無限の蒼穹に浮かぶ巨大な石と鋼鉄の城。
基部フロアの直径はおよそ十キロメートル、その上に無慮百に及ぶ階層が積み重なっており、内部にはいくつかの都市と多くの小規模な街や村、森や草原、湖までもが存在する。
その途方もない大きさを誇る浮遊上《アインクラッド》は一万人のプレイヤーの歓声とともにその産声を響かせる――はずだった……。
実際に歓声はあった。しかし、今はない。あるのは悲鳴や罵倒といった負の感情の発散だ。
プレイヤーの感情が正反対の方向にUターンしてしまった理由は、つい先ほど唐突に始まり、勝手に終わった最悪のチュートリアルだ。
それはチュートリアルといっても内容は追加ルールの通達だった。しかし、そのルールが最悪極まりないものだったのだ。
その追加された悪意の鎖によって縛られたとき――縛られていたと知覚したとき――全ての歓声は鳴りやみ、正から負へと方向転換した。
一万人のプレイヤーを飲み込んだ世界。終わりの知れぬ戦いが始まろうとしている世界。
この世界の名は――VRMMORPG《ソードアート・オンライン》
アスナ――結城明日菜――は震えていた。
巨大な鋼鉄の城の第一層にある《始まりの町》のとある宿屋の一室で、ベットの中に縮こまり震えていた。
心の中では恐怖が渦巻いている。
それは死の恐怖などといったプレイヤー全員が抱えているものの他に、アスナ特有のものもあった。
――今の自分を両親はどう思っているのだろう?
実業家の父と学者の母との間に生まれたアスナは、常に親の期待を感じながら生きてきた。
その期待に応え続け、エリートコースを突き進んで行くことがすべてだった。
なのに、だというのに、今の自分はなんなのだろう。
こうしている間にも時間は刻一刻と過ぎていく。
現実世界の一日を無駄にする。
学校の授業に一日分ずつ遅れていく。
このままではいずれ出席日数が足りなくなり――と考え、その時に親から向けられる視線を想像し、体が震える。
不意に瞼が重くなる。
動いてもいないのに精神的な疲れによるものか、眠気が襲ってくる。
このまま眠ってしまえば、きっと悪夢を見るだろう。
そうわっかていても、眠気に逆らう気力もない。
睡眠欲にすら恐怖を感じながら、アスナの意識は遠のいていく。
薄れゆく意識の中、声が聞こえた。
――ママ
幼い少女の声。
少女は深い絶望の中にいるアスナを元気づけようと声をかけ続ける。
――わたしがママの道標になります。
大丈夫だよ。泣かないで。という思いが言葉を介さずに伝わってくる。
私は初めて聞くその声に不思議な安心感を感じながら、眠りについた。
翌朝、このデスゲームが始まってからわずか3日。
始まりの町は最初の混乱が過ぎ去り、一応の平穏を取り戻していた。
デスゲーム開始前とは打って変わった静けさの中、アスナは食べ物を求めて街を歩いている。
アスナはあのチュートリアルが終わった後、ずっと宿屋に閉じこもっていた。
この世界にとらわれたとき、混乱する頭で救助を待つことを選択したのだ。
しかし、3日たった現在、現実からのアクションは1度たりともなっかた。
まだ3日しかたっていないと自分に言い聞かせ、宿屋を出て、最寄りのNPC店で黒パンを買い求める。
この黒パンはパサパサしているくせに、よく噛むと甘みが感じられなくもない。
おいしいのか、おいしくないのか、何とも評価しずらい黒パンだが、1個1コルと大変リーズナブルなお値段ということもあって、現在のアスナの主食となっている。
ぎこちない手つきでメニューを開き、アイテムストレージを確認する。
そこには機械的な文字で《黒パン×3》と書かれいる。
数回のタップで瞬間的に終わる買い物に気だるさ感じつつ、この主食を大量に買い込んで宿屋に閉じこもりたい衝動に襲われたが、思いとどまる。
この世界の食べ物には《耐久値》というものが存在するらしい。
この耐久値が切れると食べ物は消滅したり、とてもまずい何かに変質してしまうのだという。
早い段階でこの情報を知ることができたアスナは、宿代以外がすべて黒パンを経て、消滅あるいわまずい何かに変身するといった悲劇を回避することに成功した。
朝一の時間とあって人通りも多い。
このまま一直線に宿へ戻ろうとしたアスナはそこで違和感を感じた。
多くの人が同じ方向に向かっている。
それが街の外へとつながる方向であればおかしくはない。
その場合、この目の前の人の波はこの状況の中、命をかけてモンスターと戦うこと選択した勇猛な人たちとなる。
しかし、彼らが向っている方向はなんとつい3日前、すべてのプレイヤーが絶望を抱いた場所、中央広場なのだ。
とりあえず状況を把握するべく行動を起こす。
「あの」
「ん?って、うお!?」
「?」
広場に向かう人に聞くのが一番だろうと近くの男に声をかけたものの、相手はアスナの顔を見ると、信じられないものを見たかのような顔で驚きの声を上げた。
その反応に違和感を感じながら言葉を続ける。
「貴方達はなぜ広場に向かっているの?」
「あ、ああ。それは、ユイちゃんがいるからだよ」
ユイチャン?と聞き返せば相手はすぐに答えてくれた。
「メンタルヘルス・カウンセリングプログラム。名前はユイ。プレイヤーの精神をケアするAIなんだ。今、広場で俺たちプレイヤーのカウンセリングをしてくれているんだよ」
緊張で顔を赤らめたフェイスエフェクトを見たときアスナは違和感の正体に気づいた。
目の前の男は周りがよくかわいいとほめる明日菜に話しかけられ、緊張しているのだ。
よく見ればしぐさや口調に生気があり、かすかに明るい雰囲気をまとっている。
そして、かわいい女の子に話しかけられて緊張している、それはこの状況にしてみればあまりに自然、つまり精神が安定しているのだ。
その《現実》では見慣れた反応が今見られるのは、おそらく広場にいるというユイちゃんのおかげなのだろう。
男は最後にこちらに生気がないのを心配してか、カウンセリングを受けることを勧めてきた。
正直、ゲームの世界でAIによるカウンセリングなんて受ける気になれなかったが、あの男の雰囲気を見る限り、その効果はバカに出来ない。
自分が少しずつ腐っていく現状をどうにかしたくて、藁にも縋る思いで広場に来たのだが……
早くもその判断を後悔していた。
広場についた瞬間、それは起こった。
広場の真ん中に集まっていた人垣が割れ、黒髪に白いワンピースをまとった少女が胸に飛び込んできたのだ。
「また、会えましたね!」
少女は三千里に及ぶ長い旅の末、探し人に再会できたかのような顔で見上げてきた。
「え~と。あなたは……?」
ようやっと絞り出したその問いに少女は笑顔で告げた。
「わたしはユイ。あなたーーーママの娘です!!」
デスゲーム開始から三日後、広場は再び喧騒に包まれた。
ママか。
そうかわたしはいつの間にか子供を産んでいたのか。
それは知らなかった。
しかし、そんな大事なことを知らないままなのはよくないだろう。
知らないことを知るには、知っている人に聞くのが一番だろう。
幸いにもここには知っている人がいる。
ならば、その人に聞くことにしよう。
「ママ、変な顔になってますよ?」
それはそうだろう。
デスゲームが開始されたことを知った時と同じくらいの衝撃を今の自分は感じているのだから。
「あの~ユイちゃん?これはカウンセリングの一環なのかな?」
「これというのは?」
「だからその……わたしがママだってこと。」
「ちがいます!ママはわたしのママです!!」
「でも、わたしは子供を産んだ覚えはないんだけど……」
ユイのあまりの剣幕に言葉が尻すぼみになるのを感じる。
しかし、その力のない反論はユイには思いのほかこたえたようだ。
こちらに抱き付いたまま顔を伏せる。
「それでも、ママはわたしのママです」
それでも、はっきりと言い切った。
わたしはあなたの娘です、と。
先ほどの《わたしのママ宣言》の後、周りがいろいろと質問を投げかける前にユイは「ママと二人きりで話がしたい。」といい、わたしの宿に転がり込んだ。
部屋につくや否や、わたしはユイを問い詰めた。
「ユイちゃん。さっきのこと、詳しく話してもらえるかな?」
「はい。まずは、わたしのことからお話ししましょう」
ユイの話はこのゲームのシステムの説明から始まった。
この世界の調律者、カーディナル。
プレイヤーの精神面のケアをするMHCP。
その試作一号、《Yui》。
そして――
「わたしはおそらく、未来から来ました。」
「未来から……」
あまりに突拍子のない話だが、最近の出来事のせいで価値観が揺らいでいるのか、言葉を額面道理に受け取って先を促す。
未来でユイはカーディナルにプレイヤーとの接触を禁じられていたらしい。
そのままではエラーをため込み続け、崩壊していくはずだった。
しかし、崩壊寸前だったユイは幸福な精神パターンを持ったプレイヤーのもとを訪れた。
そのプレイヤーは言語機能と記憶に損傷があったユイに娘として接してくれた。
そして、そのプレイヤーこそがアスナなのだという。
アスナはユイが説明しているときにその様子を観察していたが、嘘を言っているとは思わなかった。
だからこそ信じられない。
このゲームに囚われている限り、自分は幸せを感じることができないという確信があったのだ。
そのことをユイに伝えると。
「それは……」
少女は一度ためらい、真剣な表情で聞いてきた。
「今、教えてしまうと未来が変わってしまうかもしれません。それでも、いいですか?」
未来が変わるかもしれない。
それはつまり、わたしがこの世界で幸せを得られるという奇跡が、なくなるかもしれないということ。
「それでも、教えて」
このままここにいれば、自分が自分でなくなる気がする。
本当にこの世界にわたしの幸せがあるというのなら、今すぐ知りたい。
「この状況を変えてくれる、道標がほしいの」
こちらの思いが伝わったのか、ユイは頷いてくれた。
しかし、でもと付け加える。
「お願いがあるんです」
「お願い?」
「はい。1つだけ。どうしても」
申し訳なさそうに言い募るユイを見ていると、この子にこんな表情は似合わないと思った。
この自分の娘だという少女には、笑顔でいてほしい。
自然と、そう思えた。
「わかった!教えてもらう代わりに、1つお願いを聞き届けます!」
「ありがとうございます!ママ!」
喜ぶユイは「それではお教えします!」と元気にいうと、その未来の事実を突きつけた。
「ママが幸せだったのは、パパとラブラブだったからです!!」
「パッ!?」
パパ!?
「パパってお父さんってこと!?ママはわたしで、ユイちゃんが娘で、パパって人がいて、パパがママとラブラブで……つまり、その……」
「ママはパパと結婚していたんです!」
「けっこんっ!?」
「アツアツの新婚さんでした!」
「アツアツっ!?」
オウムのように言葉を返すことしかできなくなったアスナに、ユイは期待に満ちた目でアスナをさらなる混乱へと導く言葉を告げる。
「そして、わたしのお願いは」
――もう一度、パパと結婚してもらうことです。
こうして、わたしのSAOは始まり告げた。
この世界のどこかにいるという《パパ》と結婚するという道標を頼りに。
初小説、初投稿、初後書き。
はじめまして、オーバードです。
私のsao好きが暴走して出来上がった二次創作です。
この短編を作ってわかったことは連載作家さんはすごいということです。
せっかくなので投稿させていただきます。
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旦那さんとエンカウント
ユイがこの世界で『目覚めた』のは、ソードアート・オンラインの正式サービス開始前だった。
自分の置かれた状況を素早く、正しく認識したユイはカーディナルシステムにプレイヤーとの接触を禁止される前に、自らのシステム的な扱いをNPCへと変更した。
ついでに自分のNPCとしての機能を色々と弄った。
その内容の一つは行動制限を無くすことで、これにより、ユイはNPCとしての行動制限に縛られない自由なNPCとなっている。
しかし、NPCとなったユイができることは少ない。
以前のような大きな権限はなく、HPも存在するので攻撃を受ければ死んでしまう普通のNPCなのだ。
デスゲームが開始されたとき、幸運なことにユイはシンカーとユリエールを発見した。
本当はキリトとアスナを探しに行きたかったが、このまま精神が不安定な状態のプレイヤー達を放置することは自分の良心が許さなっかたので、いずれ最大規模のギルドの主要人物となる彼らに協力を要請した。
彼らはユイの話を全て信じたわけではないだろうが、今すべきことを正しく理解してくれた。
デスゲーム開始早々から同志を募り、《MTD》を結成、情報と資源をなるべく多くのプレイヤーにで均等に分かち合うことを目的として活動し始めた。
そして、当然
彼らはユイのカウンセリングを行いようにしてくれた。
デスゲームに囚われたことの鬱憤がシステム側のユイにぶつけられず、普通にカウンセリングが行えるのは、彼らの様々な配慮故だろう。
今のところ、カーディナルはユイをエラーとして認識していない。
これからも、あまりにぶっ飛んだことをしなければ消されることはないだろうと思われる。
「あまりにぶっ飛んだことって、例えば?」
「空中死神焼却切りとかですね。」
最愛の母の頭の上に?マークが見えました。
デスゲームが開始されてから一ヶ月近くが経過した。
既に1500人ものプレイヤーが退場している。
第一層はまだ攻略されていない。
次元が違う。
その人の戦いを見たとき、バトル漫画で敵に無双されたときにに入るモノローグを思わず呟いてしまった。
あらゆる動作から無駄が排除され、それゆえに技は速く、剣は重い。
第一層迷宮区の十九階で偶然目にしたソロプレイヤーの戦いに、アスナは深く見入っていた。
これがこの世界の《戦い》だとするのなら、自分がしているのは似て非なるなにかだ。
きっと、まだまだ《先》がある。あの剣士はずっとずっとその先を行っている。
彼の見ているものをわたしも見たい、と強く思った。
剣士は楽々とレベル6亜人型モンスター《ルインコボルド・トルーパー》を屠ると、迷宮攻略に戻り始めた。
彼の剣に魅せられ、ほけーっと呆けていたアスナは慌てて後を追った。
先ほど芽生えた強い願いを叶えるには、もっと彼の戦いを観察する必要がある。
彼の足運び、アタックのタイミング、ソードスキルの使いどころ、全てを研究し、自分のレベルアップの糧とするべくこっそりと付いて行こうとしたのだが、
「何か用か?」
見事な索敵スキルをお持ちようで……
後ろをつけてくる不審者をあっさり看破し、油断なく見据えてくる剣士は思ったよりずっと若かった。
一見少女と見紛うほど線の細い少年で、どこか透明な雰囲気があり年上のように思えるが、顔は童顔で年下のようにも見える。
剣士の不思議な存在感を目の前にして、アスナは怯んだ。
自分は今フーデットケープを装備しており、フードを深く被って顔を隠している。
漫画で出てくる、いかにもな不審者そのものだ。
ストーカーの現行犯ということもあり、パニックになった。
「怪しいのもではありません」
怪しすぎるわっ!
あんまりな返答に自分で突っ込みを入れてしまった。
あっいやっ本当に怪しいものでは……と言い訳のように口にしてから、それが更に怪しさを上乗せする行為だと思い至り途方に暮れた。
《はじまりの街》を出て以来、人を避けるように行動していたので日本語を喋るのも久しぶりだ。
「何で俺の後を付けて来るんだ?」
剣士は助け舟を出すかのように話を元に戻してくれた。
ありがとう、と心の中でお礼を言う。
アスナはそこで、ようやく冷静になってきた頭で出した返答を口にした。
「わたしとパーティー組みませんか?」
ようやく取り戻せてきた日本語能力と女子高で培った対人能力をフルに使い、弁護士も書くやという舌のさえを発揮したアスナは「あなたの剣を勉強したい」ということを誠心誠意伝えに伝えた。
その結果、剣士は警戒を強めた。なぜ?
「何が目的だ? アスナさん」
驚いたことに剣士はわたしの名前を知っていた。
「……どうしてわたしの名前を知ってるの?」
この世界に来てから、わたしが自分の名前を人に教えたことは本当に少ない。
というか自分の名前を知っているのは、未来で知ったというユイ以外では、この前知り合った情報屋を自称する少女のみではないだろうか。
疑問が積み重なり、再び途方に暮れたアスナに、二つ目の助け舟が出された。
「アンタが鼠から俺の情報を買った、という情報を俺が鼠から買ったんだ。」
今、なんて?
今、わたしが目の前の剣士の情報を買ったって言った?
鼠とは情報屋のアルゴさんのことだろう。
確かにわたしはアルゴさんから、とあるプレイヤーの情報を買ったことがある。
《はじまりの街》で出会った自分の娘だという少女、ユイから聞いた未来でわたしとラブラブ夫婦となるのだというプレイヤーの情報だ。
《その人》は主にソロで活動していてレベルはトップクラスの実力者なのだという。
これから未来を共に歩むかもしれない人がすごい人なんだと知って、わたしは訳もなく喜んだ。
まだまだあるというアルゴさんの持つ《その人》の情報には大変興味を引かれたが、わたしはそれ以上聞くことはしなかった。
情報屋にお金を払って個人情報をもらうということに後ろめたさもあったが、《その人》に関することは人伝に聞くのではなく、直接会って知っていきたいと思ったのだ。
それでも、わたしは《その人》のことを考えない日はなっかた。
この一ヶ月、いまだ輪郭の定まらないその姿を想像するのが日課となっていたのだ。
最前線にいるということはやはり、周りと同じようにわたしよりも年上なのだろうか?
わたしがたくさん甘えても嫌がらない人がいいなーと逞しい妄想力を発揮していた。
青髪のナイト風の青年を見ては「もしかして……」と目で追ってしまい、巨躯の黒人を見たとき「彼ではありませんように!」と割と本気で神様に祈った。
多くの人を観察し、しかし確かめる勇気もないわたしは結局、《その人》の足取りを掴むことができずにいた。
この一ヶ月、ずっとアスナの心の支えになっている人、アスナに幸せな未来を約束してくれる人。
その人の名前は――
突如、剣士とアスナの間の空間が歪んだ。
「「―――っ」」
この揺らぎは見覚えがある。
モンスターが
二人は同時に飛び退き、剣を抜いた。
空間の歪みが収まったところにいたのはレベル8亜人型モンスター《ルインコボルド・トラッパー》――剣を装備したコボルトで、この迷宮区の平均より高いレベルと、少々厄介な攻撃を仕掛けてくる手強い相手だ。
モンスターは姿を現すや否や、剣士の方に斬りかかった。
彼は剣を構え、モンスターの動きを読み、冷静に対処した。
左斜め上からの斬り降ろしを少ない動作で――しかし余裕をもって回避し、続く切り上げと、やや大ぶりな斬り降ろしも同様にかわして見せた。
三連撃の直後、隙を似せたトラッパーに一歩踏み込む。
彼がトラッパーの間合いに入ったところで、アスナからは見えないはずのトラッパーの顔が、にやりと嗤った気がした。
隙だらけに見えたトラッパーの腕が跳ね上がり、強烈な切り上げが剣士を襲う。
このモンスター時折このように、わざと隙を見せるという厄介な行動をとって来る。
並のプレイヤーなら見事に引っかかり、HPバーを減らしてしまう攻撃だが、あの剣士に通用するとは思えない。
アスナの予想道理、彼は一度のバックステップで楽々と躱して見せ、片手剣基本技《スラント》を放った。
システムアシストを意図的にブーストした右斜め斬り降ろしは、気持ちの良い位綺麗に決まり、トラッパーのHPを大幅に削った。
今度はトラッパーの剣がライトエフェクトに包まれる。
突進とともに放たれた斬り降ろしは、剣士の斬り降ろしと交差した。
派手な金属音と共に、彼は剣を取り落した。
武器をとっさに拾おうとすれば敵の追撃を喰らってしまう厄介な攻撃だ。
それを理解している彼は剣を一旦置いといて、敵に注意を向ける。
自慢の技を成功させ、得意げな顔をしているような気がするトラッパーは追撃を仕掛けようとし、後ろから飛んできた流れ星に吹っ飛ばされた。
アスナが放った細剣突進技《スタースプラッシュ》だ。
「あなたは剣を!」
述語を省き、短く言うとアスナはトラッパーに躍りかかった。
先ほど目に焼き付けた剣士の動きを思い出しながら敵の連撃を回避し、細剣基本技《リニアー》を恐ろしいスピードで放つ。
アスナが剣を握って以来、何度も何度も使ってきたこの技は彼女の持つ輝かしいまでの才能の片鱗を感じさせる。
高速の突きは敵のHPをさらに削り、あと一度の
「すごい……」
後ろから聞こえた呟きに、思わず笑みをこぼした。
トラッパーがまたもやディスアームを繰り出し、アスナが剣を落としたとき、今度は剣士が間に入り、トラッパーの追撃を防いだ。
「ありがと」
早口で言って、剣を拾う。
見れば彼も顔に笑みを浮かべていた。
彼と目が合った。
「スイッチいくぞ!」
「スイッチ?」
「スイッチ!!」
気合の入った掛け声と共に、彼はトラッパーの剣を大きく跳ね上げ、ふわりと飛び退く。
激しくのけ反ったトラッパーは大きな隙を見せてから、頭の上にまで上がった剣を体の前に戻し、再び構えた。
……………………………………
戦闘中にできるはずが無い類の静寂が辺りを包んだ。
振り返る彼の顔に?マークが見えた気がした。
心なしかトラッパーも顔に?マークを浮かべているような気がする。
わたしのせいか。
おそらく、というか間違いなくこの世界では常識であろう《スイッチ》を知らないわたしが原因だ。
焦る。《スイッチ》をしなければ。
先ほどの剣士の真似をすればいいのだろうか?
最近知ったことなのだが、わたしは焦ると変な行動を取ってしまうことが多い。
今回も例によって、少し天然の入った行動を取ってしまった。
「ス、スイッチ!!」
苦し紛れの掛け声と共に、一人剣を旗のように掲げる。
ついでに、ふわりと後ろへ飛んでみる。
これでどうだ!と剣士の反応を伺うと、
「プッ」
わたしの心のHPバーが大幅に削れた。
結局彼は回避→剣技の流れをもう一度決め、トラッパーのHPを削り切った。
わたしはその間、回復姿勢をとって、心のHPバーの回復に努めた。
しばらくはこのまま地面に「のの字」を書いて落ち込んでいたかったが、どう声をかけたらいいのかわからず、わたしと距離を取ってうろたえている剣士を放置したままなのは良くないだろう。
それに――番聞きたいことをまだ聞いていないのだ。
警戒と説いた剣士は先ほどとは違い、優しい印象を受けた。
目が合う。髪の毛と同じ黒い瞳。
その眼を見つめながら、問いかける。
「あなたが……キリト……?」
「あっああ。俺はキリトだ」
ついに見つけた。わたしの幸せ。
――巨躯の黒人じゃなくて本当に良かった。
SAO好きか沈下しきらなかった結果、二話目が出来ました。
どうやら私は自分で思っていたよりも、SOAが好きだったようです。
せっかくなので投稿します。
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黒いうさぎさん
「アンタ、MMO自体が初めてなのか?」
「うん。兄のゲームを一日貸して貰うだけだったんだけど……」
隣を歩く男の子――キリト君が同情を込めた顔で、こちらのフードに隠れた顔を伺ってきた。
彼から見れば、アスナは初めて乗った飛行機がハイジャックに会う並の不幸を体験している様なものなのだろうが、そういう目で見られるのは少し気に食わない。
「わたしの不幸は、この世界では全員に訪れたものよ。MMOが初めてだからと言って、変に同情しないで。……それに……」
デスゲームを強要されているので不幸には違いないが、アスナはゲームクリアの他に明確な目標を持っている。
このゲームはクリア不可能だと噂されている現在、もう一つの目標――キリト君は大きな支えとなってくれているいる。
他のプレイヤーと比べてみれば、今の自分は十分幸運な部類だろう。
それに、未来でアスナは全プレイヤー中最高の幸福精神パターンを発信した――らしいのだ。
その事実がある限り、絶望なんて、正直あんまりしていない。
――というより、キリト君に依存気味のわたしにとっては……
「キリト君にそういう目で見られるのは、ちょっと悲しいかな……」
思わず声に出てしまい、うつむき気味になって溜息を吐いてしまう。
一ヶ月前にユイちゃんから未来を聞いたアスナと違って、何も知らない彼は、いきなりこんなことを言われても、ただ困惑するだけだろう。
アスナとキリトの間には大きな認識の差があるのだ。
彼の顔を見てみると、案の定顔をそらされた。
とっさにどう返していいかわからず、聞かなかったことにしようと判断したのだろう。
そういう反応もちょっと悲しい。
なので――
「キリト君にそういう目で見られるのは、ちょっと悲しいかな……」
大事なことなので二度言いました。
キリト君が言い逃れできないように、少し大きめの声で呟く。
「ぅ……ゴメンナサイ」
よろしい。
とにかく落ち着いた場所で話をしようということになり、二人は第一層で迷宮区に一番近い町《トールバーナ》へ戻ることになった。
話し合いの場所を決めるときに一悶着あったが、キリト君の宿が風呂付という反則的なアドバンテージを保有していたので、すこーしだけ強引に彼の宿で話し合うことを納得させ、ついでに風呂の恩恵にあずからせてもらうことになった。
農家の二階を丸ごと借りている彼の宿は広かった。
ふかふかのソファーにでかいベッド、そして風呂。
宿に着くなり風呂を勧めてくれるキリト君が天使に見えた。
男の部屋に押し入って、いきなり風呂に突進というのもなんだか変気分になってくるが、目の前にあるオアシスに浸かりたい欲求を抑えることができるはずもなく、バスルームに滑り込む。
久しぶりのお風呂は最高だった。
お風呂だ。わたしの体はバスタブの湯に浸かっている。
仮想世界がどうこうとかは関係ない。
唯々人類が編み出した最上の休息――命の洗濯に溺れてゆく。
このまま湯船の中で眠ってしまいたい衝動に駆られたが、この後にはキリト君から初心者講座を受ける予定がある。
この世ならざる法則に縛られたこの世界には、まだ未知の部分が大きい。
それに加えて、本来の目的達成のためには幾らかの作戦を練らねばなるまい。
本来の目的とはゲームクリア――もあるが、今は自分の娘だという少女、ユイとの約束――キリト君との結婚だ。
あの不思議な存在感のある少年は、たいへん用心深い性格であるようで、たった数日前の自分のパーソナルデータの流出をいち早くリークし、相手側の情報まで手に入れていたのだ。
彼にとってわたしは「自分を嗅ぎまわる天然の入った
不本意だが、少々強引ながらも、この宿に案内してもらえたのは「天然の入った」の部分が彼の警戒心を薄めてくれたおかげだろう。
それでも、心の中では何かあると疑っているはずだ。
さて、問題はここからだ。
アスナがアルゴさんからキリト君の情報を買った理由が解るまで、彼は警戒を解かない気がする。
しかし、その理由を正直に話しても警戒を解かない気がする。というか絶対解かない。
早くも雲行きが怪しくなってきたウェディングロードだが、実は一発で問題解決させる方法がなくもない。
最も、結婚云々の前にキリト君のことをよく知るのが先だが、それも警戒された状態では簡単にはいかない。
ここは娘より託された秘中の秘をお見せするとしよう。
満足が行くまで入浴を堪能すると再び服を装備し始めたアスナは、最近外では常時装備となっていたフード付きケープを着るか悩んだが、彼の警戒を解くためにも素顔を隠すのはやめることにした。
素顔のままバスルームを出たアスナを、ソファーに座っていたキリトは落ち着かない様子で出迎え――瞬時に凍り付いた。
まるでこの世界には存在しない魔法にかけられたように凍り付く彼に、アスナは微笑みかける。
「ありがとう。お風呂貸してくれて」
「どっどういたしまして…………。あっああ、そうだ!ここってミルクも飲み放題なんだよ!よかったらどうぞ」
キリトは硬直から解放されると弾かれたように飛び上がり、部屋の隅にあるワゴンの前に移動した。
大型のピッチャーから新鮮なミルクを二つのグラスに注いで、ソファーセットに戻ってくる。
ローテブルにミルクを置くと、向かい側に座るよう座るように勧めてくる。
促されるがまま柔らかいソファーに腰かけ、風呂上がりの一杯を一息に飲み干す。
「こんなに美味しいミルクが飲み放題だなんて……。つくづく贅沢な宿だねー」
「宿の外に出すと五分で《激マズな液体》になっちゃうんだけどな」
そう言う彼には先ほどの動揺はもう見当たらない。
もっと慌てた彼も見てみたかったが、その他の「したいこと」ともども我慢する。
まず最初に自分がすべきこと――それはこの世界の法則を知り、生存率を上げること。
自分はこの世界では何も知らない無知な存在なんだということを、今日の戦闘で改めて思い知らされた。
親しい人も作らずに、ただ剣を振ってきたアスナだが、幸運なことに目の前にはトップクラスの実力者がいる。
「さっそくだけど、教えてほしいことがあるの」
彼はアスナの質問に予想がついてるのか、黙って先を促した。
「あの時の《スイッチ》ってヤツのこと……ううん、この世界で生き抜くために必要な知識を――」
「――教えてもいい。だけどその前に……」
こちらの言葉にかぶせるような肯定の後、一泊置いてから条件を付け加える。
「……どうして俺の情報を買ったのか教えてくれないか」
――きた。
「君がどういう経緯で俺の情報を買うに至ったのか、全く見当がつかないんだ」
本当に疑問に思ってか思案顔で聞いて来る。
彼の疑問はもっともだ。
自己防衛のための至極まっとうな質問。
それゆえに予想できる。
そして、対策を立てることもできる。
アスナは落ち着いた動作で右手の人差し指と中指を揃えると、上から下へスッと振り下ろし、メニューを出した。
いくつかの操作をよどみなく行ったのち、可視化ボタンを押す。
今、アスナの目の前にあるのはユイが自分の設定を弄った時に施したギミックの一つ――娘から授かったキリト君とお近づきになるための奥の手だ。
こちらの動きを黙って見ていた彼は、アスナの指が止まっても変わらず観察を続けている。
アスナはこのメニュー画面を見たときのキリトの反応を想像し、思わずニヤリと悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
それを見たキリトは嫌な予感を感じ、ゴクリと仮想の唾を飲み込んだ。
ウインドウの上下をタップし、キリトから見えやすいように表示位置を移動させる。
意を決したように画面を覗き込んだ彼の目に、トンデモナイものが映り込んだ。
開いているのはクエストログ。
画面にはアスナが受けている、とあるクエストの詳細が表示してある。
それはキリトが初めて聞く《Yui》というNPCから受託したらしいクエスト。
ベータテストにはなかったそのクエストの達成条件は――
――プレイヤーネーム《Kirito》との結婚――
「へ…………?」
開いた口が塞がらないとはこのことなんだろうなー。
間抜けにも見える顔で問うような目を向けてくる彼に100点の微笑みを返す。
「……ぅ…………」
先はアスナの素顔を見てもすぐに平静を取り戻したキリトだが、SAOの過剰気味なフェイスエフェクトは流石にごまかせないようだ。
彼の顔は首から頭のてっぺんまで徐々に赤くなっていき、
あまりに期待道理なその反応に、クスクスと笑いを漏らしてしまう。
「これで理由は解ったでしょ。次はキリト君の番だよ。」
その後、キリト君の説明を聞きながら、赤くなった彼の顔を観察するという時間が一時間ほど続いた。
午後四時。《トールバーナ》の噴水広場には多くのプレイヤーが集まってきている。
あるプレイヤーの呼びかけにより、初の《第一層ボス攻略会議》が開催されるのだ。
アスナはフーデッドケープで頭をスッポリと覆い、キリトの隣を歩いている。
この状況で命を懸けてボスに挑もうという
五十人。
それが噴水広場に集ったプレイヤーの総数だ。
確かキリト君の話では、一度にボスに挑める上限人数は四十八人。
ボスには最大戦力で挑める人数なのだが……ちょっとマズイかも。
「これは……あぶれる可能性が高いぞ……」
彼の言う通り、基本的にパーティー単位で行動する人がほとんどで、この場に居るソロなんてキリトとアスナぐらいだろう。
ということは、ボス攻略に参加できない二人に収まる可能性がとても高いのだ。
思わぬ障害にぶち当たり――しかし、対応策などある筈もなく、会議は進行していった。
呼びかけを行ったプレイヤーは《ディアベル》
長身の各所に金属装備を煌めかせた片手剣使いだ。
大振りの直剣とカイトシールドを装備している。
言葉にするなら爽やかな青色の騎士といったところか。
「あの人は……」
「知ってるのか?」
前にすこーしだけ「あの人がキリト君だったらー」って考えてたんだよー
なんて言えない。
「……あっあの人はどうして髪が青いんだろー」
「髪染めアイテムってのがあるんだよ。この層で手に入れるにはモンスターのレアドロップしかないけど」
物知りさんだねーと返事を返しつつ、一人浮気を追及されたような気分になる。
順調に進んで行った会議だったが、途中いざこざが起きた。
ディアベルの非の打ちどころのない演説が終わり、拍手喝采となったところで一人のプレイヤーが声を上げた。
ガッチリとした体格に、やや大型な片手剣を背負っている。
「こん中に、五人か十人、今まで死んでいった千五百人にワビィ入れなあかん奴らが居る筈や」
サボテン頭の片手剣士はドスの利いた声で憎々しげに吐き捨てる。
「奴らがなんもかんも独り占めしたから、一ヶ月で千五百人も死んでしもたんや! せやろが‼」
途端にざわめいていた五十人の聴衆が一人残らず押し黙った。
キバオウが何を言わんとしているのかを全員が理解したようだ――もちろん、アスナ以外の。
まるで何か言えば自分が《奴ら》の一員にされてしまう――と言わんばかりの静寂の中、アスナは説明を求めようと物知りさんの方を伺ったが、恐ろしく強いはずの彼の顔には、緊張が走っていた。
アスナの疑問に応えてくれたのはディアベルだった。
「――キバオウさん。君の言う《奴ら》とわつまり……元ベータテスターの人たちのこと、かな?」
《元ベータテスター》。
キリトの説明には一切出てこなかったその単語の説明は、キバオウの糾弾によって成された。
9000千人のビギナーを見捨てた自己中心的なプレイヤー。
このデスゲームで情報の独占を行い、一ヶ月で千五百人もの死者を出す要因の一つとなった。
一度自分たちを見捨てた奴らが、何食わぬ顔で自分たちとボスの攻略に参加するのが気に食わない。
仲間になりたければこの作戦のために、コルとアイテムを軒並み提供するべきだ。
というのが、キバオウの主張のようだ。
どういう経緯かは解らないが《元ベータテスター》はこのゲームのことを熟知しており、デスゲームとなった後も自己強化のために効率の良いクエストを、
そして、それは周りの反応を見る限り周知の事実であるようだ。
彼らはキバオウの言う通り、自分たちがこの世界で生き抜くためにビギナーを見捨てたのだろう。
誰よりも早くスタートダッシュを切り、高効率のレベリングを行い、安全を確保する。
自分たちがビギナーの命を助けることのできた可能性を振り払って。
ビギナーの心の声の代弁ともいうべき彼の
やはり、利己的な彼らは今まで通りに見て見ぬふりを続けるのか、死んだのは自己責任だと弱者を笑っているのか、それとも――隣に座る少年のように、叫び返すのを堪えているかのように震えているのだろうか。
その姿を見たとき、アスナの胸に悲しい気持ちが去来した。
衝動的に、怯えた黒ウサギの握り込まれた左手の上に、右手をそっと置いた。
顔を前向けたまま、安心させるように掌で包み込む。
彼の握り拳は徐々にその力を緩め、やがて体の震えと共に弛緩した。
「発言、いいか」
その時、豊かな張りのあるバリトンが響き渡った。
人垣の左端の方からぬうっと進み出るシルエットがあった。
大きい。身長は百九十ほどもあるだろう。
背中につられている両手用戦斧が実に軽そうに見える。
チョコレート色の肌、スキンヘッド、堀の深い顔立ち。
明らかに日本人ではないその風貌には見覚えがあった。
「あの人は……」
「知っているのか?」
前に本気で「キリト君じゃありませんようにー」って祈ってたんだよー。
なんて言えない。
「……あの人はどうしてスキンヘッドなんだろー」
「髪型を変えるアイテムもあるけど……あれは元からじゃないかな」
そうかもねーと返事を返しつつ、一人罪悪感と戦う。
巨躯の黒人《エギル》は、アスナもお世話になった《エリア別攻略本》の製作協力していたのは《元ベータテスター》以外ありえないと説いた。
無料配布されていた攻略本は誰にでも手に入れることだ出来た。
それでも、多くの人が死んだ。
この場に集った者たちがそうなるかどうか、それがこの会議で左右される。
エギルの真っ当な主張に、キバオウも噛みつく隙を見出せないようだった。
最後にはディアベルが爽やかに話をまとめ、場の雰囲気を和らげた。
魔女狩りの様な空気が遠のき、安堵の息を吐く。
第一回ボス攻略会議は、結局顔見せの様なものだけで終わった。
まだ情報のない今回の会議で、作戦を立てられるはずもない。
――元ベータテスターが情報を提供しない限りは。
もしここで元ベータテスターが名乗りを上げ、ボスの情報を提供したとして――と考えてから溜息を吐いた。
そんなことになれば、先の魔女狩りの様な空気が舞い戻ってくる可能性もある。
ビギナーと元ベータテスターの確執は想像以上に複雑なもののようだ。
これからは不定期更新という形で連載させていただきます。
ようは、書きたくなったら書くということです。
不真面目な姿勢のある方針ですが、よろしくお願いします。
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情報屋aの献身
ソードアート・オンラインが正式サービスを開始したのは二〇二二年十一月――つまり、ほんの一か月前のことだ。
プレイヤーは皆、同じステータスを与えられ、「よーいどん」でスタートダッシュを切り、同じだけスキルやアイテムの取得チャンスがある。
オンラインゲームの正式サービス開始時に限り、プレイヤーのスタート地点は全くの平等だ。
ただ一つの例外を除いて。
その《チュートリアル》はディアベルの感情を正から負へUターンさせた。
ディアベルが混乱する頭で一番最初に考えたのはレベルアップについてだった。
可視化された強さの絶対値を上げることのメリット、それに伴う死の可能性というデメリット。
安全を手に入れるために命を懸けるという矛盾に悩まされ、二の足を踏んでしまう――という多くの人々が陥った葛藤をすることはなかった。
負の感情が胸の内に渦巻く中、何もしないことが耐え難かったのだ。
自らに降りかかった理不尽に対するストレスをひたすらモンスターにぶつけまくった。
リアルな大イノシシが吠えながら突進してくる姿は、大の大人もパニックに陥るほどの迫力がある。
ストレス解消のために命を懸けてモンスターと戦った、というと頭の吹っ飛んだ人にしか聞こえないが、ディアベルは例外だ。
彼にとってはじまりの街周辺のモンスターとの戦闘で死ぬ可能性は、現実世界で交通事故に遭う確立と同じ位のものだ。
慣れた動作でソードスキルを発動させ、弱点の
何度も何度も。
何匹も何匹も。
圧倒的な弱者であるイノシシに八つ当たりをする。
それがディアベルにとっての《はじまりの日》だった。
広い部屋だった。
固い鉄ではなく、柔らかな木を感じさせる床と壁。
木目の再現されたテーブルとチェアのオブジェクト。
テーブルの上には小さな細長の花瓶が置いてあり、水晶のように透明な胴体から、一輪だけ花を伸ばしていた。
一部のプレイヤーに占拠されている《
その一室だけが、その名を裏切っていた。
雰囲気抜群な一室の主は幼い少女なのだが、なんとそこは彼女の《仕事場》なのだ。
何をバカなと言ってやりたいのはやまやまだが、彼女の《仕事》はとても重要なものだった。
その仕事の名は《カウンセリング》。
現実世界ではフィクションの中でしか見聞きしたことがない最大級の胡散臭さを漂わせる精神治療だ。
それでもこのゲームの中では際限なく需要があった。
彼女の処置は的確で、たくさん人々が彼女のもとを訪れ、心の平穏を取り戻した。
ディアベルもその人々の内の一人だ。
彼女の言葉でディアベルの感情はUターンした――さながらあの《チュートリアル》を受けたときのように。
もしかしたら《茅場》と《ユイ》、《チュートリアル》と《カウンセリング》、この二つの工程が茅場が想定した本当のチュートリアルなのかもしれない。
正から負、負から正へと一回転した心は、まるでレベルアップしたかのように芯の強さがあったのを覚えている。
迷宮区の二十階でボスの部屋を発見し、コボルトの王を一目見た帰り、ここまで生死を共にしてきた仲間たちと宿でお互いの生還を喜び合う。
今日の第二回ボス攻略会議でこのことを発表すれば、アインクラッドの攻略全体のモチベーションも上がるだろう。
逆に気を付けなければならないこと――モチベーションを低下させることはやはり《プレイヤーの死》だろう。
これから始まるのは最も死の確率が高い《偵察戦》――
人の命を預かる指揮官を名乗り出たディアベルに気負いはない。
自分と自分の指示を完遂してくれるレイドメンバーであれば、必ず勝てる。
彼の手にはその確信を得るだけの能力と意志、そして情報があるのだ。
――行ける
クリア不可能という認識を俺たちで覆す。
《はじまりの街》にいるあの少女のように人々の気持ちを負から正へ導く。
《鼠》が連絡を取ってきたのはそんな決意を抱いていた時だった。
「遅い」
「いや……十分速いよ」
うーん、と唸りながらもう一度右手に持つ新たなレイピア《ウィンドフルーレ+4》を構える。
左足を前に出し、肩と肘が直角になるほどに右腕を引き絞る。
細剣がライトエフェクトを纏い、スキルが立ち上がるのと同時に体を捻り、矢を放つように単発突き技《リニアー》を繰り出す。
十人が十人とも速いと賞賛すること間違いなしな高速の突きだが、技を放った女剣士はまだ納得がいかないといった顔で不満を垂れる。
「やっぱり遅いよ」
「だから十分早いって!」
あんまりな過小評価にキリトの突っ込みにも力が入る。
「発動までの時間も、システムアシストのブーストもこれ以上ないってくらい完璧だよ!むしろ早すぎだ!剣先がほとんど見えない!一体何が不満だって……」
そこまで一息にまくしたてると今度は一転、随分と低姿勢で伺ってくる。
「……もしかして、その剣がお気に召しませんでしたか?」
「それはないよ!この剣はすごく良い。羽みたいに軽くて、狙ったところに当たって――」
アスナはキリトが選んでくれた新しい相棒の使い心地をたくさんの言葉にしようとしたが、何か違うと思った。
性能を理由にしたくないと感じ、言葉を切った。
その代わりに口から出たのは、一言の主観的な印象だった。
「――まるで……この子自身の意志がわたしを助けてくれてるみたいだよ」
自分の言葉に、とてもしっくり来た。
この子は唯の道具ではない。
アスナを助け、共に戦う戦友だ。
「なんか恥ずかしいことを言ってる気がするけど……剣のことを『この子』とか言っちゃってるけど……とにかく良い剣だよ!」
それは選んだかいがあったよ、と黒い片手剣使いは嬉しそうに笑った。
「じゃあ何が不満なんだ?」
「だから遅いのよ――剣速が」
ポカーンと呆けたキリト。
不満たらたらのアスナ。
細剣は低い攻撃力を、速さと攻撃回数で補うスタイルの武器だ。
しかし、アスナほどのスピードがあっても両手斧で攻撃した方が合計与ダメージは多い。
モンスターは与えられたアルゴリズムの通りに動くので、動きが鈍くなる両手斧でも攻撃をヒットさせるのはさほど難しくない。
「そこは正確さで補えばいいだろ。クリティカルをバンバン出せば斧を超えることも……」
「でもそれじゃあ正確さのある斧使いには及ばないよ」
「そんな使い手そうそういないよ」
「今はまだ、ね」
いつかは出てくる――とアスナは言外に述べる。
果ての見えない浮遊上の攻略はまだ一層も終わっていない。
物知りな剣士さんは、おそらくあと二年はかかるだろうと言っていた。
その間、最前線にいる斧装備の人たちは技を磨き続けるだろう――自分が生き残るために。
そうなると当然の結果として、プレイヤースキルの向上によって、正確さのある(クリティカルをバンバン出す)斧使いは量産される。
だからといって細剣使いの需要がなくなるわけではない。
フェンサーにはフェンサーの長所があり短所がある。
その短所が
そう……それだけの話なのだが……
「それは無謀っていうか……そもそもそういうバランス設計だから仕方がない。細剣で斧並みの攻撃力なんて反則もいいとこだよ。諦めることをお勧めする」
「嫌よ。なんか、こう――負けたくない!」
いかにも呆れてますという風な顔の黒い生き物に見守られ、歩きながら突きの練習を繰り返す。
パーティーを組んでの迷宮区探索の帰り、幾分か距離の縮まった二人は並んで街を目指す。
アスナにとっては初のコンビでの狩りだが上手くり
出会って二日の二人だが相性がいいのか、元々コンビ向きな性質だったのか、パズルのピースがくっつくいたような一体感を感じた。
二人で配分してもいつも以上に多い戦果に不満はないが、自分より強い人が隣にいると、どうしても比べてしまう。
アスナもレベル、プレイヤースキル共にトップクラスのプレイヤーだが、キリトはそのどちらもアスナを上回る。
キリトの強さはそれに限らず、膨大な知識と経験にもよる。
まるで何ヶ月も前からこのゲームで剣を振っているような経験からくる妙な慣れがあるだ。
つまり何が言いたいかというと――
「キリト君がクリティカル出し過ぎなのがいけないんだよ!」
「ええ!?俺のせい!?」
「キリト君が細剣の十八番のクリティカルをあんなに出すからこんなこと考えちゃうんだよ!」
「そんなの……だって片手剣だし……」
「それでも!」
理不尽なことを言っているのは解るが、ここで『フェンサー以外クリティカル禁止!』と言うわけにもいかないので、自身のスキルの向上に心血を注いでいる――という訳なのだ。
しかし、問題はそれだけではない。
モンスター相手はまだいい。
慎重にアルゴリズムを見極めれば、どんな攻撃でも当てられる。
本当の問題は人間相手――PvPの時だ。
何故ならば――
「ん?……あれは……」
「……ディアベルさん?」
町の入口が見えてきた、というタイミングで二人は同時に青色を視界にとらえた。
ディアベルは二人の姿を見ると爽やかな笑顔を見せながら近づいてきた。
「やあ二人とも。今帰りかい?」
自分たちを待ち伏せていたとしか思えない青い騎士は、眩しい笑顔で当り障りのない口上を述べた。
「……こんにちは。ディアベルさん」
「…………こんにちは」
キリトも予想外の自体に動揺しているのか、少し腰が引けている。
一方アスナは性別バレを危惧して、出来るだけ低い声を意識して挨拶を返すに留めた。
「知ってるだろうけど一応自己紹介するよ。俺はディアベル。よろしく!」
「……なんでか知ってるみたいだけど一応自己紹介するよ。俺はキリト。……こっちがアスナ」
ご紹介頂いたので、ぺこりとお辞儀をする。
ディアベルはキリトの隣に立つフーデッドケープの不審者を見ても、その端正な顔には嫌な色一つも浮かべなかった。
「アスナさんもボスの攻略会議に参加してくれていたね。これからよろしく」
こちらこそよろしく、という思いを先ほどより深いお辞儀で表現する。
伝わったかどうかは解らないがディアベルは無言の礼を受け取った。
そしてキリトの方に向き直ると、SAOで最初に表だってボス攻略を掲げた勇気ある騎士様はおもむろに「実はキリトさんを待ってたんだ」とサラッとカミングアウトした。
キリトはディアベルをすっかり話し合いの場として定着してしまった自分の宿泊している宿に招待した。
二人で話し合いたいという彼の要求をのみ、アスナは「また午後の会議で」という別れの挨拶と共に去って行った。
キリトは昨日フェンサー様にしたように、ナイト様にソファーに座るのを進め、コップ二つにミルクを入れるとローテーブルに運び、向かいのソファーに向き合う形で座った。
ディアベルは礼と共にミルクを受け取とると、一息に飲み干した。
「みんな一気飲みなんだな……」
「……ん?どうしたんだい」
「いや、なんでも」
不愛想に返し、コップの中のミルクを一息に干す。
濃厚な味が口と喉を大量に通り抜け、まろやかな感覚を残して消えた。
うん、一気飲みが最高だな――と一人納得する。
「実は今日ボスの部屋を発見したんだ」
ディアベルのパーティーはいつも以上のスピードでマップを攻略して行き、一日で二十階を踏破したそうだ。
ボスの部屋を発見した時の彼らの歓声はすさまじく、近くで戦っていたキリトの耳にも届いていた。
「そうか。じゃあ今日の会議はボスの情報収集についてになるのか」
「そういうことだね。ボスの情報の入手手段は俺の知る限り三つある」
「三つ……?」
ナイトの示した数字に疑問符を付ける。
キリトは情報入手の手段は二つしか思い浮かばない。
「一つ目は《偵察戦》――実際にちょっかいを出して逃げる……これから行う予定だった正攻法というべき攻略法だね。二つ目は……《元ベータテスタ》に情報を提供してもらう方法」
ディアベルはそこで言葉を切り、顔に苦笑の様なものを浮かべた。
すぐに消えたその表情の意味するところは、同じ様な顔を良く浮かべるキリトにはすぐに解った。
あれは、ある種の自己嫌悪の表情だ。
そこから芽を出す一つの推測を今は引っ込める。
「三つ目は――クエスト報酬だ」
「……クエスト報酬?」
「フロア最後の町や村、迷宮区周辺にはその層のフロアボスの情報を開示するクエストが存在するんだ」
「そんなものがあるのか!」
予想外の朗報に思わず前のめりになり、ディアベルに詰め寄った。
それが確かなら開示される情報の量にもよるがプレイヤーの生存率が上がることは間違いない。
まさかこのデスゲームにそんな親切設計があったとは……とそこまで考えてからある可能性に思い至り、体の動きを完全に停止させた。
ベータテストになかった設定……ベータテストになかったクエスト……ベータテストにいなかったNPC……《Yui》……クエスト達成条件――結婚!?
まさか――結婚――そんな――でも――茅場なら――と冷や汗をたらしまくるキリトだったが、続きがあった。
「先ほどアルゴさんからそのクエスト達成の一報が届いた」
なに――――!?
キリトは心中で絶叫した。
まさかアルゴが情報のためとはいえ――結婚するだなんて!!
そんな、まさか、アルゴ、お前、ベータテスターとしての責任をこんな形で取るだなんて――!?
と本人が聞いたら怒り爆発間違いなしな誤解が頭の中で展開されて行く。
「……そのクエストってどんなやつだったんだ」
「どんなやつとは?」
「だから、その、虐殺系とか……」
「ああ、お使い系のものだったらしいよ」
思わず安堵の息を零した。
さすがの茅場もボスを倒すために結婚――なんて笑えないジョークはかまさないようだ。
「クエストの報酬はボスの装備から弱点、攻略法までと有益なものばかりだったよ」
「それは良かった」
ようやく落ち着きを取り戻したキリトの頭にある疑問が浮かぶ。
「アルゴはその情報公開クエの存在をどうやって知ったんだ?……もしかしてあいつ全部のクエ網羅するつもりで、発見したのは偶然なのか?」
「いや、情報公開クエの存在は《はじまりの街》にいる少女に教えてもらったらしい。まあNPC……になるのかな?」
「へー。そのNPCなんていうだ」
「ユイって名前だったよ」
なに――――!?
再度心の中で絶叫。
NPCに教えてもらう=クエスト報酬=《Yui》=結婚
という方程式が脳内で一瞬にして完成する。
アルゴ……やっぱりお前……ベータテスターとしての責任を……
俺はこの世界に来てから、自分が生き残ることしか考えていなかった。
ビギナーを見捨て、利己的なソロプレイを敢行してきた。
だというのに、アルゴ――お前は違った。
おそらくランダムで選択されたであろう男性プレイヤーに、ゲームの中とはいえ結婚を申込んだ。
ひとえにボス攻略で犠牲者を出さないがために――!
まさかあの鼠を思わせるマーカーの付いた顔の裏に、こんなにも誠実な心を隠し持っていただなんて……
アルゴは盛大な誤解とともに、キリトの中で聖人の様な人物像を獲得した。
「今日の会議でアルゴさんは自分が持つボスに関する情報をすべて公開する、と言ってくれた。それも無料で」
「―――」
もう何度目かの驚愕。
自分の持つ情報のすべてというからには、つまりベータテストの時の情報も含まれるのだろう。
そんなことをすれば、もしこの先ベータテスターが糾弾されるようなことがあった場合、彼女はその矢面に立たされることになる。
そういえば彼女は《エリア別攻略本》も初版以降は無料配布していた。
アルゴ……お前ってやつはどこまで……
感銘を受けているキリトに、ディアベルはいきなり素っ頓狂なことを言い出した。
「キリトさんには《刀スキル》についての情報を売ってほしいんだ」
「刀スキル――!?」
あまりに予想外な単語の登場に目を張るキリトだったが、ディアベルは真剣な表情でいる。
なぜここで第十層に登場したモンスター専用カテゴリーの刀がでてくるのか。
キリトは今までの話の流れから、その答えを高速で導き出した。
「まさか、ボスが!?」
「そう、第一層のボス《イルファング・ザ・コボルドロード》は四段あるHPゲージが最後の一段になると武器を刀カテゴリーの《野太刀》に持ち変える。使ってくるのは当然、刀のソードスキルだ」
そこまで聞けばすべて理解出来た。
ディアベルがキリトに会いに来た理由から、自分がこれからすべきことまで。
「キリトさん。もう気が付いていると思うけど、俺もアルゴさんやキリトさんと同じ――」
「いや、いい。もう解ったから」
そう、もう解ったのだ。
ディアベルは元ベータテスターだということも。
なぜアルゴの代わりにディアベルがキリトに接触して、《刀スキル》のことを持ち出してきたのかも。
アルゴは元ベータテスターについての情報だけは絶対に売らない。
それでも二人の間で『キリトは《刀スキル》について知っている』と話題に上がるのは、『キリトなら《刀スキル》について知っているはず』というのが二人の共通の認識であった場合に限られる。
故にディアベルは元ベータテスターだと解る。
そして、もしアルゴが俺から刀スキルの情報を買っていくだけならば、そこで俺はボス攻略に情報面で貢献したことで、『自分は元ベータテスターの責任を幾らか果たした』と自己満足したまま、ボス攻略からあぶれたプレイヤーとして傍観者でいただろう。
しかし、ディアベルの協力があれば話は違ってくる。
未知のソードスキルの恐ろしさはβ時代に《刀スキル》を完全に把握するまで、何十回と再挑戦を繰り返す破目に遭ったキリトが一番理解している。
ディアベルにとっては犠牲者ゼロでのボス撃破が第一条件だ。
その為に自らベータテスターであることをキリトに打ち明けた。
つまり、ディアベルの話というのは――
「俺に――ボスと戦えってことだな」
「ああ……そうなる」
背中に多くのものを背負っている騎士の瞳には、ある種意志が見えた。
それは即ち、己の剣でこのデスゲームを終わらせるのだという意思を秘めた、攻略者の瞳だ。
騎士は迷い瞳でキリトを見つめたまま、手を差し出した。
「俺たちとボスを倒そう――みんなのために」
元ベータテスターでありながらもみんなの先頭に立つ騎士ディアベルの覚悟と、アルゴの壮絶な献身(誤解)を知った今、キリトの心が動かないはずがなかった。
ああ――やってやる!
アルゴ……お前の犠牲は無駄にはしない。
必ず犠牲者ゼロでボスを倒す!
色々とキリト君が誤解してます。
途中からアスナさんがいなくなりましたけど、基本はアスナさん中心で進めていくつもりです。
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