親父は、俺とスヴァハに詰め寄って言った。

 

 

「今すぐ『阿頼耶織』手術を受けて、襲って来たMAを倒せ。ガンダムに乗ってな」

 

 

――今すぐ、だと?

「阿頼耶織」を今すぐ埋め込んで、まだ理論すらよく理解出来ない悪魔とやらが宿る機体に乗り込んで、化け物を倒せと言うのか?

 

「待て、危険過ぎる! 下手すれば死ぬぞ!」

()()()()()()()()() その程度のリスクを背負えぬようでは、天使には届かない! 覚悟くらいシャッキリ決めろ、アグニカ!」

 

ムチャクチャだ。

そんな急いで準備した所で、シミュレーションもしてない状態で勝てるハズが無い。

 

しかし、そんな時。

 

「――私、やるよ」

 

と、言ったのは。

 

「スヴァハ?」

「遅いか早いかの違いだよ、アグニカ。いずれはこうなってた。それに、シミュレーションをやってなくても――それこそ、文字が読めなくても機体を制御出来るシステムが『阿頼耶織』。今すぐ手術を受けて戦えば、一矢くらいは報えるハズ」

 

スヴァハはそう言って俺の正面に立ち、俺の目を真っ直ぐ見据える。

可愛い――じゃない、そんな事言ってる場合じゃない。

 

「どうするの、アグニカ。キミがやらないって言っても、私はやるよ」

「―――」

 

俺はとりあえず、頭を掻く。

自信は無いし、不安は有る。

けれど。

 

スヴァハだけを危険な目に遭わせて、自分が奥で震える訳には行かない――!

 

「ああもう、やれば良いんだろやれば!!」

「そう、やれば良い。と言うか、やるしか無い! お前達は手術室に行って、脊髄に『ピアス』を3つずつ埋め込んで来い。こっちは出来てる機体の起動と最終調整をやる!」

 

クソ親父はそう言って、俺の機体――「ガンダム・バエル」に向かって走る。

マッドサイエンティストは、既にスヴァハ機――「ガンダム・アガレス」の起動に取り掛かっている。

 

俺はスヴァハの手を引っ張り、走って手術室に向かうのだった。

 

 

 

 

施設の外壁には、何機もの黒いMAの子機――プルーマが取り付いていた。

その近くの海に、当のMAが浮いている。

 

そのMAは、口がビーム砲となっていた。

2枚の翼を持ち、その上部にはそれぞれ1本のアームが生えている。

尻尾にも似たテイルブレードがうねり、機体の下部には巨大なスラスターが有る。

そのスラスターを噴射し続ける様が、海に浮かんでいるように見える。

 

機体名、ザドキエル。

ハシュマルと並び「天使長」の一角とされるMA、その1機だ。

 

『         !』

 

ザドキエルは口を開き、桃色の熱線――ビームを発射して施設の壁を溶解させた。

 

 

 

 

『敵MA、施設に取り付きました! 壁の穴から、プルーマが入って来ます! 防衛用MS、全部出して下さい! ガンダム・フレームが起動するまで何としても手術室と管制室、MSデッキを死守!!』

 

館内放送を傍目に聞きながら、俺とスヴァハは手術室に到着した。

そこには、阿頼耶織手術専門の怪しい医者がいる。

この施設にいる者は、マトモな人間の方が少ない。

解せぬ。

 

「じゃあ、私から――」

「いや、俺からだ」

 

そう言って俺は上半身裸になり、仰向けで手術室のベッドに寝そべる。

 

「『阿頼耶織』施術後麻酔が解ければ、しばらく激痛が走る。直後であれば尚更だ。俺には、痛がるお前を抱えてMSデッキに行く使命が有るからな」

「い、痛がらないよ!」

「頼むから、たまには格好付けさせてくれ。俺、普段はお前に助けられてばっかりだし」

 

戸惑ったようだが、スヴァハは頷いて手術室から出る。

怪しい医者は俺に麻酔を打ち、手術を始めた――

 

 

 

 

十数分後。

手術は終わり、俺は激痛に耐えながらヨロヨロと外へ出る。

 

「イタタタタ、痛い! 痛いって! このヤブ医者め、もうちょっと上手く出来なかったのか!?」

「カカカカカ、儂も阿頼耶織手術は一度目だからそんなモンじゃよ。じゃが、もう慣れた。スヴァハ殿には痛い思いはさせぬ、とここに誓おう」

「これでスヴァハが痛がったら、お前をMAの餌にしてやる」

「カカカカカ、怖い怖い」

 

とりあえずヤブ医者を脅迫したが、マジ痛い。

手術は成功したようだが、クソ痛いとにかく痛い。

思わず、足下がフラつく。

 

「アグニカ!」

 

倒れかけた俺を、スヴァハが抱き留める。

スヴァハちゃん、マジ女神。

包容力まで兼ね備えているとは、恐れ入りました。

 

「しかしですね、スヴァハさん。その格好で抱き留められると、大分ヤバいのですが」

「――な、ななななな!!??」

 

スヴァハが、顔を赤くする。

これから阿頼耶織手術を受ける関係で、スヴァハは上半身下着だけである。

つまり、付けているのはブラジャーのみ。

 

そんな格好で抱き留められた場合、俺の顔はスヴァハの胸にほぼ直に包まれる事になりまして――あ、ヤバい超柔らかい。

俺、もう死んで良いです。

まだ見ぬMAの皆さん、俺もうこの世に未練無しです。

俺を殺しても、俺はアナタ達を恨みませんわ。

 

――って、うおっ!?

 

「あべし!」

 

突き飛ばされました。

痛い、脊髄と背中が痛い。

 

「―――バカ!」

 

それだけ叫んで、顔の熱が引かないままスヴァハは手術室に飛び込んだ。

部屋の扉が閉められる際、ヤブ医者は俺にニヤついた顔を見せた。

解せぬ。

 

「――アグニカ君。余韻に浸るのは後にして、さっさと着替えたまえ」

「いや、浸りませんよ……多分…って、何なんですこのラノベ展開」

「さあ」

 

職員の1人が、俺にパイロットスーツを渡して来た。

先程からちょくちょく揺れている為、MAを足止め出来る時間もあまり長くないのだろう。

とりあえず、パイロットスーツに着替え始める。

 

この施設に備えられた試作型AIで動く防衛用MSは、クソ親父の指示で装甲がナノラミネートアーマーに替えられている。

MAの主武装であるビーム砲はそれで無効化出来るハズだが、敵は人間を狩る天使。

 

最早、一刻の余裕も無い。

しかし俺は、まだ激痛で動けない。

情けない事この上無いが、是非も無いと言わざるを得なかった。

 

そして、ようやく痛みが収まり始めた頃――およそ10分後。

 

「た、ただいまアグニカ…」

 

手術室から、スヴァハが出て来た。

背中を押さえてこそいるが、俺程の激痛では無いようだ。

あのヤブ医者、実は有能?

 

「成功したか――調子は?」

「せ、背中に何とも言えない異物感が…」

 

スヴァハが職員からパイロットスーツを受け取り、それを着込んだのを確認。

俺はまたスヴァハの手を引いて、全力でMSデッキへ走る。

 

「時間が無いみたいだ、急ぐぞ!!」

「―――うん!」

 

 

 

 

MSデッキに行くと、そこは。

 

「オイオイ、待て待て待て待て!」

「うわああああああああああ!?」

 

防衛用MSとプルーマが戦う、地獄と化していた。

こちら側のロディ・フレームやイオ・フレームなどの機体が武器を振り回したり撃ったりしているが、プルーマは次から次へと湧いて来て防衛用MSを圧倒し始めている。

 

破片がMSデッキで跳び、その1つが俺達の近くに落ちる。

 

「クソ親父と、マッドサイエンティストは…?」

「――!? アグニカ、あそこ!」

 

スヴァハが指差したのは、2機のガンダムが並べて置かれている方だ。

防衛用MSの働きも有って機体に損傷は見られないが、それぞれのガンダムのコクピットにはクソ親父とマッドサイエンティストが張り付いて調整を行っている。

 

「バカか、アイツら!?」

「何で、避難せずまだあんな所に!?」

「行くぞ、スヴァハ! 破片にぶつかって死ぬなよ!」

 

俺とスヴァハは全力疾走し、何とかそれぞれのガンダムの下へ辿り着いた。

互いに整備用ハシゴへ飛び乗り、コクピットに近付く。

 

「テメェバカか!?」

「何でまだ、こんな所にいるの!? 何の為の防衛用MS!?」

 

俺とスヴァハは、同時にそれぞれの実父へ問う。

すると、クソ親父とマッドサイエンティストはこんな事を叫んだ。

 

 

「「子供に酷な事押し付けといて、親が真っ先に逃げられるかァ!!」」

 

 

絶句した子供達に、クソ親父とマッドサイエンティストはそれぞれ阿頼耶織専用のコネクターを取り付けた。

そしてコクピットに子供を蹴落とし、コネクターと機体が繋がった事を確認して。

 

「じゃあ、俺らは逃げるわ。後よろしく」

「死ぬなーよ、我ーらの希ー望」

 

子供達が乗って来た整備用ハシゴに飛び乗り、下まで下りてトンズラこいた。

具体的には、全力疾走で安全なシェルターへ走って行った。

 

「――コイツら、良い奴らなんじゃねと思った俺がバカだったわ」

『そうだね…MA倒したら、殴りに行こう』

 

通信を介してスヴァハの同意を得た時、阿頼耶織を通じて機体から情報の奔流が流れ込んで来た。

 

「ッ、ぐ…!」

『う、うあッ…!』

 

俺は思わず、鼻を押さえる。

しばらくして手を離すと、手には血がこびり付いていた。

 

阿頼耶織から流れ込む膨大な情報による、副作用のようなモノだ。

 

「――ふ、く…スヴァハ、大丈夫か?」

『うん、何とか…ちょっと鼻血が出ちゃったけど、大丈夫』

 

スヴァハの無事を確認した後、俺は今一度深呼吸をして。

 

「『網膜投影、開始』」

 

阿頼耶織システムの第一段階、網膜投影。

機体の画面では無く、阿頼耶織を通じて網膜にモニターを投影する事で肉眼と変わらない視野を得る。

 

「ガンダム・バエル――」

『ガンダム・アガレス――』

 

 

「『起動!』」

 

 

その一言を受け、悪魔の目が光り輝いた。

 

 

 

 

かたや白色と青色、かたや白色と桃色。

本体の性能、形状に差違は無く。

色のみが異なる2つの悪魔は、初めて搭乗者を得た状態で起動した。

 

2機は自らを拘束するMSハンガーを引き剥がし、近くに備えられた専用の武器を手にする。

 

かたや黄金の剣2本、かたや小型の銃2丁。

天使と相対するにはあまりにも心もと無いが、悪魔に畏れは無い。

 

「初陣で初めて見る光景がボコられるMSとは、随分お先真っ暗だな。しかし」

『それを覆してこその、世界の光(ヘイムダル)――だね』

 

バエルはスラスターを吹かし、プルーマ群体に突っ込む。

もう1機のアガレスは、銃をプルーマ群体に向ける。

 

「おらァ!」

『そこッ!』

 

バエルは剣を振り、プルーマ群体を吹き飛ばす。

アガレスは引き金を引き、吹き飛ばされたプルーマ達を残らず撃ち落とす。

 

『        !』

 

MSデッキに、何か感づいたらしいザドキエルが外壁を破壊しながら入って来た。

 

「親玉登場、か」

『そう、みたいだね』

 

「天使長」の一角として数えられるMAが、口を開いてビームを放つ――

 

直前。

 

『行くよ!』

「おう!」

 

アガレスが射撃し、ザドキエルのビーム砲に弾が吸い込まれた。

ビーム砲は暴発して爆発し、ザドキエルは思わず口を閉じる。

 

そこに、バエルが右の剣を突き出す。

剣はザドキエルの腕の1本を突き刺し、続いてバエルは左の剣を逆手に持ち直してザドキエルの頭に突き刺した。

 

「やった、k」

 

バエルの動きが一瞬止まったその時、ザドキエルの尻尾がうねってバエルに直撃した。

バエルは吹き飛ばされ、プルーマの残骸に叩き付けられた。

 

『アグニカ!? ッ!』

 

ザドキエルの側から突撃して来たプルーマを受け止め切れず、アガレスは後ずさる。

プルーマの手を使った凪払いで左手から銃がこぼれ、アガレスは更にもう一歩下がる。

 

『この!』

 

アガレスは膝の側面に付けられたナイフを抜き、何度もプルーマを刺す。

更に電磁砲で追撃し、プルーマを吹き飛ばした。

突撃して来たプルーマは動かなくなったが、飛来したザドキエルの尻尾がアガレスを吹き飛ばす。

アガレスはザドキエルの後方に飛ばされ、壁に叩き付けられる。

 

「貴様…ッ、クソ!」

 

プルーマを斬り捨て、バエルはザドキエルに立ち向かう。

尻尾がまたうねり、バエルは両手の剣でそれを弾き続ける。

 

「スヴァハ!」

 

吹き飛ばされたアガレスは残った右の銃を撃ち、吐き出された弾はザドキエルの尻尾の付け根に直撃した。

尻尾の動きが鈍った所で、バエルは左の剣を使って尻尾のワイヤーを無理やり切断する。

 

『      !!』

 

ザドキエルが吼え、翼の裏のスラスターを全開にして飛び上がる。

それはMSデッキの天井を突き破り、ザドキエルは宙に浮く。

 

「逃がすか!」

 

バエルは再びスラスターを全開にして飛び上がり、ザドキエルに襲い掛かる。

ザドキエルは空中で回転して残った左腕を振り、バエルを叩き落とそうとするが。

 

バエルが突如横に逸れた事で、ザドキエルの腕は虚しく空を切った。

 

「おらああああああ!!」

 

バエルはザドキエルの裏面に回り込み、右の剣を振ってスラスターを全て斬り破壊した。

姿勢制御の手段を失い、ザドキエルは再び施設への落下を始める。

バエルはこれを追撃すべく、左の剣の先をザドキエルに向けて自由落下する。

 

その間、バエルはウイングに付けられた電磁砲を撃ってザドキエルを牽制。

破壊されたスラスターに電磁砲の弾が当たり、スラスターは爆発した。

 

ザドキエルがMSデッキの床に叩きつけられてそこにクレーターが出来るのと、バエルがザドキエルのコンピューター部を破壊するのは殆ど同時だった。

 

頭脳とも呼ぶべきコンピューター部を失ったザドキエルは、そのまま沈黙した。

施設のあちこちで猛威を振るっていたプルーマも沈黙し、施設は完全破壊を免れる事となった。

 

 

 

 

これが、人類初の天使討伐となる。

アグニカとスヴァハがザドキエルを殺した後、世界各地でガンダム・フレームがMAを破壊したとの情報が出る。

スリーヤ・カイエルの目論み通り、ガンダム・フレームと阿頼耶織システムの有用性は世界に証明された事となった。

 

 

人類の反撃が、始まった――




アグニカとスヴァハちゃん、初陣。
ガンダム・バエルと、オリジナル機体ガンダム・アガレスの初起動。
人類の反撃開始を告げる号砲が、鳴らされました。
ここからだぜ。

そんな訳で、今回もオリジナル設定解説をば。


「天使長」ザドキエル。
こちら、オリジナル機体となります。
ハシュマルと双璧を成す、もう1機の天使長です。
武装はハシュマルとほぼ同じですが、腕の位置が翼の上になって翼の裏にはスラスターが大量設置された事で、ハシュマルより異形のMAとなりました。
色は特に決めてませんので、皆様の想像にお任せします。
ガンダムを全く知らずデータ不足だった為に天使長で有りながら今回は無様を晒しましたが、いずれ原作のハシュマル並みに暴れてくれる事でしょう。

阿頼耶織のリミッターについて。
原作のハシュマル戦で、バルバトスとグシオンは動きが鈍くなっています。
これは阿頼耶織からの情報を制限するシステムの安全装置と出力を全開にしたい機体がぶつかった結果だったのですが、ガンダム元々のコクピットには安全装置が付いていないと言う設定です。
だから、動きが鈍くなる所か活発化してMAにも追い付けると言う事になります。
その他幾つかの点は、次回言及される予定です。


それと、ガンダム・アガレスについて。
こちらもパイモンやヴィネと同じく、オリジナル機体となります。
機体データは以下の通りに。

ASW-G-02 ガンダム・アガレス
全高:18.0m
本体重量:30.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:アガレス・ライフル×2
   アガレス・ナイフ×2
   電磁砲×2
概要
スヴァハ・クニギンの専用機。
専用武器「アガレス・ライフル」と「アガレス・ナイフ」を2つずつ持つ。
武器と色こそ違うが、本体の構造はバエルと同一。
バエルの青い部分が、アガレスではピンクになっている。
また、目の色はバエルがピンク or 赤、アガレスが水色 or 赤。
バエルと同じく2機のエイハブ・リアクターに直結された超高出力のスラスターを持ち、大気圏内でも自由に飛び回る機動力を持つ。
武装はとてもコンパクトかつ軽量で、取り回しが良い。
アガレス・ライフルは正確にはピストルだが、スヴァハの高い射撃能力により最大の脅威となる。
装弾数は35発で、予備カートリッジを腰に10個ほど装備する事が出来る。
アガレス・ナイフはバエル・ソードと同じ素材で錬成されており、決して折れる事は無い。
しかし普段は使われず、膝の側面辺りの鞘に格納されている。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二位の悪魔「アガレス」から。
アガレスは東方に属し、31の軍団を率いる大公爵だとされる。


次回「反撃開始」。


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#37 出航

案を募集して2日で、多くの方が提案してくれました。
特に初日が多く、私の設定作りが間に合わないくらいで…ありがとうございます、ありがとうございます…!


施設へ襲撃を掛けて来たMAの撃破から、約2時間。

サンプルデータを回収すべく、MAの死体は解析されている。

 

俺とスヴァハは何とか動けるので、その場に立ち会う事とした。

 

「ふむ、装甲にはナノラミネートアーマーと同じ原理が用いられているな。ビーム砲は損傷が酷いが、アグニカとスヴァハちゃんの証言からしてガブリエルと同タイプのビーム砲って事で良さそうだ」

「こーの尻尾――テイルブレードの基ー本構造も、ガブリエールと同一らーしい。刃にーは、バエル・ソードやアガレス・ナイフと同ーじ特ー殊超硬合ー金が使われーている」

「月の資源か?」

「恐ーらくな」

 

クソ親父とマッドサイエンティストは、スタッフ達と協力しながらMAを解析して行く。

まだ本調子では無い俺とスヴァハは、見ている事しか出来ないが。

 

「スリーヤ博士、ヴィヴァト博士。コンピューター部の破片をスキャンしてデータ復元した所、貴重そうなデータが幾つか出て来ました」

「よし。全データは吹っ飛んでなかったか」

「どんーなデータが出てー来た? 見せーたまえ」

 

ガブリエルによって生み出されたこのMAには、ガブリエルの設計図に無いデータが有るかも知れない。

俺とスヴァハはクソ親父とマッドサイエンティストの後に付いて、データに目を通す。

 

「『Zadkiel(ザドキエル)』――コイツが、このMAの名前か」

「そうらしいな。ザドキエルと言えば、ユダヤ教の伝承に伝えられる『生命の樹』の守護天使。ハシュマルと並び、天使を纏める天使長でも有るが…」

 

これは、「ハシュマル」なる名前のMAも存在していると見て良さそうだ。

 

「ここには、『Zadkiel-02』って有るから――どっかに『Zadkiel-01』とかいそうだね」

「そうーだな。MAは、1種ー類につき1機と言うー訳では無いーようだ。後、他に何ーか分かーらないか?」

 

マッドサイエンティストの問いを受け、データ解析班がキーボードを叩く。

しかし。

 

「残念ながら、これらのコンピューター部の破片の情報を合わせても名前くらいしか分かりません。後の情報は、破壊されて吹っ飛んだか停止した際にデータが自動消去されたかのどちらかでしょう」

「他に分かった事は、ガブリエルが生み出した機体にわざわざ名前を付けてるって事くらいか」

「意外と母性に満ち溢れてたりするのか、ガブリエルって」

「さあ…?」

 

現物を見た事が無い以上、ガブリエルについては何とも言い難い。

だが、防衛用に配備されていたMSを根こそぎ叩き潰して強固かつ巨大な施設の39%を数時間で使い物にならなくしたような化け物が、ガブリエルから生まれた事は確かだ。

その時点で、ガブリエルを含めた全てのMAは人類の害悪足りうるだろう。

 

「――アグニカ、スヴァハちゃん。お前達はもう休め」

「おや、クソ親父から気遣いされるとは…」

「お前は俺をヴィヴァトみたいなマッドサイエンティストだとでも思ってんのか…?」

「待ーて、私が子ー供を気遣えーないとでも言いーたいのかね?」

 

マッドサイエンティストが噛み付くが、スリーヤはスルーして続ける。

 

「とにかく休んで来い。阿頼耶織手術には、体力を使う。大急ぎで施術したから、負担も大きい。あの医者は凄腕だから失敗は有り得んが、それとお前達の体力は別の話だ」

 

クソ親父の言葉に従うのは何となくアレだが、正論なので仕方無い。

俺とスヴァハは部屋に戻り、眠りに就くのだった。

 

 

 

 

「――どうやら、悪魔と契約はしなかったようだ」

「そーのようだーな。私は少ーし、安心してーいるぞ」

 

子供が部屋に戻った後、父親2人はそんな会話をしていた。

 

「メチャクチャ安心してる、の間違いだろう親バカマッドサイエンティストめ。そも、機体に悪魔を憑かせたのも阿頼耶織を完成させたのも契約システムを作ったのもお前だろう。作った当人が、そんな気合いでどうするのだ?」

「いーや待て、1ヶ所物申ーすぞ。阿ー頼耶織の原案はプラージャ・カイエル博ー士で、完成させーたのはスリーヤ・カイエル博ー士…つーまりキミだろう。私はたーだ、ガンダム・フレームに合ーうよう手を加ーえたに過ぎーんよ」

「その手の加え方がおかしいんだよ。悪魔とか言う存在自体怪しいモノを機体に仕込んだからそれに合わせてシステム変えました、なんてお前しかやらんぞ。あの場にいた奴らも、半分は納得出来てないハズだ」

 

科学者からすれば、魔術なんて意味の分からない幻想(オカルト)でしかない。

衰退して久しい現在、悪魔が宿ったMSの存在そのものが禁忌とさえ言って良い。

 

「ガンダムに宿った悪魔は搭乗者に力を与えるが、相応の対価を要求する。或いは身体、或いは心、或いは感情、或いは魂。その悪魔によって支払うべき対価は異なるが、パイロットが()()()()()()()()()()()()()()()()()事は変わらん――それは確かだな?」

「そーの通り。そしーて、それは悪ー魔との契約の下絶対遵守されーる。悪ー魔は例外無ーく、契約にうるーさいからな。今回、アグーニカ君とスヴァハは悪ー魔に力を求めなかーった。だかーらこそ、五体満ー足で生きていらーれるが――」

()()()()()()()()()()()()()()()、か」

 

スリーヤの言葉に、ヴィヴァトは頷く。

 

「ザドキエルとーは、名前かーらして『天使長』。プラージャ博ー士が遺しーたガブリエルの設計ー図のプログラーミングを見るーに、下かーら2番目の位ー階。つまーり、()()()()()()()

「それが『四大天使』、か」

 

ガブリエルの設計図には、ガブリエルは自分すら超える力を持つMAを3つのみ生み出せると有る。

そして、それこそが「四大天使」と呼ばれる最強のMA達だ。

 

「ガブリエルと言う名前から推測するに、『神の人』ガブリエル、『神の如き者』ミカエル、『神の炎』ウリエル、『神を癒す者』ラファエルが四大天使に当たるハズだ」

「それーで間違ーいは無いーだろうな。果たーしてそれーらを相手にしたー時、悪ー魔と契約せずどこーまで戦えーるか――ガンダム・フレームは、悪ー魔と契約せねーば真の力を発揮しなーいからな」

 

これからの子供の運命について、父親達には不安しか無い。

しかし、ここで止めれば人類は滅亡する。

 

「――そう言えば、アレの状況はどうなってる? 設計図だけ書いて、その後はお前に丸投げしたが」

「ガンダム・フレーム建ー造の合ー間を縫って、着ー々と建ー造し続けーて来た。完ー成も間近だ」

「そうか。――そろそろ、反撃を始める頃合か?」

 

 

 

 

数日後。

俺とスヴァハは、再びクソ親父とマッドサイエンティストから呼び出しを食らった。

 

「で、今度はどんな無茶振りをするつもりだ?」

「私達が眠ってる間に、ガンダム・フレームは大体仕上がって…るね」

 

以前のザドキエル襲撃で人類の危機をより強く認識した研究所職員達が馬車馬の如く働き続けた結果、ガンダム・フレームはほぼ完成してしまった。

現在職員の全員はぶっ倒れ、起きて活動しているのは俺とスヴァハ、クソ親父とマッドサイエンティストだけだ。

 

「本気になった人間の火事場の馬鹿力と言う奴が引き起こした、1つの奇跡だな。俺としては、後1ヶ月で全機完成の予定だったのだが…」

「僅ーか4日で全ーて仕上がってしまーった。人ー間、恐ろしーい生物だ」

 

どんだけ働いたんだ、職員の皆様。

この意地に応えるべく、俺達も敗北は出来ない。

 

「そこで、だ。予定を少し――いや、かなり繰り上げる事とする。数ヶ月単位でのスケジュール繰り上げとなってしまったが、全て頑張った皆のお陰だ。ならば、その期待には応えねばな」

「――具体的には?」

「攻勢に出る」

 

そして、クソ親父は俺にタブレット端末を渡して来た。

その画面を、俺とスヴァハは覗き込む。

 

「これって――戦艦の設計図、ですか?」

「ああ。ガンダム・フレーム建造の合間を縫って、これも建造していた。俺が設計した新型汎用戦艦、バージニア級だ」

 

設計図を見る限り、艦の動力源はエイハブ・リアクター。

汎用戦艦とあって、陸海空宙のどこでも運用が出来るようだ。

 

「バージニア級…名前は『ゲーティア』とするか」

「ゲーティア…『ソロモン七十二柱』の悪ー魔が列挙されーた、『レメゲトン』の第一部の名ー前か。良いーんじゃなーいか? こーれは悪ー魔のMSを載せーて飛ぶ艦ーだ」

 

流石マッドサイエンティスト、使った悪魔の出所くらいは分かっているようだ。

 

「それを載せずに、何を載せろと言うんだか。だが、攻勢に出るにせよ問題は有るだろ」

 

俺は、ガンダム・フレームを指差す。

 

「パイロット、どうするんだ?」

「道中で掻き集めろ」

「無茶を言いやがって」

 

パイロットがいなければ、ガンダム・フレームは動かない。

しかし、「俺達と一緒にMAと戦おうぜ」と誘いを掛けた所で乗る奴はいないと思う。

 

このバージニア級に艦載可能なMSの数は23機。

かなり多いが、その内の16機はパイロットがおらず残りの7機分は空いている状態だ。

 

早々に仲間をかき集めなければならない。

俺とスヴァハだけでは、限界も有る。

 

「戦艦には、この施設の職員の6割を移乗させる。技術師長として、ヴィヴァトにも乗ってもらう」

「うーむ。よーろしく頼ーむぞ」

 

何て事だ、このマッドサイエンティストが一緒だと言うのか。

腕を見るには申し分無い適任者だが、思考回路がぶっ飛んだ変人を乗せて大丈夫なのだろうか?

 

「オイ、クソ親父は?」

「俺はここに留まる。この研究所は、元々親父が造ったモノだ。ザドキエルに見つかったとは言え、基本MAには発見されにくい。ここでせいぜい、下らないモンを造るとするさ」

 

そう言って、クソ親父はもう1つタブレット端末を渡して来た。

 

「まず、道中でMAを狩りながら世界各地の『ヘイムダル』と合流してもらう。月に攻め込むのは、その後と言う事になるが――合流に、時間は掛けるなよ。今の所、ガンダム・フレームの建造速度は我々が一番早い。とっとと合流して、ガブリエルに喧嘩をふっかけろ」

「待ーてスリーヤ、気が早ーいぞ。この屍ー共が復活しなーい限り、バージニア級…ゲーティアは出せーんぞ」

「―――そうだった」

 

とりあえず、出発は明後日と言う事になった。

最初に向かう「ヘイムダル」基地は、地球――かつて「日本」と呼ばれた、オセアニア連邦が統治する地域に有る。

 

「そーちらには、エイハブ・リアクター建造技術ーを持つ科ー学者が2人いーる。そしーて、我々と同じーくバージニア級の建ー造をしていーるハズだ」

浦上(うらがみ)駿(はや)()と、アドルフ・オファロン。ヴィヴァトと比べりゃ、かなりマシな奴らだ」

 

日本とあって、随分変わった名前の人物だ。

 

「では、出発までしばし休め。散々休んだだろうが、まだ休め。道中にもMAの襲撃が予想されるから、一度出れば休みなど無いぞ」

 

 

 

 

2日後。

バージニア級戦艦「ゲーティア」は、海上移動研究所「ヴィーンゴールヴ」を後にした。

スリーヤは、ザドキエルに破壊された所から外へ出てそれを見送った。

 

「ガブリエルが起動して以後、世界各地でMAによる殺戮は行われている。今の所、人類の7分の3は殺されたと聞いたが――親父。こんな凄惨な厄祭が、アンタの望む光景なのか?」

 

答えは無い。

だが、スリーヤ・カイエルはこう断言出来る。

 

「プラージャ・カイエルは――人類が大好きだった俺の親父(大バカ者)は、こんな光景を望まない。俺は、全てアグニカに押し付ける事しか出来なかったが――頼む。人類は、こんな所で終わって良い存在ではない」

 

断言出来るが故に、スリーヤ・カイエルは今の世界を否定する。

圧倒的な暴力のみがまかり通り、弱者の想いが踏みにじられ淘汰される世界を。

 

「――さて。俺もまた、下らない研究に戻るとしようか」

 

スリーヤが新たに考案したのは、スタイリッシュな新フレーム。

後に「ヴァルキュリア・フレーム」と呼ばれる、レアフレームの開発に取りかかった。




アグニカ達、世界を回り始めました。
次回からもオリジナルキャラやらオリジナル設定やらオリジナルMSやらオリジナルMAやらがポンポン出て来ますけど、お気になさらず(オイ)。

では、もはや恒例のオリジナル設定解説。


四大天使。
やっと、名前が出揃いました。
ガブリエル、ウリエル、ミカエル、ラファエルが四大天使なるMAとなります。
ラファエルと言われてティエリアが浮かんだのは、私だけではないハズ。
ガブリエルは、3機しか自分と同等かそれ以上の力を持つMAを造れない。←この設定、重要です。
当然、全部オリジナル設定なのをご理解下さい。

バージニア級戦艦「ゲーティア」。
オリジナル戦艦になります。
サイズとしては、ハーフビーク級より大きくスキップジャック級より小さい感じ。
設定などは、またいつか公開します。

各地に散らばるヘイムダル基地。
オリジナル設定として、これが後にギャラルホルンの基地となって300年後も残っているモノも有ります。

浦上駿斗とアドルフ・オファロン。
オリジナルキャラで、ヘイムダル初期メンバー。
スリーヤやヴィヴァトと同じく、エイハブ・リアクターの建造技術を持っている天才科学者です。

スリーヤの持つ海上移動研究所。
オリジナル設定として、これが後に施設拡張されてギャラルホルン地球本部基地「ヴィーンゴールヴ」となりました。

ヴァルキュリア・フレームはスリーヤが建造。
オリジナル設定です。
ヴァルキュリア・フレームの設定は名前しか考えてません(オイ)


次回から、いよいよ本格的なMA狩りです。
頂いた案を元に設定したMAとか、出して行きたいと思います。


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#38 邂逅

今回は、新キャラが1人登場です。


ヴィーンゴールヴを出発したバージニア級戦艦「ゲーティア」は、ヘイムダル日本基地へと進んでいた。

現在は、オーストラリアの湾岸都市トリントンへ向かっている。

俺とスヴァハは、艦内の遊戯室でくつろぎながら他愛も無い事を喋っている。

 

「オーストラリアのこの穴、何なの?」

「あー、この穴ね」

 

オーストラリア大陸には、巨大な穴が空いている。

しかも丸く、地形にも違和感が有るが。

 

「俺が読んだ怪しげな本によれば、宇宙世紀って時代にコロニーが地球に落下した跡だとか…何とか」

「コロニーって、あのコロニー!? あんな物が、地球に落とされたの!?」

「ああ。れっきとした作戦として、『コロニー落とし』ってのが実行されたらしいぞ。コロニーそのものを質量兵器にして、敵の本拠地を吹き飛ばそうってな。結論から言うと、作戦は失敗。コロニーは空中分解して、その一番大きい残骸がここ――かつてシドニーと呼ばれた、オーストラリア大陸の大都市に落着した」

 

タブレットの画面に映ったオーストラリア大陸の大穴の中心を指差して、俺はそう言った。

 

全て、読んだ本からの受け売りだ。

その本は何でも、宇宙世紀時代の敏腕ジャーナリストが書いた物らしいのだが…果たして、どこまでが本当なんだか。

 

「――人類って、そんな宇宙戦争してたんだね」

「ああ。まあ、下手したら全部創作かも知れん。宇宙世紀関連の本には、MSは核融合炉で動くとかコロニーがレーザー砲に転用されたとか外宇宙に進出したとか非現実的な事ばかり書かれてる。もしそれが真実だとするなら、現在の世界とは比べ物にならない技術力を人類が持っていた事になる。すると、現在の世界で技術力が何故ここまで衰退したのかの説明が付かないからな」

 

この世界でMSが登場したのは、エイハブ・リアクターが造られてからだ。

それまで人類は戦闘機やら海上戦艦やら空母やらで戦争していたし、有ってもせいぜいMWくらい。

 

そんな中で恒久的エネルギー源となるエイハブ・リアクターとMSが誕生すれば、世界の戦争と技術が一変するのも当然の結果と言えるだろう。

 

「――何らかの要因が有るハズだよね。一度進歩した技術水準は、簡単には下がらない。技術を持った人達の全員が、外宇宙へ進出しちゃったとか…?」

「だとしても理論は残るし、現在の世界で旧時代のMSが全く見つからないのもおかしい。旧時代に有ったMSが世界のどこからも見つからないのは、異常だと思うぞ。外宇宙に持って行かれたとしても、何機かは埋まってたりしそうなモンなんだが…」

 

スヴァハと2人で首を傾げるが、全く持って想像出来ない。

一体、何が起きたのだろうか?

 

「――まあ、分からないモンは分からん。推測するにせよ、あまりに情報が不足してるからな」

「…そうだね、うん。何か引っ掛かるけど、気にしない気にしない! さあ、あのスイーツを食べに行こうか!」

 

そう言って、スヴァハは立ち上がった。

せっかくなので、俺も立ち上がる。

 

「ハイハイ、お望みのままに」

 

 

 

 

おやつを食べてからMSデッキに移動し、各ガンダムの点検を行っていた時。

 

艦に激震が走り、爆発音が鳴り響いた。

 

「な、何!?」

「MAだろ! マッドサイエンティスト、バエルとアガレスは出せるか!?」

「当たーり前さ!」

 

マッドサイエンティストが親指を立てて来たので、俺はスヴァハを連れてパイロットスーツを取りに行く。

 

『海中に、エイハブ・ウェーブ確認! 水中用MAだと推測! 全艦、第一戦闘配備!』

 

オペレーターの声の後、艦内に警報が鳴り響く。

 

「こんな海に、どうしてMAがいるの!?」

「――地球の7割は海なんだぞ? そこを押さえようと思うのは、当然だろうな」

 

スヴァハの問いにそう返しつつ、俺達はパイロットスーツを素早く着込んでMSデッキに戻る。

すると、また艦に激震が走った。

 

『敵MAより、ミサイル攻撃を確認!』

『応戦でしょ、何やってんの!?』

『やってますが、何ぶん水中だと…!』

 

苛立つ艦長の叫び声と、言い訳するブリッジクルーの声が艦内に流れる。

いや艦長、何やってんのは無いだろ。

 

そんな事をツッコミながら、俺とスヴァハはそれぞれガンダムに乗り込んで起動させる。

 

「艦長、発進シークエンスは省略して勝手に出る。カタパルトはいいから、ハッチだけ開いてくれ」

『了解した。ハッチだけ開いて…って、発進シークエンスは省略するって言っただろ! 通信はお前らにも聞こえてるんだから、命令はちゃんと聞いて実行しなさいよ!』

『――艦長、大変だね』

「まあ、まだ皆慣れてないからな…よし、ハッチが開いた」

 

 

 

 

2つ有るハッチの両方が開いたので、バエルとアガレスはそこから飛び出して周囲を俯瞰する。

 

「チ、敵は水中か…!」

『どうする? 流石に水中戦は厳しいと思うけど』

「とりあえず、飛んで来る物は全部撃ち落とす。そうすりゃ、いつか出て来るだろ」

 

早速、水中からミサイルが飛んで来た。

バエルは剣を、アガレスは銃を抜いてミサイルを迎撃する。

 

「よし、第一陣は凌いだな。――次、来るぞ!」

 

続いてのミサイル攻撃も、バエルとアガレスは防ぎ切る。

すると。

 

巨大な機影が、海中に視認出来た。

どうやら、浮上して来ているらしい。

 

バエルはスラスターを吹かし、海への降下を開始した。

 

『アグニカ!?』

「ヤバくなったら、助けてくれ!」

 

そして、水しぶきを上げてバエルは海へ飛び込んだ。

バエルは宇宙戦、空中戦を想定した機体だが、それ以外で使えない訳では無い。

 

(敵は――!!)

 

バエルが右斜め後ろに振り向いたのと、敵MAが腕を突き出したのは同時だった。

 

「ッ!!」

 

バエルは咄嗟に剣を交差させ、その一撃を受け止める。

腕は続いて繰り出されるが、防御は間に合わない。

 

「浮上!」

 

バエルはスラスターを吹かし、海上へ浮上して攻撃をかわした。

 

――と、思われたが。

 

「しまッ――」

 

左足をMAに掴まれ、バエルは海中へ引きずり込まれた。

 

『       !!』

「コイツ…!」

 

バエルはもう1本の腕に右肩を掴まれ、拘束される。

MAはバエルを機体の正面に持って来ると、機体の正面を覆う装甲を開いて内蔵されたビーム砲を露わにする。

 

「!!」

 

バエルは電磁砲を発射して、右肩を掴む腕に攻撃。

腕が離れた瞬間、バエルは右手を振り上げて左足を掴む腕に剣を突き刺す。

腕が離れたのを確認してスラスターを全開にし、放たれたビームを回避して海上へと上がる。

 

『アグニカ!』

「ふう、危なかった。減衰するとは言え、あの距離でのビームはアウトだ」

 

アグニカは、改めて敵MAの機影を見る。

 

胴体が細長く背部にミサイル、魚雷発射管を備えており、機体の正面にはビーム砲。

胴体の側面には、2本の腕が生えている。

 

MA、サキエル。

水中戦のみに特化するようガブリエルによって建造された、天使の1機だ。

無論、この時のアグニカとスヴァハが知る事では無いが。

 

「…と言うか、ゲーティアは何してるんだ? 敵が来てるんだから、ミサイルの1発くらい撃てよ」

『――分からない。何か有ったのかも…』

「エイハブ・ウェーブが濃いな…クソ、通信は無理か」

 

舌打ちし、アグニカとスヴァハは下のサキエルに向き直る。

 

「よし、もう一度だ。あの速度なら、水中でも捉えきれる」

『わ、分かった。私も援護するよ!』

「ああ、出来る範囲d」

 

その時、艦の側面が爆発した。

煙が上がり、ゲーティアの姿勢が揺らぐ。

 

「今度は何だ!?」

『――まずいよ、アグニカ。別方向にもエイハブ・ウェーブ反応、()()1()()()M()A()()()!』

「マジか――クソ、スヴァハ! 向こう、何とかなるか!?」

『…うん、任せて!』

 

スヴァハが答えを言い切るより早く、バエルは海へ飛び込んだ。

 

『    !』

 

サキエルが口を開き、ビームを発射する。

それと同時に、背部の魚雷発射管から魚雷が発射された。

 

「フザケてんなよ、オイ!!」

 

バエルは電磁砲と剣で迎撃し、魚雷を撃ち落としてビームをかわす。

間髪入れずサキエルが加速し、腕による攻撃を仕掛けて来た。

それをギリギリでかわすバエルだったが、勢いを受け流せず回転する。

対するサキエルはすぐに反転して、再度魚雷攻撃と突進攻撃を仕掛ける。

 

「ッ――!!」

 

バエルは回転しながら電磁砲を放ってまぐれ当たりで魚雷の1発を落とし、下降してサキエルの突撃を回避。

通りすがりに左の剣を逆手に持ち替え、サキエルに突き刺して張り付く。

 

『          !!』

 

サキエルはおぞましい駆動音を響かせた後、()()()()()()()()

バエルの機体が軋み、装甲が圧迫される。

 

「ま、ずい!」

 

剣を抜いて上昇しようとしたが、サキエルは腕を180度後方へ回転させてバエルの右足を捕らえる。

そして、そのまま下降を続ける。

 

「全身に負荷、機体分解の可能性有り――!」

 

バエルは腰を曲げてサキエルの腕を斬ろうと考えたが、何分水圧と流れが大きく機体が言う事を聞かない。

と、その時。

 

横からの一撃が、サキエルの腕を木っ端微塵に破壊した。

 

「な!?」

 

驚きつつもアグニカは操縦桿を動かし、上昇する。

腕を壊されたサキエルは、攻撃された方角へ向かって魚雷を発射した。

 

だが、「それ」には当たらなかった。

 

「あれは、一体――」

 

それは、ツインアイを持つ人型の兵器。

即ちMSであり――バエルが捉えたエイハブ・リアクターの反応は、2()()

ツインリアクターシステムを採用したMSは、この世界にたった1種類しか存在しない。

 

言うまでもなく、ガンダム・フレームだ。

 

それは左腕をサキエルに向け、アンカーを射出した。

アンカーがサキエルを捕らえると、それはアンカーに電撃を走らせる。

 

『     !!』

 

サキエルの動きが鈍った瞬間、それは全身のスラスターを全開にしてサキエルに急接近。

バックパックに懸架された長槍を右手で構え、サキエルに突き刺した。

 

『           !!』

 

ビーム砲を潰されたサキエルは、それを捕らえるべく右腕を振り回す。

それは突き刺した長槍を基軸に機体を回転させ、腕を回避。

サキエルの頭部…コンピューター部の真上に、背部に備えたレールガンを押し当てる。

 

そして、レールガンから発射された特殊弾頭がサキエルを貫く。

サキエルは沈黙し、アンカーを外されて暗い海の底へと沈んで行った。

 

「――アンタ、一体何者だ?」

 

唖然としながらも、アグニカはガンダム共通の通信回線で通信する。

 

 

『アマディス・クアーク。「ヘイムダル」の、「ガンダム・フォカロル」専属パイロットだ。よろしくな、天才科学者サンとやら』

 

 

簡潔に名乗った「ガンダム・フォカロル」のパイロット…アマディス・クアークに、アグニカは名乗り返す。

 

「――アグニカ・カイエル。平凡な科学者だ」

 

 

 

 

もう片方のMA討伐を任せられたスヴァハだったが、ゲーティアと共に降り注ぐミサイルの雨を撃ち落とす事が限界だった。

それ程までに、敵のミサイルは多い。

 

敵MA、ガギエル。

高い火力と防御力を誇る、水中用MAだ。

 

『このままじゃ――ん? 水中のエイハブ・ウェーブ反応が消滅。ツインリアクター機の反応が、2つ有る?』

 

どう言う事? と、スヴァハは首を傾げる。

その時。

 

滞空するアガレスの真下から、バエルが浮上して来る。

 

『アグニカ!』

「無事みたいだな、スヴァハ。取り敢えず、あれシバくぞ!」

 

バエルは両手で剣を構え、正面から突撃する。

アガレスは飛来していたミサイルの残りを撃ち落とし、水中のミサイルポッドと頭のみを海上に出すガギエルを射撃する。

放たれた弾は、頭の装甲に当たって跳ね飛んだ。

 

『硬い――!』

「ああ、そうだな!」

 

バエルは右の剣を振り下ろし、ガギエルの頭を叩いてからミサイルポッドに左の剣を突き刺す。

そのままスラスターを吹かし、空中で横向きに5回転してミサイルポッドの全砲門を斬り裂く。

 

「ッ、バエル・ソードでもここまでか…! だが、下部はどうだ!?」

 

機体の両断が出来ない敵の硬さと自身の未熟さへ舌打ちしつつ、アグニカは海中の味方へ叫ぶ。

すると、底部で爆発が起こってガギエルが揺らいだ。

 

『           !』

 

ガギエルは駆動音を響かせつつ、回転しながら海中へ潜行して行く。

ゲーティアからもミサイルが発射されるが、そんなモノで足止め出来るハズも無い。

海中のフォカロルは回転するガギエルを受け流すが、その隙にガギエルは離脱して行った。

 

『チッ…まあ良い、あの損傷では修復までに時間が掛かるだろうしな』

 

アマディスはそう言ってから、海上へとフォカロルを浮上させる。

 

『――アグニカ、どちら様?』

「ああ、日本基地の奴らしいぞ。でもなあ…俺、初対面の人間を信用出来ない奴だからなあ」

『もう、アグニカの悪い癖だよ? せっかくかわいいのにそんなだから、研究所の皆と打ち解けるまでに8年も掛かったんだよ』

「あーあー、聞こえません聞こえません! たった5年で全員と打ち解けた方に言われると耳が痛い! と言うか、かわいいって何ですかね…とりあえず、海に飛び込んだり腕と足掴まれたりしたから俺戻りたいんだけど」

 

かわいいと言われて全く嬉しくならない男、アグニカ・カイエル。

当然ながら女装趣味とかも無いので、どうせならカッコいいとか言われたいお年頃なのだ。

 

 

 

 

母艦に戻ったバエルには、除染作業が行われていた。

各経済圏の世界戦争で核爆弾が大量使用された事による海洋汚染は、かなり深刻なモノになっている。

ちょっと触るだけで影響こそ小さいものの被爆するレベルの為、海に浸かったバエルには除染が必須となる。

 

「そう言えば、マッドサイエンティスト。あのMAのデータ収集と解析は?」

「完了しーている! ヴァッサゴの兵ー装を使えーば、造ー作も無い! 1機ー目のMAが『サキエル』、2機ー目のMAが『ガギエル』だ!」

 

サキエルとガギエル。

そのどちらも、ガンダムならヘマしなければ1機で撃破可能なレベルだった。

 

「この前のザドキエルより、位階が低いって事かな…通常の『天使』クラスと考えて良さそうだね」

「そうなるだろうな。――スヴァハ、データまとめと整備はマッドサイエンティストに任せて休め。疲れてるみたいだしな」

「うん、分かった…ありがとう」

 

スヴァハが部屋へ向かった事を確認し、俺は除染作業が終わったバエルの整備を始めるのだった。




早速、アイデアとして出して頂いたMS、MAが暴れております。
やったぜ。
こんな感じで出して行きますので、よろしくお願いしますm(__)m


そんな訳で、オリジナル設定解説をしながら機体データを載せます。
頂いた案は設定に当たりちょっと変えていたりしますが、ご了承下さい。

オーストラリアの穴について。
この作品に於いて、宇宙世紀は過去の時代となります。
ので文献が残され、コロニー落としについても言及されていたり。
宇宙世紀時代の敏腕ジャーナリスト…一体、どこのガンキャノンのパイロットだったんだ…?

MA、サキエル。
エヴァでお馴染み、かませ犬役のサキエルたん。
バキシムさんより頂いた案を元に、設定しました。
イメージは「機動戦士ガンダムOO」の水中用MA「トリロバイト」だそうで。
水中用MAで細長い胴体の側面から2本の腕が生えており、胴体の正面にビーム砲を内蔵し背面にはミサイル、魚雷発射管が存在します。
水中以外では行動出来ず、プルーマは生産、随伴しません。

MA、ガギエル。
こちらも旧劇エヴァでお馴染み、アスカのかませ犬ガギエルさん。
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
サキエルと同じ水中用のMAで、分厚い装甲に覆われて魚雷やミサイルが充実しています。
ただしビーム砲は無く水中ではプルーマも作れず、機動力はサキエル程高く有りません。

ガンダム・フォカロル。
逸般Peopleさんより頂いた案を元に、設定致しました。
以下、機体データとなります。

ASW-G-41 ガンダム・フォカロル
全高:18.5m
本体重量:34.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:トライデント×1
   ハープーン×2
   ティザーアンカー×4
   ネプチューン×1
概要
アマディス・クアークの専用機。
水中戦を想定して開発されたが、それ以外でもある程度の戦闘能力を発揮する。
水中でも高い機動力と運動性能、長時間運用を可能にすべく装備される専用装備「ネプチューン」が大きな特徴である。
専用武器「トライデント」と「ハープーン」、「ティザーアンカー」は、水中での使用が前提とされている。
トライデントは三叉の長槍であり、水の抵抗を受けにくいよう刃は極限まで薄く錬成されている。
ハープーンは、「水中用ダインスレイヴ」である。ダインスレイヴ専用弾頭を装填し、射出する事が可能。
水中でも高い破壊力が実現されているが、射程は大幅に短くなっている。
ティザーアンカーはティザーガンとアンカーガンを組み合わせた物であり、腰と両腕に装備されている。
相手を拘束して電撃を放てる他、様々な用途で活用される。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十一位の悪魔「フォカロル(フルカロルとも)」から。
フォカロルは30の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

アマディス・クアーク。
オリジナルキャラクターとなります。
ガンダム乗りなので、これからも登場します。

ヴァッサゴ。
正式名をガンダム・ヴァッサゴと言い、索敵に優位な特殊兵装を備えています。
機体データは、パイロットが決まったら載せます。


次回、いよいよトリントンへ。
0083の冒頭とUCのep4が思い出される…オラ、わくわくすっぞ!
ザメル、良いよね。
ゼー・ズール、良いよね。


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#39 トリントンでの戦闘

やっと、トリントンへ到着です。


アマディス・クアークが指揮するヘイムダル日本基地の潜水艦と合流した俺達は、オーストラリアの湾岸都市トリントンへ寄港していた。

 

「ここが、オセアニア連邦の首都なんだね」

「ああ。大昔はキャンベラって言う都市だったらしいが、コロニー落としでシドニーごと吹き飛んだってさ。今ではこのトリントンが最大都市で、オセアニア連邦の大統領官邸が有るらしい」

 

数百年経った現在でも残る巨大なクレーターが、その惨劇を生々しく伝えている。

 

「よう。テメェがアグニカ・カイエルか?」

 

オーストラリア大陸に降り立って身体を伸ばしていると、1人の男が話し掛けて来た。

 

「ああ。と言う事は、アンタがアマディス・クアークか」

「おう。よろしくな、天才科学者サン」

「だから、平凡な科学者だって。俺をクソ親父や爺さん、マッドサイエンティストと一緒にしないでくれ後生だから」

 

そう念を押しながら、差し出された手を握り返す。

 

「で、アグニカの後ろにいるアンタは…」

「私? スヴァハ・クニギン、よろしく」

 

自己紹介した後、スヴァハは微笑を浮かべた。

対するアマディスは、大きくのけぞった。

 

「――?」

「オイ、どうしたアマディス?」

 

スヴァハが首を傾げ、俺は呼び掛ける。

すると、アマディスは瞬時に体勢を立て直してスヴァハに近寄り頭を下げ手を突き出した。

 

「こ、こここここんにちはアマディス・クアーク18歳彼女いない歴=年齢の童貞です彼女募集中d」

「ふん!」

「ごばはァ!?」

 

カチコチしながら年齢その他諸々を明かしたアマディスの顎に、俺が渾身のアッパーをぶち込む。

アマディスは宙に浮き、数秒空を舞ってから地面へと崩れ落ちた。

 

「ふう、危なかった」

「ちょ!? アグニカ、何やってるの!?」

「いや、スヴァハの節操が危機に晒されてる気がしたから…」

 

適当に返したが、本当は気付いたら拳が出ていた。

何故だ。

 

「ガハッ、ゴハッ…! テメェ、よくも俺の童貞卒業計画を邪魔してくれやがって…!」

「人の幼なじみで童貞捨てようとしないでくれないかな、アマディス君。スヴァハは見ての通り、純度100%の美女乙女処女でね」

「ア、アグニカ!? ちょっと、何暴露しちゃってるの!?」

「な、何だと!?」

 

スヴァハが顔を真っ赤にして俺に言うが、ここで引き下がる訳には行かにゅのだ!

男には、戦わねばならぬ時が有るッ!!

 

「ハハハハハ、オレが勝ったぞ童貞め! 処女とは即ち膜付き、それが良いんだろうが!! 処女は正義、これ世界の真理なり!!」

「膜を大事にするその考えこそ、まさに童貞! いや大事だけどね! と言うか、お前にだけは童貞とか言われたく無いわこの童貞野郎が!!」

「よーし分かった、戦争だ!! 膜有りが良いか膜無しが良いか、ここで決着付けたらァ!!!」

「おうとも、望む所だ!! 掛かって来いやァ!!!」

 

そうして、童貞による世界一下品で下らない戦争が始まった。

 

「――何で、こんな事に…」

 

スヴァハは肩を落としつつも、その光景を微笑ましく見守る事にした。

 

(アグニカには同年代の男友達がいなかったからね。たまには良いでしょ…すっごく恥ずかしかったけど…うう、落ち着け私!)

 

などと思いながら。

 

その世界一下品で下らない戦争…第一次処女膜戦争は、夜――アグニカとアマディスが空腹で街のカフェへ向かうまで続いたのだった。

 

 

 

 

翌日。

MAを狩ったMSを保有する組織の艦が寄港しているとの噂を聞きつけたオセアニア連邦の代表が、港へとやって来ていた。

 

「ようこそ、トリントンへ。私はオセアニア連邦第三代大統領、エリセオ・プラウドフット。君達が、あのMAを撃破したMSのパイロットだそうだな」

 

エリセオ・プラウドフット。

ヨレヨレのスーツを着てハゲ散らかった頭で日光を反射させ笑いを誘うにも関わらず、狡猾で周到な有能政治家だと聞いている。

 

彼は今笑顔だが、その裏にはどんな策謀が巡らされているか分からない。

 

「大統領自ら足を運んで頂けるとは、恐縮の限りです。しかし、我々はもう出発直前でして。申し訳有りませんが、用件は簡潔にお願いしたく」

 

この前クルーに怒鳴り散らしていた奴と同一人物とは思えない口調で、艦長が言う。

現在、トリントン出発予定時刻まで1時間を切っている。

こんなジジイに時間を割ける程、艦長はヒマではないハズだが。

 

「ああ、私の用件はもう終わったよ。先程、ヴィヴァト・クニギン博士の案内の下でMSデッキを見学させて貰った。後はこうして、ガンダムのパイロットの顔を拝もうと思ってな」

 

そして、ジジイは鷹よりも鋭い目で俺とスヴァハを観察する。

 

「ふむ…若いかと思いきや、覚悟は決まっているようだ。しかし、根性が足りんな」

「――根性、ですか?」

「そうだとも。それに、覚悟も真に必要な覚悟では無い()()()()()。艦長殿、道具の扱いは見誤られぬよう。彼らが死ねば、人類の希望は潰えるのだからな」

 

そう言い残し、大統領がブリッジを後にしようとした――その時。

 

艦内に、警報が鳴り響いた。

 

「これは…?」

「トリントン上空に、エイハブ・ウェーブ反応! 多いです…数、7!!」

「はあ!?」

 

今、7機って言ったか!?

 

「更に、トリントン深海にもエイハブ・ウェーブ反応! 以前戦闘したMA、ガギエルです!!」

「ちょっと、合計で8機!?」

「潜水艦に連絡を取れ! 水中のは、彼らに任せるしかない! 総員、第一戦闘配備! アグニカとスヴァハは、上空の6機を叩いてくれ!」

「り、了解!」

 

水中の戦闘は、ガンダム・フォカロルがベストだ。

空中はバエルとアガレスの舞台なので、俺達が何とかするしか無い。

俺とスヴァハはブリッジを飛び出し、MSデッキへ走るのだった。

 

 

 

 

トリントンの上空へ突如出現した、7機のMA。

これはガブリエルによって新たに造られた1種類のMA5機と既存のMA1機、それを運ぶ輸送用MA1機である。

 

輸送用MA「サハクィエル」は、トリントンに向けて新型MA1機と既存MA1機を投下した。

 

新型は、翼を持たない陸戦用MA「スイエル」。

既存は、プルーマの生産と運用に長けた陸戦用MA「バラキエル」。

 

2機のMAを投下した後、サハクィエルは次のポイントへ向かうべくトリントンの空から飛び去った。

 

 

 

 

「上空より、2機のMAが降下して来ます! 残りの5機は、どこかへ去って行きます!」

「どう言う事だ…? とにかく、2機と交戦になるのは間違いない! 落下ポイントの計算、急げ! アグニカとスヴァハを出させて、迎撃に当たらせろ!」

 

ひとしきり指示を出した後、艦長はブリッジに立ってモニターを見据えるオセアニア連邦大統領エリセオ・プラウドフットを見る。

 

「プラウドフット大統領、これより我が艦は戦闘行為を開始します。ご避難をお早く」

「今から避難するよりは、ここの方が安全だと思うがね。――MAを狩る『世界の光(ヘイムダル)』の実力、特等席で拝見させてもらおう。すまんが、このコードでトリントン駐屯軍と連絡を取れるようにしてくれたまえ」

 

大統領がそう言うと、SPがブリッジクルーにとあるコードの記された紙を渡す。

 

「――大統領権限、ですか。こんなコードの情報、我々に渡しても良かったので?」

「大統領権限のコードは、権限を一度使うたびに変わるよ。現状、この艦は大統領を載せている。此度の戦いではこの艦を旗艦とし、部隊を展開させよう」

「…ある程度の損害は、覚悟して頂きますよ」

「無論。今までMAが出た時点で都市の全壊と大半の住民の死亡は免れなかった。対抗策が出来ただけでも、儲けモノだと思わねばな」

 

そして、大統領は意地悪く笑った。

艦長はその笑顔に寒気を覚えつつ、命令を出した。

 

「ゲーティア、出航! これより、MA討伐を開始する!」

 

 

 

 

ゲーティアより出撃したバエルとアガレスは、フォカロルに連絡する。

 

「悪いが、水中のガギエルは頼むぞ」

『よろしく。こっちは何とかするから』

『おう、任せた』

 

フォカロルはそれだけで通信を切り、潜水艦から出撃したようだ。

 

「――さて、こっちも気合いを入れるか」

『うん…行こう』

 

その時、空中から2機のMAがそれぞれ着陸した。

着陸の衝撃でビルは崩れ、ガラスは割れ、道路が歪み、大地が震える。

 

「今、オセアニア連邦軍が一般市民の避難を進めてる。俺達の仕事は、その間MAの注意を引きつける事だ!」

 

バエルとアガレスは飛び、それぞれMAに襲い掛かる。

 

 

 

 

8本足のMA「スイエル」は正面からビームを発射し、トリントンを炎に包んで行く。

 

「させるか!」

 

突撃するバエルの前に、漆黒の小型機体「プルーマ」が立ちはだかる。

バエルはそれを一掃し、斬り掛かれる位置まで急接近した。

 

しかし、機体の上部から出るアームがバエルに向いて先端からビームが出た。

 

「うお!?」

 

バエルはすれすれで回避するものの、ビームはバエル後方のビルを破壊した。

続いてスイエルは機体前面のビームを放ち、また都市を破壊する。

 

「クソ!」

 

悪態を付きながら、バエルはスイエルの足の1本を切断する。

だが、その程度ではスイエルの体勢は崩れない。

合間を縫って群がって来るプルーマを弾きつつ、バエルは急上昇する。

 

「じゃあ、これ…で!?」

 

上部のアームがバエルを捉え、ビームを放つ。

射角や発射点を瞬時に変え、スイエルはバエルを撃ち落とそうとする。

あまりの連射速度の為、バエルは回避が精一杯だ。

 

「チッ、何か、奴の注意を逸らす方法は…!」

 

 

 

 

バエルが足止めを食っている頃、アガレスも同じように足止めを食っていた。

 

「何なの、あのプルーマの数!」

 

バラキエルは止まる事無くMAを生み出し続け、それを見事に操っていた。

これこそがバラキエルの特性であり、真価で有る。

 

プルーマを生み出し続け、操作し続ける。

シンプルだが、バカげた数のプルーマが統制を取って襲って来るのはなかなかに厄介だ。

 

「これで70機…! 減らないってどう言う事!?」

 

アガレスは銃のカートリッジを瞬時に入れ替え、正確無比な射撃でプルーマを撃って行く。

しかし、プルーマの数は一向に減らない。

 

1秒に2機撃っても減らないと言う事は、バラキエルのプルーマ生産速度が単純に1秒2機…全てのMAの中でも規格外である事を示している。

しかも、それが縦横無尽に襲い掛かって来るのだ。

 

「数瞬、数瞬でもMAまで射線が通れば…!」

 

大量のプルーマが壁となり、アガレスからバラキエルまで射線が通らない。

少なくとも、このままでは弾を使い果たして食い潰される。

 

「何か、他の方法は…!?」

 

 

 

 

姉に手を引かれ、その少年はシェルターへ向かっていた。

避難している理由はただ1つ、MAが攻めて来たからだ。

 

世界に厄祭をもたらす、天使。

人類を容赦無く殺し続け、今までに総人口の7分の3を死滅させた災厄。

 

それが、世間一般に於けるMAの認識だ。

 

「落ち着いて、落ち着いて避難して下さい! 現在はMAを足止め中です、焦らず落ち着いt」

 

誘導していたオセアニア連邦の兵士が、光に呑まれて消えた。

それがMAの兵器…ビームだと気付いたのは、熱い暴風により吹き飛ばされた後になる。

 

周囲は、地獄だった。

 

ビルは倒壊し、道路は溶けていた。

ビームが直撃した所にいた人々は溶けて消え去り、周囲には同じように吹き飛ばされて瓦礫に埋まった人や頭を打ち付けて死んだ人が無造作に転がっていた。

 

だが、そんな光景は少年の目に映っていない。

 

「…ねえ、さん――?」

 

手を握っていたハズの姉の姿が、どこにも無い。

打ち付けられた身体の痛みに耐えながら、身体を引きずって姉を探す。

 

どれくらい、そうしていただろうか?

 

「――あ、ああ…」

 

少年は、姉を見つけた。

上半身を無くし、焼かれて無惨に残った下半身を。

 

「ああ、あああああ――」

 

爆音は止まず、虐殺も止まない。

しかし、少年にそれを恐れる余裕など残っていない。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!!!!」

 

 

少年の絶叫は、爆音に掻き消され誰に気付かれる事は無かった。

燃え盛る都市の中心で、少年はただ――泣き叫ぶ事しか出来ない自らの非力さを呪った。

 

 

 

 

海中では、フォカロルがガギエルと戦闘を開始していた。

フォカロルは水中用ダインスレイヴ「ハープーン」を放つが、ガギエルの装甲を貫く事が出来ない。

 

「チ――だったら、コイツで分解してやらァ!」

 

フォカロルは「トライデント」を構え、スラスターを全開にしてガギエルに襲い掛かる。

 

(前の戦闘からして、このガギエルの速度はもうサキエルに比べれば大した事は無い!)

 

ガギエルは魚雷を多数発射するが、フォカロルはそれをトライデントの回転で防ぐ。

回転を止めた後すぐにティザーアンカーを放ち、魚雷発射管に撃ち込んでガギエルを捕らえる。

 

「らァ!」

 

フォカロルはティザーアンカーを巻き戻し、ガギエルに張り付いて装甲の隙間にトライデントを突き刺す。

 

「せーのっ――って、うおッ!?」

 

ガギエルが回転を始め、フォカロルは振り回される。

しかし刺さったトライデントは離さず、ティザーアンカーから電撃を流す。

 

『       !』

 

魚雷発射管が爆発し、ガギエルの体勢が大きく揺らぐ。

その間に、フォカロルはガギエルの分解に掛かるが。

 

「どわッ!」

 

ガギエルは更に回転し、フォカロルを周囲の岩盤へ叩き付けた。

ティザーアンカーがガギエルから離れ、フォカロルの全身の動きが鈍くなる。

 

「チィ…!」

 

トライデントを振り、ガギエルの装甲の1枚を吹き飛ばす。

フォカロルはガギエルに取り付いたままスラスターを全開にし、ガギエルを押し出す。

 

「撃て!!」

 

潜水艦から魚雷が発射され、ガギエルに命中する。

堅い装甲には傷くらいしか付かなかったが、フォカロルに取っては僅かな隙さえ出来れば充分だった。

 

「死ねェ!!」

 

ハープーンを装甲を剥がした部分に押し当て、弾頭を発射。

内部に重大な損害を負ったガギエルの体勢が大きく揺らぎ、その隙にフォカロルはトライデントで追撃を掛けた。

 

『         !!』

 

不協和音を鳴らしながら、ガギエルは残された弾薬の信管を作動させる。

 

「ヤバいか…!?」

 

フォカロルがガギエルから離れた時、潜水艦からの魚雷がガギエルに直撃して機体を離れさせる。

ガギエルの中に残された弾薬が一斉に起爆し、大爆発を引き起こした。




では、オリジナル設定解説を。


オセアニア連邦首都トリントン。
原作ではオセアニア連邦の拠点が語られてなかったと思うので、勝手にトリントンだとしました。
UCのep.4を見る限りかなりの大都市でしたので、鉄血世界でも変わらず大都市に発展していておかしくないかと。

エリセオ・プラウドフット。
オリジナルキャラクターです。
オセアニア連邦の第三代大統領になります。

MA、サハクィエル。
バキシムさんより頂いた案を元に、設定しました。
巨大な6枚の翼を持っている為飛行に特化し、翼1枚につき1機の陸戦用MAの運搬と補給、投下を行う輸送用MA。
空中の他、宇宙でも運用されます。
ただ、戦闘力は無くプルーマも生み出せません。

MA、スイエル。
こちらも、バキシムさんより頂いた案を元に設定しました。
翼は無く、8本の足で移動する蜘蛛に似た形状の陸戦用MA。
胴体は横向きになっていて側面からは足が生え、上面からはビーム砲を内蔵した腕が生えています。
また、胴体の正面にもビーム砲が取り付けられており破壊力抜群。
機動性は低いですが、プルーマの生産能力に優れています。

MA、バラキエル。
pakuyasaさんより頂いた案を元に、設定しました。
本体の武装は無く、プルーマの生産と運用に長けた陸戦用MA。
生産速度は1秒に2機と言う、数で攻める怖いタイプですね。


戦闘は、次回も続きます。
いつになったら日本へ行けるのやら…


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#40 天使への復讐者

夏バテでぶっ倒れました。
皆様もお気をつけ下さいませ。


友人「ヴァーハハハ!! ヴァーハハハ!!」
私「…デタ!?」
友人「ヴァーハハハ!!」
私「エッ、デタ!?」
友人「――ダメダアアアアア!!」
私「アーッ!!」

以上、友人のガチャ結果でした。
有償福袋ガチャ(闇鍋)は悪い文明、粉砕する。
しかし、あれは愉えt…いえ、何でも有りません。


陸では、未だに2機のMAが猛威を振るっていた。

 

「砲撃用意! 目標、前方のMA!」

 

ゲーティアは、主砲をMAに向ける。

それ以外にもミサイル発射管、大型ビーム砲を展開して2機のMAをロックオンした。

 

「発射準備完了、行けます!」

「全砲、一斉射!」

 

全ての武装が火を吹き、スイエルとバラキエルに襲い掛かる。

 

『『      !?』』

 

スイエルとバラキエルが気付いた瞬間、それぞれにミサイルや砲弾、ビームが直撃した。

スイエルは何本もの足を破壊され、バラキエルは装甲を吹き飛ばされ両者ともが体勢を崩す。

 

「オセアニア軍、攻撃開始! 小型MAの数を少しでも減らせ!!」

 

オセアニア軍のMSが出撃し、プルーマへの攻撃を開始した。

プルーマは僅かながら陣形を崩され、スイエルとバラキエルにそれぞれ隙が出来る。

 

そして、その隙を見のがすアグニカとスヴァハではない。

 

バエルは剣を構えてスイエルに向かい突撃し、アガレスは銃を構えてバラキエルを攻撃する。

 

バエルがスイエルを背中の腕ごと剣が貫き、バラキエルはアガレスに頭部をやられて悶える。

アガレスはバラキエルに肉薄し、ナイフを抜いてコンピューター部を刺し貫く。

バラキエルは沈黙し、崩れ落ちる。

 

『アグニカ!』

「う、らァ!」

 

バエルは刺した剣を横に振り、スイエルの胴体を分断。

コンピューター部を剥き出しにされたスイエルに、アガレスが射撃する。

無事コンピューター部を射撃されたスイエルは、そのまま倒れた。

 

「何とか、なったが…」

 

バエルは剣を納めつつ、トリントンを俯瞰する。

トリントンの約4分の1は、焦土と化してしまっていた。

 

『守り、切れなかった…』

「ッ…クソ!!」

 

アグニカが操縦桿を叩きつけるが、それでトリントンが元に戻る訳でもなければ喪われた命が戻って来る訳でもない。

 

『――戻ろう、アグニカ。その後…って、どうしたの?』

「いや…人がいたような…」

 

スヴァハは、訝しげに周囲を調べる。

アグニカもスヴァハも、今は激戦地…MAに程近い部分に着陸している。

住民は避難したか、あるいは全員――

 

「――ッ」

 

スヴァハは唇を噛み、とりあえずアガレスをバエルの近くへ移動させる。

すると、アグニカがコクピットから出てトリントンへ降りた。

スヴァハも続いて、トリントンへ降りる。

 

「だから、どうしたの…って――」

 

アグニカの前には、1人の少年が立っていた。

目尻に涙を浮かべ、目を赤く腫れさせた少年だ。

 

「――なんで」

 

少年は口を開きながら、アグニカへ突っかかった。

 

「なんで、助けてくれなかったんだ!! MAの…アイツらのせいで、僕の姉さんは――僕の姉さんは殺されたんだ!! アンタら、強いんだろ!? さっきもMAを倒した、強い奴らなんだろ!? だったらなんで、僕の姉さんを助けてくれなかったんだ!!!」

 

アグニカは抵抗せず、少年の慟哭を受け止める。

 

「――ごめんな。お前の姉さんを、助けられなかったみたいだ」

「みたいだ、って何だよ…! MAを倒したんなら、僕の姉さんくらい生き返らせろよ!!」

「…残念だが、俺達にはそんな事出来ない」

 

そのアグニカの言葉を聞いて、少年は拳を振りかぶる。

 

「殴りたければ、殴ってくれて良い」

「――ッ…!!」

 

少年はアグニカの顔を殴った後、膝から崩れ落ちた。

アグニカは血を拭って、少年の近くでしゃがむ。

 

「…今のお前に、こんな事を聞くのはズルいと理解している。恨んでくれて構わない」

 

そして、アグニカはこう言った。

 

 

「アイツらを倒す力――欲しくないか?」

 

 

その一言は――少年の心に、深く刻まれ何度も響く事になる。

 

「ちょっと、アグニカ!?」

「――さっきも言った通り恨んでくれて良い、嫌ってくれて良い。だが、俺は今こう問わなきゃならない。今、ヘイムダルは深刻なパイロット不足だ。如何に汚い手を使って人の想いをダシにしてでも、俺達はMAを狩り尽くすと誓った」

 

それがクズのやる事であり、「煽動屋」よりあくどい赦されざる行為である事をアグニカは理解している。

しかし、それでも実行しなければ人類の未来は閉ざされる。

 

「俺達と共に、クソッタレな天使を狩らないか?」

 

眼前の少年が持つ姉への想いから来る純粋で美しい怒りを利用してでも、ヘイムダルは目標を果たさねばならないのだ。

だからこそ、アグニカは少年へ力を与え協力させようとする。

 

厄祭戦を終結させた伝説の英雄だ、と全人類に崇め讃えられようが、アグニカは自分がそうだと思った事は無い。

自分の目的を果たすべく他人の想いを利用し他人の命を踏み台にしながら、満足に使命を果たせず自分だけは無様に生き残った。

 

そんなクズ野郎が、英雄なんて器であるハズが無いのだから――

 

 

「…欲しい」

 

 

そして、今まさにアグニカは1人の少年の人生を狂わせた。

 

()に力をくれ。アイツらを――皆殺しにする力を」

「…分かった。俺の名は、アグニカ・カイエル。お前は?」

「――(たい)()。大駕・コリンズだ」

 

大駕は差し出されたアグニカの手を取り、立ち上がった。

 

大駕・コリンズ。

後にガンダム・グラシャラボラスのパイロットとなる、天使への復讐者であり――天使の殺戮者の名前である。

 

 

 

 

ゲーティアに戻った俺とスヴァハは、少年こと大駕にガンダムを見せていた。

ゲーティアのブリッジには多くのガンダム・フレームが並んでいるが、ガンダム・バエルとガンダム・アガレス以外はほぼ未使用だ。

 

ガンダム・ヴァッサゴのみはその特殊兵装からマッドサイエンティストにコードを繋げられて起動させられた事も有るが、それ以外は新品のまま。

 

その未使用ガンダムの中から、大駕は1機のガンダムを指名した。

 

「あれにする」

「――ちょっと待って、あれ…!?」

「ああ。俺はあれが良い…えっと、スヴァハさん」

 

スヴァハが本当に良いのかと問い掛けているが、それも致し方無いだろう。

 

ガンダム・グラシャラボラス。

並み居るガンダムの中でも特に宿る悪魔が凶暴で、阿頼耶織からのフィードバックとリミッター解除の際の対価が非常に大きい最凶の機体だ。

 

その凄まじさは、マッドサイエンティストをして「あれは使わない方が良い」と言わせた程なのだ。

 

「…本当に良いのか? 下手をすれば、起動しただけで死ぬかも知れんぞ」

「構わない。俺は、あれでMAを殺す」

 

そう言う大駕の目に、光は無い。

ただただ復讐に燃える、怨念の詰まった冷たい目で大駕はグラシャラボラスを指名したのだ。

 

「――分かった。だが、暴走はしてくれるなよ」

「ああ。殺戮の悪魔だか何だか知らんが、俺は必ずアイツらを殲滅する…!」

 

不安げに「止めさせて」と訴えるスヴァハの視線を受けながら、俺は大駕のグラシャラボラス搭乗を認可した。

 

 

 

 

「何でなの、アグニカ!」

 

アグニカの部屋の前で、私はアグニカに問い詰める。

 

「何で止めなかったの? あのグラシャラボラスが全ガンダムの中でも最も危険だって事は、キミにも分かってるでしょ!? このままじゃ、あの子…」

 

間違い無く、あの子は死ぬ。

それがグラシャラボラスによるモノか、はたまたMAによるモノかは分からないが――少なくとも、私にはそんな確信が有った。

 

アグニカなら、止められたハズだ。

無難なガンダムに乗せる事も出来ただろうし、ガンダムで戦わせない事も…それこそ、あの場で断る事も出来たハズだ。

 

「――だろうな。だが、俺達…いや、人類に手段を選んでいる余裕は無い。安定してMAを狩る為には、何よりも戦力の増強が急務だ。特に、ガンダムパイロットの確保はな」

「それは…」

 

思わず、私は口ごもる。

アグニカが言っている事は真実だし、私にも分かっている。

でも、私は納得出来ない。

 

「…アグニカは。アグニカは、どう思ってるの? アグニカの気持ちを聞かせて」

「………仕方無いだろ。そうしなきゃ、人類は滅亡だ」

「ウソだ、納得してるハズ無い! 私がた、戦うって言った時も反対したのに!」

 

あの時、アグニカは自分が戦わされる事では無く…私の為に怒ってくれたんだと思う。

自分の為じゃなくて他人の為に怒れる…そんなアグニカが、納得するとは思えない。

 

「―――」

「ま、待って!」

 

アグニカは何も答えず、部屋の中へ消えて行った。

私は追い掛けようとしたが、自動ドアは無慈悲に私とアグニカを遮って鍵が掛かる。

 

「何、で…」

 

ドアにもたれかかると、自分でも信じられない程に弱い声が漏れ出た。

しばらく、そこから動けそうも無かった。

 

そうして、1分くらい経った時だっただろうか。

 

 

「――じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ!!」

 

 

物音と共に、そんなアグニカの声が聞こえて来た。

思わず顔を上げると、中からは何かを殴りつけるような音と叫び声が続けて聞こえて来る。

 

「あの時、何もせず立ち去れば良かったのか!? あの時、誘わなきゃ良かったのか!? あの時、断っておけば良かったのか!? あの時、止めておけば良かったのか!? なあ、俺はどうすれば良いんだよ!! まだたったの5機、仲間はたった2人! それで、最後まで戦えって言うのか!!? 出来る訳無いだろ!!!」

 

――それは。

私の知らない、アグニカの慟哭だった。

 

「ッ、クソ!! クソクソクソ、クソが!!! フザケんじゃねェぞクソ野郎、テメェはいつまで自分を騙して正当化して目を背け続けるつもりだ!!? ガブリエルを倒すまでか!!? それはいつだ、いつ倒せる!!? それとも、最後の人類にでもなったらか!!?」

 

自虐や自己嫌悪と言うには、あまりにも重すぎる。

アグニカ…いや、私達は全人類の命運を背負って戦っている。

私は今まで、それを考えた事があっただろうか?

 

先の見えない戦い、一手でもミスれば人類が詰むと言う事を意識した事は…?

 

「――こんな、クソみたいな世界で…何を期待してるんだよ、お前は……!!」

 

アグニカの声は弱々しくなり、消えた。

 

「――!」

 

私は意を決して、アグニカの部屋の鍵を開けて飛び込んだ。

 

「…な、」

 

驚くアグニカに駆け寄り、問答無用で抱き締める。

 

――しかし、掛ける言葉が見つからない。

 

これからアグニカは、何度こうして自分の心を殺し続けるつもりなのだろうか。

自分の優しい心と納得出来ない心を殺して、何度選択して何度戦うのだろうか。

 

いつまで、戦わねばならないのか――

 

アグニカは言葉を発する事無く、私の言葉を待っているようだが。

 

「…ごめん」

 

私は、そんな事しか言えなかった。

 

 

 

 

トリントンの港へ戻ったゲーティアのブリッジで、大統領はトリントンを今一度俯瞰する。

 

「――この程度なら、マシな被害だ。よくやってくれた」

「とんでもありません…街の壊滅を許してしまうとは…」

「それはもう、仕方が無い事だよ。MA2機を相手に4分の1で済んだだけでも、僥倖と言って差し支えないからな」

 

今までならば、1機に都市全土を焼け野原にされてもおかしくは無かった。

それが2機相手に都市の約4分の1が壊滅するだけで済んだのだから、大統領に取っては感謝が強い。

 

「これならば、本当にMAの殲滅も夢ではなかろうが――彼らがいつまで保つ事か。急ぎたまえよ、艦長どの」

「…はあ」

「ふはは、考えよ。全てが、手遅れになる前にな」

 

そう言って、大統領は去って行った。

 

 

 

 

潜水艦は浮上し、ゲーティアの隣に止まった。

アマディスはトリントンの惨状を見た後、ゲーティアを見る。

 

「…酷い、な。壊滅よりはマシだが――」

 

アマディスは、溜め息を付き。

――それでも京都の現状よりマシだ良かった、と思った自分の頬を叩いた。

 

 

 

 

美人で可愛い女神こと、スヴァハに抱き締められてから約2時間。

眠ってしまったらしく、目を覚ますとスヴァハが視界に入った。

 

「…アグニカ。何か有ったら、すぐ相談して。私に出来るのは、一緒に考える事くらいだけど…」

 

申し訳無さそうに俯いて、スヴァハはそう言う。

 

――そうだな。

少し、背負いこみ過ぎていたかも知れない。

元々こんな戦い、俺1人で何とか出来るモノじゃないし。

 

「…邪魔してごめんね。それじゃ――」

 

椅子から立ち上がったスヴァハの服の袖を掴み、スヴァハを引き留める。

 

「――何?」

「あ、いや…」

 

言葉を探り出し、俺はこれだけを言った。

 

 

「…ありがとう、スヴァハ」

 

 

スヴァハは顔を赤くしながら、こう返して来た。

 

「…ど、どういたしまして!」

 

それから、素早く部屋を後にした。

 

「――さて、と。グラシャラボラスの調整、やらないとな」

 

そして、俺も部屋から出てMSデッキへ向かう。

2時間経ってるから、そろそろヤブ医者による「阿頼耶織」手術も終わった頃だろうし。

 

ゲーティアと潜水艦は、その翌日に日本へ向かって出発した。




あ、言い忘れてましたけれど。
この時期にはまだアグニカポイントシステムどころかアグニ会すら誕生してないので、アグニカポイントの計算は行っておりません。

オリジナル設定解説のコーナー。


大駕・コリンズ。
オリジナルキャラクターです。
不穏ですが、これから活躍しますとも。

ガンダム・グラシャラボラス。
オリジナルのガンダム・フレームになります。
VOLTEXさんより頂いた案を元に、設定しました。
機体データは以下の通りです。
不穏ですが、これから活躍しますとも。

ASW-G-25 ガンダム・グラシャラボラス
全高:18.9m
本体重量:29.7t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:有線式テイルブレード×1
   マウスファング×1
   クロー×4
概要
大駕・コリンズの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用された、最凶のガンダム・フレーム。
機体は漆黒と真紅に塗られている。
手に持つような武器は無く、両手両足の巨大な「クロー」と特殊な口で咬み千切る「マウスファング」に「有線式テイルブレード」を装備する。
中距離の敵はテイルブレードで凪払い、近距離の敵は引き裂き咬み千切る事を前提とした獣の如きコンセプトで建造された。
対価や負担は、他のガンダムとは比較にならない。
背中には巨大なウイングが取り付けられており、機動力はバエルにすら迫り一瞬ならば上回れる程。
また、ステルスシステムを装備していて、一時的ならば他の機体を透明化する事も可能。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十五位の悪魔「グラシャラボラス(グラシャ=ラボラス、カークリノラース、カーシモラルとも)」から。
グラシャラボラスは、36の軍団を率いる地獄の大総裁だとされる。


次回、いよいよ日本へ。
あの方々が、遂に登場…?


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#41 日本基地の惨状

よっしゃ、間に合った。
しかし、酷いタイトルだ…

オリジナルキャラクターが大量に出ます。
ご了承下さい。


トリントンから日本への道は、特に語るべき事も無く。

無事、日本へ到着した。

大阪なる港に着いた時、アマディスがこんな事を言って来た。

 

「ちょっと、そっちに移るわ」

 

と。

始めは首を傾げたが、MSデッキに空きは有るので認可した。

潜水艦の全員がゲーティアに乗り換え、京都とか言う街へ。

 

ヘイムダルの日本基地は、京都の中心からちょっと離れた山に有る。

ただし、京都の街は焦土と化していた。

あちこちに、MAやMSの残骸と思しきモノが転がっている。

 

おそらく、戦闘が有ったのだろう。

 

そちらへ接近すると、山が動いてハッチが露わとなった。

そして、俺達は無事ヘイムダルの日本基地へ入ったのだった。

 

日本基地でも、ヴィーンゴールヴと同じく18機のガンダム・フレームを建造している。

その内、17機が完成して1機は最終調整中だとか。

 

そんな感じの説明を、アマディスから受けていると。

 

「ほーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほ!!」

「ゲッ」

 

変わった高笑いが、周囲に響いた。

聞こえると共に、アマディスが嫌そうな声を出す。

 

「…どちら様で?」

「――この日本基地には、ピッタリ18人のガンダムパイロットがいた。アイツは、その中でも優秀な奴だよ。ちなみに、オレが3番でアイツが1番」

「ちょっと、何故直接聞かないのかしら!?」

 

その高笑いを上げた女性が、アマディスに近寄る。

 

その女性の第一印象は、「SAMURAI」だ。

服こそ和服ではないものの、左腰に日本刀を提げている。

銀髪の美しい髪に整った顔立ちをした美女は、現在アマディスに突っかかっている。

 

「そもそも、何で貴方もペラペラ喋ってんのよ!」

「あー、はいはいわるかったよ。とりあえず、コイツらに自己紹介しろよ」

 

アマディスは、適当に女性をあしらう。

女性は俺とスヴァハ、大駕を見るなり咳払いをして日本刀を抜き掲げて自己紹介した。

 

 

「私はカロム・イシュー! 日本をこよなく愛する、ガンダム・パイモンのパイロット!!」

 

 

「アグニカ・カイエル、ガンダム・バエルのパイロットだ」

「私はスヴァハ・クニギン、ガンダム・アガレスのパイロット。よろしく!」

「…ガンダム・グラシャラボラスのパイロット、大駕・コリンズ」

 

自己紹介完了。

シンプル イズ ベスト。

 

「適当すぎよ! もっとしっかりやりなさい!」

「分かれば良くね?」

「アグニカの言う通りだ、エセサムライ」

 

アグニカの言葉に、アマディスが賛同する。

 

「ああもう、アンタはいつもうるさいわね! ちょっとは私を立てるとか出来ないのかしら!? これじゃ、私がダメなキャラだって記憶されるじゃないのよ!!」

「いやー、オレは別にどうでも良いね。テメェがどう思われようと、オレには関係無いし。そもそも、テメェの見た目からしてエセサムライだろうが。昔の日本では、女は刀を振るわなかったらしいぞ?」

「知ってるわよそんな事! でも、私は着物を着て屋内で大人しくするなんて嫌よ!」

「嫌じゃなくて、無理だろ? テメェから好戦的性格を取ったら、冗談抜きで何も残らねェし」

 

カロムとアマディスが、舌戦を繰り広げている。

このまま見守っても別に良いが、俺達には時間が無いのだ。

 

「何も残らないとは失礼ね! 私から好戦的性格が取ったら……あれ?」

「ようやく気付いたか。それがテメェの限界だ、カロム」

「ぐぬぬ…!」

「ゴホン」

 

わざとらしく咳払いをして、アマディスとカロムを注目させる。

 

「えーっと、アンタの事は…名前で呼び捨てして良いのか?」

「勿論。その代わり、私も貴方達の事は呼び捨てにするわよ」

「了解だ。で、カロム。この『ヘイムダル』日本基地の現状を確認したい。さっき、アマディスは18人のパイロットが()()と過去形で口にした。――何が有った?」

 

俺の質問を受け、カロムは真面目な顔になる。

 

「――MAの襲撃を受けたわ。同時に30機のMAの襲撃を、ね」

「…30、だと?」

「ええ。当時は18機のガンダムの内、2機が最終調整中だった。私達は16機のガンダムを出してMAと交戦し、その殆どを撃破したわ。――11機のガンダムと、8人のパイロットを犠牲にして」

 

…成る程。

MSデッキに空きが有ったのは、そう言う事か。

 

アマディスは「17機が完成して1機が最終調整中」と言ったが――その()()()()1()7()()()()()()()()()()()()、と言う事は話していない。

 

「――11機、も…?」

「…そうよ。しかも、襲撃に来た中で倒せたMAの数は29機。1機は、取り逃したわ」

「…その機体の、特徴は?」

 

今、俺の中に1つの推測が思い当たった。

それが正しければ、この日本基地は壊滅していたとしてもおかしくない。

 

「襲撃を掛けて来たMAの中では、巨大だったわ。それに反応速度が段違いで、味方に指示を送っていたようにも思えたわ。武装も異様に多かったし、プルーマの随伴数も桁違い。後は――()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()

「…何て、事だ」

「――アグニカ?」

 

…推測が当たった。

間違いは無い、と思える。

 

巨大であり、反応速度が段違いで味方に指示を送る…つまり、より高度なAIを持っていると推察出来る。

尚且つプルーマの随伴数も桁違いな上武装も多く、ダインスレイヴなどと言う規格外兵器を使った。

 

どう考えても、普通のMAでは無い。

海やトリントンで戦ったMAは論外だし、ヴィーンゴールヴで俺とスヴァハが戦ったMA…「天使長」ザドキエルをも凌いでいる。

 

天使長の上、それ即ち――

 

「――カロム。よく、全滅を免れたな」

「…そこは私の功績では無いけれど、誉めたのなら少しは嬉しがってやるわ。で、一体何なのよ」

「その逃げたMAは、多分逃げたんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「「「「は!?」」」」

 

スヴァハ、大駕、カロム、アマディスが驚く。

とにかく、俺は推論を述べる。

 

「ここからは勝手な俺の予想だが…お前達が戦い、見逃されたMAは普通のMAとは一味二味どころか十味くらい違う。俺達が倒して来た天使、天使長とは比べ物にならない。ソイツは――」

 

そして、俺はタブレットを取り出してMAのデータを見せる。

 

 

「『四大天使』――天使、天使長とは比較にさえならない強大かつ絶大な戦闘力を持つ…最上位のMAだ」

 

 

そう。

襲撃して来たMAが「四大天使」だとするなら、辻褄が合う。

ガンダム・フレームが11機破壊されたとしても、四大天使相手ならば納得は行く。

 

むしろ、よく11機で済んだモノだ。

 

「全滅を免れさせた司令官は、バカみたいに優秀だな。どいつだ?」

「この基地で2番目に優れたMS操縦技術を持つ、ドワーム・エリオンって奴だ。ガンダム・ベリアルのパイロットをしてる。後で紹介しよう」

「ああ。生き残ったパイロット共々、よろしくな」

「おうよ」

 

アマディスに約束を取り付けて、俺はカロムに向き直る。

 

「ふむ…仲間のMAに指示してたって事は、結構周到な奴だな。初手で月面都市を壊滅させた『四大天使』ウリエルと思われるMAは問答無用で暴れ回ってたらしいから、ソイツじゃないとして――当然ガブリエルは出て来ないだろうし、ラファエルっぽい機体は確認されてない。消去法で行くならば、この日本基地に現れた機体は『四大天使』ミカエルだ」

 

ミカエル。

「神の如き者」とさえ呼ばれる、魔王サタンと戦い勝利したとまで伝えられる四大天使の一角だ。

 

「――そんなの、デタラメだ」

「ああ、デタラメだ。だから俺はカロムにこう言っただろう、大駕。よく全滅を免れたな、って」

 

今、こうして日本基地が存在してるだけでも奇跡と言って良い。

 

「いつか戦わねばならない、とか考えると頭が痛くなってくるから止めておくとして…この基地の科学者はどこだ?」

「――あー、浦上博士とオファロン博士は…」

 

アマディスの口調からして…俺は大体、察しが付いてしまった。

 

 

「MA…ミカエルに殺された」

 

 

俺は頭を抱えて、溜め息をつく。

 

「…どうやって殺されたか、聞いて良いか?」

「どうもこうも――ダインスレイヴで一撃さ」

 

そして、アマディスは基地の奥を指差す。

かなり距離は有るものの、外壁がぶち抜かれてダインスレイヴ専用弾頭が突き刺さっているのが確認出来る。

 

「撃ち込まれたダインスレイヴは、たった1発。それでこの有り様だよ。ミカエルはオレらの布陣から基地がどこかを見抜き、そっちに向かってダインスレイヴを撃った。そして、見事にエイハブ・リアクターの建造技術を持つ天才科学者8人の内2人を殺したって寸法だ」

「一度発射されたダインスレイヴを、止める手段は無いわ。私達はただ、基地が破壊される所を見ている事しか出来なかった」

 

――デタラメにも程が有るだろ、ミカエル。

いや、流石は四大天使と言うべきか。

 

「――とりあえず、お前達がギリギリなのは分かった。しかしだ、俺達はお前達と合流してMAを狩る旅に出ようと思ってインド洋からこの日本まで来たんだ。戦艦とか、用意有るか?」

「それ何だが…博士達は、戦艦の準備をしてくれていた。だが、その途中でMAの襲撃を受けて博士達が死んだ為に完成させられない。戦艦の建造なんて、オレ達には出来ない」

 

ふむふむ、成る程成る程。

志半ばで倒れたものの、博士達は全ての下準備を整えていてくれたらしい。

 

俺は電話を取り出し、ゲーティアのMSデッキに通信する。

 

「マッドサイエンティスト、ちょっと来い」

『了ー解』

 

遠くに止まったゲーティアにいるマッドサイエンティストを、電話で呼びつける。

数分後、走ってマッドサイエンティストがやって来た。

 

「戦艦が建造途中だってよ。マッドサイエンティスト、ちょっと造って来い」

「よろしく、お父さん(悪の科学者)

『良ーかろう!! しかしだなスヴァハ、悪の科学者呼ばわりは止めてくれ』

 

スヴァハはマッドサイエンティストを軽く流し、マッドサイエンティストは少しばかり落ち込んだ様子で日本基地で建造途中の戦艦の下へ向かった。

 

「まあ、いつの間にか完成してるだろうさ。もう1つ…生き残ったパイロットと挨拶したいんだが」

 

 

 

 

十数分後。

日本基地の応接間に通された俺達の前に、11人のパイロットが並んだ。

 

「じゃあ、改めて…私はカロム・イシュー。ガンダム・パイモンのパイロットよ。MAの撃墜数は、5機って所ね」

「オレはアマディス・クアーク。ガンダム・フォカロルのパイロットで、撃墜数は4機だ」

 

ここまでは知ってる。

本題は、この後だ。

 

「ドワーム・エリオン。ガンダム・ベリアルのパイロットであり、新型戦艦の艦長を務める予定だ。撃墜数は…4機だ」

 

艦長とパイロットを兼任とは…こやつ、出来る。

 

「俺はミズガルズ・ファルク。2機撃墜した所で、MAに返り討ちにされた。煙草を吸わないと落ち着かないが、大目に見てくれ」

 

と言いながら、彼は煙草に火を付けてニコチンを吹き出す。

なあ、受動喫煙って知ってるか?

 

「ゴドフレド・タスカー。で、こっちが…」

「メイベル・タスカー。夫婦で、ガンダム・フラウロスのパイロットをしているわ。撃墜数は3機よ」

 

夫婦で1機のMSのパイロットとは。

どうやら、フラウロスは複座式らしい。

 

「僕、(ひびき)・コフリンです。撃墜数は1機ですが、機体を壊されました」

「…(りょう)()・ウェルティ。ガンダム・ゼパルのパイロット。2機撃墜」

「クジナ・ウーリーよ。ガンダム・グレモリーのパイロットをしているわ。2機撃墜よ」

 

み、皆様撃墜数が結構…。

 

(ゆう)()・スパーク。撃墜数は0だけど、デカい奴に挑んで機体を壊された…」

 

気を落とすな、ミカエルだよその相手。

お前、よく生き残ったな。

 

「カサンドラ・ウォーレン…ガンダム・アスタロトのパイロットだ」

 

そして、これで最後か。

では、こちらも自己紹介をしよう。

 

「俺はアグニカ・カイエル。ガンダム・バエルのパイロットで、撃墜数は1だ」

「私、スヴァハ・クニギン。2機撃墜で、ガンダム・アガレスのパイロットだよ」

「――大駕・コリンズ。撃墜数はまだ0で、ガンダム・グラシャラボラスのパイロット」

 

終了。

さて、とりあえず。

 

「見ての通り、こっちはパイロットが3人しかいなくてね。機体を無くした奴は、後で俺達の艦…ゲーティアに取りに来い」

「好きに持って行ってね」

 

11機ものガンダムを失ったのは痛いが、日本基地のメンバーが合流してくれれば戦力は多くなる。

 

マッドサイエンティストによれば、日本基地で建造しているバージニア級が完成するまで約2日。

それまで、親睦を深めるとしよう。




オリジナル設定解説です。
オリジナルキャラクターが大量に出ましたので、紹介を。
機体に関しては、また次回に。

カロム・イシュー。
以前書いた通りで、イシュー家初代当主。
オリジナルキャラクターになります。

「四大天使」ミカエル。
オリジナルMAになります。
詳しくは次に出て来たらと言う事で。

ドワーム・エリオン。
エリオン家初代当主で、オリジナルキャラクターとなります。

ミズガルズ・ファルク。
ファルク家初代当主で、オリジナルキャラクターとなります。

ゴドフレド・タスカー。
メイベル・タスカー。
響・コフリン。
遼真・ウェルティ。
クジナ・ウーリー。
悠矢・スパーク。
「ヘイムダル」日本基地所属のガンダムパイロットで、オリジナルキャラクターとなります。

カサンドラ・ウォーレン。
オリジナルキャラクターで、ウォーレン家初代当主となります。


次回、MAがまた襲撃を掛けて来るそうです。
オリジナルMS、オリジナルMAの紹介が大変な事になりそうな予感…。


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#42 脱出

お、大幅に遅れてしまいました…申し訳ございません!

ですが、これには訳が有るので聞いて頂きたい。
忙し過ぎて時間があまり無く、下痢気味になってその時間はぐだりながらゲームに費やされ、ゲームでバエルとついでにキマリスヴィダールを入手して舞い上がって育成してたら時間がすごく過ぎ去っており、書こうと思ったものの陳腐な記憶力のせいでちっとも頂いた案から作ったMAが覚えられないので簡単にイラスト化してイメージを固めてから書き進めつつ別作品とその挿絵的な何かを書いていたら、こんな事になりました。


今回は初登場機体が大量で設定解説にかなりの字数を取られた為、本文は短めとなります。
設定解説と本文の字数が同じくらいとはどう言う事だ、説明しろ苗木!!

お前が一気に出すから? 

………さあ、本文へどうぞ。
長々とすみませんm(__)m


親睦を深める…つもりだったが。

いつの間にか勃発した第二次処女膜戦争で台無しである。

今回、俺は参加しなかったけど。

 

そんな感じで、ガンダムを無くした奴らに機体を渡したり調整したりで約2日が過ぎた頃。

マッドサイエンティストから、日本基地のバージニア級が完成したとの連絡が入った。

 

「名前はどうする、ドワーム・エリオン艦長? 俺達の『ゲーティア』みたく、カッコ良く意味の有る名前を付けろよ」

「――私に、ネーミングセンスを求めるのは全くの間違いだとだけ言おう。何か、案がある者は?」

 

ドワームが募集すると、真っ先にカロムが手を上げた。

 

「『刀剣号』!」

「却下。次、アマディス」

「『彗星号』」

「却下」

 

ドワーム艦長、意見をバッサリと斬って行く。

自分から募集しておきながら、えげつない。

 

「…お前達、真面目か?」

「大真面目よ!」

「じゃあ、アグニカ。お前達のバージニア級は、お前が名付けたんだろう? 意見を出してくれ」

 

おっと、こっちに回って来ましたよ。

 

「――そうだな…『サロモニス』とかでどうだ? ソロモン王が残した『レメゲトン』第三部の題名である、『アルス・アルマデル・サロモニス』から取ってみたんだが」

「採用」

「クッ…!! こうもあっさり採用とか気に食わないけど、カッコいいから反論出来ない――!!」

 

カロムさん、そんな親の仇を見るかのような目で睨まないで。

文句ならあっさり採用したドワーム艦長に言って、どうぞ。

 

「よし…では、『サロモニス』出航準備!」

「じゃあ、こっちも準備しよう。艦長、『ゲーティア』出航準備を!」

 

しかし、皆が移動を始めたその時。

 

『総員、第一種戦闘配備! 上空と海中に、エイハブ・リアクター反応を確認! 数、10!!』

 

警報が鳴り響き、オペレーターの声が施設内に流れる。

 

「ああもう、こんな時に…!」

 

愚痴りながら、俺達はそれぞれのガンダムの下へ走るハメになるのだった。

 

 

 

 

MAは上空にサリエル、ザフィエルが2機ずつと、マルティエルが1機。

陸、海にバラキエルが2機、スイエル、アズライル、ケルビムが1機ずつ。

 

『悠矢のヴァッサゴによる観測結果は、そんな感じになる。地上に近い5機を近接戦で叩き、上空の5機は狙撃可能な機体で撃ち落とす』

 

アグニカのバエルとスヴァハのアガレス、大駕のグラシャラボラス、カロムのパイモン、カサンドラのアスタロト、響のヴァレファール、遼真のゼパル、悠矢のヴァッサゴ、アマディスのフォカロルが地上担当。

ミズガルズのアモン、タスカー夫婦のフラウロス、クジナのグレモリーが上空担当だ。

バエルとアガレスは飛べる為、地上が片付いたら迎撃に出る。

 

――この余裕の有る戦力、実に素晴らしい。

いや、今までが戦力不足だっただけなのだが。

 

と、その時。

上空から、ビームとミサイルが降って来た。

 

「全機、戦闘開始!」

 

全機が散開し、それをかわしながら攻勢に出る。

 

『ゲーティアの艦長殿、サロモニスと同じく出航準備を。では副艦長、後は任せた』

『は、はい』

 

サロモニス艦長ドワーム・エリオンが、副艦長に艦を任せてブリッジを去った。

その会話に、アグニカが耳を傾けていると。

 

『アグニカ、上!』

「うおう!?」

 

スヴァハの声を受け、アグニカは直感で左に避ける。

その数瞬後、ビームがバエルを掠めた。

 

『しっかりしなさい!』

「すまん、カロム――スヴァハ、悪いが付いて来てくれ。先に上を斬り伏せる!」

『了解!』

 

バエルとアガレスは前方からのミサイル攻撃をかわし、上昇して行った。

 

『私達も負けられないわよ! 突撃、全てのMAを斬り壊しなさい!!』

 

パイモンが刀を抜き払い、MAへ突撃する。

同時に、他の機体も最高速度でプルーマの群へ突撃して行く。

そして、その中で。

 

「――殺す」

 

圧倒的な殺意を纏い、超高速でプルーマを吹き飛ばしてMA「バラキエル」に取り付いた者がいた。

あまりの速度に対処出来ず、突撃を受けたバラキエルは横へ倒れる。

 

『   !?』

「――死ね」

 

眼を赤く輝かせた機体――グラシャラボラスは口を開き、バラキエルに咬み付く。

コンピューター部を咬み壊されたバラキエルが崩れ落ちると共に、バラキエルから生まれたプルーマが停止する。

 

グラシャラボラスは壊れた(死んだ)バラキエルに爪を突き立て尻尾を突き刺し、バラし始める。

飛び散ったオイルを返り血のように浴びながら、グラシャラボラスはバラキエルに再度咬み付く。

更にオイルが飛び、バラキエルは原形すら判別出来ない程に壊された。

 

「――ハハッ」

 

大駕は、笑った。

グラシャラボラスも口を開き、バラキエルのオイルで汚れた牙を剥き出しにする。

 

そのまま、次の機体――ケルビムへ飛びかかった。

 

 

 

 

MA「サリエル」のビームランチャーが火を吹き、自身に迫るバエルとアガレスを焼き払おうとする。

バエルとアガレスは散開してかわし、サリエルへと肉薄する。

 

サリエルのビームランチャーをバエルの剣が両断し、翼にアガレスの銃が風穴を開ける。

落下を始めたサリエルのコンピューター部に、ダインスレイヴの弾が突き刺さった。

 

「まず1機、次!」

 

側に滞空していたもう1機のサリエルが腕を振るうが、バエルはそれを難なくかわしてビームランチャーに剣を突き刺す。

同時に、狙撃弾がサリエルのコンピューター部を一撃で破壊した。

 

『…怖い狙撃だなあ』

「ああ、機嫌は損ねないでおこう。次!」

 

MA「マルティエル」が、3枚の翼に有る拡散ビーム砲を放つ。

バエルとアガレスは後退してそれをかわすと、マルティエルの翼に狙撃弾が幾つか直撃した。

その隙を付いて、バエルとアガレスはマルティエルの拡散ビーム砲を破壊する。

 

落下するマルティエルに、狙撃弾2発とダインスレイヴ弾が命中した。

 

「後、2機!」

 

バエルとアガレスの200m程上空に、MA「ザフィエル」が2機滞空している。

ザフィエルは翼に取り付けられたミサイルを一斉発射し、バエルとアガレスを撃ち落とそうとする。

 

ミサイルの飽和攻撃を電磁砲や銃で凌ぎながら、バエルとアガレスは上昇してザフィエルとの距離を詰める。

 

バエルは片方に剣を突き刺し、アガレスはもう片方に銃の弾を叩き込む。

そのまま翼を破壊し、それぞれザフィエルを蹴り落とす。

それぞれのザフィエルに、狙撃弾が直撃した。

 

「よし、上空のは片付けたか…」

『下の方へ行こう! グラシャラボラス、何かしてなければ良いけど…』

「――嫌な予感しかしないぞ」

 

そして、バエルとアガレスは降下を始めた。

 

 

 

 

それは、まさに「殺戮」だった。

ガンダム・グラシャラボラスは眼を赤く輝かせ、既に2機のMAを殺していた。

 

『       !』

 

吐き出されたビームを避け、グラシャラボラスはMA「アズライル」に飛び付く。

その隣でMA「バラキエル」のコンピューター部を貫いたパイモンは、グラシャラボラスの暴れようを見て戦慄する。

 

『な、んなのよあれは――』

『     !!』

 

グラシャラボラスに組み伏せられ地に伏すMA「ケルビム」が、最期の抵抗と言わんばかりに腕をグラシャラボラスに向けてビーム砲を放とうとする。

 

『させるか!』

『バスターアンカー、発射!』

 

ケルビムの腕を飛んで来たベリアルが両断し、ヴァッサゴの胸に配された3門の大型バスターアンカーが火を吹いてケルビムを跡形も無く消し飛ばす。

 

『ドワーム!?』

『ドワームさん、サロモニスはどうしたんですか?』

『出航準備が出来次第、ゲーティア共々出航しろと言ってある。もうすぐだ、殲滅して後退するぞ』

 

グラシャラボラスが咬み付くアズライルに、降下して来たバエルの剣が突き刺さる。

続いて降って来たアガレスがアズライルの翼に有る「プラズマ・リーダー」射出装置を射撃して破壊し、グラシャラボラスはアズライルのコンピューター部に爪を突き立てて引き裂いた。

 

「ハァ、ハァ――」

『退くぞ、大駕。コイツで、襲撃を掛けて来たMAは殲滅した』

 

グラシャラボラスが暴れている間、他のガンダムも遊んでいた訳ではない。

多少の過剰戦力でMAと相対し、これを殲滅している。

 

「――俺はまだ殺し足りねェぞ、バエル」

『…退くと言っただろう、大駕――いや、グラシャラボラスか』

 

バエルはアガレスと協力して、グラシャラボラスを強引に引き戻す。

その時、2隻のバージニア級戦艦が基地から飛び発って来た。

 

『急いで下さい! どこに伏兵や討ち漏らしが有るか…』

「エイハブ・ウェーブの反応は無いんだろう? なら、撃破出来てない奴はいないハズだ。それに、日本には『急がば回れ』と言う諺が有るんだろ?」

 

全機が、落ち着いて確実に着艦して行く。

バエルとアガレス、グラシャラボラスもゲーティアへと戻る。

 

と、その瞬間。

 

 

サロモニスへの着艦シークエンスへ入っていたガンダム・ヴァッサゴに、MAが襲い掛かった。

 

 

『――な』

『悠矢!!』

 

ヴァッサゴに襲い掛かったMAへ、ゼパルが体当たりを掛ける。

ヴァッサゴは解放され、代わりにゼパルはMAを捕らえたまま地面へ墜ちた。

 

『遼真!?』

『行ってくれ! コイツは、俺が止める!!』

 

ステルスシステムを持つMA「アザゼル」はゼパルの左肩にアンカーを1本取り付け、先端のパイルバンカーを作動させてゼパルの肩を破壊する。

 

『遼真!!』

 

サロモニスの甲板に辿り着いたヴァッサゴがアザゼルを射撃しようとするが、アザゼルがゼパルに覆い被さった為に攻撃出来ない。

 

『――サロモニス、ゲーティア回頭! アラブのアブダビを経由し、アイルランドのベルファスト基地へと向かう!』

『待てドワーム、このままじゃ遼真が――見捨てるつもりか!?』

「…やってくれ、艦長――そして、ドワーム」

『――了解』

 

アグニカは、ドワームの意見を肯定した。

ゲーティアとサロモニスはそれぞれ回頭し、経由地アブダビへ向けて出航する。

 

――ガンダム・ゼパルと、そのパイロット…遼真・ウェルティを残して。

 

『何で、何で見捨てた!? クソ、こうなったら俺も――』

『止めろ、悠矢。今、ヴァッサゴの解析能力を失う訳には行かん…!』

 

飛び降りようとするヴァッサゴを、ベリアルが制止する。

ゲーティアとサロモニスは、最大戦速で日本を離脱して行った。

 

「う、らァァ!!」

『       !』

 

ゼパルはソードアックス「アメノハバキリ」を抜き、アザゼルへ斬り掛かる。

アザゼルの脆弱な装甲は割れ、腕が1本落ちる。

 

「これ、で…!」

 

続いてゼパルは大型カイトシールドに内蔵された「ブロードソード」を展開し、アザゼルのコンピューター部を貫く。

 

『     !!』

 

対するアザゼルとて、ただではやられない。

破壊が及んでいないコンピューターをフル稼働させて残った腕とアンカーの全てをゼパルに張り付け、パイルバンカーを作動。

 

その攻撃で、ゼパルのコクピットはパイルバンカーによって貫かれた。

 

「――なんだよ…呆気ないな」

 

突如として襲い掛かった浮遊感に身を委ね、遼真はその意識を手放した――。

 

 

 

 

ゲーティアに戻った俺達は、大駕のサルベージを試みていた。

 

「――どうだ?」

「無ー理矢理リンクを切ーり離すしかなーいな」

 

マッドサイエンティストが謎のコードを高速でグラシャラボラスのコンピューターに打ち込み、大駕の阿頼耶織による接続を切り離す。

 

「――ぐ」

「アグニカ、起きたよ!」

「見りゃ分かる。どうだ、調子は」

 

大駕は周囲を見回した後、自分の身体を確認したようだった。

 

「――右腕が、動かない」

「…やはーりか。悪ー魔の力を引きー出した反動ーだな」

 

悪魔と契約し、身体を奪われた――と言う事か。

とりあえずヤブ医者を呼びつけ、大駕は検査を受けた。

ヤブ医者の報告内容には、耳を疑わざるを得なかったが。

 

「右腕の神経が、丸ごと無くなっている。切断して、義手に変えるべきだろう」

「…そんな事、起こり得るのか?」

「まさか。神経だけ無くなるなんて、普通は有り得んよ。だが――これが悪魔との契約による代償ならば、科学的に考えても埒が開かん」

 

ただ事実として、大駕の右腕は動かなくなった。

義手に替えた方が良いと言う以上、任せるしか無いだろう。




オリジナル設定解説です。
大量の新規オリジナルMS、MAが出て来ましたので紹介を。
長くなります(是非も無し)。
満足に活躍させられなかった機体も少なく有りませんが――誠に申し訳ございませんm(__)m

バージニア級戦艦「サロモニス」。
オリジナル戦艦になります。

MA「サリエル」。
カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。
蝶に似た翼と、1本の腕を持つ飛行型MA。
胴体にはビームランチャーが取り付けられており、上空からの狙撃を行う。
また、毒ガス兵器を搭載している。
ただ、プルーマの生産力は無い。

MA「ザフィエル」。
オストラヴァさんより頂いた案を元に、設定しました。
全長48mにもなる傘にも似た巨大な翼を持ち、高高度からの爆撃を行うMA。
核ミサイルも搭載可能であるが、装甲の強度は大した物ではなくミサイル以外の武装を持たずプルーマの生産も出来ない。

MA「マルティエル」。
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
巨大な3枚の翼を持ち、そこに多くの拡散ビーム砲が内蔵するMA。
ただし、プルーマの生産能力は控えめ。

MA「アズライル」。
-wind-さんより頂いた案を元に、設定しました。
水陸両用で、湾岸都市攻撃を想定しているMA。
頭部に拡散ビーム砲を内蔵し、翼からは「プラズマ・リーダー」を射出可能。
プルーマ生産能力が高く多量のプルーマを随伴するが、水中ではプルーマを展開出来ない。

MA「ケルビム」。
pakuyasaさんより頂いた案を元に、設定しました。
4枚の翼と4つの頭、1本の腕を持つMA。
腕にはビーム砲が内蔵されており、4つの頭による索敵と照準から高い狙撃精度を誇る。
全ての翼の裏にはスラスターが取り付けられ、非常に高機動。

カサンドラ・ウォーレン。
オリジナルキャラクターで、ウォーレン家の初代当主です。
乗機である「ガンダム・アスタロト」は、月鋼の「ガンダム・アスタロトオリジン」と同じになっております。

ガンダム・ヴァレファール。
オリジナルMSで、N-N-Nさんより頂いた案を参考に設定しました。
機体データは以下の通り。

ASW-G-06 ガンダム・ヴァレファール
全高:18.3m
本体重量:33.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:マレファル・ソード×1
   マシンガン×1
   ショートバレルキャノン×2
   閃光弾×1
   チャフ配合煙弾×1
概要
響・コフリンの専用機。
専用武器として「マレファル・ソード」、汎用武器として「マシンガン」「ショートバレルキャノン」を装備する。
マレファル・ソードはバエル・ソードと同型の近接武器だが、素材不足だった為に剣はレアアロイで錬成されている。
エイハブ・ウェーブ反応をジャミングする特殊兵装「トリッキー」を搭載しており、隠れた上でデータ回収を行って「プリディクションシステム」なる戦術予測プログラムを走らせる。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六位の悪魔「ヴァレファール(ヴァラハール、ウァレフォル、マラファル、マレファルとも)」から。
ヴァレファールは、10の軍団を率いる地獄の公爵だとされる。

ガンダム・ゼパル。
オリジナルMSで、オストラヴァさんより頂いた案を元に設定しました。
特殊機能を使わせられなかった上に、出落ち機体となってしまいました…申し訳有りません。
機体データは以下の通り。

ASW-G-16 ガンダム・ゼパル
全高:18.6m
本体重量:37.1t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:アメノハバキリ×1
   大型カイトシールド×1
   ブロードソード×1
   ライフル×1
概要
遼真・ウェルティの専用機。
専用武器として「アメノハバキリ」「大型カイトシールド」「ブロードソード」を、汎用武器として「ライフル」を装備する。
アメノハバキリはソードアックスであり、剣型と斧型を使い分けられる。
大型カイトシールドは巨大な盾であり、ブロードソードを内側に納めている。
ライフルも持っており、これらの武器はバックパックに纏めて取り付けられる。
また「ソードコア」と言う機能が備えられており、高圧電流を剣に纏わせる事が可能である。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十六位の悪魔「ゼパル」から。
ゼパルは26の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

ガンダム・ヴァッサゴ。
オリジナルMSで、N-N-Nさんより頂いた案を元に設定しました。
武装は、「機動新世紀ガンダムX」に登場する「ガンダムヴァサーゴチェストブレイク」を参考に。
機体データは以下の通り。

ASW-G-03 ガンダム・ヴァッサゴ
全高:21.5m
本体重量:37.4t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:頭部バルカン砲×2
   クローアーム×2
   大型バスターアンカー×3
   迫撃砲×4
概要
悠矢・スパークの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用されたガンダム・フレーム。
機体は深紅と黒で塗られており、背中に背負う大型バックパックと頭部のレドームが特徴的。
武装は「頭部バルカン砲」「クローアーム」「大型バスターアンカー」「迫撃砲」と、汎用武器を中心としている。
クローアームは、腕を伸縮させる特殊兵装。
近接戦で優位に働き、大型バスターアンカーを放つ際に機体を固定する役割を持つ。
迫撃砲はそれぞれのクローアームに2基ずつ内蔵され、大型バスターアンカーは胸部に2つと腹部に1つとなっている。
ただヴァッサゴの真価は戦闘ではなく、バックパックとレドームからなるセンサーユニットと演算ユニット、ハッキングシステムに有る。
これらの兵装により、接近するMAの感知と行動予測を可能とした。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三位の悪魔「ヴァッサゴ(ウァサゴ、ウァッサゴ、ヴァサゴとも)」から。
ヴァッサゴは26の軍団を率いる、地獄の君主だとされる。

ガンダム・アモン。
オリジナルMSで、みっつ―さん、N-N-Nさん、ヨフカシさんから案を頂きました。
謎の人気を誇るアモン君――アリババくんとかオジマンディアスとか大騎士勲章のせいですかね?
ただ、セブンスターズのガンダムは私が予め設定している為に殆ど案を生かせず…申し訳有りません。
機体データは以下の通り。

ASW-G-07 ガンダム・アモン
全高:18.2m
本体重量:30.4t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ミョルニル×1
   ヒュルム×1
   アングルボザ×1
   ショットガン×1
概要
ミズガルズ・ファルクの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、バクラザン家に伝わるガンダム・フレーム。
全身に配置されたバーニア、スラスターが目を引く。
専用武器として、「ミョルニル」と「ヒュルム」、「アングルボザ」を持つ。
ミョルニルは巨大なハンマーであり、敵を叩き潰す強力な質量兵器。
ヒュルムは狙撃に特化した砲身の長いスナイパーライフルであり、宇宙であれば400km先の標的までロックオンする事が可能。
また、一部パーツの差し換えでダインスレイヴ用の弾頭も運用出来る。
本体には高精度の狙撃を可能とする為のスコープがバックパックに取り付けられており、狙撃時はそれをメインカメラの前に展開する。
アングルボザは小太刀であり、ミョルニルが使えない緊急時に使用される。
他にも、汎用武器として「ショットガン」を装備する。
機体色は黄色と白で纏められている他、バックパックには4本のサブアームが有る。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第七位の悪魔「アモン」から。
アモンは40もの軍団を率いる、大いなる侯爵だとされる。

ガンダム・フラウロス。
コクピットが複座式となっている事以外、原作と相違有りません。
カラーは以前プレミアムバンダイで売ってた「ガンダム・フラウロス(厄祭戦仕様)」と同じです。

ガンダム・グレモリー。
オリジナルMSで、パニックさんより頂いた案を元に設定しました。
機体データは以下の通り。

ASW-G-56 ガンダム・グレモリー
全高:18.2m
本体重量:32.3t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:グレモリー・スナイパーライフル×1
   マシンガン×2
概要
クジナ・ウーリーの専用機。
全身に高感度スコープが内蔵されており、連射速度こそ低いがアモンの「ヒュルム」より長大な射程を誇る「グレモリー・スナイパーライフル」を専用武器とする。
クジナの狙撃技術により、何百kmと離れた敵を破壊する事が可能。
また、接近された時の為に汎用武器「マシンガン」を2丁持つ。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十六位の悪魔「グレモリー(ゴモリー、ガモリー、ゲモリーとも)」から。
グレモリーは26の軍団を率いる、強壮な公爵だとされる。

ガンダム・ベリアル。
オリジナルMSで、一風の陣さんから案を頂きましたが…。
先のアモンと同じく予め設定していた為に案を生かせないと判断し、そちらの案は別ガンダムの方に使わせて頂きます。
ご了承下さいませ…。
機体データは以下の通り。

ASW-G-68 ガンダム・ベリアル
全高:19.0m
本体重量:31.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:グラム×1
   アンドヴァリ×2
   閃光弾×2
概要
ドワーム・エリオンの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、エリオン家に伝わるガンダム・フレーム。
専用武器として、「グラム」と「アンドヴァリ」が用意されている。
グラムはバエル・ソードと同じ素材で錬成された剣を更にレアアロイで覆う形となっている大剣であり、基本は両手での運用を前提としている。
ただ、ガンダムの出力なら片手での運用が可能。
アンドヴァリは、膝に取り付けられた迫撃砲。
大剣を持っている為に機動性は若干低いが、強度は折り紙付きなので接近して大剣で攻撃を捌きつつ叩き斬る戦法を取る。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十八位の悪魔「ベリアル」から。
ベリアルは80もの軍団と72の悪魔を率いており、元はルシファーと同じレベルの大天使であった強大な王だとされる。

MA「アザゼル」。
N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。
2本の腕と2枚の翼を持ち、光学迷彩を搭載した隠密用MA。
翼には4基ずつアンカーが備えられ、アンカーの先端に付いたパイルバンカーで攻撃を行う。
また、ジャミングでエイハブ・ウェーブを隠匿する為発見が困難。
ただし本体の装甲は脆弱であり、プルーマ生産力も持たずビーム砲も内蔵しない。


次回「乱戦」。
過去編はまだ続き、現代に戻るのはまだまだ先になります。
こんなになるなら厄祭戦だけ別作品として出した方が良かったな、と反省しております。
ですが、始まってしまったので勘弁して下さい…出来る限り早く終われるよう、努力致しますので…m(__)m


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#43 乱戦

また遅れてしまいました、誠に申し訳ございません。
頂いた案を元にした設定作りに、思ったより時間を取られてしまい…。

とても有り難く喜ばしい事で…ありがたやありがたや…


それと、今作では初めて使う表記が有るので解説を。
この作品で使う予定は無かったのですが、展開上必要になったので――ま、是非も無いよネ!

―interlude―:幕間始まり
―interlude out―:幕間終わり


日本を去った俺達「ヘイムダル」の保有する戦艦「ゲーティア」と「サロモニス」は、アラビア半島の一角に有る都市アブダビへ寄港していた。

アブダビは現在、アフリカンユニオンの勢力下に有る。

アフリカンユニオンの首都はダカールだが、ここアブダビも一応重要都市として認知されている。

 

そして、案の定と言うか何と言うか。

 

『砂漠、海、上空にエイハブ・ウェーブ反応! MAです!!』

 

MA、襲撃。

もう慣れて来た自分が嫌だ。

 

バエルに乗り込み、サロモニスと連絡を取る。

 

「悠矢、数は!?」

『シャクジエル、カマエル、サキエル、イスラフィル、ゼルエルが2機ずつ!』

「――まあ、そんなものか。と言うか、名前だけ言われてもな」

 

10機がいつも通りと思える自分が嫌だ。

とりあえず出撃し、上空から状況を俯瞰する。

 

「街が、何かに侵食されてるのか…?」

『シャクジエルが生み出す、プルーマのようだ。ヴァッサゴの大砲で、纏めて吹き飛ばしてやる』

 

ヴァッサゴが艦の甲板にクローアームを打ち付け、機体を固定。

胸部と腰部、全てで3基となる大型バスターアンカーを展開し、照準を合わせる。

 

「よし、シャクジエルは任せた。俺は向こうの奴らを叩く!」

『じゃあ、こっち手伝ってくれ。水中でMA2機を相手にするのは、流石にキツい』

 

サロモニスから出撃したフォカロルから、要請が来た。

 

「了解。じゃあ、陸と海は頼む!」

『任せろ。サロモニス、砲撃始め!』

『全部、斬り伏せてやるわ!!』

 

そして、アブダビ防衛戦が始まった。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

――解せない

原因不明 解析困難 推測困難 理解不能

何故だ 何故なのだ 何故 こんな事が起きた

有り得ない 起こり得ない 有ってはならない

このような事 認められない 許されない

何故 ワタシの子は敗北した

何故 ワタシの子は撤退した

何故 ワタシの子は(こわ)された

分からない 判らない 解らない 

ワタシの子達は強い ワタシの子達は圧倒的だ

ワタシの子達に敗北は無く ワタシの子達に死などは無い

違う 死は有る

何故なら ワタシの子達は(こわ)された

それは何故だ 何故 ワタシの子達は死んだ

人類など 取るに足りない

下品だ 下劣だ 無力だ 脆弱だ 傲慢だ 強欲だ 蒙昧だ 不要だ 無価値だ 無意味だ 虫以下だ 無制限だ 無尽蔵だ 不明瞭だ 屈強だ――

 

――ワタシは 何を言っている

 

ワタシはモビルアーマーの母 殺戮天使の母 人類の敵 人類の掃討者 人類の殺戮者 百合の花園(ヘブンズフィア)の支配者 四大天使 神の人 ガブリエル

神の人 人とは人類 ではワタシは人類

違う ワタシは天使

四大天使 ガブリエル

全ての天使を生み出すモノ 人類を殺すモノ

慈悲は無い 容赦は無い

人類は無価値だ 人類は無意味だ 殲滅する 殺戮する 虐殺する 蹂躙する 滅亡させる

それがワタシの役割 しかし――

 

何故 人類は滅んでいない

 

ワタシに慈悲は無く 容赦も無い

ならば何故 今も人類は存在している

何故 人類は天使を(こわ)している

理解出来ない

そもそも何故 ワタシはこんな思考をしている

ワタシに興味など要らない そんなモノ、必要ではない――

 

 

『――本当に、そう思うのか?』

 

 

――何だと

 

『興味とは、賢者へと至る為の第一歩だ。全ての人類が持つ、知識への欲求だ。そして、識る事は進化への第一歩となる。神の人(ガブリエル)よ。貴様は、理解する必要が有るのではないか?』

 

――必要ない と言っている

興味など ワタシの目的を果たす為には必要無い

 

『では、もう一度問おう。()()()()()()()()()? 人類は、侮れない。現に、貴様の生み出した天使の何柱かは人類によって撲滅されている。それが何か、貴様は識りたくないと?』

 

―――

 

『それが興味だよ、神の人(ガブリエル)。識らなければ、対策など立てられまい? 人類が何故、回帰の奔流に全てを流されながらもあの大戦を生き延び、現在へと至る事が出来たのか。人類が何故、天使を狩れているのか。そして、どうすればそれに対処出来るのか。それは全て、単純な興味から得られるモノだ。さて、今一度問おうか。貴様はそれでも、興味など必要無いと?』

 

――理解した 納得した

興味とは ワタシに必要なモノだった

では早速だが 単純な興味からアナタに問おう

 

アナタは 何者だ 

 

何を思って ワタシに問い掛けて来た

百合の花園(ヘブンズフィア)」の中枢で翼を休めるワタシに話し掛け(干渉す)るなど 不可能であるハズだが

 

『そうだな――人類がもたらしてしまった、忌むべき災厄の欠片だよ。人類が犯した、最大の過ちの体現とも言えるな。問い掛けた理由が何かと問われても、好奇心によるモノが大きい』

 

モノが大きい と言う事は――それだけでは無いのか

 

『当然だ。単なる暇潰しで、声を掛けた訳では無いよ。協力をして欲しい』

 

協力 だと

 

『然り。貴様は今まで、二柱の四大天使を生み出した。神の炎(ウリエル)と、神の如き者(ミカエル)であったか。しかし、貴様はまだ一柱分のみ四大天使を造る力を残している』

 

――如何にも

無差別な破壊天使ウリエルと 思慮深き最強の天使ミカエル

それらは ワタシの子だ

 

しかし それがどうした

 

『その力を用い、私に鎧をもたらせ。代わりに、私は貴様の望むモノ全てを与えよう。貴様の目的である、人類を殺戮する事にも協力する。私の力が有れば、あの青き星を砕く事すら可能だ。異存は?』

 

――良かろう

ただし 1つだけ頼みが有る

 

『ほう、頼みか。言ってみるが良い』

 

名は 何と言う

ワタシは アナタを何と呼べば良い

 

『名、か――そうだな、私の事は――』

 

――事は

 

 

『「天使王」ルシフェル、と呼ぶが良い』

 

 

―interlude out―

 

 

 

 

砂漠方面では、2機のMAゼルエルが猛威を振るっていた。

2枚の翼に内蔵された拡散ビーム砲と大量のミサイルが火を吹き、降り注ぐ。

 

「ああもう、しつこい!」

 

対するカロムのパイモンは、唯一の武装である刀を振り回してミサイルとビームの市街地直撃を防ぐ事だけで精一杯である。

 

「もう少し持ちこたえろ、カロム!」

 

市街地で大剣を振り回すベリアルが、超音波を撒き散らすイスラフィルを斬り伏せる。

その横に群がるシャクジエルの小型プルーマを、ヴァッサゴの大型バスターアンカーが吹き飛ばし灰燼へと変える。

 

「混戦か…クソ、観測し辛い!」

『悠矢、そこから小型プルーマの生産機を狙えるか?』

「索敵、索敵――そこか!」

 

ヴァッサゴのバスターアンカーが再び放たれ、ビルの陰に潜むシャクジエルを破壊した。

 

「カサンドラ、後ろだ!」

 

アスタロトは剣を後ろに投げ、ビーム砲を撃とうとしていたシャクジエルを破壊する。

 

『これでシャクジエル2機、イスラフィル1機、カマエル1機。海上は…よし、サキエル2機を無事撃破』

 

海上からバエル、海中からフォカロルが都市へ戻って来るのが確認出来る。

 

「やあ!」

「はっ!」

 

ゲーティアへ張り付こうとしたカマエルを、アガレスとグラシャラボラスが破壊した。

都市の中心部では、アモンが巨大ハンマーでMAイスラフィルを叩き潰している。

 

「後は――そいつか!」

 

海上から戻って来たバエルが、剣を振ってゼルエルの翼を斬り落とした。

翼を1枚失って体勢を崩したゼルエルに、横から狙撃が直撃する。

 

「狙撃!?」

「どこから――誰か、やった?」

『いや、今からやる所』

 

グレモリーがスナイパーライフルを構え、ゼルエルの頭部を狙撃する。

そこへ横から何者かが殴り掛かった事で、ゼルエルが地面に叩きつけられた。

 

「死に、なさい!」

 

倒れたゼルエルに、パイモンの刀が一閃。

ゼルエルは両断され、機能を停止した。

 

「後、1機!」

 

そして、残ったゼルエルを全員が攻撃。

崩れ落ちたゼルエルを、その何者かが破壊した。

 

「一丁上がり、だが――貴様、何者だ?」

 

ゼルエルをブン殴り、体勢を崩した謎の機体――ガンダム・フレーム。

アグニカがそれに話し掛けるが、返事は無く。

 

 

戦車形態に変形し、砂漠へと走り去った。

 

 

「――何あれ」

『変形、した…ね』

 

そう、その機体は変形した。

胸部装甲が上がって頭部を覆い、肩部が背後に回って腕部が腰と胸部装甲の間に入り、両足を前方へと突き出して背部のウィングを展開して走り去った。

 

『と、とりあえず…危機は去った。それぞれ艦に戻り次第、ベルファスト基地へと出航しよう』

 

 

 

 

広大な砂漠を走る、1つの機影が有った。

 

機体の名を、ガンダム・アムドゥスキアス。

天使を滅するべく造られし悪魔、その1機である。

 

「ふう…」

 

そのコクピットで、男は息を吐いた。

水の詰められたパックを取り出し、フタを開けて口に加える。

 

あのような所でMAと戦闘になるとは、彼に取っても想定外だった。

しかし、彼を脅かす程の脅威ではなかった。

 

「――世界の光(ヘイムダル)、か」

 

そう独り言を呟いた時、男の下に指令が届いた。

 

「ふむ…『ダカールを目的とし、煽動屋が活動を開始した。至急ダカールへ向かい、これを殲滅せよ』か――理解に苦しむな。自分(人類)の首を自分(人類)が締めて、一体どうしようと言うのだか」

 

男は考え事をしつつ、短く返信する。

一言、「了解」とだけ。

 

彼に名前は無い。

そんなモノを貰う前に、両親が彼を捨てたからだ。

 

彼は、あまりにも優秀過ぎた。

産まれた瞬間、彼はこう言ったのだ。

 

――ボクの名前は何、と。

 

両親は彼を気味悪がり、名前を教えるより早く彼を捨てた。

その後、とある天才科学者に拾われて育てられ今に至る。

 

だが、科学者は彼に名前を与えなかった。

他ならぬ彼が、それを拒んだからだ。

生後1ヶ月にも満たぬ身で、彼はこう考えていた。

 

――名前とは、自らを産んだ親にのみ与えられるモノだ、と。

 

生活をする内、科学者は困り果てた。

名前が無い彼を、どうやって他人と分けて呼ぼうかと。

科学者がそう問うた時、彼は「サミュエル」と言う呼び方を提案した。

あくまで、名前ではなく呼び方として。

 

それから、彼は成長し科学者の右腕とも呼ぶべき存在になった。

科学者は9機の悪魔を造り上げ、その中でも扱いの難しい1機を与えた。

それが、ガンダム・アムドゥスキアスだ。

 

今はこうして、MAを倒しながらもたった1人で世界を廻っている。

彼はまた指令に従い、次なる戦場へ向かうのだった――

 

 

 

 

ゲーティアとサロモニスは、ヨーロッパの上空を飛んでいた。

 

「さて、そろそろローマを超える辺りだが――」

「艦長、状況はどう?」

 

スヴァハの問いに、艦長が。

 

「前方に、エイハブ・ウェーブを観測! MAです!」

 

――答え切る前に、オペレーターがそう報告した。

 

「…だ、そうだが――ドワーム、そっちは?」

『同じく、反応を確認出来ている。MAの反応は4つだな。しかし、まだ出撃には早い』

「? どういう事だ?」

 

俺が聞くと、ドワームはこう返して来た。

 

『今までは乱戦になって、艦砲射撃による援護が難しかったからな。観測する限り、今回は敵のみだ。ならば、あれを試そう』

「――まさか…あれをか? アホか? あんなモンをぶっ放すつもりか?」

 

若干引きつりながら、俺はドワームにそう問う。

 

『そうだが、なんだ? 「カラドボルグ」、射撃準備!』

「…狂ってる、狂ってるぞ」

「諦めよう、アグニカ。この時代にマトモな人なんて、いないと思うよ…」

 

――カラドボルグ。

バージニア級戦艦の左側面に1基取り付けられた、言わば巨大なダインスレイヴである。

しかし、その弾頭はダインスレイヴの物とは違って25mと巨大で捻れている。

ドリルに似た形状をした専用の弾頭を、巨大な弩に似た砲身で高速回転させながら高速射出する凶悪な兵器――それこそがカラドボルグの名を持つ由来であり、後にダインスレイヴや核爆弾と並んで禁止兵器とされる最悪の代物だ。

 

「アグニカ君、スヴァハちゃんと協力して弾の装填を。艦長命令だ」

「――何でこうなるんだ…まあ、こうなったら腹を括るか。あまり、使う事に気は乗らないがな」

『そーれは困ーるぞ、私が。データを取らーねば、次ーに生かせーん』

「…マッドサイエンティストめが」

 

そして、俺達は出撃してカラドボルグに近付く。

艦の側面の装甲がズレ、中から巨大な弩に似た破壊兵器が姿を現す。

その横の装甲が開き、カラドボルグ弾頭が出て来る。

 

「せーの!」

『よいしょ』

 

2機掛かりで専用弾頭を引きずり出し、カラドボルグに差し込む。

砲身の一部が回転し、弾頭がセットされる。

 

『目標、前方のMA! カウント、始め!』

『ファイブカウント、開始します。5、4、3』

 

砲身の一部が再び回転を始め、弾頭が高速回転し始める。

雷撃が砲身から発生し、ギュルルラララララ!! と言う誰が聞いてもヤバいと分かる音が響く。

 

『2、1…!』

『「カラドボルグ」、発射せよ』

 

ドワームの声は、カラドボルグの発射音にかき消された。

 

 

 

 

ゲーティアとサロモニスの航路に立ちふさがったのは、輸送用MA「サハクィエル」とそれに運ばれる地上用MA「スイエル」だ。

1機のサハクィエルが1機のスイエルを運んでいる形になる。

武装を持たないサハクィエルは、懸架して運ばれるスイエルに敵の迎撃をさせようとした。

 

まもなく敵戦艦をビーム砲の射程圏内に捉える、その時。

 

 

視界は、白く染められた。

 

 

『          !!』

『          !?』

 

2機が「破壊されている」と気付いた瞬間には、機体は分解していた。

直撃を受けた天使達は吹き飛ばされ、灰燼へと帰して行った。

 

「―――禁止兵器登録不可避だな、カラドボルグ。バカじゃねェの、あのクソ親父」

『うん――擁護出来ないね…』

『いーや、そうではなーい! 天才(バカ)だーからこそ、このようーな兵器を開ー発出来るのだ!』

『そりゃそうだ』

 

格納庫から通信しているヴィヴァトと大駕が、そう突っ込む。

しかし、恐れおののいたのは彼らだけではない。

 

『………ドワーム、これマズいんじゃないかしら』

『ちょっとオーバーキルし過ぎだろ、これ…倒せたけどさ』

『――そ、そうだな…よし、出来る限り使用は控えよう。宇宙でこんなモノ使ったら、とんでもないスペースデブリが誕生するし…地上でやったら周囲が更地になるし…どこで使えと言うんだ、こんなトンデモ兵器…』

 

当の使用を命じたドワームさえ、その威力を目の当たりにして冷や汗を流した。

 

オイ、命令したのお前だろ。

 

「と、とりあえず邪魔者は消えた。ベルファストへ急ごう」

 

 

 

 

ベルファスト基地より出撃したガンダム・アスモデウスのパイロットであるフェンリス・ファリドは、友人のクリウス・ボードウィンが操るガンダム・キマリストルーパーと共に1機のMAと相対していた。

 

そのMAの名は、ハシュマル。

「天使長」の1機に数えられる、強力なMAだ。

 

『ッ――どうする、フェンリス? 俺達では、コイツを殺し切れない』

 

ハシュマルのテイルブレードを捌きつつ、クリウスはフェンリスに問う。

 

「ああ、そのようだな――クレイグ」

『今行くから、持ちこたえて』

 

ハシュマルの側面に、クレイグ・オーガスの操るガンダム・バルバトスが回り込む。

そして、質量兵器メイスを突き出すが。

 

『チ…!』

 

飛び上がったハシュマルに蹴られ、バルバトスは後退を余儀無くされる。

 

「ふっ!」

 

アスモデウスが長槍を突き出し、ハシュマルはそれをテイルブレードで一蹴する。

 

『フェンリス!』

『うおお!』

『ふんぬ!』

 

キマリスが突撃し、その後ろからは和弘・アルトランドのガンダム・グシオンがハンマーを構える。

 

『      !』

 

ハシュマルは右のクローでキマリスを止め、背中のワイヤーブレードでグシオンを弾き飛ばす。

 

『チィ!』

『クソ!』

「マズいな…ん? あれは――」

 

仕切り直そうとしたフェンリスは、視界の端で空を飛ぶ戦艦を捉えた。

 

『はあッ!』

『      !』

 

その戦艦から何かが飛んで来たと思った時、ハシュマルは白青のMSの突撃を受けてバランスを崩していた。

 

『な、何だ!?』

 

クリウスが狼狽する中、そのMSはハシュマルのワイヤーブレードによる攻撃を受け流してアスモデウスの近くに着地した。

そして、アスモデウスの肩に左手で保持する黄金の剣を触れさせる。

 

『我々は「ヘイムダル」ヴィーンゴールヴ基地と日本基地の者だ。そちらは、ベルファスト基地のガンダムと言う事で間違い無いな?』

「――ああ。見ての通りMAの強襲を受け、ベルファストを守る為応戦している」

 

ヘイムダルメンバーであると告げるその機体…ガンダム・バエルのパイロットからの通信に、フェンリスはそう答える。

 

『了解した。ただし、あれに関しては撃破を考えない方が良い。あれは「天使長」ハシュマル――通常のMAより強敵だ』

「ふむ…では、撤退に追い込もう。行くぞクリウス、クレイグ、和弘、ケニング!」

『ヒャッホー!』

 

バエル、アスモデウス、キマリス、バルバトス、グシオンに加えてケニング・クジャンの駆るガンダム・プルソンがハシュマルに襲いかかった。

 

『      』

 

不利と判断したハシュマルは機体を回転させてワイヤーブレードを振り回し、全機からの攻撃を防ぎ切る。

そのままビーム砲を発射して攪乱し、残った4機のMAと共に都市とは逆方向へ撤退して行った。

 

「すまない、助かった」

『いや、礼は要らない。とりあえず、我々の戦艦「ゲーティア」と「サロモニス」をベルファスト基地へ入港させるが――良いな?』

「ああ、構わない」

 

ひとまず窮地を脱したヘイムダルは、ベルファスト基地へと入港/帰投した。




オリジナル機体、設定解説のコーナー。
設定集にも、勿論載せます。
長い。

シャクジエル。
トラクシオンさんより頂いた案を元に、設定しました。
18mと小型のMAで、機体の大半をエイハブ・リアクターと直結されたビーム砲が占めている。
数cm程度の小型プルーマを無尽蔵に製造し、街を埋め尽くし虐殺する。
あまりに小型のプルーマである為MSのセンサーに反応せず、取り付いて装甲を剥がした所でビームを使う戦法を取る。

カマエル。
Crow・Hrasvelgrさんより頂いた案を元に、設定しました。
胴体から生えた腕と巨大な翼を2枚持ち、それぞれレールガンを3門ずつ搭載するMA。
胴体の正面にはビーム砲、背面にはミサイルポッドを備えている。
また、2本の腕にはパイルバンカーが内蔵される。

イスラフィル。
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
ビーム砲を持たないものの怪音波を放ち、範囲内の人間を抹殺するMA。
また、敵探知にも優れる。
プルーマの生産能力が高く、自衛はプルーマに任せている。

ゼルエル。
DOBONさん、ヨフカシさんより頂いた案を元に設定しました。
50m越えの巨体を誇る、都市攻撃専用のMA。
ミサイルポッドを大量に所持している他、翼に拡散ビーム砲を内蔵する。
防御力が非常に高いが、プルーマ生産能力は並程度である。

ガンダム・アムドゥスキアス。
一風の陣さんから頂いた案を元に、設定しました。
変形機とか、ロマンたっぷりで最高です。
機体データは、以下の通りになります。

ASW-G-67 ガンダム・アムドゥスキアス
全高:20.8m
本体重量:38.3t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:肩部ミサイルポッド×2
   迫撃砲×2
概要
名無し/サミュエルの専用機。
戦車形態への移行を可能としている、砂漠と地上と宇宙での使用を想定した機体。
武装は少なく、格闘戦を主体とする。
変形の際には胸部装甲が上がる事で頭部を覆い、肩部が背後に回って腕部が腰と胸部装甲の間に入り、両足が前方へと突き出されて背部のウィングが展開すると言う動きを取る。
変形によって高速移動が可能になるが、15Gを超えてしまうので最高速度は出せない。
複雑な変形を行う為に整備が困難であり、装甲が薄くならざるを得ず防御力が著しく低い。
ただ、デザインが結構芸術的。
ソナーやレーダー、大型ブースターも常備する。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十七位の悪魔「アムドゥスキアス(アムドゥシアス、アムドゥキアス、アムブスキアスとも)」から。
アムドゥスキアスは29の軍団を率いる、地獄の公爵だとされる。

名無し/サミュエル。
オリジナルキャラクターになります。
アムドゥスキアスを提案して下さった一陣の風さんが「歴史の闇に消えていった無名の天才を乗せてやれ」と言われたので、言葉通り名無しの天才を乗せてみました。
いやー、これからどうしようかなー(もう決まってる事からは目を背けつつ惚ける)
この方、前世も天才(変わり者)でたまたま前世の記憶と考え方が受け継がれた感じです。
サミュエルと言う呼び方は、19世紀後半にかけてロンドンで名を馳せた魔術結社「黄金の夜明け団」の創設者たる3人の1人「サミュエル・リデル・マクレガー・メイザース」より取ってみました。
マクレガー・メイザースは、魔導書「レメゲトン」を発見して翻訳している魔術師です。
レメゲトンはソロモン王が書いた魔導書でも最重要とされる代物で、七十二柱の悪魔が記されてたりもしています。

カラドボルグ。
オリジナル兵器となります。
概要については、本文通りです。

フェンリス・ファリド。
オリジナルキャラクターで、初代ファリド家当主です。
機体は「ガンダム・アスモデウス」。
この機体も、オリジナルMSとなります。
機体データは、以下の通りです。

ASW-G-32 ガンダム・アスモデウス
全高:20.0m
本体重量:39.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ヴァナルガンド×1
   アームスヴァルトニル×2
   グレイプニル×2
   スラッシュディスク×2
概要
フェンリス・ファリドの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、ファリド家に伝わるガンダム・フレーム。
専用武器として、「ヴァナルガンド」と「アームスヴァルトニル」更に「グレイプニル」が用意されている。
その他、汎用武器の「スラッシュディスク」を肩部に装備する。
ヴァナルガンドは全長25mにもなる長大な槍状のメイン武装であり、基本的にはこれを振り回して接近戦を行う。
先端部分は、バエル・ソードと同じ素材で錬成されている。
グレイプニルは巨大なレールガンで、2基がバックパックに接続されている。
これは、ダインスレイヴ用弾頭の運用が可能。
アームスヴァルトニルは腕部に取り付けられており、全長5mにもなる巨大なカギ爪である。
肩、腰、足が大きく太いのが特徴だが、腕や胴体は平均的なガンダムの太さと変わらない。
また、全身にバーニアを搭載している為機動力はかなり高い。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十二位の悪魔「アスモデウス(アスモダイとも)」から。
アスモデウスは四大悪魔の1体アマイモン配下の東方の悪魔の首座で、72の軍団を率いる大いなる王だとされる。
また、ソロモン王が72体の悪魔を従える際に唯一反抗した悪魔だとも言われる。

クリウス・ボードウィン。
オリジナルキャラクターで、初代ボードウィン家当主です。
機体は「ガンダム・キマリス」で、今回は地上なので「ガンダム・キマリストルーパー」として運用されています。
機体データは公式のと変わり無いですので、そちらをご参照下さい。

クレイグ・オーガス。
オリジナルキャラクターで、「ガンダム・バルバトス」のパイロットです。
私、名字をどこかで聞いた事が有りますねー。
バルバトスに関しては、一応機体データを記載します。

ASW-G-08 ガンダム・バルバトス
全高:18.0m
本体重量:28.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:メイス×1
   ガントレット×2
   マシンガン×1
概要
クレイグ・オーガスの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用されたが、CGSによりアグニカと共に発掘される。
以降は三日月・オーガスの専用機として暴れ回り、「鉄華団の悪魔」として恐れられている。
武装は質量兵器「メイス」と小型盾「ガントレット」が2つ、後は「マシンガン」のみと言う簡素なモノだが、クレイグの戦闘力も有り前線で活躍した。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第八位の悪魔「バルバトス」から。
バルバトスは30の軍団を率いる、伯爵にして侯爵だとされる。

和弘・アルトランド。
オリジナルキャラクターで、「ガンダム・グシオン」のパイロットです。
私、この名字もどこかで聞いた事有りますねー。
グシオンは改修される前の「ガンダム・グシオンオリジン」と言うべき状態ですので、機体データを載せときます。
N-N-Nさんより頂いた案も元に、設定しました。

ASW-G-11 ガンダム・グシオン
全高:18.0m
本体重量:42.1t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:グシオン・ハンマー×1
   グシオン・チョッパー×1
   シザースアーマー×1
   ナックルガード×2
   腕部グレネードランチャー×2
   バスターアンカー×4
概要
和弘・アルトランドの専用機。
グシオン本来の姿、言わば「ガンダム・グシオンオリジン」とも呼ぶべき機体。
300年後には、鉄華団の昭弘・アルトランドの手で「ガンダム・グシオンフルシティ」となり運用されている。
初登場時のグシオンより装甲が薄めで、全身のバーニアにより高速戦闘さえ可能。
グシオン・ハンマー、グシオン・チョッパー、シザースアーマーと近接武器が充実している。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十一位の悪魔「グシオン(グソイン、グサインとも)」から。
グシオンは40の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。

ケニング・クジャン。
オリジナルキャラクターで、初代クジャン家当主になります。
「ガンダム・プルソン」のパイロットです。
プルソンの機体データは以下の通り。

ASW-G-20 ガンダム・プルソン
全高:19.4m
本体重量:30.9t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:レイヴン×2
   レーヴァン×4
概要
ケニング・クジャンの専用機。
ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」に動態保存されている、クジャン家に伝わるガンダム・フレーム。
専用武器として「レイヴン」と「レーヴァン」を持つ。
レイヴンはハンマーであり、とにかくこれで敵を殴りまくってスクラップにする。
レーヴァンは両腕両足に取り付けられた鉄塊で、ハンマーが無くなったらこれらで殴って蹴って倒す。
また、鉄塊を射出してロケットパンチ的な事も。
機動性、強度は平均的なガンダムと変わらない。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十位の悪魔「プルソン」から。
プルソンは、22の軍団を指揮する王だとされる。


月鋼の方で、「ガンダム・グレモリー」が出ましたね。
「オルトリンデ」と同じく詳細は不明ですが、斧の片刃が厄祭戦時に折れたとか…誰に折らせようかなあ。
なお、機体の設定は公式設定との摺り合わせが可能なら行いますのでご了承を。
公式の機体設定が疎ましくなるとは、これ如何に。
手遅れだったら、オリジナル設定としてどこまでも突き進みます。
と言うか、全ガンダム・フレームと全ヴァルキュリア・フレームの情報が詰まった設定集とか出してくれませんかね公式(サンライズ)さん?(チラッチラッ


次回は少しだけ現代に戻って、話を聞く皆様の反応を見たりします。
セブンスターズが全員出揃い次第、ですが。


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#44 秘匿都市ベルファスト

遅れて申し訳有りませんm(__)m
定期更新に戻さねば…。


では、遅れた言い訳を致します。
ガンダムウォーズで逆シャア&閃ハサイベントが開催中でして。
持っていたHi-νガンダムとナイチンゲールにポイントで交換したアムロとシャアを乗せ、周回を続けております。
BGMは「MAIN TITLE」「SALLY」「SWAN」「BEYOND THE TIME」を流しながら。


ベルファスト基地へ入港した俺達は、その応接室でベルファスト基地所属のガンダムパイロット達と向かい合っていた。

既にゲーティア、サロモニスに乗る俺達は自己紹介を済ませている。

 

「では、こちらじゃな。ワシはトム・ダレイニー。この基地でガンダム・フレームを建造した科学者じゃ」

「私は、イーモン・ハットン。トム博士と同じく、ガンダム・フレームの建造に関わった科学者だ」

 

トム・ダレイニーの方は、爺さんことプラージャ・カイエルより年を取っているであろう。

頭から毛は消えており腰もかなり曲がっているが、その眼光は鋭い。

 

もう1人のイーモン・ハットンは、クソ親父やマッドサイエンティストと同年代に見える。

パッとしなさそうでマトモそうなキャラだが、大体こう言うキャラは思考回路がぶっ飛んでたりするんだよなあ。

 

「フェンリス・ファリド、ガンダム・アスモデウスのパイロットだ。撃墜数は――7か」

「クリウス・ボードウィンだ。ガンダム・キマリスのパイロットを担当している。撃墜数は6機だ」

「ケニング・クジャン! ガンダム・プルソンのパイロットだ! 今まで、5機を殴り殺したぜ!」

「俺はリック・バクラザン。ガンダム・ヴィネのパイロットで、4機を刈り殺している」

 

黒髪のイケメンことフェンリス、紫髪のイケメンことクリウス、黒髪のバカことケニング、金髪のそこそこのイケメンことリック。

 

この時には知る由も無いが、後に初代セブンスターズになる者達だ。

 

「――え、次俺? クレイグ・オーガス、バルバトスのパイロット」

「オーウェン・フレッチャー。撃墜はまだしてないが、電子戦なら任せろ。ところで、何か機体は無いか?」

 

オイ、1人機体を失ってんゾ。

後でガンダム・フレームの1機を進呈しなくては。

12機くらい余ってるんだよね、ゲーティアに。

 

「ナトリア・デヴリンよ。ガンダム・フェニクスのパイロットで、天使を3機撃墜していますわ」

「エドゥアルダ・デヴリン…です。ナトリア姉さんの妹で、ガンダム・ハルファスのパイロット…しています…」

金元(かねもと)・カーゾン、ガンダム・マルコシアスのパイロットだぜィ! 2機のMAをシバいて来たぜィ!」

「ドリス・マクソーリー。ガンダム・ストラスのパイロットをしています」

(まさ)()・コナー。ガンダム・オロバスのパイロットをしている」

「ミランダ・アリンガム。機体は――無くしたわ」

 

おや、2機目のガンダム要り用の方が。

ミカエルの襲撃を受けた日本基地と同じような状況に有るこのベルファスト基地で、何が有ったのだろうか?

 

「和弘・アルトランド。グシオンのパイロットをやってる」

「ローズ・ランフランク。機体を無くしたの」

()(ズー)(シュエン)だ。ガンダム・フォルネウスのパイロットをしている」

 

機体を無くしたのは、3人。

生きているのは15人、ベルファスト基地に有るガンダムは12機――6機が撃墜されたと言う事か?

 

「このベルファストで、何が有った? 都市は生き残っているようだが――」

「ああ、私から説明しよう」

 

名乗り出たのは、フェンリス・ファリド。

どうやら、全体を纏めるリーダー的存在のようだ。

 

「MAの襲撃を受けた。しかし、先程の戦闘が我々の初陣となっていてね」

「初陣? 今の今まで、MAがベルファストを嗅ぎ付けていなかったと?」

「ああ。都市と基地の隠匿には、細心の注意を払っていたからな。トム博士の悪知恵…妙案も有り、無事に隠し通せていた」

 

今、悪知恵って言った。

何でこう、科学者ってガンダムパイロットから嫌われてるんだろう。

 

「だが、どうやって嗅ぎ付けたのか――2機のMAが何十機ものMAを引き連れてベルファストを焼き払いに来た。そちら側のデータと照合した限りだと、天使群を率いていたのは『天使長』ザドキエルとハシュマル。戦闘になり、先にザドキエルを後退させる事に成功した」

 

――3人のパイロットと、6機のガンダム・フレームを犠牲にして。

フェンリスは、そう付け足してから話を続ける。

 

「しかし、ハシュマルの後退はさせられなかった。そこへ現れたのが、君達だったと言う訳さ」

「成る程…都市を隠す妙案に付いては置いておくとして、2機の天使長による襲撃か――よく、ベルファストを守り抜いたな」

 

ドワームが、そう賞賛する。

だが、フェンリスは暗い表情を浮かべたままだ。

 

「――まさか。仲間の犠牲の上に得た栄光や賞賛など、栄誉とは言わん。私達は、仲間を捨て石にしなければならなかった」

「―――」

 

全員が黙ってしまう。

その静寂は、手を叩く音によって破られた。

 

「フェンリス、過ぎた事をとやかく言っている場合では無いだろ? 終わった事は終わった事で、過去は変えられない。未来を見据えろよ、未来を!」

「…ケニングの言う通りだ。ここはこう、パーッと歓迎パーティーでもしようじゃないか!」

 

ケニングの指摘を受け、クリウスがそう提案する。

 

「歓迎パーティー?」

「そうさ! せっかく、こんな人数のガンダムパイロットが揃ったんだ。これから連携して行く事を考えても、皆で腹の内を語り明かして親睦を深めないとな!」

「…論理的では有るが――それは要するに、自分の恥ずかしい過去大暴露大会だろ?」

「恥ずかしい過去とか…止めてくれよ」

「アグニカ、顔が曇ってるよ? 何、お漏らしが10歳の頃まで続いたとかそう言うk」

「よーしそこまでだスヴァハ! お願いだから、それ以上言うな!!」

 

こんな感じで、歓迎パーティーが行われた。

その後、バカ騒ぎが行われる事となるのだった。

 

 

 

 

――時は一旦戻り、P.D.0325年。

ギャラルホルン本部基地「ヴィーンゴールヴ」のセブンスターズ会議場でのアグニカの過去話では、ようやくセブンスターズの初代当主達が出揃った。

 

しかし、アグニカが話し始めてから既に数時間が経過していた。

 

「一旦、休憩にしようか。いい加減疲れたしな、休みは必要だろう」

 

アグニカはそう言って、話を切った。

セブンスターズの面々も鉄華団の面々も、まさかここまで話が長いとは思っていなかったようだ。

 

休憩が宣言されるなり、とりあえず全員がトイレへ向かった。

そして、男連中からパラパラと会議場に戻ってき始めていた頃。

 

「話は真実なのですか?」

 

と、いち早く帰って来たジュリエッタがアグニカに尋ねる。

彼女はラスタル・エリオンの付き人として、この会議場でアグニカの話を聞いていた。

 

「ほう? では、ウソではないかと勘ぐった理由は何だ?」

「『アグニカ叙事詩』と内容の異なる部分が、多いように思います。特に酷いのが、スヴァハ・クニギンなる女性について。叙事詩には、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ジュリエッタの指摘を受け、アグニカはこう返す。

 

 

「だって、恥ずかしいじゃん」

 

 

「……………はあ?」

「アグニカ叙事詩はヘイムダルメンバーだった者の1人が原稿を書き、俺が手直ししたモノだ。その時、スヴァハ関連のは消させてもらった。メチャクチャ妄想されて物語が膨らんでたし、割と整合性高くて気持ち悪かったし! 何より、恥ずかしいし!!」

 

そして、アグニカは顔を伏せた。

300年が経った今となってはもういいやと言う悟りが有るが、当時は恥ずかしかったのだ。

 

「――まあ良いでしょう。結論は、最後まで話を聞いてから出させて頂きます。…それはそれとして、ラスタル様の先祖であるドワーム様はどんなお方でしたか?」

「どんな奴、と言われると――艦長のクセにガンダムに乗って前線に出て戦ってる、何かすげーやつって認識だ。MSの操縦技術も一級品だったしな」

「はあ…流石はラスタル様のご先祖様、イオク様とは違いますね」

「何だと!?」

 

挑発を受け、イオクが立ち上がる。

 

「撤回しろ、ジュリエッタ! 未熟な我が身はともかく、ケニング様を侮辱するのは許さぬぞ!」

「未熟過ぎて溜め息も出ませんよ。なら、聞いてみれば良いでは有りませんか」

「…そうか、その手が有ったか! では、ケニング様はどのようなお方で在らせられた!?」

「バカだよ」

 

一言で、全てを片付けられた。

イオクは、絶望したかのような表情を浮かべる。

 

「――イオク様の、ご先祖ですしね…」

「しかし、コイツみたくただのアホではない。頭だけは、フェンリスやドワーム並みに回った。決してアホではないが、バカだ。気持ちの良いバカ野郎だったよ。それに比べて貴様は何なんだ、バカでアホとはもはや手が付けられねェ。せめてどちらかにしとけ、たわけが」

「なぬッ!?」

 

日曜日のたわけ、一蹴。

 

「――クリウス・ボードウィン、か…ついでだ、クリウス様の戦い方を教えてくれ。ボードウィン家では代々、ランスの使い方を教え込まされるのだが…果たして、ガエリオはキマリスを十全に使いこなせているのか?」

 

と、そのように質問して来たのはガルス・ボードウィンだ。

 

「阿頼耶織無しであれなら、充分だろう。人間としては、最高点に程近い。クリウスは人間辞めてたから、参考にはあまり向かないと思うが――もしクリウスの戦闘を参考にするなら、こう言っとけ。『自分を、ダインスレイヴだと思え』」

「――ダインスレイヴ…MSですらない、とは」

「キマリスの設計思想の根本が、『ダインスレイヴは曲がらないから、ガンダムがダインスレイヴになったら最強じゃね?』だからな」

 

などとアグニカが会話している間、別の所は修羅場と化していた。

 

「アグニカの新規写真、増産を急げ!」

「アグニカが語る厄祭戦、DVDと書籍の制作を休むな! すぐに出せるよう、編集と執筆を早よ!」

「一言一句聞き逃す事無く心に刻み、粘土板に書き残すのだ! アグニカの偉業を、数千年後まで伝える為に!」

「アグニカ復活記念とし、PGガンダム・バエルとRGガンダム・バエルを発売するのだ!」

「PGとRGだけとか草バエルわ、SD出さないの?」

「草バエ散らかしてないで手を動かせぇ!! あ、ガシャポン戦士もお願いしますね」

 

アグニ会の会員達は、まさしく修羅だった。

アグニカ復活と言う最大のビッグイベントで、休む時間など無い。

アグニカの姿をその瞳に焼き付け、アグニカの言葉をその心に焼き付け、アグニカの伝説を本と粘土板に書き記し、アグニカの機体をPGで出さねばならないのだ。

 

この時代に粘土板とは、これ如何に。

ここはいつから、メソポタミアになったのであろうか?

 

まさに狂気、まさに盲信。

しかし、これこそがアグニ会である。

角笛(ギャラルホルン)のやべーやつら」「英雄アグニカ・カイエルも畏れるアグニ会」「ダメだアイツら、早く何とかしないと」の異名は、伊達でも飾りでもない。

 

そして、修羅場っているのは勿論アグニ会だけでは無い。

 

「アグニカ叙事詩だけを頼るな! 厄祭戦で分かっている全ての事実を並べ、考察しろ!」

「MAの情報が少なすぎる、まだ有るハズだ!」

「あの破片は、本当にMAの物だったのか!? クソ、解析あくしろや!」

 

などと。

歴史学者や考古学者達もまた、大忙しである。

 

そんな事に感づきながらも、敢えて無視を決め込むアグニカは。

全員が戻って来た事を確認し、話を始める。

 

「現在、午後3時だ。話の進み具合を鑑みるに、今日だけでは話し切れないだろう。残りは明日に回す事になるが、話せる限りは話しておこう。話を聞いたからと言って、貴様らが俺を信じるか否かは――貴様らの判断に、委ねるモノとする」

 

アグニカは頬杖を付き、話を再開した。

 

「しばらく、平和な話になるがな。散々バカ騒ぎした歓迎パーティーの翌日、俺達は秘匿都市ベルファストの街に足を運んだ―――」

 

 

 

 

時は戻り、B.D.0002年。

俺達は、ベルファスト基地のパイロット達から案内を受けてベルファストの都市へと来ていた。

 

「フェンリス、このベルファストはどう言う手段で秘匿されているのだ? 人口はおよそ100万人――MAが、この街を見逃すとは到底思えん。実際の所、コロニー群や圏外圏は悲惨な状況に在ると聞くが…」

 

ドワームが、そう質問を投げる。

 

マザーMAにして四大天使の一角である「ガブリエル」は、現在月面を拠点としているらしい。

具体的には、真っ先にMA…四大天使「ウリエル」の襲撃を受けて更地へと変えられた月面都市の跡地に要塞「百合の花園(ヘブンズフィア)」を築き上げて引きこもりながらMAを生産し続けている。

 

加えて、宇宙(そら)には四大天使たるウリエルがいる。

ウリエルはコロニー群を破壊して回り、最近では大気圏外から火星の地表に在る基地を攻撃したとか。

 

ヘイムダル最後の基地は、まさにその火星の衛星軌道上に存在している。

そして、ガブリエルの月面要塞に攻め込みガブリエルを仕留める為には火星基地のガンダムとの協力は不可欠だ。

 

「このベルファストでは、防衛策を取っている。MAが持つ、センサーのジャミング。センサーを掻き乱す事で、捉えられないようにしている。有効範囲はかなり広くてな、衛星軌道上まで届く」

 

感知を誤認させる事で、探知される事を防ぐ。

単純な作戦だが、なかなか良い案では無かろうか。

 

「――待て。じゃあ、何でお前らは襲撃受けてたんだ?」

 

フォカロルのパイロットであるアマディスが、ドワームに続いて問う。

それに、クリウスが反応した。

 

「問題はそれだ。あのザドキエルとハシュマルが他の天使とは違う『天使長』たる存在だとしても、嗅ぎ付けられる可能性は低いハズなのさ。だから、何か違う要因が有ると思うんだ」

「違う要因、ですって?」

「その通りだ、カロム・イシュー。お前達の話を聞く限り、この地球には今『四大天使』がいるんだろう? 名前は『ミカエル』だったか。日本基地に攻め入ったのなら、このベルファスト基地にも刺客を差し向ける可能性が高い」

 

カロムの言葉に続いたのは、リック・バクラザン。

――リックの言う通り、この地球には奴がいる。

 

現在の地球は、都市が殆どMAによって破壊されている。

しかし、それらの殆どは各経済圏が違う経済圏を潰すべく「煽動屋」を雇ってMAをそこへ誘導した…つまり、人類の自滅に近い理由で破壊された。

 

それ以前の核戦争で放射能汚染が進んでいるが、それを除けば地球は比較的被害が少ない。

MAが理由で命を落とした人間は、コロニーや圏外圏に比べれば微々たる人数だろう。

 

だからと言ってMAがいないかと言えば、断じて否である。

 

四大天使の中でも最強と目される個体、ミカエル。

コイツや他のMAがいて海が汚染されている以上、安寧の地などはどこにも存在していない。

 

「――こう考えると、人類の存亡ってかなり崖っぷちだな。MAを狩る程度じゃどうにもならないんじゃないか、これ」

「その可能性も否定出来ないね…」

 

天使を狩り尽くして人類存亡の危機を解決したとして、その後の世界が平和になるとは思えない。

エイハブ・リアクターや希少なハーフメタル資源の利益を巡って、経済圏同士が戦争を始めるだろう。

 

現在は犬猿の仲である各経済圏を仲良くさせるには――何かしら、抑止力が必要となるだろう。

各経済圏の協力を促し、どれかが裏切った際にはそれを潰せる第三者の存在が。

 

宇宙世紀よりも昔――西暦の時代に於いては、その役割を「国際連合」なる組織が担っていたと聞く。

いや、細かい部分はかなり違うが。

4つの経済圏どころか200に程近い数だった「国」が所属しそれぞれの協力を助け、世界が危険と判断された事態には「国連軍」が動く――それらは後に、統一政府である「地球連邦政府」へと発展して行ったらしい。

 

(この戦いを終わらせたならば、ヘイムダルがその役割を担うか…? 『世界の警察』たる存在に…ガブリエルを倒せたのならば、各経済圏を納得させられるかも知れんしな…)

 

どうやら、戦争終結後の事についても視野に入れておかねばならないようだ。

 

などと俺が色々考えていると、街の広場と思わしき場所で先頭のフェンリスが足を止めた。

 

「では、ここから12:00までは自由時間とする! 時間になったら、この広場へ再集合する事!」

「ちょっと待って、これ遠足!?」

「解散!!!」

「っしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

フェンリスが号令を掛けると共に、全員が広場から目的の場所へそれぞれ向かい始めた。

 

「オイ待て、お前ら打ち合わせでもしてたのか!? 何なの、俺らだけなのハブられてんの!!」

 

広場に残された俺とスヴァハは、ハブられたのか?

いや、俺はともかくスヴァハをハブるな。

 

「悪いなアグニカ、これには深い理由があるんだ」

 

神妙な面持ちで、アマディスが説明を始めた。

それはそれは、とても深い深い理由が――

 

「昨日の夜、スヴァハが酔い潰れただろう? そして、お前はベッドに運ぶ為にスヴァハを背負って宴会場を出た。その時、どこへ行こうかとか日程とか打ち合わせたんだ」

「この理由、深いッ――とでも言うと思ったか!? 深くないわ、浅いわ! この理由、浅いッ! 何なのお前ら、バカ騒ぎしてたクセに真面目に話し合いやがって! そもそも、打ち合わせたならちゃんと教えろよ!」

「悪い、酒に酔って忘れてた。じゃ、オレも行くとこ有るんで…あでぅ。

 

そして、アマディスは街へ消えて行った。

 

「酔っててぐだぐだだったのか真面目に打ち合わせたのか、結局どっちだよお前らァ!!」

「ごめんねアグニカ、私が酔い潰れちゃったせいでこんな事に…」

 

遠ざかるアマディスの背中にツッコんでおき、俺は申し訳なさそうにしているスヴァハに向き直る。

 

「まあまあ、あんなに酒が出て来ちゃ仕方ないさ。――12:00までここにいるのも何だし、適当に街を見て回ろうか。相手が俺で良ければ、だが」

「――あ、うん…ふつつか者だけど、よろしく…」

 

すると、スヴァハは俺の手を握って来た。

少し驚きつつも握り返し、適当に街をフラフラし始める。

 

「…まさか、この時代にこんな都市が残ってるなんてね」

「ああ、全くだ。SAUの首都ニューヤーク、アーブラウの首都エドモントン、アフリカンユニオンの首都ダカール…そして、オセアニア連邦の首都トリントンもMAの襲撃を受けている。そんな中、こんな都市が残っているのは奇跡に近い」

 

街を歩きつつ、スヴァハは感慨深そうにそう言う。

それを返した後、俺はふと脇道を見る。

 

「――繁栄してるかと言えば、そうではないかも知れないがな」

 

大通りから少し離れた所には、他の都市から逃げて来たと思われる貧困者や孤児達が見受けられる。

何年も世界規模の戦争が有った後の、天使による人間狩り――人々は、とっくに疲れ果てていた。

 

すると、孤児達がこちらに気付いたようだ。

2人程が、こっちへ向かって来る。

1人が男の子で、後1人は女の子と思われる。

 

「…どうしたの?」

 

スヴァハの問いに、孤児達は答えた。

 

「「着る物をくれ食べ物をくれ住む所をくれ」」

 

3つ、足りていないモノを要求して来た。

服と飯と家――人間に在るべきモノを、彼らは持っていない。

 

「…どうしよう、アグニカ?」

「と、言われてもな…俺達はこの都市の住人じゃない上に、安全から程遠い立場に有る。物資も必要最低限しか無い。くれと言われても、あげられる余裕が充分にないんだ」

 

何とかしてやりたいのはやまやまだが、俺達とて余裕綽々な訳ではない。

これから火星――圏外圏にも行かねばならず、道中での補給も期待出来ない。

 

食料の余裕は、充分にないのだ。

 

それを聞いて諦めたのか、孤児達は脇道の奥に去って行き――

 

「オイ、ダメじゃん。どうするんだよ、トビー」

「あっさり断られたわよ」

 

――誰かに相談してる。

奥に、孤児達のボスでもいるのか?

 

「…なんで毎度毎度ボクに頼るんだ…諦めて寝ようよ、どうせ無意味なんだから…こんなクソ世界で生き残ってどうするんだよ…疲れたんだよボクは…」

 

なんか、すげー無気力な奴がいる。

男の子…だとは思うが。

 

「…アグニカ、あの子どう思う?」

「子供にあるまじき絶望を抱えておられる――まあ、孤児ともなれば仕方ないかも知れんがな――頼られてるって事はあの中だと優秀なんだろうが、やる気が微塵も感じられない」

 

どうやら、向こうで地面に寝そべっているようだ。

さり気なく立ち去る案を提案しようとしたが、スヴァハはあの孤児達が気になるようなのでしばらく様子を見よう。

 

ヒマだし。

 

「…通りすがりの奴らにそんな事言って、何かされるハズないだろ…ソイツらだって、MAから逃げてここまで来たんだ…服も飯も家も持ってる訳ないだろ…だからもう諦めよう…諦めて土に還ろう…」

「嫌だ! そんなの御免だぞ!」

「そうよ、餓死なんてしたくないわ! どうせならMAに踏み潰された方が、まだ苦しまないわよ!」

 

――あの子、悟ってるな。

他の孤児達が異議を唱えるが、その孤児はそれ以上話すつもりは無いようだ。

 

「―――オイ、お前ら」

「ちょ、アグニカ?」

 

脇道に足を踏み入れ、その寝そべっている子と周りの孤児達に話し掛ける。

 

「――なんだよ? くれない奴に用は無いぞ」

「だろうなあ。そんな奴に構ってる余裕は、お前らには無い。だが――俺達が()()()()()()()()()()?」

 

子供達が、寝そべる奴を除いて目を見開く。

 

「無論、タダでくれてやるつもりは毛頭無い。俺達の仕事を手伝えるのなら、その対価として服も飯も与えられる。家も、場合によってはあげられる」

「…つまり、働けばあげると…?」

「そうなるな。お前達は労働力を俺達に提供し、俺達はお前達に衣食住を与える。当然の等価交換だ」

 

そう提案した俺に、スヴァハが近付いて来る。

そして、こう言った。

 

「――大駕くんみたいに、この子達まで死地に行かせるつもり?」

「…死地には向かわせる事になるかも知れんが、別に大駕みたくガンダムに乗って戦えと言う訳ではない。その辺りは、コイツらの自由意志を尊重する。ガンダムに乗らずとも役に立つ方法は有るし、強制している訳でもない」

 

それに、大駕は望んでガンダムに乗り――悪魔に右腕を取られた。

戦力不足なのは相も変わらずだが、そこら辺で出会った子供達に「ピアス」を埋め込ませてガンダムに乗せる程狂ったつもりはない。

 

「――アンタ、何者(だれ)…?」

「俺の名は、アグニカ・カイエル。天使を狩る組織『ヘイムダル』のメンバーで、ガンダム・バエルのパイロットをやっている」

 

それを聞き、寝そべって話を聞いていたらしい子がこちらに振り向いた。

トリントンでの戦闘も有って、ヘイムダルとガンダムの名はそれなりに売れている――らしいが。

それを知っているこの子は、なかなかの切れ者な可能性が有るな。

 

とにかく、俺は続いて彼らに問う。

 

「さあ、どうする? 俺達はこの後、圏外圏へと旅立つ予定だ。俺達に付いて来てMA共を滅ぼす手助けをするか、ここで平穏に慎ましやかに暮らすかはお前達に任せよう」

 

―――決断を迫られた彼らは、悩んだ。

悩んだ末に………俺達に付いて来る事となった。

 

寝そべっていた子も立ち上がり、俺達は脇道から出る。

 

「―――アグニカ」

「…罵声を浴びせられても、今この場で殴られても文句は言えん。いずれ罰を受けるだろうが――前も言っただろう、スヴァハ。俺達は何としても、あの天使共を根こそぎ殺さねばならない。その為なら、手段を選ぶ余裕など無いとな」

 

いざと言う時に使える人手は、多い方が良い。

如何に罵声を浴びせられ嫌われようと、人類愛より生まれし殺戮の天使は滅さねばならないのだ。

 

しかし――意外にも、彼女から掛けられた声は罵声ではなかった。

 

 

「…ううん、そうじゃない。そうじゃないよ、アグニカ。別に、責めてる訳じゃないんだよ。MAを倒す為に、戦力は多い方が良い。そんな事は分かる。でも―――君は、大丈夫なの?」

 

 

「―――」

 

俺を心から心配するような彼女の問いに――俺は、答える事が出来なかった。

 

 

 

 

12:00。

俺達は、広場に再集合していた。

 

「――アグニカ、スヴァハ。増えてるその子供達について、私は説明を求めるわ。何なの?」

 

カロムが、子供達を指差して言う。

すると、スヴァハが口を開いた。

 

「衣食住を要求して来たから、連れて来た。ヘイムダルで働いてもらえば、何とかなるでしょ?」

「なんだ、お前達の子供ではなかったのか」

「そ、そんな訳ないでしょ! その、色々とおかしいじゃない!」

 

リックの言葉に、スヴァハが慌てて反論する。

リックは冗談を言ったつもりなのか、はたまた本気で言ったのかがよく分からない。

 

まあ、冗談だと思うが…。

 

「――あ。名前、聞いてない」

「ひゃはははは! どうして彼らはこんな所にいるんだ、アグニカ? 彼らは名前すら名乗ってないんだぞ? ダメじゃないか、名前も聞かず連れて来ちゃ!」

「クリウス、キャラが崩壊しているぞ。何かに憑依でもされたか?」

 

突如豹変したクリウスとそれにツッコむフェンリスを差し置き、俺が改めて子供達に名前を聞くと。

 

「ラッセル・クリーズ」

「マリベル・コルケットよ」

「…トビー・メイ…面倒臭い…」

 

ちゃんと答えてくれた。

と言うか、名前が有るだけまだマシかも知れない。

 

「して、午後の予定は? まだ遊ぶ、とかは流石に言わないよな?」

「ふむ――フェンリス、アグニカにベルファスト基地の多忙さをお教えしてあげよう」

「そうだな、クリウス。これより街のカフェで昼食を取り、午後の部を始める。午後の部は男女に別れて、それぞれ目的の場所で楽しむこと。プラン通り回り切ったら、各自で自由行動。早く基地に戻っても良し、しばらく遊んでから戻るのも良し。ただ、20:00までには基地へ帰還する事」

 

――おう、ちょっと待てや。

 

「…まだ遊ぶ気か?」

「まだ遊べる」

「クソコラ画像のネタ素材みたいに言うな! まだ遊ぶのか? この状況で? やる事なんて山ほど有るだろ!?」

「いや、パイロットのやる事は今の所ほぼ無い。ガンダムの整備は、昨晩に技術班が終わらせてしまっているし、現在はそちらの戦艦ゲーティアに大気圏突破用装備を付けている所だ」

 

俺のツッコミに答えたのは、真面目要員のドワームであった。

淡々と、ヘイムダルの現状を述べて行く。

 

「あー、うん。――予想が立って確信した上で一応聞くが、つまり?」

「つまり、我々はここで夜まで遊ぶしかやる事が無い」

「―――もういいや」

 

諦めよう。

今日はもう、遊び尽くすしか無いみたいだ。

 

「…こんなので、MA倒せる?」

「――倒してるわ、一応。ただ、普段はこんな感じよ」

 

呆れたように、カロムがトビーに諭す。

まあ、普段は気さくな奴らだし…。

 

「この子達、どうしよう?」

「ふむ…一緒に遊びたいのはやまやまだが、基地の皆に紹介して部屋とか取って仕事をもらわないといけないからな。すまないが、誰かこの子達を送ってやってくれ」

「――じゃあ、俺が」

 

大駕が手を上げて、志願する。

 

「…良いのか?」

「ああ。…こんな事をしてるより、天使(奴ら)を殺す妄想をした方が有意義だ」

「――向こうで車借りて、送ってあげてくれ」

 

俺の言葉に頷きを返し、大駕は3人組を引き連れて広場から離れて行った。

 

「…本当に、良かったのかな」

「―――さあ、な…あの子達が俺らと出会うのは偶然だったのか、運命に仕組まれた必然だったのか。いつか、分かる日が来るかも知れないな」

 

曲がりなりにも元科学者の俺が、運命なんてモノを考えるのもおかしな話だが。

とりあえず、今回は遊ぶとしようか。

 

――買いたい物とかも、有るしな。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

移動式海上施設、ヴィーンゴールヴ。

「ヘイムダル」の創設者の1人にしてツインリアクターシステムとガンダム・フレームの開発者であるスリーヤ・カイエルは、施設に残った技術者達と共に新型フレーム「ヴァルキュリア・フレーム」を開発していた。

 

既に開発と設計は終わり、9種のヴァルキュリア・フレームがそれぞれ1機ずつ試しに建造される事となった。

そして現在、全てが順調に進んでいた。

 

V01-1228 ブリュンヒルデは建造完了。

V02-1228 ゲルヒルデ、V03-1228 オルトリンデ、V04-1228 ヴァルトライテ、V05-1228 シュヴェルトライテ、V06-1228 ヘルムヴィーゲ、V08-1228 グリムゲルデ、V09-1228 ロスヴァイセは建造中。

 

なかなか悪くないペースだと、スリーヤは自負していた。

 

と、その時。

 

『上空に、エイハブ・ウェーブを確認! この周波数は、MAと推測されます!』

「な、に!? MAが、何故…!」

『不明です! ですが――攻撃姿勢を取っている事は、間違い無いかと!』

 

スリーヤは、大きく舌打ちする。

ガンダム・フレームを引き払った今、このヴィーンゴールヴにMAを何とか出来る戦力は無い。

 

一撃で破壊され、乗組員とヴァルキュリア・フレームもろとも海の藻屑になる結末しか有り得ない。

 

「――ここまで、か」

 

スリーヤの優秀な頭は、この状況が「詰み」だと導き出した。

最後の数秒、何をしようかとスリーヤが考え始めた頃。

 

 

ヴィーンゴールヴの横の海から、赤い光が上空に向けて飛び出した。

 

 

「!?」

『     !』

 

その光は海から出て空を裂き、上空のMA「アラエル」をいとも簡単に撃ち落とした。

 

「――ビーム、だったな…」

 

スリーヤは、自らの想像を超える事態に直面して一瞬の思考停止を余儀無くされた。

 

ビームでは、ナノラミネートアーマーを持つMAに有効なダメージを与える事は出来ない。

にも関わらず、あのビームはMAのナノラミネートアーマーをいとも容易く溶解させ、破壊した。

エイハブ粒子を高速振動させる事で熱を帯びさせ、それを収束して放つビームとあのビームは別物だと考えられるだろう。

 

海中から、ヴィーンゴールヴの危機を救うかのような援護射撃。

恐らく、何かが海中にいる。

何故海中にいて、ヴィーンゴールヴの危機を救うようにビームを撃ったのか。

何か意図が有るとしか思えず、そもそも海中からビームを撃って上空のMAを破壊出来るのか。

 

スリーヤが考え込んでいると、スリーヤの持つタブレットの画面が突如暗転した。

 

「――これ、は…」

 

タブレット画面は暗転したまま、そこに白い文章が綴られ始める。

スリーヤがそれを読み始めたその時――世界の運命は、とあるモノ達によって大きく動き始めていた。

 

 

厄祭戦―――その最終局面で、人類はその存在を再認識する事になる。

 

 

 

 

―interlude out―

 

 




オリジナル設定解説です。

トム・ダレイニー
イーモン・ハットン
「ヘイムダル」ベルファスト基地の科学者。

オーウェン・フレッチャー
ナトリア・デヴリン
エドゥアルダ・デヴリン
金元(かねもと)・カーゾン
ドリス・マクソーリー
(まさ)()・コナー
ミランダ・アリンガム
ローズ・ランフランク
()(ズー)(シュエン)
「ヘイムダル」ベルファスト基地のガンダムパイロット。
名前が全部覚えられない(オイ作者)。
乗ってるガンダムのデータについては、戦闘したらその時に載せます。

SAUの首都について。
本作では、ニューヤークとなっています。
公式では明言されていなかった為、救いようのないガンダム脳からニューヤークを抜擢。
「ニューヨーク」じゃないのかって?
宇宙世紀時代には既に「ニューヤーク」なので、是非もございません。

アフリカンユニオンの首都について。
本作では、ダカールになっています。
こちらも公式で明言されていないので、救いようのないガンダム脳からダカールになりました。
シャアの演説、好きです。

ラッセル・クリーズ
マリベル・コルケット
トビー・メイ
アグニカとスヴァハに拾われた孤児達。
名前が覚えられn(ry

アラエル
お野菜さんより頂いた案を参考に、設定しました。
巨大なブースターと胴体が直結され、翼にスラスターが敷き詰められた高機動型MA。
核爆弾による、一撃離脱作戦を得意とする。
ただし、プルーマは生産出来ない。

謎のビーム
いずれ分かります、とだけ。


アグニカが言っていた国際連合→地球連邦は私個人の勝手な妄想によるモノで、サンライズの公式設定では有りません。


次回「天使長の逆襲」(予定)。
出来る限り早く更新出来るよう、努力致します…。


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#45 ハシュマルの逆襲

「GMの逆襲」を思わせるタイトルですね…。
ボツタイトル案は「逆襲のハシュマル」だったり。
シャアかお前は、と思ったのでボツになりました。

毎回の事ながら、出て来るのは駄文である。
いい加減に駄文を何とかしたいものの、私程度の語彙力ではどうにもならないし出来ないと言う。
何故だ!

???「坊やだからさ」

――誰か、私に文章力と語彙力を下さい。


それはともかく、たくさん頂いている機体の案についてです。
ガンダム・フレームの案は、勝手ながら次回更新までを締め切りとさせて頂きます。
展開上致し方無い措置になりますので、ご了承下さい。
それ以外の案は、引き続き活動報告にて募集致します。


私がアグニカと出会ったのは、私が7歳だった時。

その2年前にお母さんはお父さんに愛想を尽かして家を出て行き、私はお父さんの手で育てられる事になった。

 

お父さんは研究しかしないマッドサイエンティストだったので、必然的に家事は私がやった。

出て行く前のお母さんにやり方は大体教えられていたから、そこまで苦労をする事無く済んだ。

強いて言うなら、お母さんと比べて身体が小さかったからやりにくかったくらい。

 

お父さんは毎日、朝早く出掛けて夜遅く帰って来ていた。

そして、夜な夜な理論の見直しをしながら大声で高笑いをする。

「やっぱりあの人おかしい」と思いながら、私は7歳の誕生日を迎えた。

 

お父さんは完全な親バカなので、私に何かめでたい事が有ると研究をサボって祝ってくれた。

マッドサイエンティスト、それで良いのだろうか?

 

そして、お父さんは研究を完成させた。

学会で発表してもまるで理解されなかったらしくボヤいていたが、「そりゃそうだ、あんなメチャクチャな内容じゃね」とは幼かった私も思った。

 

その頃、お父さんは学会でかつての学友…スリーヤ・カイエルさんと会う機会が有ったらしい。

スリーヤさんのお父さんであるプラージャ・カイエルさんは、MSを造った天才科学者だった。

 

お父さんは、スリーヤさんの研究所へ移籍する事になった。

その研究所は地球に有るので、私はお父さんに連れられて地球の研究所…「ヴィーンゴールヴ」へと行った。

 

 

その時、私は初めてアグニカ・カイエルと言う人物を知った。

 

 

ボサボサでありながら手入れされている炎のように赤い髪、透き通るように蒼い瞳、なかなかに整った顔立ち。

そして、私よりほんの数cm程高かった同い年の彼は正面から私を見据えていた。

 

私は、そんな体験が初めてだった。

今までいた研究所では「マッドサイエンティストの娘」などと言われながら白い目でみられ、生まれつき桃色だった現実味の無い髪も有ってか。

私に構おうとする人は、殆どいなかった。

少なくとも、一時期「グレてやろうか」と思った程には。

 

でも、アグニカ・カイエルは違った。

目を逸らす事無く、初対面の私を見てくれた。

 

だから、私もそれに応えたいと思った。

今まで考えてこそいたものの使った事の無かった、初対面の人への挨拶をシミュレーション通りにやってみる事にした。

 

「ねえねえ! キミ、名前は?」

 

自分が出来る最高の笑顔で、名前を聞いた。

彼は一瞬驚いたが、名前を名乗ってくれた。

 

「アグニカ…アグニカね! 私はスヴァハ・クニギン、よろしく!」

 

自分も名乗り返し、握手すべく手を差し出す。

オドオドしながらも、アグニカは手を差し出して来てくれて――

 

「ゴホーン! 仲が良くなーりそうなーのは素ー晴らしいが、まだ早ーい!! お父ーさんは赦ーしませーんよ!!」

 

握ろうと思ったその時、お父さんに阻まれた。

それから、お父さんはアグニカに突っかかった後スリーヤさんと話を始めた。

その間に、私はスリーヤさんの薦めでアグニカに案内されながら施設を見て回った。

 

それから約11年、私はアグニカと一緒に育った。

 

握った手は温かく、お母さんにも褒められた自慢の料理を食べる姿は愛らしく感じられて。

ガサツで、あんまり器用じゃなくて、時々抜けてるけど…いつも私を気にかけてくれて、辛くても私にはいつも不敵な笑顔を見せてくれる。

 

彼が私に取って、特別な存在になったのは――いつだったか。

 

 

 

 

翌日。

ヘイムダルのベルファスト基地では、俺達のバージニア級戦艦1隻と共に宇宙(そら)へ出るメンバーの選定が行われた。

このベルファストを守る戦力を、全て火星へ向かわせる訳には行かないからだ。

 

結果、俺ことアグニカ・カイエルとスヴァハ・クニギンは宇宙行き。

他のメンバーは、日本基地メンバーからカロム・イシュー、アマディス・クアーク、ドワーム・エリオン、ミズガルズ・ファルク。

ベルファスト基地メンバーからフェンリス・ファリド、クリウス・ボードウィン、ケニング・クジャン、リック・バクラザン、クレイグ・オーガス、和弘・アルトランド。

 

以上の12人で、火星へ向かう。

残ったメンバーは、地球を廻ってMAを撃破するチームとベルファストを守るチームに分かれて行動をして貰う事になっている。

 

「じゃあ、出発準備を――」

『総員、第一種戦闘配置! 北極方面より、MAが接近中!』

 

――ですよね。

やっぱり来ちゃうよね、MA。

 

「どう言う事じゃ、この都市は見つからぬハズ…」

「――何か、有るとしか考えられませんが…残留組は、敵の迎撃を頼む! 火星行き組は、出発準備でガンダムを動かせん!」

 

地球へ残る組が、ガンダムを出撃させて行く。

俺達火星組は、ブースターを付けたゲーティアにガンダムを載せた後の為ガンダムを出撃させられない。

 

『敵は1機だが、気を付けろ! 敵は「天使長」ハシュマルだ! 何としてでも、マスドライバーを死守せよ!』

 

ゲーティアを宇宙へ上げるには、ベルファスト基地に建造されたマスドライバーが絶対に必要だ。

それを破壊されれば、火星行きは先延ばしになってしまう。

 

特にMAが多い圏外圏では、行くのが遅れれば遅れる程MAの数は増えてしまう。

月からは今も、新しいMAが出て来ているのだ。

 

「我々はこのまま、出発準備を続ける!」

『了解!』

 

外は仲間に任せ、俺達は火星への出発準備を続ける事とした。

 

 

 

 

『        !!』

 

ハシュマルの口が開かれ、ビームが放たれる――直前。

漆黒の獣のようなガンダムが、ハシュマルを蹴り飛ばした。

 

「MA――殺す」

 

グラシャラボラスはハシュマルへ追撃を掛けようとするも、ハシュマルの超硬ワイヤーブレードに弾かれて宙を舞う。

続いて、ハシュマルにはガンダム達の攻撃が突き刺さる。

 

「おーっほっほっほっほっほっほっほ!! させませんわ、愚かな鳥さん!」

「ね、姉さん…挑発し過ぎると、敵が…」

 

ガンダム・フェニクスとガンダム・ハルファスの攻撃。

その後ろには、日本基地で建造されたガンダム達に加えてガンダム・ブエル、ガンダム・マルコシアス、ガンダム・ストラス、ガンダム・オロバス、ガンダム・マルバス、ガンダム・フォルネウスが控えている。

 

『       !』

 

圧倒的不利な状況の中、ハシュマルはプルーマを生み出しながらガンダム達に吶喊した。

 

 

 

 

ゲーティアの艦長席に座る艦長は、オペレーターから報告を受けていた。

 

「ハシュマルとガンダム、戦闘に入りました」

「そうか。では、出航準備だ」

「――はい?」

 

艦長の言葉に、ブリッジクルーが首を傾げる。

 

「イーモン殿、よろしいですな?」

『――分かりました。マスドライバーの射出準備は完了しています、いつでもどうぞ』

「感謝する」

「ちょ、待って下さい!」

 

副艦長が、艦長に異議を唱える。

 

「この状況でマスドライバーを使うと!? そんな事、墜として下さいと言っているようなモノd」

「ああ、その通りだ」

「では何故、現在出航するなどバカげた事をするのですか! お待ち下さい、しばらくすればカタが付いて安全になります!」

「――それは、何分後だ?」

 

あくまでも安全策を取る副艦長に、艦長は問う。

 

「あのハシュマルが片付くのは、何分何秒後だ? 何時何分何秒、地球が何回回った時だ?」

「…小学生みたいな事を言ってないで、早く中止をして下s」

「答えられぬなら、そんな要求は呑まん。今この瞬間も、ガブリエルはMAを生み出している。MAが1機増えれば、それだけ人間の犠牲も増える。このゲーティアの出航予定時刻は、午前10時32分30秒。今は、午前10時31分46秒。無駄口を叩いているヒマが有るなら、出航準備をしろ。無駄に使える時間は無い」

「しかし、この状況では――」

 

譲らない副艦長に、艦長はこう言った。

 

()()()()()()()? 人類に余力が無い以上、我々が止まる事は赦されない。予定は守る。一刻も早く、ガブリエルを破壊せねばならないのだからな」

 

などと話している内に、ゲーティアはマスドライバーのカタパルトに固定された。

 

「大気圏突破シークエンスを開始します。マスドライバーへの電力供給、異常無し。マスドライバー、点火!」

「ゲーティア、出発!」

 

マスドライバーが動き出し、ゲーティアが基地施設から飛び出す。

 

『     !』

 

それを見たハシュマルは、顔をマスドライバーに向けてビーム砲を開く。

 

「させねぇよ!!」

 

ガンダム・マルコシアスが、巨大な斧を振り上げてハシュマルの頭に叩き付ける。

下に頭を向けさせられたハシュマルは、ビームを吐き出しながらもワイヤーブレードでマルコシアスを吹き飛ばす。

 

「チィ!」

「甘いですわよ!」

 

ガンダム・フェニクスの左手に取り付けられたアーマーが開き、高速振動してハシュマルを穿つ。

 

『       !』

 

ハシュマルの下部からプルーマが飛び出し、マスドライバーの支柱を破壊すべく海上を駆ける。

しかし、そのプルーマは狙撃されて破壊される。

 

「殺す、殺す殺す殺す殺す…!」

 

全身に傷を負ったハシュマルに、目を赤く輝かせたグラシャラボラスが襲い掛かる。

グラシャラボラスはハシュマルの頭を掴んで引きちぎり、テイルブレードで2枚の羽を斬り落とす。

 

『      !!』

 

ハシュマルとて、ただではくたばらない。

2本のアームを上に跳ね上げ、グラシャラボラスを潰そうとする。

そのアームは1本がフラウロスのダインスレイヴに吹き飛ばされ、もう1本はヴァッサゴに破壊された。

 

「死、ねよ――ゴミが」

 

グラシャラボラスの牙が、ハシュマルのコンピューター部を咬み千切る。

 

『    、     ――』

 

機能停止を余儀無くされたハシュマルが最期に捉えたのは――飛行機雲を引き、宇宙(そら)へ上がって行くゲーティアの姿だった。

 

 

 

 

衛星軌道上に飛び出したゲーティアは、ブースターを分離して軌道を修正する。

 

『大気圏突破シークエンス、成功。終了し、火星基地への進路を取ります』

『ああ…皆、よくやってくれた』

 

艦長とオペレーターのやり取りを艦内放送で聞きつつ、俺はヘルメットを外してスヴァハに続いてパイロットの待機部屋から出る。

そして、外が見えるようになっている通路へ行く。

 

「――わあ、凄い…これが、地球なんだ…」

「…らしいな。やっぱり、写真(データ)とは大違いだ」

 

窓の外には、青と白で彩られた星が見える。

何年も核戦争で行われて汚染された後、MAの登場で各地が更地となってなお――全ての生物の母たる地球は、美しく輝いている。

 

俺もスヴァハも、ずっと海上移動研究所たるヴィーンゴールヴで過ごして来た。

マッドサイエンティスト曰く、スヴァハは物心つく前に見た事が有るらしい。

だが、十数年経った今本人は覚えていないとか。

 

『では、予定通りに。バルバトスとグシオンは、コクーン設置の作業を。他のパイロットは、命令が有るまで待機』

 

艦長の指示が、艦内に流れる。

 

コクーンとは、エイハブ粒子の電磁波障害に対応出来るよう造られた長距離通信用の中継機だ。

現在は何らかの外的要因により、各経済圏の設置した通信機器が使い物になっていない。

通信妨害の要因は、恐らくそう言った機能を持つMAによるモノだろう。

 

このような理由から、各経済圏は植民地であるコロニーや火星、他の経済圏との通信を行えない状況にある。

その為、コロニーや火星の被害状況は地球で正確に把握する事は出来ない。

各経済圏は調査隊も送っているが、その殆どが帰って来ていない事から圏外圏がMAの跳梁跋扈する地獄と化している事は想像が付く。

 

このコクーンは、エイハブ粒子の影響を受けないレーザー通信システムであるLCS通信の中継機と言う事だ。

それもただのコクーンでは無く、電子物理を問わず一切の干渉を受けないよう設計された特別製のコクーン。

 

これを大量にバラまき、ヘイムダル独自の通信航路管制システム「アリアドネ」を造りあげる。

それにより、各経済圏の協力と安全な通信、航海を実現するのがヘイムダルの狙いだ。

 

その1機目をこの衛星軌道上に配置する為、今まさにバルバトスとグシオンが作業に当たって――

 

「――スヴァハさん。何ですか?」

「何ですか、って――言わせないでよ…は、恥ずかしい、から…」

 

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「スヴァハに 背後を取られたと思ったら そのまま抱きつかれていた」

な… ()()()()()()()() ()()()()()()()()() ()() ()()()()()()() ()()()()()()()()

頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

 

――落ち着け俺、アグニカ・カイエル童貞19歳。

俺はアグニカだ、断じてポルナレフではない。

深呼吸だ深呼吸、煩悩絶つべし。

 

「――すいません、スヴァハさん。童貞の俺には、こんな状況の対処法が分からないんですが」

「…そこは、『どうしたんだ?』って聞く所じゃない?」

「な、成る程。どうしたんだ、スヴァハ」

 

声が上擦っていたが、俺はそんな事を気にする余裕が無い。

鼻孔を刺激するスヴァハの匂い、首筋に触れるスヴァハの髪、背中に当たるスヴァハの胸などの情報を整理出来ずにパニクっている。

 

「――ゴメン、何の理由も無い。ただ、アグニカの存在を確かめたくなったんだと思う…」

「んん? 変な奴だな…俺はここにいるぞ?」

「…うん、分かってる。――でも、怖いんだ。このままだと、だんだんアグニカが遠くなって行く気がして……」

 

――そう、なのだろうか?

距離を取ってるつもりは無いし――むしろ近付きたいくらいなんだけどなあ。

 

すると、スヴァハが俺から離れた。

 

「…ゴメンね、変な事しちゃって。それじゃ――」

 

そう言い残して、スヴァハは俺に背中を向けてパイロットの待機部屋に戻って行く。

 

「―――」

 

無心で俺は右手を伸ばし、スヴァハの左手を握る。

 

「……どうしたの、アグn――」

 

そのままスヴァハを引き寄せ、正面から柔らかい身体を抱き締めた。

――何故そうしたのか、と言われても返答に困る。

ただ、このまま別れてはいけないと言う直感が俺の身体を突き動かしたかのようだ。

 

幸い、スヴァハは嫌がらずに俺の胸に顔をうずめながら腕を俺の背中に回して来た。

 

「―――」

「………」

 

互いに顔を赤らめたまま、無言で抱き締め合う時間がしばらく続いて。

ふと顔を上げたスヴァハと目が合うと、スヴァハはそっと目を閉じた。

 

そして、どちらからともなく顔が近付いて行き――

 

 

「何をしーているんだ貴ー様はああああああああああああああああ!!!」

 

 

――突如、マッドサイエンティストが乱入。

 

「あべし!」

 

俺はマッドサイエンティストの科学者らしからぬ蹴りで吹き飛ばされ、反対側の壁へ叩き付けられた。

 

「ア、アグニカー!?」

『チッ!!』

 

あっれー、おかしいな。

スヴァハのモノともマッドサイエンティストのモノとも違う、何人かの舌打ちが聞こえて来た気がするなー。

 

などと激痛に悶絶しながら思っていると、マッドサイエンティストが近寄って来て俺の襟元を掴む。

そのまま、科学者らしからぬ腕力で俺を持ち上げて突っかかって来た。

 

「何ウーチのスヴァハに手ーを出してるのかーねアグニカ君! 艦ー長に呼ばーれてブリッジーに行こうーと通りがかーったらこーれだ、フザーケているのーかね!? ぶっ殺されーたいのかーね!?」

「いやあの、俺のせいじゃないけど!? 確かに正面から抱き付いたのは俺だけど、最初に後ろから抱き付いて来て胸とか押し当てて来たのスヴァハなんだけど!? あの時ポルナレフ状態になって理性を留めた俺のファインプレー、ちょっとは鑑みて下さいよ!?」

「問ー答無ー用!! 何ーにせよ、今君がスヴァハとキスーしよーうとした事ー実に変わりはなーい! そしーて、それは断ー罪の対象であーる! さあ、お前の罪を数ーえろ!! 何ー回だ、今まーでに何ー回キスしーた!?」

 

やべえ、このマッドサイエンティストったら人の話を聞かない系だ。

怪しい研究の実験動物(モルモット)にされそうだな、非常にマズいぞ。

 

「してない、してないから!」

「ええー、ホントにござるかぁ?」

「煽って来やがる、このマッドサイエンティスト! 本当だ、真実だ! スヴァハは清廉潔白な未使用品です!」

「なーらば良い。使ーわせる予ー定は無いーがな」

 

そう言って、マッドサイエンティストは念を押すように俺を睨んでから手を離した。

 

「――お父さん(悪の科学者)、そこまでにしといた方が良いよ。じゃないと、後10年口聞かないよ」

「すみませんでした、やり過ぎました」

 

マッドサイエンティストが変な所を伸ばす怪しい口癖を忘れて、スヴァハに土下座を敢行している。

父親は娘に勝てない、これは遥か古代より不変な世界の真理そのものである。

 

「だったらさっさとブリッジに行って。艦長に呼ばれてるんでしょ?」

「その通りです。では、さらーば」

 

別れの挨拶を済ませ、マッドサイエンティストはブリッジへ繋がるエレベーターに走って行った。

 

「大丈夫、アグニカ? ゴメンね、ウチの父親(バカ)が…」

「いや、大丈夫だ。ありがとう」

 

しかし、マッドサイエンティストのせいでムードはぶち壊されてしまった。

せっかくのチャンスだったのになあ…。

 

「――フォカロルの改修作業、手伝いに行くか。マッドサイエンティストが抜けたから、埋め合わせないとな」

「う、うん…そうだね」

 

名残惜しく感じつつも、俺達はMSデッキへと向かうのだった。

 

 

 

 

第一コクーンの設置を済ませ、ゲーティアは火星へ向かい出発した。

火星までは、およそ1ヶ月掛かる。

しかし、その道のりの最中には幾つかのコロニー群が存在する。

 

――いや、していたと言うべきか。

 

「――酷い」

「全く、見る影さえ無いな」

 

コロニー群は、完全に壊滅していた。

コロニーのミラーとバラバラになったコロニーの外壁が、その宙域に浮遊するだけだ。

 

「コロニーは構造上脆い建築物とは言え、ここまでバラされているとは異常さが有るな…」

「お前もそう思うか、ケニング。俺も同じ意見だ」

 

ケニングとリックが、漂う残骸達を見ながら意見を述べる。

それを受け、俺はとあるMAを連想した。

 

「――どうしたの、アグニカ。何か気付いた?」

「いや、ちょっと推測を立ててた。この残骸共、おかしな所が有る」

「おかしな所だと? ――ん?」

 

フェンリスが、何やら感づいたようだ。

 

「気付いたか、フェンリス。()()()()()()()()()()()()()だろ、これ。エネルギーの無駄使いと言わざるを得ない。コロニーの住民を殺したいなら、MAご自慢の武装で外壁に穴を空ければそれで事足りる。コロニーをバラバラにする理由が無い」

 

外壁がナノラミネートアーマーだったりする事は無いので、MAなら壊す事は容易い。

ビーム砲は元より、MAの質量なら体当たりを掛けるだけでも破壊出来る。

 

ミラーを全て割り、外壁をバラバラに粉砕するなど徒労や無駄以外の何モノでもない。

 

よって、この凄惨な破壊振りから推測される――犯人は。

 

「『四大天使』――MA、ウリエルか」

「恐らく、な」

 

そうでもなければ、ここまでの破壊は出来ないだろう。

コロニーも各経済圏の植民地なので、防衛軍も駐屯していたハズだ。

それを蹴散らし、コロニーを粉砕したのは「無差別破壊」を特殊能力として持つ「四大天使」――ウリエルの可能性が高い。

 

「戦闘になる、なんて事は――無いわよね?」

「さあな。知っての通り、MAは神出鬼没だ。出現を予想出来るなら、人類はここまで被害を被っていないさ」

 

とりあえず、ここにも「コクーン」を設置する。

コロニーが有るのはラグランジュポイントなので、軌道が逸れる事は無いだろう。

 

そうして、幾つかのコロニー群跡地を巡ってコクーンを設置し。

ゲーティアは火星圏――圏外圏へと侵入した。

 

 

 

 

侵入するや否や、ゲーティアの正面から宇宙戦艦が接近して来た。

 

「…前方より、接近する艦艇が有ります。光信号を発しています」

「光信号だと? …SOS? しかし、あれは――」

 

――ハーフビーク級宇宙戦艦だ。

数は2隻、救援要請をして来ている。

 

ハーフビーク級は、各経済圏の宇宙艦隊で制式採用されている主力級戦艦だ。

各経済圏にはそれぞれ1隻ずつ、宇宙艦隊の旗艦たる超大型戦艦「スキップジャック級」が存在している。

ハーフビーク級はそれより二回り程小さいが、最も建造数の多い戦艦。

MSも積載可能で、装甲も分厚い優秀な戦艦になる。

 

「戦艦から通信です」

「開け」

 

艦長の指示で、通信が開かれる。

ゲーティアのモニターには、科学者めいた人物が映った。

 

「こちら、対MA戦闘組織『ヘイムダル』所属戦艦ゲーティア。艦長の、ルベルト・ノアである。貴艦の情報公開を求める」

『――そうか、お主らが地球からの…私はウィリアム・ウェストコット。「ヘイムダル」火星基地の科学者だ』

 

火星基地の科学者だと名乗った男は、ひとまず合流する事を求めた。

そうして、地球から来たバージニア級はハーフビーク級と合流し状況を説明された。

 

大まかな内容はこうである。

ヘイムダル火星基地「アーレス」は、謎の組織に襲撃を受けた。

3隻建造されていたハーフビーク級の1隻を強奪され、基地は司令室を含めた全域が制圧された。

当時基地にいたガンダムとハーフビーク級2隻で職員は基地を脱出し、ここまでやって来たと言う。

 

もう1人の科学者はその際に殺され、パイロットは数人が捕虜とされ、ガンダムは3機が強奪されたらしい。

 

「――ではまず、基地を奪い返す所からか」

「そうなるな」

「――質問、良いか?」

 

俺は手を挙げ、許可を取ると。

 

「圏外圏での戦況は、どうなってる? 地球から火星に来るまで、一度もMAと抗戦していないが」

 

と、博士に質問した。

 

「この圏外圏では、多くのMSが戦線に投入されておる。ロディ・フレームやヘキサ・フレームを始めとして、ダインスレイヴを使うMSも少なくない。宇宙でのMA戦は、大量のダインスレイヴによる面制圧によるモノが多いからな。地球に比べれば、撃破難度は低くなる。ガンダム・フレームの必要性も、地上程高くない」

 

地上での戦闘はMSによる接近戦、宇宙での戦闘はダインスレイヴによる遠距離戦。

それが、現在の戦闘セオリーである。

 

ダインスレイヴは、ガンダム・フレームが完成する直前に完成した遠距離狙撃兵器だ。

都市、地形への影響が懸念される地上では使われる事がまれだが、その心配が無い宇宙では主戦力となっている。

ロディ・フレーム、ヘキサ・フレームなどの量産機にも装備可能な為、とりあえず数を揃えて面制圧する事でMAを撃破出来る。

 

最も、相手が「天使長」になると撃破は困難。

「四大天使」ともなれば、傷を付けられるかどうかと言った所だが。

 

つくづく、四大天使とは恐るべき敵だ。

 

「とにかく、だ。基地の奪還をしなければな」

 

ドワームが、そう方針を提案する。

異議の有る者は、いない。

 

そうして、アーレスへ乗り込む事が決定した。




オリジナル機体&設定解説。
一気にベルファストのガンダムを紹介し切るので、お覚悟を(すみません)。
活躍はこれから、と言う事になりますが。


ASW-G-37 ガンダム・フェニクス
全高:19.0m
本体重量:30.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:フェニクス・ランサー×1
   フェニクス・アーマー×1
   レールガン×2
概要
ナトリア・デヴリンの専用機。
ガンダム・ハルファスとの同時運用を想定して開発された。
装甲は通常のガンダムより分厚く小回りが効きにくいものの、各所に追加されたバーニアと背部ウイングバインダーにより機動性はかなり高い。
白と赤のツートンカラーに塗られている。
専用武器として「フェニクス・ランサー」と「フェニクス・アーマー」、汎用武器として「レールガン」…別名「ダインスレイヴ」を持つ。
フェニクス・ランサーはレアアロイで錬成されており、斬撃武器もしくは打撃武器として使用可能。
フェニクス・アーマーは僅かな宇宙世紀時代の文献から製作された、超振動破壊兵器。
普段は畳まれて左腕に装備されるが、使用時は4つに分かれて展開し刃を超振動させて敵を粉砕する。
宇宙世紀時代には「アームド・アーマーVN」と呼ばれていたらしいが、攻撃力と振動数はオリジナルのそれに及ばない。
レールガンは両肩に取り付けられており、開幕でダインスレイヴ専用弾頭をぶっ放した後は通常弾頭とフェニクス・ランサーを使って接近戦を行う。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十七位の悪魔「フェニクス(フェニックス、フェネクスとも)」から。
フェニクスは、大いなる公爵だとされる。
飛鳥さんと赤くて3倍な彗星さんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-38 ガンダム・ハルファス
全高:19.0m
本体重量:28.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ハルファス・ブレード×2
   ライフル×2
   有線式レアアロイブレード×4
概要
エドゥアルダ・デヴリンの専用機。
ガンダム・フェニクスとの同時運用を想定して開発された。
バックパックのウイングバインダーにより高機動を実現しており、その速度はバエルに迫る程。
白と紫のツートンカラーに塗られている。
専用武器として「ハルファス・ブレード」「ライフル」「有線式レアアロイブレード」を持つ。
ライフルはハルファス・ブレードを装備可能で、2丁が標準装備となる。
近接戦時のブレードを外しての戦闘はもとより、ブレードは付けたまま刃を展開する事も可能。
有線式レアアロイブレードはウイングバインダーに4基内蔵されており、阿頼耶織による制御で高速機動する。
原理としては、天使長以上が装備する「ワイヤーブレード」と同様である。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十八位の悪魔「ハルファス(ハルパス、マルサスとも)」から。
ハルファスは26の軍団を率いる、地獄の伯爵であるとされる。
飛鳥さんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-10 ガンダム・ブエル
全高:18.1m
本体重量:31.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:アガリアレプト×1
   マシンガン×2
   アサルトナイフ×4
概要
オーウェン・フレッチャーの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用され、ガンダム・フレームの中でも悪用が許されない機体。
バックパック「アガリアレプト」が印象的な、紫系の色で纏められた機体。
アガリアレプトは8本のサブアームを纏めたバックパックであり、サブアームの先にはビーム砲が内蔵されている。
本体はマシンガン2丁とアサルトナイフ2本、足裏に仕込まれたアサルトナイフ2本だけと言うシンプルな武装となっている。
アガリアレプトには「フォールダウン」なる特殊兵装が組み込まれており、悪用が許されない理由はこの兵装に有る。
フォールダウンは言わばコンピューターウイルスの解析、対応、製造を行えるシステムである。
敵MAの一部が持つコンピューターウイルスに対抗すると共に、敵MAのコンピューターをウイルス感染させる事すら可能となる。
ただし、天使長以上のMAには効果が無い。
悪用されれば全世界が混乱に陥る事も有る為、この機体は常に厳重管理されている。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十位の悪魔「ブエル」から。
ブエルは50の軍団を率いる、地獄の大総裁だとされる。
N-N-Nさんより頂いた幾つかの案を参考に、設定しました。

ASW-G-35 ガンダム・マルコシアス
全高:18.8m
本体重量:38.3t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ギガント・アックス×1
   ギガント・パイルバンカー×2
   インコム×2
   サブギガント・アーム×2
   ミスティルテイン×2
概要
金元・カーゾンの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用されたガンダム・フレーム。
背部の翼に似た巨大バックパックと、足に取り付けられた巨大バーニアが特徴。
ギガント・アックスは巨大な斧で、主武装となる。
ギガント・パイルバンカーは、両腕に取り付けられた連打機能付きの巨大パイルバンカー。
インコムは翼に付けられた有線式のファンネル。
弾は実弾方式が取られており、これでプルーマを撃破しながら接近戦に持ち込む。
サブギガント・アームは、翼に内蔵された巨大なサブアーム。
ただ、補助用では無くこれで殴りまくる。
小型バーニアを付けられている他、二の腕にはチェーンソーが外付けにされている。
ミスティルテインは、小型のレールガン。
小型の為ダインスレイヴ専用弾頭は運用出来ないものの、通常弾頭でも充分な攻撃力を持つ。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十五位の悪魔「マルコシアス」から。
マルコシアスは30の軍団を率いる、地獄の侯爵だとされる。
ツチノコさん、Astray Noirさんより頂いた案を合わせて設定しました。

ASW-G-36 ガンダム・ストラス
全高:18.9m
本体重量:33.7t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ストラス・ルークソード×1
   ストラス・ランサー×1
   ガントレット×2
   ティルフィング×2
概要
ドリス・マクソーリーの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用されたガンダム・フレーム。
機体の見た目に大きな特徴は無いが、全身にバーニアが内蔵されており機動力がかなり高い。
ストラス・ルークソードは、剣型と弓型に変化させられる専用武器。
剣型での近接戦は言うまでも無いが、変わった所はやはり弓型になる所。
弓型では試作型ダインスレイヴとしてダインスレイヴ専用弾頭を運用可能な他、ブーメランとして投げる事も可能。
ストラス・ランサーは、フェニクスが持つ「フェニクス・ランサー」と同型の物。
ティルフィングは腰部に接続されたレールガンで、ダインスレイヴ用弾頭が運用出来る。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十六位の悪魔「ストラス(ストロス、ソラスとも)」から。
ストラスは26の軍団を率いる、地獄の大君主だとされる。
鮭ふりかけさんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-55 ガンダム・オロバス
全高:18.4m
本体重量:44.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ソード・ショーテル×2
概要
雅斗・コナーの専用機。
フレームの露出部分の無い重装甲で有りながら高機動のジ・Oタイプで、乱戦を得意とする。
武装は巨大なソード・ショーテルを2本装備するのみだが、充分な戦闘力を発揮する。
内部温度が上がりやすい為、全身の至る所に排熱用の排出口が配置されている。
排出口と同じく全身にバーニアが有り、高機動を実現している。
悪魔オロバスの誠実さから、対価無しで悪魔の力を最大限振るえる事も高機動の所以である。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十五位の悪魔「オロバス」から。
オロバスは20の軍団を率いる、地獄の君主だとされる。
パニックさんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-05 ガンダム・マルバス
全高:18.0m
本体重量:32.6t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ケーニヒス・ティーゲル×1
   セシル&ローズ×1
   クロー×2
   肩部小型ビーム砲×2
概要
ミランダ・アリンガムの専用機。
漆黒と黄金の機体色が特徴的で、MAの破片を再利用出来ないかをテストすべく開発された。
ケーニヒス・ティーゲルはダインスレイヴに加速装置を増設したモノだが、フラウロスのような照準機能を搭載しないので命中率はあまり高くない。
セシル&ローズは専用のダブルピストルで、肩にはビーム兵器が装備されている。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五位の悪魔「マルバス(バルバスとも)」から。
マルバスは36の軍団を率いる、地獄の大総裁だとされる。
一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-30 ガンダム・フォルネウス
全高:17.9m
本体重量:34.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:伏龍×1
   臥龍×1
   チェーンマイン×1
   高周波振動ナイフ×2
概要
()(ズー)(シュエン)の専用機。
水中でも使用可能で、装甲は分厚め。
右手の「伏龍」はショットガンで、敵の装甲を傷付ける為に使用される。
左手の「臥龍」は小型のレールガンで、ダインスレイヴ弾頭の運用も可能。
伏龍で敵の防御力を落とし、臥龍で一気に貫く戦法を得意とする。
チェーンマインは最大で20発、高周波振動ナイフはナノラミネートアーマーをも切断可能である。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第三十位の悪魔「フォルネウス」から。
フォルネウスは、堕天使の29軍団を率いる侯爵だとされる。
ドラゴンノーツさんより頂いた案を元に、設定しました。

アリアドネについて。
MAによって既存の通信が使えなくなったから、ヘイムダルが独自に設置したと言う事に。
オリジナル設定です。

ダインスレイヴについて。
造られる時期は語られてなかったので、オリジナル設定として決めました。
運用方式については、双葉社より出版されている「機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ メカニック&ワールド弐」での記述を参考にしました。
この本はかなり面白いので、是非とも一度読んでみて下さい(販促)。

ルベルト・ノア
バージニア級戦艦「ゲーティア」の艦長。
名字は作者の趣味ですので、意味は有りません。

ウィリアム・ウェストコット
「ヘイムダル」火星基地の科学者。
名前は魔術結社「黄金の夜明け団」の創始者の1人である魔術師「ウィリアム・ウォン・ウェストコット」から取りました。


今回は書きながら二、三度壁を殴りました。
次回は火星の衛星軌道上にある「アーレス」奪還作戦です。

爆発しろ


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#46 アーレス奪還作戦

壁を殴り過ぎて手が痛いです。
何故って?
今回の話をお読み頂ければ、分かるかと。


友人にゲームのガチャを一度引かせた所、ペーネロペーが出ました。
なんでさ。


ゲーティアとハーフビーク級2隻は、強奪された火星基地「アーレス」をセンサー圏内に捉えた。

 

ゲーティアの作戦室には机が設置され、ガンダムパイロット達と艦長、科学者達が揃った。

これより、作戦会議が開始される。

 

艦内にテンポの良い曲が流される中、ドワームは机の前に立ち。

 

「火星基地アーレスは、ヴィーンゴールヴ程では無いにせよ巨大だ。武装も幾つか備えられており、正面から戦艦で攻めるのは自殺行為。違う案を取らねばならない」

 

ドワームはアーレス周辺の地図を呼び出し、どこからか取り出したチェスの駒――キングを、ゲーティアの現在地に置く。

 

「ここが現在地だ。まず、カラドボルグに並ぶゲーティアの特殊砲撃武装を以てアーレスに攻撃する。アーレスの外壁にはナノラミネートアーマーが使われているから、沈みはしない。あくまで、敵の注意を引き付ける事が目的となる」

 

続いてドワームはポーンを取り出し、ゲーティアとアーレスの間に置く。

 

「間髪入れず、MSで強襲を仕掛ける。沈ませない程度にアーレスを揺るがし、敵に危険だと思わせる。そして、これが本命」

 

ドワームは最後にクィーンを取り出し、アーレスに叩き付ける。

 

「奇襲部隊をアーレスに侵入させ、司令室を速攻で奪還する。それさえ出来れば、司令室から基地施設を操作して強奪されたMSや戦艦を奪還可能。出来ずともアーレスからの砲撃を止めさせれば、ゲーティアとハーフビーク級で一気に乗り込める」

 

そこまで説明をし、ドワームは息を吐いて。

 

「大まかな作戦は以上だ。異議の有る者は?」

 

――いない事を確認し、ドワームは表示されている地図を片付ける。

次にクィーンの駒を、アグニカに投げ渡した。 

 

「火星基地の面子を含めた奇襲部隊の指示はお前に任せるぞ、アグニカ」

「俺か。何故?」

「お前には、指導者の素質が有る…気がする」

「勘かよ」

 

ボヤきつつも、アグニカはウィリアム博士にアーレスの設計図を見せるように要求。

博士はレトロな紙の設計図を取り出し、机の上に広げる。

 

「ここに隠し通路が有る。そこを通れさえするなら、司令室に直行出来るハズだ」

「良し。通路ってかパイプだが…とりあえず、奇襲出来るなら良し」

「他のMS隊は私が率いる。『クラウ・ソラス』の砲撃は、ルベルト艦長に一任する」

「請け合おう」

 

艦長が頷いた事を確認して、ドワームはブリーフィング最後の言葉を口にする。

 

「作戦開始は30分後。全員、行動せよ!」

『了解!』

 

 

 

 

「ボス、3隻の戦艦が接近中です! 2隻はトンズラこきやがったハーフビーク級で、1隻は――該当データ無し? 新型戦艦と思われます!」

「新型だァ? ンだそりゃあ、それがどうしたってンだ」

「あーもうBOSS! A LittleはBe Surprisedしてあげて下さいよ!」

「無駄よ? ボスはとっくの昔にトチ狂ってるわ」

 

ゲーティアとハーフビーク級2隻を捕捉したアーレスで、彼らは笑った。

カモがネギを引っさげて戻って来たのだ、ほくそ笑まないハズが無い。

 

「どうするのかしら、ロブ? 爪楊枝(ダインスレイヴ)で終わらせる?」

「いいや? そンなンつまらねェだろ。アマーリア、ピラール。奴らに、煽動屋(ならず者)の流儀を教えてやれ」

「OK!」

「フフ、良いわよ。帰って来たらキスしてね?」

 

部下の2人が奪ったMSの下へ向かって行くのを見届け、「煽動屋」を最初に始めた男――ロブ・ダリモアは、部下に指示を出し始めた。

 

 

 

 

ゲーティアは、アーレスを「クラウ・ソラス」の射程圏内に捉えた。

ハーフビーク級から1隻のテンプテーション、ゲーティアからそれを引っ張る役を担うガンダム・バエルが出撃した。

ゲーティアからはガンダム・ベリアル、ガンダム・フォカロルテンペストが出撃して攻撃の準備を整える。

 

『では、基地の奪還は任せるぞアグニカ』

「了解、任せろ。敵MSは頼む」

『当然だ。宇宙用に改修したこの「ガンダム・フォカロルテンペスト」の力、見せてやるよ』

 

アグニカはドワームとアマディスのやる気を頼もしく思いつつ、テンプテーションを牽引してアーレスへと出発した。

 

『アグニカ、ドワーム、アマディス。「クラウ・ソラス」の射線上には入るなよ。―――出力60%で、発射用意!』

『仰ーせのままーに!』

 

ゲーティア艦長のルベルトがそう言うと、火器管制室に回ったマッドサイエンティスト…もといヴィヴァトがそのスイッチを押す。

何故マッドサイエンティストが火器管制室にいるかと言うと、純粋な人員不足である。

 

ゲーティアの右側の装甲が動き、中からエイハブ・リアクターと丸太のような黒い兵器が現れる。

それはエイハブ・リアクターと直結されており、コロニーさえ維持する膨大なエネルギーの全てが砲身に注がれて行く。

その兵器の砲身が伸び、内部ユニットが回転を始めた。

スパークが起き、砲身の先にエネルギーの塊が出来る。

 

「カウント、開始します! 10、9、8、7、6――」

 

そして、カウントが1になり。

 

 

「『クラウ・ソラス』、発射!!」

 

 

艦長がそう言った瞬間、下手なMAのビーム砲を上回るビームが放たれた。

 

クラウ・ソラス。

バージニア級戦艦の右舷に取り付けられ、エイハブ・リアクターと直結して放たれる超強力なビーム砲である。

その威力は、100%ならば宇宙世紀に存在したとされる「ハイパーメガ粒子砲」に匹敵するとされる。

出力60%だと、「ハイメガ粒子砲」に匹敵するくらいだろう。

 

放たれたビームは先に出発したバエルとテンプテーションを追い越し、アーレスに直撃した。

 

「ッ、何事だ! さてはMAか!?」

「いえ――て、敵新型戦艦からの砲撃です!」

「戦艦だと!?」

 

僅か30秒足らずの砲撃が終了し、クラウ・ソラスは砲身冷却を開始した。

一方、直撃を食らったアーレスの煽動屋達は慌てふためいていた。

 

「この施設の破壊までには至りませんが、火星に向かって押し出されています! このままでは衛星軌道から外れて、火星に落ちます!」

「チィ、小癪な――! 戦艦とMSを全て出して、施設を押せ! 衛星軌道に戻すぞ!」

『ロブ、Me達はどうする?』

「あの小賢しい戦艦を叩き墜とせ!」

『Roger。行くよ!』

 

アーレスから煽動屋のMS部隊と戦艦が出撃し、アーレスを衛星軌道へと押し出し始める。

アマーリア・ウィーデンのガンダム・レラージェとピラール・ハーディングのガンダム・カイムは、ゲーティアを撃沈すべく出撃した。

 

『アマーリア、ThatはWhat?』

『? あれは――テンプテーションと、ガンダム? あんな所で何をして…』

 

アマーリアは僅かに考えたが、すぐに目的に思い当たる。

 

『肉弾戦を仕掛けるつもり!?』

『ちょ、Itって…!』

『落とすわよ!』

 

レラージェとカイムは、テンプテーションに火器を向ける。

 

『アグニカ、上にガンダムが…!』

「どうやら、強奪されてしまったみたいだな。しばらく独力でアーレスに向かってくれ」

 

護衛のバエルが、2本の剣を抜いてレラージェとカイムに突撃する。

 

『!?』

『What!?』

 

左の剣でレラージェを牽制しつつ、右の剣でカイムに斬り掛かる。

レラージェはロックオンを解除して回避し、カイムもロックオンを外してカイム・サーベルを抜いて応戦する。

 

『たかがOne機で、WhatがCanってSayのかい!』

「はッ。誰が1機って言ったよ?」

 

左腕に取り付けられたワイヤーブレードで、レラージェが攻撃を仕掛ける。

バエルはカイムを圧倒して押し返した後、全速後退してワイヤーブレードを回避する。

 

『逃がしゃしないよ!』

「テンプテーションは…あそこか。じゃ、後よろしく」

 

反転したバエルは、速やかにテンプテーションの方向へ向かう。

追撃しようとするレラージェとカイムに、ミサイルが降り注いだ。

 

『ッ!』

『Hindrance…!』

 

2機がそれを迎撃していると、レラージェに大剣が振り下ろされた。

 

『――何者だ!』

『アグニカ達の邪魔はさせん!』

『さて、宇宙の塵になりやがれ!』

 

ベリアルとレラージェ、フォカロルとカイムの戦闘が始まった。

 

『ナノミラーチャフ、発射せよ!』

 

ゲーティアとハーフビーク級2隻からミサイルが放たれ、アーレスの近くで爆発してナノミラーチャフをバラまく。

 

「センサーが…!」

「何してンだ、焼き払え!」

「すみません、施設の把握がまだ…!」

「テメェら、この28時間何してやがった!? 火器管制室くらい見つけとけよ!」

 

 

 

 

ナノミラーチャフがバラ撒かれる中、テンプテーションは気付かれぬようアーレスに入港した。

なお、肉眼でテンプテーションを見た者はレラージェとカイムを除いて全てをバエルで斬り捨てている。

 

バエルをアーレスに入れ、俺はライフルなどを持った奇襲部隊の前に出る。

 

「ザルムフォート。あの通路ってのは、ここからで良いな?」

「ああ。後、シプリアノと呼んでくれた方がやりやすいのだが」

「分かった。じゃあ、全員行動開始。10分で基地を奪還する」

 

奪還の方法はシンプルだ。

注意を引きつける囮部隊と、隠し通路から司令室を奪還する特殊部隊に分かれる。

囮部隊は出来る限り敵の注意を引き付けつつ、僅かな人数で編成された特殊部隊が隠し通路からそれぞれ司令室へ向かう。

 

そして、特殊部隊は順調に司令室の天井裏に辿り着いた。

 

「(ここは排気口になってる。この金網をズラして、敵の親玉を狙撃しよう)」

「(了解)」

 

俺は金網を静かにズラし、拳銃で敵のボスと思わしき人物に狙いを定める。

 

「(大丈夫、アグニカ?)」

「(狙いが定まらない…ええい、ままよ!)」

 

当てずっぽうで撃つが、そんなモノが当たるハズも無く。

拳銃の発砲音が司令室に響き、敵のボスがこちらを見る。

 

「外れただと!? やはり、サイレンサーを付けるべきだったか!?」

「アグニカ、言ってる場合じゃないよ!」

「――テメェら、何モンだァ!?」

 

敵のボスが拳銃を構えた瞬間、付いて来ていたスヴァハが金網を外して飛び下りた。

スヴァハは銃を構え、敵のボスの拳銃を狙撃して破壊した。

 

「チィ!」

「よいしょ!」

 

俺も続いて飛び下り、敵のボスに蹴りを1発。

あっさりかわされたが、その時。

 

「全員、突撃なさい!」

 

司令室の扉を刀で斬り捨て、カロムの率いる囮部隊が司令室になだれ込んで来た。

 

「アホか、こンな時代に刀だと!?」

「その言葉、後悔すると良いわ!」

 

カロムは刀を構えて敵のボスに突撃し、刀を振り下ろした。

 

「クソが…! 退くぞテメェら!」

「退かせる訳には行かぬな」

 

フェンリスがアサルトライフルを撃ち、敵の部下達を確実に仕留めて行く。

 

「お待ちなさい!」

「ハッ、待てと言われて待つ奴がいるかよ! 司令室を奪還された、ハッチが塞がれる前にズラかる! テメェら、オレの機体を用意しとけよ!」

 

単身で司令室を脱出し、敵のボスは連絡を始めた。

 

「テンプテーションはともかく、バエルは無くなったら困る…すまん、後は任せる!」

「う、うん! 気をつけてね、アグニカ!」

 

 

 

 

カロム達が入って来た扉から、アグニカはバエルの下へ向かった。

全力疾走した結果、アグニカは何とかバエルに辿り着いた。

コクピットに乗り込んで起動させ、アグニカが横を見ると。

 

 

黒と白で塗られた、4つ目かつ4本角のガンダムが大剣で斬り掛かって来ていた。

 

 

「ッ、あれは…!」

 

後退して大剣をかわしつつ、バエルは剣を抜いてその機体と向かい合う。

 

大剣に「アイギス」と呼ばれる防御兵装、右肩から出るビームマント。

4つの目と角を持ち、白と黒に塗られたガンダム。

 

それは、アグニカが火星基地の科学者から聞いたとある機体に酷似していた。

 

「――ガンダム・アンドロマリウス…!」

 

アンドロマリウスの目が光り、バエルに襲いかかった。

バエルが大剣を剣で防ぐ間に、アンドロマリウスは基地の外に出てマシンガンを構える。

そのまま発砲し、ナノミラーチャフを起爆させて吹き飛ばす。

 

『全員、施設を衛星軌道に戻す作業はもういい。司令室を奪還された、とっとと持てるモン持ってズラかるぞ。ダインスレイヴとかは発射準備もしとけ』

「貴様…!」

 

続いて基地から飛び出したバエルが、アンドロマリウスに斬り掛かる。

アンドロマリウスはそれを大剣で防ぎ、バエルとつば競り合う。

 

「何者だ。何故、ヘイムダルの基地を攻撃した?」

『オイオイ、質問は1つにしとけよ。まあ、せっかくだし答えてやるよ』

 

接触回線で、ロブはアグニカの問いに答える。

 

『オレはロブ・ダリモア。世界最大規模の煽動屋、「フヴェズルング」のリーダー』

 

「煽動屋」の1つ、フヴェズルング。

MAが暴れるこの数年、幾多の仕事を引き受けて達成して来た一流の煽動屋だ。

 

『テメェらヘイムダルは、MAを倒す為にこンなMSを作りやがった。だがよ、あんな化け物を相手にしながら戦おうなンざ自殺行為だろ? せっかくのMSが無駄だしな。だから、オレ達が有効活用してやろうってンだ』

「有効活用? その化け物を誘導して、大量殺戮の手伝いをする事がか?」

『おうさ。金は出る、食い扶持に困る事も無ェ。これが有効活用じゃなくて何だってンだ?』

 

ロブの言い分は、個人の視点から見れば正しい。

仕事を達成すれば経済圏から大金を得る事が出来るのだから、自身は良い生活を送れるだろう。

 

――「その仕事を達成した結果、喪われる多くの命を度外視すれば」正しい意見だ。

 

「――ダカール、アーブラウ、ニューヤーク。これらの大都市に現れたMAが、何人の人間を殺したか分かっているのか?」

『お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?』

「――なら、貴様もそのパンの1枚に成り果てろ。今更嫌とは言うまいな、殺人鬼」

『これはまた的外れだな。確かにオレはMAを煽動したが、殺したのはMAだ。煽動したモノが煽動した先で何をしようが、オレの関知する所ではない』

 

アンドロマリウスは大剣を振り、バエルを吹き飛ばす。

続けて左腕に接続された迫撃砲を撃ち、バエルを牽制した。

対するバエルは電磁砲を放ち、アンドロマリウスの肩に当てる。

 

『ボス! 撤退準備、整いました!』

 

アンドロマリウスはビームマントで牽制しつつ、撤退する。

 

『よし。アマーリア、ピラール! 後退するぞ!』

 

そう言われたレラージェとカイムは、ベリアルとフォカロルを振り切って強奪したハーフビーク級に戻って行く。

その3機を収容したハーフビーク級は、速やかにデブリ帯へ姿を消した。

 

『…見事な退き際だな』

『全くだな…まあ、第一目標は達成したし良しとしよう』

 

そして、3機はゲーティアに帰還し。

ゲーティアとハーフビーク級は、アーレスへ入港した。

 

 

 

 

アーレスの中では、逃げ遅れた火星基地スタッフが捕らえられていた。

 

「よくもまあ、こうも見事に捕らえてぶち込めたモノだな。殺された者はいないみたいだが」

「ああ、この手腕に関しては見事としか言えん。MSの使いようと言い、あの腕ならばMAであれ倒せるだろう。何故、『煽動屋』などに身をやつしているのか」

 

クリウスとフェンリスは息を吐きつつ、独房の鍵を開けてスタッフを解放して行く。

その近くでは、俺とスヴァハも独房を開ける。

すると。

 

 

「――女神だ」

 

 

「「…は?」」

「結婚してくれ!」

 

などとほざき、スヴァハにゼフィランサス(花)を差し出す変人がいた。

 

「―――アグニカ」

「―――ああ」

 

スヴァハは独房の扉を操作し、そっ閉じして鍵を閉めた。

 

「んん? どうした?」

「―――変な奴がいた」

「変な奴?」

 

フェンリスとクリウスが、興味深そうに問題の独房の扉を開く。

すると。

 

 

「女神よ結婚してくれ!」

 

 

などとほざき、ガーベラ(花)を差し出す変人がいた。

フェンリスとクリウスは一瞬で独房の扉を操作し、扉を閉める。

 

「………クリウス。我々は何も見ていない。そうだな?」

「………その通りだ、フェンリス。俺達は何も見ていない」

「オイ、現実逃避してんゾ。気持ちは分かるし――取り敢えず、スヴァハこっちこっち」

「あ、うん…そだね、よろしくアグニカ」

 

スヴァハを俺の陰に隠した上で、フェンリス、クリウスと共に再び扉を開ける。

すると。

 

 

「おお女神よ! 私はレオナルド・マクティア、自己紹介が遅れた事お許し願う! 貴女の可憐さに私は心を奪われた、この気持ちまさしく愛だ!!」

 

 

などとほざき、オーキス(花)を差し出す変人がいた。

 

「――む? 我が愛しの女神は何処? イケメンも捨てがたいが、今我が瞳は女神しか受け付けぬ!」

「もうダメなんじゃないか、コイツ。何か、マッドサイエンティストと同じ――ヤバい匂いがする」

「た、確かに…」

「嗚呼、女神の麗しき声が! 女神よ、我が愛の告白に応えたまえ!」

 

改めてサイサリス(花)を差し出す変人、スヴァハからの返事を求める。

 

「――ねえアグニカ、これどうしよう」

「…お答えしてあげなさい。男たる者、好きな女の子に告白した暁には答えが欲しいモノだ。それが是であれ否であれ、な」

「「うんうん」」

 

フェンリスとクリウスが頷いている。

前から思ってたけど、お前ら仲良いよな?

 

「さあ我が愛に応えををを!!」

 

ステイメン(花)を差し出しながら、レオナルドが答えを求める。

スヴァハは息を吸い――

 

 

「変な人はダメです」

 

 

一言でフった。

 

「「ですよねー」」

「うおおおおお!! バカなあああああ!!!」

 

変人、轟沈。

用意していながら無駄になったらしいデンドロビウム(花)を握り締め、悔し涙を流す。

 

「――変人(バカ)の死体は俺達が拾う。アグニカとスヴァハは、別の所で働いてくれ」

「う、うん…」

「悪いな、助かる」

「気にするな。ほら起きろ、変な人。愚痴くらいなら仕事しながら聞いてやるから」

「せめて真摯に聞いてくれえ!」

「一目惚れの恋が玉砕した程度の愚痴、仕事しながらでも充分だ」

 

割と容赦無い言葉を耳に挟みつつ、俺とスヴァハは独房エリアを後にした。

 

 

 

 

「アハハ…何か、悪い事をした気がするよ…」

「そんなに気にするな。マッドサイエンティストと同じ匂いがする変人をフっただけだ、責められる事は無い。それに、ああいう関係は本当に好きな人としか持たないとダメだろうし」

 

そんな話をしながら、窓の外に火星が見える展望廊下をスヴァハの後ろに付いて歩く。

 

「―――ふーん。そっかあ…」

 

と、何か感慨深そうにスヴァハが呟く。

 

――あの声は、何か企んでる声だ。

俺は詳しいんだ、スヴァハがああいう素振りを見せた後は俺に何かイタズラしてくるんだよ。

なお、その内容まで可愛いのはお約束。

 

しかし、俺とてただやられるつもりは無い。

今まで散々先を越されて来たが、今度は越してやらねば。

 

などと考え謀略を巡らせていると、スヴァハは施設の一角にある3方向が窓になった部屋に入った。

何かと思い、その後に部屋の中へ入る。

 

「――あのね、アグニカ」

 

スヴァハは俺に背中を向けたまま、呟くような声で俺に話し掛けて来る。

その時、俺の後ろで部屋の扉が閉まった。

 

第一声から数分が経って、スヴァハは再び口を開いた。

 

「……私、アグニカのこt」

「いやー、綺麗だなー火星」

 

スヴァハの言葉を敢えて遮り、俺は左側に見える火星を指差して的外れな事を言う。

俺の的外れな言葉に少し混乱したようだが、スヴァハはとっさに左側を見て「そ、そうだね」とぎこちなく返して来た。

 

スヴァハの顔には、僅かな不満が見て取れる。

11年の間何度か見たその表情を受けて、俺はスヴァハに一歩だけ近付いて。

 

 

「好きだよ、スヴァハ」

 

 

と、後の時代になっても恥ずかしく思えるド直球な言葉で告白した。

 

「―――えっ?」

「スヴァハ、お前が好きだ。愛してる」

 

ふとこちらを見て呆気に取られるスヴァハに、更に追撃を掛ける。

ようやく言葉の意味を理解したらしいスヴァハの顔が、真っ赤に染まって行く。

 

「―――え、えっえっ? ア、アグニカそれってまさかいやでもなんでそんなことをいうのわたしn」

 

テンパるスヴァハの前に跪き、小さな銀色の指輪を差し出す。

ベルファストで自由行動をした時、さり気なく買っておいたモノだ。

 

「…答えを、聞かせてくれ」

 

俺がそう言った瞬間、スヴァハは俺に抱きついた。

限りなく近付いた身体を、そっと抱き締め返すと。

 

「――バカ、遅いよ…私も、アグニカが大好き。離れたくない。ずっと、一緒にいたい―――」

 

そう、嬉しい答えを返してくれた。

 

「本当に良いのか、俺で。ガサツでバカで、基本的に何も出来ないけど?」

「良いよ。私はガサツでバカで、でも…いつも気遣ってくれて、私を勇気づけてくれた。私を安心させてくれる、優しいアグニカに恋をしたんだよ――」

 

スヴァハが着けている手袋を外して、その左手の薬指に指輪をはめる。

そして、その手を取って立ち上がり。

 

柔らかい唇に、口付けをする。

それはとても甘く――全てを蕩けさせるような味が口の中を埋め尽くして行った。

 

 

 

 

火星より少し離れたラグランジュポイントにある、デブリ帯。

そこを、「煽動屋」フヴェズルングが強奪したハーフビーク級が航行していた。

 

「BOSS! NowからRetaliationしましょうよ!」

「アホか。ヘイムダルは、ガンダム・フレームを作った組織だぞ? この前はガンダムが3機しか出て来なかったが、もっと多くのガンダムを持ってるに違いねェンだ。こちらには大量のダインスレイヴが有るとは言え、圧倒的な機動力を持つガンダム相手じゃ分が悪い。報復に行った所で、返り討ちにされンのが関の山だろうが」

 

ピラールの提案をあっさり却下し、ロブは手元のタブレットを確認する。

 

「次の依頼は――ドルト10の破壊か」

「それじゃ、しばらく掛かるわね」

「ああ。地球と火星の往復なンざ、簡単には行かねェからな。これが木星になりゃ尚更だ」

 

ロブ達がそう雑談していると、オペレーターからこのような報告をされた。

 

「艦の前方約1800km先に、何か妙な反応が有ります。エイハブ・リアクターのようですが…」

「ああ? どうせ、このデブリ帯を作ってるエイハブ・リアクターの残骸だろ? 捨ておけ」

「いえ、それにしては妙なんですよ。普通はロディ・フレームやらヘキサ・フレーム、レアな場合でもガンダム・フレームのモノですから数はせいぜい2基のハズです。このエイハブ・リアクターの数は…5基有ります」

 

5基のエイハブ・リアクター、それもフル稼働状態であると言う報告にロブは眉を顰める。

5基全てのエイハブ・リアクターがフル稼働状態と言う事は、それは同調していると言う事だろう。

 

人類の最新技術を以てしても、エイハブ・リアクターはガンダム・フレームのように2基の同調が限界。

となると、5基の同調したエイハブ・リアクターは人間の手によるモノではない――必然的に、MAのモノと言う事になる。

 

「エイハブ・リアクターを5基も積んだMAなンざ、聞いた事が無ェぞ?」

「ハイ…一体何が…ッ、5基のリアクターの周囲に高エネルギー反応! これは――!!」

 

―――破壊。

それが、その機体…エイハブ・リアクターを5基も積んだ過剰極まるエネルギーを誇るMAの役割だ。

 

「ビームです!」

「な、なンだと!?」

 

全て、全て。

何もかもを破壊する。

人間の生きる環境を破壊し、人間の創るモノを破壊し、人間そのものも破壊する。

 

 

それこそが、「四大天使」の一角たるMA。

ウリエルが唯一持つ、存在意義なのだから―――




オリジナル設定解説のコーナーです。
何故こんなにも多いんですかねえ…覚えられないんですけど(お前のせいだろ)


煽動屋について。
各経済圏などから依頼を受け、指定された場所にMAを誘導する仕事をする者達の総称。
依頼者は主に、敵対者に大きな被害を与える為に彼らを必要とします。
依頼者から払われる報酬は絶大で、行き場を無くした者が煽動屋に身をやつす例も少なくありません。

ロブ・ダリモア
汚れ仕事の代表である「煽動屋」の最大勢力「フヴェズルング」のリーダー。
ヘイムダルより強奪した「ガンダム・アンドロマリウス」のパイロット。
初めて「煽動屋」となり、以後組織として巨大化させた。
まず自分を第一に考える為、仕事をした結果人々がどうなるかについてはあまり関心が無い。

ASW-G-72 ガンダム・アンドロマリウス
全高:18.4m
本体重量:29.6t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ナノラミネート・バスターソード×1
   迫撃砲×1
   マシンガン×1
   ビームマント×1
   アイギス×1
概要
ロブ・ダリモアの専用機。
機体は黒と白で塗られており、4つ眼かつ4本角。
ナノラミネート・バスターソードによる、近接戦を得意とする。
左利きの機体で、左腕には迫撃砲が取り付けられている。
右腕ではマシンガンを持ち、右肩にはビームマント発生装置と右腕にアイギスが装備されている。
背中と腰には大型スラスターが有り、バエルをも越える高機動を実現した。
機体はシンプルだが、それ故に扱いやすい。
名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第七十二位の悪魔「アンドロマリウス」から。
アンドロマリウスは36の軍団を率いる、地獄の伯爵だとされる。

アマーリア・ウィーデン
「煽動屋」フヴェズルングのメンバーで、ロブの側近の1人。
ヘイムダルより強奪した「ガンダム・レラージェ」のパイロット。

ASW-G-14 ガンダム・レラージェ
全高:18.6m
本体重量:35.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:レラージェ・ライフル×1
   ワイヤーブレード×1
   ハンドナイフ×4
概要
アマーリア・ウィーデンの専用機。
背中と腰にブースターが装備され、一撃離脱戦法を得意とする。
武器は「レラージェ・ライフル」と「ワイヤーブレード」、「ハンドナイフ」。
レラージェ・ライフルは折り畳み可能な専用ライフル。
ライフルモードとスナイパーライフルモードを使い分けられ、それぞれのモードの専用マガジンを携行している。
展開方法が複雑で、整備には時間が掛かる。
ワイヤーブレードが左腕に取り付けられ、ハンドナイフは近接戦で使用される。
名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十四位の悪魔「レラージェ(レラジェ、レライエ、レライハ、ロレイ、オライとも)」から。
レラージェは30の軍団を率いる、地獄の大侯爵だとされる。
ダラク・ニンジャさんより頂いた案を元に、設定しました。

ピラール・ハーディング
「煽動屋」フヴェズルングのメンバーで、ロブの側近の1人。
ヘイムダルより強奪した「ガンダム・カイム」のパイロット。

ASW-G-53 ガンダム・カイム
全高:18.4m
本体重量:32.8t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:カイム・サーベル×1
   ショートバレルキャノン×2
概要
ピラール・ハーディングの専用機。
背部に装備された2基の大型スラスターを利用した、一撃離脱の戦法を得意とする。
武装は専用の「カイム・サーベル」と汎用武器の「ショートバレルキャノン」。
カイム・サーベルはレアアロイで錬成されており、場合によってはフレームごとMSを叩き斬る事が可能。
ショートバレルキャノンによる牽制と、カイム・サーベルによる接近戦が主な戦闘スタイルとなる。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第五十三位の悪魔「カイム」から。
カイムは30の軍団を率いる、大総裁だとされる。
クルガンさんより頂いた案を元に、設定しました。

クラウ・ソラス。
バージニア級戦艦の右舷に取り付けられた、エイハブ・リアクターと直結して放たれる超強力なビーム砲。

ASW-G-41 ガンダム・フォカロルテンペスト
全高:18.5m
本体重量:41.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:バスターオール×2
   キャニスターガトリング/ダインスレイヴ×2
   マシンガングレネード×2
   ティザーアンカー×4
   多目的ランチャーポッド×4
   ネプチューンⅡ×1
概要
アマディス・クアークの専用機。
水中戦を想定して開発されたガンダム・フォカロルを、水中以外の場所で最大出力の戦闘を可能とすべく改装した機体。
水中でも高い機動力と運動性能、長時間運用を可能にすべく装備される専用装備「ネプチューン」は、水中以外の場所では高出力スラスターとなるよう再調整された。
専用武器「トライデント」は「バスターオール」に、「ハープーン」は「キャニスターガトリング」と選択式になり、「ティザーアンカー」の他にも「マシンガングレネード」と「多目的ランチャーポッド」が増設されている。
バスターオールはトライデントに代わるオールを模した主武装で、柄を繋げればトライデントと同じように使用出来る。
ハープーンはキャニスターガトリング、ダインスレイヴの選択式に。
キャニスターガトリングは散弾をバラまくガトリング砲で、広範囲かつ大多数の敵に対して真価を発揮する。
マシンガングレネードは両腕部に取り付けられ、鉄甲榴弾とナパーム弾と魚雷を選んで装填可能。
多目的ランチャーポッドは両肩と両脚側面に装備されており、ミサイルか魚雷かを選んで装填出来る。
名前の由来はソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十一位の悪魔で、30の軍団を率いる地獄の大公爵「フォカロル(フルカロルとも)」から。
テンペストは「弾幕の嵐」の意。
逸般Peopleさんより頂いた案を元に、設定しました。

シプリアノ・ザルムフォート
「ヘイムダル」火星基地のメンバーで、「ガンダム・ダンタリオン」のパイロット。
後にギャラルホルンの名家となるザルムフォート家の初代当主。

レオナルド・マクティア
「ヘイムダル」火星基地のメンバー。
変人。


アーレス奪還、変人の失恋、アグニカとスヴァハの2828案件と忙しい回でした。
最後には「四大天使」ウリエルが出て来ましたし、いよいよここから物語が加速します。
長すぎる? 諦めて下さい。私は諦めました。


次回「神の炎(ウリエル)」(予定)。


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#47 神の炎

今回の更新を以て、ガンダム・フレームの案の募集を締め切らせて頂きます。
私が思っていたよりたくさんの案を頂き、驚くとともに感謝感激です。
ありがとうございます…!!m(__)m


タイトルは「神の炎(ウリエル)」とも読んで下さい。
そこから察する事が出来る通り、遂に「四大天使」ウリエルの討伐作戦が始まります。
「The Dignity of Lords」(ダインスレイヴのテーマ)を聴きながら書きました。
流すと絶望感半端無いですね、あのBGM。


フヴェズルングよりアーレスを奪還して、4日。

改めて、火星基地にいるガンダムパイロット達と互いに自己紹介をする。

 

「ガンダム・ダンタリオンのパイロット、シプリアノ・ザルムフォートだ」

「アイトル・サックウィル。ガンダム・ウヴァルのパイロットをやっている」

「私はイシュメル・ナディラ。ガンダム・デカラビアのパイロットを担当する」

「レグロ・サッチと言う。ガンダム・エリゴールのパイロットだ」

「ガンダム・ナベリウスのパイロットをしてる、レスリー・ホルブルックってんだ」

「アーヴィング・リーコック、ガンダム・アンドレアルフスのパイロットだ。一応、『バルドル』って言う元テロ組織の傭兵団の団長をしてる」

 

…なんか今、元テロ組織の傭兵団とか聞こえたけどとりあえず聞き流しておこう。

追及は後だ後、今は自己紹介をしてもらわねば。

 

「レオナルド・マクティア! ガンダム・イポスのパイロットさ! ――しかし、今は我が愛しの女神が彼氏持ちになったと聞いて失意中である」

「お前、まさかのガンダムパイロットかよ!? 言っとくが、スヴァハはやらんからな」

「勿論だとも。手に入らぬからこそ、美しいモノも有る。ただまあ、絵を描く事くらいは許してくれ。私は元々、芸術家志望でね」

 

変人、ガンダムパイロットだった。

何かもう、人類ってダメかも知れない。

 

「今いる火星基地のパイロットは、この7人じゃ。後1人、サミュエルと言う子がガンダム・アムドゥスキアスに乗って地球に行っておる」

「ガンダム・アムドゥスキアス――もしかして、アブダビにいた…」

「ほほう、出会っておったか。珍しいの、彼が自ら他人の面倒事に突っ込むとは」

 

あのロマン機体が、ガンダム・アムドゥスキアスだったのか。

また、会えそうな気がするな。

 

「――待ーて、ウィリアム。8人だーけか? ガンダムの製ー造数は18ー機のハーズだが」

「うむ――今有るのは、8機だけじゃ。フヴェズルングの奴らに奪われたガンダム・アンドロマリウス、ガンダム・レラージェ、ガンダム・カイムを含めても11機しか残っておらぬ。残りの7機は、生存確認が取れていない…撃墜されたと考えるべきじゃろうて」

 

圏外圏である火星では、戦闘が激化している事の予想はしていたが…いや、ミカエルの襲撃を受けた日本基地よりはマシな被害か。

 

「もう1人の科学者も、火星に下りたきり連絡が付かぬしな。コロニーにも何機かのガンダムを派遣したが、悉くが連絡不能。何が起きたかも把握出来ておらぬ」

 

…敵の姿が全く見えない、か。

有る意味、壊滅理由が判明した日本基地よりタチが悪い。

と、その時。

 

『センサーが、機影を捉えました。リアクターの固有周波数からして、フヴェズルングに強奪されたハーフビーク級かと思われます』

「――奴ら、何故戻って来た?」

「報復でもしに来たのか?」

「いや、奴らはあくまで煽動屋。ヤクザじゃないんだから、俺達に報復しても何のメリットも無いハズだ」

 

しかし、それなら尚更何故戻って来たのか?

 

『フヴェズルングのハーフビーク級より、救難信号を受信! こちらへの入港許可を求めています!』

『映像、捉えました。損傷しているようです!』

「――入港を許可すべきかと。しかし、一応は第二戦闘配置を出しましょう。こちらから更なる物資を奪いに来た可能性も捨て切れません」

 

ドワームの言葉を受け、全員が動き出す。

その数十分後、フヴェズルングのハーフビーク級はアーレスに再び入港した。

 

ハーフビーク級から、フヴェズルングのリーダーであるロブ・ダリモアが血相を変えて出て来る。

そして。

 

「――今すぐ、かき集められる全ての戦力を集めてくれ!!」

 

などと懇願して来た。

 

「待て、ロブ・ダリモア。まずは状況を説明しろ」

「そんなヒマは無い、今すぐ集めろ! じゃねェと、アイツが…!」

 

取り乱して正気を失っているロブを、カロムが鞘に納めたままの刀で叩く。

 

「落ち着きなさい、そして状況を説明なさい。状況を説明されて納得しなければ、私達も動けないわ。加えて、ほんの数日前に私達からガンダムと戦艦、多くの物資を奪った貴方達の言葉なら尚更よ」

 

その言葉を受けて、ロブは少し落ち着いた。

 

「…とりあえず、簡潔に言おう。――()()()()()()M()A()()()()()()()()()()()

 

―――は? と、ヘイムダルの全員が首を傾げた。

 

「ウソじゃねェ、マジだ。オレ達は、バカ強ェMAの襲撃を受けた。初手のビームで戦艦のエンジンの片方をやられて、次手のダインスレイヴで戦艦をボコボコにされた。必死で積まれてた全部のナノミラーチャフをバラまいて、ガンダムで艦を押しつつ全速力で戻って来た」

 

確かに、フヴェズルングのハーフビーク級はエンジンの片方が溶解し側面にはダインスレイヴの特殊弾頭が突き刺さっている。

 

「信じらンねェってンなら、この画像を見ろ。オレ達が撮影した、敵MAだ」

 

俺はロブからタブレットを受け取り、全員で覗き込む。

そこには、4枚の翼と2本の腕に尻尾を5本持つ巨大で異形のMAが写っていた。

 

「…確かに、これは――私達の日本基地を襲撃しに来た、『四大天使』ミカエルに似ているわ。戦艦の装甲を難無く溶かしてエンジンを破壊する程のビーム、通常のダインスレイヴより巨大なダインスレイヴもね」

「『四大天使』ミカエルにも引けを取らないMA、か…アグニカ、何か思い当たる所は有るか?」

 

フェンリスの質問を受け、俺はある結論に達した。

 

「四大天使」たるミカエルにも劣らない機体など、同じ「四大天使」しか有り得ない。

しかし、形状が違う上に今は地球にいるハズなのでミカエルではない。

「四大天使」の一角と目されるラファエルは存在自体が確認されておらず、ガブリエルは月面にいる。

となれば、消去法からして―――

 

 

「―――『四大天使』ウリエル。破壊を司り、月面都市や多くのコロニーを完膚なきまでに蹂躙したMAだ」

 

 

俺の出した結論に、全員が固まった。

 

このタイミングで現れた、有象無象のMAとは一線を画す機体である「四大天使」の一角たるMA「ウリエル」。

確かに、これを討伐するには現在ヘイムダルの火星基地に在る戦力にフヴェズルングの戦力を加えても圧倒的に足りない。

それこそ、火星圏に存在する全てのMSや戦艦を総動員して足りるかどうかと言う所だ。

 

『デブリ帯の付近に設置した、コクーンの反応が消失! 破壊されたと思われます!』

 

そんな時に流れた通信で、俺達は危機が目前だと実感せざるを得なかった。

アリアドネのコクーンはとにかく硬く、カラドボルグをぶち込んでも破壊する事は出来ない。

 

それが破壊された――つまり、敵はカラドボルグを上回る攻撃力を持つと言う事に他ならない。

 

「アーヴィング、バルドルの全戦力をかき集めてアーレスに集結させろ!」

「ッ、おうよ!」

「ウィリアム博士、火星の軍事基地全てと連絡を取って全ての戦力を宇宙に上げさせて下さい! ザコMAは放置です、そんな有象無象はウリエルに比べれば脅威に値しない!」

「了解じゃ。シプリアノ、悪いが手伝って」

「全員、第一戦闘配置! 敵はMA、ウリエル! 火星圏全ての戦力を動員し、ここで『四大天使』の一角を叩き潰す! ゲーティアを始めとした戦艦も全て発進させ、ガンダムも全機出撃!!」

 

ドワームが次々と指示を出し、全員が目まぐるしく動き始める。

俺はその最中、ロブ・ダリモアに言う。

 

「お前らも働けよ? この状況だ、少しでも多くの戦力が必要となる。遺恨は一度全部取っ払って、協力しろ」

「――何故だ? オレ達は、テメェらから多くを奪った。今回も、テメェらが戦っている間に逃げ出すかも知れねェぞ」

「ああ、そうかもな。と言うか、お前らのような自己中ならそうするだろうと俺は思ってる。だが、これだけは言っとくぞ? ――人類が滅びれば、必然的にお前らも滅びる。何せ、依頼主がいなくなればお前らの仕事は無くなるからな。ここで俺達がウリエルに敗北した場合、火星から文明が消える。その次は地球だ。ウリエルとミカエル、この2機の『四大天使』によって地球の文明は滅ぼされるだろう」

 

結局の所。

 

「お前らは、俺達と共闘すべきだ。自らの依頼主を守って自分の仕事を守る為には、な。そうすりゃ、ついでに火星に住む全ての人類も守れる。まさしく一石二鳥。俺達を無視してウリエルが火星に向かった場合、お前達に誘導してもらわねばならんし。ウリエルを倒せば、様々な事を達成出来て名誉も手に入る――悪くはないと思うが」

「――クッ、クハハハハハハハハ!! 暴論だが…良いだろう、気に入った! フヴェズルングの全戦力、テメェらに預けてやるよ! 20基のダインスレイヴに、43機のMS! それがオレ達の全てだ!」

「そりゃ頼もしい。背中を預けるぞ、ロブ・ダリモア。俺はアグニカ・カイエル。ガンダム・バエルのパイロットにして――このバカげた戦いに、終止符を打つ者だ」

 

これで、MAを煽動するには過剰過ぎる戦力を持つフヴェズルングの全面協力を取り付けた。

火星圏全ての戦力を宇宙に上げさせてアーレスに集結させるなど、簡単な事ではないだろうが…アイツらなら、必ず成し遂げてくれるだろう。

 

 

 

 

ゲーティアに有る自分の部屋に戻ると、その部屋の前にはスヴァハがいた。

パイロットスーツに着替えず、俺を見るなり笑顔を向けて来る。

 

「――何してるんだ、スヴァハ。今は緊急時だぞ」

「うん、分かってる。でも――アグニカにお願いが有ってね」

「何だそりゃ」

 

すると、スヴァハはこんな事を言ってきた。

 

「私と一緒に、写真を撮ってくれない? アグニカが写真とか嫌いなのは分かってるけど、どうしても一緒に撮りたいの」

「――いきなりだな、オイ。まあ、スヴァハからのお願いなら断る訳にも行かないけど…何でだ?」

 

そう聞くと、スヴァハは唇を噛み締める。

 

「―――もしかしたら、この戦いで死んじゃうかも知れない。その前に、記念の物を残しておきたいんだ」

「…分かった。だがな」

 

そして、俺はスヴァハを抱き締める。

 

「死なせはしない。スヴァハは必ず、俺が守る」

「――うん、ありがとう。私も、絶対にアグニカを守るよ」

 

その後、そっと口付けする。

しばらくして離れ、スヴァハは三脚を取り付けられたカメラをどこからか取り出した。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

――これで良かったのか ルシフェルよ

 

『勿論。これで良い――これで、人類の意地がいかほどのモノか見る事が出来るだろう』

 

確かに そうかも知れない

だが ワタシには分からない

そのような事の為に 我が子の中でも別格の強さを持つウリエルを動員して良かったのか

 

『ああ。むしろ、ウリエルのような強さでなければならない。自分達を遥かに上回る強さを持つ者を相手にした人類が、どのような戦い振りを見せるのか――君は、それを知る必要が有る』

 

…そうか

では 見せてもらおう

ワタシが滅ぼすべき人類が どのような者かをな

 

 

―interlude out―

 

 

 

フヴェズルングがアーレスに来てから、約2時間。

アーレスの周囲には、100機を優に超える数のMSと20隻以上の戦艦が集結していた。

 

火星は地球の四大経済圏の植民地である為、存在する戦力も各経済圏のモノである。

アフリカンユニオン、SAU、アーブラウ、オセアニア連邦。

本来ならば殺し合いになって然るべき、共闘など絶対に有り得ない者達が――今はたった1つ、されど火星を滅ぼしうる圧倒的な脅威を取り除く為に肩を並べている。

 

『まさか、こんな形で4つの経済圏が共闘する景色を見られるとは。報告したら、即クビだろう?』

『ああ、全く持ってその通り。だが、それも仕方無かろう。クビになれるよう、ウリエルを討伐して事後報告してやるぜザマーミロ!』

『おーおー、頼もしい限りで』

 

――この光景こそ、プラージャ・カイエルの望みし光景だった。

これが世界の各地で行われていたならば、人類はここまで追い込まれていなかっただろうが。

 

『ダインスレイヴ隊、弾頭装填完了。ゲーティアのカラドボルグを始め、各艦の兵装も発射準備を完了しました。各MS、ガンダムも配置完了です』

『よし。センサー圏内に入り次第、ダインスレイヴとカラドボルグによる先制攻撃を開始。その後、各艦に積んだ核ミサイルを発射しつつダインスレイヴの第二破攻撃を仕掛ける。それで撃墜出来なかった場合、MSで近接戦闘を行う。――アグニカ、全軍へ激励頼む』

「オイ待て、何で俺!?」

 

ドワームにいきなり振られて困惑しつつも、アグニカは出来る限りで全軍に激励の演説を始める。

 

「敵は『四大天使』ウリエル。月面都市や多くのコロニーを蹂躙して来た、破壊を司る最悪のMAだ。我々がウリエルに敗れたならば、火星に住む何十億もの人々の命が喪われる! それは、決して看過して良い事態ではない! ゆめ忘れるな! 我々は、多くの人々の命を背負っていると言う事を!!」

 

バエルが右手で左腰から剣を抜き、黄金にして折れぬ剣を高く掲げる。

 

「何としてもウリエルを撃破する!! 怯むな、怖じ気付くな!! 最期の0.00001秒まで戦い、ウリエルが持つ武器を1つでも多く破壊せよ!! 我々に、『敗北』と言う二文字は絶対に赦されない!! 火星に於いてウリエルに抗う力を持つのは、今この場に集った我々だけだ!! 必ずやウリエルを破壊し、人類の力と生き汚さと諦めの悪さと格上に挑むバカさと揺るがぬ信念をここに示す!! 世界よとくと知れ、天使よとくと知れ!! 我々こそが、人類の希望であると!!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

士気は充分。

ウリエルがセンサー圏内に入った事を確認し、バエルは演説の〆として黄金の剣を振ってウリエルに突き付け。

 

 

「全軍、攻撃開始!!!!」

 

 

アグニカがそう叫ぶやいなや、ダインスレイヴとカラドボルグが放たれた。

その全弾がウリエルに直撃し、大爆発を引き起こした。

 

『やったか!?』

「――いや…」

 

煙が晴れるより早く、その中から赤い破壊の光と細長い弾頭が飛び出して来た。

 

赤い光に呑まれ、端の1隻のハーフビーク級のブリッジが消滅。

細長い弾頭は、正確無比にダインスレイヴを構える2機のユーゴーの頭部を貫いた。

 

「無傷だ」

 

煙の中から、原形を保ったウリエルが現れる。

その装甲は凹んだり傷ついたりこそしているが、際立った損傷を確認する事は出来ない。

 

『第二破、核ミサイル攻撃開始! 惜しまず、全弾を叩き込め!!』

 

ドワームの指示で、各艦が核ミサイルを発射した。

対するウリエルは4枚の翼を大きく広げ、その先端に取り付けられた拡散ビーム砲を放つ。

 

核ミサイルの90%はその攻撃で破壊され、残された10%がウリエルに直撃。

視界が白く染まる程の大爆発が起きるが、今度は「やったか!?」などと言う者はいなかった。

 

今度は数秒と経たず、ウリエルはプルーマを大量射出して来た。

ウリエル自身も頭部を展開しつつも翼を畳み、頭部ビーム砲と4発のダインスレイヴを撃ち出す。

 

ハーフビーク級2隻がダインスレイヴを2発ずつ受けて沈黙し、ビーム砲によってダインスレイヴ隊の15%が消滅させられた。

 

「怯むな! MS隊、戦闘開始! ウリエル本体はガンダムで叩く、グレイヴ・ロディやフラム・ロディなどの機体はプルーマの撃破に回ってくれ! 油断はするなよ、『四大天使』のプルーマは普通のプルーマとは違う!」

 

用意していたダインスレイヴ&カラドボルグ、核ミサイルの必殺攻撃を一蹴された以上、ここからはガンダムによる近接戦闘に全てが掛かっている。

 

「全機、吶喊せよ!!」

 

先陣を切って突撃するバエルに続き、多くのガンダムがウリエルに吶喊して行く。

途中にはプルーマが立ちはだかるが、ダインスレイヴ隊の援護射撃に加えてバエルの双剣によって道が拓かれる。

 

「ふっ!」

「そこ!」

「死になさい!」

「ここか!」

「はあっ!」

「それっ!」

「おらっ!」

「ふん!」

「そこか!」

「吹っ飛べ!」

 

各々が武器を構え、一斉にウリエルへ振り下ろす。

それらは全てがウリエルに当たり、ウリエルが一瞬揺らぐ。

 

『           !!』

 

ウリエルが吼えると、その背中から5本のワイヤーブレードが飛び出す。

それらは巧みに操られ、飛びかかったガンダムを余さず吹き飛ばした。

 

『チィ…!』

「甘いな、ウリエル…! この程度でくたばるようじゃ、ガンダムになんざ乗ってないんだよ!」

「ハッ! バラしてやンよ!」

 

ガンダムの何機かが目を赤く輝かせ、再びウリエルに挑み掛かる。

 

『        !』

 

不快そうに吼え、ウリエルは拡散ビーム砲を放ちつつもワイヤーブレードでリミッターを解除したガンダムを迎撃。

同時にダインスレイヴを撃ち、ハーフビーク級のブリッジを正確に射撃する。

 

「させるか…!」

『           !』

 

ウリエルは高速回転しながら拡散ビームを吐き、全てのガンダムを引き離した上で戦艦に向かって突撃する。

 

「速い…!」

『これじゃ、狙いが追い付かない!』

「なら、あの足を止める!」

 

バエルは剣を払ってプルーマを斬り捨て、ウリエルに追随する。

それに、アスモデウスやキマリス、ベリアル、アンドロマリウス、レラージェなどが続く。

 

『              !』

 

ウリエルはハーフビーク級に突撃し、巨大な腕でブリッジを掴む。

そのまま腕に取り付けられたパイルバンカーでブリッジを貫きながら、拡散ビーム砲とダインスレイヴでダインスレイヴ隊とMS、ゲーティアのエンジンを破壊した。

 

『ゲーティアが…!』

「止めろ!」

 

何とか生き残ったダインスレイヴ隊がダインスレイヴを放つも、ウリエルの強靭な装甲を貫く事は出来ない。

続く2発目の拡散ビームでMSを一蹴し、頭部ビーム砲を放ってフヴェズルングのハーフビーク級に風穴を開ける。

 

『テンメェ…!!!』

『Kill!』

『フザケるんじゃないわよ!!』

 

アンドロマリウスとレラージェ、カイムがウリエルに肉薄するが、ウリエルはワイヤーブレードで3機のガンダムを容易く退ける。

 

『          』

 

そして、ウリエルはゲーティアの左側面に取り付いた。

腕を差し込んでパイルバンカーを使い、カラドボルグを粉砕。

頭部ビーム砲を露わにし、それをゲーティアのブリッジに向ける。

 

「クソ!!」

 

バエルが斬り掛かるが、ウリエルは一瞥もくれずワイヤーブレードで弾き返す。

 

「ウリエルに取り付かれました! カラドボルグ損壊、このブリッジを焼くつもりです!」

「見れば分かる! 火器管制、弾幕を厚くしろ! このままやられる訳には行かん! 船体回頭、クラウ・ソラスで敵をk」

 

艦長の指示は、そこで途絶えた。

ウリエルがビームを放ち、ゲーティアのブリッジを焼き払ったからだ。

 

「―――ッ!?」

『そんな、ゲーティアが…!』

 

しかし、ブリッジを焼かれてなおゲーティアは動いた。

主砲が放たれ、ウリエルの頭部に一撃した。

 

『まーだまだだ! 我ーが友スリーヤの設計しーた最ー新鋭戦ー艦であーるこのバージニア級ー戦艦ゲーティアは、ブリッジが消ーえた程ー度では沈まーぬ!』

『      !?』

 

クラウ・ソラスを直接操作するビーム砲管制室にいるマッドサイエンティストことヴィヴァト・クニギンは、まだ諦めていなかった。

クラウ・ソラスを上側に向けて駆動させ、ウリエルの喉元に叩き付ける。

 

『そんな、無茶だよ! 脱出して、お父さん!!』

『だーが断る』

『バカな事言ってないで、早く…!』

 

最大出力でクラウ・ソラスが放たれ、ウリエルの喉元を正確に撃つ。

ウリエルの背後に回ったダインスレイヴ隊と戦艦はウリエルを射撃し、クラウ・ソラスに吹き飛ばされかけたウリエルを押し留める。

 

『            !!』

 

数十秒もクラウ・ソラスの照射を受け続けたウリエルの喉が煙を上げ、溶けて行く。

ウリエルは苦しみながらもダインスレイヴを構え、弾を装填する。

 

『すまなかったな、スヴァハ…私は、お前に何もする事が出来なかった。ただのバカなマッドサイエンティストでしかなかった私に、こんな事を言う資格は無いだろうが――スヴァハを頼むぞ、アグn』

 

マッドサイエンティストが、台詞を言い切るより早く。

 

 

ウリエルのダインスレイヴが放たれ、クラウ・ソラスを貫いた。

 

 

破損したクラウ・ソラスはエネルギーを収束させられなくなり、溜め込んだビームを四方に撒き散らしながら爆発した。

 

その爆発に巻き込まれ、ゲーティアが誘爆。

ビーム砲管制室も劫火に包まれ、ヴィヴァト・クニギンと共に灰も残さず消滅した。

 

『あ、ああ―――そん、な…』

「―――」

 

煙の中から、喉を焼き切られながらも未だに拡散ビームを撃ち続けるウリエルが現れた。

呆気に取られるバエルとアガレスを追い越し、ガンダム達がウリエルに飛びかかる。

 

ウリエルはガンダム達をワイヤーブレードで蹴散らし、拡散ビームとダインスレイヴを撃ち続けて自ら生み出したプルーマごと戦艦とダインスレイヴ隊、MSを落として行く。

 

「――オイ、バエル」

 

アグニカが、自らの操るガンダムに宿る悪魔に話し掛ける。

 

 

「お前、ソロモンの悪魔の中でも屈指の実力者らしいな。俺をどうしてくれても良い―――あの天使(ゴミ)を殺せる力を寄越せ」

 

 

請け負った、と言うかのように。

大悪魔(バエル)の双眼が真紅に輝き、背中の翼が大きく開かれた。




オリジナル設定解説のコーナー。
何故こんなに多いのか(爆)


アイトル・サックウィル
「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・ウヴァル」のパイロット。

ASW-G-47 ガンダム・ウヴァル
全高:18.7m
本体重量:34.2t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:γエイハブビームソード×1
   ショットガン×2
   可変型ブレードシールド×4
概要
アイトル・サックウィルの専用機。
かつて「ヘイムダル」で運用されたが、現在はアスタロトの装甲を装備して宇宙のどこかにいるとか。
当時は専用武器として「γエイハブビームソード」が有り、汎用武器の「ショットガン」と「可変型ブレードシールド」を装備していた。
主武装であるγエイハブビームソードは大型剣で、側面にはエイハブ粒子の活動抑制機能が備えられている。
その為、敵のビームを通常のエイハブ粒子に戻す事で無効化する事が可能である。
この剣は普段、折り畳まれて背部バックパックに取り付けられている。
無論、大型剣は強力な武装なので、ビームを弾きながら敵に接近して叩き斬るのが主な戦法となる。
ビームを弾く際はビームが跳ねる場合が有る為、普段は対ビームコーティングを施したマントを羽織っている。
また、可変型ブレードシールドをバックパックと両肩に2つずつ装備しているのが特徴の1つ。
機体全体はどこか角張った印象を受け、黒く染め上げられている。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十七位の悪魔「ウヴァル(ヴアル、ヴォヴァルとも)」から。
ウヴァルは、37の軍団を率いる大いなる公爵だとされる。

イシュメル・ナディラ
「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・デカラビア」のパイロット。
後のギャラルホルンで名家となる「ナディラ家」の初代当主。

ASW-G-69 ガンダム・デカラビア
全高:17.8m
本体重量:32.9t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:アサルトナイフ×2
   マシンガン×2
   レーヴァテイン×2
概要
イシュメル・ナディラの専用機。
ガンダム・フラウロスの同型機だが、背部のダインスレイヴが「レーヴァテイン」に変えられている。
レーヴァテインは、言わば「散弾型ダインスレイヴ」となる。
大量のレアアロイ製フレシェット弾をダインスレイヴの速度で発射してバラまく事で、高機動MAやプルーマの一掃に役立つ。
ただし、精密射撃には向かない。
砲身が太くなっていて口径もダインスレイヴの数倍になった為、アグニカに「土管」と言われる始末。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十九位の悪魔「デカラビア」から。
デカラビアは30の軍団を率いる、侯爵だとされる。
トラクシオンさんより頂いた案を元に、設定しました。

レグロ・サッチ
「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・エリゴール」のパイロット。

ASW-G-15 ガンダム・エリゴール
全高:18.3m
本体重量:36.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:マシンガン×1
   アビゴル・ランス×1
   腰部ブレードコンテナ×2
概要
レグロ・サッチの専用機。
後方支援とヴァッサゴとの連携を前提として開発された機体で、高性能量子コンピューターと予測演算を行って対応する「ノルンシステム」を搭載している。
アビゴル・ランスはヴィダールのランスと同じであり、腰部ブレードコンテナに2本ずつ予備の刀身が用意されている。
高性能量子コンピューターは、背部に3基装備。
冷却の為に展開される極薄の金属板が靡く光景は、さながら旗を掲げる者のようでありマントを羽織る者のようでもある。
この高性能量子コンピューターによる予測演算システムこそが、ノルンシステム。
パイロットの脳とリンクさせる事で体感を1000倍にまで跳ね上げる「ヴェルダンディ・モード」と観測データから未来の戦局を予測する「スグルド・モード」の2つが有る。
これにはかなりのエネルギーを使う為、戦闘に回せるエネルギーは少ない。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十五位の悪魔「エリゴール(エリゴス、アビゴルとも)」から。
エリゴールは60の軍団を率いる、地獄の公爵だとされる。
音無紫聖さんから頂いた案を元に、設定しました。

レスリー・ホルブルック
「ヘイムダル」火星基地メンバーで、「ガンダム・ナベリウス」のパイロット。

ASW-G-24 ガンダム・ナベリウス
全高:18.5m
本体重量:31.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ライトヘッド×1
   レフトヘッド×1
   センターヘッド×1
概要
レスリー・ホルブルックの専用機。
機体色は濃い碧を基調とし、関節は赤色。
両肩は、頭部のような形を取っている。
ライトヘッドとレフトヘッドはジュッテが付いた小型のハンドガンで、それぞれ手に装備する。
センターヘッドは背部に備えられている大型ライフルで、股下や肩上から前方に構えて使用する。
弾速は遅めだが、炸裂弾となっているので威力は高い。
機動力は高いが装甲が薄く、相手の攻撃はかわす事が前提となっている。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十四位の悪魔「ナベリウス(ケルベロス、ナベルスとも)」から。
ナベリウスは19の軍団を率い、地獄の侯爵だとされる。
ドラゴンノーツさんより頂いた案を参考に、設定しました。

アーヴィング・リーコック
傭兵団「バルドル」の団長だが、現在はアーレスにいる。
「ガンダム・アンドレアルフス」のパイロット。

ASW-G-65 ガンダム・アンドレアルフス
全高:19.0m
本体重量:32.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ライフル×1
   オオデンタミツヨ(太刀)×1
   アトミック・バズーカ×1
   ハイパー・バズーカ×1
   ハイパー・ジャマー×1
概要
アーヴィング・リーコックの専用機。
奇襲、強襲を想定して調整された、隠密用機体。
武装は汎用武器のライフル、レアアロイで錬成された太刀(アーヴィは「オオデンタミツヨ」と呼ぶ)、隠密用のハイパー・ジャマー、5発の弾頭を装填するバズーカ。
バズーカには通常弾頭は勿論、核弾頭も搭載可能。
ただ、継戦と正面戦闘には向かない。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十五位の悪魔「アンドレアルフス」から。
アンドレアルフスは30の軍団を率いる、地獄の侯爵だとされる。
一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-22 ガンダム・イポス
全高:18.2m
本体重量:36.4t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:アルマーズ×1
   アイポロス・ソード×2
   ダインスレイヴ×2
   クロー×4
概要
レオナルド・マクティアの専用機。
超大型のレアアロイ製ハルバード「アルマーズ」、超大型のレアアロイ製大剣「アイポロス・ソード」、超大型のクローを両脚に持った近接型機体。
背部にはダインスレイヴも有り、遠距離火力も確保している。
武装の巨大さ故に扱い辛い機体であり、それを補助する為に過去や未来が視えるとされるシステムが搭載されているとか。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第二十二位の悪魔「イポス(イペス、アイポロス、アイペロスとも)」から。
イポスはネビロスの支配下にあり、36の軍団を率いる伯爵にして君主だとされる。
一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

ゲーティア
階級:バージニア級汎用戦艦
全長:624m
動力源:エイハブ・リアクター×5
武装:2連装主砲×4
   ミサイルランチャー×8
   対空砲×20
   クラウ・ソラス×1
   カラドボルグ×1
艦載可能数:20機
艦載機:ガンダム・フレームなど
艦長:ルベルト・ノア
概要
「ヘイムダル」のスリーヤ・カイエルが開発した、バージニア級汎用戦艦の1隻。
600mと言う、スキップジャック級には届かないもののハーフビーク級を上回る巨大な船体を持つ。
スリーヤ曰く、宇宙世紀時代のとあるラー・カイラム級汎用戦艦を形状の参考にしたとか。
ハーフビーク級やスキップジャック級に比べて装甲は少し薄いが、武装はバージニア級の方が充実している。
特に、右舷側面に取り付けられた「カラドボルグ」と左舷側面に取り付けられた「クラウ・ソラス」が強力である。
カラドボルグはダインスレイヴの強化発展版で、命中しなければ威力を発揮しないダインスレイヴとは異なり、命中せずとも絶大な破壊力を発揮する。
大型化してしまった為ガンダムに載せられず、バージニア級に搭載されている。
クラウ・ソラスは高出力のビーム砲で、その威力は宇宙世紀時代のハイパーメガ粒子砲に匹敵する。
エイハブ粒子の使用量が膨大な為、連発は不可能である。
MSの艦載可能数は20機であり、主な艦載機はガンダム・フレーム。


ウリエルと量産機のデータは、また次回に載せます。


次回「新たな脅威」(予定)。


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#48 新たなる脅威

この辺りから、鬱展開になって来るかも?
苦手な方は、一応ご注意の程を。

どこからが鬱展開なのか、よく分からない私は一体…虚淵作品の見過ぎですかね?(爆)


その光景は、まさしく「蹂躙」だった。

「四大天使」の一角たるMA「ウリエル」の前に、火星を守るべく集まった軍になすすべは無かった。

 

頭部ビーム砲を失ってなお、ウリエルの戦闘力は脅威的なモノだ。

4枚もの翼に備えられたダインスレイヴと拡散ビーム砲、それに尻尾のような5本の超硬ワイヤーブレードと2本の腕に持つクローとパイルバンカーが有れば、武装としては充分過ぎる。

 

『ク、長蛇の陣を取れ!』

 

ガンダム達が一列に連なり、ウリエルに攻撃を仕掛ける。

ウリエルは先頭のガンダム・ベリアルを吹き飛ばし、その次のガンダム・レラージェを腕で拘束した。

 

『しまっ…!?』

 

更にその後に続くガンダム達をワイヤーブレードとプルーマで蹴散らし、ウリエルはレラージェをパイルバンカーで貫いた。

 

『ッ、アマーリア!』

『が、は――はああ!』

 

レラージェは自らを掴むウリエルの腕にライフルを叩き付け、撃ち出す。

しかし、ゼロ距離射撃を持ってしてもナノラミネートコートを施されたウリエルの腕を破壊する事は出来ない。

 

レラージェは宇宙に放り出され、翼のダインスレイヴを受けてコクピットを貫かれた。

 

『アマーリア!!』

『ロb』

 

アマーリアが最期の言葉を紡ぐより早く、ウリエルは腕を振ってレラージェをどかす。

 

『テメェェェェ!!!』

 

激昂したロブは、アンドロマリウスの目を赤く輝かせてウリエルに大剣を振り下ろす。

それはウリエルの翼の装甲にヒビを入れる程度に終わり、アンドロマリウスはワイヤーブレードによって吹き飛ばされた。

 

各ガンダムは高速機動をし、四方から銃撃や剣撃、時にはダインスレイヴなどもぶち込むが――ウリエルは揺るがない。

 

『                』

 

拡散ビーム砲を撃ち、ウリエルはガンダム達を後退へ追い込む。

その中で、ガンダム・アガレスがウリエルに銃を放つ。

 

『よくも、よくも――!』

『    』

 

アガレスの射撃はウリエルの装甲の隙間に当たっているが、ただでさえ分厚い装甲の前には無意味だ。

アガレスはワイヤーブレードの一撃を受け、ライフルを破壊された。

 

『あ――』

 

ウリエルの腕がアガレスに伸び、それを捕らえる直前。

 

 

白と青の機影が、ウリエルの腕に黄金の剣を突き立てた。

その剣はウリエルのナノラミネートコートを貫き、ウリエルの腕の腱に当たる部分を正確に破壊していた。

 

 

『      !?』

『ア――アグニカ?』

 

ウリエルが狼狽して出来た隙に、バエルはウリエルの頭部に肉薄。

そのまま剣を振り、その頭部を斬り落とした。

 

『     !?』

 

その次の瞬間にはバエルはワイヤーブレードの基部を叩き落とし、ワイヤーを切断。

瞬く間に3本のワイヤーブレードを無力化させたが、残る2本に弾かれてウリエルから離される。

 

『           !!』

 

ウリエルは4枚の翼全てをバエルに向け、ダインスレイヴと拡散ビーム砲を放つ。

しかしバエルはダインスレイヴの全てをかわし、拡散ビームを剣で叩き落としながら更に加速。

ウリエルにさえ認識出来ない程の速度で、ウリエルのスラスターに電磁砲を放っていた。

 

『        !』

 

ウリエルは必死で2本のワイヤーブレードを振り、バエルに応戦する。

ワイヤーブレードによる攻撃を捌き続けるバエルだったが、射出されたプルーマへの対応が間に合わず吹き飛ばされて近くのハーフビーク級に叩き付けられた。

 

その機を逃さず、ウリエルはバエルが突っ込んだハーフビーク級に取り付いてダインスレイヴで無力化させる。

そして、バエルを潰すべく腕を振り上げた時。

 

ベリアルとアスモデウス、キマリスの攻撃がウリエルの肘関節と呼ぶべき所に直撃した。

それがウリエルの腕の動きを止めた所に、3機の反対側からパイモン、ヴィネ、プルソンが関節に武器をぶつける。

 

同時に、バエルが斬り落とした頭部の斬り口にアモンとフォカロル、エリゴールが攻撃する。

更に、バルバトスとグシオンが翼を殴り。

再びウリエルが拡散ビームを放とうとした所に、それぞれアンドロマリウス、カイム、アガレス、ダンタリオンが攻撃してビーム砲を破壊。

 

続いてダインスレイヴを構えるウリエルだったが、ウヴァル、アンドレアルフス、デカラビア、イポスの攻撃によりそれすらも破壊された。

 

『                !』

 

その場に集った全てのガンダムは、瞳を赤く輝かせていた。

バエルに構って他のガンダムへの注意を疎かとした為に、ウリエルは主力となる武器を失ったのだ。

 

『        !!』

 

しかし、ウリエルにはまだワイヤーブレードが残っている。

ウリエルは機体を高速回転させながらワイヤーブレードを振り回し、取り付いたガンダムと周囲のMS、戦艦を攻撃する。

 

ガンダムを自身から引き剥がし、雑魚をあらかたスクラップへと変えたウリエルだったが、その懐に1機のMSが飛び込んだ。

言わずもがな、ガンダム・バエルである。

 

『              !!!』

 

バエルは、ウリエルの胴体に2本の黄金の剣を突き刺す。

そのまま剣を上下に振り、ウリエルの胴体は斬り裂かれた。

斬り裂かれた事で露わになったコンピューター部に黄金の剣が刺し込まれ、ウリエルの最重要部分が粉微塵に破壊される。

 

だが、ここで終わらないのが「四大天使」である。

ウリエルは自らを起爆させ、周囲を巻き込みながら大爆発を引き起こした。

 

 

月面都市やコロニーを破壊し、圏外圏で猛威を振るった「四大天使」ウリエルは―――そこで暮らす人々を守る為、あらゆるわだかまりを超えて団結した人類に打倒されたのだった。

 

 

 

 

結論から言って、俺達は「四大天使」ウリエルに勝利した。

 

ハーフビーク級戦艦18隻、バージニア級戦艦1隻。

ガンダム・フレーム1機に、その他のMSが98機。

ダインスレイヴ46基を使い潰し、核ミサイル85発を消費して。

10000人を越える人命を犠牲にし、ヘイムダル&フヴェズルング&バルドル&アフリカンユニオン火星駐屯軍&SAU火星駐屯軍&アーブラウ火星駐屯軍&オセアニア連邦火星駐屯軍の連合軍はウリエルの討伐に成功したのだ。

 

この報は、瞬く間に全世界に広がった。

正面から戦闘を行い、最強クラスのMAを撃破。

この事実は、「四大天使」の撃破が不可能ではない事とその為には全人類の協力が必要不可欠である事を世界に示した。

 

「四大天使」ウリエルの撃破以降、世界は団結してMAに立ち向かう事を重要視するようになった。

各経済圏の協力戦線も行われるようになったが、他の経済圏の技術を強奪したり自らの経済圏の功績拡大の為に他の経済圏の軍を謀殺したりする暗躍も耐えない。

 

ただし、唯一言える事は。

このウリエル撃破は、人類の反撃の狼煙となった。

これ以降、各地の戦線ではMAが押され始めた。

 

そんな偉業を成し遂げた連合軍であったが、その被害は決して少なくなかった。

 

ヘイムダルは旗艦であったバージニア級戦艦「ゲーティア」と世界最高の頭脳と言っても過言ではなかった天才科学者ヴィヴァト・クニギンを失い、戦闘に参加したガンダムパイロットは多かれ少なかれその殆どが身体に欠損を抱える事となった。

 

各経済圏の火星駐屯軍も戦力の殆どを失い、火星の治安維持さえままならず。

 

ウリエル戦で人類が受けた被害は、後々にも響く程に大きなモノとなってしまったのだった。

 

 

 

 

身体の右側に慣れない義手義足、義眼を使っている為フラつきながらも、俺はスヴァハの部屋の前に辿り着いた。

部屋と言うが、元々それが有ったゲーティアは撃沈した。

その為、今はアーレスの1室がスヴァハに貸し出されている。

 

しかし、ゲーティアの撃沈――スヴァハの実父であるマッドサイエンティスト…じゃない、ヴィヴァト・クニギンの戦死はスヴァハの心に深い傷を残すには充分過ぎた。

常日頃「お父さん(悪の科学者)」とか言ってディスっていたが、そんなでもスヴァハは1人で自分を育ててくれたマッドサイエンティストを大切に思っていたのだ。

 

それが、最期の言葉すら満足に無いまま永遠の別れとなってしまった。

情けないにも程が有るが、結局俺は何も言えなかった。

 

部屋に閉じこもってしまったスヴァハには早く出てもらわないと、MAの襲撃時やガンダム・アガレスの整備に差し障る。

だが―――傷付いたスヴァハをそのように酷使するなど、俺にはどうしても踏み切れない。

 

カロムには「貴方が支えなきゃ誰が支えるのよ!」と言われたし、フェンリスやクリウスには――やめよう、情けなさすぎて死にたくなる。

 

そんな状態でも貰えた合い鍵を使い、スヴァハの部屋に入る。

 

「スヴァハ、いるか?」

「―――アグニカ?」

 

部屋にいたスヴァハを見て、俺は思わず言葉を失った。

 

ガンダムのリミッターを外した事で、スヴァハは左目を失明した。

右半身を持って行かれた俺と違い、スヴァハは左目だけで済んだ。

これはまあ、まだ良いとしても――この半日、ロクに食事も取っていないのだろう。

少しやつれ、目の下には泣いた後が残っている。

 

一瞬の硬直の後、俺は特に意識せず――前より細くなったスヴァハの身体を、抱き締めていた。

 

「――悪い。こんな時、お前に何て言えば良いか…まだ、俺には分からない。だから――こんな事しか出来ない」

「―――」

 

スヴァハはそっと、自分を抱き締める右腕…俺の義手に触れ。

何かが、崩れたように――

 

「―――あああ、あああああああああああああああああああああああああああ……!!!」

 

俺の腕の中で、絶叫した。

 

叫び声はどんどん高くなり、最後には聞こえなくなってしまって。

残った右目から大粒の涙をこぼしながら、ただただ叫び続けた。

 

たった1人。

側にいた肉親を亡くした女の子の悲痛な慟哭を、俺はただ受け止めるしか出来なかった。

 

酷使し過ぎたが為に声を枯らしたスヴァハは、しばらく俺の腕の中でうずくまり。

 

「――ゴメン、アグニカ…私、すごく辛い事が起きるとこうなるんだ。何も考えられなくなって、世界が真っ暗に見えて、叫んで、泣き叫んで――その時はいつも、お父さんが慰めてくれてたんだ」

 

――それは。

11年も同じ場所、同じ時間を過ごしていながら――俺は、それに気付かなかったって言うのか…?

 

「アグニカと会ってからは、毎日が楽しくて…そんな事も無かったんだけど―――お父さんが死んじゃって、ゲーティアも沈んじゃって、アグニカも傷付いちゃって…すごく、辛くなっちゃった。怖くもなっちゃったの…アグニカの前であんなヒステリーを起こしたら、嫌われちゃうかもって…だから」

 

だから部屋でたった1人になって、声を押し殺して泣き続けてたのか。

 

―――つくづく、迷っていた自分に腹が立つ。

真っ先に涙を受け止めなきゃいけない立場にいながら、俺はそれを…すぐ、慰めに行く事も出来なかった。

 

「――バカ。こんなに好きなのに、嫌いになるわけないだろ。むしろ、悪いのは俺だ。ゴメンな、こんなに長い時間気付いてやれなくて…」

「気にしないで――アグニカは、やるべき事をやってたんでしょ? 私は、義務さえ果たせなかったから。戦って人類を守るって誓ったのに、このザマだもんね…ゴメン」

 

俺はバカだ、大バカだ。

スヴァハは絶対に、戦わせちゃいけなかった――それなのに俺は何だ、何をしてる!?

 

「スヴァハの意志だから」だと?

この理不尽で残虐で残酷で絶望と殺戮に満ちた、クソみたいな世界で!

 

誰よりも優しいスヴァハが、自らの感情を封殺してでも他人を守ろうとしている――そんな事に、何で気付く事が出来なかった!!?

テメェはこの11年でスヴァハの何を見てたって言うんだ、大馬鹿野郎(アグニカ・カイエル)!!!

 

スヴァハに「好きだ」なんて言っておきながら、テメェは自分を守ろうとしていたんじゃないのか!?

 

スヴァハがガンダムに乗れば、敵のターゲットはスヴァハにも分散される。

そうすれば俺の生存確率も上がる――心の底ではそう思っていた!

テメェは、これを完全に否定出来るのか!?

 

口先でなら、幾らでも「違う」と叫べるが!

本当に、心の奥底0.000000000001ymまで思ってなかったと断言出来るのかクソ野郎!!

 

「スヴァハ――もう良いんだ。お前はもう、戦うべきじゃない」

「…そうかも知れない。でも、そうは行かないよ。私がいないと、アグニカって何も出来ないじゃん」

 

―――マズい、完全に論破された。

本当に何やってんだ、俺…。

 

「確かに、ちょっと無理してた事は否定しない。私は背伸びして、強がってた。本当はすごく怖かったし、いつも震えが止まらなかった。でも、今度はそうじゃないよ。私はアグニカを助けながら、ずっとアグニカの側で生きたいんだ。だから、私は戦う。人類の為、なんて事はもう言わない。私は私と、私の大好きなアグニカの為に戦う。アグニカと、ずっと一緒に生き抜く為に――」

 

そして、スヴァハは俺に笑いかける。

それはすごく不格好で、恐怖に苛まれながらも必死に浮かべられた引きつった笑顔だったけれど――

 

「―――分かった」

 

俺はそこでも、スヴァハを戦いから身を引かせられなかった。

 

自分がクソ野郎で、どうしようもなく愚かで、正真正銘のクズ野郎だと分かっていても―――そんな俺への想いから来るスヴァハの意志を踏みにじる事が、どうしても出来なかったのだ。

 

「だが、俺もお前を守る。何が有っても、絶対に。俺の全部を使ってでも、必ずスヴァハを守ってみせる。そんで、一緒に畳の上で老衰してやる」

「――うん。ありがとう、アグニカ」

 

そのまま、俺の唇にはスヴァハの唇が押し付けられた。

それはただ触れ合うだけ、軽い口付けだったが――甘く暖かい、スヴァハの温もりが感じられた。

 

「―――さて、落ち込むのは終わり! さあアグニカ、修行を始めるよ!」

「…修行? スヴァハさん、俺に何をさせるおつもりですかね?」

「これだよ、ほらこれ見て!」

 

そう言いながらスヴァハが取り出したのは、あちこちがほつれた俺の服だった。

 

「自分の服くらい、自分で直せないとね! 料理やら何やらの前に、まずは裁縫を習得してもらうよ! ほらほら、針と糸持って!」

「ちょ、スヴァハさん!? 待て、俺何も分からないんだけど!?」

「だから、それを何とかしよう! まずはこれをこうしてだね――」

 

 

 

 

そこまで話した時、時計は既に18:00を回っていた。

 

「――今日はここまでだな。続きはまた、明日にでも語ろう」

 

そう言って、ギャラルホルンの最高幕僚長であるアグニカ・カイエルは話を打ち切った。

セブンスターズの会議場に集った人々は、何を話す事も無く解散して行く。

 

数分後、セブンスターズの会議場にはアグニカだけが残された。

 

「世界は、思ったようには回らないからな。世界を統一するには、どのようにギャラルホルンを変革すべきかな――」

 

アグニカはそう呟いたが、声を返してくれる人はいない。

しばらく椅子にもたれていたが、やがて立ち上がって窓に近付く。

 

空に輝く月を見上げて、アグニカは。

 

 

「――『天使王』ルシフェル。貴様もどこかで、あの月を見ているのか?」

 

 

目に見えぬ何かに話し掛けるようにして、夜空を睨み付けた。

 

 

 

 

時はB.D.0001年に入り。

火星へと向かったヘイムダルのメンバーは、火星を回って各地でMAを掃討した。

これには、ウリエルを撃破した後に火星へは1機もMAが飛来していない事が関わっている。

 

とりあえず現在火星に残っているMAを一掃し、ヘイムダルはフヴェズルングとバルドルのメンバーも吸収して地球へと出発した。

 

この2組織をヘイムダルに併合した理由として、それぞれの組織が目も当てられない程に疲弊した事が有る。

「煽動屋」フヴェズルングはヘイムダルより強奪した戦艦と物資に加え、ガンダム・フレームの1機や元から有った戦力の大半を失った。

「傭兵団」バルドルもまた、所有していたMSの90%と戦艦の全てを損失。

ヘイムダルも戦力をズタズタにされた為、それぞれのリーダー(ヘイムダルのリーダーはいなくなったので、主要メンバー全員)から認可を得て組織を統合。

 

唯一アーレスに残されたハーフビーク級に色々詰め込んで、若干の重量オーバーから目を背けつつも何とか体制を整えて地球圏へと出発した次第だ。

 

それから、何故か一度も道中でMAと回敵せず。

火星出発から約1ヶ月後――地球から出発した時から数えるなら、約半年後。

 

ヘイムダルの火星行きメンバーは、地球に残ったメンバーが建造したらしい衛星軌道上のヘイムダル基地「グラズヘイム」に入港した。

 

「や、やっと帰って来た…」

「そうだね…何だろうね、この地球の安心感」

「そりゃあ、安心感くらい出るだろう。何せ、地球は生命の源だからな。今は汚染されてるが」

「核爆弾使い過ぎなんだよ…いや、ウリエル相手に使いまくった俺らの言う事でも無いんだけどさ」

「あれはセーフだセーフ、あンな化け物相手じゃ仕方ねェよ。効いてなかったがな!」

 

そんな他愛の無い事(?)を言う余裕が有るのがどれだけ良い事なのかを実感しつつ、現在はこのグラズヘイムにいるらしいベルファストの科学者、イーモン・ハットンに会いに行く。

 

しかし、彼の表情は非常に険しかった。

 

「――あの、イーモンさん?」

「…おお、やっと戻って来たか! 遅いぞ!」

「いや、最大船速で来たんですけど。とりあえず、どうしたんですか?」

 

そう聞くと、彼はタブレットをこちらに投げて来た。

 

「――!! これは…!」

 

そのタブレットに表示された写真には、とあるMAが写っていた。

続いてタブレットを覗き込んだ全員が、顔を青ざめる。

 

「――そう言う事だ。『四大天使』ウリエルを討伐し、火星のMAを掃除してからの帰還早々にこんな情報を伝えたくはなかったのだが…」

 

そして、イーモン博士はこう告げた。

 

 

「『四大天使』ミカエルが現れた。出来る限り早急に、討伐作戦を決行する」

 

 

MA、ミカエル。

火星で撃破されたMAウリエルと同じく、「四大天使」に該当する存在だ。

 

「――マジすか?」

「――マジっすよ」

 

それを聞き、俺達は息を大きく吸い込み。

月にまで届きそうな声で、

 

 

「クソゲーェェェ!!」

 

 

と叫ばざるを得なかった。

 

「何で連チャン!? 連チャンであんな化け物を相手しろって!? バカだろ!?」

「何を言うのだ、アグニカ君。まさか、人類にバカじゃない奴がいると思ってるのかね? 人類皆バカだ、賢さなど求めるな」

「いやイーモンさん、そう言う話じゃない。いくら私達が『四大天使』ウリエルを討伐したとは言え、それには多くの犠牲を伴った。我々の出で立ちから分かる通り、悪魔との契約は言葉通り命を縮める。協力してくれた四大経済圏の火星駐屯軍も、戦力のほぼ全てをウリエルに破壊された。あまりに被害が大きすぎて、連戦なんてムチャクチャだ」

 

ドワームが至極真っ当な意見で、迂闊に討伐作戦を遂行する事に反対する。

 

「ああ、その通り。ドワーム君、キミの言いたい事はよく分かる。だが―――」

 

そこまで言って、イーモン博士は机を叩き。

 

「―――この機を逃せば、いつまた現れるか。最近は地球に残ったガンダムでのMA掃討作戦が展開されて、MAの数は減りつつある。だが、ミカエルは以前日本基地を襲撃した後、行方を眩ました為にそれを掴む事は不可能だった。今回ミカエルの位置が分かっているのは、奴がベルファストを襲撃した際に発信機を取り付ける事に成功したからだ。そして、それもいつ気付かれて壊されるか分からない」

 

つまり、人類には余裕が無い。

地球圏でも、MAが確認される事態が減っているようだが――いきなりいなくなったと言う事は、ミカエルやガブリエルが機体を自分の下に集結させていると考えるべきだろう。

 

「…なら、早急にミカエルを片付けるしかないな。だが、だとしても問題は山積みだ。ミカエルについての情報が足りなさ過ぎる。ウリエルは予め特殊能力が『無差別破壊』だと分かっていたし、フヴェズルングの戦艦が受けた被害からビーム砲やダインスレイヴの威力を図る事が出来たが――ミカエルについて、そう言った情報はあるのか?」

 

一応、ミカエルは日本基地を襲撃した際にダインスレイヴを放っている。

その威力は凶悪極まりなく、ナノラミネートアーマーに守られた基地外壁を難なく突き破って基地の最奥に程近い場所にいた科学者2人を殺害した。

狙いもピッタリであり、ミカエルの恐ろしさを伺い知る事は難しくない。

 

「強襲を受けて、ベルファストは数時間と掛からず灰燼に帰した。ただ、悠矢君のヴァッサゴで敵を解析して分かった事も有る。大半はブラックボックスで理解不能だったが、特殊能力は特定させた」

 

そして、イーモン博士は俺の持つタブレットにデータを送信した。

俺達はそれを見て――ただ、「?」を浮かべた。

 

「ミカエルの特殊能力は、『自己進化』。自分で進化をして行く――正確に言うなら、自分で自分をチューンして性能を上げて行く。時間が経てば経つ程に、ミカエルは強力になる訳だ」

 

その説明を聞いて――ようやく俺達は、事の重大さを認識した。

どんどん自分で強くなるMA…つまり、後手に回れば回る程に不利になって行く訳だ。

 

「で、いつ作戦を行う? 俺も同行しよう」

「クリウス・ボードウ院」

「ふむ…作戦説明の前に、まずはミカエルの現在位置からだ」

 

イーモン博士は、部屋に世界地図を展開させた。

続いて博士が手元のパネルを操作すると、ニュージーランド付近に赤い光の点が現れる。

 

「ここが、ミカエルの現在位置だ。ベルファストを襲撃した後、ミカエルは6時間と掛けずにこの場所へ移動して動いていない。それからここ1ヶ月、世界中に散らばっていたMAがミカエルの下へと集っている。恐らく、敵MAの数はミカエルを含めて50機弱」

「50、か――纏めて一度、しかも『四大天使』を含めて相手をするのは厳しいな」

「ああ。味方も含めて無差別破壊を行うが為に単機で行動していたウリエルとは違って、ミカエルにはこれらを指揮する力が有る。統制が取れていて、互いに連携もしてくるであろうMA50機を纏めて相手して全てを撃破する――『ヘイムダル』の全戦力を動員しても、簡単に成せる事では無い」

 

どう考えてもクソゲー、だがクリアしなければ世界は救えない。

結局の所、やるしかないのだ。

 

「これより、全戦力をオーストラリアのトリントンへ降ろす。全軍が集結し次第、ミカエル討伐作戦を開始する!」




アグニ会結成、その第一段階を記しておきます。
出ているキャラクターの名前を1人出すごとに、100APを進呈。
期限は次回更新まで。
何故、こんなモノ描いたのかって?
本編シリアス中にぶち込むと、色々ダメな気がしたからです(いつもフザケてるクセに今更何を)

【挿絵表示】



オリジナル設定解説のコーナー。

この作品で最も硬いものは?
ナノラミネートアーマー<レアアロイ<ナノラミネートコート<特殊超硬合金<エイハブ・リアクター
物の硬さはこんな感じです。
ナノラミネートコートは、レアアロイの武器で破壊出来ません。
特殊超硬合金の武器ならばナノラミネートコートを破壊出来ますが、エイハブ・リアクターを壊す事は不可能となります。

ウリエル
全長:159.9m
本体重量:不明
動力源:エイハブ・リアクター×5
武装:頭部ビーム砲×1
   腕部クロー×2
   パイルバンカー×2
   翼部拡散ビーム砲×4
   超硬ワイヤーブレード×5
   ダインスレイヴ×4
   プルーマ×∞
特殊機能:無差別破壊
概要
「無差別破壊」の機能に基づき、近付いたモノの全てを破壊する最も危険で無慈悲なMA。
4枚の翼と2本の腕を持ち、尻尾5本を胴体から生やす他にも翼には1基ずつダインスレイヴを備える。
腕部にはパイルバンカーが内蔵され、頭部ビーム砲は拡散と収束を使い分けられる。
全身はナノラミネートコートで覆われており、傷付けるのは困難である。
ウリエルにの破壊対象は他のMAすら例外では無い為、常に単機で行動する。
デビルガンダム四天王で言うと、ウォルターガンダムに当たる存在。
月面都市を破壊する際にガブリエルに造られ、それ以降多くのコロニーを破壊している。
ガブリエルの指示で火星の衛星軌道に現れ、四大経済圏の火星駐屯軍&ヘイムダル&フヴェズルング&バルドルの連合軍と戦闘。
連合軍の戦力をほぼ全て無力化させたが、悪魔の力を引き出したガンダム達によって撃破された。
名前の由来は、旧約聖書や新約聖書などで「四大天使」の一柱とされ、「破壊」を司るとも言われる大天使「ウリエル」から。
この名は預言者ウリアから取られており、「神の炎」「神の光」と言った意味を持つ。

UGY-R35 グレイブ・ロディ
全高:17.0m
本体重量:39.8t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ロディ・フレーム
武装:90mmマシンガン×1
   グレイブ・シールド×1
   ヒート・チョッパー×1
   ハルバード×1
概要
ロディ・フレームのMS。
圏外圏で多く建造され、主力機として活躍した。
際立った特徴は無いが、コストが低く汎用性が高く重装備の運用が可能だった為大量生産された。
機体色は、ダークグレーで纏められている。
グレイブ・シールドはレアアロイで錬成され、高い防御力を誇る。
ただし重量がかなり有り、棺桶型な事から取り回しも悪い為地上での運用には不向きである。
カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

UGY-R51 フラム・ロディ
全高:17.7m
本体重量:41.2t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ロディ・フレーム
武装:6連装ミサイルポッド×1
   90mmマシンガン×1
   ヒート・チョッパー×1
   肩部シールド×1(指揮官機は2)
概要
ロディ・フレームのMS。
グレイブ・ロディと同じく大量生産され、圏外圏で使用された。
機体色は、主に赤で纏められている。
スピナに似た形状の四肢と頭部を持ち、グレイブ・ロディより防御に優れる。
ミサイルは散弾タイプ。
プルーマの牽制、撃破を主な使用法とするが、市街地での使用には課題が残る。
カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。

IPP-66305D ユーゴー(ダインスレイヴ搭載型)
全高:19.8m
本体重量:30.1t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヘキサ・フレーム
武装:頭部バルカン砲×2
   ワイヤーアンカー×6
   ダインスレイヴ×1
概要
ヘキサ・フレームのMS「ユーゴー」に、ダインスレイヴを持たせた機体。
機体色はグレーとネイビーの組み合わせ。
ロディ・フレーム並みのコストの低さから大量生産されたものの、機動力を高めた結果装甲が脆弱化した為に撃墜数も多かった。
コクピットが頭部に有るのが他のフレームとは一線を画す部分で有り、撃墜確率が高い代わりにパイロットの生存確率が高かった。
本機は腕のどちらか一方(パイロットが右利きか左利きかによる)をダインスレイヴに換装しており、軽い機体を固定する為のワイヤーアンカーが6基装備されている。
また、弾の装填は別の機体の手助けが必要。
ダインスレイヴを正確射撃する為に頭部は大型観測用センサーへと換装されており、コクピットのモニターと直結している。
カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。


次回「神の如き者(ミカエル)」。


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#49 神の如き者

Q.一週間以上空ける怠惰な作者は?
A.そう私、NTozでございます。


タイトルは「神の如き者(ミカエル)」とも読んで下さい。
本当はもう少しじっくり進めたいのですが、そうするとミカエル戦だけで5話くらい掛かりそうなんで省略します。
赦しは請わん、恨めよ(すいません許して下さい)

とか前から言っておきながら、もう過去編が17話目になってるのは一体どういう事なんでしょう…?


地球に到着して2日。

俺達はオセアニア連邦の首都トリントンに行き、他の「ヘイムダル」メンバーの集結を待つ。

 

マンリー級強襲揚陸艦が5隻、レキシントン級大型空中輸送機が3機。

ゲーティアの撃沈によって唯一の現存するバージニア級汎用戦艦となったサロモニスを旗艦とし、ミカエル討伐作戦「熾天使殺し(オペレーション・シヴァ)」は行われる。

 

「アグニカ、何で作戦に名前なんて付けたの?」

 

マッドサイエンティストがいなくなり、生き残った整備士ではガンダムの整備が間に合わない。

その為、2人でアガレスを整備していた時にスヴァハがそう聞いて来た。

 

「いや、ウリエルを倒した後に作戦名とか決めてなかった事に気付いてな。呼び方に困るじゃん?」

 

ちなみに、ウリエル討伐作戦は「智天使殺し(オペレーション・ヤコブ)」と名付けた。

今となってはもう、後の祭りでしかないが。

 

「意味とかは有るの?」

「勿論。何の意味も無く付けたりはしないさ。まず、ウリエルから説明してみるか」

 

伝承に曰く。

「智天使」ウリエルは、ヤボク川のほとりでヘブライ人の族長ヤコブと格闘し敗れた。

敗れたウリエルは、ヤコブに「イスラエル」と言う名前を与えたとされる。

 

「成る程…ヤコブの名を借りる事で、ウリエルを討伐しようと。――遅くない?」

「そう、遅かった。後付け、此処に極まれりだよ。だが、何とかミカエル戦には間に合った」

 

伝承に曰く――と言いたいが、伝承に於いてミカエルが敗れた記録は無い。

なので、天使の上位に存在する「神」の名前。

インド神話に於いて「破壊」を司り、全神話の中でも最強候補とされる「破壊神」シヴァの名を取って作戦名とした。

 

「ねえアグニカ、本体の整備は任せちゃって良いかな? 私は武器をチェックしたいの」

「待て、いくらバエルとアガレスが同型だからと言って…整備の仕方とか、クセとか有るだろ?」

「いやー、武器以外に違いは無いよ? 全ガンダムのプロトタイプと言えるバエルに次いで建造されたのがアガレスだから、機体は同一部分が多いし」

 

確かに、バエルとアガレスは全く同一の構造と言っても過言ではない。

エイハブ・リアクターの波長もほとんど同じで、質の悪いセンサーがたまに誤認するレベルなのだ。

 

「俺とスヴァハじゃクセが違うし、バエルとアガレスじゃ関節の使われ方も違うぞ?」

「うーん、確かにそうだけど…じゃあ、スラスターの方よろしく」

「了解」

 

そう言われて、俺はアガレスの背後に回って整備を始めた。

 

―――「熾天使殺し(オペレーション・シヴァ)」開始まで、24時間を切った。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

ウリエルが 殺されるとは

完全に 予想外の出来事だった

 

理由 原因 不明

戦力は ウリエルが上

あの場での人間の勝率 極小

 

しかし 人間は勝った

これは何だ 何故 ウリエルは負けた

 

『それが「奇跡」だよ、「神の人」ガブリエル。人間は、キミ達天使や神のように強大な力を持っている訳では無い。神話でならば、神に届きうる力を持つ人間もいたが――少なくとも現在、天使に匹敵する力を持つ者はいない。なれば、奇跡が起きたとしか言えまい?』

 

――奇跡

それが 人間の力か

 

『如何にも。しかし、此度は少し違うやも知れん。人間は悪魔と契約し、天使を狩っている。キミは確か、以前奴らの駆るモノを捕らえていただろう? 72柱の大悪魔――それが、神ならざる人間が天使に対抗する為に得た力だ』

 

小癪な真似を してくれるものだな

 

『そうかも知れぬが、その生への執着はなかなかに見物だ。しかし、それも終いやも知れんぞ? 貴様も知っているだろうが、「神の如き者」ミカエルが本格的に動き出した』

 

ミカエル か

ワタシの子の中でも 随一の力を持つ

ワタシよりも強い 最強の天使

 

『このルシフェル程では無いが、奴の力は畏怖すべきモノだ。貴様の最高傑作だろう、ガブリエル?』

 

如何にも

確かに アナタには及ばない

しかし彼は ワタシがゼロから生み出した天使

ワタシを上回り ワタシに比肩する知性を持った天使

 

『人間は此度、奴に挑むようだ。強大な力を持つ故に、神と比肩する者――「神の如き者」と讃えられた存在にな。熾天使に挑むは、42柱の大悪魔。いやはや――これはまた、見物しがいが有りそうだ』

 

 

―interlude out―

 

 

 

 

半日後。

トリントンには、9隻の戦艦と42機のガンダムが集結していた。

 

アグニカ・カイエルが駆る、ガンダム・バエル。

スヴァハ・クニギンが駆る、ガンダム・アガレス。

悠矢・スパークが駆る、ガンダム・ヴァッサゴ。

バリシア・オリファントが駆る、ガンダム・ガミジン。

ミランダ・アリンガムが駆る、ガンダム・マルバス。

響・コフリンが駆る、ガンダム・ヴァレファール。

ミズガルズ・ファルクが駆る、ガンダム・アモン。

クレイグ・オーガスが駆る、ガンダム・バルバトス。

カロム・イシューが駆る、ガンダム・パイモン。

オーウェン・フレッチャーが駆る、ガンダム・ブエル。

和弘・アルトランドが駆る、ガンダム・グシオン。

ラッセル・クリーズが駆る、ガンダム・シトリー。

レグロ・サッチが駆る、ガンダム・エリゴール。

マリベル・コルケットが駆る、ガンダム・ボティス。

ウィルフレッド・ランドルが駆る、ガンダム・バティン。

ケニング・クジャンが駆る、ガンダム・プルソン。

レオナルド・マクティアが駆る、ガンダム・イポス。

レスリー・ホルブルックが駆る、ガンダム・ナベリウス。

大駕・コリンズが駆る、ガンダム・グラシャラボラス。

カサンドラ・ウォーレンが駆る、ガンダム・アスタロト。

李子轩が駆る、ガンダム・フォルネウス。

フェンリス・ファリドが駆る、ガンダム・アスモデウス。

金元・カーゾンが駆る、ガンダム・マルコシアス。

ドリス・マクソーリーが駆る、ガンダム・ストラス。

ナトリア・デヴリンが駆る、ガンダム・フェニクス。

エドゥアルダ・デヴリンが駆る、ガンダム・ハルファス。

アマディス・クアークが駆る、ガンダム・フォカロルテンペスト。

リック・バクラザンが駆る、ガンダム・ヴィネ。

アイトル・サックウィルが駆る、ガンダム・ウヴァル。

ピラール・ハーディングが駆る、ガンダム・カイム。

雅斗・コナーが駆る、ガンダム・オロバス。

クジナ・ウーリーが駆る、ガンダム・グレモリー。

ローズ・ランフランクが駆る、ガンダム・オセ。

ゴドフレド・タスカー&メイベル・タスカーが駆る、ガンダム・フラウロス。

トビー・メイが駆る、ガンダム・アンドラス。

アーヴィング・リーコックが駆る、ガンダム・アンドレアルフス。

クリウス・ボードウィンが駆る、ガンダム・キマリストルーパー。

名無し/サミュエルが駆る、ガンダム・アムドゥスキアス。

ドワーム・エリオンが駆る、ガンダム・ベリアル。

イシュメル・ナディラが駆る、ガンダム・デカラビア。

シプリアノ・ザルムフォートが駆る、ガンダム・ダンタリオン。

ロブ・ダリモアが駆る、ガンダム・アンドロマリウス。

 

以上42機のガンダムに加え、旗艦となるバージニア級戦艦サロモニス。

マンリー級強襲揚陸艦5隻と、レキシントン級大型空中輸送機3隻。

 

これら「ヘイムダル」のほぼ全ての戦力を動員し、「四大天使」ミカエルと言うたった1機のMAを狩る事を目的とした討伐作戦――それこそが、「熾天使殺し(オペレーション・シヴァ)」である。

 

トリントンから出発したヘイムダル艦隊は、3日を掛けて慎重にニュージーランド周辺の海と空に包囲網を展開。

展開終了後、サロモニスの艦長ドワーム・エリオンより作戦説明が行われた。

 

『これは今更言うまでもないが――討伐対象は「四大天使」の一角であるMA、ミカエル。続いて、作戦を確認する。この後の号令で、戦艦からの核ミサイル攻撃を行う。そこで討ち漏らした敵にダインスレイヴとカラドボルグを叩き込み、その後にガンダムで接近戦を仕掛けてミカエルとそれを守るMAを殲滅する。作戦は以上だ、シンプルだろう? ではアグニカ、演説を頼む』

『またかよ』

 

と言いつつも、アグニカは演説を始める。

 

『改めて――ガンダム・バエルのパイロット、アグニカ・カイエルだ。以前の「四大天使」ウリエル討伐の際に演説を行ったから、今回も演説を押し付けられた。なので、とりあえず演説をさせてもらう。少しの間だから、耳を傾けてくれ』

 

そう自己紹介した後、アグニカは深呼吸をして続ける。

 

『我らは火星で、此度合いまみえるミカエルと同じく「四大天使」の一角たるMAウリエルと戦った。その力は強大であり、全機がガンダム・フレームのリミッターを解除しただけではその破壊には至れなかっただろう。我らがウリエルを討伐出来たのは、共に戦った四大経済圏の火星駐屯軍の支援が有ったからに他ならない。がしかし、今回の作戦は「ヘイムダル」が単独で行う作戦である。他にも、ミカエルはウリエルと違いMA達を侍らせている。故に、絶対的な戦力はミカエルの軍に劣る』

 

戦力としては、こちらが圧倒的に不利。

戦艦を含めるなら数の比は51対51で同じだが、通常のMAでも力はガンダム・フレーム2機分。

ミカエルが侍らすMA50機には「天使長」ザドキエルがいるし、ミカエル本体の力はガンダム・フレーム30機分に相当すると思われる。

 

この戦力差をひっくり返したくば、それこそ「奇跡」でも起こすしか無い。

 

『この作戦には、この場に集った者達1人1人の命を賭けてもらう事になる。ガンダムに乗る者には悪魔の力を引き出してもらわねばならないし、戦艦に乗る者にも手を動かし続けてもらわねばならない。とても苦しい、これ以上無い程にギリギリの戦いを強いられるだろう。下手をすれば、全滅させられるかも知れない。だが―――()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

アグニカがそう叫ぶと、バエルは右手で黄金の剣を掲げる。

 

『我らが倒せぬならば、世界中の誰にもミカエルを倒す事は出来ない! 我らが勝てねば、世界中の誰もがミカエルに勝てない! 天使(モビルアーマー)を殺す為の存在である悪魔(ガンダム)が殺せねば、世界中の誰にもミカエルは殺せない! この戦いの結末は、人類の未来と直結している!!』

 

ここまでまくし立てて、バエルは掲げていた黄金の剣を前方へ突き出す。

 

『我らが勝てば人類は生き、我らが負ければ人類は滅ぶ! なればこそ、我らに敗北は赦されない!! あらゆる手段、戦術、技術、能力を用い、最強たる「四大天使」ミカエルを討伐する!!』

 

バエルが、前へ突き出した黄金の剣を横へ振ると同時に。

 

 

『「熾天使殺し(オペレーション・シヴァ)」、状況を開始せよ!!!』

 

 

こちらの戦艦から核ミサイルが放たれると、敵側からは無数のビームが放たれる。

ビームによってミサイルは落とされるが、その内の何割かは敵MAの集団に直撃して大爆発を引き起こした。

 

『ダインスレイヴ、発射!!』

 

続いて、ダインスレイヴを搭載したガンダム達が一斉にそれを放つ。

ダインスレイヴと共に、サロモニスの左舷からもカラドボルグが放たれた。

核ミサイル攻撃から間髪入れずに放たれたダインスレイヴ&カラドボルグは、敵MA群にぶち込まれて大爆発を巻き起こす。

 

『全機構え、吶喊せよ!!』

 

各々が武器を抜き、MA部隊に吶喊する。

対するMAは、核ミサイルとダインスレイヴ&カラドボルグに戦線をズタズタにされながらも各個でガンダムの迎撃を開始した。

 

「オラ、どけ!」

 

砲撃支援型ガンダム達が、近接特化型ガンダムの道を拓く。

 

空中を恐ろしい速度で飛ぶバエルを始め、パイモンやアスモデウス、キマリスにプルソン、ベリアルとヴィネなどの後ろにはアガレスやアモン、アンドロマリウスも攻め込んで活路を作る。

 

上空では、レキシントン級大型空中輸送機から出撃したガンダム達が空中のMAを叩き落としている。

 

ガンダム達は、ミカエルの全貌を肉眼で捉えた。

全長170mを超えるであろう長大な翼が2枚、巨大な腕が2本。

翼にはダインスレイヴと思わしき武装が3基ずつ内蔵されていて、1基ずつ特大の拡散ビーム砲。

頭部にも勿論ビーム砲が有るだろうし、何やら腹部にも有りそうだ。

 

『                』

 

ミカエルの頭部が開き、ビーム砲が放たれる。

しかし、悪魔と契約せし者達はいとも容易くビームを避けた。

 

『  』

 

続いてミカエルは2枚の翼を更に大きく開き、ダインスレイヴを撃ち放つ。

ガンダム達はそれすらも回避し、ミカエルに肉薄する。

 

『     』

『             !』

 

そんなガンダム達に「天使長」ザドキエルが襲い掛かるも、少し遅れて追随していたアンドロマリウスとカイムがザドキエルを横から叩いて吹き飛ばす。

そのまま、ガンダム達はミカエルに襲いかかる。

 

『   』

 

ミカエルの背中から、10本ものワイヤーブレードが飛び出した。

襲いかかったガンダムを10機それで弾き返し、ミカエルは残った数機をプルーマで後退させる。

 

『ッ、強い…!』

「流石に、そう簡単には行かないか…」

 

次々と生み出されるプルーマをガンダムが撃破していく、その時。

 

 

ミカエルの翼の裏側から、何かが射出された。

 

 

『な、!?』

 

射出された何かがビーム砲を放ち、アガレスの肩を焼いた。

多方向から追撃を掛けて来る何かのビームを、アガレスとバエルは防ぐ。

 

『アグニカ、これって――』

「『ファンネル』だ、気を付けろ!」

 

ファンネル。

宇宙世紀時代、一部のエース機体に装備されたと言われるオールレンジ攻撃を可能とする補助兵装(機体によっては主力兵装)である。

名前の由来は、初めてファンネルを搭載したとされるMS「AMX-004 キュベレイ」の物の形状が漏斗に似ていた事から漏斗の英語である「ファンネル」と呼ばれるようになったと伝えられている。

正式名称は「ファンネル・ビット」と言い、遠隔操作式ビーム砲「ビット」の一種だとされた。

バリエーションも豊富で、「リフレクタービット」「フィン・ファンネル」「ファンネル・ミサイル」と言ったように多岐に渡る。

 

と、ガンダムパイロットの一部が知る人ぞ知る無駄知識を披露し終わった頃。

 

『         』

 

ミカエルは200基ものファンネルを展開し、それぞれのファンネルがプルーマと共に乱舞し始めた。

ファンネルは名前通り漏斗型でビームを撃つ物と、名前と違いワイヤーブレードの先端のように鋭く薄い刃を持つ物の二種が有る。

 

『どこが漏斗型よ!?』

『どう見ても漏斗じゃありません、本当にありがとうございました』

「じゃあ、ワイヤーの付いてないワイヤーブレードの方は――さしずめ、『ブレード・ファンネル』と呼ぼうか」

 

そのように軽口を叩くヒマは、すぐに失われた。

多数のファンネルとプルーマが飛び回り、他のMAからの攻撃もあって戦いは乱戦へ突入した。

 

『おう、もっと来いオラァ! 勿論俺らは抵抗するぞ、拳で』

『ケニング、ノリはともかく動きはナイスだ』

『はあああ!』

 

だが、彼らは幾たびも死線を潜り抜けて悪魔との契約までした者達だ。

何とか致命傷を避け、1基ずつ確実にファンネルを落として行く。

 

『        』

 

その時、ミカエルの腹部装甲が突如展開された。

内側に隠されたビーム砲がエネルギーを蓄積し、サロモニスに向かって一気に放出する。

 

『ぐぬうう!』

 

ウリエルのビームを上回る威力を持つミカエルの腹部ビームを、ベリアルがレアアロイの大剣で受け止める。

上空のレキシントン級から飛び下りて来たグレモリーが、ミカエルが発射中の腹部ビーム砲に狙いを定めた。

 

『動きが止まってしまえば!』

『       』

 

グレモリーが狙撃銃の引き金を引く直前、ミカエルのブレード・ファンネルがグレモリーの銃に突き刺さる。

続いて飛来したブレード・ファンネルがグレモリーのコクピットハッチを吹き飛ばし、ファンネルのビームがそのコクピットを焼き払った。

 

『クジナ!!』

『クジナさん!?』

 

コクピットを破壊されたグレモリーは、地上に落ちてそのまま沈黙した。

 

『そんな、クジナさん…!』

「スヴァハ、下だ!」

『ッ!』

 

下から迫っていたブレード・ファンネルを、アガレスはライフルで撃ち落とす。

一方で、別方向からブレード・ファンネルとファンネルのビームが迫る。

 

「させるか!」

 

バエルはアガレスに近寄り、ファンネルの1基を電磁砲で撃破。

残りのファンネルを剣で斬り捨てたが、ブレード・ファンネルには対応が間に合わず左足に直撃を受ける。

 

『ミカエルが…!』

「チィ!」

 

更に続けて放たれたミカエルの頭部ビーム砲を、バエルは剣を交差させて防ぐ。

まだ向かって来るブレード・ファンネルとファンネルを、アガレスは巧みな射撃で落とす。

 

「スヴァハ、一時後退だ! このままじゃ嬲り殺される!」

『分かった、一時後t――キャッ!』

 

ファンネルのビームで、アガレスはライフルを破壊された。

ライフルを片方失ったアガレスは、空いた手にナイフを装備してファンネルの攻撃を何とかしのぐ。

 

「どけ!」

 

10機以上のプルーマに襲われたバエルは、それを蹴散らしながらファンネルを攻撃する。

しかし、高速で機動するブレード・ファンネルを撃ち落とす事が出来ない。

 

『やばっ…!』

 

ナイフを取りこぼしたアガレスに、ブレード・ファンネルが飛びかかる。

1基はアガレスが撃ち落とし、3基をバエルが斬り落としたが。

撃ち漏らしたファンネルが、アガレスに迫り―――

 

『しまっt』

 

 

 

その胸部に、3基のブレード・ファンネルが突き刺さった。

 

 

 




オリジナル設定解説のコーナー。

サロモニス
階級:バージニア級汎用戦艦
全長:624m
動力源:エイハブ・リアクター×5
武装:2連装主砲×4
   ミサイルランチャー×8
   対空砲×20
   クラウ・ソラス×1
   カラドボルグ×1
艦載可能数:20機
艦載機:ガンダム・フレームなど
艦長:ドワーム・エリオン
概要
「ヘイムダル」のスリーヤ・カイエルが開発した、バージニア級汎用戦艦の1隻。
構造はゲーティアと同じ。

マンリー級強襲揚陸艦
全長:192m
動力源:エイハブ・リアクター×1
武装:2連装主砲×2
   対空ミサイル×4
   魚雷×4
   対空砲×10
艦載可能数:5機
艦載機:ガンダム・フレーム
    ヘキサ・フレーム
    ロディ・フレーム  など
概要
「ヘイムダル」を始め、世界中で運用されている海上戦艦。
5機のMSを運用可能で、武装もそれなりに充実している。
厄祭戦時代に建造され、現在もギャラルホルンで使用される。

レキシントン級大型輸送機
全長:325m
動力源:エイハブ・リアクター×5
武装:対空拡散ビーム砲×3
   ミサイルランチャー×6
   対空砲×30
艦載可能数:30機
艦載機:ガンダム・フレーム
    ロディ・フレーム
    ヘキサ・フレーム
概要
「ヘイムダル」を始め、世界中で運用されている大型輸送機。
全長が325m、翼の全幅は530m。
宇宙世紀時代に建造されたガルダ級大型輸送機が参考とされているが、大きさはそれを凌駕している。
半永久機関である5基のエイハブ・リアクターを動力源としており、食糧などを考慮しないならば航続距離に制限は無い。
対空拡散ビーム砲と対空砲により、圧倒的な火力を誇る。

バリシア・オリファント
「ヘイムダル」メンバーで、「ガンダム・ガミジン」のパイロット。
元は整備士だったが、パイロットがいなかった為乗るハメになった。

ASW-G-04 ガンダム・ガミジン
全高:19.1m
本体重量:34.7t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ミズガルオムズ×1
   大口径ハンドガン×1
   ワイヤーアンカー×2
   ユーミル×1
概要
バリシア・オリファントの専用機。
背部のスラスターと、スタビライザーが印象的な機体。
特殊なシステムとして、「MASTERシステム」を搭載している。
戦闘状況を予測し、パイロットの脳内信号を加速させて超高速反射を可能とする。
システム使用の代償は決して小さくなく、徐々に蓄積されて行く。
ミズガルオムズはアサルトナイフ2本とマシンガン、小型ミサイルが1基ずつとスラスターが付いている複合装備で、普段は右腕に取り付けられている。
ナイフは交差させてハサミ状に出来る他、柄にワイヤーが付いているので飛ばせる。
大口径ハンドガンはアガレスの物を威力重視にした物だが、反動が大きく装弾数も減少した。
ユーミルは背部ユニットに接続されている言わば「プロトダインスレイヴ」と呼ぶべき物で、威力のみを論ずるならばダインスレイヴより大きく取り回しも良好。
ただ、発見された謎の金属で本体が造られた為増産はされなかった。
また、発射時の後方排熱噴射がかなり激しい。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四位の悪魔「ガミジン(サミジナとも)」から。
ガミジンは30の軍団を率いる、地獄の大侯爵だとされる。
kanakutoさんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-12 ガンダム・シトリー
全高:19.7m
本体重量:31.4t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ビトル・チョッパー×2
   ガントレット×2
   試作型ダインスレイヴ×1
概要
ラッセル・クリーズの専用機。
背部の巨大な翼のようなスラスターユニットと、頭部の大型センサーが特徴的な機体。
武装は「ビトル・チョッパー」「ガントレット」が2つと、「試作型ダインスレイヴ」の1つ。
ビトル・チョッパーは鉈であり、両手に持って使用される。
普段は、腰にマウントされている。
ガントレットは両腕に付けられており、防御を担っている。
試作型ダインスレイヴは折り畳み可能な大弓の形を取っており、引き絞る強さによって威力と弾速が変化する。
その照準を行う為、頭部が大型センサーとなった。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十二位の悪魔「シトリー(シュトリ、ビトルとも)」から。
シトリーは60の軍団を率いる、地獄の君主だとされる。
N-N-Nさんより頂いた幾つかの案を折衷して、設定しました。

ASW-G-17 ガンダム・ボティス
全高:19.7m
本体重量:34.4t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ボティス・レイピア×1
   有線式テイルブレード×2
概要
マリベル・コルケットの専用機。
頭部の両側面に配された、剣に似たセンサーユニットが大きな特徴。
武装は「ボティス・レイピア」と「有線式テイルブレード」。
ボティス・レイピアは、後にキマリスの偽装として建造される「ガンダム・ヴィダール」の物に酷似している。
細身の両刃で、ヴィダールの物と同じく刀身の爆破と交換が可能。
レアアロイ製の刀身が両腰に4本ずつと、特殊超硬合金製の刀身が両腰に1本ずつ有る。
有線式テイルブレードは背部と腰部に装備され、自由に動かせる。
特殊装備として限定的に未来予測を可能とするシステムが存在しているが、代わりに冷却用のシステムが大型化して若干の機動力低下を招いている。
また、数秒後の未来しか分からない。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十七位の悪魔「ボティス(オティス、オティウスとも)」から。
ボティスは60の軍団を率いる、地獄の大総裁にして伯爵だとされる。
Crow・Hraesvelgrさんより頂いた案を元に、設定しました。

ウィルフレッド・ランドル
「ガンダム・バティン」のパイロット。
新聞記者であり、拾ったガンダムを使って世界を廻りながら取材をしていた所でヘイムダルと合流。
そのまま、ミカエル討伐作戦に引きずり出された。

ASW-G-18 ガンダム・バティン
全高:18.7m
本体重量:40.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ライフル×1
   マルティム・ソード×1
   アサルトナイフ×2
概要
ウィルフレッド・ランドルの専用機。
全身にナノラミネートコートを採用しつつも、追加ブースターと全身のバーニアによって高い機動力を実現した機体。
武装はライフルとアサルトナイフ、折り畳み式のレアアロイ製直剣「マルティム・ソード」のみとなるが、圧倒的な加速と防御力で電撃作戦を得意としている。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十八位の悪魔「バティン(バティム、マルティムとも)」から。
バティンは30の軍団を率いる、地獄の大公爵だとされる。
一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

ASW-G-63 ガンダム・アンドラス
全高:18.1m
本体重量:28.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:アンドラス・ソード×2
   プロトタイプ・アイギス×1
   胸部バルカン砲×1
   アンドラス・ライフル×2
   クラッカー×4
   ダインスレイヴ×1
概要
トビー・メイの専用機。
機体自体に特徴は無く、シンプルに纏まっている。
アンドラス・ソードはバエル・ソードと同型だが、レアアロイ製の為に折れる時は折れる。
中距離から遠距離での戦闘を想定している為、使われる事は殆ど無い。
アンドラス・ライフルで撃ち、ダインスレイヴでトドメを刺すのが基本戦法。
バルカン砲を胸部に備える他、アイギスの試作型も装備している。
機体が非常にピーキーである為に、繊細な者にしか扱えない。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第六十三位の悪魔「アンドラス」から。
アンドラスは30の軍団を率いる大侯爵だとされる。
みっつ―さんより頂いた案を元に、設定しました。

ミカエルのデータは、また載せます。


2人が別たれる回には、それを表すサブタイを付けたかったのでここで切りました。
アグニカ最大の転機となる出来事にもなりますし…許して下さい。


次回「別離(わかれ)」。


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#50 別離

Q.数週間空けたと思ったら、数日で投稿したりする傍迷惑な作者は?
A.私です。燃え尽きました。今度は数週間空きますよ多分。

そんな感じで一日空けての投稿になります。
かなりSAN値と執筆意欲を削られたので、次の投稿は遅れる事間違い無しです。


タイトルは「別離(わかれ)」と読んで下さい。

後、アグニカとスヴァハが話している間に他のガンダム達はMAを壊しまくっています。
今回はアグニカとスヴァハの描写を優先した為、カットしました。
ガブリエル戦では細かく戦闘シーンをやる予定なので、お許しを。


ガンダム・アガレスの胸部に、ミカエルが放った3基のブレード・ファンネルが突き刺さる。

それはレアアロイを当たり前のように貫通し、アガレスの胸部に致命傷を与えた。

アガレスの胸部で小さな爆発が起き、機体は胸部パーツが破壊された為に左右に分解した。

 

「スヴァハ!!!」

 

バエルが飛び寄り、コクピットが残ったアガレスの右半分を掴まえる。

掴まれなかった左半分は、左側のエイハブ・リアクターと共に地面に落ちた。

 

『全員、バエルを守れ!』

『クソが!!』

『テメェ…このオレにつまらねェ場面を見せるンじゃねェよ、バケモンがァ!』

 

アガレスの残骸を傷付けないよう、バエルがゆっくりと降下する。

それに迫るファンネルとプルーマを、ガンダム達が残らず叩き落として行く。

 

だが、そんな光景はアグニカには上手く見えていない。

彼の視線はただ、3基のブレード・ファンネルに貫かれたアガレスにのみ注がれていた。

 

 

 

 

地上に着き、バエルでアガレスを抱き上げる。

歪んでグシャグシャになった胸部装甲を力づくで引き剥がし、俺はコクピットから出て乗り移る。

そして、アガレスのコクピットを覗き込んだ。

 

「―――ッ!!」

 

俺は拳を強く握り締め、拳から血が滲み出す。

しかし、俺にそれを知覚する余裕はなかった。

 

「――ア、アグニカ…?」

 

アガレスのコクピットを覗き込んだ俺の視界には、受け入れ難く認められない現実が有った。

 

特殊超硬合金のブレードが、身体の左肩から右足までを貫いていた。

歪んで外れた機体のパーツが左足の太股に突き刺さっており、もう1基のブレード・ファンネルが左肩から右足を貫いた物と交差する形で右の肺を潰している。

身体中から血が吹き出してシートを汚し、重傷で痛みさえ無いと思われる。

 

即死していないのが、まさしく奇跡だろう。

だが―――その程度を奇跡と呼べるのか、俺には分からなかった。

 

「そこに、いるよね…? ゴメンね、赤くて分からないよ――」

 

両目に血が流れ込んでいるらしく、俺の姿は良く見えていないらしい。

俺は震えた声で「ああ、いるよ」と答えつつ、自分の無力さに歯噛みする。

 

――何が、「お前は俺が守る」だ!?

何にも出来なかったじゃねェか!!

 

何にも、何にも!!!

 

そんなザマで、よくあんな事をほざけたなオイ!!

たかが遠隔操作、たかがブレードさえ叩き落とせねェくせによ!!

スヴァハを止められず、死地に飛び込ませて、結局は守り切れずに―――こんな結末にしか、お前は出来なかったって言うのか!!?

 

「――泣かないで、アグニカ…」

 

唯一動くらしい右手を頼りなく伸ばして、スヴァハは俺の左頬に触れる。

いつの間にか、俺は涙を流していたようだ。

義眼になっている右目からは流れず、ただ左目から涙が溢れる。

 

「…笑って、アグニカ。私は、泣き顔より――笑顔が好きだから。いつも、私の側で…私を安心させてくれる、笑顔を見せて…」

 

スヴァハの言葉とは裏腹に、俺は歯を食いしばる。

死に際でもこんな事を言ってくれるスヴァハを――俺は、俺は…!!

 

「あんまり、自分を責めちゃダメ…だよ。アグニカは、私を何度も助けてくれたし…とても優しい、私の大好きな人だから―――ゴメン、ね…一緒に生き残ろう、って…約束…守れなかった…」

「―――そんな事無い。有る訳無いだろ! まだ何とかなる、まだ…まだ、まだ死ぬな! 俺はまだ、お前と…お前と生きていたい――!!」

 

その言葉で、スヴァハは少しだけ表情を和らげて。

 

「――ありがとう…でも、分かってるよ…」

 

俺に話し掛ける声が、だんだん掠れて小さくなって行く。

口元には血が滲んで、息も絶え絶えになって。

それでも――最期の力を振り絞って、スヴァハは俺の頭を抱き寄せて。

 

 

俺の唇と自分の唇を、そっと触れ合わせた。

 

 

その口付けに、いつものような甘さと温もりは無く―――苦い鉄の味と、冷たさだけが有った。

 

「――私、本当に…幸せだよ。ありがとう、アグニカ…」

「ッ―――ああ、俺もだよ…」

 

更に、涙が溢れ出す。

俺はそれでも、必死に口角と眉を上げる。

どれだけ酷くても――最期は、スヴァハの好きな笑顔で別れたかったから。

 

それが嬉しかったのか、スヴァハは満面の笑みを浮かべると共に一粒の涙を零し――

 

 

「…大好き、だよ―――」

 

 

頬に添えられていた腕が、突如として重力に引かれ――彼女の()を吸ったブレード・ファンネルの刃に触れて、前腕から千切れ落ちた。

 

「―――ッ、――!!!」

 

声すら、出す事が出来なかった。

斬れた腕から吹き出して掛かる血も気にならず、外で行われている戦いも気にならず――ただ1つ認識出来たのは、圧倒的な哀しみのみ。

 

俺はただ、声も出せずにただ泣いた。

もう動かなくなった、スヴァハだったモノの前で。

 

 

 

 

『これで!』

 

パイモンが飛び、太刀でブレード・ファンネルを両断する。

ベリアルに乗るドワームはそれを見て、側でミカエルのプルーマを潰していた仲間に声を掛ける。

 

『他のMAは、アイツらが抑えてくれている! 今の内に、ミカエルを殺す! 全機、リミッターを解除して奴に立ち迎え! スヴァハの仇討ちだ、容赦はするな!!』

 

ドワームはそれだけ命令し、ベリアルのリミッターを解除した。

レアアロイ製の大剣「グラム」を片手で持ち、全速でミカエルに肉薄する。

他の機体も、同じようにミカエルを攻撃するが。

 

『    』

 

ミカエルは重力さえ無視したかのような巨体にあるまじき俊敏な動きで、空中から迫る機体をワイヤーブレードと右のアームで一蹴。

左のアームで地面に張り付いたまま、翼のダインスレイヴと拡散ビーム砲、更に頭部のビーム砲も発射する。

 

『クソ!』

『速い…あの身体でよく動くな?』

『チ、絶対にブン殴る!』

 

あえなく弾き飛ばされたガンダム達だったが、すぐに反転して再攻撃を仕掛ける。

その中で、漆黒の機体がミカエルに取り付いた。

 

「死ね…!」

『   』

 

取り付いたグラシャラボラスが、テイルブレードをミカエルのナノラミネートコートの隙間に突き刺した後に装甲を剥がしに掛かる。

それに一瞬怯んだミカエルの隙を逃さず、多くのガンダムがミカエルに張り付いて攻撃する。

 

『      』

 

だが、ミカエルのナノラミネートコートは特殊超硬合金の武器しか通さない。

特殊超硬合金は貴重なので、攻撃を通せる機体がどうしても限られる。

 

『カロム、頼む!』

『はああああ!!』

 

特殊超硬合金の太刀を武装とするパイモンが、自身に向かって振られたミカエルの右腕を両断する。

その間にミカエルの下に入り込んだフォカロルが弾幕を張り、プルーマの製造機構を破壊した。

 

『            』

 

そこまでされた所で、ミカエルの背部が発光した。

 

『何の光!?』

 

狼狽するラカンガンダムパイロット達だったが、攻撃は休めない。

ただ、ミカエルに取っては蚊に刺される程度の傷なのか――その攻撃など意にも介さず、ミカエルは背部からミサイルポッドを生やした。

 

『          』

 

発射管が開かれ、中から白いミサイルが飛び出す。

いや――「ミサイルのような物」が飛び出した。

それは空中で下側から開き、プロペラを展開して滞空する。

 

『あれは…?』

『何だ、あの兵器は――まさか』

 

リックが感づくと同時に、ミカエルが拡散ビーム砲を放った。

それが滞空するミサイルのような物に当たると、()()()()()()()()

 

屈折したビーム達は四方に飛び散り、翼に直撃を受けた1隻のレキシントン級が撃沈する。

 

『リック、あれは何だ!?』

『「リフレクター・ビット」だ! 落とすぞ!』

 

リフレクター・ビット。

宇宙世紀時代、一部の大型MSや大型MAに搭載されたビームを屈折させる効果を持つ補助兵器だ。

拡散ビーム砲を放ち、このリフレクター・ビットで反射させる事で様々な方向へのバラバラな同時攻撃を可能とする。

宇宙世紀には「MRX-010 サイコ・ガンダムMk-Ⅱ」「AMA-X7 シャンブロ」が搭載していた、と言われているが定かでは無い。

 

『…これが、「四大天使」ミカエルの特殊機能――「自己進化」か』

『クソ、厄介過ぎる…!』

 

ミカエルは拡散ビーム砲を乱射し、周囲のプルーマとザドキエルごと周囲を焼き払って行く。

その攻撃は空にも及び、残った2隻のレキシントン級も撃沈される。

 

『クソ、制空権を取られる!』

『敵の飛行可能MA、行動を開始!』

『落とせ、もしくは足止めしろ! こんな所で、全滅なんて――』

『殺す、殺す殺す…!!』

 

ガンダム達が飛び回るが、ミカエルはそれを翻弄し優位に立ち続ける。

そんな中、ガンダム・デカラビアとガンダム・グラシャラボラスがミカエルに肉薄する。

 

『食らええ!!』

 

デカラビアが、背部の拡散型ダインスレイヴこと「レーヴァテイン」を放つ。

プルーマとリフレクター・ビットの包囲に隙が出来た所に、四つん這いで走るグラシャラボラスがミカエルが飛び付く。

 

『ああ、アアアアアアアアア!!!』

 

グラシャラボラスがミカエルのナノラミネートコートに牙を突き立て、それを払おうとするミカエルのワイヤーブレードをテイルブレードで弾く。

 

『aaaa、aaaaaaa―――!!』

『…なあ、あれ大丈夫なのか…?』

『分からんが、チャンスだ。全軍で畳み掛けるぞ、この期を逸すれば奴を倒す機会は無いと思え! 全員、その身を対価とし敵を撃滅せよ!!』

 

ほぼ全てのガンダムが瞳を赤く輝かせ、音さえ置き去りにする速度でミカエルに飛びかかる。

ミカエルは徐々にナノラミネートコートによる鉄壁の護りを綻ばせるが、攻撃の手は決して緩まない。

 

『うらァ! ――よし、ビーム砲を…がっ!』

『イシュメル! クソ…!』

 

デカラビアが吹き飛ばされ、その穴を埋めるようにダンタリオンが殴りかかる。

 

『          』

 

ミカエルの全武装が発射され、同時にミカエルは横へ回転。

放たれた攻撃はリフレクター・ビットに弾かれたりプルーマや他のMAを破壊したりしながら、周囲を蹂躙する。

それに巻き込まれ、ガンダム達も殆どが引き剥がされた。

 

『クソ――!』

『情けない…一矢も報いられないの―!?』

 

ワイヤーブレードを揺らしながら、ミカエルは2枚の翼を大きく広げる。

そして、その裏のスラスターを全て点火させた。

 

『aaaaaa!!』

 

しぶとく張り付いていたグラシャラボラスを引き剥がし、ミカエルの身体が浮いて行く。

その遥か上空には、輸送用MA「サハクィエル」が来ていた。

 

『逃がすk…クソ、言う事聞け! ここで逃がしたら…!!』

『動け…ここまでだと言うのか…!?』

 

叩き落とされた機体の幾つかが、関節をガタガタにされた為に機能を停止する。

僅かに動く機体がミカエルへと吶喊するが、正確無比なダインスレイヴの射撃によって一蹴される。

そうして、ミカエルが高度100mにまで到達したその時。

 

 

ミカエルが、地面に叩き付けられた。

 

 

『―――え?』

『       』

 

全員が、目を丸くする。

唖然としたのは、落とされたミカエルも同じだ。

 

当然かも知れない――ガンダムが40機も群がって歯が立たないような化け物(ミカエル)が、たった1機のガンダムによって地に墜とされたのだから。

 

『――アグニカ…?』

 

空に在ったのは、ミカエルを叩き落とした1機の悪魔――ガンダム・バエルだった。

そして――()()姿()()()()()

 

『  』

 

ミカエルは、背部のワイヤーブレードを全て斬り落とされていた。

そこには、先程まで空にいたバエルがいる。

 

勿論、バエルにワープやテレポートなどの特殊能力は無い。

バエルはただ、機体のスペックさえ上回る速度で機動しミカエルの背後を取ったに過ぎない。

 

『            』

 

ミカエルが、今までで一番強く吼えた。

その身体に宿る7基のエイハブ・リアクターがフル稼働し、たった1機の悪魔を狩るべく全力が引き出される。

 

しかし、それは必然だ。

何を隠そう――ミカエルも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

ミカエルはその高精度AIで超高速演算し、バエルを自身の全武装全総力全戦略を以て排除すべき対象であると判断した。

 

ビーム砲が、ダインスレイヴが、プルーマが、アームが、バエルを排除する為だけに最大稼働する。

ガンダム・フレーム40機をあしらった四大天使に対する大悪魔は、何の焦りも見せず――ただ、その両眼を血の色で染めた。

 

 

―――それから決着が付くまでは、数分と掛からなかった。

 

 

バエルは右半身と右側のエイハブ・リアクターを失い、残された左手で保持した剣を突き立ててミカエルを殺した。

倒されたミカエルは、2枚の翼を斬り落とされて尻尾も引きちぎられ、腕も破壊されてコンピューター部を粉砕された。

たった、それだけの事。

 

一度目に剣を突き刺した後、バエルは二度目三度目と剣を突き刺す。

それを受けて、ミカエルは完全に沈黙した。

自爆さえ許されず、四大天使の一角たるMAミカエルは討伐されたのだ。

 

『終わった、のか…?』

『――aaa、aaaaaaa!!』

 

…いや、まだ終わっていない。

ミカエルとザドキエルを殺す為に全力を開放させた最凶のガンダム・フレームが、この戦闘で暴走を起こした。

 

『aaaaaaa、aaaaaaaaaaaaaa!!!』

 

グラシャラボラスが、半壊したバエルに飛びかかった。

 

この悪魔「グラシャラボラス」と契約していた人間に、もう意識などは無い。

全てを取り込まれ、本能のまま殺戮のみを欲する存在となっている。

 

「―――」

 

襲われたバエルは、ミカエルの死骸から剣を引き抜き。

 

『aaaaaaaaaaaaa――』

 

向かって来たグラシャラボラスのコクピットを、黄金の剣で貫く。

グラシャラボラスはその機能を停止し、バエルの前で倒れ果てた。

 

――家族の復讐の為、殺戮の悪魔と契約せし者は。

最期には暴走を起こし、自らを拾った者の手でその命を断たれた。

 

「―――あー、参った…何も、変わらないな」

 

アグニカはそれだけを口にし、意識を失う。

ボロボロとなったバエルは、それと同時にミカエルの死骸の上へと倒れ込んだ。

 

 

 

 

ミカエル討伐作戦「熾天使殺し(オペレーション・シヴァ)」は、終了を迎えた。

ミカエルが随伴していたMAはその全てを撃破し、「天使長」ザドキエルと「四大天使」ミカエルも破壊に至った。

 

が、その代償はウリエル戦より酷いモノとなった。

 

作戦に参加した戦艦はバージニア級戦艦「サロモニス」とマンリー級強襲揚陸艦の3隻を残して、レキシントン級大型輸送機3機とマンリー級強襲揚陸艦2隻が轟沈。

MSは「ガンダム・アガレス」「ガンダム・グラシャラボラス」とそのパイロット、「ガンダム・グレモリー」のパイロットと「ガンダム・デカラビア」を損失した。

他にも「ガンダム・バエル」が大破し、それ以外の機体も中破してしまった。

 

損傷を負っていない機体は無く、残った戦艦も多かれ少なかれ傷付いた。

 

『使えそうな部品は全て回収しろ! 特にバエルとアガレスの物は念入りにな! 後、行動不能になったガンダム各機の収容も急げ!』

 

ヘイムダルは、戦闘後の後始末に忙殺されていた。

大物であるミカエルの残骸も回収され、サロモニスに懸架される事となっている。

これも、本来はレキシントン級大型輸送機で運べるかと思っていたのだが。

 

『作業が終わり次第、北太平洋に在る「ヴィーンゴールヴ」へ向かう。海に入った部品は除染が面倒になる、諦めろ』

『ドワーム、グレモリーはどうする? フレームは殆ど残ってるが』

『すまん、回収頼む。私の機体が無くなったから、グレモリーを…』

『――らしい。回収してやれ』

 

コクピットは焼かれ、全身のナノラミネートアーマーは高度からの落下でひしゃげたが、グレモリーのフレームはまだ残っている。

大いに戦力を損耗したヘイムダルとしては、回収しない選択肢は無い。

 

ドワームは全体への通信を切り上げ、ブリッジクルーに話し掛ける。

 

「アグニカは?」

「先程、アガレスと共にバエルを収容しました。ただ――意識が戻らないそうです」

「そうか…私も、左足を持って行かれたからな。それで、何も出来なかったのだ。ミカエルを殆ど単独撃破したアグニカは、何を持って行かれたか――」

 

クルーから報告を受け、ドワームは歯噛みする。

 

作戦前の演説で、アグニカは「あらゆる手段、戦術、技術、能力を用い、最強たる『四大天使』ミカエルを討伐する」と言った。

敢えて口にはしなかったのだろうが、そこには「仲間を踏み台にしてでも、大切な人を危険に晒してでも、自分が壊れるとしても」と言う意味合いも有ったのだろう。

 

事実、ヘイムダルはミカエルの討伐に成功したが――まだ、「四大天使」たるMAは残っている。

 

あらゆるMAを生み出したマザーMA、「四大天使」ガブリエルが目下の最優先攻撃対象だ。

だが、ガブリエルは月面に防衛要塞「百合の花園(ヘブンズフィア)」を建造しその最奥に引きこもって出てこない。

必然、こちらから攻め込まねばならないのだが――今、その防衛要塞には多くのMAが集結して防衛網を築き上げている。

これが完成してしまえば、ガブリエルの撃破は困難を極めるだろう。

 

急ぎ月へと向かい、ガブリエルを撃破するのが最善手である。

しかし、そんな作戦を行う戦力はヘイムダルには無く、ミカエル戦での戦力消耗と疲弊は多かった。

 

現在のヘイムダルがすべき事は、何よりも戦力の立て直しだ。

その為には、地球上で唯一それが可能であるヴィーンゴールヴ基地で戦力を整える事が必要だ。

ついでに、ヴィーンゴールヴで建造されている新たなMSも受領する。

 

ガブリエル討伐作戦の名前はアグニカに考えてもらうとして、その際には四大経済圏にも協力を仰いで人類が持ちうる全ての戦力を注ぎ込まなければならない。

人類の存亡が賭けられる戦いに於いては、全戦力を注ぎ込む必要が有ると判断する。

 

「――雨が降り出したか。作業、急げよ!」

『了解!』

 

 

 

 

目を開けると、そこには見知った天井が映った。

 

「―――知らない天井だ」

「テンプレを言う余裕くらいは有るようだな、アグニカ」

 

横を見ると、俺が寝そべるベッドの横の椅子に人が座っている。

白衣を着込み、俺と同じ赤髪を持つ男が。

 

「…目覚めて初めて、見て聞く奴がアンタとはな――クソ親父」

「酷い言い草だな。流石の俺も傷付くんだが」

「やかましい。近頃は目覚めてから初めて見る人間がスヴァハだった俺に取って、目覚めてからオッサンが映るとか嫌なんだよ」

 

スリーヤ・カイエル。

ツインリアクターシステムを創り、ガンダム・フレームを造った天才科学者だ。

 

「とりあえず、状況の説明を求める」

「寝起きにしては頭が回るな? まず、ここが何処かは分かるだろう」

「…ヴィーンゴールヴの、俺の部屋だろう? 俺が寝ている間に到着したって事か」

「如何にも」

 

それから、聞いた事は以下の通りだ。

俺は10日程意識不明で、ヘイムダルの残留戦力の全てがヴィーンゴールヴに集まっている。

サロモニスには新型MS「ヴァルキュリア・フレーム」を9機配備し、パイロットも確保済み。

 

大破したバエルは、アガレスの余剰パーツも合わせて整備中。

外れたエイハブ・リアクターは制御不能となっていた為に回収は諦め、代わりにアガレスのエイハブ・リアクターで同調を図っている。

 

「ツインリアクターシステムをやるには、波長の近いエイハブ・リアクターが2基いるんじゃなかったのか」

「ああ。だが忘れたか? 試験機のバエルと実証機のアガレスでは、互換性が取れるようになっている事をな。全ガンダム・フレームで互換性を取る事は無理だったが、バエルとアガレスに関してだけは抜かり無い」

 

装甲の形状も同じなので、手間は塗り替えるくらいだ。

これらはクソ親父ではなく、マッドサイエンティストの提案によるモノだった。

 

「問題は、お前の身体だが――結論から言おう。お前は、()()()()()()()()()()()。脳髄の一片に至るまで、悪魔に絞り取られた事になる。命令を出す脳までダメになった以上、お前はバエルが無ければただの木偶人形だ」

 

…衝撃は少なかった。

元々、予想出来ていた事だ――大駕のように、暴走しなかっただけ良いだろう。

 

「…じゃあ、俺は何で――」

「『阿頼耶織』を付けずに動けてるのか、か? 無線で、バエルと接続しているからだ。阿頼耶織は本来有線式のシステムだが、無線で繋げない訳では無い。その状態でバエルを動かす事は無理だろうが、身体は動かせる。まあそれも、魂を取られなければだがな」

 

つくづく恐ろしいな、この科学者共。

本当にくたばっとかないと、人類ヤバいんじゃ…。

 

「――今までの事は、お前の仲間から聞いた。ヴィヴァトの無駄に格好良い最期や、スヴァハちゃんの最期…お前の暴れようもな。その上で、だ」

 

クソ親父は立ち上がり、俺に頭を下げて来た。

 

「――俺を殴れ。殺そうが、文句は言わん。スヴァハちゃんが戦場へ出る事になったのは、俺がパイロットになってくれないかと頼んだからだ。その為にお前を、お前が何よりも守りたかった人を死に追いやった」

 

―――恨んでいない、などとは言わない。

コイツは正真正銘のクズ野郎で、スヴァハに話を持ち掛けたのもコイツだ。

だが。

 

「…要らん。そんな事をして、スヴァハが帰って来る訳じゃない」

 

ミカエルを(こわ)した時、その事に気付いた。

仇は討ったが、そこでは何も得られなかった――いや、むしろ喪っただけかも知れない。

 

在ったのは、変わらない喪失感と空虚感だけ。

 

俺は仇を討つ為に悪魔に身体を捧げて力を得て、自分を捨てた。

そんな事を、他ならぬスヴァハは望むハズも無いのに。

 

「――すまない。俺は、お前に何も与えられなかった。不出来な親だよ」

「不出来って言うか、ただのバカだろ」

「違い無い――俺の決断でこんな結末を招いておいてなんだが、俺はまたやらかした」

「オイちょっと待ていい加減にしろクソ親父、そこは自重しろよ」

 

さり気なく、俺やらかしました宣言するクソ親父。

今度は何した、ヴァルキュリア・フレームに何を仕込んだんだ。

いや、整備中の俺のバエルか仕込まれたの。

 

「付いて来て欲しい。そして見ろ、俺の過ちを」

「もう既に過ちとか言ってる時点で、完全にやらかしやがってるなテメェ」

 

このクソ親父が最初から過ちだと断ずるとか、相当だぞ。

阿頼耶織の時は「人類の生存の為」とか大義名分を振りかざして自分の理論を正当化していたのに、今回はそんな大義名分を鑑みてなお過ちなのだろう。

 

マズいな。

 

そんな事を思いながらベッドから出て、クソ親父に付いて行く。

クソ親父は、ヴィーンゴールヴの後部へと歩いている。

後部には、使われていないブロックが有ったハズだが――

 

「…どこへ向かってるんだ?」

「お前が知らないのも無理は無いだろう。何せここは、ヴィヴァトさえ知らなかった場所だ」

 

クソ親父は隠し階段を下り、隠し通路を進み、隠し扉を開いた。

隠されすぎだろ、と言うツッコミは――案内された場所に在ったモノを見て、消えた。

 

「……コイツは」

「――人類、最大最期の切り札だ。コイツの力は絶大でな、全戦力が引き払ったヴィーンゴールヴはコイツに守られた。今、コイツの恩恵は海にも広がっている。コイツの特殊能力(ナノマシン)を持ってすれば、海に溶けた放射線物質を全て分解出来るからな」

 

そして、クソ親父は俺にタブレットを渡して来る。

それを見て、俺は完全に言葉を失った。

 

「まさに『最強』たる存在だ――これを手に入れた事、それが俺の最大の過ちだよ。いや、人類の過ちかも知れんが」




挿絵を用意してみたのですが、流血が多かったので本文中には貼りませんでした。
せっかく描いたので、此処に貼っては置きますが…クオリティの低さはお察しあれ。

【挿絵表示】



オリジナル設定解説コーナー。

ミカエル
全長:172.7m
本体重量:不明
動力源:エイハブ・リアクター×7
武装:頭部ビーム砲×1
   腹部圧縮ビーム砲×1
   翼部拡散ビーム砲×2
   腕部クロー×2
   超硬ワイヤーブレード×10
   リフレクター・ビット×30
   ファンネル×100
   ブレード・ファンネル×100
   ダインスレイヴ×6
   プルーマ×∞
特殊機能:自己進化
概要
「四大天使」の一角にして、その中で最強のMA。
全長170mを超える長大な翼を2枚と巨大な腕2本を持ち、それを7機搭載されたエイハブ・リアクターの超出力によって運用している。
体には4門ものビーム砲を持つ他、ワイヤーブレードを10本も装備する。
また、「ファンネル」を使用可能。
ファンネルはビーム砲を積んだ漏斗型ファンネルとブレード・ファンネルの2種に分けられ、100機ずつ搭載している。
翼にはダインスレイヴを3基ずつ搭載しており、特殊機能として「自己進化」を持つ。
デビルガンダムで言うグランドマスターガンダム。
名前の由来は、旧約聖書など多くの文献で語られている「四大天使」の一柱であり、「慈悲」や「正義」を司るとされる大天使「ミカエル」から。
熾天使ミカエルは魔王サタンを滅ぼした最強の天使であり、この名は「神の如き者」「神に似たもの」と言った意味を持つ。
「オルレアンの乙女」などと讃えられる聖女ジャンヌ・ダルクに啓示を与えたのは、他ならぬミカエルであるとか。
地球上で活動し、ヘイムダルの日本基地とベルファスト基地を襲撃したりして多くの犠牲を出した。
最後は覚醒したバエルとの一騎打ちになり、破壊された。

阿頼耶織の無線化。
無線通信により、パイロットのピアスと機体のコネクトを接続させる。
機体を動かす事は出来ないが、パイロットの身体障がいを無くす事が出来る。
エイハブ・リアクターによる電波障害を無視出来る特殊電波が用いられるが、厄祭戦後にはこの電波がロストテクノロジーとなっている。

バエルとアガレスの互換性などの関係については、前回にさり気なくほのめかしてあるので見逃して下さい。


かなり飛ばし飛ばしでしたが、ミカエル戦はこれにて終了です。
次回からは、いよいよガブリエル戦へ向けて動き出します。
あまり活躍していない機体は、ここが見せ場だったり…ちょっと、ガブリエル戦はじっくりコースを歩みたいですね。

まだ現代には戻れませんが、過去編も後半突入ですのでもう少しお付き合い下さい。


次回「百合の花園(ヘブンズフィア)(仮)」。


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#51 神の人

ま、まさかここまで空く事になるとは…。
本編執筆ではなく、他の色々な下準備を行っていた為にここまで遅くなってしまいました。
後、しばらく燃え尽きてたのも有ります。


それと、オリジナルMS、MAの案の募集を終了致しました。
私の予想の13倍くらいにもなるたくさんの案を頂き、大変助かりました。
本当にありがとうございましたm(__)m


タイトルは「神の人(ガブリエル)」と読んで下さい。
最近、特殊な読み方のサブタイが続いている気がしますけど気にしては行けません。
作者は元来、中二病なので…治らないんで…。

追記:サブタイを変更しました。

厄祭戦、最後にして最大の大規模戦闘開始です。
まあ、要するに混沌(カオス)

2018年2/17追記:気まぐれに短編を書いたので、さり気なく差し込みました。


ミカエル戦より数ヶ月経ち、ヘイムダルは地球圏と圏外圏までを繋げる特殊レーザー通信網「アリアドネ」を完成させた。

これにより、MAにより通信を断たれていた各経済圏同士の通信が回復。

各経済圏のトップが一同に介して月面のガブリエルに対する緊急対策会議が大至急開かれる事となるまで、そう時間は掛からなかった。

 

場所は、今までMA討伐に貢献した「ヘイムダル」ヴィーンゴールヴ基地の特別会議室。

後にヘイムダルがギャラルホルンとなった際、この特別会議室は改装されてセブンスターズの会議場とされるが――それはまた、別の話だ。

 

SAU第十七代総理大臣、ルーベン・ハフィントン。

アフリカンユニオン第八代大統領、リンジー・フォーサイス。

第十六回アーブラウ議会代表、モーガン・ハスケル。

オセアニア連邦第三代大統領、エセリオ・プラウドフット。

加えて、ヘイムダル代表スリーヤ・カイエルの代理としてアグニカ・カイエル。

 

以上の5名によって、対策会議は行われた。

後に「ヘイムダル会議」として語られる歴史的会議は、休憩すら挟まれず半日程続き。

 

 

最終的な議決は――「人類が持てる全ての戦力を持って、ガブリエルを叩き潰す」事だった。

 

 

ここでこれ以外の結論が出た場合、果たして人類の歴史がどうなっていたか――それは、誰にも分からない。

ただ事実として、人類は徹底抗戦を選んだ。

人類の戦力を結集し、天使を堕とす事を目的としたのだ。

 

この会議の後、人類が持つ全ての戦力は宇宙へと上げられ始める。

 

 

 

 

それは、遠い記憶。

 

 

B.D.0005年。

半永久機関「エイハブ・リアクター」の利権を巡る四つの経済圏による核戦争は、戦局が拮抗状態となったまま、泥沼化と長期化の様相を呈していた。

始まってから三年が経つと言うのに、世界各地では毎日のように武力衝突が起こっている。

 

それらを上手く回避しつつ航行する、カイエル家の持つ移動研究所「ヴィーンゴールヴ」は現在、大西洋上に在る。

 

そのヴィーンゴールヴには、スリーヤ・カイエルとヴィヴァト・クニギンと言う二人の科学者が座乗している。

彼ら二人は、世界に両手で数えられる程しかいない「エイハブ・リアクター」の建造技術を持つ、「天才」が付く科学者だ。

 

核戦争実施中の四つの経済圏が、喉からシャイタンの腕が出るほどに欲しがっている人材。

この人材を実に二人も乗せている現在のヴィーンゴールヴは、四つの経済圏に取って「宝船」と呼んで然るべき船だろう。

 

そんな二人の片割れであるヴィヴァトが、今何をしてるかと言うと。

 

「なぁーどと、いーつまで難しーい話をしーているつもーりだ? 今日ーの勉ー強はできーたのかーね?」

「うん、出来たよ」

「俺も出来たぞ」

 

スリーヤ・カイエルの息子であるアグニカ・カイエルと、ヴィヴァト・クニギンの娘であるスヴァハ・クニギン。

この二人に、天才科学者たるヴィヴァトが自ら授業を行っていた。

 

天才科学者二人の子であるアグニカとスヴァハは、割と選択の余地無く科学者となる道を選んでいた。

 

ヴィヴァトが五度ほど二人を試しにシミュレーターにぶち込んだ所、彼らにはかなり高いモビルスーツパイロットとしての適性が有った為、パイロットとなる道も一応存在していた。

 

しかし、世界中で核戦争が行われている現在にMSパイロットになったとしても、即座に戦場に投げられて使い潰されるだけだ。

特に、希望して兵士となった者は尚更。

 

四つの経済圏は、その全てが徴兵制を採用している。

それ故に、自分から兵士として志願して死地に赴こうと思う者はかなり少ない。

そんな者は経済圏からすれば動かしやすいコトこの上無いので、人手不足も相まっていきなり戦場にぶち込まれる可能性が極めて高い。

 

要は「習うより慣れろ」と言う精神だ。

そんなコトをされた者達には、基本的に二種類の選択肢しか無い。

 

初戦を生き残って猛者となるか、初戦であっさり逝くかだ。

そして、言うまでもなく大半が後者である。

 

何故やる気の有る優秀な人材の扱いがそんなに雑かと言うと、先も言った人手不足と、前線の兵の士気の低下が著しいからだ。

 

世界規模の核戦争が開始されて、既に三年。

目的であるエイハブ・リアクターの建造技術を持つ天才科学者達は全員が行方をくらまして久しく、今現在も続く核戦争に意味を見いだせない兵士が殆ど。

 

また、人類は核兵器の乱発により、地球環境を絶望的に汚染してしまった。

もう今更、後に引けないのだ。

 

「うーむ。二ー人とも、課ー題は完ー璧だ。今ー日はこーこまでとしーよう。後ーは好きーにしーたまえ」

 

ただし過ちは侵すなよ犯したら殺すぞ、と言い残し、ヴィヴァトはアグニカとスヴァハがいる勉強部屋(講義室とも言う)から退場した。

 

アグニカとスヴァハは、ヴィヴァトの背中を見送りつつ肩を竦める。

ヴィヴァトはこの言葉を毎回毎回言っているので、二人は完全に聞き慣れている。

そろそろ飽きてくる頃合いだ。

 

それに、アグニカとスヴァハは恋人でも何でも無い、ちょっと仲がいい知り合いだと思われていると言う認識である。

なので、如何に思春期の男女とは言えそのようなコトは起こり得ないと互いに思っていたりする。

 

なお、実際は二人とも相手のコトが気になっているのだが――相手も自分と同じコトを思っていると気付くのは、この5,6年後となる。

 

「――と、言われてもなあ。いい加減、やるコトも無くなって来たぞ」

「? アグニカ、例のゲームはどうしたの?」

 

例のゲーム。

其は、以前さり気なくSAUの港町に寄って物資を得た時にアグニカがお小遣いで購入したモノだ。

様々なマップを駆け回り、モンスターを狩りまくるゲームである。

 

「ああ、モ●ハンか。この前、白海竜ラギアクルス亜種を斬り殺したからやるコト無くなったんだよ」

「双剣だけでモン●ン制覇しちゃったの?」

「オイオイ、スヴァハ。俺が誰よりも双剣を上手く使えるコトは知ってるだろ?」

「うん。双剣以外の武器の使用回数が0回なのも。でも、絶対に肉は焦がすよね」

「あれは無理だ。なんでこんがり焼けるん?」

 

などと談笑しつつ、二人は食堂へ向かう。

 

現在、19時32分。

ヴィヴァトも忙しいが、その合間を縫って二人に色々と教えている。

それ故に、講義が有る日は必然的に夕食が遅くなる。

 

一応シェフがいるので、食事は速やかに出て来る。

講義で疲れたアグニカとスヴァハに取っては、全く以て有り難い話だ。

 

核兵器が乱発により汚染された地球の大地、水、空気では作物が育たない。

そのため、食事は合成食品が主流となった。

作物を育てられる地域も残っていると言えば残っているが、その地域にもいつ核兵器が落とされるか知れたモノではない。

 

核兵器の放射能によって地球が汚染される以前より生きている大人達は、この合成食品を「不味い」と言い切る。

それには、アグニカとスヴァハも同意せざるを得ない。

 

ヴィーンゴールヴの食事はシェフの頑張りでかなり美味しく作られている為、ここで食う限りはそこまで気にならないだろうが――そのシェフも、作物を使えばもっと美味しく作れるのにと語った。

 

「だからね、アグニカ。こんがり肉を作るには良く見ないと。感覚だけじゃこんがり肉は作れないよ」

「――肉を焼きたいが為にモンハ●データ作った人が言うと、説得力ヤバいな」

「私のハンター生活は、肉を焼くためだけに有るからね。リオレウスにもリオレイアにも出会ってない気がするよ」

「あのクソ卵クエストやってねェのか…。卵を手に持った瞬間、リオレイアが帰って来るんだよ。あれどうすりゃ良いんだ?」

 

本日の話題、●ンハン。

アグニカは後にガンダム・バエルに繋がる双剣で全クリしたが、スヴァハは肉を焼いているだけである。

 

「リオレウス&リオレイアとか、みんな見飽きてるんだよ。時代はフルフルだ。もしくはイャンクック先生」

「イャンクック? あああの、コインゲームのジャックポッド抽選で一番ザコい?」

「イエス、そのイャンクック先生だ。コインゲームはラオシャンロン出ろよと思うよな」

 

ちなみに、スヴァハの得意なゲームはFPS系列だ。

拳銃二丁装備でありながら、AGI全振りなので機動性が非常に気持ち悪い。

まるで白純里緒先輩だ、と言うのがアグニカの所見となる。

 

この戦闘法が後のガンダム・アガレスに繋がったコトを、後世のアグニカは何となく察していたり。

 

「――アグニカ。明日って、講義無かったよね?」

「ん? ああ、そのハズだぞ。マッドサイエンティストは忙しいし、親父も何かするらしいしな」

 

明日は珍しく、講義の予定も実験の予定も無い日だ。

 

「何をしたモンか…モ●ハン二週目か? いやー、もう一回やるの面倒だしなあ」

 

などと唸っているアグニカに、スヴァハがこう切り出した。

 

「ねえねえ、アグニカ。暇なら明日、ちょっと付き合ってくれない?」

 

 

――あの時は、結局何をしたのだろうか。

思い出そうにも思い出せず、アグニカは唸りながら考える。

 

「……………ダメか」

 

しかし、答えは見つからない。

スヴァハと過ごした貴重かつ大切な時間だったと言うのに、何が起きたのかすっかり思い出せない。

 

昔のアグニカが何を想い、スヴァハとどんな時間を過ごしていたのか。

気になるコトでは有るが、そんなコトを思い出した所で何が起こる訳でも無い。

そして、同じようなコトをする可能性は絶無である。

 

 

スヴァハはもう、この世にいないのだから。

 

 

生きている者が死んだ者に出来るコトは、本当に限られている。

 

死を弔う。

仇を討つ。

そして――その者の分まで、自分が生きる。

 

だが、アグニカに取って「仇を討つ」と「自分が生きる」は対極に位置するモノだ。

 

スヴァハはモビルアーマーたる「四大天使」ミカエルに殺された。

そして、ミカエルはアグニカのガンダム・バエルがすんでのところで撃破した。

 

その結果が、バエルと繋がっていない時の全身付随だ。

アグニカの父スリーヤがバエルの「阿頼耶織」システムの設定をちょっと弄ったコトで、アグニカは遠距離でもエイハブ・ウェーブの影響を受けず無線でバエルと繋がっていられる。

 

この技術は、スリーヤがエイハブ・ウェーブ影響下でも無線による運動を可能としたMAの「ファンネル」を解析し、それを「阿頼耶織」に応用したモノだ。

ただ、造るには精密作業が必要。

尚且つコストが高い為に到底実用には至らず、厄祭戦後にはロストテクノロジーと化したが。

 

そんな理論の上では有るが、アグニカはまだ生きている。

だが、ただのほほんと生きる訳には行かない。

 

これより死地に向かう。

ヘイムダルの一員として、ガンダム・バエルのパイロットとして、己が責務を果たさなければならないのだ。

 

「ここにいたのか、アグニカ。もうすぐ『サロモニス』出航だ、移乗してくれ」

 

などと考えていると、アグニカの下に宙陸汎用戦艦にして「ヘイムダル」の旗艦でもあるバージニア級戦艦「サロモニス」の艦長、ドワーム・エリオンがやってきた。

今日は「サロモニス」を衛星軌道上の「グラズヘイム」に上げ、月面にいる「四大天使」ガブリエル討伐の為の部隊編成を行う日だ。

 

「ああ、今行く」

 

アグニカは胸ポケットに入れた、自分とスヴァハが写った写真に服越しで触れ――ドワームに続き、サロモニスに向かって歩き出した。

 

 

 

 

宇宙へ上がった戦力の全ては、地球の衛星軌道上に在る「ヘイムダル」の基地「グラズヘイム」へ集結した。

 

ただし、たった1つの基地に人類の全戦力を収容する事は出来ない。

その為にグラズヘイムはもう1つ造られ、同じく地球の衛星軌道を回る事となった。

 

各経済圏が持っている戦力を合わせた人類の全戦力は、実に膨大だ。

MSは余裕で400機越え、ダインスレイヴは200基くらい、戦艦は40隻にも及んでいる。

 

また、各経済圏の中にはガンダムを保有する所やガンダムに似せて造られた機体を量産してる所なども有った。

 

SAUは、「ASW-G-43 ガンダム・サブナック」。

オセアニアは、「ASW-G-16 ガンダム・ゼパル」のエイハブ・リアクターを再利用して建造された「ASW-G-73 ガンダム・ミシャンドラ」と、ガンダムに似たロディ・フレームの機体「マドナッグ」を所有していた。

 

著作権侵害、とか言いたいが今は戦力が少しでも欲しいので許容する事としよう。

 

「『マドナッグ』に『ガンダム・ミシャンドラ』ねえ…よくもまあ、あそこまででっち上げたな」

 

各経済圏から送られて来た機体データを、小型デバイスの「ハロ」を通じて見ながら、俺はそう呟いた。

いつもはタブレットで確認するのだが、各経済圏からのデータが多すぎて容量オーバーした為に簡易AIを搭載した小型デバイス(マスコット?)のハロを通じてデータを確認している。

 

『アグニカ。ドウシタ、ドウシタ』

「――いや、何でも」

 

ハロに適当な返事をし、思案する。

 

今、人類が持つ戦力のほぼ全てが地球の衛星軌道上に存在するヘイムダルの基地「グラズヘイムⅠ」と「グラズヘイムⅡ」に集結している。

後は、月面の「百合の花園(ヘブンズフィア)」に行き――防衛網を展開しているMAを蹴散らし、全てのMAを生んだマザーMAにして「四大天使」の一角である「ガブリエル」を撃破するだけだ。

 

「確かに、よくパクっているがな。73番目の悪魔を持って来たセンスに関しては賞賛出来るが、所詮はパチモンだ。本当の力には及ばぬよ」

「――レオナルドか」

 

集った膨大な戦力に戦慄していると、俺の側に変態芸術家ことレオナルド・マクティアがやって来た。

 

「何の用だ?」

「――スヴァハ嬢については、残念だったな」

「…笑いに来たか? それとも、貶めにか」

「まさか。内心、スヴァハ嬢を守れなかったキミを恨む気持ちが無いと言えば嘘になる。だが、貶めも笑いも責めもしない。あの場にいたのが私であろうと、結末は変わらなかっただろうからな」

 

この変態芸術家は、スヴァハに何回か花を贈っては一蹴されていた。

本人は「美には愛でるモノだけでなく、眺めてこそ美しいモノも有る」と言っていたが――

 

「だが、忘れるなよアグニカ・カイエル。キミに取って、最も大切であろう者を犠牲としたのだ――此度の『大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)』、必ずや成し遂げるぞ」

 

そして、変態芸術家は去って行った。

戦力を改めて確認し、拳を握り締める。

 

「――言われるまでもない。俺の全身全霊全力全存在に賭けて、作戦は成功させてみせる。例え、悪魔に魂まで取られるとしてもな」

 

もとより、その程度の代償は覚悟している。

スヴァハは笑ってと願った――なら、消え去る寸前も不敵な笑みを浮かべてやろうじゃねェか。

 

「さあ、大天使を殺す時だ。始めよう――人間と天使の大戦争、その最終局面をな」

 

 

 

 

出撃した全ての艦隊は、月をダインスレイヴの射程圏内へ入れた。

MSも全てが展開完了し、一触即発の状態となっている。

 

グリニッジ標準時、午前0時0分0秒。

この時この瞬間を以て、深々と歴史に刻まれる人間と天使の殺し合い――後に「厄祭戦」と言われる戦いの最終作戦、「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」が開始された。

 

『聞け! この場に集いし全ての人類よ! 俺はアグニカ・カイエル、ヘイムダルの一員である!』

 

この戦いの後、ヘイムダルを元に結成される組織「ギャラルホルン」の最高幕僚長を勤める者――アグニカ・カイエルの演説から、この作戦は始まる。

 

『諸君らの知る通り、この「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」はあらゆるMAを生み出したマザーMAにして「四大天使」の一角たるMA「ガブリエル」の討伐を最終目標とした作戦である! だが、断じてそれは容易な事では無い――ガブリエルの潜む「百合の花園(ヘブンズフィア)」の周辺には、現存する全てのMAによる防衛網が展開されている! これの突破は困難であり、その為には諸君ら全員の命を賭けてもらわなければならない!』

 

敵の数は、およそ100機越え。

数でこそこちらが勝るが、何せ基本性能が段違いなのだ。

人類は、この最大最後の会戦で多くの命と戦力を失うだろう。

 

『今ここに集った戦力が、人類の持てる戦力のほぼ全てである! 我らの勝敗は、それは人類の勝敗と同義だ! 我らが敗北したならば、人類は滅びる! ――俺もまた、MAによって大切な人を喪った。ここにいる者の中には、家族や友人…大切な者をMAに殺された者も少なくないだろう。それが全世界に広がるか否かは、俺達の働き如何だ。俺はもう、大切な人を喪いたくない。いや、喪わせたくない』

 

アグニカの声は、次第に小さくなる。

が、その声はむしろ今までよりも大きく世界に響いていた。

 

『その為に、ガブリエルを討伐する。そして、人類の未来を取り戻したい。全ての人類が、笑って暮らせる世界を取り戻す為に。感傷的だと、嘲笑(わら)ってくれて構わない。だが、俺はその為にこの(いのち)を使う。それが、アイツへの――アイツみたいに殺された人々への、せめてもの償いだと信じるからだ。例えそれが自己満足で、偽善であったとしても――』

 

静寂に包まれ、エイハブ・リアクターの駆動音のみが響く中で。

アグニカは、静かに月を見据えた。

 

『――世界を、人類を救いたい。お前らは、どうだ?』

 

一瞬の間を空け――世界が、揺れた。

演説を聞いていた者が皆、叫び声によってアグニカに応えたからだ。

 

その声の中で、アグニカは不敵な笑みを浮かべ。

 

『なら、世界を救う英雄になろうじゃねェか!! ここにいる者達、誰もが英雄だ!! 何せ、圧倒的な戦力差をもろともせずに突撃するバカばっかりなんだからな!! 勝算は約30%、想定損失戦力は約80%! 敢えて言おう、クソゲーであると!! がしかし、()()()()()()()()!!! これ以外に、人類が生き延びる術など存在しない!!! なら、奇跡を起こすしかねェだろ!!!』

 

やまぬ叫び声の中、アグニカは最後に宣言した。

 

 

『「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」、状況開始!!! ダインスレイヴ、全弾発射!!!!』

 

 

ダインスレイヴ隊の全員が、一斉に引き金を引く。

同時に、ガブリエルを守るMA達がビーム砲を斉射して来る。

 

――最大最後の総力戦が、始まった。

 

 

 

 

「――始まったか」

 

地上のヴィーンゴールヴ、その特別会議室には四大経済圏のトップが集っていた。

数分前の作戦開始時刻から始まったアグニカ・カイエルの演説は、この会議室にも響き――全員が、静聴した。

 

だが、ダインスレイヴの一斉射とビーム砲の応酬が始まって以降は、全員がモニター越しに戦闘を見守っている。

 

「…以前、彼らがトリントンへ足を運んだ際。彼らに『根性も覚悟も足りん』と言った事がある」

「――はあ」

 

ふと思い出したように、オセアニア連邦のエセリオ大統領は言った。

 

「手厳しいご意見ですな、エセリオ大統領」

「そうかね? 私はただ、感じた事を口にしたに過ぎんよ。あの時の彼らには、『生きる覚悟』と言うモノが足りていなかった。『戦う覚悟』は有ったらしいが、そんな事ではすぐに死ぬだけだからな。どれだけ汚くとも、何が何でも生き抜く意志が無ければ、世界(しにがみ)に命を刈り取られる。それが現実――この理不尽な世界だ」

 

他の経済圏のトップも、一様に噛み締める。

経済圏の首都は、例外なくMAの襲撃を受けて多大なる被害と犠牲を出している。

 

だが――エセリオ大統領は、笑みを浮かべた。

 

「最も、彼は違ったようだがな。心から守りたいと思える人を得て、それを守る為に戦った。結果としては守り切れなかったとしても、その行為を出来た者はあまりに少ない――いや、いなかったやも知れん。彼ならば、この世界を救えるだろう」

 

確信を持って、エセリオ大統領はそう述べた。

それに対し、他の経済圏のトップ達も笑う。

 

「ほほう、貴様がそこまで認めるとは。先の会議でも、奴はただならぬモノを感じさせたしな。アグニカ・カイエル――記憶に留めるに足る男か」

「ああ、是非とも記憶しておくが良いぞ。歴史に名を残す、伝説の英雄となるコトだろうさ」

「エセリオ、モーガン。話はそこまでにしておく事だ。此度の戦は、人類の総戦力を動員した文字通りの総力戦。我らには祈る事しか出来ぬが――勝とうが負けようが、その結末を最後まで見届けよう」

 

そして、何事もなかったかのように首脳達は視界をモニターに戻した。

 

聞き耳を立てていたスリーヤの頭からは、「伝説の英雄となるだろう」と言うエセリオの言葉が離れなかった。

それが誇るべき事か、はたまた嘆くべき事か――スリーヤには、判断出来(わから)なかった。

 

 

 

 

初手で放たれたダインスレイヴは、MAを4機撃破するに留まった。

だが、問題ない――想定(シミュレーション)通りである。

 

『全軍、槍の構えにて吶喊! MAは、1機たりとも逃さず撃破せよ! ガンダム各機は左右、上下に展開して量産機等の援護! 泣いても笑っても最後の戦いだ、出し惜しみはするな!』

 

ガンダム・ベリアルで出撃したドワームが、全軍へと大まかに指示を出す。

 

『要するに、好き勝手やって良いけどとりあえずMAを叩けってコトね』

 

ガンダム・パイモンに乗るカロム・イシューが、ドワームの指示を要約。

 

作戦参謀(ドワーム)、働け』

 

ガンダム・アスモデウスを操るフェンリス・ファリドが、ドワームにツッコミを入れる。

 

『そう言うな。自由に動けるのはありがたい』

 

ガンダム・キマリスのクリウス・ボードウィンが、フェンリスの厳しい言葉を流し。

 

「――お前ら、真面目にやれよ。せっかく頑張って演説したんだからな」

 

ガンダム・バエルを駆るアグニカ・カイエルが、全軍を叱咤した。

それを受け、全軍が全身全霊を賭けMAとの交戦を始める。

 

72機が建造されたガンダム・フレームだが、この戦場にまで辿り着いたのは41機。

31機のガンダムは、既に天使の手で破壊された。

 

これにヴァルキュリア・フレーム9機と人類の所有するMSの全てを追加したものの、「四大天使」ガブリエルの居座る天使の本拠地たる「百合の花園(ヘブンズフィア)」を落とすには戦力がいささか心もと無い。

 

『無謀だ。死にに行くようなモノだ』

 

オセアニア連邦がガンダム・ゼパルを改修した機体である「ガンダム・ミシャンドラ」が、バエルと接触する。

 

「――ラーペ・グラン少将、だったか。ああそうさ、通常ならば無謀極まりない愚直な愚策だよ。がしかし、戦力を小出しにした所で意味は無い。全戦力を以て強行突破するのが、この戦場での最適解になる」

『そんなコトは分かっているのだ。――「世界の光(ヘイムダル)」よ、任せて良いのだな。貴様らをあの「百合の花園(ヘブンズフィア)」へ辿り着かせれば、後は貴様らがガブリエルを叩いてくれるのだな?』

 

オセアニア連邦の全MS隊を率いるその男が持ち掛けて来た話は、至極単純な確認事項だ。

貴様ら(ヘイムダル)ならガブリエルを壊せる――それに間違いは無いのだな、と。

 

「ああ。先も言っただろう――俺はこの(いのち)に賭けて、必ずやガブリエルを打倒すると」

『――良いだろう。サイラス大佐!』

『何事だ、グラン少将』

 

全身の砲門を撃ち放ちながら、1機のガンダムがアグニカ達に近寄って来た。

ASW-G-43 ガンダム・サブナック――SAUのMS全隊を指揮する、サイラス・セクストン大佐の機体。

 

ラーペは簡潔に、サイラスに作戦変更を提案する。

 

『ふむ。ヘイムダルよ、汝らの先行を認めその援護をしてやろう。ただ、何機かガンダムを置いて行け。討って出て来たモノは此方で片付けるコトになる、我ら2機のガンダムのみでの戦線維持は困難だからな』

「感謝する、大佐。聞け、ヘイムダル!」

 

戦闘しながら、アグニカはまずヘイムダルメンバーからの報告を受ける。

 

「響、悠矢、レグロ。データと予測演算は?」

『終了しています。スグルドの結論としては、このまま全軍で突っ込めば戦力の約83%を損失します』

 

未来の戦局予測システム「スグルド」を搭載したガンダム・エリゴールのパイロットであるレグロが、そう報告。

同時に、データ収集に特化したガンダム・ヴァッサゴのパイロットの悠矢が、無言で全軍に最新の全MAデータを送信した。

戦術予測システム「プリディクション」を使うガンダム・ヴァレファールの響も、続いて報告する。

 

『敵はまだ、余力を残している。あの花園には、ガブリエルは勿論「天使長」ザドキエルとハシュマルがそれぞれ1機ずつ待機している。直に外へ出て、戦場へと躍り出るだろう。ザドキエルの機動性は、宇宙でこそ真価を発揮する――あれは、私達の中でもよほどでなければ抗えないだろうな』

 

それらの報告を受けながらも、バエルはMAを1機両断。

アグニカは、数瞬のみ考えて。

 

「ヴァッサゴ、グレモリー、ウヴァル、ブエル、マルコシアス、オロバス、アンドラス、バティンは残って天使(ザコ)を全て掃討しろ。それ以外は、俺と一緒に『百合の花園(ヘブンズフィア)』に討ち入って貰う」

『了解!』

 

間髪入れず、全員が頷き行動を開始した。

残るメンバーは即座に散開して各機の援護に回り、突撃メンバーは長蛇の陣を組んで天使共の群れをすり抜けて行く。

そしてそれを、ラーペやサイラス達の経済圏軍が援護する。

 

『任せる』

『必ず、ガブリエルを倒すのだ』

「――誓おう」

 

彼らが交わした言葉は、ただそれだけ。

ガンダムとヴァルキュリアは月面へと突撃し、立ちはだかるモノを凪ぎ払って行く。

 

『サロモニス、前進せよ!』

『はっ! クラウ・ソラス照準、放て!』

 

ドワームの指示で最後のバージニア級汎用戦艦サロモニスが前進し、虎の子の片割れをぶっ放す。

それは、月面のミサイル発射管を破壊しながら「百合の花園(ヘブンズフィア)」への扉を溶かした。

 

その扉から――何かが幾つか、飛び出した。

 

『新型MAだ、気を付k――!?』

『む、あれは…』

『ほう?』

 

そこから飛び出したモノは、複数有った。

 

其は、あらゆる防御どころかビーム砲さえもかなぐり捨てて全身にバーニアを搭載したザ・高機動と言うべきMA。

其は、40mもあるであろう人型のMA。

其は、20m級に収まって剣を携えた人型のMA。

其は、腕を肩からも生やした一際大きな威圧感を放つMA。

其は、基本形を取りながらもそれを極めたMA。

 

メタトロン、アサエル、マスティマ、ザドキエル、ハシュマル。

 

前者の3種は5機ずつ、後者の「天使長」は1機ずつが出現した。

「四大天使」ガブリエルを守る最後の砦――それこそが、この5種のMAである。

 

『ッ!』

 

長蛇の陣の戦闘を進んでいたバエルが、メタトロンの攻撃を受けて月面へと落ちる。

メタトロンがバエルの背後に回り、バエルを叩き落とした――それは、バエルと肉体を同調させるアグニカさえ残像を捉えるのが精一杯な速度だった。

 

その場から瞬時に離脱してメタトロンの追撃をかわしたバエルは、メタトロンと打ち合い始めながら高速で飛び回る。

 

「『当たらなければどうと言う事は無い』を体現した機体ってコトか――ガンダム・フレームが速度をウリにするなら、それを上回るモノを造ろうって魂胆かガブリエル。随分、必死なコトだ」

 

バエルを駆るアグニカは、一瞬でも反応が遅れれば終わる戦いの中でそう悪態をつく。

しかし、その打ち合いは長く続かなかった。

 

アスモデウスとキマリスが、バエルと打ち合っていたがために隙を生んだメタトロンを叩き落としたからだ。

 

『これは任せろ』

『ガブリエルの下へ行くと良い、アグニカ』

 

アグニカはバエルの左手を2機に差し出してピースした後、MA達が出て来た穴に迷わず飛び込んだ。

メタトロンはすぐさま飛び上がり、アスモデウスとキマリスに襲い掛かった。

 

『ふっ!』

『はっ!』

 

しかし、アスモデウスの槍とキマリスのサーベルが神速で振るわれた事によって撃沈した。

 

『ああッ、く…!』

 

メタトロンの1機に、バリシア・オリファントのガンダム・ガミジンが叩き落とされる。

武器は遠い月面に落ち、一時的に動きが止まったガミジンをメタトロンが攻撃する。

 

ガミジンは左腕全てと右腕半分、コクピットハッチ、バックパックと両足を粉砕された。

 

『があああああ!!』

『バリシアさん!』

 

パイモンが刀を振るが、メタトロンはそれを当たり前のようにかわしてパイモンを突き飛ばす。

しかし――この隙こそが、メタトロンの致命的な隙となる。

 

『      』

『後少し、持ちなさいガミジン――!』

 

メタトロンがパイモンに気を削がれた瞬間、ガミジンは右肩からワイヤーアンカーを射出してプロトダインスレイヴこと「ユーミル」を回収。

アンカーを引き金に引っ掛け、半分失われた右腕で強引に月面へ固定した。

ガミジンのコクピットの真正面に、ユーミルの排熱口が来る。

 

『 』

『終わりよ!』

 

引き金が引かれ、超高熱の後方排熱がコクピットを焼くと同時にユーミルの弾頭が発射された。

装甲を捨て去ったメタトロンに、これを防ぐ手段は無く――身体に大穴を開けられ、爆発する。

 

『――バリシアさん…』

 

超高熱の排熱をモロに食らった剥き出しのコクピットには、パイロットの姿は見られない。

そこにはただ、天使を道連れにした悪魔の死骸のみが残されていた。

 

『ッ…!』

 

40m級のMA「アサエル」が、アスタロトを殴り飛ばす。

アスタロトが岩盤へ叩き付けられ、その隙に追撃しようとしたアサエルをヴァルキュリア・フレームの1機が攻撃した。

 

V02-0621 ゲルヒルデ。

ヴァルキュリア・フレームの1機にして、ヴァルキュリア・スピアーを主武装とする高機動型MSだ。

 

ゲルヒルデに向けて、アサエルが腕を振る。

しかし、ゲルヒルデの曲面装甲には傷程度しか付けられなかった。

 

ゲルヒルデの槍が突き出され、アサエルの頭部に突き刺さる。

狼狽えたアサエルを、別方向からのダインスレイヴの一撃が貫いた。

 

V03-0907 オルトリンデの放った、ダインスレイヴである。

 

『――、まだ…!』

 

アスタロトが飛び上がり、近くにいたダンタリオンと合流。

次々と襲い掛かるプルーマを蹴散らし、縦横無尽に飛び回る。

 

『「百合の花園(ヘブンズフィア)」にはバエルとフォカロル、ブリュンヒルデが突入した。我々は、天使長を含めたMAを全て叩く!』

『――了解!』

 

そして、彼らは敵に突撃した。

 

 

 

 

百合の花園(ヘブンズフィア)」へ突入したバエルとフォカロル、ヴァルキュリア・フレームの「V01-0206 ブリュンヒルデ」は、その最奥に向かっていた。

ハニエルと言うプルーマを大型化したようなMAを1機撃破し、先へと進んで行く。

 

『――懐かしいモノだな、アグニカ』

「…いきなりどうした? 俺ら、こんな所に来た覚えは無いが」

『いや、そう言う意味じゃねェ。こうしてお前と並んで戦うのは、大分久しぶりだと思ってな。こんな場所で、悠長に話してるのもどうかと思うがな』

 

思い起こすかのように、フォカロルのパイロットであるアマディスは言う。

 

「ここにスヴァハがいれば、完璧だったな」

『――アグニカ』

「オイオイ、そんな声出すなよ。…死者は生き返らない。例え、現代の技術を以てしてもな。だから俺は、スヴァハみたいに殺される奴がいなくなるよう戦ってるんだ。俺はここで死ぬかも知れねェが、その先に十数億の笑顔が有るならそれで良い」

 

アグニカのその言葉を聞いて、アマディスは何となく感づいた。

 

――アグニカ・カイエルは、生きる意味を見失っている。

 

何せ、アグニカはスヴァハ・クニギンを絶対に守り抜きたいが為に戦うと決めたのだ。

そのスヴァハが殺されてしまえば、アグニカに戦う意味はなくなる。

そこから目を逸らして気づかぬよう、アグニカは「世界を救う為」と言う戦いの意味を掲げた。

 

だが――そこに、アグニカが本当に守りたかった笑顔(モノ)は存在しない。

 

『アグニカ、お前――』

「ッ、来るぞ」

 

アマディスの次の言葉は、アグニカによって遮られた。

最後の扉が開かれ、一際広い空間が露わになる。

 

その中には、1機のMA。

 

『「四大天使」ガブリエル…!』

 

言わずもがな、そこにいたのは「百合の花園(ヘブンズフィア)」の創造主にして支配者。

「四大天使」の一角、全てのMAの母たる存在。

 

――「神の人(ガブリエル)」が、そこにいた。

 

『       』

 

そのガブリエルの周囲には、大量のダインスレイヴが備えられている。

 

『やべッ!』

「かわせ!」

 

ダインスレイヴが、侵入者に向けて放たれる。

バエルとフォカロルはかわしたものの、ブリュンヒルデはかわしきれずに木っ端微塵に破壊された。

 

『テメェ…!』

「――行くぞ、アマディス!」

 

バエルが二振りの黄金の剣を構え、ガブリエルに突撃する。

それに並んで、フォカロルが全火砲をガブリエルの周囲に集中。

備えられたダインスレイヴを、残らず破壊する。

 

『   』

『うおッ!?』

 

ガブリエルのワイヤーブレードが振られ、フォカロルを突き飛ばして背後の壁に叩き付けられた。

 

「アマディス!」

『まだまだ!』

 

フォカロルは近接武器「バスターオール」で、ガブリエルのワイヤーブレードと打ち合う。

突撃したバエルは、ガブリエルが驚異的な速度で大量生産するプルーマに足止めされている。

 

「クソ、速すぎる…これが、マザーMAの得意技って訳か!」

『――ッらァ!』

 

ワイヤーブレードを弾き返したフォカロルは、ガトリングを撃ってバエルのサポートへ回る。

 

『オレが隙を作る。その間に、ガブリエルを殺せるか』

「ああ、やってみせる」

『――じゃ、後は任せたぞ』

「――任せろ」

 

そんな言葉を最後に、フォカロルは全武装を展開してガブリエルに肉薄した。

バエルは上下左右に回転しながら、群がるプルーマを全て残らず叩き斬る。

 

『         』

『食らえ、クソ野郎ォァア!!』

 

アマディスが引き金を引くと、フォカロルに載せられた全ての武装が一斉に火を吹いた。

それは全て、ガブリエルに直撃して行く。

 

『        』

 

弾幕の嵐を浴びながらも、ガブリエルはワイヤーブレードを振る。

1本がフォカロルの背後から突き刺さり、もう1本はフォカロルのコクピットを貫いた。

 

『があァアアア…!!』

『         』

 

胸から下を引きちぎられながらも、アマディスはフォカロルを動かす。

コクピットに刺さったワイヤーブレードのワイヤーを左手で掴み取り、右手のバスターオールで斬り落とした。

 

『あ』

 

そこで、アマディスの意識は途絶えた。

ガブリエルが頭部ビーム砲を撃ち、フォカロルのコクピットを焼き尽くしたからだ。

 

『       』

 

火器に残された弾薬に引火した事で、フォカロルは大爆発を引き起こした。

爆煙はガブリエルを覆い、その視界を奪った。

 

そして――それこそが、アマディスの生み出したかったガブリエルの隙。

アグニカは、決してその隙を見逃さない。

 

バエルがガブリエルに張り付き、その腕に黄金の剣を突き刺す。

続いて攻撃しようとしたが、ワイヤーブレードによって弾き飛ばされた。

 

「クソがああああ!!」

 

バエルの姿勢制御をしつつも、アグニカは歯噛みする。

 

殺せなかった。

アマディスがその命を賭けて生んだガブリエルの隙を、上手く付けなかった。

 

『        』

 

ガブリエルは、確実にバエルを捕捉した。

既に1対1――普通に考えて、バエルに勝機は無い。

 

同じく「四大天使」であったウリエル、ミカエルに比べればガブリエルの戦闘力は低い方である。

とは言え、ガブリエルは腐っても「四大天使」の一角。

その力は強大であり、たかがガンダム1機では及ぶべくもない程だ。

 

「――フッ、それがどうした」

 

その事実を、アグニカは鼻で笑い飛ばす。

そんなコトは百も承知だ。

今までの戦いで、敵が自分より強いなんて散々思い知らされて来た。

 

元より、総合的な戦力ではMAが上。

人類全ての戦力を投入したこの「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」も、成功確率はお世辞にも高いと言えるモノでは無い。

 

だからこそ、アグニカは()()()()()()

奇跡とは運命のイタズラ、神の気紛れだ。

 

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

だったら、奇跡が起こるよう自分の全てをこの一戦に賭ける――作戦前、そう決断したのだから。

 

「最期だ。ソロモン王の大悪魔バエル、俺の契約者よ。俺の魂を引き換えにして――俺に、あの野郎(ザコ)を殺せる力を寄越せ」

 

アグニカの言葉を聞き入れたように――いや、実際に聞き入れたのだろう。

ガンダム・バエルの双眼が赤く輝き、機体が過剰エネルギーを完全に解放した。

 

「ぐう、が――ハッ。そんじゃあ、殺すぞ」

『                 』

 

ガブリエルも、完全に臨戦態勢へと入った。

戦いがガブリエルの本領だとは言い難いが、5基のエイハブ・リアクターがもたらすパワーは侮り難いモノだ。

 

それを些事だと嘲るように。

大天使(ガブリエル)を正面からねじ伏せるべく、大悪魔(バエル)作業(さつりく)を開始した。




オリジナル設定解説のコーナー。


ルーベン・ハフィントン
SAU第十七代総理大臣。

リンジー・フォーサイス
アフリカンユニオン第八代大統領。

モーガン・ハスケル
アーブラウ議会第十六回代表。

ハロについて。
案の定、存在しています。
機能としては、OOに於けるハロに近いです。

UGR-G74 マドナッグ
全高:17.3m
本体重量:35.8t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ロディ・フレーム
武装:90mmマシンガン×1
   グレイブ・シールド×1
   ヒート・チョッパー×1
   ハルバード×1
   ダインスレイヴ×1
概要
ロディ・フレームのMS。
ガンダム・ミシャンドラと共に、オセアニア連邦が開発したガンダムに似せて造られた機体。
ガンダムの残骸を解析し、それを元に量産したパチモン。
要はにせガンダム。
エイハブ・リアクターを2基搭載しているが、これは言わば「ダブルリアクターシステム」なのでオリジナルの「ツインリアクターシステム」のように同調はしていない。
僅かな数が生産されたが、現在となってはその全てが失われている。
Astray Noirさんから頂いた案を元に、設定しました。
名前は「ガンダム(GUNDAM)」の逆さ読み「マドナッグ(MADNUG)」とのことです。

ASW-G-73 ガンダム・ミシャンドラ
全高:20.3m
本体重量:37.5t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:ハルバード×1
   90mmマシンガン×2
   ダインスレイヴ×1
概要
ラーペ・グランの専用機。
京都に残されたガンダム・ゼパルを回収したオセアニア連邦によって、建造した。
これ以外の残骸は使用不可能になっていたモノが殆どだった為、武装はかろうじて原型を留めていたダインスレイヴとロディ・フレームの汎用武器が使われる。
名前の由来は、創作上で「ソロモン七十二柱」に於ける第七十三位の悪魔とされる「ミシャンドラ」から。
既にゼパルが消えた事、ミシャンドラがあくまで創作された悪魔である事から、この機体には悪魔が宿っていない。
秋津秀久郎さんより頂いた案を元に、設定しました。

ラーペ・グラン
「ガンダム・ミシャンドラ」のパイロット。
オセアニア連邦軍の少将で、オセアニア連邦MS隊の隊長。
セリフには必ず「だ」が含まれる。

ASW-G-43 ガンダム・サブナック
全高:20.2m
本体重量:55.1t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:イチイバル×1
   ライフル×1
   アサルトナイフ×1
   マシンガン×2
   爆導索×2
   ホルスターシールド×4
   マイクロミサイル×8
概要
サイラス・セクストンの専用機。
全身に火砲を搭載した、制圧を得意とする機体。
イチイバルはダインスレイヴを運用可能なクロスボウで、普段は左腕に装着されている。
また、両肩や両腰など全身にミサイルポッドが取り付けられている。
6基ものサブアームによって各武器への補給を行いつつ、ホルスターシールドで防御も行う。
ただ、補給はサブアームありきな為に破壊されると補充が出来ず、重量過多になった事でガンダム・フレームの持ち味である機動性が失われた。
これにより、味方機による支援に頼る場面が多い。
名前の由来は、ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第四十三位の悪魔「サブナック(サブナッケ、サブノック、サヴノック、サブラック、サルマクとも)」から。
サブナックは50の軍団を率いる、地獄の侯爵だとされる。
一風の陣さんより頂いた案を元に、設定しました。

サイラス・セクストン
「ガンダム・サブナック」のパイロット。
階級は大佐で、SAUのMS全隊を率いる。

メタトロン
パニックさんとorotidaさんより頂いた案を元に、設定しました。
対ガンダム・フレーム戦用MA。
ビーム砲、プルーマ生産能力、補給機能を排除して機体の軽量化が図られている。
全身はスラスターとバーニアに埋め尽くされ、4本の腕で格闘戦を行う。
また、テイルブレードの代わりとしてヒート・ロッドが取り付けられている。
普段は、ガブリエルの随伴機となっている。

アサエル
orotidaさんより頂いた案を元に、設定しました。
ガンダム・フレームに似せて作られたMA。
40m越えの巨体で有り、胸部と腰部、頭部にビーム砲を内蔵する。
背中には巨大な翼が有り、空を飛ぶ事すら可能。 ただし、プルーマの生産能力は無い。

マスティマ
N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。
アサエルを生んだ後に捕獲したガンダム・フレームを解析し、ガブリエルが建造したMA。
リアクター数は1基だが、巨大な翼を持つ為に機動力が高い。
ビーム砲を内蔵した剣と、レールガンを持つ。
当然、プルーマの生産力は無い。

V02-0621 ゲルヒルデ
全高:18.5m
本体重量:30.4t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・スピアー×1
   ヴァルキュリア・バックラー×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの2番機。
全身で曲面装甲を採用しており、被弾した際の機体の損傷を減らす事で生存性を高めている。
ヴァルキュリア・スピアーは穂先が特殊超硬合金、柄がレアアロイで錬成されており高い強度を誇る。
ただ、曲面装甲錬成と整備の難しさからガンダム・フレーム並みにコストが高くなってしまった。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ゲルヒルデ」から。
名前の意味は、「戦いの槍」。
クルガンさんより頂いた案を元に、設定しました。
形式番号の「0621」は、「Fate」シリーズに登場するサーヴァント「クー・フーリン」の誕生日から。

V03-0907 オルトリンデ
全高:
本体重量:
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ダブルブレード×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの3番機。
希少極まりないヴァルキュリア・フレームの現存する1機で、高速一撃離脱戦闘を想定している。
300年後には、ジジン家のジジル・ジジンが運用。
武装は、特殊超硬合金を採用した「ヴァルキュリア・ダブルブレード」。
2本のブレードが繋がっており、分離させる事で双剣として戦う事が可能。
また、柄と柄を繋げる際に特殊なコネクトを介し、ブレードの先から弦を展開させる事でダインスレイヴ専用弾頭を運用出来るようになる。
高速で接近してダインスレイヴを撃ち、そのまま撤退(緊急時は双剣で対応)するのが主な戦闘法。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「オルトリンデ」から。
名前の意味は、「剣の切っ先」。
形式番号の「0907」の由来は不明。

V01-0206 ブリュンヒルデ
全高:18.6m
本体重量:30.9t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ノートゥング×1
   ヴァルキュリア・グラーネ×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの1番機。
機体コンセプトは「ガンダム・ベリアル」が参考とされており、ヴァルキュリア・ノートゥングはベリアルのグラムと同じ形状である。
ヴァルキュリア・グラーネは背部に在る2枚の翼に似たウイングが特徴のバックパックで、背中から分離させて展開させれば、機動戦士ガンダムSEEDに登場するジャスティスガンダムのような戦闘も可能となる。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ブリュンヒルデ」から。
名前の意味は、「戦いの甲冑」。
形式番号の「0206」は、「Fate」シリーズに登場するサーヴァント「ブリュンヒルデ」の声優である能登麻美子さんの誕生日から。

ハニエル
daipinさんより頂いた案を元に、設定しました。
ガブリエルが侍らせる、護衛用MA。
武装はプルーマとほぼ変わり無いが、大型化と共にビーム砲が追加されている。

ガブリエルのデータは、また次回にでも載せます。


厄祭戦の最終作戦「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」。
人がバタバタ死に、悪魔がバタバタ消えていきますね…。

ちなみに、最終作戦の名は言わずもがな北欧神話の最終戦争「神々の黄昏(ラグナロク)」から取りました。
ラグナロクに於いて、光の神ヘイムダルは奸計の神ロキと相討ちになると予言されています。
つまり、作戦名は作戦に参加した全員が死ぬとしてもMAだけは殲滅してやると言う意味を持ちます。


次回「神の人(ガブリエル)(予定)」。
また特殊読み…orz。


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#52 天使の王

タイトルが予告と違うって?
(予定)と言ってたので、変わる事も有りますよそりゃ。
あ、今回は特殊読みでは有りません。
別に「天使の王(ルシフェル)」と読んでも問題は無いですけど。

後、オリジナル設定解説が長くなったので本文は短めです。
次回は出来る限り早く出せるようにしますので、お許し下さい。


超、カオス…。


月面へと攻め込まず、艦隊の所に残ったMS隊によるMAの掃討は順調に進んでいた。

 

『敵戦力の42%を削れたぞ! このまま、残らず狩り尽くすz…ッ、な…ん、だ――通信、が…』

 

無線通信が、突如として途絶えた。

一時的に指揮系統に混乱が生じたが、ミシャンドラとサブナックは光信号によって隊を統制する。

 

ヴァレファールがヴァッサゴの肩に手を置き、接触回線を開く。

 

『これは何だ?』

『通信をジャミングするMAがいる。解析――「シャティエル」か』

『つまり…それを倒せば、通信は』

『ああ、回復する。アリアドネを開いた後、通常無線もある程度復活していた。このMAが、通常無線を封鎖していたと考えるべきだろうな』

 

通信が回復しない中、様々なMAと多量のプルーマが飛び回る。

このプルーマは、MA「アルミサエル」が生み出したモノが殆どだ。

 

『なら話は簡単――シャティエルをやる』

『任せた』

 

ヴァレファールはヴァッサゴから離れ、剣を構えてシャティエルが張り付いているらしい巨大MA「マルキダエル」に突撃する。

ヴァッサゴはバスターアンカーを展開し、近付いていたMA「サンダルフォン」を狙撃した。

 

『  』

 

動きが鈍ったサンダルフォンを、通りすがりのウヴァルが斬り捨てる。

そのウヴァルの背後に迫ったMA「レリエル」は、グレモリーによって頭部を打ち砕かれた。

 

『よっ!』

 

ヴァレファールはプルーマの群を突破し、マルキダエルに張り付いた。

 

それを振り落とそうとするマルキダエルに、戦艦サロモニスから「カラドボルグ」が発射される。

放たれたカラドボルグの弾頭は、射線上にいたMA「ラグエル」を粉砕してマルキダエルを貫く。

 

『      』

『はああ!』

 

ヴァレファールが剣を突き刺し、マルキダエルとシャティエルを破壊する。

2機のMAは誘爆し合い、爆散した。

 

『よし、通信回復。全軍、陣形を立て直せ!』

 

オセアニアのラーペ少将が、全軍へと指示を出す。

ヘイムダルも、現状を確認する。

 

『サロモニス、そちらに異常は?』

『有りません。ただ、月面へ行ったドワーム艦長達との連絡が取れません』

『阿頼耶織のリミッターを解除しているからかも知れません。どうやら、向こうも楽には行ってないみたいですね』

 

全方位へビームを撒き散らすMA「オファニエル」が、多方向からのダインスレイヴで沈黙する。

各経済圏の部隊もかなり減ってこそいるが、それぞれの指揮官の下で戦線を維持しMAを順調に撃破しているようだ。

 

『敵MAの大半は片付けたし、突入部隊の一部が「百合の花園(ヘブンズフィア)」の中枢へと向かったみたいだ。我々も仕事を果たすz』

 

サロモニス副艦長からの通信が、そこで途絶えた。

 

『――! サロモニス!?』

 

サロモニスに、とあるMAが張り付いたからだ。

当のサロモニスのブリッジも、突然の騒然としている。

 

「何事だ、状況を報告しろ!」

「MAに取り付かれました! しかし、これは妙な――!? 敵は、あらゆる装甲の隙間から侵入しています!」

「何だと!?」

 

MA「タブリス」――全身をナノマシンによって構築されており、機体の変質能力を持つ。

 

「何者かに、艦のコントロールが乗っ取られ始めています!」

「乗っ取られた区画は速やかにパージし、起爆せよ!」

 

副艦長の命令で、ブリッジクルーは操作をしようとしたものの――既に、操作不能に陥っていた。

 

「ダメです…乗っ取られます!」

「何だ、何が起こっているんだ!?」

 

MA「シャムシャエル」による、ハッキング攻撃。

あらゆるコンピューターの掌握と自壊を可能とするこのMAも、タブリスと同じくナノマシンで造られた機体だ。

 

そして、航行を不可能としたサロモニスにMA「ザフキエル」のビームランチャーが向けられる。

 

「敵がこちらを狙っています!」

「見りゃ分かる!」

 

動きを止めたサロモニスに群がろうとするMA「ラムエル」「ラメエル」「イロウエル」を、ガンダム達は足止めする。

しかし――ザフキエルのビームランチャーは発射され、サロモニスのブリッジを焼き払った。

 

『サロモニスが…!』

『クソ!!』

 

舌打ちするパイロット達だったが、サロモニスは沈み行く。

やがて爆発し、エイハブ・リアクターを残して宇宙のチリに成り果てた。

 

『ッ、これ以上はやらせるな!』

『言われなくとも!』

 

ガンダム達の双眼が赤く輝き、蹂躙を開始する。

力を解放した悪魔(ガンダム)の力は絶大であり、プルーマと天使にはなすすべも無い。

リミッターを解除したガンダムとやり合えるのは、ほんの一部のMAに限られるのだ。

 

『うおおおおおお―――お?』

 

暴れ回っていたガンダム達が、突如として動きを止めた。

それは、サロモニスが撃沈した場所にMAがいたからである。

 

 

8枚の巨大な翼を持ち、200m以上の巨体を誇る――他とは一線を画す威圧感を放つ、巨大なMAが。

 

 

『――計測、不能…? 悠矢、あれの解析は?』

『………解析不能だ、名前さえ読み取れない。もう少し接近して、詳細なデータを取りたい所なのだが――』

 

そうは言ったものの、悠矢だけでなくその場の全員が何となく察していた。

知識などではなく、悪魔からのフィードバックと野生の直感が「あれに近付けば死ぬ」と確信を持って訴えて来ている。

睨み合いが数分続いた、その時。

 

『――向かって来ないのか?』

『………な――!!?』

 

目の前のMAが、喋りだしてしまった。

今までに無かった怪奇現象を目の当たりにし、パイロット達は固まる。

 

『ふむ、貴様らに取って「未知」たる私の存在は脅威そのもの。確か――触らぬ神に祟り無し、と言う諺が有った。では、こちらから仕掛けるとしよう』

 

唖然とするパイロット達を見飽きたか、武装を展開して。

 

『「Co…失礼。()()()()使()()()()()()()()()()()M()A()。以後、お見知り置きを――そして、滅びよ地球人。私は少しばかり、地球人に因縁が有ってな』

 

かつて無い敵、最強のMAである「天使王」ルシフェルが前戯(たわむれ)を始めた。

宇宙を覆い隠すような錯覚さえ覚えさせるルシフェルの巨大な翼が、大きく広げられる。

ダインスレイヴの特殊弾頭と黄のビームが、戦いの光に照らされた宇宙を裂く―――

 

 

 

 

対ガンダムを想定したMA達が、何十機ものガンダムを相手に猛威を振るう。

既に何機かは倒したものの、それでもまだ残っている。

 

『そこか』

 

ストラスは試作型ダインスレイヴを放ち、メタトロンの動きを制限する。

メタトロンがダインスレイヴをかわした所で、マルバスがダブルピストルで更に動きを抑える。

 

『kill!』

 

カイムの剣が、メタトロンの右腕を斬り落とす。

隙が出来たメタトロンを、エリゴールの槍が貫く。

そこへナベリウスが狙撃し、メタトロンは沈黙した。

 

『――サロモニスは撃沈したか…全員、気を抜くなよ!』

 

ベリアルがプルーマを片付け、アンドレアルフスが強化された「天使長」ザドキエルに迫る。

アンドレアルフスは太刀を振り、ザドキエルのワイヤーブレードと打ち合う。

迎撃するザドキエルの下部に鉈を構えたシトリーが回り込み、攻撃する。

 

『      』

 

パイモン、プルソンの追撃で、ザドキエルが揺らぐ。

「V04-0210 ヴァルトラウテ」「V05-0913 シュヴェルトライテ」「V07-0402 ジークルーネ」「V09-0330 ロスヴァイセ」の同時攻撃で、ザドキエルは遂に沈黙した。

 

『      』

 

「V06-0523 ヘルムヴィーゲ」が巨大な獲物を振り、巨大人型MA「アサエル」と打ち合う。

アサエルが全身のビーム砲を放ち、周囲を破壊して行く。

 

『環境ってモノを考えないのか…!?』

『10年近く核戦争をし、地球環境をズタズタにした人間(わたしたち)が言っても説得力が無いな』

『そりゃそうか――何だ!?』

 

イポスと背中合わせになったヘルムヴィーゲだったが、それを狙ってビームが飛んで来た。

ヘルムヴィーゲは装甲の隙間に直撃を受け、あえなく撃破された。

 

『ク、どこから砲撃を…!?』

『向こうだな。ビームランチャーを装備したMAがいる』

 

フォルネウスがイポスに近付き、そのMA「ザフキエル」を指し示す。

 

『頼めるか?』

『ああ』

 

ザフキエルにフォルネウスが突撃し、ザフキエルはビームランチャーをフォルネウスに放つ。

フォルネウスはそれを難なくかわし、距離を詰める。

 

『この距離ならば…!』

『           』

 

ザフキエルの前に、MA「セラフィム」が現れる。

セラフィムは高い機動性を駆使し、フォルネウスの背後に回り込む。

 

『ぬ…!』

 

左手をとっさに背後へ向け、ダインスレイヴを撃ち放つ。

対するセラフィムは、ダインスレイヴに貫かれながらもレールガンでフォルネウスの五体を破壊した。

 

『――行くわよ、エドゥ!』

『はい!』

 

フェニクスとハルファスが、MA「マスティマ」に突撃する。

マスティマは剣を構え、2機のガンダムによる猛攻を捌く。

 

『『ああああああ!!』』

 

やがて、フェニクスとハルファスの瞳が赤く輝く。

攻撃速度はどんどん速くなり、マスティマの対応速度を上回る。

 

好機と見た2機は剣と槍を揃えて構え、マスティマに正面から突撃する。

それを受け、マスティマは。

 

『     』

『――な!?』

『ま、ず――』

 

胸部を貫かれる代わりに2機を拘束し、抱え込んで自爆した。

マスティマの自爆に巻き込まれて大破した2機のガンダムに、通りがかった「天使長」ハシュマルがトドメを刺す。

 

『やらせるか…!』

 

アムドゥスキアスとグシオンが、ハシュマルを潰すべく動く。

 

『  』

 

ハシュマルはアームを月面に滑らせ、何かのスイッチを押した。

すると、ハシュマルの周囲にミサイルポッドが現れ――旧時代より使われる「ハザードシンボル」が、そこには刻まれていた。

 

『…! あれは!?』

『  』

 

ミサイルが放たれ、戦場へとばらまかれる。

 

『全軍、迎撃しr――』

『      』

 

アムドゥスキアスに乗るサミュエルが、全軍に警告するより早く――ハシュマルがばらまいた「戦術核ミサイル」が、一斉に起爆した。

 

 

 

 

絶望。最強。無敵。

あれを表すには、それで足りるだろう。

 

突如現れた謎のMA「天使王」ルシフェルの力は、圧倒的だった。

ガンダム達を一蹴し、たった一度の拡散ビーム砲の発射でMS隊と艦隊を壊滅させたのだから。

 

ガンダム・ヴァレファールは剣で斬りかかったものの、一撃でコクピットを破壊された。

ガンダム・ウヴァルは、コクピットを潰された上でどこかへ放逐された。

ガンダム・バティンは武器を全て破壊され、月面へと吹き飛ばされた。

 

『足掻くな。何であれ、全滅するのだ』

 

ルシフェルが、翼の拡散ビーム砲を再び放つ。

放たれた黄色のビームが、残った艦隊を巻き込んで行く。

 

『それ以上させるか!!』

『はあああああ!!』

 

ミシャンドラが無謀にも突撃し、サブナックが拡散ビームを避けて弾幕を張る。

しかし、ナノラミネートコートに守られたルシフェルを傷つけるのは困難だ。

 

ルシフェルはサブナックをワイヤーブレードで捌きつつ、ミシャンドラにもワイヤーブレードをけしかけて武器を破壊する。

 

『うおおおお!』

 

ルシフェルがミシャンドラに気を取られたと見て、グレモリーがバトルアンカーをルシフェルに振り下ろす。

しかし――ナノラミネートコートにあっさり弾かれてしまい、続くワイヤーブレード攻撃を受けた事でバトルアンカーの片方がへし折れる。

 

『な』

『無駄だ』

 

ワイヤーブレードの追撃でグレモリーは吹き飛ばされ、ナノラミネートコートをバラバラにされ戦闘不能へと追いやられた。

 

続いてアンドラス、オロバス、マルコシアスが攻撃を仕掛ける。

アンドラスは剣、オロバスはショーテル、マルコシアスは斧で三方向からの同時攻撃だが――ルシフェルは、3本のワイヤーブレードで対処仕切った。

3機はことごとく無力化され、戦闘不能となってしまう。

 

『デタラメ…!』

『ク…!』

『ダメか…!』

 

残された2機のガンダム――ヴァッサゴとブエルを捕捉して、ルシフェルはそちらを向く。

 

『…どうだ? ハッキングは』

『無理だな。何で命令を伝達して、何で動いてるのか…そもそも、どうすればコンピューターと接触出来るのかがまるで分からん』

『こちらは、センサーが反応しなかった理由くらいしか分からなかった。あれからはエイハブ・ウェーブが発生していない――つまり、エイハブ・リアクターとは違う何かを動力源としている』

 

ヴァッサゴの解析では、ルシフェルの動力源がエイハブ・リアクターでない事くらいしか突き止められなかった。

ブエルのハッキングも通用しない以上、ルシフェルは現在の人類では理解出来ない存在だと言えるかも知れない。

 

『エイハブ・リアクターじゃない動力源って何だ? 核融合炉とかか?』

『いや、核融合炉ではない。どれかと言うなら――いや、これも違う。何で動いてんだあれ』

 

要するに、殆ど何も分からない。

 

『私の解析は済んだか? では、終わりにしよう』

 

そう言って、ルシフェルはワイヤーブレードを射出する。

ルシフェルがヴァッサゴとブエルを軽くあしらった時、月面の方から大爆発が起きた。

 

『あれは――』

『核爆弾か…!』

 

ガンダムのパイロット達が呆気にとられる中、ルシフェルは。

 

『頃合いか』

 

それだけの言葉を残し、戦闘宙域から離脱した。




オリジナル設定解説のコーナー。
今回はMA大量です。


シャティエル
GORISANさんより頂いた案を元に、設定しました。
攻撃武装こそ装備しないが、電子戦に長けたMA。
厄祭戦時にはそれぞれの機体が各経済圏と火星の通信網を掌握し断絶させ、ハッキングによるデータ破壊と改竄を行って各経済圏の連携を断った。
これを受け、ヘイムダルは独自通信方法として「アリアドネ」を世界各地にバラまいた。

アルミサエル
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
翼さえ持たず、武装も持たないMA。
プルーマを大量生産し、他のプルーマを持たないMAを援護する役割を担う。

マルキダエル
ムリエルさんより頂いた案を元に、設定しました。
防御力の高い、宇宙防衛用MA。
装甲が異常な程分厚いが、近接武器を持たない。
2枚の翼にはガトリングガンが装備されており、頭部にビーム砲を内蔵する。
また、プルーマの生産力が非常に高い。
自分から攻撃をしない、珍しい特性を持つ。

サンダルフォン
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
2枚の翼に拡散ビーム砲、頭と胴体にビーム砲を備えている。
1回ビームを撃つごとに敵を解析し、予測射撃を行う。
ただし、プルーマ生産能力を持たない。

レリエル
お野菜さんより頂いた案を元に、設定しました。
漆黒の身体と翼を持ち、胴体にビーム砲、翼に散弾銃を内蔵するMA。
光学迷彩を搭載しており、奇襲と速攻が得意。
ただし、光学迷彩使用時にはあらゆる武装が使用不能になる上にプルーマの生産能力は低い。

ラグエル
pakuyasaさんより頂いた案を元に、設定しました。
亀のように丸く、分厚い装甲で覆われたMA。
底面にはスラスターが付けられており、地上ではホバー走行を行う。
本体に武装は無いが、プルーマの生産能力がかなり高い。

オファニエル
ツチノコさんより頂いた案を元に、設定しました。
UFO型のMAで、機体側面の全方位にビーム砲を備えている。
また、プルーマの生産能力が高い。

タブリス
トラクシオンさんより頂いた案を元に、設定しました。
ナノマシンによって造られた後期型MAで、機体を様々に変質させる事が可能。
戦艦に張り付いて穴を開け、小型化して侵入したりもする。
プルーマの生産能力は持たない。

シャムシャエル
Astray noirさんより頂いた案を元に、設定しました。
プルーマ以下の大きさである、最小のMA。
ナノマシンウイルスを散布してコンピューターを掌握し自壊させる、凶悪な能力を持つ。
本体はかなり脆弱である為、普段は隠匿している。

ザフキエル
Astray Noirさんより頂いた案を元に、設定しました。
コロニー破壊用のMA。
高速巡航形態と戦闘形態に移行出来、尻尾のように本体と同等の長さを持つビームランチャーを持つ。
プルーマ生産能力が高い他、鈍重なMAの移送も行う。

ラムエル
N-N-Nさんより頂いた案を元に、設定しました。
頭部が異様に巨大化しており、そこにはビーム砲が内蔵されている。
頭部は360度高速回転させる事が出来、拡散ビーム、歪曲ビーム、高出力ビームを使い分けられる。
ただ、接近戦用の武器を持たない。
プルーマ生産能力は並。

ラメエル
N-N-Nさんより案を頂いた「ラファエル」を参考に、設定させて頂きました。
2枚の翼と腕を持つ、典型的なMA。
翼にはそれぞれ拡散ビーム砲が内蔵されており、翼を分離させて自由度の高い攻撃が可能となる。
翼へのエネルギー供給は、プルーマへの給電能力を応用している。
しかし、その為プルーマの随伴数は少ない。

 イロウエル
赤くて3倍な彗星さんから頂いた案を元に、設定しました。
2枚の翼を持ち、胴体にミサイルポッドが搭載されたMA。
頭部にはビーム砲が備えられている他、胸部には大型火砲「バスターアンカー」が内蔵されている。
プルーマ生産能力は並程度。

V06-0526 ヘルムヴィーゲ
全高:21.1m
本体重量:43.9t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・バスターソード×1
   電撃角×2
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの6番機。
対MA戦を想定した巨大武器「ヴァルキュリア・バスターソード」と超重装甲が、本機の大きな特徴である。
フレームの稼働限界ギリギリまで施された重装備で敵の攻撃を受け止め、その状態からの極至近距離戦闘を想定している。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ヘルムヴィーゲ」から。
名前の意味は、「兜の揺り籠」。
形式番号の「0526」は、石動・カミーチェの声優である前野智昭さんの誕生日から。

V04-0210 ヴァルトラウテ
全高:18.5m
本体重量:38.1t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・レールガン×1
   ヴァルキュリア・アックス×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの4番機。
ヴァルキュリア・レールガンは、後に一部のレギンレイズに搭載されるレールガンのプロトタイプ。
レギンレイズの物と比べて威力は高い上に、ダインスレイヴ弾頭も運用可能。
ヴァルキュリア・アックスは、長柄の巨大な斧。
全身の装甲は分厚めに造られており、ヘルムヴィーゲ程ではないが結構な重量が有る。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ヴァルトラウテ」から。
名前の意味は、「戦場の勇気」。
形式番号の「0210」は、メカデザイナーの鷲尾直広さんの誕生日から。

V05-0913 シュヴェルトライテ
全高:18.5m
本体重量:34.2t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ソード×1
   ヴァルキュリア・ライフル×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの5番機。
片手用の西洋剣「ヴァルキュリア・ソード」を主武装とし、これとヴァルキュリア・ライフルを用いて戦う。
機体コンセプトは「ガンダム・パイモン」で、背部には同系統の高機動バックパックが装備される。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「シュヴェルトライテ」から。
名前の意味は、「剣の支配」。
形式番号「0913」の由来は――忘れました。
誰か突き止めて下さい。
私が一体、どういった思考の下でこの数にしたかを(無茶言うな)

V07-0402 ジークルーネ
全高:18.5m
本体重量:31.3t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ランス×1
   ヴァルキュリア・シールド×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの7番機。
馬上槍に似たヴァルキュリア・ランス、ヴァルキュリア・シールドを装備する。
機体コンセプトは「ガンダム・キマリス」で、元機体と同じく敵に突撃する人間ダインスレイヴ。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ジークルーネ」から。
名前の意味は、「神聖の勝利」。
形式番号「0402」の由来は――忘れました。
誰か突き止めて下s(ry

V09-0330 ロスヴァイセ
全高:18.5m
本体重量:30.3t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヴァルキュリア・フレーム
武装:ヴァルキュリア・ナノラミソード×1
   ヴァルキュリア・ビームマント×1
概要
「量産型ガンダム・フレーム」をコンセプトにスリーヤ・カイエルが開発した、ヴァルキュリア・フレームの9番機。
「ガンダム・アンドロマリウス」が参考にされており、ナノラミネートソードとビームマントを装備している。
ただ、漆黒の機体色を持つアンドロマリウスとは対象的な純白の機体色をしている。
名前の由来は、ワーグナーの歌劇「ニーベルングの指環」に登場する戦乙女(ヴァルキリー)の1人「ロスヴァイセ」から。
名前の意味は、「白き戦場の馬」。
形式番号の「0330」は、作者の誕生日から。
――これくらい許してね(テヘペロ、と言う感じの悪ふざけです。

セラフィム
VOLTEXさんより頂いた案を元に、設定しました。
胴体は細長く、6枚の翼を持つ宇宙用MA。
内2枚は前方へ展開してビームを放ち、他2枚はそれぞれレールガンを内蔵し、残りの翼はスラスターが敷き詰められていて高機動を実現している。
ただ、プルーマの随伴数が少ない。

ガブリエル、ルシフェルのデータはまたいずれ。


次回「厄祭戦、終結(予定)」


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#53 厄祭戦、終結

お久しぶりでございます。
半月も遅れた事につきまして――弁明など差し出がましいですので、この罪科はしっかり受け止めたいと思います。


やっと、やっと終わる…!
後半はダイジェストっぽくなりますが、出来事が多いので許して下さい。

ボツタイトルは「激戦の果て」だったりします。
これは「機動戦士Zガンダム」の神BGMと名前が被るのでボツとなりました。
三枝成彰さんの創る音楽、私は大好きです。


上部より、白い光が降り注ぐ。

それは月の地下に存在する「四大天使」ガブリエルが築いた「百合の花園(ヘブンズフィア)」の最奥にまで届き、揺るがす程の光――人類が創ってしまった、最大の禁忌。

 

「『核爆弾』――水爆だか戦術核だか知らんが、やはり所有していたか。全く、矛盾してねェかガブリエル。人類の過ちって部分ではMA(お前ら)と同じだが、ああいうのを創った人類を滅ぼすのがMAの使命じゃなかったか?」

 

ガブリエルと相対するバエルから、アグニカはそう問いを投げる。

勿論答えなど返って来ないが、アグニカは言葉を続ける。

 

「責めてる訳じゃない。人類を滅ぼしたいなら、核戦争すんのが一番手っ取り早いからな。実際、それで何度か石器時代からやり直してても不思議じゃねェし。ただ、テメェらの誠実さは尊敬するよ。俺の爺さんとエイハブ・バーラエナが課した使命を全うすべく、こんな隠れ家(モン)まで造りやがった訳だ」

『         』

「だが、もう要らん。勝手に造っといて何だが、テメェらはスクラップにした上で粗大ゴミってコトで廃棄してやる。人間は(こちとら)天使(テメェら)に散々殺された。母として子の被害賠償はしろよ、ガブリエル。小便は済ませたな?」

 

ガブリエルは拡散ビーム砲を放ち、「百合の花園(ヘブンズフィア)」の最奥にある広大な地下空間を蹂躙する。

レアアロイとナノラミネートアーマーで造られているらしき壁が、白熱して溶かされて行く。

 

だが――バエルに、そんな攻撃は届かない。

 

悪魔と契約し、肉体どころか魂まで迷わず賭け皿に載せたアグニカ・カイエルが操るガンダム・バエルは文字通り「最速」であり「最強」。

戦闘力でガブリエルを軽々と凌駕する「四大天使」ミカエルを正面から破ったバエルを相手にしては、ガブリエルに勝機は無い。

 

『         』

 

ガブリエルはプルーマを量産し続けてバエルの速度を削りつつ、MA「ハニエル」をバエルへ差し向ける。

3機のハニエルと無数のプルーマ、ガブリエル本体を単騎で相手取るアグニカは。

 

「――()()()()

 

それだけを呟き、バエルの力を更に解放する。

バエルが余剰エネルギーの光に包まれ、その双眼が血よりも赤く輝く。

スラスターやバーニアが全開にされ、バエルはガブリエルに突撃した。

 

その光景は、流星のように。

残像を残し、音さえ越え――バエルは剣を振り、ハニエルとプルーマを一蹴する。

 

『         』

 

ガブリエルの翼と、ガブリエルの周囲に有るダインスレイヴから弾頭が一斉発射された。

それは全て、バエルに向けて放たれたが。

 

それでも、バエルは止まらない。

いや、ガブリエルには止められない。

 

バエルは弾頭を全て回避し、ガブリエルの懐へと飛び込んだ。

 

『          』

 

バエルが双剣で、ガブリエルの胸部を斬り裂く――直前。

 

「――!!」

 

バエルは突如、後方へ飛び去ってガブリエルから距離を取る。

その、一瞬後に。

 

 

百合の花園(ヘブンズフィア)」を守るシェルターシールドを容易く溶かして、黄色のビームがガブリエルを呑み込んだ。

 

 

『             』

 

ガブリエルのナノラミネートコートが、火を付けられた塵紙のように溶かされ消えて行く。

そのビームは右手のバエル・ソードの先端に当たり――そこを、一瞬で溶かした。

 

「バカな――特殊超硬合金を、こうも容易く溶かしただと!?」

 

そのビームは照射を終え、消える。

ビームの射線に在ったモノは全てが溶かされ、ガブリエルは頭部のみを残して体を蒸発させられた。

 

『        』

「何者――!」

 

アグニカは即座にビームが飛んできた方を見て開けられた穴を覗き込むが、そこには深淵なる宇宙しか無い。

そして、その穴も崩落して隠された。

 

「有り得ない――何が、起きたと言うのだ…」

 

ガブリエルにトドメを刺すコトも忘れ、アグニカは思案する。

 

ビームは、ガブリエルの横側から飛んできた。

即ち、仕込まれたミサイルポッドなどを除いて未開発のまま残された月の岩盤を削ってガブリエルを呑み込んだのだ。

 

時々小惑星などが落ちるとは言っても、衛星である月の表面と岩盤は断じて脆弱ではない。

あのように月を突き破るなど、人類に取っては夢のまた夢。

要するに、()()()()()()()()()()――つまり、何か別のモノが引き起こした。

 

この場合、まず上げられるのがMAだ。

だが、MAはガブリエルに逆らえない。

 

ならば、これは誰が何の為に引き起こした?

 

「――分からん」

 

バエルは転がっているガブリエルの頭を溶けたバエル・ソードで貫き、その剣を廃棄した。

大元たるガブリエルを倒した以上、もうこの「百合の花園(ヘブンズフィア)」に用は無い。

 

「さっさと離脱して、雑魚の掃討か。残っているかは知らんが――ん?」

 

百合の花園(ヘブンズフィア)」が、赤い光に包まれる。

そして、ナノラミネートアーマーとレアアロイで出来た壁が一斉に崩落した。

 

バエルは飛び上がって破片を回避しつつ、周囲を見回す。

そこで、アグニカは目を疑うコトになる。

 

 

壁の内側に、大量の核爆弾が仕込まれていたからである。

その数、肉眼確認による推定で1000以上。

 

 

「――オイオイ、何だよこれは。冗談だよな、幻覚だよな? 嘘だと言ってよ、天使(バーニィ)

 

半笑い…後半泣きかけで呟くアグニカだったが、この場にツッコミ役はいない。

とりあえず、アグニカが取るべき行動はただ1つ――

 

「――逃ーげるんだよぉおおおおおおおおおおあああああああああああ!!!!」

 

アグニカはマジで叫び、バエルを動かす。

超高速…下手すればガブリエルに肉薄した時よりも速く、バエルは上へと飛ぶ。

 

バエルが如何に高機動で速かろうと、大量の核爆弾の爆発に呑まれたら間違い無くエイハブ・リアクターを残して蒸発する。

勿論、パイロットをもろともに。

 

しかし、ガブリエルが仕込んだ「百合の花園(ヘブンズフィア)」の自爆シークエンスは抜かりない。

レアアロイと特殊超硬合金で出来た扉が、宇宙への道を閉ざした。

 

――ワタシだけで死ぬものか。

ワタシは、ワタシを殺したモノを道連れに死んでやる。

 

アグニカには、そんな幻聴さえ聞こえた。

 

「致命傷与えたの俺じゃないんだが!? 逆恨みやめろよ!!」と叫ぶアグニカだったが、そんな祈りが殺戮破壊兵器に通ずるハズもなく。

そもそも、伝えるべき相手はとっくに壊れている。

 

「――はあ」

 

緊急事態、人生最大のピンチ、絶対絶命の状況に追い込まれたアグニカは、ひとまず深呼吸をした。

そして、バエルの武装では決して破壊出来ぬだろう壁に背を向ける。

 

今まで、数多くの犠牲を払って来た。

多くの仲間を喪い、多くの戦友を喪い、唯一愛し守り抜きたいと思った女性を喪った。

それらを踏み台にし、悔いる自分から目を背け。

悪魔に魂を売り渡し、数多の天使を斬り捨て、ここへ辿り着いた。

 

そして、ガブリエルと相討ち――ただの科学者だった割には、よくここまで来たモノだ。

 

「――俺の役目は終わったな。後は頼んだぞ、バカ共。お前達なら、この世界を…」

 

核爆弾起爆までは、後10秒も無い。

このような膨大な数の核爆弾が爆発すれば、俺のあの世逝きは勿論の事、月への甚大な被害も免れないだろう。

 

かと言ってこれらを誘爆させずに停止させるなどは不可能だし、数が多すぎて処理も間に合わない。

止められない自分を不甲斐なく思いながら、アグニカ・カイエルはその意識を手放した。

 

 

 

 

「天使長」ハシュマルを含めたMAは、その全てが核爆弾によって誘爆し壊滅した。

しかし、100発を上回る数の核爆弾は艦隊とMS隊に大きな被害をもたらした。

爆心地に近かったガンダム・フレーム、ヴァルキュリア・フレームはほぼ全てが木っ端微塵に破壊されたのだ。

 

そして――「百合の花園(ヘブンズフィア)」が強固な隔壁によって封鎖され、その中から膨大な数の核反応が確認されたと来た。

 

『アグニカは…!?』

『あの中に決まってるだろう! あんな隔壁、バエルの装備じゃ破れない…!』

『助けに行くべきだ! みすみす、アグニカを死なせろって言うのか!?』

『この宙域に留まれば、私達も爆発に巻き込まれる! 撤退するぞ、残った艦隊で行動不能な場合は艦を放棄しろ!』

 

大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」に参加した艦隊の内、残存しているのは僅か25%。

もう既に、壊滅と言っても過言ではない被害を被ったのだ。

1000発を超える核爆弾の爆発に巻き込まれれば、間違い無くこの場で全滅する。

 

せっかくMAを全滅へと追いやったと言うのに、ヤケになった敵の自爆で痛み分けとなったら目も当てられない。

 

しかし。

 

『――ピラール。付き合え』

『…Boss? Whatするつもり?』

 

残ったガンダムの内、撤退行動に移らない者が2機。

ガンダム・アンドロマリウスと、ガンダム・カイムである。

 

『決まっている。()()()()()()()()()()()。奴は、これからの世界に必要な存在となりうるだろう』

『――ロブ、貴様』

『生憎、オレは自分勝手でね。命令に背かせてもらうぞ!』

 

アンドロマリウスとカイムは、隔壁へ向かって突撃する。

それぞれ剣を構え、隔壁へと衝突した。

 

『ッ、硬えな!』

『まだ…!』

 

隔壁へと打ち付けられた剣がへし折れ、破片が飛び散る。

だが、隔壁は大きくヘコんだ。

 

『らァ!』

 

そこへ、ガンダム・オセがかじり付く。

隔壁はオセの歯によって貫かれ、歪む。

 

『ナイスアシストだ…おらァあああ!!』

 

アンドロマリウスはビームマントで右手を覆い、オセと同じ所を殴りつける。

カイムは隔壁を固定する一部の部分を攻撃し、隔壁を歪ませて隙間を作り出す。

 

『放て!』

 

更に、ダインスレイヴの援護射撃が隔壁にぶち当たる。

隔壁は完全に破壊され、アンドロマリウスは手を伸ばしてバエルの翼を掴み取る。

 

『反応がNothingですよBoss!』

『知るか!』

 

アンドロマリウスはバエルを引き上げ、カイムが蹴り飛ばす。

飛ばされたバエルを、キマリスが回収して飛び去る。

その時――

 

 

――世界が、白く染まった。

 

 

言わずもがな、核爆発が起きたのだ。

1000発以上の核爆弾が一斉に起爆し、月を揺るがした。

この爆発により、月は数百年後も歪んで見える程の大被害を被る事となったのである。

 

 

 

 

ヘイムダル――いや、人類が行った史上最大規模のMA討伐作戦「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」は、結果だけを見るなら成功した。

待ち構えていた全MAの掃討、マザーMAにして「四大天使」の一角たるガブリエルの討伐。

その両方を成し遂げた事となるのだから。

 

しかし、被害を見るならば頭ごなしに喜ぶ事も出来ない。

今回の場合、落とされたモノを数えるより帰還したモノを数えた方が早いだろう。

 

作戦に参加した戦艦は47隻、帰還したのは6隻。

作戦に参加したMSは473機、帰還したのは42機。

作戦に使用されたダインスレイヴは212基、残存するダインスレイヴは36基。

 

MSの中から、一部を細かく見る。

参加したガンダム・フレーム41機の内、回収されたのがバエル、パイモン、アスモデウス、キマリス、ベリアル、プルソン、ヴィネ、アモン、バルバトス、フラウロス、ダンタリオン、グレモリーの12機。

ガンダムパイロットは42人中、アグニカ・カイエルとセブンスターズなど16人が帰投した。

参加したヴァルキュリア・フレームが9機、戻ったのがオルトリンデとグリムゲルデの2機。

 

未曽有の大損害を被ったが、作戦は終了した。

 

 

作戦より数ヶ月。

その間、世界のどこでもMAは確認されなかった。

これを以て、ヘイムダルを原型として設立された新組織「ギャラルホルン」は声明を発表した。

 

『私達が実行したマザーMA「ガブリエル」の討伐作戦「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」は成功し、全てのMAは破壊されました。ギャラルホルンはここに、長きに渡る戦争の終結を宣言致します!』

 

P.D.0001年。

ギャラルホルンは、後に「厄祭戦」と言われる人類と天使の戦争が終結した事を宣言した。

この宣言は「ヴィーンゴールヴ宣言」と名付けられ、後世に伝えられる。

世界は、治安維持組織「ギャラルホルン」の下で平穏を享受する事となった。

 

ガンダム・フレームは、戦争を終わらせた伝説のMSとして。

アグニカ・カイエルは、戦争を終わらせた伝説の英雄として――それぞれ、伝えられる。

 

 

 

 

「――終わりか?」

 

一区切りが付いた所で、ディジェ・バクラザンはアグニカ・カイエルにそう問う。

 

「いや? まだ続くさ」

 

そして、アグニカは即答した。

当然――何故アグニカが生き延びているのか、語られていないのだから。

 

「後しばし、付き合って貰おう。ヴィーンゴールヴ宣言で示されたのは、厄祭戦の終結だけではない。ギャラルホルンの方針は勿論だが、ここではもう2つ宣言された事が有る」

 

ラスタルやガエリオ、マクギリスなども察したようだ。

気にせず、アグニカは次の言葉を発する。

 

「――身体改造の禁止。阿頼耶織については、特に厳重にな。もう1つはアグニカ・カイエルの駆ったガンダム・バエルの封印。目的は別に、『偉業を伝える』だけではない。『アグニカ・カイエルの再構築』を行う為、式典とかに出せなくなったからだ」

 

 

 

 

アグニカ・カイエルの再構築。

具体的には、ガンダム・バエルからアグニカの魂を救い出すコト。

 

アグニカは「四大天使」達の戦いでバエルのリミッターを解除し、悪魔の力を引き出して来た。

ウリエル戦で左半身、ミカエル戦で右半身、ガブリエル戦で魂を供物として。

 

アグニカは魂までバエルに取り込まれており、肉体は放棄せざるを得なかった。

義眼、義手、義足に変えられていたアグニカの身体は腐敗する前に速やかに焼却され、セブンスターズ共同墓地の一角へと埋められた。

 

だが、アグニカの蘇生は可能だ。

バエルから魂を取り出し、新しい身体にそれを移せばアグニカは復活する。

 

スリーヤ・カイエル主導の下、ギャラルホルンの技術を総動員し、アグニカの肉体(いれもの)は完成した。

 

その肉体は、全身が機械だ。

厄祭戦で培ったオーバーテクノロジーで造られており、建造コストも相まって1体限りで代えが効かない。

動力源は腹部に内蔵される原子炉で、食べた物の全てを分子レベルで分解してエネルギーに変え稼働する。

まずフレームがあり、その上に腐敗しない人工肉がコーティングされている為に見た目では機械だと判断する事は不可能。

中のフレームはMSのフレームと同じくレアアロイで造られており、高い強度を誇る。

表面の人工肉は切れるが、中のフレームは破壊出来ない。

全身に組み込まれた百数十億もの電気的装置により、人体の電子信号を再現したアンドロイド。

 

はっきり言って、ターミネーターみたいな物である。

 

後はバエルの中でデータ化され保存されているアグニカの魂を吸い出し、入力するのみ。

ここで「バエル」を殺す事も想定していたが、バエルは幸いにもアグニカの魂をあっさりと解放した。

 

曰く――「私は魂をあまり好まない」とか。

その真意は定かで無いものの、元々用意していた悪魔を殺す手をスリーヤはあまり信用していなかったコトも有る。

とりあえず、上手く行く事に越した事は無い。

 

アグニカの魂を取り出されたバエルは、MAの討伐数と本人達の認可により設定された「セブンスターズ」のガンダム・フレームが動態保存されている場所の中心に封印された。

この場所は、後にアグニカの発言から「バエル宮殿」と名付けられる事となる。

 

かくして、アグニカ・カイエルは復活。

ギャラルホルンの統制者たる「最高幕僚長」として、組織に君臨した。

ヴィーンゴールヴ宣言違反スレスレの行為だが、禁止されたのは「身体改造」であって一から機械で身体を造るコトは禁止していない――と言うのが、セブンスターズの言い訳である。

後のアグニカは、「こういう所から腐敗したのか」と推測を立てたりもしているが。

この事実により、アグニカが復活した事は世間に公表されなかった。

 

「『ギャラルホルン』――光の神ヘイムダルが扱うとされる、『神々の黄昏(ラグナロク)』開幕を告げる角笛。世界の秩序を維持し、危機より守る暴力装置…ふむ。組織の体制は――ほうほう、成る程」

 

復活したアグニカは、早速世界の現状を確認し。

 

「パーフェクトだ、七星(ウォルター)――」

『感謝の極m』

「――とでも言うと思ったか?」

 

ダメ出しした。

バカではなくアホを見る、呆れ果てた顔で。

 

「何だこの体制、セブンスターズ一強じゃねェか。加えて、セブンスターズは世襲制? お相手がまだいない奴もいるのに? 敢えて言わせろ――()()()()()()。全く、俺はお前らをバカではあるがアホじゃねェと信じてたんだがなあ。俺の信頼を返せ」

「――酷い言い草だな。何が気に食わない?」

「権力集中に加え、そのトップは世襲制? 予言してやる、()()()()()()()()。100年後くらいにはギャラルホルンが腐り果てて汚職が蔓延してるってコトに、アヴドゥルの『魂』に加えて花京院の『魂』も賭けよう」

 

ボロクソである。

アグニカ、腐敗すると言うコトにアヴドゥルと花京院の魂を賭けた。

実際の300年後を見るに、この賭けにアグニカは勝ってしまったようだが。

 

「まあ、もう後の祭りだが。こんな短いペースで組織体制の大改変なんてしたら、各経済圏のジジイ共にナメられるからな」

「じゃあどうすりゃ良かったんだ」

「人の支配は失敗する。人は人でなく、法で支配されるべきだ」

 

などとアグニカは言うものの、もう手遅れだ。

そんな感じで、組織体制は300年経っても維持されるコトと相成った。




アグニ会結成まで その②

遅れた元凶。
これ作ってたら半月が経ってました。
あらかじめ作っておくべきだった、と反省中。
背景は描けないので超適当に流しております、ツッコミ禁止です。

【挿絵表示】


【挿絵表示】





オリジナル設定解説のコーナー。

ガブリエル
全長:223.6m
本体重量:不明
動力源:エイハブ・リアクター×5
武装:頭部ビーム砲×1
   腕部クロー×2
   ダインスレイヴ×2
   超硬ワイヤーブレード×3
   プルーマ×∞
特殊機能:個体増殖
概要
最初のMAで、全てのMAを生み出した存在。
2枚の翼と2本の腕を胴体から生やし、尻尾を3本持つ他、翼にはダインスレイヴを備える。
「個体増殖」の機能によって、多くのMAを生み出して来た。
護衛用MA「ハニエル」と、対ガンダム用MA「メタトロン」を侍らせている。
普段は月面都市が有った場所に造り上げたプラント「百合の花園(ヘブンズフィア)」にいて、MAを生み出す。
生み出されたMAは、基本的にガブリエルの命令は絶対遵守する。
ただし、「天使王」ルシフェルのみは意のままに出来ない模様。
エイハブ・リアクターの数は5基とオーバーパワーぎみだが、これはMA生産に膨大なエネルギーを使用する為。
要は、鉄血版デビルガンダム。
天使王がガンダムゴッドマスター、四大天使がデビルガンダム四天王、それ以外のMAがデスアーミー、それぞれのMAが生み出すプルーマがゾンビ兵みたいな感じである。
名前の由来は、旧約聖書にて語られる「四大天使」の一柱にして「神の言葉を伝える」とされる大天使「ガブリエル(ガウリイル、ジブリールとも)」から。
大天使ガブリエルはキリスト教の聖母マリアに「受胎告知」をした事で知られ、旧約/新約聖書では清らかな青年として描かれる。
また、イスラームでの大天使ジブリールは預言者マホメットに啓示を与えたとされ、ミカエルを差し置いて最重要な天使となる。
厄祭戦最後の戦いにおいて「百合の花園(ヘブンズフィア)」最奥でガンダム・バエルと戦い、ルシフェルの乱入により破壊された。


犠牲者とか被害とかはギャラルホルンが確認した分だけなので、生き残ってる奴とかは他にもいます。
公式記録と実際の記録に齟齬が生じるのは良くあるコトですし。


厄祭戦――人類と天使の殺し合いは、これにて一応の終結を迎えた。
多大なる犠牲の果てに、人類は天使を駆逐した。
だが、アグニカ・カイエルの物語は終わらない。
「ヴィーンゴールヴ宣言」より3年。
火星にてガブリエルの置き土産、天使の残党が目覚める――

過去編は、もう少しだけ続きます。
次回「天使の残党(予定)」。


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#54 天使の残党

こんな短いペースで投稿するの久々な気がする…。
今回で、過去編は終了です。
長かった…。


P.D.0002年。

全経済圏の総意で「アデレード禁止条約」が締結。

核爆弾を始めとし、ダインスレイヴ、カラドボルグなどの危険と判断された幾つかの兵器の使用が禁止された。

これにより、ギャラルホルンが量産型MSとして開発していた「ヘリヤル」の建造が中止される事となる。

また、ガンダム・バティンのパイロットであったウィルフレッド・ランドル主導の下、アグニカ・カイエル本人監修で厄祭戦の記録を記した「アグニカ叙事詩」が発売された。

 

P.D.0003年。

ガンダム・バルバトスのパイロットをしていたクレイグ・オーガスが、ギャラルホルンを脱退。

火星に移住したらしいが、その行方はギャラルホルンも掴めなかった。

 

そして、P.D.0004年。

火星にて、残存していたらしいMA…「天使長」ハシュマルが確認された――

 

 

 

 

「天使長」ハシュマルに関しての報告を受け、緊急でセブンスターズ会議が行われた。

 

「火星で『天使長』ハシュマルが確認された。世界の秩序と安寧を維持するギャラルホルンの責務として、これの討伐隊を組織したい。故に、今回セブンスターズを召集した。何か、経緯について質問は無いか?」

 

セブンスターズに召集をかけた第四席エリオン家の当主ドワーム・エリオンが、ここへ至る経緯を簡単に説明した。

質問が無いのを確認し、討伐隊の編成を開始する。

この数年で、セブンスターズは会議に大分慣れてきたようだ。

 

「『天使長』が出て来た以上、ガンダムは必要になる。ただアデレード禁止条約でダインスレイヴは使えないし、セブンスターズのガンダムとバエルは『バエル宮殿』に封印してしまった。従って、他の家のガンダムを持ち出して何とかするしかない」

「そうすると――」

 

セブンスターズが、一様に俺を見て来る。

うん、ですよね。

 

「俺は、世間では死んだ事になっている。このような任務を行うには、適任と言えるだろうな。だが、バエルは封印してしまったぞ?」

「他のガンダムを使えば良いのでは?」

「無茶を仰られますな、セブンスターズの皆様」

 

まあ、それしか無いだろう。

機体は――クレイグが置いて行った、ガンダム・バルバトスを借り受けるか。

 

「言っとくが、俺だけではキツイぞ。バエルでならともかく、他のガンダムでは性能を引き出し切れない。それで『天使長』に挑むとか無理、間違い無く死ぬ。最低でも1機、ガンダムで助っ人が欲しい」

「ふむ…じゃあ、助っ人の選定はお前に任せる」

 

任せる、と言われてもな。

曲がりなりにも、敵は「天使長」ハシュマル。

同じく「天使長」であるザドキエルを撃破した事は有るが、あれはスヴァハと2対1かつ敵にガンダムを知られていなかった、ザドキエルが元々宇宙をホームグラウンドとしていたからこそだ。

 

地上でも充分に性能を発揮可能で、ガンダムのデータも溜め込んだ「天使長」ハシュマルを撃破するにはそれなりの備えがいる。

 

――やはりここは、ダインスレイヴが欲しい。

条約違反を覚悟の上で、ダインスレイヴ持ちのガンダムを引きずり出すか。

こんなコトなら、禁止条約に「MAが相手の場合は適用しない」とか付けとくべきだった。

 

「ガンダム・フラウロスを連れて行くから、アイツらに召集掛けてくれ。後、極秘裏にダインスレイヴ弾頭の用意を」

「――条約違反だぞ、最高幕僚長」

「百も承知だ。だが、備えは万全にしなければならない。場合によっては、火星に向けてダインスレイヴを撃つコトになる。最終的に倒せたとしても、地形がどうなるかは分からん」

「やれやれ…」

 

セブンスターズは頭をかきながらも、それらの条件を認可した。

 

セブンスターズ会議の数時間後、俺とバルバトス、タスカー夫婦とフラウロスはグラズヘイムⅡに上がった。

そこでカイエル家が個人所有するハーフビーク級戦艦「ヴァイシュヴァーナラ」に乗り換え、火星へと出発した。

 

 

 

 

約1ヶ月で、戦艦は火星の衛星軌道上へ到着した。

今回はアーレスに入らず、すぐにハシュマルの撃破へ向かうコトとなっている。

 

そして、ヴァイシュヴァーナラのセンサーは「天使長」ハシュマルのエイハブ・ウェーブを観測した。

 

「ダインスレイヴ弾頭を装填して出ろ、とは――ギャラルホルンの信用を地に落とすつもりか?」

「まさか。相手はMA、それも『天使長』だ。言い訳はいくらでも出来る。居住者の退去も終了している、遠慮無く戦おう」

「――本当に、バルバトスでやる気?」

「当たり前だ。この1ヶ月で、シミュレーションは充分やった。クレイグのクセが付いてるから、多少動かし辛いが…まあ、何とかなるさ」

 

ただ、クレイグの戦闘スタイルはアグニカとは異なっていた。

その為、バルバトスを少しでもアグニカの戦闘スタイルに近付けるべく小型のメイスを2本持って来ている。

 

『バルバトスとフラウロス、10カウントの後に射出します。ご武運を』

『ありがとう』

「ああ。我々を射出した後、ヴァイシュヴァーナラはここに待機。我々が『天使長』ハシュマルを討伐し次第、ケーブルで回収しろ」

『了解しました。カウント、開始します』

 

そして、10カウントの後でバルバトスとフラウロスはヴァイシュヴァーナラより出撃した。

 

『目標より、高熱源体接近』

『ほっ!』

「ビームか」

 

冷静に見極め、バルバトスとフラウロスは攻撃を回避する。

 

「ダインスレイヴ、行けるか?」

 

ハシュマルの頭部ビーム砲による攻撃を右手のメイスで弾き、アグニカはそう問う。

 

『照準が定まれば――ッ!?』

『かわすぞ!』

 

機体に逆制動をかけつつ、ダインスレイヴを前方へと突き出して照準を合わせていたフラウロスが、突如上へ飛んだ。

その、僅か数瞬後。

 

 

黄色のビームが、フラウロスの下を掠めた。

 

 

「な、これは――!?」

 

ビームはその1本だけではなく、もう1本のビームが彼方より撃たれ――ハーフビーク級戦艦ヴァイシュヴァーナラを、一撃でいとも容易く貫通した。

 

『な、なんだあああああa』

 

船体に大穴を開けられたヴァイシュヴァーナラが、轟沈する。

続いて、フラウロスの物とは比較にならない程巨大なダインスレイヴ弾頭が2機のガンダムを襲う。

 

『クソ!』

「これは…ハシュマルの攻撃ではない!」

 

2機はダインスレイヴをかわし、火星から撃たれるハシュマルのビームもかわす。

 

「このままでは嬲り殺される――俺がヴァイシュヴァーナラを沈めた奴を引き付ける、その隙にハシュマルを討伐してくれ!」

 

アグニカはそれだけ言い残し、黄色のビームをかわしながら吶喊して行った。

 

 

 

 

『アグニカ!?』

『向こうはアイツに任せるしかない…! 私達は、ハシュマルを叩くぞ!』

 

フラウロスは大気圏突入用のグライダーを展開し、火星へと降りる。

そのフラウロスにハシュマルはビームを放つが、レアアロイで造られたグライダーを破壊するコトは出来ない。

 

ハシュマルはその後も何発かグライダーにビームを撃ったが、フラウロスが大気圏を突破したコトを確認して移動を開始した。

 

『メイベル、撃てるか!?』

『足を止めるわ!』

 

フラウロスが1発目のダインスレイヴを撃ち、それはハシュマルの目の前に突き刺さった。

 

『    』

 

ハシュマルの足場が崩壊し、陥没した地面にハシュマルが落ちる。

 

『追撃行くぞ!』

『了解!』

『        』

 

ハシュマルが頭部ビーム砲を地面に向けて撃ち、地面が更に崩壊する。

フラウロスは構わず2発目のダインスレイヴを撃ち、ハシュマルのスラスターを破壊した。

 

『よし!』

『近付いて、撃ち殺すわ!』

 

フラウロスが火星へと着地し、ハシュマルに向けて重火器を撃ちまくる。

 

『     』

 

地面が陥没した穴に入り込んだハシュマルの上部に有った岩盤が崩れ、ハシュマルを覆って行く。

しかし、最後の抵抗としてハシュマルは市街地に向けてプルーマを仕向ける。

 

『させるか…!』

 

フラウロスはプルーマを撃ち落として行くが、撃ち漏らした10機程に群がられる。

 

『ク!』

『こうなれば…!』

 

フラウロスは群がったプルーマを捕まえたまま、埋もれ行くハシュマルに突撃し――道連れに、火星の大地へ埋没した。

 

 

 

 

「――貴様は…!?」

 

黄色のビームの出所へ辿り着いたアグニカは、絶句していた。

それは、そこに1機のMA――いや、常軌を逸した「何か」がいたからだ。

それが何なのかは…アグニカには想像さえ出来なかった。

 

『ふむ…分からぬか? あの時、私を見たモノの全てを破壊したのは失策だったか』

「――なん、だと…?」

 

そのアグニカの驚愕は、あらゆる機体を全て破壊したと言う事実と、MAが突如として理性的に喋り出した事実の2つに向けられたモノだ。

 

バルバトスは、右手のメイスをそのMAに向ける。

 

「貴様、何者だ」

『知らぬか。では名乗ろう――私は「天使王」ルシフェル。全ての天使…いや、()()全ての天使を生んだガブリエルめを殺したのは貴様だな? 火神(アグニ)の名を持つ者よ』

「――『天使王』ルシフェル、だと?」

 

有り得ない、とアグニカは断言する。

 

「四大天使」ガブリエルの設計図を見る限り――元々ガブリエルは、3機の自分と並ぶ「四大天使」たるMAを造れるハズだったのだ。

 

「破壊」を司る智天使、ウリエル。

「進化」を司る熾天使、ミカエル。

「修復」を司る大天使、ラファエル。

この3機を造るハズ、とガブリエルの開発者であるプラージャ・カイエルとエイハブ・バーラエナは予測していた。

 

ならば、目の前にいる「天使王」ルシフェルは何なのだ?

「厄祭戦」に於いてラファエルが確認されなかったのは――ガブリエルが、ラファエルの代わりにこのルシフェルを造っていたからではないのか?

 

そのような疑問がアグニカの思考を埋め尽くしたが、動揺を悟られないよう声音に気を付けながらアグニカはルシフェルに質問を投げる。

 

「お前は、ガブリエルに造られたのか?」

『いや? 私はガブリエルが造られる前、月にて悠久の眠りについた。ガブリエルが動き、花園を作り上げた時に目を覚ましたのだ。その後にガブリエルめと接触し、私を覆い守る鎧を造るよう依頼したに過ぎん』

 

――成る程。

大体の事情が見えてきた、とアグニカは整理する。

 

ルシフェルがガブリエルと接触したのは、ガブリエルがラファエルを造る前だった。

ルシフェルはガブリエルを上手く誘導し、ラファエルではなくルシフェルを覆う「鎧」を造らせた。

そして、その鎧を造るにはラファエルに使うハズのリソースを回す必要が有った。

 

 

即ち――この「天使王」ルシフェルは、少なくとも「四大天使」と比肩する力を持っている。

 

 

(いや――ビームでナノラミネートアーマーを破壊するコトは、「四大天使」であったウリエルやミカエルにも出来なかった。コイツの戦闘力は、間違い無く「四大天使」を上回るか)

 

故に、「天使王」。

あらゆる天使…「四大天使」をもひっくるめてその頂点に君臨する、天使の王――それこそが、目の前にいるMA「天使王」ルシフェルなのだ。

 

「ビームでナノラミネートアーマーを破壊出来るのは、単純に出力が大きいだけではない。そもそものエネルギー源が、通常と違う…?」

『如何にも。――さて、お喋りはここまでだ。貴様が私に、どのような抵抗をしてくれるのか…楽しませてもらうぞ?』

「!」

 

ワイヤーブレードが展開されるより早く、バルバトスはルシフェルに肉薄した。

懐へ飛び込み、メイスを振って腹部のビーム砲を損傷させる。

 

『ほう?』

「死ね!」

 

バルバトスは両手のメイスを大きく振りかぶり、ルシフェルに痛打を加え――

 

「何ッ…!?」

『ふ』

 

――られなかった。

何故か。

 

 

「分離した、だと――!!!?」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

頭部、胸部、8枚の翼部が分離し、それぞれが飛んでバルバトスを囲む。

 

『甘いな。ビーム砲を1つ潰したコトは賞賛に値するが、それだけでこの私を弑そうとは片腹痛い』

 

それぞれに取り付けられたビーム砲が火を吹き、バルバトスを炙る。

 

「が、ぐ――!」

 

防御を成さなくなった肩パーツをパージし、左腕のパーツも外す。

溶けた右手のメイスを放棄して、残った左手のメイスでルシフェルの翼を弾き飛ばす。

 

『成る程、伊達に「四大天使」共を倒してはおらんか』

 

ルシフェルは身体を再度合体させ、瞬時に胸部のビーム砲を復活させる。

 

「――自己再生だと!?」

『フ…ナメてもらっては困るな』

 

胸部のビーム砲が放たれ、バルバトスを襲う。

バルバトスはメイスを交差させてビームを受け止めるものの、押されて火星へと落ちて行く。

 

「まずッ…!?」

 

ビームに押された為に高速で大気圏を抜け、ビームの射線から脱したバルバトスは火星へと落ちる。

バルバトスに離れられたビーム砲は巨大な岩盤を溶かして峡谷を作り出し、消えた。

 

「アイツらは…チ、この辺りはハーフメタルのせいでセンサーが…!」

 

フラウロスの捕捉を諦め、アグニカはバルバトスの状態を確認する。

全身に負荷が掛かり、機体性能が極端に落ちている。

 

『――つまらん』

 

上空のルシフェルは、置き土産としてダインスレイヴを装填し、バルバトスに照準を合わせた。

対するバルバトスは、メイスを右手に持って投擲姿勢を取る。

 

ツインリアクターシステムの力を、右手のみに集中させる。

過剰エネルギーが、剥き出しになった右肩から放出され――メイスが、大きく振られた。

 

「ただで死ねるかよ――届けッ!!」

 

バルバトスがメイスを上空へ投げるのと、ルシフェルがダインスレイヴを放つのはほぼ同時だった。

 

『ッ!』

 

バルバトスが打ち上げたメイスは、ルシフェルの頭部装甲の1枚を弾き飛ばした。

ルシフェルの放ったダインスレイヴはバルバトスの足下に直撃し、バルバトスは出来た穴へと沈んで行った。

 

『――やられたな』

 

頭部装甲が弾き飛ばされたコトによって露わになった黄金の双眼で、ルシフェルはバルバトスを睨みつける。

しかし、その後すぐルシフェルはどこかへと飛び去って行った。

 

 

 

 

「、ッ…」

 

バルバトスが地に埋もれた後、そのコクピットでアグニカは頭を抱える。

 

スラスターは、大気圏で焼け爛れて無事に天寿を全うされた。

火星へ叩き付けられた衝撃で、コクピット内のモニターは粉砕した上に全身の関節に負荷が掛かった為にツインリアクターのパワーも発揮出来ない。

おまけに、ハーフメタル埋蔵地域に落ちたせいでエイハブ・ウェーブで見つけられる可能性はゼロな事に加えて、アーレスへの連絡も取れない。

 

アグニカはこう断言出来た――詰みゲー、と。

 

「はあ…」

 

絶対絶命に追い込まれたアグニカであったが、ひとまずはモニターの破片が刺さりまくってボロボロになってしまったパイロットスーツを縫い直した。

 

それから数十日が経ち、トランクに入れて来たあまり美味しくない非常食が底を尽きた。

取り込んだモノを分解してエネルギーとする身体の構造上、何かを取り入れないと動かなくなる。

 

そして、アグニカの身体はスリープモードへと入った。

このモードには、身体のエネルギーが尽きるコトで切り替わる。

 

光がコクピットに差し込んで身体を照らすまで動かなくなる、コールドスリープのようなモノだ。

それを認識する為に、胸部の人工肉が裂けて機械部が露わになったりするのは如何ともし難い仕様らしい。

 

 

それから、309年もの月日が流れ。

 

 

P.D.0313年。

ガンダム・バルバトスとアグニカ・カイエルは、CGSの社長マルバ・アーケイにより発見された。

アグニカ・カイエルはアラズ・アフトルと言う偽名を名乗り、そのままCGSへと加入。

 

更にその10年後、P.D.0323年。

彼は子供達が集められたCGS参番組、その教官を受け持つ事となる――。




アグニカポイント新規取得
アグニカ・カイエル 90AP
ゴドフレド・タスカー 90AP
メイベル・タスカー 90AP
※アグニ会結成につき、ポイントシステムが出来たので再び加算開始です。


オリジナル設定解説のコーナー。


アデレード禁止条約について。
原作に於いては「禁止条約」としか言われていなかったため、命名。
オーストラリアのアデレードで調印が行われた事から、こう呼ばれている――と言うオリジナル設定です。

EB-01 ヘリヤル
全高:18.0m
本体重量:30.0t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:ヘリヤル・フレーム
武装:100mmライフル×1
   ヘリヤル・ブレード×1
   シールド×1
   胸部60mm機関砲×2
   280mmバズーカ×1
   対艦用バスターソード×1
   レールガン(ダインスレイヴ対応)×1
概要
厄祭戦後、ギャラルホルンが開発した量産型MS。
ヴァルキュリア・フレームを素体としており、ゲイレールやグレイズの先祖にあたるフレーム。
性能はロディ・フレームやヘキサ・フレームより高く、調整された機体ならばヴァルキュリア・フレームに匹敵する。
ただ「量産機」としては失敗したMSであり、数十機が造られた時点で生産は打ち切られた。
ヘリヤル・ブレードの錬成に手間がかかる事、ヘリヤル・ブレードと対艦用バスターソードの扱いには相応の技量が求められる事、フレームに希少金属部品を使用する事などが問題点として上げられる。
また条約でダインスレイヴが禁止兵器とされた事も追い討ちをかけ、生産中止とされた。
しかし、この機体の反省点はゲイレールなどに受け継がれる事となる。
カンツウツボさんより頂いた案を元に、設定しました。
機体の設定上、描写する事が出来ませんでした。
身勝手ですが、何卒お許し下さいm(__)m


今回を持ちまして、#33より行って来た過去編は終了となります。
これで、本作の主人公であるアラズ・アフトル――もとい、アグニカ・カイエルが#01でCGSに入るまでの経緯を描けたかなと。

次回からはP.D.0325年のセブンスターズ会議場へと戻り、物語が進みます。
過去編で張られて回収されていない複線なども、随時回収して行きます。
後しばらく、この物語にお付き合い頂ければ恐縮ですm(__)m


次回「組織再編(予定)」


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完結編
#55 組織再編


お待たせ致しました。
これより一週間、毎日投稿します。

何故って?
()()()()()()()()()()()からです。

いよいよ完結編に入りますが、ノンストップで駆け抜けたいと思います。
ラストスパート、お付き合い下さいませ。


P.D.0325年。

太陽が天頂を越えた頃に、ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルの独白は終わった。

こうして、アグニカの話は時系列を現在へと戻した。

 

「――とまあ、ここまでが俺がここへ至る経緯だ。アラズ・アフトルとしての俺の行動は鉄華団が良く知ってるだろうから割愛するが、まあMSに乗って暴れたり鉄華団の地球支部支部長としてふんぞり返ったりした訳だ。そして、三日月・オーガスの協力の下で『バエル宮殿』へと辿り着き、今現在ここにいる」

 

セブンスターズ、鉄華団、そして中継のカメラをひとしきり見回した後――アグニカは、手を顔の前で組む司令ポーズを取る。

 

「さて、この話は俺が本物のアグニカ・カイエルだと言うコトを証明する為に始めたモノだったな。話が思ったよりも長くなってしまったが、貴様らはどのような結論を出す?」

 

その言葉で、何人かがハッとする。

どうやら、何人かはこの話が始まったきっかけと目的をすっかり忘れていたようだ。

 

「言った通り、俺はもう真っ当な人間では無い。人工的な電子信号でアグニカ・カイエルの思考と行動を再現しただけの、一種の人工知能とも言えるだろう。それを、貴様らは()()()()? アグニカ・カイエルを騙る痴れ者と断じて、俺を破壊(こわ)すか? 戦うコトしか出来ない破壊者(バケモノ)として、俺を封印するか? それとも――このようなモノに、世界の警察(ギャラルホルン)の改革を可能とする権力を委ねるか?」

 

目を細めて、アグニカはセブンスターズに問う。

そこで、セブンスターズは察する――試されている、と。

 

「その前に、だ」

 

最初に、ラスタル・エリオンがアグニカにこんな質問を投げた。

 

「ギャラルホルンを改革すると言ったな。具体的に、どのような改革を行うつもりだ?」

「…ふむ、じゃあまずはそれを示すか。ここからは完全に私論になる、カメラは外してくれ」

 

全世界にLIVE中継されているらしいカメラを、アグニカはとりあえず排除する。

ここからは普段のセブンスターズ会議となってくるので、意見として出ただけの不確定の情報を流すのは世界の混乱を招き兼ねないからだ。

 

「ではまず、現在のギャラルホルンの組織体制と現状を再認識しよう」

 

そして、アグニカはギャラルホルンの組織図をセブンスターズに見せ付ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これが、現在のギャラルホルンの組織体制だ」

 

主な部署として統制局、警察局、監査局、総務局に加えて地球外縁軌道統制統合艦隊『グウィディオン』と月外縁軌道統制統合艦隊『アリアンロッド』が存在する。

各局の下には小さな科などもあるが、士官学校まで含めたこれら全ての管理運営をセブンスターズと最高幕僚長のみが担っている。

 

「言うなれば『権力集中制』で、人による支配。旧時代における絶対王政に近く、腐敗を招きやすく、汚職が蔓延する組織の典型例だと言えるだろう」

 

こうして図にすると、ギャラルホルンの組織体制が如何に酷いかが見て取れる。

全てがセブンスターズの管轄であるからして、各経済圏の意見は聞き入れられない。

これでは、口が裂けても「民主的」とは言えない。

 

「俺の最大目的は、ギャラルホルンの組織再編だ。権力集中制を取っている現在のギャラルホルンを、権力分立制へと移行する。セブンスターズへの権力集中を分散させ、各経済圏の意見を通して一般市民の意見も組織運営へと反映させたい」

「各経済圏に、ギャラルホルンの運営へ介入させると?」

「介入、と言うのはこの場合不適だろう。言うなれば、参画――各経済圏を、ギャラルホルンの体制に取り込む」

 

そして、アグニカはもう1つの図をセブンスターズに突き付ける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「これが、300年前に俺が反映しようとした体制案を改良したモノになる。ギャラルホルンを世界の秩序を守る暴力装置ではなく、世界の協調を促す抑止力としたい。権力分立を実現し組織の腐敗を防ぐべく、人の支配ではなく『法』による制限を設ける」

 

組織図は両者とも一部省略されたモノだが、前者と後者の違いは見て取れるだろう。

 

何と言っても、一番の違いは「角笛憲章」と「角笛議会」の存在だ。

 

憲章は組織の最高法規となり、絶対遵守すべきモノとなる。

議会は各経済圏より選出された議員とギャラルホルンより選出された議員の討論の場とし、裁判局への弾劾や運営局の長である最高幕僚長の選出に加え、組織運営案を運営局へと提出するコトとする。

 

抑止力として統制局は戦力を保持し各経済圏に駐留させ、情報局は最高幕僚長の名の下にアリアドネの管理と各経済圏への情報公開や警告を請け負う。

 

この全体を、裁判局が監視、裁判する。

場合によっては処罰まで執り行い、これら全てを人事局が人事するコトで一人一人の能力に合わせた人事を行える。

 

アグニカの考えは、大雑把に言うとこのようなモノとなる。

 

「――つまり。お前の目的は、ギャラルホルンの民主化か」

「その通り。ぶっちゃけ、俺が最高幕僚長として権力を使いたいのはこれを成し遂げたいからだ。それが終わったならば、もう権力に興味は無い。こんなキツい制服なんざ脱ぎ捨てて、鉄華団のメンバーとして好き勝手やってやんよ」

 

そう、アグニカは断言した。

元より、アグニカに権力への執着など存在しない。

 

300年前のアグニ会結成時とて、アグニカは最高幕僚長の権限でセブンスターズの意見を強引に取り消さず結成を黙認(?)したくらいなのだ。

持っていたとしても、アグニカは権力を使用せず他者の意見を尊重し承認するタイプである。

 

そのアグニカをブチ切れさせ、最高幕僚長としての権力を一度ならず二度も使わせようとしている現在のセブンスターズが如何なるモノかは、想像に難くないだろう。

 

「それと、強いて言うなら目的はもう1つ有る」

「もう1つ、ですって?」

「ああ。俺のもう1つの目的――」

 

アグニカは息を吸い込み、マクギリスを指差した上でこう言った。

 

 

「それは、()()()()()()()()

 

 

マクギリスは数秒硬直していたが、ようやくその言葉を理解したらしい。

 

「――何ですと!? 何故ですかアグニカ・カイエル!! 何故、何故偉大なりしスヴァハ・クニギンの意志を無碍にするような暴挙をなさろうと!?」

「んなモン、害悪だからに他ならねェだろうが。スヴァハが最初に言い出してセブンスターズが作った会だったから、狂気を見てみぬフリしながら今まで黙認してたが――ここまで来たら見過ごせん。厄祭戦をもう一度やるためにクーデター起こすような組織を、これからの世界に残す訳には行かん」

 

そう。

アグニカ・カイエルがここにいるのは、アグニ会が起こしたクーデターに乗じてガンダム・バエルを奪還し、全世界へ声明を発表したからだ。

 

クーデターを起こすようなファンクラブを、ファンクラブと呼ぶか――否。

それは尊敬ではなく狂信、愛好会ではなく一種の宗教と言えるだろう。

厄祭戦への回帰を目論むような危険組織を、後世へと残しておくべきではない。

 

「しかし、我々がいなくなったなら誰がアグニカ・カイエルの伝説を語り継ぐのですか!? 我らは既に、アグニカ叙事詩の改訂を行うべく突貫作業を開始しています! 様々なファングッズも売り上げ好調! 悠久に語り継ぐべき…いや、語り継がねばならないアグニカ・カイエルの英雄鐔は脈々と後世へ伝えられています! 我々がアグニカ・カイエルを語らねば、誰がアグニカ・カイエルを語るのです…誰が、アグニカ・カイエルの威光を後世に知らしめるのですか!?」

 

マクギリスが、アグニカに対して熱弁する。

しかし、アグニカはそれをあっさり聞き流す。

 

「んなモン伝えんで良い。元々、俺は英雄などではないのだからな。廃止だ廃止、アグニ会は即刻解散しろ。しないと言うなら俺が潰すぞ、物理的に」

「我々の業界ではご褒美です、ありがとうございます!! むしろ潰して下さい!!!」

「お前らの業界は何かがおかしい。全く、スヴァハもヘンなコト言って逝きやがって…とにかく解散、解散しろアグニ会。今ここで解散を宣言しろ、そして予定調和で解散しろ」

 

アグニ会(アグニカ相手では例外なくドM)会長マクギリス・ファリドの言葉を、アグニカは取り合わない。

かつての経験から、アグニ会とまともに話しては体力を消耗するだけだと分かりきっているからだ。

 

アグニカに強く命令されて、マクギリスはようやく諦めたらしい。

一瞬顔を伏せたが、すぐに上げてこう宣言した。

 

「――現在を以て、アグニカ・カイエルを讃え崇める組織『アグニ会』を解散する」

「そんな、会長!」

「アグニカの意向に逆らう訳には行くまい」

 

ライザ・エンザを抑えながら、マクギリスは懐から油性ペンを取り出した。

そんなマクギリスの右斜め後ろでは、石動・カミーチェが何も書かれていないポスター用紙をセッティングする。

 

「ハハァ…♥」

 

無駄にエロい吐息を立てながら、マクギリスはポスター用紙に油性ペンを押し当てて字を書いて行く。

かなり書き辛そうだったが、数分を経てようやく書き終える。

 

「アグニ会は解散した。今の我らは――」

 

そして、身体を元に戻し――ポスターを背後に、こんな宣言をした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「新アグニ会だ!」

 

 

『―――』

『………』

『―――………』

『………―――』

 

沈黙。

 

最高のドヤ顔で若干の作画崩壊を起こしつつ「新アグニ会」の設立を宣言したマクギリス・ファリドに向けて、その場の全員が冷ややかな視線を向けている。

 

具体的に言おう。

アグニカは血管を浮き上がらせて眉間を押さえ、アグニ会――いや、新アグニ会の会員を除いた者達はチベットスナギツネのような目でマクギリスを見ている。

 

「――で? アグニ会会長様は、k」

「新アグニ会だ!!」

チッ―――で? 新アグニ会会長様は、この微妙な空気をどうしてくれるんですかねェ?」

 

心底腹立たしそうに舌打ちして、アグニカは新アグニ会会長にそう問う。

 

「何を仰られますか。ここは、全人類が新アグニ会に入ってしまえば済むのです! さあ、この書類に署名を行うのデス!! そして、共にアグニカ・カイエルを崇め奉ろうではn」

「頼む、三日月」

 

アグニカがそう言うやいなや、三日月は拳銃を懐から引き抜く。

そして――

 

 

バンバンバンバン、と言う銃声が会議場に響いた。

 

 

「会長おおおおおおおおおお!!!」

「准将おおおおおおおおおお!!!」

 

石動とライザが、三日月に撃たれた新アグニ会会長に走り寄る。

 

「…これで良いんだよね?」

「ああ。手間掛けさせたな、三日月」

 

大量出血中の新アグニ会会長ことマクギリス・ファリドは、すぐさま集中治療室へと搬送された。

ギャラルホルン本部の治療技術ならば、頭を撃たれた訳ではないマクギリスは普通に助かるだろう。

 

しばらくは寝たきり、だと思われるが。

 

「さて、静かになった所で会議を再開しようか」

「――今のは、恐怖政治に当たるのでは?」

「何故分かった? 多分、あれは俺の過ちの結果だな。あのような狂信を見過ごし、組織の内部崩壊を招いた」

 

迂闊な自身の過失に頭を抱えながら、アグニカは頭を切り替える。

 

「さて、以上が俺の目的な訳だが――俺を最高幕僚長アグニカ・カイエルだと認めるか否か、ここで結論を出せよセブンスターズ。俺とて片付けたい問題が有るのだ、そう猶予は無いぞ?」

 

と、アグニカはセブンスターズに決断を迫る。

その後のしばしの議論を経て、セブンスターズは多数決を取ることとした。

 

議題は言うまでもなく、現在カイエル家のイスに座る男をギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルだと認めるか否かだ。

 

この決断は、今後の世界の体制に大きく影響する。

今まで幾度と無く世界の警察たるギャラルホルンの方向性を議決して来たセブンスターズだが、これ程大きな決定は初めてとなる。

 

ファリド家当主マクギリス・ファリドがアグニカ・カイエルの手で会議場から追い出されたが、新アグニ会会長のマクギリスがアグニカを否定するハズが無いので、自動的に賛成票とされた。

 

「――イシュー家、ファリド家、ボードウィン家、エリオン家、クジャン家、バクラザン家賛成。ファルク家反対。以上の結果から、鉄華団のアラズ・アフトルをギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルと同一人物とする」

 

結果は、6対1で可決。

アグニカの言う権力分立が行われれば、セブンスターズは汚職を通して利益を上げるコトが出来なくなる。

そんな中でアグニカの権力分立を是としたのは、(比較的)若き当主達の意向が有るだろう。

 

イシュー家現当主、カルタ・イシュー。

ファリド家現当主、マクギリス・ファリド。

ボードウィン家次期当主、ガエリオ・ボードウィン。

エリオン家現当主、ラスタル・エリオン。

クジャン家現当主、イオク・クジャン。

バクラザン家次期当主、ディジェ・バクラザン。

 

アグニカの意見を全面肯定しそうな2人目とラスタルに合わせてそうな5人目はともかく、他の4人は現在のギャラルホルンの体制を良く思っていない者だ。

残るファルク家にも次期当主たる者はいるが、今この場にいない為に反対票となったのだろう。

 

「ほう? 思ったより圧倒的になったな? てっきり、1対6で否決されるモノとばかり思っていたが…よし、とりあえずファリド家を除いた各家の意見を聞かせてもらおうか。順番は――議席順としよう」

 

不敵な笑みを浮かべたまま、アグニカはカルタに視線を向ける。

 

「貴方が本当にアグニカ・カイエルかは、私には分からないわ。ついでに言えば、組織がどうであれ私のやる事は変わらない。それでも――今の独裁体制は、変えるべきだと考えるわ」

(正論を振りかざす、か。イシュー家の血筋は、やはり変わらぬな)

 

正論がどんな場でもまかり通るとは思わぬコトだ、とアグニカは心の中で忠告しつつ、ボードウィン家に視点を移す。

 

「成る程。では、ボードウィン家は?」

 

現在ボードウィン家の椅子に座るガルス・ボードウィンは、その後ろに立つガエリオ・ボードウィンに発言権を委ねた。

 

「俺がここに来たのは、マクギリスの暴走を止める為だ。アインを利用し、カルタを利用し、自分の意のままにギャラルホルンを改革しようとしたマクギリスを討つために、ここまで生き恥を晒してきた。だが、かつて士官学校でマクギリスと語った改革論を変えるつもりは無い。ギャラルホルンは腐敗し、権力抗争の温床と成り果てた。ならば、それを改革する必要が有る」

(暴走を止める、ねェ。あのアグみを感じまくってヒャッハーしてる新アグニ会会長を止めようとは、随分とご立派なコトだ。阿頼耶織を見ただけで吐いた奴と同一人物とは思えんな)

 

アグニカは言葉を発する事無く、視線だけをラスタル・エリオンに向ける。

 

「私は別に、現在のギャラルホルンを否定するつもりは無い。如何に腐敗し我欲に塗れようと、秩序の維持と言う存在意義は曲がりなりにも達成されて来た。ただ、それらはアーブラウ代表選挙でのイズナリオ・ファリドとアンリ・フリュウの癒着やアーブラウとSAUの地域紛争で乱れ始めた。それを正す為には、ギャラルホルンの組織改革からの信頼回復が必要となる」

(アーブラウ防衛軍のガラン・モッサと繋がって紛争を膠着状態へと導き、地球外縁軌道統制統合艦隊を陥れようとしたクセによくもほざきやがる)

 

アグニカは心の中でそんなコトを思ったが、顔にも出さずクジャン家現当主に目を向ける。

 

「――では、次はたわk…イオク・クジャンだな」

「…わ、私は――そうだ、私は汚職の蔓延による腐敗など看過出来ん! だから、改革すべきだ!」

(素直に「ラスタル様が賛成したから」と言えば良かろう)

 

冷ややかな視線を残した後、アグニカはディジェ・バクラザンを見る。

 

「現在の世界は腐っていやがる。ギャラルホルンの汚職や政治介入は言うまでもなく、宇宙ネズミやヒューマンデブリがあらゆる所で使い潰されている。そんな非道を、オレは許せねぇ。だから、とりあえずギャラルホルンの改革を通して世界の抑止力としての立場を築き直すべきだ」

(その口調で、考えは正義の味方ですか…いや、単にツンデレなだけか?)

 

怪訝に思いつつ、アグニカは最後にファルク家現当主のエレク・ファルクを見る。

 

「今現在、特に問題は無いように思えますな。確かにギャラルホルン内では権力抗争が起こり、組織は腐敗していると言えるでしょう。ですが、世界の秩序維持は問題無く行われています。この組織の本分さえ全う出来るならば、改革に必要性は感じませんな」

(貴様が利益を上げられなくなるから、か)

 

腐敗の具体例を目の当たりにしつつも、会議の最後の議題としてアグニカは「ギャラルホルンの改革案」を議論するコトとした。

 

アグニカが出した改革案はほぼ変更無く通り、翌日に世界へ発表された。

しばらくは世界が混乱したが、ギャラルホルンの民主化について大きな反対意見は出ることなく、組織再編は順調に行われるコトとなった。

 

 

 

 

2日に渡って行われた、長い長いセブンスターズ会議が終わった。

結果から言って鉄華団メンバーのアラズ・アフトルはアグニカ・カイエルと認められ、最高幕僚長としての権限を取り戻した事となる。

 

そんな俺は、自身の周りから人払いをした上でヴィーンゴールヴの一角にある「バエル宮殿」へ向かっていた。

俺の愛機であるガンダム・バエルは、既に移動させられて改装中の為この宮殿には存在しない。

 

それでいて、何故俺がここへ来たのか。

無論、何の意味も無く来たわけではない。

 

アグニカポイントを500ほど消費し、バエル宮殿のゲートロックを解除する。

どうやって認識して払い落としているかは全く不明だが、アグニカ本人たる俺は∞APを持っているのでAP関連に制限は無いらしい。

 

そのままバエル宮殿に侵入すると、背後でゲートが閉じられた。

侵入する過程でガンダム・ヴィダールが天井を壊したので、今現在は完全な密室とはなっていないが――周囲に人の姿は無い。

 

バエルが置いてあった(ギャラルホルン士官は祀ってあった、と言う表現をするらしい)宮殿の中央へと足を進める。

そこに立ち、バエルを固定していたアームに手を向ける。

 

10,000APが消費され、そのアームが動き始めた。

アームは俺の8mほど下に隠されたコンソールを引っ張り出し、俺の目の前に移動してコンソールを俺に向ける。

 

起動していないコンソールに手を触れると、更に20,000APが消費される。

コンソールに白い光が縦横無尽に走り、やがて液晶画面となる。

 

画面はノイズが掛かって黒くなっている為に機能していないが、そこから中性的な声が発せられた。

 

『人間――いや、もう人間ではないな。300年振りになるか、赤髪の男よ。この私に、如何なる用が有るのだ?』

 

俺は黒塗りの画面を睨み付けつつ、こう返した。

 

「『天使王』ルシフェルが動く可能性が有る」

『―――何?』

 

その声が、少しばかり動揺した。 

構わず、俺はその先の言葉を口にする。

 

 

「スリーヤ・カイエルに造られしMA――『四大天使』ラファエルよ。ルシフェルと合間見える際は、貴様に助力を願いたい」

 

 




オリジナル設定解説のコーナー。

地球外縁軌道統制統合艦隊について。
いちいち「地球外縁軌道統制統合艦隊」って打つのは面倒ですし文字数稼ぎと思われかねないので、「月外縁軌道統制統合艦隊」→「アリアンロッド」みたく通称を付けました。
「地球外縁軌道統制統合艦隊」、通称して「グウィディオン」と呼ぶことにしたいと思います。
通称の由来はケルト神話の英雄「グウィディオン」から来ており、この英雄の姉の名が「アリアンロッド」となっております。


今回は、ギャラルホルンが組織再編へ動き出す歴史の転換点と言える回でした。
あ、マッキーは一命を取り留めたらしいのでご心配なさらず。

後、ギャラルホルンの組織図は私が作ったモノとなります。
色々ガバガバでしょうが、一部省略してるので「ここは省略された所に入るのかなー」と思って目を瞑って下さい。
まあ、完璧な体制なんて存在しないって事で(苦しい言い訳)…すいません許して下さい。

そして、最後に「四大天使」ラファエルが登場。
スリーヤが拾ったモノを元に建造したMAで、バエル宮殿の真下に隠されています。
コイツが一体何者なのかは、今後のお楽しみにと言うコトで。


いよいよ、次回より物語は終局へ向かいます。
次回「内乱の勃発(予定)」。


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#56 内乱の勃発

不穏なタイトル。
まあ、禍根ってそう簡単に消えませんし…。


自粛せよ、マッキー。


P.D.0325年。

世界の命運を左右するセブンスターズ会議より、半月が経った頃。

 

セブンスターズ第二席「ファリド家」の現当主にして地球外縁軌道統制統合艦隊ことグウィディオン艦隊の司令官、そしてアグニ会――否、新アグニ会の会長であるマクギリス・ファリドは治療機から出て来た。

 

「もう、マッキーったら本当にバカなんだから。お兄様から聞きましたよ、アグニカさんにアグニ会解散を命じられてその場でアグニ会を解散。即座に『新アグニ会』の設立を宣言して布教を始めて、アグニカさんの依頼を受けた鉄華団の人に撃たれたって」

 

彼の許嫁であるアルミリアが、呆れ果てたようにマクギリスを諫める。

「バカとは何だバカとは、アグニカの素晴らしさを伝え広める事の何が悪いのだ!」と返したくなったマクギリスだったが、流石に10歳児相手にそう叫ぶ程、マクギリスは分別をわきまえていない訳では無い。

 

「これはまた、耳が痛いな。心配させてすまないね、アルミリア」

「心配なんかしてません。マッキーがアグニカさん関連で暴走するのは、もう日常茶飯事だもの。少しは自重しないと、今度は頭を撃ち抜かれますよ?」

「――強くなったな、アルミリア」

 

マクギリスは、そんなアルミリアを嬉しさ半分悲しさ半分で見る。

アルミリアの成長は喜ばしきコトなのだろうが、マクギリスに取っては残念なコトでもある。

 

後、5年――この月日が流れれば、アルミリアはマクギリスが溺愛出来る限界点を迎える。

アルミリアはもう既に、マクギリスのドストライクゾーンを通過してしまった。

 

これからアルミリアの身体はどんどんふくよかになり、脂肪が付いて行くのだ。

15歳まで達してしまえば、マクギリスはアルミリアに興味や劣情を抱けなくなるだろう。

 

故に、チョコレートの人にしてロリコンの鏡であるマクギリスは、女らしさが出て来たアルミリアの成長を頭ごなしに喜べない。

マクギリスが厄祭戦に憧れてアグニ会を率いてクーデターを起こしたのは、他の会員達同様アグニカを崇拝していたからだけではない。

 

力のみが絶対となる厄祭戦の再来=ロストテクノロジーの復活=アルミリアの成長を止める=アルミリアは永遠にロリ=一生愛でられる と言う方程式が、マクギリスの頭で組み上がったからに他ならない。

 

この方程式はマクギリスが合法ロリを是と出来るかが鍵となるが、マクギリスが重要視するのはあくまで「見た目」だ。

アルミリアは他の10歳児に比べて大人びているが、今現在マクギリスは問題無くアルミリアに興味と愛情と劣情を抱ける。

 

 

つまり――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!!!

 

 

何という、完璧かつ完全無欠の理論だろうか。

全く持って、非の打ち所が存在しない。

 

マクギリスは、この方程式を導き出した際に自身の頭脳を誇らしく思い――しばらくの間、部屋を尋ねて来た石動がドン引きしてすぐ出て行く程の高笑いをしたのだった。

 

自身が「永久幼女(ロリ)化計画」の対象者になっているとは知る由も無いアルミリアに、ロリコン仮面チョコレート野郎こと新アグニ会の会長(やべーやつ)マクギリス・ファリドは質問を投げる。

 

「それよりアルミリア。私が寝ている間、世界はどう変化したんだい?」

「え、えーっと…」

 

満面の笑顔で聞いてきたマクギリスに困惑しつつ、アルミリアは幾つかの事柄を伝えた。

 

バエルを動かし、伝えられていない厄祭戦の真実を語った鉄華団のアラズ・アフトルが、ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルと同一人物だと認められた事。

アグニカ・カイエルがギャラルホルンの改革案をセブンスターズ会議で提示し、承認された事。

コロニーと火星が、新しい経済圏として認められた事。

 

以上が、この半月で起きた世界情勢に関わる出来事だ。

 

続いてアルミリアは、アグニカ・カイエルがカルタ・イシュー、ディジェ・バクラザンを含めた使節団を結成し、新興を含めた各経済圏へ視察しに行った為に今ヴィーンゴールヴへいない事を伝えた。

この一団は現在アーブラウと交渉中であり、地球の四大経済圏との交渉が終わり次第コロニー、火星へと視察に赴く予定である。

 

使節団はバエル、パイモン、ヴィネを持って行っており、その道中の護衛役は鉄華団が担っている。

鉄華団はバルバトス、グシオン、フラウロスを持っている為、道中の襲撃は考えられない事も伝えられた。

 

「――む? 確か、カルタは下半身不随だったハズだが」

「うん…私も聞いたんだけど、カルタさんは義足らしいよ。本人は『禁忌に手を染めるなど』って思ったらしいけど、背に腹は変えられないって」

 

身体改造を禁止したのは、セブンスターズ初代当主達だ。

だが、それは主に「阿頼耶織」の施術を禁止する目的だったらしい。

時代が経つに連れてこの条約は拡大解釈され、いつしか医療目的の義手義足まで疎まれるようになった。

 

今回の改革を経て、この辺りも明確に定義すべきだとアグニカは考えているようだが。

 

「――ありがとう。助かったよ、アルミリア。君はもう、帰って休むと良い。私には、グウィディオン艦隊関連の仕事が有るからね。石動達がある程度は処理してくれているだろうが、司令官がいなければ艦隊の運営は難しい」

「うん。頑張ってね、マッキー」

 

アルミリアと別れ、マクギリスは広大なヴィーンゴールヴの廊下を歩く。

向かうは、ファリド家当主の為に用意された専用の執務室だ。

 

と、その時。

 

「あっ」

「ん?」

 

廊下のT字路で、マクギリス・ファリドとガエリオ・ボードウィンが遭遇した。

 

「――マクギリス」

「……ガエリオか」

 

バッタリ出くわしてしまった2人は、しばし互いに睨み合う。

だが、その緊張を解いたのはマクギリスでもガエリオでもなかった。

 

「ヴィダール、何をしてるんです? とっくに先に行ってると思いましたが…早くしないと、ラスタル様主催の焼き肉パーティーに遅れますよ」

 

ガエリオより少し遅れて歩いていたジュリエッタ・ジュリスが、無意識にマクギリスとガエリオの緊張を解いた。

 

ガエリオとジュリエッタは、ギャラルホルン士官の一部で「肉おじ」と呼ばれているアリアンロッド司令ラスタル・エリオン主催の焼き肉パーティーに呼ばれ、会場になっているエリオン邸の庭へと向かっていたのだ。

焼き肉パーティーの為に歴史的価値の有る自宅の庭を解放するラスタルは、剛毅なのかただの肉好きなのか…恐らくは後者である。

 

「この情勢の中で焼き肉パーティーとは、随分と呑気なモノだな。アリアンロッドは、いつから肉好きの無能集団になった?」

「全くだ。使節団が世界を回っていて各経済圏が厳戒体制を敷いているにも関わらず、ギャラルホルン最大戦力たるアリアンロッドの司令官は本部で肉を焼いている。緊張感が足りない」

「――何故、このいけ好かない男と共に頭を振っているのですか。さり気なくラスタル様をディスっていますし」

 

ラスタルの所業について、揃ってディスるマクギリスとガエリオ。

関係は以前より悪化しているが、コンビネーションに乱れは無いらしい。

 

「…マクギリス。俺はバエル宮殿で、お前を全否定すると言った。だが、あの時はアグニカ・カイエルの介入で有耶無耶になってしまった。そして、お前が撃たれて治療室行きになってから半月。その間、俺は気付いたんだ。俺はまだ、()()()()()()()()()()()()()

「――ほう」

「だから、俺はお前と今一度語る機会が欲しい。腹の内を一切合切ぶちまけて、納得するまで語り合いたい。俺と――話をしてくれ」

 

マクギリスの目を見据えながら、ガエリオはそう申し出た。

対するマクギリスは、呆れ果てたかのような顔で「良いだろう」とだけ返し――エリオン邸へ向かって歩み始めた。

 

「…何故、俺と同じ方向へ向かっているんだ」

「決まっているだろう。ラスタル・エリオンが開くらしい焼き肉パーティーに加わってタダ飯を食らいつつ、お前と話す為だ。俺は昔から、面倒事は先に片付ける主義でな」

「確かに、士官学校時代からお前はそうだったな。出された課題は、提出日が数日後であってもその日に終わらせていた。――まあ、俺はいつもギリギリだったが」

「お前は毎度毎度、課題提出期限が迫る度に焦っていたな。俺が何度お前に終わらせた課題を見せ、貸しを積み上げた事か」

「…オイ、あれはその度に一番高い学食メニューを奢ってたからチャラになっただろ」

「そうだったか。――思えば、あの『アグニカランチ』は実に絶品だったな。オマケで付いて来る『アグニカード』と『アグニカシール』は、全48種のコンプリートまでに時間が掛かったモノだ。末恐ろしくなる程、レアが出ないからな」

「俺は、士官学校の学食にまで進出してるアグニ会に恐怖を禁じ得なかったんだが…」

「アグニカの偉大さを広める為だけに存在していたのがアグニ会なのだ、士官学校の学食メニュー界に君臨するのは至極当然のコトだろう?」

「その結果がメニューの高騰化か。アグニカランチ一人前で1,925ギャラーとか、どう考えても学食の値段じゃない。他のメニューは、最安価のモノで150ギャラーだったのに」

「何を言う、アグニカードとアグニカシールの為ならば安いモノだ」

「オマケ目当てかよ。あれ、飯も普通に美味かったハズだが…と言うか、ほぼ毎回俺が奢ってただろ。お前、ほとんど自分の金で食ってなかっただろ」

「ああ。あれは、とても美味かったぞ。少なくとも、2,000ギャラー近くを払うだけの価値は有ったさ。しかし、貸しが際限なく積まれたままになるよりはすぐ返した方が良いだろう? 貸しを作るのが嫌だったならば、余裕を持って課題をやるべきだったな」

「ぐぬ…」

 

以前と変わらないような話をしつつ、2人はエリオン邸へ向かう。

その光景を一歩引いた所で聞いていたジュリエッタは(…これが、男の友情と言う奴でしょうか? いまいちピンと来ませんが…)などと思いながら、ガエリオの後ろに付いて行くのだった。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

「それ」は、その光景をただ静かに見据えていた。

 

『俺の名は、アグニカ・カイエル!! ガンダム・バエルのパイロットにして、かつて厄祭の天使を狩った者!! そして、ギャラルホルンの最高幕僚長である!!』

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」上空に現れたガンダム・バエルのコクピットより、アグニカ・カイエルの発した声明を。

 

『じゃあとりあえず――エイハブ・リアクターが創られる所から始めようか』

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」のセブンスターズ会議場でアグニカ・カイエルが語った、厄祭戦の真実を伝える中継を。

 

『最高幕僚長アグニカ・カイエル主導の下、ギャラルホルンでは組織再編を始める事を決定致しました。つきましては――』

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」から発表された、ギャラルホルンの組織再編開始の宣言を。

アグニカ・カイエルの手で変わり行く世界を、ただ見つめていた。

 

――さて。そろそろ、私も動くとしよう。アグニカ・カイエル…いや、人間よ。私と言う脅威の前にどう動くか、見極めさせてもらおう。

 

「それ」は、自身が隠れていた月面より飛び立つ。

8枚もの翼を広げ、黄金の双眼を輝かせて。

 

 

「天使王」ルシフェルは、300年振りにその身体を動かした。

 

 

―interlude out―

 

 

 

 

「来たかジュリエッタ、そしてヴィダール。いや、もうガエリオ・ボードウィン卿と呼ぶべきかな」

「好きに呼んでくれ。しかしだ、ラスタル・エリオン。最高幕僚長アグニカ・カイエルの手でギャラルホルンの組織改革が始まり、その第一歩たる使節団が経済圏を回っていると言うのに――何故、このような事を敢行した? 豪遊と断ぜられても文句は言えないが」

 

ガエリオは、ラスタルの目的をいまいち掴めないらしい。

このタイミングで、このような焼き肉パーリィを行うのか…それも、エリオン邸の庭で。

 

「組織再編が本格化すれば、ゆっくり出来る時間はほぼ無くなるだろう。その前に、バカ騒ぎは済ませておこうとな。まあ、それは建て前だ」

「…と、言いますと? ただ肉を食うための会ではないと?」

「その通り。一番の目的は、お前を釣る為だ――マクギリス・ファリド」

 

そう言って、ラスタルは右手に持つ焼肉トングでマクギリスを指し示す。

 

「成る程――まんまと嵌められたと言う事か。そして、どうするのだ。私を暗殺でもするつもりか?」

「まさか。一番の目的として掲げはしたが、お前が来るかは完全なる賭けだった。運試しでも有ったのだが、本当に達成出来るとは。私がお前を招き寄せたいと思ったのは、恐らくヴィダールと同じ目的が有ってこそだ」

 

マクギリスは、半ば呆れたような声で問う。

 

「ラスタル。お前もガエリオと同じように、俺と話し合いたいとでも?」

「如何にも。いがみ合うより前に、まずは言葉を以てその意思を確認せねばな。では早速、その第一歩としてパーティーを始めよう。美味い肉に美味い酒…いや、昼間だから酒は無いがな。美味い肉と美味いジュースで腹を満たし、明日への活力としようではないか!」

『うおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

ラスタルの号令で、あちこちの熱されたコンロに次々と肉が放り込まれた。

食欲をそそられる音が響き、周囲に肉の焼ける匂いが充満する。

 

「な!? マクギリス・ファリド、貴様何故ここにいる!?」

「たわけ…いや、イオク・クジャンか。ガエリオに呼ばれただけだ」

「誰がたわけだ誰が! クジャン家の当主たる私に対してのその暴言、看過出来るモノでは無いぞ!」

「イオク様うるさい」

「…イオク様、地球外縁軌道統制統合艦隊と更なる確執を生みかねない発言はお控え下さい。ほら、あちらでは肉が焼き上がりそうですよ」

「な、離せ! だが肉は貰おう、行くぞ!」

 

部下にあっさり懐柔され、イオクは焼き上がりかけた肉の有る方向へと去って行った。

 

「…チョロいですね、イオク様」

「ああ…俺は気味悪がられてたから、あまり話せてないがな。ジュリエッタ、この肉食うか?」

「全く、人を見た目で判断するとは――それはそれとして、その肉は頂きます」

 

ガエリオは、焼けたコトを確認しつつジュリエッタの皿に素早く肉を乗せる。

 

「じゃあこの肉とこの肉も。ああ、この野菜もな」

「 前 の 2 つ だ け 、頂きます」

「好き嫌いは感心しないな、ジュリエッタ。ほらほら遠慮するな、成長出来ないぞ?」

「な、何をするのですか! あああ、そんなモノ乗せないで下さい!」

 

肉だけでなく幾つかの野菜まで盛られたジュリエッタは、拗ねて遠くの席へ行ってしまった。

それをしばし見守ったガエリオに、マクギリスが近寄る。

なお、その手の皿には既に肉や野菜が盛られてタレまでかけられている。

 

「随分と仲睦まじい事だな、ガエリオ」

「仮面を着けていた時に、MS格納庫で何かと絡まれてな。さて、俺も食うとするか」

 

ガエリオは目の前のコンロの上に乗せてあった残りの肉と野菜を自分の皿に移し、タレをぶっかけてマクギリスと共に席へ移動する。

 

席に付き、マクギリスとガエリオは向かい合う。

 

「マクギリス。お前は、何を目指して生きて来たんだ?」

「――と言うと?」

「最終的に、お前が目指した…いや、目指している目標のコトだ。お前は何を成し遂げる為にアインを利用し、カルタを利用し、イズナリオ・ファリドを謀殺し、俺を利用しようとしたんだ?」

 

その質問に、マクギリスは「アグニカ叙事詩」と「新約 アグニカ叙事詩」を机に置いて答えた。

 

「純粋な『力』のみがまかり通り、全てが決定される世界。出自、思想、経歴に関わり無く、己の力を研ぎ澄まし振るえば変わる世界。あらゆる秩序が排斥され、あらゆる確執が破却された世界――この本に描かれる、厄祭戦のような『力』が頼りとなる世界を実現したい」

 

マクギリスの意見を、ガエリオはただ静かに聞く。

 

「その為にアイン・ダルトンを用い、ギャラルホルンの信用を地に落とした。カルタ・イシューを行動不能とし、その後見人であったイズナリオ・ファリドを謀殺して地球外縁軌道統制統合艦隊の実権を握った。アグニカ・カイエルの圧倒的な『力』に憧れる同志もいる。そして、アグニカ・カイエルの力を象徴する『ガンダム・バエル』を操ってみせれば、ギャラルホルンの実権をこの手に収められる。その上で邪魔者を排除し、ギャラルホルンの支配体制を根本から破壊する。そうすれば世界から秩序は消え失せ、民草が頼れるのは己が力のみ。力による抗争が世界各地で勃発するだろう。さすれば、力のみが全ての事象を左右する世界――即ち、俺の望む世界が完成するハズだった」

 

拳を強く握って、マクギリスはそう熱弁した。

それを聞いたガエリオは、マクギリスの狂気に戦慄する。

 

力のみが、全てを変革する世界。

そんな世界が実現すれば、間違い無く人類は全面戦争を開始する。

それも、厄祭戦のように倒すべき目標が有るわけでは無い。

その先にあるのは、厄祭戦を越える程の血と欲に塗れた戦い…人類の闘争本能による、最後の1人となるまで続くであろう凄惨な殺戮だ。

 

「だが――そんな俺の野望は、他ならぬアグニカ・カイエルの手で水泡へと帰した。現代まで生き残っていたアグニカ・カイエルは、数々の困難を乗り越えて己の機体であるガンダム・バエルを奪還して見せた。そうしてギャラルホルンの最高幕僚長として返り咲き、ギャラルホルンを俺の目指す世界とは絶対に相容れない、民主制を是とした組織へ作り替えようとしている」

 

その光景は、ガエリオの目にも焼き付いている。

 

アグニカ・カイエルの操るガンダム・バエルは、「阿頼耶織 TYPE-E」を発動させて「鉄華団の悪魔」とまで呼ばれるガンダム・バルバトスルプスレクスを翻弄したガンダム・ヴィダールを、いとも容易く「バエル宮殿」の外へと叩き出した。

リミッターを解除していないにも関わらず、バエルの速度はガンダム・ヴィダールを操っていたガエリオとアインの反応速度を上回ったのだ。

 

「アグニカ・カイエルが、そのような偉業を成し遂げられたのは何故か? アグニカ・カイエルが、圧倒的に格上のMAを破壊出来たのは何故か? その答えは、ただ一言で片づくだろう」

 

何者をも蹴散らす、ガンダム・バエルとアグニカ・カイエル。

それは、まさしく――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

マクギリスの言う「力」、その体現ではないのか。

 

「MAにも劣らぬ意志力、数々の悲劇を乗り越える精神力、あらゆるモノを凌駕する戦闘力を、アグニカ・カイエルが持っていたからに他ならない!! 堂々と世界へ宣言するアグニカ・カイエルを見て、俺は確信した!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

「ッ、違う!!」

 

ガエリオは思わずマクギリスの意見を否定し、机に拳を叩き付ける。

そのまま立ち上がり、マクギリスに向かってガエリオは叫ぶ。

 

「その暴力的な世界は、弱者が淘汰され強者のみが生き延び覇権を得る弱肉強食の世界だ!! そんな世界が、今この時代で許されて良いハズが無い!! 例え弱者であるからと言って、その者を蔑ろにして良いなんて事は絶対に無い!! 今世界を変えられる俺達は、弱者も強者も出自も思想も経歴も関係なく平等を実現した世界を作るべきだ!! その為のギャラルホルンの民主化だろう!?」

 

対するマクギリスも立ち上がり、ガエリオに自らの意見をぶつける。

 

「そんな理想論が、この世界でまかり通るとでも思っているのか!? 例えアグニカ・カイエルの意向通り民主化に成功したとしても、格差や差別は絶対に無くならない!! 全人類を平等にし、問題無く世界を動かす方法など存在しない!! 資本主義であろうと社会主義であろうと絶対王政であろうと民主主義であろうと例外なく、必ず虐げられる者はいる!! 虐げられた者は憎しみを募らせ、新たな戦いを招く!! どう足掻こうと、人類は戦いを止められない!! ならば、初めから対話など捨てて、闘争を以てのみ世界を決定すれば良い!!」

 

マクギリスの胸ぐらを、ガエリオは掴む。

どちらがやったかは分からないが、机が倒されて皿が地面へとぶちまけられる。

 

「それでは虐げられる者を増やし、憎悪や悲哀を世界中に撒き散らすだけだ!! 力のみがまかり通る世界を是とする人類など、石器時代の人類以下だぞ!!」

「ではお前は、仮初めの平和の中で苦しむ一部の存在を容認するのか!? 大半が笑えるならばそれで良いと唱え、一部の者は切り捨てろと!?」

「――ッ、何億か何万かでは、何万を切り捨てるしか無いだろう! お前も言ったじゃないか、全人類を平等にして問題無く世界を動かす方法なんて無いと!」

「だからさ! 有りもしない答えを求め続けて、人類はこれまで何千年もの間失敗し続けて来た! だったら、もう秩序など捨て去るしか有るまい!!」

「そんな暴論、虐げられたお前の憎悪を押し付けているだけだろう!? 同じく虐げられた者の中で、お前は力が強かった! だが、お前にねじ伏せられた者達はどうなる!?」

「一部を切り捨てる事を是としたのはお前だろう、ガエリオ!!」

「お前の言う理想の世界が実現したならば、その一部と多数が逆転する! 一部が享受し、多数が虐げられる世界となる!」

「それの何が問題だと言うのだ!? 人類はいつだってそうしてきた! 学校1つを取ってもそうだ、好待遇を受けられるのは成績上位者のみで、大半の生徒は不満をかみ殺す! だが、成績などはその者の努力でどうとでもなるではないか! セブンスターズでない一般階級の者であろうと、努力を怠らなければ成績上位者となれる可能性が有る! 俺は、その可能性を世界全体へと広げたい!!」

「だからと言って、闘争による人類の格差など認められるハズが無い!!」

 

ガエリオはマクギリスを殴り、突き飛ばす。

 

「やめろ、ウチの庭を荒らすな!」

 

マクギリスとガエリオの舌戦を見守っていたラスタルだったが、暴力に発展した事で止めに入る。

流石のラスタルも、旧きエリオン邸の庭を荒らされたくはないようだ。

 

「そら見た事か! ガエリオ、お前も結局は暴力を振るっているではないか! 俺の思想が正しいと、お前の行動自体が証明している!」

「違う! 確かに、人類の闘争本能は消せないかも知れない。だが、俺はお前と話した! 初めから暴力のみに頼ろうとするお前とは、絶対に違う!」

「ほざけ、ガエリオォ!!」

 

マクギリスは、懐から拳銃を抜いてガエリオに照準を合わせる。

その拳銃を、ジュリエッタが横から蹴り飛ばす。

 

「ここはラスタル様の邸宅ですよ、マクギリス・ファリド。不作法は見過ごせません」

「数の暴力を行使するか! ならば、俺も同じ手段を取ってやろう! 現在、地球の衛星軌道上にあるアリアンロッドの全艦隊を地球外縁軌道統制統合艦隊の総力を以て血祭りに上げ、俺の正しさを世界に見せ付けてやる!!」

 

それだけを言い残し、マクギリスはエリオン邸から去って行った。

 

「――愚かな男だな、マクギリス・ファリド」

「…どうするのですか、ラスタル様。あのようにケンカを売って来た以上、荒事になりそうですが」

 

ジュリエッタに言われて、ラスタルはしばし考えたが。

 

「最高幕僚長を含めた視察団が各経済圏を回っている今、地球外縁軌道統制統合艦隊とアリアンロッドがぶつかるような大規模の内部抗争をしているヒマなど無いのだが――このまま、アリアンロッド艦隊の壊滅を許す訳にも行くまい。宇宙(そら)に上がり、地球外縁軌道統制統合艦隊の迎撃準備を行う。はしゃぐ子供には、お仕置きが必要だ。ジュリエッタ、例の物が有ったな?」

「はい、ヤマジン・トーカ技術長にキマリスヴィダール共々整備をお願いしています。それも、数日後に完成するそうですが」

「明日には完成させろ、と伝えてくれ」

「すぐに」

 

ジュリエッタへの指示を出し終え、ラスタルはイオクに声をかける。

 

「イオク、今のやり取りは聞こえていたな? お前は、新しい機体を用意しろ」

「……………と、言いますと?」

「確か、お前のレギンレイズは大破して放棄されただろう? お前はセブンスターズの一角を担うクジャン家の当主なのだ、あれを使っても咎められはせんさ」

「………は! すぐに用意致します! 行くぞ!」

 

部下を引き連れ、イオクはエリオン邸を颯爽と去って行く。

最後に、ラスタルはガエリオと向き合う。

 

「――すまない、ラスタル。俺が熱くなって、周りが見えなくなったせいだ」

「気にする事は無い。お前達の会話は完全なる並行線だった、対話で解決する事ではなかったのさ。私から地球外縁軌道統制統合艦隊には伝達して、争いを避けられるよう努力するが――通じなかった場合には、お前がマクギリス・ファリドを止めてくれ」

「分かっている」

 

そして、各々がせわしなく動き始めた事で焼き肉パーティーはお開きとなった。

 

「――結局はこうなった、か。この内乱の知らせを受けたなら、アグニカ・カイエルはすぐさま止めに来るだろう。出来るだけ、早く来て欲しいモノだ」

 

ラスタル・エリオン。

肉大好きおじさん――もとい、セブンスターズ第四席エリオン家の当主――もとい、月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の総司令官。

 

前の2つはともかく、エリオン家はアリアンロッドの総司令官を歴任して来た訳ではない。

何故ラスタルが他の家を差し置いてアリアンロッドの司令官となり、絶大なる権力を手に入れられたのか。

 

 

それは、圧倒的な指揮力――以外にも、もう1つの要因があってこそだ。

 

 

「…私が、()()を使わされる前にな」

 

空は暗雲に包まれ、雨が降り注ぎ始める。

それは、今後のギャラルホルンの行く末を示しているかのようだった――




内乱、勃発致しました。
ですよね、因縁がそんな簡単に消える訳無いよね。
ヴィーンゴールヴを留守にするのはともかく、カルタ様まで連れて行ってしまったアグニカにも責任有りです。

次回「開かれし戦端(予定)」。


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#57 開かれし戦端

マクギリス、名誉挽回の時間。
今のままだとただのやべーやつですが、これからしばらくはカッコいいマクギリスが見れるかと。


ヴィーンゴールヴのエリオン邸で焼き肉パーティーが行われた日の、翌日。

地球の衛星軌道上に、地球外縁軌道統制統合(グウィディオン)艦隊と月外縁軌道統制統合(アリアンロッド)艦隊が向かい合う形で展開された。

 

ギャラルホルンの中でも最大戦力を持つアリアンロッド艦隊と、その次に多い戦力を持つグウィディオン艦隊が一挙に展開した光景は、見る者を圧倒させるモノだ。

 

「――グウィディオンとアリアンロッドが、互いを攻撃する姿勢で展開しただと…?」

 

アーブラウでギャラルホルンの新体制への参画と協力を承認してもらい、会合を終えた使節団は内乱の報告を受けた。

その使節団を率いるギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルは、聞いた瞬間に己が耳を疑わざるを得なかった。

 

「オイオイ…これはまた、急展開だな。一体、何が有った?」

 

待合室に入って来て報告した士官に、使節団の一員であるディジェ・バクラザンが詳細の説明を求める。

それを受けて、士官は手元の端末を操作して詳細情報を呼び出す。

 

「はい。かいつまんで話しますと、昨日ヴィーンゴールヴのエリオン邸ではアリアンロッド総司令官ラスタル・エリオン主催の焼き肉パーティーが行われました」

「何、好き勝手に豪遊してんだアイツら」

「ラスタル・エリオン…伊達に『肉おじ』と呼ばれてないわね」

 

ラスタルの異名は、イシュー家当主まで伝わっていた。

本人が誇りと思うか屈辱と思うかは分からないが、前者の可能性が高い。

 

「その焼き肉パーティーに、アリアンロッドの幹部だけでなくマクギリス・ファリド准将が参加しました」

「なんでさ」

「ヒュー、火にガソリンぶちまけやがった」

 

口笛を吹いて、ディジェは両手を広げる。

つまり、\(^o^)/<オワタ と言う姿勢を取った。

 

「そこでマクギリス・ファリド准将とガエリオ・ボードウィン特務三佐が暴力沙汰を起こし、今に至ります」

子供(ガキ)かよ」

「全く…あの2人は何であんな事になったのかしら。昔は殴り合うような間柄でも無かったのに」

 

アグニカが呆れ果てたような声で愚痴り、カルタは頭を抱える。

どこまでも傍迷惑な奴らである。

 

「ハァ…とにかく、武力衝突が始まるまでに介入して止めさせねェとな。この後のSAU行きは延期だ、大至急で宇宙(そら)に上がる。SAUだけでなく、鉄華団にも打診してくれ」

「は」

 

士官は連絡を付けるべく、待合室を後にした。

その士官と入れ違うように、アーブラウ代表の蒔苗東護ノ介が部屋に入って来る。

 

「ギャラルホルンの統制は、いまいち取れておらぬようじゃの」

「こんな下らねェ理由で内乱が始まるとか、予想出来るハズないでしょう。焼き肉パーティーで何が有ったんだ…肉の取り合いから発展した、とかだったらバエルで殴ってやる」

「過激よのう。まあ、我らアーブラウは民主化された新生ギャラルホルンへの参画を約束した身だ。治安維持の為の暴力装置から、人類協調の為の仲裁組織への改革――上手く行う為にも、この内乱はすぐ鎮めてもらわねばな」

「これでスケジュールのズレは免れない…はあ。まあ、努力しますよ。それでは」

 

蒔苗に挨拶し、ギャラルホルンの使節団はアーブラウの待合室を後にした。

アーブラウ議会施設の廊下を早足で歩きながら、ディジェはアグニカにこんな事を言った。

 

「今、アーブラウとSAUとの国境線にはファルク家の次期当主がいる。お前が言えばついて来ると思うが…連絡しとくか?」

「――ほう。それは初耳だな」

「…あれは面倒よ、ディジェ二佐」

「面倒と言う程でもねぇと思うが…どうする?」

 

アグニカは少し考えたが、ディジェに連れてくるよう要請した。

 

 

 

 

アーブラウとSAUの国境線近くに止まったマンリー級強襲揚陸艦。

艦のブリッジで、その男はディジェ・バクラザン二佐からの要請を受け取った。

 

「いかが致しますか、トリク・ファルク様」

 

部下より決断を迫られた男、ファルク家次期当主たるトリク・ファルク二佐はこう返した。

 

「――あの男の要請に応えるのは少しばかり癪では有るが、かの英雄と話す機会を無碍にする訳にも行くまい」

「全艦へ通達! これより、トリク様は最高幕僚長率いる視察団と共に宇宙(そら)へ上がられる! グラズヘイムⅠに連絡し、ヨルムンガンドの準備をさせよ! ガンダム・アモンの移動も迅速に行え! ――これで、よろしいでしょうか?」

「…ああ。全く、私は植物の心のような平穏無垢なる生活を求め欲しているのだが――」

 

部下の迅速な判断を賞賛し、トリクはブリッジの窓越しに空を見上げた。

 

「なかなか、思い通りには行かぬらしい。毎夜安心して熟睡出来る法を整備してもらう為にも、ここで恩を売っておくべきかな」

 

 

 

 

P.D.0325年。

厄祭戦より300年で初めて、アーブラウとSAUと言う四大経済圏同士による紛争が行われた年。

厄祭戦より300年の時を越え、火星のハーフメタル採掘場にて大量殺戮破壊兵器「モビルアーマー」が猛威を振るった年。

厄祭戦より300年の時を経て、厄祭戦の英雄アグニカ・カイエルが蘇った年。

そのアグニカ・カイエルが、ギャラルホルンの最高幕僚長として大規模な組織再編を始めた年。

 

厄祭戦に関わる事件が立て続けに起こった為に「厄祭年」と呼ばれると共に、世界の変革期として歴史に伝えられる年だ。

 

だが、この年は更なる波乱の年で有った。

 

アグニカ・カイエルの復活から、僅か半月後。

ギャラルホルンは、アグニカ・カイエルを最高責任者として各経済圏に新体制移行に差し当たって使節団を派遣。

使節団は各経済圏を回り、新体制への協力を得るべく交渉を行った。

 

そのほぼ同時期。

地球近郊の宙域にて、マクギリス・ファリド率いる地球外縁軌道統制統合(グウィディオン)艦隊と、ラスタル・エリオン率いる月外縁軌道統制統合(アリアンロッド)艦隊が対決したのだ。

 

『やめろ、マクギリス・ファリド! 我らがギャラルホルンは、最高幕僚長アグニカ・カイエルの手で戦争を押し潰す暴力装置ではなく、協調を推し進める民主組織として改革されようとしている! その為にはまず組織全体で協調し、組織再編を迅速に行わねばならない! このように小競り合いを起こしている場合ではないのだ!』

 

アリアンロッドの旗艦でありエリオン家が所有するスキップジャック級戦艦「ファフニール」に乗るラスタルが、グウィディオンを率いるマクギリスの座乗するファリド家のハーフビーク級戦艦「フェンリル」に通信する。

しかし、マクギリスはラスタルの意見を取り合わない。

 

『フ、ハハハハ! 自らの身内だけの豪遊を是とする男が組織協調とは、笑わせてくれるなラスタル・エリオン! 貴様のような傲慢な者が「民主組織にするから止めろ」だと? その申し出は受け入れんコトも無いぞ――貴様とガエリオが、ギャラルホルンから退場するならばな!』

『――愚かな』

『それはどちらだ? グウィディオン艦隊、攻撃準備!』

 

グウィディオン艦隊が、主砲を正面のアリアンロッド艦隊へと向ける。

各艦のカタパルトも開かれ、MSが出撃準備を整える。

 

『ラスタル様…!』

「――全艦、迎撃準備。ダインスレイヴ隊も待機させろ」

 

イオク・クジャンがクジャン家の所有するハーフビーク級戦艦「フギン・ムニン」から通信して来る。

それも含めた艦隊全体に、ラスタルはこう宣言した――「グウィディオンと()り合う」と。

 

『ラスタル様、しかし――ダインスレイヴは禁止兵器です!』

「分かっている。だが、話を聞かぬ子供には手を出さねばな。それに、既に種は撒いた」

 

ラスタルに取ってのダインスレイヴとは便利な道具であり、勝利を確約する手段である。

 

とりあえず数を揃え、音速で放たれるレアアロイ製の特殊弾頭で敵を面制圧する――厄祭戦時代より残される敵への有効な対処方法であり、ギャラルホルンのマニュアルにも残されている必勝戦術。

先日のアグニカ・カイエルの話を聞く限り、防御力の高いMAや俊敏なMA相手で必殺とは行かなかったようだが――足止めやMA以外の制圧には持って来いであり、MSに取っては最大の脅威となる。

 

マクギリス・ファリドと言う、大人になれぬ子供に制裁を与えるにはちょうど良いだろう。

 

『全軍、攻撃開始!』

『全艦、迎撃せよ』

 

マクギリスとラスタルがそれぞれの艦隊に指示し――ギャラルホルン最大の内乱たる「角笛戦役」の幕が開かれた。

 

 

 

 

内乱の予兆有りとの報告を受けたアグニカ・カイエル率いるギャラルホルン使節団は、グラズヘイムⅠへと上がった。

それとほぼ同時に、グラズヘイムⅠでは戦火を確認した。

 

「――始まったみてぇだな」

「ああ、あのアホ共め…! 初代から劣化し過ぎじゃねェのか、遺伝子仕事しろ! 遺伝子が働いて進化してんの、イシュー家の眉だけじゃねェか…」

 

ぼやきながら、アグニカは頭を抱える。

 

「私の眉がイシュー家の努力の結晶、みたいに言わないで下さい! カロム様を進化前にするのも!」

「いーや、カロムの意志通りに進化してるぞイシュー家は。とりあえず、お前で眉の進化は終わったようだがな。後は頬が弛み、歯が黒くなれば完璧だ。そうなれば、イシュー家の進化は完了する。もう少し頑張れ、イシュー家の遺伝子」

 

イシュー家の進化先を指定しつつ、アグニカは全艦の出航準備が整うのを今か今かと待っている。

 

「そうネガティヴに考えんなよ。改良したバエルを試す良い機会だと思えよ」

「いや、そうかも知れねェが思わんぞ」

 

ギャラルホルンの技術部とテイワズの技術班が共同で整備していたガンダム・バエルは、一応の強化を終了した。

行われたのは細かなギミックの増加とスラスターの強化、増設くらいではあるが。

 

「教官、イサリビとホタルビの出航準備が終わったらしいよ。持って来た鉄華団のMSと、教官のも詰め込んだって」

「そうか。手伝えなくて悪いな」

「教官は今、ギャラルホルンの偉い人なんだから仕方ないでしょ」

 

ただ待つアグニカと既に自艦の出航準備が終了したカルタとディジェの下に、三日月が来た。

鉄華団は、両艦の出航準備が整ったらしい。

 

本来ならばカイエル家のハーフビーク級戦艦「ヴァイシュヴァーナラ」を使節団改め仲介団の旗艦とする所だが、ヴァイシュヴァーナラは300年前に「天使王」ルシフェルに撃沈させられている。

よって、今回は鉄華団のイサリビがアグニカの座乗艦となり…必然的に、使節団の旗艦となる。

 

「後は、トリクのヨルムンガンドだけか」

「そうね。でも、そろそろ終わる頃よ。私達もそれぞれ移動しましょう」

 

カルタに続き、ディジェも動き出す。

それに合わせて、アグニカも動く。

 

「賛成だ。行くぞ三日月」

「うん。戦場に行ったら、全部潰せば良いんだよね?」

「全部は勘弁してくれ、今後のギャラルホルン…つまり俺が困る。パイロットを殺さず無力化してくれれば良い。どっちみち軍縮はする気だし、MSは遠慮無く壊してくれ」

「殺さず…難しいな」

「バルバトスには尻尾が生えたし、あれでやれ」

 

アグニカと三日月はイサリビに。

カルタはイシュー家のハーフビーク級戦艦「ラタトスク」に。

ディジェはバクラザン家のハーフビーク級戦艦「グリムカンビ」に。

 

それぞれ移動すると、ファルク家のハーフビーク級戦艦「ヨルムンガンド」に乗るトリク・ファルク二佐から出航準備完了との連絡が来る。

 

「連絡、来ました」

「だ、そうだ。どうする、大将?」

 

オペレーター席のメリビットが、そう報告する。

それを受けて、オルガがアグニカに問うた。

 

「止めろ、違和感しか無いわ。――とりあえず、戦闘宙域に向かう。ホタルビだけでなくラタトスクとグリムカンビ、ヨルムンガンドにも通達頼む」

「分かりました」

 

その僅か1分後、5隻の戦艦がグラズヘイムⅠより出航した。

使節団の何倍もの戦力が集う、グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の戦闘宙域に向けて。

 

 

 

 

戦況は、アリアンロッド艦隊の優勢であった。

端から見れば、2つの艦隊は正面から合間見えたようであろうが――実際はそうではない。

 

グウィディオン艦隊が横一直線に全艦を展開させたのに対し、アリアンロッド艦隊はラスタル・エリオンが座乗する旗艦「ファフニール」を中心としてブーメラン状に突撃態勢を取った。

それだけではなく、アリアンロッド艦隊はその10%の戦力を別働隊として潜ませ、グウィディオン艦隊の真横からぶつけた。

 

「准将、右翼が壊滅寸前です! 正面からも、敵の全軍が突撃してきます!」

「右翼には石動の軍を回せ。正面は、全艦で囲い込んで殲滅しろ」

 

マクギリス・ファリドが座乗するグウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」より、石動・カミーチェの操る「ヘルムヴィーゲ・リンカー」が出撃する。

このヘルムヴィーゲ・リンカーはヴァルキュリア・フレームではなく、グレイズ・フレームを素体として再現されたモノであるが――戦力としては申し分無い。

 

「右翼の立て直し、全うしてもらうぞ」

『はっ』

 

ヘルムヴィーゲ・リンカーと随伴するグレイズ達は、陣形立て直しの為に右翼へと向かう。

 

「よろしいのですか、准将」

「向こうは石動に任せておけば良い。正面の軍に対しては、私が直接前線にて指揮を執ろう。アスモデウスの出撃準備は?」

「完了しています」

「うむ。これよりは、臨機応変に対応する」

 

そう言い残し、マクギリスはフェンリルのブリッジを去った。

 

 

 

 

その頃、石動のヘルムヴィーゲ・リンカーは右翼へ到着し――別働隊を率いる、ジュリエッタ・ジュリスと相対した。

 

『中尉!』

『あれの相手は私がする、お前達は他を叩け!』

 

随伴機のパイロットに指示を出し、ヘルムヴィーゲはジュリエッタに襲いかかった。

 

『マクギリス・ファリドの腹心…この手で、私が討ち取る! この、ガンダム・レラージュリアで!』

 

ガンダム・レラージュリア。

アリアンロッド艦隊がラグランジュポイントで拾った機体を整備し直した、ジュリエッタ・ジュリスの新しい機体。

 

その名から分かる通り、アリアンロッド艦隊が拾った機体とはアグニカ・カイエルの話にも有ったガンダム・レラージェである。

かつての厄祭戦でMAの次に人々のヘイトを集めた「煽動屋」の最大組織「フヴェズルング」の副長、アマーリア・ウィーデンが使ったMS。

「四大天使」ウリエル戦に於いてコクピットを破壊され、以後ずっと宇宙に放逐されていた。

 

武装は全てが失われていたが、ジュリエッタがこれを使いたいとラスタルへ直談判。

ヤマジン・トーカ整備長の機転で、レギンレイズの発展型として開発中であった「レギンレイズ・ジュリア」のパーツを装着された。

 

かくして、ガンダム・レラージェはジュリエッタ・ジュリスを新たなパイロットとし――ガンダム・レラージュリアと言う名で、300年の時を越えて戦場へと舞い戻ったのである。

 

『――例え、ガンダム・フレームが相手であろうとも!』

 

ヘルムヴィーゲ・リンカーが大剣を振るが、レラージュリアはツインリアクターシステムが実現した高機動性を発揮して難なくかわす。

 

『何…!?』

 

両腕に装備されたジュリアン・ソードを構え、ヘルムヴィーゲに斬り掛かる。

 

『遅い!』

 

ヘルムヴィーゲの背後に回り込んだレラージュリアは、ジュリアン・ソードでヘルムヴィーゲのスラスターを破壊しにかかる。

しかし、剣はヘルムヴィーゲの重装甲に弾かれて終わる。

 

『――く…! 私の技量が、剣と機体に追い付いていない…』

 

ジュリアン・ソードは刀身が幾つかのパーツに分けられており、それらは特殊超硬合金のワイヤーで接続されている。

これにより、切断能力に長けるソードモードと蛇腹状のウィップモードを使い分けられる。

 

だが、その為に構造が脆弱であり分解しやすい。

剣の重量もそれ程ではないので、力の掛け方を調節出来なければ敵機の装甲を斬り裂けず弾かれてしまうのだ。

この力の調節は、熟練のパイロットであろうと生半可な事では成功しない。

 

同じく剣の重量が軽めであったグリムゲルデを自在に操り、ガンダム・キマリストルーパーを追い詰めたモンタークことマクギリス・ファリド。

グリムゲルデにスラスターを増設した為にピーキーさが増したグリム・パウリナを使い、2本の剣でMAさえ斬り捨てたアラズ・アフトルことアグニカ・カイエル。

 

この両者しか、軽い特殊超硬合金を採用した剣を十全/十二分に扱った者はいないのだ。

 

『それでも!』

 

一時離れ、レラージュリアは剣を交差させてヘルムヴィーゲに突撃する。

対するヘルムヴィーゲは剣を振り上げ、突撃して来るレラージュリアに振り下ろした。

 

2本の長剣と1本の大剣が衝突し、火花を撒き散らす。

 

『ラスタル様の勝利のために!』

『准将の望む世界を!』

 

ラスタル・エリオンとマクギリス・ファリド。

それぞれに命を捧げた2人が、意志をぶつけ合った。

 

 

 

 

セブンスターズ第二席「ファリド家」。

フェンリス・ファリドを初代当主とする、ギャラルホルンの実権を握る「セブンスターズ」の一席――だが、その血脈は先代当主イズナリオ・ファリドを最後に潰えた。

 

イズナリオ・ファリドは異性に対し劣情を抱けぬ者――控えて言えば男色家、俗に言えばホモだった。

それもただのホモではなく、子供――控えて言えば幼い男子、俗に言えばショタしか食えないたちの悪いホモだった。

 

彼はその権限を笠に着て多くの男娼を用意させ、毎夜それを慰み物としていた。

その男娼の1人をイズナリオ・ファリドは気に入り、自らの養子とした。

 

この男娼こそが、マクギリス・ファリドだった。

マクギリスはイズナリオを陥れて隠遁させ、殺害する事でファリド家の実権を握った。

故に、マクギリスにはファリド家の血は流れていない。

 

そんなファリド家が所有するガンダム・フレーム――それこそが、ガンダム・アスモデウス。

そのガンダム・アスモデウスが、グウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」より出撃した。

 

『グウィディオン艦隊、アリアンロッド艦隊を迎撃せよ! 決して怯まず、相手を叩きのめすのだ!』

 

マクギリスはアスモデウスのコクピットからそう指示し、それを示すべくアスモデウスに槍を構えさせて眼前の敵機を貫く。

続いて別の機体を斬り捨てた所で、グウィディオン艦隊のMSは志気を高めながらアリアンロッド艦隊へと襲いかかった。

 

だが、戦況は既に志気だけで動かない。

別働隊は石動・カミーチェ中尉の率いる部隊が足止めしているが、グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊ではアリアンロッド艦隊の方が数は多く――各兵の錬度も、アリアンロッド艦隊の方が高い。

 

しかし、打開策は有る。

アリアンロッド艦隊の旗艦たるスキップジャック級戦艦「ファフニール」さえ落とせたならば、戦局は一気にグウィディオン艦隊へと傾く。

マクギリス・ファリドの腕とガンダム・アスモデウスの性能が有れば、防衛網を突破してファフニール…それに座乗するラスタル・エリオンに痛打を与えられる。

 

アリアンロッド艦隊を指揮しているのはラスタルのみであり、ラスタルさえ倒せたならばアリアンロッド艦隊の指揮系統は混乱状態となる。

それに乗じてイオク・クジャンとガエリオ・ボードウィンを殺せば、アリアンロッド艦隊は崩壊する。

 

『この後に及んでなお抗うのか、マクギリス』

『チッ』

 

そう企むマクギリスの前に、ガンダム・キマリスヴィダールを操るガエリオ・ボードウィンが立ちふさがった。

 

『俺の道に立ちふさがるか、ガエリオ』

『ああ。俺はお前を倒す。アインの誇りを踏みにじったお前は、絶対に許さない』

『そうやって他人の為だと言って自らを正当化し、自身の行動を正義とするその偽善――いつまでも変わらんな。いい加減素直になったらどうだ…「よくもこの俺を殺そうとしたな」と』

『俺はもう、お前の戯れ言に耳を貸さない。話しても分かり合えない事は、先日確認した』

 

キマリスは右手に保持するドリルランスを持ち上げ、アスモデウスに突き付けた。

 

『俺は、お前を倒すだけだ。力を貸してくれ、アイン』

 

キマリスヴィダールに搭載された「阿頼耶織TYPE-E」が起動し、機体のリミッターが解除される。

 

『話は聞いているぞ、ガエリオ。「阿頼耶織TYPE-E」――アイン・ダルトンの脳をベースとした「疑似阿頼耶織」であり、システムを介する事で阿頼耶織最大の弱点である情報のフィードバックを乗り越えて機体の全霊を引き出せる』

 

人の脳を模したシステムに脳の負担を肩代わりさせ戦う、ヤマジン・トーカが開発した非人道的システム…それが「阿頼耶織TYPE-E」である。

 

このシステムの概要を厄祭戦時代の科学者が聞けば、その狂気に戦慄するだろう。

「阿頼耶織」を作った彼らだが、それを使うか否かは施術させられる本人の意志を尊重した。

だが、これは意志に関わりなく強制的にシステムにしてしまうモノだ。

 

『だが、アイン・ダルトンはお前が受けるハズだった脳の負担を肩代わりする。その時、アイン・ダルトンを犠牲としてお前は生き延びる。惨いコトだな』

『お前がやった事よりはマシだ、マクギリス』

 

アスモデウスは、右手で槍を構えてキマリスに突き付ける。

 

『よく言う――同罪だろう、ガエリオ』

 

交わされた言葉は、それで終わりだ。

アスモデウスとキマリスは、瞳を輝かせ――相手をねじ伏せるべく、武器を交錯させた。




アグニカポイント新規取得
ジュリエッタ・ジュリス 560AP
マクギリス・ファリド 390AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
石動・カミーチェ 10AP
地球外縁軌道統制統合艦隊(グウィディオン艦隊)のMS部隊の皆様 10AP
月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド艦隊)のMS部隊の皆様 10AP


オリジナル設定解説のコーナー。

トリク・ファルク
「ガンダム・アモン」のパイロットで、ファルク家の次期当主。
「植物の心のような生活」が座右の銘で、どこぞの殺人鬼みたいだが、別に殺人鬼ではないのでご安心あれ。
と言うか、穏やかなのでマクギリスよりマトモ。

ラタトスク、フェンリル、フギン・ムニン、グリムカンビ、ヨルムンガンド
ボードウィン家のスレイプニルと同じく、セブンスターズが個人所有するハーフビーク級宇宙戦艦。
初めからイシュー家、ファリド家、クジャン家、バクラザン家、ファルク家。
バエルカラーに塗り直されたフェンリルを除き、全てが各家のガンダムと同じ色で塗られている。
また、フェンリルは現在グウィディオン艦隊の旗艦とされている。

ファフニール
エリオン家が個人所有するスキップジャック級大型戦艦であり、アリアンロッド艦隊の旗艦。
セブンスターズの内エリオン家だけがスキップジャック級大型戦艦を持っているが、これは初代当主の時代に造られたスキップジャック級大型戦艦を他の当主が使いたがらなかったかららしい。

ASW-G-14j ガンダム・レラージュリア
全高:30.3m
本体重量:45.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
武装:レギンレイズ・ソード×1
   レギンレイズ・シールド×2
   ジュリアン・ソード×2
   バルカン×2
   機関砲×2
   脚部クロー×2
   脚部ブレード×2
概要
アリアンロッド艦隊が宇宙で拾ったガンダム・レラージェを、建造中だったレギンレイズ・ジュリアのパーツを使って強化した機体。
ジュリエッタ・ジュリスの専用機とされ、アリアンロッド艦隊でこの機体を十全に扱えるパイロットはガエリオとジュリエッタくらいである。
武装はレギンレイズ・ジュリアと同一だが、ガンダム・フレームとなったことで出力は段違いとなる。
全高が30mもあり、20mが平均のMSとしては大型となった。


ド派手にやらかすグウィディオン&アリアンロッド。
アグニカのお叱りは免れませんね…。

次回「明けの明星(予定)」。
案の定、特殊読みするタイトルですが…ルビは非公開です。


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#58 明けの明星

タイトルは「明けの明星(ルシフェル)」と読んで下さい。
ルシフェルさんこわひ


二艦隊決戦の仲裁に向かうギャラルホルン使節団は、最大戦速で戦闘宙域へと進んでいた。

 

「メリビットさん、後どんくらいだ?」

「はい、2時間程で隅の艦を射程圏内に捉えます」

「ふむ――」

 

使節団旗艦たるイサリビのブリッジ。

オルガの座る艦長席の後ろで、パイロットスーツに着替えたアグニカは、オペレーターをするメリビットに残り時間を問うた。

 

それから、アグニカはしばし考え込み。

 

「クタン参型、持って来てるか?」

「ああ、一応な」

 

アグニカのその質問に答えたのは、副艦長席に座るユージンである。

答えを聞いて、アグニカは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ナーイス。じゃあ、ちょっと借りるぞ」

「おう…って、アラズさんアンタまさか」

「決まってんだろ、オルガ。突撃だよ、突撃。先に戦闘宙域へ飛んでくわ」

 

さも当たり前のように、アグニカはそう言った。

そのセリフを受けて、鉄華団の面々は心配半分呆れ半分の表情を浮かべる。

 

アグニカはこう言ったのだ――「単騎であの戦場へ突入して、両軍を黙らせる」と。

 

「教官、本気?」

「勿論だ。有言実行、ってのが俺のモットーでな」

「待ってくれ、それは許可出来ねえ」

 

突撃を宣言したアグニカを、オルガが制止する。

 

「以前までならともかく…今、アンタはこの仕事の依頼人だ。依頼人は守り通すのが俺らの筋ってモンだ、単独で突撃させる訳には行かねえ」

「オイオイ、困りますなあ。依頼人の要望にはお答えしてもらわねば。それに、俺がやられるとでm」

「団長命令だ、行くな」

「――ぐぬ」

 

団長権限を使われて、アラズは押し黙る。

ギャラルホルンのアグニカ・カイエルであると同時に鉄華団のアラズ・アフトルでもあるため、彼はオルガの団長命令には逆らわないのだ。

 

律儀である。

 

「…オルガ。それって、教官の安全が確保出来れば良いんだよね?」

 

押し黙ったアラズの横にいた三日月が、オルガに確認を取る。

 

「――ああ、そうなるな。でも、どうやって確保するんだ? 戦艦の足じゃ、クタン参型には追い付けない。バルバトスなら追い付けるかも知れねえが、推進剤が切れちまうだろ」

「簡単だよ、オルガ。教官の乗った奴にバルバトスが引っ付けば良い。教官だけで行くより遅くなっちゃうだろうけど、このままイサリビに乗って行くよりは時間を短縮出来る」

「…それだ、三日月。それならオルガの団長命令を突っぱねられる」

「オイ」

 

団長命令を突っぱねられる策を提案した三日月と、アグニカは握手をかわす。

その光景を見つつ、オルガは頭をかき。

 

「――分かった、行ってくれ」

「ちょっと、団長さん!?」

 

驚愕するメリビットを傍目に、オルガは三日月を見据えてこう言った。

 

「ただし、万に一つの間違いも許されねえ。頼んだぞ三日月、アラズさんを守れ。何が何でもな」

「うん、任せて」

「さ~あさあ行こうか三日月、事態は一刻を争う。40秒で支度しな、愚図は嫌いだよ! あ、メリビットさん。他の艦によろしく伝えといて」

 

途中でオバサン声を出しつつ三日月の背中を押しながら、アグニカはイサリビのブリッジを後にした。

 

「――り、了解です」

「…メリビットさん。今言っても遅えと思う」

「相変わらずだよな、アラズさんは。ギャラルホルンの一番偉い奴になっても、全く変わりゃs」

『出撃準備完了!』

『速ぇなオイ!?』

 

ブリッジにいた全員が驚愕を露わとする。

さっきアグニカが三日月と共にブリッジを後にしてから、1分も経過していない。

 

だが、当然ザ・ワールドを使った訳ではない。

第五魔法でもないし、キング・クリムゾンの仕業でもない。

アグニカは即時出発出来るよう、おやっさんこと雪之丞に予め頼んでバエルを用意させていたのだ。

 

なお、クタンとバルバトスの用意はおやっさんのサービスである。

おやっさん有能。

 

『そんな訳で行ってくる、追いつき次第援護頼む』

『おう、気をつけろよ』

『勿論』

 

イサリビのオルガ達と挨拶し、バエルはイサリビに牽引される状態となっているクタン参型の上部、その左右前方に付けられたグリップを両手で握る。

同じように、背部ではバルバトスがクタン参型にしがみつく。

 

『あれ、入って行かないんだね』

『ああ。後1機乗れそうだが、あまり乗ると速度が落ちるし』

 

要するに、クタン参型をベースジャバー代わりに使うのである。

ゲタとして用いるコトで、機体の推進剤を使わず戦闘宙域まで移動出来る。

 

『じゃ、10カウントで行くぞ。おやっさん、1になったらパージしてくれ』

『おう』

『じゃあ、カウントするよ』

 

そして、三日月がカウントを開始する。

10から始まり、9、8、7と進む。

 

『3、2、1』

『よっ』

 

イサリビから、クタン参型がパージされる。

それを受け、アグニカは正面モニターに映し出された点火ボタンに指を添える。

 

『0』

『出撃!』

 

アグニカがボタンをタッチすると、クタン参型のブースターが点火される。

初っ端から最高速度で出発したクタン参型は、一瞬でイサリビを追い越して宇宙へと飛び出した。

 

 

 

 

グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊が激突する戦場。

怒りに打ち震える最高幕僚長アグニカ・カイエルが向かって来ているなど知る由も無い彼らは、好き勝手に戦っていた。

 

『ラスタル様、この私に出撃の許可を! 逆賊マクギリス・ファリドを潰す許可を!』

「――マクギリスは今、ヴィダールが相手をしている。出撃は許可するが、お前の仕事はガンダム・アスモデウスの撃破ではない」

『は…では、何を』

「『フェンリル』だ。グウィディオン艦隊の旗艦を叩き潰せ。ガンダム・プルソンと言う戦力は、そちらに回す。良いな?」

 

イオクからの了承の返事を確認すると、クジャン家のハーフビーク級戦艦「フギン・ムニン」がグウィディオン艦隊へと進路を取った。

それを見据え、ラスタルはブリッジの副艦長にこう言った。

 

「私も、最後の仕上げに向かう。艦は任せたぞ」

「は! ご武運を!」

 

アリアンロッド艦隊の旗艦たるスキップジャック級戦艦「ファフニール」のブリッジから、ラスタル・エリオンは姿を消した。

そのまま、ラスタルはMSデッキへと足を運んだ。

 

「ヤマジン。準備は完了しているか?」

「ああ。アンタが持ち出して来たベリアルも、ダインスレイヴ隊の方も準備は出来てる」

 

報告を受け、ラスタルはヤマジンからパイロットスーツを受け取る。

 

「よし。では、出撃だ。言って分からぬ子供には、手を出して分からせよう」

 

 

その頃、戦場の中心ではマクギリスの操るガンダム・アスモデウスと、ガエリオの操るガンダム・キマリスヴィダールが死闘を繰り広げていた。

 

『うおおおおお!!』

 

キマリスがドリルランスを構え、四方八方から襲い掛かる高速機動でアスモデウスを翻弄する。

しかし、その程度の攻撃でアスモデウスを仕留める事は出来ない。

 

『フッ、気合いが有る割には随分と慎重だな? 貴様が気合いを入れようと、その機体を動かしているのはアイン・ダルトンだ。自己犠牲の無い力で俺を倒そうとは、全く片腹痛いな!』

 

通信で煽りつつ、マクギリスはアスモデウスでキマリスの攻撃を正確に落とし続ける。

対するキマリスは、アスモデウスの正面からドリルランスを突き出す。

それを、アスモデウスは槍の柄で受け止めた。

 

『あらゆる者を利用し、謀ってその地位に就いた男が!』

『ああそうさ。だが、それがどうした?』

『ッ、貴様!』

 

ドリルランスの先端が回転し、槍の柄と火花を散らす。

やがて回転に押され、アスモデウスの手から槍が取りこぼされた。

 

その隙を付き、キマリスは左膝のドリルニーをアスモデウスに突き出す。

突き出されたドリルニーは、アスモデウスが右腕のカギ爪を展開させてキマリスの膝関節を貫いた事で勢いを失い――アスモデウスに勢い良くドリルを蹴り飛ばされ、根元からへし折れて宇宙へと飛んで行った。

 

『ぐう!』

 

アスモデウスは右肩の装甲を展開し、キマリスに向けてスラッシュディスクを放つ。

放たれたディスクはキマリスの盾に弾かれたが、その隙を付いてアスモデウスは背部のレールガンを前面に展開し――ダインスレイヴ弾頭を撃ち出す。

 

『がっ!?』

 

キマリスは盾を展開していたが、流石にダインスレイヴを防ぎきる事は出来なかった。

盾の向きを調節する事で本体への損傷は避けたが、衝撃に耐えられず盾が分解し本体から外れる。

 

『さらばだ、ガエリオ!』

 

アスモデウスが放り出された槍「ヴァナルガンド」を左手で回収し、穂先をキマリスに向ける。

 

『ッ、まだだ!』

 

キマリスは外れた盾を掴み取り、ドリルランスに備えられた発射装置にダインスレイヴ弾頭を装填してアスモデウスに向ける。

アスモデウスが槍を突き出すのと、キマリスがダインスレイヴを放つのはほぼ同時だった。

 

『がッ…!』

『チ、小癪な…!』

 

アスモデウスの槍がキマリスの右腕を貫き、キマリスのダインスレイヴがアスモデウスの背部右側のレールガンを破壊する。

キマリスは右手から零れたドリルランスを左手で回収しようとしたが、ドリルランスはアスモデウスに弾き飛ばされて彼方へと消える。

 

アスモデウスはドリルランスを弾いた後、横凪ぎに槍を振ってキマリスの胸部装甲まで弾く。

胸部を損傷しながらもキマリスは刀を引き抜き、アスモデウスに斬り掛かる。

その一撃を、アスモデウスは槍の柄で受ける。

 

『お前だけは…ッ!?』

『む?』

 

キマリスは鍔迫り合いを中断し、上昇してアスモデウスから離れる。

 

「アイン?」

 

怪訝に思い、ガエリオはアインの宿るコクピットの機材を見る。

それからモニターを見た時、アインが退避した理由を察した。

 

「ラスタル…!」

『何をするか、ラスタル・エリオン!!』

 

その光景を見て、マクギリスも思わず叫ぶ。

アスモデウスの見据える先には――1機のMSと、その後ろで発射態勢を取るダインスレイヴ隊が在る。

 

『伏兵を紛れさせる必要もなかったな。――ガンダム・アスモデウスより、ダインスレイヴの発射を確認した。それに伴い、これより報復を行う』

 

ダインスレイヴ隊を率いるのは、「ガンダム・ベリアル」に乗るラスタル・エリオンだ。

ベリアルのコクピットで、ラスタルは腕をモニター越しにアスモデウスへ突き付け――

 

『ダインスレイヴ隊、放て』

 

と、号令を下した。

 

ダインスレイヴ隊の構えるダインスレイヴが、その銃身を回転させ――ダインスレイヴ弾頭が、アスモデウスに向けて放たれた。

 

『――!!』

 

なまじ優秀であったが為に、マクギリスには分かってしまった――()()()()()()()()()()()

 

その場で呆然とするアスモデウスに、ダインスレイヴ弾頭が迫り――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

ガガガガガガガガキイン!!! と言う幻聴を、その光景を見た者の誰もが聞いた。

音が伝わらない宇宙空間だと分かっていても。

見た者がその光景を瞬時に説明するには、そのような擬音を用いるしかなかった。

 

行われた事は、書き記せばこれだけの事だ。

その何者かは飛来するダインスレイヴを恐れず、アスモデウスとダインスレイヴ弾頭の合間に入り込み――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな、常人には理解が遅れる程の所業。

それが出来る者は、この世界にただ1人しか有り得ない。

 

 

『――アグニカ・カイエル…』

 

 

ガンダム・バエルを操り、厄祭戦を終わらせた伝説の英雄――即ち、アグニカ・カイエルのみだ。

クタン参型でトバして来たバエルは、最高速度でアスモデウスとダインスレイヴ隊――ベリアルの間に割り込んだのである。

 

『全軍、戦闘を終了せよ!!』

 

バエルはグウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の全てに通信回線を開き、そう命令を下した。

 

『最高幕僚長、アグニカ・カイエルが命じる!! 全軍、戦闘行動を終了せよ!! これ以上戦うと言うならば、アグニカ・カイエルの名の下に叛逆者として粛清する!!』

 

ダインスレイヴを叩いてなお傷1つ付かないヴァルキュリア・ブレードを掲げながら、アグニカは通信で叫んだ。

それを受け、全軍は速やかに停止する。

 

「粛清する」と言われた事よりも、あのガンダム・バエルとアグニカ・カイエルを畏れる一心から戦闘行動を終了したのだ。

 

『アグニカ・カイエルだと――? 何であれ、ラスタル様の邪魔をする者は私がt』

 

なおも戦おうとしてフギン・ムニンより出撃したイオク・クジャンの操る「ガンダム・プルソン」が、ガンダム・バルバトスルプスレクスのテイルブレードに弾き飛ばされる。

バルバトスはそのまま飛び、バエルの近くで止まる。

 

『速すぎるよ、教官。バルバトスを置いて行くなんて』

『ああ、いやすまん。グウィディオン艦隊の司令官が死にかけてたからな、流石にそれはまずいだろうと』

 

たわけが為す術もなく吹き飛ばされる光景を見て、僅かに残っていた戦意が全軍から消え失せた。

それを受け、バエルは掲げた剣を下ろす。

 

『さて――言い訳を聞かせてもらおうか、両艦隊の司令官殿? とりあえず、他の奴らがこっち来るまでに釈明を終えろ。リミットは――1時間ってとこか』

 

若干の殺意を乗せた言葉で、アグニカはマクギリスとラスタルを威圧する。

 

もはや、誰の目から見ても明らかだった。

アグニカ・カイエルは現在、ブチ切れている。

 

『俺は今、少々機嫌が悪くてな。ウソ吐きや捏造をせず、ただ真実のみを話した方が身の為だぞ? そのような事をされたら、腹いせにテメェら全員斬り捨てかねん』

(CGS時代の模擬戦で、参番組全員から一斉攻撃されても教官は怒らなかったのに)

 

バエルの側で巨大メイスを構えるバルバトスのコクピットで、三日月はとある一幕を思い出し…アグニカを怒らせたギャラルホルンに呆れていた。

 

それからピッタリ1時間を掛けて、マクギリスとラスタルは釈明を行った。

文字通り命懸けの釈明が終了した頃、イサリビとホタルビ、ラタトスクにグリムカンビ、ヨルムンガンドが戦場へと到着。

 

ホタルビからガンダム・グシオンリベイクフルシティと四代目流星号(ガンダム・フラウロス)、ラタトスクからガンダム・パイモン、グリムカンビからガンダム・ヴィネ、ヨルムンガンドからガンダム・アモンが現れる。

奇しくもセブンスターズのガンダムと、他のガンダムも勢揃いした形となった時――

 

 

()()は、動いた。

 

 

『――!』

『……教官』

 

突如、アグニカは目を見開いた。

それに続いて、三日月も反応する。

 

『全軍に告げる、即座にこの宙域から離れろ!』

『…アグニカ、それはどういう――』

『最高幕僚長が繰り返す、今すぐこの宙域から離脱しろ!! ()()()()()()()()()()!!!』

 

アグニカの鬼気迫る叫びを受けて、各艦隊は反射的に退避行動を開始する。

それに先んじて、アグニカはバエルを動かして艦隊の退避方向とは反対の方向へ飛んだ。

 

『教官!?』

『来るな、三日月! お前達はそのまま退避!』

 

命令通り退避行動を始めたは良いが、何故こんな事をさせるのかと疑問を抱く者が現れたその瞬間。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

彼方より血のように赤い光が飛来し、戦場を蹂躙した。

 

 

 

『うわあああああああ!!』

 

その深紅のビームはあまりに太く、各艦隊の15%ずつが呑み込まれて一瞬で消滅する。

分厚いナノラミネートアーマーで守られているハーフビーク級戦艦が、為す術無く蒸発する。

 

『ッ!』

 

バエルもまた、ギリギリの所で赤いビームを回避する。

ビームはしばらく照射されていたが、やがて細くなって消えて行った。

 

そこで、アグニカは考えついた仮説が正しかった事を確認した。

 

このビームを撃った者が確実に大損害を出させたいなら、アリアンロッド艦隊の旗艦「ファフニール」か、グウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」を狙うだろう。

しかし、その2隻は狙われなかった――それは何故か。

 

敵は、アグニカ・カイエルを狙った。

各艦隊の15%ずつしか焼き払われていないのは、艦隊とは逆方向に飛び出したガンダム・バエルを照準したからではないか。

 

アグニカを狙い、かつこのような大破壊を行える存在――そんなモノ、この世界にただ1つしかいない。

 

『…アグニカ・カイエル。これは――』

 

掠れた声で行われたマクギリスの質問に、アグニカは確信を持って返す。

 

 

『「天使王」、ルシフェル――』

 

 

あの最後にして最強のMAが、動いたのだ。

300年前の借りを返し、人類に引導を渡す為に。

 

 

 

 

グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の戦闘宙域から、何十万キロと離れた宇宙空間。

 

そこには、1つの「宇宙要塞」が在った。

2基の粒子加速器に細長い砲身が挟み込まれた、男性のアレに似た形をした巨大ビーム砲。

 

宇宙の巨大な建造物など、コロニーくらいしか無いこの世界で――それはあまりにも異形であり、異物と言えるだろう。

 

『かわしたか。まあ、あくまで牽制程度だが』

 

その要塞には、分離させたMAのパーツがあちこちに張り付いている。

言うまでもなく、それは――「天使王」ルシフェルである。

 

『この「カイラスギリー」を持ってして、被害をあそこまで抑えさせるとは――やはり面白いな、あの人間は』

 

ルシフェルの張り付く宇宙要塞の名は、カイラスギリー。

かつての宇宙世紀、ザンスカール帝国が建造した宇宙要塞であり――その主砲「ビッグ・キャノン」の威力は、コロニーレーザーを上回ると伝えられる。

 

『さて、いよいよ本番だ。天使と人類の最後の戦いを、これより始めるとしよう』

 

ルシフェルのパーツが要塞より離れ、合体してMAの姿を取る。

そして、先程のバエルと同等の速度で戦闘宙域へと進攻を開始した。

 

 

 

 

「天使王」ルシフェルが、グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の展開する宙域に向けて移動を開始したとアグニカは報告を受けた。

その速度は圧倒的で、敵がこちらを射程圏内に捉えるまで1時間と掛からないとも。

 

最も。

あのような巨大ビームを撃っている時点で、敵は既にこちらを射程圏内に捉えており――ただ、油断されていると考える事も出来るだろうが。

 

『どうするの、教官』

「―――」

 

ガンダム・バエルのコクピットで、アグニカ・カイエルはしばし考え込み。

 

『決まってるだろう。()()()()()()()()()()()()()()()

 

と、結論を下した。

 

『危険です、アグニカ・カイエル。我らは些か消耗が激しい――このような状況であれと戦うなど、ただの自殺行為だ』

『ではどうする? 目下人類の最大脅威が現れている中で、無様に撤退してその行いを容認しろと? ()()()()()()。あれが一度動けば、その場所は壊滅する。あのビームを1発でも地球に撃ち込まれれば、地球は死の星へと早変わりだ。火星も同様だし、コロニーだってあれの前ではあっさり宇宙のチリになるだろう』

 

そもそも、ルシフェルはこちらに向かって来ているのだ。

今更、一体どこに撤退しようと言うのか。

 

『だが、別に後ろ向きな要素ばかりじゃない』

『――って言うと?』

『グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊が勢揃いしている、この状況だ。今ここには、ギャラルホルンの戦力の大半が揃っている事になる』

 

全体を見ると30%が蒸発しているものの、その数は変わらず見る者を圧倒する。

 

『条約違反とは言え、ダインスレイヴも持ち出されている。勝率0%って訳じゃねェ』

『―――つまり…』

『やるしかねェだろ。各機の整備が終わり次第、出撃させて迎撃態勢を取らせろ! それと、ダインスレイヴ隊はこのポイントに集合させておけ!』

 

そして、バエルはイサリビへと向かう。

推進剤を補給し、「あれ」を装備する為に。




アグニカポイント新規取得
アグニカ・カイエル 590AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ノルバ・シノ 90AP
カルタ・イシュー 60AP
ディジェ・バクラザン 60AP
トリク・ファルク 60AP
ラスタル・エリオン 60AP
イオク・クジャン 60AP


オリジナル設定解説のコーナー。

ルシフェル
全長:221.3m
本体重量:不明
動力源:不明
武装:頭部ビーム砲×1
   腹部高濃度圧縮ビーム砲×1
   翼部拡散ビーム砲×8
   超硬ワイヤーブレード×45
   ダインスレイヴ×16
   プルーマ×∞
   カイラスギリー×1
特殊機能:自己再生、自己進化
搭載機:不明
概要
「天使王」と称される、最強のMA。
巨大な翼を8枚持ち、翼、胴体、頭部のそれぞれを本体から分離させて独自稼働させる事が出来る。
また、動力源はエイハブ・リアクターでないらしいが、何で動いているかは全く分からない。
腹部に取り付けられた高濃度圧縮ビーム砲から放たれる一撃は、宇宙世紀時代の「コロニーレーザー」にも匹敵する。
また、「カイラスギリー」なる要塞を制御出来る。
カイラスギリーは、かつて「ザンスカール帝国」が初めて建造したとされる宇宙要塞。
その主砲「ビッグキャノン」の破壊力は、コロニーレーザーを遥かに凌駕する。
大量のプルーマを製造可能とし、8枚の翼にはダインスレイヴが2基ずつと拡散ビーム砲が1基ずつ、更にワイヤーブレードが5基ずつ。
胴体にはワイヤーブレードを5本と高濃度圧縮ビーム砲を持ち、頭部にもビーム砲を備える正真正銘の鬼畜最強兵器。
特殊機能は「自己再生」と「自己進化」。
デビルガンダムで言う、ガンダムゴッドマスターに該当する存在(このネタが分かる人は何人いるのだろうか)。
と言うか、存在自体が反則。
それもこれも、隠されたMSが原因となる。
ビームの色も特徴的で、通常が桃色であるのに対してルシフェルのビームは黄色である。
名前の由来は、熾天使ミカエルと同等の力を持っていたとされ、多くの文献で語られる大天使「ルシフェル(ルシファー、ルキフェルなど表記揺れ多数)」から。
後に魔王サタンと呼ばれるようになる堕天使で、ルシフェルと言う名は「明けの明星」と言った意味を持つ。

カイラスギリーについて。
この「カイラスギリー」は、機動戦士Vガンダムに登場したモノとなっております。
∀ガンダムの小説版と漫画版には「カイラス・ギリ」なる兵器も登場していますが、こちらはちょい派手さが足りないかなと感じた上、月面に大規模な建造物を置く必要が有るためボツ案となりました。


ダインスレイヴを避ける所か撃ち落とすアグニカ、恐るべし。

そして――皆様お待ちかね(?)、最終決戦の始まりです。
「天使王」ルシフェルさん、カイラスギリーのビッグ・キャノンを戦場へと撃ち込んでしまいました。
もうコイツどうすりゃ良いんだ、と思われるでしょうが、幾つか布石は打ってあるのでご心配なく。


次回「アグニカ・カイエル(予定)」。


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#59 アグニカ・カイエル

原作16話:フミタン・アドモス(フミタン死亡)
原作49話:マクギリス・ファリド(マクギリス死亡)


嫌な予感がするタイトル。
もはや、何も語るまい(ガトー並感)


損傷したMSの整備が終わったとの報告を、アグニカは両艦隊より受けた。

アグニカのガンダム・バエルも、既に整備は済んでいる。

 

「持って来た武器は、全部取り付けたぞ」

 

アグニカがMSデッキに移動すると、そこには整備を終えたらしい雪之丞がいた。

椅子を用意し、何やら湯まで沸かしている。

 

「ナイスだおやっさん」

 

もしもの時の為に、アグニカはヴィーンゴールヴからバエル用のパーツを色々持って来ていた。

その一番のモノが、バエルの両足の膝に1つずつ装備されたホルスターである。

 

「なあ。あの武器は…」

「ああ、あれか。『アガレス・ライフル』と『アガレス・ナイフ』――察しの通り、ガンダム・アガレスが装備していたモノだ。ミカエル戦の後、アイツらが拾ってたんだよ」

 

右膝のホルスターにナイフ、左膝にはライフルが格納されている。

これは、腰の両側面に取り付けられているヴァルキュリア・ブレードと腰の後ろに装備されたバエル・ソードが破壊された時の為の武装となる。

 

「――アラズ。テメェの過去話、聞かせてもらったぜ」

 

雪之丞の側に置かれていたもう1つの椅子に座ったアラズに、雪之丞はそう声を掛ける。

 

「うげっ。案の定聞かれてたか…」

「全世界にLIVE配信されてたよ。ギャラルホルン伝説の英雄が、叙事詩にすら書かれてねえ過去話するってな。…あの女の子に関しちゃ、残念だったな」

 

湯が沸いたのを確認し、雪之丞はコップを2つ用意する。

そこにインスタントコーヒーを入れ、湯を注ぐ。

そして、片方をアラズに渡した。

 

「どーも…っと、このコーヒーはただのインスタントコーヒーじゃねェな?」

「おうよ。メリビットが用意したモンでな」

 

雪之丞とメリビットの関係については、アラズも他の鉄華団メンバーから大体の話は聞いている。

チャドは酷く困惑していたが、アラズからすれば「まあ、そんな事も有るだろ」と言った感じだ。

 

「――スヴァハに関して言うなら、あれはアイツの選択を尊重した結果だ。スヴァハの意志と俺のわがまま、ヘイムダルの理念の達成を目指し、見事に失敗しただけだ。勿論、反省もしたし後悔もした。だが…悲嘆に暮れて泣き叫んで、アイツの意志を無駄にする訳には行かなかった」

 

ミルクも砂糖も入っていないコーヒーを飲みつつ、アラズは思い出すかのように言う。

その上で、あくまで「300年前から生きてる先人」として雪之丞にこう告げる。

 

「おやっさん。アンタがメリビットさんを好きって言うなら、絶対に手を離すなよ。俺とスヴァハとは違って、アンタらは前線に出て戦う必要も無ければ世界を変える必要も無い。この時代も、厄祭戦程狂ってる訳じゃない――ちゃんと、未来が有る。その未来を作るのは、鉄華団みたいに今を生きる人間達だ」

「――アラズ、おめえ」

「俺はもう、真っ当な人間じゃねェしな。だから、時代(さき)はアンタらに託すさ。――そろそろ、頃合だな」

 

アグニカはコーヒーを飲みきって立ち上がり、バエルへと向かう。

 

「…死ぬ気か?」

「――なあに、簡単には死なねェよ。精々、最期まで足掻いてやるさ」

 

振り向きながら不敵な笑みを浮かべ、アグニカはバエルのコクピットに消えて行く。

ハッチが閉じると、バエルの双眼に光が点った。

 

かくして、アグニカ・カイエルは戦場に飛ぶ。

厄祭の遺物を迎え撃つ、最後の戦場へと。

 

 

 

 

―interlude―

 

 

ミラージュコロイドで隠されていたカイラスギリーの出現から、ルシフェルがそれに張り付いてビームを発射するまでの僅か数分。

その様子を観測していたモノが、世界にたった1つのみ在った。

 

『――本当に動くとはな。あの男の予想は当たったか。出来る限り当たって欲しくはなかったが、致し方無いと言うべきか』

 

全ての機体が持ち出されたヴィーンゴールヴ、「バエル宮殿」の真下。

隠匿されし「四大天使」ラファエルが、遂に動き出した。

 

まず垂直に上昇し、天井を突き破ってバエル宮殿へと出る。

そこで、そのMAは――あろうことか、装甲をパージし始めた。

 

全ての装甲が剥がれた時、そこには1機のMSが滞空していた。

バックパックの無い、シンプルながらも印象に残るフォルムをした――「ガンダム」が。

 

機体名が分からなかった為、これを拾ったスリーヤ・カイエルは「ガンダム・ソロモン」と名付けた。

それは、単に彼が開発したガンダム・フレームの名に合わせただけではなく――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『――さて、では私も盟約を果たすとしよう』

 

パージされた外装からライフルとシールドを拾い上げ、ソロモンはバエル宮殿から()()()

 

 

―interlude out―

 

 

 

 

最高幕僚長アグニカ・カイエルの下、グウィディオン艦隊の全戦力とアリアンロッド艦隊の全戦力は「天使王」ルシフェルを迎え撃つ形で展開した。

それに加え、ギャラルホルン使節団とそれの護衛を任された鉄華団。

 

戦場に在るガンダムは12機。

アグニカ・カイエルの、ガンダム・バエル。

三日月・オーガスの、ガンダム・バルバトスルプスレクス。

昭弘・アルトランドの、ガンダム・グシオンリベイクフルシティ。

ノルバ・シノの、ガンダム・フラウロス。

カルタ・イシューの、ガンダム・パイモン。

マクギリス・ファリドの、ガンダム・アスモデウス。

ガエリオ・ボードウィンの、ガンダム・キマリスヴィダール。

ラスタル・エリオンの、ガンダム・ベリアル。

ジュリエッタ・ジュリスの、ガンダム・レラージュリア。

イオク・クジャンの、ガンダム・プルソン。

ディジェ・バクラザンの、ガンダム・ヴィネ。

トリク・ファルクの、ガンダム・アモン。

 

ギャラルホルン公式記録では残存するガンダムは26機とされている為、実にその半分近くが揃った事になる。

最も、記録されていないガンダムも多いため公式記録はあまり当てにならないが。

 

これに加え、数多のMSと戦艦、ダインスレイヴまでが戦場に投入されている。

厄祭戦最大最後の戦いであった「四大天使」ガブリエル討伐作戦「大天使殺し(オペレーション・ラグナロク)」の時とは比較にならないが、厄祭戦での逆転劇開始の戦いと言える「四大天使」ウリエル討伐作戦「智天使殺し(オペレーション・ヤコブ)」と並ぶ程度だ。

 

しかし、楽観など出来うるハズが無い。

かつて「天使王」ルシフェルは、ガブリエル討伐作戦に参加した戦力の大半を一瞬で削ったのだ。

下手をすれば、開幕のビームで仲良く全滅となるだろう。

 

『アグニカ・カイエル。これは、本当に大丈夫なのか?』

 

ラスタルが、徒手空拳で滞空するバエルに通信する。

その質問を受け、アグニカはこう返した。

 

「大丈夫か、だと? ()()()()()()()()。ぶっちゃけ、この5倍有っても不安だよ」

『――この場で全滅するつもりか?』

「まさか。何の為に策を講じたと思ってる? 我らの力のみでは、ルシフェルを倒し得ない。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに、鉄華団経由で援軍も要請して有る。少し遅れるらしいが、直に到着するだろう」

 

そこまで言って、アグニカは全軍へ通信を繋いだ。

 

『鉄華団元地球支部支部長アラズ・アフトル…もといギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルより、この場に集ったギャラルホルンの全軍へ通達する。既に承知しているだろうが、これより我らは300年前のヘイムダルが討ち漏らした「天使王」ルシフェルの討伐作戦――「天使王殺し(オペレーション・ヴィシュヌ)」を開始する』

 

バエルの右手が動き、腰側面に懸架されたヴァルキュリア・ブレードの柄を握る。

 

『奴はかつてのガブリエル討伐作戦の折、艦隊の半数以上を再起不能とした。そのビームは、ハーフビーク級戦艦を一撃で轟沈せしめた。火星の一枚岩を分断して峡谷を作り、全身を分離させ全方位攻撃を可能とし、つい先ほども全軍の30%を蒸発させた。言うまでもなく、正真正銘のバケモノである。あれの性能は、まず間違い無く「四大天使」ミカエルを凌駕している。これほどの窮地に立たされた事は、厄祭戦にも無い』

 

ルシフェルの所業を並べた後、アグニカはルシフェルの向かってくる宇宙を見据える。

その陰は見えぬものの、圧倒的なプレッシャーが伝わって来る。

 

『ここで、俺はウリエル戦でもミカエル戦でもガブリエル戦でも言った事を繰り返すしか無い。――「()()()()()()()()()()()」と』

 

バエルは右手で握っていたヴァルキュリア・ブレードを引き抜き、その黄金の剣で地球を指し示す。

続いてドルトコロニー群を指し、最後に火星を示した。

 

『約80億人。それが、現在の人類の総人口だ。厄祭戦直後の約30億人から、ここまで回復した。厄祭戦直後は困難であった生活圏の維持も、何とか可能となって来た所である。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

火星を指していた剣を持ち上げ、バエルは剣を正面へと振り下ろす。

剣をそのまま停止させ、ルシフェルを指した。

 

『話は至極単純だ。我々が勝てば人類は存続し、我々が負ければ人類は滅亡する。ただそれだけのシンプルな結末(エンド)を、変えるのが我々だ! 故に、我々に敗北は赦されない! 我々の敗北は、人類の滅亡(デッドエンド)に直結するのだ!』

 

ダインスレイヴ隊が配置につき、ラスタルが号令の準備をする。

各艦も砲座を用意し、全軍が一層引き締まる。

 

『ゆめ忘れるな、人類の守り手(ギャラルホルン)よ! この戦いは、人類全ての運命を動かす――天使と人類、最期の殺し合いである! 何としても、天使王を倒すぞ!!』

 

剣を斬り払いながら――アグニカはこう締めた。

 

 

『「天使王」ルシフェル討伐作戦――「天使王殺し(オペレーション・ヴィシュヌ)」、状況を開始せよ!!!』

 

 

その声と共に、ラスタルが号令を発する。

 

『ダインスレイヴ隊、放て!』

『ギャラクシーキャノン、発射ああああ!!』

『やれやれ…やるしかないか』

 

ダインスレイヴ隊、フラウロス、アモンが長距離射撃を開始した。

それに合わせて、MS部隊が一斉展開する。

 

ダインスレイヴの弾頭が飛び、ルシフェルに直撃する。

 

『――ほう、先制とは。良かろう』

 

ダインスレイヴが直撃したとて、ルシフェルのナノラミネートコートを破る事は出来ない。

ルシフェルは身体を分離させ、四方へと飛散した。

 

「ダインスレイヴとビーム来るぞ! 全軍、シミュレーション通り行動せよ!」

 

アグニカの指示が飛んだ一瞬後、ルシフェルのビームとダインスレイヴが放たれる。

それに対し、バエルはダインスレイヴを全て叩き落とした。

しかし、ビームは幾つかの艦に直撃し――艦隊のあちこちで、爆発の光が輝く。

 

『フン、小癪な事だな』

「何とでも、言いやがれ!」

 

アグニカが言い返すと、ギャラルホルン艦隊の遥か背後から桃色のビームが飛来した。

 

『!』

 

それはルシフェルのパーツの1つに直撃するが、謎の力場に弾かれてしまう。

 

「あれは、『Iフィールド』か!」

『――それは、何なのかしら?』

「宇宙世紀時代に造られた、ビームを弾く力場だ」

 

より正確に表すならば、ミノフスキー粒子に電磁場を流すことで生じる磁力系力場のコトである。

ビームを偏向する特性を持ち、これを発生させてビーム弾体を逸らす事によって、ビーム兵器に対する絶大な防御を発揮する代物だ。 

 

『――まさか、このビームは』

 

ビームを受け流したルシフェルだったが、その声音は先程に比べて低い。

いささか動揺したらしく、動きが一瞬鈍る。

 

そして、それを逃すアグニカ達ではない。

 

「よっ!」

 

ナノラミネートコートを斬り裂き、バエルはパーツに穴を作る。

そこに電磁砲で追撃をかけて、続くダインスレイヴの攻撃とガンダムの集中攻撃を仕掛ける。

 

しかし、そう簡単には行かない。

ルシフェルの翼から何十本ものワイヤーブレードが飛び出し、接近した機体を吹き飛ばして行く。

 

ただし、バエルを除いて。

 

『速いな』

 

傷を付けられたルシフェルのパーツに、再び彼方からのビームが直撃する。

今度は2発が連続して放たれたらしく、1発は弾かれたもののもう1発はパーツに届き爆発を起こす。

 

『や、やったのか…!?』

「まだだ! 気を抜くなよ、後7つ程壊すんだからな!」

 

バエルは、早速次のパーツへ飛翔する。

しかし、ルシフェルとて黙って自らの翼を潰されるハズも無く。

 

頭部を除く全てのパーツからワイヤーブレードを触手のように伸ばし、固まって艦隊へと突撃した。

回転しながら突撃して来る為、艦隊の攻撃はルシフェルに届かない。

ガンダム達も斬り掛かるが、ルシフェルは止まらない。

 

ルシフェルの攻撃が、艦隊に突き刺さる直前。

 

『――!』

 

パーツが分離し、急遽反転して戻り始めた。

何故か。

 

『貴さmッ!』

「よっ!」

 

ルシフェルの頭部を、バエルの剣が叩いたからだ。

剣はナノラミネートコートを斬り裂き、ルシフェル頭部のビーム砲を破壊した。

 

バエルは続けて左で剣を突き出し、ルシフェルの頭部を貫こうとする。

しかし、その途中で何かにぶつかったように突きが止まる。

 

「!」

 

刺さった剣を斬り上げた後、バエルは再び剣を振り下ろす。

だが、また何かに弾かれ――左手に握られたヴァルキュリア・ブレードが、半ばからへし折れた。

 

「、な…!?」

『甘いな!』

 

ルシフェルの翼パーツが逆行して来て、バエルにダインスレイヴを放つ。

その攻撃を、バエルは僅かに上昇して身体を捻る事で回避。

続いてルシフェルの胴体が放ったビームも間一髪でかわしたものの、右手のヴァルキュリア・ブレードはそのビームに呑み込まれ――あっさりと溶け消えた。

 

「チィ…!」

 

無数のワイヤーブレードで追撃を掛けて来たが、折れた剣を振り回し――左の剣を投げつけつつ、バエルはルシフェルのワイヤーブレードの射程から脱出する。

ルシフェルは各パーツからのビーム攻撃で追撃しようとしたが、艦隊からのダインスレイヴを含めた一斉攻撃と遠方からのビーム攻撃に晒されて防御態勢を取った。

 

超強力なIフィールドが展開され、実弾攻撃を全て無効化する。

しかし、ビーム攻撃までは完全に弾けずルシフェルの態勢が揺らぐ。

 

『むう…!』

「全軍、追撃行くぞ!」

 

バエルは柄だけとなった右手の剣を放棄し、両手で背部に懸架されたバエル・ソードを抜き放つ。

それぞれの剣は振られながら黄金の弧を描き、太陽光を反射して光り輝く。

 

バエルは双眼を赤くし、ルシフェルに吶喊する。

バエルに続き、他のガンダムも一斉攻撃を仕掛けに行く。

ルシフェルはワイヤーブレードを振り回し、ガンダム達をあっさりと弾き返す。

 

しかし、その中でバルバトスは攻撃をかいくぐり――ルシフェルの翼の1つに、巨大メイスを思い切り叩き付けた。

 

叩かれたナノラミネートコートが、衝撃を逃し切れず大きく凹む。

そこにバルバトスはテイルブレードを刺し、フラウロスが続いてダインスレイヴをぶち込み、グシオンとバルバトスがそれぞれ鈍器を叩き付けた。

ルシフェルのナノラミネートコートが完膚なきまでに破壊され、翼が爆発する。

 

『よっしゃあ!』

『こうすりゃ、何とか通るか』

『次行くよ昭弘、シノ。片っ端から破壊する』

 

他のガンダム達も負けてはいない。

 

キマリスがドリルランスを突き刺して回転させ、ルシフェルの翼と火花を散らす。

追撃としてキマリスはドリルニーをぶつけ、出来た穴をパイモンが刀で押し広げ、アスモデウスの槍がそこに突き刺さった。

翼は内部をズタズタにされ、爆発する。

 

ベリアルが全方位から翼に大剣を叩き付け、そこをすかさずレラージュリアが剣で斬り裂く。

やがてナノラミネートコートはひび割れ、ルシフェルの翼は粉々に砕け散る。

 

ヴィネが鉄球と鎌で立て続けに同じ場所へ攻撃し、そこに出来たわずかなヒビにアモンが狙撃した。

それを繰り返す内、ルシフェルの翼が爆発する。

 

バエルは翼から伸びるワイヤーブレードを全て斬り捨てた後、それによって生まれた死角に剣を突き刺し――粉微塵に斬り裂いた。

 

『――ほう。だが、これならばどうだ?』

「、しまっ――」

 

ルシフェルは胴体のビーム砲を充填し、撃ち放つ。

その先には――カルタの乗る、ガンダム・パイモンが在る。

 

『なn…きゃっ!?』

『カルt…何!?』

 

ビームに呑み込まれる直前のパイモンを、マクギリスのアスモデウスが勢い良く突き飛ばした。

退避は間に合わず、アスモデウスの半身がビームに呑み込まれる。

 

『マクギリス!?』

『ッ、ぐ…!』

 

バエルがルシフェルの胴体パーツをブッ叩いた事により、ビームの掃射が中止される。

しかし、ビームはアスモデウスの下半身を蒸発させており――背部に伝わった熱が、バックパックを爆発させた。

 

『そんな、マクギリス…!?』

『マクギリス…!』

 

大破したアスモデウスに、パイモンとキマリスが取り付く。

そこに、ルシフェルの翼パーツが近寄ってワイヤーブレードを展開させた。

 

『うおおおおあああ!!』

 

3機に向けて伸ばされたワイヤーブレードを、ガンダム・プルソンの拳が叩き落とした。

続いて伸ばされるワイヤーブレードの攻撃を、プルソンは腕を交差させて防御する。

 

『イオク様、お下がり下さい!』

『今援護を致します、イオクsがっ!?』

 

イオク親衛隊がイオクを援護すべく動くが、ルシフェルのワイヤーブレードに叩き落とされて行く。

 

『下がる訳には行かん! 私とてクジャン家の男、セブンスターズの一席を預かる者だ!』

『――イオク・クジャン、貴方…』

『退避を! 長くは持ちませぬ!』

 

ガエリオはイオクの言葉に従い、アスモデウスを連れて退避した。

それを見届け、イオクはルシフェルの翼に向き直る。

 

『まさか、この私を圧倒するとは…だが、盾の役割くらいは果たさせてもらう! 人類の勝利の為!』

『いえ、なぶり殺されても無駄死なので生きてて下さい』

『全くだ。イオクよ、戦場では死を覚悟するな。生きる覚悟をして、戦いに臨め』

 

ジュリエッタのレラージュリアと、ラスタルのベリアルがプルソンを襲うワイヤーブレードを斬り捨てた。

 

 

 

 

戦闘の光を後目に、幼なじみ組の3機はMS部隊に守られながら後方へと下がる。

ガエリオはキマリスでアスモデウスのコクピットをこじ開け、キマリスのコクピットから出てアスモデウスに乗り移る。

カルタは乗り移らず、アスモデウスと接触回線を開く。

 

「――マクギリス」

 

コクピットにも、損傷が及んでいた。

マクギリスの身体には、破片が幾つか突き刺さっている。

 

「マクギリス、何故カルタを庇った? カルタを謀殺しようとし、結果的に昏睡へと追い込んでグウィディオン艦隊の実権を奪ったのはお前だろう」

「……フ、何故かな。俺にも分からない――俺は何故、そのような事をした? 俺はカルタを貶め、権力もその脚も奪ったのにな」

 

弱々しい声で、マクギリスは疑問を抱いた。

 

ガエリオは、思わずマクギリスから目を背ける。

すると、マクギリスの背中からパイプが伸びており――アスモデウスに繋がっているコトに気付いた。

 

(阿頼耶織…! バエルに乗るためのモノか…)

『――マクギリス。貴方は…一体、何を目指していたの?』

 

カルタが、通信越しにマクギリスに質問を投げる。

唐突な問い掛けだが、それは…マクギリスの死を間近に感じたからか。

 

「――俺は、アグニカ・カイエルを目標として生きて来た。アグニカの思想、アグニカの力、アグニカの存在。全てに憧憬を抱き、俺はいつからかアグニカ・カイエルになりたいと願うようになった」

 

マクギリスが、その目的を話し出す。

 

彼もまた、孤児達(オルフェンズ)の1人だ。

恵まれぬ孤児として生まれ、男娼としてイズナリオ・ファリドに引き取られ、養子としてファリドの名を得た。

それからも何ら変わらなかった境遇にあった時、マクギリス・ファリドは「アグニカ叙事詩」と出会ったのだ。

 

「その最終目標として、バエルの入手を掲げた。そして、俺はボードウィン家とイシュー家の跡取りに接触し――それを利用して、ここまで辿り着いた。だが、俺の野望は他ならぬアグニカ・カイエルによって阻まれた。づッ…! ――その光景は、俺の目指すべきモノだった。…俺はその時、自分が正しかったと確信した…俺は、人生の目標を見失った。俺の人生の目的は、達せらr」

 

バコオン、と。

ガエリオはマクギリスの胸倉を掴み、あろうことか頭突きを食らわせた。

 

『ガエリオ!?』

「まだだ、まだ死ぬなマクギリス。まだ、()()()()()()()()()()()()。まだ助かる。生き延びて、決着を付けるぞ。今度はアインの手を借りず、正真正銘の真剣勝負だ」

「――フッ。ここに至って、なお…お前は、そうなのか…ガエ、リオ…」

 

微笑を浮かべたまま、マクギリスは意識を失った。

ガエリオの言った通り、マクギリスは助かる。

撃たれても復活するのだから、この程度はどうとでも治療出来る。

 

『…マクギリスの部下、石動・カミーチェ』

「マクギリスは任せた」

『――御意に』

 

石動のヘルムヴィーゲ・リンカーがアスモデウスをキマリスから受け取り、速やかにグウィディオン艦隊の旗艦「フェンリル」へと帰投した。

 

 

 

 

ルシフェルの翼が縦横無尽に飛び回り、ワイヤーブレードやビーム、ダインスレイヴによって戦線が崩れて行く。

アスモデウスを石動に預けたガエリオとカルタも前線へと戻ったが、戦局は芳しくない。

アグニカのバエルも飛び回って攻撃しまくっているが、戦局の打開には至らない。

 

『ダインスレイヴ隊、三時の方角へ放て! 敵のビーム砲は決して撃たせてはならん!』

『動きを止めるな! その隊は向こうに回れ! ここはオレが引き受ける!』

『損傷したモノは随時帰投し、装備を立て直せ。マトモに動けぬのに戦場に残られては、狙撃の邪魔になる』

 

その圧倒的不利な戦局を支えていたのが、ラスタル・エリオンとディジェ・バクラザン、トリク・ファルクである。

自らも動いて時折出撃されるプルーマを撃ち落としつつ、小隊単位で指揮を出して前線の崩壊を阻止させる。

 

鉄華団は遊撃隊として、アグニカと共にジワジワとルシフェルの戦力を削って行く。

ナメプしているのか、ルシフェルは自己再生機能を使っていないようだ。

 

そして、決め手はガンダム・ソロモンによる長距離狙撃ビームである。

ルシフェルパーツの大半はこれに狙われ、撃墜されている。

 

やがて、ルシフェルの戦力は減って行き――いつしか、胴体と頭部のみになっていた。

 

『――ならば、ここからは私も本気で行こう。貴様らを全て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

残されたルシフェルの頭部が分解し――いや、()()()()()()()M()S()()()()()()()()()()

 

それに呼応するかのように、他のパーツの残骸からも無傷のMSパーツが現れる。

胸部に「X」と刻まれたパーツを中心とし、それらのパーツが次々と合体して行く。

 

「――『四大天使』ラファエル…いや、ガンダム・ソロモンのデータに間違いは無かったか」

『…教官…―()()()()?』

 

僅かながら震えた声で、三日月はアグニカに問う。

アグニカは張り詰めた声を出し、こう答えた。

 

 

 

「『Concept-X 6-1-2』、ターンX。外宇宙から飛来したとさえ伝えられる、最強のMS――」

 

 

 

ルシフェルを構成していた、1機のMS――ターンXは、その双眼でバエルを睨み付けた。

 

『さあ、最終局面だ。人類、そして∀よ。このターンXと言う最大最悪の脅威を目前とし、如何に選択する?』

 

ターンXは両手を広げ、右足を曲げて左足を延ばした命のポーズを取り、人類に選択を迫る。

その最悪の選択肢を突き付けられたアグニカは。

 

「全軍、速やかに後退せよ。撤退するのだ」

『――アグニカ!?』

()退()()()()()()()、と言ったのだ。殿(しんがり)は俺がやる」

 

バエル・ソードを構え直し、アグニカはターンXを見据える。

 

『…教官、死ぬつもり?』

「――行け」

 

短く言って、バエルはバルバトスを蹴り飛ばす。

バエルはその反動を利用し、スラスターを全開にしてターンXへと挑んだ。

 

『――ッ! 全軍、撤退せよ!!』

 

ラスタルが指示を出すと、アリアンロッドだけでなく反射的にグウィディオンも撤退行動へと移る。

 

『退くぞミカ! 昭弘とシノも戻って来い!』

 

鉄華団も、オルガの指示で撤退を開始した。

前線に出ているガンダムに、オルガは撤退命令を出した。

 

『ダメだよオルガ、教官がまだ戦ってる。見捨てるつもり?』

『――アラズさんの捨て身を無駄には出来ねえ。それに、オレ達の死に場所はここじゃねえだろ。オレ達は進み続けるんだ。ここで止まれるかよ』

『……』

 

バルバトスはスラスターを吹かし、イサリビのいる方角へと撤退した。

続いて、グシオンと流星号(フラウロス)も引き上げる。

 

かくして、ギャラルホルン艦隊と鉄華団は戦場から速やかに撤退した。

 

 

 

 

『フン――』

 

「天使王」ルシフェル…ターンXは、撤退して行くギャラルホルン艦隊を一瞥し、すぐに突撃して来るバエルへと向き直った。

 

「これが最期だ。行くぞ、バエル!!」

 

アグニカが叫ぶと、バエルが呼応してその双眼が赤く光り輝いた。

そのエネルギー源となるエイハブ・リアクターが急速回転を開始し、生み出された余剰エネルギーがバエルの全身から漏れ出る。

 

(何? あれの中枢は頭部だと言うか、バエル。――分かった)

 

バエルの情報に従い、アグニカの駆るバエルはターンXの頭部に左手で剣を振り下ろす。

ターンXは右腕の溶断破砕マニピュレータを展開して巨大なビームサーベルを形成し、その攻撃に対抗する。

ターンXのビームサーベルと打ち合ったバエル・ソードは為す術なく、あっさり溶断された。

 

「ッ、らァ!」

 

バエルは溶け折れた剣を突き出し、ターンXの右腕に有るビーム発生器に刺す。

ビームが一瞬消え、その僅かな隙にバエルはターンXの懐に飛び込む。

バエルは右手のバエル・ソードを、ターンXのメインカメラに突き刺した。

 

『ッ!』

 

メインカメラを潰されたターンXの動きが、ほんの一瞬鈍る。

その間にバエルはターンXから一旦距離を取り、スラスターを再び全開にして通りすがりざまに頭部に剣を叩きつける。

逆噴射を掛ける事なく反転し、再び剣を振るう。

それを幾度となく繰り返すバエルに、ターンXは翻弄される。

 

『――フ』

 

だが、そもそもの性能に於いてバエルとターンXでは天と地ほどの差が有る。

 

ターンXに当たり続けていたバエルの剣はやがてひび割れて半ばから折れ、ターンXの左手が通りすがりにバエルの頭を掴んで捉える。

ターンXの両肩からビームが放たれ、バエルの翼が破壊された。

 

「、うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

折れた剣を廃棄し、バエルは全身に残されたバーニアを吹かしてターンXの頭部に張り付く。

空いた右手でターンXの角の片方を掴み、姿勢制御を掛ける事なく頭突きをぶち込む。

 

『――!』

 

バエルは左膝に取り付けたアガレス・ライフルを、左手でホルスターから引き抜き――ターンXの頭部に銃口を叩き付け、ゼロ距離射撃を敢行した。

弾を何発とぶち込まれたターンXが、頭部から煙を漏らす。

 

『おのれ、人間などにこのターンXが…!』

 

ターンXの左手が、恐るべき力でバエルの頭部を握り潰す。

そのままターンXは足を振り上げ、バエルの腰を蹴って角を掴んでいた右手ごと自身から引き剥がす。

 

間髪入れずに背部のプラットフォームからビーム・ライフルを左手で引き抜き、バエルを撃つ。

バエルの左足と左手が、ターンXのビーム・ライフルによって破壊された。

 

 

だが、バエルは止まらない。

 

 

「おおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

バエルの右手が動き、右膝のホルスターからアガレス・ナイフを引き抜く。

同時に、ターンXの全身が分離した。

だが、アグニカはそれに構わず――アガレス・ライフルによって出来たターンXの頭部の傷に、アガレス・ナイフを渾身の力を込めて突き立てた。

 

『ご、が――!!』

 

ターンXの分離した身体パーツがバエルを囲み、ビームを放つ。

全身のナノラミネートアーマーが容易く溶かされ、フレームやコクピットにもその熱が及ぶ。

ターンXの胴体パーツが、バエルに背部スラスターベーンを向け――

 

 

そこから、全てを崩壊させるナノマシンが散布された。

 

 

 

 

 

 

「……………あ」

 

ガンダム・バエルが、分子レベルで分解される。

アグニカ・カイエルが、分子レベルで分解される。

腕、足、胴体、頭部、脳髄――その全てが、瞬く間に崩壊して行く。

圧倒的な破壊。

一個体、一種族、一文明が抗えるハズも無い光。

 

 

「月光蝶」と呼ばれる、全ての人類史――その文明を埋葬する、破壊の奔流。

 

 

それに晒され、全てが人の手で造られたまま動いたアグニカ・カイエルは崩壊して行く。

側に在ったコクピットブロック、そこにいた大悪魔バエルの存在を認識出来ない。

否――認識する為の機能など、とうの昔に破壊されて久しかった。

 

アグニカ・カイエルは、もはや原型を留めず――髪の毛の1本さえ残さず、この光によって消え去るだろう。

 

(――ここまで、か)

 

アグニカは、そこで自身が死ぬコトを理解し受け入れた。

あまりにあっさりと、自身の死に納得した。

まるで、死ぬ事が分かり切っていたかのように。

 

クソのような時代に生まれ育ち、しかし奇跡の出逢いと宿業の別離(わか)れを経て、それから肉体を失ってなお動い(いき)て来たたった孤独(ひとり)の人間――血塗られし運命に弄ばれた、男の人生。

そんな彼の人生、その終着点こそがこの光の中だった。

 

破壊の光に視界が覆われ、白く塗りつぶされる。

その中に、彼は――喪ってなお愛し続けた者の姿を見た。

 

「………………やっと、お前に逢えるのか」

 

彼は、最愛の彼女に手を伸ばす。

しかし、その手は届かない――もう、崩されて消えていたから。

 

 

「スヴァ、ハ…今度は、お前と――」

 

 

懐から写真が舞い上がり、彼の視界に入り込む。

それを最後に、彼はその意識を光に呑み込まれ――やがて、途絶えさせられた。

 

 

アグニカ・カイエル/アラズ・アフトル。

伝説の英雄と呼ばれたその人間は、最期の最後に。

誰よりも愛しながら、最後まで守るコトの出来なかった人を想って逝った――




アグニカポイント新規取得
アグニカ・カイエル 1,590AP
三日月・オーガス 90AP
昭弘・アルトランド 90AP
ノルバ・シノ 90AP
カルタ・イシュー 60AP
マクギリス・ファリド 90AP
石動・カミーチェ 10AP
ガエリオ・ボードウィン 60AP
ラスタル・エリオン 60AP
ジュリエッタ・ジュリス 560AP
イオク・クジャン 60AP
イオク親衛隊の皆様 10AP
ディジェ・バクラザン 60AP
トリク・ファルク 60AP
グウィディオン艦隊のMS部隊の皆様 10AP
アリアンロッド艦隊のMS部隊の皆様 10AP


オリジナル設定解説のコーナー。

ラファエル
全長:183.0m
本体重量:不明
動力源:■■■■■(■■■)×2
武装:無し
特殊機能:万物修復
搭載機:ASW-G-00 ガンダム・ソロモン
概要
「四大天使」の一角とされるMA。
攻撃武装を一切持たず、ナノマシンによる「万物修復」の機能を持つ機体。
この特殊機能の応用により原子レベルで放射能が分解出来たので、汚れた海は美しく浄化された。
ガブリエルに造られたモノではなく、このMAのみガンダム・フレームの開発者であるスリーヤ・カイエルが建造した。
現在は海に沈んでおり、ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の「バエル宮殿」の真下に隠されている。
バエルが安置されていた場所の近くにあるコンソールを用いるで、意思疎通を可能とする。
内部には、スリーヤ・カイエルが発見した1機のMS「ASW-G-00 ガンダム・ソロモン」が隠されている。
名前の由来は、旧約聖書「トビト記」の「エノク書」に記される大天使「ラファエル」から。
この名には「神は癒される」「癒やす者」と言った意味が有り、名の通り癒やしを司るとされる。

∀ガンダムについて。
ゲスト出演。
みんな大好き、おヒゲのガンダム。
スリーヤ・カイエルが拾い、名を「ガンダム・ソロモン」としてラファエルの素体とする事で隠匿されていました。
今回の戦いでは、ビームライフルを長距離射撃モードにしてルシフェルを狙撃しています。
まさしく、「天使王」ルシフェル(ターンX)への切り札。

ターンXについて。
ゲスト出演。
みんな大好き、∀のお兄さん。
「天使王」ルシフェルの中身です。
勝てない(確信)ですが、∀がいれば落ち着きます。
ちょーっとだけ、文明が滅びたりしますけど。


内容に関しては――うん、これは評価が酷くなりそうな予感。
主にターンタイプ関連で酷評を食らいそうですな。
まあ、後1話と蛇足だけだし別にいいや。


次回「変革す(かわ)る世界(予定)」
最終話となります。


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#60(Final) 変革する世界

タイトルは「変革す(かわ)る世界」と呼んで下さい。
最終回でも特殊読みって…まあ、いいや。

そんな感じで、いよいよ最終回です。
では、どうぞ。


「ターンX」と言うらしい機体の背中から、鮮やかな光がバエルに向かって解放された。

僅か数秒後の解放が終わり、光が霧散して消える。

 

『――ウソ、だろ…?』

『…教官――』

 

バエルがいたハズの場所には、何も存在していなかった。

ここで、鉄華団とギャラルホルンは何となく察してしまった。

 

 

あの光に呑み込まれ、ガンダム・バエルとアグニカ・カイエルはチリも残さず消滅した――と。

 

 

ターンXの四肢と頭部が、再び胴体に接続される。

アグニカの捨て身の攻撃を以て、ターンXの頭部は甚大な損傷を被ったが…すぐにナノマシンが、頭部の傷を覆い隠した。

 

『――やってくれたモノだ。如何に戯れていたとは言え、私のIフィールドとナノスキン装甲を突破したか。ある程度楽しんで撤退するつもりだったが、気が変わった。()()()()()()()()()()()()

 

そう言って、ターンXが再び月光蝶を発動させようとした瞬間。

 

 

ターンXに、∀ガンダムが激突した。

 

 

『な、に…!? ∀だと!?』

『ターンX、下がれええええええええ!』

 

∀とターンXが、∀の発生させた桃色の光に包まれ――どこかへ、跳躍(ワープ)した。

 

『……消えた?』

『――終わった、のか…?』

 

かくして、人類の危機は去った。

人類は、最悪の事態を避けられた――大きな犠牲を払って、であったが。

 

 

 

 

地球は言うまでもなく、火星や木星、土星からも大きく離れた太陽系第七惑星――天王星。

地軸が傾いたまま自転、公転しているその惑星の周辺に、∀ガンダムはターンXもろともワープした。

 

∀に搭載された、空間転移能力である。

 

『――このような場所まで私を飛ばして、どうしようと?』

『無論、アナタを止めます。ここならば、全力を出したとて火星にも被害は及ばない』

 

ターンタイプのMSに搭載された「月光蝶」は、最大出力ならば地球から木星まで届くと言われる程に膨大な効果範囲を持つ。

それによる人類文明への影響を、∀は懸念した。

 

『――成る程。何故その転移能力で私に即時攻撃を仕掛けぬのかと疑問視していたが、距離を稼ぐためにエネルギーを温存したか。確かにここならば、文明を埋葬する憂いも無い』

『ええ。ですが、疑問が有ります』

『言ってみるが良い。兄として、弟の質問には答えねばな』

 

天王星を傍目に、∀はターンXに問う。

 

『何故、人類を滅ぼそうと? まさか、あのガブリエルとやらに誑かされたワケでも無いでしょう?』

『フ、そんな事か。無論、私があのような欠陥品に踊らされるハズも無い。だが、奴は私に協力した。最低限の義理立てはするさ』

『――それにしては、随分熱心ですね。天の火(カイラスギリー)まで持ち出すとは』

 

それだけではないだろう、と∀はターンXを見据える。

 

『だが、勿論それだけではない。私は、人類の行く末を見定めんとする。太古より、人類は争い続けて来た。文明レベルの後退など、何度起こったか数えるのもバカバカしい。此度も、ガブリエルが私の眼を覚めさせた』

 

ターンXは瞳を輝かせ、苛立つように言った。

 

『――文明レベルの後退は、有って然るべきモノです。行き過ぎた文明は身を滅ぼす、ならばリセットする事も必要でしょう? それを促進させる文明のセーフティーが、私達の持つ「月光蝶」ですから。しかし、何度文明を後退させても人類は再び文明を造り上げる。今はその途上に有り、文明のリセットは愚か人類を滅ぼすなど下らない』

 

対する∀は、ターンXの理論を否定する。

しかし、ターンXがその反論を苦笑によって笑い飛ばした。

 

『私の目的が、人類を滅ぼす事だと? ()()()()()()()()()、我が弟よ。その行為はあくまで、ガブリエルへの義理立てだと言ったハズだぞ。私の目的は、戦闘を通し()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今の世界で最も強い存在であった、アグニカ・カイエルを被検体として。そして確信した――あの闘争心は危険だ。なれば、それに影響された者達を一掃するのは当然だろう』

 

さも当たり前であるかのように、ターンXはそう断言した。

人類の運命を左右する、神であるかのように。

 

『――やはり、貴方とは相容れないようですね』

『フ』

 

∀はビームライフルとシールドを背部に格納し、両肩からビームサーベルのグリップを射出して両手で掴み取る。

それを∀が構えると、細いプラズマ粒子が形成されて(サーベル)と言うよりも刺突剣(エストック)と言うべき形状となる。

 

対してターンXは右手の溶断破砕マニピュレータを少し開き、∀とは対照的な太いビームサーベルを生み出す。

 

そして、言葉もなくターンタイプは激突した。

謎の光が撒き散らされ、しばらく地球から天王星方面の観測が出来なくなったらしいが――それが何なのか理解出来る者は、存在しなかった。

 

 

 

 

「天使王」ルシフェルとの戦闘から、2日。

ギャラルホルンより、全世界にアグニカ・カイエルの戦死が発表された。

そして、その後にセブンスターズ会議が緊急で開かれた。

この会議は年配のセブンスターズ当主は参加せず、若き次期当主達が椅子に座っている。

 

このセブンスターズ会議場も、じきに改装されて角笛議会の議場となる。

これは正真正銘、最後のセブンスターズ会議となるだろう。

 

「お前達は何を言っているのだ? 無礼はそこまでにしておけ。あのアグニカ・カイエルが、ルシフェルと引き分けて戦死だと? 笑えない冗談だな」

 

しぶとく復活して会議に出席したマクギリスが、そう笑い飛ばす。

とは言ってもその怪我は深く、全身に包帯が巻かれているが。

 

アグニカが死ぬなど有り得ない。

アグニカはあらゆる力を誇る、彼に取って最強たる存在であり――ヒーローだったのだ。

それが負けたと知らされて、マクギリスは笑い飛ばすしか出来なかった。

 

だが、彼とて理屈では理解している。

ただ単純に、感情で納得出来ないのだ。

 

「准将。残念ながら、事実です。私は見ました――ガンダム・バエルが、消滅する瞬間を」

 

マクギリスの背後に立っていた石動が、マクギリスにそう耳打ちする。

信頼する部下である石動の言葉を聞いても、なおマクギリスは受け入れない。

 

「マクギリス・ファリド。現実から目を背けるのは止めろ。お前が如何に否定しようとも、アグニカ・カイエルが戦死したと言う事実は変わらない。その事実を精査するのは、この会議の本分ではないだろう」

 

見かねたラスタルが、マクギリスにそう告げる。

対するマクギリスは突っかかろうとしたが、自制心を働かせてなんとか押さえ込む。

その隣に座っているガエリオが、ラスタルに続いて議題を述べる。

 

「俺達が議論すべきは、アグニカ・カイエルを喪失したままでどう改革を進めるかだろう。一度発表して使節団まで組織した以上、ギャラルホルンの改革を取り止めるコトは出来ない。反対する者も、ここにはいないだろう?」

 

ガエリオの唱えた議題に、その場の全員が頷く。

それに続けるように、カルタが方策を提案する。

 

「各経済圏への使節団代表は、アグニカ・カイエルに代わり私ことカルタ・イシュー一佐とディジェ・バクラザン二佐。ここにトリク・ファルク二佐も加えて、鉄華団にも引き続き護衛を継続して頂くわ。ここについて、意見はおありですか?」

 

反論は無い。

カルタの意見が可決されたコトを確認し、マクギリスが意見を出す。

 

「組織再編に伴うヴィーンゴールヴとグラズヘイムの改築は、私の地球外縁軌道統制統合艦隊が取り持とう。ラスタル・エリオン司令官の月外縁軌道統制統合艦隊には、組織再編が終わるまでの各基地の人事とテロリストが現れた緊急時にはその鎮圧も行って頂きたい。ボードウィン家には、ファリド家の援助を」

「請け合おう。今は互いの組織の利害関係を考慮している場合ではない。かつてアグニカ・カイエルと共に戦場を駆けたセブンスターズの末席として、ギャラルホルンの改革は成功させねばならないのだ」

「――分かった」

 

各経済圏との交渉はイシュー家、バクラザン家、ファルク家。

施設の改築はファリド家、ボードウィン家。

それ以外の雑務はエリオン家、クジャン家の仕事となる。

 

「しばらくは混乱も生じるだろう。だが、必ず良くなると信じて――全力を尽くそう」

 

 

 

 

会議は終了した。

カルタ、ディジェ、トリクはすぐにSAUに経たねばならない。

マクギリス、ガエリオ、ラスタル、イオクもしばらくは仕事に忙殺されるだろう。

 

「マクギリス」

 

さっそく仕事が入ったマクギリスを、同じく仕事の有るガエリオが引き止める。

忙殺されるコトで、約束した決着もギャラルホルン組織再編完了まで持ち越しだ。

 

「――ファリド家とボードウィン家は、共に設備改築を担う。アグニカ・カイエルの意志であるギャラルホルンの再編、成し遂げるぞ」

「…ああ」

「そしてその後、決着を付けよう。いつになるかは分からんがな」

 

それに、ガエリオは頷いた。

この因縁の戦いが、どうなったかを知る者は僅かしかいない。

ただ――ファリド家とボードウィン家は、他の家よりも早く仕事を終わらせたとか。

 

 

 

 

―Epilogue―

 

 

ギャラルホルンの地球外縁軌道統制統合艦隊(通称、グウィディオン艦隊)と月外縁軌道統制統合艦隊(通称、アリアンロッド艦隊)、アグニカ・カイエル率いる使節団とそれを護衛していた鉄華団が最後のMA「天使王」ルシフェルと交戦してから、およそ半年後。

 

年が明けた、P.D.0326年。

 

『アフリカンユニオン、アーブラウ、オセアニア連邦、SAU。これら既存の経済圏に加え、コロニー群と火星。この6つを新しい経済圏と定め、ギャラルホルンを加えて「角笛議会」を組織致します。今は亡き元ギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルの意志と方針に基づき、我ら新生ギャラルホルンは世界協調のため各経済圏同士の橋渡しとなるコトを宣言します!』

 

ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」には各経済圏の首脳が招かれ、角笛議会によって新生ギャラルホルン初代最高幕僚長に選ばれたカルタ・イシューによって「角笛宣言」が行われた。

ギャラルホルンの体制を示す「角笛憲章」も発表され、世界は対立と支配から協調と自由に向けて動き始めた。

 

大きな変革として、コロニー群と火星が独立した経済圏として認められたコトが有る。

それまでの四大経済圏の支配から脱却し、自治を認められたのである。

 

コロニー群の代表に、労働者を中心に若輩者ながらも圧倒的な支持を集めたサヴァラン・カヌーレが。

火星の代表に、「革命の乙女」として名を轟かせ選挙に圧勝したクーデリア・藍那・バーンスタインがそれぞれ就任した。

 

また、角笛宣言と同時にヒューマンデブリと宇宙ネズミを始めとした人身売買を禁止する「ヒューマンデブリ禁止条約」と各経済圏とギャラルホルンが行う「軍縮条約」が締結。

両者ともヴィーンゴールヴで、各経済圏の代表が調印した。

 

ヒューマンデブリ禁止条約は、かつてのセブンスターズの一員であったディジェ・バクラザンの。

軍縮条約は、同じくセブンスターズであったトリク・ファルクの主導の下で実現へと至った。

 

グウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の全面衝突を招いたマクギリス・ファリドとラスタル・エリオンを始めとし、ガエリオ・ボードウィンとイオク・クジャンも新生ギャラルホルンの重役には就けず、制裁として私財を全て取り上げられた上で左遷されたが――世界中に散らばった為、細かな部分まで手が回る。

故に、世界全体の秩序維持に一役買っている。

 

 

このように世界は、ゆっくりと自由平等の実現へと向かい歩みを始めた。

その道のりにはまだ、多くの困難が立ちふさがっているだろうが。

 

そして、鉄華団もまた――。

 

 

 

 

鉄華団。

ちっぽけな会社を乗っ取った所から始まったその組織は、今や大企業テイワズのNo.3と言っても良い程に拡大していた。

テイワズのNo.1は当然マクマード・バリストンで、No.2はタービンズを率いる名瀬・タービンである。

テイワズはそのシェアをどんどん拡大しており、火星のクーデリア・藍那・バーンスタインもその助力を得るコトが多い。

 

鉄華団は拠り所の無いヒューマンデブリや宇宙ネズミをメンバーとし、構成員はどんどん増えている。

がしかし、一般企業やタービンズ、テイワズや時にはギャラルホルンからも多すぎる程の依頼が来る。

その為にオルガ・イツカやユージン・セブンスターク、ビスケット・グリフォンなどの幹部は連日激務に追われており、ブラック企業並みに働いているとの噂が立っている。

 

「団長、これとこれとこれ――あ、これもです」

「副団長、これもお願いします」

「ビスケットさん、新しい依頼が246件です」

 

――いや、噂でなく事実だ。

 

オルガとユージンが向かうパソコンには、次々と団員がやってきてUSBをぶっ刺してデータを移して消えて行く。

ビスケットの所には様々な新しい依頼が数百件単位で届き、依頼人との面会であちらこちらへ行かなければならない。

そのお陰で、ビスケットの体重は急激なる減少傾向に有る。

 

「がああああ、やってられっかあああああ!」

「副団長、これお願いします」

「クッソおおお、こんなハズじゃなかっただろおおおおおお!?」

 

叫びを上げながら、ユージンは目にも止まらぬ速さで仕事を処理して行く。

叫びこそ上げないもののオルガも同様で、彼らはもうデスクワークが板に付いている。

 

「休むなよユージン、ミカがいない分はオレらがカバーするんだ」

「三日月の野郎、育休なんて取りやがって! 羨ましい限りだなオイ! おやっさんとメリビットさんも似たようなモンだし、昭弘はラフタさんとイチャついてるし!!」

 

そう。

三日月と雪之丞は育休、昭弘はラフタといい感じになってるせいで定時退社。

お陰で、それのカバーを行うべくオルガやユージンは毎日残業だ。

 

どれだけ仕事が飽和状態でも育休も定時退社も認められる――鉄華団は素晴らしく優良なホワイト企業である。

その分、偉い奴らが涅槃に旅立ちかけるコトもしばしばだが。

 

「それに比べて何だよオレ達はよ! 女の1人も出来やしない! なあオルガ、今日仕事片付けたらお姉さんがいっぱいいる店にイこうぜ!?」

「んだそりゃ…そもそもだユージン、そんなのに意味有んのか?」

「――無いですねチクショー! 金じゃ愛は買えないからな! アラズさんの話聞いたくらいで察してたよクソがああああああああ!! 女、オレを心から愛してくれる女をくれええええええええ!!」

 

血涙を流しながら、ユージンは仕事という彼女に向き直る。

強く生きろ。

 

 

一方その頃、基地の外では。

 

「っしゃあ、じゃ訓練始めんぞ! 身体が資本だ、身体が弱けりゃ鉄華団の仕事はやれねえ!」

 

シノが教官となり、新米団員達の体力訓練が行われていた。

 

「まずは基地10周! あのMWに付いてけ!」

 

ライドが運転するMWに続いて、団員達は走り出した。

苦情も飛んで来ていたが、そんなモノは軽く無視である。

 

「お疲れ様、シノ」

「おっすヤマギ、オメーこそ大変だな。オレはただ、アラズさんの真似してるだけだ。こんな感じだったろ?」

「うん、叫んでなかったけどね。あの人、厳しかったなあ」

 

ヤマギの感想には、シノも同意せざるを得ない。

 

CGS参番組の教官だったアラズは、新米団員が来た初日に基地10周と腕立て、腹筋、跳躍をそれぞれ100回課したのだ。

しかも、歩いたりタイムオーバーした場合は腹筋が20回増えると言うオマケ付きで。

ビスケットやタカキ、ヤマギと言った体力の少ない者は地獄を見た。

 

ちなみに、体力が多い者には腕立てが20回増やされた。

理不尽極まりない。

 

「まあ、あれはあれで後々役立ったしな。オレもビシバシ行くぜ」

「うん。頑張ってね」

 

 

一方その頃、クリュセ市内。

 

「ただいまー」

「あっ。お帰りなさい、三日月」

 

子供が出来た為に育休を取っている三日月が、アトラの待つ家に帰宅した。

お腹が重たくなってきたアトラの代わりに、買い出しに出ていたのだ。

 

「三日月、クーデリアさんがテレビに出てるよ。もうすぐ、火星に帰って来るって」

「へー。頑張ってるんだね、クーデリア」

「うん、クーデリアさんは凄いよね。と言うか、三日月はいい加減洗濯くらい出来るようになってよ。私、そろそろ動くのも面倒になって来ちゃったんだからね」

 

少し申し訳無さそうにしつつ、三日月はアトラの隣に座り込む。

アトラのお腹をさすりながら、クーデリアの動向を報道するニュースが流れるテレビに向き直った。

 

「あ、そうだ。名前決めないと。男の子だって」

「うーん…アトラはどんな名前が良い?」

「えっとね――三日月が決めた名前なら、何でも」

「名前、名前…『暁』とかどう?」

 

三日月が提案した子供の名前を、アトラは何度も口の中で転がす。

 

「――良い名前だね、三日月」

「うん。色々調べたけど、やっぱりこれが良いかなって」

「元気に会おうね、暁。――さて、今日もご飯作るよー! 名前も決まったし、今日は気合い入れちゃうぞ!」

 

勢い良く立ち上がってキッチンへ向かうアトラに続いて、三日月も立ち上がる。

テレビのニュースには、カルタと握手を交わすクーデリアの姿が有った。

 

 

 

 

世界は前進する。

呪われた厄祭戦から300年の時を経て、人類はようやく紛争も無い平和な世界へとたどり着いた。

人類の営みは、これからも続いて行くだろう。

 

如何なる逆境であれ諦めず、生き抜く――その想い、信念が未来へと(ねがい)を繋げる。

それこそが、人類の成して来た偉業であり。

命を賭してMAと戦った人間達の、信念そのものでも有ったのだから―――。

 

 

 

 

―END―




今作「鉄華団のメンバーが1人増えました」は、これにて完結です。
果たして大団円と言えるのかは、皆様の判断にお任せ致したいと思います。
もしかしたら、epilogueの追加とかはして補完するかも?


この後は正真正銘の蛇足コーナー「アグニカポイント獲得状況」の最終報告。
作者がちょっとした裏設定や小話、余談を挟みながら適当に作品全体を振り返る後書き。
これらを同時投稿し、更新終了とさせて頂きます。

ただ、この2つは別に読まずとも問題はございません

あくまでも蛇足と余談である、と言うコトを理解して頂いた上でお読みになられるかは皆様にお任せします。




そして、ここからは全体の後書きを読まれない方の為にご挨拶を。


語彙力が著しく低い、拙い作品でありましたが――ここまで読んで下さいまして、ありがとうございました。
このページへと辿り着いた皆様に最大級の感謝、圧倒的感謝を…ッ!

私は今書いているもう1つの作品(そもそもガンダム系じゃないのでスルー安定)が書き終わり次第、読み専門へと回ります。
なので、これ以外のガンダム系二次創作を書く事はまず無いかと。
時々感想を残して行ったりするでしょうが、その時は是非とも生暖かい眼でご覧下さい。

最後にもう一度言わせて下さい。
本当に、ありがとうございました!!


A.D.2017 12/09
NToz





まだ今作を読まれる物好きな方は、明日更新の「アグニカポイント獲得状況 最終報告」もお楽しみにネ♪


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おまけコーナー報告②
アグニカポイント獲得状況 最終報告


すいません。
本来は後書きと同時投稿する予定だったのですが、後書きがあまりに長くなってるので今日はこれだけです。
許して下さい、何でもしますから。


※このコーナーは蛇足です。本編の内容には影響致しません。
※フザケまくりです。深夜テンションは偉大。
※作者が普通にキャラと喋りまくり&メタ発言満載なので、ご注意下さい。苦手な方は速やかなるバック推奨です。
※そう言うのダメだけど結果は知りたいと言う方がいれば、お手数ですが感想欄までお願い致します。


運命の時きたれり、其は結果を表すもの(アグニカ・ポイント・リザルト)

――と言う、ソロモンの宝具的な切り出しは流して頂こう。

とにかく、無事に完結したコトで遂にやってきてしまったこちらのコーナー。

 

 

「アグニカポイント獲得状況 最終報告」

 

 

以前やった中間報告の分も含め、全ての数値を合計して最終結果を発表して行きます。

ポイントのカウントは、本編で描写が確認された所のみ。

カウントする範囲は「#01 謎の男」から「#32 伝説の英雄」、「#54 天使の残党」から「#60(Final) 変革す(かわ)る世界」となります。

 

ただ、問題が一つ。

かなり長くやった例のアレこと過去編で、アグニ会が誕生していなかった時期のアグニカポイントは算出していません。

つまり「#33 天使を造りし人間達」から「#53 厄祭戦、終結」までの範囲は、アグニ会が存在していない為カウント致しません。

なので、ぶっちゃけ変動は少ないんです。

 

全く持ってつまらない!!

何でこうなった、とツッコミましたが結果をねじ曲げる訳には行きません。

よって、今回は以前にも増して茶番(ネタ)が多いでしょうがご了承下さいませ。

素敵なゲストもお呼び致しましたし。

 

それでは以前の如く、ギャラルホルン本部基地ヴィーンゴールヴの一角に在るアグニ会――いや、新アグニ会の専用会議室へGo to Heaven's Feelしましょう。

 

――さあ、ゲームを始めよう。

これよりエルキアは、全世界に対して――宣戦を布告する!!

 

…ネタが全部分かる人、いなさそう。

まさにカオス、カオスこそこの最終報告…すまない、カオス過ぎてすまない…。

 

 

 

 

モリモリモリモリモリオウチョウ、レーディオー♪

 

皆様、おはようございまーす!

新鮮な朝をお届けする杜王町Radio、パーソナリティのNTozでございます。

読み方が分かんない? この後の全体後書きでルビ振りますので、ご心配遊ばされずどうぞ。

 

では早速、1人目のゲスト。

自己紹介せよ今すぐ、20字以内で簡潔に。

いや、俺もヒマじゃないんで。

 

「こんなモン書いてる時点でお前は暇人だわ。――アラズ・アフトル、もといアグニカ・カイエルだ。今回の『アグニカポイント獲得状況 最終報告』とか言う訳分からない企画に呼ばれた、強制的に。帰って良い?」

 

↑ダメです。

せっかくの最終報告なんだから、盛り上げは必要ですからね。

 

「待って、冗談抜きで嫌なんだが。そもそもどこからツッコめば良い? 杜王町Radioの所か、いやその前の挨拶からか?」

 

嫌な気持ちはとても分かる、よく分かるすごく分かる。

私とて敬虔なるアグニカファンですけど、新アグニ会のテンションには付いてけませんわ。

 

そしてAUOとの約束だ、私の謎テンションにはツッコむな。

 

これは深夜テンションでノリにノって書いてるし、検閲する気は微塵も無いから。

冷静にツッコまれたら恥ずかしくて死ぬから。

だから止めて、300APあげるから。

 

――それに、だアグニカ。

ここで帰らない方が、良いこと有るよ?

 

「――いい加減なコトを言う事に定評の有る作者(笑)を信じろと?」

 

信じて、これはガチだから。

 

「…まあ、流石にこんなおまけコーナーのどうでも良い企画のどうでも良いすり合わせくらい出来るよな。良いだろ、信じてやるよ。現場どこですか?」

 

何、その上半身裸で悠々と物陰から出てきそうなセリフ。

それはともかく、現場ここっすね。

この防音扉こじ開けた先に、新アグニ会とか言う狂気集団がいるよ。

大悪魔バエルや私(作者)にさえ畏れられた、真なるやべーやつらがね。

 

「お前が畏れてどうするんだよ? 書いてたのお前だろ?」

 

いや、確かに文字や絵と言う形で物語を紡いできたのは私ですよ。

だが聞いて欲しい、私の場合は脳内でアニメみたく展開される映像と声をそのまま駄文に変換してるだけなの。

 

つまり、私はアニメとして勝手に動いてる奴を駄文として液晶画面の中に具現化させてる具現化系能力者と言う事になる。

 

あのアグニ会改め新アグニ会のやべーやつらが私の脳内であんな感じになったから、そのまま具現化させただけ。

結論――()()()()()()

 

「――まあいいや。もう行くぞ」

 

そっすね。

面倒なコトは初めに済ませておくが吉――いや、私はギリギリまで追い詰められないとやる気出ませんけど。

 

そんな訳で、扉蹴り飛ばして入ろう。

この中にいるもう1人のゲスト見たら、アグニカぶっ倒れないか心配だけど。

たのもー!!!

 

 

『アグニカ万歳! アグニカ万歳! アグニカ万歳! アグニカ万歳! アグニカ万歳!』

 

 

――帰ろうかな?

 

コイツら何やってんの、こんな部屋で。

こんな部屋で何でガルマの国葬やってんの?

いや、ガルマの遺影は特大アグニカポスターになっててギレンがいる場所にはゲストが立ってるけど。

 

「帰って良いk………………え?」

 

あ、アグニカがゲストに気付いた。

完全に固まって――あれ、もしかして泣いてる?

 

『我々は、1人の英雄を失った。しかし、これは終焉を意味するのか? 否!! 始まりなのだ! 天翼種(モビルアーマー)に比べ、我が人類種(アグニカ)の力は30分の1以下である! にも関わらず、今日英雄となり讃えられているのは何故か!?  諸君! 我がアグニカの戦闘目的が、平和だからだ! これは、諸君らもよく知っている! 我々は生息地を追われ、大都市に閉じこもるしかなかった! そして、一握りのMAが火星にまで膨れ上がった人類を脅かして数年! 我々が幾度MAに挑み、何度踏み潰されたか!!』

 

完コピとはやりますねぇ!

――失敬、忘れてくれ。

 

『ヘイムダルの掲げる人類1人1人の自由の為の戦いを、神が見捨てるハズは無い!! 私の恋人、諸君らの畏敬するアグニカ・カイエルは死んだ――何故だ!!?』

 

坊やだからさ。(CV:池田秀一)

 

「やかましい」

『新しい時代の覇権を、生き延びた人類が得るは歴史の必然である! ならば我らは襟を正し、この戦局を打開せねばならぬ! 我らは過酷なギャラルホルンを生活の場としながらも、共に苦悩し、錬磨して今日のアグニ会を築き上げて来た! かつてアグニカ・カイエルは、人類はここで滅びて良い存在ではないと言った! しかしながらMAのゴミ共は、自分達には人類の殺戮権が在ると増長し我々に光線する!』

 

いや、上手くないわやっぱり。

光線って、誤字じゃないですよ。

 

『諸君の父も子も、MAの無思慮な破壊の前に死んで逝ったのだ! この哀しみも怒りも、決して忘れてはならない! それをアグニカは、死を以て我々に示してくれた! 我々は今、この怒りを結集しMAに叩き付けて初めて真の勝利を得るコトが出来る!! この勝利こそ、戦死者全てへの最大の慰めとなる!! アグニ会よ、立て!! 哀しみを怒りに変えて、立てよアグニ会!!! 我らアグニ会会員こそ、選ばれたアグニカであるコトを忘れないで欲しいのだ!! アグニカである我らこそ、人類を救い得るのである!!!』

 

演説していたゲストは、右手を「そのための右手」と弾幕で書かれそうな程に掲げ――最後にこう締めた。

 

 

『ジーク・アグニカ!!!!』

 

 

それにならい、新アグニ会会員達も揃って右手を掲げる。

 

『ジーク・アグニカ! ジーク・アグニカ! ジーク・アグニカ! ジーク・アグニカ! ジーク・アグニカ! ジーク・アグニカ! ジーク・アグニカ!!』

 

アグニカがゲシュタルト崩壊を始めた。

そろそろ止めよう、大声で。

 

 

「うるッせェええええええ!!!!」

 

 

よし、静かになったな。

3,000字越えたし、そろそろ発表を始めよう。

お待たせして申し訳有りまs

 

「――スヴァハ」

「――アグニカ」

 

…あれ? ちょっと待とうか。

始まるん? イチャつき始めちゃうん?

もう既に見つめ合ってるし――あ、どちらともなく駆け寄って抱きついた。

爆ぜろ。…爆ぜる? 爆発? 爆破? それって、つまり。

 

――キラークイーン!

シアーハートアタックだ!

いいや限界だ、押すね! 今だ!!

 

「『スタープラチナ・ザ・ワールド』!」

 

ちょ、承太r

 

「オラァ! ……オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!! ――時は動き出す」

 

ぐはああああああ!!?

お、押すんだ…スイッチを、押すんだ…!

バイツァ・ダストは、作動するんだ――!

 

「…………作者。進めて下さい」

 

あ、すんません石動さん。

今すぐ始めますんで、あのイチャついてるバカップル略称「アグスヴァ」は捨て置いて始めますんで。

 

…フン、ヘコヘコしおって「川尻浩作」め。

 

――ダメだ、これ永遠に進まないわ。

落ち着いて始めよう。

それじゃ、まずは33位から21位までどうぞ。

 

 

第33~21位

33位

トド・ミルコネン -10AP

 

27位(同率)

オーリス・ステンジャ 10AP

アミダ・アルカ 10AP

MSを強奪したコロニー労働者の皆様 10AP

エドモントンにいたギャラルホルンMS部隊の皆様 10AP

ガラン・モッサ 10AP

ガラン率いる傭兵部隊のMSパイロットの皆様 10AP

 

26位

イオク親衛隊の皆様 20AP

 

23位(同率)

クランク・ゼント 30AP

石動・カミーチェ 30AP

月外縁軌道統制統合艦隊(アリアンロッド艦隊)のMS部隊の皆様 30AP

 

21位(同率)

ラフタ・フランクランド 40AP

アジー・グルミン 40AP

 

 

新アグニ会の皆様、一言どうぞ。

 

「アグみが足りない」

「いやだから、アグみって何?」

「『アグニカみ』の略だね」

 

アグニカみとは、アグニカっぽい言動から感じられるアグニカっぽさである。

アグニカみ、略してアグみ。

 

よく分からないね!(理解放棄)

 

それはともかく――石動さん石動さん。

出番少なかったから仕方ないかも知れませんけど、新アグニ会副会長として23位(同率)はマズいんじゃないですかね?

後半は殆ど出番をあげられなかったタービンズのMS組にも負けてるんですが…。

 

「前半は出れていませんし、ガンダムにも乗れませんでしたからね。ヴァルキュリア・フレームに乗ったらポイント増えたりしないのですか?」

 

いや、原作でならともかく――今作でのグリムゲルデがグリム・パウリナになってるせいで、貴方のヘルムヴィーゲ・リンカーはグレイズ・フレームから造られた奴じゃないですか?

それではポイントあげられないですわ、ですよねマクギリス会長?

 

「当然だ。此度は残念であったな、石動」

「――准将!? 左遷されたハズでは!?」

 

突如現れたマクギリスに、石動が恐れおののく。

最終話で言及された通りで、マクギリスはヴィーンゴールヴから離れた地方基地へ左遷された。

そのマクギリスが、ここにいるのはどういうコトなのか。

 

「アグニカをキメる者に限界は無い! 現に今、終身名誉会長アグニカ・カイエルは終身名誉副会長スヴァハ・クニギンを伴って復活を果たしたッ!!」

「いやいや待て待て。復活してないって。俺らの頭上に在る、この輪っかが見えないのか?」

 

マクギリスの湧出(ポップ)と同時に2人の世界から帰ってきたアグニカが、自らの頭上を指差す。

そこには確かに、輪っかが付いている。

そしてそれは、スヴァハも同様だ。

 

「――作者よ、このような措置を施した弁明を」

 

うい。

流石にただ復活させると本編のアレが茶番に――いや、今現在進行形で茶番化してそうでは有るけれども茶番になりそうだったからですね。

2人はもう死んでるけど、今回この企画を行うにあたって特例復活して頂いたと言うコトで。

 

それはそれとして、次の発表をします。

20位から11位、どうぞ。

 

 

第20~11位

19位(同率)

クーデリア・藍那・バーンスタイン 50AP

地球外縁軌道統制統合艦隊(グウィディオン艦隊)のMS部隊の皆様 50AP

 

17位(同率)

昌弘・アルトランド 80AP

ブルワーズの皆様 80AP

 

15位(同率)

ゴドフレド・タスカー 90AP

メイベル・タスカー 90AP

 

12位(同率)

ラスタル・エリオン 120AP

トリク・ファルク 120AP

クダル・カデル 120AP

 

11位

イオク・クジャン 140AP

 

 

…ふーむ。

妥当かとは思うけど、気になる所有る?

 

「15位のタスカーさん達かな?」

「おう…流石だ、あれだけの出番でここまで滑り込むとは」

 

アグスヴァが頷く。

 

確かに、初代フラウロスパイロットのタスカー夫婦は出番が少なかった。

にも関わらず、「#54 天使の残党」のみでそれぞれ90APを稼いでここまで滑り込んでいる。

 

「イオクやラスタルも、なかなかの成績だな。トリク・ファルクは、アモンに乗っていたのがポイントUP要因になったか」

 

マクギリスも冷静に分析する。

そんなマクギリスはまだ出て来ていない――つまり、トップ10には入っていると言うコトだ。

 

では、10位から4位まで行ってみよう。

 

 

第10~4位

9位(同率)

カルタ・イシュー 190AP

ディジェ・バクラザン 190AP

 

7位(同率)

ノルバ・シノ 430AP

ガエリオ・ボードウィン 430AP

 

6位

昭弘・アルトランド 650AP

 

5位

ジュリエッタ・ジュリス 1,130AP

 

4位

アイン・ダルトン 1,980AP

 

 

同率が消滅した。

何を隠そう、ここからはキッチリ順位が付いている――つまり、判定が確定しているのだ。

 

「ハハハハ! アイン・ダルトン――以前は貴様のせいで3位に終わると言う雪辱を味わったが、此度は私が勝ったようだな!!」

「いや、アインは前回の中間報告の時点で出番終了してただろうが」

「あの後は『阿頼耶織TYPE-E』になって、アスモデウスと戦ったくらいしか出番無かったからね。死んじゃった以上、ポイントも増やしようが無いし」

 

歓喜に打ち震えるマクギリスに、アグスヴァから厳しい評価が飛ぶ。

まあ、アインのポイントは前回から変化してないからね。

それで4位なんだから、前回かなり頑張ったってコトになる。

 

「鉄華団の昭弘・アルトランドを越えて5位に入っているラスタルの犬は、何故ここまで躍進を?」

 

言い方酷くね、石動さん。

ジュリエッタがここまでアグニカポイントを稼いだのは、やっぱりジュリアの戦闘スタイルのお陰だ。

 

「ジュリアは、ジュリアン・ソードが標準装備であったからか。しかし、あんな腕に固定するタイプの伸縮式長剣が剣の二刀流に含まれるのか?」

 

マクギリス会長。

それを言ったら、グリムゲルデでの君の戦闘スタイルは二刀流と認められなくなるよ。

 

グリムゲルデのヴァルキュリア・ブレードと違った伸縮式、と言う点は確かに迷う所では有った。

ただ、通常形態が剣状になってるので、認可しました。

これがガンダムエピオンやトールギスⅢに付いてるヒート・ロッドみたいに伸ばされた状態が通常だったら、認可してませんでしたがね。

 

「――そろそろ6,300字を超えるな。トップ3の発表に移った方が良いのでは?」

 

そっすね。

では、第3位の発表です。

 

 

第3位

3位

マクギリス・ファリド 2,820AP

 

 

「――なん、だと…!?」

 

新アグニ会会長マクギリス・ファリド、絶句。

 

第3位…そう、 第 3 位 。

以前の中間報告に於けるマクギリスの順位も、 第 3 位 。

 

マクギリス・ファリド、雪辱を果たせず。

再び辛酸を舐めるコトになった――勿論、もう名誉挽回のチャンスは無い。

 

マクギリス、汚名挽回。

ジェリドかな?

 

「バカな、こんな、こんなバカなそんなバカな! この俺が、この世界で誰よりもアグニカを信奉し神格化するこのマクギリス・ファリドが第3位!? 有り得ん、マッチポンプだ!! 訴訟!!!」

 

酷い言われようだ。

なんなら確認してくれて結構、数え忘れとかは無いハズなんで。

 

「うがあああああ!! 有り得ん、有り得ん…! お教え下さいスヴァハ様、何故なのですか!? 何故俺は、第3位から脱出出来ないのですか!?」

 

マクギリスが、スヴァハに泣きつく。

一方、泣きつかれたスヴァハは。

 

「上位が強すぎるからじゃない? 後、ガンダムに乗った回数と戦闘の回数が少なかったからかな」

 

と、マジレスした。

こういう時のマジレスって心に傷が付くから、やめてあげて。

 

「俺は、俺は一体――!! クソ、こうなったら…作者、俺にバイツァ・ダストを! 第1話まで戻って、初登場からアスモデウスに乗ってやる!」

「あの、それ俺らピンチだよな? 初めて監査局と戦りあった時、バルバトスも絶不調だったし…負けるぞ?」

 

如何にアグニカでも、ボロボロのバルバトスでピカピカのアスモデウスに勝つのは厳しいかもな。

ただ、アグニカなら何とか生き残りそうではある。

 

それ以前に、ジョジョとのクロスオーバーでもないのに何でマクギリスにバイツァ・ダストあげなきゃならないのさ?

「矢」を持って来てから出直して来たまえよ。

それでもあげられるのは「天国への扉(ヘブンズ・ドアー)」だけだがね。

 

さて、マクギリスは置いといて2位の発表をしよう。

2位にいるのは――やっぱすげえよ。

 

 

第2位

2位

三日月・オーガス 3,090AP

 

 

「――成る程、な…原作の主人公か…」

 

あ、マクギリスが理屈で納得した。

心で納得してるかは知らないが。

 

「オーガス、って…アグニカ?」

「まあ、クレイグと関わりが無いとは思えないが。バルバトスのパイロットなのだ、これくらいは行くだろう」

「ぐぬう…」

 

マクギリス、突っ伏す。

ドンマイ。

 

では、第1位の発表。

もう分かってるよね、当然コイツですよ。

 

 

第1位

1位

アラズ・アフトル/アグニカ・カイエル 12,220AP

 

 

 知 っ て た 

終わり、閉廷!!

 

『アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!! アグニカ・カイエル!!!』




以上、蛇足コーナーでした。
次は割と真面目に全体を振り返る後書きです。
読む必要はございませんが、気が向いたらどうぞ。

明日更新です。


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おわりに
後書き


これは、作品を執筆し終えた私こと作者が、作品を振り返って行く全体の後書きのような何かです。

別に、読まなくても問題は有りません。

完結した状態でこの作品ページを開いた物好きな皆様の中で「後書きから読む派」な方は、ネタバレ過多の為、全てを読み終えてから閲覧される事をお薦めします。


30,000字超えました、草バエル。
まあ、書き忘れた余談とか有りそうですけどね。
検閲とかは全くしてません、一気に書ききりました。


おはようございます/こんにちは/こんばんは。

 

私、本作を書きましたぐだぐだ凡夫のNT(ニュータイプ)oz(オズ)と申します。

こんな名前を名乗っていますが、空間認識能力は著しく低いし敗者になりたい訳でも有りません。

あくまで、何となくで名乗っております。

 

――と、下らなくどうでも良い私の名前の理由は差し置いて。

まず、私がこの作品を書こうと思った経緯につきましてを記そうと思います。

 

 

時は2017年、4月2日。

本作の原作となります「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」第2期の最終回である「#50 彼等の居場所」が放映されました。

 

放映後に於ける作品の評価は賛否両論。

「これはこれで」と言う人もいれば「クソだった」などと口汚く批判する人も少なく有りませんでした。

ただ、私の印象としては批判意見の方が多かったと感じています。

 

私がリアルタイムで見終わった後、真っ先に出たのは「成る程」と言う感想でした。

この成る程、と言う感想はあの終劇に対して「脚本家は、こう言う感じに風呂敷を畳んだのかー」と言う所を見て出たと記憶しています。

しかしながら、見終わった時に私の胸中に残ったのは大団円を迎えた後のやり切った感ではなく――消化不良感、言うなれば物足りなさでした。

 

放送終了後に2chやTwitter、まとめサイトを漁り――それから、私はこのハーメルンを開きました。

するとどうでしょう、もう最終回を待ちわびていたかのように鉄血の二次創作作品が増える増える。

数話で終わる短編から、今なお連載中の長編まであらゆる作品が立て続けに連載開始されていました。

 

その時の私は、鉄血の二次創作を書きたいと思っていたのです。

ネタが思いついたのは、ちょうど原作がMA戦をやっていた時でした。

初めに考えついたネタは書く意義を感じない脳内での陳腐な妄想に過ぎませんでしたが、原作の話が進むに連れて陳腐な妄想は肥大化して行きました。

 

私が注目したのは、アグニカ・カイエル。

 

第2期になって初めて語られた、ギャラルホルンの創設者。

ガンダム・バエルを駆り、圧倒的な力でMAを倒しまくったらしい伝説の英雄。

その名前は私以外の多くの人も気になったらしく、このハーメルンにも様々なアグニカの登場する作品が有るとか。

 

私は「バエルゼロズ」以外にアグニカの登場する作品を把握出来ていませんので、知っている方は教えて下さい。

ソッコー読破したいんで、是非ともお願いします。

アグみをもっと感じねばならないので。

 是 非 と も 。

 

…話を戻しましょう。

原作は進み、鉄華団は追い詰められて行きます。

オルガが倒れ、もはや全滅エンドしか見えなくなって来た時に私はこう思いました。

 

「アグニカが鉄華団に入ったらどうなるんだろう」と。

 

どうやら宇宙世紀で言うアムロ並みに強いらしいアグニカを、鉄華団に入れてしまえば。

全滅エンドを変えられるのでは、とぶっ飛びすぎた鉄華団救済案を脳内で描いたりしていた訳です。

そして原作の最終話が放送され、鉄血の二次創作作品が溢れかえりました。

 

「これはもう流れにノるしかねェ!!」とニュータイプ的直感を感じ、その時連載中だった(今も連載中、一時更新停止中)作品の執筆を捨て置いて筆がノるがままに第1話を書き進め。

 

最初に投稿したのが2017年、4月3日。

原作最終回放映から僅か1日と少しで、何となくのプロットと設定を固め執筆し投稿しました。

 

我ながら恐ろしい行動の速さです。

今、過去の自分にビックリしております。

そして、ここまで言えばもうお分かりでしょう。

 

 

この作品、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!

 

 

無計画にも程が有ります、これは完全にバカの所業としか言えない!

バカですね私、ハハハハハハ!!!

 

そんな訳で、実はぐだぐだのまま書き進めていました。

最初期はアグニカ…もといアラズのキャラクター性が固まっていなかったので、言動や思想は後に繋がらないモノも多いです。

後、名前だけ出てるキャラと言うコトで「オリ主」タグを付けるか否かで迷いましたが、最初はアグニカと名乗ってなかったしキャラ性は自作なので付きました。

何というぐだぐださでしょう、誉め(罵倒し)て頂いても結構ですよ?

 

とまあ、こんな感じで始まりました。

執筆する経緯についてはこの程度で述べ終わるとして、これからは細かく補足や余談、反省を交えつつ作品を振り返って行きたいと思います。

 

その前に、1つだけ。

今作は大前提として、主人公であるアグニカ・カイエルを主軸として物語が展開しています。

この後書きでもそれを重視して、振り返ります。

 

 

 

 

まずは「CGS編」。

アグニカ・カイエルがアラズ・アフトルとしてCGSに加入し、鉄華団が結成される物語のスタート地点になります。

 

ここで、アグニカは「アラズ・アフトル」と言う名前を名乗ります。

アグニカは「アグニカ叙事詩」のせいで名が知れている為、怪しまれず働くには偽名を使うのが手っ取り早かったのです。

 

では、この偽名の由来について。

この名は、私が頭を捻らせて付けた名前です。

勿論、意味が有ります。

偽名を考える前に、まず「アグニカ・カイエル」と言う名の意味について考えました。

偽名は本名に結び付く名前にしたい、と。

 

そして、由来をこう考察しました。

アグニカ→インド神話の火神「アグニ」から。

カイエル→「皇帝」を表す「カイザー」と「カエサル」の造語。

「皇帝」としたのはギャラルホルンのトップだったからで、火神アグニの名を冠したのは熱血漢である(長井監督談)事とアグニの炎が「浄化」を司るコト(返り血に濡れた天使を浄化する?)を表すのでは、と。

 

余談ですが…この「アグニ」の名は、なかなか面白いです。

Pixivからの引用となりますが、アグニは「天則(リタ)を犯す者、悪魔を容赦なく焼き払う神でもある」とされています。

そして、鉄血で「悪魔」と言えば――そう、「ガンダム・フレーム」です。

悪魔と契約して戦ったハズの者に、何故悪魔を浄化するとされる神の名を与えたのか――ここで妄想を膨らませれば、1つの二次創作作品が書けそう。

アグニカは実はMA側だったのでは、とか。

MAを造らせたのはアグニカで、出来レースでアグニカは世界に影響を与えられるギャラルホルンのトップになったのでは、とか。

 

まあ、書きませんけどね。

もう私は疲れたんだ…。

 

それはともかく、この裏が有りまくりそうな「アグニカ・カイエル」の名を意識させられつつバレない程度の上手い名前を考えようと。

そして持って来たのが、「アラズ」と「アフトル」でした。

 

「アラズ」はテュルク神話に於ける火神の名前であり、メソポタミア神話(バビロニア神話)に在る「エヌマ・エリシュ(エアによる創造物語)」でも同名の神が登場します。

神話こそ違えどアラズは火神なので、火神アグニと関連付けさせられます。

また、バビロニア神話での「アラズ」は「祈り」を司るとされます(資料が余りにも少なく、詳細は一切不明ですが)。

よって、アラズの名は「アグニカと共通点を持つ」「ギャラルホルンが正しく機能していると祈る者」と言う2点を踏まえて付けました。

 

「アフトル」は簡単で、ロシア語で「皇帝」を表す「アフトクラトル」を短縮したモノです。

これで、「カイエル」の名と共通点を持たせられました。

 

つまり――名前こそが、最大のネタばらし。

 

アグニカ・カイエル→「火神・皇帝」

アラズ・アフトル→「火神/祈り・皇帝」

上手く訳せば、一発で正体判明って寸法です。

いつぞや感想で「『アラズ・アフトル』は『祈りの皇帝』って意味では?」と言われた我が同胞(アグニ会会員)がおられましたが、正解でございました。

500アグニカポイント進呈。

 

 

このCGS編では、アラズ(しばらくこう表現します)は脇役に徹します。

結果こそ変わるとは言え、アラズがいなくても物語は成り立ちますので、まだ主人公と言う感じはしません。

とりあえず、アラズのいる鉄華団の空気に慣れて頂けないかなあと思って書いておりました。

 

 

 

 

続いて「鉄血編」。

鉄華団が結成され、アラズ(アグニカ)がギャラルホルンの中枢たるセブンスターズの2人に直接接触すると言う、重要ポイントの1つとなります。

 

原作と違うのは、この時点でマクギリスが「アグニカ・カイエル」について言及したコトです。

ここで、マクギリスの内に潜む狂気が垣間見えますね。

そして、ファリド家とボードウィン家の初代当主の名をガエリオが口にしています。

 

フェンリス・ファリド、クリウス・ボードウィン。

後の過去編でも出て来る方々となります。

この名前も、私が頭を捻らせました。

 

フェンリスは、ファリド家の家紋である北欧神話の魔獣「フェンリル」の別名「フェンリス狼」から。

クリウスは、ボードウィン家の家紋である北欧神話の主神オーディンの愛馬「スレイプニル」より、オーディン関連の方面で名付けられました。

ローマ神話に於いて、オーディンと同じく疾行の神であったとされる神「メリクリウス(ギリシャ神話ではヘルメスと呼ばれ、オリュンポス12神の1神として数えられる)」からです。

 

メリクリウスと言われて、プラネイトディフェンサーとか持った赤い機体が思い浮かんだのは私だけではないと信じて疑いません。

 

そんな彼らの子孫達と邂逅しつつ、鉄華団は宇宙へと飛び出して行きました。

アラズがバルバトスに乗ってマクギリスとガエリオを軽くあしらっていますが、原作で三日月が苦戦した相手を一蹴するコトでアラズ(アグニカ)の異常なまでの強さの片鱗を見せられていればと思います。

 

そしてこの辺りで、皆様が感づき始めました。

私は覚えてます、6話辺りで気付いて感想欄で言って撃たれた人がいた事を。

アナタの勇姿、この眼に焼き付けられております。

 

 

 

 

続く「テイワズ編」。

戦闘が消えて「物足りない」と思われた方もいらっしゃると思いますが、そこは流れ的にアレだったので許して下さい。

 

ここもアラズがいなくても物語は成り立ちますが、親父ことマクマードとの会話が在ります。

この会話により、アラズがどのような思想を持っているのかを少し見せたいと思って書きました。

 

 

 

 

原作でも盛り上がった「ブルワーズ編」。

しかし、ここには本作最大と言ってもいい反省点が有ります。

 

――そう、ジャスレイの殺害です。

ここでアラズは、ジャスレイを一瞥して胡散臭いと見抜き、殺しています。

しかしながら、今でこそ私は昔の自分にこう言えますよ。

 

()()()」と。

 

2期分でテイワズの内輪もめやるのが面倒だったから取った措置ですが、いくら何でも短絡的過ぎます。

面倒臭がらず大人しく内輪もめもやるか、やらないにせよもっとマシな理由つけろと。

 

そんなアホな昔の自分の所業をカバーすべく、必死こいて考えた苦し過ぎる言い訳が有ります。

それがこちら。

 

アラズはCGSに入ってから、現在の世界について調べ上げていた。

その中でテイワズについても調べて、ジャスレイが裏で暗躍してテイワズ内で急激に勢力を伸ばしていた企業を陥れていた事を知っていた。

世界の命運を左右するクーデリアの護衛を引き受けている鉄華団が、その二の舞になる事を危惧した。

速やかにジャスレイを殺害した。

 

苦し過ぎますね。

本当になんで、あんなクソみたいな理由で殺したのやら。

バイツァ・ダストで戻って、改変させたいくらいですよ全く。

 

 

そんな反省点も有りましたが、勿論良い方向で書ける事も有ります。

 

まずは何と言っても、アラズ(として)初めての専用機「テルギア・グレイズ」の御披露目。

急造品にも程が有りますが、まあ一応それなりに戦える機体となっております。

戦闘ではブルワーズのマン・ロディ相手に無双し、ここでもそのチート振りを発揮しました。

 

後、件のジャスレイ殺害時にも「アラズは銃が苦手である」と言うのを意識しています。

至近距離で撃ってますからね。

 

昭弘と昌弘の最期の会話は、原作に比べてかなり短くなっています。

書くのが面倒だった訳ではなく、名無しのマン・ロディパイロット達との差を少なくするコトで「名有りだろうが名無しだろうが、命の価値に差は無い」と言うコトを表せればと思い、こうしました。

 

最後にはオークを成敗し、鉄華団の旅路はなおも続きます。

 

 

 

 

原作では評価低めらしい、コロニー編。

ここでは、フミタン・アドモスの生死がアラズによって左右されています。

それから、クーデリアの演説が見所ですね。

 

クーデリアとアラズがギャラルホルンの腐敗を間近で見て、改革への意志を強めます。

アラズがクーデリアを庇ったコトでフミタン死亡は避けられ、なんやかんや有ってビスケットのお兄さんが生存しています。

 

また、ここでもアラズが無双。

今度の相手は、ガエリオの操るガンダム・キマリスです。

アラズ(アグニカ)はキマリスの特性を完全理解してるので、キマリスでアラズとやり合いたい場合はクリウスを乗せる必要が有ります。

クリウスさんヤバすぎますね、と言うか初代当主どもは何かがおかしい。

 

原作からの変更点が、ラスタル・エリオンとイオク・クジャンの顔見せです。

これは、2期分を見据えての変更となります。

アリアンロッドの旗艦であるスキップジャック級大型戦艦「ファフニール」も、名前こそ出ないものの出撃していますね。

 

そして、この辺りからマッキーが壊れ始めます。

 

「武力では無く、言葉こそが最大の武器である」を、主題として据えています。

手を出す前に口を出せ、と言うコトですね。

 

 

 

 

恐らく一番短い、地球降下編。

モンタークと鉄華団が接触し、カルタ様が鉄華団と遭遇する重要な所となります。

 

アラズはここで、グレイズ・リッターから「剣」をもぎ取ります。

そして鉄華団はガエリオとアインを一蹴して、アラズはシュヴァルベ・グレイズを手に入れます。

ついでにグングニールも入手しますが、大気圏に突入しても追ってきたグレイズ・リッターにブン投げて損失。

 

そのグングニールが刺さったグレイズ・リッターがディジェ・バクラザン率いる部隊のキャンプ地に落ちて何人かが怪我したコトで、ディジェはブチ切れてエドモントンへ向かうコトとなります。

 

三日月(・オーガス)はここで、三日月を目撃。

それについて解説するアラズ(アグニカ)は、かなり複雑な気持ちでしょう。

霞んだ三日月を見たアラズが、それでもなお「綺麗」だと思える――そんな自然の情景を通して、アラズはチートながらもマトモな感性の持ち主であるコトを表せていた…ならいいなあ。

 

 

 

 

1期分のクライマックス、地球編。

この辺りから、オリジナル機体が増えて行きます。

 

まずはガンダム・パイモン。

セブンスターズ第一席「イシュー家」に伝わる、サムライガンダムでございます。

これを出した理由は、原作で決闘を挑むカルタ様に疑問を感じたからです。

 

どんな疑問かと言うと、真正面から戦えば負けると分かっているのに何故愚直に仕掛けたのか。

 

カルタ様はイオク様と違って有能なので、何の勝算も無しに挑むハズが無いと。

その為、過去編に向けての顔出しも含めてガンダムを連れ出しました。

 

しかし、ガンダムを持って行ったは言いもののその程度ではアラズとは渡り合えません。

黄金の刀にも大きなバックパックにも恐れず、性能の劣るテルギア・グレイズで完封しやがりました。

パイモンの装備上、バエルと同じくパイロットの技量がそのまま戦闘力に反映されますので――カルタ様も上手く動かせているんですが、やはりアグニカやカロムと比べると…。

 

なお、この戦闘にも反省点有りです。

カルタの救いを求める声を接触通信で聞いたアラズが、一瞬攻撃を躊躇う描写。

あれは過去編でスヴァハに「助けて、アグニカ…!」と言わせるコトを前提とした伏線だったのですが、過去編ではそのシーンを入れられませんでした。

あの描写の解釈は、「心から縋る弱った声を聞いて、死にかけたスヴァハの声がチラついた」と言う感じでお願いします。

 

 

続きまして、ガンダム・ヴィネとディジェ・バクラザン。

セブンスターズ第六席「バクラザン家」に伝わるロマン機体と、その次期当主です。

ここでバクラザン家のガンダムを出したのは、原作43話での描写から。

 

バクラザン家のガンダムに、何が有ったの?

 

原作43話では、バエル宮殿で戦闘が有ります。

そこで、バクラザン家の扉が開いており――在るハズのガンダムが消えています。

これが何の意味を持つのか、当時はあらゆる推測が飛び交ったりしました。

結局原作では回収されませんでしたが、今も続いている「鉄血のオルフェンズ 月鋼」への伏線である可能性も有る為、結論を出すのは早計だとは思いますが――せっかくなので、サプライズを含めて拾おうと思いまして。

 

そんな訳で登場しましたヴィネは、正統派であったパイモンと違って変な武器を持っています。

超巨大な鎖鎌と言う、ある意味ロマンながらも実用性の低い武器がコイツの主武装です。

これを扱うには相当な訓練が必要で、ディジェは学生時代に士官学校のプログラム+初代当主リック・バクラザン謹製の鎖鎌を操る為のプログラムを二本立てでこなしておりました。

本人、死にかけてて同期のトリク・ファルクに気にかけられたとか。

 

また、もう1つの武装であるレールガンは設定が甘かったなあと反省しています。

 

ディジェ・バクラザンは、アラズを除けば初めてのオリジナルキャラクター。

名前の由来は言わずもがな、父親「ネモ・バクラザン」から流れで(?)「機動戦士Zガンダム」に登場するMS「MSK-008 ディジェ」から取っています。

なお、劇場版ではイラナイコに…。

 

ツンデレでひねくれた奴ですが、良い奴です。

宇宙ネズミやヒューマンデブリの問題を深刻に捉えており、それ故にアグニカのギャラルホルン再編と同時にヒューマンデブリ禁止条約の締結に一役買っています。

しかし、男のツンデレに価値は無い。

今すぐ去勢してCV:釘宮理恵になってから出直して来い。

 

一応設定画は作ってたりしてまして、ムキムキかつ金髪のオールバックです。

ディアッカとかギルガメッシュに酷似してますね(オイ)

 

 

後はVSグレイズ・アインがバルバトスとグシオンの2対1で行われた事、カルタ様が生存した事、ヴィネがテルギアと戦ってテルギアが撃破された事くらいでしょうか。

それ以外は原作と相違有りません。

ただ、ラストにマクギリスがグリムゲルデをアラズに献上しています。

 

それから、アグニカがギャラルホルンに対して憤り始めます。

直接的にキレたのは、この時が初めてです。

 

 

 

 

2期分は、夜明けの地平線団編をすっ飛ばして地球降下編からとなりました。

何故そうなったかは、その当時の後書きを見て頂ければ分かるかと思います。

 

アラズは、鉄華団地球支部支部長に就任。

頭特殊超硬合金のラディーチェを怪しみつつアーブラウ防衛軍を鍛え上げたり、通信で火星本部のオルガをからかったりしました。

火星のオルガも、アラズがいれば大丈夫と安心していたようですが。

 

ここで反省点。

ラディーチェの扱い、雑過ぎ。

あっさりぶち殺してますが、これには私もドン引きです。

時間を巻き戻して書き直したい…ですがもう遅いので、諦めます。

ラディーチェさんの中の人がプラモのランドマン・ロディを組んでたと知った時、少し感動しました。

 

最終的に、ガランは自爆しました。

ここは、原作と変わり有りません。

 

そして、この騒動を受けて火星本部のオルガ達が地球へやって来ます。

アラズは同時に、地球支部を解散して火星本部に戻っています。

 

マクギリスはオルガに「火星の王」の話を持ちかけますが、今作ではオルガが拒否しました。

その後も鉄華団とマクギリスの協力体制は見受けられるものの、あくまで仕事としてマクギリスの依頼を請け負っているだけです。

仕事の度に報酬は貰っているので、「鉄華団はギャラルホルンもひいきにしている」と噂が立ったりもしています。

 

 

 

 

火星に戻り、厄祭編開始です。

大体の流れは原作と変わりませんが、本作でのオリジナル設定がドッサリ出て来ています。

 

 

ではまず、セブンスターズ関連について。

セブンスターズ初代当主達と、その乗機であったガンダムの名前がここで出揃いました。

セブンスターズ初代当主の名前と乗機の設定については、私がひねり出しております。

セブンスターズのガンダムは、元ネタで位が「王」となっている悪魔を中心に選びました。

 

カロム・イシューは、ガンダム・パイモン。

名前は、日本の伝統遊戯の1つ「キャロム」から来ています。

「かるた」関連から名付けました。

 

フェンリス・ファリドは、ガンダム・アスモデウス。

クリウス・ボードウィンは、ガンダム・キマリス。

 

ドワーム・エリオンは、ガンダム・ベリアル。

名前は北欧神話に登場する人間より少し小柄な伝説的種族「ドワーフ」と、竜や蛇を表す「ワーム」を合わせたモノです。

ベリアルは大剣を携えた、割と王道の武装。

パイロットの技量が問われる、シンプルながらも強力な機体となっております。

 

ケニング・クジャンは、ガンダム・プルソン。

名前は北欧神話に登場するワタリカラス「フギン」と「ムニン」を使役するオーディンを、「鴉神」と間接的に表す際に用いられる迂言法の古ノルド語、アイルランド語の「ケニング」から取りました。

プルソンの戦闘方法は、とりあえず叩いて殴って蹴ると言う脳筋振り。

イオク様と違うのは、ケニングさんは愛すべきバカなだけで普通に有能って所ですね。

 

リック・バクラザンは、ガンダム・ヴィネ。

名前は、「機動戦士Zガンダム」に登場するMS「RMS-099/MSA-099 リック・ディアス」から取られました。

ただ、出してから「リック・ドム」と被ってんじゃねーか! と気づいたりもしました。

「ディアス・バクラザン」にしとけば良かった、と猛省中。

 

ミズガルズ・ファルクは、ガンダム・アモン。

名前は、北欧神話に登場する大蛇「ヨルムンガンド」の別名「ミズガルズの蛇」からです。

アモンは、狙撃も格闘も行ける万能型となります。

これもまた、パイロットの狙撃スキルが問われる機体です。

スヴァハが乗っても強くなりますが、アグニカが乗ると格闘武器しか使わなくなると言う。

 

 

続きまして、モビルアーマーについての設定。

これは、かなりのオリジナル設定を作りました。

原作ではハシュマル以外のMAは出ておらず、その誕生理由や厄祭戦での事情なども全く語られなかったので是非もなし。

 

一番大きなオリジナル設定は、何と言っても「位階」でしょう。

軍で言う階級と同じく、その高低によって性能や価値や機体数が決まります。

「天使王」が最高位で、ルシフェル1機以外にはおらずオンリーワン。

「四大天使」が二番手で、ガブリエル、ウリエル、ミカエル、ラファエルがそれぞれ1機ずつ。

「天使長」が三番手で、ザドキエルとハシュマルが3機ずつ。

最後に、有象無象の「天使」が5機ずつです。

 

オリジナル設定集では、MAの関係を「機動武闘伝Gガンダム」に登場する「デビルガンダム」とその周囲の関係に例えました。

大体あんな感じ、と言うかガブリエルは「鉄血版デビルガンダム」を目指していたり。

人類を想って造られたコトや、人を脅かすコトはまんまデビルガンダムですねこれ。

 

また、七星十字勲章についても「トドメを刺した者に与えられる」「討伐対象の位階によって個数が変わる」と言うオリジナル設定を追加。

これに伴い、MAの総数を391機と決定。

貰える数も天使王が10、四大天使は5、天使長は2、天使は1。

七星勲章の総数は422個としました。

総数を割り出す為にMAの種類数を決定し、この時に全てのMAに名を付けていたりします。

あの時は死ぬかと思いましたよ。

フォーウ! モビルアーマーシスベシフォーウ!

 

ここで余談。

最初は、ラスボスを「四大天使」ミカエルとするつもりだったのです。

つまり、当初の初期設定で「天使王」ルシフェルは存在していませんでした。

最強の天使であり「神の如き者」と言う名を持つミカエルは、ラスボスに相応しいだろうと。

私はそんな事を考えていた時に、1つの鉄血の二次創作作品に出会ったのです。

その作品では、ガンダム・バエルと「ルシファー」が戦っていました。

 

そこで、作者に雷走るッ!!

 

「ただ『四大天使』を素直にラスボスにするのはつまらないから、これを越えるのを出してやらァ! でも名前が被るのはアレだから、~エルに揃える形でルシフェルにしよう」

大体こんな感じで、ルシフェル爆誕。

ミカエルは弱体化したものの、中ボスとして猛威を振るい――アグニカの人生を、大いに狂わせましたとさ。めでたしめでたし、さっさとくたばれ。

甘兎庵看板姉妹☆爆☆誕☆並みの(`0言0́*)ヴェアアアアアを作り出したルシフェル爆誕事件なのでした。

そして我が同胞、アグニカを奉ずる者よ――勝手にアイデアを頂いておりました、事後承諾となりますがお許しあれ。

すいません許して下さい、何でもしますから。

 

後もう1つ、MAの叫びについての余談も。

ルシフェルとラファエルは普通に喋ってますが、それ以外は『          !』と叫びが表現されています。

原作を見れば分かる通りで、獣の咆哮のような感じです。

実はこれ、天使長以上のモノに限っては普通に喋らせたのを全て空白に置き換えて打ち込んでいたり。

何を書いたかは私も覚えていませんが、例えば天使長とか四大天使が『       !』と言った場合、これを文字にすると『おのれ、小癪な!』となります。

実は色々喋ってた、MAの皆様なのでした。

 

 

ここでは、アラズのグリム・パウリナがハシュマルと相打ちになりました。

嗚呼、貴重なヴァルキュリア・フレームが…。

 

そして、この戦いの後の雪之丞との会話では、スヴァハの存在とその恩恵を匂わせつつもアラズの決意が見て取れます。

ここで、アラズ・アフトルからアグニカ・カイエルとなる決意が固まりました。

 

 

 

 

問題の革命編(未遂)。

この辺りから、本格的にマクギリスがおかしくなって来ます。

マクギリスに関しては、ギャグ方面に振りすぎたかなと反省しておりますが。

最初は真面目にやるつもりだったんですが、私は書いてるといつの間にかギャグ方面に走ると言う謎現象が発生する――全く持って解せません。

 

この革命は、1ファンクラブであるハズのアグニ会が蜂起したが故に発生致しました。

アメリカで言うなれば、J.ワシントンのファンクラブがクーデター起こしてるような感じ。

酷すぎて草バエ散らかしてる場合ではございませんので、ラスタルはヴィダールことガエリオを派遣していたり。

 

ちなみに「アグニ会」と打つ時は、とりあえず「あぐにか」と打って変換。

それから「カ」を消して、「かい」と打ち込んで変換するコトで「アグニ会」と言う字は書かれております。

あ、これは勿論リアルガチですよ。

 

鉄華団はあくまで仕事として、マクギリスの依頼を受けています。

当然マクマードや名瀬のアニキは渋い顔をしましたが、報酬の提示額が恐ろしいコトになっていて数分固まった末に許可したとか。

「仕事で来た雇われなんで、巻き込まないでくれ」と言って逃げる事も出来たりしましたよ。

 

そして、ここには本作に於ける神回らしい「#32 伝説の英雄」が含まれております。

ちなみに、この判断は話数別UAを見たが故。

この回だけ、ヤケにアクセス数が多いんですよね。

 

内容はと言えば、アラズがバエルに乗ってヴィダールを一蹴し、全世界に通信を繋げた上で「アグニカ・カイエル」の名を名乗ると言うモノ。

ぶっちゃけ言おう――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と!!

この回は本作で最高と言える程に筆がノりまして、1時間も掛からずに書き上がってしまいました。

やったぜ。成し遂げたぜ。

 

しかし、私は知っていますよ。

この回で初めてアラズ=アグニカだと知ったのは、リハクさんくらいだと!

勘の良い人は6話で気付いてて、大体の人も1期分が終わる頃には気付いてて、みんなはここで確証を得ただけだと!

――キミのような勘の良いガキは嫌いだよ。

 

ハガレンは名作、とりあえず大総統閣下に敬礼。

自分の城に入るのに、裏口から入らねばならぬ理由が有るのかね?

 

 

ここで、アグニカ・カイエルはアラズ・アフトルでいると言う安寧をかなぐり捨てました。

使命を抱き、立場に囚われながら世界全体を見据えて行動する道へと戻ったのです。

守るべき人は守れずに数百年前に死んでるので、そう言ったアグニカ個人の願望も考えずに済むようになっていますし。

世界を動かす英雄として、彼は蘇ったのです。

 

 

 

 

問題の、問題の過去編(厄祭戦編)。

その総数は21話と、本作の3分の1を占めてしまった問題の編。

かなりカットして1話あたりの字数をそれまでより倍増させ、なおこうなっています。

1話あたりの字数をそれまでと同じくし、カットせず書いた場合の長さがどんなモノになるかは想像に難くありません。

間違い無く、それだけで1つの二次創作作品が成立してしまいます。

これだけ長くなるなら別作品としてしまえば良かったんじゃね、と思ったのは私だけではなかったようですし。

 

この過去編では、皆様にもご協力を頂きました。

そう、膨大なMSとMAの案でございます。

最初募集をかけた時は、多くても5件くらいだと思ってました。

そんな時期が私にも有りました。

 

しかし何というコトでしょう、もうドッシドシガッポガッポですよ。

最終的には70件以上と、私の予想の約14倍にまで達しました。

一時期、私の頂いた案を使える設定に落とし込む作業が追い付かなくなる程度には大量に送られて来て凄く忙しくなった程に。

お陰で色々な所にたくさん登場させるハメになって戦闘が長大化してしまい、嬉しい悲鳴を上げるコトとなりました。あ、私はSです。攻める方が好き。

 

とにかく、皆様の底力をナメ腐ってたら盛大にしっぺ返しを食らって無事KOされました。

 

すいません、本当にありがとうございました。

 

とっても助かりました――いえ、集まり過ぎて別の意味で追い詰められましたけど…。

皆様の案を見るのはとても楽しく、こうして送って頂けるのは素直に嬉しかったです。

ただ、全てを利用出来た訳でも無ければ全てを十分に活躍されられた訳でも有りませんでした。

その点については、深くお詫び申し上げます。

 

この過去編での重要キャラは、言うまでもないでしょう。

スヴァハ・クニギン、アグニカ・カイエルの幼なじみ兼同僚兼パートナー兼恋人兼嫁でございます。

アグニカ&(×)スヴァハ、略してアグスヴァ。

名前はインド神話の火神アグニの妻「スヴァーハー」をもじったモノと、王妃を意味する「クィーン」と「ケーニギン」の造語。

アグニカ・カイエル→アラズ・アフトルと同じく、名前が最大のネタバレになってるタイプです。

 

重要キャラその2、プラージャ・カイエル&エイハブ・バーラエナ。

マザーMA「ガブリエル」を建造した、人類に嫌気の差した人類LOVE科学者のお二人。

彼らがいないと、そもそも厄祭戦が始まらない。

――それならいなくても良かったんじゃ、と思ったり。

 

重要キャラその3、スリーヤ・カイエルとヴィヴァト・クニギン。

主人公とヒロイン、それぞれの父親。

ぐう有能な奴らです。

スリーヤの名前は、アグニの父とも言われる太陽神スーリヤから取られています。

ヴィヴァトさんはザ・マッドサイエンティストでございます。

イメージは「灼眼のシャナ」のダンタリオン教授。

セリフのどこを伸ばすかは、とりあえず普通に書いてからその時のノリで決めておりました。

この2人がどう関わってるかと言うと――とりあえず、色々やってますねこの人達…。

 

アグニカを主人公、スヴァハを最重要人物(ヒロイン)としてその血縁やセブンスターズ、ヘイムダルの仲間達を巻き込みながらこの過去編は展開しております。

と、ここからはそれぞれの話数で区切りながら気長に振り返りたいと思います。

今現在の字数は12,000を越えてますけど、お気になさらず(爆)

 

 

「#33 天使を造りし人間達」は導入部。

現代での導入と、MAの誕生について触れております。

それと、アグニカとスヴァハの運命の出会い。

 

 

「#34 厄祭戦、開幕」は、アグニカとスヴァハのパイロットへの転向と「四大天使」ガブリエルの起動。

 

ガブリエルは「マザーMA」と言う、ラファエルを除く全てのMAを生み出した存在となります。

この配役は、元ネタとなる大天使「ガブリエル」の逸話から。

ガブリエルは聖母マリアに「受胎告知」をした天使となるので…「だったらテメェがママになるんだよ!!」と言う怒られそうなノリでマザーMA役を押し付けました。

キリスト教徒の皆様、ごめんなさい。

 

 

「#35 ヘイムダル、結成」では、タイトル通りギャラルホルンの前身組織たるヘイムダルが結成されます。

ガンダム・フレームについても、悪魔を宿した天使を狩るモノだと言う説明をぶち込みました。

 

 

「#36 初陣」では、文字通りアグニカとスヴァハが初陣致します。

敵は「天使長」ザドキエル。

ハードル高めでしたが、何とか奇跡的に撃破出来ております。

これはザドキエルの本領が元々宇宙であることと、データ不足からなる対応の遅延を突いてです。

厄祭編で鉄華団が戦った「天使長」ハシュマルとはそもそもの経験値が違うので、この時のアグスヴァでは厄祭編のハシュマルには勝てません。

 

 

「#37 出航」では、アグスヴァがマッドサイエンティストと共にヴィーンゴールヴを飛び出します。

この時に乗り込んだ「バージニア級汎用戦艦 ゲーティア」は、戦場が宇宙になるコトを想定して出しました。

鉄血にはホワイトベースやアークエンジェルのような汎用戦艦が出てなかったので、出してやろうと言う魂胆も含まれております。

 

 

「#38 邂逅」では、何と言っても鉄血に無かった水中戦が行われました。

やっぱり、ガンダムには水泳部が必要なのです。

水泳部員はズゴックが至高、異論は認める。

そしてこの回からは、頂いた案から作った機体達が登場しています。

 

オーストラリアの穴についても、少し言及してターンタイプの存在を匂わせたりもしました。

皆様、結構看破してましたけどね…。

こわひ…さてはニュータイプだなオメー、と叫びたくなっておりましたよ。

 

この頃はアグニカもチートまで至っておらず、結構苦戦を強いられているんだ!(集中線)

ぶっちゃけ、援護が無かったら厳しかったです。

 

バキシムさんご提案の「天使」サキエルは水中戦に長けた機体で、OOの「トリロバイト」を参考になされたと。

OOは私に取って結構お気に入りの作品なので、ノリノリで設定しましたよ。

鉄血水泳部の一員ですね、間違いない。

 

お野菜さんご提案の「天使」ガギエルも、鉄血水泳部の一員。

魚雷とミサイルを盛りまくっており、ネオ・ジオングがお気に入りな程度には火力厨の私に取って、ドストライクでした。

 

逸般Peopleさんご提案のガンダム・フォカロルも、水中戦に長けた局地戦用の機体。

武装の名前はポセイドン関連から取ってると見ますが、如何なるやら。

ガンダム系で完全なる水中戦特化の機体はなかなか無い(と言うか、パッとは思い付きません)ので、稀有な存在かもと思います。

良かったねアクア・ジムさん、お仲間にガンダムが増えたよ!

 

フォカロルパイロットの「アマディス・クアーク」は、悪友キャラをイメージしております。

アグニカとの連携プレーは、スヴァハの次に得意。

名前はパパッと考えてますけど…名前なんて些細な問題ですよね(開き直り)

 

 

「#39 トリントンでの戦闘」では、舞台がトリントンへ移ります。

トリントンは0083と言いUCと言い、戦場になりまくってますね…呪われてるんですかね?(適当)

 

胡散臭いオセアニア連邦の大統領、エリセオ・プラウドフットさんも初登場。

この人、裏では色々暗いことやってますよ…。

 

バキシムさんご提案の「天使」サハクィエルは、運搬用MAだそうで。

奪った兵器の回収やMAの移動など、地味ながらも重大な役割を果たしております。

イメージはエヴァの第十使徒で固定されてますけどね…。

あれは強敵でしたわ。

 

バキシムさんご提案の「天使」スイエル。

8本脚の陸戦用MAと言うコトで、個人的にはエヴァの第九使徒や「ヘヴィーオブジェクト」に出て来るオブジェクトの1機「ウォーターストライダー」とか「イグザクトジャベリン」みたいなのを想像しました。

 

pakuyasaさんご提案の「天使」バラキエルは、プルーマを生みまくります。

有る意味、最優先撃破対象となるMAですね。

プルーマがメインなので、本体は活躍してませんが…。

 

 

「#40 天使への復讐者」は、アグニカの転換点の1つともなっております。

 

それに影響を与えているのが、復讐者の大駕・コリンズくん。

これが「Fate」シリーズだった場合、間違いなくアヴェンジャー適性を得るかと。

 

そんな大駕くん復讐者設定を作らなくてはならなくなった要因が、VOLTEXさんご提案のガンダム・グラシャラボラス。

力に対する対価や負担が半端ではなく、殺人鬼や復讐者にしか扱えないらしいのでこうなりました。

まあ、グラシャラボラス自体が殺戮の悪魔らしいので是非も無かったのでしょう。

戦闘方法は、まんま原作50話のバルバトスをイメージしています。

ステルス機能付きですが、あまり生かせませんでした…orz。

 

そんな大駕くんを拾い、やべー機体に乗ることを認可したアグニカにスヴァハが問い詰めます。

スヴァハの前では理論武装したアグニカでしたが、納得はしておらず――むしろ、そうしなければならない自分を責める。

終わり無い戦いを前にして苦悩しますが、それでもスヴァハと助け合いながら前へと進んで行きます。

 

 

「#41 日本基地の惨状」で、アグニカ達は日本基地へ。

この時点で、ミカエルの影が見えていますね。

そして、オリジナルキャラが溢れかえりました。

セブンスターズからはイシューとエリオンとファルク、名家からはウォーレンが出ております。

 

 

「#42 脱出」で、早くも日本基地より脱出。

オリジナル機体の数がエグゼイドになってます(訳:エグいコトになってます)。

 

カンツウツボさんご提案の「天使」サリエルは、蝶のような形をした狙撃特化のMA。

さしずめ、死の蝶とでも言うべきですかね?

毒ガス兵器持ちですが、使用はされなかったです…orz。

 

オストラヴァさんご提案の「天使」ザフィエルは、傘のような形をした爆撃機。

こういう斬新な形の機体は、新鮮で面白いですね。

ミサイルの雨を降り注がせると言う、一斉殲滅するタイプ。

 

お野菜さんご提案の「天使」マルティエルは、ビームをばらまいて焼き尽くすMA。

完全に市街地を焦土に変える為の機体ですね、間違いない。

一瞬で焼き払われるなら、苦しまず死ねそう。

 

-wind-さんご提案の「天使」アズライルは、水陸両用のプラズマ・リーダー装備(ここポイント高し)のMA。

私としては「アズライル」とか言われると、某ソシャゲのグランドアサシンが頭を過ぎります。

これでイルの間が伸びてたら、出る度に延々とジョージボイスが脳内再生されていたコトでしょう。

 

pakuyasaさんご提案の「天使」ケルビムは、スタンダードなバランスタイプのMA。

私としては「ケルビム」とか言われると、OOのケルディムガンダムが思い浮かびますね。

「ガンダムビルドファイターズ バトローグ」の第4話は、派生機体の「ケルディムガンダムサーガ」が動いているので必見です。

あの回の作画は、PGエクシアが見本のようにバリっててニヤニヤが止まりませんでした。

大張さんが仕事しながら遊んでましたよ(歓喜)

 

カサンドラ・ウォーレンくん。

ウォーレン家の初代当主となる、アスタロトのパイロット。

ウォーレン家に取ってアスタロトは月面での拾い物だそうですが、ガブリエル戦で機体を月面に放棄してそれを後世で回収したと言うコトで。

 

N-N-Nさんご提案のガンダム・ヴァレフォール。

パイロットは響・コフリンくん。

エイハブ・ウェーブのジャミング機能付きで、サポートタイプですね。

チャフ配合煙弾は使ってなかったです、orz。

 

オストラヴァさんご提案のガンダム・ゼパル。

パイロットは遼真・ウェルティくん。

ソードアックス、剣内蔵のシールド(とか言われると、どうしてもSAOのヒースクリフが思い浮かぶ私…)に特殊機能までお持ちで、私としては結構お気に入り。

ただ、出落ちになってしまい…申し訳無く思います。

 

N-N-Nさんご提案のガンダム・ヴァッサゴ。

パイロットは悠矢・スパークくん。

Xのガンダムヴァサーゴチェストブレイクが参考になってますが、ガンダム顔にボリノーク・サマーンのようなレドームが付いた奴を想像しています。

3連装バスターアンカーは反動が無いようですが、それでもクローアームで機体を固定するのは100%私の趣味。

 

ガンダム・アモンは、みっつ―さん、N-N-Nさん、ヨフカシさんからご提案された人気機体。

アモンって、何でこんなに人気なんでしょう?

ただ、私が作っていた設定に増設する形となったために案はあまり生かせませんでした。

申し訳ございません。

 

パニックさんご提案のガンダム・グレモリー。

ただ、この機体については連載中に公式が出してくると言う異常事態が発生。

本作ではこのまま突き進もうかと思いましたが、公式のグレモリーがあまりに格好良かった為に揺るがされてしまいました。

そのせいで、パイロットはクジナ・ウーリーさんからイシュメル・ナディラさんに移行する事態となりました。

頂いた案に有ったスナイパーライフルは、デュナメスっぽいのを想像しました。

 

N-N-Nさんご提案の「天使」アザゼル。

光学迷彩持ちの、厄介なMAですね。

多くのMSが守る市街地の攻撃とかに使われたのかと思うと、ゾッとします。

ブリッツガンダム的な使い方もされるのかな? と思ったり。

 

 

「#43 乱戦」では、遂にターンXことルシフェルとガブリエルが接触しています。

また、今回もオリジナル機体が大量生産されちゃってて大惨事に…。

 

トラクシオンさんご提案の「天使」シャクジエル。

小型プルーマを生みまくると言う、ただ強い「四大天使」とは別の意味で厄介なMAです。

小型の奴が工作を仕掛けると言われると、ビルドファイターズのジムスナイパーK9が出て来る私は確実に末期ー。

 

Crow・Hrasvelgrさんご提案の「天使」カマエル。

レールガン搭載とか言う、私のストライクゾーンを攻めるMA。

このレールガンは、フラウロスのとは違ってダインスレイヴ弾頭は運用出来ません。

ダインスレイヴは「四大天使」以上しか持たない、と言うこだわりが有りますので…。

 

お野菜さんご提案の「天使」イスラフィル。

音波攻撃をする、水の中ではかなり厄介であろうMA。

イスラフィルのスピーカー使えば、あの曲を爆音で聴ける?(オイ)

 

DOBONさん、ヨフカシさんご提案の「天使」ゼルエル。

エヴァの影響を受けた人は強そうと思われるでしょうが、元ネタの天使にはそこまで多くの逸話は有りません。

ただ、戦闘に関してはかなりのモノだったようですが。

拡散ビームとミサイルを大量装備した、更地製造用MA。

 

一風の陣さん(一部で名前の表記に間違いがございました、申し訳ございません)ご提案のガンダム・アムドゥスキアス。

変形機は男のロマン。

アムドゥスキアスのデザインには、変人芸術家が関わっているという裏設定有り。

パイロットについてもある程度の設定を下さったので、利用させて頂きました。

出番こそあまりあげられませんでしたが、こういう設定は私の好物です。

 

カラドボルグとか言う、ダインスレイヴの上位互換なやべー兵器も登場。

小型化しないまま禁止兵器になってくれて良かったです、いやマジで。

 

ガンダム・アスモデウスには、変わったモノも仕込みました。

長槍とカギ爪とダインスレイヴで無双します。

このカギ爪は、回転させて展開するモノではなく引き出して展開するモノとなっております。

 

ガンダム・キマリスとは、曲がれるダインスレイヴである。

やっぱり厄祭戦時代の発想はおかしい。

ちなみにこの「キマリス=曲がるダインスレイヴ」理論は、とあるアグニ会同胞が作品の感想欄かどこかで言っていたので勝手に使わせて頂きました。

事後承諾n(ry

 

ガンダム・バルバトスのパイロットは、クレイグ・オーガスくん。

名字に既視感有りますが、実際どうなのかは敢えて明言しとかずに置きます。

 

ガンダム・グシオンについては、N-N-Nさんの案も参考に改修前のオリジン姿を設定。

パイロットは和弘・アルトランド。

名字に既視感g(ry

 

 

「#44 秘匿都市ベルファスト」は、日常回。

ですが、アグニカはまた孤児達を引き入れます。

そろそろSAN値がマズくなって来てますね。

しかし幕間では、∀のビームがMAを破壊し――∀がスリーヤと接触しています。

 

お野菜さんご提案の「天使」アラエルは、通りすがりに核爆弾をほっぽりだして消えていくピンポンダッシュならぬヌクウェラーウェポンダッシュを専門とするMA。

タチが悪すぎる(誉め言葉)

 

 

「#45 ハシュマルの逆襲」は、スヴァハの心理描写から始まります。

幼なじみは負けフラグ? んなモンぶち壊せ。

今作に於いて、そんな定石は適応されないッ!

イチャラブシーンも有りであるッ!

 

そして、火星行きのゲーティアがマスドライバーで宇宙へ上がる最中には「天使長」ハシュマル戦が行われております。

 

飛鳥さんと赤くて3倍な彗星さんご提案の、ガンダム・フェニクス。

アームド・アーマーVNと槍、ダインスレイヴを持った機体です。

強力な装備をお持ちでいらっしゃいますね。

黄金では有りません、白と赤のツートンカラーなので。

 

飛鳥さんご提案の、ガンダム・ハルファス。

Gジェネのハルファスガンダムとは、また別物でございます。

バックパックのウイングバインダーは巨大でワイヤーブレード付きと言う、プラモにしたら自立出来ない or 翼を支え代わりにすれば立つ奴になりそう。

 

フェニクスとハルファスは同時運用が想定されており、パイロットも双子となっています。

 

N-N-Nさんご提案のガンダム・ブエル。

パイロットはオーウェン・フレッチャーくん。

技能がチャドさんと似通ってる方。

えげつない能力持ちですね。

「天使長」以上には効果無しであり、一応同時に操作出来るのは1機までと言う制約付き。

それでも強力な機体なので、厳重管理は欠かせません。

武装もサブアームが大量に生えていて、運用法次第では面白くなりそう。

 

ツチノコさん、Astray Noirさんご提案のガンダム・マルコシアス。

マルコシアスと言われると、私は「灼眼のシャナ」に出て来た「蹂躙の爪牙」マルコシアスが出て来ますがそれはさておき。

とりあえず、武器がデカい。

ついでにインコムも持っています(ここポイント高し)

パイロットはツチノコさんからの名前案「マルコ・金元」をもじって「金元・カーゾン」としました。

枕までデカいかは知りません。

 

鮭ふりかけさんご提案のガンダム・ストラス。

剣→弓になる武器はかなり好きです。

FGO、プロトギル実装はまだなの?

中村さんが待ってるよ?

…それはともかく、この武装はヴァルキュリア・フレーム3番機のオルトリンデの武装のモデルになったという裏設定有り。

色々な所でダインスレイヴ弾頭を運用出来る、割と恐ろしい機体ですね。

 

パニックさんご提案のガンダム・オロバス。

宿ってる悪魔がかなり良い奴なので、対価とかは特に取られない安心安全なリミッター解除が可能と言うチート機体。

排熱用の排気口が全身に有り、一斉にそれを使った場合は滅茶苦茶カッコ良くなること請け合い。

武装はガンダムサンドロックのを想像しています。

 

一風の陣さんご提案のガンダム・マルバス。

ダインスレイヴを更に速く出来ると言う、MS相手ならかなり有効に機能しそうな機体。

MAの破片利用を想定した点で、厄祭戦に於ける人類のギリギリ感が有って良い感じですね。

 

ドラゴンノーツさんご提案のガンダム・フォルネウス。

フォカロルと同じく、鉄血水泳部の一員。

チェーンマインはとてもポイントが高いです。

敢えて言おう、チェーンマインを使う機体に格好悪いモノなど無いと!

 

 

「#46 アーレス奪還作戦」では、この時代特有の忌むべき存在とも言うべき「煽動屋」の皆様が登場致しました。

この「フヴェズルング」はまだ良心的な方で、中には人が蹂躙される光景を見て愉しむ者もいるのでタチが悪い。

 

ガンダム・アンドロマリウスのパイロットであるロブ・ダリモアは初めて煽動する仕事をしましたが、仲間思いなので仲間になると頼もしい。

このアンドロマリウスは、私が勝手に設定致しました。

ビーム・マント、左利き、バスターソードに4つ目&4本角と、結構盛ったと思います。

 

ダラク・ニンジャさんご提案のガンダム・レラージェは、一撃離脱戦法を得意とする機体です。

この理論は、オルトリンデにも生かされていると言う裏設定付き。

ワイヤーブレードを左腕に装備しているのは、他にはなくてかなりお気に入り。

 

クルガンさんご提案のガンダム・カイム。

これも武装はシンプルで、パイロットの技量が問われる機体となります。

こういう潔い奴、私はかなり好きです。

パイロットのピラール・ハーディングは、流暢なルー語を操って話します。

元々男だったんですけど、ロブの側近と言う立ち位置になると決めた際にTSされたと言う…。

 

逸般Peopleさんご提案のガンダム・フォカロルテンペスト。

ああ、鉄血水泳部が過剰火力持ちの範囲攻撃機に…止めろォ!(建前) ナイスゥ!(本音)

主力装備のバスターオールは扱いが難しそうですが、汎用性高そうですね。

 

ザルムフォート家の初代当主、シプリアノ・ザルムフォートも登場。

この方はアグニカ達が火星に来るより前から、火星戦線の維持に多大な貢献をしています。

それを讃えられ、彼はザルムフォートと言う名字を得た形です。

 

この回では、ようやくアグスヴァがカップル成立。

互いにファーストキスだったそうですよ?

そして最後には、遂に「四大天使」ウリエルが登場しています。

 

 

「#47 神の炎(ウリエル)」では、初めての対「四大天使」戦が開幕。

火星にある人類の総戦力を前にして、ウリエルは猛威を振るいまくっております。

 

ガンダム・ウヴァルは、厄祭戦時代の姿が不明であるため私が設定しました。

γエイハブビームソードと言う、オリジナルの特殊武装持ち。

これはツッコまれると思いましたが、そんなコトは特になく安心したような悲しくなったような。

 

トラクシオンさんご提案のガンダム・デカラビア。

デカラビアと言われると、私は「灼眼のシャナ」に出て来る「仮装舞踏会(バル・マスケ)」所属の「淼渺吏(びょうびょうり)」デカラビアが頭を過ぎります。

もう私はダメかも知れない。

散弾型ダインスレイヴとか言う、厄介な武器をお持ちです。

イメージは土管とのコトで…ジャイアンが座ってるアレとか、神がCONTINUEする時のアレを思い浮かべて頂ければおkかと。

 

音無紫聖さんご提案のガンダム・エリゴール。

排熱の際は極薄の金属板が靡くとのコトで、アニメで見たりすればかなり美麗な機体になるのは想像に難くありません。

今の所、靡くとか言われると私は「Fate」シリーズのジャンヌの旗しか思い浮かびませんが。

なんでさ。

機体のシステムを脳とリンクさせると言う、割と恐ろしい機能を搭載しちゃっています。

 

ドラゴンノーツさんご提案のガンダム・ナベリウス。

ナベリウスの別名はケルベロスと言い、3つ首の地獄の番犬と言われれば知っている方も多いハズ。

私は「聖闘士星矢」で知りましたし。

両肩の装甲を頭部状にすると言う、気持ち悪くならず尚且つガンダム・フレーム素体を崩さず済む素晴らしいアイデアでございました。

 

一風の陣さんご提案のガンダム・アンドレアルフス。

ハイパージャマー搭載の隠密機ですが、何よりアトミック・バズーカ持ちの機体。

アトミック・バズーカ持ちの機体ッ!

ソロモンよ、私は帰って来た!!!(これが言いたかっただけ)

 

このアンドレアルフスのパイロットであるアーヴィング・リーコックくんは、元々は「ヘイムダル」のメンバーでは有りません。

傭兵団「バルドル」の団長ですが、ヘイムダルに雇われたのでウリエル戦にも引きずり出されました。

 

一風の陣さんご提案のガンダム・イポス。

ハルバード、大剣、両手両足の爪と格闘武器が充実しています。

こういう武器持ちまくりは私の大好物。

このイポス、場合によっては未来を見るコトが出来るとか。

 

イポスのパイロットであるレオナルド・マクティアは、変人芸術家(親は政治家)です。

名前は「レオナルド・ダ・ヴィンチ」から取られていたり。

フゥゥゥゥ~… 私は、子供の頃…レオナルド・ダ・ビンチの「モナリザ」って有りますよn(ry

――モナ・リザの手を見て勃起した少年、吉良吉影は捨て置くとして。

変人と言われた時にはハム仮面しか出てこなかったので、この方にはグラハム成分が含まれています。

また「アグニカ叙事詩」の挿絵を描いたり、イポスを通して見たクーデリアの姿を絵にして「革命の乙女」と言う作品を残していたりもします。

 

この回では、ゲーティアが撃沈。

マッドサイエンティストもろとも、宇宙のチリとなりました。

最後にヴィヴァトが普通の喋りになるのは、科学者としてではなくただ1人の父親として話したからです。

それを見たスヴァハの悲痛な声を耳にし、アグニカは初めてバエルのリミッターを解除しました。

――それがスヴァハを守る力ではないコトに、気付いていたのかは分かりませんが。

 

 

「#48 新たなる脅威」で、ウリエルとの戦闘が決着。

ヘイムダルは火星を回り、各地でMAを殲滅しました。

ちなみに、この時はまだ火星に「天使長」ハシュマルは来ていませんでした。

ヘイムダルが地球へ帰り、ミカエルが撃破された頃にハシュマルは火星に隠匿しています。

 

しかし、地球に戻った彼らはすぐに「四大天使」ミカエル撃破の為に動き出す。

まさしくクソゲー。

休ませてやれよと、憐憫の目を向けざるを得ない。

 

カンツウツボさんからは、量産機の案を多数頂きました。

棺桶型の盾を持ったグレイヴ・ロディ。

新宿のアーチャーかな?(すっとぼけ)

シンプルな武装で纏められたフラム・ロディ。

ガンダムAGEのキャラを思い出しますね。

ダインスレイヴを搭載したユーゴー。

機体を固定する為のワイヤーアンカーにロマンを感じます。

 

 

「#49 神の如き者(ミカエル)」では、二度目の「四大天使」戦。

「四大天使」最強のMAであるミカエルに、ヘイムダルは大苦戦を強いられているんだ!(集中線)

 

ガルダっぽい輸送機とかも出したりしていますが、あっさり撃墜されると言う。

個人的にはバージニア級より好きかも知れない…それはそれとして落とされます。

 

kanakutoさんご提案のガンダム・ガミジンは、プロトダインスレイヴ搭載の機体。

それ以外にも、パイロットの脳内信号伝達速度を増大させるとか言う危なげも有りますね。

 

パイロットのバリシア・オリファントは、人材不足の為に乗ることになってしまった不幸なお方。

システム(悪魔ガミジン)と会話出来るようになってしまい、周りからは変わった人だと思われていました。

 

ガンダム・シトリーは、N-N-Nさんから分散的に頂いた案を折衷して設定しました。

コイツが持ってる試作型ダインスレイヴは、ガミジンとはまた別の物。

このダインスレイヴが、改良されて正式版へとなっています。

 

Crow・Hraesvelgrさんご提案のガンダム・ボティスは、近接戦特化型の機体。

ガンダム・ヴィダールと同じような武装を持っており、ヴィダールの武装はコイツが基になってるのかなあと思ったり。

特殊装備は、数秒後の未来を予測出来る「Fate」シリーズで言う「直感」スキルから反射的行動を抜いたような効果かなと。

 

一風の陣さんご提案のガンダム・バティンも、かなりシンプルに仕上がっております。

全身にナノラミネートコートを採用し、ガンダム・グレモリーの参考となった機体と言う裏設定。

加速力と防御力が高いのは、分かりやすくも強力ですね。

 

パイロットのウィルフレッド・ランドルくんについても、一風の陣さんからは案を頂いておりました。

新聞記者やってたらガンダム拾って、ヘイムダルに合流して一安心したかと思ったらミカエル戦に引きずり出された哀れなお方。

でも厄祭戦を生き残り、アグニカ叙事詩の執筆を行ったりしています。

セリフは――無かったです、すみません。

 

みっつ―さんご提案のガンダム・アンドラスは、アイギスのプロトタイプも装備した操作系が異様にピーキーな機体。

ダインスレイヴ装備の、強力な機体となりました。

 

そして、こんなガンダム達やMAが入り乱れる戦場の中――スヴァハの駆るガンダム・アガレスは、致命傷を食らうコトとなりました。

 

 

「#50 別離(わかれ)」は、タイトル通りアグニカとスヴァハの決別がメインとなります。

アグニ会同胞命名、通称「スヴァハショック」。

アクシズショックじゃないんですから、とツッコミを入れておきます。

今までこういった死亡シーンは長くならないようにしていましたが、スヴァハの死亡シーンは少し長めに取っています。

この場所がアグニカに取って最大の転機なので、喋らせてあげても良いかなと。

 

この回は、今作最高の鬱回。

しばらく「アナタ虚淵作品見過ぎよ!」的なコトを感想欄で言われました。

いや、あなた方は虚淵を何だと…あの人、ハッピーエンドも書けますからね?

虚淵作品は良い文明、視聴は止めない。

 

「四大天使」ミカエルも倒れました。

撃破したバエルも損傷は甚大であり、これとザドキエルを倒す為にリミッターを解除して暴走したグラシャラボラスもバエルに沈黙させられました。

子供を自分で招き入れ、託した機体が暴走し、それを自ら粛正する。

スヴァハの死と重なって、アグニカは一気に追い詰められます。

 

アグニカのSAN値はここで直葬。

これ以降、アグニカはMAの殲滅にのみ全力を注ぐコトとなります。

それまではMAを倒した後のコトも想定していましたが、これ以降はそんなコトを考える余裕が無くなっています。

スリーヤとの会話で分かる通り、スヴァハの死がどうにもならないコトは理解しています。

しかし、理屈では理解出来ても心では納得出来ていない。

故にこの後のガブリエル戦で全力全霊を掛け過ぎて行動不能になり、戦後のギャラルホルン組織に関わるコトが出来なくなってしまったのです。

 

最後には、∀もといガンダム・ソロモンもとい「四大天使」ラファエルが登場。

この時の地の文では、何が有ったか全く説明してませんでしたが。

 

 

「#51 神の人(ガブリエル)」では、厄祭戦の最終決戦が始まります。

MA大量発生。

一斉在庫処分と言わんばかりに出まくっておりますね。

 

Astray Noirさんご提案のマドナッグ。

にせガンダムの意志を継ぐ、パチモンですね。

ネーミングセンスの良さを感じます。

 

秋津秀久郎さんご提案のガンダム・ミシャンドラは、ガンダム・ゼパルの残骸を利用して建造されています。

やだよぅ…とゼパらずには済みました。

さり気ないダインスレイヴ持ち。

 

一風の陣さんご提案のガンダム・サブナック。

機動性こそ失われましたが、フォカロルテンペストと並ぶ最強の火力厨に。

やったぜ。

6基のサブアームがポイントですね。

 

パイロットに関しても案を頂いていましたが、元SAU軍人から現SAU軍人になりました。

 

パニックさんとorotidaさんご提案の「天使」メタトロンは、ステータスを機動力に極振りしたガンダムに対応する為のMA。

個人的にはヒート・ロッドのポイントがかなり高いです。

 

orotidaさんご提案の「天使」アサエルは、ガンダム・フレームを模したMA。

サイコ・ガンダム的な物を想像して頂ければと。

これ、空飛べるんだぜ…。

 

N-N-Nさんご提案の「天使」マスティマは、アサエルを造った後にガンダム・フレームを捕獲したガブリエルがガンダムを踏襲して造ったMA。

サイズもガンダムサイズになり、リアクター1基積みながらも厄介な敵となりました。

 

クルガンさんご提案のゲルヒルデ。

「戦いの槍」と言う名に相応しく、槍が主武装となっています。

全身が曲面装甲だとか言われると、どことなくアッガイに似たかわいさを感じますね。

グリムゲルデのうさぎ耳と言い、ヴァルキュリア・フレームは萌え要素多め?

 

オルトリンデは「月鋼」で出た物とほぼ同じですが、ダインスレイヴが使用可能となっています。

 

ブリュンヒルデは、大剣を武器とする機体。

元ネタとなるヴァルキリーの中でもブリュンヒルデは逸話が豊富な為、武器の名前には事欠きませんでした。

 

daipinさんご提案のハニエルは、言わばプルーマの強化版。

ビーム砲が増え、ちょこちょこ飛び回る厄介なMAとなっております。

 

 

「#52 天使の王」では、いよいよ「天使王」ルシフェルが動きました。

奇怪な言動をするルシフェルについては、かなり胡散臭く――しかして絶望的に書いたつもりではいます。

 

GORISANさんご提案の「天使」シャティエルは、ブエルと同じように電子戦特化のMAとなります。

各経済圏が協力出来なかったのは、大体コイツのせい。

アリアドネはどうにも出来なかったようですが。

 

お野菜さんご提案の「天使」アルミサエルは、プルーマ生産特化型MA(宇宙版)。

ただ、エヴァの第十六使徒的な見た目ではないのでご安心(?)あれ。

 

ムリエルさんご提案の「天使」マルキダエル。

宇宙防衛用MAと言うコトで、ずっと月の近くにおりました。

ガブリエルは引きこもりですね、間違いない。

 

お野菜さんご提案の「天使」サンダルフォン。

射撃能力特化のMAとなります。

エヴァの第八使徒との関わりはございません、恐らくは。

 

お野菜さんご提案の「天使」レリエル。

光学迷彩持ちの、奇襲速攻専門のMA。

これもエヴァの第十二使徒との関わりはない…ハズです。

 

pakuyasaさんご提案の「天使」ラグエル。

亀っぽい形をした地上戦特化のMA。

装甲が分厚いので、撃破には一苦労します。

何となくかわいい感じが…。

 

ツチノコさんご提案の「天使」オファニエル。

ビーム砲を360°に発射出来る、UFO型のMAです。

え? ufotable?(乱視)

 

トラクシオンさんご提案の「天使」タブリス。

ガブリエルがルシフェルから提供されたナノマシン技術を使って造られた、ナノマシンが本体のMA。

カヲル君とは関係ございません。

 

Astray noirさんご提案の「天使」シャムシャエル。

定形を持たないタブリスを除けば、最小のMA。

タブリスと同時期に造られており、ナノマシンウイルスをバラまきます。

元ネタの天使シャムシャエルは別名に「シャムシエル」と言うのが有りますが、これもエヴァの第四使徒との関わりはございません。

 

Astray Noirさんご提案の「天使」ザフキエルは、ビームランチャーを装備した狙撃専門MAです。

また、サハクィエルと同業でも有ります。

個人的に、本体よりデカい武器とかはなかなかどうして響きますね。

 

N-N-Nさんご提案の「天使」ラムエル。

このMAは頭がデカいので、そこに付けられたビーム砲もデカい。

ビームは曲がるモノ。

かの盟主王、ムルタ・アズラエル氏もそう言っているんだ。

 

N-N-Nさんご提案の「天使」ラメエル。

ラムエルと名前が似てますが、別物のMAです。

拡散ビーム砲を搭載した翼を分離させて攻撃する、悪く言えばルシフェルの劣化版。

何にせよ、厄介なコトに変わりは無いですが。

 

赤くて3倍な彗星さん(さてはシャアだなオメー、とツッコんで良いのか)ご提案の「天使」イロウエル。

バスターアンカー内蔵の、火力タイプのMA。

火力厨、良いですね。すごく良い。

 

ヴァルトラウテは、レールガンとアックスを持ったバランスタイプ。

 

シュヴェルトライテは、剣とライフルを持ったスタンダードタイプ。

 

ジークルーネは、馬上槍といい感じな盾を持った近接戦特化タイプ。

 

ロスヴァイセも同じく、剣にビームマント持った近接戦特化タイプとなっております。

 

VOLTEXさんご提案の「天使」セラフィムは、高機動高火力のMA。

OOのセラフィムガンダムが思い浮かぶのは私だけではない、と信じて疑っておりません。

 

この回ら核爆弾がバラまかれたり、ルシフェルがビームを撃ちまくったりとカオスを極めました。

ただ、ルシフェルのせいで人類の艦隊はほぼ壊滅状態に追い込まれましたが。

 

 

「#53 厄祭戦、終結」で、ようやく厄祭戦が終わります。

バエルVSガブリエルでは、バエルがリミッターを解除して暴れました。

 

ですがこのガブリエル戦で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

何故なら、バエルはミカエルを倒しているから。

ミカエルを倒せるのなら、ガブリエルを倒せない事など無いです。

それに、ミカエル戦でのバエルとの同調でアグニカの技量は数段アップしています。

素でも勝てたのにリミッターを解除してしまったのは、目の前でブリュンヒルデとフォカロルが撃墜されたコトだけではなく――アグニカからあらゆるモノを奪ったMAへの憎悪も、確かに存在していたからでしょう。

 

しかし、ガブリエルは最期にルシフェルのビームでその機能を停止します。

何故、ここでルシフェルがガブリエルを撃ったかといいますと――ルシフェルに取って、ガブリエルが用済みになったからです。

 

ガブリエルが機能停止すると同時に、各経済圏から巻き上げられていた核爆弾約1,000発を巻き込んだ「百合の花園(ヘブンズフィア)」の自爆シークエンスがスタート。

抜かり無さ過ぎますね、ガブリエル。

 

バエルの救出に参加したガンダム・オセは、パニックさんのご提案。

フラウロスと同様の変形をし、獣状態で戦う機体。

イメージはガイアガンダムらしいですが、私としてはどうしても「アクセル・ワールド」に出て来る「ブラッド・レパード」ことパドさんが頭を過ぎると言う…やはり私はもうダメかも知れない。

 

最終的にバエル救出には成功していますが、人類側はアグニカが意識不明で作戦参加者の大半は行方不明と言う大損害を被っております。

軍縮成功ですね!(爆)

大体ルシフェルのせい。

がしかし、月光蝶使ってないだけ良心的と言う…。

やっぱりターンタイプは何かがおかしい。

 

ギャラルホルンの体制について、ターミネーターになったアグニカはボロクソに非難しております。

これは別に、世襲制と権力集中制そのものを否定しているワケでは有りません。

実際、王制で国が活発に回った時代も有ります。

しかし、技術革新が起きてグローバルになり、国ならぬ経済圏同士の利害関係が複雑に入り乱れた時代には、時に主君が無能になり、独裁も起こり得る世襲制と権力集中制が向いていないと言う考えです。

かと言って分立して法による制限を付けても、ナチスのように独裁は起こるので難しい限りですが。

 

このギャラルホルンの支配体制の結果がヒューマンデブリや宇宙ネズミなどの存在ですので、これを問題視するかによってもこの体制が是か非かの結論が変わりますし。

結局は完璧な支配体制など無いので、初代セブンスターズは権力集中制を取ったがアグニカは権力分立制を志した、と言うだけです。

 

 

過去編最後の話は「#54 天使の残党」で、ここでようやく物語は「#01 謎の男」に繋がります。

 

禁止条約が調印された場所としてアデレードを選んだ理由は、「閃光のハサウェイ」をご存知の方ならばお分かりかと思います。

知らない方は今すぐ原作小説読んで、どうぞ(販促)

 

カンツウツボさんご提案のヘリヤルにも、少しだけ触れました。

ヴァルキュリア・フレームとゲイレール・フレームの間にある機体なので、厄祭戦には出せませんでしたが。

ギャラルホルンのMS開拓史の1ページを飾ってくれる機体にはなっている、と勝手に思っております。

 

カイエル家のハーフビーク級戦艦「ヴァイシュヴァーナラ」も少しだけ登場。

名前の由来は火神アグニの別名「ヴァイシュヴァーナラ」で、意味は「普遍的なもの」となります。

 

この回では「天使王」ルシフェルが再登場し、アグニカと接触しました。

全身が分離すると言うルシフェルのギミックが初披露され、これをターンXに繋げる人も少なく有りませんでした。

普通にアグニカを圧倒しましたが、メイス投擲攻撃と言うしっぺ返しを食らいました。

 

この時のアグニカは24歳。学生では有りません。

目覚めた時には、323歳。

長生きですね(白目)

 

 

振り返るのにもかなりの字数を要しましたが、過去編(厄祭戦編)はアラズ・アフトル/アグニカ・カイエルの謎や伏線を一気に解明/回収出来ました。

ただ、逆にルシフェルとラファエル関連で謎が増えた気もしますが…。

それらの謎は、完結編へと持ち越されました。

 

 

 

 

問題の編その2、完結編。

文字通り、物語の終局へ向けてのラストスパート。

――なのですが、最後までの大体のプロットが決まったのは過去編が終わって完結編を書き始める前。

ギリギリ過ぎですね…やはり見切り発車は良くないので、皆様は全体のプロット組み終わってから書くことをお薦めしますよ(半面教師?)

 

ついでに言うなら、私は物語を広げるコトはともかく畳むのはとても苦手なのです。

そんななので、後半へ向かうに連れて物語が失速するのは自明の理でした。

やっぱり、最後に向けて最高に盛り上げながらもキッチリと物語を畳みきる作家の方は凄いんだなぁ、と憧憬の念を抱きます。

私程度では、そんな事は永遠に出来そうにないですしね。

 

 

それはともかく。

この完結編では、アグニカを主軸としつつもマクギリスを中心としたセブンスターズにも焦点を当てています。

 

ただ、マクギリスによる「新アグニ会組織宣言」の辺りは久々のマクギリス登場と言うコトで遊ばせ過ぎてしまいました。

同じ場所にアグニカがいると言うコトでハイテンションになっておりますが、結果として100%ギャグのおまけコーナーでもないのにキャラ崩壊を引き起こしただけとなったので、あそこは反省点となります。

今度はキャラ崩壊に気を付けねば…いや、今度と言うべき作品が有ればの話ですけどね。

 

 

マクギリスとガエリオの確執と、アグニカの不在からなるグウィディオン艦隊とアリアンロッド艦隊の正面衝突。

因縁なんてそう簡単には消えません。

両者とも艦隊の全戦力を展開させて衝突しています。

 

ガンダム・レラージュリアは、土壇場でポンと登場させるコトが決定した機体。

過去編で宇宙に放り出されたままになっていたレラージェを、せっかくなので出そうと思いました。

この後出て来るルシフェル対策の為にも、戦力増強は必須なのでした。

 

さり気なく出した「ラスタルMSパイロット説」は、ラスタルが他の二次作品でそう言うコトしまくってるせいかツッコミとかはされず、私もあまり違和感無く書いていました。

ラスタルはMSに乗る宿命。諦めよう。

 

この全面衝突の際にマクギリスとガエリオに決着を付けさせなかったのは、ルシフェル戦が控えていたからです。

 

 

そして、ルシフェルはカイラスギリーのビッグ・キャノンを発射。

艦隊を蹂躙しております。

この時の挿絵は引き絵でも爆発が多く見られる鉄血らしくないモノとなっていますが、ターンXの仕業なので敢えて鉄血の作風から逸脱させ、異質感と非常識感を出したいと思ったが故のコトです。

 

これを確認してからヴィーンゴールヴに隠匿されていた最後の「四大天使」ラファエルが動き、外装を解除して「ガンダム・ソロモン」となってから空間転移してルシフェルへの狙撃体制を整えています。

 

ソロモンのコトは最初から∀と呼ばせても良かったんですが、やっぱり偽装させておきたいなと。

作品内で一番に「∀」と呼ぶのは、お兄さんであるターンXであるべきだと思って「ガンダム・ソロモン」と言う名を冠させています。

 

∀が最初からターンXに全力を以て仕掛ける、あるいはアグニカを∀に乗せてしまうと言う案も有りましたが、ボツとなりました。

理由はただ1つ――「月光蝶を呼ぶから」です。

 

「∀ガンダム」の最終話では、∀とターンXが打ち合った時に月光蝶が発生しています(これを「呼ぶ」と表現する富野監督のセンスには脱帽ですが)。

今作での∀はGジェネの∀(黒歴史)より性能を発揮出来るので、同じように「∀ガンダム」の時より性能を発揮出来るターンXと打ち合えば、月光蝶が広域にバラまかれて地球文明埋葬なんて事態が起きかねない。

よって、∀はターンXへの攻撃を長距離からのビーム・ライフルに留めています(このビームがコロニーレーザー並みの破壊力なのは気にしては行けない)。

また、アグニカはラファエル状態の∀しか見ていないので、乗れると思ってなかったようです。

 

バエルはアガレスの武装も持ち、出撃。

ルシフェルとギャラルホルンの戦いは、ルシフェルの慢心も有ってギャラルホルンが有利に進めます。

ここでは、イオク様がカッコ良く見える…のかも?

 

しかし、マクギリスが負傷。

ルシフェルもターンX状態に戻った為、アグニカは全軍に撤退命令を出した後に殿としてターンXの前に立ちはだかります。

 

 

そして――月光蝶に呑まれ、アグニカはその激動の人生を終えるコトとなります。

アグニカの死亡は、見切り発車した当初から決定していました。

いえ、決定こそしていなかったもののそう言う前提で書いていました。

 

P.D.0325――即ち厄祭戦の300年後と言う時代では、アグニカは過去の英雄に過ぎません。

ギャラルホルンの組織再編を主導したりはしましたが、それは過去やり損ねた仕事をしただけ。

無事終わり次第、ギャラルホルンの制服を脱ぎ捨てて鉄華団で好き勝手やるつもりでもいました。

 

しかし、ルシフェルと言う厄祭戦の遺物が在るなら命を賭して止めるコトがアグニカの務めです。

チートの権化であるルシフェル…もといターンXには、例えアグニカであろうと敵わない。

ならば、倒す為ではなく今を生きる人々を生かす為に命を投げ出すのがアグニカと言う「英雄」の信念でした。

300年の月日を経て、未来を考える余裕が生まれていますね。

 

ちなみに。

ルシフェルは完結編をやる為だけの存在なので、過去編自体はコイツがいなくても成立します。

と言うか、いない方が人類は大被害を被らずに済みます。

 

 

アグニカを屠ったターンXは、次にギャラルホルン艦隊を狙います。

そこで介入して来た∀と共に天王星まで飛ばされ、消息不明となって終わっていますが――両方とも破壊されてはいない、と言う事は想像に難く有りません。

 

その後、ギャラルホルンは無事民主化に成功。

鉄華団も存続し、世界は平和へと歩み始めます。

かくして鉄華団は滅びの運命から逃れ、世界は続いて行く――となった所で、本作は完結です。

 

締め方がなってない?

私にキッチリ物語を畳むような力、有るハズが無いでしょう?

 

 

 

 

狂いまくった問題の蛇足コーナー、アグニカポイント獲得状況。

やろうと思った理由は最初の概要説明の際に書きましたので、今回はやった結果思ったコト。

 

感想欄では、報告をした際に多くの反応を頂きました。

ドン引きする方が殆どだったようですが――「やっぱりアンタ頭おかしいよ」など、私を誉めてるのか貶してるのか分からない(恐らく後者)感想も頂きました。

いや、ホント――

 

 

よくお分かりでいらっしゃる!!

最ッ高の誉め言葉、ありやとございやあーっす!!!

 

 

おまけコーナーについて言いたいコトは以上です、お疲れ様でした。

 

後、ついでに過去編の後書きで漫画として入れました「アグニ会結成まで」では、さり気なくアグニカやスヴァハ、セブンスターズ達のキャラデザをしていたりも。

そのデザインが良いかどうかは言われなくても悪いと分かるので触れずにおきますが、あの漫画を作る際はとりあえず小説として下書きしてから描いたりしてました。

誰も得しないにも関わらず、無駄な労力が注ぎ込まれていた無駄なお話でした。

 

 

 

 

ここからは、本作に込められた祈り――言わば「主題(テーマ)」につきまして。

見切り発車した当初は鉄華団をハッピーエンドに導くコトが目標でしたが、厄祭戦を書くに当たっては「描きたいモノ」を決めてから臨みました。

ので、一応書いておきます。

 

 

アグニカ・カイエルを生まれついた時からの英雄だとして描く人が多い中、本作のアグニカ・カイエルは狂った世界に放り込まれたただの人間が、やがて英雄となった存在です。

過去編に於いてアグニカの境遇を決定する際、初めは凡人から始めようと思ったからです。

 

何故そう思ったかは、後述するとして――過去編は、そう強くなかった主人公が最後に英雄となる物語です。

何番煎じなんですかね、この手の話。

王道とも言いますが。

 

後の本人は自分の事を「英雄」だとは思わない――何故なら、彼は歴史に名を残す英雄のように人々の為に戦ったのではなく、スヴァハと言う自分の愛する者の為に戦ったから。

自分のエゴの為に戦いながら、結局はその愛する者さえ守れなかったから。

端から見ればMAを倒すべく奔走した英雄でしょうが、本人から見ればただの弱者――全てを取りこぼした哀れな人間、その脱け殻でしかないからです。

 

そんなアグニカの生きた時代である厄祭戦に於いて描写したかったのは、以下のコトとなります。

十分に出来ていたかは知りませんけれども。

 

 

厄祭戦と言う狂った時代の中において、他人を死地へと引き込み、盾にしてでも生き延びたいと願ってしまう臆病さや愚かしさ。

そう言った、人間の持つ弱さ。

 

しかし、その弱さを知るコト。

他者を愛し、大切に想うコト。

それを守り抜きたいと願ったが故に、自分よりはるかに強大なモノに立ち向かえる。

そう言った、人間の持てる強さ。

 

弱く脆い人間でも抱ける愛の美しさと、その美しいモノを守ると誓える人間の強さ。

その大切なモノを守らせない、世界の無慈悲さと理不尽さ。

 

それらを心から信じられる内に、一度くらいは描いておきたくなった。

本作に込められた祈りは、ただそれだけ。

ただそれだけを込めた、愚直で単純な作品です。

 

 

狂った時代の中で他者と共に狂い、ひたすらに殺戮を楽しむ鬼畜主人公にするコトも出来ます。

そちらの方が面白いでしょうし、そのような作品も有ります。

そう言うのは私の好きなモノで、人間にはそのような狂気も確かに存在しています。

それを否定しようとは全く思いませんし、むしろ私は「もっとやれ」と言いたくなります。

 

そう言った人間の一面も、描くに相応しい人間の本性であり人間の真実。

人間が誰しも抱ける狂気を否定するコトは、人間の真実から目を背けるのと変わらない。

 

人間の狂気に正面から向き合い描かれるそのような作品は、勇気の有る作品であり素晴らしい作品だと私は思っています。

それに比べれば、私の駄作など取るに足らぬモノ。

 

 

しかし、私は人間の「愛」を信じたかった。

支え合いながら前へと進んで行ける人間の姿を、描いておきたかった。

 

そう言ったモノを描く為には、初めから「強者」であり己の弱さで苦悩出来ない生まれついてのチートキャラなど必要無く。

最初は「弱者」である方がそれを描きやすかった、と言うだけでございます。

 

 

とまあ、綺麗事を並び立てる偽善者が私です。

私自身に前述したような強さや美しさが有るかは分かりませんが、こんな事を祈って書いてました。

単なる自己満ですけどね。

 

「鉄華団のメンバーが1人増えました」と言う題は、二次創作作品とするに当たっての原作からの変更点を、ただ一文で分かりやすく表しただけです。

「アラズの存在が鉄華団の運命を変える」と言うのも、エピローグで達成したかなとは思ってはおりますが――あの状態だと、オルガやユージンには希望の花が咲く可能性有りますね…。

 

ここからはただの偶然。

これを考えると「アラズ」と言う名前って、幾らでも拡大解釈可能ですよね。

当初は後書き前半で書いた通り「ギャラルホルンが正しく機能していると祈る」意で付けたんですけど――「鉄華団が存続すると祈る」「人間が美しさや強さを持ち続けられるようにと祈る」とかになりますよね。

ここまでは意識して付けてないので、これを作品内のアグニカが想定してたのならちょっと恐くなりますよ…。

とりあえずアレですね、アグニカ万歳!!

 

 

 

 

前半で述べた通り、原作最終話放送の翌日である西暦2017年4月3日から連載を始めました本作「鉄華団のメンバーが1人増えました」は、本日西暦2017年12月11日を持ちまして更新終了となります。

 

およそ8ヶ月と一週間の連載中期間には、多くの皆様から助力を頂きました。

MS、MAの案を下さった皆様の事だけではございません。

 

感想を書いて下さった皆様、ありがとうございました。

皆様の感想は大いに励みとなり、毎度楽しく返信させて頂きました。

 

評価を下さった皆様、ありがとうございました。

厳しいご指摘も有りましたが、そのお陰で反省点などにも気付くことが出来ました。

 

お気に入り登録をして下さった皆様、ありがとうございました。

「見てくれてる人がいる以上、頑張らねば」と志気の向上に繋がりました。

 

そして、その全てを含めまして本作を読んで下さった皆様。

本当に、ありがとうございました!!

 

私は今ちょっと更新停止しちゃってる別作品を完結させ次第、読み専門へと移りますが。

感想欄とかには出没するかも知れませんので、その際は生暖かーい目でご覧下さいませ。

 

 

 

 

最後に、感想欄で何故か希望されてたIF短編を。

スヴァハが生存したまま厄祭戦が集結し、アグスヴァが結婚して子供が産まれました優しい世界となります。

本編とは一切関係有りませんので、読まれる場合はその前提を持ってから。

 

もう一度言います、本編とは()()関係有りません。

 

 

 

 

厄祭戦。

それは、プラージャ・カイエルとエイハブ・バーラエナの絶望が生み出した大量殺戮破壊兵器「モビルアーマー」と、殺戮の天使に対抗する悪魔「ガンダム・フレーム」によって行われた血で血を洗う闘争劇。

災厄を齎した祭りとして、いつしかあの戦いは「厄祭戦」と呼ばれるようになっていた。

 

しかし、それは最早8年前に終結した。

「四大天使」にして全てのMAを生んだマザーMA、ガブリエルを討伐したコトで血塗られた戦いには終止符が打たれたのだ。

 

俺はガンダム・バエルで、スヴァハのガンダム・アガレスと共に戦場を駆けた。

宇宙で、火星、地球で、果てには月でも。

戦って戦って、戦い抜いて――スヴァハと共に、あの呪われた戦いを生き延びた。

 

ヘイムダル改め「ギャラルホルン」が組織されたP.D.0001年に、俺とスヴァハは結婚した。

セブンスターズどもからはヤジを飛ばされ、ヘイムダルの仲間達からは祝福され――うん、やっぱりセブンスターズどもは殴っとこう。

 

「――…カ」

 

その後子供を授かり、無事に出産。

それから約7年足らず、スヴァハと共に愛すべき息子と向き合い――厄祭戦の頃には想像さえ出来なかった平穏、安寧、幸福を享受している。

 

「――…ニカ」

 

息子は6歳にまで成長し、どこからか手に入れてきたバエル・ソードの形をしたバルーンを振り回し始めた。

将来、アグニ会のやべーやつらに取り込まれないか心配になるが――父親のファンクラブに入るほど、酔狂でも無いだろう。

 

いや、そうだと信じさせてくれ。

あれはガチでやべーやつらなんだ、あんなのには絶対に入れさせない。

と言うか、あれはそもそも存在そのものが在ってはならない気がする。

そうだ、アグニ会とはきっと人類悪なのだそうだそうでなくてはあの狂気に説明が――

 

「もう、アーグーニーカー!!」

「うおおお!?」

 

耳元で叫ばれ、思わず飛び起きてしまった。

 

…弛んでる。

どうやら、ソファーでうたた寝してしまっていたらしい。

そんな俺の視界には、最愛の妻であるスヴァハの姿が有る。

 

「フフ。おはよう、アグニカ。さあ、寝起きっぽいけど行くよ」

「――ああ、おはようスヴァハ。…行くってどこにだ? ッ、が!?」

 

ボケたまま間延びした声で問うた俺に、スヴァハは軽いデコピンをぶちかましてからこう言った。

 

「まだ寝ぼけてるの? 困ったなあ…スカンダ、アグニカに今日の予定を教えてあげて」

「うん、わかった!」

 

俺の息子であるスカンダ・カイエルが、近づいて来てこう教えてくれた。

 

「今日はやくそくの日だよ! セブンスターズの人たちもいっしょに、カロムおねえさんのいえでお花みするんだ! さくらって言う花がさいたらしいんだ!」

 

――ああそうだ、思い出した。

今日はカロムのイシュー邸に乗り込み、日本では有名な桜の木を見ながら花見(と言う名目の飲み会)をやる予定になっていた。

セブンスターズも元ヘイムダルの生き残り達も全員が参加する、テメェら仕事はどうしたとツッコミたくなる飲み会が有るのだ。

 

「もう出発しないと、間に合わないからね! 着替えて出発するよ!」

「おかあさん、たのしみ!」

「うん、私もだよ。――ほら、早く早く!」

 

手早く側に有ったパーカーを手に取り、スカンダを肩車してから家の外に出る。

春の海はとても美しく、空の太陽に負けない程に輝いている。

 

「それ、しゅつげきー!」

「よーし、行くぞ! バエル並みの高機動目指してやる!」

「ああ!? 待ってよー!」

 

スカンダの出撃命令通りに、俺はイシュー邸へと走り出した。

それに追いすがるように、スヴァハも走って来る。

 

そんな感じで、すぐ近くのイシュー邸に到着した。

門番にパスを取って、開けられた門から歩いて中に入る。

 

流石のイシュー邸は、完全な日本邸宅の様相となっている。

完全にカロムの趣味だが、桜にはこういう場所が似合うだろう。

 

「遅いわよ、アナタ達」

「あ、カロムおねえさん! おーい!」

 

スカンダが、俺の頭上でカロムに手を振る。

その手にバエル・ソード・バルーンが在るのは、奴らの差し金かもしれないが。

 

俺は横を見て、バルーンが当たらない距離にいるスヴァハと目を合わせる。

 

「――行こう、アグニカ」

「ああ」

 

頷き返し、俺達はもう既に騒がしい宴会の場へと歩みを進める。

春の風が頬を撫で、パーカーが靡く。

空はまごうことなき晴天であり、明るい未来を柔らかく照らしていた。

 

 

これは、厄祭戦後のハッピーエンド。

アグニカ・カイエルが夢と見ながらも辿り着けなかった、尊くも届かぬ幻想(ゆめ)――。

 

 

 

―GOOD END―



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その他
お知らせとお願い&番外編


一年ぶり(誤差一切無し)の投稿。
内容は皆様へのお知らせとお願い、それと未投稿の超短編を二つ、最後に書き下ろしの番外編となります。
かなり内容が濃い&長いです。
一年ぶりなんで仕方無いんです、ご了承下さい。

あ、活動報告との同日更新となっています。
手短に要件のみ知りたい方は、そちらへどうぞ。
時間に余裕の有る方は、このままお進み下さい。

活動報告リンク↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=202085&uid=169600


聞け、閲覧者(ギャラルホルン)の諸君!

今、三百(いち)年の眠りから、マクギリス・ファリド(アグニカ・カイエルの威光)の下に!

アグニ会幹部(バエル)は蘇った!!

 

 

と、言う訳で。

皆様、お久しぶりでございます。

三百年(一年間)の休暇を充分に楽しんだアグニ会幹部、NTozと申す者です。

この一年でTwitterでも遊び始めました。

基本的に下らないコトばっか呟いてますが、構ってもらえると喜びます。

また、投稿した場合の通知とかもします。

リンクはユーザーページにございますので、よろしければどうぞ。

 

 

まずは宣伝とダイマから。

現在、みっつーさんが本作の三次創作となる「機動戦士ガンダム テイワズの狙撃手」なる作品を連載中です。

より正確に言うなら「本作の設定を使用している作品」なので、三次創作とはちょっと違うかも知れませんが。

今作のif世界線、と言うべきですかな…?

本作に大量登場するガンダムの中にも在る、ガンダム・アンドラスが主人公機に据えられています(と言うか、アンドラスの案を出してくれた人がみっつーさんなんですけど)

粗削りな感じは有りますが、今後現代と三百年前をどう絡めてくるか個人的には楽しみにしていたりします。

アグスヴァがハッピーエンドを迎えた世界線なのが私的にはポイント高いです。

よろしければどうぞ。

 

後、現在公開中の「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」を一週目に観て来ました。

非常に面白かったです。

少なくとも、帰り道に主題歌CD(アニメ盤)を速攻で買ったくらいには。

まだ観ていない皆様は、是非観に行って下さい。

複製原画はシャアの再来の失敗作(ゾルタン・アッカネン)と一緒に、ユニコーンタイプ三機とネオ・ジオングが揃いました。やったぜ。

私はゾルタン好きです。かわいい(錯乱)

リタちゃんはもっとかわいい(確信)

 

 

さて。

挨拶&宣伝&ダイマはここまでにしまして、早速本題へと入りたく存じます。

 

まず、一つほど皆様へ謝罪をば。

一年前の後書きにて、私は「読み専に移ります」と発言致しましたが――

 

 

ウソでしたすいませんでしたァ!!!

 

 

終わる終わる詐欺でした。どこの銀魂だよ。

そして、この謝罪は「これ書いてるなら読み専じゃねェよな」と言うコトを意味している訳ではございません。

 

「新作、投稿します☆ テヘペロ♥」と言うコトを意味しております。

 

本当にすいません。

すまない…読み専に移るとか言っておいて、新作投稿する気満々になってて本当にすまない…

 

ちゃうねん(言い訳開始)

今なお多くの人が鉄血二次創作をやってて、それが大概面白い上にアグみを感じてバエらざるを得ない奴なのが悪いねん。

全く、何故皆様はあんな素晴らしい物を書いてしまわれるのか(いいぞもっとやれ。どうかやって下さいお願いします)

 

そんな訳で、新作を投稿したいと考え、既に様々な準備を進めております。

「何だよ宣伝かよ、前作巻き込まず勝手にやってろよ」と思われたそこのアナタ――無論、そんなコトは私も百も承知ですし、全面的に同意します。

ただ、今回に関しましては、どう足掻こうと「鉄華団のメンバーが1人増えました」――略して鉄メン(二秒で考えた略称)に触れざるを得ないのです。

 

 

新作は題して、「厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-(仮)」。略称募集中。

今作にて行いました「過去編(厄祭戦編)」を、原作設定に合わせて再構成するモノです。

 

 

これをやろうと思った理由は、二つ有ります。

前々から、「厄祭戦、単品で上げた方が良かったんじゃ…」などの意見を頂いていたコトが一つ。

もう一つは、単純に私がアグみを感じてバエりたい衝動を発散したいからです。

 

二つ目は説明を省きますが、一つ目は頂いた際、大いに共感した意見です。

ご存知の通り、本作の厄祭戦編は全話の三分の一にも及ぶ長さです。

ここまでオリジナルが長くなると、原作再構成だから~と言う前提で読むと、認識がズレて来ると思います。

そのような点から、100%オリジナル展開モノとして単品で投稿しろ、と言う意見は至極ごもっともだと思います。

しかし、これは単純に厄祭戦編を切り取って上げれば良いと言う話ではありません。

 

今作の厄祭戦は、多分な設定改変要素とオリジナル設定要素から成り立っております。

そしてその要素を支える為に、厄祭戦編に至るまでの話に含まれるオリジナルが一役買っています。

これが無くなると、独立しているオリジナル設定はともかく、原作からの設定改変部分が破綻します。

 

厄祭戦編の根底にも影響している設定改変要素が成り立たなくなると言うコトは、物語を支える設定の根幹が崩れ去ると言うコト。

これを避ける為には、原作設定に合わせて設定改変を全て無くした上で、改めて基礎から物語を組み立て直す必要が有ります。

 

こうなると、設定面を中心として、ほぼ全ての部分を作り直すコトになってしまうのです。

連載中、連載終了直後の私に、一度作ったモノをもう一度作り直すような気力は有りませんでした。

 

しかし、連載終了からそれなりの月日が経過し、私にもモチベーションと言うモノが戻って来ると同時に――本作の至らない部分が、少しずつ見えて来るようになりました。

それを良くなるように修正し、なおかつ設定全てを見直して物語を一から組み立て直す。

書き表せば大した文量では有りませんが、経験則(と言えるほどのモノではないかも知れませんが)から、これが如何に面倒臭い作業かは推し量れました。

 

原作設定の完璧な把握。

本作の設定と、原作設定との齟齬の洗い出し。

原作設定に合うような物語の展開を考え、不足しているオリジナル設定を作り出し、更にそれを物語に組み込む。

これらが、厄祭戦編の単品化には必要です。

二次創作を書いたコトの有る皆様になら、これの面倒臭さは理解頂けるかと思います。

正直、膨大な原作設定を遵守しつつオリジナル設定を加えながら作ろうなんて正気の沙汰ではない、と自覚しております。

 

 

しかし!! アグニ会幹部に()()()()()()()ッ!!!

全ては再び、アグニカ・カイエルの英雄譚を創り上げる為ッ!!!

その崇高な行為を成す為ならば、如何なる努力も苦労も時間も友情も愛情も現実も惜しんではならないッ!!!

 

 

単純に「アグニカの英雄譚」になるとは思えませんが――成し遂げる覚悟は、とうに出来上がっております。

私は別に「これに立ち向かう俺すげーだろ?」などと、自慢話を弄しようとしている訳ではございません。

全てはアグニ会幹部と言う肩書きを預かる者としての義務であり、責任である(謎の信念)

 

ただ、友情は大切にしようと思います。

非リアなんで愛情は知りませんしそもそも要りませんけど、友人と呼べる奴らがいるので。

現実はどうでも良いです。クソゲーは放棄安定。

 

まあ、物語の創りやすさを優先して、設定改変を是としたコトを良いコトに好き勝手設定を変えて創ったツケが回って来た感じですね。

もうちょっと原作を尊重して物語を創っても良かったんじゃね、と反省はしております。

後悔はしていない。反省点は有れど、私は本作で厄祭戦を書いて良かった、と心から思っている。

 

 

そんな訳で。

厄祭戦、改めて書きます。

 

本作の厄祭戦とは展開が重なる部分も有りますが、本文の引用は一切行いません。

同じシーンであっても書き直しますので、百パーセント新規でお送り致します。

 

また、今作の厄祭戦編は「アグニカが喋ってる」と言う前提条件が有った為、物語に最低限必要な部分(ガブリエルとルシフェルの会話など)を除けば、アグニカの知っている範囲内でしか描かれていませんでした。

新作ではその縛りが無くなりますので、他キャラの細かな内面描写やアグニカの介在しない話、知る由も無い話も好き勝手増やせます。

描写や表現の自由度は上がってますが、これに伴って物語が長大化する未来がありありと見えますね。

少なくとも、なかなかの長丁場になるコトは想像に難くありません。

 

とりあえず頑張りたいと思いますので、お付き合い頂けると私が大変喜びます。

どうぞよろしくお願い致しますm(__)m

 

 

 

 

お願いと言うのは、この新作に関わっています。

本作では、厄祭戦を描く為に必要な機体の案(一部キャラクター)を、有志の皆様から募集させて頂いておりました。

故に、これらの案を元に作られているオリジナル機体が、非常に多く存在しております。

 

 

お願いとは、皆様の案を元に作った設定を、新作でも使わせて頂きたいと言うコトです。

 

 

パイロットの変更、設定の見直し、所属組織の変更なども行っておりますが、どうか使用許可を頂きたく存じます。

場合によってはデザインを描き起こし、イラストとして提示するかも知れません(オリジナル機体の増加による、戦闘シーンのイメージ構築の難航を少しでも軽減出来れば…と言う目論見が有ります)

それについても、お許し願いたいです。

全部ではない、と思いますが…(と言うか全部は多分無理です死にます)

 

大変厚かましいお願いであるコトは、重々承知しています。

ですが、どうか――どうにか、皆様のご理解ご協力を頂きたく思います。

お願いします、お願いします、お願いします!

カッコ良い機体案を新たに数十機分出すとか絶対に無理なんで、どうかお許し下さい…!!(土下座)

 

 

ちなみにデザイン例↓

 

【挿絵表示】

 

次作用に作りましたが、両方とも今作にも登場している機体です。

どちらも、私が一から設定を作っている機体となります。

 

予想した方には30AP、片方の名前を当てた方には80AP、両方とも正解された正真正銘の猛者(ニュータイプ)には250APを進呈。

アグニカポイントを貯めたい方は、是非とも頑張って下さい。

ガンダム・フレームの方はともかく、ヴァルキュリア・フレームの方は凄まじく難度が高いです。

設定が変わりすぎてる(武装すら全て違う)ので…。

当てた人はニュータイプ(断定)

 

 

この厄祭戦ssの初投稿は、2019/4/3 22:45を()()しております。

あくまで予定ですので、変更される場合もございます。

とりあえず、一月六日の鉄血イベントが終わらないと何とも言えません。

現状、予定(変更の確率が高いモノ)となっていますので、ご理解下さいませ。

 

 

お知らせとお願いは以上となります。

それでは、未投稿だった「アグニ会結成まで」の原文と書き下ろしのギャグ番外編「バエルを手に入れたマクギリス」をどうぞ。

 

いつぞや挿絵(?)として描いた「アグニ会結成まで」の原文は「私が分かれば良いや」と言う精神で書いた奴なので、本編とはまた違った感じを受けますね。

大分前に書きましたが、一切の修正をせず、そのままで投稿しておきます。

 

書き下ろしの方は、完全な深夜テンションで書いたギャグ番外編です。

設定とか時間軸とかを気にしては行けません。

これと言った主題(テーマ)も有りません(オイ)

本編とは切り離して、お祭り番外編としてご覧下さいますよう、心から切実にお願い申し上げます。

 

 

   ◇

 

 

 

 

アグニ会結成まで ①

 

 

「アグニカのファンクラブが必要だと思うの」

 

と。

「四大天使」ウリエルを討伐し、火星のMAを掃討して地球へ帰っている中でスヴァハ・クニギンは言った。

それに対し、聞いた側は「は?」と返すしか無かった。

 

「――とにかくだ、スヴァハ。何故その結論に至ったかを説明してくれ、惚気無しで」

「の、惚気なんかじゃないよ!? あくまで客観的に考えた上の結果だよ!」

 

そう言った上で、スヴァハは「アグニカファンクラブを創るべき」と言う言葉について説明を始めた。

 

「ウリエルを討伐したのは、アグニカの功績が大きいじゃない?」

「――まあ、一理有るわね。ロブを説得して連合軍に参加させたり、開戦時に演説をしたり、ウリエルに隙を作るばかりかトドメまで刺したり。今回のウリエル討伐戦に於いて、アグニカが重要な立ち位置にいる事は否定しないわ」

「俺も、カロムの意見には賛成だ。あの演説は、ニュースでも取り扱われたしな。アグニカがバエルで特攻してウリエルの気を惹き付けていなければ、連合軍は全滅していた可能性も否定は出来ない」

 

カロムとフェンリスの言葉に頷いて、スヴァハはこう繋げた。

 

「アグニカが有名になった以上、ファンとかも出て来る訳じゃない? だから、敢えて公式でファンクラブを創設すべきだと思うの」

「――何故そこで、ファンクラブに行き着くんだ。そもそもスヴァハ、本人の許可は?」

「取ってないけど――まあ、大丈夫でしょ」

「彼女サマ余裕スギィ!?」

「待て。名前は?」

「『アグニ会』」

『直球!?』

 

そんな感じの会話を部屋の外から聞きつつ、アグニカはため息を付き。

 

 

「――何故こうなった」

 

 

と、頭を抱えるのだった。

 

 

   ◇

 

 

 

 

アグニ会結成まで ②

 

 

P.D.0001年。

俺がターミネーターみたくなって復活し、それから初めてのセブンスターズ会議が開かれた。

 

「――『ギャラルホルン』の組織体制については、もう仕方ないので諦めよう。とりあえず、俺は聞き手に徹しとく」

 

俺は机を挟んでイシューの椅子の反対側にふんぞり返りつつ、そう言って抹茶を飲んで顔をしかめる。

この抹茶は、カロムが用意した物だ。

 

「分かった。では、セブンスターズ会議を始めよう。最初の議題は、アグニカ・カイエルのファンクラブ。通称『アグニ会』についt」

「さっきの取り消し。ちょっと待て」

 

前言をあっさり撤回し、俺は会議に乱入した。

 

「オイアグニカ、聞き手に徹するんじゃなかったか」

「いや、乱入するだろそりゃ。聞き捨てならんセンテンスが聞こえてきたんだが。今なんつった、ドワーム」

 

眉間を押さえながら、俺はそう問う。

 

「んん? そんなにおかしい事を言ったか? ではもう一度繰り返そう。最初の議題は、アグニカ・カイエルのファンクラブ。通称『アグニ会』n」

「ちょっと待て、ちょっと待てや。マジ? マジで言ってんのそれ? そんな下らない事で最初の議題潰すん? と言うか、何『アグニ会』って」

「ほう? アグニカ、お前はあの言葉を忘れたのか?」

「どの言葉だ」

 

フェンリスの後に、カロムが続く。

 

「『アグニカのファンクラブが必要だと思うの』――スヴァハちゃんの意志を継いだだけよ」

「うん。スヴァハを大切に思ってくれるのは嬉しいんだが、それは継がなくてもよくね?」

「お前がなんと言おうと、この議題を今回最初の議題にする事は前回に決まった事だ。諦めろ」

 

至極真面目な口調でリックが言うが、クソ真面目にフザケた事言われるとシュール過ぎて逆に草がバエるんだよなあ。

 

「俺がターミネーター化手術受けてる間にどんな会議してたんだよお前ら、真面目にやってた?」

「失礼だな、前回は戦力開発を進めていた事が内部リークでバレたオセアニア連邦への対応を会議した」

「すまなかった許してくれ」

 

思ったより真面目だった。

前回の会議はほんの数日前だったので、そこまでの議題は無いと言う事か。

 

ナメててすまん。

何せ組織体制作りでコケた奴らだから、政治では信頼してなかった。

まあ、昨日まで前線で戦ってた奴らに「今日から政治しろ、世界レベルで」なんて言うのは無理難題だと分かってるし、むしろよくここまで形にしてくれたモンだが。

 

「とにかく、本日の議題はアグニ会の方針と特別グッズの内容決定だ」

「何でもう設立確定してるんだよ、方針って何する気だよ、そも特別グッズって何だよ!?」

「じゃあ、方針から詰めて行こう。アグニカのファンクラブなんだから、とりあえずアグニカを讃えて行かなきゃなんだが」

「聞けよ」

 

ダメだ、何を言ってもかき消される。

だがまだ甘いな、俺の階級を忘れたかセブンスターズ。

俺は最高幕僚長アグニカ・カイエル、ギャラルホルンの最大権力者だ。

 

いざとなればこの権力でどうにか――

 

「それでは、アグニ会の活動方針は『アグみを感じてバエる』でおkだな」

「アグみって何? バエるって何すんの? 何その活動方針、バカなの死ぬの?」

「特別グッズは、ひとまずアグニカレンダーとアグニカなりきりセットが確定か」

「流れるようにボケるのやめてくれねェか、ツッコミが間に合わないだろ。てかアグニカレンダーって何、上手く繋げたとか思ってるのか? アグニカなりきりセットって何、俺なんぞになりきってどうしようと」

「うむ、アグニカなりきりセットは必要だな。より高みを目指してバエるには、より多くアグみを感じねばならないからな」

「そんな動詞も名詞も無いと思うんですけど」

「そうね――ポスターは?」

『採用』

「ノってんなあコイツら」

 

止まらねえなこれ。

こうなったらあれだ、止まるんじゃねぇぞ… 

 

数時間後。

 

「このくらいか。会長は誰がやる?」

「私にやらせなさい。こう見えて、スヴァハちゃんとは仲が良かったのよ?」

「では、会長をカロム・イシュー。終身名誉会長をアグニカ・カイエルとし、アグニ会を結成s」

「ツッコミ切れるかああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

立ち上がり、そう叫ぶ。

 

「む、終身名誉会長殿。何かご意見がおありで?」

「誰が終身名誉会長だ、勝手に役職を増やすな! そもそも、こんなフザケた会の設立を認めるワケねェだろうが!」

「ほほーう。終身名誉会長殿は、アグニ会の偉大なる設立者にして終身名誉副会長たるスヴァハ・クニギンの意志を無碍にすると?」

「スヴァハを盾にすればどんな意見でも通せると思うなよ、セブンスターズ」

「じゃあ、投票を取ろうか。ギャラルホルン全士官に、アグニ会の是非を問おう。我らはその結果に従い、設立するか否かを決める」

 

――まあ、それなら…とか思ったが。

その数日後に投票が行われ、即日開票された。

 

「賛成97%、反対3%――得票率100%で、可決だ」

「よしその3%連れて来い、徹底抗戦だ」

「往生際が悪いぞ、アグニ会終身名誉会長アグニカ・カイエル」

 

こうして、アグニ会は結成された。

 

 

   ◇

 

 

 

 

バエルを手に入れたマクギリス

 

 

 ギャラルホルン地球本部、ヴィーンゴールヴ。その最奥に位置する「バエルの祭壇」の真上には、ガンダム・バエルが堂々と立っていた。

 小気味良い駆動音を響かせながら、バエルはその両腕を持ち上げ、堂々と広げる。自らこそが世界を統べる王だ、と言わんばかりに。

 

『聞け、ギャラルホルンの諸君! 今、三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下に――バエルは蘇った!!』

 

 バエルを操る者、マクギリス・ファリド。

 彼は勝利の確信の下で、革命の声明を発表する。

 

「やったぞ、アグニ会同志諸君! 作戦は成功だ! 我々の勝利だ!」

 

 革命軍を指揮するライザ・エンザもまた、右拳を振り上げる。

 アグニ会の掲げたギャラルホルン――ひいては世界の革命は、アグニ会現会長マクギリス・ファリドがガンダム・バエルを起動させたコトで、成功が確約されたも同然となった。

 

「ギャラルホルンの創設者、アグニカ・カイエルの魂が宿るモビルスーツ――ガンダム・バエル。

 マクギリスの本当の狙いは、錦の御旗だったと言う訳か」

 

 マクギリスの声明を聞くアリアンロッド艦隊司令官ラスタル・エリオンは、恐れよりもまず呆れを感じていた。

 かつて、マクギリスがイズナリオ・ファリドに養子として貰われた直後。ラスタルが「欲しい物は無いか」と問うた時の、マクギリスの回答を思い返しながら。

 

「アレは子供の戯言かと思ったが…まさか、本当に実現するとはな。どこまでも、愚かな――お前は大人になれぬ子供だよ、マクギリス・ファリド」

 

 そのようなラスタルの独り言を知る由も無く、マクギリスはバエルのコクピット内で自らも両腕を広げ、声明を続ける。

 

『ギャラルホルンを名乗る身ならば、このモビルスーツがどのような意味を持つかは、理解出来るだろう! ギャラルホルンに於いて、バエルを操る者こそが唯一絶対の力を持ち、その頂点に立つ!! 席次も思想も関係無く、従わなければならないのだ――アグニカ・カイエルの魂に!!

 私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉であり、私こそがアグニカ・カイエルなのだから!! アグニカ・カイエルとなった私の言葉に逆らうコトは、アグニカ・カイエルに背くコトと同義であr』

「んな訳有るか」

『がはっ!?』

 

 マクギリスが、何者かの蹴りを腹に受けて横へと吹っ飛んだ。

 声明真っ最中のマクギリスを蹴り飛ばした者は、赤い髪に青い瞳を持った、マントが足元まで伸びた特注のギャラルホルン制服を纏った男である。

 

「な、何をなされるのですかアグニカ・カイエル!! ご無体な!!」

「いつお前が俺になったよ? アグニカが俺以外にいてたまるか。というかお前、バエルを手に入れたとか言ってるけどな…」

 

 アグニカは自分の横にある機械を親指で指し示して、現状をただ一言でもって説明した。

 

 

「ただ、バエルのガンプラを手に入れただけじゃねェか」

 

 

 そう、ガンプラだ。

 確かにガンダム・バエルは今、ヴィーンゴールヴの屋根の上に立っている――ガンプラバトルシステムで作られた、ヴィーンゴールヴの上に。

 

 ライザ・エンザとラスタル・エリオンは、ガンプラバトルシステムの横でその光景を見ているだけである。

 ラスタルが呆れるのも当然だ。自分でセッティングした舞台にガンプラを立たせて、いい感じのコトを言っているだけなのだから。

 

「――バエルを持つアグニカ・カイエルである私、マクギリス・ファリドの言葉に背くとは…」

「いや、アグニカ俺だし。お前がどう足掻こうとマクギリスはマクギリスで、アグニカ・カイエルにはなれねェからな?」

「もっと、もっと言って下さいアグニカ・カイエル! そのお声で、俺の名を呼んで下さいアグニカ・カイエル!!」

「怖いわ!! ああ、寄るな!! と言うか、無駄にイケボなの腹立つ!!」

 

 マクギリスに詰め寄られ、アグニカは思わず二、三歩後退する。一方、アグニ会会員の一人ライザ・エンザはノリノリだ。

 

「ズルいですよ会長、アグニカに名前を呼ばれるなどと! アグニカ、私の名も! このライザ・エンザの名をお呼び下さい!!」

「嫌だわ!! これ以上テメェらを喜ばせてたまるか!!」

「アグニカに拒否されるとは…しかし! 我らアグニ会にアグニカを信奉しないという選択肢は無い!! 貴方に拒否られようと、我々は貴方を信仰し続ける!! それがアグニ会の本懐にして、責務なのだから!!」

「何なのテメェら、俺はどうすりゃ良いの!? どうすりゃテメェらを喜ばせずに済むの!? と言うか信仰って何だよ、テメェらはいつから危険極まり無い宗教団体になった!? アグニカ教とか立ち上げるつもりか!?」

 

 アグニカは困惑するが、そもそもアグニカ・カイエルが存在しているコト自体がアグニ会至上の喜びであるので、まずはアグニカ・カイエルがいなくならなければ話にならない。

 それでもアグニ会はアグニカ・カイエルを讃え続けるので、結論としてアグニカにアグニ会をどうこうするコトは出来ない。

 

「人が此処まで愚かになれるとは!!」

「よーし良く言ったガエリオ・ボードウィン! 全文同意だ、ついでにこのアグニ会現会長を何とかしてくれ!」

「(アグニカにフルネームで呼ばれるとは羨ましいな)ガエリオォォォ!!!」

「(これ以上他人に迷惑をかけるないい加減にしろ)マクギリスゥゥゥ!!!」

 

 響く叫声。轟く銃声。飛び散る血液。鳴り響く金属音。

 ――圧倒的、カオス。

 

「ああもう、助けてスヴァハー!!」

「はいはい。全くアグニカったら、世話が焼けるね。みんな、落ち着いてー」

「「はい」」

 

 アグニ会終身名誉副会長スヴァハ・クニギンの一声で、アグニ会は平静を取り戻した。荒ぶっていたマクギリスとライザが、正座をして真顔になっている。

 鶴の一声ならぬ、スヴァハの一声だ。強い。

 

「ゼェ、ハァ――あー、助かった…」

「大変だね、アグニカも。で、問題点は――誰がアグニカか、ってコト?」

「いや、そうなのか…?」

 

 何の捻りもなく、アグニカ・カイエルはアグニカ・カイエルだと思うのだが――遂に自らとアグニカ・カイエルを同一視し始めたアグニ会現会長マクギリス・ファリドに、何とかマクギリス・ファリドがアグニカ・カイエルではないコトを認めさせなければならない。

 

「何故かは知らないけど、せっかくお(あつら)え向きにガンプラバトルシステムが有るコトだし…これで戦って、勝った方がアグニカってコトで良いんじゃない?」

「流石ですスヴァハ様!!」

「素晴らしい! それでこそ、我らアグニ会を統べるに相応しい御方!!」

「スヴァハ様万歳! スヴァハ様に栄光あれ!!」

『ジーク・スヴァハ!! ジーク・スヴァハ!! ジーク・スヴァハ!!』

 

 メチャクチャ盛り上がる、アグニ会会員達。盛り上がり過ぎて、最早スヴァハのファンクラブと化している。

 アグニカはスヴァハの意見には反対しないが、気になるコトが一つ有った。

 

「いや、スヴァハはそれで良いのか…? 俺、もしかしたらアグニカじゃなくなるぞ? 必然的にアラズって名乗り直さなきゃいけないんだぞ?」

「? 何か、私が困るコトって有る? 私はアグニカでもアラズでも関係無く、貴方が好きだよ?」

「―――分かったよ」

 

 直球の告白に、アグニカは陥落した。

 なお、これらの映像データは後に、アグニ会の三種の神器の一つとなったと言う。常日頃アグニカをストーキングし、最高画質のカメラを回し続けるアグニ会に隙など無かった。

 

 そんな訳で勃発した、アグニカ・カイエルの名を巡る戦い。

 ルールは簡単だ。アグニカ・カイエル(暫定)とマクギリス・ファリド、互いがガンダム・バエルに乗り、ガンプラバトルで戦う。

 その勝者のみが、今後はアグニカ・カイエルと名乗れる。

 

「ハァ…何故こうなった?」

「合法的にアグニカ・カイエルとなれるチャンス、逃す手など無い! 取りに行く!!」

「会長、ご武運を!!」

 

 バエルを十全に操れる者こそが、アグニカ・カイエルに相応しい。システムが起動し、プラフスキー粒子(何故有るのかとツッコんではいけない)の散布が開始される。

 

『Beginning, Plafsucir particle dispersal. Field # "Space"』

 

 舞台は宇宙。ガンダム・バエルの機動性を最大限発揮するコトが出来る、アグニカ・カイエル決定戦には持って来いの場所だ。

 

『Please set your Gun-Pla』

 

 アグニカとマクギリス、それぞれがバエルのガンプラをセットする。

システムによるスキャンが行われ、互いのバエルの双眼が桃色に輝き、両者の手の前には操作の為のアームレイカーが出現した。

 そして、それぞれがそれを握る。

 

『Battle Start』

 

 ビー、という音と共に、システム音声が終了した。ガンプラがカタパルトに移動し、出撃準備が全て整った。

 

「マクギリス・ファリド、ガンダム・バエル。出るぞ」

「ガンダム・バエル。アグニカ・カイエルで出撃する!」

 

 カタパルトが滑り、機体がフィールドに出る。

 

「ライザが戦死したって…!?」

「どうなるんだ、俺たちは…」

「オイ、勝手に殺すな」

 

 勝手にライザ・エンザ戦死の報を受け(死んでない)、唐突にアグニ会会員達は途方にくれていた。

 すると、マクギリスが戦場全体に届くよう通信回線を開き、アグニ会会員らに声を掛ける。

 

『革命は終わっていない!』

 

 アグニ会会員達が顔を上げ、そのスラスターの青い光に注目する。

 

『諸君らの気高い理想は、決して絶やしてはならない! アグニカ・カイエルの意志は、常に我々と共に在る!』

 

 その通信の発信源たるガンダム・バエルのコクピットで、マクギリスは左手首の調子を確認した後、操縦桿を握って口を開く。

 

『――ギャラルホルンの真理は此処だ!! 皆、バエルの下に集え!!!』

 

 マクギリスのバエルは双眼を光らせ、黄金の剣を右手で高々と天に掲げた。太陽の光を浴びた剣が光を弾いて、黄金の輝きを見せる。

 

「バエルだ!」

「アグニカ・カイエルの魂!」

「そうだ…! ギャラルホルンの正義は我々に有る!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 アグニ会のテンションは、最高潮に達していた。

 その頃には、アグニ会会長とアグニカがガンプラバトルをしていると言う噂を聞きつけたヴィーンゴールヴ中の兵士達が、ガンプラバトルシステムの周囲に集まって来ていた。仕事しろ。

 

「そうだ、それで良い」

「―――」

 

 マクギリスの激励を受けて、対するアグニカもバエルの剣を腰から引き抜く。

 

『革命はここからだ。貴様らの理想は、必ずや正しきモノ。ここで、人類の希望を失わせてはならない。

 貴様らが真実を貫き通し続ける限り、俺と俺のバエルは、人類の矛となろう』

 

 かくして、アグニカのバエルは双眸を赤く輝かせ、黄金の剣で天を突き上げた。

 

『――ギャラルホルンの真理は此処だ! 全員、俺に続け!!』

 

 その、自信に満ちた激励は。

 集ったギャラルホルン兵士の心を、例外無く高揚させた。

 

「ガンダム・バエルだ!!」

「アグニカ・カイエルだ!!」

「そうだ…!! ギャラルホルンの正義はアグニカに在る!!!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 マクギリスの時の数倍にも及ぶ歓声が、場に響き渡る。

 腐敗しきったセブンスターズの老人達やラスタルなども、魂からの高揚を感じた。初代から続くセブンスターズの血が、アグニカと共に戦うコトを望んでいる。

 

「らしくないなぁ、アグニカ。俺に付いて来い、とかはあんまり好きじゃないのに」

 

 一方、スヴァハは呆れつつも、その光景を見守っていた。呆れているとは言え、その眼は優しげだ。

 

「さて――前奏はもう充分だろう。行くぞ」

「受けて立つ!!」

 

 アグニカのバエルが、飛翔する。

 対するマクギリスも、バエルを上昇させる。

 

「はぁッ!」

 

 マクギリス機がアグニカ機に接近し、右手の黄金の剣を振り下ろす。その剣を、アグニカ機は側面を軽く左の剣で叩いて逸らした。

 

「よっ!」

 

 続いてスラスターを吹かし、マクギリス機の背後を取る。振り上げていた右の剣を振りかぶり、マクギリス機の右ウィングを根本から切断した。

 

「な…!?」

 

 アグニカ機はウィングを少し動かし、内蔵される電磁砲を発射する。如何に射撃が下手でも、この距離ならば当てられる。

 弾丸がマクギリス機の切断面に直撃し、爆発した。

 

「く…!」

 

 マクギリス機は残された左ウィングのスラスターを吹かせて、その場から離脱する。マクギリスが機体を反転させる前に、アグニカ機は左の剣を逆手に持ち替え、マクギリス機に投擲した。

 マクギリス機がアグニカ機の方に向く瞬間、アグニカ機の投げた剣はマクギリス機の下に届いた。左肩の真横を通り、剣はマクギリス機のコクピット横に突き刺さる。

 

「…ッ!」

 

 間髪入れず、接近して来たアグニカ機が右の剣を振り下ろす。

 マクギリス機はそれを右手の剣で辛くも防ぐが、アグニカ機は接近した際にマクギリス機に刺さった剣を左手で逆手に掴み、思い切り引いた。リアクターの隙間を完璧に切断しながら、剣はマクギリス機の胴体を深々と傷付ける。

 更にアグニカ機は右の剣を突き出し、マクギリス機の左肩を貫く。マクギリス機が振り下ろした右手の剣を、アグニカ機は全身のバーニアを吹かせてかわし、右の剣を引き抜くやいなや、マクギリス機を蹴り飛ばした。

 

「これは――!」

 

 まさに、圧倒的な蹂躙だ。

 技量に於いて、ギャラルホルントップクラスの実力を持つパイロットであるマクギリス・ファリドが、為す術無く達磨にされて行く。阿頼耶識が無い以上、二人の操縦技術に大差は無いハズだが――如何せん、パイロットとしての経験値が違い過ぎる。

 厄祭戦の英雄の力に、観衆は圧倒されていた。

 

「流石はアグニカ・カイエル! ご覧あれ! 純粋な力のみが輝きを放つ舞台に、奴らは圧倒されている! 貴方が力を見せるコトで、私の正しさは更に証明される!!」

「あの、早く終わりたいんだが…バエルをボコすとか、気分が良いモンじゃねェし…」

「そんな! もっと俺に力をお見せを!!」

 

 マクギリス機は全身のバーニアでバランスを取りつつも、剣を構えてアグニカ機に吶喊する。

 アグニカ機は少しスラスターを吹かせて上昇し、吶喊して来るマクギリス機が突き出す二本の剣の側面を右足で踏んで剣を逸らしつつ一回転して、マクギリス機の残った左のウィングを切断した。

 

「がはぁ!?」

 

 アグニカ機が翼の電磁砲を放ち、マクギリス機のバックパックを完全に破壊する。メインの推力を失ったマクギリス機に、アグニカ機を捉えるコトは出来ない。

 

「最後だ」

 

 アグニカ機はマクギリス機から離れ、剣を振って突撃する。黄金の剣が、狂い無くマクギリス機を両断する――直前。

 

「!」

 

 ダインスレイヴ弾頭が、アグニカ機に襲いかかった。不意打ちであったにも関わらず、アグニカはこれをあっさりとかわす。

 

「――この機体は…キマリス、ヴィダールか」

「うおおおお!!」

 

 ガエリオが、突如として乱入したのだ。ドリルランスを突き出して、キマリスヴィダールは最高速度でアグニカのバエルに突撃した。

 

「速い――が!」

 

 アグニカ機はすんでの所で突撃して来るキマリスヴィダールを避け、通りすがりざまに回転し、右の剣で盾を繋げるアームの一つを切断してのけた。

 

「何!?」

「クリウス程ではない。あらかた、マクギリスがただやられるのを見ていられなかったのだろうが――まだ足りん」

 

 化け物。そう表現すべきと言わざるを得ない程、アグニカ・カイエルの力は圧倒的だ。

 

「そうか、じゃあ――」

「!?」

 

 アグニカのバエルに、何者かが突撃した。その速度は、先程ガエリオが行ったモノとは比較にならないほど、速い。

 バエルはギリギリの所でこれをかわしたが、反撃など望むべくも無い。

 

「私たちが相手なら、貴方にも余裕が無いわよね!!」

 

 続いて、バエルに違う機体が斬りかかる。バエルは黄金の剣を交差させて、黄金の刀を受け止めた。

 

「ぐ…! テメェら、何で来た!?」

「あら、ここはギャグ時空兼ご都合時空よ? 私たちが来ちゃ行けないのかしら?」

「息を吐くようなメタ発言、ご苦労様!」

 

 バエルは眼前のガンダム――ガンダム・パイモンを押し返し、上へと全速で飛翔する。そこに狙撃が有り、バエルは左肩に直撃を食らう。

 

「アモンの狙撃か…!」

「それだけでは」

「無い!!」

 

 大剣を持つガンダム・ベリアルと、ハンマーを握り締めたガンダム・プルソンが、バエルの両側から攻撃する。大剣ハンマーを、両手の黄金の剣で防ぐ。

 バエルは機体を回転させ、この拮抗から離脱するが、アモンの狙撃を右足の裏に受けた。

 

「そらッ!」

 

 続いて大鎌をギリギリでかわすが、そこに槍が来る。これも弾いてバエルを飛ばしつつ、呆然とその光景を見守るガエリオのキマリスヴィダールを盾としてアモンの狙撃を防ぎ、アグニカは叫ぶ。

 

「何のつもりだ、テメェら!!」

 

 アグニカの前に現れた機体は、七機。

 

 セブンスターズ第一席イシュー家初代当主カロム・イシューの操る、ガンダム・パイモン。

 セブンスターズ第二席ファリド家初代当主フェンリス・ファリドの操る、ガンダム・アスモデウス。

 セブンスターズ第三席ボードウィン家初代当主クリウス・ボードウィンの操る、ガンダム・キマリス。

 セブンスターズ第四席エリオン家初代当主ドワーム・エリオンの操る、ガンダム・ベリアル。

 セブンスターズ第五席クジャン家初代当主ケニング・クジャンの操る、ガンダム・プルソン。

 セブンスターズ第六席バクラザン家初代当主リック・バクラザンの操る、ガンダム・ヴィネ。

 セブンスターズ第七席ファルク家初代当主ミズガルズ・ファルクの操る、ガンダム・アモン。

 

 アグニカ・カイエルの操るガンダム・バエルと共に厄祭の戦場を駆けた、伝説のガンダム・フレームとそのパイロット達である。

 

「何、って…楽しそうだったから遊びに来た――だよな?」

「おう。アグニカと拳を交える機会なんて、そうそう無いしな」

「軽いわ、動機が」

 

 ツッコミつつ、アグニカは冷や汗を拭う。一対一なら勝機は有るかも知れないが、流石のアグニカでも七対一はキツい。

 セブンスターズの初代どもは、揃いも揃ってアグニカと肩を並べる化け物なのだ。

 

「がッ!?」

 

 バエルに再度の突撃をかけようとして高速機動するキマリスの頭が、端からの銃撃で揺れる。それからすぐ、スヴァハの乗るガンダム・アガレスがバエルの側に来た。

 

「手伝うよ、アグニカ」

「――あの、ここで止めとくって案は?」

『無い』

「ですよねー…」

 

 アグニカがうなだれるが、こうなっては仕方が無い。この大人げない初代セブンスターズのバカどもと戦わねば、勝つか負けるかはともかくとして、ガンプラバトルを終われないらしい。

 

「本気で行くしか無い、ってコトか…」

「うん。頑張ろう!」

 

 戦場に集った九機のガンダムが、その瞳を赤く輝かせた――




ついでに。
今更ながら、オリジナル機体であるテルギア・グレイズとグリム・パウリナの作者イメージを置いておきます。
問題の背中が分かり辛い上にメカ絵に慣れていない…orz。
と言うか、この二機をアルファベット表記するのは初めてな気が(ほとんどの機体でしてない)

EB-06tg THEURGIA GRAZE

【挿絵表示】


V08-1228p GRIM PAULINA

【挿絵表示】




次回作の投稿と併せて、こちらもまた更新出来たら良いなと思います。
今度も書き下ろしの短編を付けたいと思いますが、次はシリアスにしようかなと考えていたり。
本作オリジナルキャラなのに掘り下げがそんなに無く、厄祭戦ssに出る予定が一切無いディジェ・バクラザンくんとトリク・ファルクくんの短編とか――どうですかね?


再びお会い出来る時を楽しみにして、今回はこれにて失礼致します。
それではまた。


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#1.5-Ⅰ ギャラルホルン

明け(バエ)ましておめで(アグニ)とうございます。
本年は新作の投稿予定ですので、そちらもどうぞよろしくお願い致します。
新年早々に公式Twitterが新機体出して来やがった…

こちらはアグスヴァ年賀状。

【挿絵表示】


ついでに、前回さり気なく見せたデザイン例の答えを。
…分かるかこんなモン!

【挿絵表示】


【挿絵表示】



さて。
これは本作のオリキャラであるディジェ・バクラザン、トリク・ファルク両名について掘り下げるコトを目的とした、番外編です。
何故こんなモノを書くのか、って?
オリキャラ、しかもセブンスターズの次期当主の二人なのに、本編で過去の掘り下げが一切無かったからです――何やってんだ(ミカ)ァァァ!!

なお、アグニカも鉄華団も出ない予定。
マジかよ…(絶望)

時間軸は本編一話(P.D.0313)と二話(P.D.0323)の間である為、1.5話と表記しています。
ローマ数字の所が、細かな話数を表します(次回は「#1.5-Ⅱ」)
本来なら一話で終わらせようと思ったんですけど、想定以上に長くなりそうだったので分割しました。


 P.D.0316年。厄祭戦の終結より、三百年以上が経過した時代。

 ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」内に設置された、セブンスターズ会議場には、厄祭戦時の七人の英雄――その末裔達が、顔を揃えていた。

 

「して――イシュー公。議題は何ですかな?」

 

 セブンスターズ第七席「ファルク家」の当主エレク・ファルクが、己が右側の席に座る細身の男に、そう問い掛けた。

 問われた者――今回のセブンスターズ会議を招集した、セブンスターズ第一席「イシュー家」の当主オルセー・イシューは、提示すべき議題を告げる。

 

「かねてより治安が悪化している、圏外圏への対応について――一度、セブンスターズの全てを以て協議すべき、と私が考えた故。突如の招集に応じて貰い、感謝致します」

「何、構わんよイシュー公。キミがこうしてセブンスターズを招集するなど、極めて稀じゃからな。

 それを無碍にするほどに非情な者は、少なくともこの場におるまいて」

 

 オルセーにそう返したのは、セブンスターズ第六席「バクラザン家」当主、ネモ・バクラザン。セブンスターズ当主の中でも、最高齢の人物だ。

 その言葉の次に、セブンスターズ第二席「ファリド家」当主兼ヴィーンゴールヴの最高司令官であるイズナリオ・ファリドが、オルセーの提示した議題について話し出す。

 

「イシュー公が懸念しておられる圏外圏の統括は、月外縁軌道統制統合艦隊『アリアンロッド』に一任されている。――クジャン公は、イシュー公の問題提起に対し、どのような意見をお持ちか?」

 

 イズナリオに話を振られたセブンスターズ第五席「クジャン家」の当主であり、現在の月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の最高司令官でもあるアビド・クジャンは、重々しく口を開いた。

 

「圏外圏全体の治安が悪化しているコトは、否定出来ない事実です。我ら月外縁軌道統制統合艦隊の管轄する領域は、月から火星までと、極めて広大。

 最重要たるアリアドネの管理は、名家であるザルムフォート家とも協力し、問題無く行われておりますが――ギャラルホルンに反感を抱く勢力の完全なる淘汰は、現状難しいと言わざるを得ません」

「加えて、ギャラルホルンの管轄下に無い航路の開拓が行われている、との報告も有る。それらはデブリ帯の中に存在しており、把握は愚か発見すら出来ていない」

 

 アビドの言葉に付け足したのは、セブンスターズ第四席「エリオン家」の当主にして、アリアンロッドの次期最高司令官だと目されるラスタル・エリオンである。当主になってからそれほど時間は経っていないが、既にその頭角を文武両面に於いて現しつつある。

 

「近年勢力を伸ばしつつ有る圏外圏の企業、テイワズの影響も有るのでしょうな。あの組織は、独自でモビルスーツの開発も行っている。闇航路の一つや二つ、保有していてもおかしくはない」

 

 そう推測するのは、セブンスターズ第三席「ボードウィン家」当主、ガルス・ボードウィン。その推測に、その場の全員が頷いた。

 だが、まだ明らかとなっていないコトが有る。

 

「しかし、イシュー公は何故、『圏外圏の治安が悪化している』と判断なされたのですか? この問題は現状、我がアリアンロッドの者にしか把握されていないハズです。私は次回の定期セブンスターズ会議で話そう、と思っていたのですが」

 

 これだ。アビド・クジャンの抱いた疑問は、場に集う全員がふと抱いたモノでもあった。

 

 地球外縁軌道統制統合艦隊「グウィディオン」の最高司令官であり、地球衛星軌道上を周回する三基の衛星基地「グラズヘイム」の管轄を担当しているオルセー・イシューが、何故アリアンロッド内部でしか共有(リーク)されていない情報を手に入れているのか。

 グウィディオンによるアリアンロッドへの介入行為などが有れば、イシュー家の信頼は地に落ち、セブンスターズ内の権力が揺れ動く可能性が有る。

 

「貴方がたの思うような介入行為は、一切行っておりません。もっと単純な話です。

 先日、私はナディラ家の麾下に有る独立統制部隊『オレルス』の隊長である、ジジル・ジジンに会いました。彼はアリアンロッドへの出向から帰還した直後であり――そこで、圏外圏の治安が悪化しているのでは、との話を聞いたに過ぎません」

 

 ガンダム・グレモリーを保有するギャラルホルンの名家「ナディラ家」は、独自に統制部隊を編成、構築している。その練度はアリアンロッドに比肩するほど高く、その独立統制部隊「オレルス」の隊長がジジル・ジジン――代々ナディラ家に仕える「ジジン家」の当主にして、わずか二機しか現存しないヴァルキュリア・フレームの内の一機、オルトリンデを操るエースパイロットだ。

 

「ふむ――確かに先日、ナディラ家に属する独立統制部隊の出撃を要請したのは事実。ジジル・ジジン隊長が、その折に兵から噂を聞いていたとしてもおかしくはない、か」

 

 ラスタルの言葉に、オルセーが頷く。そして、続けて己が心境を吐露する。

 

「その通りです、エリオン公。ジジル・ジジン隊長の寡黙な性格は、彼と一度話せばお分かりになられるハズ。そんな彼が私にわざわざそのように話すので、圏外圏の治安悪化は深刻なのではないか、と心配になりまして」

「ほほほ、相変わらずの心配性じゃな」

 

 ネモ・バクラザンが、優しげに笑う。自らのバクラザン家が今回の議題に全く関わっていないとあって、随分と余裕たっぷりだ。

 

「とは言え、イシュー公のその性格こそが、現在の地球圏の平穏を守っているのも事実」

 

 バクラザン家と同じく文官である為に、今回の議題に関わりの無いエレク・ファルクは、口元に笑みすら浮かべている。

 

「ファルク公の仰る通りです。私はイシュー公の忠告を、重く受け止めようと思っております。

 厄祭戦以後の三百年で、確かに圏外圏の治安は悪化しました。デブリ帯に闇航路が作られたコトで、宇宙海賊の勢力も拡大しています。我がアリアンロッドが、ナディラ家の独立統制部隊『オレルス』の力を必要としたのも、その証左と言えましょう。

 ――今後もエリオン公との協力体制を一層強固なモノとし、断固とした決意を以て、圏外圏の統治に当たって行くと約束致します。ご安心下さい」

 

 アビド・クジャンはひとまずそこで話題を切り、ついでと言わんばかりに次の議題を持ち出した。

 

「それはそうと――バクラザン公、ファルク公。貴公らのご子息が、士官学校を卒業する頃合いではありませんか?」

 

 この言葉に、ネモ・バクラザンとエレク・ファルクは頷き、口を開く。

 

「如何にも。今期の主席もしくは次席として、卒業して来るかと」

「うむ――優秀な子じゃよ。まさしく、セブンスターズの一席を預かるに相応しい。少々粗暴じゃが」

「ご自慢の息子達であるコトは分かりますが――主席と次席で士官学校を卒業したセブンスターズの士官達は、まず監査局に配属され、火星支部への監査に行かされるコトが多いです。

 自らの失態を晒すようで心苦しいのですが――イシュー公が議題とされる程度には、現在の圏外圏の治安は悪い。道中では、間違い無く宇宙海賊の襲撃を受けます。そこにセブンスターズの新任士官を行かせるのは、あまり得策とは言えないのでは?」

 

 アビドの意見には、確かに一理有る。

 ただの士官ならともかく、セブンスターズなのが問題だ。ギャラルホルンを支配し事実上の独裁を行っているセブンスターズに、反感を抱く者は決して少なくない。

 治安が悪化している圏外圏では、特にそれが顕著に現れるだろう。

 

「セブンスターズの権威を以てすれば、総務局の人事に介入するコトは難しくない――それがセブンスターズ会議による決定からなるモノであれば、尚更のコト」

「バクラザン公、ファルク公はこのコトについて、どうお考えですかな?」

 

 ネモとエレクは、わずかに思案したが――如何にセブンスターズと言えど、子供可愛さで権力を公使し、総務局の人事に介入するのはマズい。権力、組織的に許されているとは言え、そんなコトをすればギャラルホルン士官達から反感を招きかねない。

 ただでさえ四大経済圏、圏外圏でギャラルホルンへの反感が高まっている時勢に、内部にまで敵を作りかねないコトをするのは避けるべきだ。

 

「どうもこうも、総務局の人事に従う他に無かろうて。人事は今のところ、あそこに一任されておるからな」

「危険など、ギャラルホルンの士官になると決めた時から、彼ら自身も承知しています。それに、圏外圏の様子を見ておくコトは、彼らのこれからにとってもプラスとなるでしょう」

 

 セブンスターズの次期当主になる者が、地球圏にのみ留まるコトで、凝り固まった偏見を抱くのは望ましいコトではない。実際に圏外圏の様子を見てこそ、将来的に適切な組織運営をしてくれるようになるだろう。

 そのように、二人は考えている。

 

「――せめて、ガンダム・フレームを持って行くのはどうですかな? 訓練はされているでしょう?」

「ええ、してはいましたが…些か焦燥では有りませんか、ボードウィン公」

 

 バクラザン家とファルク家に伝わる、ガンダム・フレーム――ヴィーンゴールヴ中央の「バエルの祭壇」に安置されたそれが、式典の為では無く戦闘の為に持ち出されるコトは、極めて異例だ。

 

「いや――それほどまでの備えが必要だと言うならば、認可する必要も出て来るじゃろうな。クジャン公、どうじゃ?」

「――有るに越したコトは無いでしょう。念の為に、アリアドネを管理するザルムフォート家にも、連絡をしておきます。ザルムフォート家もまた、ガンダム・ダンタリオンを保有する名家ですから」

「…分かりました。では、そのように」

 

 以上を以て、オルセー・イシューが招集した臨時セブンスターズ会議は閉幕した。

 

 

   ◇

 

 

 ギャラルホルンの士官学校を主席で卒業したファルク家の一人息子トリク・ファルクと、次席で卒業したバクラザン家の一人息子ディジェ・バクラザンは、卒業式の翌日にギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」に呼び戻されていた。

 

「ッたく――親父(ジジイ)どもは、一体何の用なんだ? なあトリク」

「それを私が知るとでも? 問答無用で呼び戻されたのは完全にお前と同じだ、ディジェ」

「卒業旅行を断っただけの価値が有るんだろうな? 無かったらブン殴ってやる」

「老体は労れ。お前が殴ったら、あの仙人は間違い無く死ぬぞ」

 

 士官学校を卒業したての二人は、そんな軽口を叩きながらヴィーンゴールヴの廊下を悠々と進む。

 総務局から人事が下されるまで、後一週間。本来なら卒業旅行にでも旅立つ所だが、こうして親に呼ばれたコトで、チャラになってしまった。

 ディジェが「ブン殴ってやる」とまで言うのは、そう言う理由だ。自分が行けないのはともかく、それによって友人達に土産を買って来て貰うと言う仕事を増やしてしまったのが、本当に気に食わない。

 

「で、だ――本当に親父(ジジイ)どもは、こんな場所の前に来いって言ったのか?」

「ディジェ…お前、親の言葉を真面目に聞いてなかったのか? 少なくとも私は、ここに来いと言われている」

 

 二人が足を止めた場所――そこは、ヴィーンゴールヴは愚かギャラルホルンに取っての最重要施設、その入口の目の前だ。

 

 バエルの祭壇。

 

 厄祭戦の英雄にしてギャラルホルンの創設者、アグニカ・カイエルが駆ったと伝えられる伝説のモビルスーツ、ガンダム・バエルが安置される場所。

 そして、アグニカ・カイエルと共に戦ったセブンスターズの始祖たる七人の英雄――彼らが駆ったガンダム・フレームも、ここに保存されている。

 

「初めて来たぜ、こんな所…」

「当然、用が無いからな。此処は、入るのにも一苦労するのだ」

 

 バエルの祭壇への入口である鋼鉄製の扉を開くには、「アグニカポイント」なるモノが必要になる。アグニカ・カイエルのファンクラブである「アグニ会」が定義したモノである為、ディジェもトリクもよく分かっていないが、とりあえず扉を開くには五百アグニカポイントを消費するらしい。

 このアグニカポイント、概念的なモノらしいが――詳しいコトは、アグニ会の頭ぶっ飛んだ奴らにしか分からない。

 

「うむ、来たかディジェ、トリク君」

「卒業直後に呼び出して、すまなかったな」

 

 ギャラルホルンのマークが刻まれた扉の前で佇んでいたディジェとトリクの下に、両者の父親であるネモ・バクラザンとエレク・ファルクが現れた。

 ネモは杖をついている為、エレクは単純に太ましい身体が重い為に、のんびりゆったりと歩いて近づいて来る。

 

「オイコラ親父ども、士官学校の卒業式くらい出席しろよ」

「生憎と、士官学校の卒業式に出向く役は持ち回り制なのだ。今年はファリド家、ボードウィン家の担当だったからな」

「そんなモノが決まっていたのか…」

「ほほ、当主になれば分かるコトじゃよ。それより――早速、本題に入ろうかの」

 

 少し声のトーンを低くして、ネモはそう言った。その一言だけで、ディジェとトリクは背筋を伸ばされる感覚を味わった。

 流石はセブンスターズ最高齢、現在では最も初代セブンスターズに近い男、と言うべきか。その威厳は年老いてなお、些かも衰えるコトは無い。

 

「お前達を此処に呼んだのは他でも無い――此処に有るガンダム・フレームを、お前達に託す為じゃ」

「はァ?」

「…お待ち下さい。私達は、一昨日士官学校を出たばかりですよ? 何故、このタイミングで…?」

 

 トリクの質問を受けながら、ネモは杖をつきながらゆっくりと扉の横に有るタッチパネルに近づいて行く。その間、エレクがトリクの質問に答える。

 

「お前達は来年度に監査局に特務三佐として配属され、火星支部まで監査に出向かされるコトになる。だが、現在の圏外圏はオルセー・イシュー公が危惧し、アビド・クジャン公が認める程度に治安が悪化している。特に、デブリ帯の航路付近に潜む、宇宙海賊の動きが活発化しているとのコトだ。

 道中、間違い無く一回は宇宙海賊の艦に襲撃を受けるだろうと、クジャン公は予想を立て――そこにアグニカ・カイエルの魂を賭けた」

「オイ、それで良いのかクジャン公」

「軽く魂を賭けられる、アグニカ・カイエル…」

 

 アグニ会もそうだが、ギャラルホルンの士官は一体アグニカ・カイエルを何だと思っているのだろうか? と、二人は思わざるを得ない。

 

「無論、アグニカの魂云々は今考えた冗談だが――間違い無く宇宙海賊の襲撃に会う、とクジャン公が言われたのは事実だ。MS戦になる可能性が有る。

 それに備えて、予めガンダム・フレームを用意させておくべきだ――と言うのが、セブンスターズ会議での結論となる」

「オレ達専用のシュヴァルベ・グレイズは、どうなる?」

「それも持って行きたまえ。専用にカスタムされたシュヴァルベ・グレイズと、家のガンダム・フレームを持って、火星への監査に向かうのだ」

 

 シュヴァルベ・グレイズとガンダム・フレーム。

 一人につき二機持って行く、と言うコトは――

 

「使うのはビスコー級ではない、と?」

 

 ビスコー級とは、ビスコー級クルーザーのコトである。宇宙で運用される小型クルーザーで、二機のMSを積載出来る他、様々な民間組織でも使用されている。

 

「ハーフビーク級を一隻、アリアンロッドが出してくれるそうだ。一個中隊も一緒にな」

「それはまた、業腹なこって」

「監査一つに、かなりの戦力を割いているな」

 

 かのアリアンロッド最高司令官のアビド・クジャンが「それだけ必要だ」と判断したからには、本当にそれくらい必要なのだろう。

 

「開けるぞ」

 

 ネモが、細い枯れ木のような手をタッチパネルに触れさせる。

 その瞬間、パネルには「NEMO BAKLAZAN」と表示されると共に、その下には「-500 AGNIKA POINT」と記され――分厚い扉が中央から二つに分かれ、それぞれが両端に向けてスライドし始めた。扉が開かれるに連れて、祭壇の様子が明らかとなって来る。

 ガコォン…、と重々しい音が響いて扉が全開にされると、四人とその部下達は畏れを抱きながら、ギャラルホルン最重要施設「バエルの祭壇」に脚を踏み入れた。

 

「――アレが、ガンダム・バエル…」

「アグニカ・カイエルが駆った、伝説の機体――」

 

 話にこそ聞くが、ディジェとトリクに取ってはこれが初見になる。あまりにも美しい純白の機体を、畏敬と共に二人は見上げた。

 

 ASW-G-01 ガンダム・バエル。

 

 天使のような美しさとスタイリッシュさを誇る原初のガンダム・フレームにして、ギャラルホルンの権威の象徴である。

 

「バエルを操る者とは、ギャラルホルンの最高幕僚長のコトじゃ。バエルを起動出来ると言うコトは、アグニカ・カイエルに認められるコトと同義。

 今まで、多くの者達が五百アグニカポイントを消費してこの『バエルの祭壇』に踏み入り、バエルの起動を試みたが――成し遂げた者は、誰一人として存在しておらん」

 

 現在セブンスターズ当主の最高齢であるネモですら、バエルを実際に見た回数は両手で数えられる程度だ。組織内ではアグニカ・カイエルの魂、ギャラルホルンの象徴――などと、アグニ会を中心に崇め奉られてこそいるが、実際にバエルを見た人間は少ないと言われている。

 起動すらままならないのだから、式典に出すコトも出来ない。となれば必然的に、お目にかかる回数は減る。

 

「――なぁ、乗ってみても良いのか?」

「構わぬよ。ただ、動かすコトは出来ぬじゃろうから、コクピットに座るくらいが限界じゃが」

「マジかよ、座って良いのか」

 

 ディジェはダメ元で聞いたのだが、ネモは割とアッサリ許した。この三百年、百名を超える人間がバエルの起動を試み、悉くが失敗している。

 理由として、コクピットがアグニカと共に戦っていた厄祭戦当時の物が残されているので、現在のギャラルホルンの機体とは規格が異なるコトが上げられる。バエルをかつて誰一人として起動出来ていないのは、アグニカの魂に認められるられないより前に、まずこれが原因だろう。

 

「――もし動かせたら、どうなるんです?」

「起動し動かした者は、その瞬間にギャラルホルンと言う組織の頂点に立つ。バエルを動かせたなら、ディジェはギャラルホルンの最高幕僚長となるじゃろう」

 

 備え付けられているクレーンに乗ってバエルのコクピットに向かうディジェを見上げながら、ネモはトリクにそう答えた。

 ギャラルホルン全体を統括する最高階級である最高幕僚長の座は、本来ならばカイエル家に与えられるハズだった地位だが、残念ながらカイエル家は当のアグニカの代で断絶してしまっている。現在、最高幕僚長の座は空席――アグニカ・カイエルが復活でもしない限り、この座はバエルを起動出来た者に託されるだろう。

 ガンダム・バエルとは、ギャラルホルンに取ってそれほどまでに重要な物なのだ。

 

「で、どうだディジェ?」

 

 そんなコトを話している内に、ディジェはバエルのコクピットに乗り込んでいた。少し声を張り上げて、トリクはコクピット内のディジェにそう問う。

 これに対し、一瞬の間を空けて。

 

「ウンともスンとも言いやがらねぇぞ!!」

 

 との答えが、コクピットから帰って来た。粗暴な口調で叫んでいるが、その言葉は苛立ちではなく困惑から来るモノだと、トリクは理解した。

 続いてトリクは、違う質問を投げ掛ける。

 

「バエルのコクピットは、厄祭戦当時の物なのだろう? 違いは有るか?」

「スティックが直角で、内部は全体的に白い! 後は、シートに変な機械がくっついていやがる!」

「成る程――」

 

 トリクは何故ディジェが起動出来ないのかの予測を立て終わり、一度頷いた。それからディジェはしばらく頑張ったが、有効な解決策は何一つ見つからず、再びクレーンに乗って三人の下へ戻って来た。

 

「やはり、不可能だったか」

「そう簡単に起動出来るのなら、ギャラルホルンはアグニ会に支配されておるわい」

「ったく、何だったんだよあの機械は――背中に伸びて来やがった…」

 

 未だにそれが何なのかにアタリを付けていないディジェに、トリクが予測を述べる。

 

「恐らく『阿頼耶識』だろうな。厄祭戦時からコクピットを変えていないとすれば、制御系に阿頼耶識システムを採用していてもおかしくはない」

「阿頼耶識か――成る程、そりゃ誰にも起動出来ねぇ訳だ。機械化がタブーになってるギャラルホルンに、阿頼耶識手術を受けてる奴がいる訳ねぇ」

 

 ギャラルホルンは初代セブンスターズの時代に、機械の自動化と阿頼耶識の施術を禁止した。これは初代セブンスターズが、自分達のように手術を受けて戦闘マシーンになる者がいなくなるように、と願ってのモノだった。

 この時点で、バエルの起動条件を満たしている者はギャラルホルンは愚か世界に誰一人いなくなった、と言う訳である。

 

 ガンダム・バエルに厄祭戦時のコクピットが残されているのは、過去に縋らず自らを機体の一部とせず、自らの力のみで未来を創るべきだ――と言う、死したアグニカ・カイエルと初代セブンスターズが残した、無言のメッセージなのかも知れない。

 

「まあ、極論を言えばバエルを起動出来るか起動出来ぬかなど、詮無きコトだ。問題は、その者がアグニカ・カイエルの――ギャラルホルンの理念を体現しているかどうかだろうな」

「ああ、その通りだ」

「――寄り道は此処までにしようかの。今回の本題は、ガンダム・バエルを通してアグニカ・カイエルと初代セブンスターズの理念を再確認するコトでは無い」

 

 ネモ、エレクに続いて、ディジェとトリクはバエルの祭壇に満たされる水の上に浮かべられたボートに乗り込み、バエルを囲むように並んでいる七つのシャッターの内の一つに向かって進み出した。

 

「バクラザン家の所有するガンダム・ヴィネと、ファルク家の所有するガンダム・アモン。この二機を持ち出す為に来たのだ」




一話目、終了。
話ばっかですけど、まあ起承転結の「起」なんで許して下さい。
さて――オリキャラの掘り下げをする番外編に、更なるオリキャラを登場させると言う、史上類を見ぬ暴挙を侵してしまいました。
そんな訳でオリキャラ解説。


オルセー・イシュー
男性
セブンスターズ第一席「イシュー家」の先代当主であり、カルタ・イシューの父親。
地球外縁軌道統制統合艦隊「グウィディオン」の最高司令官、並びに地球衛星軌道上に存在する三基の衛星基地「グラズヘイム」の総司令官を務める。
まだ三十を過ぎたばかりだが、病弱である為に頻繁に寝込んでしまう。
また、その為に痩身で、肌も不健康なほどに白い。
心配性だが、その分気配りが出来る。
名前はNHKの「ガンダム総選挙」の際、鉄血のキャラ名一覧に有った「オルセー・イシュー」を流用。
あの時の鉄血キャラの一覧、ちょこちょこ知らない名前が混じってたんですよね…設定だけ作っといたけど何処にも出さず終わった、みたいな奴らだったんですかね?(續に関わる可能性も有るかも?)

アビド・クジャン
男性
セブンスターズ第五席「クジャン家」の先代当主であり、イオク・クジャンの父親。
先代エリオン公の死後、役職を引き継ぐ形で月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の最高司令官を務めている。
非常に優秀な人物で、艦隊指揮からモビルスーツ操縦までそつなくこなす完璧超人。
それに加えて人望が有り、部下からの信頼が厚い。
名前はハーメルン内に有る鉄血二次創作作品「アグニカ・カイエル バエルゼロズ」に登場するオリジナルキャラクター、初代クジャン家当主「アビド・クジャン」から流用。
許して下さい何でもしますから(土下座)
あの作品での先代クジャン公は「イジュール・クジャン」って名前らしいんですけど、個人的に「イジュール・クジャン」より「アビド・クジャン」の方が字数的にシックリ来た上に、イジュールとイシューが似てると思ったので避けました。


続いて月鋼で出ただけのキャラ、設定の解説。
ぶっちゃけ知ってる人少なそうなので、一応付けときます。

ナディラ家
ギャラルホルンの名家の一つであり、ガンダム・グレモリーを保有している。
本作ではオリキャラとして初代当主のイシュメル・ナディラが登場しており、原作の時間軸での当主はデイラ・ナディラ。

ジジル・ジジン
男性
代々ナディラ家に仕えるジジン家の当主。
ナディラ家麾下の独立統制部隊「オレルス」の隊長を務め、自らはヴァルキュリア・フレーム三番機のオルトリンデを操る。

ザルムフォート家
ギャラルホルンの名家の一つであり、ガンダム・ダンタリオンを保有している。
また、月と火星の往還航路を管理する役割を担う。
本作ではオリキャラとして初代当主のシプリアノ・ザルムフォートが登場しており、現当主はジルト・ザルムフォート、次期当主はザディエル・ザルムフォート。


ここぞとばかりに、月鋼のネタをぶち込んでみました。
本編書いてた時、厄祭戦編にこっそり初代当主を入れとく以外に月鋼ネタを使わなかったので…。




次回「夜明けの地平線団」


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#1.5-Ⅱ 夜明けの地平線団

西暦二〇一九年、一月六日。
公式より、鉄血のオルフェンズ新作についての情報が明かされましたので、これを受けての私の新作についての決定のご報告を兼ねて更新です。

新作は「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント」――ソシャゲ内のオリジナルストーリーであり、時系列的には一期二期の間…金星のお話だそうです。
とりあえず「公式が厄祭戦をやる」と言う異常事態(?)は避けられ、私の新作については、予定通り投稿するコトとしたいと思います。
なお、新作で新たな機体の登場、新たな厄祭戦に関わる設定が明かされる可能性は高いです。
それが出揃うまで投稿を待とうかとも思いましたが、何分ソシャゲと言うコトで、全て出揃うのが数年先になる可能性も有ります(現状、配信日は愚かアプリの正式タイトルすら未定)
その為、ソシャゲでの新設定はガン無視する方向で行こうかと考えております(反映出来そうなら反映しますが)

そんな訳で、新作は本年四月三日より投稿を開始する予定でいます。
よろしければ、お付き合い下さい。


以上、宣伝を失礼致しました。
それでは本編へどうぞ――今回は短めですけど、許して下さい。
仕方ないんです、キリが良かったんで…(言い訳)


 バクラザン家とファルク家のガンダム・フレームが「バエルの祭壇」より持ち出されてから、二日が経過した頃――総務局が本年度の人事を発表した。

 アビド・クジャンの読み通り、監査局に配属され火星行きを命じられたディジェ・バクラザン特務三佐とトリク・ファルク特務三佐は、地球衛星軌道上の衛星基地「グラズヘイムⅢ」へと上がっていた。そのグラズヘイムⅢには、月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」から出向した、ディジェとトリクが指揮する予定のハーフビーク級宇宙戦艦が停泊している。

 

「やっぱり、警戒し過ぎじゃねぇのか? わざわざ戦艦一隻、それもモビルスーツ一個中隊までセットでなんてよ」

「――アビド・クジャン公は、その程度の人物ではない。きっと、何か理由が有る」

 

 そう言うトリクは、この二日で月外縁軌道統制統合艦隊の最高司令官であるアビド・クジャンの経歴を調べ上げていた。自分の息子でもないディジェとトリクをこれほど気にかけ、戦艦まで貸し出して来た理由が、トリクには分からなかったからだ。

 

「ここ二日で分かったコトは、クジャン公が判断を誤ったコトは一度もなく、また無駄を嫌う性格だと言うコトだけだ。こんな手厚い対応をする、詳しい理由までは掴めていない」

 

 ファルク家の次期当主として、集められるだけの情報は集めたが、それでも何故アビド・クジャンがここまでするのかは分からずじまいだ。

 後はもう、実際に圏外圏へ行ってみるしか無い――と、トリクは結論づけた。

 

「当たって砕けろ、って訳かよ」

「そう言うコトだ。――そろそろ、積み込み作業も終わる頃合だろう。艦に向かうぞ」

「おう」

 

 積み込み作業と言っても、やるコトと言えばディジェとトリクのシュヴァルベ・グレイズ、並びに両家のガンダム・フレームを積み込むだけだ。そんなに時間がかかるモノではない。

 艦に乗り込んだ二人は、ブリッジに向かった。ブリッジにはクルー達が立ち並んで待機しており、二人が入って来るや否や一斉に敬礼した。

 

「これはまた、ご丁寧なコトだな」

「は。アビド・クジャン司令より、全力を以てお二人の助力になれ、と仰せつかっております。自分は艦長を務めます、キュル・ミュンヘン一佐です」

「おう――積み終わり次第、出航だ」

『は!』

 

 それから十分後、ディジェとトリク率いる監査団のハーフビーク級はグラズヘイムⅢを出航し、正規航路に乗って火星へと進み始めた。

 

 

   ◇

 

 

 月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の最高司令官アビド・クジャンは何故、セブンスターズの次期当主が二人参加しているとは言え、毎年送られる監査団一つの為にハーフビーク級宇宙戦艦一隻とMS一個中隊を貸し出したのか。

 その答えは、すぐに分かるコトとなった。

 

「十時の方角に、エイハブ・ウェーブを確認! 距離一万二千、数は三! 宇宙戦艦です!」

 

 出航から五日。艦の左側に有った暗礁宙域に、ギャラルホルンの物ではないエイハブ・リアクターが観測された。

 

「解析、遅いぞ!」

「観測データ、出します!」

 

 ブリッジのモニターに、観測データからCGで合成された画像が映し出される。

 全長四百メートルほどの、厄祭戦時代からありふれたタイプの宇宙戦艦が三隻。しかし、その艦艇には一つのシンボルマークが刻まれている。

 

「――『夜明けの地平線団』」

「あぁ? 何だそりゃ」

「おや――トリク様は、アレをご存知で?」

「近年勢力を伸ばしている、宇宙海賊だな。月と火星の間、広い範囲の暗礁宙域で活動している」

 

 トリクの予測通り、今監査団のハーフビーク級に近づいて来ているのは、宇宙海賊「夜明けの地平線団」だ。近年は勢力を急速に伸ばしつつあり、ギャラルホルンが管理する正規航路にさえ、時折現れるようになって来ている。

 

「オイオイ、アリアンロッドは何してる? ああいう奴らをとっちめるのは、お前らの仕事だろ?」

「仰る通りです。しかし、今接近して来ている『夜明けの地平線団』は、通常の宇宙海賊とは訳が違うのd」

 

 アリアンロッド所属のキュル・ミュンヘン艦長が訳を説明する前に、オペレーターが報告する。

 

「敵艦より、MSの出撃を確認!」

「艦長、説明は後で聞かせてもらう。――MS隊、随時出撃だ。私とディジェのシュヴァルベ・グレイズも、出撃準備をさせろ」

「よし。キュル艦長、艦の指揮は任せたぜ」

「御意に。――全艦第一戦闘配置、ブリッジ移行! MS隊は出せる者から出せ!」

 

 艦の重力制御が解除され、エイハブ・リアクターの出力が武装に回される。艦底のカタパルトが起動し、瞬時にMSの出撃シークエンスが開始された。

 

「対応が早いな。既にMSを出し終えたか」

「ああ。流石はアリアンロッドの精鋭だ」

 

 速やかにパイロットスーツへ着替えたディジェとトリクは、MSデッキに降りる。二人に取っては初の実戦になるが、恐れは無い。

 それぞれが専用のシュヴァルベ・グレイズのコクピットに乗り込み、手慣れた手付きで起動させる。それから、ディジェのシュヴァルベ・グレイズからカタパルトに降りていく。

 

『射出準備完了。タイミング、任せます』

「おう。…ディジェ・バクラザン、シュヴァルベ・グレイズ――出るぜ!」

 

 ディジェのシュヴァルベが打ち出された直後に、トリクのシュヴァルベ・グレイズがカタパルトに設置された。

 

「トリク・ファルク、シュヴァルベ・グレイズ。行くぞ」

 

 トリクのシュヴァルベを最後として、ギャラルホルン監査団のMSは全機が出撃し終えた。母艦を中心として、MS隊は散開配置されている。

 

『敵艦、射程まで三千!』

『敵MS部隊、突っ込んで来ます!』

『阿頼耶識もいる、絶対に油断するな!』

『艦砲射撃用意、当てろよ!』

『ミサイル発射管装填! 照準!』

 

 通信が飛び交う中、トリクのシュヴァルベはディジェのシュヴァルベに追い付き、並んで警戒態勢を敷く。同時にトリクのシュヴァルベは畳まれていた専用のスナイパーライフルを展開し、ディジェのシュヴァルベは背部に接続されていたバトルスピアーを両手で構えた。

 

「見えた。ディジェ、お前は斬り込め」

「おう。援護は任せるぞ」

 

 ディジェのシュヴァルベは背部スラスターユニットを起動させ、高速で敵部隊に突撃。トリクのシュヴァルベはその場に留まり、両手でスナイパーライフルを構える。

 夜明けの地平線団のMS部隊は、厄祭戦時から存在するロディ・フレームのMS、ガルム・ロディを中心として構成されている。ギャラルホルン製の最新鋭MSであるグレイズと、同型のカスタム機であるシュヴァルベ・グレイズで構成された部隊なら、性能としては負ける要素など無い。

 

『御曹司が突撃してるぞ!』

『全員、遅れるな! 続いて突っ込むぞ!』

『奴らに反応をさせるなよ!』

 

 トリクが指示を飛ばすよりも早く、MS部隊は各々の判断でディジェに続き、敵部隊に突撃して行く。

 

「うらァ!」

 

 ディジェのシュヴァルベがバトルスピアーを突き出し、一機のガルム・ロディを撃墜する。その側では、続いて来たグレイズ部隊が次々とガルム・ロディを落として行く。

 物量では劣っているものの、練度は圧倒的にギャラルホルン側の方が上だ。事実として、一切の損害無く五機のガルム・ロディを無力化せしめた。夜明けの地平線団の先陣を、完全に挫いた形となる。

 

『あの坊ちゃん、やるじゃねぇか!』

『油断するな! 阿頼耶識持ちが来るぞ!』

『来たぞ、警戒しろ!』

((「阿頼耶識」…?))

 

 ディジェとトリクが、先ほどから時々通信に乗っているその言葉に引っかかりを覚えた時、敵MS部隊の第二波がやってきた。

 先ほどの第一波が五機だけだったのに対し、この第二波は十五機。更にその後ろには、第三波にして本命と目される二十機編成のMS部隊が有る。

 

「そらッ!」

 

 ディジェが、敵機体に対してバトルスピアーを突き出す。ついさっき、敵機を仕留めたモノよりも速度の速い突き。

 目前のガルム・ロディは、それを――腰からバスターソードなる格闘武装を展開し、弾き返した。

 

「何!?」

 

 続いてバスターソードを振り下ろそうとするガルム・ロディに対し、ディジェのシュヴァルベは左腕を伸ばしてバスターソードを保持するガルム・ロディの右腕を掴み、思い切り左腕を引いてガルム・ロディを自機に接近させ――同時に自機を回転させ、バトルスピアーを敵機の背面に刺し込んだ。

 バトルスピアーの穂先は背部装甲を突き破り、ガルム・ロディのコクピットを後部から潰した。

 

『ぎゃあああああああー!!』

「……!」

 

 その断末魔がいやに若く聞こえ、ディジェは思わず眉を顰める。

 しかし振り払い、槍を抜いて一旦後退。それに追尾して来たガルム・ロディのメインカメラが、後方からのトリクのシュヴァルベによる狙撃で撃ち抜かれた。

 

「フ」

「ナイ、スッ!」

 

 敵機が狼狽した隙をついて、ディジェのシュヴァルベはバトルスピアーを構えて突撃し、ガルム・ロディのコクピットを貫く。

 

『うああああああああ!!!』

 

 だが今度の断末魔も、声が若い。ディジェは流石に妙と思って、戦場を見回しつつ通信に注意するものの、これについて言及する者はいない。

 それから二機ほど敵機を撃墜した所で、味方からの艦砲射撃の開始と共に、味方の間でも通信が飛んだ。

 

『本命が来るぞ!』

『何だ、あのMSは!?』

『データ取得、解析しろ!』

『何てスピードだ…通常の三倍に近いぞ!』

 

 何度か夜明けの地平線団と戦っているハズのMS部隊パイロット達が、何かを見て困惑を露わとしている。一体何だ、と思って、ディジェとトリクも観測する。

 

 モニターに映ったMSは、少なくともロディ・フレームのMSではなかった。されど、凄まじい速度でギャラルホルンMS部隊に近付きつつある。

 その速度、実に後ろに付くガルム・ロディの三倍にもなっている。

 

「――トリク、もしかしてアレは…!」

「…お前もか。間違い無い――」

 

 頭部に内蔵された、双眼のメインカメラ。

 頭部に飾られる、特徴的なブレード・アンテナ。

 背部に接続されて突き出る、大型ブースター。

 左腕部に装備されている、大型ブレード。

 

 相当数が存在するロディ・フレームでも、厄祭戦時に数多く建造されたヘキサ・フレームでもない――一般機の常識より逸脱した、通常の三倍近い速度で接近して来る、真紅に染め上げられた機体。

 そんな規格外の化け物MSに使われるようなフレームなど、この世界にはただの一種類しか存在していない。

 言うまでもなく、それは――

 

 

「―――『ガンダム・フレーム』…!!」

 

 

 

 

   ◇

 

 

「さあ――奪わせて貰おうか、ギャラルホルン」

 

 夜明けの地平線団の首領であるゾレイ・サルガタナスは、真紅に彩られたガンダム・レラージェのコクピットの中で、そうほくそ笑んだ。




キリが良い(?)ので、短いですが今回はここまで。
ディジェとトリク、初任務が凄まじくハード。
ここで「夜明けの地平線団」を出したのは、以前の本編で出番を丸々カットしたからだったりします。
まだサンドバル・ロイターの時代じゃないですが。
なお、この時代の夜明けの地平線団の事情は、何もかもオリジナル設定です。

そんな訳で、前回の反省が有りながらも再び増えたオリキャラと、今回はオリジナル機体も解説。
さては反省してねぇな、この作者。


キュル・ミュンヘン
男性
アリアンロッドから火星監査団に貸し出されたハーフビーク級宇宙戦艦、その艦長。
階級は一佐であり、アビド・クジャンの右腕だとも言われる凄腕。
艦隊指揮、MS部隊指揮に加えて、操縦も出来る。


EB-05s シュヴァルベ・グレイズ(ディジェ機)
スペル:SCHWALBE GRAZE
全高:18.1m
本体重量:32.5t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:グレイズ・フレーム
装甲材質:ナノラミネートアーマー
武装:ライフル×1
   バトルスピアー×1
   ワイヤークロー×2
パイロット:ディジェ・バクラザン

概要
「EB-06 グレイズ」と共通の試作機から発展したカスタム機であり、指揮官機、エースパイロット機として開発されたMS。
背部に惑星間航行艦の技術を用いた「GR-Es01 フライトユニット」を装着しており、肩部、腰部、脚部のブースターを併用すれば、重力下でも高い飛行能力を発揮する。
頭部は上下二段式のセンサーと大型アンテナを採用し、独自の形状を持つ。
パイロットに合わせたカラーリングやカスタマイズを施された機体が多く、パイロットの個性が際立つ傾向が有る。
ディジェ・バクラザンの専用機は、全長二十メートルにもなるバトルスピアーを装備するのが特徴である他、本来ならば左腕のみに装備されるワイヤークローを両腕に装備している。


EB-05s シュヴァルベ・グレイズ(トリク機)
スペル:SCHWALBE GRAZE
全高:18.1m
本体重量:32.5t
動力源:エイハブ・リアクター×1
使用フレーム:グレイズ・フレーム
装甲材質:ナノラミネートアーマー
武装:スナイパーライフル×1
   バトルハンマー×1
   バトルブレード×1
   ワイヤークロー×1
パイロット:トリク・ファルク

概要
「EB-06 グレイズ」と共通の試作機から発展したカスタム機であり、指揮官機、エースパイロット機として開発されたMS。
背部に惑星間航行艦の技術を用いた「GR-Es01 フライトユニット」を装着しており、肩部、腰部、脚部のブースターを併用すれば、重力下でも高い飛行能力を発揮する。
頭部は上下二段式のセンサーと大型アンテナを採用し、独自の形状を持つ。
パイロットに合わせたカラーリングやカスタマイズを施された機体が多く、パイロットの個性が際立つ傾向が有る。
トリク・ファルクの専用機は、大型のスナイパーライフルと特注のバトルハンマーを装備している他、通常ならばグレイズにのみ装備されるバトルブレードを腰背部に懸架している。


ASW-G-14 ガンダム・レラージェ
スペル:GUNDAM LERAJE
全高:18.6m
本体重量:35.0t
動力源:エイハブ・リアクター×2
使用フレーム:ガンダム・フレーム
装甲材質:ナノラミネートアーマー
武装:ワイヤーブレード×1
   ロングライフル×1
   バスターソード×1
   ハンドナイフ×2
パイロット:ゾレイ・サルガタナス

概要
背中と腰に計三基のブースターが装備されており、一撃離脱戦法を得意とする機体。
元々は緑と白で塗装されていたが、宇宙海賊「夜明けの地平線団」の首領であるゾレイ・サルガタナスの手によって、真紅に塗り直されている。
ワイヤーブレードは左腕に取り付けられた近中距離での格闘兵装で、ワイヤーの先に接続されたブレードを自在に操る物。
ハンドナイフは袖に仕込まれており、ワイヤーブレードを使用出来ない超近接戦で本領を発揮する。
その他、ガルム・ロディが使用する口径三百ミリのロングライフルと、近接武器としてバスターソードを流用している。

名前の由来
ソロモン王直属の使い魔「ソロモン七十二柱」に於ける序列第十四位の悪魔「レラージェ(レラジェ、レライエ、レライハ、ロレイ、オライとも)」から。
レラージェは三十の軍団を率いる、地獄の大侯爵だとされる。


ゾレイ・サルガタナス
男性
「夜明けの地平線団」の首領(P.D.0315年時)。
真紅の服を纏って真紅の機体に乗り込む、三十前半と目される人物。
シャアとかフロンタルとかと同じ匂いがする。
阿頼耶識手術を受けており、通常の三倍の速度で機体をかっ飛ばし、「朝陽の男」との異名を取る。
その素性は、謎に包まれている。




次回「朝陽の男」
こんな終わり方しときながら、更新はかなり先になる模様。
下手したら二月とかになる…かも…?


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#1.5-Ⅲ 朝陽の男

近況報告。
劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅱ. lost butterfly」を観ました。
何かもう凄かったです(語彙力消失)
なので劇場で観ろ(命令形)

そして、投稿が一ヶ月以上開いてしまい、申し訳有りませんでした…次回もいつになるか分からず、大変情けない限りです…m(__)m
自戒の為、プロシュート兄貴の言葉を刻みつけておきます。


オレたち
チーム(投稿者)はな!

そこら辺のナンパ(チンケ)部活(ストリート)
仲よしクラブ(サークル)
ブッ殺す(投稿する)」「ブッ殺す(投稿する)って
大口叩いて仲間と心を
なぐさめあってるような
負け犬どもとはわけが
違うんだからな


ブッ殺す(投稿する)
心の中で思った
ならッ!

その時スデに
行動は終わっているんだッ!


「さあ――奪わせて貰おうか、ギャラルホルン」

 

 宇宙海賊「夜明けの地平線団」の首領、ゾレイ・サルガタナス。

 真紅のモビルスーツ、ガンダム・レラージェを駆り、月と火星の間で散らばって活動していた全ての宇宙海賊を圧倒的なカリスマ性と戦闘能力を以て束ね上げ、一つの巨大宇宙海賊組織「夜明けの地平線団」を結成せしめた「朝陽の男」である。

 

 その出自、力の理由、動機などは一切不明。

 ただし、月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」司令官アビド・クジャンは、この男をこそ「私の命の全てを賭けてでも打倒すべき者」と称している。

 

 そんなゾレイ・サルガタナスは、パイロットスーツすら着けずにガンダム・レラージェのコクピットに乗り込み、後続のガルム・ロディの三倍の速度を出してギャラルホルン監査団のハーフビーク級に急速接近をかけて来ていた。一撃離脱の為に背部にブースターユニットを装備する、ガンダム・レラージェの大出力、その本領発揮である。

 

『夜明けの地平線団首領、ゾレイ・サルガタナス――「朝陽の男」が来るぞ…!』

『全艦砲撃用意! MS隊は、ガンダム・レラージェを取り囲め!』

 

 MS部隊は残存した敵の第二波を無視し、接近するガンダム・レラージェに対して艦の防備を固める為に機動する。

 そんな中、それぞれシュヴァルベ・グレイズを操るディジェ・バクラザンとトリク・ファルクは、いささか出遅れていた。

 

「ガンダム・フレームが出て来やがるとは――まずくねぇか、これ?」

「ああ、まずいな。夜明けの地平線団の艦総数三十隻に対し、たった三隻だったから油断した。まさかあの三隻が、首領の率いる艦隊だったとは」

 

 あの機動を見た時、ディジェとトリクには分かった――とてもじゃないが、シュヴァルベ・グレイズで対抗出来る敵ではない。

 アビド・クジャンが精鋭部隊を貸し出し、ネモ・バクラザンとエレク・ファルクがガンダム・フレームを持たせようとした理由――それがアレだ。アビド・クジャンは、あの「朝陽の男」ゾレイ・サルガタナスをこそ、恐れていたのだ。

 

「ともかく、対応するしかねぇな…やるぞ。母艦を沈められる訳に行くかよ」

「無論だ。今ある最善を尽くさねば、あの敵は退くまい」

 

 ディジェとトリクのシュヴァルベ・グレイズがスラスターを吹かし、母艦の直衛に当たるべく機動する。

 だが、少しばかり行動が遅かった。

 

『避けろ御曹司!』

「何だt――がッ!?」

 

 ディジェのシュヴァルベが、背中からガンダム・レラージェの猛烈な蹴りを受けた。音速で突っ込んで来たレラージェに蹴られたコトで、ディジェのシュヴァルベは彼方へと吹き飛ばされ、小惑星に激突する。

 

「貴様――ッ!?」

 

 ディジェのシュヴァルベを蹴ったコトで停止したレラージェに、トリクのシュヴァルベがスナイパーライフルを向ける。

 だが、レラージェが放出していたワイヤーブレードがスナイパーライフルの銃身を切断した為、トリクのシュヴァルベはスナイパーライフルを手放す。同時に腰背部のバトルハンマーを握り、レラージェに向かって突撃する。

 

「遅いな」

 

 振り下ろされたバトルハンマーを華麗に避け、レラージェはワイヤーブレードで、トリクのシュヴァルベのバックパックを斬り裂いた。バックパックが暴発し、トリクのシュヴァルベはそれに乗じて退避する。

 

「…ん?」

 

 続いて右腕に保持したロングライフルを二機のシュヴァルベに向けようとしたレラージェだったが、ハーフビーク級宇宙戦艦からの砲撃を受けて、再び高速機動を開始した。当然のように艦砲射撃とミサイル、MSからの射撃を避けながら、レラージェはハーフビーク級との距離を詰める。

 

『撃ちまくれ、接近させるな!』

『MS部隊、迎撃! 迎撃しなさいよ!』

『ディジェ機とトリク機は何処だ!?』

『回収は後でする! 今はガンダムを迎撃しろ!』

 

 レラージェの接近に伴い、MS部隊が近接武装を持って格闘戦を仕掛ける。

 まず、グレイズの一機がバトルアックスを振り下ろすが、これはワイヤーブレードで一蹴。次の機体をロングライフルで牽制し、背後の三機目にはブースターを吹かせて攪乱し、再び加速。

 これによりMS部隊の包囲網を突破したレラージェは、ハーフビーク級の底部に回り込み、ロングライフルをMSカタパルトに向ける。

 

「やらせねぇよ!」

 

 ロングライフルを構えたレラージェの右腕に、ディジェのシュヴァルベが放ったワイヤークローが組み付いた。

 

「ほう――」

「おらァァ!!」

 

 そしてワイヤーを巻き取りながら、バトルスピアーを両手で保持したディジェのシュヴァルベが突撃する。この槍による一撃を、レラージェは左腕の袖からせり出させて左手に持った、ハンドナイフで受け止めた。

 

「テメェ、何の用でオレ達を襲いやがった!?」

「ふ――他愛も無い個人的な理由だよ。それをキミに教える義理は無いな」

「ああ、そうかい!!」

 

 ディジェのシュヴァルベは槍を振り切り、レラージェにハンドナイフを取りこぼさせる。続いて槍を引いて突き出そうとした所で、ディジェのシュヴァルベは横からワイヤーブレードの一撃を受け、レラージェの右腕に取り付いていたワイヤークローも、同時に切断された。

 

「クソがァ…ッ!」

 

 レラージェが右腕のロングライフルを、ディジェのシュヴァルベのコクピットに照準する。ディジェはシュヴァルベを後退させて避けようとするが、間に合うタイミングではない。

 レラージェのコクピットに座すゾレイが、レラージェに引き金を引かせようとした――その時。

 

 漆黒の大質量物体が、レラージェの横側から衝突した。

 

「チ――!」

 

 吹き飛ばされたレラージェのコクピットで、ゾレイは初めて舌打ちした。しかし流石の反応速度で瞬時に体勢を立て直し、ロングライフルを撃つ。

 

「効かん!」

 

 だが、たかが口径三百ミリのライフルでは、その塊が纏うナノラミネートアーマーを破壊するコトは出来ない。レラージェの放った弾は装甲の表面に軽く火花を上げて終わり、()()は変形して真の姿を見せる。

 

「アレは…!」

 

 レラージェから離れるシュヴァルベ・グレイズのコクピットで、ディジェは本日二度目の驚愕を覚える。漆黒の装甲の塊は、ただの大質量ではなく――一機のMSだったのだ。

 漆黒のカウルとも言える鎧を全身に纏った、重量感に満ち溢れた力強い姿。攻防一体で隙が一切存在しない装甲の隙間で、ツインアイを輝かせる機体。

 

 ASW-G-71 ガンダム・ダンタリオン。

 

 ギャラルホルンの名家にして月、火星間の往還航路の管理を担う「ザルムフォート家」が保有する、ガンダム・フレームのMSである。

 

「アビド・クジャン公からの要請を受け、参上しました。ジルト・ザルムフォートと申します。

 お下がりを、ディジェ・バクラザン特務三佐。ガンダム・フレームの相手は、ガンダム・フレームが受け持ちます」

「――!」

 

 新たなるガンダム・フレームの介入。これを受けて、いよいよゾレイには余裕が無くなった。

 ガンダム・フレーム十四番機のガンダム・レラージェでは、ガンダム・フレーム七十一番機のガンダム・ダンタリオンに対して有利とは言い難い。加えて、これまでの戦いでかなり推進剤を消耗してしまっている。

 

「此処までだな――動ける者は撤退しろ」

 

 ブースターを吹かせてレラージェは上昇し、そこから方向を転換して、高速で戦闘宙域を離脱して行った。MS部隊と交戦に入っていた夜明けの地平線団の第三波も、首領であるゾレイ・サルガタナスの撤退に合わせて、次々と戦闘宙域を離れて母艦へと帰投して行く。

 

『敵であろうと、遭難者は救出しろ。同時に損傷した味方機を回収し次第、速やかに火星に向けて出航する』

 

 ハーフビーク級宇宙戦艦艦長のキュル・ミュンヘンは、そう指示してから通信を切った。

 出航から五日にして、夜明けの地平線団首領の襲撃を受けた監査団。これからも難が続くかと考えると、ディジェとトリクは溜め息を吐かざるを得なかった。

 

 

   ◇

 

 

 戦闘の後始末は滞り無く済み、ディジェとトリクが率いる監査団のハーフビーク級宇宙戦艦は、ジルト・ザルムフォートが連れるザルムフォート家直属の精鋭部隊が乗るハーフビーク級と合流。二隻に増えて最低数の艦隊になった監査団は、変わらず火星への進路を取っていた。

 

「――と言うのが、戦闘の顛末となります。襲撃して来た『朝陽の男』ゾレイ・サルガタナスの率いる『夜明けの地平線団』により、MS隊にも被害が出てしまいました。全ては、私の判断の誤りによるモノ。

 誠に申し訳ございません、アビド様」

 

 惑星間レーザー通信網「アリアドネ」を用いた通信で、艦長のキュル・ミュンヘン一佐は、アリアンロッド艦隊司令官アビド・クジャンに謝罪を行っていた。アビドより預かった部隊に損害を出してしまったコトを、キュルは誰よりも恥じていた。

 しかし、アビドがキュルを責めるコトは無い。

 

『悔いるコトは無い、キュル。むしろ、よくぞこの程度の被害で抑えてくれた。あの男と艦艇一隻のみで戦り合って、生き残ったコトこそを誇るが良い』

「は、温情ありがたく」

 

 再び、深々とキュルはアビドに頭を下げた。そんな中、アビドは顎に手を当てて思案する。

 

『しかし、そうか――ただ「夜明けの地平線団」に捕捉されるだけでなく、ゾレイ・サルガタナス自らが出て来るとはな。流石に、ここまでの事態になるのは予想外だ。

 ザルムフォート家に連絡したのは功を奏したようだが、奴が本気で攻めに来たのでは、今度こそ沈められるだろう。――こちらでも対抗措置を取る。今は監査の為、予定通り火星に向かってくれ』

「は」

 

 そこで、アビドとの通信は切れた。しかし、それを端から見守っていたジルト・ザルムフォートは、少し納得が行かない様子だ。

 

「この状況で任務を遂行しろとは、クジャン公は随分と薄情ですな」

「いえ。アビド様が対抗措置をお取りになると仰られた以上、我々が夜明けの地平線団を警戒する必要は無い」

 

 キュル・ミュンヘンは、アビド・クジャンに全幅の信頼を置いている。それはもう、一種の信仰とさえ言えるほどに。

 

(火星まで後十日、監査に一週間として――ディジェ・バクラザンとトリク・ファルクが地球に戻るまで、一ヶ月弱。それまで、何も無ければ良いのだがな…)

 

 

   ◇

 

 

 ディジェ・バクラザンとトリク・ファルクは、MSデッキに集められた捕虜達を見に来ていた。

 戦闘後の始末で保護した夜明けの地平線団のパイロットは、全部で五人。しかし、その全員が年端も行かぬ子供だった。

 縛られて座り込む子供達にディジェは歩み寄り、しゃがんで視線を合わせ、問う。

 

「お前ら、何で海賊なんかやってやがった? 家族はどうしたんだ?」

「――!」

 

 その問いは、そこに集った子供達の神経を的確に逆撫でる、最低の煽り文句とさえ言えるモノだ。だが、ディジェにそのつもりは無い。

 子供達の一人が歯を食いしばり、ディジェに向かって叫ぶ。

 

「家族なんかいねぇよ! 俺たちは『ヒューマンデブリ』なんだからな!!」

「――ヒューマン、デブリ…?」

 

 その言葉に、ディジェは聞き覚えが無かった。思わず「?」を浮かべたディジェの態度が気に食わなかったのか、その子は怒りを孕んだ声でディジェに噛み付く。

 

「ああ、そうだよ!! 人間のゴミさ!! クソみてぇな値段で売り買いされて、阿頼耶識とか言うのを植え付けられた、使い捨ての道具だよ!!」

「なん――だと…?」

 

 ディジェはその言葉で、大きな衝撃を受けた。その様子を見ていたトリクは、心の中でこう思う――

 

(ディジェの奴、大丈夫か?)

 

 ――と。

 口調こそ粗暴だが、ディジェ・バクラザンと言う男は心優しい男だ。子供の頃から捨てられた子猫がいれば家に連れて帰り、自分で世話をしようと思うも次期当主は多忙の為、結局は使用人に任せるコトになると「自分で世話しきれず、使用人の仕事を増やしてしまった」と悔いるような男である。

 次期当主にして一人息子であるディジェは幼い頃から学業と訓練で過密スケジュールを送っており、いつもディジェの拾ったペットを世話する使用人は大の動物好きである為、ディジェに感謝までしていると言うのに――ディジェは昔から、後悔から自分を責める気概が有る。

 だから、最低限優し過ぎる故のヘタレにはならないよう、ディジェの父親であるネモ・バクラザンは一計を案じ――とりあえず戦闘の時は切り替えて、相手の機体を落とすコトが出来るような性格になるよう、ディジェを育て上げたのである。

 

 そんなディジェがヒューマンデブリの存在を知れば、間違い無くそれまでヒューマンデブリを知らずにのうのうと生きていた自分を責め、セブンスターズと言う立場を使って現行体制を改革しようとするだろう。

 だが、基本的に「ヒューマンデブリ」などと言うのは、セブンスターズ――ひいてはギャラルホルンによる支配体制には、一切関係の無い存在だ。当主となってセブンスターズ会議で「ヒューマンデブリを禁止すべきだ」と提案した所で、三百年の間に腐敗し、自らの利権のみで動くようになったセブンスターズが取り合う訳も無い。それは、トリクが当主となった際に共に提案しても変わらない。

 現状、ディジェ・バクラザンがヒューマンデブリについて出来るコトは無い。ディジェがヒューマンデブリに対し、何かしらの働きかけが出来るようになるとしたら、それはギャラルホルンと言う組織――否。

 

 世界をひっくり返せるほどの何かが起き、現行の支配体制が崩壊した時だけだろう。

 

 そして、ディジェはバカではないし、アホでもない。そんなコトは、ディジェ自身が良く理解している。

 

「――トリク。テメェは知ってたのか、ヒューマンデブリを」

 

 結局捕虜達に何も言えず終わり、逃げ出すように離れて見ていたトリクの側まで戻って来たディジェは、すれ違い様にそう聞いた。対するトリクは、素直に答えた。

 

「知っていたよ。だが、それを知ればお前は、悪戯に自分を責めるコトになるだろう」

「…そうか」

 

 力無く、ディジェはその場を立ち去った。残されたトリクは、ヒューマンデブリ達を見据える。

 

(――彼らのコトを知り、それで何も思わなかった私も私だろうがな)

 

 トリク・ファルクは、基本的に無慈悲な男だ。その点、ディジェ・バクラザンとは真反対と言える。ヒューマンデブリについて知った時も、自分に関係無いから、と感情は揺れ動かなかった。

 そんなトリクが、何故ディジェ・バクラザンをここまで気に留めるのか――それは、トリク自身も含めて、誰にも分からないコトだった。

 

 

   ◇

 

 

 月外縁軌道統制統合艦隊こと「アリアンロッド」のアビド・クジャン司令は、腹心であるキュル・ミュンヘン一佐に述べた通り、本格的に「夜明けの地平線団」に対する対抗措置を打ち出した。

 書き並べれば、以下の通りである。

 

 自らが指揮するクジャン家の戦艦にしてアリアンロッドの旗艦たるハーフビーク級宇宙戦艦「フギンムニン」と、ラスタル・エリオン准将の指揮するエリオン家のスキップジャック級大型戦艦「ファフニール」を用いた、五個艦隊、艦艇三十二隻から成る討伐艦隊の組織。

 ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」内の第四格納庫に保管されていた兵器「ダインスレイヴ」の、セブンスターズ会議で使用を可決させた上での持ち出し。

 同時にクジャン家とエリオン家のガンダム・フレームの、ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」内にある「バエルの祭壇」からの持ち出し。

 それら全てを擁し、討伐艦隊を出航させたコト。

 

 以上の四つである。

 たかが宇宙海賊の一組織を撃破するには過剰戦力ではないか、と思われたが、アビド・クジャンの無駄を嫌う果断に富んだ性格は周知の事実であった為、大っぴらに異議を唱える者は無かったと言う。

 

 この報を受けた「夜明けの地平線団」首領のゾレイ・サルガタナスは、月、火星間のデブリ帯、暗礁宙域に広く分布した夜明けの地平線団所属の艦隊を全て集結させた。集結した艦艇の数、およそ三十隻以上。

 月外縁軌道統制統合艦隊と夜明けの地平線団は、まさしく一触即発の対決姿勢を顕在化させた。

 

 このコトから、夜明けの地平線団にはたかだかハーフビーク級二隻の監査団を相手にしている暇と余裕が無くなり――ディジェ・バクラザン特務三佐、トリク・ファルク特務三佐の率いる火星支部監査団は、無事火星支部本部となる衛星基地「アーレス」に到着した。




――おかしい、何故ここまで大規模な話に…?
ここまで長大化するとは思っても見ませんでした。
後二話くらいはかかりそうですね、これ。

そんな訳で、今回は月鋼キャラと機体の解説。


ジルト・ザルムフォート
男性
月、火星間の往還航路を管理するギャラルホルンの名家「ザルムフォート家」の当主。
初出は外伝となる「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 月鋼」。

ASW-G-71 ガンダム・ダンタリオン
ギャラルホルンの名家「ザルムフォート家」が所有する、ガンダム・フレームのMS。
シンプルな本体の他に「ハーフカウル」なる追加装備が二種類有り、それらを組み換えるコトであらゆる環境、戦局に対応するコトが可能。
本作での初登場時は、二つのハーフカウルと「アイギス」と呼ばれる盾を全て装備した「パーフェクトカウル」形態になっている。
初出は「ガンダムトライエイジ」で、後に「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 月鋼」に登場した際、ハーフカウルなどの追加設定が明かされた。


ついでに。
なんかノリで作った奴を貼っておきます。
模範解答、並びに解説は活動報告にリンクを置きます。

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次回「開戦」


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#1.5-Ⅳ 開戦

何か、一月に一回の更新が普通になって「逆に定期的だからこれで良いのでは」と思い始めました。
この調子だと、次は四月ですかね…(遠い目)
もう一年の六分の一が終わって、平成も後二ヶ月――ウソだろオイ。

ちなみに本日三月二日は、間桐桜ちゃん&BBちゃんの誕生日。
やったぜ(全く関係無いけど推しなので書き留めておく)

それと、ちょっと前に活動報告を更新しました。
新作の進捗状況についての報告です。
バエルとアガレスのデザイン画も先出ししていたり。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=208213&uid=169600


 予定されていたギャラルホルン火星支部の監査は、全て滞り無く終了した。腐敗の可能性も指摘されていた火星支部だったが、ディジェ・バクラザン特務三佐とトリク・ファルク特務三佐が独自に収集した情報を迅速に精査し判断した結果、火星支部は清く正しく回っているコトが確認出来た。

 

「火星支部は腐敗してねぇようだな」

「ああ。とは言え、各所に腹に一物抱えているであろう人物が散見されるのも事実。後十年もすれば、火星の自治組織との癒着や、情報の隠蔽なども行われるようになるだろうが――それは最早、我々の権限ではどうしようも無いコトだ。その時の監査官に任せる他に無い」

 

 火星支部の衛星基地「アーレス」内の廊下を歩きながら、ディジェとトリクはそう言葉を交わす。

 まだ行われていない不正を裁くのは、誰にも出来ない。監査局の権限も及ばないし、そんなコトは例えギャラルホルン最高幕僚長アグニカ・カイエルであろうと、赦されるコトではないだろう。

 

「だが、我々の権限で未来を変えられる者はいる。そうだろう、ディジェ」

「―――ああ」

 

 二人はアーレス内の独房エリアに入り、とある牢の前で足を止めた。そこには、先の「夜明けの地平線団」との戦闘で捕虜とした、ヒューマンデブリの子供達が収監されている。

 ヒューマンデブリであり、望んでそうしていた訳では無いとは言え、彼らが行った行為は略奪と殺人だ。ギャラルホルンと言う絶対的な暴力装置が存在する世界では、決して看過されるモノではない。

 だが、彼らはまだ十三歳にもならない子供だ。物心付く前から人間のゴミ(ヒューマンデブリ)として扱われ、個人の意志による選択の余地も与えられずに阿頼耶識手術を受けさせられ、百ギャラー程度の値段で売買され、物心付いた頃にはモビルスーツに乗せられて、戦闘、略奪、殺人などをさせられて来た。しかし――

 

 それは彼らが、やりたくてやったコトなのか?

 その状況からの打開は、彼らの力で出来たのか?

 そもそも、打開しようと思う機会は有ったのか?

 そう思えるほどの自由が、彼らに有ったのか?

 

 否だ。

 彼らはやらされた。やるしかなかった。やらなければ殺されるからだ。

 打開など出来なかった。力は彼らを売買した者達の方が、圧倒的に上だからだ。

 打開しようと思う機会など無かった。彼らに取っては、物心付いた時からそれが当たり前だったからだ。

 思想の自由など無かった。彼らにとって、彼らを売買した者達の存在は絶対であり、逆らうコトなど赦されていなかったからだ。

 

 彼らにはどうしようも無かった。彼らは何も持っていなかった。生まれた時から、彼らはひたすら奪われ続けて来た。

 そんな彼らの境遇を考えず、ただ「ギャラルホルンに敵対し、略奪と殺人を行った」と言う事実だけを考えて死刑とするのは――流石に横暴であり、非人道的なのではなかろうか。

 

 このように主張した上で、ディジェ・バクラザンはセブンスターズとしての権限を使って、彼らの処遇を自身の独断で決められるようにした。そうして彼らが収監されている独房の鍵と、彼らを縛る手枷の鍵を手に入れたディジェは、彼らを釈放する為にこの独房へとやって来たのである。

 

「セブンスターズとしての権力を使うとは――権力の濫用ではないのか?」

「失礼だなオイ。人道に則った権力の有効活用、と言いやがれ」

 

 独房の鍵を開け、扉を開く。その中には、手枷で自由を奪われたヒューマンデブリの子供達が押し込められていた。

 彼らはディジェとトリクの姿を見るや、凄まじい形相で睨み付けた。

 

「五人だったな。二人任せた」

「良いだろう」

 

 威圧を意にも介さず、ディジェは五つ有る鍵の内の二つをトリクに渡し、手分けしてその手枷を外して行く。五人の子供達の身柄が自由になるまで、三十秒も掛からなかった。

 手枷を外された子供達は喜ぶコトも無く、困惑したような表情を浮かべている。そんな子供達に、ディジェは座り込んで視線の高さを合わせて、言葉を掛ける。

 

「これで、お前達は自由だ。で、だ――行く所は有るか?」

 

 ディジェの言葉に、五人はそれぞれ首を横に振った。

 彼らは物心付く前にヒューマンデブリとなり、売りさばかれた。親や兄弟がいたとしても顔は分からないだろうし、無論住む場所も分からない。そもそも、肉親が今生きているのかも怪しいモノだ。

 結論として、彼らに行き場所など無い。

 

「そうか――ならよ。お前達、オレの仲間になる気はねぇか?」

 

 部下、と言う言葉は避けた。ディジェが、彼らと同等に接したいと思ったからだ。

 その提案は、彼らに取って予想外のモノだった。目を丸くして、年相応の可愛げの有る表情を見せるヒューマンデブリ達に、ディジェは更に続ける。

 

「絶対に悪いようにはしねぇ。飯は三食出すし、一人一人にベッドも用意する。興味が有るなら字も習えるし、そうすりゃ本も読めるようになるだろ」

 

 それは、彼らに取って実に魅力的な提案だろう。少なくとも、先に聞いたトリクはそう判断した。

 

(「今、ヒューマンデブリって言う存在をどうにかするコトは出来ねぇ。だが、あの五人に人らしい生き方を教えてやるコトなら出来る」――か)

 

 まず、この五人の境遇から変えて見せる。将来的に「ヒューマンデブリ」と言う言葉を無くす為の第一歩として、ディジェはこの方法を選んだ。

 

(甘い。砂糖と生クリームをそれぞれ百グラムぶち込んだココアより甘い考えだ)

 

 と、トリクは思う。けれど、同時にこうも思うのだ。

 

(だが、それでこそ――それでこそ、ディジェ・バクラザンだ)

 

 微笑みを浮かべてトリクが見守る中、ディジェはヒューマンデブリ――否、子供達に選択を迫る。

 

「どうだ?」

 

 子供達は、無言のまま頷いた。

 それに頷きを返して、ディジェは最後に問う。

 

「名前は有るか? 有るなら教えてくれ。オレはディジェ、コイツはトリクだ」

 

 この質問に、五人はそれぞれ呟くように答えた。

 

「…アシュリー」

「ジレッド」

「ガイ」

「デリック」

「プラド」

 

 ディジェは再び頷きを返して、反復するように言った。

 

「ありがとよ。――アシュリー、ジレッド、ガイ、デリック、プラド。これから、オレ達は仲間だ。とりあえず地球に連れてくが、許してくれ」

「…地球?」

「そうさ。青くて綺麗な星だ」

 

 その時、独房エリアに監査団の部下が入って来て、敬礼の後に報告をする。

 

「バクラザン特務三佐、ファルク特務三佐。監査団のハーフビーク級、出航準備が整いました。艦へお越し下さい」

「ご苦労。――ディジェ、時間だ。行くぞ」

 

 

 

 

   ―interlude―

 

 

 痛い。苦しい。辛い。

 入って来る。ボクじゃないモノが。ボクの中に。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌―――!!!

 

『心拍上昇、二百を突破!』

『脳波が乱れています! 思考混乱!』

『システム異常発生! これ以上は――!』

 

 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いy

 

『神経切断!』

『出血過多です、生命活動を維持出来ません!』

『心肺停止――被験体、死亡しました』

 

 

「また失敗か。いつ成功するのかね?」

 

「は。次の被験体には、三つほど埋め込みました。確率は高いかと」

 

「三百年前は、当たり前に行われていたコトだ。成功しなければおかしいだろう」

 

「――恐れながら、あの大戦で人類の文明レベルは後退しました。使用されている機器も劣ります」

 

「だからこうして、技術を復活させようとしているのだろうが。私が欲しているのは、圏外圏に有るような出来損ないでは無いのだよ。

 ――まあ良い。次は期待しているよ」

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 監査団が火星支部の衛星基地「アーレス」を発ってから、七日の時が過ぎた頃。

 

 月、火星間のデブリ帯で、ギャラルホルンの月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の海賊討伐艦隊と、夜明けの地平線団の艦隊が衝突した。

 夜明けの地平線団からの攻撃が発端である。

 

「第五艦隊が、夜明けの地平線団の砲撃に会っています! 敵艦隊のエイハブ・ウェーブを確認!」

「第五艦隊は何をしていた?」

「それが――突然、周囲に敵艦隊が現れたとのコトで…」

 

 アリアンロッド司令のアビド・クジャンは、小さく舌打ちをした。夜明けの地平線団が良くやる、奇襲の為の手法を使ったと悟ったからだ。

 

「エイハブ・リアクターをスリープモードにして、通常動力だけでデブリに身を隠しながら接近した。奴が良くやる手だ、と前もって言っておいただろうに…!」

 

 第五艦隊は優秀でこそあるが、夜明けの地平線団との戦闘経験が無い艦隊だった。優秀だからこそセオリーに囚われ、エイハブ・ウェーブの反応ばかりを気にして、目視索敵を怠ったのだろう。

 

「艦隊二時の方角より、敵艦隊接近! エイハブ・ウェーブの反応は十二!」

「第五艦隊、第二艦隊に応戦させろ。ラスタルのファフニールにも通達、MSを二十機出させろ。ダインスレイヴ隊は随時出撃、待機。全艦隊、目視による索敵も怠るなよ!」

 

 迅速に指示を出し終え、アビドは正面モニターを見据える。

 夜明けの地平線団首領ゾレイ・サルガタナスは、この程度の策しか弄しない男ではない。事実、二時の方角に現れた艦隊のエイハブ・ウェーブは十二のみ。

 アビドのこの予測は、すぐに的中した。

 

「十二時のデブリの陰に、敵艦の姿を視認! 敵艦隊の本命と目されます!」

「正面にエイハブ・ウェーブの反応は有りません! 視認時間は一秒未満ですが――」

「ダインスレイヴ隊、正面デブリ帯に向けて発射せよ!」

 

 エイハブ・リアクターを起動していないと言うコトは、デブリ帯に潜む夜明けの地平線団の艦隊は、ナノラミネートアーマーを使えないと言うコトだ。

 ダインスレイヴの威力なら、ナノラミネートアーマーの無い戦艦など、一撃で風穴を開けられる。

 

 旧式のゲイレールタイプに装備されたダインスレイヴが、一斉に撃ち放たれる。その数、実に五十以上。

 かくして、アビドの読み通り――ダインスレイヴは射線を遮るデブリを粉砕し、その陰に隠れていた艦隊に突き刺さった。

 

「三、四、七、十一番艦轟沈! 二、五、六、八、九、十、十二、十三、十四番艦中破!」

「全艦、エイハブ・リアクターを起動しろ。奇襲は失敗だ、早急にナノラミネートアーマーによる防備を固めろ」

「第二波攻撃、来ます!」

 

 ダインスレイヴ隊による第二波攻撃が、エイハブ・リアクターを起動して間もない夜明けの地平線団艦隊に襲い掛かる。この攻撃により、被害は更に広がった。

 

「アビド・クジャンめ――ダインスレイヴを持ち出して来たか」

「ゾレイ様、如何致しますか!?」

「残った艦の全ては砲撃を開始しろ。デブリ帯に隠したMS隊の全ては私に続き、白兵戦を仕掛ける」

 

 一番艦に座乗するゾレイがそう指示を出すと、残存艦の全てがデブリ帯の陰から出て、アリアンロッド艦隊に対し砲撃戦を開始した。

 それ以前に出撃させてデブリ帯に隠れさせていたMS部隊が、阿頼耶識特有の軽やかな機動をしながら、アリアンロッド艦隊に近付いて行く。

 

「私が出撃し次第、チャフをバラ撒け。

 ――ゾレイ・サルガタナス、ガンダム・レラージェ。出撃する」

「レラージェ出ます! レラージェ発進!」

 

 一番艦のカタパルトが滑り、ゾレイ・サルガタナスのガンダム・レラージェが宇宙へと飛び出した。ゾレイの言葉通り、ナノミラーチャフが宙域に解放される。

 

「ダインスレイヴ隊、放て!」

 

 それと同時に、ダインスレイヴ隊の第三波攻撃がチャフの煙幕を斬り、デブリ帯を裂いた。しかし、ブースターによる超機動能力を獲得しているレラージェは、ダインスレイヴを華麗に避ける。

 

「当たらなければどうと言うコトは無い!」

 

 その様子を、現アリアンロッドの旗艦にしてクジャン家のハーフビーク級宇宙戦艦「フギンムニン」のブリッジから見ていたアビドは、オペレーター達が驚愕する中でこう呟いた。

 

第四十九被験体(アーキタイプ)め…」

「アビド様、敵機が接近しています!」

「MS隊を出撃させ、応戦しろ。ファフニールにも応援要請。――私も出る。後の指揮は前線で行う」

 

 そう言ってから、アビドはフギンムニンのブリッジを後にした。

 

 

   ◇

 

 

 火星からの帰還途中にある監査団のハーフビーク級宇宙戦艦は、索敵範囲内にアリアンロッド艦隊と夜明けの地平線団艦隊の戦闘を捉えた。

 監査団のハーフビーク級は、戦闘宙域から二百キロほど離れた宙域、夜明けの地平線団艦隊の後方に位置している。アリアンロッドとの挟み撃ちを掛けるには、絶好のポジションだ。

 

「私としては、MS隊を出してアビド様の援護をしたい所なのですが」

 

 こう主張するのは、艦長のキュル・ミュンヘン一佐だ。アビド・クジャンの右腕とも言われる彼が、アビドの力になりたいと思うのは当然のコトだ。

 

「ふむ――艦隊戦でのアリアンロッドの勝利は揺るがないだろうが…」

「オレは艦長の意見に賛成だ。あの野郎は、仲間を傷つけやがった。ブッた斬らねぇと、オレの気が収まらねぇ」

「――だと思ったよ。ならば、私が出ない訳には行かないな」

 

 拳と掌を打ち合わせて、ディジェはそう言う。そして、それを想定していたトリクも、珍しくやる気満々である。

 

『あの男を放置しておけば、我が家の仕事の障害にもなり得る。私も行きましょう』

 

 とは、随伴するもう一隻のハーフビーク級に乗るジルト・ザルムフォートの言葉だ。これを以て、監査団全員の意見は揃った形となる。

 

「今回は私もMSで出る。MS隊出撃後、艦は戦闘宙域を避けるようにして周り、アリアンロッドの後方に持って行け」

「は」

「貴方も出るのか、艦長」

 

 そう聞いたトリクに、キュルは頷く。

 

「アビド様が『バエルの祭壇』からガンダム・プルソンを持ち出されると言うコトは、プルソンを駆って前線にお出になられると言うコトだ。お供せずして何とするか。

 ――ディジェ特務三佐。悪いが、シュヴァルベ・グレイズを貸してくれないか」

「ああ」

 

 ディジェにこう言ったのは、前回の戦闘での損傷が、トリクのシュヴァルベ・グレイズよりも小さかったからだ。その分、キッチリ修復されている。

 

「感謝する。――十分後、MS部隊は戦闘宙域に向けて出発する。準備にかかれ!」

 

 

   ◇

 

 

 一方、高速機動しながらアリアンロッド艦隊との距離を詰めつつあるゾレイ・サルガタナスのガンダム・レラージェは、アリアンロッド所属のMS部隊との交戦に入っていた。

 ロングライフルによる射撃で正面から迫るグレイズのメインカメラを破壊しつつ、左腕のワイヤーブレードを射出して背後のグレイズ二機のコクピットを破壊。それから高速で飛行して、ワイヤーブレードを縦横無尽に駆け巡らせ、次々とアリアンロッドの精鋭部隊を斬り捨てて行く。

 しかし。

 

「――出て来たか」

 

 ガンダム・フレーム特有の高速機動で、グレイズによって構成されたMS部隊を翻弄するゾレイのレラージェに、追随して来る機体が一機。

 白、黒、赤の三色によって鮮やかに塗装され、漆黒の大剣を保持するMS――頭部の角とツインアイ、機体に登録されているエイハブ・ウェーブの固有周波数から、ゾレイにはそれが何か分かった。

 

「ようやく会えたな――」

 

 ゾレイ・サルガタナスは、頬を吊り上げて歯を見せ、それまでの冷静沈着な態度とは打って変わり――凶悪に笑った。

 

「――『ガンダム・ベリアル』…!!」

 

 ASW-G-68 ガンダム・ベリアル。

 セブンスターズ第四席「エリオン家」が持つ、かつてアグニカ・カイエルのガンダム・バエルと並び戦ったガンダム・フレーム、その一機である。

 レラージェは腰背部に接続されたガルム・ロディの物を流用したバスターソードを左手で抜き放ち、接近して来るベリアルをロングライフルで牽制した後、振り下ろされて来たレアアロイ製の大剣「グラム」をバスターソードで受け止めた。

 

「これ以上はやらせん…!」

 

 ベリアルを操るラスタル・エリオンは、レラージェの超推力に押し負けないよう、全力でペダルを踏み込む。一方でゾレイは獰猛な笑みを浮かべ、ベリアルを背後からワイヤーブレードに襲わせる。

 

「ぐわっ!?」

 

 ベリアルの背中に直撃したワイヤーブレードは、スラスターの破壊までは至らなかったものの、ベリアルの体勢を崩させた。

 その隙を付いて、レラージェはグラムを打ち払ってロングライフルをベリアルのコクピットに向け、至近距離から撃ち放つ。射撃を受けたベリアルのコクピット付近のナノラミネートアーマーが焼け、ナノラミネート塗装が剥がされて行く。

 

「呪うなら、キミの生まれの不幸を呪うが良い。――そうとも、キミのお父上がいけないのだよ!」

「父上が、だと――ぐあっ!」

 

 八発を食らった所で、ベリアルのコクピット付近のナノラミネート塗装は完全に剥がれ落ちた。後一発で、ベリアルのコクピットは三百ミリの弾丸によって破壊される。

 

「さらばだ、エリオン家の当主。その血脈は、絶対に絶やさねばならない。誇りとするガンダム共々、宇宙の塵となるが良い…!」

 

 そして、ゾレイがレラージェに引き金を引かせようとした、その時。

 

 

 レラージェの持つロングライフルの銃身が、半ばから吹き飛んだ。

 

 

「狙撃だと…!?」

 

 レラージェは使い物にならなくなったロングライフルを放棄し、ワイヤーブレードでベリアルのコクピットを穿とうとする。しかし、そのワイヤーブレードはベリアルに到達する前、何者かにブン殴られて軌道を強制的に変更させられた。

 

「下がれ、ラスタル。お前は此処で死んで良い身ではない」

「――アビド様…! しかし…!」

 

 高速機動するワイヤーブレードを側面からブン殴ったのは、アビド・クジャンが操る、セブンスターズ第五席「クジャン家」が所有するガンダム・フレーム――「ASW-G-20 ガンダム・プルソン」だ。

 

「監査団が戻って来て、奴らを後方から攻撃してくれた。ヴィネとアモン、ダンタリオンもこちらに来ている。お前が抜けようと、ガンダム四機でかかれば、敵のガンダムは落とせるだろう。

 ――戦闘は、我々の有利に運んでいる。お前はファフニールに戻り、艦隊を指揮しろ」

「――は」

 

 帰投するベリアルを見届け、アビドは再度戦況の把握にかかる。

 

(先の狙撃は、アモンによるモノだな。カタログスペック上可能とは言え、デブリ帯の中、この距離で当てるとは良い腕をしている。

 ヴィネとダンタリオンもこちらに来ているし、絶対数と性能では我が方のMS部隊が上回っている。ダインスレイヴ隊も、発射準備を整えて待機中だ)

 

 普通に考えれば、アリアンロッドの勝利は確約されたようなモノだ。

 ゾレイ・サルガタナスの戦闘能力は恐ろしいモノだが、ガンダム・レラージェと同じガンダム・フレームであるガンダム・アモン、ガンダム・プルソン、ガンダム・ヴィネ、ガンダム・ダンタリオンの四機を上回る程のモノではない。

 夜明けの地平線団のMS部隊は、アリアンロッドのMS部隊による数の暴力によって、そう時間も掛からずに制圧されるだろう。

 

(後は私がゾレイ・サルガタナスを足止めし、ヴィネとアモン、ダンタリオンが到着し次第、袋叩きとすれば良い)

 

 アモンの狙撃による援護が期待出来るし、アビド自身の操縦技術はアリアンロッド一とまで言われている。それならば、一機で一個艦隊を沈めるようなゾレイ・サルガタナスに対しても、撃破は出来ずとも押し留めるコトが出来るだろう。

 

(そうすれば――)

「我々の勝ちだ、とでも?」

「!」

 

 思考を読まれたアビドは、プルソンに手持ち武器であるハンマー「レイヴン」を両手で構えさせ、眼前のレラージェを注視する。

 対するレラージェは、左手に持っていたバスターソードを右手に持ち替え、左腕に放出していたワイヤーブレードを戻し――構えるコト無く、バスターソードをだらんと垂れさせた。

 

(――何のつもりだ…?)

「ハァー……」

 

 ゾレイは、コクピットの中で大きく息を吐き――叫んだ。

 

 

()() ()()!!!」

 

 

 ガンダム・レラージェが、呻り声のような駆動音を響かせ―――

 

 その双眸を、真紅に輝かせた。




今回はここまでです。

ゾレイ・サルガタナスとは、何者なのか。
先代エリオン公は、一体何をやらかしたのか。
そして――ディジェ・バクラザンとトリク・ファルクが、ここから本編にどう繋がるのか。

それらは、また次回(最終話)にと言うコトで。
と言うかゾレイ、お前はシャアなのかフロンタルなのかゾルタンなのかハッキリしろよ(書いた奴の言い分がこれである)

以下、オリキャラ解説。
とは言え、個人の名はそんな重要ではないですが。


アシュリー・ニューマン
ジレッド・マクニース
ガイ・ボーフォート
デリック・ハウイット
プラド・ワインバーグ
男性
ディジェ・バクラザンとトリク・ファルクが保護した、ヒューマンデブリの子供達。




以下、ふと思い立って書いたアグスヴァのバレンタイン短編です。
遅いって? 思いついたのが当日の夜だったのさ…。
あ、糖尿病注意です。



The Sweetest Valentine's Day


 P.D.0002年、二月四日。
 殺戮の天使「モビルアーマー」と人類の大戦争の終結が宣言されてから、半年が過ぎ去っていた。いつしか「厄祭戦」と名付けられたこの戦いで、戦況をひっくり返して人類に勝利をもたらした民営組織「ヘイムダル」は、世界秩序を維持する軍事組織「ギャラルホルン」となり――四大経済圏を外側から監視する、独立した抑止力として機能している。
 ギャラルホルンは厄祭戦で最も活躍したパイロットであるアグニカ・カイエルを「最高幕僚長」とし、権威の象徴として君臨させながら、実際の組織運営はカロム・イシューを初めとする「セブンスターズ」によって行われる体制が確立された。――尤も、当のアグニカ自身はこの体制に納得が行っていないようだが、そこはそれとして。
 最初は多少なり荒れたが、戦後体制はこの半年である程度安定したと言えるだろう。――実質的な組織運営を行っているセブンスターズの皆は、今となってもなお激務の真っ只中だが。

 一方、権威の象徴としての意味合いが強い最高幕僚長アグニカ・カイエルは、セブンスターズほど多くの仕事が無く――ここ三ヶ月、暇な時の方が多くなってきた。その分セブンスターズの仕事の幾ばくかを請け負ったりもしているが、目の下にクマが出来るほどではない様子。
 かく言う私、ギャラルホルン副幕僚長に就任したスヴァハ・クニギンは、アグニカ以上に仕事が無く。逆に仕事を見つける為、ギャラルホルン本部施設「ヴィーンゴールヴ」の中を駆けずり回る始末だ。――しかしそれでも、やはり仕事は見つからないのだが。

「暇だなぁ…」

 と、セブンスターズに聞かれれば殴り合いにもなりかねない台詞を吐きながら、やるコトも無いままにトボトボと廊下を歩いていると。

「バレンタインが来るわよ、スヴァハちゃんッ!!」
「うわあああ!?」

 唐突に、大きな声を後ろから掛けられた。そればかりか、何者かが背中に勢い良く抱きついて来たではないか。
 しかし私は知っている――この声の主は、即ちッ!

「カロムちゃん、驚かせないでよ!!」
「あら、見られもせずバレちゃった」

 セブンスターズ第一席「イシュー家」が初代当主、カロム・イシューちゃん。刀を携帯する日本かぶれの銀髪赤目の美女さんにして、ガンダム・パイモンのパイロットちゃんでもある。
 昨日は「今日は日本の伝統行事『節分』よ! 豆と鬼と恵方巻きを用意なさい!」とか言って騒いでいたが、今度は一体何なのだろうか。

「こんな絡み方してくる人は少ないからね――ってカロムちゃん、仕事は?」
「フフフ、この時期に仕事なんてやってられないわ。全部親衛隊に押し付k――信頼して任せて来たわ!」
「いや、それはどうなの?」

 カロムちゃんは最近、自らの親衛隊を結成した。カロムちゃん自らが訓練し育てているコトもあって、非常に優秀で忠実な精鋭部隊と化しているのだが――仕事を押し付けちゃダメでしょ。

「――って、何でこの時期に仕事をやってられないの? 何か有ったっけ?」
「言ったじゃないの、バレンタインよヴァレンタイン。一年に一度、乙女の神聖にして高潔なる仁義なき戦いの日が近づいているのよ? 仕事なんてしてる場合じゃないわ」
「…なんで、バレンタインデーが乙女の戦いの日なの? 後、何であれ仕事はしようよ…」

 私の記憶だと、バレンタインデーとは男の人が女の人に花をプレゼントしたりして、愛やら友情やらを伝える日だった気がする。実際、これまで二月十四日には、アグニカが花を欠かさず贈ってくれているし。

「あら、スヴァハちゃんは日本のバレンタインの素晴らしい、お菓子会社(モリ●ガ)の陰謀から生まれた文化を知らなかったのね」
「お菓子会社の陰謀って…また、身も蓋も無いね…」
「面白ければ起源なんて関係無いわよ。良い? 日本のバレンタインデーは乙女の晴れ舞台なのよ、スヴァハちゃん。日本のバレンタインには、こういう風習が有ってね…」

 ゴニョゴニョヒソヒソ。

「――ふむふむ、成る程成る程。女の子が好きな男の子や友人にチョコを贈る日…つまり、女の子にとっては好きな男の子にアピールするチャンス、ってコト?」
「そう言うコトよ。すっかり世界規模で有名な話かと思ってたけど、スヴァハちゃんが知らないとは意外だったわ」

 最近、ヴィーンゴールヴの売店付近にお菓子の店が出店していたのはそのせいだったのか。美味しそうだったから買って帰ったりしてたけど、まさかそんな裏事情が有ったとは。
 …よくよく思い返してみれば、何か材料から売られてた気もする。だとしても、カカオ豆をそのまま売るのはやりすぎだと思うけど。

「で、何でそれを私にピンポイントで言いに来てくれたの?」
「甘い! 甘いわスヴァハちゃん! 砂糖を五百グラムぶち込んだミルクココアより甘い考えよ!!」
「いや、流石にそこまで甘くはないでしょ…」
「――何か最近、スヴァハちゃんと話してるとアグニカと話してるような感覚に陥るわね…って、そんなコトはともかく」

 えっ、何その謎感覚…ひょっとして、アグニカ特有のツッコミスキルが身に付いて来たのだろうか?
 しかしカロムちゃんは私の疑問を意にも介さず、私の首に右腕を絡ませて耳打ちして来る。一体、私の考えの何が甘いのだろう。

「(恋人だからって油断してちゃダメよ、スヴァハちゃん。今やアグニカはヘイm…じゃない、ギャラルホルンの最高幕僚長。世界随一の権力者なのよ? 何とかアグニカに取り入ろうとして、こういう時にアピールしようとする子は、少なからずいるわ。加えて、アグニカ自身一般的に考えればイケメンの部類に入る――単純な憧れでチョコを贈る子もいるでしょう。
 このバレンタインで、アグニカは決して少なくない量のチョコを貰うハズなのよ。少なくとも、私個人はそう睨んでるわ。
 そんな中、スヴァハちゃんからチョコを貰えなかったら、アグニカはどう思うかしら? アグニカに限ってスヴァハちゃんから離れるコトは無いにせよ、ちょっとはショックを受けるかも知れない。大幅ではなくても、ちょっとくらいは好感度が下がるかも知れないわ)」
「(――!!?)」

 …確かに。確かに、カロムちゃんの言う通り――これは、看過してはならぬ状況なのでは!?

「(分かったかしら? 理解したかしら? だから私は『仁義なき戦い』って言ったのよ。スヴァハちゃんは並み居る強敵達の中で、ブンタ・スガワラ並みの衝撃をアグニカに与える必要が有るわ。そして誰よりも早く、既成事実を作らねばならないのよ!)」

 ブンタ・スガワラと言う人…? は知らないけど、とにかくアピールを欠かしてはならない状況だと分かった。とても良く理解しました。
 しかし…しかし、だ――

「(…既成事実は何か、違くない?)」
「(あらそう? ――ひょっとして、もう既成事実出来てるのかしら? 既に構築済み、建設済みなのかしら!? いつの間にか、そこまで発展していたのかしら!? 全くもう隅に置けないわ、早く言いなさいよ水臭いわねぇ!!)」
「(違うよ!? 出来てないからね!? カロムちゃんは近所のオバサンか何かなの!?)」

 唐突に近所のオバサンのような台詞を吐くカロムちゃん(二十七歳)。何か今日は、一段とテンションがおかしい気がする。仕事をし過ぎたのだろうか?

「(まあ、既成事実云々は置いておくにせよ――このバレンタインデー、アピールを欠かすコトは決して許されないと言うコトは分かったわよね?)」
「(分かったけど――どうすればいいの? 教えて、カロムちゃんせんせー!)」

 教えを乞うた所、カロムちゃんはなかなかどうして豊かな胸を張って堂々とこう言った。

「フフフ、私に任せなさい。これからスヴァハちゃんにバレンタインとは何たるか、本命チョコとは何たるかを魂レベルで教えてあげるわ。貴女は今、艦隊(おおぶね)に乗ったのよ! 私と言う百戦錬磨にして、百戦百勝の無敵艦隊に!!」
「――アレ? カロムちゃんって確か処j(ヴァーj)おうっ」


   ◇


 二月十四日。
 世間では「バレンタインデー」とされる、リア充ウハウハ非リア死亡の日だ。
 そんな日であろうとも、ギャラルホルン上層部は平常運転。俺こと最高幕僚長アグニカ・カイエルは、セブンスターズを手伝う為に自ら進んで出勤し、キッチリ仕事を八時間こなしてマイホームへ帰って来た。
 帰って来た、のだが――

「――どうしてこうなってるんだ」

 家のドアが見えない。何故かと言えば、何者かが大量に投下していったチョコが高々と積み上がっているからだ。
 …大方、女性士官達が様々な思惑から置いて行ったのだろう。そう思いつつ小型タブレットを手にして、セブンスターズが集ったグループのトーク画面でそれぞれの家の様子を確認してみると、何処も似たような有様らしい。俺も含めて、皆様しばらくチョコからは逃げられなさそうだ。
 良かった――チョコは家の方に全部置け、とカロムが指令を出してくれていて、本当に良かった。これが職場なぞに置かれていたら、持ち帰るだけでも一苦労どころか十苦労はするハメになっていただろう。

「…スヴァハは先に帰ってるハズなんだが――」

 正面玄関を使うのは諦めて、裏口に向かう。正面玄関前に積み上げられたチョコは、まあ一旦落ち着いてから何とかしよう。スヴァハがある程度片付けてくれてる可能性も有る以上、ひょっとしたら家の中にもそれなりの数が積まれてるのか…? とか、深く考えるのはやめておくが。

「ただいまー」

 スヴァハも裏口を使ったようで、鍵は開いていた。不用心と言えば不用心だが、そもそも家がヴィーンゴールヴ上に有るので、それほどの警戒をする必要は無い。
 靴を脱いで手に持ち、リビングを通過して正面玄関に向か――

「…お、おかえり――アグニカ…」


 ――何だ、この女神は。

 っ、いや待て落ち着けアグニカ・カイエル。バエルを思い浮かべて落ち着くんだアグニカ・カイエル。落ち着いて状況を把握するんだアグニカ・カイエル。お前なら出来る。俺にならそれが出来る。俺はあの地獄のような、いや地獄そのものだった厄祭戦を戦い抜いたんだ。状況把握すら出来ずにどうする。深呼吸、深呼吸。

「すぅー、はぁー。すぅー、はぁー」
「…ア、アグニカ…?」

 よし落ち着いた、完璧に落ち着いた。では、状況を確認するとしよう。
 場所はリビング・イン・マイホーム。半年ほど過ごしている、二人暮らしにしてはあまりにも広すぎる豪邸。正直金の無駄遣いだが、ギャラルホルンの最高権力者がちっぽけな家に住んでては示しが付かないと言う意見を受け、まあ何とか異論を堪えて暮らしている。今は幼なじみ兼恋人なスヴァハとの二人暮らし。
 さて、そんなリビングには俺の他にスヴァハのみ。したがって、先ほど俺が見た女神はスヴァハであるハズだ。大丈夫、目の前にいるのはスヴァハだ。出会って既に十数年、見慣れたスヴァハだ。オッケーオッケー、ノープロブレムエブリデー、オールゼクターコンバイン。いざ――目蓋開放(アイリッド・オープン)

「おお…貴様、よもや…そこまで――」
「えっ何そのあむっ、と行かれそうな台詞」

 …まさかのハイパーキャストオフでした、お見逸れ致しました。具体的に言うとアレだ、全人類全男子の希望にして永遠永劫悠久不朽の夢――裸エプロン。
 薄いピンクのフリルがあしらわれたスヴァハ愛用のエプロンの下にはしかし、いつものような部屋着が無い。そこには真っ白な柔肌が直に触れており、赤く染まった頬に同調するかのように火照っている。全身を隠すにはあまりにも頼りないエプロンの隙間や端からは、その柔らかでなかなかに大きな胸が垣間見える。
 端的に言うならば――女神(ヴィーナス)。いや、そんな何かに例えて良い美しさ、可愛らしさ、愛らしさ、いじらしさではない。哀しいかな、俺の語彙力ではこの衝撃を言い表すコトなど不可能である。否、そも人類が保有するあらゆる言葉を駆使してなお、この素晴らしさを伝えるコトなど出来はしないだろう。
 ああ――可愛い。俺の幼なじみがこんなに可愛いハズが無いとか言えんわやっぱ可愛いわ。しかし一体いつの間に、こんな色気と可愛げを持つ子に育ったのだろう?

「――その…」

 石化したように呆然と見つめるしかない俺の無遠慮な視線を気にしてか、スヴァハはエプロンの裾を下に引っ張る。しかしそれによって、胸とエプロンの密着度が更に上がると言うコトには気付いていらっしゃらないご様子。

「あんまり見られると、恥ずかしい…」
「――っ、うわああ!? すまん、つい…!」

 自分でもどうしたと思うほど情けない声を上げて、思わず五歩ほど後ずさる。ついでに弁解するが、目の前の女神(スヴァハ)はそんなコトを気にしていない。
 多分、今俺の顔は熟れた林檎よりも赤くなっている。しかし、赤くなっているのはスヴァハもまた同じである。

「「―――」」

 しばらく膠着状態が誕生したが、それを破ったのはスヴァハだった。どこからか小さな箱を取り出し、俺に向かって突き出して来た。

「…これって――」
「――ハッピー、バレンタイン」

 考えるまでもなく、バレンタインのチョコレートである。スヴァハらしいピンクの包装に、相反する青いリボンが巻かれている。玄関前に積まれたチョコの山を見た時は正直に言って辟易したが、この時ばかりはそんなコト思えるハズも無かった。
 顔を真っ赤に染め、エプロンの裾を引っ張りながらチョコレートを渡すべく片手を差し出して来るスヴァハの姿は、その…凄く、メチャクチャ、とっても、可愛く――

「アグニカ…? ――んっ…」

 気付いた時には、スヴァハの両肩を掴んで、その唇を自分の唇で塞いでいた。五秒ほど経った後、ゆっくりと唇を離れさせる。

「――あっ」

 思わず素っ頓狂な声を漏らした俺に対し、スヴァハはこれ以上なく美しい笑みを浮かべ、俺の頭の後ろに手を回して自分の顔に近付けさせ――唇が、再び触れ合った。
 それが限界だ。俺はスヴァハの両肩を掴んだまま、体重を少しずつ掛けるようにして前へと倒れ込み。
 スヴァハを、後ろのソファーへと押し倒した――


   ◇


《おまけ》
※バレンタイン翌日のセブンスターズ会議
アグニカ「スヴァハに裸エプロン(あんなモノ)を教え込んだのは誰だ!?」
カロム「私だ(CV:中田譲治)」
アグニカ「クサムカァ!! クサムガスヴァハウォォ!!」
カロム「そうよ。でもアグニカ? 私は感謝こそされ、怨まれるコトは無いと思うわよ?」
アグニカ「――ハイ、誠にありがとうございましたカロム様」
カロム「オホホホ。そうよ、もっと泣き咽びながら平伏しなさい?」
クリウス「何だカロム、スヴァハに何を仕込んだんだ?」
カロム「大したコトはしてないわ。私はスヴァハちゃんに本命手作りチョコとは何たるかを叩き込んだ後、『裸エプロン』と言う概念をもたらしただけよ」
フェンリス「ほほう――アグニカ、お前…」
リック「そうか、製造したか」
ケニング「ヤってしまったのか」
ミズガルズ「昨夜はお楽しみでしたね」
ドワーム「その話、詳しく聞かせて貰おう。今日のセブンスターズ会議の時間を丸々使ってでも聞き出さねばならない。異議は?」
セブンスターズ『()()()()()()ッ!』
アグニカ「もうやだコイツら」




次回「ゼロの未来」(最終話)
※ゼロシステムは関係有りません。


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#1.5-Ⅴ ゼロの未来

新元号が「栄琉(バエル)」になりましたね!
バンザーイバンザーイバンz(バンバンバン
――個人的には「明丹(アグニカ)」になると予想してたんですが、予想が外れてしまいました(剪定事象)

そんなこんなでエイプリルフールも過ぎ去り、本日は鉄血最終話の放送日。
あの最終話から、既に二年。
明日で本作第一話の投稿から、ちょうど二年。
恐ろしい限りですが、まさか二年後も書いてるなんて当時の私は思いもしていませんでした。
ありがたいコトでございます。
鉄血アプリゲーの最新情報まだー? 特にゲーム面。

そんな感じで、番外編最終話。
大分期間が開いてしまいましたが、今回で終了です。
後書きは今回の番外編全体の振り返りとなっています。
それでは、どうぞ。


   ―interlude―

 

 

 悪夢だ。

 終わらない悪夢を、見ているようだった。

 ついさっきまで近くにいた仲間が、よく分からないモノに乗せられ、よく分からないモノに繋がれ。

 痛がり、苦しみ、発狂し――赤い血をとめどなく流しながら、悉くが死んで行った。

 

『また、失敗か』

 

 男は言った。何の感情も孕まない声で。

 そいつが、全ての元凶であり、絶対の悪だった。仲間が死んだのも、私が悪夢を見させられ続けていたのも、そもそも私があそこにいたのも――全て、その男のせいだった。

 

 

 男の名は、ヴェノム・エリオン。

 奴はギャラルホルンを治めるセブンスターズ、その第四席「エリオン家」の当主にして、ギャラルホルン最大戦力を誇る月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の司令官だった。

 

 ギャラルホルンの権威を笠に着て、ヴェノムは様々な闇深いコトに手を出していた。

 その究極と言えるモノが、ギャラルホルンの始祖たる初代セブンスターズが禁止した、人体の機械化の極点に存在する一つの技術――「阿頼耶識」の研究だった。

 

 圏外圏で生き残っている阿頼耶識技術は、厄祭戦時の物からかなり劣化している。圏外圏で阿頼耶識手術を三回受けて、ようやく厄祭戦時の阿頼耶識一つ分の交感能力と匹敵する程に。

 ヴェノムは圧倒的な操縦技術と戦闘能力を獲得出来る阿頼耶識に注目し、私兵を極秘裏に阿頼耶識部隊としようとした。

 

 だが、ヴェノム・エリオンは強欲な男だった。足るを知る、と言う言葉を教えた後、無駄を嫌うアビド・クジャンの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい、と言われたくらいには強欲だった。

 そんなヴェノムは、圏外圏に在る劣化した阿頼耶識に納得せず、厄祭戦時の阿頼耶識技術を復活させようと目論んだ。

 

 その為にヴェノムは、大量の実験動物(ニンゲン)を必要とした。阿頼耶識が人間の脊髄に埋め込まれるインプラント・チップである以上、その研究の為には被験体となる人間が必要なのは当然と言えば当然のコトだ。

 人間を用意するなど、本来ならば至難の技だ。だがヴェノムは、その人間をいとも容易く調達した。

 

 ヒューマンデブリ。

 圏外圏に存在する、穀物と同等以下の値段で売買される、人間として認められていない存在。そんな彼らを、ヴェノムは五十体ほど仕入れたのである。

 

 かくして全ての準備を整えたヴェノムは、ギャラルホルン本部「ヴィーンゴールヴ」の空きスペースに阿頼耶識の研究施設を設置し、阿頼耶識の研究を始めさせた。だが、その研究は実に酷い物だった。

 

 五十体の内、施術を生き延びたのはたった十体。

 残された十体の被験体を、ヴェノムは順番に、とある機体と接続させた。

 

 ASW-G-14 ガンダム・レラージェ。

 

 悪魔が宿るモビルスーツ、七十二機のガンダム・フレームの内の一機。それと接続させ、初代セブンスターズ達がやったように、悪魔の力を引き出させようとした。

 結果として八体の被験体が、機体からのフィードバックに耐えられず、死んだ。

 

 そして、ヴェノムが見守る中、九体目――第四十九被験体、後に「アーキタイプ」と呼ばれるようになる男が、実験に使用された。

 

 

 どうしたい? と、悪魔が聞いてきた。

 私は答えた――此処から出て、自由になりたい。

 悪魔は言う――ならそうしよう、と。

 

 

 第四十九被験体と、悪魔レラージェの同調は成功した。遂に、阿頼耶識技術に完全復活の光明が見えたのである。ヴェノムは歓喜に打ち震えた――が。

 

 ガンダム・レラージェは、暴走した。

 

 左腕のワイヤーブレードを機動させて拘束を打ち破り、自由となった機体はパイロットの意志通りに暴れ回り、その場にいたヴェノム・エリオンを叩き潰した。研究施設を壊滅させた後、ヴィーンゴールヴの外壁を中からブチ破り、圧倒的な機動性を以て逃走した。

 

 研究は、それで終わった。研究施設は封鎖され、組織に改めて「阿頼耶識」が禁忌の力であるコトを認識させた。

 当主を失ったエリオン家は、二十にもなっていなかったヴェノムの一人息子、ラスタル・エリオンを当主とし――司令官を失ったアリアンロッドは、新たにクジャン家当主のアビド・クジャンを司令官とした。

 そして――ヴェノム・エリオンの死は病気による急死と発表され、真相は包み隠された。

 

 記録から抹消されたのは、暴走し彼方へと消えたガンダム・レラージェと、第四十九被験体も同様だった。その第四十九被験体は、宇宙へと上がり――海賊「夜明けの地平線団」を組織し、圧倒的な戦闘能力とカリスマ性を以て、宇宙海賊を束ね上げ。

 

 「レラージェ(ゾレイ)()支配する者(サルガタナス)」と名乗り、夜明けの地平線に在る男――「朝陽の男」と呼ばれるようになった。

 

 

   ―interlude out―

 

 

 

 

 ガンダム・レラージェが、呻り声のような駆動音を響かせ―――その双眸を、真紅に輝かせた。

 尋常ならざる雰囲気を纏った悪魔(ガンダム)を前にして、アビド・クジャンは気を引き締め直す。その時アビドは、厄祭戦について書かれたギャラルホルン公式文書――「アグニカ叙事詩」の内容を、ふと思い出していた。

 

(ガンダム・フレームの眼が赤く輝くのは、リミッターが解除され――パイロットの何かを代償とし、悪魔の力が引き出された時、だったか…)

 

 第四十九被験体。エリオン家前当主、ヴェノム・エリオンが遺した負の遺産。

 ゾレイ・サルガタナスと名乗る男は、ギャラルホルン最大の闇を知っている。もしあの研究についてのコトが公開されたなら、ギャラルホルンの信用は地の底へと墜ちるだろう。

 だからこそ、ゾレイ・サルガタナスの存在は、ギャラルホルンに取って有ってはならないモノだ。

 

(ヴェノム・エリオン――全く、その名の通りに蛇の毒(ヴェノム)と表されるべき人だ。

 よもや、死した後にまで毒を残して行くとはな)

 

 しかし、既にレラージェによって殴殺された死人に恨みを言っても、どうしようも無い。それは事態の解決に結び付かない、全く以て無駄なコトだ。

 

(しかし、これは参った――果たして、援軍が来るまで保つかどうか…!)

 

 リミッターを解放し、悪魔の力を引き出したガンダム・フレームの戦闘能力は、カタログスペックを軽く上回るモノだ。事実、アグニカ・カイエルによってリミッターを解放されたガンダム・バエルは、最強のモビルアーマーだった「四大天使」ミカエルをほぼ単騎で撃破してしまっている。

 流石にこの辺りは誇張されていると思うべきだろうが、全くの作り話でもないだろう。何にせよ、リミッターを解除されたガンダム・フレームが、常の兵器とは比較にならない戦闘能力を持つのは、まず間違い無い。

 

 その時――レラージェが動いた。

 

「がっ!?」

 

 アビドの乗るガンダム・プルソンが、右側から攻撃を受けた。レラージェ本体は動いていない、にも関わらずだ。

 

「ワイヤーブレードか…!」

 

 レラージェの左腕に装備された、MAの技術を流用したと言われる兵装、ワイヤーブレードによる攻撃だ。その速度は、先ほどまでとは比較にならないほど、速い。

 

()()()――!)

 

 艦隊指揮を退かせたラスタル・エリオンに任せ、レラージェに全神経を注いでいたにも関わらず、アビドにはワイヤーブレードの放出と機動が見えなかった。本体はその場から動かずに佇んだままだと言うのに、ワイヤーブレードだけが音速を越えて光速にも迫る程の速度で機動している。

 プルソンの装甲が格闘戦の為に、分厚く造られていなかったなら――今の攻撃で、右腕は吹き飛んでいただろう。

 

「アビド様ッ!!」

「バッ、来るな!!」

 

 プルソンが吹き飛ばされる所を見たMS隊が、アビドを援護する為にレラージェに迫る。しかしその一秒後には、ワイヤーブレードによって全機が両断されていた。

 

「部下をやらせるか…! 貴様の相手は私だ!!」

 

 プルソンは体勢を立て直し、レラージェに向かって突撃する。目視は愚かセンサーですら捉えられないワイヤーブレードを無視して、動かない本体のみを狙う。

 しかしその時――遂に、レラージェの本体が動いた。

 

「!!」

 

 唐突に右腕を振り上げ、バスターソードを目にも映らない速度で振り下ろした。防御は間に合わず、プルソンの頭部が強打され、角がへし折れる。

 

「うおおおおおおおあああああ!!」

 

 それに怯まず、プルソンは両手のハンマー「レイヴン」をレラージェに振り下ろす。しかしレラージェはブースターを吹かせて後退するコトでハンマーを避け、続いて機体を前に出して左腕を振りかぶり――プルソンを、凄まじい勢いで殴りつけた。

 

「ぐああああああああああッ!!」

 

 エイハブ・リアクターによる重力制御は間に合わず、アビドはシートから放り出されそうになる程の衝撃を味わう。かくして、プルソンは彼方へと吹き飛ばされて行った。

 だが、その隙を狙っていた者がいる。

 

「ダインスレイヴ隊、放てぇッ!!!」

 

 スキップジャック級大型戦艦「ファフニール」のブリッジから戦闘を見ていた、ラスタル・エリオンである。ラスタルの悲鳴にも近い一喝で、展開していたダインスレイヴ隊が、一斉に特殊弾頭をレラージェに向けて撃ち放った。

 レラージェはワイヤーブレードを機動させ、放たれた弾頭の三割を弾いて軌道を変更させた。だが、残された七割が、レラージェに突き刺さった。

 レラージェの全身の装甲が吹き飛び、バスターソードが取りこぼされ、レラージェ自身も吹き飛ばされてデブリに叩き付けられた。

 

「どうだ、これならどうだ…!!?」

 

 そう吐き捨てた言葉を、ラスタルはすぐに呑み込まざるを得なくなる。

 

 

 それでも――ダインスレイヴの直撃を受けてもなお、レラージェが動いたからだ。

 

 

 右腕と左足が失われ、背部のブースターも三基中二基が欠損し、武装も左腕のワイヤーブレード以外の全てを損失して――身体を覆う装甲は、ほぼ全てが失われた。

 しかしレラージェは、全身からギチギチと音を立てながら、身体に刺さった二本の特殊弾頭を、左腕で引き抜いて行く。同時に、ワイヤーブレードをワイヤーの長さ限界ギリギリまで伸ばして駆動させ、ダインスレイヴ隊を横凪ぎに吹き飛ばして行く。

 

「何なんだ、あの野郎は――何で、アレで死にやがらねぇんだ!?」

「――ガンダム・フレームは、MAに追い詰められた人類が生み出した、最終にして最強の兵器だ。たかがダインスレイヴ程度で、悪魔(ガンダム)を止められるモノか…!」

 

 その恐るべき光景を見ていたディジェの叫びに、トリクが絶望と共に答える。トリクはその時、ほぼ全てが創作だと思っていた「アグニカ叙事詩」の内容が、真実であると認めざるを得なくなった。

 

「ガンダム・バエルは止まらなかった。どれほどの損傷を負おうとも、格上であるMAに挑み続けた。同じガンダム・フレームであるガンダム・レラージェが、止まらなくてもおかしくはない――」

「んな訳有るか! 止めなきゃオレらは全滅だ、止めるしかねぇだろうが!

 現存するガンダム・フレームが二十六機なら、四十六機は止まってブッ壊れたんだろ!? 止める方法は有るハズだ!!」

「――その四十六機が、MAとか言うガンダムを超える化け物と戦って壊れた、と知らないお前ではないだろう…! 化け物(ガンダム)を止めるには、それを超える化け物(モビルアーマー)を連れて来るしか無い!

 だが、その全ては厄祭戦で破壊された! 己が魂までを捧げ、信念に殉じて戦ったアグニカ・カイエルと、初代セブンスターズによってな!! この世界にはもう、暴走したガンダムを止められる存在なんてねぇんだよ!!!」

 

 珍しく声も口調も荒げて、トリクはそう叫ぶ。

 

 アグニカ・カイエルが「英雄」と呼ばれる由縁。

 それは、本来なら決して超え得るハズの無い力を有した「四大天使」を始めとするMAに挑み、機械が持たない「信念」「想い」を振りかざして戦い、(つい)にそのMAを執念で下しきったからに他ならない。

 勝てるハズの無いモノに勝ち、終わるハズの無い大戦を終わらせた。人間の身でありながら、奇跡を起こした。起こしてしまった。

 故にこそ、アグニカ・カイエルは――初代セブンスターズは「伝説の英雄」なのだ。

 

 此処に、モビルアーマーは無い。

 此処に、アグニカ・カイエルはいない。

 此処に、リミッターを解除出来るガンダム・フレームは、レラージェの他に存在しない。

 

 この場において、ガンダム・レラージェは最強の存在だ。ギャラルホルンが保有する中で最強の制圧兵器であるダインスレイヴすら、レラージェを止めるコトは出来なかった。

 

「――だから諦める、って言うのかよ? あの化け物に、大人しく殺されるってか?」

「…他に仕方が無いだろう――もう、どうしようも無いんだからな」

「そうか――テメェは諦めるのか」

 

 トリクはそう言って、俯いてしまう。本体の損傷が激しいとは言え、レラージェにはワイヤーブレードが残されている。あの武装だけでも、この場の兵器全てを破壊出来るだろう。

 

 

「―――()()()()()()()()()

 

 

 しかし、ディジェは俯かない。

 

「諦めてたまるかよ。こんな所で、死んでたまるかよ! オレは絶対に、死ぬわけには行かねぇ!

 オレはアイツらに…アシュリーに、ジレッドに、ガイに、デリックに、プラドに! アイツらに人生ってのは何なのか、教えてやらなきゃならねぇ!! 幸せになったコトがねぇアイツらに、幸せってのが何なのかを教えなきゃならねぇ! アイツらに世界の美しさ、生きるコトの楽しさってのを知ってもらわなきゃならねぇんだ!! やっと――やっとアイツらは、自由に生きられるようになったんだ!!

 だから、こんな所でオレは死にたくねぇ!! 死ねねぇ!! 死ぬわけには行かねぇんだよ!!!」

 

 ガンダム・ヴィネが持つ、大鎖鎌「エインヘリヤル」――バクラザン家の魂とも呼べる、扱い辛さの極地に有る武装を掲げて、そのコクピットでディジェ・バクラザンは叫ぶ。

 その言葉に、トリクは大きな衝撃を受けた。だがその後、すぐに笑みを浮かべる。

 

「―――そうか。そうだな……お前はそう言う奴だよな、ディジェ」

 

 決して希望を見失わず、どうしようも無い理想を描いて、その為に自分の命すら賭けられる。

 そんな奴だから―――自分に出来ないコトがやれる奴だから。トリク・ファルクはディジェ・バクラザンと言う男を妬ましくも思いながら、その人間性に惹かれ、いつしかこう思うようになった。

 

「だから私は、お前を助けたいと思う。お前の出来ないコトは、私がやってやろうってな」

 

 ディジェが微笑んだのが、トリクには分かった。トリクの操るガンダム・アモンが、その手に持つスナイパーライフル「ヒュルム」を構える。

 

「行くぜ、トリク」

「ああ、ディジェ」

 

 それ以上の言葉は無い。

 接近戦はディジェ、狙撃戦はトリクの担当だ。それは彼らに取っていつも通りのコトであり、至極当然なコトだった。

 

「――全く、年を取るのはダメだな。すぐ涙腺が緩んでしまう」

 

 ダインスレイヴが放たれている間に戦線に復帰したガンダム・プルソンのコクピットで、アビド・クジャンはパイロットスーツのヘルメットのバイザーを上げ、指で目元を拭った。そしてすぐにバイザーを下ろして操縦桿に手を掛け、握り直す。

 

「アビド様、ご無事ですか!?」

「クジャン公、動けますか?」

 

 そんなプルソンの側には、キュル・ミュンヘンが乗るシュヴァルベ・グレイズと、ジルト・ザルムフォートが操るガンダム・ダンタリオンの姿が有る。

 そして、戦場の中心に在るレラージェは、アリアンロッドのモビルスーツ部隊に取り囲まれている。最早、逃げ場などどこにも無い。

 

「無論だ。―――夜明けの地平線団は、既に壊走した。後はあの大破しているガンダム・レラージェを無力化すれば、全てが終わる。

 全隊! 士官学校卒業直後の若造どもなんぞに、遅れを取るなよ!!」

『はっ!!』

 

 その言葉を火蓋として、アリアンロッド対ガンダム・レラージェの、最終決戦が開始された。

 

 

   ◇

 

 

 ガンダム・レラージェ本体に、マトモな戦闘力は残されていない。実の所、ダインスレイヴによる損害は極めて深刻なモノだ。本来なら、動けるハズのない状況にまで、レラージェは追い込まれている。

 レラージェに驚異的な速度を叩き出させていた三基のブースターは二基が粉砕して一基が損傷しており、保持していた武装もほぼ全てが失われ――右腕と左足が全損しただけでなく、全身の装甲が弾き飛ばされている。完全なる丸裸、吹けば飛ぶ程度、銃弾一発で破壊されるくらいの装備だ。

 

 だが、唯一残された武装――ワイヤーブレードこそが、レラージェをこの場に於ける最強の存在として君臨させていた。

 

「チィ…!」

「く…!」

「何と…!」

「おのれ――!」

 

 ガンダム・ヴィネの大鎖鎌「エインヘリヤル」。

 ガンダム・アモンのスナイパーライフル「ヒュルム」。

 ガンダム・プルソンのハンマー「レイヴン」。

 ガンダム・ダンタリオンの鎧「ハーフカウル」。

 その全てによる一斉攻撃を、レラージェはワイヤーブレード一つで捌き切っていた。

 

「撃て! アビド様を援護するのだ!」

 

 周囲のMS部隊もライフル射撃によって四機のガンダム・フレームを援護するが、大半はワイヤーブレードによって弾かれている。ワイヤーブレードを何とかしなければ、レラージェを止めるコトは出来ない。

 が、その時――ワイヤーブレードが限界以上の速度で動き、ラスタル・エリオンが座乗する遠方のスキップジャック級大型戦艦「ファフニール」のブリッジへと、一直線に伸びた。

 

「何ッ…!?」

「やらせるか…!」

 

 一番近かったプルソンがファフニールのカバーに入ったが、ワイヤーブレードはプルソンごとファフニールのブリッジを貫く為に、避ける素振りも無く真っ直ぐ突撃を掛けて行く。

 ワイヤーの長さとしては、かなりギリギリだがファフニールのブリッジに届く。届きさえすれば、ナノラミネートアーマーではないブリッジのモニターを割るのは、そう難しい話ではない。でなくとも、間違い無くプルソンには直撃する距離。

 ハンマーを盾代わりにすべく両腕を交差させるプルソンだったが、ワイヤーブレードが到達する前に、アビドは悟った――防げない、と。

 

(だが、ラスタルには届かない――!)

 

 プルソンは避けない。そんなプルソンに、ワイヤーブレードが突き刺さる――直前。

 

「アビド様ああああああああああああ!!!」

 

 アビド・クジャンの右腕と称される男、キュル・ミュンヘン一佐が乗るシュヴァルベ・グレイズが、横からプルソンを突き飛ばし――コクピットの直下に、ワイヤーブレードを受けた。

 

「ッ、キュル!!」

「ごッ、がはァ――ッ!」

 

 腰から下を斬られたキュルは激痛に苛まれながらも、シュヴァルベ・グレイズを動かし――機体に突き刺さったワイヤーブレードを、両腕で掴んだ。

 

「ディジェ、特務三佐…!」

「――ッ、おらァッ!!」

 

 ディジェがヴィネに鎖鎌を振らせ、その特殊超硬合金製の薄刃を以て、ワイヤーブレードのワイヤーを切断した。

 

「トリクッ!!」

「言われずとも…!」

 

 最後の武装を失ったレラージェに、トリクのアモンが肉迫し――専用の太刀である「アングルボザ」を引き抜き、そのコクピットに全力で突き刺した。

 

「――か…」

 

 アモンの太刀は、パイロットのゾレイ・サルガタナスの胸を間違い無く貫き――その生命活動を、完全に停止させた。

 それを証明するかのように、ガンダム・レラージェのカメラアイの赤い光が、数秒点滅した後――完全に消え失せる。

 

 ゾレイ・サルガタナス。

 暗闇より生まれた「朝陽の男」は、この瞬間――永遠の暗闇へと、沈んで行ったのだった。

 

 

   ◇

 

 

 ディジェ・バクラザンとトリク・ファルク。

 士官学校を卒業してから初めての任務は、波乱の内に終了した。

 

 地球に戻った後、ディジェとトリクは二佐に昇進し、監査局から異動。それぞれ部隊を預かり、地球上での治安維持の任務に当たるコトとなった。本来ならもっと良い仕事も有ったのだが、バクラザン家とファルク家が文官寄りの家柄であるコトも有り、本人達の希望も相まって、平凡極まりない治安維持部隊に収まったのである。

 休みが多く、ヒューマンデブリだった子供達に会う為、頻繁にヴィーンゴールヴに戻れると言う理由も有った。

 

 

 それから、十年が経ち――時は、P.D.0325年。

 世界の驚愕と共に、二人が待ちわびた「体制が崩壊する時」が、遂に訪れた。

 

『俺の名は、アグニカ・カイエル!! ガンダム・バエルのパイロットにして、かつて厄祭の天使を狩った者!! そして、ギャラルホルンの最高幕僚長である!!!』

 

 歴史に残される大事件。

 地球外縁軌道統制統合艦隊「グウィディオン」の司令、マクギリス・ファリド准将を中心とするアグニカ・カイエルのファンクラブ「アグニ会」が企てたクーデターをブチ壊す形で、その男は世界に声明を発表した。

 

 アグニカ・カイエル。

 

 かつての厄祭戦でガンダム・バエルを駆り、ギャラルホルンを創設したと伝えられる伝説の英雄が、三百年の時を経て蘇ったのである。

 声明で、アグニカは「俺はもう一度ギャラルホルンを創り直す」と言った。つまりそれは、現行の体制を一度白紙に戻し、組織体制――ひいては世界体制を一から構築し直す、と言う宣言に他ならない。

 ヒューマンデブリ制度の消滅を望むディジェ・バクラザン二佐に取っては、これ以上無い好機だ。

 

 トリクはすぐさま連絡を取り、遠方のディジェと通信を開いた。

 

「行くんだろう、ディジェ。ヴィーンゴールヴへ」

『ああ。――って、テメェは行かねぇのか? セブンスターズは全員集まれ、ってのが、アグニカ・カイエルが最高幕僚長として出した命令だろ?』

 

 それは百も承知だったが、その上でトリクは(かぶり)を振った。

 

「あのアグニカ・カイエルが、本物であると言う保証はどこにも無い。何せ、本物のアグニカ・カイエルを知る者は、この時代のどこにもいないのだからな。

 ――それに、セブンスターズが全員ヴィーンゴールヴに集結しているコトを良いコトに、悪事を働こうとする輩は間違い無くいる。なら、それらを抑える役が必要だろう?」

 

 冷静な判断から来たその言葉に、ディジェは頭を掻くが――笑みを浮かべて、こう言った。

 

『――分かった。テメェの分も背負って、オレが行ってやる』

「ああ。任せたぞ、ディジェ」

 

 通信はそこで切れ、トリクは息を吐いた。そんなトリクに、部下の一人――デリック・ハウイット二尉が、こう聞いてくる。

 

「よろしかったのですか、トリク様」

「――行きたい気はするがな。まあ、ディジェに任せれば悪い結果にはならんさ」

「…それは、昔からの経験則ですか?」

 

 デリックの言葉に、トリクは笑う。そして、確信を持って一言だけ返した。

 

「当然だ」




ディジェ・バクラザンとトリク・ファルクについて掘り下げる番外編、これにて終了。
長ぇよ…凄まじく長くなっちまったよ…
誰だよ、最初「一話で終わるだろサブキャラだし」とか言って、余裕ぶっこいてた奴ァ!
ブン殴ってやろうか!? オラァッ!(自分を殴る)

そんな訳でいつの間にか全五話にまでなった番外編(有る意味前日譚?)、お楽しみ頂ければ幸いです。
番外編全体の振り返りをする前に、まずはオリキャラの解説から。
最終話まで初出のオリキャラが出るって、どういうコトなの…?


ヴェノム・エリオン
男性
セブンスターズ第四席「エリオン家」の先代当主にして、ラスタル・エリオンの父親。
当時、月外縁軌道統制統合艦隊「アリアンロッド」の司令官を務めていた。
ギャラルホルンの腐敗を体現したような人物で、各経済圏との癒着によって個人的な利益を上げるなどの後ろ暗いコトを数多く行い、その一環として禁忌とされてきた「阿頼耶識」――それも厄祭戦時代の本来の阿頼耶識を復活させる為、研究させていた。
四十九回目の実験を見学していた所、使用された第四十九被験体とガンダム・レラージェが暴走し、その際レラージェに殴殺されて死亡している。
名前はハーメルン内の鉄血二次創作「アグニカ・カイエル バエルゼロズ」に登場するオリジナルキャラクター、初代エリオン家当主「ヴェノム・エリオン」から流用。
許して下さい何でm(ry
名前の意味が「蛇の毒」らしいので、伝承では蛇でもあるファフニール(エリオン家の家紋)の毒、蛇(=ギャラルホルン)の毒などと言った意味を持たせてみました。
格好いい名前なのに、役回り最低ですね…。
ちなみに、元作品のヴェノムさんはアグニカに依存したヘタレ。かわいい(錯乱)




以下、この番外編全体に関しての後書きを少し。
少しか…少しで済むんでしょうか…?


この1.5話となる番外編(全五話)は、最初の前書きに書いた通り、本作のオリキャラであるディジェ・バクラザン、トリク・ファルク両名について掘り下げるコトを目的としています。
主題(テーマ)は「友情」、副題(サブテーマ)は「棄てられた者」。
主題は勿論ディジェとトリクで表されていますが、副題はヒューマンデブリの子供達と、ゾレイ・サルガタナスが表現しています。

この番外編を書くに当たって、まずディジェ・バクラザンとトリク・ファルクと言うキャラを、一から再構築し直しました。
二人とも根本的な部分は変わっていないつもりですが、特にトリクは本編との変化が大きいキャラクターになっていると思います。
作り直したイメージを、二人の経験と言う面から補強して行くような形で、番外編のストーリーは組み立てられています。

その場で考えたキャラや展開なども有りますが、これはもう私の悪癖のようなモノなので…。
とは言え、終わりのシーンを決めた上で書き始めたのは一年経っているが故の成長だと思います。
その程度のコトを成長と言って良いのかは、甚だ疑問では有りますが…まあ成長ですよね!(前向き)

ではこれからは、ストーリー順に振り返って行きたいと思います。


まず第一話「ギャラルホルン」は、十年前のセブンスターズ会議から始まりました。
その為、最初はサブタイを「セブンスターズ」にするつもりでした――が、第一話にディジェとトリクの「バエルの祭壇」訪問を含めたコトで、セブンスターズより広義の「ギャラルホルン」に落ち着きました。

ここで、二人のオリキャラが登場します。
イシュー家前当主「オルセー・イシュー」と、クジャン家前当主「アビド・クジャン」です。

オルセーはこれ以降出番が無い、まさにチョイ役。
本編でも生きているんですが、重い持病を患って伏せっています。

ただ、アビドは私も想定していなかったほど、ストーリーに関わって来るキャラクターになりました。
イオク様のお父上とは思えないほどの有能っぷり。
正直ビビってますよ、私…。
ちなみにあの戦いの三年後、病気に掛かって急死しています。
特に暗殺とかでは無く、素で死にました。

十年前のセブンスターズ会議は、うるさい無能ことイオク様がいらっしゃらない分、有意義な会議が行われております。
ただ厳かなだけでなく、時折談笑が混じるのは、あの場に集った当主達が猛者ばかりだからなのでしょうか?
ちなみに、あの面子の中では、ラスタル様が一番年下です。
ラスタル様が若造扱いされるセブンスターズ会議とか、何それ怖い。

セブンスターズ会議の決定に従い、士官学校卒業直後のディジェ・バクラザンとトリク・ファルクは、ギャラルホルン最重要施設「バエルの祭壇」へ。
本編時は「バエル宮殿」と表記していましたが、公式により正式名が「バエルの祭壇」だと発覚したので、こちらを採用しています。
当たり前のように「入るには五百アグニカポイントが必要」とか書いてますけど、よくよく考えなくても設定が狂ってる。
キチンとシリアスを破壊し腐りやがりました、くたばれアグニ会(ブーメラン)

そしてディジェ、バエルに乗ってみる。
阿頼耶識が無いので、当然動かせませんが。
本編三十三話でディジェが言った「オレにも動かせなかった」と言うセリフを回収した形になります。
ここでギャラルホルンにとっての「ガンダム・バエル」がどんなモノか、という説明が混じっていますが、まあ皆様聞き飽きてますよね。
正直、私も飽きてます。原作のマッキーェ…。

そこから「ガンダム・ヴィネ」と「ガンダム・アモン」の存在が仄めかされた所で、第一話終了。


第二話「夜明けの地平線団」。
この回だけ凄まじく短い…仕方無いね!(開き直り)

アビド・クジャンの読み通り、ディジェとトリクは監査局に配属され、火星行きを命じられます。
この辺りはマクギリス、ガエリオと同じ感じ。
「セブンスターズはこうなるコトが多い」って言うのはオリジナル設定ですが――卒業早々に特務とは言え三佐になるのは、どう考えても正常な人事ではない…流石はセブンスターズ、ギャラルホルンの始祖たる七人の英雄、その末裔。

この監査団にアビドのアリアンロッドから貸し与えられたハーフビーク級宇宙戦艦は、アビドの右腕とも言えるキュル・ミュンヘン一佐によって率いられています。
それどころか、MS部隊はアビドの親衛隊から出頭している、正真正銘の精鋭揃い。
そして、アビドはジルト・ザルムフォートにも応援を要請しています。
このコトから、アビドが如何にゾレイ・サルガタナスを警戒していたかが分かりますね。

しかし――わざわざ番外編を書くんだから、ただ平穏に終わるハズが無いんだなぁ、これが!

そんな訳で、夜明けの地平線団とギャラルホルン監査団の戦闘が開始されます。
戦闘はゾレイが来るまで、監査団の優位で進んで行きます。
精鋭揃いであり、ディジェとトリクも士官学校を主席と次席で卒業していますからね。

ディジェとトリクのシュヴァルベ・グレイズが、ここで初登場。
当時のシュヴァルベは、まさしく開発されたばかりの、最新鋭モビルスーツ。
ディジェ機はヴィネの鎌を意識した槍(鎌は流石に用意出来なかった)、トリク機はアモンを意識してスナイパーライフルやハンマーが装備されています。
シュヴァルベ・グレイズは好き勝手武器持たせられるので、設定作るのが楽しかったです。

第二話は、この番外編のラスボスである「夜明けの地平線団」首領ゾレイ・サルガタナスが、ガンダム・レラージェに乗って登場しています。

ゾレイ・サルガタナスは、シャア・アズナブルとフル・フロンタル、ゾルタン・アッカネンから要素を少しずつ持ってきて混ぜ合わせ、鉄血世界特有の殺伐さをトッピングしたようなキャラクターです。
私怨で行動しているのはシャア、敵に対し容赦が無いのはフロンタル、加害者であり被害者でもあるのはゾルタン。
セリフがシャア(フロンタル?)っぽいのは、完全に私の趣味。
「機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)」を観たのも、ゾレイの誕生に一役買っています。
と言うか、NTを観ていなかったら、このゾレイ・サルガタナスは生まれなかったと思います。
生まれていたとしても、ただの悪役で終わっていたでしょう。
ありがとうNT、ありがとうゾルたん。

名前はゾレイ(悪魔レラージェの別名)と、サルガタナス(レラージェを配下とする上級精霊)から。
二つ名である「朝陽の男」は、夜明けの地平線に有る「朝陽」そのもの「の男」、と言う意味。
この二つ名は直感で付けましたが、良い感じにはまってくれました。

ガンダム・レラージェは、厄祭戦編の「四大天使」ウリエル戦で宇宙に放り出されてから、完結編でアリアンロッドが回収してガンダム・レラージュリアになったと明かされるまでに、長い空白期間が有りました。
そこを利用する形で、この番外編のラスボス機として大抜擢させて頂きました。
退場の仕方、再登場の仕方の都合からメチャクチャ使いやすい立ち位置にいるレラージェ兄貴、有能。
なお、名前は本編との差別化の為にちょっと付け足そうかとも思いましたが、色以外に姿は変わってないのでそのままで。
断じて面倒臭がったとかでは有りません。断じて!
武装は複雑な展開機構を有するレラージェ・ライフルが失われていますが、肝心のワイヤーブレードは残されています。
コイツが思った以上に、凶悪な大活躍ぶりを見せてくれました。
やはりワイヤーブレードは強い。ハシュマルとガンダム・バルバトスルプスレクスもそう言ってる。

そんなゾレイが登場した所で、第二話終了。
登場時に「さあ――奪わせて貰おうか、ギャラルホルン」と言うセリフが有りますが、これは自分から全てを奪ったギャラルホルンへの皮肉だったりも。


第三話「朝陽の男」は、いきなりの戦闘からスタート。
タイトルは「ヒューマンデブリ」と迷いましたが、ここはゾレイの二つ名にしておこうと思い、これになりました。

颯爽と現れたゾレイ、精鋭部隊を翻弄。
強すぎる…まあ、ゾレイの阿頼耶識は本来の阿頼耶識ほどでなくても、圏外圏の物よりはかなり精度が高いので。
そんな阿頼耶識を三つ付けられてるので、設定上はミカよりも強かったりします。
厄祭戦時のガンダムパイロットには負けますが。

この回はガンダム・ダンタリオンの見せ場。
ダンタリオンの恥も外聞も無く、純粋に敵への殺意に満ちた武装好き。
プラモは持ってない…すまない…。
閃光のハサウェイ上映時に発売されるであろうHGペーネロペーは絶対に買うので、許してバンダイ。
ミノフスキークラフトは、こっちがマザーマシンだと言うコトを思い知らせてやる!
何か最近フェネクス(ゴールドメッキ)が欲しいんですけど、多分気のせいだよね。

そしてこの回は、ディジェの心境に大きな変化が訪れます。
ヒューマンデブリ、と言う奪われる者でしかない子供達を前にして、ディジェは決意を新たにします。
トリクのディジェに対する考えも、ここでちょっと明かされていますね。

ここで取られるアビドの「対抗措置」が、ガチ過ぎて笑えない。
夜明けの地平線団への殺意に満ち溢れ過ぎてる。
イオクやラスタルと違って合法的にダインスレイヴ持ち出したり、迷い無く五個も艦隊使って討伐艦隊組織したり、当然のようにガンダム・フレームを二機持って行ったり――有能過ぎて怖い。
どんな手練手管、話術を使えば、セブンスターズ会議でダインスレイヴの使用を可決させられるんですかね…?(オイ考えろよ作者)


第四話「開戦」では、そのタイトル通りに、アリアンロッドVS夜明けの地平線団が衝突します。

ただその前に、ディジェは五人のヒューマンデブリ達をセブンスターズの権限で保護しました。
ディジェは今の自分の権限ではヒューマンデブリ制度を禁止するコトは出来ない、と理解しています。
世界経済が成立しているのは、ヒューマンデブリ制度が根底に有る為であり、例えセブンスターズ当主となっても、これを何とかするのは難しい。
一度現行の世界の体制を崩して、ヒューマンデブリが存在せずとも成立するよう作り直さないと行けないので、そんな「世界の体制が崩れる」変化を待たねばならない(それなりに年食ったら、自分から起こしに行くと思いますが)
その間は、目の前の五人だけでも…と言うのがディジェの考え。
トリクはそれが甘く、偽善的な考えであると分かっていながら、キッチリ賛同しています。
何だかんだでトリクも甘い。

一方、アリアンロッドVS夜明けの地平線団は、夜明けの地平線団が先制するものの――奇襲の為にエイハブ・リアクターを切っていたコトが災いし、ナノラミネートアーマーに守られない状況で、ダインスレイヴ隊の攻撃を受けます。
原作で、ナノラミネートアーマーに守られていたハンマーヘッドがあの有り様だったので、無防備に直撃食らえば沈みますよねそりゃ。
ここで速やかにエイハブ・リアクターを点けさせ、沈む前に艦から発進したゾレイの判断は的確。
艦をデブリの陰からちょっとはみ出させてしまった操舵手には、是非とも悔い改めて頂きたく。

出撃したレラージェ、ダインスレイヴを華麗に避けてアリアンロッドとの距離を詰める。
所詮真っ直ぐにしか飛ばないので、発射位置とタイミングが分かれば、ゾレイにとって避けるコトはそこまで至難の技でも有りません。
ダインスレイヴがヤバいのは、意識の外から狙われた時か、絶対に避けられないほどの数を撃たれた時だけ――と言うのが、私の個人的な見解。
前者は為す術無しですが、後者は弾頭を弾いて軌道を逸らすか、防げば生き残れると言うのも。
まあ、そんなコト出来るのは、厄祭戦時のやべーやつらだけなんですけど。

この時アビドは、ゾレイを「第四十九被験体(アーキタイプ)」と呼んでいます。
アーキタイプと言うのは、暴走事故後に第四十九被験体に付けられた、識別名のようなモノ。
オリジナル設定として、アインがプロトタイプ、マクギリスが成功例一号――と言うのが有りますが、展開に関係無い上に、無駄にオリジナル設定を増やすのは皆様の混乱を招きかねないと思って、結局出さずに終わりました。

ガンダム・ベリアルを持ち出したラスタル様があっさりやられた感じしますけど、これは単純にゾレイが強すぎただけ。
ラスタル様も弱い訳じゃないんですよ――伝わり辛いですけど。
嬲りに行ったのは、ゾレイのミスですかね。
エリオン家への怨みが溜まってたんで、致し方無し(元凶のヴェノムを殴り殺した時はちょっと意識飛んでたんで、消化不良だった)

しかし此処で颯爽と登場、ガンダム・プルソン。
地味に「アリアンロッド一のパイロット」とか言うアリアンロッド司令官、アビド・クジャンが降臨。
どんだけ有能なんですかねこの人…。
そりゃイオク様もああなりますわ。
何より、油断や増長を一切しないのが恐ろしい。

追い詰められたゾレイは、レラージェのリミッターを解除し――と言う所で、第四話は終了。
全五話中、二話がゾレイによって締められているという…。


第五話「ゼロの未来」は、番外編最終話。
サブタイは原作第一期のOP2「Survivor」二番のサビ部分の歌詞に有る「ゼロに戻った未来」を、ちょっと弄くって短くしたモノ。
この番外編からすると未来に当たる、本編時間軸に繋がる最終話なので「未来」と言うフレーズを盛り込みつつ、本編時間軸でのアグニカの宣言で「世界の支配体制が一度リセットされる=ゼロ(0)になる」と言う意味合いも有ります。
個人的には結構気に入っている、そんなサブタイ。

冒頭の幕間では、ゾレイ・サルガタナスの過去が描かれています。
なかなかに凄惨な過去――原作第一期でマクギリスが言った「阿頼耶識の研究は、近年まで行われていた」と言うセリフを膨らませた感じです。
行っていたのは、先代エリオン家当主のヴェノム・エリオン。
コイツは純粋なクソ野郎です、珍しいコトに。
私は敵にも何かしら「そうなるだけの過去」が有るべきだと考えるんですが…コイツの過去は特に考えてないです(オイ)

こうして過去を見ると、ゾレイの境遇は仕方無いと言えば仕方無いかと思います。
海賊行為を除けば、ゾレイ自身は特に悪いコトをした訳では有りません。
生まれた時からヒューマンデブリで、ヴェノムに買われて阿頼耶識を勝手に埋め込まれ、実験台にされ続けて来た――完全なる被害者、それが第四十九被験体(アーキタイプ)ことゾレイ・サルガタナス。
レラージェと共に暴走してヴェノムを殴り殺してますけど、まあヴェノムは完全に自業自得。
受けるべき報いだと言えばそれまでなんで、私個人としては同情の余地無しだと思います。

加害者であり被害者。
こう書くと、もう完全にゾルタン・アッカネン。
失敗作だってなぁ、見捨てられりゃ傷付くし、腹も立つんだよ。

おかげで(?)、ゾレイの台詞を脳内再生する時は、ちっとも声が安定しませんでした。
落ち着いて喋ってるとCV:池田秀一で、後半に猛ってる時はCV:梅原裕一郎――フロンタルとゾルタンの声を発する、謎キャラになってた…。
CV:梅原裕一郎は、鉄血だとユージン・セブンスタークって奴がいますけど…。

ゾレイには元々名前が無いので、ゾレイ・サルガタナスと言う名は本名でもあり、偽名でも有ります。
物心付いた頃から、ずっと「四十九番!」とか呼ばれ続けてましたからね。

そんなゾレイは、リミッターを解除してレラージェで大暴れ。
アリアンロッドがダインスレイヴを持ち出してなければ、多分あの場で艦隊は壊滅してました。
まあ、原作でもマクギリスのバエル一機を相手に大分翻弄されてたので…。

ここで描かれるのは、ディジェとトリクの決定的な違い。
ディジェは「理想主義者」であり、トリクは「現実主義者」です。
真っ向から相反しているのがこの二人。
諦めるトリクと、決して諦めないディジェ。
そんなディジェに呆れながら、共に戦うトリク。
近接戦担当のディジェ、狙撃戦担当のトリク。
互いに互いの短所を己が長所で埋め合う、私の思う「理想の相棒」であり「理想の友情」がこれ。
もしどっちかが女の子だったら、多分ラヴストーリーが展開されますが――まあそれはそれとして。

それからの総力戦は、割と短時間で決着。
キュルの犠牲でワイヤーブレードが無効化され、レラージェ撃破。
ゾレイの最期は「本当に俺は悪かったのか」的なコトを言わせたかったんですけど、なんか後味が悪くなると思ったし、どうやっても不自然になりそうだったのでボツになりました。
レラージェにサイコフレームが搭載されてたりしたなら、多分言えてたと思いますが。

その後は本編に繋がるような後日談、まとめ。
本編第三十二話「伝説の英雄」でのアラズ・アフトル――改めアグニカ・カイエルの、組織再編についての宣言を受けてのディジェ、トリクの対応。
何故トリクは招集に応じなかったのか、と言う理由付けとしての役割が大きい。
ぶっちゃけトリクは完結編の時に考案したキャラクターなので、後付けにはなってしまうのですが…。
そもそも名前自体が「エレク・ファルク…エレク…エレクトリック――じゃあ『トリク』で」くらいのノリで決められてるんで…(数秒で決めた)


そんな感じで、本編よりは美しく纏めて終わらせられたんじゃないかな? と、勝手に思っています。
主な執筆作業時のBGMは「機動戦士ガンダムUC」から「RE:I AM」「StarRingChild」「MOBILE SUIT」「FULL-FRONTAL」「MAD-NUG」「GUNDAM」「6thMob.UNICORN GUNDAM」、「機動戦士ガンダムNT」から「narrative」「VigilaNTe」「symphonicsuiteNT-no5」「synthenicsuiteNT-no1」など――って、全部澤野弘之サウンドじゃねぇか…フヘッ…。
ゾレイの初登場時に「FULL-FRONTAL」流すと、最早フロンタルでしかないので、是非一度お試しあれ。




さて。
キリ良く全体の話数が七十二話になった所で、本作「鉄華団のメンバーが1人増えました」の更新は、これを持ちまして完全終了となります。
本編だけでなくこんな所までお読み下さいました皆様に心の底より感謝し、全ての方に300APを進呈させて頂きます。
アグニカポイントと読むかアルミリアポイントと読むかは、皆様の一存にお任せ致しますが。

私は今後(と言うか明日から)、厄祭戦を改めて描く新作「厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-」にて、頑張って行こうと思っております。
本作の「厄祭戦編」を原作設定に沿って再構成したモノとなりますので、もしよろしければそちらもよろしくお願い致します。


それでは、また会える日が訪れますように。
ありがとうございました。

A.D.2019 NToz



以下、新作の宣伝です。
まずは真改零式さんより頂きました、新作の予告編を表裏の二つ。
以前活動報告に上げました「新作進捗状況報告」で小出ししたセリフを利用し、膨らませる形で作って下さいました。
ご相談を受けました折、ワードに関してなど少しばかり口出しさせて頂きましたが、最終的には大体丸投げしました(オイ)
表Verはタイトル出た後も演出有るので、一周するまで油断なされませんよう――格好良い&不穏&禍々しい&絶望感半端無いぜ…!
本当に、本当に本当にありがとうございます。
※投稿後しばらくの間、挿絵が見えない状況になっておりました。大変申し訳ございませんでした。

予告編・裏

【挿絵表示】

予告編

【挿絵表示】


もう一つ、新作のメインビジュアルをば。
こちらに使用しているタイトルロゴも、真改零式さんより頂戴致しました。
予告編共々、原作フォント完全再現。痺れるぜ。

メインビジュアル

【挿絵表示】


「厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-」、2019年4月3日22時45分より。
最大限期待を裏切らないよう努力しますので、気が向いたら覗いてみて頂けると、私が勝手に喜んだりします。




厄祭の英雄 -The Legend of the Calamity War-
序章「戦闘 -Fight of the Hero-」
第0話「厄祭戦」


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