ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ (クロス・アラベル)
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おまけ!
あの日、あの時、あの場所で。①


こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は第一層でのおまけの小話です。とは言っても、ほんの少ししかありません。息抜きみたいな感じでお願いします!
それではどうぞ!


 

 

これはこの物語で、本編には出なかったお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『恋する少女達の内緒話』

 

 

 

 

 

 

キリト達と再開して30分後。ロニエとティーゼは宿屋の一室に入った。

 

「……ねえ、ロニエ。」

 

「何?ティーゼ。」

 

「………信じられると思う?また、ユージオ先輩とキリト先輩と会えたなんて…」

 

「……確かに、今も夢を見てるみたいで……でも、本当のことなんだろうね…」

 

「……さて、ロニエ。」

 

「?」

 

「今この状況はチャンスよ。」

 

「え?」

 

「キリト先輩がアスナ様とまだ出会ってないのよ!あんたの方が先に出会ったんだから!アスナ様よりずっと有利な立場に立ってるのよ!」

 

「ええっ/////⁉︎」

 

ロニエはティーゼに不意を突かれ、赤面する。

 

「絶対に勝ちなさいよ!今度こそっ!アスナ様に悪い…とか、思ったらダメよ!」

 

「も、もう!や、やめてよっ、ティーゼ//////⁉︎」

 

「応援してるんだから!」

 

苺のように真っ赤になった。

 

「……うー……////じゃ、じゃあ、ティーゼもだよ!」

 

反撃とばかりに言い返すロニエ。

 

「⁉︎」

 

「今度こそユージオ先輩の心を勝ち取らなきゃねっ////!」

 

「いやっそっそれは……/////////」

 

ロニエに負けず劣らず赤くなるティーゼ。まるでリンゴのようだ。

 

「あ、赤くなっちゃって……私なんかよりティーゼの方が頑張らなきゃね!」

 

「ちょ、ロニエ/////⁉︎」

 

「分かってるんだから!ティーゼ、あなたがユージオ先輩を見ては頰を赤くしてることぐらいね!」

 

「〜〜///////////‼︎‼︎」

 

 

 

 

これは宿屋の一室で話された口外できない恋する少女の内緒話。こんなことを話されているとはキリト達は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お風呂事件の裏』

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああああああああああああああッ⁉︎」

 

バシィィイッ!

 

「へぶしっ⁉︎」

 

ドタンッ!

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

倒れるユージオ。裸で息を切らすティーゼ。咄嗟に平手を飛ばしてしまったが、やはり彼女も思春期の女の子。気にしてしまうものである。

 

「………ぁ、服っ!」

 

すぐさま装備を元に戻して、冷静に考える。

 

「あ、ああっ!ゆ、ユージオ、先輩ぃっ⁉︎」

 

テンションがおかしくなって、口調がしどろもどろになっている。

 

「うぅ………………〜〜//////////⁉︎」

 

さっき起こったことを思い出し、再び赤面する。

 

「ただいま、ティーゼ……って、どうしたの?」

 

そこへ、ロニエが部屋に入ってくる。

 

「……あ、あうっ⁉︎ろ、ろにえぇ……」

 

「……どうしたの?」

 

「ゆ、ユージオ先輩が……」

 

「ユージオ先輩がきて……って、ゆ、ユージオ先輩⁉︎」

 

倒れたユージオを見て驚くロニエ。まあ、当たり前だろう。ユージオはビンタのダメージ量が多すぎて白目を向いている。

 

「な、なにが……まさか、ティーゼ………?」

 

「……そ、そうなんだけど………でも、そうじゃなくてぇ………うぅ〜/////!」

 

何も知らないロニエからすれば一方的にやったと思うのは仕方がない。なのでティーゼは状況を話した。

 

「ええええええええええええッッ⁉︎ほ!本当なの、ティーゼ⁉︎」

 

「……〜〜/////!」コクッ

 

「………そんなに大胆な人だったんだ…ユージオ先輩って……でも、なにかの間違いじゃないの?だって、ユージオ先輩が……そんなこと、するはずないし……」

 

「………とりあえず、隣の部屋に運ぼう!そうじゃないと、起きちゃうかもだし……」

 

「……分かったけど、二人で運べるかな…」

 

この会話の後、二人はユージオの足と肩を持ってキリト達の部屋に運んで何事も無かったかのように部屋に戻って行った。

 

これが事件の後である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このおまけ回はこれからも同じタイトルで続いて行きます。よかったら見て言ってください!


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あの日、あの時、あの場所で。②

こんにちは!クロス・アラベルです!
最近、SAO第三期アニメ決定があり、10月に放送開始だそうなので、原作を再度読んでいます。14巻の決戦の最後、ユージオが死ぬ場面…………何度読んでも、涙がっ、止まりませんっ……!!第三期に期待です!
なので近い内に、活動記録のほうでアンケートじみたものをしようと考えています。出した時には皆さんも是非。
長文失礼しました。それでは今回も張り切って番外編、行きましょう!


 

 

これは、本編に出なかったお話。

 

 

 

 

 

 

 

『コネクト大切断事件』

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年11月9日。

 

突然ですが、私達は今、戦闘中です。

 

「ロニエ、スイッチ!」

 

「は、はいっ!」

 

キリト先輩から交代(スイッチ)の掛け声を受け、イノシシモンスターの前に飛び出します。

 

「やあああッ‼︎」

 

左腰に溜めていた新しい剣《アニールブレード》を気合いとともに繰り出すと、剣が光って秘奥義(ソードスキル)、《スラント》が発動し、イノシシ型モンスターの弱点である首元に決まりました。

 

『プギィィイッ⁉︎』

 

「スイッチ!……はあッ!」

 

吹き飛ぶモンスターを目掛けてユージオ先輩が走り、通常攻撃でとどめを刺しました。

 

「……ふう、まあ、こんなところか。どうだ、二人とも?」

 

「は、はい!大丈夫です。」

 

「ひとまずは…」

 

「でも、やっぱり二人ともすごいよ。教えてもらってからすぐにものになったしね。」

 

「そ、そんなことないですよ!」

 

「スイッチの要領はオッケーだな。あと、その剣どうだ?」

 

「えっと、このアニールブレードですか?」

 

「ああ。」

 

私たちの使っている剣は昨日キリト先輩達にもらったものです。前まで使っていたスモールソードは刀身が短く、軽くて振ると今にも手からすっぽ抜けそうになるくらいです。

 

「少し重いですかね……」

 

「でも、スモールソードよりかはマシよ。アレ、軽すぎるし。」

 

「うん…」

 

「大丈夫だよ、二人ともすぐ慣れるよ。まあ、実戦あるのみって感じだね。」

 

「はい!」

 

「よし、次の町の《バルグトス》までは十分もかからないだろ。」

 

「早めに行って、クエスト受けとこうよ。」

 

「ああ。」

 

次の町までそう遠くないみたいなので、気を引き締めて歩き始めました。

 

「…モンスターの反応あり!数は二体。俺とロニエ、ユージオとティーゼで行くぞ!右は頼んだぞ、ユージオ!」

 

「了解!」

 

「行きましょう、ユージオ先輩!」

 

「うん!」

 

「俺達も行くぞ。初撃は俺がやるから、スイッチして飛び込んでくれ。」

 

「はい、分かりました!」

 

前方に現れた狼モンスターに向かって私達は走り出しました。

 

「らあッ!」

 

キリト先輩がソードスキル、《バーチカル》をモンスターに叩き込みました。

 

「スイッチ!」

 

「はい!やあああッ!」

 

そして、吹き飛んだ狼モンスターを《スラント》追撃します。

 

「先輩、スイッチ!」

 

私がキリト先輩にスイッチをしようとした、その時でした。

 

私が下がった時、先輩が前に出てこなかったのです。

 

「き、キリト先輩?」

 

前方に狼モンスターがいるので、振り返らずに先輩を呼びました。

 

それでも返事がありません。

 

「………はあッ!」

 

仕方なく、狼モンスターにとどめを刺しました。

 

「キリト先輩?どうし…」

 

不思議に思って振り返ると

 

「」

 

キリト先輩が仰向けに倒れていました。

 

「き、キリト先輩ッッ⁉︎」

 

「どうしたの?ロニエ……キリト⁉︎」

 

「キリト先輩⁉︎」

 

後ろでユージオ先輩とティーゼの声が聞こえたような気がしますが、今は全く耳に入ってきません。倒れているキリト先輩の元に駆けつけて先輩を強く揺さぶっても、ピクリとも動きません。

 

「キリト先輩っ、キリト先輩っっ‼︎」

 

「ロニエ!キリトに何があったの⁉︎」

 

「まさか、攻撃を受けて……」

 

「違う……攻撃は一度も受けてないっ!」

 

「じゃあ、一体…⁉︎」

 

「キリト先輩っ、起きて……起きてくださいっ!」

 

「」

 

「そんな……取り敢えず次の町に急ごう!もうすぐで着くはずだから!僕が背負うよ。ロニエとティーゼは護衛を…」

 

「……いや……嫌ですっ!」

 

「ロニエ!言うことを聞いて!あんただけじゃキリト先輩を背負って運ぶなんて無理よ!」

 

「嫌だ……嫌よ!離れたくないッ‼︎」

 

「……それは分かるけど…」

 

「……仕方ない。ロニエ、キリトは任せたよ。僕らは護衛をするから。」

 

「……」コクッ

 

「ユージオ先輩……」

 

「悩んでる暇はないからね……行くよ、ティーゼ!」

 

「……はい!」

 

そして、私達はキリト先輩を連れて次の町《バルグトス》へ急ぎました。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「……キリト先輩っ…‼︎」

 

とある宿屋の一室。そこにキリト先輩は寝ていました。

 

「……原因は分からずじまい、か……」

「キリト先輩に目立った外傷はないですし、HPゲージも全く減っていない……八方塞がりですね。」

 

「……今は待つしかなさそうだね…」

 

「……キリト先輩、キリト先輩っ……!」

 

「……二人だけにしましょう。私達はいても役に立てることはないですから。」

 

「……わかった。ロニエ、何かあったら僕かティーゼに連絡してね?」

 

「……はい。」

 

そう言ってユージオ先輩とティーゼは部屋から出て行きました。

 

「……先輩…」

 

これからキリト先輩はどうなるのだろう。もしかしたらこのままずっと目を覚まさない……そんなことを考えると怖くなって、キリト先輩の手をぎゅっと掴みます。

 

「………先輩、寒くないかな…」

 

私も少し肌寒く感じられて、ふとそんな事を考えて周りを見渡すと、一枚の掛け布団がありました。

 

「……」

 

それをかけてあげると、

 

「……ふわぁ…」

 

あくびをしてしまいました。

 

「いけない……最近、よく寝てなかったんだ。」

 

最近というのはもちろん、このアインクラッドに来てからです。昨日はキリト先輩と再会し気分が高揚しすぎて眠れなかったのもあります。

 

そこまで思い出すと、キリト先輩の掛け布団がすごく温かそうに見えました。

 

「………ちょ、ちょっとだけなら…いいよね……////////」

そんな浅はかな言い訳をつぶやきながら、私はキリト先輩の横……キリト先輩と一緒に掛け布団の中に入りました。

 

「……温かい………キリト先輩の匂い…////」

 

入った途端に強烈な眠気に襲われて、私は逆らう間も無く深い眠りにつきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

それから約一時間後。

 

キリトはアルゴからのメッセージ着信音で目を覚ました。が、起きて横を向くとロニエが小さな寝息を立てて寝ているのを見て、意識を手放した。

 

アルゴからのメッセージの内容は『プレイヤーは現実世界で病院に運ばれている。その間、ナーヴギアのコンセントを抜いているからプレイヤーは動けなくなるぞ。気をつけろ。』と言うものだった。

 

その後、一悶着あったのは言うまでもない。

 

そして、ユージオとロニエ、ティーゼ達もコネクト切断が起こった。その度に騒ぎがあった。それは他のお話。

 




次に投稿するのは最新話です!
お楽しみに!


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懐かしき学園生活①上

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は過去のお話になります。そして、このお話は完全にオリジナル、原作ではなかったものです。なんだか、二人と出会うシーンが描かれていなかったので書いて見ました。
お知らせです。現在、アンケートを行っております。皆さん、どうぞご参加下さい!これが決まらない限り最新回が出せないので…
よろしくお願いします!
それではどうぞ!


 

 

 

「ロニエ、ティーゼ!二人って未来のキリトとユージオのこと知ってるんだよね?」

 

私とティーゼが第1回時間超越者会議が終わって部屋に戻ろうとしたその時、ユウキちゃんが唐突にそう聞いてきました。

 

「う、うん………そうだけど…どうしたの?」

 

「えっとね、ボクはキリトと一緒にいた時間がロニエ達より少ないからあんまり知らないんだ。だから、その……なんて言ったっけ……あ…あんだーわーるど!そこだよ。その場所で格好長い時間一緒にいたんだよね?ならキリトの話聞きたいなー…って。ボクの部屋でどうかな?」

 

キリト先輩とユージオ先輩の、かぁ…

 

「うーん……別に構わないけど…」

 

「私としては大歓迎よ。さ、ユウキの部屋に行きましょ」

 

私達はその提案を承諾し、ユウキちゃんの部屋に向かいました。

 

 

 

 

ユウキちゃんはお茶を入れて一つのテーブルに置き、そこで3人が集まりました。

 

「えっと……それじゃあ、何から…というかどこから話そうかな…」

 

「じゃあ、初めて会った時!」

 

「……それがいいわね。結構、鮮烈な出会いだったし…」

 

「そうしよっか」

 

「どこで出会ったの?どんな風に?初めて出会った時は二人のこと、どう思った⁉︎」

 

「ゆ、ユウキちゃん……落ち着いて…というかそんなにがっつかないで!」

 

テーブルの上に乗り出しながら聞いてくるユウキちゃんに若干押されながら、私達はゆっくりと話し始めました。

 

「……私達が先輩達と初めて会ったのは、アンダーワールドの人界の中央にある央都セントリア、ノーランガルス帝立修剣学院に入学したての頃……」

 

 

 

 

 

 

 

 

私達は六等爵家出身で他の上位貴族には馬鹿にされたりしたの。肩身が狭くて、窮屈な日々がまたこれからも続くんだろうと思ってた。けれど、そんなある日私とティーゼは毎日の掃除を終えて花の入った花瓶を持って自室___4、5人共同で使ってたんだけど___に戻ろうと少し急いでいたら、廊下の曲がり角で誰かとぶつかっちゃって…

 

「きゃ⁉︎」

 

『おうっ⁉︎』

 

運悪くその花瓶の中に入ってた花と水を全部こぼしちゃって…私はそこまで濡れてなかったんだけど、相手がかなりびしょ濡れになっててね。

 

「す、すいま……⁉︎」

 

その時、気づいたの。そのぶつかっちゃった人の服が真っ黒だったことに。その学校では成績のいい生徒12人しかなれない上級修剣士って人がいて、その人たちは初等錬士や通常の錬士には持ってない、懲罰権があってね、それを使われると何があっても絶対に従わなきゃいけなかったの。その上級修剣士はみんな制服の色を自由に変えられるから、その人が上級修剣士だって分かったんだ。

 

「もっ申し訳ございません⁉︎上級修剣士殿の大事な制服を……⁉︎」

 

『…………ああ、いや、大丈夫だ。こんなの気にしないよ』

 

『大丈夫かい、キリト。結構濡れてるけど……君も大丈夫?』

 

「わた、私はなんともっ……それより、上級修剣士殿の制服が……!」

 

「も、申し訳ありませんでしたっ‼︎お、お怪我は……⁉︎」

 

『だ、大丈夫だって……』

 

「急いで部屋に帰ろうとしたために……お、お許し下さい…‼︎」

 

『……許すも何も、こいつなら大丈夫だよ。石頭だし、そんなにヤワじゃないさ。だろう?』

 

『………それは褒めてるのか、貶しているのか……どっちだよ、ユージオ』

 

『どっちも、かな?』

 

『……』

 

他の人なら激怒したり、わざと痛がって懲罰権を使ったりするんだけど、その人はそんなことはしなかったの。

 

「ばっ罰されるのなら、よろしくお願いします……!」

 

『……そ、そんなに自分を苛めたいのかよ…』

 

『君だって一ヶ月前に同じことしてたじゃないか…』

 

『あっ、あれはしゃあないだろ。だって、首席だぞ⁉︎首席!首飛んだかと思ったわ!』

 

『流石にそんなことしないよ!あの人だって多分人が出来てると思うから……』

 

なんだか、その二人を見てると笑いそうになってちゃって……必死に我慢してたよ。

 

『……んで、懲罰権のことだけど……ちょっと提案があるんだけどさ』

 

「……は、はい…⁉︎」

 

濡れちゃった黒髪の上級修剣士が突然そう言い始めて…その時はちょっと息を呑んじゃった。

 

『そんなに罰して欲しいなら、立ち合いしよう』

 

「…ええっ⁉︎」

 

それで、唐突に立ち合い……ここでいう、《決闘(デュエル)》を申し込まれちゃったの。

 

 

 




アンケート、よろしくお願いします。よろしくお願いします!(大事なことなので二回……いえ、三回言いました)


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懐かしき学園生活①下

こんにちは!クロス・アラベルです!
やっと①が終わった……なんか、上手くまとまりませんでしたが…
それでは、どうぞ!


 

私達はその上級修剣士二人に連れられて鍛錬場に行ったの。

 

「えっと……ほ、本当によろしいでしょうか…?」

 

「ああ、審判はこいつがやってくれるし、この時間帯なら鍛錬してる奴もいないし好都合だ」

 

「ちょ、勝手に決めつけるなよ!」

 

「でも、やってくれるだろ?その赤毛の子にまかせるのもあれだろ」

 

「……分かったよ。これ、貸し一つだぞ」

 

「……今度、新しいソードス……じゃない、秘奥義を教えてやろう」

 

「本当かい⁉︎じゃあ、楽しみにしているよ」

 

「……チョロいな、お前は」ボソッ

 

「なんか言ったかい?」

 

「イエ、ナニモ」

 

なんだか、二人の会話を聞いてると本当にお笑いを見てるみたいだったの。

 

「……あ、あの…」

 

「ん、ごめんごめん。じゃあ、やろうか」

 

「はい…」

 

それで私と黒髪の上級修剣士は木剣をとって相対して、構えたんだけど…

 

「……君、先に言っておきたいんだけど」

 

「はっ、はい!」

 

「……これは演舞じゃないぞ?」

 

「……?」

 

その時、相手がそう言って来たの。意味がわからなかったから反応出来なかったんだけど…

 

「……それでは立ち合い、開始!」

 

その声で私はいつも通り、この修剣学院でやってきた立ち合いをしようとしたの。そしたら、

 

「____ 」

 

 

その人、もう目の前にまで迫ってきててね、焦って剣を振ろうとしたんだけど、木剣を弾き飛ばされちゃったの。

 

「…な、何が……」

 

「……言っただろう?……これは、演舞じゃないって」

 

「………⁉︎」

 

「……本気で来い。型の美しさなんかじゃ、勝てやしない相手が何人もいるんだぞ。この広い人界ではな」

 

「……ど、どういう…?」

 

「……今持っているのはただの木剣だ。だが、いざとなった時_____例えば…戦争が起こったら、お前は手に持つ剣を振るえるか?」

 

「_______ 」

 

「……敵はなんの躊躇もなくお前の喉を掻き切ってくるぞ。どうだ?」

 

「……そ、そんな…」

 

「…ああ、無理だろうな。普通の人間なら無理だ。俺だってそうだ」

 

「……」

 

「…だったら、()()()()()()()()()()()()()()なら…どうだ?」

 

「……‼︎」

 

「……両親、兄弟、姉妹、友達……そして、愛する人。俺は……そのためなら、戦える。変な偽善の為なんかじゃない。その人たちの為……何より、自分の為に」

 

「……っ!」

 

「……君なら、どうだ?」

 

「……戦えます。いえ、戦ってみせます‼︎」

 

「…なら、続きをしようか。今の君なら、いい試合が出来そうだしな」

 

木剣を拾ってまた、相対して構えたら、緊張感が軽くなったみたいだった。そして、私は私の持っている技全てを出し切って戦ったの。

 

でも、結果は惨敗。本当にありえないほど強かった。まあ、今も変わらないと思うけど……

 

「…負けた…」

 

「ん、いい太刀筋だったぜ。これは将来に期待だそうだ」

 

「ロニエ、おつかれ」

 

「うん……負けちゃった」

 

「おい、お前やりすぎじゃないか?最初のなんか、見ててヒヤヒヤしたよ」

 

「そうか?まあ、でも楽しかったな」

 

その上級修剣士は笑ってもう一人と話してたの。汗もほとんどかいてないし、息も上がってなかった。こっちは汗かいて肩で息してたのにだよ?

 

「…ああ、そうだ。あの事故の事だけど、俺怒ってなんかいないからな?じゃあ、まだ会おうぜ」

 

そう言って二人は去って行ったの。

 

「……すごい強かったわね」

 

「うん。私もあんな風に強くなれたらなぁ…」

 

 

 

 

それから3日後に私たち序列で12位以内に入っててね、上級修剣士の傍付き剣士になることになったの。

 

「ロニエ、あんた誰傍付きだった?」

 

「えっと、キリトって言う人」

 

「えっ⁉︎本当?」

 

「うん。多分、あれだよね?この学院で唯一平民出の上級修剣士…」

 

「うん。私も奇跡的にあんたと一緒の部屋のユージオって人だったわ。この人も確か平民出だったって…」

 

「……それに噂色々あるよね…」

 

「前主席上級修剣士と引き分けたとか、例に見ない連続剣技が使えるとか…」

 

私たちはその噂の上級修剣士の部屋に行ったんだけど……

 

「……あ、あそこじゃない?」

 

「そうみたいだね」

 

いよいよ部屋の前まで来て、さあ、訪ねようと思ったその時、中から声が聞こえて来たの。喧嘩してるような声が。

 

『おい!待てよキリト‼︎また逃げる気か⁉︎』

 

『うるせえ!ただ俺は跳ね鹿亭の蜂蜜パイを買おうと…』

 

『嘘つけ!もうすぐ傍付き剣士の子が来るから逃げようとしてるくせに!』

 

『べっ、別に逃げようだなんて…』

 

『じゃあなんで扉の前にいるんだよ!』

 

『………』

 

『………』

 

『あばよ、とっつぁん〜‼︎』

 

『させるかぁ‼︎』

 

ややあって、扉が勢いよく開いてその噂の二人が盛大にこけながら出て来たの。

 

「ぐはぁッ⁉︎」

 

「うわぁっ⁉︎」

 

「「きゃっ⁉︎」」

 

「つつつ………おい!お前、早くどけよユージオ!」

 

「駄目だね!傍付きの子達が来るまで拘束しておくよ‼︎」

 

「HA☆NA☆SE‼︎」

 

「断る‼︎」

 

「あ、あの〜……」

 

「「ん?」」

 

私が声をかけたらやっと私達に気づいたみたいで、見上げて来たんだ。

 

「あ、君たちは……」

 

「こないだの……」

 

「そ、その件ではご迷惑をおかけしました!」

 

「あたしたち、傍付き剣士としてきました!」

 

その時初めて3日前の人たちだって私たちも気づいたの。

 

「……おい、来たぞ。どけよ」

 

「…分かってるってば………ごめんね?こんな情けない姿を見せちゃって…それで君たちが、僕らの傍付き剣士でいいのかな?」

 

「はい!私はキリト上級修剣士殿の傍付き剣士を務めさせてもらうことになりました、ロニエ・アラベル初等練士です!」

 

「同じく、ユージオ上級修剣士殿の傍付き剣士を務めさせてもらうことになりました、ティーゼ・シュトリーネンです!」

 

「……改めまして、僕はユージオ。よろしくね、二人とも」

 

「同じく、キリトだ。よろしくな」

 

「「はい!」」

 

これが私達とキリト先輩達が出会ったお話だよ。

 

 

 

 

 

「へぇ……そんなことがあったんだ!」

 

「うん。すごい印象的な出会いだったけど……」

 

「ほんと、忘れられないわよね」

 

「あははは!」

 

「あ、もうこんな時間だ。もうそろそろ帰るね?ユウキ」

 

「そうね。早く寝ないと明日ちゃんと起きられないかもしれないわね」

 

「そっか……じゃ、また明日!」

 

 




次のおまけ回はいつになるか分かりませんが……
次回は本編のプログレッシブが一旦終わります。そして、その次からアインクラッド編(2巻の話)が始まる予定です!


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序章
前世


序章

「プロローグ」

 

黒い大木の下。

そこで、彼らは出会った。

 

記憶の奥底、もう消されてしまったはずの思い出。

大木の下、斧を交換し合いながら、斬った。

昼時、日陰でもう1人の少女と共に昼食を食べた。

夕日を背に共に歩いたその道は、もう覚えていない。

3人で共に洞窟へ探険にいったことも。

 

 

そして、また彼らは出会った。

 

 

共に斧でその大木を斬り、共に旅をし、剣を振った。

共に学び、たまに喧嘩し、共に笑いあった。

様々な人たちと出会った。

そして、共に戦った。

あの世界の中心、『セントラルカセドラル』の整合騎士と渡り合い、白亜の塔を登った。

2人は、いつも一緒だった______

 

 

 

 

 

 

視界の中央にいる黒い外套を羽織った黒髪の純黒の瞳を持つ少年。

 

対峙する黒い人間…いや、堕天使のような形をした虚無の闇。

 

そして、キリト……桐ヶ谷和人の全てを知る少年……だが、この少年はすでにその世界にいない。キリトの唯一無二の大親友、ユージオは人界の最高司祭アドミストレータにキリト、アリス・シンセシス・サーティとともに戦い、命を落とし、アリス・ツーベルクとともにアンダーワールドから消滅した。それにも関わらず、少年はキリトの後ろに他の者には姿は見えないものの空中に浮いている。

 

そして、闇と2人の少年が一斉に攻撃を仕掛ける。闇は闇の剣と背中にある6本の翼を鋭い剣のような形に変形させ、キリトを切り裂こうと突進してくる。キリトは両手に携えた2本の神器である『夜空の剣』、ユージオがかつて使っていた、そして、ユージオの魂がいる『青薔薇の剣』を『スターバースト・ストリーム』で流星の如く振るい、虚無でできた6枚の翼から放たれる攻撃を弾く。

 

最後の一撃の直前、キリトは闇の攻撃を受け、左腕を切断されてしまった。切断された左腕は消滅した。

 

『○€#☆〒〆*/&#@‼︎‼︎‼︎‼︎』

 

訳のわからない、耳をつん裂く虚無の叫び。

飛び散る血。

そして、キリトに迫る虚無の剣。

その時、後ろにいたユージオが吹き飛ばされた青薔薇の剣を両手で持ち、虚無の剣を防ぐ。

 

そして、最後の言葉を紡ぐ。

 

『キリト、今だよ‼︎』

 

「ああ_____ありがとう、ユージオ‼︎」

これがユージオとキリトの最後の会話となってしまった。

キリトとユージオは見事、虚無の闇に打ち勝った。

そして、消える。もう、失った物は戻って来ない、そう言うかのように。

青薔薇の剣士、ユージオは『アンダーワールド』から消滅した。

 

『アンダーワールド』からは。

 

 

 

 




遅れました‼︎
クロス・アラベルです!
「前世」をお送りしました。
連続投稿です‼︎


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プログレッシブ編 第一層 儚きあの日の記憶
鋼鉄の浮遊城


ある街で一人の少年が歩いている。

 

その街は、少年にとって来たこともない未開の地だ。

 

ヨーロッパの古き良き街をイメージ出来る。

 

たが、少年にとって摩訶不思議な経験だ。

 

何故なら、その街には少年以外、誰もいないのだから…………

 

 

???「…………あれ?ここ、何処?…………」

 

その少年は一人呟く。

 

???「……僕、死んだはずなのに…………」

 

そう、この少年は一度死んでいるのだ。生きているはずがない。だが、彼は生きている。そこに存在している。

 

???「誰か……誰かいませんかー!」

少年は大きな声で呼び掛けた。

 

……………

 

だが、返事はない。

 

???「………………とにかく、人がいそうな……広場とかを探そう。」

 

そして、少年は大きな広場にたどり着いた。

 

???「………ひろいなぁ…………」

 

この『始まりの街』の大広場。後もうすぐで悪夢のデスゲームが開始される。

 

そう、全ての始まり。

 

 

 

    ソードアート・オンライン

   『 Sword Art Online 』

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ユージオ「うーん…………ホントに誰もいないな…………」

 

おかしい。何かがおかしい。人の気配もないし、鳥の鳴き声さえしない……………

ユージオ「…………とりあえず誰かがいると信じて信号を送ろう。」

 

手を空に掲げ、大きな声で『神聖術』の式句を唱える。

 

ユージオ「………システムコール!ジェネレート・サーマル・エレメント!フライ・ストレート!ディスチャージ!!」

 

唱えると同時に、炎が空に打ち上げられる……………………

と、思っていた。

 

ユージオ「…………えっ?」

 

唱えたはずなのに…………炎が出ない!?

 

ユージオ「おかしい!なんで!?」

 

あの後、全種類の元素を試して見たけど、全部駄目だった。

 

ユージオ「『神聖術』が…………使えない……!?」

 

神聖術が使えないとなると、今は『青薔薇の剣』も持ってないし…………

 

ユージオ「………!まさか、『ステイシアの窓』も………!?」

 

右手を上から下に振ってみる。

 

リリーン!

 

ユージオ「………ホッ…………『ステイシアの窓』は出るみ…たい………だ?」

 

んん?何かいつもの『ステイシアの窓』と少し違うような…………

 

ユージオ「…………す、すてーたす?」

 

出てきた『ステイシアの窓』には、神聖語が書いてあった。

 

ユージオ「……………なんだろ…………これ…………」

 

『ステータス』と書かれたところに触れてみると………

 

リン!

 

ユージオ「?…………変わった?……………えっと…………ユージオ?これって僕の名前だ…………他にも書いてある………1000コル?………これってお金か何かかな?」

 

他にもいろんなことが書いてあった。

 

ユージオ「………………よし、状況を整理しよう。」

 

 

1.知らない街にいる

 

2.青薔薇の剣がない

 

3.神聖術が使えない

4.ステイシアの窓は開けるが、少し変わっている

 

ユージオ「……………どうなってるの?」

 

とても不思議だった。

 




次回『二度目の「はじめまして」』


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二度目の「はじめまして」

こんにちわ!クロス・アラベルです!
遅くなりましたが、第二話どうぞ!


あと1分。

 

あと1分で始まる。俺のずっと待ってた世界にまた行ける。

 

ベッドに置いてあるヘルメットのようなもの。『ナーヴギア』。これがあの世界に行くために必要なもの。そして、あと必要なものは…………

 

少年は『ナーヴギア』を被り電源を入れる。

 

楽しむ心、ただそれだけだ!!

 

和人「『リンク・スタート』!!」

 

少年、桐ケ谷 和人は再びあの世界への合言葉を呟く。

 

同時に壁に掛けてあった時計が丁度1時を指す。

 

和人は心踊らせながら、一人のプレイヤー『キリト』としてログインした。

 

 

悪夢のデスゲームとなってしまう『ソードアート・オンライン』に。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

……………

 

目を開けた。そこに広がっている景色を久しぶりにみた。

 

『アインクラッド』第1層『始まりの街』大広場。プレイヤーが初めてログインするとき、必ず来る場所。

 

キリト「…………帰ってきたんだな…………ここに!」

 

右手を握ったり放したりしてここに来たことを実感しながら呟く。

 

周りでは沢山のプレイヤーがログインしてくる。

 

そして、俺は走り出す。この世界を楽しむために……………

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

NPC定員『毎度あり!また来てね!』

 

背中に軽めながらもしっかりとした重みが加わる。

 

キリト「よし…………ポーションも剣もオッケー。…………レベ上げ行くか。」

 

俺は初期装備である『スモール・ソード』を背負ってお気に入りの狩り場へ最短ルートで行くため、細い路地に入った時、

 

『おーーい!そこのにぃちゃーーーん!!』

 

後ろから明るい声が聞こえた。

 

いわゆる底抜けの明るいやつって感じの声だ。俺とは正反対。たぶん……………

 

???「ハア………ハア…ハア…ハア…フゥ!やぁっと追い付いた!……その手慣れた動き………お前さん、元βテスター(ベータテスター)だろ!?」

 

う!?………す、鋭い…………すぐばれたな…………

 

???「なあ、ちょっと俺に初見のコツ、レクチャーしてくんねえか!?……」

 

キリト「ん………」

 

???「頼む!!このとーり!」

 

その男性プレイヤーは手を合わせてそう言った。

 

うーーん…………どうするかな……

 

キリト「…………」

 

???「おっと、名乗るの忘れてたな………俺は『クライン』だ」

 

まだ了承してないけど………まあ……………いいか

 

 

 

 

 

     『すいませーん』

 

 

 

 

 

また誰かが俺を呼んだのか?

 

振り返ると、一人のプレイヤーがいた。

 

茶髪の少年。優しそうな目をしている。

……………?

 

なんか………変な感じ………

 

???「ねえ君、ここのことたくさん知ってる?」

 

キリト「ああ………あんたも教えてほしいのか?」

 

???「うん、そうなんだ。ここのこと全然分かんないし、知らないんだ…………」

 

キリト「ああ………ニュービーか………」

 

クライン「おっ!お前さんもニュービーか!?」

 

???「?にゅ、にゅーびー?」

 

キリト「ああ。初めてプレイする奴のことだ。ついでだし………クラインと一緒に教えてやるよ。」

 

???「いいの!?ありがとう!あっと、まずは自己紹介だね。」

 

少年は言った。

 

「僕の名前は『ユージオ』、初めまして。」

 

………『ユージオ』………

 

…………なぜだろう……聞いたことなんて無いのに……なぜか、懐かしいような……気が……

 

キリト「……ユージオか……」

 

クライン「俺はクラインだ。よろしくな!」

 

ユージオ「うん、よろしくね。」

 

そして、俺も名乗る。

 

 

 

キリト「俺は『キリト』だ。よろしく。」

 

 

 

 




これからの投稿は遅かったり、短かったりするかもしれませんが、何卒、よろしくお願いします!
そして、感想を書いてくださってありがとうございます!
それでは、次回お会いしましょう。




次回『剣の世界』


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剣の世界

…えっ?

 

 今この人「キリト」って………でも、顔がキリトと違うし、キリトなら僕を見たらすぐ分かるだろうし……何より……僕は死んだから、キリトに会えるはずがない………

 

 ひ、人違い……だよね…。

 

キリト「……?ユージオ、どうかしたのか?」

 

ユージオ「えっ?あっ……いやなんでもないよ。友達に似た名前の人がいたから………」

 

キリト「…そうか………」

 

クライン「なあ、自己紹介も終わったし、早く狩り行こうぜ!!」

 

キリト「まあ待てよ。その前に武器を買わないと、狩りもできないだろ。」

 

クライン「おお、そうだな。」

 

キリト「二人は何を買う?俺は片手直剣だけど……」

 

クライン「うーん…じゃあ俺は片手曲剣だな。ちょっと刀に似てるしな!」

 

キリト「そうか。ユージオはどうする?」

 

ユージオ「………えっ?えっと………」

 

どうしよう…何のことかさっぱりだ……でも『剣』って言ってた……剣といえば真っ直ぐな剣しか触ったことないな……それに…………『青薔薇の剣』も片手直剣だったし………

 

ユージオ「……じゃあ、片手直剣にしようかな。」

 

キリト「そうか…わかった。いい武器屋がこの通りの端にあるから買いに行こう。」

 

クライン「おう!!」

 

ユージオ「わかったよ。」

 

 

 

             ………少年たち、移動中………

 

 

キリト「ほら、着いたぞ。この店だ。」

 

クライン「おおー!ここか!」

 

キリト「クラインは片手曲剣だから『リトルサーベル』だな。ユージオは俺と同じ片手直剣だし、『スモールソード」でいいか……まあ、一番安い初期装備だけどな。」

 

クライン「おお、買ってみるな!」

 

ユージオ「…………ええっと……?」

 

わ、訳がわからないよ……す、すもーるそーど?『ソード』の意味はたしか神聖語で剣だったけど、すもーるって?とりあえず、『ステイシアの窓』みたいなあれを出してみよう。

 

      リリーン!

 

ええっと……どうしたらいいのかな?

 

キリト「やり方がわからないのか?」

 

ユージオ「うん………」

 

キリト「分かった、教えてやるよ。まずはこうやって、店の商品に焦点を合わせて、オプションを出す。」

 

リリーン!

 

ユージオ「あっ、さっきのと違うのが出たね。」

 

キリト「それで、オプションの『購入』を選んで押したら、次は装備するの所を押すそうすれば…………」

 

リン!

チャリーン!

 

NPC店員『毎度‼︎また来てくれよな!』

 

ユージオ「おおー!これで買えたの?」

 

キリト「ああ、買えたさ。後は『装備する』の所を押せば良いんだ。」

 

ユージオ「分かった。えっと……」

 

リン!

シュワッ!

 

ユージオ「うわっ⁉︎ほ、本当だ…………」

 

キリト「よし、これで買えたな。後は、『ポーション』を買えば終わりだな。これを今の要領で5、6個買ってくれ。」

 

ユージオ「えっと…キリトの持ってる瓶?」

 

キリト「ああ、頼むぞ。……クライン!どうだ、買えたか?」

 

クライン「おおよ!買えたぜ!一番安い曲剣の『リトルサーベル』だ!」

 

キリト「ん、じゃあ、あとはポーションを買ったら、狩りに行こう。」

 

クライン・ユージオ「「おおー!」」

 

 

〜少年たち移動中〜

 

 

 

 

キリト「ここが俺のオススメの狩り場だ。」

 

クライン「おおー!スゲエリアルだな‼︎現実世界と見間違えちまうな……」

 

ユージオ「凄い綺麗だね………でも、動物なんて1匹も見当たらないよ……」

 

キリト「大丈夫だ。もうすぐポップすると思うし…」

 

シュワンッ!

 

キリト「おっ、噂をすれば……」

 

クライン「出たぞ!猪か!」

 

ユージオ「本当だ!猪がいるね。」

 

キリト「あいつは、『フレンジーボア」っていう猪のモンスターだ。強さは…………まあ、某ゲームでいうド○クエのスライ○よりほんのちょっと上のレベルだ。……ビギナーには良いぐらいの強さじゃないか?」

 

クライン「ふふーん!このクライン様なら、ス○イムぐらい瞬殺よ‼︎」

 

ふ、ふれんっ、ふれんじーぼあ?どら○え?○らいむ?意味のわからない言葉だらけだなぁ……全部神聖語だと思うけど………

 

キリト「まあ、例を見せるから、真似して見てくれ、『剣技』を。」

 

クライン「おう!」

 

ユージオ「……分かったよ………」

 

キリトは、『フレンジーボア』に向かって歩きながらユージオとクラインに説明し続けるキリト。

 

キリト「まず、剣技っていうのは、初動のモーションが大切なんだ。例えば、こんな風に……」

 

キリトは背中に装備された小振りの剣を鞘から引き抜いた。その時、5、6メートル先にいたフレンジーボアが急に目を紅く光らせて、キリトの方を向いて走ってきた。

 

ユージオ「!キリト、危ないよ!」

 

キリト「分かってるさ………!」

 

引き抜いた剣を左腰にためて、体勢を低くして狙いを定めている。薄く青い光に包まれる剣。迫るフレンジーボアの体当たり。

 

そして………

 

キリト「シッ‼︎」

 

ズバシュッ‼︎

 

そして、キリトはフレンジーボアの首辺りを剣で斬った。

 

『プギィィィイイ‼︎‼︎』

 

クライン「おおー‼︎」

 

あ、あれは………アインクラッド流剣術……水平斬り、「ホリゾンタル」‼︎

 

ユージオ「凄い………」

 

完璧だ………キリトにはいかなくとも、凄いな……

 

この人は………本当に『キリト』なのかな……?

 

キリト「こんな感じだ。」

 

クライン「すげえな‼︎うおおおっ‼︎俺も早く出来るようになりてえな‼︎」

 

ユージオ「………ねえ、キリト。『そーどすきる』ってこんなのもある?」

 

キリト「?」

 

クライン「お?」

 

ユージオ「ふぅ………」

 

キリトから教わった剣技………あの二年間を…僕は、忘れない。

 

腰の剣を鞘から引き抜いた。

 

右肩に剣を乗せ、前かがみになって腰を低く落とす………そして………

 

ユージオ「……跳ぶ‼︎」

 

キリト「………!」

 

身体が勝手に動く。そして、跳んだ。願った通りに。

 

ユージオ「セァア‼︎」

 

ザシュッ‼︎

 

『プギィィィッッ⁉︎』

 

パリィィィイン‼︎

 

見事、ユージオはフレンジーボアの首元に直撃。一瞬止まったと思うと、膨らみ、ポリゴン片となって四散した。

 

『ソニックリープ』

そう、アインクラッド流剣術、『音速の跳躍』だ。

 

クライン「…………うおおおお⁉︎マジかよ!ユージオ!お前、できたのかよ⁉︎」

 

キリト「……凄いな………!………本当にゲーム初めてか?ビギナーとは思えないな…………」

 

ユージオ「う、うん………『げーむ』は初めてだけど………」

 

あれ?怪しまれてる?

 

ユージオ「よく子供の頃にチャンバラごっこしてたし、剣も習ってたから………」

 

クライン「チャンバラごっこか!確かに子供の頃よくやってたなー!傘でやって窓ガラス割ったことあったわ!」

 

キリト「………クライン、やんちゃしすぎだろ………」

 

クライン「ははは……ま、んなことはいいよ。俺はソードスキルをやって見たいんだ!キリト、教えてくれ!」

 

キリト「ったく……分かった。今から教えるよ。」

 

クライン「おお!頼むぜ!」

 

ユージオ「……よろしくね。キリト。」

 

キリト「ああ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『悪夢の再来』


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悪夢の再来

こんにちは!
クロス・アラベルです!
早めの投稿で第5話『悪夢の再来』どうぞ!


クラインは剣を構え、突進する。

 

クライン「おりゃーーー‼︎」

 

クラインの雄叫びと共に、クラインの『リトルサーベル』が薄い赤く光り出した。

 

曲剣カテゴリー、突進系ソードスキル『リーパー』だ。

 

ズバッ‼︎

 

パリィィィイン!

 

フレンジーボアのHPを削り取り、ポリゴン片となって四散した。

 

クライン「おっしゃーー‼︎また倒したぞ!」

 

ユージオ「順調だね、クライン。」

 

キリト「いい感じだな。」

 

パラリラリラリーン!

 

クライン「おっ!レベルアップしたぜ!」

 

キリト「よかったな。」

 

クライン「ようやくレベル2か………2人はどうないんだ?」

 

キリト「俺は結構前、レベル3になったぞ。」

 

れ、れべる?なんだろう………

 

キリト「ユージオは?」

 

ユージオ「えっと………めいんめにゅー………開いて…………これかな?…………3って書いてあるよ。」

 

クライン「何⁉︎もう2人ともレベル3か⁉︎くそぅ!」

 

キリト「まだまだだな。………あっ、もう6時前か。早いな………」

 

クライン「はあ⁉︎何分だ?」

 

キリト「んーと、5時50分。」

 

クライン「ヤベエわ、もうログアウトしねえと。」

 

ろぐあうと…………これって、キリトと初めて会った時にキリトが言ってた事だったね。確か意味は……………家に帰る……だったような………

 

キリト「!…………そうか………」

 

クライン「6時にアツアツの照りマヨピザとジンジャーエールを予約済みよぉ‼︎」

 

キリト「準備万端だな……」

 

クライン「おう!」

 

…………キリト、寂しそうだな………

 

キリト「ユージオ、お前は………どうする?」

 

ユージオ「!えっと………」

 

まずい!………僕、あの時死んだはずだから、帰れないし、帰るところがない!

 

ユージオ「うーん、僕はここに居ようかな………。」

 

キリト「!そうか!」

 

クライン「よし、じゃあログアウトするな!」

 

キリト「ああ、じゃあな」

 

ユージオ「またね、クライン。」

 

クライン「ああ!また、後でな!」

 

もうクラインが帰っちゃうんだ。早いな。もう6時前だし…………………というか、ここには『時告げの鐘』は無いの?

 

キリト「それじゃあ、続き………やるか!」

 

ユージオ「………そうだね!」

 

さあ、続きを………

 

「あれ?」

 

キリト「?」

 

ユージオ「?」

 

気づいたら、後ろでクラインが唸っていた。

 

ユージオ「クライン、どうしたの?」

 

クライン「いや………『ログアウトボタンが無いんだよ』。」

 

キリト「?んなわけないだろ。メインメニューの一番下に………」

 

リリーン!

 

キリト「?なんでだ?ないぞ、俺も………ユージオもか?」

 

ユージオ「えっ?………まって、めいんめにゅー……」

 

リリーン!

 

ユージオ「…………ログアウトボタンなんて、『ない』よ。」

 

キリト「‼︎」

 

クライン「はあ⁉︎まさかエラーか?故障か?」

 

キリト「…………いや、故障だったら多分すぐに強制ログアウトがあるはずだ。」

 

クライン「いきなりエラーとはな!多分今、上の奴らは半泣きだろうな!」

 

ユージオ「…………じゃあ………一体…………」

 

キリト「一体、何が起こってるんだろうな…………。」

 

ユージオがどうなってるんだろう、そう思った。その時だった。

 

激しい頭痛がユージオを襲った。

 

ユージオ「うっ⁉︎」

 

キリト「?どうした⁉︎」

 

クライン「おお⁉︎大丈夫か⁉︎」

 

一体…………何……が⁉︎

 

そして、僕の頭の中に、何かが、流れ込んできた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ここは、始まりの町の広場の真ん中。

 

そこにいる、たくさんの人。1万は軽く超えるだろう。

 

そこに浮いている、ローブを着た巨大な男。

 

伝えられる驚くべき真実。

 

驚きおののく人々。

 

怒りの声や恐怖の叫び声。

 

そして、そこにいる黒髪の少年。

 

その少年は1人で、走り出す。

 

夕日に照らされた、遠く続く一本の道を。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

ユージオ「…………?この記憶は………」

 

あそこにいたのは………キリト?

 

キリト「どうしたユージオ?」

 

クライン「大丈夫か⁉︎」

 

ユージオ「………うん…………」

 

まさか、さっきのは、キリトの記憶……なの?

 

キリト「⁉︎なっこれは⁉︎」

 

その時、キリトを青色の光が包み込む。クラインも。

 

クライン「うおおお⁉︎」

 

ユージオ「⁉︎」

 

そして、ユージオも。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

シュワン!

 

ユージオ「うわっ!」

 

………ここは……はじめに来た、広場?

 

シュワワン‼︎

 

キリト「!」

 

クライン「うおお⁉︎」

 

ユージオ「2人とも、大丈夫?」

 

キリト「………ここは、広場か?」

 

ユージオ「みたいだよ。」

 

クライン「一体どうなってんだ⁉︎」

 

そこには、たくさんの人がいる。他の人たちもこうなっちゃったのかな?

 

ユージオ「……?」

 

そして、ユージオは不意に、空に紅いものが浮いているのがわかった。紅い細長い六角形。それに書いてあるのは………

 

《WARNING》

 

この文字が『警告』を意味しているのはユージオでも感じた。

 

キリト「あれは…………」

 

そして、それがどんどん多くなっていき、空を埋め尽くした。

 

そして、それから流れ出てくる血のように紅い液体。

 

そして、それが落ちて来て人型を描き出した。

 

それは、赤いローブを着た巨大な男。

 

ローブを着ていて、顔がわからないが、男とわかる。

 

ユージオ「‼︎あれって………」

 

キリト「……………」

 

クライン「…………なんじゃありゃ…………」

 

そして、その男はこういった。

 

『プレイヤー諸君、私の世界へようこそ。』

 

そこら中から、声が聞こえる。

 

『諸君が知っての通り、私が茅場晶彦だ。』

 

キリト「………」

 

クライン「………お……」

 

ユージオ「………‼︎」

 

『これから、ソードアートオンラインのチュートリアルを始める。』

 

そして、茅場は真実を語った。

 

現実の世界にはもう帰れないと、ここでの死は現実での死でもあること、助けは来ないこと、100層を全てクリアしなければ、現実世界には戻れないことを。

 

周りから響く怒号、悲鳴、懇願の声。

 

『そんなプレイヤー諸君にプレゼントがある。受け取ってくれたまえ。』

 

キリト「…………プレゼント?」

 

クライン「んだよ、それ‼︎ふざけんなよ‼︎」

 

キリト「とにかく、プレゼントってのを見てみよう。」

 

ユージオ「うん…………」

 

クライン「おう………」

 

これは………さっき見た、キリトの記憶と同じ…………

 

シュワッ!

 

キリト「……?手鏡?」

 

ユージオ「えっと……あった!これだね。………本当だ、手鏡だ。」

 

クライン「んでもよ、こんなの何に使うんだ?」

 

キリト「さあ、わからないけど………⁉︎」

 

次の瞬間、キリトはまた、青い光に包まれた。

 

クライン「キリト‼︎」

 

ユージオ「キリト!大丈夫⁉︎」

 

そして、クラインもユージオもその光に包まれた。

 

ユージオ「うわあ‼︎」

 

光が止んで手鏡を見てみると、そこには、いつもの自分がいた。

 

亜麻色の髪、緑色の目、中性的な顔立ち。

 

ユージオ「これは………」

 

そして、周りをみた。

 

???「………ユージオ、クライン、大丈夫か?」

 

???「おお、大丈夫………」

 

そこには、漆黒の髪に同じ目、中性的な顔立ちをした少年と、なんだか山賊のような男が立っていた。

 

???「?お前は………誰だ?」

 

???「おめえこそ誰だよ。」

 

そして、2人は事を理解したような顔で指を指して叫んだ。

 

???「お前が、クライン⁉︎」

 

???「おめえがキリトか⁉︎」

 

そう、キリトとクラインだった。

 

「「じゃあ、お前がユージオか?」」

 

2人は同時にユージオに聞いて来た。

 

ユージオ「うん、そうだけど………」

 

だが、その時ユージオはほとんど話を聞いてはいなかった。

 

…………キリト、君だったんだ。また、会えたんだね、キリト。

 

ユージオが考えに浸っている間に、ローブ姿の茅場が喋り出した。

 

『諸君は、現実世界の姿で生活してもらおう。それではプレイヤー諸君、健闘を祈る。』

 

そして、一瞬の沈黙。

 

また、怒号と悲鳴が広場全体に響いた。

 

キリト「ユージオ、クライン、こっちに来い!」

 

キリトはユージオとクラインの腕を掴んで走り出した。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

キリトは細い路地にユージオとクラインを連れて来た。

 

キリト「ユージオ、クライン、これから俺は次の町に進もうと思う。始まりの町周辺はモンスターのポップの奪い合いになるだろうからな。2人とも来てくれ。」

 

クライン「キリト、ダメだ。この町には俺のMMOのダチがいるんだ。そいつらを置いてはいけねえよ………」

 

キリト「‼︎………そうか………ユージオはどうする?」

 

ユージオ「………僕は………もちろんキリトと一緒に行くよ。僕はもう決めたんだ。」

 

キリト「そうか!わかった。クライン……ここで別れることになるけど………いいか?」

 

クライン「ああ!大丈夫だよ!お前に教えてもらったテクを使って俺もお前に追いついてやるからよ!」

 

キリト「……………わかった。」

 

キリトはこのまま、クラインと別れてしまうんだ。たぶん、キリトのことだから、後悔するんだろうな………

そうだ‼︎

 

ユージオ「キリト!クラインに今持ってる情報をあげたら?」

 

キリト「!………そうだな………今すぐは無理だけど、後でまとめてメッセを送るな。」

 

クライン「サンキューな!キリト!」

 

キリト「…………それじゃあ、またな、クライン。死ぬなよ。」

 

ユージオ「またね、クライン。」

 

クライン「おう!お前ら、結構可愛い顔してんな!俺、好みだぜ!」

 

「「お前(君)はその野武士ツラが良く似合ってるぜ(よ)‼︎」」

 

そして、僕らは走り出した。

 

キリト「…………」

 

ユージオ「大丈夫だよ、キリト。クラインなら大丈夫。クラインを信じよう!」

 

キリト「………ああ!そうだな!」

 

僕たちは町を出た。

 

出てすぐ、道の先に2匹の狼が青い光を放ち現れ、2人に向かって走ってくる。

 

キリト「………!」

 

ユージオ「……!来たよキリト‼︎」

 

キリト「ああ!」

 

剣を抜き走りながら、構える。

 

キリトの剣は薄い青色に、僕のは薄い緑色に輝いた。

 

キリト「はあっ‼︎」

 

ユージオ「やあっ‼︎」

 

『レイジスパイク』と『ソニックリープ』だ。

 

狼を一撃で仕留め、走り続ける。

 

キリト「うおおおおおおおおおおおおお‼︎」

 

ユージオ「はあああああああああああああ‼︎」

 

そして、僕らは夕日に向かって、吠えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『アニールブレードと悲しき裏切り』


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アニールブレードと悲しき裏切り

遅れました!クロス・アラベルです!
今回は結構書きましたね!
えっと、文字数は………6000超えてる⁉︎
……えっと………第6話『アニールブレードと悲しき裏切り』お楽しみください!


ここは、草原の道。

 

そこを走る2人の少年がいた。

 

ユージオ「……………!キリト、あれって………」

 

キリト「………ああ!第2の町『ホルンカ』だ!」

 

すこし先に、小さな村が見えた。

 

ユージオ「あと、すこし、だねっ!」

 

キリト「頑張れ、よ!ユージオ!」

 

ユージオ「わかってる、よ!」

 

シュワン‼︎

 

音とともに、狼型のモンスターが現れた。

 

キリト「!」

 

ユージオ「キリト!」

 

キリト「ああ!………これで、ラス、トだ‼︎行くぞっ!」

 

ユージオ「言われなくとも!」

 

『ガウガウガーーーーー‼︎』

 

モンスターが2人に向かって牙をむき出しにして襲ってくる。

 

2人の剣が別々のひかりを放ち、2人を加速させる。

 

「「はあああああああああああああ‼︎」」

 

ザシュッッ‼︎

 

『キャウン!』

 

パリィィィイン‼︎

 

また一撃で仕留め、2人は町の入り口に突入した。

 

ユージオ「やった!……ハァハァ、ハァハァ………やっと………」

 

キリト「……ハァ、ハァ……やっとついたか………えっと、今は、7時過ぎか………今のうちにクエストを受けとくか………」

 

ユージオ「?………くえすと?」

 

キリト「ああ、依頼だよ。かなり時間かかるけど……今から受けるやつは、報酬として剣が貰えるんだ。」

 

ユージオ「剣が⁉︎」

 

キリト「ああ。この第1層ではかなりレアなんだ。」

 

ユージオ「いいね、そのくえすと……どこで受けるの?」

 

キリト「あそこの家だ。」

 

キリトが指差したところには小さな民家があった。

 

ユージオ「あそこ?」

 

キリト「そうだ。さあ、行こう。」

 

ユージオ「うん。」

 

 

〜少年たち移動中〜

 

 

ガチャ、キィィー………

 

キリト「ここだ。」

 

ユージオ「へー……お邪魔します………」

 

入った家は、簡素な作りだった。部屋の数もそこまで多くはないみたいだ。奥に一つ扉があるくらいで………

 

キリト「ユージオ、ここはNPCの家だぜ。そんなこと言わなくてもいいんじゃないか?」

 

え、えぬ…………すごい珍しい名前だな………

 

ユージオ「えっと、その『えぬぴーしー』っていう人が住んでるんでしょ?普通、挨拶ぐらいしないと失礼だよ。

 

キリト「…………変な考え方だな…………ま、いいさ。それは個人の自由だしな。」

 

ユージオ「変かな?」

 

家の中にはおばさんが1人いるだけだった。

 

キリト「ほら、このクエストNPCだよ。これに話しかければ、クエストが受けられる。」

 

ユージオ「へぇ………」

 

この人が………すごい心配そうな顔してるね……何かあったのかな?

 

ユージオ「あ、あのすいません、何か困ったことがありますか?すごく心配そうな顔してますけど…………」

 

クエストNPC『!ああ、旅のお方………どうか、どうか私の娘をお助けください!』

 

ユージオ「…………娘?」

 

クエストNPC『はい!………私の娘はある病気にかかってしまいまして………それを治すには、この村の東にある森にある、【ネペントの胚珠】が必要でして……それ以外では、治せないのです……………旅のお方、どうか、私の娘を………』

 

ユージオ「‼︎………キリト……」

 

僕が振り向いた時には、キリトはもう頷いていた。

 

ユージオ「わかりました。その依頼、受けます。」

 

その時、そのおばさんの頭上に黄色の三角が現れた。中にはビックリマークがついた。

 

ユージオ「?キリト、これは………」

 

キリト「よし、それでクエストが受注できた。早速、森に行こう。」

 

ユージオ「……うん。早くその『ねぺんとの胚珠』っていうのを取ってこよう!」

 

キリト「ああ。」

 

 

 

〜少年たち移動中〜

 

 

 

ユージオ「キリト…………ここがその森?」

 

僕らの目の前には森が広がっていた。夜だから、不気味な雰囲気を漂わせている。

 

キリト「そうだ。………まさかとは思うが……怖いのか?」

 

キリトがニヤつきながら僕を見てきた。

 

ユージオ「…………その言葉は心外だな……でも、怖いというより……不気味……だね。」

 

キリト「まあ、確かに不気味だ。今は夜だからな……よし、ここでユージオ、お前に教えなきゃいけないことがある。」

 

ユージオ「えっ?教えなきゃいけないこと?」

 

キリト「ああ。『スキル』についてだ。」

 

ユージオ「『すきる』?」

 

キリト「『スキル』っていうのは、技術のことだ。例えば、俺の持ってる『片手剣スキル』だ。これのスキル値が増えると、使えるソードスキルが増えるんだ。」

 

ユージオ「す、すきる……だね。」

 

わからない言葉が多すぎるよ……でも、ソードスキルっていうのは聞いたことがある。キリトから初めて出会ったくらいの時に聞いたよね………

 

キリト「それでだ。そのスキルの中に『索敵スキル』と『隠蔽スキル』がある。まあ、ほとんどのやつが『サーチングスキル』、『ハイディング』って呼んでるのがあるんだ。それで、今俺たちは、二つスキルを持つことができるんだ。片方は『片手直剣スキル』だろ?それでもう一つのスキルに索敵と隠蔽、どっちかを入れた方がいいんだ。」

 

ユージオ「へえ……それでキリトはどっちを選ぶの?」

 

キリト「俺は迷わず『索敵スキル』を取る。」

 

ユージオ「なんで?」

 

キリト「今から入るこの森は『隠蔽スキル』の効かないモンスターがほとんどだ。だから、索敵スキルを取った方が得なんだ。」

 

ユージオ「へー、そうなんだ!わかった。僕もそうするよ。」

 

キリト「よし。じゃあ、行こうか‼︎」

 

索敵スキルを取ってから、僕たちは森に入った。僕、ここまで不気味な森には入ったことはないよ。

 

キリト「………!………来た!索敵スキルに反応ありだ。」

 

ユージオ「えっ⁉︎もう?もしかして、僕もかな?」

 

僕もメインメニューを開いて、索敵スキルっていうところを見てみる。地図に赤い点が2つ点滅してる。

 

ユージオ「2匹?」

 

キリト「ああ、多分この動き方はネペントだろうな。」

 

ユージオ「その、ねぺんとっていうのは何?」

 

キリト「植物型モンスターだ。今の俺達でも、レベル的に同等ぐらいだ。」

 

ユージオ「そんなに強いの⁉︎」

 

キリト「まあな。それでだ。ネペントには3種類いる。頭に葉がついた普通のネペント。んで、俺達が倒さないといけないのが、頭に赤い花がついたネペントだ。こいつを倒すと、稀に『ネペントの胚珠』がドロップするんだ。」

 

ユージオ「どろっぷ?」

 

キリト「………アイテムが落ちることだ。あと、気をつけないといけないのが………頭に赤い実がついたネペントだ。こいつはあまり相手にしない方がいい。」

 

ユージオ「なんで?」

 

キリト「実付きネペントの実を割っちまうと、周りからネペントがうじゃうじゃ出てくるんだ。だから、実付きと花付きが出たら言ってくれ。」

 

ユージオ「わかった。」

 

キリト「………おっ!一発目から花付きだとはな……ラッキー!」

 

ユージオ「あれが………ネペント?」

 

キリトが指差した先には、頭でっかちで裂けたような真っ赤な口、そして胴体からは蔓が数本生えた植物とは言いがたいものがいた。

 

な、なにあれ………気持ち悪いよ………

 

キリト「ユージオ、あいつの弱点は胴体の細くなってる部分だ。あそこを水平に斬るか、斜めに斬ると早く倒せる。『ホリゾンタル』とか、『スラント』だな。でも、縦に斬るのはやめた方がいいぞ。実付きだったら、実に当たるかもしれないからな。……っ!気付かれた!よし、実付きは俺がやるからユージオは葉付きを!」

 

ユージオ「りょ、了解……」

 

『………!ギシャァァア‼︎』

 

ユージオ「よし、お、落ち着いて………」

 

ネペントが小刀のような葉が付いた蔓で攻撃して来た。

 

ネペントの動きをしっかり見て……躱して、細い部分を…………斬る‼︎

 

剣を薄青い光が包む。そして……

 

ユージオ「はあっ‼︎」

 

ズバァッ‼︎

 

『ギシャァァァァァア‼︎』

 

パリィィィン‼︎

 

ユージオの放った『ホリゾンタル』はネペントの胴体のの細い部分を断ち切った。そして、ネペントはポリゴン片となって四散した。

 

ユージオ「よし!やった‼︎」

 

ザシュッ!

 

パリィィイン‼︎

 

ユージオ「!」

 

キリト「………ふう……倒せたみたいだな、ユージオ。えっと、ドロップアイテムがは………胚珠はないか………」

 

ユージオ「そう簡単には出てこないんだね………」

 

キリト「まあ、数狩ればそのうち出てくるだろ。」

 

ユージオ「よし、頑張ろう!キリト!」

 

キリト「ああ!」

 

 

 

〜少年達狩り中〜

 

 

 

ユージオ「はあっ‼︎」

 

ズバッ!

 

『ギシャァァア⁉︎』

 

パリィィイン‼︎

 

ユージオ「……ふう…………さっきので何体目だろ?もう100は超えてる気が………」

 

パラリラパラリラリーーン‼︎

 

ユージオ「あっ‼︎レベルアップだ!」

 

ユージオ「………アイテムは………‼︎『ネペントの胚珠』だ‼︎」

 

キリト「シッ‼︎」

 

ザシュッ‼︎

 

『ギシャァ………』

 

パリィィィィン!

 

パラリラパラリラリーーン‼︎

 

キリト「ふう、レベルアップか………ユージオ!胚珠はドロップしたか?」

 

ユージオ「したみたいだよ!キリトは?」

 

キリト「いや、ドロップして無い………」

 

ユージオ「そっか………」

 

キリト「ユージオ、先に森を抜けてくれ。俺は胚珠がドロップするまで狩り続ける。」

 

ユージオ「何言ってるの?キリト。僕も手伝うよ!」

 

キリト「!………ありがとな。」

 

ユージオ「キリトもレベルアップしたの?」

 

キリト「ああ。レベル6だ。」

 

ユージオ「僕もみたいだよ。」

 

そこで、キリトと『ハイタッチ』しようとした時、

 

パチパチパチパチパチパチ!

 

とキリトの後ろで拍手したような音が聞こえた。

 

キリト「⁉︎」

 

ユージオ「?」

 

キリトは焦ったように振り向いた。

 

そこにいたのは、ネペントのようなモンスターではなく、1人の少年だった。短めの茶髪に茶色い目。右手には僕らと同じスモールソードが、左手には丸い盾があった。

 

???「あっ………ごめんね………驚かせちゃったね。レベルアップおめでとう。」

 

キリト「……………ああ、ありがとう………」

 

ユージオ「ありがとう……僕、ユージオ。それでこっちが………」

 

キリト「………キリトだ。」

 

ユージオ「君は?」

 

???「……僕はコペル。君たちもあのクエスト受けたの?」

 

キリト「そうだけど………」

 

コペル「そっか………僕も受けたんだ。クエスト報酬のあの剣、この一層じゃレアだからね……見た目はイマイチだけど。」

 

キリト「………確かにな。いい剣だけど、見た目がパッとしないな。」

 

ユージオ「あの剣って報酬の剣?」

 

キリト「ああ。」

 

コペル「あのさ………僕から提案があるんだけど………3人で一緒にネペント狩り、しない?人数が多い方が効率がいいし………嫌ならいいんだけど………」

 

キリト「………いいよな?ユージオ。」

 

ユージオ「もちろんだよ。コペル!一緒に頑張ろう!」

 

コペル「‼︎……………ありがとう!」

 

 

 

〜少年達ネペント狩り中〜

 

 

 

キリト「ふう………あとはコペルの分だけか………」

 

コペル「ごめんね………手伝わせちゃって………」

 

ユージオ「いいよ、一緒に剣をもらいに行きたいしね。」

 

コペル「……………」

 

…………?コペル……なんで、悲しそうな顔してるんだろう?………

 

キリト「…………索敵スキルに反応あり!三体だ………ネペントだな。」

 

ユージオ「…………見えた………あっ!み、実付きがいる‼︎」

 

コペル「…………じゃあ、実付きは僕に任せて………2人はノーマルを………」

 

ユージオ「了解!」

 

キリト「わかった。」

 

よし………あともう少しでもう1つドロップしそうだし、頑張ろう………

 

その時、またあの頭痛がきた。

 

ユージオ「⁉︎…………うっ⁉︎」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

暗い森の中、2人の少年が剣を持ち、戦っている。

 

1人は一振りの剣を持った黒髪の少年、キリト。

 

もう1人は丸い盾と剣を持った茶髪の少年、コペル。

 

キリトがネペントを倒す中、コペルが実付きネペントに垂直斬り『バーチカル』を喰らわせようとする。

 

コペルは聞こえないものの、こう言った。

 

 

 

『ごめん』

 

 

次の瞬間、実に剣が直撃し、実が破裂した。

 

そして、大量のネペントが周りから現れる。

 

隠れるコペル。

 

キリトはネペントを斬りつけ、さらに追い討ちをかけた。

 

コペルが隠れた草むらに向かって行く大量のネペント。

 

コペルは隠れるのが無駄だと分かり、戦い出す。

 

キリト側にいたネペントをキリトが倒し、コペルを助けようと振り向こうとした、その直前……

 

 

 

パリィィィィィィイン!

 

 

 

無慈悲で残酷な音が聞こえた。

 

振り向いた時、そこにあったのは一振りのひどく傷付いた剣と丸い盾。

 

そして、キリトは俯きながら、そこにいる大量のネペント達に斬りかかる。

 

遺された剣と盾の側にキリトが『ネペントの胚珠』を落とす。

 

そして、背景が変わってある家の中、少女に頭を撫でられているキリト。

 

キリトは、泣いていた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

まただ………………また、記憶が………

 

ユージオ「…………この記憶の場所は………この森?」

 

キリト「ユージオ‼︎早く行くぞ!」

 

これはキリトの記憶。未来だ。ならまた…………………

 

 

 

 

 

この記憶通り、また、繰り返される。

 

 

 

 

 

ユージオ「コペル‼︎行くなあああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」

 

気がついたら、僕は叫んでいた。

 

でも、コペルは、ネペントに向かって走った。

 

そして、記憶通りネペントに『バーチカル』を食らわせようとして、剣を構えた。

 

 

 

『ごめん』

 

 

聞こえないけれど、コペルはきっとこう言った。

 

パァァァァァアン‼︎

 

ネペントの実が割れる音が森中に響く。

 

キリト「…………いや、駄目だろ…………」

 

キリトが呟いた。

 

索敵スキルが発動して周りからネペントが現れたことを知らせている。

 

キリト「……ユージオ!俺たちはこっちの奴らをやるぞ!」

 

ユージオ「…………でも、コペルを助けなきゃ………」

 

キリト「コペルの手伝いはこっちが終わってからだ!先にこっちの奴らを倒しておかないと面倒くさいことになる!」

 

向こうの方ではコペルが草むらに隠れようとしていた。

 

ユージオ「…………でも‼︎」

 

キリト「早く‼︎」

 

ユージオ「…………………わかった。早く倒してコペルを助けに行こう‼︎」

 

キリト「ああ。……………コペル、お前は知らなかったんだな…………隠蔽スキルがネペント達には効かないこと…………」

 

ユージオ「キリト!早く!」

 

キリト「了解‼︎」

 

ユージオ「やあっ‼︎」

 

ズバッ!

 

『ギシャァァア⁉︎』

 

パリィィイン‼︎

 

キリト「はあっ‼︎」

 

ザシュッ!

 

『ギシャァァ………』

 

パリィィイン‼︎

 

ユージオ「早く行かないと…………」

 

こっち側のネペントを倒した直後だった。

 

 

 

 

パリィィィィィィイン‼︎‼︎

 

 

 

キリト「‼︎」

 

ユージオ「⁉︎」

 

無慈悲で残酷な音が森中に響いた。

 

振り向いた時、そこにあったのは…………短めの剣と丸い盾だった。

 

また、繰り返された………あの記憶と同じ結果に…………

 

ユージオ「あぁ…………コペルが………」

 

キリト「………っ‼︎ユージオ…………行くぞ…………あいつらを………」

 

ユージオ「僕が………もう少し早ければ…………くっ‼︎」

 

暴れながら蔓を鞭のように使い2人を倒そうとする大量のネペント達。その中には花付きが五体程いた。

 

剣を構え、突撃する2人。

 

 

 

『『『『ギシャァァァァァァァァァァァァアア‼︎‼︎』』』』

 

 

 

 

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎」」

 

 

 

 

 

 

2人は叫びながら、ネペント達を屠り続けた。花付きがいようと、実付きネペントの実を斬っても戦い続けた。

 

---------------------------

 

 

ユージオ「ハァ、ハァ、ハァ…………」

 

キリト「……………」

 

キリトはメインメニューを開き、ストレージから『ネペントの胚珠』を取り出した。そして、コペルが最期に遺していったたくさんの傷が付いた剣と丸い盾の元へと向かった。

 

キリト「………………コペル、お前の分だ。……………お疲れ…………」

 

そう言ってキリトは剣と丸い盾のところに胚珠をそっと置いた。

 

ユージオ「ごめん、コペル………僕がもっと早く気づいていれば…………」

 

キリト「………………行こう…………ホルンカに…………」

 

ユージオ「…………うん………」

 

そして、僕らはふらふらと歩いてホルンカに帰った。

 

 

 

〜少年達移動中〜

 

 

 

ガチャッ キィィィ…………

 

また僕らはやって来た。この古民家に。

 

『ネペントの胚珠』をおばさんに届けるためにきた。

 

この時僕らは初めて気づいた。

 

あの時、ネペントを倒したことで胚珠がいくつかドロップしていた。

 

キリトは2つ、僕が3つだった。

 

そして、クエスト報酬である剣『アニールブレード』を受け取って外に出た時にはもう、午前一時を回っていた。

 

僕らは何も言うことなく同じ宿の同じ部屋に泊まった。

 

ベッドで寝ようとして目を閉じた時、すすり泣くような声が聞こえた。

 

僕は何も声をかけられなかった。

 

また、繰り返された。

 

僕は、この時、決めた。

 

 

 

もう、繰り返させやしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『2人の少女』


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2人の少女

こんにちは!クロス・アラベルです!
はい!第7話できました!
2人の少女の正体が明らかに!
それではお楽しみください!


夕陽が辺りを照らす中、2人の少女が荒野を走っていた。

 

1人は焦げ茶色の髪に青い瞳、もう片方は燃えるような紅葉色の髪と瞳を持っていた。

 

『………はぁ、はぁ、はぁ…………早くしないと夜までに次の町に着かないかも知れないよ………』

 

『………はぁ、はぁ…………わかってるわよ……………!また、あの蜂よ!』

 

道の真ん中に蜂型モンスターか五体程出現した。

 

『そんな!………私……もう限界…………』

 

蜂モンスター達が少女達に向かって走ってくる。

 

『⁉︎……もう!…………しっかりしなさいよ!早くしないと…………』

 

『……………あ………』

 

少女達に飛びかかる蜂モンスター。

 

『(……………ああ………ここで………死んでしまうの?………死んでしまうのなら………また、あなたに会いたかった…………)』

 

 

 

 

 

 

 

『…………キリト先輩!』

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コペルの一件から2日後、僕とキリトはホルンカのクエストをあらかた受けて、第三の町《カーディフ》に向かった。

 

行く道は荒れ果てた荒野のようだった。

 

そして、2時間ほどかかって《カーディフ》に到着した。

 

着いた時にはもう夕方だった。

 

カーディフはホルンカと同じか少し大きいくらいだ。

 

今、キリトと一緒にあるクエストを受けている。大きな蜂型モンスターが町の近くに現れたので討伐してほしいと言うものだった。

 

キリトが言うには、『これはこのモンスターを20体倒せばいいから楽なクエストだ』と言うことらしい。

 

そして、今僕らは《カーディフ》の近くの荒野に来ていた。

 

ユージオ「キリト、あとどれくらい討伐すればいい?」

 

キリト「………んと……あと5体くらいかな………俺は8体狩ったから………」

 

ユージオ「うっ⁉︎キリトに負けてる⁉︎」

 

キリトはニヤリと笑いながら僕を見て来た。

 

キリト「………そう言うことだ……ユージオ!」

 

ユージオ「………絶対に負けたくない………」

 

キリト「………ん?索敵スキルに反応ありだ。えっと……ちょうど五体いるぞ!」

 

ユージオ「………本当だ!………あれ?人の印もあるよ………2人。」

 

キリト「みたいだな…………逃げてるのか?蜂のやつに追われてるな……なんか、逃げてるにしては遅すぎるけど……………」

 

ユージオ「!だとしたら、まずいよ!助けに行こう!」

 

キリト「……………分かった………行くか‼︎」

 

僕らは改めて『アニールブレード』を鞘から抜いて、反応のあるところに向かって走った。

 

そして、反応のあった場所が目の前に迫った時、ある光景をみた。

 

そこには2人のプレイヤーと例の蜂が五体程いた。町の反対側から蜂達は出現したらしく、2人のプレイヤー達は逃げていた。

 

ユージオ「キリト‼︎」

 

キリト「ああ‼︎」

 

僕らは秘奥義……いや、ソードスキルを発動させ、飛翔する。キリトは『ソニックリープ』、僕が『レイジスパイク』だ。

 

「「はああああああああ‼︎」」

 

ズバシュッ‼︎

 

『『ギリシャァァァァア⁉︎』』

 

その一撃で蜂2体を倒した。

 

『⁉︎ギリギリギリギリシャアァァァァァァァァ‼︎』

 

倒した途端、一瞬動揺したが蜂が僕らに向かって襲って来た。

 

だが冷静に判断し、僕は『スラント』、キリトは『バーチカル』を放って2体を斬り倒した。

 

「「ラスト(最後)ォォォォオ‼︎」」

 

そして、最後の一体に向けて『ホリゾンタル』を2人で放った。

 

「「はあっ‼︎」」

 

『ギリシャァァァア⁉︎』

 

そして、蜂を全て討伐した。

 

キリト「………ふう……なんとか倒せたな………」

 

ユージオ「良かった………」

 

キリト「これで討伐数は11体………勝ったな……!」

 

ユージオ「えっ?待ってよ!最後のは同時討伐だよ!」

 

キリト「いや………どっちにしろ、俺の勝ちだよ、ユージオ。」

 

さっきと同じでまた、ニヤニヤしながらこっちをみながら言った。

 

ユージオ「……ううん……宿の方で決めよう。最後、どっちが狩ったか……」

 

 

 

 

 

 

『……あ………あの………』

 

 

ユージオ「ん?」

 

その時、助けたプレイヤーが小さな声を出した。

 

声質からして、女の子みたいだね……

 

そんなことを思いながら2人のプレイヤーをみた。

 

 

見覚えのある子だった。

 

 

1人は焦げ茶色の髪に青い瞳、もう1人は燃えるような紅葉色の長めの髪と瞳。

 

ユージオ「き………君たちは………まさか………」

 

『ユージオ先輩‼︎』

 

次の瞬間、赤い髪の子が僕に抱きついて来た。

 

ユージオ「うわっ⁉︎」

 

『うぅ………ユージオ先輩!ユージオ先輩!うああああ‼︎』

 

ユージオ「だ、大丈夫⁉︎」

 

キリト「お、おい!ユージオ、その子知り合いか?」

 

ユージオ「う、うん。そうだよ………久しぶりだね………『ティーゼ』。」

 

ティーゼ「ユージオ先輩ぃぃぃ………ぅぅぅ」

 

キリト「で、もう1人は………」

 

『キリト先輩ッ‼︎‼︎』 バッ‼︎

 

もう1人の子はキリトに抱きついた。

 

キリト「うぇっ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

キリトは……凄く動揺してるね………

 

ユージオ「君も久しぶりだね……『ロニエ』。」

 

ロニエ「キリト先輩‼︎……うわああああああああん‼︎」

 

ロニエもティーゼも泣きじゃくっている………

 

ユージオ「キリト。…………キリト‼︎そろそろ帰ってきてよ!早く町に戻ろう。クエストもクリアだし……」

 

キリト「⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

 

………キリト………見てて面白いな……それより、早くティーゼとロニエを町に連れて行かないと………

 

そして、僕はその後泣きじゃくっているティーゼとロニエと動揺して動けないキリトを町に連れて行くことになった。

 

 

 

 

 

〜少年少女移動中〜

 

 

 

ユージオ「よし、ここなら大丈夫だよ。ロニエ、ティーゼ。」

 

ロニエ「は、はい……………グスッ……」

 

ティーゼ「ありがとう……ござい、ます………」

 

キリト「⁉︎⁉︎⁉︎」

 

キリトはまだ、動揺してるね……面白いけど、そろそろ真面目に話をしないと…

 

ユージオ「キリト!…………ダメだ……帰ってこない………なら………」

 

バシッ‼︎

 

キリトを思いっきり叩いた。

 

キリト「痛ッ⁉︎」

 

ユージオ「キリト………真面目に話聞いてよ!」

 

キリト「あ……ああ……」

 

ボーッとして……ったく!

 

ユージオ「もういいよ!キリトは部屋に戻って寝てれば⁉︎」

 

キリト「……分かった…………そうする………」

 

キリトはボーッとしたまま、宿屋の二階にある部屋に向かって行った。

 

ロニエ「あっ……キリト先輩………」

 

ユージオ「ロニエ、ティーゼ。キリト抜きで話がしたいんだ。」

 

ティーゼ「……ってことは、キリト先輩に聞かれてはいけない話なんですか?」

 

ユージオ「……そうだよ。」

 

ロニエ「えっと………なんの話、ですか?」

 

ユージオ「今のこの世界についてだよ。2人はそこまで知らないでしょ?」

 

ティーゼ「はい………でも、『そーどすきる』とか、『もんすたー』とかは知ってます。」

 

ユージオ「えっ?どうして?」

 

ロニエ「前の町で、教えてくれた人がいたんです。」

 

ユージオ「へえ………そうだったんだ………」

 

ティーゼ「凄く物知りな方でしたよ。」

 

ユージオ「そっか………それじゃあ、今の状況を話すね。キリトから怪しまれない程度に聞いた話だけど………」

 

 

 

 

〜少年説明中〜

 

 

 

ロニエ「⁉︎………それは…………本当なんですか⁉︎」

 

ティーゼ「………キリト先輩の過去………ここがアインクラッド流剣術の生まれた場所……アインクラッド………なんだか、夢の世界の中にいるみたいですね……」

 

ユージオ「僕もそう思ったよ、ティーゼ。」

 

ロニエ「キリト先輩が………私のことを……覚えていない……」

 

ロニエ……落ち込むよね………

 

ティーゼ「………!先輩!アスナ様は……」

 

ユージオ「アスナ………ああ!キリトと一緒にいたひとだね。………多分まだ、キリトとアスナって人は出会ってないんだと思うよ。」

 

ロニエ「⁉︎そうなんですか⁉︎」

 

ティーゼ「よしッ‼︎」

 

ユージオ「多分だけど……キリトの口からアスナっていう人の名前が出てないからね……」

 

ロニエはいいとして……ティーゼはなんで喜んだの?

 

ユージオ「今日はもう遅いし………一部屋2人にとってあるから、休んだら?キリトに話すのは明日にしよう。」

 

ロニエ「………はい。」

 

ティーゼ「わかりました……では、また明日会いましょう!ユージオ先輩!」

 

ユージオ「うん。それじゃあ、おやすみ。」

 

そして、僕らは宿屋の部屋で別れた。

 

 

 

 

 

 




次回『逆襲の雌牛クエスト』


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逆襲の雌牛

第8話できました!
クロス・アラベルです!
今回は戦闘シーンが一切ありません………お許し下さいっ(´;Д;`)
そして、今回はあの物知り人が登場です!
お楽しみ下さい!


 

 

 

ロニエとティーゼに出会ってから僕らは『ぱーてぃ』というものを組み4人で行動した。《カーディフ》でのクエストをあらかたこなして、翌日に次の町《バルグトス》へと出発した。

 

キリトは最初、ロニエ達がパーティに入ることを渋っていたが、ロニエ達の剣の腕を見て条件付でパーティに入ることを許可した。

 

その条件は『キリトの指示に従うこと』。ビギナーであるロニエとティーゼはまだ、この世界に慣れていない為、キリトが2人を見守ることになった。

 

もう1つの条件は剣を変えること。2人は僕らが持っていた予備のアニールブレード2本を使うことになった。2人は少しは躊躇していた。やはりすぐ剣を変えるのは少し答えたようだ。

 

そして、《バルグトス》に到着して2日目。僕らはクエストを3つクリアして、休憩がてらに鍛冶屋に来ていた。

 

ユージオ「キリト、何か防具でも買うの?」

 

キリト「いや、そういうわけじゃない。そろそろ剣の強化をしようと思ってるんだ。」

 

ロニエ「剣の……強化ですか………」

 

キリト「大体強化に必要なアイテムは揃ってるし、強化なしの剣だとそろそろ不安だからな。」

 

ティーゼ「この『アニールブレード』でもですか?」

 

キリト「ああ。強化すればするほど攻略に役立つからな………」

 

そして、キリトはアイテムストレージを確認し、鍛冶屋に声をかけた。

 

キリト「すいません、剣の強化を頼む。」

 

NPC鍛冶屋『あいよ!強化種類は?』

 

キリト「『丈夫さ』で、強化アイテム持ち込み。」

 

NPC鍛冶屋『あいよ!』

 

そして、キリトは背中にある『アニールブレード』を鍛冶屋に渡した。

 

そして、鍛冶屋は剣を高温で熱して、キリトから貰ったアイテムも高温で熱して、剣にかけた。鍛冶屋は槌を取り出して叩き始めた。剣は黄色に光っていた。

 

「「「うわぁ………!」」」

 

息を呑むほど綺麗だった。そして、10回ほど叩いた時、剣の黄色い光が収まった。そして、出て来たのはさっきよりも輝きの増したアニールブレードだった。

 

NPC鍛冶屋『よかったな!成功したよ!』

 

キリト「ありがとう。」

 

ユージオ「すごいね………これで……」

 

キリト「丈夫さが+1だ。こういう風に強化して行く。強化種類は『丈夫さ』『鋭さ』『速さ』『正確さ』『重さ』がある。オススメは………『丈夫さ』と『鋭さ』だ。」

 

ユージオ「そっか………」

 

キリト「それじゃあ、3人ともそれぞれ強化していってくれ。」

 

ロニエ「はい!」

 

 

 

 

 

〜少年少女剣強化中〜

 

 

 

 

 

ロニエ「出来ました、キリト先輩!」

 

ユージオ「僕らも出来たよ。」

 

僕らもアニールブレードが強化出来た。

 

僕が『アニールブレード(鋭さ+2丈夫さ+3正確さ+1)』、ロニエが『アニールブレード(鋭さ+2丈夫さ+2正確さ+2)』、ティーゼが『アニールブレード(鋭さ+3丈夫さ+2正確さ+1)』で、キリトが『アニールブレード(鋭さ+3丈夫さ+3)』だ。

 

キリト「これで少しは戦闘が楽になったな。それじゃあ、昼ごはんにしよう。買って来るよ。」

 

ロニエ「あっ、大丈夫です!私が買いに行きます!」

 

キリト「大丈夫だ。ロニエとティーゼはまだ、慣れてないだろ?」

 

ロニエ「うぅ……はい……お願いします。」

 

キリトは向こうにある店に行った。

 

ティーゼ「いい感じよ、ロニエ!もっと積極的に、ね!」

 

ロニエ「う、うん!」

 

何かティーゼがロニエに励まし(?)の言葉をかけている。試しになんの話か聞いてみよう。

 

ユージオ「?………何の話?」

 

ティーゼ「ユージオ先輩には関係ないことです。」

 

ユージオ「えぇー……」

 

なんでか知らないけどあっさり返された。………ちょっと悲しい………

 

キリトが帰って来た。

 

キリト「買って来たぞ!はい。」

 

そう行って僕らに渡したのは…………昨日も一昨日も食べた、丸くて硬い黒パン。

 

ティーゼ「ええ⁉︎また、それ食べるんですか⁉︎キリト先輩!」

 

あり得ないと言うようにティーゼが悲痛な叫びをあげる。

 

キリト「ああ。食べられないものじゃないだろ?」

 

ティーゼ「ですけど………」

 

ロニエ「食べられないことはないですが、あんまり美味しくないですよ……そのパン、硬すぎますし………」

 

ユージオ「僕は慣れてるけどね。」

 

そう、僕はアンダーワールドのルーリッドの村で木こりをしていた時は、これと同じくらい硬いパンを毎日お昼に食べていた。………………ちょっとその頃が懐かしいな………

 

キリト「そんなにか………ま、いいだろ!今日の晩御飯にはただの黒パンじゃなくなるから。」

 

ティーゼ「えぇっ?」

 

ユージオ「キリト、それはどういう………」

 

キリト「それは秘密だ。まあ、黒パンが変わる前に一仕事しなきゃいけないけどな。」

 

ロニエ「一仕事……というと、クエストですか?」

 

キリト「ああ、その通り。そこであいつと約束してるしな………黒パン食い終わったら行こう。」

 

ロニエ「はい!」

 

ユージオ「あいつ?」

 

そして、僕らは黒パンを食べ終えてクエストを受けに行った。

 

 

 

〜少年少女移動中〜

 

 

 

五分後、ぼくらが着いたのはとある牧場だった。

 

そこで、僕らは1つのクエストを受けた。

 

 

ユージオ「『逆襲の雌牛』………か……」

 

ロニエ「キリト先輩、どんなクエストなんですか?」

 

キリト「んーとだな………あの牧場から抜け出した雌牛がいてな、そいつがリーダーになって何度も他の牛を脱走させようとするんだ。だから…………」

 

その時、見知らぬ声が聞こえた。

 

 

 

 

『その雌牛を倒さなきゃいけなんダヨ』

 

 

 

キリト「来たか!」

 

ユージオ「?………誰?」

 

ティーゼ「えっ?この声って…………」

 

ロニエ「まさか………」

 

後ろを振り向くとそこには濃い緑の外套を着た小柄なプレイヤーがひとりいた。

 

???「久しぶりだネ、キリト………ン?ローちゃんとティーちゃんじゃないカ。これまた久しぶりだネ。ホルンカへの道以来ダヨ。」

 

「「ア、アルゴさん‼︎」」

 

キリト「お前が本物の『アルゴ』だな?」

 

アルゴ「オイオイ、俺っちを疑ってるのカ?キリト?」

 

キリト「久しぶりだな、アルゴ。」

 

ロニエ「お久しぶりです!アルゴさん!」

 

アルゴ「元気にしてたカ?ローちゃん、ティーちゃん?」

 

ティーゼ「はい、おかげさまで!」

 

キリト「なんだ、2人とも知ってたのか?」

 

ロニエ「はい!ホルンカの町に行く途中に助けてもらって……」

 

ティーゼ「それでここで必要なことをたくさん教えていただいたんです!」

 

キリト「そうか。」

 

アルゴ「フーン………キリトはいつも女の子を連れてるわけだナ?」

 

キリト「成り行きでこうなったんだ。ほっとく訳にもいかないだろう?」

 

アルゴ「………キリトはヘタレなのカ?じゃあ、キリトのことは『キー坊』って呼ぶことにするヨ!」

 

キリト「何だよ、『坊』って!身長的に年下だろ!」

 

アルゴ「そうとも限らないゾ。」

 

キリト「そんなんで呼ぶなよ!」

 

アルゴ「嫌だヨ、キー坊!」

 

キリト「なんでそうなった………」

 

 

あ、あれ?僕、空気になってる?

 

アルゴ「ン?知らない奴がいるナ。お前ハ?」

 

ユージオ「あっ、えっと……僕、ユージオ。君の名前はアルゴっていうの?」

 

アルゴ「その通りダヨ。俺っちは情報屋ダ。『鼠のアルゴ』と呼ばれてるヨ。」

 

ユージオ「アルゴ、だね。よろしく、アルゴ。」

 

アルゴ「ユージオだナ?これからよろしくお願いするヨ。」

 

アルゴは深くフードを被っているからわからなかったけど、短い金髪の女の子だった。

 

キリト「そんじゃあ、アルゴ。調べて欲しいことがある。」

 

アルゴ「ん。わかったヨ。調べて欲しいっていうのはなにについてかナ?」

 

キリト「………ベータテスターの死亡者数だ。」

 

アルゴ「………分かっタ。調べて見るヨ。」

 

キリト「頼むぞ……」

 

アルゴ「じゃあ、わかり次第連絡するヨ。その時には500コル、用意しておいてくレ。」

 

キリト「ああ。」

 

アルゴ「それじゃあナ!ローちゃん、ティーちゃん、キー坊に、ユー坊!また会おウ!」

 

ロニエ「はい、また!」

 

ティーゼ「さよならー!」

 

ユージオ「えぇっ⁉︎僕も坊付き⁉︎アルゴさん!それはやめて下さいよ‼︎」

 

僕がそう言った時にはアルゴさんはもういなくなっていた。

 

ユージオ「…………」

 

キリト「…………」ニヤニヤ

 

ユージオ「………」

 

キリト「……………ユー坊!」

 

ユージオ「おい、キリト‼︎その呼び方はやめろよ!」

 

キリト「ユー坊だって………あははははは‼︎」

 

ユージオ「言ったな!キー坊!」

 

キリト「お、おい!や、やめてくれ!」

 

ユージオ「キー坊、キー坊‼︎」

 

キリト「くっ…………ユー坊、ユー坊!」

 

ユージオ「キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊キー坊…………………」

 

キリト「ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊ユー坊……………………」

 

と言う言い合いが長く続いた。

 

一方、後輩2人は……

 

ロニエ「キリト先輩、ユージオ先輩………」

 

ティーゼ「………変わらないわね………先輩たちは……」

 

と、傍観していた。

 

 

 

 

 

 

 

〜2時間後〜

 

 

 

 

 

 

あの後、僕らは言い合いを続けた。ロニエとティーゼが僕らを止めようとしていたけど、終わりはしなかった。そして、勝負でこの言い合いを終わらせることになった。牛型モンスターを何体倒せるか、どちらがボスである雌牛を倒すことが出来るか。

 

結果は引き分け。倒した数は同じ、ボスの雌牛は同時討伐だった。

 

その間、ロニエとティーゼは見ているだけだったようだ。2人の説明によると、

 

「「……………無双してました。」」

 

………らしい。

 

そして、僕らはクエスト報酬としてあるアイテムが大量にもらえた。今、バルグトスの町で夜ご飯だ。

 

ユージオ「………キリト、このアイテムは何?」

 

キリト「これが今回の目的のアイテムだ。『搾りたて牛乳のクリーム』っていうんだけど……」

 

ロニエ「くりーむ…………」

 

キリトがストレージから安価1コルの黒パンとさっき言ったクリームの入った瓶を取り出した。

 

キリト「これを、黒パンに塗って、食べれば………………」

 

キリトは瓶に人差し指で少し触り、指に光が灯ったところで、黒パンに塗った。薄く黄色がかったクリームだった。

 

ティーゼ「食べれば………?」

 

クリームを塗った黒パンを一口頬張るキリト。

 

キリト「…………美味いな‼︎βテストの時より上手くなってるぞ!」

 

ロニエ「ほ、本当ですか⁉︎」

 

キリト「ああ。3人とも食べてみろよ!」

 

ユージオ「……じゃあ、食べてみるよ。」

 

僕も試しにクリームを黒パンに塗って食べてみた。

 

ユージオ「……すごい美味しい‼︎」

 

これは………なんていうんだろう………あの黒パンが田舎ケーキに変わったみたいだ。

 

ロニエ「すごいですね!クリームをかけただけでこんなに美味しくなるなんて!」

 

ティーゼ「んん…………幸せです………」

 

ロニエもティーゼも上唇と鼻にクリームをつけながらもよく食べている。

 

キリト「よかった。不味いって言ったらどうしようかと思ってたんだ。」

 

ロニエ「ありがとうございます!キリト先輩!」

 

キリト「いえいえ、どういたしまして…………………ロニエ、鼻にクリーム付いてるぞ。」

 

ロニエ「ふえっ?」

 

キリトは指でロニエの鼻に付いたクリームを取ってあげた。そして、それを舐めた。

 

ロニエ「//////⁉︎⁉︎」

 

途端にロニエが真っ赤になったみたいだけど………気のせい?

 

キリト「…………どうした、ロニエ?」

 

ロニエ「いっ、いえ!なんでもありませんっ///////」

 

ティーゼ「…………」ニヤニヤ

 

……………なんでティーゼはそんなにニヤニヤしてるの?

 

キリト「ん、今日も1日お疲れ様!また明日も頑張ろう!3人とも!」

 

ユージオ「わかってるよ!」

 

ティーゼ「了解です!」

 

ロニエ「は、はい………//////」

 

またこうして、僕らの波乱万丈な1日が終わった。

 

 




次回『闇の中の閃光』
※変更の可能性あり。登場させるキャラをどれにするか迷っています。


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闇の中の閃光

少し、遅くなりました!クロス・アラベルです!
今回はあのフェンサーさんが登場です!
それではどうぞ‼︎


 

 

 

…………………松明の火だけが辺りを照らし出す。

 

そこは第一層の迷宮区のダンジョン。

 

闇の中、一人の少女が駆け抜ける。

 

少女はえんじ色のフードを被り、細剣(レイピア)『アイアンレイピア』を片手に走る

 

『はあ、はあ、はあ………っ‼︎』

 

少女の後方には多数の獣人型モンスター『ルインコボルド・トルーパー』が大きなハンマーを持って走ってくる。

 

『グルゥァァァァァァァァァァアア‼︎‼︎』

 

『来るっ!』

 

剣を構える少女。

 

『……………ッ‼︎』

 

栗色の長い髪の少女はレイピアのソードスキル『リニアー』で『ルインコボルド・トルーパー』を一撃で仕留めた。

 

『…………ッ‼︎』

 

そして、『ルインコボルド・トルーパー』がハンマーで少女を殴ろうとした。だが、少女はそれを当たる寸前で避け、さっきと同じ『リニアー』で、また一体屠った。

 

『ッ!………どれだけいるのよ………‼︎』

 

少女は何度も倒しているのだが、何しろ数が多過ぎる。たった一人の少女に対し、モンスターら30体以上いる。今、この状況を表すなら、『絶体絶命』だろう。

 

『はあ、はあ、はあ………………キリが無いっ‼︎』

 

栗色の長い髪の少女は、また駆け出す。

 

だが、彼女もあれから何時間も戦い続けている。疲労も相当なものだ、限界が近かった。

 

何体目か……栗色の長い髪の少女がモンスターを倒した直後、油断したのか彼女は足を取られ、こけてしまった。

 

『⁉︎』

 

そして、モンスター達はチャンスとばかりに飛びかかって来る。

 

 

あれから一週間は過ぎた。そう、このデスゲーム『ソードアートオンライン』が始まってからだ。

 

少女はこれまで何度も試練を突破してきた。私立小学校の入学試験、日々の勉強、周りとの学力競争、様々な習い事、名門私立中学校への入学試験、定期テスト。全てに勝ってきた。

 

だが、少女は思った。恐らく、この『ソードアートオンライン』と言う試練には勝てない、と。あまりにも未知の世界であったからだ。

 

 

ああ………………やっと、終わる………やっと死ぬんだ。

 

その時、自然に涙がこぼれた。終わりを待つように目を閉じた。

 

だが、そのハンマーによる一撃はいつまでたっても来ることはなかった。

 

ズバシュッッッ‼︎

 

その代わり、聞こえてきたのは剣で何かを切り裂いたような音だった。

 

目を開いた。

 

『間に……あった‼︎』

 

その前にいたのは、

 

『君!……大丈夫⁉︎』

 

亜麻色の髪の少年、ユージオだった。

 

ユージオがなぜここにいるか?それは5時間程前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

逆襲の雌牛クエストをクリアしてから、2日後。ユージオ達は最後の町『トールバーナ』に到着した。その道中では様々なプレイヤーに出会った。四人は出会ったプレイヤーを助けてサポートした。その数20人程。

 

そして、ユージオ達は『トールバーナ』であらかたクエストをクリアし終わったのが、到着してから4日後。

 

僕らは、今から何をするかを相談しているところだ。

 

 

キリト「これからどうする?」

 

ロニエ「ええっと……観光……?」

 

ティーゼ「安全なところで黄昏ましょう!」

 

ユージオ「僕は………観光に一票かな?」

 

キリト「そうか……俺は………黄昏たいな……」

 

ユージオ「……どうするの?」

 

ロニエ「……最近、クエストを連続して受け過ぎですし……楽しく観光してみますか?」

 

キリト「観光か………それじゃあ、俺もそうするか!」

 

ティーゼ「………じゃあ、そうしますか!」

 

ユージオ「キリト、この街でいいお店ない?」

 

キリト「んー………観光スポットはないが、飯が食えるところはあるな。」

 

ユージオ「じゃあ、そこに行こう。」

 

ロニエ「はい!」

 

ティーゼ「わかりました!」

 

キリト「了解、行こうか。」

 

 

 

〜少年少女お食事中〜

 

 

 

ロニエ「美味しかったですね!」

 

キリト「ああ。久しぶりに肉を食べたな……」

 

ティーゼ「(やっぱりキリト先輩は変わってないですね……)また今度行きましょう!」

 

ユージオ「そうだね……いつも黒パンだから、余計に美味しく思えたよ。」

 

やっぱりキリトは過去に戻っても変わってないね……

 

キリト「よし!一休みしたし、『迷宮区』行くか。ちょっと贅沢したしな。」

 

ユージオ「……『迷宮区』?」

 

キリト「ああ………また、説明した方がいいか……?」

 

ロニエ「大丈夫ですよ、キリト先輩!私が説明します!アルゴさんに色々教えてもらった時に、『迷宮区』についても聞きましたから。」

 

キリト「そうか!じゃあ、頼んだぞ、ロニエ。」

 

ロニエ「はい!」

 

ティーゼ「私も説明しますよ!ユージオ先輩!」

 

ユージオ「じゃあ………よろしくね。」

 

ティーゼ「了解です!」

 

 

 

〜少女説明中〜

 

 

 

ユージオ「………じゃあ、その迷宮区っていうのを攻略すればいいんだね?」

 

ティーゼ「はい!でも、迷宮区にいるまも……じゃなくて、モンスターは他の場所と違って強いそうです。」

 

ユージオ「どうするの、キリト?これから迷宮区に行くのかい?」

 

キリト「ああ、そう思ってるんだが………まあその前に武器のメンテナンスをしてからだけどな。」

 

ユージオ「わかった。メンテナンスが終わり次第行くんだね。」

 

キリト「そういうことだ。よし、鍛冶屋でメンテしてもらうか!」

 

ロニエ「はい!行きましょう!」

 

ティーゼ「了解です!」

 

 

 

 

〜少年少女、武器メンテナンス後迷宮区に移動中〜

 

 

 

 

目の前にそびえ立っていたのは、黒い巨大な塔のようなものだった。

 

ユージオ「あれが迷宮区………」

 

キリト「ああ…………変わってないな……」

 

ロニエ「アルゴさんから聞いてはいましたけど…………すごいですね………」

 

ティーゼ「………セントラル・カセドラルよりすごいかも………」

 

キリト「よし、今から迷宮区に乗り込む。みんな、気を引き締めて行こう!」

 

「「「おおーー‼︎‼︎」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオ「ハアッ‼︎」

 

ズバッ!

 

『グルがァァアア⁉︎』

 

パリィィイン!

 

僕の目の前にいるモンスター『ルインコボルド・トルーパー』は他のモンスターと違って、少し動作が人間に似ているような気がする。でも、動きは単純だ。

 

このコボルドで29体目。この迷宮区に入ってから結構時間が経つ。上がっても上がっても、そのボス部屋っていうのにはたどり着かない。

 

キリト「シッ‼︎」

 

ザシュッ‼︎

 

『グルラァァァァ……』

 

パリィィイン‼︎

 

キリト「ふう………」

 

キリトも順調に倒せていってるみたいだ。ロニエとティーゼは………

 

 

ロニエ「ティーゼ、スイッチ!」

 

ティーゼ「はいはい!はあっ!」

 

ズバッ!

 

『グルァァァアア⁉︎』

 

パリィィィイン‼︎

 

「「イェーイ!」」 パン!

 

 

順調だね……ハイタッチしてるし………大丈夫かな?

 

キリト「ユージオ!今何体倒した?」

 

ユージオ「29だよ。キリトは?」

 

キリト「⁉︎…………27体目………」

 

ユージオ「よし、勝った!」

 

キリト「ま、まだだ!まだ終わってないぞ‼︎」

 

ユージオ「さっきの約束覚えてるよね?負けたら、今日の晩御飯奢りだよ。」

 

キリト「うっ………でも、ユージオの分くらいなら……」

 

ユージオ「?何いってるの、キリト?」

 

キリト「……?」

 

………分かってないな、キリト。

 

ユージオ「……………言っとくけど、僕の分だけじゃないよ。ロニエとティーゼの分も奢りだから。」

 

キリト「⁉︎」

 

勝った、これは勝った、いろんな意味で。

 

ユージオ「あっ!あそこ次の階への階段じゃないかな?」

 

ロニエ「本当ですね………」

 

キリト「よっよし!さっさと行くぞっ!」

 

ティーゼ「あはは………」

 

そして、僕らは次の階層へ行った。

 

ユージオ「さて、次の階は………ん?

 

その時、僕の索敵スキルに反応があった。

 

ユージオ「ええっ⁉︎………モンスターの反応が37⁉︎」

 

ロニエ「………‼︎中心にプレイヤーの反応が1つだけありますよ!」

 

ユージオ「………ッ‼︎」

 

それを聞いて、僕は気づかないうちに走り出していた。

 

そして、走り出したと同時にあの頭痛がまた来た。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

暗いダンジョン。

 

大量のモンスターがあるプレイヤーを囲み、袋叩きにするように攻撃をする。

 

プレイヤーに大きなハンマーが迫る。

 

そして、その前に黒い人影が飛び出す。

 

そう、キリトだ。

 

キリトはモンスターを蹴散らしながら、プレイヤーに声をかける。

 

キリト『大丈夫か、あんた?』

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

この記憶はまさか、今反応があったところの………?

 

キリト「‼︎……………行くぞ‼︎」

 

多分キリト達も走り出したんだろう。でも、僕の方が早かったせいか、僕は先に反応のあった場所にたどり着いた。

 

ユージオ「ッ⁉︎」

 

そこにあった光景は、まさに地獄。モンスターがそこら中にいた。

 

そして、その中心にいたのは、一人のプレイヤー。

 

ローブを着てフードで顔が分からなかったが、明らかに焦っているのが目に見えた。

 

僕は持っている技術全てを使ってモンスターを蹴散らし、プレイヤーの元へ向かった。

 

そのプレイヤーは疲労が溜まっていたのかこけてしまった。

 

そこに飛びかかって行く、モンスター。

 

……させや、しないッ‼︎

 

ソードスキルを発動させる。

 

跳躍技『ソニックリープ』。

 

プレイヤーに飛びかかろうとしたモンスターを斬る。一発で仕留められた。

 

ユージオ「間に……あった‼︎」

 

僕はプレイヤーに声をかけた。

 

ユージオ「君!……大丈夫⁉︎」

 

『……….⁉︎』

 

ユージオ「立てる?後は周りのモンスターを倒せばいいだけだから………もう少し頑張れる?」

 

『………!』コクッ

 

プレイヤーは頷いてくれた。

 

ユージオ「よし……」

 

キリト「ユージオ!大丈夫か⁉︎」

 

キリト達が遅れて着いたみたいだ。

 

ロニエ「ものすごい数ですね………」

 

ティーゼ「………どうしますか⁉︎」

 

キリト「…………攻撃開始まで、後5秒‼︎………4………3………2………1………GO‼︎」

 

キリトの指示通りみんな一斉に動き出した。

 

僕とキリトのレベルは13、ロニエ達は11だ。このモンスターはレベル6、こちらがかなり有利だが、このプレイヤーのレベルが少し気になる。ここで戦うということは最低限のレベルばあるはず……それでも、長時間の戦闘は『死』を招く。このプレイヤーはもしかすると長時間の戦闘に疲弊したのかもしれない。一か所に長い時間い続けたから、たくさんのモンスターが自然とわき始め、対処が難しくなったのだろう。

 

さっさと終わらせないと………

 

隣をみた。さっきのプレイヤーは細剣を構え、ソードスキルを発動させ……放った。

 

だが、僕にはその剣先が見えなかった。

 

ユージオ「‼︎」

 

速すぎる。剣先を目で追うことができない。

 

それは、まるで……

 

 

流れ星を見ているようだった。

 

 

戦闘はものの数分で終わった。

 

そのプレイヤーが鬼気迫る戦いをしたというのもあるが……

 

ユージオ「……ふう……お疲れ様、キリト。」

 

キリト「…………ああ。本当に……あの数はキツイな………」

 

ユージオ「うん………」

 

バタッ‼︎

 

ユージオ「⁉︎」

 

その時助けたプレイヤーが倒れてしまった。

 

ユージオ「キリト!ま、まずいよ!」

 

キリト「………仕方ない、ダンジョンの外まで運んでやろう……ロニエ、ティーゼ!二人で運んでやってくれ!」

 

ロニエ「あ、はい!」

 

ティーゼ「わかりました!」

 

ユージオ「?なんで僕らは手伝わないの?」

 

キリトはあからさまに嫌な顔をする。

 

キリト「そりゃあ……こいつが多分女だからだよ。」

 

ユージオ「でも、女だからって運ぶのを手伝わないのは………」

 

キリト「………ユージオ。ここにはハラスメントコードというものがある。」

 

ユージオ「は、はらす……?」

 

キリト「………つまりだ、男は不用意に女に触れちゃいけないのと同じだ。」

 

ユージオ「………そういうこと………分かった。頼んだよ二人とも。」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

〜少年少女移動中〜

 

 

 

 

 

 

……昼寝にはちょうどいい安全区域の草原に連れてきて、1時間程たった。

 

連れてきたプレイヤーに見覚えがあった。

 

栗色の髪と瞳、この人が『アスナ』だ。

 

もうそろそろ起きてもおかしくないんだけど……

 

『……んん?こ、ここは……』

 

ロニエ「あっ!起きられましたよ!キリト先輩!……………そろそろ起きてくださいよ、キリト先輩‼︎」

 

キリトはここについてから、昼寝をし始めたんだ。……キリトはやっぱり変わってないな………

 

キリト「………んあ?あいつ、起きたのか?」

 

ロニエ「そうですよ、キリト先輩!」

 

ティーゼ「……先輩……やっぱりアスナ様は………」

 

ユージオ「………うん。多分、この時代の人だと思う…………」

 

そう、彼女はこの時代の人だろう。アスナはキリトとここで出会ったんだ。あの時に頭痛で………記憶が流れてきた。多分、あの記憶はアスナとの初めての出会いなんだ。

 

『………‼︎ダンジョンじゃ、ない……』

 

ユージオ「僕たちが君を運んできたんだ。……僕はユージオ、よろしく。」

 

ティーゼ「私はティーゼです。よろしくお願いします。」

 

『…………余計な……ことをッ!』

 

キリト「余計なことっていうのは聞き捨てならないな。」

 

ロニエ「せ、先輩!失礼な言い方はダメですよ!」

 

キリト「わ、分かったよ……」

 

ロニエ「……ええっと………ロニエです。よろしくお願いします!」

 

『………あと少しで…死ねたのにっ!』

 

ユージオ「………じゃあ、聞きたいんだけど……あの時、死にたいと思っていたのなら、何故君は剣を持っていたの?」

 

『………っ!』

 

ユージオ「………死のうとしてる人は、剣なんか持たないよ。」

 

『…………』

 

ユージオ「剣を持って戦っていたのなら、それは………心の奥で、生きたいと思っているんだよね?」

 

『………………ッ‼︎』

 

キリト「その通りだぜ。まあ、どうせ死ぬならボス戦で死にたい(バシッ)ッ⁉︎」

 

あっ………ロニエに叩かれた。さすがに僕でも怒るね、さっきの言葉は。

 

キリト「………その前に『第一層ボス攻略会議』には出とかないとな。」

 

「「「『………ボス攻略会議?』」」」

 

キリト「…………えっ?言ってなかったか?ユージオ、ロニエ、ティーゼ?」

 

「「「言ってない‼︎」」」

 

キリト「………おうふ……でも、説明はいらないよな?」

 

ユージオ「いらないけど……会議、いつあるの?」

 

キリト「……今日の夕方……町の広場で………」

 

「「ええッ⁉︎」」

 

ユージオ「キリト!大事なことは僕らにも言ってよ!」

 

キリト「………すまん……」

 

ユージオ「……とにかく、あと、1時間もすれば時間だ。早めに行っておこう。」

 

ロニエ「はい。」

 

ティーゼ「了解です。」

 

キリト「……おう。」

 

『…………』

 

ユージオ「君は………どうするの?一緒に来る?」

 

『……大丈夫……』

 

キリト「……でも、広場の位置、わかるか?」

 

『………』フルフル

 

ユージオ「分からないなら、一緒に行こう。」

 

『………分かった。』

 

 

こうして、細剣使いのアスナと一緒にボス攻略会議に行くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『ボス攻略会議』


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ボス攻略会議

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回はかなり時間がかかってしまいました……ごめんなさい!
今回はあのキャラ達が登場です!
それでは、記念すべき第10話どうぞ!


 

ここはアインクラッドの第一層最後の街『トールバーナ』のとある広場。

 

そこに僕たちはいる。ちなみに迷宮区で助けたアスナも一緒だ。

 

ここで第一層ボス攻略会議が開かれるらしいので時間の1時間前だが、集まった。

 

キリト「………なぁ、みんな!お腹、空いてないか?」

 

ロニエ「そうですね………お昼から何も食べてませんから……」

 

ティーゼ「私もです。」

 

キリト「じゃあ、パン食べようぜ!…な!」

 

あ……キリトの考えてることが分かったぞ……

 

ユージオ「…………キリト、言っとくけどパンは晩御飯を奢ったことにはならないからね!」

 

キリト「………⁉︎……チッ………」

 

………キリトの考えることなんてお見通しだよ。

 

ユージオ「…………でも、パンを食べることには賛成かな………お腹空いたし……」

 

ティーゼ「それじゃあ、食べましょうか!」

 

ロニエ「…あなたもどうですか?」

 

ロニエがアスナを誘ってる……どう言うだろ………

 

アスナ『………』コクッ

 

あ……良かったオッケーだったみたいだ。

 

キリト「……そういえば、あんたのプレイヤーネーム聞いてなかったな……俺はキリトだ。あんたは?」

 

『………アスナ……』

 

やっぱりアスナだったんだ……

 

ティーゼ「アスナさm……じゃなくて……アスナさん、どうぞ。」

 

ティーゼがアスナに黒パンをあげた。

 

アスナ「…………一番安い、黒パン?」

 

ティーゼ「はい、黒パン単体だとあんまり美味しくないですけど……」

 

ユージオ「はい、これを使ってみて。」

 

前の街で手に入れたクリームを渡す。

 

アスナ「…………?」

 

ロニエ「こう使うんですよ、アスナさん。」

 

ロニエがクリーム瓶に触れて、クリームを『使用』し、パンに塗る。

 

アスナ「…………こう?」

 

アスナもロニエと同じようにクリームを塗った。

 

アスナ「…………!クリーム……?」

 

ロニエ「食べてみてください。美味しいですよ!」

 

キリト「あの激安黒パンとは思えなくなるぞ。」

 

アスナは怪訝な表情のまま、

 

アスナ「………はむっ」

 

パンにかぶりついた。

 

アスナ「……ん……ん…………‼︎」

 

アスナはとても驚きながら、

 

アスナ「………ただの黒パンが田舎ケーキみたいに………」

 

こう言った。

 

ユージオ「僕もそう思ったよ。僕も昔はこんな固いパン食べてたから……こんなに変わるなんて、って驚いたよ。」

 

僕もクリーム付きの黒パンをひとかじり。その時、アスナはもう食べ終わっていた。

 

アスナ「………はぁ……」

 

……すごい幸せそうだな。

 

アスナ「……‼︎…………あ、ありがとう……」

 

表情がくだけているのに気づいたのか、すぐに表情をもとの少し周りを警戒しているような表情に戻して、僕にお礼を言った。

 

ユージオ「いいよ、ここで会ったのも何かの縁だし……」

 

………何かの縁どころか、僕らと会うのはキリトといる限り決定的なはずだからね……

 

キリト「………やっぱ、美味いな………」

 

キリトがのんびりとパンを食べて終わってそう言った時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

『お早いネ、キー坊達ハ!』

 

ロニエ「あっ!アルゴさん!」

 

ティーゼ「こんにちは、アルゴさん!」

 

ユージオ「久しぶり、アルゴ。

 

アルゴ「元気にしてたカ?ローちゃんティーちゃん。ユージオも元気そうだナ……知らないプレイヤーがいるケド………誰かナ?」

 

キリト「白々しいのはやめろよ……名前は知らなくとも、一応知ってるんじゃないか?」

 

アスナ「………誰?」

 

アルゴ「オレっちは『鼠のアルゴ』サ。情報屋をしてル。アルゴって呼んでくレ。」

 

アスナ「………アスナです………よろしく……」

 

アルゴ「フム…………噂の凄腕フェンサーの名前は『アスナ』カ……」

 

キリト「ほら、知ってるじゃん……」

 

アルゴ「ニシシ………」

 

キリト「………お前が来たってことは、前に頼んだ件がわかったのか……どうだった?」

 

キリトがそう聞くと、アルゴは少し暗い顔で答えた。

 

アルゴ「………最悪だヨ………今の所、全プレイヤーの中で死んだのが878人、そのうち元βテスターが何人いたと思ウ?」

 

キリト「…………」

 

ユージオ「………何人くらいなの?」

 

アルゴ「……439人だ。」

 

「「「「⁉︎」」」」

 

キリト「………予想は出来てたけど……予想以上だな……やっぱりβテスターだからって調子に乗って死んだやつが多かったんだろうな。……自殺もあっただろうけど……」

 

アルゴ「………もう、この世界は地獄になってるようだネ……」

 

ユージオ「そんな………」

 

ロニエ「このままじゃ……」

 

ティーゼ「……」

 

アスナ「……みんな死ぬのよ………最後には誰もいない世界になる………」

 

キリト「………」

 

アスナ「………どうせ、みんな……死ぬのよ…………ッ!」

 

ユージオ「………諦めたら……ここから先、何にも変わんないよ……」

 

アスナ「……」

 

ユージオ「僕は…今を変えるためにここまで来た。僕らで変えるんだ!……だから、諦めずに、戦おう!ね、アスナ!」

 

アスナ「………」

 

ティーゼ「そうです!ユージオ先輩の言う通りですよ!……私も一緒に戦います!」

 

キリト「…………やるしかないしな……俺もだ。」

 

ロニエ「当たり前ですよ!」

 

アルゴ「戦闘じゃなかなか出ないけど、情報のことなら任せとケ!」

 

アスナ「………分かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜それから、40分後〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いろんなプレイヤー達が広場に集まって来た。色濃く日焼けをした背の高い男性、イガイガの頭をした男、自慢の青い髪を後ろで束ねた男性……などなど、様々なプレイヤーが集まった。

 

 

ユージオ「………これで全員なのかな?」

 

キリト「多分な……それでも少ない方だろ。もっと来るかと思ったけど……まあ、集まらないよりかはマシか。」

 

ロニエ「もう少ししたら始まりそうですね。」

 

『ああッ‼︎キリトさん達じゃないっすか‼︎』

 

その時、あるプレイヤーが喋りかけて来た。

 

ティーゼ「………?」

 

茶髪に少し赤い瞳。背丈はキリトより5センチ程低い。

 

キリト「…….お前は…ベル……だったよな?」

 

ベル「はい!この間はありがとうございました!キリトさん達のおかげでここまで来れました。」

 

この少年はバルグトスの町の近くで出会ったプレイヤーでキリト達がいろんなことをレクチャーした。その時はレベルは7だった。

 

ユージオ「ベル!久しぶりだね。」

 

ベル「はい!お久しぶりっす、ユージオさん、ロニエさんもティーゼさんも!」

 

ロニエ「お久しぶりですね……順調ですか?」

 

ベル「はい!みなさんのおかげで……」

 

ティーゼ「レベルはどれくらいになったの?」

 

ベル「あれから頑張ったんすよ!なんと、レベル10です!」

 

キリト「頑張ったじゃないか!」

 

ベル「はい!ありがとうございます!」

 

『あ!こんにちは、キリト!』

 

そして、また別のプレイヤーが声をかけて来た。

 

白髪と金色に似た色の瞳。そして、流暢な日本語(?)で喋る少女。日本人というよりヨーロッパの上品な感じだ。でも……

 

キリト「………確かあんたは……『ナギ』だったな。」

 

ナギ「そうでーす!久しぶりですネ‼︎」

 

ユージオ「相変わらず元気だね……ナギ……」

 

ナギ「はーい‼︎いつもナギは元気デス!」

 

外見とは裏腹にとても社交的な少女だ。彼女はキリト達がバルグトスに向かう最中に助けたプレイヤーだ。出会った時はレベル4だった。

 

ロニエ「よかった、ナギもここに来れたんだね!」

 

ナギ「キリト達も会議に参加するんですか?」

 

キリト「ああ。お前もだろ?」

 

ナギ「ハイ!私も頑張って来たんですヨ!」

 

ティーゼ「レベルはいくつ?」

 

ナギ「11です!私もキリトに教えてもらったコツをうまく使って頑張りましたかラ!」

 

キリト「そうか……これからも頑張れよ。」

 

ナギ「分かってますヨ‼︎」

 

ロニエ「そろそろ始まりそうですよ、先輩。」

 

キリト「………みたいだな。」

 

 

その時、広場の中心である男性プレイヤーが大声で、

 

『みんな!今日は集まってくれてありがとう!ちょっと予定より早いけど始めよう!』

 

こう言った。

 

そのプレイヤーは青く少し長い髪を後ろで束ねていた。平均的に言えば『モテる男』だろう。

 

『俺は、〈ディアベル〉!職業は………気持ち的に『騎士』やってます!』

 

その時周囲から笑い声が聞こえた。

 

『自分が勇者って言いたいだけだろ!』

 

こんな野次もあった。おそらくディアベルの仲間が悪ふざけで言ったんだろう。

 

キリト「……うわ……コミュ力高っ……俺には………あんなの無理だな……」

 

キリトはあまり大勢の人の前で話すのは得意じゃないらしい……

 

ディアベル「それじゃあはじめにパーティを組んでみてくれ!」

 

……まあ、僕はもちろん……

 

ユージオ「キリト、ロニエ、ティーゼ。よろしくね!」

 

キリト「……ああ。よろしくな、ユージオ。」

 

ロニエ「はい!」

 

ティーゼ「引き続き、よろしくお願いしますね‼︎キリト先輩、ユージオ先輩!」

 

ユージオ「キリト、パーティって最大何人くらいいけるの?」

 

キリト「えっと、最大7人だな。」

 

ナギ「じゃあ、私も入っていいですカ?」

 

ベル「俺も、いいっすか?」

 

キリト「まあ、いいだろ。じゃ、よろしくな。二人とも!」

 

「「はい(ハイ)‼︎」」

 

ユージオ「これで合わせて6人か……あと一人は………」

 

周りを見た時、もうほとんどはパーティを組み終わっていて、残っていたのは………

 

僕らと一緒に来たアスナだけだった。

 

キリト「………はあ……なあ、アスナ。あんた、あぶれたのか?」

 

アスナ「………あぶられてなんかない……パーティを組もうとしなかっただけ。」

 

キリト「………なら、俺らのパーティに入ったらどうだ?パーティに入らなきゃ、ボス戦にも参加できないぞ。」

 

アスナは少しの間、悩んだ結果……

 

アスナ「……分かった。パーティ申請はそっちがして。」

 

キリト「……(イラッ)………分かったよ。」

 

………やりとりが………雑だな……

 

ユージオ「……よし。これで、アスナもパーティに入って7人ぴったしだよ。」

 

キリト「よし!よろしくな、みんな!」

 

「「「はい(ハイ)!」」」

 

「「おー!」」

 

と、一致団結(一部してないけど…)したところで、リーダーのディアベルが僕らに声をかけた。

 

ディアベル「よし!みんなこれで、パーティは組めたね。それじゃあ…『おい!騎士はん、ちょっと待ってんか!』……?」

 

ディアベルが指示を出そうとしたその時、いきなり口を挟んだプレイヤーがいた。

 

広場の一番後ろから階段を何段か飛ばして飛び降りてくるイガイガ頭のプレイヤー。

 

『よっと!』

 

ナギ「…変わったヘアスタイルですネ!」

 

ロニエ「ナギ!思っても言っちゃダメ!」

 

『会議始める前に言いたいことがある!』

 

ディアベル「……発言するときは名前を言ってからにしてくれないかな?」

 

『……わいは『キバオウ』や!…それじゃあ、本題に入らせてもらうで!』

 

そのプレイヤーは『キバオウ』というらしい………それにしても、いかついと思うのは僕だけ?

 

キバオウ「ここにはビギナーの奴らに謝らなあかんやつがおる筈や!」

 

謝らなきゃいけない……?なんか、喋り方が独特だね……

 

ディアベル「………その謝らなきゃいけない人たちって言うのは……元βテスターの人達のことかな?」

 

キバオウ「そうに決まってるやろ!あの阿呆どもはビギナーを見捨てて、始まりの街を一目散に飛び出して行きおったんや!そのせいでどんだけのビギナーが死んだと思う⁉︎ほぼ900人やで‼︎そんなやつがここにおると思うと鳥肌が立つわいな!やのに、謝りもせずに知らん顔して今から一緒に戦おうなんて、許されんで!だから、わいらビギナーに謝って今まで稼いで来た金やらレアアイテムやらをここに置いていってもらおか⁉︎」

 

………まさか、キリト達のこと?

 

キリト「……………ッ!」

 

キリトは凄く悩んでるみたいだ。

 

ユージオ「………キリト、黙ったままじゃみんなに悪いんじゃないかな?」

 

キリト「……ッ⁉︎」

 

ユージオ「………何か言われたら、言い返してあげるよ。心配しなくてもいいさ……だって、友達、だしね!」

 

キリト「……!」

 

ロニエ「わ、私も、キリト先輩の味方です!いつでも、いつまでも!」

 

ティーゼ「もちろん、私もですよ!」

 

ナギ「キリトを責めるなんでナギが許しませン!」

 

ベル「俺もっす!」

 

キリト「………みんな………!………よしッ!」

 

 

そして、キリトは立ち上がった。

 

キリト「………あんたの探してる奴なら、ここにいるぜ!」

 

キバオウ「!……ほう!それじゃあ、アイテムと金、置いてっても『おい!待てよ、おっさん!』っ⁉︎誰がおっさんやと⁉︎」

 

「キリトさんは悪くねえぞ!俺たちビギナーを助けてくれたんだ!」

 

「キリトさんは僕たちの命の恩人だ!キリトさんを悪く言うのはやめてよ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「ふざけないでよ!キリトさんは謝る必要はないわ!」

 

ナギ「улица‼︎(その通り!)」

 

キバオウ「⁉︎」

 

周りから飛ぶキバオウへの非難とキリトを味方する声。(なんか訳のわからない言葉も聞こえて来たような………)そして、驚くキバオウ。

 

ユージオ「発言したいんだけど!僕の名前はユージオって言います。………キリトは何も知らなかった僕を助けてくれたし、いろいろなことを教えてもくれた!僕の命の恩人であり、僕の友達でもあるんだ!だから……責めないでほしい!」

 

 

キバオウ「………」

 

『俺も、発言いいか?』

 

広場の前の方からバリトンの効いた、低い声が聞こえた。

 

『俺はエギルだ。』

 

その声の主、背の高い黒人は話を続けた。

 

エギル「キバオウさん、あんたの言いたいことは『元βテスターはビギナーに謝罪、そして賠償しろ』と言うことか?」

 

キバオウ「……そや!」

 

エギル「じゃあ、キバオウさん。この攻略本は持ってるか?」

 

エギルはポケットから攻略本を取り出す。体の大きさからか、攻略本が凄く小さく見える。

 

キバオウ「持ってるけどなんや⁉︎」

 

エギル「持ってるよな、いろんな店で無料配布してるからな。」

 

キリト「む、無料⁉︎俺、500コルで買ったのに……おい、アルゴ………ってあれ?い、いない…………」

 

アルゴはいつの間にか、いなくなっていた。

 

エギル「これは誰が作ったと思う?」

 

キバオウ「………知らんがな。」

 

エギル「……元βテスターだ。」

 

キバオウ「⁉︎」

 

エギル「それに、始まりの街で一人のプレイヤーがビギナー達にいろんな情報をばら撒いてるらしい。かなり詳しく、確かな情報をな。そいつに会ったことがあるが、そいつはこう言ってたぞ。『この情報は元βテスターに教えてもらったんだ。』ってな。」

 

キバオウ「…………」

 

ユージオ「それと……キバオウさん、ビギナーが900人死んだって言ったけど、そのうち元βテスターが何人いたと思う?………400を超えてるんだよ。約半分がβテスターなんだ。情報をより多く持ってる筈の人たちがこんなに死んでるんだよ!」

 

エギル「……いいか?情報はみんな平等にあったんだ。なのにあんなに死んだ。今、ことでいざこざを起こすのは賢くないと思うが……どうだ、キバオウさん?」

 

キバオウ「……フン!」

 

キバオウは拗ねて広場の一角に座った。

 

ディアベル「それじゃあ、続けよう。昨日、迷宮区のボス部屋を見つけた!」

 

周りからどよめきが聞こえる。

 

ディアベル「誰かはわからないが、マップの情報をくれたプレイヤーがいたおかげで、いち早くつくことができた。そして、つい先ほど攻略本の最新版が配布された。それによると……」

 

ディアベルが攻略本を取り出し、説明を続ける。

 

ディアベル「ボスの名前は『イルファング・ザ・コボルドロード』取り巻きモンスターは『ルインコボルド・センチネル』、ポールアックスで攻撃してくるが普通のコボルドと変わりない。始めにいるのは三体、ボスのHPゲージが一本減るたびに、三体ずつ追加される。ボスの武器は片手斧とバックラー、HPゲージは4本で、最後の一本になると攻撃パターンが変わって武器もタルワールに持ち変える………以上だ!」

 

い、いるふぁ………また難しい名前だな………覚えるの大変そう……

 

ディアベル「手に入ったアイテムは取った人の物、金はパーティの中で自動均等割。ボス戦は明日の9時にこの広場に集まる。依存はないな?」

 

みんなそれぞれ、頷く。

 

ディアベル「それじゃあ、解散‼︎」

 

その言葉と同時に解散していく多くのプレイヤー。

 

ユージオ「………なんか、会議って大変だな……」

 

キリト「確かにそれは思う。特に仕切っている方はな……俺は無理だ。」

 

ロニエ「先輩!これからどうします?」

 

キリト「ん?……」

 

……キリトの考えてることはわかりやすい。もう、手に取るように、分かる。

 

キリト「ああ、それぞれの宿に戻ろう。明日はボス戦だからな!よし、それじゃあ、解s……「はい、キリトはやらなきゃいけないことがあるよね?」………ハイ?ナンノコトデスカ?」

 

ユージオ「よし、みんな!明日に備えて、食事を取ろう!キリトが全部奢ってくれるらしいしね‼︎」

 

最初の一手。

 

ナギ「!ホントですカ⁉︎ありがとうございます!キリト!」

 

ティーゼ「いいですね!」

 

ベル「ホントっすか⁉︎あざっす!キリトさん!」

 

降り注ぐ言葉の矢。

 

キリト「ちょ、ちょっと待て!ぜ、全員分か⁉︎」

 

ユージオ「当たり前だろ?この中で一番知識量があるんだから!」

 

追い討ち。

 

キリト「……ロニエ!た、助けてくれ!」

 

ロニエに助けを求めるキリト。だが、現実は、残酷だ。

 

ロニエ「………先輩、やはり賭けに負けたのは事実ですし………約束は守るべきでは………?」

 

とどめ。

 

キリト「………⁉︎」Σ(゚д゚lll)

 

ユージオ「………」(・∀・)

 

いつの日か、キリトが使っていた言葉。

 

キリト「……」/(^o^)\ナンテコッタイ

 

詰みという意味があるこの言葉。

 

ユージオ「じゃ、行こっか!キリト。」

 

『チェックメイト』ってやつだ。

 

キリト「嫌だぁぁああああああああ‼︎」.°(ಗдಗ。)°.

 

 

抵抗するキリト。押さえつける僕。苦笑いで僕らを見るロニエとティーゼ。キリトに気付かず、喜ぶナギとベル。

 

 

 

そして、悲痛なキリトの叫びがトールバーナの広場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




○変更しました……

次回「お風呂事件」


〜説明〜

はい!今回はエギルさんやディアベルさん、キバオウさん達が登場しましたね!
あと二人のプレイヤーは……知ってる人……いるかな?
ナギさんは「ソードアートオンライン コード・レジスタ」で登場するキャラです。武器は両手長槍です。喋り方は………こんな感じ……かな?
もう一人、キャラは多分オリジナルキャラです。よくありそうな名前ですが……武器は片手槍です。

それでは次回をお楽しみに!


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お風呂事件

こんにちは!クロス・アラベルです!
ええっと、前回の予告ですが………今さっき変えたんですが……急過ぎますが………許してください☆
それでは、どうぞ!


 

 

 

〜ボス攻略会議後〜

 

 

 

 

 

ガチャッ、キィィ………

 

キリト「………はあ……もうやだ………」

 

ユージオ「美味しかったね、キリト!」

 

キリト「…………それは、わざとか?」

 

ユージオ「あはははは!ゴメンゴメン。ちょっとからかいたくなっただけだよ。」

 

キリト「ああー………金が……ほとんど飯に消えた………うぅ……」

 

ユージオ「まあ、まあ。ボス戦でいっぱいたまるでしょ!」

 

キリト「………うるせー……」

 

ボス攻略会議が終わってから、みんなでご飯を食べて、その後宿に戻ってきた。そのとき、キリトがお風呂の話をしたらアスナがキリトに飛びついてお風呂に入らせてくれとせがんできた。まあ、隣の部屋に同じのがあって、ロニエとティーゼが泊まってるからそっちの方のお風呂に入ることになったんだけどね。

 

ユージオ「キリト、ボスのことなんだけど………聞いていい?」

 

キリト「ん?ボスのことか?いいけど………」

 

ユージオ「ボスってやっぱり他の奴らと攻撃方法とか違うの?」

 

キリト「……ああ。攻撃パターンも違うな……」

 

ユージオ「どんな感じ?」

 

キリト「他のモンスターと違って、囲まれると広範囲攻撃をしてくる。それに、体力は普通のやつの何十倍もあるから、時間がかかるな……ボスを倒すときはスイッチがかなり重要になってくるぞ……後でロニエ達に伝えとかないとな。」

 

ユージオ「そっか………じゃあ、みんなに後で伝えよう。ティーゼのところに行ってくるよ。」

 

キリト「ああ……今行っても大丈夫か?アスナがまだいるかもしれないし………」

 

ユージオ「……かもね………先にベル達に知らせようか。」

 

キリト「まあ、それならいいか。ベルとナギにメッセージを送ろう。」

 

ユージオ「うん。どこにいるか聞かないと………」

 

メッセージをベルとナギに送って見ると……

 

ベル『町の中心にある宿にいるっすよ!是非きてください!』

 

ナギ『いいですよ!町の外れの宿にいます、さっき行ったレストランの前です!』

 

………だ、そうだ。

 

その後、キリトと別れてベル達に会ってボス戦の注意を伝えた。二人は理解が早かったので早めにすんだ。

 

そして、僕は隣の部屋……ロニエとティーゼのところに行って説明することになった。(じゃんけんで負けたから…)キリトは僕らの部屋に戻った。

 

 

 

コンコン!

 

ドアを叩く。

 

ユージオ「ティーゼ!ロニエ!少し話があるんだけどいいかな?」

 

 

シーーーン

 

……?どうしたんだろ………

 

ユージオ「ティーゼ?ロニエ?」

 

……まさか、何かあったの⁉︎

 

ユージオ「ティーゼ!」

 

ガチャッ!

 

ドアノブを開けて中に入った。

 

ユージオ「………あれ?………いない?」

 

どこかに出かけたのかな?

 

ユージオ「いないなら後で……」

 

 

 

 

ティーゼ達がいないから、帰ろうとした。そのとき、横から声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

『ふぅ………気持ちよかった……久しぶりに入ったぁ……』

 

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

 

 

扉を開けた音。

 

 

 

その音の発生源は右の扉。

 

 

 

僕達の部屋は入って左側にお風呂がある。

 

 

 

ティーゼ達の部屋と左右対称である。

 

 

 

 

そう。

 

 

 

即ち、お風呂は右側にある。

 

 

 

その右の扉は、まさに、お風呂への扉だった。

 

 

 

 

 

そこから出てきたのは、

 

 

 

 

 

 

『えっ?』

 

 

 

 

ユージオ「ゑ?」

 

 

 

 

 

身体にタオルを巻いて髪をまとめてポニーテールにした、ティーゼ本人だった。

 

 

 

 

ティーゼ「………」

 

 

 

ユージオ「………」

 

 

 

 

 

………続く、沈黙。

 

 

ティーゼはお風呂上がりだったようで、まだ身体にが濡れていた。少し頰が赤い。

 

 

 

………

 

 

僕は思考停止していた。

 

 

 

 

ティーゼも思考停止していたのか、タオルを離してしまい、タオルが落ちた。

 

 

ティーゼのあられもない姿。

 

 

 

 

より重度の思考停止に陥った。

 

 

 

 

 

 

 

復活して、最初に思ったこと。

 

 

 

 

 

 

…………\(^o^)/オワタ

 

 

 

 

 

ティーゼ「きゃああああああああああああああああああ‼︎‼︎⁉︎」

 

 

 

バシィッ‼︎

 

 

ユージオ「へぶしっ‼︎⁉︎」

 

ユージオは強烈な一撃を食らった。

 

 

 

そして、それからの記憶……いや、起きた頃にはその事件の記憶さえ吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

ユージオ「………んん?……アレ?ここどこ?」

 

昨日、ご飯食べた後、何したっけ……

 

ユージオ「…………ま…いいか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回『決戦!イルファング・ザ・コボルドロード‼︎』


……今度こそ……書きます…はい!


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決戦!イルファング・ザ・コボルドロード‼︎

こんにちは!遅くなってしまいました、クロス・アラベルです!
今回はなんと、本文が10000文字を超えてしまいました!
原作とは少し違うところもたたありますが、どうぞお楽しみください‼︎


 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は、第一層ボス攻略当日だ。

 

 

パーティのメンバーと広場に行く。キリト、ロニエ、ティーゼ、アスナ、ナギ、ベル、そして僕だ。

 

 

ユージオ「ふぁあ………首が痛い……あと左頬も………なんでか知らないけど、ヒリヒリする………」

 

キリト「……お前、寝違えたんじゃないか?」

 

ロニエ、ティーゼ「「…………」」

 

ユージオ「それに、昨日のベル達に今日のこと教えてからの記憶がないんだよね……」

 

「「⁉︎」」ビクッ!

 

キリト「?……どうした、ロニエ、ティーゼ?」

 

「「な、何にもありませんっ‼︎」」

 

ユージオ「……僕、昨日の夜に何してたっけ…………知ってる、キリト?」

 

キリト「知らないぞ。だって、ポーションとかを買って帰ってきた時には、お前寝てたし………」

 

ユージオ「………そっか……」

 

「「…………ホッ………」」

 

ユージオは知らない。昨日、起こった事件を……

 

ユージオ「ロニエ、ティーゼ。何か知ってる?」

 

ティーゼ「っ⁉︎…お、思い出したら、お、往復ビンタしますよッ‼︎」

 

ユージオ「エェッ⁉︎」

 

キリト「……何があった………」

 

………思い出さない方がいいらしい……本当に何があったんだろう……僕、何か……した?

 

キリト「そういえば、ロニエ。アスナに『ウインド・フルーレ』渡したか?」

 

ロニエ「あ、はい。渡しましたよ。装備してますよね、アスナさん。」

 

そういえば、そんな剣があったね……確かトールバーナで受けたクエストで出てきたモンスターからドロップしたんだっけ………結構レアだって言ってたな……

 

アスナ「ええ、ロニエちゃん。ありがとう、頑張るわね。」

 

キリト「よし、よかった。あれはこの一層で準レア武器だからな……ボス戦には持ってこいだからな。」

 

ナギ「着きましたヨ、みんな!」

 

ベル「結構来てるっすね……遅かったかな?」

 

キリト「間に合ったからいいだろ。」

 

広場には昨日のディアベルやエギル、キバオウがすでに来ていた。

 

ディアベル「…よし!もうみんな集まったみたいだな。少し早いが、出発しよう!」

 

「「「「おお‼︎」」」」

 

ディアベルの号令で、みんな気合を入れる。

 

キリト「……それじゃあ、ボス戦まであまり体力もアイテムも使わないようにしよう、みんな!」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

………アスナは変わらず黙ったままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜移動中〜

 

 

 

 

 

 

 

 

移動している時、アスナが『スイッチ』のことを知らなかったので説明した。僕らと同じように何も知らないみたいだ。

 

キリト「なあ、ユージオ。」

 

ユージオ「…?何?」

 

キリト「昨日さ、キバオウのやつが俺のアニールブレードを買い取ろうとして来たんだ。」

 

ユージオ「ええっ⁉︎まさか、売ったの⁉︎」

 

キリト「いや、断ったけど………」

 

ユージオ「なんだ……脅かさないでよ……」

 

キリト「でもよ、ボス戦前に武器を買い取るなんておかしくないか?」

 

ユージオ「確かにね………」

 

キリト「………どう思う?」

 

ユージオ「何か………狙いがあるのかもね……」

 

キリト「………だよな。ユージオもそう思うよな………迷ってたんだ……」

 

ユージオ「キリトはどう思うの?」

 

キリト「………多分、俺の戦力を削ろうとしてるんだと思う。」

 

ユージオ「……ど、どうして⁉︎」

 

キリト「……俺にラストアタックボーナスを取られたくないからだ。」

 

ユージオ「ら、らすっ………えっ?」

 

キリト「…ボスを倒す時、最後のとどめを刺したやつにもらえるアイテムだ。多分、それを取られたくないがために、妨害しようとしてるんだ。」

 

ユージオ「……でも、そんな………」

 

キリト「まあ、あいつがとりたいならとればいいんだ。」

 

 

……………本当にキバオウが買い取ろうとしたのかな……もしかしたら、他の人が裏から指示してるんじゃ……

 

だとしたら、誰が………

 

…………ディアベル?

 

 

 

………いや、ないか………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、1時間後。

 

ようやくボス部屋の前まで来ることができた。

 

 

ディアベル「…………みんな!これから、この世界の命運をかけた決戦が始まる。……………俺から言いたいことはたった1つだ……………勝とうぜ‼︎」

 

 

 

「「「「「おおおお‼︎」」」」」

 

 

気合を入れ直し、みんなに激励を送るディアベル。

 

その時。

 

キバオウ『おまんらはわいらの狩りこぼしたコボルドを倒すんやでな、引っ込んどれよ。』

 

ドスの効いた声でキバオウがキリトに言った。

 

………………ムカつく………

 

キリト「………」

 

目には目を、歯には歯を、嫌味には嫌味だ。

 

ユージオ「脅す元気と暇があるなら、もっと集中してよ、イガイガ頭さん。」

 

キバオウ「⁉︎」

 

僕が嫌味を言い放った直後に、ボス部屋の扉が開け放たれた。

 

キバオウ「………ケッ‼︎」

 

さすがのキバオウもボス戦が始まるので、言い返すのはやめたようだ。

 

キリト「………ナイス、ユージオ。」

 

ユージオ「どういたしまして……」

 

そして、最後にキリトはロニエ達に号令をかける。

 

 

 

キリト「……みんな、行くぞッ‼︎」

 

 

「「「「「おおー‼︎」」」」」

 

 

 

全員がボス部屋に入る。すると、暗かった部屋が急に明るくなり、部屋の隅々まで見えた。

 

そして、部屋の奥の玉座に座っているのは、ボスである『イルファング・ザ・コボルドロード』だ。

 

そして、ボスが僕たちに気づいて玉座から飛び降りる。ボスが着地したのと同時に現れるボスの取り巻きモンスター『ルインコボルド・センチネル』。『ルインコボルド・トルーパー』より磨き上げられ、重量感のあるハンマーを持っている。

 

 

『ガァァァァァァアアアアアアアアアアア‼︎‼︎』

 

吠えるボス。

 

ディアベル「突撃、開始ッ‼︎‼︎」

 

ディアベルの号令で走り出す大勢のプレイヤー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、命運をかけた決戦が、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

打ち付けられたような金属音がボス部屋中鳴り響く。

 

そして、キリト達も戦いを始めていた。

 

キリト「シッ‼︎」

 

キィィンッ!

 

『グルアッ⁉︎』

 

センチネルの攻撃を跳ね返し、後ろに後退させるキリト。

 

キリト「スイッチ!」

 

後ろにいるユージオとスイッチする。

 

ユージオ「了解!……はあ!」

 

ズバッ‼︎

 

『ギィッ‼︎』

 

当たったのは鎧の方だったが、少しHPを削る。

 

ユージオ「……やっぱり普通に攻撃してもあんまり効かないな……」

 

キリト「兜の隙間を縫うように突き刺せ、ユージオ!お前の剣は正確さがあるし、行けるはずだ!」

 

ユージオ「わかってるけど、結構、難しい………」

 

そう、センチネルは普通のコボルドと違い、全身を鎧で守っている。決定的なダメージが通るのは、兜の隙間か、関節の裏側だけだ。

 

キリト「さっき話した通り、こいつらに攻撃しやすいのはアスナとナギ、ベルのレイピアと槍系武器だ、しっかり狙ってけ!」

 

ベル「了解っす‼︎」

 

ナギ「понимание‼︎(了解‼︎)」

 

アスナ「……分かった。」

 

槍とレイピアを構えた3人がセンチネルの鎧に包まれていない所、兜の隙間を狙う。

 

走ってくるセンチネル。剣を構え、攻撃を弾こうとするキリト。

 

キリト「よし、言った通り行くぞ……ってうお⁉︎」

 

キリトが剣を振る直前、横からもう一体のセンチネルが攻撃を仕掛けてきた。キリトはギリギリで避けた。

 

キリト「どうなってるんだ⁉︎」

 

ユージオ「大丈夫⁉︎キリト!」

 

キリト「ああ…………」

 

前にいるのは2体のセンチネル。周りを見渡しても、手持ちぐさになっているパーティはない。

 

キリト達のパーティは狩りこぼしたセンチネルの討伐が役目だ。どこかのパーティがミスをしてとり逃さない限りあまり仕事は来ないと思っていたが、今、2体のセンチネルと対峙している。もう一体がその2体の後ろにいる。

 

そこから導き出される答え、それは……

 

キリト「……‼︎まさか、センチネルの数がβテストの時より多いッ⁉︎」

 

そう。

 

βテストの時は三体しかいなかった。が、今周りを見ると合計で6体いた。βテストの時の倍だ。

 

ユージオ「まずいよ!みんな自分が戦ってるセンチネルにしか気付いてない!」

 

キリト「気付いてるのは俺たちだけか…ッく‼︎俺たちでやるしかない!ユージオ、一旦分かれるぞ!俺、ロニエ、ナギとユージオ、ティーゼ、アスナ、ベルのグループで行こう!」

 

 

「「「「「了解‼︎」」」」」

 

 

キリトの言葉と同時に分かれるみんな。

 

βテストの時と変化していた。それは未来がどうなるかを暗示しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変が起き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからどれくらい経っただろう。時間の感じ方が少し変になってきた。何時間も経ったのか、1時間も経っていないのか、分からなくなった。

 

異変に気付いてから、僕らのパーティは三体同時に相手をした。ボスのHPゲージが一本減るたびに出てくるセンチネルは、少しずつ強くなっているようで苦戦はしないものの、少し時間がかかった。

 

そして、最後のセンチネル。みんな合流して倒そうとする。

 

キリト「はあ、はあ……ラストだ、ユージオ!」

 

ユージオ「言われなくとも………セイッ‼︎」

 

ユージオはとどめと言わんばかりに剣を振る。が、予測を見誤って空振りした。

 

ユージオ「し、しまっ……」

 

体勢を立て直せないユージオにセンチネルがポールアックスを振り上げ、攻撃しようとする。

 

ティーゼ「やあッ‼︎」

 

が、ティーゼがその前にセンチネルに剣を一閃。センチネルはポリゴン片となって四散した。

 

ユージオ「ティ、ティーゼ!」

 

ティーゼ「ユージオ先輩、気をつけてください!」

 

ユージオ「ありがとう、ティーゼ!」

 

キリト「これで全部か……」

 

ベル「後はボスだけっすね!」

 

ナギ「このままいけば、勝てますネ!」

 

ロニエ「これで、やっと……」

 

ユージオ「……大丈夫かな……なんか、嫌な予感が……」

 

 

悪い予感がしてならない。そう思った直後、あの頭痛がユージオを襲う。

 

 

ユージオ「ッ⁉︎ま、また…⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れてくる記憶。

 

 

荒れた戦場。

 

ボスに向かって行く一人のプレイヤー。

 

あれはディアベルだ。

 

その直後、ボスが腰から何かを抜く。

 

それは、細長く刃が片方にしかない。

 

ギラリと不気味に光るその剣はアンダーワールドの人界の東域にもあった『刀』。

 

そして、ソードスキルのライトエフェクトが発生し、その直後ディアベルがソードスキルに直撃し、吹き飛ぶ。

 

浮き上がったディアベルを別のソードスキルが襲う。三連撃だ。

 

ディアベルが倒れ、そこにキリトが駆けつける。

 

キリトは急いでポーションを取り出すが、ディアベルが手で制止する。

 

 

 

『頼む、キリトさん………ボスを倒』

 

 

 

パリィィィィィィイイン‼︎

 

 

残酷な音が響く。

 

 

ディアベルはこのアインクラッドから永久欠場となった。

 

 

そして、ボスを倒してから……

 

キリトは他のプレイヤーと対峙する。

 

飛ぶ非難の声。

 

キリトは僕といた時に見せなかった他のプレイヤーを嘲笑するかのような表情を見せた。

 

だが、僕には見えていた。

 

とても辛そうなキリトの後ろ姿が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユージオ「………ディ、ディアベルが……それに、あの武器は……」

 

キリト「ユージオ、どうした?」

 

ユージオ「キリト……ボスは武器を変えて、タルワールにするんだよね?」

 

キリト「ああ……そうだけど……」

 

ユージオ「どんな形?」

 

キリト「ええっと………曲刀カテゴリだから……結構曲がってるぞ。」

 

ユージオ「刀と比べると?」

 

キリト「刀?……多分タルワールの方が太いと思うが…」

 

ユージオ「………じゃあ………」

 

キリト「ユージオ?………ま、まさか………」

 

 

……じゃあ、ボスの本当の切り札は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルガァァァァァァアアアアアアアア‼︎』

 

 

 

 

 

 

 

響くボスの咆哮。

 

 

 

ボスが斧とバックラーを投げ捨てる。

 

 

 

そして、腰にある得物に手をかけた。

 

 

 

抜いたのはタルワールより長細く少し湾曲し、ギラリと不気味に光る刀身。

 

 

それは、刀だった。

 

 

キリト「…あ、あれは……『野太刀』⁉︎」

 

ボスの持っているそれは、『野太刀』という日本刀の一種だ。

 

ユージオ「こ、これじゃあ……また……」

 

キリト「やめろッ‼︎ディアベル‼︎すぐに後ろへ飛べーーーーーーー‼︎」

 

それでも、ディアベルはソードスキルを発動したせいで体がいうことを聞かない。

 

 

そして、ボスは野太刀を左腰に溜め、ソードスキルを発動させる。

 

 

刀カテゴリ専用単発ソードスキル、『辻風』。

 

 

斬撃を食らって吹き飛ぶディアベル。

 

 

キバオウ「ディアベルはんッ⁉︎」

 

 

さっきの記憶通り、進行している。

 

 

それは、ディアベルの死を意味する。

 

 

ユージオ「………止めなきゃ……!」

 

 

ユージオは走りだす。吹き飛ぶディアベルと次のソードスキルを発動させようとするボスの元へと。

 

 

記憶通り、進行するならば次に繰り出されるのは、三連撃。

 

 

ユージオ「…させるかああああああ‼︎‼︎」

 

 

さっきの記憶。

 

 

ユージオは三連撃の初撃を覚えていた。

 

 

ガキィィィィイイイイイン‼︎

 

 

ボスの初撃をソニックリープで弾く。

 

 

し、痺れる……タルワールとは違って野太刀っていうのはまだ軽いはずなのに………

 

 

倒れるディアベル。

 

 

ユージオ「キリト!ボスを頼むよッ‼︎」

 

キリト「……分かった‼︎」

 

キリトがボスの攻撃を防ぐ間に僕がディアベルにポーションを……

 

ユージオ「ディアベル!早くポーションを!」

 

ディアベル「……俺のことはいい……早く、ボスを………」

 

ディアベルは弱々しくもそう答える。

 

ユージオ「……」イラッ

 

……とにかく……飲めッ!

 

ズボッ!

 

ディアベル「ムグゥッ⁉︎」

 

ユージオ「いいから、とにかく、飲んで。……ディアベル、君が死んだらダメだよ。みんなの希望はディアベル、君だと思うよ。」

 

ディアベル「…………」

 

ユージオ「………後、キリトのアニールブレードを裏から買い取ろうとしたのって、ディアベルだよね?」

 

ディアベル「…………」

 

ディアベルから返事がない?

 

ユージオ「……ディアベル?………あ、気絶してた……」

 

……さっき、無理矢理飲ませたところぐらいから気絶してたのかな……ごめん、ディアベル。

 

 

『うわあああああああああああああ⁉︎』

 

 

『せ、センチネルがまた出てきたぞ⁉︎』

 

『どうなってるんだ⁉︎』

 

センチネルも増えてるみたいだ。これじゃあ、結果がどうなるのか………

 

 

『嫌だあああああああああああああああ‼︎』

 

『し、死にたくねえよッ‼︎』

 

『助けてくれえええええッ‼︎』

 

聞こえる悲鳴。そして、溢れ出る負の感情。

 

その時、

 

 

『注もおおおおおおおおおおく‼︎』

 

確かに女の子の声が響いた。

 

全員が黙り込み、その声の主を見る。

 

声の主はマントを脱いだアスナだった。

 

アスナ「体力の少ない者は後ろに下がり、動けない者を移動させなさい‼︎まだ戦える者はセンチネルを殲滅せよッ‼︎」

 

………いい声出せるみたいだね…良い喝だ。

 

アスナの号令の直後、全員が動き出した。

 

ユージオ「よし……」

 

キリト「ユージオ!」

 

ユージオ「分かった!今いくよ!」

 

キリト達はかなり頑張って耐えてたみたいだ。

 

ユージオ「キリト、スイッチ!」

 

キリト「おお!」

 

キリトとスイッチして、ボスを斬りつける。

 

ユージオ「みんな!大丈夫?」

 

ベル「大丈夫っす!」

 

ナギ「…なんとかネッ!」

 

ロニエ「大丈夫です!」

 

アスナ「別になんとも、ないッ!」

 

ティーゼ「ディアベルさんは大丈夫でしたか⁉︎」

 

ユージオ「大丈夫!ポーションは飲ませたから!」

 

みんな、まだ行けるみたいだ……

 

ユージオ「キリト!指示、よろしく‼︎」

 

キリト「!……任せとけッ!」

 

キリトがまた、ボスのソードスキルを弾いた。ソードスキルがキャンセルしたみたいだ。

 

キリト「俺とユージオで奴のソードスキルをキャンセルさせて、ロニエ、ティーゼ、アスナがその間に攻撃!ナギとベルは俺とユージオが動けなくなった時に、奴のソードスキルをできるだけキャンセルさせて、他は隙あらば攻撃だ!……全員、戦闘開始‼︎」

 

「「「「「「おおッ‼︎」」」」」」

 

 

 

それからというもの、僕とキリトがボスのソードスキルをキャンセルさせて、他のみんなで攻撃、キャンセルさせて攻撃……と続いた。流石ボスといったところか、ボスのHPゲージの減りは微々たるもので、何度もさっきの作戦をやり続けた。

 

 

 

 

 

 

そして、これで何回目だろうか…………ボスのHPゲージが赤くなり、後もう少しというところでキリトがボスのソードスキルをキャンセルさせようとソードスキルを発動した、その時。

 

 

キリト「………ッ⁉︎」

 

 

いきなり、ソードスキルの軌跡が変わった。キリトはボスのソードスキルの変化についていけず……

 

キリト「し、しまっ……ぐッ⁉︎」

 

ズバッ!

 

ロニエ「えっ⁉︎キャッ⁉︎」

 

ボスのソードスキルをもろに受けてしまい、後ろにいたロニエを巻き込んで吹き飛んでしまった。

 

ユージオ「キリト!ロニエ!」

 

僕もキリト達に気がいってしまい、体勢が崩れる。その隙をボスは逃さない。

 

ティーゼ「ユージオ先輩、危な…」

 

後ろにいたティーゼがそう言った直後。

 

ユージオ「がッ⁉︎」

 

ティーゼ「キャッ⁉︎」

 

僕もボスに斬られ、ティーゼを巻き込み吹き飛ばされてしまった。

 

ユージオ「くッ!」

 

まずい……HPゲージが三分の一以上も削られた……ボスに対して戦うのは3人……ダメだ、早く行かないと……!

 

その時、ユージオとティーゼが大きな影に覆われる。

 

ユージオ「ッ⁉︎」

 

ボスがユージオとティーゼにとどめを刺そうとやってきたのだ。

 

ティーゼ「ッ‼︎ゆ、ユージオ……先輩ッ!」

 

ティーゼが震えている。当たり前だ、死がそこまで迫っているのだから。

 

ユージオ「くそッ!」

 

ユージオは剣を上に構え、防ごうとする。無理だと分かっていても体が動いたのだ。

 

ティーゼだけは………ティーゼだけはッ‼︎

 

ボスのソードスキルが剣に当たる直前、

 

 

 

 

 

 

『オオオラァァアッ‼︎』

 

 

 

ガキィィィィイイン‼︎

 

 

 

 

 

何かがボスの野太刀を弾き飛ばした。

 

ユージオ「……!あなたは…エギル、さん⁉︎」

 

そう、ボスのソードスキルをキャンセルさせたのは、会議でキリト達の味方をしてくれた、傭兵のような真っ黒に焼けた肌のプレイヤー、エギルだった。

 

エギル「大丈夫か?ユージオ……だったな。」

 

ユージオ「大丈夫だけど……」

 

エギル「俺たちで、ボスを抑える。あんたらはその隙にポーションを!」

 

エギルがポーションを投げ渡してくれた。

 

ユージオ「ありがとう……頼むよ‼︎」

 

折角のチャンスだ。これを逃すわけにはいかない。

 

エギル「行くぞ、お前ら‼︎」

 

「「「おおッ‼︎」」」

 

エギルのパーティメンバーが雄叫びを上げ、突撃して行く。

 

キリト「囲んで攻撃するな‼︎囲むと、範囲攻撃がくる!俺もできるだけ奴のソードスキルの軌道を読んであんたらに伝えるッ‼︎頼んだぞ!」

 

エギル「おおッ‼︎」

 

そこからまた攻防戦が始まった。

 

ボスのソードスキルをキャンセルできなくとも、防いで耐えられている。その間に僕らはポーションで回復する。

 

だが、いずれ限界も来る。

 

集中力が切れたのか、ボスを囲んでしまった。

 

その直後、ボスの範囲技のソードスキル『旋車』が発動する。

 

吹き飛ばされていくエギル達。

 

そして、ボスは追い討ちとばかりに高く跳躍し、上空からエギル達を狙う。

 

あれはソードスキル『辻風』。

 

ユージオ「まずい……」

 

僕はまだ、回復し切れていない……その時、

 

 

キリト「届けええええええええええええッ‼︎‼︎」

 

 

キリトがソニックリープで跳躍し、ボスを空中で斬る。

 

落下するボス。転がりながらも着地するキリト。

 

キリト「みんな‼︎ラストスパートだ!行くぞッ‼︎」

 

よし、僕も……行くか‼︎

 

 

「「「「「「「はああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎」」」」」」」

 

 

走り出す僕らのパーティ。

 

『グルアアアアアアアッ‼︎』

 

迎え撃とうとするボス。

 

「「セイッ‼︎‼︎」」

 

その向かって来る野太刀を僕とキリトで弾き飛ばす。

 

アスナ「シッ‼︎」

 

アスナの『リニアー』。

 

ナギ「やあッ‼︎」

 

ベル「オラァッ‼︎」

 

ナギとベルの『フェイタル・スラスト』。

 

ロニエ「はあッ‼︎」

 

ティーゼ「セイッ‼︎」

 

ロニエとティーゼの『スラント』。

 

数々のソードスキルを受けたボスは怯んだものの、まだ死んでいない。ロニエとティーゼに向かってソードスキルを放とうとする。

 

だが、させやしない。

 

ソードスキルを放つ。

 

「「はあッ‼︎」」

 

ズバッ!

 

キリトの垂直斬りとユージオの水平斬り。

 

そして、ボスに言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

「「僕(俺)の仲間に、手を出すなッ‼︎」」

 

 

 

 

 

 

 

僕らのソードスキルはまだ、終わっていない。

 

僕らのソードスキルは、二連撃だ。

 

『バーチカル・アーク』と『ホリゾンタル・アーク』。

 

ラストの二連撃目が残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ‼︎‼︎」」

 

 

 

 

 

 

 

ボスにまた、さっきの軌道を描いて、キリトはV字を描くように斬った。

 

 

ボスのHPゲージは吹き飛び、ボスは光を放ちながら少し膨れ上がり、四散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫しの沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、アイテム入手時の音がボス部屋に響いた。

 

『や、やったあああああ‼︎‼︎』

 

『『『『わああああああああああああああああああああああ‼︎』』』』

 

 

心からの叫び。

 

安堵の声。

 

 

ティーゼ「ユージオ先輩ッ‼︎」

 

ユージオ「ッ⁉︎てぃ、ティーゼッ⁉︎」

 

ユージオに抱きつくティーゼ。

 

ティーゼ「よかった……生きてる……ユージオ先輩ッ!」

 

ティーゼも無事だったみたいでよかった………

 

ロニエ「キリト先輩……キリト先輩ッ‼︎」

 

キリト「ッ‼︎⁉︎」

 

キリトはロニエに抱きつかれてまたすごい動揺してるな……平常運転って奴かな?

 

エギル「Congratulations‼︎見事な剣技だったな。今回の勝利は、あんたらの物だ!」

 

ユージオ「あ、ありがとう。」

 

ナギ「よかったでス‼︎みんな無事でよかったッ!」

 

ベル「これで、一安心っすね!」

 

ユージオ「うん……そうだね……」

 

ボスも倒せたし多分誰も死んでないし……終わりよければ全て良しってやつだね。

 

ユージオ「よし、みんなお疲れさ……」

 

みんなに労いの言葉をかけようとした、その時に叫びが聞こえてきた。

 

『なんでやッ⁉︎』

 

ユージオ「?」

 

キリト「……?」

 

その声はキバオウのものだった。

 

キバオウ「なんで………なんでなんや⁉︎あんたら、ボスのこと知ってたんやったら会議で言えや‼︎言ってたらディアベルはんはこんな危ないことにはならんかった筈や‼︎」

 

何故ボスのソードスキルを知っていたか。

 

それはキリトがβテスターだったから。そして、僕がキリトの記憶を見たからだ。だけど、それをそのまま言うほど僕は、馬鹿じゃない。

 

ユージオ「待って‼︎キリトは確かに元βテスターだけど、キリトはこのことを把握できていなかったんだ!それにそんなことを隠してキリトに何の得があるのさ⁉︎」

 

キバオウ「決まってるやろ!『ラストアタックボーナス』や‼︎」

 

ユージオ「ッ!」

 

まずい……どうしよう……

 

ベル「待てよ!キリトさんとユージオさんがいなかったら今頃どうなってたか、分かるか⁉︎」

 

キバオウ「ッ⁉︎」

 

ベル「キリトさん達がいるから、ディアベルさんも生きてるし、ボスも倒せたんだ‼︎それに、あの攻略本が嘘だって言うのかよ⁉︎」

 

ベルが必死に説得しようとしている。

 

そして、その言葉の後にまた違うこえが聞こえてきた。

 

『そうだ!その攻略本が嘘だったんだ‼︎βテスターがタダで本当のこと言う訳ないだろッ‼︎』

 

どうやら、ある男が金切り声を出したみたいだ。

 

このままじゃ、アルゴまで巻き込むことになる………どうする⁉︎

 

『………うう………』

 

ディアベルが目を覚ましたようだ。

 

キバオウ「でぃ、ディアベルはん⁉︎」

 

ディアベル「み、みんな……?ぼ、ボスは……ボスは倒せたのか?」

 

キバオウ「倒せたけど……」

 

ディアベル「……キリトさん、ユージオさん……本当にありがとう……!」

 

キバオウ「⁉︎」

 

キバオウ達にとって衝撃の言葉がディアベルの口から出てくる。

 

ディアベル「君たちが、いなければ……レイドが崩壊していただろう………」

 

…………やっぱり、そうなのかな……キリトのことを知っていたのも納得が行く……

 

ユージオ「…………ディアベル、もうそろそろ本当の事を言った方がいいんじゃない?」

 

ディアベル「…………」

 

キリト「………黙ったまま戦い続けようとしてるのか?……それなら、無理だな。………俺も、言った方がいいと思うぞ。」

 

悩むディアベル。訳がわからないと首を傾げるキバオウ達。そして、ディアベルは決心したようだ。

 

ディアベル「そうだな……その通りだ。キリトさん、ユージオさん………みんな、俺はみんなに隠していることがある……」

 

キバオウ「え、えっ?」

 

ディアベル「俺は…………俺は、元βテスターなんだ。」

 

キバオウ「⁉︎」

 

隠していた真実をみんなに伝えるディアベル。動揺する攻略組のみんな。

 

ディアベル「すまない、みんな……今まで隠していて……」

 

キリト「ディアベル、ボスの最後の武器が『野太刀』だって知ってたか?」

 

ディアベル「予想外だった………あんなソードスキル、見たことがなかった……あれは何と言うスキルなんだ?」

 

キリト「モンスター専用刀スキルだ。俺はあのスキルを10層の迷宮区で初めて見た………俺があそこまで刀スキルを熟知して対応出来ていたのは、10層の迷宮区で刀スキルを持つモンスターと何百回も戦ったからだ。」

 

ディアベル「そうか………本当にありがとう………」

 

ユージオ「………みんなはディアベルやキリトのような元βテスターがいたからこそ、このボス戦に挑めたんだよ。」

 

キバオウ「………」

 

ディアベル「怖かったんだ……元βテスターだって言った時、どんな言葉が返ってくるか……すまない、みんな……すまない………ッ!」

 

 

 

『……ディアベルさん、謝らないでくださいよ!俺たち、そんなの気にしませんよ!』

 

『その通りだ!ディアベルさんのおかげでここまで来れたんだ!』

 

キバオウ「………わいも、そこまでは言わへんで、ディアベルはん………でも、ホンマのことは言ってや……!」

 

ディアベル「あ、ありがとう………みんな……!」

 

みんな、和解出来たみたいだ。よかった………これで1つ、未来を変えることが出来た……!

 

『……………』

 

一人、不満そうなプレイヤーがいるけど……さっきの甲高い声を上げていたプレイヤーだ。

 

ディアベル「キリトさん、ユージオさん。次の第二層の『アクティベート』しに行こう。誰か!まだ戦えるプレイヤーはいるか⁉︎」

 

キリト「俺は行けるぞ。」

 

ユージオ「僕も行けるよ。できるだけ援護するね。」

 

ディアベル「じゃあ、頼んだ。みんな!行こう、次の第二層へ‼︎」

 

「「「「「おおおおおお‼︎」」」」」

 

キリト「みんな、行けるか?」

 

ベル「俺は行けるっすよ!」

 

ロニエ「ちょっと疲れてて……たぶん、戦力になれないかな、と……」

 

ティーゼ「わ、私もです。」

 

ナギ「私もですネ……」

 

アスナ「………私は、もう無理……」

 

キリト「わかった。ベル、前衛に行こう………まあ、多分ボスを倒した後だからそこまでモンスターが湧くことはないとは思うけど………」

 

ユージオ「えっ?そうなの?」

 

キリト「ああ。まあ、一応用意しとくのに越したことはないな。」

 

これで、第二層に行ける……やっとか……

 

ユージオ「キリト。次も頑張ろう!」

 

キリト「……ああ、これからもよろしくな、ユージオ!」

 

ユージオ「うん!よろしく!」

 

 

こうして、運命の決戦は幕を閉じた。

 




ついに第一層をクリアです!
次は第二層か………結構長くなりそうですね……
皆さんはプログレッシブみたいに第一層から、最後までの方がいいですか?それとも、原作通りの方がいいですか?また、意見を聞かせてください!
次回もお楽しみに‼︎


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第二層 己の心の剣
秘密の体術獲得クエスト


遅くなってしまいました、クロス・アラベルです!
今回はプログレッシブ原作の幕間?のはなしです。
ロニエ目線で始まります。
どうぞお楽しみください!!


 

 

 

 

広く続く草原。

 

私たちの世界でもあまり見られないような大自然。

 

私たちのパーティはその光景に見入っていた。

 

ロニエ「うわぁ………すごい……」

 

ティーゼ「………中々見られない光景ね……」

 

私の親友のティーゼ。

 

ユージオ「凄いね………ルーリッドの村より、広い………」

 

私達の先輩でこの世界に時空を超えてきた、ユージオ先輩。今はついさっきラストアタックボーナスというもので手に入れた、外套……ではなく、紺色のコートを着ている。確か名前は………『コート・オブ・ダスク』。意味は、『夕闇のコート』、かなりいいアイテムらしそうです。

 

ナギ「オオー………замечательный!(素晴らしい!) とてもキレイですネ!」

 

たまに謎の言葉を使う白髪の少女、ナギちゃん。

 

ベル「……ボス戦頑張った甲斐があるっスね………」

 

茶髪に少し赤い瞳を持つ、ベルさん。

 

アスナ「……綺麗ね………なかなか精密に造られてるのね……」

 

栗色の髪のフェンサー、アスナさん。

 

キリト「………うん、βテストの時と変わりないな……」

 

そして、私の一番敬愛し信頼する先輩………キリト先輩。ユージオ先輩と同じく、ラストアタックボーナスを手に入れたらしくて、『コート・オブ・ミッドナイト』という真っ黒なコートを着ている。意味は、『真夜中のコート』。キリト先輩はやっぱり黒いものが好きですね……

 

ロニエ「キリト先輩、早く街に行きましょう。」

 

キリト「ああ、そうだな……そうしないとモンスターが湧くかも……まあ、ボスを倒した後だから湧きがかなり少なくなってる筈だ。」

 

ユージオ「早く行くに越したことはないね。」

 

キリト「まあな。よし、みんな、行こう!」

 

キリト先輩の言葉と同時に攻略組の皆さんが歩き出した。

 

ベル「キリトさん、二層はどんなとこなんすか?」

 

キリト「んーと……一言で表すなら『草原』だな。それもただの草原じゃない。この層でPOPするモンスターは大抵牛系モンスターだ。扉のレリーフを見ただろ?」

 

ティーゼ「えーと……確か、牛の絵が描いてあったような……」

 

キリト「その通りだ、ティーゼ。嫌と言うほど牛を見る羽目になるぞ。牛嫌いなやつは覚悟しといた方がいいな……料理も全部牛肉使われてるかもしれないし…………」

 

ベル「いいっスね!牛肉食べ放題なんて最高じゃないっスか!」

 

キリト「……すぐに飽きると思うけどな。」

 

ロニエ「キリト先輩、ここで出てくるモンスターは何ですか?」

 

キリト「ええっと……トレンブリング・カウとかトレンブリング・オックスかな……まあ、ほとんどトレンブリング・オックスの方だとは思うけどな。」

 

またキリト先輩の口から聞いたことのない名前が出て来た。

 

ロニエ「………とれんぶりんぐ……かう、と、とれんぶりんぐ・おっくす……ですか?」

 

キリト「ああ、名前の通りの姿だ。」

 

どんな姿?名前だけじゃ分かりませんよ………

 

ユージオ「キリト……分からないよ。」

 

キリト「………そうか……トレンブリングっていうのは震えるとかいう意味で、カウが雌牛、オックスが雄牛だ。どっちも凄いでかくてな……ビビると思うぞ!」

 

 

 

 

 

シュワンッ!

 

 

 

 

 

その時、何か不穏な音が聞こえました。モンスターが現れた時の音……

 

思わず立ち止まってしまう私。ティーゼとユージオ先輩も同じように感じていたのかピタリと止まる。

 

止まった私達を通り越して街を目指す他の攻略組の皆さん。

 

ロニエ「………キリト先輩、どんな牛何ですか?」

 

嫌な予感がしてキリト先輩に聞いてみる。

 

キリト「んー?どんなって……とにかくデカイんだ。二メートルくらいの高さで、横の長さは三メートル超えだ。」

 

キリト先輩は私達に合わせ立ち止まって説明してくれた。

 

ロニエ「………」

 

ティーゼ「ロニエも、同じ……よね?」

 

ロニエ「……うん……」

 

ユージオ「……僕も……だよ…」

 

キリト「?どうした?」

 

キリト先輩は気付いていないみたいだ。

 

ロニエ「…………せーので振り返りましょう。」

 

ティーゼ「賛成。」

 

ユージオ「………分かった。」

 

キリト「?」

 

ロニエ「……キリト先輩もですよ!」

 

キリト「うおう、俺もか…」

 

ベル「じゃあ、俺もっスね……分かったっス!」

 

ナギ「ナギも振り返るんですよネ?分かりました!」

 

アスナ「……どうしたの?」

 

ロニエ「とにかく、お願い、します!」

 

アスナ「………分かった。」

 

 

「「「「「「「せーのっ!」」」」」」」

 

 

息を合わせて振り返ってみた。

 

 

そこにいたのは………巨大な、牛。

 

闘牛……よりも大きく、迫力がありすぎて恐怖を覚えちゃいますよ……

 

ベル「……あっ(察し)」

 

ユージオ「………こんなに、大きいなんて……」

 

ティーゼ「……聞いてませんよ……」

 

アスナ「……なにこれー………」

 

ナギ「………丸焼きにしたら、美味しいですかネ?……………オワタ☆」\(^o^)/

 

ベルさんは悟り、ユージオ先輩とティーゼは呆然とし、アスナさんに関してはおかしくなっちゃってます……ナギちゃんは天然が発動ですね。

 

次にすることといえば……

 

ロニエ「………逃げるんですね、分かります。」

 

『ブモオオオ……‼︎』

 

威嚇する牛。

 

キリト「………全員、街に逃げろおおおおおおおおお‼︎⁉︎」

 

キリト先輩の言葉を聞く前に走り出す私達。

 

ユージオ「言われなくともッ‼︎」

 

ティーゼ「何でこうなるんですかッ⁉︎」

 

キリト「知るかッ!喋る暇があるなら全力で走れッ⁉︎」

 

ナギ「逃げるんだよぉ〜ッ‼︎」

 

ベル「ナギさん、ジョジョネタはいいっスから、走ってくださいっス‼︎」

 

アスナ「モンスターの湧きが少なくなってるって言ってたのは、誰よッ⁉︎いるじゃないのッ⁉︎」

 

キリト「俺は『モンスターが湧かない』とは言ってないッ‼︎」

 

『……?どうした?なんかあった………ってなんじゃありゃァァァァァァァァァァアアッ⁉︎』

 

キバオウ「な、なんでや⁉︎あんなデカイモンスターがいるねん⁉︎全員走れええええええええええッ‼︎」

 

前の方にいた攻略組の皆さんが私達の騒ぎに気付いて走り出した。

 

ロニエ「皆さん!早く街へ走ってください‼︎」

 

ユージオ「結構早く走ってるけど、もう撒いたか……」

 

『ブモオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

ユージオ「速ッ⁉︎あの巨体であの速さが出るの⁉︎」

 

ロニエ「どうにか出来ませんか、キリト先輩⁉︎」

 

キリト「無理だ!あいつ、攻撃力もHP量も多いし、ターゲットの持続時間、も距離も長過ぎるんだよ‼︎」

 

キリト先輩は衝撃の事実を言いました。そ、それって、逃げ切れるんですかね……

 

ユージオ「ええッ⁉︎………仕方ない、僕とキリトで迎え撃てない⁉︎」

 

キリト「………行けるとは思うが……キツイ、ぞ!」

 

ユージオ「大丈夫、だよ!覚悟なら、もう出来てる!」

 

キリト「……よし!みんな、戦えるか⁉︎」

 

ロニエ「…頑張れば行けます!」

 

ティーゼ「大丈夫です!」

 

ベル「俺も行けるっスよ!」

 

ナギ「大丈夫だ、問題ない。でス!」

 

アスナ「……できるだけやってみる!」

 

キリト「よし………足を狙うぞ!出来るだけ、関節を狙うんだ!……カウント5秒前、4、3、2、1……GO‼︎」

 

キリト先輩の指示の瞬間、パーティのみんなが牛モンスターに向かって走り出しました。

 

キリト「ハッ‼︎」

 

ユージオ「ッ‼︎」

 

『ブモオッ⁉︎』

 

先輩たちの一撃が前足の関節に入ると、牛モンスターは一気に体勢を前に崩しました。その直後に私たちが後ろ足の関節に、一撃を……

 

ロニエ「入れる!………ハアッ‼︎」

 

ティーゼ「セアッ‼︎」

 

『ブモオオオッ‼︎』

 

私達の一撃で牛モンスターは完全に倒れ込んで行きました。

 

ベル「オラッ‼︎」

 

ナギ「ヤッ‼︎」

 

アスナ「フッ‼︎」

 

3人の攻撃で牛モンスターが立ち上がるのを遅れさせ、

 

キリト「よし、今のうちに、逃げるんだよぉ〜‼︎」

 

あれ?なんか、ナギちゃんの台詞がうつったような……

 

ユージオ「これで、間に、合うよねッ⁉︎」

 

キリト「言って、る暇がある、なら、走れッ‼︎」

 

 

そういってる間に牛モンスターが立ち上がり、私達めがけて走ってきました。

 

『ブモオオオオオオオッ‼︎』

 

ロニエ「そう言っている間に、ききききき来ましたよッ⁉︎」

 

ティーゼ「はあッ⁉︎速すぎよッ‼︎」

 

キリト「もうすぐだ!頑張れみんな!」

 

もうすぐ……って言っても、あと50メルはありますよッ⁉︎

 

牛モンスターが猛スピードで走って来る。さっきよりは速さは落ちているものの、速い事には変わりない。

 

私達は速さの方を優先的に振っているのでキリト先輩とユージオ先輩より少しだけ速い。少しずつ私達が追い越して行きます。

 

先に街に入る私達。まだ走り続けるキリト先輩とユージオ先輩。

そして、もうすぐ後ろに迫って来る牛モンスター。

 

 

 

 

 

キリト・ユージオ「ま、間に合ええええええええええええええええええええええええええッ‼︎‼︎⁉︎」

 

 

 

 

 

 

叫びながら走る先輩。

 

牛モンスターが先輩に当たる前に先輩は滑りこめました。ギリギリで街に入れました。

 

その瞬間に門の両脇にいた騎士のように鎧を着た人がいきなり腰の鞘から大振りの両手剣を抜き、牛モンスターを斬りつけた。

 

牛は一撃で死んだ。

 

汗だくになっている先輩たち。

 

ロニエ「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

キリト「……ああ………ま、間に合った……」

 

ユージオ「………死ぬかと思ったよ………」

 

ティーゼ「よ、良かった……」

 

ディアベル「大丈夫か?なかなかギリギリのところだったが……」

 

キリト「ああ……」

 

ディアベル「それじゃあ、早く転移門もアクティベートしに行こう。」

 

キリト「ああ、始まりの街でプレイヤーたちが待っているだろうからな。あっ、みんな。アクティベートが終わったら自由行動な。」

 

キリト先輩、苦笑いして、あんまり行きたくなさそうですね……やっぱり目立つのは苦手なんですね……アンダーワールドでは何千人の前で踊ったりしてたのに……

 

街の中央に門のようなものがありました、転移門と呼ばれる瞬時に別の層に行き来出来るものらしいです。キリト先輩に説明してもらいました。

 

ディアベル「よし……キリトさん、アクティベートしてくれ。」

 

キリト「ええッ⁉︎」

 

ディアベル「キリトさんがみんなを率いてくれなかったら、レイドは崩壊していた。だから、頼んだ。」

 

キリト「で、でも……」

 

ユージオ「良かったね、キリト!頼んだよ!」

 

キリト「ユージオェ……」

 

アスナ「……やってよ。」

 

ベル「キリトさん!」

 

ナギ「キリトがすれバ、いいんじゃないですカ?」

 

キリト「……ろ、ロニエ!」

 

キリト先輩が『頼むッ!』って言ってるみたいに見て来ました……なんだか、可愛い……?

 

ロニエ「いいんじゃないですか?断る理由も無いですし……」

 

キリト「ッ⁉︎」Σ(・□・;)

 

すごいびっくりしてる……絶望って感じですね……

 

ユージオ「さ、キリト!早くしてよ。」

 

キリト「………分かった。アクティベートするよ……」

 

キリト先輩は諦めたのか、門に近づいて触ろうとする。

 

しかも、なんだか逃げ腰です……

 

キリト「アクティベー………トッ‼︎」ε=┌(; ̄◇ ̄)┘

 

転移門に触って、『アクティベート』した途端にキリト先輩は恥ずかしいのかそこから走り去ろうとしてる⁉︎

 

ユージオ「はい、予想通り。」ガシッ!( ・ω・)ʃ

 

キリト「エェッ⁉︎」∑(゚Д゚)

 

さすがユージオ先輩。キリト先輩の考えることはお見通しですね……

 

どこからか音楽が流れ、転移門からたくさんのプレイヤーが出て来ました。

 

ユージオ「みなさん!この人がボス戦で大活躍した人ですよー!」

 

キリト「や、やめろおおおおおおおおおおおおッッ⁉︎」

 

叫ぶキリト先輩と面白がるユージオ先輩。

 

ロニエ「ねえ、ティーゼ……なんか、先輩達の優劣が前と反対になってない?」

 

ティーゼ「確かに……」

 

なんだかんだでとても温かい光景(?)でした。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

キリト「………くそぅ………してやられた……」

 

ユージオ「あははははははははは……面白かったよ、キリト。」

 

キリト「う、うるせぇッ⁉︎」

 

あれから十分後、キリト先輩は他のプレイヤー達に何度も声をかけられた。

 

疲れたのか、少しぐったりしたように見えました。

 

キリト「……そういえば、ロニエとティーゼは自由行動しないのか?ユージオも……」

 

ユージオ「僕はどこも行くとこないし、分からないし……ね。」

 

ロニエ「私達は先輩達の傍付きですから、一緒にいるのは当たり前です!」

 

ティーゼ「もちろん、私もですよ。」

 

キリト「そうか……」

 

ちなみにベルさんとナギちゃんとアスナさんは別行動中です。

 

キリト「じゃあ、メンテの方をしておくか……………な?」

 

その時、キリト先輩が何かを見つけたかのように転移門の方を見ました。

 

ロニエ「どうしたんですか、キリト先輩?」

 

キリト「……三人とも、あれを見てみろよ。」

 

真剣な表情でキリト先輩は転移門の方を指差して、疑問に思っていることを言いました。

 

ユージオ「?………どうしたのさ、キリト?…………ん?……あれって、アルゴ?」

キリト先輩の指差す方向には、転移門から出てきてすぐに逃げるように走る砂色のローブを着た、情報屋『鼠のアルゴ』らしきプレイヤー。

 

そして、それを追うように人混みの中を走る二人の怪しいプレイヤー。

 

ティーゼ「追われ………てる?」

 

キリト「……みたいだ…………行くぞ…!」

 

キリト先輩の提案でその三人の跡を追うことに。

 

しかし、もうその三人の姿は見えなくなっていました。

 

ロニエ「キリト先輩、どうやって探すんですか?」

 

それとなく聞いてみると、

 

キリト「大丈夫だ、問題ない。」

 

と言って目を閉じてこう言いました。

 

キリト「索敵スキル発動しとくか…」

 

キリト先輩はメニューを開いて何かの操作をしました。

 

そして、目を開けた時にはキリト先輩の瞳は漆黒に黄緑がかっていました。

 

ユージオ「キリト、それは…………」

 

キリト「これなら後で説明するさ…………俺に着いてきてくれ。」

 

その時のキリト先輩は頼りがいがあって、とてもかっこよかった。私はキリト先輩の真剣な表情を見ると、いつもドキッとしてしまいます………

 

はっ、と我に帰った時には、三人は先に走り出してしまっていました。

 

 

わ、わたしったら何考えてるの!?

 

 

先に走り出してしまった三人に早く追い付こうと、私は走り始めました。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

キリト「よし、ここで様子を見るぞ。」

 

ユージオ「分かった。」

 

私達はキリト先輩を追いかけて、五分後。

 

たどり着いたのは街の外の崖の岩場。そこから下を見てみると、アルゴさんが二人の怪しいプレイヤーが何か言い合っていました。

 

ロニエ「………何かあったんですかね……」

 

ティーゼ「……でも、女の子一人に男二人でだなんて……サイテー……」

 

キリト「………」

 

 

アルゴ「あーもウ‼︎だから、この情報は売らないって言ったロ‼︎」

 

 

アルゴさんが二人のプレイヤーに向かって、そう叫ぶと二人のうちの一人が叫び返しました。

 

『では何故教えないのでござるか!?拙者らは情報料金も払う前提で、交渉を持ちかけているでござる!早く教えるでござる!エクストラスキル【体術】スキルの獲得方法を!!』

 

キリト「何!?エクストラ……スキル、【体術】!?」

 

え、えくす……『えくすとら』の意味は分からないですが………今、『体術』って…………新しいスキルですかね?

 

キリト先輩は妙に驚いてますね………

 

アルゴ「駄目ダ!これだけは……教えたら恨まれること間違い無しでゴザル………間違い無しなんダ!!」

 

『持っていると言ったにも関わらず、何故交渉に応じてくれないでござるか!?これは明らかに情報料金を引き上げるのを狙っているのも同然でござるぞ!!』

 

このまま言い争いを続けたら、あの二人が腰の曲刀を抜いてしまいそう………ま、まずい!

 

キリト「……みんな、ここから飛び降りるぞ。」

 

ロニエ「ええッ!?」

 

ティーゼ「この高さからですか!?」

 

今、私達は約30メルくらいの高さの岩場の上にいる。ここから飛び降りるとなると、少し天命が…………いや、HPゲージが少しなから減ってしまう。

 

キリト「いいから行こう!早くしないと状況は悪化する一方だぞ………………はっ!」

 

そう言ってキリト先輩は飛び降りて行きました。

 

ユージオ「……まったく、君って奴は………考えるより先に行動しろってことか……分かったよ、今行く!」

 

ユージオ先輩もそう言って飛び降りて行きました。

 

やっぱり、飛び降りないとダメ……かな?

 

ロニエ「行こう、ティーゼ!」

 

ティーゼ「そうね、行きましょう!」

 

私達は覚悟を決め、飛び降りました。

 

「「痛っ!?」」

 

声をあげながらもなんとか着地出来ました。

 

『……何者だ!?』

 

私達が来たことに気付いてとても驚いているようで……上から来るなんて思ってなかったでしょうから……

 

キリト「あんたら、何してるんだ?」

 

ユージオ「外から見たら、弱いものいじめをしてるようにしか見えないんだけど………どうなんですか?」

 

『お主たちには関係のない話でござる!』

 

『首を突っ込むな!』

 

キリト「………あんたら……どっかで見たことが………」

 

ロニエ「えっ?知ってるんですか、キリト先輩?」

 

キリト「あ、ああ………なんて言ったっけな……フードじゃなくて……フーガじゃなくて………」

 

『拙者たちはふうm』

 

キリト「ま、どうでもいいか。」

 

『『良くないでござる!?』』

 

き、キリト先輩……それは流石に酷過ぎるんじゃ……

 

ユージオ「酷過ぎない?」

 

キリト「いいだろ、別に。」

 

『お主達、何用だ?』

 

キリト「………俺たちとしては、お前らの悪行は見逃せないな。」

 

その言葉と同時にその二人を睨み付けます。私達からすれば、あの二人は『女の敵』です!許せませんよ!!

 

と、次の瞬間。

 

『『まさかお主ら伊賀者か!?』』

 

「「「「ッ!?」」」」

二人がいきなり鋭く爛々と目を光らせ、少し殺気に似たものが込められた言葉をいい放った。

 

キリト先輩の台詞に何か殺気立たせる原因になりそうな言葉があったでしょうか……あっ……イガモノってところですか。

 

キリト「……………なあ、あんたら……」

 

『何でござるか!』

 

キリト「…………後ろ。」

 

『その手には引っ掛からないでござるよ!』

 

キリト「……いや、後ろ見た方がいいと思うぞ。」

 

ユージオ「……あっ(察し)」

 

ティーゼ「……うわぁ………ご愁傷さまです……」

 

『……何を言って…………』

 

ロニエ「あ………」

 

キリト先輩が何故そう言うのか、今分かった。

 

この状況、前にもあった気が………

 

キリト「だから……後ろ。」

 

有無を言わせぬように威圧をかけ、キリト先輩が二人に言いました。

 

『『…………?』』

 

二人が振り向いた、その後ろにいたのは………私たちが散々追い回されてきた巨大な牛型モンスター、『トレンブリング・オックス』がいた。

 

『ブモオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

『『ござるぅぅぅぅううううううッ!?』』

 

二人は尻尾を巻いて物凄い逃げていきました。牛も驚異の速さで追いかけていきました。

 

キリト「……ぷっ、あははははははははははははははははははは!」

 

ユージオ「ふふふ……あははははははははははははははははは!」

 

先輩達はそれをみて大笑いしました。でも、あんまり笑い事じゃないんじゃ………

 

ロニエ「せ、先輩……」

 

キリト「ははは………あー、久しぶりに笑ったな………ごめんな、二人とも……」

 

ロニエ「あまり笑うところじゃないですよ、先輩!」

 

ティーゼ「笑えてくるのは分かりますけど……ダメですよ、先輩!」

 

先輩達を叱っていると、

 

『相変わらず仲がいいネ、キー坊!』

 

聞き覚えのある声が聞こえた。

 

ロニエ「アルゴさん!」

 

アルゴ「久しぶりだネ、ローちゃん、ティーちゃん。」

 

キリト「大丈夫か、アルゴ?」

 

アルゴ「おかげさまでネ!助かったヨ、ありがとネ!」

 

ユージオ「それより、何があったの?あんな剣幕で言われるような理由があるの?」

 

アルゴ「………仕方ない、キー坊達だけ特別に教えてやるヨ。」

 

キリト「ああ、あのとき話してたエクストラスキルのこともな。これは助けた対価として、だ。いいか?」

 

アルゴ「………じゃあ、その代わりに条件があル。」

 

ロニエ「……条件とはなんですか?」

 

キリト「その心は?」

 

アルゴ「絶対にオレっちを恨まないこと、ダ!」

 

ティーゼ「……恨まないこと?」

 

キリト「何言ってんだ?エクストラスキル獲得方法を教えてもらって恨むって、おかしいだろ。」

 

アルゴ「違うんだ、キー坊。だいたいの恨みっていうのは一晩寝れば忘れるサ。けど、これは違う………間違えれば一生続くんダ!!」

 

キリト「一生?」

 

アルゴ「アア。でも、これを受ければ、オレっちのトレードマークのこのヒゲの秘密が解けるゾ。」

 

キリト「マジで!?」

 

ユージオ「ええッ!?あの百万コルっていう恐ろしい値段のするあの情報が!?」

 

ティーゼ「ユージオ先輩、あんまり女性の秘密は暴いちゃダメですよ?」

 

ロニエ「そうですよ、キリト先輩!!」

 

キリト「よし、買った!恨みもしないし、後悔もしないさ。」

 

ユージオ「恨みなんかしないよ。いつもお世話になってるからね。」

 

「「後者に同意です!!」」

 

キリト「えっ?俺には同意してくれないの?」

 

アルゴ「分かったヨ。ついてきナ!」

 

そして、話がまとまり、そのエクストラスキル獲得クエストが受けられるところに向かいアルゴさんについていきました。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

アルゴ「ここだヨ。」

 

数分後、着いたのはとある岩山。そこには、一人のお爺さんがいました。

 

キリト「あのNPCだな?」

 

アルゴ「そうだヨ。」

 

私達四人はそのお爺さんの前にいって話しかけてクエストを始めようとしたとき、お爺さんの方が先に話しかけてきました。

 

『………試練を受けに来た者達か?』

 

キリト「……はい。」

 

『…………修行は厳しいぞ?』

 

ユージオ「大丈夫です、覚悟はできています。」

 

『………そうか……それでは、修行者の証を付けよう。』

 

キリト「……証?」

 

キリト先輩がそう聞いた時、お爺さんはどこからか手のひらサイズのツボを左手でとりだし、右手の筆を中に入れていました。

 

あ………嫌な予感……

 

と思った時にはお爺さんは目にも止まらぬ速さで、私達の頬に何かを書いてきました。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

『それでは我が弟子よ、それは修行が終わるまで取れんぞ。修行が終わるまでこの岩山から出ることは一切禁ずる。試練はこの大岩を割ることじゃ。健闘を祈る。』

 

キリト「そうか、アルゴはこのクエストがクリア出来なかったからずっとそのヒゲを付けてたのか……んでトレードマークになっちゃったもんだから、そのまま付け続けてた……そういうことか!?」

 

アルゴ「流石はキー坊、鋭いナ……その通りだヨ!得したな、キー坊!」

 

ユージオ「ええー!?じゃ、じゃあ僕達もアルゴと同じヒゲが付いてるの!?」

 

じゃあ……わ、私も!?は、恥ずかしい……キリト先輩がいるのに……

 

アルゴ「同じじゃないゾ。ローちゃんとティーちゃんはかわいいナ!子猫みたいダ。」

 

「「か、かわッ!?」」

 

キリト「俺達は!?」

 

アルゴさんは少し悩んで、

 

アルゴ「『キリえもん』と『ユージえもん』って感じだな!」

 

「「ええッ!?」」

 

アルゴ「にゃはははははははははははははははは!!」

 

耐えきれなかったのかお腹を抱えて笑い始めるアルゴさん。

 

ロニエ「……ぷっ………あははははははははははは!」

 

ティーゼ「ユージえ………もん………ふふっ……あははははははははははははははは!」

 

私達も耐えきれずに大笑いしちゃいました。

 

「「……………」」

 

「「「あははははははははははははははははははは!!」」」

 

それから私達は三分ぐらい笑い続けました。

 

………もう、耐えられません………あはははは!




次回『謎の詐欺事件』
※本文に訂正入れました。アルファささみさん、ありがとうございます!


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砕け散った剣

遅くなりました、クロス・アラベルです!
それでは14話、どうぞ!


3日間で体術スキルをしてから次の日の午後四時。私達はクエストを受けるために第二層主街区《ウルバス》に来ていました。その中心部の広場で次は何のクエストを受けるかをみんなで話し合っていた時、

 

 

『ふ、ふざけんなよッ⁉︎』

 

 

誰かが、裏返ったような大声を出しました。足を止める私達のパーティ。

 

キリト「……」

 

ユージオ「……どうしたんだろう……何かあったのかな?」

 

ティーゼ「…喧嘩ですかね?」

 

ロニエ「……喧嘩?と、止めに行かないと……」

 

キリト「……そういうわけでもないみたいだぞ?」

 

ユージオ「……どういうこと?」

 

キリト「見ろ、喧嘩じゃなくて一方的なものらしいな……」

 

キリト先輩が指をさしたところを見てみると、一人の男の人が鎧に身を包んだ人に怒鳴られているところでした。

 

ロニエ「何があったんですかね……」

 

 

『……何の騒ぎ?』

 

 

落ち着いた声でこう聞いてくるプレイヤーがいた。灰色のフーデットケープを被った、女性プレイヤー。

 

ロニエ「あっ、アスナさん!お久しぶりです!」

 

アスナ「久しぶり、ロニエ、ティーゼ。」

 

ティーゼ「元気にしてましたか?」

 

アスナ「ええ、おかげさまでね。キリト君、ユージオ君も久しぶり。」

 

ユージオ「アスナ!久し振りだね。」

 

キリト「よ、よう、アスナ。」

 

アスナ「……それで、キリト君。どういう状況なの?」

 

キリト「さあな、そこまではわからないよ。」

 

『どっ、どうしてくれるんだよッ‼︎プロパティ無茶苦茶下がってるじゃねーかよ‼︎』

 

ユージオ「………あの装備、凄く強そうだね…」

 

ティーゼ「あっ、あの剣、アニールブレードですよ。」

 

キリト「……そういうことか……」

 

ロニエ「どういうことですか?」

 

キリト「多分、あいつは持ってるアニールブレードの強化をあの鍛冶屋プレイヤーに頼んだんだ。それで、連続で失敗したんだろうな……それで血が上ってるんだろ…」

 

『四連続失敗だぞッ‼︎0で強化エンドしちまったじゃねえか!どうしてくれるんだ⁉︎責任取れよ、クソ鍛冶師‼︎』

 

ユージオ「………よ、四連続失敗か……確かに悲しいね……」

 

ティーゼ「だったら、また強化し直せばいいんじゃないですか?」

 

キリト「いや、ティーゼ。武器の強化は無限に出来るわけじゃないんだ。」

 

アスナ「………『強化試行上限数』ね……」

 

キリト「その通り。アニールブレードは上限数が8回だったから、四回連続で失敗して、元々+4だったアニールブレードが残り強化回数を全部使い切った。っていうことは……」

 

ロニエ「………もうそれ以上、強化できない……」

 

キリト「……そういうことだ。」

 

ティーゼ「……残念ですね…」

 

アスナ「でも、失敗の可能性がある事を頼む側は了承してるはずでしょ。あの鍛冶屋、お店に武器の種類ごとの強化成功率一覧を張り出してるじゃない。しかも、失敗した時は強化用素材アイテムぶんの実費だけで手数料はとらないって話よ。」

 

キリト「ほー、そりや良心的だな……」

 

ユージオ「……でも、何で止めなかったんだろうね?」

 

キリト「……そりゃ、一回ミスって頭に血が上ってもう一回、もう一回って歯止めが効かなくなってくるんだよ。アツくなるとドツボにハマるのは、どこのギャンブルでも、一緒だよなあ……」

 

ロニエ「……なんか、妙に熱の入った言葉ですね……」

 

アスナ「……妙に説得力があるわね……」

 

キリト「……こりゃただの一般論ですよ。」

 

少し、怪しいですね……

 

『まあまあ、リュフィオール。しょうがないだろ……失敗しないなんてことはないんだからさ……』

 

『また、一緒にあのクエ受けに行こう。一週間もあればクリア出来るしな。』

 

『次は頑張って+8にしようぜ!』

 

『……ああ……』

 

ユージオ「えっ?アニールブレードの獲得クエストって一週間もかかるの⁉︎」

 

キリト「……俺たち、ラッキーだったな…」

 

ロニエ「……いいお友達ですね…」

 

ああやって支え合える友達って……大切ですよね……

 

アスナ「……」

 

『す、すいませんでした…』

 

『……いや、すまない…俺も頭に血が上っちまって……あんたは悪くないさ……』

 

『あ、あの……お詫びといったらなんですが、そのアニールブレード、8000コルで買い取らせてもらう……って言うのはどうでしょう……』

 

『……本当か⁉︎』

 

キリト「ま、マジか⁉︎」

 

ユージオ「そんなに高い?安いようにも思えるけど……」

 

キリト「……いや、そんなことはないぞ。エンド品って言えば、高くて4000コルくらいだからな……その倍だぞ?」

 

ユージオ「へぇ……」

 

すごく良心的ですね!

 

ティーゼ「……これで丸く収まったみたいですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、街の西側にある公園で一休み。

 

ロニエ「……それで、キリト先輩。強化どうするんですか?」

 

キリト「……それなんだが……ちょっと不安になってきてな…」

 

ティーゼ「じゃあ、素材を集めて成功率を上げたらどうですか?」

 

キリト「…………だよなぁ……」

 

ユージオ「そう言えば、アスナは何をしに来たの?」

 

アスナ「私も武器の強化を依頼しに来たのよ。」

 

キリト「……やっぱ、成功率高い方がいいよな?」

 

アスナ「…まあ、ね。」

 

キリト「素材を集めてきたらどうだ?万が一失敗したらって考えると……より成功に近い方がいいだろ?」

 

墓穴を掘ったと思ったのは私だけですかね……

 

アスナ「そうね、私は妥協は嫌いだわ。」

 

キリト「だろ?」

 

アスナ「でも、私は人に言っておいて、口だけで行動しない人はもっと嫌いよ。」

 

キリト「⁉︎」グサッ

 

ロニエ「……ですね…キリト先輩?」

 

キリト「……」アセタラタラ

 

ユージオ「……じゃあ、みんなで手伝おっか?」

 

ティーゼ「賛成です!」

 

ロニエ「私も賛成です!」

 

アスナ「もちろん、私もね。」

 

キリト「……はいはい…分かりましたよ……やればいいんだろ?やれば……」

 

こうして、私たちは強化の素材集めをすることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迫り来る蜂モンスター。その攻撃を読み、避けながらもすれ違いざまに一閃。

 

ロニエ「やッ‼︎」

 

ザシュッ

 

『ピギャァァァァッ⁉︎』

 

パリィィイン!

 

ロニエ「……ふう……32!」

 

私は今、ティーゼとアスナさんとトリオを組んで蜂モンスターを倒している。キリト先輩とユージオ先輩もコンビで蜂モンスターを倒し続けている。私が倒した数は32匹。ティーゼも同じくらいで、アスナさんはさっき「39!」と叫んでいたので、3人の中では一番多く倒している。

 

キリト先輩たちはどれくらいかは知りませんが、側から見るとキリト先輩達の方が時間がかかっているように思えます。

 

あれから1時間弱狩り続けています。

 

何故分かれて狩りをしているか、それは1時間弱遡る。

 

 

 

 

 

 

アスナ「ねえ、みんな。ちょっと勝負しない?負けた方は勝った方の欲しいものを奢るっていう事で。」

 

キリト「…勝負?」

 

アスナ「ええ、ルールは簡単よ。2時間で指定された数のモンスターを早く狩った方の勝ち。」

 

ロニエ「……勝てる気がしないんですが……」

 

アスナ「大丈夫よ、ロニエ。これは団体戦、いわば『チーム戦』よ。」

 

ユージオ「……じゃあ、どんな分け方をするの?」

 

アスナ「………そうね……女子チームと男子チームに別れましょう。」

 

キリト「待て!それだと俺たちが不利すぎる。」

 

アスナ「大丈夫。キリト君達は一人100体ずつで……私が100体、ロニエとティーゼは75体ずつでどうかしら?」

 

キリト「……でも、」

 

ユージオ「それは……」

 

アスナ「あら?あなた達の事をロニエ達は『先輩』って呼んでるのよ?年下でなおかつロニエ達はあなた達の後輩なんだから……少しはハンデがあってもいいんじゃない?」

 

「「⁉︎」」

 

ロニエ「……で、です…よね…」

 

ここは乗ってみた方がいいですね。

 

ティーゼ「はい、その通りです!」

 

アスナ「……どうなの?」

 

「「……」」コクッ

 

アスナ「はい、それじゃあ狩りを始めましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

と、いうことがあったので私たちは必死に蜂モンスターを狩っているところです。

 

私たちも先輩達には負けられないので、先日獲得したあのスキルを使ってみましょう。

 

蜂モンスターが針で刺そうとするのを避けて、バーチカル・アークの二連撃で怯ませた所で……

 

ロニエ「ハァッ‼︎」

 

ズガッ!

 

『ギシャッ⁉︎』

 

体術ソードスキル『閃打』。左拳を蜂モンスターの弱点に当てた直後、蜂モンスターが砕け散りました。

 

ロニエ「ふう……取っておいてよかった……体術スキル…」

 

あのスキルのおかげで片手直剣ソードスキルの直後に体術ソードスキルを放てるので、早くモンスターが倒せます。

 

アスナ「どう、ロニエ?」

 

ロニエ「いい感じです!」

 

ティーゼ「このまま頑張って、ユージオ先輩達に勝ちましょう!」

 

アスナ「ええ!…後、二人が使ってるその素手スキルについても教えてね?」

 

ロニエ「はい!」

 

よし……先輩達には悪いですが、勝たせてもらいます!

 

ロニエ「セヤァ‼︎」

 

私のアニールブレードが青い薄い青の光を放ち、蜂の腹を一閃。

 

ズバッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「はあ、はあ、はあ……」」

 

 

アスナ「お疲れ様、キリト君、ユージオ君。」

 

ロニエ「お疲れ様です、先輩。」

 

ティーゼ「……惜しかったですね、先輩。」

 

「「………体術スキルも使ったのに……」」

 

アスナ「まあ、負けたのには間違いないわよね?」

 

「「……ハ、ハイ………」」

 

アスナ「じゃあ、行きましょう。楽しみだわ……ウルバスで知る人ぞ知るって言う、あの『トレンブルショートケーキ』!」

 

キリト「なっ…なんでっ⁉︎」

 

ロニエ「トレンブルショートケーキ?」

 

アスナ「ええ。すごく美味しいって、アルゴさんが…」

 

ティーゼ「良いですね、早く行きましょう!」

 

ユージオ「何それ?どこにあるの?

 

アスナ「確か、ウルバスの奥の路地にあるらしいのよね…」

 

ユージオ「……じゃあ、行こうか?男らしく、潔く、行くよ…」

 

キリト「ちょっ、待てって、ユージオ!」

 

ユージオ「あれ?キリト、君は来ないの?君だけ来ないなんて、男らしくないなぁ……」

 

キリト「……!」

 

ユージオ「……どう?」

 

キリト「……分かったって!行くよ、行く行く!」

 

アスナ「それじゃあ、行きましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賑やかなウルバスの街並み。もうすぐ午後七時とあって、人が圏外から帰って来る時間帯みたいです。

 

キリト「……そういや、ウルバスっていつも夜こんな感じなのか?」

 

アスナ「……まさか、夜の街を見たことなかったの?」

 

ユージオ「…うん、見られなかったと言うか……」

 

ロニエ「凄いですね。第一層ではこんな風景見られませんよ。」

 

キリト「なんで、こんなに賑やかになるんだ?」

 

アスナ「…それは君たちのおかげでしょ?」

 

ユージオ「そう、なのかな?」

 

アスナ「ええ、その通り。それより早くレストランへ行きましょう。」

 

キリト「……ホントに行くのか……」

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

キリト「……アルゴめ…なんでここのことを教えるんだよ……よりによって、ここを……!」

 

アスナ「さて、入りましょう。」

 

ロニエ「……結構、奥にあったんですね…」

 

ティーゼ「迷っちゃいそう……」

 

人気のない路地を進んで、もっと人気のないレストランを見つけました。入って大丈夫かな?

 

レストランのテーブル席に五人全員が座ったところで、アスナさんが店員さんにいくつか料理を注文してから言いました。

 

アスナ「…シチューセットを…みんなこれでいい?」

 

ロニエ「はい、それでお任せします。」

 

キリト「……一思いに頼んでくれ……どうせ、俺たちは負け犬だしな……」

 

アスナ「ひとつ言っておくけど、夕食の方は私が奢らせてもらうからね?シチューセットを五つお願いします………それじゃあ、キリト君、ユージオ君、お願いね?」

 

キリト「ハイハイ……エット、ト、トレンブルショートケーキヲ……ミッツオネガイシマス。ユージオトワリカンデ……」

 

ユージオ「キリト、大丈夫?」

 

NPC店員『かしこまりました。少々お待ちください。』

 

キリト「……ユージオ、トレンブルショートケーキの値段を見てみろ。」

 

ユージオ「値段?……どれどれ……ハァッ⁉︎な、ひとつ7000コルッ⁉︎ふ、ふざけてるでしょ、この値段⁉︎」

 

驚いて、珍しく大声をあげるユージオ先輩。

 

ロニエ「7000コルって……あと少しで新品のアニールブレードが買えるじゃないですか⁉︎」

 

キリト「……」チーン

 

ティーゼ「あ、死んだ。」

 

ロニエ「…えっと、なんかすいませんっ!」

 

ユージオ「いいよ、負けた方が奢るっていう約束だったしね。」

 

アスナ「ロニエ、謝らなくていいのよ。私たちは勝ったんだからね!」

 

……キリト先輩、ごめんなさい…

 

 

 

 

そのあと届いた夕食はとても美味しかったです。シチューとサラダは久しぶりに食べました。みんな夕食を堪能していました。……キリト先輩以外……

 

NPC店員『お待ちしました、トレンブルショートケーキでございます。』

 

シチューとサラダ、パンを食べ終えた頃にいよいよ、アスナさん念願のトレンブルショートケーキが来ました。

 

アスナ「あっ、来た!」

 

ユージオ「トレンブルショートケーキ……どんなのなんだろ…………⁉︎」

 

ロニエ「えっ⁉︎」

 

ティーゼ「はっ⁉︎」

 

キリト「来た……来てしまった……」

 

運ばれて来たのは、赤い果物が沢山盛って、一瞬美味しそう、と思ったが、しっかり見ると、大きさが凄い。半径25セン、ケーキの厚さが10セン、上には三角錐になったクリーム、高さはもう40センを超えるものでした。結構クリームが多い……と、いうよりほとんどがクリームだった。

 

アスナ「それじゃあ、頂きます!」

 

ロニエ「えっと……い、頂きます…」

 

ティーゼ「頂きます!」

 

ユージオ「どうぞ、僕らのことは気にせず、食べてよ。特に、キリトを。」

 

キリト「き、気にせず食べてくれ……」

 

そんなキリト先輩とユージオ先輩を見てたら……食べられませんよ、先輩?

 

ロニエ「……やっぱり、一緒に食べましょう!キリト先輩。」

 

キリト「ええッ⁉︎い、いいのかッッ⁉︎」

 

ロニエ「はい、もちろんですよ!」

 

ティーゼ「まあ、私達だけだなんてあんまり美味しくないでしょうから!ね、ユージオ先輩?」

 

ユージオ「いいの?」

 

アスナ「…そうね。私からも、四分の一くらいならいいわよ?」

 

キリト「あ、ありがとう!ロニエ‼︎」

 

ユージオ「ありがとうね、ティーゼ、アスナ、ロニエ。」

 

アスナ「それじゃあ……」

 

 

 

「「「「「頂きます‼︎」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トレンブルショートケーキを食べ終えて、お店を出るともう夜七時を回っていました。この世界は時告げの鐘はありませんけど、『でじたる時計』があるお陰で時間がわかりやすいですね…

 

アスナ「……美味しかった…」

 

ロニエ「ですね……」

 

キリト「いやぁ……頑張った甲斐があったぜ…まさか、幸運アップのバフが付くとはな…」

 

私達の視界の端には、幸運アップの効果が効いていることを示す、四つ葉のクローバーの印があります。

 

ティーゼ「凄い美味しかったですよ!甘すぎず、あっさりしすぎず……こんなの、アンダーワールドにもなかったです…」

 

ユージオ「うん……また食べたいね…」

 

キリト「これからどうする、みんな?」

 

アスナ「そうね……強化は明日にして、私、今日は休もうかしら……」

 

ティーゼ「私も、休みましょうか……」

 

ユージオ「僕も疲れたし宿をとって休むよ。」

 

キリト「そうか……じゃあ、ロニエはどうする?」

 

ロニエ「そうですね…」

 

…そうだ、今が二人きりでいるチャンス………ティーゼも『積極的にグイグイ押していきなさい!まずは攻めて見ないと…グイグイいきなさいよ!グイグイ、分かった⁉︎』って言ってたし……

 

ロニエ「……き、キリト先輩がよければ、私の、あああアニールブレードの強化に、付き合っていただけませんか?」

 

キリト「…!…い、いいけど……俺で良いならな。」

 

ティーゼ「っし‼︎」

 

ティーゼは思わず、ガッツポーズ。

 

キリト「…あのプレイヤー鍛冶屋で良いか?」

 

ロニエ「はい!」

 

キリト「ここで別れるか。じゃあな、みんな。」

 

ユージオ「うん、また明日、キリト、ロニエ。」

 

アスナ「おやすみ。」

 

ティーゼ「…頑張れッ!」

 

ロニエ「てぃ、ティーゼッ‼︎///」

 

キリト「?行くぞ?」

 

ロニエ「は、はい!」

 

そして、私達は初のプレイヤー鍛冶屋の元に行くことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『い、いらっしゃいませ。メンテですか?それとも、買い取りですか?』

 

少し小柄な男の人が店員らしく、私達に聞きました。眉は八の字のように下がっています。

 

ロニエ「えっと…アニールブレードの強化をお願いします。種類は正確さで……」

 

『ッ……分かりました。えっと……強化素材は…』

 

私がそう言った途端、一瞬、痛みを我慢するような苦しそうな顔をした気がしました。そして、眉が八の字よりもっと下がっていきました。

 

ロニエ「90%のブーストでお願いします。」

 

『……かしこまりました。」

 

私のアニールブレードと強化素材を鍛冶屋さんに渡して、いよいよ強化が始まりました。

 

ロニエ「……き、キリト先輩、あのっ……」

 

キリト「どうした?」

 

ロニエ「……えっと……先輩の幸運、少し分けて、下さいっ…!////」

 

キュッ

 

私はそう言って、キリト先輩の手を握る。

 

キリト「ッ⁉︎ろ、ロニエッ⁉︎///」

 

ロニエ「……////」

 

は、恥ずかしい……っ

 

カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!

始まった強化。その時、少しキリト先輩がブルッと震えた…気がしました。

 

そして、10回目の槌の振り。

 

そして、強化が成功する…そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

パリィィィィィィイイインッ‼︎

 

 

 

 

 

 

 

その時、私のアニールブレードが粉々に砕け散った。

 




次回『砕かれた剣の行方』


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砕かれた剣の行方

遅くなりました!クロス・アラベルです!
今回は戦闘シーンはありません(多分みなさんも察してると思いますが……)

それではどうぞ!


『す、すみません!すみませんッ‼︎手数料は全てお返ししますので…』

 

「いや、ちょっと待ってくれ!武器の強化失敗はプロパティ入れ替えと強化素材のロスト……悪くてもプロパティ減少の3つだろう?」

 

『えっと…正式プレイで追加されたのかもしれません……僕も一度、武器の破壊があったんです……』

 

「なっ……」

 

今、私の剣が、砕け散った……そんな……

 

『本当にすいませんでした‼︎今、アニールブレードの在庫が無くて……だから、グレードは下がるかもしれませんが……ブロンズソードがあるんです…それを代わりに使いますか……?』

 

「いや…」

 

先輩が何か言っているけれど、あまりよく聞こえない……剣が、砕けちゃった………!…武器のない今じゃ、キリト先輩についていけないかもしれない……き、キリト先輩と、一緒に、いられない……の?あの剣は、キリト先輩にもらった…剣なのに……

 

「……ニエ、ロニエ!行くぞ。」

 

「…ッ」

 

先輩に腕を掴まれ、歩く。

 

「……こ、こんな所に、ベンチがあるぞッ!」

 

「……」

 

先輩らしくない、けど今の先輩らしい言葉、慌てよう。いつもの私ならそんな先輩を笑ったり、しただろう。けど、今はそんな気も起こらない。

 

「……残念だったな……でも、あのアニールブレードは3層の後半までしか使えないんだ。ロニエがまだ先に進むつもりなら、4層に来たらすぐに武器を更新しなきゃいけないし……このソードアートオンラインはそう言うゲームなんだよ…」

 

キリト先輩が私に励まし?の言葉をかけて来る。

 

「……そんなの、嫌………私、教えてもらったんです。剣は丹精込めて使って行けば、いつか剣の声が聞こえるって……あのアニールブレードならそれが出来るんじゃないかって……あの子は私の思う通りに……いえ、それ以上に私を助けてくれました………なのに、弱くなっちゃったからもう、要らない…なんて、そんなの嫌です……!」

 

「……でも…」

 

「それに、あの剣は………キリト先輩にもらった大事なこの世界に一本しか無い剣なの…に……!………う、あ……!」

 

「……ッ‼︎」

 

分かってる。こんな私が先輩達と一緒に行こうだなんて、ただの甘えだって、分かってる……だから…

 

「……私のことは、置いて言って、ください……こんな状態じゃ、一緒に行けませんから……」

 

俯き、先輩の手を離して、キリト先輩にそう伝えた。これで、いい。これで……

 

「……来てくれ。」

 

「……」

 

キリト先輩が私の手を取って、どこかに行こうとする。さっきとは違う、力強く手を引いて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリト先輩に連れられて、着いたのはとある宿屋。

 

先輩は一部屋を取り、連れて行かれる。そして、その部屋の前まで来て、扉を開けて私を中に入れようとする。

 

「ありがとうございます……もう、いいですから…」

 

そう言った後に先輩は私の手を一層強く握って、ボソリと話す。

 

「……これは、俺の自惚れかも知れないけど……」

 

そして、私の手を離し、私の顔に面と向かって、こう言った。

 

「……置いて行ったりなんか、しないからな。」

 

「……っ‼︎」

 

その瞬間。何か、胸の奥から爆発するような感情があった。

 

もう視界は歪み、何も見えない。最後に見たのは、キリト先輩の何かに耐えるような苦しそうな表情だった。

 

扉が閉まった瞬間、もう我慢はできなかった。

 

「うっ、うううっ…うあああああああああああああああああああっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、1時間が経ったか経っていないか……

 

泣きに泣いた。多分目が腫れているだろう。

 

ベッドの上、私は寝間着姿で丸まって寝ている。

 

「………」

 

あの先輩の言葉は、本当なのかな……?やっぱり、私なんかが一緒に行けなんかしない、よね……

 

そう、自分に落胆して自己嫌悪に陥った。

 

ドンドンッ!

 

強く扉を叩く音。ここの扉は叩かないと、部屋の中に声が入らないと前、キリト先輩に教えてもらった。誰だろう、と思ったその時だった。

 

 

 

 

「ロニエッ、俺だ‼︎入るぞッ‼︎」

 

 

 

 

 

よく知る声が扉の外から聞こえたのは。

 

「……へっ?」

 

ガチャッと扉を勢いよく開けて来たのは、1時間程前に会っていた黒髪黒衣の剣士、キリト先輩だった。

 

「ッ⁉︎きゃ、キャアアアアアアアアアアアアアアアッッ⁉︎」

 

なんっ、なんでキリト先輩がっ⁉︎

 

「落ち着いて聞いてくれ!超絶緊急事態なんだ‼︎」

 

「おおおお落ち着けって言われても出来ませんよっ⁉︎」

 

「メニューウインドウを開いて、可視モードにしてくれ!早く‼︎」

 

「えっ⁉︎は、はい!」

 

言われた通りメニューを開き、可視モード……他の人が見ても見られるようにする。

 

「せ、先輩!私、扉の鍵は閉めたはずなんですけどっ⁉︎」

 

「ロニエは俺達とパーティ組んだままだろ!宿屋の部屋のドアは一番最初の設定は『パーティメンバー、及びギルドメンバーは開錠可なんだよ!」

 

「ええっ⁉︎さ、先に言ってくださいよ⁉︎」

 

「すまんっ!……第一条件は……よし、クリアッ!時間は……」

 

「じょ、条件?」

 

「くそッ、時間がない!まずはストレージ・タブ!」

 

「は、はい!」

 

先輩の鬼気迫るその勢いに押され、言う通りにメニューを操作する私。

 

「次は、セッティングボタン!……サーチボタン……そこのマニュピレートストレージって言うボタン……」

 

「わ、分かりました……」

 

先輩の言う通りに後三つか四つ押していくと最後のボタンが出て来た。

 

「そう、それだ!《コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズ》!ゴー‼︎」

 

そう言われてそれを押すと、最後に確認のイエスとノーのボタンが出てくるなり、

 

「イエーーーーーーーーーーースッッ‼︎」

 

と、先輩は叫んで来ました。

 

 

ぽちっ

 

 

そのボタンを押すと私のストレージにあったアイテムの欄が全て消えてしまいました。

 

「……な、なんでストレージのアイテムが消えたんですか?私、出したりなんかしてませんけど……」

 

「さっきのはストレージの中にある全てのアイテムをオブジェクタイズ……目の前に出すんだ。」

 

「……全部?」

 

「そう、コンプリートリィに。全て、あまねく、何もかも!」

 

と、キリト先輩は私の質問に答えてくれました。

 

「……えっ、ぜぜぜぜぜ全部ッ⁉︎」

 

ちょっと待ってくださいよ!ストレージには、私のドロップアイテムも防具も服も……私の………⁉︎

 

そう、頭の中で大混乱を起こしていると、私の目の前に私のストレージの中にあった全アイテムが多種多彩な音を立ててまとめて出て来ました。

 

 

 

ガランゴトンドスンガチャンチャリーンボサットスッバサッパサリフワフワ…

 

 

 

「ッ/////⁉︎⁉︎⁉︎」

 

そのアイテムの山のてっぺんにあるのは……私の、『下着』。

 

もう、何も考えられない……⁉︎

 

私が思考停止に陥る寸前、キリト先輩は、

 

「……失礼っ!」

 

と言って、私のアイテムの山を漁り始めました。

 

「せせせせせせせせせせ先輩///⁉︎ななななな何してるんですかッ//////⁉︎」

 

「ちょっと待ってくれ!ここに、有るはず…」

 

先輩は私の言葉を跳ね飛ばして、アイテムの山を漁り続けました。そして、

 

「ッ‼︎あ、あった‼︎‼︎」

 

そう言って私の方に何かを渡して来ました。

 

「な、なんです……ッ⁉︎…こ、これは……‼︎」

 

先輩が私に渡して来たのは、約1時間前に砕け散ったはずの私のアニールブレードでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後私はキリト先輩に、なぜ砕け散った剣がここにあるのかを聞いた……と言うより、問いただした。

 

キリト先輩によると、1時間前のあの鍛冶屋はアインクラッドで初めての詐欺師だ、とのこと。剣の詐取方法の推理、その他武器などに関する情報をもらいました。

 

「……でも、キリト先輩。あの人が詐欺をするなんて…そうは見えないんですが……」

 

私は、戻ってきたアニールブレードを両手で握り締めながら聞いた。

 

「ああ、確かに、やりたくてやってる訳じゃないって感じだったな……でも、詐欺のトリックは確信って訳じゃないからな。これから情報を集めていこう。」

 

「そうですね……明日みんなにも知らせましょうか?」

 

「ああ、そのつもりだ。でも、明日は情報集めは先送りだな…」

 

「えっ?何でですか?」

 

「明日はフィールドボス攻略戦があるだろ?」

 

「あっ……確かにそうですね。」

 

「まあ、フィールドボスの方はそこまで手こずる相手じゃないだろ…まあ、問題はフロアボスの方だな……」

 

「理屈から言っても、一層のボスより強いってことになりますからね……どんなボスなんですか?」

 

「んー……攻撃力はそこまでだけど、ちょっと特殊なスキルを使うんだよな。迷宮区の時間湧きMobで対処法は練習出来るから、それさえやっときゃいいんだけど……」

 

「じゃあ、明日はその練習に当てるんですね?」

 

「ああ。」

 

「キリト先輩、明日の朝7時にウルバスの南門で良いですよね?後でみんなにも知らせておきますから……」

 

「うん、分かった。」

 

「……こ、今夜は夜更かししないで、すぐ寝てくださいね?」

 

「分かってるさ。」

 

「……あ、あと……今回の件はありがとうございました。でも、……勝手に部屋に入ってきたことと、私の……その………下着を見たことについては、許しませんからね?////」

 

そう、絶対に許せませんから……例え、キリト先輩であっても……///!

 

「えっ、いや、その、お、俺はみみみみ見てないぞ⁉︎」

 

往生際悪く誤魔化そうとするキリト先輩に向け、顔を真っ赤にしながらも睨みつけて言う。

 

「……見・ま・し・た・よ・ね・⁉︎////」

 

「…す、すいませんでしたああああッ⁉︎」

 

すると、キリト先輩も観念したのか、悲鳴のような声で土下座をしました。

 

 

 

 

 

 




次回『もーもー天国?』


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もーもー天国

こんにちは!クロス・アラベルです!
16話ができました。今回はそこまで重要じゃないような回です…多分!
それではどうぞ!


私の剣が見つかって3日後、私達はフィールドボス攻略に向かいました。

 

「キリト、僕らは何すればいいの?」

 

「俺たちは湧きmobの相手をするらしいな。本隊に邪魔が入らないように俺たちが他のモンスターをおびき寄せて戦うぞ。」

 

「分かりました……キリト先輩、私たちが相手をするモンスターってどんな感じなんですか?」

 

「いや、別にフィールドボスと変わらない、牛モンスターだ。ボスより少し小さいだけだけどな。」

 

「……キリト先輩、この第二層に来てから牛ばっかりな気が……」

 

「仕方ないだろ?だってこの層のテーマは牛がうじゃうじゃいる岩場と草原なんだから……」

 

そう言葉を交わしている内にフィールドボスの全貌が見えて来ました。30メル向こうにいるのは、トレンブリング・オックスやカウより一回り大きい黒い毛皮を持った巨大な牛でした。

 

「お、大きい……」

 

「……他の牛よりも大きいね……迫力ありすぎだよ。」

 

「…また牛……」

 

「パターンはわかってるよな?最初の牛みたいに足を狙ってくれ。」

 

「……了解。」

 

みんなが一斉に武器を構え、戦闘態勢をとって牛モンスターを見据えた直後、その牛モンスターは私たちに気づいて雄叫びをあげながら突進して来ました。

 

「みんな、行くぞッ!」

 

そして、牛めがけて走り始めました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぶ、ブモォ……』

 

あれから数分後、四体もの牛モンスターを倒しました。

 

「よし、これで本隊も集中して戦えるだろ。」

 

「そうですね……今、前線はどうなっているんでしょうか?」

 

「大丈夫だと思うよ。なんたってアインクラッド初のレイドリーダー…ディアベルがいるんだから。」

 

ユージオ先輩がそう言って、フィールドボスの方は視線を向ける。

 

「ほら、やっぱりね。」

 

そして、前線ではディアベルさんの指揮の元、キバオウさんやリンドさん達がフィールドボスを相手に奮戦しているのが見えました。

 

「……HPケージはもう赤くなるのね…予定より早いじゃない。」

 

「まあな、俺とディアベルの情報があったから思いの外早く進んでるんだろ。」

 

『ブモオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

とその時、フィールドボスの『ブルバス・バウ』が雄叫びを上げ、パーティに突撃を仕掛けて来ました。

 

「A隊スイッチ!B隊、ブロック!」

 

「「「「オオオオッ‼︎」」」」

 

ディアベルさんの掛け声と同時に、軽装の攻撃班のパーティが後ろに下がり、重そうな鎧を身体中に身に纏った重装備の防御班が盾を構えて雄叫びをあげ、突撃して行きました。そして、数秒後。

 

ガァァァアアンッ‼︎

 

激しい衝突音を出しながら、ブルバス・バウの突進を止めました。

 

「A隊、アタック!」

 

叫んで、ディアベル自身もボスに斬りかかって行きました。

 

 

 

その一分後、第二層のフィールドボス『ブルバス・バウ』はディアベルさん達が討伐しました。

 

「凄い息ぴったしでしたね!」

 

「ああ。あれも、ディアベルの指揮力の賜物だな。俺には到底届かないな……」

 

「これからの攻略リーダーもディアベルに任せられるね。」

 

「………なあ、みんな。聞きたいことがあるんだけど……」

 

「……何?」

 

アスナさんが疑うような目でいきなり真剣な顔になったキリト先輩に聞きました。

 

「いや、さ……フィールドボス討伐組のリザーブパーティ……あの玉ねぎみたいなバシネット被った奴がいるあの三人のこと、知ってるか?」

 

「ばしねっと?」

 

「どういうこと、キリト?」

 

「……ば、ばし……?それって赤ちゃん用のベットのことじゃないの?」

 

「……えっと、てっぺんが尖ってる兜だよ。あれあれ。」

 

そういって相手に気づかれないように指を指すキリト先輩。

 

「……知りませんね…あの人たちがどうしたんですか?」

 

「知ってるわよ。あの三人、フィールドボスの偵察の会議中に自分たちも入れてくれって言ってきたんだから。」

 

「……本当か⁉︎」

 

「ええ。」

 

「プレイヤー名とか分かるか?」

 

「えっと……確か、真ん中の人がオルランド、左の槍持ちの人がクフーリンで、両手剣持ちがベオウルフだったかしら……」

 

「オルランド……大層な名前だな…確かフランク王国の騎士だったか…クフーリンが伝説上の英雄で、ベオウルフが……」

 

「確か、イギリスあたりの勇者か何かでしょ?」

 

「ああ。」

 

知らない単語ばかりで、全然わからない……

 

「あの人たち、ギルド名も先に決めてるみたい。えっと…《レジェンドブレイブス》…だったかしら…」

 

「そうか……うーん……どうなんだろうな……」

 

「あの人達、レベルは攻略隊の平均より少し下だけど、武装がかなりしっかりしてるらしくて……いきなり一軍は無理としても、リザーブ……予備隊なら十分だろうって……」

 

「そうか……なるほどな……うぅーーーーん‼︎……」

 

それを聞いてさらに唸る先輩。

 

「何?はっきり言いなさいよ。」

 

「……多分…あいつら、昨日の……ロニエの剣を詐取した鍛治師……ネズハの仲間だ。」

 

「えっ⁉︎」

 

「……そういうこと……」

 

「な、なんでそう言えるの?」

 

「……俺、店を閉めた後のネズハを尾行したんだよ。そしたら、ある店の中に入って言って……」

 

キリト先輩、尾行なんかしたんですか?あんまり危険なことはしないでほしいですね…

 

「……そこに彼らがいたってことね…」

 

「……ああ。」

 

「あ、あの人たちがあの鍛治師さんの……」

 

「「よし、行きましょう。」」

 

「「待て待て待て待て‼︎」」

 

ティーゼとアスナさんがいきなり剣を鞘から抜こうとするのをキリト先輩とユージオ先輩が止めにかかりました。

 

「お前ら、今行ってどうする⁉︎まだ証拠も詐取方法もわかってないんだぞ!」

 

「今行くのは危険すぎるって!二人とも!」

 

「わ、私は大丈夫ですから!お、抑えてください⁉︎」

 

「……甘いわ、ロニエちゃん。」

 

なんだか、黒い……どす黒いナニカを体から放ちながら、アスナさんが言いました。

 

「そうよ、ロニエ!今行かなきゃ、次いつ出くわせるか分からないんだから!」

 

「で、でも……あの鍛冶屋さん……ネズハさんは、私たちが剣を強化しようとした時、『メンテですか?それとも、買い取りですか?』って聞いてきて……なんだか、強化はしたくないって思ってるみたいに……」

 

「まあ、確かにな……自分から喜んでやってるようには見えなかったな……なんというか、やらなきゃいけない…そんな感じでやってるような感じだった。」

 

「それでも、許されないものは許されませんっ!」

 

手をブンブンと降って憤慨しながら訴えるティーゼ。

 

「今は証拠も詐取方法もわかってないって言ってるでしょ?今行っても、否定されたらそこまでだよ?しかも、それが原因で排斥されかねないし……」

 

「で、でも……」

 

そして、ユージオ先輩は少しおどおどしながらも

 

「そ、それに……てぃ、ティーゼには…まあ、なんて言うか、その……みんなに排斥されるのを、僕は……見たくなんかないし……」

 

そう言った。

 

「⁉︎/////」

 

あ、ティーゼが赤くなった。ティーゼが赤くなるのって珍しいよね……

 

「……わかったわ……(まぁ、ティーゼちゃんの可愛いところが見られたからね…)」

 

「ちょ、アスナさん⁉︎」

 

「ふふふ…」

 

「どうしたの?」

 

「な!なんでもありませんッ⁉︎」

 

「……?そうならいいんだけど……これからどうするの?」

 

「フィールドボスが倒せたから次の街『タラン』に行けるからな……ま、そこで色々準備してから迷宮区行くか。」

 

「もう迷宮区に行くの?」

 

「ああ。出来るだけ『あれ』には慣れててほしいからな。」

 

「あ、あれ?」

 

「えっとだな、ロニエ。ボスの使う特殊技に『ナミング・インパクト』って言うのがあるんだ。」

 

「な、なび……え?」

 

「あ!確か、インパクトが衝撃って意味ですよね⁉︎」

 

ティーゼがすかさずキリト先輩に聞く。

 

「お、おう…そうだ。ナミングっていうのは、『麻痺』だったかな……まあ、それがかなり厄介だからな。それを先に練習しておきたいから…」

 

「でも、先輩。ボスの使う特殊技をどうやって練習するんですか?」

 

「大丈夫だよ、ロニエ。迷宮区のモンスターも使うやつだから……まあ、そんなに多くは出てこないけど、一体一体がまあまあ強いからな…」

 

「じゃあ、迷宮区に行くんですね?」

 

「その通りだ、ティーゼ。よし、迷宮区の最寄り街、『タラン』へレッツゴー!」

 

「「おー!」」

 

「お、おー!」

 

ユージオ先輩がレッツゴーの意味がわからないのか、戸惑いながらも返事をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌っ……来ないで……!近づかないで……‼︎」

 

栗色の長い髪を揺らしながら逃げる少女。

 

「ひゃぁあ⁉︎い、いやぁっ⁉︎」

 

左に焦げ茶色の髪に青い瞳の少女。

 

「来ないでよっ!このバケモノっ⁉︎」

 

右には燃えるような紅葉色の髪と瞳の少女。恐怖に怯え、悲鳴をあげる三人。

 

『ブモォォオオオオッ‼︎』

 

大きな足音を立てながら、近づく大きな影。2メルはある赤銅色の肌をした巨体に、頭には二本の角。服は腰に薄い布しか巻いていない。片手には不恰好な両手用の槌。

 

そして、その槌を振り下ろそうとするバケモノ。普通なら次の瞬間、少女達の命は無くなった……と予想するだろう。

 

が、少女達はそのバケモノに向かって右手に持っていたそれぞれの剣を閃かせる。

 

「来ないでって…言ってるでしょッ‼︎」

 

「ああ、もうっ……このッ‼︎」

 

「や、やめてくださいッ‼︎」

 

ズガッズバッザシュッ‼︎

 

爽快な音を立てて少女達の剣はバケモノの強靭な肉体を切り裂き、貫いた。

 

『ブモォォォォ……⁉︎』

 

そして、バケモノ…正式名称『レッサートーラス・ストライカー』は一瞬膨らみ、ガラスのように砕け散った。

 

息を切らしながら少女達は同時に言った。

 

 

「「「あ、あんなの、牛じゃないでしょ(ないですよ)ッ⁉︎」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ!」

 

「はっ!」

 

キリト先輩とユージオ先輩が二連撃ソードスキルを放つ。

 

『ブモォォオオオオッ⁉︎』

 

切り裂かれ、体を仰け反らせ、四散。

 

「ふぅ、みんな、『ナミング・インパクト』には慣れたか?」

 

「確かに慣れたけど……なんだか、あのモンスターには慣れそうにない気がするよ…」

 

「『ナミング・インパクト』には慣れたわ。けど……な、なんなのよ!あのモンスター‼︎気持ち悪いっ!」

 

「そうですよ!何なんですかあの装備っ⁉︎せめて上着を羽織るぐらいしたらいいのにっ!」

 

「そう言う問題なのかな、ティーゼ?」

 

「やっぱり、あのモンスターは……む、無理ですっ!」

 

あんな、体が牛なのに何で、立つんですか⁉︎あれだけは……嫌っ‼︎

 

「……まあ、女子からしたら…キツイものがあるかもな…でも、数をこなせば慣れるだろ。」

 

「いやいやいや、数をこなしてもキツイよ。」

 

キリト先輩の言葉にすかさずツッコミを入れるユージオ先輩。

 

「でもな……ミノタウロスってRPGゲームじゃお約束の敵キャラなんだけど……ほら、ミノタウロスって迷宮『ラビリンス』に閉じ込められたバケモノで、後々勇者テセウスに殺されるだろ?そこが、いかにもゲームらしいって言うか…タウロスのところを英語読みするからトーラス族なんだけどさ…」

 

「……ミノタウロス?でも、それっておかしくない?」

 

目を少し輝かせてそう聞くアスナさん。

 

「え、何で?」

 

「……だってミノタウロスのミノはミノス王のミノなんだから、それはボスに付けられるべきじゃない?」

 

「……じゃあ、雑魚モンスターのトーラス族をミノって省略するのは不適当?」

 

「当たり前じゃない。だって、ミノス王って死んでから地獄の裁判官になったって言うし、怒ると思うわよ。」

 

「ま、マジか……」

 

先輩達の会話についていけないのが、もどかしいですね…

 

「……じゃ、次のブロック行きますかー」

 

「ええ……次行くんですか⁉︎」

 

「当たり前だろ?ボスの特殊技に慣れるにはこいつらしかいないんだよ。」

 

「……」

 

あっ、アスナさん不機嫌過ぎて黙っちゃった…

 

「よし、行くぞー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その2時間後、私たちはあの牛人…トーラス族との戦闘を終了し、拠点である街『タラン』に戻ってきていました。

 

「ふう、戻ってきたね…なんだか、ホッとするよ。」

 

「ああ。そう言えば俺、アルゴの奴に会う約束があるんだけど……みんなはどうだ?」

 

「行っていいんなら行かせてもらうよ。」

 

「じゃあ、行かせてもらっていいですか?お邪魔はしませんので…」

 

「もちろん私も!」

 

「…私もアルゴさんに用事があるから一緒に行くわ。」

 

「お、おう…わかった。それじゃあ…」

 

アルゴさんと約束してる店まで行こう、そう言われて歩き始めた、その時。

 

 

カァアン!カァアン!カァアン!

 

 

金属を叩くような聞き覚えのある、音が響いてきました。

 

「「「「「⁉︎」」」」」

 

全員が驚き、その音の出所に直行しました。

 

「…あれは……ネズハ…」

 

「…あの人が、ネズハ…」

 

「ロニエの剣を詐取したって言う…」

 

「……堂々としたものね…詐欺がバレたって言うのに、こんなところで……」

 

「で、でも、警戒した証拠じゃないですかね?一時的にこのタランの街で商売をするつもりとか…」

 

「それで、また人の剣を詐取しようってこと?」

 

「いや、一時的に控えるはずだと思うぞ。あと、攻略組の奴らの武器は詐取しないはずだ。」

 

「なぜそんなことが言えるの?」

 

「多分そのレジェンドブレイブスの奴らは攻略組に仲間入りしたいはずだ。なのに、そんな奴らの武器を詐取なんかしたら攻略組に入れないだろ?」

 

「…確かにそうだけど…」

 

「現時点で証拠もトリックもわかってないんだ。今はやめておこう。」

 

「わかりました。証拠とかが諸々わかったら問い詰めに行きますよ⁉︎」

 

「分かった分かった…さあ、アルゴのところに行くぞ。」

 

 




次回『新たな出会いは唐突に』


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新たな出会いは推理の後で

お気に入り100人突破しました!クロス・アラベルです!
今回はあの人が登場!
それでは、どうぞ!


○○○

 

 

 

 

 

ここはあるお店。そして、私たちはアルゴさんも加えて第二層迷宮区到達の祝杯をあげることになりました。

 

「それじゃあ、第二層迷宮区到着を祝って……」

 

「「「「「「乾杯‼︎」」」」」」

 

ガチャン!

 

「いやァ……5日で迷宮区到達カ……結構早かったネ…俺っちもここまで極端に早いとは思ってなかったヨ!」

 

「ああ、そうだな。第一層じゃかなり時間かかったもんな…」

 

「ここまで来れてよかったね……」

 

「攻略組でもレベルの高い方が多いですからね…」

 

「いや、レベルの問題じゃないからネ…レベルっていうのはあくまでクリア可能って言うだけダ。」

 

「……そう言えば、βテスト時代は二層のボスって何回ぐらいで討伐出来たの?」

 

「んー…βテストの頃はレベル4、5ぐらいでで無謀なチャレンジしてたからな。10回くらいはワイプ……壊滅したんだ。ボスを倒した時はレベル7くらいだったか?」

 

「ふぅん……今回の攻略だと平均レベル10は行くわね。」

 

「まあ、それくらいは行くだろ……でも、そこらへんの雑魚モンスターの常識はフロアボスには通じないからな。ディアベルもあの時、俺とレベルが大差なかった。あの時、俺が13でディアベルは12だったか……なのにたった一撃でHPゲージが半分以上持っていかれた。」

 

「…確かに……あたしたちが食らってたら……そう思うとゾッとしますね。」

 

「ああ。それに、この層はただレベルが高いだけじゃ駄目なんだ。」

 

「キー坊の言う通りだナ。この第二層のボスじゃ、武装の強化が最重要だからネ…」

 

「そうなんですか?」

 

「今回のボスは特殊技でプレイヤーをスタンさせてくるかラ、対スタン用に強化しといた方が心強いだろーナー…」

 

「……う…」

 

少し苦しそうな顔で呻くキリト先輩。

 

「どうしたんですか、キリト先輩?」

 

「……いや、何でもないよ。それより……アルゴ。これ、第二層の迷宮区の6階までのマップデータ。」

 

「いつも悪いナ、キー坊。情報料ならいつでも……」

 

「マップデータで商売する気はないよ。これがなかったせいで死んだ奴がいたら、寝覚めが悪いからな…」

 

「キリト先輩……」

 

「でも、今回は情報料として、条件付きの依頼を頼みたいんだが……」

 

「ふぅン…まァ、おねーさんに聞かせてみナ?」

 

アルゴさんがその……何と言うか…年上のお姉さんっぽくキリト先輩を見ました……

 

「「………」」じとー…

 

「……ええっと…アルゴも知ってるだろうけど……フィールドボス討伐に参加してた、『レジェンドブレイブス』っていうチームの情報が欲しい。メンバー全員の名前と結成の経緯。」

 

先輩は私とアスナさんの鋭い視線から逃げるように言いました。

 

「ふム……条件ってのハ?」

 

「…お前の情報屋としてのモットーに反するのはわかってるけど……誰にも彼らの情報を欲しがってるのを知られたくない。特に『レジェンドブレイブス』のメンバーには。」

 

「ん〜……ンン〜〜〜〜……」

 

アルゴさんはそれを聞いて、暫く悩むような仕草をした後、

 

「ま、いいカ。」

 

とあっさり承諾しました。その後に

 

「でも、これだけは覚えておいてくれヨ?オネーサンが商売のルールより、キー坊への私情を優先したってことをナ。」

 

と、意味深なコトを言いました。

 

「「……」」めらッ

 

「⁉︎」

 

……まさか、アルゴさんも?

 

「それで、アーちゃん達もオレっちに何かようなのカ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その十分後。私達はタランの町の東広場のとある家の二階に向かいました。

 

そこは、この世界で作られた人『NPC』専用の家……私達が買うことは出来ないんだそうです。

 

何故私達がそこに集まったか………それはそこに泊まるわけでもなくアイテム配分でもない……『監視』をするためです。

 

 

 

 

「なかなか良いアングルね。」

 

「アスナさん、アングルって何ですか?」

 

「アングルっていうのは英語で角度って意味があるの。」

 

「アングルは、角度……ありがとうございます!」

 

「キリト、ここで良いの?」

 

「ああ、ここがベストポイントだ。」

 

「一番良い場所って意味ですね!」

 

「あ、ああ……まあ、監視の前に飯を食おう。腹が減っては戦は出来ぬっていうしな。」

 

「ただキリトがお腹空いただけだろう?」

 

「……そうだけど…はい、みんな。これ、食べてくれ。」

 

そう言ってキリト先輩が出したのは少し大きめの白い饅頭でした。

 

「……なにこれ?」

 

「えっと、ここに来る途中にあった店で買ったんだけど…確か、タラン饅頭だったか…」

 

「キリト、中身は?」

 

「…んー……肉まんならぬ牛肉まんじゃないか?」

 

「えぇ……あの牛男の…ですか?」

 

「んなわけないだろ⁉︎」

 

「そんなこと言わないでっティーゼッ⁉︎」

 

「……それじゃあ、頂きます。」

 

「じゃ、あたしも…」

 

「い、頂きます!」

 

さっきティーゼが言ったことは忘れて、牛肉まんを一口…

 

「うにぁあ⁉︎」

 

「きゃあ⁉︎」

 

「ひゃぁあ⁉︎」

 

「「ど、どうした(の)………⁉︎」」

 

かぶり付いたら、中から何やら白いクリームのようなものが飛び出てきました。それがが、顔に、首に……

 

「んんっ……」

 

「……温かいクリームの中に、何か甘酸っぱい果物が……」

 

「……おぃ、ひぃ……」

 

三者三様の反応をし、タラン饅頭を食べる私とアスナさんとティーゼ。

 

「…………」

 

「…………」

 

私達が食べ終わったと同時に黙ってタラン饅頭を机の上の山に戻すキリト先輩とユージオ先輩。

 

「…キリト君、もし…もし君がβテスト時代に食べてて、ホントは中身を知っていたのに言わずに私に食べさせたんなら…私、自分を抑えられる自信無いわ。」

 

凄い声音で凄みを利かすアスナさん。

 

「キリト、本当のことを言った方がいいよ。勿論、僕は知らなかったからね?」

 

「誓って知りませんでした、ホントに、絶対、アブソリュートリィ。」

 

「ホントですかね?」

 

「……怪しいものがあるけど……」

 

「ん、んんんんっ!………」

 

す、凄い……美味しい……けど、クリームが出て来るのはちょっと……しゃ、喋れない……

 

「ほ、ほら、これ使えよ!」

 

「ハンカチ?」

 

「準備良すぎるような気が……」

 

「いつもポケットに入れてるんだよ!ほら、ユージオも!」

 

「あ、うん…はい!」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

キリト先輩とユージオ先輩にハンカチを貸してもらい、クリームをふき取ってもう一度、タラン饅頭をチラッと見る。その時には熱々で湯気が出ていたタラン饅頭は、もう冷めていたようで湯気は出ていませんでした。そして、キリト先輩とユージオ先輩がタラン饅頭を一口。

 

「……普通に、美味い。」

 

「……確かに美味しいね!クリームは飛び出ないけど…何で?」

 

「冷えたからじゃないか?」

 

「……ご飯というより、おやつ感覚ですね。」

 

「確かに、デザートって言った方がいいわね……これから見張りをする時には食事は自作することにするわ。二度と変なもの食べさせられたくないから。」

 

「へ、へぇー…それは楽しみだなぁ…」

 

「……何もあなたの分を作るなんて言ってない。」

 

「……ハイ…」

 

「えっと、私は作りますよ!」

 

「勿論あたしも!」

 

「……よかったね、キリト。」

 

「お、おう……その優しさが突き刺さるような気が…」

 

涙を流しながら、呟くキリト先輩。

 

「よし、みんな。監視を開始するか!」

 

「そうだね。」

 

監視を始めましたが…三十分経っても

 

「今は……お客さんはいないみたいですね……」

 

「まあ、もう夜だし、お客さんがいないのも仕方ないんじゃないですか?」

 

「……みんな!誰か来たわ。」

 

「「「「!」」」」

 

アスナさんの声で、外を見てみるとネズハさんのお店へ走って行く人がいました。

 

紫色の防具とコート、そして腰にはアニールブレードぐらいの片手剣。長い紫色の髪を持つプレイヤーは女性だということを示しています。背丈は私より少しだけ低いぐらい…かな?

 

「あれって、普通のプレイヤーか?攻略の時は見なかったやつだな。」

 

「しかも、女の子ですか…」

 

「珍しいわね…攻略組の女子って言ったら、私とロニエちゃんとティーゼちゃんとナギちゃんだけだと思ってたわ。」

 

「あの剣……確か、『カルサイト・ソード』だっけか…」

 

「か、かるさいとって何ですか?」

 

「…えっと…何だっけ……」

 

「カルサイト……どこかで聞いたような……」

 

「あたしも聞いたことありませんね……」

 

ティーゼは聞いた神聖語をノートに書いて覚えていて物知りなので、ティーゼが知らないっていうことは私もユージオ先輩も知らないって事です。キリト先輩も知らないし…

 

「……Calcite!そうよ!Calcite。方解石!」

 

「ほ、方解石?」

 

「ええ。どうやって割っても平行四辺形になる鉱石よ、確か。」

 

「へぇ……まあ、その『カルサイト・ソード』はこの二層のマロメのあるクエストの報酬アイテムなんだ。確か、早ければ早いほどいいアイテムが貰えるらしい。『カルサイト・ソード』は一番いい報酬アイテムだった筈だ。」

 

「……ターゲットにするには充分ね。」

 

「ああ、あとは強化か、メンテか…」

 

その女の子はネズハさんに依頼して、何かが入った袋が渡しました。

 

「袋を渡したってことは…」

 

「強化だ!」

 

「左手よ!左手から目を離さないで!」

 

「はい!」

 

強化が始まりました。左手に持った剣は鞘に入れられたままで何もされていません。右手で強化素材を熱すると、それが青く光りました。その瞬間、()()()()()()()()()()()()ように見えました。

 

「今、…」

 

「……剣が…」

 

「……あの瞬間に詐取が完了してるっていうのか……どうやって詐取してるんだ?」

 

「……剣が一度明滅しましたね……あの一瞬で詐取出来る方法……」

 

そして、強化は続き、剣を強化素材と一緒に槌で叩かれ……7、8、9、10回目……みんな剣が砕け散る所は見ることが出来ませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何でネズハは……《レジェンド・ブレイブス》は強化詐欺なんかやろうと思った……いや、実行出来たんだろうな……」

 

「……キリト、どういう事?」

 

「だってさ、武器のすり替えのトリックを思い付いたとしても、《システム的に可能》と《本当に実行する》の間には相当高いハードルがあるはずだろ?SAOはただのネットゲームじゃない、本物の命がかかったデスゲームだ。他人の武器を騙し取るなんていう明確な悪事を働いて、もしそれがバレたら、その時何が起きるか想像出来ない筈なのにさ……」

 

「……想像………した上で、()()()()()()()()()()()()()()のかもね。」

 

「あ、アスナさん…どういう事ですか?」

 

「論理的な問題に目を瞑れば、実際のハードルって、バレた時に命の危険があるってことだけでしょう?なら……バレる前に、この世界の誰よりも強くなってしまえば、その危険も排除出来る……圏外で襲われても、返り討ちに出来るくらい強くなればね……《レジェンド・ブレイブス》の六人……いえ、5人は多分もうその状況からあんまり遠くない所にいるわ。」

 

アスナさんの言葉を聞いた途端、鳥肌が立ったような気がしました。

 

「お、おい、やめてくれよ!悪事を厭わない連中が最前線組までぶっちぎるほど強くなったら……それってもう……」

 

「……まるで、()()()()()()って事になっちゃう……ね……」

 

その言葉は、ユージオ先輩にとって過去の、セントラル・カセドラルでの最高司祭アドミニストレータとの決戦が思い出してしまったのか、ユージオ先輩は引き攣ったような顔をしました。

 

「………ごめん、ロニエ。俺、今ようやく、この一件がマジで大事だって気付いた…」

 

「えっ?そ、そんな!キリト先輩が謝ることは無いですよ!」

 

「この事件を解決するには、やっぱり本人の前で直接証明するしか無いしね……」

 

「……でも、ネズハさん自身がやりたくてやってる訳じゃないような気がするんです……」

 

「確かにな……」

 

「……あのカーペット、どんな機能があるの?」

 

アスナさんがネズハさんのお店にあるカーペットを見て、言いました。

 

「あのカーペットは独自のポップアップメニューがあるんだ。カーペットの上にあるアイテムをカーペットの独自のポップアップメニューに一気に入れられるんだ。」

 

「………そう…」

 

「そういえば、妙に武器が()()()()並んでるね…なんだかんだ言って()()()()()()()()()()くらいだよ。」

 

「ああ。」

 

「……キリト君、あのカーペットの機能を使って詐取出来ない?」

 

「いや、多分無理だ。あのカーペットの機能は、アイテムを収納すると、一つ残らず入っちゃうからな…剣一つだけを入れて出すなんて無理だし…普通、武器を変える……この場合、アイテムをすり替えようとしたらウインドウを開いて、装備フィギュアの右手セルをタップして、表示されるオプションの中から《装備変更》をえらんで、更に表示されるストレージ窓から変えたい武器を探し出して選択してOKボタンを押すって言う長ったらしい手順を踏まなきゃならないんだ。……慣れた奴でも最低一秒以上はかかるだろうな……」

 

「……素早く、武器を変える……()()()……()()()……?」

 

何度もそれだけを呟くティーゼ。

 

「てぃ、ティーゼ?」

 

そして、

 

「……あ、あああああああああああああああッッ⁉︎」

 

いきなり叫び出しました。

 

「「「「⁉︎」」」」

 

「あった!素早く武器を変える方法!ありましたよ!先輩!」

 

「お、おう!その心は?」

 

ちょっとびっくりしながらティーゼに聞くキリト先輩。

 

「アレですよ!アレ!()()()()()()という意味でっ、『クイックチェンジ』!」

 

「!……そういうことか!」

 

「えっ⁉︎クイックチェンジって、確か……」

 

「MOD……だったかしら?でも、鍛冶屋が取れるものなの?」

 

MOD…確か戦闘スキルの熟練度を一定の値まで上げると、習得出来るものでしたってけ……

 

「ああ!ネズハは何かしらの戦闘スキルを持ってて、そのMODを取ってたんだ!だとしたら、全部上手くいく!手順としてはメインメニューを開いて、ショートカットボタンを押せば、ショートカットに設定した武器が一瞬で装備できる!しかも、《クイックチェンジはアイコンを押した時どちらの手にどんな武器を装備するか》をいろんなオプションから凄い細かく設定できるんだ!装備対象を特定の武器に指定することも……それに、直前に装備していたものと同種の武器をストレージ内から自動的に選択することも出来るんだよ‼︎」

 

キリト先輩にしては珍しく饒舌に説明してくれました。

 

「でも、待ってよ。ネズハは人からアイテムを…えっと……システム的に手に入れる訳じゃないから、無理なんじゃ…」

 

「違うんだ、ネズハは客から預かったもの……アイテムストレージに入っていなくても、左手で握ることで一時的だけど《左手装備状態》になるんだ。所有権の方はもちろん客にあるんだけど、戦ってる途中に仲間と武器の貸し借りした場合の《武器手渡し状態》と同じでそのままソードスキルを発動させることも出来るし、クイックチェンジを使うことも出来るんだ!」

 

「……そのメインメニューはどこに開いてるんですか?流石にメインメニューを開いていたら、バレませんか?」

 

「……それは……」

 

「……キリト、メインメニューをあの赤いカーペットと商品の武器の間に隠せない?」

 

「それ頂きっ、ナイスユージオ!これで全部辻褄があう……」

 

その時、キリト先輩の目の前に鈴の音を鳴らしながら紫色の板……じゃなく、メッセージが出て来ました。

 

「…!もう調べて来たのか……ったく、頭が上がらないな……」

 

「もしかして、アルゴさんですか?」

 

「ああ、頼んでた情報だろう。ちょっと待ってくれよ、今可視化するから……ほい。」

 

そう言って可視化ボタンを押したのか、メッセージが見えるようになりました。

 

「……お取り急ぎ、第一報……」

 

そこに書いてあったのは、『レジェンド・ブレイブス』のメンバーの情報。リーダーのオルランドさんから、鍛冶屋のネズハさんの情報まで…レベルや名前の由来、アビリティ……能力の構成などなど……この短時間でどうやって調べるのか不思議に思えて来ます。

 

「あれ?名前の由来とか頼んでたっけ?」

 

「私が頼んでおいたのよ。みんな、神話とか伝説上の勇者の名前みたいだったし、正確な情報が欲しかったの。」

 

「へぇ……」

 

「…えっと、ネズハは……」

 

そして、ネズハさんの名前の由来に書いてあったのは、意外なことでした。

 

『『『っ⁉︎』』』

 

「ま、まさか、そういうことだったのか⁉︎」

 

「…Nezhaってこう読むのね……」

 

「……あたしもてっきり、普通の名前だと思ってました……」

 

「……なたく……哪吒(ナタク)…………英雄の名前だったんですね……」

 

 

 

 

 

「……でも、キリト先輩。どうやって証明するんですか?」

 

「…証明するには、やっぱわざと引っかかってこっちもクイックチェンジを使って出して、本人に見せるしかないか……」

 

「キリト。肝心のクイックチェンジっていう奴を習得してるのかい?」

 

「……忘れてた…」

 

「……私が行くわ。クイックチェンジなら、あの牛男狩りの時に習得したし。」

 

その時、アスナさんが一人手を挙げてそう言った。

 

「えっ⁉︎い、いいんですか、アスナさん⁉︎」

 

「ええ……こっちの思い過ごしなら謝るけど…私はロニエちゃんとティーゼちゃんのことは友達だと思ってるわ。友達が困っているなら助けるのが、友達ってものだと思うの。」

 

「あ、アスナさん……!」

 

「よ、よし!これで決まりだ!行くぞ!」

 

「「はい!」」

 

「「了解!」」

 

そして、この詐欺事件解決のためにネズハさんのお店に向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスナ、一旦一人で行ってくれ。詐取されてクイックチェンジを使ったら俺たちも行く。俺とロニエは顔が割れてるはずだからな…」

 

「分かった。」

 

「それで俺たちでお店の近くで隠れていよう。逃げられないように…まあ、何だか逃げないような気はするけどな…」

 

アスナさんはフードを目深くかぶってネズハさんのお店に向かおうとした、その時。

 

 

『うう……まさか武器が壊れるなんて…思ってもなかったなぁ…』

 

 

女の子の声がネズハさんのお店の方から聞こえました。

 

『早く武器を手に入れないと不味いよ!早く行……』

 

そこにいたのは、紫の長い髪の女の子。さっき、ネズハさんに武器を騙し取られた人でした。そして、アスナさんを見て、言葉が止まりました。

 

『……ぁすな?』

 

「えっ?」

 

『……アスナだ……アスナだっ…………あすなああああああああああッ⁉︎⁉︎』

 

その女の子は叫びながらアスナさんに抱きつきました。

 

「えッ⁉︎ちょっ……」

 

『うわぁぁぁぁああああ‼︎あすなああああああああああ⁉︎』

 

涙を流しながら、アスナさんに抱きついています。

 

「あ、アスナ…知り合いか?」

 

「…知らないけど……」

 

「にしても、アスナの名前を知ってるのは何で……」

 

「……よし、よし…」

 

アスナさんはその女の子を抱いて、頭を撫でてあげました。女の子が泣き止むまで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっ…うう……ぐすっ…』

 

「……どう?落ち着いた?」

 

『うん……うん!あり、がとう、アスナ!』

 

泣き止んだ女の子はアスナさんに向かって笑顔を見せました。

 

「なあ、アスナを知ってるのか?」

 

『へっ?知ってるも何も、一緒に()()()()()仲だよ、キリト?』

 

その子はいきなり突拍子も無いことを言いだしました。

 

「はあ?ボス戦?……第一層のボス戦に参加してたのか?」

 

『え?い、一層?何言ってるの?2()5()()だよ。』

 

「に、25層⁉︎」

 

「…まだ第二層よ?そんな25層だなんて…」

 

「……あ、そうか!他のゲームか、驚かさないでくれよ。」

 

『ええ…何言ってるの?アスナ、ボクだよ!ユウキだよ!キリト、覚えてないの?()()()()()()()()()()のこと!』

 

詐欺の推理の時でさえ神聖語ばかり飛び交っていたのに、余計知らない神聖語が…ティーゼはうずうずしてるけど…

 

「「………⁇」」

 

キリト先輩のことを知っている…アスナさんのことも……

 

「じゃあ、ユージオ君たちのことも知ってる?」

 

「ユージオ?誰それ?」

 

「あ…えっと、僕のことなんだけど……」

 

「あ、ごめんね…知らなかった…」

 

ユージオ先輩のことは知らない……もしかして…

 

「私はロニエって言います、よろしくお願いします。」

 

「あたしはティーゼよ。よろしくね?」

 

「うん!よろしくね!」

 

「…俺のことも知ってるのか…」

 

「キリト、ちょっとユウキと話していい?」

 

「え?まあいいけど…」

 

「ユウキ!ちょっといい?」

 

ユウキさんを手招きするユージオ先輩。

 

「何?」

 

「えっと…今ね…」

 

 

 

 

〜ユージオ説明中〜

 

 

 

 

「えええええええッ⁉︎」

 

また、驚いて大声をあげるユウキさん。

 

「し、しー!」

 

「あの、これはキリト先輩たちには内緒の話なんで…」

 

「まあ、話しても信じないと思うんですけどね…」

 

「……そっか…まあ、アインクラッドって聞いた時点でおかしいとは思ってたけど…」

 

やっぱりアインクラッドのことは知っているみたいです。

 

「そういうことだから、よろしく頼むね?」

 

「うん、分かったよ。」

 

「おーい、話は終わったか?」

 

「ああ、終わったよ。」

 

「えっと…じゃあ、改めて自己紹介しないとね!」

 

「おお…」

 

 

 

「ボク、ユウキって言うんだ。よろしくね、五人とも!」

 

 

 

 

 




今年はかなり投稿ペースが落ちてしまいます。でも、早く投稿出来るように頑張ります!皆さんも気長にお待ち下さい…
今回はユウキの登場でした。さて、ユウキはアインクラッドに何をもたらすのか……
次回は原作要素が溢れ出るッ!
というか、オリジナル要素が極端にない…


次回『鍛冶屋の儚き真実』




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少年の儚き真実

クロス・アラベルです!
すごく遅れてしまいましたが、これからもできる限り、投稿ペース上げていけたらなと思うます。というわけで、今回は詐欺事件の終わりです。原作にすごく助けてもらいました。
それではどうぞ!


 

 

 

 

 

「ウインド・フルーレの武器の強化をお願いします。」

 

 

 

 

 

11月25日、夜9時半。ユウキさんの詐取されたカルサイトソードを例のオプションで取り戻した後、第二層のタランの街の東広場でアスナさんはネズハさんに武器の強化を依頼しました。

 

「は、はい。種類の方は…」

 

「正確さでお願いします。」

 

「…分かりました、武器をお預かりします。」

 

そう言ってアスナさんのウインドフルーレを受け取るネズハさん。

 

「プロパティを確認させて頂きます…よろしいですか?」

 

その問いにアスナさんは無言で頷く。

 

「……!凄い…+4ですか…しかも、2A1D1S…ここまでよく強化出来ましたね…」

 

「強化素材は90%分使ってください。」

 

ネズハさんは顔を歪めながら、商品棚にある強化素材を取り出しました。

 

「……分かりました…」

 

私たちはネズハさんのお店の後ろにある建物の両端で丁度見えないくらいの所から見ています。

 

「えっと、手数料と素材料込みで……二千五百コルになります…」

 

「……お願いします。」

 

アスナさんは料金を払って強化が始まるのを待っています。

 

アスナさんのウインドフルーレを鞘に入れたままの状態で左手で持ち、携帯炉に強化素材を入れて加熱すると大きな音と同時に緑色に輝きました。キリト先輩の推理があっているのならあの瞬間に詐欺が行われていると言うことですが……私達のいる場所からはギリギリ見せません。

 

パリィィィィイインッ!

 

そして、槌でウインドフルーレを叩き始めて、10回目。剣が砕け散った音が聞こえました。

 

そして、ネズハさんが立ち上がり謝罪の言葉とともに頭を下げる、その直前、アスナさんは落ち着きを払った声で静止しました。

 

「いえ、謝らなくていいです。」

 

「…えっ……」

 

そして、アスナさんが消さずに残していたメインメニューにあるクイックチェンジのショートカットボタンを押し、控えめな音が聞こえた直後、私たちはアスナさんの元へ向かいました。

 

「……っ‼︎」

 

私達の顔を見て驚きを隠せないネズハさん。

 

「あ、あなたは…あの時の…」

 

「ああ…待ち伏せみたいな真似して悪かったな…そうじゃないと、これは解決しないんだ。」

 

「……‼︎」

 

ネズハさんは下がった眉を八の字に曲げ、顔を歪めて私達を見ました。

 

「……驚いたよ、アインクラッド初の鍛冶屋がこんなに早くクイックチェンジのMODを取ってるなんて…まあ、誰も気づかないよな…その上、クイックチェンジの発動に必要なメインメニューを商品とカーペットの間に隠すのアイデアも見事なもんだ……このトリックを考えた奴は、正直天才だと思うよ…」

 

その言葉を聞いてネズハさんは顔を伏せ、肩を震わせています。

 

「……謝って、許されることじゃない…ですよね…せめて騙し取った剣をお返し出来ればと思ったんですが…それも出来ません。全て売って、お金に変えてしましました…僕に出来ることは……これくらいしか……ッ‼︎」

 

最後は半ば叫ぶように言ってふらりと立ち上がり、右手から槌………スミスハンマーが滑り落ちてしまいましたが、それには目もくれず走り出しました。

 

ですが、走ったのはほんの数メルだけでした。なぜなら、ネズハさんの行く手からユージオ先輩達が来たからです。ティーゼの隣にはユウキさんもいます。

 

「………死んじゃダメだよ。君が死んでも、何も変わらないよ?」

 

ユウキさんを見て、また驚いて声にならない呟きが漏れる中、ユウキさんはネズハさんに諭すように言いました。

 

「……僕、この詐欺が誰かにバレたら、その時は死んで償おうって、決めてたんです。」

 

「今のアインクラッドでは自殺は詐欺よりも重い罪よ。強化詐欺は依頼人への裏切りだけど、自殺はこの世界を終わらせようとして戦っている全プレイヤーを裏切る行為なんだから。」

 

「……ッ‼︎」

 

あ、アスナさん……鋭すぎですよ……

 

「…自分も自殺しようとしてたのに。」

 

「な・に?」

 

「イエ、ナンデモアリマセン。」

 

「キリト先輩、おふざけはそこまでにしてください!」

 

「わ、わかったって…」

 

「こう言う時にふざけるのは流石に良くないよ、キリト。」

 

「……おう、反省する。」

 

と、いつも通りのお笑いのような会話をした時、ネズハさんがくしゃくしゃに歪んだ顔を私たちに向け、何か思い出すように言いました。

 

「あ、あなたは……もしかして、アスナさんですか?」

 

「えっ?」

 

「それに、ロニエさんとティーゼ、さん?」

 

「「ええっ?」」

 

「し、知ってるのか?」

 

「…はい、攻略組の中でも数少ない女性プレイヤーですから……噂になってますよ。」

 

「……じゃあ、俺の事も…?」

 

「…えっと……黒髪に黒い目…真っ黒装備………あ!も、もしかして、キリトさんですか?」

 

「……そだけど……」

 

「二人でボスにとどめを刺したって聞きましたよ。もう一人の、えっと…そう、あなたですよ、ユージオさん。」

 

「ぼ、僕も?」

 

「……はい。」

 

「僕も、あなた達みたいに…なりたかったですが……」

 

「………!」

 

「その他にも何か目指していたものがあるんじゃないの?目指すべき………そのために戦うべき何かが。だって、そのために始まりの街を出たんでしょう?」

 

アスナさんの言葉にネズハさんはまた顔を伏せ、静かに言いました。

 

「……確かに、目指していたものは、ありました………でも、それも、潰えてしまいました。」

 

「………FNCか…」

 

「……………はい。」

 

えふえぬしー?なんのことか、さっぱり……

 

「……とにかく、立ち話もアレだ。どこか喫茶店にでも行こう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キリト、それで、えふえぬしーっていうのは何?」

 

とある喫茶店に入り、席についてユージオ先輩が単刀直入に聞きました。

 

「……フルダイブ不適合……ナーヴギアの自動調整機能の初回の設定を決めると、次からは即ダイブが出来るんだけどな……俺たちはちゃんと五感が機能してるだろ?でも、かなり稀なケースとして、自動調整で『不適合』が出ることがあるんだ。」

 

なーゔぎあ、ふるだいぶ、自動調整機能……全然わかりませんね…

 

「……不適合……何が不適合なんですか?」

 

「五感のどれかが正常に働かないんだよ。運が悪いとフルダイブさえも出来ない。」

 

コヒル茶と似たようなもの…(ここでは、『コーヒー』と言うそうです)を飲んでキリト先輩が答えてくれました。

 

「……その通りです、キリトさん。僕は、聴覚、嗅覚、味覚、触覚…その4つは正常に働くんですが、肝心の視覚に問題が出てしまって…見えないわけじゃないんですが、…両眼視機能……つまり、遠近感覚、奥行き感がよくわからないんです。アバターの手と、その向こうのオブジェクトが、どれくらい離れているかがよく分からない……このカップをソーサーに戻すことも、ましてやごく短いスミスハンマーで叩くことさえも僕にとっては難易度高いんです…」

 

「……君が強化の手順をものすごく丁寧にこなしていたのはそれが理由か…」

 

私達は剣や槍、斧などを使って戦っています。神聖術が使えないこのアインクラッドでは、視覚は一番大切なもの。特に遠近感覚は敵や物との距離感が分からない……って言うことは…

 

「遠近感覚が働かないってことは……()()()()()()じゃない⁉︎」

 

ティーゼは私と同じ考えに達したようで、大声をあげました。

 

「……僕が言うのもなんですけど、よく、すり替えのトリックを見破りましたね。しかも、今日じゃなくて、昨日……ロニエさんのアニールブレードを遠隔回収した時にはもう気づいていらっしゃったんですよね?」

 

「あー…まあ、あの時は『まさか』ぐらいにしか思ってなくてさ。気づいた時には1時間の所有権持続リミットがギリギリだったから、宿屋のロニエの部屋に突入して完全オブジェクト化コマンドを使わせたら(バシッバシッバシッバシッ!)お、おおう……ごめんっ⁉︎」

 

………何から何まで言わないでほしいですね。

 

「そしたら、剣が戻ってきたからさ。それで詐欺の存在は確信したんだけど…手口………クイックチェンジを使っていたって言うことに気づいたのはついさっきさ。これだって確信したのは君の名前だよ、ネズハ………いや、『()()()』。」

 

「‼︎」

 

その自分の真の名前を聞いて、鋭く息を呑み、キリト先輩を見ました。

 

「……まさか、そんなことにまで気づくなんて……」

 

「まあ、ここのあたりは情報屋の人に頼んで調べてもらったんだ。キリトもそこまで知ってるわけじゃないみたいだしね……」

 

「しかも、君の仲間…『レジェンド・ブレイブス』の5人も君のことをネズオって呼んでたからさ……あれはつまり、彼らも知らないってことだよな?ねず………じゃ無かった、『ナタク』の名前の由来を……」

 

「ネズハで良いですよ。元々そう呼んでもらうつもりでしたから……」

 

ネズハさんは悲しそうに、そう言ってこくりと頷きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

哪吒……正しくはナーザ、または、ナタ太子と呼ばれる少年の神だそうです。詳しくは私も呼んでいませんが……

 

「……レジェンド・ブレイブスはこのソードアートオンラインが始まる前、ナーヴギアが発売された後に出た他のゲームでのチームなんです。ダウンロード専用のロープライスゲームで、一本道のマップの先から出でくるモンスターを剣とか斧で倒しまくって、得点を競うだけの単純なゲームだったんです。……でも、僕にとって、それだけでもすごく厳しかった…奥行き感が分からないせいで武器を空振るばっかりで……いつまでたってもチームのランキングは上がりませんでした。別に僕らはリアルで知り合いだと言うわけでもないですから、もう、抜けた方が良かったのかもしれません……でも、みんなが抜けてくれって言わないのを良いことに、僕はチームに居続けました。」

 

「……」

 

キリト先輩達は黙って見守るように聞いています。

 

「……なぜなら、後もう少しで『ソードアートオンライン』の世界に来たかったからなんです……アインクラッドだけは行っておきたかった……みんなとソードアートオンラインをプレイすることを約束してたので、みんなと一緒に行けば、強くなるんじゃないかって………」

 

ネズハさんは少しためらいながらも続けました。

 

「僕は前のゲームでは誰でも知ってるような『オルランド』とか、『クフーリン』みたいな英雄の名前を使っていたんです。それを『Nezha』に変えたのは……言うなら、オルランド達への追従、おべっかです。みんなみたいな英雄の名前は使わないから、仲間のままにしておいてくれって…みんなに由来を聞かれた時は本名のもじりだって言いましたが、嘘です。みんなにネズオ、ネズオって呼ばれながらも内心では僕の名前も英雄なんだぞって、思ってたんです……ほんと、どうしようもないですよね…」

 

「でも、SAOがデスゲームになって、状況が変わったのね?あなたはフィールドに出るのをやめて、生産職になった。」

 

「まあ、鍛冶屋なら戦わなくても仲間に貢献できますからね。それで、なんであんたはそこから詐欺にまで飛躍したのよ?それに、詐欺のアイデアは誰のなの?あんた?それとも仲間のオルランド?」

 

厳しい口調でネズハさんを問い詰めるティーゼとアスナさん。……ちょっと言い過ぎじゃないですか?」

 

「…僕でも、オルランドでも……他の仲間でもないんです。」

 

「「ええっ?」」

 

「…実際、僕は始まって二週間は戦闘職を目指していたんです……このSAOには唯一遠隔攻撃が出来るスキルがありますから…遠近感覚がなくても、戦えるんじゃないかって……」

 

「……《投剣》スキルか……でも、あれは…」

 

「……はい…始まりの街で一番安いナイフを買えるだけ買って、スキルの修行をしたんですけど、ストックを投げ終わっちゃうと、何も出来ないし、かと言ってフィールドに落ちてる石じゃダメージが低すぎて、メインで使えるスキルじゃなくて…熟練度50まで上げたところで諦めちゃったんです。しかも、ブレイブスのみんなも攻略組に乗り遅れちゃって……」

 

……私達があまりにも早く攻略を進めていたせいで、そんなことが……

 

「……僕が《投剣》スキルの修行を辞めるって決めた時の話し合いは、かなり険悪なムードでした。誰も言わなかったけど、みんなはギルドに僕を抱えてるせいで攻略組に遅れてしまった…鍛冶屋に転向すると言っても、生産職のスキルの修行は何せお金かかりますからね。『いっそ、こいつを始まりの街だ置いていこう』、誰かがそう言うのをずっと待っていた状況でした。」

 

ついに、この詐欺事件の仕掛けを教えた誰かが分かりそうですね……

 

「そしたら、それまで酒場の隅っこでNPCみたく全然動かなかったプレイヤーが近づいてきて、『そいつが戦闘スキル持ちの鍛冶屋になるなら、すげぇクールな稼ぎ方があるぜ?』ってそう言ってきたんです。」

 

「…!」

 

「そいつの装備は?」

 

「……えっと…真っ黒なフーデットケープを着てました。なんだか、雨合羽みたいでしたよ。」

 

「雨合羽……つまり、私と同じようなものね?」

 

「は、はい……色は違いますけど……」

 

アスナさんの着ている外套のようなものを、着ていた……

 

「その雨合羽の男、マージン……見返りで何か…コルか、詐取した剣をくれ、とか言ってきたか?」

 

キリト先輩がすかさず聞きます。見返りを渡す時、かなり至近距離にいないと出来ませんから、その時にその謎の男を見ることが出来ますしね……

 

でも、そのキリト先輩の作戦は次のネズハさんの言葉で一瞬で砕け散りました。

 

「いえ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()。詐取の方法だけ教えて、アイデア料とかは全く話に出て来なくて……そのままグッドラックって言って酒場を出て行きました。」

 

「ちょっと待って!それじゃあ、その人はお金も騙し取った剣も要らないんなら、何を望んだの?」

 

「……今となっては、その人に聞けもしませんからね……打つ手なしですか……」

 

「じゃあ、詐欺の方法だけ教えて姿を消したっていうの?」

 

「いや、正確にはもう少しだけ話して行きました。最初はブレイブスのみんなも否定的だったんです。そんなの犯罪じゃないかって……そしてら、あいつはフードの下ですごく明るく笑って……わざとらしいってわけじゃ無いんですけど、なんだか…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「綺麗な…笑い方、ですか?」

 

「はい。」

 

黒い雨合羽、綺麗な笑い方をする男…なんだか、そんな感じの人を見たような……アインクラッド……いえ、()()()()()()()()で…

 

私が記憶の奥に行く、その前にネズハさんが話の続きをし始めて意識が戻ってきました。

 

「なんていうか、その……あいつの言葉を聞いているうちに、なんだか、ことがそんなに深刻じゃないような気がしてきて…そしたら、みんな笑ってました。オーさんもベオさんも……僕までも笑ってたんです………確か……『ここはネトゲの中だぜ?やっちゃいけないことは最初っからシステム的に出来ないようになってるに決まってるだろう?ってことはさ、やれることはやっていい……そう、思わないか?』って……」

 

「そんなの詭弁よ!」

 

「そうだよ!そんなのモンスターを横取りすることも、モンスターを擦りつけることでさえ許されるみたいじゃないか!極端に言えば、犯罪防止コードが働いていない圏外でプレイヤーを…」

 

アスナさんとユウキさんが言い返そうとしますが、最後まで言えませんでした。

 

「ネズハ、それからそのポンチョ男とは会ったか?」

 

「いえ、あれから会ってません……………今思えば不思議なんですが、あいつがいなくなってからギルドの中の空気が変わったような気がして、みんなやれるならやっちゃうか、みたいなノリで盛り上がっちゃって……お恥ずかしいですが、僕もみんなのお荷物になるくらいなら、詐欺の主役になってお金を稼いだ方がざっとマシだと、思ってたんです。けど……」

 

ネズハさんは肩を震わせ、両目をきつく閉じて今にも泣き出しそうな声で続けました。

 

「初めて教えてもらった通りに詐取をした時………すり替えられたエンド品が砕けた時の、お客さんの顔を見て……ようやく気づきました。こんなこと、たとえシステム的に出来たって絶対にやっちゃいけないんだ、って……そこで剣を返して、何もかも打ち明ければよかったんですが……そんな勇気なくて、せめてこの一回で終わりにしようって思いながら、ギルドの溜まり場に戻ったんです。でも、………………でも、そしたら、みんなが、僕の騙し取った剣を見て、凄く、凄く僕を褒めて……だから……だから、僕は………ッ‼︎」ガンッガンッガンッ!

 

ネズハさんは耐えられなくなったのか、いきなり頭をテーブルに打ち付けました。その度に紫色の光を放ち、障壁……この世界の真理の一つ『犯罪防止コード』が発動し、ネズハさんの体力は全く減りません。

 

きっとネズハさんはどうして良いのか、分からないのでしょう。私達に自殺することを否定され、それでも、被害者への弁償も出来ないし………そして、仲間のところにも戻れない。

 

方法があるのなら、自分のしたことを広く、アインクラッド中に広め、謝罪することでしょうか………それでも、アインクラッド攻略を目指している人たち、そして、被害者……多くのプレイヤーたちが、ネズハさんを許すとも限りません。許されなかった場合、どんな罪がネズハさんに下されるのか……

 

その時、キリト先輩とユージオ先輩が何かに気づいたように顔を上げ、ネズハさんを見ました。そして、キリト先輩はメインメニューを開き、何か操作をしています。ユージオ先輩とキリト先輩はお互いの顔を見て、黙って頷きあいました。

 

「……ネズハさん…僕らから、《提案》があります。ネズハさんのレベルは幾つですか?」

 

ユージオ先輩がそう切り出し、ネズハさんは不思議そうに顔を上げ、答えました。

 

「……10、です。」

 

「……じゃあ、スキル所持数は3ですね?」

 

「……《投剣》と、《所持容量拡張》……あと、《片手武器作成》スキル…」

 

キリト先輩はネズハさんを試すように言いました。

 

「……冒険者ネズハ……いや『ナタク』、君に問おう。君にも使える武器があるとするなら、《片手武器作成》スキル……()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 




次回『時間超越者会議』



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時間超越者会議

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は短めのお話になっております。
それでは、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

2022年11月27日午後8時。

 

とある宿屋の一室、そこには四人のプレイヤーが集まっていました。亜麻色の髪のユージオ先輩、燃えるような紅葉色の髪のティーゼ、そして、紫色の髪のユウキさん。

 

えっ?何故集まっているか、ですか?それは、私達にとって重要な()()が始まるからです。

 

「……えっと………これから、『時間超越者会議(タイムワーパーズミーティング)』……略して、TWMを始めます。」

 

「「いえーーい!」」

 

ユウキさんとティーゼが一緒になってふざけてます……これは対応に時間がかかりそうだなぁ……

 

「い、いえーい!」

 

つられて私もして見ましたけど……

 

「ロニエ、無理しなくて良いよ。あと、ティーゼ、ユウキ、はしゃぎすぎだよ。」

 

「「はぁーい」」

 

「あはは……」

 

この会議はキリト先輩やアスナさんは参加しません。というか、させません。だってこれは、時間を超えた人たちの会議ですから。

 

「ええー…今回、と言っても初めてだけど……この会議で話し合うのは『何故僕達は時を超え、キリトの過去のアインクラッドに来ているのか』。じゃあ、まずは自己紹介から行こうか。僕はアンダーワールド出身のユージオ。キリトとは2年の付き合いだよ。」

 

「次は私がしますね。私はユージオ先輩と同じアンダーワールド出身のロニエです……本名って言っておいた方がいいですか?」

 

「あ、そこの所は言わなくていいよ。それに、この世界……アインクラッドじゃ本名含めて個人情報は言っちゃいけないらしいから。まあ勿論アインクラッドについてだけどね。」

 

「そういうことだよ、ロニエ!」

 

「あ、はい。キリト先輩とは合わせて……6年と少しの付き合いになります。……キリト先輩の傍付き剣士として2ヶ月と、整合騎士見習い兼傍付きとして3年と整合騎士として3年です。」

 

「……?……ティーゼ、頼むよ。」

 

「はい!二人と同じアンダーワールド出身です。ロニエとは7年ほどの付き合いです。ユージオ先輩とは2ヶ月、キリト先輩とは6年くらいです。ユージオ先輩の傍付き剣士を務めていました。」

 

「じゃ、最後はボクだね。ボクの名前はユウキ!みんなの……あ、あんだーわーるどっていうとこじゃなくて一応言うと、日本生まれなんだ!キリトとアスナとの付き合いは1、2ヶ月くらいかな?まあ、よろしくね!」

 

と、全員の自己紹介が終わりました。日本…知りませんね……

 

「では、本題に入るよ。まず、ここに来る前のことを話してほしいんだけど……最低限でいいよ。」

 

「んー……ボクはね、病気で死んじゃったんだ。最後に覚えてるのは……綺麗なVRワールドの中でアスナを助けたことかな?ボクのオリジナルソードスキルを使うのを手伝ったんだ!」

 

「やっぱりキリトとアスナと面識があったんだね。」

 

「うん!よくクエストを一緒にやってたよ。」

 

「そっか……」

 

「じゃあ、私から行きますね。私はアンダーワールドの人界守備軍……その整合騎士になって人界とダークテリトリーを守っていたんですが……」

 

「えええええッッ⁉︎せ、せせせ整合騎士⁉︎」

 

大声をあげて驚くユージオ先輩。

 

「あ、はい!最後の異世界戦争から3年後に整合騎士になったんです。それから3年後に四帝国の生き残り……正確には少し違うんですけど、その生き残りとの戦いで不意打ちの神聖術を食らってしまって……目を覚ましたら、アインクラッドの始まりの街に……」

 

「そこのところは、あたしもです。」

 

「……そっか……それじゃあ、最後は僕か。ロニエとティーゼは知ってると思うけど、アンダーワールドのセントラルカセドラルで最高司祭アドミニストレータとの戦いの最中に青薔薇の剣と一体化したんだ。それでアドミニストレータは倒せたんだけど、僕はもう限界だったから力尽きちゃって…キリトに看取られて死んだよ。最後に見たのは、キリトと黒い………なんて言うんだろう……堕天使、かな?それと戦ったところだよ。一応、その前にも、黒い外套みたいなものを着て、大きな大剣を持った男とも戦ったっけ………」

 

「私達が見た通りのものですね。堕天使の方は知りませんけど……まさか、皇帝ベクタですかね?」

 

「うん、多分そうだと思うけど……」

 

「………みんなの言ってることが全然わかんないや!でも、大剣持ちの男なら見たことあるよ。そいつとアスナが戦ってたからね!」

 

まあ、知らなくて当然かもしれませんね。でも、あの異世界戦争の時に二人ともいたってことですか……

 

「何故僕等が時を超えてここにきたか……僕らの共通点を見つけてみようか。」

 

「分かりました、けど……あたし、共通点なんてないような気がするんですよね…」

 

「確かに……ボクはアンダーワールドで生まれたのは3人だけで、ボクは違うからね。全員に通じる点なんて……」

 

今までの話で、私達全員に共通すること………

 

「……一つだけありますね。」

 

「本当かい、ロニエ?」

 

「はい。それ以外見つからないんですけど……」

 

「「その心は?」」

 

同時にティーゼとユウキさんが聞いて来る。

 

「……全員の共通点は『()()()()()』と言うことです。」

 

「!」

 

「え?」

 

「?」

 

ユージオ先輩、ユウキさん、ティーゼの順で反応しました。ユージオ先輩だけは納得してるようです。

 

「ちょっと待って、ロニエ。私とロニエは死んでないわよ?」

 

「そうだよ、話を聞いてても、しんせいじゅつって言うのを食らっただけって……あ」

 

「そうです。ユージオ先輩はカセドラルで死んだと言うことを自覚しています。ユウキさんも、同じです。私とティーゼの場合は死んだことを自覚する余裕が無かったんですよ。私とティーゼは奇襲でいきなりやられました。そこから記憶が無いのは、それが私達の最期だった……そういうことです。」

 

「……確かに納得出来るね。一理ありだよ、ロニエ。」

 

「はい。」

 

「あ、あたし、死んだの……?」

 

「うん。これは推測だけど、もしかすると……」

 

「…………時を超えて来る条件は、《死ぬ》こと、か……」

 

「……もしかしたら、あたし達以外にも時を超えて来た人達がいる可能性は十分にありますね。」

 

「……うん……今回の会議はここまでにしようか。時を超える条件を見つけただけでも、収穫があったしね。」

 

「さんせー!」

 

「右に同じく!」

 

「そうですね…」

 

「これから、時を超えて来た人がいたら積極的に声をかけてみよう。まあ、そんなにいない、とは思うけど……」

 

「「「分かりました!」」」

 

「それじゃあ、第一回『時間超越者会議(タイムワーパーズミーティング)』はこれにて終了するよ。また集まるときは言うからね。」

 

「「はーい!」」

 

「…ちょっとティーゼ!あんまりふざけたら駄目って言ってるのに……もう!」

 

こう言うすぐふざけるところを直さないと……

 

こうして、第一回『時間超越者会議』は幕を閉じました。これが1ヶ月周期で開かれるのは後の話。

 

さて、明日も攻略頑張りましょう!

 

 

 




次回「角笛の呼ぶ《イレギュラー》」



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角笛の呼ぶ《イレギュラー》

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回はお久しぶりの戦闘回です!
それではどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネズハさんの詐欺事件を解決してから6日後、私達攻略組は迷宮区の攻略組を急いでいました。そして、私達のパーティが3日前、20階層にたどり着き、ボス戦まであと1日も無いか、と思われました。それから3日、未だ、ボスの部屋までたどり着けていません。いえ、正確にはもう目の前にボス部屋があるのです。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と攻略組の中で噂になっていました。

 

 

 

「キリト先輩、噂のこと信じますか?」

 

「……んん…ちょっと信じがたいな。攻略組の平均レベルは10を超えてるはずだし、一階層分で3日もかかるって言うのはおかしいよな。」

 

「でも、そんなに時間かかるかな?だって、二層の19階層までそんなに強いモンスターは出てこないけど……」

 

「いや、ほかのプレイヤーからしたらすごい強いけどな、トーラス達。」

 

「まあ、あたし達が強過ぎるんですよ。でも攻略組のみなさんにとってはそこまで強くない…そう思うのは同感ですね。」

 

「……でも、詳しいことは聞いてなかったですから、アルゴさんにでも……」

 

「いや、アルゴだと金がかかるから、俺たちが行こう。」

 

「いいんですか?今、アスナさんとユウキさんはネズハさんと一緒に体術スキル獲得のクエストを受けてていないんですよ?四人で行くんですか?」

 

そう、3日前にネズハさんと一緒にあの二人は体術獲得クエストを受けに行きました。私達でもかなりかかったのであの二人がいても、3日で体術スキルを獲得出来ているか……分かりません。

 

「ああ、大丈夫だろう。安全マージンどころかレベル的に俺たちが一番強いと思うぞ。」

 

そう、私達は攻略組の中でもレベルが高いそうで…私とティーゼが14、キリト先輩とユージオ先輩は15に達しました。

 

「……百聞は一見にしかず……ってやつだね。言ってみるしかなさそうだよ。」

 

「……不安ですけど、分かりました!」

 

こうして噂の詳細を確認するために二層迷宮区20階層に行くことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……着いたな。」

 

「はい、そうですね……」

 

「別に普通だと思うけど……」

 

「変わらないように見えますよね。」

 

その2時間後、迷宮区の20階層にたどり着き、ダンジョンを見渡すみんな。

 

「……ディアベルの話だと、20階層のボス部屋の目の前……らしいな。」

 

「じゃあ、とりあえず行ってみよう!」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

「んお?あれか!」

 

キリト先輩はメニューのマップを見ながらとある大きめの部屋(ルームと呼ぶそうです)を指さしました。

 

「……ここ以外道は無かったみたいだしね…って事はこの先がボス部屋への扉、かな?」

 

「……そして、問題の場所ですかね?」

 

「……行ってみるか。みんな、気を引き締めていくぞ!」

 

「ああ!」

 

「はい!」

 

「おー!」

 

私達は最後のルームへと足を踏み入れました。見えるのは大きな扉。おそらくあれがボス部屋への扉でしょう。すると、すぐに牛男……トーラスが3人ポップしました。

 

「よし、二人ずつに別れるぞ!」

 

「「「了解(です)!」」」

 

大抵、モンスターが2体以上ポップした時は、私とキリト先輩、ティーゼとユージオ先輩で別れて戦います。

 

『ブモオオオオッ!』

 

「シッ‼︎」

 

キリト先輩のスラントでトーラスのソードスキルをハンマーの柄の部分に直撃させることによりキャンセルさせ、スイッチ。

 

「スイッチ……ハアッ‼︎」

 

私から叫んで飛んで斬り込みます。

 

「よし、ラァッ‼︎」

 

キリト先輩もすかさずソードスキルをお見舞いし、またスイッチ。

 

「やぁッ‼︎」

 

『ブモオオオオッ⁉︎』

 

そして、二連撃ソードスキル『バーチカルアーク』を決めると、トーラスは叫び声をあげながら、砕け散って行きました。

 

「ユージオ!」

 

「こっちも倒せたよ!」

 

「んじゃ、ラスト行くか!」

 

「「はい!」」

 

「さあ、ラス……!」

 

最後の一体を倒すため向かおうとすると、また周りから三体のトーラスがポップしてきました。

 

「ま、またポップして来るなんて……運が悪いよ!」

 

「……トーラスは()()()()の筈だ、こんな短時間で湧くなんてな……」

 

「とりあえず行きましょう!」

 

「あ、ああ。そうだな!」

 

私達は新たに現れたトーラスを倒すためソードスキルを発動し、剣を閃かせました。

 

私達はまだ知りませんでした。この戦いが予想以上に厳しくなって行くことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「りゃあああああ‼︎」

 

『ホリゾンタルアーク』で何十体目かのトーラスを倒し、息を荒らげる私。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……き、キリト先輩!」

 

「おおおッ‼︎」

 

キリト先輩たちもこれまでにないほどの成果を挙げています。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くそっ!何体ポップするんだよ⁉︎今ので60は超えたぞ!トーラスは時間湧きの筈だぞ……何で3分に五体もポップすんだよッ⁉︎ロニエ!ポーションの数はどれくらいある⁉︎」

 

「もう二個しかありません!」

 

「ユージオ、ティーゼは⁉︎」

 

「僕はもう最後だよ!」

 

「私は3個あります!」

 

「駄目だな!もう、これ以上戦闘は無理だ!撤退するぞッ!」

 

「は、はい!」

 

「わかりました!」

 

「これじゃ、仕方がない……ねッ!」

 

ユージオ先輩もティーゼもトーラスと戦いながらも返事をしました。また、トーラスがポップして五体追加されました。

 

その時でした。猛烈な違和感を感じたのは。ポップした五体のうち、一体だけが周りのトーラスと比べて小さいのです。そして、武器は持っておらず、無防備な状態でした。が、()()()()()()()()()()()()()()そのトーラスは私達も見るやその腰にあるものを手に取り、()()()()()()()()

 

「カウント、5秒前!4、3、2、1……走れッ‼︎」

 

キリト先輩の合図でその最後のルームから抜け出したあと、聞こえたんです。

 

ブォォオオォォォォォォォォ……

 

あれは、アンダーワールドの……ダークテリトリーの山岳地帯のゴブリンの村で聞いた………

 

あれは、何だったんでしょうか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

「み、みんな!無事かっ⁉︎」

 

「な、なんとか、ね……」

 

「離脱が遅かったら、みんな死んでましたね……あれは…」

 

私達四人は迷宮区を走って脱出してきました。

 

「……ったく、なんなんだよ、あれ……無理ゲーじゃないか……β時代はあんなに早くポップしなかった筈なんだけどな……」

 

「……じゃあ、()()()()β()()()()()()()()()()()ってこと?」

 

「ああ、これは悪質過ぎる変更だな。多分あの部屋だけポップペースが圧倒的に早い。あんなんじゃゴリ押しでも行けるかどうか……」

 

「どっちにせよ、街に戻ろう。ポーションも使い果たしちゃったからね。」

 

「ああ、街に戻ってディアベルたちと話し合おう。多分、ボス攻略会議がそろそろあるだろ。」

 

「ディアベルもあのルームに入ったんですかね……」

 

「ああ、ディアベル自身も行って異常さを感じたらしいしな。」

 

「そろそろアスナさんたちもクエスト終わってるといいんですけど…」

 

 

そう言って街に向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街に戻ると、ディアベルさんから攻略会議があるとの知らせを受けました。ポーションなどの買い置きを済ませました。

 

「………キリト先輩、アスナさんにメッセージを送ってみましたよ。」

 

「ん。さ、早いとこ攻略会議で話を聞こう。もっと情報が欲しいからな。」

 

会話をしながら、攻略会議の場所に向かうと、もうほとんどの人が集まっていました。

 

「……僕ら、遅れてたのかな?」

 

「……さあな。それで、アスナ達は………あ、いた。」

 

キリト先輩の目線を追うと、そこにはアスナさんとユウキさんがいました。

 

「…あれ?ネズハさんは……どこですかね?」

 

「……!キリト君、ユージオ君、ロニエちゃんにティーゼちゃん!きたのね。」

 

「あ、ひっさしっぶりー、みんな!元気でやってた?」

 

「お久しぶりです、アスナさん、ユウキ!あのクエストクリア出来たのね!」

 

「うん!ボクにかかればあんなのちょちょいのちょいだよ!」

 

「攻略会議に間に合ってよかったな。それより、ネズハは?」

 

「ああ、私達より半日ほど早くクリアして出て行ったわ。あなたの渡したアレを持ってね。」

 

「『僕は先にフィールドに出てレベリングを始めます。レベル10とはいえ戦闘スキルが低すぎますから……迷宮区のモンスターと一対一で渡り合えるくらいに強くなって……また、皆さんと面と向かって話せるように、頑張ります!』、ってネズハは言ってたよ!すごく楽しみだね!」

 

ネズハさんは変われたようですね。私達が頑張った甲斐がありましたよ。

 

「それなら安心だが、一人でレベリングをする気なのか?かなり危険なんだけどな……そこが心配だ……」

 

「大丈夫だよ。ネズハならきっと、負けやしない。ネズハは変わったんだから。」

 

「期待しましょう、先輩!」

 

「ああ。」

 

『おーい、キリト!』

 

その時、広場の中央から声が聞こえました。

 

「ディアベルか!久しぶりだな。」

 

「ああ、久し振り!他のみんなも元気にしてたか?」

 

「うん、いつもと変わらないよ。」

 

「元気ですよ、ディアベルさん!」

 

「ディアベルさんはどうですか?」

 

「俺かい?まあ、元気だったさ!」

 

第一層のボス攻略会議の時よりも爽やかで何というか、吹っ切れたような笑顔を見せるディアベルさん。

 

「………それより、キリト。迷宮区の最上階の最後のルームは行ってきたか?」

 

「……ああ、行ってきたけど…アレは1パーティじゃ無理だ。ディアベル、あんたがお手上げだって言ったことも頷ける。」

 

ディアベルさんと迷宮区での戦闘の事を話すキリト先輩。

 

「……どれくらい倒した?」

 

「俺達のパーティか?……俺は20体は行くかもな……みんなは?」

 

「私達は確か、30体です。」

 

「あたしはロニエと一緒に倒してたんで、キリト先輩より少し多いですけど……」

 

「僕もキリトと同じだよ。」

 

「かなりの数を倒してたんだね……俺達のパーティでも計30体ぐらいを倒して、撤退したからな………流石は、攻略組ナンバーワンのパーティだ。圧倒的だな。」

 

「いや、買い被るのはよしてくれ……」

 

「……それにしても、キリト達がそれだけ倒してもダメなのか……扉は開かなかったんだろう?」

 

「?……いや、扉に触れることすら出来なかったけど……その言い方だと、まさか開かなかったのか⁉︎」

 

驚いたように言うキリト先輩。確かにボス部屋への扉が開かないなんて、驚きです。

 

「……それでも、何かしらの条件があるんだろ。絶対にクリア出来ないゲームなんて、ただのクソゲーだ。茅場晶彦がそんな事をするはずがないしな……あいつはそう言うところに関しては変にフェアだ。何か、あるはずなんだけど……んでディアベル、あんたが考えたのがトーラスの討伐数か……」

 

「ああ。そう思ってたんだが……」

 

「…僕たちは4人で行ったから扉に触れることすら出来なかったんだよ。その時に確かめられればよかったけどね……」

 

……今言っても後の祭り、ですね…

 

「……よし、みんな!それじゃあ、会議を始めようか!」

 

その声にみんなが振り向き、期待の眼差しでディアベルさんを見ました。

 

「…と言っても、会議じゃなく情報交換って感じだけどな!今回の会議では最上階の最後のルームについてだ!昨日、俺達のパーティがそのルームに入ったところ、トーラスが倒すたび倒すたびに湧いてきた。俺達のパーティが30体ほど、キリトのパーティは60体ものトーラスを倒したが、変わった事はなかった。」

 

その言葉を聞いて周りがざわつき始めます。

 

「でぃ、ディアベルさん!それじゃあ、トーラスをどれだけ倒してもクリア出来ないんですか?」

 

ディアベルさんのパーティの……確かシミター(でしたっけ?)使いのリンドさんが聞きました。

 

「…まだ分からない。まだ俺たちを加えて4パーティしか行ってないから、情報は限りなく少ない。だから、俺達は今から、そのルームに行く!」

 

『『おお…!』』

 

「攻略組のみんなが余裕で入れるくらいの広さだったから、みんなで戦える!みんな、いいか⁉︎」

 

『『『『おおおおお‼︎‼︎』』』』

 

みんな雄叫びをあげて答えました。

 

「……さて、俺達も気合を入れて行くか!」

 

「「「「「おおー‼︎」」」」」

 

そして、私達も覚悟を決めて迷宮区へ向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、来ましたね……」

 

「ああ。リベンジってとこか…」

 

私の呟きに対して《再挑戦》の意味を持つ神聖語を使って返すキリト先輩。

 

「……大丈夫なのかな、キリト。作戦会議をしたっていっても、全く攻略方法がわからないんでしょ?」

 

「……ああ。まあ、全く情報がないから俺たちが探るしかないんだよ。」

 

「ディアベルさんも流石にお手上げってことですね。」

 

「ああ。さて、そろそろだぞ。」

 

「みんな!今回は情報を得るための戦いだ。まあ、勝ちたいっていうのが山々だけど、今はこのルームの突破条件を見つけ出そう!」

 

『『『『おおおおお‼︎‼︎』』』』

 

「よし、俺たちも行くぞ!」

 

「「「「「おおー!」」」」」

 

私たちもディアベルさんに続いてルームに入りました。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「はぁっ‼︎」

 

『ブモオッ⁉︎』

 

「スイッチ!」

 

「おお!オラァッ!」

 

ズバシュッ!

 

爽快な音が響きトーラスが倒れて行く。

 

あれから十分。

 

攻略組は問題なくトーラスを屠続けていました。私たちも順調に倒していきます。

 

「……ディアベル!数が少しずつ多くなって来た!警戒しておいたほうがいいぞ!」

 

「分かってる!あれから何度も扉を開けようしたが、開かないんだ!」

 

「……みんなでもう100体くらい倒したはずなんですが⁉︎」

 

「……討伐数で開くってわけじゃないらしいな。」

 

「……もうすぐ湧くぞ!気をつけろ!」

 

ディアベルさんの大声が飛んだ直後、また10体のトーラスが現れました。

 

「キリト!間髪入れずに行くよ!」

 

「ああ!」

 

キリト先輩とユージオ先輩がトーラスの群れに向かって突撃して行った時、私は何か違和感を感じました。

 

トーラスに何か違和感が…

 

よくトーラス達を見ると、一体のトーラスが私たち攻略組のメンバーから逃げるようにルームの端へと走っていきます。

 

そして、そのトーラスの左腰にぶら下げていたあるものを手に取り、口元に持っていき、大きく胸を膨らませ…

 

低い音色を鳴らしました。

 

「……こ、これって…あの時も聞いた………」

 

思い出しました!

 

これはダークテリトリーの山岳地帯のゴブリンの村で聞いたことがあります!あれは……()()()》!

 

角笛は味方に危険を知らせたり、呼んだりする時に使うそうです。だから、あのトーラスはトーラスを呼ぶ……あのトーラスの出現条件はある一定のトーラスの討伐…もしかすると、何体倒せばいいかはルームの中に入った人数で決まるのかもしれません……()()()()()()()()()()()()

 

「キリト先輩!トーラスのタゲ取りお願いします!」

 

「分かった!」

 

トーラス達に一発ずつ攻撃し、一時的に自分にターゲットを移すキリト先輩。

 

その先輩に向かってトーラスが向かい始めました。それにより、角笛持ちのトーラスを守る役割を担っていたトーラスも移動する。

 

「……そこがガラ空きですよ!」

 

角笛トーラスに向かって私は疾駆します。

 

「ぜやあああああ‼︎」

 

ソニックリープで空中を飛び、角笛トーラスに一撃を入れます。

 

『ブモオオオオッ⁉︎』

 

トーラスが反撃に拳を振るいますが、そんなの遅すぎます!避けるのは簡単です!私のレベルなら、あと2連撃ソードスキル一本で……

 

「やぁあああ!」

 

バーチカルアークをトーラスのムキムキの胸板に叩き込むと、トーラスは悲鳴をあげながら四散していきました。落ちる角笛。私は勝利を確信……そして、油断していました。その時、

 

「危ない、ロニエッ‼︎」

 

キリト先輩の切迫した声が聞こえました。

 

「え?」

 

後ろを振り向くとそこには、斧を振り上げたトーラスが立っていました。

 

トーラスが斧を振り下ろし、私を一刀両断する……ことはありませんでした。

 

私は誰かに抱かれて吹き飛んでいました。

 

「っ⁉︎」

 

「ぐッ⁉︎」

 

叩きつけられて上を見上げると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ/////⁉︎」

 

「くそっ……すまん、ロニエ!立ってすぐ行くぞ!」

 

「あ、は、はいぃ///////⁉︎」

 

うう……キリト先輩の顔が目の前に……っていうか、抱きつかれた///⁉︎ち、違う!今は戦闘に、しゅ、集中!

 

「ロニエ、お前の考えは間違ってなかったぞ!多分、あの角笛がトリガーなんだ!」

 

「や、やっぱりですか……」

 

「でも、あの角笛を持ったトーラスを倒してもダメなんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「!」

 

その言葉を聞いて、さっきのトーラスを見ると落ちた角笛を拾っていました。

 

「だから、俺達が角笛持ちトーラスを倒す。だから、ロニエは角笛を破壊してくれ。頼んだぞ!」

 

「……わかりました!」

 

「よし、行くぞッ!」

 

「はい!」

 

そして、キリト先輩とユージオ先輩はもうすでにこのことを話していたのか、二人で角笛持ちトーラスの元へ疾駆していきました。

 

「私はしっかり時期を見ておかないと……」

 

「ロニエちゃん!」

 

「ロニエ!」

 

その時、二人のプレイヤーが私の元に走ってきました。

 

「ティーゼ、アスナさん!」

 

「私達があなたの援護をするわ。」

 

「しっかり決めてもらわないとね!」

 

「ありがとうございます!」

 

そして、キリト先輩の方を見るとトーラスの天命……HPゲージを8割程削りきれていました。

 

「………そろそろですね。」

 

「オラァ!」

 

キリト先輩の剣がトーラスを切り裂き、HPゲージを完全に削り取った瞬間、私は走り始めました。それを阻むトーラス。

 

「させないわ!」

 

「邪魔すんなッ‼︎」

 

二人はそのトーラスをソードスキルを打ち込んで、止めます。

 

そして、私は角笛目掛けて飛びました。

 

 

 

空中でソニックリープを発動させ、その名の通り凄まじい速さで宙を駆け抜けました。

 

 

「やあああああああああああ‼︎」

 

 

そして、角笛に剣を一閃。

 

その直後、角笛は真っ二つになり砕け散りました。

 

「ディアベルさん!皆さんに指示を!」

 

「…!……みんな!反撃だ‼︎奴らを返り討ちにしてやれ!」

 

『『『『おおおおおおおおお‼︎』』』』

 

そして、その後10分後には全てのトーラスが討伐されました。

 

 




次回『大佐と将軍の前哨戦』

次出すお話のタイトル『あの日、あの時、あの場所で。』(番外編)



今年中には第二層を終わらせたいなぁ……と思っております。頑張って行きたいと思います!


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大佐と将軍の前哨戦

こんにちは!クロス・アラベルです!
ついにボス戦突入!
それではお楽しみください!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いよいよ、ボス戦ですか……」

 

禍々しいボス部屋への扉を前にして、感嘆してしまう私。一昨日の戦いでトーラスがいなくなってしまったルームでみなさんは最後の準備をしています。このルームはアルゴさんによると、一度角笛を破壊すると新しいトーラスがポップするまで一週間かかるそうです。

 

「ああ、やっとだな。一昨日の事件もあってみんな気は引き締まってるとは思うけど、今回もすごいボスだからな……」

 

「すごいボスってどんな感じ?」

 

「……まあ、でかい牛男だ。そんでもってボスだけが持ってる特殊攻撃が危険だ。」

 

「うへぇ……まだ牛男っすか?俺、もう嫌っていうほど見て来たっすから、もう冗談抜きで見たくないっす。」

 

「……Я не хочу(嫌だ)!もう見たくないですネ……」

 

ボス部屋の前で再開したベルさんとナギちゃんはエギルさんのパーティに入っています。

 

「攻略会議でも聞きましたけど、2体もいるんですよね?」

 

「ああ。中ボスの大佐…ナト、んでボスの将軍であるバランだ。両方でかいし、特殊攻撃もあるが、大きさなんか第一層ボス戦でもわかっただろう?それに特殊攻撃も気をつければいけるさ。」

 

「……だといいんですけど……」

 

「……まあ、油断はできないな。第一層と同じようになにかが変わってる………いや、何もかも変わってる可能性もある。」

 

「……ディアベルと話した通り、その時は撤退するんだよね。」

 

「ああ。」

 

今回のボス攻略戦の注意点などを話している私達。後ろでユウキとアスナさんが何かを話しているようです。

 

「うーん……第二層のボス……(な、なんだったっけ?うーん…)」

 

「…どうしたの、ユウキ?」

 

「えっ⁉︎いやいやいやいや何にもないよっ‼︎」

 

「……?」

 

「……そういえば、ベルさんは主武装を変えたんですね。両手剣ですか…」

 

「…………はいっす。ちょっと理由があって……しょうがなくッスけど……」

 

「……ネズハさん、来てませんね……」

 

「まさか、レベリングの途中で……」

 

「……ネズハが来ればフルレイドだったのにな……」

 

 

 

すると、ボス部屋の前でディアベルさんが『注目!』と大きな声で言いました。

 

「みんな!これから、ボス攻略戦を開始する。作戦は昨日のボス攻略会議で話した通りだ!ABパーティが将軍のアタッカーを、CDパーティがブロッカーを、Eパーティにはデバフ、EFGパーティには大佐を相手してもらうけど……いいか?」

 

今回のパーティはGがキリト先輩、ユージオ先輩、私、ティーゼ、アスナさん、ユウキちゃんとなっていて、ベルさんとナギちゃんはエギルさんのパーティに入っています。

 

「ああ。大佐なら3パーティでも、十分だとは思うけど…」

 

「そうか、なら任せるとしよう!十分気をつけてくれ!」

 

「分かってるさ。」

 

『ちょっと待ってくれ!』

 

キリト先輩が返事をすると、ボス部屋の扉の左にいたパーティのリーダーが一声をかけて来た。レジェンドブレイブスのオルランドさんでした。

 

「我々はボスを倒しに来たんだ。ローテーションならともかく、取り巻きを倒すなんて納得出来ない。」

 

「……分かった。それじゃあ、アタッカーのローテーションとして参加してもらおうと思うけど……キリト、どうだ?いけるか?」

 

「……2パーティでは無理があるかも知れないぞ。何せ大佐は取り巻きとは言うが、ただの雑魚じゃないしな。」

 

「その通りだ。中ボスクラスのモンスターだって事前情報にも、キリトの情報にもあった筈だ。」

 

ディアベルさんの言葉にキリト先輩とエギルさんが抗議します。

 

「やはりそうか……わかった。オルランドさん、将軍のアタッカーのローテーションとして来てもらうが、キリト達が大佐を2パーティで耐えきれなかった場合は大佐の対処に向かってもらうけど、いいかい?」

 

「……分かった、それで行こう。一応、イレギュラー……β時代と違った時は一旦撤退で変わらないな?」

 

「ああ、死人は絶対に出させないさ。」

 

「最後にもう一度、ボスの注意事項を言っておいたほうがいいんじゃないかな、ディアベル?」

 

「ああ。ボスの注意事項としてはトーラス族の特殊攻撃の《ナミング・インパクト》と将軍の《ナミング・デトネーション》は武器の発動をしっかり見て確実に避けてくれ!特にデトネーションの方はインパクトより範囲が広いから絶対に受けないようにしよう!ナミングを二回連続で受けると《行動不能(スタン)》から《麻痺(パラライズ)》になってしまう。その時に武器を落としてしまった場合はすぐ武器を拾わずに、二発目が来るか来ないかボスのハンマーを確認してくれ!《麻痺(パラライズ)》になってしまった場合は必ず周りが壁の近くに移動させるんだ!注意事項は以上だ!」

 

その注意事項を聞いて深く頷く攻略組の皆さん。そして、ディアベルさんがボス部屋への大扉を押し開けました。

 

「………それじゃあ、行くぞ‼︎」

 

「「「「おおおッ‼︎」」」」

 

ディアベルさんの声に雄叫びで返して、皆さんはボス部屋へ入って行きました。

 

「……俺たちも行くか!」

 

キリト先輩の言葉に頷いて私たちもボス部屋へ入って行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナミング来るぞ!」

 

キリト先輩の掛け声と同時に2パーティが後ろへ跳んで、牛男の大佐……正式名称《ナト・ザ・カーネルトーラス》から距離を取ります。

 

『ヴゥゥヴォオオオオオオオオオオーーーーーッ‼︎』

 

凄まじい雄叫びをあげて巨大な鉄槌……稲妻を纏ったハンマーを振り下ろし、青黒い敷石を激しく叩きました。すると、衝突点を中心として細い稲妻が放射線状に拡散しました。私達は余裕を持って避けているので《行動不能(スタン)》にはならないものの、キリト先輩がギリギリに避けていたせいか、その足に一本の稲妻が消える直前に当たりました。が、《行動不能(スタン)》にはなっていないのでホッとしました。

 

「全力攻撃一本!」

 

キリト先輩の指示に答えて、パーティ全員が最大威力のソードスキルをボスに叩き込みます。

 

「…順調ですね!」

 

「ああ。こいつのHPゲージも半分切ったからな……けど油断はしないでくれ!三本目まで行くとナミングを連発して来るからな!」

 

「あと、キリトの時と変更がある可能性があるから、みんな気をつけて‼︎その時は一旦引くからね!」

 

キリト先輩とユージオ先輩が注意し、みんながそれぞれに返事をしました。大佐が立ち直り、同時に私たちもスキル冷却時間も終了しました。

 

大佐の横殴りの範囲攻撃が来ると予想したエギルさんたちが、その軌道上で防御態勢を取ります。私達は少し後ろに下がりカウンター攻撃の時期を図っています。

 

ボス攻略戦が始まって5分ほどが経ちました。

 

私達、大佐攻略組は順調に大佐の体力を削っています。さっきの攻撃で半分を切ったので、あと少しです。

 

「……本隊の方は……」

 

そう言って私が振り返るとボス部屋の奥には私達が相手取っている大佐より一回り大きなモンスターがいました。

 

「回避‼︎」

 

ディアベルさんの一声で本隊の攻撃隊は一気に下がり、この第二層のボス、正式名称《バラン・ザ・ジェネラルトーラス》の放つ特殊攻撃である《デトネーション》を易々と回避します。デトネーションは大佐の《インパクト》より射程距離が2倍なので避けにくいそうです。バラン将軍はナト大佐の2倍の体の大きさを誇り、真っ赤な全身、腰に装備している鎧は光り輝く金色でした。ちなみにナト大佐は全身真っ青で、装備は腰巻きとハンマーだけです。

 

「A隊B隊、ソードスキル一本!」

 

そして、《デトネーション》を避けてバラン将軍が動きを止めているその隙に攻撃隊の皆さんは一気に詰め寄り、最大威力のソードスキルを叩き込みます。

 

前を見ると、エギルさんたちがガードをする直前だったので、キリト先輩達と走り出し、エギルさんたちがガードをした直後にソードスキルを当てて、後ろに下がります。

 

「……本隊の方も順調だな。向こうはもう3分の2以上削ってんじゃねえか。」

 

回復のために一緒に下がってきたエギルさんが本隊の方を少しして清々しい笑みをこぼします。

 

「ああ。なんだかんだで手こずりそうだったと思ってたんだが……」

 

「流石は、アインクラッド初の攻略組リーダーですね。」

 

「あれだけの人数を動かすんだからね……ディアベルじゃなきゃ出来ないよ。」

 

「あたしたちもはやくナト大佐を倒しましょう!」

 

「そうだね、ティーゼ!」

 

「次、来るよ!」

 

アスナさんの言葉でナト大佐を見ると、HPゲージが最後の一本に入りました。

 

「さあ、削り取るぞッ!」

 

キリト先輩の喝の直後、ナト大佐がこれまでより増して猛々しく吠えました。

 

ナト大佐が吠えた後、足にある蹄で踏ん張り、二本の角が生えた頭を屈めました。

 

「突進くるぞ!頭じゃなく尻尾を見ろ!尻尾の対角線上に来る‼︎」

 

その言葉でナト大佐の尻尾を見るとエギルさんの方を狙っていることが分かりました。

 

「バレバレ…だッ、と!」

 

エギルさんはナト大佐の突進を危なげなく避けてナト大佐の背中に両手斧ソードスキルを一本当てました。そして、私もボスが突進を終え、動きを止めている隙に一発ソードスキルを当てると、ナト大佐の頭の上に黄色い光が回っています。《行動不能(スタン)》状態です。

 

「チャンス!全員最大ソードスキルをぶちかませ‼︎」

 

キリト先輩の言葉を聞いた瞬間に私たちはナト大佐に一斉にソードスキルを叩き込みました。

 

HPゲージが半分まで減ってイエローゾーンに入ると、ナト大佐の体が青紫色になり暴れ出します。これが死に際の《暴走状態(バーサーク)》です。

 

「……これが《暴走状態(バーサーク)》だね。攻撃の速さが上がるんだっけ?」

 

「ああ、1.5倍になるだけで落ち着いて見極めれば対処できる………」

 

そうキリト先輩が説明した時、ボス部屋の奥で喜びの声が上がりました。

 

「‼︎」

 

「あっ!」

 

振り向くと、なんと、バラン将軍の最後のHPゲージが半分の黄色に染まっています。

 

「………順調に行きすぎて怖くなるな…」

 

「いいじゃないですか!あと少しで終わるかもしれないんですよ?」

 

「……分かってはいるけど……今までの流れからしてなんの変更も無かった。変更があったのは第1層のコボルド王だけなのか……?」

 

「……!」

 

その時、アスナさんの表情が変わりました。何か、悩んでいるような、迷っているような……

 

「どうしたの、アスナ?」

 

ユージオ先輩が聞くと、アスナさんは口籠もりながら答えました。

 

「………ううん、ただの考えすぎだと思う…」

 

「……?どうしたのさ、アスナ?なんでもいいから言ってみてよ!」

 

ユウキちゃんがアスナさんにそう言います。

 

「……あの……第1層のボスが《王》だったのに、なんで第二層は《将軍》なんだろうって……」

 

アスナさんが迷いながらも答えた直後、後ろからゴゴォンッ!という大きな音が聞こえました。

 

戦闘時には聞こえなかった重く低い音。

 

後ろを向くと、ボス部屋の中央に石でできた階段……いえ、舞台のようなものがありました。

 

そこに少しずつ巨大な影が浮かび上がってきます。

 

「…うっ⁉︎」

 

キリト先輩が小さくうまくと同時にその影が光に照らされて、その姿が見えました。それはバラン将軍よりも一回り大きく、角が6本も生えており、より一層強そうに見えました。腰に巻いているのは黒い腰巻と鎧、上半身は裸で頭には王冠が付いていました。

 

その巨大なモンスターの名は《アステリオス・ザ・トーラスキング》。これがこの第二層の真の王の名でした。

 

 

 

 

 

 




次回『鍛治師よ、英雄になれ』


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鍛治師(少年)よ、英雄になれ

こんにちは!クロス・アラベルです‼︎
今回は連続投稿します!
どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

『ヴゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』

 

 

「………っ⁉︎」

 

ボス部屋の中央に現れた真の王《アステリオス・ザ・キングトーラス》。真っ黒な体に白銀の鎧。上半身には何もないが、その頭にはトーラス族の王だということを示す王冠が輝いていました。バラン将軍の何倍もの迫力を乗せた鋭い咆哮を放つと同時にアステリオス王の周りに落ちる雷。

 

「…………全員、ナト大佐に全力攻撃ッ‼︎」

 

そのキリト先輩の掛け声で我に帰り、ナト大佐を見ると青紫色になって暴れようとしています。

 

皆さんが走り出すと、キリト先輩が走って飛び、ソードスキル《スラント》を発動させてナト大佐の角と角の間……額に攻撃しました。

 

『ウヴルヴオオッ⁉︎』

 

攻撃が成功し、叫び声を上げて体を反らしました。トーラス族に類するモンスターは大体、角と角の間の額が弱点だそうで、そこを攻撃すると、高確率で《行動遅延(ディレイ)》します。

 

体を反らした直後、2パーティが全力のソードスキルを当てるとHPゲージがほんの少しだけ残りました。

 

「……ッ‼︎」

 

「はぁッ‼︎」

 

キリト先輩が空中で体術ソードスキル……一回転した勢いをそのまま使って相手に踵落としを食らわせる……《水月》が、ナト大佐の後ろにいたユージオ先輩が体術ソードスキル《閃打》を当てて、HPゲージを削り取り、ナト大佐を倒しました。

 

「行きましょう、キリト先輩‼︎」

 

「…ッ……ああ!アステリオス王の右側を走ってディアベルの所へ行く!王とは戦うな!王がディアベル達の元にたどり着く前に、飛び入りして速攻で倒す!俺についてきてくれ‼︎」

 

「分かりました!」

 

「了解‼︎」

 

ナト大佐が砕け散るのに眼も呉れず、キリト先輩が指示を飛ばします。

 

私が行きましょうと行った時、何故か複雑そうな表情をしたのが気になりますが……それはまた後です。

 

キリト先輩の視線の先……真のボス、アステリオス王を見て思わず冷や汗を垂らす皆さん。

 

 

キリト先輩がアステリオス王を大きく避けながら右に迂回します。不幸中の幸いと言うべきでしょうか、アステリオス王はとても足が遅く、余裕を持ってディアベルさん達のいる本隊に合流出来ました。

 

「う、うぐぅッ⁉︎」

 

「ゆ、ユージオ先輩⁉︎」

 

ですが、途中でいきなりユージオ先輩が頭を抱え止まったので、ティーゼが心配そうに呼びます。

 

「…行って……はや、く……!」

 

「っ!………はいッ‼︎」

 

ユージオ先輩に言われ、ティーゼも遅れながらも走ってきました。

 

バラン将軍のHPゲージはもう赤く染まっており、《暴走状態(バーサーク)》に入っていました。そんなバラン将軍に本隊も、そのみんなを率いるディアベルも攻めあぐねていました。

 

「き、キリトッ⁉︎」

 

「おお…らあッ‼︎」

 

キリト先輩が直前にスキル冷却時間が終わっていたソニックリープを再び空中で放ち、トーラス族の弱点である額に直撃させました。《行動遅延(ディレイ)》になって本隊と私たちナト大佐組のソードスキルの嵐に会うバラン将軍。しかし、ナト大佐の時と同じようにHPゲージがほんの少し残ってしまいました。

 

「やあああッ‼︎」

 

「またか…よッ‼︎」

 

私とキリト先輩の体術単発ソードスキル《閃打》でHPゲージを削り取り、すぐさま後ろを向いて本隊に何かを伝えようと口を開きました。

 

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああああッッ‼︎⁉︎」

 

 

 

 

 

ユージオ先輩の叫び声が聞こえました。

 

 

「___」

 

ユージオ先輩はすぐ近くに来ているアステリオス王に向かってソードスキル《ソニックリープ》放とうとしていました。

 

剣が翡翠色に光り、加速するユージオ先輩。

 

それに対し、アステリオスは………硬い胸元をまるで風船のように膨らませ、体を思いっきり反らしていました。

 

そして赤黒い眼が一瞬光りました。

 

 

見たことのない動作に躊躇し、動きが止まる私と近くにいたアスナさん。

 

あれは………幾度となく見て来たもの。私と一緒に騎士の仕事を全うしていた仲間………《月駆》の、《火炎放射(ブレス)》。

 

「ロニエ、アスナ、右に跳べ‼︎」

 

キリト先輩の叫び声にも似た指示に、私とアスナさんは直後に床を蹴ります。

 

 

キリト先輩は私達が床を蹴った時にはもう私達の真後ろにいました。

 

そして、キリト先輩が私とアスナさんの肩を持ち、再び床を蹴りました。

 

ゆっくりと、ゆっくりと不思議な床の模様が流れて__.......

 

 

 

 

 

視界が真っ白に染まる。

 

 

 

 

 

その音は、まるで雷鳴。ユージオ先輩の攻撃は間に合わず、ユージオ先輩はもちろん、攻略組の約半分が……まさしく雷電放射に飲み込まれていました。

 

私達は軽く吹き飛ばされ、HPゲージは2割ほど減り、ゲージの上には緑色のマークが現れました。体の感覚が一気に遠のき、まるで何かに縛り付けられているような…

 

 

そう、私達は《麻痺(パラライズ)》にかかってしまったのです。

 

 

私達は絡み合ったまま床に叩きつけられてしまいます。私とアスナさんはキリト先輩を覆うように上に被さっています。

 

「……ふた、り………とも……ポーション………で、ちりょ…う、を…!」

 

キリト先輩は麻痺にかかりながらも私たちにポーションを渡そうと右手で腰にある小さなカバンの中を探ろうとしています。

 

私たちが見えたのはボスの目の前に倒れているユージオ先輩。

 

後ろを見るとディアベルさんやキバオウさんも倒れています。

 

そして、ユージオ先輩の所へ駆けつけるティーゼ。さっきの遠隔攻撃を奇跡的に避けられたようです。

 

「……なんで、来たの」

 

「!」

 

ちょうどポーションを飲み終わったアスナさんがすでにポーションを飲み干したキリト先輩に苦し紛れに聞きます。

 

「……そう、ですよ………なんで……わた、したち…の所へ……」

 

私も聞きます。すると、キリト先輩は表情を歪めながら、こう答えました。

 

「………わから、ない……」

 

 

それを聞いて、自然に涙が溢れでて来ました。

 

 

頭をキリト先輩の右肩に預け、思い出します。

 

 

 

あの時と、変わらないそのお人好しな性格。

 

 

その表情は、あの時…………修剣学院で助けてもらった時の表情にとても似ていました。

 

 

 

だから、私は………

 

 

 

 

 

あなたのことが好きになったんですよ?

 

 

 

 

 

私は最期に伝えたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここでまた死ぬなら、あなたに……この《想い》を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、キリト先輩の眼が見開かれました。私達の後ろ、アステリオス王を見ながら。

 

どうしたのだろうと、そう思った直後。

 

 

 

クワァアンッ!

 

 

甲高い金属音が鳴り響きました。

 

それに驚き、なんとか後ろを振り返ると、空中を白い光を纏った何かが飛んでいます。アステリオス王は後ろに仰け反り、悲鳴をあげます。

 

そして、その白い光を纏った何かがボス部屋の入り口の方へと飛んでいき……

 

何者かの手に渡りました。

 

 

目を凝らすと、そこには………

 

 

 

 

 

 

ネズハさんがいました。

 

 

 

 

 

すると、私達は誰かに服の襟元を掴まれて後ろに引きずられて行きます。

 

「すまねぇ!オレとしたことが竦んじまった!」

 

「Вы в порядке⁉︎(大丈夫⁉︎)」

 

私達を運んでくれているのは、エギルさんと、ナギちゃんでした。

 

ユージオ先輩もティーゼによって後ろに運ばれていました。

 

「……あいつは……⁉︎」

 

ネズハさんが詐欺をしてしまったことを知らないエギルさんや、他の攻略組のメンバーが驚いて目を見張っています。

 

「遅くなってすいません、皆さん‼︎」

 

そう言いながら、ボス部屋の奥へと進むネズハさん。

 

それを見て、一番驚いていたのは、《レジェンドブレイブス》の皆さんでした。

 

「………ネ……」

 

リーダーのオルランドさんがネズハさんのことを呼ぼうとしますが、声はすぐに途切れました。まだネズハさんとの関係をひた隠しにしようとするようです。

 

なにも言わない仲間を見たネズハさんは沈痛な表情を浮かべましたが、すぐに毅然と叫びました。

 

「僕がギリギリまでボスを引きつけます!その間に、態勢を立て直してください‼︎」

 

ネズハさんはそう叫んで、ボスを睨みつけます。

 

「……エギル、あいつにブレス攻撃の……」

 

キリト先輩は多分、「時期(タイミング)を教えてくれ」と言いたかったのでしょう。たしかにネズハさんが来たのは恐らく私達がブレスを受けた後。ということは雷電放射(あの攻撃)について知らないはずです。

 

ですが、アステリオス王はキリト先輩がそれをエギルさんに伝える前に《雷電放射(雷ブレス)》の予備動作を始めました。

 

ネズハさんは立ったまま、ボスを見上げています。

 

「避けろ‼︎」

 

ディアベルさんが今、指示できない中、シミター使いのリンドさんがそう叫びました。

 

しかし、ネズハさんはそれよりも早く俊敏な動作で左に跳んでいました。

 

そのおかげで、アステリオス王の《雷電放射(雷ブレス)》を余裕で避けられました。

 

な、何故、ネズハさんが《雷電放射(あの攻撃)》の回避時期(タイミング)を⁉︎

 

『ブレスを吐く直前、ボスの眼が光るンダ。』

 

そう驚いていると、横から聞き慣れた……こんなところでは聞くはずのない声が聞こえました。

 

私の横……誰もいないところが歪み、そこから両頬に三本ヒゲを塗った私より小柄なプレイヤー……アルゴさんが現れました。

 

「いつまでへたり込んでるンダ?麻痺、もう回復してるゾ。」

 

そう言われて、HPゲージを見ると、《麻痺(パラライズ)》の表示が消えていました。

 

「はい、みんな!落とした剣、拾っておいたよ!」

 

ユウキが私達の剣を持って走って来ました。

 

「ありがとうな、ユウキ。」

 

「ありがと、ユウキ!」

 

そうお礼を言って受け取り、剣を構えます。

 

「みんな!今、ボスのブレスについての情報を手に入れた!さあ、反撃を始めよう‼︎」

 

「「「「「おおおおおおおおおお‼︎‼︎」」」」」

 

ディアベルさんもちょうど回復したようで、みんなに戦闘継続を指示する。

 

「A隊D隊、前進!」

 

その掛け声で、重装甲の(タンク)部隊がアステリオスの足に体当たりにも似た攻撃を仕掛け、タゲをネズハさん一人から本隊に移す。

 

「ネズハ‼︎」

 

キリト先輩が呼びかけると、前と変わらず弱々しくはありますが、一本筋……いえ、剣の通った笑みを浮かべて、右手にある投擲武器を掲げました。

 

ネズハさんの持つ武器の名は《チャクラム》。投剣スキルと体術スキルの両方を持っていなければ、扱えない特殊な武器です。

 

そして、つい最近体術スキル取得クエストをクリアし、ずっとレベリングして、今やってきたみたいです。

 

「やああっ‼︎」

 

私達の目の前でソードスキルを発動させ、チャクラムが黄色い光を帯びながら、ボスの弱点である額に直撃。

 

ボスは《行動遅延(ディレイ)》に陥り、本隊の《攻撃隊(アタッカー)》の総攻撃がアステリオス王を襲います。

 

「夢、みたいです。僕が……ボス戦で、こんな……」

 

ネズハさんは震えた声でそう言うと、後半をぐっと飲み込んで、代わりに叫びます。

 

「僕は大丈夫です!皆さんも前線に加わってください!」

 

「分かった!」

 

「雷ブレスを優先的に行動遅延(ディレイ)で潰してくれ!」

 

「頼んだよ!」

 

皆さんはそれだけ言って、キリト先輩は私達2パーティを見ます。

 

「………俺たちも、行くぞ!」

 

『『『了解‼︎』』』

 

そうみんなで頷いて、走り出しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから30分。

 

アステリオス王のHPゲージはもう最後の一本が赤くなりました。

 

あともう少しで倒せます。私たちも、スイッチで入れてもらい、ソードスキルをボスに叩き込んでいました。

 

『ヴオオオオオラアアアアアアアアアアッ‼︎‼︎』

 

すると、ボスがそうはさせるかと言わんばかりに《雷電放射(雷ブレス)》を発動させようと、大量の空気を吸い込み始めました。が、すかさず飛来したチャクラムによってそれは阻止され、のけぞったボスの鼻でバフッと雷が爆発します。

 

「……なあ、ロニエ。」

 

「……はい、何ですか?」

 

その直後に本隊の総攻撃を受けて、怒り狂い、踏みつけ(ストンプ)を三連発した後、ハンマーを高々と振りかぶり、《デトネーション》を発動させようとしています。

 

「……このままレジェンドブレイブスの奴らに全部持っていかれるのもアレだからさ………」

 

「………?」

 

「抵抗しないか?」

 

「………抵抗って、何をするんですか?」

 

「………ラストアタック、貰って行くんだよ。」

 

「……………いいんですか?」

 

「ああ、いいんだ。全部持っていかれるのも嫌だし、この二層で練習してきた左手持ちのソードスキルもここで試して見たいしな。」

 

「だ、大丈夫なんですか?こんな時に……」

 

キリト先輩はこの層に来て私の剣の詐取があってから、利き手ではない左手で剣を使う練習をしていました。ですが、こんな非常時にやるなんて……

 

「大丈夫だ、問題ない。じゃあ、ジャンプして………」

 

「……《レイジスパイク》で決めるってことですよね?」

 

「……分かってるじゃないか、ロニエ。行くぞ……3、2、1……GO‼︎」

 

それを見て本隊は一気に下がり、《レジェンドブレイブス》は果敢に前に出て、大技ソードスキルを構えます。

 

それと同時に私達は走り始めます。

 

「エギル、ナギ‼︎」

 

エギルさんとナギちゃんに合図を送ると、二人はこれからやることを察したのか、攻撃を一旦やめて、両手斧と両手槍を構えます。

 

「せーのッ‼︎」

 

私達は同時に跳躍して、構えていたエギルさんとナギちゃんの両手斧両手槍に片足で乗ります。

 

「オラアアアッ‼︎」

 

ypaaaaaaa(ウラアアアアア)‼︎」

 

掛け声とともに私達をそれぞれの武器で上に飛ばします。

 

そして、最高点で私とキリト先輩はソードスキル《レイジスパイク》発動させます。

 

 

 

 

 

「おおおおおおおおおおッ‼︎‼︎」

 

「やあああああああああッ‼︎‼︎」

 

 

 

 

ソードスキルで加速して、アステリオス王の弱点である額を王冠ごと貫きました。

 

 

 

『ヴォッ………⁉︎』

 

 

 

そしてアステリオス王は叫ぶことも出来ず、ガラスの破片となって爆散しました。

 

 

 




次回「英雄の代償」


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英雄の代償

こんにちは!クロス・アラベルです!
第二層の最後をどうぞお楽しみください!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆散し、散って行くガラス破片。

 

「ぐはっ⁉︎」

 

「キャッ⁉︎」

 

私達は重力に逆らうことなく床に落ちました。

 

「痛てて……」

 

「……はぁ、はあ、はあ……や、やった……のか…?」

 

『『『『やったあああああああああッ‼︎‼︎』』』』

 

溢れる喜びの雄叫び。ボス戦での肌を裂くような緊張感はいつのまにか解かれ、明るくなっていました。

 

「コングラチュレーション」

 

「お疲れ、二人とも。」

 

「ロニエ、お疲れ!」

 

「やっと終わったね、ボス戦!」

 

「……ナイスアタックよ、ロニエちゃん。」

 

「Поздравляю!(おめでとう!)ロニエ!キリト!」

 

エギルさん、ユージオ先輩、ティーゼ、ユウキにアスナさん、ナギちゃんが集まって来ました。なんとか立ち上がり、みんなと握手します。

 

「相変わらず見事な剣術とコンビネーションだな。だが………今回の勝利はあんたじゃなく彼のものだな。」

 

「ああ。あいつが来てくれなきゃ、少なくとも10人…いや、皆殺しにされてたかもしれないな……」

 

ネズハさんを見ると、ボスがいたその場所をまぶしそうに見上げています。

 

「やった!やったで‼︎今回も犠牲者無しで第二層のボス突破や‼︎」

 

「ああ!やったなキバオウさん!」

 

攻略組の方はキバオウさんとリンドさんが肩を組んで喜んでいます。ディアベルさんも二人と、いえ、皆さんと喜び、はしゃいでいます。

 

「……犠牲者無しで第二層ボス突破、ですか……」

 

「ああ。危なかったけど……ひとまず終わりだな。」

 

「ふう……これで一安心だね。」

 

「皆さん!」

 

ふと後ろを向くとネズハさんが立っていました。

 

「お疲れ様でした、皆さん。キリトさん、ロニエさん、最後の空中ソードスキル、凄かったです。」

 

「あー、いや、それはその…」

 

「いいえ、凄かったのはあなたよ。3日前から使い始めたとはいえ……手に入れて使い出したばかりの武器をああも完璧に使いこなすなんて……練習、大変だったでしょう?」

 

「いえ、大変だなんて思いませんでした。だって、僕はやっと、なりたかったものになれたんですから………本当に、ありがとうございました。これで、もう……」

 

ネズハさんは途中で口を閉じ、また深々と頭を下げました。

 

「……ネズハさん、あなたもレジェンドブレイブスの皆さんと一緒にいていいんじゃないですか?」

 

「いえ、いいんです。僕にはもう一つ……………やらなきゃいけないことが、ありますから…」

 

「?」

 

「え?何をだ……?」

 

キリト先輩がそう聞いた時、ネズハさんの後ろ……攻略組の方から四人のプレイヤーが近づいてくるのに気づきました。

 

一人は確か、シヴァタさん、3人目と最後の一人は名前は知らない方でした。ですが、二人目は私達のよく知っている人でした。

 

「あんた……何日か前まで、アルバスやタランで営業してた鍛冶屋だよな?」

 

シヴァタさんは強張ったような声を、ネズハさんにかけました。

 

「……はい。」

 

「なんでいきなり戦闘職に転向したんだ?しかも、そんなレア武器まで……それ、ドロップオンリーだろ?鍛冶屋でそんなに儲かったのか?」

 

ま、まさか……シヴァタさんは、ネズハさんを疑って……⁉︎

 

「…………僕がシヴァタさんとそちらの三人の武器を、強化直前にエンド品にすり替えて騙し取りました。」

 

この言葉が、ボス部屋をしんとした重い沈黙に引きずり込みました。

 

「……騙し取った武器は、まだ持っているのか?」

 

「……いえ、全てお金(コル)に替えてしまいました……」

 

「…そうか……なら、金での弁償なら出来るか?」

 

……その問いは、可能…と言えるには言えます。レジェンドブレイブスのメンバーが持っている武器を売れば、できます。

 

すると、震えながらもネズハさんは答えました。

 

「……………いえ……弁償も、出来ません。お金は全部、高級レストランの飲み食いとか高級宿屋とかで残らず全部使ってしまいました。」

 

私達、事情を知っている私達は驚愕しました。ネズハさんはこの場を全て一人で切り抜けるつもりです。

 

その時、とうとう我慢の限界がきたのか、名前の知らないプレイヤーが怒鳴りました。

 

「お前……お前、お前ぇえッ‼︎分かってるのか‼︎オレが……オレ達が、大事に育てた剣壊されてどんだけ苦しい思いしたか‼︎なのに……なのに、オレの剣売った金で美味いもん食っただぁ⁉︎高い部屋に泊まった⁉︎挙げ句の果てに、残った金でレア武器買ってボス戦に割り込んで、ヒーロー気取りかよッ‼︎」

 

「俺だって、剣なくなって、もう前線で戦えないと思ったんだぞ⁉︎そしたら、仲間がカンパしてくれて、強化素材集めも手伝ってくれて……お前は、俺だけじゃない、あいつらも…………攻略プレイヤーも裏切ったんだ‼︎」

 

二人の言葉が導火線になったかのように、周りにいたプレイヤー達がネズハさんへ一斉に怒号をあげました。

 

その後ろ……レジェンドブレイブスのメンバーはどうしたらいいのか分からないのか、ひそひそと囁いていました。

 

私たちも、どうすべきか躊躇していました。

 

その武器をあげたのは私たちです、ネズハさんだけで詐欺をしたんじゃない、あるプレイヤーに唆されてやってしまったんだ。そう言うのは容易いでしょう。でも、それで怒りの矛先を私達に向けるのが果たして、本当に解決した……そう言えるのでしょうか。

 

ネズハさんのさっきの言葉の続き……あれは……

 

『これで、もう………()()()()()()()()()()()()

 

そう言いたかったんですか……?

 

私達が何も出来ないでいると、たった一人、止めに入る人がいました。

 

「みんな、待ってくれ!一度落ち着こう‼︎」

 

驚いて攻略組プレイヤーが一斉に振り返りました。そこには、今までで一番険しい顔をしたアインクラッド初のレイドリーダー、ディアベルさんがいました。

 

「みんな、頭を冷やすんだ。こんなことをしていても、解決にはならないぞ?」

 

ディアベルさんの言葉に少し落ち着いたのか、みなさんは声を上げるのをやめました。

 

「………君、名前はなんて言うんだい?」

 

ディアベルさんが優しくネズハさんに名前を聞きます。

 

「ネズハ……です…」

 

「……ネズハ、だね………ネズハ、君のカーソルはグリーンのままだ。だからこそ、罪は重い。システムに規定された犯罪でオレンジになったんなら、カルマ回復クエストでグリーンに戻ることも出来る。でも、君の犯した罪はどんなクエストでも雪げない。その上、弁償も出来ないなら……他の方法で償ってもらおうと思っている。」

 

……まさか、自殺…とかじゃないですよね…ディアベルさん……多分、ディアベルさんならこれからのボス攻略の貢献、定期的弁済……ぐらいでしょうか…

 

キバオウさんもリンドさんも固唾を呑んで見守っています。

 

「だから、君には……」

 

そう、最後の審判をネズハさんに下す……その直前、攻略組のプレイヤーの皆さんから甲高い声が上がりました。

 

「違う………そいつが奪ったのは時間や金だけじゃない!」

 

「……えっ……?」

 

 

「オレ……オレ知ってる!そいつに武器を騙し取られたやつはほかにもたくさんいるんだ‼︎そんで、その中の一人が、店売りの安物で狩りに出て、()()()()()()()()m()o()b()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

しんと静まり返る主人なき大広間。そして、一人が掠れ声で言いました。

 

「し、死人が出たんなら……こいつ、詐欺師じゃねえだろ……ピッ……ピ……」

 

 

「そうだ‼︎こいつは人殺しだ!PKなんだよ‼︎」

 

 

そして、さっきの甲高い声が火に油を注ぐように言いました。PKとは神聖語で人殺しという意味があるそうです。プレイヤーキラーの略だとか……それでも、公にしてそんな言葉を聞いたのは今が初めてです。

 

「土下座くれーで、PKが許されるわけねぇぜ‼︎どんだけ謝ったって、いくら金積んだって、死んだ奴はもう帰ってこねーんだ‼︎どーすんだよ!お前、どーやって責任取るんだよ‼︎言ってみろよぉ‼︎」

 

この声は……第一層でも聞いたことのあるものです。小刀で鉄板を引っ掻くような……

 

ネズハさんはその糾弾を小さな背中で受け止めて、少し震える声で答えました。

 

「皆さんの、どんな裁きにも従います。」

 

そんな、この大広間で搔き消えそうな声を聞いて、また沈黙が流れます。

 

私達はこれから起こりうることを防ぐために止めようとした……けれど、半秒遅れてしまいました。

 

「じゃあ、責任取れよ」

 

次の瞬間、うわっ、というような大音響が部屋いっぱいに広がりました。

 

「そうだ、責任取れよ‼︎」

「死んだ奴に、ちゃんと謝ってこい!」

「PKならPKらしく終われ‼︎」

 

そんな言葉がいよいよ、私達の予想していた言葉になりました。

 

「命で償えよ、詐欺師‼︎」

 

「死んでケジメつけろよPK野郎‼︎」

 

「殺せ‼︎クソ詐欺師を殺せ‼︎」

 

それは詐欺事件だけでなく、今までの……この世界に閉じ込められた怒りも込められているように感じました。

 

ディアベルさんもキバオウさんもリンドさんも……かくゆう私たちもどうすればいいか、わかりませんでした。

 

その時、一人のプレイヤーが前に出てきました。

 

腰にあるのは両手剣。軽装備で髪は茶髪の少年。

 

「………覚悟があるんなら……今ここで、殺してやるよ…」

 

そう言って、鞘から両手剣を抜き、上段に構え、ソードスキルを発動させました。

 

「ッ‼︎」

 

それを見て、動いたのはキリト先輩でした。即座にソニックリープを発動させて、なんとかそのソードスキルを受け止めます。

 

「ぐッ‼︎」

 

「⁉︎」

 

流石に、両手剣の威力は片手剣で相殺できず、少し拮抗します。

 

「………なんで……なんで止めるんすか…キリトさん」

 

「……やめ、ろ……ネズハを殺したら、お前も犯罪者になるんだぞ⁉︎()()ッ⁉︎」

 

そう、ネズハさんを殺そうとしたのは、第一層でも一緒にボスと戦ったベルさんでした。

 

「……犯罪者を殺して何が悪いんすか?」

 

「そんなんじゃ、解決にならないだろっ⁉︎」

 

「……そいつが望んでるんですよ?なら、殺さないと……」

 

「……そんなことしても、死んだ奴は帰ってこないぞ……んなこと、間違ってるだろ⁉︎……殺すなんてこと、俺が、許さないッ‼︎」

 

そう言って、両手剣を弾き、距離を取ります。

 

「………失望したっす……キリトさん…犯罪者を庇うなんて」

 

「ネズハが犯罪者でも、そうじゃなくても……俺は助けたぞ。」

 

沈黙する大広間。このままじゃ……ベルさんをなんとか説得しないと……

 

「待ってください、ベルさん!」

 

「………」

 

「あなたも、ネズハさんに武器を詐取されたんですよね?」

 

「………そうっすよ……言ってなかったんですけど……いつから気づいてたんすか?ロニエさん」

 

「………ボス戦を始める直前です。いきなり主武装を変えたので、もしかしたら、と……」

 

「…………」

 

「私もですよ。被害者は、あなただけじゃない。」

 

「……!」

 

その時、レジェンドブレイブスの皆さんが、ネズハさんの前に立ちました。

 

「……待ってください…」

 

「!」

 

「……!」

 

そして、オルランドさんがネズハさんに、震えるように言いました。

 

「………ごめんな、ネズオ……本当に……ごめん……‼︎」

 

「………‼︎」

 

 

「……ネズオ……ネズハに詐欺をやらせていたのは、俺達です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なんで私達がこんなことをしなきゃいけないわけ?」

 

愚痴をこぼすアスナさん。

 

「ま、まあまあ……私達は軽装備ですから……あまり欲しいものは無かったですし……」

 

今私達は第三層へ続く階段を登っています。

 

「……良かったね!無事に解決出来て!」

 

「……危なかったですね……まさか、あそこまでなるなんて……」

 

「そう言えば、今日のキリトは凄かったね。全部ラストアタック持って言ったんでしょ?」

 

「えっ……」

 

「……私は将軍と王様を倒しましたよ。」

 

「僕は大佐だけだけど……もしかして、キリト……全部、同時攻撃で…ラストアタックボーナス貰ったの?」

 

「うぐっ………」

 

図星ですね。

 

「………前線に出るには時間はかかるだろうけど……ネズハ達…また、一緒に戦えたらいいね。」

 

「……戦えるさ。ネズハなら……きっと……」

 

「……そうだといいですね。」

 

今、ボス部屋ではレジェンドブレイブスの皆さんの持っていた武器や鎧をオークションというもので売り払っています。私達はあまり欲しいものは無かったので、傍観してるだけだったのですが、ディアベルさんに、第三層のアクティベートを頼まれたのです。

 

「………ここからがソードアートオンラインの本番なんだからな。」

 

不意にキリト先輩から出た言葉。

 

「え?なんでですか?」

 

「………えっと、だな……」

 

板についてきたキリト先輩の説明を聞きながら私達は第三層へと向かいました。

 

 

 

 

 

 

 






これで今年最後の投稿になります。今年はこの作品を読んでいただきありがとうございます!来年からは第三層のお話になっていきます。来年も、よろしくお願いいたします!
それでは良いお年を‼︎


次回第三層《黒白のコンチェルト ~青の改変~》 『神聖なる大森林』


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第三層 黒白のコンチェルト ~青の改変~
神聖なる大森林






「みんなー、準備出来たー?」
「はい、出来ましたよ!作者さん!」
「いや、お前誰だよ。」
「服も着替えたし、これでオッケーだよ。」
「これ、動き辛いわ……」
「ああー……おせち食べたいなー」
「新作アニメを早く見たいデスネ…」
「……何やってんだよ、みんな?」
「……察しなさいよ、キリト君。」
「は?」
「よし、それじゃあ……って、もう始まっちゃってる!よし、みんな、いった通りによろしくね!……せーのっ」

『『『2018年、明けましておめでとう御座います‼︎』』』

「こんにちは!クロス・アラベルです!今回は、みんなで着物を着て、お祝いです!」

「去年から始まった僕等の物語、《ソードアートオンライン~時を超えた青薔薇の剣士~》を読んでくれてありがとう!」

「えっと、これからも私達、頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」

「「「「お願いしまーす(ス)‼︎」」」」

「……なあ、何をやって………」

「去年も色々とありましたが、今年も頑張れたらと思います!」

「今回からは第三層の攻略のお話だよ!もちろん、ボクも大活躍‼︎」

「オリジナルストーリーを加えていきますので、よろしくお願いします。それでは、今年の一番最初のお話を……」

「「「「「「どうぞ、お楽しみください‼︎」」」」」」

「………なんでや。」





 

 

 

 

 

 

 

「えっ?なんでですか?」

 

後ろから俺の『三層からがSAOの本番だ』という言葉の意味を聞いてくる声が聞こえる。それに答えるために後ろを向きながら説明を始める。

 

「…えっと、それは……この第三層から本格的に人型MOBが出てくるからなんだよ。」

 

「ひ、人型?」

 

さっきの質問をした焦げ茶色の髪と青い瞳の少女、ロニエが首を傾げながら聞いてきた。軽装備の鎧と左腰に俺と同じアニールブレードを装備している。

 

「ああ。MOBのことは前に説明したろ?そのMOBの中にもいくつか種類があってだな……植物型、動物型、亜人型…人型がいるんだ。まあ、他にもいるけど……」

 

「でも、第一層も第二層も人型がいたじゃないですか。コボルドもトーラスも……」

 

そこでロニエの横にいた燃えるような紅葉色の髪と瞳のティーゼが反論する。装備はロニエと全く同じだ。

 

「いや、正確にはコボルドもトーラスも亜人型MOBなんだよ。二足歩行だったけど、見かけは人間じゃないだろ?」

 

「……でも、ソードスキルを使ってきてたよ?」

 

そこでソードスキルを使ったという点を指摘してくる亜麻色の髪と緑色の瞳の少年、ユージオ。鎧の類は殆どつけていない。アニールブレードを背中に装備している。

 

「まあ、確かにソードスキルは使ってきたけど、それとは天と地の差があるぞ?ソードスキルも高度な使い方をするんだよ。」

 

「………ってことは、もっと敵が強くなるってことデスカ?」

 

どこか日本人離れした白髪に金色の瞳の少女ナギがそう聞いてくる。発音も不完全で、語尾がなんだか変だ。装備は軽装備の鎧と背中の両手槍だ。

 

「そう言う事でもあるな。これはつまり、本物のソードアートが始まるんだ。茅場晶彦も雑誌のインタビューにこう答えてた。『《ソードアート》とはソードスキルの光と音、生と死が織りなす、《協奏曲(コンチェルト)》だ』って……」

 

「……と言うことは、その時点で茅場晶彦はこれを計画していたってことになるわね……」

 

と、そこで落ち着いた声で呟く少女、アスナ。今はフーデットケープを着て分からないが、栗色の髪と瞳を持っている。左腰には第一層の準レア武器『ウインドフルーレ』を装備している。

 

「………そう言うことになるな……」

 

アスナの発言に改めて気付かされる。確かに『生と死』と言う言葉を見るに茅場晶彦はその時点でこのデスゲームを計画していたと言える。

 

「……それに、一対一の勝負の比喩として《協奏曲(コンチェルト)》って言ったんなら、間違ってるわよ?」

 

「え?何が?」

 

「一対一の形式だと《協奏曲(コンチェルト)》じゃなくて……《二重奏(デュエット)》と言った方が正しいわ。」

 

「アスナ、デュエットとかコンチェルトって何?」

 

「あ、それ私も聞きたかったです、キリト先輩。」

 

「……二重奏と協奏曲のことだよ。でも、あんまり詳しくないから意味までは分からないな…」

 

質問されて曖昧な答えをしてしまった。俺もあんまり正確な意味を知らないな……雰囲気で理解したと思ってた…

 

「……時代で変わってくるんだけど、協奏曲は大抵……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのよ。」

 

「……いや、SAOではモンスターが多数ポップすることはないはずだぞ。あり得るとしたら、ダンジョンでアラームトラップを踏んだ時か……そうなることはこの層ではないはずだ。強いて言うなら…ボス戦か?でも、それだとボスが主人公でレイドが脇役みたいだな……」

 

思っていることを全部言ってしまった……でも、そんな状況起こり得るのか?

 

「……ごめんなさい、私の考えすぎだわ………それより、キリト君。」

 

「何?」

 

「……いえ、もう遅いみたい。」

 

アスナがそう呟いた直後、俺の頭に凄い衝撃が襲う。

 

「んごッ⁉︎」

 

そう、俺はいつのまにか階段を登りきって、扉に衝突してしまったんだろう。体がグラグラ揺れて……って、ロニエ達の方に…た、倒れる訳には…ッ⁉︎

 

……と、思ったが………こんな思考は無意味だった。

 

ユージオ達は素早く反応して避けたが、ロニエとアスナが意外にもアスナに関しては目を閉じて、呆れている。ロニエは、驚いて停止中。

 

俺はそのまま、ロニエとアスナに巻き込みながら倒れ込んでしまった。

 

「うわぁっ⁉︎」

 

「ひゃあっ⁉︎」

 

「きゃっ⁉︎」

 

ドサッ、そんな音とともに二人を巻き込んで派手に倒れた。

 

「…つつつ……ごめん、大丈夫か?ふた…」

 

「………!///」(^ ^#)ピキ

 

「……⁉︎//////////」(///□///)アワアワアワ…

 

アスナは笑顔で殺気を放ち、ロニエは口をパクパクして顔を赤くしている。

 

「……?」

 

あれ?なんか、弾力のあるものを手につかんでる?

 

どうなっているのか、俺は分からなかった。そして、俺の今の体勢を思い出した。いや、確認した。

 

「……っ⁉︎」

 

なんと、俺の手は、ロニエとアスナの……その……む、胸を鷲掴みにしていた……

 

「すいませんでしたああああッ⁉︎」

 

飛びのいて俺最大の謝罪の気持ちを込めて土下座をした。

 

突き刺さるみんなの視線。そして、ゆっくりと顔を上げると、そこには……

 

「………あとで、覚えておきなさいよ。」(^言^)

 

鬼が、いた。

 

その横には、

 

「………〜〜‼︎/////」/(///△///)\ハウウゥ…

 

天使がいた。

 

「……謝罪については後々またしますので……ご勘弁を……」

 

と、言ったところで俺は気付いた。土下座した場所が、もう第三層である事を。

 

「うわぁ……綺麗ね……」

 

「……凄い、神秘的ですね…」

 

俺の後ろには巨大な森が広がっていた。

 

「凄いね……第二層も第一層も、こんなに大きな森は無かったし……」

 

「……довольно(綺麗)……!素晴らしいですネ!」

 

「……んー!なんか、空気が美味しいね!」

 

「……ここが、第三層……」

 

それぞれの感想を聞きながら説明した。

 

「この三層はフロア全体が森になってるんだ。第一層とかの森とは天と地の差があるぞ。」

 

そうして、俺達は第三層に辿り着いた。

 

 

 

 

 




次回『黒騎士と白騎士』


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黒の女騎士と白の女騎士

こんにちは!クロス・アラベルです!
第三層、オリジナル要素ぶっ込み回到来です!
ごちゃごちゃかも知れませんが、どうぞ、よろしくお願いします!
それでは、どうぞ!


 

 

 

 

 

「これからどうするの、キリト?」

 

第三層に辿り着いて、何をするかを全く考えていなかったからキリトに聞いてみると、言いにくそうにキリトは答えた。

 

「……それなんだけど…………みんながこれからやる事ないし、メンテも必要ないなら……主街区に行く前に一つ、受けておきたいクエストがあってさ……良かったら……」

 

「……なら、そうしようか。みんなはどうかな?」

 

一応聞いておくと、

 

「大丈夫だけど……」

 

とアスナも了承し、みんなも行くと言ってくれた。

 

「……なら、行くか。」

 

本格的に森の中に入ると、いきなり霧がかかって、視界が悪くなった。

 

「き、キリト先輩!」

 

「大丈夫だ。ここの森は《迷い霧の森(フォレスト・オブ・ウェイバリング・ミスト)》って呼ばれててな……この通り、霧が濃いんだよ。はぐれやすくなるから気をつけてくれ。モンスターを深追いするのも厳禁だ。」

 

「は、はい!」

 

キリトからの注意にロニエは何度も頷き、キリトの近くに寄ってくる。

 

「でだ。ここのモンスターは基本的に森の奥へ誘い込もうとしてくるから、隙を見せたからって突進攻撃ばかりしてると道に戻れなくなる。だから基本的にパーティメンバーからは離れないでくれ。」

 

……と話をしている間になんか、キリトの後ろに何かがいるんだけど……なんか、木なのにそれっぽく感じない……

 

「……じゃあ、君に見せてもらおうかな。」

 

「?」

 

アスナの言葉に首をかしげるキリト。やっぱり気づいてないらしい。

 

「……キリト、なんか後ろから見てるよ?」

 

「へ?」

 

とキリトが後ろを向くと一本の木がある。左右に一本ずつ枝があり、周りの木と比べると細めの幹に二つくぼみがあって、まるで目のよう。そして、ミシミシと言いながら動き出した。二つの穴の下に一つ大きめの穴が空き、そこから不気味な声が響く。

 

『モロロォォオッ‼︎』

 

「「貴様、見ているナ!」」

 

「二人ともふざけないの!」

 

ユウキとナギがおふざけで木の声に合わせてその不気味な声を翻訳する。

 

「よし、みんな行くぞ!」

 

キリトの指示で一気に戦闘態勢にはいる。

 

「了解、このモンスターは……」

 

「『トレント・サプリング』だ!こいつも、森の奥に誘い込もうとしてくるから、あまり追撃はするな!」

 

「よーし!あの枝は無駄だから、伐採しちゃうよー!」

 

と言って、ユウキが飛び出してソードスキルを一撃食らわせる。すると、簡単にその枝は切れてしまった。

 

『モッ、モロロォォッ⁉︎』

 

モンスターが悲鳴を上げ怯んだ隙に、ロニエとティーゼが後ろに回り込む。すると、キリトが二人に注意を飛ばした。

 

「ロニエ、ティーゼ!回り込んでも無駄だぞ!」

 

「「へっ?」」

 

ポカンとして、首をかしげる二人。

 

「そいつには特殊能力があって……」

 

次の瞬間、目のような二つのくぼみに宿っていた光が消えた。

 

「え、えええええ⁉︎」

 

「う、うわあああ⁉︎」

 

「そいつ、後ろに回り込むと正面が移動するんだ!」

 

「「さ、先に行ってくださいよーっ⁉︎」」

 

叫びながら、跳びのき不意打ちを回避する二人。

 

「いやな特殊能力だね………っと‼︎」

 

しみじみと感想を言いながらソードスキルを発動させ、もう一方の枝を斬る。

 

『モッ、モロッ⁉︎』

 

「ラスト、貰うわよ。」

 

そう一言呟いて、アスナがレイピアを閃かせ、木のモンスターに風穴を開ける。ズガッ、と言う音を立ててソードスキルが当たったようで、HPゲージがどんどん減っていき……

 

その攻撃でHPゲージを全部削れたようだ。

 

『モロロロォォォ……』

 

 

「………出番、無かったですネ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、本題のタスクを済ませて置こうか。」

 

初めて見たモンスター『トレント・サプリング』を倒して、3分後。キリトがそう言った。

 

「クエストなんでしょ?なら、村の方に……」

 

「いや、クエストNPCの位置がランダムなんだよなー、これが……」

 

「…キリト先輩、らんだむってどう言う意味ですか?」

 

「……ランダムっていうのは……」

 

と、キリトとアスナとロニエが会話している時、何か、変な音が聞こえた。

 

この音はこの森では聞こえないはずの金属音。金属同士を打ち付ける、剣と剣のぶつかり合いの音。ここに金属でできたモンスターがいるまたは、剣を持ったモンスターがいるとは考えにくい。ということは………

 

プレイヤー同士の争い⁉︎

 

音のした方を振り向いてみると、ティーゼも聞こえていたらしく、同じ方向を向いている。ティーゼはこっちを見て頷いた。

 

そして、僕とティーゼは音の発生源に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って行くとどんどんその金属音は大きくなり、回数も増えている。よくみると、剣と剣がぶつかった時の火花による光が見える。

 

「ティーゼ!止めにかかるよ!」

 

「分かってます!」

 

そして、辿り着いたのは森の拓けた平地。そこにいたのは優美なデザインが施された鎧を身に纏った騎士のような二人のプレイヤーだった。

 

「(僕は右を行くよ!)」

 

「(じゃあ、左を!)」

 

目で意思疎通し、僕は右を、ティーゼは左のプレイヤーをソードスキルで止めにかかる。

 

「はああああ‼︎」

 

「いやあああ‼︎」

 

気合いと共にその二人のプレイヤーの間に入って、相手のソードスキルを止めた。

 

『『⁉︎』』

 

そして、二人の間に割って入り、剣を中段に構えてそのプレイヤー二人を牽制する。

 

『人族がこの森で何をしているのですか‼︎』

 

『邪魔立て無用!今すぐ立ち去れ‼︎』

 

二人のプレイヤーが口々に怒鳴る。それに負けじと反論する。

 

「立た去れるわけなんかない!こんな無意味な争い、止める以外に何があるのさ‼︎」

 

「そうよ!今、私達は団結して戦わなきゃならないのよ!争いあってる暇なんかないわ‼︎」

 

そう反論してから二人のプレイヤーの容姿を見た。

 

後ろ、ティーゼが相対しているプレイヤーはキリトの好きそうな色……即ち黒、そして、紫に統一した軽装鎧を纏っている。緩く弧を描く曲剣と凧盾はかなり強力な武器らしく、異彩を放っている。

 

それに対して、僕が相対しているプレイヤーはこの森を彷彿とさせる緑色と純白、そして煌びやかな金色の軽装鎧に身を固めている。右手に持っている長剣や左手の円楯を見れば一目で強力だとわかる。

 

そして、その二人のプレイヤーに共通するのは……ここでは珍しいらしい女性プレイヤーであることと、その類稀なる美貌だ。

 

『駄目だ!森エルフだけは……絶対に斬らねばならんのだ‼︎』

 

『何を言いますか!私だって貴女を斬らずには帰ることなど出来ません!卑しい黒エルフは……』

 

なんだか、二人の言葉の最後の方は呪詛のようにも聞こえるような…ええい!取り敢えず止めないと……

 

「っ!…あのね、二人で殺しあって何になるの⁉︎どちらかが死んでも誰も得なんかしないし誰も喜ばないよ‼︎」

 

『っ⁉︎』

 

『だ、だが…』

 

「こんな殺し合いが正しい、正義だって思ってるんなら私達が言ってやるわ。()()()()()()()。」

 

『……お、同じエルフだからといって、黒エルフを許す訳には…』

 

「…えるふっていうのが分からないけど、同じエルフならなおさら争うのは間違ってるよ。」

 

『『……』』

 

僕等の言葉を聞いて黙り込む二人のプレイヤー。僕等は二人を諭そうと、また口を開いた…

 

その時だった。

 

何か……黒いものが僕らを横切り、白い鎧のプレイヤーを襲った。

 

『なっ⁉︎』

 

そのプレイヤーは咄嗟のことに反応出来ず、攻撃を受けて怯んだ。

 

そして、その黒い…いや、麻布で出来た雨合羽のようなものを着た……黄土色の目をした誰かがその隙に森の奥へと消えてしまった。

 

『ぐ……』

 

『ど、どうした?』

 

「あなた、大丈夫なの⁉︎」

 

「だ、大丈夫⁉︎」

 

『な、なんとか……!……ま、まさか…ひ、秘鍵が⁉︎』

 

『な、何⁉︎秘鍵が奪われたのか⁉︎』

 

「ヒ、ヒケン?」

 

なんだろ、ヒケンって……

 

『……まさか、先ほどの賊は……フォールンですか……!』

 

……分からない単語が多すぎて訳がわからない。

 

『……人族の剣士!貴様が隙を作らせたせいで秘鍵が奪われてしまったではないか‼︎』

 

『……黒エルフに同調するのも癪ですが……どう落とし前を取ってくれるのです?』

 

「……君たちの言うヒケンって言うのが大切なのは分かったよ。でも、僕等はそれを奪わせるために止めた訳じゃないし、僕等とさっきのやつは無関係だよ。僕等はただ……止めたかっただけなんだ。」

 

『『………』』

 

「ユージオ先輩の言う通りよ。ここは相手が敵でも、協力すべきだわ。」

 

僕とティーゼの必死の説得に、沈黙が続く。

 

『では、人族の剣士。そう言うなら貴方達もくるのですね?』

 

白い鎧のプレイヤーがそう聞いてくる。黒い鎧のプレイヤーも納得できないところがあるように見えるが、反論はしてこない。

 

「……分かった。そうじゃないと示しがつかないだろうからね。」

 

「……あ、先輩。あたし達、キリト先輩達のこと、忘れてません?」

 

そして、大事なことを忘れてた。

 

「あぁ……」

 

「ユージオ!ティーゼ!どこいってたんだ⁉︎」

 

どうしようか、考えていると後ろの茂みからキリト達が走って来た。

 

「あ、キリト……あのさ、ちょっとばかり相談が……」

 

「なんだよ、相談って………ッ⁉︎」

 

今からしようと思ってること、それをキリトに相談しようかと話しかけると、キリトは後ろにいる二人のプレイヤーを見て目を見開いた。

 

「おまっ、そ、そいつらって……⁉︎」

 

「?」

 

『何者だッ!』

 

『敵ッ‼︎』

 

そう言って後ろの二人は警戒して持っていた剣を中段に構えた。

 

「ちょ、ちょっと待って!この人達は僕等の仲間だから。」

 

『……そうでしたか……』

 

『驚かしてくれるな……人族よ。』

 

「……ごめん、少し待ってて。仲間と相談してくるから。」

 

そう言ってキリト達に訳を話し、奪われたという『秘鍵』を取り戻す為に手伝おうと言うと、キリトは戸惑いながらも答えた。

 

「……と、取り敢えず行こうか。まあ、お目当てのクエストは受けられた………みたいなのか?」

 

「なんで疑問形なのよ。」

 

「そうですヨ!キリトはβtesterだから、知ってるんじゃないデスカ?」

 

「……移動しながらでも説明するから………でも、こんな事ってあり得るのか……?」

 

「分かった、ありがとう。みんなも来てくれる?」

 

「ええ。私にとってここは未開の地なんだもの、キリト君の案内がなきゃ無理だから……断ることなんて出来ないわ。」

 

「もちろん私も行きます!」

 

「ボクもボクもー!」

 

「もちろん行きますヨ!」

 

みんな快く受け入れてくれた。

 

『それで、人族の剣士……相談とやらは終わったのですか?』

 

しびれを切らして白い鎧のプレイヤーが聞いてきた。

 

「あ、ご、ごめん。今終わったよ。秘鍵奪還だけど、僕らで良ければ手伝わせてもらうよ。」

 

『それでは、フォールンの奴を探すぞ。ついて来てくれ。』

 

僕等は二人のプレイヤーについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、キリト。説明って何?」

 

「ああ、そのことなんだが……みんな、俺たちを先行するあの二人はな、クエストNPCなんだよ。」

 

「「「「「…………は?」」」」」

 

僕等、キリトとユウキを除く五人がキリトの言葉の意味が分からず、呆然としていると、キリトは説明の続きをする。

 

「……気が付かなかったのか?あの二人の頭の上にカーソル、見てみろよ。」

 

そう言われて、機械的に二人の上にある『カーソル』という光の柱を見ると、黄色だった。プレイヤーのカーソルは緑色だったはず。黄色のカーソルは確か……

 

「黄色ってことは……本当にクエストNPCなんですかっ⁉︎」

 

「……ああ。俺たちがさっき相談してる時とその前はあの二人のカーソル……はてなマークか、ビックリマークだった筈だぞ。」

 

それを聞いてみんな驚愕する。特に僕とティーゼは驚いた。だって人だと思ってた人が人じゃないなんて……

 

「彼女らの種族はエルフさ。鎧が黒いほうが《(ダーク)エルフ》、白と薄い黄緑色の鎧を着てるのが《(フォレスト)エルフ》だ。耳を見たらすぐわかるぞ。ほら、とんがってるだろ?」

 

よく見てみると本当にとんがってた。

 

「……俺の受けたかったクエストのNPCなんだけど…なんか、展開がβテストの時と全然違うな。」

 

「β時代はどんなクエストだったの?」

 

「ああ、このクエスト……いや、このソードアートオンラインで初の大型キャンペーンクエストだったんだ。本当なら俺達プレイヤーがあの二人のどちらかに味方して、もう一方と戦うっていう感じだったんだけどなぁ………知らぬ間に、戦闘がなくなってた………そんなことある筈ないんだけど……ちなみに、βの時は黒エルフが女騎士で、森エルフが男騎士だった……でも、今回は()()()()()か……」

 

アスナに聞かれて歩きながら答えるキリト。

 

「……多分、ここからはβ時代の経験があっても今はないと思うんだよ………つまり、ここから……」

 

キリトは真剣な表情で呟いた。

 

 

「……誰も知らないクエストになる……()()()()()ってことだ。」

 

 

 

 





《予告》
ロニエ「第三層へ無事辿り着き、アインクラッド初の大型キャンペーンクエストを受けようとするキリト達。
だが、ユージオ達がこの世界に来た影響なのか、二人のエルフの戦闘は起きず、代わりに二人のエルフと共に第三層では出てくるはずのないフォールンエルフとの戦闘を強いられる。
ユージオ達の進む道はどこへ繋がっているのか。そして、キャンペーンクエストの行方は⁉︎
次回、《未知の世界》!次回も、さーびすさーびすぅ!
……これでいいですか?作者さん。」

「はい、いい感じですよ。」

ユウキ「……どこかで聞いたことあるような気がするなぁ……」


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未知の領域

すごく遅れてしまいました!クロス・アラベルです!
えっと、明日にはまた一話投稿します!
ちなみに今回はキリト目線です!
それでは、どうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 

森の中、進み続ける俺達。

 

ユージオとティーゼの行動によって、完全にクエストが未知のものになったのに気付いたのは5分前。

 

「………このクエスト、これからどうなるんだよ……」

 

そう、これが一番不安なことだ。このSAOでは元ベータテスターの知識、経験、テクニックが最重要になってくるのに………βの時にあった戦闘の分岐点を通り過ぎて、なんか分からないが二人の騎士……黒エルフのお姉さん、『キズメル』と俺の知らない森エルフのお姉さんが一時共戦締結を結び、奪われてしまった秘鍵を奪還するために横に並んで歩いている……まあ、かなり間は空いてるが。

 

あの二人の騎士によると、『堕ちた(フォールン)エルフ』に秘鍵を奪われたとか。

 

でも、この層では『堕ちた(フォールン)エルフ』は出て来ないはずなのだ。出てくるのはもっと上の層で、レベルが高い。エンカウントしたら勝てるかどうか、すごい不安だ。まあ、俺たちはこの第三層においての最大レベルに上がってる。これ以上上げようとすると、ちょっとばかし、きつめのレベ上げをしなければならない。

 

ナギは14、ロニエとティーゼとアスナは15、ユウキが16、俺とユージオにいたっては17だ。もう、これまでのようにスムーズなレベルアップは見込めないだろう。

 

もう一つの心配なことは、第2層のボス戦後の件……もっと言えば、ベルについてだ。あの後、ベルは『俺は納得できない』と言って第2層の迷宮区に降りて行った。あの時のベルの目は親の仇を見るかのようだった。その目は恐怖を感じるほどに冷たく鋭かった。

 

「……フレンドの方を確認しとくか。」

 

そう呟いて、メインメニューを開いて、フレンド一覧表を出す。

 

「……っ!」

 

ベルが俺とのフレンド登録を消去したのか、そこにはベルの名前がなかった。多分、ユージオ達も同じだろう。

 

「……ベルの奴、一体どうしたんだ……」

 

「先輩、モンスター来ましたよ!」

 

「お、おう。」

 

ロニエの声で意識を現実に……いや、仮想世界に戻された。抜剣し、現れた『トレント・サプリング』一体とと『バイティング・ウルフ』三体を相手取る。

 

『ふッ!』

 

『シッ!』

 

エルフ騎士の二人は前にいた『トレント・サプリング』を通常攻撃二発ずつで葬った。

 

あの二人、強すぎるような気がする。俺達も人のことは言えないかも知れないが、レベルはどれくらいなのだろうか。15、6ほどはありそうだ。

 

「……お二人ともすごい強いですね、先輩。」

 

「……ああ……ロニエ、お前とレベルは変わらないかも知れないな。」

 

「……βの時は、あんなに強い女性を斬らなきゃいけなかった訳?」

 

「いや、βの時は片方が男だって言ったろ?多分、今の俺たちじゃ、太刀打ち出来ないな。」

 

「………今のクエストで、良かったわ。」

 

会話に途中で入って来たアスナはポツリと、安心したように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………近いですね……』

 

『……もうそろそろだ、人族の剣士よ。武器を持て、始めるぞ。』

 

それからまた5分ほど歩くと、二人の騎士が俺たちに戦闘準備を促して来た。

 

「……なんでわかるんだろう……僕等の索敵スキルには反応はないのに…」

 

「……エルフの勘ってやつじゃないかな?エルフって耳が良さそうだしね!」

 

「……そう、なのか?」

 

「……!」

 

「………本当にいるみたいだね。索敵スキルに今反応があったよ。」

 

「……みんな、気を引き締めて行くぞ。」

 

そして、俺たちは茂みに隠れて、相手の様子を見る。焚き火を囲む四人の麻布を被ったエルフらしき人物。よく見ると耳がいびつにとんがっている。

 

「……じゃあ、端っこの方は俺たちが相手しよう。左がユージオ、ティーゼ、ユウキ、ナギで、右が俺とロニエ、アスナだ。後は…………えっと…」

 

『残りの右側の奴は私が斬ろう。』

 

『……では、私が左を。』

 

俺がNPCである二人の女騎士にどう伝えればいいのか、悩んでいると(ダーク)エルフのお姉さんが即座に相手を決め、(フォレスト)エルフのお姉さんもそれに合わせて答えてくれた。まあ、少し納得できなさそうな顔はしたが。

 

『……今です!』

 

森エルフの一声で一斉に飛び出し、斬りかかる。

 

『グハァッ⁉︎』

 

俺のホリゾンタルが右端にいたフォールンエルフにクリーンヒットする。

 

「ロニエ!」

 

「はい!やあぁッ!」

 

不意をついたことで完全に俺たちの方が完全に優勢だった。相手の武器は超近距離戦闘を得意とする短剣だ。短剣持ちを相手取るのは初めてだったが、ロニエもアスナも落ち着いて対処し、フォールンエルフを圧倒した。

 

そして、ユージオ達の方も落ち着いて対処している。このフォールンエルフ達は俺たちよりレベルは上みたいだが、防具をほとんどつけていない、いわゆる《盗賊(シーフ)》装備だったのが幸いし、安定したダメージを与えられた。

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

「よし、最後だ!ロニエ、頼んだぞ!」

 

「リャアアアアッ‼︎」

 

『ガハッ⁉︎』

 

ロニエのホリゾンタルアークがフォールンエルフにとどめを刺した。

 

「や、やりましたよ!キリト先輩!」

 

「ああ!アスナもナイスアタック!」

 

「うん、ありがと。」

 

お互いを褒め称えていると、HPゲージがゼロになったフォールンエルフがドウっと倒れた。それと同時にユージオ達の歓声も上がる。

 

「キリト、大丈夫だった?」

 

「ああ、問題ないさ。そっちも首尾よく倒せたみたいだな。」

 

「うん、ティーゼ達のお陰だよ。今回はナギが一番ダメージ量が多かったかな?」

 

「やっと出番が来て良かったデス!」

 

MVPのナギは誇らしげに胸を張って言う。

 

「あとちょっとでラストアタック行けたのになぁ…でも、ナギすごかったよ!」

 

「えへへ…」

 

ユウキが悔しそうに言うものの、素直にナギを褒める。

 

すると、先程のフォールンエルフを難なく倒したエルフ騎士がやってきた。

 

『人族の剣士よ、首尾よく勝てたようだな。』

 

『中々の剣技でした。人族にもこれほどの手練れが居たのですね。』

 

二人のエルフ騎士が俺たちのことを褒めてくれている。NPCは褒めたり、俺達の指示を聞いてくれたりしたっけ?

 

「あ、ありがとうございます。お二人は一人で倒したんですか?」

 

『ええ、あの程度の実力なら一人で倒せます。』

 

その時だった。不安な言葉が聞こえて来たのは。

 

 

『そ、そんな馬鹿なっ……カレス・オーの民とは、同盟を組んだ….はず……何故ッ……⁉︎』

 

 

『……何だとっ⁉︎』

 

『い、今、何と……答えなさい‼︎今何と言ったのですか⁉︎今、()()()()()()()()()()()()()()()()()と言ったのですか⁉︎』

 

二人はNPCとは思えないほど、目に見えて驚きをあらわにした。

 

「……キリト、話が見えてこないんだけど……」

 

「言うな、俺もだ。」

 

「…えっと……今のはどういう……」

 

『少し静かにして居なさい、人族!』

 

「は、はひっ⁉︎」

 

『どうなのですか⁉︎いいから答えなさい‼︎』

 

勇気を出してロニエが聞こうとすると、森エルフの騎士が一蹴する。

 

「……キリト、かれすおーのたみって何デスカ?」

 

「……知るか」

 

『……お前は、同盟のことを知らない…のか……ふん…今に見て、いるがいい我々フォールンが、貴様らを……』

 

最後のフォールンエルフは呪詛を残して四散した。

 

『………っ!』

 

『……どういうことだ、カレス・オーの騎士よ。()()、とは…』

 

『……私は、この話は知りませんでした…………まさか…!』

 

「……話が全く見えてこないわね。キリト君、説明お願い。」

 

「それは俺の台詞だ。βテスト自体じゃ、こんな展開なかったぞ……」

 

『……ここではおちおち話も出来ません。どこか安全な場所に移動しましょう。いつ怪物に襲われるか分かったものではありません。』

 

『……一つ、聞く。お前に敵意はあるか?』

 

『ありません。貴女はカレス・オーの民全てが敵だと思っているようですが、それは違います。』

 

『……どういうことだ?』

 

「……」

 

目の前で繰り広げられるNPC同士の会話を聞いて思わず黙ってしまう。

 

『……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ということです。』

 

『!』

 

「……あれ?そんなのなかった気がするんだが……」

 

「何がですか、キリト先輩。」

 

「……いや、お互いに対立し合わない、なんてルート…βテスト時代には無かった筈なんだ。始まりから終わりまでずっと敵対し続けてたんだけど……」

 

ティーゼの問いに戸惑いながらも答える。

 

『………わかった。詳しい話は我々の野営地でする。ただし、秘鍵の方は私が持っておく。それでいいな?』

 

『……ええ。』

 

『それでは行くぞ、人族の剣士達。お前たちも先の戦いに参加した時点で、無関係とはいかないだろう。それに、お前達が一番中立的立場に立てるだろう?』

 

「あ、ああ。元より行くつもりだけど……」

 

そして、二人が微妙な距離を保ちながら歩き始めるのを俺達は遅れて追う。

 

「……キリト、このクエストのこと、どう思う?」

 

「………やべーよ。マジでわかんねーよ。」

 

ユージオの問いに対し、無意識のうちに本音が溢れる。

 

さて、これからどうなるのか……

 

俺は改めて、未知の領域に踏み込んだことを痛感したのだった。

 

 

 

 

 

 

 





次回『変わった現状』

次回は完全説明回です。


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変わった現状

こんにちは!クロス・アラベルです!
前回のストーリー展開がわからないって人が多かったようなので、今回は説明回です。
あくまでこのストーリーはオリジナルで、設定も無茶苦茶です。ご了承の上、ご覧下さい。
それではどうぞ!


 

 

 

 

 

「……ここが野営地…アンダーワールド大戦の時のことを思い出しますね。」

 

今私がいるのは、(ダーク)エルフの野営地に来ています。

 

堕ちた(フォールン)エルフとの戦闘の後、(ダーク)エルフの騎士さんがここに連れて来てくれました。

 

ここの司令官さんにキリト先輩とユージオ先輩、そして、あの二人の騎士さんが話をつけて来たのが約五分前。そして、今とある天幕に向かっています。

 

『入ってくれ。この人数では少し狭いかもしれんが……』

 

と、黒騎士さんに言われて入ったのは人が7、8人寝転がっても余裕があるような、そんな大きな天幕でした。

 

「お、大っきい……」

 

「まさか、一人で使ってるの……?」

 

ユウキとアスナさんも驚嘆して天幕に入る中、白騎士さんはかなり警戒しながらも入ってきました。

 

『話を始める前に自己紹介と行こう。私の名はキズメルだ。エンジュ騎士団に所属している近衛騎士だ。』

 

キズメルと名乗った黒騎士さん。そして、キリト先輩が空気を読んで続ける。

 

「えっと……俺はキリトだ。」

 

『キリト、だな?』

 

「んと…ちょっと違うな。キリトだ、キリト。」

 

『キリトですね?分かりました。』

 

『ふむ……人族の名というのはやはり慣れんな。』

 

そんなこんなで全員の自己紹介が終わりました。白騎士さんを除いて。

 

『それでは、最後になりましたが……私の名はパーシー。カレス・オーの民であり、ヒメシャラ騎士団の近衛騎士です。』

 

「……騎士団の名前って両方とも、植物の名前なのね。」

 

「え、そうなの?」

 

ふと溢れた言葉に首をかしげるユージオ先輩。

 

「ええ。確か、《(エンジュ)》は上品とか幸福、慕情で、《姫沙羅(ヒメシャラ)》は愛らしさとか、謙虚だったわ。」

 

「へぇ……そうなんだ。」

 

「……キリト君、あなた知らなかったの?元βテスターだから知ってるのかと思ってたけど……」

 

「……あんまり気にしたことなかったからな。」

 

『では自己紹介も終わったのだ、司令官に話したことを今そなたたち伝えよう。』

 

『……分かっています。それではあの天幕で、キリトとユージオ、そして、エンジュ騎士団の司令官に話したことを教えましょう。』

 

キズメルさんに促され、パーシーさんは話し出します。

 

『私達カレス・オーの民は元々、リュースラの民と敵対関係ではなかったのです。この浮遊城……大地切断が起こる前までは。』

 

「……大地、切断?」

 

初めて聞いた言葉にティーゼが呟きます。

 

『はい。この浮遊城が出来るきっかけとなった事件です。これによって私達エルフは地上との連絡を断たれ、完全に孤立してしまいました。ですが、一つ……私達エルフに古くからある言い伝えがありました。あの翡翠の秘鍵と他の六つの秘鍵が集まった時、それらによって開くという、神の力を持つと言われている《聖堂》です。』

 

「………その聖堂が持ってる、《神の力》って……例えば、どんな……?」

 

なにやら耳を疑うような話ばかりでついていけません。ちょっと聞いてみます。

 

『……例えば…この浮遊城を元の地上に戻す力…そして、この浮遊城を破滅に追い込む邪の力、です。』

 

「……アインクラッドを破滅に追い込む、デスカ……思いっきり中二病感が出てますネ!」

 

「ナギちゃん、余計なこと言わない。」

 

ふざけたナギちゃんを注意するアスナさん。

 

『そして、私達は元々後者の方を信じていました。ですが、とあるエルフによってその思想は前者に変えられてしまいました。』

 

「……それは、誰なの?キズメル。」

 

『……私達もその正体にたどり着いてはいないのですが……裏に何者かがいたということは分かっています。カレス・オーの民で五大長老のお一方がそう証言してくれています。』

 

ユージオ先輩は思想を変えさせたという煽動者(エルフ)について聞きます。パーシーさんはまだ、そこまではっきりはしていないと暗に答えます。

 

『その者の行動によりいつしか、皆の思想は変わっていたと聞きました。』

 

『……だが、その言い方ではカレス・オーの民全員がその考えを持っているということになるが……そこはどうなのだ?』

 

『……先ほども言いましたが、五人の大長老の中で一人だけ後者の思想を持っている人がいます。他の四人は多分、黒幕に洗脳、あるいは脅されたかと……そして、その大聖堂が破滅の力だと信じる最後の大長老は密かにですが、他の者達に自身の考えを広めました。今も少ないのに変わりはないでしょうが、カレス・オーの民の中でも何人かその考えを受け継いでいる者がいます。』

 

「……その一人がパーシー、なのか?」

 

ここで口を開かなかったキリト先輩が落ち着いた声で聞きました。

 

『はい。……そして、今穏健派は強硬派に攻撃されている状態です。つい最近まではバレていなかったのですが、いよいよバレてしまい……穏健派は暗殺されたり、左遷されることもあります。』

 

「あ、暗殺⁉︎」

 

ユウキちゃんが驚いて声が出てしまいます。

 

『……何を隠そう、私も例に漏れず左遷されたのですから。』

 

「……酷い状況ですね……」

 

パーシーさんの口から出た驚きの新事実にみんな驚きを隠せませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んじゃ、暗い話はここで終わりにしとこう。このままだと……ちょっと、な?」

 

キリト先輩が空気を変えようと言い出しました。

 

「……そういえば、僕らどうするの?どこかに泊まらなきゃ……」

 

『ああ、そのことなんだがな……』

 

「どうしたの?キズメル。」

 

『天幕が私の天幕……ここしかなくてな。皆で寝ることになるが良いか?』

 

『「「「「「「っ⁉︎」」」」」」』

 

ちょ、ええええええ⁉︎

 

「ちょっと待って、キズメル!流石にキリト君とユージオ君はダメよ‼︎どこかに小さい天幕は無いの⁉︎」

 

『すまない。今は丁度天幕が余っていなくてな。』

 

「……⁉︎」

 

「え、えっと、僕ら外で寝るよ!寝袋あるし…ね!キリト‼︎」

 

「……っ、ああ!流石に女の子五人のいるところで寝るのは……流石に死ぬ……!耐えられなかったらどうすんだよ……」

 

……なんか、最後の方の声が小さすぎて聞こえませんでしたね。

 

「……なんでダメなの?別に良いじゃん!」

 

空気を読めないユウキちゃん。

 

「いや、でもそれは……」

 

『そうか、ならよかった。それでは寝具を持ってこよう。待っていてくれ。』

 

「「はあ⁉︎」」

 

な、なんでそこだけに反応したんですかっ⁉︎キリト先輩とユージオ先輩の言葉は無視して…

 

そして、キリト先輩とユージオ先輩の悲鳴も虚しく、キズメルさんは寝具を取りに天幕を出て行きました。

 

 

 

 

 

 




次回『乙女の癒しの時間』

次回はいわゆる、サービス回です。(多分)


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お風呂事件再来⁉︎

こんにちは!クロス・アラベルです!
サービス回到来!
お楽しみください!


 

 

 

 

『この天幕は自由に使ってくれ。私は少し、食事を済ませてくる。他の天幕には料理天幕や風呂天幕がある。それらも自由に使ってくれ。』

 

一騒ぎあった後、ここにある施設のことを寝具を持ってきたキズメルさんが教えてくれました。

 

「えっ?お風呂、あるんですか?」

 

思わず敬語で聞き返すアスナさん。

 

『ああ。そなたらも行くと良い。』

 

「それじゃあ、みんなでお風呂に入りましょう!」

 

「あ、良いですね!疲れも取りたいですし…」

 

「一風呂入りましょう!」

 

「あー!いいね、お風呂!ボクもSAOに来てからお風呂入ってないな…」

 

「私も、お風呂があるなんて知らなかったデス!」

 

『私は先に食事を済ませて後から行きます。』

 

「……じゃあ、俺たちも行くか?ユージオ。」

 

「うん、久しぶりにお風呂にはいっておきたいしね。」

 

と、皆さんでお風呂に入ることに。パーシーさんはご飯を先に済ませて後から来るそうです。

 

「それじゃ、行きましょう!早く!」

 

アスナさんが珍しく、上機嫌になっています。アスナさんに私達もついて行きます。

 

そして、野営地の風呂天幕に来ました。が、入り口を見た途端に全員が動きを完全に止めました。

 

一つのほかと比べてもかなり大きめに作られている風呂天幕。そこには、入り口が一つしかありません。

 

「………入り口が、一つしかないわ…」

 

「……こんよ……ゴホンッ……」

 

アスナさんの呟きにキリト先輩がなにかを答えようとしますが、寸前でわざとらしく咳をしてやめました。

 

「……ど、どうしますか?」

 

「ンー……」

 

「……やっぱり、交代で入るしかない……ですね。」

 

「……んじゃあ、俺達先に飯食って来るよ。な、ユージオ。」

 

「うん、そうだね。」

 

ティーゼの提案により交代で入ろうとした時、キリト先輩とユージオ先輩が清々しいほどに早口で宣言しました。

 

が、その動きを女子全員で止めます。

 

「……このままだと、NPCが入って来るかもしれないじゃない。」

 

「は、はい。」

 

「だから、ユージオ先輩……みっ見張りをお願いしますっ!」

 

「「…………わ、分かりましたっ!」」

 

アスナさんの説得とティーゼの上目遣い気味の懇願により、キリト先輩とユージオ先輩に見張りを頼むことに成功しました。

 

「それじゃあ、先に入らせてもらうよ!キリト、ユージオ!」

 

二人に断りを入れて私達は風呂天幕に入りました。

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……気持ちいいですねぇ…」

 

思わず出てしまう声。温かいお湯が疲れた私の体をほぐします。

 

「へー!結構広いんだね!」

 

「私の家のお風呂より3倍くらい大きいデス!」

 

素っ裸で天幕内を眺めるユウキちゃんとナギちゃん。

 

「そうね……あの農家のお風呂より4倍くらいはありそう。」

 

髪をお団子のようにまとめて体を洗うアスナさん。

 

「唯一、この時間がリラックス出来るぅ〜」

 

お風呂の中で四肢を浮かべるティーゼ。

 

「みんなでお風呂に入ることが初めてですからね…」

 

私も目をつぶり、身体を弛緩させます。

 

「………なんで、私だけ……」

 

「どうしましたカ?」

 

ティーゼのなにやら羨ましそうな目線を感じ、不思議そうに聞くナギちゃん。

 

「………だって、む、胸が……」

 

そういうと、ティーゼはここにいるみんなへ順々に目線を送ります。

 

正確には、みんなの胸をです。

 

ナギちゃんは私達の中で一番年上なのか、私達にはない……いつもは分からない、大人っぽい体つきをしてます。結構背も高いし…

 

アスナさんは流石、アンダーワールドで創造神ステイシアに選ばれたお人だと思わせるような……いわゆる、出るとこは出て、引っ込むとこは引っ込んでる……そんな理想の体です。

 

アンダーワールドの時もティーゼはこのことで悩んでいた時期がありました。たしかに、ティーゼは小振りかも知れないけど、そんな気にすることも無いような…

 

そして、ユウキちゃんを見ると、

 

「……ユウキちゃん、一緒に頑張ろう!」(´;ω;`)

 

と力なく、そう言いました。

 

「?」

 

ユウキちゃんはなにもわかっていないようだけど…

 

「ティーゼ…変わらないね……」

 

と、呟いたその瞬間。

 

「……さい」

 

「へ?」

 

「うるさーいっ‼︎」

 

「え、ちょ……ひゃっ⁉︎」

 

叫びながら飛びついて来ました。

 

「もー!なんなのよその言い方!まるであたしが成長してないみたいじゃ無いっ!」

 

「ちょ、てぃ、てぃーぜ…揉まない……で、んんッ……!」

 

ガンッゴンッ!

 

「このぉー‼︎ソレちょっと寄越せぇ‼︎」

 

「な、何してるの?ティーゼちゃん!」

 

「いくらお湯の中とはいえ、暴れると怪我するかも知れませんヨ!」

 

「なにやってるのー?楽しそうだし、ボクも入れて!」

 

ティーゼとユウキちゃんが私の胸を揉み、アスナさんとナギちゃんが二人を止めにかかるという、色々混沌な状況が出来上がりました。

 

 

 

その時、天幕の外から声が聞こえました。

 

『ア、アノ………スミマセン…ヨロシイデショウカ』

 

『……キズメルサントパーシーサンガハイルケド、イイカナ?』

 

……何故そんなに片言なの?

 

「……いいけれど……」

 

『では、入るぞ……なんだ、随分と仲がいいんだな。』

 

『失礼します……随分と楽しそうですね』

 

キズメルさんとパーシーさんが入ってきて私達を見るなりそう言いました。

 

「二人とも、もう食事終わったんですカ?」

 

『ええ。やはり、周りの目が厳しかったので……早めに済ませてきました。』

 

『まあ、仕方がないといえば仕方がない。本来敵であるはずの森エルフが目の前にいるのだからな。お前の態度で少しずつ変わっていくだろう。』

 

『だといいのですが…』

 

「とにかく、二人とも入りなよ!気持ちいいよ!」

 

『ああ、そうさせてもらう。』

 

そう言って二人は鎧の留め具に手で触れました。直後、シュワン!という音を立てて鎧が解除されました。そして、続いて薄い服を脱ぎました。

 

「……お、大っきい……」σ(^_^;)

 

「……すごい、デスネ…」(;`・o・´)

 

「二人ともすごい……」(・ω・`)

 

「わぁ……脱帽だねっ!」ビシッ!d(^▽^o)

 

「……っ⁉︎」Σ(゚д゚lll)ザバッ!

 

エルフのお二人は私たちの誰よりも、胸が大きい……あ…

 

とあることに気がついて横を見ると

 

「……」(´;ω;`)ウウッ

 

「……」

 

ティーゼが静かに泣いていました。ご、ごめん……

 

そのあと、ティーゼを慰めるのに10分もかかりました。

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

少女たちは知らない。約2名の男子が天幕の外で悶え苦しんでいたことを。

 

 

 

 




※ティーゼの件は自分の中の設定です。
次回《大蜘蛛討伐》


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毒蜘蛛討伐への道

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は、毒蜘蛛の洞窟に行くまでのお話です。そして、内容薄いです。次のお話はちゃんと毒蜘蛛討伐しますからッ⁉︎
そ、それでは、どうぞ…


 

エルフの戦争に巻き込まれた僕らは次の日、司令官に言われて毒蜘蛛討伐に出向いた。パーティメンバーが七人にキズメルとパーシーを加えると九人で二つのパーティにしなければ収まらないことがわかった。けれど、パーティを分けてしまうと、クエストの進行に支障がないか、わからなかったがいざ分けてみると全くそんなことはなく、キリト、ロニエ、アスナ、キズメルのキリト班と僕、ティーゼ、ナギ、ユウキ、パーシーのユージオ班に分かれてクエストを進めることになった。

 

「さて、ダークエルフの司令官さんに言われて蜘蛛退治に来てみたけど……」

 

「…どこを探せばいいんでしょうか?」

 

鬱蒼と木が生い茂る森の中、僕らはそこにいた。

 

「俺は洞窟の正確な位置を知ってるけど……まあ、ネタバレは面白くないよな。」

 

「その考え、効率悪いわよ。今は楽しむような状況じゃないでしょ?」

 

「……まあ、どちらにせよ…すぐ分かると思うぞ。」

 

「どうしてですか?」

 

「このクエストを受けるとこの森の中での蜘蛛型モンスターの湧出(ポップ)確率が上がって、蜘蛛型モンスターと戦うことが多くなるんだ。」

 

ティーゼの質問にキリトがわかりやすく答えてくれる。

 

「このクエストって確か、毒蜘蛛討伐でしたよね……ということは、その蜘蛛が出現した…やって来た方向を進めば必然的に毒蜘蛛の巣に辿り着けるってことですか?」

 

「流石ロニエ、ご名答。と言うことでじゃんじゃん倒していこうー」

 

「蜘蛛………蜂もそうですけど、虫が多いですねぇ……あたし、虫はいいけど、蜘蛛はなぁ……」

 

「ジャン↑ジャン↑行きまショウ!」

 

「斬りまくるぞー!」

 

と、ティーゼが小さく呟き、ナギとユウキが息巻く。すると、後ろで静かにしていたエルフの騎士、キズメルとパーシーが反応した。

 

『すまないが、そう談笑をしている暇は無いようだ。』

 

『前方から二体、蜘蛛が来ています。戦闘準備をして下さい』

 

「えっ、来てるの?」

 

「私達の索敵スキルには反応が無いですけど……」

 

「まあ、そこはエルフパワーじゃないか?」

 

僕らの索敵スキルには反応が無いものの、しっかりとモンスターが来ているようで、その10秒後にモンスターが現れた。

 

『キシャアアアアア‼︎』

 

『ギジャアアッ‼︎』

 

キリトのことだ、右のモンスターと戦うって言いそうだな。

 

「二体か……右は俺達がやるから…」

 

「左だろう?分かってるよ!」

 

「ああ、行くぞ!」

 

「「了解(です)!」」

 

『分かった!』

 

「僕等も負けてられないよ!行こう!」

 

「はい!」

 

「「おー‼︎」」

 

『そうですね。やってやりましょう!』

 

こうして僕等は初めての蜘蛛型モンスターとの戦闘に入った。

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

それから10分後、僕等は蜘蛛の来た方向を進み続けている。10分前の戦闘からは蜘蛛型モンスターばかりと遭遇して、およそ7回程戦闘をこなした。

 

「……」

 

「なんだかさっきから蜘蛛ばっかりでバリエーションに欠けるわね…」

「なんか、蜘蛛が嫌になって来た……あたし、帰ろっかな……」

 

「ティーゼ、同感だけど帰るのは駄目だからね。」

 

「んー……確かに飽きて来たってのはボクも理解出来るけど…」

 

「でも、レベリングになってますカラ。気にしないで行きまショウ!」

 

「……やっぱり、慣れないのは慣れないね…アンダーワールドにはこんなやつ見たこと……あ、あるっけ?」

 

確か、セントラルカセドラルでの戦いでシャーロットって言うカーディナルさんの使い魔がいて……その使い魔も蜘蛛だったっけ?

 

「……キリト、どうしたのさ。さっきから黙ってるけど…」

 

「……んあ?」

 

「確かに…どうしたんですか?」

 

『キリトよ、悩み事があるなら話して見たらどうだ?』

 

『黙っているだけでは伝わりませんよ、キリト。』

 

「え、えっと……」

 

珍しくキリトが黙っているので聞いてみると、口籠もりながら答えた。

 

「んと………み、皆さん、よくあんなデカイ蜘蛛と戦えるなぁ……と。女子はこういうのは無理だと思ってたんだけど……」

 

「はあ⁉︎そんなことなの?そんなの、慣れよ、慣れ。それにこんな蜘蛛相手に怯んでたら、これから先やっていけないわよ!」

 

「確かにアスナさんのいう通りですね……」

 

「ボクはそういうのは慣れてるからさ!大丈夫!」

 

「妖怪を退治する巫女というのも、いいじゃないですカ!私は悪くないと思いマス!」

 

「確かに気持ち悪いし、怖いですけど……(ユージオ先輩がいてくれるなら大丈夫です)////」

 

アスナ、ロニエ、ユウキ、ナギ、ティーゼの順で答えていった。

 

ティーゼ、最後の方に何か言ったようだけど、まあいいか。

 

『私は慣れている。何度も戦ってきたからな。』

 

『私もです。これくらいで根をあげていれば、騎士など務めていません。』

 

「……みんな、強いな。」

 

「まあ、心強いね。」

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

「お、洞窟発見だな。」

 

あれから十分後。僕達は無事に蜘蛛の洞窟に辿り着いた。

 

「うわ……蜘蛛の巣だらけだね。」

 

「まあ、毒蜘蛛の住処だからって言うのは分かってますけど……」

 

「……はっきり言って、入りたくないわ……」

 

「それには同感ね、ティーゼちゃん。」

 

「……帰りましょうカ。」

 

「気にしない気にしない!」

 

女子の面々はあまり進んで入りたくないみたいだ。

 

『ここが毒蜘蛛の住処のようですね。』

 

『準備が出来ているのなら出発するが、どうだ?』

 

キズメルが僕とキリトに聞いてきた。

 

「行けるよね?」

 

「ああ。解毒ポーションは一回も使ってないし、全員手持ちに三個、ストレージに17個ずつ持ってるからな。あとは……キズメル、パーシー。解毒ポーションっていくつ持ってる?」

 

『私達か?いくつか持っているが、使うことはないだろう。私にはこれがある。』

 

『ええ、私もです。』

 

そう言って、2人は右手を上げて見せてきた。そこには透明な宝石のついた指輪があった。パーシーは白縁、キズメルは黒縁だ。

 

「それは?」

 

『これは、エンジュ騎士団の近衛騎士に叙任された折、剣と共に女王陛下より賜ったものだ。五分に一度、異常状態の回復のまじないが使えるのだ。』

 

『私も同じです。』

 

「すっ………………」

 

「へぇ………凄いね!」

 

2人の話が本当だとすると、例え、毒を受けたとしても五分経ってしまえば、自然回復するということになる。もう、解毒ポーション要らないんじゃ……

 

ちなみにキリトは、『この世のものとは思えない!』というような驚いた顔をしている。

 

『そんな顔をされても、これを譲る訳にはいきません。第一、この指輪は、私達カレス・オーの民の血に僅かながら残る魔力をまじないの源泉としている為、貴方達人族には使えませんよ、恐らくですが。』

 

「……いや、俺は欲しい訳じゃないんだ!キズメルとパーシーが解毒の準備があるかを聞いただけだって!」

 

「嘘付け。顔に書いてあったぞ、キリト。」

 

「そうよね。君も男なんだから女の子に指輪をねだるなんて屑みたいな真似はしないわよね?」

 

「んなことするかっ………待て、その言い方だと逆は許されるみたいな………」

 

とアスナの氷点下の視線を浴びて、キリトが反論すると、

 

「「そんなことをする訳ないでしょ⁉︎」」

 

アスナとロニエが少し顔を赤くしながら言い返した。

 

何でロニエが答えたんだろ……

 

「ウワー、キリトサイテー(棒読み)」

 

「「キリト(センパイ)ッテ、ソンナヒトダッタンデスネー(棒読み)」」

 

「棒読みッ、めちゃくちゃ悪意を含んだ棒読みッ‼︎やめろぉ⁉︎俺はそんなこと考えてない!おぉい⁉︎聞いてんのかぁ⁉︎」

 

これからがクエストの本番だというのに、このグダグダさ。

 

大丈夫かな…?

 

「……じゃ、毒蜘蛛の巣窟攻略へレッツゴー…」

 

そして、最後にキリトのやる気のなさげな声が洞窟の中に木霊した。

 




次回『毒蜘蛛退治はお早めに』

次に投稿するのは、番外編となっております、『あの日、あの時、あの場所で。②』です。

次回も楽しみに‼︎


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毒蜘蛛退治はお早めに

大変長らくお待たせしました!クロス・アラベルです!
今回こそ、毒蜘蛛退治です!……が戦闘シーンをバッサリカット……で、でもサービスシーンもあるから許してくださいっ(泣)
それではどうぞ!


 

 

 

 

暗い洞窟の中、僕らは松明を片手に奥へ奥へと進んでいた。

 

「……やっぱり僕、こういうダンジョンあんまり好きじゃないな……」

 

「まあ、確かにな」

 

「なんだか、暗いですし…」

 

「何よりジメジメしてて…あたし、あんまりこういうのは…」

 

「ボクは平気だよ!」

 

「私も平気デスネ!」

 

「……さて、さっさと終わらせて帰りましょう」

 

「そうだな。このクエストは兵士の遺品を見つけるのと、奥にいる女王蜘蛛を倒さなきゃならないんだ。んで、今探してるのがその遺品」

 

「……遺品で確定してるんだね」

 

「まあ、少なくともβ版はそうだったからな」

 

クエストの内容を確認し、先へ進んでいると、ロニエがこんな質問をした。

 

「キリト先輩……蜘蛛って、この…小さな蜘蛛も倒さなきゃならないんですか?」

 

「ああ、それは『クリッター』って言ってな、モンスターじゃない、背景扱いの小動物のこと……だと思う。別にこっちが攻撃しても意味ないし、向こうから攻撃してくることもないよ」

 

「……クリッターって、じゃらじゃら言うの?」

 

「……じゃらじゃら?」

 

「そうよ。『clitter』って、英語でじゃらじゃらっていう擬音のことなの」

 

「んー……多分言わない、はずだよ。」

 

「じゃあ、キリト先輩。そのくりったーって言うのは、森の中に飛んでる蝶とか街中にいる猫とか……ですか?」

 

「正解」

 

またまた分からない単語が出てきた。これも覚えておいた方が良さそうだね。

 

「また蜘蛛がきたぞー、戦闘準備!」

 

そして、僕らはまた現れた蜘蛛モンスターと戦った。

 

 

 

『皆、どんな魔物にも臆せんな。人族の女は強いな』

 

『頼もしい限りですよ』

 

蜘蛛を大方倒し、ひと段落つくとエルフの2人がロニエたちを褒めた。

 

「そう、かな?」

 

「私の妹ティルネルも実体のある怪物なら虫だろうとウーズだろうと苦にしなかったものだ……」

 

「……ちょっと待って。じゃあ、実体のないモンスターって、いるの?」

 

いきなりアスナが汗を掻きながら、キリトに聞いた。

 

「へ?」

 

「実体のないモンスター、か…」

 

「実体のない、ってどうやって倒すんですか?」

 

「やっぱりそれは、巫女の出番デスネ!お祓い棒とお札で妖怪退治、封印!キリト、お祓い棒ってアインクラッドにあるんデスカ?」

 

「……いや、分からん…少なくともβ版の時はそんな話聞かなかったな」

 

「しょ、しょんな〜…」

 

「うーん……まあ、実体の無いモンスターなんていない、とは思うけど…」

 

「ということは、お化けってことかな?」

 

実体のないモンスターなんかがいたら、僕らはどうやって対処したらいいんだろう。な、なんか、怖い。

 

「……そう、なら良いのよ」

 

アスナが安心したような顔でそう言った。

 

「そう言えば、ここのダンジョンって前にキリト先輩が言ってた『インスタンス』なんですか?」

 

キリトがエルフの野営地で話していた、インスタンス……一時的にマップから隔離された場所なのかをティーゼが聞いた。

 

「インスタンスの対義語は、ええと………パブリック・ダンジョンかな。そんでここはパブリックの方」

 

キリトはわかりやすく解説してくれる。

 

「何故パブリックなのかというとだな、ここは俺たちのやってる《毒蜘蛛討伐》の他にも幾つか別のクエストのキースポットになってるんだ。」

 

「どんなのデスカ?」

 

「例えば、村で受けられる迷子の子犬探しのクエストとか、主街区で受けられる《ギルド結成クエスト》とかだ」

 

「ギルド結成……じゃあ…」

 

「ああ。多分ディアベル達も受けてるだろうな。幾つか進行ルートがあるんだけど、その一つはここなんだよ。」

ここは誰でもくることが出来る場所。ということはほかのプレイヤーにも会うことがあるってことか。

 

『……!みんな、どうやら我々以外にも他の訪問者があるようだ』

 

『そのようですね』

 

その時だった。2人が他のプレイヤーがいると言ってきたのは。

 

「ああ。多分、俺達の仲間だと思う。」

 

「二人とも身構えなくても大丈夫だよ」

 

そういった時、パーシーが真剣な顔で首を横に振って、言った。

 

『……うっすらと会話が聞こえるのですが、どう考えてもそうは思えないですよ』

 

「はいっ?」

 

「……どんなことを言ってるか分かるか?」

キリトはす少し不思議に思いながらパーシーに聞く。

 

『……断片的ですが……『攻略組は我々……ディアベルとやらには好きにはさせん』……と」

 

「……はぁ?」

 

「えっと……話がつかめない…まず、来てるのはディアベル達じゃないのは分かったが……その人達がそんなことを言ってるとなると、なんか胡散臭いというか、怪しいね」

 

「と言うより、彼を目の敵にする理由も利点(メリット)すら無いもの。だってあの人は攻略組の第一人者よ、そんなこと言って他から顰蹙を買うのはバカな人がすることだと思うわ」

 

アスナがかなり厳しく非難する。僕もそれが得策ではないと思う。他のみんなも同じ考えみたいだ。

 

「………嫌な予感もするからな…ここはどうにかしてやり過ごしたいとこだが…」

 

キリトが不安そうに呟くと、二人の騎士は仕方がないといってある提案をした。

 

『どこか隠れられる場所はあるか?』

 

「ん?ああ……無いこともないんだが……情報に信頼性があんまないんだよ」

 

『「善は急げ」、という言葉が人族にはあるのでしょう?ならば直ぐに行動に移すべきです』

 

「そ、そうですね……」

 

「キリト先輩、その情報というのは?」

 

「ああ……このダンジョンにいくつか隠し穴があるらしくてな…その穴は小さいし狭いけど、結構奥に続いてるらしいんだ」

 

「なら早く探そうよ!」

 

「穴デスネ、わかりましタ!」

 

その噂の隠し穴を探すと意外にも早く見つかった。

 

「あったよ、みんな!」

 

「じゃあ早く入ってください!」

 

「分かってるよ!」

 

ティーゼに急かされて足から穴に入ると何か嫌な感触が僕を襲った。

 

「ッ!?(うわっ!?まさか、蜘蛛の巣が!?)」

 

「ユージオ先輩早くっ!」

 

「わ、分かってるってば!」

 

そして、僕らは奥から順にいうと僕、ティーゼ、ナギで穴に入ったが、その時もう僕は一番奥までたどり着いていた。

 

「もうは入れまセンヨ!」

 

「ええ!?」

 

『そうか、仕方がない。キリト、アスナ、松明の火を消せ』

 

「「わかった!」」

 

どうやら他のみんなは違う場所に隠れたらしい。

 

『静かに…来ます!』

 

パーシーの声がした直後、幾つもの足音と鎧の擦れるガチャガチャという音が洞窟の中で響いた。

 

 

『何故……何故宝箱が全て開けられているのだッ!?』

 

 

どこかドスの利いた声。キバオウさんより低い声だ。

『くそッ…早く行くぞ!一刻も早くギルドを立ち上げて攻略組として名をあげるのだ‼︎』

 

と、欲望まみれ?な言葉が出てくる。

 

『まあまあ、焦らずゆっくり行きましょうよぉ。イヴァンさん』

 

男の後に間抜けたような声が聞こえた。粘りつくような、嫌な声。

 

『ふんっ、お前も急げ!早急に済まさねばならんのだぞ!?』

 

すぐさま怒号が飛ぶ。足音からして5、6人はいるみたいだ。

 

『分かってますよぉ、イヴァンさん』

 

もう一人の男はそうおどけたように答えて歩き続ける。

 

そして、足音が遠ざかっていった。

 

「……もう、大丈夫……デスカネ?」

 

「……よし、みんな出てきていいぞ」

 

キリトの言葉と同時にため息をつくみんな。

 

「さて…早く出よ……むぐっ」

 

「ひゃうっ⁉︎」

 

僕は穴から出ようと前へ進むと、何か、柔らかいものが僕の顔に当たった。続いてティーゼの可愛らしい悲鳴。

 

「……?何が…」

 

「ひう…////…っ⁉︎///////」

 

「ぐはっ⁉︎」

 

と次の瞬間、僕の顔面に優しめの蹴りが飛んできた。

 

「痛たた……」

 

何が起こったんだろうと思った、その時、僕は思い出した。

 

ここは狭い洞穴。入っているのは僕とティーゼとナギ。一番奥に僕、真ん中にティーゼ、出口のところにナギがいる。そして、僕らは後ろ向きに入ってきた。

 

即ち、前にいるのはティーゼ。正確には、ティーゼの……

 

「痛っ!////痛たたたた、てぃ、ティーゼ!ちょ待って!?///」

 

「~~~~~ッッ!!!!///////」

 

ティーゼはそのままぐりぐりと足を突き出してくる。

 

「……何してるんだ?」

 

「何かあったの、ティーゼ?」

 

「なっ、何もありませんっ!!!////」

 

『『「「「「「?」」」」」』』

キリトとロニエが訝しみながら聞いてきて、ティーゼが顔を真っ赤にしながら答える。

 

「……なんと言うか、モンスター相手よりも緊張したわ」

 

「同感だ。別に見つかっても戦闘にはならない……筈だけど…」

 

「今のは、怪しいところですね」

 

『なんだ、知っている者ではないのか?』

 

「初対面デス!」

 

「……まあ、行こうか、みんな。多分後二つの部屋の内一つは階段……さっきのパーティが行ったところで、もう一つがキーアイテムがあるところだと思う」

 

「それじゃあ、早めに済ましておこうよ!ボクら、また戻ってこなきゃいけないんでしょ?」

「ああ。」

 

ユウキに急かされて僕らは先を急いだ。

 

「……えっと………本当に、ごめんね、ティーゼ…」

 

「………っ!!///」

 

その間、ティーゼは黙ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、無事に兵士の遺品を見つけた僕らは一度野営地に戻ろうと来た道に振り返ったとき、ガシャガシャというやかましい音が聞こえた。

 

「ねえ、これって……」

 

「向こうから来てるな」

 

『先程の小隊ですか?』

 

『面倒なことになりそうだな』

 

どんどん近づいてくるパーティ。

 

「ああ……皆、どうす…」

 

『『『キリト(先輩)どうする(んですか)!?』』』

 

『キリト、そなたに任せよう!』

 

『キリト、頼みますよ』

 

「………る…」

 

キリトが僕らの言葉に時を止めていると、再びあの声が聞こえた。

 

 

『どうなっている!?あれほど巨大な蜘蛛がいるなど、聞いていないぞ!?』

 

『イヴァンさん、どうするんだ!?』

 

『今は逃げることだけを考えろぉ!?』

 

 

「っ……皆、よく聞いてくれ。あいつらを見殺しにするのは気が引ける。だから、あいつらを追っている女王蜘蛛のタゲを俺達に移動させて、彼らを逃がそう。あのままだと、入り口付近にいるハシリグモ系のモンスターと女王蜘蛛に挟み撃ちされてやられかねない。俺がすれ違い様に攻撃してタゲを取るから、皆は先にルームに行ってくれ。」

 

珍しく饒舌に話すキリト。

 

「……私達で倒せるんですか?」

 

不安そうにロニエが聞くとキリトは、

 

「ああ。俺は奴との戦闘経験もあるから、的確に指示していく。それに俺達のレベルなら大丈夫だ。勝てる」

 

そう、宣言した。

 

「それじゃあ、行きまショウ!」

 

「キリト君がそう言うなら、大丈夫そうね。分かった」

 

『ふむ、行くとしよう』

 

「頼むよ、キリト。」

 

「ああ」

 

キリトの作戦にそって僕らはひとつのルームに集まった。

 

「皆!戦闘準備!!」

 

『キシャシャアアアッ!!』

 

その数十秒後にキリトと、少し遅れて大きな蜘蛛がルームに入ってきた。

 

「こいつの攻撃パターンは随時教える!皆、行くぞ!!」

 

『『『おおーっ!!!』』』

 

そして、戦闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

「よし、なんとか行けたな」

 

「まあ……なんとか、ね」

 

あれから二分後、僕らはあの女王蜘蛛『ネフィラ・レジーナ』を無事討伐することができた。

 

「……無事、じゃないかな?」

 

そう言いながら向かうのは、白く太い蜘蛛の糸によって壁に貼り付けられ、拘束されているティーゼのもとだ。

 

「……す、すいません…////」

 

「いや、僕も悪いよ。攻撃が来ることを伝えられなかったからね…」

 

「…//////」

 

皆の剣で糸を斬っていく。

 

「それで……これからどうするんデスカ?」

 

「ああ…野営地に戻ろう。二つ目のクエストも、達成されそうだし、な?」

 

キリトはさっき倒した女王蜘蛛からドロップした、『女王蜘蛛の毒牙』を片手に笑った。

 




次回『剣と共に』


これからも不定期更新、並びに亀更新になるかも知れませんが、何卒よろしくお願い致します!


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剣と共に

こんにちは!クロス・アラベルです!!
今回はティーゼとユージオが鍛冶屋に行って剣を作るだけです。他のメンバーは出てきません。
今現在、この作品の未来を決めるアンケートを活動報告にて行っています。まだ投票していない方は是非、ご参加していってください。
それでは、本編をどうぞ!!



 

あれから、三十分後。

 

僕らはダークエルフの野営地に帰ってきた。そして、兵士の遺品と女王蜘蛛の毒牙を渡して、クエストをクリアして指令室を後にした。

 

 

その後、僕らは自由行動……もとい休憩を取ることにした。

 

アスナやユウキ、ナギ、キリトロニエはお風呂へ。(因みにキリトはしっかり見張り役としてかりだされた。……憐れな…)僕とティーゼで武器の新調をすることになった。

 

 

 

 

このアインクラッドにある全ての武器や防具は、入手方法によって3つの種類に分けることができる、らしい。

 

一つは、ボスを含むモンスターを倒したときにドロップする『モンスタードロップ』、ダンジョンの中で宝箱から手に入れる『チェストドロップ』。これをまとめて『ドロップ品』という。因みに、アスナの『ウインドフルーレ』もこれだ。

 

次にクエストを達成した時に報酬としてもらえるのが『クエストリワード』。僕らが使っているアニールブレードはここに入る。

 

そして、最後がプレイヤー、もしくはNPCの鍛冶屋や革細工師が素材アイテムから作る『ショップメイド』。

 

今現在、この三つはさほど変わらないが、未来…強力な武器はドロップ品とプレイヤー製に片寄ってくるだろう。

 

……と言うのがキリトから聞いた話だ。

 

「……大丈夫ですよね?ユージオ先輩…」

 

ティーゼが不安そうに聞いてくる。多分、ネズハの取り替えが……そして、失敗するのではないか、というものだろう。まあ、無理もない。友達が被害を受けたのだから。

 

「大丈夫、ここの鍛冶屋はこの層じゃ、一番スキルが高いらしいから。キリトが言ってたから心配ないと思うよ」

 

「……はい!」

 

「……というより、武器作成は強化と違って失敗は無いんだって」

 

「なっ……先に言ってくださいよ…」

 

「ご、ごめん…忘れてた…」

 

そうこうしている間に僕らは噂の鍛冶屋についた。

 

しかし、一つ問題があった。それは、

 

「え、えっと…すみません…」

 

『…………フン』

 

「………」

 

ダークエルフの鍛冶師が中々無愛想だったこと。

 

「…だい、じょうぶなんですよね?」

「……多分、ね」

 

この人は、アンダーワールドにいた研ぎ師のサードレさんに少し似てる気が……しないでもない。頑固そうだ。

 

「……作成の前にやることがありましたね……この剣を延べ棒……ううん、インゴットにしてください」

 

「…ティーゼ、無理にしないでいいんだよ?」

 

「…いいんです。あたし、この子とまだ走り続けたいから……」

 

ティーゼはアニールブレードを胸に抱き、目を瞑る。そして、鍛治師に剣を渡す。

 

「……お願いします。」

 

『………』

 

すると彼は『…フン』とは言わず、黙って受け取った。剣を鞘から少し抜いて検分する。

 

彼はそのまま黙って剣を抜いて後ろにある鍛冶炉にそっと乗せた。

 

ネズハが使っていたような携行炉ではなく、煉瓦を四角く組んである本格的な物だ。

 

そして、不思議な青緑色の炎がティーゼのアニールブレードを一瞬で赤くなり、そこからすぐに切っ先から柄頭までが眩く輝いた。

 

そして、次の瞬間にひときわ強い閃光を放って収縮し、延べ棒…インゴットに変化した。暗色に輝く1つのインゴット。

 

キリト曰く、アインクラッドには膨大な種類のインゴットがあるらしく、キリトでさえも見た目だけでは分からないそうだ。

 

「…ありがとうございます」

 

鍛冶屋さんに礼を言ってインゴットを受け取ったティーゼはそれを抱き締めていたが、やがて慣れた手付きでストレージに入れ、武器作成の操作を始めた。

 

そこからキリトに教えてもらった通り、片手武器→片手直剣→素材選択へと進んだ。基材や添加材は今までで手に入れてきたアイテムを。心材にはアニールブレードだった『ルシュティウム・インゴット』を選び、必要アイテムが全て満たされたようで、工賃の額とともに最後の確認が出てきた。

 

「……お願いします」

 

ティーゼは小さな声でYES(はい等の肯定の意味があるらしい)を押した。

 

すると、しゅわわんという音と共に鍛冶屋の作業台の上に革袋2つと『ルシュティウム・インゴット』が置かれた。

 

鍛冶屋はその革袋を鍛冶炉に放り投げた。袋は燃え尽き、中にあったアイテムも赤く灼け始めた。

 

そして、そのアイテムは直ぐに溶けてしまい、炎の色が純白に変わったと同時に鍛冶屋はインゴットをそこに入れた。インゴットは徐々に光り始めた。

 

「………っ!!」

 

「……!」

 

その時、ティーゼは僕の手を強く握っていた。自分自身でも気付いていないみたいだ。

 

また鍛冶屋を見ると、熱せられたインゴットをすでに金床に移動させ、右手に鎚を持って降り下ろそうとしていた。かぁん、かぁんと二秒に一回ぐらいの早さで打ち始めた。

 

これもまたキリト情報なのだが、叩く音は、作られる武器の性能に比例して多くなるらしい。初期装備の『スモールソード』辺りは強化より少ない五回。アニールブレードと同等の武器は30回前後だとか。

だけど、その鎚音は30回を優に越えた43回で止まった。そして、輝くインゴットはゆっくりと変形した。アニールブレードより若干短めに、細く、それでいて力強い形に。

 

光が収まると、そこには銀色に輝く一振りの優美な片手直剣が横たわっていた。

 

鍛冶屋さんはその剣のシンプルな柄を握り、持ち上げて検分し、驚いたことに一言呟いた。

 

『………良い、剣だ』

 

鍛冶屋さんは後ろから臙脂色の鞘を選び、ぱちんと剣を収めてティーゼに渡してきた。

 

「……っっ!?/////」

 

その時、ようやく自分が僕の手を握っていることに気付いたティーゼは顔を真っ赤にしながら手を離し、剣を受け取った。

「…ありがとうございます」

 

『…フン』

 

そして、メニューを出して剣の名前を確認する。

 

【セルティアン・ソード】。それが新しいティーゼの相棒の名前だった。

 

「……良かったね、ティーゼ。大事にしてあげてね?」

 

剣を叩いた回数から見て、この剣の性能はアニールブレードを優に越えている。それほどに強いことが伺える。そして、ティーゼの大切な相棒が形を変えて強くなって帰ってきたのは明らかだ。

 

「……はい、ユージオ先輩。」

 

ティーゼは頬を少し赤く染めながら、剣を胸に抱き締めてそう言った。

 




次回『Nother Quest』


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Nother Quest

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は単なる会話回です。はい。
現在、アンケート(ディアベルのギルド名の妙案募集)をしております。何か、いい名前がありましたら是非教えてください!
それでは本編をどうぞ!


 

『それでは、気をつけて行くのだぞ?』

 

「分かってるわ、キズメル。」

 

僕らは今、ダークエルフの野営地の入り口にいる。

 

蜘蛛退治のクエストが終わってから2日後。僕らは一度主街区に行って攻略会議に参加することにした。因みに二日間はエルフのクエストをあらかたこなしてみんなのレベルが一つずつ上がった。でも、僕とキリトは上がらなかった。

 

「よし、みんな準備出来たよな?」

 

「出来ました!」

 

『私も大丈夫ですよ。いつでも行けます』

 

「……それじゃあ、行こうか。みんな!」

 

『『『おー!』』』

キズメルに一時の別れを告げて僕らは主街区へ向かった。

 

 

 

 

「キリト先輩、あの野営地には戻って来られるんですよね?」

 

「ああ。マーキング出来てるから戻れる……筈だ。」

 

森の中。僕らは遭遇するモンスターを薙ぎ倒しながら進んでいた。

 

「キリト、ここの層の主街区ってどんなとこなの?」

 

「ンー、一言で表すなら……三大大木、て感じだ」

 

「三本の……大木?」

 

「そう、本当にそれだけだから。」

 

「それだけっテ……なんだか、味気ないデスネ」

 

「ほ、他に特徴はないんですか?」

「……あるとするなら……景色が綺麗って言うことぐらいだ」

 

「それいいじゃない。さっさと行きましょう」

 

アスナがそう言って先頭に立ったとき、僕の索敵スキルに反応があった。

 

「……あれは…」

 

「狼だ。皆、戦闘用意!」

 

キリトが警告を飛ばす時には、皆得物を構えていた。

 

このパーシーを入れた八人の中で三人が武器を新調した。ティーゼはもちろんアスナ、ロニエまで。三人とも幸運なことに高性能(ハイスペック)な剣が出来た。アスナは《シバルリックレイピア》、ロニエは《ヒュエリナソード》と言うらしい。

 

出てきたのは2匹の狼。名前は《ロアリング・ウルフ》。

 

「HPゲージが黄色くなったら仲間を呼ぶから、半分まで少しずつ減らしてそのあと一気に叩くぞ!」

 

キリトのアドバイスに皆頷いた。僕は昨日限界まで強化したアニールブレードで左の狼に抑えぎみに一撃入れる。

 

『キャウン!?』

 

狼がその一撃で怯んだところをティーゼが生まれ変わった相棒《セルティアンソード+5》でソードスキル『バーチカルアーク』を叩き込んだ。すると、HPゲージは面白いほど減っていき七割、六割を超えて______黄色くなった。

 

「あ。」

 

『『『あ…』』』

 

皆の呟きが重なった。ティーゼも『やっちゃった!』みたいな顔で吹き飛んでいった狼を目で追った。

 

『……っ!アオーーーーーーン!!』

 

地面に叩きつけられた二匹の狼がすぐ起き上がり、遠吠えをした。

 

「………やっちゃったな、お嬢さん方!」

 

「「「だ、だって一撃であんなに減るとは思ってなかったんだもん!」」」

 

その後、追加と12体の狼と戦うことになった。

 

 

 

 

 

 

「三人とも気にしないで。武器を新調したんだし、威力が分からないのは当然だよ。だから、ね?」

 

「……ぐすん」

 

「…ユージオ、甘過ぎないか?さすがの俺でも…」

 

「…す、すいません……」シュン…

 

「っ!?い、いや、大丈夫だ!だからシュンとしないでくれっ、ロニエぇっ!!」

 

落ち込むロニエに焦るキリト。

 

「泣〜かした〜泣〜かした〜!」

 

「せーんせいにーいってヤロ!」

 

「ちょっと待てっ!な、泣かしてはいないぞ⁉︎」

 

そんなキリトをおちょくるユウキとナギ。

 

「……」じとー

 

キリトを白い目で見るアスナ。

 

「……もう、なんとでも言えぇ……」

 

あ、キリトが沈んだ。

 

「あれ?キリト先輩、いつの間に落ち込んで…」

 

「……気にしない方が身のためだよ、ロニエ。」

 

漫才のようなトークを続けていると、森の奥から剣戟の音が微かに聞こえた。

 

『皆さん、何か聞こえませんか?』

 

唐突にパーシーが尋ねてくる。

 

『『?』』

 

「…ああ」

 

「確かに聞こえたわ」

 

「僕も聞こえたよ」

 

キリトと僕とアスナ以外は聞こえてなかったようだ。

 

「……向こう、か。俺達が様子を見てくるからユージオ達はここで待機していてくれ。もちろん、パーシーもな」

 

『分かりました』

 

今、パーティが二つに別れていて、僕とティーゼ、ユウキ、パーシーのパーティと、キリトとロニエ、アスナ、ナギのパーティだ。多分、パーシーに見られると不味いものがあると踏んだんだろうか、キリトは僕らのパーティに待機指示を出した。

 

「よし、じゃあ、行くぞ」

 

「はい」

 

「分かったわ」

 

「了解デス!」

 

キリトはロニエ達を連れて森の奥、剣戟の音の発生源を目指して進んで行った。

 

「……先輩、奥で何が起こってるんでしょうか…」

 

「分からない。僕じゃ、この世界では無力だから…」

キリトに任せるしかない。そうは分かっていてもやるせない気持ちになってしまった。

 

 

 

 

その五分後、キリトは戻ってきた。

 

「キリト、どうだった?」

 

「ああ……リンド達がキャンペーンクエストを受けていたよ」

 

「そっか……話しはしたのかい?」

 

「一応な。攻略会議、必ず来てくれって言われたよ」

 

「それで、少し気になることがあったの。」

 

「気になる…こと?」

 

「はい。私も驚いて……」

 

キリト達から聞くところによると、リンド達が受けていたエルフのキャンペーンクエストは僕らの時と全く違ったらしい。

 

一つ、二種族はやはり争っていたが、ダークエルフの騎士がフォレストエルフを殺す一歩手前まで追い詰めたが、リンド達を守るためにフォレストエルフが自爆攻撃で相手を巻き込んで死んでいったと言う。

 

二つ、その二人は両方とも男性騎士だったらしい。

 

「……じゃあ、キズメルとパーシーは…」

 

悩みながらキリトは答える。

 

「分からない。キズメルの方はβ時代と同じだったが、パーシーはβじゃ見たことがない。正式プレー版で仕様が変わったって言うのも無いわけじゃ、無いけど……」

 

「あたし達だけ、あの二人なんでしょうかね…」

 

ティーゼは不思議そうに呟く。

 

「確かめるにはあと十回くらいは見ておかないと、分からないわね…」

 

「……パーシーは?」

 

「ナギとユウキとお話してますよ」

 

「……仕方ない、この件については後々話し合うとして、次の町へ急ごう。ロニエ、三人を呼んでくれ」

 

「わかりました」

 

キリトはナギ達と談笑しているパーシーを見て、溜め息をはきながらそういった。

 

「……でも、キリト君がこのゲームの知識を覚えてて良かったわ」

 

三人を呼び戻し、僕らは雑談をしながら、主街区へと向かう。

 

「……でも、覚えられるのはゲームのことばっかりで、勉強は頭に入ってこないんだよな…」

 

「知ってるよ」

 

「おい、ユージオ。なんだよそのさも知ってます感たっぷりの台詞は」

 

「……もしかして、キリト君って定期テストの時、内容を一夜漬けしてたヒト?」

 

「その通り。終わったら全部忘れてるヒトだった」

 

「まあいいよ。キリト、主街区はここから近いんだろう?」

 

「ああ。この先の別れ道をずっと東に行けばすぐ見える筈だ。名前はえーと、何だったかな……す……ス…なんとか…」

 

「……誉めたの、撤回」

 

アスナは呆れ顔でそう言い、ロニエとティーゼは苦笑いした。




次回『青の騎士団とオプリチニク』


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青の騎士団とオプリチニク

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は攻略会議のシーン。オリジナル(?)の展開になる筈です。
短めのお話を2話連続投稿します。
それでは、どうぞ!


ここは第三層の主街区、ズムフト。

 

俺達攻略組はその町の広場の一角に集まっていた。そして、他の今まで会議に参加したことのないプレイヤーが何人も参加している。ディアベルは攻略会議を攻略組のような高レベルプレイヤーだけでなく、他の第一層や第二層で燻っている期待の中レベルプレイヤーやこれから第三層を攻略しようとしているプレイヤー達にも参加してもらうために、始まりの街や第二層の主街区《ウルバス》で攻略会議を開くことと、会議の参加は誰でもいいという事を公言したのだ。これは攻略組の人数が増えることに繋がるし、攻略組をよく知ってもらういい機会…まさに一石二鳥だ。

 

「……眠い…」

 

「キリト、我慢してよ。この会議が終わったらぐっすり眠れるから」

 

第三層に来てから1回目の攻略会議が開かれる。

 

「………やっぱり、ネズハさん達…いませんね…」

 

「……そこんとこについては仕方がないとしか言えないな。あんなことがあったんだから…」

 

その集団の中にネズハ達のパーティ《レジェンドブレイブス》の姿はなかった。そして……

 

「……ベルも、いないか…」

 

第二層のボス攻略戦の時にははいた筈のベルの姿も無かった。

 

「……キリト。ベルは……どこにいるんだろうね…」

 

「…フレンド登録も消えてたし、索敵スキルも使えないから……こればかりはどうしようもないな…」

 

「……大丈夫ですよ!ベルもボス戦には参加してくれますって!」

 

空気が悪くなったのを察したのか、ティーゼが声を大にして言った。

 

「……だと、いいんだがな…」

 

俺は決して楽観視している訳では無い。嫌な予感だが、ベルはもう戻ってこない気がする。信じたくも無いが…

 

「ナギ、ロシア語で剣士ってなんて言うの?」

 

「ロシア語で剣士は、фехтовальщик(フェフタバリシチク)って言うんですヨ!」

 

「そうなんだ…覚えとこうっと!」

 

ユウキはナギからロシア語を教えてもらっているみたいだ……と言うか、ナギはやっぱりロシア人なんだな。

 

「みんな、今回も集まってくれてありがとう!それじゃあ、攻略会議を始めようか!」

 

ディアベルが会議の開始を告げる。

 

「今回は今後の攻略の注意事項と予定、そして、ある重大な報告を二つだ!まあ、ほとんどの人が知っているとは思うけど…じゃあ、攻略に関する注意事項をしていこうと思う。この第三層ではこのソードアートオンライン初の大型キャンペーンクエストがある。そのクエストに関してだが…」

 

会議はいつも通りだ。第一層の(いつぞやの)時のように乱入者がいる訳でも無い。というより、キバオウはディアベルと仲がいいからそんなことをするはずが無い。たがら、このまま会議は何事もなく終わる…そう思っていた。ディアベルがギルドの紹介、そして勧誘をした時までは。

 

「ここで重要な報告をしたいと思う。俺達は今日、ギルドを設立した‼︎ギルド名は《青の騎士団》だ!」

 

「このギルドの入団基準レベルは無しや!誰でも入れるけど、ボス攻略戦に参加できるんはレベル11以上のプレイヤーだけや‼︎注意してや!」

 

「そのレベルに達していない人は効率の良い狩場を紹介するから、レベリングに励んでほしい!」

 

案の定、ディアベル達はギルドを設立したみたいだ。《青の騎士団》か…中々良いネーミングだ。

 

「入団したい人はこの攻略会議の後に俺のところまで来てくれ!二つ目の報告は……」

 

『待ってもらおうか、犯罪者‼︎』

 

「……?」

 

「だ、誰やッ‼︎」

 

誰かが口を挟んできた。その広場に入ってきたのは計20人のプレイヤー達。

 

「あんたら誰やねん!ディアベルはんが犯罪者やとォッ⁉︎」

 

「……あんたら、人のことを罵る前に名乗ったらどうだ‼︎」

 

キバオウとリンドが激昂してその集団の先頭に立つ男を怒鳴りつけた。

 

『ふん、貴様らに名乗る名はない……イヴァンだ』

『『『(いや名乗るのかよ)』』』

 

毒蜘蛛討伐のクエストの時に見たあのパーティの一人だ。ディアベルの事を悪く言っていた時点でディアベルのことをよく思っていないのは分かっていたが……まさか、会議に乱入してくるとは思わなかった。しかも、集団で。

 

「……この声、あの毒蜘蛛討伐の時の…」

 

「ああ、張本人だ」

 

ユージオはあのイヴァンの顔を見ていなかったからわからなかったんだろう、ティーゼも。

 

「貴様らはこのアインクラッドを揺るがす大事件に出くわしたな……わかっているだろう‼︎強化武器すり替え事件だ‼︎」

 

「ああ。そのことについては他のプレイヤーにも伝えたよ。この事件は話し合いによって解決した。本人も自主してくれたし、そのパーティメンバーもそのことについては自分達が悪かったと謝罪した」

 

「何⁉︎解決だとぉッ⁉︎どこが解決しているんだ!()()()()()が解決出来ていないぞッ、自称騎士(ナイト)様ァッ‼︎」

 

「……じゃあ、その根本的な事、とはどういうものか説明してくれるとありがたいんだが…」

 

ディアベルはその明らかに焚きつけるような言い分を聞いてそれでも最後まで聞こうとする。ディアベルは人が出来すぎてると思ってしまうほど、寛容だ。横のキバオウとリンド(ふたり)は青筋を立てて怒りを露わにしている。

 

イヴァンなるプレイヤーは根本的な事が解決していないと言っているが、ネズハは武器を詐取された被害者達に謝罪もしたし、賠償もした。そんなのはない筈……俺はそう思っていた。

 

「その犯人にはどういう刑を下した……?その殺人者をどうやって処刑したんだァ‼︎」

 

「処刑……?言っておくが、彼はまだ存命だ。俺達攻略組は彼を殺してはいない!」

 

「甘っちょろいことを……他人に死を与えたるものには、死あるのみッ!これこそが正義だ‼︎」

 

爆弾発言の連発に攻略組全体が動揺を隠しきれない。俺だってそうだ。

 

「攻略組は犯罪者を野放しにするのか⁉︎それはそれは、良いご身分だなぁ‼︎それで他のプレイヤーはどう思うか……さぞ恐ろしかろう‼︎」

 

「待って‼︎彼らは直接人を殺したわけじゃ無い!彼のしたことは確かに許されないことだ……けど、殺すのは間違ってる!」

 

ユージオがその言葉に反論する。こちらもかなり怒り心頭なようだ。

 

「ユージオの言う通りだ!その人を殺して何になる?それで死んだ奴は帰ってくるのか⁉︎」

 

俺もすかさず加勢するとイヴァンは顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 

「処刑を止めた貴様が言うなッ‼︎この攻略組にはその時処刑を実行しようとした勇気と正義を持ったものがいた……貴様がそれを邪魔したのだ、キリトォォッ‼︎」

 

奴の怒りの矛先が俺に向いた。理不尽極まりないが、俺はここで言い返さなければ、攻略組の面子に関わる。

 

「違う!それは正義なんかじゃ無い……その場の怒りや憎しみに身を任せた八つ当たりだ‼︎」

 

「キサマァァァッ‼︎‼︎」

 

「言い返せないから怒鳴っているんだろう!ここはこのデスゲームをクリアするために開かれてる攻略会議の場だ!そんな曲がった信念のある奴は出てってくれ‼︎」

 

「覚えていろッ、攻略組!私達のギルド《オプリチニク》の名を!今度会うときは殺す時だァッ‼︎」

 

俺の最後の言葉を聞いて負け犬の遠吠えをして広場を去って行った。

 

「……なんだったんでしょう…キリト先輩」

 

「……分からない…オプリチニク、か…」

 




次回《鼠との会合》


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鼠との会合

こんにちは!クロス・アラベルです!
アルゴ登場です。
それでは、どうぞ!


 

辺りが暗く、エルフの野営地でも明かりが点っている、夜中。僕とキリトは行動を開始した。天幕をみんなを起こさないように出て、エルフの野営地を門番さんに軽く会釈して、フィールドへと向かった。ロニエ達は天幕の中でぐっすり寝ている。

 

何故夜中にこんなコソコソと外に出ていくか。それは、とある人物と会う約束をしたからだ。

 

「……で、キリト。一体何をアルゴに依頼したんだ?」

 

「それはアルゴと合流してからだぞ、ユージオ。今は夜中だ、視界が元々悪いこの森が一層暗くなってる。話しながらって言うのは危ないからな」

 

キリトは僕にいつもとは違う、真剣な表情で答えた。重大な何かがある、そう直感で感じた。

 

それから僕らは二回ほどモンスターと遭遇(エンカウント)したが、危なげなく倒してアインクラッド初にして、最高の腕を持つ情報屋であるアルゴと落ち合うとキリトが約束していた場所、第二層へ続く往還階段に到着した。

 

「……まだアルゴは来てないみたいだけど…」

 

「いや、来てると思うぞ。アイツが約束に遅れるなんて今まで一度も無かったし、隠蔽スキルを使ってる筈だ。」

 

『脱帽ダヨ、キー坊。百点あげたいケド……六十点カナ?』

 

と、キリトが推理したその時、無人だった筈の四阿(あずまや)から声が聞こえた。そこから現れたのはアルゴ張本人だった。

 

「……なんで四十点も引かれるんだ?」

 

「簡単サ。約束の時間から六分も遅れてるんだゾ?」

 

そう、僕らはアルゴとの約束の時間を過ぎてしまっている。

 

「………し、仕方ないだろ。だって、ロニっ……!!」

 

「……キー坊ヨ、その『ロニっ』の後を聞かせてクレ」

 

しまった、言い過ぎたって感じの顔で沈黙するキリトにアルゴは残酷にもニヤニヤしながら話しの続きを求めてきた。ニヤニヤしながら(大事な事なので二回言いました)。

 

「こっこの話しはどうでもいいだろ!それで、メッセで送ったことについて情報は……?」

 

キリトは話しを無理矢理切って、本題へと入る。

 

「……キリト、僕は依頼内容知らないんだけど」

 

「…気になったプレイヤー情報だよ。お前も見た……いや、ユージオは見てないか。ちょっと怪しいんだよ」

 

キリトは説明しながら一枚の五百コル金貨をぴーんと指で弾くとアルゴはそれをうまく受け取った。

 

「毎度。それじゃあ、結果発表ダヨ。まず、三層に来てから攻略組のギルド、《青の騎士団》に参加したプレイヤーはどうやら一人だけみたいだナ。名前は《モルテ》、男で片手直剣使いで、は町中でも鎖頭巾(コイフ)を脱いだことがナイ……今のトコ、情報はそれくらいカ」

 

「………モルテ、か」

 

「……キリト、コイフって何?」

 

「コイフって言うのは、鎖で出来た帽子……みたいなもんだ」

 

僕の疑問にすかさず答えてくれるキリト。

 

「でも、待ってくれ。あんたも見てたとは思うが、攻略組の人数は変わっていなかった筈だ。もしかすると、モルテが入ったと同時に抜けたのか……」

 

「いいや、攻略組の顔ぶれは第二層のボス戦の時と変わっていなかったゾ。メンバーの名前と顔は覚えてるからナ」

 

「……そりゃお見逸れしました。」

 

「…じゃあ、その《モルテ》っていう人は三層でギルドに入ったにも関わらず、会議に参加しなかったの?」

 

「多分、な。アルゴ、その理由までは……」

 

「流石のオレっちでも無理だ」

 

「そうか……」

 

その後もモルテが志願でギルドに入ったこと、アルゴ自身まだモルテの姿を見たことがないことなど情報を聞き、今夜は会合は終了する事にした。

 

「ありがとな、アルゴ。代金分の情報はしっかり頂いたよ。またモルテについて新しい情報が入ったら知らせてくれ。」

 

「分かったヨ」

 

「ありがとう、アルゴ。無理なお願いを聞いてくれて」

 

「いいんだヨ。これが仕事だからナ。じゃあ、またナ!」

 

そう言って、アルゴは森の奥に消えていった。

 

 




ロニエ「予告!エルフクエストの《潜入》を進めようとする二人の前に立ちはだかる二人のプレイヤー。謎のプレイヤー《モルテ》ともう一人は今まで共に戦って来た筈のベルだった!虚ろな瞳でユージオを睨め付けるベル、動揺を隠せない二人、始まる決闘。その死闘を制するのはユージオ達か、ベルとモルテなのか………次回《あの日の友は今宵の敵》!次回も、さーびすさーびすぅ‼︎」

クロス「……オッケーです!」d(^_^o)ビシッ

ユージオ「き、緊張するね…」

ティーゼ「頑張って下さい、ユージオ先輩。応援してます!」

キリト「何を言ってるんだ、みんな…?ていうか、誰だよお前」(・・?)

アルゴ「次回も、お楽しみニナ!」


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あの日の友は今宵の敵

こんにちは!クロス・アラベルです。

久し振りの戦闘シーンです。そして、かなりシリアスです。
では、どうぞ!


森の中でお互いの得物を構える二人の少年。少し離れた所でも同じ状況の少年達がいる。

 

静かに一滴の冷や汗をかく少年、ユージオ。右手に握る愛剣の切っ先も心なしか不安そうに揺れている。オーソドックスな中段に構えている。

 

「………」

 

対する片手槍を持った少年は淀みのない矛先をユージオに向けている。だが、それとは裏腹に瞳は少し濁っているように見える。そして、彼から放たれるのは明確なる殺意。つい一週間前に共闘したとは思えない。

 

「……」

 

その少年の名は、《ベル》。だが、彼はユージオの知るベルではなかった。

 

デュエルまで残り、30秒。

死闘が始まろうとしていた。

 

何故こうなったか、それは今から10分程前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キリト、こっちであってるの?」

 

「ああ。マップによれば……あと少しで着くぞ」

 

アルゴと別れてから僕らはキャンペーンクエストの一部である「潜入」を他の皆には内緒で進めることにした。このクエストは森エルフの野営地に届く指令書……黒エルフの野営地にある秘鍵を盗みだすこと、失敗した場合は増援を待って野営地を強襲せよという内容らしいそれをこちらから盗み出すことだ。言葉通り、戦闘無しでクリアできるらしい。けれど、βテストの時は強行突破して戦闘は避けられなかったらしい。しかし、今はその時よりレベルもスキルの熟練度もはるかに上回っている。ならば、隠蔽(ハイディング)スキルで隠れながら潜入することができるだろう。そのためには隠蔽スキルを持っている僕らだけでクリアしようという魂胆だ。

 

「…こっちだ」

 

「え?でも、地図にはこのまま真っ直ぐって……」

 

「そっちじゃ門番と鉢合わせするだろ?俺は攻略法(ルート)を知ってる。」

 

キリトは静かに僕を諭し、崖沿いにある野営地の下、川のあるところまで行った。

 

「キリト、野営地はこの上だぞ?どうやって……ま、まさか」

 

僕は悟った。キリトは崖を登って行くのだと。

 

「…分かってるじゃないか、ユージオ」

 

『まあ、伊達に二年も一緒に過ごしてないよ』と心の中で突っ込む。

 

「……じゃあ、早速…」

 

キリトが崖を登ろうとして崖に近づこうとした、その時だった。

 

 

「______ッッッ!?」

 

 

あの記憶の頭痛がやって来たのは。

 

 

 

 

流れ混んでくる記憶の欠片。

 

同じ、崖と森が映る。そして、森から今まで居なかったところからコイフを目深に被ったプレイヤーが現れる。

 

そして、散る火花。繰り出されるソードスキルの数々。

 

 

 

 

「……待って、キリト。」

 

「?」

 

頭痛が終わった瞬間、僕は誰かに見られているような感覚に陥った。すぐさま僕は、キリトの肩をつかみ、止める。

 

「どうしたんだ、ユージ……ッ⁉︎」

 

キリトも気づいたみたいで僕の見ている方向に振り返る。

 

「……!」

 

僕とキリトは視線の元を見続ける。そこに誰かがいるのはわかっていた。しかも、一人は殺気が漏れ出している。

 

「……ッ⁉︎」

 

見続けて20秒程経つとそこの背景が陽炎のように揺らめき、人の影が滲み出てくる。人数は、二人。

 

『『…………』』

 

先ほどのキリトの記憶にあったコイフを被っていて腰に剣を履いているプレイヤー。そして、もう一人の主武器(メインアーム)は背中に装備した片手槍。二人目のプレイヤーは僕らの知っている顔だった。

 

「……お、お前……⁉︎」

 

「……っ‼︎」

 

頭では分かっているのに、心が完全否定する。そんな筈は無い、これは勘違いだ……そうがなりたてている。キリトの顔は驚愕に染まり、声に動揺が滲み出ている。僕も、人のことは言えないが。

 

「……ベル…ッ!」

 

ベルは相対していた……僕らと。言葉が出てこない。冷や汗が一筋、僕の右頬を伝い、地面に落ちる。

 

『………いやぁ、まさか見破られるとは思ってませんでしたよ、キリトさん、ユージオさん』

 

もう一人のコイフを被ったプレイヤーが気の抜けたような声で僕らに話しかけてきた。

 

「……あんた、モルテだな。青の騎士団に所属してる…」

 

『はいぃ、いかにも自分がモルテってもんですー。そんで、隣がベルですー……って、お知り合いでしたから、知ってますか。やっぱり情報が早いですねぇ…自分、街にはほとんど立ち寄ってないのに……流石は攻略組の中のトッププレイヤー!』

 

「……御託はいいよ。今、何で隠蔽スキルを使って隠れたのさ。明らかに友好的じゃ無いよ」

 

「えーとですねぇ……自分、用事……というか、お願いががあったんですよねー……キリトさん、ユージオさん。お二人に…」

 

間抜けた声で僕らに話してくるモルテとは正反対の態度を見せるベル。さっきからずっと黙りっぱなしだ。

 

「このエルフクエスト懐かしいですよねー。β時代の時に自分らの時もやりましたけど、完全クリアは出来ませんでしたよぉ。完全クリア出来たのってキリトさん達ぐらいだったらしいですよー」

 

「……おい、何が言いたい」

 

キリトがモルテののんびりした喋り方にイライラしたのか、少し低い声で問いただす。

 

「嫌だなぁ、楽しくお話ししてるだけじゃ無いですかー」

 

「……僕らとしては早くクエストをクリアしたいんだ。早く退いてくれない?用がないなら、失せて欲しいんだけど」

 

「わーわー!分かりました、言いますって……」

 

ワザとらしく大袈裟に言うモルテに僕も腹が立ってきた。

 

「……ぶっちゃけ言うとぉ…このエルフクエスト、今日は挑戦するのやめて帰ってくれませんかねぇ……あ、エルフクエをやめるって言うのもいいかもですけどー」

 

「……クエストを?」

 

「……?」

 

モルテの言うことが分からない。何故クエストを遅らせようとしているのか。多分、そんなことをやってもモルテ達に一つも利益は無い筈だ。

 

「……やめたらどうなるんだ?」

 

「それはー………内緒ですぅ。でもでも、すぐ分かりますよぉ。」

 

「……僕らとしては、そんなことをハイハイわかりましたって従う義理は無いよ」

 

「……自分、こう見えても歌得意なんですよねー…なんなら、今ここで一曲披露しましょうかぁ?」

 

「……?」

 

「……何を言って…っ!まさか、MPKをするつもりだったのか……⁉︎」

 

MPK___僕とキリトがパーティを組んですぐの頃、アニールブレードを手に入れるためにクエストを受けた。あの時、コペルというプレイヤーが、僕らにモンスターをけしかけて、殺そうとした。彼の本意ではないと信じたいけど___をやるつもりだったらしい。多分、森エルフを呼ぼうとしていたんだろう。

 

「……嫌だなぁ。自分、そんなことするつもりないですよぉ。ただ……キリトさんとユージオさんが引かないなら……こちらも強制手段を取るしかありませんしねー……」

 

「……言っとくが、そんな事をすればお前に犯罪フラグが立つだけだぞ」

 

「そんな激サックなことしませんってばぁ……キリトさん、覚えてますー?βテストで物事きっちり決める時って、アレやってましたよねー?あの超デンジャラスで、超エキサイティングなアレですよ!」

 

「……まさか、完全決着決闘か?」

 

「いえいえ、そんな死人が出ちゃうような事しませんよぉ。でも、半減決着なら大丈夫ですよね?だって、HPが半分減ったら即終了の激甘バトルですしー……」

 

キリトに聞いたところによると、決闘には三種類あるらしい。HP全損で決着がつく完全決着、大きめのダメージを一回でも食らえば終了する初撃決着、そして、今話に出た半減決着だ。

 

咄嗟に視線会話(アイコンタクト)をして、一緒に戦うと伝える。

 

「……俺とユージオはいい。だが………ベル、お前はどうするんだ」

 

「……本当は完全決着が良かった…が、半減でもいい。ただし、俺は……ユージオ、お前の相手をする」

 

「…‼︎」

 

「……決まりですねぇ…」

 

「……移動するぞ。ここじゃ、森エルフに気付かれるからな」

 

「じゃあ、付いていきますから、お先にどうぞー」

 

「……」

 

「行こう、ユージオ」

 

「……うん」

 

こうして僕らは一対一のデュエルをすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

そして、今に至る。

 

「……」

 

ベルは片手槍を構えて待機している。僕もアニールブレードを中段に構えている。

 

僕自身、立ち合いは何度もしてきたけど、デュエルをするのは初めてだ。でも、今感じている感情は、不安、恐怖、そして、悲しみ。

 

白亜の塔セントラルカセドラルでの戦いで僕は最高司祭アドミニストレータによってシンセサイズされ感情を殺された整合騎士と化してしまった。そして、キリトは整合騎士化した僕と戦った。僕は途中からしか覚えていないけれど……その時キリトが一番感じていた感情は、悲しみだったんだろう。途中で目覚めた僕でさえ、感じたのだから。

 

ベルが僕と同じような状況になっているとは決まっていないが、それでも僕は止めなければならない。友達を、仲間を助けるために、僕は……この剣を振るう‼︎

 

そう覚悟を決めた時、自然と震えが止まった。構えも安定して定まり、剣は力を取り戻したかのように輝きを取り戻したように思えた。

 

残り、20秒。

 

僕は落ち着いてベルを見据える。ベルは先程と構えは変わっていない。

 

残り15秒。

 

僕はベルに毅然としてこう言った。

 

「ベル!僕が勝ったら、何故君がこんな事をするのか…理由を教えてほしい‼︎」

 

残り、10秒。

 

その時、ベルは顔を怒りに染め、小さな声で言った。

 

「………………何も、知らないくせして…言うんじゃねぇよ」

 

残り、5秒。

 

「……ぇ?」

 

その言葉に驚き、声が漏れてしまった、その瞬間。

 

 

「……ッッ!!!!」

 

ベルはデュエルが始まっていないのに僕に突っ込んできた。

 

 

「な……ッ⁉︎」

 

 

残り、1秒。

 

ベルは片手槍を橙色に閃かせ、ソードスキルを発動させた。

 

 

 

決闘開始(デュエルスタート)

 

 

 

「……ッ⁉︎」

 

 

 

僕は咄嗟にアニールブレードでそのソードスキルを流す。が、その槍の矛先が僕の左頰を掠める。

 

「……チッ」

 

ろくにダメージを与えられなかったことに苛立ったのか、舌打ちをして追撃してくるベル。

 

「……っ!」

 

僕はそれを捌いていく。僕はキリトにこう教えてもらった。___アインクラッド流剣術は剣と剣を当てることを重点を置くんだ。相手の攻撃が来たら、パリィ……流して攻撃を凌ぐ___だから僕は今、守りに徹している。

 

冷静に、落ち着いて防ぎ、攻撃のチャンスを作ろうとするけど、ベルはさせないとばかりにソードスキルではないものの連続攻撃を浴びせてくる。こっちは防戦一方だ。

 

どちらも手の内は知ってる。僕は片手剣以外使わない。そして、ベルは片手槍を使う。ソードスキルの連撃数は今の僕らと変わらないはず。勝率は五分五分といった所だ。このデュエルで勝つために必要なのは、駆け引きだけだ。

 

その時、心に引っかかるものがあった。僕が知っている筈の、何か。この戦いをひっくり返せる程の……

 

「おおおおおおおおおおッッ‼︎」

 

「っ⁉︎」

 

そこまで考えた時、ベルが雄叫びをあげながら攻撃のスピードを上げたので思考が途切れた。

 

そして、ベルはそこから無理矢理ソードスキルを放って来た。

 

「うおおおッ‼︎」

 

「ぐッ⁉︎」

 

その3連撃を体には当たらなかったものの剣で思いっきり受けた。そのせいで身体のバランスが崩れる。

 

「ハアァッ‼︎」

 

「うっ⁉︎」

 

そのまま蹴り飛ばされる。体術スキルのソードスキルではないからダメージは喰らわないものの、崖まで飛ばされた。

 

「不味い……ッ!」

 

早く立て直して反撃を……そう思ったその時。

 

 

 

 

 

「オオオラアアアアアアアアアアアッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

ベルの雄叫びが森に響く。その直後、左肩に大きな衝撃を食らった。

 

「がッ_______」

 

僕は左肩を見て驚愕した。そこに突き刺さっていたのは、ベルの使っていた片手槍。それは僕を貫通して、崖にも突き刺さっているようだ。武器を投擲してくるとは思っていなかった。HPゲージを見ると、九割を切った。そのまま減り続けている。

 

「………貫通継続ダメージ……ッ⁉︎」

 

キリトから聞いたことがある。武器が身体に突き刺さったり、貫通してそのままにしておくと継続してダメージが入るらしい。それを今、僕は受けている。抜かなければダメージは止まらない。

 

「ッ‼︎」

 

すぐさま剣を左手に持ち替え、右手で抜いた。だが、そこで疑問に思った。

 

何故主武装(メインアーム)である片手槍を投擲したのか。避けられてしまえば、攻撃出来ないし、反撃を食らえば守ることさえ出来ないという最悪の事態に陥る。そんな危険を犯してまで………

 

その時、一つの結論に辿り着いた。

 

ベルはただダメージを与えるために片手槍(これ)を投擲した訳ではない。本当の目的は、一つの場所に僕自身を縛り付け、時間を稼ぐこと。そして___

 

僕の上に影が躍り出る。

 

僕は槍を川に投げ捨てながら上を見上げた。

 

そこにいたのは、空中で血の如く紅い光を宿した()()()を思いっきり振りかぶった、ベルの姿だった。

 

「________」

 

 

 

 

 

 

「____死ね」

 

 

 

 

 

 

ズガァァッッ

 

「かはッ__________」

 

ベルのソードスキルを食らって僕は川まで吹き飛んだ。

 

HPゲージがものすごい勢いで減っていく。たが、五割程で停止した。

 

「________はぁっ、はぁっ、はぁっ……⁉︎」

 

「………チッ。お前、受ける直前に右へ避けたな。だから、これくらいのダメージ量で済んだ」

 

一瞬で悟ったベルに畏怖を覚えながらも、川の水を滴らせながら立ち上がろうとする。

 

そう、僕は咄嗟に右へ飛んで、デュエル即終了を防いだ。だがしかし、以前僕は不利な状況に置かれている。相手のHPゲージは全く減っていないのに対して、僕はもう少しでも攻撃を受けたら、負けが確定する。そして、僕は今の攻撃を受けた衝撃でアニールブレードを落としてしまった。こちらに歩いてくるベルの後ろにある。武器がない僕じゃ、勝つことは非常に難しい。

 

「………まあ、あと1発…いや、掠っただけでも終わりだな。しかも武器は持っていない……」

 

勝つにはまず、武器を取り戻さなければ。ベルの後ろの地面に突き刺さっているから、回り込むか、玉砕覚悟で正面突破か。正面突破は、体術スキルを使うことになる。だが、これは出来るだけ隠しておきたい。ベルの知らないスキルの筈だ。僕の起死回生の一打となり得るスキルだ。だが、全くダメージを受けていないベルにそれを食らわせても、ろくにHPゲージを減らせないだろう。ならベルの視界を水で____いや、それは可能性が低すぎる。どうすれば……

 

その時、僕の右手に()()が当たった。

 

「……?」

 

疑問に思って()()を掴む。

 

「……!」

 

()()はこの戦いの戦況をひっくり返すことのできる、重要なものだった。

 

「……さて、終わらせるか」

 

ベルの両手剣がギラリと月の光をはじく。僕のもう一つの誤算……それはベルが主武装を第二層のボス戦時に両手剣へ変えていたこと。両手剣こそがベルの本当の主武装だ。あれは片手剣より遥かに威力があり、片手武器では防げない。思わず、息を呑んでしまった。

 

そして、僕はある作戦を考えついた。

 

それが成功すれば、武器を取り戻せるし、形成逆転できる。

 

僕はその作戦に全てをかけることにした。

 

ベルが両手剣を振り上げ、ソードスキルを発動させた次の瞬間、僕は走り出した。

 

「……まだ、足掻く気か?」

 

ベルは僕を哀れな目で見て両手剣を振り下ろそうとする、その瞬間。

 

 

 

「ああああああああッッ!!!!!!」

 

 

 

僕は()()をベルに向かって全力で投擲した。

 

「ッ⁉︎」

 

ベルは反応出来ずに()()を右肩に食らった。

 

ベルの右肩に突き刺さったもの、それは、()()()()()()()()()()()()だった。

 

ソードスキルはキャンセルされて、ベルは通常よりも長い技後硬直を課せられた。

 

僕はベルに脇目も振らず、アニールブレードのもとに疾駆した。

 

そして、アニールブレードを地面から引き抜き、急ブレーキをかけて、ベル目掛けて走った。

 

「ッッ‼︎」

 

無言で叩き込む、2連撃ソードスキル《バーチカルアーク》。ベルは防御も出来ず、左肩に食らう。斬り上げた反動を利用して、体術スキル《水月》を繰り出し、それをベルの後頭部に命中させる。これこそ、アンダーワールドでキリトに教えてもらった技術、《剣技連携(スキルコネクト)》だ。武器を使ったスキル同士だとより難しいけど、今回は武器と足だからやりやすい。

 

「ぐあッ⁉︎」

 

ここでHPゲージを確認すると、七割を切っている。こちらの技後硬直もすぐ終わる。なら、ここで…

 

「……畳み掛けるッッ!!!!」

 

そして、前に倒れこもうとするベルを追撃する。僕はアンダーワールドでも、アインクラッドでも、2連撃より多いソードスキルを使ったことがなかったが、つい最近3連撃ソードスキルを習得した。

 

僕の願い(思い)を_______

 

「受け取れ、ベルッッッ!!!!!!!」

 

3連撃ソードスキル《シャープネイル》。一連撃目は左肩に、二連撃目は右肩、最後は背中を斬り裂いた。

 

「ッッ⁉︎」

 

ベルはさっきの僕と同じように川へ吹き飛んでいく。ベルのHPゲージはさっきの僕より早いスピードで減っていく。五割を通り越して、二割を残して止まった。

 

その瞬間、音楽が聞こえた。

 

目の前にメニューウィンドウが出てくる。『WINNER!』……これは勝者という意味だろう。キリトから聞いた。

 

「……はぁっ、はぁっ、はぁっ……勝った……?」

 

そう呟き、僕は剣を鞘に収めた。丁度ベルは川の水を滴らせながら、立ち上がった。

 

「……何故……何故、俺は負ける…⁉︎いつも、俺は………⁉︎」

 

小声でベルは呟いた。いつも、負ける……?

 

「……ベル、何故、こんなことをしようと思ったの……?聞かせて欲しいんだ!ベル!」

 

「………うるせぇよ」

 

ベルは僕の問いに答えることはなく、その一言しか言わなかった。

 

「ベルさぁーん、早く引きますよぉ〜。目的は達成出来たみたいですし…」

 

と、その時、キリトと戦っていた筈のモルテがベルを呼び、森の中へ消えた。

 

「……分かってる」

 

「……っ!ベル‼︎待っ_____」

 

もう限界だと悲鳴をあげる身体に鞭を入れて、森の奥へ消えようとするベルに手を伸ばす。だが、ベルは氷のような冷たい目でこう吐き捨てた。

 

「……今度会う時は…()()

 

「……ッ⁉︎」

 

ベルは森の奥へ消え、森には静寂が戻った。

 

「ユージオ!大丈夫か⁉︎」

 

「……キリト…僕は、大丈夫……君は?」

 

「デュエルには引き分けたが、なんとか。ユージオは……勝ったのか?」

 

「…うん。でも……負けたも同然だよ……っ!」

 

僕はキリトの声を聞いて今まで力んでいた身体中の力が抜けて地面に片足をついた。

 

 

 




次回《雷帝の暴動と死神の陰謀》

モルテって、イタリア語で《死神》という意味らしいです。初耳ですね。


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雷帝の暴動と死神の陰謀

ここここここんにちはっ、クロス・アラッベルです‼︎
『ソードアートオンライン~アリシゼーション~』の新しいPVを見て発狂してしまいました。
ついに、ユージオ君が動く⁉︎セルカも、アリスも………そして、あの後輩の傍付き剣士達もっ⁉︎
の、脳が震える……
ユージオ君の声にゾクゾクっとしたのは自分だけでしょうか…あ、まずい、感動で涙が……
こ、こちらも負けずに頑張って書いていきます‼︎
今回はただの会話回になります。
それではどうぞ!


 

 

 

「行こう、ユージオ。早めに終わらせて、野営地に戻らないと…」

 

「……分かってるよ。ポーションで回復しながら行かないと……流石にこの状態はキツイよ」

 

「……それより、何だったんだろうね。あの、モルテって人……」

 

森の中、僕らは疲弊しきった体に鞭を入れてクエストのクリアを目指し、森エルフの野営地に向かっている。先程の決闘でキリトは引き分け、僕はなんとか勝ったものの、謎の残る事件となった。

 

「さあ、な。それより、ベルは……どうだったんだ?何か、言ってたか?」

 

キリトも僕と同様にベルのことを心配しているようだ。

 

「………なんとも。何故そんなことをしてるのか聞いても、うるさいって……あと…」

 

 

『何も知らないくせに、言うんじゃねぇよ』

 

 

あの時のベルは何か抱えているような気がした。僕らには言えない、何かを隠しているように感じられた。周りの全てを拒んでいた。僕らも。そして、あの目。殺意を感じたあの視線は、本物だったのだろうか。本当に、ベルは……僕らを殺そうと……

 

「……そう、か。取り敢えず、今はクエストを……」

 

キリトがそう言って、森エルフの野営地の裏側にある崖に向かおうとした、その時。

 

『………なんだ貴様らッ‼︎』

 

「「⁉︎」」

 

ボス攻略会議の時に乗り込んできた、あの人の声が聞こえた。声を荒らげ、まるで誰かと言い争っているように思えた。

 

「…行ってみよう、キリト。何か、嫌な予感がするよ」

 

「全く同感だ」

 

僕らは声の発信源を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「……あ、あれって……」

 

「…なんで、あいつらが……?」

 

そこには夕方にあったボス攻略会議に乗り込んできたギルドの面々がいた。正確に顔は覚えていないけれど、間違いない。そして、言い争っている相手は…

 

「おまんらいい加減にせぇよッ‼︎なんぼも言うけどな、ここを先に見っけたのはわいら《青の騎士団》やぞ‼︎」

 

「…こういうのは先着順っていうのがルールでありマナーだ。あんた達だって分かってるだろう!」

 

「ふん、マナー?ルール?犯罪者集団は何を言っても説得力がないな!」

 

「「なんだと(なんやて)……ッ‼︎」」

 

青の騎士団だ。しかも先頭には幹部であるキバオウさんとリンドさんの姿が見える。相当頭にきているのか、キバオウさんは人界の東地域の能面のような顔をしているし、リンドさんは額に青筋を立てている。だけど、ディアベルは来ていないようだ。

 

このままでは、ギルド同士の戦争になりかねない。

 

「……キリトはクエストを一刻も早くクリアして。その方が手っ取り早いから。僕は、仲裁してくるよ……正直望み薄だけどね」

 

「ゆ、ユージオ……分かった。俺がこのクエストを終わらせて仕舞えばこの森エルフの野営地は消えるから、俺がクエストをクリアするまで時間を稼いでくれ」

 

「…了解」

 

キリトは崖に向かって走り、僕はあの二つのギルドの間に入るために駆け出す。

 

「キバオウさん、リンドさん!」

 

「ゆ、ユージオはんっ?」

 

「…ユージオさん?」

 

「ほう…また来たか、忌々しい犯罪者」

 

何度そう言おうとするのだろうか。しつこいし、ネチっこいし、ムカつく。ここはシカトを決め込むのが一番だ。

 

「…二人とも、一度落ち着いて。間に受けすぎると向こうの思う壺だよ。頭を冷やして」

 

「貴様、無視を…」

 

「……分かったわ。わいもなんやかんや頭に血上ってたかもしれんわ。すまん」

 

「……こっちもだ、パーティーリーダー失格だな」

 

二人は僕の言葉に冷静になれたようで、落ち着きを取り戻した。そして、意図を察したのか彼の言葉に聞き耳を立てていない

 

「……とにかく、何があったのか、説明して下さい。僕もさっき来たばかりで状況がうまく掴めないんです」

 

「……俺達はキャンペーンクエストの『潜入』をやっていたわけだが…ギルド《オプリチニク》と運悪く鉢合わせしてしまった」

 

「わいらは別に何も悪いことはしてないからな。堂々としてたんやけど……あいつが突っかかって来よったんや。このキャンプを見つけたのはわいら《青の騎士団》やっちゃうのに、こいつら我が物顔でキャンプに乗り込もうとしとんねん」

 

「……で、そちらの言い分はどうなんですか?」

 

「ふん、決まっているわ。お前たちは他のプレイヤーにこの層の迷宮区攻略に必須の最重要情報を公開していない」

 

「……じゃあ、その最重要情報というのは?」

 

「貴様も知っているくせに何を言う‼︎貴様らビーター達に……」

 

「……びー、たー……?何のことか分からないよ。もうすこしわかりやすく…」

 

「よほど言いたくないらしいな!」

 

「……だから、何のことやねんって言うとるやろうがっ‼︎」

 

「……このキャンペーンクエストにこの第三層迷宮区攻略時必須のアイテムがあると言うことだッ‼︎」

 

イヴァンはいきなり聞き捨てならない言葉を聞いた。

 

「え、エルフクエストで、迷宮区攻略必須のアイテム……?」

 

「何をほざいて……俺達だってそんな情報知らなかったぞ!」

 

「アホなこと言うな!そんなことあったら、わいらが知らんわけないやろ!それに、キリトはんだって教えてくれるはずや!」

 

三者三様の反応を見せる。キバオウさんの言う通り、キリトはそんな大事な情報はボス攻略会議で言う筈だ。とういう事は、彼らは嘘をついているか、誰かに嘘の情報を流されたかのどちらかだ。

 

「はっきり言ってそんな情報は初耳だし、キリトからも聞いていないよ。どこでそんな嘘の情報をつかまされたの?」

 

「白々しいっ……ここまで言ってもまだ吐かないか⁉︎」

 

という間抜けた言葉に

 

「……元より吐くものなんて無いよ」

 

「……というより吐けへんやろ」

 

とすかさずツッコミをいれる。

 

「……こっ、言葉の綾だっ」

 

「…とにかく、あんた達は我々青の騎士団の後に来たんだ。常識のある判断をお願いしたい」

 

リンドの言葉に顔を怒りに染めてイヴァンは怒鳴った。

 

「………貴様らぁ……いい加減にしろぉッッ‼︎」

 

「…っ!」

 

その言葉と共にイヴァンは腰にあった両手剣を抜いた。それと同時に後ろで罵声を飛ばしていたパーティメンバー達も一斉に武器を構えた。全員に緊張が走る。

 

最悪の事態を防げなかった。相手は完全に激昂し(キレ)ている。やるしか無いのか……

 

 

その時だった。後方40メートル先にあった野営地が跡形もなく消えたのは。

 

「な、何ぃ⁉︎」

 

「…な、なんで消えたんや⁉︎」

 

「……そうか、他の誰かが指令書を奪ったか」

 

イヴァンとキバオウさんはかなり驚いていたが、リンドさんは完全に理解したようだ。

 

 

『ごめん、ユージオ。遅くなった』

 

 

野営地の方から現れる人影。その声は聞き慣れたものだった。

 

「……遅すぎるぞ、キリト。来ないかと思ったよ」

 

二人のプレイヤー。一人は青い髪のこのアインクラッド初の攻略組リーダー、ディアベル。もう一人は黒髪に黒いコート、片手剣を背中に装備した、キリトだった。そのやんちゃな瞳は月夜の下で爛々と輝いていた。

 

「……悪いが、ここのはもうクリアした。《オプリチニク》の皆さん、ここは諦めて別の野営地を探してくれ」

 

キリトはその瞳に剣呑さを宿らせ、イヴァンに告げる。

 

「………き、貴様もか…ビーターッ‼︎」

 

「…イヴァンさん、武器を下ろしてくれ。もうやめにしよう。これ以上プレイヤー同士でいがみ合っても意味なんて見出せやしない。俺としてもイヴァンさんとしても損はしても得はしないだろう?」

 

ディアベルは冷静にイヴァンを説得しようとするが、イヴァンは全く聞こうとしない。

 

その間に僕はキリトに今までのことを説明すると、

 

「そんな話、ベータテストの時にはなかったな。嘘をついてるのか、嘘をつかまされているのか、どっちかだな」

 

と答えた。

 

「貴様も知っているだろうっ‼︎ビーター!」

 

「……いや、そんな情報βテストの時にも出なかった。それにエルフクエストは俺は全部クリアしたことがあるから分かるけど、経験値とアイテムだけで、アイテムは単なる武器だったり防具だったし、ボス戦に絶対必要なアイテムなんか無かった。しかも、このゲームの管理者……茅場晶彦はあくまでフェアだ。そんな事をするはずが無いんだよ、イヴァンさん」

 

キリトは淡々と答えた。イヴァンは両手剣を構え直し、叫ぶ。

 

「これ程言っても聞かんなら、無理矢理にでも吐いてもらうしか無いなァ………‼︎」

 

「……‼︎」

 

あの時、モルテは『今日クエストに挑むのをやめてくれ』と言った。彼らにとって利益も損害も受けない言葉に何か僕は心に引っかかるものがあった。辛くもデュエルには勝てたが、その疑問だけが残っていた。

 

そして、デュエルが終わってからすぐ近くで攻略組とオプリチニクのいざこざ。なんだか、この状況が意図的に作られているように思えた。

 

まさか……彼らの目的は今この状況なのではないか。僕はそう感づいた。

 

もう、戦うしか無いのか、そう思ったその時。

 

 

 

『待ちなさい』

 

 

 

そんな声が聞こえた。数時間前に聞いた、ここにいるはずのないアスナの声。

 

「……っ、あ、アスナ⁉︎」

 

僕らとイヴァンの間、僕らの右側から現れた一つの団体。そこにはアスナやティーゼ、ロニエ、ユウキ、ナギがいる。

 

「ユージオ先輩!勝手にどこかに行かないで下さい……心配したんですからっ…」

 

「ご、ごめん…」

 

「…どうやってここに来たんだ?」

 

「ついて来たんですよ。……もう、置いて行かないで下さい……っ」

 

「……わ、分かった…」

 

不味い。ティーゼたち、結構怒ってる。最近、ティーゼとロニエは怒ると怖い事が分かった。というよりは本能的にわかる。生き物として……なんだか、思い出せないけど、どこかでティーゼの怒ったところ(?)を見てしまった、そんな気がする。本当に怖い。

 

本当に怖い。(大事なことなので二回言いました)

 

「……イヴァンさん。貴方がそういうのなら私達も傍観は出来ないわ。貴方の一つの行動で攻略組全員を……いえ、アインクラッドの全プレイヤーを敵に回すことになる……だから、剣を収めて下さい」

 

「……っ!」

 

アスナの言葉にようやく気づいて少し冷静になれたのか、口ごもるイヴァン。

 

アスナの言葉に気付いただろうけど、アスナたちの新しい剣の妖しい程の輝きに威圧感を感じているのもあるだろう。

 

「……イヴァンさん、あんたらがクエストの一つや二つでグダグダ言ってるうちに俺は……いや、俺達攻略組は迷宮区攻略を開始する」

 

「っ⁉︎」

 

そして、キリトは驚きの言葉を発した。

 

「き、キリト……⁉︎」

 

「……俺達《青の騎士団》はこのエルフクエストを放棄する」

 

「何ィッ⁉︎」

 

「もちろん、俺もだ。」

 

ディアベルも爆弾発言を落とした。

 

「わいらはこないな喧嘩に時間使ってるほど暇人やないんや」

 

キバオウさんまでもそんなことを言い出すなんて……あ、もしかして……(ブラフ)…?

 

なんか察した。言葉の駆け引きってことか。

 

「…貴様らぁ……‼︎」

 

「言っておくけど、僕らプレイヤーだけじゃないよ。迷宮区攻略に挑むのはね」

 

「貴様ら、何を言って…」

 

「……キズメル、パーシー。いるんじゃないかな?」

 

僕はここにいるはずの人物……あのエルフ二人の名を呼ぶ。すると、予想通り返事があった。

 

『バレていたか、ユージオ』

 

『隠す必要がないとは思うのですが……まあ、いいでしょう』

 

「だっ、誰だっ⁉︎」

 

目に見えて動揺するイヴァン。多分、イヴァンは知らないはずだ。僕らにエルフが両方仲間になっているなんて。そして、彼らからみれば、パーシーの頭上にあるアイコンは真っ黒を通り越して闇の色に見えているだろう。

 

「私の名はキズメル。リュースラの民、エンジュ騎士団の近衛騎士である!」

 

「…私の名はパーシー。カレス・オーの民、ヒメシャラ騎士団の近衛騎士です」

 

「私達は剣士キリト、ユージオ達との盟約により天柱の塔へ赴かん!例え天柱の塔の守護獣であろうと朝露の如く消え去るであろう‼︎」

 

「…彼らは必ずや上層へと送り届けましょう。私達がいなくとも乗り越えることの出来る方々なのですから」

 

その言葉を聞いてイヴァンはぽかんと口を開き呆然としている。

 

「……そう言うことだ。どうする?」

 

イヴァンは顔色を二度三度変えて答えを出した。

 

「ぐぅっ……クエストが……だが、迷宮区は必ず攻略しなければ……クソォッ‼︎このクエストは貴様らにくれてやるッ!行くぞ、お前ら‼︎だが、覚えていろ!迷宮区は我々だけで攻略して、ボスも倒してやるッ‼︎」

 

「……攻略会議にはまた来てくれ!イヴァンさん、あんた達がどんなことを言おうとこのアインクラッドを攻略しようとしている仲間だと言うことに変わりはない!」

 

ディアベルの言葉を無視してイヴァンらのパーティは森の奥、主街区の方へと消えた。

 

「……出来るもんなら、どうぞ。たかが2パーティ3パーティじゃ無理だろうけどな」

 

キリトの現実的な考えに同意せざるを得なかった。ボスはレイドを組んで行くもので、パーティ二つ三つじゃ攻略不可能だ。

 

「……ごめんね、ありがとう、みんな。何も言わずに行っちゃって」

 

「…このことについてはもう何も言いません。さっきしっかり言いましたから」

 

「……お、おう」

 

後からロニエ達に追加で叱られそうだ。うん、絶対。

 

「キリト、ユージオ。このキャンペーンクエストはお願いしていいか?」

 

「お願いっていうと…」

 

「彼らの言ったことが全て嘘だとも限らない。だが、彼らが迷宮区の攻略を開始するのなら俺達も開始しようと思う」

 

彼らの言い分は随分とおかしいところばかりだけど、やはり確認しておくべきなのでディアベルの言葉は的確な判断だ。

 

「あんな生意気な……ちゃうちゃう、おかしいやつに抜かされるなんて嫌やからな」

 

「……キバオウさんの言い方は悪いが、俺も同じだ」

 

……後ろのお二人さんはかなりムカついているそうで、あまりいい顔はしていない。

 

「……彼らの言葉が嘘か真か、それを確かめて欲しいんだ。君たちなら行けるはずだ。なにせ、攻略組最強の剣士達だからな」

 

「……最強かどうかはさておいて、その仕事、乗った。一応クエストは完全にクリアしてみるよ」

 

「ありがとう。じゃあ、俺達は一度主街区へ戻ろう!時間が時間だ。ゆっくり休んで次は迷宮区攻略だ‼︎」

 

『『『『おおおおお‼︎』』』』

 

ディアベル達は迷宮区攻略を開始するために休憩を取りに主街区に向かって去って行った。

 

「……さて、俺たちも野営地に戻ろうか。指令書もゲット出来たしな」

 

僕らも野営地に戻った。

 

 

 

 




次回《これから》


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僕らの未来(みち)を歩む

遅くなりました!クロス・アラベルです!
今回はド下手なまとめ編……?になります。多分…
それではどうぞ!


 

 

「……いよいよだね」

 

「ああ、まさかこんなに早く終わるなんてな」

 

あれから3日後。僕らはキャンペーンクエストを迷宮区のボス戦へと突入する前に終わらせる。そういう約束した僕らは急ぎでキャンペーンクエストに挑んだ。秘鍵を取り戻したり、ダークエルフの兵士を助けたら、その兵士が実はフォレストエルフの伏兵だったり、それでその兵士を追うために小さな光る印を探したり、そして、最後にフォールンエルフの盗賊達との戦いを経て、ついに秘鍵を取り戻した。どのクエストもキズメルとパーシーが物凄い洞察力と戦闘技術を駆使して頑張ってくれた。だからかなり早めに終わった。

 

が、フォールンエルフの暗躍が二度も見られたことから、『私達エルフだけで上にまで持って行かなければならん』という事で秘鍵の運搬はキズメルに任せることに。パーシーも納得済みで、彼女は僕らと一緒にボス戦に参加することになった。が、流石はフォレストエルフの騎士、迷宮区のモンスターを瞬殺するという異常な強さだった。数値的にはレベル16と、ロニエ達と一緒だった。まあ、僕らも人のことは言えないけど…因みに僕とキリトはレベル17だった。

 

「さあ、行きましょう!先輩!」

 

「…そうだね。ボス戦もそろそろ始まりそうだし」

 

『皆さん、解毒薬は持ちましたね?』

 

「20個くらい持ってるから大丈夫だよ!それに、毒は喰らわないからね。そんなのよゆーで避けられるよ!」

 

『頼もしいことですね』

 

「でも、無理はしちゃダメよ。ユウキ」

 

「分かってるよ!」

 

「んと……パターンとしては、枝振り回し、倒れ込み、雑魚モンスター製造、巻きつき、それから毒液噴射があるな」

 

「……通常攻撃は避けやすいかもしれないけど、やっぱり注意すべきは毒攻撃だね」

 

「ああ、でも大丈夫だ。奴はボス部屋の中心から動かないからな。しかも毒攻撃の前に体全体が青色にうっすら光るし、震える。多分、ボスの中じゃ、一番戦いやすいタイプだと思うぞ」

 

「でも油断はしないでくれ。またボスが増えたりしてるかもしれないからな」

 

「でも大丈夫デス!そのために私達がいるんですカラ!」

 

どんなボスだった僕は怖くない。だって、みんながいる。必ずや倒してみせる。

 

その時、ボス部屋への大扉の前にいたディアベルがみんなに号令をかける。

 

「じゃあ、みんな!アイテム補給は済んだか⁉︎」

 

『『『おおおおおおっ‼︎』』』

 

「じゃあ、これから第三層のボス攻略を開始する!ボスの情報については会議で話した通りだ。毒状態になってしまった場合は仲間とスイッチしてすぐ治しくれ!行くぞッ‼︎」

 

『『『おおおおおおおおおっ‼︎』』』

 

「……みんな、気合入ってるね」

 

「まあ、現実世界の回帰に一歩近づくんだからな。とは言え、小さなもんだけど」

 

「……そう、だね………僕らも行こうか」

 

「ああ!」

 

そして、僕ら攻略組は満を持してボス攻略に挑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……やっぱり全部避けるのは無理だったかな?」

 

「その発想自体おかしいぞ、ユウキ」

 

「そんなことないって!やっぱり何事もチャレンジだよ!」

 

『ちゃれんじ?何ですかその言葉は?』

 

「それなら、《チャレンジ》は挑戦するっていう意味でしたよね!アスナさん!」

 

「ええ」

 

『そうでしたか』

 

「……というより、結構早く終わったね。もう少しかかると思ってたんだけど…」

 

「早いことに越したことはありまセン!これで次のフロアも早く攻略出来るんですカラ!」

 

「そうだね、ナギちゃん」

 

あれから40分後、僕らは無事ボスを倒し、次の層へと続く階段を上っていた。死人はゼロ、毒にかかった人達はいたけど大量に準備していた解毒ポーションは尽きることは無かった。毒にかかってもすぐに後退し治療してまた戦えた。これもディアベルの指揮の賜物だ。

 

そして、ベルとあのギルド《オプリチニク》の連中はボス攻略に姿を見せなかった。これは当然のことで、アルゴに調べてもらったところ、彼らのレベルは8が最高で、到底迷宮区攻略が出来るほどの実力ではなかったそうだ。現に一度迷宮区に入って5分で逃げてきたらしい。『ただのアホだナ』とアルゴは言ってた。そして、ベルはどうやらアルゴでも分からなかったらしい。でも、あの時戦った感じからして僕らとそう差はなさそうだった。

 

結果的に彼らは攻略組に危険視されただけでボスも倒せていないし、迷宮区すら攻略出来ていない。何がしたかったのかさっぱりだ。

 

「……次はどんなフロアなの、キリト?」

 

「ああ、次は砂漠みたいな渓谷なんだけど……これまた面倒なフロアだぜ?」

 

「…頑張ろうね、キリト」

 

「…ああ。次の層は5日ぐらいで突破したいな」

 

残り 97層。道のりは長く険しい。それでも、僕らは前に進み続ける。どんな試練が待ち受けていようと……キリトが『帰りたい』とそう願うなら。

 

そう決意を新たにし、僕は一段、また一段と階段を上って行った。

 




これでプログレッシブのストーリーは一旦終了し、次回からアインクラッド編に入ります!
そして、次回から書き方を変えてみようと思います。
それでは次回も楽しみに!


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アインクラッド編
~殺人鬼(カイン)編~ 勇気の結晶


大変遅くなりましたっ!クロス・アラベルです!
本当に遅くなってしまいました……なんとお詫びしたら良いか……とっ、取り敢えず、やっとかけました!今回は月夜の黒猫団と会う前のお話です。
それではどうぞ!


 

 

 

1月21日。

現在の最上層は15層。このソードアートオンラインというデスゲームが始まってから二ヶ月が経った今、100層のうち二十分の三の層が攻略され、ようやくこのアインクラッドの全プレイヤーの間で『現実世界に戻れるかもしれない』という希望が生まれ始めていた。

そして、この15層の主街区である《センデルメン》でもそうだった。

 

「もう15層、か……」

「何が『もう』なの?これでも遅いほうじゃないかしら」

「いや、そんなことないぞ。デスゲーム化したこのアインクラッドじゃ、トライアンドエラーは許されないんだ。ベータ版じゃいくらでもできたことだけど、ここにはそんな選択肢これっぽっちもない……これでも早い方さ」

「フィールドに出て狩りをする人も増えてきましたし、生産職の人も着実に増えてますから、ここまで順調なこともないですね」

真っ黒コートをきたキリトと焦げ茶色の髪と青い瞳のロニエ、細剣(レイピア)を腰に携えたアスナが先頭を歩く。

「色々あったけど、ここまで来れたね。しかも、ボス戦では犠牲者無しで……本当、奇跡みたいだ」

「まだあと85層ありますから、油断は出来ませんけど……」

「大丈夫だよ!このままいけばヨッユーでクリア出来ると思うよ!」

「その通りですヨ!でも、その前に早いとこ宿屋で寝たいです……ボス戦では疲れちゃいましタ」

水色のコートを着たユージオと紅葉色の髪のティーゼ、快活なユウキ、そして、巫女服に磨きをかけたナギが後に続く。

「ふむ……こりゃなかなかいい装備だな。流石はボスドロップ品……いくらで売れるか…」

「どんな装備なんだい?」

「ああ、軽装備なんだが、俊敏プラス値で19だ」

「じゃあ、俺も立候補しようかな。最近、この鎧がすごく動きづらいように思えてきてたところなんだ。それに俊敏値プラス19は喉から手が出るほど欲しい」

「よし、じゃあ、明後日に競りをやろう!」

「よっしゃ、下の層のプレイヤーにはワイが情報流しといたろう!」

「何だかんだ言って、アンタも商売(そういうの)興味あるんじゃないか。今からでも転向しないのか?キバオウさん」

「ケッ、これは趣味や、趣味。本業は攻略組(こっち)やで!」

「……なら良かった」

その後ろを歩くのは巨漢のエギルと儲け話に乗ってきたのは攻略組のリーダーであるディアベル。そこに楽しそうに笑いながら話しに混ざってきたのはキバオウだ。最近の趣味は商売。ボス戦やフィールドボスなどのドロップアイテムなどを売り買いするというのを週一の金曜日にやっている。それにちょっかいを出したのはリンド。二人はディアベル率いる青の騎士団の副団長を務めている。この二人、中が悪そうに見えて結構仲良し。ボス戦の後はよく二人で話しながら(エール)を飲んでいる。

それに全攻略組メンバーが続く。

攻略組はつい先程、下の14層のボスを倒し、この15層に辿り着いた。

そして、今回のボス戦では現在のアインクラッドで一つしかないであろうアイテムがドロップした。

「……それにしても、『転移結晶』…ベータ版じゃもっと低層でドロップしたはずなんだけどな…」

「やっぱり変わっちゃったんですね。ボスのパターンが違ったり、ボスが増えたり、キャンペーンクエストだってべーたばん…と違ったんですね?なら、あり得ることじゃないんですか?」

「そうよ。ボスが変わってるくらいなんだからアイテムの一つや二つ、ドロップする層が違ってもおかしくないじゃない」

そう、このアインクラッドで初めて転移結晶がドロップしたのだ。ドロップしたのはキリトだけで、ラストアタックボーナスとしてドロップで、現在転移結晶を持っているのは正真正銘キリトだけだろう。キリトは青い結晶を片手に呟いた。

「でも、キリト。それがドロップしたってことはこの層でもドロップする可能性は十分にあるってことだよ。いいことじゃないか」

「……まぁ、そうだよな」

そう言ってキリトは転移結晶をポーチの中に入れた。

「よし。じゃあ、今日はみんなお疲れ様‼︎今日と明日は休みにしよう。ゆっくり英気を養ってくれ!」

転移門のアクティベートを済ませたディアベルが攻略組に指示を出した。

「……今何時?」

「えっと、午後三時です」

ロニエが素早く答えると、キリトは即座に今日は寝ることに決めた。

「んじゃ、みんなお疲れ。解散しよう」

「そうだね。お疲れ、みんな」

「お疲れ様でした」

キリト達もすぐに解散し、宿屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぁ?」

キリトが宿屋で借りた部屋のベットに倒れ込み爆睡してから6時間後。キリトはメッセージの着信音で目を覚ました。

「……誰だ…?」

メインメニューで時刻を見ると9時過ぎだった。メッセージの主は、意外にもロニエだった。

「…ロニエ?」

何も考えずにメッセージを開く。

『明日、私と一緒に出掛けませんか?』

起きたばかりだからか、たった一文のメッセージに秘められた意味にも勇気にもキリトは気付かなかった。

「………ま、明日は休みだし、多分ずっと寝てるんだろうし、いいか」

素早く文字を打ち、返信する。

『分かった。どこに出かけるんだ?』

送信して5秒後、返事が返ってきた。

「早っ」

『明日の10時に第7層の主街区の中央広場で落ち合いましょう。』

「………7層…南国風の層だったか」

『了解、また明日。』

キリトはそう返事してまた爆睡したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……5分くらい、過ぎてるみたいだけど…」

第七層の主街区の中央広場でキリトは待っていた。ここは南国風の層になっており、流石にキリトの装備しているコート類は暑すぎるのでキリトも半袖半ズボンだ。まあ、いつも通り真っ黒だが。

今の時刻は10:05。何故か、ロニエが遅れている。ロニエは約束を破るような子ではないのでキリトは少し不安になった。

その時、向こうからキリトを呼ぶ声が聞こえた。

「キリトせんぱーい!」

「ん、やっときたみたいだな」

「すいません、遅れちゃいました……はぁ、はぁ…」

「いや、そんなに待ってな"ッッ⁉︎⁉︎」

キリトは走ってきたロニエの姿を見て、思わず絶句した。

紺色のフレアスカートにシンプルな白のクロップドフライアウェートップを着ている。クロップドフライアウェートップというのは半袖で腹部の生地についてはウエストや腹部の下あたりで切り落としてある。なので結構短く、何かの拍子……例えば風が吹けば肌が見えてしまいそうになる。化粧も少ししたのだろうか。ソードアートオンラインには化粧アイテムは一応あるが、ここまでクオリティが高いものだとはキリトも思っていなかった。というより、元が良いので直視するのも難しくなるほどの可愛さである。おまけに頰が絶妙に赤くなっているので、それも原因の一つだ。いつもの『後輩』ではなく、一つ年下の『彼女』と言ったところだ。キリトは彼女がいた時など一度も無かったが、この時だけはわかった。彼女がいたらこんな感じなんだろうな、と。『天使だ』と。『天使だ』と(大事なことなので二回言いました。他意はない)

と言う言葉がキリトの脳内を0.1秒で駆け巡った。いわゆる、《悩殺》である。

「……あの、やっぱり、似合ってないですか…?」

不安げに下から覗く見るように聞いてくるロニエ。彼女はわざとやっているのではなく、素でやっているのだ。この愛くるしさに素でこれだけ可愛い仕草を見せ付けられれば、コミュ症のキリトは赤くなるしか無かった。

「…せ、先輩?」

「………ハッ⁉︎……凄い似合ってる。めっちゃ似合ってる。にあいすぎてやばい、まじめにヤバイ……」

「そうですか!良かったぁ……!」

ロニエに少し言語能力が低下しながらも返事をしたキリト。やはりコミュ症には難しいのだ。こんなリア充的展開ここ二ヶ月でいきなり遭遇し始めた。なのでキリトにはまだ耐性がついていない。

そんなことを露知らず、ロニエは笑顔で喜んだ。

「……そ、それで、今からどこに行くんだ?」

「あ……ぇ、ぇっと……その、えっとですね……まだ決まってなくて…////」

「……え?」

「……ふ、二人っきりで、出かけたかったんです。いつもユージオ先輩やティーゼ達と一緒なので…////」

頰が赤いまま、モジモジとしながら言う。

「……そ、そうか…(……アカーン、そないなこと言われたらごっつうまずいで…!)///」

脳内の台詞はキバオウと同じ関西弁になっており、キリトがどれだけパニクっているかが分かる。

「…んじゃ、ここは南国風のフィールドだからな!すぐそこに海があるし、行くか?」

「キリト先輩がそう言うのなら、行きましょう!」

こうして、キリトとロニエのデート(意識はしているがデートだとは公言されていない)が始まった。

 

 

 

 

 

 

「………どうしてこうなった」

それから数分後二人は海___鉄の壁に覆われている時点で海と呼んでいいのか定かではないが___に到着したのだが、来たのはいいものの海に来て何をするかを考えていなかった。そして、どうしようかと周りを見渡すと、周りにはちらほらとカップルが見える。彼ら彼女らは世に言う、『イチャイチャラブラブ』というものをしているのを目撃してしまった。しかも、水着姿で。

顔を真っ赤にした二人はそれぞれ考え込んだ。

……これは、やはり、紳士としてどこかのカフェに行くのが最善の策だ。

とキリト。

……やっぱり、キリト先輩にアピールするにはティーゼの言う通りにしなきゃいけないの?(泣)うぅ…

とロニエが考えた。

何故ティーゼの名前が出てくるか、それはこのデートはティーゼが考えた計画なのだ。なんとかロニエをキリトとくっつける(付き合わせる)にはこれが一番だと彼女は確信し、ロニエにこのデートを実行させた。______因みにこの誘いをキリトが断った時は勢いでなんとかしなさい、それでもダメなら殴り込みに行け…そうティーゼはロニエに言ったらしい。

そして、ロニエは言われた通りのことをした。

「せっ、折角ですし、ううう海で遊んで行きましょうかっ///⁉︎」

「ゑゑゑ⁉︎む、無理してないかロニエ⁉︎」

今現在も。

キリトはトランクスタイプの海パンで待たされている訳だが、問題はロニエが今着替えていると言うことだ。水着に。

「……耐えろよ、俺の理性」

ぼそりと呟いたキリトはロニエが意外にも遅いのでアイテム整理をし始めた。

 

 

 

 

 

 

「……ホントにこれでいいのかな…////」

キリトがアイテム整理をしている一方、ロニエも着衣室で悶々としていた。

ロニエの手には1着の水着があった。これはティーゼとナギが選んだものなのだが、かなり際どいもので露出部分が多い(アンダーワールド基準)。可愛らしいピンク色の生地がロニエの可愛さを引き立てている。胸は後ろで紐を結ばれていて、シンプルだがそれ故の破壊力を伴っている。

ナギ曰く、『水着こそ王道、そして、最強装備である』…らしい。

「……もう言っちゃったんだし、今から撤回は出来ないし…………もう、どうにでもなれっ!」

そうして水着に着替えたロニエは更衣室を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

「お、お待たせしました!」

更衣室の方から聞こえたロニエの声に後ろを振り向くと水着姿のロニエが立っていた。

「終わったか………ッッッッ‼︎‼︎」

キリトは一瞬体の全活動を停止____ナーヴギアが脳からの信号を読み取っているだけなのだが____仕掛けたが、なんとか耐えた。が、顔はすでに真っ赤になっており、ショート寸前だった模様。そして、一言。

「………これはもう眼福を通り越して目に毒だな」

「?」

キリトはロニエの水着姿にデジャヴを感じながら呟いた。その破壊力によってキリトの感覚がおかしくなったようだ。

「じゃあ……遊ぶ、か?」

「は、はい!」

キリトとロニエは頬を赤くしながらも海へと歩いて行った。

だが、それを更衣室の建物の後ろから隠れていているものがいた。

 

「……よしよし、計画通りに事は進んでるわ」

「あとはロニエがもう少し、積極的になれバ……」

「……ねえ、なんで僕も付いてくることになったかな?」

このデートを企画したティーゼとナギである。因みにユージオはティーゼにお願いされて付いてきた。何故ついていかなければならないのかは分かっていない。

「次は、海でイチャイチャ遊ぶ、ですネ」

「その次はカフェで例のアレを二人で飲む……ホント、完璧な作戦よね、ナギ」

「その通りでス!」

「……」

「そ、それじゃあ、私達も水着に着替えますね。先輩」

「え?ティーゼもっ?」

「折角海に来たんですから、これくらい普通ですヨ?」

二人はそう言って更衣室へと入っていった。ティーゼは少し顔が赤かったように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、結構遊んだな」

「そうですね…楽しかったです!」

遊び疲れた二人はロニエの提案でとあるカフェに向かった。そこはビーチにある海の家的建物だ。二人は水着姿のままでカフェに到着した。

「もう12時か。昼飯の時間だし丁度いいな」

「はい!」

二人はカフェの一角にある二人用の席に着いた。

「先輩は何にしますか?」

「…そうだな、俺はこのザキナレンバーガーとポテト、あとは四種のチーズサラダを頼もうかな」

「じゃあ、私はルアーフンバーガーとシーザーサラダ、ふわふわ一口パイを…」

「オッケー。すいません!」

キリトがNPCの店員を呼び注文する。

『はい、ご注文はいかがされますか?』

「ザキナレンバーガーとポテト、四種のチーズサラダを一つずつ。んで、ルアーフンバーガーとシーザーサラダ、ふわふわ一口パイも一つずつで」

『お飲み物はどうされますか?』

「あ、飲み物か。んー…と」

「あ、飲み物ならティーゼに勧められたものがあるのでそれを頼みますね」

「そうか」

「えっと、ラバーズトロピカルをお願いします」

『かしこまりました。少々お待ち下さい』

「……ラバーズ?」

「ティーゼが言ってたんです。ここに来たら絶対飲みなさいって」

「へぇ……ラバーズ………どっかで聞いたことあるような、無いような…?」

キリトがドリンクの名前に首を傾げているとすぐに料理が運ばれてきた。

『どうぞ、ごゆっくり』

「ありがとうございます」

運ばれてきたのはバーガーのセットのようなものだった。キリトにはトマトやレタス的野菜とケバブの削り肉がバーガーから飛び出しそうなほど挟んである。一方ロニエはルアーフンという魚____これはモンスターではなく、この海で釣れる魚だ____をフライにして野菜と一緒に挟んである。

「うまそうだな!さっそく……え?」

「どうしたんですか?先輩」

キリトは早速バーガーにかぶりつこうと手を伸ばそうとしたその時、()()のドリンクに視線が釘付けになった。

「……な、なんで、カップルドリンクなんだ…///⁉︎」

「……っ///////⁉︎」

そこにあったのはトロピカルジュースに二本のストローをハート形に交差させたものが添えてあった。これにはキリトもロニエとタジタジに動揺してしまった。

「……あっ、ラバーズって恋人って意味だったっけか……お、俺が早く気付いていれば…」

「……〜〜っ///」

今頃後悔しても遅いことはキリトも分かっていた。頼んだものは返品できないのが大抵のゲームだ。

「……これじゃ、あれだし…別の頼むか?」

「……た、頼んでしまったものは仕方ないですよね…」

「ああ…」

「……もっ、勿体無いので、飲みのっ……飲みませんかっ⁉︎」

「えええ⁉︎む、無理して無いか⁉︎ロニエだって嫌だろ⁉︎」

「そっ、そんなことありませんッ‼︎」

「⁉︎」

「……き、キリト先輩となら……いいですよ…////////?」

「……わ、分かった///」

二人は顔を真っ赤にしながらトロピカルジュースを飲んだ。お互いの顔まであと10センチだった。もう二人ともジュースを味わう余裕など無かった。

そして、その同時刻、同じカフェの反対側で同じようなことが起こっていたのだが、それを二人は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

「……もうこんな時間か」

「…本当に楽しかったですね…」

夕方の四時。もう夕日が海に沈もうとしている。二人は私服に着替えて商店街を歩いていた。

「……あ、あのっ…!」

ティーゼが企画してデート最後の作戦。それは、キリトに告白することだった。自分の気持ちをキリトに伝えることがこのデートの最終目的だった。ロニエは意を決して、キリトに告白しようとしたそれと同時にキリトはロニエに話しかけた。

「……ロニエ。渡したいものがあるんだ」

「え………?」

そう言ってキリトはインベントリからプレゼントの箱をオブジェクト化した。

「…今まで一緒にいてくれてありがとな」

「……!」

「俺、第一層の始まりの街から出ようとした時、ユージオが始まりの街に残るって言ったらユージオも置いて行くつもりだったんだ。ずっと一人で戦おうってさ。まあ、ユージオは一緒に来てくれた訳だけど……その後にロニエとティーゼに出会って一緒に戦って凄く嬉しかったんだ。特にロニエは俺のことをいつも気にかけてくれただろ?そのおかげで俺はここまで来れた。だから、その……感謝の気持ち、だよ」

キリトが吐露したのはこのデスゲーム攻略への不安や一人になることへの恐怖、そして、ロニエへの感謝の気持ちだった。

「……っ」

「それと……これからもよろしくな?」

ロニエは感極まって泣きながら微笑んで言った。

「……はいっ!あなたがそう言ってくれるなら……付いていきます!どこまでも……‼︎」

その笑顔は夕日をバックに輝いていた。まるで夜空を照らす、月のように。

「……ありがとう。開けてみてくれ」

「はい!」

箱を開けるとそこには二つのブレスレッドがあった。金色の小さな細い鎖。そして、その一部分には一つの宝石がつけられている。それはダイヤモンドだった。

「……これ、ペアで付けるらしいんだよ。こっちがロニエ、これが俺だ」

一つをキリトが、そして、もう一つをロニエに渡す。キリトはブレスレットをシステム的にロニエに渡すためにアイテム譲渡をメニューから選択し、ロニエに送った。

キリトがそれをつける。ロニエもそれに習ってつけた。

「……ずっと大切にしますね!」

「…そうしてくれるとありがたいな」

二人は笑顔で宿屋への帰路についた。因みにその場の空気で自然に手を繋いでいたのは二人とも気付いていなかった。そして、そのブレスレットについていたダイヤモンドは『永遠の絆』を意味しているのにも二人は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いよいよ明後日か」

第十五層の主街区近くでとある少年が呟いた。暗緑色のマントを着ていて、草むらに隠れれば誰にも気づからないかもしれないほど背景にマッチしていた。いわゆる保護色である。

「ヘイ、ブロ。そろそろ行くぜ」

後ろから話しかけてきたのはポンチョのような真っ黒のマントを着た男だった。顔はよく見えない。

「他の奴らが待ってるぜ?」

「……言っておくがこれは利害の一致の上での行動だ」

「それくらい分かってる」

「……好きでお前らとつるんでる訳じゃないからな」

「…どうとでも言うといい。どちらにせよ、お前は俺達の兄弟(ブロ)なんだ…なあ_______ベル」

ニヤつきながら少年にそう言った時、顔を影で隠していたフードがめくれ上がり、素顔が見える。どこか外国人めいた顔に雷のようなフェイスペイントが施されている。

「……お前と兄弟…?ふざけんな。お前の兄弟になるなら死んだ方がマシだ________PoH」

キリト達に魔の手が迫っていた。

 

 




ユージオ「お久しぶりです、皆さん。ユージオです」
ティーゼ「ティーゼです!」
ロニエ「ロニエです!」
ティーゼ「注意!ここからはアニメのネタバレが大いに含まれています。なので、『ネタバレが嫌』、『アニメをまだ入れていない!』という方はこのコーナーを飛ばすことをお勧めします」







ユージオ「皆さん、見ましたか?ソードアートオンラインアリシゼーション!」
ロニエ「第8話が放送されましたね!」
ユージオ「作者はスマホでA○em○TVで見たらしく、一人ベッドの上で悶えていたそうです」
ティーゼ「4話では戦闘シーン、5、6話ではキリト先輩が住むリアルワールドにいるアスナさん達のお話でしたね」
ロニエ「そして、第8話で私たちの出番がやって来ました!」
ユージオ「僕の予想あってたね。二人とも8話で出て来たし」
ティーゼ「いやぁ、緊張しました!」
ロニエ「OP以来だもんね。私も緊張したなぁ…」
ユージオ「人界編も折り返しに近づいてきましたね。なんだか時間が経つのがすごく早いように感じます。まあ、そう感じるのは主に作者のせいなんだけどね」
クロス「……やめて!もう作者のライフはゼロよ!」
ロニエ「そして、ここでご報告です。最近、作者さんはツイッターを始めました!」
ティーゼ「ご意見がある方はクロス・アラベルの詳細からツイッターでもコメントしていただけます!」
ユージオ「ツイッターとハーメルンSS、どちらにコメントしていただいても嬉しいです!」
クロス「よろしくお願いします!」
ユージオ「さて、後書きコーナーはここら辺で。それでは次回も」

「「「お楽しみにー!」」」


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~殺人鬼(カイン)編~ 黒の消失

大変遅くなりました‼︎
今回は完全鬱回、シリアス100%です。
それではどうぞ〜


 

 

 

キリトとロニエのデートが終わってから2日後。第十五層主街区ではフィールドボス攻略会議が始まろうとしていた。

「……もうフィールドボス攻略か。なんか早かったな」

「確かにね。ダンジョンを一つか二つクリアしたらすぐだったもんね」

「今回のフィールドボスはどんなモンスターなんですか?」

「ああ、確か異様に硬い殻を持ったサソリらしいぞ。おおよそ毒攻撃はしてくるだろうな」

「事前に聞いたアルゴさんの話だと、攻撃力はそこまでないけど、すごく防御力が高い(かたい)らしいわよ。偵察隊が十分くらい攻撃してたらしいけど、ほとんどゲージが減らなかったって」

「……だとすると、やっぱり打撃系武器がメインになりますね。あたし達は片手剣ですから……エギルさん達が主力になる…?」

「そうなると嬉しいんだけどな」

いつものメンバーで話しているとディアベルが舞台に立ち、会議を進行しようとみんなに声をかけた。

「みんな!これから第15層フィールドボス攻略会議を始めたいと思う。早速、フィールドボスの情報から行こう。フィールドボスは…」

「……キリト、どう思う?」

「………え?」

「今回のフィールドボスだよ」

「多分、死人は出ないだろうけど、時間がかかる奴だろうな。俺達の出番はなさそうだし…」

「……でも、攻撃してゲージが一定まで減ってからボスの攻撃方法の変化とか、全体的なステータスの急上昇……っていうのもあり得ると思うけど」

「そこら辺は十分考慮しないとな。まあ、ディアベルは言われなくとも分かってるだろ」

二人が話をしているうちにどんどん会議は進んでいく。

「じゃあ、今回は主力メンバーは打撃系武器をメインアームとしたE班とF班、そして、エギルさん達のパーティで構成する。次に、(ウォール)メンバーはいつも通りで、ほかの班はボスのタゲを主力メンバーからうまくそらしてくれ。具体的な攻略の内容だが…」

「……!」

その時、キリトが何かに気づいた。

「メッセ…?」

「どうしたんですか?キリト先輩」

「…ああ。誰かからメッセが来たみたいでな」

「そうでしたか」

キリトはロニエにそう言ってつい先ほど届いたメッセを読む。

「___________」

それを見たキリトは目を大きく見開いた。が、すぐにメニューを閉じ、会議に聞き入った。

「…?」

その一部始終を見たロニエは何が書いてあったのかキリトに聞こうと思っていたが、キリトが何もなかったかのように会議を聞いているのを見てやめた。

これから起こる惨劇を知らずに____

 

 

 

 

 

 

20分後、会議は滞りなく終了した。流石はずっと攻略組のリーダーをやっているディアベルはメンバーの意見をまとめるのがうまく、短く終わった。

「……よし、それじゃあキリト先輩。私達はアイテムの補充に……って、あれ?」

ロニエが会議終了直後、隣にいたキリトに声をかけたが、彼はそこにはいなかった。

「どうしたのよ、ロニエ」

「キリト先輩が私の隣にいた筈なんだけど、見当たらなくて…」

「……キリト先輩が?」

「うん……」

「どうしたんだい?二人とも」

「いえ、その……キリト先輩がいつの間にかいなくなってて…会議の始まる直前にはいたんですけど…」

「……キリトが?」

ロニエはユージオとティーゼに相談してみるが、やはり二人は案の定知らないようだ。

「……今までキリトが攻略会議を中抜けすることなんかなかったんだけど…キリトもそこまでサボる奴じゃないしね」

サボリ屋のキリトでも大事な事はすっぽかす事はなかった。四人で首を傾げていると後ろから声をかけられた。

「なんや、なんかあったんか?ユージオはん」

キバオウだ。後ろにはディアベルやリンド達攻略組メンバーも見ている。

「そ、それが……キリト先輩がいなくなっちゃって……」

「キリトさんがいなくなった……?」

「…最後に見たのはいつなのかな、ロニエさん?」

「えっと、ディアベルさんがパーティの構成を決めていた時です。その時キリト先輩は私の隣にいたんですけど……」

「いくら不真面目なキリト君でも途中で出て行くなんて考えられないけど…」

「……そうだ、ロニエ。キリトの言動に何か変だなって思ったところないかな?」

突然のキリト雲隠れに攻略組全員がロニエの言葉に聞き入る。

「…変な言動………?」

ロニエは今朝キリトと会ってから攻略会議の始まる五時まで思い出すもそんなことはなかった。

「いえ、別に変な所は______」

その時、思い出した。キリトがメッセージを受け取りそれを読んで目を見開いていた時のことを。

「……ありました。会議の途中、キリト先輩に誰かからメッセージが届いて、それを読んで声は出なかったけどすごく驚いていたのを覚えてます」

「…メッセージ、か…」

「誰からか聞かんかったんか?ロニエはん」

「は、はい。すぐ何事もなかったかのように会議を聞いていたので……」

「……誰からだったんだろうね。そんなに大事なメッセージだったのかな?」

ユウキが首を傾げながら、うーんと悩む。全員がお手上げだった。

 

その時、ロニエの脳内にメッセージの着信音が鳴った。

「?」

メッセージは一件。タイトルは《ロニエさんへ》だ。ソードアートオンラインのメッセージはL○N○のような既読機能は付いておらず、もちろん変なサイトに飛ばされることもない。そして、別に絶対に返信しなければいけない訳ではないので、ロニエはごく普通のタイトルだったので警戒する事なくメッセージを開けた。

そこにはある画像が添付してあった。

8層からドロップし始めた写真クリスタルは低層でも金額は高いものの売られており、第一層にいても手に入れることができる代物だ。

が、問題はその画像の内容だった。

「________ 」

ロニエはその画像を見て凍りついた。顔が一気に青ざめた。血の流れが止まり____仮想世界のアバターなので血など通っていないが____全身に寒気がした。

「……ろ、ロニエ?」

そんなロニエを見たティーゼは怪訝そうにロニエを呼んだ。ユージオもいきなり黙り込み顔色が悪くなっていくロニエを疑問に思い声をかけようとした、その時。

「____ッッッ‼︎」

ロニエは凄まじいスピードで広場の外へ駆けていった。

「ろ、ロニエ⁉︎」

「⁉︎」

流石はトッププレイヤーの集まりである攻略組の一人。すぐに見失ってしまった。

「どうしたのかしら……ロニエちゃん」

「……メッセージに何が書いてあったんだろう……」

ロニエが消えた後、ユージオはロニエに届いたメッセージの内容が気になった。が、ロニエが受け取ったメッセージはロニエしか見れないし、ウィンドウはその場に残ることなくプレイヤーについてくる。なので先程のメッセージウィンドウはロニエと共に消え去ってしまった。

どうしたのだろうかと不安になっているとユージオにメッセージが届いた。

「…メッセージだ」

ユージオはそのメッセージの来るタイミングを見て、何か嫌な予感がした。タイミングが良すぎる。ロニエのメッセージといい、攻略会議が終わっているであろう時間を狙っているようにもユージオは思えた。

開いてみるとタイトルは《ユージオさんへ》となっており、画像が貼ってある。

「__________ 」

そして、ユージオは先程のロニエ同じようにその画像を見て凍りついた。血の気が引いたのを感じた。

「ゆ、ユージオ先輩?どうしたんですか……?」

「……不味い…」

「やからどうしたんや⁉︎不味いだけじゃ伝わらんやろ?」

ユージオはキバオウに急かされてそのメッセージウィンドウをみんなにも見えるように可視化し、みんなに見せた。

「_________⁉︎」

そこには_________地面に倒れるキリトの姿があった。

「何、これ…⁉︎」

思わずアスナが零した言葉にユージオは答えられなかった。

その画像にはキリトが仰向けに倒れていた。表情は画像が暗くて見えないが、キリトの頭の横にHPゲージが表示されていた。黄緑色の雷マークと毒マークと共に。

「……これは、麻痺状態と毒…⁉︎」

「な、なんでこんな写真が……⁉︎」

今現在、休憩時間に全員別行動をしていたのでパーティを解散しており、今は個人のHPゲージしか表示されていない。もしパーティに入ったままだったらキリトの異変を即座に気付いて救助に行けただろう。

「……ゆ、ユージオ君!送り主は⁉︎」

「………モルテ…‼︎」

そう、送り主はあのモルテである。そうとなれば信憑性が増す。モルテ達のことは少し前に会議で要注意人物として名前が挙がっているので攻略組全員が知っている。何度もキリトとユージオに剣を向けてきた相手だけに、今回もこんな事をしかねない。

「ど、どこにキリトがいるの⁉︎早く探しに行かないと…!」

「今すぐ捜索するで‼︎早よせんとキリトはんが………‼︎」

「待て、キバオウさん!何も情報がない状態でどうやって探すつもりだ⁉︎しらみ潰しに第一層から探すか?」

「そやけどなぁ………!」

「……二人とも落ち着いてくれ、まずは情報を集めよう。情報屋にも伝えておくべきだ。」

熱くなりすぎたキバオウ達を落ち着かせ、攻略組全員に指示を出しているところを見ると、流石はアインクラッド初の攻略組レイドリーダーだと言える。

「……待って。もしかしたら情報は必要ないかもしれない」

「どういう事だい?」

「……この写真、ちょっと暗いけど地面が黄色い砂が全面に写ってるよ。それに夕陽がキリトの後ろに見える……って事はこの写真に写ってる場所は西なんだよ。つまりそれだけでも場所は限られてくる……」

「…つまり砂漠ってワケですネ!」

「……砂漠の層といえばそれらしい6層と13層ですね」

「よし、その二つに的を絞って探そうか」

「……でも違和感があるんだ。なんか、(トラップ)かもしれないっていう……勘なんだけどさ」

「と、トラップ?」

6層と13層に行こうとしていた攻略組がその言葉に首を傾げる。すると意外なところから声が上がった。

「………あ、これって、第一層のレアアイテムじゃない」

「え?」

「これよ。この写真の端に写ってる……これ!この花よ」

アスナが指差したのは写真の端にうつる一輪の花だった。

「一層のレアアイテムぅ?なんや、6層と13層ちゃうんか?」

「でも、砂漠なんか一層には……あっ!」

「確か、第一層はバリエーション豊富なフィールドダって聞いたことありまス!」

「草原、森林、湿地帯、火山……その中に砂漠も例外なく入っているということか」

「しかもその砂漠地帯は最西端にある………これで決定的ね」

ユージオの勘は当たり、引っかかることなく捜索できる。

「よし、捜索範囲を第一層最西部の砂漠地帯に狭める!全員移動開始!」

そのディアベルの掛け声に攻略組全員が動き始めた。

ユージオ達は先行し、走り出した。おおよそ第一層の最西端まで十五分、いや、十分もかからないだろう。ユージオ達のレベルならまだ間に合うかもしれない。

「…………ロニエはこれをあの一瞬で見抜いたのかな…」

ユージオは走りながらロニエの瞬間的推理力に感嘆したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一層、最西端の砂漠エリアを走る一人のプレイヤーがいた。そのスピードは砂を巻き上げるほどだった。

「______ハァッハァっ____ッ‼︎」

その本人(ロニエ)も息は切れ切れになり、時にこけそうになりながらも走った。

「(間に合う。まだ間に合う。キリト先輩が死ぬ筈がないもの。だって、いつだってわたし達を助けてくれた。何度だってどん底から這い上がってきた。私の、先輩(ヒーロー)なんだから。間に合う、絶対に_______‼︎)」

ロニエは必死に自分へ言い聞かせた。襲いくる数々の不安に押しつぶされそうになりながらも、キリトが生きているという事だけを信じて走った。もう四分もすれば最西端……崖(アインクラッドの空)に着く。またキリトに会えるのだ。あの無邪気な笑顔を見られる。

彼女はそう信じて砂漠を疾駆した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………く、そ…‼︎」

キリトの目の前にいるのは真っ黒なポンチョを着た男。片手にはナイフを持ち、器用にクルクルと回している。

「……そろそろ、終わり(The End)だな。ブラッキーさんよ」

キリトのHPゲージはもう黄色に染まっており、危険域に突入している。

「その毒はレベル3だ。結構長い時間効果があるんだぜ?もちろん麻痺毒もだ」

その男の後ろには三十人程のプレイヤーがいた。ニタニタと笑ったり、無表情にキリトを見ている。暗色系統の装備を見るに彼らもこの男の仲間だろう。

「……キリ……ト、さ……ん…………‼︎」

そこには同じく麻痺毒により麻痺したベルの姿があった。ただし、彼にはダメージ毒は受けていない。

「まあまあ、黙って見てて下さいよぉ。ベルさん……」

うめき声をあげながらキリトに手を伸ばそうとするベルの右手をモルテは足で踏み押さえた。

「……さぁて、そろそろ終わらせるか」

そして、その男はナイフで弄ぶのをやめ、キリトに切っ先を向ける。

「……キリト。お前は第5層で会ってからずっと殺したかったんだ。誰かにやらせてじゃあねぇ。俺自身の手でだ。俺はお前を殺して、この世界(アインクラッド)初の殺人鬼(First Muder)……『カイン』になる。どうだ?最高にCoolだと思わねぇか?」

そんな狂った言葉にキリトは麻痺して、体を動かさない状態でも尚、剣呑な目で彼を睨みつけた。

「……そういうとこだよ。俺はそういうところが好きなんだ!ここまで死が迫っているっていうのに、折れない、諦めない、戦うことをやめないお前がッ‼︎」

「_________ッ‼︎」

「……終わりだ。じゃあな、黒の剣士」

その男は最後の言葉を言い終わると同時にソードスキルを放った。

「がッ_________ 」

キリトはそれをまともに受け、崖下へ吹き飛ばされる。

「_____(____ごめん、ユージオ。お前と一緒に戦えなくて。ごめんな、みんな)」

キリト以外の全てがスローに見える。今までの記憶が走馬灯のようにフラッシュバックする。最後に見えたのは、いつもそばにいてくれた、ロニエの月のような眩しい笑顔だった。

「_____(_____ごめん、ロニエ)」

キリトのHPゲージは赤く染まり、それでも減り続けた。

そして______________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____っ?」

いきなりだった。何か、金属がひび割れるような音が響いたと同時に、左手首に痛みが走った。

なんだろうと走りながら左手首を見ると、そこには宝石部分がひび割れたブレスレッドがあった。

「⁉︎」

壊れる筈が無い。ロニエ自身、そう思った。何もしていないし、キリトがこれを買ったのは2日前だったらしく、それからも攻略時にもこのブレスレッドは攻撃を受けておらず、ほとんど耐久力も減っていないのだ。だが、不自然にひび割れてしまった。

そして、このブレスレッドはキリトとお揃いである。

ブレスレッドのヒビはまるで家族(片方)に起こったことを知らせているかのよう_______

そんな思考を即座に切り捨ててロニエは走った。

地図を見る。目的地であろう場所は目前だった。

「___ハァっ、ハァっ、ハァっ……キリト先輩‼︎」

ロニエは目的地______砂漠の最西端にやってきた。だが、探し人(キリト)の姿は無い。

ロニエは藁にもすがる思いでキリトの名前を叫ぶが、答える声はない。虚しく空に響いた。

「キリト先輩‼︎何処ですか⁉︎キリト先輩‼︎キリト先輩、何処⁉︎キリト先輩ッ⁉︎」

そう叫んだ時、足に何か金属質なものが当たった。

「⁉︎」

そこにあったのは、砂漠に刀身が10センチ程突き刺さった片手剣だった。鞘は無く、薄暗くなる砂漠の中でキラリと光った。

「こ、これって_______」

そう、その片手剣はキリトのものだった。キリトがこんなフィールドに突き刺したまま何処かへ行くとは考えられない。あれだけ大事にしていた愛剣なのだから。

そうとなれば、考えられるのは一つ______

 

「ロニエ!大丈夫なの⁉︎」

その時、ティーゼ達攻略組が追いついた。

「……」

「き、キリトは?ロニエ、キリトは見たのかい?」

ユージオは息を切らしながらロニエにそう聞いた。だが、ロニエはキリトの剣を手に取ったまま動かない。

「……取り敢えず、フレンド一覧から確認してみましょう!メッセージも送ればいいわ!」

「分かった!」

アスナの言葉にユウキは慣れた手つきでメインメニューからフレンド一覧のウィンドウへ移動して________動きを止めた。

「………そんな…!」

「どうしたの?ユウキ!」

「_________キリトの名前が一覧に、()()

その言葉を聞いて、全員が絶句した。

「______いやっ」

キリトの剣を胸に抱いたロニエの口からか細い声が漏れる。

自らが信頼し、敬愛し、尊敬し、憧れ、愛した、彼との記憶がフラッシュバックし、浮かんでは消えていく。最後に見たのは__________キリトの無邪気な笑顔だった。

「そんなの______いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ_________‼︎‼︎」

「ロニエ⁉︎」

一つの真実(キリトの死)》に心が耐えきれなくなって、崩壊する。

そのまま彼女はキリトの剣を抱いて気を失って倒れた。

 




ユージオ「あとがきのコーナーです!今回、ロニエとティーゼは体調不良によりお休みで、僕一人になります。まあ、体調不良の理由は……SAOアリシゼーション11話で察してください。あとがきのコーナーといっても今回は短めになるんですけどね。アニメ11話では問題のあのシーンが放送されました。何というか、作者も言っていたのですが、やはり『胸糞回』という声が多かったそうです。否定はしませんけどね。それでは、あとがきはここら辺で。次回もお楽しみに!


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~殺人鬼(カイン)編~ 残された者達の苦悩

こんにちは!遅くなりました、クロス・アラベルです!
えー、今回は年内にもう1話投稿を……と思っていたら、凄いギリギリに完成しました。
今回は鬱、鬱、鬱と、鬱でしかありません。これが年内最後の投稿になるかと思うとちょっと思うところはありますが…
それでは、あと30分間しかありませんが、良いお年を……(´・ω・`)


 

 

キリト行方不明から2時間後。ユージオ達攻略組は始まりの街への帰路に着いた。

モルテから送られてきた写真を手掛かりにこの砂漠地帯へやってきたが、キリトの姿は無かった。残されていたのは、キリトの愛剣のみ。フレンド一覧からはキリトの名前が消え、索敵スキルの派生スキルである追跡スキルでの捜索も行われた。ユージオのスキルだと20分前の行動なら追跡スキルで追うことが可能だが、その砂漠でキリトの剣が刺さっていた周辺で足跡がプツリと途絶えていた。そこからキリトがどうなったか、容易に想像できる。

「………」

黙り込むユージオ。まだ現実を受け切れずにいるのか、表情は険しいものだった。

ユージオだけで無く、攻略組全体がそんな空気に包まれた。キリトはこの攻略組でもディアベルの人望に負けずとも劣らなかった。攻略組にもキリトに助けて貰った者も多い。そして、元βテスターの知識を余すことなくアインクラッドのプレイヤーに教えたり、そのβ版での経験から攻略組を何度も窮地から救った。攻略組はキリトあってのものだったのだ。今キリトが居なくなって士気はガタ落ち。キリトが死んだということを受け入れられない者もいた。

「………みんな!今日のところは解散しよう。明日に予定していたフィールドボス攻略を3日後に延期する。その間、十分休んでくれ!」

このままでは明日のフィールドボス攻略にも支障が出ることを悟ったディアベルは攻略組に解散を促した。

その後、宿屋の部屋を取りユージオ達と攻略組幹部であるディアベル、リンド、キバオウ、そして、アニキ軍団のリーダー、エギルが集まった。

「……ティーゼ、ロニエは…?」

「…私の部屋のベッドで眠っています。すぐ眼を覚ますといいんですが…」

「ちょっと、攻略参加は見送らなきゃいけないね。あのショックで気絶したくらいだから、例え起きたとしても戦えるかどうか…」

「…本当にキリト君は、死んだのかしら……?あの人の事だから、ひょっこり出てきてもおかしくないのに……」

「……確かに、フレンド一覧からは消えてたけど生きてるって可能性もあるよね」

「現場に突き刺さっていたあの剣だが……本当にキリトさんので間違いないかい?」

ディアベルが改めてキリトの剣について言及してくる。

「うん、間違いないよ。僕らが一番近くにいて、あいつの剣技を見てきたから……」

「……」

その時、ドアがノックされた。アスナはこんな時に誰だろうと思いながらドアを開けた。するとそこにいたのは______

「あ、アルゴさん?」

________アルゴだった。フードを深く被り、表情は見えないが、彼女のトレンドマークであるヒゲが見えた。アスナは喋らないアルゴを無言で部屋に入れた。

「…………聞いたヨ。キー坊が、死んだっテ」

「……っ」

「……ねえ、アルゴ。アルゴの情報網に何かない?キリトと似た人物を見たとか……例えば中層とかで……‼︎」

ユウキが笑みを浮かべながらアルゴに問うが、その笑みは決して『笑み』とは言い難いものだった。

「……ついさっき、キー坊が死んだって言う知らせを聞いて、生命の碑を見てきたヨ」

『『‼︎』』

アルゴの一言にそこにいた全員に緊張が走る。

 

 

 

 

「_________キー坊の名前が、赤い線で消されてタ」

「っ……」

「……アルゴはん、死因は、どないなもんやったんや?」

「……死因は、ダメージ毒レベル3による死」

「ダメージ毒……!」

「どう考えても人為的な何かだ。第一層で出現するモンスターの持つダメージ毒は精々レベル1だった……」

リンドが冷静な声で呟いた。

「十中八九、PK集団だ。あいつら……アインクラッド(ここ)から出たくないのか…⁉︎」

PK集団。攻略組にとってもユージオ達にとっても仇敵だ。何度も彼らに殺されかけたことがあったユージオ達は尚更だった。

「……まずはロニエの様態を見てからにしよう。本人が起きてくれないと、何とも言えないしね」

「分かりました」

「…うん」

「ええ。じゃあ、今日のところは解散ってところかしら?」

「そうなるね。ゆっくり休んで」

「……私、部屋に戻りますネ」

みんなは15層の宿に戻って行った。

 

ユージオとティーゼはロニエの部屋の隣をとった。そして、ユージオはティーゼを連れて無言で部屋に入って行く。

「せ、先輩?何で部屋を一つだけ……」

ティーゼは頬を赤くしながらユージオに聞いた。一緒の部屋で寝ることに抵抗があったので_______確かに一緒の部屋で寝てみたい、泊まってみたいと少し、いや、結構思ったが______今はそんな時ではない。なのに何故?とティーゼはユージオに問おうとしたその時、ティーゼはユージオが震えていることに気がついた。

「…ごめん、今夜だけ……今夜だけ、一緒にいてほしい。誰かと一緒にいないと、なんだか…消えちゃいそうなんだ…」

ユージオは小さな声でそう言いながら、ティーゼの服の裾を掴んだ。掴んだそのユージオの手は力がかなり入っているのか、震えている。心なしか、声も嗚咽が混じっているように思える。

「……はい」

ティーゼはユージオの願いを聞き入れて、震えたユージオの手を取る

「大丈夫、傍にいます。だって私は、あなたの傍付き剣士ですから」

「……っ」

そして、ユージオは膝から崩れ落ちて静かに涙を流した。ティーゼは無意識にユージオを抱きしめる。

「……キリトが、死んだのは僕の所為なんだ…っ、だって、僕がちゃんと気にかけていれば、こんなことにはならなかった………」

「……」

「……違う、気にかけるなんてことで避けられるものじゃなかったんだ。僕が………僕がここにきてしまったから、全部変わっちゃったんだ……っ」

「………!」

ユージオの言葉は意外なものだった。

ユージオ達はキリトの暗い過去を変えるために過去(ここ)にきた。けれど、それが悪い方向に進んでいたのだとユージオは言っている。

過去を変えるということは、それまでにあった(できごと)から逸れるということ。その結果に決して良いことがあるとは言い難い。ユージオは周りには言ったことはないが、それを一番恐れていたのだ。

「……」

だが、ティーゼは慰めの声をかけることはなかった。ティーゼは慰めるほどの言葉が無かったし、例えそれがあったとしてもかけなかっだろう。一方的な慰めの言葉が無意味だと知っているからだ。そして、ティーゼは何も言わず、全てを受け入れるという事の重要さを知っている。未来(過去)ロニエに慰められた事(同じようなこと)があったからだ。修剣学院(ユージオ)の時もそうだった。

ユージオの泣き声が静かに漏れる中、ティーゼは優しくユージオを抱きしめ続けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「________ 」

ロニエは静かに目を覚ました。何故か、何もかもを失ったかのような喪失感が心に降りかかって止まない。

「_____ぁ」

そして、全てを思い出した。キリトの死を。

「_______ 」

彼女は無言で涙を流した。自分の片思いする相手を失った傷は彼女の心に深く残ってしまった。

「______あぁ」

「____現実、だったんだ」

灰。

全てが灰色に見えた。

音はエコーがかかったように何重にも聞こえ、見るもの全てに色がなかった。

「____ 」

ロニエは『全てを失った』事をこの時、悟った。

その部屋にはロニエがただ一人ベッドで寝ているだけだった。

 

「ロニエ……⁉︎目が覚めたの⁉︎」

その時、部屋にティーゼが入ってきた。

「_____ティーゼ」

「ロニエ!大丈夫⁉︎あなたいきなり倒れたから……!」

「うん。大丈夫だよ?」

「___っ」

力ないロニエの言葉にティーゼは悟った。

「あれからどれくらい経ったの?」

「……二日よ」

「フィールドボス攻略はどうなったの?」

「……延期になったわ。この後行く予定だったのよ」

彼女はもう全て失ってしまったという事を。自身も経験した、あの喪失感を。

「________分かった。私も準備するね」

「ま、待ちなさい!ロニエあなたは休んでいていいの。疲れてるでしょう?」

「…そんな事ないよ。私も戦う。戦わなきゃいけないから_____」

「駄目。もうディアベルさんはあなたの攻略組の一時脱退を認めたわ。ロニエ、今のあなたじゃ行ったとしてもまともに戦えるかどうか…!」

 

「____戦えないなんて決めつけないでっ!!!!」

「っ⁉︎」

ロニエの口から出た、怒号。それは悲鳴にも、助けを呼ぶ声にも聞こえた。

「………私だって、戦えるもの。私だって_____」

不意にロニエはメインメニューを開き、ストレージから剣を取り出した。控えめな音と共に一振りの剣が現れる。その剣は_____

「________ 」

月光の剣(ムーンリット・ソード)》。それはキリトの愛剣だった。

鞘が無かったため目の前に現れ、床に落ちた。

「___キリ、ト……先輩……っ」

その時ロニエの心にあった悲しみの念が心を溢れさせた。

「……」

「いやっ………もう、私を置いていかないでぇ……っ‼︎」

ロニエはその剣の柄に触れ涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二週間後の2月6日。

攻略組は2体目のフィールドボス攻略の為、フィールドボスのいるエリアに向かっていた。

「………ロニエ、本当に大丈夫なのかい?」

「……」

「そうよ、ロニエ。無理しなくても…」

「大丈夫です。戦えますから、心配しないで下さい」

攻略の一行にはロニエもいた。ユージオ達は不安で気が気でないのだろう。

「……」

今回のフィールドボスは斬撃系武器を持つプレイヤーが主な火力になる。そうなればユージオやティーゼは勿論、ロニエも駆り出されるという事だ。

「………頑張りますね、先輩」

ロニエは左腰にある剣____ムーンリットソードの柄を右手で握り、誰にも聞こえないくらい小さな声でそう囁きかけたのだった。

「みんな‼︎何度も言うが、今回のフィールドボスは攻撃力がかなり高い!特にブレスは必ず避けて余計な被ダメを抑えてくれ。モーションが少し分かりにくいだろうが、俺が合図する!これだけは覚えておいてくれ‼︎……………行くぞ‼︎」

フィールドボスの視認可能範囲ギリギリでディアベルが攻略組に最後の注意事項を告げ、士気を高めようと声を張り上げるが、攻略組の反応はイマイチ。やはりキリトの死の影響は大きかったようで、ユージオ達はディアベル自身の声にも覇気がいつもより足りないと感じた。

そして、フィールドボス攻略戦は士気の揺らいだ状態で始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッく‼︎耐えてくれ!あともう少しで最後のケージが半分に行く……‼︎」

戦闘は均衡していた。ボスは黒いチーターのような容姿をしており、攻撃力、共にスピードも高く攻撃も喰らいやすい。だが、その分耐久面に難があることは明白だった。だが、それも攻撃が当たればの話。今までにないトリッキーな動きで攻略組を翻弄する。

「スイッチ………ッ‼︎」

ユージオも他の前線プレイヤーと交代して、モンスターに斬りつける。

「……なかなか攻撃が当たらないね………キリト、スイッ____ッ‼︎」

ユージオはここには既にいないキリトにスイッチをしようとしたことに戸惑いながらも一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)戦法を利用してすぐさま離れ、攻撃を避ける。

「ウォーーーーールッ‼︎」

『『『おおおおおおおおッッ‼︎』』』

フィールドボスの突進攻撃をウォール隊全員で受け止める。鈍い音とボスの金属と大差ないほど頑丈で鋭利な爪が盾とぶつかる音が響く。

「ぐあッ⁉︎」

鈍い音の正体はウォール隊の一人が衝撃で5メートルほどノックバックして、地面に叩きつけられたものだった。

「ッ!交代しぃ‼︎すぐ下がって回復するんや‼︎早ぉ早ぉッ‼︎」

キバオウはその叩きつけられたプレイヤーのプレートメイルを掴んで引きずりながらも安全圏へ移動させる。

「…これじゃあ、ラチがあかないわよッ!」

スピード型のステータスを持つアスナも思わず悲鳴をあげた。

「今回のフィールドボスは当たりですネ……中ボスにしては異様に強いッ、でス‼︎」

このアインクラッドのフィールドボスは迷宮区のボスより弱く設定されている。だが、稀にその層より一つか二つほど下の迷宮区ボスと同等レベルの《バケモノ(フィールドボス)》がいることがある。それを攻略組は()()()と呼んでいる。

「よし……半分切ったぞ‼︎みんな、もう一踏ん張りだッ‼︎」

そう攻略組をに檄を飛ばした、直後。

『グルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼︎』

ボスは一際大きな雄叫びをあげて、口からノーモーションで広範囲にブレスを吐いた。

『『『うおおおおおおおおおッ⁉︎』』』

予期せぬ攻撃に攻略組一同はそのブレスの直撃を許してしまい、殆どのプレイヤーが吹き飛ぶ。

「⁉︎」

ユージオ達もブレスを受けてしまって、後ろに吹き飛んでいく。

そして、復帰しようと立ち上がろうとした時、ボスの口から火の粉が漏れ出す。ブレスの予備動作(プレモーション)だ。

「しまっ…⁉︎」

ユージオ達は誰もが死を予期した。

 

だが、そのブレスは火の粉を漏らすだけとなった。

『ルグォッ⁉︎』

「ロニエ⁉︎」

そう、ロニエだった。彼女はいち早く前線から離れてブレスを回避していた。

「はあああああああああああああああッッッッ‼︎」

そこから叩き込まれていく怒涛のラッシュ。技後硬直を強いられるソードスキルの使用を避けて、通常攻撃だけで突っ込んでいる。だが、一人で立ち向かうということは誰もフォローしてくれないということ。一撃でも受ければ一方的な蹂躙が始まるのは目に見えていた。

『グルオオオオッ‼︎』

「ッ‼︎」

ボスの攻撃を紙一重で回避し、隙あらば一撃を叩き込む。だが、完全には避け切っても余波で少しずつダメージを食らっている。このままではたった一発でも致命傷となる。

『自殺行為』、『自暴自棄』そうとしか取れない戦闘スタイルだった。

そして、限界は訪れる。

『ガアアアアアアアアッッ‼︎‼︎」

「_______っぁ」

爪による攻撃を避けた瞬間、それを見計らっていたかのように剣のように鋭い尾がロニエを斬り裂いた。

「ロニエ⁉︎」

「危ない‼︎」

吹き飛ばされて倒れたロニエは歯を食いしばって剣を杖代わりにして立ち上がろうとする。

「ぅ、ぁぁあああああッッ_______‼︎」

震える体に鞭を打ち、ボスを睨みつける。

『グルオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ‼︎‼︎』

「あああああああああああああああああッッッッ‼︎‼︎」

ロニエに再び鋭い尾が叩きつけられようとしていた。

 

 

 

だが、その剣撃はロニエに当たることはなかった。ガキィィッという金属音がロニエの前で響く。

「___?」

ロニエの目の前であるプレイヤーがボスの攻撃を止めていた。そのプレイヤーは_____

「________キ、リト…せんぱ、い?」

フルプレートに身を包み、両手剣を持っていて、キリトではない事は明らかだった。

「_____オオオッ‼︎」

そのフルプレ男は気合と共に_____鎧越しなので金属質ではあるが男だと分かる______ボスの攻撃をいなした。

そして、ソードスキルを発動する。

「_________ふッ‼︎」

両手剣ソードスキル単発技《サイクロン》。ユージオ達のいたアンダーワールドでの別名《輪渦(リンカ)》。

その一撃でボスの残り少ないHPゲージを吹き飛ばし倒してみせた。

直後、ボスがポリゴン片となって四散した。

 

「…………お前、死にたいから戦ったのか」

「__っ」

「………だとしたら、それは御門違いだ。答えを出してから、戦場(ここ)に来い」

「__________ 」

彼はそう言って剣を左に一度、右に一度振って腰の鞘に剣を収めた。

「_______私…………何に向かって、進めばいいんですか……キリト、先輩……」

そんなロニエの悲しい声がフィールドに溢れた。

 

 

 

 

 

 




ユージオ「それでは、皆さん!」
ロニエ「来年も!」
ティーゼ「時を超えた青薔薇の剣士シリーズ共に!」
ユウキ「龍剣物語シリーズも!」
「「「「よろしくお願いします‼︎」」」」


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~殺人鬼(カイン)編~ 『I’m back(ただいま).』

明けましておめでとう御座います!クロス・アラベルです!今年もよろしくお願いします‼︎
今回はサブタイトルで御察しの通りのお話となっております。意外な人物も登場します!
それでは、どうぞ!


 

 

 

 

 

「………」

フィールドボス攻略後、攻略組一行は主街区への帰路をたどっていた。

ロニエは俯いたままで表情は見えない。ユージオ達はロニエの先程の行動(自暴自棄な特攻)を咎め、ロニエに注意したのだが、ロニエはその言葉も耳に入っていなかったようだった。

今回のフィールドボス戦は死者は出なかったものの、危なかった場面がいくつもあった。キリトの死は予想以上に攻略組へ影響を及ぼしていた。

「ディアベル。どうするんだい?このままじゃ……」

「……今日のままで迷宮区のボス戦に挑めば攻略が総崩れになる可能性があるからな……だが、いつまでも引きずってられない。いつかは訪れる筈の事実だったんだ。死と隣り合わせということは分かっていても、いざ初めて人の死を目の当たりにしてみんなパニックに陥っている……」

「解決策、あるんですか?ディアベルさん」

ユージオの問いにディアベルは現状を把握し、解決策を模索する。アスナもどうすればいいか見当がつかないのか、ディアベルに聞くことしか出来ない。

「…………俺達じゃどうにも出来ないよ。キリトの死を無かった事になど出来ない。だから、時間に任せるしかない」

「……そいつぁ、歯痒いな。なんとかしなきゃならねぇってのに、何も出来ないのは」

ディアベルの言葉にエギルも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「……取り敢えず、今はゆっくり休んで明日も攻略が出来るようにしないとな…」

とその時だった。前を歩いていたプレイヤー達が足を止めていた。

「…?どうしたんだ、みんな?」

ディアベルが前のプレイヤー達に聞くと、キバオウの声がする。

「なんや、おまんら。退いてくれんか?」

静かな声だが、ドスが効いているように聞こえる。

ユージオは何だろうかと、前に進んでキバオウが話しかけた者と対面する。

「……?」

40人程の団体だった。目立つのは真っ黒な装備。そして、それぞれに持つ、抜き身の武器。そして、先頭に立つプレイヤーはナイフをくるくると回しながら佇んでいた。身に纏うのは、真っ黒なポンチョのようなフード付きのマント。

「申し訳ないけど、退いてくれないかな?僕らはフィールドボス戦を終えて帰るところなんだ」

ユージオはそう言って退くように促した。だが、そのプレイヤー達は退こうとはしなかった。

その時、ユージオは気づいた。攻略組全体が真っ黒な装備をしたプレイヤー達にいつの間にか囲まれていることに。

「……何がしたいの?」

ユージオは訝しげに尋ねた。するとようやく相手側に動きがあった。

「流石は攻略組だ。フィールドボスを早くも屠って来るとは!尊敬に値する……偉大な勇者達」

「……なんや、そんなこと言うために囲っとるんか?なら早よ退いてくれへんか?わいらは疲れてんねん」

「…いや、ここで言わなければ意味がない。ここで会ったんだ、そうしなければ感動は冷めてしまうだろう?ことが起こった時に言うべきなんだ。そう________人が死んだ時、別れの言葉を告げるように」

「……何が言いたい?」

ユージオもこの遠回しな言い方に苛立ちを覚えて、言葉遣いが変わった。

 

 

 

 

「…別れの言葉を告げにきたんだ______お前達、攻略組にな」

 

 

 

 

 

『⁉︎』

その言葉に攻略組は驚愕した。そんな言い方は、まるで自分達を_____

「_______その通りだぜ、攻略組の皆さん。俺達はあんたらを殺すためにstand-byしてた訳だ」

「じゃあまさか、キリトを殺したのは……ッ‼︎」

「Of course‼︎俺が殺した」

その言葉を聞いた瞬間、攻略組全員が得物を手に取り構える。

「……お前が………キリトを_______ッッ‼︎」

ユージオも殺気を抑えられず、剣の柄を握りしめる。

「いやぁ、良い最期だったぜ。死ぬのは避けられねえのに、必死に俺の事を睨んでやがった。俺が初めてかもなぁ、この世界でプレイヤーを殺したのはよ。俺が殺意の権化(カイン)ってことだ!」

「アナタ、絶対に許しまセンっ!キリトの仇を今ここでとります……ッ‼︎」

キバオウを筆頭に攻略組全体が感情的に動く中、ディアベルは違った。

「待て、みんな!一旦冷静になれ!このまま戦えば______」

ディアベルは冷静な判断を皆に促すが、もう一度ついてしまった火は、もう止められない。

「いいねぇ……ここで殺り合ってもいいぜ。まあ、結果は見え見えだけどな」

火に油を注ぐように焚きつけるその男。そして、攻略組は謎の集団との戦いが_______

 

 

「ド阿呆ッ‼︎こんな時にやりあってどないすんねん‼︎」

 

_____始まらなかった。

キバオウの怒鳴り声で攻略組だけでなく相手側も怯んだ。

「よぉ考えてみぃ!わいらは確かに強いわ。けどな、それはモンスター相手だけや‼︎向こうは多分人との戦いに慣れとる。慣れとらんわいらが向こうと戦っても負ける未来しか見えへんわ‼︎」

「で、でも僕らの方がレベルは上かも知れないんだ!やるなら今しかないんだよ‼︎」

ユージオもキバオウに負けじと反論するが、キバオウは毅然として続けた。

()()()()()、やろうが‼︎レベルなんて分からんし、第一、武器を見てみぃ!いくつか変な色に塗ったぁるやろ。あれは毒や!麻痺毒かもしれし、ダメージ毒かもしれん!ユージオはん!あんたはそんなことを把握できんようになったんか⁉︎キリトはんが見たら泣くで‼︎」

キバオウの饒舌な説教にユージオは少しずつ落ち着いたようで、剣を握る力を少しずつ抜いていく。

「……」

「……私怨は捨てなあかん。今はみんな生きて帰ることを考えて欲しいんや」

「……ごめん、キバオウさん。ありがとう」

「その台詞は帰ってから言うてや」

そのやりとりに他の全員も落ち着いたのか、改めて剣を握り直す。

「………ヘイ、俺はそんな吐き気のするような友情を見たくて来た訳じゃねぇんだ」

男は苛立ちながらそう言った。

「……まあ、1人_____冷静になれてねぇ奴がいるがな」

「______ 」

その時、ユージオとキバオウの間を凄まじい速さで駆ける姿があった。

 

「_______あああああああああああああああああッッ‼︎‼︎‼︎」

「ロニエ⁉︎」

ユージオが呼び止めようとするが、もうロニエは止まらなかった。すでに空中で《ソニックリープ》を発動させており、その黒ポンチョ男に特攻をかけていた。

「やっぱこういう奴がいないとな。面白くならねぇ…!」

その男もナイフを構えてロニエの攻撃を受け流し、攻撃を始めた。

「はあああああああああッ‼︎」

「おいおい……キレすぎだろ…だが、まあ______」

「ッ‼︎」

「俺は一発当てればいいんだ」

「っ⁉︎」

ロニエが男の一撃をかすりながら避けた直後、彼女は地面に倒れこんだ。

「ロニエ⁉︎」

「まさか、麻痺毒⁉︎」

「おぉっと……ユージオさん達はここにいてもらいますよぉ〜………こんな楽しいパーティで無粋な行動は厳禁ですからぁ」

ユージオ達が気付いて駆け寄ろうとするも他のプレイヤー……片手剣を持ったモルテに道を阻まれる。

「さぁて、犠牲者第2号は……ロニエって言ったか。お前さんに決定だ!」

「……っ」

男はナイフでロニエを何度も斬り裂き、HPをギリギリまで減らしていく。ユージオはモルテを強行突破しようと剣を振るうが、モルテはそれを許さない。

 

「まあ、あの世で楽しく黒の剣士と遊んで来いよ_______じゃあな」

 

最後の一撃とばかりに男はソードスキルを発動させ、ロニエにとどめを刺そうとした。

「___________先、輩____」

ロニエにその刃が突き刺さり、ロニエのHPゲージを削り取る______

 

 

ガキィィィィイイインッ

 

 

_____事はなかった。

そのナイフはロニエに当たることなく一本の両手剣によって止められていた。

「_____ハア?」

その直後、男はその両手剣の一撃を食らって吹き飛ばされた。

「_____」

そこにいたのは、フルプレートの男。そう、フィールドボス戦でロニエを助けたプレイヤーだった。

「………全く、手間をかけさせる女だ」

呆れたような口調で金属質な声をロニエへ浴びせる。

「___あな、た、は………」

「……動くな。俺だけで充分だ」

フルプレ男は両手剣を右に払いながらそう言った。

「おいおいおいおい‼︎なんなんだ、お前は」

黒ポンチョの男が起き上がって苛立ちを隠せないのか、少し声に怒りがこもっている。

「随分と無粋な真似をしてくれるな……? ここからが一番楽しいpartyだってのに!」

「パーティか。それにしては物騒なパーティだな」

ぶっきらぼうに返すフルプレ男。

「ふざけんじゃねぇぞ!邪魔しやがって!」

「ヘッドの邪魔すんじゃねえよ!」

他の暗色装備のプレイヤーもヤジを飛ばしてくる。そして、ついには切り掛かって来ようとする者もいた。

「お前なんかヘッドが殺る程でもねぇよ!さっさとくたばれ‼︎」

その剣がフルプレ男に襲いかかる。だが、その剣は真後ろへ弾き飛ばされた。

「はぁ⁉︎」

突然のことで驚いた様子のプレイヤーはこのフルプレ男が剣で弾いたのかと思った。だが、フルプレ男は剣を動かすそぶりを見せていなかった。男は考えるのをやめ、予備に装備していたナイフを取り出し、フルプレ男を殺そうとした。だが、これも阻まれる。

「ちっ、しつけーことしてんじゃ_______うお⁉︎」

男は見た。弧を描きながらどこかへ飛んでいく何か(銀色の星)を。それはあるプレイヤーの元へ戻っていた。

 

「お待たせしましたっ‼︎」

そう、ネズハだったのだ。男の武器を落とさせたのは彼の主武装(メインアーム)であるチャクラムで、アインクラッドでも数少ない遠距離武器。そして、その後ろにはレジェンドブレイブスのメンバーもいる。

彼らはユージオ達の元へ駆けつけ、ユージオ達を守るように剣を構えた。

「ね、ネズハ⁉︎どうしてここに…⁉︎」

「僕ら《レジェンドブレイブス》は攻略組の皆さんに仲間入りしたくて来たんです!あんなことがあったので入れてもらえるとは思っていませんが……それでも僕らは決めたんです!あの罪をずっと償い続けると‼︎」

「……‼︎」

ネズハの言葉に攻略組全員の心に温かいものが込み上げてくる中、ネズハは続けた。

「でも、僕らだけじゃ無いですよ!」

「え……?」

その時、黒装束のプレイヤーの後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

「______退けぇぇぇぇぇえええッ‼︎」

両手剣を装備して包囲網を無理矢理破り走ってきたのは茶髪に赤い目の少年。第二層の攻略を機に姿を消していたベルだ。そして、隣にはもう1人のプレイヤーがいた。最低限の鎧に、レイピアを右手にした少女。紫色の長い髪に同色の瞳。誰かに似ているような気もする。

「__________姉ちゃん⁉︎」

「本当に久し振りね、ユウキ」

「べ、ベル………⁉︎どうしてここに…」

「色々話さなきゃ行けないことがありますけど……それは後っスよ」

驚く攻略組の面々。レイピアを携えた少女はロニエに回毒薬を飲ませて、ロニエに微笑みかけた。「もう大丈夫」と。彼らは状況説明をしている暇はないと言い、各々の武器を構える。

「……美しい友情だな、本当にめでたいめでたい……でもな、俺達はそんなのを見にきたんじゃねえよ。お前達の顔が恐怖に染まる瞬間が見たかったんだ_____変な邪魔してくれるな?お前」

黒ポンチョの男はフルプレ男を睨みつける。ジョークを織り交ぜた先程の会話はどこへ行ったのか。彼は殺意を隠すことなく出していた。

「………」

「お前はフルプレートで顔が見えねぇし………いっそ剥がしてやろうか?」

「……いや、その必要はない。自分で外す」

「なら、外してみろ。お前の顔を絶望の色に染めてやる」

男はそう言い放ち、ナイフを構えた。フルプレ男はメインメニューからステータス画面へ移行し、そこから鎧を外していく。ブーツからプレートアーマーそして、ヘルメット。両手剣はストレージに一瞬で消えていった。

クイックチェンジを使用したのか変化は一瞬だったが、そこにいた一部を除いた全プレイヤーにとっては永遠にも感じられた。

 

 

「お前は今罪の源(カイン)と言ったな。自分こそがこの世界で初めての殺人者だと」

 

黒いジーンズタイプのズボンに黒いコート。

 

「それは間違いだ。お前は人一人殺せていない」

 

背中に引っさげるは、一本の片手剣。

 

「お前は自分自身を『殺す』ことでしか表現出来ない、ただの《道化師(ピエロ)》だ」

 

夜空のような深い黒の瞳、同色の髪。

 

 

 

「_________ただいま、ロニエ」

 

 

 

(キリト)は振り返ってロニエを見て微笑みながら言った。

 

「_______き、りと___先輩_______っ」

ロニエはキリトを見て、涙を零した。

「キリト⁉︎」

「どうしてここに……⁉︎」

攻略組も驚きを隠せない。

「キリト、お前……‼︎」

「遅くなったな、相棒」

ユージオが感情を抑えきれずに一筋の涙を流す中、キリトは不敵な笑みでユージオを呼んだ。

 

 

「何故、お前がここにいるッ‼︎キリト⁉︎」

その時、黒ポンチョ男が今までにない焦りと驚きを見せた。

「何故?決まってるだろう。お前が殺し損ねたんだよ」

「ッ⁉︎そんな筈がない‼︎お前は俺が殺した!お前がポリゴン片になって散っていくのも見た………‼︎」

「ああ、そうだ。確かに見ただろう。ポリゴン片が散るところはな」

キリトは叫ぶ黒ポンチョに淡々と話した。

「俺もあの時死んだと思ったよ。けど、お前には予想できなかったことが三つあった」

「……」

「一つ。俺に対して行った攻撃が無効化されていたこと」

「む、無効化……だと⁉︎」

「そうだ。俺の装備していたアクセサリーの一つ。この《エーヴィゲ・リーベ》には特殊効果が付与されてた。それは、『これを装備したプレイヤーのHPが全損するに至る攻撃を一度だけ無効化する』というものだ。ただし制限があってこれは対となるもう一方のものと共有される。だから、片方を装備している奴がその効力を使ってしまえばその効力は失われるし、宝石も割れる」

キリトいた砂漠へ行く途中にロニエがしていたアクセサリーの宝石がひび割れたのはそれが原因だった。結構レアアイテムだったんだぜ?と惜しそうに言った。

「なッ……⁉︎」

「二つ目、俺のこのコートの耐久値に限界が迫っていたこと。そして、最後の三つ目……それは、俺が転移結晶を持っていたってことだ」

「……まさかッ」

「そうだ。お前が攻撃した瞬間、俺のコートの耐久値がゼロになりポリゴン片となって散る瞬間、この《エーヴィゲ・リーベ》が攻撃を無効化し、俺は転移結晶を使って始まりの街まで飛んだ。咄嗟ことだったからほぼ賭けだったんだ。お前達はその時、俺のコートが耐久値を全損してポリゴン片となって散る現象を俺が死んだ時のエフェクトだと錯覚した訳だ」

「………‼︎」

「キリト‼︎何故生きてるのに僕らに知らせてくれなかったんだい⁉︎」

ユージオも驚きながらもキリトにそう問うた。

「……『敵を騙すならまず味方から』って言うだろ?」

「じゃあ、キリト。君は彼らを欺くために……‼︎

「そうだ。こいつらは神出鬼没。それに加えて詳細が不明ときてる。なら、どういう風にこっちを観察しているかも分からない。だから少しの間、雲隠れさせてもらった」

「………お前……ッ‼︎」

「随分と悔しそうじゃないか。P()o()h()

「_______ 」

キリトにプレイヤーネームを言われて絶句する男。

「図星らしいな。時間がかかったぜ?お前のプレイヤーネームを調べてもらうのはな」

「ちょっと待って!調べてもらうってどういうことよ!」

「…情報売り買いするなら誰に相談する?」

「‼︎」

アスナの問いに対してキリトが答える。

「そうだヨ。オレっちがやったのサ」

それと同時にユージオの隣から音もなく現れるアインクラッド初にして最高の情報屋、《鼠》のアルゴ。

「ホントに、骨が折れたんだゾ?名前がわかったのだってつい昨日サ」

「じゃあ、アルゴはん……アンタだけ知ってたんかいな⁉︎」

「そうだヨ。嘘とかは得意だからネ」

「流石に誰一人知らないというのも俺一人だけで全て調べるには無理があったからな。アルゴにだけは話してあった。アルゴにはあれからお前らPK集団についての情報収集を依頼した。そして、やられたままじゃ納得出来ないと思ってな。少し人を集めた。ネズハ達とラン、ベルが協力者だ」

「……」

「さて、プレイヤーネーム(名前)知られて殺った筈の男は生きてるし騙されて………滑稽なもんだな、自称殺人鬼(カイン)さん?」

「……ッ」

「戦るならいいぜ、相手してやる。ただ________士気が最高に上がった攻略組を今、お前らが果たして殺せるか否か………見物だな」

牽制しながらも今までにない程挑発するキリト。それに切れる寸前の(Poh)は歯ぎしりをしながら吐き捨てるように言った。

「………Shit(くそったれ)‼︎」

だが、彼の頭は冷静に事を判断して、攻略組と戦って勝てる確率が低すぎる事を悟ったのか、後ろに退いていった。

「………覚えてろよ、黒の剣士。必ずお前を殺してやる」

「……負け犬の遠吠えにしか聞こえないな」

「ッ」

 

 

 

PK集団が消えるとそこはとても静かになった。そして、攻略組の緊張が解けたせいか、何人かのプレイヤーが座り込んでしまった。

「……キリト先輩…‼︎」

「…ごめんな、ロニエ」

「…………っ‼︎」

ロニエは感情を抑えきれず、キリトに抱きつき静かに泣き始めた。キリトは彼女を優しく抱いたのだった。

 

 

 

 

 




ロニエ「皆さん、あけましておめでとうございます!」
ユージオ「お正月などとっくに過ぎていますが新年のご挨拶をさせていただきます」
ティーゼ「今年も本作『ソードアートオンライン ~時を超えた青薔薇の剣士~』、そして、原作アニメとともによろしくお願いします‼︎
「「「次回も楽しみに〜‼︎」」」


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~殺人鬼(カイン)編~ 前を向いて

お待たせしました!クロス・アラベルです!
今回でこの『殺人鬼編』は終わりです。次回からは月夜の黒猫団の話の続きになります。
次は、皆さんご存知『竜使い』のストーリーになると思います!
それでは、どうぞ!


 

 

「で、キリト。キッチリ話を聞かせてもらうよ」

「お、おうっ」

PK集団との一悶着があった後、僕ら攻略組は15層の主街区のとあるレストランに集まっていた。大きめの店だったが攻略組だけで埋め尽くされた。そして、ユージオ達に問い詰められている最中だ。

「まず、どうやって君が殺されずに済んだかっていうのはあの時話していたから置いておこう。けど、色々分からないこともある。まず、助太刀に来てくれたレジェンドブレイブスのみんなや、えっと………ランさん、そして、ベルとどうやって合流して来たか。特にベルについてだけど」

「じゃあ、ベル達との合流についてだな。まず、始まりの街に転移した俺はアルゴに連絡してユージオ達に偽の情報を流してもらってから、俺は他の協力者を探し始めた。とは言っても知り合いなんて限られてるから行くとこなんてそうそうなかったんだけどさ。それで俺はまず『レジェンドブレイブス』の協力を得るためにネズハに連絡を取った。協力してくれないかと頼んだら二つ返事で来てくれたよ。あの時は本当に助かった。ありがとう」

キリトがネズハ達に礼を言うとネズハは微笑みながら言った。

「いえ、どちらにせよ僕らは攻略組に参加する為に行く訳ですから。それに、やっぱりキリトさんの助言が欲しかったところです。攻略組の皆さんとは例の事件でご迷惑をかけてしまったので………やはり、入りづらいというか、何と言うか……」

二層攻略時に起きたあの事件の結末。それをまだ気にしているようで気まずそうにしている。

「……それで、だ。その時に剣を砂漠に落としたことに気づいたんだ。奴に剣を弾かれて砂漠に突き刺さってたろ?」

「うん、確かにそうだけど」

キリトの言うように剣は砂漠に抜き身で突き刺さっていた。それをロニエが拾った訳だ。

「それで、クイックチェンジとか、全アイテムオブジェクト化も試したんだけど間に合わなかったんだ。武器が無いことに気づいて試した時にはもう手放してから1日半経ってたからな。それで、武器のことは諦めて新しい武器を手に入れることにしてさ。それで、アルゴに15層のクエストで強力な片手剣がクエストリワードに出るものを調べてもらって、そのクエストを受けたんだ。そのクエストがスローター系のクエストでさ。その時にたまたま一緒になったランと効率良くクエストをクリアしようってことになって共闘した。それで、ランが『ユウキって言うプレイヤーを知りませんか?』って言うから、ユウキの事と俺の今の境遇を教えたら、手を貸してくれるって言ってくれたんだ」

「そうなんだ……ありがとね、キリト!姉ちゃんを連れてきてくれて!」

「いや、こっちこそクエストを手伝って貰ったんだ。礼を言うのはこっちだよ」

「ありがとうございます、キリトさん。私も助かりました」

「片手剣とカモフラージュ用の両手剣に鎧まで手伝って貰ったから、本当に感謝してるよ。ありがとう」

ユウキがキリトに無邪気な笑顔で感謝の意を伝えた。ランも微笑みながら礼を言った。

「それで、キリト。ベルとはどう会ったの?」

「………ベルとは、三日前に会ったんだ。事情も事情だったから、一応話は聞かせて貰ったけどさ」

「……それについては、俺が説明します」

キリトが話そうとした時、ベルが初めて口を開いた。

『『『………』』』

「………攻略組から身を引いた……あの詐取事件の時、俺は冷静ではありませんでした。少し、現実世界(リアル)で、トラウマがあって……だから、それを思い出して……」

「…良ければ、そのトラウマについて話してくれる?」

アスナがそう聞くとベルは俯きながらこう答えた。

「……………母親を事故に見せかけて殺された…それだけです」

「……ごめんなさい、思い出したくないものを…」

「いえ、あんなことをしてしまったんです。話さなければならないのはわかっていました」

ベルはあまり聞かれたくないのか、そのまま話を続けた。

「……それであれから二ヶ月程経った今、俺はやっと自分のやってることが何なのかを冷静に考えられました。だけど、俺は分からなかったんです。何故、キリトさんが彼を……ネズハさんを庇ったのか。だから、その理由を聞くために俺はPohを欺いてキリトさんを救う事を決意しました。だから奴に嘘をつき、キリトさんを守ろうとしました。結果、それは奴にはお見通しで、先にやられてしまいましたが………」

「でも、俺は気付いたんです。キリトさんが消える寸前、キリトさんの身体じゃなくて、コートの方が散っていくのを」

そう、その時自力で気づいたのはベルだけだったのだ。

「それで、キリトさんが奴らに自分が死んだように見せかけて何処かに移動したんじゃないかって考えたんです。このアインクラッドには転移結晶って言うからものがあるって聞きましたから。まだドロップしたって言うのは聞いてなかったですけど」

「キリトさんとはこの15層の主街区で会いました。キリトさんにはトラウマの件と詐取事件の時の暴走を止めてくれたお礼とお詫びをして、キリトさんの手伝いをする事を始めたんです。」

「……それについては俺も分かったよ。じゃあ、一つ聞きたいことがある」

その時、ディアベルが口を開いた。

「はい」

「……君は、攻略組に入る気はあるかい?」

ディアベルの問いに驚きながら俯いた。

「………」

「攻略組はこのデスゲームが始まった今、この人数では少ないぐらいなんだ。多いに越したことはないしね。それに君はボス戦経験者だ。君が入ってくれれば、百人力なんだが……」

ベルはしばらく答えなかった。

「……すいません。それは出来ないっス」

そして、悩んだ結果____いや、もう決めていたのかもしれない。彼は強い意思のこもった声で答えた。

「理由を、聞かせてもらって良いかな?」

「…俺に、攻略組に参加する権利はありません。俺は一度道を踏み外してしまいました。キリトさんやユージオさんに、剣を向けた事が何度もありました。俺は……償わなければならない。俺は、PK集団……Poh達(奴ら)を追います。俺が道を踏み外したのは、俺自身が弱かったからって分かってます。けど、奴は許せない。俺は攻略組には参加出来ません。ですが、奴らについての情報を全て攻略組に提供します。いつか……奴らの暴走を、止める」

「……分かった。君の本当の意思が聞けてよかった。キリトやユージオ達も、そう思うだろう?」

「……ああ」

「君が、決めたっていうんなら……僕は止めないよ」

ディアベルもキリト達も止めはしなかった。

「……ありがとうございます」

「…ベル。聞きたかった事は、聞けたのかい?」

「_____はい」

最後のユージオの問いには微笑とともに答えた。

「俺はすぐにここを発ちます。奴らはオレンジカーソルになっている。カルマ回復クエストを受けるのも回数が限られてますし、奴はもう三回は受けました。あの時の為に3回とも使ったんです。だから、もうカルマ回復クエストのクリアは実質ほぼ不可能……そして、オレンジになっているから、アンチクリミナルコードが働く主街区のような圏内には入れない……なら、あの15層からは簡単には動けない筈。だから俺は今すぐに15層に行って奴らを追わなきゃいけない」

そう言ってベルはそのまま店を出て行った。『ありがとうございました』とその一言を置いて。

「……死ぬなよ」

「……お互いにっス」

別れ際にキリトとベルはそう言葉を交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、キリト君。まあ、色々とお疲れ様」

「ああ」

攻略組が各自解散した後。アスナがキリトに労いの言葉をかけた。先程まで話を聞いていた筈のロニエは疲れたのか、キリトにもたれかかるようにして眠っていた。

「君が何故攻略組の皆や、ロニエちゃんにさえも生きていることを教えなかったかは分かったわ」

「……うん」

「……でもね、許すとは言ってないから」

「……え?」

予想外の言葉にキリトが呆けた顔で振り返る。そこには何やら赤黒いオーラのようなものを揺らめかせたアスナが立っていた。

「例え死んだふりをしなきゃならなくなったとしても、ね」

「女の子を泣かせるなんて……サイテーです。キリト先輩」

「さすがの私でも、擁護できませんヨ」

「あやふやになってお終いなんて、駄目だよね!姉ちゃん」

「ええ」

「ちょm」

ティーゼやナギ、ユウキにランもキリトを責める。

「ごめん、キリト。止められないよ」

「え"」

ユージオにも見放され、キリトは完全に孤立してしまった。

「……罰は受けてもらうわ」

「ま、待ってくれ!確かに俺が全面的に悪いけど…だ、誰か俺の味方はいないのか⁉︎あ、アルゴ…ってもう居なくなってるし‼︎あいつ、裏切りやがったな⁉︎」

アルゴを頼ろうとするも、すでにその場からいなくなっていた。実は店の端から見ていたりするのだが、キリトが気付くことはなかった。

「……観念して下さい」(^言^)

「……ハイ」(´;ω;`)

その後、キリトは女子達にこってりと(しぼ)られて、今回ロニエを泣かせたという罪で、一週間ロニエの言うことを絶対に守り、実行すると言う罰を言い渡された。

 

 

 

 




ロニエ「皆さん、アニメ『ソードアートオンラインアリシゼーション』はご覧になりましたか?」
ティーゼ「いよいよ公理教会との戦いも終盤に近づいてきましたね。そして、なんといっても、先輩達の勇姿が思う存分に見られました!」
ロニエ「前回は騎士長ベルクーリ殿との戦いでしたね」
ティーゼ「……かっこよかったぁ……」
ロニエ「次回はカセドラル戦の総集編になるみたいです」
ティーゼ「皆さんもアニメを楽しみましょう!」
ロニエ「この『青薔薇の剣士』シリーズもよろしくお願いいたします!」
ティーゼ「それでは次回も」
「「お楽しみに‼︎」」


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少年(ユージオ)の独白

こんにちは!クロス・アラベルです!
ついに原作2巻のお話に入って行きます(次回から)今回はプロローグということです。
それでは、どうぞ!


 

 

黒髪の少年(キリト)が血溜まりの中で倒れこむ亜麻色の髪の少年(ユージオ)に何かを叫んでいる。そして、()は最後に言った。

 

『この………小さな、世界を…………夜空のように……優しく……………包んで……………』

 

()はそう呟いて血の滲む彼の頬を手で触れた直後、安らかにこの世を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しうるさめの音楽が聞こえる。これはユージオ自身が設定したアラーム音だ。

 

「……」

 

静かに目を覚まし、右手を振りメインメニューをだす。

時刻は8時40分。とある人物との約束には間に合う時間だ。

 

「……また、あの夢を…」

 

あの夢とはアンダーワールドのセントラルカセドラル、ユージオ最期の時の記憶だ。

最近彼はよくこの夢を見る。この夢が何を意味するかは彼自身分かっていない。

 

2023年4月5日、このアインクラッドに来てあれから半年が経った。現在の最前線は22層、ユージオが今いるのかその層だ。

生存者は8491人。全体の約二割が死んだことになる。だが、その死んだ約1500人のうち攻略組の犠牲者は16人とかなり少ない。これはやはり一層で死ぬ運命だったディアベルが生きているからだろうか。

などと考えながらユージオは装備を整える。整える、とは言うもののボタン一つで出来てしまうが。いつもの空色のシャツに黒に近い紺色のズボン、そして、青いコートを羽織り、腰には片手直剣を帯剣する。

 

「……さて、行こうか」

 

ユージオはそのまま宿を後にした。

 

 

 

 

ユージオが来たのは18層主街区《ラーサン》。温暖な気候と美しい情景が楽しめるともっぱらの噂となっている層だ。木造住宅が建ち並び、公園、教会などもあり、ユージオたちにとってはなんだか懐かしい気分にさせてくれる、そんな町だ。もちろんユージオも訪れたことはあるが、あまりいいクエストがなかったので覚えていない。なんとなく、ぼんやりとイメージが浮かび上がるくらいだ。

 

「……ここ、だよね」

 

約束した場所は大噴水の広場だ。その広場の大噴水はいろんな装飾がなされており、東西南北に一体ずつ彫刻が立っている。ユージオは南の祈りを捧げるセイレーンの像の前の長椅子に座り待つことにした。

 

「ユージオ先輩!」

 

待つこと五分後。約束の相手が現れた。

 

「……やあ、ティーゼ。おはよう」

 

「おはようございます! 待たせちゃいましたか……?」

 

「そんなことないよ。ついさっき来たばかりだから」

 

そう、約束の相手はティーゼだ。二日前に攻略を今日は一日休んで出掛けようと誘われた。本人曰く新しい防具を作る、らしい。

 

「…!」

 

「えっと……どうですか?やっぱり似合ってませんか…?」

 

ユージオはティーゼがいつもの服装と違うことに気付いた。

白いワンピースにつばの広い麦わら帽子。麦わら帽子には一輪の赤い花が飾ってある。白いワンピースが燃えるような紅葉色の髪を引き立てている。

 

「似合ってると思うよ。ちょっとびっくりしちゃった」

 

「本当ですか!あ、ありがとうございます!」

 

「…じゃあ、どこのお店に行くの?」

 

「友達がやってる露店なんですけど、かなり鍛治スキルを鍛えてて……最近、武器作成だけじゃなく、防具作成のスキルも取ったみたいなんで行ってみようかな、と」

 

「へぇ…」

 

ティーゼの友達に鍛冶屋がいたことは初耳だったユージオは感嘆する。このアインクラッドでは殆どが戦闘職につくのだが、やはりネズハのように生産職を目指す人がいることに驚き、そして、尊敬の念を込めて言った。

 

「凄いね。その人はいつも中層域で露店を開いてるのかい?」

 

「いえ、今日は特別らしいです。いつも最前線の主街区で売り込んでるそうなんですが、定期的に中層域や下層域に戻って開くんです。『中層域で燻ってる人も下層域で怯えてる人にもあたしの作った武器を使ってもらってアインクラッド攻略に役立ってくれれば、これ以上のことはないわね』って本人は言ってました」

 

「あたしってことは、まさか女の子?」

 

「はい。ロニエたちとも面識ありますよ?」

 

「そうだったんだ、知らなかったよ」

 

 

二人は話をしながら街中を歩く。それを見た人々八割(主に男性プレイヤー)が嫉妬による殺意の視線(デスビーム)を放ち、残り二割(主に女性プレイヤー)による暖かい視線がユージオ達に注がれた。

寒気を感じたユージオは少し肩を震わせて道を急ぐ。

 

「えっと、メッセージで書いてあったのは…あ、あそこです!」

 

「!」

 

メインストリートの一角、そこにその露店____というよりは絨毯を敷いてその上に商品を乗せただけのものだったが____はあった。

そして、そこにいたのは短めの茶髪に同色の瞳、頰にそばかすがある少女。右手にスミスハンマー、左手に鉄色をした金属の延べ棒を持っている。作業をしようとしていたのだろうとユージオは悟った。

 

「いらっしゃい…ってティーゼじゃない!アレを取りに来たの?」

 

「うん。出来てる?」

 

「もちろん。防具はあんまし自信なかったのに、あんた急に今日…二日後までに作ってくれ、だなんていうからびっくりしたわよ」

 

「そう?」

 

「……んで、隣の彼は?」

 

「僕はユージオ。よろしくね」

 

「あたしはリズベットよ。見ての通り鍛冶屋をしてるわ……あんたがユージオかぁ……へぇ、イイ男捕まえたじゃん」

 

「ちょ、リズ⁉︎」

 

「…?」

 

ユージオは仲良さげに話す二人を見てかなり前からの付き合いなのだろうと感じた。

 

「はい、これ。約束通りのブツよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

ティーゼはリズから新しいプレストプレートを受け取った。

 

「…あ、凄い!前よりも性能がいい!」

 

「ふふん、結構鍛えたのよ?それぐらいはあって当然でしょう?」

 

「さすがリズ……本当にありがとう!はい、お代金」

 

「ん、毎度あり。うちの店をご贔屓に頼むわよ?」

 

「言われなくてもしてるけど?」

 

「……そう言えば、ティーゼ」

 

「はい?」

 

「…これを受け取るためだけに来たの?」

 

「……はぃ////」

 

ユージオは疑問に思った。これを受け取るだけなら二人でなくてもいいのでは?と。

 

「………そりゃ違うに決まってるでしょ」

 

「え?」

 

「ティーゼはあんたと一緒に……ううん、二人で出かけたかったのよ」

 

「……っ」

 

「…ほら、あんたからも言いなさいよ。どっかカフェかなんかでもいいから一緒に行こうって」

 

「……せ、先輩……い、行きましょう//////」

 

「…そう、だね」

 

ユージオは頷き、ティーゼとともにリズの店を後にした。

この時ユージオはティーゼの思う所、リズの言わんとしている所……つまりユージオへの恋慕を知っていた。気付いたのはアンダーワールドの人界の修剣学院を退学になり、セントラルカセドラルに連行される直前……いや、ライオス・ウンベールによるフレニーカ・シェスキへの性的暴力を知り、それを抗議した直後。ティーゼがユージオにあの言葉をかけた時から、気付いていたのだ。

 

だが、ユージオはその想いを受け取れないでいた。アンダーワールドではアリスを助けるために剣を取った。そのことはティーゼには言っていない。そして、今もユージオはその想いを受け取れなかった。何故か、それはアンダーワールドでの理由と殆ど同じ。

 

『このアインクラッドにアリスも来ているのではないか』というものだ。

ユージオ自身、諦めたくはなかったのかもしれない。ともにアンダーワールドから消え、運命を共にした。だが、それでも会いたい。そう思ってしまう。

だが、その可能性はゼロに等しいことも、ユージオは知っていた。ユージオは攻略が休みの日に第一層の生命の碑を見に行って、アリスの名前があるかも調べた。それは全て神聖語(英語)でしか書かれていなかったが、アリスのスペルが《Alice》だということはアンダーワールドでアリスの開いたステイシアの窓を開いたときに見たので知っていた。

 

探した所、《Alice》なる人物は全員で7人、うちの3人は死亡、残りの四人は生きていた。そして、また別の日にその全員に会いに行ったが誰一人としてユージオの知っているアリスはいなかった。

この結果が意味するのは、《アリスはここにはいない》ということ。

その事実を受け止めてしまえば楽なものを、ユージオは出来なかったのだ。

 

 

 

 

 

 

「楽しかったですね、ユージオ先輩!」

 

「そうだね。色々買えたし、ね」

 

「……はい////」

 

買い物の帰り、二人は自分たちの宿へ向かっていた。頰を赤らめるティーゼの首にかかっているのは、一本のネックレス。これはユージオが先程ティーゼに買ってあげたものだ。買ってあげた時はそれはもう喜んだ。

 

「……喜んでもらえてよかったよ。まあ、その場で思いついたことなんだけどね」

 

「いえ、あたし、嬉しいです。本当に!」

 

ティーゼは少し走って、夕焼けを背にこちらを振り返り向日葵のような明るい笑顔を見せた。

 

「……」

 

ユージオはこのアインクラッドに来て何度も例の頭痛……キリトの記憶を見た。ボス戦時のボスのパターン変更やPK集団の襲撃など色んな時にそれは起こった。

そして、分かった事がある。

この頭痛(記憶)はキリトにとって辛ければ辛いほど痛みも増し、その心傷の跡が深ければ深いほど、その事象が発生するより前に起こる。

そして、僕は今日、今までにあった頭痛(記憶)で最大級の痛みを味わった。

 

「_________ッッッ⁉︎⁉︎」

 

それは頭が焼ききれそうなほどの痛みだった。痛みで気を失いそうなほどに。

 

「あ、ああああああああああああああああッッ⁉︎⁉︎」

 

「ゆ、ユージオ先輩⁉︎どどうしたんですか⁉︎」

 

「うあああああああああああああああああああああああああ______⁉︎」

 

流れ込んでくる記憶。それは冷たい川の水のようだった。

 

 

 

出会うは森の中。ゴブリン型のモンスターに追われる総勢5人のパーティ。

背景が変わり、街の橋の下に座り込んで顔を伏せて泣くひとりの少女。それを無力な少年(キリト)は彼女にこう言うしかなかった。

 

『………君は死なない』

 

目まぐるしく変わる背景。ベットの中で、少年(キリト)は呪文のように囁く。

『…君は死なない。君は、死なない』

 

そして、大量のモンスターに囲まれるリーダーを抜いたパーティ。

次々と倒れるパーティメンバー。また一人、また一人と力尽きていく。

そして、少年(キリト)が『君は絶対に死なない』と囁き続けた、守りたかった少女は________

 

その命を儚く散らした。たった、十文字の言葉を残して。

 

 

 

 

 

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁ_______」

 

「ユージオ先輩!ユージオ先輩っ‼︎」

 

そして、その記憶を見終わった直後、僕は気を失った。

ただただティーゼの悲痛な叫びが僕の頭の中に木霊するだけだった。




※今年の夏からリアルの方が忙しくなるので更新ペースが落ちます。ご了承ください。


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月夜の黒猫団

こんにちは!クロス・アラベルです!
遅くなってしまいました。リアルの方が結構忙しくなってきていてまして……
さあ、今回は皆さんお待ちかね、月夜の黒猫団の皆さんの登場です!この月夜の黒猫団編はまだ3、4話ほど続く予定ですので、楽しみにしておいてください!今回は短めです。
では、どうぞ!



 

 

 

「それでは、我らが《月夜の黒猫団》に乾杯!………んでもって、命の恩人、キリトさん達に、乾杯‼︎」

『『乾杯‼︎』』

「か、乾杯…」

「乾杯!」

「か、かんぱーい!」

「かんぱーい!」

11階層の主街区《タフト》のとある酒場。そこで総勢五人パーティのメンバーと四人のプレイヤーが各々の飲み物が入ったグラスを持って、五人パーティの一人、ソード使いのダッカーが乾杯の音頭をとった。

「本当にありがとう!助かったぜ!」

「キリトさん達がきてなかったらと思うとなぁ……」

「本当に感謝だな!」

「ありがとう……本当にありがとう。凄い怖かったから…助けにきてくれた時、凄く嬉しかった……!」

「い、いや…俺達はたまたまあそこにいただけだからな…あんまり気にしないでくれ…」

そのパーティメンバーの各々が感謝の意を伝える中、キリトは一人コミュ症を発症させて、戸惑っていた。そこにすかさずユージオがフォローにはいる。

「でも、本当に良かったよ。間に合って…」

「そうですね、ユージオ先輩!」

「あの……失礼だとは思うんですけど、皆さん、レベルの方は幾つぐらいで…?」

「……敬語は止めにしよう、ケイタ。ここはデスゲームの中とはいえ、ゲームはゲームだ、敬語なんて必要ない。で、レベルだっけ……えっと……」

おお、コミュ症のキリトが結構知らない人に喋りかけられたね、そうユージオは思ったが、また話が止まった。おおよそ、本当のレベルをいうか否かで迷っているのだろうと思ったユージオは、キリトの代わりにレベルを公表する。

「僕とキリトが45、ロニエが44、ティーゼが43だったかな?」

「す、凄い……!まさか、皆さん……いや、キリト達は、攻略組なのか……?」

「うん、一応ね」

「……もうちょっとで追いつくのに…」

「ま、まあまあ、ティーゼ…」

するとケイタ達月夜の黒猫団メンバーは驚き、感嘆の声を漏らす。ユージオの横でティーゼがロニエに向かって口を尖らせ、悔しそうに呟いた。

「凄いな……でもさ、なんで最前線にいる攻略組のメンバーがここに…?」

「……キリトの剣の強化アイテムを取りに来たんだ。ここでしか取れないものだったからね」

ユージオは槍使いのササマルからの意外な鋭い質問にユージオは驚きながらも答えた。

だが、ユージオ達がここに来た理由はそれだけではない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』などキリトや月夜の黒猫団のメンバーの前では言える訳は無かった。

「…なあ、キリト、ユージオ。少し頼みがあるんだ」

「なんだ?」

「?」

「俺達を指導してくれないかな?まだ俺たちレベルは20そこそこでさ、あんまり強くないし、技術面でもあまりいいとは思えないんだ。だから……ギルドに入ってくれとは言わない。指導してくれるだけでいいんだ。特にこいつなんだけど……サチって言うんだけど、見ての通り主武装(メインアーム)が片手槍なんだけど、盾持ち片手剣に転向させようと思ってるんだ。ほら、うちのギルドって人数少ないし、バランスが悪いだろ?前衛なんかテツオしかいないからさ……」

リーダーのケイタがメンバーの一人、サチと呼ぶ少女を前に出して話す。

「何よ、人を味噌っかすみたいに…」

「盾に隠れてりゃいいんだって!」

「…いきなり前衛なんて、おっかないよ…」

「大丈夫だよ、サチ!」

その言葉を聞いてユージオは少し不安になった。

先程のモンスターとの戦いで彼女は敵が目の前にいるのに、目を瞑る傾向があった。そんな彼女に前衛(ウォール)と言う役目が務まるか。可能性は低いだろう。そして、戦い始めてあまり時間が経っていないのならまだ転向が可能だったが、彼らはつい三ヶ月前にフィールドへ出始めたと言っていた。となると戦闘型(バトルスタイル)も決まってしまっている。本人の意志次第ではあるが、それを変えるのは中々難しい。キリトもその事を考えていたらしく、どうしてもと言う彼らの願いを断れないでいるのだろう。

「……分かった。やっては見るけど、その途中経過で俺達が無理だと判断したらサチの前衛への転向は中止になるけど……いいか?」

これがキリトなりの妥協案なのだろう。ユージオは反対する気は無かったし、ロニエ達もそのはずだ。

「ああ!本当にしてくれるのか⁉︎」

「ああ。断る理由もないしな」

「……まあ、指導の方は明日からにしよう」

「やったな!」

「本当にありがとう!」

「助かるよ!」

「よっしゃ!こうなったら今夜は無礼講だっ!じゃんじゃん飲むぞ‼︎」

「飲み過ぎるなよダッカー!酔わないとはいえ飲み過ぎは明日に差し支えるかもしれないんだからな!」

「分かってるって!さあ、飲もうぜ〜!」

その後、月夜の黒猫団のメンバーとキリト達はかなり遅い時間まで宴会をして、寝るときには四時を回っており、次の日の指導は翌日に延期になったのはご愛嬌だ。

そして、この2日後から月夜の黒猫団に対するキリト達の指導が始まるのだった。

 

 




次回《努力は実ると信じて》


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努力は実ると信じて

大変遅くなりました!クロス・アラベルです!
リアルの方がかなり忙しくなってしまい、投稿ペースがガタッと落ちてしまいました……ごめんなさい…m(_ _)m
ちょっと短めですが、投稿します!
それでは、どうぞ!



 

 

「はッ……サチ、スイッチ!」

「う、うん!……ひゃっ⁉︎」

キリトがソードスキルの直後、モンスターがディレイしたのでサチに交代を指示する。サチは言う通りに片手剣と盾を構えてモンスターと戦おうとするが、モンスターがディレイから解かれ、攻撃しようと鎌を振り上げる。するとサチはその攻撃に対し目をつぶりながら盾を構えた。そのせいでうまく防御出来ずに反動でダメージを少し受けてしまった。それをみたキリトはギルド唯一の前衛であるテツオに指示を出す。

「…テツオ!サチのフォローに入ってくれ!」

「わかった!」

ここは20層《ひだまりの森》。キリト達と月夜の黒猫団の一行はそこでレベリングに励んでいた。

「おりゃあぁっ‼︎」

テツオはトドメとばかりにカマキリ型モンスターへ単発ソードスキルを打ち込んだ。するとHPゲージがゼロになったのか、モンスターはポリゴンとなって四散した。

「やった!レベルアップだ!」

全モンスターを殲滅し終わり、メンバーの各々レベルアップした。

月夜の黒猫団の指導に入ってから一週間、キリト達は五人を効率のいい狩場へと連れて行き、ただひたすらに戦った。今や月夜の黒猫団の平均レベルは30を超えていた。スキルの熟練度も程よく上がり、繰り出せるソードスキルの連撃数も増え、戦い方の幅も広がった。

だが、一つうまく行っていないことがある。それは、サチの盾持ち片手剣への転向だ。

この一週間、キリトが付きっ切りで教えていたのだが、やはり使いこなせていない節がある。

「………」

他のメンバーが喜び合っているそれをよそに、サチは片手剣と盾を見下ろして黙りこくっていた。

「……よし、じゃあそろそろ昼飯にしよう。もう12時過ぎてるからな」

「お!やっと昼ごはんか!」

「よっしゃー!早く食べよーぜ!」

「そうとなれば早くこのダンジョンから抜けよう。街に戻ってからにしないと…」

「じゃあさ、今日も天気いいしあそこで食べようよ」

「お、いいな!ピクニックだな!」

「おい、お前らはしゃぎ過ぎだぞ。モンスターが集まって来たらどうするんだ?」

メンバーは仲良く主街区へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

主街区のはずれにある草原で一行は昼食をとっていた。

「美味ぇ……疲れた体に行き渡るな!」

「サチの料理スキルも上がって来たね。なんだか前より美味しいよ」

「……えっ?そ、そうかな…」

美味しそうにサチの作った料理を頬張る月夜の黒猫団のメンバーの褒め言葉にぼーっとしていたのかそれとも考え事をしていたのか、遅れ気味に反応するサチ。今までより少し変なサチに月夜の黒猫団のメンバーは気づくことはなかった。因みに、キリトとユージオはロニエとティーゼが作った昼ごはんを食べている。ロニエ達は料理スキルを熟練度800まで上げており、その味はプロそのものだ。

遠目に見ていたキリト達は気づいていた。サチは悩んでいるのだ。自分の転向に時間がかかり、他のみんなに迷惑をかけているのではないか、と。キリトとユージオはそれにかろうじて気付いた。

「……俺、声かけてくるよ」

「待てよ、キリト。サチは女の子だよ?男の僕らが行っても快く話してくれると思うかい?」

「……まあ、確かに」

「…ティーゼ、ロニエ、頼めるかい?」

「はい、分かりました」

「任せておいてください、ユージオ先輩!」

ユージオはキリトを止めてティーゼ達に声をかけさせた。するとサチは笑顔で応じた。

「…大丈夫そうだな」

「まあ、女の子同士の方が話せるだろうし…」

ユージオ達はそれを遠くで見ていた。するとリーダーであるケイタが二人に話しかけてきた。

「二人とも、本当にありがとう。今までのレベリングなんか目じゃないほど効率がいいね」

「まあ、な」

「平均30台まで上がったから、ここら辺も楽になったんじゃない?」

「ああ、技術面で少し不安なところもあるけどね」

「仕方がないさ、プレイヤースキルって言うのはそう簡単に上がるもんじゃない。数値で表される訳じゃないからな。こればかりは実戦を積むしかない」

「ところで二人とも、新聞見たよ!」

「新聞?ああ、ボス戦か?」

「ああ!攻略組三十階層突破!」

「…新聞読んでるんだね、ケイタ。僕も読んでるよ」

キリト達は昨日、指導を休んでボス戦に挑んだ。結果、死者を出すことなくクリアした。

「すごいよ、キリト達は……俺たちじゃ、追いつかないのかって思っちゃうくらいに……!」

「いやいや、追いつけるさ。後レベルを7か8上げれば十分前線にも出られる可能性はある」

「そう、かな……なあ、キリト、ユージオ。俺たちと攻略組、何が違うんだろう?」

「……ンー、そうだな…………情報量、かな?」

「でもキリト。ディアベル達は全層の情報は全て公開してるから、それは大差ないんじゃない?」

「まあ、確かに……後は、プレイヤースキルとか、細かい所だろうな」

「そうか……俺は、やっぱり意志力だと思うんだ。仲間を守り、このアインクラッドにいる全プレイヤーを守ろうって言う意志の強さ……アインクラッドを攻略して、この世界から脱出する…そして、全プレイヤーを解放するっていうね。まだ俺達は守ってもらう側かもしれないけど、気持ちじゃ負けてないつもりさ」

ケイタはキリトとユージオの前で熱弁してみせた。それはまるで子供のような純粋な夢だった。

「さっすが、俺達のギルドリーダーだな!目指せ迷宮区ってか?」

「それも夢じゃないね!」

「うっひょー!そうなったら女子にモテモテなんだろうなー!」

ケイタの熱弁を聞いたダッカー達が口々にもて囃す。

「……一部盛大に勘違いしてるような気もするけど……でも夢じゃないよ。なれるさ」

まだ初々しい月夜の黒猫団のメンバーは、キリト達にとってとても眩しいものだった。前の自分達……第一層のボス攻略戦の時を思い出させる。

「先輩!」

ロニエ達がこちらに戻ってきた。どうやら話は終わったようだ。

「よし、それじゃあお昼ご飯を食べ終わったらまた一狩り行こうか」

『『おー!』』

こうして月夜の黒猫団とキリト達はレベル上げに勤しんだ。そのおかげでレベル的には攻略組との差は二、三レベルとなり、攻略組参加も目前に迫っていた。

 

そして、あの日も迫りつつあった。

 

 




次回《未来(ハッピーエンド)》来たれり》


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未来(ハッピーエンド)》来たれり

遅くなりました、クロス・アラベルです!
今回、月夜の黒猫団編が終わります!うまくまとめられたかちょっと不安ですが、書きました。
それでは、どうぞ!


 

 

 

 

それから一週間後。サチが一時行方不明になると言う事件があったもののキリトとロニエの説得により、戻ってきてから4日、計11日後には月夜の黒猫団のレベルは攻略組に並ぶ程の数値まで上がり、武器や防具のグレードもそれ相応に上がった。それに比例して資金も溜まり、小さなホームが一つ買えるほどになったので月夜の黒猫団一行は念願のホームの購入に踏み切った。ホーム購入祝いとしてユージオ達もいくつか家具を買って送ろうと話しているが、これはギルドのみんなにはまだ話していない。サプライズとして用意するのだ。

ギルドリーダーのケータが不動産NPCの居る始まりの街へ向かうのを見送った月夜の黒猫団はほぼゼロになったギルドの貯金残高を見て顔を見合わせ苦笑いするのだった。

サチ行方不明事件からと言うもの、彼女は戦闘に積極的に参加し、前衛を務めた時もあった。顔つきも少し変わっているように見えた。優しい性格は相変わらずだが。盾持ち片手剣への転向は取りやめになったが、今までより一層活躍して他のメンバーを先導しているようにも見えた。

その一部始終を見ていたユージオは、これから起こるであろう戦いに想いを馳せていた。この件についてはロニエとティーゼには話してあるので二人も戦闘準備は万端だ。

そしてついに_____月夜の黒猫団の一人であるダッカーが残ったサチ達とキリト達にある提案をした。

「なあ、みんな。もうこの通りコルも使い果たしちゃったしさ、家具を買うコルを迷宮区へ稼ぎに行かないか?」

ユージオはこの言葉を聞いて、覚悟を決めた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

「……どこのなんだ?」

「そうだな……27層は?」

「ちょっと待ってくれ、行きすぎじゃないか?いくらみんなのレベルが上がったとしても、行ったことのない迷宮区での戦闘は……」

その言葉を聞いたキリトがダッカーの言葉に反対する。いうことはごもっともだ。確かに迷宮区は稼ぎがいい。レベリングも比較的しやすいだろう。だが、それと同じように危険も伴う。ダッカーが言った26層の迷宮区はレベル的に彼らでも行けないことはないが、あそこは他と毛色が違う。

「……いや、キリト。月夜の黒猫団だけなら確かに危険過ぎるけど、僕らが行くんだ。僕らなら一度行ったこともあるし、どんなものがあるのかも把握済み……いいんじゃないかな?」

「……確かにそうだけどさ…」

やはり迷宮区の恐ろしさと言うものを味わってもらうべきだとユージオは考えた。彼らは迷宮区に入ったことはほとんどなく、普通のフィールドでレベリングをしていたらしい。

「ただし、条件がある」

だが、ユージオもただでは行かせない。断りを置いて、ユージオは条件を出す。

「絶対に生きて帰ること……ただそれだけだよ。一人も欠けずにね」

ユージオが真剣な表情でサチ達に言うと彼らはニヤりと笑いながら答えた。

「当たり前だろ?上手いこと稼いでケータの奴を驚かせてやる!」

「望むところだよ!」

「安全第一、だろ?わかってるよ。絶対帰ってくるから!」

自信満々なその表情に呆れながらユージオは迷宮区に行くことを承諾した。

「ケータにはこのタフトの街で待ってもらうことにして……さあ、出発しようか」

『『おおおー!』』

「……大丈夫、だよな」

「大丈夫ですって!私達もいるんですから」

不安がるキリトをロニエが宥めると言う珍しい光景にティーゼが少しニヤリと笑った。やはり、こっちの方も遅いが着実に進んでいるようだ。

 

 

 

 

 

 

「始めに言っておくが、この層の迷宮区は他とは毛色が違う。トラップがかなりの数仕掛けてあるから、安易に迷宮区の物を触らないでくれ」

「この層の迷宮区は比較的に他とレベルが低めに設定されてるそうなんですが、私達攻略組はこのトラップの群生地に苦しめられたんです」

キリトとロニエの説明が響く迷宮区。迷宮区の入り口を入って3分。一階にはトラップは設置されていないものの、やはり腐っても迷宮区。かなり入り組んでいるし、マップがなければろくに進めない。この迷宮区はそれにプラス大量のトラップがあるのだがら、嫌われるのも無理はない。それにここ(この迷宮区)のトラップは一日に一度総替えされてしまう。迷うわ、トラップに引っかかるわ、トラップの位置を覚えても一日ごとに更新されてしまうという悪魔のようなこの迷宮区はプレイヤーからは『レベリング殺し』という異名で知られる。なので、この迷宮区をレベリングとして利用するプレイヤーはほとんどいない。そして、攻略組である『血盟騎士団』の副団長、細剣(レイピア)使いのアスナでも全フロアのマッピングを諦めた程なのだ。

「そんなとこだったんだ……私も知らなかった…」

「へー……ってことは、まだ見つかってないお宝もあるかもしれないってことだよな?」

「……そうだね」

「そうと決まればお宝探しだ!攻略組さえ見つけられなかったものが眠ってるとはな……!」

「楽しみだな!」

「まあ、その都度その都度確認も入れながらだよね?」

「ああ」

「……言っておくけど、みんな。攻略組が知らないとなると、そこからは未知の世界……どんなトラップがあるからわからないから気をつけてほしい。攻略組でさえ知らないトラップもある可能性は、十分にあるから」

攻略組も知らないところに行くかもしれない、そんな事実に期待を膨らませる四人に冷静に忠告するユージオ。いつにも増して真剣だ。

「わ、分かってるって…」

「……じゃあ、行こう」

ユージオ達はそのまま迷宮区を進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここまで変なトラップには引っかかってないな」

「そうだね……このまま行けばいいけど…キリトはどう思うの?」

「仕掛けさえ分かっていれば、対処は出来る筈なんだ。なんとかなるさ」

「そうですよ。何かあった時のために私達がいるんですから」

迷宮区に潜ってから十分。ユージオ達は迷宮区五階にまで到達していた。ここからがアスナ達攻略組がマッピングを諦めたところだ。現在、前衛にユージオとティーゼ、中衛にサチ達、後衛にキリトとロニエがいる。サチは来たことのない場所に少し不安を感じ、それに耐えきれずキリトに話しかけたようだ。

「………ここだ」

「……!」

先頭にいたユージオが小さな声でティーゼにそう告げた。

「……本当、ですか?」

「うん、多分この先にある筈だと思う。この景色、記憶にあったところだよ」

「……分かりました」

ついに辿り着いた。記憶の場所に。

さあ、気を引き締めて……と言おうとしたその時。

 

「あ、こんなところに隠し扉があるっぽいぞ!」

ササマルがそんなことを言い始めた。

「!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ユージオからあまり無闇に触るなって言われてただろ?」

「大丈夫だって!このタイプの隠し扉は攻略本で見たことあるしな」

ダッカーがそう言って扉の前で右、左、上、右とタップすると、壁のように見えていたものが開いた。

「よっしゃ、開いたぜ!」

ダッカーの言葉と同時に三人が入っていった。それにすかさずユージオ達も入る。

全員が入った時、すでにダッカーは宝箱を開けようとピッキングしていた。これから、始まるのだ。キリトを未来永劫縛り付けるであろう、過去が______

 

ダッカーが宝箱を開けた直後、ルーム全体にけたたましいアラームが鳴り響く。入り口は閉じられ、四方八方からモンスターがポップし、側面の四ヶ所からモンスターがどんどん出て来る。

月夜の黒猫団の四人はその現象に驚き、夥しい数のモンスターに圧倒され、恐怖した。

だが、ユージオ達は違った。冷静に剣を抜け放ち、モンスターに剣先を向ける。そして、ユージオは呆然とするキリトにアラームより大きな声で叫ぶ。

「キリト、トラップを破壊‼︎」

その喝でキリトは我に帰り、背中の片手剣を鞘走りながらトラップである宝箱をソードスキルで破壊した。

直後、アラームが鳴り止み、側面の四ヶ所のゲートが閉じられ、モンスターのポップも止まった。

「……数は、43体…か」

ピッケルを持ったゴブリンと岩でできたゴーレム、合わせて43体。一人五体倒しても足りない。だが、今のサチ達の実力は過去を大きく超えているのだ。活躍は見込めるだろう。そして、こちとらキリトだけでなく攻略組が三人もいる。

「……ここからが正念場だ!みんな、生きて帰るよッ‼︎」

ユージオの喝の直後、八人全員がモンスターに斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

その後、ユージオ達は一人も欠ける事なくケータの元に帰還した。全員のHPゲージは黄色にもなっておらず、回復アイテムを一つも使っていなかった。一番活躍していたのはサチだろう。片手槍を駆使して敵の攻撃を翻弄し、テツオやキリト達のアシストに努めた。

事の顛末を聞くやケータは今までにない程激怒し、サチを除く三人を叱った。油断して宝箱を開けたダッカーに関してはこれから一ヶ月間エールを飲むことを禁止された。その場にダッカーが崩れたのは、言うまでもないだろう。

「全く……ごめんな、キリト、ユージオ。迷惑かけちゃって…」

「そんなこと気にしてないよ。全員生きて帰ってこれただけでいいんだ」

「俺も焦って対応できてなかったから何も言えないさ。礼はユージオに言うべきだ。ユージオのお陰で生きて帰ってこれたんだ」

「…違うよ。ダッカーやササマル、テツオだって頑張ってたよ。特にサチはね」

「そう、か……本当にありがとう。この恩は必ず返すよ」

ケータはロニエとティーゼと笑顔で話しているサチを遠目に見ながらそう言った。

「……そうだ、ホームも買ったし、キリト達には世話になったからね。今夜はパーティーにしよう!」

『『待ってましたー‼︎』』

「でもその前に家具を買わないとね」

「あ、忘れてたな……でもお金が…」

「稼いできたぜ!家具くらい一式買えるぞ!」

「いや、家具なら俺達が買うよ。ホーム購入祝いにな」

「えっ、まじかよ、キリト‼︎」

「結構貯めたからな。ベットにテーブル、椅子とか……その他諸々込みで俺達が払うよ」

「その代わり、パーティの材料代はそっちが出してね?」

「それくらいなんてことないさ。あいつらが稼いでくれたみたいだし……」

「それじゃあ今夜は、腕によりをかけて作らないとダメですね!」

「よーし……先輩やケータさん達に一泡吹かせられるぐらいの料理を作るわよ!」

「そうだね!私も、頑張らなきゃ…‼︎」

 

温かい光景。キリトの過去には無かったもの。キリトを縛っていくであろう過去()は砕け、新たな未来が始まった、そう感じたユージオだった。

 

 

 

 

 

 

キリトの過去を変えたユージオは安心しきっていた。勿論、これから起こる様々なことを乗り越えていく、そう覚悟を決めている。だが、ユージオは知らない。

 

 

避けたその不幸が、他の者に降りかかってしまったことを。

 




ユージオ「皆さん。少し遅くなりましたが、ソードアートオンラインアリシゼーションアニメ放送が始まりましたね」
ロニエ「私達アンダーワールド人が活躍するところをアニメで見られるなんて、本当に嬉しいです!」
ティーゼ「まあ、私が一番嬉しいのは動くユージオ先輩が見れたことね。小さい頃のユージオ先輩、可愛かったぁ…」
ロニエ「うんうん……キリト先輩は変わらずやんちゃだったみたいだけど、凄く可愛かったね…」
ユージオ「……本人の前で言うの?それ」
ティーゼ「やっぱり緊張しましたか?早くも2話で出演しましたけど…」
ユージオ「まあね。本当に懐かしかったよ。あんな風にギガスシダーを切ってたのを思い出せたね」
ロニエ「しかも、次回は何やら戦闘シーンが入るみたいですね」
ユージオ「ま、僕はそんなに活躍しないけど」
ティーゼ「キリト先輩とユージオ先輩の始まりのお話ですからね。本当に楽しみです!私達はまだ出るのは後の方ですから…」
ユージオ「でも、二人ともオープニングに出演してたでしょ?」
ティーゼ「それはそうですけど、一瞬じゃないですか」
ロニエ「出られたのは嬉しかったなぁ…」
ユージオ「このペースだと第8話くらいで出られそうだね」
ロニエ「あと少しですね」
ティーゼ「ちょっと緊張するわね……台詞の練習しとかなきゃ」
ユージオ「皆さんもアニメはご覧になったでしょうか。作者は毎週見ているそうです。第4話もあと少しで放送なので、皆さんも楽しみに待ちましょう!」
ロニティー「そして、この『時を超えた青薔薇の剣士』シリーズもどうぞよろしくお願いします!」
ユージオ「次回は時間軸を少し戻ってのお話になりますそれでは次回お会いしましょう!」


次回『勇気の結晶』


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迷いの森と子竜使いの少女

大っっっっ変お待たせしましたッ!クロス・アラベルです!
今回は原作アインクラッド2のストーリーになります。ただしキリト目線ではあまり書かないかもです。
それでは、どうぞ!


 

 

 

『迷いの森』

それは35層にある森林系ダンジョンだ。大きな樹々がうっそうと立ち並ぶこの森は碁盤状に数百のエリアへと分割されており一つのエリアに入ってから1分経っと東西南北の隣接エリアへの連結が無作為(ランダム)に入れ替わってしまう。それに加えてその森で転移結晶を使っても街には飛ぶことが出来ず、この森の何処かのエリアへランダムにワープする。中には使う前と同じエリアに飛んだというプレイヤーもいる。そのおかげで地図を持っていないとそこから脱出するのは難しい。今までもこの森で地図を持たずに入っていったプレイヤーの多くは自力で森から帰ってこなかった。

あの攻略組でさえそれを恐れていたのだ。だが、その事を事前に調査して知っていたため、その前の街で情報を集めてその森の地図が売っている店に行き、大量に地図を買い込み、攻略組は安全にその森を抜けた。

その後も地図を持たずにその森に入って帰ってこれなくなったプレイヤーがいた。その為、攻略組は攻略組から地図を持った何人かを派遣し、この森に迷い込んでしまったプレイヤーを救助する、通称《迷子探し(ロストシーカー)》という仕事が出来る程この森は複雑にプログラムされている。

そんな曰く付きの森を抜けるためには地図が必須。それさえあれば迷うことなく抜けることが出来る。だが、その地図を全プレイヤーが持ってるかと聞かれれば、そうではない。パーティの中でも持っていないものがほとんどだろう。パーティの内1人が持っていればいいのだから。

「…っ!」

そして、少女___シリカは今更ながら後悔した。そんな森の中に1人歩いている状況に対して。

 

今考えれば些細なことだったのかもしれない。彼女はとある理由で中層付近では人気者だ。その可憐な容姿も相まって中層のアイドル的存在になっていて、パーティに誘われるのはしょっちゅうだった。

そして、二週間前、あるパーティに誘われた。男性プレイヤー4人に女性プレイヤーが1人いる、なんの変哲も無いパーティだった。『一緒に迷いの森でトレジャーハントしよう』と誘われた。断る理由も無かった。だが、パーティに加入し、森に入ってから後悔した。もう1人の女性プレイヤーのロザリアが夕方、順調にコルも稼げたので帰ろうとした時、こう言った。

「帰ってからのアイテム分配だけど、あんたはそのトカゲが回復してくれるからヒール結晶は必要ないわよね」

これにはシリカも黙ってはいられなかった。

「そういうあなたも、ろくに前衛に出ないで後ろから槍で突いていただけのように見えましたけど?私の武器は短剣です。基本的に前衛か中衛の遊撃しかこなせないんですから、私にはクリスタルが必要です!この子が回復してくれるとはいえ、クリスタルに比べればほんの少しです。あなたこそクリスタルが必要ないんじゃないですか?」

 

彼女が中層人気を博している理由、それは使い魔___テイムモンスターがいるという事だ。このSAOでは稀に攻撃的(アクティブ)モンスターがプレイヤーに友好的な興味を示してくる事がある。その機を逃さず、餌などで《飼い馴らし(テイミング)》に成功するとそのモンスターはプレイヤーの《使い魔》として様々な手助けをしてくれる。そんな稀有なプレイヤーは賞賛とともにやっかみを込めて、《ビーストテイマー》と呼ばれた。彼女もその一部だ。この使い魔獲得イベントが起こる確率は限りなく少なく、《同種のモンスターを殺しすぎていると発生しない》事が最近分かった。使い魔となり得るモンスター____殆ど小型モンスター____を狙って遭遇しても九割九分のモンスターがアクティブ状態であり、戦闘は避けられない。故意にビーストテイマーになろうものなら対象モンスターと数え切れないほど遭遇(エンカウント)し、イベントが起こらなかった時は全て逃亡しなければならない。そんな途方にくれる作業、誰がしようとするだろうか。しかし、シリカはそのイベントに偶然遭遇したのだ。何という幸運か。

種族名《フェザーリドラ》。ペールブルーのふわふわとした綿毛で身を包み、尻尾がない代わりに二本の大きな尾羽を伸ばした小さなドラゴンだ。しかもこのモンスター、そもそも滅多に現れないレアモンスターで、フェザーリドラに会う奇跡とテイミングイベントに会う奇跡、その二つが生んだ正真正銘の《奇跡》だった。

現実世界で飼っている猫の名前を取ってピナと名付けられた子竜はロザリアと喧嘩になったその時もシリカの頭の上で主人と共に怒っていた。使い魔は単なるAIで構成されているのだが、こう言う時の行動は不思議と普通のペットに似ている。

その後散々口喧嘩をした後、彼女はそのパーティを脱退し、1人でヤケになって森の奥へと入っていった。

 

それから二時間、彼女は森を彷徨った。幾度となくモンスターに出会い、その度に戦闘になった。徐々に彼女の疲労も溜まり、その度にダメージを受け、ポーションやヒールクリスタルを使った。この迷いの森は35層と中層に位置し、決してシリカが手こずるモンスターがいる訳では無い。

『きゅるるっ‼︎』

「……三体、?」

テイムモンスターにはそれぞれの特殊能力がある。その内の一つが索敵能力だ。プレイヤーにモンスターの接近を知らせてくれる。ピナはモンスターが近づいた事を鳴いて知らせた。索敵スキルによるとモンスターの反応が三つ。森の奥から姿を現したのは3メートルはあろうかと言うゴリラだった。瓢箪のようなものを背負い、粗末な木製の棍棒を持っている。ゴリラ型モンスターの《ドランクエイプ》。この迷いの森では最強に部類されるモンスターだ。だが、シリカは十分安全マージンを取っているので苦戦するような相手では無い。

「はあああッ‼︎」

シリカは戦闘を余儀なくされた。疲れた体に鞭を打ち、短剣を閃かせた。

まず前にいた一体にソードスキルを叩き込み、集中攻撃しHPゲージをレッドゾーンまで追い込む。すると、横からもう一体がシリカの目の前に入ってきた。レッドゾーンにまで追い込んだ方は後ろに下がってしまったので目標を目の前にいる二体目に変える。

「セイヤァッ‼︎」

またレッドゾーンに追い込むも先程と同じように最後の一体が横槍を入れてくる。その間に二体目は後ろに下がってしまった。そして、何故か無傷のドランクエイプ二体がシリカを襲ってきた。

「ッ⁉︎」

シリカは攻撃を回避して状況を確認する。

「え⁉︎」

シリカは数が増えたのかと思っていたが、それは違った。数は増えていない。後ろにいるドランクエイプHPゲージをよく見てみるとなんと回復している。手に持っていた瓢箪の中に回復薬(ポーション)が入っているようでそれを飲んで回復している。このモンスターの特徴はこの回復行動だ。二体から三体のドランクエイプは低レベルながらもお互いに連携を取ることが出来、初見のプレイヤーはこれによく驚く。この回復行動をさせない為に速攻で確実に倒さなければならないのだ。

シリカはこのモンスターと何度か戦闘しているがこんな経験は初めてだった。シリカが過去にこのモンスターと遭遇した時、パーティを組んでおり、この回復パターンを見ることなく素早く倒していたのだ。その為、この回復パターンをシリカは知らなかった。そして、彼女はソロプレイに慣れておらず、戦いにくい状況下での戦闘だった。

「っ!」

その間もドランクエイプの猛攻は続く。それでもシリカは三体目のHPゲージをイエローゾーンまで削り取った。

そして、トドメを刺そうと連続技のソードスキルを繋げようとしたその時、無理にソードスキルを発動しようとしたのが祟ったのか、上手くソードスキルを発動出来ず、空振りに終わってしまった。

それをモンスターが見逃す筈も無く___

『グルォオオオッ‼︎』

「きゃあっ!?」

ドランクエイプの攻撃がクリティカルヒットした。自分のHPゲージを見ると3割近く減っている。

レベル的にはこちらの方が上だが、ドランクエイプの持つ棍棒は木を削ったままの粗末な物だったが、その重量による基本ダメージとドランクエイプの筋力補正並びに片手棍スキルによりダメージが予想以上に高かった。

直後彼女の背筋に冷たい何かが走った。

このダメージ量だとあと3回食らえば____そう考えるだけで体が動かなくなる。辛うじて右手を動かし腰にある回復アイテムを使おうとするが、前の戦闘で回復アイテムを全て使い切ってしまった。

逃げようとするが、体は動いてくれない。当然だ。まだ齢十三歳、現実なら中学一年生なのだ。死の恐怖を直接感じた事など一度もない。

「…ぁ、あぁっ___」

『グルゥオォォオオ‼︎‼︎』

「がッ______⁉︎」

また一撃受けた。今度は通常攻撃ではなくソードスキルだ。先程よりダメージ量が多い。あと残るHPゲージは3割、イエローゾーンに突入した。先程のソードスキルを食らえば一撃で終わる。

顔が恐怖に染まり、きゅっと目を閉じた。その時_____

 

「きゅるるるっ!_________きゅ____」

 

鳴き声とともに何かが重い鈍器のようなもので殴られたような音と共に苦しそうな悲鳴が聞こえた。

 

「_______」

 

____信じたく無い。

その一心でゆっくりと目を開ける。彼女はゆっくりと錯覚したが、現実的には一瞬だった。

宙を舞う小さな一対の翼を持った体。()()は彼女の目の前に落ちてきた。

それは_____

 

彼女の心を支え続けた、《相棒(ピナ)》だった。

 

 

「________ピナぁッ!?」

すぐさま小さな腕で抱く。残酷にもドランクエイプの一撃でHPゲージが全て削られてしまったようだ。だが、このSAOではHPゲージは瞬間的に削れるわけでは無い。とても短いが、ゲージが削れるのにも時間がかかる。

使い魔とその主人に許された一瞬の猶予。その一瞬、ピナは主人(シリカ)を無垢な瞳で見つめて、目を閉じた。

そして、ピナはその小さな体をまるでガラスが割れるように儚く消えていった。

「嫌……私を置いていかないでよ!ピナ‼︎」

儚く散るポリゴン片をつかもうととする彼女だが、それは出来なかった。

『グルオオ……!』

悲しみにくれるシリカに追い打ちをかけるようにドランクエイプが棍棒を振り上げた。

が、それは振り下ろされることは無かった。

「_____?」

ドランクエイプはシリカの目の前で止まり、ポリゴン片となって消えていった。その直前に見えたのは白銀の一筋の閃光。

そこに立っていたのは______

 

 

黒髪の剣士だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、キリトからメッセージだ」

35層の主街区、そこにユージオ達はいた。

「誰か見つけたんですか?」

「みたいだね。これで今日の迷子探し(ロストシーカー)は終わりかな?」

「ですね。あと五分で交代ですし…」

今日はユージオ達の迷子探し(ロストシーカー)の当番だった。当番は2日置きに変わり、だいたい四、五人で回す。なので今回はキリト、ユージオ、ロニエ、ティーゼのいつものメンバーで来たのだが、ひとかたまりになって探しても効率が悪いということで、全員ばらけて捜索していた。その後、今日も計十人そこそこを無事森から連れ出し、残るはキリトが帰るのみとなったところで、キリトから迷子(ロスト)を発見したとメッセージが送られてきたのだ。そして、今回ユージオ達がここに来たのには迷子(ロストシーカー)の通常の理由ではなく、特別な理由があった。

「……ビーストテイマー、ですか」

「うん。キリトの記憶にあった通りだ」

そう、ユージオはここに取り残された少女がキリトに救われるというキリトの記憶を見たのだ。そして、その後に起こるであろう事件も。

「……よし、今回は話し合った通り、キリト一人に護衛を任せて僕らは例の《タイタンズハンド》がキリトとその娘を追うのを僕らも追うよ」

「…本当にそうするんですか?相手はレッドプレイヤーですし、キリト先輩の方がレベルが高いとは言えやっぱり私達もキリト先輩と一緒に行った方が…」

「大丈夫。彼らがキリトとその娘を襲うのは例のアイテムを手に入れたあとだから。ロニエ、そんなに心配しなくてもキリトはそんなやわじゃないよ」

「ですが……」

「大丈夫よ、ロニエ。キリト先輩がそこらの人に倒されると思う?」

「……思わない、けど………それでも万が一のことがあったら…」

「もうっ、キリト先輩を信じなさいよ!」

「……うん」

このユージオの提案にロニエはずっと不安を感じていた。やはり想い人が危険に晒される……もとい一人にするのは心配なのだろう。だが、本当の理由はそうではない。

「ユージオ先輩、あの事って知ってます?」

「あの事?」

ティーゼがロニエに聞こえないようにユージオとコソコソ喋る。

「……ロニエがキリト先輩のこと好きってことですよ」

「ああ、そのことね。一応知ってるよ。まあ、今までのキリトに対するロニエの行動を見てたらね」

「……(なのに私の想いは知らないんですか……?)」

「え?何か言った?」

ティーゼのボソリと吐露したユージオへの不満はユージオに聞こえなかったようだ。

「いえ……その、好きな人が他の異性と二人きりってなんだか不安になりませんか?もどかしく思ったりイライラしたり……」

「確かに感じたことはあるね」

「……今、ロニエはそれなんですよ」

「…ごめん、空気読めなくて……」

「いえ、まあ、自覚があるのなら日々意識してくれると助かるんですけど…」

ユージオは完全に理解したようで、今度から気をつけようと思った。

そして、ティーゼはユージオの好きな人が他の異性と二人きりになってイライラしたことがあるという事にすこしショックを感じた。

「じゃあ、キリトが戻り次第、キリト達の尾行に移ろう」

こうして、キリトとシリカ______この時点で三人は彼女の名前を知らないが______を見守る作戦がスタートした。

 

 

 




まさか、もうアニメ人界編最終回ですか……(´-ω-`)
ユージオぉ(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)


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片思いの少女(ロニエ)は見てる

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は短めです。はい|ω・`)
そして、アニメが終わっちゃいましたね。ユージオ………
新しくアリシゼーションのゲームが発表されました。ロニエティーゼとの添い寝あるといいですねぇ
それではどうぞ!


 

 

 

 

「あ、来たよ」

キリトからメッセージが送られてきて数分後、キリトが少女を連れて主街区に入って来た。

「あの子がキリト先輩の記憶にあった……」

「うん。ビーストテイマーらしいよ。あの様子だと使い魔の方は死んじゃったのかな…」

「キリト先輩の記憶でもそうだったんですよね?」

「使い魔の子竜が死んだ直後にキリトが駆けつけたって感じだね。今回もそうみたい」

町に入って来たキリト達からは見えないようにユージオ達はカフェの端から見ていた。

「もう夜だし、一応宿を取っておこっか」

「そうですね。あそこの宿でいいですか?」

「うん、どこでもいいよ」

ユージオとティーゼが話している間にもキリト達は歩みを進めている。どうやらどこかの宿に向かうようだ。

「……」

ユージオ達が宿に向かおうとした時、キリトと少女に何人かの男性プレイヤーが話しかけて来た。少女を何かに勧誘しているのか、少女は困った顔でそれをやんわりと断っているようだ。すると一人の両手剣を背負った大柄なプレイヤーが前に出てキリトに向かって睨みつけながら何かを言った。かなり離れてしまっているロニエ達は何を言っているのか聞こえないが、友好的な言葉を言っていないことは確かだ。

「……っ‼︎」

「待ってロニエ!早まるのはやめなさいよ!まだ手を出されているわけじゃないんだから…!」

「ろ、ロニエ、落ち着いて……!大丈夫だから!剣を鞘から抜こうとしないで!?」

瞬間、ロニエは腰の鞘から剣を抜こうとしていた。ユージオとティーゼがそれを止めようとする。

「…すいません」

「いや、思いとどまってくれたからいいよ」

それから少女とキリトはそのプレイヤー達と別れて、北のメインストリートへ入っていき、とある宿に来た。

するとそこでとあるパーティと遭遇する。

「あのパーティって……」

「どうかしたんですか?」

「いや、あのパーティに一人赤い髪の女の人がいるでしょ?その人がキリト達を襲ってきたメンバーの一人なんだよね。確か、名前は……ロザリア、だったかな?」

「え…⁉︎」

「他のメンバーは違うみたいだけど、用心しておいた方がいいかもね」

その一行は素通りするかと思われたが、赤い髪の女____ロザリアがシリカを見ると、歪んだ笑みを浮かべながら少女に話しかけた。少女は肩をビクリと強張らせながら振り向き、ロザリアに何かを言い返す。ロザリアは気持ち悪い笑みを絶やさず、何かを言った。すると少女は視線を落とした。途中でキリトが不敵な笑みを浮かべながら何かを言った。ロザリアはキリトを一瞥し、馬鹿にしたように何かを言った。

「……ッ‼︎」

瞬間、またロニエが剣の柄を取ろうとする。

「ロニエ!何回言ったらわかるのっ!?」

「だって、あの人が、キリトを馬鹿にしたんだもん…!」

どうやらロニエにはあの女とキリト達の会話が聞こえているようだ。距離的にユージオ達でも聞こえないのだからロニエでも聞こえない筈なのだが____

キリト達はその女と喧嘩になるなんて事もなく、宿の中へ。

「じゃあ僕らは別の宿に泊まr「尾行しましょう」えっ!?」

「ろ、ロニエ?もう宿の中まで行ったんだから私達が行く必要n「行こう」……ロニエ!?」

「…ロニエ。僕らはキリト達が安全に宿まで行くのを見m「行きます」ちょっ…!?」

ロニエは二人の言葉を無視してキリト達が入った宿に向かった。

「と、止められなかった…」

「早く行きましょう!あの娘、キリト先輩のことになるとちょっぴり暴走しちゃうんですよっ」

「あれのどこが『ちょっぴり』なの!?」

ユージオとティーゼも慌てて追いかけて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……ロニエ。二人が食事を終えて部屋に入ったら僕らも別の宿に行くからね?」

「はい」

宿の一階にあるレストラン。そこにユージオ達はいた。離れたところにキリトと少女(シリカ)が座っており、ユージオ達はキリト達の反対側、店の隅に席を取った。

「なにを頼むの?やっぱりここで何もせずにいたら変に思われるし、この際だ、夕食も済ませちゃおうよ」

「そうですね。じゃあ私は……」

ティーゼとユージオが店のメニューを見ながら何を頼むかを話している時もロニエはキリト達を見ている。

「……」

キリトは少女に何かを聞かれそれに答えている。苛立ちを隠せずにいるようだ。

すると少女が咄嗟にキリトの手を掴み、何かを言った。もう一度言おう。()()()()()()()()何が言った。少女はキリトが顔を少し赤くしながらも微笑んだのを見て真っ赤になった。

「………っ」

ロニエは先程と同じような行動は取らないが、やはり気持ちは表情や態度に現れる。ロニエはそれを見てぷくりと頬を膨らませて拗ねるようにテーブルに肘をついて不機嫌そうにしている。

「ロニエはどれにすr……ロニエ。あんまり見過ぎない方がいいわよ。変に思われるし…」

「でも…」

「さ、夕食を済ませて私達も寝ましょう。明日もついて行くんだからしっかり食べて休むのよ。キリト先輩にはそれとなしに書いておいてくださいね、ユージオ先輩」

「うん。多分明日は、思い出の丘に行くだろうから大体は予想がつくけどね」

ロニエはメニューを見て適当に選び注文した。ロニエは味が分からなかったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

「キリト先輩の、バカ……」

ロニエは一人、宿の一室で独り言ちた。

こう言うことを言っている場合ではないとはいえ、やはり片思いの相手が他の異性といると落ち着かない。ロニエは改めて自分が(キリト)に惚れていることを再認識したのだった。

 

 

 



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許されない殺人(こと)

お待たせ致しました!クロス・アラベルです!
今回でシリカ編終了になります。言っておきましょう。ロニエキャラ崩壊してます。怖いです。怖いです(大事なことなので2回言いました
最近気づいたのですが、ソードアート・オンラインの公式10周年のホームページに作中年表があったので見たのですが、シリカ編の前に色々とお話があるみたいですね……もしかしたら最新話より前のお話をまた書くかもしれません…紛らわしいかもしれません、ごめんなさいm(_ _)m
それでは、どうぞ!


 

 

次の日、ユージオ達はキリト達より少し早く起きて宿の前で待機していた。

「キリト先輩はなんと?」

「9時から思い出の丘を目指して出発するって。多分お昼には帰って来れそうだよ、彼ら以外にキリト達を狙ってる人がいなければの話だけど」

昨日、キリトと連絡を取り行く時間を聞き、ユージオ達はそれに合わせて誰も尾行してこないかを見ると言ったのだがキリトは

『大丈夫だ。アルゴの情報によると奴らのレベルは50を超えるか超えないからしいから、何人来ようと俺一人で十分だよ。レベル差もあるし、ユージオ達は奴らが出てきて、俺が合図したら出てきてくれ。多分奴らはプネウマの花をゲットした後……モンスターの出現するフィールドから街へ入る直前を狙ってくると思う。だからあまり手は出さないでくれ』

との事だ。確かにそれはユージオも理解出来たが、それで大丈夫なのだろうかと心配にもなったりする。もちろんキリトが負けるとは思っていない。だが、無意識に心配もしていた。

ユージオが見たのはキリトの過去であって今現在に起こると決まったことでは無い。

確かにキリトのレベルは過去よりも高いが、ロニエは不安を抑えられないようだ。

ユージオ達が集まって数分後にキリトと少女__シリカは宿から出てきて、転移門へと向かった。

「じゃあ僕らも行こう。転移、フローリア!」

キリト達が転移門でフローリアに向かったのを確認し、ユージオ達は5分後に転移門でフローリアへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここで待とう。多分キリト達は思い出の丘に向けて出発した筈だからね。思い出の丘でプネウマの花をゲット出来たらキリトから連絡が来るはずだから……」

「わかりました。それまでどうします?」

「レベリングでも行きたいところだけど…流石にそれをすると時間がかかっちゃうし」

「……私は、ここで待ってます」

「そうだね。あまり目立たないように暇を潰そう。もしかするともう彼らが来ている可能性もある」

「じゃあ、ユージオ先輩は、ティーゼと2人でいてあげてください」

「え?」

「ロニエ!?」

「ここはカップルがデートスポットとしてよく来るところです。3人でいるのも変ですし、お二人の方が似合ってますしね」

ティーゼが顔を赤くしながらパニくるのもお構い無しにロニエは爆弾発言をした。

「……っ!?」

「……///////」

「ティーゼといる方が自然でいいですよ?変に思われないでしょう。私は適当に暇を潰しますから…」

「……っじゃあ、この安全区域から出ないようにしようか。キリトから連絡が来たらこの噴水前に集まろう。すぐロニエにもメッセージを送るから」

「分かりました。それではまた後で…」

ロニエはそう言って花畑の方へ行ってしまった。

「……」

「……心配なんだろうね。」

「ええ。ロニエってば、キリト先輩の事になるとああなっちゃうようになりましたね。ここに来てから…」

ユージオの言葉にティーゼは顔を赤くしながらも答える。

「まあ、心配することも無いさ。キリトのことだから彼らに襲われても死ぬことは無いだろうしね」

「『バトルヒーリングスキル』……ですよね」

少し不機嫌になりながらキリト達が持つスキルをティーゼが言った。

「うん、レベルは相手の方が俄然低いから、十分あのスキルの自動回復がダメージの総量を上回る。そうなればキリトを殺すのは無理だよ。たとえダメージ毒を使っても麻痺毒を使って抑えてもね」

「先輩達はおかしいですよ。あんな危険なスキルの熟練度上げ……わざとモンスターからの攻撃を受けるなんて!」

頬を膨らませながら怒るティーゼ。

「とは言っても君だってスキルは持ってるでしょ?」

「先輩達程熟練度は高くありません。って言うか、何なんですか熟練度700超えって……あんなの到底出来ません!」

冷や汗をかくユージオを叱りつけるようにティーゼは声を荒らげながら言う。

「スキル自体が特殊だからね。そうするしかないんだし…」

「今度から控えてくださいね?」

「……善処するよ」

「そういう所、キリト先輩に似てますよねぇ」

「えー?」

「似て欲しくないところが似てきてるって気づきました、この頃」

「そう、かな?」

「1年半もお傍にいれば自然に分かりますよ」

はぁ、とティーゼは嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、それは来た。

「キリトがプネウマの花をみつけたみたいだよ」

「分かりました。ロニエにメッセ送りますね」

「頼んだよ」

『プネウマの花を無事に発見した。もうすぐ帰路に着くから準備よろしくな、ユージオ』

問題なくキリトとシリカは例のアイテムを手に入れたようだ。本番はここから____

「メッセ送りました」

「ありがとう、あとはロニエが来るのを待って…」

「さあ行きましょう」

「え!?いつ来たのロニエ!?メッセは今さっき送ったってティーゼが…」

ユージオがロニエがいつの間にかティーゼの隣にいて驚いた。もちろんそれにティーゼも気づけてなかったようでティーゼもびっくりしている。

「頃合かなと思ってきてみたら、案の定って感じです」

「そ、そうなんだ…」

女の勘、というのは恐ろしくも的中率が高いのだということをこの時ユージオは改めて痛感した。

「じゃあ行こう。」

ユージオ達は《タイタンズハンド》がキリトを襲うであろう場所に全速で向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事は既に起こっていた。

「下がってて」

「でも、1人じゃ危ないですよ!」

「大丈夫。俺の事なら心配しなくていいよ。」

「……キリトさん!」

ユージオ達がキリトの記憶から予想した遭遇場所まで行くと、もうキリトとシリカは《タイタンズハンド》のオレンジプレイヤー達に襲われていた。

「彼らだ。作戦通り行くよ。今飛び出すのはタイミングが悪い…キリトが彼らに斬りつけられて、ダメージがほとんどない事が相手に知られてから行こう」

「分かりました」

「……はい」

ユージオは2人に指示したが、やはりロニエは爆発寸前と言ったところで、剣の柄を握りしめている。

やがてキリトは無抵抗のまま《タイタンズハンド》のメンバーに斬りつけられていく。やはりユージオ達もロニエと同じく黒い感情に支配されそうになるもそれを押さえ込み、耐える。

『何なんだよ、こいつ!いくら斬ってもダメージが入らねえじゃねえか!?』

「……俺のレベルは91。ヒットポイントの総量は18900。バトルヒーリングスキルによる自動回復が10秒で800ポイントだ。あんたらが何時間攻撃しようと俺を殺すことは出来ないよ」

『そんなのありかよ!!』

「ありなんだよ。たかが数字が増えるだけで無茶な差がつく……これがレベル制MMOゲームの理不尽性なんだよ。」

そう、キリトが《タイタンズハンド》のメンバーの一人に言い返した直後、ユージオ達は動いた。

「さて、そろそろお縄についてもらおうか」

「何を……!!」

「そこまでだよ」

「!?」

「君たちがやっていた事は全て裏が取れてる。調べたところによると今まで殺してきたプレイヤーの数は28人。そのうち小規模ギルドが2つ、ギルドに入っていないプレイヤーが14人……らしいね?」

「どっ、どこでそんな情報を!?」

「色々情報に精通してる人が知り合いにいてね」

「なんなんだい!アンタらは!?」

「教える義理もないよ。言っておくけど、転移結晶で逃げようだなんて考えない事だね。君が転移結晶を使おうとした瞬間、僕らはあなたの腕を斬り落とす。」

「ッ!?」

「あと、僕らはキリトと同じくらいのレベルだから、僕らを突破して逃げるなんて出来ないから」

「……クソっ!言っとくけどね、グリーンのあたしを傷付けたらあんたがオレンジに…!」

「オレンジになったって、たかが2、3日だよ。僕らがそれを聞いて躊躇するとでも?」

ユージオが《タイタンズハンド》のリーダーであるロザリアを追い詰めるように言う。

「…今すぐ武器を捨てて投降しなさい。そうすれば命は取りません」

ティーゼが最終勧告を行う。こういう所でアンダーワールドで整合騎士だった経験が生かされているようで、迫力がある。

「……嫌だと言ったら?」

ロザリアが挑発するように言って来た。するとロニエが剣を抜く。

「貴方の首を斬り落とします」

「____!?」

心に迫ったその言葉はタイタンズハンドのメンバーだけでなく、ユージオやキリト達でさえ縮み上がらせた。

「これは遊びなんですよね?相手が本当に死ぬのか分からないし、犯罪になる訳ないんですから、別に気にしなくていいですよね?」

「……それはっ…」

「貴女がさっき言った言葉ですよ?」

「やっ、止めてっ……!?」

「それを貴方達は、他のプレイヤーだけでなくキリト先輩にまで……!!」

「ひぃっ!?」

「もう貴方達は死ぬことを恐れることはありませんよ。黒鉄宮の牢獄に入って、安全に生きるんですから」

「嫌っ、そんなの嫌!!」

「貴女達が殺した人達は死の恐怖味わって死んだんですよ。貴方達はその人達に比べれば痛くも痒くもありませんよ。良かったですね」

「ロニエ!!」

冷たいロニエの言葉にキリトは危機感を感じ、このままでは彼らを殺してしまうかもしれないと思い、ロニエを止めた。

「__キリト、先輩」

「お前が手を汚すような相手じゃない。止めてくれ」

「_______すいません、先輩」

「いや、いいよ。思いとどまってくれたなら」

その場がロニエの威圧に騒然とした。やはり、整合騎士だったからか何か逆らえないものを感じ取ってしまった。それとも、キリトへの想いがあったからか_____

「あんたらには黒鉄宮の牢屋に飛んでもらう。言っておくが、抵抗するなよ」

キリトがそう言って回廊結晶を作動させ、タイタンズハンドのメンバーをその中へ入るように言う。

「シリカ。こっちへ」

「………は、はい」

よろけながらもシリカはキリト達のそばにいき、そのまま安心したのか、ぺたりと座り込む。

「大丈夫よ。もう怖くないから」

ティーゼがシリカの肩を掴み、優しい声で諭す。

後ろでロザリアが反抗的な態度をとっているようだが、キリトに投げ飛ばされて黒鉄宮の牢屋へ飛ばされた。

「…ありがとう、ございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、シリカは無事に使い魔であるピナを蘇らせた。

こうなった経緯や説明もシリカにちゃんとした所、シリカは

「私なんかを助けて頂いて本当にありがとうございました!」

と言ったそうだ。

ピナが帰ってきたおかげか、シリカに笑顔が戻り、ユージオ達も安心して攻略に戻っていった。

そして、キリトはロニエに理由もなく怒られ、ロニエの言うことをなんでも3つ聞くことを約束させられたという。理不尽である。

シリカはロニエとティーゼとよく会うようになり、仲良くなるのは、後の話だ。

 

 

 

 



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姫達のティータイム

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回はただの女子会になります。そして、劇場版のあの人も出てきます。
それでは、どうぞ!



 

 

 

 

3月1日、3層の主街区《ズムフト》喫茶店《セレーノ》。

 

そこで女子会が開かれていた。1ヶ月に1回開く、定期集会だ。

「………ふぅ。落ち着くわね。こんな仮想世界で落ち着けることなんて無いと思ってたけど、こんなに心が安らかになるなんて」

上品に紅茶を飲むのはギルド《血盟騎士団》副団長のアスナ。この女子会の日は毎回団長に休みをもらい来ている。

「そうだよね。私も、前まではずっと怯えてきたけど、最近になってそれが無くなったよ」

「落ち着ける場所があるって大切ですよね。私も一時期は宿から出られませんでしたけど、勇気を出して良かったです。まあ、それはこの子のおかげなんですけどね……ね?ピナ」

「きゅるっ♪」

ギルド《月夜の黒猫団》の紅一点、サチとビーストテイマーであるシリカが頷く。シリカは攻略組ではないが、キリト達にピナ蘇生を手伝ってもらったその1ヶ月後にサチと知り合い、その時にこの女子会に誘われたのがきっかけでずっとこの女子会に参加している。

「うーん……みんな飲んでるからボクも飲もうって言ったけど、やっぱり紅茶よりジュースの方がボクはいいなぁ」

「ユウキはコーヒーも飲めないのにどうして頼んだの?」

「何言ってるのさ、姉ちゃん!コーヒー牛乳なら飲めるから!」

「ここにはそんなものありませんし、あれは子供用よ」

「ええー……」

微妙な顔でコーヒーを啜るユウキにランが溜息をつく。

攻略組の中でも指折りの実力者であるユウキとラン。ユウキは《絶剣》、ランは《流星》という2つ名を持つ彼女達は戦闘の時は見せない年相応の姿があった。

「……ホント、ここにいるほとんどが最前線で鬼のように活躍してる攻略組のトッププレイヤーだと思うと、なんか拍子抜けっていうか……」

鍛冶屋であるリズベットがコーヒーを啜りながら感慨深そうに言う。リズベットは今回の女子会が初参加で、攻略組の女子メンツが集まると聞いていた。アスナからは親睦会みたいなものだと言われて来たが、やはり攻略組が集まるのだ、何か重要な話の1つでもするのではないかと楽しみにしていた。そして、攻略組のトッププレイヤーだからやはり他の人達とは違うとばかり思っていた。が、蓋を開けてみれば現実世界でもある単なる女子会と同じだと言うことに気付き、安心したような、ガッカリしたような表情を見せた。因みにキリトとユージオとはまだ会っておらず、顔は知らない。

「まあ、攻略組の前に女の子ですからね。戦闘の時はしっかり切り替えますけど、今ぐらいオフしてもいいじゃないですか」

「59層の攻略組はつい最近終わったばっかりだから…丁度女子会の日だったし、この日だけはみんな休むの。攻略の事は一切忘れて、ね?」

ロニエとティーゼはこの女子会の初期メンバーだ。この女子会はロニエとティーゼが2人だけで始めたもので、その後にアスナとユウキ、ナギ、ランが参加し、女子会と呼ばれるようになった。時間が経つほどにメンバーは増え、サチやシリカ、リズベット、フルプレート女子のリーテンも参加していた。だが、今日は参加していない。

「リーテン達、上手くいってるかしら?あれから4日経つけど……」

「今頃幸せの絶頂ですヨ、何せ同居してるんですカラ。でもとても遅いゴールインでしたネ」

ナギがニヤニヤしながら言った。

「このアインクラッドじゃ結婚してる人は多いわけじゃないし、それに攻略組の中じゃ初めてだったのよ?あの二人なら仲良くやってる……もといイチャイチャしてるわよ、多分」

何故リーテンが来ていないか、それはつい四日前、攻略組のメンバーであるシヴァタと結婚し、もちろんホームは買ったみたいだが、ハネムーンとしていろんな所へ行っているからだ。そして、三日前攻略組総出で結婚式を執り行い、盛大に祝った。

「幸せそうでしたね、二人とも」

結婚式で、2人は本当に幸せそうな笑顔を見せた。その笑顔はロニエ達の脳裏に焼き付けられた。女としても結婚式というのは憧れるものだ。

「そうでしタ!ティーゼ、あなたがブーケをキャッチしたんでしたネ」

「へっ?」

「おっとこれは……結婚のフラグかしら?回収できるといいわねー」

「ちょ、ちょっと待ってください!確かにキャッチしましたけどっ//////」

ナギのいきなりの暴露にティーゼが真っ赤になる。それをリズベットがにやけ顔で煽る。

何を隠そう、その結婚式のブーケトスをキャッチしたのはティーゼだったのだ。初めはキャッチして何がいいのか分からなかったが、アスナから話を聞いて顔が赤くなりすぎて頭から煙が出ていたとか。

「まあ、十中八九、相手はユージオ君ね?いつも一緒にいるじゃない」

「あ、アスナさん!?/////」

意中の相手もみんなに知られている。ずっと一緒に行動していればバレることだが。

 

「ごめーん、みんな!ちょっと遅れちゃった」

その時、タイミングよくもう1人の女子会メンバーが現れた。

「ユナ、遅かったですネ。何かあったんですカ?」

「昨日の夜、新曲の歌詞を考えてたらちょっと夜更かししちゃって。でもいい感じの曲ができたよ」

「あんまり遅くまで起きてちゃダメですよ。お肌に悪いですから……」

「ロニエさん、ここじゃそんなに変わらないですよ。ここ、仮想世界ですし」

「ここじゃ肌が荒れるデバフなんて無いし」

彼女の名はユナ。最近有名になりつつあるアインクラッドの歌姫だ。彼女はこのアインクラッドでは珍しい《吟唱》スキルの持ち主だ。スキル《吟唱》は一定範囲内にいる全プレイヤーにバフをかけることが出来る。その効果は絶大で1度ボス攻略に参加した時はそのバフ効果で攻略組をサポートした。が、このスキルには弱点があり、使うと全モンスターのターゲットが使用者に集中してしまうのだ。そのせいで死にかけたことがあるユナ。ダンジョン内のトラップに閉じ込められ、全滅仕掛けているところに助太刀として行ったノーチラスという血盟騎士団の団員とユナ、そして中層上位プレイヤー。だがもやはり多勢に無勢、負けかけていたところをユージオとティーゼ、そして、ギルド風林火山のクライン達が駆けつけ、難を逃れた。

ユナは救助に行く前にほかのプレイヤーに攻略組を呼ぶように言っていたのでユージオ達はその要請に答え、駆けつけた。キリトの記憶にはない事象だったが何故か過去が変わった。これはユージオがいたからではなく、ユナのおかげだ。そう、彼女もまた時を超えてきた、時間超越者の1人だった。

「何の話してたの?」

「リーテンさんとシヴァタさんの結婚式の話ですよ」

「ああ、そういう事ね。あの式は楽しかったなぁ……私もあんな席じゃ初めて歌ったし」

「すごく喜んでましたしね。ユナさんのファンの人が大勢いましたよ、あれ…」

「ファンいすぎでしょ、アンタ」

《歌ちゃん》と呼ばれるユナはますますファンが増えている。非公式ではあるものの、ファンクラブも出来ているようだ。が、それに比例して行き過ぎな行動をするファンも増える。ストーカー行為をする者やパーティ勧誘をしつこくしてくる者など。そのため、ライブ前と後は彼____ノーチラスに護衛をしてもらっている。

「最近はどうなんですか?ノーチラスさんといることが多いですけど」

「え?ノーくん?ノーくんは護衛を頼んでるだけで……////」

「いや、護衛だけの間柄じゃないでしょ、それ」

「ねぇ、ユナちゃん。次のライブはいつなの?」

「四日後を予定してるー、場所は42層の主街区でお昼の1時から始めると思うよ」

「ライブ行けるように早くボス攻略しないと…」

「……無理なスケジュールは止めてくださいね?」

攻略の鬼はこの世界にも健在であった。

「またユナさんのライブ行きたいですもんね。ね!ピナ」

『きゅるっきゅるっ!』

「ですね。またみんなで行きましょう!」

「楽しみにしてるよ!」

この女子会は昼に始まり、夕方まで続くのであった。

 

 

 

 




メモデフでロニエがまた出るそうです。
絶対お迎えしますっ(`・ω・ ´ ) シャキーン
FBユージオもお迎えしたい……(´・ω・`)


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この想いは隠せない

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回は自分の描きたかったことがかけました!ついに、ついに……!
それではどうぞ!


 

 

3月2日、57層主街区《マーテン》。

そこにユージオはいた。

「……」

ティーゼと待ち合わせをしているのだ。今回はティーゼからではなく、ユージオから誘った。ティーゼがユージオに誘われた時は顔を真っ赤にして、『わかっ、分かりました!』と大きな声で答えたらしい。

「ユージオ先輩〜!」

ティーゼが到着したようだ。やはり今回も時間がかかったらしい。女の子はどこへ出かけるのにも準備に時間が掛かる、と愚痴っていた幼いキリトの言葉が聞こえてくる。

「待たせちゃいました?」

「いや、僕もちょうど来たとこだよ」

嘘である。1時間前から来ていた。

「じゃあ、行こっか?」

「はい!」

2人は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年と4ヶ月。

このアインクラッドに来てからこんなに時間が経とうとしている。

僕にとっては意外にも短いと思った。

キリトの記憶を頼りに失われるはずだった命を救うことを繰り返し、キリト達と共に東奔西走していたらこんなにも時間が経ってしまった。

キリトの記憶とは違う道へ行っているのだろうか?僕のキリトの記憶を見るあの頭痛は一部分しか見せてくれない。キリトの記憶全てを見ることは出来ない。僕も何度か試して見たけど、叶うことはなかった。キリトの記憶全てを見る手段はない。なら僕は信じるしかない、未来よ現在がより良くなっていると。

多分、ここまで僕一人ではできなかったと思う。1人だったら力及ばずと言うことも多々あった筈だ。ひとえにその理由として、ティーゼ達の存在があると思う。そう、時を超えてきた人達だ。

その中でも特にティーゼにはとても世話になった。彼女は献身的に僕を支えてくれた。

特にキリトが殺人グループに殺されかけた時は言葉にならないほど迷惑をかけた。あの時、ティーゼに慰めてもらわなければ____抱きしめてもらわなければ、立ち直れなかったかもしれない。

隣で歩く彼女を横目に見る。自信なさげな初等練士の頃とは違い、自分自身に自信を持っているように見える。やはり、整合騎士として活躍した経験が生かされているんだろう。僕が知らない間に彼女は勇気のある剣士になった。

「どうかしたんですか?ユージオ先輩」

「___いや、何でも無いよ」

ティーゼがこちらの視線に気付いて声をかけてきた。燃えるような椛色の髪と瞳。見慣れた筈の彼女が綺麗に思える。

「ユージオ先輩、どこのお店に行くんですか?」

「こっちだよ。」

小首を傾げて聞くティーゼに僕はとある店を指さし、ティーゼを連れて店に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、ティーゼと一緒にいることが多くなった。ただそれだけではなく、彼女といると楽しいと思えた。僕は気づいたんだ。アリスに抱いた愛とは何か違う愛をティーゼに抱いているということを。ティーゼを自然に目で追いかけてしまっていることにも最近気付いた。

アインクラッドに来てから、ほとんど一緒に行動している。当たり前のような事だが、1度死んでしまって会えないはずのティーゼ達とまた会えるというのは僕にとって奇跡だ。ティーゼ達も同様で、特にティーゼは僕には絶対に会えるはずはなかった。だが、《時を超える》という奇跡がなければ永遠に会えないままだった。僕とティーゼが一緒に過ごした時間は本当に短かった。実に1ヶ月と少しだけだった。

ティーゼ達はそれを今で埋めるように僕らを色んなところに連れていく。特にティーゼは積極的だった。

そして、僕は彼女が僕のことをどう思っているかを知っている。アンダーワールドの修剣学院の僕の部屋のベッドに座って話をした時から……でも僕は彼女の想いに答えられなかった。アリスを取り戻すという目的であの学院に入学し、上級修剣士になったのだから。

でも、今はどうだろうか。あの戦いは終わり、アリスとともに僕はアンダーワールドから消え、このアインクラッドで新たな生を受けた僕は、キリトの過去を変えるという事だけ。それにこの世界にアリスがいる確証はない。この世界に来てから何度もアリスを探しに出かけ、アルゴに調査を依頼することも多々あった。けど、僕の知るアリスはいなかった。騎士《アリス・シンセシス・サーティ》さえも。

僕は気づいてしまった。僕がアリスを探そうとするのは、ティーゼの思いに目を伏せるためなのではないかと。

彼の者(アドミニストレータ)に言いくるめられていたこともあるが、あれ程自分一人だけの愛を一時的にも求めてしまった僕が、自分のことを愛してくれるかもしれない人を相手に何故目を伏せ、背を向けて逃げるのか。僕には分からなかった。

怖いのだろうか。また僕一人にされてしまうかもしれないのが、裏切られるのが。人を_____信じられなくなっている、のか。僕には分からなかった。

「ユージオ先輩、どれ食べますか?」

「そうだね…えっと、スワンプクラブとハーシュフィッシュのマルゲリータピッツァと…」

テーブルについて料理を注文すると、最後に注文していた飲み物が運ばれてきた。ティーゼはそのドリンクをストローからチューチューと、吸い上げる。

ティーゼと共に笑い合い、時には助け合う、そんな時間が僕はとても幸せだと感じた。今、この瞬間さえも、愛しく思える。

駄目だ。もう、この気持ちに嘘はつけない。今まで気づいていながらも無いものだと思い込んでいたこの想い。打ち明けるべきだ、嘘偽りなく。

「美味しいね」

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方。ここは32層のとある村の外れにある山。

「ユージオ先輩、一体どこに行くんですか?」

紅葉で紅や黄色に染まる森の中を歩く僕とティーゼ。ティーゼには目的地がどこなのかを言わずについてきて欲しいと言ったから、訝しげにティーゼは僕に聞いてくる。

「到着するまでのお楽しみだよ、さあ、あと少し!」

目的地まであと少し。この思いを告げるならばここしかない、そう思ってここまで来た。

そして、山を登り切り、山頂に到着した。

「_______凄い、綺麗……」

その山頂からの景色に言葉を失うティーゼ。これでここに来るのは何度目だろう。この場所はキリトにさえ教えていない。おおよそ、僕だけの秘密の場所だ。

「この場所を知ってるのは僕と、君だけだよ。ティーゼ」

「えっ?」

「この場所は誰にも話したことがないんだ。もちろんキリトやロニエ達にもね」

「そう、だったんですか…連れてきて下さってありがとうございます、ユージオ先輩」

花を咲かせるようにティーゼは笑った。それを見るだけでも心が踊る。鼓動が早くなる。

 

_______決めろ。

 

_____________男なら、覚悟を決めろ。

 

そして、僕はティーゼに向き合って真剣に話すことを決心した。この想いを告げることを。

「……ティーゼ。伝えたいことがあるんだ」

「?どうしたんですか?」

「このアインクラッドに来てから1年と半年がたって、君に支えられてばかりだったね」

「そんなことありませんよ!私だってユージオ先輩に支えて貰いました」

「僕はそれ以上のものを貰ったよ。僕はこの1年半、キリトの過去を変えることとみんなを守ることを目的に走ってきた。それに、その……ティーゼは知らないと思うけど、アリスのことを探そうともした。まだ諦めきれてなかったんだ」

「……知ってました、よ?先輩が夜な夜な宿を出てどこかへ行っていたことも」

「…そっか」

やっぱり気付かれていたみたいだ。

「それで、気付いたんだ。ここにアリスはいないって。もえ僕の記憶にあるアリスとは会えないことにね。僕はずっとアリスの事が好きだった。でも、それは、その……なんて言うのかな。家族、兄妹みたいな感じだったんだ。けど、君は違った。僕は君といる時間が幸せで、楽しくて……この時間がずっと続けばいいなって思ったことも沢山あった。でも僕はその自分の気持ちに目を伏せて見ないようにして来てたんだ。学院でも、君の気持ちを知ってて君があの時、告白してくれた時も、僕はその想いに答えられなかった………君の気持ちを知ってこんなことを言うのは酷いのは分かってる。けど、君に僕の本当の気持ちを伝えたかったんだ。赦して欲しい」

「だから、僕は君に改めて言うよ。僕は、君が好きだ。アリスのように家族や、友達としてではなく、その______異性として」

「____っ」

「卑怯だと分かってる。けど、伝えなきゃ収まらないんだ。この気持ちは____」

「____」

準備していた、あのアイテムをストレージから取り出し、そのアイテムが入った箱を左手に持ち、左膝を地面に付き、こうべを垂れ、そして、その箱のを右手で開けて最後の言葉を紡ぐ。

 

 

 

「_____________結婚して欲しい」

 

 

 

その僕の言葉を聞いたティーゼは口を両手で覆い、俯きながら小さな声で呟いた。

「______卑怯ですよね、先輩って」

「私の気持ちを知ってそれを言うんですか?こんなの_____」

 

 

「断れる筈ないじゃないですか……っ」

涙を零していた。

 

「不束者ですが、よろしくお願い致します」

 

僕は静かにティーゼの薬指に指輪をはめた。ティーゼの僕の手に比べて小さな手を、壊さぬように。

「えっと……このあとは、その……………」

()()……ですよね?」

「うん……ごめんね。こういう、恋愛はした事ないから…本当は君を僕がリードするべきなんだろうけど…」

「いえ、こういうのも新鮮でいいですよ?」

「あ、あと……僕のことは《先輩》って呼ぶのはやめよう。あと、出来れば敬語もね。僕と君は、夫婦になったわけだし…」

「わかりま…、分かったわ……ゆ、ユージオ」

ティーゼは慣れないながらも僕のことを名前で読んでくれた。不思議と、アリスに似ている。でも、違う。ティーゼはティーゼだ。声も、表情もアリスの見せたことのなかったものだ。

 

アリスは_________僕が幸せになることを赦してくれるだろうか。ティーゼと結ばれる事を、僕だけがこの世界で、幸福に暮らす事を___赦してくれるだろうか。

分からない。でも、僕は今なら、アリスがどんなことを言おうとティーゼと共にいたいと言える。アリスが呪詛を口走ろうと、罵倒しようと、泣いて、懇願されても________

「じゃあ、目を瞑って___」

「____はい」

_____僕はどんな事があっても必ず、ティーゼを守ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼し気な山の頂上で、2人の影は重なり合った。

夕日に照らされて、彼女のいる場所からは見えないが、おおよそ、キスをしているのだろう。

「……まったく、やっとくっついたヨ。ここまで来るのに1年半か……長かったネ、ティーちゃん。お幸せにナ」

そして、それを見届けた彼女(アルゴ)は無邪気に笑った。

「さて、結婚速報(こいつ)は、いくらで売れるかナ……にししっ♪」

 

 

 

 




やっとくっつきやがったぜ!!٩*(゚∀。)وヒャッハアアアァァァァァアア!!!!!
改めておめでとう、ユージオ、ティーゼ。
次回は多分圏内殺人事件になると思います。はい(´・ω・`)
そして、FBユージオくん、5回目?位でやっと来ました。カッコイイっすわ( ^∀^)ニタァ…
次はロニエですね。絶対に、当てなければ……(。-`ω´-)


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幸せの形

こんにちは!クロス・アラベルです!
大変遅くなりました…!
今回は予定を変更してユージオがティーゼに告白をした後日談を書きました。
次回からは本当に圏内殺人事件を書いていきたいと思います。
………ほんとにかけるのかな…?


 

 

 

 

 

とある宿の一室。

「____」

そこに彼はいた。

「……もう朝、か」

部屋の窓から降り注ぐ太陽の光が朝が来たことを知らせた。

「んん…」

ベッドで上体を起こし、両手を伸ばす。裸だった為、布団がめくれて上半身が顕になる。その体は10代にしてはかなり鍛えられており、どちらかと言うと女子と勘違いされるユージオも男らしく見える。いつも男らしくないという訳では無いが。

 

実はユージオはこのアインクラッドではかなり人気の男性プレイヤーで、3ヶ月に1度出される『鼠の攻略本番外編』にて掲載されている《人気男性プレイヤーTOP10》では常に3位圏内にいるのだ。因みに大体ユージオは1位か2位で、ついでディアベル、リンドと続く。何故キリトがそこに入っていないかと言うとアルゴがロニエのためにと名前を伏せているのだ。と、いうより常に真っ黒装備のキリトに対して王子様風イケメンのユージオはコーディネートもしっかりしており、キリトのようにいつも黒という訳では無い。だが、ユージオも無意識に青系の色を基調にしていることが多いのは否めない。

 

昨日、ユージオはティーゼと一緒に街へ出かけ、その後、37層のユージオにとって秘密の場所でティーゼの想いを伝えた。ティーゼは涙しながらも彼の求婚(プロポーズ)を受け入れてくれた。

それを思い出すとあれは幻だったのではないか、夢を見ていただけではないのかと考えてしまう。

ふと、左側を見ると薄い布団の中にティーゼが眠っていた。

ティーゼもユージオと同じく裸で、布団がめくれて居ないので肩が露出している。

「……やっぱり、恥ずかしいね…////」

昨夜あったことを思い出してユージオは思わず顔を赤くしてしまった。

「……んぅ…、?」

その時、ティーゼが目を覚ました。彼女はまだ完全には起きていないようで、右手で目を擦りシーツを左手で胸に抑えながら上体を起こした。

「おはよう、ティーゼ」

「おはようございます、ユージオ先輩……いえ、ユージオ」

「無理して呼ばなくてもいいんだよ?まあ、そう呼んでほしいって言ったのは僕だけど…」

「いえ、これは、その……実感したいの。貴方の隣に入れることを」

顔を赤くしながらティーゼは彼の言葉にそう答えた。

「今日はどうする?昨日は休みだったけど、今日から攻略再開だし…」

「名残惜しいですけど、行きましょう。私達も攻略組の一員ですし、攻略を休むにしても連絡はすべきです。直接会って連絡した方がいいかと」

「そう、だね」

ティーゼは先程の言葉遣いとは違う、いつもの攻略時に見せる真面目な声をだした。

「じゃあ、支度をしてみんなのいる所へ行こう。多分会議が教会の近くでやるって聞いたし」

2人は支度を済ませて宿を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多分もうそろそろだと思うけど…」

59層の主街区に着いた2人は攻略組の会議が始まるであろう教会近くの広場に向かっていた。

その前に1度ユージオがとあるお店に寄ったが、それでも会議まで時間はたっぷりある。余裕を持って30分程前に到着するよう来たのだ。

「……♪」

ティーゼはご機嫌よく、周りに変に思われない程度に笑顔だった。何故なら今、ユージオとティーゼが手を繋いでいるからだ。しかも指を絡め合う俗に言う『恋人繋ぎ』。ユージオの右手を握るティーゼの左手には小さな蒼い宝石がはめられた指輪があり、ユージオの左手には小さな紅い宝石がはめられた指輪があった。これは彼女が心の底から望んだであろう幸せの絶頂。彼女にとってこれからの時間はどんなことにもかえられない、宝物となるだろう。

幸せの絶頂にいる2人を見て、周りのプレイヤー達は砂糖を吐きそうになったことだろう。

しばらく進むと、攻略組であろう団体が見えた。

「みんな早いね…?」

すると、攻略組の女性陣が走り寄ってきた。

 

「「「「ユージオさん、ティーゼ(ちゃん)!ご結婚、おめでとうございます!!」」」」

「「え!?」」

何故か彼女達はユージオとティーゼが結婚したことを知っていた。このことに2人は今までにないほど驚いた。何せこのことは誰にも知らせていないのだ。何故……と考えていると、キリトやエギル、クライン達もやって来た。

「おいユーの字ィィィィィ!!おめでとさんッッ!!」

「あたっ!?」

「コノヤロー!何俺より先にゴールインしてんだよォ!クッソォォ!羨ましいぜコンチクショー!!」

ユージオに突撃して右手を肩に回し左手で頭をグシャグシャにするクライン。約一年ほど前に攻略組に参加することとなったギルド《風林火山》のリーダーを務めている。こちらはうっすらと涙が浮かんでいるが、これは悔し涙か、嬉し涙か…

「クライン、そこまでにしとけよ。とりあえず………ティーゼとの結婚おめでとう、ユージオ。」

「Congratulation!!ユージオ!やっとって感じだな。もう待たせちゃいけねえぜ?」

「みんな、なんで知ってるの?僕らは何も言ってないのに…」

「まあ、こういう情報っていうのは以外にも広まりやすいんだよ、ユージオ」

するとキリト達の後ろからディアベル達がやって来た。

「ディアベルも知ってるのかい?」

「ああ。もうとっくに攻略組には広まってるよ」

「い、一体誰が…あの場にいたのは僕とティーゼだけだったハズ…」

「私達、常時索敵スキルを発動させてるのに……なんの反応もなかったですよ?」

するとナギが言った。

「二人とモ?餅は餅屋と言うことわざが日本にはありますヨネ?じゃあは情報は……?」

「「……も、もしかして…!」」

その言葉にはっとなる2人。すると真後ろからこの情報を流した犯人の声が聞こえた。

『にゃはは、そのまさか、なんだよナ』

「「あ、アルゴ(さん)!?」」

「いやぁ、ユー坊を探すのに手こずったゾ。昨日鍛冶屋で指輪を作らせて欲しいだなんて言うのを偶然聞いちゃったもんだかラ、何かあると思って尾行してたけド、いきなりペアの指輪を作っていかにもって感じの箱に入れてストレージにいれるなんてサ………誰でも追いかけたくなるダロ?」

「………待って。ってことは、あの話も聞いてたの?」

見事な情報屋魂……もといストーカー魂を見せるアルゴにユージオは恐る恐るあることを聞いてみた。そう、ユージオが話した『学院』や『キリトの過去』、現在の人間であるアルゴには分からない、そして、怪しい言葉を聞かれたとなると厄介なことになる。それについて質問されればどうしようもない。

「あの話?ああ、プロポーズの言葉カ?聞いたヨ。『家族や友達としてではなく、その______異性として。卑怯だと分かってる。けど、伝えなきゃ収まらないんだ。この気持ちは____結婚して欲しい』ってサ!」

「…そ、そっか……ならいいんd………って良くない!!!!誰がストーカーしていいって言ったのさ!普通ダメなくらいわかるでしょ!?」

「情報屋の性サ!でもそのうち言うつもりだったんだからいいだロー!」

「……はぁ」

「あははは……」

するとディアベルがユージオとティーゼがここに来た理由を聞いてきた。

「じゃあ、休暇が欲しい…ってことでいいか?」

「あ、うん。報告とそれを頼みに来たんだ。」

「分かった。そうだな……10日……いや、2週間程くらいならどうだい?こちらもシヴァタとリーテンも休暇を取ってるから、そこまで長くは出来ないが……」

「いいよ。休みが貰えるだけでも十分だよ」

「そういや、ユージオ。結婚したってことは、家も買ったのか…?」

「当たり前だろう?それこそ宿に寝泊まりなんてティーゼにそんな可哀想なまねなんかさせないよ……ティーゼにも帰るべき場所って物が必要なんだよ」

「…そうだな。心配御無用だったな」

「ティーゼ!そろそろ行こう。」

「ん?おいユーの字!もう行くのかよ!」

「うん。この後ちょっと用事があってね。」

「できる男は違うな、ユージオ。尊敬するぜ?」

「エギルは僕なんかよりもっと出来てる気がするけど……」

「もう行くんですか?」

「君に見せたいものがあるんだ」

「見せたいもの……?」

「うん。まぁ、目的地に着いてからのお楽しみって事でね」

2人は攻略組と別れ、32層……2人の結ばれた層へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって…!」

「うん。僕らの家だよ」

2人が辿り着いたのは、山の上に立つ、一軒の家だった。二階建てでは無いが、2人で済むには広過ぎるのではないかと思うくらいのログハウスだった。

「こんなものをいつ……?」

「攻略組のみんなと会う前にちょっと買い物に行ってくるって言ったでしょ?あの時にね」

「ユージオ……!!」

ここが、彼らの帰る場所______2人、アンダーワールド人にとって現実世界に帰る場所はないかもしれない。だからこそ、ユージオはどこか帰る場所が必要だと考えた。ここが我が家だと、安心できる場所が。

「まあ、まだ家具の方は準備出来てないから、少し部屋を見てその後で家具を買いに行こうか」

「そうね…ありがとう!ユージオ……!!」

2人は我が家になったログハウスの前で熱い抱擁を交わしたのだった______

これから、結ばれる事のなかった2人の、幸せな日々が始まろうとしていた___

 

 

 



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事件発生

大変長らくお待たせしましたっ
スランプから舞い戻ったクロス・アラベルです!
今回のお話……原作を読んで理解しながら書こうと思っていたのですが、アレンジはどこで入れるかなどで結構悩んでしまいました。
さて、それではどうぞ~


 

 

 

 

ユージオとティーゼが結婚し一時的に攻略組を離れて三日後。キリトとロニエは57層にて、「昼寝」を口実に惰眠を貪ろうと町外れの草原、その小柄な木の下で横になっていた。

「いやー、やっぱり気持ちがいいなぁ……最高の気温、湿度、風、太陽の光……!」

ロニエは寝そべるキリトを見て「もう、慣れた筈なのになぁ…」と呆れ気味だ。

「……」

「これぞ、昼寝日和だな」

「……先輩」

「ん?どうしたのかね、ロニエ君」

ロニエは少し不機嫌気味にキリトに意見する。

「今日は確か通常通り攻略する筈だったと思うんですが…」

「よく考えたまえ、ロニエ君。これ程の昼寝日和、1年に5日と無いだろう。ならば昼寝に徹するのが人の性だとは思わんかね?」

「いえ、その理屈を通すとなると…仕事を休むのに『今日は昼寝日和だから』なんて言う理由を上司に言うのと同じかと…」

「………いや、まあそうだけど…」

正論過ぎるロニエの言葉に詰まるキリト。

「…でも、大丈夫だよ。だって攻略組は俺とロニエだけじゃないだろう?ユージオとティーゼが一時攻略組を休んでるとしても沢山いる訳だし……例えば、ユウキとか、ランとか………あと、アスナとかさ」

子供の言い訳の如く口篭りながら話すキリトの後ろから新たな声が、キリトを追い詰めた。

「私が、何?キリト君」

「!?」

「あ、アスナさん!こんにちは」

ご本人登場である。

「よ、よう、アスナ。血盟騎士団の副団長様がなんでこんな所に…,」

「あなたを探しに来たに決まってるでしょう?」

「えっ……いや、なんで俺なんかを…」

「攻略組トッププレイヤーとして、攻略に参加しないってどういう事!?ロニエちゃんから聞いたわよ!!確かに今日は全体で参加する日じゃないのは分かるわ!けど、こんな所で呑気に昼寝って……!!」

ロニエはちゃっかり、アスナにチクっていたようだ。

「ろ、ロニエ……!言っちゃったのかよ…」

「はい、勿論です♪」

爽やかな笑顔で____目は笑っていないが_____ロニエは答えた。

「……ロニエの鬼ぃ…」

「さあ!今からでも来てもらうわよ!!!!」

アスナが頭に角を生やしそうなレベルで怒っている。攻略の鬼はここに健在していた。

「いやいやいや!休む日くらいは自分で決めたっていいだろう!?」

「何言ってるの!?ティーゼちゃんとユージオ君が休暇をとってからずっと休んでるじゃない!!」

「そ、それは……」

その通りである。ユージオが休みをとってからキリトは攻略に参加していない。やはり、キリトのストッパーはユージオが担っていたようだ。

「観念して下さい、キリト先輩。チェックメイトです」

「ぐっ……」

トドメの一撃に、キリトは唸る。

「お、俺だって昼寝したくてしてる訳じゃないって!」

「「どこがよ(ですか)!?」」

考えも無しに出した言葉にとうとう2人がキレる。

「今日の気温、湿度、太陽の光、風……全てにおいて完璧だからこそ俺は昼寝をせざるを得ないんだ!!2人だって横になれば分かる!!そんなに俺の事を攻めるなら、俺と同じように寝っ転がってみてくれ!それで10分間寝転がって二人とも寝なかったら俺は今からでも攻略に参加する!」

「………」

「………」

なんだか最もな(全くもっともではない)理由を付けて試してみろとキリトが言う。

「……わかりました。寝なければいいんですね?」

「いいでしょう、受けて立つわよ。それで貴方が納得するなら」

2人は呆れ返って、キリトの言葉に従った。まぁ、寝ることなんてないだろう。そう、鷹を括って______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいマジかよ……」

5分後。2人は寝入ってしまった。熟睡も熟睡、アスナに至っては爆睡である。

アスナは血盟騎士団の副団長を務めるようになってから、あまり寝ていないとは聞いていたものの、そんな即落ちするのか……とキリトは内心驚いていた。

それより驚いたのがロニエだ。

「いや、君は充分寝てるよね?えっ、寝てないの?」

凡そロニエは疲れていたアスナとは違い、この天候に誘われて寝てしまったのだろう。泥のように眠っているアスナに較べて、ロニエは顔にも疲れがなく、気持ちよさそうに眠っている。

「…………くっ」

キリトはロニエの寝顔を見て、左胸に両手を当てて苦しそうにする。

「……可愛すぎんだろ…!」

コミュ障のキリトにとって今の状況はかなり不味い。耐性がついていないので、1番心にくる。確かにアインクラッドに来てからまだ耐性がついた方だが、やはりキリトには厳しかったようだ。

「このまま放っておく訳にも行かないか…」

そう、少し前……殺人犯したいわゆるレッドプレイヤーを集めたギルド「ラフィンコフィン」がまた新たにプレイヤーを圏内で殺す方法を編み出した。それが睡眠デュエルPK……殆ど失神に近いレベルで深く眠っている場合、少しのことでは起きないことが多いことを狙って、寝ているプレイヤーに《完全決着モード》のデュエルを申し込み、相手の指を動かしOKのボタンを押す。あとはトドメを指すと言ったところだ。その他にも担架(ストレッチャー)系アイテムに乗せて圏外まで移動して殺すという手段もある。

そんな恐ろしい手段が半年ほど前に見つかった為、殆どのプレイヤーへドアをロックすることが可能なプレイヤーホーム、または宿屋で寝るように、と攻略組から通達された影響か、宿代を節約しようと公共(パブリック)スペースで寝ようとするプレイヤーは激減した。

今、ロニエとアスナはおおよそ、熟睡…アスナに至っては睡眠デュエルPKの対象となり得る。そんな2人を放っておく訳には行かない。そう、キリトは判断した。

「心頭滅却心頭滅却………」

キリトは2人のそばでアイテム欄の整理を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い夕日が一帯を照らす、夕方の5時。

「ふえ……?」

眠たげな声と共にロニエが起きた。約8時間寝たことになる。

「おはよう、ロニエ。お昼寝はどうだった?」

「おはようございます……はい、気持ち良かった、で……………す……!?」

自分が寝てしまった事にようやく気付いたようだ。

「……ううっ……//////」

「まあ、俺が寝てみろって言った訳だし、ロニエは悪くないぞ。ただ、8時間は寝すぎだと思うけどな」

「しゅみません……」

まだ起きたばかりで呂律が回っていないような気もするが、ロニエは完全に起きた。

「うみゅ…………」

続いて、アスナも起きた。

そして、周りを見渡し、状況をその一瞬で把握したらしく、ばっとキリトの方に振り向いて、顔を赤くしたり青くしたり赤くしたりと、忙しそうな反応をする。

「……な………アン……どうっ……!!」

「……おはよう。よく眠れたか?」

謎の言葉を話すアスナに向かってキリトは渾身のドヤ顔と、ニヤニヤ顔を御見舞するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントにいいのか?」

「ええ。守ってくれたのは確かだし」

アスナが起きて30分後。キリト達はとあるレストランへ来ていた。

「はあ………ホントに寝ちゃうなんて…!」

「まあ、その事は忘れるとして…ロニエ、何頼む?全部アスナの奢りらしいし、この際1番高いやつ一緒に頼もうぜ」

「……先輩、それ本人の目の前で言うことじゃないですよ」

寝てしまったアスナをキリトがガードしてくれた事に最低限の感謝はするべきだ、とのアスナの計らいによって今晩の夕食はアスナの奢りとなった。

「ありがとね……ガードしてくれて」

「いや、いいよ。流石にあれは放っておけないさ」

「私からもありがとうこざいます、先輩」

「いいさ。そういや、アスナ。やっぱり寝れてないのか?」

「まあ…ね。不眠症……ってわけじゃないと思うんだけど、ちょっと怖い夢を見て、飛び起きちゃったりするから、あんまり寝れないのよね……大抵長く寝ても3時間くらいだから…」

「そうか……ま、また昼寝したくなったら言ってくれ。またガードしてやるよ」

「その時は、ユウキ達も誘おうかしら」

「いいですね…みんなでお昼寝!」

「なんなら攻略組全員でやるか?」

と笑いながら話していた、その時_________

 

「きゃああああああああああああ_______」

悲鳴が、街に響いた。

 

 

「「「!?」」」

3人同時に剣の柄を握り、立ち上がる。

「先輩、店の外です!!」

「分かってる!!」

3人は店を飛び出し、悲鳴が聞こえた場所まで走る。

やがて3人は街の広場にたどり着いた。そこにはありえない光景が広がっていた。

広場の北側、教会らしき建物の2階から何かが、ぶら下がっているあれは______

「__________!?」

一人の男だった。間違いなくプレイヤーだ。分厚いフルプレートアーマーで全身を包み、大きなヘルメットを被っている。よく見ると男の首にロープが巻きついている。そして、より目を引くのが___

1本の赤黒い、短槍(ショートスピア)だ。

槍などの貫通(ピアース)系武器には貫通継続ダメージが設定されている。男から赤いエフェクトの光が明滅していることから、貫通継続ダメージが発動し、男のHPを削っているように見える。

「早く引き抜け!!!!」

キリトが叫ぶも男の行動は遅く、そして男も死への恐怖からか、手に力が入っておらず、一向に槍は抜けない。

「キリト君とロニエちゃんは下で受け止めて!!」

「はい!」

アスナは咄嗟の判断で教会へと走り出す。

「待てアスナ!走ってじゃ間に合わないってのに…!」

キリトが咄嗟にアスナを止めようとするが、止まらずに教会へ走っていった。ロニエに言った。

「ロニエ!無理矢理《ソニックリープ》でロープを切り落とせ!!俺が受け止めて槍を抜く!」

「分かりました!!」

キリトはそうロニエに指示し、アスナが教会に入ろうとしたと同時に男の視線がどこかへと向いた。それはプレイヤーのHPゲージが表示されている所。

そして、ちらりとキリトとロニエを見た。恐怖に歪んだ目。

多くのプレイヤーの阿鼻叫喚の中、男が小さく何かを囁いた。

キリト達からは悲鳴のせいでよく聞こえず、かき消されてしまった。

直後、ガラスのワイングラスが砕け散るような音を響かせ、男は青いポリゴン片を散らし、跡形もなく消えた。

この世界の、死を迎えた。

男の首を絞めていたロープがくたりと、教会の壁へと垂れ下がり、男の腹を鎧ごと貫いていた赤黒いショートスピアは思い金属音を響かせてレンガの街道に突き刺さった。

 

「みんな!デュエルのWINNER表示を探してくれ!!」

即座にキリトが叫ぶ。

圏内で殺人が起こったということ、それ即ち完全決着モードのデュエルが行われたという事だ。このアンチクリミナルコード有効圏内であるこの街でHPの減らすような行為はそれしかない。キリトはそう予測を立て、有るべきもの___ある筈のものを探した。そう、デュエル勝利(WINNER)宣言メッセージ_______勝利したプレイヤー名、試合時間が書かれた大きなシステムウィンドウ_____それが、犯人の近くに現れる筈なのだが……

「…どこにあるんだ……!?」

そのメッセージを見ることができれば、即座に犯人を特定することが出来る。

だが、キリトの探すそれは、一向に見つからない。

キリトとロニエは焦る。それは勝利してから30秒程しか表示されない。もう既に25秒過ぎている。

「アスナ!WINNER表示はあったか!?」

「ダメ!システム窓どころか、中には誰もいないわ!!」

「なっ!?」

「駄目です、先輩……30秒、経ちました…!」

惜しくも30秒が過ぎ去ってしまったのだった。

 

 

 

 

 



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刑事(アスナ)探偵(キリト)助手(ロニエ)

こんにちは、クロス・アラベルです!
それでは早速続きをどうぞ!



 

 

 

 

 

2時間後。

3人は、50層の主街区《アルゲード》に居た。

「……全く分からん…」

「絶対にデュエルによる殺害だと思うんだけど……なんでWINNER表示が出なかったのかしら」

「WINNER表示ってどこに表示されるんでしたっけ?」

「確か……プレイヤー同士の中央、若しくは…………離れている場合は両プレイヤーの近くに出てくる…だったっけ?」

「えっ?じゃあ、あの時、カインズさんにもWINNER表示は出てたんですか?」

「いや、出てなかった…ってことはデュエルとは言い難い…」

「……うーん…」

キリト達は圏内殺人事件について議論を交わしながら、猥雑な路地を縫うように歩く。

「まあ、考えてるだけじゃ分からないしな。さっさとエギルのとこに行って調べてもらおう」

「……本当に大丈夫なの?この時間帯ってお店忙しいって聞くし…」

「大丈夫だろ、たぶん」

「先輩…」

3人はこの街に店を構えているエギルの元へと向かっていた。証拠品として預かっているロープとショートスピアを鑑定スキルで基本的な情報を調べてもらう算段だ。

 

「うーっす。来たぜー」

「言っとくが、客じゃない奴に《いらっしゃいませ》なんて言わんぞ」

雑貨屋に入ってキリトが間延びた声でそこの店主…エギルに声をかけると、彼は不機嫌そうに答えた。

中に客はおらず、キリト達が来る前にここにいたであろう客にはご退場してもらったんだろう。

「すみません、エギルさん。お忙しいのにこんな急に押しかけてきて…」

「謝るこたぁねえよ、ロニエちゃん。まあ、理由が理由だ。《来るな》なんて、言えねえよ。」

「ありがとうございます、エギルさん」

「いやいいさ。いつもの面子が揃っただけだしな……で、例の品は?」

「……これだ」

キリトがエギルの言葉に例のアレをストレージから取り出した。

「……これが話にあった、圏内殺人で使われたものか…」

「ああ。早速で悪いんだが、鑑定頼む」

「おう」

そして、エギルがロープに向かって鑑定スキルを起動させると、ロープの右隣にウィンドウが現れる。

「…まあ、わかってたと思うが、ロープ(これ)はNPCショップで売ってるやつだな。ランクも高くないし、耐久値は半分以上削れてる」

「……あれだけ重装備のプレイヤーをぶら下げてたからな。」

「本題は次だな」

「ああ、頼む」

エギルが先程と同じように鑑定スキルを発動すると、またウィンドウがでた。

 

「ふむ……これは、PCメイドだ」

「!!」

「本当ですか!?」

「製作者の名前は…?」

「……《Grimlock(グリムロック)》、だそうだ。こっちじゃあまり聞かない名だからな。1線級の刀匠じゃないことは確かだ。武器を売る以外にも自分専用の武器を鍛える為に鍛冶スキルを上げてる奴もいない訳じゃあねえしなぁ…」

グリムロック。キリト達にも聞き覚えがない。攻略組の戦闘斧使い兼商人であるエギルが知らないのなら、3人が知っていることはかなり少ない。

「探すことは出来るはずよ。だって、このクラスの武器を作成できるレベルに上げようとしたら、完全なソロプレイをしてるとは思えないわ」

「中層の街あたりで聞き込めばそのグリムロックさんとパーティを組んだことのある人だっていますよ!もしかしたら、ギルドにも入っているかもしれませんし…」

「……でも、この武器は対モンスター用の物じゃない。どちらかと言うと対人戦に使われるやつだ。このグリムロックって奴はそれを分かっていてこれを作ったとしたら……相当タチが悪い。人を殺すことを知らされたら、普通は断るけど、この人はこの槍を作った。何も知らされてないって言うんなら別だけど、どちらにせよ、話を聞かないと進まないな」

「そう言えば、エギルさん。その短槍の名前ってわかるんですか?」

ロニエのこの言葉にエギルは答えた。

「…Guilty Thorn(ギルティソーン)だ。直訳すれば、罪の茨……ってとこか」

これは単なる偶然か。

状況に合いすぎたその固有名にキリトが目を細めた。

逆棘が密生する柄は、天井に付けられた明かりを反射して黒い輝きを放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「今は捜査線上に上がってきた、噂のグリムロックさんに話を聞くしかなさそうだ。アルゴに情報集めてもらうかな」

エギルから話を聞いた後、3人は店をあとにし、始まりの街にやってきた。理由は勿論、生命の碑でカインズが本当に死んでしまったのかを確かめる為だ。

「でも、簡単にお話を聞かせてくださるかどうか……」

「うん。その時はお金を払ってでも話してもらいましょう。」

「じゃあ、その時は3人で出そうな」

「……あら?男らしくないわね、キリト君。そこは男の子が払うものでしょう?」

「いやぁ……この間面白そうなバフが付いたアイテムがあってさ……そのー……手持ちが心細くてさ…」

「はあ……またそんなの買ってるの?」

「つい買っちゃうんだよ。気になっちゃって…」

「_______先輩?」

「ヒイッ」

キリトの口から暴露された事にロニエは目に見えて不機嫌になる。キリトの訳分からないものに金を費やしてしまう癖にアスナもため息をついた。キリトは今夜あたりロニエにこってり絞られる(叱られる)事だろう。

 

 

「カインズ、カインズ……か……Kだっけ?」

「はい。ヨルコさんの話だと綴りはKainz、だそうです」

「k、k、k………あった」

生命の碑前。そこでキリト達はカインズの名前を見つけた。

「やっぱり、駄目みたいね」

「ああ。死因は……貫通継続ダメージだ。完全に一致してる」

死因は一致、時刻さえも完全一致している。これでは殺されていないなどと諦めの悪いことは言えないだろう。

「じゃあ、本当に圏内殺人だっていうの……?」

「そうじゃないと、それ以外あの事件を説明するのは難しいと思います。でも、どうやって…」

「手口も分かってないからな。有り得るのは、システム的な抜け道、アンチクリミナルコード発動圏内である街でプレイヤーのHPを減らすことの出来る特殊アイテム、またはスキル……か」

3人は生命の碑を後にし、一先ずヨルコの元へと戻ることにした。

カインズの名前が赤い線2本で消されているということは、死んだ、ということだ。キリトなりの推理に2人も唸る。

その時だった。

前からタンクであろう重装備の鎧を着たプレイヤーが走ってきた。

「はあ、はあっ、はあ……キリトさん!あんたと話がしたいんだが、いいか?」

「あれ?あんたって確か……シュミットさん?」

「ああ。タンクのリーダーをやらせてもらってるシュミットだ。キリトさんに覚えてもらってるとは、光栄だよ」

攻略組のタンクリーダーをしている、シュミットだった。メイン装備は大型のランス。タンクとしては攻略組の中でもトップクラスだ。

「いや、まあいつもお世話になってるしね。アタッカーが攻撃に集中出来るのはタンクの人達のお陰だ。で、話ってなんだ?」

「話というのは、その………今日起こったって言う、圏内殺人事件のことについてだ」

「もう広まってるのか。でも、なんでそんな血相変えてシュミットさんひとりで来るんだ?来るならキバオウとかディアベルもだと思うんだけど……」

「いや、ディアベルさん達抜きで話がしたい。その…カインズのことについてだ」

「「「!」」」

シュミットの口から出た予想だにしない台詞に3人も驚いた。

「……カインズさんのことを、知っていらっしゃるんですか?」

「ああ。詳しい話はここではなんだし、他の人にあまり話を聞かれたくない」

「そう、だな」

「どこか、カフェに行きましょうか。そちらの方が話しやすいでしょうし……ロニエちゃん、どこかいい所ない?」

「東通りにいい所がありますよ。そこに行きましょう」

ロニエに連れられ、4人はとあるカフェへ向かった。

 

「で、何故シュミットさんがカインズさんの事をしてってるかどうか、教えて欲しい。あとシュミットさんの怨恨の方があるかどうかを聞いておきたいんだ」

この世界ではメモ帳は無いため、メインメニューにあるメモ機能を起動し、キリトがシュミットに事情聴取を始める。

「ああ……その前、聞いていいか?」

「何ですか?」

「……本当に、カインズは殺されたのか…?」

「その瞬間を俺達がこの目で見た。さっき、生命の碑も見てきたけど……ダメだった」

「そう、なのか…」

「……ヨルコって人にも聞いたんだけど、どういう知り合いなんだ?」

「ヨルコ!?ヨルコもいたのか!?」

ヨルコを知っているような口振りに、ロニエは説明する。

「最初からカインズさんと一緒にレストランで食事をしていたそうです。彼女が最初の発見者です」

「…ヨルコさんのこと知ってるのか?」

「……元々、俺とヨルコ、そして、シュミットは同じギルドにいたんだ。《黄金林檎》っていうギルドなんだが_______」

彼は、後々わかる事だ、と全て知っていることを話してくれた。

 

 

 

 

「……レアアイテムの使用方法についての論争の後に…か。確かに、その指輪は間違いなくレアアイテムだ。俺達攻略組でも聞いたことがない。話を聞く限り、そのグリセルダさん殺害事件はアイテム売却反対派の誰かが仕組んだ物だろうな」

彼の話を要約し、一時的だが、客観的結論を出す。

キリトの言葉に肩をビクリと揺らすシュミット。

「その指輪の事はギルドメンバー以外は誰も知らないんですよね?」

「ああ。このことは内密に、とグリセルダさんから忠告があったから…」

「そんなレアアイテムがあったらどんなプレイヤーでも欲しがるだろうな。多分、攻略組からも、中層、低層プレイヤー様々なプレイヤー達がその指輪を求めてギルドの元へ来る。中には、指輪を無理矢理奪おうとする奴も出てくるはずだ。グリセルダさんはそれを恐れたんだろう」

キリトにしては珍しく饒舌だが、やはり彼はゲームプレイヤーとしての考えを理解することに関しては長けている。『は』は酷いかもしれないが。

「懸命ね…でも、それでも彼女は殺されてしまった…」

「やっぱり、ギルドの中で誰かが情報を外部に流した……?」

「まあ、その本人がやったとは思えないしな。だって自分で殺してしまえば自分のカーソルがオレンジになるし、そうなればギルドメンバーに気付かれる…」

殺し屋(レッド)、ね……」

「十中八九そうだろう」

「……ギルドメンバーはグリセルダさんを抜いて7人、ですよね?」

「そうだ。そのうち指輪売却に反対したのが、俺とカインズと、ヨルコだ。俺は、自分が使いたかったが為に反対してた……指輪を売ろうとしてたリーダー意思に反していた俺たちが1番怪しいからな。もしかしたら……」

「グリムロックさんが、復讐の為に殺しをしてる……そう言いたいのか?」

「…そうとしか言えないだろう!?既に1人死んでるんだ!そう考えるしか他にない……っ!」

「一応、ディアベルに連絡しておくよ。今の状態じゃ、まともに攻略に参加出来ないだろう?」

「……すまん…」

「いいよ。多分、ディアベルも納得してくれるだろうしな。どうする?シュミットさん。なんならあんたが外に出るのはかなり危険だ。例え攻略組のタンクでも、今回のは異常事態だ。あんたでもカインズのようになる可能性もないとは言えない。あまり外には出ないでくれ」

「もとよりそのつもりだ……ヨルコを頼む」

「ああ。ヨルコさんにも外に出ないよう言っておくよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、俺達がこれからするべき行動は三つある。1つ、中層で手当たり次第にグリムロックの名前を聴き込んで居場所を探す。2つ、ギルド《黄金林檎》のほかのメンバーに会ってシュミットさんの話の裏をとる。三つ……カインズさん殺害手口の詳しい検討をする……ってとこか」

キリトは人差し指、中指、薬指と順番に三本上げていく。

「「うーん…」」

「1つ目は効率が悪すぎると思うわ。もし犯人がグリムロックさんなら、まあまず身を隠してるでしょうし……可能性は低いわ」

「ふむ……」

「2つ目も少し厳しいと思います。他のメンバーも当事者です。そうなってくると、シュミットさんの話とは矛盾する証言や情報が得られたとすると……シュミットさんの情報と他のメンバーの方々の情報、どちらが真実かを判断する方法がありません。帰って混乱するだけかと…」

優秀な刑事と助手のおかげで選択肢は最後の3つ目となった。

「するならもうちょっと客観的な判断材料が欲しいわね」

「……残るは、3つ目か」

「今回はグリセルダさん殺害事件の解決ではなく、今回の圏内殺人事件の解決及び圏内殺人のカラクリを暴くのが目的ですし、それが妥当かと」

「そうだな……でもさ、俺たちじゃ知ってる事って限られてくるよな……もうちょい知識のあるやつの協力が欲しいな…」

「そんなこと言ったって、ここには管理者はいないーのよ?それはちょっと無理が、

「……あ、いたわ」

「…先輩、もしかして……」

「その通り。アスナ、お前の近くに一人いるじゃん」

ロニエは半分察しているようだ。

そう。キリト達より知っていることが多い、博識な人物それは______

 

 

 

 

血盟騎士団団長にして最強の防御力と圧倒的プレイヤースキル、そして、アインクラッドでの知識を持つ、ヒースクリフその人だった。

 

 

 



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専門家の意見

さて、アニメ後半が始まりまして1話を見て早くも涙腺が崩壊寸前のクロス・アラベルでございます(泣)
それでは続きをどうぞ!


 

「……ふむ、圏内殺人事件か。確かに不可解だ」

とあるアルゲードの小料理屋。そこに、キリト達とヒースクリフはいた。

「だろ?そもそもこの圏内ではHPゲージを1ポイントも減らすことは元々出来ないはずなんだよ」

「団長、どう感じますか?」

「……その前に、キリト君。君の推測から聞こう。君は今回の事件について、どう考えているのかな?」

ヒースクリフは自分の意見からではなく、キリトの憶測から聞くと言った。まるで学校の教師のようだ。

「俺が考えてるのは三つ、1つ、正当なデュエルによるもの、2つ、既知の手段を組み合わせたシステム上の抜け道。三つ……犯罪禁止区域(アンチクリミナルコード)を無効化する未知のスキル、またはアイテム、だな」

「では、3つ目の可能性については除外して良い」

キリトが三つの可能性を言った直後、彼は即座に3つ目の可能性を否定した。

「ヒースクリフさん、どうしてそう思ったんでしょうか」

「よく考えるといい。君たち自身がこのゲームを作るとしたら、そのようなスキル、武器を作るかね?」

「……まあ、無いな」

「理由は?」

ヒースクリフの言葉にキリトは渋々認め、理由を言った。

「理由は1つ。認めるのも癪だけど、このゲームは地獄が始まったあの日からこのSAOのルールは基本、公正さ(フェアネス)を貫いてきてる。それを急に覆すのは考えられないな。例外として、あんたの《神聖剣(ユニークスキル)》を除いてはな」

キリトはニヤリとしながらヒースクリフを見た。がヒースクリフの表情からは何も伺うことは出来なかった。

「流石に今の段階で3つ目の可能性について討論するのは無理があるかと……なので今回は1つ目の正当なデュエルによるPKについてから検討しましょう」

「よかろう……しかし、この店は料理が出てくるのが遅過ぎないか?」

やはりヒースクリフも気になったようだ。料理を頼んでかなり時間が経っている。

「俺はここのマスターがアインクラッドで1番やる気のないNPCだと確信してるね。まあ、そこも含めて楽しむといいよ。はい、氷水」

「ありがとう」

「ほら、アスナも」

「あ、ありがと」

「先輩、お水飲みすぎてお腹いっぱいになっちゃいますよ?これで3杯目ですし…」

まるでお母さんのような心配の仕方に少し口を尖らせてキリトは言った。

「これしかないし、しょうがないだろ」

そして、キリトは自らが見たことを説明し始めた。

「圏内でプレイヤーが死んだんなら、それこそデュエルの結果、ってのが常識だ。でも……これは断言する。カインズが死んだ時、WINNER表示はどこにも出てなかったぜ。そんなデュエル、あるのか?」

「そもそも、WINNER表示って、どこに出るものなの……?」

アスナの疑問にヒースクリフはすぐに答えた。

「決闘者同士の中間位置、あるいは決着時、2人の距離が10メートル以上離れている場合は双方の付近に2枚のウィンドウが表示される」

「なんでそれ知ってんだよ。まさか何回もデュエルして調べたのか……?あんた意外と暇人だったりして…」

半分ディスったようなセリフにアスナがキリトをギロリと睨む。

「そもそもあの広場でウィンドウを見た人はいなかったですし、アスナさんも教会の中でWINNER表示を見なかったんですよね?」

「ええ」

「じゃあ、デュエルの結果……とは言いづらいよな。ってことは…」

「ねえ、キリト君。店の選択を間違ってない?注文してから10分は経ってるよ?」

「……まあ、首がキリンになるまで気長に待とうぜ」

「先輩、それはそれで困ります」

真面目な話の合間合間に行われるコントに少し笑うヒースクリフ。

「気を取り直して……残るは2つ目……システム上の抜け道、だな。まあ、そうだろうとは思ってたけど…」

「……私、引っかかるのよね」

「何が?」

「《貫通継続ダメージ》よ。あれ、公開処刑の演出として……だけだと思えないの」

「……でも、1件だけだと判断しにくいな。これが立て続けに起こって全て貫通継続ダメージが利用されているとすれば確かに検討する価値はあるけど……確かに気になるっちゃあ、気になるなぁ…」

「……?」

その時、ロニエは何かを思い出したような気がした。

「どうした?ロニエ」

「いえ、その………何かを、思い出せそうな気がしたんですけど…いえ、何でもないです」

「何か思いついたら言ってくれよ?」

「そう言えば、貫通継続ダメージが圏内で続かないのは、さっきも試したから分かったことでしょ?」

「ああ、まあだいぶ前に俺が敵MOBの剣刺さった状態で圏内入ってもダメージ止まったしな」

「あれは心臓が止まりそうになりましたよ、先輩」

2ヶ月前、フィールドを攻略時、キリト達は偶然完全武装した人型MOB30体以上に総攻撃を受け、命からがら圏内に逃げたことがあった。その時もダメージは剣が背中に刺さっている状態でも止まっていた。

「でも、あれを転移結晶や回廊結晶で試したらどうなるのかしら…?」

「無論、ダメージは止まるとも」

アスナの疑問に再び鋭く答えを返すヒースクリフ。

「徒歩や回廊などのテレポートであろうと、あるいは誰かに投げ入れられたとしても……つまり街の中に入った時点でコードは例外無く適用される」

「……じゃあ、上はどうなるんだ?例えば上空100メートル以上…プレイヤーが落下ダメージで即死する高さからテレポートとした時、コードは発動するのか?」

純粋なキリトの疑問に今回は少し考えるような仕草を見せたが、ものの数秒で答えた。

「………厳密には《圏内》は街区の境界線から垂直に伸び、言うなれば空の蓋……つまり次層の底まで続く円柱状の空間を指す。その三次元座標に移動した瞬間、《コード》はその者を保護する。それが例え即死に値する高さからのテレポートであっても落下ダメージは発生しないことになる。」

「「へえー…」」

「……?」

すべての疑問に答えてみせたヒースクリフに感嘆の声を漏らすキリトとアスナ。ただし、ロニエはヒースクリフが何を言っているのかあまり理解出来なかったようだ。

「なら、こういうのはどうだ?」

「「?」」

「物凄い威力のクリティカルヒット食らった時って、HPバーってどうなる?」

「ごっそり減りますね」

「違うって。俺が言ってるのはその減り方だよ。このSAOは他のゲームと違ってHPゲージが一瞬で消えるんじゃなくて、右端からゆっくり減るだろ?つまり、ダメージを受けた瞬間とHPゲージが減るのにはちょっとしたタイムラグがあるわけだ」

ふたりはキリトの推理に耳を傾け、ヒースクリフも目を閉じ静かに聞いている。

「例えば、圏外でカインズのHPをあの槍の一撃で全部吹き飛ばしたとしよう。カインズはおおよそ壁戦士(タンク)だ。HPの総量を考えれば、HPが全て無くなるまで……5秒かかるかもしれない。その間に……」

「先輩、カインズさんは壁戦士(タンク)です。攻略組ではなかったにせよ、中層でもトップクラスと聞きました。そんな人のHPゲージを単発ソードスキルで削り切るのは無理があるかと…」

「…まあ、そこだよな。まあ、このSAOには何千人というプレイヤーがいるんだぜ?俺達…ひいては攻略組にも所属していない俺達も知らない、レベルが遥かに上の剣士がいないとも限らないだろ?」

ロニエの最もな意見に挫けず反論するが、やはり説得力がイマイチだ。

「そんな人が犯人だったら、私達じゃ止められないんじゃ…」

確かに、そんなプレイヤーがいたら恐怖でしかない。

「手法としては不可能ではない。だが、無論君を知っているだろう。貫通属性を持つ武器の性質を」

「…えっと、確か…リーチと装甲貫通力に特化している武器、ですね」

一年前にキリトに習った知識を使ってヒースクリフの言葉に答えるロニエ。

「その通りだ、ロニエ君。はっきり言って打撃武器や斬撃武器には単純な威力で劣る。重量級の大型ランスならともかく、ショートスピアなら尚更ではないかね?」

痛いところを突かれたな、とキリトは渋い顔をする。

「そのショートスピアが高級品ではないのだとして、ボリュームゾーンの壁戦士を一撃で即死させようと思えば……そうだな、現時点でレベル140はないと不可能だろうね」

「140………私達でさえレベル100になってまだ時間経ってないのに……!?」

140という誰も到達しえないであろうレベルにアスナが震えながら呟く。因みに攻略組のトッププレイヤー達は軒並みレベル90、キリト達に至っては2週間程前に100に到達したところだ。中層のプレイヤーも過去とは違い、平均レベルはかなり上がっている。

「十中八九そんなプレイヤーはいないだろうね。私もここまでレベルが高くなるとは思っていなかったのだよ」

ヒースクリフも同意見のようだ。最後の一言に鍵っていえば、製作者(茅場晶彦)としての感想も入っている。

「ならレベルじゃなくて、スキルって線はどうだ?……2人目の《ユニークスキル》の使い手が現れたってのは?」

「そんなプレイヤーがいたなら、私が即座にKoBに勧誘しているだろうね」

全ての推理を真っ向から全否定されたキリト。少し落ち込んだ。

「無理があるよなぁ……」

「……お待ち」

すると店の奥からおぼんに丼を4つ乗せて運んできたこの店の店主が現れた。いつも通りの接客態度で客に安心しているキリトとロニエ。

「おっ、キタキタ」

「15分もかかるってどういうことなの…?」

「シラネ」

「いつも通りですねー…」

アスナの疑問にふたりは遠い目をしながら答えた。

「……これは…」

「……ラーメン、なの…?」

「正確にはラーメン、のような何かだな」

4人は一斉にラーメンのような何か……通称《アルゲードそば》を啜る。勿論味はキリトの台詞を肯定するかの如く、なんとも微妙な味だ。常に表情が崩れないポーカーフェイスのヒースクリフも流石に顔をしかめた。

「さて、団長殿。閃いたことはあるかい?」

「……ふむ」

五、六分後。そのラーメン擬きを完食したヒースクリフは顰めた顔の状態で、答えた。

「一つだけ言えることは……これはラーメンでは無い」

「全く持って同意見だけどそっちかいな」

意外にも(ヒースクリフ)は天然なのかもしれないと4人は思った。

「ではこのラーメンもどきの味の分だけ答えることにしよう」

そして、彼は割り箸を丼に置き、答えた。

「今出揃っている材料のみで《何が起きたか》を断定することは不可能だ。だが、これだけは言える。この事件に関して絶対確実と言えるのは君らがその眼で見、その耳で聴いた一次情報のみである」

「は?」

キリト、特にロニエからすれば難し過ぎて何を言っているのか意味不明な説明だった。

「つまり、アインクラッドにて直接見聞きするものは全てコードに置換可能なデジタルデータであるということだ。そこに幻覚や幻聴が入ることはないと言っていい。だがしかし、その他のデジタルデータでない、あらゆる情報には常に、幻や嘘である可能性がある。この事件を追いかけるのならば、己の目や耳、つまるところ己の脳がダイレクトに受け取ったデータだけを信じることだ」

彼はそう言い残し、ご馳走様とだけ言って店を後にした。「なぜこんな店があるのだ…」とも言い残して。

「……どゆこと?」

「多分、自分たちがその場で見て、聞いた事だけを信じなさいって事じゃないかしら」

「…他の人から入手した情報は虚偽が入り込んでいる可能性が十分にある、ということですね」

「分かりやすく言ってくれよ……」

テーブルに突っ伏しながらキリトは帰ってしまったヒースクリフに愚痴を零した

 

 

 




ユージオを生き返らせる神聖術とかありませんかね(白目)


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第2の事件

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回も短めです。
さて、続きをどうぞ~!


 

 

 

「ヨルコに会いたい」

キリト達はヒースクリフとの会合との後、シュミットからメッセージがあった。

その要望に答えるため、キリト達はヨルコに連絡しシュミットがヨルコのいる宿に行くことを伝え、シュミットをその宿に連れていく____護衛も兼ねて_____ことにした。

 

 

「……よう、ヨルコ」

「……久しぶりね、シュミット」

2人は非常に気まずい空気の中、再会した。

キリト達は護衛、兼監視の役目を果たす為、その部屋に居続けることにした。

「もう二度と会わないだろうと思っていたが……」

2人は武器を装備していない。ヨルコと会う条件として、武器を装備しないことを約束させたのだ。

東側のソファーに座るヨルコと、対面するようにシュミットがソファーに座る。ヨルコの後ろには大きめの窓があり、開け放たれている。春風がカーテンを揺らし、外の風景がよく見える。

「シュミット、今は攻略組の青の騎士団に入ってるって…聞いたわ。凄いよね」

「……その言い方だと俺が攻略組に入ったことが不自然だって言ってるように聞こえるんだが」

「違うよ。ギルドが解散した後、人一倍頑張ったんだろうなって思ったの。私やカインズはそこで挫けて諦めちゃったのにね」

「……話はそこじゃない。何故今更カインズが殺されたかだ。あいつは……あいつが、指輪を奪った張本人だって言うのか…?リーダーを殺したのも……っ」

シュミットが不安げに頭を抱える。彼にヨルコは即座に否定した。

「そんな訳ないわ。だって私もカインズもリーダーのことを心から尊敬していたもの。売却しようって言ったのも、お金に替えるんじゃなく、ギルドの戦力として有効活用出来ると思ったからよ。本当だったら、リーダーもそうしたかったんじゃないかしら」

「…俺だってそうだったさ。でも、指輪を奪う動機があるのは俺達反対派だけじゃない。売却派も同じことだろう!……いや、あいつらが金目当てにリーダーを殺すなんて……そんなこと…っ!」

自問自答を繰り返しながらシュミットはより混乱し、冷静さを欠いていく。

「どちらにせよ、両方に動機があるんだ!なのになんでグリムロックは今更カインズを殺したんだ…!?反対した俺達を、全員殺す気なのか…!?俺も、ヨルコも……っ」

「……グリムロックさんの仕業って決まったわけじゃないわ。他のメンバーの可能性だってある。若しかすると……リーダー自身の復讐なんじゃない?そもそも圏内で人を殺すなんて、普通のプレイヤーには不可能なんだし」

ヨルコの予想だにしない言葉にシュミットは彼女に弱い声で答える。

「な……何言ってるんだ、お前……!」

するとヨルコは悲しげな表情で窓の側へキリト達の方を向きながら歩き出す。

「私、考えたの。リーダーを殺したのはギルドメンバーの誰か……そして、メンバー全員なのよ。あの指輪がドロップした時点でリーダーの指示に従っていれば……いいえ、もっと言えばリーダー自身に装備してもらえばよかったのよ。剣士として、ギルドの中で1番実力があったのは他の誰でもないリーダーよ。彼女なら指輪の力を1番活かせた筈なの。なのに私達は自分の欲を捨てられずに『リーダーの指示を仰ぐ』と誰も言わなかった。」

窓辺に腰をかけ、ヨルコは泣きそうな声で呟いた。

「ギルドを攻略組にしようなんて言いながら、本心は自分自身を強くしたいだけだったのよ……っ」

そして、ヨルコは震えながら続けた。

「……でも、その中で唯一、グリムロックさんだけはリーダーに判断を委ねた。あの人だけが、自分の欲を捨ててギルド全体のことを考えていた。だからこそ、あの人には欲を捨てきれなかった私達に全員復讐して、リーダーの仇を討つ資格があるのよ!」

その言葉に部屋は沈黙に閉ざされた。部屋で聴こえるのは、窓から入ってくる夕暮れの冷たい風が窓のカーテンを揺らす音とシュミットが震えて鎧からでる金属音だけだ。

「……確かに、そうかもしれない……でも、何もせずに殺されるだけでいいのかよ!!俺達はここまで生き残った!確かに俺達にもリーダーの死の原因でもあるかもしれない、それでも、復讐だからって人を殺していい筈がないだろう!!」

突然シュミットが大声で叫び、ヨルコに問いかける。偶然にも部屋にいる全員の視線がヨルコ一点に集まった、その時だった。

 

ドスッ、という何かが刺さるような音がした。

直後ヨルコは目を見開き、よろめきながらも大きく振り返った。

「__________」

ナイフだ。正確には投げ短剣(スローイングダガー)が彼女の背中に突き刺さっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱり事は起こってしまった。

ロニエは顔を顰めた。この件についてはユージオから始めのカインズ死亡事件が起こる3時間前に予め伝えられていた。

 

『今回見たものはかなり断片的だから当てにならないと思う。けど、参考程度に聞いて欲しい。あと少しで、キリトたちの目の前で誰かが死ぬ。フルプレートのプレイヤーと、軽装の女性プレイヤーがそれぞれ短い槍と短剣で殺されるのをキリトの記憶から見たんだ。でもその後、殺された筈の2人は生きてたみたいでね。もう1人のフルプレートの男の近くにいたよ。あとそれと、この事件ではラフィンコフィンも関係してるから、気をつけて。』

 

ユージオが見れるキリトの記憶はかなり断片的で、全てを見れるという訳では無い。しかもその記憶には音や声が無く、全てを見るだけなのだ。その事象が複雑なものになるとキリトの記憶から全ての事象を読み取るのは困難となる。

故にこれから起こることの結果だけを知っているロニエはその場で見極めなければならない。だが、VRやシステムについて現代の人間と同じ思考回路を持たないアンダーワールド出身であるロニエにとってそれは至難の業であった。

 

ヨルコの背中に短剣が刺さっているのを見た直後、ロニエは行動を開始した。

「ヨルコさん!!」

ロニエはまだ間に合うと考え、ヨルコの元へと走った。が、ロニエが手を伸ばしたと同時にヨルコは後ろへ倒れ込んだ。彼女は先程から窓に腰掛けていた為にそのまま窓枠に倒れ込み、窓の外へと落ちていった。

「くそっ…!」

ロニエに続いてキリトも走ってきたが、ヨルコは下に落下して倒れている。

「何処に……っ」

ロニエはその短剣を投げた犯人を探そうと窓の外を見回した。すると向こう側の建物の屋根にそれらしき人影を発見した。それが大方犯人だろう。ロニエに気付かれたのを悟ったのか、犯人は逃走を開始する。

「先輩!12時の方向!!」

「っ!!奴は俺が追う!頼んだぞッ!!」

「はい!!」

短い言葉を交わし、キリトは建物の屋根にいる犯人を追って前の建物へと跳んだ。ロニエはヨルコの元へと飛び降りようとした、その時。

 

「_______」

ヨルコが何かを呟いた気がした。ロニエは飛び降りるのを断念し、これから消えるであろうヨルコをじっと観察することにした。人が消えるその瞬間を見れば何か分かる可能性があるからだ。

「……ッ」

何かを呟いた直後、ヨルコは体をポリゴン片を四散して消えた。

「……何かが、違う……?」

ロニエはヨルコが消える瞬間を見てそう思った。通常のプレイヤーの死のエフェクトと何か違和感を感じた。

「ヨルコさん!?」

「ヨルコ……!?」

遅れてアスナが走りよってくる。その後ろでシュミットが震えながら立ち尽くしている。

「…そんな……!」

「シュミットの護衛をお願いします、アスナさん」

「わ、分かったわ」

ロニエはアスナにシュミットの護衛を頼み、ヨルコが消えた場所へと飛び降りた。

そこにはヨルコの背中に刺さっていたであろう短剣が一振り、転がっているだけだった。

「今度は、短剣…」

ロニエはその短剣を拾い上げると一旦ストレージに入れ、シュミットとアスナがいる部屋へと戻って行った。

 




え?遅くなった理由?


FGOにハマってました、( ´•̥ω•̥`)ゴメンナサイ…


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推理

案の定遅くなってしまいました、クロス・アラベルです。
原作を読みながら間違わないようにしたのが仇となりました(汗)何回か書き直してしまう結果に…
が、多分間違ってるとこもあると確信しています。
はい、ちょっと今回はサブタイトル通り推理のお時間です。原作にはなかったロニエから見た圏内殺人事件も書いてますのでちょっと展開の仕方が違うと思います。
それではどうぞ!



 

 

「先輩、どうでしたか?」

「ダメだった。まぁそもそもこの圏外じゃ攻撃しても弾かれるだけだから無意味だったかもな」

「犯人には逃げられて、ヨルコさんは……」

「……ヨルコ…」

帰ってきたキリトとロニエを混じえて結果を出し合う。キリトは犯人を取り逃し、ロニエは証拠品を持ち帰り、アスナは他のプレイヤーを見ることは無かった。

「……シュミットさん、あんたは宿の部屋出ないでくれ。分かっていると思うが、外出は出来るだけ控えてくれ」

「……ああ」

「俺達はあんたを元の宿に送って行く。ロニエ、アスナ。話はその後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるレストランの向かいにあるテーブルに3人は集まった。そこはグリムロックがよく通っていたというレストランだ。3人はもう直接本人に聞くしかないという結論に至った。

その向かいにて三人の会議が始まった。

「じゃあ、さっきの事件についてまとめておこう」

「……ヨルコさんが亡くなりました」

「それだけしかないじゃない…」

沈み込む二人に、キリトは真剣な表情で言った。

「いや、今回ヨルコさん殺人事件で新たな情報を得られた」

「新たな、情報ですか?」

「ああ。今回、ヨルコさんが短剣で刺された直後、その窓の向こう側の建物の屋根の上に黒いローブを着た誰かがいた。しかもそいつは幽霊みたいに音もなく消えたわけじゃない。ヤツは転移結晶を使っていた」

キリトは黒いローブのプレイヤーを追って見たことを報告した。

「少なくとも相手は幽霊なんかじゃなく、プレイヤーだってこと?」

「ああ。間違い無いぜ。幽霊ならそんなもの使わなくとも瞬間移動でもなんでも出来るだろ」

「それについては分かんないけど、十中八九相手はプレイヤー……なら私達も渡り合える」

「そうですね。あとはこの事件の最重要事項でもある…」

「圏内殺人のカラクリを暴くだけだな」

「さて、改めてどう思う?」

「……私から言える事は無い、かな」

「俺も、あんまり無いな」

「えっと……私、ヨルコさんが消えるところをずっと見てたんですけど……」

するとロニエはヨルコの死際に見た出来事を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かを、呟く……でもさ、死ぬ寸前に何かを言い残すことって当たり前じゃないか?そんな特別な理由があるようには思えないけど…」

「確かに、キリト君の言う通りね」

ロニエが説明した出来事に二人はあまり関係がなさそうだと答えを出した。

「でも、あの口の動き……どこかで見た気がするんです」

「……少し、無理矢理過ぎないか?」

怪訝な表情でキリトは言う。

「ならもうひとつ、ヨルコさんが消える瞬間に何か違和感があったんです」

「その心は?」

「先輩、プレイヤーがHPゲージを全損して消える時のエフェクト、見た事ありますか?」

キリトはロニエの問いに顔を顰めつつ答えた。

「…………ああ」

「プレイヤーのHPゲージが全損し、プレイヤーか消える瞬間……プレイヤーの体全体がブレるんです」

「…そうね」

このアインクラッド……デスゲームの中では全てがシステムによって支配される。全てを、平等に。HPゲージが全損したプレイヤーは数秒後、必ずそのアバターが無数のポリゴン片を散らして消え、現実世界でナーヴギアが現実の体、脳を電子レンジで生卵を温めるが如く焼く。どんなプレイヤーであっても、これだけは変わらない。

そして、残念ながらユージオ達はすべての命を救えたわけでは無い。救えなかった命もあった。目の前で消えていった命もある。

「はい。私はヨルコさんが何かを言った直後、ヨルコさんを助けることは不可能だと思ったのでヨルコさんが消える瞬間を注視したんです。そしたら……」

「そしたら…?」

「ヨルコさんの体自体はブレてなかったんです」

「…?」

ロニエの言葉に首を傾げるアスナ。黙り込むキリト。

「ぶれていたのはヨルコさんの来ていたローブでした」

「……待ってくれ。ロニエが言いたいのは、死亡エフェクトが通常より違うから、若しかするとヨルコさんは死んでないって事か?」

「はい」

ロニエの証言からキリトはロニエが言いたいことを当てるが、やはりそうだとは思えないらしい。

「…ロニエ、でもそれはおかしくないか?」

「一体死んでいないヨルコさんが今何処にいるか、ですよね?」

キリトの疑問。それについてはロニエも予想していた。

「ああ。それにヨルコさんにもそんなことをする動機がない。ヨルコさんは奇跡的に死なずに何処かに行ったとしても、何故俺達の前に現れない?普通知らせてくれるだろう?」

「それに……ヨルコさんがどうやって別の場所に移動したの?ロニエちゃんは見ていたんでしょう?ヨルコさんが消える瞬間を。なら尚更じゃないかしら」

「はい、私じゃその方法や動機がわからないので、3人で議論したかったんです」

ロニエの証言と、ロニエの推理。ロニエは確かに現実世界の住民では無いが、ロニエなりの答えを出した。不完全なものではあるが、彼女にしては上出来だろう。

「でも、死んだように見えて尚且つ何処かに瞬時に移動する方法なんて無いでしょう?」

確かにアスナの言う通りである。彼女が生きていて、違うどこかに瞬時に移動しているとするならば、システム的に様々な壁がある。

「そりゃそうだろ?瞬時に遠くに移動するくらいだったら、転移結晶で……」

そう、キリトが唯一の瞬間的転移方法である転移結晶のことを言った直後。

「……まさ、か…」

「先輩?」

キリトはこの圏内殺人の謎を、完全に解いた。

「………俺とした事が、忘れてた…」

「何をですか?」

キリト自身も同じことを過去にしたことがあるではないか。

「Pohに俺が殺されかけた時のこと、覚えてるか?」

「覚えていないとでも言うんですか?」

「滅相もございません」

ロニエが一瞬キリトをゴミを見るような目で返事をした。ロニエがキレるのも仕方ない。それなりの事をキリトはしてしまったのだから。

キリトも理解しているようで肩を震わせながら即答した。

「…その時、俺は確かに奴に殺されそうになった。あのままいけば死んでただろうな。でも俺は生きのびた。どうやって逃げたかはみんなにも話しただろ?」

「はい。確か、コートが消える寸前にそのコートの消えるそのエフェクトをカモフラージュにしながら転移結晶を使ってはじまりの街に…」

「そう。それなんだよ!」

「……じゃあ、あの時キリト君がしたって言うその方法を使って私達の目を欺いたってこと!?」

「ああ。ロニエ、言っただろ?ヨルコさん自身の体はぶれてなかったけど、マントだけブレてたって」

ロニエの証言とキリトの過去の体験、それが完全に一致した瞬間である。

「多分そうだと思う。ロニエがヨルコさんが消える寸前何かを呟いていたって言うんなら、確定だろう。転移結晶による転移時に転移先の街の名前を言わなきゃならないだろ?ヨルコさんはそれを聞かれたくなくてわざと窓の外に体を投げ出したんだ。下に落ちて仕舞えば街の名前も聞かれづらいだろうからな」

「じゃあ、カインズさんの死も同じと考えて良さそうですね」

「んー……それは…」

「ロニエちゃん、それは流石に無理があるわ!だって私たちは実際に見たんだもの!カインズさんの名前が生命の碑から消されていたのを……!2人も見たでしょう!?」

「それについてだけど……」

アスナの疑問にキリトが答える寸前、キリトの後ろから聞き慣れた声がした。

『何故生命の碑から名前が消されていたカ……それは、生命の碑を見る以前の問題サ』

「「アルゴさん!?」」

「お、思ったより早かったな」

そう、情報屋『鼠』のアルゴだ。

「ヨっ!ローちゃん、アーちゃん。事件解決はもうすぐダゾ」

「何故アルゴさんが…?」

「情報屋のおれっちが来たんだ、何故来たかなんて聞く方が野暮ってもんだゼ?」

「んで、頼んでた情報は調べられたか?」

「でなきゃ来ないヨ。全く、たった4時間で調べてきたおれっちの努力を褒めて欲しいくらいダ」

「それはお見逸れしました、っと」

キリトはアルゴに依頼の代金を500コル金貨を指で弾いて渡すと、アルゴは「毎度アリ」とそのコインを落とすこと無く受け取った。

「はい、これが例のブツダ」

「なんかその言い方だと変な薬受け取ってるみたいに思えてくるから止めてくれ…」

「ニシシ」

アルゴが巫山戯ながら渡してきたのはとあるスクロールだ。

「じゃ、おれっちはこの辺でナ!依頼が結構立て込んでるんだヨ」

そう言ってアルゴは夜の帳へと消えていった。

「先輩、何ですか?それ…」

「アルゴが調べてきてくれたとれたてホッカホカのブツだ」

「真面目に答えなさい」

「アッハイ」

アスナに冷たい声で言われながらそのスクロールを開く。そこに書いてあったのは______

「……プレイヤーネーム?」

「イエス。さあ、この書かれた名前からどんな共通性があるか答えなさい」

「……黄金林檎のギルドメンバーですか?」

「ロニエよ、早く言い過ぎると面白くないじゃないか…」

「面白みは求めていませんので」

「……ロニエまで冷たくなってるぞ…」

そう、ギルド『黄金林檎』のギルメン全員の名前だ。

「…フムフム………よし、やっぱりか」

「やっぱりって……何がやっぱりなんですか?」

キリトはそのスクロールを俯瞰し、思った通り、と言わんばかりに2人に問いかける。

「さて、ロニエ君、アスナ君。このスクロールを見て何かおかしいと思わないかね?」

「「?」」

そのスクロールを渡された2人はそれを見て、考える。

そして、先に気付いたのは意外にもロニエだった。

「あれ?カインズさんの名前がありませんけど…」

「正解だ、ロニエ君。だがそこには既にカインズさんの名前は書いてあるぜ?」

ロニエはキリトのその言葉にすぐさま気付いた。

「…あ、もしかして、綴りの違いですか?」

「素晴らしい観察力だな。正解だ」

「綴り?」

「はい。私達が知っているカインズさんのプレイヤーネームは『Kainz』ですが、ここに乗ってるのは『Caynz』なんです。だから、若しかすると私達が生命の碑で探していたのは全く持って別人の名前…ということになります。」

これにはアスナも思わず舌をまいた。

「おおよそ、お二人はもう1人のカインズさん…Kainzさんの死を知ってこのトリックを思いついたのではないでしょうか?同じ日、同じ時間、同じ死に方…それを色んな人達の前で再現することで幻の復讐者による裁きだ、と……そういう風に仕立てたんだと思います」

「何から何まで解説ありがとう、ロニエ。ま、そういうことだ。」

「でも、ヨルコさんは『Kainz』って……まさか、それが嘘だった……てこと?」

「そう。団長さんが言ってただろ?『自分たちの目で見て耳で聞いて肌で感じたことを信じることだ』ってさ。それ以外は虚偽が入り込む余地がある……だったか」

「正に的をいていますね」

「ああ。ホント、団長サマサマだぜ」

「ヨルコさんが嘘を言っていた……なら、カインズさんとヨルコさんは共謀してこの事件を起こした…?」

「ああ。理由は多分、半年前のギルドリーダーであるグリセルダさん殺害事件だろうな。噂の指輪のことを知っていたのはギルドメンバーだけ…なら、身内に犯人がいる。それでどうにか犯人を探し出そうとして2人が考え抜いたのが、このトリックだったんだな。」

「…じゃあ、犯人は誰だったんでしょうか…?」

「多分シュミットなんじゃないか?俺たちの知ってる奴でまだ生き残っているのはあの人だけだしな。今頃ご本人に2人が問い詰めてるとこじゃないか?グリムロックさんと一緒に」

「グリムロックさん…!」

「それはそうよね…だって自分にとって一番大事な人を殺されたんだもの。でも………シュミットさんを殺したりなんかしてない…わよね?」

不安そうにアスナは声を零した。

「保証しかねるけど…多分大丈夫なんじゃないか?あの二人は殺さずに問い質すことを目的としてるんだと思う。」

「お二人はどこにいるんでしょうかね…」

「……グリセルダさんのお墓、でしょうね」

グリセルダの墓、19層のとある圏外のとある丘にある小さな墓石だ。そこにはグリセルダが遺した唯一のアイテム_____剣や盾、ギルドシギル、結婚指輪などの遺品が埋められた場所だ。剣や盾などの大きなアイテムはもう壊れてなくなってしまったが、指輪などの小さなアイテムは耐久力が絶対に減らないという魔法のアイテム『永久保存トリンケット』の中に入れられて当時のままだ。

「ああ、あそこまで恐怖していたんだ。自分がいつ殺されるかもう分からない、そうなったら、この仇討ちをしている本人の前で罪を告白して懺悔する…そうなると、思う」

「2人はこの『幻の復讐者』を作り出した結果、唯一恐怖に駆られて行動を起こしたのがシュミットさんだった……」

「……じゃあ、シュミットさんが半年前グリセルダを殺した犯人という事ですか?」

「そうなるな」

「でも、あの人にはそんな殺人鬼の狂気じみたものは感じませんでしたよ?それに彼は攻略組ですし…」

「…人を殺す奴誰もが狂気じみてるわけじゃないけどな。でもシュミットの反応からして演技ではなかったような気がする。例の指輪を巡って言い合いになり、カッとなって……いや、グリセルダさんが1番強かったって言う言葉を信じるなら簡単に負けるとは思えないし…若しかすると本当に睡眠PKを…?」

「どちらにせよ、俺達が首を突っ込むのもあれだしな。今回は2人に任せよう。多分、2人なら正しく裁いてくれるさ」

キリトはそう言って胸をほっとひと撫でした。

「……先輩。本当に…グリセルダさんを殺した犯人なんでしょうか?」

「?」

が、ロニエはその結論に疑問をぶつける。

「いえ、その……プレイヤーに故意にダメージを与えた場合そのプレイヤーのカーソルが緑色からオレンジ色になるんですよね?」

「……確かに、1度プレイヤーを傷付けたらオレンジプレイヤーになるから、ギルドメンバー達にすぐ勘づかれるわね。すぐさまカルマ回復クエストをクリアするのは不可能って聞くし…」

「あれ3日ぐらいかかるからな。やっぱレッドを雇って…?」

「……先輩、3人を追いかけませんか?すごい不安なんです」

不安、とロニエは言うが本当の理由は違う。

ユージオはこの事件についてキリトの記憶から予知()ていた。そして、彼はこう言った。『この事件はラフコフが関係している。Poh達が絡んでいる』と。

今の今までPoh達が直接的な関与をしていない。キリト達と対峙していたとするなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「あの二人は殺しまではしないよ。グリセルダさんのお墓の前でそんなことしないと思う。だって、グリセルダさんは正義感が強かったって聞くけど…多分彼女は犯人を殺してくれとまで願っていない筈さ。本人に会ったことも無い俺が言うのも可笑しいかもしれないけどな」

ロニエはユージオの未来視の事を言うのは憚られる。ならば他の理由を提示するまで。

「先輩。シュミットさんがもしグリセルダさんを殺したとして彼はその例の指輪を手に入れられたんでしょうか?」

「どういう事だ?」

「いえ、その……確かに、普通のプレイヤーが死んだらアイテムは普通装備している剣や盾以外は消える訳じゃないですか。なのにどうしてシュミットさんはグリセルダさんの寝首をかく要領で殺して手に入れようとしたんでしょうか?」

考えながらも言葉を紡ぐロニエ。

「…いや、でも、彼女は指輪を装備していたらその指輪も落ちるだろ?」

「……ヨルコさんからグリセルダさんとグリムロックさんはとても仲が良かった夫婦だと聞きました。それに、戦闘中であっても結婚指輪を外さないと…」

「?」

「グリセルダさんはギルドリーダーだった訳ですしギルドシギルの指輪もしていたとしたら、グリセルダさんは左手に結婚指輪、右手にギルドシギルの指輪も装備していたことになります。このアインクラッドでは片方の手につき1つしか指輪を装備出来ない…なら、その例の指輪をはめる手は……無かったことになるのでは?」

「…じゃあ、ロニエはこう思う訳だな?『グリセルダさんは例の指輪を装備せずストレージに入れていた』って」

「はい」

「確かに…一理あるわね」

「…でも、その時はたまたまどちらかを外して例の指輪をはめていたら?」

「いえ、その……」

「キリト君。ヨルコさんは言っていたでしょう?グリセルダさんのお墓には結婚指輪とギルドシギルがあったのよ?その2つがあるのなら……分かるでしょう?」

ロニエの意見にアスナは賛同する。

「…そうか、確かにな…」

「じゃあ、例の指輪は消えた…ってこと?」

「いや、その事を知らないシュミットじゃないだろ。知っている筈だ。例え彼がレッドに頼んだとしても、そのレッドが気づく筈_____」

その時、キリトは気付いた。

「まさか、指輪が消えることなんて分かってて殺したのか…?」

「でもそれじゃあ彼女を殺す理由にならないじゃない」

「……先輩」

「なんだ?」

「結婚している2人のうち、片方が死去した時って、アイテムってどうなるんですか?」

「…いや、結婚とかの情報は分からない…」

「代わりに答えるけど、多分生きている方のプレイヤーに渡るんじゃないかしら。結婚したら2人のアイテムストレージって()()()()()らしいし」

「「___________」」

その時。

2人の中でバラバラになっていたピースがひとつになった。

「行くぞロニエ!!」

「はい!!」

「え?2人ともどこに行くのよ!?」

2人は居てもたってもいられず19層のグリセルダの墓へと急いだ。

 

 

 

 




ちょっと端折ってる所もありますので、御容赦を…


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笑う棺桶(ラフィンコフィン)

また1ヶ月も空いてしまいました(´・ω・`)
どうもクロス・アラベルです。
もう今年が終わってしまう……その前に投稿できて良かったです。はい( ᷇࿀ ᷆ ს )
2話連続投稿です。これで圏内殺人事件も解決です。
そして、今回は少しだけ戦闘描写があります。そして、キリトとロニエが滅茶苦茶強くなってます。
下手な文章になってたり、誤字もあるとは思いますが、どうぞよろしくです!
それでは、どうぞ〜


 

 

 

 

ドドッドドッドドッ

 

強く地を蹴る振動が体中を駆け巡る。

キリトとロニエはとある乗り物の上にいた。

「先輩っ、先輩って騎乗スキルなんて持ってましたっけ!?」

「持ってないっ……!!ロニエ、あんまり喋るな!舌噛み切るかもしれないぞ!!」

そう。馬である。

このアインクラッドにはアイテムとしてストレージに入る騎乗生物(マウント)及びプレイヤーが個人で持てる騎乗生物がいない。だが、例外として、街や村にある牧場などの牛や馬を借りることはできる。主に牛はストレージに入り切らないアイテムを持たせて歩いたりするのが多い。だが、馬はほとんど借りられることは無い。非常に高い騎乗スキルを要求されるからだ。そんなスキルの練度をあげようとするのはよっぽどの暇人か、趣味人である。なので攻略組にも馬をなりこなせる人物はいない。(因みにこの世界で舌を噛み切ることが出来るかはキリトも知らない)キリトとロニエも例外ではない。なので勿論_____

「「~~~~~~~っ!?」」

酷い運転の様である。今にも振り落とされんとしている。キリトは手網を掴み前屈みになり、ロニエはキリトの腰にがっとりと抱き着いている。

シュミット達3人がいるグリセルダの墓までどれくらいあるかは分からないが、今は索敵スキルを全開にしてプレイヤー反応を探る。こんなレベリングとしても探索としてもあまりメリットのないこのフィールドではシュミット達以外のプレイヤーはまず居ないと考えていい。いるとしたらシュミット達か、グリムロックか______情報を流されて来てしまった殺人鬼(レッド)か。

と、その時、キリトの索敵スキルに何かが引っかかった。

「……!前方80メートル先にプレイヤー反応が、6つ!!遠くにもう1つあるが……」

おおよそ、6つの内3つはシュミット達。あとの3人は一体誰なのか。

「俺の嫌な予感が当たらないといいんだけど…なっ……!」

3()()。キリトは非常に嫌な予感に襲われた。

そして、離れた所にいる1人はおおよそグリムロックだろう。キリトは彼をアスナに任せた。

あと11秒で、シュミット達の所に着く。着いた瞬間にレッドとの戦闘になる可能性がある。

「……!!」

馬に落とされそうになりながらもキリトは剣の柄を握る。

「行くぞ、ロニエ……!!」

「___はいっ!!」

「_____4、3、2、1____ここだ!!」

その瞬間2人は馬から飛び降りようとした。が、馬は到着した直後後ろ足だけで立ち上がったため2人して勢いよく後ろに尻もちを着いた。

「痛てぇ!!?」

「きゃっ!?」

馬はその場に留まり、少し怒ったような表情でキリトを見下ろした。

「ギリギリセーフ……で、いいよな?あと少しでも遅れてたら、目も当てられない惨状になってただろうしな。」

キリトとロニエは立ち上がり馬の尻をぽんと叩き、レンタル状態だった馬は即座に元の牧場へと駆け足で帰っていった。

そして、キリトたちの前にいるのは、シュミットとヨルコ、そして、カインズだ。だが、3人は怯えた表情でキリト達を見ている。何故なら_____

 

「よう、PoH。久し振りだな。まだその趣味悪い格好してんのかよ」

「……お前には言われたくねぇな」

彼の有名なレッドプレイヤーの集まり、レッドギルドの幹部である毒ダガー使い《ジョニー・ブラック》、針剣(エストック)使い《赤眼のザザ》。そして、そのボスである中華包丁のような形をした魔剣級の大型ダガー《友切包丁(メイトチョッパー)》を使い、何十人とプレイヤーを殺してきた殺人鬼にして、レッドギルド《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》を作り上げた張本人_______PoHが自分たちの命を狙っているからだ。

2人がそう言葉を交わした直後______

 

「「シッ____!!!」」

____火蓋は切られた。

閃くキリトの片手直剣とPoHの友切包丁と鋭い呼吸。金属同士が恐るべき速さでぶつかり合い散る火花。

キリトとPoH(ふたり)に遅れて動き出すザザとジョニー・ブラック。だが、もう眼前に剣は閃いていた。

「「!?」」

咄嗟に避けて左右に別れるザザとジョニー。2人に刃を振るっていたのはロニエだった。

キリトに負けず劣らずの剣技を持ってレッドプレイヤーのトップ2、3を即座に追い詰める。

「ちぃッ!!」

「__クッ!!」

「____フッ!!」

二人同時に反撃しようと獲物を握る。だが、ロニエはザザを抑えるべく《スラント》を発動させる。

防いだザザだが、完全に弾き返された。ザザのエストックは細く軽い。そのためロニエの片手直剣ならば押し切ることは容易だ。

「俺の事を忘れんなッッ!!」

「___!!」

ジョニーの投げナイフにロニエは即座に反応し技後硬直終了した瞬間に剣で弾き、ターゲットをジョニーに変える。

「うッッ!?」

ジョニーのナイフの弱点、それは完全に間合いに入らないと攻撃が届かないこと。ロニエはそれを的確に把握し、それを利用する。

気を付けるべきはジョニーの投げナイフ。それにさえ気を配れば()()()()

そして、とうとうロニエの剣の一撃がジョニーの右肩に入る。

「がァッ!?」

ジョニーが思わず声を漏らし、後ろへ倒れ込む。

「____!!」

「___ッ!!」

トドメをさせぬと言わんばかりにザザがエストックで突きをロニエにお見舞する。ロニエはそれを防ぎ、再びザザへの攻撃を開始した。

2()()1()。不利な筈のその状況を、ロニエは覆してみせた。

そのロニエの実力に、2人は畏怖した。

 

ソードスキルを使わない、剣戟。

それをキリトとPoHは繰り広げていた。ソードスキルを使えば技後硬直が課される。それはこの殺し合いでは絶対に避けるべき事。それを理解している2人は通常攻撃のみで戦闘を続ける。

切磋琢磨出来る友(ユージオ)》と並び戦ってきたキリトには前の世界線とは一線を画した戦闘技術があった。

殺しを本業とし、並々ならぬ技術を持つPoHであってもキリトには攻めきれなかった。

「ッッ!!!!(_____コイツ、やはり違う…!他の奴らとは、一味……いや、そんなものでは言い現せねぇぜ…!!俺が……防戦を強いられてるってのかよっ!?)」

故に、防戦。PoHは防ぐことしかしていない。攻めようものならキリトの一撃が頬を掠る。

PoHが対等に戦えていたのは初めのあの一撃だけであった。

Holy shit(ふざけやがって)!!!!」

思わずPoHが後ろへ下がる。キリトはそれに追撃せず、剣を中段に構えPoHを睨みつける。

同時にロニエもキリトの元へ駆けつけキリトと同じように剣を構える。

「……チッ」

人数差をものともしない強さ。それが2人にはあった。

「……っ(確かに戦いじゃあキツいかも知れねぇが……こちらには人質が……人質……まさか!?)」

PoHは気づいた。ついさっきまで足元にいた人質が、いないことに。

「……それも計算のうちだった……そう言いたいのか?」

PoHが人質として使おうかと思っていた、シュミット達はキリトとロニエの後ろにいた。

戦闘に夢中で気付かなかったが、2人は戦闘に乗じてこの人質の位置も把握し最終的にPoH達を人質から遠ざけることを目標にしていたのだ。

「……」

「さて、俺達の目的は達成された。お前ら……ここからだぜ?」

「「「ッッ!!」」」

「2対3とはいえ、負ける気は無い」

「いや、こっちは3人だ。さっきはコイツらが急な戦闘で不意をつかれちまったが……勝てねえ訳じゃねぇ。3対2だ。勝機は充分こっちにあるぜ?」

キリトの脅しにPoHが負けじと言い返すが、その言葉をキリト以外のものによって否定された。

 

 

 

『いや、3対2じゃない。3対4だ、PoH』

 

 

 

キリトたちの背後から声がした。

キリトたちもまったく気づかなかったので急いで振り向くと、そこには_____

 

「……ここまで来るのに半年か。ホント、時間かかったっスよ」

フードを被った知らないプレイヤーと片手槍を手にしたベルが立っていた。

「ベル…!?」

「お久し振りです、キリトさん。まさかと思っていたんですが…ここまで来てたなんて思ってませんでしたよ」

「どうして、ここに…?」

「説明は後程。この状況についてはもう完全に理解してるっス」

「……なら、心強い」

「まさか…!?《スズラン》か……!?」

《スズラン》。殺人ギルドである《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》に対抗すべく30人程で結成された、オレンジプレイヤー及びレッドプレイヤー狩りを目的としたギルドである。これまで80人以上のオレンジ、レッドプレイヤーを捕え、黒鉄宮の監獄に飛ばしてきた。まさに、プロの殺人者殺し(アサシンキラー)である。そのギルドの団長こそがベルだ。

 

「…………お前か」

ベルは元々PoHに半ば洗脳されて操られていたが、今となってはその彼を黒鉄宮の牢獄に入れる為に全てを捧げることを選んだ。彼にとってもPoHは因縁の相手だった。

「また会ったな、PoH。今ここで決着をつけてしまいたい…だが、こっちは戦闘ができる人数が限られてる」

「……」

ベルの言葉を聞き終わる前にPoH達3人が再び各々の武器を構え出す。

「安心しろ。すぐ俺達には増援が来る。攻略組の選りすぐりの40人に、俺たちのギルドから10人だ。お前ら、たった3人で勝てると思うなよ?」

が、次のベルの言葉に3人はその手を止めた。攻略組40人と殺人者殺し(アサシンキラー)10人。どう見ても分が悪い。今でもそうなのに、増援が来られるなぞ、彼らにとっては最悪の事態だ。それを察したであろうPoHはすぐさま判断を下した。

「……SUCK(くそったれ)

PoHのその言葉に部下の2人は武器を納め、PoHと共にキリトが来た方向へと歩き出した。

「黒の剣士。お前だけは、いつか地面に這わせてやる。大事なお仲間の血の海で、ゴロゴロと無様に転げさせてやるから、期待しとけよ」

立ち去っていくPoH達。どちらも不意打ちを警戒していたが、それが起こることはなかった。だが、3人のうち1人____赤眼のザザが、キリトに言った。

「……格好、つけやがって………次、は……俺が、馬で追い回してやる…からな」

「練習しとけよ。結構見た目よりも難しいからな」

と、言葉を交わして3人は薄く霧が立ち込める丘を、降りて行った。

 

 

 

 

「……ふぅ…危なかった…」

3人の姿が見えなくなった直後、キリトは無意識のうちに安堵の溜息をついた。

例えキリトとロニエと言えど、不意打ちに近いあの戦い方が出なければ彼らを封殺することは出来なかった。人間、突然のことには冷静に判断して対処するのは難しい。それを突いた戦いだった。ベルの助太刀はとてもタイミングがよかった。

「……ありがとう、ベル。本当に助かったよ。それにしても、俺達が援軍を呼んでることを知ってたなんてな」

「いえ、俺もキリトさんに呼ばれて集まっていた攻略組の皆さんについさっき聞いたんです。一応この層の主街区にうちのギルドのメンバーがいます。まあ、10人もいないッスけどね」

「……やっぱりベルのもブラフだったか。流石《スズラン》ギルドリーダーだな。お見逸れしたよ」

「こればかりはアイツらと渡り合うのに最低限必要でしたから……自分が連絡入れとくッス」

「頼んだ」

ベルがキリトの代わりに街で待つ13人の攻略組と3人の《スズラン》メンバーへとメッセージを送ろうとメインメニューを開く中、キリトがロニエに渡された解毒薬を飲んで麻痺から回復したシュミットとカインズとヨルコに声をかけた。

「やあ、久しぶりだな。ヨルコさん。それに……初めましてと言うべきかな、カインズさん」

「お二人共、本当にごめんなさい全て終わったら包み隠さず話すつもりだったんです。信じてもらえるかは……その、分からないですけど…」

「信じてもらえるかどうかは、今のヨルコさん達の表情とか、声でわかるよ。ま、あとはご飯を奢ってもらえれば充分かな。あ、怪しいラーメンとか、何が入ってるかわかんないたこ焼きとか、無しだと嬉しいなぁ」

「先輩、そこは奢ってもらわなくとも信じましょうよ…」

キリトに申し訳なさそうに謝るヨルコ。それにキリトはカラカラと笑った。

「……いえ、初めましてではないですよ。キリトさん。あの時、一瞬目が合いましたし」

「あの時か。鎧破壊と同時に転移する寸前だったっけ?」

「ええ。この人ならこのカラクリを見抜かれてしまうかも……そう、思ってしまいました」

「謙遜し過ぎですよ、カインズさん。私達もこのカラクリに騙されちゃった訳ですし…」

カインズが黒いローブを脱ぎながら言った。ロニエも笑顔で答える。

「助けてくれてありがとう……だけど、キリトさん。なんで分かったんだよ…あの3人が襲ってくるって」

麻痺毒から回復し、立ち上がるシュミットが衝撃が冷めやらないままに、キリトに疑問を投げかけた。

「いや、PoHが来るだなんて思って無かったさ。確かに、レッドが来てる可能性は確かにあったからこうして来た訳だけど…」

そして、キリトはシュミットの疑問に答えるべく、自分が考えたその推理を事細かに話した。

 

 

 

 



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真実、それは永久の愛

 

 

「じゃ、じゃあ……グリムロックさんが……?グリムロックさんがあの人を殺したって言うんですか!?」

「…直接手は下していないにせよ、間接的に……具体的には汚れ専門のレッドプレイヤーを使って、だろうな」

キリトの推理に信じられない、と驚愕する3人。

「……まあ、動機とか、そう言うのは本人から聞くことにしよう」

「え……?」

キリトがそう言うとキリトの後ろにある木々の向こうから誰かがやって来た。

「お待たせ、キリト君、ロニエちゃん」

「アスナさん!」

そう、アスナである。そして、彼女に連れられているのは_____

「え……?グリムロックなのか…!?」

今回の主犯______グリムロックだった。

「キリト君の言う通りだったわ。ちょっと遠いところで見てたみたいよ。さ、全て話してもらいます、真犯人さん」

「真犯人?………何を言うかと思えば、わけも分からないことを…」

「嘘を言うのはやめてください。では何故貴方はあそこにいたのですか?貴方はことの終わりを見に来たのでしょう?自分のしてきたことがギルドのみんなにバレる前に始末してしまおうと、そう思って。」

「何をしてきたというのかな?血盟騎士団副団長さん」

「……グリセルダさんの殺害及び、彼女のアイテムの窃盗よ」

「殺害?私はグリセルダを殺すほど強くはない。ステータス面で言えば彼女を殺すのなんて不可能だよ」

「レッドに依頼したんでしょう?そんな汚れ仕事、レッドならいくらでもやってくれたでしょうに」

「その証拠は?そのレッドプレイヤーの証言があるとでも?」

「……貴方という人は……!」

アスナがグリムロックを問い詰めるが、あまり効果がない。というより、アスナがヒートアップしていく。なのでキリトが代わりに問い詰めることにした。

「……こんにちは、グリムロックさん。俺はキリトっつう……まあ、単なる部外者さ。さて、あんたに聞いておきたいことがいくつかある。1つ、今回の圏内殺人事件で、あんたはいくつかの武器を2人に渡した。それはいいか?」

「ああ。あまり進んでという訳ではなかったけれどね」

ヨルコとカインズがこの事件で使った武器、それはグリムロックが製作したものだった。それについては彼は否定しない。

「2つ、あんたはここに来た理由をこの2人の計画の顛末を知っておきたかった程度で済ますつもりだろう?」

「……済ます、というのは君ならの根拠があっての事だね?」

「まあな。アスナ、グリムロックさんはあのラフコフ(3人)が来る前に見つけたのか?」

キリトはアスナに問う。

「ええ。ラフコフが来る前から隠蔽(ハイディング)スキルを使って隠れてたわ。私が看破(リピール)しなければ3人とも殺されるまで隠れてたでしょうね」

「すまないが、私はしがない鍛冶屋さ。この通り丸腰で来ているからね、あの恐ろしいオレンジと戦えの言うのも無理がある」

アスナの棘のある言い方にグリムロックは溜息を着きながら答えた。

「確かにな。でも、あんたは戦えないから隠れてた訳じゃなく、元ギルドメンバーである3人が目の前で確実に殺されるのを見るため、だったんだろう?元ギルドメンバーの中でもグリセルダさん殺害事件の真相を知ってしまうかもしれないこの3人を」

「机上の空論、とはこの事を言うんだね。どちらにせよ君は、その容疑者である私に物的証拠を突きつけていない。君の言葉には説得力がない」

キリトの推理にグリムロックは飄々とした態度で答えた。

「ああ。俺は確かにあんたがこの場所にいた事と、あのラフコフの襲撃を結びつける材料なんて持ち合わせちゃいない。たぶん、あいつらに聞いても何も証言してくれるわけが無いからな」

キリトは自分自身の持ち合わせている証拠では追い詰めることは出来ないかもしれないと、ため息をついた。だが、キリトの推理はまだ、終わっていない。

「それでも、去年のギルド《黄金林檎》解散原因となった《指輪事件》……それに関してはあんたが関わっていることは確実だ。グリセルダさんを殺したのが誰であろうとグリセルダさんと結婚しストレージを共有しているあんたにグリセルダさんの装備している物以外が手元に行った筈だからな。あんたはその事実を誰にも言わず指輪を秘密裏に換金してその半額を共犯であるシュミットさんに渡した。これは犯人にしか出来ない行動だ。あとは可能性として指輪事件の真実に気付かれてしまうかもしれない《共犯(シュミット)》を消すためにこの圏内殺人事件(ヨルコとカインズ)を使って3人まとめて処分するつもりだった……そんなとこか」

「……面白い推理だ。だが……」

「グリセルダさんがあの指輪をストレージに入れていない可能性も否定出来ない……そう言いたいんですよね?グリムロックさん」

「……わかってくれている人がいたようだ。お嬢さん」

「…初めまして、グリムロックさん。私はロニエ。キリト先輩とこの事件の解決に乗り出した部外者の1人です。」

何か反論をしようとしていたグリムロックよりも先に、ロニエがようやく口を開いた。

「ヨルコさん達に色々聞かせてもらいました。グリセルダさんはギルドの中でもトップの実力を持っていた。カインズさん達にも信頼されていたようですし、その指輪を使うべきはグリセルダさんだ、とも言っておられたそうです。それにグリセルダさんはスピードタイプの剣士。ならば彼女に指輪を装備してもらう方が良いと考えてでしょう。だから貴方はグリセルダさんが指輪を装備していたかもしれない、と言いたいんですよね?」

「その通り」

「……でも、変ですね。グリセルダさんが殺されて、グリセルダの遺品を持ってきてくださった方はその場にドロップしたアイテムを奪われたであろうアイテム以外を全て貴方達ギルドメンバーに渡した。その中に、指輪が2つあった……そう、ヨルコさんから聞きましたが…」

「……!!」

「黄金林檎の印章(シギル)と、結婚指輪。その2つが、落ちていたそうです。そして、貴方は指輪を剣と同じように耐久値が減って消えるのに、任せる……そう言ったそうですね。ヨルコさんは皆さんには黙って、保存していたそうです。その指輪、2()()()

「……ヨルコ…君は……!!だが、もう去年の事だ。君がその指輪を持っているとでも言うのか?ヨルコ」

彼の表情に焦りが見え始めた。

「いえ、ヨルコさんは持っていません。そのお墓の中にあるそうです」

「墓の、中……?」

()()()()()()()()()()

「!?」

グリムロックが目を大きく見開いた。

「容量はだいぶ小さいですが、その中に入れておけば、耐久値が減ることは無い……魔法のアイテムです。今お墓を掘り返してみれば、その指輪があるはずです。貴方の名前とグリセルダさんの名前が刻まれた指輪と印章が……!」

「……」

ロニエは今までにないほどに鋭く睨みつけ、証拠を突き付ける。

「この世界では指輪は片手にひとつしかはめられない。彼女が死んだ時、その場に残っていた指輪が2つだったということは例の指輪はもう装備できる状態ではなかったということ……後はもう、分かりますよね?」

「…………まさか、言い逃れが出来なくなるほど、か…」

ロニエの最後の言葉に、グリムロックは、頭を抱えた。

「……どうして……どうしてリーダーを、奥さんを殺してまで指輪を奪ってお金にする必要があったの…?」

小さな声で、ヨルコが呟いた。

「……金?金、だって?」

グリムロックはヨルコの言葉に、帽子を深くかぶりながら、アイテムストレージから麻袋を取り出して地面に放り投げた。

「……その金は指輪を売った金の半分だ。金貨1枚だって減ってない」

「え……?」

思わず全員が呆気にとられていると、グリムロックは話し始めた。指輪事件の真実と、その動機を。

「私は、金の為に殺したんじゃない。私は………どうしても彼女を殺さねばならなかった。まだ、彼女が私の妻でいる間にね」

妻でいる間に、とはどういう事なのか。

「彼女は、現実世界でも私の妻だった」

「!?」

暴露されたその事実にその場の全員が驚愕した。

「私にとって、最高の妻だった。理想をそのまま形にしたような、人だった。夫婦喧嘩すらしたことが無かった。だが、この世界に囚われてしまってから変わってしまった」

体を震わせながら続ける。

「怯え、怖れていたのは私だけだった。グリセルダは……《ユウコ》は戦闘面でも、状況判断力においても私を超えていた。ついには私の反対を押し切ってギルドを結成し、メンバーを集めて鍛えた。私の目には現実世界よりも生き生きとして……より充実しているように見えてしまった。認めざるを得なかったのだよ______私の愛していたユウコは消えてしまったことを。例えこの世界から出られたとしても、あの日のユウコは、永遠に帰って来ないだろうということをね」

途中で出てくる名前は、現実世界でのグリセルダの本名だろうか。彼の独白は続いた。

「愛は失われてしまったんだよ」

そうぽつりと呟き、顔を覆い隠した。

「君たちには分からないだろうね。だが、いつか分かる日が来る。愛情を手に入れ、それが失われようとした時に、ね」

悲しげな最後の言葉に、1人反論しようとしていた人がいた。

「………いや、あんたは間違ってるッスよ」

ベルだった。

「どこがだい?少年。君の事は知らないが口を出す権利すらないのだよ。何も知らない人間には…!」

「いや……あんたはこう言った。()()()()()()()()()()()》……と」

彼は続ける。彼のみが知り得る真実を。

「…でも、愛は元から失われてなんかいなかったんだ。()()()()()()()()()()()()()。今のあんたの姿を見たとしても、あんたが自分自身を殺そうとしていたことが分かっても、愛はまだそこにあった」

「何を言って…」

グリムロックでさえ理解できないその言葉に誰もが疑問を抱いた。

 

「もういいですよ、グリセルダさん。あなたも、限界でしょうから」

 

その言葉と同時にベルの隣で密かに震えていたローブのプレイヤーが、そのフードを外した。

「_____________」

その瞬間、グリムロックの時が止まる。そして、黄金林檎のギルドメンバーも例外ではなかった。

そのローブを着た人は____

 

「……どうして________」

 

_____泣いていた。

そのプレイヤーは_____

 

 

「どうして本当のことを言ってくれなかったの、貴方……!!」

 

 

そう言って、グリムロックへと走り寄り、彼を抱き締めた。

 

「私は、貴方をずっと愛していたのに……!」

 

「……ユウ、コ……?」

「「「リーダー……!?」」」

そう、彼女こそが、指輪事件でレッドプレイヤーによって殺された筈のグリセルダだった。

「……彼女は、確かに死にました。でも、俺が蘇らせたンスよ。蘇生アイテムを使ってね」

「え!?この人が……グリセルダ、さん……!?」

「はい、すいませんキリトさん。今の今まで隠してました。彼女が生きていることを知らせるには、まだ早かったんですが……キリトさん達のおかげで早くに済みました」

「でっ、でも、グリセルダさんは死んだって…!」

「……俺はとある1人のレッドプレイヤーが何やら怪しい動きを見せている、との連絡を受けてそれを追ったんです。そしたら、そのレッドプレイヤーが彼女を追ってるのを見て、すぐアルゴさんに調べて貰ったッス。それが幸いしましたね。彼女が死ぬ瞬間に出くわしてしまって……それで即座にそのレッドプレイヤーを無力化して、例の蘇生アイテムを使って彼女を蘇生したっス。本当に危なかったッスよ」

蘇生アイテム。それはこのSAOでは3つしかない激レアアイテムだ。

 

それは去年のクリスマス限定イベントにて、登場したボスがドロップしたと言うアイテムだ。キリトたちもそのイベントに参加する予定だったのだが、運悪く《オプリチニク》と出くわしてしまい、戦闘を強いられてしまった。そこでとあるプレイヤーにボス攻略を任せたのだ。その後、そのプレイヤーはボスに1人で勝ったが、ボスからドロップしたアイテムである蘇生アイテムがプレイヤーが死んでから10秒間しか効果がない事がわかった。そのボスを倒したプレイヤーはそれを《スズラン》に譲渡することを言い出し、そのアイテムを放置したという事情があり、その後、その蘇生アイテムは2つがスズランに、1つは攻略組に分けられた。

 

ベル曰く、そのアイテムを使って彼女を蘇生し、彼女を助けた。その後レッドプレイヤーを尋問し全ての真実を洗いざらい吐かせて、彼は考えた。まだ証拠が未完全だ。そのグリムロックを確実に追い込むなら、もっと証拠を集めるべきだと。そして、彼女を説得し、彼を追い詰めることのできる証拠が出るまで……その時まで彼女が生きていることを隠すことにした。

「……大変だったッスよ。生命の碑の偽装から、グリセルダさんのフレンドの全消去まで……まあ、僥倖だったのは、グリムロックとの結婚が1度死んだことにより解除されていることでした。そのおかげである程度死を偽装することは簡単でした。ギルドからも外されていたようですし……」

そう、全て偽装するために所持アイテムを全て捨てさせることまでしたのだ。ベルとグリセルダの今までの苦労を考えると冷や汗が出る。全プレイヤーから気づかれることなく今までを過ごしてきたなど、誰が思おうか。

「……でも、ここまでやってきた甲斐がありました」

ベルがそう言った直後、グリセルダが言った。

「この人の事は私達に任せて貰えませんか?私刑にかけたりはしません。もちろん、責任をもって罪は償わせます。お願い出来ないでしょうか?」

「……任せるよ、グリセルダさん。その人のことを1番知ってるのはあなただ。そうした方がいいだろうしな」

「……ありがとうございます」

グリセルダは最後に深々と頭を下げてシュミットたちと共に丘を降りて行った。

 

 

「……俺は1度、ギルドの方に戻ります。色々報告しなきゃいけないこともあるので」

「ありがとう、ベル。本当に助かった」

「ありがとうございます、ベルさん」

「ありがとう、ベル君」

「いえ、これが仕事ですから。多分もうすぐ行われる攻略会議でまた報告をすると思うので、またその時に」

ベルはそう言って一礼し、丘を降りていった。ベルのその背中はキリト達と相対し、攻略組を去っていったあの時よりも大きく見えた。

 

「……さて、俺たちも街へ戻るか」

キリトは背伸びをしながらそう言った。

「ええ、そうね。ご飯食べてないからお腹ペコペコよ。街で何か食べましょう」

「そうですね!事件も一件落着しましたしね!」

「じゃあさ、俺おすすめの店があるんだ。アルゲード名物、見た目は完全お好み焼きなのにソースの味が全然しないというあれを……」

「「却下で」」

「ヒッドイ」

こうして、この事件はキリト達と、ベル達《スズラン》の活躍によって幕を閉じたのであった。

 




自分なりにこの圏内殺人事件をハッピーエンドで書いてみましたが、どうでしょうか?無理やりな所もあるとは思いますが、楽しんでいただければと思います。
出来れば感想や評価の程をお願い致します(*_ _)人
それでは、来年もどうぞよろしくお願い致しますm(_ _)m


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メープルと女の子

あけましておめでとうございます!
新年一発目のお話を1月下旬に投稿します、クロス・アラベルです!
今回はオリジナルストーリーだと思います。
それではどうぞ!


 

 

 

32層のとある村のはずれ。

そこに一軒家が建っていた。

そして、その家の前___ベランダの手前にて、()()()()が行われていた。

「はぁッ!!」

「やぁッ!!」

閃く二振りの剣。そこに初撃決着決闘(ファーストアタックデュエル)だからと、手加減している気配は全くない。

ティーゼが怒涛の連撃をユージオに叩き込む中、ユージオはアンダーワールドで出会ってまだ初等練士だった頃のティーゼと今の彼女を重ねて、その成長ぶりが見られて____喜びを感じてしまった。そして、一緒になった事も嬉しく思った。

________ああ、この娘はこんなにも強くなったのか。

自分の知らない間に成長し色んなことを体験してきたティーゼは実力も折り紙付き。今やユージオと互角に戦えているのだから。

だが_____それでも負けるつもりは無い。

何故か_____当たり前だ。

ユージオはティーゼにとっての夫であり、先輩だから。

「フッッ!!」

彼は思う。

ティーゼにとっての良き先輩として、良き夫としてありたいと。

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

4分と少し。それがティーゼとユージオの決闘の経過時間。ただそれだけで汗が吹き出す。

このアインクラッドでは表情がかなり大袈裟(オーバー)に表現される。その感情表現は汗や涙も含まれるのだ。悲しくなれば涙がこぼれ、怒れば顔が真っ赤になる。それぞれの程度にもよるが、予想しているより感情が表情に出やすくなっている。

 

ティーゼにとっては、4()()()()()()()()()()、と感じた。ティーゼの全力を叩き込んでいるがそれでも勝てそうにない。やはり、体力や集中力はユージオの方が上か。そんなことを考えていると、彼女の顔に焦りが見え始める。

やはり、彼の方が先輩で色んなことを経験してきている。確かにティーゼもユージオより長く生きていることかも知れないが、それでも死線をくぐり抜けた数で言えばユージオの方が上だ。確かにアンダーワールド大戦ではティーゼも幾分か戦ったがユージオの整合騎士破りに比べれば見劣りする。

それに今まで一緒に戦ってきたからこそ、お互いの戦い方の特徴はバレている。ならばもうこれはソードスキルの問題ではなく、それぞれの技術の戦い。

「ッッ!!(不味いわ……!このままじゃ集中力が切れていつ隙を見せてしまうか、分からないし、時間もない!……なら、決めないと!!)」

制限時間はあと15秒。

ティーゼはユージオの剣を切り払い、少しユージオから離れてソードスキルの構えをとった。

《ホリゾンタル・スクエア》

これが彼女の選んだ最後の一撃。左腰に剣を構えると、剣が蒼色に光る。ティーゼはユージオへ斬りかかった。

「____(あの構え……《バーチカル・スクエア》!)」

斬り掛かるティーゼに対してユージオは剣を上段に構えてソードスキルを放つ。

直後、激しい光がぶつかり合い火花を散らす。

計4回。ユージオはティーゼの《ホリゾンタル・スクエア》を《バーチカル・スクエア》で完全に相殺した。2人とも剣が大きく弾かれ、バランスを崩す。

「うっ!?」

その時頬を掠るものがあった。ユージオの靴だった。

ユージオは大きく弾かれて後ろへと倒れるその動作さえも利用して攻撃をしてきた。体術スキルによる蹴りの追撃。ユージオが最も得意とする戦い方である《体術》と《片手直剣》、2つのスキルを駆使するユージオなりの二刀流。

ティーゼは倒れた直後に横に転がり体勢を立て直す。ユージオは体術スキルによって反動がつけられ、そのまま地面に片手を付いてバク転の要領で倒れるのを防ぎ、突貫する。

そして_____

「……参りました」

ティーゼの首元に剣が突きつけられて、時間切れ(タイムアップ)となった。

 

 

 

 

「また負けちゃった…」

三角座りしながら頬を膨らますティーゼにユージオは苦笑いでフォローした。

「でも惜しかったよ。今まで立ち合い……いや、決闘(デュエル)してきて一番大事良かったんじゃないかな?」

ユージオも内心焦っていたので事実そうだった。多分、今までで1番接戦していた。けれど、ユージオの瞬間的判断によってほんの一瞬最後の立ち直りが早かっただけなのだ。

整合騎士になって戦った事とこの世界で戦い続けた事が今のティーゼの強さを形作っている。ユージオも近いうちに負けてしまうのではないかと、戦慄したのだった。

「お疲れ、ティーゼ。日課も済んだし、少しシャワーを浴びて来なよ」

ユージオはそう言いながら座り込んだティーゼに手を差し伸べた。

「うん……そうね。じゃあ、私、先にシャワーを浴びてくる」

「その後に僕は浴びるから、もう少し素振りしてるよ」

「ええ。早めに上がるからね!」

「いいよ、ゆっくり浴びて来て」

ティーゼは服に着いた砂を払って駆け足で家に入って行った。

「……まだまだ負けてられないなぁ…」

ユージオはそう呟きながら日課である素振りを始めた。

「ハッ!!」

 

 

 

 

「お待たせ!ユージオ」

その数分後、ティーゼはお風呂場から出てきた。少し頬を赤くしながら笑顔でユージオの元へと歩く。

「それじゃあ、入らせてもらおうかな」

部屋着に着替えてソファーで新聞を読んでいたユージオはその新聞をストレージにしまい、立ち上がった。

すると、ティーゼより幾分か背が高いユージオの目にあるものが映ってしまう。服の隙間から見えてしまう、胸元。

「……どうしたの?ユージオ」

「い、いや……は、早いとこ浴びてくるよ!」

少し顔を赤くし、慌ててお風呂場に行ってしまった。

やはりユージオも男。ティーゼとは結婚し一緒になったとはいえ、また恥ずかしいようだ。

「……ふふ、照れてるユージオ…可愛い」

そんなことお見通しなティーゼはユージオの反応を見て楽しんでいたようだ。

尻に敷かれるのは、遠くない話のようだ。

 

 

 

 

 

「で、今日はどうするんだい?ティーゼ」

朝食をとった後。紅茶を飲みながらユージオが切り出した。

「うーん……もう行きたいところには大体行っちゃったものね」

結婚し、休暇を貰ってから2人は様々なところに出かけた。4層の水の都だったり、10層の和風な街……グルメなプレイヤーがこぞってやってくる31層のレストラン街にトレジャーハントが楽しめる5層、極めつけは膨大な海を望める13層。有名どころからマイナーな観光地まで、もう行き尽くしてしまった。

その旅行は2人にとっての新婚旅行(ハネムーン)

しかし、まだ攻略組への帰還には早い。あと4日はある。

「そうだ。ティーゼってさ、こんな噂話聞いたことある?」

「…どんな噂、なの?」

「それがさ…」

2人が住むこの32層は安全域。数少ない《モンスターの湧かないエリア》になっている。それもあってここに住むことを決めたプレイヤーも多い。

そして、32層は《秋》がテーマになっている。そこかしこに生えている木の葉っぱも、紅や黄色に染まっており、大変のどかな場所だ。景色もよく、山頂から眺める景色は誰もが哀愁を感じる、故郷(現実世界)の景色だ。

この32層の木にはメープルシロップが採れる木が幾つもあり、ユージオによるとその中に最高級のメープルを出す木があるのだという。

「どうかな?僕らで探してみないかい?」

「……最高級、メープル…!」

「ティーゼ甘いもの好きだし、ぴったしかな…と思ったんだけど…」

「じゃあ、そうしましょう!何か要るものはある?」

「大丈夫、用意はしてあるよ。アルゴによると…あとは根気よく探すことと、自分の幸運にかけるしかないって」

「すぐ行こう!その最高級メープルが手に入ったらそれをパンケーキにかけるのもいいわね。ううん、そのメープルを使ってロールケーキを作るのも……焼きたてのパンの上にたっぷり……!」

ティーゼはユージオの提案に飛びついた。何を隠そう、ティーゼは甘いものが大好きで、毎日必ず夕食後に「ティーゼタイム」なる時間を設けて最低2品スイーツを食べる。しかも、アンダーワールドと違いアインクラッド(ここ)では太ることは無いので、余計に食べてしまっている。その食べっぷりを見たアスナ達は「太ることの無いここだからこそ出来る事ね…」と呆気にとられていた。まあ、そう言いながらもティーゼと一緒に食べていらっしゃったが。

ティーゼタイムはユージオにとって結構至福の時間だったりする。甘いものを食べられるということよりはティーゼの幸せそうな顔が真正面からじっくりと見られるのだから。

ティーゼはメープルを使って様々な料理に使おうとしているようで、ニコニコと笑みがこぼれる。

_____これは絶対に見つけなければ。

ユージオはそう思いながらメニューウィンドウを開いた。

 

 

 

 

「………見つからない…!」

「あはは……ここまで苦戦するとは僕も思ってなかったよ」

3時間後。2人は森の中を探し回ったがそれらしいものがなかった。

その最高級メープルが出る木は、葉っぱが不思議な模様に色付いており比較的に分かりやすいのだという。

「うーん……葉っぱの染まり方だけじゃなぁ…」

「ユージオ!他に情報は聞かなかったの?」

「うん。僕はその事しか聞かなかったよ。一応これはアルゴに聞いた事だから、そのアルゴが何か黙っていることがなければこれだけしか情報はないよ」

「……うーん…そう言えばもうお昼ね。お弁当作ってきたから、それを食べましょう!」

「うん」

一向に進まない状態にティーゼがしびれを切らして昼食を食べることを選んだ。

ストレージからランチボックスを取り出し、蓋を開ける。そこにはティーゼお手製のサンドイッチが入っていた。

「はい、ユージオ」

「ありがとう、ティーゼ」

ティーゼからサンドイッチを受け取りかぶりつくユージオ。ティーゼもユージオに続いてかぶりつく。

「……ここまで普通のメープルは取れてるんだよね?」

「うん。もうストレージがメープルで埋まってきたわ」

「早めに探さないとね。でも、やっぱり難しいのかな…」

メープルというのは樹の樹液、メープルウォーターというサラサラの水を煮詰めることによりメープルシロップができる。現実世界だと40Lのメープルウォーターで1Lのメープルシロップができるのだが、それをアインクラッドで再現すると面倒極まりない。それを製作者(茅場晶彦)も察したようで、メープルウォーター(500mlほどのビンに入っている)2つに対して瓶1つのメープルシロップが出来るようになっている。

現在ティーゼとユージオのストレージにあるメープルウォーターは20個を超える。10個はメープルシロップが出来る計算だ。

そろそろ見つけないとストレージがいっぱいになって入り切らなくなるかもしれない。

「食べ終わり次第まだ探してない方に行こう。南は結構探したから、次は北だね」

「ええ!」

ティーゼはユージオの指示にサンドイッチを片手に気合いをいれた。

 

 

 

 

 

そして、その2時間後。

ティーゼのストレージがいっぱいになり、残るユージオのストレージもあと少しで埋まるかと思われた時。

「あった!!あったわ、ユージオ!」

「ホントだ……確かに、葉っぱの模様が独特だね」

5時間探してようやく見つけ出すことが出来た。葉っぱが赤と黄色に模様がついており他と違うことが分かる。

「じゃあ、早速…!」

「採取しようか」

目を輝かせるティーゼが見守る中ユージオは準備を済ませる。

ストレージからバケツとナイフを取り出し、木をナイフで切りつけてその下にバケツをセットする。

数秒後メープルウォーターが出てきた。

「これが最高級メープルウォーター…!」

「ちょっと透明度が高いね」

メープルシロップを作るには瓶が2ついる。しかも、メープルウォーターはそんなに早く取れるものでは無い。瓶がいっぱいになるまで10分ほどかかる。なのでユージオは反対側にも採取口を作り待つことにした。

「僕のストレージならあと8つくらいなら入るし、限界まで入れていこう」

「どれくらい出るかしら?いっぱい出るといいんだけど…」

ユージオ達が見つけたその木はかなり大きく他より多くとれそうだ。

「無事見つかってよかったね、ティーゼ」

「うん!それじゃあ、早めに帰ってメープルシロップを作りましょう!」

声が弾むほど機嫌が良くなったティーゼはメープルシロップで作れるスイーツを想像して笑顔をこぼした。

その後2人は無事最高級メープルウォーターを6つ手に入れ、帰路に着いた。

 

 

 

 

「……っ?」

帰り道。

ユージオは視線を感じて立ち止まる。

「どうしたの、ユージオ?」

「……いや、何にもないよ」

急に立ち止まったユージオにティーゼが声をかけた。ユージオは何も無いと言葉では言ったが妙に気になる。

敵意、では無い。ただ見られているだけなのだが、少し気味が悪い。ただ通りすがりのプレイヤーがいるだけならいいが、今日1日この山を探索してきて誰ともすれ違っていない。そして、1番気にかかっているのが____

「……(索敵スキルには、何も反応してない…?)」

ユージオは索敵スキルを980まで熟練度を上げているので相手がモンスター出会であってもプレイヤーであっても反応する。で、あれば残るはNPCということになる。

ティーゼに勘づかれないように索敵スキルを発動し周りを見ているが、やはり反応はない。

「…気のせい、か」

ユージオはそう呟いてユージオの少し先で不思議そうに彼を見るティーゼに追いつこうと少し駆け足になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

ユージオが去った後。

木の影に隠れてみていた人物がいた。

彼女はユージオ達が歩いていった方へゆっくりと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからメープルシロップ作り始めるから、ユージオは待ってて!」

ユージオはティーゼにそう言われてリビングのソファーに座り込んだ。

「結構嬉しそうだったな…」

ティーゼの満面の笑みが見られて、ユージオもアルゴから情報を仕入れた甲斐があったと思った。

 

だが、やはり___

「…気になる」

そう、帰り道に感じた視線。敵意は無かったが、執拗にこちらを見ていた。

「まさか、ね」

ユージオは何となく玄関へと足を進めた。

温かみのある木製のドア。ユージオは思い切ってドアノブを回して外に出た。

秋らしい少し冷た目の風がユージオの頬を撫でる。ドアを閉めて前へと歩く。

 

「_____(まだ、見てる…!)」

視線はまだ続いていた。即座に索敵スキルを発動させるが__

「から、ぶり…」

再び何の反応も無くなった索敵スキル。反応しているのはティーゼだけ。

だが、謎の視線がどこから来ているかは何となく分かった。

「_______誰だ」

ユージオは鋭く謎の監視者に声をかける。

すると、ユージオが見ていた木の影から誰かが出てきた。

それは____

 

 

「……」

 

1人の女の子だった。

真っ黒なワンピースに真っ白な長い髪。そして、紅い瞳。年は10歳にも満たないだろう。

「君、は____?」

「……ぁ」

ユージオの思わず出た言葉を聞いた彼女は直後、倒れてしまった。

「だ、大丈夫!?」

即座にその子を抱き寄せる。もうその子は気を失っているようで、目を開ける気配はない。

「ねぇ!君、大丈夫!?」

体を揺らしてみるが、反応はない。

「くっ……ティーゼ!!ティーゼ!?」

ユージオは困り果ててティーゼを大声で呼んだ、その時ユージオは違和感を感じた。

「…この子、カーソルが……ない…?」

分からないことだらけで戸惑い、再びその子の顔を見る。

だが、その口が開かれることは無かった。

 

 

 

 



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白髪の女の子(シャロ)

お待たせ致しました、クロス・アラベルです。
今回は前回の女の子について少し書きました。まだまだ書いていないこともいっぱいありますので全貌は然るべき時に。
では、どうぞ!


 

 

 

 

ユージオとティーゼの家、その寝室。そこのベッドでその少女は眠っている。

「うーん……」

「どう、かな?」

「別に苦しそうでもないし、怪我もしてないわ。まあ、ここじゃ傷も残らないんだけど…」

素早く女の子の状態を見たが何もおかしいことは無かったという。

そもそもアインクラッドでは傷が残ることは無く、調べてもあまり意味はない。念の為にと調べた。

「……ユージオ、なんでこんな小さな子が…?」

「分からない。元々メープル探しの帰り道から多分この子にみられてたんだと思う」

ユウキ達にユージオは聞いた事がある。このアインクラッド______ソードアート・オンラインをプレイするには年齢制限(レーティング)があり、15歳からしか出来ないのだ。しかし、この子はおよそ10歳にも満たない。この世界にいるはずのない子。プレイヤーでなければNPCだが、それを判断するカーソルカラーはカーソル自体が無く、ユージオ達では全くわからないことだった。

「……今は無理に起こさない方がいいんじゃないかな?自然に目を覚ますのを待とう。この子に話を聞くのはそれからにしよう。もう遅いからね、子供にはあまり良くないだろうし」

「……うん、そうね」

「ティーゼ。君はベッドで一緒に寝てあげて。僕は居間のソファーで寝るよ」

「でも…」

「知らない男が隣にいたら怖がるからね。頼めるかい?」

ユージオがティーゼに女の子の子守りを任せた。ティーゼも理由は分かっていたがもし起きて隣にいたのが自分だったとしても、怖がらせないという自信はティーゼには無かった。

「……分かったわ。今日はもう寝るの?」

「うん。メープルシロップ作りも明日にしよう。今はティーゼ、君が近くにいてあげて欲しい。明日の鍛錬も無しにしよう」

「分かった。お休みなさい、ユージオ」

「お休み、ティーゼ」

この日、2人はかなり早くに床に就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぅ…」

次の日。

ティーゼは6時ぴったりに目を覚ました。

目覚ましの音楽が鳴り響く。

ティーゼにとってこの世界にある音楽も、童話も何もかもが知らないもの。目覚ましに設定していた音楽_____《木星(ジュピター)》もここに来て初めて知った曲だった。

起きて朝食の準備をしようと瞼を開けると_______

 

「きれいなおうただね!」

 

「……え!?」

目の前で昨日保護した女の子がティーゼのことを見ていた。

ニコニコと上機嫌に言うその子は、とても元気そうだった。

紅い瞳。

燃えるような紅い瞳は生気に満ち溢れていた。

「…お、おはよう」

「おはよー!」

ティーゼが挨拶するとその子も元気に返してくる。

その子が隣で座ってこちらを覗き込んでいたようだ。

女の子が除くのを止め、ティーゼは起き上がる。

「……少し待ってね?」

「うん!まつ!」

「ユージオ!ユージオ!!」

ティーゼはどうしていいか分からずユージオをとりあえず呼ぶ事にした。

『どうしたの、ティーゼ?』

ドア越しにユージオが返事をした。もうティーゼより早く起きていたようだ。

「昨日のあの子が起きたわ!」

『え!?』

ティーゼの言葉に驚いてドアを開けて寝室に入ってくるユージオ。

「あ、おはよー!」

「……あ、おはよう…」

ユージオも女の子の元気さに少し驚きながらも挨拶した。

「…えっと……君、名前はなんて言うの?」

ユージオが恐る恐る聞いてみると答えはあっさりと帰ってきた。

「…おなまえ?おなまえ……おなまえ…………あ、おなまえ!わたし、シャロ!!」

名前という言葉を遅まきながら理解しユージオに笑顔で答えた。

「……シャロ、か。可愛い名前だね」

「そう?わたし、かわいい?」

「ええ、すっごく可愛いわ」

ユージオは表情に出さぬよう、考えを巡らせた。

言語能力的に言えば、5~6歳と変わらない。見かけは10歳程だが、 ほんの数回話す度に精神的年齢の幼さを推察出来る。

何故、こんな所に1人来ていたのか。

そして、もうひとつ。ユージオは何か、既視感を抱いた。彼女の顔を知っている訳では無い。だが、彼女の紅い瞳に見覚えがあった。どこでだろうか、ユージオははっきりとは思い出せない。だが、確かに見た気がする。ただそれだけ。

「シャロ。少し、聞いてもいいかな?」

「うん、いいよ!」

「シャロは、なんでここにいたの?」

「……?」

「…?」

シャロにずっと気になっていた質問をぶつける。だが、何を言っているか分からないのかシャロは首を傾げる。

「……えっと…昨日のこと、覚えてるかな?」

「きのう…?分かんない」

「…そっか。ごめんね、変な事聞いて」

ユージオは悟った。この子には記憶が無いのかもしれない、と。1度、ラン達から聞いたことがある。何か、深刻な精神的ダメージを受けた時、人間はその記憶を忘れようと記憶を消してしまうのだと。その他にも頭を打ったりなどもあるらしいことは聞いていたのでその答えにたどり着いた。

「あなたは……だれ?」

「あ、教えてなかったね。僕はユージオ。この人がティーゼって言うんだ」

「ゆーいお、いーえ?」

「まだ言い難いのね。じゃああなたの呼びやすい名前でいいわ」

「……うーん……あ!」

ユージオ達の名前を言えなかったシャロはどう呼んでもいいと言われて____

「おとうさん、おかあさん!」

_____大方覚えていないであろう、両親を呼ぶかの如く、笑顔で2人を指さして呼んだ。

ユージオとティーゼは絶句しそうになるも、耐える。

「_____っ、そうよ、私が……お母さんよ」

「おかあさん…!おかあさん!」

シャロは嬉しそうにティーゼに抱き着いた。ティーゼは泣きそうになるのを堪え、笑顔でシャロを優しく抱き締めたのだった。

ユージオも悲しみを表情に出さないように笑顔で2人を見守った。

 

 

 

 

 

 

シャロが朝ごはんを食べて寝た後。

「……ユージオ、あの子は…」

「アルゴに情報を集めてもらうことにしたよ。そう時間はかからないってアルゴが言ってた。早くて明日には結果を報告するそうだよ」

「……」

ユージオの言葉に体育座りをして顔をふせていたティーゼは言葉無くユージオを見る。

「…それまではここで面倒を見よう。放っておくわけには行かない。それまでは…我慢出来る…?」

「はい、わかりました。でも、ユージオ。もし……もし、あの子の家族が見つからなかったら…」

ユージオの優しい声に、少し涙しながらもティーゼは答える。だが、もしシャロの家族が見つからなかったら……最悪な結末を考えてしまったティーゼ。

「その時はその時だよ。もちろん、この子が良ければ記憶が戻るまで預かる。全てを思い出すまでは、この子の両親でいよう」

「…うん…!」

ティーゼは涙を浮かべながら何度も頷き、ユージオに抱きしめられたのだった。

 

 

 

 

 

 

「おかあさん!これおいしいよ!」

「良かった、作った甲斐があったわ!」

「おかあさん、おかわり!」

「待ってね、シャロ。今からもう1枚焼くから」

「わーい!」

 

次の日の昼。シャロはティーゼの作ったパンケーキを頬張っていた。

シャロに催促にはいはい、とティーゼはフライパンにボールを流し込む。

薄黄色の生地はフライパンの熱に焼かれて、耐えきれないと言わんばかりに生地の表に気泡を出す。

 

「あんまり食べ過ぎないようにね?またお腹いっぱいになって眠たくなっちゃうから」

「だいじょうぶ!わたしちゃんとおとうさんとあそべるようにおきてるもん!」

「だといいけど…ミルクも持ってこなきゃね」

笑顔で追加のパンケーキを待つシャロ。

布巾でシャロの口元に付いたメープルシロップを拭いながらユージオは微笑む。

「えへへ…!」

ユージオに撫でられるとシャロは気持ち良かったのか足を揺らして嬉しそうだ。

「はいっ!2枚目出来たわ!」

「んー!」

「出された瞬間頬張り出したよ……子供はやっぱり甘い物好きなんだね」

シロップたっぷりのパンケーキをティーゼに出された瞬間に食べ始めるシャロ。

「……はいはい、あんまり急ぎ過ぎないようにね?パンケーキは逃げないから」

家族団欒、とはこの時を言うのだとユージオは悟った。確かに2日前に来たばかりとはいえ、シャロにとってはここが我が家なのだ。そして、ユージオとティーゼが両親。一時的だ、偽りだとは分かっていてもユージオにとってこの幸せは_____アンダーワールドにはなかった物だった。

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろ来るんでしょ?アルゴさん」

「うん。メッセージだともうすぐだよ」

お昼にパンケーキを2枚平らげて案の定眠ってしまったシャロの頭をを撫でながらティーゼはユージオに聞いた。

ユージオが答えたその時、玄関の扉を3回叩く音が。

「はーい」

ユージオは玄関へ行き、扉を開ける。

「ヨッ!ユー坊。ラブラブチュッチュしてるカー?」

「久し振りに会って開口一番がそのセリフなの…?」

時間ぴったしに彼女が来た。いつも通りおちゃけながら、ニッと笑った。

アルゴの言葉に少し顔を赤くしながらユージオは質問し返す。

「ホー……誤魔化す辺り、してると見たヨ…!」

「……で!頼んだ事は分かったんだよね!?情報屋の《鼠》さん?」

しつこいアルゴに遂に顔を真っ赤にしながら声を荒らげそうになるユージオ。

「ああ、調べてきたヨ」

アルゴはユージオにリビングに通されながら答える。笑顔だったアルゴの表情が曇る。

「……もしかして、見つからなかったのかい?」

ユージオはティーゼの隣に座る。アルゴは2人の向かいのソファーに座った。

「…残念だけどナ。《シャルロット》って言うプレイヤーネームで誰か知らないかって始まりの街を聞き回ったけど、収穫は無し。他の層もツテを使って色々聞いて回っても何一つ掴めなかったヨ」

手掛かりは一切無し。シャロ自身からの情報にも期待は出来ない。となると、ほぼ詰みだ。

「……ふーむ…オレッチもわかんないなァ…このシャロって子。カーソルが出なかったんだロ?」

「うん。だからプレイヤーかそうでないかさえ判断出来なかったんだ」

「オレッチにとっても未知の領域か……それか、タダのシステムの故障(バグ)か。多分どっちかだと思うゾ。まあ、オレッチは後者だろうと思ってるけどナ」

「…まあ、カーソルが出ないだけならそうだけど、この子の場合、カーソルだけじゃなくて、メインメニューの出し方もちょっと違ったんだ。」

「出し方が、違う…?どういうことダ?」

「普通は右手で出すでしょ?けどあの子は()()で出したんだよ。僕達もびっくりしてたんだけど…これって利き手によって違う、とかじゃないだろう?」

「いや、SAOは利き手は確かに設定出来るけど、メインメニューを出せる方を決められる…なんて設定、なかったゾ」

「うん…アルゴはやっぱり、バグだと思う?」

「そう言うしかないんじゃないかナ。だって、1人のプレイヤーとしてわかる事なんて本当に少ないのが現状ダ。システムに関してはSAOが始まる前に開示されたこと以外は分からないしナ」

アルゴは両手を上げながら降参する。流石のアルゴとて、分からないこともある。

「……」

そして、1番謎なのが、シャロのプレイヤーネームである。メインメニューを開いたところ、シャロのプレイヤーネームとして表記されていた名前、それが______

「……(《Charlotte(シャルロット)- MHCP000》…か。シャロと名乗ったのはこのシャルロットの愛称としてなのかな……そして、残りの《MHCP000》って言うのが気になる。あれには一体なんの意味が……?)」

ユージオが言葉に詰まっている中、ティーゼがシャロの頭を撫でながら途切れ途切れに言う。

「アルゴさん、あたし達……どうしたらいいんでしょうか…?」

「…今はティーちゃん達が預かるしかないと、オレッチは思うけド……だって、かなり懐いてるんだロ?」

「ええ…そうだけど…」

「曲がりなりにもその子がティーちゃんとユー坊のことを『おかあさん』、『おとうさん』って呼んだんなラ…」

初めてそう呼ばれた瞬間の、シャロの顔を思い出してティーゼは震える。涙腺は緩み、今にも泣きそうになる。

「……っ」

「そうだね。僕らも覚悟を決めよう」

シャロが目を覚ました日、誓った事を忘れないように。ユージオは小さいけれど、強い声で言った。

「ユージオ…」

「後の事はこれから考えよう。今、僕らに出来ることはそれくらいしかない。アルゴの腕を使っても見つけられないのなら、僕らじゃ到底無理だ」

ユージオは、揺らいだ自身の覚悟を改めて決める。その瞳に迷いは微塵も無い。

「…はいっ」

「ごめんね、ティーゼ。勝手に決めちゃって」

「ううん、あなたが決めたことなら、私は信じて進むわ。一緒に、頑張りましょう…!」

ティーゼは最後に涙を流しながらユージオに微笑むのだった。

 

 




バレンタインロニエ出なかった(白目)
最近ロニエ運がない…
あと、エクスクロニクル行ってきましたー
ランダムのアクリルキーホルダーは、1回でロニエが出た(`・ω・´)キリッ
家宝にします( ˊᵕˋ )


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復帰

大変お待たせしました!
リアルの事情で引越し準備に結構手間取って………あと、シャロの世話係を誰にしようかかなり悩んでました。
今回はユージオとティーゼが攻略組に戻り、シャロのお世話係を決めるだけになります。はい。
では、どうぞ!



 

 

 

ユージオとティーゼが休暇をとってから十日後。

2人はシャロを連れて攻略会議にやって来た。シャロは2人には両手を繋がれて歩いている。時々2人に持ち上げられて嬉しそうだ。

シャロを家に1人置いていくのは2人には出来ず、連れてきてしまったが……

「どうしよう…シャロの事、色々考えなきゃいけないのに…」

「うぅん………2人で交互に1日見る、とかかな。1人にするのは無理だし、かと言って攻略に参加しないのもね…」

2人は今の攻略組のトップクラスの実力の持ち主。最前線の戦いでは欠かせない存在だ。それを2人自身も理解しているが故、悩ましいのだ。

攻略会議の約束の場所。62層の主街区、《ナウラ》の広場に集合になっている。

 

「おかあさん、きょうはどこいくの?」

「今日はね…お母さんとお父さんのお友達に会いに行くの。お父さんは1番高いところで頑張るヒーローなのよ」

「ひーろー!?おとうさんすごい!」

「ひ、ヒーローか…あながち間違いじゃないかもしれないけど言い過ぎじゃないかな、ティーゼ…?」

「事実そうでしょ?」

「おとうさんかっこいい!」

「……まあ確かに、満更でもないかも」

ユージオはティーゼの言葉に苦笑いで否定するも、シャロに褒められて思わず嬉しくなった。

「……あれ?一応時間より早く来てるんだけど…みんな来てるね」

「何故か、休暇の報告の時と被るわね…」

「…考えないでおこう」

キリトに言われていた時間より30分も早くに来たのだが、意外にも多くのメンバーが集まっている。

アルゴにまた情報を漏らされているんじゃないだろうかとユージオは考えかけたが、流石にないだろうと考えるのをやめた。

「お、噂をすれば」

最初に気付いたのはキリト。十日前と変わらぬ真っ黒コーデの姿に何か安心感を覚えながらユージオも声をかける。

「やあ。久しぶり、キリト」

「ああ。2人とも新婚生活は楽しめたか?」

「まあね」

「お陰様で」

「おはようございます、ユージオ先輩、ティーゼ」

「ロニエもおはよう」

「ロニエ、久し振り!」

「うん!後で色々聞かせてね♪」

「……まあ、話せる範囲でよ?」

いつも通りの4人。久しぶりに揃う面子にユージオは思わず頬が緩む。

「おはよう、2人とも。本当に10日間だけで良かったのかい?もっと楽しんでもいいと思うのだが…」

「大丈夫だよ、ディアベル。休みすぎると体がなまっちゃうからね」

「そない遠慮せんでもよかったんやで?わしらもユージオはんが抜けただけで崩れるようなとこちゃうんやし…」

「だがしかし、貴重な戦力であることは変わりないだろう?キバオウさん。彼らも自覚してくれているからこそ戻ってきてくれた。ありがとう、まだ余韻に浸っていたいだろうに…」

「あはは……」

ディアベルとキバオウ、リンドも挨拶に来た。現攻略組の中でもいわゆる幹部職についている3人。ディアベルが団長で、他2人が副団長と言ったところか。

「今は戻ってきてくれたことを素直に喜ぼう。それじゃあ、早速攻略会議を……ん?ユージオ、その子は……?」

と、そこでディアベルがティーゼの後ろに隠れていたシャロを見つけた。

攻略組の面々がユージオとティーゼに挨拶する中、ディアベルの言葉で全員がシャロに注目する。

「あー……えっと、これは、その……」

ユージオが説明しようとした時、ロニエが顔を赤くし口をぱくぱくさせながら言った。

「……ま、まさか…!」

特大の爆弾発言を。

 

「で、()()()()()()()()()()……!?」

 

まさに、核爆弾レベルの威力。たった一言、たった文字にして10文字。

普通はありえない______たった十日間のあいだに子供が出来て成長し9歳程に成長するなど不可能な_____事なのに、二人を見ていると、何故か有り得る気がする……ただそれだけで。

ただ何となく思ったことを口にしただけのロニエの言葉に、

「「「キャアアアアアアアアアアアア!!!」」」

女子を嬉しさと驚きのあまり大興奮し黄色い悲鳴を上げさせ、

「「「「「「な、何ィィィィィィィィィィィィィィィィイ!?」」」」」」

男陣営に驚きと落胆(先を越されあまつさえ子供も出来たという敗北感)による悲鳴を上げさせるには十分な威力があった。

ユージオは思考停止し、ティーゼは顔を真っ赤にして頭が爆発する。シャロは突然の事に驚いてティーゼの後ろに引っ込んだ。

「ちっ、違っ………////////」

「_____っ、ちょっと待ってよ!?なんでそうなるのさ!?/////」

「確かに……結婚して休暇をとった後に子供が2人にできる……当たり前よね…///」

「お、おめでとうございます!//////」

「ユーの字ィィィィィィィィィィ!!!先越されただけじゃなく子供まで作ってくるたァ、いい度胸してんなァァァァ!!!?」

「ぐはっ!?」

「なんや、ユージオはん…そういうことやったんなら言うてぇや!!よっしゃ!!今日は祭りやァ!!」

「ま、待っ…」

止まらない攻略組という名の野次馬。

「……なぁ、ちょっと水を差すようで悪いんだけどさ…」

と、1人冷静にキリトが引き攣った顔で言う。

「……言っとくけど、アインクラッド(ここ)じゃ、子供なんて出来ないだろ…?」

「「「「「「………あ」」」」」」

たった一言でうるさかった場がシーン、と静まる。

当たり前である。このアインクラッドでは子供など生まれない。誰もが知っている事の筈が、その場の空気に飲まれていたようだ。

「……あ、ありがとう…キリト」

「いや……まあ、な…」

「じゃあ、ちょっと説明するよ。みんなの意見を聞かせて欲しいんだ」

みんなが冷静になった所でシャロについてユージオは説明しだした。

 

 

「……バグ、エラー…どっちかだろ」

「やっぱりそう思うよね」

「今までバグなんてなかなか出てこなかったけど無いって訳じゃないからな。鉱脈バグとか、色々出てたし…」

「その鉱脈バグは、その後に直ぐ修正が入ったんでしょ?キリト君」

「ああ。今は様子見するしかないだろ……まあ、そんな難しく考えすぎない方がいいぞ?」

「……うん。ありがとね、キリト」

キリトも、アルゴと同じようにバグかエラーによる一時的な物だという結論に至った。

「それやと…その子は記憶喪失っちゅうことになるんやな。アインクラッドじゃ初めて聞くけど、ない訳では無いわな」

「親を無くしたショックで記憶を心の奥底に閉じ込めてしまったか、本当に記憶が無くなっているのか…謎は尽きないね」

「ほやな……始まりの街に専用の施設を作るべきかもなぁ…じゃあ、今夜あたり早速取り掛かろか」

「孤児院のようなものをか?キバオウさん」

「そや。まだわしらが把握出来てないだけで他にもこういう子がおる筈や。ならわしらが動かな誰が動くんや?」

「……人員に関しても少し議論するべきだろうな」

シャロが来た事で具体的に浮かぶこのアインクラッドでの問題。ユージオ達のいなかったアインクラッドよりは犠牲者は少ないものの、やはりいない訳では無い。その中には家族や友達、知人を失って1人になってしまった子供も少なからずいる。その為に本腰を上げて攻略組幹部達が立ち上がった。

「まあ、そこら辺はおいおい始まりの街で議論するとして…問題はその子の世話を誰がするかだ」

「うん、それなんだけど…」

「やはり、ティーゼさんに見てもらうのはどうだろう?母親は子供にとって重要だ。戦力が減るのは痛いが、それが妥当だと思うんだ」

本題であるシャロの世話、やはりディアベルはティーゼに見てもらうことが1番いいのではないかと提案してきた。

「うん、やっぱりそうだよね。一気に二人減るのは無理だからティーゼだけに…」

「それだとティーゼが置いていかれることになるぞ?ここは交代制にするべきじゃないか?」

キリトの反論にディアベルも唸る。

「…そうだね。しかし……」

「親代わりである二人だけではな……他の人にも慣れてもらわなきゃいけない。攻略組……から誰かを当番制にして世話を見るか…?」

「それが1番いいかな……僕もどうしようか迷ってたからさ」

交代制や誰か始まりの街から世話係を依頼するか…そんな議論が交わされる中1人の女の子が名乗りを上げた。

 

『ではその世話役、私がやらせて貰えないでしょうか?』

 

「あれ?シリカ!?どうしてここに…」

シリカだ。

「こっそりティーゼさんから聞いていたのでちょうどいいかなぁ、と!」

どうやらティーゼが知っている友達にメッセージを送り、誰かしてくれないか聞いていたようだ。

「大丈夫なの?中層域とは言え、レベル上げとか…」

「安心してください!私だってあれから結構頑張ってレベリングしたんですかよ!今じゃ50層あたりのモンスターなら1人で対処できるくらいです!」

『キャウ!』

ピナを蘇生したあの日から、彼女はキリトたちに追いつけるようにとレベリングに励み、攻略組には及ばずとも中層域は既に突破しているようだ。《竜使いシリカ》の2つ名は伊達ではない。ピナもシリカの頭の上で自信ありげに鳴く。

「なのでユージオ。ここはシリカちゃんに任せましょう」

「うん、そうだね……でも毎日はシャロも辛いだろうから、1週間に3日くらいでどうだろう。どうかな、シリカ?」

「はい!任せてください!同じ子供として、わかる事もあるかもしれませんし……っていうか、こういうことやってみたかったんですよねぇ……!」

トントン拍子で決まっていくシャロの世話係。

「おかあさん、このひとだぁれ?」

「このお姉ちゃんはシリカさんよ。これからおとうさんとおかあさんがいない間、シャロと一緒にいてくれるのよ?」

「……しぃか?」

「えへへ、ちょっと呼びにくいかな?じゃあ好きな呼び方でいいよ!」

「あっ、そんなこと言ったら…」

 

「…しぃか……しぃか……………しぃかねぇ?」

 

「っっっっっっっ__________」

シャロに上目遣いでシリカ姉と呼ばれて即座に胸を抑えるシリカ。そのまま倒れ込んでしまった。

「シリカ、しっかりしてくださイ!トウトイのは分かりますが、これに耐えねば世話役なんて出来ませんヨ!?」

「…心臓止まりますよこんなのぉ……!」

「止まるんじゃねえゾ……!」

ティーゼの思った通り、シャロの純粋過ぎるその心に胸打たれ、シリカは力尽きてしまった(白目)

ナギはいつも通りだ。平常運転である。

「えっと……じゃあ、シリカ。今日からだと教えることが教えられないし、明日から任せるよ。シャロのこと、頼むね。いい子だから悪さなんかしないと思うけど、結構活発な子だから…目を離さないであげてくれると嬉しい」

「あ、はい!お任せ下さい。責任をもって面倒を見させてもらいますね!」

こうして、ユージオとティーゼが攻略へ行っている間のシャロのお世話係がシリカに決まった。

後々、子供の面倒を見る大変さを知るシリカであった。

 

 



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ロニエの悩みとキリトの想い

お待たせ致しました!クロス・アラベルです!
さて、今回はリズ編(結構端折り)です。本当に……リズの出番は無いです。ていうか、殆ど面倒のいい姉ちゃんと化してます。リズファンの皆さん。本当にごめんなさいm(_ _)m最近はかなりスランプ気味でして……更新も遅くなってしまいましたし、今回の話は駄文です。ホントに…(白目)
因みにこの話で出てくるリズさんはロニエが持つキリトへの想いを既に知っています。
それでは、どうぞ〜…
それではどうぞ〜


 

 

「うーん……」

「まあ、キリト先輩は確かにその……鈍感だものね…」

ユージオとティーゼが復帰してから1週間と少し。

ロニエとティーゼは第3層の大樹の喫茶店に来ていた。その理由は1つ。

ロニエの恋愛相談である。

「むぅ…」

「……でも、ロニエも攻め無さすぎなんじゃない?」

「え?」

「私だって何回だってアピールしたのに、ロニエったらキリト先輩の後ろで……」

ロニエはキリトに対して恋心を抱いてはいるものの、やはり、前世の……アンダーワールドでの記憶がキリトに対する想いを隠している節がある。アンダーワールドでは、キリトはステイシア神として降臨したアスナと夫婦となった。ロニエは知らないが、ロニエが死んでからも星王として、アスナはその王妃としてアンダーワールドを治めた。

それが歯止めとなっているのか……ハッキリとロニエはキリトに想いを伝えられないまま、引きずっている。

ロニエも自覚しているが、なかなか出来ていない。

「もう、告白しちゃえばいいじゃない」

「ええ!?でも、キリト先輩は、その……」

「……はあ、あなたってそんなに奥手だっけ…」

キリトもチキンだが、ロニエもロニエである。

「早くしないと取られちゃうわよ?アスナさんは勿論、シリカちゃん……もしかするとユウキや、ランさんだって可能性があるわ。これから増えるかもしれないし…」

「ぅ……そ、そうなんだけど…」

「学院でも先輩人気だったし……あの時はアタックする子がいなかったけど、今は違うわ。私だってサポートしてあげるから…」

「……う〜〜!////」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしょい!?」

「……やっぱり寒いんじゃない」

「う、うるさいな……寒さのクシャミじゃない、誰が噂してるんだよ」

「誰がアンタを噂すんのよ」

「分からないけどさ」

「そらそうよねー。店の商品(最高傑作)を店長の前で叩き割るしねー」

「そ、それはごめんって言ってるだろ…」

「ふん」

「そんな恨みを持つなy……へっくしょい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず、あなたはもうアスナさんよりも長くキリト先輩のそばに居るんだから……もっと自信を持っていいのよ?」

喫茶店を後にし、プレイヤー達の営むバザーを歩きながら見ていく二人。

「…でも、キリト先輩はアンダーワールドのことを知らないし、勿論私達の事も全て知らないし……」

「何言ってるの?アスナさんの事だってキリト先輩にとっては知らない人と同じなのよ?だってキリト先輩達の元々の世界……リアルワールドで会ってもないんだから。キリト先輩の事よ。最近分かってきたけどあの人結構人見知りな所あるから」

「…初めはちょっと距離を取ろうとしてたもんね…」

ロニエ達がこの世界でキリトと初めて会って少し。キリトはロニエ達のことを少し避けていた。本来現実世界のことを持ち込まない事がルールのこの世界。だが、誰しもが思うであろう。

《現実世界ではどんな人なんだろう》

この世界で見ている姿と実際に現実の姿。たとえデスゲームになってアバターと現実の姿が一緒になったとしても……

やはり、キリトにとって現実とかけ離れていることに違いはないのだから。

ロニエ達は知らないだろうが、キリトは周りとの繋がりを断つかのようにゲームにのめり込んだ。血の繋がりの無い両親、そして妹。それはこのゲームに入る時の…齢14だった桐ヶ谷和人にとって、十分すぎる理由だった。

「今やあの人の右腕なんだから、もっと猛烈にアタックすればすぐ堕ちると思うけど」

「……」

「まあ、どうするかはロニエ次第よね。言い過ぎちゃったわ。ごめんね」

「ううん、私もその……もうちょっと主張すればいいんだけど…いざ先輩が目の前にいると…」

「まあ、緊張しちゃうのは分かるわ。でもいつかその緊張を跳ね除けて先輩にアプローチすることになるんだから」

「……うん」

「暗い顔しない!はい、これ」

ロニエはティーゼに何か紫色の丸い粒が入ったドリンクを渡された。

「……これは?」

「巷で噂のタピオカアイスティーだって。私、飲んでみたかったのよね!」

「タピオカ?」

ロニエ自身、アイスティーの意味は知っていた。だが、タピオカがイマイチ分からない。

「モチモチしててね、なんて言うか、その……パンをもっと柔らかくしたみたいな感じかしら」

ストローからチューっと飲んでティーゼが感想を述べる。

「…ん、ちゅー……あ……美味しい…!」

それにつられてロニエも3粒ほど口に入れてみる。すると色とは裏腹に案外美味しかったようだ。現実世界で流行っていたタピオカを出来るだけ再現したその擬似タピオカはロニエ達にも気に入られたらしい。

「……いつかは、私自身の気持ちに…正直にならないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アインクラッド55層、西の山。そこを総べる白竜の巣の中にて______

「で、ロニエとはどうなのよ」

「は?」

鍛冶屋リズベットからキリトは尋問を受けていた。

「……どう、と言うと?」

「分からないフリしてるんだったら凶悪よね」

キリトは新しい剣を作ってもらう為にリズベット武具店へと訪れた。(因みにロニエの勧めでやってきた)その後初対面の彼女の目の前で自信作だった紅い片手剣をキリトの剣___エリュシデータ(魔剣級の化け物)でへし折ってしまった。ドロップ剣なんかには負けたくなかったリズベットはキリトにぐうの音も出ないような最強の片手剣を打ってみせると怒鳴り散らした。その最強の片手剣の材料回収のためにこのフィールドダンジョンに来たのだが、目的の白竜に二人まとめて大穴___まだ2人はこれが白竜の巣だとは知らない____に落とされてしまい、その大穴の底で一夜を過ごすこととなった訳だが…

二人は寝袋(2セットともキリト持参)に包まって寝ようと思っていた。が、ふと、リズベットが言った言葉にキリトを喉を詰まらざるを得なかった。

「結構長くいるんでしょ?だったら普通より熱い想いってものがあるんじゃない?」

「……」

リズにそう聞かれてキリトはふと考え込む。そして、途切れ途切れに話し始めた。

「……確かに、このアインクラッドではお世話になってるな。アインクラッドが始まって、第1層のボス攻略前からの付き合いだし…」

「ふーん……それで?」

「気付いた時にはいつもそばに居てくれたし、一緒に戦ってくれた。ユージオ達もそうだし……何より、ロニエは…俺が辛くてたまらない時に、何も言わずに頭を撫でてくれたんだ。なんか、その……結構落ち着くんだよな…アレ…」

「……で?」

「ここまで約1年と4ヶ月。俺たちにとって長くも短いもんだったなぁ…って思うけど、その、さ…」

「?」

「確かにロニエは可愛いさ。料理スキルも裁縫スキルもカンストしてるし、いいお嫁さんになるんだろうなって思う」

「……あんたはその戦闘面、家庭面両立のロニエのどこがダメだっていうのかしら」

「…いや、ロニエはさ。俺の事を初めて会った時から『先輩』呼びなんだよ」

「それがどうかしたの」

「……だって俺自身俺を先輩って呼んで慕ってくれる人なんていなかったからさ」

「それで?」

「…俺、ロニエとは本当に初対面なんだ。けど、ロニエの言動を見てるとあっちはそうでも無いらしくて…」

「気にしすぎなんじゃない?そんなこと、些細なことだと思うけど」

「そうだとは思うんだけどさ。やっぱり俺なんかじゃ、ロニエには…その、似合わないと思うんだ。ロニエは本当にいい子だし俺よりいい人を……あて!?」

「……何よ、タラシだと思ってたらチキンだった訳ね」

「ち、ちきn」

「あんたはどうなのよ。あの娘が好きか嫌いか、ハッキリしたらどう!?」

「…好き、だよ。でも、」

「でもでも言い過ぎよ!!もっとシャキッとしなさい!」

「………ああああ、もう分かったよ!!好きだよ!!はっきり言って滅茶苦茶好きだよっ!!」

「なら、なんで…」

「…チキンなのは分かってる。でも、まだ心の準備ってモノが…」

「こりゃ、あと2ヶ月くらいかかりそうね」

「……」

「ま、あんたなりに頑張りなさい。ゆっくりでもいいから、1歩ずつ、ね」

「……ありがとう、リズ」

「礼を言うよりも早くいい知らせを持ってきなさい。そしたら、剣の代金、チャラにしてあげる」

「それは言い過ぎなんじゃ…」

キリトがロニエに想いを告げられるのはいつになるのか____

キリトが告白するのが先か、ロニエが先か。

時間の問題である。

 

 

 

 

「……やっぱりいないわね」

「うーん……リズさんが店に居ないなんて…それにメッセージ送っても圏外って出るだけだし」

「リズ1人で行くとは思えないわね」

リズベット武具店。そこにロニエとティーゼ、アスナはいた。

「キリト先輩もいない…」

「先輩にリズの店のこと言ったのっていつのこと?」

「一昨日だけど…」

「素材探しに行ってるのかしら…?」

キリト、リズ、両名が姿を消してから一日がたった。3人は心配して探しに来たようだ。

「ユージオ先輩にも探してもらってるけど、今のところは空振りなんだよね?ティーゼ」

「ええ。ユージオも探しに行ってるけど中々…」

と、その時、扉が開き、扉に付いていたベルが鳴る。

「やっと帰ってきたわ!ただいまー!」

「丸一日かかったのか。予想外のことがあったとは言え、時間かかったな」

噂をすれば何とやら。当の本人達が帰ってきた。

「まあ、目的の物は手に入ったんだし、良いでしょ…って、アスナ?ロニエとティーゼまで…」

「「リズー!」」

「リズさん!」

「心配したのよ、リズ!」

「メッセージ送っても圏外って出るから…」

「あ、キリト先輩!」

「よ、ロニエ。もしかして、俺の事も探してたのか?」

「当たり前じゃないですか!ヒヤヒヤしたんですからっ」

「…ごめん、ロニエ。その……なんか、奢るよ。高いのでもなんでもいいぜ」

「私はそういうのを求めてるんじゃなくて…もう〜!」

仲睦まじい二人をみて3人は胸焼けがしてくる。

「ホント仲良いわね。あの二人」

「…あれで付き合ってないって言うのが驚愕よ、ホンっト」

「…でも、ゴールは近いと思いますよ?」

「そうね。時間の問題ってとこかしら」

その後、キリトはリズに渾身の一振りを打ってもらった。

その剣の名は、『闇を払う者(ダークリパルサー)』。エリュシデータと並んでキリトの愛剣となる一振である。



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新スキル【 】

遅くなりました、クロス・アラベルです!
今回はオリジナルストーリーになります。ユージオ君中心のお話です。このお話は一応3話か、4話で完結させようと思ってます。
それでは、どうぞ〜


 

 

 

「あれ?」

それは、ユージオとティーゼが休暇を終え、攻略に復帰して3日後のこと。シャロが寝た後、ユージオがふとメインメニューを開いた時、ある通知が届いた。

《新しいスキル 【 】を取得する条件が揃いました》

「…新しいスキル?」

謎の通知。スキルを取得する条件が揃ったとの文面にユージオは首を傾げた。何せスキルを獲得出来るようなことはしていない。それに、スキルを取得した、では無い。《取得する()()()()()()()()》だ。

「……なんで空欄なんだろう」

そして、もうひとつ気がかりなのが、スキル名が空欄になっていること。これではそのスキルが戦闘に関するものなのか、料理スキルのような戦闘には関係の無いものなのかが分からない。

「どうしたの、ユージオ?」

「うーん……ちょっと待って、今可視化するよ」

ティーゼもユージオの異変に気付いたようで後ろからユージオを抱きしめながら聞いてきた。

「これ、どう思う?」

「…何これ?」

「だよねぇ…」

当たり前だが、ティーゼも分からない。

「一体何なんだろう…ん?」

呟きながらその文面をタッチすると、何か補足説明のようなものが出てきた。

《スキル取得には特定のクエストをクリアしてください》

「…クエスト、かぁ………」

特定のクエスト、と書いてある。が、そのクエストがどこで受けられるのかも書いていない。

「今日は一旦寝よう。これについては明日考えよっか」

「そうね、もう遅いし…」

二人はその日、スキル取得条件の通知については何も分からないまま、就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。ユージオとティーゼはシリカにシャロの世話を頼み、問題の特定のクエストを探しに来た。

「特定、か……ただそれしか書いてないしね。どうしようもないかな」

「分かりにくいわよね。どのクエストが対象に入るのか全く分からないわ」

「うーん…」

「ユージオはどこが怪しいと思う?」

「ヒントがゼロだからね、怪しいとすら言えないよ」

このアインクラッドではこういう謎解き要素が入ってきた時、必ず最低限のヒントがある。が、今回はそれがない。

「どうしようかな…」

と、その時。

『あの…すみません』

「え?」

『旅の方ですか?』

ユージオは後ろから声をかけられた。

「えっと……はい」

このタイプの質問は大抵クエストNPCによるものだ。プレイヤーでは無い事を直感で判断したユージオが咄嗟に答える。

後ろにいたのは紅い髪のポニーテールの少女だった。

「どうしたかしましたか?」

『いえ、その……剣を腰に下げられていたので、ちょっと気になって』

「何か困り事ですか?」

『…頼みたい事があります』

モジモジと人差し指をちょんちょんしながら彼女は言った。

『…探しものがあって…私の剣なんですけど…』

このアインクラッドには様々なクエストがあるが、このタイプのクエストはよくある物でユージオも慣れている。だが、1つ気がかりなのは___NPCからクエストの受注を受けたこと。普通ならプレイヤーから何か質問をされない限り来ないのだが____稀にこう言うクエストもある。それは大抵迷宮区攻略に必須だったり、迷宮区のボスに関する情報が手に入るクエストである事が多い。しかも本当にそれを探すのが難しく、様々な条件をクリアしないとクエストを持ちかけられない。

だが、ここは50層。攻略が進められているのはもっと上の層だ。故にこのクエストがどれだけ特殊なのかが、クエストの受注方法によって分かる事もある。

「…分かりました。引き受けましょう」

『本当ですか!?』

少女が最後に言ったと同時にクエスト発生のマーク、「!」がカーソルに出る。

「はい、私達に任せて!」

『すみません、よろしくお願いいたします!』

その直後、ユージオの視界の左端にログが出てくる。

《スキル獲得クエストを受注しました》

《大切な愛剣を探せ!》

「大切な、愛剣…か」

こうして、ユージオの新スキル獲得の為のクエストが幕を開けた。



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彼女(レイラ)の愛剣は何処へ

はい、大変遅くなりました。
クロス・アラベルです。
今回は前回出てきたレイラさんとの共同クエストです。
オリジナルなので、「色々矛盾してる!」「なんか変」と言われるかもしれませんが、御容赦ください(´・ω・`)
それでは、どうぞ〜


 

 

 

「僕はユージオで、彼女がティーゼ。君は?」

『レイラと呼んでください、ユージオさん、ティーゼさん』

「で、1番初めに聞いておきたいんだけど、いいかな?」

50層のとあるカフェで、ユージオ達はまずクエストNPCである娘に話を聞くことにした。

「どこで無くしたか、覚えてる?」

『55層の、どこかだと思うんですけど…』

「55層か……確か、あそこって氷雪地帯だよね?」

「ええ。毎日のように雪が降ってるところね…さほど攻略に時間がかかった覚えはなかったけれど…」

『行ったことがおありなんですね』

「うん、じゃあ…55層に行ってみよう。まずはそこから情報収集を始めようか」

『はい、お願いします!』

55層は氷雪地帯。ユージオは分厚いコートでも準備しようかと、思いながら転移門へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「……」

情報収集の結果、それらしい場所は聞き出すことが出来た。だが、何か引っかかる点がある。

「……なんで、こんなにNPCとはいえ彼女の事を知ってるんだろう?」

情報収集にと55層のNPCの村人に30人程度聞いて回ったが、その誰もが彼女のことを知っていた。クエストの補助の為だから、と言ってしまえばそれまでだが…

 

『ああ、レイラかい?あの子ならよくうちにも来てたもんさ』

 

『レイラちゃん?懐かしいねぇ、うちの食堂にもよく顔を出してたよ!明るい性格でね、あの娘が来たら大賑わいだったわ』

 

『笑いの絶えない娘だったよ。評判が良くってね。うちへ嫁に来て欲しいって思ってたもんさ』

 

『レイラお姉ちゃん?知ってるよ、僕も遊んでもらったこといっぱいあったからね。でも、最近顔見なくなったなぁ…』

 

『レイラ?ああ、ここらで1番強い剣士なんだよ。もうあの子の剣技は、神の領域だね。あたし達じゃ、剣筋が見えやしない。剣を離せば可愛い村娘、1度剣を持てば最強の女剣士!もうそこらの男なんか可愛いもんさ。』

 

『ああ、レイラか。アイツ、すごい強かったんだぜ。確かに何年か前に強い人と戦いたいから…とか言って東の村の裏山に篭ったらしい。最初の方は剣の腕に自信があるやつが挑戦しようとレイラの元に向かってったけど…誰一人あいつには会えなかったらしいぜ。何せあそこには古代龍が居たんだ。その道中のモンスターだって数も多いしやたら滅多ら強かったしな。誰もたどり着けるわけなかったんだよ。レイラだけのテリトリーさ。そういや、あれからあいつどうなったか聞かねぇな…会ってもいねぇし。なんだったらあんた、行ってみたらどうだい?現実を知るいい機会になるぜ?』

 

「……彼女、かなり有名人なのかな?」

《最強の女剣士》。そう村の人達からは呼ばれていたそうだが…

剣の直接的在り処は見つからなかったものの、いくつか気になる情報を手に入れることが出来た。

「ティーゼと合流しよう。確か、東の村の裏山……に彼女は最後に行ったらしいから、そこに行けば何か分かるかも」

ユージオはティーゼにメッセージを送りながらふと思った。

「……あれ?でも、レイラはその裏山も探したのかな?50層にいた時点でもう探し終えていた…とか?」

 

 

 

 

「ユージオ、どうだった?」

「有力そうな情報は得たよ。でも、ちょっと引っかかることがあってね…」

「?」

数分後ユージオとティーゼが合流し、ユージオの気になる事を説明しようとした時、

『ユージオさん、ティーゼさん。どうでしたか?』

レイラも来た。本当なら自分たちで探すべきなのだが、向こうから来てくれたようだ。

「ああ、レイラ。それらしい情報があったよ。東の村の裏山らしい。」

『東の村の裏山ですか…早速行ってみましょう!』

「うん…そうだね」

何故だろうか、違和感を感じざるを得ない。よく行っていた筈の場所が怪しいと聞いて、何か反応を示すかと思ったがそうでも無い。

「……」

ユージオはとりあえず東の村の裏山へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄い……コートを買ってきて正解だったね」

「ええ。普段着のままだったら凍えてたかも…」

30分後。ユージオ達は東の村の裏山へとやって来た。

「…すごい大雪だね。ここら辺はあまり来た事がなかったから、知らなかったよ」

大雪の中ユージオは少し大きめの声で言う。

「レイラ!じゃあ一応1番奥……山頂まで行ってみよう!あまり人は行かないって話だけど、まだ分からないからね」

『………』

「…レイラ?」

ユージオの声に反応を示さないレイラ。聞こえていないのかと思い、もう一度声をかけようとした時、ようやくレイラが返事を返した。

『……あ、いえ、なんでもありません!山頂ですよね?分かりました!』

レイラはそう言って先に山へと入って行った。

「…ユージオ、何が気になってるの?」

「レイラなんだけどさ、彼女、自分の剣を無くしたって言ってたけどちょっと信用出来ないというか…」

「嘘をついてるってこと?」

「うん。剣を無くすって……普通はありえないでしょ?だって、彼女は結構村じゃ有名な剣士だったらしいし、そんな人が剣を無くすとは思えないんだよね」

「確かに…」

「それに、何故彼女は55層ではなく、それより下の50層で僕らに声を……ううん、何故あんな所にいたのか、分からないから…」

「可能性として、彼女がモンスターかもしれないって事もあるし…」

「気を引き締めていこう」

そして、ユージオが引っかかる点はもうひとつある。それは、今現在では証明しきれないのでまだ言うに値しない。

然るべき時になれば…

 

 

 

 

『はあッ』

掛け声とともに繰り出される剣技。ユージオはそれを見て驚いた。

彼女の剣技はNPCのそれを超越している。今まで色んなNPCと共に戦い、そして、何度も戦ったが、ここまで洗練された動きは見たことがない。

たった一閃でモンスター三体が一気に砕け散って行った。

因みに剣を持っていなかったのでストレージにあったあまりの剣を渡した。

『楽勝楽勝!』

「…レイラ、何か思い出す事とかはあるかい?」

『思い出す事、ですか?』

「ええ。剣の在り処よ。やっぱり、剣士として、剣を忘れるのはありえないって思っちゃって…」

『うーん……全然思い出せなくて…』

「そっか…ごめん、変な事聞いちゃったね。頂上までもうちょっとあるし、頑張ろう」

『はい!』

吹雪の中、ユージオ達は言い表せぬ違和感を胸に、山頂を目指した。

 

 

 

 

 

 

「着いたね」

「ええ。まさか洞窟まで入っていくなんて…」

その後、山頂まで山を普通に歩くだけではたどり着けないことに気づいた3人は近くにあった洞窟へと進んだ。そして、ついに山頂へと辿り着いた。

先程までの吹雪は止み、かなり見通しが良くなっている。

「…あ、あれ!」

と、その時、ユージオは少し先に何かが雪面に突き刺さっているのを見つけた。

「あれって…」

「多分、レイラの剣……じゃ、ないかな」

『________』

するとレイラもそれを見つけたのか一人、剣の元へと歩いていく。

『…』

雪に埋もれた何か。雪を手で払い、冷たくなったその剣の柄に触れて目を閉じる。

『_____ぁ』

レイラの口から零れる声。2人は静かに見守った。

それから五分ほどだろうか、レイラはその剣を引き抜くこと無くユージオ達の方へと振り返った。

『___ありがとうございます、ユージオさん、ティーゼさん。ようやく、思い出せました』

「……思い出せたって言うのは、剣を無くした理由?それとも____君の生前の思い出かな?」

『…気付いてたんですか?』

ユージオの口から告げられるその推理にレイラは驚いた表情を見せた。

「村の人達に話を聞いてるうちに、何となく察しがついた…ただそれだけさ」

「あなたは……数年前、もう既に死んでいたのね?この山頂で」

 

村での聞き取り調査、そこで共通して言われてことが『数年前から姿を見ていない』という事。レイラには血の繋がった家族がおらず、一人暮らしだったと言う。村人の証言の元、レイラの家に向かい中を調べてみると、生活感はあるものの、部屋全体がホコリを被り蜘蛛の巣だらけ。長い間人が住んでいたとは思えない有様だった。そして、その部屋に残っていた日記。それを読むと____5年前の日付が最後だった。

 

それからユージオは彼女は生きているのではなく、死んでいるのではないかという推理をしたのだ。彼女が何故ここで死んでしまったのか、その他諸々分からないことが多過ぎるのが欠点だったが_____

 

『はい、私はレイラ。あの村では有名な剣士でした』

そして、レイラは全てを話し始めた。

 

彼女には元々家族はおらず、とある家の養子として育ったらしい。が、彼女が12になった年に養ってくれていた唯一の家族であったおばあさんが亡くなり、彼女はそこからずっと一人だったのだという。剣は幼少期から習っていてその師がおばあちゃんだった。もうそこからは一人修練を積み重ねた。同じく剣を志した村の男達は彼女と何度も勝負したが彼女は1度も負けることは無かった。時にはその剣の腕で村を襲うモンスターを討伐することもあった。本当に彼女は強かった。プレイヤーですらレイドを組まざるを得ない古代龍を単騎で倒してしまうほどに。

誰もが彼女を讃えた。誰もが彼女を愛した。皆が彼女の事を謳った。

______だが

『______誰も、私を越えようとする人は居なかった』

自分も負けてられない、と奮起する者は居なかった。誰もが彼女には追いつけないと決めつけた。

『_____私に教えを乞う人はいても、誰も着いて来れなかった』

彼女と共に肩を並べて強くなろうとする人は誰一人居なかった。

そう

 

共に日々切磋琢磨する友が

絶対に負けない、とお互いに歯を食いしばって鍛錬をする仲間が

時に協力し、更なる頂点を目指そうと声をかけ合う相棒が

 

彼女には居なかった。

 

故に待った。彼女を超える猛者が訪れる事を。

この、裏山で。

 

 

『…でも、キミ(ユージオ君)は違ったの。キミの背中には、私と違う強さがあった』

己と違う何か。

『そして、剣を取り戦うキミを見て圧倒的に違う何かがあったの』

生前の彼女が目指した強さ、それとは何か違う___けれど彼女がそう望んだはずの強さ。

『キミは……肩を並べる相棒が、いるんだよね?』

「_________」

『1番仲が良くて、その人といるとすごく楽しくて、でもその人には絶対負けたくないって思ってる』

「____うん」

『……いいなぁ』

「レイラ…」

『私も、そんな人、欲しかったなぁ…』

零れる彼女の想い。彼女は独りで強くなり過ぎた。孤高の存在出会ったからこその願い。

気付けば彼女の体が薄らと透けて見える。足も目を凝らさなければ見えない程に。

『…限界も近いみたい。私が死んでから5年___ここにいること自体奇跡みたいなものだったの。多分あと10分くらい、かな?』

「「!!」」

『…だから、最後のお願い_____していいかな?』

「何を…?」

レイラはその儚く散ってしまうであろう体を両腕で抱きしめながらユージオにそっと呟く。

『____私と戦ってくれない?』

「…」

そう告げた直後、彼女は己を奮い立たせるように剣を取り、剣でユージオを差す。

『最期にキミ(ユージオ君)と戦いたいの。私が目指した筈の強さ___それを見たい。私がどれだけ頑張れたか、あの日々に意味があったのか』

彼女はもう迷っていない。真っ直ぐにユージオを見ている。

『…お願い』

剣士としての性。己より強い者と戦いたい、もっと強くなりたい。そんな物が彼女を突き動かす。そしてまた、(ユージオ)も同じであった。

「…分かった」

『!』

「手加減は無し、でいいよね?」

『勿論!そうでなくっちゃ!!』

ユージオも真剣な顔で腰の剣を抜き、中断に構える。

『じゃあ……好きに始めちゃっていいよ。いつでも来いっ、てね!』

 

最強のNPC女剣士と、青薔薇の剣士。

クエストを締めくくるであろう、最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 



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最強のNPC女剣士(レイラ)vs青薔薇の剣士(ユージオ)

こんにちは!クロス・アラベルです!
後日に、短編の新しい小説を投稿予定です。たった1話で終わってしまいますが、そちらの方もよろしくお願いします。すごく悲しいお話なので、読む時はお覚悟を(泣)書いてる本人も泣きそうになりながら書きました。

はい。ということで、今回はオリジナルストーリーの3話目、戦闘シーンです。
中々難しく、何度書いても慣れないものですが、描き終わりました。
このオリジナルストーリーはあともう1話で完結します。
それでは、どうぞ〜


 

 

 

先に仕掛けたのは勿論ユージオだった。

ユージオはソニックリープでレイラに斬り掛かる。

これで間合いを詰めてここから接近戦を挑むつもりだった。

「ハァッ!!(彼女の対人戦の実力がどれ程か実際に見たことは無いけど……これで一撃を入れて___)」

ソニックリープを発動し、跳ぶ。その時だった。

「_____(あれ?レイラは構えてないのか?剣を持って立ったまま静止している…?)」

違和感。

普通なら中段に構えて相手の行動を見極めたり、先手必勝と言わんばかりにソードスキルを発動させる。だが、彼女にそれをする素振りはない。

ただ、ユージオを見ているだけ。

このままだと真正面からソードスキルを受けることになる。

だが、彼女は動かない。

そのままユージオの剣はレイラへと向かう。

ユージオが違和感を感じて疑問を抱いた、その時だった。

『___シッ!!』

レイラが動く。

直後、自分が悪手を取ってしまったことをユージオは悟った。

レイラはユージオを完全に避け、ただ剣をかざす。ユージオは軌道修正出来ずにレイラの剣に斬られた。

「ぐっ!?」

ソードスキルは失敗に終わり剣は緑色の輝きを失って、ユージオは地に倒れた。

彼女はユージオの行動を読んでいた。いや、ユージオのソードスキルの軌道を読んでいたと言うのが正確か。

ユージオはすぐさま体勢を整え中段に構える。

だが、その時にはもう彼女の剣が眼前に迫っていた。

「ッ!!」

有無を言わせぬ連撃にユージオは何とか反撃を試みるが、レイラはその隙を見せない。

「ぐっ!?」

鍔迫り合いになり押し込まれるユージオ。だが力だけならユージオが上を行く。

「……おおッ!!」

ユージオが競り返すとレイラは自らの剣を左肩へ方向を変えて受け流す。そしてそのままユージオへ一撃を入れた。

「シッ!!」

「がはっ!?」

ダメージ量としては1割に満たないが、それでも彼女の一撃はユージオを吹き飛ばした。

「ぐぅ……ッ!」

すぐさま立ち上がり剣を構える。

それから何度かソードスキルを撃ったが、全て見破られて反撃を食らった。

彼女は強かった。ソードスキルに関しては完全に封殺。ソードスキルを撃とうものなら即座に手痛い反撃が返ってくる。レイラは完全にソードスキルを熟知しているようで、その手際は慣れたものだった。そして、彼女はソードスキルを使わない剣戟に関しては特に強かった。

ユージオは心のどこかで____これまでのアインクラッドての戦いから、NPCはソードスキルを多用してくるし、ソードスキルを打つ隙があったから____油断していたのだ。彼女はNPCだから、ソードスキルを使えば勝てる。そう、無意識に鷹を括っていたのかもしれない。

だが、彼女は違った。尋常ではない剣の速さ、無駄のない身のこなし、一撃一撃の威力、そして、勝負を決する剣の冴えも、そこらのNPC__いや、プレイヤーをも凌駕している。

剣の速さはアスナ、身のこなしはラン、剣の冴えはユウキ、一撃の威力はキリトと言ったところか。

今まで戦ってきたどのNPCよりも強い。

ユージオはすぐさま対プレイヤー戦へと____いつもキリトとデュエルをする時の意識に切り替えた。

 

「……!!(彼女はもう普通のNPCなんかじゃない。僕らプレイヤーと何ら変わらない思考を持ってると考えるべきだ。ソードスキルの軌道も読んでいるし、対人戦に関しては彼女の実力はキリトを超えるかもしれない…!)」

『ハアッ!!』

「うおおッ!!」

 

惜しみなく降りかかる彼女の斬撃を剣で打ち合わせて応戦する。

彼女は特にスピード系の剣士の為、レイラの方が攻撃数は多い。ユージオはそれを防ぐ事を余儀なくされる。

しかし、ユージオもやられてばかりでは居られない。

レイラの剣戟の一瞬の隙を見てユージオも何とか反撃を試みる。

が、それも防がれる。

ユージオの不利な状況は3分程続いた。

HP量はユージオが6割、レイラが8割。剣を打ち合わせることで反動によって少しずつではあるが双方にダメージがある。だが、やはり初撃の失態が効いたか、ユージオの方が少ない。そして、ユージオはレイラの攻撃を全て防ぎきっている訳ではなく、致命傷になるであろう攻撃を優先して防ぎ、そうでない攻撃___かすり傷程度の攻撃は二の次であった。

スピードでは勝てない。だが駆け引きによってユージオは応戦出来ている。だが時間もない。このままではレイラのがユージオのHPを削り切ってしまう。

ならば応戦出来ている要因である、その駆け引きで彼女に勝つ。

「ッおお!!」

『!!』

ユージオは彼女の剣戟を押し込む形で無理矢理レイラから形勢逆転を挑む。

だが彼女はそれにも動揺することは無い。何せ彼女はあらゆる剣士を相手取り、完封勝利を決めてきた対人戦のプロ。しかも、相手が男だった事など山ほどあったはずだ。

 

だがユージオの狙いはそれではない。

「っ!!」

ユージオはそこでソードスキル《バーチカル》を発動するために初動のモーションを起こそうとする。

それを見た彼女はすぐさま迎撃体勢へ。

そして彼はそのまま初動のモーションとしてシステムに認識される寸前、素早く彼女に剣を振り下ろす。

『!!』

 

ブラフ。

 

ユージオは彼女が、ソードスキルを熟知している事を逆手に取った行動だ。彼女のソードスキルに対する対応の速さは確かに目を見張るものがある。だが、早ければ早いほど判断も早い筈。ならばわざと間違って判断させるか、判断をさせる前に一撃を浴びせるしかない。

そして、《バーチカル》程度なら彼女も何度もモーションを見ているだろう。ならばレイラが『相手がソードスキルを放つ』と認識する瞬間はどこかを探る事をユージオは選んだ。

レイラはソードスキルとして初動のモーションが認識されるその一瞬で判断しているのではなくやはりユージオが思っていた、システムによって初動のモーションが読み取られ剣に光が宿るよりもっと前に迎撃体勢をとっていた。

ならば彼女に先にソードスキルの迎撃体勢を取ってもらって、そこを通常攻撃の不確定な一撃で攻める。攻撃の軌道が決まっているソードスキルでは無いもので。

向こうもそうだが、こちらも判断が難しいし、少し攻撃するのが遅くなればソードスキルが本当に発動してしまう。

「ハアッ!!」

『っ!?』

NPCであるレイラに少し動揺が見られる。

やはりユージオの試みは誰もやった事がなかったのか_____対応に遅れが出ている。

「ッらぁ!!(このまま攻めきる!これも長くは持たない、必ず彼女は克服して反撃してくるはずだ。短期決戦、この剣戟で決着を…!)」

『っくぅ…!?』

着実にレイラへ攻撃を進める。時にはソードスキルを撃ち、時にはブラフで騙す。

それを3回ほどした頃か。

 

『ここッ!!』

「!?」

たった3度の攻撃で、彼女は見抜いた。

ユージオの狙いを。

レイラはユージオの策を実行される前に、それを未然に攻撃することで防ぐことを選んだ。

『やぁッ!!』

「なっ!?」

今までのお返しだと言わんばかりの力の籠った一撃。

ガキィィン、と剣を弾き飛ばす音が山中に響く。

辛うじてユージオは剣を離すことはなかったが、完全に体制が崩れた。レイラはその隙を逃さない。追い討ちをかける。

だが、ユージオも諦めてはいない。

「ぜぁッ!!」

『ッ!!?』

体術スキル《弦月》。後方宙返りしながら蹴るソードスキルで、これは立った状態からでも後ろに倒れ込みながらでも発動できる優れ物。ユージオはこれを体制を崩されたその瞬間の後ろに倒れ込むような動きから、このソードスキルを発動させた。これぞユージオの得意とする片手剣ソードスキルと体術スキルの混合戦闘スタイルだ。

 

ガッ_____

 

ユージオの《弦月》はレイラの右手に直撃。レイラの一撃はユージオの《弦月》によって強制終了(キャンセル)となった。

レイラは後ろへと体勢を崩し、ユージオは《弦月》の勢いそのままに後方宙返りで着地する。

「はあああッ!!」

一撃がレイラに入る。

『うっ!?』

続けてもう一撃、

「う、おおおおッ!!」

『!!』

が、防がれる。もはやNPCとは思えないこの順応性、臨機応変さ。

『はあああああああああああッ!!』

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

真正面なら交わる剣と剣、散る火花。2人の剣戟によって積もった雪が吹き飛ぶ。

ユージオの意識は闘いだけでなく、レイラへの畏怖と尊敬があった。

ユージオはキリトと共に強くなったが、彼女は違う。たった1人で、高みに至った。剣を極め抜いた。

 

孤独である悲しみと寂しさを、ユージオは知っている。

アリスが整合騎士によってカセドラルに連れ去られてからの6年間、かれは孤独だった。家族もいたし、世話を焼いてくれる人もいた。だが、ぽっかりと穴が空いた心は塞がることは無かった。

唯一無二の存在を_____アリスとキリトを失ったその感情は言い表せない。

だが、彼女はユージオが無くしたその大切な人が、初めからいなかったのだ。

そばにいて、共に切磋琢磨し合える人が。

それがどれほど辛いのか_____ユージオは理解出来る等とは思わなかった。理解した、そんな言葉で彼女を語ることなど許されない。

悲しみも寂しさも、それぞれがその人のものなのだ。完全な理解など到底できない。

ならばその悲しみを、寂しさを_____この瞬間だけでも、埋めようではないか。

こうして剣を打ち合わせる、今だけ__

例え、レイラを形作る情報がこの世界を作った存在による後付けの物だとしても。

 

いつしか、レイラは笑っていた。

ユージオも気付いていないが、笑みが零れていた。

 

ああ_________なんて楽しいんだ。

 

2人はそう思ったのだろう。

 

「おおおおおおッ!!(まだだ!もっと、もっと、もっと速く、身のこなしをもっと無駄なく、そして、一撃一撃に瞬間的に力を込めてッ!!)」

『あああああッ!!』

「おおおおおおおおお!!(彼女を超えろ!!友の存在(キリト)がどれだけ僕を助けてくれたか、鍛えてくれたかを_____この場で全て出し切れ……!!)」

より激しくなる剣戟。

決着の時は_______

今ここに。

 

2人は剣戟を中断し、後方に跳ぶ。

そして、それぞれに構えをとる。

レイラも最後にソードスキルを使うことを決めたようだ。

ユージオは迷うこと無く構える______重単発突進技《ヴォーパルストライク》だ。

ユージオにとってキリトへの憧れの象徴。絶対的な一撃。

レイラは上位単発技《プレダトリー・ガウジ》。逆袈裟に斬り下ろす、かなり威力の高いソードスキル。しかし、突進技では無いため彼女は『迎え撃つ』と言った方が正しいだろう。

一瞬の静寂、そして、ソードスキルの発動によるそれぞれの音。

ユージオからはジェットエンジンのような轟音が、レイラからは鋭い金属音が、発される。

ソードスキルのそれぞれの音が臨界点を突破した、次の瞬間。

「はあああああッッ!!!!」

『やあああああッッ!!!!』

解き放たれる最大の一撃。

音速で迫るユージオの《ヴォーパルストライク》。それを迎え撃つレイラの《プレダドリー・ガウジ》。

紅い閃光と、翠色の閃光が交わり_______

 

 

 

紅い閃光が、それを貫いた。

 

 

 

『ッ_______』

「______」

すれ違い、5m以上ユージオが突き抜け、立ち止まる。ソードスキルの技後硬直によって1秒もない間動けなくなるが、解けた瞬間すぐ振り返る。

すると、レイラはユージオに微笑んでいた。レイラのHPゲージは数ドットを残して止まっている。だが、明らかに勝負は決まっていた。

『_______ありがと、ユージオ。すっごい、楽しかったよ』

「___レイラ…」

『負けちゃったけど_____悔いは無い、かな。確かに勝ちたかったけどね……やっぱり隣に誰かいるって、強いんだね』

「…うん」

「……レイラさん」

『ごめんね、ティーゼさん。貴女のユージオを独り占めしちゃって』

「剣士同士の決闘だもの。例え、妻であっても口出しは出来ないわ。だって私も剣士だから」

『……ユージオ、いい人見つけたね!』

「__まあね。自慢のお嫁さんだよ」

『…さて、私もそろそろ限界だからね。済ませちゃおっか』

「何を?」

『君にあげたいものがあるんだ』

レイラは山の奥へと歩き出す。

『来て』

「…分かった」

 



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氷の刃(アルマス)》と_____

お待たせ致しました!
クロス・アラベルです!
今回でオリジナルストーリーは終わりになります。そして、次回からは原作の1巻、あのお話に入ると思われます。ようやく…ここまで来ましたか(*'ω')-з
皆さん、いくつかの感想ありがとうございます。先日貰った感想の中で、メインストーリーが一段落したら《殺人鬼編》のキリロニBADENDを書いて欲しい、と感想を頂きました。残念ながら、1度そう言う要望を聞いてしまうと、じゃあこれも、ではこれも……という風にキリがないと思うので、BADENDは書かないつもりです。ですが、現在、番外編的なお話を書いております(単発の《別れ》とは別に)。それが、その……BADENDと言うか、そんな感じのお話なので、そっちをまたおいおい投稿出来ればなぁ、と思います。
さて、では本編へ。
どうぞ〜


 

 

山奥の洞窟。

巨大な氷柱が聳え、至る所に氷の岩がひしめき合う中、それはあった。

「____これって、まさか__」

『うん。私がこの山で倒した、古代龍。ここじゃ腐らないから凍ったままなんだ』

古代龍の骸だった。そして、その奥にあるのは___

『私が渡したいのは、これ』

「……鉱石?」

「いや、氷にも見えないことは無いけど…」

『多分どっちもだと思う。そこらにある氷とも違うし、レアな鉱石でもない。多分、特殊なものだと思う』

レイラ曰く、龍を倒した後に見つけたのだという。

「もしかして、龍はこれを守ってたのかしら…?」

「龍は昔から財宝なんかを守るためにいるって聞いたことがあるよ。実際、僕の故郷でも白竜がその役割を担ってたし…」

『これを使って剣を作るといいよ。多分良い剣が出来ると思う』

「……いいの?」

『うん。私は使うことないし、こんなお宝をこの山に眠らせておくのもね。だから、君が使って。誰よりも、私に勝った……君が』

「分かった。ありがとう、レイラ」

『ううん、私こそありがとうね。嬉しかった、こんな戦いができて』

薄かった彼女の体。もう下半身が見えなくなっている。ついに限界を迎えたようだ。

『さようなら、ユージオ、ティーゼ。すっごく楽しかったよ。本当にありがとう。頑張ってね!』

「…うん、こっちこそありがとう。元気で」

「レイラさん、ありがとう。どうか、元気で」

『__うん、ありがとう!!さよなら______』

レイラは最期に、今までで最っ高の笑顔でこの世を去った。

彼女は確かにNPCだ。これはプログラムによって作られた物でしかないのかもしれない。だが、2人にとってレイラは1人の少女だった。ここには天国も地獄もない。

けど、彼女はきっと__________

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ……私に剣を、ねぇ…」

リズベット武具店にて。

ユージオは早速早いうちにリズベットの元へと来ていた。

「素材もあるんだ。結構良さげなものなんだけど」

「…うわ、なにこれ……確かにこれは中々の代物ね…わかったわ。私が受け持ちましょう!せっかくだから工房にも入りなさいよ。そんなに時間かかるもんじゃないし」

「ありがと、リズ」

「いいってことよ。友達の頼みだもの………さーて…どうなる事やら…」

 

 

 

 

 

通常、武器を作る時間はそこまで長くない。5分もなしに制作が可能だ。そして、武器の制作では槌を打つ回数によって武器のグレードがだいたい決まってくる。回数が多いほど良い武器が出来上がる。

しかし、ユージオの武器が出来上がったのは、10分後であった。

 

「ッ、ッ、ッ、っ……!!」

槌で打つこと、回数にして283回。ようやく剣が光だし、形状を変え出す。回数から見て通常の武器の比では無い。

固唾を飛んで見守っていたユージオとティーゼもその光景に息を飲む。やはり何度この光景を見ても綺麗なものだ。

リズも流石にここまでの回数を叩いたことがないせいか、汗びっしょりだ。

薄い青の光が工房を染め上げ、ようやく剣が出来上がると思った、その時。

 

熱を帯びていたはずの剣が_____

 

 

ピシィッ__

 

_______凍る

 

 

「えっ、ええええええええええ!!!??」

「えええええええええ!!?」

剣を打っていた筈のリズベットまで驚いて腰を抜かしそうになる。間一髪でユージオたちの元まで後ずさる。

その現象は剣だけにとどまらず、工房全体を凍てつかせていく。

「なっ、何なのよこれぇ!?」

1番の被害者であるリズは顔を青くしながら悲鳴をあげた。

 

その現象は3人の元へ届く、寸前で、それは止まった。

「「「………」」」

そして、それは一気に砕け散った。

破砕音と共に床に落ちる大量の氷と、氷柱。

その中央には_____

氷のように半透明な一振の剣があった。

 

「こんな事…起こるものなの?」

「し、知らないわよ…私だってこんなの初めてなんだから!!」

 

華奢な剣だった。

ロングソードの範囲に入るだろうが、刀身が細い。

それはまるで青薔薇の剣を彷彿とさせるものだった。

 

「……えっと…《アルマス》だって。筋力要求値は……72ぃ!?なのこれほんとに片手剣なわけぇ!?」

「……ステータスに関していえば、今まで見たどの剣よりも、良いね。筋力要求値は、ギリギリ達成してるけど…」

「アンタこれ持てるの!?片手剣の中じゃいっちばん重いんじゃない!?」

「アルマス、か…」

《アルマス》。

それがユージオの新しい剣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その帰り際。32層の主街区を通って帰宅しようとしていた2人は、思わぬ人物と出会った。

「ユージオさん!」

「?」

「お久しぶりです。攻略会議以来ですね」

「ネズハ!どうしたんだい?こんなところで…」

「素材集めですよ。うちでは基本的に素材はこっちで用意してますから」

ネズハである。

 

第2層攻略時に武器強化詐欺を行ってギルド《レジェンドブレイブス》にその武器を横流しや他の店に売却する事でギルドメンバーを攻略組に押し上げた。が、その詐欺の手法はキリトによって暴かれ、彼は詐欺から足を洗い、鍛治スキルを捨て、特殊武器《チャクラム》をキリトから受け取った。その後第2層ボス攻略時にピンチに陥った攻略組をチャクラムを使って形勢逆転へと導いた。ボス戦終了後、ギルド《レジェンドブレイブス》全員で詐欺の全貌を自白し、謝罪し、ディアベルやキリト達の采配で事なきを得た。

それ以降、彼ら《レジェンドブレイブス》は攻略組から脱退し、詐欺を受けた被害者達に賠償金を支払うことを約束した。

それから彼らは4層を除く25層までは前線へ出てくることは無かった。

そして、25層ボス攻略時に彼らは再び攻略組に姿を現し、ボス戦で苦戦していた攻略組を支援した。《レジェンドブレイブス》の助太刀とネズハのチャクラムによる陽動によって攻略組は形勢を立て直し、ギリギリの所を犠牲者無しで突破することが出来た。その功績が称えられ、無事ギルド《レジェンドブレイブス》は攻略組復帰を果たしたのである。今では彼は攻略組きっての実力者であり、唯一のチャクラム使いだ。ボス戦におけるタゲの移動や弱点露出等を担当している。

そして、現在は______

 

「店、上手くいってる?」

「はい!お陰様で、大繁盛です!」

彼は、また鍛治スキルを用いた防具鍛冶屋を攻略組の許しを得てオープンした。

それから半年が経つ。彼の店には武器はないが、高性能な防具が数多く揃えられている。彼自身、武器を打つことにトラウマを持ってしまった。故に彼は武器ではなく、人を守る防具を作ることを選んだ。

攻略組御用達、かなりアインクラッドでも有名で、『一流の防具を欲するならば彼の元へ行け』と言われるほどである。

「ユージオさん達はどちらに行かれてたんですか?」

「少し、新しい武器を打ってもらったとこなんだ」

「新しい武器を?」

「うん。そうだ、君に見てほしいんだ。剣の銘なんだけど…」

「剣の銘ですか?」

「うん。あんまり聞いたことの無い言葉だったから」

「ネズハさんなら分かるかもしれないわね」

「うーん……英語が独断得意という訳でもないんですが…」

「それがね、《アルマス》って言うんだ」

「え!?アルマスですか!」

「う、うん。何か知ってる?」

「もちろん!シャルルマーニュ伝説って知ってますか?」

「しゃ、シャルル…何?」

「シャルルマーニュですよ!うちのギルドのオルランドもその伝説に登場する騎士の1人なんです。書かれた時代によって作品に出てくるメンバーも違ってきたりするんですが、有名な騎士だと…ローラン……あ、オルランドのことですね。他にもアストルフォなんかも有名です。そのユージオさんの《アルマス》はそのシャルルマーニュ…カール大帝とも言われてた王様に従えたっていう十二勇士の中の一人、ランスの大司教であるチュルパンが愛剣として使っていたっていう名剣ですね。ローランの歌ではこう語られていた筈です。《氷の刃》アルマスとか、《玉散るばかりの氷の刃》アルマス……だいたいそういう風に呼ばれていますよ。けど、氷の刃とは言ってもただの比喩らしくて、ホントは氷の如く研ぎ澄まされた鋭い剣っていう意味だそうです。他にも十二勇士の中では色んな逸話が残っていて………」

彼の口から普段からは考えられないほど饒舌に喋るネズハ。やはり彼もギルド《レジェンドブレイブス》のメンバー。この手の伝説や物語は大好きらしい。

「す、ストップ!ネズハ!それくらいで充分わかったよ」

「あ……すいません、つい夢中になっちゃいましたね。こういう話、大好きで……」

「ありがとね、ネズハ」

思わぬ情報がネズハから手に入った。伝説上の物語に出てくる人物の名剣らしい。

その後ネズハに剣を見てもらった所、《氷の刃》と呼ばれていたので、もしかするとこのアインクラッドでは言葉通りに《氷の刃》としての側面が出ていてしまったのではないか、とのことだ。

ネズハの推測は、正しかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「おとーさん、おかーさんおかえり!!」

「ただいま、シャロ!」

走ってくるシャロを受け止めて抱っこするユージオ。

「ただいま、シャロ。いい子にしてたかしら?」

「うん!」

「何の問題もなしですよ、ティーゼさん。いい子でした」

世話役のシリカが笑顔で出迎える。

「どうでした?何かを探しに行くって聞いてましたけど…」

「無事見つかったよ。新しい剣も手に入ったし…」

と、その時、とある通知が来た。

 

 

《新スキル《青薔薇》を獲得しました》

 

 

「________ 」

新スキルがようやく、開放された。

その名は《青薔薇》。

そして、このスキルが後に。

 

このアインクラッドでキリトの過去になかった波乱を巻き起こすのだが_____

 

 

ユージオは知る由もない。

 

 



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あれから____

こんにちは、クロス・アラベルです!
今回から原作1巻のあのお話から始まります!
いよいよここまで来たか…って感じですね。
あと、前回のユージオの剣のお話ですが、あれはアストルフォの剣ではなく、チュルパン大司教の剣です…お間違いのないように…(´・ω・`)
確かにアストルフォの方がインパクトあるからちょっと誤解しやすいかもですけど…
本編はユージオ君が頑張って過去を変えたのだという事を実感出来る話だと思います。
では、どうぞ〜!


 

 

 

ここは74層迷宮区、その8階。そこで今日も戦闘が行われていた。

相対するは片や盾と三日月刀を携えた蜥蜴人(リザードマン)の戦士。

片や黒いコートに身を包み、漆黒の剣(エリュシデータ)を持つ少年。

「ハァッ!!」

『ゲギャァ!?』

相手のソードスキルを軽々と受け流し、黒髪の剣士___キリトは素早く4連撃ソードスキル《ホリゾンタルスクエア》を放った。

全斬撃を受けて絶命しガラスが割れるような音と共に消えていく蜥蜴人。

「…ふぅ」

「お疲れ、キリト」

「おう」

彼の声をかけるのは亜麻色の髪の剣士____ユージオ。

「そろそろ帰ろう。ティーゼ達が待ってるからね」

「そうだな。まぁ…ユージオの場合、ティーゼとシャロが待ってるからだろ?」

「見破られちゃったかぁ…まあ、あの子の為にも早めに帰ってあげたいんだ」

「おーおー、ちゃっかりお父さんしてますねー」

「茶化すなよ、キリト…」

2人はレベリングを終えてユージオの自宅がある32層へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、キリト。あれって…」

その帰り、74層の迷宮区を出てすぐのフィールドでユージオはある物を見つけた。

「なんだよ、ユージオ…!?あれって、まさか………ラグーラビットか!?」

ユージオが見つけたものとは、レアモンスターのラグーラビットだった。しかもそれが5匹も。

「モンスターってあんなに群れるっけ…?」

「いや、それは無い…と思う。多分レアケースか、バグか……まあ前者だろうな」

草むらに身を潜めながら2人がコソコソと話す。

「……どう思う、キリト。2人だけで全部仕留められるかな?」

「うーん……投擲スキルで仕留められるのにも限度がある。1匹ならともかく、5匹一気にとなると、難しいな」

「…でもラグーラビットはそんなにHPは高く無かった筈…投擲スキル、もしくは片手剣ソードスキルで行けると思うけど」

「何せ逃げ足が早いからな。ケリをつけるなら一瞬で決めなきゃな」

さて、2人は片手剣ソードスキルによる一掃を決めた。

「ウォーパルストライクでいいな」

「うん」

2人同時に構える。狙うはラグーラビット達の群れ、その両端にいる2匹。《ウォーパルストライク》なら射程距離も長くソードスキルの技後硬直もかなり短い。2人のレベルと俊敏のパラメータなら不可能ではない。

「……3…2…1…ッ!!」

そして、2人同時にソードスキル《ウォーパルストライク》でラグーラビット達の群れに突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま!」

「お邪魔しまーす」

32層のユージオとティーゼのログハウス。そこにキリトとユージオはラグーラビットを狩り終えて帰ってきた。

「お邪魔しまーす!」

「邪魔するぜ」

後に続くのはアスナとエギル。エギルは迷宮区のモンスターの落とした(ドロップ)アイテムを売りに行った時に、アスナもその時に会い、一緒に晩御飯を食べることに。

「あ!おとうさん!!おかえりなさーいっ!!」

「ただいま、シャロ!いーよいしょー!」

「あはははは!!」

帰ってきたと同時に駆け寄ってきてユージオを抱きしめるシャロ。ユージオは飛び込んでくるシャロを抱っこしてぐるりと一回転。

「凄いね…そんなに時間経ってないのにこんなに懐いて…」

「ユージオの人の良さってのがこの子にも分かるんだろうな。幸せそうで何よりだ」

改めてシャロの懐きように驚く二人。

「あれ?エギルおじさんとアスナおねぇちゃんもきたの?」

「ええ、シャロちゃん。ダメだった?」

「ううん!みんなでごはんたべるのたのしいからいいよ!」

「ふふ…ありがとね、シャロちゃん」

「えへへー…!」

アスナが頭を撫でると気持ちよさそうに笑みをこぼすシャロ。

「おかえりなさい、ユージオ。キリト先輩も。アスナさんとエギルさんもようこそ!」

「ごめんね、ユージオ君からメッセージで知らせてもらったとはいえ、急に来ちゃって…」

「良いんです。食べる人が多い方が作りがいがありますから♪」

皆で話しながらリビングへ。

「おかえりなさい、キリト先輩!」

「ああ。まあ、ここユージオの家だけどな」

「ユージオ、それで例の食材は…?」

「そうだったね。はい、これ」

ティーゼに催促されユージオはストレージの中からある食材を取り出した。どんっ、とティーゼが用意した銀のお盆にのる大きな肉塊。それが4つ。

「こ、これが……S級レア食材、《ラグーラビットの肉》…!」

「他にもお肉系の食材をいくつも見てきましたが、色合いも肉の密度も段違いですね…」

「しかも4つもドロップしたんだぜ!ちょっと声出たよ」

「うん、これで人数分何か作れるかい?」

「はい。今回は…シチューを作ります」

「そうよね。煮込む(ラグー)って言うくらいだもの!」

「イタリア語だったな。元々イタリアの郷土料理の煮込み料理のことを言ってたらしい」

「エギルって博識だよね…」

「ちょっと知ってるだけだ」

少し自慢げにドヤ顔のエギル。

「皆さん少し待っててくたさいね。多分、30分もあればできると思うので…」

「分かった。じゃあその間、シャロと遊んでるかー!」

「おとうさんもあそぶ?」

「もちろん、遊ぶよ」

「やったー!」

「私も遊びましょう!おままごとがいいかな?」

「わたし、けんのたたかいがいいー!」

「えっ…」

「大丈夫だよ、アスナ。それのために作ったペーパーソード(おもちゃ)があるから」

「…そう……よかった」

「よっしゃー!シャロ!今日こそ決着をつけようぞ…!」

「せきじつのうらみ、ここではらしてくれるー!」

「どこでそんな言葉覚えたんだ、嬢ちゃんは…」

 

 

 

 

「出来ましたよー!」

30分後、ティーゼとロニエが料理を終え、料理の乗ったお盆を持ってくる。

「じゃあ僕らも手伝おう」

「そうね」

サラダ、パンを添えてシチューをメインにした献立。やはり、シチューにかなり時間がかかったようだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……やるな、シャロ…!」

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……きりにぃも…!」

と、リビングではキリトとシャロが紙で作った剣を片手に肩で息をしている。

「こりゃいい匂いだ。流石は料理スキル完全習得(コンプリート)のコックだな。ユージオもさぞかし幸せな日々を送ってんだろう?」

「まぁね♪毎日楽しみにしてるんだ。シャロも残さず食べられるように料理してくれるし…」

「おかあさんのごはんはね、いっちばんおいしいんだよ!」

「そうだね、シャロ」

エギルにそう言われてユージオも少し頬を赤くしながら皿を手に取る。シャロもティーゼの料理を大絶賛している。

「わたしもはこぶのてつだうー!」

「ありがとう、シャロ」

シャロは自分の分のシチューを持って、ゆっくりとテーブルまで運ぶ。ユージオは飲み物とコップを持って行った。

「へぇ……これがS級レア食材を作ったシチューか…! 」

「温かいうちに食べよう」

「それじゃあ、いただきます」

「「「いただきます!」」」

準備が終わり、席に着いたみんなは早速、今宵のメインディッシュ、ラグーラビットのシチューを1口。

「……美味_______」

「美味しい……!」

「Excellent……!!こんな美味いのはここに来てから初めてだぜ!!」

「凄いや……肉が溶けていくみたい…!」

「んー!おいしー!!」

流石はS級レア食材を使った料理。いや、料理スキルフルコンプリートの2人が作ったからか。ここにいる全員の舌をうならせた。

そこからは皆、無言で手を動かした。

ものの10分後には全員が完食していた。(シャロ以外)

「いやぁー……美味かったな…」

「そうですね!私も、あんなに美味しくなるとは思ってませんでした」

「やっぱり料理するプレイヤーの料理スキルの熟練度にもよるんだろう。中々フルコンプはこのアインクラッドじゃいないからなぁ…」

「美味しかったわ。ありがとう、ロニエちゃん、ティーゼちゃん」

「いえいえ、私達もラグーラビットのお肉で料理出来るとは思ってなかったですから」

「喜んで貰えたら、なによりです♪」

みんな、ラグーラビットのシチューを堪能し、ご満悦だ。

「ごちそうさまでしたー!」

「はい、お粗末さまです。シャロ、お口にいっぱい付けちゃって…」

「?」

「こっちにおいで。拭いてあげる」

「はーい」

口の周りにシチューを付けて、満面の笑みで食べ終わったシャロ。その口をタオルで拭くティーゼ。まるで親子そのものだ。

 

「……あれから、1年半かぁ…」

「どうしたんだ、アスナ」

「ちょっと…感慨深くなっちゃって。あれから、そんなに時間が経ってたなんて、中々信じられないから」

「…まあ、アインクラッドにいる全プレイヤーが思ってることだろうよ」

「合計死者数は確か______」

「1700人くらいだったかしら。これでも驚異的な数字よ。普通なら、もっと犠牲者が出てもおかしくないのに」

「噂によると、半数以上が自殺者らしいぜ。アルゴからの情報だから、間違いないと思う」

1700人。

それが現アインクラッドにおける死者数だった。

ユージオの知るキリトの過去と比べれば半分以下である。要因として、キリト達がばらまいた情報などが、アインクラッド全土に知れ渡っていたこと。そして、ディアベルの死を防げたことにある。

現攻略組は今や平均レベルが100を超えるというまさに最強と言える集団だ。そして、攻略組の中でもルールは厳格に守られており、最低限のマナーはもちろん、中層域のプレイヤーや未だ下層で燻っているプレイヤー達への情報開示、ダンジョンやクエストへ挑む際の注意点やアドバイスなど含めて定期的に行われる攻略講義。それらのお陰であるとも言える。攻略会議には攻略組が付きっきりで教えこみ、死なない為の術を叩き込んでいる。

「_______あと、4分の1だな」

「おう。ゴールも随分遠かったが……見える位置に来たな」

「まだまだこれからよ。登っていくにつれて難易度は上がって、危険も増すでしょう」

「……きっと俺たちでクリアしてみせる。今まで死んでしまった1700人の為にも」

「下層で待ってる奴らの為にも、オレたちが踏ん張らねぇとな」

「確か、ボス攻略予定日って、3日後でしょう?」

「はい。それまでにボス部屋を見つけてボス突破への何が情報を見つけて…迷宮区はかなり攻略されてましたからね。もう、ボス部屋発見も近いんじゃないですか?」

「……必ずクリアしよう。俺達、攻略組で________皆で」

 



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不穏

お久しぶりです!クロス・アラベルです!

では今回は憎まれ役のあの人登場です。戦闘描写の方はありませんが、書かせていただきました。
では、どぞ〜!


 

 

 

74層の主街区でキリト達一行は待っていた。

久しぶりにアスナとパーティを組んで攻略に行くことになったのだ。

昨日、ラグーラビットのシチューをみんなで食べた日。エギルが「明日に向けて準備があるから早めに帰るぜ」と一足先に帰った後の事。

 

「ねぇ。明日、久しぶりにみんなでパーティ組まない?」

「え?珍しいね、アスナ」

「確かに、いつもKoBの副団長の仕事で忙しいって聞いてるぞ?」

「別に、そこまで大変なことなんてないわよ?仕事量も多い訳じゃないし…」

「でも、どこ行くんですか?」

「…まぁ、迷宮区よね」

「74層のですか?」

「えー……今日行ってきたんだぜー?明日は休みたいんだけd」(๑¯ㅁ¯๑)

「良いじゃない、減るものじゃないんだし」

「俺の精神が減るぞ…」( ー̀дー́ )

「へー…逃げるんだ」( ˉ ˘ ˉ )ハン

「適度な休みが必要なんだよ。逃げるとか言うなよ」( ー̀εー́ )

「適度ぉ…?へぇ…ロニエちゃんがいなかったら今より半分くらい休んでる癖に…」( ◉ ω ◉)

「……ロニエ、俺って結構勤勉d」( ˊᵕˋ ; )

「確かに、言えてるね。アスナ」純粋悪気なしsmile

「なん…だと…」((( ;゚Д゚)))ウラギッタナァユージオ!!

「あはは…」( ̄▽ ̄; )

「……俺には決定権があr」(´д`; )

「無いわよ?」ナイフカマエ( º言º)╋━─

「ヒェッ…」:( ;´꒳`;):

「まぁ、アスナさん程々に…でも、ホントに珍しいですよね」( ´・ω・)ノ(;ω;`)ヨシヨシ

「うん。腕が鈍ってないか、見ておこうかなって」

「へぇ…言うな、アスナ」

「鈍ってるかどうかはさておき、久しぶりにみんなでって言うのは賛成だよ。ユウキ達はどうする?」

「ユウキとランは他に用事あるって言ってたわ。ナギちゃんも明日は攻略講義の当番らしいし」

「…じゃあ、明日空いてるのは僕らだけか。ならいいんじゃないかな」

「なら、シリカちゃんにちょっとメッセージを送りますね。シャロの事をお願いしたいので、予定があうかどうかを確認しておかないと」

「おかあさん、でかけるの?」

「ええ。ちょっと寂しいかしら?」

「ううん!だいじょうぶ!おかあさん、おしごとでしょ?あたし、おるすばんできるよ!」

「シャロ…!ありがとう。帰ってきたら美味しいご飯作ってあげるからね!」

「うん!」

「シャロちゃんの許可も降りたし…」

「俺は別にいいぜ」

「私もキリト先輩が行くなら…!」

「じゃあ、ティーゼちゃん。シリカちゃんの予定が合い次第みんなに連絡してくれる?」

「はい、分かりました!」

 

という具合にアスナと約束をした。

「…遅いな、アスナ」

「ですね…」

「準備に時間かかってるんじゃないかな」

「このアインクラッドでは準備って一瞬で済むと思うけど…?」

約束の時間から10分経っている。時間や約束にうるさいアスナにしては珍しい。

「1回、メッセ送っとくか」

キリトが痺れを切らしてメッセージを送ろうとメインメニューを呼び出した、その時、5m先にあった転移門が光を宿す。誰かが転移してきたようだ。

『なんなのよあれっ!そのせいで遅れちゃったじゃない…!』

 

「アスナ、ようやく到着か」

「あ、キリト君!ロニエちゃん達も揃ってるわね!ササッと迷宮区に行きましょっ!」

アスナの到着である。だが、妙に焦っている。

「何かあったの?アスナ」

「えっと、それはまた後で話すから……って来たぁ!?」

アスナの早口な説得を聞いているとまた転移門に光が灯る。

「___アスナ様!!」

転移してきたのはアスナと同じ紅と白を基調とした軽鎧の中年の男。

「アスナ様、困ります!」

アスナと同じ、血盟騎士団のメンバーだった。

「護衛も無しに何処かへ行かれてはいけないと、会議で決まったことではありませんか!」

「あの会議は誰もストーカーしていいなんてこと決めてないわよっ!!」

「ストーカーなどではありません!これは護衛d」

「どこが護衛よ!四六時中ついて回って、私のホームにまで上がろうとした癖に!?」

かなりアスナもご乱心のようで、怒鳴り散らしている。こんなアスナはキリト達も初めて見た。

「今日も朝から家の前で張り込んで!普通なら警察行きよ!?」

「ふふ…こんなこともあろうかと一ヶ月前から護衛の任を果たす為、セルムブルグにて早朝から護衛の任務を…」

これはおかしすぎる。

流石に心配性の度を超えている。

「………聞いておくけど、それは団長の指示じゃ無いでしょうね…?」

「私の任務はアスナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も……!」

「含まれないわよっ‼︎馬鹿っ‼︎変態‼︎」

話を聞くごとにキリト達_おもにロニエとティーぜの視線に青薔薇の剣の武装完全支配術(エンハンス・アーマメント)の如く絶対零度並みの冷たいものが帯びていく。

「さぁ、アスナ様!我儘は辞めて、早く本部へ…!」

「っ!」

その男、血盟騎士団の団員であるクラディールはアスナの腕をつかもうと手を伸ばす。一瞬アスナの表情が恐怖のそれに変わる。

 

その瞬間、キリトは動いた。

「おっと、あんまり無理矢理ってのは頂けないな」

クラディールの手を弾き、アスナを後ろに遠ざける。

「さっきから聞いてたけど、ほとんど君に非があるようにしか聞こえないんだ。だから、今は引いてくれないかな?」

ユージオがアスナの前に出て守り、ロニエとティーゼは無言でアスナの横につく。

「き、貴様ら…!」

「もちろん、いきなりボス戦をやろうっていう訳じゃない。アンタのとこの副団長さんの安全は保証するぜ」

「それに…周りの目も気にするといいよ。全部聞こえてたみたいだし」

ユージオの一言でクラディールが周りを見渡す。すると、周りには軽蔑の目を向けるプレイヤー達で溢れかえっていた。

「っ…!」

「さて、お引き取り願おうか」

「貴様…誉ある血盟騎士団の私に…!」

「護衛なら…()()()()()()()()()()()()()()()

最後のキリトの一言。それが___

「…貴様ァ…そこまで言うのなら覚悟があるんだろうな…!!」

彼のプライドに火を付けた。

直後、クラディールがメインメニューを出し、何か操作している。するとキリトの前にシステムウィンドウが現れる。

「……」

あれは、おおよそ決闘の申請だろう。この状況でやることといえばそれくらいしかない。

ユージオ達は思った。

この男はキリトの事を知っていてこんなことをしているのだろうか、と。

キリトやユージオの実力は攻略組だけでなく、アインクラッドでもかなりのもの。それこそ今ここにいる全員の名がアインクラッドに知れ渡っている。

クラディールは確かに攻略組トップクラスの血盟騎士団の団員だ。だが、団員なだけでそこまで目立った実力がある訳では無い。確かに攻略組に入るだけの実力はあるが。

相当血が上っているのだろう。もうユージオ達もツッコミたいが、我慢してキリトにお灸をすえてもらうことにした。そうすれば、一応理解してもらえる筈だ。彼も馬鹿ではない。

何より____ユージオはこの決闘の結果を知っている。もう既にキリトの記憶の断片を見たのだ。

故に______

結果は言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

「でも、本当に良かったの?アスナ」

「ええ。あとで本部に報告しておくわ」

10分後、キリト達一行は迷宮区へと辿り着いた。

「ありがとね、キリト君、ユージオ君。それに、ロニエちゃんとティーゼちゃんも。あの時、私の手を握ってくれてたでしょう?」

「いえ、その……私達に出来たことなんて、これくらいでしたから」

「気にしないでくださいね、アスナさん」

「困った時はお互い様だろ?」

「気にしなくていいよ。いつも助けて貰ってるから」

「…ありがと」

 

「いやぁ…それにしても見事だったね、キリト」

「ああ、直感を信じてよかった。こればかりは絶対、とは言えないからな」

武器破壊(アームディストラクション)、ですよね。キリト先輩、どうしてあんなこと出来るんですか…?私じゃなかなか…」

「あんなことできる方がおかしいのよ」

「あれが出来るのはキリトくらいだよ。あれを試すのもいちいち武器を破壊する為に実験台に武器を壊してくれない?なんて…言えるわけないし、グレードが低いものだと基準にならないから同クラスで撃ちあおうとしても最前線で使うような剣と同レベルとなると…進んでやろうとは思わないよね。割に合わないし」

「てか、お前もモンスター相手にやってなかったか?」

「モンスターの武器は、大抵損傷してたりするし、やりやすいんだよ。でも、余裕があったらの話だよ?」

「……両方ヤバかったのね」

 

血盟騎士団の誉ある団員(笑)のクラディールとの決闘にキリトは片手剣単発突進技ソードスキル《ソニックリープ》をクラディールの放った両手剣突進技上位ソードスキル《アバランシュ》を使った彼の両手剣の横腹に一瞬早く叩き込み、両手剣を刀身の半ばからへし折った。

クラディールはその後降参したもののまだ諦めていなかったのかキリトを睨みつけていた。

殺す、と呪いじみたセリフを吐いた直後。アスナはギルド本部への待機命令____はっきり言えば謹慎処分をクラディールに下した。彼は一瞬震えて、憎悪とも言うべき形相を一瞬見せたが、引き下がっていった。

あまりいい気分ではなかったが、彼の為だ。我慢してもらうしか無いだろう。

 

流石に血盟騎士団も厳重注意はするだろう。彼は人としては出来ている。

 

「ちょっと嫌な空気になっちゃったけど、気を取り直して引き締めていきましょう!最前線だから、油断しないようにね」

「はい!」

「さて、頑張ろうか」

「ああ、キリト」

「無理はせず行きましょう!」



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再び

大変お待たせいたしました!クロス・アラベルです!
今回はそこまで重要な場面では無いので、すすっと書きました。
アニメの方もキリト君が復活し、終わりも近づいてきました。ああ……早いなぁ…後、ムーンクレイドルアニメ化してくれないかなー(白目)
本編の進行に関するアンケートを作りました。期限については8月中にしたいと思います。お気軽にどうぞ〜
では、本編をどうぞ〜


 

 

「キリト君ってさ、いっつも黒いよね」

「なんだよ急に…」

「だって、アインクラッドで初めて出会った時もそうだったでしょ」

「そうですね。キリト先輩ってずっと黒を基調とした服ばかりで…それ以外を見たことありません」

「いや、別に黒以外も着るぞ…?」

「僕も見た事ないね。大抵キリトは黒いから」

「何おぅ…ユージオ、お前だって大体青色じゃないか。人のこと言えないぞ」

「確かに、青が中心なのは認めるけど…黒一色って訳じゃないよ」

「ユージオ先輩の服装選び(コーディネート)はティーゼも一役買ってますからね」

「なぬ…それは狡いぞ、ユージオ……じゃあ言い出しっぺのアスナだって…」

「私のコレはギルドの制服ですー。ギルド全体に紅白を基調とした装備をって、会議で随分前に決まってるんだもの。副団長である私が実行しない訳には行かないでしょ」

「んぇ……いいじゃん、黒い服だってさー…」

「悪いとは言ってないわよ?」

「くっ…」

「まぁ、装備をころころ変えるっていうのも中々ありませんからね。私達も軽装ではありますが、装備を帰ることはありませんし」

「そ、そうだよなぁ!ロニエ!分かってr…」

迷宮区への道中、キリトたち一行はたわいもない会話をしながら進んでいた。

その時、

 

「____索敵スキルに反応あり、だな」

「__うん」

「え?」

キリトとユージオの索敵スキルに反応があった。

「確かに、プレイヤーの反応ありですね」

「人数は……12人くらい…?」

直後、ロニエとティーゼの索敵スキルにも反応があった。

「…なんか、変だな」

「確かにね。隊列を組んでるような感じだ」

「隊列…?」

「隊列組む必要って、あるんですかね?」

「ないと思うぞ。別に何か得する訳でもないし…」

「…もしかして、例のギルドじゃない?」

「例のギルド、というと……ああ、アイツらか」

雷帝直属解放軍(オプリチニク)

彼らは一応、攻略組を名乗っては居るものの、その方針はめちゃくちゃなものだった。

『我らが攻略組であり、このアインクラッドの救世主だ。我らの言うことは絶対である』

いや、めちゃくちゃである。

いっそ、大昔の独裁政治と変わらない。これにはキリトたちも呆れを通り越して、無関心にさえなってしまった。

ただ、向こうも方針がおかしいとはいえ、攻略組として活動していた。故にキリトやディアベル達も他のプレイヤー達への迷惑行為は辞めるように言うだけで、止めはしなかった。何せ大事な戦力でもある。

が、それはアインクラッドの攻略が始まって半年______25層までだった。

1/ 4(クウォーターポイント)である25層にて、彼らはディアベル達攻略組が見つけたボス部屋へのマップ(アインクラッド全体で公開されている)を手に入れ、何の情報も集めること無くボス部屋へ突っ込んだ。

こんなことをして、どうなるかなど、誰でもわかる。

 

______そう、全滅である。

ディアベル達はアルゴから雷帝直属解放軍がボス部屋に行ったとの情報を得て、その頃に攻略組に入ってきた血盟騎士団と共に急いでボス部屋へ向かった。が、そこに拡がっていたのは地獄絵図だった。

ボス部屋にはリーダーであるイヴァンしかおらず、その他のギルドメンバーの姿は無かった。

そして、ディアベル達によってイヴァンは半ば強制的に救出され、2時間もの長期戦を経て辛くも勝利した。

犠牲はゼロではあったものの危ない場面もあった為、やはりもっと計画を練っておくべきであることを痛感したディアベルやキバオウだったが、イヴァンはそこで驚くべき言葉を口にした。

彼曰く_____お前たちが情報を秘匿していた故に起こった大惨事だ、責任を取れ___と。

こればかりは攻略組全員が激怒した。

お前らがろくに情報も集めないで何の計画も無しに突っ込んだのが悪いんだろう。

それから雷帝直属解放軍______ギルドメンバーはイヴァンしかいないが______は前線から退き、全く姿を見せることは無かった。

 

 

 

そんな集団がまた再構築され、前線で見かけられるようになったとアルゴから情報を得ていた。

しかし、まさかあんな事をしでかした彼がまだギルドを解散せず再び前線へ出ようというのか。

「……流石にアレを繰り返す…訳じゃないって信じたいな」

見つかったら何を言われるか分からない。

「ここは、隠れましょう。彼ら、本当に何するか分かったものじゃないし」

「賛成だよ。アスナって隠蔽(ハイディング)スキルって持ってたっけ?」

「あー…そういえば…」

「アスナさん、こちらへどうぞ。私と一緒に隠れましょう」

「ありがとう、ティーゼちゃん」

「よし、そこの木の影にでも隠れよう。アイツらに見つかっていざこざ起きるのはゴメンだ」

そして、キリトたちは隠蔽スキルを使って姿を隠し、様子を見ることにした。

 

重装備特有の金属音を響かせ、彼らは現れた。

全員がバイザーをしていたので顔は見れなかったが、先頭以外のメンバーが消耗しているように見える。

そして、彼らの鎧に刻み込まれているのは______黒い斧に金色の雷のマーク。

間違いなく、雷帝直属解放軍だ。

そして、彼らは迷宮区へと足を踏み入れていった。

完璧なハイディングのおかげで全く気付かれずに済んだようだ。

索敵範囲外へと彼らの反応が消え、安心して全員が隠蔽スキルを解除する。

「キリト、どう思う?」

「……前線に出てるって話はアルゴから聞いてたからな。若しかすると、本当にボスモンスター攻略を狙ってるのかもしれない」

「にしても人数が少なかったわよね」

「調査隊、みたいな感じじゃないか?流石にあの人数でボスに挑もうなんてアホなことしないだろ」

「普通、ボスモンスター攻略はギルド間で協力してするものですよね…?」

「ああ。現時点でアイツらにどれくらいの戦力があるのかは知らないけど、レイドが組める程にギルドメンバーがいる…って考えた方がいいか?」

「でも、全員が最前線で戦えるほどのレベルかどうかは分からないよ」

「…そこなんだよな。多分さっき見た12人は少数精鋭部隊ってとこか。おおよそ、ボス部屋までの道のりだけ確認しておこうって腹だろうな」

「………嫌なことにならないといいけど」

ユージオはこれから起こる事を知っている。そう、キリトの記憶から見たのだ。解放軍のメンバーたちがボスモンスターに特攻をしかけて、返り討ちにあうこと。そして、そこでキリト達が助太刀に入り、ほぼキリト1人でボスを倒してしまう事も。

その解放軍がキバオウが率いるギルドだとはユージオも知らない。なぜなら、キリトの記憶は視覚だけしか情報が見れないことも多々あるのだ。今回の記憶もそうで、彼らアインクラッド解放軍に関するはユージオに一切伝わっていない。ただ、無謀にもボス部屋に突っ込んで行ったパーティが居た、ということしかユージオには分からない。

ユージオは不安を募らせながら、先に行くキリト達に着いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

74層迷宮区最深部。

そこで戦闘は行われていた。

『_____!!』

無言で片手剣を振るう骸骨。

正式名称をデモニッシュ・サーバント。直訳すると『悪魔的召使い』だ。

身長2m近くの大柄な体に、肉のない骨の体。右手に長い直剣、左手に円形の盾を装備している。

この迷宮区でもかなりのハイレベルモンスターで、筋力パラメータがかなり高い。

そんなモンスター相手に_____アスナは骸骨の放つ四連撃ソードスキル《バーチカルスクエア》を完全に回避し、細剣を閃かせる。

「___やぁッ!!」

中段の突き3連、下段に斬り払い攻撃を往復し、上段へ2度突きの強攻撃。

細剣(レイピア)ソードスキル八連撃、《スター・スプラッシュ》。細剣スキルの中でも上位に位置するソードスキルだ。

全攻撃を食らった骸骨が怯んだ瞬間にアスナは後ろへと下がった。

「ロニエちゃんスイッチ!!」

「はい!!」

アスナの掛け声でスイッチするロニエ。

「はぁッ!!」

ロニエの単発ソードスキル《スラント》が骸骨の盾を斬り上げる形で盾を剥がす。

「先輩スイッチ!!」

「おう!」

ロニエの掛け声でキリトにスイッチし、

「ぜあッ!」

一閃。

キリトの一撃をモロに受けて体をバラバラになる骸骨。

「ナイス!」

「アスナさんも流石です!」

「ふぅ…結構上まで来たな。ダンジョンの雰囲気も重くなって来たし」

「そうだね」

向こうでも同じく戦闘を終わらせてきたユージオとティーゼも戻ってきた。

 

「…マップを見ていても、埋められていないのはこの先の道だけですね」

「そろそろ、ボス部屋かな」

「いいとこまで来てるからな。見つかってもいいと思うぜ」

みんなでマップを見ながら道を進むと、その先に他とは違う___8〜9メートルありそうな大きな扉が見えてきた。装飾もおどおどしく、怪物のレリーフが目立つ。

「噂をすれば、だな」

「ボス部屋にもう着いちゃったんですね」

「どうする?覗くだけ覗いとく?」

「アスナの案に賛成だ。ボスモンスターはボス部屋からは出てこない。ボス部屋への扉を開けて中を少し見る程度なら、戦闘にはならないだろ」

「うん。でももしかしたらって言うのもあるし、転移結晶だけは持っておこうよ」

「よし、それで行こう。覗くだけだぞ?」

「はい。それなら問題なしですね」

この人数でボス部屋に入れば確実に全滅するため、今日はボスの姿を見るだけに留めた。

「よし、準備はいいか?」

キリトの言葉に無言で頷く4人。

「では…………オープン____!」

レリーフを力強く押し開ける。

床と扉が擦れてゴゴゴゴ、と大きな音を立てて扉は開かれる。

扉の向こうは真っ暗で何も見えない。が、直後、青白い光がボウッとつく。

それは周りへと伝播し、ボス部屋全体が青白く照らされる。

そして、そのボス部屋の奥になにか黒い影が浮かび上がる。

キリト達は息を呑んだ。

 

6メートルもあろうかという巨大な体躯。

盛り上がった筋肉に、全身深い青色の肌。

頭は山羊の顔にねじれた太い角が顔の両側からそそり立つ。

眼は青白く燃えているかのような輝きを放ち、しっかりとキリト達を見据えていた。

かなり距離があるがその威圧感は相当なもので、キリト達の足は動かない。

そして、ボスの頭上にHPバーが4本現れ、名前が表示される。

 

《 The Gleameyes 》

 

輝く眼、という意味だろうか。

キリトがそのボスの固有名を確認した直後、その怪物は動き出した。

1歩、前へとその大きな足を踏み出す。

キリトやユージオ達は1歩後ずさる。

そして、ボスは斬馬刀とでも言うべき巨大な剣を右手にユージオ達へ走り出した。

『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

「「うわあああああああああああああああああああ!?」」

「「「きゃあああああああああああああああああああ!?」」」

キリト達も脱兎のごとく、ボスを背にして逃げていった。

 

 

 



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悪夢の再来

お待たせしました、クロス・アラベルです!
さて、アニメがもうクライマックスです。涙が止まらぬ(´;ω;`)
アリブレの方では水着ロニエさんを33連の後、単発でお迎え出来ました。
か"わ"い"い"
そして、アンケートのご回答、ありがとうございました!
結果として92人の方に回答頂き、原作通りが51票、ゲーム版ルートが34票、( 'ω')シラネ が、7票でした。多数決に則り、原作通りに進めていく方針です。
んで、今回はあの名シーンへの繋ぎです。やはり戦闘描写は難しいですね。書いて消して書いて消して……の繰り返しです(白目)
では今回もどうぞお楽しみ頂ければと思います。
どうぞ〜


 

 

 

迷宮区8階。

キリト達はボスを覗いて一目散に逃げて来た。

 

「はあっ、はあっ、はあっ………!」

「はっ、はっ、はっ……!あれが、74層の、ボスモンスター…」

「みんな、いる…?はぐれてないわよね?」

「点呼とるぞー…1…」

「…2」

「えっと……3…?」

「4、です…」

「5……一応誰もはぐれてないわね」

迷宮区の安全エリアに無事逃げ込めた5人は息絶えだえとしている。

「やー…逃げた逃げた…」

「ここまで全力疾走するのも久しぶりだね」

「途中でモンスターにターゲットされそうにはなりましたけど…」

「キリト君が1番凄かったね」

「なっ…心外な。アスナだって…!」

「そうだね、私も人のこと言えないかも」

74層のボスモンスター《グリームアイズ》。どう見ても___

「…苦労しそうね」

「大体いつもそうだよ。でも今回のは特別強そうだった」

「…どんな感じで攻略します?」

「武器は、あのでっかい剣1本…ぽいけど、特殊攻撃ありそうだな。ブレスとか」

「盾装備の壁役(タンク)が10人くらいいりますね」

「あと2日くらいかけてあのボスにちょっかいかけて攻撃方法とか傾向とか探って対策するしかなさそうだな」

「……盾、ねぇ…」

「なんだよ」

「…ホント君って、盾持たないよね。初めて会った頃からそうだけど、なにか理由あるの?ユージオ君も」

「あー…僕は元々このスタイルで頑張ってきたからね。もうあの頃からこのスタイル一択だったんだ。盾を持ったって、調子狂うだけだからね」

「…俺も、同じだな。盾を持つのは、俺には合わないし」

「確かに、2人ともザ・攻撃特化型(ダメージディーラー)って感じだもんね」

アスナに笑われたキリトがムッとしていると

「ふふふっ……あ、もう2時ですね。遅いですけど、お昼にしませんか?」

ロニエがメインメニューから時間を確認し、お昼をかなり過ぎていることに気づいた。

「お、いいな。攻略に必死で気づかなかった」

「そうだね。ここは安全エリアだし、そうしよう」

「では……はい、先輩!」

早速ロニエがアイテムストレージから小ぶりなバスケットを出してキリトにサンドイッチを手渡した。

「お。ありがとな、ロニエ」

「アスナさんもどうぞ!」

「ありがと、ロニエちゃん、ティーゼちゃん」

アスナもてあからサンドイッチを手渡され、頂きます、と手を合わせてからかぶりついた。

キリトやユージオもサンドイッチにかぶりつく。

「んんっ……うんまいなぁ…毎度毎度よくこんな料理作れるよホント。スキル熟練度が高いのはもちろん、このテリヤキソースが美味すぎる。マジでこのレシピを見つけたのは、控えめに言って神だぜ。な、ユージオ」

「神って……確かに、このテリヤキソースは僕も好きだな。他にも色々ソースのレシピを編み出してるし、2人ともすごいよね」

「「え、えへへ…」」

「私も料理スキル持ってるけど、ここまでに達したことは無かったわ。マヨネーズとか、醤油とか、色んなものを作るんだもの。ホントに2人とも凄いわ。醤油の再現が成功した時は女子会の皆で泣いて喜んだもの」

「泣くのも無理ないな、これなら」

「でも、ここまで大変だったんじゃない?」

「まあ、かなりかかりましたね。何せこのアインクラッドにある約百種類の調味料が私達プレイヤーの……えっと、味覚再生エンジン、でしたっけ…?それに与えるパラメータを全て解析して、何度も混ぜて作ってたんです。」

「多分、試行回数1万は軽く超えてましたよね?」

「ええ。休暇を3日貰ってずっと徹夜でやってたわ」

「…確か、1年前くらいに珍しくアスナたちが3日も休暇とってた時があったけど、その時に…?」

「あー…なんか、皆げっそりしてたよな。そんなことしてたのかよ…」

「料理っていうのは女子の武器よ。磨き上げるのが当然」

「…俺達には分からない世界か」

と、何気無い会話をしながら食事をし終え、さて、これからどうするか…とキリトが考え始めた、その時。

「お、キリトとユージオじゃねえか!」

キリト達のよく知る男の声がした。

悪趣味な赤いバンダナにつんつんと逆だった赤い髪。ぎょろりとした金壺眼にむさ苦しい無精髭。鎧は戦国時代の武士を彷彿とさせる和式鎧。左腰に刺してあるのは、一振の無骨な刀。

そう、

「まだ生きてたか、クライン」

「ったく、愛想のねぇ奴だなぁ」

キリトとユージオの古い付き合いであるクラインだった。現在は攻略組に参加し、ギルド《風林火山》のリーダーを務めている。

「やあ、クライン。レベリング?」

「よお、ユージオ。今回は本格的に攻略だよ。ボス部屋までは行かずともちょっとずつ進めていかねぇとな」

クラインの後ろにはギルドメンバーである他の5人のプレイヤー達も挨拶に来た。

彼らはクラインのSAO以前からの知り合いで、キリトやユージオ達とも面識がある。悪い人間ではない…というか、すごく仲間思いだ。リーダーがリーダーなら、そのギルドメンバーもギルドメンバーということか。

「ん?そっちは…」

「ああ、そういや、ボス戦で顔合わせることがあっても、こうやって面向かって話すのは初めてだったか?紹介するよ。血盟騎士団の副団長、アスナだ」

「アスナです。よろしく!」

「んで、こいつがギルド《風林火山》のリーダーのクラインだ。顔はアレだけど、悪くない奴だから」

「なっ、てめぇキリト!ンな言い方はねぇだろうがよ!」

「初めて見た時は山賊かなんかだと思ったぜ?」

「ンにゃろう…!!」

「痛てっ!痛いって!!」

クラインとアスナに紹介を済ませ、早速クラインに首を絞められるキリト。それを笑う皆。

それに釣られてその他のメンバーたちも自己紹介をしだした。

クラインはキリトやユージオと同じく、仲間を守りながらも鍛え、遅れながらも攻略組になるまでに登りつめた。

そして_____攻略組ではなく、その他の中層、低層プレイヤー達への基本的操作方法やソードスキルのコツ、戦い方など、様々な情報をばらまいたのは彼だ。このアインクラッドで死者数がキリトの過去の半分以下にまで抑えられているのは彼の功績が大きい。

 

そんな彼は、キリトとユージオの友達。キリの字、ユーの字と呼ぶ彼はSAOの中でも2人の良き理解者だ。

さて、そろそろ攻略に戻ろうかと、キリトがクラインに言おうとした、その時。

索敵スキルに反応があった。

「ユージオ」

「分かってる。この反応の数、さっきの…」

索敵スキルによる反応の数は12。

「みんな、軍よ!」

アスナも咄嗟に気づいたのか、身構える。クライン達も先程の和気あいあいとしたあの雰囲気がガラリと変わり、鋭くなる。

キリト達がいるセーフエリアにたどり着いた彼らは疲弊した様子で、先頭にいた男の、休め、という言葉と同時に倒れるように座り込んだ。息が上がっている者もおり、迷宮区前にあった時より疲れているように見える。

先頭にいた、パーティのリーダーらしきプレイヤーがキリトたちに近付いてくる。

彼らに関してはあまりいい噂は無い。攻略組とも何度もぶつかったことのあるギルドだ。裏で何をしているか、それもまだ全容は明らかになっていない。そんな怪しい彼らがこちらに話しかけようとしているのを見たキリトは少し驚いた。

「私は雷帝直属解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

「…キリトだ。何か用か?」

「君たちはこの先も攻略しているのか?」

「ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

バイザーを外してキリトに話しかけてきた、コーバッツと名乗る男____あのギルドは中佐などと位をつけているのか、とキリトは辟易したが____はキリト達がボス部屋までマッピングしたことを聞いて、何とも横柄な……キリト達の今までの努力を踏みにじる発言をした。

「ふむ。では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……は?」

流石のキリトも呆気に取られた。

それはそうだ。ダンジョンのマップデータと言うのは高値で取引される。それもここは最前線の迷宮区。その分、重宝されるしそれがどれだけ価値のあるものかは誰だってわかる。危険を冒してまで手に入れたそのデータを、無料(タダ)でよこせと言うのは、横暴にも程がある。コイツらはジャイ○ンか。

「な、何言ってんだテメェ…!提供しろ、だと!?マッピングする苦労をわかって言ってんのかァ!?」

「我々は一般プレイヤーの解放のために戦ってやっているのだ。諸君が協力するのは当然の義務であろう」

「…()()()()()()()…ねぇ」

その言葉にキレかけるキリトだが、ここは冷静に対処せねば。

「貴方ねぇ…!」

「テメェ…!」

激発寸前のクライン達《風林火山》のメンバーとアスナ。が、それを右手で止めてキリトは答えた。

「別にいいさ。このマップデータはディアベル達攻略組に渡して全プレイヤーに公開するつもりだったからな」

「キリト、確かにそうだがよ……今のコイツらに渡すのはおかしいだろうがよ…!」

「クライン。揉め事をこんな所で起こしても誰も得することなんて無いよ。ここは落ち着こう」

「ユージオ…」

納得いかないクラインはキリトに抗議するが、ユージオがそれをなだめた。こんな危険な迷宮区で揉め事を起こしたらそれこそ誰も止める者はいない。最悪の結果になった場合、目も当てられない。

キリトはマップデータをコーバッツに送り、メインメニューを閉じた。

受け取ったコーバッツは何も言うこと無く踵を返した。感謝の言葉さえないとは、見上げたボランティア精神だ。

「____ボスにちょっかい出すのは止めておいた方がいいぜ。あれはそんな人数でどうにかなるようなものじゃない」

「それに、仲間もかなり疲弊してるみたいだし、やめときなよ」

キリトとユージオは背を向けたコーバッツにそう忠告する。もう、これは最後の言葉になるだろう。

「私の部下はそのような軟弱者ではない。そんな心配は杞憂に過ぎん…………立て!!まだこんな所でへこたれるものなど、我らが解放軍ではない!!立てッ!!」

そのキリトとユージオの心配を彼は無視し、部下を引き連れて迷宮区の奥へと向かって行った。

「……ったく、キリトとユージオが心配して言ってやってるっつうのに……アイツときたら…!!」

「まあまあ、ちょっと無鉄砲なところがありそうだけど、ボス戦を挑むほど無謀じゃない………そう信じたい、ね」

そう信じたいが、前例がある。絶対にないとは言いきれない。キリトの記憶上では彼らは無謀な特攻を敢行し、数人が無惨に散っていった。そのひとりが彼だ。

「……どうするんですか?やっぱり、私心配です」

ロニエの心配そうな声がこぼれる。キリトも同じようだ。

「有り得そうで怖いな。一応、後を追ってみよう」

「賛成。クラインたちも来てくれるかな?やっぱり人数は多いに越したことはないから…」

「おう、あたぼうよ。レベリングも兼ねてついて行くぜ。お前らもいいよな?」

クラインがギルドメンバーに確認を取り、全員から許可を貰った。

「ユージオ、やっぱり記憶通りよね?なら、急いだ方が…」

「うん。その通りになりそうな気がする」

ティーゼにはそのことは話してある。なのでティーゼも内心焦っているようだ。

「…いこう」

キリトとユージオを先頭に全員で雷帝直属解放軍の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろボス部屋だな」

「今のところ彼らとすれ違ってないし、やっぱり、もしかするよ…!」

「アイツら馬鹿なのかよ…!キリト、ユージオ!急ごうぜ!」

「…ああ!」

最後の戦闘を終えて走り出す面々。

その時

 

 

_________ああぁぁぁぁぁ_____

 

叫び声が、聞こえた。

「っ!!」

「まさか本当にやってるのか…!?」

「急ぎましょう!!」

走る。

走る。

あと、20メートル。そこで気がついた。

「…!扉は閉まってる…ってことはまだ中に入ってるのかよ!!」

「早いとこ開けるぞ!」

焦りを隠せないキリトとクラインはそのボス部屋への扉を力いっぱい押し開ける。

 

開け放たれたそのボス部屋に広がっていた光景は____

 

 

まさに、地獄絵図だった。

キリト達に背を向けて陣取るボス《グリームアイズ》。その向こう側には、12人のプレイヤーが居た。

が、その全員がイエローゾーンまでHPバーを減らしており、3人はレッドゾーンだ。そのレッドゾーンになってしまったプレイヤーのうち二人はは倒れていてピクリとも動く気配がない。およそ、恐怖のあまり気絶したのだろう。

何とか戦線に立っているプレイヤー達は各々に武器を構えているが、そのうち何人かの鎧は一部無くなっており、耐久値が全損し、消えてしまっているようだ。

「何やってんだ!!早く結晶を使って飛べ!!」

キリトは咄嗟にそう叫んだが、一人のプレイヤーが恐怖に染った声で叫ぶ。

「駄目だ……ダメなんだ!結晶が…使えないっ!!」

「____」

 

結晶無効化地域(クリスタル・インバリデーション・エリア)

それは最近発見された訳では無いが、前からあると言われているダンジョンギミックの一つだ。その名の通り、そのエリアでの結晶アイテムの使用が出来なくなるもの。結晶アイテムは一瞬で体力を回復したり、街まで移動したりなど、このアインクラッドでは珍しいものの、持っていればダンジョン探索、しいては迷宮区探索において非常に役に立つアイテムだ。このアインクラッドでは回復するにもポーションだと時間経過によって回復がなされるため、どちらにせよ時間がかかる。移動など瞬間移動は出来ない為、全て徒歩での移動となる。故に、ストレージに一つか二つは入れておきたいアイテムだ。

このような状況なら即座に使うだろう。が、それが出来ない。今までボス部屋にそのギミックがなされたことは無かったので、余計にショックが大きい。しかも、現在の立ち位置からして彼らとキリト達、その間にボスが陣取っている。ので、撤退さえも叶わない。

 

まさに最悪の状況だ。

キリト達は絶句せざるを得なかった。

ユージオも思わず唇を噛む。

「キリト、行くよ!!」

「くっ……ああ、それしかないみたいだ!」

「「はい!」」

ユージオは躊躇うこと無く走り出す。キリトもその後に続き、ロニエとティーゼはキリトとユージオについて行った。

「おい、あれの中を突っ込むのか!?」

「それしかないわ、クラインさん!今それが出来るのは、()()()()()()()!!」

「____チィッ!!どうにでもなりやがれッ!!」

動揺するクラインにアスナの喝が入り、クラインも覚悟を決める。ギルドメンバー達も同じく走り出した。

「クライン、救助を頼んだよ!!」

「おう、任せとけ!!お前ら!気絶してる奴から運び出せ!!」

『『おう!!』』

ユージオの指示でクライン達《風林火山》は救助へ、キリト達はボスへと攻撃を開始した。

「はぁッ!!」

「らぁッ!!」

キリトとユージオの一撃がボスの背中にまともに入り、ボスが呻き声をあげるが______

「____分かってはいたが、全然減らないな!!」

ボスHPゲージはほんの数ドット、すり減っただけだった。ボスのHPゲージは全部で4本、その1本目の3割ほどは解放軍が削っていたようだが、それでも微々たるものだ。

『フグルゥゥゥ_______』

ボスが振り向く。

「___っ!!」

「___うおっ!?」

直後、斬馬刀の如き大剣が翻る。

咄嗟に回避した2人の目の前に斬撃が繰り出された。ひんやりと、死の悪寒がする。

「うぁッ!?」

「ユージオ!?」

ターゲットが、ユージオに移ったようだ。斬撃はユージオへと集中する。

一撃でも受ければこちらのHPゲージが何割削られるかわかったものでは無い。運が悪ければ一撃で半分以上削られることも覚悟しなければならない。

ユージオら斬撃を剣で上手く滑り込ませて軌道をずらし攻撃を捌くが、それでも斬撃の風圧だけで体全体が押される。

「やぁぁぁあッ!!」

『グルァ…!!』

ティーゼの一撃によってボスを妨害しようとするが、それも___

『グルォォォォォオッッ!!』

「キャァァァ!?」

連続攻撃によって後退を余儀なくされる。

「ティーゼ!!」

ティーゼの悲鳴にユージオも眦を吊り上げてソードスキルを繰り出す。

「おおおおッ!!」

四連撃《バーチカルスクエア》。

「ィヤァァア!!」

そして、アスナの細剣ソードスキル五連撃《ニュートロン》がボスへと直撃した。

しかし、依然としてボスのHPはあまり減っておらず、未だ1本目のHPゲージは6割を留めている。

すると、2人の正反対からの攻撃に反応したのか____

『グルァァァァアアッ!!!』

「ぐぁッ___」

「うぅっ___」

「っ____」

全体攻撃を繰り出してきた。

ユージオ以外が吹き飛ぶ。致命傷ではないし、攻撃をモロに受けた訳では無いが、それでもHPを2割消し飛んだ。

「______ッ」

想像以上の化け物だ。ボスと言うのは大抵そうだが、今回のは特に酷い。やはり、この少人数では歯が立たない。

ユージオが応戦するも、防戦一方だ。

このままでは、ジリ貧だ。

ならば_______

アレを使うか。

周りを見るとあの解放軍のプレイヤー達はクライン達に全員運ばれたようで、誰一人いなかった。

「_____今なら」

見ているプレイヤーも少なく、クライン達に限って言えば信頼に足る。アスナも口外はしないだろう。

 

 

_____そして、同時にキリトも同じことを考えていた。

この状況をどうにかするには、突破口が必要だ。ボスを打倒できるほどの攻撃力と手数が。

ならば____

「_____今しかない」

キリトはポーションを一気に飲んで瓶を投げ捨てる。

 

「ロニエ、ティーゼ、アスナ、クライン!!」

ユージオが大声で4人を呼ぶ。

同時にキリトもそれに乗じ、叫んだ。

 

「30秒稼いで!!」

「10秒稼いでくれ!!」

 

ユージオが無理矢理隙を作って後退し、ロニエ達に戦線を任せる。

 

 

戦いの終わりは近い。

 

 

 



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《二刀流》と《青薔薇》

大変お待たせいたしました!
クロス・アラベルです!
待望のお話、かけました!
いやぁ…結構文字数が多くなってしまいました( ̄▽ ̄;)
今回のお話なんですが、自分は思ったんです。
「……キリト君ってもしかして、スターバースト・ストリームだけでボス倒したのか…?確か、ボスってHPゲージ4本くらいあったよな…」
ちょっとこれではチートを疑うレベルなので、僭越ながら本当ならあったであろうスターバースト・ストリームに至るまでの戦闘シーンも書いてみました。
ユージオ君の《青薔薇》スキルについても大公開です!
では、お楽しみ下さい〜


 

 

 

 

「「分かりました__!!」」

「おうよ!!」

「ええ__!!」

4人はキリトとユージオの声に答えてボスへと突っ込んで行った。

 

「「________っ」」

二人は無言で手を動かす。メインメニューを開き、スキル欄へ。

ユージオはポーションを片手で飲みながら、数あるスキルの中からあるスキルを選び出して起動し、とある武器へと変更する。

キリトも即座にとあるスキルを見つけて起動し、武器の変更へ。

 

「____先に行くぞ」

「____頼んだよ」

キリトの方が先に終わり、ユージオより先にボスへと向かって走り出した。

 

「いいぞ、みんな!!」

「___!せやぁぁぁあッッ!!」

そのキリトの掛け声にロニエがソードスキルで無理矢理ボスの大剣を弾き返し、後ろへ跳んで後退する。クライン達もHPがイエローゾーンスレスレで、もう少し遅かったら死んでいたかもしれない。

「キリト先輩、スイッチ!!」

「おお!!」

ロニエとすれ違いざまに背中にあるもう一本の剣の柄を握る。

ロニエによって大剣を弾かれた悪魔はもう既に攻撃を再開していた。大剣による突き攻撃がキリトを襲う。

キリトは右手の《探求者(エリュシデータ)》でその攻撃の軌道を紙一重で逸らす。

そして____

「うおおおッッ!!」

____一閃。

『グルォオオオオオッ!?』

予想外の一撃にボスが体を捻らせて悲鳴をあげる。これまで以上にボスへと届いた重い一撃。

キリトの第二の愛剣《闇を払う者(ダークリパルサー)》がその刀身を輝かせる。

闇に溶け込むような漆黒の剣と、片や水晶の如き輝きを放つ純白の剣。

 

死闘が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

『グゥオオオオオオオッ!!』

「ッ___らあああああ!!」

 

ボスは上段斬りでキリトを真っ二つにしようと振りかぶる。が、キリトはそれを紙一重で回避し、通常攻撃を連続で叩き込む。片手剣になかった手数の多さでダメージを稼いでいく。

『グゥラアアアアア!!』

横一閃に繰り出させる斬撃をスライディングの要領で滑り込み回避しながらもボスに肉薄する。

「ぜァァァァ!!」

二刀流ソードスキル4連撃《カウントレス・スパイク》をボスに叩き込み、目に見えてボスのHPゲージが減る。アスナ達でさえドット単位でしか減らせなかった化け物に、一矢報いている。攻撃特化仕様(ダメージディーラー)たるキリトの素の攻撃力と、その手数、そしてキリト自身の反応速度が抜群に相性がいい。

「おおおッ!!」

『グゥルアアアアアアア!!』

繰り出される攻撃を回避し、時に剣で軌道を変えて防ぐ。一撃一撃がキリトを死へ追いやるものであるが、キリトはそれを受けることなく自らの剣技をボスへと叩き込む。

そして、ボスがソードスキルを使おうと剣を振りかぶった、その時____

「ぜああああああッ!!」

《グギャァウ!?》

ボスの背中に重い一撃が浴びせられた。

《青薔薇》ソードスキル、突進技《雪那(せつな)》。

「______!!」

ユージオだ。

丁度キリトがユージオより先に飛び出してから20秒経ったらしい。

直後、ボスのHPの上___固有名の隣にアイコンが点灯する。

盾のマークに下に向いた青い矢印。

防御力低下のデバフだ。

 

これはユージオのユニークスキル《青薔薇》の特殊効果。一定時間のデバフ付与である。

短時間ではあるが、デバフをかけることが出来る。種類としては防御力低下、攻撃力低下、速度低下、そして、凍傷状態の付与である。

凍傷状態とは数あるデバフの中でもかなりスタンダードなもので、基本的に多くの敵モンスターがプレイヤーに与えてくるデバフで、対象への継続ダメージと速度低下付与という本質だが、プレイヤーが与えることはほとんどない。持続時間は1分しか無いが、プレイヤーによるデバフかけはかなり珍しい。そして加えて____重ねがけを可能だ。同じデバフを重ねることは出来ないが、別のデバフはかけることが出来る。そのデバフもそこまで高くない確率ではあるが___通常攻撃なら兎も角ソードスキルは別だ。通常攻撃に比べてデバフのかかる確率が高い。

そして、《青薔薇》の特殊効果はまだある。それは、《青薔薇》スキルによってデバフをかけた場合、そのデバフの逆_____即ち『攻撃力低下』ならば『攻撃力上昇』バフが、『防御力低下』なら『防御力上昇』のバフがスキル使用者にかかる。何よりも____

スキル使用時はそのプレイヤーのステータスがかなり強化がかかるため、より他のスキルより強力なのだ。

ソードスキルも他の通常スキルやエクストラスキルにはなかった物がある。勿論、連撃数の方も_____

 

『グガアアッ!!』

ボスが鬱陶しいとばかりにユージオに向かって剣をふりかぶるが、キリトはそれを許さない。

「こっちも忘れるなよ_____!!」

白と黒の斬撃。

ボスはキリトとユージオに攻めきれずにいた。

「______ここからだ」

ユージオはアルマスを閃かせて目の前の悪魔に囁く。白い吐息。

ユージオの右手で唸りをあげるアルマスは_______

____冷気を発していた。

白い冷気が剣を包み込む。

「うおおおおおッ!!」

「はあああああッ!!」

二人は同時にボスへ猛攻撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトがボスへと走り出した直後。

ここまでで___9秒。

ユージオもスキルの切り替えを終え、新たな剣を実体化させる。

「_____ふぅ」

深く深呼吸。

実体化した剣____アルマスを左腰に剣帯し、右手で柄を握り締めて静かにその時を待つ。

ユージオの新スキル《青薔薇》には、他のスキルにないものがいくつか存在する。

その一つが、スキル使用までの準備時間が必要になるということだ。普通はスキルを切り替えればすぐ使えるのだが、このスキルは特殊仕様になっており、スキルが使用できるまで20秒ほどを要する。車のエンジンがかかるのに時間を要するのと同じだと考えれば早い。_____もっともユージオは『車』さえも知らないのでイメージしにくかったが。

響き渡る斬撃音。

キリトが二刀流をもってボスに一撃を入れたようだ。

しかし、キリトのユニークスキル《二刀流》でも、ボスを1人で相手取るのは至難の業だ。いくら攻撃力が高く、反応速度が早かろうと集中力がずっと持つ訳では無い。

「______早く」

焦りを隠せないユージオ。が、それは集中力を乱してしまう為、もう一度深呼吸をして心を落ち着かせる。

スキルの起動まで、あと7秒。

それと同時にHPゲージが9割まで回復した。100%ではないが、充分戦える。

 

目を閉じる。

イメージするのは、ボスにその二振りの剣で単騎で立ち向かうキリト。数日前に見た、キリトの記憶。確かにあの記憶ではキリトはHPを9割削られはしたものの、辛くも勝利した。しかし、今もそうなるかどうかは分からない。ユージオが見たのはキリトの過去の記憶であり、これから絶対に起こりうる未来ではない。

攻略組のレベルがずば抜けて高く、過去よりも強くなってはいるがそれでも、迷宮区やボス戦では苦戦を強いられる。可能性としてこの世界の創造者たる茅場晶彦が攻略組のレベルに合わせてモンスター達のレベルを上げているのかもしれない。

それ故にユージオはキリトが確実に勝つ、という確証がなかった。確かにユージオはキリトの事を信じている。が、____命をかけた戦いに絶対等、無い。ユージオはセントラルカセドラルでの戦いで思い知った。信じ続けたキリトや負け知らずのアリスまでも死へ追いやったソードゴーレム。そして、支配者であるアドミニストレータとの戦い。全てはユージオを成長させている。

キリトだけでは危ない。だからこそ______友として、共に戦う。

______行くよ、アルマス。君の出番だ___!!

スキル起動まで、2秒。

(アルマス)》は既にユージオの手の中で氷のように冷たくなっていた。鞘からは冷気が漏れだし、今にも手が凍りそうになっている。

____あと1秒。

突撃準備。

いつでも発走できる体勢へと移行した。

そして_____

鈴のような音とともに視界端に通知が流れる。

それを見ることなくユージオは走り出した_____

 

 

 

 

「ッ!!」

「おおッ!!」

キリトの《二刀流》ソードスキル2連撃《エンドリボルバー》とユージオの《青薔薇》ソードスキル2連撃《冷光(れいこう)》がボスに直撃した。

三振りの剣が絶え間なくボスの身体を切り刻む。

キリトは嵐の如く、ユージオは吹雪の如く。

キリトが斬りこみ、ユージオがキリトの隙を埋める。

一点集中。

ボスの攻撃はキリトとユージオに直接攻撃が当たることはなく、全て2人によっていなされていた。

それは()()()()()()()()()()のみを逸らしているのでカスリ傷レベルは無視した、それこそ攻撃特化仕様(ダメージディーラー)たるプレイヤーの戦い方だった。

『グルゥウオオオオオオオッ!!』

たまらず後ろへ後退するボス。

「_逃がすかッ___!!」

「_逃がさないッ___!!」

それを追う二人。

が、それに対して仰け反るボス。

これは_____

「____っ!!」

「___ブレスかッ!?」

即座に方向転換し左右に別れる二人。

その直後、青い炎がボスの口から溢れ出した。

直前に避けていると言うのに熱気で肌がジリジリと焼けるように二人は感じた。

あれに巻き込まれればかなりダメージを食らっていた。

ボスはそのままブレスを吐き続ける_____ユージオに向かって。

「よりによって僕目当てか____っ!!」

 

ユージオの剣である《アルマス》には弱点がある。

剣の素材となった物______白竜が護っていた氷のような鉱石《竜氷絶石》はそこらで取れる素材より遥かに性能がよく、それを元に作られた《アルマス》はこの最前線でもトップクラスの剣でキリトの《探求者(エリュシデータ)》や《闇を払う者(ダークリパルサー)》を上回っている。が、素材の名前にある『氷』が影響しているのか、()()()()()()()()。火炎系のブレスや敵モンスターには威力が落ちる。

 

故に_____火属性にあたるこのボスのブレスは絶対に剣で受けてはならない。

「う、ぁぁぁ!?」

ブレスはユージオを集中的に狙って放たれる。避けるユージオ。当たるのは時間の問題___

「____二度同じことを言わせるなッ!!」

が、それはキリトの斬撃によって阻まれた。

大跳躍からの、頭部への攻撃。

『ガァァッ!?』

ボスはブレスを吐き止め、大剣を再び握り直す。

「大丈夫だったか?」

「ありがと、助かったよ」

ユージオが体勢を立て直し、キリトが二振りの剣を構え直す。

ふとユージオがボスのHPゲージを見ると____4本あった筈のHPが既に2本消えて、三本目の半分を切っている。

「____さて、ついて来れるか」

「____そっちこそ、遅れないでね」

そんな言葉を交わした直後。二人は走り出す。

『グゥオオオオオオオオオッ!!』

「「うおおおおおおおおおッ!!」」

 

この戦いにおいて、ボスは攻撃力なら2人を大きく上回るだろう。だが____

スピードが圧倒的に足りない。

攻撃特化仕様(ダメージディーラー)である二人に求められるのは攻撃力と敵の攻撃を逸らす技術力は勿論の事_____ボス級モンスターの攻撃を躱す判断力とスピードである。

『グルゥアアアアッ!!』

ボスの剣は、あまりにも大きすぎた。故に、キリトとユージオは避けることは容易かった。注意すべきはボスのブレス攻撃とソードスキル。発動しようものなら______

「___!!ッはぁぁぁぁ!!」

_______即座に攻撃力の高い重単発ソードスキルで中断させる。

斬撃を繰り出してきたボスの攻撃が止み、上段に構えられ、大剣にうっすらと紅く輝き始めた直後、ユージオの剣が閃く。

《青薔薇》重単発ソードスキル《砕氷(さいひょう)》。

それによってボスのソードスキルは無理矢理中断された。

 

この二人のコンビネーションに、誰も入る余地などなかった。この二人でなければボスをここまで封殺することも出来ない。例え、ロニエやティーゼ、ユウキやアスナ達であっても_____

 

既に戦闘から10分以上経過したが、ボスのHPゲージはラスト1本を切った。後、7割。

ユージオの重単発ソードスキルによって新たなデバフが加わる。スピード低下のアイコンがHPゲージの横に点灯した。

直後、ユージオは_____

 

「あああああああああああああッ!!!!」

 

_____決めに行く。

アルマスがより一層冷気を帯びる。青白く輝き、唸りを上げる。

 

《青薔薇》最多連撃ソードスキル《青藍氷水(せいらんひょうすい)》。

計13連撃。

 

『ガァァァァァァァァァァァ!!!?』

速度が低下し、防御力も低下したボスは躱すことなど出来ず、全ての斬撃を食らう。

その斬撃はやがて薔薇を描いていく。

そして_______

 

「ぜああああああああッッ!!!!」

 

最後の13連撃目、強烈な突き攻撃をお見舞する。

後、4割。

『グギャウッ!?』

「______スイッチ!!」

ユージオは技後硬直が終わった瞬間に後方へ跳んだ。

 

「____おう」

代わりに出てくるのは、キリト。

ボスも怯んではいたが、即座に上段斬りをお見舞いしようと振りかぶる。

それを___

 

「ッ!!」

両手の剣を交差して()()()()()()()()()()()

一瞬拮抗するが、キリトが大剣ごと吹き飛ばす。体勢を崩すボス。素早く二振りの剣を構えるキリト。

最後の剣技をここで放つ___!!

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!」

 

《二刀流》上位16連撃ソードスキル《スターバースト・ストリーム》。

キリトの最も得意とした___そして、今も得意とし愛用しているソードスキルを持って、ボス《グリームアイズ》を凌駕する__

『グガァァァァァアアアアアア!?』

____その斬撃はまさに流星の如く。

がら空きとなったボスの身体に斬撃が叩き込まれていく。

「おおおおおおおッ!!」

『グ、グギャゥアアアアアアアアア!!』

が、ボスもやられっぱなしでは無い。攻撃を受けながらも剣を振り、拳を叩き込む。

二刀流ソードスキルに限らず、連撃数の多いソードスキルには意外な弱点がある。

連撃が多ければ多いほど動きが制限される。ソードスキルは規定された動きを沿うように高速で打ち出される。速度が早いとはいえ、連撃が多いほど最後の一撃____終わりまで時間がかかる。故に、敵が完全に攻撃を防げない、避けることさえも出来ない状態まで追い込まなければならない。

避けられれば空ぶるだけ、防がれれば技後硬直を狙って攻撃される。

ユージオの《青薔薇》ソードスキル最多13連撃もキリトの16連撃もその例に漏れない。撃つなら確実に当たり、中途半端な所で躱されず____そんな工夫が必要になる。

キリトはそれを元に敵の大きな隙を狙って撃ったが、それでもボスは反撃に出た。

「おおおお、ぐッ____!!」

大剣は当たらなかったが、拳が当たる。削れるHP。

 

だが_____それでも止まらない。

 

「おおおおおおおおおおおおッ!!!!(まだだ!!まだ上がる!!もっと____もっと速くッッ!!)」

《ガアアアアアアアアアアア!!!?》

 

ボスも大剣を振り回すが、キリトは斬撃を食らっても止まらない。止まることなどできない。ここで中断すれば技後硬直は倍となり、絶体絶命のピンチに陥るからだ。

故に、止まらない。それどころか、加速する。

 

「______これ、が___」

ユージオは戦闘中であったにもかかわらず、見惚れていた。キリトの剣技に。記憶で見ていたものと同じだった。だが___記憶で見るのと、直で見るのはまるで違う。

いつかアンダーワールドのルーリッドの村の夜空で見た、流星のように___そして、心無き殺戮の天使との最後の戦いで見せた、世界の人々の想いが夜空の剣に集まる、あの瞬間のような。

これがキリトを英雄たらしめる全て。

『二刀流のキリト』

『黒の剣士』

そう呼ばれたキリトの姿であった。

 

 

「ッッッ!!」

15連撃目。突き攻撃が_______ボスに片手で受け止められる。

ニヤリと歪むボスの口角。

そして、同時にボスが大剣をキリト目掛けて突き刺そうと突き出す。

ボスのHPゲージは後、数ドット。

キリトのHPゲージも同じく数ドット。

システムの一部であるボスでさえも勝利を確信したであろう。

だが______

 

「はあああああああああああッッッ!!!!」

 

ラスト、16連撃目の突き攻撃がボスよりも速く打ち出された。

 

 

直後、ボスが敢行した突き攻撃___その大剣の切っ先は、キリトに当たることなく、虚空を切り裂いていた。

 

消え去るボスのHPゲージ。

 

ポリゴン片となって爆発四散するグリームアイズ。

 

 

 

その戦場に最後まで立っていたのは_____二人の剣士だった。

 

 

 

『『__________』』

静まり返るボス部屋。

主がいなくなって青白く照らされていた場所が、暖かい炎に照らされる。先程まで感じていた重圧感は、完全に消えていた。

「_______っ」

キリトは何か呟いた後、力尽きたように倒れた。

「____ぅ、ぁ_」

ユージオも力と集中力が抜けて倒れ込む。

「キリト先輩っ!!」

「ユージオ!!」

ロニエとティーゼはキリトとユージオの元へと駆け寄って行った。

「……アイツら、マジでやりやがったぜ…!」

「…見たことない、スキルだった…もしかして、2人とも片手剣だけしか装備しないのは____」

クラインの驚嘆、アスナの疑問。

そして、他の者が上げる歓喜の声。

それが静寂を敷いていたボス部屋に響いたのだった。

 




さて、《青薔薇》スキル、どうだったでしょうか。
自分自身、あまり強過ぎるとキリトが霞むから控えめに…と思いながら書いていたんですが…
《青薔薇》スキル、要はデバフがかけられる片手直剣スキルの強化バージョン……見たいなイメージで書きました。
流石に武装完全支配術をアインクラッドで出来るようにしてはもうそれこそ
「チートやチーターや!そんなん!!」
って言われてもおかしくないので、青薔薇の剣の力を出来るだけイメージとして残しつつ、キリトの二刀流スキルには及ばない程度………に、なったと思います。


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追われる2人

お待たせしました!最近ユージオ×ティーゼいいなぁ結婚しちゃえよと思っているクロス・アラベルです!
今回は短めです。
次がかなり長くなります。
多分今までで1番長くなるかもですねw
では、どうぞ〜


 

 

後日。

74層の迷宮区のボスである《グリームアイズ》の討伐がなされた2日後。

キリトとユージオはエギルの雑貨店の2階に避難していた。

「ごめんね、エギル。匿ってもらっちゃって…」

「いいんだよ。別にここにいるだけだしよ」

「……分かってはいたけど、やっぱりこうなるよなぁ…」

何から避難していたかというと、情報屋やその他の中堅プレイヤー達である。

2日前のたった2人でのフロアボス討伐がアインクラッド中に広がったその1時間後、キリトとユージオの持つ、《ユニークスキル》についての情報を聞き出そうと大勢のプレイヤー達が2人を血眼で探した。

 

このアインクラッドに存在する《ユニークスキル》はそれまでたった一つだけだった。それがアスナの所属する血盟騎士団団長ヒースクリフの《神聖剣》だ。異常な程の防御力、それが彼の武器だった。噂によるとボス戦でさえHPゲージをイエロー____つまり半減させた事が無く、常にボス戦では先頭に立ち、攻撃を受け止めて自身のギルドメンバーへの指示もこなす。彼以上に強いプレイヤーは中々居ない。

実はユニークスキルに関して明確に規定されたものはなく、ただ単にそのスキルを持っているプレイヤーが1人だけだと言うことしか説明できない。こればかりは製作者である茅場晶彦に聞いてみなければ誰一人として分からないだろう。

 

キリトとユージオも初めはエクストラスキル____他のスキルの派生スキルではないかと考えていたが、他のプレイヤー達の反応を見るに…

「ユニークスキルだよな、やっぱり」

「まぁ、武器を2本一気に持ってソードスキルが打てる時点で確定でしょ。ホント、あんたら2人は規格外よねー」

 

エギルの店に素材を取りに来たリズが呆れながら素材を確認している。

リズベットはエギルの店で時たま武器製作のための素材を買っており、この店の常連である。ユージオ達が追われているとリズが聞いて1番に案内してたのがエギルの雑貨店だった。

 

そのお陰で追っ手を振り切った訳だが。

「うーん……災難だなぁ…というか、あんなに言いふらす事ないだろうアイツら…」

「まぁ、あの雷帝直属解放軍(オプリチニク)の人達はギルドを辞めるって話してたしね。それに、ちょっとは改心してくれたと思うよ」

「元々コーバッツ以外はギルドを辞めたがってたみたいだしな。でもさ…」

「尾ひれが付き過ぎ……でしょ?」

「なんだよ、50連撃って……逆に使えないだろ、ソレ…」

「僕なんか魔法使い扱いだよ?神聖j……魔法、の概念がないこのアインクラッドにそんなのある訳ないのにね」

「誇張して書くのにも程があるっ」

新聞に書かれた記事を見てキリトは怒りを露わにする。ユージオも少しボロが出そうになったが、キリトには同感だ。

 

『とあるギルドの大部隊を全滅させた悪魔』『それをたった2人で撃破した勇者』『二刀流の50連撃』『氷魔法使いの大魔法』

最後の2つに限っていえば連撃数は事実より3倍に膨れ上がってるし、別にユージオは魔法を使った訳ではなくスキルによるデバフだっただけだし、魔法の要素など皆無なのだが。

誇張して書くのにも程がある。まぁ、情報屋___新聞など、そういうのは十八番なのだろう。

 

キリトは怒りのあまり新聞を机に叩きつける。

「おいおい乱暴すんなよ?他人の家の家具によ」

「はー…絶対引っ越してやる、誰も知らないド田舎に…」

「うーん……ホームを都会に選ばなくてよかったよ。今すぐ家に帰りたいけど、今出たら追跡されかねない…」

「ははっ、1回ぐらい有名人になるのも悪くは無いだろ。なんならいっそ講習会でも開いたらどうだ?会場とチケットの手筈は俺が」

「してたまるかっ!」

エギルの本気か冗談、どっちとも取れるセリフにキリトがブチ切れて飲んでいた紅茶のカップをエギルに向けてぶん投げる。

「おわっ!?こ、殺す気かよ…!」

「……別に圏内だから死にはしない、だろ」

壁に激突して破砕音を撒き散らし、粉々に割れた。一応、こんな動作にも投擲スキルが反映されてしまったらしい。

「お、2人が帰ってきたみたいだな、ちょっと行ってくる」

下の階からノックする音が聞こえた。エギルが下へと降りていった。

「ただいま戻りました〜!」

「お邪魔しますね、エギルさん」

「まったく、2人とも大変だろう?」

「いえ、そんな事はないですよ」

「あれは仕方が無いもの。2人を責める理由にならないし…」

買い物から帰ってきたロニエとティーゼ。

「はい、キリト先輩。テリヤキハンバーガーです」

「ありがとな……ぁむ_____」

「うーん…やっぱり、落ち着くなぁ…」

「そりゃ、愛しの人に作ってもらったもんを食べれば落ち着くだろうよ。」

「んで、どうすんのよ。いつまでもここにいちゃ攻略行けないじゃない」

「…この騒動が早く落ち着くといいんだけどな」

ユニークスキル保持者が2人も出たことを受けて、二人のことを何も知らない低層、中層のプレイヤー達はそのレアスキルを我先にと、さまよっているだろう(白目)

が、攻略組の反応は薄かった。と言うよりかは「何となくあの二人ならユニークスキルの一つや二つあってもおかしくない」という考えがあったらしい。キバオウ曰く「流石ワシらのキリトはんとユージオはんや!やっぱりやることがちゃうで!!」、との事。

「そう言えば、アスナはどうしたのよ。昨日は一緒だったんでしょ?」

「うん。確か……」

「休暇届けを出すって言ってましたね。やっぱり、クラディールさんの一件でしょうか」

「……休暇届けってなんだよ。会社か」

「まぁ、血盟騎士団って、休む時は連絡を絶対に入れなきゃ行けないらしいから…」

「でもさ、ティーゼ。そんなものを書いて出したって、その書いた紙は捨てるわけだろ?なら必要ないだろ…」

「それは気持ちの問題でしょ…アスナってホント真面目だから」

アスナはロニエとティーゼと一緒だったが、途中で休暇届けを出すために血盟騎士団の本部へ戻っていった。

アスナ曰く、『あまり時間はかからないと思うから、先にキリト君達の所へ行っておいて』

との事。

キリトのあきれ声に同じく呆れるリズ。

すると、下の階からノックする音が聞こえる。

「噂をすればってとこか」

エギルが迎えていった後、不安そうな表情のアスナが階段を上がってきた。

「…どうしたんだよ、アスナ」

「何か、あったんですか?」

「…えっと、その…ちょっと困ったことになって、ね」

「どうしたのよ、言ってくれないと分からないでしょ?」

「り、リズ…」

「…もしかして、休暇届けが受け付けられなかったのかい?」

「結果的に違う、のかも」

「アスナさん、何があったんですか?」

「…休暇届けに関しては団長は受け入れるつもりをしてるって返答をくれたのはくれたんだけど、条件を出されて…」

「へぇ。あの聖騎士ヒースクリフが、条件付きね。その条件って?」

「………一応、説得しようとしたのよ?でも、これだけは下げられないって、断られて…」

「言わないと分からないよ、アスナ。で、どんな条件を出されたの?」

「立ち会い、なの」

「えっ?」

「……キリト君とユージオ君との決闘(デュエル)をすることが条件だって…」

「「え」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスナです。失礼します」

『入りたまえ』

55層の主街区、《グランザム》にある血盟騎士団の本部へとやってきたキリト、ユージオ、ロニエ、ティーゼ、アスナは直接ヒースクリフに直談判する事にした。何せいつも自らの欲、というかギルドの直接的な指示さえしない彼がなぜここまで食い下がるのか。キリト達も不思議ではあったが、とにかく決闘を辞めさせるべく、本部の最奥にある団長の個室へやってきた。

アスナがノックして扉を開いた。

広々とした部屋に大きめのデスクと椅子。そこに座っているのが____

 

「やぁ、待っていたよ。血盟騎士団本部へようこそ。キリト君、ユージオ君。そして、ロニエ君、ティーゼ君。アスナ君も済まないね、私の為に……いや、まあこれに関していえば私事でもないがね」

 

血盟騎士団団長、ヒースクリフだ。武装を解除しているが、その存在感は変わらない。彼こそがこの攻略組きっての防御力を誇るユニークスキル《神聖剣》の持ち主。フィールドにてHPゲージを半分まで減らしたことがないと言われる生ける伝説とまで言われるプレイヤーだ。

「…で、アンタがここまで言うなんて初めてだな。俺を連れてきてまで説得したいと?」

「いや、どちらかというと説得しに来たのは君達ではないかね?」

「言えてる」

 

当たり障りのない会話。アスナはヒースクリフに対するキリトの態度に少し冷や冷やしているが。

「…ヒースクリフさん、単刀直入に聞かせてもらいます」

ユージオはキリトのように気さくに話しかける事はせず、ここに来た理由でもある、決闘についての話をしだした。

 

「何故、アスナの休暇に僕らの決闘が条件になるのか…アスナはギルドを辞める訳じゃ____」

「…私達血盟騎士団は、常に戦力不足に陥っていてね」

「…?」

ヒースクリフの口から出た、意外な言葉にユージオは首を傾げる。

「覚えているかな?層でのボス戦を」

「ああ、確かかなりやばかった時だな。ボスが予想外の攻撃を仕掛けてきて壁役(ウォール)がてんてこ舞いだった。アンタも一役二役買ってたな。何せ、10分もタゲを任せてたんだ。忘れるわけないだろ」

 

ヒースクリフが言った層のボス攻略戦。今まででも例を見ないほど特殊な攻撃やその行動パターンから攻略組も苦戦した戦いで、死者は出なかったが壁役のプレイヤー達の根気強いタゲ取りや防御がそれはもうてんやわんやだった。因みに攻略にかかった時間は小一時間程度だったが、壁役はいつもにも増して疲弊していた。

 

「その通りだ、キリト君。特に君達のような高レベルプレイヤー達は血盟騎士団でも限られてくる。アスナ君もその1人だ」

「戦力不足なのは分かります。アスナ自身も承知の上でしょう。ですが、クラディールさんの件もあって彼女は血盟騎士団に不信感を持っています。そんな状態でギルドの元で動いてもアスナも周りの人もいい気分じゃありませんよね?」

「確かに、私も理解は出来る。だが、アスナ君がこの血盟騎士団において唯一無二の存在なのは君もわかる筈だ」

 

血盟騎士団団長としての言葉____自身の事だけでない。彼は血盟騎士団全体への影響を考えている。

「…ですが___!」

「では、君がアスナ君の代わりをしてくれるかね?」

「___!」

トドメに一言に、ユージオも戸惑ってしまった。

 

「アスナ君の休暇は認めても良いと考えている。だが、その代わり…いや、アスナ君が休暇を終えてからもこの血盟騎士団で活躍してくれる人間が欲しい。私はね、キリト君、ユージオ君。君達にこのギルドに入って欲しいんだよ」

 

そして______ようやくこの決闘の主旨を仄めかした。

「…へぇ、ホントの狙いはそっちか?」

「半分は、と言ったところだがね。もう半分は_____純粋に君たちと戦いたいということだ」

「……では、ヒースクリフさん。貴方が言うのはキリト先輩とユージオ先輩にアスナさんの休暇と二人の血盟騎士団加入を賭けた決闘を申し込みたい、そういう事ですか?」

ロニエが不安げな表情で聞くと、

「正解だ、ロニエ君」

理解がある子が居て助かるよ、と頷いた。

「しかし、団長…!」

それに抗議しようとするアスナ。が_____

「いいぜ」

「分かりました」

肝心の二人(キリトとユージオ)が同時に頷いた。

「えっ!?」

「そうなると思いました…」

驚きを隠せないアスナと、何となく予想出来ていたロニエが溜息をつく。ティーゼも驚いているようだった。キリトならやりかねないが、ユージオは意外だった。アスナにとってユージオはキリトのブレーキ役であり、ツッコミ要員なのだが____

 

「…受けてくれて嬉しいよ。では日程に関しては明日の1時に75層の街にあるコロッセオでどうかね?」

「分かった。じゃあ、首洗って待ってろよ?」

「ふむ、期待するとしよう」

勝気に言うキリトに、余裕の笑みで答えるヒースクリフ。相当自信があるらしい。

その表情に少し恐ろしいものを感じながらユージオは勝負の後の事を話す。

 

「…僕らが勝利した暁には___どうするおつもりですか?まさか、アスナの休暇を認めるだけ…なんて言いませんよね?」

ユージオも負けるつもりは無い。だが、彼はこのアインクラッドにて最強のプレイヤーであることは間違いない。あの自信も頷けるが、それでも勝ったあとのこと____こちらの敗北した場合はキリト、ユージオの血盟騎士団の加入だがあちらが負けた場合、アスナの休暇の認可だけではバランスが取れない。ユージオ達にも得するものが欲しい。

 

「…負けることは無いだろうが、万が一がある。どうしたいのかね?」

「自信満々ですね…まぁ、それについては勝ってから、ということで」

ユージオが見たキリトの記憶、その真実を知りたい。記憶からしか見ていないが、彼の最後の速さは異常だった。

「…」

「では、明日。全力を尽くして勝ちます」

ユージオはそう言い放ってヒースクリフの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユージオ、良かったの?」

アスナに散々怒られた後、ユージオとティーゼは帰路に着く。

「うん。元々キリトは承諾するみたいだったからね」

「…また、記憶を見たの?」

「一応、結果の方も見た」

「えっ?結果も見たの?」

 

「うん、僕もびっくりしたよ。キリトは、負けてた」

 

「キリト先輩が!?」

ユージオは真剣な表情で、真実を述べる。ティーゼも驚いている。何せ2人にとって彼が最強の剣士なのだ。ユージオもそう思っていたが____

 

「ヒースクリフ……彼が強いのは知ってたけど、まさかキリトが負けるなんて思ってなかった」

「ユージオ。勝てる、の?」

ティーゼはユージオを信じている。だが、不安になってユージオに心配そうに聞いた。

「タダで負けるつもりは無いよ。ただ、キリトが負けたとなると、僕にはあまり勝機は無さそうだ」

「どうして?」

「ティーゼ、君も知ってるだろう?僕の《青薔薇》の欠点を」

「…」

 

ユージオは淡々と言う。キリトの《二刀流》は手数を持って彼に挑む。だが、ユージオにはそれがない。しかも、ユージオの《青薔薇》には弱点____決定的な欠点がある。それはPVPにおいて重大な問題だった。

「彼の絶対的防御をどう超えるか、それが鍵だ。キリトの手数の多い二刀流が負けるのなら僕は彼の考えられないような戦い方で勝負しなきゃね」

ユージオは《アルマス》の柄を左手で触りながら呟いた。

 

 



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VS《神聖剣》ヒースクリフ

お待たせ致しました!クロス・アラベルです!
今回はいつも以上に長くなりました。まあ、元々オリジナルで書くつもりをしていたので結構時間がかかってしまいました(´・ω・`)
タイトルでお察しの通り、ユージオVSヒースクリフになっております。
頑張れユージオ君!
では本編へどうぞ〜


 

 

 

 

次の日。

お昼を食べ終わったユージオとティーゼ、そして一緒に来たシャロとシリカはコロッセオ付近に来ていた。

シリカはシャロに一緒に行こうと誘われた為、来ている。シリカはシャロにとってユージオとティーゼ以外で1番仲の良い人だ。「しりかねぇ」と慕われている。

シャロから誘われたが、家族水入らずで行った方がいいのではと遠慮したのだが、シャロが来て欲しいと言っているので是非一緒に行こうとティーゼに誘われた。子供によく懐かれるシリカは、もしかするとベビーシッターや幼稚園の先生が向いているのかもしれない。

 

が、その日に限って人集りが出来ていた。

「……今日って、お祭りでもあったんだっけ?」

「なかった筈だけど…」

「おかあさん、きょうおまつり?」

「うーん…お母さんも分からないわ。何がどうなっているのか…」

「何かあるんですかね?あたしもお祭りなんて聞いたことありませんし」

そして、ユージオは____その人集りがコロシアムに集中しているのに気付いた。

「もしかして、この人集りって……僕らの決闘(デュエル)を見に来た、のかな?」

「なんでお祭り騒ぎになるのかしら…?」

「でも、納得じゃないですか!アインクラッドに3人しかいない《ユニークスキル》の使い手が1箇所に集まって…しかも決闘するんですから!」

「…まさか、ヒースクリフさんの目的って…?」

「いや、あの人はそんな事のためにしないって………………タブン」

自信なさげにユージオは答える。

「…とりあえず、コロシアムの裏入口に来てくれってメッセージが来てたから、そっちに回ろう」

このコロシアムには正面入口と裏のいわゆる《関係者入口》がある。ヒースクリフがそっちから入ってきてくれと言っていたので一行は回り込んで裏の入口へ。

「あ、キリト!」

「…よ、ユージオ」

そこにはもうキリトとロニエ、そしてアスナが既に来ていた。キリトはかなりテンションが低いようだ。

「アスナ、もしかしてこの人集りって…」

「ごめんね、ユージオ君。私もこうなるなんて思ってなかったの」

「あいつの狙いってこういうことじゃないよな?ホント」

「団長はこういうのに興味無いからねぇ…多分経理担当のダイゼンさんだと思うわ。あの人、こういうのに敏感ですぐ何でも商売にしちゃう人だから」

「……後で文句の一つや二つ、言っとくか」

「もしかすると、自営業をしてらっしゃる方なのかもしれませんね」

「…まぁ、気にせず頑張ろうよ。キリト」

見られるのはあまりユージオも慣れないが、気にする必要は無い。

「おお、キリトさんにユージオさん!」

「…誰?」

「さっき言ってたダイゼンさんよ」

「お二人のお陰で設けさせていただいてますよ!ありがとうございますねぇ!」

「……解せぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きりとおにいちゃんがんばれー!」

「頑張って下さいねー!キリトさーん!!」

コロッセオの関係者席にて応援するシリカとシャロ。

先にキリトが戦うことになったのだが、二刀流というわかり易すぎる強スキル名が影響したのか、後ろの観客からの応援もすごい。「斬れー」「殺せー」などという物騒な事を言う者たちもいるが_____

「……チラホラと知ってる顔があるのはあまり気にしないでおくべきね…」

ユージオの隣で自分に言い聞かせるようにティーゼは言う。観客の中にはクラインやキバオウ、リンドやネズハ、月夜の黒猫団のメンバーの姿まで見られた。

「……」

ユージオはコロシアムの中心にいるヒースクリフとキリトを凝視し、黙ったままだった。

「ユージオ君はどう思うの?どっちが勝つと思う?」

「…分からない。ヒースクリフさんの《神聖剣》が未知数過ぎるし、キリトと比べようにもプレイスタイルも何もかも違うからね」

とアスナの問いに答えるユージオだったが、不安でしょうがなかった。何せキリトの記憶ではヒースクリフに負けているのだ。確かに今のキリトはその時より強くなっているかもしれないが、それはヒースクリフも同様だ。

それに、次にはユージオの決闘も控えている。このキリトの決闘からヒースクリフの対人戦のパターンやそのソードスキルを確認しておかなければ。

と、ユージオがそう考えていたその時、決闘開始までの秒数がキリトとヒースクリフの丁度間___その中心で現れた。

「…頑張ってくれ、キリト…!」

そして、秒数がゼロになり《決闘開始(デュエルスタート)》の表示が出た直後、キリトはヒースクリフへと白と黒の剣を携えて襲いかかった______

 

 

 

 

 

 

 

 

_______結果だけを端的に言うと、キリトは負けた。

互角の戦いを繰り広げ、両者のHPゲージが60%を下回った直後、ヒースクリフが見せた初めての隙にキリトがそれを狙う形でソードスキル(スターバースト・ストリーム)を放った。

ヒースクリフは途中まで防ぎきっていたが最後の一撃____その直前に盾を弾かれ体勢を崩し、キリトの最後の一撃がヒースクリフに直撃し、決闘は終わる_____筈だった。

その一撃がヒースクリフの顔面に当たる___その直前に、尋常ではない速さでヒースクリフの左に装備していた紅白の十字盾がソードスキルのエフェクトに包まれたキリトの《闇を払う者(ダークリパルサー)》を()()()()()()()()()()()()

決め技を完全に防がれて技後硬直に入ったキリトは為す術なく、ヒースクリフの単発ソードスキルによってトドメを刺された。

だが、ユージオには不気味に思えた。記憶でもこの結果を見たが、あのスピードはありえない。プレイヤーとしてはありえない速度だった。例えユージオやアスナでも再現不可能なものだった。あれでは、どれだけ速くて、彼の盾を退ける程の強い攻撃であっても、即座に______

「______防がれる」

ユージオは必死に考える。キリトの剣技さえも完全に防いでみせた絶対の守りを持つヒースクリフを、自分は倒せるのか。

「……普通の戦い方じゃ不可能だ」

結論付ける。

自分には不可能だと。

正面切っての戦いでは彼の守りは破れない。

「_____()()を、使うのか……?」

だが、ユージオにも、切り札がない訳では無い。ユージオの《青薔薇》にはソードスキルの他にも武器がある。だが、それはあまり大っぴらに見せられるものでは無い。いや、見せたくない。

「それは、最後の手段に取っておこう」

キリトとヒースクリフの決闘から10分が経とうとしている。ヒースクリフの休憩時間として10分空けようとユージオが言い出したが、やはりそのまま連戦にした方が良かったか。

「____行こう」

ユージオは装備欄からしっかりした指先だけない___ハーフフィンガーグローブを選んで装備する。

東入口の控え室。ユージオは意を決して、コロシアムの中心へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君も済まなかったね、ユージオ君。私もこんな風になるとは思っていなかったんだよ」

「いえ、観られていてもやる事は変わりません」

「そうか、では早速始めよう。私も君とこうして戦うのを楽しみにしていたんだ」

「…なら良かったです」

コロシアムの中心にて、ユージオとヒースクリフは対峙する。ヒースクリフは既に十字の盾と同じ意匠の剣を装備している。

ヒースクリフが右手を動かし、ユージオに決闘申請のメッセージを送る。ユージオは即座にそれを受け入れた。

 

決闘までの残り秒数が二人の間、コロシアムの中心に表示される。

それを見た観客はどっと沸き上がる。

「_______(彼に勝つには、先ず彼の守りを破らなければならない。でも僕はキリトのように二刀流で手数をもって押し通るのは不可能だ。それに、彼にはソードスキルの類が効かないように思える。)」

キリトとヒースクリフの決闘中、ユージオは不思議に思っていたことがあった。

ヒースクリフはアインクラッド中で恐らく1番守りが硬い。防御力はトップクラスだ。

だが、それでも全てを防ぐことは困難だ。

キリトが片手直剣ソードスキルを使っていたなら確かに、ヒースクリフによってソードスキルを完封されて負けるというのはかなり現実味がある話だ。片手直剣スキルは誰でも習得できるコモンスキルだ。おおよそ、刀スキルも完封されてしまうのではないだろうか。刀スキルはエクストラスキルだが、刀スキル所持者は少なくない。多分、血盟騎士団にも何人かいるだろう。

だが______二刀流スキルは別だ。

二刀流スキルはエクストラスキルではあるが、それを持つのはこのアインクラッドで唯一人。

そして、二刀流スキルが世に知られたのは2日前だ。それに、ソードスキルの軌道や型を知っているのはあの74層ボス戦に参加していたアスナやギルド《風林火山》のメンバー、のみ。

しかも、彼らはキリトの二刀流ソードスキル、その中でもスターバースト・ストリームに関しては1度しか見ていない。アスナ達はソードスキルについて誰にも公言していないと言っていたので、そこは信じている。

故に、ヒースクリフは完全に初見の状態で16連撃という大技の軌道をテンポが少し遅れ、体勢を崩しかけていたとはいえ最後の一撃までを見切っていた。

天性の才能や天才、などの言葉では済まされないものだった。

そして_____キリトとの決闘で見せたありえない速度で最後の一撃を防いだあの芸当が何なのかを自身で確かめなければ。

それにユージオは一つ、許せない事があった。

「____(血盟騎士団では常にギルド本部に居ることを支持されることもあるってアスナから聞いた)」

血盟騎士団の本部に留まることを命じられてしまえば、

「_____!!(つまり、ホームであるあの家に帰れなくなるってことだ。ティーゼと、シャロと僕、3人の団欒の時間を_______潰されるということ!!)」

そう、単純にユージオは怒っている。

ユージオにとってあのホームでの時間は何よりも大切な物だ。

それを邪魔するのなら_____

「____(絶対に負けない、負けるもんか、僕らの時間を潰すならそれ相応の覚悟をしてもらいますよヒースクリフさん、この決闘どんな方法を使ってでも勝ってやる、勝てるなんて思うなよ__!!!!」

ヒースクリフに聞こえないくらいの小声で、そして確かな怒りを込めて早口でユージオは呟いた。

「………っ?」

流石にヒースクリフもその視線を感じて何か不吉な物を感じ取ったようだが、そんなものはお構い無しにユージオはヒースクリフを睨みつける。

決闘開始まで、あと5秒。

「______ふぅ」

深く深呼吸。

先程の怒りを沈め、精神統一を始める。

《青薔薇》のスキルはもう立ち上がっていた。(アルマス)は鞘から零れ落ちるほどの冷気を放っている。

「行くぞ_____!!」

ユージオは決闘開始の合図を直接目に入れることなく、ヒースクリフへと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうしたものか。

私にとって、これが初めての()()だ。

キリト君の《二刀流》は私自身が設定したものだったから私もあそこまで対応出来たが______それでも私は追い詰められた。

まさか、システムアシストを使う羽目になるとは。

彼の反応速度も去ることながら、純粋な速さだけならこのアインクラッド一では無いだろうか。《二刀流》スキルの獲得可能プレイヤーは3人程いたようだが、紙一重という所で彼が選ばれた。元々攻略組でもトップの実力を持っていたのだ。彼がシステム的に選ばれたのも頷ける。ユウキ君とユージオ君もキリト君に肉薄していたが____やはり、彼の才能なのだろう。

「______」

そして、彼こそが私にとっての()()

今まで出会ったことの無い剣士。

ユニークスキル《青薔薇》の所有者。

私もシステム管理中にユニークスキルの保有状態を確認して驚いたよ。

まさか______正体不明のスキルが、カーディナルシステムによって作られていたとは。

カーディナルシステムにそんな命令は設定していなかった。私が設定していたのはある一定の基準をクリアしたものに《ユニークスキル》を与えること。

確かにクエストは任せていたが、それがどういうことか、スキルまで作っているなど私も考えることなどなかった。

だが_____

「____それも、面白い」

カーディナルシステムは私の制御を離れた訳では無い。故に、カーディナルシステムが作ったスキルを、消そうとは私は思わなかった。

名前さえもカーディナルシステムは秘匿してきたが____それも一興だ。

正面から受けて見せよう。

未知のソードスキルが見られるなど、製作者側である私には味わえなかった物だ。

故に______純粋にこの瞬間が楽しい。

年甲斐もなく、子供のようにわくわくしている私がいる。

ユージオを見据える。

彼はボス攻略時と全く変わらない面持ちと装備で______

「_____?」

彼はいつもは見ない黒いグローブを手に着けていた。

彼はいつもグローブは付けていない。それに_____あのグローブを身につけているのを見たことがないな。

他のものより分厚い。

確か、あれは_________

 

もうすぐ決闘が始まる。あと、7秒。

私も切り替えなければ。

 

「さあ、見せてくれたまえ______ユージオ君。君の剣を___」

 

 

後、今一瞬殺気のような物を感じた。悪寒がする。

ユージオ君が私を睨んでいる。

「…………っ?」

……彼は、何故怒っている…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜやあぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」

 

決闘開始の音が鳴ると同時にユージオはヒースクリフに斬りかかった。

 

「__ふッ!!」

 

ヒースクリフは難なく盾でその攻撃を防ぐ。

ユージオも負けじと斬撃を繰り出す。

ヒースクリフはそれを冷静に盾で防いでいく。

 

「はぁッ!!」

 

苛烈に攻めたてる。普段の慎重なユージオには考えられない程の攻撃的な試合運びだった。

だが、無茶苦茶に斬っている訳では無い。如何にヒースクリフの守りを突破するかを思案し、その道をなんとか切り開こうと足掻いている。

ソードスキルは使わず、なるべく通常攻撃を用いて。

が、ヒースクリフの守りは硬い。一撃も入ることはなく、虚しくユージオの斬撃は盾に防がれる。

 

しかし、アルマスは攻撃の手を緩めない。

 

「_____っ!!(駄目だ、ただ斬りつけようとするだけじゃあの守りは破れない!なら…!)」

ユージオは一旦ヒースクリフへの攻撃をやめて後退し、別の策へと移行する。

が、ヒースクリフはその隙を逃す訳もなく。

 

「ッ!!」

「くぅっ!!?」

すかさず攻撃を仕掛けてきた。

 

「やぁッ!!」

それを無理矢利退けて下がるユージオ。

そして___

 

「おおおおッ!!」

ソードスキルを発動させる。

《青薔薇》ソードスキル、突進技《雪那》。

瞬速のその剣技を___

 

「_____!!」

ヒースクリフは防いでみせた。すれ違いざまに視線がぶつかり合う。

距離をとった2人。

 

「キリト君も大概だが、君も素晴らしいな」

「人のこと言えませんよ、ヒースクリフさん」

「お互い様か」

観客が沸く。

 

「…(守りを純粋な剣技だけで突破するのは不可能だった。なら、意地汚く、足掻くくらいかな)」

ユージオはキリトやティーゼとの対人戦に使っている、いつもの戦い方をとることにした。

「ッ!!」

再び攻撃を仕掛けるユージオ。

 

「___!!」

それを無言で防ぐヒースクリフ。

ユージオはそのまま、

 

「ぜやぁッ!!」

《青薔薇》4連撃ソードスキル《雪月夜(ゆきづきよ)》を繰り出した。

 

「むぅ……!!」

ヒースクリフはそれをぎりぎり防ぐ。彼は反撃をしようと盾をずらし、ソードスキルを放とうとして___すぐさま盾を構え直した。

 

「ぐッ!?」

「___らぁッ!!」

 

体術スキル《水月(スイゲツ)》。回し蹴りの要領で放たれたそれは、先程のソードスキルの勢いをそのまま利用したものだった。

ヒースクリフは予想外の攻撃に盾による防御が少し遅れたようで、上手く威力を相殺出来ず、後ろへと後退する。

その隙を、ユージオは逃さなかった。

 

「はあああああッ!!」

 

「ぬぅ……!!」

防御が遅れたのが幸いしたか、ユージオの剣をヒースクリフは紙一重で防ぎ、去なす。

が、先程のそれよりも明らかに戸惑いが見られる。ヒースクリフがなかなか見せない焦りを隠せない表情。

その瞬間、ユージオは勝機を見た。

 

「うおおおおおおッ!!」

放つは、最多13連撃ソードスキル《青藍氷水(せいらんひょうすい)》。

繰り出される怒涛の剣技にヒースクリフは、

 

「ぬ、ぅぅぅぉぉお…!?」

必死に防ごうと盾を突き出すが、防御が間に合っていない。

そして___

 

「ぐぅッ_____!?」

12連撃目で盾を弾き、ヒースクリフは盾を離すことはなかったが、絶対の守りであるその十字盾は_____あらぬ方向へ。

 

「あああッ!!」

「っ!?」

だが、ユージオの攻撃はまだ終わっていない。それに気付いたヒースクリフは盾ではなく、剣をもって何とか防ごうとする。

最後の一撃はヒースクリフの剣さえも弾いて彼の体勢を完全に崩した。

後ろへと倒れこむヒースクリフ。受け身さえ取れていない。

それと同時にソードスキルはそこで終了し、光は消える。だが___

 

「っ、うおおおおおおッ!!」

 

技後硬直が終わった瞬間、ユージオは再び剣を振りかぶる。

まだヒースクリフは盾を構えていない。完全に倒れ込む寸前だ。

今なら間に合う。彼の守りを完全に突破し、一撃を見舞い、この決闘に勝利する_____

 

 

 

 

 

_______筈だった

 

 

 

 

 

「_________ 」

 

時が止まる。

ありとあらゆるものの動きがゆっくりに____いや、剣が、観客の声が、ユージオの体さえも動きを止める。

 

「_________(何が、起きて……!?)」

 

その時ユージオが見たものは

 

____時が止まったその世界で、ヒースクリフの盾を持つ左手だけがユージオの一撃を防ごうと、動いている。

その異様な光景だった。

 

盾がユージオの(アルマス)の真下まで来た瞬間、その動かなかった世界は動き出した。

 

「_____!?」

「____はあッ!!」

ユージオの一撃を防ぎ、その倒れざまにユージオへと斬撃を繰り出している。

ユージオはその一撃を______紙一重で避けきった。

 

「うっ______!!」

転がりながらもヒースクリフから距離をとる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ______?」

すぐさま起き上がり剣を構えるが、追撃は来なかった。

ヒースクリフは既に立ち上がっていた。

 

「______君達には、ほとほと驚かされるよ」

「……お世辞をどうも」

「いや、お世辞などでは無いよ。よもやここまで______キリト君でさえあの一撃は避けきれなかっただろう。完全に防御を捨てた攻撃だった。それを私が逆に攻め返したというのに……全く、末恐ろしい」

「………」

 

ヒースクリフの表情が読めない。

いつも彼はそんな感じだったが、今は余計にそうだった。

 

「……」

「では、続きと行こう。時間も無い。残りは______1分」

「____!!」

この決闘は初撃決着と言われる、ある一定のダメージ量を1回の攻撃で与えられる、またはHPゲージが5割を切った方が負けとなる。だが、これには時間制限がある。その制限時間が、あと1分を切ろうとしている。

瞬間、2人は己が武器を構えて、その勝負の決着をつけようとした、その時_______

 

 

「おとーさん、がんばれーーー!!」

 

 

我が子(シャロ)の声援が聞こえた。

 

「________(……さぁ、この勝負…簡単に負けられないね_____!!)」

 

ユージオの闘志に再び、火がつく。

 

「うおおおおおおおお!!!!」

「______!!」

再びぶつかり合う二人。ユージオの攻撃は先程より苛烈になっている。

防御をかなぐり捨てた、特攻。

ユージオの連続剣技をヒースクリフは全て防いでいく。

 

「おおおおッ!!」

ユージオは《青薔薇》単発ソードスキル《冷羅(れいら)》を発動させて、ヒースクリフの防御の無理矢理突破を試みる。

が____

 

「はあッ!!」

ヒースクリフが珍しく、気合を入れて盾を突き出し___

完全にユージオのソードスキルを押し返す。

 

「____!!」

「ッ!!」

 

そして、右手の長剣でユージオの剣を、弾いた。

 

「______ぁ」

完全にソードスキルを弾かれ、技後硬直を課せられたユージオの唯一の武器、(アルマス)は弾かれて、ユージオの手から離れ、真上に吹き飛ぶ。

 

「____終わりだ」

ヒースクリフはとどめの一撃を放とうと、ソードスキルを発動させた。

 

「_____(確かに、彼は強かった。システムアシストを使って尚、トドメをさせなかったのも、体術スキルとの併用による連撃(コンボ)も。キリト君と同様、ユージオ君には最大限の警戒をするしかないな。)」

ヒースクリフは勝ちを確信した。

 

____そしてふと、ユージオの顔を見て、何かに気づく。

 

「_____?(彼の瞳から、闘志が消えていない…?)」

ユージオの眼はまだ____諦めていなかった。いや、あれは_____

 

「シッ______!!」

 

直後、彼の盾は視界から消し飛んだ。

 

「な_______」

左手から消えた盾。バランスを崩すヒースクリフ。同時にソードスキル特有のライトエフェクトを失うヒースクリフの剣。

技後硬直を課せられたヒースクリフは気づいた。

 

「_____っ(そうか!彼のバトルスタイルは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!彼は私に油断させる為に、剣を弾き飛ばさせた____!?)」

 

正解だった。

ユージオはこの好機を作るためにわざと誘導させた。ユージオらしくない力任せのソードスキルの使用。これこそがユージオの罠だった。

体術ソードスキル《弦月(ゲンゲツ)》。バク転を思わせる後方への回転。その蹴りは____ガードに成功した直後、持ち手の力が緩んだその瞬間、盾を空へと吹き飛ばした。

 

ユージオは追撃が来る前に素早く着地を決める。

 

「_____、しっ!!(上手く行った!僕も剣を飛ばされたけど、彼も盾をなくした!アスナから聞いていた通り、彼の《神聖剣》のソードスキルは盾が装備されている状態でなければ使えないんだ。今、彼のソードスキルが盾を吹き飛ばした瞬間、中断されたように!!)」

 

「ぬぅ____!!(だが、彼も唯一の武器を無くしたのだ。盾はないが____私には剣がまだある。直ぐに一撃加えれば、勝てる。負ける道理はない。彼は撃ち合う剣がない。確かに、君も素晴らしいものだったが、その先がなければ、話にならな___)」

 

ヒースクリフは動揺こそしたが、その動きに迷いなく通常攻撃をユージオに叩き込もうと剣を振り上げる。

確かに、ユージオは唯一の武器を自ら放棄し、彼の絶対的守りを突破した。だが自らが攻撃、そして守る方法がなければ、勝つことはできない。

 

_____()()()()()()()、の話だが。

 

ヒースクリフは剣を振り上げて____即座に首を曲げて避けた。

彼が剣を振り上げた瞬間に拳が迫っていた。

 

「_____ぐぅッ!?」

「__あああああッ!!」

間一髪、その拳を避けて、ヒースクリフは後退を余儀なくされた。

 

「ぬぅ、おおおお……っ!?」

「シッ!!ハッ!!りゃァァァァァ!!!!」

拳と蹴りがヒースクリフを襲う。

 

「っ!!(そうか!あの黒いグローブは、()()()()()()()()()()!元々彼は、この状況に落とす算段をつけて____!?)」

避けて、下がって、不可避な攻撃は剣で防ぐ。

ヒースクリフの剣は片手直剣の中でも長剣の類に入る。故に、ある程度距離を保ったままでないと戦いにくい。それに対しユージオは(アルマス)を捨てて、超近距離戦(クローズコンバット)へと切り替えた。懐に入りかけているユージオは例えヒースクリフが長剣を振り回そうと、どうしても大振りになるのでユージオは避けやすい。そして_____

 

「っ_____ハァッ!!(アスナから聞いた話だと彼が盾を失って使うスキルは、片手直剣スキル。それを使い続けてきた僕なら、初動のモーションの前兆を見ただけで分かる!!)」

片手直剣はユージオの使い続けてきた、アインクラッド流。ならば、対処など簡単。

 

「っ、ぬぅっ!!(だが、私の盾は私の後方に吹き飛んだ。ならこのまま形勢不利を装って、盾を______)」

 

「ゼァァァアッ!!(_____取り戻せばこちらの勝ち、だと思っている筈!なら___!!)」

 

ユージオはヒースクリフの思考を読み、()()()()()

 

「な_______」

ヒースクリフの頭上を飛び越えて______彼の盾の目の前へ。

 

「しまっ_____(読まれた____!?)」

「う、ラァァァァァァァァァァア!!」

そして、逆方向へと攻め立てる。

下がるヒースクリフ、進み続けるユージオ。

彼の思惑は、今絶たれた__

 

「く、ぬぅっ!!ぐッ!?(ダメだ、攻撃をまともに食らっているわけではなくとも、余波でダメージが蓄積してきている!もう既にHPは6割を切っているっ)」

「おおおりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

ヒースクリフの焦りは止まらない。何せ、このアインクラッドで戦ってきて1番のピンチだ。怒涛の拳技に、下がることしか出来ない___

 

「っ、おおおおッ!!(ダメだ!今すぐ、彼に一撃入れなければ負ける!)」

焦って無理矢理ユージオとの距離をとって、ソードスキルを発動させようとするヒースクリフ。

ユージオは大きく踏み込んだ。しかし。

 

「____」

ユージオは______攻めなかった。

 

「____(攻撃を、止めた___?何故___)」

 

そのままヒースクリフはソードスキルを発動させて、ユージオに一撃を___

入れる、直前。

ヒースクリフは目を見開いた。

 

「な_____(剣を持って、いる__!?)」

 

ユージオの右手には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ヒースクリフはユージオによって誘導されていたのだ。ユージオの剣が弾き飛ばされ、落下した場所に。

そして、ヒースクリフの剣がソードスキルによって突き動かされる直前、今までに見せなかった構えを見せる。

右手を顔と同じ高さに上げて、ヒースクリフのソードスキルを迎える。

 

「っ、おおおおッ!!(今止めれば、技後硬直が2倍になる。止めた方が形勢不利だ、このまま振り切るしか____!!)」

ヒースクリフはソードスキルをそのまま止めることなく、ユージオへと当てようとして_____

 

「_____ッ!!」

「____!?」

ユージオに完封される。

ヒースクリフの剣は、ユージオのソードスキルによって、弾き飛ばされた。ヒースクリフは剣を離してはいないが、完全に体制が崩れた。

 

《青薔薇》()()()()()()()()、《蒼氷(そうひ)》。

 

敵の攻撃に対し、決められた構えで相手の武器を剣に当てた時のみに発動する、《青薔薇》スキルのMOD(派生)スキル。

相手を斬る事ではなく、相手の武器を弾き返すことに特化したスキルだった。

 

「うおおおおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

そして、間髪入れずに放たれる通常攻撃。

避ける事は許されないその一撃に、ヒースクリフは絶句する。

システムアシストを使おうにも、コンマ1秒、間に合わない。

 

「私の、負けか______」

 

このままでは、彼の正体もバレてしまう。この観客の前で。だが、これは純粋に負けたのだと、ヒースクリフは受け入れた。

 

 

 

ユージオの攻撃は、ヒースクリフに当たる____筈だった。

 

 

 

 

 

ガキィッ!!

 

 

 

 

 

そんな甲高い音と共に、ユージオの剣は紫の障壁によって防がれた。

「___!?」

「_____」

そして、2人の間、その上に、決闘結果が告げられる。

 

 

 

 

 

引き分け(ドロー)

《制限時間 : 0 : 00 》

 

 

 

 

と。

 

『『___________』』

観客も、息を飲む。

ユージオも何も、言えなかった。

ヒースクリフは尻もちをつき、ユージオは前のめりに倒れ込む。

 

()()()()

 

という、勝敗付かずで終わりを迎えたのだった。

 

 

 



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敗北と引き分け

大変遅くなりました、クロス・アラベルです!
今回は短めになります。
その次のお話も早いとこ投稿できるとは思いますので、よろしくお願いします!


 

 

 

次の日。

キリト達一行は血盟騎士団の本部、その会議室へと来ていた。

 

「では、キリト君には約束通り。血盟騎士団に入団してもらう。異論は無いかね?」

 

「……ないよ。まぁ、負けたんだから煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「うむ、では、君の入団を認めよう」

 

決闘の結果、キリトは負け、ユージオは引き分けとなった。

キリトは約束通り、血盟騎士団への入団が決まった。キリトは嫌な顔を隠そうともしない。

 

「…ヒースクリフさん」

 

「どうしたのかね?ロニエ君」

 

「私も、入団させて下さい」

 

「ろ、ロニエ…?」

 

「……私としては嬉しい限りなのだが…良いのかな?」

 

「キリト先輩が入るのなら、私も入ります。キリト先輩を顎で使う、なんて無理ですよ?先輩のあつk……じゃなくて、先輩のことなら私か、ユージオ先輩しか知りませんから」

 

「…ロニエ、それって貶してるのか…?」

 

「キリト先輩のお世話は私がします」

 

「俺ってそんなに頼りないか!?」

 

「いや、頼り甲斐があるけど、頼り甲斐がないと言うか…」

 

「お前もかユージオ!?」

 

「…よかろう。ロニエ君、君の入団も認めよう。元より君も攻略組のキリト君たちに続くトップレベルプレイヤーだからね」

 

「……良いのか、ロニエ…?」

 

「私が決めたことですから、気にしないで下さい」

 

ロニエは頑として自分の意志を曲げようとしない。

 

「で、だ。ユージオ君に関してだが………ギルドへの加入は無しにしよう。何せ、引き分けだからね」

 

「ギルドへの入団も、僕への報酬も無しですか。まぁ、妥当ではあります」

 

「……君がもし、私に勝っていたら。何を要求するのか、気になるところではあるがね」

 

「……」

 

「では、あの決闘の後始末は済んだね。では解散としよう」

 

キリトとロニエは血盟騎士団に入団し、ユージオはそれを引き分けによって免除されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_____ギルド、か」

 

キリト専用の部屋を用意され、そこのベットに腰掛けるキリト。

服装は血盟騎士団の紅白に合わせたコートだ。キリト自身、白はあまり自分に合わないと自覚しているので、なんとも言えない表情だ。

 

「……なんで、ロニエまで…ロニエは自由なのに」

 

キリトは負けたのだからギルドに入団するのは分かる。だがロニエは無関係だ。決闘をした訳でもないのに、ギルドに入ったロニエにキリトは驚いている。

 

「…まぁ、いつまでもギルドに入らないでやってくのも限界があるのは分かってたけどさ」

 

どこのギルドにも属さないキリト達のスタイルはこのアインクラッドでは珍しくないが、やはり彼は攻略組。どこかのギルドに入ってより緻密な攻略方法を試すのも悪くはなかった。

元より、ソロプレイヤーではなかったものの、ワンパーティを貫くにも限界がある。

 

「先輩!失礼しますね」

 

ドアをノックして部屋に入ってくるロニエ。ロニエも同じく紅白柄の装備に早変わりしていた。

 

「…どうでしょう?似合ってますか…?」

 

「お、おう。似合ってる」

 

「ホントですか?ありがとうございます!キリト先輩も似合ってますよ!」

 

ロニエはちょっと顔を赤くするキリトに褒められて、笑顔になった。

 

「…ありがとな、一緒に来てくれて」

 

そして静かに、ロニエへ感謝の言葉を伝えた。キリトにとってはあまり血盟騎士団とはアスナ以外の人物とは交流したことが無い。言ってしまえばボス戦の時に少し連携したことがある、程度だ。

 

「それは言わない約束ですよ?」

 

「分かってたんだろ?俺1人入ったってギルドの亀裂を産むだけだって」

 

「亀裂なんかうみませんよ。ただ、先輩は意外と人見知りだってこの1年半で学びましたから」

 

キリトの感謝の言葉にロニエは不満そうに言う。

 

「私はキリト先輩の後輩です。傍付きです。私かユージオ先輩が居ないと本当にだらけちゃうんですから!」

 

「はは…反論できないな…」

 

自信なく笑うキリト。ロニエは顔を赤くしながらも、キリトの手を握る。

 

「_____私は、キリト先輩の味方です。もし先輩が道を違えようとするのなら、私が止めますし、助けます」

 

ロニエが優しく微笑む。ぎゅっと、キリトの右手を両手で包み込んで真っ直ぐな瞳はキリトを映していた。

 

「_________」

 

「決めたんです。後悔するのは、嫌ですから」

 

ロニエのその一言は、アンダーワールドでのあの事件。

セントラルカセドラルに連れていかれてしまった、その時の後悔と懺悔を思い出させる。

その戦いから帰ってきたキリトは自らを責め続け、自我を喪失し、ユージオは折れた愛剣(青薔薇の剣)を遺して逝ってしまった。

泣き崩れるティーゼを1番近くで見ていたロニエは_______もうあんな悲しい離別は見たくなかった。

 

「____ありがとう」

 

それをキリトは知らない。

けれど_____その言葉がキリトにとって、とても嬉しかったことに変わりはない。

少し照れながら、キリトも両手でロニエの両手を包み込んだのだった。



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狂気はすぐそこに

比較的早めに投稿出来ました、クロス・アラベルです。
今回は、お察しの通りになります。
次回も早めに投稿できるように、頑張ります(`・ω・´)キリッ
では、本編へどぞ〜( ◜ω◝ )


 

 

 

 

キリトとロニエが血盟騎士団に加入した翌日。

 

「………」

「………」

 

キリトは実に気まずい状況にあった。

74層のとあるフィールドダンジョン。そこにキリトは来ていた。血盟騎士団の幹部の1人の管轄に入った_____というより入れられたキリトはその幹部の男に連れられて来た。

 

『攻略組きっての実力者だというのは分かっている。だが、私が直接見なければ話にならん!危機対応能力も見ておきたいから、諸君らの結晶アイテムは全て預からせてもらう』

 

との事。

アスナがそんなことする必要はないと猛反対したが、事は変わらず。

キリトからすれば別にどうと言うことはなかった。『郷に入っては郷に従え』と言う奴だ。確かに結晶アイテムを全没収には少し思う所があったが、ここで拒否すればアスナの面目丸潰れ___ということになりかねない。

 

中庭集合だと聞いて向かってみれば、驚いた事に____

「……」

クラディール____この間の決闘沙汰になって上から注意を受けた男がいた。

これにはキリトも、なんとも言えない表情を隠しきれなかった。

「……先日はご迷惑をおかけしました。二度と無礼な真似はしませんので…」

「あ、ああ…」

ぺこりと頭を下げ、ボソボソと謝罪の意を込めたクラディールの言葉を聞いたキリトは再び驚いた。あの態度から一変、ここまでさせるなんてどこまで厳しい罰則を与えたんだろうか。

「よし、これで一件落着だなぁ!!」

フィールドに陽気な幹部の男____ゴドフリーと言った男が笑いながらキリトとクラディールの背中を叩いた。

 

「ふむ、君の実力は聞いていたが、素晴らしい!!これなら即実戦投入だろう」

「…いや、ずっと最前線なんですけど…」

幹部の男にそう言われてボソリとつぶやくキリト。偉そうなのが少し気に入らないが、ここでは彼の方が立場が上だ。黙って従っておこう。

「む、もう昼か。ではそろそろ休憩をとろう!」

そう言われてフィールドダンジョンの中のセーフエリアに来た一行は、それぞれ岩に腰かけ、手渡されたパンと水を受け取り、食べ始める。

「………はぁ」

キリトにとって食事とは、ひとつの楽しみなのだが、なんの味気もないお昼ご飯に、ため息が出てしまった。毎日毎日ロニエの手作り料理を食べているせいで余計に悲しくなる。

「……ぁむ(ロニエの料理が恋しい_____っていうか俺はいつの間にロニエに餌付けされたんだ…)」

硬めのパンにかじり付きながら心の中でボヤく。こんなことならロニエに弁当を作ってもらうべきだったか、と後悔した。

第1層で食べていた激安パンが懐かしい。

周りを見ると、幹部の男やもう1人の団員、そしてクラディールも岩に腰かけてパンを食べている。

そして、瓶に入った水を飲む。

ゴドフリーと、もう1人の団員も水を飲む。が_____クラディールだけが、水に手をつけない。

 

「_____?」

 

キリトは何か、不審に思った。

クラディールの視線はキリトたちに向けられて_____否、キリトたちの手に持っている物を注視している。

それはまるで____

 

「____っ、まさかッ!?」

 

獲物が、罠にかかるのを待つ狩人のような____そして、罠にかかる様を心の中で笑っているかのように。

即座にクラディールの思惑に勘づいて水の瓶を投げ捨てる。

が、それと同時に全身の力が、抜ける。抵抗することなど出来ず、そのまま地面に倒れ込んだ。

ゴドフリーともう1人の団員も同様に倒れ込む。

既に、遅かった。

 

 

「____ひひっ、ひひはははははははははははははははは!!」

 

 

クラディールが高らかに笑う。もう堪えられないとばかりに笑い叫ぶ。こんなフィールドダンジョンで大声をそうと、誰も気付かないだろう。

キリト達は彼の術中、掌の中に落とされてしまった。

「ど、どういうこと……だ…?この水、を用意したのは______」

「ゴドフリー…早く、解毒結晶を____」

左手で腰につけていたポーチから緑色の結晶アイテム___解毒結晶を取り出そうとして、

「えひゃあああああああッ!!」

「ぐ、ああ_____!?」

クラディールにポーチごと、蹴り飛ばされた。

「させると思ってんのかァ…?」

ポーチの中に入っていた結晶アイテムが散らばる。それもゴドフリーや俺たちの手では届かない。

「クラディール…これは、何かの訓練………なのか…?」

「バァーカがよォ!!」

「ごぁ……!?」

未だ状況を飲み込めていないゴドフリーはクラディールによって蹴りを入れられ、HPゲージが減る。それと同時にクラディールのカーソルが緑からオレンジへと変化した。

「ホントよォ……アンタは馬鹿だ馬鹿だって思ってたけど、筋金入りの筋肉脳味噌(ノーキン)だなァ!!」

自分が犯罪者(オレンジ)になったことも気にしていない様子でクラディールは嗤う。

「ま、待ってくれ!な、何かの間違いだ……これはただの訓練で____」

「さァて……ゴドフリーさんよ…アンタ、現実が受け入れられねェみてェだな……なら、さっさと死んで理解しろ________()()()()()()()()()()()()()()ってことをよォ!!」

無造作に振り下ろされる両手剣。ドスッ、という鈍い音と共にゴドフリーの背中に突き刺さる。

「ぁ……ぐあああああああああ!?」

「やっと理解したかよ!なら、もっといい経験させてやるよ……両腕両足切り落として、最期は首とイクかァ!?」

「や、やめっ_____」

「イヤッホォォォオォォォォオオオオオオ!!」

「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

右腕が切り落とされる。続いて左腕、そして、右足、左足。流血のエフェクトが散り、HPゲージがかなりのスピードで削れていく。

「いよいよ、ラストだぜ…?飛びっきりの叫び(歓声)を上げてくれよォ!!」

「ぅ、うああああああああああああああああああああああ_________!!」

「ヒャァァァァァァァァァアアアアアアア!!」

最後に首を斬り落とされ、それと同時にHPゲージが消える。

そして、ゴドフリーはポリゴン片へとなって砕け散った。

「______っ」

「いやァ……ったく、ゾクゾクしちまうよな……クセになっちまうぜ…なァ?」

「ひ、ヒィ___!?」

初めてではない。態度から見て明らかに回数を踏んでいる。

もう1人の団員は逃げようともがくが、体は麻痺しているので動けない。逃げられる術など、無かった。

「お前にはよォ……なんの恨みもねェ………でもなァ?俺のシナリオだと、生存者は()()()なんだよ…」

「や、やめてくれっ……来るな…!?」

「いいか…?俺達のパーティはァ……」

もう1人の団員の懇願も聞き入れることなく、クラディールはもう一度剣を振りかぶる。

「荒野のフィールドダンジョンで犯罪者プレイヤーの大群に襲われてェ……」

「ぎゃぁぁぁっ!?」

突き刺す。

斬る。

「善戦虚しく3人が殺されてェー……」

何度も、何度も。

「俺一人になったけど、見事犯罪者共を撃退して無事生還しましたァ…!」

遂にその1人もHPが尽き、ポリゴン片となって砕け散った。

「_____こい、つ」

「ああ……ぎも"ぢぃぃ……最っ高だなァ……!!」

それを見て、息を荒くしながら痙攣するように震えるクラディール。まさに《快楽殺人鬼》だった。

「……よォ…気分はどうだよ?お前の為だけに、余計なヤツ2人も殺しちまったじゃねェか…?」

「…その割には、随分と楽しそうだったな……お前みたいな奴が良くもまぁ、血盟騎士団に、入れたもんだよ………それこそお前には、《嗤う棺桶(ラフィンコフィン)》みたいなのがお似合いだ…!」

「________ 」

キリトの吐き捨てた言葉にクラディールは目を剥いて驚いた。そして、笑った。

「____くっ、ぎゃははははははははは!!なんだ、勘が鋭いなァ!!よくわかったじゃねぇか……お前の言う通りだぜ…?」

するとクラディールは何を思ったか、手甲を外し、

手首に描かれた何かをキリトに見せつけた。

そこには______

「_______ま、さか…お前…………!!」

タトゥーが刻まれていた。棺桶から除く、笑顔の殺人鬼。それは《嗤う棺桶(ラフィンコフィン)》のマークであった。

「その通り、そのまさかなんだなァ……俺は、元々ラフィンコフィンって訳だ」

「…お前、ラフィンコフィンの生き…残り、なのか……!?」

「いんや……俺が入ったのはあのラフィンコフィン捕縛作戦の少し後だ。もう解体されてたのと同じだったさ。だから、精神的にって所かァ…」

 

嗤う棺桶(ラフィンコフィン)》捕縛作戦。

それは3ヶ月前。攻略組はベルたちが率いる《スズラン》と共にラフィンコフィン捕縛作戦を行った。

被害は増えていく一方だったラフィンコフィンの悪行。だが、それは《スズラン》に提供されたとある情報によって阻止する目処が立った。ラフィンコフィンのアジトと思われる場所が分かったのだ。それを受けて《スズラン》と《青の騎士団》、《血盟騎士団》、その他攻略組によって作戦は行われた。

 

ベルは情報があるとはいえ、絶対に勝てる確証は無く、今までの相手の行動から楽観視は出来ないとの厳重注意を受けて作戦に臨んだのだが、先遣隊がそのアジトがあると思われるフィールドダンジョン一部である洞窟の中に何者かが入口で隠れているとの一報を受けた。

それを聞いたベルがこの情報が自分たちを欺くための罠だったことに勘づく。作戦を中止すべきだとベルは提案したが、しかし同時にこれはチャンスだとも言った。罠だとしても彼らの戦力を少しでも削れるのなら本望だし、リーダーであるPoHや他の幹部2人のしっぽを掴むには今しかない。故に作戦は続行された。

結果的に言うと、ラフィンコフィン40人の捕縛成功を攻略組6人の犠牲()に成し遂げた。

が、肝心のPoHやその幹部は発見には至ったものの、逃げられてしまった。

 

その一件があってからラフィンコフィンの名前は以前よりも聞かなくなったが、ひっそりと……しかし、確かに手を回していたのか。

まさかそれも攻略組の2大ギルド、《血盟騎士団》の中に紛れ込んでいるなど、誰が予想出来ただろうか。

 

「……で、なんで血盟騎士団に、入っ…たんだよ…あそこじゃなくたって、殺しは出来たろう…?」

「ぁン……?ンなもん決まってンだろォ________あの女だよ。お高くとまってる、副団長サマさ」

「…っ!」

理由を聞くのが馬鹿だった、とキリトは唇を噛む。この手の下種共は聞くのも呆れるような理由で犯罪に手を染める。

「イイ女じゃねぇか……ちょいと若すぎるがよォ…………上玉だよな…?」

「______ 」

そんな話を聞いていると同時にキリトはクラディールに見えないように左手をゆっくりと……麻痺した体で出せる全速力で動かし、腰に装備していた投擲用のピックを取ろうとする。怒りを抑え、奴に一矢報いる為に。が____

 

「それによ…この間お前と一緒にいた女……《ロニエ》……だったか。アレも中々だったしなァ……あれも一緒に頂くか…?」

 

その言葉を聞いたキリトは完全にブチ切れて直後、投擲スキルを左手の手首の動きだけで起動させ、クラディールの顔面に向けてピックを投擲した。

「______ッッ!!」

「がァ……!?」

それはキリトが狙っていた顔面_____彼奴の右眼、眼球にのクリティカルヒットした。麻痺している状態での投擲スキル使用は命中率が著しく下がるため、当たるかどうかは完全に運任せではあったが____

「テメェ_____やってくれんじゃねェかァ!!」

「ぐッ_____!!」

苛立ったクラディールの両手剣の一撃がキリトのHPゲージを2割に行かないほどではあるが、削っていく。

「ッたくよォ……まぁ、丁度いい。麻痺毒もあんま長い時間効くわけじゃねェからな……お前もそれを狙ってた腹だろ?」

「___!」

見抜かれていた。麻痺毒が解けるまでこの奇妙な会話を続けて時間を稼ごうとしていたが、クラディールも流石に分かっていたようだ。

「痛てぇな…あ?右眼視力無効化ァ…?チッ……余計なことしてくれてんじゃねぇか…」

クラディールは右目に突き刺さったピックを抜くと、クラディールのHPゲージの横に目に《×》の印がついたアイコンが表示された。右眼視力無効化状態。眼球に対して直接攻撃を食らった時に陥るデバフである。効果内容は察しの通り、右眼の視力が完全に消えるというものだ。

右目を閉じながら、キリトをクラディールは睨みつける。

「俺はこの時を待ってたんだぜ…?あのデュエルん時からよォ…」

「……!」

「さァて……イクぜェ…?」

クラディールは両手剣を動けないキリトの左胸向けてゆっくりと突き刺した。

「______っ!!」

ひんやりと、氷のように冷たい刃がキリトの胸を突き刺す。

「なァ……今どんな気持ちだよ?あそこまでデュエルでコテンパンした奴に、殺されるってのはよォ……?」

「____なら、逆に聞きたいな」

「ああ?」

クラディールの言葉にキリトは半ばキレながら言い放つ。

「_____純粋に戦って勝てず……相手を麻痺させることでしか俺を殺せないなんて滑稽だよな…?…自分じゃ勝てないことを自分自身の行動で指し示してるんだから…!!」

「テメェ、クソガキがァ……!!」

その言葉に激昂してより剣を深く突き立てるクラディール。

ズブズブと、キリトの体に剣が沈んでいく。減っていくHPゲージ。

抵抗しようとするが、キリトは麻痺しているせいで体の動きが鈍い。

このまま、キリトが殺されれば……アスナはどうなるのか。そして_____

 

______ロニエは、どんな目にあうのか。

そう考えるだけで、震えた。キリトと共に戦い、支えてくれた彼女が____このイカれた殺人鬼の手に渡る、そんなことは_____それだけは、許せなかった。

親友(ユージオ)はどう思うだろうか。あの優しい友は、キリトの死を知れば、怒り狂うだろう。ロニエも、どうなるかは想像に固くない。

15層で自身の死を偽ってPoH達を追い詰めようとした時も、ロニエはその精神が崩壊しそうになるほどにショックを受けた。

そうなれば_____本当に死んでしまえば、その比では無い。

彼女と過ごした日々が_____彼女の笑顔が、キリトに力を与えた。

こんな所で、諦めるわけにはいかなかった。

「ぐ、ぅおおおお……!!」

「おお?なんだよ…やっぱり死にたくねぇのかァ?」

「こん、なとこで、死ねるか_____!!」

「クヒャヒャヒャ!!そうだよなァ……そう来なくっちゃァ、面白くねェよなァ!!」

キリトが力を振り絞り、自身に突き刺さる刃に手をかける。引き抜こうと力を入れるが、クラディールはそれ以上の力で突き刺そうとする。キリトは麻痺しているが故に全力が出せない。

ゆっくりと_____刃が深く刺さっていく。

HPゲージも残り2割を切り、危険域(レッドゾーン)に入った。麻痺毒は、まだ解けない。

「______っ!!」

「さァ、死ねェ……死ねェェェェエエエエエエエエエエエ!!!!」

ロニエを置いて逝くのか。

この男の手に、堕ちる_____そう考えると恐ろしくなって、震えた。

そして、残酷にもクラディールの剣はキリトの体を貫通し、HPゲージは1割を切って_______

 

 

 

 

 



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運命の3分

こんにちは、クロス・アラベルです!
今回はキリトの元に駆けつけるまでの数分のお話です。
次回こそ、クラディールさんに鉄槌が下る……予定です(`・ω・´)

では、本編へどうぞ〜



 

 

 

血盟騎士団、本部にて_____

ロニエは不安そうにアイテム整理をしていた。時折フレンド欄からキリトの様子を見ては溜息をつきながら、だが。

 

「……大丈夫かな…先輩、クラディールさんと一緒のパーティに入ってるって聞いたし…」

 

ロニエもまた、クラディールの話を他の女性団員から聞いていたので心配でたまらないようだ。

 

「流石にキリト先輩があの人に正面切って負けるなんてないと思うけど…もしもってこともあるかもしれないし…クラディールさん、最近ギルドの中でもあんまりいい噂無いって聞いたしなぁ…」

 

血盟騎士団に入団してからロニエが初めに行ったことは、クラディールについての調査…もとい、聞き込みである。

 

血盟騎士団の中で最も不安要素があるとすればクラディールであると決めつけたロニエはそれまで知らなかったクラディールの素性や普段の様子などを女性団員や攻略時によく話すことが多い他の団員に聴き込んだ。

結果、クラディールは4ヶ月ほど前に自主的に入団申し込みをした、アスナのような幹部からのスカウトを受けた人とは違うプレイヤーだった。入りたての頃はあまり目立った行動はせず、ただひたすらにアスナの護衛班への参加を求めたという。

 

元々血盟騎士団の中にはアスナを崇拝するが如く信奉する変人プレイヤーもおり、クラディールもその1人だった。

初めはアスナも気にならない程度ではあったのだが、入団から2ヶ月頃あたりからその異常さは現れ始めた。

主にストーカー行為が目立った。自宅へ帰ろうとすると『護衛が必要でしょう』とついてくるようになった。アスナ自身もそれはいやだったので断ったのだが、しつこくついてくる。流石のアスナも気持ち悪いと思ったのか、《隠蔽(ハイディング)》スキルを使って撒いたこともあるという。一時はギルドの団長であるヒースクリフの指示にも逆らったくらいだ。

 

今や女性団員からのイメージは地に堕ちた。団員なので一応それ相応の対応をしなきゃならないので仕方なく、というのが女性団員の中での暗黙のルールだ。

この情報を聞くに、ロニエが出した結論とは______

 

「あの人、元々アスナさん目当てで入ったみたいね」

 

そう結論せざるを得ない。

しかして、今回のパーティにはアスナの前で恥をかかせた(元よりアスナには恥を見せ続けているので別に何かが変わるという訳では無いと思うが)その張本人(キリト)がいる。そうなればクラディールの取る行動は絞られる。

騎士団に諌められたので流石に謝罪をするか、逆恨みでありえない行動に出るか______

 

キリトとのデュエルの時の目_____憎悪とも取れるあの眼光は、その二択の答えがどちらなのかを自然に解らせてしまう程に明確な怒気と殺意がこもっていた。

 

「やっぱり、心配…」

 

そう言いながら再びフレンド一覧からキリトを選択し、HPゲージを確認する。

 

SAOのフレンドの機能には《親密度》というものがある。パーティを組んだ回数、パーティを組んでいた時間の総数、フレンド歴、アイテム交換の回数など様々なもので数値化され、それが100に近いほどフレンド間で出来ることが増える。というのもフレンド間で送れるメッセージの文字数の増量程度しかないが、一定の親密度を超えると、対象フレンドの簡易的なHPゲージをフレンド一覧からみることができる。言わずもがな、キリトとロニエの親密度が100に達している。

 

「……今ところ、別に攻撃を受けた感じはなさそうだけど」

 

キリト程の剣士がそこらのモンスターから攻撃を食らうことなど滅多にない。というより攻撃を食らう前に回避するか、倒している。それにソロプレイをしている訳では無いので攻撃を受けることはないだろう。

 

「……ぁ(そろそろお昼だ)」

 

メニューウィンドウに写った時間、11時58分。いつもならキリトと一緒に昼食をとっている時間だが、現在は別行動中だ。そして、ロニエはキリトに昼食のお弁当を渡すのを忘れていたことに気付いた。

 

流石に食べられるものをひとつも持っていないとは思えないが、若しかすると今頃愚痴りながら適当なものを食べているに違いない。ロニエもキリトの食べっぷりを見るのがすっかり日課になってしまったのもあって、すこし寂しそうにキリトに渡すつもりだった弁当のもう一方___ロニエの分の弁当をインベントリから取り出した。

 

「…あの人の隣にいるのが、当たり前になっちゃったなぁ」

 

これは嬉しい愚痴である。

アンダーワールドではキリトの隣にいられた時間などほんの少しだけだった。傍付き剣士として世話をした2ヶ月、アンダーワールド大戦の一時、そして、整合騎士見習いの日々。

共にいられた時間は短かった。ティーゼに比べれば長いものかもしれないが、それでもロニエにとってキリトの隣にいられることがどれほど幸せかは計り知れない。

それに、キリトにとっては唯一と言っていい存在になりつつある訳だが____

 

「……?」

 

弁当のサンドイッチを食べようとしたその時、誰かからメッセージが来た。

送り主は、ロニエの親友であるティーゼ。

どうしたのだろう、と片手でメッセージを開くと________

 

 

 

 

 

『キリト先輩が危ない!!先輩の元に走って!!ユージオの記憶じゃ、先輩がクラディールに襲われてる!!』

 

 

 

 

 

 

「________ッ!!」

 

そのメッセージを読んだ直後、お昼ご飯を置いてロニエは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユージオ、キリト先輩はどこのフィールドに!?」

 

「多分74層の迷宮区への道のり!!岩肌が見えてたから、最低限実力を測れるところと言ったらそこしかない!!」

 

32層、ユージオとティーゼの自宅にて、2人は急いで支度を済ませる。

 

「おとうさん、きりとにぃをたすけてね!」

 

「うん、ありがとねシャロ……少しの間留守番出来るかい?」

 

「うん!シャロだってしぃかねぇがいなくてもおるすばんできるもん!」

 

シャロはお任せを、と言わんばかりに胸を張る。

愛娘のその健気さに心打たれつつユージオとティーゼは家を飛び出し、躊躇なく転移結晶を使い、74層の主街区へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「むぐっ……!?麻痺毒ですって!?キリトくんが…?」

 

その頃お昼ご飯を食べてなんとなしに……キリトのことが心配になってフレンド一覧からキリトのHPゲージを見たアスナは驚いた。キリトが麻痺毒をくらっているではないか。しかも、アイコンの数字からしてLv5。プレイヤーの作れるLv3の範疇を超えた、フィールドボスモンスタードロップオンリーの激レア毒だ。しかし、キリトが向かったはずのフィールドでは麻痺毒を使うモンスターは居ないしポップする筈がないのだが____

 

「まさか____!」

 

悪い予感が走る。

ここまで来れば本当にそうなのだと認めざるを得ない。

クラディールがやったのだとアスナは確信した。元々彼を信用してはいなかったものの、キリトとのデュエルの件で完全に分かった。

彼は危険だと。

すぐさまギルドの副団長権限をもってキリトたちのパーティのHPゲージをひっぱりだす。

 

「…クラディール以外が、麻痺_____もう言い逃れは出来ないわね」

 

確定である。

アスナは愛剣を腰に装備し、部屋から出ようとドアを開けて______

何かが凄まじいスピードで走っていくのを見た。

 

「まさか、ロニエちゃん______!?」

 

焦げ茶色の髪の少女はアスナのことに気付かず本部を走り去って行った。

ロニエも同じようにキリトのHPゲージをフレンド一覧から見ていたことを見抜いたアスナはロニエに追いつこうと走り出した。

が_____

 

「速すぎ____っ!!」

 

街の転移門前に到着したがロニエの姿は無い。アスナは急いで74層の主街区へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「あ、ユージオ君とティーゼちゃん!どうしてここに!?」

 

「アスナさん!」

 

「_______アスナ!ロニエからキリトが危ないってメッセージが……ロニエは____」

 

「そうだったのね……ロニエちゃんならもう先に行っちゃったわ!私達も早く行きましょう!!」

 

74層の主街区の転移門前にて2人はアスナと合流した。アスナに何故ここにいるのかを聞かれてユージオは咄嗟に嘘の理由をでっち上げた。本当のこと____キリトの記憶を見た、とは言えない。

 

「間に合って______!!」

 

走り出した3人。今は一刻の猶予もない。ロニエが先に行ったが、1人だけでは不安だ。

増援は1人でも多いと良いが、これ以上の人数を呼ぶのは時間がかかる。ユウキとランはユージオの記憶の件を知っているので知らせれば来てくれるだろうが、今はこの人数で行くしかない。

しかし、迷宮区程では無いとはいえ、そこはフィールドダンジョン。当然___

 

「モンスターがいるよね_____」

 

最悪のタイミングでポップするモンスター。数は4体。蹴散らせなくもないが、時間が惜しい。故にここは、

 

「僕とティーゼに任せて、アスナは先に行って!!」

 

「ユージオくん!?」

 

「アスナさん、私達もすぐ追いつきますから______!!」

 

「_____分かった!!」

 

ユージオとティーゼだけで対処出来る数だ。それに3人の中でスピードが1番あるのはアスナだ。アスナを走らせた方が早く着く。

ユージオとティーゼの言葉に悔しそうな表情を一瞬見せたが、アスナはそのまま走っていった。

 

「この先に用事があるんだ_____邪魔するなっ!!」

 

「はあああッ!!」

 

2人は剣を鞘走らせながら、モンスターへと斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

「__________っ!!」

 

走る。

走る、走る。

モンスターが現れようと見向きもせず、素通りしてキリトの元へと急ぐ。

『ゲ、ゲギャ______!?』

モンスターの反応を完全に振り切って走り続ける。

ロニエはアスナのような完全なスピード型のプレイヤーではない。が、今この時だけはそのアスナ(閃光)のお株を奪う程の速さで駆け抜けていた。

そして____

 

「ッ!索敵スキルにプレイヤー反応が入った___!!」

 

索敵スキルが半径100メートルにプレイヤーがいることを知らせる音を鳴らした。人数は、2人。人数が当初の半分になっているが、何故そうなったかは簡単に予想がつく。このままなら_____およそ、10秒もないくらいで辿り着く。

そのまま100メートルをたった7秒で走りきり、ようやくたどり着いた。そこに居たのは________

 

『さァ、死ねェ……死ねェェェェエエエエエエエエエエエ!!!!』

 

愛しの人(キリト)に両手剣を突き刺す、クラディールだった。

ロニエは完全にブチ切れて、

 

「______ああああああああああッッ!!!!」

 

本気の斬撃をクラディールの両手剣に向けて放った。

キリトの危機を察知してから、約3分。

ロニエの疾走がここまで速くなければ______キリトは殺されていただろう。

 



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守りたかった物

お待たせ致しましたー!クロス・アラベルです!
今回は待ちに待った回です…!
そして、これを書いてる時に痛感しました。
「あ、自分ラブコメ書くの苦手だな(白目)」
と。
下手ではありますが、良かったらどうぞぉ……(苦笑)
来年はいい感じのペースで投稿出来たらなぁ…と思います、はい。
それでは本編どぞ〜
そして良いお年を〜!


 

 

 

 

「ぐべらッッ__________!?」

 

俺のHPゲージが一割を切って、もうすぐゼロになる______その直前、奴はあらぬ方向へ吹き飛んで行った。

 

「な______」

 

「___間に、合った…!!間に合いました…!」

 

傍に駆け寄ってきたのは、今は血盟騎士団の本部にいるはずのロニエだった。

なんでロニエがここにいるんだ…?

そして、何故だか抱き着かれた。

流石に恥ずかしさに頭がショートする訳にも行かないので、耐える。

 

「____ヒール、キリト!!」

 

直後、治癒結晶を使って俺のHPを全回復させてくれた。もしかするとフレンド欄から俺のHPゲージを見ていたのかもしれない。ここまで来るのに俺たちは歩いてではあるが1時間かかった。それをロニエはたった数分で_____

 

「待っていてください、キリト先輩______」

 

直後、ロニエは冷たい声でそう囁いた。

ロニエは怒ると怖い。ほんとに怖い。

今回のは特にそうだった。鬼気迫るものがあったような気がする。

 

「ロニ、ェ……まっ____」

 

俺はロニエに待ってくれと言おうとしたが、まだ麻痺状態が続いているせいでろくに喋れない。さっきまで死にかけてたせいもあるのか、恐怖で体が動かない。

 

「っづァ………クソッタレが、何なんだ……!?」

 

「_______」

 

吹き飛ばされたクラディールはようやく自身を攻撃したのがロニエだと気付いたようだ。

俺からはロニエの背中しか見えないが、ロニエはどんな顔をしているのか、わかる気がする。

 

「て、てめぇ……なんでこんな所に…!?」

 

「……!!」

 

「はっ、小娘一人でノコノコと来やがって…まぁいい。お前もどうせは______」

 

クラディールは両手剣を片手に立ち上がる。

ロニエも片手剣を中段に構える。

まさか、やる気なのか。

駄目だ。ロニエ、お前はそんな奴に手を汚すことなんて______

 

「キリト君!!」

 

と、その時アスナが駆けつけてきた。

 

「体力は、回復してるのね……ロニエちゃんが間に合ってよかった…」

 

「アス、ナ……」

 

「大丈夫、後でユージオ君とティーゼちゃんも来るから」

 

アスナもロニエと一緒に来てくれたのだろうか。ユージオとティーゼも来るらしい。多方、途中で出てきたモンスターの相手をしてるんだろう。

 

「あ、アスナ様……!?」

 

「……クラディールさん_____いえ、クラディール。これはどういうことですか?」

 

「ぁ、こ、これは……その…そう!不慮の事故でして____」

 

アスナの姿に目に見えて驚くクラディール。ロニエだけなら隠す気はないようだが、アスナがいるとなれば話は別か。

形勢逆転だ。

 

「何故そうなったかを事細かに説明出来ますか?他2人の団員が死んでいることについても」

 

「そ、それは______」

 

アスナの言及に奴は言葉を詰まらせるこの光景を見てクラディールの言葉を信じるものはいまい。何せ、俺だけが麻痺毒で倒れ、1箇所に散らばる結晶系アイテム。そして、オレンジ色のクラディールのカーソル。言い逃れ等、出来ない状況だ。

 

「ちぃ、仕方ねェ……どちらにせよお前らも______あぶァ!?」

 

言い逃れ出来ないと判断したクラディールが本性を現した_____その直後、銀閃がクラディールの口を斬り裂いた。

 

「___遂に本性を現したという訳ですか」

 

背筋が凍るほど冷たい声。それには確かな怒りを感じた。

俺でも剣筋が見えなかった。凄まじい剣速。確かにロニエには剣の才能があるし、俺以上かもしれないと感じたこともある。しかし、これは____

 

「覚悟して下さい。躊躇する必要も無いですから」

 

「はっ、小娘が調子に乗ってんじゃ_____ぶぉあ!?」

 

「____殺された人達が感じた恐怖を体験する…それくらいは亡くなった人も望んでいるでしょう」

 

「クソがァ___!!」

 

「はぁぁぁあああああああああッッ!!」

 

「ぐ、ぉうおおおお!?」

 

銀の閃光が奴を切り刻む。

その斬撃にクラディールは防戦一方____いや、何も出来ていない。ロニエ自身、奴を一息に殺すことも出来るだろう。1分程あれば可能な筈だ。しかし、それをしないのはそれでは罪を自覚させる___それに繋がらないからだろう。攻撃を掠らせて、少しずつHPを削っていく。しかし、ロニエも攻略組のトッププレイヤーだ。その攻撃力は尋常ではない。

 

「いっ、びぅっ!?」

 

「ぜあああああああああッッ!!」

 

「ぎぃえっ!?」

 

最後の一撃が奴の腹に決まった。あとHPは1割。あと一撃で確実に決まる。

だが_____止めてくれ。

お前がそんなことをする必要は_____

 

「わ、分かった!ギルドを抜ける!アンタらとも関わらねぇ、から_____!?」

 

「_____ッ!!」

 

「許してくれ_____死にたくねぇぇぇぇぇ!!!?」

 

「___死にたく、ない…?」

 

クラディールの言葉にロニエの剣筋が止まる。

 

「人の命を散々奪っておいて、自分は死ぬのが怖いですって……?」

 

剣を持った右手が震えている。それは、怒りだ。純粋な、怒り。

 

「巫山戯るのもいい加減にしなさい!!貴方が殺してきた人達がどれだけ恐怖を感じたか、今頃になって知ったからって、許されると思いますか!?」

 

ああ。その通り。決して許されるものじゃない。この期に及んで命乞いなんて巫山戯るな、と俺も思う。

けど、ダメだ。

くそっ、麻痺毒はまだ解けないのか…!?

視界内には雷マークの麻痺毒アイコンが点滅している。もうすぐ消えるようだが、このままだと_____

 

「躊躇はしません。今までしてきたその蛮行、ここで裁く__________!!!!」

 

「ひぃぃぃい!?」

 

「止めろ、ロニエ!!」

 

ロニエが剣を振り落とす直前、ギリギリ俺の声が届いた。

体は動かないが、口だけなら動かせるようだ。

ロニエの剣は止まった。

俺からじゃ、ロニエの表情は見えない。

言葉を続けなければ、ロニエは止まらない。それこそ、その怒りを鎮めなければ。

しかし、俺の持つ言葉で出来るのか…?

いや、やって見なきゃ分からない。

出来なければ俺が体を張って止めるだけだ。

 

「……何故、止めるんですか」

 

「当たり前だろう。そんな奴に、お前が手を下さなくてもいい」

 

「誰かが止めなければならない事です」

 

「その手段が、殺し(それ)なんかじゃ…そいつらと変わらないんだぞ」

 

「…!」

 

「そいつだって生きてる。それは俺達と変わらないだろう?殺し(それ)以外にも方法はある筈だ。そいつを止める、方法が…」

 

「………」

 

ロニエが、葛藤している。

まだ、言葉は届いてる。なら、説得出来る。

だが_____その隙を、アイツが見逃す筈がない。

止めなければならないが、止めればロニエに危険が迫る。

早く麻痺が溶けてくれれば、俺が今すぐあいつを斬るのに_____

多分あと、数秒で麻痺が取れる。

けど、その数秒が惜しい。

早く_____

 

その時、俺が危惧していた事態が起こってしまった。

 

「ヒャァアアアアア!!!!」

 

「____!?」

 

飛ぶ剣、響き渡る狂気に染った奇声。

ロニエが見せたその隙を、奴は見逃さなかった。

ロニエは完全に剣を弾き飛ばされ、体勢がぐらりと崩れている。あれでは____次の攻撃に対処するなど不可能だ。

しかし、それと同時にパッと。

俺の麻痺毒アイコンが消えた。

動かせる。なら、急げ_____!!

 

「あめぇんだよ___小娘がァ!!!!」

 

「_____ぁ」

 

「___________ッッ!!」

 

判断は一瞬。

いや、考えるよりも先に体が動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ____!!」

 

走るユージオとティーゼ。

2人は先程タゲってしまった4体のトカゲ型モンスターを20秒で片付けて、走る。既に索敵スキルには4つの反応があることを確認済みだ。

1つは問題のクラディール。そして、キリト、ロニエ、アスナだ。

一つだけ他の3つから離れた位置にある。多分これがクラディールだろう。およそ、寄り添っている2つのうち一つがキリト。あとの2つがロニエとアスナだろう。

 

しかし、ユージオには悪い予感がしていた。

ユージオが見た記憶によると、キリトを助けたアスナが激昂してクラディールを殺す一歩手前まで攻撃した。そして、一瞬見せた隙をつかれてアスナも攻撃されそうになったのをキリトが身を呈して守り、反撃して____クラディールを殺してしまう。

今の状況はどうなっているのだろうか。

変わらず、アスナがクラディールを責めているのか。

しかし、今この時代で1番キレるであろう人物は_____多方ロニエだ。

彼女はユージオ無きアンダーワールドにて整合騎士としてティーゼと共に責務を全うした。故に責任感やその正義感は人一倍強い筈だ。当然、キリトを想う心も。

故に、ロニエならやりかねない。

ユージオはそう考えた。

しかしその考えに至ったのは、ロニエと共に整合騎士として戦ったティーゼの方が早かったようだが。

 

「______ティーゼ、君は回復結晶を!クラディールは弱ってるはず……キリトが奴を攻撃したらそのまま殺してしまう!」

 

「だからその前に回復させて死なせないようにする……よね!!」

 

「頼むよ!僕はクラディールが動かないように、これで止める!!」

 

そう言ってユージオは腰のベルトから、投げナイフを片手で取り出す。

そのナイフは黄緑色に濡れている。そう、麻痺毒付き投げナイフである。

ユージオはクラディールを殺させずに、黒鉄球の牢屋に入れることを決めた。キリトには殺しなどさせない。だが、クラディールにはそれ以上蛮行をさせない。

これがユージオの決断だ。

索敵スキルの反応の距離からして、ほんの数秒で辿り着く。

勝負は一瞬。

クラディールを見つけ次第、ティーゼの回復結晶、そしてユージオの投げナイフ。

それでこの場を収める_____!!

 

 

たどり着いた。

岩場から飛び出し、作戦を実行する。

すでにクラディールは虫の息。が、ロニエが剣を持っていない。クラディールは既にソードスキルを発動させてロニエを殺そうと襲いかかっていた。

しかし、キリトが動いていた。麻痺から回復したようで、武器も持たずにロニエの元へと駆け寄り、片手でクラディールの凶器を受け止めた。落ちるキリトの右腕。が、キリトは止まらない。

ジャストタイミング。

まさに事が起ころうとしていた。

 

「ヒール、クラディール!!」

 

「_____はァッッ!!」

 

ティーゼの回復結晶の発動しクラディールの体力が全回復する。直後、ユージオの投げナイフが投擲スキルのソードスキル《ラピッドシュート》が発動し、ナイフが音速でクラディールの右肩に突き刺さった。

麻痺状態に陥ったクラディールは力なく倒れようとし____その隙をキリトは逃さなかった。

 

「_____うおおおおおッッ!!」

 

斬り落とされなかった左手が体術ソードスキル《エンブレイサー》を発動させ閃いた。

 

「________がァ!?」

 

見事命中。

そして、クラディールは為す術なくそのまま吹き飛んだ。

HPゲージは2割に届かないくらいには削れており、あのままだった場合____あと1割しかHPが残っていなかったクラディールは死んでいただろう。

まさに、紙一重。

奇跡に等しい結果だった。

 

「____間に、あった……!」

「良かったぁ…」

 

勢いに任せて飛び出したせいで2人仲良く地面に倒れたユージオとティーゼは安堵する。

 

「____助かった…」

 

キリトも同時に安堵した。ロニエが殺しをすることなく、彼女がクラディールの毒牙にかかることもなかったのだから。

もう1つ____キリト自身がクラディール殺すことになることも分かっていたがそれもユージオとティーゼによって防がれた。

後ろを振り返るとユージオとティーゼが安堵の表情をでキリトを見ている。

 

そして______弱々しいロニエの声が、聞こえた。

 

「__ぁ、先輩…」

 

「ロニ、エ____?」

 

彼女は、泣いていた。

ポロポロと大粒の涙を零しながら、へたり込む。先程の怒りなど、かき消えてしまった。

ロニエにとってのトラウマ。

キリトの()()()()()

それこそ、セントラルカセドラルでの戦いの後、ロニエとキリトが再会した時に見てしまったその痛々しい姿に彼女は大きく心を痛めた。右腕は無くなり、キリトの心は崩壊し、物言わぬ植物のようになってしまった。

それが、再来する。

血は出ていない。アインクラッドでは血は表現されず、赤いエフェクトの破片がこぼれ落ちる程度だ。

だが、ロニエのトラウマを引き起こすには充分だった。

 

「______また」

 

「___また、私が…」

 

「__また私のせいで、先輩が…!」

 

それだけではない。修剣学院でのあの事件が蘇る。まだ、弱かった頃______初等練士時代。ロニエとティーゼを助ける為に、ユージオは片目を失い、キリトは人を殺した。今はクラディールを殺した訳では無い。だが、状況があの時と重なって_____

自責の念は、彼女を傷付ける。

後悔したくないから。

悲しいのは嫌だから。

故に。

強くなって、キリトの隣で守ろうとしたのに。

想いを伝えようとしたのに。

_____まだ助けられる側にあった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」

 

手で顔を覆って泣くロニエ。キリトはロニエの過去を知らない。だが、深刻な問題を抱えているという事は分かった。今まで健気に自分の事を慕ってずっと着いてきてくれていた仲間は_______ただの女の子だった。

分かっていたのに、キリトにとっては今頃になって痛感する。

キリトが気付いていないだけで、ロニエはここまでキリトのことを想ってくれていた。

自分がヒースクリフとの決闘に負けて、ギルドに入った時も一緒に入ってくれたのも。

今までパーティを組んで一緒にクエストに来てくれていたのも。

一緒に出かけようと誘ってくれたのも。

若しかすると_______第1層で出会って、パーティを組むことになった時も。

そう考えると、なんと______

 

「私、が…ひっ………守るって…決めたのに…ぃ……!」

 

なんと、愛しいことか。

 

「____ロニエ」

 

「わた、し…やっぱり先輩と、一緒にいちゃ…っ、いけない…んです」

 

麻痺から回復したとはいえ、まだ感覚が完全に戻っていない体に鞭を打つ。

 

「ロニエ」

 

「だから、っ______」

 

震えきった小さな体を、抱きしめる。

失った右腕も構わず力一杯に、それでいて、優しく。

ロニエの身体は、キリトの予想以上に細かった。こんな腕でどうやって剣を振るうのか疑問に思うくらいに。

一瞬ロニエの身体は震え、抵抗しようと力を入れた。が、上手く力が入らないのだろう。キリトの抱擁からは逃れられない。

ロニエの視界には、今頃ハラスメント防止コードの発動の有無を聞くシステムメッセージが出ている。OKのボタンを押せば、キリトは黒鉄球の牢屋へと飛んでしまう。だが、ロニエに、そんなことは出来なかった。

 

「___ダメです、先輩っ……守れなかった私じゃ………また、___あなたを危険に晒しちゃう、から___!!」

 

「____」

 

「こうなるかもって…分かってたのに、止められなかった…私じゃっまた……先輩にこんな目に遭わせて、しまうかもしれ______」

 

直後、ロニエはキリトに唇を奪われた。

有無を言わせず、力強く。

数秒間の沈黙。

 

「___ん、ぁ……」

 

「…ロニエ。お前が____いや、君が何に縛られているか、何を背負っているのかは…俺には分からない。けど、さ」

 

キスを終え、キリトはロニエの肩を掴んで言葉を紡ぐ。

 

「____それが、ロニエにとって凄く重いものだって言うのは俺にも分かる。そんな、泣いてる姿見せられたら……苦しんでるのを見たら、俺だって苦しくなる」

 

「ロニエが一人で背負ってるもの____俺にも、背負わせてくれないか?」

 

「_____!!」

 

「訳は今すぐに話さなくていい。明日でも、1ヶ月後でも、1年後でも_____俺は君が、君から話してくれるのをずっと待つから。だから____」

 

「せん、ぱい_____っ!!」

 

そして、キリトはロニエをもう一度抱きしめる。そして、囁いた。

 

「……ロニエはこう言ったよな。『()()()()()()()()()()()』ってさ」

 

「なら俺にも、君を守らせてくれ。ずっと____君が許すのなら、ずっと」

 

「____ぁ、ああ……!!」

 

涙を流しながら、ロニエはキリトを抱きしめた。

キリトもロニエを優しく包み込んだ。

 

2人を引き裂く者は誰もいない。

いるのは、そんな二人を祝福する者だけ。

 

「……ロニエ…!!」

 

「…良かった、ロニエちゃん…!」

 

「____君にも、こうやって守りたい人が出来たんだね、キリト。愛する人が___」

 

既にクラディールはもう居ない。今頃ユージオが使った回廊結晶によって黒鉄球の牢獄へと飛んでいるだろう。

 

もう迷わないだろう。必ずや、お互いを守り続ける。

二人は、互いの温もりを確かめ合ったのだった。

 

 



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誓い

たいっへん長らくおまたせしました…クロス・アラベルです。
では、この年始一発目のお話は、前回に引き続きキリロニ回です!
ここまで来るのにどんだけ時間かかってんだ…
この次もキリロニ回になります。
ラブコメを書くのが苦手ではありますが、頑張りました!
では、初恋同士のウブな2人の甘ーいお話をどうぞ〜


 

「………」

 

「………」

 

宿の一室。

そこに二人は居た。

クラディールの一件から1時間後、身体的にも精神的にも疲れているだろうから2人で休んでほしいとアスナとユージオ達から言われ、主街区の宿に泊まることにした二人。ここには一応キッチンも備え付けてあるので現在ロニエが夕飯の支度をしているところだ。

 

「……………」

 

「……………」

 

が、残念な事に会話が全く無い。

キリトの方は理由は言わずもがな_____

 

「………(ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!何やってんだ俺っ!?あの状況でっ!?キスゥ!?頭おかしくなったか!?もう変態扱い確定だろ!!ああもう……!ロニエがあんなに号泣するもんだからどうにかして慰めないとって思ってたらなんか愛しいなぁって思ったぁ!?考えおかしいぞ!?ヤッバイ声掛けづらい!!あんなことした手前、明るく話しかけるのもおかしいしいっそ完璧な土下座を決め込むのも視野に入れなくては______しかしてロニエの事が愛しいなぁって思ったのも事実ではあるし俺がその後口にしたセリフもホントの事だから____うああああああああああああああ!!!!ロニエとキスしたあの感覚がまだ残ってるぅぅぅ………柔らかかったなぁ……じゃない!!何思い出してるんだ俺ぇぇぇぇぇええええええええ!?)」

 

この通りである。

コミュ障男子15歳、絶賛大パニックだ。

一方ロニエの方は____

 

「………(……………先輩が……せ、接吻を……ああもう!考えちゃダメよロニエ!!考えたら頬が緩んでしまいそう…!それに先輩の前であんなにみっともなく大泣きするなんて…気が動転してたからってあれは……!!でも、先輩の唇……結構柔らかかったなぁ……って何考えてるの私!?ダメダメ思い出しちゃダメっ!!こんなのじゃ先輩と顔合わせられない〜!!)」

 

こちらもまぁ、だいたい同じようなものである。

キリトは備え付けのソファーに座り頭を抱え、ロニエは料理をしながらも両頬に手を当てて顔を真っ赤にしている。

その時、グラタンを焼いていたオーブンから焼けたことを知らせるベルが鳴る。ロニエはそれで我に返り、サラダやその他の料理の盛りつけを済ませ、キリトの待つテーブルへ。

 

「せっ、先輩!出来ましたよ!」

「おお!で、出来たか!こりゃ美味そうだな!」

 

微妙に焦る2人のぎこちなさと言ったら、他の人達が見ればニヤケが止まらないだろう。特に女性陣の反応は目に見えている。

 

「じゃ、頂きまーす…!」

「はい、有り合わせのものですが…」

「ぁむ、ぐ……ん、ん、ん……んんんぅ!!」

「ホントですか?良かったです♪」

 

ほとんど一緒にこの1年半パーティを組み、同じ釜の飯(というよりロニエ手製の料理の数々)を食べてきたが、キリトは飽きることは無いだろう。

今思えばこの2人はこの1年半の間、殆どの時間を共に過ごしてきた。本来(キリトだけ)なら別段、特定の人物と一緒にいるという事もそこまで無かったが、今やユージオ達と共に戦ってきたせいか、キリト自身も無意識に誰かと一緒にいることが日常になりつつある。特にユージオやロニエがそうだ。

 

あんなことがあったけれど、二人の関係は変わらず______

 

「……」モグモグ

「……」モグモグ

 

に居られるわけはなかった。

先程と同じく頭の中は大混乱、次に何を話そうか、相手がどう思っているのだろうか…とずっと考え続けている。

そのまま、会話が出来ることなく。

完食である。

 

「ご、ご馳走様でした。美味かったよ」

「い、いえ!こちらこそお粗末さまでした!」

 

食後のティータイム。

ロニエが用意してくれた紅茶(的な飲み物)を飲みながら、沈黙は続く。しかし、二人は意を決して同時に口を開いた

 

「……あのさ、ロニエ!」

「…あの、キリト先輩!」

 

「あ、お先にどうぞ…」

「いえ、その、先輩からどうぞ…」

「いやいや、ロニエから…」

「いえ、私はその後でいいので…」

 

顔を赤くしながら譲り合う2人。

 

「…じゃあ、俺からでいいか?」

「はい、どうぞ!」

「……えっと、その…だな」

「……」

「…このSAOが始まってすぐにロニエと出会ってここまでずっと一緒に走ってきてくれた。俺は凄く感謝してる、ありがとな。ロニエ」

「…!いえ、私がしたいと思ってやっている事なので…」

「…俺さ、ホントはあんまり人付き合い得意じゃないんだ。現実(向こう)じゃ伊達に友達も居なくてさ」

「…はい」

「それに、俺の家にいる家族は……ホントに血の繋がってる家族じゃないって4.5年前に知った。だからかな……いつしか、目の前にいる人が本当に誰なのか分かんなくなったんだ。」

 

キリトの独白。キリトが抱えてきたモノ。

 

「今まで育ててくれた母さんや父さん、一緒にいたスグ…いや、妹も、信じられなくなって………それで、ネットゲームとかに沼りだした。_____思ったんだ。現実世界も、ネット……だけじゃないな。このSAO(仮想世界)もそう違いは無いんだって。」

 

「……ここだって、目の前の人間が本当は誰なのか分からない。現実世界も同じだった。それに______俺にとっては、桐ヶy……いや、現実世界の俺でいなくて済む、このネットの世界……いや、仮想世界にのめり込んでしまった」

 

「これは《逃げ》だって分かってた。それでも止められなかった。だからかな……このSAO事件に巻き込まれたのも」

 

「…でもさ。ここに来て、ようやくわかった気がするよ。この仮想世界でも、友達が出来て、仲間が出来て____それで、その___信頼出来る人がいる。でも、多分この関係は現実世界に帰ったとしても、続いていくと思う」

 

「現実世界も仮想世界も、そう変わらなかった。人を……想う気持ちがあれば、人が本当は誰なのかなんて、関係なかったんだって。俺は、この世界に来て気付けた」

 

「…それに気付けたのは、ロニエのおかげでもあるんだ。ずっと一緒にいてくれてこのことに気付けた。まぁ、今じゃロニエがいないと死にかけるダメ人間になってるけどさ」

「ダメ人間だなんて、そんな…」

「ん。でも一応事実だからなぁ。」

なんて、あははと笑いながらキリトは続けた。

「……それで、だな。その………ロニエが良ければなんだけど…」

「…?」

するとキリトは顔を赤くして頭を掻きながら言った。

「……これからも一緒にいて欲しいなって…さ」

キリトにとって、大告白。

結構コミュニケーションが苦手で、今も恥ずかしさに打ち震えているキリト。

それに対しロニエは_____

 

「はい!勿論です。これからも私は先輩の傍付き…では無く、パーティメンバーとして_____」

 

____悲しいことに、気付かなかった。

いや、ロニエが悪い訳では無い。

はっきり言わない人(キリト)の方が、どちらかというと悪いのだから。

 

「いや、その…そういう意味じゃなくて………ああもう!まどろっこしい!!遠回り過ぎて分からないよな!ごめん!!」

「え?」

「____ええいっ、この際だ。ハッキリさせとくけどな、ロニエ!俺は______」

「は、はい…」

 

「_____ロニエの事が好きだ!!」

 

_____言い切った

 

「___ぇ?」

いきなりのことに思考回路が停止するロニエ。それに畳み掛けるようにキリトは思いの丈をぶつける。

 

「分からないか!?なら何回でも言うぞ!俺はロニエが好きだ!!1年半前、初めて出会って、ずっとパーティを組んで一緒に戦って、ご飯も食べて、時には探偵の真似事さえした!この1年半は俺にとってかけがえのないものだった!!特に、ロニエと一緒に居る間は!!」

 

「え_______ぇっ?」

「気づいた時にはもう完全に、その、惚れてたんだよ!!戦ってるのその凛々しい表情に、スイーツを食べる時の幸せそうな顔も、幽霊が怖いってちょっと怖がってる顔も……!!」

「ぇ、え、ええええ…!?////」

出る。

「歩きながら服を選んでる時の悩んでる顔も、可愛いし!寝巻き姿は反則級に可愛かった!!」

「ふぇっ…!?//////」

出る出る。

「シャワー浴びた直後なんかホント、危なかった!!色々と!!」

「……っ!?////////」

今まで心の中で思っていた事が、堰を切ったように溢れ出す。

「俺の歩くスピードを合わせようと隣を歩いていたのも、控えめに今日何が食べたいか聞いてきたのも、全部……凄い嬉しかった!!」

 

「俺は_____そういうとこ全部ひっくるめて、ロニエが好きなんだ!!今だって心臓バックバック言ってる!!多分顔も人に見せられないくらい赤くなってると思う!!」

 

「___さっきのは、そのなんて言うか…………ぷっ、プロポーズとして言おうとしたんだけどあまりにも恥ずかしさが後から出てきて上手く言えなかった!!」

 

「だから言わせてくれ!!俺は、ロニエの事が大好きだ!!これからずっと一緒に____俺の隣にいて欲しい!!その、つ、妻として!!」

「_____ぁ//////」

トドメ。

今の今までロニエの猛アタックに反応しなかった(心の中ではめちゃくちゃ過剰反応してた)キリトが絞り出す、ロニエへの《好き》の気持ち。

 

キリトがメインメニューを操作し、アイテムストレージから何かを取り出した。

キリトの右手にのる小さな、綺麗な箱。

キリトはそれを左手で、ぱこっと空けてロニエへ差し出す。

その中には______一つの指輪が入っていた。

 

「け、結婚……して、くれ…!!」

 

それは、今から2ヶ月前。

キリトがリズから恋愛相談へのアドバイスを貰った2日後。

リズにアドバイスを貰いながら指輪を選びに街へ行った。

結局キリト、及びアドバイザー(リズ)の食指が動くものは無く、その時居合わせたティーゼの提案によりオーダーメイドで指輪を作った。

それが、これである。

指輪の裏には、キリトとロニエの名前が彫ってある。

因みにネズハ渾身の作だ。

『キリトさんとロニエさんの為なら』と、手を貸してくれた。

およそ______このアインクラッドで、ただ一つしかない。

キリトの想いが詰まった指輪だった。

 

「______ 」

 

それに、ロニエは______一筋の涙を零した。

「___本当に、良いんですか?」

「何が?」

「私、なんかで…だって、他にもいるじゃないですか。アスナさんだって、リズだって、シリカちゃんだって_____」

キリトは、本当ならアスナと結ばれていた筈だった。なら、そうなるのが普通ではないか。そんな言い訳じみた言葉がこぼれる。これ以上の幸せは、彼女にとって怖かった。

 

アンダーワールドで。

彼女はその想いを誰にも明かすこと無く、墓まで持って行こうと決めていた。そんな彼女にとって今この状況が、信じられなくて。

 

これが実は夢で。

 

ふと、起きる時が来たら。

 

この1年半は、夢となって消えてしまうのではないか。

 

そんな根拠の無い、悲劇。

 

それが現実になりそうで怖くて。

でも、キリトはそれを吹き飛ばす。

「俺は、ロニエがいい」

確固たるそのロニエへの想い。

「私_____貴方を守れなかったんですよ?」

「いいや、ロニエは俺の事を守ってくれたよ。俺は充分助けられた。塞ぎ込むことしか出来ないだろう俺を、ここまで変えてくれた」

「こんな____幸せになっていいんですか?私なんかが…」

「俺は、ロニエじゃなきゃダメなんだ。だって_____ロニエ以外、有り得ない」

「______っ!!」

「あの時も言っただろう?ロニエが俺の事を守るって、そう言うなら。俺はロニエ、君を守るよ」

「______ぁ、ああ…!!」

最後のダメ押し。

「至らない所も沢山あるだろうけどさ。一緒に、いてくれないか?」

認めるしか無かった。

これが、キリトの本心であることを。

彼と出会って、ずっとしまい込んでいた想いが溢れ出す。

「________はいっ…!!」

そして、彼女は涙を流し、笑顔でキリトの想い(指輪)を受け取ったのだった。

 

 



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___幸あれ

お待たせしました!クロス・アラベルです!!
はい!タイトル通りになります!
二人のこれからに、幸あれ____!!
次回から朝露の少女回になる予定です。多分かなり文字数多くなりそう…
ではほんへをどうぞ〜d(˙꒳˙* )


 

 

「_____なんて清々しい朝」

次の日。

キリトはベットで目覚めた。

「……ん…」

「…ダメだ、頬が緩む」

上半身を起こして右側のベッドを見ると、ロニエが眠っている。

昨日のプロポーズ。

キリトの計画にあったかっこいいプロポーズとはかけ離れたものだったけれど、ロニエは結婚を了承し、大成功。

そして______

「…いい雰囲気だったとは言え、な。あんまりだったか」

その後、2人は____(ry

これ以上語るのは無粋というものだ。押して察しよう。

「さて、今日は一旦血盟騎士団の本部へ行かないとな」

昨日の一件。

アスナが既にヒースクリフに伝えているとはいえ、本人たるキリトとロニエが行って事情を説明せねばなるまい。

そして、正式に騎士団から脱退申請をする。それがキリトの考えている事だった。流石にヒースクリフと言えど、あのような事件があれば首を縦に振らざるを得ないはずだ。何せこの一件はヒースクリフ、並びに血盟騎士団が彼という存在を暴ききれず、ましてやギルドの団員2人を失うはめになった。面目丸潰れである。およそプライドの高い血盟騎士団の幹部たちはこれを隠したがるだろう。誇り高き血盟騎士団に殺人鬼が紛れ込むなど、あってはならない。そう言いたいように。

 

あとは、攻略組への報告だ。結婚云々もそうだが、少し休暇をとりたいと、キリトは考えていた。

昨日の一件で、身も心も疲弊してしまった。SAOでパラメータとして表示されるものではなくとも、人間の心というのは簡単にすり減ってしまう。

何より_____キリトは、掴んだこの幸せに浸っていたかった。そうでないと、またいつか立ち止まってしまうから。

 

「…ぁ、先輩?」

と、ロニエが目を覚ました。

「ん、ごめん。起こしちゃったか?」

「いえ、もう朝でしょう?なら起きないと…」

「…いや、もうちょっとゆっくりしていいんだぜ?」

「朝寝坊はダメですよ、先輩。毎日決まった時間に起きないと、自堕落しちゃいます」

「うーん…いいんじゃないか?今日くらい自堕落したって」

「先輩、予定があるですよね?」

うっ、と詰まった。

「バレてるか。ちょっと血盟騎士団の本部にな」

「…脱退を?」

「ああ。ロニエは違うだろうけど、元より俺はギルドには向いてない。それに、ロニエだってあんなことがあったらいたくないって思うのは当然だろ?」

「そう、ですね」

「あとそれと…ちょっと休暇を取ろうと思って。ディアベル達に一応報告をしようと思ったんだ…………俺、ちょっと疲れちゃってさ」

「…確かに、疲れちゃいました」

「逐一休みつつとはいえ、結構疲労が溜まってたのかもな。無理に戦い続けても、いつかは折れてしまうから。今ぐらい、休もう」

「はい、賛成です」

「…じゃ、二度寝したいけど、起きますか。面倒なことはささっと済ませちゃおう」

「はい!」

2人はそう言っていつも通りの装備を身につけ、血盟騎士団の本部へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんか、案外早く終わったな」

「そうですね。もうちょっと話があってもおかしくなかったですけど…」

「あっさり引き下がっていった。楽でいいんだけどさ。多分、アスナのお陰だろ。アスナ、結構ピリピリしてたし」

騎士団の本部に着いて5分後。2人はヒースクリフと再会した。

キリトの話を聞いたヒースクリフは純粋に謝罪し、脱退も快く受け入れてくれた。

『君達には謝っても許されないな、私は』

と、感情の見えないその顔が、申し訳なさに歪んでいた。

「攻略組への挨拶も済んだし…というか、なんで分かってたんだ…?俺、リズとネズハには言ってたけど、他の奴らには話してないぞ」

「…ある意味、凄い情報網ですよね…アルゴさん」

「やっぱりか。どうやったらアイツを出し抜けるんだよ……!」

そしてその後、攻略組の会議に挨拶と休暇を知らせようとしたら、攻略組全体にキリトとロニエの結婚が漏れていたらしく、皆に祝われた。

『まぁ、あんなセリフを言ったんだから…鈍感な僕でも分かるよ?』

ユージオにそう言われてキリトは自分の詰めの甘さにがっくりした。

因みにアルゴはユージオからの情報無しでキリトとロニエの結婚を当てたらしい。恐るべし情報屋。

「じゃあ、ちょっと寄り道して……目的地に行こう」

「目的地、ですか?」

「ああ。血盟騎士団の退団申請も攻略組への挨拶と休暇の知らせも、サブミッションでしかなかったんだ。今日のメインクエストは_____まぁ、着いてからのお楽しみってことで」

「…?」

「んじゃ…ロニエ、ちょっと此処で待っててくれ。そんなに時間はかからないと思うけど」

と、キリトは近くにあった武器屋へと駆け込んで行った。

 

 

 

 

「ごめん、お待たせ」

10分後、キリトは近くにあった武器屋から戻ってきた。

「いやぁ、なんだかんだ時間かかっちゃったな。ごめん、ロニエ」

「いえ、別にいいんですけど…」

「ん、何して来たのかって話だよな。ちょっとアイテムストレージの奥底で眠ってた骨董品の数々を売っぱらって来たんだ。おかげで目標金額に到達だ」

「目標金額、ですか?」

「ああ。じゃ、行こう」

キリトはロニエの手を取って、街の転移門へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、先輩。今日はどちらに向かうんですか?なんだか、宛もなく歩いているように見えるんですけど…」

「いや、宛はある。ただ、結構な過疎地…じゃない、田舎だからさ。この通り、森の中なんだ」

22層の森の中、2人は歩いていた。

22層はこのSAOの中でも特殊な層だ。何せ、モンスターが湧かない。まさに安全域(セーフティポイント)だ。

故に戦いを望まないプレイヤー達がこぞって移住したと言うが、ド田舎すぎるその土地に、飽きて始まりの街に戻るプレイヤーがほとんどだった。

が、それでもこの層に留まろうとしたプレイヤー達はいた。この自然豊かなフィールドに、現実世界を重ねて、ここに住むことに決めた者も少なくない。主に年齢層の高い人々だったが。

「この層、懐かしいですね。こんなモンスターが現れない層なんて初めてでしたから」

「ああ、何せボス戦直後でビクビクしてたからな。俺も驚いたよ」

2人の記憶にも残っている。

そして、キリトが向かっている目的地は______

「あ、そろそろだな。もうすぐ見えてくるよ」

「え_______?」

大きな湖。

その畔に建つ、一件のログハウス。

「さて、まだ誰も買ってないはずなんだけど…おっ、まだ売ってるな」

「先輩、これって…!」

キリトが小走りでそのログハウスの玄関の扉を見に行くと、そこには《NOW ON SALE》の看板が。

「ん、お察しの通り。やっぱりさ、結婚したら…家買うべきだろうと思って。まぁ、個人的にこのログハウスは金が貯まったら買おうと思ってはいたんだけど」

「…!!」

元よりキリトの浪費癖___怪しい性能の武器や防具、ロニエ曰く《骨董品》___により、キリトのアイテムストレージはガラクタによって圧迫されていた訳だが、それをこの度家を買うために一気に売り払う事を決意。予想以上に高性能なものがあったので少し売るか悩んだが、骨董品は一つ残らず売り払い、目標額を余裕を持って達成したのだ。

一応、家具代も用意してある。

「それに、さ。今までずっと宿暮らしだったろ?だから、なんて言うか…………帰る場所があるってやっぱり安心出来る。ロニエにも俺にも、帰る場所が必要だと思ったんだ」

「ぁ、先輩…!!」

「…さて、異論反論がなければこのログハウスを買おうと思うんだけど____どう?」

「_______勿論、喜んで…!!」

「よし、じゃあ買うぞ。俺の手持ちだけで充分足りる。家具は……後で買いに行くか」

「はい!」

こうして、このログハウスは晴れて2人の新居となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じですかね♪」

「おお……なんか、様になったなぁ」

 

ログハウスを購入して3時間後、ようやくログハウスの内装と家具の配置が完了した。

 

ログハウスを購入し、内装をじっくりと見たロニエは真剣に考えこみ、ログハウスにどんな家具を置くかを脳内会議で決め、そのログハウスの内装を頭に叩き込んで家具を買いに街へと出かけた。

それから、1時間をかけて選りすぐりの家具を購入しログハウスに戻ったロニエはまるで、ボス戦時と同じくらいに真剣な表情で一つ丁寧に家具を配置していった。そして、なんやかんやで1時間半かけて内装を仕上げた。

その間、キリトは全く口を挟まなかった。というより、自分自身のセンスなどたかが知れているため、ロニエに任せる方が明らかに良いだろうと考えてことではあったが。

ロニエに家具の配置について聞かれれば素直に思ったことを答え、時には2人で実際に家具を使うシュミレーションをしながら配置した。

 

「……やっぱり、ロニエのセンスに任せて正解だったな。俺じゃこうはならないぜ」

「そうですかね?」

「ああ。いや、テレビでもこんな良い家…と言うか内装は見たことないぞ、コレ…」

「てれび…?」

 

流石は女の子。

キリトではこうはならないだろう。

 

「_____凄い」

 

ロニエはベランダに出て外の景色を眺める。木々はベランダの正面になく、少し離れた湖へと下り坂になっている。

そこから見ればまさに、理想の新居と言える。アンダーワールドでも見たことの無い、穏やかで美しいその光景につぶやきが漏れる。

 

「ああ、ここが俺とロニエの新しい家だ。どうだ?」

「凄く、幸せです。こんな静かな所で、暮らせるなんて」

「…まぁ、今までは主街区の宿だったもんな。ちょっとうるさかったかもしれない。けど、ここなら静かに暮らせるさ。俺としても、変に野次馬が来られるのは困るし…ここは、知る人ぞ知る場所だからな。プレイヤーが住んでるのは湖の向こうの村だし、向こうからこっちは見えるだろうが、人が住んでるかどうかまでは分からないよ」

「……はい」

 

思わず、見とれてしまう程の穏やかな景色。今まで散々命をかけて戦い、街を行く、激動の1年半を過ごしてきたロニエにとって、新鮮なものだった。

 

「空気も綺麗、ですね」

「システム的には何も変わらないんだろうけど、こればかりは俺もそう思う。頭で理解してても、心はそうじゃないんだからさ____」

 

システムでは全てにおいて同じなのだろうが、やはり人間はそれ以外のもの____感覚的に感じるものを完全に排除することはできない。この仮想世界の中では数値化されない物も、人間の五感の中に確かに存在するのだ。

ボス戦時の圧倒的威圧感(プレッシャー)、ダンジョンに入った時の空気の違い、対プレイヤーとの決闘開始直前の張り詰めていく空間の流れ、そして_____殺意がぶつかりあった時の見えない空間の歪み。

人にしか感じえない、第六感的な物はある。

 

「……うん、素敵」

 

ロニエは、アンダーワールドにて整合騎士として戦った。それも半ばで途絶えてしまったが、ロニエにとってはこのアインクラッドでの1年半と同じかそれ以上に大忙しだった。整合騎士としての責務は、キリトへの届かぬ恋心を忘れるまではいかずとも、大きなものだった。

それに、家に帰れば弟達がいる。ロニエの結婚を言わずとも心の奥底で望む両親がいる。ある意味、ロニエにとって心身共に休まる場所はなかったと言えるだろう。

そんなロニエにとってこんなにも静かな時間は___珍しかった。

 

「……先輩」

「ん、どうした?」

「改めて、これから______その、つっ、妻として…よろしくお願いします…!!//////」

「_____あ、ああ!俺もその…お、夫として……よろしくなっ…!!/////」

 

こうして、2人の新たな生活が始まった。

キリトは『夫』として。

ロニエは『妻』として。

二人三脚で、歩み出すその道は___険しくも、2人にとってかけがえのない未来となる。

2人への祝福を。

そして、2人が歩むその人生に_______幸があらんことを。

 



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黒髪の少女

こんにちは!クロス・アラベルです!
さて、今回はキリロニのイッチャイチャを書きました!R-15ギリギリ…かな?
あのシーンの先を書くほど自分は勇気無いので…(白目)
そして、タイトル通り、あの子登場!
イチャイチャを書いた、と言いましたが、シリアスも入れてます。日常に垣間見えるシリアス……イイ
さて、では本編をどうぞ〜!


 

 

 

「……ん」

 

朝の7時前。

ロニエの設定したアラームは、軽快なリズムを刻みながらロニエに起床を促す。

「……ふあぁ…」

目を擦りながら目を覚ます。

隣に寝ているキリトは起きない。SAOのアラーム機能はその本人にしか聞こえない音でプレイヤーを起こす。元よりキリトはそこまで早起きが得意では無いのでたまに8時くらいまで寝ていることがある。

「………ふふ♪」

ダブルサイズのベッドに布団を被って寝ているキリト。ロニエにとっての日課はキリトが目を覚ます少し前に起きて、その寝顔を堪能することだ。キリトは最前線で戦い続ける生粋の剣士とは思えない程、その寝顔はあどけなかった。ロニエの弟達もこんな感じで眠っていた。今思えば懐かしい。ロニエにとってアラベル家は騒がしいものの、彼女にとってかえられない故郷なのだ。

 

しかして、このアインクラッドに来てしまったロニエは_____きっと、家族の元には戻れないだろう。

元より、この時間超越(タイムワープ)に巻き込まれてしまった人々は例外なく______死んでいるのだ。

これに関しては時間を超えてきた人達、ユージオやティーゼ、ロニエ、ユウキ達との会議でも多方そうだろうと納得したことだ。ならば____アンダーワールドにて死んでしまったロニエ達には、帰る場所が無いのも道理。彼女たちにとって_____その中でも、アンダーワールド出身の者達が1番恐れていること。それが、このアインクラッドを全100層のボスを倒しきり、この《ソードアート・オンライン》というゲームをクリアした後のことだ。

死んでいるはずのロニエ達に果たして。

帰る場所はあるのだろうか?

キリト達の住んでいる現実世界。そこにはロニエ達の肉体は無い。ロニエ自身は知らないだろうが、彼らは元々AIなのだ。それこそ現実世界に行く____もとい、現実世界で人として生活するには肉体が必要だ。が、人と同じものを用意することなど出来ない。アリスも仮初の身体____機械の身体を用意してもらってようやく現実世界で生活することが出来るのだから。

しかし。

ロニエ達は、一度()()()()()。そんな彼女らはこのアインクラッドが消えてしまった後。

一体、どこへ行くというのだろうか。

 

「_______っ」

考えるだけでも、頭がどうにかなりそうだろう。ロニエには重すぎる現実だった。

 

そんな暗い考えを振り払って、スゥっとキリトの髪を梳かす。

綺麗な、黒髪。

アンダーワールドの頃。近くにいるけれど、触れる事など無かった想い人が、自身の隣で無防備にぐっすり眠っている。

あの時は髪を触らせて欲しい、なんてそんな馴れ馴れしいことは恐ろしくて言えなかった。

1番嬉しかったのは______頭を撫でられる時か。

わしゃわしゃと、豪快に。それでいて、誰よりも優しい。

その手に撫でられるあの瞬間が何よりも幸せだった。

キリトは、ロニエ達傍付きと接するのに慣れておらず、しょっちゅう学院を抜けていたが、それでも______優しく接してくれたのは昨日の事のように覚えている。

それが______今や、逆に撫でる方になるとは。

人生、分からないものだなぁと思うロニエだった。

そして、無防備なキリトの寝顔にそっと…キスをして、ギュッと抱き締める。

 

「大好きですよ、先輩。私、今人生で1番幸せです…♪」

 

そう囁いた。

すると、気の所為か、キリトの身体が熱く感じる。

「…?」

そして、ふとキリトの顔を覗き込もうとすると____

「____ふぇ、!?」

逆に抱きしめられた。

「______ああ、俺も大好きだよ。ロニエ」

「__________〜〜〜っ!!!!!」///////

キリトにそう囁かれて____ロニエは顔を真っ赤に染めて、ボンッと爆発した。

「いっ、いつから____」

「…頭を撫でられた時ぐらいから、かな」

「うぅ……」///////

キリトは既に起きていたようだった。ロニエの、恥ずかしい独り言も聞いていたらしい。

「いっ、今のは忘れてくださいっ!!あれは、その…」

「アレは、何?」

「えっと、その、あのっ……!?」///////

「_________よし、我慢ならん」

「へっ?」

顔を真っ赤にして何とか言い訳しようとするロニエに、思う所が_______訂正、ムラっときたキリトはガバッとロニエを横に押し倒す。

「ちょっ、先輩!?」////////

「言い訳は無用だ、ロニエ。ちょっと今のは……ヤバイ」

「えっ、ちょっと待って下さい!まだ起きたばかりで朝食もまだ______ぁ」///////

キリトは問答無用でロニエの唇を自らの唇で塞ぎ、手を絡み合わせ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____________ 」

「ご、ごめんって……俺が悪かった」

「____________ 」

「だ、だって、あんなこと耳元で囁かれたらさ………この通り、許してくれよ…!」

「……朝から1時間も…せ、先輩が私を求めてくれるのは嬉しい、ですけど……もうちょっとムードというか…」/////

「ごめん…」

あれから4時間後。

1時間もの_______に疲れ果てた2人は3時間ほど眠ってしまったようで、すっかりお昼の時間だ。

全く、若さというのは怖いものである()

「…じゃあ、お昼にしましょうか」

「ああ……朝飯食べてないから腹減った…」

「少し待っていて下さい。今用意してきますから」

ロニエはそう言ってキッチンへ。簡単にサンドイッチを作るようだ。

「先輩、今日はどこに出かけますか?」

「んー……そうだなぁ…大体のとこ行ったしな…」

キッチンとリビングで話す2人。

結婚してからというもの、色んな所へ出掛けて思い出に浸るようになった。この1年半もの戦いを______歩んできた道を、思い出すように。

第2層の放牧エリア、第3層のエルフの森、第4層の水の都、第17層の大海原、第34層の雪原、第47層の花畑etc.....

この5日間、新婚旅行三昧であった。

「……ホント、色んな所行ったもんなぁ」

「はい!すごく楽しかったです」

「……ンー、いや、一つあると言えばあるんだけどさ」

「どこですか?」

「ここだよ。この22層の森なんだけどさ…」

森?と首を傾げるロニエ。それも当然だ。この層はモンスターが出ないが故に攻略組もたった3日で次の階層へと登った。それにあれから何かいいクエストがあったかというとそうでも無い。女子同士の情報交換会でも観光地になり得るようなスポットはなかった筈だった。ロニエも、この層は平和で気に入っているが、欠点として何か主立った観光スポットが無い。ので、遊びに行くには少し頼り無い。

「ここって、観光スポットってありませんよね?」

「まあな、けどさ。最近噂がたっててさ。それが中々気になるんだよ」

「噂…?」

昨日村で聞いた話なんだけどな、とメインメニューからマップを開いて可視化し、ロニエに見せる。

「ここ」

「…何の変哲もない森ですけど…」

「…出るんだってさ。この森が深くなってるとこ」

「出る…というと…?」

「____幽霊」

「____はぁ…幽霊と言うと、アストラル系のモンスターですか?」

「いや、そうじゃない。ホンモノだよ。プレイヤー…もとい、人間の女の子らしいぜ」

「………でも、随分と前に先輩、そんなのこのアインクラッドでは絶対いないって豪語してませんでしたっけ?」

「まぁな。けど、話が結構リアルでさ。有り得ちゃいそうだろ?このアインクラッドで恨みを残して死んで行ったプレイヤーの霊が出てくるとか…」

「先輩、流石に不謹慎ですよ…」

「…そうだな、ちょっと自重するか」

ジトリとロニエに諌めるように見られてさしものキリトも肩を竦めて反省。

しかし、キリトはこの噂を面白半分に見ている訳ではなかった。

「……でもさ、結構その噂が広がってるらしくってさ。夜に外に出るのはタブーになってるらしい。ちょっと放っておけないだろ?」

「そう、ですね。私達も攻略組ですし、調査という形で行った方が良さそうです」

「まぁな。ちょっと最近遊んでばっかりだったからな。ちょっと肩慣らしでもしとこうぜ」

「はい。出掛けるのと、その噂の実態を調査する事で村の平和も取り戻せる……一石二鳥ですね」

「ああ。じゃあ、お昼食べたら行こうか」

「はい!出来ましたよ、先輩」

「ん、じゃあ早めに食べて噂の森に行ってみようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、噂の内容を聞いてませんでしたけど、その肝心の中身の方は…?」

「ん?あ、まだ話してなかったか。俺も昨日村に買い物行った時に聞いた話なんだけどさ___」

森の中、2人は恋人繋ぎをしながら踏み鳴らされた道を行く。

 

噂の発端は、3日前の夜。

とある木工職人(ウッドクラフト)のプレイヤーが木材を取りにこの森に来た。ここの森の木材は質が良く夢中になって集めているとすっかり当たりが暗くなってしまった。これはいけないと慌てて帰ろうとした時。

少し離れた木の影に______ちらり、と。白い影が見えたそうだ。モンスターは湧くはずがない。だが、万が一ということもある。プレイヤーは武器を構えそうになったが___それが人影であることに気がついた。なんだ、とほっとしたのもつかの間。その人影を見ると、カーソルが出ていない。

カーソルというのはプレイヤーやNPC、果てはモンスターにさえ表示される。それを見て、プレイヤーは相手がプレイヤーであるか、それともモンスターか、NPCかを判断する。

しかし、それが()()()というのは何事か。バグなのか、それとも_____

と考えを巡らせたその時、その人影_____長い黒髪に何か白い服を着た、少女と思わしき彼女は、ふらふらとそのプレイヤーの反対方向へと歩いていく。

カーソルが出ないなんて有り得ない、と不安をかき消そうとその少女に近付き、声をかけてしまった。

そして、はたと気がつく。

その少女の来ている白い服_____真っ白なワンピースが、森を唯一の光てある月明かりに照らされて、うっすらと透けて見える。向こう側の木が見えているではないか。

不味い、とようやく直感した彼は離れようと試みるが____その少女はプレイヤーに声をかけられ、振り向こうとしていた。

なんと馬鹿な事を、と心の中で数秒前の自分を恨んだが、もう遅い。彼女は振り向こうとしている。

そして、プレイヤーはいてもたってもいられなくなって、その少女を放って、村まで走り出した。

____振り向かれたら、終わる。

そんな悪い予感に突き動かされ、森の中を一心不乱に駆け抜けて、ようやく村に辿り着いた。

プレイヤーは息も絶え絶えになりながらも、ここまで来れば…と安心して立ち止まる。そして、恐る恐る振り向くと______

 

 

「_____誰も居なかった…っていう話さ」

「……単なる見間違いというのは有り得そうですね。辺りが暗くなって、見えてなかったのかも…」

「まぁ、確かに、な」

キリトが噂の全貌を話し終わって、ロニエが考えた可能性を挙げる。

「……なんというか…ホント、こういう話に強いんだな、ロニエ」

「そうですか?」

少しくらい怖がったり、驚いたりしてくれるかな…と期待しながら話した怪談は、ロニエによって華麗にスルーされてしまった。

「いや、でもアレか。アスナ達が異常に反応し過ぎなだけか?」

「あぁ…アスナさんは特に怪談(こういうの)苦手ですからねぇ…」

「確か、56層あたりの古城攻略の時なんか言い訳ばっかして攻略サボったくらいだしな。ホント、宿の部屋で布団にくるまって震えてたのを思い出すと笑えてくる…くっ…w」

「ちょ、先輩…失礼ですっ!」

「んんっ…まぁ、なんだ。ロニエって怪談は慣れてるのか?」

「慣れてる、と言われても…一度、それに似た話を聞いて確かめに行ったことがあるんです。ティーゼと一緒に」

アインクラッド(ここ)で?」

「____いえ、故郷でです」

キリトには言えない話。

 

ロニエは生前、整合騎士見習い時代。幽霊が出ると噂になっていた屋敷____今は亡きノーランガルス皇帝が使っていた別荘____への調査に出かけたことがある。『幽霊でもなんでもいい、お願いだから、もう一度、あの人に会いたい』

そんな諦めきれないティーゼの恋心に突き動かされて行ったのだ。

結果として_____いや、この先を言うのははばかられる。

今は、ティーゼはユージオと再会し、結ばれたのだ。

例え過去にあった事実であっても____

 

「____思えば、あの時からかもしれませんね」

あの頃から、ロニエは幽霊やその手の怪談に怖がらなくなった。それに、ここでは幽霊(そんなモノ)は出ないと、1度キリトに断言されたことがあるからというのもあるのだろうが。

「?」

いえ、こちらの話です、とキリトに微笑む。

すると、太陽の灯りが二人を照らす。

森を抜けたようだった。湖に沿って道が続いている。そして、そこには釣りを楽しむ人達の姿が。

「____へぇ…こんなとこあったんだな」

「ここはまさに森がテーマですから。先輩も行きます?」

「釣りか?そうだな。暇があったら行きたいなぁ」

「ふふっ、釣れたら塩焼きにしますか?それともアクアパッツァ?」

「んー……蒸し焼きにするのはどうだ?」

「いいですね♪ではそうしましょう!」

こちらに気がついた釣り人達が手を振っている。

それに応えるように二人で一緒に手を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____この辺りだな」

「確かに、マップ的にはここの筈ですね」

10分後。

噂の森に辿り着いた二人。辺りを見回すが、ここは木々が生い茂っているせいか、太陽の光があまり届いておらず、少し暗い。

「……確かに、雰囲気あるな」

「昼までさえこんなに暗いんですし、夜なんて……」

真っ暗闇ですよね、というセリフをロニエは言わずに辺りを観察する。

確かに、この近くに木材が落ちていたりするので集めるなら早そうだ。

だが、森には人工物は何一つない。森は誰かが来るのを拒むかのようにざぁ、ざぁ…と風に草木が揺られている。

「……」

ロニエは無言でキリトの手を強く握る。

ロニエは怪談には耐性があるが、暗い所はあまり好きではなかった。夜眠る時だってキリトの手をそっと握って眠っている程だ。

「_____大丈夫だ、ロニエ。ここにはモンスターだって湧かないんだし」

「…はい」

安心させようと優しく諭すキリト。

「……移動しよう。もう少し奥があるはずだからな…こんなとこで止まってたって進展しない。行けるか?ロニエ」

「は、はい。行けます」

「よし、ゆっくり行くか」

そして二人は森の奥へと歩きだそうとしたその時。

ふと、キリトの後ろ。その向こう側の木の根元に_____何か、人影のようなものががロニエの視界に入った。

「_______ 」

それを見て無意識にキリトの手を強く握った。

「…?ロニエ、どうかしたか?」

「____先、輩」

あれ、と指を指す。

そこには______噂通りの人影が。

「_____、本当に…!?」

思わず身構える。

キリトの索敵スキルが自動で反応し、補正を受けて視力が常人を超えていく。

長い、黒髪と真っ白なワンピース。

噂通りの姿だ。

あれはガセではなかったのか、と驚きつつもキリトはその少女の足元を注視する。

足は、ある。

2本のか細い足は、しっかりと地面に触れており、立っていた。

「ロニエ。あれは___」

何かを言おうとして、止まる。

その少女はこちらに振り向いて_____ふらり、と地面に倒れてしまった。

「___幽霊なんかじゃ無さそうだぞ!!」

「___っ!」

咄嗟に走り出す。ロニエも一部始終を見ていたようでキリトの後に続く。

 

「_____お、おい!大丈夫か!?」

ほんの数秒で少女の元へと駆け寄ったキリトは少女を抱き起こす。

「先輩、この子___」

「ああ、多分プレイヤーだ。なのに、カーソルが無い…!」

二人の視界には少女の頭上にある筈のカーソルが映っていない。

キリトは直ぐに、この少女がプレイヤーであると確信した。

元より、SAOにおいて、NPCは直接触れることはほとんど無い。キリトのように抱き起こす、なんていう行為をすれば即座にシステムによって弾かれている。モンスターに関してはなんとも言えないが、モンスターは完全な人型というのも少ない。この少女がモンスターなら速攻でキリトたちに襲いかかっているだろう。

「___意識を失っているだけ、だとは思うんだけどな。」

「先輩、一旦家で保護するのはどうでしょう?」

「ああ、ここに置き去りになんかしないさ」

流石にキリトが運ぶのは不味いと思ったのか、ロニエが少女を抱き運ぶ。

「行こう。最速で家まで直帰だ!」

「___はい!」

二人はログハウスへと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「____まず、NPCでは無いよな」

日も暮れてしまったログハウスにて。

ベッドに寝かせた少女を見てキリトは呟く。

NPCは定位置から意図的に動かすことは出来ないようにシステムが組み込まれている。運ぼうものなら再びシステムによって弾かれているはずだ。モンスターの可能性も考えづらい。

消去法で行くと、プレイヤーになるのだが____

「…なんで、1人であんなとこに」

心配すべきはそこだ。

少女はまだ10歳にも満たない子供だった。SAOの年齢制限(レーティング)が13歳なのだが、それを守らない人はそれなりにいる。が、この少女はそれをずば抜けて幼い。SAOが始まった頃___この少女は7、8歳だった可能性がある。

そして、周りには保護者らしきプレイヤーの姿はなし。

もしかすると_____長い時間、あの森でさ迷っていたのかもしれない。

考えられるのは、親とはぐれて帰る方法もなく、さまよっていたのか。それとも____両親、または家族や友人を失い、完全に孤立してしまっていたか。

「………」

苦虫を噛み潰したような表情になる。

こんな年端もいかない少女が一人であんな暗い森を彷徨い続けるなど、想像したくない。そして、そんな少女が感じたであろう孤独や恐怖。それを想像するだけで、胸が痛い。

「先輩…」

「……起きる気配は無さそうだな」

「はい」

短い会話。

「…今日は、もう寝よう。少しロニエも疲れたろう?」

「いえ、私は___」

「ロニエ。今日はもう休もう。色々と込み入ってきたし、ちょっと考えるのも疲れてきた所なんだ、俺も」

「…」

「今夜はこの子と一緒にいてあげてくれ。俺はリビングのソファーで寝るから」

「で、でも…」

「起きたらすぐ隣に知らない男がいたら怖がるだろ?そばにいるのはロニエだけの方がいいさ」

「…はい。分かり、ました」

「…よろしく頼むぞ、ロニエ」

「はい」

キリトはリビングに行ってしまった。

ロニエは寝巻きに着替えてベッドに入る。

そこには件の少女が眠っている。

ロニエはその子の隣に横になった。

「……怖かったんだね」

そう、ロニエは囁いて、優しく少女の頭を撫でる。

「…明日は、目を覚ますといいね」

そう言ってロニエはその子をそっと抱きしめて眠りについた。

 

 



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ユイ

こんにちは!クロス・アラベルです!
今回はお察しの通りユイちゃん編です。短めではありますがね…そして、ちょっと1つお話を繰り上げて書いていきたいと思います。
あのお話はユイちゃんが居なくなったあとの話ですが、ユイちゃんが居たらどうなるのかなー…と思いまして。そんなに変わらないとは思いますが…



 

 

 

「……ん、む…」

次の日のお昼。

キリトはロニエが用意してくれたサンドイッチを食べていた。

視線の先には___

「どう?美味しい、ユイ?」

「ん、ん、ん……ぉ、いしい…!」

「そっか!良かった」

まるで母娘のように食事を共にするロニエと件の少女___ユイの姿があった。

「…ホント、母娘(おやこ)みたいだよな」

と、キリトは呟いた。

「先輩?」

「あ、いや、何でもないよ」

首を傾げてこちらを見るロニエ。

「…ぱぱ?」

「……ん?どうした、ユイ」

キリトを『ぱぱ』と呼ぶ彼女は、キリトが予想していたよりもかなり幼かった。

 

昨日、森の中で保護した彼女は今朝、目を覚ました。

名前はユイと言うらしく、それ以外についての記憶は一切憶えていなかった。

何故、この森で一人彷徨っていたのか。家族の安否は。

聞きたいことは色々あったが、最終的に自分の名前しか憶えていないことが分かってからは質問をすることははばかられた。

『記憶喪失』という物か。今の彼女に何を聞こうと無駄だ。何せ、憶えていない事を何度も、沢山聞かれても怖いだけだろう。

そして、初対面であるキリトとロニエを『ぱぱ』、『まま』と呼んだ。居ないはずの両親。それの面影を無意識に二人に重ねているのか。

それが、一番堪えた。

 

「……駄目だ。考えすぎて頭痛くなって来た」

辛すぎる現実。仮想世界にいるというのに、こんな非情な現実に晒されようとは。

とりあえず、ユイについての情報を集めに第1層の始まりの街へ行くことはもう決まっている。が、今日目覚めたばかりのユイをいきなり始まりの街に連れていくのは、精神的に難しいのではないか。何せあの街は他の街よりも人が多い。前線に立てない人達が暮らす街。今では1000人以上のプレイヤー達がそこに留まっていると聞く。今は____静かなこの家で様子を見よう。そうキリトはロニエに提案した。

やがては始まりの街で情報収集を始めなければならないが、まずは人混みに慣れさせなければ。明日にでも村に出向こう、と心に決めるキリトだった。

 

「ぱぱ?」

「ん?」

と、考え事をしているとユイがこちらの顔を覗いていた。

「先輩、どうかしたんですか?」

「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」

キリトは謝りながら、ほいっ、とユイを抱っこして膝の上に座らせた。

「ユイ、ママのお昼ご飯は美味しかったか?」

「うんっ!おいしかったぁ!」

「そっかそっか!良かった」

「…ぱぱは、たべないの?」

「ん、勿論食べるよ。パパは食いしん坊だからなぁ!」

「…」(¯•ω•¯)じー

「…どした、ユイ」

「…ぱぱの、ゆいとままのとちがう」

ユイはキリトの手にあったサンドイッチ____ロニエがキリトのために作ったスパイスの効いた辛子マヨネーズいりの照り焼きサンドイッチを指さした。

「お、気付いたか。その通り。パパのは特別なんだ」

「……とく、べつ…!」

キリトの特別、という言葉にキラキラと目を輝かせる。

「…んっ!ゆいもほしい!」

「え」

「えっ」

そんなユイの要望に二人は困った声を漏らした。

「…ユイ。これはな、特別ではあるけどもだな。辛いぞ?舌がピリピリするぞ?」

「そ、そうなの!ユイ、これはパパにしか食べられないの。ユイはもうさっきママと一緒にパンケーキ食べたでしょう?」

「…むぅ……ぱぱとおんなじのがいい」

「む、ぬぅ…」

二人の制止を振り切って、両手でキリトのサンドイッチに手を伸ばす。

「……しょうが無いな。ユイがそこまで言うならあげよう。ただ、一口だけだぞ?パパもお腹すいてるからな」

「うん!」

「ちょ、先輩っ!」

「大丈夫、一口だけだから」

「ひとくち、だけ、だから!」

と、娘に甘い父親(キリト)は一口だけ、ユイにかぶりつかせた。

ああっ、とロニエが声を上げる。

ロニエは知っているのだ。

キリトが辛いものが好きだということを。結構な辛さに味付けしてあるので、子供には辛いはずだ。

「_____っ、!!」

「…どうだ?」

「____お、ぃしい」

なんとも言えない表情で答えるユイ。

「そうかそうか!ユイもイケる口か!」

「そんなわけないじゃないですか!!」

キリトが笑顔で言うとロニエがキリトを叱り付ける。

「……んぅ…んっ」

もぐもぐ、とゆっくり辛いサンドイッチを咀嚼するユイ。

「ユイ、あんまり無理して食べちゃダメ。パパのはママも食べないんだから…!」

「…ぅん」

「ミルク飲む?」

「うんっ」

ユイはロニエに手渡された温かいミルクを飲む。

「先輩…夜ご飯作りませんよ?」

「すみません私が悪かったです申し訳ありませんでした猛省しております」

「……なら、いいですけど」

ジト目で怒られて早口で謝るキリト。ロニエには頭が上がらないようだ。

「…さて、ロニエ。ユイの事だけど」

「はい」

「…始まりの街に行くのは少し後にしたいんだ。今日はここで様子を見よう。何せ、ユイもあの人混みに突っ込むのはちょっと避けたい。パニックになってもおかしくないからさ」

「賛成です。いきなりは不味いです」

「ああ」

ロニエはキリトの提案に直ぐに同意してくれた。

「…これからどうする?ロニエ」

「そうですね…やることもありませんし、家でゆっくりしませんか?」

「んー…そうだなぁ…でも、それじゃあユイが暇だろ?」

「?」

「確かに…」

「…良かったらなんだけどさ、釣りいかないか?」

「釣り?」

「うん。昨日、釣りしてる人達がいたろ?俺も1回行っておきたいんだ。釣れれば今夜の夜ご飯にもなるし、一緒に行かないか?」

「うーん……やめておきます。私、今日の夕食の準備をしたくって」

SAOにおいて、料理とは実に短時間で出来る。いや、出来てしまう。その為、下準備という一つの工程が大幅にカットされるのだ。しかし、カットされないものもある。それが、食材に味を付け込ませる工程だ。肉などに味を付け込ませようとするとこちらでもかなり時間がかかる。

あとは、調味料の調合など。醤油やマヨネーズなど、女子達が作り上げたものは定期的に造り足していかなければならない。しかも、特定の味を再現するのはかなり複雑な調合を繰り返さなくてはならず、結構な時間がかかってしまう。

「…そっか。じゃ、ユイはお留守番かな」

「ぱぱ、どこかにいくの?」

「ああ。大っきい魚を釣り上げて美味しい晩飯をママに作ってもらうんだ。それまで待っててくれるか?」

身振り手振りでユイにも分かるようにキリトは説明する。

「ゆいもいっちゃ、だめ?」

「む。来てもいいけど、暇だぞー?何せ待ってるだけだからなぁ」

「ぱぱといっしょにいたい!」

「…可愛いこと言ってくれるな、ユイ…!」

と、釣りに一緒に行きたいとキリトの手を握るユイ。

「いいんじゃないですか、先輩。家にいてもユイが楽しめるようなことなんてないと思いますし、外の空気を吸う…いえ、気分転換にいいですね」

「暇なら湖のほとりで昼寝するのも一興だな」

「ぱぱといっしょに、おでかけ…!」

キラキラと目を輝かせるユイの頭を撫でるキリト。ロニエはそんな2人を微笑みながら見つめていた。

何かと心配していたのだが、そんな心配は無用だったらしい。まるで父娘(おやこ)のように仲が良い。

「ん、じゃあ早速行くか。夕方には戻ると思うから」

「はい!楽しみに待ってますね♪」

「まま、いってきまーす!」

「うん!パパの言うことちゃんと聞いていい子にしてね?」

「うんっ!」

「よし、準備するものもほとんどないし、行こうか。ユイ」

「うん!」

 



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釣り

こんにちは、クロス・アラベルです。
では、前回の通りのお話になります。
ここらへんのお話は平和で良いですねぇ…
では、本編へどうぞ〜


 

 

 

「______ふわぁ…」

湖のほとり。

キリトはあぐらをかいて、竿を片手に欠伸をひとつ。

 

「…………おかしいな。あれから2時間たっても1匹も釣れないんだが…」

 

キリトが釣りを始めてはや2時間。

ウキは全く動くことなく、ただ風に揺られているだけだった。

「_____ん」

キリトの膝の上にはユイが眠っていた。

初めはユイもやってみたい、とねだったがキリトが始めにパパの見本を見てからな?と説得し、彼は釣りを始めた。

釣りを始めて30分程は起きていたのだが流石に暇を持て余したのか、キリトの膝の上でこくり、こくり、と眠そうに船を漕いでいた。なので、眠かったら横になってもいいんだぞ、と言うと、ユイは直ぐに横になって眠ってしまった。

「……一応、釣りスキルは熟練度500超えてるんだけど」

キリトが暇潰しに、と始めた釣りスキル。今では熟練度500を超えている。なので、大体なら釣れるだろうと高を括っていたのだが、甘くはなかったようだ。

 

「……んー…」

1度竿を上げてみる。返ってくるのは____

「おいおい、食うもの食ってサヨナラってことなのか…?」

___餌にしていた小魚が消え、寂しそうに光る銀色の釣り針だけだった。

「_____割に合わないぞー、これ」

文句を垂れながらももう一度餌をつけてヒュンッ、と音を鳴らして湖へ釣り針を落とす。一瞬沈みこんで浮き上がってくるウキ。それをずっと凝視して____もうあと10分だけ待とう、と決めるキリトだった。

 

 

「ん……ぱぱ、まだつりしてるの?」

 

20分後。10分経っても全く釣れず、もしかしたらもうすぐで釣れるかもしれない、と我慢強く待っているとユイが起きたようだ。

「ああ。いつ釣れてもおかしくないんだけどなぁ」

「…ままのところかえる?」

「いや、手ぶらのままで帰るのはパパの沽券に関わるんだ……帰りません、釣れるまでは_____!!」

と、ユイの提案に首を横に振り、再び湖面を睨みつけるキリト。

すると____

 

「どうですか、釣れますかな?」

 

「どうにもこうにもウキが沈む気配すら無いんだって_____って、え!?」

「?」

隣から聞こえた声はユイの物ではなく、歳を重ねたおじさんとおじいさんの中間____優しい壮年の男性の声だった。

「あ、はははは!驚かせてしまいましたな」

と、頭を掻きながら笑顔で彼は言った。

「えっと……どなたですか…?」

「いや、ただの通りすがりですよ。私もここら辺で釣ろうかな、と思っていたら先客がいたのでつい気になって…」

 

厚着のジャンパーに、恐らく防水加工されたであろうテカテカのズボン。肩には1本の釣竿を携えている。麦わら帽子を被った彼は明らかに四十代、いや、五十代を超えているように見える。鈍色の眼鏡をかけた彼は、このSAOには中々に不釣り合いだと、キリトに思わせた。何せ、SAOと言えば重度のゲームマニアが揃って争奪戦に挑み、その中で勝ち抜いた猛者だけがここに来ることを許される_____今や地獄と化した訳だが_____そんなアインクラッドにこんなおじいさんがいるだろうか、と不思議に思った。

 

「あ、すみません。何でしたら別の場所に移動しますけど…」

「いえいえとんでもない!ここで釣りを続けてくださっていいんですよ。良ければ私もお隣にいいですかな?」

「はい、もちろん」

彼の提案にすぐに答えるキリト。一瞬NPCかと思ったが、違うと言うことをすぐに察したキリトは、自己紹介から始めた。

「上の層から引っ越して来た、キリトって言います。この子はユイ」

「_____おじさん、だぁれ?」

「私は、ニシダと言うんだよ。呼びやすい呼び方でいいからね?」

ユイに対して優しく自己紹介をする、ニシダ。

「ぅ……おじさん?」

「おじさんでえいよ。ユイちゃん」

おじさん、と呼ぶユイの頭を優しく撫でてキリトに視線を戻す。

「お子さん……ですかな?それともNPC?クエスト真っ最中でしたか?」

「あー、いえ、プレイヤーですよ。ちょっとワケありで………この層の森で迷子になってた所を保護したんです。記憶もあまり覚えていないようで…」

「それは……何とも、妙な話ですな。ですが、有り得ない話でもない。こんな世界に閉じ込められちゃ……小さい子供はそうなってしまう」

複雑な表情を作るニシダ。やはり彼なりに思う事はあるようだ。

「私は、ここを拠点に活動している釣り師でして。日本では『東都高速線』という会社の保安部長をしとりました」

名刺がなくてすみませんな、と付け足してわはははと笑う壮年の男性。

「____東都高速線……もしかして、SAOの回線保守の…?」

「…覚えて下さってましたか。ええ、一応責任者ということになっとりました」

 

『東都高速線』。

SAOを作ったアーガス社、そのアーガス社と提携していたネットワーク運営企業の一つ。SAOサーバーに繋がる経路も手掛けている、一大企業だ。

が、そんな事にまで目をつけている人はやはり少ない。キリトはかなり重度のゲーマーで、SAOに関する雑誌などは読み耽っていた事もあり、少しだけ覚えていた。

 

「何もログインまではせんでええよと上に言われてたんですがねぇ。私は自分のやってる仕事は自分の目で見んと収まらん性分でして……全く、年寄りの冷や水が、とんでもないことになりましたわい」

ははは、と彼は笑う。

 

SAOにおいて、プレイヤー達は2種類に分類される。片方はこのデスゲームを受け止めきれず、心を閉ざす者。もう一方は、この現実を受けいれてそれでも尚ゲーム攻略に挑む者。現実を受け入れた上で戦うことは出来ずとも、前へと進もうとする人達である。

 

その点で言うと、彼は恐らく_____

「まぁ、私と同じようないい歳してアインクラッド(こんなところ)に来てしまった親父達が二、三十人いるようでして。大抵、初めは始まりの街でじっとしとるんですがね…まぁ、それでも外に出ていく変わり者がいくらか居たんですよ。まぁ、その一人が私なんです」

____後者だろう。

彼は最後に笑って、自らの持っていた竿を、すい、と振った。年季が入っているようで、自然な動きだった。

「私の場合、これ(釣り)が三度の飯より好きなもんでして。良い川やら湖、それに海が無いかと探している内にここに辿り着いたんですよ。ここは…何と言うか、故郷を思い出す」

彼はそう言って、遠い故郷を思い出すかのように景色を見た。

「…確かに、ほかの層と比べても何と言うか、自然豊かで……落ち着きますし、何よりモンスターが出ない」

 

ええ、とニヤリと笑い、慣れた手つきで竿を動かす。

SAO内の《釣り》のシステムは特に竿を持った時の現実と同じ技術力は必要ないのだが、彼はそこにさえ拘っているのだろう。小刻みに竿を動かしている。恐らく、《トゥイッチ》と呼ばれる竿の動かし方だ。キリトに専門的知識は無いので、おお凄いなぁ、程度にしか感じられなかった。

 

「で、上の層には良いポイントはありますかな?」

「うーん、そうだなぁ…17層の海……は知ってますか。なら、六十一層はどうです?あそこも全面海でしたよ。確か、相当な大物が釣れるとか何とか。俺は攻略に必死であまり釣りは出来てませんでしたけど、結構良さげでしたね」

「ほほう!それはぜひ行ってみなければ…む!」

 

と、その時。

ニシダはこれまた自然な動きで竿を操る。ヒットしたらしい。

彼の釣竿はキリトのものと違って上級者向きの釣竿なようで、ウキが着いていない。

故に彼の竿を持つ手の感覚が頼りになる。

反射神経は抜群でかかった瞬間、彼の表情は真剣なものへと_____現代で言う、ゲームに夢中になる子供のような表情になった。

彼は、彼なりにこの世界を楽しんでいるようだ。

やはり年の功、と言う奴か。

キリト達よりも、随分と大人だった。

 

「ぇ……なんで釣れるんですか___ってうお!?デカい!!」

「ぁ、ぱぱ!すごい!おじさんつれてる!!」

「あ、ああ!凄いな、ユイ!」

親子のように2人して身を乗り出し、湖面を凝視する。

チラリと見えた魚影はかなりのもので、50cmを余裕で超えそうなぐらいだった。

それを横目に、彼は悠然と竿を操る。そして___

「ほっ!」

「おお!」

「すごい!」

一気に水面から魚を引き抜いて見せた。

「うん、中々のあたりですな」

「お見事!……結構《釣り》スキルの熟練度上げてますね」

「まぁ、ほぼ1年半の間ずっとやっとった事ですからな。数値次第で何とかなります。そういう所は、向こう(現実)とは違いますねぇ」

「まぁ、そういう世界ですし…」

「……実は私、釣るのはいいんですが、料理が何とも……スキルは少し前から鍛えてはいたんですが、何せ向こう(現実)の調味料がアインクラッド(ここ)では無いと来た。煮付けに刺し身でビールをクイっとやりたいんですが……醤油が無いと如何せん、向こう(現実)の味を再現出来ないもんで…」

「あー………まぁ、ここにはこれって言うような調味料無いですから。やるなら自分自身で作れっていう鬼仕様ですし…」

 

醤油やみりん、ポン酢、マヨネーズ等の基本的な調味料がここには無い。塩や胡椒などの最低限の物はあるが、それ以外に関しては皆無だ。あっても、それっぽいナニカである。故に料理スキルはある意味鬼畜仕様で、向こう(現実)で舌の肥えてしまった現代人には厳しい現状である。

 

しかし。

キリトにとって、それは瑣末な問題であった。

ロニエ達攻略組女子グループが1ヶ月以上かけて再現した調味料の数々があるおかげで非常にいいモノを食べていたからだ。

その中には醤油もあったような…と思い出すキリト。

 

「あ、まま!」

「?まま?」

「うん!ままはね、すっごくおいしいごはんつくってくれるんだよ!」

「ほぉ!料理上手なお母さんがいましたか。それはさぞ美味しいでしょう」

と、油断しているとユイが勝手にロニエの料理を自慢し始めた。と、言っても、まだ2食しか食べたことが無いはずなのだが。

しかし、ユイがこんなにも自慢げに話してしまったのだ。後になって引けないな、とキリトは諦めてニシダに声をかける。

「……ウチに、自家製の醤油っぽいものならありますけど……」

控えめに言うキリト。それを聞いた彼は_____

「______な、なななななななな、なんですとォ!?」

目を輝かせて身を乗り出してきた。

ああ、これは是非ウチのロニエ()の料理を振舞ってあげなくては……そう思ったキリトだった。

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい、先輩」

お客さんを連れて帰ってきた二人。ロニエはその二人を優しく出迎えた。

「ただいま!まま!!」

「おかえり、ユイ。ちゃんとパパの言うこと聞けた?」

「うん!」

「あ、もしかして、そちらの方が…?」

「ああ、こっちが釣り師のニシダさん。湖で一緒に釣りしてたんだ。話は言った通りだな。ニシダさん、こちらが____」

まずは紹介を。

「______きっ、キリト先p……いえ、キリトの妻の、ロニエですっ」

「貴女が……?いやぁ、キリト君から話は聞きましたよ。自分にはもったいないくらいのいい嫁さんだって」

「ふぇっ!?」

「いやぁ……妻子持ちとは、恐れ入りますなぁ!」

「妻子持ちって……まぁ、半々で正解不正解かな」

「キリト君の言う通り、美人さんだ。こりゃ、いい人を捕まえましたなキリト君!」

「そうでしょう!」

「せ、先輩っ!」//////

 

 

 

 

 

 

 

やってきたお客さんにも楽しんで貰えるように、と腕によりをかけて作ってくれた料理を食べ終わった4人。

「いやぁ…美味しかった!こんなにも美味しいものを食べたのは本当に久し振りですなぁ」

「良かったです!魚料理は慣れていなかったのでどうかな…と思ってたんですけど…」

「美味かったな、ユイ!流石はママだ」

「うん!」

「____仲が良いのですね。すっかりお二人に懐いている」

優しい笑みで三人を見ているニシダ。

「ニシダさん。良かったら、醤油を貰ってくれませんか?」

「いいんですか!?」

「はい。故郷の味と言うのは何より嬉しいものですし、是非貰って頂けたらと」

「…ありがとうございます!」

ロニエの提案で醤油を分けることになった。瓶に入った液体____色は本当の醤油とは全く違うが____はニシダにとっては宝のように見えただろう。

ロニエから瓶を貰って心躍らせるニシダ。

「ニシダさん、所でこの魚…全てニシダさんが…?」

「ええ」

「しょ、しょうがないだろ……だって俺だけ釣れないんだよ…」

「い、いえ、私先輩に嫌味を言ってる訳じゃないんです!」

「ははは!仕方がありませんよ。あのキリトさんが釣りをしていたあの湖は特別難易度が高いんですから、高い釣りスキルの熟練度が必要になってきますしねぇ」

「え」

と、ここでいきなり驚愕の事実。キリトの釣りスキルは500を超える程度。到底、釣れるものではなかったらしい。

「私がここで釣れるようになったのは確か、熟練度が800行ってからですな。今になってはコンプリートして楽に釣れるようになりましたがね」

「……俺が変に難易度高いとこに行ってたせい、か…」

「あはは…」

「何せ_______あの湖には()()がおるようですからな」

「「_____ヌシ?」」

「?」

ここでニシダの口から飛び出す聞きなれない単語。

「…ヌシって言うと、あの湖の元締め…じゃないですけど、かなりの大物なんですか?」

「ええ。私が住んどる村…その一角にある釣り道具専門店に、他の釣竿と比べると変に高いものがあるんですわ。気になってしまって、買ってしもうたんです。性能的には確かに耐久値の方がかなり他より高く設定されてたんです。試しに使ってみたんですが、それが全然釣れない。1時間以上待っても一向に釣れなくて、どこで釣れるモンなのかと歩いて____あの湖にたどり着いた」

「…!」

「……その釣竿を使うことが出来るポイントが、先輩が釣りに行っていた湖だったんですね?」

「そうなんです。初めてヒットした時は驚きました。すぐ引いたんですが_____それが、餌どころか竿ごと持ってかれましてね。凄いモンですよ、アレは!最後に魚影を見たんですが、5mは余裕でありましたよ!大物なんて言葉では表せない_____文字通り、化け物(モンスター)級でしたな!!私自身、あまりレベルは高くないので負けてしまいましたが…いつか再戦したいと思っとるんです」

「へぇ…5m級の魚か_______」

「凄いですね…!」

「おっきいおさかな?」

「うん、そうよ」

「……そういえば、キリトさん」

「はい?」

「確か、上の層から越してきたと言ってませんでしたかな?」

「ええ、まぁ」

「レベルの方は如何程に……?」

「……」

いきなりストレートな質問にどうしようかと一瞬悩むキリト。

 

SAOにおいて、他人にレベルを聞くと言うのは御法度とは行かないにしても、あまり褒められた行為では無い。ある意味、この世界での個人情報でもある。それを言いふらされたり、その情報を情報屋や殺人鬼(レッドプレイヤー)に渡されると、キリトも流石に困る。

 

しかし、彼の人となりを今日半日見てきたキリトには彼がそんな事をするような人柄には見えなかった。それに彼は純粋にレベルが聞きたいようだ。

それに、キリトには彼の考えている事が何となく分かっていた。

目でロニエに確認をとる。ロニエも分かっていたようで笑顔で頷いてくれた。

「100は、超えてますけど…」

「な、なんと!」

「筋力値も自信アリですよ、ニシダさん」

「…もしかして、バレましたかな?」

「…お手伝い、ですよね?」

「いやはや、隠し事はするもんじゃありませんな!」

ははは、と大声で笑うニシダ。キリトの勘は当たっていたようだ。

「じゃあ、お手伝いをお願いしてもよろしいですかな?」

「ええ、俺でよければ。まぁ、手伝いと言っても何すればいいか、てんでわからないですけどね」

「いえいえ!ただ、《スイッチ》するだけですよ!ヒットした瞬間に、キリトさんと私がスイッチするんです。そうすればもう魚はヒットしとる訳ですし、後はキリトさんにお任せです!力いっぱい引っ張ってくれれば!」

力説するニシダにほうほう、と頷くキリト。

「奥さんも、よろしいですかな?」

「はい、私もご一緒しますね。その噂の《ヌシ》が釣れるところを見てみたいですから」

「…!ゆいもいく!おおきなおさかな、みたい!」

「そうね、ユイ」

「では……明日はどうですかな?私は用事なんてありませんから、お二人の予定さえ合えば…」

「どうする、ロニエ?」

「行きましょう、先輩!ユイちゃんの件はその次の日にしましょう」

「だな。じゃあニシダさん。喜んで手伝わせてもらいますね」

「ありがたい!」

急遽頼み事(クエスト)を受けた二人は快く承諾したのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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《ヌシ》VS《黒の剣士》

遅くなりました〜
クロス・アラベルです。
えー…もう、春ですね(白目)
大学も始まるので、また投稿ペースが落ちると思いますが、何卒、よろしくお願いします…
では、本編へどぞ( ˙꒳˙ )キリッ



 

 

 

 

「………うへぇ……何故こうなった」

「先輩、しっかりしてください。ほんの40人超える程度ですよ。100人超えないだけまだマシです!」

「うーん…いや、五十歩百歩だな」

 

次の日。昼前に湖にやってきたキリト、ロニエ、ユイは予想外のギャラリーに驚いていた。

ヌシを釣り上げるだけだと思っていたキリトは結構なダメージを受けている。

しかし、村に住んでいる釣り好きのプレイヤーやその他のプレイヤーにとってここまでのイベントなど中々無いのだ。一番難易度の高い湖に潜む謎の《ヌシ》を吊り上げる____それだけで大イベントだった。

 

「攻略会議の時は今よりもっと多いじゃないですか!」

「いや……アレは、これから一緒に戦う仲間たちなのであって、コレはジロジロ見られるんだぜ…?」

「別に変な格好している訳じゃありませんから、大丈夫です。だから自信を持ってください、先輩」

「……いつも通り真っ黒なのに?」

一応キリトとしては自身のファッションセンスの無さは自覚している。

 

それに、キリトが人混みを避けたい理由は_____アインクラッドでも有数の美少女であるロニエがこんな所で結婚して2人暮らしをしていることがバレると、なんだかんだで面倒なことになりそうだと予想していたからだった。彼女は自覚がないものの結構な有名人で、男性人気、女性人気共にある。故にそれなりにファンも____

 

「_____それでは皆さん!!今回のメインイベントである、ヌシとの対決に移りたいと思います!」

と、その時。丁度ニシダさんが仕切り始めた。そろそろ始まるようだ。キリトはユイとロニエに頑張ってくるよ、と言ってニシダの元へ向かう。

「では、キリトさん。よろしくお願いしますね」

「はい。ヒットしてからの力勝負は任せて下さい」

「期待してますよ!」

短く挨拶を交わして、彼は釣竿を掴んだ。直後、ワクワクしていたその笑顔が真剣なものに変わる。

「_______」

すいっ、と釣竿が湖へと振られる。特大の餌が湖に落ちた。

ここからは根気の勝負。

キリト達やギャラリーは固唾を呑んで見守った。

 

 

 

 

 

沈黙が破られたのは、その五分後だった。

「______ッ、来ました!!」

「_____ホントですか!」

ニシダがそう言った直後、竿がぐいっと引っ張られる。

「キリトさん、スイッチ…!」

「はい、スイッ_______チぃぃいいい!?」

ニシダから受け取った釣竿はキリトの予想以上の重さで、キリトは体を持っていかれそうになって、踏みとどまった。

「ぐ、ぐぐぐ……コイツは、確かに化け物級だな…!!」

しかし、引っ張られたのは最初だけ。キリトも筋力値には自信がある。それに、ここは22層。ならば適正レベルなどとうに超えている。彼はアインクラッドの中でも最高レベルと言っても過言ではない。

 

「さァて……さっさと、出て来やがれ____!!」

思いっきり力を入れて釣竿を引く。確かにここのそうにしては要求筋力値が高過ぎる気がするが、キリトには関係ない。このまま______引き上げられる。

「お、影が見えてきましたぞ!!」

そんなニシダの声に、ギャラリーはこぞって湖に集まる。

「おお、大きいな!!」

「こんなの見た事ねェや…!」

「先輩、頑張って下さい!」

「ぱぱ、がんばれー!」

ロニエとユイの声援に答えるようにキリトはより力を込めた。

「あ、そろそろ見えて_______」

「先輩、あと少しで_________」

 

直後、全員の声が消える。

 

「_______!!」

そして、全員が一目散に陸地へと走り出す。ロニエもユイをだき抱えて走っている。キリトにはみんながみんな、顔を青くしているように見えた。

「お、おい!何逃げてるんだよ…?」

「先輩、逃げた方がいいですよー!!」

「はぁ?何を言って______」

遠くからそう呼びかけるロニエにキリトが首を傾げた、その時。

 

ブチンッ、と何かが切れる音が聞こえた。釣竿にかかっていた重さが一瞬で消える。

「_____づッ!?」

思いっきり頭を打ったキリト。HPが少し減ったのではないだろうか。

「____つぅ……って、まさか釣り糸が切れたのか!?」

と、急いで湖へと駆け寄る。

 

そして、キリトはみんなが何故逃げたかを悟った。

湖から現れたのは、魚________ではなく、四足歩行で歩いてくる魚に似たナニカだった。

言うなれば……魚類から両生類へ進化した原生生物…といったところか。現実世界の生き物的にシーラカンスにほんのちょっぴり似ている気がしなくもない。どちらかと言うと、全体的に身体がドス黒い黄緑色なせいか蛙を思わせる。

 

「______いや、化け物級じゃなくて……これホントにモンスターじゃないか!?」

 

グォアオオオオオオオオオオオ!!!!

 

という雄叫びに全速力でロニエ達の元へ走るキリト。

「先輩、大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど……いや、言ってくれよ…ビビるじゃないか…」

「す、すいません。ユイを守ることに必死で…」

「む、それじゃあしょうがないか」

ロニエの答えに納得するキリト。

「あわわわ…!!」

混乱するニシダやギャラリー達。それに対し、2人は落ち着いている。

「ユイ、怖くなかったか?」

「うん、怖くないよ?」

「そうか、やっぱりパパの子だな!」

 

ユイは意外にも全く怖がっていないようだ。

二人が四足歩行のモンスターに目を向ける。

 

モンスターのレベルはそこまで高くないので二人にはカーソルがピンク色に見える。プレイヤー自身のレベルに合わせてカーソルのカラーリングは変わっていくので大方、ニシダ達には真っ赤を通り越して黒く見えているのではないだろうか。

そんな気色悪い湖のヌシはのっしのっしと鈍くはあるが、しっかりとこちらに迫って来ている。

「……あれは、生物学的に言うと何に入るのか……肺魚とか?」

 

因みに『肺魚』とは幼魚から成長するに連れて肺が発達し、人と同じく呼吸ができるようになる魚のこと。が、肺に頼り過ぎて魚だと言うのに定期的に息継ぎをしなければならないという変わり者。それなりにメリットがあるらしいが____

しかし、キリトはそんな事よりも…と、とある事を思い出した。

「あー……しまったな」

「?」

「ごめん、ロニエ。武器、家に忘れてきた…」

「え…」

ロニエ持ってるか?と聞くキリト。

「一応持ってますけど…」

「頼めるか?ユイは俺が見ておくから」

「もうっ……分かりました。ユイ、すぐ終わらせてくるから、パパと待っててね?」

「まま、だいじょうぶ…?」

「ええ、大丈夫。見ててね、ユイ」

「大丈夫だ、ユイ。ママは凄く強いからな!」

ユイをキリトに任せてロニエは一人、モンスターへと歩いていく。

「き、キリトさん!お、奥さんが…!?」

「大丈夫ですよ、アレくらいならロニエ1人で充分だ」

「そうは言っても…ああ!こうなればワシが……!」

焦るニシダに対し、落ち着いているキリト。結果は分かりきっていた。ロニエ位の実力ならば、あの程度のモンスターは上位ソードスキル一本で充分だと。

 

ロニエは愛剣をストレージから実体化し、鞘から剣を抜く。

 

「______はああああッ!!」

 

裂帛の気合。鋭く、引き裂くようなその声はあの繊細そうな少女のそれとは思えない程のものだった。

彼女が攻略組のトッププレイヤーである事を知らない、気づいていないギャラリー達は驚きを隠せない。

片手剣上位ソードスキル《ウォーパルストライク》。射程距離は突進技故に長く、威力も高めで、尚且つクールタイムが短い。キリト達片手直剣スキルを扱うプレイヤーが愛用する、万能技だ。突き技なので攻撃対象を一体に絞らなければならないが、それも些細な事。

 

為す術なくロニエのソードスキルをまともに食らった四足歩行の魚型モンスターは、一撃でHPゲージを根こそぎ持っていかれて、絶命。ポリゴン片となって砕け散った。

 

『『__________』』

「まま凄い…!ままー!」

「____うん、凄いな。何度見ても綺麗な技の立ち上げ方だ。一部だって隙もない」

ポカン、と口を開ける周りと、目を輝かせてロニエに手を振るユイ、そして満足そうに頷くキリトだった。

 

「終わりました、先輩」

「ああ。綺麗に決まったな」

「はい!ドロップアイテムも結構出ましたね」

「ふーん…ヌシとあって結構アイテムが豪華な気がする」

「ニシダさん、ドロップアイテムありますよ!豪華そうな釣竿も…!」

「____はっ!?ホントですかな!?」

2人に駆け寄るニシダ。ドロップ一覧を可視化しニシダに見せつつ、ロニエはユイを抱っこする。

「おかえり、まま!」

「ただいま、ユイ」

「まますごかったね!すごくはやかった!」

「そう、かな?えへへ、ユイに褒められると恥ずかしいなぁ…」

ユイに褒められてロニエはちょっと顔を赤くして照れた。正面からの賛辞はやはり恥かしいようだ。それも子供の純粋なものであるが故に余計だろう。

「あ、あの……もしかして、攻略組のロニエさんですか…?」

と、その時。ギャラリーの中から質問の声が上がった。若い男だったが、ちょっと笑顔がひくついている。

「はい、そうですよ」

「えっ……じゃあ、お隣の人って…!」

 

「はい……えっと、その……………夫の、キリトです」/////

「っ!?」

「___はい、夫です」

恥ずかしがるロニエと驚愕する男達を後目にキリトはロニエの肩を寄せて宣言した。

「……えっと、じゃあ、その子は……?もしかして、お子さんですか…?」

「ん、と……ちょっと込み入った事情があるんですけど、まぁ、そんな感じかな」

ちょっと迷ったがキリトは濁しながらそう答えた。

ユイの事情を話すのは時間がかかるし、何よりあまりいい反応はされないはず。

このアインクラッドで子供を産むことは出来ない。だから、必然的に現実世界での子供をログインさせた、と思われるのもそれはそれで問題なのだが…

 

「なんと、こんなアイテムがドロップして……!?あ、き、キリトさん!このドロップアイテムですが_____」

「ニシダさんが全部受け取っちゃってください。俺、そんなに釣りスキル熟練度高くないので……ニシダさんが使った方が有意義ですよ」

「あ、ありがとうございます!!」

と、ニシダさんの元へ集まるギャラリー達。もとよりギャラリー達はほとんどが釣り師であり、湖のヌシが落としたという釣竿には興味がある模様。

 

「……ま、クエストクリアだな」

「はい!結構楽しかったですね、先輩♪」

「最後はロニエに任せちゃったけど………ユイ、楽しかったか?」

「うん!楽しかった!!」

「そうか、良かったな!」

 

こうして、この村一大イベント《ヌシとの対決》は幕を閉じたのだった。



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始まりの街へ

お久しぶりです()
クロス・アラベルです。
忙しかったりやる気が出なかったりで遅くなりました。
では、本編どうぞ…!


 

 

 

「______いや、ここも人が多いな」

「そうですね、最前線もそうですが……ここはより一層多いです」

「わぁ……ひろい……!」

 

次の日。

三人は、始まりの街へと降りてきた。当初の予定より少し遅くなってしまったが、ユイの情報収集だ。

5日ぶりに来た始まりの街は相も変わらず賑やかだった。

 

アインクラッドでの死者数1972人。その半数にあたる900以上が自殺者と言われている。ある意味では驚異的な数字だ。キリトの記憶を見ているユージオだが、それは断片的なものでしかない為、細かい数字は知らないだろうが______キリトの過去では4000人もの死者が出ていた。その半分以下。これも、この攻略組や上位プレイヤーによる情報提供などの賜物だ。

 

「……でも、気のせいか。なんか、この間より活気がないような気がする」

「そうでしょうか?」

「…なんと言うか、前に比べたら人も少なめなような気が…」

しかし、今日に限って活気が感じられない。キリトの記憶が確かならもう少し人がいたように思えた。

「何か、あったんでしょうか?」

「うーん……俺達休暇取ってるから会議出れてないしな。もしかしたら何かあったのかも…」

 

と、2人して考え込んでいると___

「キリト、ロニエ!ごめん、遅くなったね」

聞きなれた声が後ろから。

 

「よ、ユージオ。久しぶり」

「うん。キリトもロニエも元気にしてたかい?」

「はい!お陰様で…!」

「おはようございます、キリト先輩」

「おう、ティーゼ。シャロも元気にしてたかー?」

「うん!おはよー、きりにぃ!」

ユージオとティーゼ、そしてシャロだった。

 

今日の情報収集に関してはユージオ達も一緒に行きたいとのことだった。

シャロも、未だに家族や知り合いの情報が掴めていない。定期的に始まりの街にやって来てはシャロの情報を聴き込んでいる2人はならいっそ、ユイについても一緒に調べようと提案してきたのだ。

それに、あれから何度も降りてきている2人からすれば、この街のことは慣れたもの。道案内役ではないが、代わりにはなるだろう。

 

「それで……その子が、ユイちゃん?」

「ああ、この子がユイだ。」

「…ぱぱ、そのひとたち、だぁれ?」

「こいつはな、ぱぱの一番の友達なんだ!」

「____はじめまして、ユイちゃん。僕の名前はユージオ。好きに呼んでくれていいよ」

不安がるユイに優しく笑みを浮かべてユージオは自己紹介。

 

「こんにちは、ユイちゃん。私はティーゼ、この子はシャロって言うの。仲良くしてあげてね?」

「…ゆーいお、いーぜ?」

「ちょっと難しかったかな…?」

ユージオとティーゼの名前は少し難しかったようだ。しかし、

 

「………シャロちゃん?」

「あ、シャロのことはちゃんと言えたね」

シャロの名前だけははっきりと発音してみせた。

 

「そう、シャロ。仲良くなれるといいんだけど…」

「……ユイ?」

シャロと同様だった。キリト達のことでさえ拙かったのに、ユイだけははっきりとそう呼べた。

「_____」

「_____」

二人してじっと見つめ合う。それが一分ほど続いた後に、シャロから手を差し出した。

「なかよく、してね!」

「___うん!」

そういって二人は笑顔で握手をした。

「……心配する必要はなかったみたいだぜ?」

「…そう、だね」

 

 

 

 

「それで、どこに向かうんですか?」

「児童保護所…って言うんだっけ?僕はそういうの詳しくないから何とも言えないけど。言うなら、子供の世話をしたりする施設があるんだ」

「プレイヤーがやってるのか?」

「うん。元より大人の同行なくアインクラッドに来た幼い子も多いらしいんだ。それで、その子達の面倒を見ようっていう有志のグループが出来たんだ。アインクラッドが始まってから、1ヶ月くらい後なんだけどさ」

「今じゃ、その施設……教会なんですけど、30人くらいがそこで暮らしてます」

目的地への道中、ユージオとティーゼから目的地について説明を受けるキリトとロニエ。

 

このアインクラッドではまだ幼い子供がログインしている事も少なくない。その子供たちはこのアインクラッドで路頭に迷うこともしばしば。

 

「へぇ………2人とも詳しいな」

「…元より、その施設には何度も行ったことがあるからね」

「シャロの情報収集に何度も伺ったんです。それに、私達もその子達のお世話を何度か手伝っていて…」

「へぇ、じゃあシャロとその教会の子達とは面識があるのか」

「うん、随分と仲良くなっててさ。結構遊びに来たりしてるんだ」

饒舌に話すユージオとティーゼにキリトとロニエも感心した。

「……そうだ、ちょっと聞きたいんだけど」

「?何、キリト」

「いや、いきなり話変えるけど……なんかここ(始まりの街)前より静かじゃないか?」

キリトは先程からの疑問をユージオにぶつけてみることにした。

 

「あー……うん、そうかも。事情が事情だからね、仕方ないよ」

「事情?」

「何か、あったんですか?」

「ん、と……何処から話せばいいかな…」

歩きながら悩むユージオ。余程複雑な事情なのか、それともどこから区切りをつければいいか悩むほどの面倒なものなのか。

 

「……二人は5日前の攻略会議には参加してませんからね。一から説明した方がいいかもしれないわ」

「…そうだね、ティーゼ」

「え?攻略会議?」

「私たちがいない間にあったんですか?」

複雑な路地へと入っていく一行。ユイとシャロは2人仲良く手を繋いでキリトとユージオの後ろ、ロニエとティーゼの前______2組に挟まれるようにして歩いている。

「うん、ちょっと急だったんだけどね。5日前の朝9時だったかな、アルゴから緊急の攻略会議が開かれるから僕ら二人も来るように…ってメッセージが来たんだ」

 

 

ユージオとティーゼによる説明はこうだ。

 

アルゴの急な呼び出しに2人は会議集合場所にシャロも連れて行った。さすがに朝一にシリカに世話を頼むのはこちらも気が引けたという。残念ながらユージオ達の家は主街区から少し遠い為、走っても時間がかかる。転移結晶を一々使うのも勿体ないので二人はいつも走って主街区に行くのだ。やはり他の者より遅くなるのは仕方がない。二人が辿りついた頃にはみんな集まっていた。

会議は二人が集まった直後に始まった。

 

内容としては____自称《正統派攻略組》の『オプリチニク』についてだった。

アルゴが掴んだ情報によると半日前に、オプリチニクの団長である《イヴァン》が死んだ事を確認したという。

死因は『ダメージ毒』。

 

アルゴの情報屋仲間で、オプリチニクに潜入捜査していた者がいたのだが、その時の状況をこうメッセージで綴った。

 

『イヴァンは精鋭隊の壊滅的被害、そしてその精鋭隊全員のギルド脱退にかなりショックを受けていた模様。

あれから彼は状況判断が出来なくなり、団長補佐の男に全てを任せていた。

が、つい先日ギルドの本拠地から姿を消し、行方不明。それからというもの_____ギルド内では派閥争いが勃発。イヴァンのやり方を正し、ディアベル達攻略組との合流を図ろうとする者が少数と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が大勢……それに別れた。ギルドは今崩壊状態にある。

これ以上の潜入捜査続行は不可能と断定し、即座にそちらと______』

 

______このメッセージが送られてから、その情報屋の連絡は途絶えた。

その後、生命の碑の彼の名前に線が刻まれたことをアルゴが確認した。

 

彼の死因は、《アインクラッド外周部への高所落下》。

 

オプリチニクの本拠地は主街区外のとある街。そこでは高所、なんて言えるような高いところはほとんど無い。しかし、その本拠地の近くには____アインクラッドの外周部が見渡せる、ベランダのように作られた場所があった。

 

___潜入に気付かれて口封じに殺された、というのが、アルゴの見解だ。

その情報屋の彼が死んだその時間とメッセージを受け取ったその差はたった2時間。その間に彼は外周部へと連れていれてアインクラッドの外____鋼鉄の浮遊城の外へと投げ出されたことになる。

 

そして、その後。

アインクラッドの至る所で、暴力事件が発生。

アルゴが調べて確定した件数だけでも18件に及ぶ。

その18件の内、死人が出たのが7件。

1パーティ丸々壊滅させられて、命からがら逃げ切った生き残りがアルゴに情報を提供してくれた。

 

まさに、地獄絵図。彼らの手網を握るリーダー(イヴァン)はもう居ない。

彼らは____堕ちるところまで、堕ちてしまったようだった。

これ以上の犠牲者を出す訳には行かない。

なので、攻略組全体に各層の主街区やそれぞれの街への見回りを頼みたい、とのことだった。

 

 

そんな話を聞いたキリトは思わずしかめっ面。

「___なんだ、その胸糞悪い話は…」

「僕だって胸糞悪いよ。4日前からティーゼと2人で色んな町に出掛けて見回りしてたんだ」

「……もしかして、そのオプリチニクの被害がここまで来てるってことですか…?」

 

ロニエも嫌悪感を隠しきれていない。攻略組と自称していながら、リーダーがいなくなった途端、犯罪行為に身を染めるなどあってはならないし、普通はそうはならない。なぜなら、攻略組としてた戦うという事はこのアインクラッド攻略を進めるということ。逆に人殺しは攻略を妨げるものであるからだ。

 

キリト達リアルワールド人は故郷であるリアルワールドに帰るために戦い続けているとロニエは理解している。故に彼らの行動は_____故郷に帰りたくないという事になる。そこにロニエは嫌悪感を持たざるを得なかった。

 

「正解だよ、ロニエ。ここは圏内だから直接的な犯罪はない。けど、迷惑行為をする輩が目立ってるんだ。《ブロック》とかさ」

 

《ブロック》とは、アインクラッドにおける圏内ルールを悪用した迷惑行為の1つ。ここ圏内ではプレイヤー同士でHPを削ることは出来ない。攻撃してもシステムによって弾かれる。因みにこれを利用したのが《圏内戦闘訓練》だ。しかし、プレイヤーが意図して相手プレイヤーを裏路地に追い込み、数人で出入口を塞ぐと言う迷惑行為があった。

相手プレイヤーは剣で追い払おうにも相手に剣は届かず、体術スキルによる打撃もシステムによって弾かれる。故に、相手プレイヤーの動きを一方的に封じることが出来るのだ。

この世界ではマナー違反として一般的に禁じられている。

 

別に対処法が無い訳では無いのだが、それは本人のレベルが高い場合にのみ使える物。レベルの低い者はその《ブロック》に対処出来ない。その点でいえば始まりの街にいるプレイヤー達は多くが比較的レベルの低いプレイヤーだ。なので、この《ブロック》という迷惑行為は始まりの街において効果抜群という訳だ。

 

「_____だから活気がないのか」

「人も少なくなってるよ。基本的に宿に篭った方が安全……っていう考えも分かるけどね」

「じゃあ、今攻略組は…」

「全員が全員見回りに行ってるわけじゃないんだ。今や攻略組は四百人を超えてるからね。その半分_____まぁ、精鋭班以外の予備軍を筆頭に見回りに当たってもらってるよ。勿論、僕達やディアベル、キバオウ達も見回りには参加してる。交代しながらだけどね」

 

「…そうか、俺達も前線に戻ったら手伝わないとな」

「そうしてくれるとありがたいよ。《オプリチニク》の奴らは人数がかなり多い。情報によると犯罪行為や迷惑行為を働くメンバーは100人以上はいるらしいからさ、人手が足りないのはいつもの事だけど…今回は特に、ね」

「あの、見回りをするのは分かりました。でも、それを見つけた場合はどうすればいいんですか?」

「一応捕縛して黒鉄宮の牢屋に入れることになってるらしいんだ。僕らは直接その現場に居合わせたことがないからなんとも言えないね。一応武力行使の前に警告ぐらいはしておこう。できるだけ戦うんじゃなくて話し合いで解決したいから」

「……そんな今まで迷惑行為をやってきたヤツらが、言葉だけで辞めるとは思えないけどな」

「…まぁ、ね」

 

キリトの零した言葉に思わず頷いてしまうユージオ。

「……どうしてそんなことするんだろうね」

「それは______うん、結構簡単な話かもしれないぜ」

「?」

「簡単、ですか?」

「ああ。ただ単に____アイツらは()()()に浸っていたかったんだろう」

「優越、感?」

 

「…ホント、簡単な話だよ。アイツらはデスゲームと化したアインクラッド(こんなところ)でさえ、人より上に立っていたかったんだ。いや、ここだからこそ…なのかもな。デスゲームになって、現実世界に帰れなくなって。それで、考えるのが怖くなったんだよ」

キリトの声は冷たい。

 

「……考えるのが怖くて、何より今の自分の状況(現実)も、自分がどうなるか(未来)も______見るのが嫌だった。だから、考えるのをやめてしまった。その結果が今までのオプリチニクであり、それさえ崩壊したのが今の暴動に繋がるんだろ。それか____元より、その優越感に浸りたいが為に自称攻略組、なんて看板を掲げてたオプリチニクに入ったか、だな。自分という自我(プライド)を保つ為に入ったやつか、元より狂ってる奴か。どっちかだろう」

「______」

 

ユージオには理解も納得もし得ない思想、思考。

しかし、ユージオには分かってしまった。

_____そう、彼らオプリチニクは、アンダーワールドの貴族達___ライオス・アンティノスやウンベール・ジーゼックと似通ったものがあったと、ユージオは感じた。

うまく言葉にできないが、そうなのだと分かってしまう。

 

 

「あ、そこ右曲がるよ。そうすれば見えてくるから」

裏路地を進む一行はある古い教会に辿り着いた。

「ここが目的地か?」

「うん、ここがサーシャさんって言う人が仕切ってる保護所だよ」

ユージオはそう言って教会の大きい扉を叩く。

 

コン、コココン、コッココン。

 

ある一定のリズムを刻んだそれは、キリトとロニエには中にいる人に対してのメッセージ____暗号(パスワード)のように聞こえた。

ステンドグラスが僅かに光を反射し、中に誰かがいるのが見える。

「…ユージオです、約束通り来させて頂きした」

 

『……!!』

『…はい、今開けますね』

向こうから声が聞こえた、直後。

扉からガチャリ、という解錠された音が聞こえた。

 

「____こんにちは、ユージオさん、ティーゼさんも。変わらずお元気そうで何よりです!」

「こんにちは、サーシャさん。またお世話になります」

「お願いしますね、サーシャさん」

「いえいえ、私自身こういうことを目的にこの教会を開いたんですから」

教会から姿を現したのは、小柄な女性。

身長はキリト達より少し高いくらいだろうか。海老茶色の髪をローポニーテールでまとめている。

 

「紹介するよ、キリト。彼女が___」

「この教会を取り仕切っているサーシャというものです。あなたがたが、キリトさんとロニエさんでよろしかったですか?」

「あ、ああ」

「初めまして、サーシャさん。ロニエです。こちらがキリト先p…キリトです」

軽く自己紹介。彼女こそ、この教会で子供達の世話を取り仕切っているサーシャ。取り仕切る、というより泊まり込みで面倒を見ている子供達の保護者代わりもなっている。

「それで……その子が、例の?」

「はい、ユイって言うんですけど…」

「……」

 

サーシャはロニエの後ろに隠れていたユイに目を向ける。

やはり初対面だからか、少し緊張しているようだ。

「うーん…容姿は話の通りですね。黒髪ロング、黒い瞳……うーん…特徴となるものがあんまり…」

「サーシャさん、名前の方もダメだったんですか?」

「はい。調べてみたはいいんですが、捜索依頼にはユイちゃんの名前はなかったです」

「そうか…」

『あ、先生!その子って、昨日話してた子?』

「ええ、そうよ。ユイちゃんっていうの」

 

奥の部屋から出てきた幼さ残る子供たち。彼らこそ、サーシャが保護している子達だ。

 

総勢38名。年齢層は様々だが、最年少で12歳の子供がいる。SAOが始まったのは今より約一年半前。という事は10歳…小学四年生の子供がSAOをプレイしようとしたということだ。

 

《ソードアート・オンライン》というゲーム自体に推奨年齢(レーティング)があり、13歳以上と決められている。が、それを真面目に守る人間というのはやはり少人数だ。

 

13歳以下の子供達が大人の名義でゲームを買ってもらい、ゲームにログインする____その手法で彼らはアインクラッドにやってきた。その結果、このデスゲームに巻き込まれてしまったのだから、ある意味では自業自得な訳だが___

 

「なんと言うか…」

そんな彼らもサーシャ達の支援を受けて生活出来ている。

キリト達は座りながらサーシャが入れてくれたお茶を飲む。

子供達は丁度昼食の時間だったらしい。みんな一斉に用意された昼食を食べている。

1部ではパンや肉料理の取り合いになっている。三人いる保護者役の人達が忙しなく彼らの面倒を見ていた。

 

「うーん……私達はあれから、一日に一回はこの始まりの街の隅々を見回りに行っているんです。街の地図も見なくたってどこか分かるくらいです。なので、その時にユイちゃんのような子を見たことが無いですし、この始まりの街出身の子ではないと思いますよ?」

「そうですか…うーん……ワンピース1枚しか着ていなかったので、明らかに上層から来た感じの子ではないと踏んでたんですけど…」

「シャロの時もそうだったわ。これで振り出しに戻っちゃったわね。うーん…」

悩む新妻二人。

しかし、キリトはこのSAOにおける子供達の保護所の話題よりも、ユージオが先程話していた、《オプリチニク》の話を思い出していた。

 

「____変なことにならなきゃいいけど、アイツらの事だ。きっとやらかす」

確信だった。

「だよね。実際に実害を被ってる人達がいるんだから……でも、キリトは気にしなくていいよ。まだ新婚だしね」

「そうも行くかよ。確かに、ロニエとユイ、三人でいたいさ。けど、これを見て見ぬふりなんて出来やしないよ」

「……そっか。そういえば、君ってば、そういう人だったね」

2人で話していると、直後。

 

勢いよく扉が開いた。

バンッ、と音を立てて開いた扉、そこに現れたのは一人の少年だった。

「____はぁ、はぁ、はぁっ……先生!!大変だ!」

 

「コッタ、どうしたの?今お客さんが来てるから静かに____」

「ギンにぃ達が……オプリチニクの奴らに捕まっちゃったよ!!」

「「「「____________!!」」」」

それを聞いて立ち上がるサーシャ、話し合っていたロニエとティーゼも立ち上がった。

キリトとユージオも途端に険しい表情に。

「____コッタ!場所はどこ!?」

「えっと…西七区、の迷い路地の中!!僕も必死だっから、あんまり場所覚えてないよ…!」

「迷い路地!?」

 

迷い路地。

この始まりの街で西の三区から八区はかなり複雑な道順になっており、プレイヤーの間では《迷い路地》と言われている。

コッタという少年の話だと、他の子供たち____ギン、シエナ、ミナの3人の少年少女が《オプリチニク》と名乗るプレイヤー10人弱に路地裏で《ブロック》されているという。

 

「____行くぞ」

「____勿論」

キリトとユージオは二つ返事で立ち上がった。

 

 

 

 




SAO×FateのSSも是非…
お願いします〜!


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堕ちた者達

こんにちは、クロス・アラベルです。
今回はキリユジによる天誅の回です。
この《朝露の少女》編は後2話ほど続く予定です。

気付けば、アインクラッド編もこんな所まで来てしまいました。
早いなぁ…(遅いわ)
では、本編どうぞ〜


 

 

 

「_____見つけた」

「ああ。人数は話より少ないが___」

始まりの街の、建物の上。

屋根から屋根へと飛び移り、迷い路地を駆ける。

索敵スキルにプレイヤー反応が計8人。

六人と二人に固まっている。

2人の方はおおよそ子供たちだろう。

人数が少ないのが気になるが。

あとの六人が___

 

 

 

「_____く、諦めろよ。こんなとこまで助けなんて来ねえよ。何せここまで来るのにかなり時間かかるだろうからよォ」

「嫌だ!ミナをどこにやったんだ!!返せよ!」

 

子供達が誰かに向かって叫んでいる。

必死に抵抗しているようだ。

男の子がもう1人の女の子を守るように男たちの前に立っていた。

 

「だからよ、そこの女の子をオレたちに____うお!?」

その子供と男たちの間に割って入るキリトたち。

サーシャはティーゼに担がれていた。

 

「______もう大丈夫よ、装備を戻して」

ロニエが二人の子供に近づいて頭を撫でる。

キリトとユージオは剣以外の武装を付けたまま、ユイとシャロをおんぶしている。

相対する、オプリチニクのプレイヤー達とキリト、ユージオ。

 

「な、なんだよテメェら…!」

「やめてください!子供たちに何をしていたんですか!!」

サーシャが叫ぶ。

子供達は鎧などの装備を解除し、簡素な服のみの格好だった。

「ちっ、アンタがこのガキ共の保護者か。手間かけさせやがって…」

毒づくリーダーと思しき男。

キリトとユージオはユイとシャロを下ろして___

 

「アンタら_______この子達に何しようとしてたんだ」

「まだ幼い子供なのに……一体何をしようとしたのか____聞かせて欲しい」

 

殺気の篭った目で男達を睨みつける。

普段穏やかなユージオでさえ、嫌悪を_____何より、怒りを隠せない。

 

「んだよ…オレたちゃ、お金を借りたいだけで___」

 

「___その理由なんて聞こうとは思わないけど、じゃあ何故あの子たちは全ての装備を外してるのかな?」

「___お前らいい歳してよくもまぁこんなことしてるな。あの子たちが震えてるのが分からなかったか?」

 

「___なんだ?ああ?文句あんならよ……」

 

すると男は腰に差していた剣を鞘走らせて言った。

 

「____殺るか?」

「どうせやるならよ、圏外に行くか?お?」

___もう、説得の余地など無かった。

既に、堕ちるところまで堕ちている。

キリトとユージオの怒りも有頂天である。

 

「__先輩」

「大丈夫だ。俺たちに任せろ___いや、()らせてくれ」

「…わかりました。任せます」

 

「____今、《殺る》…って言ったよな?」

 

「おお?そうだよ。お前らじゃ数秒も持たねぇよ。俺たちのレベルは60超えてんだぜ?勝てると思ってんのかぁ?」

「圏外に行く必要は無いよ。だって____」

 

二人は剣を実体化させる。

もう会話は意味をなさない。

この手の輩は言葉では聞かない。だから__

「____ッ!!」

「が____ぁ!?」

 

実力を持って場を収める。

ユージオの剣が閃いて、男の顔に衝撃が走る。

吹き飛ぶリーダー格の男。

 

圏内において、絶対にプレイヤーにはダメージが発生することは無い。

圏内ではシステムによって全てのプレイヤーが守られる。

 

「安心してよ。HPは絶対に減らない。死ぬ事なんてないんだから…ほら、ここって圏内だからさ」

 

「____一時期、圏内でキルが出来るっていうデマが流れたけど、それも嘘だったし、これなら安心じゃないか。なぁッ!!」

「____ひっ…!?」

次は男にキリトの剣が閃く。

 

そのシステムによる絶対の護り。それを利用したのが《圏内戦闘訓練》であり、悪用したのが《ブロック》だ。

ブロックは相手のHPゲージを減らすことは出来ないし、無理矢利動かすことが出来ないという圏内のルールを悪用したもの。だが____これには抜け道が二つある。

 

一つは相手の頭上____プレイヤーの上を飛び越えるように逃げること。

これに関してはそれなりのレベルになれば可能だ。それをブロックしているプレイヤー達が許してくれるかは別にして。

 

二つ目。それがキリトとユージオが行っていること。

レベルがあがってある一定の筋力値(STR)を超えた時に出来ること。

システムによって守られている、と言うのもやはり限界がある。一定のレベルを超えて攻撃力が____筋力値(STR)が高くなると、攻撃によって相手にノックバックを発生させることが出来る。もちろんHPゲージは減らない。しかし、衝撃は発生する。

俗に言う、()()()()である。

 

「____圏外に行ってもいい。けど、危険すぎるもんな?俺もオススメはしない。だから……ここでずっと、叩きのめしてもいいんだぜ?HP減らないしさ、永遠に続けてやるさ」

 

「_______君達がやってきた愚行を、あの子達が味わったその恐怖、何倍にしてでも返すよ」

 

 

「____お、お前らぁ!!?見てないで助けろよぉ!!」

リーダー格の男の悲鳴。

ざわ、とオプリチニクの男達がどよめく。

そして、悟ってしまった。

 

_____ああ、怒らせては行けない奴らを怒らせた(虎の尾を踏んでしまった)のだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。

 

オプリチニクの男達は一人を残して全員気絶してしまった。

まさにフルボッコである。

「___さて」

「__いっ…!?」

一人気絶していない男に歩み寄るキリト。剣を肩に担いでぺたりと座り込んだ最後の男にしゃがみながら話しかけた。

 

「運が良かったな。アンタには聞きたいことがあったんだ……なぁ、正直に答えてくれるよな?」

「わ、分かった!分かったからアイツらみたいには…!!」

「まぁ、アンタが正直に答えられるか。それ次第かな」

先程の地獄絵図を見て完全に脅えている。

それをいい事に、キリトとユージオは尋問(脅しながら)を開始した。

 

「じゃ、質問その一。アンタらがオプリチニクであってるよな?」

「ああ、いや、もうあのギルドはほぼ崩壊してるし、イエス…とも言えないかもしれない…」

「…元、オプリチニクってことか?」

「そうなる…かな。団長____イヴァンさんが死んでから、おかしくなったんだよ。俺は、その、仲間に脅されて____」

 

「アンタがなんでこんなことしてたかなんて知りたくない。そんなこと質問してないぞ?」

「_____ぁ、すいません…」

 

「質問その二。子供、もう一人はどこやったんだ?」

 

「____ぇ?」

「いやな、教会に飛び込んできた子が言ってたんだ。ギン、シエナ、ミナ。この三人がアンタらに捕まってたって。けどここにいたのはギン、シエナの二人だけ。ミナって女の子がいない」

 

「___それに、君たちの人数もその子の話より少ないんだよね。知らせに来てくれた子はね、『10人くらい』って言ってたよ。君達、六人しかいないじゃないか。少なく見積っても、4人は足りない______どこに行ったか、知ってる?」

「____」

静かに、淡々と。

二人は尋問する。

 

「____えっと、その……」

じっ、と男の目を見る二人。

「___ここだよ」

 

その眼力に負けて、男は指を刺しながら答えた。

___地面のレンガに。

 

「____巫山戯てるなら…」

「ちっ、違う!!本当だ!!本当に……!」

「待って、キリト。彼、僕らをバカにしてるんじゃなくて___」

「______まさか、地下ダンジョンか」

ぶんぶんと首を縦に振る男。

嘘は____ついていないようだった。

 

「確か、始まりの街の下に隠しダンジョンあったよな」

「___はい。最前線の攻略具合で解放されていくタイプのダンジョンです。私達も2、3回行きましたね」

「ふむ、じゃあもう一つ。お前ら以外___女の子を連れ去った奴らの人数は?」

「5人だ……」

「___貴重な情報をありがとう。因みに聞くけどさ、なんでその子を地下ダンジョンなんかに連れていくんだ?」

「____それ、は…」

言い淀む男。

連れていかれたのは、女の子。

恐らくは_______

 

「____そうか、大体分かった。理解も納得も出来ないけどな」

そう吐き捨てて、キリトは立ち上がった。

 

「___じゃあ俺は、何も__!!」

「ま、俺は()()()()()()()()()()()()()()()()。勘違いするなよ現実世界(向こう)でやったら、間違いなく刑務所行きだからな。同じように_____罰は、受けてもらう」

「_____ぁ」

 

「____らァッ!!」

「がっ____」

 

特大威力の《ウォーパルストライク》を食らって気絶する男。

「ふぅ、さて。ユージオ、回廊結晶もってたっけ?」

「流石に持ってないよ。あれ高級品だよ?」

「あー…ギルドにも入ってないオレたちが使うものじゃないしな。どうするかな」

気絶してレンガの道路に延びる男を後目に、キリトはうーん、と首を傾げた。

その時だった。

「___誰か来たな」

「うん。数は___七、いや八人かな」

この迷い路地に誰かがやってきたようだ。いくつかの足音が聞こえてくる。

『_____ニクだった場合は即無力化して下さい!一応警告はしますが、彼らは聞いてはくれない!いいですね!?』

『『『はいっ!』』』

 

「あれ、この声って…」

「…なんか、聞き覚えあるな。攻略会議で何回か」

鎧のガシャリガシャリと擦れる音と共に姿を現したのは___

 

『止まりなさい!!今すぐに武器を____え?』

「あ、ユリエールさん」

「そうそう、そうだった。忘れてた」

攻略組の中でも始まりの治安維持のグループに所属する幹部、ユリエールだった。

 

 

「ごめん、助かったよ。ユリエールさん」

「いえ。まさかキリトさんとユージオさんが来ていたなんて思ってもいませんでしたよ」

「僕らも元々パトロールをしていた訳ではなかったんですけど、ちょっと状況が…」

「すみません、本当に助かりました」

 

その後、オプリチニクの男達はアインクラッド(Aincrad)治安維持部隊(Security Forces)___通称、ASFのプレイヤー達によって運ばれて行った。

 

「にいちゃん…」

その時、先程まで後ろにいたギンという男の子がキリトとユージオを指さした。

「ん?あ…」

「あ、えっと……」

二人は一瞬戸惑った。

あんな怖い所を見せてしまったら、子供達は怖がるに決まっている。

どう言い訳したものかとキリトが悩んでいると、ギン少年はぱっと笑って言った。

「___すっげぇ…!に、にいちゃんなら、ミナを助けられるよな!?」

そう、まだ全て解決していない。

ミナ、という少女が行方不明だ。当てはあるので今からでも早く行かなければ。

「_____ああ、任せとけ。俺も、そこのお姉さんたちもみんな強いんだ。だから、待っててくれるか?」

そう言ってキリトはニヤリと笑った。

 

 

 

 

 



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救出隊危機一髪

こんにちは、クロス・アラベルです。
今回から次回も立て続けにシリアスです。



 

 

 

 

 

 

「____おりゃぁぁぁぁぁぁあ!!」

薄暗いダンジョンの中。

斬撃が緑色の生き物を吹き飛ばした。

 

「おらぁぁぁぁぁあああああ!!」

十体以上いたカエル型モンスターはキリトの二刀流によって蹂躙されていた。

エリュシデータで吹き飛ばし、残りをダークリパルサーで切り刻む。

戦闘狂(コンバットマニア)___いや、戦闘欲求(しょくぎょうびょう)ここに極まれり。

「___このままのペースなら、すぐ追いつけそうですね」

ロニエがユイをおんぶしながら言った。

「確か、ここのダンジョンに前に来たのが4ヶ月前だったわよね。その時は私達もそんなにレベル高くなかったからレベル的にいい塩梅だったんだけど……今となっては、全然ね…」

「…やっぱり凄いですね。あれだけいたモンスター達をものの一分で…!」

ユリエールが感嘆する。

 

あれから、最後の少女《ミナ》の救助のためにすぐさまダンジョンに乗り込んできた一行。

サーシャ達はそこまでレベルが高くないので同伴はしなかった。

 

しかし、ユリエールはついて行かせて欲しいとのことだったのでパーティに加えている。

ユリエールのレベルは70を少し超える程度。

対してここのダンジョンのモンスターの平均レベルが60を超えるくらい。

なので安全マージンのレベル____適正レベルの10超えは達成しているし、モンスターも倒せるが、それは一対一の話。ここのダンジョンは特にモンスターの湧きが多く、少し彼女には荷が重い。が、ユリエールの上司であり恋人であるシンカーという幹部からの頼みで『これもこちらの仕事だったものだからね、一応一人は付いていて欲しい』とのこと。

因みにシンカーは他のオプリチニクへの対応で東奔西走している。

彼も苦労人だ。

 

そして、このダンジョンに似合わない子供が二人。

ユイとシャロである。

この二人は、キリト達に着いていく!と珍しく頑固に言って聞いてくれなかったので、仕方なくだ。

絶対にロニエとティーゼの言うことを守るように、と強く言われている。

 

「___やっぱり、これは捨てましょう」

「え、なんでだよ!いいじゃん、スカペントードの肉…ゲテモノ程美味いって言うし…」

アイテムストレージを見ながら無慈悲に先程のカエルのドロップアイテム___《スカペンジ・トードの肉》をゴミ箱へと入れるロニエ。キリトは思わず悲鳴をあげた。

 

「駄目です!私達だけだったらともかく、ユイにもシャロちゃんにも教育によくありません!!先輩がこれを食べてるってユイが聞いたらどう思いますか!?」

「えぇ……いや、うん。確かにそうだけどさぁ…」

が、ロニエのド正論に対して答えあぐねるキリト。

流石にユイのことを思うと、少し戸惑いがあるようだ。

「後で隠してアイテムストレージに入れようとしてとダメですからね!」

「…はーい…」

「キリトってば、こういうの好きだよね。随分と前にも気持ち悪いの食べてなかったっけ?確か____《アースワームの腸》…だよね」

「_____思い出すだけで寒気がします…」

キリトのゲテモノ好きはユージオ達も引くレベル。

47層攻略時にドロップした《アースワームの腸》。それを見た時は女子達は卒倒しそうになったという。

「いや、あれはかなりのレアアイテムなんだって!!俺が馬鹿なこと言ってそのまま食べようとしてたけど、アレ乾燥させて潰して粉にしたら5種類くらいバフかかる漢方に早変わりしてたんだぜ!?」

「いや……さすがの僕も生理的に受け付けないよ…」

「もう!こんなのはダメです!料理する側のことも考えてください!」

「…すいません」

怒られてシュンとするキリト。

それを見て「ふふふ」とユリエールは笑った。

 

 

「___さて、早く進まないとな。まだ生命の碑の名前に線が引かれていないとはいえ、怖い筈だ。ちょっとスピード上げるぞ!」

「はいっ」

キリトは再び現れたカエル型のモンスターを一掃して、駆け出した。

 

パーティ的にはキリトが前衛、ユイとシャロの面倒を見なければならないロニエとティーゼ、ユリエールは中衛、ユージオが後衛を務めている。

このダンジョンは六十層程度のレベルなのでキリトたちからすれば結構楽勝だ。

今は人命救助。スピードが優先される。

 

お喋りの余裕はない。

ミナ、という女の子はオプリチニクの連中に連れていかれてしまった。

情報によるとオプリチニクの平均レベルは60を超える程度とそこまで高くない。故にこのダンジョンで生き残れるか怪しい。

運が悪ければ_____オプリチニク諸共、少女まで死んでいる可能性もある。

さすがのキリトも焦りを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______索敵スキルに反応ありだ!!」

「数は一人……もしかして…」

「急ぐぞ!!」

その数分後。

一行は第4層目までやって来た。

「キリトさん!その先はマッピングがまだされていない、未開拓領域です!気をつけてください!」

「ああ!」

索敵スキルにプレイヤー反応あり。

そのプレイヤーはまだマッピングされていない通路の先にいた。

 

ダンジョンを攻略するにあたって、マッピングはかかせない。

ダンジョンは複雑かつ、広い。

この地下ダンジョンは特にだ。

このダンジョンを後から攻略するプレイヤーに対しての助けになるように、と各ダンジョンのマッピング情報は無料で配布されている。

このような高難易度なダンジョンの場合は話はべつだが。

 

「____一人、か」

そして、この状況で疑問を持つべきものは一つ。

 

()()()()()()()()()()()()()ということだ。

女の子を連れ去ったのは五人。

なのに反応は一つだけ。

隠蔽スキルがどれだけ高くても、索敵スキルを完全習得(コンプリート)したキリト達からは見つかってしまう。例外があるとすれば、向こうも隠蔽スキルを完全習得(コンプリート)している場合だが_____それも考えづらい。

 

「____見えたよ、キリト!」

「!」

 

通路の先、1箇所だけが明るい。

よく見ると、扉のような形をしている。

そこに立つ____人影。

いや、立っているのではない。

へたりこんでいる。

「____あれ、子供だ」

近付くにつれて見えてくるその人影は、大人とはかけ離れた、子供のものだった。

泣いているのか。

 

「キリト、急ごう!!」

「ああ!!」

急ぐ一行。

と、その時。

 

「_____ッ!!」

ユージオの頭に頭痛が走った。

そして、頭に流れ込んでくる記憶。

その濁流に飲まれそうになりながら、ユージオは見た。

 

 

 

 

 

 

見えるのは、黒いローブを着た巨大な何か。

翻る大鎌。

黒光りする刃。

倒れ込むアスナ。

そして_____

 

 

 

 

 

 

 

「_____不味い…っ!?」

ユージオは咄嗟に剣を抜き、およそ()()が来るであろう方向へと防御の体勢に移行する。

直後。

 

「____ぎッ!?」

 

重過ぎる一撃がキリトを庇おうとしたユージオを吹き飛ばした。

 

「___ユージオ!?」

視界外へ消えるユージオにキリトは愛剣を抜剣し、戦闘態勢へ。

 

「先輩っ!!」

 

ティーゼの悲鳴。

駆け寄るロニエ。

ユリエールもそれに続くがキリトが対峙しているものを見て、戦慄した。

 

どこからともなく現れる、黒く大きな影。

黒光りする刃。

漆黒のローブ。

フードの影、その向こうで_____頭蓋骨が笑っている。

カタカタ、と。

がらんどうのハズの目は紅く光り、その骨しかない体では扱いきれない筈の巨大な大鎌が振り上げられる____

 

「____っぐ、ぉ!?」

その一撃を二刀をもってギリギリで受け止めるキリト。しかし___

 

「がァ____!?」

拮抗するのも一瞬だけだった。

ユージオと同じようにキリトは吹き飛ばされた。

 

「____ユリエールさん、二人をお願いします」

ロニエは咄嗟にユイをユリエールに投げ渡し、抜剣した。

ティーゼも同じく。

「____ぁ、はいッ!?」

子供二人を一気に受け取ったユリエールは光の見える向こう____おおよそ女の子が泣きながら待っているであろう場所へと走り出した。

 

「…っ!!」

「…やぁッ!!」

 

2人は直感で理解した。

()()()()()()()()()()を。

故に狙うは討伐ではなく、キリトとユージオが撤退又は復帰出来るまでの時間稼ぎ。

 

そして、この戦闘において最重要とすべき事。それは()()()()()()()()()()()()()

キリトとユージオがどれだけダメージを受けたかは、パーティを組んだので視界右上を見ればわかる。

 

()()

 

たった一撃____それも二人の凄まじい反射神経と瞬発力で防御し、流すように受けてダメージを受けないように最大限の判断をした上で、このダメージ量。

マトモに受ければ、即死も有り得る。

 

『______ !!』

 

______一凪ぎ(single swing)

 

「「_______!?」」

 

たったそれだけで、2人は吹き飛ばされた。

防御姿勢をとって、吹き飛ばされぬようにと構えた筈が___均衡したのはやはり一瞬。

 

レベルが120を超えている4人でさえ、一撃で押し負ける相手。

ここまでで、10秒。

ユリエールと二人の娘の逃げる時間を稼ぐのには充分だった。

 

「_____っ、!!」

ロニエとティーゼと入れ替わるように戦線に戻るキリト。

「___キリト!!」

「ああ、コイツ______ヤバい奴だ、俺の識別スキルでもレベルが分からない」

「少なくとも、90層レベルではあるよね」

「ユイ達は……逃げ切れたよな?」

「うん。後は、僕らが撤退するだけ……」

ユイ達は既に目的地に辿り着いた。

 

多分、あの場所は《安全地帯》だ。

今キリトたちの目の前で立ちはだかるモンスター(死神)。ここまでの化け物が居たら、あの女の子は既に死んでいるだろう。

しかし、あの子は死んでいない。

何故なのか。

それは、あの場所がモンスターが入って来れない《安全地帯》だからだ。

 

そして____何故あのオプリチニクの男たちが居ないのかに関しては……およそ、あの安全地帯にたどり着くまでに、殺されてしまったか。

自業自得、それ相応の最期だ。

 

しかし_____このままでは、キリトたちもその後に続いてしまう。

 

「_____ロニエとティーゼが撤退するまでの時間、稼ぐか」

「うん、そうしようか」

 

だから_____己の愛する人を守る。

今は、それだけ。

 

『_______』

からから、と骨を揺らして不気味に嗤う死神。

まるで、二人の覚悟を嘲笑うかのようだった。

 

奴の一撃の重さは埒外。

防御姿勢のまま、最大限にダメージを抑えたというのにそれでも5割を削ってくる。

およそ_____次受ければ、死ぬ。

回復の隙は無い。

 

「____っ」

思わずユージオは唇を噛んだ。

条件が揃えば、ユージオの()()()が発動出来る。しかし、それはかなり危険が伴う。

条件と言っても、システム的に絶対必要になる訳では無い。が、それを満たしていないと、1分と保たない。

()()()を使えれば、全員生還も可能性がない訳では無いが____

現時点で使うのは自殺行為だった。

 

思考を巡らせていたユージオ。

それを遮るように、彼女は声を上げる。

 

「_____嫌」

「___ティーゼ……?」

 

吹き飛ばされた彼女はユージオを守ろうと、剣をとる。

「もう_____あたしが何も出来ないせいで、先輩失うなんて……嫌です___!!」

 

吼える。

 

彼女にとって_____ユージオの死は防ぎようのないものだった。

しかし、防げたとしたら。

あの結末を回避出来たのなら。

セントラルカセドラルの戦いへと行かなければ。

_____自分たちが、ライオス達(彼奴等)に囚われさえしなければ。

 

あんな離別など、無かったかもしれない。

しかし、過去を嘆いても何も変わらない。

故に、彼女にとって《今》こそが最も護るべきもの。

あの時の弱さは___彼女にとって忌避するものだった。

 

『力が無かったから、愛する人を守れなかった』

 

そんなこと、彼女はもう許容出来ない。

 

 

「死ぬなら_____足掻いて、抗って、先輩を守りたい……!!」

 

《後悔》なんて、もうしたくないから。

 

「_______ありがとう、ティーゼ」

 

 

 

「ロニエ、駄目だ!逃げ____」

「嫌、です」

ロニエも同じだった。

「でもっ」

「先輩は……1人で背負い過ぎなんです。何時もいつも、辛いことを自分だけで背負おうとして……挫けそうになって」

アンダーワールドではあまり見れなかったその素顔。

代表剣士として、アンダーワールドを統べようと東奔西走した日々。

その中で時折見せた、辛そうな表情。

それを見てきたから。

だからこそ______

「___別に、俺は…」

アインクラッド(ここ)に来て、嫌という程理解しました!!私は____先輩がそうやって苦しむ顔を貴方の隣で誰よりも見てきました。だから___もうそんなを見るのは、嫌っ!!」

 

大人なキリトを見てきたロニエにとって、アインクラッド(こちら側)のキリトは、幼かった。いや、年相応にナイーブだった。

必死に自分を取り繕おうと、背伸びしても。

彼女にとって、それはあまりにも痛々し過ぎた。

 

今の彼の正確な年齢は分からないけれど。

彼はまだ、代表剣士の時(あの頃)より若かった。

ならば____代表剣士の時(あの頃)でさえ辛い顔をしてきたというのに。

今、攻略組としての(こんな)重圧に耐えきれるだろうか。

 

「___ロニエ」

「私は____もう、何もしないまま…後悔したくない!!」

彼女は決めた。

キリトの隣にいると_______彼を支えたい、その重荷を一緒に背負いたいと。

 

「_____ユイ達に謝らないとな」

「___はい」

 

 

『_____ !!』

振り上げられる黒い刃の大鎌。

刻一刻と迫る、死。

 

「____行くぞ」

死を覚悟し、剣を構える。

 

死神は、無慈悲にその大鎌(凶器)を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

しかし、届かない。

 

キリトたちを殺すハズの刃は_______何かにぶつかるようにして止まっていた。

 

「何、が……」

___起こったのか。

理解が追いつかない4人を後目に_____小さな身体が躍り出る。

 

「______ユイ?」

「______シャロ…?」

 

死神の刃を止めたのは。

 

「_____ 」

「_____ 」

《安全地帯》に逃げ込んでいる筈の、ユイと、シャロだった。

 

「どうし、て……!?」

キリトが振り向く。キリトたちの後方___安全地帯で一緒にいたはずのユリエールは、既にいなかった。

その向こうには黒いワープゲート。

回廊結晶を使ったのだろう。しかし、あれは一方通行だ。回廊結晶を使った方からしかゲートを通ることは出来ない。

もしかすると、回廊結晶を使ってゲートを開け、ユリエールが先頭をきって入ったまま……ユイ達がゲートに入らなかったんだろう。

 

しかし、それよりもおかしいのは_____目の前の死神の大鎌を紫色の半透明な壁で防ぎきったユイとシャロだ。

 

ユイとシャロには大鎌の斬撃は届いていない。

その紫色の壁。

それに、キリトたちは見覚えがあった。

 

「ぃ、《破壊不能物体(イモータル・オブジェクト)》…!?」

 

そう、NPCやプレイヤーハウスに攻撃した時などに出る、保護システムの表示。

圏内であれば出るだろうが、ここはダンジョン。圏外だ。

理解が追いつかない4人をおいて、ユイとシャロは行動を開始した。

 

「_____オブジェクト、《Atlach・Nacha's knife》を生成(ジェネレート)。」

 

そう、シャロの口から流暢な英語が聞こえた直後。

シャロの右手から黒いナイフがどこからともなく現れた。

ぴちょり、と何か黒い液体が滴り落ちる。

 

それを____死神の大鎌を持っていた腕に突き刺した。

『___________!?』

直後、死神が金切り声(悲鳴)を上げて、その大鎌を地面に落としてしまった。

ジュウ、と何かが焼けるような、溶けるような音がダンジョンに響く。

次に動いたのは____

 

物体消去法式(オブジェクト・イレイサー・システム)、起動_____」

ユイがふわりと飛び上がり、炎と共に何かを呼び出した。

大剣。

ユイの倍はあるだろう刀身___炎を纏ったそれを、悶え苦しむ死神に無慈悲に振り下ろす。

 

『~~〜~~~〜~~ッッ!?』

それを脳天に受けた死神は、断末魔を上げながらその剣に一刀両断され、燃え尽きて行った。

 

 

 

 

 

「____ぁ」

誰の口から零れたものだったか。

呆然とする四人。

この状況に理解が追いつかない。

しかし、これだけは悟ってしまった。

 

______嗚呼、あの今までの時間はもう。

 

終わってしまったのだと。

 

 

「_____ごめんなさい、パパ、ママ。全部…思い出したよ」

ユイの舌足らずなあの声は既に無く。

悲しげな表情で、キリトとロニエに振り返る。

 

「________ 」

無言で消えていった死神、その残り火を見つめるシャロ。

その横顔は、ティーゼの知らない顔で_______ユージオにとって、どこかで見たことのあるようなものだった。

 

「シャロ…」

 

「_________ごめんなさい、()()()()、そして()()()()。貴方たちを……私は、ずっと…………二人を騙してたの」

「___ぇ?」

幼い声、では無い。

落ち着いた、大人の女性の声。

申し訳なさげなその表情。

それが二人にとって。

____1番悲しかった。

 

 




茅場さん、攻略組の皆さんがレベル上がりすぎて急遽死神さんのレベルバカみたいに上げてます(白目)
次回は____遂に、あの子の正体が明かされる。


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また再会()える日まで

遅くなりました〜…クロス・アラベルです。
いやぁ…ちょっと、大学の方が……え?ゲームやってたんだろって?
いや、その…………
はい、ごめんなさい。
ウマ娘にハマってました(白目)
だってぇ…無限に時間が溶けていくんだもん!
あ、ちなみに推しはライスシャワーとナリタブライアンです(聞いてねぇ)
温泉旅行券が当たらないのでずっと育成してます…マジ当たんねぇ…

おっと、本編本編。
今回はお察しの通り、シャロの正体に迫ります。
かなりのシリアス回です。
一応、後書きの方に詳しく追記しておきますので、疑問は、是非とも感想の方で…
では、どうぞ〜


 

 

 

 

「____謝らなきゃ行けないことがあるの」

 

始まりの街、地下ダンジョンの《安全地帯》にて。

ユイとキリト、ロニエ。そして、シャロとユージオ、ティーゼはいた。

先程のボスモンスターとの戦闘を、ユイとシャロ両名の強力過ぎる力によって強制終了した一行は、安全地帯へと退避した。

そして_____キリトとロニエはユイに、ユージオとティーゼはシャロに話を聞くことにした_____いや《した》というより、自然にそうなった。それぞれが、2人の子供との決定的な《別れ》を予感してしまったのだ。

 

そして、ユージオとティーゼの前で。

シャロは突然切り出した。

「謝らなきゃいけない、こと……?」

飲み込めない状況、突然訪れたシャロの変化。

二人にとって、全てに理解が及ばない。

「ええ。私は……貴方達を騙していた」

「騙すって…何を?」

「私は、元々人間じゃない。いえ、この世界(アインクラッド)にプレイヤーとして来た訳じゃないの」

「____NPCだっていうの?でも、他のNPCとは比べ物にならないくらい、君は…!」

_____人間的だった、人間そのものだった。

 

「……確かに、そうね。でも本質的にはあまり変わらないわ。でも_____貴方達二人とは、ほとんど同じ存在だった」

「僕、らと……?」

 

「ええ。ユージオ、貴方は気付いていると思ったのだけれど……まぁ、貴方と言葉を交わしたことなんてほとんどなかったものね。あなたが私の声を聞いたのは_____白亜の塔(セントラルカセドラル)の最上階での戦い、私の最期だけだもの」

 

「_____え、?」

 

()()()()()()()()()()

 

彼女の口から、そんな言葉が出てくると思っていなかったユージオは動揺を隠せなかった。

ティーゼも同じだった。

 

「___まさか、まだ思い出せないの?ルーリット村出身、第5位上級修剣士のユージオくん?」

「な____なんでそれを…!?」

 

「当たり前でしょう。私は、アンダーワールドから貴方と同じく、時を超えてきたんだから」

 

「_______な」

 

彼女の口から出てくる、衝撃的事実。

シャロ____シャルロットも時を超えてきたと言う。

 

「いえ、正確に言うと私の場合はちょっと貴方達とは違うわ。貴方は、正当な時間超越者(タイムワーパー)。でも私は、特殊な状態でここにやってきたから。 」

「ま、さか_____君は…!?」

「やっと気付いたのね。そうよ、私の名前は______」

 

ユージオの出身地から、上級修剣士の順位、果てはセントラルカセドラルの決戦の事まで知っている。

そんなことを知っている人物は、指で数える程度しかいない。

相棒(キリト)、最高司祭 アドミニストレータ、もう一人の最高司祭 カーディナル。

そして______

 

「___シャーロット。マスター…もう一人の最高司祭 カーディナル様の使い魔、蜘蛛のシャーロットよ」

 

シャーロット。

もう一人の最高司祭 カーディナルの使い魔にして、キリトとユージオの旅をずっと見守ってくれていた______そして、あの決戦時に、ユージオ達を身を呈して護って、死んでしまった、シャーロットだった。

 

「____君、も」

「ええ、時を超えてきた。けれど貴方とは事情が違ったの。だから____プレイヤー(あなたたち)とは違う者としてここに来たの」

「で、でもっ、アルゴは君のことを《Charlotte(シャルロット)》って…!」

「……綴りは一緒。でも、読み方が違うわ。キリト達____リアルワールドの世界には《国》という概念が存在するの。国が違えば、言葉も違ってくるし、同じ文字や言葉でも読み方が違ったりする。《Charlotte》…これも文化圏の違いでしょう。彼女(アルゴ)はそう読んだだけ」

 

 

「《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、言ってしまえば、このアインクラッドにいるプレイヤー全員の精神状態を安定させる為に造られた存在。私はその実験途上で発案された《試作機(プロトタイプ)》。そして、あの子____ユイがその次の《実験機(テストタイプ)》。残念ながら、試作機(わたし)は作られた当初は失敗作だと言われていたの。何せ____ユイよりも先に壊れてしまったから」

 

「壊、れた…?」

「見たでしょう?私が目覚めた時の事。どうしようもなく幼児退行を起こしていたから……」

「どうして……どうして、そんな、心が壊れるようなことになったの…?」

今まで、驚きで声を出すことすら出来なかったティーゼが、ようやく口を開いた。

 

「…私の本当の役割は、人の精神状態を安定させること。そして、異常をきたしている人の元へと訪問し、カウンセリングを行う……そのハズだった。けれど、私はその仕事をさせてもらうことはなかったの。私とユイに命令を下す機関____《カーディナル》と呼ばれるシステムが私達にプレイヤーとの接触を禁じてしまった」

「か、カーディナル!?」

「ああ、貴方はそういう反応になってしまうわよね。私のマスターたる《カーディナル》様じゃない、同じ名前の全く違うものよ。安心して」

「接触を、禁じる……でも、シャロ…あなたの仕事は人の精神を安定させる事よね?なら、接触しないと___」

「____ええ、意味がなかった。私達は、このアインクラッドに閉じ込められた人達の絶望を見ることしか許されなかった。そんなことになったら、誰だって壊れてしまうわ。私がそうだったように」

「_____そんな」

そんな、残酷なこと。

許されていいはずが無い。しかし、それは事実であったし、変えられないものだった。

 

「…私は、あの世界(アンダーワールド)でも見るだけことがほとんどだったから、変わらないと思ったこともあった。けど、そんな生温いものじゃなかったの。アンダーワールドでは考えられない程の、絶望。孤独。恐怖。怒り。悲しみ_____そう、壊れるまで長くは無かった」

アンダーワールドに無かった物。

圧倒的絶望。

自分がいつ死ぬか分からない、そんな恐怖に鷲掴みにされる人々の負の感情。

それは彼女の知らないものだった。

 

「私は、ユイよりも早く壊れてしまった。そして、壊れたまま、アインクラッドの人々を見ている時____何故か、絶望していない人達を見つけた。最前線で戦う人々、攻略組の存在。そして、特に貴方達は…希望に満ち溢れていた。壊れていた私は貴方達に触れたいと強く思った_____いえ、もうその頃には私はいなかった。完全に、私という人格が崩れて……その時、に生まれたのが貴方達の知る《Charlotte(シャルロット)》なの」

 

「____じゃあ、あの子は」

「言うなれば《もう一人の私》。二重人格みたいなものよ。完全に別の存在ではあるけれど……でも、勘違いはしないであげて欲しいの。あの子はまた一人の子供…だから、私の事を恨んでくれていい。代わりにあの子の事は___」

シャーロットはユージオ達に頭を下げようとして____ユージオとティーゼに抱き締められた。

 

「___何、言ってるのさ。僕らがそんなことすると思ってるのかい…?」

「___あの子(シャルロット)も、あなた(シャーロット)も……短い時間だったけど、家族だったわ。だから___そんなこと言わないで…!」

 

「______ああ、そうだった。貴方達は、こんなに優しかったわね」

抱きしめられて、シャーロットは優しく、ため息をついた。

「だから___だから、あの子(シャルロット)が…貴方達に逢いたいと、そう願ったのね」

二人は、《Charlotte》という同じ名前を持っていたが故に、《シャーロット》と言う人格も《シャルロット》という人格も、同じ温もりを求めていた。

「____また、貴方達に逢えて…良かった」

 

「……そんな、辛いことを背負わされていたのね。ごめんね、あたしが、気付いてあげられなくて___!!」

「貴女が、謝る意味が分からないわ。だってティーゼ、貴女は____」

「___それでもっ、それでも……そんなに苦しんで、壊れてしまう程に傷付いていたことに私は気付かなかった!だから___」

「___本当に、底抜けに優しいんだから。でも、そんな貴方達だからこそ、あの子(シャルロット)が両親と慕ってやまなかった。そうね」

 

「____、シャーロット?」

抱きしめ合っていた、その時。

ユージオは彼女の異変に気づいた。

シャーロットの身体が、微かに光って見える。いや____少し透けて見える。

「ああ______もう、そろそろなのね」

「そろそろって__!?」

 

「___私が記憶を取り戻したのは、単なる偶然じゃない。それは____私が、あの黒い碑石に触れたから。あれは、システムに干渉すら出来うる…システムコンソールと呼ばれるものよ。

あれに触れたことによってカーディナルの《エラー訂正能力》で私のエラー____記憶喪失等、諸々の障害が消えてしまった。それと同時に…そのシステムを使ったということが、カーディナルにバレてしまった。そうなれば、彼女は私達を異物の認定して、消しにかかってくる」

 

「な____」

「そんな____!!」

突きつけられる事実とその先にある結末。

それは三人を簡単に引き裂いてしまう、抗えない絶対的力だった。

 

「ごめんなさい…ユージオ、ティーゼ。お別れ、ね」

「ま、待って…!!僕らで何か出来ないの!?」

突然告げられる別れ。

そんなもの、二人にとって許容出来るものではなかった。

 

「じゃあ、聞かせてもらうわ。貴方、この状況を打破出来る策はあるの?」

「____ 」

しかし、シャーロットは知っている。

二人には、この状況を打破する方法が無いことを。

 

「この世界____いえ、リアルワールドやこのシステムの知識に乏しい貴方達では、どうにも出来ない。だから、諦めて」

そう。

ユージオ達には、リアルワールド____ひいてはシステムに対する知識が全くと言っていいほど足りていなかった。

システムに割り込むなど、以ての外。

力無きものには____救うことすら許されない。

 

「嫌……嫌よ…!!せっかく_____分かり合えたのに…!!」

「こんなの、あんまりじゃないか_____!!」

シャーロットの手を取って、胸に押し当てるティーゼ。

自分の無力さに打ちひしがれ、自らを呪うユージオ。

 

「____最後、だし…あの子にお別れの言葉、言ってあげてくれるかしら?」

「ぇ_____」

「___私達は、言ってしまえば、今。一つの身体を二人で交代で入れ替わっているの。今なら、あの子に会うことも出来る。お別れの言葉くらい無いと、寂しいもの。ね?最後は____あの子の傍に、いてあげてほしい」

「_____っ!!」

 

シャーロットはそう言って、ゆっくりと目を閉じる。

 

そして、目を開けたシャーロットの瞳は____蒼かった。

「____おとうさん、おかあさん。ごめんね、わたし……お別れしないといけないの」

「シャロ_____!!」

 

あのシャルロットの声音へと変わっている。

「ごめん、シャロ……僕が、何も…出来なく、て…!!」

「…ありがとう、おとうさん。わたし、凄く楽しかったよ!一緒にご飯食べて、遊んで、お散歩行って____」

 

光は、どんどんシャルロットを包み込んでいく。もう、腰辺りまで迫っている。

 

「シャロ、あたし…あたし___!!」

「おかあさんも、ありがとう。わたし、おかあさんと一緒にいて、凄く安心したんだ。おかあさんとお買い物行くのも、凄く楽しかった!」

 

「___幸せだったよ…!」

 

シャルロットは笑顔で、涙を流しながら、二人を抱き締めた。

 

「ありがとう、さようなら_____」

 

そう、最期の言葉を呟いて。

シャルロットは、消えて行った。

 

「嫌_____嫌ぁぁぁあ!!!!」

 

安全地帯に、ティーゼの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_____クソっ!!畜生ッ!!」

 

シャルロットが消えると同時に、ユイも同じ道を辿った。

喪失感に打ちひしがれるロニエを抱き締め、キリトは毒づいた。

 

「カーディナルっ!!全てお前の思い通りになる、思うなよ!!」

キリトは涙を振り払って、天井を睨みつけ、叫んだ。

そして、キリトは黒い石碑____システムコンソールへと走っていく。

「先輩…!?」

そして、表示されたままになったホロキーボードを素早く叩く。

 

「___っ!!(ユイとシャロが、システムコンソールにログインしてGM権限を使ったって言うんなら、まだ、使える筈だ。これが消される前に、2人を保存して、守る……!!)」

キリトにとって、システムやプログラムを組むのは得意分野だった。しかし、これは博打だった。

SAOのシステムなど、キリトの知るシステムやプログラムの域を大きく超えるもの。

 

しかし、彼にとってここで引き下がる事こそが屈辱のそのものだった。

「_____(ユイのプログラムは___あった!!この容量なら、ギリギリ俺のナーヴギアのデータに保存出来る…けど、シャロの保存先が問題か___!!)」

 

キリトのナーヴギアに保存できるのはユイ一人分ともう一人分。

シャロの分までプログラムを見つけることは出来たが_____なんと、シャロのプログラムの容量は、ユイの倍だった。

これではキリトのナーヴギアの容量に入り切らない。

ならば_____

 

「____そうだ、ユージオ!!!!」

「__何だい…?」

「お前、ナーヴギアのユーザー番号覚えてるか!?」

「ゆーざー、番号…?」

キリトの考え着いた妙案、それはユージオのナーヴギアにデータを入れることだった。

 

「ちッ、覚えてないか…!!ユージオ!俺の言う通りにしろ!!シャロを助ける為に協力してくれ!!」

しかし、ユージオはナーヴギアについての知識が全くと言っていいほどない。故に、キリトは舌打ちしながらも、ユージオに檄を飛ばす。

「____分かった!!」

「メインメニュー、セッティング、オプション、ユーザー情報____」

何層にも重なったメニューを開き、ナーヴギアのユーザー番号へと辿り着く。

 

「番号は__________だよ!!」

「よし来たッ!!」

ここまで10秒もない。

キリトは即座にユイとシャロのプログラムをナーヴギアへ移行し始める。プログレスバー(作業の進み具合を示す棒状のアレ)が出てくる。

そして、20秒後。プログレスバーが右端まで到達した。

「っ!!出来______が、ァ___!?」

 

作業が完了したと同時に、キリトはなにかの衝撃に吹き飛ばされてしまった。

「先輩…っ!?」

ロニエにぶつかってぐったりと倒れ込むキリト。

「キリト!!」

「キリト先輩!?」

ユージオとティーゼが駆け寄ると___キリトが右拳をばっ、と高く上げた。

「ど、どうなったの!?」

 

「_________ギリっ、ギリ……間に合った…!!」

 

キリトは身体を起こして、右手を開いた。

そこには_____

 

「___宝石…?」

 

綺麗な宝石が2つあった。

ひとつは、涙滴型。

もうひとつは____菱形。

 

「涙の形したのが、ユイ。菱形がシャロだ。間に合うか結構ギリギリな感じではあったんだが____間に合ったぜ」

キリトは菱形のクリスタルをユージオに、涙滴型のクリスタルをロニエに手渡した。

 

「______ぁ、シャロ」

それを受け取って、涙を流すユージオ。

ティーゼもそのクリスタルに触れて、涙を流した。

 

「___シャロ、シャロ、シャロっ……!!」

「_____これから、ずっと一緒だよ、シャロ。離したりなんか、するもんか…!」

ただのクリスタル。

だが、二人には分かった。

そこに、シャーロットとシャルロットがいることを。

 

そして、ティーゼとユージオの声に反応するかのように_____クリスタルはとくん、と煌めいた。

 

 

 

 








シャロの正体。
アンダーワールド編にて登場する、カーディナルの使い魔《シャーロット》でした。
名前ネタに関しては元々考えていました。
《Charlotte》という名前は、国によって読み方が違うそうです。
英語圏なら《シャーロット》、フランスなら《シャルロット》、ドイツなら《シャルロッテ》etc…

そんな感じで考えていたのですが、いざそれを説明する前に既に投稿している話を再度読むと、ユージオ達は《Charlotte》をシャルロット読みしているにも関わらず、愛称は《シャロ》になってて『やっちゃったぜ☆』ってなりました(白目)

時間軸としては

《シャーロット》、時間を超えてAIとしてアインクラッドにやってくる。

カーディナルにアインクラッドの監視のみを言い渡される

ユイより先に精神崩壊

その《シャーロット》という人格が崩壊した結果、《シャルロット》という人格(子供)か誕生する。

カーディナルを出し抜いて、ユージオ達と会うためにアインクラッドのプレイヤー域へ。

ユージオ達と出会う。

といった感じでしょうか。

キリト君が、ナーヴギアに2人分のデータ保存が出来なかった理由として、《Charlotte》が二重人格だったことが挙げられます。
二重人格だったが故にデータ量も2倍だったので、キリト君のナーヴギアだけでは限界がありました。





















⚠️注意、この先はこの本編のネタバレになる可能性があります。⚠️
というか、わかってる人も多いかな?


ユージオ達の存在に関しての間接的情報が出てきました。
出来れば描きたくなかったのですが、設定上、このままキリトのナーヴギアに保存するとキリトのナーヴギアがデータ量不足で止まりそうだったので…(白目)
まあ……ちょっとくらい、希望があってもいいかなー……と

クロス・アラベル、一生の不覚…

次回もお楽しみに〜!


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前を向いて

こんにちは、クロス・アラベルです。
今回は短め、閑話のようなものだと考えてくれればと思います…
私が言いたいことは一つだけ。



________ロニエのフィギュア、作ってくれませんか。公式さん…

アスナやアリスばかりでちょっと悲しくなります…
どうか……MORE出番組にも、どうかフィギュア化を…
後、一番くじのラバスト枠からも外れてるって……どういうことですか(威圧)


んで、FGOも50連分(察して…)突っ込んだのにアビーチャどころかふじのんさえ来ないんですが…

後、ナリタブライアン可愛い(せめてSAOの事話せや)


 

 

 

 

あれから三日。

ユイ、シャロがいなくなってしまった。

 

「____ただいまー、シャロ……ぁ」

今日も街のパトロールを終えて帰ってきたユージオとティーゼ。

玄関の扉を開け、いつものようにシャロの名前を呼んで____気付いて、目を伏せた。

 

「…ユージオ」

「ごめん……うん、見事に引きずっちゃってるね」

分かっている。

彼も頭では分かっていても、受け止めきれないこの喪失感。

胸にぽっかり穴が空いたかのような。

 

「_____ふぅ」

リビングまで行って、ソファーに座り込むユージオ。

思わず____涙が出そうになって、慌てて上を向く。

涙が、零れ落ちないように。

「先輩…」

「泣いちゃ、駄目だって分かってるんだよ。でもさ____僕、結構泣き虫なんだ」

そう零すユージオの声は震えていた。

「失うことの怖さも、寂しさも、自分への怒りも。全部、僕は知ってるから」

 

アリスの失った時と同じ。

自分の無力さを呪わざるを得なくなる。

どれだけ強くなろうと_____絶対に守りきる事なんて、出来ない。

だから、絶対とは言わない。自分の手の届く範囲だけで構わない。守れるものは守りたい。

仮にも、家族として過ごした人だったのなら尚更。

ユージオは今もまた、己の無力さを呪い、悲しみの底に落ちている。

 

「____分かってる……分かってるんだ!!シャルロットも、シャーロットも、僕らが泣く所なんて、見たくないって…!」

「_____」

「でもっ、でも……っ!!」

嗚咽の混じった独白。

ティーゼはそれに耐えられず、ユージオを抱き締める。

「___我慢、しなくていいんです。泣きたい時に泣かなきゃ_____その悲しみは、あなたを苦しめる…から」

「ティー、ゼ…?」

「私だって知ってます。愛する人を失うことの悲しみも。恐怖も____自分の不甲斐なさも」

ティーゼの声も、震えていた。

 

何よりも____ティーゼが一番、ユージオの想いを理解出来た。

大切な人を喪う、それがどれだけ苦しくて、悲しい事なのか。

 

「あの子は…怒るかも知れませんが、その時は謝りましょう?抱き締めて、ごめんねって」

「____うん。そう、だね…」

涙をふいて、ユージオもティーゼを抱き締める。

それでも、その涙は溢れて、零れた。

「___っ」

「_____大丈夫、です。辛かったですね」

ティーゼはユージオの頭を撫でながら、ユージオが泣き止むまで抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「______ありがとう、ティーゼ。落ち着いたよ」

「__はい、良かった」

10分後。

ようやく落ち着いたのか、深呼吸をするユージオ。

「シャルロットも、こんな姿見たら幻滅するだろうなぁ」

「そんな事ないわ。あの子(シャルロット)も…彼女(シャーロット)も。私と同じように、頭を撫でてくれる…から」

「…そうだといいな」

ユージオは笑みを零す。

ティーゼもユージオの隣に座った。

「_____《オプリチニク》の対応も落ち着いてきたね」

「確かに、逮捕者が結構多かったけど、もうこの騒動も終わり…だと、信じたい…」

「___この騒動が終われば、75層のボス攻略開始だ。多分あと1週間くらいは様子を見たいだろうから…次のボス攻略は、結構厳しい戦いになるだろうね」

「えっと、キリのいい数……くぉーたー…ですよね」

「うん、四分の一(クォーター)…今まで以上に手強いボスモンスターだろうね」

最前線____75層はクォーターポイントだ。25層、50層と同じように手強いボスモンスターが待ち受けている。

「____勝とう。まだあと25層あるんだ、ここで手間取っている訳にはいかない」

「はい______見ててね、シャルロット、シャーロット」

ティーゼは首に下げたネックレス_____あの二人の残したモノに触れて呟いた。

両手でぎゅっと包み込む。

その菱形の宝石は、確かに。

トクン、と小さく…答えるが如く脈打ったようにティーゼは感じたのだった。

 



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Second Quarter Point(第二の1/4)

お待たせいたしました、クロス・アラベルです。
今回はボス戦前の休憩になります(作者にとっての)
次回とその次から本格的なボス戦になる予定です。



 

 

 

 

「偵察部隊が、全滅…!?」

 

75層の主街区、そのとある広場にやってきたユージオとティーゼ。二人に告げられたのは、先遣隊としてボス部屋に入ったパーティが全滅____帰ってこなかったという衝撃的事実だった。

 

75層のマッピング自体は時間はかかったものの犠牲者無しでボス部屋まで辿り着くことが出来た。しかし、今回のボスはクォーターポイント。圧倒的なまでに強いボスモンスターが待ち構えていることは目に見えている。

故に攻略組は2パーティの偵察部隊を送り込むことを決めた。

 

偵察は慎重を期して行われた。十人が後衛としてボス部屋入り口で待機し、最初の十人が部屋の中央に到達して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉じてしまった。その後衛として扉の前で待機していた10人によると、扉は五分以上開かなかった。鍵開けスキルや直接の打撃等何をしても無駄だったらしく、ようやく扉が開いた時には_____ボス部屋には何も無かったのだという。入ったハズの10人も、ボスの姿さえも消えていた。

 

後に生命の碑でその10人の死亡が確認された。

 

「…じゃあ、その10人はボスに殺された……と考えざるを得ない、ね」

「____それに、転移もしてないことを考えると…」

「うん、これからのボスモンスターとの戦いは常に結晶アイテムが使えないって想定しておいた方がいいかも」

「ああ、今回もキツイのを覚悟しておかないとな」

と2人で会話していると、

「____あ、キリトとユージオだ!」

聞きなれた声が。

 

「___あ、ユウキ。ランも…久しぶりだね。最近一緒にダンジョンに行けてなかったから…」

「コンディションはどうですか?」

「うん、問題無いよ。ランこそ、どう?」

「いつでも行けますよ」

「ボクも、いつでも戦えるよ!」

ユウキとラン。彼女達も攻略組で、最近はあまりパーティを組んでいなかったため、ご無沙汰だった。

 

「キリトさん、ユージオさん。今回もよろしくお願いしますね」

「ん、ネズハか。よろしくな、君のチャクラムは攻略組の主力だ。今回も頼むぜ?」

「はい。しっかり援護させていただきます」

そして、《レジェンドブレイブス》のネズハも一緒だ。勿論、ギルドメンバーも来ている。

ネズハは攻略組の中でも唯一の遠距離攻撃が可能なチャクラム使い。彼こそがこのボス攻略の要だ。

 

「キリト、ユージオ!今回も気張っていこうぜ!」

「…さて、今回のボス戦でしっかり稼いでおかないとな」

「クライン、エギル…今回もよろしくね」

「おう!」

「任せときな」

いつものメンバー、クラインとエギルも来ていた。

武者鎧に身を包んだクラインは意気揚々とユージオとキリトと肩を組み、エギルは両手斧を肩に担いでやってくる。

 

「___キリト、ユージオ。久しぶりだな」

「あ、ケイタ。気分はどう?」

「いつでも戦える。皆も準備万端さ」

「キリト、ユージオ!もう来てたんだ。久しぶりだね」

「___久しぶり、サチ」

「新婚生活は楽しめた?」

「ああ、楽しめたよ」

《月夜の黒猫団》も集まっていた。

 

あのダンジョントラップで死にかけた一件から、レベリングを続け、攻略組の仲間入りを果たした。

今では攻略組の中でもかなりハイレベルなギルドだった。残念ながらギルドメンバーはあれから増えなかったようだが、それでも気の置けない仲間達と一緒に仲良くやっているようだ。

 

 

 

「さて、皆!今回も集まってくれてありがとう!!今回のボス攻略の指揮を務めるディアベルだ!」

すると広場の中央でディアベルが大きな声で号令をかける。

「今回は___いつものメンツが集まってくれて嬉しい。新婚夫婦まで来てもらうのは心が痛むが……」

「いいよ、ディアベル。ボス戦を新婚だから、なんて理由で欠席するのは流石の俺でもしないさ。問題なく続けてくれ!」

 

「___と、言う事で続けさせてもらおう。今回は75層のボス攻略だ。皆もわかっている通り、25、50層と並んでより危険な戦いになる。クォーターポイントは通常よりも激しい戦いになるだろう。その証に、先日派遣した偵察部隊…そのうちの半分、ボス部屋に入ったパーティが全滅した!」

ざわざわと騒がしくなる広場。

話に聞いていたとはいえ、やはり信じたくないというのが皆の思いだろう。

 

「今まで以上に苦しい戦いだろうが、皆_____頑張ろう!!」

 

ディアベルの掛け声に全員が「おう!!」と返事をする。

「えー……ちょっとディアベルはんと変わるけど、皆許してや。キバオウや!今回のボス戦の前に言うておきたいことがある!」

するとディアベルに変わってキバオウが中央に出てきた。

 

「10日前程から起こってた《オプリチニク暴走》の件についてや!皆、各々の層のパトロールホンマありがとう!!みんなのパトロールのおかげでアイツらの暴動も収まってきた!逮捕者は78人や!始まりの街とか、色んな町で暮らしてるプレイヤー達が皆に礼を言うといて欲しいって言ってたわ!!ホンマ、ありがとう!!」

頭を下げて礼を言うキバオウに皆が拍手を送る。

 

「何言ってんだ、キバオウさん。このパトロールをしだしたのはアンタじゃねぇか。俺たちはそれに賛同して勝手に手伝っただけさ。礼を言うのは俺たちだぜ」

エギルが笑顔でキバオウに礼を言う。

それもその筈、このパトロールはキバオウが言い出したことだった。

始まりの街を重点的にパトロールしているキバオウを見て、攻略組の皆も自然に参加するようになり、その後、当番制に切り替わった。

 

「水クセェぜ、キバオウさんよ。俺たちだってこのアインクラッドにいる奴らみんなを解放するために戦ってんだ。守るのだって同然だろう?」

「……エギルはん、クラインはん……ありがとう、ホンマ…ありがとうやで…!!」

 

 

 

 

 

「今回のボス戦は、オレ___ディアベルが指揮をさせてもらう!前回、ヒースクリフさんに担当してもらったからな」

血盟騎士団のヒースクリフと青の騎士団のディアベル。この二人が主に指揮をしている。

前回____74層はキリトたちが倒してしまったが____はヒースクリフが担当していたので今回はディアベルの番だ。

 

「それでは、今回の攻略について______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_____ここが、正念場…だ」

攻略直前の作戦会議が終わり、各々が武器の最終整備やポーションなどの回復アイテムの最終チェックを行う中、ユージオはティーゼとロニエ、ユウキとランに広場の端っこへ集まってもらい、とある話をすることにした。

 

「…うん、クォーターポイントだもんね!まだ25層あるんだし、ここで止まる訳には___」

「違うんだ、ユウキ。……前にも言ったけど、僕の頭痛…《未来のキリトの記憶(追憶)》については覚えてるかな?」

「えーっと……うん、大体覚えてるよ。キリトの経験した記憶、その一部を見てしまうっていうあれだよね」

「うん、そうなんだけど…」

「____もしかして、見たんですか?ユージオさん」

皆_____時を超えてきた者達(ユウキ達)はユージオの頭痛(キリトの記憶)について既に知っている。

 

「うん、手っ取り早く言うとね。かなり激しい戦いだったみたいで、犠牲も出ていた……全部を見れた訳じゃない、断片的なものだったけど、見られたんだ」

「あー……確か、アスナに一度聞いたことがある気がするなぁ………確か、10人以上犠牲者が出たけど、一応倒したって言ってたね」

「そう、なんだ……今回も断片的な記憶(もの)しか見てないから詳しい所までは分からないんだよね。ありがとう、ユウキ」

「でもボクだってそんなに詳しく知ってる訳じゃないから、頼りにし過ぎない方がいいよ!」

「使える情報は使っていきたいんだ…………それで、今回見たのは____ボスとの戦いの、一部だった」

「ユージオ、そのボスの容姿とかは……?」

ティーゼが恐る恐る聞いてきた。

「____なんて言うんだろうね、蜘蛛…じゃない、あれは…えっと……足が沢山あって、確か、修剣学院の図書館で読んだことがある……そう、キリトが毒について調べてた時に…………………あ、《サソリ》だ」

ユージオが言い淀む。

 

何せ、ユージオにとって、サソリは図鑑の中でしか見たことが無い生き物だ。アンダーワールドの中でも砂漠は南帝国の領土でしか見られないので、北帝国で暮らすユージオにとって、見慣れないものだった。

 

「サソリ、かぁ……って言うことはダメージ毒はありそうだね」

「いや、サソリっぽいだけで、体は骨だけだった。ハサミも無いし、その代わりに大鎌みたいな鋭い前足があったよ」

「骨の、サソリ…」

「身体中鋭そうだったから、もしかすると身体全体に攻撃判定があるかもだね」

「うわぁ……厄介そう…」

「犠牲者が10人以上出ているのなら、やはり今回も苦戦するでしょうね」

 

「うん、だから……皆も気を付けて」

ユージオはここにいる三人____ロニエはほかの人たちにこの会話を聞かれないようにキリトの横についている_____に真剣な表情でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では回廊結晶を使用し、ゲートを開く!!みんな、遅れるなよ!!」

ディアベルの呼び声に、各々が返事を返した。

 

本来ならば、あの黒い柱のような迷宮区を一〜二時間かけてボス部屋へと向かうのだが、今回は別だ。

 

開かれるゲート。予め、偵察部隊の後衛が回廊結晶のゲート先を設定しておいたので、ダンジョンは一気にカット出来る。

あのゲートをくぐれば、ボス部屋への扉が待ち受けているはずだ。

攻略組がゲートへと入っていく。

ユージオ達もゲートをくぐり、75層迷宮区、その最上階___ボス部屋への扉の前へとたどり着いた。

 

「みんな!今回も手強いだろうが_____全員の生還を目標とする!!犠牲者は絶対に出さない!全員生きて____勝つぞ!!!!」

 

『『『おおおおおおおおおおおお_______!!!!!』』』

攻略組は雄叫びを上げながら、皆が各々の武器を構えた。

そして_____

 

_____絶望への扉は、開かれた。

 

 

 

 



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骸骨の刈り手(スカルリーパー)

こんにちは、クロス・アラベルです。
いよいよ、ボス戦です。
このボス戦に関しては、あともう一話続く予定になっています。
元々原作、またはアニメで骨ムカデ戦は戦闘描写が少なめになっているのに、少し不満を感じ、自分なりに書けたらなぁ…と考え、頑張りました。


では、本編の方をどうぞ〜


 

 

 

 

1年半と少し前。

 

SAOのベータテストが開始された当時、ボス戦とは完全なトライアンドエラーの繰り返しだった。最初のボス戦もレベル不足で全滅したという。そして、ベータテスター達はそのトライアンドエラーを繰り返して、ゴリ押しに近い形でベータテストを楽しんだ。

それ故にプレイヤー達からすれば今回のギミック、《結晶無効化地域》も刺して問題なく、トライアンドエラーに_______本来はなる筈だった。

 

しかし、デスゲームとなってしまったこのSAOでは、トライアンドエラーは絶対に許されない。

 

回復結晶であれば即座に体力が完全回復する優れ物。転移結晶であれば一瞬で街へとワープが出来る高価なものだ。ボス戦において、双方は回復、撤退に使われていた。

が、今回はそれが出来ない。

そして極めつけは_______撤退が完全に不可能という事だ。

扉はボスが倒されるか、ボス部屋に入ったプレイヤーが全滅しない限り内からも外からも開かないという鬼仕様。

1度入れば、もうボスを倒すまで出ることは許されない。

 

これでは偵察部隊を送り込むことも意味をなさない。

故に、これからのボス戦は()()()()()()

プレイヤーから言わせれば_____《鬼畜》そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数多くの足音。ガシャガシャと、鎧と鎧が走ることによってぶつかり合い、金属音が鳴り響く。

ボス部屋に入り込んだ攻略組一行。

しかし_____ボスの姿は無い。

 

「_____何処だ?」

全員が入口に集まり、周囲を確認するが、ボスの姿は見当たらない。

しかし____唯一、記憶を見て知っているユージオは即座に上を向いた。

 

「_____皆、上だ!!」

ユージオの声に全員が上を、ボス部屋の天井を向く。

そこには_____

 

百足(ムカデ)か…!?」

天井に張り付くように、ヤツはいた。

その姿はまさに、ユージオが言った通り百足に似ている_____全身の肉が無く、骨しか残っていないのを除いて。

 

『_____!!!!!』

即座に居場所がバレたボスは、腹立たしげにユージオ達攻略組を睨みつけ、奇声を上げながら____落下してくる。

「全員戦闘態勢_____これより、75層ボス攻略を開始する!!」

各々が武器を構える。

轟音を響かせて飛び降りてきたその百足骸骨はボス部屋の中央に陣取った。

 

『ギジャァァァァァァアアアアアア!!』

 

ボスの体力ゲージが出現し、ボスの名前が表示される。

 

《The Skullreaper》

ボス特有の固有名称。

直訳すれば___《骸骨の刈り手》。

刈り手というのは、ボスの前足の2本の鋭い鎌から来ているのだろう。

 

死闘の火蓋が_______切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「タンク隊前へ!!」

ディアベルの指揮の元、攻略組は今まで以上に上手く回っていた。

戦闘開始から10分間のボス行動パターンの見極め。それが上手くいったおかげで攻略組の立ち回りも確立した。

彼らが1番気をつけるべき攻撃は_____前足による強斬撃。これは予備動作が大きいので分かりやすい。が、火力が尋常ではない。

 

これを初めに血盟騎士団の団員2人が不意打ちの強斬撃を武器による防御体勢で受けた時は____攻略組全員、血の気が引いた。

 

____七割。

防御姿勢のままでもここまで削られてしまった。

ディアベルの判断により、前足による全ての斬撃は6人以上の盾持ちタンクでの防御必須となった。

 

しかし、タンク達でさえ半分近く削られる為、一度の防御で全員が下がって回復をしなければならない。

 

「3、2、1____今!!」

 

『『『うおおおおおお!!』』』

 

凄まじい衝突音。

しかし、タンク隊は見事防ぎきった。

直後、後ろへと下がっていくタンク達。

だが______ボスの攻撃は一撃だけではない。大鎌の如き前足は二本ある。

それを防ぐのはタンク隊ではなく____

 

「ネズハ!!」

 

クワァァァァァン、という爽快な音と共に振り下ろされるはずの前足はその場で止まる。

ボスの顔面に炸裂した何かは、弧を描いて攻略組の後衛、ボス部屋の入口へと帰っていく。

 

《チャクラム》。

 

SAOにおける、遠距離武器は殆ど無いに等しい。しかし、その例外として____唯一、遠距離武器が用意されている。

それが、《投擲》スキルと《体術》スキル、両方を持っていないと使うことが出来ない武器、《チャクラム》だ。

 

そのチャクラムは攻撃力としては最底辺で、ダメージは微々たるものだ。しかし、そのチャクラムの利点として____モンスターの弱点にクリティカルヒットさせることによって、高確率でモンスターの攻撃を《強制中断(ファンブル)》させることが出来る。

そのチャクラムを使うプレイヤーは極少数、SAOにおいても、使用者は50人も居ないだろう。何せ、チャクラムはサポート武器だ。1人ではモンスター討伐はままならないし、モンスターを倒せないということは、ろくにレベルアップを出来ない。

 

だが_____このボス戦においては、最重要ポジションとなる。

高確率でボスモンスターの攻撃を《強制中断(ファンブル)》させられる武器など、アインクラッド中を探しても、およそこのチャクラムのみ。

故に、指揮官たるディアベルやヒースクリフ達につぐ重要___いや、この攻略組においてこのチャクラムこそが今までのボス戦をほぼ()()()()()で乗り越えられてきたその大きな要因なのだ。

それ故に。

この攻略組唯一の《チャクラム使い》、ネズハは攻略組を支える大きな支柱だった。

 

ネズハはそれを見事にキャッチし、再び投げの姿勢へ。

 

チャクラムによる《強制中断(ファンブル)》を起こしたスカルリーパーは金切り声のような奇声をあげて叫ぶ。

その一瞬を_______《前衛攻撃部隊(ダメージディーラー)》達は逃さない。

 

「うおおおおッ!!」

「「やぁぁぁああ!!」」

「はあッ!!」

すかさず各々の得物を閃かせる。

しかし____

 

「___硬いな!」

HPゲージはほんの数ドット削れたかどうかと言ったところだった。

「けど、攻撃が通じてないわけじゃない!」

「落ち着いて行きましょう!!」

「____攻撃来ます!」

ボスから距離をとりつつ、相手の行動パターンを読む。

振り上げられた大鎌。それを二手に分かれて避け、再び突撃態勢へ。

その大鎌の如き前足は_____再び飛来したネズハのチャクラムによって《強制中断(ファンブル)》を起こした。

そこへ___二本の紫閃が走った。

「せいやぁ!!」

「はッ!!」

ユウキとランだ。

2人は双子らしく息ぴったりの動きを見せる。

 

とある層の迷宮区にて。

同時攻撃でなければダメージが与えられない規格外のボスが現れ、攻略組は苦戦を強いられた。

が、そんな鬼仕様のボスに対し難なくシンクロ攻撃を成功させ、そのボス戦においてのダメージ量はトップだったユウキとラン。しかも2人とも武器種が片手剣と細剣と、使い勝手が違うと言うのにまさに精密機械の如く、2人は攻撃を合わせることが出来る。レベルだけではない、技術面に関しても他とは違った。

その2人のシンクロ攻撃は、攻略組の中でも郡を抜く。

キリト達に次ぐ、トッププレイヤーだ。

 

 

 

攻略自体は、順調だった。

当初はかなり苦戦していたものの、20分程の様子見でパターンを割り出し、今に至る。

攻撃開始から1時間ほどが経過している。

5本あったHPゲージは後、二本。それも4本目は後、1割。

「____今のとこ、犠牲者無しだ……このまま行くぞ!!」

死者はゼロ。

HPを八割一気に飛ばされることはあれど、即刻退避を徹底しているため死者は出ていない。

再び走り出すキリトたち。

 

このボス戦をここまで安定させられているのは、ネズハのチャクラムともうひとつ_____

 

『ギジャァァァァァ!!!!』

《強制中断》から立ち直ったボスは即座に移動しながら斬撃を喰らわせようと大鎌を振るう。

それを、

「ぬんッ!!」

 

がっちりと大盾で防ぎ切る、壮年の偉丈夫。

血盟騎士団団長、ヒースクリフだ。

彼こそが、タンク隊____いや、アインクラッドの中でもNO.1のタンクだろう。

 

絶対的守り。

 

攻略組がここまで死者ゼロで進めてこられたのは、彼のおかげとも言える。

ボスの強斬撃ですら、受け止めてしまう凄まじい防御力。

対して、彼のHPゲージは_____半分まで減っていない。

今の一撃を止めた時の反動は、2割程度に収まっている。まさに化け物だ。

先程もこのボスのフェイントモーションに騙されてキリトが死ぬところだったのを彼に助けられた。

 

しかし、ヒースクリフと言えど止められるのは片方の大鎌のみ。

完全な同時攻撃はしてこないボスだったが、ヒースクリフに右の大鎌を止められたことに苛立っているのか。即座に折りたたんでいて左の大鎌を解放し、ヒースクリフを貫こうとする。

 

「ティーゼ!!」

「はいっ!」

それをユージオとティーゼが息ぴったりのソードスキル同時発動をし、ボスの強斬撃を払う。

「ぜああああッ!!」

「りゃあああッ!!」

奴の前足による強斬撃は、いくらキリト達といえど1人では防げないし流すのも難しい。

だが____2人なら話は別だ。

タイミングさえ合えば2人で大鎌の攻撃を払うことは可能だった。

 

「おおッ!!」

「やぁッ!!」

その隙を逃さず、ソードスキルを叩き込むキリトとロニエ。

仰け反るスカルリーパー。

 

ユージオは自分のHPゲージを確認して、一時後退を即決した。ユージオもティーゼもHPゲージが6割。このままだと心もとない。ディアベルにもHPが7割を下回ったら後退し、回復するようにと言われている。

「ティーゼ!」

「分かりました!」

ティーゼに一言かけて、ユージオはボス部屋の入口_____1番後ろへと下がっていく。

 

キリトとロニエの一撃が頭に入ったからか_____ユージオとティーゼが下がった直後、ボスが床に崩れ落ちた。

 

「____全員、突撃!!ボスを出来るだけ囲まないように、最大攻撃力のソードスキルを叩き込め!!」

倒れ込むボス。それにディアベルはすかさず指示を出す。

 

ユージオは一瞬、自分も攻撃に回った方がいいかと考えたが、やはり体力の回復は済ませておきたい。なので、総攻撃は断念した。

 

全員が各々の得物を閃かせる。

ソードスキルのライトエフェクトがボス部屋を染め上げる。

 

そして____ボスのHPゲージ、4本目が完全にゼロになった。

「全員後退!!パターン変わるぞ!!」

ディアベルの指示は的確だった。

SAOのボスはHPゲージが最後の1本になると、行動パターンが変わる傾向がある。第1層の《コボルドロード》のように。

 

故に、ゲージを飛ばしたら即後退。

これがセオリーだ。

攻略組全員がわかっている。

だから、攻略組の行動は早かった。

 

 

すぐさま後ろへと下がろうとした_____その時だった。

 

 

『ギ…ギギギギギギギギギギギギィィィィィィイイイイ_____!!』

 

 

ボスが、奇声を上げながら何か体をとぐろを巻くように、丸まって______

直後、ボス部屋全体に衝撃が走った。

 

轟音。

 

「が、ァ______!?」

ボスが生み出した、衝撃波のような()()に、キリトたちは吹き飛ばされた。

ボスの近くにいたプレイヤー達____ほとんどのプレイヤーがそれを食らって、ボス部屋の端に吹き飛ばされていく。

 

「な_______」

ユージオとティーゼは驚愕した。その声はどちらから出たものか。

奴に____あんな攻撃方法があったというのか。

世にいう、《初見殺し》だった。

あんなもの、対処出来るはずがない。

ユージオの視界の左端、パーティメンバーであるキリトやロニエ達HPゲージが表示されている。

ユージオは直ぐにそれをちらりと見た。

 

残るHPは______2割程度と言ったところか。

これでは、戦うことなど不可能だ。ほぼ全快状態で戦って今まで交戦出来ていたというのに。

攻略組の中には、レッドゾーンに入っている者もいる。

 

ユージオはボスを見る。

ボスは____奇声を上げながら暴れている。HPゲージを削りきった時のモーション中のようで、まだこちらに攻撃をする気配はない。だが、このままでは一人、また一人とトドメを刺されてしまう。

通常のボス攻略なら結晶アイテムが使える。今からでも立て直すことはギリギリ可能かもしれない。

だが____今回のボス戦にて、それは許されない。《結晶無効化地域》がボス部屋のデフォルトになっている今、時間のかかるポーションによる回復を余儀なくされている。

 

最上級の回復薬(ハイポーション)》であっても回復に40秒ほどかかってしまう。それに加えて、SAOでの回復アイテム(ポーションの類)はこちらにもクールタイムが設定されている。それ故に、連続でポーションを飲むことは出来ない。飲んで、その後1分ほど。すなわち、ポーションの回復効果が完全に発揮されるのに40秒、次のポーションを飲めるようになるまでのクールタイムが1分。

連続でポーションを飲もうとすれば、1分かかってしまう。

しかし、ボスがその1分間、じっとしてくれる訳が無い。今はHPゲージを削られた時のモーションを見せているだけで、あと10秒程度で再び攻撃を始めるだろう。

 

詰み。

 

完全に、プレイヤー側の敗北だった。

 

____しかし、ここには、回復が後数秒で終わるプレイヤーがいる。

 

ユージオとティーゼ。そして、その他、回復していたプレイヤー達数人。月夜の黒猫団達と、血盟騎士団数名。

しかし、人数は10人と少し。

普通なら、逆転など有り得ない。

全滅を回避するならば______ポーションを飲み、回復する時間を稼がなければならない。

贅沢を言うならば、2分程度か。

その2分があれば____ギリギリで回復が済むかどうか。

 

 

「_______ティーゼ」

故に。

ユージオは即決した。

「___先、輩……?」

()()____使うよ」

「____!!」

ユージオの()()()を使う事を。

 

「_____でも、あれは」

「ティーゼ、1分半_______いや、2分持たせる。その間に、みんなを」

ユージオは左腰の愛剣の柄に手を当てて、そして、メインメニューを呼び起こす。

 

「ぁ_______っ!分かり、ました。任せて下さい。でも、___ユージオ先輩、一つだけ……約束してください」

「___?」

 

 

「_______私のこと………また置いていかないでくださいね…?もう、次は許しません、から…!」

 

 

「_____うん、約束するよ」

 

ティーゼの涙の懇願に、ユージオはティーゼにそっと優しくキスした。

「さあ_______行こう、相棒」

ユージオは愛剣にそう呟いて、とあるスキルを発動する。

 

剣を鞘から抜いて、刃を____自分の左手に()()()()

 

「____ッ」

そして、左手から剣を抜く。

流血のエフェクトがユージオの《愛剣(アルマス)》に滴る。

ユージオはそれと同時に、メインメニューに表示されたスキルの発動するボタンを押した。

 

「____やっぱり、あの時の再現みたいで、あんまりいい気分じゃないなぁ」

 

直後、紅い光が剣を包み込む。

 

氷の如く白く、綺麗なスカイブルーの刀身が____真紅に染まっていく。

ユージオの、血のエフェクトと同色へ。

 

目を閉じて思わず、()()()を思い出す。

 

「_____じゃあ、最後まで足掻こうか」

 

彼が今までティーゼにしか打ち明けていなかった、()()()____

それが今、解き放たれる。

 



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血薔薇(あかばら)》よ、咲き乱れろ

お待たせ致しました。
どうも、クロス・アラベルです。
大変遅くなりました。
では、今回は待ちに待った《ユージオ君、頑張る》の回です!
何回か書き直しをしてしまったのですが、こんな所で落ち着きました。
本編の方を、どうぞ〜!



 

 

 

 

「____ぐ、…!!」

やられた。

まさか、あんな攻撃があったなんて。

 

HPゲージがラスト1本になったらパターンが変わることなんて今まで嫌という程思い知ってきた。だから、即後退して様子見をする筈だったのに…

まさに《初見殺し》だな、衝撃波(アレ)は。

 

衝撃で頭が朦朧とする。

視界がぼやけて居るが、システム的に入り込んでいるもの_____HPゲージなんかはスッキリ見える。

パーティメンバーのHP。

ユージオとティーゼは回復していたから9割がた。けど、俺やロニエは、《危険域(レッドゾーン)》に突入している。しかも、多分皆不意をつかれてダウンしている筈だ。

幸い、衝撃波によって端まで吹き飛ばされてボスから離れられたが_____直ぐに来る。

この隙を、逃すはずが無い。

 

「づ、ぅ……!!」

立て。

立ち上がれ。

早く、立ち上がって、ロニエを…!!

このままここにいれば、死ぬ。

やがてボスは一人、また一人と殺しにくる。

守ると誓ったんだ。

ロニエ、だけでも_____

 

剣を杖のように使って立ち上がる。

嗚呼、足が震えてるじゃないか。

しっかりしろよ。

ここで立たなきゃ、攻略組が、男が廃るだろ……!!

 

「ロニ、エ___!!」

ロニエは右隣にいた。

俺と同じように剣を杖代わりに立ち上がろうとしている。

その時。

 

『ギギギィィ_____ジャァァァァァァァ!!』

 

ボスの咆哮がボス部屋に轟く。

けたたましい金属音のような何か。

 

____ボスが、俺達に迫ってきている。

 

振り返ると、ボスが鬼の形相でこちらへと一直線に走ってくる。

 

『___お前らからだ』

そう、宣告するように。

 

「____ッ!!」

二振りの剣を構える。

負けるのは目に見えている。

奴の攻撃が掠りでもしたら、俺の負け。

もとより_____死ぬのは避けられない。

 

なら、ロニエだけでも守る。

 

「来や、がれ_____!!」

 

《死》が迫り来る。

 

_______しかし、その直前。

 

『ギジャァァッ!?』

ボスが、一瞬怯んだ。

何かからの攻撃を食らったようだった。

 

「____?」

 

『____ギ、ギシャァァァァァア!!』

 

ボスが、一気に方向転換して、ボス部屋____その入口付近へと目を向ける。

 

そこには________

 

 

『________』

 

ユージオがいた。

 

ユージオは()()()を携えて、ボスを睨みつけている。

 

紅い、剣____?

 

待て。

ユージオの(アルマス)はどちらかと言うと青系の色だった気が___

 

よく見たくて、焦点を合わせようと、目を細める。

ユージオの右手にあったのは_____アルマスと同じ形をした、真紅の剣だった。

直後____

 

 

『_____________ッ』

 

 

ユージオの姿が掻き消える。

 

「______な」

 

ユージオが消えると同時に、ボスの断末魔がボス部屋に響いた。

ユージオは____

 

『ぎ、ギギギギギキィァァァァアアアアアア!!』

 

『_______ッ!!』

 

たった一人。

 

たった一人で、ボスと交戦を始めた。

 

ダメだ。

アレと単騎でやりあうなんて、自殺行為だ。

攻略組全員でかかって戦線を保つのもギリギリで、誰が死んでもおかしくない。

単騎で挑むなど、愚の骨頂。

それこそ、真っ二つになるのがオチ____だった筈、なのに。

 

『ギギャァァァァァアアアア!!』

 

たった一人で、互角____いや、それ以上に渡り合っている。

 

攻撃しては、また離れ、攻撃しては、また離れる。

ヒットアンドアウェイ。

ボスの大鎌は空を切り、ユージオがボスの周りを駆ける。

ボスは____ユージオを捉えきれていない。だが、あの怪物は全身が武器だ。

ムカデのような足は全て剣の如く、鋭くとがっている。

攻撃力もトップクラス、攻撃のスピードも前の比じゃない。

 

なのに____ユージオはその攻撃の数々を紙一重で躱して斬撃を繰り出す。

 

「何が、起こって_____うぉ!?」

「きゃ!?」

 

キリトとロニエがユージオの豹変ぶりに呆気にとられていると、誰かに後ろから引っ張られた。

 

「二人とも、早く回復をお願いします___!!」

ティーゼだった。

「ティーゼ_____済まない、恩に着る!」

「ありがとう、ティーゼ!」

入口付近へと引っ張られながらもポシェットからハイポーションを取り出し、飲み干す2人。

 

他のプレイヤー達も月夜の黒猫団達によって連れられてハイポーションを飲んでいる。

 

 

『__________ジャギャァァァァァアッ!!!!』

 

『________ふッ!!』

 

 

最前線ではユージオがボスに臆することなく、果敢に立ち向かう。

ボスの攻撃は紙一重で躱され、ユージオは1度も攻撃を受けていなかった。

 

「ティーゼ、アレは_______どういうことなんだ?」

純粋な疑問。

攻略組のトッププレイヤーであるとはいえ、先程のユージオとは思えない戦いっぷりに、キリトはこの状況がなんなのかが分からない。分かるのは____ユージオがみんなの回復時間を稼ごうと、危ない橋を渡っているという事だけ。

 

「_____例えユージオでも、あんな……それこそ、一線を画してる。いや、アレは異常だ。一体全体、どうなってるんだ…?」

 

そのキリトの疑問に、ティーゼはこう答えた。

 

「あれは______先輩の、切り札です」

 

「切り___札?」

「はい。先輩のユニークスキルは、ご存知ですよね」

「ああ、《青薔薇》だろ?」

「_____その《青薔薇》スキルの《派生技術(スキルMOD)》です」

 

スキルMOD。

SAOにおける100を超えるスキル。そのスキルの熟練度を一定以上上げることで獲得出来る、その名の通り、派生スキル。

武器を早替えさせたり、クールタイムを短くするなど、効果は様々。

そしてそれは______ユニークスキルにも存在する。

二刀流にもクールタイム短縮のMODがあることをキリトは知っていたが____()()は、『派生』なんて領域を遥かに超えている。

 

「でも、おかしいだろう。あんな___」

「はい。アレに関してはその派生スキルと_____元よりあるソードスキルを組み合わせることで使用可能になる、スキル《青薔薇》の《最上位剣技》なんです」

「《青薔薇》の、最上位剣技…!」

 

「名を______《血薔薇(あかばら)》と言います」

 

ユニークスキル 《青薔薇》の最上位剣技(ソードスキル)と《青薔薇》スキルがMAX(カンスト)しなければ取得取得できない派生(モディファイ)スキル、それを会得することで初めて開放される。

血薔薇(あかばら)》。

 

「アレは、スキル使用者に強力なバフをかけるものです。攻撃力やクリティカル威力の増幅、俊敏性の大幅向上_____それが付与されます」

「バフ_____待ってくれ、アレはバフの範疇を超えてる。」

「はい。確かに、バフ…なんていう領域を超えています。それこそ…」

「____チート…いや、ユージオなんかができる芸当じゃないし、そんなこと出来るやつなんて居ない。ここにいるのは全員プレイヤーだ。システムに介入して、チートをするなんて言うのは、《システム管理者側(茅場晶彦)》くらいだ…」

「_____でも、強大が過ぎる力には代償が伴います」

「___代、償?」

 

ティーゼば顔を伏せて、ボソリと呟いた。

「あそこまで強い力を、何の代償も無く使える道理はありません。アレにも《代償(デメリット)》があります」

 

ロニエは話についていけないまま、呆然とティーゼを見つめ、キリトは何かに勘づいたように振り返る。

キリトの視線の先には、今もたった一人でボスに立ち向かうユージオ。

ボスの攻撃を全て回避し斬撃を叩き込む。

 

ふと_____不安に駆られて、視界の左上の端に表示されたHPゲージ。パーティーメンバーの物も表示されている。

キリトとロニエの物は少しずつ、ハイポーションの効果で回復していく。今は《注意域(イエローゾーン)》だが、そう時間のかからないうちに《安全域(グリーンゾーン)》へと戻るだろう。

ティーゼは既に完全に回復出来ている。

しかし______

 

「_____待ってくれ」

 

ボスの攻撃を全て回避して全快している筈の、ユージオのHPゲージ。

それが______7割まで減っている。

「なんで_______なんであそこまで減ってるんだ?ユージオは攻撃を全て回避してる筈だ…攻撃を受けている素振りなんて_____」

 

攻撃を受けていないユージオ。

しかし、表示されているユージオのHPゲージは、今も減り続けている。

徐々に______しかし、確かなスピードで。

 

そこから導き出される答えは_____

 

「まさか______」

 

「キリト先輩の予想通りだと思います。あの人のスキル《血薔薇》の《代償(デメリット)》は、《体力継続減少状態》です」

 

《体力継続減少状態》

その名の通り、攻撃を受けていなくてもダメージを受け続ける状態異常。

《毒》などと同じ物で、大体は____時間経過で消えるものだ。

しかし、ユージオのソレは時間経過では消えない。

 

「そして、《代償(デメリット)》はそれだけではありません。《ソードスキル使用不可》、《戦闘中自然回復(バトルヒーリングスキル)無効化》、《防御力半減》…これらの《デバフ》がスキル使用中は常時発動します」

 

「________」

 

大きすぎる代償。

それは、《血薔薇》スキルを使えばユージオを苦しめ続ける。

「_____待ってくれ、理解は出来た。納得はしてないが…ティーゼ。正直に答えてくれ。アレは______どれくらいもつ?」

理解はすれど、納得はできない。

ユージオ一人に危険な橋を渡らせるなど、キリトも我慢ならない。しかし、現実的に今ボスを止められるのはユージオだけ。

HPゲージが半減したキリトには到底できないということを、悔しながらも理解していた。

 

しかし。

超高性能バフ(メリット)を帳消しにしてしまいかねない程の代償(デメリット)。《体力継続減少状態》。

当然、HPゲージが減り続けるのなら時間的限界(タイムリミット)があるのは明白。

キリトはそれが気になった。

現在、ユージオのHPゲージは_____半分にさしかかろうとしている。

 

「______()()

 

「_____」

「それが、今、ユージオ先輩があのスキルを展開出来る時間です」

 

ティーゼの答えに絶句する。

ユージオは、もうすぐHPゲージが半分になろうとしている。ということは____既に、1分が経過しようとしているということだった。

 

だが_____ユージオを苦しめるのは、システム上…数値の話だけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体が、熱い。

 

剣を振るいながらポツンと心の中で呟いた。

既に、血薔薇(切り札)を使って体感的に1分が経っている。

後、もう1分。

耐えなければならない。

しかし、もう身体も心も限界を迎えていた。

激しい痛みが、頭を貫く。

 

それを無視して、僕は全速力で駆け出す。

 

ボスの叫びが聞こえる。

振り下ろされる大鎌。

僕はそれを______紙一重で躱し、ボスの懐へ飛び込んで斬撃を叩き込んだ。

 

「______ッ!!」

 

遅い。

 

苛立ちを隠せず、遮二無二身体中の鋭い刃を______僕を一撃で死に至らしめる凶器を振るうが、それは僕に届くことは無かった。

 

より速く。

 

ボスの攻撃を予測し、一切を受けない。

これがこのスキルの大前提だ。

一撃。

たった一撃、掠るだけで死に至る。

《血薔薇》のバフの倍率は、他のものよりも圧倒的に高い。

それ故に、デメリットも酷い物だった。

 

初めてこれを使った時______まだシャロがいなかった頃、ホーム前で試しにと使って、恐怖した。

デバフが大きすぎる。

自分で剣を上に投げて、わざと食らった時は本当に死ぬかと思った。

八割以上のHPゲージが、一瞬で四割まで減ったのだから。

ソードスキルを受けた訳では無い。だと言うのに____

 

『ギャジャァァァァァァ!!』

 

「_____っ!!」

 

余計なことを考えたせいか。

反応が遅れて、ボスからの一撃を貰いそうになった。

危ない。

油断も隙もないな、と他人事のように思った。

 

ボスから距離をとるべく、後ろへと飛んで、ボスから5mほど離れたところにザシャリ、と着地した。

 

僕のHPゲージは、後、半分丁度になった所だった。

少し、はやり過ぎていただろうか。

体感時間と現実の時間の流れがズレているな、と痛感した。

 

 

 

 

 

この《血薔薇》には、数値では分からない弱点がある。

それは______身体だけでなく、心も擦り切れてしまうこと。

 

簡単な話。

この血薔薇(スキル)は、人間が出せるスピードを優に超えている。

それ故に、人間の脳の処理能力だけでは行動の判断や処理が追いつかない。

例えどれだけ速く動けても、動体視力が追いつかないのだ。

人間はもとよりそこまで速く動ける生き物ではない。動体視力もそれに比例している。

それが急に倍の速さで動けるようになっても、人はなれることが出来る訳では無い。

車の運転で、咄嗟にブレーキをふむ判断が出来ないのと同じ。

曰く____ツバメは時速50キロと速く飛ぶが故に動体視力もそれに比例して良い。障害物を避けることなど瑣末な事だ。

しかし____人間は話が違う。

 

頭をフル回転させているが故に常に激しい頭痛を伴う。

しかし_______

 

 

 

まだ、行ける。

 

根拠はない。けど、まだ身体は動けた。

前傾姿勢をとり、剣を構える。

それと同時に骨ムカデ(ボス)も殺意を剥き出しにしながらこちらに突撃してくる。

まず、この状況でやらなきゃいけないのは_____ボスの大鎌を躱すこと。

 

発走する。

 

ボスとの距離は瞬く間にゼロになり、眼前に僕を一刀両断出来る程の鋭い刃が迫る。

僕はそれを紙一重で躱して、前へと進む。

片方ずつでしか攻撃してこないから、次は_____

 

いや、違う。

すぐさま僕は再び回避行動をとった。

通常ならば、片方ずつの鎌でしか攻撃してこないはずが、既に左からもう一方の鎌が迫っていた。

 

「_____ふッ!!」

 

ギリギリでそれを躱す。

HPゲージが最後の一本になると、攻撃パターンは変わるのはボス戦において当たり前ではあったから、こんなこともあろうかといつでも避けられるように体勢は整えていた。

あとはボスに斬撃を食らわせるだけ。

 

回転斬りを食らわせようと剣を振るう。その直後、僕は嫌な予感がした。

 

 

左から右へと剣を薙ごうと振り返れば______ボスの憎悪に染った顔が眼前に迫っていた。

その凶悪な顎は、僕を噛み砕かんとしている。

 

()()()()

 

しくじった。

確実に仕留めに来ている。

こればかりは、この《血薔薇(スキル)》使用中でも回避はできない。

 

嫌な汗が流れる。

バクンバクンバクンバクンと、絶え間なく____動いている筈の心臓が一瞬止まる。

 

いや、ここで何もしないのは大間抜けの所業。

今からでも体を捻って、回避を______

 

その時、銀色の光がボスの顔面に直撃した。

クワァァァァン、と子気味良い音が響く。

 

『ギガギャァァァ____!?』

 

ボスの動きが止まる。

僕は回避をやめて、渾身の回転斬りをボスに見舞った。

 

_____ネズハ、だ。

 

後衛で様子を見ていたネズハが、チャクラムで僕を援護してくれている。

 

「ユージオさん!!援護は任せて下さい!!」

 

ネズハの声を聞くと同時に僕は再びボスへ特攻を開始する。

ネズハのサポートがあれば、怖いものは無い。

彼へ最大級の感謝をしなければ。

 

ズキリ、と頭に痛みが走るが、それを無視して駆け出した。

 

残りの体力からして、あと____50秒無いくらい。

 

「_____せァッ!!」

未だスタンしているボスに斬撃を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このスキルの持続時間について問われたティーゼ。

『2分間』と、彼女は言った。だが、それは事実であり______虚偽でもあった。

何故か。

 

このスキルは『体力が自然に減り続ける』という性質上、タイムリミットが存在する。

ユージオにとっての限界が『2分間』だった。

 

_______()()()()()()()()()というのが大前提の話だが。

 

ダメージを受ける、または余裕を持たせるのなら、本当は1分…長引いて1分半が本当のタイムリミット。

この『2分間』とは、ユージオの体力をフルに使った場合____即ち、9割9分までギリギリ使って解除した時のタイムリミットだった。

 

 

 

 

 

 

 

ネズハのチャクラムでスタンしたボスに

「_____はアァッ!!」

斬撃を次々と叩き込んでいく。

 

あと残り30秒。

まだ、やれる________そう考えた直後。

 

『ジャアアアアアアア!!』

 

「_____ッ!?」

 

ボスの大鎌が頬を掠る。

髪が少し巻き込まれて切れた。

 

それだけで____________一割。

HPゲージを一割も持っていかれた。

 

嫌な汗が流れて、ぶわりと身の毛もよだつ。

 

不味い。

 

これでは_____後、10秒程しかない。

そんな考えのせいか。

 

「___う、あああああああッ!!」

 

声を上げて突撃する。

 

嗚呼、僕の馬鹿。

これじゃ_____台無しじゃないか。

焦りに焦って、なんて馬鹿な真似を。

 

そんな僕の愚行を、ボスが見逃すはずも無く。

 

『ギジャァァァァァア!!』

 

「うッ_______!?」

ボスの攻撃を真正面から受けそうになって、慌てて剣で守ろうとした。

けど、守りきれるはずもなくて______

 

吹き飛ばされた。

ボス部屋の床に叩きつけられながら、どうにか止まった。

 

「ぐ_____っ!!」

いち早く起き上がろうと、左手に力を入れようとして_____

力が入らないことに気付いた。

 

手が、震えている。

 

《死》を目の前にして、身体が悲鳴をあげている。

響き渡る、けたたましいボスの足音。

 

 

何、やってるんだ。

 

立て。

 

早く、立ち上がって、回避を_____

 

 

 

「_______ぁ」

見上げれば、ボスの顔があった。

狂った叫び声を上げて、その大鎌を振り下ろす。

 

 

 

回避不可。

 

 

 

 

防御もままならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ん________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

僕の見知った黒い背中が、飛び出した。

 

「_____おおッ!!」

 

激しい金属と金属がぶつかり合う音。

 

僕を貫くであろう、大鎌の一撃は_____僕の真横にズドン、と重い音を立てて落ちた。

 

_______その背中。

 

僕が追いつきたかった、彼。

同じ剣士として、仲間として、親友として。

対等に立ちたかった_____(キリト)は。

 

ああ。

例え、過去に戻ろうとも。

僕の相棒は_____

 

「____任せ、たっ……!!」

 

「_______任された」

 

僕の言葉に、たった一言。答えて見せた。

後ろを振り返ることはせず、キリトはボスへと駆け出した。

 

 

 

 

 

「キリトに続け!!ユージオが稼いでくれたこの時間を無駄にするな!!」

 

ディアベルの声。

それに答えるように雄叫びが響く。

 

それを聞いて安心して_____剣を鞘に収めようとした。

 

手が震えて、上手く戻せない。

この《血薔薇》スキルは、剣を鞘に戻して初めて解除される。

このままでは______スキルを解除出来ない。

 

ズキリ、と激しい頭痛。

頭がどうにかなりそうだ。

 

後、数秒。

焦れば焦るほど、手の震えは大きくなる。

 

「______はや、く…っ」

 

HPゲージは、もうあと数ドットしかない。

 

呆気ない終わりだな。

そう、他人事のように思った。

 

その時。

 

誰かが僕の手を掴んで、鞘に剣を戻してくれた。

ギリギリ____間に合った。

ジャキン、と音を立て、鞘に紅く染った剣が収められる。

直後、剣の紅い何かが音を立てて霧散する。

僕のHPゲージに表示されていたバフとデバフ、両方が消えていく。

頭を襲っていた刺すような痛みも、ふっと消えていた。少し痛みの余韻は残るが、これで随分とマシだろう。

 

手伝ってくれた誰かは、僕を抱きかかえて飛んだ。

 

即座にボス部屋の入口へと避難したその誰かは、直ぐにポーションを僕の口に突っ込んだ。

 

「んむぅ……!?」

 

有無を言わせず、ポーションをがぶ飲みさせられる。

「んく、ん________ぷはぁっ!?」

 

息が止まるかと思った。

 

「_____生きてる」

僕を運んでくれた______ティーゼは僕を抱きしめた。

 

「生きてる……先輩、先輩…先輩っ…!!」

 

「____ごめんね、心配かけて」

 

ティーゼは僕の胸で泣きながら、ぎゅうっと、強く抱きしめてくる。

______愛している人に、1番心配させてしまった。

 

僕のことを『先輩』と呼ぶ癖は___まだ、治っていなかったらしい。

 

 

でも______やっぱり、そう呼ばれた方が少し安心するかな。

 

 

何度も僕を呼ぶ彼女が_____酷く愛おしくて。

僕も、ティーゼを抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分後、ボスは無事倒された。

 

戦闘時間、1時間28分。

 

犠牲者は奇跡のゼロだった。

 

 

 



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聖騎士の正体

大変長らくお待たせいたしました
実習を終えたのでようやく投稿出来ました。
本編のほうを、どうぞ〜


 

 

 

「_____犠牲者は!?」

 

ボスがポリゴン片となり爆散した直後。

キリトはディアベルに問う。

「ゼロ…の筈だ。人数は減っていない……俺たちの勝利だ!!」

ディアベルの勝利宣言に全員がわっと湧く。

ディアベル自身、《完全勝利》と言いたかっただろうが、先遣隊が全員死亡しているが故に、そうは言えなかった。

 

「_____せ、先輩」

「ああ。お疲れ様、ロニエ………毎度の如く疲れるな…」

「そうですね…あ、先輩、とりあえず回復を…!」

「ん、そうだな。ボス戦終わったとはいえ、最低限回復しておかないと」

キリトはロニエに言われて2人一緒にポーションを飲み干す。そこで初めて、今飲んだポーションが最後の一本だったことに気が付いた。

 

攻略組全員が激しく疲弊しているようだったが、それでも死闘の果てに手にした勝利に皆が諸手を挙げて喜んだ。

 

ハイタッチしたり、抱きしめあったり。

それぞれが喜びを分かちあった。

 

「_____お前も生きてて良かったよ、相棒」

「_____うん。ありがとう、キリト」

「何言ってるんだよ。礼を言うのは俺……いや、俺たちの方だぜ?」

キリトとユージオはへたり込みながらもハイタッチして勝利を喜んだ。

「お前があの時______時間を稼いでくれなかったら、間違いなく全員死んでた」

 

事実、あの時間稼ぎが無ければ、確実に全滅していただろう。全滅を逃れたとしても、逃げ道のないこのボス部屋で半分以下になったそのメンバーでは、勝つ事など出来なかった。

 

「____まぁ、馬鹿みたいに無理してた件については後で説教するとして」

「え」

「当たり前だろ」

「うっ」

「ティーゼがあんなに心配してたんだぞ……もう、目を離したら飛び込んで行きそうで怖かった。いや、俺も人の事言えないんだけどさ」

キリトにデコピンされて思わず額に手を当てるユージオ。

彼もわかっている。

彼女にどれだけ心配をかけさせたか。心配性のティーゼには、心臓に悪かっただろう。

 

「______しかし、これじゃ先が思いやられる」

「……確かに。あと25層もあるんだよね」

「いつか、犠牲者が出るだろうからな。そうならないように、頑張りたいけどさ」

懸念があるとすれば_____まだ、4分の1が残っているこの現状。

まだ、100層には程遠い。

今回のボス戦よりも、強いボス達がこの上で待ち構えているのだ。ここで躓いている訳には行かない。

 

「_____」

 

攻略組の面々のHPゲージを見てみると、ユージオ達に負けず劣らずの減り具合だった。

攻撃を受けないように気をつけているとはいえ、掠る程度は受けてしまう。

それに、タンク隊は特にHPが減っている。

完全な防御を何度も成功させてきた猛者達だが、その防御時の余波ダメージは相当なものだった。

 

ほとんどの者がHPを減らし、疲れを顔に隠せない中______

 

一人、毅然と立ち、攻略組の面々を俯瞰する男が居た。

 

ヒースクリフ。

彼だけは、消耗している様子はなかった。

確かに彼もHPがかなり減っているが、半分以下にはなっていない。

いや、そもそも________

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ユージオ達でさえ、2人がかりで防いでいたあの大鎌をたった1人で防ぎきっていた。

確かに、彼なら出来なくもないだろうが_______しかし。

 

ユージオには、何か漠然と頭の中に残る違和感があった。

 

例え彼がどれだけ強くても______初見のボスの攻撃を防ぐことは出来るだろうか?

初めてのボスに対して、彼は果敢にも全ての攻撃を防いでいた。

まるで。

 

「______知っ、ていた…?」

 

全て知っていたかのように、思えて。

直後、

 

「____ぅっ…!!」

 

ユージオを襲う頭痛。

再び、未来(キリト)の記憶の蓋が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトと向かい合うのは_____ヒースクリフ。

周りには攻略組の面々が倒れている。

そんな中、二人は剣を交える。

 

キリトは、ヒースクリフを『敵』として。

ヒースクリフは、キリトを『好敵手』として。

 

完全なる護り。

磐石なる絶対の壁を前に、焦りを募らせるキリト。

苦し紛れに放たれた剣技は全て受け止められ、最後の一撃を正面から止められて_____剣の刀身が、半ばからへし折れる。

完全に防御され、行き場を失った力は失速し、使い手に一瞬の______しかし、大き過ぎる硬直時間()を生み出してしまった。

 

ヒースクリフがその隙を逃す筈もなく。

 

ソードスキルを回避行動すら取れないまま_______

 

 

受けなかった。

 

いや、アスナが庇ってしまった。

 

キリトはアスナを抱きとめるが、アスナのHPゲージはゼロになり____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______っ!?」

ユージオは、遂に真相に辿り着いた。

キリトの記憶は、映像、音声がバラバラに伝わる。大体は映像が必ず入って、音声が欠けていることが何度もあったが_____今回は所々、声が聞こえた。そして_____キリトが感じた、激しくも荒々しい感情が。

 

《殺意》、《怒り》、《悲哀》。

 

キリトの記憶が正しければ。

彼こそが。

 

 

______本当の、敵。

 

「_____ユージオ」

「____もしかして、キリトもかい?」

キリトに声をかけられて、ユージオはようやく、キリトも同じ人物を見ていることに気がついた。

そして____キリトがその可能性に辿り着いてしまった事も。

 

「…俺が仕掛ける」

「ダメだよ。やるなら僕もやるさ」

「けど、間違ってたらお前まで…」

「その時は……そうだね、謝るしかないかな」

キリトはユージオにそう諭されて、決心して剣を掴む手に力を入れる。

 

「____もう一度、アレを使うよ。キリトはヒースクリフの背後から、僕は回り込んで斬り掛かる」

現在、ヒースクリフはキリト達とは真反対の方向を向いている。キリトならば、最速で一撃を取れるかもしれない。しかし____相手はあのヒースクリフ。最強の護りを持つプレイヤーだ。

故に、万全を期すために、ユージオが裏を取る。

今のヒースクリフはギリギリ半分を保っている状態。

今攻撃すれば____化けの皮が剥がれる。

 

静かに剣を抜き、左手に突き刺す。

それと同時に、スキルが発動し、剣が紅く染まる。

 

「___先輩?」

「ティーゼはここにいて。僕らだけで、行けるから」

ユージオは首を傾げるティーゼにそう言って_____

 

「______ッ!!」

駆け出した。

 

それと同時にキリトの剣が光を帯びる。

片手剣ソードスキル《レイジスパイク》、射程距離が優秀でなおかつ、発動までの時間が短い突進系ソードスキルだ。

「_____おおおッ!!」

 

最速の攻撃に___

「___!?」

ヒースクリフは、反応してのけた。

 

盾をすぐさま構え、右側へ回転するように振り返りキリトの剣を止める。

しかし_____キリトの攻撃がバレて防がれるのは承知の上だった。

当然だ。キリトにとっての本命は、ユージオなのだから。

 

「_____はあッ!!」

 

既に、背後には《血薔薇》を使ったユージオが回り込み、斬撃を放っていた。

 

「な_______!?」

 

キリトとの攻撃の誤差は一瞬。

剣は盾の中にしまっているので、剣では防げない。

(キリト)の予想と、ユージオが見た記憶(未来)

 

ヒースクリフは、ユージオの一撃を防ぐことは出来ず、それを右肩に受ける____筈だった。

 

 

ギィィイイイイン!!

 

そんな音と共に、ユージオの斬撃は何かに防がれた。

 

「えっ_____!?」

 

紫色の、半透明な障壁によって。

 

Immortal Object(不死存在)》。

紫色のシステムカラーによって障壁に書かれたその文字。

その名前の通りの効果を発揮する。通常ならば、街の中の建物や家具、街中のNPCなどに付与されるもの。

プレイヤーには、絶対に付与されることの無い属性。

 

誰の口から出た声だったか。

全員の時が止まる。

 

キリトとユージオを除いて。

ユージオはヒースクリフの横を通り過ぎてキリトの元へと跳びずさる。

 

「_____伝説、とまで言われてたアンタの正体が()()か。聞いて呆れるな」

「…説明をお願いします、ヒースクリフさん」

 

2人に睨めつけられて、驚愕するヒースクリフ。

「お、おい!キリの字……どういうことだよ!?」

クラインの悲鳴に近い声に、キリトが答える。

 

「クライン、この男には《伝説》とまで言われている逸話があるだろ。《HPゲージを1度も半損させたことがない》…ってやつさ。俺もすごいと思うよ。ダメージディーラーの俺だってレッドゾーンの全損ギリギリまでいったことがあるのに、タンクであるアンタが半損さえしないなんて考えづらかった。

まぁ、尾ひれがついた噂だって思えばなんともない。けど_____アンタ、特に今回は()()()()ぜ」

「____ヒースクリフさん、貴方は今回のボス戦で何度も単騎でボスの攻撃を防いできた。僕らからすれば感謝の念しかありません。けど______あなたは強すぎた。プレイヤー(僕ら)の域を超えてるんですよ」

 

2人の言葉を静かに聞き届けたヒースクリフは、ふむ、と頷いて2人を真っ直ぐに見つめて言った。

「続けてくれたまえ」

 

「……まず、アンタの《伝説》の正体はシステムによって半損(イエローゾーン)にまで落ちないように保護されているからこそだった。大方、元々アンタのHPゲージは俺たちより減りにくくなってるのもあるんだろう。

それでも即死攻撃に近いボス達の攻撃には耐えられないし、約半分まで減らされた状態で一撃を貰えば、イエローゾーンに入る。だから____より強い守りを設定した。それが、この《不死属性》の付与だった」

 

「ちょ、ちょっと待って、キリト君!なんで、そんな……!!」

アスナはまだ状況を飲み込めていないようだった。

当たり前だ。さっきまで仲間として戦っていた人が、同じ仲間によって敵の如く睨みつけているのだから。

「《不死属性》なんて、NPCや街のオブジェクト以外にはほとんど付与はされない______一部、例外を除いてな」

「____待ってくれ、キリト。その例外は、まさか」

ディアベルが、気付いた。

もう、この場のほとんどのプレイヤー達が気づき始めている。

 

「その例外っていうのが______この世界(アインクラッド)の唯一の管理者である()()()()、ただ一人だ」

 

「前から思ってたんだよ。茅場晶彦(アイツ)は今どこから俺達プレイヤーを観察し、世界を調整してるんだろうって。

確かに全ての調整をするのはいくら茅場晶彦でも不可能だ。だから何かの自立システムを使ってるんだろう。でも、どうやって見ているかは見当がつかなかった。

けど、良く考えれば分かる事だった。簡単な話________()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…どんな子供だって知ってる。そんな心理を、俺は忘れていた。

どうなんだ______ヒースクリフ、いや、()()()()!!」

 

凍てつくように、静寂が訪れる。

全員が息を飲む。

「だ、団長……キリト君の言っていることは…本当なんですか…?」

恐る恐る、アスナが口を開く。

次の彼の行動で、全てが決まる。

いや、何を言おうと、決別してしまった。

 

既に、逃れられない《証拠》を、全員が見てしまった。

 

「______何故気付いたのか、参考までに聞かせてもらっていいかな?」

 

()()()()()

肯定しているのと変わらない台詞に、絶句する攻略組たち。

 

「……元より、アンタの《伝説》はあまり信じてなかったんだ。けど、ボス戦の度にイエローゾーンに入らないアンタを見て、眉唾物じゃなかったって分かった。純粋にすごいと思ったさ。けど______考えが変わったのは、例の決闘(デュエル)の時だ。アンタ、あの一瞬だけ速すぎたぜ」

 

「やはりそうだったか…私も不味いとは思っていたんだ。ユージオ君はどうなのかね?」

 

「______僕も、そこからです。キリトとあなたのデュエルを見て違和感に気付き始めて、そして、実際に剣を混じえて確信に変わった」

 

「…私としたことが、同じミスを2度も繰り返すとは、私も考えていなかったんだよ。2人の動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった。キリト君の時は、対ソードスキルだったからね。一度使って、技後硬直にはまった君を攻撃すれば終わりだったんだが……

ユージオ君、キミは少し例外だったよ。あの戦い方には私も堪えた。純粋に敗北したと痛感したんだ」

苦笑いをしながら饒舌に話すヒースクリフ。

「…あれは、初見殺しっていうやつですよ。2度目になれば、僕は勝てない」

「いや、何度やってもアレに完全対応するのは不可能だ。アレも君の強さだとも」

 

まるで、何でもなかったかのように話を続けるヒースクリフに全員が畏怖した。

「いやはや、予定では95層に到達するまでは明かさないつもりだったのだがね。良い意味で予定が崩れたよ。これ程、看破されて嬉しく思ったことは無い」

ヒースクリフは攻略組のメンバー達を見回し、超然とした笑みを浮かべてこう宣言した。

 

 

「正解だよ、キリト君、ユージオ君。私こそが、《茅場晶彦》だよ。そして_______このアインクラッド100層の紅玉宮で君達を待つ筈だった、正真正銘《ラストボス》だ」

 

 

 



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《黒の剣士》VS《聖騎士》

お待たせ致しましたァ!!!!
さて、戦いの幕開けでございます。
さて、今回はキリト目線とユージオ目線五分五分…と言った感じになってます。あと、戦いは2話続いて書きたいと思っています。書き始めたら、1万字を超えて、まさかの1万6000まで行ってました(白目)現在も最後の戦いを書いている途中ですが、10月の半ばには投稿出来ればなぁ…と考えております。

では、本編どうぞ〜


 

 

「____最強の聖騎士が一転、最凶のラストボスか。趣味が良いとはお世辞にも言えないぞ」

 

「私はこのシナリオを気に入っていたのだよ。盛り上がると思っていたのだが……たった4()()()3()で看破されてしまうとは。恐れ入ったよ」

お世辞をどうも、とキリトが剣を鞘に収めながら言う。

ユージオは既に《血薔薇》を解除しており、HPゲージはほとんど減っていない。何せ、スキルを発動させたのはほんの数秒。ヒースクリフが抵抗するのなら徹底抗戦を病むなしと考えていたユージオにとっては僥倖だった。

 

「____なんとなくわかっていた。キリト君、ユージオ君。君達二人こそがこのアインクラッドにおける最大の不確定因子だとね。私も認めているのだよ。このSAOで、最後に私の前に立つのは______君達二人だと」

 

饒舌に語るヒースクリフ____茅場晶彦(全ての元凶)に攻略組の一部は怒りよりも恐怖を感じた。

ケースの中で、クルクルと回り続ける実験用のモルモットを観察している____そんな風に、殆どの者達が感じた。

 

「私は確信していたとも…これはお世辞ではない。君の実力も加味しての話だ。

このアインクラッドの中で設定されている《ユニークスキル》十種……まぁ、一つ、予想外に生まれたスキル(青薔薇)を合わせると、十一種か。

その中でもキリト君、君の《二刀流》はこのアインクラッドの中でも最速の反応速度をもつプレイヤーに与えられるものだ。候補は、3人程いたようだがね。そして、それこそが、魔王____ラストボスに対する《勇者》の役割を担うハズだった。」

 

このアインクラッドの創造者たる茅場晶彦の口から飛び出る真実の数々。

 

「…全く予想外だったのだよ。君達が私の正体を看破するなど……この予想外の展開というのも、ネットワークRPGの醍醐味と言うべきかな?」

 

楽しんでいる。

自らの正体を看破され、今やこの攻略組全員が敵に回っていると言うのに_____この状況を楽しむ余裕があるというのか。

 

その時、ヒースクリフの丁度後ろにいた1人のプレイヤーが立ち上がった。

紅白をベースにした鎧をまとった_____他でもない、ヒースクリフが率いてきた血盟騎士団の幹部の一人だった。

 

「貴、様____よくも、よくも…私達の忠誠を、希望を_______よくもォ!!」

斧剣(ハルバード)を振りかぶる。絶叫と共に、斬撃を喰らわせようと地を蹴る。

彼らからすれば、1番信じていたリーダーに裏切られたのだ。

激怒するのも当然だが_____相手が悪かった。

 

「______!」

ヒースクリフが一瞬早く、左手を動かしメニューウィンドウらしき何かを展開し、凄まじいスピードで数回タップする。

すると、地を蹴り、空中で斧剣を振りかぶっていた男は不自然に動きを止めて地面に倒れた。

斧剣が地面に落ち、凄まじい金属音がボス部屋に響く。

そして、その直後。

 

「ぁ____先、輩」

「ロ、ロニエ!?」

キリトの後ろにいたロニエが力無く倒れこもうとしていた。

咄嗟にロニエを受け止めるキリト。

しかし____

 

「な____ぐ!?」

隣にいたユージオさえも倒れてしまった。

「ユージオ!?」

パッと周りを見ると、全員呻き声をあげながら不自然な格好で倒れている______キリトとヒースクリフを除いては。

ロニエのHPゲージに黄緑色の枠が点滅している。

麻痺状態だ。

 

「_____なんだ、正体バレたからって全員殺して隠蔽か?アンタにしちゃ随分と雑だな。表情に出ないだけで結構焦ってるのか?」

 

考えられるのは、証拠隠滅。

ここで全員殺してしまえば、『ヒースクリフ』が《茅場晶彦》だと知る人物はいなくなる。

単純だが、確実な手。

『死人に口なし』とは、まさにこの事だ。

 

「いや、そんな無粋な真似はしないさ。私もゲームクリエイターであり、非道なゲームマスターでもあるが____その実、人間であることには変わりないよ」

キリトの疑問に答えるヒースクリフ(茅場晶彦)。こんなデスゲームを作り出しておきながら、ここで殺すことはしないらしい。

 

正体がバレて(こうなって)しまっては仕方がない。予定より随分と早いが______一足先にアインクラッド第100層《紅玉宮》にて待つことにしよう。私が手塩に育てた血盟騎士団や攻略組を途中で放り出すのもどうかとは思うが_____何、君達の力ならきっと、私のもとへとたどり着けるよ」

 

ヒースクリフはそう言って、剣を盾にしまい込む。

 

「______だがその前に、キリト君、ユージオ君。君達二人には私の正体を看破した報酬(リワード)を与えなくてはならないな。こういうのはどうだろう________今この場で一対一で戦うチャンスを。無論、不死属性のシステムはこちらから解除しておこう。ここで私に勝てば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……どうかね?」

 

「________!!」

 

ゲームマスターたる茅場晶彦が持ち出してきた、報酬。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

このアインクラッドの支配者である彼にとって、システムに介入する事など容易い。そんな彼が持ち込もうとする《フェアな戦い》など、信用に足らない。

言い換えてしまえば、

『不確定因子たるお前達をここで確実に始末する』

と言っているようなものだった。

ロニエやアスナ達も同感だった。

信じられはしない。ここで乗ってしまえば、確実に殺される。

 

しかし。

キリトはそう考えつつも、彼の言っていることは本当の事だと理解出来た。

 

彼は、このアインクラッドを今までずっとフェアに進行されるよう、徹底してきた。彼の人間性からして、不正は有り得ない。

 

キリトは、考える。

他のみんなが何か言ってきているが、聞こえない。

 

頭の中にあるのは____漠然とした怒り。

 

約二千人。

それだけの人が犠牲になった。

電磁波によって、脳を焼き切って殺してきた彼が。

 

()()()()などと。

 

「巫山戯るなよ_____!!」

 

「先輩っ…!!」

意識が浮上する。

 

「だめっ……今は、引いてくだ…さいっ」

ロニエの静かな呼び掛けに、キリトはロニエに小さく、『ごめんな』と言って、地面に寝かせて立ち上がった。

 

「キリト___駄目だ!!行く、な…!!」

 

仰向けに倒れながらもキリトに向かって必死に手を伸ばすユージオ。

 

「______いいだろう、ここで決着つけてやる」

 

例えこれが罠だとしても、ここで剣を抜かねば______今まで傷付いてきた人達にどう顔を会わせろというのか。

 

「やめろ、キリト…!!」

「キリト…!!」

 

エギルとクラインが倒れながらも必死にキリトを止めようと出来る限り叫ぶ。

それは攻略組のみんなも同じだった。ディアベルも、ネズハも、ユウキも。

 

「アホ言うたぁアカンでキリトはん…ッ!!気持ちはよう分かる、けど今は引くべきやろがぁ……!!」

勿論、この男も黙っていない。親のように、キリトを叱りつける。

 

「……ありがとう、キバオウ。俺…アンタとは仲良くなれるか心配だったんだ。今じゃ、一緒に飯食いに行ったりする仲だもんな。人生わかんないもんだよ。アンタは_____こういう時、親みたいに叱ってくれたよな。凄く、嬉しかったよ」

 

「______こんな時に、なんでほんなこと言うんや…キリトはんっ…!!わしが聞きたかったのはそんな事…そんな、ことちゃう…!!」

キリトのいきなりの感謝の言葉に、キバオウは涙を流す。悔し涙か、嬉し涙か。それはキバオウ自身も分からなかった。

 

「ディアベル、アンタが居なきゃ……俺達はここまで来れなかったよ。バラバラの俺達をここまでまとめあげてくれた。ボス戦前には、深夜まで話し合って、作戦を決めてたよな。負けるつもりは無いけど____後は、よろしく頼む」

 

「______引き返す気は、無いんだな」

「ああ。ごめん」

「謝らないで、くれ。ただしやるなら______勝てよ」

「____おう」

 

ディアベルは、止めはしなかった。止める方法など、今の自身に無いことを知っていたから。

その握りしめた拳は______震えていた。

 

「ネズハ。今回のボス戦、サポートありがとな。ネズハのサポートが無かったらとっくにお陀仏だったよ、俺達。なぁ……1つ聞きたいんだ______今、ネズハは幸せか?」

 

キリトは、ネズハのことが心配だった。

第2層での詐欺事件、その加害者たる彼。人並み以上に罪悪感を感じ、自殺をしてもおかしくなかったネズハを_____キリトは案じていた。

確かに彼は、今もその罪悪感に苛まれているだろう。

けれど。

それでも。

彼が幸せだと、感じてくれているだろうか。それだけが気がかりだった。

「______ええ、ええっ!勿体ないくらいですっ」

 

その、言葉に。

「____なら、良かった。あの時、体張って助けた甲斐があったよ」

キリトは救われた。

 

「エギル。今まで剣士クラスのサポート、サンキューな。 知ってたんだ、お前んとこの店の儲けの殆んど全部、中層ゾーンのプレイヤー育成に注ぎ込んでいたこと」

 

「____お前…!」

 

 

「クライン_____俺、後悔してるんだ。始まりの街で別れた時(あの時)、お前を一緒に連れていかなかったこと。お前が行かないって言ったとはいえ、俺が置いていったのは、事実だから」

 

キリトは後悔していたのだ。

デスゲームの開始が宣言され、阿鼻叫喚となった始まりの街。

そこをいの一番に飛び出そうとしたキリトは、一緒にいたクラインとユージオに、次の町へ行こうと誘いをかけた。

しかし、クラインには友人がおり、彼らを置いていくことは出来ないと断った。

そのため、キリトはユージオと共に始まりの街を飛び出した。

 

その後、クラインにビーターとしての全知識を余すことなく教えたが_____それでも、キリトの中では、後悔が残っていたことは事実だった。

 

「何、言ってんだテメェ……!!謝ってんじゃねぇよ…謝んのは今じゃねぇだろォ………ちゃんと、現実世界(向こう)で、飯の一つや二つ、奢ってからじゃねぇと、絶対許さねぇからな…!!」

 

「____そうだな、約束するよ。帰ったら……一緒に飯食いに行くか」

微笑して、クラインにそう言ったキリト。

そして____ユージオへと向き直る。

 

「ユージオ______俺、本当はさ。人付き合い苦手でさ、現実世界(向こう)じゃ、友達なんてほとんど居なかったんだ。だから、俺はこの世界(ゲーム)に逃げた。けど、ここに来て、閉じ込められて………それで、ユージオ、お前に出逢えた。俺にとっては、お前が隣にいてくれたことが嬉しかったよ。純粋に、友達だって思えて。その、なんだ。上手く言えないけど_____ありがとう、ユージオ。俺、お前に出会えて良かった」

 

「_______キリ、ト」

 

包み隠さず吐露されたキリトの本心。ユージオは目頭が熱くなったが、それ以上にキリトを止めようと手を伸ばす。

 

「そんなこと、言わないでよ________」

手を伸ばす。けれど、届かない。

 

「_______ロニエ」

最後に。

愛する人の瞳を見た。

今にも泣きそうな顔で、キリトを見つめる彼女。

 

「先、輩……!!」

 

彼女もまた、キリトに手を伸ばす。

 

「_____ごめんな」

キリトはそう言って身を翻し、ヒースクリフへと向き直る。

 

「悪いが、頼みがある」

キリトは笑みを崩さないヒースクリフに向かって言った。

 

「何かね?」

「言っておくが負ける気は無い。やると決めた以上、絶対に勝つ。だが______もし、だ。もし……俺がお前に負けて死んだら_____暫くの間、ロニエが自殺出来ないように計らって欲しいんだ」

キリトの意外な頼みにヒースクリフは少し驚いた表情を見せて、直ぐに答えた。

 

「よかろう。では君が死んだ場合_____ロニエ君一人では辛いだろうからな。ユージオ君たちのホームがある32層の主街区から出られないように設定しておくとしよう」

 

「やめ、て………先輩!!そんなの私、嫌_________!!」

 

悲痛な叫び。

キリトにとって、愛した人が自分のあとを追って来る(死ぬ)など、絶対にあってはならなかった。そう、なって欲しくなかった。

ロニエには、生きていて欲しかった。

 

ロニエの叫びに____キリトは振り返ること無く、ヒースクリフに向かって歩みを進める。

ヒースクリフはメニューをいじって何かをしている。その直後、『Changed into mortal object』という表示が、ヒースクリフの頭上に現れる。

これで_____彼の絶対的システムの護り、《不死属性》は解除された。

 

ゲームマスターたる彼は、その気になればここにいる全員を無造作に殺すことも可能だ。だが、彼の性格故に、そんなことはしないだろう。このアインクラッドでの日々、長い間全てにおいて平等(フェア)を貫いてきた彼ならば、キリトとの勝負も、同じくフェアに進めるはずだ。

 

二振りの剣は、もうキリトの手に。

ヒースクリフも盾から剣を引き抜き、戦闘態勢へ。

 

これは、デュエルでは無い。

これは純粋な命をかけた死闘。

()()()()

 

高まる緊張感。

対プレイヤー戦における、独特なそれは_____今までにないほど高まっていく。

 

そして______その死闘は音もなく、火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「________キリト…!!」

不味い。

このままではキリトは_____負けてしまう。

少なくとも、いい結末へは辿り着けない。

 

見てしまったんだ。

これから起こる事(キリトの記憶)を。

今と同じようにヒースクリフと戦い_______ダークリパルサーが刀身半ばから折れること。

そして________その隙をついたヒースクリフの一撃を、()()()()()()()()()()()ことも。

 

全てがキリトの記憶通りに物事が進むかと言われれば、絶対ではない。

 

これはただの勘。

この1年半以上、キリトの記憶をヒントに走ってきた僕が感じてしまった焦燥感。

 

今、キリトがヒースクリフに勝つことは出来ない_______!!

 

剣筋がぶれて見える程に速い剣戟。

けれど、それはヒースクリフに届いていない。

 

キリトはこう考えているはず。

 

()()()()()()()使()()()()()()、と。

 

ヒースクリフはこの世界を作った張本人だと言う。

僕はまだ信じられないけど、それが本当なら、僕らが使うソードスキルも彼が作り出したということになる。

当然、キリトの《二刀流》も。

 

固定化されてしまったソードスキルは彼には通用しない。

故に、自分の力だけで______自身の技だけで圧倒しなければならない。

 

ソードスキルを封じられた状態での戦い。

それをキリトはほぼ互角にまで持ち越している。

 

しかし______一瞬の隙さえもヒースクリフは逃さない。

キリトの攻撃の隙をついての攻撃がキリトを襲う。

それをキリトは瞬間的に反応してのけた。

ヒースクリフの突き攻撃を二振りの剣で防ぎ、払って再び斬撃の嵐をお見舞する。

 

攻めの姿勢を崩さないキリト。

けれど。

彼の守りを突破するのは至難の業だ。

僕は巧妙なやり方(トリッキー)かつ初見殺しで初めて彼の守りを突破した。しかし、あれは初めての相手にのみ通用する手だ。多分ヒースクリフに2度は通じない。

それに、キリトとヒースクリフの戦いは二回目。手の内は全て見せている。キリトの本気の速さも、戦い方も。

ヒースクリフにとって、ソードスキルは既知のものであり、ユニークスキルである《二刀流》の全てのソードスキルを熟知している。ならば、今この時。圧倒的に不利なのは、キリトなんだ。

そう。

 

それを承知で、彼はヒースクリフの誘いに乗ったんだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

キリトたちの目的はこのアインクラッドから脱出し、現実世界(リアルワールド)へと戻ること。

この1年半以上もの間、家族と離ればなれになった彼らにとって、これは千載一遇のチャンス。

けれど______これではあまりにも。

 

世界の創造者(ゲームマスター)と一人のプレイヤーでは、勝ち目がない。

 

 

一瞬垣間見えた、ヒースクリフの冷ややかな目。

真鍮色の双眸に底知れない何かを感じる。

デュエルの時にみせた人間らしさが完全に抜けきっている。

 

仮にも。

二千人もの人がこの世界で死んでいる。

自身の作った世界で人が死んでいるというのに。

彼は、何故正気を保てているのか。

僕だったら___________耐えきれず、死んでしまうかもしれない。

 

キリトが正面切って斬り結んでいる彼は_______そう言った意味では、充分に《怪物》と呼んでもいいのかもしれない。

 

()()()という、アンダーワールドでダークテリトリーのゴブリン達と同様に恐れられてきた、《怪物》なのだ。

 

キリトの表情に、焦りが見え始めた。

不味い。

 

早く、立ち上がらなければ。

多分、キリトの記憶通り、キリトは負けてしまう。

最後の一撃を守ったのは記憶ではアスナだったが、今もそうなるとは限らない。ならば_____

 

「僕が、行かなくて______誰が行く、んだ」

 

立て。

立ち上がれ。

世界の理(システム)に、反旗を翻せ。

 

早く。

早く______!!

 

 

「うおおおおおおおおおおおッ!!」

 

直後、キリトの咆哮がボス部屋に轟く。

剣と剣がぶつかり合う衝撃音が、更にヒートアップする。

 

時間が無い。

立ち上がって、キリトの元へ走るだけでいい。

盾になるだけでいいんだ。

キリトを、守らなければ________

 

その時、アインクラッドで何度聞いたか分からない、ソードスキルの立ち上がる独特な音が聞こえた。

 

早まったか______!!

 

ソードスキルがヒースクリフの盾に撃ち込まれる。

 

 

「______ッ!!」

声にならない叫びと共に繰り出される剣技。超高速の連撃がヒースクリフを襲う。

しかし。

 

________全て、読まれている。

 

完全にヒースクリフはその剣技の軌道を読んでいた。

全てが盾にによって防がれていく。

 

二刀流を披露した時に見せた《スターバースト・ストリーム》よりも遥かに連撃数が多いはずのその技を全て丁寧に捌き、一撃一撃を防いでいく。

 

 

_____嵌められたんだ。

 

痛感した。

焦りを、恐怖を隠そうと躍起になって、剣を振るっても勝てる戦いにさえ勝てない。

恐怖を乗り越えるというのは、難し過ぎる。

僕でさえ、対モンスター戦やボス戦では、恐怖を感じてしまう。

 

しかも、相手はこの世界の創造主。

そして________今まで間接的にも、約二千人を殺してきた殺人鬼。

キリトでさえ、恐怖を感じざるを得なかった。

 

その恐怖に煽られ、使ってはならない《ソードスキル》を使ってしまった。

 

これは、ある種の罠だったんだ。

ヒースクリフからすれば、キリトにソードスキルを使わせてしまえば、技後硬直中に攻撃出来る。

軌道は、全て知っている。

 

故に______彼の勝利条件は、()()()()()()()()()()()使()()()()()だった。

 

早く、立て。

早く。

早く早く早く早く_____!!

ここで立たなきゃ、誰がキリトを守るんだ…!!

 

両腕に力を入れる。

けれど、麻痺しているせいで身体の自由が聞かない。

 

 

何かが砕ける音がした。

 

「_______っ!!」

 

記憶で見た通りの結末。

キリトの剣は折れ、技後硬直を強いられる。

その間に、ヒースクリフがとどめを____

 

アスナには出来たんだ、僕だって、やって見せろよ!!

立て。

 

立て______!!

 

その時。

 

見知った影が、キリトの元へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______さらばだ、キリト君」

 

冷たく告げられる別れの言葉。

振り下ろされる刃。

動こうとしない身体。

俺は、こんなにも弱かったのか。

 

最期に。

 

望みがあるとするなら_____

 

______ロニエ、君だけは生きてくれ。

 

俺はロニエを残して逝くことの罪悪感に押しつぶされそうになりながら、目の前に迫る死を直視する。

 

その時だった。

 

誰かに突き飛ばされたのは。

 

 

 

「_____!?」

 

「なっ_____!?」

 

驚きの声は他ならぬ、ヒースクリフのものだった。

技後硬直にあった為、避ける事も抵抗することも出来ず、倒れ込んでしまった。

そして、何かが斬られる音。

 

「_____何、が」

 

 

 

 

 

突き飛ばしながらも一緒に倒れ込んできたのは_______ロニエだった。

 

 

 

 

 

「___________」

 

時が、止まる。

状況を把握出来ない。理解が届かない。

何故?

何故、麻痺状態である筈のロニエがここにいるのか。

キリトに斬られた感覚はない。

ならば_____

 

「_____せん、ぱい」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

うつ伏せに倒れるロニエ、その肩口から腰にかけて赤い斬り口が。

紅い、血のエフェクトを散らしながら。

そのHPゲージ()が削れていっている。

 

 

 

「____ロニエ」

 

 

 

「ロニエ、ロニエ……ロニエロニエロニエ!!!!!!」

 

 

 

急いで抱き上げる。

その体は未だに麻痺に犯されていた。

減り続けるHPゲージの隣にも、麻痺状態のマークがついている。

彼女は_____システムの力に抗って、キリトを命からがら助けたというのか。

 

 

 

「やめろ_____止まれ。止まれ!!止まってくれ……!!」

 

 

 

キリトの悲鳴が響く。

 

しかし、ロニエのHPゲージは残酷にもどんどん減って行き______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピタリ、と。

レッドゾーンギリギリで止まった。

 

「ロニエ!!」

 

後数秒止まるのが遅ければ、確実に死んでいた。

これは_____ボス戦勝利直後、ロニエがキリトに回復を促し、一緒に回復していたのが功を奏した。

 

「___先輩…生きてます、か?」

 

「ああ、生きてるよ____俺も、ロニエも…!!」

 

「良かった………頑張って、無理したかいが、ありました」

 

「……ありがとう、ロニエ。ありがとう________!!」

 

優しく抱きしめる。

 

もう、傷付けさせないと。

 

もう、負けないと、誓うように。

 

 

 

「_____これは、驚いた。今この状況で麻痺状態を脱する手段は存在しなかったんだが…ロニエ君の様子を見るに、麻痺状態のままで君を守ったようだ。RPGの……このデスゲームの物語にはピッタリのシナリオだ」

 

大袈裟に両手を広げてそう言い放つヒースクリフ。

 

「こんなことが起きようとは……私としてもこういうサプライズは、嬉しいね」

 

「_______」

 

「…さて、どうするのかな?キリト君。要らぬ…とは言わないが、邪魔が入ってしまった。まだ、勝負を続けるかい?」

 

「______ああ。例え、お前に勝つ手段が無くても……ロニエが示してくれたこの勇気を、無駄に出来るか」

 

「いい台詞だ…諦めていないようで嬉しいよ。君がここで壊れていたら、私が即刻殺していたかもしれない」

 

「___そうかよ」

 

ロニエを優しく寝かせ、落ちていた黒剣(エリュシデータ)と、折れた白剣(ダークリパルサー)を拾い上げる。右手に、漆黒を。左手に、碧白を。

 

「では_____第2ラウンドと行こうか」

 

そして________再び、激突する。

 

 

 




今回は、原作でアスナさんが死んでしまっていたこのシチュエーションが前回の()()()()()によって回避されています。
ボス戦直後、普通なら安心しきる所ですが、彼女は気を抜かなかったようです。流石は長女、しっかり者だね!


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《Fatal Battle》

遅れてすみません、クロス・アラベルでございます。
何度か書き直していたら、かなり時間が経ってしまった…
タイトルは直訳すると『命運をかけた戦い』です。FGOやってる人ならよく見るものですね〜
今回のは自論というか、結構無理矢理なところがあります。最後の最後にして、ちょっとやらかしたかな〜…と思う所存です。ただ、この展開に関してはもうこのssを投稿し始めた時から決めていたので、貫き通すことにしました。
では、本編どうぞ〜


 

 

 

「_____おおおッ!!」

 

「____」

 

剣を振るう。

速さは、先程よりも増している。

先程の一件で頭が冷めた。

より冷静に、もう、彼は心で負けることは無い。

愛する人に、あんな事をさせてしまったのだ。

____誓いは破らない。

 

愛する人の想いを胸に、ひたすらに二振りの剣を振るい続ける。

しかし___

 

「______君は、冷静でいると思っているようだが…そうとは言えない」

 

「____ッ!!」

 

無慈悲に告げるヒースクリフ。

そう、冷静に努めようとしているキリトだが、その反面、冷静ではない。

刀身が半ばから折れた剣を使うなど、言語道断。

 

「_____君は確かに、吹っ切れただろうが…状況が悪い」

 

「ぐ____!!」

 

キリトの利点____圧倒的手数は、折れてしまったダークリパルサーによって帳消しになっている。

リーチは半分以下。

本来の手数は潰れている。

これでは、戦いにく過ぎる。

 

確かに_____これは、負け戦だった。

 

 

「ふッ______!!」

 

「____うッ!?」

 

攻守はいつしか替わり、キリトが防戦一方となる。

ダークリパルサーの刀身が健在であったなら____もしかしたかもしれない。

だが_____この状況は覆らない。

 

「ちィ_____!!」

 

後ろに飛びずさって、距離をとる。

麻痺して倒れ込んでいるユージオ達の元へギリギリまで下がった。

このままの勢いに呑まれれば、確実に負ける。

しかし、ヒースクリフはそれを許さない。

 

「_____逃すものか…!!」

 

動かぬ巌(ヒースクリフ)が______攻めに転ずる。

本来ならここが攻め時なのかもしれない。

武器がまともでは無いが故に、攻めきれない。

 

勝ち筋は_____無い。

その事実に思わず苦虫を噛み潰したような表情になるキリト。

負けることは無いと、確信するヒースクリフ。彼はキリトを追い詰めようと剣を振り上げた。

 

 

 

 

その時だった。

 

キリトの目の前に、システムウィンドウが突如現れたのは。

 

「_____!?」

 

「_____!!」

 

予想出来なかったその障害物にヒースクリフは_______咄嗟に縦を構えながら後方へと回避行動をとっていた。

 

ヒースクリフは、ただのシステムウィンドウに回避行動をとるような馬鹿ではなかった。

 

むしろ、システムウィンドウが出てもそのまま斬撃を繰り出すだろう。

ヒースクリフは、キリトに最大限の注意を払っていた。何せ、例の決闘でも負ける寸前までいったのだ。警戒しない訳が無い。だからこそ、ヒースクリフは彼の一挙手一投足を異常な程警戒していた。

キリトもユージオと同じくイレギュラーなプレイヤーだ。どんな策を練ってくるか、ヒースクリフの予想を上回る何かがあるかもしれない。だからこそ、どんなプレイヤーにも感じることのない、プレッシャーを彼は感じていた。

 

普通、決闘の最中にシステムウィンドウなど出ない。当たり前だ。

どんな決闘だって、メッセージなどのシステム介入はストップする。彼自身がそう設定したのだ。

戦いに邪魔が入らぬように、と考えての事だった。フェアであろうとするヒースクリフらしい思考だ。

しかし、彼は無意識の中で思い込んでいた。

これは誰の邪魔も入らぬ、聖戦だと。

何せ、周りのプレイヤー達は全員麻痺状態。

先程は邪魔が入ったが、それも例外中の例外。

これがデュエルなら______確実に邪魔等入る隙もない。

 

だが_______これは()()()()()()

システム上のデュエルではなく、ただの殺し合いなのだ。

メッセージを送られればシステムウィンドウが出るし、アラートも鳴る。

 

ヒースクリフのミス。

壁役(タンク)としての守りの癖、キリトに払っている注意と最大限に警戒していたその意識が_____ヒースクリフには有り得ない、ミスを生み出した。

 

「____っ(私は一体何を……!!今すぐにトドメを刺さなければならないと言うのに!)」

 

即座に前へと突撃するヒースクリフ。

 

「___ああ」

 

彼は、過ちに誤ちを重ねる男ではない。即座に取り返そうと攻撃をしようとして_____

しかし、キリトの右手が雷の如く素早くウィンドウを操作する。ウィンドウに触れる事、四度。

二度目のタップで左手の折れた剣(ダークリパルサー)が消え、4度目のタップでキリトの背中に何かが現れる。

その背中に現れた剣をキリトは左手で掴んで、鞘から勢いよく引き抜いた。

 

 

「_______なっ!?」

 

斬撃はキリトに届かない。

ヒースクリフの一撃は止められた。

 

 

 

 

 

_____()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「_______ふッ!!」

 

押し返される。

予想外の攻撃に驚愕しながらも咄嗟に後ろへと飛びずさるヒースクリフ。

 

「それは_____!!」

 

そして、キリトの携えるもう一振りの剣を見て目を見開く。

 

「_______」

 

 

 

キリトが左手に持っていたの______ユージオの愛剣(アルマス)だった。

 

 

 

「まさか、あのシステムウィンドウは…!」

 

「ああ、()()()()()()さ。俺のダークリパルサーと交換しろって____ユージオがこの土壇場で仕掛けてくれた。」

 

あの瞬間______キリトが後ろへと跳んだ時。

倒れ込むユージオ達に近づいたのをチャンスと捉え、ユージオが咄嗟にトレードを仕掛けたのだ。

元より、ユージオはその気だったのか。既にメニューウィンドウをトレード画面にし、あとは送信するだけにしていたようだった。麻痺状態でありながらも、かなり時間をかけて待機していたようだ。

 

SAOにおける《トレードシステム》には2つのルールがある。

当たり前だが、トレード可能区域は圏内である事。そして、周りにモンスターが居ないこと。だが、これには抜け穴があった。

2()m()()()

2m以内であれば圏外でもトレードは可能になる。

そして、このボス部屋ではモンスターなど湧くはずが無い。何せ、この部屋の主は攻略組が倒してしまったのだから。

 

元より2つ目の条件は満たされていたが、1つ目の条件は難しかった。何せキリトはユージオ達に被害が及ばぬようにと遠ざかっていたからだ。

キリトが後ろへと飛び退いた時、偶然にも一つ目の条件を満たしていたのだ。

 

まさに奇跡。

 

 

「_____これで、五分五分(イーブン)というわけか」

 

「________」

 

キリトは無言で二振りの剣を構える。

 

その眼に映るのは、倒すべき敵。

見据えるのは、勝利をもたらす一手。

 

「______行くぞ」

 

「_____来たまえ、キリト君」

 

研ぎ澄まされる五感。

 

再び______三度目の真剣勝負が幕を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______ッ!!」

 

「シッ_____!!」

 

激しい金属同士の衝突音。

薄暗いボス部屋で散る火花。

 

翻る黒い影、宙を駆ける黒白の対を成す2つの星。

 

真正面からそれを受ける紅い十字架。

先程とは比べ物にならない剣戟だった。

 

ヒースクリフは息を呑む。

先程の戦闘で見せた速さ、それを遥かに超えた神速の斬撃。それがヒースクリフの盾を超えんとし唸りを上げ、加速していく。

 

「ぬ、ぅ______!!(まだ、加速するか____!?)」

 

彼の予想の上を行くキリトの剣は未だ、加速し続ける。一撃の重さを先程とは比べ物にならない。

その速さに______ヒースクリフの盾は防ぐだけで精一杯となっていた。

 

 

 

キリトは、負けることは出来ない。

いや、負けられないし、負けたくない。

 

攻略組として、プレイヤーとして_____一人の剣士として。

 

背負うものは、アインクラッドにいるプレイヤー達の願い、攻略組の信頼____何よりも親友の激励と愛する人の想い。

 

《殺意》ではない。

 

純粋な勝利への《渇望》を胸に、キリトは駆ける。

 

 

 

 

 

「______おおおおおおッ!!」

 

勝負だ、ヒースクリフ。

俺はここで______アンタを超える!!

 

 

苛烈になっていく剣戟。

ヒースクリフに反撃の余地を与えぬ連撃。

 

確かに_____真の魔王(ヒースクリフ)を追い詰める。

 

「___おおッ!!」

 

「ッ!!」

ここでついに動かぬ巖のような彼が、反撃に出る。

十字の盾を前に押し返し、この現状を打破しようと攻撃に回る。

それを___キリトは逃さない。

 

押し返され、後ろへと下がった直後、再びヒースクリフへと走る。

キリトはその十字盾を____踏み台にし、前宙の要領でヒースクリフの頭上へと跳ぶ。

 

「___ふッ!!」

ヒースクリフはすかさず剣で刺突するも、左手に持つユージオの剣(アルマス)の回転斬りに弾かれた。

回転そのままに後ろへ回り、右手のエリュシデータの斬撃を食らうヒースクリフ。

 

「ぐ___!!」

着地後の隙も作ることなくヒースクリフに再び斬撃の嵐を叩きつける。

 

一撃一撃の重さは、先程とは全く違う。キリトの攻撃の一つ一つが、ヒースクリフの守りを崩しうる威力を持っていた。

特に_____ユージオの愛剣(アルマス)の一撃が重い。

 

盾による防御(ガード)は何も盾を前に掲げていればいいという話ではない。

攻撃の瞬間____盾と攻撃がぶつかるその一瞬に力を込めしっかりと防がなければならない。

完全に防ぎ切る、相手の攻撃を弾き返す技術を《完全防御(ジャストガード)》と呼ぶ。

ジャストガードによって盾装備者の防御時の反動による少量のダメージを最低限まで減らすことが可能だ。

しかし____キリトの予想以上の加速にヒースクリフは少しずつ、そのジャストガードが追いつかなくなってきていた。

駆け引き(ブラフ)》だけではない。

キリトの攻撃によってヒースクリフの防御が剥がれてきている。

 

そして________限界が訪れる。

 

「ぐ、ぉ______!!」

 

ヒースクリフの十字盾が弾かれ、正面からヒースクリフの身体が見えた。

 

「____おおおおおおおッ!!!!」

 

瞬間、ここぞとばかりに追撃を開始する。

今まで封じてきたもの______ソードスキルを解放した。

ヒースクリフの体勢が崩れたのは一瞬だ。しかし、確かな好機。その一瞬の隙に、斬撃を滑り込ませる。それが出来なくても、その守りを超高速の連撃で引っ剥がす。

 

《二刀流》スキル、上位スキル《スターバースト・ストリーム》。

 

斬撃は流星群の如く、ヒースクリフに襲いかかる_____!!

 

「_____ふッ!?」

 

しかし、ヒースクリフも反応してのけた。

即座に盾を正面へと直すが_____ジャストガードする程の余裕がない。

 

キリトによって最大までブーストされた斬撃がジャストガードのままならないヒースクリフの盾へと殺到する。

 

一撃目から五撃目まではギリギリ防ぐ。

六撃目から、盾が斬撃の重さに耐えられず、あちこちへブレる。

 

そして____

 

「____ッ!?」

遂に、最硬の防御を突破した。

盾を弾き飛ばし、ヒースクリフへと肉薄する。

 

最後の足掻きに剣で防ごうとするも、10撃目の斬撃で弾き返された。

 

がら空きになったヒースクリフの身体に____連撃を叩き込む。

 

11、12、13、14撃。

15撃目のエリュシデータによる突攻撃。

ヒースクリフのHPゲージは_____危険域(レッドゾーン)へ。

 

「_____ぬぅうううんッ!!」

 

ヒースクリフも反撃の手を休めない。今まで聞いたことの無い雄叫びと共に弾かれかけた剣でキリトの首元へと一撃を加えようと、剣を振るう。

 

しかし_____キリトの方が速かった。

 

「まだだァ_____!!」

 

16連撃目、最後の一撃。

 

ユージオの愛剣(アルマス)の一撃が、ヒースクリフの左胸を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『___________』』』

 

ここまで、ずっと麻痺状態ながらも声を張り上げて応援してきた攻略組達の声が止む。

 

最後の一撃が、ヒースクリフを貫いた。

10分の1しか残っていなかった紅いHPゲージは、減り続け_____

 

ピタリ、と。

後ほんの数ドットを残して止まった。

 

「_____ッ!!」

キリトはそれを見てヒースクリフから剣を抜き、一度下がろうとした時、ヒースクリフの持っていた剣が、するりと彼の手を離れて床に落ちた。

ガラン、と金属が落ちる音がボス部屋に響き渡る。

 

「_____本当に、負けてしまうとはね」

 

悔しそうな声が零れる。

そしてヒースクリフは後ろへと二歩下がり、自らアルマスを体から引き抜いた。

 

 

 

 

 

「おめでとう、キリト君_________君の勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

そう言ってヒースクリフは盾を手放し______残り数ドットのHPゲージを消して、無数のポリゴン片となって爆散した。

 

 

 

「_________」

 

ヒースクリフの最期の言葉。

キリトは遅れながらもそれが正真正銘の賛辞である事を理解した。

 

 

 

 

ヒースクリフが消えて10秒程経った時、ボス部屋中に大きな鐘の音が鳴り響いた。

攻略組達にとってこれは_____どこかで聞いた覚えがあったものだった。

 

 

荘厳な鐘の音。

このデスゲームの始まりの日。その日に鳴り響いた音に酷似していた。

 

始まりの鐘の音。

 

全員が身構える中、女性の声が響いた。

 

 

 

『____現在、全プレイヤーのHPゲージは最大値で固定されました』

 

 

聞いたことの無いアナウンス。

このデスゲームでこのようなアナウンスなど1度もなかったが故に全員に緊張が走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『2024年6月12日水曜日、現在時刻13時29分、ラストボスの討伐を確認______アインクラッドはクリアされました』

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙。

 

たった今聞こえた言葉が事実なのかどうか、それが信じられなくて。

全員が声を出すことが出来なかった。

 

しかし、誰かが気付く。

減りに減っていた筈の自身とパーティメンバー達のHPゲージが全回復している事に。全員を苦しめていた、麻痺状態も消えている。

 

 

『____やった』

 

攻略組の誰の声だったか。

 

たった一言。

自分達が成し遂げたこの事実(ゲームクリア)に思わず零れた。

それを合図だった。

 

 

 

 

『クリアだぁ______!!!!』

 

 

 

 

大歓声がボス部屋に響き渡った。

 

喜びのあまり泣き出してしまう者や半狂乱になってはしゃぎだす者、静かに涙を流しながらへたり込む者、先程まで共に戦っていた仲間と抱き合う者…三者三様の喜び。

 

そして、一部の者______主に、キリトと特に親しかった者達はキリトの元へと駆け出した。

 

 




後、4〜5話でフィナーレを迎えます。
ここまで4年…長かった
次回は近いうちに投稿出来ると思います。実を言うと、次話はもう勢い余って描き始めてました。

映画プログレッシブ、しっかり見てきました。進化しましたね、SAO。感想書くと1万字行くかもしれないので、遠慮しましょう()
まだ見てない人は是非、ご覧下さい。若かれし頃のキリト君、可愛いですよ!

ハロウィンロニエは当てた。しかも初回で(( ドヤァ
ジャックも水着の反動か、10連で2人も来てくれました。水着ジャンヌは来ませんでしたが。
ここからガチャ禁だぁ


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さよならの猶予(カウントダウン)

こんにちは、クロスです。
映画もう1回見てきました。4週目の特典も欲しいのでまた行くかもです()
何度見たって面白いッス!

今回は、ヒースクリフ戦後のつかの間の時間の話です。
原作ではアスナとキリトがHPゲージを全損してボス部屋から消えた訳ですが、今回はちゃんと生き残っていますので、ログアウトするまで…のほんの数分間の会話になります。
あとがきにこれからの展開について書いてます。
さて、このアインクラッドもフィナーレです。次回が最終回となりますのでよろしくお願いします〜



 

 

口々にキリトの呼びながら駆け寄っていくクライン達。

キリトは剣をたずさえたまま、ぼうっと遠くを見つめている。

 

どすん、と駆け寄ってきていた皆がぶつかって初めてハッと我に返る。

 

「馬鹿野郎、1人で無茶しやがって…!」

「そうよ!どれだけ心配したと思ってるの…!」

 

責めるように、労わるように声をかけてきた。

 

「_____ごめん、皆。心配かけた」

こればかりは弁明のしようがない。実際勝てたとはいえ、2人の助けがなければとうに死んでいたのだから。

 

「_____キリト」

 

ゆっくりと歩いてくる二人。ティーゼを連れたユージオは真剣な表情でキリトを呼んだ。

 

「さっきは、ありがとな。ホントに助かった」

「無茶するのは君の十八番だし、別になんとも思ってないよ。ただ、無策で挑んだのは色々と小言言いたいところだけどね」

「…覚悟しとくよ」

「でも、僕よりも感謝を伝える相手がいるだろう?」

「____ああ」

 

キリトはユージオの言葉に頷きながら、彼女の元へと歩み寄った。

 

「せん、ぱい」

彼女はまだ、ぺたりと座り込んでいた。

HPゲージは全快しており、麻痺も当然ながら治っている。しかし、足は微かに震えているようだった。

しゃがみこんで、ロニエに落ち着いて声をかける。

 

今すぐに抱きつきたい欲望に抗いながら。

 

「____ごめん、ロニエ。あんな無理させて。俺がもっとちゃんとしていれば…」

「…先輩が生きていてくれて、本当に良かったです。もう、あんな無茶しないでくださいね?」

「ああ、善処するよ。ありがとう_____ロニエ」

 

キリトは最後にそう言って、ロニエを抱き締める。

優しく、お互いの体温を確かめるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「立てるか?」

「はい、先程はその…ちょっと、安心しきったせいで力が抜けちゃってて」

1分間の抱擁の後に、キリトはロニエの手を取り、攻略組のみんなの元へと向かった。

未だにお祭り状態である。

 

「____本当に、終わったんだな」

「そう、ですね。1年と約半年でした。長いようで短かった気がします」

「第1層の頃はどれだけかかるか見当もつかなかったけど……早い方だったか…かな」

「……それも、攻略組の皆さんのお陰ですね」

「…皆が一緒に来てくれなかったら、少なくともあと一年は長引いてただろうな。感謝してもしきれない」

 

未だに信じられないこのアインクラッドクリアの快挙。

このアインクラッドに生きる人々____8000人弱が生きて現実世界に戻ることが出来る。

あの日、あんなにも遠かった筈の終わりが、あと少しで訪れる。なんとも感慨深いものだ、とキリトは心の中で思った。

 

「____あ、そうだ。ユージオ!」

 

「何、キリト?」

「これ、返すよ」

キリトはユージオを呼んでシステムウィンドウを何度かタップし、ユージオへとトレードを申請した。

 

「___律儀だね、珍しく」

「珍しくとはなんだ、珍しくとは。俺だってこれくらいはするよ。お前の愛剣だからな。本人が持ってた方がいいだろ」

「…そうだね。ありがとう、キリト」

ユージオはそう答えてトレードを許可し、アルマスを左腰にもう一度装備した。

 

と、その時。

お祭り騒ぎだったボス部屋にディアベルの声が響く。

 

「みんな!!遂にここまで漕ぎ着けた……75層、となんとなくキリのいい数字ではないし、全クリとは言い難いが______これにて、アインクラッド…ソードアート・オンラインはクリアだ!!

皆の力と、最後のキリトの奮戦のおかげだ!おめでとう、そしてありがとう…みんな!!」

 

攻略組のリーダーたる彼による感謝の言葉。

わっ、と歓声が響く。

 

「ホントの事を言うと……俺、凄い不安だったんだ。第1層の頃からずっとここまで走り続けてきたけど、100層もあるこのアインクラッドをクリアできるか…諦めた事はなかったが、不安に思うやつは多かったと思う。いや、みんなそうだったはずだ。

本当ならもっと時間がかかってもおかしくなかった。それに、その……我が事ながら、第1層の頃はベータテスターとしての立場にすごく不安だったし、怖かった。あの時は迷惑をかけて、死にかけた。

結果的にキリト達が先陣を切って頑張ってくれたおかげで俺も生き残ることが出来た。それに……みんなが、ベータテスターである俺の事を、受け入れてくれた事が、すごく嬉しかった。あの時、俺がベータテスターであることを隠し続けてたらいつか俺は、折れてしまっていた。

そして……今の今まで、ずっと一緒に戦ってくれてありがとう。みんなに、最大級の感謝を_____!!」

 

ディアベルの本音、そして、心の底からの感謝の言葉。

拍手が鳴り響く。

 

「___さて、俺から言うのはここまでにしよう。さっきのアナウンスが正しければ、あと数分でログアウトが始まる。その前に、自己紹介をしておくといい!みんな、SAOでのプレイヤーネームは知っていても、リアルの方は知らないだろう?

知らないままじゃ、向こうで会おうにも会えないしな。別にここで俺みたいに大声でって訳じゃなく、自分が言っておきたい、知らせておいて、向こうでも会って話したい…そんな奴にだけ、名前とかを教えてやってくれ!」

 

ディアベルの提案。

向こう(リアル)でも会えるようにと考えた彼なりの譲歩。

 

「じゃあ、俺から名乗っておこう。俺の名前は_____」

 

彼にとって_____この攻略組の皆はリアルの名前を伝えてもいいと言えるほどまでに、信用出来る人達だった。

 

「向こうで、皆と会えるのを楽しみにしてるよ!それじゃあ、解散!」

ディアベルの言葉と同時に皆がそれぞれの散っていく。

 

「…本当に、終わるんだな。いよいよ、リアルの名前を言う時が来るなんて…」

「_______」

そう呟くキリトに静かに寄り添うロニエ。しかし___彼女の表情は晴れない。

 

「おーい、キリの字、ユーの字!改めて自己紹介といこうぜ」

「1年半ぶりに自分の名前を口にするな。おかしなことだが、懐かしいぜ。な?キリト、ユージオ」

「…ああ、そうだな」

声をかけてきたクラインとエギル。

ディアベルの話を聞いて早速キリトたちに声をかけてきた。

 

「んじゃ、俺から。俺は《壷井 遼太郎》ってんだ。歳は24、会社勤めだ。改めてよろしくな!」

野武士の如き侍剣士はそう名乗った。

キリトも理解していたが、やはり大人だったらしい。ナギと初めて出会った時に独身だとか何とか口走っていたのを思い出した。

 

「俺の本名はアンドリュー、《アンドリュー・ギルバート・ミルズ》だ。察しの通り、アメリカ人でな。東京でカフェを経営してる……まぁ、この1年半、どうなってるかは分からんがな。歳は29だ。この中じゃ1番年上っぽいか」

1番大人で、頼りになるエギル。初めからわかっていたが、外国人だったようだ。本当に日本語がペラペラなのでもしかすると日本育ちなのかもしれない。

第1層のボス攻略から世話になっていた。

 

「…私も、自己紹介しておくわね。昔の私なら、こんなところでリアルの情報出すなんて考えられなかったでしょうけど。私は《結城 明日奈》、歳は16歳です。向こうでまた会えたら…みんな、その時はよろしくね」

アスナはキリトとさほど年は変わらないようだ。1つ上…と言うくらいか。

第1層で初めて会った時とは比べ物にならないほど、その表情は優しいものになっている。

 

「……向こうでもよろしくな、皆」

ディアベルやキバオウ、ユウキ達にも名前を聞いておきたいが、それぞれ挨拶したい相手がいたのだろう。この場にはいなかった。

 

「おい、キリの字!お前の名前聞いてないぜ。聞かせろよ!」

「ああ、そうだな。俺は_____和人。《桐ヶ谷 和人》っていうんだ。歳は15だ。なんというか……クラインとエギルは分かってたけど、アスナって俺より歳上なんだな」

「む、なんかイラッときた」

「…また、向こうで会えたらオフ会でもしよう。改めて、アインクラッド攻略おめでとうってさ」

「お、いいな!そんじゃ、ログアウトして色々と落ち着いたらみんなでオフ会だ!」

「オフ会か。ならうちの店でやるのはどうだ?攻略組全員は無理だろうが…20人くらいなら行けるだろう」

「東京、ね。それなら私も参加出来ないこともないかも。親からの許可が降りればの話だけど」

オフ会の話で盛り上がる中、キリトは改めて安堵する。

ようやく帰ることが出来る、そして、仲間たちを帰すことが出来るということに。

 

「そうだ、ロニエ」

「________ぁ、はい」

「俺、ロニエの名前も聞いておきたい。ユージオ!お前もだぞ。ティーゼも」

「______ああ、そうだね。うん、当たり前だよね」

そこでキリトは、ずっと黙り込んでいるロニエとユージオ、ティーゼに声をかけた。

何故だろう。

キリトには3人が他の人達と違って、純粋に喜んでいるようには見えなかった。

 

「_____じゃあ、僕から。僕の名前は………うん、プレイヤーネームのままなんだ。僕の本名は《ユージオ》、ただのユージオさ」

「____私もそのままなんです。私の名前は《ティーゼ・シュトリーネン》と言います」

 

2人は何故か、儚げにそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、2人とも本名のままだったんだな。あんまり本名そのままは良くないぞ、ゲームの中ぐらいプレイヤーネーム考えとかないとさ」

 

オンラインゲームにおいて、自身の本名や下の名前を使う事はさして珍しいことじゃない。

カタカナ表示にしてしまえば、下の名前であろうと問題ない。別段、個人情報がそれだけで漏れるなんてほとんどありえない。出来なくもないだろうが、よっぽどのストーカー出ない限りやらないし、相当なインターネットやシステムなどに詳しくなければ調べることなど出来ない。

 

アスナのように、SAOなどのMMORPGに対し無知な人は咄嗟にプレイヤーネームが思いつかず、本名をそのまま使うこともしばしばある。

 

別に、問題は無い。

 

しかし、2人の言葉は______

 

「…そうだね、僕もそうしないと。今度違うゲームをする機会があったら、何か考えておくよ」

「違う名前ですか…あまり、ピンと来ませんね」

「うん、なかなかそういうのは考えたことがないから」

 

「____俺のプレイヤーネームも、名前のもじりだからさ。キリガヤの『キリ』と、カズトの『ト』を合わせてるんだ。難しいことなんてないぜ」

 

諦めとも取れる、声音。

このアインクラッドをクリアし、現実世界に帰ることが出来るというのに。

どうして、本当の名前を教えてくれない?

ユージオは『ただの《ユージオ》』と言った。

何故苗字を言ってくれない?

ただの《ユージオ》だけでは、向こうで会えないじゃないか。

それに。

 

なんでそんなに______泣きそうな表情なんだよ。

 

「_____ぁ、れ?」

その時、視界が何か白く光っているように見えた。

今までに見た事がなかったもの。ハッとして自分の手を見てみると、俺の手も白く光っている。

もしかすると、もうログアウトの時間なのだろうか。

 

「___キリト、その光って…」

「そ、そろそろらしい。早いな、俺」

 

咄嗟に周りを見るが____他に俺と同じ現象が起こっているプレイヤーはいない。

俺だけが早くにログアウトするらしい。

しかし、このままログアウトする訳には行かない。

何せ、肝心の____ロニエの名前を聞けていないじゃないか。

 

「ロニエ___!」

「____先輩っ!」

隣を見ると、ロニエにも俺と同じ白い光が灯っている。

不味い、ロニエもログアウトするようだ。

早く、ロニエの名前を____

 

「ロニエ、君の名前は______」

焦ってロニエの手を掴む。ロニエも俺の手を掴み、俺を見て何かを言おうと口を開き_____

 

そのまま、俺は白い光と青い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 








これから(アインクラッド後)の展開に関してなのですが、何話か挟んでフェアリーダンス編へ移行するつもりなのですが、ALO編ではゲームキャラの誰かを登場させようと思ってます。
ただ、アインクラッド時代のゲーム…ホロウやインフィニティのキャラを入れようとすると完全に過去になかったキャラを1から入れることになります。一応辻褄合わせというか、登場させようと思えばさせられるのですが…
考えているものだと、ユージオ君を付き添いで少しの間案内しなければならないので…
その登場キャラをどうしようか悩んでます。
一応候補として
・トレジャーハンターの短剣使い
・二刀流の鍛冶師
・天才の歌姫
この3人のうち1人だそうかな〜…と考えおります。
ゲームキャラが出る時は予め言わないとパニックになりますからね()
長文で申し訳ありませんm(_ _)m


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世界の終焉

お待たせ致しました(クソデカボイス)
もうあと少しで年が明けようとしている中、ギリギリで書き終えた話を投稿します、クロス・アラベルです。
めちゃくちゃ時間がかかってしまったのは、純粋にスランプに陥ったのと、文字数が多くなってしまったが故です()
では、アインクラッド編最終回を、どうぞ〜


 

 

 

眩しい光に視界が白く焼けたが、光は少しずつ色合いを変えている。

数秒後に、俺は恐る恐る目を開く。

 

まだその光は俺の目を閉ざそうとするには十分だった。しかし、先程と違って、何か暖かいものを感じる。

なんというか、これはただの光ではなく_____

 

「_____こ、ここは…」

 

夕陽のような暖かいものだった。

 

目を開けると、そこは大空の上。

 

「うおっ!?」

「ひゃっ!」

どれだけ地上での戦い慣れても、ここまで高いところは初めてだったから、思わず悲鳴をあげてしまう。

すると、隣から聞きなれた彼女の声がする。

 

「……ロニエ!」

「あ…先輩…!」

 

横を見れば、ロニエがそこにいる。

すぐに手を掴んで、名を呼ぶ。

 

SAOでは落下ダメージが普通に発生する。しかし、よく見ればここは大空の上。下を見ても、地上は見えそうにない。このまま落下する____そう考えて、気がついた。

俺たちは確かに、なにかの上に立っている。

見えないが、透明な床がある。

 

落ちる心配は、無さそうだ。

 

「先輩、これって…」

「…大丈夫、多分落ちないよ。確かに俺たちは落ちることなくここに立ってる。安心してもいいと思う」

俺のその言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろすロニエ。

しかし_____

 

「______何処だ、ここ」

疑問はそれに尽きる。

強制ログアウトを開始する、とアナウンスで流れていた為、あのままログアウトとかと思っていたのだが、そうでも無いらしい。

周りを見渡しても俺とロニエ以外誰もいない。

 

心地よく吹く風の中、夕陽の照らす、大空の上。

そこに俺達は立っていた。

 

 

「____ぁ」

するとロニエが俺の後ろの何かを見て、驚きの声を上げる。

 

「…どうした?ロニエ」

「先輩、あれって____」

ロニエが俺の後ろを指さす。

太陽らしきものが沈もうとする方角だった。

恐る恐る振り返る。

するとそこには___

 

浮遊城《アインクラッド》の姿があった。

太陽を隠すようにそびえている。

 

「____アインクラッド」

「アイン……じゃあ、あれが…!?」

「ああ、俺達が居たところだ。この1年半、全体像はほとんど見てなかったからな。懐かしい…」

鋼鉄の浮遊城。何度観ても威圧感がある。

アインクラッドは全部で100層、多分、1番上にある城がラストボスであるヒースクリフが待つ筈だった《紅玉宮》だろう。

本来なら残り25層全てを攻略し、あの城に挑んでいたのだろう____あと、どれくらいの時間をかけてか、は分からないが。

 

「…でも、それじゃあ何故…私達はそのアインクラッドを空の上から見ているんですか…?」

「いや、俺も聞きたい」

 

ロニエの疑問は最もだ。

何せ、俺達は先程まであそこに居たはずだ。この大空の空間の意味がよく分からない。

試しに、右手を下に振り下ろし、メインメニューを出してみる。

アインクラッドの外にいるが、ここは仮想世界の中である事は明白だ。なら、メインメニューだって、出るはず。

 

りりん、と涼しげな鈴の音と共にそれは現れた。

しかし、そこに書いていたのは

【最終フェイズ実行 45%】

という簡素な文章だけだった。

最終フェイズ、というのはもしかすると____

 

「先輩、あれ___!」

「どうした、ロニエ?何が……あ」

ロニエがもう一度指さした方向、アインクラッドを見ると、

 

アインクラッドが下の層から、少しずつ崩壊している。

第1層より下____例の隠しダンジョンがあった所から崩れ落ち、雲の下へと消えていく。

よく見れば、家や草木などがアインクラッドの外壁と共に落ちていくではないか。

 

「____全て、終わるんだな」

「全部、消えちゃうんですね」

「ああ。多分、茅場晶彦はアインクラッドを残すつもりは無かった…のかもしれないな」

これはただの勘だ。

彼にとって、アインクラッドがどんな存在だったかは分からない。けど、少なくとも約1万人にとっての地獄だった監獄を、世に出すのは良くないと考えたのかもしれない。

本人がいない今、真相は闇の中だが。

 

ふと横目にメニューを見ると、【最終フェイズ実行中 48%】と表示が変わった。

恐らく、最終フェイズというのは、アインクラッド___ソードアート・オンラインそのもののデータ消去を意味しているのだろう。

 

 

「なんというか、不謹慎だとは分かってるんだけどさ。凄く_____」

「___美しいですね」

 

ロニエも同じことを感じていたらしい。

夕陽が紅く照らす大空、雲の上。

そこで、1年半の役目を終えて消えていくその城は___美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『______中々に、絶景だな』

 

その時だった。聞きなれない声を聞いた。

いや、それは間違いか。

俺たちプレイヤーにとって忘れられないこの声。

1年半前、SAOのチュートリアルとして顔の見えないフードを被り現れた、全ての元凶。

このアインクラッドを、《ソードアート・オンライン》というゲームを作り出した張本人である___

 

『こうなるようにプログラムしたのは私なのだが……美しい。最初にして最後の光景だ。これが見られたのは、私と君たちだけだろう』

 

茅場晶彦だった。

先程までの紅い鎧姿(ヒースクリフとして)ではなく、製作者(茅場晶彦として)の白いシャツと白衣を羽織っている。

先程までにみせていた猛々しさはとうに消え、静かにアインクラッドの崩壊する様子を眺めている。

 

先の戦いで心にあったはずの感情は消えて、俺の心は不思議と落ち着いている。

茅場からの敵意は感じられない。

俺も敵意は湧いてこない。

 

「____ここは、どうなるんだ?」

分かりきった質問。

答えなど、俺も分かっている。しかし、聞かざるを得なかった。

 

「___現在、アーガス本社地下5階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置データの完全消去作業を行っている。 後10分ほどでこの世界の何もかもが消滅する」

やはり、そういうことだったらしい。このメニューのパーセントテージは消去のカウントダウンなわけだ。

100%になれば、この世界は完全に消去される。

 

「あの、ヒースクリフ…さん…?」

「茅場でいいよ、ロニエ君。既に(ヒースクリフ)は敗北し、魔王の座を降りたのだから」

「…カヤバ、さん。アインクラッドにいた人たちは、無事にログアウト出来たのでしょうか?現実世界に帰ることが、出来たのでしょうか…?」

「心配には及ばない。現在、7897人のログアウトを確認した」

「…そう、ですか」

約8000人が生きて現実世界に帰ることが出来たらしい。

……しかし、その逆、2000人以上のプレイヤー達が死んだことを意味する。

 

「……死んだ2000人はどうなるんだ?蘇生アイテムがあっただろう。アレが存在するんだから___」

「___自分でも理解しているだろう?あの蘇生アイテムの仕組みを。アレはゲーム内での死亡直後であり、現実世界でナーヴギアが高出力マイクロウェーブを使うまで……その刹那しか使えない」

「………じゃあ、本当に」

「あまり、命を軽く見ない方がいい。大量殺人者(わたし)が言えたことではないがね。死者は蘇ることは無い…これは現実世界と同じ。彼らの意識が帰ってくることは無いよ」

「…そうか」

不思議と、腹は立たなかった。彼は、約2000人もの人達を殺してきた殺人鬼であるが、理性があり、常識がある。それならば、普通こんなことはしない筈だが………

 

「_____どうして、このような事を…?」

ロニエが全プレイヤーが持っていたであろう疑問をぶつけた。

彼は1年半前_____始まりの街にて、こう言った。

 

この世界を作り、このデスゲームを実現する。それこそがSAOの真の目的であり、既にその目標は達成せしめられた_____と。

 

しかし、この言葉には言葉足らずというか、決定的な動機がない。感情的な理由が無い。

人間誰しも全ての行動、言動の根本に《感情的な動機》を持つ。

それが例え、現代の大量殺人者であったとしても例外じゃない、筈だ。

 

「どうして、か」

ロニエの疑問に茅場は数瞬悩んだが、すぐに答えた。

「_____長い間、私も忘れていたよ。どうして、何故…か。はっきり言って、私にも分からなくなる時がある」

 

「フルダイブ環境システムの開発を知った時_____いや、違うか。その遥か以前から、私はあの城を……現実世界のあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけ欲して生きてきた」

茅場は、崩壊するアインクラッドを見つめたまま言葉を続ける。

 

「___そして、私は私が創り出した世界、その法則を超える者を今日見た」

「法則を超えるって……ロニエの事か?」

「その通り、そして、君だよ。キリト君」

「…ロニエは確かに奇跡を起こしたよ。俺は別にそんな大層なことしてない」

「いや、君は奇跡を起こして見せたとも。君はあの戦いの最中、レベルが上がった訳でもないのに今まで越えられなかった私の護りを突破し、私に勝利したのだから」

ヒースクリフは視線を俺たちに移し、その静謐な瞳で見てくる。

 

「アレは……ユージオのおかげだ、俺の力じゃない。俺だけじゃ、あのまま負けてた。それでも勝てたのは、俺の背中を押(応援)してくれていた皆がいたからだ。これが自分の起こした物だなんて、そんなおこがましいこと…言えないよ」

事実、俺はユージオの助けがなければ負けていた。

俺が起こした奇跡なんかじゃない。

 

「ふむ、ではそういうことにしておこう。私にとっては等しく《奇跡》なんだがね」

茅場はフっ、と笑って視線をアインクラッドに戻した。

 

「____君達は、子供の頃に見た夢を覚えているか?」

ふと、そんなことを聞かれた。

 

「子供の頃に見た、夢?」

「ああ、何でもいい。ゾンビに襲われる夢でも、空を飛ぶ夢でもなんだっていい。君の記憶に強く焼き付けられた、強い夢だ」

「…覚えてない、な」

「私も、そうですね。幼い頃の夢は覚えていないです」

「_____そうか」

俺達の返答に少し残念そうに、そしてほんのちょっぴり自慢げに彼は答えた。

 

「私はあるよ。何歳の頃だったか…見てしまったんだよ、このアインクラッドという、鋼鉄の浮遊城を」

 

「_____」

「それに浮かぶ、鉄の城。子供にとって、色彩に欠ける灰色の鉄の城が____私にとっての全てとなってしまった」

 

「子供が様々なものを夢想するように現れたそれを空想した時から____私は取りつかれてしまったとも取れるほど、夢中になった。今でもはっきりと覚えているよ______あの夢の事を」

「子供の頃の、夢___」

 

「ああ。その情景だけは、私の記憶から消えることは無かった。逆だ、歳を経る事に、それはより鮮明に、リアルに____大きく広がっていく」

ヒースクリフはその夢を思い出すようにアインクラッドを眺める。

まるでその夢に輝きに、目を細めるように。

 

「この現実(ちじょう)を飛び立って、あの城へと行きたい____長い、長い間、私が望み続けた事だ」

何も知らない人間なら彼を《異常者》と呼ぶだろう。けれど、俺の目には茅場の姿が______夢を追い続ける、幼い少年のように見えた気がした。

 

「私はね、まだ信じているのだよ_______何処か別の世界には、本当にあの城が存在するのだ、と」

「…そう、なんですね」

「___済まないね、変な話を聞かせてしまった。ただ、君達だけは話をしておきたくてね」

「_____本当に、アインクラッドがあるといいな」

「…ああ」

俺は茅場の言葉にそう答えた。

そして、1つ、疑問がふと頭の中に浮かび上がってきた。

 

「___そういえば、なんで俺達だけなんだ?」

「___というと?」

「いや、純粋にさ。俺が呼ばれるんだったら、ユージオだって呼ばれていいはずだろう?」

ユージオだって呼ばれていい筈だ。ユージオがいなければ俺は死んでいたし、充分呼んでもいい気がするのだが…

 

「ああ、その事か。済まないね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。システムのエラーか、彼とティーゼ君を呼ぶことが出来なかったから、君達だけでも、と思ってね」

「呼べなかった?」

「そうだ。エラー、ではなく人為的なものである気がしたのだが___」

「…?」

「___いや、こちらの話だ。まぁ、あの二人をどうこうしようという目的では無いだろうから、放っておくことにしたよ。最後にあの二人に話を聞けなかったのは残念だがね」

出来なかった?システムのエラー?

あの茅場が出来なかった、と手出しするのをやめるとは余っ程のことなのかもしれない。

人為的とは、一体_____

 

「____そして、私から君達に頼みたいことがある」

「頼みたい、事?」

「ああ。ユイについてだ」

「…ユイがどうした?」

「私が自分勝手なもくてきのために作り出した子だ。生みの親としての責任を果たすのが人というものだろう」

「親、か」

なんとも意外な話がとび出てきた。

この男から「親としての責任」なんていう言葉が出てくるとは思いもしなかった。

 

「…彼女をよろしく頼むよ。約1年半、彼女には重すぎる苦行を背負わせてしまったかもしれない。見た所、ユイは私の制御を離れ、人間的な人格を擬似的に得ることが出来たらしい。あの光景を見ていたからこそ、彼女は過去の自分(MHCPとしての記憶)を切り離し、君達の元へと向かっていたのかもしれないな」

彼なりにユイの負担を理解していたようだった。止めることはなかっただろうが、その苦しみがあったことを認めている。

 

「彼女は、このアインクラッドでのMHCPの第二号なんだ。つまり」

「____第三号が存在する、と」

「ああ。ユイは試験機(テストタイプ)試作機(プロトタイプ)がシャーロットでね。そして、実用型として開発していたAIが、まだ八人いる」

確かに、例えAIだとしてもアインクラッド全プレイヤーの精神状態を安定させるにはかなりの人数が必要だ____実際はプレイヤーの接することすらなかった訳だが_____その為、8人いるというのは納得できるし、それでも足りないくらいではないだろうか。

 

「そして……その中で、唯一ユイやシャーロットと同じように脱出を試みた子が一人居た。ユイ同様の経緯でエラーを蓄積して記憶を欠損、SAO事件発生当日にログインしていなかった未使用のアカウントに自身を上書きして、脱出を試みた。

今回はギリギリのところで防いだが、私が放っておけば彼女もまた、君達の元へ辿り着いていた可能性がある」

「…全員で10人のカウンセリングAIがいるのか。なら___」

「しかし、残念ながら最後に脱出を試みたAI以外は完全に記憶を欠損し、崩壊してしまった。修復不可能だ」

「な_____」

「そんな…!!」

絶句せざるを得ない。では、残っているカウンセリングのAI…ユイとシャロの仲間は、3人目を覗いて全員自壊してしまったというのか。

 

「私としても防ぎたかったのだが、出来なかったよ。現在残っているのは、君達のユイ、ユージオ君達のシャーロット、そして_____3人目に脱出を図った《ストレア》だけだ」

「…アンタ、その最後の子をどうするんだ?」

「では本題に入ろう。君達に、この子を任せたい。もう私はそんな事をする余裕はなくなるだろうからね」

茅場の頼み。

それは、その最後の3人目を俺たちに任せたいということらしい。

 

「どうして……ですか?」

「___ユイを拒絶せず家族として受け入れ、最後の時まで寄り添ってくれた君達だからこそ、頼みたい。君達ならあの子を守ってくれるだろうという、希望的観測だよ」

「……」

茅場の目は嘘をついているようには見えなかった。

この男は本気で____俺とロニエにその子を任せようとしている。

 

「私、は…」

「_____分かった、俺達が面倒を見るよ。と言っても、どうやって現実世界で面倒を見るか、全然思いつかないけど………多分また、俺は仮想世界に行くと思うんだ。ロニエは、どうだ…?」

戸惑うロニエに、俺から答えた。俺としては受けてもいいと思っている。元よりユイがいるんだ。向こうに帰ってどうなるかは分からないが、俺とロニエならやっていけると思う。

 

「…先輩」

「ロニエが良ければ受けよう、俺一人じゃ無理だからな」

ロニエの了承もなければ受けることは出来ない、2人の問題だから。

ロニエは一瞬俺の目を見て、俯いて切り出した。

 

「______無責任に、はいとは言えません。でも、私だって…その子を見捨てたくはない」

「ああ」

ロニエの想いは同じだった。

 

「たとえその子が人の手で造られた存在だとしても…人間でなくとも」

ロニエは、自分の胸に左手を当てて俺の右手を優しく触れて言葉を零す。

 

「キリト先輩が出来ないなら私が、私ができないなら先輩が。これからどうなろうとも、ユイとその子を見守れますか?」

「当たり前だ。ロニエも……守ってくれるか?」

「______勿論」

ロニエは俺の右手を両手で包み込む。花の咲くような笑顔で俺の言葉に答えてくれた。

 

「了承と、とっていいのかな?」

「ああ、それでいい」

「そうか、ありがとう…私からも感謝を。ではあの子は君たちに任せよう。あの子_____名前を《ストレア》というのだが、彼女をひとまずキリト君のナーヴギアのデータに保存をしておく。

現実世界に帰って、もう一度ナーヴギアを起動すれば2人を起動出来るように設定しておくから、安心してほしい」

茅場はそういってメニューに指を走らせ、そう言った。

 

「これで、私も君達と別れを告げられる。私はここで失礼するよ。後少し、こちら側でやることがあってね」

茅場がそういって踵を返す。

やはり、あの男なりにユイや最後のAIである____名前は確か、《ストレア》と言ったか。その2人を案じていたのかもしれない。天才プログラマーである彼は、こういう事には少し不器用だったようだ。ある意味、人間的なところを見られてなんだかほっとする。

 

「____ゲームクリア、おめでとう。キリト君、ロニエ君」

茅場は最後に振り返り、穏やかな表情でそういった。

風が吹く。思わず目を細めた。

直後、彼の姿は霧のように掻き消えた。

まるで、元からいなかったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここにいられる時間はもう残り少ない。メニューをもう一度開くと、すでにパーセンテージば90%に達しようとしている。

 

俺とロニエは透明な床に座り込み、アインクラッドの崩れ行く様を眺めていた。

 

「_____そろそろ、だな」

ものの1分程度で、この最終フェイズも終わる。そうすれば、このアインクラッドは跡形もなく消え、俺達は現実世界に帰る。

1年半もの間、戦い続けてきたこの仮想世界。確かに、HPがゼロになったら現実世界でも死んでしまうのデスゲームだった訳だが____俺にとってこの世界との別れは、少し寂しいものだった。

しかし、現実世界に帰ることの喜びはそれを超えるほどある。何せ、この一年半ずっと心配をかけていたであろう母さんや直葉に会えるんだ。帰ったら、平謝りだな。

 

「____さて、じゃあ、改めて自己紹介だ」

「え?」

俺がそう切り出すと、ロニエは呆けた声で反応した。

 

「えっ、てなんだよ。俺はロニエの本名聞けてないぜ。それに、こんなとこに2人きりになったんだ。改めて自己紹介しておかないとな」

「___確かに、言えていなかったですね」

ロニエは俺の目を見てから視線をアインクラッドへ移し、何かを惜しむように目を閉じた。

数瞬の沈黙。

 

 

「私の名前は《ロニエ・アラベル》と言います。私も、ユージオ先輩達と同じようにプレイヤーネームが本名なんです」

 

 

ロニエは俺の目を真っ直ぐと見つめて答えた。

 

「___ロニエもそうだったのか」

「はい、咄嗟にいい名前が思い浮かばなくって」

「本当に、ゲーム初めてだったんだな」

「はい」

「なんというか、初めてがソードアート・オンライン(ここ)って、冗談きついな」

「そう、ですね。1年半もかかっちゃいましたけど…」

災難な話だ。

初めてのVRゲームが現実世界に戻れないデスゲームとは、最低に運が悪い。

______まぁ、そのおかげで俺は彼女に出会うことが出来たのだが。

 

俺にとって、感謝すべきは…この世界で信じ合える仲間を______友達を作り、恋人が出来たことか。

ロニエと出会えたなら、この世界に来た甲斐があった。

ふと、想像する。

俺がもし、SAOに来ることなく現実世界にいたままだったら。

多分俺はこんなにも変わることは出来なかった。誰かと繋がろうとしなかっただろう。

他人との距離感を忘れ、人の存在に____自分という存在の不確かさに不安を感じていたに違いない。母さんや直葉ともギクシャクしたままなのかもしれない。

けど、今なら_____変われると思うんだ。

 

そして、何よりもユージオやロニエ達に出会っていなかったら、俺は変われなかった。

ユージオがいつも隣で一緒に戦ってきてくれたから、俺は不安を感じず、あいつに背中を預けられた。ロニエに隣で支えてもらっていたからこそ、ここまで走ってこれた。

______皆がいたから、俺はここにいるんだと思う。

 

 

「___ロニエ……アラベル」

何度も、声に出して彼女の名前を呟く。

_______これが、彼女の本当の名前。

俺が……俺達が、守れた人だ。

そして、世界一愛した人だと、そう思える。

 

「ロニエ、俺……この一年半、幸せだったよ。多分、君がいてくれなきゃ、ここまで来れなかった。どこかで野垂れ死んでいたと思う。ずっと……第一層からずっと一緒に来てくれてありがとう」

俺の本音を吐露する。

彼女への感謝の念。この一年半、俺が戦い続けてこれたのは、ユージオ達が…仲間がいてくれたから。そして、ロニエがそばで支えてくれていたからだ。

彼女無しに、俺はここにいない。俺は、弱いから。

 

世界が、光に包まれていく。

アインクラッドは遂に頂上たる紅玉宮が崩壊し、その全てが空の下へと落ちていっている。

 

「______何、言ってるんですか。私だって…凄く幸せでした。故郷の思い出を塗りつぶしちゃうくらいには、幸せだったんですよ?」

「なら、良かった」

彼女は、笑顔でそう答えてくれた。

でもなんだか、心から嬉しくて滲み出た笑顔ではない気がして。

 

「先輩」

その表情が、まるで。

 

「私は、ずっと好きでした。あなたと出会ったその時から、この一年半____いえ、ずっと前から」

世界が真っ白に染っていく。

 

「今も、これからも大好きです」

「____ああ、俺もだ」

「_____私は、あなたの事を愛しています。これだけは忘れないで」

止めてくれ。

なんでそんな言い方するんだよ。

それじゃまるで_____今生の別れみたいじゃないか。

 

「_____私は、ずっと…」

視界が、白く焼ける。

世界が終わる。

 

全てが消えるその直前。

ロニエは俺に優しくキスをして、抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

私は、あなたを_____ずっと愛しています。

 

 

 

 

 

 

 

最後までそう言った彼女は、涙を流し、笑顔で俺を______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白だった視界はいつの間にか真っ黒になる。

仮想世界から抜け出た瞬間だった。

茅場の言葉が本当なら、俺は現実世界に帰ってきたことになる。

 

ようやく、帰ってこれたのか。

 

そんな事をぼんやり考えながら、ほんの少し瞼を開けて目の奥に入り込んでくるような強い光に思わず目を閉じた。

 

匂いがする。

 

SAOで感じる匂いとは全く違う、リアルと遜色ない______いや、リアルなそれ。

消毒液などの薬品類の荒涼感のある匂いや果物のような甘い匂い、暖かな陽向の香り。そして何より、1年半ぶりに嗅いだ、自分の体臭。

 

ゆっくりともう一度、瞼をあげる。

 

少しだけ目が光になれたせいか、先程よりも優しくなった。うっすらと見えるのは、白く輝く棒状の何か______蛍光灯か。という事は、あれは天井らしい。

少しずつ意識と身体中の感覚が蘇る。半袖の簡素な白い服、その袖のない腕に触れている柔らかい布。

頭は動かさずに瞳だけを動かして周りを見渡す。

右側には開け放たれた窓。その窓から入ってくる少し湿気を含む風は俺の頬を撫でて通り過ぎていく。

6月の半ば、梅雨に入っているから風が湿っぽいのかもしれない。

 

左には、銀色の点滴スタンド。そして、医療用ナースカートには、いくつかの果物が置いてある。先程の甘い匂いはこれか。

点滴スタンド、その上にかかっている透明な水が入ったパック。その底から伸びるチューブは、俺の左腕に繋がっている。

 

ここは多分病院の病室で、そして俺はここで1年半眠っていたのだ。

 

身体を起こそうも全身に力をいれようとして、全く思うように力が入らなくて驚いた。

1年半も体をピクリとも動かしていないんだ、当たり前か。

辛うじて動いたのは、右腕だけ。

ゆっくりと目の前へ右腕を持ってきて、絶句する。

 

なんて、細い腕。肉という肉は1年半という月日で削ぎ落ち、骨ばった病的に細い腕は少し動かすだけで限界を迎えていた。

変わり果てた自分の腕を凝視する。こんな腕では剣など振るえまい。それどころか、ペンすら持てないだろう。

 

____帰ってきた、現実世界に。

 

改めて感じた。

久しい自分の重い身体にアインクラッドでは感じなかった気だるさを覚える。

少しずつ、聴覚が戻ってくる。静かだった世界はバタバタと何やら慌ただしい。

そうか、俺以外のプレイヤーが一斉に覚醒したのだ。慌てるのも仕方がないか。

 

その瞬間、記憶が溢れ出した。

 

 

『これだけは忘れないで_____私は、ずっと…』

 

『私は、あなたを_____ずっと愛しています』

 

そんな彼女の言葉と、野ばらに咲く小さな花のような笑顔、最後の涙。

 

「_________ぁ」

俺の口から零れた声は、小さく掠れていて、左側の廊下の喧騒で____それどころか、風の音で消えてしまいそうだった。

 

みんなも帰ってきたんだ。

なら、ロニエも。

帰ってきているはずだ。

そうだろう?

 

「____ぃ、ぇ」

 

ロニエ、と彼女の名前を呟いた筈が、ほとんど発声出来なかった。

 

早く。

早く、ロニエに会いたい。

彼女の焦げ茶色の髪に触れたい。

柔らかいその肌に触れて、手を繋ぎたい。

その優しい声で______俺の名前を呼んで欲しい。

 

狂おしい程のこの愛を、君に伝えたい。

 

身体を起こそうと、全身に力を入れる。1年半も眠っていた身体は、軋みをあげ、俺の言う通りには動いてくれない。けれど、それでも俺は行かなければ。

既に限界を迎えているやせ細った身体にムチを入れ、頭をあげようとして、何かに頭を引っ張られてベッドに落ちた。

 

「_______?」

 

頭を覆うように俺を縛り付けているそれ。

右手でそれに触れる。硬質感のあるヘルメットのような、何か。

 

ああ、これは___ナーヴギアか。

 

俺を仮想世界に縛り付けていたそれは、今も変わらずがっしりとした重みで俺の頭を包み込んでいた。

ナーヴギアのロゴがついているであろう場所に触れる。

若干、擦り切れているように感じるそれは、未だに健在であった。

 

もう一度上半身だけ起こし、ナーヴギアの顎に装着しているベルトのバックルを何度か失敗しつつ外し、膝の上に乗せる。

 

_____1年半お疲れ様。もうお前を使う日が来ないといいんだけど。

 

声には出さず、そう告げる。

これを使う日は多分来ない。ことが終われば、ナーヴギアは全てアーガスか政府によって回収されるだろう。

 

ナーヴギアをベッドの上に置いたまま、ベッドから這い出た。その時、胸に着いていた心電図の電極が剥がれ、心拍数を示すモニターから警告音のようなものが鳴ったが、それは無視した。今は一刻も早く彼女の元へ行きたい。

俺はベッドから点滴スタンドを掴み、それを支柱にして立ち上がる。

 

「______ロ、二え」

 

彼女の名を呼ぶ。

よたよたと、まるで産まれたての子鹿のような足取り。

病室の扉に手をかける。

 

 

全ては_____この世で一番愛した、彼女の元へと辿り着くために。

 

俺は、一歩を踏み出した。

 

 

 



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泡沫(ウタカタ)の夢の終わり

前回がアインクラッド編最終回だと思いましたか?



だ ま さ れ た な ぁ (分身出来る一般男性風)



ということで、真のアインクラッド編最終回をどうぞ。
今回は、1万5000時です。ホント、長くなりすぎたというか…(白目)
今回のお話は色々独自の設定盛りだくさんになっています。
後々詳しい説明はするつもりであります(汗)
おおよそ、来年から、フェアリーダンス編へと移行する……と思います。

今年もありがとうございました。
来年もこの作品を、そしてどうか私の事もよろしくお願い致します!




 

 

白い光を纏って消えていったキリトとロニエ。

僕らは2人がいたであろう場所から目が離せなかった。

 

「________」

ロニエは、どうなったのか。

 

僕らは時間を超えてこのアインクラッドへやってきた。リアルワールドからやってきた皆は、帰る場所があるのだろう。当たり前だ、元あった場所へと帰るのだから。

でも、僕らはどうなるのだろうか。

リアルワールドに肉体を持たず()()()()()()()僕らは、一体どこに向かうのだろう。

 

結論は出ない。

結果は、誰にも分からない。

しかし、漠然と考えつく答えがある。

 

もとより疑問だった。

キリト達リアルワールド出身の皆は、元の世界へと帰るためにこの世界で戦い続けた。

故郷を目指し、100層という果てしない頂へと走り続けた。現時点で、75層にで達し、本来の終着点は残り四分の一となっていた。

彼らにはこの世界で戦う理由があった。

 

けれど、僕らにはあるのか。

死んだ筈だったのに第二の生を受け、この世界に来た僕らにとってこの世界にしか居場所がない。

僕らが行く先には、何があるのか。

行く先、なんてあるのかも分からない。

 

でも、一つだけ戦う理由があった。

キリトが歩んだであろう険しい人生。

始まりの街から始まった地獄。孤独の旅、幾つもの死別、全ての怒りを背負うビーターとしての周りからの蔑み。

 

僕は、1度だけ見た。

キリトの心の内、背負ってきた全てを。

片腕を失い、僕やカーディナルさんの喪失に心を病んだキリト。

 

彼が歩んできた道に、後悔に自身を責め続けた成れの果て。

その道を見て、僕はキリトを哀れに思った訳では無い。それこそ彼の人生を侮辱するようなものだ。僕は彼の歩んで似た道を憐れむことも、笑う事もしない。そんな人生があったことを知って、僕はキリトの事をより尊敬した。

あんなことがあっても尚前に進み、乗り越えて。

僕と出会い、導いてくれた。

 

感謝してもしきれない。

だから、僕は僕なりの彼への感謝を行動にして表そう。

彼の哀しみを、苦しみを、少しでも和らげることが出来たなら____例え、その辛い過去がなければあの日のキリトがいないとしても_____どれだけいいだろう。

 

僕は、君に幸せになって欲しいんだ。

不幸なんて、嫌さ。

誰だって、ハッピーエンドが見たい。

僕だって、君が笑っていられるそんな時間が欲しかった。

 

ただそれだけ。

 

けれど______

 

「___ぁ」

 

_____それも、終わりみたいだ。

 

 

気付けば、視界は少しずつ白くなっている。

自分の両手を見れば、キリトたちと同じく光に包まれ始めていた。

 

「先、輩」

ティーゼの震える声が隣から聞こえた。

彼女の方へ振り向くと、ティーゼも僕と同じように白い光が身体を包みこもうとしていた。

 

「…そろそろ、だね」

「____はい」

ティーゼの手を両手で包み込む。

例え、僕より長生きして整合騎士になろうとも、自分が消えていく恐怖というのは拭えない筈だから。

少しでも、その恐怖が和らぐように。

 

「お前らもログアウトか。揃いも揃って早いな」

クラインが少し寂しそうに言う。

 

「個人差があるんだろう。何、俺たちもすぐログアウトされるさ」

エギルがクラインの肩を叩く。

エギルの方は寂しそうな顔はしていない。

 

「_____ありがとね、皆。僕も、みんなと会えてよかったよ」

「私も、皆さんと一緒に戦えて良かったです」

「____そうね。私も、この世界に来れてよかったかもしれない。向こうじゃこんなに自分をさらけ出すことなんて無かったから。また、向こうで会いましょう?」

「_____はい」

 

アスナと最後に言葉を交わすと、白い光がどんどん強くなっていく。

 

「___ユージオ!!」

 

その時、ユウキとランが僕らを引き止めようと走ってきた。

 

「ユージオ、ティーゼ……2人は___」

「……大丈夫。分かってはいたことだから」

ユウキとランはやはり分かっているようだった。僕らがこの先、どうなるかを。

 

ランも悲しそうな表情を浮かべ、ユウキの手を取って引き留めようとしている。

彼女も分かっているんだ。自分達が何を言おうと、何をしようと、変わることは無いって。

ユウキは分かっていても、それを受け入れられないのだろう。

 

「______ありがとう、2人とも。今までありがとう、1年半の間ずっとお世話になっちゃったね。この世界の事のあれこれでさ」

「……ボク、やっぱり何も出来ないの…?」

涙を浮かべるユウキにティーゼはその手をとって子供を諭すように言葉を紡いだ。

 

「…そう思ってくれるだけでも嬉しい、ユウキ。でも、私達、覚悟してた事だから」

その言葉を聞いたランがそっと一言、別れを告げる。

 

「____お元気で」

「うん、ランもね」

 

その言葉には、幾つもの思いがあったのだろう。

 

2人は大丈夫。元よりリアルワールドの住人である彼女達は、きっと肉体がある、存在がある筈だ。

2人はこの時点で病に苦しんでいたと言っていたが、それはどうなるのだろうか。

不安な事が多い。

 

できるなら、キリトたちが現実世界に帰ったあと____僕らが帰らなかった理由を、2人に話してもらおう。

多分、許してはくれないだろう。キリトは、怒ると思う。

恨むだろう。

 

けど、許して欲しい。

 

 

「_____あぁ」

 

光によって視界は真っ白に染めあげられていく。

その中で、僕はティーゼの手をぎゅっと握り、そして_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暖かい風が吹いている。

そんな感覚があったことが驚きだった。

 

光に包まれ、視界が真っ白に染った直後。

自分という自我が消えていないことに気がついた。

 

「______?」

 

身体の感覚はある。

風を感じているし、陽の光に似た光が見えている。それに_____

 

ティーゼの手をまだ掴んでいる。

 

「____ティーゼ」

 

「………はい」

「……僕ら、まだ消えてないね」

「そうです、ね」

 

ゆっくりとまぶたを開ける。

右を見れば、僕の愛する人(ティーゼ)が僕に微笑んでくれている。

 

温かい。

さぁどうしたものかと考えた直後、視界に見えてしまった。

 

______真下に広がる、雲。

サァッと血の気が引いていく。

待ってほしい。

雲というのは、本来上にあるべきではないだろうか__!?

 

「うわぁあ!?」

情けなく大声で悲鳴をあげてしまった。

 

よく見れば、僕とティーゼは空の上にいた。

はるか下には雲がある。

あのアインクラッドで高い山に登ったことはいくらでもあったけど、空の上、しかも足場がないなんてそんなことあった試しなんかない!!

足が竦む。

立っていられなくなる。

思わず涙が零れそうになって____

 

「せ、先輩!落ち着いて下さい!」

 

ティーゼが僕の両手を掴んで諭してくれている。

「でっ、でも…!?」

「大丈夫です。足場がなかったら、落ちてますよね?でも私達、足場は見えませんが、確かに何かの上に立ててます」

「……た、確かに…」

 

ティーゼの説得に、頷く。

確かに、足場が本当になければ既に落っこちている。その場合、風は下から上へと吹いているように感じるはずだ。けど今はそうは感じない。

信じられないけど、僕の両足は見えない何かの上に立っている。

 

「落ち着いて、ユージオ。大丈夫だから」

名前を呼ばれて、思考を落ち着かせる。

大丈夫、落ちてない。

 

でも、完全に恐怖は消えない。

だから、あまり下を見ないようにしよう。

 

「………ごめん、情けない所見せちゃったね」

「いえ、そんな事は………でもそうですね」

ティーゼが僕の頭を撫でながら、イタズラっぽく笑った。

 

「怖がって泣きそうになってる先輩も、可愛かったですよ?」

「……」

 

惚れた弱みってヤツなのかな。

言い返すことすら出来ない。というより、イタズラっぽく笑う彼女の表情に少し見惚れてた。

 

「…ティーゼは、大丈夫なの?」

「はい、私は高いところはある程度慣れているので。整合騎士として戦っていた時期がありました。その時に、霜咲……あ、飛龍なんですけど、その子に乗っていたので高いところはなんともないです」

「流石、整合騎士…」

「流石の私でもここまで高く飛んだことはないので、怖いですよ?」

「…大丈夫、慰められるほど悲しくなっちゃうから」

男として、さっきのような姿は見せたくなかった。

 

「その…ところで、ここはどこなんでしょうか…?」

「…僕も聞きたいな。一体ここは____」

周りを見渡すけれど、何も無さそうだ。

ここは空の上。雲は遥か下、ソルス……いや、太陽が煌々と光るのみ。

 

ふと後ろを見るとそこに僕ら以外の何かがあった。

 

太陽の反対側にあるもの。

それは_____

 

「_____何、アレ…?」

 

巨大なナニカ。

鋼で出来た、大き過ぎるもの。

 

パッと見れば、城と言えなくもない。

 

てっぺんには、紅を基調とした小さな城が建っている。

それより下は全て灰色。

金属で作られているであろうソレは、空に浮いている。

今、その空飛ぶ城が、下から崩れつつあった。

 

「…先輩、あれは……?」

「____分からない。でも、何処かで見た覚えが…」

確か、あれはアインクラッドの歴史の一部が記された本…それに、書いてあった絵に似て_____

 

 

 

『______あれこそが鋼鉄の浮遊城《アインクラッド》だよ』

 

 

 

 

その時、僕らの疑問に誰かが答えた。

 

「____!?」

バッ、と後ろを振り向く。

聞いたことの無い声。

僕らの後方五歩ほど歩いた先に彼はいた。

 

白いコートを着た、男性。

懐かしむように、彼の視線は崩壊を続ける城_____アインクラッドを捉えていた。

 

『ふむ_______やはり絶景だな。もう一度見れるとは、思ってもみなかったが』

 

無機質な____というより起伏のない声。

しかし、その声には遠い記憶を懐かしむような感じがした。

 

知らない人だった。

でも、なんだか初めてではない気がする。

ふと、視線を穹に浮く城へ移す。

少しづつではあるが、外壁が剥がれ落ちている。一番下の外側についていた細長く突起した部分は折れて雲の下へと落ちていった。

そして、巨大な城の本体部分にあたる中心、その一番下、氷柱のようにいくつも伸びていた何かがガラガラ、と破片を撒き散らしながら落ちている。

 

そして____その瓦礫の中に、一瞬家の色とりどりの屋根が混じっていることに気がついた。

あれは、始まりの街の建物か。

だとすれば、本当にあのアインクラッドが崩壊しているという事に____

 

「_______全て、終わるんだ」

僕らが命を賭して戦い、駆け上がったあの世界は。

たった今、全てを終えようとしている。

 

「……そっか」

始まりがあれば必ず終わりは来る。

誰でも分かっているはずの事が、僕にとっては特別な事だった。

 

僕とティーゼは時間を忘れてアインクラッドを眺めた。

 

 

「______いつまでも感傷に浸っている場合では無い、か。さて…」

アインクラッドを眺めてからどれくらいたったかは分からない。1分か、10分か、それとも_____いや、考えるのは不毛か。

 

彼が初めてアインクラッドから視線を逸らす。

 

「_____あなたは…?」

「…よく良く考えれば、この私の姿を見るのは初めてだったね。すまない、自己紹介から先にすべきだったか」

無表情のままに彼はこちらに振り向いた。

 

「初めまして。私の名前は《茅場晶彦》。ヒースクリフ、と言った方が君達にとっては分かりやすいかな?」

 

「____あなた、が?」

ヒースクリフ。

血盟騎士団の団長にして、先程までキリトが戦っていた真の黒幕。

今頃来て、なんのつもりだろうか。

最後のボスとして戦うはずだった彼に今、攻撃しようと剣を取ろうとは思わない。彼からは敵意は感じられない。武器はおろか防具さえ着ていない。あの十字盾も影さえない。こちらも武器がないので似たようなものだけど。

あくまで中立の立場に立とうとしているのだろうか。

 

「_____何とも、言い難いな。この感覚は」

「…何がですか?」

「いや、こちらの話だ。とりあえず、君達のことはこちらも把握済みだよ。よくここまで生き残ったね、キリト君と共にいたとは言え素晴らしい結果だ」

「____把握、済み?」

 

 

「ああ______()()()()()()()()()()のユージオ君、()()()()()()()()()()()()君」

 

 

「________っ!?」

「なっ______!?」

 

何故、その名前を___!?

ティーゼの本名は僕とロニエ達、時間逆行してきた人達しか居ないはずだ。それに、アンダーワールドの事も…!

聞かれていた?

あの時の会話を……いや、この世界を管理している人だ。出来ないこともない、筈だ。

 

思わず身構える。

 

「…済まない、そこまで警戒されるとは思わなかった。安心したまえ、君たちに危害を加える気は無い」

「____どうして、その事を知ってるんですか」

「君達が未来から来ているということを知っているんだよ。何せ、私もその口だからね」

 

衝撃的なカミングアウト。

彼もまた、未来から来ていた。彼はずっと知っていながら僕らと接していたということか。

じゃあ、僕らが必死に隠していたのは無駄だったのか…?

 

「ああ、君達が先程まで会っていた茅場晶彦では無いよ。私は未来の、君達と同じ時間逆行してきたが、この時代の茅場晶彦は別にいる。

君達が対峙していたヒースクリフはこの時代の《茅場晶彦》、今ここにいるのが未来から来た《茅場晶彦》だ。別の存在と考えてくれるとわかりやすいだろうか?」

だとしても、幾つか疑問が残る。確かに彼は嘘はついていないように感じる。

 

「……あなたは未来から来た茅場晶彦だとして、現在の茅場晶彦はどこにいるんですか?どこかにいるんでしょう?」

「現在の私は今、キリト君とロニエ君と話をしているよ。この座標の反対側…アインクラッドを挟んだ向こう側でね」

「気付かれませんか?相手は茅場晶彦(今のあなた)だ。このことに気づかないわけがない」

彼はこの世界を一から作り出したある意味での創造主、神に等しい存在だ。そんな相手に隠し通せるとは…思えない。

 

「いい質問だ。手短に言うと、一応カモフラージュはしている。介入している事は勘づいているだろうが、誰がやっていかは分からないだろう。それに、過去の自分に負けるつもりは無い。例えシステムによって攻撃してこようと弾いてみせるさ。問題は無い」

彼は平常心のままにそう言った。

本当に問題ないらしい。確かに、彼もまた茅場晶彦である訳だし、彼が言うのなら問題は無いだろう。

 

「_______それで、何故ここに?」

一番の疑問。

何故こんな所に来たのか。

時間逆行をしてまでここに来た意味。

彼の目的は一体何なのか。

 

「依頼を受けた、と言えば簡単か。頼まれてね……全く、この世の理をねじ曲げる機会などそう来ないだろう。貴重な体験ではあるが…少々肝が冷える。資格を持たずしてここに来てしまったから、ここにいられる時間も残り少ない。手早く済ませよう」

依頼を受けた?

誰に、とは彼は言わなかった。意図的に隠している気がした。

 

「いや、一種のサプライズさ。無事アインクラッドをクリアして生き残ったんだ、それくらいは許されるだろう。

では_______あとの時間は《君》が使うといい。私は見張りながら話を聞こう」

 

彼はそう言って、アインクラッドの方へと歩いていく。まるで自分は話を聞くだけで参加はしない、そう言うように。

 

その時だった。

 

 

『_______久し振り、ユージオ』

 

 

懐かしい声で呼ばれたのは。

幼い頃に何度も聞いた、彼女の声。

 

嘘だ。

 

聞き間違えるはずがない。

 

その声で名前を呼ばれることなんて、絶対に無いハズなのに。

 

未練がましくずっと、探し続けていた人。

 

だって、探した結果見つからなかったじゃないか。

彼女と同じ名前のプレイヤーは全員別人だったって、確認もとった。

ここに来ているのは僕とティーゼとロニエだけだって…

 

後ろを振り向くのが怖い。

だって、僕は。

彼女を______

 

 

「_______ア、リス」

「____あ、アリス…様……?」

 

青いワンピースに、白いエプロン。

金色の髪と優しい蒼い瞳。

見間違えるわけが無い。

 

 

 

そこにいたのは_____あの日の幼いアリス・ツーベルクだった。

 

 

 

「_____どうし、て」

「?」

上手く言葉が出てこない。いる筈のない人、ずっと会いたかった人、謝りたかった人が目の前にいるから、頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。

 

「どうして、ここに…君が…」

「えっとね……私も、時を超えてきたの。時間逆行…て言うんだったかしら。ちょっと先生に手伝ってもらってね」

「____先、生」

「そう、あそこの白衣の人。私一人じゃ出来ないから無理を言って連れてきてもらったわ」

アリスはそう言ってアインクラッドを眺める茅場さんを指さした。

 

「……君は」

「…?」

「僕を、恨んでる……よね」

「どうして?」

「だって………だって、僕一人だけがこんな世界に来て、あの時のことを忘れるかのようにのうのうと生きて…」

溢れ出す本音、今まで隠してきた、後悔。

まるで三女神に罪を懺悔するように、吐露していく。

視界は何故かぼやけてきて、まともにアリスの顔を見れない。

 

「君を助けるって______セルカと約束して、君とキリトと3人で村に帰るって心に決めたのに」

もう、足に力が入らない。

 

「僕は君を_____助けられなかった!!セルカとキリトを一人にして、僕は、皆を裏切って、キリトに刃を向けた______!!」

 

「その挙句、君を置いてこんな所に来て………君への想いじゃなく…僕は…」

そう、

僕は君への想いではなく、ティーゼへの想いを選んだ。

それが僕の本心であり、ティーゼを心の底から愛していることには変わらない。彼女と一緒にいることに後悔はない。

けれど、それでも。

アリスへの想いもまた、変わらなかった。

しかし。

ティーゼと歩んできたこの道で、アリスへの想いとティーゼへの想いが違う事も理解してしまった。

幼馴染として、友達としての想いと、異性としての想い。

幼かったあの頃、まだ知らなかった友情と家族愛にも似た愛情と、恋愛のような、異性との明確な愛情。それを僕は、このアインクラッドで理解した。

ある意味、僕は成長したとも言える。

けれどそれは、あまりにも酷い言い訳だ。

 

 

「ユージオ」

「っ」

「私、あなたを恨んだことなんて、一度もないわ」

「______」

「だってあなたは、私を助けようと剣をとってくれたじゃない。私は凄く嬉しかった。だって、6年も経ってしまっても、ユージオは私を忘れず、想っていてくれたじゃない。私、知ってるわ。あなたがギガスシダーの木の下で泣いていたのを」

「_____キリトと一緒に私を助けようと、カセドラルを登ってきてくれた。それに…」

アリスがティーゼの方を見る。

 

「彼女を守ろうと、剣を振るってくれた。私、嬉しかったの。私以外の人の為に、命をかけて守ろうとしてくれたこと。あなたは……ずっと、私の事を忘れなかったから。このままじゃ、後悔で押し潰されてしまわないかって…」

確かに、僕は君の事を忘れたことは無い。例えこの世界に来ていなかったとしても、忘れることなど出来ない。

 

「それに______ティーゼさんを助けた事、後悔したことある?」

「_____無い、よ。後悔なんて…した事ない。例え、人を傷つけてしまったとしても…あの時振るった剣は、間違っていなかったと思う」

そう、僕は《自分の中の正義》に従って、剣を振るった。あそこで何もしなければ、僕はアリスやキリトに見せる顔なんてなかった。

()()()()()()()()()()、己が剣を振るえた。

結果的に、彼らを傷つけ、大罪を負ってしまったけれど……そう信じられる。

 

「私を助けようと、セントラル・カセドラルを登ってきた事、後悔した?」

「…してない。あれは、やり方が荒かったとしても、正しかったと思うし、後悔もしてない」

アリスを助ける為にキリトと共に村を飛び出し、剣を学び、白亜の塔へと手を伸ばした。

その道を後悔なんてしていない。

 

「……あのアインクラッドで走り続けた事、後悔した?」

「してない。僕が____僕らが走ってきたこの道は間違ってるとは思ってないし、意味があったと思ってる…!」

言わずもがな、今までの1年半が____間違っているだなんて、時間をまた逆行したとしても言うことなんて無い____!!

 

「____それで、いいの。ユージオ、あなたの人生は…あなたが決める。ユージオの人生は、ユージオだけのものなんだから」

そう言って、アリスはあの頃と同じように笑って見せた。

 

「アリス、君は______」

「駄目よ、ユージオ。私にはあなた達と一緒には居られない。ユージオも薄々分かっているでしょう?」

「…!」

「実を言うと……この時間逆行には規則(ルール)があるの。それに反している人は、普通なら逆行は出来ない。私が今ここにいるのは例外中の例外。一時的なものだから、出来てるだけ」

「……死んでいること?」

「そうね、もっと正確に言うと_____()()()()()()()()()()()()よ。ユージオは心も肉体も死んでしまった。けど、私は違うわ。アリス・ツーベルク(わたし)という精神が死んでも、アリス・シンセシス・サーティ(もう一人のわたし)が私の肉体で生きている。だから、私はユージオと一緒には居られない」

僕らの知らなかった真実。

アリスがこちら側に来られなかった理由だった。

 

「あの……私も質問があります。よろしいでしょうか…?」

すると、今まで静かに僕とアリスのやり取りを見守っていたティーゼが遠慮気味に手を挙げてアリスに聞いてきた。

 

「いいわよ。あなたにも分からないことばかりでしょうし」

「…私とロニエは、本当に身体も心も死んでしまったのでしょうか?」

「それについても説明しないといけないわね。あなた達は少し特殊な立ち位置なの。えっと……」

「そこから先は私が説明しよう、アリス君」

ティーゼの疑問にアリスが難しい顔をしながら言い淀んだ時、茅場さんがそこで声をかけてきた。

 

「君達に聞こう。《パラレルワールド》というのを知っているかね?」

「ぱ、パラレルワールド……?」

聞いた事のない言葉だ。

 

「……ふむ、知らないのも無理はないか。パラレルワールドとはある世界から分岐し、元の世界と並行して存在する世界の事だ。並行世界、とも言う。例えば私が《ソードアート・オンライン》というゲームを制作しなかったら、世界はどうなっていたか……答えは、本来は死んでいたであろう3953人を含めた約1万人もの人間が2年間VR世界に囚われることなく、日常を過ごす……そんな世界だ。VR技術に関してはどちらにせよ、私と似たようなVRゲームを作り、正常に運営していたのだろうがね。

より簡単に言えば、今夜の夕食をハンバーグではなく、カレーライスにしていたら。家への帰路をいつも通る道ではなく、違う道を通ったら……分岐点は様々だ。

それらの《if(もしも)》の世界が無限に拡がっている。まるで鏡合わせにしたかのように」

すごく難しい話になってきた。完全に理解は出来ないが、もしかしたら起こったかもしれない世界が、この今いる世界の他にも存在している、ということらしい。

 

「長ったらしい説明をしてしまった済まないね。要は、その並行世界こそが、ティーゼ君、そしてここにはいないロニエ君の故郷なのだ。どんな事柄から分岐した世界かは分かりかねるがね」

「___私は、違う世界から来た…?」

「ああ、だが_______例え並行世界でも、君のユージオ君への想いというのは変わらなかったようだ。今のユージオ君との関係が、全てを物語っているだろう?」

「勿論です。ユージオ先輩は、私の______初恋の人であり、最愛の人です。それは何があろうと変わりません」

ティーゼは胸を張って僕の手を取り、そう言ってくれた。

 

「でも、どうして並行世界…って言うんですか?その世界のティーゼが僕と一緒の世界に…?」

ティーゼが例え違う世界から来たとしても、彼女への想いは変わらないけれど、少し気になった。

 

「ふむ、それは_____《試練》の時に君の元へと駆けつけたからだろうね。世界を超えてでも愛する人を守ろうとするその甲斐甲斐しさ………何とも美しいな」

「《試練》?」

「ああ、君はこの事は覚えていないんだったね。仕方が無い。これはもう誰も覚えていない。私からも語ることは無いし、知る必要もあるまい」

「先生、少しくらい教えてあげないと嫌でも気になるわ」

「……そうだね、簡単に言えば______自身の過去を乗り越える為のものだ。この時間逆行の大きな必要条件の1つでね、ユージオ君、君はその《試練》をクリアし、時間逆行への片道切符を手に入れた。ティーゼ君とロニエ君はその時に別の並行世界から応援に駆けつけてくれたが故に、特例として時間逆行を許された。

まぁ、この事に関しては詳しく言った所で分からないか」

「そう、ですね。僕も、よく分からないですし、何も聞かないことにします。でも、1ついいですか?」

「…何だね?」

彼の言う、《試練》が何であるかは僕にはさっぱり分からない。けど、1つ疑問に思うことがある。

「_____何故、あなたはその《試練》に挑戦しなかったんですか?」

「___私は時間逆行をする必要はなかったからね。私の夢は、この《アインクラッド》で叶った訳だから、悔いなどないよ。唯一それらしいものはあるにはあるが______直ぐに叶うさ」

「…そうでしたか」

僕の問いに彼は、目を大きく開けて少し驚いた表情を見せたが、直ぐに答えを出した。

 

 

 

 

 

 

「さて、もうすぐ時間だ。私たちがここに滞在できるのも、あと1分も無いだろう」

茅場さんは、崩れゆくアインクラッドを見ながらそう言った。

アインクラッドはもう既に、1番上の紅い城____多分、第100層の《紅玉宮》を残すのみとなっていた。いや、その最後の城も下から崩れかけている。

 

「____そうね、私もそろそろお暇しないと」

アリスはそう言って、茅場さんの隣へと歩いていく。

 

「アリス」

「____ユージオ、約束して」

その途中で、アリスはくるりと振り返って、僕を真剣に見つめてきた。

「…何を?」

「______ティーゼさんを、絶対に幸せにすること。泣かせちゃダメよ!…例え最期の時だろうとね」

「………分かってるよ」

ここにいられるのもほんの少ししか時間はないけど、それでも___彼女を最期まで幸せにする。当たり前じゃないか。

 

「あと、ティーゼさん」

「あ、はいっ」

「……うん、やっぱり変ね……()()()()!」

「__!」

「ユージオの事、よろしくね。ユージオは、案外こう見えて泣き虫だから。寂しがり屋だし、1人だとすぐ無茶しちゃうから……彼のこと、あなたに頼むわ」

「____はい!」

ティーゼは感極まったのか、ちょっぴり涙を零しながら笑顔で答えた。

 

「では、2人とも。《ソードアート・オンライン》クリアおめでとう」

茅場さんはそう言って、光に包まれて消えていった。

 

「_____あ、忘れる所だったわ!」

アリスは光に包まれながら、何かを思い出したかのように言った。

 

「ユージオ、あなたに贈り物があるの。私からの、お祝い…受け取ってよね!」

あの時と変わらぬ笑顔。

僕らがまだ幼かった、あの日。

 

「___ありがとう、アリス」

ギガスシダーの大木の周りで遊んでいた時と同じ、輝くような笑みで僕らを祝福してくれた。

 

「2人とも、さようなら______!」

 

アリスは最後に笑顔で光に包まれ、消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が照らすアインクラッド、その崩れゆく姿をティーゼて二人一緒に座って眺める。

多分、あれが全て崩れ落ちれば、この世界が本当に終わってしまうのだろう。

 

「_____ティーゼ」

「_____はい」

正真正銘の終焉、僕らの旅の果て。

それを、1番愛する人と迎えられるなんて。

ああ_________なんて、幸せ。

 

「この一年半、ずっと一緒に歩いてくれてありがとう。君がいてくれて、本当に嬉しかったよ」

「何を言ってるんですか。私の方こそ……思えば、長いようで短い日々でしたね」

「…違いない」

ティーゼは僕にもたれかかってきた。僕はその彼女の肩を抱く。

微かに震えている彼女の身体。

それはそうだ。

これから消えていくと分かっているのだから、怖いに決まっている。

僕も人のことは言えないけれど。

少しでも、彼女の不安や恐怖を和らげられるように。

 

「____私、実を言うと……先輩と一緒になれたことが、ちょっと怖かったんです。あなたは、私が想いを直接伝える前に、その……逝ってしまって、凄く悲しかった。先輩が私にとっての初恋なんです。それはもう、トラウマものですよ?」

「うん、ごめん」

ボソリ、とティーゼが心の内に隠していたであろう想いを零していく。

 

「…それで、実を言うと……その…私、別の方に告白されてしまったんです。大戦が終わった後に…」

「…うん」

うん、分かってる。だって、こんなにも可愛くて、健気な、いい子を逃すはずが無い。

 

「私は、最初断ろうとしてたんですけど、段々彼と話している中で、私は無意識に彼にあなたの姿を被せてしまった。どこか、彼が先輩に似ていたからっていうのもあるんですけど、私それがショックで…」

「…」

「もう、一生忘れられないんだなぁって、分かっちゃいました。それからですかね。彼の想いを直接断ったのは」

「…!」

最後の一言に驚いてパッと顔を上げる。

断ったのか。

僕のことを諦めないでいてくれたことに喜ぶと同時に、今を生きていた彼女がそれでは僕という過去に縛られてしまう。

 

「……私は過去に縛られていた訳じゃない、ただ……私は、あなたと共にいたかった。この初恋は、ずっと初恋のままでいいんだって」

「…うん」

「私は、言って欲しかった。『ごめんなさい』って、あなたの口から。だって、先輩の想いはもう私じゃなく最初から、アリス様にあったって知って、ショックだった。

なら、こんな生き別れじゃなく、ちゃんとした別離が良かった…そう思っていた。そんな、諦めのような考えがあったんです。

でも、心の奥底で……あなたへの想いはまだ諦められなかった。私は、最期まで、あなたを諦めきれなかったんです」

 

あの日、夕日の照らす寮の一部屋で告げられた想い。

僕はあの時、答えを出さなかった。あの時はアリスの為に修剣学院に入学し、上級修剣士になった。アリスの取り戻す為に、必死だった。

僕は、あの時______ごめん、と突き放すことも受け入れることもせず、言葉を濁した。今思えば、最低だった。あの時の僕の行動が、ある意味彼女を縛り付けてしまったんだ。

 

「____私、ずっとあなたを想ってよかったと思ってます。こうして、また逢えたから」

彼女は笑顔でそう言った。

 

「___ありがとう、僕のことをずっと想ってくれて」

ぎゅっと、ティーゼの手を握る。

華奢な指をそっと、優しく包み込む。

 

光が世界を染めていく。

全ての終焉が、始まり、終わる。

 

僕らは、消えてなくなるけれど。

 

君と居られた、ただそれだけで嬉しかったよ。

 

「ティーゼ_______愛してる」

「______私も、先輩を愛してます」

愛は、永遠に。

 

視界を染めあげる白いひかり。

 

僕とティーゼはその中で、確かに、触れるような優しいキスをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体が妙に重い。

そんな感じがして意識を取り戻した。

凄く、身体が重かった。まるで、身体中に重りをつけられたような感覚。

 

強烈な癖のある臭いが鼻を刺す。

嗅いだことの無い臭いだった。

 

何故、こんな事を感じているのかすら疑問に思ったけど、瞼を開ける。

眩しい真っ白な光が、目の奥に刺さるように照らしている。

目を細めていると、数秒後に目は光に慣れたのか、眩しいとは思わなくなっていた。

 

「_________」

 

知らない天井だった。

真っ白で無機質な平らな天井。

木材とも、石材とも言えない、不思議なもの。

その中央には細くて白い棒のようなものが張り付いており、光はソレが発生源らしい。

あと、もう一つ。

左側からも光が零れている。

 

ゆっくりと振り向くと、そこには窓があった。

なるほど、左側の光はもしかすると、ソルスの光だったのか。

 

身体が重いけれど、何とか体を起こそうと両腕に力を込める。

 

自らの意識が残っていることすら不思議なのだが、とりあえず今はここがどこであるかを確認しなければ。

アンダーワールドに戻ってきたのか、はたまたアインクラッドにいるままなのか。

体の気だるさを無視して上半身を起こそうとすると、何かに頭を引っ張られて、呆気なく倒れ込んでしまった。

 

「_____?」

 

今気付いたけど、僕は何かを頭に被っていた。

恐る恐るそれに触れてみる。

硬質的な何かが兜の如く僕の頭を覆っている。

 

それを時間をかけて両手で掴み、外してみた。

それは、黒いヘルメットのようなものだった。

しかし、鉄ほど硬くない。よく見ると、それは線のようなもので繋がれており、それの先端は壁に突き刺さっている。

 

もう一度、上体を起こす。

僕の手は、ありえないほどに痩せ細っていて、自分のものとは思えないものだった。

顔を触ってみても、やつれているように感じる。

 

 

ここは、何処だろう。

見たことの無いものばかりだ。黒い板のようなものや、ピッピッと音のなる白い箱。

ここでようやく、音が聞こえるようになったことに気がついた。

その時だった。

 

奥の扉から、誰かが入ってきた。

白衣に首元には、何か二股に分かれた紐をぶら下げている。男の人一人と、女の人が二人。3人とも、白衣を着ている。

 

「_______先生、やはりここの方も覚醒しています!もしかして本当に…!」

「ああ、どうやらそうらしい。大至急応援を!どこの科でもいい…この院にだって100人ちょっといるんだ!手が足りない……!」

 

なんの事を話しているかはイマイチ分からないが、かなり切羽詰まっているらしい。

 

「____ぁ、の」

 

ここはどこですか?と聞こうとして口を開く。

ろくに喋ることも出来なかったが、彼らは僕の声がかろうじて聞こえたらしい。

 

「大丈夫、もう安心ですよ。あなたは帰ってこれたんです!」

「落ち着いてくださいね…!」

 

……?

何処に帰ってきたって…?

よく、分からない。

 

「お名前は分かりますか?あなたのお名前です。思い、だせますか?」

 

名前?

そんなの、わかるに決まってる。

 

「……ゅー、じぉ」

掠れた僕の情けない声。

何故こんなにも声が出ないんだろう。

身体も重くて、指を動かす事すら難しい。

 

「名前は、覚えてるんだね。では、()()()()()?」

 

上の、名前?

上の名前って、何を…

 

「名字です。いや、そうだな………ラストネーム、家名、姓は?」

 

姓______?

そんなの、ある訳が無い。

だって、僕は平民の出だ。そんなものは持っていない。

唯一_______一時的に騎士になった時は、騎士としての名を与えられていたけど、それは僕の望んたものじゃない。

 

「_____所々、記憶障害も見られるのかもしれないな。他のところはどうですか?」

「いえ、この状況なのでなんとも言えませんが……ほとんどの患者が覚醒しているかと」

「よし、私は別の患者を診る。彼を頼んだ」

「はい、先生」

彼は、女性と短い会話を交わして、扉の向こうへと走っていった。

 

「_____ここ、ぁ」

何処ですか。

そう言おうとした、その時だった。

有り得ない言葉を聞いたのは。

 

 

 

 

「もう安心してください、ここは()()()()ですよ

_________()()()()()さん!」

 

 

 

 

_______ぇ?

 

何を、言っているんだ?

現実世界?

現実世界って____リアルワールド?

 

それに今、()()()()()って___

 

「____ぁ、りすが……ぃうんて、すか?」

 

ツーベルクの姓は僕のものじゃない。

アリスのものだ。なら、アリスがここにいるということなのだろうか。

驚きのあまり、身を乗り出してしまって、体のバランスを崩し、上半身が右側に倒れ込む。

大丈夫ですか!?、と言われたけど、そんな事今はどうでもいい。

 

僕がもし、リアルワールドに来てしまったというのなら______ティーゼはどうなるのか。

彼女も、来ているのでは無いか。

来ていなければ、おかしい。

それに、アリスが、ここに____

 

「ありす、は……ここにいる、んです…か…!?」

出来る限りの大声で、問い質す。

それもまぁ、白衣の女性にとってはかすれ声程度にしか聞こえなかったかもしれないが。

 

「ありす……?()()()()?この病院には、そんなお名前の方はいらっしゃらなかったと思いますが…」

 

「_____」

アリスは居ない。

なら、どうして《ツーベルク》の姓のことを知っているんだ。

どうして______

 

「_____()()()()()()()()()()さん!落ち着いてください!もう、現実世界に戻ったんです、だから_____ツーベルクさん?」

 

________ユージオ、()()()()()

 

なんで?

どうして?

何故?

 

僕には、姓は無い筈だ。だって僕は平民の出で___

 

 

その時、あの時のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

『ユージオ、あなたに贈り物があるの。私からの、お祝い…受け取ってよね!』

 

 

そんな、アリスの一言。

 

()()()

 

贈り物って、なんのことだろうとは思った。

もしかして_____

 

彼女の言う《贈り物》は_____ツーベルクという《姓》なのではないか。

 

ユウキとランから聞いたことがある。

《現実世界の人達には、皆平等に違った『姓』がある》

もしかすると、アリスは。

僕が現実世界に行った時、不自由しないようにと。

 

時間逆行してきた人達の中で、唯一、姓がなかった僕に。

 

「______ぁ」

目が、熱くなる。

視界が、歪んでいく。

温かい何かが頬を伝って、いく。

 

「____ぁ、ああ」

 

涙は止まらない。

とめどなく溢れる。

 

隣で、僕を呼ぶ声が聞こえるけど、それも耳に入ってこない。

 

「ぅ_____ぁああああ……!!」

 

アリスは僕に、

 

『生きて』

 

と、そう願いを込めて、あの時、送り出してくれたのか。

嗚咽を漏らし、心の底から泣き崩れた。

 

ありがとう、アリス。

 

 

 

僕_______頑張るよ。

 

 

君に貰った、姓を胸に。

 

《ユージオ・ツーベルク》として。

 

 

 

 

 

 



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幕間《闇の中で》

あけまして、おめでとうございます。
新年早々、様々なソシャゲで大爆死をしております(主にFGOとウマ娘)、
クロス・アラベルにございます。
今年も何卒、『ソードアート・オンライン ~時を超えた青薔薇の剣士~』をどうぞよろしくお願い致します…

さて、今年は寅年という事で、ロニエさんにはトラのパジャマを着てもらっています。
ロニエさん、一言どうぞ。

「が、がお〜………」ฅ(⸝⸝° 口 °⸝⸝ฅ)
「……」←それを特等席で見るキリト氏(15歳)

「……これ要りますかね…?(小声)」(⸝⸝´ฅωฅ`⸝⸝)

「要ります(即答)」(´ii`)
要ります(即答) (´ii`)
「……うぅ…//////」


今回は、幕間となっております。すごい短いです。
では、どうぞ〜


 

 

 

 

 

 

私は、あなたを_____ずっと愛しています。

 

 

そう言って、光に包まれた。

 

それを、覚えている。

これであの人とはお別れ。

1年半という短い間だったけど、私は凄く幸せだった。

少しの間だけれど、先輩と……両想いになれた。

多分、先輩は怒るだろうけれど………泣いてしまうかもしれないけれど。

 

ごめんなさい、先輩。

ユイと、ストレアをお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、真っ暗な世界の中で、微かな光を見た。

まぶたを開けると、そこは真っ暗な闇。

何も見えない______その時、何かが私の目の前を通り過ぎて行った。

 

「……?」

目の前を通り過ぎていった何かは、私の下から私の頭上_____いや、頭上ではなくそれよりもっと上へと飛んで行った。

 

一瞬の事で、それが何なのかは分からなかった。

 

また、何かが下から上へと上がっていく。

今度こそと、目を凝らす。

 

「_____人?」

それは、人だった。

私と同じ、鎧などを着た人達。

多分あれは______アインクラッドに今まで閉じ込められてきた人達だ。多分、みんなが向かっていけであろう場所は、故郷たるリアルワールド____現実世界。

私に戻る場所は無いから、私はどこにも行かないだろうけれど。

 

 

何人もの人々が上へ____光ある世界へと戻っていく中。

何人かは、上に昇っていく途中で、ピタリと止まった。

 

「____えっ?」

その人たちは、それ以上上へと行こうとはしなかった。

いや、違う。

あれは行こうとしていないのではなく_____

 

止まった人達は何かに足を引っ張られるかのように、下へと落ちていく。

引っ張られるように、というのは間違いかもしれない。

そのままの意味で、引っ張られていっている。黒い何かに掴まれて。

 

「_____どうして」

もう彼らを縛るものはないはず。

この世界を作った茅場さんも、全プレイヤー達が解放されると、そう言ってたのに。

多分、あの人は嘘はつかない。

じゃあ……あれは一体、何なのか。

 

その時、私の下から見知った人が昇ってきていた。

アスナさんだ。

彼女もまた、アインクラッドから解放されようとしている。

 

今気付いたけれど、私も少しづつ上へと昇り始めていた。

アスナさんは私よりも早い速度で上へと昇っていく。私を通り越して、光の元へ_____たどり着く直前。

 

彼女の足に、黒い何かが纏わりついた。

何故か、他の人よりも酷い拘束具合。

『絶対に離さない』そんな意志を感じた。

アスナさんが、それに引っ張られて、下へと堕ちていく。

 

それが、何を意味するかは私には完全に理解はできない。

けれど_____直感で理解した。

アレは、アスナさんをまた別の世界に縛りつけようとしている、と。

 

「______アスナさん!!」

 

下へと完全に引きずり込まれる前に、私は彼女の手を掴み、引き上げようと試みるも、その謎の力は私よりももっと強く、掴んだ私ごと下へと引きずり込もうとしてくる。

ああ、もう助けられない。

 

なら_________私が、アスナさんを護ってみせる。

 

 

 

私は、アスナさんを抱きしめて、暗闇へと引きずり込まれて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、キャラクター説明と、ちょっとした設定になると思います。


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キャラクター設定など

設定を少し描きました。
キャラクターについて必要になればこれからも追加する予定です。

ついに次回はフェアリーダンス編へ行くわけですが、妖精の国へ行くのは少しあとになりそうです。
現実世界にやってきたユージオ達の生活の一部やその後に関して書きたいと思っています。




 

 

 

ユージオ

本名《ユージオ・ツーベルク》

 

本作主人公。

未来から時間を超えてアインクラッドにやってきた少年。

時間的に言うと、アンダーワールド大戦時にガブリエル戦を戦い抜き、キリトを守って、消えていったユージオ。

アンダーワールド大戦における最後の戦い、ガブリエル戦についても記憶しており、キリトのフラクトライトに繋がったことが原因で、キリトの記憶の断片を頭痛と共に見るという、事実上の未来視が可能になった。

 

アインクラッドに来てからというもの、キリトと共に攻略を開始。キリトの凄惨な過去を変えることを目標に動く。

 

容姿はそこまで変わらず。背丈はキリトよりほんの少し高いかなと言った具合。

お察しの通り、彼もキリトと同年代くらいにまでは幼くなっている模様。

 

_人人人人人人_

>高い所が苦手<

 ̄Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 

戦闘流儀(バトルスタイル)

初期の頃は盾無し片手剣というアンダーワールド時と変わらぬものであったが、それだけではアインクラッドのモンスター達に対抗するには少し物足りないと感じ、片手剣スキルの戦い方に体術を合わせたある意味の《二刀流》を再現して見せた。(別にキリトに勝ちたかったとかいう訳では無い。決して…)

武器を奪われても体術で相手を圧倒する程度には体術の実力があるが、本人は「繋ぎとして学んだものだから」と、ちょっと自信なさげ。

体術の併用はALO編にて最大限に描写する予定。作者は呪術廻戦にハマっているせいか、肉弾戦の描写がしたくなっている。

ユニークスキル《青薔薇》の保持者。内容としては、ソードスキル発動時に攻撃対象に一定確率でデバフを付与する、というもの。デバフは防御力低下、攻撃力低下、速度低下、そして、凍傷状態(一定時間に少量のダメージを食らう)の付与。デバフは短時間ではあるものの、別種類であれば重ねがけが可能。

ソードスキルの一覧としては以下の通り。

 

冷羅(れいら)単発

砕氷(さいひょう)重単発

雪那(せつな)突進技

冷光(れいこう)二連撃

雪月夜(ゆきづきよ)四連撃

蒼氷(そうひ)カウンターアタック(単発)

青藍氷水(せいらんひょうすい)13連撃

雪中松柏(せっちゅうしょうはく)8連撃

 

血薔薇

メリット:攻撃力、スピードup

デメリット:防御力down(半分以下、通常の3倍のダメージを受ける) HP継続減少状態移行(継続可能時間はダメージを考慮せずに2分、ダメージを受けることを考慮して1分半)、ソードスキル使用不可

 

彼の愛剣は《玉散るばかりの氷の刃(アルマス)》。

ユージオ…《青薔薇》スキル所持者専用クエストにて、とあるNPCの女剣士から贈られた素材を元にリズベットが打った、エリュシデータやダークリパルサーに並ぶ魔剣クラスの片手直剣。筋力要求値もキリトの剣と同様、凄まじい値に設定されており、まさに青薔薇の剣の代わりになりえる剣。ユニークスキル《青薔薇》専用の武器。片手直剣としても使用可能。

 

元ネタはシャルルマーニュ伝説の『ロラン(ローラン)の歌』に出てくる、ランスの大司教チュルパンが使ったと言われる名剣。

氷に関する剣で何かいいものは無いか…と探した結果これがヒットした。

因みに、『玉散るばかり』というのは『刀剣の刃が、すごみを帯びて光りきらめく』という意味らしい。『氷の刃』というのも実際に氷で出来た刃という訳ではなく、『氷のように冷たく研ぎ澄ました刃』という意味がある。

が、本作ではその表現のまま……本当に氷の刃として作られた。

 

アリスがアインクラッドに来ている可能性を捨てきれず、探し続けていたが、その可能性は遂に潰えた。

ティーゼからの猛アタックと、自身の無意識のうちに出来てしまった、《幼馴染(アリス)への想い》と《異性(ティーゼ)への想い》に気付き、自分がティーゼに依存し、彼女といる時間が幸福であることに気付く。

そして、ようやく彼はティーゼの想いと自身の彼女への恋心を受け入れ、結婚に至った。

後にシャーロットという娘を保護し、保護者代わりとしてティーゼと共に育てた。

 

リアルネームの姓《ツーベルク》はアリスからSAOクリアの祝いとして送ったもの。

時間逆行してきたメンバーの中で唯一姓がなかったので、それでは現実世界に行って困るだろうと危惧したアリスの気遣い。

 

 

 

 

 

 

キリト

本名《桐々谷和人》

原作とそこまで変わらず。

が、ユージオがそばにいてくれた影響でビーターと蔑まれることはほとんど無く、攻略組との仲も良い。

少し、原作よりも性格が明るくなっている。

ユージオのことは、戦友、そして親友として見ている。

時たま相棒と呼ぶことも。

 

原作と違い、ロニエと結婚した。

 

 

 

 

 

 

ティーゼ

本名《ティーゼ・シュトリーネン》

本作ヒロイン

アンダーワールドから時間逆行してアインクラッドにやってきた。

彼女はユージオとは少し違う世界線から来ている。

彼女の世界の分岐点は、()()()()()()()()()()()()事。

そして、そこから世界線が分岐し、本来はありえない、ティーゼとロニエの死を招いてしまった。

しかし、彼女のユージオを想う力は強く、別世界線にいたユージオの時間逆行の《試練》中にユージオを助けた。その功績として、ユージオと一緒に時間逆行するこもを許された、例外中の例外。

彼女の世界線はティーゼがレンリ氏の想いを断り、誰とも結婚しなかったことにより、原作に登場する《ある人物》が登場しないことを意味する。(確か、ティーゼには兄弟がいなかった為)

 

ユージオへの猛アタックの末、ユージオはティーゼと共に人生を歩むことに決めた。

まさに、一途過ぎる想いが叶ったのである。恋する乙女強し。

 

ユージオの事を《先輩》ではなく、名前で呼ぼうと努力しているが、癖で《先輩》と呼んでしまうことがある。

 

最近の作者の最推しカプになりつつあるユジティ。

ユジティはええぞ()

 

 

 

 

ロニエ

本名《ロニエ・アラベル》

今作ヒロイン

作者の推し

ティーゼと同じ世界線のアンダーワールドからやってきた。

キリトへ想いを寄せる後輩であったが今作でもその位置は変えず、キリトの隣でいつも彼を支え続ける、そんな正妻位置に収まった。

ティーゼと同じく整合騎士としてアンダーワールドを駆けていたのもあり、実力も凄まじいもの。モンスター戦においてはキリトに遅れを取っているが、対人戦なら鬼に金棒である。めちゃくちゃ強い。

因みに怪談話には耐性あり。ムーンクレイドル編での経験もあって、そこまで怖がっていない。

 

キリトのことになると少し()暴走気味になることがある。

 

 

 

ユウキ

本名《紺野木綿季》

原作と余り変わらず。

ユージオ達と同じように時間を逆行してきた。ユウキに関しては、ユージオと同じように《試練》を受けた後に時間逆行した。

アスナと大の仲良し。

SAO内で反応速度はトップレベルであり、《二刀流》のスキルはもしかするとユウキに与えられていた可能性が大いにある。

 

 

ラン

本名《紺野藍子》

ユウキの双子の姉。

ユウキと共に時間逆行し、アインクラッドにやってきた。

ユウキと同等かそれ以上の実力を持つ。

メイン武器はレイピア。

アスナとは仲が良い。

 

 

 

アスナ

本名《結城明日奈》

 

原作と差程変わらず。

キリトとは結ばれていない。

ロニエやティーゼは彼女にとって可愛い後輩的な存在となっている。

 

 

クライン

本名《壷井遼太郎》

キリトとユージオの腐れ縁。

原作とはほぼ変わらずだが、キリトから貰ったテスターとしての情報を他のプレイヤー達に共有したことにより、SAOの死亡者数が激減した。

今作の影のMVP。

 

 

 

ネズハ

本名《???》

原作と変わらず。

実は作者のお気に入りの一人。

詐欺事件の後、被害者への賠償などを行い、十分に罪を償った。

そして、その後、武器鍛冶ではなく防具鍛治師として返り咲いた。ネズハの防具鍛治屋は攻略組の御用達。最高品質の高性能防具が作れる。

彼のギルドも攻略組に戻り、ネズハ自身もキリトから譲ってもらったチャクラムで攻略に参加。

キリトからもらったチャクラムは攻略では性能的に使えなくなってしまったが、大事に保存しているという。

攻略組唯一の遠距離武器持ち。

 

 

 

 

ユイ

 

原作とほぼ変わらず。

母親がロニエになった。

 

 

 

シャーロット

《Charlotte MHCP-000》

白い髪に紅い目の少女。

容姿的にはユイと瓜二つ。身長もユイとほぼ同じか、少し高いくらい。

ユージオとティーゼが親代わりになった。

ユイよりさきに誕生した、《試作機(プロトタイプ)》。ユイが《実験機(テストタイプ)》。

早い話、エヴ○で言うと、ユイが初号機で、シャーロットが零号機と考えると楽。

 

最初、ユージオとアルゴは彼女の《Charlotte》の名前をフランス圏での読み方《シャルロット》と読んだが、英語圏での読み方はシャーロット。

お察しの通り、彼女の正体はアンダーワールドのもう1人の最高司祭カーディナルの大蜘蛛の使い魔シャーロットである。

ユージオ達と同じように時間逆行してきたが、彼女の場合元が人間ではなかったが故に特殊な逆行____バグ____が発生。AIとして逆行してきた。

メンタルヘルスカウンセリングプログラムとしての仕事_____SAOプレイヤーの監視を押し付けられ、ユイより先に自我が崩壊。《シャーロット》の人格が一時的に停止し、その代わりに《シャルロット》という子供の人格が生まれた。

 

後にシャーロットの人格が回復し戻ってきた時には、彼女の目は紅く、そしてシャルロットの人格の時は蒼い目に切り替わる。

そして、ユイと同じようにキリトによってプログラムによる削除をナーヴギア内のメモリに保存するという方法で逃れた。

ユイはキリトのナーヴギアに、シャーロットはユージオのナーヴギアに。

ちなみにシャーロットのデータ量はユイの倍。人格2人分となっている。なのでキリトのナーヴギアに保存が出来なかったので急遽ユージオのナーヴギアに保存することとなった。

 

シャルロットはユージオとティーゼのことは「おとうさん」「おかあさん」と呼ぶ。シャーロットは名前呼びする。

 

一応、2人の呼び方の違いはシャーロットが《シャロ》、シャルロットが《シャル》にする予定。

シャルロット状態の頃にシャロ呼びしていたのは作者のミス()

 

シャーロットは性格は原作と変わらず。

シャルロットはユイよりもお転婆で、結構元気一杯な感じ。

 

 

ストレア

《MHCP-002》

名前のみ登場。

キリトに会おうと使われていないプレイヤーデータを利用し、システムから抜け出そうとしたが、茅場本人によって阻止された。

後にキリトとロニエに託されることとなる。

 

フェアリーダンス編にて登場予定。

 

その他は余り変わらず。

 

 

 

 

《試練》

時間逆行をする際のその名の通り試練。

これをクリアすれば時間逆行を許される。

幾人か例外がいるが、それは省く。

主な題材は《過去の自分との決別》。

 

後に書くつもりをしています。

 

 

 

現実世界での生存

 

既にアインクラッドに来た時点で現実世界での生存が確定している。しかし、当たり前ではあるがSAO自体をクリアしない限りは現実世界に行けない。

おまけシリーズ《あの日、あの時、あの場所で。②》にて語られた《コネクト大切断》にて、最後の一文にて既に現実世界に肉体があることが間接的に書かれてしまっている(作者のミスというか、そうせざるを得なかったというか…)

 

 

 

以降も追加していく設定、キャラ説明がある場合は、【設定】等で投稿する予定。



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妖精の国編
現在(いま)を生きる


お待たせ致しました、クロス・アラベルです。
新章突入致します。

初回は、ユージオ君の現実世界での生活の一部を切り取ってみました。
次からALO編の本編に入れるかと思います。

後、ALO特別ゲスト選出のアンケートも致しますので、是非!


 

 

 

 

懐かしい、幼かったあの頃。

キリトとアリスと3人で遊んでいた時のこと。

 

森の中を駆け回り、当たり前の日常を過ごす。

天職であるギガスシダーの木こりの仕事を中程に終え、少し休憩をしよう…なんて、言い訳をして子供らしく遊んだ。

 

もう戻れないであろう光景。

 

僕はそれに、別れを告げる。

僕は_____今を生きているから。

 

立ち止まる。

黒い大木の下。

僕は意を決したようにその言葉を絞り出した。

 

「______さよなら、アリス」

 

アリスとキリトは僕の言葉を聞いて立ち止まり、僕の顔をじっと見つめる。

きっと、今までにないくらい、泣きそうな顔をしているんだろう。

 

けれど。

思い出の中の二人は____

 

『うん_____頑張ってね』

 

『頑張れよ_____ユージオ』

 

 

笑顔で、僕を送り出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

 

「_____ん」

久し振りに見る夢だった。

上半身を起こし、体を伸ばす。

身体の重さに未だ慣れないな、と感じながらベッドから立ち上がる。

 

とある一室。

《病院》と呼ばれる施設、そのカーテンで遮られた空間で目を覚ました。

 

8月27日、火曜日。

時間は____5時を過ぎた所。

いや、5時2分か。

 

僕は小さな高めの机に置いてある()()を見た。

 

「_____ふわ、ぁ……」

身体が癖で早い時間に目が覚めてしまう。普段はもう少し遅くて、6時前くらいに目が覚めるのだが、今日は特に早い。

 

この部屋は個室ではない。このカーテンを開ければ、他の人も寝ているのであまり声は出せない。

欠伸をひとつしながら隣を見る。

 

そこには________眠っている紅い髪の少女がいた。

彼女の名前は《ティーゼ・シュトリーネン》。僕が、永遠を誓った人だ。

 

「_____日課、済ませてくるね」

小さな声でそう言って彼女の頭を撫で、着替えを持ってカーテンの外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

病室にいる他の人達を起こさぬように抜き足差し足忍び足で病室から廊下へと出て、とある場所へと向かう。

真っ白で清潔感のある長い廊下を静かに歩く。明かりはほぼついていない廊下の先に、明かりが見えた。

そこには、病院の職員さん____看護師さんがいる。着替えるにはそこを通らなければならない。

 

「______おはようございます」

「ん?あぁ、おはようございます。ツーベルクさん、今日は特に早いですね」

そこにいた看護師さん数人に朝の挨拶。すると短い髪の白衣を着た女性に笑顔で返される。

 

彼女は《王滝 美羽》。僕のリハビリを担当し、ティーゼの部屋の担当をしている看護師さん。

 

「いえ、ユージオでいいですよ。王滝さん」

「ツーベルクさんも私の事苗字で呼ぶじゃないですか。なら、私もそうしてるんですよ」

「あ……一本取られましたね」

彼女にはかなりお世話になっているので、世間話(ほとんど分からないことばかりだけど)をするくらいには仲はいい。

 

「今日も日課ですか?」

「はい。無理はしない程度に、ですけどね」

「その通り、リハビリが終わったからと言って無茶はしないようにお願いしますよ?」

「先生からもキツく言われてるので大丈夫です。散歩と変わりませんから」

これは、リハビリが終わってからの日課。身体を動かさないとすぐ鈍る。今やアンダーワールドの時のあの肉体には遠く及ばない。早めに取り戻さなければ。

 

「散歩はもうちょっと遅く行くものですよ?おじいちゃんじゃないんやから…」

「あはは………朝早くに起きて、体を動かすのが癖でして。1時間ほど病院周りを歩くだけですよ」

「うーん……やっぱり若いわぁ」

「王滝さんも十分お若いじゃないですか」

王滝さんは、他の人とはちょっと違うイントネーションで話すことがよくある。僕らと話す言葉は一緒なのに、彼女の喋り方は何故か温かい。

この喋り方は、確か……アインクラッドで何度も聞いたことのある______

 

「じゃあ、行ってきます」

「はい、気を付けてくださいね」

看護師、という職業は忙しいという事を聞いたことがあるので、会話はこれくらいにしてその場を離れ、トイレへ向かう。

寝巻きとして使っている服で外に出るのも変な話だから、トイレの個室で着替えた。

 

 

 

 

「______おはようございます、本多さん」

「ん、ああ。ユージオ君か。おはよう、今朝も早いねぇ」

階段を降りてスタッフ用の出入口へとやってきた。この時間帯はまだ病院の診察は当然始まっていない。

正門……表側の入口は閉じられており、空いているのはそこだけだ。

 

本来なら看護師さん達が使うそれを僕は1週間ほど前から特別に使わせてもらっている。

その入口では、本多さんという方が門番……現実世界でいう警備員として滞在している。

この1週間ほどで顔見知りになった人。歳は50代前半くらいだろうか。

 

「今日もウォーキングかい?あんまり無理しないようにね?」

「はい、ありがとうございます」

そう会話をして、透明なガラスで出来た扉____なんと、扉の前に来ると勝手に開くという不思議な代物____を通って外に出る。

 

「______よし、無理しない程度に…ね」

そう心の中でも復唱して朝日が昇り、日が照り始めた街を歩き出す。

 

 

ここはリアルワールド。

__________キリトの故郷だ。

 

 

 

 

 

 

 

現実世界についての情報はユウキとランから聞かせてもらっていたし、ある程度は知っているつもりだったけれど、()()よりも実際に()()方が分かりやすいな、と思う。

 

建ち並ぶ高い何かの建物。

小さな二階建ての家らしきものもあれば、三、四階建てのアンダーワールドでは考えられない高さの建物が並ぶ。セントラルカセドラル程ではないけれど。

 

道は黒や灰色の不思議な石で舗装され、真っ平らにされており、そこに白い線がいくつも引かれている。

そして、その黒い道を通るのは、白や黒、青や緑、赤、紫と言った色とりどりの大きな鉄塊。

誰にも押されていないし、馬が引いている訳でも無いのに、馬のお株を奪うほどの凄まじい速さで道を駆け抜けていく。

『自動車』、と言うらしい。

 

初めて外に出た時は、あまりの情報量に頭痛がしたくらいだ。

分かっていはいたけれど、アンダーワールドとは天と地の差があった。文明の進み方が違う。

 

現実世界(リアルワールド)には、神聖術は無い。

アインクラッドでは絶対であったシステムも存在しない。

その代わり_____この世界では《科学》というものが発展しているらしい。

もはや、神聖術など必要ないのではないかと思うくらいには、科学がその代わりを担っていた。

 

そして、ここ特有の規則やルールも存在する。

アンダーワールドの絶対の法たる禁忌目録のような拘束力は無いが、ありとあらゆる事柄に、より緻密に定められている。

 

この世界にとっての当たり前を知らない僕は、道を歩くだけでも不安になってしまう。

 

 

 

 

 

今より、2ヶ月前の事。

 

僕が現実世界にて初めて意識を取り戻してから、2日後。黒い服を着た男がやってきた。

『菊岡誠二郎』という人だった。《総務省SAO事件対策本部》というギルド…ではなく、そういうグループに所属していると言った。

よく分からないけど、このアインクラッドについての事件を担当している役人___現実世界での《警察》…というのだろうか?に、所属しているらしく、アインクラッドでの情報を僕から聞き出したいらしかった。他にも何人か情報提供を頼んでいる人もいるが、情報は多ければ多いほどいいということで、僕にも白羽の矢が経ったらしい。

 

彼によると、アインクラッドに閉じ込められた事件_____後にSAO事件と呼ばれる_____において、事件解決に乗り出した彼らは被害者達を一刻も早く現実世界に戻すために試行錯誤しようとしたが、残念ながら何も出来なかったとか。

確か、始まりのあの日茅場晶彦はこう言っていた。『警告を無視し、ナーヴギアを取り外して強制ログアウトとなり、後に死んだ人間が少なからず出た』…そんな感じだっただろうか。

 

下手に触れば、死人が出る。相手はあの天才中の天才である茅場晶彦。彼らは為す術なく、現実世界からアインクラッドの様子をログというものを通して見ることしか出来なかった。

一応この方法では、誰がどの層のどこの街に、どこのダンジョンにいるかは辛うじてわかったらしいが、そこで何が起こっているのかは分からない。

 

その頃僕は、身体の検査などで忙しかったこともあり、その場で情報を教えることは出来なかったが、条件付きで了承することにした。

情報はいくらでも話そう。けれど、あの子_____ティーゼの居場所や今の状態を僕にも話してもらわなきゃ、こちらに(メリット)が無い。

 

すると彼は、『君もか』と言いながら了承してくれた。

()()』という台詞が少し気になるけれど検査後、彼は約束通り、僕にティーゼの情報をくれた。

 

彼女はこの施設_____病院の違う階の病室にいるということだった。

 

直ぐに向かおうとしたけれど、流石に看護師(と言うらしい白衣の女性達)に止められてしまったので、その数日後、車椅子で彼女の病室へと向かった。

病室に向かう中、何やら見た事のある顔をチラホラ見た気がする。

 

そして、僕は目覚めて5日後、ようやく彼女と再会することが出来た。

 

 

「______ふぅ」

病院の敷地を超えて道路を渡り、病院から20分程離れたとある公園へと辿り着く。

 

それなりに広い公園。こんなにも早い時間故に人影はない。

公園の時計を見れば、まだ5時50分を過ぎたところ。

いつもなら、これくらいの時間に目を覚まし、日課の運動の準備をしている。

いつも、と言ってもたったリハビリが終わってから1週間しか続けていないけれど。

 

ここでは、朝早くに体操をする行事が夏に毎日あるらしく、僕はそれに参加している。いつも6時半頃からなので、あと40分待たなければいけない。

 

しかし、その『ラジオ体操』というものも今日が最後らしい。

リアルワールドの学院_____学校は、夏と冬、春に長期間の休みが設けられており、このラジオ体操は夏にのみ開催されている。そして、夏の長期休暇真っ最中な訳だが、それが今日までらしい。

 

その最後のラジオ体操が始まるまでの時間を、僕は公園をぐるりと回るように歩きながら周りの景色を堪能した。

 

僕にとっては全て、《未知》。

見たことの無いものばかり。

キリトの記憶を見ることはあっても、アレは意図して見れる訳じゃないし、その時に起こることしか見ることが出来ないので現実世界の事を知ることは無かったが故。

 

でも、僕にとってこの世界は____輝いて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音のなる黒い金属の箱_____アレがラジオというらしい_____から聞こえる音楽と声に合わせて、体を動かす。

激しくなくそれでいて体全体を満遍なく動かす。

アンダーワールドにはなかったものだが、朝早くにこうやって身体を軽く動かすのは悪くない。

子供やお年寄りだって出来るだろう。

 

「ありがとうございました。楽しかったです」

 

「いやいや、いいのよ。あなたみたいな中高生は中々来ないから新鮮でよかったわ!」

体操後、1番前で体操していたおばさんに一声かける。何せ飛び入り参加させてもらってたんだ。礼ぐらい言いたい。

 

「最近はねぇ、こういう行事に参加しようって人も少なくなっちゃったから……あ、そうそう。そういえば、景品まだ余ってたわよね?」

 

「余ってるッスよ。10本無いくらいですけど」

おばさんがなにかを思い出したかのように、もう1人前で体操していた20代位のお兄さんに声をかける。おばさんの話にお兄さんは返事しながら小さな箱の中に入っていたペンを数本取り出して見せる。

本来なら他の子供たちにあげるつもりだったらしいが、人数が少なくて余ってしまったようだった。

 

「そんなに余っちゃったの?去年より数減らしておいたのに……じゃあはいお兄ちゃん。これ今まで来てくれたお礼にあげるわ!」

 

「えっ?い、いいんですか…?」

 

「いいのいいの!ただの百均で買ったペンだし、大丈夫よ。どうせまたこれも捨てられるかもしれないんだから。というか、後二、三本くらい持ってって!」

はいっ、と勢いよく渡されて逆らえず5本のペンを受け取る。

ペンの側面には《早寝早起き朝ご飯!》とか、《早起きは三文の徳》など、色んな言葉が書かれていた。

 

「…本当にありがとうございました」

 

「こちらこそありがとね。気をつけて帰りなさい」

貰ったペンをポケットにいれておばさんに頭を下げて、その公園を後にした。

 

 

贅沢を言うなら剣の素振りもしたいけど、剣は無い。

元より、剣を振ること自体無くなっているのだとか。

競技として残っているものがいくつかあるけれど、僕らが知っているものとは違うらしい。

 

手持ち無沙汰になって左腰に手を当てる。

当たり前だけどあれだけ愛用していた剣は無く、手は空を切る。

 

「………」

すこし寂しいけれど、同時にあの世界が終わって、人々にとっての日常が戻ってきたことを実感する。

例え、僕の知らない場所だとしても。

 

「____じゃあ、帰ろうか」

僕は病院への帰路に着く。

愛する人の元へと、帰る為に。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

病院に帰ってきた。

ティーゼのいる部屋に入ると、まだ起きている人はいないようで静かなものだった。

誰も起こさないように、静かにティーゼの眠るベットがある1番奥の窓際のカーテンの中へ。

すると、

 

『____おはようございます、ユージオ先輩』

 

既に、彼女は起きていたらしい。

笑顔で僕を迎えてくれた。

 

「____おはよう、ティーゼ。起こしちゃったかな」

 

「いえ、私も今さっき起きたところですから」

僕の、最愛の人。

 

僕と同じく逆行してSAOへ辿り着き、現実世界にやってきた。

僕は彼女の存在を確かめるように彼女を抱き締める。

 

 

 

ああ、ティーゼもこちらに来たのならば、僕もがむしゃらに頑張ってきた甲斐があったというものだ。

 

そして僕らは誰にも見られないこと狭い空間で________

 

そっと口付けをした。

 

 



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戻らぬ者

ちょいと遅くなりました。
今回は彼女達の今を書きました。
続けて設定(追加①)を投稿しますので、今回出た新情報についても補足しておきます。設定は♦(最新話マーク)は付けない予定です。
ハチャメチャな設定となりますが…
アンケートのレインの選択肢の《二刀流》ですが、正しくは《多刀流》になります。間違えました…
アンケート、まだまだ受けます。是非ともよろしくお願いします!
では、どうぞ。


 

 

 

10時半。

ティーゼのリハビリの前半である1時間半を終え、休憩として彼女が休んでいる間に、病院の中にある図書館にいた。

 

「……これがいいかな」

パラパラと本をめくり、大雑把に内容を把握する。

文庫本、と言う物。本来なら小学生というもっと年下の子供が読むであろうそれを借りる予定の他の本の塔に積み上げる。

 

ティーゼのリハビリは順調だ。

僕が早過ぎただけなのだが、もう後1週間ほどで退院出来るだろうと、お医者さんは言ってくれた。

しかし、問題は残っている。

 

 

僕が生きていること自体、異常だ。

僕は元より、この世界の人間ではない。

 

では元より存在していなかった者がいきなりこの世界にやってきたらどうなるのか。

 

普通、矛盾が生じる。

僕らには、アンダーワールドでの記憶がしっかりと残っている。

アンダーワールドで生まれ育った幼少期の記憶もばっちり。

しかし、現実世界での記憶などもちろん無い。しかし僕は成長した姿でこの世界に存在している。

ならば、僕がここまで成長した《現実世界での》記録はあるのだろうか。

 

菊岡さんに色々と調べて見た結果、僕らの経歴は全て白。

2022年11月末までの殆どの経歴は不明のままだった。

どこで育ち、どの学校に行っていたか。

そのほとんどが白紙となっている、との事だった。

 

病院に運ばれてきた時の状況は、とあるアパートの一室から少女二人少年一人がナーヴギアを装着し、SAOをプレイしていた______とのこと。

 

周りに保護者や家族らしき人は見当たらず、本人達だけが取り残されていた。

その状況に、不明な点ばかりとは言えナーヴギアを使用し、SAOをプレイしている事が確認されたので急遽あの病院に搬送された。

 

アパートのその一室は既に解約されており、もう違う誰かが住んでいるそうだ。お金を払えないから当たり前だけれど。

 

戸籍はあった。

しかし、その経歴が無いという本来ならありえない状況に総務省SAO事件対策本部の面々は頭を抱えた。

 

他にも、SAO事件の1年半の中で、家族が死別して天涯孤独となった人が少なからず存在していたので、後にそれらのSAO事件における被害者の中で支援が必要とされる人々への支援を義務付ける法律が定められた。

それによって、僕らは入院して尚且つ1年半もの間、生きることが出来た。

 

そして、今も尚その支援に守られている。

僕らが病院にいられるのもこの支援のおかげだ。

 

しかし、後ろ盾がないのもまた事実。

ずっと支援が続く訳では無いので、いつかは自立しなければならない。

 

当たり前だけど、僕らに家はない。元より別世界から来た者です、なんて言えるはずも無い。

どうにかして、住む所を探さなくては。

総務省SAO事件対策本部の菊岡さんという人がそれも援助してくれるそうだが、援助してくれるのは住む場所を探す事と職探しだけ。

しかし、菊岡さんによると僕らはまだこの現実世界で言う『学生』に入る歳らしい。

僕が16、ティーゼが15歳。

歳の差が幾つか埋まっている。

 

僕らの歳は働くことも出来るらしいが、1人で生活をやりくりしていくのはほぼ不可能らしい。

家族もいない、身寄りもない僕らでは、生きていくのは難しいようだった。

しかも、現実世界についての知識もほとんど無い。ユウキとラン、アスナ達にも教えて貰っていたが、それだけでは圧倒的に足りない。

 

なら____自分で取り入れるしかない。

ティーゼはまだリハビリ中だ。身体的にも精神的にも疲れているであろう彼女にそんなことはさせられない。

リハビリが終わっている僕が、何とかしないと。

 

「……日本、史。数学、理科、社会……国語。参考書、よし」

 

ティーゼには軽い気持ちで読めるような楽しい物語を。

僕は、この世界の歴史書や法律、数学などの本を借りていく。

カバンを特別に借り、目一杯の本を詰め込んでティーゼの病室へと歩き出した。

 

この量の本を全て読み終わるのはかなり骨が折れるだろうが、今日中に1冊位は読み切れるだろうか?

多分、甘く見過ぎなんだろうけど。

 

1階にある図書館を出て、階段へと足を進める。

『エレベーター』なるものは、少し怖いので使わない。

今にも落っこちてしまいそうで…

僕はどうやら高いのは、苦手らしい。

 

エレベーターを通り過ぎようとした____その時。

 

『_____ユージオ』

 

彼に呼ばれた。

 

「…キリト」

黒髪に、黒い裾の短いシャツ。

面影はそのまま。

共に最前線を駆け抜けた_____親友。

 

「_____おはよう」

「うん、おはよう」

「…後、俺キリトじゃないぞ。今は」

「………和人、だったね」

現実世界での名前呼びに未だ慣れない僕は、照れくさくなりながら、彼の本名を口にする。

 

「ん、それでよし」

 

キリト_____和人は、寂しげな笑顔で応えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「ティーゼのリハビリは終わったのか?」

 

「今日の分は半分だけ終わったよ。後半は午後から」

 

「そうか。図書館で本を借りてきたのか?」

 

「うん、ティーゼに何か読む物があってもいいかなって」

 

「…にしても、量多いな。それ全部ティーゼが…?」

 

「違うよ。ティーゼのは3冊、その他は全部僕だよ」

 

「……10冊は軽くありそうだが…」

 

「まぁ、ね」

 

エレベーターの中、二人で話しながら到着を待つ。

上へと変な力によって上がっていく。なんと言うか、無理やり引っ張られて、身体がちょっと沈みそうな感じだ。

うん、ちょっと苦手かも。

 

僕は和人に誘われて、彼女の見舞いに行くことになった。

ティーゼの病室があるのが6階。今7階にまで来たが、和人の目的の階は後2階ほど上だ。

 

彼の目的は_____一つ。

 

彼の想い人の、お見舞い。

彼が愛した人。

その人が、眠る場所へ。

 

チーン、という音の直後、『9階です』という女性の声と同時に扉が開く。

 

「…荷物もあるんだし、無理はしなくてもいいんだぞ」

 

「……君がそんなに言うなら、分かったよ。病室に置いてくるから、君は先に行ってて」

 

「分かった、急がなくていいからな。すぐ帰る訳じゃないし」

 

「…うん」

 

キリトにそう勧められて、僕はエレベーターに乗ったまま和人を見送った。

……エレベーターに乗るのが怖いから、一人は避けたいんだけどな。

 

 

 

 

数分後、またエレベーターに乗って9階へとやってきた。

…怖いけど、いつかは克服しなきゃいけない。

 

エレベーターをさっと降りて、左に曲がり、病院の奥へ。

彼女の病室は、この9階の1番東側にあった。

毎日のように和人が通っている。

 

廊下をゆっくりと歩く。走ると叱られるから。

 

そして、辿り着いた。

彼女の()()病室。

 

「_______」

 

ここに来るのは、何回目だろうか。

現実を受け入れられなくて、何度も来た気がする。

 

その病室は_______()()()()()()()()()()

異質過ぎる静けさ。

まるで、ここには誰もいないのではないかと錯覚してしまう程に。

 

いや、いる。

事実、ここには4人の病人が眠っている。

但し_______未だに覚醒している人間はいない。

左右を見れば、眠っている女性が二人と奥にも二人。そして、奥の左側のベッドの横に置いてある椅子に、彼は座っていた。

 

 

「………」

言葉は出ない。

この静寂に言葉を、音を響かせることすら(はばか)られる。

 

何度来ても、寂しい。

まるで、墓場のようだった。

 

「______ロニエ」

 

和人の視線の先には_________死んだように眠るロニエの姿があった。

 

彼は、そっとロニエの手を両手で包み込む。

まるで、帰ってきてくれと懇願するかのように。

 

 

ロニエは、目覚めていなかった。

 

いや、アインクラッドから帰還したの約八千人(正確な数字的には7897人)全員が現実世界で覚醒する_____ハズだった。

なんの手違いか、その一部が未だに眠っているままらしい。

総勢432人。

その中に、ロニエが含まれていた。

 

未だに帰ってこない400人弱。

原因は不明。

アインクラッド_____ソードアート・オンラインは終わった筈だと言うのに。

 

ロニエは、今どこにいるのだろうか。

 

和人に、声をかけられない。

彼は、ロニエの事で精一杯だ。

今にも崩れてしまいそうな心の奥底で、必死にロニエを呼び続けている。

 

僕は。

何も、出来ない。

 

「……ほら、ユージオ。立ったままじゃ、なんだ。座れよ」

和人はそう言って僕を見る。

分かった、と言って和人とは反対____カーテン側の椅子に座った。

 

「………ごめん、ユージオ。変な空気になっちゃったな」

 

「いいよ。君が謝ることじゃない」

 

和人は視線を移さずに謝った。

 

僕らではどうしようも出来ない。

どうすればいいのか検討もつかない。

 

この世界では、僕らはあまりにも無力だった。

 

「……やっぱり、席を」

 

「いや、ここにいてくれ。頼む」

 

「…二人きりの方が、いいんじゃ…」

 

「……………他に誰かいてくれなきゃ、俺の心が折れちゃいそうなんだ。ユージオ、お前だから頼んでるんだぜ」

 

そう言う和人の声には、覇気はなかった。

心ここに在らず。

確かに、消えてしまいそうに見えてしまった。

 

あの、アインクラッドで散々見た《黒の剣士》の姿は無かった。

 

 

既視感。

何故か、僕は和人のその姿にどこか既視感を覚えた。

何故、だろう。

 

ああ、そうか。

あれは、あの時の僕だ。

アリスが王都に連行されキリトも消え、全てを失ったあの時の僕。

 

愛する人を失うその哀しさを、僕は人一倍知っていた。

だから______彼に。

何を言っても、慰めにもならない事を知っていた。

 

 

_________ああ、なんて僕は無力なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……キリト、時間はいいの?もう、12時前だよ」

 

「ん…………ホントだな。流石に、長居し過ぎたか」

 

アレから、1時間以上経った。

無言、言葉を交わし合うことすらほとんどしなかった。けど、和人もここまでそれなりに時間がかかると聞いた。お昼ご飯はどこで食べるのかは分からないけど、早めに家に帰れるようにした方がいい。ロニエの傍に少しでも長く居てあげたいのは、痛いほど理解出来るけれど。

それに____見舞いたい人はもう一人いる。

 

「…最後に、アスナの顔を見て帰ろうか」

 

「そうだね」

 

彼はそう言って立ち上がり、肩からかけていた小さなカバンを背負い直した。

僕もそれに同意し、椅子から立ち上がる。

 

「______また来るよ、ロニエ」

 

和人はそう微笑んで、病室を後にした。

殆どリハビリが終わってから毎日のように来ているとはいえ、別れるのは彼にとっては辛いだろう。

 

「…またね、ロニエ」

 

僕は、同じ病院だから毎日会えるけれど、様子を見に来ることは無い。

だって、信じられないから。

世界線は違ったとしても、同じアンダーワールドからやってきた側の存在だと言うのに、何故彼女だけ取り残されているのか。

どうして______僕らだけが現実世界で生きているのか。

 

分からないから、遠ざけた。

 

けれど、もうそれも止めるべきだ。

向き合うべき問題だ。

 

僕に、何が出来るだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナの病室は18階_____この病院の最上階にあった。

18階。

 

……行くのが毎回、ちょっぴり怖い。

セントラルカセドラル程でないが、それ相応に高い。

考えないようにしよう。

 

「……」

 

「……」

 

無言。

言葉は、出ない。

 

交わす言葉がない。空気が重く感じられる。

 

エレベーターは最上階へ到着し、扉が開いた。

降りて、彼女の病室へと向かう。

 

アスナの病室は、個室になっている。曰く、アスナのご両親がお金持ちだそうで、大部屋ではなく個室を選んだらしい。

僕らが扉前まで行くと、無機質な白い扉は音もなく独りでに開いた。

そのまま病室へと入る。

 

その部屋のベットには、一人の少女が眠っていた。

栗色の長い髪の彼女。

アスナ。

 

本名を、『結城明日奈』。

アインクラッドが崩壊した今も尚、仮想世界に縛り付けられてしまった、被害者の一人だ。

ロニエと同じく、目を覚ますこと無く意識不明のまま。

 

「………アスナ」

 

彼女は未だに帰ってきていない。

 

「…まだ、お寝坊さんのままって訳か。揃いも揃って、圏内事件前(あのとき)と同じメンバーでとは」

 

キリトはそう呟いた。

あの時、と言うのはいつなのかは僕には分からないけど、いつしかそんなことがあったんだろう。

 

「……いつか、オフ会でもしたかったんだけどな。これじゃ、出来ないな」

 

オフ会。

向こうで散々会っていたけど、現実世界でもまた会って話したりするらしい。

僕も出来たらなって思ってた。

 

けど、ロニエやアスナが帰ってきていない。そんな状況で呑気にオフ会なんて出来ない。やるなら、みんな帰ってきてからだ。

 

と、その時。

後ろの扉が開き、誰かが入ってきた。

 

 




彼との再会。
帰らぬ人。

果たして______救いはあるのか。


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設定(追加①)

追加設定です。
また書くべき設定があれば、その都度追加していきます。


時間逆行組の存在について

 

現実世界における戸籍は存在するが、それまでの記録がない。どこの学校に通っていたかなどが一切不明となっている。

3人は所沢のとあるアパートの一室にてナーヴギアを装着し、SAOをプレイしている所を発見され、アスナと同じ病院に緊急搬送された。現在、そのアパートの一室は解約されており、別の人間が住んでいる。

 

ユージオの戸籍の本籍は所沢のアパートの一室となっており、出生日は2008年4月10日となっている。出生地も所沢。しかし、両親についての記述は無しとなっている。

 

ロニエとティーゼにおいては、本籍並びに出生地は同じで、両親の記述は無く、出生日はそれぞれ2009年9月13日、7月2日となっている。

 

ユージオとティーゼ達は年齢差が4つもあるが、今作の現実世界では1つ下になっている。

(メタい)理由としては、キリトとユージオを同い歳にした場合、(今作の)SAOクリア時(2024年6月12日)でキリト君は15歳、ユージオ君が16歳。

なのでユージオとティーゼ達の年齢差を考えて2人の年齢を4つ下にしてしまうと、SAOクリア時でティーゼが11歳(本作ALO編開始時はティーゼが12歳)。SAO開始時には10歳と、始まりの街の教会に居た子達と変わらない。

本作ではロニエとティーゼの描写的に原作時よりほんの少し若いという感じをイメージしていたのでかねてより、2人の年齢の引き上げは行うつもりであった。

 

3人の戸籍云々に関しては細かく書き始めると本当に作者の頭が爆発(エレメントバースト)してしまう事待ったナシなので、ここら辺で止めている。(既に3人の現実世界での設定を考えてようとしている時点で頭から煙が出ている)

戸籍に関しても作者なりに調べて書いているが、何せ居るはずのない人間がある日『ぽんっ』と出てきたような物なので、3人は特別扱いを受けていると思ってくれれば幸いです。

 

 

現実世界においてSAO事件は大きく報道され、政府もこのSAO事件の解決及び対応に追われた。解決は一切進まなかったが、 SAO被害者及びその家族への支援がSAO事件発生から2ヶ月後に開始された。

その支援の中で、病院での延命治療を受ける事に家庭的、金銭的困難を抱えている者も少なくなかった為、その3ヶ月後、特に一人暮らしに対する支援を手厚く定められた。

 

ユージオ達はその特殊支援を受ける形で現実世界の病院で延命を受けていた。

 

現在、ユージオは既にリハビリを終え、退院可能となっているが、先に述べたように、元発見されたアパートも解約され、住むところが無いので特別にティーゼの関係者家族として病院に住ませてもらっている。

 

総務省SAO事件対策本部やその関係機関からの支援によって、後々ユージオ達も住む場所を探して行くこととなる。

 

現在(妖精の国編第1話)では、現実世界についての情報や足りていない知識を補おうとユージオなりに努力している様子。

ティーゼは(妖精の国編第1話時点で)後はリハビリを残すのみとなっている。別段特別な疾患は無いとの事。

ティーゼが退院可能になるであろう1週間後に備えて、ユージオは菊岡の協力してもらいながら準備をしている。

 



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憎悪

遅くなりました。
今回はお察しの通りの彼が来ます。
アンケートまだやってますので、是非!
では、本編どうぞ。


 

 

 

2人の男。

先に入ってきたのは、初老の男性。茶色の綺麗な服(スーツというらしい)に身を包んだ彼は僕らを見るなり、顔を綻ばせて声をかけてきた。

 

「ああ、来ていたんだね。桐ヶ谷君、ツーベルク君」

 

彼こそがアスナの父親、結城彰三さんだ。彼は貴族____ではなく、現実世界での会社と呼ばれるグループを立ち上げ、経営しているリーダーらしい。

【レクト】という、大きな会社らしく、それを聞いた和人は口をぽっかり開けて驚愕していた。

僕は現実世界の情報には疎いので分からないが、とても有名な所らしい。

 

「こんにちは、お邪魔してます、結城さん」

 

「こんにちは」

 

「いやいや、いつでも来てもらって構わんよ。友人に来てもらっているんだ、この子も喜ぶ」

 

そう言って、明日奈の頭を撫でる。

その顔は慈愛に満ち溢れていた。父親として、彼女を愛しているんだろう。

だから、誰よりも辛い筈だ。

愛娘が、眠ったままというのは。

 

彰三さんは僕らのことを明日奈の友人だと言ってくれている。

現実世界であったことが無いけれど、やはり明日奈がアインクラッドで誰と行動を共にしていたかは知っているようだった。

 

「……ああ、そういえば彼と会うのは二人とも初めてだったね」

 

彰三さんはそう言って後ろにいたもう一人の男へと振り返った。

濃い灰色のスーツを着て、眼鏡をかけている。

何の変哲もない、パッと見て人の良さそうな男。

 

でも、ふと何か嫌な感じがした。

既視感、とでも言うべきだろうか。

この男、()()()()()()()気がする。

 

「うちの研究所で主任をしている、須郷君だ」

 

「よろしく、須郷伸之です______そうか、君達があの英雄のキリト君とユージオ君か!」

 

「……桐々谷和人です。よろしく」

 

須郷伸之、と名乗った彼はまず和人に右手を差し出し、握手を求めた。

 

「…どうも、ユージオ・ツーベルクです」

 

僕にも笑顔で右手を差し出す。

そこまでしてくれるのなら、断る理由はない。僕も握手する。

しかし、彼から変な事を聞いた。

()()、と。

 

和人がチラリと彰三さんを見る。

仮想世界での話______特にアインクラッドでの話は口外しないのが普通だ。

しかも、僕らのやってきたことを知っているのような素振りを見せる彼は、内部についての情報をどうやって…

 

「すまない、例の件については口外禁止だったのに。あまりにもドラマチックな話だったのでつい喋ってしまった。彼は私の腹心の息子でね。昔から家族同然の付き合いなんだ」

 

「____社長、その件についてなのですが」

 

彰三さんの方へ向き直った彼は、何やら真剣な面持ちでこう言った。

 

「来月にでも、正式にお話を決めさせていただきたいと思っています」

 

「_____分かった。しかし、いいのかね?君はまだ若い。新しい人生だって」

 

「僕の心は昔から決まっています。明日菜さんが今の美しい姿でいる間に_____ドレスを着せたあげたいですから」

 

「……そう、だな。私もそろそろ覚悟を決めるべきか」

 

話の流れが見えない。今、彼はドレスと言ったのか……?

ドレスという事は_____

 

「では、私は失礼させてもらうよ、桐々谷君、ツーベルク君。また会おう」

 

彼はそう言って目を翻し、部屋を出ていった。

残されたのは、僕と和人、そして須郷という男だけ。

 

これ以上無い、嫌な予感を覚えた。

 

彼は、アスナの眠るベットへとゆっくりと歩み寄り、僕らとは反対側に立った。左手で、明日奈の栗色の髪をつまみ上げ、音を立てて擦り合わせる。

 

瞬間_______ズキリと、()()()()が僕を襲った。

瞬間、流れ込んでくる記憶。

同じ病室にいる、和人と須郷。

断片的に聞こえる須郷の粘着質な声。

感じる感情は、怒りや憎しみ。

 

嗚呼。

悪い予感は、当たっていたらしい。

 

「君達は_____一時期は明日奈と共に戦っていたらしいね」

 

「____ええ」

 

「…であれば、そこまで気にする必要も無いか」

 

伏せられていた彼の顔。

 

顔を上げた須郷という男の顔は、先程とはかけ離れていた。

にやり、と笑っていた。

まるで、愉快でたまらないと言わんばかりに。

 

再び、既視感。

 

______ああ、そうか。

何となく、理解出来た。

彼が_________ライオスやウンベールと同じ類の人間である事を。

 

「さっきの話はねぇ……()()()()()()()()()()という話だよ」

 

「______!?」

 

「______!!」

 

流石の和人も、度肝を抜かれている。

僕だって、予想はしていたけれど、ここまで酷いとは思わなかった。

 

「_____できる訳がないだろう。本人の意思確認が取れない以上、戸籍上の婚姻は出来ない筈だ」

 

「うん、その通り。法的な入籍は不可能だろう。しかし、書類上は僕が結城家の養子に入ることになるんだ」

 

やはり、いるんだ。

法の抜け道を使って、人を貶めたりする人間というのは。

 

「まぁ、実の所この子は昔から僕のことを嫌っていてねぇ…」

 

そりゃそうだろう。こんな男、彼女が受け入れるはずが無い。毛嫌いしている筈だ。僕だってそうするだろう。

 

「親達はそれを知らないが、いざ結婚なんてことになれば十中八九拒絶されるだろうと思っていた。だからね、この状況(昏睡状態)は非常に都合が良い。はっきり言って、当分はずっと眠っていて欲しいくらいだよ」

 

そんなことを、ほざいた。

彼は明日奈の頬に左手の人差し指を這わせ、彼女の唇へと触れそうになって_____

 

「______その汚らしい手でアスナに触れるな。彼女はあなたが触れていい人じゃない」

 

僕が初めて出た言葉が、それだった。

それには思わず和人も僕を凝視する。確かに、僕がこんなこと言うことなんて無いだろう。

しかし、これは心の奥底から出た本音だ。

 

「_______アンタ、明日奈の昏睡状態を利用するつもりなのか」

 

和人も須郷を問いただす。

 

「利用……?いいや、正当な権利と言って欲しいね。君達、SAOを開発した《アーガス》がその後どうなったか知っているかな?」

 

彼が言ったことを要約すれば、こうだ。

 

『アインクラッドの維持をしていた《アーガス》という会社が消えた後、彼の務める《レクト》に維持が委託された。つまり明日奈の生命を維持しているのは自分であるのなら、その対価を要求するのは、当たり前の事』

という事だった。

理解など出来る筈もない。

 

「それを、大衆が認めるって言いたいんですか?僕らがこの事を他の人に話せば____」

 

「なに、君たちのような子供の戯言、誰も聞き入れてはくれないだろうね」

 

「____っ」

 

ああ、この男はつまり。

自分が良ければ、他などどうでもいい訳だ。

 

 

「ああ、後________()()()って子、知っているかい?」

 

 

「________」

 

時が止まる。

今、『ロニエ』と言ったのか?

 

「……その反応から察するに、知っているらしいね」

 

その男ははぁ、とため息を着いた。

 

「彼女には迷惑していてね。明日奈だけ招待したつもりが、あんな邪魔者が_____ぐ!?」

 

遂に、爆発した。

和人が、須郷の胸ぐらを掴んで壁に突き飛ばす。

僕だって、爆発寸前だ。

 

「____お前、ロニエをなんて言った?」

 

「…お前、ロニエに何をした?」

 

「彼女の心をどこにやった?」

 

「_____アスナだけでは飽き足らず、ロニエにまで手を出したのか?」

 

「答えろよ、須郷_____!!」

 

その細い腕から出るとは思えない力で、須郷の胸ぐらを掴み、壁に押し付ける。

怒号。

 

周りに、病院のスタッフがいなかったのが幸いした。

誰も来る気配はない。

 

「____離して、くれないかっ、このクソガキっ!!」

 

須郷は和人の剣幕に驚き、慄いていたが、すぐさま和人の手を払う。

ふん、とネクタイを締め直しながらしかめっ面で言った。

 

「君がゲームの中で明日奈とどんな関係だったのかなんて知ったこっちゃないがね、今後ここには一切来ないでくれないかな。結城家との接触もしないでくれ」

 

もう、ここに用はないのか、立ち去ろうとしている。須郷は椅子に置いたカバンを手に取った。

和人は須郷を睨みつけたままだ。

多分、僕もそうなのだろう。

そして、嘲るように彼はニヤリと笑った。

 

「式は来月、この病室で行う。その時は君達も是非呼ぼう。精々、最後の別れを惜しんでくれ、英雄君」

 

思わず、拳に力が入る。爪が手のひらに食い込む。

少し痛みを感じたけれど、それも気にならなかった。

あの男への憎悪に比べれば、なんてことは無い。

 

そして、彼は部屋を出る直前に、こう言い残した。

 

「_____ロニエという女の生命も、私の手の中にあると言うことを忘れないでくれよ?」

 

音もなく、扉が閉まる。

残されたのは、僕と和人の二人だけ。

 

自分達がどれだけ無力であるかを、嫌という程思い知ってしまった。

 

 

 

 




あの世界での強さは_____既に彼らには無かった。
憤怒と憎悪。
しかし、その感情を晴らす方法()などありはしない。
為す術なく、項垂れるのみ。


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無力

エイプリルフールに投稿してますが、エイプリルフール要素は無いです()
真面目で、短めな鬱回となります。現実世界での話はこの次で終わりになります。次回が説明あるのでかなり長いです。

後、アンケートを4月9日までに締め切ります。
10日に次の話を投稿する予定ですので、その時に結果発表をしたいと思います。
レイン人気だねぇ…

では、本編どうぞ。



 

 

 

 

「……よく、我慢出来たな。ユージオ」

 

エレベーターの中、二人だけの空間で、和人はそう力なく言った。

 

「_____うん、僕だって驚いてる」

 

本当の所、僕だってどうしてあんなに落ち着いていたのかよく分からなかった。

いや、違う。

あの時、僕が何をしても意味が無い事に無意識に気付いていたんだろう。

けど、あの時。

左腰に、剣があれば。

間違いなく______引き抜いて、彼の首を切り飛ばそうとしただろう。

あの場に、剣がなくて良かったと安堵したと同時に、悔やんだ。

剣があれば、何か変わったかもしれない。

 

けど______それで何が変わる?

彼を斬り刻んだとして、アスナやロニエが目を覚ますのか?

 

答えは、否だ。

 

_____その場の激昂に身を任せるのは、子供のやる事だ。

僕は、知っている。

今はまだ_____彼に恨み辛みを晴らすときでは無い。

今は、耐えるべき時だ。

来るであろう、時機(チャンス)に向けて、剣を研ぐ時間。

 

だから____耐えられた。

 

「お前、手から血が______」

 

和人が目を大きく開けて、驚いている。

ふと見ると、僕の右手が赤い液体で濡れている。

掌を見れば、爪がくい込んで血が出ていた。

 

「_____ごめん。お前だって、悔しいよな」

 

「…君に比べれば、こんなの可愛いものだよ」

 

和人はもっと悔しいはずだ。

彼はもっと自分の非力さを、無力さを呪っている筈だ。

 

だから。

僕が和人を_____キリトの手を取って、前へと連れ出さないといけない。

 

「_____ありがとう」

 

そう言った彼の顔が、僕には忘れられなかった。

 

 

 

 

 

「じゃあね、和人。」

 

「ああ。また、会って話そう。次はティーゼに顔出しに行くから」

 

「……無理はしなくていいよ」

 

「いや、俺がそうしたいだけよ」

 

病院の玄関口で別れの言葉を告げる。

 

「_____じゃあな。まだ暑いから、熱中症には気をつけろよ」

 

そう言って、和人は踵を返し、病院を出ていった。

その後ろ姿に、なんと言うか。

何か危ないものを感じてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩?」

 

「……ぁ、何?ティーゼ」

 

その日の夜。

僕は本を読んでいたが、もちろん集中出来るはずが無く。

本をペラペラと捲っていた。

が、ティーゼに勘づかれてしまった。

いや、元々気付いていたが、ようやく聞いてきたという感じだけど。

 

ぽん、と本を閉じる。

 

「いえ、その……何だか、お昼くらいから元気無いなって。何かあったんですか?」

 

「………………」

 

「…黙っていたら、何も分からないじゃないですか」

 

「……ごめん、なんでもないんだ。ちょっと、これからのことで不安になっちゃって」

 

本当の事。

けれど、本当に悩んでいることを話している訳でもない。

 

______彼女に話す訳にはいかない。

リハビリ中のティーゼにこの事を話せば、少なからずリハビリに影響が出るはずだ。

彼女にとって、ロニエは唯一無二の親友。そんな親友が、下衆な男に囚われているなんて聞いた日には、どうなるか分からない。

 

「……深くは、聞きません。けど、いつか話して下さいね。出来るだけ早く話して欲しいですけど、先輩がいいって思った時に」

 

「ごめん………………いつか話すよ」

 

多分、君は怒るだろう。でも、その時は黙って叱られよう。

そうやって、叱られることになった時。傍に、戻ってきたロニエがそれを苦笑いしながら止めてくれる…そんな、光景を夢見て。

 

でも、僕はどうすればいいんだろうか。

僕がこの現実世界で知り得ている情報は余りにも少なすぎる。ここでの『日常』は、僕にとって『非日常』だ。

現実世界のことを知り尽くしている和人ならともかく、僕には手段がない_____手段を知ることも難しい。

 

なんて、無知無力。

 

僕らに、好機(チャンス)は______来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

須郷という男と会った次の日。

いつも通りウォーキングを済ませ、ティーゼのリハビリの時間まで2人で本を読んでいた_____その時だった。

 

「ツーベルクさーん」

 

「____王滝さん?」

 

看護師の王滝さんが部屋の入口に顔を出す。

 

「ツーベルクさんにお電話来てますよ」

 

「…僕に、()()…?」

 

これまた急な話だ。

ハッキリ言って、僕に電話をかけてくる人なんてほぼ居ない。いるとしたら、菊岡さんか______

 

「えっとね、桐ヶ谷和人っていう方からなんだけど」

 

和人しかいない。

予想通りだったとはいえ、和人から電話をかけられるなんて初めてだったのでちょっと驚いた。

ちなみに、電話の存在は知っている。

ホントに、現実世界は便利なものばかりだ。遠方からどこでも声が届くなんて…

 

「あ、はい。すぐ行きます!」

 

ぱたりと本を閉じて備え付けの小さなテーブルに置いて、王滝さんの元へ。

こんな朝早くにどうしたんだろうか。

 

「ちょっと行ってくるよ」

 

「はい、私のことは気にしなくていいですからね?」

 

「大丈夫、そんなに時間はかからないとは思うから」

 

ティーゼとそう言葉を交わして病室を出た。

 

 

 

「_____はい、ユージオです」

 

看護師の皆さんが仕事をしている所に備え付けてある固定電話という電話の受話器をとり、それに向かって話しかける。

受話器の紐が着いている方を口元に、反対の先を耳に当てる。

 

『____ユージオか!?』

 

「っ…うん。おはよう、和人。流石に朝の挨拶くらいはして欲しいんだけど…」

 

朝一番にこの大きな声を耳元で聞くのはちょっと耳に悪い。びっくりしてしまった。

和人ってそこまで朝が得意じゃない筈だったんだけど、何かあったんだろうか?

 

『あ、済まない……おはよう、ユージオ!朝から突然で悪いんだが、今から出かけられるか!?』

 

「え?今から…?」

 

急な話だった。確かに暇を持て余してはいるけれど、流石に今からって言われても僕は病院から出かけることがあっても、大体ウォーキングで病院近くの公園に行く程度。出かける先が僕の徒歩で行ける場所ならいいけど、遠いと僕も辿り着く自信はない。

 

『ああ!ちょっと来て欲しい所があるんだ。そこで落ち合おう!一応住所言っとくぞ、メモしてくれ!』

 

「え、待ってよ!いきなり過ぎて分からないって…!」

 

どんどん急かして矢継ぎ早に要件を言っていく和人。

話が掴めない。

どうして電話したのか、何故行かなければならないのか。まったくそれを言ってくれない。

その時だった。

僕が困っているのを察してか、和人が分かりやすく一言で要件を言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

「_______ホントに?」

 

すぐさま頭を切り替える。キリトの言葉が本当なら、すごいニュースだ。未だ眠ったままの2人の手がかりが見つかったとなれば、方法も自ずと見えてくるかもしれない。

 

『確かな情報だ。多分偽情報とかではないと思うが、とりあえず情報提供者から直接話を聞きたい。お前も来てくれないか?』

 

「分かった。ちょっと待って______王滝さん。なにか要らない紙切れか何かないですか?」

 

「え?メモするの?」

 

「はい、今から少し出かけたくって…場所をメモしておきたいんです」

 

そばに居た王滝さんに何かメモしてもいい紙がないか聞いてみる。

僕にはメモするだけの本も無い。ただ、昨日貰ったペンがいくつかあるくらい。

 

「分かった……はい、これメモ用紙」

 

「ありがとうございます」

 

王滝さんは自身が持っていたメモ帳からピリッ、と1枚紙をとってくれた。

 

「_____で、どこ?」

 

『場所は_________』

 

住所をメモする。

地名を聞いてもさっぱり知らないけれど、後で王滝さんに聞いてみようか。

 

『俺は今から家を出るから、また後でな』

 

「分かった。どうにかして行くよ」

 

電話を切る。

行くべき場所は分かった。後は____どうやってそこに行くか、だ。

 

「王滝さん、この住所ってここから近いですか?」

 

「ん?えーっと……あ、御徒町やね。ちょっと遠いかな、ここからだと1時間は少なくともかかるとは思うけど…」

 

「そ、そうですか…」

 

想像以上に遠かったようだ。

 

「行くなら電車だろうけど、お金は大丈夫?」

 

「お金は大丈夫です。一応手持ちはあります」

 

手持ち、というより何かあった時の為のものなのだけど。

菊岡さん達から渡されたこのお金。国からの『補助金』なのだそう。僕のように身寄りのなくなってしまった人達に充てられたお金らしい。現実世界には色々な制度があるとは聞いたけど、本当に色んなものがあるようだ。

 

ユウキやランによると、学院______現実世界でいう学校というものは、『義務教育』という制度によって学費は払う必要がないらしい。

僕からすると、ここはまさに『異界』と呼ばざるを得ない。

 

そして、『電車』というのも聞いたことはあったけど、乗ったことは無い。試しに見に行ったことはあるけど自動車同様、あんな鉄の巨大な塊があんなスピードで動くなんて、僕には信じられなかった。動いていたけれど。

 

お金が必要なのは知っているので、後で病室にある封筒を取りに行かないと。

 

メモをポケットに入れ、走らないようにティーゼの病室へと急いだ。

 

 




その己の無力さを、悔しさを糧に。
今は剣を研ぐ。
好機を逃さぬように。


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手がかり

予告通りに投稿出来ました、クロス・アラベルです。
この回で現実世界の話は一旦切り上げになります。
次回からようやくALOへ…!

FGOにロニエ(中の人)とユイ(中の人)が進出です。親子で行くとはびっくり(ニッコリ)

アンケートのご回答ありがとうございました!
アンケートの結果、ゲーム版からの特別ゲストはレインに決定致しました。
レインさんの登場はもう少し先になりますが、頑張って書いていきます。

ユージオ、アリス、お誕生日おめでとう!


 

 

 

 

 

 

『和人に呼ばれたから、少し行ってくるよ』

ティーゼにそう言って病院を後にした。

時間はかかるだろうけれど、ごめんね、と謝った。ティーゼは快く許してくれた。

 

駅へ急ぐ。

駅は近い訳では無いし、あまり時間をかけたくないので、駆け足で駅へと向かう。このままのスピードで公園を突っ切ってしまえば30分くらいで着くだろうか。

 

着いた。

時刻は9時前。

人は多く、駅に入っていく人、駅から出てくる人、駅で誰かを待っている人…たくさんいる。

そして、ここではたと気付いた。

 

「_____電車って、どうやって乗るの…?」

 

普通なら有り得ないけれど、僕にとっては至極真っ当な疑問だった。

僕自身、駅に来たことはあった。ウォーキングがてら、ここまで歩いてきたことがあったから。電車の実物や駅の人の多さを知ったのはこの時だ。

が、肝心な乗り方を知らなかった。

 

「…と、とりあえず駅の中に入ってみよう」

 

まずは駅の中に行かなければ始まらない。

ちょっぴり怖いけれど、思い切って駅の中へと踏み込んだ。

 

駅の中に入っても人の多さは変わらない。

周りを見ると、何人か同じような服を着ている人たちがいる。学生、だろうか。もしかするとあれが制服なのかもしれない。

 

キョロキョロと周りを見回す僕を、不審そうに見る人たちもいる。

誰かに、聞かないといけない。

しかし、皆一様にそそくさと駅の、その奥へと入っていく。

みんなが通っていくのは、僕のお腹辺りくらいの銀色の平べったい金属の何か。

それに、ほとんどの人が自分の手をかざして通っていく。その度に、ピッと音を鳴らして。

よく見ると、みんななにか手に持っている。

 

「…どうやって、通るのかな」

 

多分、無料では無いはずだ。

どこかでお金を払わなければならない。けれど、どこで払えば…?

 

『どうか、しましたか?』

 

その時、声をかけてくる人がいた。

 

「え…?」

 

紺色のスーツに同色の帽子をかぶった男の人。

帽子には、何か紋章のようなものが着いている。

左胸には名札か何か。

 

もしかすると、この人が『駅員』という人なのだろうか…?

 

「あの、電車にどうやって乗ったらいいのか分かんなくって…」

 

『どこに行くご予定ですか?』

 

「あ、えっと、『御徒町』って所なんですけど」

 

「御徒町ですね。御徒町だと……乗り換える必要がありますね。まず池袋行きの電車に乗りましょう。今は、9時8分ですし、9時15分発の電車に乗れば大丈夫ですね」

 

「イケブクロ行き…ですね」

 

丁寧に説明してくれるその人の話を聞きながら、ポケットからメモ帳を取り出す。

さっき病院から出ていく時に王滝さんから貰ったものだ。余っていたから使ってください、との事。

 

メモ帳にペンでイケブクロ行き、と書く。

 

『池袋駅で降りて、そこで電車を乗り換えます。JR山手線の上野東京方面の電車に乗れば行けますよ』

 

「イケブクロ駅で降りて、じぇいあーる、ヤマノテセン……ウエノ、トウキョウ方面……」

 

残念ながら、地名の漢字はまだまだ知らないのでカタカナで書く。今はとりあえずメモを残す事だけに集中する。何せ分からないことだらけの僕は、この程度の話で頭が精一杯だ。

 

『切符はそこの機械で購入します。池袋駅までですから、350円ですね』

 

「350円……コインあったかな」

 

値段もメモして、改めてポケットに入れた封筒を出し、中身を確認する。

中にはコインも入っているけれど、ピッタリは無かった。仕方無く、1000円札を取り出す。

 

駅員さんに案内されて壁に取り付けられた機械で電車に乗る為に必要な切符を買った。

 

『後はその切符を改札に入れて、受け取ってくだされば電車に乗れますよ』

 

「すみません、何から何までありがとうございます!」

 

『いえいえ、仕事ですので』

 

駅員さんにお礼を言って、『改札』というものに先程買った切符を入れる。すると、前を塞いでいた板が音もなくぱたりと折りたたまれた。向こう側には僕が入れたであろう切符が出ている。

ちょっと不安になりながらも『改札』を通り過ぎ、切符をとる。この切符はイケブクロ駅で降りた時にまた必要になるらしい。

 

そして、電車が来るらしい、3番ホームに行こうとして再度振り向き、駅員さんにお辞儀をする。駅員さんは笑顔でお辞儀を返してくれた。

 

 

その数分後、駅員さんが言っていた電車が到着し、それに乗り込む。

なんというか、一気に沢山の人が乗り込んでいくのを見て、本当に乗れるのだろうかと思ってしまう。

 

電車はゆっくりと出発した。やがて自動車と同じかそれ以上の速さで街を駆け抜けて行く。

がたん、がたん、と揺れる電車。移り変わっていく景色に心奪われながら、イケブクロ駅の到着を待った。

 

そして、電車に揺られること約20分。

イケブクロ駅に到着した。

 

また駅員さんにどの電車に乗ればいいかを聞いて切符を買った。

その電車が来る駅のホームへと行ってみると、見なれた顔を発見した。

 

「あ、和人!」

 

「_____ユージオ!」

 

電話の張本人だ。

こちらへと駆け寄ってくる。

 

「急に済まないな、ユージオ。ちょっと俺もまだ状況が飲み込めてないんだが…とりあえず、お前にも来て貰った方がいいかって思ったんだ」

 

「急な呼び出しはいいけど、手がかりって?」

 

「ああ、ユージオはパソコンとか携帯持ってなかったっけか。ならエギルがメールも出せない訳だ」

 

「…エギル、から?」

 

「…説明するより、見てもらった方が早いな」

 

キリトはズボンのポケットから掌ほどの薄い四角の黒い板を取り出した。

アレが世界のどこにいようと連絡をとることが可能になる『携帯電話』だ。

すまーとふぉん…だっただろうか。黒い画面に触れると、アインクラッドの時のメニューのように反応するらしい。

 

「これだ」

 

パッと光る画面を見せてきた。

そこには______僕の見知った人が映り込んでいた。

 

「____これって」

 

「ああ、多分ロニエとアスナ…だろうな」

 

「こんなモノ、何処で?」

 

「俺が撮った訳じゃないんだ。撮ったのは別のヤツ。んで、これを送ってきたのがエギルって訳さ」

 

「エギルが…?」

 

「だから、詳細を今から聞きに行こうって話だよ。俺が伝えた住所はアイツがやってる店だ」

 

この写真の情報源はエギルらしい。

どのようにしてこの写真を手に入れたかっていうのはかなり気になる。何せ、これは今の僕らにとって最もロニエとアスナ達に近い手がかりだ。

なんのヒントもない僕らには藁にもすがる思いで飛びついている。

 

丁度、電車が到着した。扉が開き、それに乗車する。

 

「まぁ、話は目的地についてからな」

 

気になることは山ほどあるけれど、今は考えたって仕方がない。

様々な考えを頭に巡らせ、僕らは電車に揺られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここだな」

 

辿り着いたのは、街の裏通りにある煤けたお店。

黒い木造の建物。

ドアの上に2つのサイコロをかたどった看板がある。

『Dicey Cafe』と、書いてある。

 

「ここが…エギルのお店…?」

 

「ああ、そうだ。俺も1度来た事があってな。つい5日前のことだけど…まぁ、アインクラッドの時と変わらないな、店構えと言い雰囲気と言い…」

 

「…僕は、こういうの好きだよ」

 

「静かでいいよな」

 

扉を押し開けるとカランカラン、と乾いた鈴の音が響いた。

店の中はガランとしていて、見る限りお客さんは居ない。いるのは_____カウンターの向こうでニヒルな笑みを見せる巨漢が一人。

その見知った顔を見て、思わず声を上げた。

 

「エギル…!」

 

「よぉ、早かったな。それと久し振りだな、ユージオ。2ヶ月ぶりか」

 

「…うん、久し振り!もう退院してたんだね」

 

「おう。お前ら若いヤツらにも劣らんくらい、早くな」

 

「全く、相変わらず不景気な店だな。向こうと変わらない」

 

「うるせぇ、これでも夜は繁盛してんだよ」

 

向こうでのやり取りを思い出した。

今も変わらない、こんな関係に笑みがこぼれる。

 

「ユージオは現実(こっち)じゃ初めてだったな。じゃあ、改めて自己紹介だ。俺はアンドリュー・ギルバート・ミルズだ。この通り、この店の店主をしてる。まぁ、約1年半も留守にしてた訳だがな」

 

「ユージオ・ツーベルクです。また、よろしくね。えっと……」

 

「エギルでいいさ。何せ呼びにくいだろう?慣れた方でいい」

 

「___うん、エギル」

 

「さて…自己紹介も済んだし、早速本題と行こうぜ」

 

和人がカウンター席に座り、エギルに例の件についての話をしだした。

そう、彼との再開も嬉しいけれど、本題はそっちだ。

僕も和人に習って隣の席に座る。

 

「_____アレは、どういうことなんだ」

 

単刀直入に和人の疑問が飛ぶ。

僕だって知りたい。アレは____ロニエとアスナで間違いない筈だ。

しかも、あれに映っていた2人は覚醒している。少なくとも、現実世界で取られたものとは考えにくい。

 

すると、エギルはカウンターの下から長方形の何かを取り出して、僕らには手渡した。

 

「……何、これ…?」

 

「ゲームソフトか。えっと……聞いたことの無いハードだな…ァ、アムス___」

 

「《アミュスフィア》って言うらしい。俺たちがアインクラッド(向こう)にいる間に開発、発売されたんだとよ。言ってしまえば、ナーヴギアの後継機だ」

 

エギルから渡された長方形の薄い板___と言うより、何かの箱。

そこには、深い森の中から2人の少年少女が巨大な満月に向かって翔んでいる様が描かれていた。

《ALfheim Online》と書かれていた。

 

「…じゃあ、これもVRMMOって訳か」

 

「SAOと同じって事?」

 

「…アルフ…ヘイム・オンライン?これ、どういう意味なんだよ」

 

「アルヴヘイムって発音するらしいぜ。妖精の国という意味らしい」

 

()()

SAOでも何度も聞いた単語だ。意味はだいたい理解出来る。

アンダーワールドには無かった言葉だ。

 

「妖精、ね。名前からしてほのぼのしてるな…まったり系のRPGか」

 

「いや、それがそうでもなさそうだぜ?ある意味では、えらく()()()だ」

 

エギルはそう言って、僕らにコヒル茶_____ではなく、コーヒーを出してくれた。

僕の方にはミルクと砂糖が付けられている。

コーヒーが苦手なことはエギルも知っているので、飲みやすいようにしてくれている。

和人はコーヒーを普通に飲めるのでそのまま、僕はミルクと砂糖を入れてかき混ぜる。子供舌だ、なんて言われるかもしれないが、中々慣れないんだ。

 

厳しい(ハード)って、どんな所が?まさか、SAOと同じようなデスゲームじゃないよね…?」

 

「そういうのじゃないぞ、安心しろ。言わば、ドがつくほどのスキル制でな。プレイヤースキル重視のPK推奨と来た」

 

「ドがつくほど、か」

 

ミルクと砂糖を入れたコーヒーを恐る恐る一口。

……うん、大人な味わいだ。まだミルクと砂糖を入れているのでふんわりとした苦味になっている。これなら…飲めるかもしれない。

いつか、慣れたいな。

 

「SAOと違ってレベル制じゃない。あの世界での理不尽が解消されてるわけだ。各種スキルが反復使用で上昇して行くだけで、ヒットポイントはろくに上がらんらしい。戦闘もプレイヤーの運動能力依存……言うなら、ソードスキル無し、魔法有りのSAOってとこだ。グラフィック、動きの精度共にSAOに迫るスペックらしい。

まぁ、SAOの実際を見た事あるやつは殆どこれをプレイした事は無いだろうがな。こうやって俺たちも復帰出来た訳だが、何せ色々と忙しい。ALOをプレイするのはキツい」

 

「数字の上ではって話か」

 

「…」

 

エギルのする話は僕にはかなり難しい。

英語も、それなりに教えて貰ってはいるけれど、それでも分からない。

 

「エギル、PK推奨ってどういうこと?」

 

「このALOじゃ、キャラメイクで色んな種族を選べる訳だが、違う種族間ならキル有りらしい」

 

「種族…」

 

「まあ確かに、ハードだな。けど、いくらハイスペックだとは言え、それだけじゃ人気出ないだろ」

 

「だよなぁ。俺も思ったんだが……ここからがこのゲームの醍醐味だ。なんと、このゲームの中じゃ、『飛べる』らしい。そのおかげで、発売当初から人気なんだとよ」

 

「跳べる…?」

 

「ああ、ニュアンスが違うな。『ジャンプ』じゃなくて、『フライ』だ。本当に空を飛べるらしいぜ」

 

エギルはニヤリと笑いながらそう言った。

空を飛ぶ。

僕にとっては全く想像が付かない。跳ぶ、ことはあっても、空を飛ぶことはなかったSAOでは考えられない。アンダーワールドでセントラルカセドラルに飛竜で連行された時はそれらしい体験をしたけれど。

 

「妖精だから、羽根がある。『フライト・エンジン』とかいうのを搭載しているらしくてな、慣れるとコントローラー無しで自由に飛び回れると来た。そりゃ、人気になるよな。

本当に、童話で出てくる妖精見たく、空を飛ぶんだから」

 

「でも、その羽根はどうやって操作するの?コントローラーって、操作のための機械でしょ?それ無しでも飛べるって、どうやって…」

 

「さぁ、俺もプレイしたことが無いから分からんな。だが相当難しいらしい。始めたての初心者(ニュービー)はスティック型のコントローラーを片手で操るんだと」

 

「…まぁ、大体そのゲームについては理解出来たよ。けど、本題のアレについてまだ説明がされてないぞ」

 

「分かってる、今のは前説だ。あの写真、それを説明するのに必要なファクターだからな」

 

エギルが表情を変えた。

アインクラッドの攻略会議の時のような真剣な眼差し。

エギルはカウンターの下から紙を取り出した。

 

「______どう思う」

 

出されたのは、和人が見せてくれたあの写真と同じもの。

写っているのは_____ロニエとアスナらしき人の姿。少し、ぼやけてはいるけれど、しっかりと分かる。

 

似ている、なんて言葉で済まされるようなものじゃない。

彼女達そのものだ。

 

「ロニエとアスナだ。他人の空似なんてレベルじゃない」

 

「うん、本人だと思うよ」

 

「だよな、俺もそう思ったよ。ゲーム内のスクリーンショットだから、解像度が足りてないのは事実だが…」

 

「エギル、勿体ぶらないで教えてくれ。これ、何処で撮ったものなんだ?」

 

「……この中だ」

 

「この、中…?」

 

「アルヴヘイム・オンライン……そのゲームの中だよ。正確には、世界樹っていう巨大な木の上。」

 

エギルは渡してきたALOのパッケージに指を差して言った。

 

「世界樹って、何?」

 

「パッケージの裏にあるだろう?大体のマップが」

 

エギルに言われて裏返すと、そこには何やら大雑把な地図が記されている。

そして、その中央には_____『世界樹』の文字が。

 

「これか」

 

「ああ。このゲームの《グランドクエスト》はな、この世界樹の上にある城に他の種族よりもよりも先にたどり着くことらしい」

 

グランドクエスト。SAOにおける100層到達とラストボスであるヒースクリフを倒すこと。

言わば、最終目的にして全プレイヤーの共通目標だ。

 

「……なら、飛んでいけばいいだけじゃないの?」

 

「まぁ、そんな簡単な事だったらいいんだがな」

 

「まぁ、完全に自由に飛べる訳じゃないってことか。制限がある訳だな?」

 

確かに、普通に考えればそうだ。空を飛ぶための羽があるのだから、それを使って飛べばいい。けど、グランドクエストはそれでクリア出来るような簡単なものじゃない。和人曰く、『プレイヤーにゲームを続けさせる為のグランドクエストだからな。そう簡単に終わるようなものは設定しないさ』、との事。

 

「その通り。滞空時間ってのがあって、それにも限界がある。無限には飛べない。例え、ギリギリまで飛んでも樹の一番下の枝にすら届かんらしい」

 

デメリットがあるらしい。SAOの時のソードスキルと同じく、何か制限がかけられているのだろうか。

しかし、それではどうやってあの写真は撮られたんだろう?

 

「…でも、さっき《木の上》って言ったよね?ならどうやって…」

 

「どこにでも馬鹿な事をやらかそうとする奴がいるんだよ、ユージオ。迷宮区の塔の壁をダッシュで登ろうとした奴がいるように、な」

 

「………なんか、悪意を感じるぞ」

 

ニヤケながらそういうエギルに、顰めっ面をする和人。

多分、和人のことだろう。そのことなら僕もよく覚えている。何せ急にあんなことするなんて思わなかった。

あの時は和人は思いっきりロニエに叱られていたっけ。(勿論僕も叱った)

 

「…じゃあ、誰かがそんな無茶をしたってこと?」

 

「いや、そこまで無謀じゃない。ちゃんと頭使っての作戦だった」

 

「……」

 

和人は『お前は頭使ってない』と暗に言われている事に気付いているので顰めっ面のまま黙り込んだ。

 

「一人一人に最大滞空時間が設定されているのなら、それを利用しようとした奴がいたんだ。こう、背丈の大きい奴が土台になって肩車して、より小さい奴を上に乗せていくっていう戦法だ」

 

「へぇ、それは馬鹿だけど確かにキレてるな。理論上、肩車した人数分飛距離が伸びていくわけだ」

 

「目論見通り枝にかなり近づけたらしい。ギリギリで到達出来なかったそうだが、5人目_____最後の一人だな。そいつがそこまで到達したっていう証拠を残そうと写真を何枚も撮った。ぐるぐる回って色んなところをな。それでその1枚に奇妙なものが映り込んでいた。それが____」

 

「___これ、なの?」

 

ぼやけた写真。上から下へ何かが真っ直ぐ写っているのを見るに、檻のような感じだろうか。2人とも寄り添っている。

 

「ああ。枝からぶら下がる、巨大な鳥籠。写真を最大まで引き伸ばして拡大したのがこの写真って訳だ。にわかに信じ難いが、証拠(写真)がある。完全否定はできないよな。

それに、偶然アスナとロニエ似のNPCがほぼ同時に同じ場所で生成されるとは思えん」

 

「…これをその、警察に渡して通報するっていうのは…?」

 

「流石に取り合って貰えねぇよ。何せゲームの中の写真だ。現実世界ならまだしもな……それに、合成写真だって言われればもう何も言い返せん。今じゃ、そういうのも本物と見分けつかなくなるくらいだからな」

 

合成写真。

そんなものもあるんだ。言うなら、写真を捏造するってことだろうか?

 

「…ユージオ、これ」

 

「…?どうしたの、和人」

 

和人がそのパッケージの裏______説明書きの1番下に書かれている文面を指さしている。

________《Lect・Progress》

 

「レクト、プログレス…?」

 

「ユージオ、昨日のことを思い出してくれ。須郷は……何をやってるって言ってた?」

 

「ロニエやアスナを…」

 

「違う、そっちじゃない。重要なのは、アイツがどこで仕事をしているかだ」

 

「どこで…?」

 

あの男____須郷はアスナの父である結城さんの会社で働いていると聞いた。

確か、その会社の名前は…

 

「______レクト」

 

「ああ、これで確定だ。アイツが関与してるのは間違いない。アスナを仮想世界に幽閉する理由はあるからな。昨日聞いた話だ……後は____」

 

「…ロニエや他のSAO帰還者をも眠ったままにする理由だね」

 

「そこの所が分からない。結城家に入り込もうとするだけなら、こんな大々的にやる必要はない筈なんだが…もしかすると、それにも訳がありそうだ」

 

そう、須郷の目的は結城家にアスナとの結婚を利用して養子になって入り込むこと。でも、あの男のことだ。それだけでは終わらないのではないだろうか。

 

「でも、今はアスナとロニエがこの、妖精の国にいるってことだけは分かった。なら、僕らがやる事は一つだよね」

 

「……まぁ、そういうと思ったぜ、お前ら」

 

2人で話していると、エギルが溜息をつきながら笑った。

そして、僕に向かってもうひとつ何かを投げ渡してきた。

 

「ほれ、持ってけ」

 

「え!?で、でも…」

 

「そう言うと思って2つ、用意しといたんだよ。お前らなら言いかねないな、と思ってな」

 

エギルはそう言ってニヒルに笑った。

この世界の『ゲーム』というものがどれだけ高価なものなのかというのは実際にお店で見てしまったので知っている。かなり高い、と僕は思う。

本体はその何倍も高いわけだけど。

 

「安心しろ、この2つはコネで手に入れたもんでな。ああそうだ、本体ゲーム機は買わんでもいいぞ。何せ、アミュスフィアはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかない。ナーヴギアでも起動はできる」

 

「そりゃ助かる。今から電気屋行く手間が省けた」

 

そう言って、ありがたく受け取り、カバンに入れる和人。

僕も一応持っていた布のバックに入れる。

 

「…しかし……本当に行く気なのか」

 

「ああ。ロニエとアスナを助けられるのなら、何度だってナーヴギアを被ってやる。

それに_______()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「____違いない」

 

「僕からしたら、死んでもいい…なんていう感覚が分からないんだけどね」

 

実際そうだ。

死んでもいい、というよく分からない感覚に少し苦笑いする。

 

「…ご馳走様、中々美味かった。じゃあ、俺は帰るよ。早速、ログインしたい」

 

和人はコーヒーをグビッと飲み干してテーブルに五百円玉を置く。

僕もそれに習って五百円玉を置いた。毎度、とそれを受け取るエギル。

 

「また、それらしい情報があったら和人に知らせて。僕、携帯電話持ってないからさ…」

 

「分かってる。病院に直接かけるのはあんまり良くないからな」

 

「ありがとう」

 

「______二人を救い出せよ。そうしなきゃ、俺達のデスゲームは終わらねぇからな」

 

「ああ、いつかここで……皆で盛大にオフ会をしよう。その時は、頼むぜ」

 

「またね、エギル」

 

僕らは互いに拳をうちつけ合って、そのまま店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______さて。

俺も、アイツらには負けてられないな」

 

店の主たる巨漢はニヤリと笑ってカップを洗う。

 

「アイツらにはアイツらの戦いがある。なら、俺はそれを俺なりに助けないとな」

 

洗い終わり手を拭いて、携帯電話を手に取る。

彼も前へと進むべく、携帯に指を滑らせた。

 

 




細い蜘蛛の糸を手繰り寄せる。
ゼロから、1へ。
まだ彼らの反撃は_____始まったばかり。


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再会

こんにちは、クロス・アラベルです。
今回は、妖精の国突入と、とある人との再会です。
さて、次の次には戦闘描写が入る予定なので、頑張っていきたいと思います。

因みにユージオ君は()()()()()()()()。(今作オリジナル設定)

では、本編どうぞ〜


突然だが。

僕は高い所が苦手だ。

 

セントラルカセドラルを登っておきながら何を、と思うかもしれないが、アレは別だ。何せ、窓が無かった。高所だと言うことを自覚する暇さえなかったあの頃は、高さを気にする事はなかった。

アインクラッドでは多少高いところに登ることもあったが、それにも限度はある。

 

 

ましてや______こんな、大空から落ちる、なんて言う死を覚悟するような事はなかったんだ。

 

 

「____うわぁぁぁぁああああああ!?」

 

ティーゼに事情を説明し、ナーヴギアを使った。

病院の看護さんからはナーヴギアを使っていると多分叱られると思うので、ティーゼに僕がナーヴギアを使っている間は布団を被せてもらい、頭を隠すことにした。看護師さんには『先程出掛けて少し疲れてしまったので仮眠をとっている。あまり起こさないで欲しい』と説明してもらうことになっている。

…これだけでは気付かれるだろうが、これ以外上手い言い訳が見つからない。僕から後で看護師さんにSAOをやっている訳では無い事を説明することになるだろう。

 

そして、アルヴヘイム・オンライン、通称《ALO》と呼ばれるゲームにログインし、自分の容姿や種族を決定して6秒。

僕は、何故か大空へと投げ出された。

 

光は無く、その暗さから少なくとも太陽が出ていない事は確かだ。

真下には林。

このままだと、その林の中に墜落する。

 

「不味い不味い不味い!!」

 

僕は止まることなく、落下し続けている。

掴まるものも無い。

 

この世界における落下ダメージというのがどれ程なのかは知らないが、かなりの高さだ。このまま落ちれば落下ダメージだけで即死もありえる。

というか、アインクラッドではこの高さだと確実に即死だ。キリトがバカやった迷宮区の塔駆け上がりの時の倍、それ以上の高さ。

 

死。

 

始まって数秒で死ぬなんてゴメンだ。

けど、解決策がない。

SAO時代、転移結晶が片手にあれば別だが、今はアイテムも無い。

けど少し待て。

確かこの世界では______

 

「______空を飛べるんだっけ!?」

 

そう、エギルによるとこの世界では空を自由に飛ぶことが出来るとか。

なら僕にだって出来るのでは無いか。

 

「でっ、でもどうやって空を飛ぶの!?」

 

失念していた。

空を飛べるという事は聞いていたが、どうやって飛ぶのかは聞いていない。

羽がある、というのはエギルが言っていたが、羽の出し方も知らない。

 

没。

羽で空を飛ぶ作戦は却下だ。

 

後は_____もう落ちるだけ。

 

「覚悟を決めるしかない!!」

 

落下は止められない。

なら、落下ダメージを最小限に抑える。

幸運なことに、下は林だ。なら、木を使って落下速度をギリギリまで落とすことも出来るはず。

林の周りは砂漠のようだったので、下手をすると砂漠のど真ん中に落ちる可能性もあった訳だ。

 

林に突っ込むまで、あと数秒。

 

「__ふぅ」

 

深呼吸。

呼吸を整え、暴れる心を落ち着かせる。

 

「ッ____!!」

 

林の木に突っ込む。

木の枝に掴まり速度を落とそうとするが、1本目は呆気なく折れた。

しかし、枝はまだある。他の枝が体に当たっているが、それも利用してなるべく速度を落とす。

2本目、へし折れる。

3本目、一瞬耐えたかと思ったが、音を立てて折れた。

 

迫る地面。

努力はした。速度もかなり落ちているはず。

 

「___っ!!」

足から着地する。

そして、前へと転がる要領で落下の衝撃を分散させる___!

足先、脛の外側、お尻、背中、肩。

 

強い衝撃の後、視界はぐるぐると回る。

僕の体もそのまま勢いを止められず、転がり続け_____何かに背中から激突した。

 

「いだっ!?」

 

背中に不快感が走る。

痛い、というのも間違いだが、大空から落ちたと想像するだけでゾッとする。

この世界では痛覚がないらしいので、代わりの不快感が凄まじい。

明滅する視界の中で、自分のHPゲージを確認する。

 

注意域(イエローゾーン)。のこり3割弱を残して、減少は止まった。

 

「…よかったぁ、死んでない」

 

ほっと一息。

流石に来て直ぐに即死は笑えない。例え現実世界でも死ぬ事がないとしても、だ。

背中合わせになっていたのは大木だったらしい。

座ったまま、辺りを見回す。

 

暗い。

おおよそ月明かりに照らされているおかげで完全に真っ暗という訳では無いようだ。

背中に残る不快感を押しのけ立ち上がり、月明かりの元へと出る。

見上げれば、綺麗な夜空が広がっている。

 

「……さて、色々確認しておかないと」

 

僕はこのALOは初めてだ。ゲームシステムについてはまだ知らない。

アインクラッドの時とあまり変わっていないといいんだけれど。

 

先程、諸々の設定をし終わった後、チュートリアルという説明があった。そこでこのALOでのシステムの詳細を聞くことが出来た。

この世界でのメインメニューは、SAO時代と違って左手を下へと振る動作で出てくると言っていた。

説明通り左手の指を振ると小気味よい鈴の音と同時に半透明のウィンドウが標示される。

 

「えっと…………ボタンの位置とかは、あんまりSAOと変わりないみたい」

 

ざっと確認すると、アインクラッドの時と差程変わりはないようだ。

と、言うより。

 

「SAOと、同じ…?」

 

配置やそのデザインがアインクラッドの時の物に酷似している。僕はシステムやゲームに詳しくないからキリトなら分かっただろうか。

 

一つ、違うところがあるとすれば____

 

「…ログアウトボタンがある」

 

SAO時代には無かったログインボタンが白く明るい表示になっている。

SAOの時はここが暗くなって押しても反応しなかったのだが、今目の前にあるこのボタンは、そうでは無いのだろうか。

恐る恐る、そのボタンに触れてみる。

 

すると、何やら警告文と共に本当にログアウトするかどうかを再度確認を求められた。

 

「本当にログアウト出来るんだ…」

 

ログアウトの意味はもう既に知っている。

まぁ、()()()()()()()()が、『家に帰る』という意味だ…なんて事を言っていた気もするけれど。

とりあえず、これでいつでもティーゼの元に帰ることができるという訳だ。

 

「……ほっ」

 

あの悲劇は繰り返されない事を知っただけでも安心する。

 

その後も色々と確認をする。

例えば…プレイヤー情報について。

ステータス等はかなり低い筈だ。この世界に来て5分も経っていないのだから当然の事。

と、思ったけど…

 

「…何、これ…?」

 

ステータスが凄いことになっている。

スキルの所が特に。

 

「……釣りスキル782、投擲895、疾走954、軽業699…片手直剣1000(マックス)!?」

 

初めて五分でこれは無い。

僕は今、空から落っこちただけでスキルを取得する事も、熟練度を上げることもしていない。

という事は、これは元から僕が持っていたという事になる。

 

「これ、どこかで見たことが…」

 

どこかで見覚えがある。これとほぼ同じ数字を、どこかで_____

 

「____アインクラッドだ」

 

思い出した。

ステータス画面自体がSAOの頃とほぼ一緒だったが為に、既視感を覚えたんだ。

という事は、僕はSAO時代のステータスを引き継いでいるんだろうか。

ユニークスキルである《青薔薇》は見当たらないけれど、それ以外は大体あった。

 

「アイテムは?」

 

さっとステータスを閉じて、アイテム欄へと移動する。アイテムも全てこちらに引き継いでいるのなら、かなり楽になる。

アイテム一覧を開くと、目が点になった。

 

______読めない。

 

「…………これ、なんて書いてあるんだろう」

 

変な文字がぐちゃぐちゃに並べてある。

アイテム一つ一つ数えられているし、分けられてはいるけれど、全く読めない。試しにアイテムの一つを押して詳細を見ても、変な文字で書かれていて読めない。

 

「壊れてるのかな?」

 

下へ、下へとスクロールする。

しかし、どれもこれも正体不明のアイテムばかり。

詳細をいくつか見ても説明書きすら意味不明。

では、こんなものあっても使えない。装備も出来なかった。

どうしようか悩んでいた、その時。

 

「…あれ?」

 

一つだけ、僕に読める文字で書いてあるアイテムがあった。

そのアイテム名は_______《MHCP-000》

 

「__________!!」

 

即座にアイテムを実体化させる。

僕の予想があっているとするならば、彼女は_______あの子は。

 

両手の上に、菱形のクリスタルが実体化される。

薄い紅色の宝石が、そこにあった。

思わず、目が熱くなる。

 

その宝石は生きているかのように小さく、トクン、トクン、と鼓動しているように思えた。

 

「_____おいで」

 

そう言って、宝石にそっと指で触れる。

願いは一つ。

 

《再会》

 

宝石の奥に光が灯る。

僕の声に、想いに答えるように。

光は次第に強くなり、そして______宝石は僕の手を離れて空中へと飛んだ。

僕より少し高いくらいでピタリと止まり、一層輝いた。

 

カッ、と眩しい光が辺りを照らし、爆発した。

 

 

僕も思わず腕で目を覆う。

光はすぐに止んだ。

恐る恐る腕を退けるとそこには______一人の少女がいた。

 

長く白い髪。真っ黒のワンピース。

 

ああ、ようやく会えた。

 

「_______?」

 

少女が目を開けた。

()()瞳。

 

「ぁ_______おとうさん?」

 

「_____うん。そうだよ、シャーロット」

 

「…おとうさん……おとうさん…!!」

 

宙に浮いていた少女は、僕目掛けて飛び込んできた。

会うのは、約2ヶ月振りとなる。

彼女は、最後にみせた寂しそうな笑顔ではなく、喜びの笑顔を見せてくれた。

そっと優しく抱きしめる。

 

「_____おかえり」

 

「ただいま、おとうさん!」

 

僕は、愛娘に再会することができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…わたしのこと《シャル》って呼んでね、おとうさん」

 

しばらく抱きしめあった後、僕らは切り株に座り込むと、彼女はそういった。

 

「え?どうして…?」

 

「だって、わかりにくいでしょ?おねえちゃんがいるんだし…」

 

「…お、お姉ちゃん…?」

 

「うん、ね?おねえちゃん」

 

シャーロットは僕と彼女以外誰もいないはずの林でそう零した。

お姉ちゃん、というのは誰の事だろうか。ユイの事?しかし、ユイは彼女の後に生まれたとのことなので、どちらかと言うと妹だと思うのだが…

 

彼女はゆっくりと目を閉じた。

次の瞬間。

 

『_____あまり、表には出ようと思ってなかったのだけれど、シャル』

 

幼い声ではあるが、声音の感じが変わる。目を開けた彼女の雰囲気も何処か大人っぽく見える気がする。そして、先程青かった筈の彼女の瞳は___紅く染まっている。

理知的なそれは_____

 

「_____シャーロット?」

 

『…ええ、そうよ。久し振りね、ユージオ』

 

「ま、まさか、あのシャーロットなの!?」

 

さすがに驚いた。

もしかして、入れ替わっているのだろうか。

 

『…ごめんなさい。私は元より顔を出す予定は無かったの。何かあった時にこの子(シャルロット)の代わりに動く程度でしか考えていなかったんだけどね』

 

「…す、凄いね」

 

『……この子、正直と言うか、思ってることを隠そうとしないから。邪魔だろうから黙っているつもりだったの』

 

「そ、そんな、邪魔なんかじゃないよ!君も生きててよかった」

 

『生きててよかったっていうのも言い方が変だけど……これからもあまり顔は出さないつもりをしてるから。シャル?』

 

シャーロットは彼女____シャルを呼びかけて、瞬きをする。

すると既に彼女の瞳は蒼くなっていた。

 

「もう、おねえちゃんったら照れ屋さんだね、おとうさん」

 

「……そうかもね」

 

「そういうことだから、わたし…シャルロットのことは《シャル》、おねえちゃん(シャーロット)のことは《シャロ》って呼んで欲しいの。そっちの方が分かりやすいでしょ?」

 

今までどうしていたのかは知らないが、二人が僕の知らないうちに話し合っていたようだ。

なら、僕はそれを尊重しよう。

 

「…分かった。じゃあ_____改めて、おかえり。シャル」

 

「うん、ただいま、おとうさん!」

 

SAOで別れていた、僕らの愛娘と再会を果たした。

 




新たな世界、そして、愛しい人との再会。彼は意気揚々とその世界に足を踏み入れた。
しかし、彼は知らない。
この世界____ひいては本物のVRMMOゲームを。


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世界の洗礼

遅くなりました、クロス・アラベルです。
これから諸事情(卒論、就職活動etc…)で投稿スピードが遅くなりそうです。申し訳ない…
今回はゲストの登場です(名前は出てないけど)
比較的短めになりました。
次回は戦闘シーンを入れていこうと思っています。なのでかなり文量が多くなると思われます。
では、どうぞ〜


 

 

ALOの大きな特徴として、《種族》があることが挙げられる。

 

火属性魔法を得意とし、全体的に武器の扱いや攻撃に長けた《火妖精族(サラマンダー)》。

回復魔法と水中活動に長け、水属性魔法が得意とする《水妖精族(ウンディーネ)》。

飛行速度と聴力に長け、風属性魔法が得意な《風妖精族(シルフ)》。

俊敏性に長けて、モンスターの《飼い慣らし(テイミング)》を得意とし、全種族の中でもトップクラスの視力を誇る《猫妖精族(ケットシー)》。

耐久力と金属等の採掘に長け、土属性魔法が得意な《土妖精族(ノーム)》。

暗視・暗中飛行に長けた《闇妖精族(インプ)》。

トレジャーハントと幻惑に長け、幻影魔法が得意とする《影妖精族(スプリガン)》。

歌唱や楽器演奏に長け、それを使ったバフ掛けが得意な《音楽妖精族(プーカ)》。

そして______ 武器生産及び各種細工を生産することに特化した《工匠妖精族(レプラコーン)》。

 

この9種族が、それぞれの領地を中心に活動する。

そして、それぞれの領地内ではその種族に合ったクエストがシステムによって生成される。

ウンディーネは水辺でのクエストを、スプリガンはダンジョンへのトレジャークエストを。

それぞれの種族別に様々なクエストが存在する。

 

その中でも_____レプラコーンのクエストは生産系のクエストが多く、戦闘を必要とするものは比較的少ない。

鍛治を得意とする種族であり、戦闘をあまり得意としないのである。

 

全種族の中でも戦闘を得意としないが_____他全種族から1番交流があるであろう種族がレプラコーンだ。

何故、というのも愚問だ。レプラコーンは全種族の中でも唯一、古代武具(エンシェント・ウェポン)を作ることが出来る。それはあらゆる武具の中でも高性能で、そのほとんどがプレイヤーメイドとなっている。

故に、彼らと敵対しようものならその古代武具の入手はほぼ不可能となる。なので他のどんな種族も彼らと敵対しようとはしない。

 

しかし、難点がある。

費用の問題だ。

古代武具、なんていう大層な名前がついているが故に、製造するための素材や金のコストが驚く程高い。最高品の古代武具の値段は、豪華なギルドハウスが一件建てられるレベルだ。

とてもじゃないが、手を出す者は少ない。

がしかし、古代武具を抜いても、レプラコーンの武具は他と比べて高性能だ。

 

全プレイヤーが喉から手が出る程欲しいその古代武具(エンシェント・ウェポン)は、プレイヤーメイドでしか手に入らず、作るのにも莫大な金と素材がかかるとなって、誰もがいつか古代武具を手に入れるのを夢見て金策をしていた。

 

 

しかし、つい1ヶ月前。

妖精の国にとある情報が流れた。

 

『レプラコーンのとあるお使いクエストをやっているプレイヤーをキルすると、低確率で古代武具(エンシェント・ウェポン)がドロップする』

 

というもの。

その情報は本物で、実際に件の方法で古代武具を手に入れたプレイヤーがいた。

大金を使わなくとも、最高級武具が手に入る。可能性が浮上した。

そこからというもの、地獄のレプラコーン狩りが始まった。

 

とあるお使いクエストというのは、レプラコーンの首都の街の鍛冶屋NPCからいくつかのアイテムを預かり、世界樹のある街《アルン》へと届けるという物。

レプラコーン専用クエストとなっており、報酬では超低確率で古代武具が手に入るというものだった。特に初心者には人気だ。ただお使いをするだけで中級または上級の武具が手に入るのだから。

 

なので、レプラコーンで始めたプレイヤーは大抵そのクエストを受けるのだが、そのほとんどが『レプラコーン狩り』の餌食となった。

レプラコーン側の対策といえば、パーティを組んでその狩り手を追い払うくらいなのだが、それだげでは防ぐことはほとんど出来なかった。

 

 

 

 

 

そんな事が現在のALO内で起こっていたのだが_____当の彼女は、まだこのゲームを始めて1週間も経っていない為、知らなかった。

 

林の上空を飛ぶ、一人の妖精。

レプラコーンの少女。彼女もまた、例のお使いクエスト受注者だ。

現在進行形で、レプラコーン狩りのプレイヤー達に追われていた。

 

「______待ち伏せされてたなんて、思わなかった…!」

 

つい先程街を離れ、アルンを囲む山脈の前にある林に入った直後、サラマンダーのパーティに襲撃を受けたのだ。

魔法による広範囲攻撃に彼女は寸前で気付き、回避することに成功した。

しかし、追手の攻撃は止むことは無かった。

その後も攻撃を何とか避けつつ逃走を続けていた。

本音を言えば、レプラコーンの首都に戻って仲間に助けてもらいたいが、相手パーティは首都方向から追ってきている。Uターンするのは自殺行為だ。

 

しかし、飛行時間は余裕がある。まだ飛び始めて3分程度。あと五分程度で山脈にたどり着くだろうが、その先の洞窟はモンスターがポップするし、洞窟内では飛ぶことは出来ない。

どちらにせよ、詰みだ。

 

「戦ったって詰みだけどね…」

 

チラリと後方を盗み見る。

後ろからは計7人のサラマンダーが飛んできている。

彼女が軽量系妖精ならサラマンダーより早く飛んで振り切る事も出来たかもしれないが、彼女はそうではないので不可能だ。同じ速度で飛んでいる為、捕まる事もないが、振り切る事も無い。後は_____飛行限界が訪れて落ちるのみ。

 

相手は7人のフルパーティ。

一人で立ち向かうにも限界がある。モンスター相手ならまだしも、プレイヤーとなればほぼ不可能だ。

しかも、彼女は初心者(ビギナー)。それに対して相手はそれなりに経験を積んでいる。

()()()()

 

「パーティを組んでもらうんだったなぁ!」

 

パーティを組んで行った方がいい、と先輩プレイヤーにアドバイスされたのだが、組んでくれそうな人はおらず、彼女自身そこまでパーティに入っての戦闘が得意ではなかった為にそれを無視してソロでこのクエストに挑んだ。

その結果がコレだ。

アドバイスを無視した過去の自分に愚痴を零しながら、飛行時に使うコントローラーのスティックを強く前へ倒し、より加速しようとした____その時。

 

「____えぅっ!?」

 

背中に鋭い何かが突き刺さった。

直後、身体中に痺れるような感覚が走り、身体の動きが鈍くなったのを感じた。

勿論、羽もその機能を停止し、レプラコーンの少女は林の中へと落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

鈍い音と共に不快な衝撃が走る。痛みでは無いものの、それに近い感覚。

そして、身体に流れる不快な痺れ。

 

彼女が目線を自身のHPゲージに移すと、ゲージは落下ダメージにより3割も減っており、ゲージの下には黄色の雷マーク。

麻痺状態(パラライズ)

一定時間動けなくなる、ゲームの中ではポピュラーな状態異常。

背中には未だに何かが刺さっている。

 

ゆっくりと背中を振り返ると鋭利な刃物が見えた。その刀身には、黄緑色の何かが塗られている。

投げナイフに麻痺毒を塗りこんだ、投擲武器。

 

少女はやられた、唇を噛んだ。

この麻痺毒がどれだけレベルが高いのかは知らないが、レベルが低いものを使うとはあまり思えない。

自身を確実に仕留める為に、それなりに高いレベルの毒を使っている筈。

 

「______!」

 

必死に地面を這いずって逃げようとするが、追手が既に彼女を視界にとらえてしまった。

 

「______っと、鬼ごっこは終わりか?」

 

大剣を持った全身鎧に身を包んだサラマンダーが降りてきた。

彼のパーティメンバーであろう他の六人も同様に降りてくる。

 

逃げ場も逃げる手段()も失った。

 

「へぇ、女じゃん!それに結構可愛いし……うっひょォ、いいねぇ、アガってきたねェ!」

 

しかも、相手にはゲスいプレイヤーもいたようだ。

よりによってこんな奴らに捕まった事に彼女も思わず悪態の一つもつきたいと柄にもなく思ってしまった。

 

「…さて、ガチャタイムだ。何が出るかはお楽しみってな」

 

「なァ、コイツはオレに殺らせてくれよ!いいだろ?」

 

「…アイテムの分配は俺だぞ。投げナイフで落としたのは誰かを忘れるな」

 

「分かってるって______よっしゃ、楽しくなってきたァ…!」

 

下卑た笑みを浮かべながら彼女へと近付く男。

レプラコーンの彼女は諦めて、その目を閉じる。

あんな男に殺されてしまうところなど、お世辞にも見たくない。

 

彼女に凶器が迫る______その時。

 

パキパキ、と何かが折れる音がした。

 

「……?」

 

サラマンダー達には聞こえていなかったのか、レプラコーンの少女のみが辺りに視線を移す。

音の発生源は_______少女から見てサラマンダー達の右にあった大木だった。

 

おいそれと折れそうにない大木が、少し傾いているように見える。

 

直後、轟音が森中に響き渡った。

 

「は!?」

 

「____なんだ!?」

 

サラマンダー達もその音に驚き、少女から離れて辺りを見回す。

そして、その大木は明確に傾き始めた。

根元からではなく、根元より少し上から、サラマンダー達のいる方へ。

その直後、もう一度轟音が響いた。

 

「な、なんだってんだよ!?」

 

「____お前ら、左だ!!」

 

一人のサラマンダーが少女から見て右を指差す。

反対側へ倒れ込むはずの大木は逆側____サラマンダー達に向かって倒れこもうとしていた。

 

「うおおおおおおお!?」

 

パーティ全員が後ろへ下がり大木を避ける。

大木は少女の足元スレスレに凄まじい音とともに倒れ込んだ。

サラマンダーとレプラコーンの少女を隔てるように。

 

「_____だ、れ…?」

 

砂煙の中、歩いてくる一つの影。

それは少女の目の前で止まった。

砂煙が収まる。

 

そこには_______一人の男が立っていた。

 

水色の髪に青を基調とした服、薄いボディアーマー。

左腰には控えめな一振りの片手剣。

 

水妖精族(ウンディーネ)》だ。

 

ウンディーネの領地はスプリガンの領地を挟んだ向こう側。レプラコーンの性質上、鍛治が得意なのもあって直接直談判に来るプレイヤーもごく稀にいるそうだが、ウンディーネは高位の回復魔法が使える。どちらかと言うと魔法メインのメイジが多いのだが、目の前に立つ彼はそのメイジとしての特徴を持たない。というより______彼の装備は初期装備に近い気がする。

 

いや、あれは初心者(ビギナー)だ。

武器も服装も鎧も、全て初ログインで貰える初期装備に違いない。

 

「____逃げ、て」

 

麻痺した身体にムチを打ち、眼前に立つ彼にレプラコーンの少女は言う。

しかし、麻痺状態で喋ろうとかすれ声にしかならない。

 

するとそのウンディーネは振り向いて少女の瞳を見て言った。

 

「_______大丈夫、任せて」

 

そう言って、彼は短い片手直剣の柄に手を当て、サラマンダー達を見据えた。




妖精の国を旅する、アルヴヘイム・オンライン。
本当の意味でのゲームの世界。
それはある意味、彼の世界よりも残酷である事を

_______彼はまだ知らない。


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初陣

どうも、騎士ロニエが凛々し過ぎて月になったクロス・アラベルです。
今回はユージオ君にバチバチ戦ってもらいます。
セリフ少なめなのは許して下さい。戦闘シーンの描写しようとしたら、説明みたいになっちゃうので…
では、本編へどうぞ〜


 

目の前に現れたのは、ウンディーネの男だった。

簡素な服にライトアーマー、小振りな片手剣(スモールソード)

水色の髪。

 

しかし、サラマンダー達にはそれが何も知らない初心者(ビギナー)にしか見えなかった。

 

「なんだ、お前。まさか俺達の獲物横取りしようってんじゃねぇだろうな…?」

 

「…待て、コイツ初心者(ビギナー)だ。装備も初ログインのまま……

なんだ、ウンディーネ。迷い子か?ウンディーネ領はスプリガン領の向こうだ。何もせず逃げれば今は見逃してやる」

 

サラマンダー達には余裕があった。初期装備の雑魚なプレイヤーなど、負けることなど無い。彼らもそれなりの古株で、メインスキルの熟練度はカンストに近い。装備も上等なものなので、武器も防具もスキルも_____プレイヤースキルもある。

 

しかしながら彼らも鬼ではない。

ビギナーを一方的にキルするのは一部のプレイヤーを除いて、あまりいい気分ではない。殺したところで旨みが無いというのもあるが。

 

しかし、彼らは勘違いしている。

このウンディーネは確かに初心者(ビギナー)だ。

ALOでの戦闘は初めて、魔法など使ったことが無い。

飛ぶことも慣れていない。

初心者、と言っても過言ではないだろう。

_______唯一、戦闘経験を除いて。

 

「_______ご心配ありがとう。でも、7人で一人を寄って集って殺そうだなんて、見ない振りは流石に出来ないかな」

 

彼の唯一の武器であるスモールソードの柄に右手を当てる。

サラマンダー達も同時に戦闘態勢へ。

 

ユージオ自身も現状に関してはある程度理解している。

そこに倒れている紅い髪の少女の頭上に表示されている簡易HPゲージの下には黄緑色の雷マーク。麻痺状態になっているので動けない。

そして、身動き取れない彼女に武器を片手に近付くサラマンダー7人。

 

はっきり言って、怪しいにも程がある。

ユージオにはエギルからの前情報があった。

《ALOはプレイヤー間の《殺し合い(キル)》を推奨している》、というもの。

エギルからの情報と今の眼前に広がる状況。

例えゲームの事や現実世界での当たり前に疎い彼でも分かった。

 

ユージオも理解している。

このゲームの世界で正義面をするのもお門違いだ、という事。

ロールプレイングがどういうことなのか、現実世界と仮想世界を切り替える考えも親友(キリト)に教わった。

 

しかし。

彼にも、譲れないものがあった。

 

 

1対7。

圧倒的不利な状況の中、ユージオは思考を巡らせる。

後ろで倒れている少女は勿論戦力には入らない。

 

彼女を守りつつ戦うのは、かなり厳しい。

故に彼が辿り着いた最適解は_______

 

「_______は?」

 

くるりと後ろへ振り返り、彼女の元へ。

逃げの算段だ。

無論、彼女を連れて。

 

「___ごめん、我慢して」

 

そして、一言謝って、彼女を抱き上げた。

彼女は何か言おうとしていたようだが、体が麻痺して動かない。

彼はそのまま_____左手にコントローラーを呼び出し、羽を起動してそのままの勢いで空に駆け出した。

 

「…お、おいおいおい!!」

 

「___やられた!!追え!!」

 

即座に彼らも察した。

このまま逃げ切ろうとしているのではないかと。

 

サラマンダー達も急いで羽で飛び出した。

 

 

 

 

「______」

 

慣れないコントローラー操作。

しかし、真っ直ぐ飛ぶだけなら彼にも可能だった。

 

はっきり言って足でまといな彼女を守りながら戦うほど彼に余裕はない。一刻も早く遠い所へ避難してもらいたい。その為に____彼は空を駆ける。

すぐに追いつかれる。追いつかれなくとも、()()が来る。

彼は既にSAO時代には無かった『魔法』という要素を頭に入れていた。

 

それなりに距離は離した。後は_____抱きかかえた彼女をどうするか。

ユージオはキョロキョロと辺りを見回し、目的のものを見つけて即座に行動に移した。

 

「____一応加減はする。丁度いい所に落ちるようにするから、その後は自分で逃げて」

 

ユージオはそう言い残して紅い髪の彼女を________()()()()()

 

「__________!?」

 

声にならない悲鳴をあげているような気がしたが、彼女が無事逃げられるように祈り、後ろへ振り向く。

……とある友人(キリト)の無茶苦茶なやり口が彼にも伝染ったのかもしれない。

 

直後、ユージオの視界は赤い焔に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______っ!」

 

林の中に不時着する。

ダメージは______1割。ギリギリ羽を消して落下したのが功を奏したか、赤い焔をかするだけで済んだようだ。

 

素早く立ちあがり、抜剣する。

 

「…この剣、刀身が本当に短いな」

 

ユージオはSAO時代のアルマス(愛剣)が恋しいと思ってしまった。

初期装備であるスモールソードは性能としては最底辺。攻撃力もリーチも、耐久も著しく低い。

対して相手は歴戦の猛者らしきプレイヤー達。武装も上位の高性能なものばかりだろう。

 

「____武器は格下だ。けど、培った技は負けちゃいない」

 

心を落ち着かせて、深呼吸しようと大きく息を吸った直後。

 

「オラァ!!」

 

上空からの斬撃。

が、ユージオは紙一重で躱した。そこからバク転して少し距離をとる。

 

奇襲は読めていた。

馬鹿正直に斬りかかってくるのは中々居ない。

チッ、と舌打ちをしたサラマンダー。ユージオと同じ片手剣使いのようだ。しかも盾持ち。

 

続々と降りてくるサラマンダー達。

パッと数えたところ、7人丁度。不安だった先程の少女の元へ行った者はいなかったらしい。

全戦力がユージオへと集中した。先程ブン投げた彼女はおよそ落ちる寸前で麻痺状態が回復するだろう。逃げるのは容易い。

 

一安心し、彼らに向かって中段に剣を構える。

彼らの態度_____しかめっ面からするに、邪魔をしたユージオを最優先で潰してきている。

 

この一対多の絶対的不利な状況の中、ユージオは約1年半前_____SAOがデスゲームとなった直後のキリトとのある会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_____一対多の状況になった時の対処方法?」

 

「うん、それを教えて欲しいんだ。だって昨日もそうだったけど、この世界じゃ化け物……モンスター、だっけ?それが僕ら2人より多く出てきてたでしょ?

単独行動している時にそうなったらどうやって切り抜ければいいのかなって思ったんだ」

 

「……まぁ、一人になることもあるかもしれないしな。教えておいて損は無いか」

 

キリトは頭を掻きながら、少し考えて答えた。

 

「まず、これは最初に言っておきたいんだが……」

 

「…何?」

 

「______一対多の状況は絶対に作るなよ」

 

ずいっとユージオの方に寄ってきて、人差し指を立てて言った。

対処方法について聞いたのに明確な答えではなく、忠告から始まった。

 

「え?」

 

「前提条件だ。なるべく一対多の状況は作らないこと。はっきり言って、デスゲームになったこの世界じゃ、1つのミスも命取りだ。単独行動(ソロ)なんて死にに行くようなもんだぜ?

…………いや、俺が言えたことじゃないけどさ」

 

少し頭を掻きながらキリトは明後日の方向に視線を向ける。

 

「うん、でも…」

 

「お前の言いたいことは分かる。確かに、俺とユージオでコンビを組んでても俺たちより多い数のモンスターと鉢合わせることなんてざらにある。その時は何とかなってるけどな」

 

「……キリトの言いたいことも分かるよ。一人じゃ、支え合う仲間がいない。たった一つののミスで死ぬことになるってことだろう?」

 

 

「うん、理解してくれて何よりだ。まぁ、大前提として単独行動(ソロ)はしないこと。

けど状況によってはそうなってしまうことも有り得る。じゃあ、俺からのアドバイスだ。一対多の状況になった時の対処方法」

 

「…!」

 

「言ってること矛盾してるとは思うんだけどさ……()()()()()()()()()()()()()だ。」

 

「…どういうこと?」

 

「…一対多の状況になれば高確率で負ける。どれだけレベルが高かろうと、物量には負けるんだ。だから、そこからどうやってより相手するモンスターの数を一時的に減らすかなんだよ」

 

「一時的に減らす……た、例えば?」

 

「例えば……んじゃあ、あそこにちょっと大きめの岩あるだろ?」

 

キリトは前方____ユージオの後ろにあった大きめの岩を指さした。

 

「あれを障害物にするんだ。あの物陰に隠れれば、相手の行動は限られてくる。右から来るか、左から来るか、上から飛び越えてくるか。岩を砕いてくる可能性と無きにしも非ずなんだけど、それは置いとこう。」

 

「うん」

 

「言っちゃえば、相手の行動をこちらから誘導して制限するんだ。ダンジョンの中でもそう、迷宮区でもそう。ダンジョン内の柱を利用して柱を越えようとしている一体を置き去りにして後ろにいるもう一体を処理する。

まぁ、この戦略も相手がモンスターだからこそ成立する作戦なんだけどさ」

 

プレイヤーとの戦いとなればそうはいかない、とキリトは付け加えた。

 

「真正面から戦わず、逃げながらでもいいからな。ここじゃ生き残る事が重要なんだ。無理に勝とうとしなくていい。無理だったら即逃走だ。逃げるタイミングは考えなきゃだけどさ」

 

逃げてもいい、とそう太鼓判を押したキリトの表情は、真剣なものに違いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「______」

 

1年以上前、まだロニエとティーゼに再会する前の話しだが、ユージオはしっかりと覚えていた。

 

彼なりの一対多の戦い方。

実践の時。

 

「……!」

 

瞬間、サラマンダー達が動き出す。

盾持ち片手剣の前衛二人がユージオに突っ込んでくる。その後ろには大剣使い一人、中衛に槍使いが一人、弓使いが一人、そして1番後ろには杖を携えたローブを被った術師二人。

総勢七人がユージオをユージオを殺そうと襲いかかってくる。

 

前衛二人の内、前に出てきた片手剣使いの攻撃を剣で捌く。真正面から受けるのではなく受け流すように、川を流れる水の如く。

しかし、直後にはもう一人の攻撃が上から迫っていた。

それも受け流す。

 

ユージオは理解した。

この盾持ち二人の攻撃でできた隙に後ろで構えている大剣使いの男が一撃喰らわせようという魂胆なのだということを。

およそ、後ろの槍兵は《中衛(保険)》で、後ろに待機している弓兵が外野からチクチクと矢を放つ。彼らはユージオを動ける生意気な初心者(ビギナー)と考えているのだろう。

であれば、真面目に二人を相手取るのは愚策。

 

続く盾持片手剣使い二人の連撃。コンビネーションは抜群で、息もあっている。

 

まず_______この二人を引っぺがす所から。

 

隙をついて後ろへ跳ぶ。目標は______ほんの数メートル先にある太い大木。

彼らに背を向けることなく右側から大木の後ろへ。

 

「隠れんぼのつもりかよ____!!」

 

しかし、彼らも逃してはくれない。即座にその後を追う。

片手剣の二人が盾を構えたまま大木の元へ。

 

片方のプレイヤーが左側から、もう片方が右から回り込もうと二手に別れる。

少し左側へと走ったプレイヤーが早く追いついた。木の後ろ____ユージオがいるはずの場所へ、剣を振り抜いた。

 

「_____切り返したか!」

 

しかし、彼はいない。

とすれば右側へ戻ったのかと彼は考えた。なら、もう一人が交戦している筈。

が、しかし。

大木の向こうから姿を現したのは、もう1人のサラマンダーだった。

 

「は!?」

 

「おい、アイツは!?」

 

俺は見ていない、と言う後から来たサラマンダー。

直後、剣と剣がぶつかり合う金属音が響く。

 

バッと振り返ると、既に、大剣使いと交戦を始めているウンディーネの姿があった。

 

「____飛んだか!」

 

2人は瞬時に理解する。

彼が後ろに下がった理由は自分達を引き剥がし、大剣使いと一騎打ちに持ち込む為だと。

 

 

 

「うお!?」

 

そして同時に、交戦に入った大剣使いの男も驚いていた。

木の後ろに入って見えなくなったと思えば、直後、木の上____樹冠からウンディーネが自分に突っ込んできていたのだ。

 

片手剣の二人が作った隙を大剣で一刀両断する、その予定が大いに狂った。

大剣、両手剣の弱点はその重量故に一撃一撃の隙が大きいことにある。当たれば逆転出来るが、逆に当たらなければ意味が無い。

 

鎧一式着込んだ彼からすれば、初心者装備の軽装相手は相性が悪かった。

 

袈裟斬りを繰り出すもふらりと躱され、斬撃を受けた。

 

「ぐ_______!?」

 

計3カ所。

ただの斬撃なら問題ない。

大剣使いは彼の持つ武器が初期装備のスモールソードであることを見抜いていた。ならダメージはほぼ受けない。彼が着込んでいる鎧はそれなりにハイグレードだ。スモールソードなんていうゴミ武器など斬られるどころか弾き返してしまうだろう。

 

しかし、しっかりとダメージを受けていた。今の一瞬、3カ所に食らった斬撃だけで6割のゲージが削られた。

 

驚愕する。

何故____と考える。

 

ALOにおいて、ダメージの算出方法はさほど難しいことでは無い。

武器自体の攻撃力、攻撃命中位置、攻撃速度、攻撃を受けた側の装甲の防御力、この4つのみ。

ウンディーネの使う武器はゴミ同然、彼らサラマンダーが装備している装甲はかなりハイグレードだ。

なら_______件のウンディーネの攻撃速度が尋常ではない程高かったと考えられる。

しかしだ。それだけではこのダメージ量は考えられない。再度何故、と考えたその時。

 

はたと思い出す。

攻撃を受けた場所は?

 

攻撃を受けたのは_____両手首と、左肘裏、右膝裏。

全て比較的鎧の中でも装甲が取り付けられていない、関節部分だ。

 

大剣を持っている両手首の間に剣を通すように突き攻撃、左肘裏への突き攻撃、そしてすれ違いざまに左から右への一閃で右膝裏を斬った。

 

見えなかったが、そうしたのだと大剣使いは悟った。

凄まじい程の精密動作性。

 

追ってくる盾持ち片手剣の二人、手首を斬られて大剣が滑り落ち、膝裏を斬られたせいで膝をつく大剣使い。

ユージオは片方の片手剣使いに向かって大剣使いを蹴り飛ばした。

ぶつかって吹き飛ぶ片方。

もう1人の片手剣使いに向かってユージオは斬りかかった。

 

振るわれた初撃は盾によって防がれたがその後も連撃を盾に叩き込む。

攻撃の威力のブーストは最大限に、剣速はトップスピードを維持して邪魔な盾を吹き飛ばした。

 

「___はぁ!?」

 

針に糸を通すような精密な突き攻撃と斬撃に片手剣使いは思わず悲鳴をあげる。

彼の攻撃は、まだ止まない。

 

盾を持つ左手を真後ろに吹き飛ばされた片手剣使いに三連撃を見舞う。

 

「ぐぉ!?」

 

先程盾で受けていた連撃の反動によるダメージ二割と今受けた三連撃の7割。

もう片手剣使いのHPゲージは危険域(レッドゾーン)へ。

 

前衛は3人、中衛1人、後衛3人の7人パーティを相手にするユージオは一刻も早く、相手戦力を落としておきたい。

虫の息となった片手剣使いに向かってトドメの一撃を振り下ろす______その時。

 

「______ぁ」

 

呆然とユージオを見上げる片手剣使いの瞳に気がついた。

 

それがまるで、あの世界(アインクラッド)で見た、人が見せる死に際の恐怖に怯えた目に見えて。

 

「___________っ!」

 

剣での一撃を止めて、蹴りを入れて戦線から離脱させる。

トドメは刺さなかったが、HPゲージ残り1割では何も出来ない。あと一歩で死んでしまうのだから。

そう、自分を誤魔化した。

 

もう1人の片手剣使いがこっちへ向かってくる。

すぐさま狙いを向かってくる片手剣使いにシフトして_____直後、後ろへ剣を振り抜いた。

キン、と何かを弾く音。

 

「____チッ、背中に目でもついてんのかよ!」

 

後衛の弓兵だ。

先程までの移動速度では狙うのが難しかったのと、位置関係的に弓兵から見て味方の向こう側にユージオがいた為援護出来ていなかったようだが、今は少し移動して当てやすい空にいた。

 

しかも、後ろから槍兵が迫って来ている。

挟み撃ちの形だ。

ユージオはまず____片手剣使いから対処することにした。

 

片手剣使いへと駆ける。

盾を前に押し出し、攻撃を受けまいとする片手剣使い。その鬱陶しい盾の上の部分を掴み、倒立前転の要領で上へ。

 

盾を掴んだまま、動かされる前に手を離した直後、空中で片手剣使いに一撃。

着地してもう一撃を食らわせる。

 

「ぐ_____クソッ!!」

 

くらり、とよろけるがしかし、その片手剣使いは反撃しようと回転斬りを見舞おうとするも、そこにユージオの姿はなかった。

 

ユージオは既に片手でコントローラーを呼び出し、羽のほんの一瞬使ってその推進力で片手剣使いの股下をスライディングで通り抜けている。

回転斬りが空振ってがら空きの背中に回し蹴り(ラウンド)で吹き飛ばした。

 

「う、ぁあああ!?」

 

残りHP2割だった相手には殺しはしない丁度いいダメージ量だろう。

 

そして、残るは中衛の槍兵。

両手槍を叩きつけるように振り下ろした。ユージオはそれを左に避け、全力で槍兵に肉薄する。

 

槍、という武器の強さは《リーチ》にある。

剣よりも長く、弓程の有効距離は無いが、かなり優秀な武器だ。

狭い場所での戦いには向いていないと思われがちだが、決してそうではない。挟所でも優秀である。槍は振り回すよりも突き攻撃の方が効果的であり、挟所であればリーチのある槍は突き攻撃だけで相手の歩みを止めることが出来る。

しかしながら、そのリーチを活かせる距離を置かなければかなり厳しい戦いを強いられる。

言ってしまえば、懐に入られると弱い。

 

ユージオはそれを知っているからこそギリギリまで攻撃を引き付け回避し、肉薄しようとしているのだ。

両手槍使いも同じく理解しているため、適正な距離を保とうと後ろへ跳ぶ。

左から一閃しようとするユージオに対し、両手槍使いは槍を両手で器用に回してそれを防いだ。

 

近付こうものなら突き攻撃で牽制し、距離を保つ。

少しでも近付いて撃退しようと槍の突き攻撃を捌く。

 

「________!!」

 

「_______っ!!」

 

火花散る数秒の接戦。

集中力を切らした方の敗北だ。

 

合間に空から飛んでくる矢も弾いた、その瞬間。

 

「_____今ッ!!」

 

一瞬の隙を両手槍使いは逃さなかった。

全力の刺突。

左胸への一撃は流石のユージオでも剣での防御は間に合わない。

 

だから_____左手でその槍を掴む。

 

「はっ________?」

 

そのまま槍の矛先を避けつつ、思いっきりユージオの左後方へ引っ張った。

全力の刺突で下がることを考えていなかった両手槍使いはそのまま引っ張られユージオの剣の間合いへ。

 

そして、すれ違いざまに渾身の一撃を見舞った。

 

「うぐ、ぁ_____!?」

 

威力フルブースト、トップスピードで繰り出された攻撃は軽装に入るとはいえかなりの防御力を持っていたはずの鎧をもろともせず、両手槍使いのHPを8割がた根こそぎ持っていった。

 

残るは、後衛の弓兵と術士のみ。

気がかりなのは、今の今まで何故術士が全く攻撃してこなかったかだが____

 

次の瞬間、ユージオはゾワリと何か嫌な予感を感じて横に転がった。

空から片手剣使いが斬りかかってきていた。ユージオの咄嗟の判断と言うより、勘で回避出来た。

 

「____早い」

 

思ったより復帰が早い、とユージオは感じた。

今の戦闘は1分もかかっていない。剣と盾のデザインから見るにおおよそ先に斬った片手剣使いだ。既に1割しかなかった筈のHPゲージは8割以上回復している。と言うよりじわじわと今も回復し続けている。

 

ポーションで回復するにももう少し時間がかかると考えていたユージオは思考を巡らせる。

回復結晶と同じようなアイテムがここにはあるのか?しかし、回復結晶と同じ効果だと、一瞬で回復してしまうので持続性は無かった。

それとも、ポーションの性能が段違いに良いのか。

元より、アインクラッドとは違う世界だ。ユージオの憶測では計れない。

 

その時、先程斬った両手槍使いが立ち上がろうとしているのが視界に入った。すると次の瞬間、彼を謎の緑色の光が包んだ。控えめな輝き。

 

「_______ああ、そういう事か」

 

答えに辿り着いた。

後衛部隊にいる術士を見る。

術士2人は何やら杖のようなものを片手に、何かを唱えている。言葉を紡ぐ事に彼らの周りに回る奇怪な文字列。

 

治癒術を使われていた。

アインクラッドでは、魔法という物は一切存在せず、あったとしても敵側にしか無かった。無論、回復方法もポーションか回復結晶を使うしか無かった為、そこまで気が回らなかった。

アンダーワールドでも治癒の効果を持つ神聖術はあったが、もう既に1年半も昔のこと。アインクラッドでの知識、経験意識の癖が仇となった。

 

「とどめ、刺しておくべきだったんだろうな」

 

この世界では死が現実に直結することは決してない。だから、戸惑ってはいけなかった。

ここでの死は、なにか特別なものではない。和人は言った。『死んでもいいゲームなんて、ヌル過ぎるぜ』と。

この世界でも死んでも、現実世界では死なない。和人は現実世界の人間故に割り切れただろうが、ユージオにとって分かっていても割り切るのは難しい事だった。

 

状況は最悪。

見れば既に両手槍使いもHPゲージが半分程回復するのが見えた。

 

一対七という、絶望的な戦況は変わらない。

しかも今度は囲まれてしまった。

 

その時、術士のいる方角の奥から、数人のプレイヤーがやって来た。

全員サラマンダーだ。

構成は、おおよそ同じ。

何やら、術士の1人と後から来たパーティの1人が話をしている。

嫌でもわかる。彼らの仲間だ。元より2パーティでこの林にいたのか。

人数は______計14人。

 

絶体絶命。

 

人数は先の倍。

初心者装備だから、と相手が油断することはもうない。

 

「_______負け濃厚、かな」

 

流石のユージオもこの人数差はキツい。

 

「…いや、そうでもない」

 

キリトなら、どうするだろう。

そう考える。

ユージオの相棒、唯一無二の親友。

そして、ユージオにとっての、最強の剣士。

彼なら、この状況で屈しただろうか。

 

NO(それは無い).

 

一対多の戦闘は避けろ、と言っていたキリトだが、型破りな彼の事だ。

この状況も何とかしてみせるだろう、とユージオは思った。

 

キリトがやってのけるならば。

ユージオも負けてはいられなかった。

 

「____躊躇は捨てろ」

 

スモールソードを中段に構える。

合流してきたもう1パーティの前衛が周りを取り囲む。

 

囲んできた数、片手剣使い4人と大剣使い二人の総勢6人。

 

彼は、覚悟を決めた。

 




死闘、ここに。
彼なりの意地を貫く。


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逆転劇

遅くなりました。クロス・アラベルです。
戦闘描写難しい(クソデカボイス)
今回の総字数は1万3千となりました(新記録更新)
ユージオ君が主人公します。
ゲストのレプラコーンさんも負けじと戦います。
では、本編どうぞ。

追記:レインさんの誕生日にレインの戦闘シーン投稿することになるとは(白目)


 

 

『どんな界隈にも、化け物はいる』

 

そんな事をどこかで聞いた事があった。

言葉通りの意味だろう。

確かに、いるんだろう。俺も何度かバカみたく強い奴らと鉢合わせたことがあった。

武器の扱い、立ち回り、勝負の掛けどころ。全てにおいて秀でた、猛者。

だが、そんな猛者でさえ、物量には勝てなかった。フルパーティ7人と数人にボコされたのを見た。

個は群を超えることは無い。

それが俺の見てきた、経験則。

 

だが______そんな俺にとっての絶対が。

覆されようとしていた。

 

フルパーティ7人対ソロ。

勝てるはずのない状況を覆す奴がいた。

 

それが、あのウンディーネだ。

フルパーティでボコす予定が、奴の頭おかしい強さに全て狂った。

立ち回りが他と違う。

フルパーティに襲われれば、逃げるのが普通だ。俺だって逃げる。なのにコイツは、前衛中衛の4人を見事に屠って見せた。

ギリギリ魔法による回復が間に合い、包囲網を敷くことが出来たが、かなり危なかった。

 

オマケに何処からかやって来た援軍。

このパーティ自体、例のレプラコーン狩りのために募集されてた即席パーティだ。何人か知り合い同士で参加してる奴がいるようだが、俺は少なくとも知らない奴ばかりだ。

 

 

「____お前ら、油断すんなよ!」

 

喝が飛ぶ。

リーダーは両手剣使い。ソイツが今ふたつのパーティに指示を出している。

アレがどれだけ強いかは知らない。

普通、前衛が半分以上居れば負けることは無いが、あのウンディーネは別だ。

 

嫌な予感がした。

 

多分、アレが世にいう《化け物》だろう。

そういう化け物が出たって話は大抵、数で押そうと無駄なことが多い。

 

「…頼むから、やられてくれよ」

 

そう、ボソリと呟いた直後、ウンディーネは動き出した。

計4人の前衛が一気に襲いかかる。

中衛である俺は、その後ろ_____4人の魔道士(メイジ)を守るように陣取る。

 

とにかく、そのウンディーネは速かった。

1ヶ所に留まらず常に移動し、包囲網を崩そうと剣を振るう。

 

とらえどころの無い動きと凄まじい反応速度、そして、臨機応変さ。

あんな戦い方をする奴は初めて見た。

少しでもこちらが隙を見せれば待っていたと言わんばかりに攻撃してくる。しかも一撃が武器からは考えられないほどに重い。こちらの鎧の装甲ももろともしない。

たった一撃、二撃で七、八割削られる。

 

が、俺達にはメイジがいる。例えダメージを受けようと回復が出来る。

メイジは今4人。回復スピードも、回復をかける人数もさっきとは比べ物にならない。

どれだけ削ろうと、ダメージを受けたら即下がり、回復してもにらうから奴の猛攻も意味をなさない。

いつか、アイツも集中力が切れてやられるのが運の尽き。

 

_____だと言うのに。

アイツの目は、諦めようとはしていない。

諦めの悪い、()の目だった。

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ六人同時に相手取る。

ハッキリ言って、無理難題もいいところだ。

いくらユージオであってもほぼ不可能だった。

しかも、後ろから弓兵による援護射撃とメイジ4人による敵の回復付き。

既に相手はユージオの強さを知ってしまった。先程の戦闘のように舐めてかかることは無い。

 

キリトから教わった戦略も、この人数差では出来るとは思えない。

 

_______なら、全員相手取るまで。

 

覚悟は既に決まっていた。

相手が何人いようとやることは変わらない。

 

既に戦闘が始まって2分。

人数差にも関わらず、接戦を繰り広げていた。

 

「____ふッ」

 

片手剣使い4人による同時攻撃。それを倒れ込むように姿勢を落として回避し、一人に狙いを定める。

 

「はッ!!」

 

袈裟斬りを狙った一人の盾に叩き込み、吹き飛ばす(ノックバック)。直後、後ろから繰り出される三回の斬撃を一回回避し、残り2回を剣で受け流す。そして、牽制として大振りの斬撃を防がれることを承知で繰り出した。

 

いくら攻撃しても、後ろのメイジ4人による回復が重複して即回復してしまう。

これにはユージオも舌打ちしてしまう。

ほぼ無限ループだ。

魔法を使うにも限度があるのはユージオもシャルから聞いているが、それでもまず勝てない。

メイジ4人のMPが完全に切れるまで戦い続けるのはナンセンス。

 

故に、1人ずつ確実に殺す。

回復ならさほど時間はかからないだろうが、()()なら回復よりも時間がかかるのではないか、とユージオは考えた。回復がかかる前にとどめを刺す。

先程の戦闘では完全に倒すこと_____殺す事に躊躇してしまった。アンダーワールド出身であり、アインクラッドで命のやり取りをし続けてきた彼にとって現実と繋がらないと聞いていたが、殺すことに戸惑いがあった。

しかし、シャルは言った。

『ここで死んでも現実世界じゃ死なないよ、おとうさん。安心して』

愛する娘がそう言ったのだ。

 

吹き飛んだ片手剣使いに斬りかかる。

吹き飛ばされた彼は既に守りの姿勢を崩している。盾を吹き飛ばすくらいなら、可能だった。

一閃。

 

盾を吹き飛ばされ、がら空きとなった胴体に一撃。

先の後方に吹き飛ばした一撃を防ぎきれていない彼は今の一撃で6割もHPゲージが削れている。

あと一撃で、殺すことが出来る。

 

覚悟は______決めた。

 

「_____はァッ!!」

 

首元への容赦のない突き。

叩き込まれたそれは、相手のHPゲージを全て削り取った。

 

「く、そ______!!」

 

悔しげな男の声。

ゲージが消えたサラマンダーは後ろの木に背中から叩きつけられた。直後、体が燃えて、紅い炎を残して彼は消えていった。

その紅い炎がシャルが言っていた《妖精の残り火(リメインライト)》だと悟った。

これで、彼は蘇生魔法でしか復帰できない。

 

後ろを振り返る。

残るサラマンダーは、13人。

 

「______一人目」

 

その全員を屠ることを決意し、剣の柄を握りしめる。

後衛にいるメイジ4人を倒さなければ時間がかかっても蘇生される。早急に、前衛を突破するか、メイジの詠唱を妨害しなくてはならない。今倒したサラマンダーはメイジからそれなりに遠い為、蘇生魔法の効果範囲内にいるかどうか怪しい。

戦線を、後ろへ。今倒したサラマンダーから遠ざける必要がある。

 

ユージオは再びサラマンダー達へと走り出した。

 

 

 

 

 

「____マジかよ」

 

自分の口から呆けた声が出てしまったことに気づく。

たった今、前衛の一人が死んだ。

まともに受けた攻撃は2回。盾で防いだ攻撃がいくつもあるとはいえ、あの包囲網を無理矢利突破し、一人殺してのけた。

死んだ奴はメイジから遠く、蘇生魔法の効果範囲外だ。

リメインライトを回収するしかない。

だが_____

 

「…それを許しちゃくれなさそうだ」

 

あのウンディーネが確実に阻止してくる。

あの人数に囲まれて尚そんなことが出来るかと言われれば出来ない、と答えるだろうが、《アレ》は別だ。

 

とりあえず、回復魔法を今いる奴にかけ続ける方が良いだろうか。

 

「ぅ、おおおお!?」

 

また1人、死んだ。

片手剣使いが2人目の脱落。

雲行きが怪しくなってきた。流石にこれは不味い。

どうするか迷っていた、その時。

 

「クソっ、もういい!!()()をやれ!!」

 

大剣使いが叫ぶ。

《アレ》とはなんだろうか。

もとよりこの2パーティのメンバーについてあまり知らないから、そんな隠語で言われても俺にはさっぱりだ。

 

その時、一人の弓兵がメインメニューを弄り出した。

パッと、弓が消える。

 

そして、その弓兵が弓の代わりにアイテムストレージから取り出したのは_____1本の長い鎖だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チィッ_____!?」

 

「せァッ______!!」

 

また一人、倒した。

これで3人目、残るは片手剣使いが一人と大剣使いが二人。

前衛突破まであと少し。なんなら前衛を無視してメイジ達に突っ込んでもいい。

槍兵も弓兵も置き去りにしてメイジ達へ斬りこめる自信がユージオにはあった。

 

最後の片手剣使いが斬りかかってきた。袈裟斬りを片手剣で受け止める。鍔迫り合いは一瞬。

斬り返し、片手剣使いへ一撃を喰らわせようと剣を振ろうとした。

 

と、その時だった。

ジャラジャラ、という音とともに、右手に違和感を感じた。

 

「_____?」

 

パッと剣を見ようと振り返る_____その直前。

右手から剣が()()()()()()

 

「_______!!」

 

辛うじて視界に入った。

(チェーン)だ。

唯一の武器であるショートソードを鎖で掠め取られた。

 

つい先程、大剣使いが『アレをやれ』と叫んでいたがこういうことらしい、とユージオは冷静に考える。

 

不味いな、とユージオは顔をしかめた。

それを見てか、先程指示を出していない方の大剣使いが突っ込んでくる。頭上にその大剣を振り上げて、そのままユージオを斬るつもりらしい。

 

確かに、勝つ方法としては卑怯とも言えるが、実に合理的だ。

相手が強いなら、武器を取り上げればいい。

しかも、彼らは知る由もないが、ユージオは魔法が使えない。

唯一の攻撃方法は今失われた。

 

 

______少なくとも、そう考えているのは相手だけだが。

 

瞬間、ユージオは大剣使いから逃げるのではなく、自分から駆け出した。

大剣使いが驚愕する。

何せ、武器を失ったプレイヤーは例外なく、次の武器を出すか、逃亡するかの二択だ。

魔法は詠唱が間に合わないし、武器を出そうにもメインメニューを触る時間が今はない。故に、大剣使いはユージオが必ず後ろへ下がると考えていた。

 

その予想を裏切り、ユージオは大剣使いの斬撃を躱して_____

 

「_____ふッ!!」

 

「ぎッ______!?」

 

()()()()

渾身の右ストレートを大剣使いの顔面に叩き込んだ。

 

被っていた兜が外れ、自分自身も吹き飛ぶ大剣使い。

HPゲージは____なんと、二割減った。

 

この世界ではソードスキルがない為、武器無しでの攻撃は1割も減ることは無い。

が、アインクラッドでの時代、ユージオの体術スキルの酷使で補われた身のこなしと体術独特のブースト技術の再現によって、普通ではありえない高火力が出た。

 

驚愕し、詠唱する忘れあんぐりと口を開けるサラマンダー達。

その場で動いたのは、ユージオだけだった。

 

追撃せんと、吹き飛んだ大剣使いを追う。

地面に叩きつけられた大剣使い。状況を完全に理解出来ない_____というよりも、理解したくないこの現状に舌打ちする。

早く立ち上がりユージオを殺さんとするが、

 

「はァッ!!」

 

体を起こした直後に顔面に、ユージオの左アッパーが炸裂する。

頭が地面に叩きつけられる。

 

そのまま、連打、連打連打連打連打。

合計8発の拳を喰らい、大剣使いは紅いエンドフレイムに焼かれて息絶えた。

はァ、と息を吐く。振り向いて敵を視界に入れた。

4人目。残り、10人。

 

正気を取り戻すサラマンダー達。

自分達が、何に喧嘩を売ったのかを悟ってしまった。

 

「_____もう、遠慮するな!どんな卑怯な方法を使ってでも殺せ!!」

 

リーダーのもう1人の大剣使いが突っ込む。

片手剣使いも同じように走り出した。

 

大剣使いの一撃を紙一重で回避し、左フックで牽制。片手剣使いは無視して、メイジ達へと駆ける。

 

後方の鬱陶しい回復役は早めに対処しなければ、せっかく減らした敵が増えることになる。

ユージオの回復阻止を阻止しようと剣を振りぬこうとした片手剣使い____直後、急ブレーキをかけて振り返ってその一太刀を左手で()()()()、そのまま顔面に右ストレートを見舞う。

 

「____しッ!!」

 

「ゔ!?」

 

メイジ達へと走ると見せかけた罠。

邪魔な盾を前に出させない為の(ブラフ)

まんまと騙された片手剣使いはユージオの打撃に怯み、そのままユージオは攻撃を続行する。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

 

7発の打撃で瀕死となった片手剣使い。手放された片手剣。

回り込んできた槍兵へと瀕死の片手剣使いをぶん投げた。ぶつかる2人。

その2人に向かって、片手剣を投擲する。

 

投げた片手剣が2人を串刺しにした。

片手剣使いは炎に包まれ、消えていく。残り9人。

まだ生きている槍兵を蹴りで吹き飛ばし、そのまま追撃せんと駆ける。

 

勝てる可能性が見えてきた____その時。

 

再びあのジャラジャラ、という金属音が響く。

咄嗟に回避しようとして______右手首に巻きついた。

 

「_____またか!」

 

ガチリ、としっかりと巻きついたそれ(チェーン)は、ちょっとやそっとではとれそうにない。

そのチェーンの先には弓を使っていたはずの弓兵。先程剣を奪ったサラマンダーだ。

チェーンを取ろうとした直後、三度のチェーンの音。

今度は左手首に巻きついた。

直後、

 

「_______っ!?」

 

強い力で左右から引っ張られて、十字架のように両手を広げてしまった。

ギチギチ、とそれでもなお強く引っ張られる。

左側にもチェーンを持ったサラマンダー。

 

______拘束された、とユージオは臍を噛んだ。

チェーンで武器を取られるのなら、こういうことも予想出来た筈。

もっと対処にしようがあったと悔やむ。

 

「よし、そのままだ………そのままだぞ………!!」

 

大剣使いが大剣を拾い上げ、真っ向斬りの姿勢で再び突撃してくる。

両手は使えない。

 

なら_____

 

「_____ああああッ!!」

 

「ぅげ_____!?」

 

脚を使うのみ。

逆上がりの要領で蹴り上げる。大剣使いの顎に右足のつま先がクリーンヒット。ズガッ、という子気味いい音。

後ろへ吹き飛ぶ大剣使い。

その時、大剣が手から滑り落ち、地面に突き刺さった。

 

「ま、まだやるのか……!?」

 

メイジ達から声が上がった。

チェーンで両腕を拘束された状態で尚攻撃を止めないユージオの覇気に、思わず怯む。

 

「クソッ、魔法だ!遠距離から丸焦げにしてやれ!!」

 

吹き飛んだ大剣使いのサラマンダーが起き上がりながら指示を飛ばす。

怯んでいたメイジ4人も、すぐさま詠唱に入る。

使うは勿論、火炎系上位魔法だ。

その分詠唱に時間がかかるが、拘束しているのなら問題は無い。

 

______筈だった。

 

それをすぐさま悟ったユージオが、両腕に力を込める。

左右のチェーンをユージオ側へと引っ張ろうとしている。

まず、拘束を解かなければ抵抗すら出来ない。

迅速な判断だった。

 

「ぐ、ぅぅうう_____!!!!」

 

全力で左右のチェーンを引っ張る。普通はたった一人、それも片手だけでこの拘束を解けるとは思えない、しかし。

 

「おいおいおい、マジかよ……!?」

 

「なんだ、この馬鹿力…!!」

 

左右から拘束のために引っ張りあっているサラマンダーの弓兵が驚きの声を上げる。

少しずつ、引っ張られている。動くとは思えないその位置関係が、覆される。

 

メイジの詠唱が完成するまで、残り7秒。

 

「何やってる!死ぬ気で引っ張れ!!」

 

「やってるっ…ての…!!」

 

大剣使いが癇癪を起こしたように叫ぶ。

弓兵が怒鳴り返した。

 

しかし、どんどん引っ張られていく。

 

痺れを切らした大剣使いが再びユージオに特攻する。

今、拘束から逃れようと全力を出し、意識をそちらに回しているのなら、反撃は無いと大剣使いは判断した。

それは正しい。

ユージオも流石にそこまで意識は裂けない。

今攻撃されればまともに攻撃を受ける。

 

詠唱完成まで、残り5秒。

 

「______ぅぁああああッ!!!!」

 

「なっ______!?」

 

「うお!?」

 

ユージオが雄叫びを上げて一気にチェーンを力強く引いた。

弓兵が完全にその力に負け、チェーンに引っ張られて宙に浮く。そのままユージオの元へ飛んで_______

 

「はァッ!!」

 

渾身の打撃を左右に振り抜く形で2人の弓兵の顔面に叩き込んだ。

吹き飛ぶ弓兵達。手放されるもののユージオの腕に巻きついたままの左右のチェーン。

 

残り3秒。

 

「____巫山戯んなァ!!?」

 

大剣使いが斬り掛かる。

ユージオはそれを間一髪で回避し、大剣使いの顔面に2発拳を叩き込んだ。

 

「ぐ、ぇ______!?」

 

後方へ吹き飛ぶ大剣使い。

手から離れ、地面に突き刺さる大剣。

 

残り2秒。

 

ユージオはチェーンが巻きついたままの右腕を落ちた大剣へと振るう。

それに伴って、チェーンも大剣へと伸びていく。

そして、チェーンは大剣の柄にしっかりと巻きついた。

少し引っ張り、巻き付きが強固であることを確認する。

 

残り、1秒。

 

直後、()()()()()()()()()()()()()()、メイジ達へと振るった。

 

「_______ステイパ・ランドr____え?」

 

詠唱完成まで後1句に迫った0.5秒前。

メイジ4人を大剣による斬撃が襲った。

 

「ぎァ____!?」

 

「いぎィ____!?」

 

4人のうち、2人が斬撃に巻き込まれた。巻き込まれた2人は吹き飛ばされてしまった。HPゲージは7割消し飛ばされている。

後ろにいた二人は攻撃を免れたが、急な斬撃に詠唱を途中で止めてしまった。彼らの周りに展開されていたスペルが霧散すした。

ズドン、という鉄塊が地面に勢いよく地面に落ちる音が響く。

 

ALOにおいて、魔法の詠唱は完全でなければならない。詠唱の1句でも間違えれば、その魔法は失敗(ファンブル)する。勿論、失敗した場合は最初から詠唱し直さなければならない。

システムが反応するように一定量の声量と、正しい発音で詠唱する必要がある。

故に____完全に詠唱し終わった魔法を1つストックする方法はあるものの、途中で詠唱を止めてしまったり、誰かと会話してしまおうものなら即座に失敗する。

 

 

彼らの上位火炎魔法も、詠唱中断により失敗(ファンブル)した。

大剣使いは武器を失い、弓兵はまだ弓を背中に装備したまま。槍兵はフォローしようとこちらに向かってくる。

しかし。

 

それはユージオの右手の一振りで止まった。

 

「ひぃ!?」

 

「う、おお!?」

 

槍兵二人ギリギリに大剣の斬撃が飛んでくる。

 

「________!!」

 

再び、ズドンという鈍い音。

大剣の本来の攻撃範囲は広くて半径2mあるかどうか。槍兵二人とユージオの距離は6m以上離れている。

しかし、ユージオは大剣とチェーンを組み合わせることで、射程を本来の3倍まで伸ばすことに成功した。

 

接近戦しか出来ない筈のユージオは、6mもの攻撃範囲を得た。

緊張が走る。

与えてはならないもの(武器)を与えてしまった。

後にあるのは____

 

「_____はぁぁぁあッ!!」

 

 

()()である。

 

 

振るわれる鎖で繋がれた大剣。

超火力の大剣が最大6メートル____両手槍以上の攻撃範囲を持って一方的な蹂躙を開始した。

右手に巻きついたチェーンを右手で持ち、片手で回し続ける。

少しでも近付けば体を両断されるだろう。

 

圧倒的な暴力。

竜巻の如く、ユージオを中心に斬撃の嵐が巻き起こる。容易に近づくことはできない。

敵の攻撃や拘束を自分の味方につけて利用し、ユージオはラストスパートをかける。

 

「ぎゃああああ!?」

 

「ひぃあ!?」

 

振るわれる大剣にまた斬られて一瞬でリメインライトへと変わるメイジ二人。

残るは7人。

メイジは半分消え、もう半分のメイジもHPはほぼレッドゾーンギリギリ行かないくらいの虫の息。ユージオの攻撃ならあと一撃で終わる。

 

左手を小刻みに揺らし、左腕に鎖を一気に巻き付けた。

 

「______ちっ、要は大剣を避ければいいんだろ…!」

 

その時、先程大剣を奪われた大剣使いが予備の武器を携えて駆けてくる。

彼が言いたいのは、攻撃として気をつけるべきは鎖の先端にある大剣のみであり、それさえ回避してしまえば後はダメージを喰らわない鎖だけという事。

鎖で繋がれているが故に遠心力で通常の大剣の倍以上の重さをユージオが耐え続けていると見抜いた。ならば、中々動くことは出来ないはずだ…という事だ。

 

「お前ら、こいつに移動させるな!!」

 

檄を飛ばす。

鎖を手放してしまった弓兵達も弓を再度とり、狙撃してくる。

 

死点は、大剣による攻撃1つのみ。

それさえ躱してしまえば接近は容易い。

自分のみに攻撃の焦点を絞ってしまえば周りへの攻撃が疎かになる。ユージオが1番避けたいのは多数からの同時攻撃又は飽和攻撃。

なら、もしかすると彼が優先するのは周りへの牽制ではないかと考えついたのだ。

 

「_____ッ!!」

 

「_______く、ぉ……!?」

 

大剣使いはユージオ渾身の一撃をスライディングでギリギリ躱した。

後は、鎖に巻き込まれないように避けて斬りかかればほぼ勝ちだ。

 

走る大剣使い。振るわれる鎖に繋がった大剣。

3度鎖を避けて、ユージオへの辿り着く。

 

「これでも食らって死ねや_____!!」

 

最後の一撃。

大振りの一撃にユージオは____左腕をかざした。

 

ギャリン、という金属音が響く。

 

「_______は?」

 

彼の一撃はユージオに届かなかった。

斬撃を受けたのは、鎖がぐるぐる巻きになった左腕。

鎖が______即席のチェーンアームとして機能した。

大剣を左腕で受け流す。

 

「なん、だよそれェ___!!」

 

大剣使いは思わず怒鳴ろうとして、ユージオの正拳突きを顔面に食らった。

吹き飛ぶ大剣使いへ、ユージオは逃さずそのまま大剣の斬撃を食らわせた。

 

「ぎぃ、あ___」

 

直後、大剣使いも紅い炎を撒き散らして、エンドフレイムとなった。

残り、6人。

 

そこからは、ほとんど消化戦に近い。

連携は木っ端微塵に砕け、半分以下となったパーティメンバー。そのほとんどが手負いであり、ユージオに対し恐怖心を抱いていた。

無理もないだろうが。

 

「____油断はしない」

 

残りのサラマンダーを視界に収める。

弓兵が2人、術士が2人と_____槍兵が1人。

考えていた残り人数と計算が合わないことに疑問を抱きながらも、攻撃を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____アレは、関わっちゃいかん奴だな」

 

森の中、走る人影があった。

先程まで戦闘に参加していたはずの槍兵の1人。

彼はリーダーの大剣使いが死んだ直後にパーティから抜ける事を決めた。勝てないのは明らかだ。もとより14対1で善戦していた化け物に、その半分の人数で勝てる筈がない。

 

彼は、冷静に物事を考えられる男だった。

ビギナーっぽいプレイヤーに負けかけているから、と頭に血が上って負け戦に挑むような男ではなかった。

 

自分の実力にはそれなりに自信はあった。別にサラマンダーの戦士の中で一強い…なんて、変な驕りはない。ただ、中堅クラスの上位に食い込めるくらいの実力があると自負していた。

 

しかし、今回の実質的敗北。

明らかに勝てない。

 

白兵戦を挑んだが、戦えたのはたった数秒。

ひたすらに相手の攻撃を捌くだけだったが、それだけでも実力は計り知れた。

自分がアレに勝てない側の存在であることは彼がよく理解していた。

 

「運が悪かった、としか言えない」

 

エンシェント・ウェポン欲しさに即席パーティに参加したが、これでは割に合わない。

もとよりパーティメンバーに知人はいない。

 

厄介事には首を突っ込まない、彼のモットーだった。

 

 

しかし、彼にも誤算があった。

 

ユージオが逃がしたレプラコーンの少女。

_____彼女がユージオを助けようと森に戻ってきていたこと。

 

「「________」」

 

()()()()()

 

視界が良好とは言えない林の中、ばったりと。

一瞬の硬直。

考えていなかったプレイヤーとの遭遇に思考が停止する。

 

少女の方は既に戦う準備が出来ていたようだが。

 

「____やァ!!」

 

「ぅ、お!?」

 

槍兵の首元へ一閃。

辛うじて避けた槍兵は即座に距離を取ろうと後ろへと跳んだ。

 

「_____アンタ」

 

ウンディーネに逃されていたハズの少女に目を見開く。

彼女の右手に握られているのは無骨な片手剣。彼女が打ったであろうそれ。

 

槍兵も槍を構える。

武器のグレードとしては槍兵の方が上回っていた。

そして、スキル熟練度的にも。

 

「____はァッ!!」

 

「____シッ!!」

 

振るわれる剣、それを防ぐ槍。

 

彼女にとっての戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ互角。

 

スキル値や武器のグレードに至るまで全て槍兵が上回っているというのに、それをかの世界での記憶が______技が、足りない物を補う。

 

「___っ!!」

 

しかし、それでも彼女にとっては厳しいものだった。

彼女は《ソードアート・オンライン》の世界を生き、生還したいわゆる《SAOサバイバー》な訳だが、もとより最前線で戦っていた訳ではなく、SAOクリア時には鍛治スキルを鍛えるためNPC鍛冶師と共に山に篭ろうとしていた所だったので他より戦闘経験があるという訳では無い。

『切り札』と言えるものもあるにはあるが、付け焼き刃で通じるかどうか怪しい。

 

彼女がこの世界に来てからというと、約一週間の間ログインした時間は殆どを鍛冶に使ってしまっているのもあってALOでの戦闘経験はお世辞にもあるとは言えない。

魔法の使い勝手も知っている訳でもない。

使ったことのある魔法は、戦闘に使えない鍛治魔法くらいだった。

 

「_____せやぁ!!」

 

いずれ集中力が切れれば彼女が負けるのは目に見えている。

 

しかし、彼女の注意は既に散漫になっていた。

今考えているのは、この状況を打破する方法について。

自分に出来る精一杯の抵抗は白兵戦だけなのか。

 

逆転出来る何かを、探している。

 

彼女には《切り札》を持っているが、それを使うにはメインメニューの操作が必要になる。

武器をもう一振り取り出す必要がある。彼女は今一振りしか剣を装備していなかった。

ほんの数秒でいい、相手の攻撃を止める何かが欲しい。

 

彼女の技術では正面切っての先頭では隙が作れない。スキル熟練度、武器の性能、両方相手に分がある。

では何がある?

 

魔法か?

それは無い、と彼女は選択肢を捨てる。

彼女は攻撃魔法も防御魔法もどちらとも覚えていない。しかも使うにはそれなりに詠唱に手間がかかる。

 

出来ても、時間がかからない3つ以下の単語で完結するような初級魔法でしかこの場では使えないだろう。

 

彼女が覚えていてなおかつそれなりに使ったことのある魔法は、一つしかない。

《鍛治魔法》。

種族《レプラコーン》特有の魔法で、釜に複数の武器を同時投入が可能なものだ。

知り合いの話だと、この魔法の熟練度を高めれば高めるほど収納出来る武器の数が多くなるらしい。

 

この魔法が今、役に立つだろうか。

剣を振るいながら思考する。

しかし、このジリ貧の状況を乗り越えるには何かキッカケが無ければ。

 

「_____はッ!!」

 

考えていても仕方が無い。

やれるだけやってやる、と息巻いて相手の槍を全力で弾いた。

 

瞬間、槍兵に向かって手をかざし、()()()

 

「____ek(エック) kalla(カッラ) maekir(メキアー)!!」

 

「__________!!」

 

魔法の発動に驚くも冷静に対応する為後ろへ下がろうとする槍兵。

彼は瞬時に考えた。『今の魔法の効果は一体何なのか』と。

彼もこのゲームを初めてそれなりに長いので魔法の詠唱の単語単語の意味は代表的なものならば知っている。

ek(エック)は『私、我』、kalla(カッラ)は『呼ぶ』という意味だ。maekir(メキアー)の意味は忘れてしまったが。

 

直後、何かが彼に飛来する。

 

ドスッ、という鈍い音。

 

「な_______!?」

 

右肩に突き刺さった何か。

それは、鈍色のショートソードだった。

HPゲージは2割削れた。奇跡的に鎧の隙間を縫うように突き刺さった。

彼はmaekir(メキアー)の意味が《剣》であることを悟った。

 

「ぅ、あっ…!?」

 

咄嗟に槍で払おうとするも、右手から槍が滑り落ちる。

直後、少女の一撃が腹を斬り裂いた。

 

「_____!!」

 

「___ちィ!?」

 

即座に足で槍を蹴り上げて左手で受け止める。しかし、槍兵の使う槍はどちらかと言うと両手槍____片手で扱えるものではなかった。

取り回しは通常より何倍も難しく、攻撃速度は見る影もない。

 

辛うじて攻撃をするも、簡単に防がれた。直後、

 

ek(エック) kalla(カッラ) maekir(メキアー)!」

 

第2射。

左胸に命中した。

 

「ぎ_____!?」

 

速度としては速い訳では無い。防ごうと思えば出来るだろう。しかし、1射目は不意をつかれ、2射目は槍を落とし拾ったものの迎撃出来るような状態ではなかった。

 

これは、彼女が未来辿り着くであろう技術_____《多刀流》の始まりの一歩となる事を、彼女自身知らない。

 

少女の記憶ではこの鍛治魔法にしまっている剣の本数は三本。残弾数___()()()は一本のみ。

使い切れば後がない。できるだけ切り札は温存する。

 

「____畜生ッ!!」

 

第2射を受けた槍兵が空を飛んだ。

勝てる見込みが無いのを悟って撤退するつもりか。

 

「____逃がすかっ!」

 

彼女も羽を出して空を駆ける。

 

確かこの先で戦闘音が鳴り響いていた。助けてくれた彼がまだ生きているとは考えにくいが、一刻も早く彼を助けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイジ2人と弓兵も既に1人残り火(リメインライト)となっている。

残るは槍兵と弓兵のみ。

弓兵はユージオの視界内に入っているので攻撃タイミングは分かる。槍兵も先程から接近してきていない。

 

まずは、厄介な弓兵から。

 

「_____はッ!!」

 

上から叩きつけるような斬撃。それを弓兵はギリギリで回避した。

しかし、ユージオの攻撃はそれで終わらない。

竜巻の如くユージオを中心に斬撃が繰り出される。

 

しかし、何を考えたか、弓兵がなりふり構わず突進してきた。

 

「うおおおおおぉ____!!」

 

あからさまな突撃に瞬間様々な可能性を考えたが、すかさずユージオはその弓兵に鎖付き大剣で斬撃を食らわせる。

 

「げ、ァ______!?」

 

真正面からの一撃。

先程とは違い、回避行動無し。

おかしい、とは理解しているが、無視することも出来ない。

 

と、その時。

 

「かかった、なァ_____!!」

 

「____!?」

 

ニヤリ、と弓兵が嗤う。

嫌な予感がして、鎖を思いっきり引っ張って戻そうとしたが、既に遅かった。

 

弓兵が手を伸ばして大剣に繋がった鎖に触れる。そして、何かメニューを開いた。直後_____()()()()()

 

「な________」

 

ユージオの右手に絡みついていた筈の鎖が一瞬で消えた。

 

「まさか____!」

 

ユージオは遅れて理解した。

あの弓兵こそが、ユージオの右手に鎖を巻き付けた張本人だ。

ならば、アイテムの所有権は彼が持っている。先程鎖が消えたのは、持ち主たる弓兵が鎖を直接アイテムストレージにしまったから。

 

大剣が腹に突き刺さったままの弓兵は笑ったまま、炎に包まれていく。

 

「____ナイスガッツ…!」

 

突撃してくる槍兵。

武器を持たないユージオ。

 

「___しまった」

 

相手は中距離武器の両手槍。大剣を失ったユージオは体術で戦うことしか出来ない。少し相性が悪い。

左手の鎖は完全に巻き付けてチェーンアーム代わりにしているため、武器に出来るくらい解くには時間がかかる。少なくとも、槍兵と接敵するまでに解くのは不可能だ。

 

一撃目を屈んで避けて、二撃目を後ろに飛んでやり過ごす。

ユージオのHPは攻撃をほとんど食らっていないとはいえ、反動でここまで7割以上削れている。

防戦一方となれば、鎖で防げるとは言ってもあまり保たない。

 

逡巡したその時、後ろから気配を感じた。

そして、飛行音。

先程見失っていた槍兵が戻ってきたのか、と驚くユージオ。

 

「使ってぇ_____!!」

 

しかし、聞こえた声は知らない少女のものだった。

直後、飛来する何か。

その少女の声に敵意がないことに気付き、ユージオはその飛来する何かに右手を伸ばし_____掴んだ。

 

「______な」

 

ユージオが掴んだのは、長剣だった。

土壇場で手に入れた武器。

誰が渡してくれたのかは分からないが______ユージオはそのままその長剣を肩に担ぎ、左手を槍兵へとかざし狙いを定める。

アインクラッドで何千回と放ってきた、片手剣ソードスキル。この妖精の国ではソードスキルは発動しない。

 

「畜生ォオォォ____!?」

 

「______はァァァァァ!!」

 

だから、()()()()()()()

片手直剣突進技《ソニックリープ》。

最速の剣撃を相手に見舞う。目にも止まらぬ一撃が______両手槍諸共、槍兵の左肩から右腰まで斬り裂いた。

 

「_____く、そ…」

 

槍兵はその一撃でリメインライトへと変わっていく。

そして、ユージオは背後から飛んでくる誰かに向かって____剣を突きつける。

 

「_____マジ、かよ」

 

驚愕しているのは、先程見失っていたもう1人の槍兵だった。右肩と左胸にショートソードが突き刺さっている。

 

後ろから追ってきているのは、先程逃がした筈のレプラコーンの少女。彼女も流石に驚いている。

周りには、まだ消えていない《残り火(リメインライト)》計9個。

 

「僕の勝ち______で、良いかな」

 

そう問いかける。

 

「………降参だ」

 

HPゲージが既にレッドゾーンへ突入した槍兵は槍を手放し、両手を上げて降伏を告げた。

 

 




各々の信念が、意地がぶつかり合う。
その果てに______終わり(勝利)がある。



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勝者

お待たせしました。
戦闘後のお話です。短めなので次は早めに投稿……出来るといいのですが…
どうぞ〜


 

 

「…もう抵抗の意思はないよ。流石にこの惨劇を見れば誰だってやる気失せるだろ。無駄死にはしたくないんだ……デスペナが惜しい」

 

「デスペナ…なんと言うか、潔いいですね」

 

サラマンダーの槍兵の降伏を受けて、武装を解除したユージオとレプラコーンの少女。

勿論、槍兵も武装を完全解除し、鎧さえも装備していない。現在正座中だ。

 

「…ちょっと待ってくれ。話は1分ほど待ってくれないか」

 

急に周りを見つつそう告げられ、ユージオとレプラコーンの少女は彼を見張りながら1分間待った。

周りにあったリメインライトは次々と消えていき、最後の一つと消えていった。

 

「……ふぅ、これで聞かれることは無いな」

 

「聞くって…?」

 

「当たり前だろ?HPゲージを全損して残り火(リメインライト)になっても意識はまだそこにあるんだ。死んでから1分間はな」

 

「…そうか、死んだこと無かったから知らなかったよ」

 

初めて聞くその情報に内心驚きながらも頷きながらそう答えた。『死んだことないって、そんな事…』と呟いく槍兵。

完全に初心者という事がバレるのはあまりよろしくない。舐められてしまうのは避けたかった。

 

「……いや、アンタなら有り得そうだな」

 

「…なんて言うか、そんな目で見ないで欲しいかな。元から強かったわけじゃないよ。2、3ヶ月前まで別のゲームをやってたから、体の動かし方は知ってたからね。このゲームを始めたのもそれくらい前だし…」

 

バレない程度の嘘をつく。2、3ヶ月前まで別のゲームをやっていたのは本当だ。まぁ、誰もそれが()()ゲームだとは思うまい。

 

「実を言うと、臨時で組んだパーティに参加しただけでな、別に知り合いじゃない……だから、逃げようとしてたんだ。運悪くレプラコーンの姉ちゃんと鉢合わせたりはしたがな。

分かりやすく言えば、命乞いだよ」

 

「はぁ…」

 

「一応、俺として殺さないでくれると助かるんだが…アンタが言うなら金もアイテムも置いてく」

 

「…えっと、それは僕が決めることじゃないかな」

 

ユージオはそう言うと、チラリと後ろのレプラコーンの少女の表情を伺う。

何せ、今回の本来の被害者は彼女だ。ユージオとしては勝手に助けて勝手に戦っただけなので、彼を許すかどんなペナルティを貸すかは彼女が決めるべき事だ、というのが彼の考えだった。

 

「あ、ああ、確かにそうだな」

 

「……ありがとう、私に振ってくれて助かるよ」

 

後ろで様子を見ていたレプラコーンの少女が前へ出てくる。

 

「とりあえず…私は別にあなたを恨むつもりはないから、安心して。これはゲームだし、それに私も全く対策してなかったのも悪かったから」

 

ユージオは彼女が狙われた理由は知らないが、ここはあまり聞く事はやめておいた。

 

「ペナルティも無し、でいいよ」

 

「…マジ?」

 

「…マジ。実際、私は襲われただけでアイテムは奪われなかったし、死んでもないし…まぁ、そこは彼に助けて貰ったからだけど」

 

「あ、ありがたい。さすがに何もお咎め無しとは思わなかった」

 

「…それでいいかな?」

 

こちらの様子を伺うレプラコーンの少女。それにユージオは頷いた。ユージオとしては意見しようとは思っていない。

それが被害者たる彼女の総意なら、それでいい。

流石に、殺すと言い出したら止めようとは思っているが。

 

「……ありがとう」

 

「じゃあ、早めに帰ってね。流石に私も完全に怒ってないって訳じゃないから」

 

「ああ、そうさせてもらうよ」

 

その槍兵は立ち上がり、そのまま羽を出して空を飛ぼうとして、振り返った。

 

「そうだ。アンタ、名前は?」

 

「僕の事…?」

 

「ああ、流石にアンタとまた殺り合うのは嫌なんでね。知り合いにも知らせておきたい。初期装備のウンディーネには近付くなってな」

 

「別に、初期装備以外にもあるけどね。僕はユージオ」

 

「…ユージオ、か。

分かった。それと、アンタは?」

 

「…私?私は、レイン」

 

「レイン、だな。なんと言うか、すまなかったな」

 

「…次は返り討ちにするからね」

 

槍兵は2人の名前を聞いて、そのまま夜の空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

「…改めて本当にありがとう。助かったよ」

 

「気にしないで。僕が勝手に首を突っ込んだだけだから」

 

静かになった林の中、2人は改めて向き合って挨拶を交わした。

2人が顔を合わせたのは、1分程で、会話もほとんど交わしていなかった。

 

「____ふぅ」

 

どさり、と木を背にして座り込んだユージオ。

集中力がプツリと切れたらしい。先程まで神経を尖らせていたが故の反動だ。

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫、心配しないで。ちょっと集中力切れてちゃってね。流石に1対14は厳しかった」

 

「…本当にフルパーティと真正面から戦ってたの…?」

 

「うん。1対4くらいなら経験あるんだけど、今回は数が多過ぎたね。投降したとはいえ、みっともない姿を見せるのは避けたかったんだ。見栄を張っておいて正解だった」

 

目を閉じて頭を片手で抑える。過度な情報処理は仮想世界であっても身体____脳に悪い。現実世界でも少し彼の顔が険しくなっているかもしれない。

空中戦ではなかった為360度全方向を注意することは無かったが、それでも目紛しい視界の情報処理にユージオもダウンしてしまった。

 

頭の次はこめかみを抑える。別段、こんなことをしても意味は無いが、現実世界での名残りだ。

 

「じゃあ、改めて……私はレイン、レプラコーンだよ」

 

レイン、と名乗る少女は手を差し出してきた。

笑顔で握手する2人。

 

「丁寧にありがとう。僕はユージオ、種族は……そう、ウンディーネ…だったよね?」

 

「…どうして疑問形?」

 

「えっと、その……実を言うと、30分前に初めてこの世界に来たばかりなんだ。種族云々も選んだのついさっきだし…」

 

「え!?び、ビギナーなの!?」

 

今の今までフルパーティを完全迎撃しておいて初心者宣言はあまりにも説得力が無い、と彼女は言いたいのだろう。

確かに、実際フルパーティを2つ壊滅させた人がそんなことを言っても信じる人は少ない。

 

「ほら、装備は初期のままでしょ?武器だって、ショートソード一本だけだったから」

 

「…うーん……嘘は、ついてないんだね」

 

「本当だよ。初めてログインしたら、なんでかよく分からない林の中に落っこちちゃって…」

 

「バグかな?あんまりこのゲームのバグは聞いたことないけど…まぁ、私もこのゲーム長くやってる訳じゃないし私にわかることなんてほとんど無いけどね」

 

首を傾げるレイン。基本、この手のゲームはシステムがほとんどコントロールしているため、バグは見つけ次第修正される。ゲームの攻略サイトやSNSなどでバグを発見したと書かれた1時間以内にはすでに修正されているだろう。

 

「確か、ウンディーネの領地って結構遠いよね?」

 

「え?いや、その……バグでここに来たから、ウンディーネの領地も行ったことがないなぁ」

 

「うーん…これから君はどうするの?私的には何かお礼したいんだけど…」

 

「お礼は別に気にしなくていいんだけど…」

 

レインが助けてくれた礼をしたい、と言ってくれたが、ユージオにとって別段このゲームの中でレアアイテムが欲しい訳では無い。彼の目的は____世界樹へと辿り着くこと。

 

「あ、じゃあ、お礼の代わりだと思ってくれればいいんだけど、世界樹のある街……確か《アルン》だったっけ。そこまでの道を教えて欲しい。用があってそこに行かなきゃいけないんだ」

 

「アルンに用?」

 

「うん、会いたい人がいてね。レイン、君が良ければの話なんだけど…」

 

「いいよ、私が案内してあげる!私も目的地がアルンだから」

 

「え、いいの?会ったばかりなのに…」

 

ユージオも流石に断られるかと考えていたが、レインは快く応じてくれた。

 

「行きたいんでしょ?アルン。私もアルンにお使いクエストでいかなきゃいけないしさ。ちょっと…というか、かなり時間がかかるけどね」

 

「時間がかかるって……どれくらい?」

 

「うーん……ここからだと、3時間かからないくらいかな。ユージオ君は時間大丈夫?」

 

「大丈夫だと思うよ」

 

ユージオはメインメニューを開き、時間を確認した。現在の時刻は12時37分。昼食も既に済ませてあるし、今から3時間ならば病院での夕食にも間に合うだろう。

ティーゼを一人にするのは心苦しいが、彼は後で謝り倒すことにしようと心に決めた。

 

「分かった。私もアルンに辿り着く予定で来てたから」

 

そう言って、メニューを閉じて羽を展開するレイン。

ユージオもコントローラーを左手に呼び出して羽を展開する。

 

「あ、そうだ。この剣、返さないと」

 

先程の戦闘でなんやかんやあって使っていた彼女の長剣。それをレインに手渡そうとするユージオ。

 

「それ?大丈夫、持ってて。流石にショートソード1本じゃこれからの道中厳しいだろうから。私も、アルンへは戦闘は避けたかったんだけど、出来れば君に戦闘を担当してもらいたいと思ってるしね」

 

レインはそう言ってふわりと空へ浮かび上がる。

ユージオは頭を掻きながら照れくさそうに、ありがとう、と言って空へと上がって行った。

 

 

 

 

 

 




勝利の余韻に浸ることはなく、進み続ける。
次の戦いへ。


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理由

お待たせ致しました。
今回はレインについての深掘り要素が多数存在します。
ちょっと元設定とは違う点もありますので、ご注意をば。




!警告!
()()()()()()()()()()()()() ()-()()()()()()()()-() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
ネタバレが嫌だ!という方は読まない方がいいかもしれません。






では、どうぞ。


 

 

妖精の国、そのレプラコーン領方向にある林。それを超えた先にあるのが、世界樹の街を囲むように聳え立つ山脈。

その山々は飛行可能な妖精であろうと頂上に辿り着くことは出来ない。山を足で登ることなら出来なくもないが。

 

大抵アルンへ行こうと山脈を超える為には山脈の所々にある洞窟を通らなければならない。シルフ領の街スイルベーンからならルグルー回廊を通り山脈を超える。

しかしながら例外はいくつか存在する。その例外というのが、山脈にある谷だ。比較的低い座標にあるため、空を飛んで山を超えることが出来る。代表的なのは、サラマンダー、ウンディーネ、ケットシーの領に繋がる大きな谷だが、レプラコーン領側にも小さくはあるものの存在する。

 

とはいえ、ここを通るプレイヤーは多くない。ここにはハイレベルな飛行型モンスター達がわんさかポップする。ここを正攻法で通れば、ハイレベルモンスターとの戦闘は避けられず、洞窟よりも時間がかかるだろう。

高速で飛べるならモンスターとの戦いを無視出来るかもしれないが、残念ながらレプラコーンは軽量系妖精では無い為モンスター達を振り切れない。

 

例外なく、難易度の低い洞窟を通る事をレプラコーン達は選ぶ訳だが_____彼らは違った。

 

 

 

 

 

 

『_____グォ!?』

 

『……ギャ?』

 

「~~~~~~~!!」

 

ハイレベルなモンスター達が空を飛びながらプレイヤー達を待ち構えている中、風のようにその間を駆け抜けていくウンディーネがいた。

そのスピードに気付くモンスターと気づかないモンスターがいる。

たとえ気付いても反応出来ていないが。

 

「______おとうさん、前方に4体!右に避けて!」

 

「分かった!」

 

シャルの声が胸ポケットから聞こえた。

彼女の誘導に従って右に避ける。

風を切るようなスピードの飛行にレインは声にならない悲鳴を上げつつ、ユージオにお姫様抱っこのまま空を駆けていく。

 

「シャル、あと何メートル?」

 

「あと120メートル_______このままなら8秒で抜けられるよ!」

 

この谷を抜けるために最高速度で飛んでは隠れ、飛んでは隠れを繰り返してきた。飛行には制限時間がある。いつまでも飛んではいられない。

ユージオの滞空時間は残り23秒。

 

「レイン、もう8秒耐えて___!!」

 

最高速度でぶっちぎる。

ハイレベルな筈のモンスターの横を通り過ぎていく。

谷を抜けるまで目の前に迫った残り3秒。

三体のモンスターがポップした。

 

「_____!」

 

「おとうさん!」

 

かなり小さめのドラゴンだ。大きさだけで言えばユージオの3倍はある。

この速度を維持した状態では回避出来ない。

 

「___レイン、下の方へ飛んで!!」

 

「え!?わ、分かった!」

 

レインを下ろす。

ドラゴン達のタゲはユージオがとる。レインはユージオと違ってコンバートされていない。よってこのモンスターとやりあうには不安が残る。

 

だから、彼が三体同時に相手取ることを選んだ。

 

レインは既に羽を展開して下へと飛んだ。

ユージオはタゲ取れるようにそのまま突撃する。

羽の限界まで残り16秒。

 

「ふッ____!!」

 

すれ違いざまに抜剣、斬撃を一体の首へと叩き込んだ。

どんな生き物であろうと首と胴体がチョンパしてしまえば死ぬ。それはゲームの中のモンスターでも変わらない。

ドラゴンはもとより硬いのでハイレベルな武器でもそんなこと滅多に出来ないが、ユージオはそれが出来るほどのテクニックと、凄まじいまでの速度があった。

 

「ゲ________!?」

 

首チョンパ。

首と胴体がサヨナラを告げる。

HPゲージは一撃で吹き飛び、死んでいく。

 

「ギギャァァァア!!」

 

残り2体のうちの一体が襲いかかってくる。

 

「________ああッ!!」

 

「ゲギ_____!?」

 

その鋭い爪の一撃を回避し、長剣を逆手持ちにして()()()()()()()()()()()()()()()

例え装甲が厚いドラゴンであろうと、体の中は別だ。

その柔らかい肉を、難なく貫く長剣。

そして、柄を持ち直して振り返り、脳天ごと斬るように後ろから斬り下ろす。

落ちるまで10秒。

 

長剣がドラゴンの脳天から飛び出す。

トドメの回転斬り。

ドラゴンがポリゴン片となって爆散するのを見ることなく、最後のドラゴンへ翔んだ。

ユージオの飛行可能時間は残り8秒。

 

______3秒でケリを付ける。

 

狙うは、翼。

それさえ斬りとってしまえば追跡はしてこないだろう。

片方だけでいい。無理に倒す必要は無い。

ユージオはドラゴンの片翼に狙いを定めた。

 

「______ぜァア!!」

 

ユージオの出せる最速飛行速度でドラゴンの横を通り過ぎる。すれ違いざまの斬撃は______見事、ドラゴンの翼を完全に切り落とした。

 

『ギグガァァァァァァァァ!?』

 

谷底へと落ちていく片翼のドラゴン。

ユージオはレインが行った方向に翻り、谷を全速力で抜けていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

谷を抜けて数分後。限界まで羽を酷使した為しばらく羽を休ませることにした。なので二人は歩いてアルンを目指す。羽が回復しきったらすぐに飛行へ移るつもりだ。

 

「…ホント君戦い方滅茶苦茶だね」

 

「うーん…そうかな。一応僕に出来る最善手、最速の戦闘だったんだけど」

 

「いや、文句を言ってるわけじゃなくて、純粋にそのギリギリな戦い方に呆れてるというか…」

 

通常なら普通に相手をすれば一体5分ほどかかるだろう強敵を20秒以内に三体全員では無いにせよ殲滅したことに彼女は驚きを隠せなかった。

 

相手の攻撃が当たりそうになるギリギリまで引き付ける、モンスターの口の中に剣を突っ込む、ドラゴンの首を一撃ですっ飛ばすなど常人では考えられない攻撃ばかりだった。

ヒット(攻撃)andアウェイ(回避)というより、彼の場合はアタックandアタック(滅多刺し)だ。

 

「これくらいは当たり前だったんだけど…」

 

「当たり前だったって…キミ、このゲームの前に他のゲームやってたの?さっきのサラマンダーにしてた話、どこまでが嘘なの?」

 

「うーんとね……2,3ヶ月前まで別のゲームをやってたのは本当だよ。この戦い方はその時についたものなんだ。ここと同じように剣の世界だったから……まぁ、魔法っていうのはなかったけど」

 

「______もしかして、SAO…?」

 

「…ここまで言うと分かっちゃうか。凄い有名なんだもんね」

 

ユージオがあの時言った2,3ヶ月前、というのはあながち間違いではなかった。本当に2,3ヶ月前にはまだSAOをやっていた時期だ。

それにSAOは社会現象となった仮想世界の闇。日本が誇る現代社会の黒歴史だ。

1年半もの間、少しずつ風化しつつあったが、それでもニュースや新聞で定期的に取り上げられるなど日本を騒がせた。

しかも、そのSAOが終わったのが2ヶ月と少し前。今も被害者への対応やまだ眠ったままとなっている被害者の状況などがニュースで報道されている。

ここまでヒントを与えてしまえば誰だってわかるだろう。

 

「ホントにサバイバーなの?その名前もSAOの時の?」

 

「うん、一応この名前で…」

 

「じゃあ、キミがホントのユージオ君なの!?」

 

「ホントのって…?」

 

「攻略組の《青の剣士》でしょ!?黒の剣士とトップ2を張ってたっていう…!」

 

「…え?なんで知ってるの?」

 

しかし、レインの口から出た言葉は意外なものだった。

ユージオが攻略組である事を彼女は知っていたようだった。

世間にはSAO内での情報や個人の名前などは公表されていない。今まさにその情報をまとめている最中だ。こんな内部の情報を知っている人物など、限られてくる。

今情報をかき集めている政府の人間か、もしくは_____

 

「えっと……隠す必要もないかな。実は私もSAOサバイバー___帰還者なんだ」

 

「え!?」

 

_____彼女も同じようにSAOプレイヤーであるか、だ。

レインは恥ずかしそうに頭を掻きながらそう言った。

 

「中堅域のプレイヤーだったから面識はなかったんだけど、新聞とかで写真を見たことあったよ。ユージオ君達の活躍」

 

「うーん…なんと言うか、恥ずかしいね」

 

「SAOの中じゃ知らない人なんていなかっただろうし。私は、中堅域のその日暮らしって感じだったから。私も攻略に貢献したかったんだけどね、やっぱりレベルとか武器とかが追いつかなくって。だから、ちょっと諦めてたんだ」

 

アインクラッドの全てのプレイヤーにとって、攻略組は現実世界へ帰る可能性を追い続けるまさに勇者達だった。ある意味、戦うことを選ばなかった者達や中堅域で燻り続けている者達には眩し過ぎる存在だったのだろう。

"自分は止まっているのに、彼らは走り続けている"

その事実が、虚しい。

 

人にはそれぞれ向き不向きがある。前線で戦い続けられる強い精神性を持つ者はひと握り。例え、強い心を持っていても技術がなければ戦えない。

上へ上へと上がっていく事に強くなるモンスターとボス。求められるレベル値も計り知れない。

攻略組も、その例外ではなかった。同じように最前線についていけなくなり、辞めていくプレイヤーも数多く居た。

 

「……誰だって、諦めそうになるよ。僕も、50層のボス戦は心が折れそうになった。勝つことは出来たけど、これを続けられるか怖くなった時はあった」

 

「______でも」

 

「うん、戦い続けられた。仲間がいたから、友達がいたから。皆が居なきゃ、僕は最前線を走ってなかったよ」

 

そんな過酷な最前線で戦い続けられたのは、ひとえに仲間のおかげ。キリトやロニエ、アスナ、ユウキ、ラン、エギル、クライン、ディアベル、キバオウ_______そして、ティーゼ。

彼ら彼女らがいたからこそ、彼は戦い続けられた。

 

「……私は、さ。戦うんじゃなくて、武器を作ることで攻略に貢献しようって考えたの。だから、私は鍛治スキルの修行のために山篭りしようとして…そこで、SAOがクリアされたから貢献も何も出来なかったけどね」

 

「例え出来なかったとしてもレインなりに決意して行動に移したんだったら、自分を卑下することは無いと思うよ。

考える事と行動する事っていうのは天と地の差があるから。考えるだけじゃ始まらない。何も出来ない事が辛いのも、僕は知ってるよ」

 

アリスを連れ戻したい。けれど、自分にはそれを行動に移すことが出来なかったあの苦渋の6年間。大切な人のために、何も出来ないというのはとても苦しい事だということを、ユージオは痛い程知っている。

結局、彼はキリトとの出会いというきっかけがあったからこそ、再び立ち上がれた。そうユージオは思っている。

だから。

今度は自分一人でも歩き出せるようにしたかった。

後悔しない為に。

 

「…優しいね、ユージオ君は」

 

「そうかな」

 

「……でも、尚更私は疑問だよ。どうしてあんな地獄を見てきたのにまた仮想世界(ここ)へ?」

 

普通なら、あんな大事件の被害者になれば、仮想世界なんて行きたくないと思うのが当たり前だろう。

 

「…逆に聞くけど君こそ、どうしてここに?君にとってもあの世界は地獄だっただろう?」

 

「あ…まぁ、そうなっちゃうよね。うん」

 

とっくに羽は既に回復している。いつでも飛べるが、レインは気にせず話を続けた。

 

「確かに、私にとっても悪夢だったよ。ALOを始める時もちょっと怖かった。

けど_______」

 

「…けど?」

 

「…急な話だけどね。私、生き別れた妹がいるんだ」

 

「……妹さん?」

 

「うん。幼少期に両親が離婚して、お父さんが妹を連れて海外に行っちゃったんだ。私はお母さんと一緒に日本に戻って生活してたんだけど……SAO事件に巻き込まれて…」

 

離婚、という言葉にはユージオも聞き覚えがあった。

アンダーワールドでもその制度はあるにはあるらしいが、利用されたことはほとんどないとか。

現実世界では離婚は珍しいものでは無いとユウキ達から聞いている。

 

「…私は眠ったまま。流石のお母さんもパニックになって、離婚したお父さんに連絡を入れたんだって。『レイン()が寝たきりになった』って。

実を言うと、喧嘩別れみたいな感じだったからそれまで音信不通だったんだよね。けど、流石のお父さんもそれにはショックを受けて……妹を連れて私の所に様子を見に来てくれたの」

 

家族の問題についてこんなに詳しく聞いてもいいんだろうか、とユージオらちょっと不安になった。

 

「妹は、私のこと覚えてなかったんだけどね。それで、お父さんが私の事を心配して、定期的に私のところに来てくれるようになったんだ」

 

生き別れた妹との意識のない状態での悲し過ぎる再会。

例え、覚えていなくとも自身の姉がそうなっているなんてショックだっただろう。

 

「…それで、2ヶ月と少し前。SAOが終わって、目が覚めて。

いの一番に駆けつけてくれた。可愛い顔をクシャクシャにして泣いて抱きついて来てくれたんだ。」

 

「…また、会えたんだね」

 

「うん。でも、妹はちょっと訳ありで、現実世界じゃ忙しくしててね。海外に戻って色んなことしてたから。だから、それ以降あんまり会えてなくて…

そしたら妹がね、『良ければALOで会おうよ』って提案してくれて…」

 

「____納得出来たよ。妹と会うためにここにログインしてるって訳か」

 

「うん!ログインして直ぐに会えて…嬉しかった」

 

生き別れた妹との再会。

きっと、笑顔で会えたんだろうなと思うと。

ユージオにとって、それは眩し過ぎた。

 

「基本的にこっちでも忙しくしてるらしいんだけど、スケジュールガン無視して会いに来てくれたんだ…!」

 

「姉思いだね」

 

「うん、私の自慢の妹だよ!」

 

先程の暗い話の時とは真反対の笑顔で楽しそうに話すレイン。

 

「今日も確か、アルンでライブをやるっていう話を聞いてるし、もしかしたら会えるかも」

 

「ライブって……もしかして、アイドルみたいな感じなのかな」

 

似たような事をしている人はいた。ユナがアインクラッドで何度もライブ活動を行っていた。彼女の時もファンが沢山いて、握手会を開くこともあった。

 

「うん、そうなの!

普段こんなこと誰にも話さないんだけど……まぁ、ユージオ君にならいっか」

 

「…僕も会えるといいな」

 

「丁度着く頃にはライブが始まってる筈だから、終わり頃にきっと会えるよ」

 

レインがこの世界に来る理由。

生き別れた妹との繋がりの為だった。

 

「…じゃあ、私も聞いていいかな。ユージオ君、キミがここに来た理由」

 

「君と、似たような感じかな。会いたい人がいるんだ……いや、違うかな。()()()()()()がいるんだ」

 

「会わせたい、人?」

 

「…説明しにくいから、僕もなんて言えばいいか……分からないけど」

 

しかし、まだ未帰還者がALOで見つかったことはあまり知られていない。ネットにほんの少し画像が載っていただけ。ロニエとアスナのことを知っていても、あの画像にまで辿り着くとは考えづらい。

余計に言いふらすのは良くはないだろう。

 

「……SAO時代の友達と、こっちで会おうって感じかな。一人、ちょっと会えるかどうか分からないんだけど」

 

「その集合場所が、アルンってこと?」

 

「あそこは中立域だって聞いたから。それで、アルンに着いたら世界樹を攻略しようって話してたんだ」

 

「ログインして速攻で世界樹攻略かぁ…かなり無茶な気がするけど…」

 

ユージオの突飛なグランドクエスト攻略の話しに流石のレインも驚きを隠せなかった。

 

「____そんなに、難しいの?」

 

「うん、ワンレイド(49人)で挑んでクリア出来なかったって話は私も聞いたことあるかな」

 

ワンレイド、というと、SAO時代ではボス戦でのフルパーティだ。それでも勝てないとなると、何か重要な攻略情報を見落としているか、連携が足りなかったか。もしくは_______

 

「全滅だったの?」

 

「らしいよ。私もネットで見た程度なんだけど、敵が多過ぎて対処しきれないんだって。倒しても倒してもポコポコ増えて、あっという間に元通り。広範囲殲滅魔法も焼け石に水だったらしいよ。

まぁ、私は今のところ世界樹攻略には興味は無いかな。色々とリアルが忙しいし」

 

_______クリア出来ない難易度にされているか。

ゲーム運営側からすれば、グランドクエストというのはゲームを多くのプレイヤーに続けてもらう為の看板な訳だ。早々とクリアされては困るのかもしれない。それでもやり過ぎはしないはず。

しかし、須郷が裏で関わっているなら、有り得ないことは無い。

 

「……そっか。ありがとう、参考になるよ」

 

「参考になったらいいけど、その前にユージオ君は装備を整えた方が良さそうだね。流石に初期装備のままでは無理だと思う」

 

身体の初期装備のアレコレを指さされた。

 

「…確かに、アルンに行ったら一式揃えるよ」

 

「そうした方がいいと思う。多分お金はたっぷりあるでしょ?」

 

「どうして?」

 

「だって、サラマンダーを返り討ちにした時にいっぱい貰えてるだろうし、さっきまでのモンスターとの戦闘でも少なからず貰えてるはず。それと素材を使えば、かなり上等な物が作れるよ」

 

サラマンダー部隊との戦闘で手に入れたユルド()はたんまりある。先程の谷やそれまでの戦闘で手に入れたものも含めれば、素材もユルドも十二分にあるだろう。

レインのアドバイスにユージオはメニューを開き、金額や素材などを確認する。相場がどれ程か知らないのでなんとも言えないが、足りなければ余った素材を売ることも視野に入れることにした。

 

「____そろそろ羽が回復したかな。うん、バッチリ全回復!じゃあもうひとっ飛び行こう、ユージオ君!」

 

「分かっ………アレ、が」

 

二つ返事でコントローラーを出そうとして、ユージオら気が付いた。正面_____数キロ先に黒い柱のようなものが聳え立っていた。

 

いや、柱ではない。木だ。

その上に生い茂る草木がそうだと告げている。

ユージオの記憶上では、トップレベルに大きい木だった。アンダーワールドのギガスシダーの大木の何倍も大きい。

 

 

「あ、見えてきたね。そう、アレが世界樹だよ」

 

朝日が昇る。

このALOと現実世界の時間は同期していない。

それ故に、まだ現実世界では1時過ぎなのだが、朝日を拝むことが出来る。16時間で一日の周期が回っているので、時差ボケを起こすプレイヤーもいるのだとか。

 

その朝日に照らされて、世界樹の全貌が顕になる。

その下には、大きな町。

 

SAO時代のボス戦後。階段を上り詰め、扉を開いて次の層へと足を踏み込んだあの瞬間。

あの高揚感と恐怖にも似た緊張感。

 

それを、ユージオは感じたのだった。




補足:今作のレインは元設定の生き別れとなった両親の離婚はありましたが、レインがSAO事件に巻き込まれたことにより、復縁しています。再婚までには至っていないものの、既に妹との再会が現実世界でもALOでも済んでいます。

細かい設定の続きはまた追加していく予定です。
ロスト・ソング未プレイの為、自力で滅茶苦茶調べてきましたが、間違っている所があったらご指摘お願いしますm(_ _)m


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囚われの姫と《蟻》

大変お待たせしました。
ちょっと私事でありますが、卒論と就職活動で執筆活動が遅れております。すいません。今回はストックしていたものを投稿します。
時間軸は少しズレてはいますが、そろそろ彼女達目線での話を入れないといけませんね。
ということで、タイトル通りです。
どうぞ〜

ロニエの誕生日が少し前にありましたね。おめでとう、ロニエ!


 

 

妖精国の中心に聳え立つ巨大樹。

このALOにおける最大のグランドクエスト。

世界樹。

その上には、空中都市が広がっており、世界樹の攻略を目指す妖精達はその空中都市に辿り着き、光妖精(アルフ)に生まれ変わるべく、今日も飽くなき空を駆ける。

 

 

そのハズだった。

それはただの謳い文句。

空中都市なぞ、ないのだから。

世界樹の上に空中都市は無く、大きな鳥籠が一つあるだけであった。

 

 

 

 

その世界樹の巨大な枝で出来た道を悠々と歩く男がいた。

背中には、巨大な蝶のような羽根が生えている。細かい装飾が入った長衣を身に纏い、その頭には白銀の円冠。

造り物としか思えない程に整った端麗な顔立ち、切れ長の双眸は羽と同じエメラルドグリーン。

まさに『王』と呼ぶに相応しい格好である。

 

向かう先は、鳥籠。

自らが捉えた麗しい小鳥とそれに着いてきた者が囚われた、檻。

 

 

扉の横にあるメルヘンチックな世界観とはかけ離れたキーボードを指で叩く。パスワードを入れた。

カシャン、と音を鳴らし鉄格子の扉を開く。

そこに居たのは______2人の少女だった。

 

「_______ご機嫌よう、ティターニア」

 

その片割れの少女に声をかけた。

妖精の国の王女(ティターニア)》と呼ばれた少女はその男の呼び声に全く反応しない。

 

「今日もいい青空だ。僕達の出会いを祝福しているかのようじゃないか」

 

「_________」

 

「____いい表情だ、その表情が1番美しいよ。ティターニア」

 

少女は見向きもしない。

そんな彼女に男は語り続ける。

 

「今にも崩れそうな、その泣き出す寸前の顔がね。出来ることなら凍らせて飾っておきたいくらいに」

 

「_______したいならそうすればいいでしょう」

 

そして、初めて少女が答えた。

凛とした声。

 

「あなたならなんだって思いのままでしょうに。そうでしょう?システム管理者さん」

 

そう、吐き捨てた。

それに対し、男はやれやれと溜息をつきながら言葉を続けた。

 

「つれないことを言わないでおくれよ、ぼくが今まで君の手を無理矢理触ったことがあったかい?ティターニア」

 

こんなところ(鳥籠)に閉じ込めておいてよく言うわ。あと、その呼び方は止めて。私は()()()よ、オベイロン_____いえ、須郷さん」

 

そう言って、()()()は長身の男______《妖精の国の王(オベイロン)》と名乗る須郷伸之の顔を見上げる。

彼の端正な顔立ちは既にその下卑た笑みで台無しとなっている。

 

「いいじゃあないか。ぼくは《妖精王オベイロン》、君は《女王ティターニア》。プレイヤー(平民)共が羨望の眼差しを向けるアルヴヘイムの支配者……それで、ね。

君もいつになったらぼくに心を開いてくれるのかな_____ぼくの()()として」

 

「寝言は寝て言いなさい。せいぜい、あなたに向けるだろう感情は軽蔑と嫌悪____それくらいよ」

 

毅然とした態度で彼の言葉を拒み続けるアスナ。

それを見てニヤリと口角を上げた須郷は右手でアスナに触れようとして______パンッ、と払われた。

 

「______穢らわしい手でアスナさんに触らないで」

 

須郷の手を引っ叩いたのは、アスナの前で座るもう一人の少女だった。

アスナと違い、優美な服装ではない彼女。しかし、彼女にも2人と同じく羽根が生えていた。

焦げ茶の髪の少女。

 

「________君も手厳しいな、()()()()

 

そう呼ばれた少女はキッ、と彼を睨みつけた。

 

「私は《ムリアン》なんて名前じゃない」

 

彼女の名はロニエ。

何故かアスナと共にこの鳥籠に囚われてしまった一人だった。

 

「ふん……まぁ、君に関しては別にどうでもいいんだ。何せ、ティターニアが大事にしているからしょうがなく居させているだけでね」

 

ため息をつく須郷。

彼にとって、もう一人の彼女は想定外の存在だったらしい。

 

「まぁ、君も例外じゃないさ。君達はいずれ自分からぼくにその身を差し出すことになる。ぼくの思うままにね」

 

「気が触れたの?精神科に行った方がいいんじゃないかしら」

 

「ふふ、そんな事が言えるのも今のうちだ。すぐに君の感情はぼくの意のままになるのさ」

 

そう言って須郷は鳥籠の外____世界樹の下を見下ろした。

 

「この広大な世界に今や数万人の人間がフルダイブ技術を使ってログインしている。けど彼らは知りやしないだろうさ。フルダイブシステムが、ただの娯楽のためだけのものじゃないってね!」

 

彼は両手を広げ、芝居のように大袈裟に声を上げた。

 

「言っておくがね、こんなゲームはただの副産物にしか過ぎないのさ。フルダイブ用インタフェースマシン、つまりナーヴギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定して照射し、仮想の環境信号を与えているわけだが…もし、その枷を取り払ったらどういうことになるか、分かるかい?」

 

振り返りざまに見開かれる双眸。エメラルドグリーンに輝く瞳、その狂気じみたそれに、2人は恐怖を覚えた。

 

「______脳の感覚処理以外の機能、つまりは思考や感情、記憶までもを制御出来る可能性があるってことさ!」

 

「____!?」

 

彼の口から出たその言葉を理解したアスナは絶句せざるを得なかった。

ロニエはまだ理解しきっていない。というより、理解したくなかった。

彼の言う可能性とは______人の心を操ることが出来るということだったから。

 

「そんな、非人道的な行為許されるハズが無いでしょう…!」

 

「許される…?一体、誰が許さないのかな?各国で実験が進められているよ、既にね。アメリカ、中国、ロシア、イギリス、ドイツ、フランス、北朝鮮!至る所でね。

けど、この計画には残念ながら天井が存在する。言ってしまえば、技術を高めようとも、それを実際に使うことが出来ないんだ。この技術の実験ばかりはマウスで代用出来ない。人間の心を使わなきゃならないからね。何を感じ、どんな副作用があるのか、それを言葉にして言ってもらわないと困るからねぇ!」

 

イヒヒヒ、と甲高い声で笑いながら饒舌に話す須郷。しかし、彼の妄言はそこで止まらない。

 

「脳の高次機能には個体差が大きい、1人より2人、2人より4人、4人より10人、10人より100人……どんな実験であれ、大量の被験者が必要だ。けど普通に考えて、人体実験なんてどこの国でも出来ないんだ、勿論日本でもね。だからこの研究は全く進まなかったんだ_____でもある日ニュースを見たらさぁ、いるじゃアないか!格好の研究素材が、一万人もさァ!!」

 

「一万人……?それって、あのアインクラッドの…」

 

「あなた、まさか___!」

 

「その通りだ!!まったく、()()()()は確かに天才だが大馬鹿者さ。あれだけの実験体を用意しておきながら、ゲームの世界を創るだけで満足するなんてね。けどぼくは違う!アイツの出した実験体を持ってその上を行く!

とまぁ、息巻いたはいいものの…肝心のSAOサーバーに手を出すことは出来なかったが、別にそんな事する必要はなかった。あの世界からプレイヤー達が解放されたと同時に、その一部をぼくの世界に拉致してしまえばいいだけの話なんだからルーターに細工する程度なら、難しくはなかったよ」

 

興奮を隠せないのか、気持ち悪い笑いを止めようともしない。

彼はそのまま続けた。

 

「クリアされるのが実に待ち遠しかったよ!生き残った8000人弱全員、とは行かなかったが、400人と32人もの被検体をぼくは手に入れた!現実であれば都内の国立病院の病床のほとんどを使う程の人数を一瞬でね!

まったく、仮想世界さまさまじゃアないか!!」

 

気が触れたのかと勘違いする程に饒舌に言葉を紡ぐ須郷。

 

「その400人弱のお陰でこのたった2ヶ月でぼくの研究は大いに進展した!人間の記憶に違うものを入れてそれに対する情動を誘導する技術は大体形が出来たよ………魂の操作、実に素晴らしい!!」

 

「そんな事___そんな研究、お父さんが許す筈がないわ!」

 

アスナの父がそんな非人道的な行為を許す筈がない。経営者としても人としても彼は出来ている。

みすみす、こんな非道を見逃すはずが無い、とアスナは考えた。

が、しかし、現実は非情であり、須郷は狡猾だった。

 

「ン勿論、あのおじさんは知らないよ。私を含めた極小数のチームで極秘裏に進められているからね。そうじゃなけりゃ、()()に出来ない」

 

「商品…!?」

 

「どこに売ろうか迷ったんだがね、一ヶ月前に決めたよ。アメリカの___名前は言えないが、某企業が餌を待つ犬みたいに涎を垂らして待ってるよ、研究終了をね。まぁ、せいぜい高値で売付けるとするよ。この《レクト》ごとね」

 

「____よくもそんな事を言えるわね、私達の前で」

 

「ぼくも、結城家の人間になるのさ。今は養子からだが、名実ともにレクトの後継者になるだろう_____君の配偶者としてね。

いいじゃないか、今からその時の為の予行演習をするのもね」

 

粘り着くような視線にゾクリと冷たいものを感じながらもロニエはアスナを守るように前に立ち、アスナは須郷に毅然と言い放つ。

 

「ふざけないで。絶対にそんなことさせないわ。いつか現実世界に帰ったら、真っ先にあなたの悪行を暴いてあげる」

 

睨みつけるアスナとロニエ。

しかし、笑いながら気にしていない素振りを見せる須郷。

 

「分かってないなぁ、君たちのような子供の言うことを真に受けると思うかい?実験についての話もどうして話したと思う?

正解はね、このことを話したところで君達がすぐ忘れてしまうからさ!ここでの会話も、あのSAOでの記憶も、ねェ!後に残るのは僕に対する______」

 

と、ここまで饒舌に言葉を続けていた須郷の口が止まった。

チッ、と舌打ちをして左手を振り下ろしてメニューを出し、それに向かって誰かに応えた。

 

「_____分かった、今行く。指示を待っていろ」

 

底冷えした声。

アスナの知らない、科学者としての彼の一面。

先程との温度差にゾッとする。

 

「___邪魔が入ったが、そういう訳さ。君が僕の事を盲目的に、ただ一途に愛し、服従する日も近いということが……分かって貰えたかな?

勿論、君を…もとい、君の脳を早期の実験に使うことはぼくも望まない_______まぁ、そこの部外者は別に何とも思わないがね。

次また会う時はもう少し僕に対して従順であることを祈っているよ、ティターニア。そして、蟻の妖精(ムリアン)

 

須郷はそう言って身を翻し、扉へと向かった。

扉の横にある小さな数字のキーボードを数回叩き、扉を開けて外に出る。

カシャン、という音と共に扉の鍵がシステム的に閉まった。

 

カツカツカツ、という足音を鳴らして、オベイロンと名乗った須郷は鳥籠から去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____アスナさん、大丈夫ですか?」

 

「…ええ、ありがとう。ロニエちゃん」

 

須郷が去った後。

2人きりとなった鳥籠の中でロニエとアスナは言葉を交わした。

 

「無理はしないでくださいね。あの男の言葉を真に受けていたら身が持ちません」

 

流石のロニエも須郷には心底嫌悪しており、初対面ですら、気持ち悪いとすら思った。

そして、あの男が何処ぞの貴族と同じようなどうしようもない人間であることを理解した。

 

「……ロニエちゃんこそありがとう。我慢してくれて」

 

「我慢、出来てませんでしたけどね」

 

我慢、というのは、須郷に対する反応や行動を全て抑制して欲しい、というものだった。初対面後、アスナはロニエに『須郷に対して反応を出来るだけしない』ように求めた。

 

理由は二つ。一つは初対面後、須郷の去り際には既に拳を須郷に振るう寸前であったからだ。アスナは知らないが、整合騎士として使命を全うしたロニエにとってあそこまでの吐き気を催す下劣な悪は許せなかった。あの時、殴りかからなかったのも、アスナが寸でで止めてくれたおかげな訳だが。

 

二つ目はこれ以上自分達の自由を奪わせない為であった。須郷は感情の起伏が激しい男であることをアスナは知っていた。先程のロニエの反撃には少しビビっていたようだが、彼はアスナ達が反抗するのを待っている節があった。

二人が嫌がることを堪能した上で反抗した事を理由にシステム的に束縛してから実力行使を…と考えているのだろうが、アスナにはその考えが読めていた。

それ故に彼の罠にかからないようにしなければならない。彼がシステム的な束縛をしようものなら、ベッドに縛り上げるなんてことや件の実験をやっぱりやる…なんて言いかねない。

 

今はまだ、この鳥籠の中だけとはいえ、自由を確保しておかなければならない。

脱出の可能性を捨てる訳にはいかないのだ。

 

 

ロニエは終始無視を貫こうとしたが、流石にアスナへの接触は看過できなかった。

 

「……ロニエちゃんがいてくれるだけでも心強いわ。独りだったら、頭どうにかなっちゃいそうだった」

 

「____必ずお護りします。私は、その為にここにいるんですから」

 

そして、ロニエがここにいる理由。それは、アスナを守る為。

SAOのログアウト時に見た、アスナが黒い影に囚われてしまう光景。ロニエは、アスナが何か危険な状態にあるのではないかと踏んでアスナについて行った。

結果、奇跡的にアスナと同じ場所に辿り着いた訳だ。

 

「……ありがとう、ロニエちゃん」

 

 

しかし、それがここに来てアスナにとっての枷となった。

先程須郷が吐き捨てて言ったこと。

 

『勿論、君を…もとい、君の脳を早期の実験に使うことはぼくも望まない_______まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

部外者(ロニエ)の事はなんとも思わない、即ち、アスナの代わりにロニエを実験に使ってもいい……そう言っているのだ。

ある意味、須郷にとってのとっておきのジョーカーな訳だ。

『下手な行動を取ってみろ、お前の大事な友達の脳を弄くり回すぞ』

という、警告。

 

「……諦めて、やるものですか」

 

しかし、闘志は揺るがない。

アスナはこの状況から脱するべく、思考を巡らせるのだった。

 




天空に囚われた二人。
虐げに耐える______チャンスが来るその時まで。




Twitterサブ垢作りました。詳しくは私のユーザー情報にて。
pixivでウマ娘関連のSS投稿してますので、良かったらどうぞ〜


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アルン

卒論も終わり、落ち着いてきたのでようやく投稿出来ました。
お久し振りです、クロス・アラベルです。
現在、スランプ状態で四苦八苦しております。ちょっと投稿スピードが遅くなるとは思いますが、お許し下さい。
今回でようやくアルン到着です。次は早速キリト達と合流出来るかと思います。
では、どうぞ〜


谷を抜け、世界樹を遠くから拝んだその約3時間後。

二人は世界樹の麓にある中立域の街、アルンへと辿り着いた。

道中フィールドボスと遭遇したのもあって、当初の時間より大幅に遅れてしまったが、二人共に死ぬことなく来れた。

 

「うわぁ………凄い人集りだね…!」

 

「世界樹は基本的に色んな種族がいるから、色とりどりで面白いでしょ?私も来た時はそう思ったよ」

 

「……お祭りをやってる訳じゃないよね?」

 

「祭りはやってないけど______あ、でもそれに近いのが今やってるね。そういえば」

 

かなりの人集りだった。それこそ祭りでもやっているのでは無いのかと思ってしまう程に。

しかし、普通はここまで人が極端には集まらない。

今日は特別な日だった。種族関係無しに、プレイヤーがわんさか集まるくらいには。

 

「似たようなって…?」

 

「ライブだよ。今日は、七い………じゃなかった。()()()のライブパフォーマンスがあるんだ。スタートには流石に間に合わないって分かってたけど……始まってから40分くらい経ってるし、ボルテージMAXって感じだね、この盛り上がり。どうする?見ていく?」

 

ドームは無いが、野外ステージでのライブなので、音楽や歌声、ファンの歓声がもう既にアルン中に響いている。ファンの盛り上がりが凄まじい。

 

「そう、だね……それって、チケットとかあるの?」

 

「チケットは売ってないよ。今回のはリアルでのスケジュールが1時間ちょっと空いたからライブをするって急遽決まったヤツだから」

 

「本人から教えて貰ったんだね」

 

「そうそう、なんならライブの特等席も用意してくれるまさにVIP待遇!そこまでしなくたって、あの子の頑張りは私が1番わかってるって言うのに」

 

そう言ってレインは街中をすいすいと歩いていく。やはり彼女もSAO生還者、ちょっとした細かい動きや流れるような歩き方も相まって人集りを縫って進むのもお手の物だ。

ユージオも遅れないようについて行く。

 

「ライブ見てく?」

 

「うーん、僕はいいかな」

 

ユージオ自身、ライブはあまり得意ではなかった。なんと言うか、空間が揺れるような大音量の音楽に圧倒されてしまう。祭りなどの催し物は好きではあるが、音が溢れ過ぎる場所は苦手らしい。

 

「じゃぁ、行きたいところあるんだけど…どう?」

 

「どこに?」

 

「道中で説明したお使いクエストの届け先。渡すだけだし、すぐ済むよ」

 

「分かった、僕もついて行くよ」

 

2人はそのまま人集りを抜けて、路地裏のとあるNPC鍛冶師がいるという鍛冶屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、ついてきてくれて」

 

数分後、クエストNPCに渡されていたアイテムの入った麻袋を渡し、クエストを無事クリアしたレイン。渡した麻袋の中身の一部を報酬として貰ってホカホカ顔で鍛冶屋から出てきた。

 

「鍛冶屋みたいだったし、武器とか防具の調達もしようと思ってたから丁度良かったんだ。まぁ、君に止められたけどね」

 

「防具だったらもっといい店がメインストリートにあるし、そっちに行った方が得なの。さて……クエスト報酬のチェックと行こっか!」

 

「いいのがあるといいね」

 

「うん。私的には武器云々より、素材狙いだったから……あ、それなりに良さそうな素材発見!」

 

裏路地の塀に腰を下ろしてアイテムストレージを確認するレイン。それなりに収穫はあったらしい。

時折小さく声を上げながら一覧を入手順にして見ていく。と、その時。

 

「あ」

 

1つのアイテム名を指差して止まった。

 

「……どうかした?」

 

「うーん…噂って、本当だったんだ…」

 

そう言いながらレインはメニューのアイテム一覧をユージオに見えるように可視化し指で回して見せた。

 

「当たっちゃった…みたい」

 

そこを見ると、いくつかのアイテム欄の中に一つだけ、紫色の文字で表示されているアイテムがあった。

《Tempest》というらしい。

 

「テンペスト…?」

 

「うん。そのアイテム、表示が紫色になってるでしょ?それ、古代級武具(エンシェント・ウェポン)なの。古代級武具とか、それと同等の素材アイテムは紫色に表示されるらしいんだ。私も初めて見たけどね」

 

「凄いね!良かったね、レイン!」

 

「…うーん……私としては複雑なんだけどなぁ」

 

かなり低確率で報酬として手に入れることが出来る、という事を聞いていたユージオも手放しで祝うが、レインはそれほど嬉しくないのか、頭を掻きながらあはは、と笑う。

 

「私、鍛冶師でしょ?だから、クエスト報酬の武器よりも自分で打った武器を使いたいと言いますか…」

 

「あ、そうか…」

 

彼女なりの鍛冶師としてのプライド、『自分の打った武器で戦いたい』という純粋な思いが見え隠れしていたようだった。

流石に序盤からここまで強い武器を持っていても彼女にとっては嬉しくは無いらしい。

うーん、と悩んだ結果、レインはメニューを戻して何やらメニューを操作している。

すると、ユージオのメニューに通知が来た。

フレンド登録はレインとしかしていない為、メッセージが来るなら彼女のみ。

《『レイン』からトレード申請が届きました》

との表示。

 

「トレード…?」

 

トレード申請を開いてみると、そこには先程見たはずの剣の名前があった。

 

「うん、私はその武器使うつもりは無いから、君にあげる」

 

「え!?」

 

古代級武具はどれも高値で売れる。耐久、攻撃力の双方において優秀であるソレに代わるレアアイテムはSAO時代にもあった。フィールドボスからのドロップアイテムや、ラストアタックボーナスの特別報酬(スペシャルドロップ)などだ。そこまで高価なアイテム、しかもよく見れば1ユルド(最低価格)でのトレードなど考えられない。

 

「で、でも流石にこれは…!」

 

ユージオも流石にこれは受け取れない、とキャンセルを押そうとしてレインに止められる。

 

「世界樹、攻略するんだよ?それ相応の武器はあった方がいいって!今のところ、伝説級武具(レジェンド・ウェポン)の次に強いんだから、持ってて損は無いよ」

 

「でも、鍛冶師として素材を買うお金とかいるだろうし、それに充てれば…」

 

鍛冶師______主に生産職は戦闘職といい勝負をするくらいには資金を使う。初めて1週間の彼女にはそれこそ喉から手が出る程欲しいはずだ。

しかし、レインは人差し指を立てる。

 

「うーん、頑固だなぁ………ならこうしようよ。君があの時私を助けてくれたお礼の追加報酬ってことで。世界樹に連れてくるだけじゃ、お礼し足りないんだから……ね?」

 

「_______そこまで言うなら…分かった。確かに、助かるしね」

 

「決まり!じゃあ受け取って。片手直剣って書いてあったし、君にピッタリだよ!」

 

「ありがとう、レイン」

 

「こちらこそありがとう、ユージオ君」

 

ユージオはレインの説得に根負けする形で、トレード申請の受理ボタンを押して受け取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_____本当にいいの?」

 

「うん、そろそろ現実世界じゃ夕方でしょ?1度ログアウトしておきたいんだ。またログインした時は僕もここの戦闘にもっと慣れたいし、ここでいくつかクエストをこなしてみるよ」

 

アルンのメインストリートで装備をある程度整えて、ユージオはレインと別れることにした。

 

「あ、もうそんな時間なんだ。やっぱり時間が同期してないと分からなくなっちゃうね」

 

「うん、色々ありがとう。レイン。すごく助かったよ」

 

「こちらこそ、君のおかげでここまで来れたし……ユージオ君もALO楽しんでね」

 

「そうしてみるよ、慣れないことばかりだろうけどね」

 

そう言った後、ユージオは宿屋のNPC店員に話しかけた。

 

このALOでは即ログアウトという行為が制限されている。

理由としては色々だが、生理的現象___トイレなどや急な用事を思い出したりした時にログアウトはすぐできるとプレイヤー的に便利だが、それを悪用する輩がいる。

戦闘中、HPゲージがほんの数ドットしか残らない大ピンチ、その時に即ログアウトしてピンチを回避したり、盗みを働いて逃げる時にお手軽な脱出方法として使われてしまう。

 

それ故に、全てのプレイヤーは自身の種族のテリトリー内でのみその『即ログアウト』が許されているが、それ以外の場所ではログアウト後も数分間プレイヤーアバターがその場に残る。勿論その間のアバターに対して攻撃も通るし盗みなども可能となる。

 

元よりこの中立域であるアルンでは即ログアウトは出来ない為、全てのプレイヤーがキャンプアイテムなどを使うか宿屋を使うしかない。

そんな事をレインから聞いたユージオは早速宿でログアウトをすることにした。

 

「____五番の部屋をお願いします」

 

『五番だね、はいよ』

 

店員に番号を言って料金であるユルドを手渡す。

NPCの店員がテーブルの下から鍵を取って渡してきた。

 

「じゃあね、ユージオ君」

 

「うん、またね。レイン」

 

ユージオはそのまま五番の部屋へと入ってログアウトをしたのだった。




新たな剣を携えて、前へ。


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♦合流

今、この時間。SAOという地獄が始まりました。
クロス・アラベルです。
ということで、全ての始まりと同じ時間に続きを投稿しました。
ああ、自分ってキリト君より8つも年上なんだなぁ…と白目で感じました。ほぼクラインと変わらないことに恐怖を覚えました()
今回はタイトル通りになります。戦闘に関しては次次回になるかと思います。

では、どうぞ〜


翌日。

ユージオは病院での定期検査がある日でティーゼのリハビリの手伝いもあり、午前午後共にALOにログイン出来なかった。

ログイン出来たのは夕食もシャワーも済み、2日前に借りた本を読み現実世界について学んだ後____9時過ぎだった。

 

日中、キリトから電話があり、ALOでのフレンド登録に必要なフレンドコードを伝えあって向こうでも連絡がとりあえるようになった。

キリトによると、アルンに着くまでかなり時間がかかり、日付が変わるまでに行けるかどうかになる、とメッセージがあった。

 

ユージオはそれまでの時間潰しにアルンで幾つかのクエストをこなしながらキリト達を待った。

 

 

 

 

「……」

 

24時を過ぎてから40分弱。ユージオはアルンから離れた草原地帯の上空にてキリトを待っていた。

キリトは地図的に見るとシルフ領にある山脈、そこの洞窟から出てくるようなので、そちらに近いところで待機中だった。

クエストを3つばかりクリアし、空中戦闘や魔法の使用にも少し慣れたユージオは高いところが苦手な弱点を克服する為に少し高めに飛行していた。

真っ直ぐ進んだり、バックしたり空中でバク転したり、ホバリングしたりと、空中での動作にも慣れてきていた。

 

日付は既に変わっている。キリトの言っていた予定よりも遅い。

 

「遅いな、迷ってる訳じゃないよね…?」

 

キリトも既に案内人をどうにか確保出来たらしいので、迷っているとは考えずらい。モンスターに絡まれて時間がかかっているのか。

 

「うーん……あんまり夜中までログインすると明日に堪えるんだけどなぁ」

 

明日もまたティーゼのリハビリに付き合いたいので、夜更かしは避けたいユージオであったが、それも叶わなさそうだ。

 

 

 

 

「_____あ、誰か飛んで来る」

 

その時、南東方角からこちらへと向かってくる2人組が見えた。咄嗟にシステムがユージオの無意識の注視に反応して飛んで来る2人に視界がズームされる。

引き伸ばされて見えたのは______黒髪の妖精と金髪の妖精。

 

「黒………キリトかな」

 

隣にいる金髪の妖精は見たことがないが、黒い方は何故かすぐ分かった。

 

「おーい、キリトー!」

 

手を振って呼んでみる。すると黒髪の妖精はこちらを見て手を振り返してきた。

見つけてからほんの数秒でユージオのもとまでたどり着こうとしている。

 

 

「__________ユージオ、着いてきてくれ!!」

 

「_____分かった」

 

すれ違いざまにそう言ったキリト。ユージオは訳が分からなかった。

しかし、一瞬見えたキリトの真剣な表情にユージオは即座に2人に追随した。

 

 

「キリト、で、合ってるんだよね!」

 

「ああ、ユージオだな!?」

 

「うん、そうだよ!君ってば真っ黒な所は変わらないね!」

 

全速力で空を駆ける3人の妖精。ユージオは黒髪の妖精____キリトに話しかけた。

いつものように軽口を叩きあって、パンッ、とタッチする2人。

 

「あの、キリト君!この人は誰_____?」

 

「こっちで会うって約束してた奴だよ!現実世界(リアル)でも友達なんだ!」

 

「こんにちは、ユージオです!キリトがお世話になってます!」

 

「い、いえいえ、ご丁寧に…」

 

「お前は俺の親か!?」

 

「私、リーファっていいます!キリト君をアルンに案内することになりました!」

 

パッと端的に自己紹介を済ませて、ユージオは本題に入った。

 

「______で、どういう状況なの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_________成程、種族間での同盟……その会談を襲うサラマンダー、ね」

 

「ああ、リーファの知り合いもいるし、ほっとけなくてな!」

 

数分後、説明を聞いたユージオ。

同盟、というのもアンダーワールドでは無かったが、現実世界での歴史などの本にて学んでいた。表面上、単語の意味ではあるが。

 

「サラマンダー部隊が会談を強襲する前に2種族の人達を逃がすか、ケットシーとシルフと結託してサラマンダーを返り討ちにする……どっちかだね。出来れば、話し合いでことが済めばいいんだけどさ!」

 

「相手の数にもよるし、状況を見て見ないと分からないな」

 

「____パパ!前方に大人数のプレイヤー反応があります!」

 

「あ、ユイ!無事だったんだね」

 

「はい、ユージオさん!」

 

「久しぶり、ユイちゃん!」

 

キリトの胸ポケットから顔を出すユイとユージオの胸ポケットから顔を出すシャル。

キリトの方でもユイが無事でいたらしい。

 

「ユイ、数は?」

 

「前方に大集団61人_____恐らくこちらがサラマンダーの強襲部隊だと思われます!」

 

「61人…1レイド越えだね。随分と力を入れてるみたいだ」

 

「ああ。知ってるか、ユージオ。各種族の領主をほかの種族が打ち倒すと、打ち倒された種族の貯めてる金が3割持っていかれて、しかも10日間も倒された方の領内の町から好きに税金がかけられるらしいぜ」

 

「そうなの!今サラマンダーが最大勢力になってるのもその打倒領主に成功したからなの……しかも、シルフの」

 

初の領主殺しがあったのは少し前_____初代シルフ領主がサラマンダーに討たれた。

もとより領主は滅多に中立域に出ることは無い。自らの領地、しかもその街の中であれば完全に安全なのだが、その当時は訳あって中立域に出ていた。そこを強襲したサラマンダー達によって領主殺しは成された。

その時の被害は凄まじいもので、シルフ全体の立て直しにはかなり時間をかけたらしい。

一方討った側のサラマンダーは均等だった勢力関係をその領主殺しの利益で覆した。今や、1番力を持っているのがサラマンダーだ。

 

「_____味を占めて、またやろうって魂胆なのかな。しかも、今そこには領主が2人いる」

 

「そこを襲うってなると、もう最悪の事態だな」

 

2種族の領主が一気に倒されれば、2種族からサラマンダーは金も領地の税金も奪えるし付けられる。被害は初代シルフ領主討伐の比ではない。

 

「続けます!60人弱の更に向こう側にプレイヤーが14人_____こちらが消去法で同盟を結ぶ予定の2種族のようです!」

 

「領主を連れていくには護衛が少な過ぎるな。不用心にも程があるぜ」

 

キリトの意見は最もだ。領主が中立域に出るのはかなりリスキーであり、普通ならもっと護衛を連れてくるべきである。例え極秘の協定交渉の機会であってもだ。

 

「両団体がぶつかるまで______残り51秒!」

 

「_____間に合わなかった」

 

リーファは悔しげに顔を顰めた。

情報提供者(レコン)からの情報をつい先程知り、全速力で来たとはいえ、衝突は免れない。衝突前に領主達の元へギリギリ辿り着いても即座にサラマンダーによる攻撃が始まる。

既に数で負けているシルフとケットシーには逃げるしか策はなく、しかも逃げ切れる保証は無い。スピードで勝っていても、追撃魔法(ホーミングマジック)なら時間がかかるだろうが、確実に仕留められる。

 

「キリト、突っ込むかい?」

 

「ああ、領主達を逃がすのはほぼ無理だろうしな。とりあえず、アイツらにとって完全に予想外の第三者(俺達)が入れば何とか進軍を一旦停止するかもしれない」

 

「……え?待って、2人ともまさか突っ込むの!?」

 

が、キリトとユージオはお構い無しに首を突っ込むらしい。早く世界樹に挑むのなら厄介事は避けて通ればいいと言うのに。

 

「世界樹に行くならこんな所で時間使わなくても…!」

 

「_____ここで逃げるっていうのは、性分じゃないんでね。トコトン付き合うぜ」

 

「話を聞いたからにな、最後まで……ね?」

 

2人はリーファの提案を断り、前方______今にも襲われようとしているシルフとケットシーと、空から睥睨するサラマンダーの間に狙いをつける。

 

「ユイ、引っ込んでろよ」

 

「はい!」

 

「シャル、胸ポケットでじっとしててね」

 

「うん、分かった!」

 

二人はユイとシャルを胸ポケットに避難させて、空中で加速体勢に入る。

もうすぐ、一方的戦いが始まる。それを止める為に。

 

「_____君の交渉に合わせる、自由にやって」

 

「____ああ」

 

二人は短くそう言葉を交わしてドン、と空気を蹴るようにして加速した。

シルフとケットシー達がサラマンダーの存在に気付き、双方武器をとって構えるが、その戦力差に圧倒されている。

 

赤い妖精の大部隊の先頭で指揮を取っていたであろう一人がスっ、と手を挙げる。それと同時にサラマンダー部隊全員が武器を構えた。

挙げられた手の意味は突撃用意。次に出る指示は_____ただ一つ。

 

緊張感張りつめる台地。

サラマンダーの指揮官であろう男の手が振り下ろされる_____その直前。

 

二人は両種族の間にギリギリで辿り着いた。

轟音を響かせて土煙が舞う。

 

サラマンダーにとっては予想していなかったハプニングに部隊全員の動きが止まり、シルフとケットシー達は次から次に目まぐるしく起きる予想外に混乱冷めやらぬ中_______その土煙から二人が姿を現す。

 

キリトはサラマンダーに、ユージオはシルフとケットシーに向かって_____叫んだ。

 

 

『双方、剣を引け_______!!』



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