死んだ目つきの提督が着任しました。 (バファリン)
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1話 着任式

皆様はじめまして。
ノリと勢いで構成されたナニカです
というか続くかもわからないので気休め程度に見て頂いてなにかご不満な点やこちらのミスが御座いましたら教えていただけたらな、と思います。


「えー……あー……っす。…………す。………す」

 

 何なんだろう、この茶番は。

 私、加賀は目の前の光景をいつもより数度低い視線を浴びせながらそう評した。

 

 今日は、“ある意味”で待ちに待ったといえる提督着任式。

 

 目の前にいるのは。どうにも覇気の欠けるまだ年若い男だった。

 提督としての制服は、だらしなくシワが寄っているし、(というか新品でしょうあれ)頭には寝癖が付いている。(シワの理由が判明)そしてやる気なさ気に丸められた猫背に―――何よりこの世界を無機質に見通すその腐った両目。

 

 ―――アウト。ギリギリでも何でもなくこの提督はアウトね。

 

 頭の中で答えが決した。周りを見てみると集まった他の艦娘達も大体似たような眼差しでその新提督を見ていた。

 

 話をしましょう。そう―――この鎮守府が、二ヶ月前まで俗に言われるブラック鎮守府だったという、ありきたりな話を。

 

 ここに前任の提督が来たのは、大体一年ほど前の事だった。その一つ前の提督は、ある日を境にパッタリと姿を消した。書置にあった理由では、持病の悪化ということだったが……果たしてそれもどうか。

 

 閑話休題。

 

 その前任は、来るやいなやで私達にある一言を言った。

 

『私がここに来たからには、お前達はすべて俺の管理下に置かれる。従って私の命令は遵守すべし。守れない奴はすぐに解体する。いいな?』

 

 と。どれだけろくでもない人間なんだと思ったがこれが実は序の口で、日を追うごとにソレの横暴っぷりもエスカレートしていったのは流石に笑えなかった。

 

 贈収賄は序の口。近くの街には提督として地域を守っていることを楯に遊び歩いて、街で女の人を何人も孕ませたとか。……笑いながらそんな下卑たことをほざいていた時は流石に艤装に手がでかけたわね……。いくら艦娘が見目麗しいとはいえ自分より力の強く、リスクのある事は出来なかったみたいで幸い私達にあの男の魔の手が伸びることはなかった。アレが一年も野放しにされていたのはそういうリスクの計算がうまかったからなのでしょう。

 

 私達には無理な遠征、出撃を繰り返させその間自分は贅沢三昧。周りも賄賂やらなにやらで似たような提督で固め、この付近ではだいぶ力のある提督として名を馳せていた。

 

 そんな生活も一年続くとなれてしまうのが恐ろしいもので、私達も心を殺し、ただの機械として無感情に敵を殺し。壊し。潰し。

 

 多分また一年先も十年先も。私達はこうして生きている(死んでいる)のだろう。

 

 そう思っていたが、その生活は呆気無くなくなった。ある日突然だ。突然、前任の姿が消えた。

 

 まるで夢だったかのように。

 嘘だったかのように。

 

 あまりに唐突すぎるその出来事に、実感も感動も湧く間もなかった。

 提督が居なくなったことにより、当然原因解明の為に大本営から人が遣わされ――その結果この鎮守府、ひいてはそのグループとかしていた周りの鎮守府の悪事が公に晒されることとなる。

 それからは早いもので、大本営はこのグループに所属していた提督たちを処罰―――と言っても半ば大きなグループと化していたこの付近鎮守府の面々が一気にいなくなるのは流石に痛手なのかあまり加担していなかったものだったり、事情があったり、上からの圧力によって所属させられていた者達は辞めさせられることなく、ある程度の処罰で済んだそうだ。

 私達はただそれをスクリーン越しに見るかのような冷静さで受け入れ、誰に命じられるわけでもなく、日々を送ってきた。

 そして今日ついに、後任―――つまり今。目の前のこの男がこの鎮守府に就こうとしている。

 

 見た目やら印象ならまだ前のほうが取り繕っていた。ぴっしり提督の制服を着こなし、人前では上手く仮面をかぶっていた。

 

 しかし目の前の男はどうだ。その片鱗も見えない。

 

 私達の前で話しながらも、その瞳はどこでもない、斜め上を向いて話している。声も小さすぎて何を言っているのか分からない。

 

 馬鹿にしているのか。そんなに私達を見たくないのか。声を聞かせる理由もないのか。

 

 瞬時に頭が沸騰した。真っ赤に染まる視界を、手を握り締めることでなんとか踏みとどまらせる。

 

 そしてそれと同時に私の心はどこか驚愕もしていた。

 

 ―――残っていたのか、こんな心が。

 

 怒る、だとか。そんな気持ちが。ただの兵器である私に。

 

「あー……えーっと……」

 

 目の前では、まだ新提督がダラダラとなにか言おうとしている。―――しかしそこに、後ろに控えていた別の誰かがその男に寄っていく。

 

 シルエットからして女性だ。あいにく帽子を深く被っているせいで顔が見えないが、肩上で切り揃えられたショートの髪がふわりと舞った。

 

 その人は、新提督に耳打ちをする。

 

「えっ……嘘っすよね? やめてくださいよ……ほんと……はぁ。分かりましたって」

 

 何がわかったのだろうか。新提督は、今まで逸らしていた視線を不意にこちらに向けた。

 何故だかその目は最初より淀んでいるようにも思える。何を言われたのだろうか。

 

「……聞いてると思います……思うが、俺が今日から新しくこの鎮守府で働かせてもらいま……貰う、比企谷です……だ」

 

 ですだって何なのよ。

 無理に敬語を使うんじゃなくて、無理にタメ口を聞こうとしてるのが逆にシュールね。

 それを見て、先ほどの女性が肩を震わせていた。随分楽しそうね。

 

 そこまで言って、新提督はため息を吐いた。それが何に向けてなのかは、分からない。

 しかし今までダルそうに緩められていた死んだ目を、若干きつく釣り上げて彼は語りだした。

 

「……ここの話は、とりあえず聞いてる。だからきっと、俺への印象なんて最悪だろうしまともに触れ合いたくもないだろう」

 

『……』

 

 あまりに突然の発言に、みんな一様に驚いてそちらを見るが、すぐにハッとして俯いた。

 

「……だから俺は別に、ここで今度は仲良く行こうね! だとか、俺はそいつと違うからそんな事はしないよ! だとかありきたりで性根が腐ってなんの確実性もないアホなことを抜かすつもりは毛頭ない。つーかそんなんで信じてもらおうと思うほど俺は真人間じゃねーし何ならそんな人間だったらぼっちじゃないまである」

 

 ぼっちなのね……それはともかく。

 

「つーわけで、予め言っておこうと思う。俺の話なんて大して聞かなくていいが、これだけは心して聞いてほしい。それはだな、俺は自発的にお前達に関わろうとしないし、そっちも関わらなくていい――っていう相互不干渉案だ。もちろん事務的な話になると別だが、それ以外では完全に他人。何なら見ず知らずの人まである」

 

 どうだ? とその案をどこか誇らしげにさえ言う新提督を見て、私は思わず見直した。

 

 ――――アウト。ぶっちぎりのレッドゾーンを大きく上回った地雷よコイツ。

 

 もちろん、下方修正だが。

 もう一度女性を見やる。

 

「ぶふっ……! さ、最っ高……!

 比企谷君、相変わらず最っ高……!」

 

 もはや隠す気もないのかケラケラ笑っていた。

 

「そんな訳で、もういいっすか……? 俺疲れたんで部屋に引き篭もって買ったばっかのラノベ読みたいんですけど」

「えー、何いってんのよ引き篭もり谷君。あ、皆もお疲れ様。各自いつも通りの動きで宜しくね。戻っていいよー」

 

 女性がそう言って、軽い敬礼をする。これが艦娘だったらそのふざけた敬礼の仕方を小一時間問い詰めてから徹底的に強制するものだが、なぜかこの女性の敬礼はこれこそが一番彼女にあっていて、正しくも感じるという不思議な感覚に襲われる。

 

「は、はい。それでは戻りましょうか」

 

 私の横にいた赤城さんがそう言うと、皆もぞろぞろと通常業務に戻ろうとするが、その足取りはどこか拙い。

 

 ……不安、なんでしょうね。

 

 むしろあれを不安がらないほうが無理な話なのだけれど。

 

 新提督は、先ほどの女性と会話している。……すごい迷惑そうな顔で。

 それに対し女性はとても嬉しそうだ。というより新提督……いや、比企谷提督の顔が苦々しく歪むたびに笑顔になっていってるようにも思える。

 

「ほんと勘弁して下さいよ。絶対無理じゃないすか」

「あははー。いいじゃないいいじゃない比企谷君。こういうのは慣れっこじゃない。もう私はここを見た瞬間確信したね。君しかいないって」

「それ君しかいないの前に、ここで仕事をしてみんなに虐められて嫌われて最終的に海の藻屑になるのはって付きますよね?」

「相変わらず自虐的だねぇ。ま、そんなところもおねーさん大好きだけど」

 

 そんなやり取りを尻目に業務に戻る。

 だって結局、何を考えてもどうしても。

 

 私達機械には、兵器には、出来ることとやることなんて決まっていて関係なんてないのだから。

 

 だから提督がどうなろうとあれ以上であろうと以下であろうと、私達には関係ない。

 

 ―――そう、思っていた。




艦これは一昨日はじめました。楽しいですね。でもふざけて建造しまくってもう開発資材が無いです。デイリーで1日一個だけなんとか獲得してますがもっといい方法ないもんですかねこれ……というか初戦艦が大好きな榛名ちゃんだったんですがなんでこれ三越のあれなんですかね……これがデフォなんでしょうか?


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2話 経緯

2話目です。
基本的に1話3000文字前後で行こうと思ってます。

今回は色々こじつけっぽい話の大筋をば。




『ねぇ比企谷君。提督やってみない?』

 

 そんな一本の電話が、事の発端だった。

 

 俺が大学に入ったのと大体同じ頃、それは起こった。

 深海棲艦と呼ばれる、異形の者達の侵攻は。

 

 幸い、人的被害はなかった。

 幸いというか、この場合奇跡的にという他ない。それは、艦娘と呼ばれる人工の存在達を、提督と呼ばれるその艦娘たちのトップが引き連れて助けてくれたからだ。

 

『おや? 君は才能があるようだね』

 

 その言葉が、今でも忘れられない。

 今はその言葉があったからこそとも思えるが、あの時の俺は少なからずその発言をした奴に対し恨みを覚えたし怒りもした。

 どうやら提督の業務につくには、ある種の資格が必要らしい。妖精と呼ばれる存在を見ることができるか否か、だとか。

 

 ちょうど俺らの住む地域を深海棲艦達が襲いはじめた頃から、一気にその化物達は活動を始め、世界的な大問題へと発展したのだ。

 もはや他国との摩擦がどうとか言ってる場合じゃなくなる程、といえばわかりやすいだろうか。

 

 それから3ヶ月も経つ頃には国と国で貿易するにも命懸け。嫌な時代になったもんである。

 そんな中、政府がある法案を打ち出した。それが“提督適性者雇用法”。

 

 読んで字のごとく、提督の適性を持つものを国で雇用して面倒見ますよ、だ。

 

 正確に言い直そう。

 

 提督の適性を持つ人間は即時首に鎖を繋いでその命が尽きるまで国で飼い殺しますよ、だ。

 

 勿論命の保証がない分かなり給料はいいし、そういう面だけ見ればかなりエリートになるんだが……提督の仕事だけはやりたくないと思った俺は、適性があるということをバレないようにしていた。

 

 だってやる事は艦娘を指揮して時としては自分の采配ミスで死ぬ場合があるんだぞ? 俺にそんな器はない。そういうのは葉山とか雪ノ下とか雪ノ下姉のやる様なものであり、まかり間違っても俺の様な人間ができる仕事ではない。

 

 だからこそ適性があるとバレてもなんとかかんとか躱しに躱し、上手いこと逃げてきたが……それもついに終止符が打たれる。

 

 それが、その原因こそがこの大魔王。

 雪ノ下陽乃なのである。

 

『ちょっと、何言ってるかわかんないんですけど……』

 

 待て、落ち着け比企谷八幡。冷静さこそが俺の取り柄だろうが。クールに行こう。クールに。

 

『え? そのままの意味だよ? 提督になろうって誘ってるの、私が』

『俺の夢は専業主夫なので残念ですがお断りさせていただきます。それでは失礼しま』

『ふーん、じゃあ雪乃ちゃんが見ず知らずの脂ぎったおっさんに嫁いじゃってもいいわけー?』

 

 通話終了を押すはずの親指が、動きを止めた。

 

『どういう、事ですか?』

『お、いいねぇ。そこで食い付くとは今のは陽乃さん的にポイント高いよ?』

『そういうのはいいですから、聞かせてください』

『もー。そんなにがっつくと嫌われちゃう……って分かったわかった。携帯ミシミシ言ってるから落ち着きなさい比企谷君。えーっと、今この地域を守ってくれてる鎮守府の提督の事、知ってる?』

『……まぁ、ある程度は』

 

 苦々しい返事をする他ない。それ程その提督は有名なのだ……悪い意味で。

 

 悪行三昧という言葉が正しい。俺はあまり外に出歩かないから知らないが、外では相当なことをやってるらしい。

 

『でもそれが一体どういう……』

『この前、雪ノ下グループの方で会食が合ってね。雪乃ちゃんが出席してたんだけど、そこにその提督も呼ばれていたんだって』

 

 そこまで聞いて、だいたい話が読めた。

 

『それでねー。その提督が雪乃ちゃんに―――』

『いや、もういいっす。それで俺はどうすればいいんですか?』

『……まだ話は終わってないけど?』

『俺は終わったと思ってます。それで、俺に何をしてほしいのか、早く答えてください』

『……私が今から嘘をついたりすれば君はまんまとハマることになるわけだけど、それでもかな』

『馬鹿にしないでください。貴方がそんなことするわけ無いでしょう。雪ノ下陽乃は策を弄しても、嘘はつかない』

『はぁ……こんなに思ってもらえて雪乃ちゃんが正直羨ましいよ。というかホント今ドキッと来ちゃった。責任とってくれるかな?』

『はいはい今度荷物持ちでも何でもしますよ。それで?』

『むー……まぁそれは今度報復するとして、本題に入るよ』

 

あの、可愛らしく報復とかいっても全然可愛くないですからね?

 

 

 

 ◆

 

 

 そうして雪ノ下陽乃の計画が頓挫するわけもなく、それは当たり前のようにとんとん拍子に進み、あの運命の電話の日から半年が立った頃には俺はここに立っていた。

 

 まぁ勿論そんな簡単な話ではなかったけどな。提督というのは、言うまでもなく国防の一端―――どころか今では国という垣根を超えて世界で最も注目を浴びる職業だ。おいそれとなれるものではない。したがって俺に求められたのは最低限の提督としての知識と、軍人としての力だった。

 

 嫌だね……元々ぼっちでインドアな俺がどうしてことしてるのか、本当に分からなくなるくらいの苦行だった。座学は暗記物が多かったからまだしも、ホント実技に関してはトラウマしかない。

 

 そんな苦々しい記憶を思い出しながら、俺が今いるのは提督室。小奇麗に整えてある空間は、自分の部屋よりも広い。

 俺はこれから一生この檻の中で死ぬまで飼い殺されるのか。

 

 そう実感した瞬間、足から力が抜けた。ソファーに力なく倒れ込む。

 

「俺はなんでこんなアホなことしちゃったんだよぉおおおおおお」

 

 もう手に入らないのだ! 専業主夫という夢は星の彼方へと消えていった。

 まぁ、元々なるつもりも無かったけどな。正確にはなれると思っても無いけど、だ。今の時代専業主夫なんてものをやってられるのはそれこそ相手が提督を務めるくらいじゃないと厳しいだろう。今はまだ出来たとしても、多分十年後にはさらに厳しくなっていると思うし。

 もう、なってしまったものはもう仕方ない。諦めるのだ。むしろ俺は今国家公務員のそれもエリートである提督になっているわけなのだからむしろ超勝組なんだ。そうだ。こんだけステータスが揃ったら俺もモテるんじゃ……なんて妄想は止めておこう。未来の俺の為に。

 

 柔らかく沈み込むソファーでびったんびったんひとしきり跳ね周ってからムクリと起き上がり悪態を漏らす。 

 

「本当に人の夢ってやつは儚いもんだな……」

 

 俺はソファーに座り込みながら持ち込みのかばんをがさごそと漁りMAXコーヒーを取り出して一口。

 

「人生も現状も夢も苦いんだからコーヒー位甘くないとなぁ……」

 

しかし、このご時世良くMAXコーヒーがまだ売っているもんだと思える。現状貿易が困難な状態が続き、日本の有名メーカーなどでも嗜好品の販売終了などがちょくちょく起こっている……のに対し何故か相変わらず料金も一緒でマッ缶は売っている。流石は千葉、と言うべきか。世界規模の問題が起ころうとMAXコーヒーの前では霞む存在らしい。まぁいつマッ缶がなくなってもおかしくない現状、俺は沢山買いだめしてあるけどな。

 

 コンコン。

 

 控え目なノックの音が広い提督室に木霊した。

 

「ひゃ、ひゃい! ど、どうひょ!」  

 

 ……もう何なんですかね、このドモり癖。死にたい。

 自分の情けなさにどんよりしていると、いよいよドアノブが回されその奥から人影が入ってきた。

 

「失礼する」

 

 そう言って入ってきたのは艶やかな長髪の黒髪の和風美人だった。

 

「長門……さんですか」

「うむ。敬称はなくていいぞ、提督」

「……」

 

 急にハードな要求やめてくださいよ長門さん……。俺みたいなボッチが急に女の人を呼び捨てにできると思ってんの?

 

 ていうかこの人平塚先生に雰囲気にてるんだよな。この、できる女オーラとか……若干漂う残念感とか。

 

「そ、それでなんの件でひょ、しょうか」

「……あぁ。聞きたいことが1つな。提督、あの発言は一体どういう事だ?」

 

 あの発言、という言葉がどの発言を指しているのか分からず少し悩む。

 

「相互不干渉、と言うやつだ」

「あ、あぁ。なんかまずかったすかね」

「まずいとかそういう話ではない。そもそもがおかしいだろう」

「え、なんで?」

 

 一体何がおかしいのか皆目検討もつかない。あれこそがベストなアンサーだという自信があるし、むしろデメリットを提示してほしいまであるんだが。

 

「なんで本気で不思議そうな顔ができるんだ……。そんな事をしてしまったら提督に支障が出るではないか」

「……なんでですか? 事務の方では流石にやり取りが必要だとも言ってあるし、流石に仕事なんだから皆もそれくらいは我慢してくれるんじゃないすかね」

「いや、そうではなくてだな……」

 

 ダメだ、話が噛み合わない。

 

「えーと、長門……さんは結局何を問題だと思ってるんすか?」

 

 そこをまず明確にしてもらわないとまず意見さえ言えない。

 

「だからそれはだな……」

「長門さんが言いたいのは、それだと提督の印象が周りから悪すぎる、という話でしょう?」

「か、加賀!?」

 

 そう言ってまたドアを引いて現れたのは……無表情にも見える冷たい視線が特徴的な女性だった。

 

 ……なに、今日は人と関わりまくらなきゃいけない日なの?




陽乃さんのいた理由が解明。
ただし扱いに困る。

ヒッキーは原作から変えないようにそのままに書くのが目標ですので。違和感なんかがあったら教えてほしいと思います。

読んでいただいてありがとうございます!
ご感想誤字脱字などのご報告も頂けたら嬉しく思います。

※4/13 改正
※5/10 改正


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3話 執務室にて

三話目です。
ちょっと展開が早すぎるかな? とも思いましたがなにかおかしな点がございましたら教えていただければ嬉しいです。


 加賀と呼ばれた女性が、長門の言葉を補佐するようにそう付け足すが、俺は尚更理解及ばないと首を傾げる。

 

「俺の印象? ……いやまて、そもそもなんで長門さんが俺の印象なんて気にする必要があるんすか?」

「……ぐっ。ただ嫌なだけだ。理由も何もなく一方的に嫌うだとかそういうのがな」

 

 いや、もちろん惚れちゃったから、とかそんな理由に期待はしてませんよ?

 ホントホント、ハチマンウソツカナイ。

 

「あー……そうだったんですか。いや、なんかすいませんね、ありがとうございます―――でもそういうのはいいんで。俺の評価とかそんなんクソ喰らえだし。気にしなくていいっすよ」

 

 飲みかけのマッカンに口を付けながら、当たり前のように言う。

 

「へ? な、何故だ?」

「だってそれが間違いだとも限らないでしょう? 逆に聞きますけどね、今二人は俺が清く正しい清廉潔白な提督だと保証できますか?」

 

 二人はその言葉に押し黙った。当たり前だ。こんな問なんてまず答えが決まっている。

 

「……ないな」

「……ですね」

「ですよね? じゃあまずこの時点でここの艦娘たちと触れ合うことによって俺がいい人であると知ってもらう、なんていう事が無理であることが分かりました。この場合前提が俺がいい人であることだから、です」

「では。……では、貴方は、提督、は。また、“同じ”なんですか?」

 

 加賀が言うその言葉には、軽口で答えられない重みがあった。

 俺はここに来る前に、陽乃さんによってこの鎮守府で行われていた事はある程度知っている。ある程度というか、書類上では全て知った。しかしそれはどこまで行っても書類の上だ。

 現場でしか知らない苦痛があるだろうし、むしろそっちのほうが多いはず。

 

 だからその答えくらいには、誠実でありたいと思うのだ。

 

「違う。って言いたいところだけど正直良くわからん。……人間ってのはな、どこまで行っても即物的で俗物的だ。目の前に餌があればすぐ齧り付くし、その餌を奪いそうな奴がいたら潰しに掛かる。結局その前だってそうだったんだろう……。嫌な奴が最初から嫌な奴だったとは限らない。良い奴がずっと良い奴だとは限らない。そんなもんだ」

 

 自分で言っていて、なんて救いのない話だろうと笑いそうになる。

 しかしこれでいい。これがいい。

 比企谷八幡は欺瞞を許さない。

 

 やさしい嘘なんていらない。

 

 綺麗な正しさなんて必要ない。

 

 必要なのはもっと汚くて正しくなくて歪な本物だ。

 それこそが俺なのだから。

 だからこそ俺は隠さない。求め続ける限り、俺は俺の信じる本物とやらに目を背けないと決めたのだから。

 

「なら、なら私はどうすれば……皆はどうすれば救われるの……」

 

 加賀が絶望に満ちた声でつぶやいた。俺の答えがよほど不満なのか長門は腕を組んでこちらを見据える。……あの、長門さん? その腕ぎりぎり言ってますけど、その怒りを俺にぶつけないでくださいね?

 長門に殺されないようにソファーから立ち上がって長門から距離を取りつつ、言葉を続けた。

 

「どうすれば救われる? そんなの決まってる。自分を救った時、それだけだ。所詮人間なんて誰かを救うことなんて出来ない。できるのは精々救った気になる事くらいだ。本当に救われたいと思った時にそいつを救えるのはそいつ自身でしかない。……話は逸れたけど、結局そういうことだろ。俺がどういう人間だとか救いだとか云々も、結局自分でどうにかするしかないだろ? そこで誰かに頼った瞬間もうそれは別のナニカだよ。だから……か、加賀? さんもそういうふうにしたらいーんじゃねーの?」

「ふむ、そうか……」

 

 今まで静かに俺の話を聞いていた長門は、ツカツカと足音を立てながら近寄ってガシッと俺の肩に手をおいた。

 なんなんですかね。ちょっと痛いんですけど。

 そんな俺の様子なんて気にも留めず長門は続ける。

 

「じゃあいまの話によるところ、お前が見てお前が決めろ、という事だな?」

 

 いやちょっと近すぎるでしょ。ぼっちとの距離感くらい空気で察しろよ。そんなパーソナルスペースにズカズカ来られたら惚れちゃうだろうが!

 

「ま、まぁ概ねは」

「じゃあ私はこれからお前を色々と見てみることにしよう。なに、腐った目をしてるが中々いい事言うじゃないか提督よ」

「腐った目は余計だろ。ってか、いいのかそれ。俺に変にかまったりしたらハブられたりしますよ。その内うわぁ、あいつと付き合ってるんだってーとか噂立てられて教室の黒板にでかでかと相合傘で名前書かれて泣いてまるで俺が悪いみたいになって先生に呼ばれるんですよ……?」

 

 あ、ダメ。思い返すだけで心が痛くなってきた。ついでにいうと田島さんにはその後から話しかけてもらえないどころかみんなに便乗して陰口を言われるまでの仲となりました。

 

「嫌に実感のある説明だったな……。まぁそんなことはあるまい。まず提督と私では釣り合いが取れんからな。せめてもっとかっこ良くなってからではないとこのビックセブンは沈められんぞ?」

「ほんとそんなところまで平塚先生みたいに格好良くなくていいだろ……」

 

 あまりに男前な言い草に、思わずタバコを吹かしながらニヒルに微笑む平塚先生を思い出す。あのひと元気にやってんのかなぁ。

 

「まぁなら俺は知りませんけど……それで後々文句つけてきたりしないでくださいね」

「文句ならもうある」

「もうあるの!?」

 

 早くね? まだ誰とも噂されたりしてないよ? 八幡菌はそんな即効作用なの? エンガチョされちゃうの?

 

「あぁ、その敬語だ。お前が提督で私が艦娘なんだ。それくらいの上下関係くらいは守れ」

「えっ、あぁでも如何にも長門さん俺より歳食って―――」

 

 ズアっ! 目の前にいつの間にか拳が存在した。

 

「……次は、ないぞ」

 

 やべーよこいつ。完全に一人は殺ってるよ。いや深海棲艦ならすごい量やってる筈だからあながち間違いでもないか。て言うか上下関係言うならそんな暴力で脅さないでよー。

 歯の音をガチガチ鳴らしながらなんとか言葉を返す。

 

「ひょ、ひょうかいでふ。ながとふぁん」

「長門と呼べ。あと敬語」

「……わかった。長門。あー……その、なんだ、よろしく頼む」

 

 恥ずかしい訳じゃないが、何となく壁の方を向きたくなって壁に視線をやりながらそう零すと、長門は呵呵と笑い、

 

「どうやら今度の提督殿は随分と捻くれ者らしいな。ふむ、そろそろ戻らないとまずいな。ほら加賀、行くぞ」

「え、ええ……失礼、しました」

「ん」

 

 そんなこんなで、これが俺と艦娘によるファーストコンタクトだった。

 

 

 ◆

 

 

 提督室を出て、二人で歩く。カツカツと地面を蹴る二人の足音と、遠くで聞こえる訓練の掛け声がやけに耳をついた。

 私はそんな沈黙を破る為に、隣で凛とした佇まいを崩さない長門さんに声を掛けた。

 

「ねぇ……長門さん。貴方はどうしてそんな簡単に信じられるの?」

「ん? どうした加賀。何を言っている、私があいつの事など信じるわけがないだろうが」

「え?」

 

 その答えが私には意外で、思わず気の抜けた声を返した。

 

「あいつが言っただろう? 自分で見極めろと。ならば私は疑うだけだ。あの目の腐った提督がどんな人間なのか。どういう存在なのか。疑って疑って疑う。それは相手も理解していたようだしな」

「なぜ……どうして……」

 

 そんな前を向いていられるの?

 理解できない。いやこれが別の艦娘だったなら良かった。

 でも長門さん。貴女は……。

 

「多分、信じてみたいんだろうさ」

「……」

「恐らく、この鎮守府で一番現状が怖いのは私なんだ。あいつがどういう男で、どんなことをするのか。……はは、笑えるだろう? ビックセブンの名が聞いて呆れる。でもそれでもいいさ。あんなことがまた起きて欲しくない。また次あんなことがあれば、きっと私はもう立ち直れない。それはきっと、“長門”としても、私としてもな」

「…………」

 

 絶句する。いつも気丈に振舞っていた彼女が、まさかそこまで思い詰めていたなんて。我が身可愛さで恐怖に震えていた私のなんて愚かしいことか。余りの自分の勝手さに嫌気が差す。

 

「私が犠牲になってでも、この鎮守府の皆はやらせんし、絶対に守る……と、最初は思っていたんだがな。なんだか毒気が抜かれたよ。あの捻くれ者には」

 

 そう言われて思い出す。あの情けない姿を。今にして思えば、あの朝の着任式も恥ずかしくて目を逸らし、どもっていたことが分かる。良くそれで提督なんていう業務をしようと思ったな、とは思うが前任に比べれば人間味があって悪くない。

 

「最初見た時は、怯えが見えた。こいつも結局兵器である私達に怯えてるのか、と失望した。まぁそれならそれで執務室やらなにやらで脅しでもかければうまく傀儡にすることもできたのかもしれんがな」

「す、すごいこと言うのね……」

 

 一歩間違えたら秒で解体なのは間違いなかった。

 

「確かにあいつは距離をとっているし、怯えていた。がそれはどうにも“長門”にでは無かったよ。さっき肩を掴んだ時確信した。あいつは私自身に怯えていたんだ……くくっ。おかしいだろう?」

 

 ……今時、艦娘のことを知らない人間というのも滅多にいない。見た目の美しさだったり、種類だったり。はたまた……人間を簡単に潰すことのできる怪物性だったり、だ。

 

 例えば自分が肌身離さずつけている艦装に意識があり、もし敵対意思を持つ可能性があるとしたら確かに怖い。

 多分。私達を悪く言うような奴らはそういう感覚なのかもしれない。

 

 しかしではそれが怖くないというのに私達に怯えるというのは些か不可解である。

 

「知らない他人が怖いのさ。何も知らない。私達という個人が怖くてたまらない。――何も私達と変わらないただの人間だったよ」

「そうですか……。でも、私達は兵器です。人ではありません。……兵器なんです」

 

 私は長門さんの言葉に反応する。思わず口をついて出た言葉は、まるで自分を納得させるために吐いた言葉にも思えた。

 

「……そうだったな」

 

 少し力なく返事した長門さんの口元には、淡い笑み。

 その笑みがとても儚く、まるで今触れれば壊れてしまいそうなほど弱く見える。

 

「さ、そろそろ行くか! 私達がいないとあいつらは不安だろうしな!」

「……えぇ、そうね」

 

 結局触れることも出来ずに長門さんから言葉は打ち切られた。

 手を伸ばすこともせず、近づき合うわけでもなく。

 二人の本心はどこかに隠れたままで。

 

 それでも時は流れていく。




読んでいただいてありがとうございます!

ご感想誤字脱字その他問題点の指摘などございましたらよろしくお願いいたします!


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4話 怯え

四話目投稿です。
一日一回更新がとりあえずの目標です。

では、どうぞ。


 カリカリカリカリ。

 

 案外こういう新しい職場に来たら挨拶回りでもさせられるもんかと思っていたが、どうやらそうでも無いらしい。執務室で長門と加賀との話を聞いた俺はそのまま部屋でラノベを読んでいると書類を抱えた艦娘が入って来てそのまま早速の実務に取り掛かることとなった。

 

 それから早一時間。

 俺の一挙一動に嫌な感じの反応を返される艦娘の姿にチクチクダメージを受けながら提督の業務についてあらかたの事を聞き終わり、本格的に作業を開始する。

 

 書類仕事に関してはここに来る前に半年かけてみっちり扱かれたおかげでどうにかこうにか食いついてる。現場と練習じゃそりゃ違うよな。そんな当たり前のことに頭を抱えながら、それでも何とか仕事はこなせていた。

 

しかし、これは如何なものだろうか。

 

 手を止めて、ちらりと提督用の執務机の横に繋がるようにして設置された―――艦娘専用の机。

 そしてそこで顔になんの感情もない無を貼り付けながら作業を淡々とこなす艦娘の姿。

 どういうことだと思って聞いてみれば、秘書艦と呼ばれる提督の事務の補佐を担当する役割が存在するらしい。

 

 聞いてない。聞いてないってばよ雪ノ下さん。

聞けばこの鎮守府のローカルなルールというわけでもなく、すべての鎮守府がとっている物らしいし、あの人がそんな初歩的なことを教え忘れるとは思えない。

 

 脳内で実に愉快そうにその美しい顔を微笑みにかえてこちらを見つめる大魔王の姿を幻視した。

 

 そしてその作業を今やっているのが、金剛型の3番艦―――榛名だ。

 見た目自体はすごく可愛らしい女子。ちょっと雪ノ下の雰囲気を柔らかくして……ある部分が異変レベルで急成長したら瓜ふたつかもしれない。どことは言わないが。

 本人にはこんなこと絶対に言えないな、と思いながらもそんな考えに耽る。

 

 しかし現状、いくらぼっちで彼女いない歴イコール年齢の俺でも、可愛い娘と同じ空間にふたりっきり! 心臓の音が相手に聞こえてないかな! ドキドキ☆ とかやってるような余裕がなかった。

 

「…………」

 

 もうね。ずっとこれなんだよ。かれこれ一時間くらい無表情。本当に機械かと疑うレベルで顔が微動だにしない。ここまで来ると狂気を感じてくる。

 

 正直やりにくいったらありゃしない。書類自体もまだまだ多いし人手は多いほうが助かるのは事実だが、それよりも俺の精神衛生上的には遥かに一人のほうがやりやすいのだ。

 

 さすがにその様子を見かねて、俺はため息を吐く。

 

「……ッ!」

 

 するとそこで、相手はようやく反応らしい反応を見せた。

 まるで今までの無表情が嘘かのような、自分より巨大で強力な肉食動物にあった小動物の様な。

 そんな目に見えた怯え。

 

 そこでようやく理解する。

 ―――こいつは俺を嫌っているのではなく、恐怖を抱いているのだと。

 この無表情はただの防衛措置の一つでしかなく、その薄っぺらな壁の向こうには怯えが渦巻いていたのだ。

 急激に親近感が湧いてきた。

 マッカン飲む? とか聞いちゃいそう。わかるわー、わかるわそれ。

 知らない人ととか身近にいたらほんとそんな感じになるよね。もう急に背伸びされた時とかびくってなるよね。わかるわー。

 ……ただこの場合怯えられてる対象が俺だという事実に若干落ち込んでしまう。

 

「……あ、あの、もう後の業務はこっちでやるんで……帰ってもらって結構すよ」

 

 しかしそこまでなっているのに一緒に仕事やるのは2人の心情的にも良くない。何なら一人のほうがよっぽど楽まである。ソースは俺。ずっとそんなふうに考えてましたので。

 

「……いえ、業務ですから」

 

 強がりなのか何なのか、相手はそれを即座に否定した。

 あっ、もしかして気を使われたとでも勘違いしているのか? 違うから。余裕で俺の為だから。

 心底面倒くさいがこの空気が続くよかマシだ。俺は席を立ち上がり、相手に聞こえるような声で告げる。

 

「いや、ほんと大丈夫ですって。もう仕事の内容は理解してるんで……というか、そんな怯えられながら仕事する方がアレなんでもう大丈夫っすよ……アレしてもらって」

 

 あー、もうこうなるからさっきので帰って欲しかったんだけどなぁ。なおこの時点で目をそらしている俺はヘタレチキンと罵られても甘んじて受け容れる。

 しかしそこで、相手が何こいつムカつく。マジキモインデスケドー。とか言いながら出てってもらえるのが理想だったんだが、何故か相手はそこで席を立ち上がりこちらを睨みつけた。

 ホント美人の睨みつけって威力高いからやめて欲しいんだが!

 

「お、怯えてなんかないです! 私は、榛名は大丈夫です! 貴方になんか怯えません!」

 

 貴方になんかって言っちゃったよこの娘。しかしそれにしてもちょっとカッチーンときましたよ。

 え、いいの? 

 ハチマン論破しちゃうよ?

 今もう頭の中に論破できる材料たくさんあるからね? やるよ? やっちゃうよ?

 

「はいはい嘘乙嘘乙。そんな声震わせといて怯えてないは無いだろそれ。いいからそういう強がり。な? お互いの為なんだから。あとからなんか言ったりしないからもう行っていいぞ」

 

 この時、あくまでこっちが折れてやったというスタンスを取るのがポイントだ。こうする事で相手にイライラさせることが出来る。

 

「なっ……なっ……! 違います! そんなこと無いです! そもそも私がなんで人間のあなたなんかに怯える必要があるんですか! 力だって私のほうが強いんですから、怯えてるのはそっちでしょう!」

「は? 俺がいつ怯えてねーなんて言ったよ話聞いてましたかあれれー? お前みたいなリア充してますぅみたいな典型的美人の側に居たら俺みたいな高尚ぼっちさんが怯えないわけ無いだろ。良かったな俺の気持ちが分かって。分かったなら今すぐそのリア充オーラみたいなのを潜めてぼっちにも優しい静かなオーラで毎日を過ごせ」

「は、はぁ!? 何言ってるんですか貴方!」

「それにお前何さり気なく俺のこと恐喝してんだよ。ビビるからやめろ。法に則ったジャスティス攻撃で精神ダメージ食らわすぞこら。ねぇ言い返せるの?

 俺に反論できるの? どんな気持ち? 今どんな気持ち!」

「う、ううううう」

「う?」

「うええぇぇぇぇ……」

「えっ」

 

 ハイ論破ァ! と思った瞬間に相手が泣き崩れました。

 どうしよう……どうしようこれ……。

 

 女の子なーかせたコールが脳内で鳴り響く。やめろ! 俺が隣の席の佐藤さんの消しゴムが地面に落ちてたから拾ってあげただけだろうが! なんでお前泣いてんだよ! あああトラウマがぁ!

 

 俺もが床に崩れ落ちそうな精神ダメージをなんとか堪え、おろおろとしつつもなんとか慰める。くっ……こんな慰め方小町にだってしたことねぇぞ!

 

「いや、その、悪かった。言い過ぎたよな? ほんとそんなつもりじゃなくて、あの、ええと」

「うううううなんでそういうこと言うんですか、私だってほんとはこんなことしたくなかったのにうええぇぇ!」

「わぁ悪化した。いやそうじゃなくてお互い嫌なら片方がやったほうが絶対いいだろ? んでそっちが辛そうだったからそれを見てる俺も辛い。そこまではわかるな?」

「はいぃぃ……」

 

 返事しながら泣くなよ面倒くさいな。

 

「そうなると自然に俺が一人でやったほうが絶対精神的にもいい。な?」

「私一人にやらせればいいじゃないですかばかぁぁぁ」

「バカって言うな仮にも上司だろうが! っていうかそれはおかしいだろ? 俺提督だろ? ならこの仕事は俺のだろ? なら俺がやるのが正しいよな?」

「……ぐずっ。前のは全部私達にやらせてましたから……。自分は遊び呆けて」

「……あー」

 

 原因解明。だーからずっと今日はあんな怯えてたのか。普段いない奴が一人いただけで一気に空気って重くなるよな。そうそう……あの、仲良しグループしかいない時に教室に戻っちゃった時とかもうね……。

 

今日はやけにトラウマを掘り返す日だな。

 

「まぁ確かにお前から見たら前のも俺も変わりないのかもしれないが、少なくとも俺は最低限求められた仕事くらいはこなすつもりだ。今後からはそういう認識で頼む」

「……今後?」

 

 ん? なんでそこで疑問形になんの?

 相手は泣き止んではいるがまだ真っ赤に充血した目のまま先程の勢いはどうしたというしゅんとした態度のまま聞いてくる。

 

「解体、するんじゃ無いんですか?」

「は? しねーよ」

 

 大変アホらしい答えを、俺は即座に切り捨てた。




終わり方が雑で申し訳ないです。

それと早くも約130名もの方々にお気に入り登録して頂きました。皆様有り難うございます。

俺ガイルと艦これのブランド力半端ねー……と恐れ慄きながら執筆させていただいております。

それと早速ですが、
御影 玲夜様 だいそんそん様 プテラ様 OMIT様
Name Less様 きたのん。様 その他匿名一名様

の以上七名様に拙作を評価していただいたこと、この場をお借りして御礼申し上げます。
勝手にお名前をお借りして申し訳ございません。何か不都合がございましたらお申し付け下さい。迅速に対応させて頂きます。

長々と失礼致しました! 
兎にも角にも読んでいただいてありがとうございます!
感想誤字脱字や疑問点や問題点ございましたら教えていただければ、と思います。

※5/10 改正


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5話 想い

五話目投稿です。
感想欄でたくさんの優しいお言葉をかけて頂いて作者感激のあまり涙しそうです。理想郷はここだったんだぁ……(錯乱)。

では、どうぞ。


「ふぇ……?」

 

 ふぇ? じゃねーよかわいいなおい。未だに理解しきれてない彼女の姿に思わず頭が痛くなってくる。

 

 なにいってんだこの女。どういうことなの……自分を殺せって言ってるのと同義だよね? あーもう無理。そういう価値観が合わないからこの仕事嫌だったんだよ。

 

「で、でも私は提督に向かってこんな口を聞いて」

「生意気なこと言って即処刑とか俺どんなアドルフさんだよ。嫌だよそんな殺伐とした日常。つーかお前ぼっちに何求めてんの? いいか? ぼっちってのはなぁ、常に人の視線とか態度とか存在におびえて生きてんだよ。そんなぼっちがお前みたいな清楚系美人を処刑でもしてみろ。次の日から俺居場所なくて首つるわ」

 

 こんな周り四方八方艦娘で固められた空間だと尚更だ。闇討ちとかされんじゃねーの。

 

「……提督は、変なんですね」

「俺からしてみればお前らのほうがよっぽど異常だ。お前ら人間の癖して道具みたいに自分の事見下してるとかそれどんな精神状態だよ」

 

 自分が大好きで可愛い俺としては全く持って理解できない感覚だ。でも社畜になったりすると少なからずそういう感覚になるもんなのかね。

 はぁ、働きたくねぇわ。働いてるけど。

 

 しかし俺の発言が気にいらなかったのか相手はスカートの部分をぎゅっと握りしめ、しぼりだす様な声で言葉を紡いだ。

 

「人間じゃないです。私達は……兵器ですから」

 

 人間ではなく、兵器。それを自分の口で言ってしまうのは、一体どんな気持ちなのだろうか。

 

「……まぁ、狭義の意味で言えばお前らは人間じゃないのかもしないけどな。でもこれで兵器ってのは無理あるだろ。喋って飯食って寝て泣いて怒り散らすんだぜ? 俺そんな兵器は流石に無理だわ。正直気持ちわるい」

「……っ!」

 

 気持ち悪いという言葉に、過剰に反応する。

 

「だから俺はお前を……というかこの艦娘? って奴を普通に人間だと思ってるけどな。そう大差ないだろ。人間の俺が言うのもおかしいのかもしれないけど……少なくとも俺は艦娘だから云々とか人間だからこうとかは無いからそういう面倒くさいのは、いい」

「め、面倒くさいといいますか……」

「あぁ、面倒くさい。本当に面倒くさい。ぼっちからしてみりゃ姿形人間で女で喋ってるってだけで大体俺の天敵認定で事が済むしな」

「ひ、捻くれてるんですね」

「世の中の仕組みを冷静かつ理論的に理解していると言え」

 

 こうして話していると、大分元の話から遠ざかっていることにようやく気がついた。

 ゴホン、と態とらしく一度咳払いしてから言葉を探り探りで紡ぎだす。

 

「えーと、だな。怖がるくらいならその、秘書艦? って奴はしなくていい。求めてないし、こっちの業務も一人で出来る。これはお前の周りのやつにも教えておいてくれ」

 

 これは本心だ。というか怯えてなくてもいらないまである。つーかなんで艦娘なの? 艦雄とかいてもいいだろ。まだそっちのほうが数倍マシだ。

 

「……分かりました。みんなにお伝えしておきます」

 

 相手はそれを、何故か決意の篭ったような目で頷き俺の言葉に納得していた。いやそんな真面目に受け取らんでもいいのに。

 

「でも、お仕事はさせて頂きます」

「はぁ?」

 

 じゃあさっきまでの話し合いは何だったんだよ!

 そういう意味を込めてじろり、と見てやると相手はなぜかぎこちないが、それでも顔に精一杯の笑顔を浮かべて、

 

「もう、怖くありませんから」

 

 と。

 ……いや、嘘つくなよ。声震えてるし書類を掴んだその手さえ少し震えている。

 

 それでも俺は何も言うことができなかった。

 何も言い返すこともないまま、俺はゆっくり席について業務へと戻る。

さっきまでの喧騒が一変、また最初と同じ静けさが帰ってきた。

いや、違う。

先ほどの静けさとは違う。

冷たい空気の中に感じる、どこか温かみを孕んだ様な空気に、いつの間にか変わっているのだ。

 

「提督、さん」

「……ん」

 

 その中で彼女は言う。つらつらと作業を続ける風を装って、精一杯の勇気を振り絞っているのだろう。

 

「明日も私、ここにきていいでしょうか」

「……なんのつもりだよ。そんな事をしてなにが変わる?」

「分かりません。……ただ、榛名がそうしたいと思っただけです」

「……好きにすればいいんじゃねーの。しらんけど」

「そうですか。分かりました」

 

 それから無言で二人の作業は一時間ほど続いた。

最初よりも空気が軽いおかげが順調に作業は進み、いつの間にか三センチはあった書類の束が無くなっていた。 

 

……初日からこんな疲れるもんかよ。これだから働きたくなかったんだよなぁ。

久々の書類業務に俺は早くもノックダウン。それに対して榛名は慣れているのか大した疲れも見せずに席から立ち上がり、ドアの前でこちらに向かって一礼した。

 

「提督、それでは失礼します」

「あ、あぁ。えーと、これ、いるか?」

 

 そう言って俺は、鞄から蜂とお揃いの警戒色の我がソウルドリンク―――その名もMAXコーヒーを取り出す。

 

「そんな私、貰うような……」

「……仕事手伝ってもらったんだ。報酬ってやつだよ報酬。気にすんな、別に高いもんでもねーし。いらねーなら俺飲むけど」

「……それじゃあ、ありがとうございます。でも、これって一体……」

 

おいおい警戒色してるからってそんなヒくなよ。俺の人生の相棒だぞ?

 

「千葉のソウルドリンクMAXコーヒーだ。まぁ試しに一口飲んでみろ」

 

 プルタブを開けてから手渡してやると、チビリと口をつけて思いっきり顔を顰めた。

 

「……すっごく甘いですね」  

「だろ? 人生は苦いから、コーヒーくらいは甘くていいってな」

「……ふふ。なんですかそれ」

「制作俺のMAXコーヒーのキャッチコピー。我ながら百点を上げたい」

「変ですね……でも、嫌いじゃないかもしれないです」

 

 ちょ、ちょっと急にそんなこと言われたら照れちゃうだろうが。いや、マッ缶のことだって分かってるけどね? 勘違いとかしないから。

 

「そ、そうかマッカン愛飲者が増えることはいい事だからな。……んじゃ、おつかれ」

「はい、お疲れ様です。……えっと、明日もよろしくお願いします!」

「ん」

 

 そういってはにかむ榛名の姿は、悔しいが……その、なんだ。

 惚れてしまいそうなくらいには可愛らしかったかもしれない。

 

 

 ◆

 

 

「榛名ーーー! 大丈夫なんデスか!?」

 

 後ろから聞こえた声と、一泊遅れてくる衝撃。

 

「お姉様……」

 

 金剛型一番艦―――つまり私達金剛型の長女となる金剛お姉様が今私に抱きついてきていた。

 

 いつもは明るく振る舞う、まさに天真爛漫という言葉が似合う姿には、その影はない。

 焦燥と、怯えの見える姿に、驚くのと同時に納得した。

 

 そうですよね……お姉様も怖かったに決まってますよね……私はいつもお姉様の元気さに励まされていたというのに。

 

 なにも。何も私はできていない。

 

「何もなかったんデスか!? 新しいテートクに何かされませんでしたカ!?」

 

 本当に心配そうに聞いてくるお姉様の姿に思わず嬉しくなってしまう。大事にされているんだと、思える。

 

 とりあえず今日の出来事を話そうと思ったら、初手から事故を起こしてしまった。

 

「えぇと、喧嘩しちゃいました」

「け、喧嘩デスかぁ!?」

 

 その言葉はほとんど悲鳴に近いものだった。

 あ、これまずい。と思った時にはすでに遅し。

 その言葉の後にお姉さまが崩れ落ち、口から魂でも吐き出しそうな位のどんよりとしたオーラを纏う。

 

「……あわ、あわわ。もう終わりデース……。榛名が、榛名がぁ……」

「ち、違います違いますお姉さま! されないですから! 解体されないです!」

「……ほわっつ?」

「えっと、私もそうなるかと思ったんてすけど……その、新しい提督さんはそういう事をしないっていってて。なんだか変な人だったんです……」

「そ、そうなんデスか……な、ならノープロブレムデスね……ううう良かったデスよ榛名ぁーーーー!」

「わっ! お姉さま!」

 

 お姉様が、またぎゅうっときつく抱きしめてくる。その柔らかさにまた頬が緩んでしまうのを感じ、私もそっとお姉様の背中に手を伸ばした。

 

「……ありがとうございます、お姉様。こんなに心配してもらって、榛名は幸せ者です! ―――そんな妹の話を、聞いて下さいますか?」

 

 そんな私の問いかけに、まだ涙で目元を潤わせたお姉様が、大きく胸を張った。

 

「……ふふ。何を言ってるんデスか! この金剛型一番艦金剛! 世界一キュートでラブリーな妹達のお話を聞かない訳ないじゃないデスか!」

「えへへ。ありがとうございます。えっとですね―――」

 

 お姉様に聞いて欲しいんです。

 今日はどんな業務をしていたかとか。

 今日は珍しく一人での業務じゃなかった事とか。

 初めて人に向かって声を荒げてしまった事とか。

 初めて飲んだコーヒーがびっくりするくらい甘かった事とか。

 

 新しくきた提督さんがとっても変な人だった事―――とか。

 

 榛名が隠す様にして持っていた飲みかけの缶コーヒーが、歩くリズムと共にチャプリと音を奏でる。

 

 その足取りは、いつもよりどこか軽やかなものにも見えた。




艦これのキャラを知らなさすぎてキャラがブレブレなんだよなぁ……(震え声
予習としてアニメを3話まで見たら想像以上の楽しさにアニメの方のファンになりかけてます。

そして今回も評価者の皆様を此方の場をお借りして感謝申し上げたいと思うのですが……正直急激な伸び方に作者が呆然としてます。皆様こんないいんですか? 寝て起きて見たら( ゚д゚)ってなりましたからね? 過大な評価だと思いますがたくさんの方々に応援いただいて本当に感謝しております。これからも何卒拙作をよろしくお願い致します。

【新規で評価を頂いた皆様】
アスタルト様 サバト様 ツバメ3号様 es.519様 
一神龍様 Makito...様 Llycoris様 
トマト霊夢様 プテラ様 どこかの少佐様 Ygd様 
ジュン・タイター様 辺野平次様 こばこば様 
ふもっふ様 しぃすけ様 K5221様 ボッチー様 
黒田ロタ様 かに味噌炒飯様
ニート予備軍様 積怨正寶様 12代目相棒様
余命100年様 豚丸様 鯆(いるか)様 geso様 
るなてぃっくゆう様 漆黒の覇王黒龍様
一二三之七氏様 ただ茄子様 このよ様

改めまして切削にご評価いただき誠にありがとうございます。中には耳が痛くなる評価もございますがそれを含め糧とさせていただきより向上を目指しますのでこれからも何卒よろしくお願い致します。

お気に入り件数も300件を突破しもう何がなんだかわかりませんが感謝しております!本当です!

そして最後になりますがこんな拙作の誤字報告をして下さった
晴れた羊様、よしりん様、低音狂様。
大変遅れてしまいましたが手間でしょうにこんな拙作の誤字報告をしてくださり誠にありがとうございます!
まともに推敲もせず乗っけるくらいズボラな作者は大変助けられております……。本当に感謝っ……!圧倒的感謝っ……!

そして何よりも、こんな拙作を読んでくださるすべての読者様に感謝申し上げます。これからも暇潰しにでも読んでいただければ作者は満足です!
これからもよろしくお願い致します!

※4/11 改正
※5/10 改正


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6話 空腹感に襲われて

遅れて申し訳ございません!
もともとの予定から3時間も遅れて投稿!

そしてまた急展開。
ふえぇぇ……ぶらっくちんじゅふはにちじょうせいかいもままならないよぅ……(白目)

見切り発車の設定がギリギリと首を絞める今日この頃です。

では、どうぞ。


 生物という名の通り、俺ら人間は生きている。

 生きているということは、生きなければならないという事だ。

 今日を生きるのは明日の為。

 明日を生きるのは明後日の為。

 だからこそ生命は等しく活動を続ける為に何かを代償にしている。

 それは例えば時間であったり、有限資材であったり、だ。

 しかし生きていく上で特に必要なものといえばなんだろう。そう思った時に挙げられるものは、おおきく分けて3つだと俺は考える。

 それは、睡眠、飲食、欲望だ。

 前者2つに至っては語るまでもない。当然の摂理だ。食わなきゃ死ぬし飲まなくても死ぬ。んで睡眠不足でも死ぬ時は死ぬってんだから生き物というのも面倒くさいものである。

 しかし人間というのは面白いもので、生きるために必要な行為というのには嫌でも快楽が付き纏う。これはきっと人類が存続するために与えられた一つの修正パッチのようなものなんだろう。

 では残りの一つの欲望、これが一体何なのか。これも案外簡単な話だが、人は生きている、という事実があるから生きている訳ではなく、生きたいと願うからこそ生きているものだと俺は思う。あの夢を叶えたいから今を頑張る。あの人と明日会えるから明日も学校頑張る。単純明快な理論だ。

 つまり人間とは欲望に付随するその行動によって生きている。

 例えばここになんの欲望もない人間がいたとしよう。別に何がしたいわけでも明日に何があるわけでもない。なんの欲もない人間だ。何を食べたいとか、何をしたいとかもなく。ただそこにいるだけ―――いや、有るだけ。

 果たしてこれを生きていると言っていいのか? 俺はそうは思わない。だからこそ生物という概念にはこの3つが最低でも必要なのだ。

 

 ……さて、長々とダラダラとこんなことを語っている訳だが、もちろんそれには理由がある。

 

 つまり、何が言いたいか率直に言おう。

 お腹が減ったから鎮守府の中にある食堂に来たら、何故か俺が集団リンチ一歩手前みたいな事態に遭遇しました。

 

 八幡、大ピーンチ☆

 

 遭遇というと発見した俺が第三者的な意味を持つように思えるがこの場合俺が集団リンチに合いそうなのでどちらかと言うと発生した、という方が正しいのだろう。

 ただ俺の主観で言わせてもらうと何も悪くない筈なのにこうなったので遭遇した、という感じではある。

 嘘言ってないです。八幡を信じて。この社会から見放されそうな腐った目を見てよ!

 

 言ってて悲しくなってきたから止めよう。それにしてもどうしよう。実はさっきの視線はぼっち特有の自意識過剰妄想系のアレで誰も俺のことなんて見てないんじゃ……。

 一縷の望みをかけて視線をそっと上へとスライドしていく。

 

『…………』

 

 安心と安全のガン見だった。

 気分としては動物園の動物。いや戦争中に敵国のど真ん中で独りぼっち、みたいな。

 

「ヒェッ」

 

 ともかく俺の許容範囲を軽く数倍は超える視線の圧に襲われ、失禁しかけた。

 あかん。あかんですってこれ。人生でこれまで無いくらいの視線を一身に浴びてる。やだよー八幡泣いちゃいそうだよー。たすけて。助けて小町ぃ!

 

 もーなんでこんな目に合わなきゃならねーんだよぉ……。俺は内心半泣きで慟哭を上げた。

 

 ……時は夕暮れ。事務も終わった俺がまず始めに感じたのは空腹感だった。そりゃそうだ。朝から緊張で何も食ってないのだから夕方頃にはどう足掻いても腹が減る。

 となると自然にやることは決まってくる。食料の確保だ。

 さてそれじゃあ飯をどうするか。そういえば鎮守府の割とすぐそばにはコンビニが……と思ったが、そういえばまだ鎮守府入館証が発行出来てないとかなんとかで今日一日は外出不可能だった事を思い出す。

 ということはこの鎮守府内でなんとか飯を確保しなきゃいけないということであり、俺は億劫さにため息を吐きながら財布と地図片手に提督室を飛び出した。

 執務室がある鎮守府本館からそう離れていない所に食堂と大きく書かれた建物が存在した。

 食堂というからには他の奴らも居るんだろうな、という事実にまた気を重くしながらも背に腹は替えられぬと門をくぐった。

 

 思えばその瞬間に気づくべきだったのだ。ドアを開いた瞬間からこちらを射抜く、大量の視線に。

 

 

 ◆

 

 

 はじめに食堂内に足を踏み入れて感じたのは、純粋な違和感だった。

 正直ぼっちの俺は食堂という存在にはあまり縁がない。そんなところで飯を食うぐらいならそこらの飯屋でも入るし、それくらいには足を運んだことがない……が。

 いくらそれにしたって。そんな俺からしてもこの食堂はどこかおかしかった。

 

 いやに殺風景なのだ。いや食堂が由比ヶ浜のケータイバリにデコデコしかったらそれはそれでおかしいけど。

 なんというか、食べ物を扱ってる風には思えない。どころか感覚としては学校の多目的ホールばりに何もない。

 それどころか、自販機とか、そういう飲み物に関するものも見当たらない。

 

 ……間違えたか? でも外には大きく食堂って書いてあった筈だし、一応奥には厨房が存在するが……使用感が全く見られない。なんだここ?

 

「どうか、なさいましたか」

 

 そんな時だ。前から人影がひとつ現れた。

 長く伸ばした亜麻色の髪。

 昔ながらのエプロンを少し改造したような制服がよく似合う、母性的な女性だった。

 ……間宮、だったっけな。

 ここに来る前に陽乃さんに叩きこまれた各艦娘のデータをなんとか引っ張りだし思い出す。

 そういえばこういう食堂とかで業務をこなす給糧艦と呼ばれるジャンルの艦娘だった気がする。

 

「えーと……あなたがここの管理を?」

「えぇ。はい、まぁ、一応」

 

 なんとも歯切れの悪い返事だ。

 一体どういうことなのか分からず俺は質問を重ねた。

 

「えっとここが食堂って書いてあるんすけど……」

「……間違いないですね」

「そ、そうっすか」

 

 嘘だろ? 調理器具とか見えるけど使った形跡ないぞ。

 でも管理してる人がそう言うならそうなのだろう。いい加減空腹も限界だ。さっさと用件済ませて立ち去るのが吉だ―――と、今にして思えば俺は特大の地雷を踏抜きにかかった。

 

「え、ええと、注文とかって……」

「……はい?」

 

 アイエエエ!? ナンデ!? なんで声が数段低くなった!? 俺なんか間違ったこと言ったのかよ! 分かんねぇなリア充の空気は。俺みたいなぼっちが発言した瞬間これじゃねーか!

 

「……提督はまさか、知らないんですか?」

「……知らないから今こうなってるんでしょうよ」

 

 むしろ今日赴任したばかりの人間に何を知っていろと?

 あまりに理不尽な物言いに事なかれ主義のぼっちでもイラっとくるぞ。

 もちろん、そんな事は口には出さない。だって怖いから。

 

 つーかなんなんだよ。目の前のこいつも周りの視線も。今までにないくらいの敵愾心だぞこれ。正直雪ノ下姉妹に出会ってなかった頃の俺だったら即失神してるレベルだ。

 

 相手は相手で俺の無知っぷりが嫌なのか何なのか、そりゃもう嫌そうに顔をしかめながら手を握りしめ、堪えるように声をしぼりだす。

 

「そうですか……。ならお伝えいたしますが、当食堂には提督様がお召し上がりになられるようなものは一切扱ってません」

「……は? 一体そりゃどういう―――」

「ですから! 食べ物なんてここには無いんです!」

「それは―――あ……っ!」

 

 ここにきて、ようやく話の全容を朧気ながら理解した。

 それと同時に、深い後悔が胸を突く。

 食堂ではあるが、食堂ではない。

 それもその筈。

 

 ここは“艦娘用”の食堂であって“人間用”の食堂では無いのだから。

 

 話には聞いていた。艦娘というのは人間の様に食事を必要としていないとは。必須なのは補給と呼ばれる弾薬やボーキサイト、燃料などの資材をエネルギーとして取り込む物であり、実質的に食べるという行為は求められていない。

 しかしここで問題なのは、必要ではない“だけ”という事なのだ。

 必ず無ければならない訳ではないが―――彼女達も人間と同じ様に笑い、泣き、話し、寝るという、人間に備わっているのと同じ機能がある。

 ならば食欲がないとなぜ言える?

 

 そう。艦娘にも食欲自体は存在するのだ。それに従って大本営の定めた規定としても非常時以外にはなるべく艦娘にも食料を与えることが義務付けられている。確かにそれが理由で士気が下がるなど大本営からしてみれば溜まったものでは無いだろうしな。

 

「……義務付けられてる行為だろうが」

 

 しかし俺はすでに知っていたはずだ。前任のやつがその義務さえ放棄するような屑だった事など。

 これに関しては俺の落ち度という他ない。この問題はきっと……もっと時間をかけてゆっくり解決すべきものだった。そんな強大な敵に、俺はまんまと初期装備で挑みに来たってわけか。

 はっ、笑えてくる。

 自嘲気味に俺は、悪態を心の中で零した。

 

「……その要項、よく見ればわかるんですが義務とは名目上ありますが、非常時又は資源の不足時、これを免除とする。という一文によって守らない者も……それこそ前任のように、います。しかしまぁ、解ります。だって無駄じゃないですか。食べなくてもいいなら、食べる理由にはならない。そうですよね?」

 

 そう言う間宮の顔は俯いていて伺うことはできない。ただそれでも震えた声と握りしめた拳は、隠し切ることは出来ていなかった。

 

「……あぁ、それもそうだな。そうに違いない。それが効率的だ」

 

 確かに、それ以上の正論は存在しない。吐き気がする程効率がよく、くそったれにロジカルだ。

 

 間宮。お前の認識は正しいよ。正しくて効率的で実に理に適っている。

 だがな、一つだけ間違いが存在するぞ。たった一つ、当たり前の事だ。

 

 それはな。

 

 そんな食料問題がどうとかそれで問題があるかどうだとか下らない事を考えるのは、決めるのは、お前の役目じゃないってことだ。

 

俺は、大きく息を吸い込み、吐き出し。周りの視線の圧なんて一度思考から取っぱらい、周りに聞こえるような声で言う。

 

「―――まぁ、知らんけど。そんな下らない事」

「……はい?」

 

 俺は目の前の間宮の言葉をバッサリ切り捨てた。




今回も読んで頂いてありがとうございます!

日が立つごとに評価が伸びてて本当に信じられない気持ちです。慢心しないようにだけ気をつけてがんばります。

よろしければ感想誤字脱字のご報告、又は何かアドバイスなどございましたらよろしくお願い致します!

※5/10 改正


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7話 ハリボテの勇者

七話目です。
ちょっと人によっては今回の展開はストレスに感じてしまうかも知れません。自分的には八幡ならこうするのでは、という手段を選んでみましたが正直自身はあまり無いです(震え


では、どうぞ


 俺の発言に合わせて、ざわりと空気が殺気立ったのを肌で感じ取った。

 

 できるだけ意識して、俺は味のなくなったガムを吐き捨てるように、実につまらなさそうに言葉を続ける。

 

「は、はい? あなた今、なんて」

「知らねーつったんだよ。いいか? 俺が、“提督が”、いま飯が食いたいって言っただろうが。どうせないって言っても非常時用に保管してる食料とかあるだろ?」

「――――ッ!!! ……あ、あり、ます……っ!」

「ならそれで良い。あぁ、作るときはできるだけ大量に作っておけよ。俺は足りないのが嫌だからな。全く俺がこんなしみったれた場所で飯を食わなきゃいけないとはツイてねーな」

 

 わざとらしく目の前で悪態をついてやると、間宮はそれはそれは視線で人を殺せそうな勢いでこちらを睨み付けていた。

 今なら三浦に睨まれても笑って受け流せそうな気がする。

 正直、死ねそうなほど怖いっす。

 しかしここで油を注ぐ手を抜いてはいけない。やるなら徹底的に、だ。

 

「何だその態度は。―――解体されたいのか?」

『…………ッ!』

 

 ギャラリーも、その一言に一気に敵愾心を強めた。

 

「お前らも、何様のつもりだ。俺は提督だぞ? いつでもお前らなんか解体できるんだ。なぁ、間宮。俺はどっちでもいいんだぞ? まぁその場合、明日には顔見知りの一人や二人が居なくなってるかもしれないけどな?」

 

 そう言うと、食堂にいた艦娘達も逆らえないのか勢いを無くし、ただ歯がゆそうに此方を眺めている。

 

「やめて、ください! 今すぐやりますから……!」

「最初からそうしろ」

 

 じろり、と見下す様に吐き捨て俺は尊大に言う。

 

 こういう時、腐った眼なのは実に便利だと思う。もうね、これ以上ないってくらい多分似合ってると思うんだ。ん? 言ってて悲しくならないかって? 

 ならないと思ってんの?

 

「一時間後には整えておけ。でなきゃすぐにお前を解体してやるからな」

 

 ここまで言えばいいだろうと、俺は踵を返した。しかしそんな時、声が掛かった。

 

「待ってください。―――もし、余ったら。余った分は、どうなさるつもりですか」

「……好きにしろ。ゴミに興味はないからな」

「…………。そう、ですか。しかし提督、保存食をとりに行くにも部屋に入るのには提督が持つカードキーが必要です。付いてきていただかなければとりに行く事もできません」

「……くっ、面倒だな。早くしろ」

 

 せめても格好つけて帰ろうとしたらこの仕打ちですか……すごい恥ずかしいんですがそれは。俺は顔を見られないように提督の帽子を目深く被ってごまかした。

 

 そうすると、食堂にいる艦娘たちの波をかき分けて、一人の艦娘が現れた。

 

「おい間宮! まさかそいつと二人で行くつもりか!? 何されるかわかったもんじゃねぇぞ!」

 

 ショートの黒髪に眼帯……どこの小鳥遊○花ちゃんかな? まぁ冗談として、名前は確か……えーと、朝○龍的なニュアンスだったのは覚えてる。

 

「天龍さん……そいつ、なんて言ってはいけませんよ。この方は提督です。それに私も曲がりにも艦娘に名を連ねる一員であることをお忘れですか? ですので、落ち着いてください。大丈夫ですから。では提督、行きましょう」

「……ぐっ! てめぇ! 間宮になんかしたら許さねぇからな!」

 

 あーそうそう天龍だ天龍。はいよ。つーかなんかってなんだよ。具体的かつ論拠を述べて俺が何をするか30文字以内で述べろよこの頭の軽そうな中二病艦娘め。

 俺と間宮は天龍による「ばーか! あほ! まぬけ! おたんこなす! えーと、えーと、うんこ!」と程度の低い罵詈雑言の言葉をBGMに食堂を後にした。

 

 ……あの罵倒の中に八幡! があれば完璧だったな。なんて思ってしまう俺ガイル。なんつって。

 

 

 ◆

 

 

 カツカツカツカツ。

 ひたすら無言で、夕暮れに染まる鎮守府内を二人で歩く。

 前を先導する間宮の顔は伺えないが、怒っていることは確かだろう。ぶっちゃけこのあと殺されたりしないか不安です。無人の部屋に連れ込まれて「さて、もういいでしょう」とか言われちゃうのかな……。

 

 ここで雑談とかできる勇気は俺にはないので俺も黙って後ろをついていく。あ、蝶々だ。あっ、蜘蛛の巣に……うわぁ。

 

 和やかな気持ちになりかけたが、蜘蛛によるお食事シーンが始まってなんとも言えない気持ちになる。気を紛らわせることも許さないと?

 

「着きました」

「あ、おう」

 

 突然の事に思わず素で返事をし、食料庫、というプレートのついたドア横にある認証パネルにセキュリテーカードを翳した。

 一秒もせずに、ピッという電子音と共にドアのロックが解除される。

 

 そして食料庫の中を覗いた瞬間、部屋の中へと押し込まれた。

 

「ぐえっ!?」

 

 背中軽く押されたと思ったら想像以上に強い衝撃が来たぞ!?

 

 無様に顔面から転ぶのをなんとか避け、体勢をを立て直し、俺を中へと押し込んだ犯人―――つまり間宮の方へと向き直った。それと同時に、ドアはガチャンと音を立てて閉まる。

 

 誰も入ってこれない密室に、美少女と二人っきり。やばい……ドキドキする……。

 ……あまりの恐怖に、心拍数が上昇中!

 部屋は補助の電灯が薄暗く照らすだけなので、間宮の無表情が、恐ろしくみえた。

落ち着け。落ち着くんだ、俺の心臓。そうそう、ゆっくり鼓動の速度を落として……。

 

 彼女が口を開く。

 

「さて、もういいでしょう」

 

 一瞬で心拍数がトップギアになりました。

 

「ひいっ!?」

 

 当たりたくない予想当たったぁああああ!?

 死ぬ、死んじゃう! つーか殺される!? せめて遺書くらい書く時間をくださいお願いします!

 

 じりじりと、彼女はこちらに距離を詰める。こちらの背後にあるのはもはや積まれたダンボールと壁のみ。逃げ場はない。

 そしてついに間宮は俺の目の前まで来てしまった。もうダメだ……。そう思った俺は来たるべくその瞬間を脳裏に描いて目を瞑った。

 

「どういうつもりなんですか?」

 

 と。

 まさかの一言が、彼女の口から出るまでは。

 

「……どういうつもりだって? なんの事だ?」

「惚けないで下さい。少し考えたらこんなことわかります」

 

 そう言う間宮の目は、まるで何か。確信したような強い光を灯した瞳だった。

 まぁ、そりゃそうだよな。

 ……あまりのアホらしさに、俺は薄暗い食料庫の単ボールの上に腰を卸し、力を抜いた。

 

「……そうかよ。あぁ全く恥ずかしい真似しちゃったぞおい」

 

 どうやら、間宮は最初からそのつもりだったらしい。

 

「やはり、そういう事なんですね」

 

 俺の言葉に今確信を持ったのか、間宮はそう零した。なんだよこいつカマかけてやがったのか……。

 ほんわかした見た目に似合わず実に強かである。

 

 そう、こいつ間宮は俺の意図―――艦娘たちに食事を与えるための算段に気が付いたのだ。

 まぁ俺が即興で考えるような杜撰で穴だらけの策なんてバレても仕方ないと思う。仕方ないとは思うが―――実際にかなりの量にバレてるとすればそれはそれで問題である。

 

 それを問い詰めようと声を上げようとすれば間宮の方から、大丈夫です。私以外に気づいた様子はありませんでした、と声を掛けられた。先読みすんなよ、こえぇよ……。

 

「なぜこんな真似を? 提督ならばもっと穏便に解決することが出来たはずです。もっと簡単に、私達の食に関する問題なんて解決できたでしょう?」

「……本当にそう思うか? まだこの鎮守府に来たばかりの、それも前任の人間が最低の屑だった鎮守府に素性もしれない男が唐突にお前らに対して、これからは無償でご飯が食べられるよ、見返りも何も必要ないよ。食べたい分だけ食べてね!―――なんて言ってお前らはそれを笑顔でみんな仲良く手を取り合って受け入れられるのか?」

「っ! それは……」

「無いだろ。どう考えても」

 

 無理だ。そんなもの逆の立場だったとして俺でも御免被る。無償の善意なんてものは世界に存在しない。あるのは有償の善意か無償の悪意だけだ。

 ……確かにこれは、時間をかければなんとかなる問題だった。さっきも言ったが、俺はこの大きな問題という名の魔王に対してレベル一の状態でエンカウントしてしまった。

 ゆっくり確実にレベルを上げることができればこの魔王(問題)を倒す勇者にもなれたはずだ。しかし、俺はその時間がなかった。レベル上げもなく魔王と対面してしまったのだから。

 ならばどうするか? 

 答えは簡単―――自分が出来ないなら、別の勇者に倒してもらう、だ。

 そんな勇者に選んだのがこの間宮である。立派な勇者像だ。俺に恐れながらも立ち向かい、皆を守る為に戦う。これだけ心優しく強い間宮ならば、あれだけ俺が言えば食料を捨てること無く他の艦娘達に残った分を分配すると思っていた。

 まぁ、正直バレるとは思わなかったけどな。

 

「いいか? もしもの話だが、仮に俺の提案を受け入れる奴がいたとしても、そいつは確実に少ないだろう。百歩譲って食べる派と食べない派が同数だとして、この時点で艦娘内で派閥が出来上がる。内部で分裂を始めた組織がどうなるかなんて、簡単にわかるだろ」

「…………」

 

 一度分裂を始めたら、そこから分裂は止まらない。分裂を重ねすぎたそれはどうなるか? 泡のように弾ける、それだけだ。

 

 それがようやく分かったのか、相手は辛そうに眉をひそめて口元を抑えた。

 

「どうして……なんで……? 理解できません……。まだここにきて初日のあなたが何故?」

「はぁ? 俺だってやらなくていいならこんなめんどくさい事したくねぇよ。ただそういう規律があるなら守らないと俺が捕まっちゃうだろ。だから別に非常時でも資源が少ないわけでもないこの鎮守府じゃあちゃんと飯与えなきゃいけないってルールを守っただけだ。理解してもらおうなんて考えてもねぇよ。お前はお前のロール(勇者)をしっかり果たせばいい。それだけだ」

「でもそれではっ」

「もう気にすんな。だいたい元からぼっちの人間だし、来たばっかの提督に下がる好感度なんてねぇだろ? お前らは飯が食えて仲良しこよし、俺は一人で静かで楽な時間を過ごせる。win-winだな。……あ、でもならやってほしいものが一つあるわ」

「……なんでしょうか。やれることなら何でもします」

 

 間宮は少なからず罪悪感を感じてしまっていたのか俺のその言葉に対して過剰に反応する。

 

「……いや、女子が軽々しく男に向かって何でもするとか言うのやめろよ……。まぁいい。えぇとだな、お前には俺の敵でいてもらわないと困るんだ」

「……敵、ですか?」

「あぁ。さっきの話の通り、お前はその内部分裂を起こさない為の指導者。みんなの偶像的役割をこなしてもらわないとならない。俺という悪役と、お前という正義の味方。この関係が成立することによって、お前の発言がみんなの信頼につながり、お前の行為なら皆が受け入れられる。しかしここからが問題でな、逆に言うと俺とお前がしっかりと明確な対立をしていないと、この状態が簡単に瓦解しちまうんだ。少なくとも裏で通じあってるとかそんな噂が出始めたらそれでアウト。というか、噂ってのが一番最悪だな。それだけはなんとしても避けたい」

 

 ソースは俺。噂は情報ではない。

 噂というのは成長する虚像である。正しい物も正しくない物もひっくるめて食べて成長する化物。おかげで俺は一時期3つの中学の不良を片っ端から殴り殺しフィリピンで女を買いまくった変態不良になってたからな。……夏休み最終日に窓から光が思いっきり入る所で昼から寝てたら日焼けし、その日の夜にラノベ読んでたら机の上で寝落ちた挙句首を寝違えて、翌日首に湿布貼って学校登校してる途中に鼻血を吹き出し、所々に若干血の跡をつけて学校についたらこの噂だからね? どんな噂の広まり方だよって思うわ。まぁあまりに酷すぎる噂のおかげでいつの間にか俺がそうだという噂さえも呑み込まれて今じゃなんか別の伝説になってたはずだ。

 

「だからお前と俺は何があっても敵同士。和解なんて出来ないし、許し合うこともない。一生を掛けて憎み合うレベルで嫌っている……ってな設定を守ってほしい」

「……それが、提督の願いなんですね?」

「……あぁ。頼む」

「……分かりました。守りましょう。この間宮、魂に誓いこの使命だけは守り抜きます」

 

 ちょ、ちょっとそれは重すぎるが……まぁ守ってくれるというなら是非もない。

 

 俺等はその後何事も無かったかのように食料庫にあったレトルトのカレーを取り出しそれを部屋で食べた。

 

 試しに使ったあとの食器を食堂に返しに行くと、食堂の艦娘達はみんな笑顔でカレーを食べていた。まぁ俺が入ってきた瞬間すごい敵意丸出しだったり嫌悪感とか無感情の嵐になったけどね。

 

 なんか起きても面倒だし、俺はぼっち108の特技“群れないぼっち特有の歩く速さ”を発揮しそそくさとカウンターに食器をおいた。

 

「……ここでいいか?」

「………はい」

 

 これ以上ないほどの、拒絶感。間宮から感じ取った空気はまさにそれだった。

 どうやら、間宮は俺の言ったことをしっかり守ってくれるみたいだ。

 それに安心しながら居心地の悪い空間から去っていく。

 

 背中越しに感じる侮蔑の視線と、こちらをこそこそと罵るような声。

 まぁ、別に元々仲良くしようなんて思ってなかった。上司なんて所詮部下に嫌われるのが仕事のようなものだし。

 むしろこんな事するだけで一般のサラリーマンより高給なんて楽すぎて困るまである。だから別に何も俺は気にしていない。

 そう、これでいい。これがいいのだ。

 所詮、職場で女の子の部下達と信頼しあえている俺、なんて言うものは幻想でしかなく、そんなものはラノベの世界だけで十分だ。つまり変な勘違いが生まれる前にその禍根を断った俺は大正解ということで何も間違っていない。

 

 俺はまだ少し肌寒い鎮守府の外の空気にうち震えながら、ポケットからスマートフォンを取り出すと、小町から連絡が来ていた。

 

『小町:お兄ちゃん! 今日からお仕事だったよね? お疲れ様! 今度寂しい可哀想なぼっちごみいちゃんの為に遊びに行ってあげるからね! あ、今の小町的にポイント高い!』

「……はっ。うっせーよ馬鹿。……ありがとな」

 

『鎮守府はそんな簡単に遊びにこれるようなところじゃねーから。あとぼっちも余計だ。俺はぼっちになってるわけじゃなくてぼっちが好きだからやってんだ。そこ勘違いするなよ』

 

 我ながら長文だな。と納得しながら送信。

 

 ……少しだけ、明日も頑張ろうと思えた。




読んで頂いてありがとうございます。

そしてまたこの場をお借りして感謝のお言葉を。
UA20000突破しお気に入りも約850件と成りました!
評価もたくさんの方にして頂いて朝起きる度にどきも抜かれてます……。

また、

おおば様 ガイドビコーン様 パイト様 refu0様
レグルスアウルム様 ぶどう党様 ひでお様 酢ブタ様
アテヌ様 Pluto様 みなたか様 黒瀧汕様 
ryon様 Q.E.D様 アルスDQ様 
グリグリハンマー様 わらふじ様
進撃のどどりあさん様 レミレイ様 
わいわいぐるみん様 pepemaruga様 白野菜様 
ゴリラの癖に生意気だ様 斉天大聖様 
MA@Kinoko様 太陽は出ているか?様 徒釘梨様 
ぶりきのカンヅメ様 (・ワ・)様 むぎたろー様  せぐうぇい様 Kohki様 つくだや様 餅大福様 karakuri7531様 消しカス様 しゃもじ55様 
姫菜様 もろQ様 Raptor-22様 
ヒゲオッサン様 aikawa様 

の、こちらには載せておりませんが以前していただいた評価の方々も含めなんと81名もの方に拙作を評価していただきました。様々な評価を頂き、時には凹み、時には頑張る力となり。しかし何にせよこの作品を見てくださったのは事実。皆様には本当に感謝しております!

これからもこの作品を覗いてくださる読者様の声や反応に一喜一憂しながらら面白おかしくやらせていただこうと思っておりますのでよろしくお願いします。

そして蛇足になってしまうんですが、見切り発車で始めた作品とはいえあまりに設定の穴が多く、この作品に関する問題をご指摘頂き、あ、これあかん(白目)と流石に問題視するようになりました。

その為に、2話の部分になるんですが

八幡が高校を卒業し、大学に入ったばかりの頃に深海棲艦たちが活動を本格的に開始。→それからしばらく経ってからの話、という体で書かせて頂いてましたが、ここを改変し。
八幡が高校を卒業し、大学に入ったばかりの頃に深海棲艦たちが活動を本格的に開始。→それからすぐのお話、という風にこの物語に繋がるまでの期間を変更しております。同時に貿易難で娯楽品や嗜好品の入手がしづらくなる、という描写を入れつつもMAXコーヒー自体はまだ現存している、という体でお話を奨めさせて頂きます。はい、そうです。こういうのをご都合主義と言うのです。まだまだ修正部分はありますがとりあえず触りの部分からこんな形で徐々に修正したりなかったりを繰り返すつもりです。
 その為に、すこーし投稿頻度が遅れたりする可能性がありますので、大変申し訳ありませんがご了承ください。
……本当に蛇足でしたね。だらだらと書いて申し訳ありませんでした。次回もよろしくお願いいたします!

※5/10 改正


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8話 初めての信頼

若干遅れました。八話目です。

どうぞ。


 今日の業務も終わり、食事も終わり、風呂も入り、となる頃にはすっかり日も暮れて時間は、23時。

 となるとやることは自然と睡眠を取るということになるわけで、俺はようやく身体を休められる、とベッドにダイブした。

 

「……あぁもう、疲れた。寝よう。今寝よう。即座に寝よう」

 

 新品のベッドのマットレスに全体重を預けると、面白いくらいに体が沈み込む。……おぉ、すげぇ気持ちいいなこのベッド。

 

 というか初日から波乱万丈すぎ。ブラック鎮守府は特殊手当とか出すべきだわ。精神的ダメージ手当的なやつ。

 それにしてもなんて気持ちいいベッドだよこれ……あぁ……意識が……遠……。

 

『〜♪』

 

 スマートフォンがある音楽を奏でながら、ブブブブと震えた。着信である。

 

 曲は○ューベルトの魔○。この時点で誰から電話が来たか察していただきたい。息子よ息子よ言ってるスマホを引っ掴み心の底から嫌ではあるが着信ボタンを押した。

 

『ひゃっはろー。こんばんは比企谷君。お勤めご苦労様だね〜。それにしても一回の電話で出るなんて珍しいじゃない?』

 

 相手は勿論、雪ノ下陽乃さんだ。

 

「……ども、雪ノ下さん。いや、ビジネス上の関係になったらそんなことしませんってば。流石の俺もそこら辺の線引きはしますよ」

 

 流石に馬鹿にし過ぎである……とも言い切れないか。実際それくらいの事やってきてる訳だし。今は雪ノ下さんを驚かせることができたという事にニヤニヤするくらいでいいだろう。

 

『お、おぉ。そんなまともな事を比企谷君の口から聞くことになるなんてお姉さんちょっと今驚きを隠せないよ……。ま、それはともかくとしてどうだった? そっちは』

「俺もこんなこと言わなくてもいいように専業主夫という夢を叶えたかったんですがね……。えぇ、まぁ、ぼちぼちやってますよ。ぼちぼち」

『……ふーん。比企谷君のぼちぼちってのはいきなり食堂であーんな揉め事を起こすことだったんだね?』

 

 その言葉に、思わず固まる。

 

「アンタ盗聴機でもウチに仕掛けてるんですか?」

『ふふー、ヒ・ミ・ツ♪ ほんっと比企谷君も馬鹿よねぇ。あんなやり方なんて結局本質的な解決にはならないのに。愚策もいいところだよ』

「そんなん言われなくても俺が一番分かってますよ」

『そう。一番誰よりも何よりも隅々までメリットとデメリットが分かり切っているのに君はいつだって実行する。本当に面白いよ。とっても賢いのに誰よりも愚かな所がね』

「……つーか分かってるくせに聞いてくるとかほんとにいい性格してますよね」

 

 画面越しでそれはもう素敵な笑顔を浮かべている雪ノ下さんの笑顔を幻視した。

 

『でしょー? 私みんなに性格いいって言われてるからねー』

「あーはいはい。んで本題はなんすか?」

『もー、せっかくお姉さんが電話してるんだからお話楽しもうよー。ぶーぶー』

 

 口でブーブー言う奴なんて一色と小町以外見たことねぇぞ……あれ結構いるじゃん。

 

 そんなくだらないやり取りもそこそこに、雪ノ下陽乃はその超合金で繕われた仮面を外し、本性を晒した声で囁いた。

 

『……後処理の方はだいたいこっちで何とか済んだよ。骨は少し折れたけどね? いやー腐っても提督。保身にも長けてる相手だと色々と大変だったよー』

 

 後処理。それを意味するのは俺の前の提督、前任についての事だった。

 勿論、提督という仕事は今では世界的にも有名であり、国防を担う一端である。注目度も高いので問題があればメディアがすぐに取り扱う。

 いま雪ノ下さんが言っているのはこのあたりについての話なんだろう。

 

「……聞いても教えてくれないんですよね? 前任のことについては」

『ん? 何を言ってるのかな、比企谷君は。言ったでしょ? 前任の提督は繁華街で唐突に姿を消し、その後消息は不明って。まぁ繁華街の裏路地にその提督の血痕と深海棲艦の一部が落ちていたことから深海棲艦のしわざという説が濃厚らしいけどね?』

 

 それは聞いてる。むしろみんなが知ってる、テレビにも流れたニュースなのだから。でもそれは表向きの話であって真実ではないだろ。

 

「それは貴方が」

『―――やめなさい。別に比企谷君はそれでいいのだから。それ以上を知る必要はないわ』

「……あぁ、そうですか。ったく、アンタもアンタで大馬鹿ですね、ほんと」

『……ふふ。優しいんだね比企谷君は』

 

 そんなんじゃない。俺は優しくなんてない。勿論そんなことは雪ノ下さんは分かっているだろうし、声に出したところで意味のない言葉だ。俺は喉の奥に骨が刺さったような気持ち悪さを堪えて言葉を呑み込んだ。

 

「話はそれだけですか?」

『とりあえずそれだけだよ。……あぁでも最後に一つ。―――女の子相手の着信音に、魔王はないんじゃないかな?』

 

 その言葉に思わずベッドに倒していた身体を跳ね起こし、周りをキョロキョロと見渡した。

 

「なっ、えぇ!? 嘘でしょ!?」

『……まさか本当に当たるとは、ね。まぁ私がどう思われてるかなんて元々知っていたわけだし? これくらいでどうこう言うほど子供でもないんだけどね』

「うっ……そ、そうですよね。雪ノ下さんは大人だからなぁ。へ、へへ」

『でもいまの言い方にいらっときたらやっぱお仕置きだぞ!』

 

 まさか、カマかけかよ―――。そう気づく頃には時すでに遅し。いつものトーンより少し低い声で、事実上の処刑宣告が下っていた。

 

 そのまま電話が終わり、ベッドに再度倒れ込む。

 終わったなー、俺の人生。最後はマッ缶飲みながら召させてほしいな。

 そんなことを半ば本気で考えながら眠りについた。

 

 

 ◆

 

 

「……おはよう、ございます」

「……うす」

 

 次の日。

 朝8時から早速事務は始まった。

 寝床はめんどくさいので執務室室横に設置された提督用の休憩室で寝泊まりしてる。さり気なくシャワーもついてるし、テレビも完備。その他諸々娯楽品もある。前任は心の底から屑だと思っているが、自堕落を追求したこの部屋だけは褒めてもいいと思う。

 

 朝から食堂に向かい、侮蔑と嫌悪のモーニングコールを皆から貰いつつも食器をわざわざ返しに来るのも億劫なので紙皿とプラスチックのケースに入れてもらい即座に帰還。これでほぼ外界との無駄なやり取りは省略できるだろう。

 

 そんなこんなのやり取りを経ていざ仕事開始――……と、行きたいところだが。

 早速やってきた榛名さんがそれはもう名状しがたいどんよりとしたオーラを纏っていた。

 その理由? 心当たりしかねーよ。

 

 十中八九食堂の件だろう。

 まぁだからといってどうこうできるわけでもなし、むしろこれを機会にバッサリ嫌われたほうが後々楽だろう。

 

 あえて俺は無視して業務に取り掛かった。

 カリカリと筆を動かす音だけが執務室を埋める。

 そこにあるのは、昨日のような無機質な沈黙。結局はこれで元通り、昨日のやり取りも全て無に帰す。

 ようやくこれで俺は、また一人になれる。

 

「……今朝、食堂に行きました」

 

 ぽつり、とまるで独り言を漏らすように榛名の方から声が掛けられた。

 書類に走らせるペンが一瞬止まってしまったがすぐに動きを再開する。

 

「……へぇ」

「……皆喜んでました。だって今日から急にご飯がまともに食べられるようになったんですから。一年近くぶりですよ? 皆喜んで、間宮さんのことを褒め称えてました」

「……へぇ」

「それと一緒に、誰かが馬鹿にされてました。その人は腐ったような目をしてて、常に皮肉げにあざ笑うような表情を浮かべてる、新しく来た男の人らしいです。皆が楽しそうに、馬鹿にしてました」

「……そうか」

「ご飯は美味しい筈なのに、何ででしょうね。私は全然味がしなかったんです。口にどれだけ運んでも……全然美味しくない。……辛いですよ」

「……そう思うなら来なきゃ良かったんじゃねーの」

 

 別に昨日言ったことなんて俺は気にしてないしな。

 

「……でも、おかしいです。なんで貴方があんなにたくさんの量を作らせるのか。結局食べた量だって凄く少ないですよね? 足りないのは嫌い? なら二食分もあれば満足な筈です。何であんなにたくさんの量を? 意味が無いですよ。全く意味が無いです。―――私達に食べさせる以外、なんの意味も見当たりません」

 

 そういう榛名は、いつの間にか執務の手を止め、真っ直ぐにこちらを視線で射抜いていた。嘘をつくことは許さないと、視線が語っている。

 

「……知ってるか? お前みたいに何でもモノを穿って見るやつを中二病っていうんだぞ」

「知りませんしどうでもいいです。それにその体で行くと何でも捻くれた物言いしかしない提督は捻くれ病ですよ。あと眼が死んでいるので濁視病ですね」

「ありそうな病名やめろ。それに目は関係ねーだろ。中二病患者」

 

 そう返すと、榛名は一度きょとんとした表情を浮かべてから微笑んだ。

 それはどこか見覚えのある、悲しそうでいて呆れているような、そんな笑顔。

 

「……提督が本当のことを言ってくれないのは、多分そうしなきゃいけない理由があるんですよね? だから榛名はもう聞きませんし、言いません。でもやっぱり提督が酷い人じゃないことは、榛名が知っています」

「……妄想だろ」

「妄想ですよ? でも、提督は私にそんな妄想を抱かせてくれました。今だって、提督は私と同じ目線で話してくれます。まるでゴミを見るような目で榛名を見たりしません」

「俺の目がゴミみたいに腐ってるからこれ以上目線の下げようがねーんだよ」

「……もう、茶化さないでください」

 

 そう言ってぷくりと風船みたいに頬を膨らませる姿はまるでどっかのあざとい後輩を彷彿とさせた。

 

「でもやめとけ。お前が必要以上に俺のこと庇ったりすると周りから迫害対象になんぞ」

「あれ? もしかして今榛名のこと心配してくれてるんですか?」

「うぜぇ……」

 

 うぜぇ。心の声が声に出るくらいにはウザかった。

 

「酷い!? ……そんなこと言う提督とはお昼一緒に食べて上げませんよ?」

「誰も頼んでねーよ」

「まぁ頼まれてなくてもやるんですけどね?」

 

 どっちだよ。

 もう好きにしろ、と俺は止めていた作業を再開し仕事に没頭する。

 結局榛名は昼になっても俺の側から離れず本気で昼飯までわざわざこっちに持ってきて食べ始めた。

 

 仕事が終わっても居座るし、一体何がしたいんだこいつは。

 榛名の行動が謎に包まれた一日だった。




1日目→1話〜7話
2日目→8話

ひどい手抜きですねぇ……(長距離弾道ブーメラン

話は変わりますが、八話目にして、数多くの方からご評価、お気に入り頂き大変皆様には感謝しております。
正直本気でこんな事になるとは思ってませんでした。
それに伴い様々な読者様の目に触れる機会も増え、それと同時に手厳しいご意見も頂くようになり……ノリと勢いだけで投稿する人間の末路がこれなんやなって……(逃れられぬカルマ)

しかしそんな中でも温かいご声援を下さる読者の皆様も沢山いてくださり、作者は本当に助かっております。本気であのコメントたちがなければ昨日あたりには折れてた気がします。

本当にありがとうございます。これからも設定ガバガバの拙作ではありますが精進に努めますのでよろしくお願い致します!

読んでいただき誠にありがとうございました!


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9話 調査

どうも、お久しぶりです。
一日一回更新(大嘘)の私です。

いやいや、一応理由はあるんですよ? 
お休みしてた理由が、ありまぁす!(謎細胞並感)

冗談はこれまでにしておいて、それがですね。
先週まだ半年しかお世話になってない洗濯機が急に大破しまして。脱水押しても水が無くならないわだんだん焦げ臭い匂いしてくるわで本気で焦りましたねあれ……。

そのせいで数万は軽く吹っ飛ぶし洗濯機はいつまで立っても新しいのが来ないしで正直小説書くどころじゃなかったんです。モチベーションも死んでましたしね!
なので一切小説に触れないようにこの一週間生活してました。先程感想欄見てビビりましたね。これから返させていただきます。いつもありがとうございます!

というのが一週間もテメー何してたんだオルルァン!?に対する言い訳でした。お待ちして下さってた方々、誠に申し訳ありません。

今回はいつもと違った書き方のため、違和感があるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。どうぞ。



 ここ最近、鎮守府内が妙に騒がしい。

 もちろん原因も理由も分かっている。

 

『あの提督』のせいだ。

 あの提督が来て早一週間が経ち、恐ろしい速度で鎮守府は作り替えられている。最も顕著な変化としては、食料の配布だろうか。今朝の報告ではようやく食料の配送業者と話が付き明後日からでも食材の配送が始まるそうだ。

 それも、絶対一人分ではない程の量を。

 

 この時点で私達は不審がった。

 普通に考えたらなんかおかしくね? と。どう考えても自分だけが食べたいのであれば自分用の物を頼めばいいし、そもそも提督はいつでも外に出歩ける訳なんだからそれこそ前任のように遊び歩けばいい。

 しかし実態はどうだろう。

 提督が部屋から出てくる姿を目撃したのは、あまり無い。

 しかも殆ど部屋も出ずに業務に勤しんでるという。

 

 なんというか、言動と行動が噛み合ってない。

 悪い人、というよりは“悪ぶってる人”。そんなあり得ない妄想を抱かせるくらいには、提督の行動はおかしかった。

 この、漠然とした違和感が、確固たるものに変わったのにはある一つのきっかけがあった。それは、提督が食事を求めて食堂に来た際、本当であれば提督の為だけに用意されていた筈のそれを先に私達艦娘が食べていた現場を見られたことである。

 できるだけ提督にバレないように食事する、というルールが暗黙の上で決まっており、みんながそれを守って密かに食事をとっていたにも関わらず起きた悲劇。

 あの時は本当に終わったと思った。頭の中でデデデデーンと、あの交響曲第5番が流れ出す程には絶望を感じた。多分、それは食堂にいる皆も。

 その様子を提督は何を考えているのかよくわからない、感情の欠けるその死んだ瞳で私達が食事をしてるのを一瞥した後、欠伸を漏らしてから何事もなかったかの様にカウンターへと向かっていった。

 

 ―――普通ならここは怒る所では無いのだろうか?

 もちろん怒って欲しかったわけではないが、それにしても言動と行動が噛み合わない。俺のものに何勝手に手を付けてるんだ? とか。兵器の分際で人間の真似事を、とか。

 

 結局その後も難癖を付けられることなく、今度は此方を見もせずに食堂を立ち去っていった。

 それからと言うもの、皆が提督に違和感を抱くようになった。

 それは日を追うごとに膨らんでゆき、やがて違和感は疑念へと芽吹き、いつしか疑問という花を咲かせた。

 “ねぇ、調査してみない?”と。

 多分あの時言われなくても、そのうち誰かが提唱していただろう。それを分かっていたのか私達はその提案にすぐ乗り、今日この瞬間、つまり自由時間から行動を開始するのだ。

 

 そんな訳で。

 

「そ、それでは会議をはじめる!……なのです。というかなんでわざわざこんな暗い空き教室で始めるの? 普通にすればいいんじゃないのかなぁ……」

「駄目。こういうのは雰囲気からって決まってるでしょ。デン」

「うぅ。雷ちゃん。私その呼ばれ方嫌なんだけどなぁ……」

「雷じゃないわ。ライよ。決めたでしょう?」

「私賛成してないよぅ……」

 

 そんなこんなで始まったのがこの駆逐艦による、その名も提督調査会議。

 

 カーテンを締め切り、部屋の鍵をかけ、普段使われてない教室を(無断で)借り教壇に立つ私……デンと、ライが主導で会議を始めた。

 

 ……行動を開始する、と言いましたが私はせっかくのお休みを休もうとしてたのに無理矢理連れてこられただけなのです。

 

 しくしく、とデンが泣いてるのを気にせず話が進む。

 

「う、うーん。っていうかなんで私が呼ばれたのかなぁ?」

 

 あはは、と力無く笑いながら頬を掻くのは吹雪型一番艦の吹雪ちゃん。ごめんなさい。私も知らないのです。

 

「それはほら、なんか吹雪だったらなんかしてくれそうだなって」

「……あ、あはは」

 

 なんかって! なんかってなんなのですか雷ちゃん! あ、ライちゃん!

 あまりにふわっとした理由に吹雪さんは苦笑いなのですよ!

 

「まぁいいけど会議なら早くやりましょ早く! 何事も遅いより早いほうがいいわ! 何よりこの島風がこの会議をいっちばんに終わらせるんだから!」

 

 そしてもう一人、ここには珍しい艦娘がいます。

 島風型駆逐艦、島風。彼女についてはライちゃんが誘ったわけじゃなくていつの間にかこの会議に出席する事になっていたのですが……、理由は“面白そうな事に乗り遅れるわけにはいかない”という、如何にも島風ちゃんらしい言葉だったのです。

 

「ねぇ、やるなら早くやりなさいよね。レディーを待たせるなんてホントになってないんだから」

「うん。やるならさっさとやろう。というかいい加減飽きてきた……」

 

 そして他には私達暁型駆逐艦の暁ちゃんと響ちゃん。二人ともライちゃんの突拍子もない提案に慣れているからか溜息をつきながらも文句を言わずついてきてくれたのです。

 

 計六名。それがこの提督調査会議に参加したメンバーでした。

 

「それもそうねー。じゃあ始めるわ! えーと……まず、どうしよっか」

 

 皆ずっこけたのです。

 

「ちょッ、い、雷あんたねぇ! 主催するくらいならせめてなんか考えてからにしなさいよ!」

「えー、面倒くさいし嫌よ。みんなで考えるための会議なんだしそれで良くない?」

「うがぁー!」

「暁、それはレディーの上げる声じゃ無いよ」

 

 冷静な響ちゃんの言葉に暁ちゃんが窘められて、なんとか場の空気が落ち着く。本当にこの二人は私達の中でもいいコンビだと思うのです。

 

「そうだなぁ。調査って言ったらやっぱり聞き込みとか?」

 

 と、そんな提案をしたのは吹雪ちゃんでした。

 その言葉にいか……ライ……あぁもう面倒くさいのです! 雷ちゃんが首を傾げました。

 

「聞き込みねぇ。聞き込むって言っても誰に?」

「提督さんとか?」

「それじゃあ調査にならないでしょっ!」

「でも提督さんとまず話した人がいないんじゃ」

 

 早速話が暗礁に乗り上げました。そもそも調査するも何も提督さん自体の情報が少なすぎるのです……部屋からもほとんど出ないそうですし。

 

「あ」

 

 その中で、響ちゃんが何かを思いついた様な声を上げました。私達はその声につられてそちらに視線が向かいます。

 

 その視線の中心で、響ちゃんが顔を上げて言いました。

 

「いる。いるよ。1人。司令官と二人っきりで話してる人」

「だ、だれよ!」

「誰って、皆も知ってるよ。響だけじゃなくて皆見てたから」

 

 その言葉に、私の頭の中にも一人の姿が浮かんだ。

 それって、まさか……。

 

「間宮さん」

 

 

 ◆

 

 

 給糧艦、間宮。

この人は、今とてもこの鎮守府内において話題を呼ぶ人だった。その理由は簡単で、新しい提督に真っ向から意見を言い、そして私達が食事を取れるようにしてくれた人なのですから。

 そういえばあの時、間宮さんは倉庫まで提督と二人で行っていたことを思い出した私達は早速調査に乗り込んだのです。

 

「はぁ。提督について、ですか?」

「なのです。何かわかるようなことはないかと思って……」

 

 食堂。グツグツと、鍋の中で香ばしく香るスパイスの匂い。その音と匂いに私達は集中力を削がれながらもなんとか調査を続けていました。

 

 目の前の間宮さんはふんわりとした優しくて綺麗な笑顔を眉を顰めて困惑に染めながら、頬に手を当てて少し悩んだようにしてました。

 でも私にはどこか、とても怯えているような、本当に混乱しているようにも見えました。

 

 その間宮さんは、一度料理の手を止め、火を消してから答えました。

 

「私が知っているのは……あの人がとっても酷い人って事くらい、ですかね」

「ひ、酷い人なのです?」

 

 その言葉に、私達全員が息を呑みました。この間宮さんに酷い人と言われるなんてどんな悪鬼羅刹なのでしょう……。

 

「えぇ。とっても酷い人ですよ。……すごく不器用で、本当にズルくて、酷い人。最低です。本当に、最低です」

 

 その言葉の最後は、まるで自分に言い聞かせるような響きがありました。

 

「え、えと……その」

「あ、いえ! ご、ごめんなさいね? 急に。でも本当にあの人は最低で酷い人なんですから、下手なことしちゃダメですよ?」

 

 そう言う間宮さんの顔は、とてもじゃないが明るく楽しそうとは言えません。寧ろその言葉を言えば言うほど、顔に苦痛が浮かんでいるのです。

 

 一体何をこんなに苦しんでいるのでしょう……。

 私には、まだそれが理解できませんでした。

 

 これ以上は止めたほうがいい。私達は目配せで皆に合図し、間宮さんへの聞き込みを止め、せっかくなのでご飯を食べることにしました。

 

「駄目だったわねぇ。むぐむぐ」

「でもなんか、怪しかったねぇ間宮さん。あむっ」

「あ、怪しいって何が!? れ、レディーの私には、そ、そーゆーことは全くわからないですわよ!?」

「待って暁。なんのことかわからないけど口調が変わるレベルの自爆をしてる」

「はむはむはむはむはむはむご馳走様ぁ! よしいっちばん!!」

「わ、わぁ!? 島風ちゃんルゥが飛んできてるのです!?」

 

 みんなで仲良くカレーを食べながら現在の結果をダラダラと話します。うぅ、白地に茶色のマーブルが沢山出来てるのです……。

 

 こんなものでとりあえずは解散か、みんなの意見がそれでまとまりきった時、それは起こりました。

 

「あ、間宮さん。カレー大盛り2つ、お願いしてもいいですか?」

「あら、お疲れ様です榛名さん。カレー大盛り2つですね。少し待っててください」

「はい」

 

 そんなやり取りを、カウンターで始めたのは金剛型三番艦の榛名さんでした。とっても優しくて朗らかな榛名さんは駆逐艦の中でもとっても人気なのです!

 

 当然そんな榛名さんに視線は自然と言ってしまうわけでして……私はお二人のやり取りをスプーンを咥えながら見ていました。

 

「はい、どうぞ。今日は金剛さんとお食事ですか?」

「あ、いえ。今日はそうじゃないんです」

「あら、それでは比叡さんか霧島さんですか?」

 

珍しいな、と野次馬根性丸出しな私も聞いていて思いました。いつもの榛名さんなら―――というより金剛型の方々は何をするにも四人行動が当たり前で、その榛名さんが二人で誰かとご飯を取るという事に間宮さんも気になってしまったのでしょう。

世間話のように話を続ける間宮さんに榛名さんは頬を少し赤く染め、照れたようにはにかんで言いました。

 

「ふふっ、今日は提督と一緒なんです」

 

 そしてその言葉を発した瞬間、完全に食堂の空気が凍りついたのです。

 




そろそろ出したいと思ってた駆逐艦たちがようやく出せました。尚メンバーは勿論作者の独断です()
ホントは如月ちゃんとか色々出したいんですがキャパーオーバーになるのが見え透いているので断念しました。
それにしても電ちゃんってこんなんだったっけ……(うろ覚え
特徴つかむの難しすぎて本当に泣きそうです。

そんなわけで最新話でした。
ご感想や誤字脱字報告など頂ければ幸いでございます。


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10話 違和感への答え

早めに更新出来てウレシイ……ウレシイ……。

前回の続きで今回も別視点となります。
前回は完全に響がSGRしていたとのご報告を頂きまして、一人でうわぁああああってやってました。愛が足りずに申し訳ありません。

では、どうぞ。


『えっ……』

 

 何処からか、誰かの困惑の声が聞こえた。それが誰かも分からないですし、分かる必要もなかったのです。

 何故ならこの場の皆がその言葉に固まっているのですから。

 

 ……というか皆、なんだかんだ聴いていたのですね。

 

 まぁ食事中ってやけに周りの音が耳に入りやすいというか、なんというか。ともかく、いくらその理由を言おうと食堂内の雰囲気が変わる筈もなく、依然として冷たい沈黙が食堂を埋めていました。

 

「ね、ねぇ電! これって!」

「しっ。静かにするのよ雷。少し黙って聞いてみましょう」

 

 雷ちゃんが興奮気味に発した言葉を、暁ちゃんが宥めて口を抑えました。私達もアイコンタクトで様子を見る、という意を確認し、静かに榛名さんたちのやり取りを見ることにしました。

 

「は、榛名さん? 今のって一体……」

 

 間宮さんが、少し震えた声でそう聞き返しました。多分私であっても同じ行動をとってしまう未来が浮かぶのです。

 

「え? 提督と二人でご飯を食べるだけですよ?」

 

 その言葉に、追い打ちを掛けるように榛名さんが先ほどと同じ言葉を返します。

 こ、これで聞き間違えって事は無くなりましたね……。

 それが喜ばしい事なのかどうかはさておき、ですが。

 

「少し、いいかしら?」

 

 二人の間に幾ばくかの沈黙が降りていた時、ふと横から凛とした声が響いた。

 みんなの視線がそちらに向き、その姿を見やる。

 

「お話中申し訳ないわ。一つ聞きたいことがあって」

 

 それは、大和型戦艦一番艦、大和さんの姿だったのです。

 まだ提督が前任だった頃、職務放棄をするあの人の代わりに長門さんが総合監督、加賀さんが空母監督、大和さんが戦艦監督、愛宕さんが巡洋艦監督、足柄さんが駆逐艦監督、伊168さんが潜水艦監督として、それぞれ職を振り分けて仕事を分担していたのです。

 

 もちろん今でもそれを続けていますが、正式な提督がきて仕事をしてくれている為仕事は大分減ったのでしょうか。監督者さんたちが疲れたり辛そうな姿を見ることがほとんど無くなりました。

 

「あ、お疲れ様です大和さん。所で話ってなんでしょうか?」

「えぇ。出歯亀かもしれないけど少し話を聞かせてもらったの。ごめんね? ―――単刀直入に言うけど、貴方何かされた訳じゃないのよね?」

 

 それは、あまりにあまりな一言だった。

 わー、さすが戦艦大和。破壊力が違うって誰がそんなうまいことを言えと言ったのです雷ちゃん。

 場の空気がいっそう死んだ。大和さんの主砲(口)から放たれた砲撃は確かに食堂の空気を大破させました。

 

 あ、やばい。若干雷ちゃんの思考が移っちゃってるのです。

 

 流石の言葉に榛名さんも若干引いてます。お、おぉ? みたいな顔で固まってますよアレ。

 

「えーっと、それは一体……」

「……あくまで私は貴方達の監督艦なの。今までの噂だとか話だとか印象で提督の像を結びつけるとそういう事もあるんじゃないかと危惧しちゃうのよ」

 

 そういう大和さんの顔におどけた様な色は無く、至って真面目なものでした。

 でも、それも当たり前かもしれません。私達からしても提督にいい印象なんてありません。そんな人の所に榛名さんのような人が急に行くことになるなんて、邪推しない方がおかしいのです。

 多分大和さんは、私達が聞き出せない事、言えない事を率先してしてくれているんだと今になって気付きました。

 

「……そう、なんだ。これが提督の気持ちなんだ……すごく、痛い」

 

 ふと、榛名さんが何かをつぶやいた気がしましたが上手く聞き取れませんでした。

 

「榛名さん?」

 

 大和さんの呼び掛けに榛名さんがハッと顔を上げました。

 

「な、何でも無いです! あの、ご心配頂いてすみません……それに勘違いされるようなことを言ってしまって」

「勘違い、ということはそういう事でいいのね?」

「はいっ! 榛名は大丈夫です!」

 

 ここにきて、ようやく食堂の雰囲気が緊迫したものから普段の緩やかなものに変わり出す。

 

「悪かったわね、榛名さん。衆目に晒すような真似をしちゃって」

「いえいえ。こちらこそ心配して頂いてありがとうございます。ふふ、本当に大和さんは優しいですよね? この前武蔵さんなんて―――」

「あの子また余計なことを言ったのね!?」

 

 そんなやり取りに、皆がふぅ、と安堵の息を漏らして食事に戻り出す。カチャカチャと今まで無音だった食堂内にスプーンとお皿がぶつかる音が響き出しました。

 

「あ、間宮さんも悪いわね。途中から話に入って邪魔をしちゃって。なにか榛名さんに聞こうとしてなかった?」

「……あ、え? あ、いやっ! 何でもないんです! 気にしないで下さい!」

「……そう?」

 

 私達もすでに食事を終えており、そろそろ自由時間が終わって戻らなきゃいけないなーなんて考え出した時に、榛名さんが「ちょっと皆さん良いですかー」と声を上げました。

 

 みんなの視線が再び榛名さんの方へと向きました。

 

「お食事中すみません。榛名です。えっと、ですね。今の話で気になっている方も多いと思うので、皆さんにお話しようかと思って。―――提督の事を」

 

 ガッシャーン。厨房の方から何かを落とす音が聞こえました。

 

「今日これから私は執務室で、提督さんとご飯を食べます。これは、提督に命令されたわけでもなく、脅されているわけでもなく。寧ろ榛名から勝手に始めたことなんです」

 

 何言っちゃってるのです榛名さんーーー!?

 先ほどとは打って変わって、ざわざわとした喧騒が食堂に満ちる。

 その喧騒の中、榛名さんは落ち着いた表情で言葉を続けます。

 

「別に、提督は悪い人じゃないんです。なんて言うつもりはありません。だって榛名も提督のことほとんど知らないんですから。でも、薄々皆さんも何か感じているんじゃないでしょうか?」

 

 その言葉は、まさに私達には図星でした。

 

「私も感じたんです。ずっと喉の奥に骨が残るような、違和感を。その違和感を取り除きたくて私は提督のそばに行きました。何も提督のことを心から信じ切れたわけではありません。だから、皆さんにもそれがあるんだったら少しでもいいんです、提督と話してみませんか? あの人はすごく臆病で、あちらからなんて一切関わっては来ません。絶対にです。何もしないままだとそのままで終わります。それで終わっちゃうんです。―――後悔はしませんか? 何故こうしなかったんだと、自分に疑問を抱きませんか? 榛名は、後悔したくないですし、後悔してほしくないです。なので、是非話してみて下さい。話せなくても、ちゃんと提督を見てあげてください。それだけです。急にすいませんでした!」

 

 最後に深く一礼し、それだけ言い残して、榛名さんはカレーを手に慌てて食堂を出て行った。

 

 食堂の空気は重いわけでもなく、ただ皆がそれぞれに考え込むようにしていました。

 ……それは勿論、私達もです。

 

『…………』

 

 どうするべきか、どうしないべきか。

 皆がうーん、うーんと唸っている中、雷ちゃんが大きく伸びをして、あ~もう休憩終わりかぁー。と呑気な声を漏らしました。

 

「……っていうかアンタらどうしたのよ。そんな考え込んで」

「おぅー……。流石の私でもちょっと考え込む所なのに……雷ってば切り替え早いわね。負けたわ」

「へ? 切り替える? 何を?」

 

 雷ちゃんは本当にわかっていないように首を傾げてそう言います。

 

「いや、今の話に決まってるでしょう」

「ほら、雷ちゃん。提督にどうするかって話」

 

 暁ちゃんと吹雪ちゃんが補足するように言い、その言葉に対してなぜか雷ちゃんは更に疑問符を頭に浮かべました。

 

「んぅ? なんで? 答えなんて決まってるのになんで悩むの?」

『えぇ?』

 

 みんなの声が一つになりました。

 

「調査するのよ、だから。初めからそう決まってるじゃない。それで私達は違和感を感じてるんだから。後は榛名さんの言うとおり話すなり見るなりするだけよ」

 

 あまりにシンプルかつ男らしい発言に、我が姉妹艦ながらドキッとしました。

 

「……そうだね。それもそうだよ!」

「ふふん! ま、私ほどのレディーなら簡単に分かっちゃうんだから!」

「……хорошо(ハラショー)。うん、その通りだね。響にも興味が出てきた」

「じゃーさじゃーさ! 私達の中で誰が一番最初にわかるか勝負しよ!」

 

 皆の意見も、雷ちゃんの一言によって纏まりを見せました。

 

「ふふ、流石は雷ちゃんなのです。それじゃあ早速今日から、提督調査本格始動なのです!」

 

 おー! 

 食堂の中で6人の手が、控えめに挙げられた。

 

 

 ◆

 

 

「なんでですか?」

 

 とある場所で、女性の声が響いた。

 その声は、固く冷たい。

 これは怒りだろうか。憎しみだろうか。

 声が震え、寒気が足元からぞわぞわと這い寄る。

 

 思いのまま、その女性は言葉を吐き出す。

 

「私ではダメだったんですか……?」

 

 ふと、自分がぽたりぽたりと何かを零していることに気がついた。

 鏡に視線を向ける。

 ―――泣いていた。鏡の中で、ソレは涙をこぼしていたのだ。

 

 そこで理解する。

 あぁ、これは悲しみなのだと。

 一体いつまで私は、偽らなければならないのか。心を殺し、吐きたくもない嘘を口から零せばいいのだろうか。

 

「教えてください……」

 

 答える声は無い。

 

「教えてくださいよ、提督……」

 

 応える声は、無い。




最後のレイプ目は一体どこのナニ宮さんなんだ……。

 一人だけみんなとは違って、やりたいこともできない環境で、誰よりも感謝の念が強いのにそれすら許されない。
 むしろその逆の行為をずっとしながら周りの変化を指を加えてみていなきゃいけないってのはどんな気持なんでしょうねぇ?(暗黒微笑



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11話 変わらぬ心

結局GW中の投稿なんて無かったんや……結局不定期でごめんなさい。

そしてこんな作品でもお楽しみにしていただいてる方々には、こんな不定期になって本当に申し訳なく思っておりまして、一応そのことに対するご報告が御座いますので、宜しければあとがきをご覧くださいませ。

では、どうぞ。


 最近、鎮守府内の空気が妙だ。

 

 言うまでもないかも知れないが、ぼっちという存在は場の空気という曖昧かつ不可視の存在を認識することにかけては右に出るものはいない。中にはそれが読めなくてぼっちになる奴もいるだろうが、俺の場合前者である。

 

 そんなプロぼっちの俺がそんな風に思い始めたのもつい3日ほど前。

 できるだけ部屋に引きこもりたい俺でも外に出なければならない機会は存在し、その度に俺は出来る限り存在感を消して歩くのだが、最近になって何故か艦娘と鉢合わせする回数がやけに増えた。

 

 そして今も、そうだった。

 

「お、お疲れ様なのです。提督」

「お、あ、おぅ」

 

 目の前にいるのは、えーと。駆逐艦の暁型の四人と島風と吹雪か。

 

 俺の3分の2程しかない身長のが5人と小町くらいのが一人も俺の前に立ちはだかっていた。

 いや、どういう状況だよこれ。

 

 とりあえず俺はスッと間を抜けるようにしてその幼女軍団の横を通り抜けようとすると、ササッと俺の前まで移動してきた。

 

 ……スッ、ササッ。

 ……ススッ、サササッ。

 ……スススッ、ササササッ。  

 

 なんでぇ?(困惑)

 

「……なんだよ。ここを通りたくば云々とでも言うつもりか?」

「あ、それいいわね! 提督、ここを通りたくば私と競走しなさい!」

「うるせぇロリビッチ」

「おぅ!?」

 

 きわどすぎる格好をした幼女、島風を極力視界に入れないようにして言う。視界に入ってくんじゃねーよビッチ。見たら赤面しちゃうだろーが。

 

「ともかく、そこを退け」

「いやよ! だって退いたら逃げるじゃない!」

「……ニゲネーヨ」

「ほら! 死んだ目が左右に揺れてるわよ!」

「死んだ目っていう固有名詞を入れる必要がないだろ!」

 

 全く失礼な奴だ。影で言うのはいいけど俺の聞こえそうなところで悪口とか言うなよ? 実は悪口聞こえてますから、みたいなのが一番ダメージ強いから。いや、慣れてるけどね?

 

「というか、本気で何なんだ」

「ふふん、よく聞いてくれたわね! この暁達が提督のことをちょうもごごご」

「そ、それをドストレートに伝えるのはまずいんじゃないかなぁ!?」

 

 何かを言おうとした暁の口を慌てて塞ぐ吹雪。ちょう? ちょうってなんだよ。懲罰喰らわせに来たとか言うつもりじゃないよな?

 

「な、何でもないのです提督! よ、用はないんですけどお話したいなって!?」

「―――は? お話? 俺と?」

 

 思わず素っ頓狂な声が喉から漏れた。その声に、なのですなのです! と口を揃えて駆逐艦たちが言った。おい口癖移ってんぞ。

 

「……その、なんだ? 結構この鎮守府っていじめとかあんのか?」

「どうしてそうなったのよ!?」

「え? これ罰ゲームなんじゃないの? 負けた奴は提督と話してこい、みたいな」

 

 雷の憤慨に対して真面目に答えると、一同みんな引いたような、はたまた憐れむような目で俺を見つめた。

 

「流石にそれは……」

「自虐がすぎるね」

「どんだけ自分の立場にネガティブなのよ……」

 

 しかしどうも、この反応を見る限り罰ゲームではないらしい。

 という事はこいつらが自分たちの意志でここまで来た可能性が高い。

 

「違うのかよ……思い出(トラウマ)の振り返り損じゃねーか。なら尚更俺と関わるのはやめておけ。自分たちの立場悪くしたいのか? 俺と仲良くしてるところ他の奴らに見つかったらどんな目に合うかわからねーぞ。まぁ俺はどうなっても知らないけどな」

 

 こんだけ小さい奴らだ。ここまで言ったら人の好意を無下にするなんてサイテー! みたいなこと言って帰ってくだろ。

 

 ―――そんな認識でいた俺が、馬鹿だったと言わざるを得ない。

 

 俺のお得意皮肉に満ちた笑みを発動しながら言い切った言葉に対して、この駆逐艦達は何故か全員が全員、意外なものを見た顔でこっちを凝視していた。

 女の子視線ってそれだけでもダメージあるから本当にやめてほしい。

 

「な、なんだよ」

「電達のこと心配してくれたのです?」

 

 代表してなのか、電がそんな声を上げた。

 

「心配? 何をどうしたらそうなんだよ……。あのなぁ、俺はただお前らとこうやって話すのも面倒臭くて―――」

「でも今こうやって話してくれてるのです。無視すればいいのに。私達と話してくれてるのですよ?」

「―――ぐ」

 

 確かに一理あると、思わず俺は唸り声を上げて沈黙してしまう。

 

 ここに来てからというもの、俺は常に艦娘たちに振り回されてる。

 

 突然話は変わるが、ぼっちというのは、弱さでありながら強さを持つ。相反する性質を内包する一番矛盾的な存在だ。

 

 弱さといえば、まず間違いなくそれは社会的地位の話である。

 

 なんたって友達はいない。

 話す奴すらいない。

 飯を一緒に食う奴でさえいない。

 

 そんな奴は最早、クラスの中に存在するピラミッドさえ拝むことも許されない。カーストという括りにさえまともに入れてもらうことの出来ない爪弾き者なのだ。

 しかしその代わり、そんなぼっちは権力に対し特に脆弱でありながら、時として一番の力を持つ瞬間もある。

 ―――失うものなど存在しないからだ。これ以上落ちることのない最下層も最下層の人間が、それ以上にカースト上位のものに唾を吐こうが何も変わらない。それは持たざるがゆえの優位。

 

 俺はその力を知っているし、使う事も厭わない。実際にそうしてきたことも、少なくない。

 我ながらボッチとしての資質なら誰にも負けない自信がある。もうぼっちとかダサい呼び名じゃなくて【孤高】とか呼ばれてもいいくらいまである。

 

 ……そんな俺が、ここにきてからと言うもの何かおかしい。

 何がおかしいのか、俺? 俺が変わったのか?

 いやまさかそんな。

 こんなんで性格が変わるような精神性をしていたのなら俺の人生はもっと健やかで明るいものだったはずだ。

 では何が違う?

 

 目の前で、緊張しているのだろう。きょどきょどと視線を彷徨わせる電の姿を見ながら、俺は思案に耽っていた。

 

 思い浮かぶのは、間宮。榛名。長門。

 愚直とも思える、あいつらの姿勢と、目の前で俺に問いかけるこいつらの姿がダブつく。なんなんだこれは。一体これは。

 

 同時に湧き上がるのは、酷く不快感を感じるどす黒い何か。どんなに醜いものであろうと、人は完成されたものを壊されるのはとても怖い―――まさに防衛本能のようなものだった。

 

 まるで自分という存在を根本から否定されているような、そんな気持ちなのだ。

 

 あぁ、腹が立つ。イライラする。

 こんな事にしか腹を立てられない俺に、心の底から腹が立つ。

 

 しかし言葉は口から溢れる。泥のように汚い感情が、鈍いナイフとなって溢れるのだ。

 

「……何がしたいのかも、もう聞かない。どうでもいい。だけど言っておく。お前らが憐れみだとかそんなこと出来る自分がすごいだとか、そんな自己満足的な感情で俺に近づいてきたならすぐにやめろ。不愉快だ。相互不干渉でいいって言っただろ? そんなに俺はお前らにとって可哀想な存在か? 構ってやらないといけない奴に見えるのか?」

 

 きっと、今の自分はそれは醜い顔をしているのだろう。人を傷つけることしか知らない。人を傷つけることでしか距離を測れない。

 

 ―――結局俺は、どこまで行っても俺なのだと。

 

 さぁ、幻滅してくれ。早く罵倒して見限って関わることの無いようにしろ。

 数秒の沈黙が降り、やがて一人の少女が前に進み出た。

 

 肩上で揃えられたショートの黒髪を揺らす彼女は、吹雪。

 その瞳にある色を、臆病な俺は見ることもできない。

 彼女は口を開く。

 

「提督。私はあなたが何を言いたいのか、よくわかりません」

 

 そんな、予想外の言葉を口にした。




お読みいただいて誠にありがとうございました。
ご感想、誤字脱字やご質問などお待ちしております。

それで、前書きで申し上げたことなのですが、完全不定期で更新するのもなぁ……かといって名前を変えてるので活動報告は使えないし。

そんな訳で。

Twitterでちょろちょろ進捗を呟く事にしました。
ツイッターというかSNS自体馴染みがなくて全然やった事ないんですが、こういう使い方ならありかな、と。こんなところに上げるのもどうかと思いますが、もしできるだけ進捗を確認したい! 又は好奇心がてらにフォローしてやるか! という方がいらっしゃいましたら是非お願いいたします。

https://twitter.com/bufferin_novel?s=06

↑アカウントはこちらでございます。(前書き、後書きにURL載せるのがアウトってのは無かったので利用規約的には問題ないと思いますが、マナー違反だったりした場合は教えていただけると助かります。)
私も積極的にTwitterにのめり込むつもりはないので、あくまで進捗の報告がメインとなりそうです。のめり込んだときはごめんなさい(小声)

と、大半の方にはつまらないお話をダラダラとしてしまって申し訳ありませんでした。

実は次回の話で一応プロローグ的な部分を完了としております。こちらもほぼ書き終わってますので(短いですが)明日には投稿させていただこうと思ってます。
ちょっと今日は寝てないので、本当は今回やろうと思っていた事を次回の更新に色々回させていただきます。申し訳ありません。

感想もこれから返すつもりです……更新してない間にもたくさんのご感想誠にありがとうございます!
全部読んでるんですよ? 本当に。

長々と失礼しました。それでは皆さん。おはようございます(白目)


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12話 変化

ぎ、ぎりぎり間に合った……!
Twitterを見てくれた方は知ってると思いますが元々の投稿時間から5時間遅れての投稿になります……壊れるなぁ(時間感覚)

では、どうぞ。


 吹雪の発した言葉のインパクトに、俺は陰鬱な気持ちも吹き飛ばされ、数秒の思考停止を挟んだ後に疑問の声を漏らした。

 

「は、はぁ?」

「結局、どういうことなんですか? 私は頭良くないので、提督が何を仰りたいのか、五分の一も理解できていない自信があります。というか、みんな分かった?」

 

 その吹雪の問いかけに、駆逐艦全員が視線を明後日の方向にスライドさせた。

 

 えぇ……。

 俺の言葉ってそんな難しかったか? 玉縄みたいにあれこれ横文字使ったわけでもないんだけどな……。うわ、何もわかってもらえないのに独りよがりで色々言いまくってたとしたらこれ相当恥ずかしい真似なんじゃ。

 

「あ、でも。提督がものすごく捻くれているという事はすごい分かりましたよ!」

 

 そんな元気に言うなよ。

 というか分かられちゃったらしい。

 こんな短いやり取りでとか最速かよ。

 よくよく考えてみれば大体皆にすぐに捻くれている事が露見している気がしたが、深く考えたら負けだろう。

 

 吹雪は俺の返事を待たずに続ける。

 

「提督は、どうしたいんですか? 分からないなら聞けばいいじゃないですか。知りたいなら教えを請えばいいじゃないですか。一人でどうしようもないなら、助けてもらえばいいじゃないですか」

 

 その言葉に、俺はようやく理解した。

 違うのだ。意味が、言葉がわかっていない訳じゃない。こいつらは全員、俺の思考がわからないだけなのだ。

 

 それほどまでに彼女たちは純粋だったのだ。

 そして、今までずっと俺が感じていた違和感の理由も氷解する。

 彼女たち―――いや、艦娘という存在は、とても純粋なのだと。

 嫌な目にあってもたとえ辛くても、それを人に押し付けたりしない。むしろそれを分けあって、みんなで助け合える。

 

 人とは違う。欺瞞と嘘と、嘲りと傲慢にあふれた人間なんかとは、根本的に違うのだ。こいつらは。

 

 ……そりゃそうだ。だとするならば、俺の案なんて上手く行くはずもない。俺は常に人の悪い部分を信じて行動する。どんなにいい人間にも、悪いところも存在すると。だからこうすればいいのだと。

 

 ただそれが通じるのもまた、人間だけなのだ。艦娘ではない、人間だけなのだ。

 他人の悪さしか信じられない俺に、他人の良さを信じられる艦娘の何に勝てようか。

 

 “それでも、俺は――――。”

 

 ある日吐いた幻想が、不意に脳裏を掠めた。

 結局未だに掴めていない、その願い。叶うことも、叶えようともできなかった、ちっぽけな願い。

 

 目の前にあるその純白さに、その尊いとさえ思える在り方に、俺はいつか夢見た物を幻視していた。

 

 ただ同時に、目の前にあるその綺麗さを素直に認められない俺がいる。

 嫉妬なのだろうか、そうあれればと願った俺は、こんな捻れきってしまった人間はどうしてもその言葉を素直に受け入れられないのだ。

 

「お前らは、怖くないのか? そんなにやすやすと心の中に踏み込まれて、共有して、知った気になって。それは傲慢じゃないのか? その押し付けは、意味があるのか?」

「……そんなに難しく考えないといけませんか? 私は提督みたいには考えられません。きっとそれは、すごい大変でとても疲れちゃうから。でも私は、楽しいですよ。間違っていないと思えていますよ。皆で一緒に食べるご飯はおいしくて、皆で一緒にする演習は大変でも頑張れて、皆でともに過ごせる日々はかけがえのないものです。それだけは、この想いだけは誰にも否定させません」

 

 随分、あっさりと言ってくれる。

 なら。それなら聞くが吹雪、

 

「―――そこに、本物はあるのか?」

 

 その言葉に、吹雪は悩む素振りさえ見せずに言葉を返した。

 

「はい。この想いも、思い出も、私達のこの今も、私は本物だと思ってます」

 

 迷いのない言葉。当たり前のことを、当たり前に返すような気負いない言葉に、俺の肩から不思議と力が抜けた。

 

 捻くれすぎた俺には、直視に堪えるほど眩しいそれは、俺に教えてくれていた。

 

 きっとこれは、ひとつの答えなのかもしれない。

 本物を共有しようだなんて、それは不可能に近い。いつかふとした瞬間に二人が抱く本物のどちらかが形を失い、原型を忘れ、また照らし合わせた頃には形の違う何かになってしまっているのかも知れない。

 でも、二人が抱いた本物を、自分の胸の内に留めておくことなら出来る。照らし合わせる事などしなくていい。形が変わろうとも、元の形を忘れようとも、自分の中で本物だと思っていられるのなら、それはきっと本物なのだから。

 

「そうか。……そうか」

 

 しかしそれでも尚、比企谷八幡は恐怖している。

 踏み込むことなど以ての外。裏を勘ぐり、そしてまた裏の裏を勘ぐる。

 人の言葉などどこまで行っても信用になど値しなく、全ての言葉を理性で捉えてしまう。

 

 どこまで行っても俺は俺。どこまでも臆病な自分に、いっそ笑いがこみ上げそうだ。

 

 でも。

 そんな俺でも願えるのだとしたら。

 まだそれを、求めていいのだとしたら。

 

「変わらないとな……」

「え?」

 

 ボソリと口から漏れた声に、吹雪が疑問符を浮かべた。その声に、ようやく自分が目の前の惨状を放置して好き勝手に思案に耽っていたことを自覚する。

 

「……………あ」

 

 なんか、改めてとんでもなく好き勝手言った気がする。

 罵詈雑言的なのも上げた気がするし、また黒歴史ワードをほぼ初対面の、それも俺より年下にしか見えない女の子にうわぁあああああ!!!

 

 八幡が八幡にダイレクトアタック!

 エターナル(永遠の)ブラック()メモリー(歴史)!。

 効果、俺が死ぬ。

 

 その場で崩れ落ちた俺に、駆逐艦隊が近付いてきた。

 

「て、提督!? どうしたんですか!?」

「も、もう放っといてくれ……バカだ。正真正銘の馬鹿だ俺……死にたい。もういっそ雪ノ下の毒舌でそのまま召されたいぐらいだ……」

「え、えぇ……」

 

 ともかく。

 言わなければならない事は言うべきだと、俺は精神ダメージを継続して食らいながらもなんとか立ち上がり、吹雪に向き直った。

 

「散々言って……悪かったな。何がしたかったのか、本当にわからなかったけど、少なくとも悪意で近づきてきたりしてないって事だけは、感じた、と思う」

 

 実際こんな純粋な奴らがそんな事するなんてもはや思うことも出来なかった。

 

「随分自信なさげなんですね……。でも私も、こうして提督とお話出来て嬉しかったです」

「え、なにそれは……。知らない内に採点的なことされてたの? 赤点とったら処刑とかないよな?」

「無いですよそんなの! お話出来てなんで良かったかは秘密です! でも悪いことではないので、それだけは安心してください」

「……まぁ、いいけどよ。でもお前らもわかってると思うけど、俺の立場が今とんでもなく悪いのは本当だ。そんなのそっちのほうが知ってるだろ? だから無闇と俺に関わるのはやめたほうがいいだろ。どう考えても。誰とは言わんが、俺の手伝いしてくれてる奴がいて、そいつはしっかり俺との事は黙って上手くやって居るんだろうな。あいつがなんかやらかした、とかそんな話は聞かないし……って、何だよ。お前らのその顔は」

 

 絵に書いたような、あちゃーという顔だった。深く言及はしない。勘が言っているのだ。追求すると痛い目を見ると。

 

「ま、まぁその、ソウデスネ」

「な、なのですね」

「そ、そうわね!」

「……レディーだから、黙っておくのよ」

「はぁ……」

「oh……」

 

 おい最後。お前いつからそんなキャラになったんだよ。

 しかし自分でもわかるほど、今の俺は彼女たちに対して敵愾心、警戒心、疑念と言うものを感じなかった。

いや、完全にないわけではない。が、それでもほぼ初対面とは思えない程穏やかな気持ちであることは確かだ。

 別に彼女たちに心を許したわけではない。比企谷八幡は、そんなに人をすぐ信じられるほど面倒くさくない人間ではないのだ。しかしそれでも……吹雪の言葉は、たしかに俺に届いていた。それがたとえ偽物の言葉であろうと構わない。そう思えるほどに。

 

 だからせめて、その礼くらいは尽くそうと思うのだ。

 

「その、だな。改めて本当に今日のことは悪かった。忘れてくれってのは、虫のいい話だとは思うがその借りはちゃんと返すから忘れてほしい。というか本当にお願いします忘れてください。あと、その、なんだ―――わざわざありがとな」

 

 あーくそ。恥ずかしい。こんなふうに礼を言うキャラじゃねーだろ俺は。

 

「―――はいっ!」

「っ! そ、それじゃあそろそろ俺は行くわ」

 

 しかし、目の前で俺が礼を言ったというのに、こんな満面の笑顔を浮かべた吹雪たちの姿に、俺の顔は赤くなるばかり。

 

 それを悟られないように顔を背け、慌てて彼女たちの間をすり抜け、早足で廊下を歩く。

 

 が。

 

「きゃっ!」

 

 そこで問題は起きた。顔を背けながら歩いたせいか、俺が廊下の角を曲がろうとした瞬間に何かとぶつかってしまった。

 

 倒れ込む俺の身体。来たるべき衝撃に備え、反射的に俺は地面に手を着こうと腕を伸ばした。

 

 

 あれ、なんかおかしいぞ?

 俺はそこで疑問を感じた。

 

 なんか、転んだというのに、板張りの廊下に倒れたはずなのに、すっげー柔らかいんだけど、何このクッション的な廊下。

 理解不能というより、理解したくないという本能が勝ったのか、その時の俺の思考はどこかぶっ飛んでいた。

 

『うわっ……あれが世で言うジャパニーズラッキーSUKEBE……!?』

 

 もはや後ろから聞こえるそんな言葉を聞いてる余裕などなく。俺は伸ばした掌がつかむ、それこそクッションのような丸みを帯びたそれを握った。

 

 もにゅうぅ。

 

「んんん……っ」

 

 ……あっれーおっかしいなー。

 よくよく思い返してみれば、たしか転ぶ直前に、何かにぶつかって、しかもそれ声上げてませんでした?

 

 冷静になれば冷静になるほど血の気が引いていくのはなんでだろうか。

 いや、悩んでいる暇などない。

 俺はゆっくりと瞑っていた目を開き、下を見た。

 

 そこにあるのは当然板張りの床―――なんてことはなく、

 

「あ、あのあのあの、てっ、ててて、て、提督? は、はるはるはる榛名は、だっだだだ、大丈夫ですよ……?」

 

 床に押し倒された形で、瞳を潤ませながら顔を赤く染め上げ、上半身のある一部を掴まれた榛名の姿と、傍から見ればそれを押し倒した形で女性の象徴的な部分を鷲掴んだ己の姿。

 

 腐った目の男が、うら若き乙女を真っ昼間の廊下で覆いかぶさっている現状。

 そしてそれを、潤んだ瞳で見上げる美女。

 

『あなたならいつかやると思ってたわ。半径3キロは近寄らないでくれるかしら。性犯罪者谷君』

『ヒッキー……さいてー……』

 

 脳内で再生されたのは妙にリアリティーのあるあいつらの声。調教されすぎだろ俺。

 

 一体何がどう大丈夫なのか、小一時間ほど問い詰めたかったが、そうも行かない。その光景にワーワー騒ぎ始める駆逐艦隊と、それにつられてやってくる昼休み中のギャラリー。

 

 その中心で事故っている俺ら。

 

 ……逆に、ここまで来ると何か清々しい物を感じる。

 言い訳はしない。こんな時にする言い訳など価値もなく、意味もないことを俺は誰よりも知っている。だからこそ俺はこの言葉を声を大にして言わせてほしい。

 

「―――やはり俺の提督生活は間違ってげふぅ!?」

「わぁあああああ榛名は私が守るんデスよぉおおおお!!!!」

「お姉様!? 落ち着いてください落ち着いてください! 提督が死んじゃいますから! 死んじゃいますからぁ!?」

 

 この日の鎮守府は、これまでにないほど騒がしかったと近隣から言われるほど声があたりに響いていたという。

 

……そしてこの件をきっかけに、金剛と一悶着起きたのは、また別の話である。




ちょっと駆け足感がありますが、これにて導入部分を終えたいと思います。導入だけで一ヶ月ですってよ(絶望)

さて。

本題に入ります。
言い訳になりますが、この小説の説明文にも書いた通りこの作品は作者が息抜きに書きはじめたもので、元々プロットもクソもないチラ裏系のssでした。
が、俺ガイルと艦これのブランド力のおかげというべきか、沢山の方々に拙作をご評価頂き、一ヶ月という短い期間で10万UAという嬉しい結果が残せました。一重に読者様方のおかげで御座います。
総合評価もちょっと直視出来ないくらいの伸びを見せており、身に余るなぁと常々感じております。
ですが、それと同時に困る事もございまして。
ご感想をいろいろな読者様に頂けて本当にいつも嬉しく思っているんですが、一つお願いごとがございます。

それは、作品を根本から否定するようなご感想を控えていただきたいな、という事です。
理由についてはとても簡単で、それを言われてもなぁ。となってしまうからなんです。
ここにSSを投稿する作者の方々は自分を含めてプロではありません。中には凄い人も居るんですが……少なくとも自分はそうではありません。
ご批評頂けることは願ってもない事です。いつもご批評の内容に四苦八苦しながら、それでも自分なりに真摯に受け止めて改善を心がけようと思っております。
ただ、批評と作品自体の否定が同じものではない事を、読者の皆様には分かっていただきたいのです。
感想というのは読んで字のごとく『感じた想い』ではありますが、だからといって何でも言って良い訳ではないと、私は思います。
再三言いますが、優しくしろと言っているわけではありません。どんな厳しいご意見だろうと、それが的はずれでなく、自分に取って足りてないものだと思えるご指摘であれば私はしっかり向き合って改善させて頂きたいと思っております。何様かと思う読者様もいらっしゃるかもしれませんが、何卒よろしくお願いいたします。

という、作者のお願いでした。

では!

※敬称略で申し訳ありません。

アクアブック ポン酢@ cbdool 逃げ道 
しゃもじ55 てのりタイガー 弓弦 Mr.鯖 
オーダー・カオス pandorainzabokkus 
ゎかさぃも みぎ→ 加名盛さん sacre.de.lumiere 日々はじめ Yadori refu0 Re.ライとも 千葉の鬼ぃちゃん 
タイルマン キド団長 かっつ S.N 
黒猫@ただのオタク タイコ カサヒロ たかたかた
安田 白金屋 イージスブルー 
Readle 久遠秋人 intet1234 mfj1 MONEY ette ジンマ 
ユキムラ提督 さんぼる 絵空事 ぷるアージュ 
一つ上の豆乳 むぎたろー オニオンジャック 
モジー ミラネ 岬サナ ドイツSS 
ふわとろオムライス 独者 ぐらんぶるー 
りんくる☆ 緋勇 大神炎黒 かなゆき27 
ヒイラギ ソラ いあいあ shero 斉天大聖 
強制執行 ふぉふぉん たかゆ 桜猫 
流離う赫毛の剣士 夢現 ゼオン 慧兎 106951 Pak36 dolly タクマロ Eine. makken 
トラブる@闇ちゃん 優楽 秋山コズモ Sprite 
希龍00000009 福流 二元論 両儀白 ぼっちの神 クラウディオ watasan 壽13 塩梅少年 
竹生大点 Akiさん yc0902 
unknownenemy イエス るなてぃっくゆう 
SeRα  unajuu 山ポン るさるかP 
ぴあにっしも こもりあ vaisyaaaa 
タチネコマントヒヒ 
ハルミオ こんそめ げれげれ Ngle 
バレッタ jdg7 hauhauo 振り向けば案山子 
iolite6 NE0 また 
グナイゼナウ rairairai テンパランス 
マサヨシ 缶詰粗品 メイドが冥土in 

の読者様方が拙作をご評価してくださいました。誠にありがとうございます。

そして、
アーマゲドン様 読書家になりたい様 不死蓬莱様 緒方様 CREA様 darkend様 
いつも拙作の誤字報告誠にありがとうございます。これからは誤字が無いよう、気を付けて投稿します……いつもご迷惑かけて本当に申し訳ありません。

長々と後書きを書いてしまい、誠に申し訳ありません。
ですが本当にいつも読者の方々に私は助けられ、本当に感謝しております。

これからも拙作を何卒よろしくお願いいたします!


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13話 あれから。

久々の更新です。

遅れてしまい申し訳ございます。
私事になりますが、つい先日姉の結婚式がありまして、これでようやく3人いる姉が全員落ち着く所に落ち着いたかな、と。幸せになってほしいもんですね。
あとは自分が身を固めるだけですね……ハハ(目逸し)



 開いた窓から涼し気な風が、新鮮な空気を運び提督室を優しく包む。

 麗らかな木漏れ日に目を落としながら、風に運ばれ窓から入ってきた桜の花びらに視線を奪われる。

 

 この鎮守府にきて早1か月が経とうとしていた。

 いろいろ問題がある鎮守府ではあったが、今ではそれなりの運営ができているのではないかと思う。

 事務もそこそこ慣れたのもあってかある程度の調節が可能になったのだ。

 艦娘達の食生活でいえば、食材発注の安定化が一番大きいだろう。とても手間取ったが、それでもなんとか現地の卸業者と契約を結ぶことができた。

 前任の悪評が付いて回るとは思っていたが、まさか食材を卸すのにも一悶着あるとは思ってもなかった。

 苦々しい二週間ほど前の記憶に、思わず顔を歪める。

 まぁ、それは置いておくとして。

 生活面では今までのあまりにカツカツな仕事量を減らし、朝、昼、夜の3つの時間帯に分け、それをローテーションする形で鎮守府の管理、警備、訓練の大まかな3つの持ち場を作りまとめることが出来た。

 ちなみに前任の頃は全員が一斉に各海域に最低限の燃料、弾薬を渡し出撃させるなんてザラで、睡眠時間もほとんど取らせなかったりの酷使っぷりだったそうだ。

 幸い―――いや、皮肉にもこの鎮守府はブラックだけあって資金も資源も人材も潤沢に貯蔵されており、この手段を取るのもさほど難しいことではなかった。

 何よりもこの案をすぐに受け入れられたのは本当に助かった。

 

 そんな俺は思うのです。

 

「そろそろ休みくれよォ!!」

 

手に握るペンを机に叩きつけ天を仰ぐ。時刻はまだ朝7時である。

 

「最近毎日それ言ってますけど、なんだかんだ言ってサボらないですよね」

「いや、お前が仕事してんのにサボるのは気を使っちゃうだろ……」

 

 これはぼっちの特性な。

 

「そ、そんな榛名の事を心配して頂かなくても大丈夫ですよ?」

「何赤くなってんだよ。勘違いするだろうが」

「……もう」

 

 かりかりかりかり。

 まだ日が昇りきっていない執務室に、ペンを走らせる音だけが響く。

 

「でも、本当に提督が来てからここは凄い良くなりました。みんな何だかんだ言って、感謝してると思いますよ?」

「いやねーだろ。寧ろ嫌われ過ぎて避けられてるまであるぞ」

 

 実際、廊下で擦れ違おうもんならこぞって皆が距離を置く。あんな分かりやすく避けなくてもいいよね? 比企谷菌の話誰かから聞いたのかな?

 そんなことを話したくもないので、何言ってんだお前。と視線で訴えてやれば秘書艦用の席に座る榛名がわかりやすく頬を膨らませた。可愛い。

 

「むぅ。相変わらずですね、提督は。本当に捻くれているんですから」

「人間なんてそんなもんだろ。だが考えても見ろ。ペラッペラになんも(ねじ)れていない和紙と、それはもう完全に捻れまくって一本の糸みたいになった和紙。どっちのほうが強度が強いかというと捻れた和紙な訳だ。つまりこれは人間としてどっちが優れてるかといえば捻れた者であってだな」

「確かに紙自体はより強力になりますけど、横から千切る力には弱くなりますよね。それも含めて提督の人間性を表しているんですか?」

「…………」

 

 そう言われた俺は、思わず苦虫を噛み潰したような苦味を舌の上で味わいながら無言を貫いた。

 

 いや、あの、榛名さん? あなたちょっとどっかの誰かの毒舌が移って来てませんかね? 具体的には雪女の権化みたい奴の。

 

流石に会話の流れで劣勢を悟った俺は即座に会話を逸らす作戦に移行する。

 

「そ、そういえばお前も大丈夫なのかよ。ほら、訓練とか、演習とか」

「はい。提督に変わってから無理な遠征も出撃もしなくなりましたから。むしろ今じゃ力が有り余ってる子も居るみたいですし……何ならもう二人ぐらい秘書艦を増やしても」

「やめてください死んでしまいます」

 

 余計なこと言うんじゃなかった。ようやくこいつでも慣れてきたところなのにまた知らない奴が増えるとか俺の胃にド級の穴が開くわ。

 

「もう。秘書艦の件は冗談だとしても、提督もそろそろ他の艦娘達とコミュニケーション取らないとまずいですよ。ほら、吹雪さん達も寂しそうにしてますし」

「いや、それは大丈夫だろ? 現に話しかけてくる奴なんていないし」

「提督が話す機会を作らないようにしているからじゃないんですか?」

「ぐっ……」

「あまりこういうことを言うのも榛名はどうかと思いますが、提督は、提督なんですよ? 今まではどうだったか知りませんが、今はもう私達すべての命を預かる責任者なのです……」

 

 そこまで暗くないはずの会話に、突然の影が差した。

 

「…………」

 

 それは、分かっている。

 分かっているだけに、考えないように避けていたのもまた事実だった。

 

「兵器の分際で何を命などと、なんて提督が言えたら楽なんでしょうけど、きっと優しい提督はそんなこと言えませんよね」

「……優しいかどうかは知らんが、当たり前だろ。そんなことを言える奴なんて、そいつの方がよっぽど人非人だ。人間を人間と呼ぶのに必要なファクターは経歴でもDNAでも籍でもない。理性がある生き物は人間なんだから」

 

 ものを考えて泣いて笑って、時に怒って。そんな姿をこの一ヶ月の中で嫌というほど見てきた俺に、もはやそんな考え方ができる理由など一部も無い。

 

「ですから、私は何があろうと提督を支えます。榛名が提督のすべてを守ります。どんなに辛くても側に居ます。どんな障害からも貴方を守り抜いてみせます」

「……はっ。相変わらず格好良過ぎて惚れそうだな。まぁ振られるまであるんだけど」

「ふ、ふええええ!?」

 

 急に耳元で高い声出すなよ。ふえええってなんだ、ふえええって。

 

 俺が若干引きながらそんなことを考えていると、何故か勢いよく席から立ち上がった榛名がこちらにツカツカと歩いてきて……って近い近い! 顔近いわ! あと肩痛い! 

 

 肩がメキメキすごい音を立ててるせいで腕が変な状態のまま宙を彷徨う。

 多分美女に肩を掴まれながら腕をわきわき動かしてる俺の姿は傍から見たらさぞ滑稽なものになっているに違いない。

 

「て、提督は、榛名にそ、その! ほ、ほれてりゅんですか!?」

「は―――はぁ!? なんだその罰ゲーム式の告白タイム。やめろやめろ! 近いって!」

「いいから早く―――」

 

 わーわー、と俺らが騒いでいると、不意に廊下に繋がるドアがガチャリと引かれた。

 

「失礼する―――失礼した」

 

 長門の顔が半分見えて、また消えた。

 なんで失礼しちゃったの? 凄いやばいもの見ちゃったーみたいな顔でドア閉めたけど何があった?

 あ゛。

 

 よくよく考えてみたら、あっちからは丁度榛名が俺に覆いかぶさって、その、なにか誤解を招く何かをしてるようにも見えるかもしれない。

 

「なぁ」

「みなまで言われなくても榛名は大丈夫です」

「いやその真っ赤な顔で大丈夫はないだろ。まぁいい、いくぞ」

「はい」

 

 俺達の、尊厳をかけて!!

 

『長門さん待ってぇーーー!? 誤解だからぁーーー!?』

 

 尚、顔を赤くしてすぐに執務室から出た長門の姿と、それを追いかける提督と榛名の姿はちゃっかり目撃されていたらしく、なおさら噂が広まったことを二人が知るのはまだ先の事だった。

 

 

 ◆

 

 

「いや分かってる分かってるみなまで言うな。いや、提督も男だから、な。うんうん。安心しろ。私は理解のあるビッグ7だ」

「理解もクソもビッグ7に求めてねーよ。つーかお前絶対便利だから使ってるだろそれ」

「そうです。長門さん。さっき見たのはそういう事じゃなくて」

「あぁ、大丈夫だ。分かっているさ。―――合意の上なんだろ?」

 

 ドヤ顔で言い切る長門に対して、俺はため息を漏らした。

 

 ダメだこいつ。

 

 何とかあの後、競歩選手も驚きの早歩きで去っていく長門を捕まえて執務室まで連行し今に至るが、目の前の長門は顔を赤く染めながら必死に理解ある女感を出しててとてもウザい。

 

 俺は小声で榛名に問いかけた。

 

「なぁ、実はこいつ馬鹿なんじゃないのか?」

「なっ!? 私のことを今馬鹿と言ったか!?」

 

 しかしどうやら相手には聞こえていたようで、憤慨の声が目の前から掛かった。

 

「するわけ無いだろ! お前みたいな誇り高い戦艦を誰が馬鹿にできるってんだよ! この馬鹿!」

「ふふん、そうだろうそうだろう! ……ん? あれ? 今なにかおかしかったような……」

 

 あっ(確信)。

 これは完全にどこかの由比ヶ浜さんと同じタイプですね。

 つーかやっぱり完璧な美人なんていないもんかね。平塚先生然りこいつ然り。かっこいい時とダサい時のギャップが凄すぎだろ。

 え? はるのん? あれはちょっと対象外ですね……。

 

「それで、長門はどうしたんだ?」

 

 これ以上話をややこしくするのも面倒なので――面倒な事にしかけたのは俺だという事実は見ない事にし――そう、長門に切り出す。 

 

「あぁ、すまん。あまりに衝撃的で本題を見失う所だったな……。大本営からお達しが届いて……その内容が、な」

 

 随分と濁らせた物言いに不可解なものを覚えつつも渡された報告書に目を通す。

 

「……あぁ、そういうことか」

 

 そこにある内容を簡潔にまとめれば、前任提督がこの鎮守府の管理をしていた頃よりも数段資材の確保や海域の攻略速度が落ちていることに対する大本営からの苦言だった。

 

 まぁそれも当たり前の話で。

 前任提督の頃は、それこそブラックな環境を作り上げることによってゴリ押しの最高効率を求めていたわけだが今はその方法を廃止しているし、それだけではなくある程度余裕のある勤務になるよう時間も変えた。

 効率が落ちないほうがおかしいのである。

 

 俺が見る資料を斜め後ろから覗いていた榛名も難しい顔をして悩んでいる。

 

「提督……やはりこれでは前の環境に戻したほうが良いのではないか?」

「いいや無理だな。理由はいくつかあるがまず一度こっちの状態にしてからまた戻すとなると多分今より効率が落ちる」

「なぜだ? 前はちゃんとその分成果が出ていたではないか」

「“前は”だろ? でも今は違う。そんな無理をしなくていい環境を知ってしまった。もっと楽で息抜きのできる今を知ってしまった。一度味を占めるとな、抜け出せないんだよ。どんな素晴らしい人間でもな」

「それは……」

 

 それは、理性ある人間だからこその欠陥。比較することを覚えた知性ある人間だからこその弱点。

 その結果起きるパフォーマンスの低下は避けられない未来だった。

 

「それだけじゃない。単純にリスクが高すぎるって理由もある。むしろ今までが異常だったんだ。艦娘ひとりひとりの価値がここじゃどうだったかしらんけどな、世界的に見てもあんなふうなやり方で使い潰していいもんじゃねぇんだよ。あのやり方を続ければ、どう考えてもいつか支障が出て壊れる奴らが出てきただろう」

 

 それが今まで出なかっただけでも奇跡みたいなもんだろ。

 

 吐き捨てる様に言うと、目の前からギリッという音が聞こえた。

 顔を上げると、そこにあるのは長門の思い詰めたような、悔いても悔いきれない罪があるような、そんな顔。

 

「長門?」

「―――いや。なんでもない」

 

 何でも無い訳がなかった。訳ではないが、その問題に踏み込むのはまだ早いと俺の理性が警鐘を鳴らしていた。

 

「そうか……。ともかくこういうとなんだが、見合わないんだよ。艦娘を酷使してまで海域を攻略して資材を得るなんてことはな。そういうのは英雄志望のデイドリーマーの役目だろ?」

 

 それは、感情やその他不確定な要素を一切交えない比較の問題だった。

 艦娘と言う存在は、一人を建造するだけにもそれはもう膨大な量の資材を投入する必要がある。あのボーキサイトや鋼材や燃料や弾薬が、なにがどうして人の形を取るのかは全く理解出来無いが、そこは妖精さんの力、ということにしておこう。

 

「で、でもそれじゃあいつまで経っても世界は深海棲艦の脅威に晒されたままになっちゃいます……」

 

 榛名が寂しそうな声音でそう言う。

 しかし榛名。

 

「勘違いされたくないから言っておくがな―――俺は別に、深海棲艦をどうしようだとかなんて考えてないからな?」

『え?』

 

 俺の言葉に対し、長門と榛名の声が重なった。

 

「俺は世の中をより良くしたいだとか深海棲艦をこの世から廃絶する、だとか。そんな英雄じみたものに興味はないしやる気もない。俺はこの鎮守府を今より改善して、そこそこの運営利益を出しつつ可もなく不可もない評価を貰えてればそれでいいんだよ」

 

 それはきっと、世間的に見れば問題発言以外の何物でもないのだろう。

 

「俺は、責任なんて負いたくない。問題なんかに関わりたくない。お前らの命なんか背負いたくない。俺は俺以外の為に頑張りたくなんてない。だからやれる最低限のリスクを許容して最低限のリターンで満足するんだよ」

「……それなら提督は、なぜ提督になったんですか?」

 

 それは、榛名の口を突いて出た純粋な疑問だった。

 提督業というものは、まさに今俺の口から出たモノで形成されるような職業だ。それが嫌ならやらなければいい。その通りだ。全くもってその通りである。

 

「……さぁな。きまぐれじゃねーの」

 

 それは勿論嘘では無かった。しかし真実でもない事を、言いながら俺は自覚している。

 気まぐれと言っても間違いではない。元々やるつもりなんて無かったものを急にやる事にするなんて、傍から見れば気まぐれ以外の何物でも無いのだから。

 まぐれだった。そういう偶然だった。

 そのまぐれ(雪ノ下)こそが、俺の気を変わらせたのだから。

 

「……なんというか、提督らしいですね?」

「榛名。これ怒ってもいいんじゃないのか? この提督目の前でまぐれで今提督やってるって抜かしてるんだぞ?」

「まぐれでも何でもいいですよ。だって私は現に今、大丈夫なんですから。あの頃よりずっとずっと。―――それに」

「それに?」

 

 長門の問いかける声に、榛名は笑みをもって答えた。

 

「提督、問題になんか関わりたくないなんて言いながら、勝手に関わって解決して、そんな捻くれた人が言葉通りなわけないじゃないですか」

 

 信頼と言うには妄信的に。

 盲信と呼ぶには信頼的な。

 あまりに実感を込めた榛名の言葉に俺は何も言い返すことは出来ない。

 

「……なぁ提督。榛名は少しお前のこと好き過ぎじゃないかこれ」

「やめろ好きとか簡単に言うなそんなわけ無いだろ。……これあれだろ? ちびっ子が近所のお兄ちゃんをやけに崇拝対象にしたがるあの現象だろ?」

「はぁ……。まぁ、提督が言うならそれでいいが」

 

 奥歯にものが挟まったような言い方で言葉を重ねる長門から目を逸らしながら俺は溜息をこぼした。

 

「ともかく、此処は今の運営の形でも一応黒字ではあるんだ。前に戻すつもりはないぞ。ま、それで俺がクビになった時はその時でお前らで好きにやれよ。あんな環境でやってきたんだし、なんとかなるだろ」

 

 実際、俺がいない間も問題なく運営できていたわけだし。

 

「それに―――」

 

 言葉を続けようと口を開いたその同じタイミング。パァン! と軽やかな音を立てて俺が今座る提督用の執務机の正面にある、廊下へと続くドアが開かれた。

 

 あまりに突然の事に驚いても仕方がないと思うが―――お生憎とこれで一週間以上は続けられる行為に新鮮な反応を返してやれるほど俺は優しくはなかった。

 

「HEY! テートクゥ! そろそろお昼の時間になりますネー! 今日はチェスで私とバトルしてもらいますヨ!」

「嫌だ。ノーだ。帰れ。ゴーバックだ」

 

 重苦しかった空気を消し飛ばす喧しい声。あっけらかんとしたその態度と声に、ある馬鹿の姿が重なる。

 

 扉を蹴破らん勢いで執務室へと侵入を果たしたソレは、奇しくも俺の横に控える榛名の姿を想起させる出で立ちだった。

それもそのはず。何せそいつは―――彼女は。

 

 金剛型一番艦 金剛。

 

 先に言っておこう。

 俺はこいつの事がとてつもなく苦手だという事を。

 




今回からようやくちょくちょく登場キャラを増やしていくつもりです。

一応今回から新章ではあるんですが、全くわかりませんね。後から章分けするかもしれません
読んで頂いてありがとうございました!


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