トリッパーと雁夜が聖杯戦争で暗躍 (ウィル・ゲイツ)
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キャラ設定(第23話時点)


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<パラメータ>

 名前 :八神遼平

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :6歳(前世の記憶あり)

 職業 :幼稚園生

 立場 :遠坂時臣の弟子

     遠坂桜の婚約者(候補)

     (魔術の)八神家当主(六代目)

 属性 :架空元素・無

 回路 :メイン30本、サブそれぞれ20本

 能力 :魔術(降霊など)

     令呪(一画)

     八神家の魔術刻印

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     透視能力(サーヴァントの能力解析専用)

 体質 :霊媒体質

     テレパシー(受信)

 使い魔:タマモ(子狐)、八神真凛(キャスター)

 降霊 :メディア(分霊)、メドゥーサ(分霊)

 ライン:メディア、メドゥーサ、タマモ、八神真凛、八神真桜、遠坂凛、遠坂桜、間桐滴

 所持 :八神家の魔術書

     八神家の特製保管箱

     雨生家の魔術書(コピー)

 訓練 :念能力の方法を流用して『魔力制御』の訓練中

     魔術回路を作り直すという、死と隣り合わせの修行を実施中(1回/日)

     魔術回路を鍛える訓練がメイン

 方針 :命を大事に

     アンリ・マユの復活阻止

     前世の記憶は絶対秘密

 備考 :転生系トリッパー(Fateなどの原作知識あり)

 

<分霊のパラメータ>(再召喚した分霊:自意識なし)

種族     分霊

真名     メディア

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A++

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 C  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

       【騎乗】:A+

宝具     なし

 

<分霊のパラメータ>(再召喚した分霊:自意識なし)

種族     分霊

真名     メドゥーサ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 C  魔力 B

       耐久 E  幸運 A

       敏捷 B  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

       【海神の加護】:A

       【大地制御】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

<パラメータ>

 名前 :タマモ

 性別 :雌

 種族 :狐

 年齢 :3歳(封印期間を除く)

 職業 :使い魔

 立場 :八神遼平の使い魔

 属性 :架空元素・無

 回路 :?(八神家の先祖から移植されたもの)

 能力 :精神(夢)世界での接触

     人格構築プログラム(メディアによる改良済み)

     解析プログラム

     変化

     令呪の作成

     令呪(三画)

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     透視能力(サーヴァントの能力解析専用)

     魔眼(メドゥーサのスキル借用)

     怪力(メドゥーサのスキル借用)

     大地制御(メドゥーサのスキル借用)

 使い魔:八神真凛(キャスター)

 ライン:八神遼平、八神真凛、メディア、メドゥーサ

 所持 :首輪

 外見 :キャス狐モード、少女モード、幼女モードの3パターン(変化スキル使用)

 備考 :歩く八神家の魔術書(記録は順次封印解除中)

     『八神家最後の魔術師』の人生最後の大魔術で作成された使い魔

     八神家で育成&作成した『八神家の魔術回路移植用&降霊術対応の狐』

     解析プログラムで、聖杯戦争のシステムを解析予定

     令呪は解析済みのため、魔力があれば作成可能

 

 

<パラメータ>

 名前 :八神真凛(まりん)

 性別 :女

 種族 :サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体

 年齢 :2歳(誕生時の精神年齢は18歳、外見は20歳)

 職業 :サーヴァント

 立場 :タマモのサーヴァント

     八神遼平、遠坂凛、遠坂桜の教師

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本

 属性 :五大元素

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 能力 :令呪(一画)

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     透視能力(サーヴァントの能力解析専用)

     高速神言(メディアのスキル借用)

     呪具作成(メディアのスキル借用)

     騎乗(メディアのスキル借用)

 ライン:八神遼平、タマモ、メディア

 方針 :アンリ・マユの復活阻止

     遠坂時臣を助けるアイデアを提案予定

 外見 :少女モード(サーヴァント)

     大人モード、黒猫モード、幼女モードの3パターン(影の分身の体)

 備考 :4歳の遠坂凛の記憶と人格を核に、八神遼平の記憶を元にして、人格構築プログラムで作られた遠坂凛の仮想人格

     召喚事故により、サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体となった

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    キャスター

真名     遠坂凛

マスター   タマモ&八神真凛

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 D  魔力 A

       耐久 E  幸運 A+

       敏捷 C  宝具 EX

クラス別能力 【陣地作成】:A

       【道具作成】:A

保有スキル  【魔術】:A

       【中国武術】:E

       【魔法】:A

       【高速神言】:B

       【騎乗】:A

宝具     【七色に輝く宝石剣】:EX

       【宝石】:A

備考

 遠坂凛の人格は無く、代わりに八神真凛の仮想人格と融合済み。

 【高速神言】【騎乗】スキルは、メディア(分霊)からの借用スキルの為、1ランクダウン。

 

備考 遠坂凛の人格は無く、代わりに八神真凛の仮想人格と融合済み

 

<技能>

【魔術】:A

 得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する宝石魔術を得意とする。

 属性は『五大元素』。遠坂の一族が得意とする転換の他に強化の特性を身に着けている。

 遠坂家の魔術刻印を所持する。

 

【中国武術】:E

 八極拳の達人である言峰綺礼に10年間師事して身に着けた武術。

 遠坂凛は『今時の魔術師は、護身術も必修科目』と言っているが、少なくとも衛宮士郎は知らなかった。

 なお、『hollow ataraxia』において、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと初めて喧嘩した際には、遠坂凛の初撃の崩拳をかわされた後、バックドロップで反撃されてわずか13秒でKO負けをくらっている。

 このことから、(接近戦を得意とする)武闘派魔術師と比べると遠坂凛の武術のレベルはそれほど高くないと推測される。(注 ルヴィアとの喧嘩では、魔術は双方とも未使用)

 

【魔法】:A

 第二魔法である、並行世界の運営。

 本来は、無数に存在する平行世界を観察し、自己の同一性を保ったまま任意の世界間を行き来する、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの魔法。

 遠坂凛の場合、宝具【七色に輝く宝石剣(ゼルレッチ)】を使うことで、無限に列なる並行世界に門は開けられないものの、(多重次元屈折現象で)ごくわずかな隙間を開き、大気に満ちる魔力程度ならば共有を可能とする。

 

<宝具>

七色に輝く宝石剣(ゼルレッチ)】:EX

 第二魔法の能力を持つ、限定魔術礼装。

 ゼルレッチの弟子の家系だけが使用可能。

 並行世界への門は開けられないものの、向こう側を覗く程度の干渉を可能とし、大気に満ちる魔力程度なら互いに分け合う事さえ可能とする。

 宝石の由来は、その多角面が万華鏡に似ていることから。

 

【宝石】:A

 遠坂凛が長期間魔力を移し続けた宝石。

 この宝石を使えばA判定の大魔術を一瞬で発動できる。

 個数制限あり。

 

 

<パラメータ>

 名前 :八神真桜(まお)

 性別 :女

 種族 :サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体

 年齢 :1歳(誕生時の精神年齢は16歳、外見は19歳)

 職業 :サーヴァント

 立場 :八神遼平のサーヴァント

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本

 属性 :架空元素・虚数

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 能力 :令呪(一画)

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     透視能力(サーヴァントの能力解析専用)

     騎乗(メドゥーサのスキル借用)

     海神の加護(メドゥーサのスキル借用)

 ライン:八神遼平、タマモ、メドゥーサ

 方針 :アンリ・マユの復活阻止

     間桐滴の救済

 外見 :少女モード(サーヴァント)、

     大人モード、黒猫モード、幼女モードの3パターン(影の分身の体)

 備考 :4歳の遠坂桜の記憶と人格、そしてメドゥーサが持っていた間桐桜の記憶を核に、八神遼平の記憶を元にして(メディアが改良した)人格構築プログラムで作られた間桐桜の仮想人格

     自分を間桐桜のコピー人格だと認識

     間桐滴の看護を担当

     召喚事故により、サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体となった

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    キャスター

真名     間桐桜

マスター   八神遼平&八神真桜

属性     混沌・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A(A++)

       耐久 B(A) 幸運 E

       敏捷 E  宝具 -

クラス別能力 【陣地作成】:B

       【道具作成】:-

保有スキル  【魔術】:D

       【蟲使い】:C

       【再生】:B(A)

       【黒い影】:B(A)

       【マキリの聖杯】:EX

       【騎乗】:B

       【海神の加護】:B

宝具     なし

備考

 【マキリの聖杯】スキルを得た代償に道具作成スキルは失われている。

 【マキリの聖杯】スキルの未使用時は、一部のステータスとスキルは弱体化する。

 間桐桜の人格は無く、代わりに八神真桜の仮想人格と融合済み

 【騎乗】【海神の加護】スキルは、メドゥーサ(分霊)からの借用スキルの為、1ランクダウン。

 

<技能>

【魔術】:D

 マキリの業は覚えていない(教えられていない)。

 そのため、『己の負の面を表に出して魔力をぶつけること』、『吸収』、『使い魔作成&制御』のみ可能

 

【蟲使い】:C

 蟲をある程度制御可能。

 マキリの蟲限定で、制御力向上。

 

【再生】:B(A)

 肉体の再生能力。

 ランクAの場合、自分の心臓の即時再生も可能となる。

 

【黒い影】:B(A)

 桜が作り出した影の使い魔。

 サイズを大きくすることや、同時に複数体作り出すことが可能。

 黒い影に取り込んだサーヴァントはそのまま殺すことも出来るが、黒化させて使役することも出来る。

 

【マキリの聖杯】:EX

 アイリスフィールの聖杯の破片を触媒として生み出された刻印虫を埋め込まれ、それにより間桐桜はマキリ製の聖杯として改造された。

 アインツベルン製の聖杯より性能は落ちるが、サーヴァントの魂を格納することが可能。

 【マキリの聖杯】スキルを使用して大聖杯と直結すれば、無尽蔵ともいえる魔力を聖杯から汲み出すが、一度に放てる魔力は一千ほど。

 ただしその場合、大聖杯の中にいるアンリ・マユに汚染されて(黒化して)いく可能性がある。

 

 【マキリの聖杯】スキルを未使用時、間桐桜のステータスとスキルは下記の通りパワーダウンする。

   【耐久】 :ランクA→B

   【魔力】 :ランクA++→A

   【再生】 :ランクA→B

   【黒い影】:ランクA→B&サーヴァント吸収能力の弱体化

 

 

<パラメータ>

 名前 :メディア

 性別 :女

 種族 :サーヴァント

 年齢 :不明(外見は10代半ば)

 職業 :サーヴァント

 立場 :八神真凛のサーヴァント

 属性 :風、架空元素・虚数

 能力 :魔術

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

 ライン:八神遼平、八神真凛

 方針 :喧嘩を売ってきた遠坂時臣を半殺し

     徹底的に苦しませた上で臓硯を殺す

     人形の体の入手:保留中

     サーヴァントとして再召喚:成功

 備考 :クラス名(自称)は『プリンセス』

     ハサンの分体を生贄にしてメディアのサーヴァントを召喚し、サーヴァントと分霊を融合させ、真凛と契約したサーヴァント

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    アサシン

真名     メディア

マスター   八神真凛

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A++

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 C  宝具 -

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

       【騎乗】:A+

宝具     なし

備考

 八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)にいた分霊と融合済み

 

<追加技能>

【呪具作成】

 原作において、【道具作成】に統合されていたスキル。

 メディアが生前教わった魔女の技によって、呪具を作成することが可能。

 

 

<パラメータ>

 名前 :メドゥーサ

 性別 :女

 種族 :サーヴァント

 年齢 :不明(外見は20歳ぐらい)

 職業 :サーヴァント

 立場 :八神真桜のサーヴァント

 属性 :土・水

 能力 :魔術

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     吸血

 ライン:八神遼平、八神真桜

 方針 :遠坂桜の庇護:実施中

     人形の体の入手:保留中

     サーヴァントとして再召喚:成功

 備考 :クラス名(自称)は『ガーディアン』

     ハサンの分体を生贄にしてメドゥーサのサーヴァントを召喚し、サーヴァントと分霊を融合させ、真桜と契約したサーヴァント

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メドゥーサ

マスター   八神真桜

属性     混沌・善

ステータス  筋力 C  魔力 B

       耐久 E  幸運 A

       敏捷 B  宝具 B

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

       【海神の加護】:A

       【大地制御】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

備考

 八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)にいた分霊と融合済み

 

<追加技能>

【海神の加護】

 ポセイドンの愛人だったメドゥーサに与えられた加護。

 水に関連するあらゆる攻撃を完全に無効化し、水中にいる間は「筋力」「耐久」「敏捷」「魔力」のステータスが1ランク向上する。

【大地制御】

 かつて大地の女神だったメドゥーサが保有する高度な自然干渉能力。

 地脈もある程度操作可能。

 

 

<パラメータ>

 名前 :間桐雁夜

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :26歳

 職業 :社会人

 立場 :遠坂時臣の弟子、八神遼平の同盟者

 属性 :水

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ25本

 能力 :魔術(水、降霊)

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     間桐家の魔術刻印

     対魔力(ランスロットのスキル借用)

     己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)(ランスロットの宝具借用)

     透視能力(サーヴァントの能力解析専用)

 使い魔:ランスロット(バーサーカー)

 所持 :雨生家の魔術書

     間桐家の魔術書

 訓練 :魔術回路を作り直すという、死と隣り合わせの修行を実施中(1回/日)

     念能力の方法を流用して『魔力制御』の訓練中

 方針 :遠坂家の女性3人(ついでに遠坂時臣)を守る

     間桐臓硯の抹殺

     間桐滴の保護:実施中

 備考 :間桐家から勘当中

     八神遼平から予知情報(実際には原作知識)の一部を教わる

     遠坂時臣の弟子であることは、遠坂家と八神遼平以外には秘密。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    バーサーカー

真名     ランスロット

マスター   間桐雁夜

属性     秩序・狂

ステータス  筋力 A(A+)  魔力 B

       耐久 B(A)   幸運 A

       敏捷 A+(A++) 宝具 A++

クラス別能力 【狂化】:C

保有スキル  【対魔力】:E

       【精霊の加護】:A

       【無窮の武練】:A+

       【勇猛】:A

       【心眼(真)】:D

宝具     【騎士は徒手にて死せず】:A++

       【己が栄光の為でなく】:B

       【無毀なる湖光】:A++

備考

 魔術回路を全部開いた間桐雁夜がマスターのため、原作よりもパワーアップし、スキルも増えている。

 ただし、狂化によって【対魔力】と【心眼(真)】はランクダウンしており、【勇猛】は効果を発揮できない。

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂時臣

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :29歳

 職業 :魔術師

 立場 :遠坂家当主(五代目)

 属性 :炎

 回路 :?

 能力 :魔術(宝石、錬金、召喚、降霊、卜占、治癒など)

     遠坂家の魔術刻印

     令呪(三画)

 使い魔:八神遼平と間桐雁夜の教育用使い魔を使役中

     ギルガメッシュ(アーチャー)

 ライン:遠坂葵

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    アーチャー

真名     ギルガメッシュ

マスター   遠坂時臣

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 A

       耐久 B  幸運 A

       敏捷 B  宝具 EX

クラス別能力 【対魔力】:C

       【単独行動】:A

保有スキル  【黄金率】:A

       【カリスマ】:A+

       【神性】:B

宝具     【王の財宝】:E~A++

       【天地乖離す開闢の星】:EX

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂葵

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :29歳

 職業 :主婦

 立場 :遠坂時臣の妻、凛と桜の母親

 回路 :なし

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 ライン:遠坂時臣

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂凛

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :6歳

 職業 :幼稚園生

 立場 :遠坂時臣の弟子

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本

 能力 :魔術(宝石など?)

 属性 :五大元素

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 ライン:八神遼平

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂桜

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :5歳

 職業 :幼稚園生

 立場 :遠坂時臣の弟子

     八神遼平の婚約者

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本

 能力 :魔術(降霊)

 属性 :架空元素・虚数

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 ライン:八神遼平

 

 

<パラメータ>

 名前 :間桐滴

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :6歳

 職業 :魔術師(半人前)

 立場 :間桐鶴野の養子

     間桐雁夜の保護下

     メディアの弟子

 回路 :?

 属性 :水

 方針 :魔術協会に捕まっている姉の救出

     姉の救出に必要なあらゆる力の入手

 ライン:八神遼平

 備考 :狩られた封印指定の魔術師の次女

     養子入りの時点で、魔術に関する知識は一切持っていなかった

     体内の蟲のマスター権限が、メディアとメドゥーサに移行済み

     『臓硯たちによる洗脳や暗示の記憶』を完全封印済み

     『間桐邸に入居した後から救出された日までの記憶』を封印済み

 

 

<パラメータ>

 名前 :ウェイバー・ベルベット

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :19歳

 職業 :魔術師

 立場 :ベルベット家当主(三代目)

 属性 :?

 回路 :?

 能力 :魔術

     速読

     令呪(三画)

 使い魔:イスカンダル(ライダー)

 ライン:イスカンダル

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ライダー

真名     イスカンダル

マスター   ウェイバー

属性     中立・善

ステータス  筋力 B  魔力 C

       耐久 A  幸運 A+

       敏捷 D  宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:D

       【騎乗】:A+

保有スキル  【カリスマ】:A

       【軍略】:B

       【神性】:C

宝具     【遥かなる蹂躙制覇】:A+

       【王の軍勢 】:EX

 

 

<パラメータ>

 名前 :ケイネス・エルメロイ・アーチボルト

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :?歳(20代前半~半ば?)

 職業 :魔術師

 立場 :アーチボルト家当主(九代目)

 属性 :風、水

 回路 :?

 能力 :魔術(降霊術、錬金術、召喚術など)

     エルメロイ家の魔術刻印

     魔術礼装作成

     令呪(三画)

 使い魔:ディルムッド(ランサー)

 ライン:ディルムッド

 所持 :月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)

 

 

<パラメータ>

 名前 :ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :?歳(少女期を終えたばかり、10代後半~20代前半?)

 職業 :ケイネスの婚約者

     魔術協会の降霊科学部長を歴任するソフィアリ家の娘

 立場 :アーチボルト家当主(九代目)

 属性 :風、水

 回路 :?

 能力 :魔術(初歩のみ)

 使い魔:ディルムッド(ランサー)

 ライン:ディルムッド

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ランサー

真名     ディルムッド・オディナ

マスター   ケイネス&ソラウ

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 A  魔力 B

       耐久 B  幸運 D

       敏捷 A++ 宝具 B

クラス別能力 【対魔力】:A

保有スキル  【心眼(真)】:B

       【愛の黒子】:C

       【神々の加護】:B

宝具     【破魔の紅薔薇】:B

       【必滅の黄薔薇】:B

 

【神々の加護】:B

 養父であり愛と若さと美を司る神である妖精王オェングスと、海神である魔道王マナナンから与えられた加護。

 これにより、【幸運】と【魔力】と【対魔力】のステータスが1ランク向上する。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    セイバー

真名     アルトリア

マスター   間桐桜

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 A+ 魔力 A+

       耐久 A 幸運 B

       敏捷 B 宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:B

       【騎乗】:-

保有スキル  【直感】:B

       【魔力放出】:A

       【カリスマ】:E

宝具     【約束された勝利の剣】:A++

備考

 反英霊サクラと一緒にこの世界へ召喚されたサーヴァント。

 サクラの支配から解放されて独自行動中。

 なぜか、原作よりステータスがパワーアップしている。

 

 

<サーヴァントのパラメータ> NEW

クラス    アサシン

真名     ハサン・サッバーハ

マスター   不明

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 E 魔力 E

       耐久 E 幸運 C

       敏捷 E 宝具 B+

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【投擲(短刀)】:B

       【風除けの加護】:A

       【自己改造】:C

宝具     【妄想心音】:B+

備考

 高い確率で、マスターは間桐臓硯だと予想。

 アサシンの分体を襲い、心臓を食べたところを目撃。




 上記の内容で間違っていること、記載漏れなどがありましたらお知らせください。


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設定(第23話まで)

 このページには、この小説の設定情報を記載しています。
 ネタバレがありますので、本編読了後の閲覧を推奨します。

 本作品の詳細な設定などに興味がありましたらご覧になってください。

 本作品の独自設定には、(オリジナル設定)と記載しています。


【プロローグ(第四次聖杯戦争の三年前頃)】

 

〇八神家(オリジナル設定)

 かつては管理地を持っていた魔術師一族。

 五代目当主の時に、よそ者の魔術師に管理地を奪われた。

 五代目当主の子供は管理地を追い出された後に生まれたが、完全に魔術回路が閉じてしまっていた。(魔術回路の数はそのまま)

 閉じた魔術回路を開く手段として、先祖伝来の土地によく似た性質の霊脈を持つ冬木の土地に住むことを選択。

 『柳洞寺』、『冬木教会』と至近距離に住むことが不可能な場所であり、『後に冬木中央公園となった場所』は当時まだ霊脈ではなかった為、最後に残った霊脈である『遠坂邸』の隣に子孫を住まわせる。(住み着いた時期は、第三次聖杯戦争後)

 八神家の魔術に関する全情報を『魔術具である箱』に封印し、家宝として子孫に引き継がせた。

 現在の八神家は全員魔術に関する知識を持っておらず、家宝の箱を開いた八神遼平が八神家の魔術を受け継いだ。

 

 

〇八神家の家宝の箱(オリジナル設定)

 八神家の5代目当主が作成し、子孫に受け継がせた箱。

 『魔術回路を開くことが可能な子孫』を判別する装置を作って、『該当する子孫がこの箱に触れたとき』に箱を開くようにセットした。

 箱には、『魔術回路を開く魔術具』、『魔力封じの魔術具』『魔術刻印付きのミイラ化した腕』『封印した使い魔』『遺言書』が入っていた。

 

 

 

【第01話 遠坂葵の説得(憑依二ヶ月後)】

 

〇間桐家の修行

 間桐桜の場合、原作では『養子となった日にマキリの蟲に処女を奪われ、毎日蟲漬け、毒食い、肉体改造の日々を過ごした』と記されている。

 また、間桐家に嫁入りした女性は、子供を産んだ後に蟲の餌にされたという記述もある。

 

 

 

【第02話 雁夜と時臣の交渉(憑依三ヶ月後)】

 

〇魔術師の後継者

 基本的に一子相伝。

 魔術を継がない子は、魔術の存在自体を知らされないことも多い。

 後継者が二人いるということは、本来は忌み嫌われる。

 エーデルフェルトのように、双子で受け継ぐというのは例外的な存在。

 

 

〇遠坂桜の危険性

 『架空元素』属性という極めて稀有な属性を持って生まれている。

 そのため、魔道の家門の庇護が無ければホルマリン漬けの標本にされる可能性が高い。

 

 

〇聖杯戦争

 願いを叶える為には、6体のサーヴァントの魂が必要。

 根源への扉を開くためには、7体のサーヴァントの魂が必要。

 

 

 

【第03話 時臣との契約(憑依三ヶ月後)】

 

〇遠坂時臣と八神遼平の契約

 ・八神遼平が遠坂時臣に弟子入りし魔術を習う。

  内容は、八神遼平に対して、魔術回路の作成、魔術の教育(八神家の魔術を含む)、魔術刻印の移植の実施。

 ・遠坂時臣は、八神遼平の後見人となる。

 ・八神遼平は、遠坂時臣への対価として、八神家の魔術の全情報を提供する。

 ・八神家の魔術の全情報は、遠坂家の外部へ公開することを禁止する。

 ・遠坂時臣は、八神遼平と一緒に遠坂桜に対しても、魔術の教育を行う。

 ・遠坂時臣は、八神遼平を遠坂桜の婚約者候補として扱い、遠坂時臣によって取り消されるまでその権利を保持するものとする。

 

 

〇八神家の魔術(オリジナル設定)

 メインは、降霊術(英霊召喚)。

 降霊術のサポートとして、他にも魔術を扱っていた。

 『降霊術を使って英霊の力の一端を借り受ける魔術』を使用しており、遠坂家の降霊術よりレベルが高い。

 『完全な英霊の分身を召喚して根源に達する儀式』を行わせることで、根源の渦に至ろうと考えていた。

 時臣曰く、「八神家の降霊術を習得すれば、サーヴァント召喚後に召喚したサーヴァントの力の一部を流用して、私がその力を使えるようにすることも可能になるだろう」とのこと。

 

 

〇聖杯戦争の裏技

 原作で使用が確認されている裏技は下記の通り。

 

 第三次聖杯戦争

  ・エーデルフェルトは、双子の姉妹で参加し、善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァント(セイバー?)を二体召喚した。

  ・アインツベルンは、8番目のクラス『アヴェンジャー』でサーヴァントを召喚した。

 

 第四次聖杯戦争

  ・ケイネスは、魔力のレイラインの接続先と令呪の持ち主をそれぞれ別の人物に分けた。

 

 第五次聖杯戦争

  ・キャスター(メディア)は、サーヴァントでありながらサーヴァント(アサシン)を召喚した。

  ・言峰綺礼は、ランサーのマスターから令呪を奪って、サーヴァント(ランサー)に対して令呪で主替えを同意させた。

  ・間桐桜は、偽臣の書を令呪で作り出して、マスター権限を譲った。

  ・間桐臓硯は、アサシン(佐々木小次郎)を殺し、彼の体を使って真アサシンを召喚した。(この際、臓硯が令呪を持っていたか不明)

 

 

〇エーデルフェルトの姉妹

 第三次聖杯戦争に当時の当主姉妹が参加して、善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァント(セイバー?)を二体召喚した。

 しかし、彼女らは尋常ではないほど仲が悪く、仲間割れをして早々に退場した。

 なお、その当主姉妹のうち妹は戦死、姉は何とか生還した。

 

 

 

【第04話 魔術回路の作成(憑依三ヶ月後)】

 

〇魔術回路数

 遠坂凛    :メイン40、サブがそれぞれ30

 遠坂桜    :メイン40、サブがそれぞれ30

 衛宮士郎   :メイン27

 蒼崎橙子   :メイン19

 平均的な魔術師:メイン約20

 間桐慎二   :閉じた魔術回路のみ(Fateの凛ルートにおいて、イリヤの心臓を埋め込むことで、無理やり魔術回路を開いた)

 

 

〇開いた魔術回路数(オリジナル設定)

 八神遼平   :メイン30

 間桐雁夜   :メイン10

 

 

〇HxHの念能力

 週刊誌『ジャンプ』に連載(休載)している戦闘冒険マンガ『HxH(ハンター・ハンター)』に出てくる特殊能力。

 自らの肉体の精孔(しょうこう)という部分からあふれ出る、「オーラ」とよばれる生命エネルギーを、自在に操る能力のこと。

 念能力には、基本技と応用技があり、これを極めることで強くなる。

 八神遼平は、念能力の基本技と応用技を魔力制御と操作に応用しようとし、一部成功した。

 

 

 

【第05話 使い魔の解放(憑依四ヶ月後)】

 

〇八神家の使い魔(オリジナル設定)

 八神家の5代目当主が作成した子狐の使い魔。

 初期状態では魔力消費量が少なく、マスターの魔力量の増加に合わせて使い魔も成長する特製の使い魔。

 1日連続して魔力を供給すると、現時点の僕の保有魔力量の1%ぐらいになる。

 使い魔に登録された知識は、使い魔の成長、つまりはマスターの成長に合わせて封印が順に解除されていく。

 人格構築プログラムを所持しており、マスターから受け取った記憶を元に自分の人格を構築する。

 

 

【第06話 使い魔との対話(憑依四ヶ月後)】

 

〇八神家の伝統(オリジナル設定)

 八神家において、魔術刻印を譲った後の元当主は死期を悟ったとき、あるいは生きることに飽きたときなどに、『人生最後にして最大の魔術』を実行して、最高傑作の使い魔を作る伝統があった。

 なぜ人生最後かというと、『八神家で品種改良し、降霊術と八神家の魔術回路への適性を高めてきた特別な獣』を元にして作られた使い魔に対して、『最後の大魔術』に必要がない全ての魔術回路を移植し、残った魔術回路を全て焼切る覚悟で大魔術を行って、特殊な能力を持たせた使い魔を作る為。

 ただし、老年の元当主が使うため、魔術刻印も譲った後であり持っておらず、魔術を行使するのは衰えた体と精神のため、できることには限界がある。

 当然、そんな無茶をすれば、良くて一生魔術が使えず半身不随、下手しなくても死ぬ羽目になる。

 

 

〇八神家の使い魔(追加情報)(オリジナル設定)

 マスターとなる魔術師と契約した最初の夜に、ライン経由でマスターの記憶を読み取り、自分に最適な人格や(精神世界の)姿を構築する。

 タマモは、先祖代々八神家に飼われて、使い魔として尽くしてきた血統書付きともいえる存在。

 「八神家の伝統」で作られた使い魔は、次代か次々代の後継者に預けられ、後継者と共に成長してきた。

 マスターに仕えるために作られている為、寿命は大体人間の寿命と同じか、少し短いぐらい。

 タマモの場合、『魔術刻印を渡した後の元当主』に作られた使い魔とは違って、『八神家の魔術刻印を持った現当主』によって作られた為、歴代の『「八神家の伝統」で作られた使い魔』の中でもさらに特別性の使い魔。

 

 

〇八神家の管理地を奪われた戦い(オリジナル設定)

 敵に襲われた当時、「八神家の伝統」で作られた使い魔は5代目当主のパートナーである1体のみが生きていた。

 しかし、敵の宣戦布告の攻撃においてその使い魔は殺されてしまった為、当主は逃げるしかできなかった。

 

 

〇八神家の魔術(追加情報)(オリジナル設定)

 八神家は、降霊術以外『降霊術のサポート』レベルだが、使い魔作成や育成、改造の技術もかなりのものだったと判断される。

 そして、それらの魔術がサポートレベルでしかないほど、降霊術のレベルが突出していると推測できる。

 

 

 

【第07話 秘密の発覚(憑依五ヶ月後)】

 

〇タマモの魔術回路(オリジナル設定)

 タマモが持っている魔術回路は、老年の八神家の魔術師から移植した魔術回路だから、魔術回路を鍛えることはできない。

 しかし、マスターの魔力を吸収してタマモが成長することで、八神家の魔術師ら移植された魔術回路への適合性が増し、起動できる魔術回路が増え、魔術回路の出力が上がり、より効率的に魔力を発生させられるようになっている。

 また、タマモに移植されたのは『八神家当主の魔術師が限界まで鍛え上げた魔術回路』だから、数が少ないとはいえ、魔力量はばかにはできない。

 

 

〇聖杯戦争における8体目のサーヴァント召喚の方法

 かつての聖杯戦争において一つのクラスでサーヴァントを、善悪両方の側面から二体召喚するという方法を実行した前例がある。

 遠坂家の技術を使えば、繋がりの強い二人がマスターとなり、カスタマイズした召喚陣を使用してサーヴァントを同時に召喚することで、一つのクラスにおいて二体のサーヴァント召喚を召喚し、聖杯戦争において計8体のサーヴァント召喚を実現できる可能性が高い。

 そのため、魔術師である八神遼平と、その使い魔であり八神家の魔術師の魔術回路を移植されているタマモが、遠坂時臣特製の召喚陣を使って同時にサーヴァント召喚を行えば、同一クラスにおいて二人のサーヴァントを召喚できる可能性が高い。

 

 

〇玉藻御前がサーヴァントとして召喚される可能性

 冬木における聖杯戦争でサーヴァントして召喚できるのは英霊、または半神とか元神(元女神)まで。

 玉藻御前は、分霊とはいえ紛うことなき神様であるため、召喚範囲には含まれない。

 悪霊としての『玉藻御前』の場合、元神様に該当するため召喚できる可能性あるが、召喚するのは危険だと考えられる。

 

 

〇禅城家

 禅城家は元魔術師の家系であり、現在も特殊体質は引き継がれている。

 しかし、遠坂葵の体には魔術回路が全く存在しない。

 つまり、魔術師としては完全に終わった家系。

 

 

〇八神遼平と遠坂時臣の契約内容

・八神遼平は、使い魔であるタマモと協力して、ダブルサーヴァントの召喚を行う。

・サーヴァント召喚後、聖杯戦争のことは全てサーヴァントに任せてよい。

・サーヴァントに対して、可能なら遠坂時臣に協力してくれるように命令する。無理そうなら何も命令する必要は無い。

・召喚したサーヴァントに、事情を全部話してよい。

・八神遼平の役割は、サーヴァントを召喚し、魔力を供給するだけ。

・サーヴァントが令呪の使用を依頼した場合、サーヴァントの要求通り令呪を使ってよい。

・八神遼平とタマモが二体のサーヴァント召喚に成功した時点で、『桜の婚約者に相応しいだけの実力を身に着けて結果を出した』と認定し、桜の婚約者として正式に認める。

・対価の一部として、聖杯戦争中は遠坂凛と遠坂桜の魔力を八神遼平に提供する。

 

 

 

【第08話 仮契約(パクティオー)の実施(憑依六ヶ月後)】

 

仮契約(パクティオー)(オリジナル設定)

 命名者は、八神遼平。

 遠坂時臣が新しく作り出した簡易式の魔術回路接続、つまりライン接続の魔術は、専用の魔法陣の上で、契約する二人がキスをすることで、一定期間レイラインを構築することが可能。

 遠坂家の魔術に、八神家の降霊術を融合させることで完成した魔術。

 また、契約する二人のうちどちらかが魔術回路を持っていれば、レイラインを接続できる画期的なもの。

 この場合、ラインを繋いで念話をするか、一方通行で魔力を送るぐらいしか使えない。

 第四次聖杯戦争が終わり次第、代理人を通じて魔術協会へ『仮契約(パクティオー)』の魔術を特許申請する予定。

 

 

〇解析プログラム(オリジナル設定)

 八神家の使い魔であるタマモに内蔵されていた機能。

 マスターが令呪を入手したと同時に、自動的に起動し、ライン経由で令呪の解析を開始した。

 解析機能が対象としているのは聖杯戦争に関わる全てのこと。

 現在の解析対象は令呪のみだが、マスターがいずれサーヴァントを召喚すれば、サーヴァント召喚の儀式、そしてサーヴァントそのものの解析も行うと推測。

 

 

 

【第09話 二人目の使い魔(憑依六ヶ月後)】

 

〇間桐雁夜強化案

 1.(原作で真アサシンを召喚できたので)臓硯が持っている可能性が高い予備の令呪を奪って、雁夜さんに渡す。

 2.臓硯から聖杯戦争の裏技情報を奪う。

 3.間桐家に、かつて魔術刻印を継承した間桐家の魔術師の死体が残っていれば、雁夜さんに魔術刻印を移植する。

 4.湖の騎士ランスロットの分霊を雁夜さんに降霊させ、魔力を含めた身体能力パワーアップを目指す。

 5.ソラウが誰か(多分切嗣)に殺されそうになったら助けて、対価として魔力供給させることも検討。

 

 

〇間桐家の養女について

 聖杯戦争前に間桐家の養子がいれば、臓硯抹殺と同時に保護して、ついでに雁夜さんと仮契約(パクティオー)してもらって魔力供給してもらえないか駄目元で依頼する予定。

 理想は彼女が間桐家に養子入りしたその日に彼女を救出することだが、サーヴァントなしで救出するのは困難だと予想するため、サーヴァント召喚後に救出予定。

 助けた後のアフターケアを充実させて、埋め込まれた蟲を可能な限り解除するのは当然として、間桐家で過ごした地獄の日々の記憶を封印するとか、できるだけ彼女の希望を叶えてあげたいと考えている。

 

 

〇仮想人格(オリジナル設定)

 名前:八神真凛(まりん)

 外見:第五次聖杯戦争3年後の遠坂凛(20歳)

 記憶:オリジナルの遠坂凛の記憶をベースに、一般常識と大学卒業レベルの知識と魔術の基礎知識、観測世界における型月世界の全情報、などがある。

 方針:アンリ・マユの復活を阻止するのが最優先。その行動の妨げにならない範囲で、遠坂時臣を助けるアイデアを提案予定。

 

 『戦略や謀略を得意とし、冷静沈着に状況を把握し、必要ならばマスターを止めることも辞さない使い魔』の作成を目的として、タマモが使い魔として仮想人格を作成。

 遠坂凛から人格と記憶をコピーしてそれを核とし、マスターである八神遼平の記憶から再構築した人格と姿を与え、さらに型月世界の全ての物語と設定情報、ついてに八神遼平が前世で読んだファンタジー、SF、魔法関連の作品の情報をインプットした存在。

 元々タマモには、『教師用の人格を構築し、夢の中でマスターの先生として八神家の魔術を教え込む機能』があった。

 教師役の人格は、主人格であるタマモが気絶するとか、精神崩壊したときなどに、バックアップ人格としてこの体を操作する役目も持っている。

 この機能が今まで使われていなかったのは、タマモの独占欲が原因。

 「桜が養子に出され、父が死亡し、母が精神崩壊した後死亡し、人格破綻者である綺礼に育てられた状況」をある程度シミュレーションし、凛の仮想人格の精神年齢を成長させ、原作の17歳時点の性格を構築した為、完全な自我を持っただけじゃなくて、あなたにもある程度反抗できるだけの力を手に入れてしまった。

 与えた知識や記憶は、ブロックがかけてある為、八神遼平やタマモの許可がない限り、他の人に話すことや伝えることはできない。

 ただし、そのプロテクトがいつまで真凛(まりん)相手に通用するかは不明。

 

 

 

〇タマモの人格構成プログラム(オリジナル設定)

 降霊術を行った場合、術者は召喚した魂を一時的に自分に格納し、その間召喚した魂の力を借りる。

 つまり、降霊術が可能な魔術師には、魂を格納する魔術的な領域を持っており、八神家ではこの領域を『魂の空間(ソウルスペース)』と呼んでいた。

 八神家の魔術では、その魂の空間(ソウルスペース)の一部に仮想人格を作成し、関連データを保管する。

 そのため、バックアップ人格の存在による、人格融合とか記憶混在とか脳への負担とかは一切考えなくてよい。

 理由不明だが、八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)はタマモと比べて桁違いに広い為、仮想人格一人を作成しても全く問題ない。

 なお、タマモの魂の空間(ソウルスペース)は、八神真凛だけでほとんど容量一杯になっている。

 

 

〇降霊術についての八神遼平の適性

 八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)はタマモと比べて桁違いに広い為、強力な魂を降霊可能。

 ただし、降霊した魂の力を使うのは術者の体であるため、体の限界を超えた力を使った場合、肉体は壊れ、魔術回路は焼き切れる可能性がある。

 つまり、いくら強力な魂、例えば英霊の分霊を降霊できたとしても、出力部である術者の体と魔術回路がボトルネックとなる。

 

 

〇ザンヤルマの剣士

 現代を舞台にした伝奇小説。

 何のとりえもないただの高校生『矢神遼』と、その同い年の従妹である『朝霞万里絵』が、現在の文明が発生する前に滅亡した古代文明の遺産と関わり、事件を解決していくストーリー。

 

 

 

【第10話 修行と勉強の日々(憑依七ヶ月後)】

 

〇八神真凛の強化案

 蒼崎橙子などの人形師に『遠坂凛』の体と限りなく同じ人形の体を作ってもらい、それを真凛がライン経由で操作すれば、『魔術刻印がないだけのもう一人の遠坂凛』として活躍が可能。

 ただし、真凛が遠坂凛を元にして作られた仮想人格だとしても、遠坂家の秘伝を奪うのは遠坂家にとって絶対に許されない行為になる。

 現時点で真凛が遠坂凛からコピーした記憶には、遠坂家の秘伝は含まれていなかった為、将来真凛の正体が全部ばれても、現時点の状態ならぎりぎりで許される可能性はある。

 上記の理由により、遠坂凛から真凛への記憶情報のコピーは、今後一切禁止と決定。

 ただし、遠坂時臣や遠坂凛がが実際に魔術を使うところを見れば、真凛はある程度その構成を理解できると推測。

 また、八神家の全魔術情報を提供予定。(八神家の魔術は架空元素属性のものが多いらしいから、カスタマイズする必要あり)

 

 

〇八神真凛の体

 遠坂凛から、『遠坂凛を模した人形の作成許可』を貰うため、努力する予定。

 本命の計画では、蒼崎橙子などの人形師に、遠坂凛の人形の作成を依頼する。

 キャスターの道具作成スキルで、遠坂凛の人形の作成を依頼することも検討中。

 人形を作るまでの代替手段として、第五次聖杯戦争で間桐桜がやったように、影で八神真凛の分身を作成し、それを操作することを計画中。

 なお、第10話の時点では八神遼平は、影で分身を作ることはできない。

 

 

〇『魔術回路再構築の修行』の効果(オリジナル設定)

 ライン経由でタマモと真凛が八神遼平の体の変化を調べて判明した効果は下記の通り。

 1.通常の修行以上の魔力発生量の増加

 2.魔術回路の耐性の増加

 たった一回だけでは本当に微々たる効果ではあるが、今後も同じペースで増加していくと仮定した場合、この修行を毎日一回年単位で実行すれば、ばかにならない効果となると推測。

 つまり、『衛宮士郎の常識外れの魔術回路の耐性と魔術回路一本当たりの魔力量の多さ』は、『魔術回路再構築の修行』の成果である可能性が高い。

 ただし、魔術回路が増えるような効果はないと判明した。

 

 

〇念能力の方法を流用した魔力制御の訓練結果

 錬:魔術回路をONにする。

 絶:魔術回路をOFFにする。

 纏:魔力が拡散しないように体の周囲に留める。

   効果:魔力が拡散しない為、普段の魔力消費量が減る。

 凝:魔力を体の一部(眼など)に集める。

   効果:魔力を集めた部位の機能が向上する。(眼の場合、視力や動体視力アップなど)

 周:物に魔力を纏わせる。

   効果:刃物の切れ味を強化する。丈夫にする。

 流:素早く魔力を集中させる部分を変更させる。

 円:魔力を自分中心に広げて維持する。

   効果:「円」内部にあるモノの位置や形状を肌で感じ取ることができる。

      ただし、魔力探知可能な相手の場合、円の魔力に気付かれる可能性がある。

 

 なお、念能力の「発」「堅」「隠」「硬」を魔力制御や魔力操作に応用することには失敗。

 

 

〇魔術刻印を制御する魔術(オリジナル設定)

 本来、魔術刻印を制御するためには、それ相応の薬を飲まなくてはならない。

 八神家は『継承した魔術刻印の制御を容易にする技術』の研究にも力を注いでおり、『(八神家の)魔術刻印を制御する魔術』を作り出していた。

 また、この魔術はすでに魔術刻印にもなっており、『八神遼平へ最初に移植された魔術刻印』に『魔術刻印を制御する魔術刻印』が含まれていた。

 この魔術刻印は、『魔術刻印移植直後の疼き』まで抑えてくれる機能付き。

 遠坂時臣は、『(八神家の)魔術刻印を制御する魔術』をカスタマイズして、遠坂家の魔術刻印を制御する魔術を作り出す予定。

 

 

〇八神家の魔術傾向(オリジナル設定)

 八神家の魔術は降霊術に特化しているが、降霊術を補佐、あるいは強化する魔術にも力を入れていた。

 例えば八神家は降霊術を使って、使い魔と一緒に戦闘を行う。

 つまり、八神家は自分の体で戦う武闘派魔術師の家系。

 よって、自分の体の強化や肉体改造に関する魔術の造詣も深い。

 その一環として、魔術刻印を制御する魔術も開発された。

 

 

〇雨生龍之介対策

 雨生龍之介の実家探しを八神遼平が間桐雁夜に依頼。

 間桐雁夜が持つマスコミ関連と探偵のコネを使って探す。

 さらに本当の目的を内緒にしたまま、遠坂時臣に今までの聖杯戦争の記録を見せてもらい、雨生家の先祖の魔術師の記録を探す。

 雨生龍之介の実家を見つけることができ、八神遼平の予定通りの対策を実施できれば、リスクは最小限にしつつ、雨生龍之介は聖杯戦争に参加できなくなると考えている。

 

 

 

【第11話 間桐家の養女(憑依十九ヶ月後)】

 

〇八神家の魔術刻印(オリジナル設定)

 原作において凛は魔術刻印について『普通に魔術師やってれば、刻印一つで左団扇っていうぐらい役に立つ』と言っていたが、その言葉は掛け値なしで事実。

 魔術刻印を移植開始した当時は、魔術の基礎ですら降霊術以外はほとんど使えない状態だったのに、魔術刻印に記されている魔術ならば、どれほど高度な魔術でも魔力を流すだけ(一工程)で使えるようになった。

 

 

〇魔術刻印を制御する魔術刻印(オリジナル設定)

 魔術刻印のデメリットの一つである『魔術刻印を使用するたびの激痛』もまた、ある程度抑える。

 普通の魔術師は、直接魔術刻印を起動させるが、八神遼平の場合『魔術刻印を制御する魔術刻印』経由で魔術刻印を起動している。

 これにより、通常の魔術発動に比べて、苦痛は格段に減少し、魔術刻印の制御レベルも向上するが、わずかに魔術発動までの処理時間が増加する。

 車の運転で例えれば、マニュアルとオートマの違いと言える。

 レース車のような一秒を争うようなシビアな操作はマニュアルの方が、一般車に求められる簡単な操作はオートマの方が優れているようなもの。

 八神遼平は、『魔術刻印を制御する魔術刻印』経由での魔術刻印の起動を『オートマ』、魔術刻印の直接起動を『マニュアル』と呼んで区別して使っている。

 また、一瞬の時間差が死を招くような事態は、戦闘時ぐらいだろうから、普段はオートマ、戦闘時はマニュアルで、魔術刻印を起動するように訓練を続けている。

 

 

〇令呪の解析結果(オリジナル設定)

 魔術解析プログラムによる令呪の解析が、1年掛かってやっと半分終了。

 八神家は冬木の聖杯戦争に興味を持っていたらしく、独自に聖杯戦争について調査&解析した記録がタマモに残っていたのが決め手。

 この記録がなければ、ほとんど解析できなかった可能性もあった。

 しかし、全ては解析できず、令呪は『消費型の魔術刻印のような機能』『サーヴァントに対する絶対命令権』の二つの機能を合わせ持っているが、解析プログラムで解析が終了したのは『消費型の魔術刻印のような機能』だけ。

 つまり、解析プログラム単体では解析できるレベルには限界があり、限界以上のレベルのものを解析する場合、解析に使用するデータなどが必要らしい。

 

 これにより、令呪を作成するのに必要な魔力さえ準備すれば、タマモが『消費型の魔術刻印のような機能』だけを持つ八神版令呪を一画ずつ作ることが可能になった。

 つまり、『凛の宝石』のように魔力の貯蔵が可能になった。

 ただし、令呪を作成する時点で多少魔力をロスするため、100%の魔力を保管できず、90%ぐらいに減ってしまう。

 

 まだ解析中の『サーヴァントに対する絶対命令権』の方は、将来的には『降霊術に令呪システムを組み込むことで、降霊した分霊に対しても令呪の使用が可能になるかもしれない』とのこと。

 分霊は意志がないので裏切る心配はないが、令呪によって『分霊と僕の魔力でできることなら実現可能』になる可能性がある。

 降霊術とサーヴァントシステムは相性がいいと推測される。

 

 なお、令呪は、サーヴァントへの強制命令だけでなく、単なる魔力の塊としての使用もでき、人間でも令呪を10画近く消費すれば英霊にダメージを与えることができる仕様。

 

 

〇雨生龍之介の対策

 雁夜の調査により、ついに雨生家の実家を発見。

 雨生家の魔術書を入手後、警察とマスコミに通報。

 その結果、龍之介は殺人容疑者として日本全国に指名手配となった。

 これにより、龍之介はいずれ逮捕されるだろうし、万が一逮捕されなくとも聖杯戦争に関する情報を得る方法も失った。

 

 

〇間桐家の養子(オリジナル設定)

 臓硯は遠坂桜を養子にすることを諦め、滴という幼女を養子にした。

 時臣師の調査の結果、滴はかなり有能な魔術師の娘であることが判明。

 滴の父親は、最近狩られた封印指定の魔術師だった。

 滴には優秀な姉がいて、その姉が魔術師の後継者として育てられていた為、滴は魔術に一切関わらずに育てられたらしい。

 封印指定の魔術師である父は殺され、後継者である姉は魔術協会に捕えられたが、次女であり魔術について一切知らず、当然魔術回路も作っていないその子の存在は宙に浮いた。

 そこへ臓硯が素早く介入し、養子にとることに成功。

 滴は優秀な魔術師の子供ではあっても、どこかの魔術師が実験体として欲しがるような特殊な素質も属性もなかったため、間桐家の養子入りはあっさりと決まった。

 滴は、ある日突然父を殺され、姉を連れ去られ、自分は全く知らない家に引き取られ、その日のうちに訳も分からず蟲地獄へ送り込まれた状況と推測。

 

 

〇ガンスリンガー・ガール

 『月刊コミック電撃大王』に連載されているガンアクション漫画。

 身体に障害を持った少女たちを集め、身体の改造と洗脳を行い、反政府組織に対する暗殺をはじめとした超法規的活動を行わせる闇の面を持った組織を舞台にした物語。

 少女たちは、身体の改造と洗脳を行われる前の記憶を思い出せないように催眠処理を施されていて、死ぬまで解けない(例外あり)。

 

 

 

【第12話 降霊術の結果(憑依二十ヶ月後)】

 

〇降霊術(オリジナル設定)

 降霊術は、

 

1.英霊の分霊の降霊

2.肉体への憑依=魂の空間(ソウルスペース)へ格納

3.英霊の分霊が持つスペックやスキルなどの解析

4.英霊の分霊から力や能力の引き出し

 

という順番で実行される。

 

 なお、降霊術の失敗は、

 「1」で英霊の分霊を降霊できなければ失敗。

 「2」で格納できなければ失敗。なお、魂の空間(ソウルスペース)の容量を上回る魂を格納しようとすれば、自身の魂が消えるとか上書きされるとかで死ぬ可能性もある。

 「3」で解析できなければ、英霊の特殊能力やスキルを借りることはできない。

 「4」で力などの引き出しができなければ失敗。引き出しすぎて、体が壊れるとか、魔術回路が焼ききれても失敗。

といったもの。

 

 八神遼平の場合、「3」は原作知識というチートがあるため、どんなスキルか宝具を持っているかは知っている。

 しかしこれは、『原作においてサーヴァントとして召喚された場合』であり、フルスペックではない。

 公式設定では、クー・フーリンはアイルランドで召喚された場合、宝具に戦車と城が追加され、『不眠の加護』のスキルが追加される。

 

 

〇八神遼平に起きたこと

 八神家の魔術書によると、相性が良すぎるとまれに魂の空間(ソウルスペース)から分霊が解放されないことがある。

 降霊術の適正や熟練度が低い者は、集中を切らした時点で勝手に分霊は解放されるが、八神遼平とメディアとメドゥーサの分霊との相性が良すぎたため、八神家の魔術刻印に登録されていた『降霊した分霊の解放魔術』を使っても効果が無かった。

 

 

〇八神遼平が降霊した英霊の分霊(オリジナル設定)

 八神遼平は、原作の記憶やイメージが強く、結果として『原作における最弱状態のイメージ』を持ってメディアとメドゥーサの分霊を降霊した。

 その結果、葛木キャスターと慎二ライダーに準ずる強さの分霊を降霊した。

 クラススキルがないのは、サーヴァントではないため。

 魔術や結界以外の宝具がないのは、八神家の降霊術は英霊の分霊を降霊させるもので、宝具は対象外のため。

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A+

       耐久 D  幸運 -

       敏捷 C  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

宝具     なし

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 C  魔力 B

       耐久 E  幸運 -

       敏捷 B  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

〇八神家の宝具用の降霊術(正式名:幻想魔術具)(オリジナル設定)

 八神家は、英霊の分霊は自身の体に降霊させるため、(物質系)宝具の力を使うことはできない。

 そのため、専用の魔術具を作り、そこに宝具の概念を召喚して融合させ、宝具の力の一部を発揮させる。

 専用の魔術具は、宝具の概念に耐えきれずすぐに消耗してしまうので、時間制限と使用回数制限が存在する使い捨ての魔術具になる。

 魔術具の作成にはそれなりの資金と魔力と技術を必要とするため、八神家でも降霊術のみ使用することがほとんどで、本当に重要な戦いのみ切り札として幻想魔術具を使用していた。

 

 

魂の空間(ソウルスペース) (オリジナル設定)

 八神遼平は、観測世界の魂と融合することで、この世界の住人ではありえないぐらいの広さを持った魂の空間(ソウルスペース)を手に入れた可能性が高い。

 一流の降霊術の魔術師の場合、原作のサーヴァントクラスの分霊だと、一人格納できるだけでも相当稀少。

 だからこそ、サーヴァント7体の魂を格納できたアインツベルンのホムンクルスや、黒桜の存在が規格外。

 

 

 

【第13話 想定外の事態(憑依二十一ヶ月後)】

 

〇間桐雁夜の状況

・ランスロットの分霊の降霊成功(分霊の解放も問題なし)

・最低レベルではあるが、ランスロットのスキルを借用可能

・八神遼平から、『第四次聖杯戦争でバーサーカーとして召喚されたランスロット』のパラメータを教わる

・分霊を保持しつづけるのに意識を集中させ、魔力も消費し続ける必要があり、さらにスキルを使うときはさらに魔力を使う必要がある。

 そのため、間桐雁夜の魔力量が少ないためすぐに魔力切れになってしまう

・八神遼平から、悪影響がなく魔力が続く限り、ランスロットの分霊を保持し続けるようにアドバイスあり。

 『分霊との親和性を向上させれば、分霊維持の魔力消費量は減っていく』と八神家の魔術書に書かれていた為。

・八神遼平は、将来間桐雁夜にエミヤの分霊を降霊し、投影魔術を使うことを期待している。

 

 

〇サーヴァント召喚用の召喚陣を使用した降霊術の詳細(オリジナル設定)

 下記の条件が重なった結果、メディアとメドゥーサは、クラススキルを持つこともなく、サーヴァントではなく分霊として召喚され、八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)へ格納された。

・召喚するべきでない時期(聖杯戦争開始1年前)

・大聖杯の近くで召喚

・ダブルサーヴァント召喚用の召喚陣と召喚呪文を使用した降霊術の行使

・召喚者が降霊術に関して鬼才と言っていい素質を持っていた

・召喚者が、二人の分霊を降霊中

・召喚者が、令呪を二画使用

・召喚者は、英霊を格納可能な魂の空間(ソウルスペース)を保有

 

 

〇メディア

 クラスネーム『プリンセス』(八神遼平の提案)。

 八神遼平が召喚(降霊)したのは、サーヴァントではなく、オリジナルに限りなく近い分霊。

 完全な自意識を持っており、八神遼平&タマモのダブルマスター状態により、ほぼ生前と同等のパラメータになっている。

 サーヴァントとして召喚された際には、クラススキルの【道具生成】スキルとしてまとめて扱われていた【呪具作成】スキルを保有している。

 ただし、分霊の為、物体系スキル【金羊の皮】と物体系宝具【破戒すべき全ての符 】は持っていない。

 

 

〇メディアのパワーアップ状況

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

マスター   八神遼平&タマモ

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E→D  魔力 A+→A++

       耐久 D→C  幸運 -→A

       敏捷 C→B  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B NEW

 

 筋力、耐久、敏捷、魔力の1ランクアップ。

 幸運がAランクに。

 【呪具作成】スキルの追加。

 

 

 

〇メドゥーサ

 クラスネーム『ガーディアン』(自分の提案)。

 八神遼平が召喚(降霊)したのは、サーヴァントではなく、オリジナルに限りなく近い分霊。

 完全な自意識を持っており、八神遼平&タマモのダブルマスター状態により、ほぼ生前と同等のパラメータになっている。

 サーヴァントとして召喚された際には、クラススキルとして扱われていたの【対魔力】と【騎乗】スキルを保有している。

 ただし、分霊の為、物体系スキル(なし)と物体系宝具【騎英の手綱】は持っていない。

 公式設定で『女神としての騎乗などのスキルと、怪物としての魔眼や怪力といったスキルを併せ持つ存在』と書かれている。

 

 

〇メドゥーサのパワーアップ内容

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

マスター   八神遼平&タマモ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 C→B  魔力 B

       耐久 E→D  幸運 -→A

       敏捷 B→A  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E- NEW

       【対魔力】:B NEW

       【騎乗】:A NEW

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 筋力、耐久、敏捷の1ランクアップ。

 幸運がAランクに。

 【神性】【対魔力】【騎乗】スキルの追加。

 

 

 

【第14話 今後の相談(憑依二十一ヶ月後)】

 

〇サーヴァントクラスを持った分霊降霊が失敗した理由(オリジナル設定)

 メディアの調査結果によると、原因は下記の通り。

 アンリ・マユを取り込んですでにシステムに異常が発生している大聖杯のすぐ近くで、すでに令呪を持つ存在が、サーヴァント召喚の召喚陣と召喚呪文を使った上で、独自の降霊術を行使したことが原因。

 同じ条件で再び降霊術を使っても、同じ結果になる可能性はほとんどないと推測される。

 

 

〇八神遼平が実施した降霊術の結果

 八神遼平は『八神家流の降霊術に、サーヴァント召喚の魔法陣と呪文を組み合わせてクラススキルを持った分霊の降霊』を狙っていた。

 しかしその結果は、『令呪(2画)を消費して大聖杯からサーヴァント召喚システム(サーヴァントに与える日本語や常識の知識を含む)を一部コピーして、大聖杯を通さない大規模な降霊術が発動』してしまい、『すでに降霊済みの分霊のメディアとメドゥーサの影響もあり、自意識を持つ英霊を召喚することに成功した』と推測される。

 無意識のうちに、降霊済みのメディアとメドゥーサの分霊の力まで借りて降霊術を発動していた可能性もあると考えられる。

 

〇サーヴァントとして召喚された場合のフルスペック状態(メディアの予想)(オリジナル設定)

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    キャスター

真名     メディア

マスター   ?(原作の遠坂凛以上の能力を持つ魔術師)

属性     中立・悪

ステータス  筋力 C  魔力 A++

       耐久 B  幸運 ?

       敏捷 A  宝具 EX

クラス別能力 【陣地作成】:A

       【道具作成】:A

保有スキル  【高速神言】:A

       【金羊の皮】:EX

       【騎乗】:A+

宝具     【破戒すべき全ての符】:C

       【降臨せし太陽神の戦車】:A+

       【天に捧げし魔法の杯】:EX

【降臨せし太陽神の戦車】

 メディアが太陽神ヘリオスに願いを掛けて、天空から降ろしてもらった『竜が牽く戦車(チャリオット)』。

 メディアはこの戦車(チャリオット)に乗って、イアソンの元から去ったという伝説が残っている。

 この宝具を所持している場合、戦車(チャリオット)の操縦のため、【騎乗】スキルを保有する。

【天に捧げし魔法の杯】

 メディアが愛用した薬やお酒を調合するクラーテルと呼ばれる台付の杯。

 若返りの薬など、魔女の秘薬を作成可能。

 ギリシャ神話において『天に上げられコップ座になった』と伝えられている為、宝具のランクが最高ランクになっている。

 

〇サーヴァントとして召喚された場合のフルスペック状態(メドゥーサの予想)(オリジナル設定)

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ライダー

真名     メドゥーサ

マスター   ?(原作の遠坂凛以上の能力を持つ魔術師)

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 A

       耐久 C  幸運 ?

       敏捷 A  宝具 A+

クラス別能力 【騎乗】:A+

       【対魔力】:B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【単独行動】:C

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【海神の加護】:A

       【大地制御】:B

宝具     【騎英の手綱】:A+

       【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

【海神の加護】

 ポセイドンの愛人だったメドゥーサに与えられた加護。

 水に関連するあらゆる攻撃を完全に無効化し、水中にいる間は「筋力」「耐久」「敏捷」「魔力」のステータスが1ランク向上する。

【大地制御】

 かつて大地の女神だったメドゥーサが保有する高度な自然干渉能力。

 地脈もある程度操作可能。

 

〇降霊術による現地補正と知名度補正(オリジナル設定)

 降霊術でも、現地補正や知名度補正が掛かるが力業で覆すことが可能。

 ただし、それをするためいはとてつもない降霊術の技量と魔力が必要になる。

 しかし、八神遼平は同様のことを体質と才能と偶然で成し遂げてしまった。

 具体的には、『二重降霊による分霊の補完』によって、分霊をほぼフルスペックと言っていい状態まで強化した。

 通常は、分霊を降霊し続けるためには精神集中も必要であり、何より分霊降霊を維持するだけで魔力を消費するから、『二重降霊』を行うことは事実上不可能。

 さらに、強力な魂を納めるだけの魂の空間(ソウルスペース)んて持っている人は滅多にいない。

 しかし、八神遼平は『規格外の広さを持つ魂の空間(ソウルスペース)と『一度降霊した分霊を解放させないという体質』によって、この二つの問題をクリアした。

 

〇サーヴァントの強化プラン(オリジナル設定)

 降霊済みのメディアとメドゥーサが、聖杯戦争開始後にサーヴァントの体を得たとしても、現在の力をサーヴァントの体に継承できるようなシステムを構築していなければ、弱体化する可能性は高い。

 地中海でサーヴァントの体を得た場合、地中海の近くにいる限り現地補正と知名度補正があるが、日本に戻れば当然補正が無くなって弱体化する。

 令呪を使っても、『サーヴァントに対して、日本でも故郷と同じ補正を与えること』、あるいは『故郷で得た補正を日本に戻った後も継続させること』は、不可能と予測。

 一度手に入れた能力ということで、『故郷レベルの補正を短時間だけ与えること』なら可能性があると考える。

 現地補正は『故郷との地脈との相性』、知名度補正は『英霊が遺した偉業とそれを讃える(現地の)人々の認識』、そういったものがサーヴァントのパラメータに影響を与えるわけ為、メディアでも遠く離れた場所で同じ効果を持たせることはできない。

 複数の優秀な魔術師をマスターに設定できれば、生前と同じステータスになる。

 ただし、サーヴァントシステムでは、スキルと宝具は現地補正と知名度補正しか影響がないと予想。

 

 

〇メディアのパワーアップ

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

マスター   八神遼平&タマモ

属性     中立・悪

ステータス  筋力 D  魔力 A++

       耐久 C  幸運 A

       敏捷 B  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

       【騎乗】:A+ NEW

宝具     なし

パワーアップ内容

 【騎乗】スキルの追加。

 

 

〇メドゥーサのパワーアップ

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

マスター   八神遼平&タマモ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 B

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 A  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

       【海神の加護】:A NEW

       【大地制御】:B NEW

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

パワーアップ内容

 【海神の加護】【大地制御】スキルの追加。

 

 

 

【第15話 臓硯の謀略(憑依二十二ヶ月後)】

 

〇間桐雁夜の強化(オリジナル設定)

 メディアによって間桐雁夜が持っていた『閉じた魔術回路』が全部開放。

 その結果、魔術回路のメインが40本、サブがそれぞれ25本まで増えた。

 これは、マキリは500年の歴史を持っており、間桐雁夜もその成果を少なからず受け継いでいたと推測される。

 

 

〇『灼眼のシャナ』の坂井悠二

 電撃文庫で発売されている『灼眼のシャナ』に登場する主人公。

 登場時点ですでに死人(トーチと言う生きた人間に偽装された存在)であり一般人レベルの強さだったが、修行を行い、力を奪い、強大な存在と契約することで最強クラスの存在まで強くなる。

 

 

〇間桐臓硯による雁夜誘拐の目的

 ・閉じた魔術回路を開く業の入手とその技による慎二の魔術回路の開放

 ・間桐雁夜と間桐滴、間桐雁夜と遠坂の娘との間に子供を作らせる(将来)

 ・聖杯戦争に参加させる手駒の入手(八神遼平の予測)

 

 

 

【第16話 事件の後始末(憑依二十二ヶ月後)】

 

〇HxHのキメラアント式育成

 週刊誌『ジャンプ』に連載(休載)している戦闘冒険マンガ『HxH(ハンター・ハンター)』に出てくる第一級隔離指定種に認定されている虫の一種がキメラアント。

 念能力は「ゆっくり開く」場合と、オーラを他人の肉体にぶつけて「無理やり開く」場合の二つの方法がある。

 キメラアント達は暴力的に無理やり起こすことで、弱者を間引き(死なせ)、兵隊としての素質がある者を残す「選別」を行っていた。

 

 

〇間桐滴への対処(予定)

 

 下記の対処を実施予定。

 ・滴が間桐家に引き取られてからの全ての記憶は封印。

 ・自意識を取り戻した滴に、嘘は一切言わず、詳細はぼかしつつ可能な範囲で説明。

 ・将来滴が記憶の封印を解くことを希望し、メディアたちがそれに耐えきれると判断したときに、記憶の封印を解除。

 ・封印を解かれた記憶に耐えきれなかったときは、記憶の再封印実施。

 

 

 

【第17話 新しい仲間(憑依二十三ヶ月後)】

 

〇メディアとメドゥーサの記憶(オリジナル設定)

 聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは、平行世界の聖杯戦争の記録はもちろん、英霊の座にいた間の記憶も持っていない状態で召喚されると推測される。

 しかし、八神遼平の降霊術によって召喚されたメディアとメドゥーサは、英霊の座にいたときの記憶を持つ。

 さらにメドゥーサは、聖杯戦争の記憶そのものを持っていたことが判明。

 原因として、メディア達の降霊がイレギュラーだったことと、降霊術者である八神遼平が『間桐桜の記憶を持ったメドゥーサ』の降霊を望んでいたことが影響したと考えられる。

 なお、原作において英霊エミヤも、英霊になった後の記憶を持っている。

 メドゥーサが持っている聖杯戦争の記憶は、原作におけるセイバールート、凛ルート、桜ルートの世界の記憶。

 最後まで生き残れた桜ルートの世界の記憶は、『聖杯戦争終了直後まで』と『それから3年後の花見の時の記憶』のみ。

 

 

〇二人目の仮想人格(オリジナル設定)

 名前:八神真桜(まお)

 外見:第五次聖杯戦争3年後の間桐桜(19歳)

 記憶:オリジナルの遠坂桜の記憶、そしてメドゥーサが持っていた間桐桜の記憶をベースに、一般常識と大学卒業レベルの知識と魔術の基礎知識、観測世界における型月世界の全情報、などがある。

 方針:アンリ・マユの復活を阻止するのが最優先。そして、間桐滴の救済を目的としている。

 

 『間桐滴の治療や保護、そして間桐滴を理解できる人材を増やすこと』を目的として、タマモが仮想人格を作成。

 4歳の遠坂桜の記憶と人格、そしてメドゥーサが持っていた間桐桜の記憶を核に、八神遼平の記憶を元にして(メディアが改良した)人格構築プログラムで作られた間桐桜の仮想人格。

 さらに型月世界の全ての物語と設定情報、ついてに八神遼平が前世で読んだファンタジー、SF、魔法関連の作品の情報をインプットした存在。

 与えた知識や記憶は、ブロックがかけてある為、八神遼平やタマモの許可がない限り、他の人に話すことや伝えることはできない。

 覚醒したときに『自分は間桐桜だ』と言う認識はあったが、同時に『タマモに作られた仮想人格であり、八神さんの使い魔だ』とも認識していた。

 

 

〇タマモの人格構成プログラム(オリジナル設定&追加情報)

 

1.記憶や人格のコピーについて

・歴代の八神家の使い魔が可能なのは、ライン経由でマスターを記憶を読み取ることのみ。

・歴代の八神家の使い魔の中でも特別性の使い魔であるタマモのみ、記憶や人格のコピーが可能。

 

2.仮想人格の構築について

・八神家の使い魔は、ライン経由でマスターの記憶を読み取り、仮想人格プログラムで自分に最適な人格や(精神世界の)姿を構築する。

 ただし、作られたばかりの仮想人格は精神年齢は幼く、主ともに成長していく。

・タマモが持つ特別性の人格構築プログラムは、『作られたばかりで精神年齢が幼い仮想人格』を急速成長させることで、精神年齢を上げることが可能。

 ただし、急速成長させた仮想人格の為、ある程度経験を積むまでは不安定な人格となる。

・タマモと真凛や1年半経験を積むことである程度安定した人格となった。

 真桜は、入力された記憶が多く、メディアが人格構築プログラムに改良を加えたため、作られたばかりなのに安定した人格、かつオリジナルに近い人格となった。

 

 

〇聖杯戦争の令呪の配布ルール(独自解釈)

 原作では、『一定レベル以上の魔力を保有』して、『聖杯戦争に参加する意志がある者』に令呪を与えると描写されている。

 そして、聖杯戦争開始直前になってもマスターが揃わない場合は、龍之介や士郎のように素人がマスターに選ばれる。

 この二つの条件に加えて、描写されていなかった条件として、(遠坂家と間桐家については)魔術刻印を持つ者に対して聖杯御三家から参加するマスターとして、優先的に令呪を与えるシステムになっていると推測。

 魔術刻印なら『各家に絶対に一つしかない』わけで、『聖杯戦争開始前に魔術刻印を保有する者がその時点での当主であり、聖杯戦争参加予定者』である可能性は非常に高い。

 『聖杯御三家の血を引く魔術師』という条件だけでは、誤って予定外の(遠坂家 or 間桐家の)魔術師をマスターに選んでしまう可能性もある。

 それに比べて、この条件ならば当主以外がマスターになる可能性はほとんどなく、大聖杯に設定する『聖杯御三家のマスター選択条件』の一つとして相応しいと思われる。

 御三家同士の争いを避けるため、『御三家からはマスターは一人ずつ』という条件も当然設定されていると推測される。

 上記のルールがあると考えると、第四次聖杯戦争において凛や桜が令呪を与えらず、素人の龍之介が令呪を手に入れた理由に説明がつく。

 

 

 

【第18話 滴の覚醒(憑依二年後)】

 

〇聖杯戦争の準備項目(オリジナル設定)

1.聖杯戦争のシステム解析

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 大聖杯のシステム解析とユスティーツァの記憶から、聖杯戦争のシステム(サーヴァント召喚、令呪)について解析する。

 

2.メディアとメドゥーサのサーヴァントとしての再召喚の準備

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 メディアとメドゥーサが魂の空間ソウルスペースから脱出し、サーヴァント(キャスター)の体を手にいれる。

 

3.真凛と真桜のホムンクルス作成

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 ユスティーツァの記憶にアクセスした得たアインツベルンの技術を盗用し、凛ちゃんと桜ちゃんの髪の毛を元にして作成する。

 これにより、真凛と真桜による魔力供給が可能となり、己の魔術回路を使って魔術行使が可能となる。

 

4.聖杯戦争用の陣地作成(柳洞寺地下の大空洞、柳洞寺、予備)

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 大空洞と予備の陣地は徹底的に隠蔽して作成し、柳洞寺に作るダミー用の陣地は陣地構築準備のみ実施する。

 キャスターのクラススキル【陣地作成】スキル入手後に強化予定。

 

5.大聖杯からの魔力供給

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 大聖杯に潜むアンリ・マユの毒を取り除いたうえで、聖杯戦争のシステムとは別に、大聖杯から魔力供給を可能にさせる。

 これが実現すれば、大聖杯に魔力がある限り、事実上魔力不足が起きなくなる。

 

6.(藤村組を除く)ヤクザ(犯罪者を含む)を襲撃して、武器&資金&魔力(生命力)調達

 (担当:八神遼平、メディア、メドゥーサ、真凛、真桜)

 魔術師の仕業だとばれないように、証拠隠滅と魔力隠蔽を徹底する。

 

7.盗聴器や監視カメラ、監視用使い魔の設置

 (担当:八神遼平、真凛、真桜)

  ・遠坂邸      アサシンが防諜するため、設置断念

  ・教会       アサシンが防諜するため、設置断念

  ・アインツベルン城 切嗣が防諜するため、設置断念

  ・ハイアットホテル 最上階を外部から監視できるように監視カメラと使い魔を設置

            最上階のあちこちに盗聴器を設置

  ・廃工場      冬木市内に存在する廃工場のリストアップのみ実施

  ・マッケンジー邸  家を外部から監視できるように監視カメラと使い魔を設置

            ウェイバーが使う予定の部屋に盗聴器を設置

  ・青髭の拠点    予備の陣地の防犯用に監視カメラと盗聴器と使い魔を設置

  ・柳洞寺      ダミー用の陣地の防犯用に監視カメラと盗聴器と使い魔を設置

  ・大空洞      本命の陣地の防犯用に監視カメラと盗聴器と使い魔を設置

 

8.八神版令呪のサーヴァントへの絶対命令権追加

 (担当:メディア、メドゥーサ、タマモ)

 令呪の解析実施&大聖杯のシステム解析により、八神版令呪にサーヴァントへの絶対命令権を追加して、本物の令呪と同じ機能を持たせる。

 

9.八神版令呪の作成

 (担当:タマモ)

 令呪作成に必要な魔力を貯めて、八神版令呪を量産する。

 

10.竜牙兵の作成

 (担当:メディア)

 メディアの【呪具作成】スキルで竜牙兵を作成する。

 銃器や手榴弾を扱う竜牙兵も作成予定。

 

11.蒼崎橙子との接触

 (担当:八神遼平、タマモ、真凛、真桜)

 蒼崎橙子と接触し、可能なら人形作成を依頼。

 秘伝である人形作成技術は渡さないのは分かり切っている為、橙子が作った『魔術回路を持つ人形』を譲ってもらい、それを解析して人形作成技術を入手する。

 

12.八神遼平の修行

 (担当:八神遼平)

 魔術回路を徹底的に鍛えて、魔力発生量と魔力出力の向上

 実戦経験を積む(ヤクザ狩りに参加?)

 

13.幻想魔術具の作成

 (担当:八神遼平、タマモ、メディア、メドゥーサ)

 八神家の技術で、宝具の力を一時的に借りることが可能な幻想魔術具を作成する。

 

14.ネタアイテムの作成

 (担当:八神遼平、タマモ、メディア、メドゥーサ)

  ・クラスカード(元ネタ:プリズマイリヤ)

  ・オーバーソウル用媒介(元ネタ:シャーマンキング)

 

 

【第19話 サーヴァント召喚(聖杯戦争開始)】

 

〇英霊リンのパラメータ(オリジナル設定)

<詳細>

 第五次聖杯戦争において、世界を滅ぼすアンリ・マユを産みだそうとした間桐桜(黒桜)を、衛宮士郎と協力して阻止して世界を救った。

 その為、反英霊サクラと対となる存在として英霊の座に登録された。

 

<能力>

クラス    キャスター

真名     遠坂凛

マスター   タマモ&八神真凛

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 D  魔力 A

       耐久 E  幸運 A+

       敏捷 C  宝具 EX

クラス別能力 【陣地作成】:A

       【道具作成】:A

保有スキル  【魔術】:A

       【中国武術】:E

       【魔法】:A

宝具     【七色に輝く宝石剣】:EX

       【宝石】:A

備考 遠坂凛の人格は無く、代わりに八神真凛の仮想人格と融合済み

 

<技能>

【魔術】:A

 得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する宝石魔術を得意とする。

 属性は『五大元素』。遠坂の一族が得意とする転換の他に強化の特性を身に着けている。

 遠坂家の魔術刻印を所持する。

 

【中国武術】:E

 八極拳の達人である言峰綺礼に10年間師事して身に着けた武術。

 遠坂凛は『今時の魔術師は、護身術も必修科目』と言っているが、少なくとも衛宮士郎は知らなかった。

 なお、『hollow ataraxia』において、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと初めて喧嘩した際には、遠坂凛の初撃の崩拳をかわされた後、バックドロップで反撃されてわずか13秒でKO負けをくらっている。

 このことから、(接近戦を得意とする)武闘派魔術師と比べると遠坂凛の武術のレベルはそれほど高くないと推測される。(注 ルヴィアとの喧嘩では、魔術は双方とも未使用)

 

【魔法】:A

 第二魔法である、並行世界の運営。

 本来は、無数に存在する平行世界を観察し、自己の同一性を保ったまま任意の世界間を行き来する、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの魔法。

 遠坂凛の場合、宝具【七色に輝く宝石剣(ゼルレッチ)】を使うことで、無限に列なる並行世界に門は開けられないものの、(多重次元屈折現象で)ごくわずかな隙間を開き、大気に満ちる魔力程度ならば共有を可能とする。

 

<宝具>

七色に輝く宝石剣(ゼルレッチ)】:EX

 第二魔法の能力を持つ、限定魔術礼装。

 ゼルレッチの弟子の家系だけが使用可能。

 並行世界への門は開けられないものの、向こう側を覗く程度の干渉を可能とし、大気に満ちる魔力程度なら互いに分け合う事さえ可能とする。

 宝石の由来は、その多角面が万華鏡に似ていることから。

 

【宝石】:A

 遠坂凛が長期間魔力を移し続けた宝石。

 この宝石を使えばA判定の大魔術を一瞬で発動できる。

 個数制限あり。

 

 

〇反英霊サクラのパラメータ(オリジナル設定)

<詳細>

 第五次聖杯戦争において、衛宮士郎がセイバーオルタを殺せず、その結果『衛宮士郎と遠坂凛が間桐桜(黒桜)に敗れた世界』の間桐桜のなれの果て。

 アンリ・マユを産みだし、世界を滅ぼそうとしたため、反英霊として英霊の座に登録された。

 

<能力>

クラス    キャスター

真名     間桐桜

マスター   八神遼平&八神真桜

属性     混沌・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A(A++)

       耐久 B(A) 幸運 E

       敏捷 E  宝具 -

クラス別能力 【陣地作成】:B

       【道具作成】:-

保有スキル  【魔術】:D

       【蟲使い】:C

       【再生】:B(A)

       【黒い影】:B(A)

       【マキリの聖杯】:EX

宝具     なし

備考 【マキリの聖杯】スキルを得た代償に道具作成スキルは失われている。

   【マキリの聖杯】スキルの未使用時は、一部のステータスとスキルは弱体化する。

   間桐桜の人格は無く、代わりに八神真桜の仮想人格と融合済み

 

<技能>

【魔術】:D

 マキリの業は覚えていない(教えられていない)。

 そのため、『己の負の面を表に出して魔力をぶつけること』、『吸収』、『使い魔作成&制御』のみ可能

 

【蟲使い】:C

 蟲をある程度制御可能。

 マキリの蟲限定で、制御力向上。

 

【再生】:B(A)

 肉体の再生能力。

 ランクAの場合、自分の心臓の即時再生も可能となる。

 

【黒い影】:B(A)

 桜が作り出した影の使い魔。

 サイズを大きくすることや、同時に複数体作り出すことが可能。

 黒い影に取り込んだサーヴァントはそのまま殺すことも出来るが、黒化させて使役することも出来る。

 

【マキリの聖杯】:EX

 アイリスフィールの聖杯の破片を触媒として生み出された刻印虫を埋め込まれ、それにより間桐桜はマキリ製の聖杯として改造された。

 アインツベルン製の聖杯より性能は落ちるが、サーヴァントの魂を格納することが可能。

 【マキリの聖杯】スキルを使用して大聖杯と直結すれば、無尽蔵ともいえる魔力を聖杯から汲み出すが、一度に放てる魔力は一千ほど。

 ただしその場合、大聖杯の中にいるアンリ・マユに汚染されて(黒化して)いく可能性がある。

 

 【マキリの聖杯】スキルを未使用時、間桐桜のステータスとスキルは下記の通りパワーダウンする。

   【耐久】 :ランクA→B

   【魔力】 :ランクA++→A

   【再生】 :ランクA→B

   【黒い影】:ランクA→B&サーヴァント吸収能力の弱体化

 

 

〇第四次聖杯戦争のマスターとサーヴァント(オリジナル設定)

 ・衛宮切嗣、セイバー(アルトリア)

 ・遠坂時臣、アーチャー(ギルガメッシュ)

 ・ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、ランサー(ディルムッド)

 ・ウェイバー・ベルベット、ライダー(イスカンダル)

 ・間桐雁夜、バーサーカー(ランスロット)

 ・八神遼平&八神真桜、キャスター(サクラ)

 ・タマモ&八神真凛、キャスター(リン)

 ・言峰綺礼&アサシン(ハサン)

 

 

 

【第20話 メディアの裏技(聖杯戦争二日目)】

 

〇真凛と真桜の状況(オリジナル設定)

 サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体になったため、まずはその体に慣れる訓練が必要。

 今まで、真凛と真桜は『ホムンクルスの体とその体にある魔術回路で魔術を使う訓練』を行っていた。

 『体を使いこなす訓練』は第一段階、次に『魔術回路を使いこなす訓練』をして、最後に真凛が『宝石剣を使う訓練』、真桜が『スキルを使う訓練』を終えて、初めてまともに戦えるようになるとメディアは閑雅ている。

 「死にたくなければ、最終段階を終えるまでここに隠れて、ひたすら訓練するしかないわ。もちろん、他のサーヴァントと戦うなんて論外よ」とのこと。

 通常のサーヴァントなら『生前の全盛期の体を魔力で構築した体』を手に入れるから、召喚直後からすぐに自分の体を使いこなせる。

 一方、真凛と真桜は『オリジナルの未来の体』を手に入れたわけで、『オリジナルの未来の経験』がない以上、訓練を積むことで少しずつ理解しないといけない。

 

 

〇間桐雁夜の降霊術

 ランスロットの分霊を降霊した状態でバーサーカーの召喚を行った結果、バーサーカーと雁夜との間にラインが繋がった瞬間、雁夜の中にいたランスロットの分霊とバーサーカーの間にもラインが繋がった。

 その結果、バーサーカーの存在が錨のような状態になって分霊を繋ぎとめているらしく、雁夜が何もしなくても、ランスロットの分霊は雁夜の魂の空間(ソウルスペース)内に留まっている状態になった。

 これにより、意識の集中も魔力の消費もなしで、分霊を憑依させ続ける状態になった。

 ようは、『雁夜の魂の空間(ソウルスペース)内にいるランスロットの分霊』は、『八神遼平が降霊した分霊』と同じ状態。

 

 

〇マスターの魔力量(八神遼平の予想)

 真凛=真桜>ケイネス≧時臣師≧切嗣>雁夜さん≧僕>タマモ>綺礼>>ウェイバー

 

 

〇サーヴァントの補正状況(八神遼平の予想)

 原作の状況から推測すると、この世界のサーヴァントの補正は下記のような状態だと推測。

(聖杯戦争二日目時点の情報と推測に基づく)

 

<知名度補正×現地補正×マスターの魔力量=総合的な補正>

         知名度×現地補正×マスターの魔力量=弱体化

・アルトリア  : 大 × 無  ×   大    = 微

・ギルガメッシュ: 中 × 無  ×   大    = 少

・ディルムッド : 少 × 無  ×   大    = 中

・イスカンダル : 大 × 無  ×   少    = 中

・リン     : 無 × 大  ×  大+中   =中~少?

・サクラ    : 無 × 大  ×  大+中   =中~少?

・ランスロット : 大 × 無  ×   中    = 少

・ハサン    : 少 × 無  ×   少    = 大

 

・メディア   : 少 × 無  ×   大    = 中

・メドゥーサ  : 中 × 無  ×   大    = 少

 

 リンとサクラが『マスターの魔力量:大+中』となっているのは、『真凛+タマモ』『真桜+八神遼平』というようにマスターが二人いる為。

 

 

〇サーヴァント化したメディアとメドゥーサのパラメータ(オリジナル設定)

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メディア

マスター   八神真凛

属性     中立・悪

ステータス  筋力 D  魔力 A++

       耐久 C  幸運 A

       敏捷 B  宝具 -

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

       【騎乗】:A+

宝具     なし

 

【呪具作成】

 原作において、【道具作成】に統合されていたスキル。

 メディアが生前教わった魔女の技によって、呪具を作成することが可能。

 

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メドゥーサ

マスター   八神真桜

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 B

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 A  宝具 B

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

       【海神の加護】:A

       【大地制御】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

【海神の加護】

 ポセイドンの愛人だったメドゥーサに与えられた加護。

 水に関連するあらゆる攻撃を完全に無効化し、水中にいる間は「筋力」「耐久」「敏捷」「魔力」のステータスが1ランク向上する。

【大地制御】

 かつて大地の女神だったメドゥーサが保有する高度な自然干渉能力。

 地脈もある程度操作可能。

 

〇メディアが行ったサーヴァント召喚の詳細(オリジナル設定)

 

<聖杯戦争の裏技>

1.エーデルフェルトは、双子の姉妹で参加し、善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァント(セイバー?)を二体召喚した。

2.アインツベルンは、8番目のクラス『アヴェンジャー』でサーヴァントを召喚した。

3.ケイネスは、魔力のレイラインの接続先と令呪の持ち主をそれぞれ別の人物に分けた。

4.キャスター(メディア)は、サーヴァントでありながらサーヴァント(アサシン)を召喚した。

5.言峰綺礼は、ランサーのマスターから令呪を奪って、サーヴァント(ランサー)に対して令呪で主替えを同意させた。

6.間桐桜は、偽臣の書を令呪で作り出して、マスター権限を譲った。

7.間桐臓硯は、アサシン(佐々木小次郎)を殺し、彼の体を使って真アサシンを召喚した。(この際、臓硯が令呪を持っていたか不明)

 

<聖杯戦争におけるサーヴァントの強化策>

1.遠坂凛が(キャスターが死んでマスターなしの状態になった)アルトリアと契約して、アルトリアはパワーアップ(未熟なマスターが原因だった弱体化の解消)。

2.ハサンは【自己改造】スキルを使うためクー・フーリンの心臓を食べ、彼の戦闘力を己の物とし、さらに高い知性を手に入れた。

  ((5次)ハサンとクー・フーリンは、宝具以外の全てのパラメータが一致している)

 

 間桐臓硯は裏技の「7」でハサンを召喚し、強化策の「2」でハサンのパワーアップを行った。

 この世界のメディアとメドゥーサは、

・アサシンの分体を生贄にすることで、最弱状態かつ自意識が無い状態のメディアとメドゥーサのサーヴァント召喚(裏技の「4」と「7」の組み合わせ)

・強大な力を持つ分霊とサーヴァントを融合させること

・優秀なマスター(真凛と真桜)と再契約すること(強化策の「1」)

を行うことで、第五次聖杯戦争召喚時とほぼ同等の能力を手に入れた。

 

 

〇パワーアップした間桐雁夜が召喚したランスロットのパラメータ(オリジナル設定)

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    バーサーカー

真名     ランスロット

マスター   間桐雁夜

属性     秩序・狂

ステータス  筋力 A(A+)  魔力 B

       耐久 B(A)   幸運 A

       敏捷 A+(A++) 宝具 A++

クラス別能力 【狂化】:C

保有スキル  【対魔力】:E

       【精霊の加護】:A

       【無窮の武練】:A+

       【勇猛】:A

       【心眼(真)】:D

宝具     【騎士は徒手にて死せず】:A++

       【己が栄光の為でなく】:B

       【無毀なる湖光】:A++

備考

 魔術回路を全部開いた間桐雁夜がマスターのため、原作よりもパワーアップしてスキルも増えている。

 ただし、狂化によって【対魔力】と【心眼(真)】はランクダウンしており、【勇猛】は効果を発揮できない。

 

 

 

【第21話 バタフライ効果の具現化(聖杯戦争四日目)】

 

〇ディルムッドのパラメータ(オリジナル設定)

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ランサー

真名     ディルムッド・オディナ

マスター   ケイネス&ソラウ

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 A  魔力 B

       耐久 B  幸運 D

       敏捷 A++ 宝具 B

クラス別能力 【対魔力】:A

保有スキル  【心眼(真)】:B

       【愛の黒子】:C

       【神々の加護】:B

宝具     【破魔の紅薔薇】:B

       【必滅の黄薔薇】:B

 

【神々の加護】:B

 養父であり愛と若さと美を司る神である妖精王オェングスと、海神である魔道王マナナンから与えられた加護。

 これにより、【幸運】と【魔力】と【対魔力】のステータスが1ランク向上する。

 

 

〇サーヴァントのパラメータの表示設定(八神遼平の予想)

・サーヴァントのマスターを認識したり、サーヴァントが『スキルの効果を発揮する場面』や『宝具を使う場面』をマスターがその眼で見ていれば、自動的にパラメータに追加される。

・マスターが見ていなくても、『サーヴァントの真名、マスター、スキル、宝具』をマスターが予想して当たっていれば、自動的にパラメータに表示される。

 

 

〇サーヴァントの補正状況(八神遼平の予想)改訂版

 原作の状況から推測すると、この世界のサーヴァントの補正は下記のような状態だと推測。

(聖杯戦争四日目時点の情報と推測に基づく)

 

<知名度補正×現地補正×マスターの魔力量=総合的な補正>

         知名度×現地補正×マスターの魔力量=弱体化

・アルトリア  : 大 × 無  ×   大    = 微

・ギルガメッシュ: 中 × 無  ×   大    = 少

・ディルムッド : 少 × 無  ×  大+大   = 無?

・イスカンダル : 大 × 無  ×   少    = 中

・リン     : 無 × 大  ×  大+中   =中~少?

・サクラ    : 無 × 大  ×  大+中   =中~少?

・ランスロット : 大 × 無  ×   中    = 少

・ハサン    : 少 × 無  ×   少    = 大

・メディア   : 少 × 無  ×   大    = 中

・メドゥーサ  : 中 × 無  ×   大    = 少

 

 リンとサクラが『マスターの魔力量:大+中』となっているのは、『真凛+タマモ』『真桜+八神遼平』というようにマスターが二人いる為。

 ディルムッドが『マスターの魔力量:大+大』となっているのは、『ケイネス+ソラウ』というようにマスターが二人いる為。

 

 

〇時臣たちの思考(メディアの予想)

 人間の魂食いをすれば、サーヴァントは魔力の補充が可能。

 それが『最弱とはいえサーヴァントと呼べるだけの力を持っているアサシンの分体』の魂食いが可能ならば、当然回復できる魔力量は人間とは比較にならない。

 謎のサーヴァントに時間を与えれば与えるほど、アサシンの分体の数は減り、分体の魂食いによって謎のサーヴァントを強化する結果となる。

 この状態で少しでも自分に有利な状況にするため、茶番の実行を早めて、少しでも早く聖杯戦争の戦闘を起こさせて、アサシンの分体が全滅する前に謎のサーヴァントとそのマスターを見つけようとしている。

 

 

 

【第22話 サーヴァント集結(聖杯戦争五日目)】

 

〇謎のサーヴァント(オリジナル設定)

 倉庫街にサーヴァントが勢揃いした際に登場した謎の少女サーヴァント。

 漆黒の剣を持ち、黒髪でバイザーのような黒い仮面と漆黒の鎧を纏った少女。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    セイバー

真名     アルトリア

マスター   不明

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 A+ 魔力 A+

       耐久 A 幸運 B

       敏捷 B 宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:B

       【騎乗】:-

保有スキル  【直感】:B

       【魔力放出】:A

       【カリスマ】:E

宝具     【約束された勝利の剣】:A++

 

 

 

【第23話 セイバーオルタの目的(聖杯戦争五日目)】

 

〇ファントム(セイバーオルタ)によって暴露された情報

・ファントムは、かつて騎士王だった存在

・第四次聖杯戦争に召喚されたが、聖杯を手にすることなく世界を去った。

・その後、別の聖杯戦争に召喚され、その世界で不覚を取って悪性の存在に囚われた。

 そして、殺されず悪性に汚染された結果この状態(黒セイバー)になった。

・『アルトリアを取り込んだ悪性の存在』が第四次聖杯戦争で召喚された為、引きずられてこの世界に来た

・『アルトリアを取り込んだ悪性の存在』は、今も『他のサーヴァントも取り込む能力』を持っている。

 取り込まれれば、ファントムのように闇に染められ、強制的に支配下に置かれる。

・セイバーのマスターが、ランサーのマスターの婚約者を誘拐した。

 そして、セイバーとランサーのの二回目の戦闘の途中で、婚約者の命と引き換えとして令呪を使わせてランサーを自害させた。

・ランサーは、令呪で自害させられた後、血涙を流し、全てを呪って消えていった。

・誘拐された婚約者はランサーのマスターに返されたが、ランサーの自害後に、二人まとめてセイバーのマスターの仲間に銃撃されて殺された。

・セイバーはアイリスフィールに忠誠を誓っているが、本当のマスターは別にいる。

・セイバーは、聖杯戦争が終わるまでマスターとは一切会話をせず、直接掛けられた言葉は『令呪で命令された三回』だけ。

・セイバーは、聖杯戦争の最後にマスターから手酷い裏切りを受けた。

・セイバーのマスターは、『目的の為なら手段を一切選ばない外道の魔術使い』。

 『騎士』とは対極に位置する『暗殺者』そのもの。

 セイバーとの相性は最悪。

・ファントムは別の世界で、全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り戻し、今も所持している。

 そのため、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の傷も短時間で治癒可能。

全て遠き理想郷(アヴァロン)の行方はアイリスフィールが知っている。

 

 

〇ハサンのパラメータ(オリジナル設定)

 倉庫街での戦闘を監視していたハサンの分体を襲い、心臓を奪って食べたアサシンのサーヴァント。

 そのまま霊体化して離脱した為、詳細情報はなし。

 メディアの予想では、『臓硯がアサシンの分体を苗床にしてハサンを召喚していた』とのこと。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    アサシン

真名     ハサン・サッバーハ

マスター   不明

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 E 魔力 E

       耐久 E 幸運 C

       敏捷 E 宝具 B+

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【投擲(短刀)】:B

       【風除けの加護】:A

       【自己改造】:C

宝具     【妄想心音】:B+

備考

 高い確率で、マスターは間桐臓硯だと予想

 アサシンの分体を襲い、心臓を食べたところを目撃。

 

 

〇時臣たちの思考(メディアの予想)

 真桜だけでなく、腕ハサンもアサシンの分体を襲っていた可能性がある。

 また、『臓硯がアサシンの分体を苗床にしてハサンを召喚していた』可能性もある。

 これだけアサシンの分体を襲われる事態が発生した為、時臣が焦った可能性が高いと判断している。

 

 

 

【第四次聖杯戦争の参加者】

 

〇キャスター(八神遼平)陣営

  マスター  :八神遼平、タマモ、真凛、真桜

  サーヴァント:リン(真凛)、サクラ(真桜)、メディア(自称:プリンセス)、メドゥーサ(自称:ガーディアン)

  サポート  :遠坂凛、遠坂桜(魔力提供のみ)

 

〇バーサーカー(間桐雁夜)陣営

  マスター  :間桐雁夜

  サーヴァント:ランスロット

 

〇アーチャー(遠坂時臣)陣営

  マスター  :遠坂時臣、言峰綺礼

  サーヴァント:ギルガメッシュ、ハサン(通称:分身ハサン)

  サポート  :言峰璃正

 

〇ライダー(ウェイバー)陣営

  マスター  :ウェイバー

  サーヴァント:イスカンダル

 

〇ランサー(ケイネス)陣営

  マスター  :ケイネス&ソラウ

  サーヴァント:ディルムッド

 

〇セイバー(衛宮切嗣)陣営

  マスター  :衛宮切嗣

  サーヴァント:アルトリア

  サポート  :アイリスフィール、久宇舞弥

 

〇ファントム(アルトリア)陣営

  マスター  :なし(黒桜の支配下から解放され独自行動中)

  サーヴァント:アルトリア(セイバーオルタ、自称:ファントム)

 

〇アサシン(間桐臓硯)陣営

  マスター  :臓硯(未確認、メディアの予想)

  サーヴァント:ハサン(5次の真アサシン、通称:腕ハサン)

 




 上記の内容で間違っていること、記載漏れなどがありましたらお知らせください。


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年表(第23話まで)

 このページには、この小説の年表を記載しています。
 ネタバレがありますので、本編読了後の閲覧を推奨します。

 本作品の年表に興味がありましたらご覧になってください。


1988年04月

【プロローグ】

 八神遼平がトリップ(憑依)する

 

1988年05月

 八神遼平が八神家の魔術書を発見

 八神遼平が遠坂母娘と親交を深める

 八神遼平は言峰綺礼が最近遠坂邸へ来るようになったことを知る

 

1988年06月

 八神遼平が間桐雁夜と接触し、『前世の記憶を持ち、予知夢を見たこと』を伝え、同盟を結ぶ

 

【第01話 遠坂葵の説得】

 間桐雁夜が遠坂葵に予知情報と間桐家の実情を話す

 

1988年07月

【第02話 雁夜と時臣の交渉】

 間桐雁夜が遠坂時臣と交渉し、桜を養子に出す計画を潰し、八神遼平の遠坂家への弟子入りの許可を取る

 間桐雁夜が遠坂時臣に対して、ギルガメッシュが裏切る未来を教える

 

【第03話 時臣師との契約】

 八神遼平が遠坂時臣に弟子入りし、対価として八神家の魔術の全情報を提供する契約を締結する

 八神遼平が遠坂桜の婚約者候補になる

 間桐雁夜が遠坂時臣に対して、サーヴァントを8体召喚するアイデアを伝える

 

【第04話 魔術回路の作成】

 八神遼平と間桐雁夜と遠坂桜が魔術回路を開く

 間桐雁夜が『魔術回路再構築』という修行を開始する

 

1988年08月

【第05話 使い魔の解放】

 八神遼平が念能力の方法を流用して、『魔力制御』の訓練を開始する

 八神遼平が封印されていた子狐の使い魔と契約し、タマモと命名する

 

【第06話 使い魔との対話】

 タマモが八神遼平の記憶を読み込んで、自分に最適な姿(夢の中限定)と人格を構築する

 (タマモは、キャス孤の外見と、キャス孤と琥珀に似た性格)

 八神遼平はタマモから、八神家の伝統とタマモの過去を聞く

 

1988年09月

【第07話 秘密の発覚】

 遠坂時臣がギルガメッシュとランスロットの縁の品を探し始める

 遠坂時臣に八神遼平の聖杯戦争参戦(ダブルキャスター召喚)を依頼される

 遠坂時臣に八神遼平が前世の記憶を持っていることがばれる

 遠坂時臣に八神遼平の聖杯戦争の自由行動の許可をもらう

 八神遼平が遠坂時臣に対して、遠坂凛と遠坂桜とラインを接続し、魔力供給を受ける許可を求める

 遠坂時臣が簡易的にラインを接続する魔術『仮契約(パクティオー)』の開発を始める

 

1988年10月

【第08話 仮契約の実施】

 遠坂時臣が『仮契約(パクティオー)』を完成させる

 遠坂時臣が遠坂葵とラインを接続する

 遠坂時臣が『仮契約(パクティオー)』の魔術を聖杯戦争後に特許申請することを決定する

 八神遼平が遠坂凛と遠坂桜とラインを接続する

 八神遼平が令呪を授かる

 八神遼平が遠坂時臣にギリシャ神話系のライダーかキャスターに該当する英霊の縁の品の捜索を依頼する

 タマモに埋め込まれていた解析プログラムが自動的に起動し、令呪の解析を開始する

 

【第09話 二人目の使い魔】

 タマモが遠坂凛の記憶と人格そして八神遼平の記憶を元に、仮想人格を作成する

 (仮想人格は、17歳の遠坂凛の人格と、20歳の遠坂凛の外見で、八神真凛と名乗る)

 

1988年11月

【第10話 修行と勉強の日々】

 八神真凛が、八神遼平、遠坂凛、遠坂桜の魔術の教師になる

 八神遼平が『魔術回路再構築』という修行を開始する

 八神遼平が念能力の方法を流用した『魔力制御』にある程度成功する

 間桐雁夜が念能力の方法を流用した『魔力制御』の訓練を開始する

 遠坂時臣が、八神遼平に対して『八神家の魔術刻印』の移植を開始する

 八神遼平が、間桐雁夜に対して『雨流龍之介の実家探し』を依頼する

 

1988年12月~1989年10月

【第11話 間桐家の養女】

 遠坂時臣が『遠坂家の魔術刻印を制御する魔術』を開発

 八神真凛が、『八神遼平の影の魔術による分身』を使うことで実体化可能になる

 タマモが、『八神遼平の影の魔術による分身』を使うことで人型で実体化可能になる

 タマモと八神真凛が、遠坂時臣と面会する

 間桐雁夜が雨生邸を発見する

 タマモが雨生邸に侵入し、雨生家の魔術書を盗む

 間桐雁夜が雨生邸に死体があることと、その犯人と連続殺人犯が雨生龍之介である可能性が高いことを警察とマスコミに通報する

 雨生龍之介が殺人犯として全国指名手配になる

 

1989年10月

 タマモに埋め込まれていた解析プログラムによる令呪の解析が終了し、タマモが令呪を作成可能になる

 

1989年11月

 遠坂時臣が、八神遼平に対する『八神家の魔術刻印』の移植を終了

 タマモが、変化スキルを使用可能になる

 遠坂時臣が遺言を残し、死後財産面は弁護士に、魔術面は八神遼平と間桐雁夜に、魔術協会との交渉のみ言峰綺礼に頼むことになる

 遠坂時臣が遠坂家の口伝を本にまとめ終える

 間桐臓硯が封印指定の魔術師の次女であった滴を養女にする

 

1989年12月

【第12話 降霊術の結果】

 八神遼平が、降霊術を使って、メディアの分霊とメドゥーサの分霊を召喚する

 八神遼平は降霊術と相性が良すぎたため、メディアの分霊とメドゥーサの分霊を解放できないことが判明する

 

1990年01月

【第13話 想定外の事態】

 八神遼平が、降霊術を使って、自意識を持つメディアとメドゥーサを召喚する

 八神遼平は、メディアとメドゥーサを魂の空間(ソウルスペース)から出せないことが判明する

 八神遼平は、メディアとメドゥーサと協力して聖杯戦争を戦うことを約束する

 メディアによって、八神遼平の魔術回路がさらに開放され、メインは30本、サブがそれぞれ20本になる

 

【第14話 今後の相談】

 メディアとメドゥーサに『原作知識』と『今まで八神遼平がしてきたこと』を説明する

 メディアの指示で、今後の八神遼平の修行は『魔術回路を鍛えること』がメインに決定する

 メディアの竜牙兵の武装として、現代武器を使うことが決定する

 犯罪者を狩って、現代武器を奪うことが決定する

 

【第15話 臓硯の謀略】

 メディアによって、間桐雁夜の魔術回路がさらに開放され、メインは40本、サブがそれぞれ25本になる

 間桐臓硯から遠坂時臣へ『遠坂桜を養子にしたい』との提案を受け、遠坂時臣は『桜は婚約済み』との理由で拒否する

 間桐臓硯から遠坂時臣へ『遠坂家の三人目の娘を養子にしたい』との提案を受け、『聖杯戦争が終わるまで三人目の子を作る予定はない』という理由で保留する

 

1990年02月

 間桐臓硯が間桐雁夜を誘拐する。目的は、『間桐雁夜の全ての魔術回路が開いた理由の調査』と『間桐滴と養子にもらう予定の遠坂の娘との間に子を作らせるため(将来)』

 真凛とメディアとメドゥーサで間桐邸を襲撃し、間桐雁夜と間桐滴を救出し、地下室を全焼させる。(臓硯の生死は不明)

 

【第16話 事件の後始末】

 間桐臓硯が間桐雁夜の体、特に魔術回路の検査、調査をしていたことが発覚

 間桐滴の『間桐家に引き取られてからの全ての記憶』を封印することが決定

 間桐家の地下室から回収したミイラは、間桐家の魔術刻印を持っていたことが判明

 間桐鶴野と慎二が冬木市から脱出

 間桐邸が無人になり、間桐臓硯が行方不明に

 

【第17話 新しい仲間】

 メディアが、『間桐滴の臓硯たちによる洗脳や暗示の記憶』のみを完全かつ強固に封印

 メディアが、『間桐滴の間桐邸に入居した後から救出された日までの記憶』を封印

 

1990年03月

 タマモが遠坂桜の記憶と人格、そしてメドゥーサが持っていた間桐桜の記憶を核に、八神遼平の記憶を元にして(メディアが改良した)人格構築プログラムで作られた間桐桜の仮想人格

を作成

 (仮想人格は、16歳の間桐桜の人格と19歳の間桐桜の外見を持ち、八神真桜と名乗る)

 メディアは大聖杯の礎となったユスティーツァの記憶へのアクセスに成功し、アインツベルンの魔術情報の入手に成功

 メディアは聖杯戦争開始までの人形作成を諦め、ホムンクルス作成(真凛と真桜用)に方針を変更

 間桐雁夜が、自分で『間桐家の魔術刻印』の移植を開始する

 間桐雁夜が令呪を授かる

 

1990年04月

【第18話 滴の覚醒】

 間桐滴が覚醒

 間桐滴がメディアに弟子入り(対価として魔力の提供を契約)

 タマモと真凛に、幻想魔術具とネタアイテムの作成を依頼

 

1991年02月

聖杯戦争初日

【第19話 サーヴァント召喚】

 言峰綺礼がアサシン(ハサン・サッバーハ)を召喚

 遠坂時臣がアーチャー(ギルガメッシュ)を召喚

 衛宮切嗣がセイバー(アルトリア)を召喚

 ウェイバーがライダー(イスカンダル)を召喚

 間桐雁夜がバーサーカー(ランスロット)を召喚

 八神遼平&タマモがダブルキャスター(リン&サクラ)を召喚

 

聖杯戦争二日目

【第20話 メディアの裏技】

 メディアとメドゥーサがアサシンの分体二体を捕獲して生贄として利用

 メディアがアサシン(メディアとメドゥーサ)のサーヴァントを召喚

 八神遼平が令呪を使って、八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)内の分霊とサーヴァントを融合

 メディアが真凛と契約してパワーアップ

 メドゥーサが真桜と契約してパワーアップ

 

聖杯戦争四日目

【第21話 バタフライ効果】

 ギルガメッシュがアサシンの分体一体を殲滅(茶番)

 八神たちがメドゥーサに血を提供することを約束

 真桜がアサシンの分体四体を聖杯内に捕獲して魔力化

 ケイネスとソラウがランサー(ディルムッド)のサーヴァントを召喚

 

聖杯戦争五日目

【第22話 サーヴァント集結】

 ランサー(ディルムッド)が街中を歩きまわり、他サーヴァントの誘き出しを実施

 セイバー(アルトリア) vs ランサー(ディルムッド)の戦闘

  勝敗:ライダーの介入により勝敗なし(実質、ランサーの判定勝ち)

  備考:ゲイ・ボウ(必滅の黄薔薇)でセイバーの左手の腱を切られ、セイバーが左手を使えなくなる

 ライダー(イスカンダル)がセイバーとランサーにスカウトするが断られる

 偵察の為、アサシン(ハサン)の分体一体が倉庫街で実体化

 ライダーの挑発に応えて、アーチャー(ギルガメッシュ)とアサシン(メディア)の影とバーサーカー(ランスロット)が登場

 ライダー(イスカンダル)がアサシン(メディア)にスカウト&プロポーズするも断られる

 バーサーカー(ランスロット) vs セイバー(アルトリア)の戦闘

  勝敗:ランサーの介入により勝敗なし(実質、バーサーカーの判定勝ち)

 セイバーオルタの登場

 ランサー(ディルムッド) vs バーサーカー(ランスロット)の戦闘

  勝敗:引き分け

  備考:セイバーオルタ登場により戦闘中断(実質、引き分け)

 

【第23話 セイバーオルタの目的】

 セイバーオルタ(アルトリア)vs バーサーカー(ランスロット)の戦闘

  勝敗:引き分け

  備考:ギルガメッシュの攻撃により戦闘中断(実質、引き分け)

 セイバーオルタ(アルトリア)& バーサーカー(ランスロット)vs アーチャー(ギルガメッシュ)の戦闘

  勝敗:引き分け

  備考:遠坂時臣の諫言でアーチャー撤退(実質、引き分け)

 セイバーオルタがファントムと自称(以降、セイバーオルタのことはファントムと呼称)

 ファントムが自身の正体やマスター、未来情報をばらす。

 ファントム(アルトリア)vs ランサー(ディルムッド)の戦闘

  勝敗:引き分け

 アサシン(ハサン)の分体 vs アサシン(5次ハサン)

  勝敗:アサシン(5次ハサン)の勝利

  備考:アサシンの分体の心臓をアサシン(5次)が食べて強化実施(以降、4次ハサンを分身ハサン、5次ハサンを腕ハサンと呼称)

 




 上記の内容で間違っていること、記載漏れなどがありましたらお知らせください。


【改訂】
2012.06.16 年表を修正(第四次聖杯戦争がPS発売:1994年12月より後だと判明した為)
2012.06.23 年表を再修正(公式設定に『第四次聖杯戦争 1990年頃』とあったので、PSに関する記載の方が誤っているとしました)


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本編(第一部)
プロローグ(第四次聖杯戦争の三年前頃)


 気づいたら、遠坂家の隣家の子供でした。

 

 いや、本当に気づいたら幼児化していて、しかも隣の家はあの遠坂家だったんだよね。

 状況を把握するため、そのまま幼児のふりをして調べてみたところ、……どうやら平行世界の僕(幼児期)に憑依したらしい。

 ……もしかしたら、平行世界の僕へ転生してたった今前世の記憶が戻ったのかもしれないが、……まあどちらであろうと大差はない。

 なお、この体の記憶は全くない。

 だが、家族構成は前世と同じだし、今の僕は幼児だからなんとか誤魔化せるだろう。

 実際、覚醒してから数日間、幼児のふりをして日常を過ごしていたが、幸いにも家族に不審に思われた様子はない。

 

 ちなみに、今の僕はまだ4歳で、隣家の長女である凛も同い年。となると、……次女の桜は年子だから3歳となる。

 たしか、第五次聖杯戦争の11年前に桜は間桐家へ養子に出されたんだから、……第五次聖杯戦争で桜が高1なら15~16歳、その11年前なら4~5歳。

 まずいっ!

 桜が養子に出されるまで、時間があまりないかもしれない。

 

 とはいえ、この世界がどこまでFateと同じ状況かどうか分からない。

 ……とりあえず、『僕が現時点までに確認できる範囲では、Fate/Zeroにそっくりの異世界』ぐらいに考えておけばいいだろう。

 

 『異世界トリップ(転生 or 憑依)もの』の場合、最初にすることは情報収集と状況確認が基本、だよな。

 で、その後は状況分析をして、今後の方針決定とその手段の検討ってところかな?

 

 重度のオタクって、こういう『ある日突然、異世界へトリップしたら』を真面目に考えているから、本当にこういうことが起きたときには行動を起こしやすい、という設定は結構良くあるが、それは自分にも該当したらしい。

 まあ、僕の場合は異世界トリップものの小説をいくつか書いていたので、特に現状理解が早くできたんだろうな。

 ……この想像(夢想)が二次創作以外で役立つ日が来るとは、夢にも思っていなかったのは事実だけど。

 

 

 そんなこんなで現実を受け入れた後、僕は情報収集と幼児の体に慣れるための運動を兼ねて、毎日公園へ遊びに行っていた。

 幸いにも遠坂母娘も頻繁に公園へ遊びに来ており、(普通の幼児のふりをしながら)積極的に話しかけることで凛たちと仲良くなることに成功した。

 で、色々話しているうちに、言峰綺礼の話を聞くことができた。

 話によると、綺礼は最近遠坂邸へ来るようになったらしい。

 そうなると、……今は聖杯戦争の3年前頃になるのか?

 そんなふうに怪しまれないレベルで遠坂家の状況を確認しつつ、僕は遠坂家の女性陣と仲良くなっていき、ついに家にまで招待されるまでになった。

 ……が、今後どうすればいいか、正直僕は迷っていた。

 

 同じ魔法が存在する異世界でも、『ネギま』の世界なら努力でなんとかなる要素は大きいように思える。

 しかし、この『Fate/Zeroにそっくりな世界』は、(原作通りの設定なら)『魔術師としての素質』と『先祖から受け継いだ魔術刻印』がないと、魔術師としてはどうにもならない。

 原作介入するとして、魔術刻印なら無くてもなんとかなるが、魔術回路がないと話にならない。

 『第四次聖杯戦争でマスターとしては最弱クラスのウェイバー』でさえ、三代目の魔術師だしな。

 

 魔術に関わると危険を呼び寄せる可能性も高くなってしまうかもしれない、いや間違いなくトラブルに近づくことになるが、……近いうちに聖杯戦争が起きると分かっている冬木市、それも遠坂家の隣に住んでいる時点で、僕が魔術関連の事件に巻き込まれることは確定している。

 そして、ある程度自衛……は絶対に無理だから、『危険を察知して逃げられるぐらいの能力』は最低でも欲しい。

 それすら持っていないと、あっという間に殺されてしまう。

 ……具体的には、龍之介とか、青髭とか、青髭とか、青髭とか。

 ならば、その手段の一つとして、魔術を選択するのはありだと思う。

 ただし、魔術回路を持っていなければ、……『原作介入=死亡フラグ』になる確率はものすごく高いから、大人しく逃げるなり、傍観するなりした方がいいだろう。

 その場合、聖杯戦争中は家に閉じこもっているか、親の実家に遊びに行かせてもらうしかないかなぁ。

 原作通りの展開なら、『遠坂邸はアサシン討伐と切嗣に侵入された』ぐらいで後は平穏だったから、……多分僕の自宅は安全なはずだ。

 あとは、僕が魔術回路を持っていなかった場合、桜のことをどうするかだが、……今の僕は『何ができて何ができないか?』も分からない状態だから、それが分かってから決めればいいだろう。

 

 

 僕はまず、龍之介と同じく『僕の先祖に魔術師、あるいは異能力者とかはいないのか?』と考え、駄目元で先祖伝来の品と古文書を漁ってみた。

 『子供のやる宝物探し』というふりをして家中を探し回ったところ、押し入れの奥から一目で年代物だと分かるものの、どうしても蓋が開かない箱を見つけることができた。

 父親に聞いてみると、『この箱は特殊な素質を持つ子孫だけが開けることができるので、箱を開けられる者が現れるまで代々必ず引き継ぐこと』というものすごく意味深な言い伝えが残っているらしい。

 おおお、なんともそれらしいものじゃないか!

 ……そうだよな、聖杯戦争が開催されている場所なんだ。

 禅城家と同じく、『魔術を失伝した元魔術師の家系』があってもおかしくないよな。

 あるいは、雨生龍之介みたいに『かつて聖杯戦争に参加した魔術師の末裔』という可能性もあるか。

 それと父親にもこの箱は開けなかったらしく、さっそくその場で僕に引き継ぎが行われた。

 

 期待に胸を躍らせながら、さっそく父親に頼んでその箱を僕の部屋まで運んでもらった。

 その後、何としてでも箱を開くべく箱の隅々まで調べていると、前触れもなくいきなり箱が開いた。

 

 中を覗き込んでみると、箱には色々入っていて一番上には書類が入っていた。

 さっそく書類を見ると、それは旧仮名使いで書かれたものだった。

 かなり読みにくかったが、努力の結果、なんとか一部を解読することができた。

 何でもこの箱を作ったのは八神家のご先祖様であり、さらにそのご先祖様は魔術師だったらしい。

 しかし、これを書き残したご先祖様はよそ者の魔術師に先祖伝来の土地を奪われてしまい、他の場所に移住、というか逃亡したらしい。

 だが、『移住した土地の霊脈との相性が良くなかった』らしく、『ご先祖様の子供の代から完全に魔術回路が閉じてしまった』とのこと。

 うわ~、居住地との親和性って重要なんだなぁ。

 ……まあ、逃亡した魔術師がすぐにまともな霊地に住めないことは、僕でも簡単に想像できるけど。

 

 しかし、あのマキリですら『完全に魔術回路が閉じた慎二』が生まれるまで、臓硯の代から数百年も掛かったんだろ?

 『管理地を離れて、たった一代で全魔術回路が閉じてしまう』って、どこまでその霊脈に密着と言うか、依存した状態だったんだろう?

 ……『ご先祖様が気づいていなかった』か、あるいは『気づいていてもあえて書かなかった』のかもしれないけど、『八神家の子孫の魔術回路が開かなくなる毒を盛られたとか、呪いを掛けられたとか』の可能性もありそうだな。

 橙子は青子に『三咲の地に来ると蛙になる呪い』を掛けられていたし、『対象の子孫の魔術回路を閉じる呪い』があってもおかしくないだろう。

 ……いや、『元々魔術回路を開くのは命がけ』だから、『呪いで対象の子孫の魔術回路を開きづらくすること(=魔術回路を開くと死ぬ状態にすること)』が可能だったら、事実上魔術回路が開けなくなるのと同義か?

 

 とりあえず読み進めると、幸いにも『ご先祖様の子供も孫も(開かないとはいえ)魔術回路の数そのものは減っていなかった』らしく、魔術師のご先祖様は『何としても子孫の魔術回路を開く方法を探そうと、その方法の発見に一生を掛けた』とのこと。

 結論として、『先祖伝来の地に戻るのがベスト』ではあるが、当然『管理地を奪った魔術師とその子孫が警戒しているだろうから、彼らを倒すとか土地を奪い返すのは絶対に無理』だと判断したらしい。

 『子孫の魔術回路の数は減っていないのに開けない』とか、性質が悪いにもほどがある。

 なまじ魔術師として再興できる可能性が残っている為、『魔術師であることを捨てて、一般人として生きること』を選ぶことができなかったのだろう。

 それとも、そこまで考えて土地を奪った魔術師がそういう呪いを使ったのだろうか?

 

 それはともかく、ご先祖様は次善の策を探し、日本中を巡って『先祖伝来の土地によく似た性質の霊脈を持つ冬木の土地』に目を付けたらしい。

 ご先祖様の子孫たち、つまり僕の先祖は『全ての魔術回路が閉じたまま、つまり魔術師になれる素質を持った一般人』でしかないから、例えセカンドオーナーの家の隣に住んでも『魔術回路が開かない限り一般人と同じ存在』だし、普通の魔術師の子供でも魔術回路を開くためには相応の手順が必要となる。

 つまり、魔術回路を開かない限り、『八神家が魔術師の末裔』だとセカンドオーナーにばれる可能性は限りなく低い。

 『セカンドオーナーの家の隣』などという色んな意味でとんでもない場所に住んでいたのは、当然霊脈の為。

 他の冬木の霊脈は『柳洞寺』、『冬木教会』と至近距離に住むことが不可能な場所であり、『後に冬木中央公園となった場所』は当時まだ霊脈ではなかった為、消去法でここに決まったらしい。

 で、そこまで考えた上で、ご先祖様は『息子たちをここに移住させ、さらにこの箱を子孫に伝えるように指示した』らしい。

 それから今に至るまで、『八神家が子々孫々ずっとここに住み続けていた』のも、ある意味すごいと思う。

 ……まあ強力な霊脈がある家の隣だから、それなりの御利益があったのかもしれない。

 

 それにしても、『閉じた魔術回路を開くためには優れた霊地、それもできれば元の管理地』がベストねぇ。

 ……やっぱりこれは、『管理地を奪った魔術師の嫌がらせを兼ねた呪い』だった可能性が高そうだな。

 

 

 それはともかく、ご先祖様は子孫が冬木に移住した後、『魔術回路を開くことが可能な子孫』を判別する装置を作って、『魔術回路を開くことが可能な子孫がこの箱に触れたときに、箱が開くようにセットした』とのこと。

 箱には『魔術回路を開く魔術具』と『魔力封じの魔術具』も入っているので、魔術回路を開いた後も遠坂家にばれないようにする対策は大丈夫、らしい。

 とどめに『魔術回路を開いた後に、魔術刻印を継承して魔術を受け継いでもらえれば嬉しい』とまで書いてあった。

 そう、箱の底にはミイラ化した腕が格納されていて、その腕にはしっかりと魔術刻印が残されていた。

 どこまでも、用意周到かつ執念深いご先祖様である。

 

 しかし、いくら魔術刻印を子孫へ渡したいからって、自分の腕まで切断して入れとくかよ!

 そこまでやるとなると、ご先祖様の子孫かつ魔術回路を開ける素質を持った僕に、Fateの原作知識を持った僕が憑依か転生したのは、偶然……じゃないかもしれないなぁ。

 ご先祖様の執念が、この機会を活かせる知識をもった僕を呼び寄せた、……かもしれない。

 原作知識なしの人がこの箱を開けた場合、当然魔術関連の知識を持っているはずもなく、この書類に書かれたことを信じる可能性は低いだろうしなぁ。

 ……まあ、箱を開いた人が『予知能力の持ち主で聖杯戦争とかを予知する』とか、『魔眼の持ち主で遠坂家の人間が魔術師であることに気付いていた』とかなら、少しはこの内容を信じた可能性はあるけど。

 

 ご先祖様の意志が僕を呼びよせたのが事実なら、ご先祖様も第二魔法を目指していたことになるが、……さすがにそれはないか。

 あるいは、『僕という魔術の知識(本当は原作知識)を持つ子孫が生まれる予知夢でも見て、それにご先祖様が最後の希望を託した』とかなら、……まあ、ありえるかな。

 ……クロノトリガーの世界で、『未来に飛ばされた三賢者の一人が、万に一つの可能性にかけてラヴォスを倒す者たちへのプレゼントとしてタイムマシンを作っていた』ように、『何らかの要因で魔術について知識を得た、あるいは無条件に書類に書かれたことを信じる子孫が現れるという可能性にかけていた』ってのもあるか?

 

 とりあえず書類に書かれていることが事実なら、僕は(開くことが可能な)魔術回路を持っているし、魔術刻印も手に入れられそうだけど、……さてどうしよう?

 まず考えるべきことは、……魔術回路を開くか開かないかの選択だ。

 

 これは当然、……『魔術回路を開く』一択だ。

 当初の予定通り、『魔術師になることで災いを呼び寄せること』よりも『魔術師になることで、魔術関連の危険を察知していち早く逃げ出すこと』を重視しているためだ。

 ……『僕が魔術を使いたい』という願望があることは否定しないが。

 魔術師になれば、『聖杯戦争に参加することを望んでいなくても、人数合わせで令呪を獲得する』という可能性も十分ありえるが、……まあそれはまだ先のことだし、サーヴァントを召喚しないでいれば他の人がサーヴァントを召喚して自動的に令呪が消えるだろうし、最悪は聖杯戦争の間ずっと冬木市から離れていれば問題ない、と思う。

 

 次の問題は『どうやって魔術回路を開くか?』だな。

 『魔術具を指定の手順で操作すれば自動的に動き出して僕の魔術回路を開く』らしいし、『封印中の使い魔は魔力を注げば起きる』らしいし、『使い魔と念話で会話することで魔術刻印の移植方法を教えてくれる』らしいが、……『何十年も前に作られて、ずっとしまいっぱなしだった魔術具を使って魔術回路を開く』のは怖すぎる。

 一歩間違えれば、いや普通に考えて死んでしまう可能性が高すぎる。

 というか、凛によると『魔術回路を開く(作る)ときは死と隣り合わせ』らしいから、死にかけるのは当然というべきか。

 となると、いざというときにフォローしてくれる人が絶対に欲しい。

 

 一番いいのは、信用できる魔術師を見つけ、契約して、使い魔と協力して魔術回路を開いてもらうことだが……。

 今の僕では、遠坂時臣しか候補が思いつかない。

 ……あ~、聖杯戦争終了後ならウェイバーに頼る手もあるか。

 切嗣は僕のことを警戒するだろうから、頼れる可能性は低そうだ。

 だけど、……それだと、第四次聖杯戦争のときに無力のままだから遅すぎるしなぁ。

 

 消去法で『時臣と契約して魔術回路を開いてもらうこと』になるが、そうなると僕は絶対に時臣を手伝わなければならなくなる。

 

 では、時臣陣営に僕が加われたとして、僕は生き残れるか?

 等価交換の契約を結んで予知情報を提供すれば、……多分綺礼の排除ぐらいなら、なんとかなるだろう。

 綺礼の代わりに僕か凛がアサシンを召喚すればいい。

 

 問題は『ギルガメッシュが最後まで時臣に大人しく従ってくれるか?』ということだ。

 綺礼を排除できれば、「時臣の『根源に至る』という目的のため、ギルガメッシュが最後に自決させられること」はギルガメッシュにばれないだろうが、……「つまらん」の一言でいきなり時臣を殺しそうな感じがするんだよなぁ、あの金ぴか。

 

 あるいは、『未来情報(という名の原作知識)のことを時臣や璃正が信じない』とかで、原作通りに言峰璃正が自分の助手として綺礼を連れてきて、綺礼とギルガメッシュが接触する可能性もあるし、……いや、この時点で綺礼はすでに令呪を持っているわけで、教会側としては絶対に綺礼を参戦させるだろう。

 

 それ以前に、時臣は璃正を信頼しているし、璃正の子供であり、璃正が信頼する綺礼も信頼する可能性は高い。

 というか、『ギルガメッシュと切嗣に出会うまでの綺礼』なら信頼に値する人物だったのは事実だし。

 そうなると、綺礼の参戦を防ぐことは不可能と考えるべきか。

 

 つまり、下手に原作知識を提供して、それが綺礼に伝わることがあれば、綺礼とアサシン or ギルガメッシュに僕が殺される確率が跳ね上がる。

 それを考慮して僕が取るべき方針を考えると……。

 

 ……すいません、時臣さん。

 貴方には恨みも何もありませんし、多分恩がたくさんできるでしょうけど、綺礼が裏切ることは教えられません。

 僕が死ぬ確率がものすごく高くなりそうなので。

 ……まあ、綺礼の裏切りを教えても、どうせ信じないでしょうけど。

 その代わりに、貴方の娘さんたちは僕が、そう僕が幸せにするので安らかに成仏してください!

 

 

 ということで、方針決定。

 時臣と接触して、一部の未来情報(原作知識)を『予知夢らしきものを見た』と説明して情報提供して、対価として『魔術回路を開くこと』&『弟子入り』を契約する。

 ただし、第四次聖杯戦争には一切参加せず、凛たちと一緒に避難させてもらおう。

 提供する未来情報は、……そうだな。

 『時臣さんに勝たれることを嫌がった教会の人が、ギルガメッシュに対して『時臣は聖杯戦争の最後に令呪で自害させるつもりだ』と教えて、その結果ギルガメッシュが時臣さんを裏切った』とでもしとくか。

 嘘は言ってないぞ。

 『ギルガメッシュに裏切り行為をばらした教会の人=言峰綺礼』だと言っていないだけで。

 そして、『時臣が最後に裏切るつもり』だと知れば、『ギルガメッシュが時臣さんを裏切るのは当然』だと、時臣も判断するだろう。

 まあギルガメッシュからすると、『反逆の意志が明らかになった逆臣を成敗した』だけなんだろうけど。

 『聖杯戦争の最後に時臣がギルガメッシュを自害させる予定であることを、璃正と綺礼以外が知っているか?』という問題はあるが、『なぜ教会の人がその情報を持っていたのかは知らない』と言っておけばいいだろう。

 元々、予知情報なんて曖昧なことが多いんだから。

 あとは、読心術を使われないのを祈るだけか。

 

 

 さて、次に決めるべき重要事項は『桜の救出をするかどうか?』だな。

 原作介入をすることを決めた以上、当然(僕が死傷しない範囲で)桜を全力で助ける。

 手を伸ばせば助けられる可能性が高い娘(美幼女)がいて、おまけにその子が可愛くて性格がいいなら、助けるのは男として当然だ。

 間桐家入りした後なら助けだすのは困難かつ命の危険があるが、その前に養子入りの話を潰すのならリスクも小さいし、命の危険は全くないと思う。

 で、たしか時臣が桜を間桐家に養子に出した理由は、『類稀な魔導の才能を持つ凛と桜のどちらか一方を、凡俗に堕とすことを良しとしなかった』ためだったはず。

 そうしなければ『魔道の加護を受けなかった方の子にはその血に誘われた怪魔が災厄をもたらし、魔術協会がそれを発見すれば嬉々として保護の名の下にホルマリン漬けの標本にしてしまう』とか言っていた。

 それが事実なら(多分事実なんだろうけど)、間桐家への養子入りの話を潰したとしても、他に桜を守ってくれる家なり組織なりを見つける必要がある。

 そうしなければ、原作の桜と同程度、あるいはもっと酷い状況になる可能性が高いのは間違いなさそうだ。

 

 ……とはいえ、まずは桜を守る、いや保護すべきだよな。

 桜の将来については、その後にゆっくり考えればいいだけのことだ。

 一番確実な方法は、……やっぱり間桐雁夜を利用することかな?

 雁夜を利用して桜を救出した場合、彼が聖杯戦争に参加する理由が無くなってバーサーカーを呼ぶマスターがいなくなってしまうが、……まあいい。

 どうせ、時臣に未来情報(の一部)を渡した時点で第4次聖杯戦争は原作崩壊確定なんだ。

 いまさら躊躇う必要はないだろう。

 

 

 最初は葵さんに対して、『予知夢を見て、桜ちゃんたちが不幸になる夢を見た』と説明しようかとも考えた。

 しかし、葵さんは時臣を(盲目的なほど)愛しており、桜の養子入りの件も逆らわなかったぐらい、時臣の言うことには完全に従っている。

 葵さん経由で雁夜と会おうとすると、その時点で絶対に葵さんから時臣へ僕の情報が漏れるだろう。

 それを考えると、葵さんを通さずに雁夜に会いたい。

 ……そうだな。幸い時間はまだあるから、雁夜が凛と桜に会いに来る機会を待つか?

 アニメで見た雁夜の行動パターンから推測すると、(雁夜が時臣に会いたくないせいか)公園にいるときを狙って葵さんと会っているみたいだし、その時に凛と桜へのプレゼントも直接渡しているのだろう。

 

 そういうわけで、凛たちと遊びながら何気なく『以前凛ちゃんたちと話しているのを見かけたおじさん』として雁夜のことを聞いてみると、いともあっさりと細かいことを教えてくれた。

 所詮は幼女、(魔術に関わることでもないし)同い年の遊び友達への警戒心は低いようだ。

 で、聞き取り調査の結果、凛たちはいつも公園で雁夜と会っているらしい。

 念には念を入れて、「僕も雁夜さんに会ってみたいから、今度雁夜さんに会うことがあればぜひ会いたいと伝えてほしい」と凛に話しておき、できるだけ二人が公園で遊ぶとき一緒に過ごすようにすること一ヶ月。

 ついに雁夜が公園に現れた。

 

 

 約束通り、凛から雁夜に対して僕のことを紹介してもらい、僕が自己紹介した後、握手にまぎれてメモを渡すことに成功した。

 

 その後、凛たちと別れて公園の隅で待っていると、しばらく経ってから雁夜がやってきた。

 彼の表情はこわばり、怒っているようにも見える。

 ……まあ、当然か。

 

「一体何のつもりだ?

 ……いや、誰に何を頼まれたんだ!?」

 

 雁夜は少し興奮気味だったので、僕はできるだけ冷静に話した。

 

「誰にも頼まれていないし、僕自身がやったことですよ。

 改めて自己紹介します。

 まず、僕の立場は魔術師見習いといったところです。

 『魔術技術は全くなく、魔術の知識を少しと、魔術師の素質を持っているらしい』というレベルですが」

「……そうなのか?」

「ええ、ただこれから話すことは、もっととんでもないことですよ。

 僕、いえ私は前世の記憶を持ち、さらに予知夢らしきものを見たんです。

 その予知夢では『桜ちゃんが間桐家に養子入りしていた』ので、それを防ぎたいと考えて雁夜さんに協力をお願いしたいと考えたわけです」

「なんだと!

 桜ちゃんが、よりにもよって間桐家へ養子入りだと!!」

 

 完全に予想外の言葉だったらしく、雁夜はすごい形相だった。

 

「ええ、別におかしな話ではないでしょう?

 間桐家は代々優秀な魔術師の血を引く女性を嫁にもらって、子供を産ませている。

 貴方が間桐家の後継者となることを拒否した以上、貴方の甥である間桐慎二が魔術師の血を引く嫁を取ることになるでしょう。

 そして、聖杯御三家の盟友である遠坂家には二人の娘がいて、当然一人は遠坂家の魔術を受け継がない。

 それだけではなく、「配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す」という特殊な体質を持つ女性の娘であり、魔術師として高い素質を持っているのはもちろん、彼女自身同じ体質を持っている可能性が高い。

 衰退した間桐家の力を蘇らせるため、臓硯が桜ちゃんを養子にもらって慎二の嫁にしてもおかしくはないでしょう?」

「……た、確かに、言われてみればその通りだ。

 だが、臓硯がそれを望んだとして、時臣が、そしてあの葵さんがそんなことを受け入れるはずが……「その時臣が、間桐家に嫁入りした女性の末路を全く知らなければどうですか?」

「なんだと!?」

 

 すでに雁夜はすごい顔をしていたのに、この時点ではすでに鬼かと思うような怒りの形相になっていた。

 

「貴方や私は、『間桐家に嫁入りした女性は、子供を産んだ後は蟲の餌にされる』と知っています。

 ですから、『間桐家へ嫁入り』とは『娘を捨てる』、いや『娘を地獄に送りこむこと』であり、娘を可愛がっている親なら絶対にそんなことはしないと考えるでしょう。

 そして、時臣は生粋の魔術師ではあるが家族のことを愛していることは確かなので、いくらなんでも桜ちゃんを間桐家に渡すはずがない」

 

 そこまで一息で言って雁夜の顔を見ると、真剣に僕の言葉を聞いていたので、安心して続きを説明した。

 

「ただ、『間桐家における嫁入りした女性の扱い』を時臣が知らなければ、『聖杯御三家にして聖杯戦争を構築した本人である間桐臓硯なら、大切な娘を預けるにふさわしい』と考えてもおかしくないでしょう。

 どうも、私が予知夢で見た限り、時臣と臓硯は個人的な接触がほとんどなく、間桐家についてほとんど調査をしていなかったように見えましたので」

 

 それを聞いた雁夜は、少し考え込んだ。

 

「確かに俺の知る限り、臓硯は遠坂家に一切接触していなかったし、間桐家に時臣が来たこともなかった。

 そして、時臣が臓硯のことを一切調べず、間桐家に嫁入りした女性の末路に興味を持たず、聖杯御三家の名前に目が眩み、ただ間桐家と遠坂家の盟約を守ろうとすれば、……桜ちゃんが養子入りする可能性は、……確かにありえるか」

 

 そう言った雁夜は、絶望に満ちた表情だった。

 

「ええ。その結果、桜ちゃんは間桐家に養子入りして、まさに拷問というべき扱いを受け続けます。

 で、私が見た予知夢では、そのことを知った貴方が臓硯と交渉し、『聖杯戦争に参加するから、聖杯を手に入れたときには桜ちゃんを解放しろ』と契約を行い、貴方は聖杯戦争に参加したわけです」

「……そうだろうな。

 確かにその状況になれば、……俺は君が言った通りの行動を取るだろう。

 とはいえ、桜ちゃんが養子入りした後から聖杯戦争までの短期間の修行だけで、俺はマスターになれたのか?

 ……いや、もしかすると、……俺はマキリの蟲で、無理やり魔術師になったのか?」

 

 雁夜は僕から教えられる前に自分で気づいた。

 ……まあ、彼も自分がそこまで優秀な素質を持っているとは思っていなかったから、消去法で気付いただけなんだろうけど。

 

「ええ、その通りです。

 桜ちゃんが養子入りしたのが、5歳ごろで聖杯戦争開始の1年前ぐらい。

 その一か月後ぐらいに雁夜さんが修行を開始して、肉体に刻印虫を植えつけるという無茶な方法でなんとかマスターになりました。

 ……ただ、聖杯戦争開始時点で余命が一月もなかったみたいですが」

「……だろうな。

 そんな無茶をすれば、聖杯戦争開始時に余命が残っているだけでも運が良かっただろうさ」

 

 すでに雁夜は全く疑わず、僕の言葉に頷いていた。

 

「で、お前はどうしたいんだ?」

「……ええと、その前に、『私が前世の記憶を持ち、予知夢を見たこと』は認めてくれたということでいいんでしょうか?」

 

 あまりにも雁夜が私を信頼するのが早かったので、誤解やすれ違いを避ける為に僕は確認を取ったのだが、雁夜の回答は簡潔だった。

 

「ああ。今のところ、お前の言うことに誤りは見つけられない。

 というか、俺が『桜ちゃんが間桐家への嫁入りする可能性』に、今まで一度も思いつけなかったことに愕然としたがな。

 そしてこれほどの内容を、それだけ冷静かつ的確に話せる存在がただの子供のはずがない。

 とりあえず、お前の言うことは信じよう。

 ……いや、『信じたつもり』で対応しよう。

 間桐家を勘当され、間桐家とは一切繋がりを断って、間桐家の秘術はおろか魔術を全く知らない俺に、こんな嘘を言って騙すことによる利益などあるはずがないからな。

 嘘だろうが騙りだろうが、言っていることが事実と一致していて、それにより桜ちゃんを助けられるのなら何だって利用するさ。

 ……もちろん、事実と異なることがあったと判明した時点で、対応を考えさせてもらうぞ?」

「ええ、それで構いません。

 ただし、前提条件が変わってしまうので、『予知情報は誰かに教えた時点で未来が変わってしまう可能性が高いこと』は理解してください」

「ああ、わかっている」

 

 ふう。とりあえず、交渉の第一段階は終了。

 さて、これからが本番だな。

 

 

「では、先に私の前世について説明しましょう。

 と言っても、前世は普通の30代のサラリーマンなので、魔術の世界のことは全く知りません」

「まあ、魔術のことを知らなくても、それぐらい人生経験があれば、これだけ冷静に判断ができてもおかしくはないか。

 僕よりも年上だしな。

 しかし、……それにしても対応が手慣れてないか?」

「前世では、ファンタジー等のフィクションの魔法関連の本やマンガをよく読んでいたので、その知識を活かしたまでです。

 こんな風に活用する日が来るとは思っていませんでしたけど」

 

 これは完全な事実である。

 ……まあ、前世において『創作世界への転生を望んでいなかった』と言ったら嘘になるだろうけど。

 そして、あえて伝えなかったが、『前世の知識の中にこの世界の事件を描いたゲームや小説やアニメがあった』というとんでもない事実も混じっているが、そこまで言う必要はあるまい。

 

「……確かにフィクションと言っても、かなり凝った設定のものもあるし、色々な世界があるしな。

 なるほどな。

 そういう知識があったから、桜ちゃんのことも冷静に考えられたわけか」

「ええ、作品によっては、それぐらいきつい設定のものもありますからね」

 

 実際中学生の頃に読んだライトノベルで、『海賊に捕まった貴族のツンデレヒロインが、暴行輪姦のあげくに指なし歯なし全身痣だらけのずたぼろの状態になり、主人公と再会した直後に主人公をかばって死んでしまったシーン』とか読んだときは、しばらくかなりのトラウマになったぐらいだ。

 

「なら、その知識を桜ちゃんのためにフルに活用してくれ」

「もちろんです。

 ……で、僕の目的ですが、まずは桜ちゃんを助けることです。

 大切な幼馴染ですし、予知夢の内容が雁夜さんによって肯定された以上、間桐家への養子入りは高い確率で起きうる未来だと考えていいでしょう。

 二つ目の目的は、僕が力を付けることです。

 これは、自衛と桜ちゃんたちを守るためです。

 家にある古文書によると私の先祖は魔術師だったらしいので、可能なら魔術回路を開いて魔術師になりたいですね。

 で、最後の目的は、……強力な後ろ盾を得ることです」

 

 この世界で怯えずに生きるためには、自衛の力と強力な後ろ盾は必須だ。

 ……例えその後ろ盾の当主が、近い将来死んでしまう可能性が高いとしても。

 

「なるほどな。

 その三つの目的を果たすため、俺を使って時臣と繋がりを持ちたい、いや時臣の弟子になりたいわけか」

「ええ、その通りです。

 申し訳ありませんが、二つ目と三つ目の目的は、雁夜さんでは叶えられませんから」

「まあ、そうだな。

 だが、その目的が事実なら、俺としても全面的に協力できる。

 ……いいだろう。

 君の目的が、桜ちゃんたちの利益になる限り、そして君が原因で桜ちゃんたちに危険をもたらさない限り、俺は君に協力しよう」

「ありがとうございます。

 これから、よろしくお願いします」

 

 こうして僕は、雁夜さんと協力関係を結ぶことに成功した。

 

 

 その後、ご先祖様が残した古文書を見せて、僕が話したことが嘘でないことを証明した。

 ついでに、旧仮名遣いで意味がよくわからなかった部分について、雁夜さんに解読してもらうことで、より詳細に理解することもできた。

 さらに僕は、原作知識と言う名の未来情報の一部を雁夜さんに提供し、二人で『桜の間桐家への養子入り』を潰す計画を練っていった。

 

 さあ、僕と雁夜さんによる、新しいFate/Zeroの物語を始めよう。

 




【備考】
2012.04.01 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.08.04 一部改訂
2012.10.07 一部改訂
2012.12.30 一部改訂


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第01話 遠坂葵の説得(憑依二ヶ月後)

 雁夜さんと『桜ちゃん救出計画』を練った結果、僕らはまず葵さんを協力者に引きこむことを決めた。

 時臣を説得するときに協力者が多いに越したことはないし、雁夜さんとしても葵さんを味方にしたいと思っていたので、このことはすぐに決まった。

 

 そして、葵さんを説得するため、雁夜さんだけが会うことになった。

 僕は黒幕というか、『予知夢(原作知識)を見た(知っている)こと』は雁夜さん以外には内緒にしたかったので、全ての交渉は雁夜さんにしてもらうことになった。

 雁夜さんとしても『自分自身の手で桜ちゃんを助けたい』と考えており、『余計な情報が洩れるのは絶対に厄介ごとになる』と判断していたため、両者の利害は一致し平和的にこの方針が決まった。

 ちなみに、葵さんとの会談場所は公園内の人気のない場所であり、僕は葵さんに見つからないように木陰から二人の様子を伺っている。

 

 雁夜さんは「偶然知り合った予知能力者から、桜ちゃんの未来について聞いた」と一気に本題を切り出して、葵さんへの説得を開始した。

 

「桜ちゃんが5歳の頃に間桐家の養子となり、その日にマキリの蟲に処女を奪われ、毎日蟲漬け、毒食い、肉体改造の日々を過ごし、強制的に慎二君と結婚させられ、彼の子供を産んだ後、用済みとして蟲の餌にされて殺される可能性が高い」

 

と一気に説明した。

 

 最初は何を言われているのか分かっていなかったようだが、徐々に言葉の意味を理解し、葵さんは真っ青になっていった。

 

「雁夜君、……冗談じゃ、ないのね?」

「こんな質の悪い冗談を、俺が葵さんに言うわけないだろ?

 桜ちゃんを養子に出す可能性があるかどうかは、時臣……さんに確認する必要はあるけど、間桐臓硯が『間桐家の魔術の後継者』兼『慎二君の嫁』を欲しがっているのと、間桐家の後継者は『修行と言う名の蟲漬けの拷問』を強制されるのは事実だ」

 

 真剣な雁夜さんの顔を見て、葵さんは雁夜さんが真実を話していると信じたようだ。

 

「自分の目で見たわけじゃないけど、俺の母と兄さんの嫁は優秀なマキリの後継者を産めるようにするため、臓硯によって蟲などを使って肉体改造をされたはずだ。

 そして、俺の母は俺の出産後に、兄さんの嫁も慎二君の出産後に消息不明になっている。

 ……そう、俺は母の顔を見た記憶がないんだ。

 高い確率で、蟲の餌にされたんだろう」

 

 『娘を養子に出されること』は受け入れられても、『娘が生き地獄(蟲地獄)に放り込まれて殺されること』は当然ながら受け入れられず、それ以前に想像すらしていなかった葵は、完全に血の気が引いて気絶寸前の様子だった。

 

「葵さんはどう考える?

 俺としては、高い確率で起きる未来だと考えている」

「あの人は魔術師だから、遠坂家を継がない桜を養子に出すことは、……ありえると思うわ。

 でも、まさか、……桜をそんな目に会わせるなんて、さすがに信じられないわ」

「いや、さすがにそこまでは、……時臣さんも知らなかったんだろう。

 他家の魔術師の養子になる以上、『肉体改造や強制的に慎二君の嫁にすること』までは予想していただろう。

 だけど、『肉体改造の手段が蟲漬けの凌辱』とか、『出産まで生きていれば十分だからという理由で、寿命を削るような肉体改造を平気で実行する』とか、『出産後は蟲の餌』までは、……さすがに想定外だったんじゃないかな?

 分かっていて桜ちゃんを養子に出したのなら、俺は絶対に許せない!

 葵さんもそうだろ!?」

 

 雁夜さんは葵さんが受け入れやすいように時臣を庇っているが、内心は時臣を徹底的に貶めたいんだろうなぁ。

 

「……ま、魔術師の嫁となった以上、子供たちに肉体改造をすること、それに結婚相手をあの子たちが自由に選べないことは覚悟していたわ。

 でも、さすがにそれは桜が可哀想よ。

 その未来が本当なら、桜の血を引いた子供は産まれるんでしょうけど……、それだけを目的として出産するまで苦痛に満ちた日々しか送れないなんて、あげくに出産後すぐに殺されるなんて、そんなの許せない!」

 

 葵さんは最後には感情むき出しで怒っていた。

 

「それでこそ葵さんだ。

 そこで、絶対に桜ちゃんを間桐家の養子にしないように時臣さんを説得するつもりなんだけど、葵さんも手伝ってくれないかな?」

「もちろんよ。

 私にできることなら何でもするわ」

「ありがとう、葵さん。

 葵さんの助力があれば心強いよ」

 

 真面目な顔をしているけど、葵さんの完全な信頼を得ることができて、雁夜さんは相当喜んでいるはずだ。

 雁夜さんにとって、自分の行動で桜ちゃんを心身共に助け、葵さん母娘の平穏を守り、三人から特に葵さんから今まで以上の信頼と感謝がもらえるのだから、まさにこの世の春だろう。

 この調子なら、雁夜さんとは最後まで協力できるかな?

 

 

 僕としては、桜を助け、時臣に弟子入りして魔術を習い、ご先祖様の魔術刻印を継承して、一人前の魔術師(魔術使い)になれればそれで目標達成である。

 後は、聖杯戦争中に家族で旅行に行くとかして、第四次聖杯戦争を無事に乗り越えられればOKである。

 

 ……さすがに、サーヴァント召喚しようとか考えませんよ。

 (汚染された)聖杯には当然興味ないし、聖杯戦争参加自体が特大の死亡フラグだからね。

 ……まあ、サーヴァントには興味があるのは事実だけど、『聖杯を求めないサーヴァントを僕が召喚できるかどうか?』は完全に賭けだし、聖杯戦争後に(聖杯の魔力フォローなしの状態で)僕だけの魔力でサーヴァントを維持できるとは思えないしね。

 とはいえ、聖杯戦争を安全な場所で見学したいとは思っているので、暗示で僕以外の家族には旅行に行ってもらって、僕は禅城の家に一緒に避難させてもらいつつ、使い魔で観戦するのがベストかな?

 今考えられる限りでは、これが一番安全かつ確実に聖杯戦争を観戦できる方法だと思うけど、まあ他にもいい手段がないか考えてみよう。

 

 

 ……いや待て!

 よく考えると……、原作通り『切嗣がセイバーに命じて聖杯を破壊させること』が起きなかった場合、……アンリ・マユが復活する事態にならないか?

 ……それってどう考えても、世界の危機、だよな?

 『下手すれば世界滅亡レベル、最小の被害でも抑止力が発動して冬木市が消滅するレベル』か?

 

 あちゃ~。

 そうなると、何としてでも聖杯戦争終了前に聖杯を破壊しないとまずいわけか。

 ということで、プラン変更決定。

 雁夜さんには何としてもバーサーカーを召喚してもらって、可能なら僕もサーヴァントを召喚するべきか?

 ……雁夜さんが『刻印虫なしの三年間の修行』でどこまで強くなれるかは疑問だが、……桜ちゃんのためということで、死ぬ気でがんばってもらうしかないか。

 僕も聖杯戦争開始までに修行を積んで、ご先祖様の魔術刻印を全て継承できれば、それなりの魔力量を得られるはずだ。

 そして、龍之介がキャスターを召喚する前に、僕がキャスターを召喚すれば、召喚されるサーヴァントなどは原作通りになるはずだ。

 で、バーサーカーとキャスターをできるだけ温存して、『切嗣の令呪による命令で、セイバーによって聖杯が破壊される展開』へ誘導するのがベストだな。

 最悪、バーサーカーかキャスターに聖杯を破壊させることも考えておく必要もあるだろう。

 

 可能なら、『大聖杯にアンリ・マユが潜んでいること』を時臣にも理解させて、『聖杯を完成させると世界が滅びかねないこと』を教えたいところなんだが、……難しいだろうなぁ。

 アンリ・マユの存在に気付いたとしても、『根源へ至る穴を開けるだけならばアンリ・マユは何もできない』とか言う可能性もあるし。

 いつか雁夜さんと一緒に柳洞寺地下にある大聖杯を見に行って、魔術師でも大聖杯の中に潜むアンリ・マユの存在に気づけるか確認してみよう。

 

 

 方針が決まったところで、改めて雁夜さんと葵さんの様子を伺うと、雁夜さんが葵さんに今後の方針を説明しているところだった。

 

「まずは俺が聞いた予知の内容をまとめて、それを時臣さんに説明する。

 で、全部信じなくてもいいから、ある程度俺が話したことを信じて、間桐家に嫁入りした女性たちの消息を調べさえすれば何とかなる。

 ……多分全員、子供の出産直後に病死とかで登録されていると思う。

 それを見れば、さすがの時臣さんも俺が話した内容を信じてくれる、……はずだ。

 それで、桜ちゃんの養子入りを取り消してくれればよし。

 万が一、それでも養子入りさせようとしたら、そのときはまた対策を考えよう。

 何があろうと、俺は桜ちゃんの安全を優先するよ」

「ええ、それで構わないわ。

 雁夜君、桜のことお願いね」

「ああ、まかせてくれ!」

 

 雁夜さんは葵さんから全幅の信頼を得て、僕から見ても一目でわかるほどものすごくやる気に満ち溢れている。

 まあ、大切な人たちの心身を自分が守れるんだから当然か。

 ついでに、『時臣の株を下げ、自分の株は大幅上昇』という効果もあるしな。

 さすがにそれは邪推かもしれないけど、……あの顔を見ていると邪推じゃないかもしれないな。

 これなら、雁夜さんが暴走しないかぎり問題はなさそうだ。

 

 こうして雁夜さんと葵さんは時臣を説得するための相談を繰り返し、僕は二人が決めたことを元にさらなるアイデア提供や改善策の提案をして、雁夜さんと一緒に可能な限り完璧な対策を練った。

 そして、葵さんの仲介でついに雁夜さんが時臣と面会する日が決まった。

 さあ、雁夜さんの一世一代の大舞台。がんばってくれ。

 

 ……ん、僕?

 雁夜さんはついに前世の記憶持ちだと信じてくれたけど、外見はただの幼児だからね。

 いきなり時臣と会っても信じてくれるはずもないし、時臣には前世の記憶持ちだということは隠すつもりだからね。

 この交渉の主役は間違いなく雁夜さんだ。

 僕は『演出家兼脚本家』といったところかな?

 

 さあ、いよいよ桜救済の舞台開幕だ。

 




【備考】
2012.04.03 『にじファン』で掲載
2012.09.15 表現の修正


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第02話 雁夜と時臣の交渉(憑依三ヶ月後)

 ついに、雁夜さんと時臣との会見の日がやってきた。

 

 事前に打ち合わせした通り、葵さんと雁夜さんの二人で時臣に説明することになっている。

 まあ、雁夜さんが持っている盗聴器経由で、隣家(自宅)にいる僕も会話を聞き取れるようにしてもらったけど。

 ……そう、さすがは魔術師の家というべきか、電波は完全に素通りだったんだよね、これが。

 魔術師が機械を使わなくても別に構わないけど、盗聴とかの対策は必要だと思うけどなぁ。

 

 

「さて、急に一体何のようかな?

 葵から大事な話があると聞いたが、一体何事かね?」

 

 時臣は、原作通り威厳のある(偉そうな)態度で対応していた。

 

「ご無沙汰しています、間桐雁夜です」

 

 対する雁夜さんの声はかなり固かった。

 

「ああ、久しぶりだね。

 元気そうで何よりだ」

 

 時臣の方も言葉は優しいが、冷たい声だった。

 やっぱり、時臣も『魔術を継ぐことを拒否した雁夜』が嫌いなんだろうな。

 

「それで私に何の用かね?

 葵も一緒と言うことは、葵にも関係あることなのかな?」

「私も関係あるけど、雁夜君にも関わりがあることよ」

「葵さん、後は俺が話すよ。

 時臣さん、いきなりですいませんが、あなたに伺いたいことがあります」

 

 雁夜さんは気圧されることなく、時臣に対峙している。

 何と言うか、僕でさえ頼もしさを覚えるぐらい気迫に満ちている。

 

「ふむ、何かね?」

「すでにご存じでしょうが、……間桐家は弱体化の一途をたどり、甥の慎二君は魔術回路がなく、それなりでしかありませんが魔術回路を持っている俺も間桐とは縁を切っています」

「ああ、それは知っているよ。

 私としては君のお兄さんが新しい妻を迎えて、二人目の子供を作るものと思っていたがね」

 

 まあ、それが普通の考えなんだろうなぁ。

 

「それなら話が早い。

 俺が調べたところ、臓硯は貴方の娘を間桐家の養子として迎え、間桐の魔術を継がせようと考えているらしい。

 本日伺ったのは、臓硯から養子の依頼があった際に、貴方はどう対応するつもりか知りたかったからです」

「そうか、それは良かった」

 

 時臣は予想通り、雁夜さんの言葉に喜んでいた。

 時臣のその答えに葵さんは動揺したらしく、何かにぶつかる音が聞こえた。

 

「良かった、だと?」

「ああ、そのとおりだよ。

 君の言葉が事実なら、私は間桐家へ桜を養子に出そうと思っている」

「なぜ、……ですか?」

 

 時臣の回答に激昂しかかったが、雁夜さんはぎりぎりで冷静さを保てたみたいだ。

 

「――問われるまでもない、愛娘の未来に幸あれと願ったまでのこと」

「……それは、桜ちゃんを魔術師にするため、か?」

「その通りだよ。二子を儲けた魔術師は、いずれ誰もが苦悩する

 ――秘術を伝授しうるのは一人のみ。

 いずれか一子は凡俗に堕とさねばならないというジレンマにね」

 

 その発言に対して、二人とも何も言わず、……いや何も言えなかったのか?

 ともかく、邪魔が入ることもなく、時臣の説明は続けられた。

 

「とりわけ、葵は母体として優秀過ぎた。

 凛も、桜も、共に等しく稀代の素養を備えて産まれてしまったのだ。

 娘たちは二人が二人とも、魔導の家門による加護を必要としていた。

 いずれか一人の未来のために、もう一人が秘め持つ可能性を摘み取ってしまうなど――親として、そんな悲劇を望む者がいるものか」

 

 う~ん、『力を持つ者は、力を完全に捨てるか封印しない限り、自衛できる力を持たないと他者の獲物にしかならない』というのはこの世界の魔術師の常識らしいから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけど。

 ……もうちょっと、融通を利かせられないのかなぁ?

 

「わ、私のせいなの?

 凛と桜を必要以上の素質を持った体で産んでしまったから、あなたはそんなことをしようとするの?」

「何を言っているんだね。

 私たちの子供が稀代の素質を持って生まれたのは、喜ばしいことに決まっている。

 ……しかし、魔性は魔性を招き寄せる。

 本人が望まずとも、否応なしに関わることになるだろう。

 そのような運命に対処する手段はただ一つ――自らが意図して条理の外を歩むことだけだ」

「……だから、だから、桜ちゃんを間桐家へ養子に出すのか!?」

「そうだ。聖杯御三家である間桐家からの養子の話が事実なら、まさに天恵に等しい。

 これが実現すれば、桜も凛と同じく一流の魔導を継承し、二人とも自らの人生を切り拓いていけるだけの手段を得られるだろう」

 

 時臣の言葉は自信と喜びに満ちていて、一切疑問を持っていないようだった。

 対照的に雁夜さんは、怒りと憎しみが声から滲み出ている。

 

「……桜ちゃんが、凛ちゃんと同じく優れた魔導の才能を持っているから、自分の身を守るため、自ら魔導を継承しなければいけないのは理解できる。

 他人に守ってもらうとしても、絶対はあり得ない。

 ならば、自衛できるだけの知識と力を持つことが、一番確実だからな」

 

 まさに、クロノアイズ方式だけど、この理屈は僕も納得できる。

 原作の雁夜と違って、僕が『桜ちゃんが魔術師にならない場合の危険性』を事前に説明済みということもあり、狂気に犯されておらず冷静に判断できた雁夜さんはこの説明をすんなりと受け入れていた。

 そのおかげで、まだ雁夜さんは冷静に対応できているようだ。

 

「だが、それなら、お前が桜ちゃんにも遠坂の魔術を教えればいいじゃないか!

 魔術刻印を継がせることはできなくても、魔術の知識と技術を教えることは問題ないはずだ!!」

「君は自分が何を言っているのか理解しているのかね?

 秘術を伝授しうるのは一人のみ。

 この原則は、魔術師ならば絶対に守らなければならない。

 ……無論、秘術に含まれないレベルの魔術関連の知識と技術を教えることは可能だが、……それだけでは自衛の力として不十分だ」

 

 さすがに最後の言葉は、悔しさが滲んでいた。

 時臣も、『桜ちゃんに自分が魔術を教えること』は検討だけはしていたらしい。

 

「一応確認しておくが、桜ちゃんが間桐家でどんな目に会うか理解しているのか?」

「……ああ、君が心配しているのはそのことか。

 水属性を持たない桜では、マキリの業をそのまま修めることはできないだろうが、……マキリの業は水属性を持つ可能性が高い桜の子供に継がせ、桜には桜の属性に合わせた魔術を教えてくれると考えている」

「つまり、桜ちゃんの意志を無視して、間桐家に嫁がせることは認めるのか?」

「そのとおりだよ。

 魔術師は、『自らが受け継いだ遺産を子に受け継がせること』が義務だ。

 桜もまた魔術師の家に生まれたからには、そのことを理解しているはずだ」

「俺が間桐家に戻らない限り、ほぼ確実に慎二君が桜ちゃんの夫になるんだぞ?

 本当にそれでいいのか!?」

 

 そろそろ冷静さを失いかけて声を荒げる雁夜さんだが、時臣はひたすら冷静に答えていた。

 

「確かに、魔術回路を持たない者が桜の夫になるのは不安だが、……なに禅城の血を引いているからな。

 凛や桜と同じく、慎二君に眠るマキリの素質を最大限引き出した、優秀な魔術師の素質を持つ子供を産んでくれるだろう」

 

 そういうことか!

 何であそこまで時臣がおおぼけだったのか不思議だったけど、『臓硯は禅城の能力を一番必要としている』と思い込んでいたせいだったのか!!

 雁夜も相当怒りを感じたらしいが、必死で冷静さを保って声を絞り出しているようだ。

 

「これも念のため確認しておくが、代々間桐の家に嫁いできた女性が、……どんな目にあってきたか知っているか?

 当然、桜ちゃんの身にも未来において同じことが起きるだろうな」

「……そういえば、君の母や義姉には会ったことがなかったな。

 いや、確か、……子供を産んだ後に揃って亡くなっていたか。

 もしかすると、これは、……偶然では無いのかね?」

 

 ここまで雁夜さんに言われて、さすがの時臣も不自然な状況だと気付いたらしい。

 

「ああ、偶然じゃないさ。

 何せ子供を産んで用済みとなった女は、全員臓硯によって蟲の餌にされたんだからな」

「なんだと!?」

「それだけじゃない。

 マキリの修行とは、体をマキリの蟲に慣らせること。

 女を『子供を産む道具』としか考えない臓硯のことだ。

 桜ちゃんを養子にとったその日から蟲に凌辱させ、水属性になるように徹底的に体を改造するだろうさ!!」

「馬鹿な、そんなことをすれば桜の素晴らしい素質が……「マキリの子供を産むだけの道具に、そんな配慮あるわけないだろ!

 例え寿命が縮むような無茶な肉体改造であっても、『子供を産むまで生きていれば問題ない』とやりたい放題するだろうさ!!」

 

 さすがの時臣も完全に予想外の話に動揺したようだが、雁夜さんは容赦せずに言葉の矢を続けて放った。

 

「……いや、待ちたまえ。

 確かに『間桐家に嫁入りした女性達が出産後に亡くなっていること』は事実だが、それ以外に君の説明を証明するものはない」

 

 しかし、さすがは遠坂家当主と言うべきか。

 時臣はすぐに冷静さを取り戻し、雁夜さんの話の弱点を突いてきた。

 

「ああ、そうだな。

 『俺が臓硯に聞いたこと』と、そして『俺がこの目で見た、兄さんが受けてきた修行という名の拷問の記憶』だけがあるだけで、証拠は何もないのは事実だ。

 ……兄さんも臓硯を恐れているから、問い詰めたとしても事実を話すはずもないしな」

 

 しかし、この程度のことは想定の範囲内の回答だ。

 

 

「遠坂家の伝承に、『臓硯の所業』や『マキリの修行』について書かれているものはないのか?」

「私の知る限りでは、ない。

 ……だが、本当に桜を養子にするつもりなら、絶対に確認する必要がある」

「俺の言うことには、証拠がなかったんじゃなかったのか?」

 

 雁夜さんの言葉を少しは信用したような口ぶりに、雁夜さんも不審を感じたようだった。

 

「証拠はないが、……『間桐家に嫁入りした二人の女性が出産後に死亡していること』や『臓硯が蟲使いであること』は事実だ。

 『マキリが聖杯御三家としての当初の悲願を失っていること』は、私も認識している。

 考えたこともなかったし、考えたくもないが、……臓硯が狂ってしまっているのなら、君が言ったことが行われている可能性は否定できない。

 全てはこれからの調査結果次第だ」

 

 次の瞬間、歩き出す音が聞こえた。

 言葉通り、臓硯そしてマキリについて調査するために部屋を出ようと歩き出したのだろう。

 

「いくら間桐家が衰えたとはいえ、臓硯が健在なのは変わらない。

 戸籍を調べれば、間桐家に嫁入りした女性が全員出産直後に死亡したことは分かるだろうが、『あいつが何をしてきたのか?』、『桜ちゃんに何をするつもりなのか?』なんて本当に調べられるのか?」

 

 雁夜さんの鋭い質問に、足音はすぐに止まった。

 たぶん、時臣も雁夜の言葉を否定できなかったのだろう。

 

「だが、そうなると、……君の言葉を証明するものは何もないということになるぞ?」

「別に問題ないだろう?

 臓硯が養子の話を持ちかけてきても、その場で断ればいいだけのことだ」

「それは、……できない」

 

 苦渋に満ちてはいたが、時臣は雁夜さんの提案を拒絶した。

 

「なんだと!」

「どうしてなの!?」

 

 さすがに葵さんも我慢できずに抗議したか。

 

「明らかな証拠があるのならともかく、『状況証拠』と『間桐家を勘当された者の証言』だけでは、盟約に依った依頼を断るわけにはいかない」

 

 ふん、『嫁入りした女性全員の出産直後の不審死』だけで理由としては十分だろうに。

 時臣自身、聖杯戦争では監視役と組んでルール違反しまくる(予定の)くせに、何を言っているんだか。

 

「頭の固い奴だな!」

「あなた!」

 

 当然、雁夜は怒り、葵さんは失望の声を上げるが時臣の回答はない。

 

 

 しかし、……こんなこともあろうかと!

 そう、こんなこともあろうかと、すでに雁夜さんに秘策を伝授済みなのである。

 

「そうか、なら賭けをしないか?」

「賭け、だと?」

 

 予想外の台詞に、時臣は意外そうな声で尋ねた。

 

「ああ、そうだ。

 俺が桜ちゃんの養子入りの話を知ったのは、偶然会った予知能力者から話を聞いたからだ。

 彼から聞いていなければ、このことを知ったのは桜ちゃんが養子入りした後だっただろう。

 彼はそれだけではなく、聖杯戦争に関する情報も少しだけ教えてくれた。

 『お前が召喚する予定のサーヴァントを当てたら、桜ちゃんの養子入りを断る』というのはどうだ?」

「面白い話ではあるね。

 だがそれだけでは、間桐家への桜の養子入りを断る理由にはならない」

「分かっているさ。

 予知能力者が教えてくれたことに、優秀な魔術師、正確にはそうなるであろう存在があった。

 そして俺はその子と会って事情を聞き、桜ちゃんを助ける方法を見つけたんだ」

 

 雁夜さんの話に嘘はないぞ。

 『予知能力者』=『優秀(?)な魔術師の卵の存在』と言っていないだけだからね。

 

「ほう、一体それは何かな?」

「彼はまだ凛ちゃんと同い年だが、優れた知性と素質、そして受け継ぐ予定の魔術刻印と代々伝わる魔術書を所持している。

 彼は優秀な魔術師に弟子入りする対価として、師となる魔術師に魔術書の内容を全て公開する覚悟があるらしい」

「……正気かね?

 幼いとはいえ、君が認めるレベルの優れた知性を持っているのだろう。

 代々伝わる魔術を他者に提供するとは、一体何を考えている!?」

 

 さすがの時臣も、完全に予想外、というか魔術師にとって常識外、いやキチガイ的な提案に動揺を隠せないでいる。

 

「簡単な話だ。

 彼の家は、禅城と同じくかつて魔術師だった家系だ。

 そして、長い間その家において、魔術回路を開ける者は存在しなかった。

 しかし、その家の最後の魔術師が、『魔術書と魔術刻印を箱に封印したもの』を家宝として受け継がせ、『魔術回路を持っていて魔術刻印を継承可能な素質を持つ彼』が、その箱を開けることに成功したのさ」

「……なるほど。

 その状況では、優秀な魔術師に弟子入りを希望するのは無理もないか。

 そして、対価として提供できるものは、受け継がれた魔術そのものしかない、というわけだね」

「そういうことだ。

 言うまでもないが、独学で魔術を身に着けるのは、困難を通り越して無茶と言える。

 ……いくら、魔術書が手元にあるとしてもな。

 ならば、『先祖から受け継いだ魔術』を師となる魔術師に提供し、その魔術師に先祖の魔術を教えてもらおうと考えたらしい」

「ふむ。それが事実なら、十分私にとって利益のある話ではあるが、それが桜の養子入りの話と何の関係が……、まさか?」

「そのまさかだ。

 どうせ先祖の魔術を提供してしまうなら、そのまま師となる魔術師の分家となることを考えているらしい。

 つまり「桜の婿になりたいのか?」

「そういうことらしいな」

「馬鹿な! 私が認めるとでも思ってるのか?」

 

 さすがに時臣も、魔術を提供するぐらいでは、娘の婿に迎えることは認めないか。

 だが、その程度のことは予測済みなんだよね。

 

「彼もそう簡単に認められるとは思っていないよ。

 だからこそ、先祖の魔術の情報を提供し、お前に弟子入りして一人前の魔術師となり、魔術刻印を継承したいと考えているわけだ。

 彼が『桜ちゃんを守れるだけの力を身に着けた、あるいは将来身に着けられる。かつ、桜ちゃんの婿に相応しい』とお前が判断したのなら、桜ちゃんの婿として認めればいい。

 それには役者不足だと判断したのなら、その時点で改めて桜ちゃんの養子入りの話を探せばいいだろう。

 ……ああ、それまでの間、桜ちゃんにも彼の家の魔術を一緒に教えれば、桜ちゃんの自衛力も高められるだろう。

 元々他家の技術なんだ。

 例え桜ちゃんが他所の家に養子へ行くことになってその魔術が流出しても、他家の技術ならそう惜しくないだろう?」

 

 問われた時臣は、しばらく何も言わなかった。

 雁夜さんの言葉の真実性と、話の内容を検討したのだろう。

 主観的にはかなり長い時間が経った後、時臣はやっと答えた。

 

「……いいだろう。

 私が召喚する英霊の候補は決めているが、それを君が知ることは絶対にできない。

 それを当てることができたのなら、その子の弟子入りを認めよう。

 ……もちろん、魔術の提供などで嘘があれば話はそれまでだ。

 そして、話が全て事実であり、その子が桜を託すに相応しい人格と能力、あるいはその素質を持っていれば、……しばらくは桜を養子に出す話は保留とする。

 これでいいかね?」

「ああ、十分だ」

 

 時臣の提案に雁夜さんも承諾し、ここに契約は成立した。

 

「あなた、ありがとう」

 

 葵さんも一先ず桜ちゃんの養子の話が保留となり、かなり嬉しそうだった。

 

「さて。……それでは、私が誰を召喚するつもりだったのか言ってみるがいい」

「お前が召喚する予定のサーヴァントは、英雄王ギルガメッシュ。

 召喚に使う縁の品は、……『歴史上初めて蛇が脱皮した化石』だったか?」

 

 時臣からは回答は無かった。

 どうやら驚きのあまり言葉も出ない様子だと想像できる。

 

「その顔からすると、俺が聞いた話は当たっていたようだな」

「……認めよう。確かに私はギルガメッシュを召喚するための縁の品を探していた。

 ……賭けは君の勝ちだ。

 君が推薦した子の弟子入りを認め、彼が桜の婚約者候補となるだけの資格を持っている限り、桜を養子に出すことはしない。

 ……間桐家については、可能な限り情報を収集する。

 無論、動かぬ証拠が見つかれば、絶対に桜を間桐家へ渡さないことを約束しよう」

 

 ふう、後は僕が認められて桜の婚約者に確定すれば、桜救出ミッションはコンプリートだな。

 

 

 ちなみに、事前の相談において『桜の保護者兼婚約者に私がなる』と言った際、雁夜さんからすごい目で睨まれた。

 

「君は、ロリコンか?」

「それはひどい言い方ですね。

 確かに、前世で美少女にも魅力を感じていたのは事実だけど、今の私はこの通り幼い子供ですよ。

 肉体年齢が近い相手を探すのは当然でしょう?

 ……精神年齢から考えると、まごうことなきロリコンになってしまうのは否定できませんけどね」

 

 雁夜さんと話す時は、僕が『前世モード』と呼んでいる、大人としての話し方を使っている。

 

「まあ、精神年齢に合う女性と付き合う方が、世間一般的に問題が大きいのは事実だな」

 

 そう、僕の精神年齢は30代だが今の僕の体は幼児なので、精神年齢と釣り合う女性となるとまさに親子ほどの年齢差になるのである。

 さすがにそれはありえない。

 

「しかし、そうなると……」

「何か?」

「光源氏でも気取るつもりか?」

 

 雁夜さんの言葉は皮肉たっぷりだった。

 

「……ま、まあ、結果として光源氏計画になる可能性が高いのは否定しませんけど、決定済みなのは桜ちゃんの保護者になることだけですよ。

 婚約はしても、実際に結婚するかどうかは桜ちゃんの意志を尊重するつもりです。

 それに、どうせ時臣は桜ちゃんを魔術師の家に養子に出すつもりだったんです。

 当然、桜ちゃんの意志など無視して、養子先の家によって結婚相手を決められたでしょうね。

 私が実質的に婿養子となり、桜ちゃんの婚約者となり、同時に護衛にもなることで、桜ちゃんは家族と離ればなれになることもなく本人の希望通り魔術師になれるんだから、ほぼベストの選択と言ってもいいんじゃないですか?

 それとも、……他に対案があるんですか?」

 

 僕の反撃に対して、雁夜さんは反論できなかった。

 

「……いや、君の言う通りだ。

 婚約者が選べないことを除けば、桜ちゃんの幸せと安全がほぼ完全に保証される素晴らしい案だ。

 ……残念だが、俺ではそれ以上のアイデアは思い付けない。

 だからそのプランに賛成するし、実現に協力する。

 その代わり、……いいか、絶対に桜ちゃんを守り抜いて、幸せにしろよ!」

「ええ、全力を尽くすことを約束しましょう」

 

 もちろんだ。

 あれだけひどい環境で、あれだけ気立てのいい美少女に育ったんだから、この世界でも教育を間違えなければ心身ともに素晴らしい美少女になるだろうからね。

 ……マキリの肉体改造がないせいで、葵さんや凛と同様のスレンダーな体になる可能性があるけど、……それはしょうがないしな。

 ……なんなら、僕が豊胸体操を教えて幼い頃から実行させてもいいし。

 

 

 そんなことを思い出していると、時臣は意外な言葉を続けていた。

 

「ただし、間桐家との盟約は存在するため、養子に相応しい娘を紹介することにはなるかもしれないが」

「あなた!!」

「安心しなさい。

 私も紹介した以上は、養子となった娘の環境にはある程度責任を持つことになる。

 時々でいいから養女になった少女に面会し、間桐家の養女として相応しい待遇を与えられているかどうか確認できるように交渉するつもりだ。

 雁夜君の説明が事実なら、この条件を伝えることで、臓硯の方から私を通じて養女を探すのは諦めるだろう」

 

 それを聞いて葵さんは安心していた。

 しかし、間桐家が独自のルートで養女を探すのは自由だから、原作の桜の位置に別の少女が入るだけなんだろうなぁ。

 それを防ぐためには、臓硯を殺すか、臓硯に間桐家の後継者を諦めさせるしか手段がなく、前者は困難で後者は絶望的である。

 雁夜さんもそれに気付いているようだが、僕と同じ結論に達したのか何も言わないでいた。

 これ以降の話は魔術に関わる話だということで、葵さんには部屋から出て行った。

 

「それで、君が聞いた予知情報とはそれだけかね?」

「他の重要な情報としては、……そうだな、お前はギルガメッシュに裏切られて殺される可能性が高いらしいぞ」

「馬鹿な!

 なぜギルガメッシュが私を裏切るのだ!!」

 

 この言葉は完全な不意打ちだったのか、一瞬で時臣は冷静さを失っていた。

 

「根源に至るためには、7体のサーヴァントの魂が必要だと聞いた。

 それをギルガメッシュが知れば、いくらマスターといえども許すはずがないだろうさ」

 

 葵さんがいなくなったせいか、雁夜さんの雰囲気がかなり攻撃的になったように感じる。

 一方の時臣は、またもや想定外の情報を提供され、相当焦っているようだ。

 

「臓硯か? それともアインツベルンか?

 ギルガメッシュに正攻法で勝てないからと、そんな手で攻めてきたのか!」

「魔術師と手を組むのを良しとしない、聖堂教会関係者から漏れた可能性もあるぞ」

 さらなる雁夜さんの追撃に、時臣は頭を抱えてしまった。

 

 実際は綺礼がギルガメッシュにばらしたのだが、時臣がそのことを信じる可能性は低そうなので、『時臣が信じられるレベルの情報を伝えること』に決定済みだったのだ。

 雁夜さんは、混乱状態の時臣とこれ以上話しても意味がないと思ったのか、「また明日来る」と言って部屋を出て行った。

 

 

 正直、どこまで未来情報を時臣に伝えるか、相当迷ったのは事実だ。

 あまり教えすぎると怪しまれるし、かといって情報が少なすぎて時臣が負けて、こっちにまで被害が来たら最悪だ。

 まあ、原作通りの展開なら、『禅城家に避難する予定の僕たちへの影響』はそれほどないと思うけど。

 ここまで介入した以上、時臣に勝ってもらったほうがいいが、聖杯が完成してアンリ・マユに復活されても困る。

 よってベストの状況は、雁夜さんと時臣が生き残りつつ、原作通りセイバーによって聖杯が破壊される展開である。

 ……言うまでもないが、葵さん、凛ちゃん、桜ちゃんなどの非戦闘員も全員生き残るのが大前提だ。

 

 

 まあ、僕程度で聖杯戦争を制御できるはずもなく、とりあえずは

 

1.僕

2.桜ちゃん:僕の婚約者(の予定)

3.凛ちゃん:将来の義姉?

4.葵:将来の義母?

5.雁夜:盟友(ほぼ確定)

6.時臣:魔術の師&将来の義父?

 

という優先順位で助かるように努力しよう。

 ギルガメッシュと(綺礼とは教えていないが)教会関係者が裏切る可能性は教えたわけで、後は本人の努力に期待しよう。

 いくら事実でも、時臣が信じず逆にこっち(雁夜さん)を不審に思うような事実については、時臣が信じられるレベルまで情報の精度を落としたけど、……まあ僕は悪くないよな。

 

 さてさて、ここまでの雁夜の交渉はほぼパーフェクトで進んでいる。

 これからも望みどおりの展開に進める為、さらに雁夜さんと協力して努力しないと。

 いよいよ明日は、僕自身が時臣との交渉するときだ。

 




【備考】
2012.04.08 『にじファン』で掲載

【改訂】
2012.06.30 『優秀な魔術師に弟子入りする対価』を『魔術書の内容を全て師となる魔術師に公開する』に変更


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第03話 時臣との契約(憑依三ヶ月後)

「で、君は一体何者かね?」

 

 僕が雁夜さんの紹介で、時臣に会った時の第一声がそれだった。

 

「君が『聡明な子供』という理由だけでは、雁夜君から聞いたことを信じることは不可能だ」

 

 そこまで言うと、時臣は厳しい目つきで僕を睨みつけた。

 どうやら、魔術師が子供のふりをしているとか疑っているのか?

 これは下手な回答はバッドエンドになりそうだな。

 

「自分でも理由はわかりませんが、ある日気が付くと、学んでないこと、知らなかったことなどを理解していました。

 その時に得た知識から判断すると、何らかの方法で誰かから知識や情報を受け取ったのではないか、いわゆるテレパシーで知識などを受信でもしたのではないかと判断しました。

 しかし、家族がテレパシー能力を持っているようには見えなかったので、先祖に同じ能力を持った人がいないか調べていたところ、魔術書が入っていた箱を見つけたわけです。

 とはいえ、当然ながら僕程度の知識と学力では、その魔術書をほとんど理解できませんでした。

 雁夜さんと出会い、時臣さんを紹介していただけたのは本当に幸運でした」

 

 嘘は言っていないぞ、嘘は。

 一部隠して隠していることがあるし、言葉を選んでいるところはあるし、誤解しやすいような表現を使っているところはあるけど。

 僕を睨みながら時臣はしばらく考え込んでいた。

 

「……ふむ、どうやら嘘は言っていないようだな。

 となると、君の言う通り、無意識でテレパシーが発動して周りの人間から知識を奪って身に付けたか。

 ……あるいは君の先祖の魔術師が何らかの仕掛けを施しておいて、それが発動して知識を手に入れた可能性もあるな」

 

 ああ、用意周到なご先祖様のことだから、実際にそういうことがあった可能性も否定できないな。

 そこで、初めて時臣は睨みつけるのを止め、表情を緩めた。

 

 

「いきなり失礼なことを言ってすまなかったな。

 もしかしたら、どこかの魔術師の罠ではないかと疑っていたのだよ」

 

 そう言うと、意外にも時臣が笑顔を見せた

 ……まあ、どこまで本音かは分からないけど。

 

「それでは改めて。

 ようこそ、遠坂家へ。

 私が当主の遠坂時臣だ」

「初めまして。

 僕の名前は、八神遼平です。

 本日はお時間を取っていただき、ありがとうございます」

「ふむ、知識を得たとはいえ、年に見合わぬ聡明ぶりだな。

 しかし、……八神?

 もしかして、それは?」

「はい、私は遠坂家の隣に住んでいる八神家の子供です」

「まさか、隣に魔術師の末裔が住んでいたとは驚いたな。

 まあいい、ともかく事情を聞かせてもらえるかな?」

「はい、わかりました」

 

 こうして、何とか平和的にファーストコンタクトに成功し、僕たちは客間に入った。

 が、穏やかな会話のスタートとはいかなかった。

 

「八神君と話す前に、桜ちゃんのことを話すのが先だ。

 ……その様子だと、何か臓硯について情報を得られたのか?」

 

 客間に入り扉を閉めた瞬間、いきなり雁夜さんが発言してきた。

 

「その通りだよ。

 君が話した状況証拠の補強にしかならないが、間桐家に嫁入りした女性がほぼ全員、間桐家を継いだ子供を産んだ直後に死亡していることの確認が取れた。

 正確には、君は間桐家を継いでいないわけだし、魔術回路を持たない慎二君しかいないのに鶴野氏の妻はすでに亡くなっているが、嫁入りした女性が全員生きていないことには変わりはない」

「つまりそれは?」

「君の予想通りだろう。

 間桐家を継ぐに相応しい第一子が生まれればその時点で母を処分し、そうでない場合は相応しい子供が産まれるまで生かしておいたようだな。

 臓硯は、一体何を考えてこんなことをしているのだ!

 ……桜が同じ目に合ったかもしれなかったと、考えただけでもぞっとする」

 

 取り返しのつかないミスを犯す前にそれを防ぐことができて、時臣は本当に安堵しているように見えた。

 

「全てはお前の調査不足が原因だろう。

 これぐらいのこと、その気になればいつでも調べられたはずだ」

「……確かにその通りだ。

 それについては言い訳のしようもないな」

 

 意外にも自分の非を素直に認めると、時臣は改めて雁夜の方へ向き直った。

 

「このような結果となった以上、君の言う通りマキリの修行は、とても魔術の修行とは言えない内容に変わってしまった可能性が高そうだね。

 ……正直私は、間桐を継ぐのを拒否した君のことを嫌っていたのだよ。

 しかし、間桐家において女性は『子供を産む道具』でしかなく、役目を果たせばすぐに処分され、後継者も『修行という名の蟲による拷問』を体験させられ、その結果が『臓硯の操り人形』でしかないならば、……確かにそんな環境ならば、私であっても後継者となることを拒否し、実家とは縁を切っていただろう。

 『私ならば、実家とは縁を切った後に真っ当な魔術師に弟子入りして魔術師になっていた』と言いたいところだが、魔術についての知識がマキリの業しかなければ、……さすがに私でも魔術師を目指したかどうかは自信が持てない。

 ……本来、『臓硯を始末し、間桐家をあるべき姿に戻し、聖杯戦争を維持すること』が間桐の後継者の役目と言えるだろうが、……衰える一方の間桐の後継者に何百年も生きる臓硯を始末しろ、というのはどう考えても無理だと言わざるを得ない」

「ああ、俺の力で臓硯を殺せるのなら、とっくの昔に殺している」

「そうだな。

 君にその力はない、か。

 ……間桐家はもう完全に終わってしまったのだな」

「何を今さら。

 遠坂家が今までそのことに気付かなかったことがおかしいぐらいだ。

 ……いや、それだけ臓硯が狡猾だったのかもしれないがな」

 

 二人はその後沈黙してしまった。

 時臣は聖杯御三家の一角の実質的な崩壊を悲しみ、雁夜さんは自分の無力さを嘆いているのだろう。

 

 

「間桐家の話はここまでだ。

 八神君の話に移ろう」

 

 時臣は僕に鋭い視線を向けた。

 

「簡単な事情は雁夜君から聞いているが、改めて君から説明してもらえないかな?」

「わかりました。

 それでは僕が魔術師の末裔であった経緯を説明します」

 

 こうして僕は、次のことを時臣に説明した。

 

・家宝として伝わる『開かずの箱』を見つけたこと。

・『特殊な素質を持つ子孫だけが開けることができるから、開けることができた子が見つかるまで箱を受け継ぐこと』と言い伝えが残っていたこと。

・僕が試すとその箱が開いて、色々入っていたこと。

・箱の中にあった古文書によると、先祖が魔術師であり、先祖は管理地を追い出され、先祖の子供は魔術回路が閉じてしまった子孫のため、色々と対策を講じたらしいこと。

 なお、旧仮名遣いで書かれていて理解できない部分が多かったので、雁夜さんに手伝ってもらって読んだこと。

・箱には『魔術書』『魔術刻印ごと切断してミイラ化した腕』『先祖伝来の知識を伝授した使い魔(封印中)』が入っていたこと。

・雁夜さんに魔術師の師として時臣さんを紹介してもらうことになったこと。

 

「なるほど。

 君の先祖は子孫の為、最大限努力したのだね。

 それは素晴らしいことだ。

 管理地を奪われ、子孫が魔術回路を開けなくなったのは恥ずべきことだが、……これだけの物を残し、ついに後継者たる君の手に渡せたことは誇るべきことだ」

 

 時臣の琴線に触れたのか、彼は僕のご先祖様を本気で褒めているように見える。

 

「そして『先祖から残された魔術を身に付ける為、君は私に弟子入りを希望し、対価としてその魔術を私に提供する』という認識で正しいかね?」

「ええ、その通りです。

 ただ、後でトラブルが発生しないように契約書を作成してもらえますか?

 雁夜さん、すいませんが手伝ってください」

「ああ、任せてくれ」

 

 自分でもチェックできるとは思うがあまりにも異常なところを見せるのを避ける為、事前の相談通り契約内容のほとんどを雁夜さんに決めてもらった。

 

 

<遠坂時臣と八神遼平の契約>

・八神遼平が遠坂時臣に弟子入りし魔術を習う。

 内容は、八神遼平に対して、魔術回路の作成、魔術の教育(八神家の全ての魔術を含む)、魔術刻印の移植の実施。

・遠坂時臣は、八神遼平の後見人となる。

・八神遼平は、遠坂時臣への対価として、八神家の魔術書に記載されている全ての魔術技術を提供する。

・八神家の魔術技術は、遠坂家の外部へ公開することを禁止する。

・遠坂時臣は、八神遼平と一緒に遠坂桜に対しても、魔術の教育を行う。

・遠坂時臣は、八神遼平を遠坂桜の婚約者候補として扱い、遠坂時臣によって取り消されるまでその権利を保持するものとする。

 

 

 この契約書を作成し、時臣と雁夜さんが確認して問題がないことを確認し、僕は雁夜さんに分かりやすく説明してもらった後、その場で契約を締結した。

 

 最初は、時臣に提供するものを『八神家の全魔術』としようかとも思ったが、よく考えるとそんなことを書いてしまうと、今後僕や僕の子孫が編み出した新しい魔術も全部遠坂家に提供しなければならなくなる。

 さすがにそれはまずいので、『八神家の魔術書に記載されている全ての魔術技術を提供』とした。

 これなら、今後新しい八神家の魔術を編み出したとしても、遠坂家へ提供する義務はなくなる、はずだ。

 

 

「では、まずは君が見つけた家宝の箱を見せてもらえるかな?」

「分かりました。

 これが、僕が開けることができた家宝の箱です。

 ……僕は何もしていませんが、ご先祖様が何か仕掛けている可能性もあるので、気を付けてください」

「まあ、当然だろうね。

 大丈夫、油断をするつもりはないよ」

 

 そう言うと、時臣は油断せずに慎重に箱に触れ、魔術書を取り出すとすぐに読み始めた。

 

「……ふむ、確かに優れた魔術が記されているようだな。

 じっくりと読みたいので、自室で調べさせてもらうよ」

 

 こうして、八神家の魔術書に書かれた魔術技術の権利を手に入れた時臣は、八神家の家宝の箱を抱えて自室に籠った。

 調査に時間が掛かりそうだったので、雁夜さんは葵さんたちと話し始め、僕は凛ちゃんと桜ちゃんと遊んですごした。

 

 

 夕方になって、やっと時臣が自室から出てきた。

 その表情は喜びを隠しきれずにいて、かなりの成果があったことが容易に想像できた。

 僕と雁夜さんと時臣の三人で客間に入ると、すぐに時臣は僕に話しかけてきた。

 

「八神家の魔術は素晴らしかった。

 まさか、これほどまでの魔術が人知れず眠っていたとは!」

「一体どんな魔術だったのですか?」

「英霊召喚だよ」

 

 はっ、英霊召喚?

 それって一体?

 あまりに予想外の言葉に、僕は思考停止してしまった。

 

「正確には降霊術だな。

 君の先祖は、『降霊術を使って英霊の力の一端を借り受ける魔術』を使っていたようだ。

 そしていずれは、『完全な英霊の分身を召喚して根源に達する儀式を行わせること』で、根源の渦に至ろうと考えていたらしい」

 

 おいおい、それってようは『聖杯戦争もどきを八神一族だけでやろうとしていた』ってことか?

 いや、確かメディアは『魔法使いと同格かそれを上回る』レベルだったはず。

 つまり、『メディアの召喚と現界維持に成功し、メディアの協力を得ることができれば、根源に至るのは十分に可能』だということか。

 ……まあ、時間とかお金とかはかなり必要となるだろうし、メディアが協力してくれるかがかなり怪しいし、それ以前に聖杯戦争以外で英霊の完全な分身を召喚&維持するなんて無理難題なんだけど。

 

 とはいえ、ちょっと考えただけでも、英霊を召喚する聖杯戦争で有効活用できそうな魔術なのは間違いない。

 冬木の地が一族に適していたのは事実だろうけど、子孫が魔術師として覚醒したら、聖杯戦争に参戦させてサーヴァント召喚のノウハウを奪わせるのもご先祖様の目的だっただろうか?

 それとも、聖杯戦争に参加させ、八神家の降霊術を組み合わせて強力なサーヴァント(キャスター)を召喚して、聖杯戦争そっちのけで根源に至る儀式を行わせるつもりだったとか?

 ……この予想があっていれば、本当にどこまでも用意周到なご先祖様だったんだな。

 

「遠坂家も降霊術を修めているが、明らかに君の家の降霊術の方が優れている。

 その代わりと言っては何だが、君の家は『降霊術』に特化しているらしいな。

 降霊術以外の魔術は、全て降霊術のサポートのために使っていたようだ」

 

 おやおや、八神家は一点特化型だったわけか。

 それじゃあ、戦闘力が乏しいとか、応用が効かないとかで、管理地を奪われることになったのも納得できるな。

 英霊の力の一端を借り受ける魔術だけでは、物量戦を仕掛けられたら勝つのは難しいよなぁ。

 英霊そのものなら一騎当千とか宝具とかで物量戦相手でも蹂躙できるだろうけど、『人間の体に宿らせた英霊の一部の力』程度ではどう考えても物量戦に対抗するのは限界がある。

 

 同じ一点特化型でも錬金術専門のアインツベルンの場合、戦闘タイプのホムンクルス投入によって物量戦にも対抗できるし、しかもホムンクルスによる特攻もありだから戦力と言う意味では比較にならないな。

 

 

「君のご先祖は、かなりのレベルで英霊の力を使うことができていたらしい。

 ……ところで、君は冬木の地における聖杯戦争について知っているかね?」

「はい、聖杯を手に入れる為、サーヴァントを召喚した7人のマスターが争う儀式だと聞いています」

「そうだ。サーヴァントとして英霊を召喚する技術は遠坂家が担当したのだが、遠坂家の専門は宝石魔術でね。

 

 聖杯の力を借りない場合、遠坂家の降霊術だけでは、英霊を召喚することも、英霊の力を借りることもできない。

 しかし、八神家の降霊術を習得すれば、サーヴァント召喚後に召喚したサーヴァントの力の一部を流用して、私がその力を使えるようにすることも可能になるだろう」

 おおおおお、それが事実ならとんでもなくすごいことだぞ!!

 

 ……そういえば、原作で凛が「肉体面でもサーヴァントと共融して擬似的な『不死』を得たマスターがいた」とか言っていたな。

 それが事実なら、『共融』ではなく、『降霊術』を使うことで似たようなことができても、……おかしくないか。

 ただ、時臣がサーヴァントとしてギルガメッシュを呼ぶつもりなら、全く意味がないだろうな。

 なにせ、視界の共有すら拒絶したんだ。

 自分の力を貸し与えるなんてことするはずがないな。

 ……それ以前に、ギルガメッシュに戦闘用の技能はないから意味ないか。

 「黄金律」スキルなら、個人的にはぜひ借りたいところだけど。

 スキルではなく、パラメータ(身体能力)の一部を借りるのは、……どう考えても無理だな。

 それはつまり、自分の体に桁違いに強力な強化魔術を行使するようなもので、制御に失敗して体が爆散するのが目に見えている。

 

「聖杯戦争で有利に戦うことよりも、サーヴァントに裏切られない方法を考えなくていいのか?

 根源に至るためには7体のサーヴァントの魂が必要である以上、お前は自分が召喚したサーヴァントを絶対に殺さなくてはいけない。

 そのことをサーヴァントが知れば、どんなサーヴァントであってもお前を裏切るだろうよ。

 いや、お前の方が最初から裏切るつもりだったんだから、お前の本心を知ってサーヴァントが報復する、と言った方がいいか?

 ……一体、どうするつもりなんだ?」

 

 雁夜さんに現時点の最大の問題点を指摘された時臣は、昨日と同じく頭を抱えてしまった。

 雁夜さんはそれをいい気味だと笑って見ている。

 

「……正直まだ何も思いつかない。

 君の言うとおりだ。

 サーヴァントは、自らの望みを叶える為に聖杯の招きに答える。

 それが、散々戦わせておいて聖杯を手に入れる直前で殺されると知れば、どんな英霊であろうと私を殺してもおかしくない。

 ……いや、殺すのが当然だろう」

 

 まあ、それが普通だよな。

 ……あ~、満足できる戦いを求めて召喚に応じたクー・フーリンなら、最初に事情を説明して、思う存分満足できる戦いを満喫できれば、敵をすべて倒した後なら自害してくれるかもしれないけど。

 ……まあそれだって可能性は0じゃない、というレベルだしなぁ。

 

「いい解決策があるぞ?」

 

 時臣が悩んでいる姿を思う存分堪能して溜飲を下げた雁夜さんは、僕がアドバイスしたアイデアを時臣に教えることにしたようだ。

 

「何かね、それは?」

「簡単なことだ。

 まず確認だが、遠坂家の目的である根源に至るためには、7体のサーヴァントの魂が必要。

 これは事実であり、このことを間桐家、アインツベルン、そして聖堂教会に知られているんだな?」

「その通りだ。

 君の言う予知情報が事実なら、その3勢力の誰かがギルガメッシュに教えたのだろう」

「なら、対策は二つある。

 一つ目は、次の聖杯戦争でサーヴァントを8体召喚させればいい。

 そうすれば、ギルガメッシュを自害させなくても、7体のサーヴァントの魂が揃うだろ?」

「……8体だと?

 いや、確かにその手があったか!

 第三次聖杯戦争でエーデルフェルト家は姉妹で参加し、サーヴァントを善悪両方の側面から二体召喚していたとの記録があった。

 これを今回も再現できれば、あるいは8人目のサーヴァントを召喚させることができれば、……確かに全く問題ない!」

 

 確実性の高い解決策に気付き、喜びに打ち震える時臣を冷ややかに見ながら、雁夜さんは説明を続けた。

 

「二つ目は、協力者に強力なサーヴァントを召喚させ、ギルガメッシュが裏切る気配を見せたらすぐに自害させ、その後は協力者のサーヴァントが勝者となるように戦えばいい。

 協力者とサーヴァントの許可があれば、サーヴァントのマスター権限を譲ってもらうのもありだな」

 

 そう雁夜さんが言った瞬間、ぎくりとして時臣は雁夜さんを見た。

 

「君は、……知っているのか?」

「ああ、協力者の代行者についてなら予知能力者に聞いたぞ。

 だが、彼にはアサシンを召喚させるつもりなんだろう?

 ギルガメッシュのスペアとして、聖杯戦争に勝てるサーヴァント召喚するのは俺さ」

「君が、かい?」

「そうだ。

 これも予知能力者に聞いたことだが、彼が見た未来において僕も聖杯戦争に参加したらしい。

 聖杯を手に入れたら、間桐家から桜ちゃんを解放することを条件に臓硯に協力して、な。

 ただし1年しか修業期間が無かったから、臓硯の元で相当無茶な修行をしたが、……今からなら普通の修行でも何とかなるはずだ。

 お前は俺を新しい弟子として鍛え、俺はサーヴァントを召喚してお前のフォローをする。

 ……どうだ?

 いい取引だと思わないか?」

「君は、……聖杯で叶えたい願いはないのか?」

「俺の望みは、凛ちゃんや桜ちゃん、そして葵さんの幸せだ。

 そのためなら、お前に協力してやるし、聖杯もお前に渡してやろう」

 

 時臣は少し黙り込むと、別の質問をしてきた。

 

「サーヴァントはどうするつもりだ?

 サーヴァントも聖杯を求めて召喚に応じるのだぞ。

 ……いや、それ以前に、わずか1年しか鍛錬していない魔術師もどきが、未来において一体どんなサーヴァントを召喚したというのだ?」

「クラスはバーサーカー、真名は湖の騎士ランスロット」

 

 雁夜さんは極めて冷静に答えたが、時臣は予想外の大物登場に驚愕した。

 

「なんだと!?」

「そんな大物をバーサーカーとして呼ぶなんて無茶をした結果、魔力供給だけで常に限界ぎりぎりだったらしいが、その分強さは折り紙つき。

 幸運もあったが、聖杯戦争の終盤まで生き残ったらしい。

 詳しいことは教えてくれなかったがね。

 ……とはいえ、結局聖杯を手に入れることもできずに死んで、臓硯の元から桜ちゃんを助けることはできなかったのは確からしい。

 だが、俺がランスロットをバーサーカーとして召喚すれば、サーヴァントの裏切りは考えなくていい。

 何せ理性を失っているんだ。

 暴走する可能性は高いが、俺を裏切る可能性はないと言っていいだろう?

 バーサーカーを維持する魔力量が唯一にして最大の問題だが、……こればかりは3年間の修行で努力するしかないな」

 

 しばらく沈黙が続いた。

 時臣は雁夜さんの言葉の内容を吟味しているのだろう。

 

「君の言うことを全て信じることはできないが、……君がマスターとなり私に協力してくれれば、聖杯戦争がさらに有利になるのは間違いない。

 ……問題は、君を信じきれないことだが「別に今すぐ聖杯戦争が始まるわけじゃない」

 

 時臣はさすがに迷っていたが、雁夜さんは言葉を遮って説得に入った。

 

「予知が正しければ、聖杯戦争は大体三年後だったはずだ。

 それまで僕をお前が魔術師として鍛え、信頼できると確信できたら協力させ、信頼できないと判断したら僕から令呪を奪って他の信頼できる奴に渡せばいいだろう?

 ……まあ、俺が本当に令呪を手に入れられるかどうかは、わからないけどな」

「……それが妥当なところか。

 君のおかげで桜が、そして私たちが助かったのは紛れもない事実だ。

 その対価として、君の弟子入りを認め、魔術師として鍛えることを約束しよう。

 そして、聖杯戦争で協力してもらうかどうかは、君の言うとおり時間を掛けて見極めさせてもらうぞ」

「その件ですが、僕は雁夜さんにはお世話になっているので、雁夜さんだけでしたら八神家の魔術を伝授しても構いませんよ。

 もちろん、締結した契約を修正して、八神家の魔術提供者に雁夜さんのみ追加とします」

「それは助かるな」

 

 それを聞いた時臣は一瞬驚愕の表情を浮かべた後、すぐにその表情を隠した。

 

「いくら恩人だといっても、自家の秘伝の魔術を教えることは絶対にやってはいけないことなのだが……。

 ……とはいえ、協力者の手札が増えた方が有利なのは事実だ。

 よかろう。八神家の魔術を、雁夜君にも教えるとしよう」

 

 こうして僕と雁夜さんは時臣師に弟子入りし、魔術の基礎と八神家の魔術を習うことになった。

 当然、僕と雁夜さんは完璧な初心者であり、同じく初心者である桜も一緒に教わることになった。

 

 

 なお、雁夜さんからの提案ということで、聖杯戦争参加者はもちろん、聖堂教会からも『僕たちが時臣師の弟子であること』を隠すことになった。

 これは、弟子であることすら隠すことで、聖杯戦争の際に時臣師の協力者であることをより完全に隠蔽する工作である。

 当然これは、ラスボスの一人である綺礼から僕たちの存在を隠すためである。

 

 その為、僕たちと時臣師は直接顔を会わせることをできるだけ避け、魔術の指導は可能な限り使い魔経由でしてもらうことになった。

 修行場所は雁夜さんが冬木市に借りた一軒家で行い、そこに僕と桜ちゃんが遊びに行き、実は三人が時臣師の遠距離授業を受けるという形式である。

 

 ちなみに、雁夜さんの家賃や生活費は、桜ちゃん救出の報酬の一部として時臣師から莫大な額の謝礼金をもらっており、それを充てることになった。

 雁夜さんは仕事を辞め、近所との関係を最小限にして、偽名で暮らして存在を隠し、聖杯戦争開始までのほぼ全ての時間を修行に費やすことを決めていた。

 ……僕が焚き付けておいてなんだが、ものすごいやる気である。

 直接時臣師を殺すつもりはなさそうだが、『予知情報通り時臣師が戦死したら、葵さんたちを守りつつ何としてでも聖杯戦争を生き残り、その後葵さんをゲットして幸せな家庭を作ろう』とか考えているのかな?

 まあ、時臣師に対して不利益な行動を取るつもりがないなら問題ないし、どんなベクトルであれやる気があるのはいいことだ。

 僕も置いて行かれないように、魔術の修行をがんばらないといけないな。

 

 こうして、僕と桜ちゃんと雁夜さんの魔術初心者トリオによる魔術の修行はスタートすることになった。

 そして、当然というべきか、僕の魔術に対する認識の甘さを、嫌と言うほど思い知らされることになったのである。

 




【備考】
2012.04.23 『にじファン』で掲載

【改訂】
2012.06.30 『遠坂時臣への対価として、八神家の魔術書に記載されている魔術技術を提供する』と訂正


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第04話 魔術回路の作成(憑依三ヶ月後)

 今日はまず、弟子となる僕たちの健康診断を行うことになった。

 

 魔術師になる以上、魔術回路を開かなくては話にならないが、まずはその魔術回路の調査を行ったのだ。

 さすがに使い魔経由でできるわけもなく、密かに冬木市外にある遠坂家の別宅に集合して、時臣師が僕と雁夜さんの魔術回路の調査を実施した。

 桜はすでに遠坂邸でチェックされ、凛ちゃんと同じ数の魔術回路が存在することが確認されている。

 原作と同じく、桜ちゃんのスペックが凛ちゃんと同等なのは間違いないらしい。

 ……多分、禅城家の「配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す」という特異体質が完璧に効果を発揮し、その結果凛ちゃんと桜ちゃんは同等の能力(魔術回路)を持って産まれたのだろう。

 つまり、『全ての潜在能力を引き出した時臣師の能力=遠坂凛&桜の能力』なんだろうな。

 

 なお、調査の結果、僕の魔術回路は30本あった。そして、雁夜さんは10本だった。

 原作情報と比較すると、僕の魔術回路は平均(20本)を、そして士郎の数(27本)をも上回っている。

 しかし、雁夜さんは平均的な魔術師の半分。

 これなら、臓硯が逃げた雁夜さんを捜索しないのも当然か。

 ……雁夜さんには閉じた魔術回路は結構あるらしいけど、時臣師では開けそうにないし、開くあてもないらしい。

 慎二の場合も、『イリヤの心臓を埋め込まれて聖杯になって初めて魔術回路を開けた』わけで、しかもどれほど体がぼろぼろだったかも不明だから、雁夜さんの魔術回路がこれ以上増える可能性は低いだろうなぁ。

 

<原作設定の魔術回路数>

 遠坂凛    :メイン40、サブがそれぞれ30

 遠坂桜    :メイン40、サブがそれぞれ30

 衛宮士郎   :メイン27

 蒼崎橙子   :メイン19

 平均的な魔術師:メイン約20

 間桐慎二   :閉じた魔術回路のみ(イリヤの心臓を埋め込むことで、無理やり魔術回路を開いた)

 

 

 時臣師曰く、雁夜さんは『死ぬ気で3年修行して、ぎりぎり令呪を得られるかどうか』というレベルらしい。

 『運よく令呪を得られてサーヴァントを召喚できたとしても、サーヴァントの弱体化は避けられない。ましてや、魔力消費量が多いバーサーカーの場合、現界を維持するだけで精一杯だろう』とまで言われていた。

 ……もしかしなくても、雁夜さんはウェイバー以下の素質なのだろうか?

 まがいなりにも雁夜さんに令呪を得させ、バーサーカーへの魔力供給を可能とした刻印虫は大したものだったんだな。

 雁夜さんと同じく『魔術を一切使ったことがない人』と言えば綺礼も該当するが、彼は『魔術を使ったことはないのに聖杯戦争の3年前に令呪を手に入れた』という、例外的な存在だからなぁ。

 

 僕について特にコメントはなかったが、僕を聖杯戦争に参加させるつもりがないから、コメントする必要性を感じなかったのだろう。

 士郎クラスの魔術回路があるから、僕も3年間修業をがんばれば……大丈夫か?

 

 しかし、幼い頃から修行して、素質も桁違いの凛は第四次聖杯戦争時に令呪を得られなかったわけだが、……『御三家は令呪を得られるのは一人ずつ』とか大聖杯が判断したのだろうか?

 それが事実なら、勘当されていたとはいえまぎれもなく間桐の血を引く雁夜さんなら、原作でもさっさと令呪を得てもいいと思うのだが……。

 

 ほんと、令呪を獲得できる基準ってよく分からないよな。

 

 

 

 それはともかく、僕たちに魔術回路があることも確認が取れ、魔術回路を開くのに問題がないことが確認できたので、さっそく魔術回路を開く儀式を行うことになった。

 なお、今日は土曜日であり、両親には『最近仲良くなった凛ちゃんたちと遊ぶため、遠坂家に泊りがけで遊びに行っていること』を伝えてあるので、どれほど時間が掛かっても問題はない。

 

 で、時臣師によって僕たちは魔術回路を開いたわけだが、……まじで命の危機を覚えた。本当に、絶対に二度とやりたくない。

 魔術回路を開く際の拷問クラスの苦痛(予想)も半端ないが、魔術回路の作成に失敗したら良くて半身不随、下手しなくても死ぬという恐怖が、直感と本能の両方からひしひしと感じられた。

 ……これを毎日8年間続けた衛宮士郎が(精神面で)壊れているのが、よ~く理解できたわ。

 最初にやった雁夜さんも、そして次に行った僕も、魔術回路の作成が終わった時点で耐え切れずに気絶した。

 

 遠坂家当主だけあって、可能なかぎり安全かつ丁寧に、魔術回路を開く行為のフォローをしてくれたらしい。

 気絶から目が覚めると、当然というべきか、時臣師の姿は見えず、隣にはさっきと同じ姿で雁夜さんが気絶していた。

 目が覚めた後、自分の体を確認してみると、体に特に異常はなく、魔術回路が動きだして魔力を生み出しているのが分かる。

 ……今は魔術回路を使ってはいないから特に苦痛はないが、魔術を使おうとすると相当な苦痛があるんだろうなぁ。

 

 試してみると、魔術回路のオンオフは簡単にできた。

 なお、魔術回路を開くときに、『HxHの念能力覚醒』をイメージしたせいもあり、魔術回路ONは『錬』、OFFは『絶』のイメージであっさりとできた。

 

 魔術回路を作る前は、衛宮士郎のように毎日魔術回路を作る修行をするのもいいかと思ったんだが、……あれは無理だ。

 僕にとって、魔術回路を作るのは、『毎回弾を込めなおすロシアンルーレット』をやっているような印象であり、もう二度とやりたいくない。

 ……本当のロシアンルーレットと違って、技術と精神力で死亡確率を下げられるが、僕では無理だな。

 

 公式設定では、『士郎の8年にも渡る魔術回路を作り続ける修行の成果』についてはっきりとは言われていないが、二次創作ではあの修行のおかげで『宝具を投影しても耐えられるだけの強靭な魔術回路を作った』とか、『初代なのに多くの魔術回路を作り出した』とか、『魔術回路が鍛えられて魔力(生成)量が多くなっている』とか言われている。

 実際にそんな効果があるかどうかは、誰かが試して体の変化を詳細に記録しない限りわからないだろうなぁ。

 

 ……んっ?

 衛宮士郎のように、『死を厭わないほど強靭な精神力を持っているが、あまり才能が無い人』って、……もしかして、雁夜さんが当てはまるかも?

 本人も魔術回路が少なくて、『まともな方法では令呪を得る可能性が低そうなことを嘆いていた』から、一応教えてみるか。

 

 

 雁夜さんが目を覚ました直後に、時臣師が部屋に入ってきた。

 今日は魔術回路に慣れることだけでよく、魔術の勉強は明日かららしい。

 

 それを告げると時臣師は部屋から出て行ったので、僕は雁夜さんを連れて家から出て、散歩に行った。

 

「雁夜さん、死ぬ危険もありますが、うまくいけば強くなれるかもしれない修行方法がありますけど、知りたいですか?」

「ぜひ教えてくれ!

 時臣師の修行では、死ぬ気で修行しても令呪を得られるかどうか分からない。

 ……他に手段がない以上、多少の危険なら構わない」

「ええと、予知夢で見た一人の少年がやっていたことなんですが、自然に魔術回路のスイッチができず、スイッチの存在すら教えられなかった少年が、『8年間毎日魔術回路を作る』という死と隣り合わせの修行を行ったんです」

「……ちょっと待ってくれ?

 魔術回路を作る修行って、……さっきやったことを繰り返すのか!?」

「ええ、そうです。

 僕も二度としたくないと思い知ったあの行為です」

「君が『死と隣り合わせの修行』というだけはあるな。

 ……だが、わざわざ説明するからには、何らかのメリットがあるんだろ?」

「ええ、予知夢で見た未来において、その修行の効果かどうかは判明していなかったんですが、

 

1.外部から膨大な量の魔力(宝具を構築する魔力)を注ぎ込まれても耐えきった強靭な魔術回路

2.初代なのに、魔術回路が27本という破格の量

3.魔術回路が鍛えられて魔力量が多くなっていた(らしい)

 

という特性を、その魔術師は持っていました」

「……どこまでが修行の成果かはわからないが、それが本当なら試してみる価値はあるか。

 聖杯戦争まであと3年。

 その少年の8年には及ばないが、少しでも効果が出て令呪を得られれば十分だ」

「いいんですか?

 強くなれる保証もありませんし、死ぬ危険性は桁違いですよ?」

 

 僕の脅しと言っていい言葉に対して、雁夜さんは即座に頷いた。

 

「構わない。

 元々君が俺と接触してくれなかったら、俺は桜ちゃんを助ける為とはいえ、臓硯によって蟲を埋め込まれて、蟲に肉体を食われ、寿命を削られるという地獄のような修行、……いや拷問を受け入れる必要があった。

 それに比べれば比較にならないほど精神的に楽だし、例え死の危険性が高くても自分の努力で自分の能力を向上できるなら、……それは俺の望むところだ」

 

 雁夜さんは、静かだが決意を込めた声で宣言した。

 多少邪な想いがあろうとも、雁夜さんの『葵さんたちへの想い』と『彼女たちを守るという決心の強さ』は本当に半端ないんだなぁ。

 これだけの覚悟と精神力なら、もしかしたらうまくいくかもしれない。

 

 

 別宅に戻った後、雁夜さんは例によって予知能力者にから教わった情報として、僕が教えた『衛宮士郎の修行方法』を時臣師に伝えた。

 

「私もそのような修行方法は初めて聞いたが、……あまりに危険すぎないかね?」

「元々俺は桜ちゃんたちを助ける為、聖杯戦争に参加する運命だったんだ。

 しかし、その結果は何もできずに死んだだけだった。

 だが、この世界ではすでに桜ちゃんたちは救われている。

 後は聖杯戦争に参加し、勝ち残るだけだ。

 ……だが、時臣師が言った通り、今の俺の素質では3年修行しても令呪を得られる可能性が低い。

 ならば、ハイリスクハイリターンの方法を取るしかない」

「君がそこまでの覚悟を持って、私をフォローするつもりなのは正直嬉しいが、……命の保証がないのは分かっているのかね?」

「構わない。

 ぎりぎりで令呪を得たとしても、バーサーカーをまともに制御できず、それ以前に維持することさえ困難で、聖杯戦争を生き残る可能性も低いだろう。

 だったら、修行中に死のうと大差はない。

 ……だが、この修行で生き残り、大幅に能力向上が可能になれば、少しは生き残れる可能性が高くなる」

「その修行が、本当にリスクに見合うだけの効果を齎すならば、だがね。

 まあ、私が知らないだけで、『秘伝とされる特殊な修行法』である可能性を否定できないのは確か、か」

 

 時臣師は少し考え込むと、雁夜さんの方を向いた。

 

「いくら効果があるとしても、君がすぐに死んでしまうようでは意味がない。

 その危険極まる修行をするだけの資格があるか試させてもらおう」

「いいさ、一体何をすればいいんだ?」

「簡単なことだ。

 今ここで、自分の力だけで再び魔術回路を作ってみせたまえ。

 失敗して死にかけたら可能な範囲で私がフォローするが、その場合この修行方法の実施は認められない」

「まあ、そうだろうな。

 ……いいだろう。

 俺の覚悟をそこで見ていろ」

 

 雁夜さんはそう言うと、目を閉じて精神集中を始めた。

 そして、数分経過した時点で、魔術回路の再作成を開始した。

 横で見ている僕でさえ、凄まじい緊張感と気迫が伝わってくる光景で、雁夜さんはすぐに凄い汗を流し始めた。

 そのまま作業を続けること一時間。

 何度か集中が乱れかけた気配を感じたが、毎回すぐに立て直し、ついに魔術回路の作成に成功した。

 とはいえ、一日に二回も魔術回路を作ったので限界を越えたらしく、そのまま気絶してしまった。

 

 そんな雁夜さんを、時臣師は冷静に観察し、次に雁夜さんの体に手を当てて魔術を使って何か調べていた。

 

「ふむ、酷く疲労してはいるが特に異常はない。

 ……いや?

 魔術回路を再構築したことで、魔術回路に何らかの影響が?」

 

 独り言を言いながら、かなりの時間、時臣師は雁夜さんの体と魔術回路を調査していた。

 

 調査が終わると、時臣師は僕の方へ振り返った。

 

「雁夜くんは、この過酷な修行を続ける資格があることを示した。

 君も挑戦するつもりかね?」

 

 ……この修行は魔術回路の再構成。

 だから魔術回路のスイッチができていようと、この修行はできる、はずだ。

 しかし、僕にはそこまでやる覚悟も度胸もない。

 状況に応じては、ハイリスクハイリターンのことをすることもやぶさかではないが、毎日するほど酔狂でも無謀でもない

 だが、幸いにも僕にはそれなりの素質があるようなので、あせらずじっくり鍛えるべきだろう。

 ハイリスクな修行をするのは、才能の限界を感じたときとか、急いで強くなる必要があるときだけでいい。

 

「いえ、止めておきます。

 僕では雁夜さんほどの集中力も覚悟もありません。

 時臣師に指示された修行を一つずつ確実にこなしていきます」

「それがいいだろうね。

 こう言っては何だが、君は雁夜君よりも優れた素質を持っているし、先祖が残した魔術刻印もある。

 ……彼のように焦る必要はないだろう」

「はい、そうします」

 

 雁夜さんは魔術回路が少ないだけでなく、継げる魔術刻印もない。

 そういう意味では、僕は相当なアドバンテージを持っている。

 もっとも、雁夜さんもそのことを理解していて、それを努力と根性でカバーしようとがんばっているんだけどね。

 

「そうそう、君の属性は架空元素だったよ」

 

 へっ、まじですか?

 桜ちゃんと同じなのはお揃いで嬉しいけど、まさか架空元素とは!

 HxHでいえば『特質系』ぐらい貴重で強力な属性だっけ?

 

「君から渡された書類によると、どうも八神家の家系は架空元素持ちが多かったらしいね。

 それゆえに、架空元素の魔術と降霊術を組み合わせた八神家独自の魔術を多く構築していたようだ。

 これで、君と桜は八神家秘伝の魔術を身に着けることができそうだな」

 

 それは嬉しいな。

 八神家のメインとなる魔術を身に付けられそうで何よりだ。

 それにしても、よくそんな家系が生き延びていたな。

 架空元素属性って貴重らしいから、実験体にしたがる魔術師なんてうじゃうじゃいただろう。

 ……まあ、当然そのことにご先祖様も気づいていて、徹底的に情報操作したからこうして子孫が生き延びているんだろうけど。

 

 僕の属性が架空元素ということは、桜がやっていたように、影を具現化するとかできそうだ。

 いわば、影使いということか。

 ……僕が好きなのは『風使い』や『風術師』だったけど、『影使い』もなかなか面白そうだ。

 オタク知識を活かして、アニメや漫画などの影使いの技の再現を目指してみよう。

 

 それに、八神家の魔術は『架空元素の魔術と降霊術を組み合わせたもの』らしいから、もしかすると具現化した影に英霊の力の一部を宿らせて使うとかできたのかもしれない。

 いや~、夢が広がるなぁ。

 

 

 ん……、となると?

 

「雁夜君の属性は水だ。

 間桐家は水属性の魔術を多用し、水属性を持つものが多く生まれるから当然といえば当然なのだが。

 ……君も思い至ったようだが、残念ながら八神家の魔術で雁夜君が使えるものは少ないだろうな」

 

 ありゃりゃ、これは予想外。

 ないよりはましだが、……雁夜さんは本気で『衛宮士郎式自殺行為的修行』でパワーアップするしか道はないのか。

 ……刻印虫のデメリットだけを取り除いたような便利な使い魔とか魔術具とかないかなぁ?

 ……あったら、苦労しないか。

 

 結局気力と体力を使い果たしたらしい雁夜さんは、その日は目を覚ますことはなかった。

 

 

 こうして、僕と雁夜さんは無事に魔術回路を開く(作成する)ことができた。

 そして、僕は『地道な修行』で、雁夜さんは『地道な修行+魔術回路の作成(毎日)』で強くなることを決めた。

 

 

 聖杯戦争まであと3年。

 雁夜さんは予定通り令呪を得られるのだろうか?

 そして、僕は無事にマスターになり、アンリ・マユ復活阻止に協力してくれるサーヴァントを召喚することができるのだろうか?

 

 ……気のせいだといいんだけど、なんか嫌な予感がするんだよなぁ。

 




【にじファンでの後書き】
 PV7万達成しました。
 どうもありがとうございます。

【備考】
2012.05.03 『にじファン』で掲載

【改訂】
2012.05.15 最後の『主人公の願望』の内容を修正


【設定】

<パラメータ>
 名前 :八神遼平
 性別 :男
 種族 :人間
 年齢 :4歳(前世の記憶あり)
 職業 :幼稚園生
 立場 :遠坂時臣の弟子
     遠坂桜の婚約者(候補)
 属性 :架空元素・無
 回路 :メイン30本
 使い魔:封印中
 所持 :八神家の魔術書
     八神家の特製保管箱(封印中の使い魔入り)
 方針 :命を大事に
     アンリ・マユの復活阻止
     前世の記憶は絶対秘密
 備考 :トリッパー(Fate知識あり)
     八神家の魔術刻印を継承予定
     八神家の魔術は降霊術特化


<パラメータ>
 名前 :間桐雁夜
 性別 :男
 種族 :人間
 年齢 :24歳
 職業 :社会人
 立場 :遠坂時臣の弟子、八神遼平の同盟者
 属性 :水
 回路 :メイン10本
 方針 :遠坂家の女性3人(ついでに遠坂時臣)を守る
 備考 :間桐家から勘当中
     八神遼平から予知情報(実際には原作知識)の一部を教わる
     遠坂時臣の弟子であることは、遠坂家と八神遼平以外には秘密。


<パラメータ>
 名前 :遠坂時臣
 性別 :男
 種族 :人間
 年齢 :27歳
 職業 :魔術師
 立場 :遠坂家当主
 属性 :炎
 回路 :?
 能力 :魔術(宝石、錬金、召喚、降霊、卜占、治癒など)
     遠坂家の魔術刻印
     令呪(三画)
 使い魔:八神遼平と間桐雁夜の教育用使い魔を使役中


<パラメータ>
 名前 :遠坂葵
 性別 :女
 種族 :人間
 年齢 :27歳
 職業 :主婦
 立場 :遠坂時臣の妻、凛と桜の母親
 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す


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第05話 使い魔の解放(憑依四ヶ月後)

 魔術回路を開いてから一ヶ月が経過した。

 

 魔力操作に関する基礎の基礎を教わり、日々魔力を貯め、魔力を己の制御下に置く訓練を続けている。

 僕たちと同じく魔術回路を開いた桜ちゃんも一緒に修行を開始している。

 もちろん、『時臣師が桜ちゃんと直接話をした結果、桜ちゃん自身が魔術師になりたいと希望した』ためである。

 ……やっぱりこの世界の桜ちゃんも、父と姉に憧れて魔術師になることを望んでいたようである。

 ならば、僕の介入も余計なお世話にならずにすんだかな?

 

 

 それから、雁夜さんは例の『魔術回路の再構築』という無謀な修行を続けているが、さすがに失敗する可能性をできるだけ下げたいらしく、原作の衛宮士郎とは違って毎日ではなく、『気力と体力と集中力が万全のときのみ』実施している。

 その結果、基本的に二日に一回のペースで、この無謀な修行を行っている。

 実感できる効果はまだないらしいが、この修行を行ったことで、あらゆることにおいて集中力が飛躍的に向上したらしい。

 ……まあ、文字通り命を賭けた修行だから、生き延びるために集中力が増すのは当然だろうな。

 時臣さんも、使い魔経由とはいえ雁夜さんの魔術回路や体のチェックを頻繁に行っている。

 チェックの結果、特に異常は発生していないらしく、本人にやる気がある限りこの修行を止めるつもりはないそうだ。

 

 雁夜さんの家で、僕は桜ちゃん、雁夜さんと一緒に、時臣さんの使い魔(身体状況チェック&発声可能)に指導してもらって修行を続けている、……早くも才能の違いが現れている。

 魔術回路の数が僕たちより文字通り桁違いに多い桜は、この時点で僕と雁夜さんより魔力量がとんでもなく多い状態である。

 一方、魔術回路が一番少ない雁夜さんは、当然魔力量がダントツで少ないが、例の修行で培った集中力により高いレベルで魔力制御に成功している。

 僕の魔力量は二人の間であり、前世の経験から集中力はそれなりにあるが、雁夜さんには遠く及ばない状態である。

 

 ……集中力を鍛えることをさぼるつもりはないが、僕らしい方法で工夫して修行してみるべきだろうな。

 現在僕は、HxHの念能力のイメージを使って、魔術回路のオンオフをしているわけだから、それをさらに発展させてみるか。

 この世界に『念能力』そのものはないだろうし、『気』もあるかわからないので、念能力の方法を流用して『魔力制御』ができないかまずは試してみよう。

 魔術回路を起動させる『錬』、魔術回路を休止させる『絶』、そして魔力を身に纏う『纏』の状態はすでにできているから、……次は、目に魔力を集中させる『凝』か?

 リミットを超えて眼球が破裂したら怖いから、少しずつ魔力量を増やしてみて、どこまで魔力を注ぎ込めるか試しつつ、『凝』をやってみるとするか。

 魔力で目に『凝』をする意味がないかもしれないけど、……いや、確か士郎が魔力で視力強化をやっていたから、がんばれば僕も似たようことができるはずだ。

 理想は、魔眼ゲットだな。

 

 後は、魔力による探知結界『円』とか、魔力による全身守備力強化『堅』とかも実現できれば便利そうだ。

 ……さすがに、魔力による道具強化『周』は、強化魔術を習得しないと無理そうだけど。

 

 

 言い忘れていたが、(肉体年齢は)4歳児の僕は当然まだ幼稚園生であり、凛や桜と同じ幼稚園に通っている。

 幼稚園から帰ってきた後、親には凛ちゃんたちと遊んでくると言って外出しているのだ。

 毎日のスケジュールは、『幼稚園から帰宅後に桜ちゃんと一緒に雁夜さん宅へ移動して修行開始、訓練が終了したら桜と一緒に遠坂邸へ帰り、お風呂に入り夕食を食べさせてもらい、その後自宅へ戻り家族団欒して睡眠』という生活である。

 うちの両親も、名家にして旧家として有名な遠坂家への信頼が高いらしく、隣家である遠坂家に入り浸ることを全く気にしていなかった。

 

 

 僕が『桜の婚約者候補』になったということは、僕の両親にはまだ内緒だが、葵さん、そして凛ちゃんと桜ちゃんに対しては時臣師から説明があった。

 まあ、細かい事情を話せるわけもなく、説明したのは概要だけだったけど。

 

・隣家の八神遼平が魔術回路を持っていたことに最近気づいた。

・八神遼平は(凛と桜には劣るが)魔術師として優れた素質を持っているので、非公式に遠坂家の弟子入りを認める。

・非公式な弟子入りの為、弟子である時臣綺礼を含め、家族以外には弟子入りしていることを秘密とする。

・桜の婚約者候補として認めるが、婚約者として相応しくないと判断した時点で候補から外す。

・桜自身が魔術を習うことを希望したので、遠坂家の秘伝以外の魔術を八神遼平と一緒に今後教える。

 

 3人に対して説明があったのは、これらの内容らしい。

 『桜を養子に出さずに済む可能性が高く、八神遼平が桜に相応しくなければ婚約破棄が可能』であり、『八神遼平はすでに桜と仲のよく、自分も可愛がっている男の子』ということで、葵さんに異論はなかったらしい。

 ……まあ、『間桐家に養子に出すことに比較すれば、比べ物にならないほど好条件』だと理解しているせいもあるんだろうけど。

 凛ちゃんと桜ちゃんは『婚約者候補』という言葉がよく理解できなかったらしく、『八神遼平が家族に加わった』ぐらいの認識らしい。

 原作において、聖杯戦争時の凛(通称:ロリン)もかなり賢かったが、さすがにその3年前ではまだまだ幼いようだった。

 とはいえ、一緒に食事したり、一緒にお風呂に入ったりしても喜んでいるようだから、僕は受け入れられていると見ていいだろう。

 

 ……いや、変な事していませんよ。

 幾ら美幼女でも、4歳児と3歳児相手だ。

 10年後ならともかく、今の段階では近所の幼児の世話をしている気分です。

 肉体年齢は同世代でも、精神年齢がまさに親と子ぐらい違うから、どうしても保護者気分になってしまい、それを本能的に感づいているのか、二人とも僕に頼ってくることがある。

 まあ、可愛らしいのは事実だし、慕ってくれているというか懐いてくれているので、こっちも悪い気分ではないけどね。

 それが、13年後には『あかいあくま』と『黒桜』になってしまうのだから、時間の流れとは残酷だなぁ。

 

 それと、雁夜さんについては、魔術師になったことも、時臣師に弟子入りしたことも、桜ちゃん以外には内緒にすることになったらしい。

 雁夜さんとしては、『今まで通り時々公園で葵さんや凛ちゃんと会うが、全ての事情を説明するのは聖杯戦争後』ということに決めたそうだ。

 『下手に事情を話して、聖杯戦争に巻き込むようなことは避けたい』と考えたらしい。

 まあ、『敵を騙すにはまず味方から』というから、聖杯戦争にも関わらず、一緒に修行するわけでもないこの二人には内緒にしておく方が賢明だろう。

 桜ちゃんも理由は理解していないものの、「雁夜さんの為、内緒にして」と言ったら、「うん、わかった」と笑顔で答えて内緒にしてくれているので問題はない。

 

 さらに、僕と雁夜さんには、『魔力殺し』の魔術具を時臣師から渡され、魔術師であることを隠せるようにしている。

 なお、僕に渡されたものは、ご先祖様が残したものを時臣師が改良したものだった。

 まあ、遠坂家に頻繁に出入りしているので僕が魔術師見習いであることはばれるかもしれないが、僕が囮となって本命である雁夜さんの存在が隠せればそれでいい。

 ……でも、雁夜さんと一緒に修行していれば、雁夜さんの存在もばれやすいのは確か、か。

 聖杯戦争の開始直前には、雁夜さんとの接触を一切断つ方がいいかもしれないな。

 

 なお、桜ちゃんは今まで魔術関連を一切教わっていなかったこともあり、勉強も『勉強熱心な一般家庭レベル』だったので、これから魔術師の後継者レベルに切り替えて基礎から教育するらしい。

 当然、僕や雁夜さんも一緒に学ぶことになる。

 

 

 気が付くと、僕のできる範囲で凛と桜が幸せな人生を送れるように、できるだけフォローしてあげよう、いやフォローしてあげたいと心の底から思っていた。

 これが(未来の)ヒロインの魅力なのかな?

 

 良く考えてみると、この時代の(原作キャラでの)ヒロインは、……聖杯戦争において召喚されるであろうアルトリアだけか?

 葵さんもアイリスフィールも子持ちの人妻だし、舞夜も切嗣一筋。

 ソラウはケイネスの婚約者であり、いずれはディルムッド一筋だしなぁ。

 人妻萌えとか、寝取り萌えなら嬉しいのかもしれないが、僕にそういう趣味は無い。

 ……恋人とか夫を亡くして落ち込んでいる美女なら守備範囲内ではあるが、……今の僕はただの幼児だしなぁ。

 

 イリヤは、凛ちゃんと桜ちゃんと同じく、現時点ではロリキャラ枠で未来のヒロインだし。

 いや、実年齢ならアイリスフィールは、イリヤより一歳しか年上じゃないという驚愕の事実はあるけど。

 

 ……ああ、タイガーがいたか。

 けど、……僕と接点はないよなぁ。(あの性格は)好みからも外れるし(ボソッ)

 青髭召喚は妨害するつもりだから、可愛くて性格が良い、そう性格が良いキャスターが召喚されるのを祈るだけか。

 ヤンデレはいらん。即チェンジである。

 

 

 そうそう、僕の属性が架空元素であることはすでに判明していたが、詳細な調査の結果、僕の体質もやっと判明した。

 それによると、なんと霊媒体質らしい。

 ようは、霊などを体に憑依しやすく、憑依させた霊の能力を向上させることが可能な体質だ。

 ……なんというか、降霊術を扱う一族らしい体質だな。

 実際、魔術書によると八神一族に霊媒体質の所持者は多かったらしいし。

 ……で、霊媒体質の副産物として、テレパシー(受信のみ)の素質もあったらしい。

 結果、僕の『学んでいないはずの情報の習得』については、『身近な人(家族?)から無意識にテレパシーで情報を取った』か、『何らかの霊から霊媒体質で知識を取得したのではないか?』という結論になった。

 確かに『平行世界というか、異世界の僕からの情報と記憶を、この世界の僕が受け取って人格が上書きされた』と考えれば理屈にはあう。

 実際に何が起きたのかは誰にもわからないし、この推論を時臣師に伝えるつもりもないけどね。

 

 

 それから、『先祖から伝わる家宝の箱』に封印していた使い魔について、遠坂邸へ帰った時に時臣師から説明があった。

 『使い魔は箱に封印されている』と書類には書かれていたのだが、特殊な封印をしていたらしくて僕では見つけられなかったのと、書類に書かれている封印の詳細までは調べなかったこともあり、使い魔については時臣師に丸投げ状態だった

 時臣師は良くも悪くも生粋かつ誇り高い魔術師だから、契約したことは必ず守ってくれると思っていたので、八神家の魔術や家宝の箱については時臣師に全部任せていたのだ。

 

 僕が魔術回路を開いてまだ一ヶ月。

 魔力生成量はまだまだ少なく、使い魔を目覚めさせてラインを繋げるのは早すぎるのではないかと考えていた。

 しかし、時臣師からの言葉は意外なものだった。

 

「君の先祖が残した使い魔だが、マスターの魔力量に合わせて消費量を少なくする仕様になっているようだ。

 ……正確には、初期状態では魔力消費量が少なく、マスターの魔力量の増加に合わせて使い魔も成長する特製の使い魔らしい。

 この記述が正しければ、君の現時点の魔力量でも問題なく使い魔を維持できるだろう。

 使い魔には魔術書の知識を全て登録してあるようだし、君が了承してくれれば、封印を解こうと思っているのだがどうかね?」

 へ~、そりゃすごい。

 それなら断る理由はないよな。

「ぜひお願いします」

「うむ、それではさっそく封印を解こう。

 ついてきたまえ」

 時臣師の後を追って、地下室へ行くとそこはサーヴァント召喚の場所であり、中央に例の箱が置かれていた。

 時臣師が指示した箱の内側のとある場所に僕の手を触れさせて魔力を注ぎ込むと、いきなり箱が光り出し、次の瞬間僕の目の前に毛皮を持つ小さな動物が現れた。

 結構立派な首輪をしていて、首輪の中央はガラス玉のようなものがはめ込まれている。

 ……これは、子狐か?

 

 封印を解くために魔力を注いだ時点で使い魔との契約が成立していたのか、魔力の一部が使い魔に流れていく感触があった。

 ……が、予想以上に流れる魔力量が少ない。

 これは1日連続して魔力を供給しても、現時点の僕の保有魔力量の1%ぐらいにしかならないのではないか?

 いや、わざと1%程度になるように調節して魔力を受け取っているのか?

 

「どうやら無事に契約できたようだね。

 使い魔も君に従っているようだし、できるだけ使い魔と一緒に行動して、いかなる場合でも完全に使い魔を制御できるように訓練したまえ。

 君のご両親への説明は私が行うから、自宅でも一緒に過ごせるだろう。

 ……そうそう、その使い魔に登録された知識は、使い魔の成長つまりはマスターである君の成長に合わせて、封印が順に解除されていくようだ。

 使い魔が早く成長できるように、しっかり面倒をみることだな」

 何度も言っているが、……本っ当~に用意周到かつ、子孫のことをしっかり考えているご先祖様である。

 ここまで用意周到で、何で管理地を奪われたんだろうか?

 それとも、管理地を奪われたことで反省して、(ウェイバーのように)精神的に飛躍的に成長して、ここまで用意周到かつ優秀な魔術師に成長したとか?

 ……なんかものすごくありそうな気がする。

 

 僕の使い魔となった子狐は、尻尾を振って大人しくしていた。

 とりあえず、使い魔の頭を優しく撫でると嬉しそうに一声鳴いた。

 おお、可愛いではないか!

 前世では動物の毛にアレルギー反応があったから、犬とか猫とか飼えなかったんだよな。

 こっちでは、アレルギーとか喘息には縁がない健康な体なので、地味にものすごく嬉しかったりする。

 

 なんとなくライン経由で話す方法が分かったのでさっそく使い魔に話しかけてみたが、喜んでいる感情が伝わってくるだけで明確な意思や言葉は伝わってこなかった。

 ん~、将来成長して賢くなれば、ライン経由で会話できるようになるのかな?

 とりあえず、家に連れて帰るため、……少し悩んだ後、子狐を頭に乗せた。

 子狐は使い魔だけあって賢く、頭の上でうまくバランスを取ってしがみついてきたので、僕は問題なく歩くことができた。

 

 

 地下室から上がってリビングに入ると、そこで待っていた凛ちゃんと桜ちゃんはすぐに子狐に気付き、あっという間に迫ってきた。

 

「そのこ、どうしたの?」

「ご先祖様が僕の為に残してくれた狐の使い魔らしい。

 この子たちは僕の家族みたいな人たちだよ。

 ほら、挨拶」

 

 それを聞くと、子狐は僕の頭から飛び降りると、二人の前に座って「コン」と一声鳴いた。

 なんだ、結構賢いじゃないか。

 少なくとも、僕の言っていることは理解できているらしい。

 

「「かわいい~!」」

 

 二人はそう言うと同時に、子狐に抱きついてもみくちゃにしてしまった。

 意外にも子狐も喜んで、二人と一緒にはしゃいでいる。

 

 うんうん、美幼女とかわいい子狐がはしゃぐ姿とか、実に素晴らしい光景だな。

 今度、カメラで撮っておこう。

 

 

 あと、子狐には『タマモ』と名付けた。

 ライン経由と言葉の両方で、「お前の名前はタマモだ」と伝えると、すぐに理解できたらしい。

 「タマモ」と呼びかけると、すぐに嬉しそうに「コン」と返事をしてきた。

 

 名前の由来は、……やっぱり可愛い子狐の使い魔となれば、あの退魔マンガのキャラを連想するので。

 ……いや、9尾ではなくご普通の尻尾が1本だけある子狐だけどね。

 将来は、変身の術を身に着けて、美少女、そしていずれは絶世の美女に変身してくれれば言うことはないのだが。

 本性が獣であろうとも、変身して人間、あるいは獣人の姿になれるのなら、守備範囲内である。

 獣耳美少女なら、もう大歓迎だ。

 

 ……まあ、そんなうまい話はないよな。

 せめて、夢の世界や精神世界だけでも、美少女に変身してくれれば癒されるんだがな。

 例えばレンのように。

 

 

 その後、わざわざ時臣師が私の家まで来てくれ、うまく両親を言いくるめてくれたおかげで、家族公認でタマモを飼うことができるようになった。

 新しい家族兼使い魔が増えてくれたのは、非常に嬉しい。

 しかも、ご先祖様が残してくれた一生付き合うパートナー、それも僕と一緒に成長するパートナーである。

 タマモと、そして桜と一緒に、これからもがんばらないとな。

 

 ……おっと、雁夜さんも一緒に、でした。

 




【備考】
2012.05.04 『にじファン』で掲載

【改訂】
2012.05.16 『魔術回路を開いてから一ヶ月が経過した』に変更しました。


【設定】

<パラメータ>
 名前 :タマモ
 性別 :雌
 種族 :狐
 年齢 :1歳(封印期間を除く)
 職業 :使い魔
 立場 :八神遼平の使い魔
 ライン:八神遼平
 所持 :首輪
 備考 :歩く八神家の魔術書(記録のほとんどは封印中)


<パラメータ>
 名前 :遠坂凛
 性別 :女
 種族 :人間
 年齢 :4歳
 職業 :幼稚園生
 立場 :遠坂時臣の弟子
 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本
 属性 :五大元素
 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す


<パラメータ>
 名前 :遠坂桜
 性別 :女
 種族 :人間
 年齢 :3歳
 職業 :幼稚園生
 立場 :遠坂時臣の弟子
     八神遼平の婚約者(仮)
 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本
 属性 :架空元素・虚数
 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す


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第06話 使い魔との対話(憑依四ヶ月後)

 タマモと契約したその夜、妙な夢を見た。

 

 なお、タマモが一緒に寝たそうだったので、きちんとタマモの体を洗った後僕の部屋に連き、タマモはそのまま枕元で丸くなっていた。

 そして僕は眠りについた、はずだった。

 

 最初は真っ暗闇で何もなかったが、すぐにここは夢だと悟った。

 夢の中での対処方法をマンガなどで知っていた僕は、前世の自分の部屋を想像してみた。

 すると、すぐに周りの風景はかつての自分の部屋に変わった。

 自分の体は、想像した通り前世の自分の体、贅肉はないが筋肉などもほとんどない細身の体だった。

 

 そして、目の前には……獣耳、いや狐耳に色気たっぷりの改造着物姿の少女、って『Fate/EXTRA』の玉藻御前?

 呆然とする僕を気にすることなく、目の前にいる狐耳少女は僕に向かって挨拶をしてきた。

 

「初めまして、マスター。

 今後ともよろしくお願いしますね」

「待て待て待て、お前は誰だ?

 私にはサーヴァントを召喚した記憶はないぞ?

 ……それとも、覚えていないだけで、無意識とか夢の中で召喚したのか?」

 

 体に引きずられてか、口調も前世モードに戻っているな。

 

「いいえ、安心してください、マスター。

 私は貴方の使い魔のタマモです。

 事後承諾となって申し訳ありませんが、マスターの記憶から一番私に合っているイメージを探しだし、その姿を使っているだけです」

「私は『ナインテールのタマモ』から名を取って、お前をタマモと名付けたんだが?」

「あんな、妖狐としての力をほとんど失い、色気もない小娘の姿なんて却下です。

 封神演義の妲己なら色気たっぷりですが、あれは妖狐であっても玉藻御前様とは別の存在です。

 そういうわけで、この姿で決定です!

 ……何故かはわかりませんが、この姿になることで私の力も増してきましたし」

 

 そりゃ、『Fate/EXTRA』の玉藻御前は、『天照太御神(アマテラス)』として崇拝された『稲荷明神』の分霊という扱いらしい。

 よって、それと同じ姿をとった狐が『稲荷明神』からバックアップを受けてパワーアップしても、不思議ではない、か?

 ……下手すると、罰当たりな行為として天罰が降ってもおかしくない危険な行為ではあるけど。

 

「で、その性格はなんだ?

 寝る前までは、ライン経由でも何も話せなかっただろ?

 ……一応、私の言葉は理解していたようだけど」

「もちろん、たった今作り上げた人格ですよ。

 姿と同じく、マスターの記憶から『Fate/EXTRA』に出てきた玉藻御前様の性格を読み取って、マスターの記憶と情報を使ってそれに近い記憶を再構築したわけです。

 といっても残念ながらマスターの記憶には、玉藻御前様の性格や会話に関する記憶が少ししかなかったので、玉藻御前様によく似た性格だと評価されていた琥珀の性格も参考にしています。

 ……自分で構築しておいてなんですが、予想以上にしっくりくる人格になりましたね」

 

 ……なるほど。

 『契約した最初の夜に、ライン経由でマスターの記憶を読み込んで、最適な姿(夢の中限定)と人格を構築する仕様の使い魔』だったわけか。

 『アクセル・ワールド』のブレインバーストプログラムみたいなことをする奴だ。

 ……もっともあれは、劣等感やトラウマを元に構築するという悪趣味なことをしているから、タマモの方が全然ましだが。

 それにしても、たった今作り出した人格だと思えないぐらい板についてるな。

 ……というか、琥珀さんの性格を参考にしたって、どの琥珀さんまで参考にしたんだ?

 『月姫』の琥珀さんだけでも結構ヤバいのに、それ以降の作品の琥珀さんだとヤバいどころじゃないぞ!

 

「そういうわけで、今の私は玉藻御前様の姿と人格を借りた存在ですが、……あくまでもマスターの使い魔である『タマモ』です。

 間違っても、『玉藻御前』あるいは『玉藻の前』とは呼ばないでくださいね。

 恐れ多すぎるというか、絶対にバチが当たっちゃいます」

 

 ……一応タマモも、ある程度は玉藻御前様に配慮しているらしい。

 しかし、「姿や性格を無断で借りるのはいいのか?」と突っ込みたかったが、それはタマモは全く気にしてなさそうなので、私は空気を読んで何も言わなかった。

 

 

 って、さっきから平然と話しているけど、私の前世の記憶を読んだということは、『Fate』関連の記憶も見たってことだろ。

 ……というか、さっきタマモ自身が『Fate/EXTRA』とか発言しているし。

 

「おい!

 私の記憶を見たって、どこまで見たんだ!?」

「もちろん全部ですよ。

 一生を共に過ごす使い魔なんですから、マスターのことは全部理解していないと。

 でも、さすがは私のマスターです!

 『この世界を観測可能な上位世界の記憶』を持っているなんて、本当に最高です!!」

 

 タマモは、本当に感激しているようだった。

 

 

 こいつは!!

 ……いや、怒るだけ無駄か。

 とりあえず、今の私が言うべきことは、

 

「……わかった。

 終わったことは、もういい。

 分かっていると思うが、私の前世のことは絶対に、絶対に誰にも言うなよ」

「わかっていますって。

 師である遠坂時臣や、同盟者である間桐雁夜にもほんの一部しか教えていませんものね。

 ふふふ、私とマスターだけの一生ものの秘密。

 ……ああ、なんて素敵な響き」

 

 タマモは完全に陶酔していた。

 ……こいつ、本当に大丈夫か?

 

 なんで、私の記憶から構築された人格がこんなやつなんだ?

 『私の人格は、実はマスターのアニマですよ』とか言ったら、本気で死にたくなるぞ。

 

 ……もしかして、子狐に『タマモ』という名前を与えた時点で言霊に縛られて、神様の分霊である玉藻御前様の影響を受けまくっているのか?

 それとも、ご先祖様がまたなんか変な仕掛けとかしてないだろうなぁ。

 ……全く否定できる要素がない。

 ものすごく不安だ。

 

 

 ……あっ、タマモの予想外の姿と性格に忘れていたけど、もっと重要なことがあった。

 タマモは『歩く八神家の魔術書』らしいから、早く事情を聞かないと。

 時臣師によると、封印が順に解除されていくらしいから、ラインが繋がったことでさっそく解けた封印があるのかもしれない。

 

「お前の姿と性格のことはもういい。

 現実世界ではお前はその姿を取れないし、私以外とは話せないからな。

 ……そうだよ、な?」

「ええ、今の私は変身も幻術も使えないので、この姿は精神世界限定です。

 すごく残念ですけど。

 それと、私の発声器官は狐のままなので、人の言葉を発声できません。

 ですから、会話できるのはライン経由でマスターだけですよ。

 ……そうですね、マスターがどなたかとラインを繋げれば、そのライン経由で話すことは可能でしょうし、肌が接触していればラインを繋げていなくても念話ができると思います」

 

 いわゆる、接触通信(お肌の触れ合い通信)か。

 いざというときは使えそうだが、とりあえずは封印したほうが賢明だな。

 

「とりあえず、お前が話せることは内緒にしといてくれ」

「わかりました」

「で、ご先祖様の遺書によると、お前は八神家の情報を記録しているらしいが、それは事実か?」

「はい、その通りです。

 もっとも、マスターの成長具合に応じて情報の封印が解けるように設定されていますので、現時点では私以外についてそれほど教えられる情報はございません」

「それで十分だ。

 まずは、お前のことを教えてくれ」

「マスターったら、そんなに私のことを気にしておられるのですね。

 わかりました。何でも聞いてください。

 マスターの望みなら全て教えてさしあげます」

 

 さっきからちょっと感じていたが、こいつ何か勘違いしていないか?

 一生もののパートナーであり、私の全記憶を見ている以上、私があらゆることを話せる唯一の存在なのは間違いないのだが。

 ……まあ、その辺の確認は後でいいか。

 

「まず知りたいのは、お前がどうやって作られ、どんな能力を持っているか、だな」

「そうですね、まずは八神家の伝統から説明させていただきますね。

 八神家において、魔術刻印を譲った後の元当主は、死期を悟った時あるいは生きることに飽きた時などに、人生最後にして最大の魔術を実行して、最高傑作の使い魔を作る伝統がありました」

 

 いきなり、ものすごく嫌な予感がしてきたな。

 

「なぜ人生最後かといいますと、『八神家で品種改良し、降霊術と八神家の魔術回路への適性を高めてきた特別な獣』を元にして作られた使い魔に対して、『最後の大魔術』に必要がない全ての魔術回路を移植し、残った魔術回路を全て焼切る覚悟で大魔術を行って、特殊な能力を持たせた使い魔を作るのです。

 ……まあ、元当主ですから魔術刻印も持っていませんし、魔術を行使するのは衰えた体と精神ですから、できることには限界がありますけど。

 当然、そんな無茶をすれば、良くて一生魔術が使えず半身不随、普通は死ぬことになります」

「……ということは?」

「はい、私もまた使い魔として作られた後、マスターのご先祖様の魔術回路を移植され、人生最後の大魔術を掛けられることで特別性の使い魔となりました。

 ただし、それまでの元当主に作られた使い魔とは違って、『八神家の魔術刻印を持った状態の当主』によって私は作られましたので、歴代の使い魔の中でも私はさらに特別性です。

 そして、事前に作られていた封印用の魔術具に封印され、八神家の魔術刻印などと共にマスターに出会うまで眠りについていたのです」

 

 ……何と言うか、『刀崎家の魔術師版』とでも言える、ものすごく物騒な家系である。

 刀崎家の刀匠は、『普段は鉄で刀を鍛えるが、これは、という使い手に出会った時には自分の腕を差し出して、その骨で作刀する』とか設定にあったが、それにかなり似ているな。

 まあ、自分の命まで掛けている分、こっちの方が桁違いに物騒だけど。

 

「もちろん、全ての方が行うわけでも、できるわけでもありませんが、多くの方がそうやって使い魔を作られてきたそうです。

 そしてその使い魔は、次代かその次の代の後継者に預けられ、後継者と共に成長してきたのです」

「……ちょっと待て!

 そんな強力な使い魔がいたのなら、何でご先祖様は敵に負けたんだ?」

「残念ですが、いくら強力で特殊な能力を持とうとも、素体が所詮ただの獣である以上絶対に寿命が存在します。

 マスターに仕えるために作られているので、大体人と同じか、少し短いぐらいの寿命ですね。

 ご先祖様が敵に襲われた当時、その特製の使い魔は『遺書を残されたご先祖様』のパートナーである1体のみが生きていました。

 しかし、敵も当然その存在を知っていましたので、宣戦布告の攻撃において使い魔は殺され、マスターのご先祖様は逃げることしかできなかったそうです」

 

 ……考えてみれば当然か、そんな物騒な使い魔なんぞ、いの一番、実力を発揮させる前に倒すのは当然と言える。

 そして、封印指定クラスの魔術師ではないから、残念ながらレンみたいに数百年生きられる使い魔は作れなかったというわけか。

 

 時臣師に聞いた話では、八神家は降霊術以外が『降霊術のサポート』レベルだったはずだが、使い魔作成や育成、改造の技術もかなりのものだったらしい。

 同じ機密漏洩の過ちを起こさない為、魔術書すら使い魔に関する記述を最小限にしたのだろうか?

 いや、それらの魔術がサポートレベルでしかないほど、降霊術のレベルが突出しているということなんだろうな。

 

 それにしても、八神家のご先祖たちは随分思い切ったことをしていたものだ。

 

 自分の体に降霊させる場合、強すぎる存在を召喚すると限界を超えて魔術回路が焼き切れたりしかねない。

 また、肉体の限界を超えないように気を付ければ、当然降霊した英霊のほんの一部の力しか使えない。

 しかし、降霊術専用に特化させた使い魔を作れば、遠慮なく降霊術の実験台にできるし、何か失敗して最悪使い魔が死んでしまっても、また使い魔を作り直せばいい。

 

 そして、『魔術回路を焼き切らせて、神経をズタズタにして、それでも魔力を回転させていけば奇蹟に手は届く』と凛が原作で言っていた通り、人生の最期にあえてその無茶を行い、生涯最高傑作の使い魔を作り、子孫のパートナーとしてきたわけか。

 壮絶ではあるが、ある意味資源の有効活用とも言えるだろう。

 ロードス島シリーズとか、ソードワールドシリーズとかでも、『死期を悟った高位神官が『コール・ゴッド』を実行して己の体に神を降臨させて、命と引き換えに神の奇蹟を起こす』という話は結構よくある話だったしな。

 確かレイリアも、『死期を悟ったらマーファを降臨させて、カーラの意識が宿った呪いの冠を封印する』とか考えていたし。

 普通の魔術師の家系では、『後継者に残すことができる重要なもの』は魔術刻印、一族秘伝の魔術といったものだが、 八神家の場合はそれに加えて、八神家オリジ ナルの使い魔が加わるのか。

 壮絶ではあるが、後継者にとってはありがたい伝統だよな。

 ……ということは、私もいずれ後継者を育て上げた後に死期を悟ったら同じことをしなければいけないんだろうけど、その時に命を賭けて使い魔を作れるのだろうか?

 ま、まあ、それを決断するのは当分先の話だから、今は保留にしておこう。

 

「お前はその、八神家の技術と伝統の集大成というわけか」

「その通りです。

 私の一族は、先祖代々八神家に飼われて、使い魔として尽くしてきた血統書付きともいえる存在なのですよ」

 

 実験動物として先祖代々ずっと使われていたという見方もあるが、少なくともタマモはそれに誇りを持っているらしい。

 ならば、パートナーである私はその意見を尊重するべきだろう。

 

「そうか。

 じゃあ、改めてよろしくな、タマモ」

「はい、任せてください。

 マスターが望む限り、ずっと一緒です」

 

 色々と不安要素や未確認情報があるが、こうして本当の意味でのタマモとのファーストコンタクトは終了した。

 

 あと、情報の封印は、八神家の魔術の習得状況や、魔力量や魔力の制御力など、一定の条件を超えるごとに解除されていくらしい。

 それを認識するのはタマモだが、深層意識に埋め込まれた命令らしく、タマモ自身の意志では変更できないとのこと。

 

 まあ、地道に私ががんばっていけばいいだけの話だ。

 幸いにも、この夢の世界というか精神世界は、寝てる間はもちろん、私が望めばいつでも来ることができて体や脳に負担を掛けずに精神修行ができるそうなので、ぜひとも有効に使わせてもらおう。

 

 ……しかし、タマモは教えてくれなかったが、タマモ自身に掛けられた魔術の内容、そして降霊術で召喚された存在とその効果は一体何なんだろうか?

 

 魔術回路の一部を移植した後とはいえ、『ご先祖様が魔術回路を焼き切らせて、神経をズタズタにして、それでも魔力を回転させて起こした奇蹟』。

 一体どれだけの奇蹟を起こしたのやら?

 




【にじファンでの後書き】
 タマモの設定もそうですが、タマモの性格も少々無茶しました。
 批判が多ければ改訂します。
 ニコニコ動画で(一部ですが)キャス孤ルートを見たんです。後は察してください。

 PV11万、お気に入り登録件数900件達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.05.06 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.05.16 『ただし、それまでの元当主に作られた使い魔とは違って、『八神家の魔術刻印を持った当主』によって私は作られましたので、歴代の使い魔の中でも私はさらに特別性です。』を追記しました。

2012.08.13 『ご先祖様が魔術刻印ごと腕を切断した後』という誤った説明を『魔術回路の一部を移植した後とはいえ』に修正しました。


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第07話 秘密の発覚(憑依五ヶ月後)

 色々な意味で予想外のことが、(主に使い魔に)起きてから一ヶ月経った。

 

 僕、桜ちゃん、雁夜さんの修行は全く問題はない。

 あいかわらず、魔力量は桜ちゃん、集中力は雁夜さんがトップである。

 僕はというと、当然と言えば当然なのだが、『降霊術(まだ基礎)の理解度が一番高く、それ以外の魔術は三人の中で最低レベル』という状態である。

 八神家は適性という意味でも、降霊術特化の家系だったようだ。

 夢の中でも毎日、魔術の予習と復習を欠かさずやっているんだけどね。

 

 あと、これは予想しておくべきだったが、僕の成長に合わせてタマモもまた成長して、体が大きくなるだけでなく魔力生成量が増えていた。

 ……魔術回路を移植されているんだから、使い魔であっても魔力を生み出せて当然か。

 タマモが持っている魔術回路は、老年のご先祖様から移植した魔術回路だから、魔術回路を鍛えることはもうできない。

 しかし、僕からの魔力を吸収してタマモが成長することで、ご先祖様から移植された魔術回路への適合性が増し、起動できる魔術回路が増え、魔術回路の出力が上がり、より効率的に魔力を生成させられるようになっているらしい。

 さらに言えば、タマモに移植されたのは『八神家当主の魔術師が限界まで鍛え上げた魔術回路』だから、数が少ないとはいえ、魔力量はばかにはできないだろう。

 魔力を供給しなくてもいいのは助かるが、一歩間違えると使い魔に裏切られるとか、見限られるとかありそうだな。

 ……まあ、あのタマモなら、よほどのことをしない限り大丈夫だとは思うけど。

 

 それにしても、魔術回路を持った使い魔とか、『Fate/strange fake』に出てきた銀狼の合成獣(キメラ)を連想するんだが……。

 あの銀狼と同じく、タマモが令呪を得るとか十分ありそうで怖いなぁ。

 そうなれば、当然タマモが召喚するのは、狐(そして名前、精神世界の姿)つながりでキャス狐か?

 

 ……『タマモの守護神』としての立場を取ってくれれば頼もしいことこの上ないが、……万が一にも僕に惚れるようなことがあれば、ハーレムを目指した瞬間に一夫多妻去勢拳を喰らいかねない。

 すでに桜ちゃんと言う婚約者がいる以上、例え惚れられることがあってもキャス狐の方が二号さんに該当するので、そうなる可能性は低いと思うのだが、……去勢されるのは絶対に嫌だなぁ。

 万が一にもキャス孤が召喚されるようなことがあれば、すぐにお互いの意志の疎通や状況説明、そして僕のハーレム願望を伝えておいた方がいいな。

 去勢フラグはさっさと折っておくにこしたことはない。

 ゲームの主人公に玉藻御前が惚れたように、私に一目惚れする可能性は低いと思うが、この配慮が無駄になることを祈っておこ う。

 

 それから、僕とタマモの関係は現時点では良好である。

 僕の婚約者(仮)の桜ちゃんについて知っても、桜に対して嫉妬したり拒絶したりすることもなかった。

 ……それは良かったのだが、「マスターの婚約者に相応しい女性になるように、私がしっかり教育します」と言い出したのが不安の種である。

 それ以来、桜ちゃんたちが昼寝するたびにタマモも一緒に添い寝していて、時臣師も含めてみんな微笑ましく見ているのだが、……妙なことしてないよなぁ?

 魔術反応とかあれば、時臣師が絶対に気付くはずだから、……多分問題ないのだと思う。

 夢の世界に桜ちゃんたちを連れ込んで何かしているらしいが、タマモに聞いても『秘密です』としか答えてくれない。

 昼寝から起きた後桜ちゃんたちに確認しても、『きもちよくねれた』としか言ってなかったし。

 

 

 今日は雁夜さんと時臣師との3人で、聖杯戦争に関する作戦会議の日だった。(時臣師は、使い魔経由で会話に参加)

 もっとも僕は(正体を隠すため)ずっと聞いているだけで、雁夜さんと時臣師の二人で話すことがほとんどなんだけど。

 ……ああ、タマモは僕の隣にいて、念話で内緒話していますよ。

 

「まずは、聖杯戦争でサーヴァントを召喚するために必要な縁の品について話そう。

 現在私はギルガメッシュの縁の品である『歴史上初めて蛇が脱皮した化石』を探しているが、それに加えて『湖の騎士ランスロット』の縁の品も探し始めることにした」

「それは助かるな。

 俺には魔術関連のつてとかコネがないから、時臣師が探してくれなければ縁の品を入手するのは不可能だ。

 しかし、ランスロットの縁の品を探し始めてくれたってことは、俺のことを信頼してくれたってことか?」

 

 雁夜さんは不思議そうに尋ねたが、僕にとっても意外な話だった。

 こんなに短期間で時臣師は雁夜さんを信用したのだろうか?

 

「まだ完全に君を信頼したわけではない。

 しかし、八神家の降霊術は縁の品があれば、効果が大きくなる。

 つまり、ランスロットの縁の品を探すのはサーヴァント召喚のためもあるが、降霊術に使うことがメインなのだよ」

「確かにランスロットは円卓の騎士最強と名高い騎士だからな。

 降霊術を使いこなし、彼の力の一部でも使うことができるようになれば心強い。

 ……だが、手に入れるあてはあるのか?

 俺が会った予知能力者の話によると、『多分臓硯が縁の品を手に入れたらしい』ということしか分からなかったが」

「間桐家は衰退して著しく、現在も間桐家が関わりを持つ魔術関係者はかなり少ない。

 よって、臓硯がどのルートでランスロットの縁の品を入手したかは、ある程度絞り込むことができる。

 絞り込んだルート全てで探すことで、多分問題なく目的の物を手に入れることができるだろう」

 

 言われてみればその通りか。

 臓硯が縁の品を秘蔵していない限りどこかから入手するしかないが、そのルートさえ予想できれば、そのルートを時臣師が利用して購入するのは十分に可能だったな。

 これで、雁夜さんがランスロット、時臣師がギルガメッシュを召喚することがほぼ決定したわけか。

 

「で、お前はギルガメッシュを召喚するつもりなのか?」

「その通りだ。

 サーヴァントを8体召喚する目処が立っている以上、最強であるギルガメッシュを召喚しない選択肢はありえない。

 誰かがギルガメッシュに対して例のことを吹き込んでも、召喚直後に『8体召喚されたサーヴァントのうち7体のサーヴァントを殺すことで、私の願いである根源への道が開かれること』を伝えてあれば、ギルガメッシュが私を裏切ることはないだろう」

 

 どうかなぁ?

 あのギルガメッシュだから、時臣師を見限る理由があれば、例えそれが屁理屈であろうとも時臣師を簡単に裏切る気がするんだけどなぁ。

 ……特にお気に入りになる綺礼と会った後だと。

 

「……そうか。

 裏切られる可能性を理解した上でそのことを決めたのなら、俺から言うことは何もない。

 で、どうやって8体召喚するつもりなんだ?」

 

 雁夜さんも似たようなことを考えたかもしれないが、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、あっさりと次の話題へと移った。

 

「以前少し話したが、かつての聖杯戦争において一つのクラスでサーヴァントを、善悪両方の側面から二体召喚するという方法を実行した前例がある。

 あれから遠坂家の降霊術に関する魔術書を再調査したが、『繋がりの強い二人がマスターとなり、カスタマイズした召喚陣を使用してサーヴァントを同時に召喚することで、一つのクラスにおいて二体のサーヴァント召喚を召喚し、聖杯戦争において計8体のサーヴァント召喚を実現できる可能性が高いこと』が判明した」

「待て、繋がりが強い二人だと!

 まさか、……凛ちゃんと桜ちゃんを利用するつもりか!?」

「……そのことは考えなくもなかったが、それは不可能だ」

 

 おや、やっぱり考えはしたんだ。

 

「聖杯御三家にはマスターの優先枠があるが、当然それは私が使用する。

 そしてすでに私は令呪を得ている。

 幾ら凛や桜が優秀であろうとも、3年後の時点でマスターになるのは難しいだろう。

 雁夜君も正直厳しい。

 君が『間桐家枠のマスター』として認識されれば、何とかなるとは思うが。

 ……しかし、八神家の魔術刻印を全て継いだ八神君なら、三年後に令呪を得られる可能性が高いだろう」

 

 へっ、僕?

 いや、汚染された聖杯の完成を防ぐため、キャスターを召喚することを考えていたけど、その考えがばれてた?

 

「それだけではない。

 君に残されていた使い魔は、君の先祖の魔術師の魔術回路を移植されているし、マスターである八神君とラインが繋がっていて深い繋がりがある。

 つまり、君とタマモが私の提供する召喚陣を使って同時にサーヴァント召喚を行えば、同一クラスにおいて二人のサーヴァントを召喚できる可能性が高い!」

 

 ……うわ~、そう来たか。

 エーデルフェルトの『双子』には敵わないが、令呪を手に入れられる可能性が高い『マスターとその使い魔(マスターの先祖の魔術回路持ち)』という組み合わせなら、……確かにそうなるか。

 

『タマモ、時臣師の言っていることは正しいのか?』

『そうですね。

 私の聖杯戦争に関する知識は、マスターの記憶から知ったことがほぼ全てですが、……マスターが令呪を手に入れることさえできれば、多分可能ではないでしょうか?

 もっとも、二人召喚用の召喚陣について、マスターや私ではなにも分からないため、時臣師に全て任せなければいけないのが不安の種ですが……』

『言われてみれば不安だな。

 うっかり、『予定とは違った効果の召喚陣』になっていなければいいんだけど』

 

 アヴェンジャークラスが召喚されるとか、勘弁してほしいぞ。

 アヴェンジャークラスの場合、どんなサーヴァントが呼ばれても、死亡フラグにしか思えないし。

 

『で、お前は僕と同じく、サーヴァント、多分キャスターのマスターになると思うけど、それは構わないのか?』

『もちろんです!

 マスターが聖杯戦争に参加するのなら、私も参加します。

 マスターを影に日向にフォローするのが使い魔の役割ですから。

 ……あっ、でも可能ならば玉藻御前様を召喚したいですね。

 こんな機会でもなければ、一生お目に掛かれないでしょうから』

 

 勝手に姿を借りているお前が言うな!

 まあ、憧れの存在でもあり、信仰する神様の分霊を召喚できるならその気持ちもわからなく、って『今気づいたけど、多分無理だぞ』

『何でですか?!?』

『サーヴァントとして召喚できるのは英霊、または半神とか元神(元女神)までだったはずだ。(例:ヘラクレス、ギルガメッシュ、メドゥーサなど)

 玉藻御前って、分霊とはいえ紛うことなき神様だろう?

 となると、この地で行われる聖杯戦争で召喚するのは……多分無理だと思う。

 元神様ってことで、悪霊に堕ちた『玉藻御前』なら召喚できそうな気もするが、そんな存在が召喚されたらお前もこの地もただじゃ済まないだろうしな』

『……残念です。

 本っ当~に残念です』

 

 そんなことをライン経由でタマモと話していると、雁夜さんと時臣師は会話を続けていた。

 

「時臣、お前は聖杯戦争に子供を巻き込むつもりか?」

「安心したまえ。

 いくら私の弟子であり桜の婚約者候補であっても、子供にそのようなことを強制させるつもりはない。

 私が頼むのは、あくまでもサーヴァント召喚とサーヴァントへの魔力供給だけ、だ。

 サーヴァント召喚後、聖杯戦争のことは全てサーヴァントに任せればいい。

 当然八神君には、安全な場所へ避難してもらう予定だ。

 可能なら私に協力してくれるようにサーヴァントへ命令してもらいたいが、無理そうなら何も命令する必要は無い。

 サーヴァントの方も、『無茶なことを命令せず、余計なことは言わず、魔力をしっかり提供してくれる(子供の)マスター』相手ならば、そうひどい対応は取らないだろう」

「召喚したサーヴァントが、すぐにマスターに牙をむかないという保証はどこにある!」

「心配ならば、君がサーヴァント召喚時に近くで待機していればいい。

 八神君に何か危害を加えようとするならば、君のサーヴァントで妨害すればいい。

 問題がなければ、サーヴァントを動かす必要はない。

 ……もちろん、君が令呪を得てサーヴァント召喚に成功していれば、の話だがね」

 

 さすがは時臣師。

 今の僕では、雁夜さんのサーヴァント召喚以外、否定できる要素が見つからない完璧な理論展開だ。

 

「そして八神君は凛たちと同様に、冬木市外の拠点に避難していればいい。

 拠点は私が提供しよう。

 冬木市内で活動する為、さすがにそこまではサーヴァントといえども探知範囲外であり、安全と言えるだろう」

 

 それは違う、と思う。

 確かに、敵もいるし魔力量に制限のあるサーヴァントなら、冬木市外は探知範囲外である可能性は高い。

 原作でも、……青髭が市外で子供を調達していなければ、冬木市外は安全だったはずだ。

 しかし、マスターは違う。

 原作において切嗣は手を出さなかったが、『全盛期の冷酷非情な切嗣』なら凛たちを人質に取るぐらい平気でやっただろう。

 そして原作崩壊させたこの世界において、切嗣がそれをしない保証など存在しない。

 

 しかし、聖杯戦争を『誇り高い魔術師による命を賭けた決闘』ぐらいにしか考えていない時臣師には、何を言っても無駄なんだろうなぁ。

 僕にとって聖杯戦争とは、『冷酷非情な殺し合いであり、小規模な(現代)戦争』である。

 多分、切嗣も同じように考えているだろう。

 実際、『罰則があるルールさえ守れば後は何をしてもよく、そのルールすら破ったことがばれなければ、あるいは訴える者がいなければ問題ない』という感じだったしな。

 ……ああそうか、まだ認識が甘かった。

 現代戦争ならハーグ陸戦条約があるけど、聖杯戦争には『魔術の秘匿』と『聖堂教会が監督役だと認めること』以外はルールはないと言っていい。

 聖杯戦争は『戦力は現代戦争並み、しかしルールはたった二つしかない、本当の意味での仁義なき戦い』ってところか。

 ……多分、この認識が一番正しいんだろうな。

 改めて考えると、本当に物騒な話だ。

 絶対に、都市のど真ん中でやるような儀式じゃないよな。

 

『やっぱり大甘ですね。

 せっかくマスターが手助けしているというのに、どこかであっさり殺されちゃいそうですね』

 

 タマモも同じことを思ったらしい。

 何というか、時臣師は自ら死亡フラグを立てまくっているよな。

 

『まあ、そう言うな。

 ……多分、魔術師は時臣師のような考えが普通で、僕や衛宮切嗣の方が異端なんだよ』

『異端だろうと、常識外れだろうと、殺されちゃったら意味ないでしょうし。

 ……魔術師って、ほんとおかしな人種ですね』

 

 タマモの言葉には容赦というものがなかったが、正直僕も同感だった。

 

 

「それだと八神君たちが召喚した二体のサーヴァントが、時臣師に対立する可能性が、いや間違いなく対立するがそれでいいのか?」

「構わん。

 私が召喚するギルガメッシュは無敵であり最強だ。

 ましてや、綺礼君がフォローしてくれるのだから、万が一にも敗れる恐れなどない。

 ならば、八神君に危険が及ぶことを避ける為、聖杯戦争での行動は全てサーヴァントの意志に任せてくれればそれでいい。

 もちろん、召喚したサーヴァントには事情を全部話してくれて構わないよ。

 誇り高いサーヴァントならば、マスターであり君のような子供に八つ当たりすることなく、この挑発に対して私へ怒りを向ける可能性が高いだろう。

 君の役割は、ただサーヴァントを召喚し、サーヴァントに魔力を供給するだけだ。

 無論、『八神君が令呪を使って戦いを妨害させられること』をサーヴァントが危惧する可能性が高いが、その場合はサーヴァントの前で彼らの要求通りに令呪を使い切ってしまえばいい。

 令呪を使い切っても、サーヴァントとのラインは繋がったままだから魔力供給は問題ない。

 これで、八神君に危険が及ぶ可能性はかなり低く抑えられるはずだ」

 

 確かに、……それなら、僕がサーヴァントの怒りを買う可能性は低いかな?

 サーヴァントが問答無用でマスター殺しをするような狂った存在でない限り、それなりに安全性はあるとは思う。

 時臣師も、一応僕の安全に配慮してくれてはいるらしい。

 その代わり時臣師がサーヴァントの怒りを買うことになるが、……(ギルガメッシュを召喚できれば)全く問題ないと本気で考えているんだろうなぁ。

 

 しかし、……どうも何か、違和感のようなものを感じる。

 

「どうかな、引き受けてくれないだろうか?

 もちろんまだ3年後の話だから、今すぐ答える必要はない」

 

 ……そうか!

 やっと気づいた。

 この提案自体が異常だ!

 時臣は完全に僕を、一人前の大人として対応している。

 ……これは、僕の秘密がどれかばれたか?

 いや、演技の下手な僕が、時臣相手に最後まで隠しきれるとは自分でも考えていなかったけど。

 とりあえず、一番ばれやすそうで、ばれてもダメージが少ない秘密を白状して反応を見てみるか。

 

「もしかして、僕が前世の記憶を持っていることに気付いていましたか?」

「なるほど、前世の記憶だったのか。

 ……いや、私が気づいていたのは、『身近な人から無意識にテレパシーで情報を取った』か、『何らかの霊から霊媒体質で知識を取得した』ということでは説明がつかない君の精神年齢の高さだ。

 もしかすると、『君の先祖の記憶や人格で上書きされていた』、あるいは『先祖自身が降霊術を応用して転生した』のではないかと疑っていたのだよ」

「そんなんじゃないです。

 それに前世の記憶と言っても、ただの一般人として過ごした記憶を持っているだけです。

 その前世も、魔術なんて一切関わらない人生でした。

 しかも、前世の記憶はいきなり脈絡もなく途切れているので、何で死んだのかもわかりません」

 

 やっぱり、魔術師である時臣師相手に全ての秘密を隠しきることなど無理だったか。

 正直に(秘密の一部を)告白した僕を、時臣師はしばらく鋭い目付きで見つめていた。

 

「……その言葉に嘘はないようだね。

 まあ、確かに魔術師相手でも前世の記憶を持っているなどと言えば、正気を疑われるか、解剖されてしまうこともある。

 だが、私は君の師なのだから、もう少し早く言って欲しかったね」

「申し訳ありません。

 正直、信じてもらえるとは思えなかったので」

 

 それを聞くと、時臣師は頷いて言葉を続けた。

 

「確かにいきなりでは信じられなかったろうが、弟子入りして一ヶ月も経てば君の言うことが事実かどうか判断できるようになる。

 そして、私は君の師であり、君とは正式な契約を交わしている。

 君から契約を破棄するようなことをしない限り、私は君の言うことをできる限り尊重する。

 どれほどあり得ないことであろうとも、必要なことは私に話しなさい」

「はい、わかりました」

 

 素直に承諾したが、当然僕の最大の秘密である原作知識について話すつもりなど欠片もなかった。

 原作知識の秘密が守れるなら、前世の記憶持ちぐらいばれても別に構わない。

 今のところ、『必要なこと』は時臣師に対して(雁夜さん経由で)説明済みだから問題ないよな。

 

「よろしい。

 それで君は、前世の記憶を持っていて、それにより相当高い精神年齢であると認識で正しいかね?」

「はい、時臣師には到底及びませんが、最低でも一人前と呼べるだけの精神年齢はあると考えています」

「ふむ、それでは改めて尋ねよう。

 私の依頼を引き受けてくれるかな?

 ……無論、報酬はつける。

 二体のサーヴァント召喚に成功した時点で、『桜の婚約者に相応しいだけの実力を身に着けて結果を出した』と認定し、桜の婚約者として正式に認めよう。

 君への報酬としてふさわしいと思わないかね」

 

 ……さすがは生粋の魔術師。

 発想がとんでもないな。

 『前世の記憶持ち』という普通でない存在だと分かっていて、逆に娘の正式な婚約者になれる選択肢を提示してくるとは。

 いや、時臣師を裏切らないなら、『人生経験豊富で精神年齢が高い方が、桜を守る存在として相応しい』とか逆に考えたのかな?

 

 それから、ずいぶんとあっさりと『前世の記憶を持っていること』を信じたけど、魔術師って前世の記憶持ちが多いのか?

 

『マスター、原作において英霊エミヤが『前世の自分を降霊、憑依させることで、かつての技術を習得する魔術がある』と言っていましたよ。

 記憶の一部が封印されている今の私の知識には該当する魔術は思いありませんが、……多分これは降霊術の一つなのでは?

 そのような魔術が存在する時点で、霊媒体質で降霊術を扱う魔術師の後継者であるマスターならば前世の記憶を持っていてもおかしくないと思います』

『そういえば、そんな設定もあったか。

 タマモ、教えてくれてありがとう』

 

 前世の自分を降霊、憑依させる魔術か。

 ……もしかすると前世の自分を降霊、憑依させて完全に体を乗っ取られた存在が、今の僕なのかもしれないな。

 

 さて、前世の記憶を持っていることがばれた以上、今ここで答えを出す方がいいだろう。

 で、時臣師の言葉に裏が無ければ、時臣師公認で(サーヴァントが同意すれば)サーヴァントを自由に動かせるのでものすごく有利な条件だが、……本当に裏はないのか?

 それとも、たった今、時臣師の『命に関わる事態でのうっかり』が発動しているのだろうか?

 ……まあ僕は、アンリ・マユの復活を阻止しつつ、僕が死なない範囲で桜ちゃん、凛ちゃん、葵さん、雁夜さんの命を守れれば満足だから特に問題はないんだが。

 

 時臣師はこの一ヶ月修行を通して僕を観察し、秘密にしていることはあっても裏切ったりすることはないと判断したのか?

 あるいは、サーヴァント2体を召喚さえさせれば、ギルガメッシュが時臣師を裏切る要素がなくなるから、僕が時臣師を裏切っても問題ないと考えているとか?

 つまり、どんなサーヴァントがどんな策を取ろうとも蹴散らせる自信があり、もし僕が裏切ったとしても『裏切りに気付いた時点で殺せばいいし、裏切らなければ桜の婿として認めていい』とか考えているとか?

 ……十分ありそうだな。

 だが、この予想が正しければ好都合だ。

 

「わかりました。

 詳細な契約内容は後日詰める必要があると思いますが、その内容で承諾します。

 ……もちろん、聖杯戦争までに僕が令呪を得ることができれば、ですが」

「そうか、それはありがたい。

 よろしく頼むよ」

 

 時臣師は機嫌良く答えた。

 

 だが、僕としてはもう一つ頼みたいことがある。

 

「ただ、お願いしたい条件があります」

「何だね?

 大概のことなら受け入れるつもりだ。

 遠慮なく言いたまえ」

 

 では、遠慮なく言わせてもらおう。

 

「僕はともかく、移植された魔術回路しかもたないタマモでは、サーヴァントを維持するのもぎりぎりだと思います。

 下手をすると、召喚するだけの魔力も足りないかもしれません」

「……まあ、所詮使い魔だ。

 その可能性は十分ありえるね」

『マスター、今の私ならともかく、3年後ならそんな醜態は絶対にありえません!』

 

 僕の発言にタマモが抗議してきたが、すぐに黙らせると言葉を続けた。

 

「そこで、聖杯戦争に参加せず、多くの魔力を保有している桜ちゃん、そして可能なら凛ちゃんとラインを接続し、魔力を貰うことはできないでしょうか?

 二人とも、『親であり師でもある時臣師の為であり、時臣師からの依頼を果たすため』という理由なら承諾してくれると思います。

 ……それと、禅城家は元々魔術師の家系だったと聞いていますので、可能なら葵さんも魔術回路を開いて、僕とラインを繋いで魔力供給してもらえると助かります」

「葵さんの魔術回路を開くのか!?」

 

 このことは雁夜さんにも話していなかったので、雁夜さんもかなり驚いていた。

 時臣師も予想外の条件だったのか、少し動揺していたがすぐに回答してきた。

 

「……まず、葵は無理だな。

 確かに禅城の家は元魔術師の家系であり、現在も特殊体質は引き継がれているが、……もう葵の体には魔術回路が存在しない。

 残念だが、禅城家は衰退しただけでなく、魔術師としては完全に終わった家系なのだよ」

 

 そうだったのか!?

 可能なら、雁夜さんと葵さんの間にラインを繋げて、雁夜さんのやる気をアップさせると同時に、令呪を得る可能性を向上させようと思っていたのに!

 

「凛と桜とラインを繋げることは、……確かにそれをすれば君の魔力面での不安は解消できる。

 だ、だが、しかし、……ラインを繋げる方法はそれほどない。

 7歳ぐらいで例の行為はできないし、できたとしても許すつもりもない!」

 

 おお、時臣師がいきなり激昂した。

 性行為以外のラインを繋げる方法でよかったのだが、もしかしてその方法は存在しないのか?

 

「そういうお前こそ、俺の指摘がなければ、桜ちゃんを蟲地獄に送り込もうとしたんだろうが」

 

 しかし、その激昂も雁夜さんのきつ~い一言であっという間に消火され、時臣師は項垂れてしまった。

 

「え~と、ラインを繋げる方法は詳しくないんですが、やっぱり性行為しかないんですか?」

「雁夜君が教えたのか?

 それともどこかで調べたのか?

 ……まあいい。

 魔術師同士のラインを接続する方法は、性行為が一番簡単なのは確かだ。

 だが、君たちの年齢から言っても、親として、そして師としての立場から言っても、その行為を許すわけには行かない。

 ……いや、まて。

 『性行為によって、双方の波長を合わせ回路を繋げラインを構築している』わけだから……、両者に契約の魔術を掛けた上で体を接触させれば、波長を合わせることもできるだろうし、短期なら回路を繋げることもできる、か?

 しかし、その場合、……やはり口内接触がベスト、か?」

 

 どうやら解決策を思いついたようだが 時臣師の声はものすごく苦渋に満ちていた。

 

「何を躊躇っているんだ。

 八神君がサーヴァントを二体召喚できるかどうかは、お前の命に直接関わることだ。

 性行為が必要と言うなら僕も認められないが、キスならば許容範囲内じゃないか!

 まだ、思春期前の子供たちなんだ。

 きちんと事情を説明し、凛ちゃんたちが理解した上で承諾したのなら問題ないだろ!」

 

 おお、すばらしいフォロー、ありがとう雁夜さん。

 やっぱり、ライン接続が魔力不足を解消する唯一にして一番確実な方法みたいだし、なんとしても二人から魔力をもらいたいのが本音である。

 

「……それしか、ないか」

 

 しぶしぶ、本当にしぶしぶ時臣師は承諾した。

 いや、思春期の少女相手ならともかく、幼女相手にキスをして喜ぶ趣味は僕にも無いよ。

 純粋に魔力のことだけを考えて提案したんだけど。

 ……なんか僕のこと、誤解していませんか?

 

「ところで雁夜君は、八神君が前世の記憶を持っていたことを知っていたのかね?」

「ああ、そうだ。

 桜ちゃんを助けるために相談したときに教えてもらった。

 そのときに、彼が許可した人以外には絶対に内緒にすると約束していたからな」

「それなら仕方あるまい。

 しかし君は、他にも秘密していることはないか?

 例の予知能力者から教わったことが他にもあるのではないかね?」

 

 さすがに時臣師も気づいたか。

 しかし、気づかれたとはいえ、僕も雁夜さんも時臣師にすべてを話すつもりはない。

 

「そりゃ、あるさ。

 だがこれは僕の唯一と言っていい強力な武器だから、全て教えることはできない。

 ……安心しろ。

 『桜ちゃんのこと』と、『お前が死ぬ確率を減らすアドバイス』はほとんど教えてある。

 後は、俺自身に関わることがほとんどだ」

「……確かに、君から提供された情報は計り知れないほどの価値を持っていた。

 これ以上対価もなしに求めるのは、等価交換に反する行為、か」

「そういうことだ。

 まあ何かアドバイスが必要な事態が発生すれば、すぐに話すから安心しろ」

 

 雁夜さんも、時臣師の存在が葵さんたちには必要だと理解しているから、原作と違って時臣師の死は望んでいない。

 ……まあ、雁夜さんとは関わりのないところで勝手に死んだ場合、雁夜さんが密かに喝采を上げる可能性は否定できないけど。

 

「そうそう。

 聖杯戦争で死亡することを考えて、きちんと遺書は残したのか?

 お前が勝手に死ぬのは自由だが、そのせいで資産面で葵さんたちが苦労するとか、遠坂家の魔術や伝承が失伝して凛ちゃんが苦労するようなことがあって、残された家族に負担を掛けさせたら当主として最低だぞ?」

「……分かっている。

 この世界に絶対はないことを、君のおかげで思い知った。

 私に何かあっても、禅城の家と信頼できる弁護士が家族を守ってくれるように、聖杯戦争までに手配をしておく。

 さらに、遠坂家において口伝で伝えられてきた内容についても、現在全て本にまとめているところだ。

 これも、聖杯戦争開始までには全て書き終えられるだろう。

 

 

 

 

 これでもし私に何かあっても、残した資産、そして私が書いた本と魔術刻印が凛に受け継がれれば、遠坂家は安泰のはずだ」

「なるほど、八神家の先祖の真似をしたわけか」

「その通りだよ。

 彼の先祖がやったこと、残したものを見て、私の準備がいかに不備だらけだったか思い知らされた。

 さすがに魔術刻印は凛が一人前になるまでは渡せないが、それ以外はできるだけ今のうちから準備して残すつもりだ」

 

 時臣さんも、雁夜さんから聞いた自分の死の可能性、そして僕のご先祖様の用意周到さを目の当たりにして、認識が大きく変わったようだな。

 う~ん、こうなると、綺礼に裏切られても返り討ちにするぐらいのことが起きてもおかしくないか?

 今度時間があるときに、可能な範囲で第四次聖杯戦争の展開を予想しておくか。

 

 こうして僕は、時臣師公認でタマモと一緒に聖杯戦争に参加することが決まった。

 ……多分、キャスターを召喚することになるだろう。

 どんな縁の品が手に入り、どのサーヴァントを召喚するか、しっかり考えないといけないな。

 

 はてさて、どうなることやら。

 




【にじファンでの後書き】
 今回、結構急展開です。
 設定や内容に矛盾などがあればお知らせください。
 可能な限り修正します。

【報告】
 連休が終わったので更新速度は大幅に遅くなります。
 ご了承ください。

 PV15万、お気に入り登録件数1000件達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.05.08 『にじファン』で掲載


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第08話 仮契約の実施(憑依六ヶ月後)

 僕の秘密がばれ、僕が聖杯戦争に参加することが決まってから、さらに一ヶ月が過ぎた。

 

 『前世の記憶持ち』だとばれたおかげで時臣師の前では演技をする必要がなくなったので、メリットがないわけじゃなかったけど。

 もっとも、今までも子供を演じるのが面倒だったので、時臣師の前では寡黙な子供のふりをしていただけなんだが。

 

 聖杯戦争に参加する対価として、『凛と桜に八神遼平とラインを繋げることを二人に頼む件』は、『愛する父であり敬愛する師でもある時臣師の為』という理由により即答で了承が得られた。

 あとは、『キスによるライン構築の魔術』を時臣師が完成させるだけだったのだが、先日ついに完成したらしい。

 今日はその魔術の説明をしてもらえることになっている。

 いつも通り、僕と雁夜さんと時臣師の使い魔が揃い、時臣師の説明が始まった。

 

「私が新しく作り出した簡易式のライン接続の魔術は、専用の魔法陣の上で契約する二人がキス、つまり粘膜接触をすることで、一定期間レイラインを構築することが可能になった。

 まだ改善の余地はあるが、これが完成すれば画期的な魔術となるだろう。

 他にも、期間限定の制約を外せないか、より機能を追加できないか、今後も研究を続けるつもりだ。

 これほどの成果が短期間でできたのも、八神家の降霊術の技術があればこそだ。

 そのことには、八神君に感謝している」

 

 なるほど、原作にはなかった『遠坂家による八神家の魔術(降霊術)取り込み』と『僕の提案』が新しい魔術を産み出したのか。

 しかしこれって、まさに例のマンガの『仮契約(パクティオー)』だよな。

 期間の制約がなくなれば、『本契約』ともいえる。

 さすがに仮契約(パクティオー)カードはないようだが、あれはこの世界の魔術では再現するのは多分無理だろうし。

 カードを魔力で作るのは投影魔術に含まれるだろうから、作れたとしても長時間は維持できないし、ましてやアーティファクトを呼び出すなんてできるはずがない。

 まあ、サーヴァント(の宝具)を具現化させている技術を流用できれば、カードを具現化しつづけ、宝具(魔術具)を召喚することも可能かもしれないけど、どれだけ大変か想像もつかない。

 それが実現できれば、封印指定になれるぐらいの偉業かもしれないな。

 

 

「なお、葵に事情を説明して了解を得た上で試したところ、私と葵との間にレイラインを構築することに成功した」

「葵さんとか?

 葵さんは魔術回路を持っていないと、お前自身が言っていたんじゃないか!?」

「そのとおりだよ。

 この魔術は、二人のうちどちらかが魔術回路を持っていれば、レイラインを接続できる画期的なものだ。

 もちろん、葵は魔術回路を持っていないため、ラインを繋いで念話をするか、私の方から一方通行で魔力を送るぐらいしか使えないが、それでも十分な価値があるだろう」

 

 どうやら雁夜さんは、時臣師が葵さんとラインを繋げたことに嫉妬しているようだ。

 しかし、夫婦がラインを繋げるのはある意味当然だから、どうしようもないよな。

 それにしても、魔術師と一般人でもラインが接続可能とか、ますます『仮契約(パクティオー)』化しているような。

 ……僕がアドバイスした訳じゃないんだけど、偶然とは恐ろしいものだ。

 ちなみに、この魔術の名前を『仮契約(パクティオー)』と呼ぶことを駄目元で提案したところ、まだ命名していなかったらしく即座に承認されてしまった。

 

 それから、聖杯戦争が終わり次第、代理人を通じて魔術協会へ『仮契約(パクティオー)』の魔術を特許申請するようにアドバイスして、これも了承された。

 聖杯戦争前に公開して『アイリスフィールから魔力供給を受けた切嗣とセイバー』や、『ケイネスとソラウの二人分の魔力供給を受けたディルムッド』と戦う羽目になるのは絶対に嫌だったから、了承されて何よりだ。

 まあこの程度のことは、言われなくても時臣師も分かっていたと思いたいけど。

 しかし、もしかすると『仮契約(パクティオー)』って、遠坂家の名が世界中の魔術師に轟くぐらい偉大な発明なんじゃないか?

 何せ今までは『性行為など簡単には接続できなかったライン接続を簡単に行える』というのだから、世界中で『仮契約(パクティオー)』が大流行りしそうな気がする。

 

 しかし、まあ、今回の『仮契約(パクティオー)』といい、『念能力方式の魔力操作』といい、この世界でも実現可能かつ有効なネタアイデアが結構ありそうだ。

 近いうちに思い付く限りリストアップして、色々試してみよう。

 

 雁夜さんも説明を聞いて同意し、僕は遠坂邸に帰った後、仮契約(パクティオー)を行うことになった。

 そして現在、遠坂邸の地下室に描かれた魔法陣の上に、僕と桜ちゃんが立っている。

 どっちから先にするか正直迷ったのだが、「こんやくしゃのわたしがさき」という宣言で桜ちゃんが先になった。

 なお、折角なのでカメラを用意し、タマモに撮影するように頼んである。

 すでにカメラは固定してあり、シャッターボタンを押すだけならタマモでも問題ない。

 

「じゃあ、よろしく、桜ちゃん」

「うん、わかったわ」

 

 やっぱりキスの重要性というか、大切さを理解していないらしく、全く屈託のない笑顔だった。

 まあ、3歳児ならこれが当然だろう。

 仮契約(パクティオー)実施と言うことでちょっぴり緊張しつつ、桜ちゃんの肩に手を置いて、ゆっくり唇を触れ合わせた。

 唇が重なった瞬間、魔法陣が光を放ち、わずかに風が起きた。

 次の瞬間、自分が他の存在と繋がったのがわかり、そこから声も伝わってきた。

 

『これがりょうくんとのライン?』

『そういうこと。

 これからもよろしく』

『うん、こっちこそよろしくね』

 

 こうして桜との仮契約(パクティオー)は問題なく終了し、次は凛ちゃんが進み出てきた。

 

「わたしのまりょくをあげるんだから、おとうさまにめいわくをかけちゃだめよ」

 

 さすがに「お父様を守って」とは言わないか。

 同い年の子供相手なんだから、当然と言えば当然だな。

 だけど、この約束なら最後まで破らずに済みそうだから、かなり気が楽になるな。

 ……何せ僕は、時臣師の生存よりも、アンリ・マユ復活阻止を重視しているしなぁ。

 

「わかってるよ。

 僕の全力を尽くして、時臣師に迷惑を掛けないように努力することを約束する」

「ぜったいだからね」

 

 凛ちゃんはそう言うと、予告なしでいきなりキスをしてきた。

 先出し癖はこんな幼児期からだったんだな。

 僕は凛ちゃんとキスをしながらそんなことを考えていた。

 先ほどと同じく別の存在と繋がった感覚があり、しかし感じられる魔力量は桜ちゃんより遥かに多かった。

 

「これで、おねえちゃんとおそろいね。

 りょうちゃん、おとうさまのおてつだい、がんばってね」

 

 まだ凛ちゃんとキスをしていたが、ライン経由で僕と凛ちゃんの仮契約(パクティオー)成立を理解した桜ちゃんが抱きついた。

 その瞬間、焼き付くような感触が右手の甲に感じられた。

 慌てて手の甲を見るとそこには、『「ダイの大冒険」の竜の紋章もどき?』が描かれていた。

 とっさにそれが何か、僕は理解できなかった。

 しかし、時臣師はすぐにそれが何か気づいたようだった。

 

「驚いたな。

 まさか、娘たちとの仮契約(パクティオー)を行った直後に令呪を得ることは。

 聖杯もまた、八神君が娘たちと共に歩むことを祝福しているというわけかな?」

 

 っておい、竜の紋章(3画のため、一部変形バージョン)の形をした令呪かよ。

 そりゃ、ダイの大冒険は大好きだったし、剣と魔法の世界において最強のイメージの一つではあるけどね。

 いくら前世が筋金入りのオタクだからって、これは予想外だ。

 ……それとも僕らしいと言うべきか?

 

 それにしても、いくら凛ちゃんたちとラインを結んだからって、いきなり令呪ゲットとかありえないだろ!?

 そりゃ、『前世の記憶、それも異世界(上位世界、観測世界)の記憶を持っている』し、『原作知識として、この世界のかつてありえた未来の可能性を知っている』し、『ご先祖様が命を賭けて作った規格外の使い魔に加えて、聖杯御三家直系の天才幼女二人とラインを繋がっている』し、『聖杯戦争に参加して、何としてでもアンリ・マユの復活阻止を決意している』けど……。

 ……ああ、ここまで揃えば、逆に令呪をゲットできない方がおかしいかもしれないか。

 綺礼も時臣師に魔術を習う前に令呪を手に入れていたわけだし、ある意味僕も綺礼と同じく特別扱いで令呪を手に入れたのかもしれない。

 全っ然、嬉しくないけど。

 

「おめでとう、八神君。

 令呪を手に入れることができた以上、あとはサーヴァントを召喚し、サーヴァントの現界を維持できるだけの魔力、そして可能ならばサーヴァントを制御下におけるだけの魔術技術を身に着けることに努力したまえ。

 ……そうだね、君が召喚するサーヴァントの縁の品も探す必要があるが、何か希望はあるかな?」

 

 いずれは召喚候補を決めるつもりだったが、この時点で質問されることになるとは予想外だった。

 キャス孤の召喚は無理そうだし、そうなると……誰を召喚しよう?

 原作キャラ以外だと、性格や能力、そして宝具が(正確には)わからないからリスクが大きすぎる。

 そういう意味では詳細な情報が分かっている原作キャラを呼ぶのが無難なんだろうけど、従ってくれそうも無かったり、性格の不一致でトラブルが起きそうだったりする存在ばかりだ。

 ……メドゥーサなら第五次聖杯戦争の記憶がない存在であろうとも、桜の事情を話し、桜を守るために協力を求めればある程度従ってくれそうな気もするが、キャスター枠で召喚可能だろうか?

 

「今思いつく限りでは、ギリシャ神話で有名だった英霊が強力そうですが、……そういえば、僕はどのクラスのサーヴァントを召喚したほうがいいのでしょうか?」

「そうだね。

 綺礼君はアサシンを、雁夜君はバーサーカーを召喚し、私はギルガメッシュを召喚する。

 『ギルガメッシュを召喚する際に該当するクラスが残っていない』などという事態を万が一にも起こさない為にも、八神君には……ライダーかキャスターを召喚してもらいたい」

 

 時臣師が言った理由以外にも、多分『ライダーやキャスターなら、誰が召喚されようとギルガメッシュの敵ではない』と思い込んでいるのだろう。

 いやまあ、メディアが『セイバールートではあっという間に殺されてしまってギルガメッシュの敵ではなかった』のは事実だったし、『青髭も怪獣を召喚しない限りギルガメッシュに対抗できなかった』だろうしな。

 もっとも、あの怪獣ですらギルガメッシュが本気になっていたら、あっという間に滅ぼされていただろうという恐ろしい事実もあるんだけど。

 ライダーの方は、『今までの聖杯戦争では、最終決戦まで生き残れなかった』という不名誉な実績しかないらしいし、問題ないというところかな。

 

 ……まあ、これ以上の原作崩壊は避けたいから、僕はキャスターを召喚するつもりだ。

 とはいえ、縁の品の選択肢が多い方が助かるのは事実か。

 

「ではお手数おかけしますが、時臣師のつてで『ライダーやキャスターとして召喚可能そうな英霊の縁の品』を探していただけないでしょうか?

 入手可能な縁の品のリストを見せていただき、それを元に検討したいと思います」

 

 いくら僕が希望を言おうとも、縁の品を入手できなければ意味がないし、ギルガメッシュ(とついでにランスロット)の縁の品入手に注力している今、僕用の縁の品の探索にはお金も時間もあまりかけられないはずだ。

 

「わかった。

 ギリシャ神話で登場する英霊を中心にして、縁の品となりそうなものが市場に出回っていないか調べてみよう。

 最悪召喚に使わずとも、降霊術に使うこともできるから、色々当たってみるとしよう」

 

 そう言って、時臣師は地下室から出ていった。

 

「よかったわね、りょう」

「よかったね、りょうくん」

 

 凛ちゃんと桜ちゃんも、僕が令呪を手に入れることを純粋に喜んでくれている。

 

「ありがとう、疲れただろうから、早く上に戻ろうか?」

 

 二人を引きつれて一階に戻りつつ、どの英霊を召喚するべきか僕は悩んでいた。

 ……とりあえず、この時代の士郎を探し出しておいて、保険として髪の毛を密かに入手しておくか。

 最悪、偶然召喚できたことにして、キャスタークラスでエミヤを召喚することにしよう。

 

 

 葵さんに挨拶をして自宅に帰ると、今度はタマモが話しかけてきた。

 

『マスター、至急報告することがあります』

『一体なんだ?』

 

『マスターが令呪を手に入れたことで、私に掛けられた封印が一部解除されました。

これにより、私は新しい機能が使えるようになりました。

 

『マスターが令呪を手に入れたことで、封印の一つが解除されました。

 これにより、封印されていた機能が起動しました』

『何の機能なんだ?』

 

 『令呪獲得をキーとして自動的に動き出す機能』とは、嫌な予感がするなぁ。

 

『解析プログラムです。

 マスターが手に入れた令呪について、すでにライン経由で解析を開始しています』

 

 ……もう驚かないぞ。

 

『どうせ用意周到すぎるご先祖様が、子孫がマスターになったとき、令呪の秘密を暴くために用意していたやつなんだろ?

 令呪の絶対命令権は、冬木の大聖杯で召喚されたサーヴァントにしか効果がないらしいけど、それでも

・どうやって、サーヴァントに絶対命令権を刻み込んでいるのか?

・どうやって、令呪を作り出しているのか?

とかが分かれば、それは役に立ちそうだしな』

『ええ、その通りです。

 ですが、正確に言えば、解析機能が対象としているのは聖杯戦争に関わる全てのことです。

 現在の解析対象は令呪のみですが、マスターがいずれサーヴァントを召喚すれば、サーヴァント召喚の儀式、そしてサーヴァントそのものの解析も行うでしょう。

 サーヴァントは対魔力を備えた存在が多いですが、さすがにマスターのライン経由ならばそのようなセキュリティが働かない場合が多いかと』

 

 なるほど、『英霊に聖杯戦争の仕組みやその土地の歴史や言語などの知識を渡した方法』や『クラスに応じた能力を与える方法』までも解析するつもりか。

 ……本当にご先祖様は計り知れないほど貪欲な研究意識を持っていたんだろうな。

 まあ、子孫としては助かるから嬉しいけど。

 

 相当の魔力は必要となるかもしれない、いやその可能性は高いけど、自力で令呪が複製できるようになればそれは強力な武器となる。

 あと、さすがに無理だとは思うが、『サーヴァントにクラスに応じた能力を与える方法』を解析し、それを人や使い魔にも使えるようになれば、その効果は計り知れない。

 

『わかった。

 その解析機能で何か分かったらすぐに教えてくれ。

 ……もちろん、時臣師にも、雁夜さんにも内緒だぞ』

『当然です。

 全ての成果はマスターのものです。

 解析機能が正常に動作しているか、私もチェックしておきます』

『任せたぞ、タマモ』

『はい、任せてください』

 

 僕にできることはないが、がんばってくれ、タマモとタマモの解析機能。

 

 タマモ自身が嬉しい意味でびっくり箱のような存在で、本当に頼もしい限りだな。

 そんなタマモを残してくれたご先祖様には、ただただ感謝の一言だ。

 




【にじファンでの後書き】
 なんかすごい勢いで物語が浮かんできて、わずか二日で更新できました。
 内容に矛盾とかがなければいいんですが。


【備考】
2012.05.10 『にじファン』で掲載


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第09話 二人目の使い魔(憑依六ヶ月後)

 僕が令呪をゲットし、僕とタマモがマスターになることがほぼ決定した。

 

 それはすでに覚悟済みだったので別に構わないが、……雁夜さんはこのままで聖杯戦争までに令呪を得られるのだろうか?

 時臣師も『不安だ』とはっきり言っているし、……さて何かいい案はないか?

 やっぱり、葵さんの魔力バックアップ作戦が潰れたのは痛かったなぁ。

 あれが実施されていれば、雁夜さんは葵さんとラインが繋がっている限りハイテンション状態になって一気にレベルアップして、令呪なんてすぐにゲットできただろうに。

 

 う~む、サーヴァントが召喚可能な時期になったらさっさとダブルキャスターを召喚して、臓硯を捕獲し、(原作で真アサシンを召喚できたので)臓硯が持っている可能性が高い予備の令呪とか、聖杯戦争の裏技情報とか、もし残っていればマキリの魔術刻印とかを全て奪いつくし、それを雁夜さんに全部提供し、それでも駄目なら寿命が減らない程度に雁夜さんを魔改造するしかないか?

 僕のご先祖がミイラ化した腕に魔術刻印を残したように、原作において時臣の死体から凛に魔術刻印を移植したように、かつて魔術刻印を継承した間桐家の魔術師の死体が残っていれば、雁夜さんが魔術刻印を引き継げる可能性は残っている。

 

 ……ああ、魔改造と言えば、八神家の降霊術があるじゃないか。

 降霊術を使って、雁夜さんを一時的にでもパワーアップさせれば、令呪を得られる可能性はかなり高くなるだろう。

 

 ……ん?

 良く考えれば、臓硯が令呪を持ってさえいれば、それを奪って雁夜さんに移植すればそれでケリがつくじゃないか!

 いくら臓硯でも令呪がなければ、真アサシンを召喚できるはずがないからな。

 よし、それでいこう!

 さすがに、『今までの聖杯戦争で未使用の令呪を保有している言峰璃正神父』から令呪を奪うのは、色んな意味で不可能だろうしなぁ。

 

 

 次の課題は、「召喚したサーヴァントをどうすれば雁夜さんは維持できるか?」だな。

 そのためには、「降霊術使用による雁夜さんの(一時的ではない)パワーアップの実現」を試すのもありだろう。

 時臣師とも相談して、色々と考えてみよう。

 

『雁夜さんと相性のいい英霊は当然ランスロットだろうから、その分霊を雁夜さんに降霊させ、魔力を含めた身体能力パワーアップを目指してみるか。

 無茶なことをするから魔術回路を含めて全身筋肉痛とかになるかもしれないけど、後遺症とか寿命が減るようなことがなければセーフということで。

 死なせるわけではないけど、死ぬ気でがんばってもらおう。

 ……タマモはどう思う?』

『そうですね。

 やっぱり力がない人が力を手に入れようとした場合、何らかの代価や制限があるのは当然ではないでしょうか?

 ……さすがに原作の余命一ヶ月は限度を越えていますけど、逆に言えば『そこまでしなければ令呪を手に入れられなかった』とも言えるわけですし。

 私の力もまた、マスターのご先祖様が『魔術師としての全て』と引き換えにして作り上げたものですから』

『だよなぁ。

 険しい道だけど、雁夜さんが自分で望んだわけだから、進むしかないよな。

 ……もっといいアイデアが思いつくといいんだけど』

 

 雁夜さんのフォローはしたいけど、マスターとなる僕が弱体化したら本末転倒なので、僕たち(僕、タマモ、桜ちゃん、凛ちゃん)から魔力供給は無理。

 時臣師もマスターだから無理。

 言峰綺礼は接触自体論外、というか死亡フラグそのもの。

 臓硯はさっき考えた通り、サーヴァント召喚後に速攻で抹殺するとして。

 残っているのは、……士郎?

 ……いやいやいや、さすがにそれは駄目だよな。

 わずか4歳の幼児を騙して、死ぬ危険性があるのに魔術回路を構築させ、雁夜さんに魔力供給させるって、幾らなんでも外道すぎるだろう。

 

 それに、万が一この世界も『Fate/Zero』と同じ結果になった場合、士郎を第五次聖杯戦争のマスターとしてキープしておく必要がある。

 慎二の魔術回路を無理矢理開くのも無理だろうし、残っているのは……『臓硯が桜の代わりに養子にするであろう見知らぬ幼女』ぐらいか?

 まあ、桜ちゃんほどの逸材が見つかるはずもないし、聖杯戦争までに間桐家に養子入りするかどうかもわからないんだけど。

 

 もし、聖杯戦争前に間桐家の養子がいれば、臓硯抹殺と同時に保護して、ついでに『雁夜さんと仮契約(パクティオー)してもらって魔力供給してもらえないか?』を駄目元で頼んでみるか?

 ……理想は彼女が間桐家に養子入りしたその日に彼女を救出することなんだけど、聖杯戦争開始の1年ぐらい前だとさすがにサーヴァントを召喚するのは無理そうだから、……可哀想だけどサーヴァント召喚後じゃないと助けられないか。

 これが、凛ちゃんや桜ちゃんだったら、多少の危険を冒して助けるのもありなんだが、……いくら幼女とはいえ、見知らぬ誰かの為に僕は命を賭けることはできない。

 僕は正義の味方じゃないからな。

 雁夜さんなら、……いや雁夜さんでも難しいかな。

 今の雁夜さんの最重要目的は、葵さん、凛ちゃん、桜ちゃんの幸せを守ること。

 いくら自分の実家が行っている悪行であろうとも、どうしても優先順位は下がってしまうだろう。

 ……せめて、助けた後のアフターケアを充実させて、埋め込まれた蟲を可能な限り除去して治療をするのは当然として、間桐家で過ごした地獄の日々の記憶を封印するとか、できるだけ彼女の希望を叶えてあげることしかできないか。

 偽善といえば偽善だが、何もしないよりはよっぽどいいだろう。

 

 

 ああ、ソラウを拐って、じゃなかった、誰か(多分切嗣)に殺されそうになったら助けて、対価として魔力供給させるのはありだな。

 もっともそれは、聖杯戦争の中盤以降の話だけど。

 

 今、思い付くの案はそれぐらいか。

 何とかしてあげたいが、一時的に魔力供給して雁夜さんが令呪を得ることができたとしても、継続して魔力供給ができなければサーヴァントを維持できず、すぐに負けてしまうのが目に見えている。

 何せ、原作では雁夜さんは令呪を得られたわけだから、『この世界で雁夜さんが自力で令呪を得られなかった場合、この世界の雁夜さんの魔力量は原作の雁夜以下』ということになる。

 どう考えても、それではまともに戦えないだろう。

 

 う~ん、いい解決策が思い付かない。

 今後の要検討課題だな。

 

 雁夜さんはいい人だし、葵さんたちを大事に思っているし、努力家なんだけど、……本当に才能が乏しいんだよなぁ。

 努力と集中力だけは本当にすごいから、『努力で才能の限界を超える』のを祈るだけか。

 ……多分、無理なんだろうけど。

 

 

 そんなふうに雁夜さんのことを考えつつ眠りにつくと、いつも通り夢の世界にタマモが現れた。

 毎日の日課である魔術の勉強を始めようとしたところ、タマモが妙に畏まって「重要な話がある」と言ってきた。

 

 そして、その重要な話を聞いてひっくり返ってしまった。

 タマモは『私の記憶から人格と外見を構築した』わけだが、同じ機能を使って私の記憶を元に、なんと原作の凛と桜の仮想人格を、凛ちゃんと桜ちゃんのバックアップ人格として作ろうと考えていたらしい。

 しかも、私を驚かすために内緒で。

 だが、実行する直前に、「やっぱり相談した方がいいかと思い直して相談した」とのこと。

 

「この駄狐が!

 本人の承諾も得ずに、勝手に別人格を作るんじゃない!!」

 

 当然私は、容赦なく叱ったが、タマモは不思議そうな顔をしていた。

 

「えっ? でも、いざというときのバックアップ人格として使えるので、気絶したときとかにバックアップ人格が体を動かすことができますし、彼女たちが使い魔を作ったときに、使い魔を爆アップ人格がライン経由で操作もできて、主人格は使い魔への負担が減るし良いことづくめですよ」

「お前がそう思うのは勝手だが、実行するなら本人の了解をもらってからにしろ!」

 

 危なかった。

 こんなことを勝手にしたとばれたら、時臣師にどんな目にあわされたことやら。

 本物と区別がつかないぐらいそっくりの原作の凛や桜(の人格)と会って会話できるのは魅力的だが、あまりにも勝手すぎるし、リスクが大きすぎる。

 この時点で時臣師を敵に回すわけにはいかないしな。

 

「……わかりました。

 バックアップ人格があれば彼女たちの生存確率が上がるし、マスターも喜ぶと思ったんですけど、……残念です。

 それでは今まで通り、凛ちゃんと桜ちゃんには良妻になるための教育を、夢の中で教えるだけにしておきますね」

「本人の承諾があるのなら別に止めはしないが、……頼むから変なことを吹き込むなよ」

 

 全く、何をしていたのかと思ったら、良妻教育とは。

 まあ、別人格を作るよりはよっぽど平和的だし、別に構わないか。

 正直私は、直前に聞いた話のショックが大きすぎて、『良妻教育』など大したことないと思ってしまった。

 

「では、予備プランとして進めていた私の使い魔を紹介しますね」

「ちょっと待て!

 使い魔のお前が、何で使い魔を持っているんだ?」

「それはもちろん、私ではカバーできない部分を使い魔にフォローさせるためですよ」

 

 タマモは、それはもう満面の笑みで自信たっぷりに答えた。

 

「フォロー、だと?」

「はい、私はマスター第一主義であり、どんなことがあろうともマスターの味方ですが、……残念ながら謀略とか戦略とかの話は苦手です」

 

 まあそうだろうな。

 時臣師を敵に回す危険性に気付かずに、私と凛ちゃんたちの為だと思って彼女たちにバックアップ人格を作ろうと思い、実行寸前まで進めてしまうぐらいだ。

 元が狐だし、仕方ないと言えばそれまでだけど。

 

「ですから、『戦略や謀略を得意とし、冷静沈着に状況を把握し、必要ならばマスターを止めることも辞さない使い魔』を作ろうと思い立ったのです。

 それから、私は自力で魔力を産み出せるので、使い魔に与える魔力も問題ありません。

 さらに言えば、時臣師はもちろん、雁夜さんにもマスターが持つ全ての情報を話せません。

 そういうことも考えた末、私以外にも全ての事情を話せる存在を作り出し、マスター、私、そして私の使い魔の3人であらゆることを相談したいと思いたったわけです」

 

 ふむ、タマモもタマモなりに色々と考えていたらしいな。

 そういえば、アニメのFate/Zeroでもイリヤが自分の中に存在しているコピー(仮想?)人格のアイリスフィールと会話しているシーンがあったか。

 間違いなく一般的ではないだろうが、魔術師が仮想人格を保有するというのは、そこまで珍しい話ではなさそうだな。

 

「ほう、そりゃ助かるな。

 確かにお前は頼りにしているけど、苦手な部分も色々とあるしな」

「申し訳ありません。

 でも、私は元々狐ですし、魔術で知能が強化され、こうしてマスターと会話ができているとはいえ、生まれてからまだ一年ちょっと、この人格ができて二ヶ月しか経っていないのですよ」

「わかってる、お前は天才だ。

 とはいえ、精神面で成長したとしても、性格的にもそっち方面は苦手そうだしな。

 だけど、お前が作った使い魔である以上、お前と似たような思考しかできないんじゃないか?」

 

 親に子が似るように、使い魔とかの人格も作り主に似るというのは良く聞く話である。

 

「ご安心ください。

 足りなければ他から持ってくるのが魔術師です!」

 

 自信満々に宣言するタマモに嫌な予感がしてきたが、タマモはそんな私を気にせず、タマモの使い魔を呼び出した。

 その姿を見た瞬間、私は無意識のうちに(夢の中だから)一瞬で作りだしたハリセンを使って、全力でタマモの頭を叩いていた。

 スパーン、と盛大な音が響き、驚いたタマモは涙目で振り返ってきた。

 

「いきなり何するんですか?

 痛……くはなかったですけど、ものすごく驚いたんですよ?」

「やかましい!

 驚いたのはこっちだ!!

 何で、遠坂凛、それも桜ルートに出てきた第五次聖杯戦争3年後の凛がいるんだ?

 凛ちゃんのバックアップ人格を作るのは止めたんじゃなかったのか!?」

「あれは、凛ちゃんの中での話です。

 彼女は、凛ちゃんから人格と記憶をコピーしてそれを核とし、私と同様にマスターの記憶から再構築した人格と姿を与え、さらに型月世界の全ての物語と設定情報をインプットした上で私の中に存在する、パーフェクト凛なのです」

 

 スパーン

 こりない台詞を吐いたタマモに、即座にハリセンの二撃目を喰らわせた私だった。

 そしてすぐに、アダルト凛(?)の方へ向き直り、頭を下げた。

 

「あ~、すまない。

 作り出しておいていまさらだが、マスターである私の監督不行き届きだった」

 

 私とタマモの漫才を驚いた顔で見ていた凛は、私の言葉を聞いて、我に返ったようだった。

 

「……別に構わないわ。

 まあ、今でも少し納得できないことはあるけど、タマモに作ってもらわなければ、この私は今ここに存在していなかったわけだし。

 何より桜が不幸になるところを助けてもらったんだから、文句は言わないわ」

「ちょっと待ってくれ。

 お前は自分がどういう存在か、きちんと自覚しているのか?

 人格はタマモが作り出したとして、記憶はどうなっている?」

「オリジナルの遠坂凛の記憶をベースに、一般常識と大学卒業レベルの知識と魔術の基礎知識などを持っているわ。

 タマモは、サーヴァント召喚時の対応を参考にしたっていってたけど。

 そして、観測世界における型月世界の全情報。

 ……まったく、世界は広いってこういうことを指すのかしら?

 平行世界どころか、上位世界である観測世界の知識と情報を見ることができるなんて、正直信じられなかったわ。

 もっとも、魔法である『無の否定』『並行世界の運営』『魂の物質化(天の杯)』『時間旅行』『青(時間旅行)』の情報。

 おまけに『直死の魔眼』、『真祖の吸血姫』、『ロアの娘』、『死徒27祖』。

 で、とどめに『第四次、第五次聖杯戦争』の詳細情報。

 さすがにこれだけ揃えば信じるしかなかったわ。

 それに、オリジナルの遠坂凛ではこれだけの情報を手に入れることは絶対に不可能でしょうから、そういう意味では感謝しているわ」

 

 ……さすがは遠坂凛(の仮想人格)。

 感心するほど、ものすごくポジティブである。

 

「その通りですよ。

 マスターとマスターの婚約者たちを守れるように必要な情報を提供したんですから、ちゃんと役目を果たしてくださいね」

 

 そう遠坂凛(の仮想人格)に言った後、タマモを私の方へ向いてちょっと後ろめたそうな顔をした。

 

「……実を言うとですね。

 この使い魔と言うか、私の人格を作りだす機能は、元々複数回使うことが想定されていた機能なのですよ」

「なんだと?」

 一体何にその機能を使う予定だったというのだ?

「……その、ですね、ご先祖様が想定されていた状況では、マスターは独学で魔術を学ばれるはずでした」

「まあ、そうだな」

 

 まさか、『八神家の魔術を対価として全て提供して、遠坂家に弟子入りする』なんて荒業を行うとは、あのご先祖様ですら想像できなかったのは間違いないだろう。

 

「ですから、『八神家の魔術書』と私という『八神家の魔術を全て記憶する使い魔』以外にも、『魔術の教師役』も用意する予定だったのです」

「納得できなくもないが、……別にお前が教師役でもよかったんじゃないか?」

「ダメですよ。

 教師というのは、生徒に敬意を持たれつつ疎ましがられる存在です。

 そんな存在が使い魔では、使い魔を信頼するどころか敬遠してしまいます。

 それでは、使い魔の存在価値が半減してしまいます」

 

 ……言われてみれば、その通りか。

 「真面目で厳しい教師=信頼できるパートナー」なんて、普通成り立たないよな。

 思い出してみれば、前世で読んだ小説やマンガにおいて、教師役の使い魔 or 侍従ロボットという存在は常に疎ましがられて、下手すると封印処理をされていた場合もあったな。

 

「ですから、使い魔とは別に教師用の人格を構築し、夢の中でマスターの先生として八神家の魔術を教え込む機能があったわけです。

 ついでに、主人格である私が気絶するとか、精神崩壊したときなどに、バックアップ人格としてこの体を操作する役目も持っていますけど」

 

 本当に無駄がないなぁ。

 確かに、二心同体の鉄腕少女みたいに、主人格が気絶したときに、もう一つの人格がその体を操作して危険な状況から離脱できればすごく便利なのは確か、か。

 

「それで、パートナーとして理想の人格をマスターの記憶から探しだし、私の趣味で選んで作り上げたのがこの私の人格。

 同じ方法でマスターが望む先生として相応しい人格を探しだし、作り上げたのがこのアダルト凛です」

 

 一言聞き逃せられない言葉があったが、とりあえず追及は後回しだ。

 

「アダルト凛はよして。

 ……そうね、私は選択の余地なく『あなたの使い魔の使い魔』として作られたわけだから、責任を取ってもらう意味も含めて『八神真凛(まりん)』と呼んでちょうだい。

 それとも、貴方は八神遼なんだから、私は朝霞万里絵と名乗ったほうが良かったかしら?」

 

 『アダルト凛』、改め『八神真凛』は、自分の新しい名前を宙に描きつつ名乗った。

 真の凛で、真凛(まりん)か。

 色々と意味深だな。

 

「了解。八神真凛だな」

 

 確かに凛は士郎の魔術の先生だったし、私の魔術の先生役としても最適かな?

 お調子者のタマモのストッパー役や、いざというときのバックアップ人格としても頼りになりそうだし。

 ……ん?

 

「って、ちょっと待て!

 何で真凛が『ザンヤルマの剣士』の情報まで持っている?」

「あ、それは、何かの役に立つかと思いまして、マスターがかつて読んだファンタジー、SF、魔法関連の作品の情報も全部渡しました」

「安心して。

 私は、他人の趣味を言いふらすような悪趣味は無いから」

 

 そう言いつつ、真理はにやにや笑っていた。

 くそ~、私の趣味とか嗜好が完全にばれたな。

 言いふらすことは無くても、私に対してからかうネタとして十分活用するつもりだろう。

 ……まあ、今さらどうしようもないし、諦めるしかないか。

 

「それにしても、何でさっさと教師役の人格を作らなかったんだ?」

 

 これは純粋に疑問である。

 夢の中での魔術の勉強はずっと続けていたわけだし、そこに教師がいれば、より勉強がはかどったのは間違いないと思う。

 

「え~と、その、それはですね」

「うん」

「マスターを独占したかったから、なんです。

 ……実は」

 

 てへっ、と舌を出して、可愛く謝ったタマモに対して、

 スパーン

 本日三回目のハリセンが炸裂した。

 

「その気持ちは分からなくもないが、それで私が弱体化したら本末転倒だろうが!」

「それに気づいたから慌てて作ったんですよ。

 令呪を得て、マスターが聖杯戦争に参加することが確実になりました。

 ですから、凛ちゃんと桜ちゃんとラインを結んで魔力量が大幅に増えても、マスター自身が未熟では聖杯戦争を生き残れないと思い至りまして」

「そうか。早めに気づけて幸いだったな」

 

 聖杯戦争まであと二年ちょっと、本当に残り時間は少なくなっているからな。

 

「で、ですね、その……」

「なんだ、まだ何かあるのか?

 いいからさっさと全部吐け!」

「その~、マスターの教師役の人格を作ろうと決意し、気合いを入れて探しだした結果は遠坂凛だったわけです」

「そうだな」

 

 確かに、(ほぼ素人だった衛宮士郎の)魔術師の先生役という意味で、遠坂凛の印象は強い。

 他に魔術師の教師として優秀そうなのは、……教える姿を見たことはないけど、大人になったウェイバーか?

 

「で、遠坂凛のオリジナルである凛ちゃんはすぐ側にいて、睡眠時に接触すれば私が直接凛ちゃんの記憶を読み込むことも可能なんです」

「……それで?」

「凛ちゃんから人格と記憶をコピーしたことはさっき説明しましたけど、折角なのでそれを元に「桜が養子に出され、父が死亡し、母が精神崩壊した後死亡し、人格破綻者である綺礼に育てられた状況」をある程度シミュレーションし、凛の仮想人格の精神年齢を成長させ、原作の17歳時点の性格を構築したわけです」

「……相変わらず、無駄に高機能を持ったやつだな」

 

 キャス狐と琥珀さんの情報から、現在のタマモの人格を作り出しただけのことはあるか。

 ご先祖様って、使い魔の人格構成プログラムに相当力を入れていたらしい。

 確かに、使い魔の人格はマスターにとって重要なのは間違いないけど。

 ん、ということは、彼女の外見は20歳ぐらいでも、精神年齢は17歳ってことか?

 

「で、ですね、そこまでやった結果「完全な自我を持っただけじゃなくて、あなたにもある程度反抗できるだけの力を手に入れてしまったのよね。

 ……それこそ、マスターとサーヴァントの関係のように」

 

 振り替えると、真凛が『あかいあくま』の笑みを浮かべていた。

 

「まじか?」

「あっ、安心してください。

 与えた知識とかここで話したことは、しっかりブロックがかけてあるので、マスターや私の許可がない限り、他の人に話すことや伝えることはできません。

 さすがにそこまではプロテクトを破られてはいません」

「ええ、今はね。

 ……でもそれがいつまで持つかしらね」

 

 タマモの必死の弁解も、真凛が余裕たっぷりに反論してみせた。

 

「むき~!

 私の誇りにかけて、絶対にそんなことは許しません」

「ふふん、所詮私もあなたも同じく作られた人格なのよ。

 おまけにあなたは産まれたばかり。

 一方私は、コピーとはいえ4歳の遠坂凛の記憶と人格を元にして彼の記憶から再構築した人格。

 主人格はそっちであることを考えても、どっちが有利かは火を見るより明らかじゃないかしら?」

 

 何も言い返せず睨み付けるタマモに、涼しい顔で受け流す真凛の姿は恐ろしかった。

 おいおい、こんなに仲が悪くて大丈夫なのかよ?

 

 下手にちょっかいを入れてとばっちりが来るのが怖かったが、どうしても確認するべきことを思い出し、私は勇気を出して発言した。

 

「君が『アーチャーのマスターとなった17歳時点の遠坂凛にすごく近い存在』なのは分かったけど、そうなるとやっぱり時臣師を助けることが最優先になるのか?」

 

 私がそう言った瞬間、真凛の表情は暗くなった。

 

「そうしたいのはやまやまだけど、アンリ・マユの復活を阻止するのが最優先なのは私も同意よ。

 あれを復活させれば世界の危機なのは間違いないし、そうなればお父様たちも生き残れるか分からない。

 そしてあなたたちが、話せる範囲、お父様が信じられる範囲で情報を提供し、助けてくれていることもわかっている。

 ……だから、私も貴方たちの方針を認めるし、その手助けをするわ。

 その行動の妨げにならない範囲で、お父様を助けるアイデアを提案するつもりだけど、ね」

「それなら全く問題ない。

 じゃあ、これからよろしく」

「ええ、よろしくね」

 

 そう言った瞬間、真凛の笑顔はとても素敵で、私は思わず見とれてしまった。

 そして、嫉妬するタマモに私はつねられ、真凛には大笑いされてしまった。

 

 魔術刻印と魔術回路どころか、体すらない存在であり、作られた仮想人格だというのに、原作の遠坂凛と同じく真凛の魅力は健在のようだ。

 ……記憶を元にここまでハイレベルに人格を再現できる機能って、もしかして封印指定クラスじゃないか?

 少なくとも使い魔の人格作成時には、多くの人が使いたいと思う機能だと思う。

 いつか、桜ちゃんや凛ちゃんが、人格を持った使い魔を作ろうと思った際には、部外秘ということで使わせてあげるのもいいかもしれないな。

 

 

「それからマスターがお望みなら、マスターにも仮想人格を作りますよ。

 マスターのフォローは私がしますから、無くても大丈夫だとは思いますけど」

「遠慮するよ。

 元々、バックアップ人格を作るように調整されたお前ならともかく、私が二重人格になったらどんな副作用が起きるかわからないからな」

 バックアップ人格に体を乗っ取られるとか、バックアップ人格と融合して、全く別の人格に変わってしまうとか、考えるだけでもぞっとする。

「ああ、マスターの心配ってそういうことだったんですか!

 安心してください。

 マスターの脳に新しい人格を書き込むわけではありません」

 

 タマモはものすごく意外なことを言ってきた。

 

「そうでした。

 まだこのことは未説明でしたね、申し訳ありません。

 これから詳細を説明しますが、マスターの認識を確認させてください。

 話は変わりますけど、降霊術を行った場合、術者は召喚した魂を一時的に自分に格納し、その間召喚した魂の力を借りるわけですよね」

「ああ、確かにそうだな」

 降霊術の基本中の基本である。

「つまり、降霊術が可能な魔術師には、魂を格納する魔術的な領域を持っているわけです。

 八神家ではこの領域を『魂の空間(ソウルスペース)』と呼んでいます」

 

 ……確かに理論上はそうなるな。

 その空間がなければ、魂を格納することも、魂から力を借りることもできはしない。

 

「それで、八神家の魔術では、その魂の空間(ソウルスペース)の一部に仮想人格を保管するわけです。

 真凛の仮想人格も、私の魂の空間(ソウルスペース)に保管しているんですよ。

 だから、バックアップ人格の存在による、人格融合とか記憶混在とか脳への負担とかは一切考えなくて大丈夫です。

 それから、理由は分かりませんが、マスターの魂の空間(ソウルスペース)は私と比べて桁違いに広いですから、仮想人格一人ぐらいでは全く影響ありません。

 私の魂の空間(ソウルスペース)は、真凛だけでほとんど容量一杯になっちゃいましたけど」

 

 そうなのか?

 それなら、英霊とかを対象にして問題なく降霊術が使えそうだな。

 原因は、やっぱり憑依かな?

 観測世界の魂がこの世界の魂と融合することで、魂の空間(ソウルスペース)が桁違いに広くなったとかは、十分ありそうな話だし。

 

「ほんと、すごい技術よねぇ。

 実際に作られた仮想人格である私が言うのもなんだけど、その発想と実現した技術力には本当に驚いたわ」

「あっ、気を付けてください。

 魂の空間(ソウルスペース)が広いということは、強力な魂を降霊可能ということですが、その力を使うのはマスターの体です」

「……それって、もしかして?」

「はい、体の限界を超えた力を使った場合、肉体は壊れ、魔術回路は焼き切れる可能性があります。

 くれぐれも無茶はしないでください」

 

 いくら強力な魂、例えば英霊の分霊を降霊できたとしても、出力部分である私の体と魔術回路がボトルネックになってしまうわけか。

 くそ~、やっぱりうまい話はないか。

 英霊の力に耐えられるようにするとなると、……やっぱり衛宮士郎のように毎日魔術回路を作り直して、宝具の投影に耐えられたぐらい桁違いに丈夫な魔術回路に鍛え上げるしかないのか?

 雁夜さんも週に2~3回のペースで魔術回路の再構築の修行を続けた結果、「魔術回路が増えるようなことはないものの、魔力生成量と魔術回路の耐性が自覚できる程上昇した」って言っていたしなぁ。

 

 聖杯戦争まで約2年。

 令呪も手に入れ、桜ちゃんと凛ちゃんとラインを繋げて魔力を送ってもらい、優秀(?)な使い魔を二人手に入れた今、僕も本気で命を賭けて修行を始めないといけないのかな。

 はあ~、やるしかないのか。

 

 

 こうして、タマモの暴挙というか英断というか判断に迷ってしまう行動により、新しいパートナー(現時点では、タマモの使い魔扱いの仮想人格)である真凛が加わった。

 一筋縄ではいかず、すでにタマモの完全な制御下にないというイレギュラー的な存在ではあるが、頼もしさと頭の回転の早さは折り紙付きだと言えるだろう。(『うっかり』までオリジナルから引き継いでいないことを祈るが)

 幸いにも、彼女は僕たちの行動方針に賛同してくれるようだから、僕とタマモと真凛の3人で、幸せな未来を目指して死なないようにがんばるとしよう。

 




【にじファンでの後書き】
 今回もかなり無茶をした気分です。
 設定的にはぎりぎりセーフだと思いますが。
 なお、魂の空間ソウルスペースは独自設定ですのでご了承ください。
 設定において、何か解決不能な矛盾などがあれば修正します。

 PV21万達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.05.12 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.05.12 『間桐家の養子』について追記しました。


【設定】

<パラメータ>
 名前 :八神真凛(まりん)
 性別 :女
 種族 :仮想人格
 年齢 :0歳(精神年齢は17歳、外見は20歳)
 職業 :使い魔(仮想人格)
 立場 :タマモの使い魔兼バックアップ人格
     八神遼平の教師
 ライン:八神遼平
 方針 :アンリ・マユの復活阻止
     遠坂時臣を助けるアイデアを提案予定
 備考 :4歳の遠坂凛の記憶と人格を核に、八神遼平の記憶を元にして再構築された17歳の遠坂凛の仮想人格


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第10話 修行と勉強の日々(憑依七ヶ月後)

 仮想人格という予想外の『使い魔』兼『魔術の教師』が増えてから、一ヶ月が経過した。

 

 やはり、教師が、それも頭の回転が早く理性的な教師がいると、勉強の効率は段違いだった。

 惜しむらくは、真凛もまた原作の凛と同じく天才タイプであり大抵のことは直感的に理解できるがゆえに、『凡人が何をどうして理解できないか?』が理解できず、『僕が理解できていない部分について、理解できるように(理解しやすいように)説明する』ことができないことぐらいだ。

 「そこまで原作通りでなくても」と思いつつ、性格の再現性の高さには感心してしまった。

 

 それと教育の報酬として、私の記憶から再現した『Fate/Zero』のアニメと小説、そして『Fate/stay night』『Fate/hollow ataraxia』のゲームを真凛にプレゼントした。

 とはいっても、所詮はデータでしかなく、私の精神世界内でしか閲覧できないものではあるが。

 『記憶として渡された聖杯戦争関連のデータ』は一部しかなかったこともあり、聖杯戦争のアニメやゲームを夢中になって見ていた。

 当然と言うべきか、アニメとはいえ時臣師が殺されたシーンを見た際には、さすがに辛そうな顔だった。

 『Fate/Zero』のアニメを見終え、さらに小説を全て読んだ後、真凛はぽつりとこぼした。 

 

「お父様が綺礼に殺されたとは知っていたけど、……まさかあんな殺され方をしたなんて」

 

 確かに言峰の不意打ちを無防備に喰らって、何もできずに死んだからな。

 引きこもり戦術を取っていたせいもあったが、時臣本人の戦績は『雁夜に勝った』だけで悲しいほど見せ場が無かったし。

 

「いや、第五次聖杯戦争でも、凛は綺礼に不意打ちされて殺される寸前だったぞ?」

「そうなの!?」

「あっ、そこまで細かい情報はもらってなかったんだ。

 本当だよ。

 綺礼は第五次聖杯戦争でもやりたい放題だったからな」

「……まあ、そうなんでしょうね。

 お父様は殺され、お母様も殺されるように誘導され、雁夜おじさんはいいように操られ、……ああ、本当にムカついてきたわ」

 

 4歳とはいえオリジナル凛の記憶を持っているので、真凛もまたこの三人への思い入れは強いようだ。

 

「雁夜さんの場合、もうちょっとやり方とか考え方を変えていれば、あそこまで悲劇的な展開にならずに済んだ可能性が高かったと思う。

 まあ、時臣師があそこまでうっかりというか、『間桐家に嫁入りした女性の状況』を全く調べていなかった時点で、臓硯の次ぐらいに時臣師に責任があるのは言うまでもないけど。

 それから、蟲地獄を1年耐え切った雁夜さんの精神力は大したものだけど、その対価として『精神に異常をきたした』とか、『視野が狭くなった』とか、『思い込みが激しくなった』とかの可能性は否定できないと思う」

「……そうね。

 私でも、あれを正気のままで耐えきれる自信はないわ。

 そこまでして桜を助けようとした雁夜おじさんの決意には感謝するけど、……どうしても『お母様を通して、桜の詳細な状況と未来予測をお父様へ伝えて欲しかった』と思ってしまうわね。

 ……『事件の全貌を知っている第三者視点』だからその回答へたどり着けるということは、自分でも分かっているつもりなんだけど。

 貴方の言うとおり、お父様の調査や認識不足は言い訳のしようがないし、そこまで雁夜おじさんに察しろと言うのは酷よね。

 雁夜おじさんは、自分の知りえる情報と与えられた立場の中で最善を尽くそうと努力してくれたけど、…… 残念ながらそのほぼ全てが裏目に出てしまったわけね」

 

 真凛は本気で、(原作の)雁夜おじさんのことを悼んでいるようだった。

 

「まあ、だから、私が早めに未来情報の一部を提供して時臣師の認識を教えただけで、雁夜さんは方法を間違えることなく、桜ちゃんを助けることに成功した。

 そして、今も努力し続けてるわけだから、この世界なら雁夜さんは幸せになれると思うよ」

「そうね。

 未来情報を持つというイレギュラーな貴方と組んで、確実かつ正しい方法で桜を助けることに成功して、お母様たちを助けることだけを考えているわけだから、……よほどのことがない限り、雁夜おじさんは幸せになれる、と思いたいけど……。

 その『よほどのこと』が起きるのが、聖杯戦争なのよね。

 ……いいわ、私が全力で貴方と雁夜おじさんをフォローして、お父様たちが不幸な結果にならないようにしてみせるわ」

 

 実に頼もしい。

 これほどの存在を味方にすることができたわけだから、タマモには感謝しないといけないな。

 ……しかし、こうなると、『あからさまに時臣師を見捨てる選択肢』は取れなくなってしまったか。

 まあ、(時臣師が信じてくれる範囲で)情報は提供してあるし、あとは契約内容をきっちり守ってフォローしておけば、時臣師に不幸なことが起きても真凛も私を非難することはあるまい。

 

 その後、真凛は『Fate/stay night』のゲーム(ベースはPS2版、18禁シーンのみPC版に差し替えたカスタマイズ版)と『Fate/hollow ataraxia』を一気にプレイした。

 凛ルートをやった際には、色んな意味で面白い顔をしていたが、まあ深くは追及するまい。

 なお、ゲームを終えた後、真凛は色々なことを考え込んでいた様子だったので、僕とタマモは何も言わずにそっとしておいた。

 なにせ、セイバールートでは言峰に不意打ちで殺されかけ、凛ルートではアーチャーに裏切られるわ、桜ルートでは自分だけでは桜を助けることができずに終わるわ、色々と思うところがあるのだろう。

 ……ああ、英霊エミヤの過去とか、衛宮士郎と恋仲になった可能性があることとか、そう言ったことも気にしているのかもしれないな。

 結局、真凛はこの件には触れてほしくなさそうだったので、僕たちはこの件については触れないことにした。

 

 

 一ヶ月真凛と一緒に過ごした感じからすると、『オリジナルである凛ちゃん(4歳)の完全な記憶を持ち、コアとして凛ちゃん(4歳)の人格をコピーした真凛』は、玉藻御前とタマモの関係とは違って、『遠坂凛の成長した可能性の一つ』と言っていいぐらいに凛ちゃんと近い存在なんだろうな。

 残念ながら、(凛ちゃんの記憶から)真凛にインプットできた魔術関連情報が少なかったから、八神家の魔術の授業はできても、真凛の魔術に関してはレベルが低いけど。

 

 凛ちゃんには悪いけど『魔術師としての真凛』を成長させるため、今後も凛ちゃんの魔術関連の記憶だけは真凛にコピーさせてもらうべきか?

 そうしなければ、真凛が遠坂家の魔術を入手できる機会はないが、……さすがにそれは、凛ちゃんに対する『これ以上ないぐらいひどい裏切り行為』か。

 真凛には、遠坂家の魔術は諦めてもらって、その代わりと言っては何だが『八神家の魔術を(いずれ)全て教えること』で納得してもらうか?

 

「そういうわけで、今後凛ちゃんから記憶をコピーするのは辞めてもらいたいんだけど、どうかな?」

「マスター、それでは真凛が強化できなくなります!

 そりゃ、今のただの仮想人格の状態では、遠坂家の魔術の情報を入手しても宝の持ち腐れ状態です。

 でも、いつか蒼崎橙子と接触して『遠坂凛』の体と限りなく同じ人形の体を作ってもらい、それを真凛がライン経由で操作すれば、『魔術刻印がないだけのもう一人の遠坂凛』として活躍が可能です。

 私に逆らうことも多いけど、真凛は間違いなく優秀です。

 真凛が大きく成長できる可能性を自ら減らすなんて、もったいなすぎます」

 

 凛ちゃんを可愛がっているとはいえ、タマモは相変わらずマスター至上主義。

 凛ちゃん、ひいては遠坂家の秘伝や利益よりも、僕の利益を優先した考えであるようだ。

 一方、当事者である真凛はというとあっさりした反応だった。

 

「まあ、そうよね。

 いくら私が凛ちゃんを元にして作られた仮想人格だとしても、遠坂家の秘伝を奪うのは遠坂家にとって絶対に許されない行為よ。

 幸いと言っていいのかはわからないけど、現時点で凛ちゃんが学んでいたことは魔術の基礎であって、遠坂家の秘伝は含まれていなかったわ。

 だから、将来私の正体が全部ばれても、現時点の状態ならぎりぎりで許される可能性はあるけど、この上遠坂家の秘伝の知識を奪ってしまえば、……例え凛ちゃんでも私たちの存在を許さないでしょうね」

 

 真凛は真剣な顔つきで答えた。

 

「やっぱりそうか。

 まあ、一族の秘伝が完全な一子相伝の時点で、そういう扱いだとは予想していたけど。

 ……というわけで、凛ちゃんから真凛への記憶情報のコピーは、今後一切禁止だからな」

「……わかりました~。

 でも、すっごくもったいないです」

 

 さすがに私の言うことに逆らうつもりはないのか、タマモはしぶしぶながら頷いた。

 

「もったいないけど、時臣師や凛ちゃんを敵に回すわけにはいかないから当然の処置だよ。

 それに真凛も天才なんだ。

 凛ちゃんが遠坂家の魔術を使うところを見れば、独学でもある程度は再現だろうし、何より八神家の魔術を無制限で提供するんだ。

 凛ちゃんとは違う魔術を使うことになるだろうけど、匹敵、いや上回る魔術師になることも可能だろうさ」

「あら、ありがとう。

 ……でも、そうね。

 完璧とはいかなくても、お父様や凛ちゃんが実際に魔術を使うところを見れば、……その構成を理解できると思うわ。

 それに加えて、八神家の魔術を教えてもらえれば、……凛ちゃんを上回る魔術師になるのも十分可能ね。

 ……もちろん、魔術刻印抜きの状態での比較だけど。

 まあ、八神家の魔術は架空元素属性のものが多いらしいから、私に合わせてカスタマイズする必要があるとは思うけどね」

 

 真凛もやる気満々だな。

 

「もっとも、真凛の正体を凛ちゃんに教えた際に、凛ちゃん自身が遠坂家の秘伝に関する記憶のコピーを許可すれば、話は別だけど」

「それはありえないわね」

「まあ、そうだよね」

 

 真凛は即答したが、話しながら私自身もありえないとは思っていた。

 

「じゃあ、『凛ちゃんを模した人形の作成許可』だけでももらえるようにがんばってくれ」

「まあ、それが限界でしょうね。

 わかった。私の為でもあるし、できるだけ努力するわ。

 ……こうして桜の為にがんばっている貴方に協力して、観測世界の記憶を見せてもらうのも楽しいけど、……どうしても自分の体が欲しいと感じてしまうわね」

 

 やっぱり、体がない状態っていうのは不安なんだろうか?

 原作でも、全ての始まりである己の体を手に入れる為、イスカンダルも受肉を求めていたしな。

 真凛の場合、聖杯に受肉を願わなくていいぶん、体を手に入れられる可能性は高いと思うけど。

 こりゃ、早く橙子さんとの連絡を付けて、……いや凛ちゃんに『凛ちゃんを参考にした人形の体』を作る許可をもらう方が先か。

 どうしたものかなぁ?

 

 早めにキャスターでメディアを召喚できれば、『時臣師には内緒にしながら凛ちゃんに許可を貰って、メディアに凛ちゃんの人形を作ってもらうこと』は可能だろうか?

 ……いや、メディアが人形作りの技術を持っている可能性は低いから、やっぱり無理か。

 

 いやいや、キャスターの道具作成スキルで人形すら作成可能なら、……材料さえ入手できれば人形を作れる可能性は十分ある。

 人形にどんな仕掛けを仕込まれるか、ちょっと、いやかなり怖いのは事実だけどね。

 う~ん、とりあえず今できることは、真凛に凛ちゃんと仲良くなってもらって、時期を見計らって話せる範囲で事情を説明し、凛ちゃんの体を模した人形の作成の許可をもらえるように努力することしかないかな?

 で、本命は橙子、可能ならキャスターに依頼する方針が無難だろうな。

 

「そうそう。

 人形の入手を目指すといっても、実現するのは当分先でしょ?

 それまでの代替手段として、第五次聖杯戦争で桜がやったように、影で私の分身を作れないかしら?

 その分身を私が操作すれば、十分体の代わりになるわ」

「私の属性は、『架空元素・無』で『あり得ないが、物質化するもの』らしいから、多分影を作れるだろうし、技術が上がれば分身も作れるとは思うが」

「いいわ。

 それじゃあ、私がびしびし教えるから早く使えるようになりなさい!」

「ぜ、善処します」

 

 やっぱり、少しでも早く自分の意志で外で自由に動かせる体が欲しいんだな。

 気持ちは分からないでもないが、影で分身を作るだけでもハイレベルそうなのに、それを真凛の姿そっくりに構築するなんてどれだけ技術が必要なのだろうか?

 こりゃ、しばらくハードレッスンの日々が続くか?

 まあ、真凛には色々とお世話になっている以上、これぐらいはしないとダメか。

 

 いつか、真凛の人形が完成し、さらにタマモがキャス孤に変身可能になるか、キャス孤の人形が完成すれば、僕の隣には『キャス孤の姿をしたタマモ』と『遠坂凛の姿をした真凛』という二人の使い魔が並ぶわけである。

 想像するだけで、胸が熱くなるなぁ。

 僕以外のトリッパーが現れたら、一発で僕がトリッパーだとばれてしまうような事態ではあるけど、いつか必ずこの夢を実現してやろう。

 

 その後、真凛は凛ちゃんを口説き落とす方法の検討、僕の介入により起きた原作世界との違いなどについての調査、それを元にしたこの世界の未来予測などを行っているようだった。

 頼もしい限りである。

 

 

 こんな素晴らしい教師を僕だけが占有するのはもったいないと考え、また真凛からも『タマモが仮想人格である自分を作ったこと』を時臣師に報告するべきだとアドバイスがあった。

 そのため、『凛ちゃんの記憶と知識を(無断で)コピーしたこと』と『原作知識の遠坂凛の性格を再現したこと』のみを秘密として、使い魔であるタマモが教師役の仮想人格を魂の空間(ソウルスペース)に作り出したことを時臣師に報告した。

 

「そうか。

 教師役の仮想人格を作っていたのか」

 意外なことに、時臣師の言葉からは全く驚きが感じられなかった。

「ご存じだったんですか?」

「当然だよ。

 君から借りている八神家の魔術書に、そのことも記載されていた。

 ……ああ、もしかすると誤解していたのかな?

 君の使い魔にかけられた知識の封印は、マスターである君の成長に合わせて封印が順に解除されていくが、それらの情報はほとんど八神家の魔術書に書かれているのだよ。

 成長に合わせて封印が解かれるのは、あくまでも『マスターの成長に合わせて適切な知識を段階的に与える為』ということらしいね」

 

 なるほど。

 そこまで魔術書に書かれていたのであれば、時臣師が驚くはずもないか。

 

「ではお分かりだと思いますが、その教師役の仮想人格による授業を、私は毎晩夢の中で受けています。

 そして、仮契約(パクティオー)を行ってラインで繋がったことから、この夢の中での授業を、凛ちゃんや桜ちゃんも一緒に受けることが可能です。

 時臣師に許可していただき、彼女たちが望めば一緒に授業を受けようと思っていますが、いかがでしょうか?」

「……そうだね。

 それが脳や体に負担が掛からず、効率的に魔術の勉強ができるのであれば、ぜひともお願いしたいところだが……。

 ……まずは、桜の参加を許可しよう。

 そして、桜の様子を観察し、精神的肉体的に問題がなければ、いずれは凛の参加も認めよう。

 当然だが、異常が感じられた時点で即座に参加を中止させるし、場合によっては君に責任を取らせることもあるから、そのつもりで」

 

 桜ちゃんで様子見というところか。

 まあ、大切な跡取りに変な真似をされたらたまったものじゃないから、妥当な判断かな?

 

「了解しました。

 では、さっそく桜ちゃんに確認してみます」

 

 

 こうして時臣師の許可をもらってから桜ちゃんの意志を確認したところ、「わたしもいっしょにべんきょうさせて」と即答だったので、さっそく真凛を紹介した。

 タマモとはいつの間にやら仲良くなっており、あのキャス狐の姿もライン経由で見せていたらしく、紹介の必要がなかったのは意外だった。

 真凛は『髪型をストレートにして眼鏡をかけた女性教師モード』で現れ、凛ちゃんとは印象が全く違うため、桜ちゃんには『凛ちゃんの未来の可能性の一つの姿』だとばれずにすんだ。

 もっとも、幼いゆえに直感力に優れるのか、「お母様に似てる」と発言し、真凛はちょっと嬉しそうな顔をしていた。

 

 当然と言うべきか、真凛は桜ちゃんの教師としても優秀で、すぐに受け入れられていた。

 それにより、桜ちゃんの魔術の知識と実力がすごい勢いで上昇していった。

 しかし、桜ちゃんの精神や肉体に一切問題が起きていないこと確認した時臣師は、凛ちゃんに対しても夢の中での授業参加を許可した。

 そして、これは簡単に予想できたことだったが、元々真凛は凛の記憶と人格をコピーして作られた仮想人格であり、凛ちゃんに対する授業はそれこそ『痒いところに手が届く』ような配慮が行き届いたものとなり、凛ちゃんは桜ちゃん以上のスピードで魔術を学び、八神家の魔術についての知識や実力が向上していった。

 また、『凛ちゃんが桜ちゃんに対して教えている場面』などを微笑ましそうに眺めていて、真凛にとっても癒しの時間になっているようだ。

 

 なお、その後時臣師から何も言われなかったので、ライン経由の夢の世界での授業は全く問題ないと判断されたのだと思う。

 まあ、彼女たちに対して一切害意は無いし、真凛の正体がばれない限り全く問題はないのだけど。

 

 

 僕の例の修行の結果はというと、雁夜さんに修行のアドバイスを聞いた後、僕の心身共に絶好調の時にタマモと真凛にライン経由でフォローしてもらうことで、何とか無事に一回目の『魔術回路再構築の修行』を終えることができた。

 タマモと真凛にフォローしてもらったとはいえ、初めて魔術回路を作った時と同じく、最初から最後までずっと命の危険を感じ続ける恐ろしい時間だった。

 終わった時点で僕は精も根も尽きたが、ライン経由で二人は僕の体の変化を調べ、この修行の(僕の体への)効果を調べあげた。

 その結果、かつての予想通り下記の効果が確認された。

 

・通常の修行以上の魔力生成量の増加

・魔術回路の耐性の向上

 

 もちろん、たった一回だけでは本当に微々たる効果ではあるが、今後も同じペースで増加していくと仮定した場合、この修行を毎日一回年単位で実行すれば、ばかにならない効果となるらしい。

 つまり、『衛宮士郎の常識外れの魔術回路の耐性と魔術回路一本当たりの魔力量の多さ』は、あの『自殺行為の修行の成果』である可能性が高いとのことだ。

 ただし、残念ながら魔術回路が増えるような効果はないらしい。

 ……本当に残念である。

 

 だがまあ、実際に効果があり、失敗するリスクもタマモと真凛によって大幅に低下しているわけだから、これからもこの修行をする価値はある。

 できるだけ修行の頻度を上げて、可能なら衛宮士郎のように一日一回この修行をしたいものだ。

 ……もちろん失敗する可能性は、最小限に減らしたうえで。

 

 一方雁夜さんは、今までの命がけの修行の効果を立証され、喜ぶと同時にますますやる気を出していた。

 この調子だと、1日1回まで頻度が上がるかもしれないな。

 ……努力するのは結構ですが、くれぐれも死なないでくださいね。

 

 そうそう、令呪が見つかると僕がマスターだとバレバレなので、魔術具の疑似皮膚を時臣師にもらって、右手の甲に張り付け令呪を隠し、さらに令呪を魔力探知できないように簡単な魔力封じの魔術を掛けてもらった。

 絶対ではないが、これで令呪を手に入れたことはばれないだろう。

 

 

 僕もタマモも雁夜さんも、今のところ見つかっていないのか見逃されているのかは分からないが、ずっと臓硯からの接触もなく、目立たないように過ごしつつ魔術の修行に明け暮れる毎日である。

 臓硯なら、とっくに僕たちの存在に気付いていてもおかしくないとは思う。

 しかし、雁夜さんの家には桜ちゃんと僕が頻繁に出入りしており、臓硯は雁夜さんと遠坂家との繋がりが強いことを理解して、メリットとデメリットを比較して手を出すことを諦めたのだろうか?

 この件についてはタマモも真凛も警戒しているが、探知範囲に一切臓硯の使い魔らしき蟲がいないらしいので、しばらくは様子見の方針でいくことにした。

 

 

 以前から地道に続けていた『念能力の方法を流用した魔力制御の訓練』は、意外と効果を発揮している。

 魔術回路をONにする「錬」、魔術回路をOFFにする「絶」は、当然問題なくできている。

 それ以外に、魔力が拡散しないように体の周囲に留める「纏」、魔力を体の一部(眼など)に集める「凝」、魔力を集中させる部分を素早く変更させる「流」、魔力を自分中心に広げて維持する「円」、物に魔力を纏わせる「周」が少しずつできるようになってきた。

 最初「周」は『強化魔術でないとできない』と諦めていたが、よく考えると強化魔術は物体の内部に魔力を通して物体を強化するわけで、『物の周囲を魔力でコーティングする』のなら、純粋な魔力操作で可能だった。

 実際、ナイフで「周」を試すと切れ味はすごく良くなったが、魔力を帯びた魔術具や魔術師相手に「周」をした武器がどこまで通用するかはまだ試してはいないので、いずれ検証が必要だろう。

 魔力による探査結界の「円」も成功したので、現在は探査範囲の拡大と同時に、魔術師でも気づかないぐらい微量の魔力で「円」ができないか訓練を続けている。

 ……とはいえ、僕程度の魔術師ができることなんだから、全員ではないだろうが、それなりの魔術師なら似たようなことはできるんだろうなぁ。

 ……まあ、原作に『魔力による探査結界』が描写されていなかった以上、これだけは一般的な技ではない可能性は高いわけだし、……この訓練を続けて損はない、かな?

 

 ちなみに、念能力の「発」「堅」「隠」「硬」を魔力制御や魔力操作に応用することは無理だった。

 まあ、念能力の技術全部が魔力制御や魔力操作に応用できるわけもないから、当然といえば当然の結果だけど、駄目元で始めた割には結果が出た方だろう。

 今後は、効果があった技の技術を磨いていくのみ。

 ……一人で訓練するのも寂しいし、雁夜さんにも教えてあげようかな?

 魔術回路再構築のコツを教わった対価としてちょうどいいし。

 

 

 そんなこんなで充実した修行と勉強の日々を過ごしていると、時臣師から魔術刻印の移植について話があった。

 

「少し早いかもしれないが、八神家の魔術刻印の移植を開始しようと考えているが、君の意見はどうかな?」

「僕としては問題ありませんが、何かデメリットがあるんですか?」

 

 あ~、そういえば、魔術刻印を制御するため、クソまずい薬をずっと飲み続けないといけないんだっけ?

 強烈過ぎて体臭が変わってしまうぐらいの。

 あれだけは勘弁してほしいけど、無理なんだろうなあ。

 

「ふむ、君は数ヶ月ではあるが魔術について学び、魔術刻印を移植できるだけの段階に達している。

 そういう意味では問題ないし、そろそろ移植を開始しないと移植の終了が聖杯戦争に間に合わなく可能性がある。

 君自身が参戦する必要がないとはいえ、魔術刻印を全て移植しておけば、聖杯戦争において君の助けになると予想しているのだよ」

「……わかりました。

 釈迦に説法でしょうが、後遺症が残らず体にダメージが残らない範囲で、魔術刻印の移植をお願いします」

「よかろう。

 それでは、明日にでも魔術刻印の移植を実施する。

 聖杯戦争に間に合わせる為、一回に移植するのは大体二割ずつ、計五回に分けて実施する予定だ」

 

 それって普通より多いのか?

 魔術刻印の移植の話って、原作にほとんど詳細が載っていなかったからよくわからないんだよな。

 まあ、自身も魔術刻印を持っていて、そういうことに詳しいだろう時臣師の言うことを信じるしかないんだが。

 

『タマモ、時臣師の言うとおりで間違ってないか?』

『はい、聖杯戦争まで二年ちょっと。

 その期間でできるだけ早く、かつ限界を超えない範囲となると、一回ごとに2割の移植がベストな判断だと思います』

『そうか、じゃあ万が一時臣師が何か間違ったことを言ったら指摘を頼む』

『任せてください。

 私の役目はマスターのフォローと護衛です。

 大船に乗った気分でいてください!』

 

 機嫌がいいのは助かるが、本当に大丈夫かな?

 

 

 翌日、タマモと真凛が見つめる中、『ミイラ化したご先祖様の腕』から僕の腕へ魔術刻印の一部を移植する作業は無事に終了した。

 ……覚悟はしていたことではあったが、移植時の苦痛は半端なく、さらに移植した魔術刻印はものすごく疼いていた。

 『この疼きがしばらく続くのか』と少々鬱になった時、魔術刻印の一画が勝手に光ったかと思うと、全てではないがほとんどの疼きを抑えてしまった。

 予想外の事態に驚きを隠せずにいると、時臣師がその疑問に答えてくれた。

 

「本来、継承した魔術刻印を制御するためには、それ相応の薬を飲まなくてはならない。

 しかし、八神家は『継承した魔術刻印の制御を容易にする技術』の研究にも力を注いでいたらしく、『(八神家の)魔術刻印を制御する魔術』を作り出していた。

 これは驚くべきことだ!

 遠坂家には全くなかった発想だ」

 

 ……なるほど。

 多分、魔術刻印を制御する苦い薬を飲み続けるのが嫌で、必死に研究したご先祖様がいたんだろうなぁ。

 

「そして、これは既に君にも教えたことだが、使い続けた結果『手に取ることができるようになった魔術』は魔術刻印となる」

「まさか、それは!?」

「そうだ、今発動した魔術刻印は、『魔術刻印を制御する魔術刻印』なのだよ」

 

 なんとまあ、とんでもない魔術刻印があるものだ。

 おかげで助かったのは事実だけど。

 

「この魔術は、当然のことながら八神家の魔術刻印の制御に特化した魔術ではあるが、……どうやらカスタマイズが可能そうだ。

 多少時間は掛かるだろうが、『遠坂家の魔術刻印を制御する魔術』を作り出すことも可能だろう」

 

 やっぱり時臣師も『魔術刻印を制御するための強烈な薬』は嫌いだったのか?

 そう言った時臣師の顔には喜びの表情が見えた。

 時臣師は喜び、僕もくそ不味い薬を一生飲まなくてすむのは実にありがたい。

 おまけに、魔術刻印移植直後の疼きまで抑えてくれる機能付きとは、ありがたくて涙が出てきそうだ。

 

 なんと言うか、以前から思っていたが八神家のご先祖様たちって、僕と同じく発想が豊かで、魔術の使い勝手にも拘って魔術の改良や改善を進めてきたような感じを受ける。

 いい意味で伝統に縛られておらず、僕としてもとても受け入れやすい。

 それゆえに、伝統を重んじている時臣師にとっては、予想外で考えもしなかった魔術がたくさんあったんだと思う。

 

 ……ああ、そういうことか。

 八神家は『根源を目指す魔術師』ではあったが、『魔術使いとしてのスタンス』も完全には否定していなかったわけか。

 時臣師が受け入れられる範囲ぎりぎりのレベルで、魔術使いとしての発想をうまく取り込んでいた感じかな?

 まあ、僕は根源には興味は無くて、『完全な魔術使い』だと自覚しているけど。

 

 

 それから時臣師は、(まだタマモにおいて封印状態の知識である)八神家の魔術傾向について教えてくれた。

 八神家の魔術は降霊術に特化しているのは言うまでもないが、降霊術を補佐、あるいは強化する魔術にも力を入れていたらしい。

 

 例えば八神家は降霊術を使って、使い魔と一緒に戦闘を行う。

 つまり、『自分の体で戦う武闘派魔術師』の家系なわけだ。

 よって、自分の体の強化や肉体改造に関する魔術の造詣も深いらしい。

 

 その一環として、魔術刻印を制御する魔術も開発されたらしい。

 で、すでにそれも魔術刻印として登録され、魔術刻印の拒絶反応(疼き)を抑える機能まで追加されているところから想像すると、よっぽどご先祖様たちはその魔術を愛用していたことが伺える。

 

 こうして、魔術刻印(全体の2割程度)の移植は無事に成功したが、さすがにすぐに魔術刻印を使いこなすことはできない。

 例の魔術刻印のおかげもあり、通常より早く使いこなせるかもしれないが、まずはじっくり体に慣らせるしかないだろう。

 

 

 そうそう、今までどう対処するべきか迷っていたが、『雨生龍之介の実家探し』を雁夜さんに依頼することにした。

 当然、雁夜さんが持つマスコミ関連と探偵のコネを使って探してもらうわけだ。

 さらに本当の目的を内緒にしたまま、時臣師に今までの聖杯戦争の記録を見せてもらい、雨生家の先祖の魔術師の記録を探す予定だ。

 これで龍之介の実家を見つけることができ、僕の予定通りの対策を実施できれば、こちらのリスクは最小限にしつつ、龍之介は聖杯戦争に参加できなくなる。

 

 これがうまくいけば、色んな意味で厄介な龍之介は聖杯戦争から脱落決定。

 残る厄介なメンバーは、切嗣、綺礼、臓硯の3人とそのサーヴァントたち。

 そろそろ、彼らを対してどう対応するか考えておかないといけないな。

 

 といっても、冷酷非情、経験豊富、悪辣無比な彼らに対抗する方法なんて、サーヴァントに頼った力押し以外に対処方法はあるんだろうか?

 これから考える段階だというのに、すでに悲観的になってしまいそうだ。

 ……なんとか、がんばろう。

 




【にじファンでの後書き】
 今回はタイトル通り、修行と勉強がメインの地味な回です。


【備考】
2012.05.15 『にじファン』で掲載


【設定】

<パラメータ>
 名前 :八神遼平
 性別 :男
 種族 :人間
 年齢 :4歳(前世の記憶あり)
 職業 :幼稚園生
 立場 :遠坂時臣の弟子
     遠坂桜の婚約者(候補)
 属性 :架空元素・無
 回路 :メイン30本
 能力 :魔術(降霊術)
     令呪(三画)
     八神家の魔術刻印(全体の2割のみ)NEW
     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)NEW
 体質 :霊媒体質
     テレパシー(受信)
 使い魔:タマモ(子狐)、八神真凛(仮想人格)
 ライン:タマモ、八神真凛、遠坂凛、遠坂桜
 所持 :八神家の魔術書
     八神家の特製保管箱
 訓練 :念能力の方法を流用して『魔力制御』の訓練中
     魔術回路を作り直すという、死と隣り合わせの修行を実施中(2~3回/週)
 方針 :命を大事に
     アンリ・マユの復活阻止
     前世の記憶は絶対秘密
 備考 :転生系トリッパー(Fateなどの原作知識あり)
     八神家の魔術刻印を継承開始
     八神家の魔術は降霊術特化


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第11話 間桐家の養女(憑依十九ヶ月後)

 魔術刻印の移植を開始してから早くも1年が過ぎた。

 

 気が付けば、聖杯戦争まであと1年ちょっとになってしまった。

 

 しかし、それだけの期間、毎日修行や勉強を続けた成果は順調に出てきている。

 なんと言っても嬉しいのが、八神家の魔術刻印の移植がついに終わったのである。

 

 時臣師の予想以上に魔術刻印の移植が早く終わったのは、すべて『魔術刻印を制御する魔術刻印と魔術』のおかげである。

 この効果により、通常より遥かに早く移植した魔術刻印が僕に適合し、次に移植するまでの期間すら短くなった。

 時臣師すら、その想像以上の効果に驚きっぱなしだった。

 もっとも、驚いているばかりではなく、短期間で『遠坂家の魔術刻印を制御する魔術』を作りだし、すでに自分も使っている辺りはさすがである。

 あの愛用ぶりからすると、近日中に魔術刻印化しそうな気さえする。

 ……魔術刻印を使うとき、常に『遠坂家の魔術刻印を制御する魔術』を使っているんだから、短期間でそれを完全に使いこなせるようになっても不思議ではないか。

 

 で、魔術刻印に話を戻すが、原作において凛は『普通に魔術師やってれば、刻印一つで左団扇っていうぐらい役に立つ』と魔術刻印について言っていたが、その言葉は掛け値なしで本当だった。

 魔術刻印を移植開始した当時の僕は、『初級魔術ですら降霊術以外はほとんど使えない状態』だったのに、魔術刻印に記されている魔術ならば、どれほど高度な魔術でも魔力を流すだけ(一工程)で使えるようになったのである。

 初めて使ったときなど、『何このチート!』と思ってしまったほど、簡単かつ強力だった。

 ……いやまあ、文字通り『ご先祖様たちの技術と努力の生きた結晶』なんだから、それだけの対価は『ご先祖様たちが己の努力と時間という形でがんばって払ってきた』わけだけどね。

 それに『魔術刻印がなければ無能、役立たず』と言われないように、重要な魔術は自力だけでも使えるようにして、その補助に魔術刻印を使うことで、さらに威力をあげた魔術が使えるように努力をしている。

 

 とは言っても、『魔術刻印を制御する魔術刻印』の効果は計り知れず、魔術刻印のデメリットの一つである『魔術刻印を使用するたびの激痛』もまた、ある程度抑えてくれた。

 もっとも、きちんとデメリットは存在している。

 普通の魔術師は、直接魔術刻印を起動させるが、僕の場合『魔術刻印を制御する魔術刻印』経由で魔術刻印を起動しているのである。

 これにより、通常の魔術発動に比べて苦痛は格段に減少し、魔術刻印の制御レベルも向上するが、わずかに魔術発動までの処理時間が増加する。

 車の運転で例えれば、マニュアルとオートマの違いと言えるだろう。

 レース車のような一秒以下の時間を争うようなシビアな操作はマニュアルの方が、一般車に求められる使いやすい操作はオートマの方が優れているようなものだ。

 実際僕も、『魔術刻印を制御する魔術刻印』経由での魔術刻印の起動を『オートマ』、魔術刻印の直接起動を『マニュアル』と呼んで区別して使っている。

 

 まあ、一瞬の時間差が死を招くような事態は戦闘時ぐらいだろうから、普段はオートマ、戦闘時はマニュアルで、魔術刻印を起動するように訓練を続けている。

 

 

 ともかく、魔術刻印の移植完了により、魔術刻印に登録されていた『八神家の魔術』が使用可能となり、原作で桜が使用していた『影の具現化』魔術もまた、魔術刻印によって使えるようになった。

 そうなれば当然、1年前からの真凛の依頼である『影で真凛の分身を作り、それをライン経由で操作することで、真凛が仮の体を手に入れること』が可能になり、真凛はアダルト凛の姿で暮らしている。

 

 

 もっとも、真凛の影の体で過ごしているのは、雁夜さんの家とかどっか遠くへ僕たちと外出するときぐらいで、僕の家にいるときは黒猫の姿で過ごしている。

 いや、僕の家族には僕が魔術師になったことは秘密であり、真凛が一緒に暮らすわけにはいかず、仕方なく猫の姿になってもらっているわけだ。

 タマモに作られてから1年。やっと体を手に入れ、遠隔操作の体とはいえ(タマモの)外で自由に動けるようになった当初、真凛はまるで子供のようにはしゃいでいた。

 一頻りはしゃいだ後、我に返って赤面していたのがまた可愛らしく、思わず微笑ましいものを見た顔をしたところ、八つ当たりで怒られてしまった。

 全く、理不尽だ。

 

 そんなわけで、真凛は大人モード、黒猫モード、そして幼女モードの3形態を、時と場所に応じて使い分けている。

 

 そして当然、それに対抗するのがタマモな訳で、最初は僕の影でキャス狐に変身して、僕に抱きついてきたり、桜ちゃんと遊んでいたりした。

 しかし、最近は『変身』能力を身に付けてしまい、自由気ままに変身能力を駆使している。

 ちなみにタマモの方は、キャス狐モード、少女モード(キャス狐から尻尾と狐耳を隠した姿)、幼女モード(少女モードの幼女化)を使っている。

 タマモは精神年齢的が幼いこともあり、桜ちゃんととても仲良くなり、いいコンビになっているようだ。

 ちなみに、『暴走するタマモ』に『ストッパーの桜ちゃん』という感じだ。

 

 

 あと、影の体が作れるようになってすぐ、二人とも時臣師に挨拶へ行っている。

 

「君の、その姿は?」

 

 さすがに時臣は、会った瞬間に真凛の姿が凛に似すぎていることに気付いたが、真凛は軽く流した。

 

「はい、凛ちゃんがとても可愛らしかったので、この姿を作る際に参考にさせていただきました。

 時臣師や凛ちゃんの許可を得ずに、姿を参考にしたのは問題だったでしょうか?」

 

 実際は凛ちゃんの記憶と人格もコピーしているわけだが、それはこの状態で時臣師が調べられるものではないし、この体は魔術で作った影の分身でしかないから、凛ちゃんの身体情報などは外見以外存在しない。

 しかも外見は20歳時点の遠坂凛だから、現在4歳の凛ちゃんとは面影が似ていても、所詮はそれだけである。

 よって、安心してしらばっくれることが可能だった。

 

「……いや、参考にする程度なら問題ない。

 しかし、……」

「どうかしましたか?」

「凛も成長すれば、いずれ君のような大人になるのかと思うと、少し感慨に耽ってしまってね。

 ……いや、まだまだ凛は幼いというのに、この思いは早すぎたな」

「いえいえ、子供の成長はあっという間です。

 油断していると、いきなり恋人を連れてこられて動揺する羽目になるかもしれませんよ」

 

 今度はタマモが勝手に答えた。

 すでに桜には僕という婚約者がいるから、凛が対抗して幼い恋人を連れてくる可能性はあるかもしれないな。

 

「君が、あの使い魔のタマモかい?」

「はい、こうして言葉を交わすのは初めてですね。

 私がマスターの大切な使い魔であるタマモです。

 マスターがいつもお世話になっています」

 

 そう言うとタマモは頭を下げた。

 そして、その頭にはでっかい狐耳が、腰には立派な尻尾(1本)が揺れている、どこからどう見てもキャス孤の姿である。

 さすがに、髪の色はピンクではなく、耳や尻尾と同じ狐色になっているが。

 

「無理に答える必要はないのだが、……その外見は君が考えたのかね?」

「考えたというか、どこまで本当かはわかりませんが、私が収集した玉藻御前様の姿を参考にさせていただいています」

「ほう、鳥羽上皇に使えたあの玉藻御前の姿かね?

 少々若いが、確かに伝説に謳われるような絶世の美少女だね。

 ……八神君もマスターとして、君のような美少女を使い魔に持てて喜んでいるのかな?」

 

 時臣師のお世辞に対して、タマモはそのまま受け取って喜んでいた。

 

「もちろんです。

 マスターの魔術面のフォローは私が、戦術面のフォローは真凛が行うことで、マスターに隙はありません。

 まずは、マスターが無事に聖杯戦争を乗り越えられるように、万全の準備を行っているところです。

 もちろん、マスターの婚約者である桜ちゃんや、凛ちゃんも可能な限り守ります!」

「それはありがたいね。

 世の中には絶対はありえない。

 二人の安全には万全を尽くすつもりだが、私の手が届かない事態が発生することがあれば、ぜひその力を使ってほしい」

 

 時臣師は、原作より油断せず、万が一のことも考えるように成長したよな、本当に。

 それでいて、「サーヴァントを8体召喚すれば、ギルガメッシュが裏切るはずがない」と思い込んでいる辺り、やっぱり「うっかりは遠坂家に取りついた呪い」レベルの性格なのかねぇ?

 

「もちろんです。

 マスターにとって大切な人は私にとっても大切な人です。

 真凛と一緒に八神家の魔術を教え込み、一流の降霊術を使えるようにしてみせます」

「ええ、私も全力を尽くします」

「ああ、よろしく頼む。

 それにしても、ここまで頼りになる使い魔が二人もいる八神君は幸せ者だな。

 魔術刻印を移植したとはいえ、君はまだまだ未熟だ。

 使い魔と協力して、桜の婚約者として相応しいだけの知性と実力を身に付けてくれたまえ」

 

 おや、まだサーヴァントを召喚していないのに、実質的な桜ちゃんの婚約者に決めたのかな?

 まあ、八神家の魔術の優秀さをより理解し実感した今、八神家の魔術刻印を受け継いだ僕は、『桜ちゃんの婿』としてこれ以上ないぐらい優良物件なのは間違いない。

 なにせ、余程の事がない限り、『魔術師が、それも優秀な魔術師の一族の魔術刻印を受け継ぐ存在が従属を希望してくること』などありえないからなぁ。

 その代価が、「弟子にすること」と「魔術を継がない桜を嫁にやること」だけでよく、懸念項目だった「桜の庇護」も婿に任せられ、その婿は自分が鍛えるわけだから、桜を託すに値すると判断できるまで徹底的に鍛えればよい。

 そして、自分(時臣師)、言峰綺礼、雁夜さん、僕の計4人のマスターと5人のサーヴァント(予定)で聖杯戦争を戦うわけだから、ギルガメッシュの裏切りフラグを潰した(と思っている)今、すでに勝ったも同然とか思っているんだろうなぁ。

 たしかに、これだけのマスターとサーヴァントが協力すれば、聖杯戦争に勝てないなんて普通ありえないだろう。

 しかし実態は、まさに呉越同舟状態。

 目や耳、そして時には対マスターの切り札となるアサシンのマスターである綺礼は性格異常者であり、裏切る可能性大。

 おまけに最大戦力であり、同時に最大の不安要素であるギルガメッシュの行動が予想できない以上、時臣師の勝利どころか生存すら保証はない。

 まっ、ギルガメッシュは「時臣師を見限り、綺礼と組んで、やりたい放題する」というのだけは簡単に予測できるけど。

 

 それはともかく、こうしてタマモと真凛の時臣師への顔見せも無事に終了した。

 トラブルが起きなくて何よりだ。

 

 

 それから、例の魔術解析プログラムによる令呪の解析だが、1年掛かって令呪の解析が半分終了した。

 ……長かった、本っ当~に長かった。

 さすがは、『サーヴァントに対して絶対強制命令権を持たせた』だけはあって、マキリの超高度な魔術技術の結晶だったようだ。

 『もう、聖杯戦争が始まるまでに全く解析が終わらないのでは?』と、みんな半ば諦めていたぐらいだったし。

 幸いにも、以前予想した通り八神家は冬木の聖杯戦争に興味を持っていたらしく、独自に聖杯戦争について調査&解析した記録がタマモに残っていた。

 この情報が、令呪の解析を進める決め手だったらしく、これが無ければほとんど解析できなかった可能性が高かったらしい。

 ……これは、臓硯の技術力を褒めるべきなんだろうな。

 しかしそこまでしても、現時点では半分しか解析できなかったというから恐れ入る。

 令呪は『消費型の魔術刻印のような機能』『サーヴァントに対する絶対命令権』の二つの機能を合わせ持っているが、解析プログラムで解析が終了したのは『消費型の魔術刻印のような機能』だけだったのだ。

 

 これにより、令呪を作成するのに必要な魔力さえ準備すれば、タマモが『消費型の魔術刻印のような機能』だけを持つ八神版令呪を一画ずつ作ることが可能になった。

 つまり、『凛の宝石』のように魔力の貯蔵が可能になったのだ。

 ……まあ、令呪を作成する時点で多少魔力をロスするため、100%の魔力を保管できず、90%ぐらいに減ってしまうが。

 

 令呪は、「サーヴァントへの強制命令だけでなく、単なる魔力の塊としての使用もでき、人間でも令呪を10画近く消費すれば英霊にダメージを与えることができる」ことも可能な公式チートツールとも言えるので、機能が半分しかなくても10%のロスで済んだだけでも幸運なのかもしれない。

 

 さらに、これはまだ解析中の『サーヴァントに対する絶対命令権』の方だが、将来的には『降霊術に令呪システムを組み込むことで、降霊した分霊に対しても令呪の使用が可能になるかもしれない』とのことだ。

 この作業は真凛が担当しているので、詳しいことは知らないのだが。

 ただ、分霊は意志がないので裏切る心配はないが、令呪によって『分霊と僕の魔力でできることなら実現可能』になれば、強力な切り札を手に入れたと言っていいだろう。

 ある程度予想はしていたが、僕の想像以上に降霊術とサーヴァントシステムは相性がいいようだ。

 

 

 そのため、今は『魔術の修行を全力でしながらも、無駄な魔力は使わないようにして、僕とタマモで必要な魔力が貯まり次第、令呪を作成』ということを繰り返す予定である。

 今のペースだと、『一ヶ月で一画追加』という感じだろうか?

 なにせ、聖杯戦争まで残り時間が少ないから修行にも熱が入るわけで、いやでも魔力消費量が増えてしまう。

 幸いにも、当主でもなくマスターでもない桜ちゃんからは、時臣師と桜ちゃん自身の許可を貰ってそれなりの魔力をもらっているが、それだけやってこの作成速度である。

 凛は次期当主であり、修行と宝石への魔力貯蔵と予備用で全魔力が割り当て済みの為、聖杯戦争開始までは魔力をもらえることはない。

 

 ただ、このペースで順調にいけば聖杯戦争までにあと12画令呪が増えるわけで、3画ほど雁夜さんに渡しても特に問題はない。

 ……というか、僕が3画以上持つと明らかに怪しいため、新規に作成した令呪はタマモが所有することになっている。

 毛皮で令呪は隠れるし、令呪の魔力封じも可能なので多分ばれないだろう。

 

 

 それから、遠坂家における原作との違いと言えば、この時点で『時臣師が遺言を残したこと』だろう。

 僕が助言したわけではないのだが、原作と比較して遺言において綺礼に委託する内容は少なくなっている。

 財産面は(信頼できる)弁護士に、魔術協会との交渉は綺礼に頼み、遠坂家の口伝はすべて本として書き残したのだ。

 魔術面(凛ちゃんの教師役)については、現時点では何も決めていないようだった。

 僕も雁夜さんも、そして綺礼も、まだ魔術の修行を始めて一年半程度と言うこともあり、『凛の魔術の教師を任せられる人はまだいない』か『どんぐりの背比べ状態』ということなんだろう。

 てっきり、僕、は無理だろうから、『雁夜さんに凛ちゃんの魔術の教師を頼む』と思いこんでいた。

 ……よく考えれば、ありえない話だったな。

 もうちょっと、客観的に考えられるように努力しよう。

 

 これで、聖杯戦争で時臣師が死ぬことがあっても、綺礼が捨て値で遠坂家の資産を売っぱらったり、遠坂家の口伝を永遠に失ってしまうことが避けられそうだ。

 というか、『聖杯戦争の本当の意味と遠坂家の目的を凛が知らなかった』というのは、『遠坂家が聖杯戦争を作り出した意味を失伝した』というわけで、本当ならとんでもない大事だったんじゃないか?

 原作で凛はそんな素振りは見せていなかったから、今まで気付かなかったけど。

 もっとも、聖杯戦争の本当の意味を知らなかったからこそ、凛は『聖杯を破壊する』という選択肢を選べたのかもしれないな。

 

 

 あと、懸案だった龍之介対策も無事に終了している。

 雁夜さんの調査により、ついに雨生家の実家を見つけ出し、タマモを連れた雁夜さんが雨生邸まで行ったのだ。

 僕も一緒に行きたかったけど(体と立場は)子供だし、タマモがいれば十分だと思ったので留守番組となった。

 

 で、雁夜さんと一緒に現地へ到着したタマモが偵察して、そのまま雨生家へ侵入。

 タマモのライン経由で僕が影の魔術を使って蔵の扉を開けて、龍之介の姉の死体を発見した。

 しかしそれは無視して、魔術書を捜索開始。

 がんばって探したが、残念ながら魔術書は一冊しか見つからなかった。

 原作において、凛が持っていた遠坂家の魔術の秘伝書も一冊しかなかったみたいだし、……一番重要な内容は一冊にまとめるのが普通なのか?

 これ以上調べても収穫はないと僕が判断し、タマモが魔術書を持って誰にも見つからないように雨生家を脱出し、無事に雁夜さんと合流した。

 

 その後、匿名の通報で「空き家状態の雨生家の蔵で死体を発見した。もしかすると、失踪中の雨生龍之介が犯人ではないか?」と雁夜さんが警察に伝え、駄目元で「雨生龍之介は殺人に興味があるようなことを言っていたので、巷で話題の連続殺人は彼の仕業かもしれない」とも言ってもらった。

 ついでに、雁夜さんのつてで複数のマスコミにも同じ情報を流し、結果として龍之介は殺人容疑者として日本全国に指名手配となった。

 これにより、龍之介はいずれ逮捕されるだろうし、万が一にも逮捕できなくとも聖杯戦争に関する情報を得る方法も失った。

 よって「たまたま聖杯戦争開始時に龍之介が冬木市を訪れる」という悪魔の悪戯が起きない限り、龍之介がマスターになることはなくなり、青髭が召喚されることもなくなっただろう。

 よかったよかった。

 

 

 唯一予想外だったことが起きたのは、臓硯が遠坂家に接触することなく、養女として滴という名の幼女を引き取ったことである。

 その子がほとんどというか、全く外出していないところを見ると、やっぱり蟲地獄に放り込まれているのだろう。

 

 これでは『時臣師に伝えた雁夜さんの予知情報が嘘になってしまう』と、我ながら非情なことを心配していたのだが、意外なことに時臣師は全く気にしていなかった。

 

「まあ、予想通りの展開だね」

「どうしてですか?

 雁夜さんが話した予知情報とは違う展開だと思いますけど」

「簡単な話だよ。

 雁夜君の行動が、臓硯の行動を変えたのだよ。

 予知情報によれば、雁夜君は冬木市から離れた場所で暮らしていて、間桐家へ戻ったのは桜が養子になった後らしい。

 しかし、現在雁夜君はずっと冬木市で暮らし、毎日のように桜や君と会っている。

 この状態で臓硯が私に桜の養子入りを依頼してくれば、即座に雁夜君が養子入りを妨害することなど簡単に推測できる。

 そして、いくら私が間桐家との盟約を重視していようと、『桜が実験動物扱いされ、後継者を出産後に殺されること』を知れば、私が養子入りの話を断ることも容易に想像できるだろう。

 それゆえに、雁夜君が冬木市から出て行かず、今後も桜と高い頻度で会い続けることを予想した時点で、桜を手に入れることを諦め、間桐家の養子として相応しい別の子供を探したのだろう。

 ……そうだな。

 念のため、どこの家の子を養子に取ったのか調べておこう」

 

 時臣師の言葉には、桜に対する心配はあっても、滴という名の幼女に対する心配は一切感じられなかった。

 こういうところは、魔術師らしい冷酷さをしっかりと持っているということなんだろうな。

 

 

 時臣師の調査の結果、滴はかなり有能な魔術師の娘であることが判明した。

 『慎二の母親ですら三流魔術師の娘でしかなかったのに、なぜこれほど優れた養子を手に入れられたのか?』と僕たちは不思議だったが、時臣師の説明を聞いてすぐに納得できた。

 なんでも、滴の父親は『最近狩られた封印指定の魔術師』だったらしい。

 さらに、滴には優秀な姉がいて、その姉が魔術師の後継者として育てられていた為、滴は魔術に一切関わらずに育てられたらしい。

 そして、封印指定の魔術師である父は殺されて後継者である姉は魔術協会に捕えられたが、次女であり魔術について一切知らず、当然魔術回路も作っていないその子の存在は宙に浮いたらしい。

 そこへ臓硯が素早く介入し、養子にとることに成功した、とのこと。

 滴は優秀な魔術師の子供ではあっても、どこかの魔術師が実験体として欲しがるような特殊な素質も属性もなかったため、間桐家の養子入りはあっさりと決まったらしい。

 まあ、それを実現するために、それなりのお金はばらまいたようだが。

 つまりその子は、『ある日突然、父を殺され、姉を連れ去られ、一体何が起きたのか分からないまま、自分は何も知らない家に引き取られ、その日のうちに訳も分からず蟲地獄へ送り込まれた状況』なわけか。

 原作の桜以上にきつい状況だな。

 ……哀れとしか言いようがないが、僕の今この状況では助けることはできない。

 

 同じく封印指定の魔術師だった父を持つ切嗣の場合、ナタリアが保護者になってくれたから問題なかった。

 しかし、封印指定の魔術師が殺され、残された子供を保護する存在が現れなかった場合、こんなことは日常的に起きているんだろうなぁ。

 

 

 それにしても、ここまで絶望のどん底の状況となると、第四次聖杯戦争はともかく、滴に聖杯の欠片を埋め込まれた状態で第五次聖杯戦争が勃発すれば、黒桜を上回るぐらいアンリ・マユと適合するマスターになりかねないか?

 封印指定の娘とはいえ、さすがに『禅城の血で遠坂の才能が完全に発現した桜ちゃん』以上の素質があるとは思えないけど、憎悪とか恨みとかは半端なさそうだよなぁ。

 ……サーヴァント召喚後に滴を救出できたとして、彼女は味方になってくれるだろうか?

 僕は、滴という幼女を救おうとか幸せにしようなどと、思い上がったことは考えていない。

 ただ地獄から救い上げて、人間らしい待遇を与え、体がぼろぼろなら可能な範囲で治療するつもりだが、……本当に感謝してくれるか?

 せめて中立や不干渉ならいいんだが、逆恨みとかされたらこっちも困るしなぁ。

 下手すると、『ガンスリンガー・ガール』の特に酷い状態だった少女たちのように、『救出後も自殺しか望まない』とかありそうだなぁ。

 

 その場合、『ガンスリンガー・ガール』にならって、完全に過去を消去することが、一番ましな治療法になるのか?

 ……駄目だな。僕だけではいいアイデアは出てきそうにない。

 滴を助けられたとき、滴の状況を確認した後、仲間と相談して最善の方法を探すとしよう。

 

 願わくば、滴に少しでも救いのある未来が待っていますように。

 




【にじファンでの後書き】
 今回、間桐家の養女、原作における桜の立場になった滴という幼女ですが、あの世界と臓硯のコネならぎりぎりありえると思ったのですが、どうでしょうか?
 何か矛盾点などがあれば、お知らせください。

 PV31万達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.05.19 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.05.20 時臣師の残した遺言書における、魔術面に関する記述を修正しました。
2012.05.20 『八神家が独自に聖杯戦争について調査&解析した記録がタマモにあったこと』を追記しました。
2012.05.26 『令呪の解析は全てできず、八神版令呪を作成した』ことに修正しました。
2012.05.27 『八神版令呪は、『消費型の魔術刻印のような機能』しか持っていない』ことに修正しました。


【設定】

<パラメータ>
 名前 :間桐滴
 性別 :女
 種族 :人間
 年齢 :?(幼女)
 職業 :?
 立場 :間桐鶴野の養子
     間桐慎二の未来の嫁
 回路 :?
 属性 :?
 備考 :狩られた封印指定の魔術師の次女
     養子入りの時点で、魔術に関する知識は一切持っていなかった


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第12話 降霊術の結果(憑依二十ヶ月後)

 魔術刻印の移植が完了して、一ヶ月。

 

 今までの訓練の成果と魔術刻印のフォローのおかげで僕の降霊術がそれなりのレベルに達したので、ついに英霊の縁の品を使って『英霊の分霊を対象とした降霊術』を試すことになった。

 試す場所は、例によって冬木市から遠く離れた遠坂家の秘密の拠点である。

 

 さて、初めて八神家の降霊術を実施するわけだが、……さすがの時臣師もまだ英霊を降霊できるレベルではなく、雁夜さんも当然無理なため、僕が英霊の降霊を試すことになる。

 ……いや、僕の素質が降霊術に特化しているせいもあるけど、八神家の魔術刻印があるからこそ、僕がこんなレベルの高い魔術を使えるわけだ。

 

 ちなみに一緒に訓練している3人で比較すると、相変わらず集中力ならダントツで雁夜さん、魔力量なら桜がトップだが、(魔術刻印なしでも)降霊術なら僕がダントツである。

 そうそう、最近は降霊術の授業に凛ちゃんも合流し、凛ちゃんは魔力量も魔術の技量はこの3人よりも上だが、降霊術だけは僕が勝っている。

 もっとも、言うまでもないが魔術刻印なしで比較すれば時臣師の降霊術のレベルは、僕の遥か上である。

 ほんと、魔術刻印を残してくれたご先祖様には、何度感謝しても足りないな。

 

 

 で、話を戻すが、まずは僕が英霊の降霊術を試す。

 そして成功すれば、そのデータを元にして時臣師が遠坂家の降霊術と組み合わせて、『より安全に、より確実に使える英霊の降霊術』の完成を目指すらしい。

 しかし、その降霊術が完成しても、凛ちゃんと桜ちゃんたちの行使は時臣師から禁止されており、凛ちゃんはものすごく不満そうだった。

 ……まあ、普通の子供に降霊術は危険すぎるよな。

 万が一にも英霊に体を乗っ取られたり、精神を上書きされたら取り返しがつかないし。

 

 ところで今思い付いたんだが、『降霊術で英霊の分霊を自分の体に憑依させた状態』でサーヴァントの召喚を行ったら、ほぼ確実に『憑依中の分霊と同じ英霊が召喚される』んじゃないだろうか?

 英霊の『縁の品』を持っているどころじゃない、英霊の分霊、つまりコピーが召喚者に憑依しているのである。

 これで別の英霊が召喚されたら詐欺だろう。

 

 うん、ちょっと考えた限りでは特に問題なさそうだ。

 後で、時臣師と相談してみるか。

 こういう小細工と言うか、裏技的発想は僕の得意分野である。

 ……もっとも、実現性とか、コストパフォーマンスとか、周りへの影響や迷惑を正確に判断するのは苦手ではあるが。

 

 

 時臣師は縁の品として、『エルトリアの神殿から発掘されたギリシャの古い地母神縁の物品にあたる鏡』と『コルキスにあったメディア縁の文献』、そして『ランスロットが使っていたとされる兜』『クー・フーリンが使用したとされる戦車(チャリオット)の一部』をすでに入手していた。

 最初の予定では、僕がライダークラスかキャスタークラスで召喚できそうな英霊の縁の品を選んで買うはずだったが、『降霊術に使うからサーヴァント召喚に使わなくても構わない』『敵への撹乱情報になるからちょうどいい』と時臣師が判断し、すでに購入されていた。

 ……いや、スポンサーは時臣師だから、時臣師が勝手に買うのは自由ですけどね。

 多分、『仮契約(パクティオー)』の特許申請をすれば、それぐらいのお金はすぐに取り返せるとは判断し、金銭面で強気になっているんだと思う。

 まっ、あれの特許料は相当期待できそうだから、これぐらいの無茶は大丈夫かな?

 

 

 そうそう、タマモと真凛以外には内緒だが、僕は士郎少年と友達となり、すでに彼の髪の毛を回収済みである。

 そのため、実は縁の品には『英霊エミヤとなる可能性を持つ少年の髪の毛』も加わっている。

 

 聖杯戦争においてサーヴァント召喚を行う場合、『縁の品がなければ召喚者と相性がいい英霊が、縁の品があれば縁の品と強い関わりを持つ英霊で一番召喚者と相性がいい英霊が召喚される』らしい。

 しかし、降霊術の場合は、ある程度召喚する英霊をこちらから指定できるらしい。……少なくとも、八神家の降霊術の場合は。

 『英霊の一部の力しか借りれない代わりに、召喚対象を指定できる』と利便性が向上しているのだと思う。

 

 もちろん、指定した英霊を召喚できるだけの技量がなければ、全く意味がないのだが。

 エミヤを除くと、これらの聖遺物で召喚可能な原作キャラは、メディア、メドゥーサ、ランスロット、クー・フーリンの4人だけだな。

 てっきり、メディアの縁の品は『アルゴー船の破片』だと思っていたのに。

 『アルゴー船の破片』なら、ヘラクレスを含め、アルゴー船の搭乗員の英霊多数が召喚できる可能性があったんだが、これでは他の英霊を召喚できる可能性はほとんどなさそうだ。

 

 『時臣師が購入したメディア関連の聖遺物』がこれしかなかった以上、『第五次聖杯戦争で魔術協会から派遣された魔術師(名前不明)』もこれを使って召喚した可能性が高いが……、その予想が正しければ、メディアを召喚した魔術師は『狙ってメディアを召喚しておいて、なぜかメディアを虐めた挙げ句に逆襲されて殺された』わけで、……そいつはただの馬鹿か?

 何を考えて行動したのか、全く想像できないぞ?

 

 それはともかく、降霊術も英霊との相性がいいと効果が大きいらしい。

 というか、サーヴァントの場合、相性は「連携が上手くいく」とか「サーヴァントがマスターの命令を守ってくれる」とかのレベルだ。

 しかし、降霊術の場合は相性が良くないと、英霊の分霊から借りれる力の質と量と種類が相当劣化するらしいので、かなり切実な問題である。

 相性が良すぎると、それはそれで問題が発生する可能性もあるらしいが。

 となると、同性で性格が近い方がいいだろうか?

 

 ……いや、初めての降霊術なんだ。

 自分が召喚したいと思う相手を呼ぶのがベストだろう。

 それなら僕が最初に召喚するのは、魔術師として尊敬すべき対象であるメディアだな。

 サーヴァントの場合、メディアを召喚するとなると裏切られる危険性が怖いが、降霊術で意志のない分霊を呼ぶだけなら全く問題ない。

 時臣師も「降霊術を使う相手を自由に選んでいい」と言ってくれているし。

 

 

 こうして、記念すべき初めての英霊の降霊術は、メディアを対象として行うことにした。

 

 ちなみに降霊術は、

 

1.英霊の分霊の召喚

2.肉体への憑依=魂の空間(ソウルスペース)へ格納

3.英霊の分霊が持つスペックやスキルなどの解析

4.英霊の分霊から力や能力の引き出し

 

という順番で実行される。

 

 

 なお、降霊術の失敗は、

 「1」で英霊の分霊を召喚できなければ失敗。

 「2」で英霊の分霊を魂の空間(ソウルスペース)に格納できなければ失敗。なお、魂の空間(ソウルスペース)の容量を上回る魂を無理に格納しようとすれば、『自身の魂が消える』とか『自分の魂が上書きされる』とかで死ぬ可能性もある。

 「3」で英霊の分霊が持つスペックやスキルを解析できなければ、当然英霊の特殊能力やスキルを借りることはできない。

 「4」で英霊の分霊から力などが引き出せなければ失敗。引き出しすぎて、力に耐え切れずに体が壊れるとか、オーバーフローで魔術回路が焼ききれても失敗。

といったものだ。

 

 うん、改めて考えると結構危険な魔術である。

 まあ僕の場合、「3」は原作知識というチートがあるから、原作キャラの英霊ならどんなスキルか宝具を持っているかは知っているけど、これも『原作においてサーヴァントとして召喚された場合』であり、フルスペックじゃないのが残念だ。

 例えば、公式設定で言われていたが、『クー・フーリンはアイルランドで召喚された場合、宝具に戦車と城が追加され、『不眠の加護』のスキルが追加される』らしいし。

 

 

 サーヴァント召喚の場合、『英霊に現界可能な魔力を与え』て、『サーヴァントと仲良くする』だけで、『聖杯戦争期間中は生前に近いスペックをマスターの技量に関係無く発揮できる』んだから、その規格外ぶりに改めて驚かされてしまう。

 まあ、マスターの技量が劣悪すぎると、サーヴァントのスペックも大幅ダウンさせ、魔力不足の状況が発生しやすくなるが、逆にいえば技量が劣悪な魔術師が召喚しておいて、それしかデメリットがないというのも本当ならありえない。

 大聖杯が召喚のほとんどを肩代わりするとはいえ、魔術を学べば学ぶほど、聖杯戦争の恐ろしさと凄さをいやというほど思い知っている毎日である。

 

 で、まずは『可能な限り弱体化させたメディアの分霊』の降霊を実行したところ、意外なほどあっさりと魂の空間(ソウルスペース)への格納に成功した。

 降霊させるとき、魔術回路に負担が掛かるかと危惧したが、魔術回路とは関係無く直接分霊が魂の空間(ソウルスペース)へ格納されたため、僕は分霊の降霊のみに僕は集中できた。

 ちなみに、今回は降霊しただけであり、降霊した状態で彼らの力やスキルを借りることは一切しなかった。

 一段階ずつ順番に、安全かどうか確認しながら試した方が安全だしな。

 

 

 で、予想以上にうまくできて、まだまだ魔力も精神力も余裕があったので、調子に乗った僕はメドゥーサの降霊を提案した。

 

 かつて前世において僕は、『アルトリア、メドゥーサ、メディアの3美女サーヴァントハーレムを目指すSS』も書いていたことがあり、せめて分霊だけでもそれに近い状態にしたい、なんて思ってしまったわけだ。

 今はアルトリアの縁の品はないが、いつかはゲットしたいものである。

 最悪、聖杯戦争中にセイバーの血とか髪の毛を回収すればいいだろう。

 聖杯戦争が終わるまでならセイバーの物も消滅しないだろうし。

 

 

 少し考え込んだ時臣師だったが、僕はそれほど疲れた様子もなく、降霊中に採取したデータにも異常は一切なかったため、「今日は次の降霊が最後」ということで許可してくれた。

 そして、メディアの降霊と同じく、メドゥーサの降霊も全く問題なく終了した。

 

 うん、予想していたことだけど、僕に降霊術は一番合っている。

 いくら最弱状態の分霊とはいえ、これほど降霊に負担がないとは自分でも驚きだ。

 明日以降は、いよいよ降霊&力を借りることを行うわけだから、気を引き締めていかないと。

 

 

 そんなことを考えていると、時臣師が僕の体を検査しつつ、意外なことを言ってきた。

 

「体に異常はないようだが、メディアの分霊は問題なく魂の空間(ソウルスペース)から解放できたのかね?」

 

 詳しい話を時臣師に聞いてみると、(八神家の魔術書に書いてあったことだが)『術者と英霊の相性が良すぎると、まれに魂の空間(ソウルスペース)から分霊が解放されないこと』があるらしい。

 

「むろん、降霊術の適正や熟練度が低い者は集中を切らした時点で勝手に解放されるようだが、……君の家は降霊術の大家であるし、何より君は降霊術に適正が高く、霊媒体質まで持っているからね」

 

 へっ、降霊した分霊って、解放されないこともあるのか?

 分霊は降霊するだけなら魔力がいらないようだが解放など簡単にできる、というか分霊を意識して捕縛していなければ、勝手に魂の空間(ソウルスペース)から出ていくと思っていた。

 で、自分の内部に意識を集中されると、……嘘だろ!?

 メディアとメドゥーサの分霊が、二人とも魂の空間(ソウルスペース)内にいたままだった。

 慌てて魔術刻印を調べ、当然登録されていた『降霊した分霊の解放魔術』を行使するが、……効果がなかった。

 ありえない!!

 

 慌てて時臣師に報告すると、さすがの時臣師も驚いた表情を見せた。

 

「それでは、……君の魔術刻印に登録されているものより強力な魔術を開発しない限り、分霊の解放は難しいと言わざるを得ないだろうね。

 ……幸い、君の体には異常は一切見つけられない。

 そこまで相性がよければ、ほとんどロスなしで分霊から力を引き出せるだろう。

 解放するのは後回しにして、まずは力を引き出す訓練を始めたまえ。

 大丈夫だ。

 私が八神家の魔術書で解決方法がないか調査するから安心なさい」

 

 時臣師はそう言ってくれたが、僕は動揺しまくっていた。

 

 あ、ありえなさすぎる。

 もし分霊の解放ができない場合、『英霊の降霊がやり直しができない一生に一度の選択』って、なんだそれ?

 『念能力』の『発』を決めるような重要すぎる選択じゃないか!

 

 あまりの事態に頭を抱えてしまうと、慰めるように雁夜さんが僕の肩に手を置いた。

 そして、タマモもまた慰めてくれた。

 

『マスター、安心してください。

 マスターの魂の空間(ソウルスペース)の余裕はまだまだたっぷりあります。

 ですから、メディアやメドゥーサ以外の英霊の分霊も格納できますし、それ以前に多くの英霊の降霊なんて歴代の八神家当主ですらできなかったことですし、問題ないですよ』

『でも、より強い力を使おうと思ってより力を持った分霊を降霊したら、当然その分空間を喰われてやり直しはできないわけだから、どちらにしても選択は重要ね』

 

 タマモがフォローしてくれたが、容赦ない真凛に即行で否定されてしまった。

 

『ま、まあ、真凛の言う通りだな。

 念能力において、多すぎる or 厳しすぎる制約を付けて使えない技になってしまうようなミスを、僕がするわけにはいかない。

 幸い、メディアは『高速神言』スキルを、メドゥーサは『石化の魔眼』スキルという魔術師ならば誰もが欲しがるスキルを持っているから、これを僕が使えるようになれば問題はない。

 ……僕の脳や眼が過負荷で焼ききれなければ、という条件付きだけど、ね』

 

 

 予想外の事態は発生したが、当初の予定通り今日の降霊術実施はここまでとなり、後は時臣師が降霊術の改良案を検討し、将来降霊術を使う予定の雁夜さんも戦闘に使う観点から色々と提案していたようだった。

 

 僕は動揺が抜けきらず、今後のことを考えるので精一杯だったのでよく聞いていなかった。

 時臣師たちも、衝撃的事実を知りショックを受けているのだろうと僕を放置していてくれた。

 

 が、そのこともショックだったが、僕はそれ以外のことをずっと考えていた。

 

 それは、『メディアとメドゥーサの分霊を解放する方法が見つからなかった場合、聖杯戦争開始時もこの状態のままという可能性が高い』ということだ。

 つまり、『分霊を宿したマスターがサーヴァントを召喚した場合、分霊のオリジナルの英霊が召喚される』という予想が正しい場合、この二人をダブルキャスターとして召喚しなければいけないということだ。

 いや、この二人、あるいはメディアの二面性として『王女メディア』と『魔女メディア』が召喚されるなら問題ない。……メディアが裏切りさえしなければ。

 しかし、メドゥーサの暗黒面と言うか、邪神面である『ゴルゴン』が召喚されれば、……まず間違いなく僕が破滅する。下手すれば冬木市も壊滅する。

 召喚直後に『自害しろ』とか、『自滅せよ』とか令呪で命令できればいいが、そんな暇はあるか?

 それ以前に、ゴルゴンに令呪が通用するのだろうか?

 うわ~、不安要素だらけだ。

 

 

 しかし、この状態に加えて、さらにクー・フーリンやエミヤの分霊を降霊し、ゴルゴンの召喚確率を下げるという対策もとれない。

 『最弱状態とはいえ英霊の分霊を4人同時に抱え込んだマスターが、ダブルキャスター召喚用の特殊な召喚陣を使ってサーヴァント召喚実行』なんて真似をすれば、どんなイレギュラーな事態が発生するか全く予想できない。

 ……うん、どう考えてもリスクが大きすぎるね。

 

 ということで、選択の余地はなく、『メディアとメドゥーサ』、あるいは『王女メディアと魔女メディア』のダブルキャスターを召喚できるように何とかする必要がある。

 そして、余計なトラブル発生を避ける為、サーヴァントを召喚するまでは、メディアとメドゥーサ以外の分霊は降霊できない。

 

 あああああ、色んな英霊の分霊を降霊させて、可能な限り色んなスキルや宝具の力を借りようと思っていたのに!

 ぎりぎりまで考えて、ベストなダブルキャスターを召喚しようと思っていたのに!!

 

 ……はあ、世の中ままならないものである。

 

 

 この後帰宅した僕は、精神世界においてタマモと真凛と一緒に作戦会議を開いた。

 

「マスターには降霊術の才能があるとは思っていましたけど、……さすがに想像以上でしたね」

「そうね、まさか分霊を解放できなくなるなんてね」

 

 二人は苦笑しながら話していた。

 

 しかし、雑談する余裕がない僕は、すぐにタマモに指示を出した。

 

「とりあえず、分霊の解放に関する魔術の開発は時臣師に任せる。

 ……まずは状況確認だ」

「はい。では呼びますね。

 えい!」

 

 タマモの掛け声と同時に、ボディコン姿のメドゥーサと、何でか知らないが王女(少女)姿のメディアが夢の世界に出現した。

 しかし、さすがは英霊の分霊というべきか、感じられる魔力はかなりのものだった。

 もっとも、分霊のため意志は全く感じられなかった。

 

「一応確認するけど、彼女たちが僕の魂の空間(ソウルスペース)にいる分霊かい?」

「ええ、そうです。

 精神世界をマスターの魂の空間(ソウルスペース)と接続して、彼女たちの状態を直接確認できるようにしました」

 

 その二人、特に王女姿のメディアを見て、真凛が意味ありげに僕の方を見つめた。

 

「ふ~ん。

 メドゥーサはいいとして、メディアがこの姿なのは貴方の趣味かしら?」

「確かに、魔女よりも王女の方が好みだけど、僕は何もしてないよ」

「たぶん、マスターのその願望が影響して、分霊の姿が変わったんでしょう。

 この少女もまたメディアなのは間違いありません」

 

 あまりフォローになってないフォローを言ったタマモだが、それとは別に僕は気になることがあった。

 

「僕は最弱状態の分霊を呼んだつもりだったけど、それにしては魔力が多くないか?」

「確かにそうですね。

 でも、マスターには負担などはなかったんですよね?

 ……ああ、そうです。

 分霊のパラメータを確認しましょう。

 それが一番確実ですよ」

 

 タマモのアドバイスに従ってじっくり二人を眺めていたが、いくら見つめてもサーヴァントのパラメータのようなものは見れなかった。

 

「やっぱり、『サーヴァントに対する解析(パラメータ閲覧)能力』は聖杯からサーヴァントのマスターに対して付与された能力だから、降霊術の術者が分霊のパラメータを見るのは無理かな?」

「大丈夫です!

 この精神世界はマスターの世界、そしてこの分霊はマスターが降霊した存在。

 マスターが望めば、彼女たちのパラメータは見えます!

 見れるはずです!!」

 

 タマモの力強い言葉に励まされ、『聖杯戦争のサーヴァントのパラメータルールで分霊のパラメータを表示しろ』と強く念じたところ、いきなりパラメータが視界に表示された。

 

「おお、出てきた!」

「よかったですね。

 それで、パラメータはどうなっていますか?」

 

 タマモに尋ねられてさっそくパラメータをチェックしてみると、見事に原作のサーヴァント風にパラメータが表示されていた。

 

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A+

       耐久 D  幸運 -

       敏捷 C  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

宝具     なし

 

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 C  魔力 B

       耐久 E  幸運 -

       敏捷 B  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

 なんじゃい、これは!?

 パラメータを見た瞬間、僕は本気で目を疑った。

 このパラメータをタマモと真凛にも見えるようにしたところ、二人とも絶句していた。

 

「スキルや宝具の一部がないのはいいとして、それ以外が原作のサーヴァントと同じランクだぞ!?

 何でこんなに強いんだ?」

「……多分ですが、推測はできます。

 まず、今回マスターは最弱状態の分霊を召喚しようとしましたよね?」

「ああ、したぞ」

「ですがマスターは、『最弱状態』という言葉でしかイメージできなかったのはありませんか?

 それよりも、マスターが持つ観測世界の彼女たちの記憶やイメージが強くて、結果として『原作における最弱状態のイメージ』で彼女たちは召喚されたのではないでしょうか?」

「言われてみれば、……確かにこれは、葛木キャスターと慎二ライダーのステータスの一部ね。

 慎二ライダーが桜ライダーより弱体化しているのは今さら言うまでもなく、魔術師でない葛木をマスターにしていたキャスターも、間違いなく弱体化していたはずよね」

 

 あ~、なるほど。

 それはありそうな話だ。

 

「クラススキルとかがないのは、サーヴァントじゃないから当然ね。

 それから、魔術や結界以外の宝具とかがないのは、八神家の降霊術は英霊の分霊を降霊させるもので、実体を持つ宝具は対象外ってことかしら?

 多分、宝具用の降霊術があるんじゃない?」

「さすがですね、真凛。

 あなたの予想通りです。

 マスターの英霊の降霊術成功により、降霊術に関する新しい情報が解放されました。

 その中に、専用の魔術具を作り、そこに宝具の概念を召喚して融合させ、宝具の力の一部を発揮する魔術具の作り方がありました」

「うわ~、やっぱりあったんだ。

 でもそれって、ものすごく効率が悪くないかしら?」

「ええ、その通りです。

 専用の魔術具は、宝具の概念に耐えきれずすぐに消耗してしまうので、時間制限と使用回数制限がある使い捨ての魔術具になります。

 魔術具の作成にはそれなりの資金と魔力と技術を必要としますので、八神家でも降霊術のみ使用することがほとんどで、本当に重要な戦いのみ、この幻想魔術具を使用されていたようです」

「ほんの一時のみ、宝具の一部の力を発揮する魔術具、ね。

 仮にも宝具の力を一部とはいえ使おうとするんだから、それぐらいの対価は当然なんでしょうけど」

「ええ、衛宮士郎という規格外の存在を知ってしまうと、そのレベルの違いに愕然とします」

 

 全く同感だよなぁ。

 だから、いずれ降霊術で英霊エミヤの力を借りて、投影魔術で宝具の投影品を量産しておこう、なんて考えていたんだけど。

 予想外の事態が発生してこのざまである。

 それができるようになるのは、いつのことになるやら。

 ……まあ、降霊術で英霊エミヤの力を借りることができたとしても、投影魔術を使おうとしたら、僕の魔術回路が焼き切れる可能性も十分あるけどね。

 

 

「……いけない、話がそれたわね。

 そういうわけで、これだけ強い分霊が降霊したには全てあなたのせい。

 普通ならそんな分霊は、魂の空間(ソウルスペース)に収まるはずがないから、強制的に降霊がキャンセルされるか、許容量オーバーで術者が死ぬんでしょうけど……」

「マスターの魂の空間(ソウルスペース)の広さは、本気で規格外ですからね。

 違和感なしでメディアの分霊を収め、続けてメドゥーサの分霊すら収めてしまった、と」

「……本気であなた人間?」

 

 真凛から化け物でも見るような眼を向けられたが、……自分のことながら否定できんな。

 意志と宝具の一部がないとはいえ、原作のサーヴァントクラスの分霊二人を平気で格納できるって、僕の体は一体どうなっているんだ?

 

「マスターの言葉を借りれば、これがマスターのチート能力ですかね?

 観測世界の魂とこの世界の魂が融合することで、この世界の人間ではありえないぐらいの広さを持った魂の空間(ソウルスペース)を持ったってとこでしょうか?

 ちなみに、八神家の記録に残る一流の降霊術の魔術師の場合でも、このクラスの分霊ですと一人分格納できるだけでも相当稀少みたいです。

 だからこそ、サーヴァント7体分の魂を格納できたアインツベルンのホムンクルスや、黒桜の存在がとんでもないんですけどね」

 

 そこまで言って、タマモは真面目な顔に変わった。

 

「さすがはマスター、と言いたいところなんですが……」

「どうした?」

「強力な力も使いこなせなければ意味がない、ってことよ。

 彼女たちの分霊を、あなたが問題なく格納できているのは見ればわかるけど、……彼女たちの力を借りることはできるのかしら?

 私は所詮仮想人格で、あなたが作った影しか使ったことはないけど、……その私でも下手に触れれば消し飛ぶぐらいの威力が伝わってくるわ」

 

 それは僕も同感。

 何も考えずにスキルを借りた場合、高速神言を使えば脳みそが、魔眼を使えば目が焼ききれ、宝具を使えば魔力どころか生命力まで全部吸いとられ干からびてしまいそうな予感がひしひしと感じられる。

 

 だが、せっかく英霊を降霊しても、何もスキルが借りられなければ、降霊術の存在価値はなくなってしまう。

 ましてや、僕は英霊の分霊の召喚やり直しができないのだ。

 いや、別の英霊の分霊は召喚可能だが、魂の空間(ソウルスペース)の残りスペースを消費し、将来の選択肢をさらに奪ってしまうから、うかつなことはできない。

 

 

 くそっ、使い方によっては凄く強力な能力なんだろうに、現時点では悉く役に立たないというか、足を引っ張るというか……

 ……いや、小説でもそんなものだったな。

 強力すぎて未熟な技量では使いこなせない能力は、『能力の持ち主を振り回し、術の行使は失敗ばっかりで、時には持ち主を破滅させること』はよくある話だ。

 まずは、『今できること』と『できないこと』をはっきりさせるべきだな。

 そして、『できないことは、少しでもできるように努力』し、『今できることのうち、さらにできることとできないこと』に分け、『さらにできること』を増やしていくべきだろう。

 

 まずは、現時点における『できること』と『できないこと』のリストアップだな。

 とりあえず、『今やるべきこととできること』を見つけて精神的に持ち直した僕は、さっそく真凛と協力してそれらのリストアップを始めた。

 そんな僕たちに対して、

 

「私はマスターの剣となり、盾となるため、この能力を使いこなしてみせます」

 

と涙が出るほど嬉しいことをタマモが宣言した。

 その言葉は嬉しかったのだが、タマモは無謀にも『僕とのライン経由でメドゥーサの分霊に接続し、彼女から力を借りて使いこなそうとした』ので、僕と真凛で慌てて止めた。

 

「いくらお前が特別性の使い魔でも限度はある。

 気持ちは嬉しいが、そこまで焦る事態じゃないし、まずは落ち着け!」

 

 僕は必死で止めたが、タマモは聞く耳を持たなかった。

 

「心配してくれるのは嬉しいですけど、多分大丈夫ですよ」

「その根拠のない自信は、一体どこから湧いてくる?」

「そうよ、いくらなんでも今のは無茶だわ」

「それはですね、メドゥーサは『元女神であり、魔物になる前の存在』ですから、どう考えても人間ではありません。

 そういう意味で、狐を素体にした使い魔である私はメドゥーサと相性がいいはずです」

「……確かにタマモの名をもらった玉藻御前は、元神の分霊で最後には大妖怪か悪霊になった存在らしいから、……確かにメドゥーサとかなり近い存在だな。

 もし本当に、タマモに玉藻御前の加護があるのなら、……メドゥーサの力を借りるのを助けてくれるかもしれない。

 ……加護があるなら、だけどな」

 

 そこまで言うと、僕はタマモを正面から見て話しかけた。

 

「気持ちはわかったから、そこまでにしろ。

 リスクは全部避けられるわけないけど、これは回避できるかもしれないリスクだ。

 まずは一緒に解決策を考えよう」

 

 僕の真剣な思いが通じたのか、やっとタマモは頷いた。

 

 

 まあ、タマモの気持ちもわかる。

 マスターと使い魔は一心同体。『いくら強力な英霊の分霊を降霊させていてもその力をマスターが使えないなら、分霊のスキルを従者である自分が使いこなし、自分が最強になれば問題ない』と考えたのだろう。

 タマモは魔術回路を持っていて、自力で魔力を作り出せることができるし、先日は変化スキルまで覚えたが、それ以外は魔術もスキルも特殊能力も使えない。

 まあ、魔術解析とか、その成果である令呪作成などの能力を持っているがどれも支援系能力であり、直接戦闘力は乏しい。

 そこで、メドゥーサの魔眼や怪力スキル、結界系の宝具に目をつけ、直接戦闘力を身に着けようと思ったのだろう。

 

 確かに、『メドゥーサのスキルと宝具を使いこなすタマモ』とか、実現したら頼もしいと思うけどね。

 

 だが、まだ聖杯戦争開始まで1年ぐらいあるはず。

 焦らず、しかし着実に努力して、3人が笑顔でそして自信を持って聖杯戦争を迎えられるようにがんばっていこう。

 




【にじファンでの後書き】
 いきなり怒涛の展開です。
 設定に矛盾などがありましたら、お知らせください。

 PV36万達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.05.22 『にじファン』で掲載


【設定】

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メディア
属性     中立・悪
ステータス  筋力 E  魔力 A+
       耐久 D  幸運 -
       敏捷 C  宝具 -
保有スキル  【高速神言】:A
宝具     なし

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メドゥーサ
属性     混沌・善
ステータス  筋力 C  魔力 B
       耐久 E  幸運 -
       敏捷 B  宝具 B
保有スキル  【魔眼】:A+
       【怪力】:B
宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B
       【自己封印・暗黒神殿】:C-


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第13話 想定外の事態(憑依二十一ヶ月後)

 メディアとメドゥーサの分霊を降霊してから一ヶ月が経ったが、僕はずっと『分霊から安全に力を借りる方法の検討と訓練』を続けている。

 

 ちなみに、僕の『英霊の分霊が解放できない事態』を目の当たりにした時臣師は降霊術の研究はするものの、僕と同じ状況に陥ることを避けるため英霊の分霊に対して降霊術を使わないでいる。

 その代わり、雁夜さんが『時臣師が改良した降霊術』を試すことになった。

 『万が一、雁夜さんもランスロットの分霊を解放できなくなっても、元々ランスロットを召喚する予定なのだから問題ない』と時臣師と雁夜さん自身が判断したのだ。

 

 そして、雁夜さんが挑戦し、……意外にもあっさりとランスロットの降霊に成功した。

 相性もあるんだろうけど、未来、いやこの世界だともう平行世界にあたる世界において雁夜さんがランスロット召喚に成功した時点で、雁夜さんはランスロットと縁ができているのかもしれないな。

 雁夜さん曰く、『ランスロットのほんの一部の力しか持たない分霊』を降霊させるのが精一杯だったらしい。

 それでも負担が大きかったらしく、すぐにランスロットの分霊を解放していた。

 

 この予想が正しければ、凛ちゃんは英霊エミヤ、桜ちゃんはメドゥーサの降霊に成功しそうだな。

 この天才少女たちなら、それ以外にもの英霊降霊にも成功しそうだけど、時臣師は時期尚早として凛ちゃんたちに『英霊を対象とした降霊術の使用許可』を出していないから確認しようがないけど。

 

 

 そして訓練を積んだ結果、雁夜さんは……未だにランスロットの力を借りることができていなかった。

 予想通りランスロットのスキルなどの解析ができずにいた雁夜さんに対して、僕が原作の『ランスロットのパラメータ』を教えたことで、この壁は乗り越えることができた。

 やはり、事前知識がないと分霊がどんなスキルなどを持っているか、解析するのはかなり難しいらしい。

 まあ、『降霊した英霊の伝承を片っ端から調査して、全ての伝承を元に思い付く限りのスキルを持っていないか総当たりで確認』をすれば、実際に持っているスキルを見つけられる可能性は高いような気がするが、この発想は時臣師も考えていなかったらしい。

 『英霊の分霊との適合率を上げ、分霊に対する解析能力を向上させる』のではなく、『伝説に基づいて保有するスキルを想像して、実際にそのスキルを持っているか総当たりで確認する』というのはやっぱり魔術使い的な発想なのだろうか?

 魔術を目的ではなく手段として使うという意味では、やっぱり僕の発想は魔術使いなんだろうな。

 

 それはともかく、雁夜さんはランスロットのスキルや宝具を解析できるようになったのだが、次の段階である力の借用に苦戦していて、まだ一度も成功していない。

 それ以前に、分霊を自身に憑依させ続けるるためには、意識を集中させ、かつ魔力も消費し続ける必要があり、「例えランスロットのスキルや宝具の能力を借りれたとしても、魔力量が少ないからすぐに魔力切れになってしまう」と、僕とは逆の意味で悩んでいた。

 この問題は『訓練を続け分霊との親和性を向上させれば、分霊を憑依させ続けるのが容易になり、魔力消費量も減っていく』と八神家の魔術書に書かれていたので、ひたすら訓練あるのみだろう。

 雁夜さんには、悪影響がなく魔力が続く限り、ランスロットの分霊を保持し続けるようにアドバイスしておこう。

 

 今はまだ全く使えないけど、いつかランスロットの『無窮の武練』スキルや宝具の力を雁夜さんが自在に使えるようになれば、それがどれほど低ランクでも対マスター戦ならものすごく有利になるだろう。

 あるいは、ケイネスの『月霊髄液』に触れることさえできれば、己の支配下において宝具化することさえできるかも?

 制御できるかどうかは別問題として、それって無茶苦茶強くね?

 ……さすがに、切嗣の起源弾相手には意味がないんだろうけど。

 いやっ、『月霊髄液』が宝具と化して神秘のランクが起源弾を上回れば、起源弾を無効化できる可能性もあるのか……。

 これは雁夜さんに何としてもがんばってもらわないといけないな。

 

 雁夜さんには他にも期待していることがある。

 それは可能ならば、『エミヤの分霊を降霊し、エミヤの投影魔術を使えるようになってもらいたい』ということだ。

 分霊なら固有結界も持っているだろうから、低いランクなら雁夜さんでも宝具が投影できる、かもしれない。

 当時はここまで考えていなかったけど、雁夜さんは衛宮式の自殺的修行をずっと続けているわけだから、エミヤの魔術と親和性は高いと思うけど、……さてどうかな?

 

 理想は、雁夜さんによる『ランスロットとエミヤの二重憑依状態』だが、『事前にエミヤの投影魔術で宝具を投影しておき、それをランスロットの技量と宝具で攻撃』でも構わない。

 このコンビネーションは、二次創作でもチートトリッパーが使うことが多い夢の組み合わせである。

 そう、できればこれは僕が実現したかった!!

 『投影品とはいえ、れっきとした宝具を完全に己のものとして達人の技で扱う』とか、Fateファンの夢だよなぁ。

 

 

 まあ、できないことを語るのはここまでにして、僕の方も訓練を重ねた結果、何とか分霊の能力を使えるようになった。

 

 思い付いてみれば、結構簡単な方法だった。

 魂の空間(ソウルスペース)にいる分霊のスキルが強力すぎるなら、封印して力を抑えればいいのである。

 

 元々魔術というものは、矛と盾を用意するのが基本だ。

 これは『魔術が暴走したときに、沈静化させること』もあるし、『裏切り者や技術を盗んだ魔術師を粛清すること』もあるし、当然の備えだ。

 というわけで、当然八神家も降霊術の対策を十分検討済みで、『降霊した分霊に対して、強制退去、暴走化、封印などを行う魔術』が魔術刻印に登録されていた。

 このうち、強制退去は効果がなく、暴走なんてやったら僕が自爆するだけで意味もなく、軽い封印処理を実施することで分霊の力を弱体化させることに成功した。

 これにより、自滅の危険性を大幅に減らして僕もスキルの力を借りれるようになった。

 

 もっとも、常に分霊に封印の魔術をかけているわけだから、それに魔術のメモリを使う必要があり、それ以外の魔術に使えるメモリが減ってしまうというデメリットもちゃんと存在する。

 いつかは、封印なしで分霊から力を借りられるようにしたいものだ。

 

 こうして、まだランクは低いものの、タマモがメドゥーサの分霊から魔眼スキルを借りることに成功した。

 さすがのタマモも魔眼を制御して威力を抑えることまではできず、『魔眼を使うときだけスキルを借りる』と運用方法の工夫でカバーしている。

 

 また、「現代人には発音できないし、言語として聞き取れない」というとんでもない制約がついていたメディアの分霊の高速神言スキルの方は、……真凛がなんとか使うことができた。

 これは真凛が『仮想人格であり、(限度はあるが)大量の情報を追加可能』という特性を持っていることを利用し、『メディアの分霊から高速神言のスキルに関する情報を少しずつ引き出して、その情報を取り込んで理解する』という行為を繰り返し、ついに高速神言スキルを最低ランクとはいえ、行使可能になったのである。

 ってか、このスキル、『神代の魔術師』か、『制約なしであらゆる能力が使用可能なチートトリッパー』か、『真凛のような特殊な仮想人格』でもない限り使えないのでは?

 

 そう、悲しいかな、魔術師であっても所詮人間である僕では、魔眼スキルも高速神言スキルも借りることができなかったのである。

 ……悔しすぎる。

 

 せめて、『石化の魔眼を劣化させた圧力の魔眼』とか、『高速神言を劣化させた高速詠唱』とかを、僕が使えるようになれないか、現在試行錯誤中である。

 

 こうして、僕の使い魔であるタマモと真凛の二人がスキルを使いこなしていくのを見ていると、つい悔しくて『サーヴァントのクラススキルなら、僕でも使えるようになるのではないか?』 なんて考えるようになってしまった。

 それも『聖杯戦争開始後ではなく、今すぐに使いたい』と。

 

 

 雨生家の魔術書のオリジナルは雁夜さんが持っているが、コピーは僕も貰っている。

 で、そこに記されている英霊召喚の魔法陣を見ていて、ちょっと思い付いたことがあった。

 それは、『サーヴァント召喚の魔法陣と呪文に、八神家の降霊術を使って英霊(の分霊)を召喚したら、どんな結果になるのだろうか?』 ということだ。

 

 もしかしたら、何も起きないかもしれない。

 いや、その可能性は高いだろうけど、ひどいトラブルになる可能性が少ないのなら試す価値はあると思う。

 ならば、やるべきだろう。

 

 本来なら降霊術は『英霊の座から直接己の体に降霊する』わけだが、『大聖杯を経由して英霊を降霊できないか? 』と考えたわけだ。

 分霊を降霊させるだけだから、サーヴァントの肉体を構築する魔力もいらないし、分霊を呼び寄せるのもこっちでするから、大聖杯が担当するのは分霊にクラススキルを与えるだけ。

 それぐらいなら、聖杯戦争のサーヴァント召喚システムに介入できないだろうか?

 

 

 少々危険があるかもしれないが、なに、公式チートの生きた聖杯(完成版)であるイリヤスフィールですら、聖杯戦争の二ヶ月前に召喚するのがやっとだったはず。

 魔法使いでも封印指定でもないたかが一介の魔術師である僕が、聖杯戦争の一年前にサーヴァント召喚の儀式をやっても、サーヴァントが召喚されるはずがない。

 そう思って、サーヴァント召喚の儀式を準備したのだ。

 

 なお、研究したいという理由で、時臣師特性のダブルキャスター召喚陣は事前に教えてもらってある。

 

 

「本気でやる気?」

「ああ、この時期ならサーヴァントが召喚できるはずがないし、分霊にクラススキルが追加されればすごく便利だろ?

 聖杯戦争までまだ1年あるわけだから、道具生成スキルを借りられれば、君の人形も作れるかもしれないし、陣地も十分時間を掛けて作れる。

 失敗してもデメリットはないし、成功確率はほとんどないかもしれないけど、成功すればメリットは莫大だ。

 試してみる価値があると思うけど?」

 

 僕の回答に対して、真凛は浮かない顔だった。

 

「……ええ、そうね。

 確かにこの時期にサーヴァントが召喚される可能性がほとんどない以上、失敗した際のデメリットは存在しない、はず。

 大聖杯はまだ稼働開始前だから、『マスターに相応しい存在を見つけて令呪を与える機能』以外はシステムは停止中。

 だから、『英霊の座から英霊を召喚する機能』も、『召喚した英霊を7つのクラスに当てはめて、基礎知識とクラススキルを与える機能』も、『英霊に魔力で構築したサーヴァントの体を与える機能』も全て使えない。

 そんな状況で、英霊の座から分霊を降霊術で召喚する際に、サーヴァント召喚の魔法陣を使うことで、あわよくば召喚した分霊にクラススキルを付属させられないか試す。

 成功すればその分霊は貴方の魂の空間(ソウルスペース)に格納され、失敗すれば分霊は英霊の座に帰る。

 ……さすがに分霊が大聖杯に格納されることは起きない、はず。

 降霊する英霊の分霊も、貴方が呼ぶ対象を選べるわけだから、ゴルゴンが呼ばれる可能性はない。

 本当に万に一つの奇跡が起きてサーヴァントが召喚されたとしても、キャスターとしてメディアとメドゥーサが召喚されたのなら、聖杯戦争まで現界させる魔力さえ用意できればデメリットは少ない。

 その場合、最悪メドゥーサに吸血と吸精行為をがんばってもらうか、メディアに一般人が少し疲れやすくなる程度の生気収集結界を張ってもらえばたぶん大丈夫ね。

 ええ、リスクも問題もないはずなのに、……なぜか、どうしても、不安が残るのよ」

 

 そこまで起きうる状況を想定済みなんだから、問題ないと思うんだけどなぁ?

 

「まあ、マスターは、『原作で召喚されたサーヴァントに準ずる強さを持つ分霊を降霊』して、さらに『分霊を解放できなくなる』は、『それだけの分霊二人も降霊したまま平然と日常生活を過ごしている』は、想定外と規格外の事態をまとめて起こしていますからね。

 『同じようなことが起きるのではないか?』と真凛が危惧するのも無理はないですね」

 

 タマモはそう言いつつも、僕を止める気はなさそうだ。

 

「えらい言われようだな。

 まあ、万が一何か起きたらフォローを頼むぞ」

「もちろんです」

「……わかったわ」

 

 タマモは喜んで、真凛は『仕方ないわね』と言いたそうな感じで同意した。

 

 

 全ての準備が整い、今僕たちは柳洞寺地下の大聖杯がある大空洞にいる。

 ここなら誰かに見つかる恐れはほとんどないし、地脈の力もたくさん満ちているはず。

 大聖杯のすぐ傍なので、大聖杯経由の降霊という大ギャンブルが成功する確率も少しは上がるはず。

 

 

 

閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)閉じよ(満たせ)

 繰り返すつどに五度、ただ満たされる時を破却する」

 

 そして呪文を唱えながら、ここに来る途中で捕獲した数羽の鳩の血に自分とタマモの血を少し混ぜて、時臣師特製のダブルサーヴァント召喚陣を作成。

 

 僕の隣にタマモを座らせ、集中するために目を閉じて呪文の詠唱を開始する。

 

「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。

 我に従え、ならばこの命運、汝が杖に預けよう」

 

 タマモが何か驚いているようだが、降霊術の構成は順調の為、そのまま続ける。

 ここまでは完全にオリジナルの召喚呪文とほぼ同じ、しかし

 

「至れ、我がパートナーとなりし、メディアとメドゥーサの英霊よ!」

 

 ピンポイントで、二人の英霊に呼びかけてみた。

 さあ、この結果はどうなる!?

 

 次の瞬間、ものすごい量の魔力が吸いとられたが、同時に僕の中に二人の英霊の魂が降霊したのをはっきりと感じ取った。

 よし、上手くいった

 そう思って目を開けると、

 

「うげっ!?」

 

 何と、召喚陣が眩く光り、風が巻き起こっている。

 『まさか、今ここでサーヴァントが召喚されるのか?』と恐れ慄いたが、幸いにも光が消え風が収まった後、誰もいないし何も起きなかった。

 ……ふう、驚かせやがって。

 

「マスター。かなりというか、私が持つほとんどの魔力を吸いとられましたけど、うまくいきましたか?」

「ああ、手応えはばっちりだ。

 パラメータを確認しないと確信できないけど、この反応と感触からすると、サーヴァントクラスが付与された分霊を降霊できたと思う」

『なるほど、そういうわけだったのね』

『ええ、やっと事情が分かりました』

 

 次の瞬間、ラインを通じて二人の女性、それも聞き覚えがある声が聞こえた。

 さらに僕の魔術刻印が起動する感覚と同時に、目の前には頭痛を堪えている様子の真凛と一緒に、メディアとメドゥーサが立っていた。

 って、おい!!

 まさか、この時期にダブルサーヴァント召喚に成功してしまったのか!?

 ゴルゴンが召喚されなかったことに安堵しつつ、『サーヴァント二人に対する大聖杯のフォローなしでの魔力提供』は大変だと考えたところで、……二人のパラメータが見えないことに気がついた。

 二人がサーヴァントであり、僕がマスターなら必ずパラメータが見えるはず。

 それがないということは、……二人とも本体ではなく分身なのか?

 んっ?

 分身、……もしかしてっ!!

 

「え~と、……もしかして、僕の魂の空間(ソウルスペース)内にお二人を召喚してしまいましたか?」

魂の空間(ソウルスペース)とやらが、貴方の中にあった『英霊の座』のような場所を指しているのなら、その通りよ」

「……すいませんが、一体何が起きたか分かりますか?」

 

 ものすごくやばい予感がしてきたが、僕は今できること、すなわちできるだけ低姿勢で相手の機嫌を損ねないように丁重に尋ねた。

 

「大体のところはね。

 私たちの召喚は、明らかに正規の方法じゃなかったわ。

 多分、召喚するべきでない時期に、本来とは異なるイレギュラーな方法でサーヴァント召喚を行ったんでしょうね。

 これだけならただの召喚失敗で終わったんでしょうけど、召喚者が降霊術に関して天才、いえ鬼才と言っていい素質を持っていたことに加えて、令呪まで使って無理矢理召喚を敢行した。

 そして、大聖杯を通さない召喚のため、当然サーヴァントの体を構築するだけの魔力はなかったけど、召喚した英霊の魂を格納可能な場所があったせいで、私たちはそこに放り込まれたってところかしら?

 それにしても、英霊を二人も降霊しつづけて平然としている人間がこの時代にいるなんて、正直信じがたいわね」

「彼女の説明で大体の状況を把握できましたが、より詳細な状況説明をお願いします」

 

 どこか面白がっている感じのメディアと、クールに尋ねるメドゥーサがそこにはいた。

 って、ええ!!

 令呪まで発動したのか?

 慌てて右手を見ると、確かに令呪が二画消えて一画しか残っていなかった。

 どうやら集中しすぎて無意識のうちに令呪まで使い、多分降霊済みの二人の分霊の力まで借りて、無理矢理二人の召喚を行ってしまったらしい。

 ……そこまでするつもりはなかったんだけどなぁ。

 

「失礼しました。

 すぐに事情を説明します。

 ……場所は、僕の精神世界でよろしいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」

「わかりました」

 

 二人は承諾すると、すぐに姿を消した。

 予想はしていたが、やっぱり今の二人の体は『僕の魔術刻印に登録されている影の魔術で作った分身』だったか。

 僕の意志を無視して、僕の魔術刻印を利用することができるって、すでに完全に逆らえる状況じゃないな。

 

 

 タマモと真凛と一緒に精神世界へ入った僕は急いで応接室の準備を整え、タマモに依頼してメディアとメドゥーサを呼んできてもらった。

 タマモの案内で現れた二人に対して、私は着席を薦めると、二人は何も言わずに座り、私を見つめてきた。

 

「初めまして。

 意図したものではないとはいえ、イレギュラーな召喚を行ってしまい、申し訳ありませんでした。

 私の名は八神遼平。

 この聖杯戦争において、マスターとして参加するつもりであり、今回あなた達を召喚した魔術師です。

 ああ、私は前世の記憶持ちでして、これが前世の姿です。

 現在の肉体は、さっきご覧になられた通りの幼児ですが、大人として対応していただければ幸いです。

 そして、私の使い魔である狐のタマモ。

 この姿はタマモが変身可能な外見の一つです」

「はい、私がマスターの使い魔のタマモです。

 よろしくお願いしますね」

 

 度胸があると言うべきか、タマモは演技ではない笑顔で挨拶をした。

 

「それから、タマモが作りだした仮想人格の八神真凛」

「八神真凛よ。

 タマモの魂の空間(ソウルスペース)内に存在する仮想人格で、彼の二番目の使い魔でもあるわ。

 よろしくお願いします」

 

 真凛の方も、二人の恐ろしさを理解しているはずなのに、それを一切表に出さずに挨拶をしていた。

 

「以上2名の使い魔と私でチームを組んでいます。

 そして今回私は、降霊術の応用として、『ダブルサーヴァント召喚用の魔法陣を使ってサーヴァントクラスの能力を持った分霊の降霊』を試したんですけど、……現状はどうなっていますか?」

「そうね、私のラインは貴方とタマモの両方に繋がっているから、私のマスターは貴方達二人みたいね」

「私のラインも同様に、貴方達二人に繋がっているようです」

 

 二人ともダブルマスター状態!?

 それは完全に想定外の展開だ!

 ……だがまあ、考えてみれば困ることは何もないから、別に構わないか。

 そんなことよりも、

 

「そうですか。

 それから念のため確認したいのですが、お二人はギリシャ神話に伝承が残っているメディア殿下とメドゥーサ様で正しいですか?」

「ええ、その通りよ。

 なぜか、10代の姿になっているけど、私がコルキス国王女メディアであることに間違いないわ」

 

 そう、今までは突っ込んでいなかったが、なぜかメディアはhollowで1シーンだけ出てきた薄幸の美少女姿なのである。

 

「私がメドゥーサであることも間違いはありません」

 

 一方メドゥーサは、原作通りの長身のボディコン姿である。

 

「で、お二人ともサーヴァントで間違いないですよね」

「違うわ」

「ええ、違いますね」

 

 僕の期待を込めた質問は、二人から即座に否定されてしまった。

 うわ~、あれだけがんばったのに失敗だったのか!

 ってことは、『サーヴァントクラスを持った分霊』ではなく、『自意識を持った分霊』を召喚してしまったってことか。

 しかも、まさか、自意識を持った状態で僕の魂の空間(ソウルスペース)内に入ってしまうとは!

 

「あの~、この状況は私にとっても完全に予定外なのですが、お二人ともここから出ることは可能でしょうか?」

「……さっきも言ったけど、私たちをイレギュラーな方法で召喚した結果、サーヴァント召喚とは違って、魔力で肉体を構築しない状態であなたの魂の空間(ソウルスペース)に格納されてしまったわ。

 おまけに、何度か試してみたけど影の分身を外に作って動かすことはできても、私たち自身はここから出ることはできなかったわ。

 聖杯戦争が始まれば、私たちもここから出て、サーヴァントになることが可能になるかもしれないけど、……それが実現するかどうかは正直分からないわ」

 

 メドゥーサも黙って頷いた。

 

 おいおいおいおい、自意識を持った英霊(の分霊?)ですら、僕の魂の空間(ソウルスペース)から脱出できないのかよ。

 

 メディアは『英霊の座』のような場所と表現していたけど、それってまるで『英霊の檻』じゃないか?

 ともかく、まずは謝罪しかない。

 

「わかりました。

 ……意図したことではないとはいえ、ここに閉じ込めることになってしまい、誠に申し訳ありません。

 私の力の及ぶ限りで、お二人が自由の身になれるように努力します。

 そして、我ながら図々しいとは思いますが、二人が自由の身になれるための研究をする時間を作るため、私たちをマスターと認め、私たちと一緒に聖杯戦争を戦っていただけないでしょうか?

 もちろん、メディア殿下とメドゥーサ様も協力して、です。

 私たちにできる範囲でメディア殿下とメドゥーサ様の希望は叶えますし、一人の人間として、権利と意志を可能な限り尊重するつもりです

 それから、お二人をここに閉じ込めるつもりなど一切なかったことは、この後詳細に説明します。

 現時点のアイデアとして、聖杯戦争開始後に令呪を使えば、さすがにここから出られる可能性が高いのではないかと考えていますけど」

「あら、ずいぶん下手に出るのね。

 ……バカなマスターに召喚されれば、最悪使い魔か奴隷扱いされると思っていたのだけど」

 

 メディアは本気で意外そうだった。

 

「ギリシャ神話に伝承が残っている王女殿下や女神であり、現英霊であり、私たちより遥かにすぐれた技量と力を持たれている方たちです。

 こちらが有利なのは、私たちを殺せば現界できなくなることと、強制命令権を持つ令呪だけです。

 しかも令呪に関しては、英霊が持つスキルや宝具によっては簡単に無効化可能ですし、サーヴァントではない貴女達には効果はないでしょう。

 それ以前に、所詮は令呪もこの時代の魔術師が作ったものですから、解析する時間さえあれば、自力で無効化することも不可能ではないでしょう。

 そこまで分かっていて貴女たちを私の支配下におけると思うほど、自惚れていないし馬鹿でもないつもりです。

 ……そうそう、貴女たちの名において、『侮辱や危害を加えられないかぎり、私たちと私たちの仲間に危害を加えない』と誓っていただければ、こちらが持つ聖杯戦争に関する全情報を提供します。

 また、誓っていただけなくても、お望みでしたら聖杯戦争開始前に、生前暮らしていた故郷へ訪問することも可能です」

 

 これが、現時点で私が思いつく最大限の二人への配慮である。

 これを拒絶されると私が出せる手札は無くなり、後は二人に慈悲を請うしかない。

 祈るような気持ちで二人の回答を待っていると、意外にもメディアはすぐに反応を示した。

 

「ふ~ん、ずいぶん配慮してくれるのね。

 ……いいわ、なかなか気に入ったわ。

 私、コルキス国王女メディアの名において、私に危害をくわえることや、私の名誉を傷つける行為がなされない限り、貴方と貴方の仲間に危害を加えないことを誓いましょう。

 そして、正当な報酬と待遇を受けられる限り、貴方と共に戦うことを誓うわ」

「同じく、メドゥーサの名において、私に危害を加えられない限り、貴方と貴方の仲間に危害を加えないことを誓います。

 そして、よほどのことがない限り、貴方と共に戦いましょう」

 

 ふう、まずは第一段階突破だな。

 

「よろしくお願いします。

 ああ、私たちの記憶や精神を操作するのも、勝手に覗き見るのもなしでお願いします。

「まあ、当然ね。

 ……契約を破ったり、私を騙したり、使い捨てるような真似をしなければ、その条件を守ってもいいわ。

 それから、『貴方達がどんなつもりで何をやったか?』については、ここにいた私の分霊から情報を受け取って大体理解したわ。

 無茶なことを企んで実行したのは事実だけど、……確かにお互いにとって想定外の不幸な事故だったのは間違いないようね」

「私も分霊から情報を受けとりましたが、同意見です」

 

 おおっ?

 分霊がいないと思ったら、それぞれ吸収していたのか!

 っていうか、分霊って自意識がないだけで、見聞きしたことを記憶していたのか?

 ……よし、思い出してみたが、分霊をじろじろ見たり、力を借りるとかはしたけど、体に触れたり、服を脱がしたりとかの不埒な真似は一切、そう一切、全く、欠片もしていない。

 これなら、分霊の記憶を入手しても彼女たちの怒りを買うことはない、はずだ。

 肉体が幼児のせいで、そっち方面の欲望がほぼない状態で助かった。

 前世の私が分霊を自由にできる機会を得ていたら、……触りはしなくても、裸ぐらいは鑑賞していたかもしれない。可能なら、写真撮影ぐらいしていただろう。

 そんなことをしていたら、今ごろ間違いなく地獄行きだったな。

 それも『こっちから殺してくれと懇願するような無限の生き地獄』の方だ。

 

 そんなことを考えていると、表情から考えていることを読み取ったのか、

 

「マスターが紳士的で感謝しているわ。

 もし分霊相手だとしても、妙なことをしていたらそれなりの対処をすることになったでしょう。

 ……お互い、幸せな結果になってなによりね」

「……ええ、全くです」

 

 今のメディアの目は全く笑っておらず、それどころか絶対零度の冷たさだった。

 『僕の下心を凍り付かせるための警告』といったところか?

 ええ、あそこまで言われて妙な真似をするほど、僕は度胸ないし、無謀さも持ち合わせていないです。

 

 

「では、まずは私の聖杯戦争に関する知識と情報を提供します。

 タマモと真凛、『Fate/Zero』を見てもらう準備を頼む。必要なら解説もよろしく」

「しょうがないわね。

 じゃあ、そこに座っていてください。

 これから、『かつてありえた第四次聖杯戦争の可能性の一つ』について、アニメ形式の記憶を送り込みます」

 

 真凛がそう言うと同時に、『Fate/Zero』の記憶が二人に送り込まれた。

 最初は面白そうな表情をしていたメディアはすぐに引き込まれ、相変わらずクールビューティーのメドゥーサも集中して見ている気配が伝わってきた。

 

 今まで言っていなかったが、僕の記憶にある映像を伝える際、ラインが繋がっている相手の場合は記憶をライン経由で流し込めばいいので、全部見せるのにかなり時間の短縮が可能である。

 もちろん、大容量の情報となると、分霊や仮想人格相手だからできる無茶ではあるが。

 

 メディアたちがアニメ鑑賞している間、僕はメディアとメドゥーサのパラメータの確認をしていた。

 

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

マスター   八神遼平&タマモ

属性     中立・悪

ステータス  筋力 D  魔力 A++

       耐久 C  幸運 A

       敏捷 B  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

マスター   八神遼平&タマモ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 B

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 A  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

 ああ、やっぱり二人ともキャスター、つまりサーヴァントじゃないただの分霊だ。

 とはいえ、メディアは宝具以外のステータスは全て1ランクアップして【呪具作成】が保有スキルに追加され、メドゥーサは【対魔力】と【騎乗】が保有スキルに登録されている。

 原作のスキル構成は、メディアの場合はクラススキルの【道具生成】スキルに【呪具作成】が統合され、メドゥーサの場合は元々この二つのスキルを持っていて、クラススキルとダブったからクラススキルだけ表示されていたというオチか?

 メディアは、魔女の技を受け継いでいたわけだから、【呪具作成】スキルを持っているのは納得できる。

 

 そしてメドゥーサも、たしか公式設定で『女神としての騎乗などのスキルと、怪物としての魔眼や怪力といったスキルを併せ持つ存在』と書かれていたし、『元女神にして未来の邪神、その二つの力を合わせ持つ存在』と考えれば、……これだけスキルが多くても全然不思議ではない。

 あと、二人ともクラススキルを持っていないけど、……まあ、イレギュラーな召喚でサーヴァントじゃないから当然か。

 全体的には、私とタマモがマスターになったわけだから、葛木キャスターよりはパワーアップしたものの、桜ライダーとはほぼ同等ってところか。

 

 二人に協力してもらって、1年かけて道具作成、そして魔術を使った拠点作成を行えばかなりのことができそうだ。

 幸いにも、『大聖杯がある大空洞』という拠点にもってこいの場所もあることだし。

 

 ああ、そうだ!

 メドゥーサの武器である『鎖付きの短剣』は宝具でないため、他のサーヴァントに比べて攻撃力に劣るという弱点があったんだった。

 可能なら宝具クラスまで威力を向上してもらおう。

 ……いずれサーヴァントの体を得られた時の為に。

 

 サーヴァントの体が無くても、真凛と同じく影の体を使ってもらえば、それなりのことはできるはずだ。

 さっきも、私の許可なく勝手に使っていたぐらいだし。

 

 それから、人形の体を作ってもらえれば、自力での魔力回復も含め、もっといろんなことができるかもしれない。

 ついでに、真凛の人形も作ってもらえれば、なおいい。

 

 映像の記憶を見終わった後、二人はすぐに影の分身を飛ばして大聖杯を調査しつつ、私との会話を開始した。

 

 

 

「ふ~ん、なるほどね。

 青髭の代わりに、私たちをキャスタークラスで呼ぼうとしたわけね」

 

 メディアは感心はしていても、驚愕まではしてないようだった。

 

「ええ、そうです。

 私の記憶を見てお分かりの通り、私はこの世界を観測可能だった上位世界の情報を、前世の記憶として持っています。

 そのため、身近な人で助けられる人は助けたいと思い、今から1年半前ぐらいから雁夜さんと接触し、予知情報として前世の情報の一部を提供しました」

「あら、彼が仲間なの?」

 

 予想外だったのか、メディアは驚いた声を出した。

 

「ええ、方法は間違えましたけど、彼の『桜ちゃんを助け、葵さんと凛ちゃんを幸せにしたい』という願いは正しいものですし、そのために『命まで掛けて全力で努力した』のは間違いありません」

 

 そう、あのマスターたちの中では、一番多くの読者が彼の目的に共感しただろう。

 ……結果は最悪としか言えないのが悲劇なんだけど。

 まあ、『主人公補正がない魔術回路があるだけの一般人』が聖杯戦争に参加するなんて無謀な真似をしたんだから、ある意味当然の結果だよな。

 

「……そうね。

 もっとも、結果は完全な道化師(ピエロ)だし、葵を殺しかけ、凛をさらに不幸にしたけどね」

 

 メディアは雁夜の行為は認めているようだが、あの結末には不満があるようだ。

 

「ええ、それは私もフォローできません。

 ただ、正しい情報を提供した上で、マキリと関わらない状態ならば、『桜ちゃんたちを幸せにする』という目的の為、彼は頼もしい盟友となってくれると判断しました。

 そして、雁夜さんはその期待に応えてくれた結果、葵さんを説得し、時臣師も説得し、桜ちゃんの間桐家への養子入りの話を完全に潰しました」

 

 いくら原作知識持ちの私でも、所詮今はただのガキ。

 雁夜さんがいなければ、桜ちゃんを助けるのは相当困難だったと今でも考えている。

 

「そうですか、桜は救われたのですね」

「ええ、少なくとも間桐家で地獄を見る可能性は、……臓硯に桜ちゃんが拐われない限り、ありえないと思います」

「それはよかった」

 

 メドゥーサは本当に安心しているようだった。

 もしかして、このメドゥーサには間桐桜の記憶があるのだろうか?

 

「あら、なかなかうまくやったのね」

「はい、可能な限り策を練って、雁夜さんと一緒に努力した結果です」

「それで、『雁夜は聖杯を必要としていないから、貴方と手を組める』という認識でいいのかしら?」

「はい、私の存在が桜ちゃんの幸せに繋がる限り、雁夜さんは私の味方になってくれます。

 言い忘れていましたが、桜ちゃんはすでに私の婚約者になっているので、養子に出させる可能性はほぼなくなっています。

 よって、『肉体改造』や『家族と引き離されること』、そして『本人の意思を無視した結婚』はほぼなくなったと考えています」

 

 それを聞いてメドゥーサは安堵し、対照的にメディアは私を睨んできた。

 

「貴方、相手の意志を無視して桜と結婚するつもりなのかしら?」

「あくまでも婚約者ですよ。

 将来桜ちゃんが私との結婚を嫌がればその時点で婚約を解消するつもりですし、桜ちゃんが希望する相手と結婚できるようにできるだけフォローするつもりです」

 

 これは本気だ。

 いくら桜ちゃんが好みの美女に育つとはいえ、相手が嫌がっているのに無理矢理結婚を迫るような趣味は私にはない。

 

「そう、そのつもりなら私も異論はないわ」

 

 私が嘘を言っていないのを理解したのか、すぐにメディアは大人しく引き下がった。

 

 

「で、ギルガメッシュのマスターである遠坂時臣はどうするのかしら?

 

 貴方の話からすると、多分時臣とも手を組んでいるのでしょう?」

 

「……その前に、お互いの認識を確認していいですか?」

「いいわ」

「別に構いません」

 

 このメディアの問いに答えることは、今後の展開に大きく影響すると感じた私は、まずは認識のすり合わせから行うことにした。

 前提となる認識がずれていると、この後の話で話がかみ合わないどころか、交渉が即決裂しかねないと感じたからだ。

 幸いにも二人から承諾があったので、私はこの世界について確認を取ることにした。

 

「『Fate/Zero』を見て、さらに貴女方自身が分身で大聖杯を調べた結果、『大聖杯にはアンリ・マユが眠っており、聖杯を完成させると高い確率でアンリ・マユが復活して世界を滅ぼす』と判断した、という認識で合っています?」

「その通りよ。

 分身で調べた限りだけど、確かに大聖杯の中には桁違いの悪性の存在が眠っていることが分かったわ」

「『ゴルゴンとなり、ほぼ邪神と化していたかつての私を上回る悪しき気配』を、私も感じました。

 あれは、この世にあってはならない存在です」

 

 さすがは、元女神にして、未来の邪神のメドゥーサ。

 感知力は優れているらしい。

 

「私も同じ意見です。

 よって、私の聖杯戦争の目的は聖杯を完成させないこと。

 もちろん、世界を滅ぼさせないためです。

 そのため、マスターとして聖杯戦争に参加するつもりでした。

 英霊である貴女がたは、この世界が滅んでもこの世界から去るだけで消滅するわけではありませんが、……よろしければ協力していただけないでしょうか?

 ……ああ、聖杯戦争を無事に生き残ることができ、貴女たちが現界を望まれるなら、聖杯戦争後も継続して契約と魔力供給を続けるつもりです」

「そうね。

 せっかく、英霊の座から意識をもったまま出られたわけだから、しばらくこの世界で過ごすのも悪くないわね。

 ……さっきも言った通り、正当な報酬がもらえるなら構わないわよ」

「世界を救った報酬ですか?

 この世界に関する上位世界の情報では足りませんか?」

 

 すでに人としての権利も認めているし、可能な限り希望は聞くと言っている以上、これ以上の対価は正直勘弁してほしいのだが。

 

「それは貴方たちの安全の保証と引き換え、と言いたいところだけど、……確かに等価交換とは言えないわね。

 いいわ、その報酬については後で改めて相談させてもらうわ」

 

 う~む、さすがに手強いな。

 一方、メドゥーサの方はあっさりとしたものだった。

 

「私は桜を守りたいです。

 桜の護衛を最優先とすることを認めるのなら、貴方に協力しましょう」

「ええ、それで問題ないです。

 ただ、貴方達の命と桜ちゃんの安全の次ぐらいに、私たちの安全を優先してもらえると嬉しいです」

「貴方たちが桜にとって本当に大切な存在でしたら、もちろん私が守りす」

 

 メドゥーサはそう言って微笑んでくれた。

 

「それなら結構です。

 よろしくお願いします」

 

 予想通り、メドゥーサは桜が最優先か。

 桜を大事にする限り、僕たちの仲間でいてくれそうだけど、……滴のことを知ったら何て言ってくるかが問題だな。

 

 

「認識と方針が一致したところで、時臣師への対応について話します。

 時臣師が私に求めていることは、二人のサーヴァントを同一クラスで召喚し、聖杯戦争において全部で八人のサーヴァントを召喚させることです。

 これにより、『ギルガメッシュを自害させないで、聖杯に7人のサーヴァントの魂を納めて、根源への道を開くこと』が目的です。

 百聞は一見にしかず。

 時臣師の発言を流しますね」

 

 応接室にある巨大なテレビに、私は時臣師との会話の光景を流し始めた。

 ここは僕の精神世界なので、訓練を積むことでこんなことも可能になったのだ。

 

『サーヴァントを8体召喚する目処が立っている以上、最強であるギルガメッシュを召喚しない選択肢はありえない。

 誰かがギルガメッシュに対して例のことを吹き込んでも、召喚直後に『8体召喚されたサーヴァントのうち7体のサーヴァントを殺すことで、私の願いである根源への道が開かれること』を伝えてあれば、 ギルガメッシュが私を裏切ることはないだろう』

 

「ああ、例のことというのは、すでにアニメを見て分かっていると思いますが、『根源に至るためには7体のサーヴァントの魂が必要である以上、自分が召喚したサーヴァントを絶対に殺さなくてはいけないこと』ですよ」

 

 必要ないかとも思ったが、一応補足説明を言うことにした。

 

「ほんと、召喚した英霊全員に喧嘩売ってるわよね」

 

 メディアがぼそっと呟いたが、声色は物凄く冷たかった。

 うおっ、結構怒ってる?

 

「ま、まあ、根源への道を求めず、『願望機としての聖杯』を求めるだけなら6人のサーヴァントの魂で足りますけどね」

 

 一応フォローしてみたが、さてどうか?

 

「そして、アンリ・マユに汚染されたせいで聖杯が完成した瞬間に世界滅亡、と。

 どこまで私を怒らせれば気がすむのかしらね」

 

 再びメディアはぼそっと呟いたが、さっきよりも機嫌が悪くなっている感じを受けた。

 し、しまったー!!

 思いっきり、藪蛇だった。

 どうもフォローするだけ逆効果のようなので、私は説明に専念することにした。

 

「え~と、……続きをどうぞ」

 

『私が召喚するギルガメッシュは間違いなく無敵であり最強だ。

 ましてや、綺礼君がフォローしてくれるのだから、万が一にも敗れる恐れなどない。

 ならば、余計なことをして八神君に危険が及ぶことをさけ、サーヴァントの自由意思に任せてくれればそれでいい。

 もちろん、召喚したサーヴァントには事情を全部話してくれて構わないよ。

 多分、誇り高いサーヴァントならば、マスターであり君のような子供に八つ当たりすることなく、この挑発に対して私へ怒りを向ける可能性が高いだろう。

 君の役割は、ただサーヴァントを召喚し、魔力を供給するだけだ。

 無論、『八神君が令呪を使って戦いを妨害させられること』をサーヴァントが危惧する可能性が高いが、その場合はサーヴァントの前で彼らの要求通りに令呪を使い切ってしまえばいい。

  令呪を使い切っても、サーヴァントとのラインは繋がったままだから魔力供給は問題ない』

 

「以上です」

「……いいわ。

 誰に喧嘩を売ったのか、嫌と言うほど思い知らせてあげましょう。

 そして『サーヴァントの自由意思に任せていい』と発言した以上、その発言の責任はとってもらいましょうね」

 

 ……こ、怖い、怖すぎる。

 殺気に満ち溢れていて、メディアの方を向く勇気がない。

 メドゥーサは沈黙を保っているが、やっぱり怒っているか?

 

 し、しかし、最低限はフォローしておかなければ、桜ちゃんを悲しませることになってしまう。

 私は(前世を含めて)一生で一番と言っていいほど勇気を振り絞り、恐る恐る発言した。

 

「わ、私としては、婚約者の父ですし、一応恩師ですので、そのギルガメッシュとアサシンと言峰綺礼を殺すのはいいとして、……時臣師は半殺し程度で抑えていただければ嬉しいんですけど。

 ……ああ、こちらとは関係無いところで時臣師が自滅したり、殺されかけたりした場合は、基本放置で構いません。

 ないとは思いますけど、時臣師が血迷って、私や私の家族に危害を加えようとした場合は、もちろん容赦なく始末して結構です」

 

 そう一気に言って恐る恐るメディアの顔を見た瞬間、私は完全に凍り付いてしまった。

 メディアは笑顔だったが、まさに氷の微笑と呼ぶに相応しい冷たさと怖さを兼ね備えていた。

 

「……いいわよ、その条件で。

 一応マスターの恩師ですからね。

 命までは奪わないであげましょう。

 ……ただし、半殺しの方法は選ばせてもらうわよ」

「……お手柔らかにお願いします」

 

 このままだと時臣師が死ぬほど酷い目にあわされそうだったが、……『サーヴァントに任せていい』とか、『全部話していい』とか言ったのは時臣師自身なんだから、メディアの言う通り自分の言葉に責任をとってもらおう。

 

「ええと、メドゥーサ様の方は?」

「私もそれでいいですよ」

 

 口許は微笑んでいたし、短い回答だったが、やっぱりこっちも怖かった。

 藪を突いて蛇を出す趣味は無い私は、何もコメントせずに次の件に話を移した。

 

 

「それでは、次の映像です。

 これは第四次聖杯戦争の10年後に起きた、第五次聖杯戦争の物語です。

 なお、第四次聖杯戦争はアニメでしたが、これはゲーム形式ですので、選択肢によって結果が異なります。

 全部見るのは大変なので、まずはいくつかのルートに絞って見ていただきます。

 なお、第五次聖杯戦争では、メディア殿下もメドゥーサ様も召喚されています。

 よって、お二人にとって物凄く不快なシーンもあると思いますけど、我慢して見てください」

 

 そして二人に、まずはセイバールートのトゥルーエンドまでを寄り道なしで見てもらった。

 そして、セイバールートを見終わったとき、メディアは頭を抱えていた。

 まあ、あの殺され方では、色々と思うことがあっても仕方あるまい。

 下手なフォローは藪蛇だと感じた私はメドゥーサの方を見たが、彼女はいつも通り無表情で反応はなかった。

 特に言うことはなさそうだったので、私は凛ルートを見せることにした。

 

 凛ルートは、最初にメディア勝利エンド(士郎の人工宝具化ルート、胎児化ルート)を見せた後、グッドエンドを見てもらった。

 

「すごい朴念仁が相手だったけど、……あの私は最期まで幸せだったのね」

 

 メディアはそう言って、感慨に耽っている様子だった。

 メドゥーサの方は沈黙を保ったままだった。

 やっぱりコメントできない雰囲気だったので、私はメディアが何か言ってくるまでじっと黙って待っていた。

 

「あら、待ってくれたのね。

 ありがとう。

 まだあるんでしょ。

 次の物語を見せてちょうだい」

 

 メディアは演技ではない笑顔を見せていたので、私はやっと安心して次の映像を見せることができた。

 そして、最後に桜ルートのグッドエンドまでの物語を見てもらった。

 

「……よかった。

 桜は救われ、あの世界の私もまた、桜と共に生きていくことができたのですね」

 

 ここで初めて、メドゥーサが発言した。

 どうやらメドゥーサは、慎二と共に戦う自分には一切興味が無かったらしい。

 嫌われるどころか、完全に無視されていたというか、視界にすら入っていなかった慎二が哀れであるが、……まあ自業自得か。

 

「ええ、それは間違いないはずです。

 士郎は『正義の味方』であることを捨て、桜が一番大事な存在になりましたし、桜を大切に思っている凛もいます。

 多分、4人で幸せな時間を過ごしたんじゃないでしょうか。

 ……士郎を巡って修羅場が発生したかもしれませんけど」

 

 もちろん、修羅場を起こした女性は、当然桜、凛、メドゥーサの3人である。

 

「そうですね。

 士郎の淫夢は、間違いなく私が見せたものです。

 どの程度かはわかりませんが、あの世界の私は士郎を男と認識し、好意を持っていたのは間違いありませんね」

 

 メドゥーサは相変わらずクールな反応だった。

 とはいえ、『あの世界においても、桜が幸せになる可能性があること』を知り、メドゥーサは一応満足しているようだった。

 

 一方、メディアはまたもや沈黙していた。

 ま、まあ、あれもまた酷い扱いだったからなぁ。

 なにせ、『臓硯によってマスターである葛木を殺され、自分は臓硯によってゾンビのような状態で操られていた』んだ。

 平行世界の出来事とはいえ、どう考えてもあれは許せないだろう。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふ」

 

 あっ、これは怒ってる、……いやブチ切れているな。

 

「……いいでしょう。

 臓硯、あなたも私の敵だと認定しました。

 苦しみ抜いた上で死なせてあげましょう」

 

 そう言ったメディアの顔は、やっぱり氷の微笑、それも絶対零度の微笑だった。

 無理もないけど、……怖すぎる。

 

 

 少し時間が経って、多少は冷静になったメディアは私に話しかけてきた。

 

「それにしても、『あの世界の私がマスター殺しをしたこと』、そして『私が令呪を無効化できる宝具を持っていること』を知っていて、貴方はよく私を召喚する気になったわね」

「少し不安でしたけど、王族であり魔術師であるメディア殿下なら、正当な待遇と対価を提供して、お互いが納得した上で契約を結べば、こちらが契約を守る限り契約を順守してくれる可能性が高いと考えました」

「本気かしら?」

 

 メディアは偽りは許さない、と言わんばかりの鋭い目つきで私を睨みつけた。

 

「正直に言えば、さっきご覧になったとおり第五次聖杯戦争では『メディア殿下が契約について曲解に近い解釈をしていたケース』もありましたけど、完全な契約違反とはいえなかったですし、契約者の未熟さにも問題があると感じました。

 よって、メディア殿下との信頼関係を築けていれば、契約を曲解される可能性も減らせると考えたわけです。

 それから、桜ちゃんを保護していることを材料に、メドゥーサ様に味方になってもらい、最悪の場合はメドゥーサ様の力を借りてメディア殿下に対抗してもらうつもりでした。

 ……さすがのメディア殿下でも、正面からメドゥーサ様を相手にするのは避けてくれるのではないかと考えまして」

「それは、……その通りね。

 私ほどじゃなくてもあの時代の強力な魔術の心得があって、魔力量は同等、肉体能力やスキルは圧倒的に負けている状況で、メドゥーサと一対一で敵対するほど私は馬鹿ではないわ。

 もちろん、そんなことを気にならなくなるぐらいの屈辱を受ければ話は別だけど?」

 

 最後の言葉は私に向けられていた。

 

「死にたくないので、そんな真似をするつもりは欠片もありません。

 ……ああ、でも私は人の心がわからないというか無神経なところがあるので、事前にタブーを教えてもらえると助かります。

 現時点では、『過去の話は必要がない限り触れないこと』と『特定の呼び名を嫌っていること』ぐらいしか分かっていませんが」

「とりあえず、それが分かっていれば十分よ。

 あとは、下劣な真似をしてくれば即座に殺してあげるわ」

「死にたくないので、事故でもない限り体に触れるような真似は絶対にしません。

 そもそも、体が幼すぎてそんな衝動は持っていません」

「それならいいわ。

 その言葉、せいぜい忘れないでね」

 

 やっぱりメディアは怖かった。

 くれぐれも、事故でも体に触れないように気を付けよう。

 

「そうそう、普段の呼び方はどうしますか?

 今の時点では、二人ともクラスなしですからね。

 第五次聖杯戦争のクラスである『キャスター』と『ライダー』と呼んだ場合、『ライダー』の方は征服王と重なってしまいます」

「私は別に構いませんが」

「いえいえ、メドゥーサ様の正体を隠すためにも、ライダーとは呼ばない方がいいと思いますよ」

 

 本当にメドゥーサって、自分が興味ないことについてはクールと言うか、完全スルーなんだなぁ。

 

「そうですか。

 ……貴方がそう言うのなら、私のことは……そうですね。

 『桜を守るもの』と言う意味で、『ガーディアン』と呼んでください。

 それから、……メディアの方は『キャスター』と呼ぶのですか?」

「そうですね。

 青髭を呼ばせない以上、キャスターはメディア殿下一人だけですが、……嫌でなければ『プリンセス』はどうですか?

 キャスターより真名がばれやすくなるかもしれま「いいわね、それ。気に入ったわ」

 

 あら、意外なことに即答だった。

 原作のフード姿の美女には合わないが、このエルフ耳美少女には『プリンセス』の名はよく似合う。

 ……性格は原作のままみたいだけど。

 他には『ウィッチ』も考え付いたが、こっちはメディアの嫌いな『魔女』の呼び名そのものだし、提案しなかったのは多分正解だろう。

 

「それにしても、外見に精神年齢が引きずられるって話は本当ね。

 今の私は、第五次聖杯戦争で召喚された私ではなく、王女だった頃の私に近い気がするわ」

 

 よかった。

 それなら、王女殿下として対応すれば問題ないな。

 いくら『私たちに危害をくわえない』と約束してくれたとしても、正直魔女を相手にするのは肝が冷える。

 性格が、箱入り娘(だと思われる)王女時代に近づいてくれるのは、(事実だとすれば)私としても本当に嬉しい。

 

「それでは、これからもメディア殿下と呼んだ方がいいですか?」

「一応貴方がマスターなんだから、メディアかプリンセスで構わないわ。

 好きに呼びなさい」

「わかりました。

 それでは、……では、普段はメディアと呼ばせてもらいます」

「私もメドゥーサで構いません」

「了解です」

 

 ふう、とりあえず二人の機嫌はいいみたいだな。

 

 

「それから、事故でお二人を私の魂の空間(ソウルスペース)に取り込んでしまったわけですが、『この空間が崩壊しそう』だとか『何か異常が感じられる』ようなことはありますか?

 今まではお二人の分霊しかいなかったわけで、当然自意識を持った英霊を、それも二人も取り込んだのは当然初めてです。

 許容量オーバーで近いうちに私が死ぬとか、体の機能が失われていくことがないか、正直不安なんですが……」

 

 この不安はマジである。

 今のところ特に苦痛や違和感はないが、いつか限界が来て破滅が来ないか、不安をぬぐいきることはできていない。

 

「確かに、聖杯のアイリスフィールでさえ、アサシン、キャスター、ランサーの3人の魂を格納した時点で、アヴァロンの加護なしでは立っていられないぐらい衰弱していたわね」

「ええ、その通りです。

 いくら霊媒体質とはいえ、英霊二人がいる時点でいつか限界が来てしまうと思っていますが「心配ないわ」

 

 へっ?

 いきなり何を?

 

「多分上位世界の魂が融合したことが原因でしょうけど、あなたの魂の許容量、つまり魂の空間(ソウルスペース)の広さだけは本気で桁違いよ。

 私たちが入った瞬間に、魂の空間(ソウルスペース)が広がったのを確認したわ。

 さすがに聖杯以上ってことはないでしょうけど、どこまで広がる余裕があるのか、今の段階では測りきれないわね」

 

 まじかい?

 私がトリップして得たチート能力は、『(最大で聖杯レベル)の魂の許容量』ってことか!?

 いや、凄いことは凄いんだが、……さてどんな使い方があるんだ?

 聖杯としての機能をもっているわけじゃないから『倒されたサーヴァントの魂を回収する』なんてできないだろうし、黒桜みたいに『サーヴァントを取り込んで洗脳して手駒にする』のも無理だろう。

 現にメディアとメドゥーサは、ここで自由勝手に過ごしているし。

 ああ、『どうにかしてサーヴァントを取り込めたら、メディアに洗脳してもらう』っていう手はありか。

 もっとも、抵抗できないように完全に無力化した状態じゃないと、魂の空間(ソウルスペース)内で大暴れされて私の精神や魂が破壊される可能性もあるから、ものすごくリスキーな行為だけど。

 

 唯一できそうなのは、今までと同じく『魂の空間(ソウルスペース)の許容量以内で、複数の英霊の分霊を同時に降霊させて、時と場合に応じて最適なスキルを彼らから借りること』か?

 それですら、出力部である私の体と魔術回路がネックとなって、強力なスキルほど、単独で、しかもランクダウンしないと使えないだろうけどな!

 ……全く、チートなんだか、そうじゃないんだか。

 いやいや、こういう縛りがある状態こそ、機転と工夫が有効となる状態なんだ。

 そしてそれは、私が(創作活動で)得意とする分野だ。

 地道にがんばっていくしかないか。

 

 

「ところで、申し訳ありませんが、脱出できる手段が見つかるまでは、ここで過ごしてもらうことになると思いますが、……よろしいでしょうか?」

「本来なら私を閉じ込めるような真似をした愚か者には、その愚かさに相応しい罰を与えるところだけど、……事故であることはわかったし、聖杯戦争開始までの準備期間が十分に作れたわけだから、とりあえずは水に流してもいいわ。

 ……英霊の座にいるよりは、退屈しなくてすみそうだし」

「ありがとうございます」

 

 ああ、なるほど。

 『自意識はあるが、閉じ込められていて自分の意志では外に出られず、暇潰しの記録(自分が召喚された記録)だけはある』っていうのは、英霊の座にいたときと大差ないのか。

 まあ、私が提供する観測世界の記録と、ネット社会でのオタクだったゆえに提供可能な情報量の種類と多さ(注 小説、アニメ、漫画の比率高)は、かなりのものだと思うけど。

 いわばここは、彼女たちにとって、英霊の座もどきの『偽・英霊の座』ってことか。

 ……可能な限り、彼女たちにとって居心地がいいようにして、私を殺してでも外に出たいと思わせないようにしないと。

 目指せ彼女たちのニート化、じゃなかった、インドア派へ。

 ……魔術師だったメディアなら研究の為引きこもり気味だったろうし、王女だった頃のメディアも箱入り娘だったろうから、多分インドア派だとは思うけど。

 

「私はあなたの記憶にある全ての本を読む許可をもらえれば、それでいいですよ」

「もちろんOKです。

 好きに読んでください」

 

 メドゥーサは本当に読書好きなんだな。

 分野は偏っているとはいえ、読書好きの私とは話が合いそうだ。

 それと、本が不足することがないように、図書館で本を借りるなどして本の種類と数を増やしておかないと。

 

 待てよ。

 私が彼女たちに提供できるものはまだあるじゃないか!

 

「すでに使われていますが私の魔術は架空元素なので、影で分身を作れます。

 他のマスターに見つからない範囲なら、これで分身を作ってこの世界を楽しんで結構です」

「ええ、便利だったから使わせてもらっているわ。

 イレギュラーな事態とはいえ、私たち二人を聖杯戦争の1年前に召喚するとか、上位世界の記憶を持っているとか、私たち二人を内部に抱え込んで全く平気だとか、……意外に当たりのマスターだったみたいね。

 でも、本来よりも魔術回路の出力が小さいわね。

 ……これはサービスよ」

 

 メディアがそう言った瞬間、一瞬で身体中にとてつもない激痛が走り、私は苦痛に耐えきれず気絶してしまった。

 

 

 気がつくと、僕はキャス孤姿のタマモに膝枕されていた。

 

「タマモ、僕に一体何が起きた?

 それから彼女たちはどこへ行った?」

「彼女たちは分身による大聖杯の調査を継続し、本体は精神世界で『Fate/hollow ataraxia』の鑑賞中です。

 それから、マスターの身に起きたことですが……」

「そうだ、一体何が起きたんだ?」

「メディアさんが好意で、『マスターの閉じていた魔術回路を全部開いた』そうです」

「へっ、僕にそんなものあったのか?」

 

 時臣師によって、僕の魔術回路は全部開いたんじゃなかったのか?

 

「はい、それなりの数の魔術回路が閉じたままだったそうです。

 全部開いた結果、現在のマスターの魔術回路は、メインは30本のままですが、サブがそれぞれ20本になったそうです。」

「おいっ!

 合計70本って、かなりの数じゃないか!?」

「はい。

 ですが、マスターのご先祖様であり、私を作った五代目の当主様も魔術回路をそれぐらい持っていました。

 考えてみればマスターの代まで魔術回路が減っていなかったとしても、開かなくなった魔術回路が増えていてもおかしくなかったですね」

 

 ……言われてみればそうか。

 数代ぶりに魔術師として覚醒した存在が、いきなり全部魔術回路を開けるはずもなかったな。

 しかし、神代の魔術師であるメディアなら、それを簡単に開けてもおかしくないか。

 

「ただ、メディアさんによると『魔術回路はかなり開きやすくなっていたから、自分が手を出さなくてもいずれ自然に開いた可能性は高い』とも言われていました。

 また、『閉じた魔術回路はこの時代の魔術師では開くのは困難なはずだから、何か特別なことをしたのか?』と聞かれました。

 少し悩みましたが、マスターの修行場面を見ればすぐにばれることですから『魔術回路再構築の修行とオリジナルの魔力制御』について伝えました。

 それを聞いたメディアさんは面白そうな顔をしていましたが、特にコメントはありませんでした」

「何も言っていなかったのか?」

「はい、何も。

 ただ、マスターが目を覚ましたら話したいことがあるとは言っていました」

 

 話したいこと?

 一体何だろう?

 色々考えてみたが心当たりが多すぎて絞り切れない。

 ……とりあえずラインで呼び掛けてみるか。

 

『今起きました。

 そちらはどんな状況ですか?』

 

 すると次の瞬間、目の前にメディアとメドゥーサが現れた。

 一瞬、瞬間移動したかと思ったが、よく考えれば向こうにいた分身を消して、ここに分身を再構築したのだろう。

 

「大聖杯を調査していたけど、すぐに利用できそうにはないわね。

 ただ、それなりの手間をかければ、アンリ・マユの影響を排除した上で、大聖杯から魔力だけ奪うのも不可能ではないわ」

 

 そう言ってメディアは、笑みをこぼした。

 可愛いというよりは、『魔女の笑み』という感じで、ちょっとビビってしまったけど。

 それにしても、さすがは神代の魔術師。

 大聖杯からアンリ・マユの毒を取り除いて、純粋な魔力だけ奪い取れるとは、……本当にこれが実現すれば、魔力面では困らなくて済みそうだな。

 

「そうですか、それはよかった。

 ただ、聖杯戦争の開始時期がずれると厄介なので、できれば準備だけで止めておいてください。

 そして、大聖杯の魔力を利用するのはサーヴァントが7人、じゃなかった8人召喚された後にしてください」

「そうね。

 せっかくある程度の未来を知っているというこれ以上ないアドバンテージがあるんだから、それを活かした方が得でしょうね。

 ……もっとも、遠坂家と間桐家に関しては他ならぬ貴方の干渉によって、本来の歴史が想像できないほど違う歴史を歩んでいるようだけど」

「分かっているでしょうけど、桜ちゃんを助ける為には他に方法はなかったんです。

 それは見逃してください。

 それと、お願いですから、影の分身の作成以外で、勝手に僕の魔術刻印と魔術回路を使わないでください。

 ……せめて、事前に許可をとってください。

 もちろん、いくら好意からの行動とはいえ、勝手に僕の体をいじらないでください!」

「あら、何か失敗でもあったかしら?」

 

 メディアは本気で不思議そうな顔をしていた。

 

「いえ、お陰さまで魔術回路が新しく開いて、特に問題なく稼働しています。

 でも、心の準備ぐらいさせてください。

 いきなりあんな激痛を感じることが続くようだと、心身共にもちません。」

「わかったわ。

 これからは気を付けると言うことでいいかしら?」

「ええ、お願いします」

 

 本人の言う通り、王女(少女)時代の外見に精神が引きずられているのか、このメディアは結構素直かつ可愛いって印象が強いな。

 まあ、僕が一人の人間として対応して、好印象なのが大きいんだろうけど。

 この関係を維持できれば最高なんだが、……さてどうなることやら。

 

 

 その後、メディア達が『Fate/hollow ataraxia』の記憶を受け取り終わった時点で、そろそろ帰宅する必要がある時間になってしまったので、とりあえず帰宅することにした。

 もっとも、メディアとメドゥーサの影はここに残し、継続して大聖杯の調査を続けるらしい。

 

 別にそれは構わないので、僕、タマモ(子狐モード)の一人と一匹が歩いて帰り、後のメンバーとは精神空間で会話しながら帰宅した。

 

 まだ、『月姫」、『空の境界』、『魔法使いの夜』を見せてないし、桜ちゃん関連以外で何をやってきたかは説明できていないけど、……ここまでくれば、メディアとメドゥーサも仲間になったと見ていいかな?

 この時点では、どこまで信用できるかまだわからないし、なにより『僕の魂の空間(ソウルスペース)から出られない』というとんでもないハンデを背負っているけど、全ての事情を話せる仲間ではある。

 それぞれの知識と技術を組み合わせて、解決策を見つけていこう。

 どうしても駄目なら、……やっぱり最後は、本物と同等機能を持つ令呪を量産し、それを一斉使用することによって、力づくで魂の空間(ソウルスペース)らの解放させるしかないか。

 もちろん、僕の心身に影響が出ないようにした上で。

 

 

 それにしても、クラスもなく、サーヴァントとしての体を持たず、僕の魂の空間(ソウルスペース)から出られない彼女たちは、間違いなくサーヴァントには該当しないんだろうなぁ。

 隠れて準備をするため、『教会にあるというサーヴァント召喚探知機』で察知されていないのを望むのは言うまでもないが、大聖杯ですら今回の召喚を『聖杯戦争とは関係無い英霊召喚』と判断している可能性が高く、彼女たちとは別にキャスターが召喚できる可能性すらある。

 

 

 ……あれ?

 もしかして、僕がしたことって、僕の事前の想像を遥かに越えるほどヤバい結果を招いてしまったか?

 

 ……とりあえず、「時臣師にサーヴァント召喚を確認する方法はあるんですか?」と探りをいれるか。

 そして、メディアとメドゥーサの召喚を教会にある魔術具で探知していなければ、……時臣師にも当分内緒にして善後策を考えておこう。

 なにか、『取り返しのつかないことをしてしまった感』を今さらながら強く感じつつ、僕は急いで家に戻ることにした。

 

 ……この聖杯戦争、本当にまともに始まるんだろうか?

 いや、『混乱をまき散らしている諸悪の根源』が言うセリフじゃないのは、十分自覚しているけどね。

 




【にじファンでの後書き】
 さらなる怒涛の展開です。
 『クラススキルを持つ分霊を召喚してパワーアップ』を目指し、『自意識を持つ分霊を召喚してしまい、意図せずに閉じ込めてしまった。さてどうする?』という結果になってしまいました。
 『一体何が起きて、あんな召喚になったのか?』については、次話で解説する予定です。
 それ以外で、設定などに矛盾などがありましたら、お知らせください。


【備考】
2012.05.26 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.05.26 『メディアとメドゥーサはサーヴァントではなかった』と訂正しました。
2012.05.26 メディアの保有スキルに『呪具作成』を追加しました。
2012.05.27 『雁夜がまだランスロットの力を借りることに成功していない』と変更しました。


【設定】
<令呪(二画)使用>
 自意識を持ったメディアとメドゥーサの分霊を召喚


<パラメータ>
 名前 :メディア
 性別 :女
 種族 :分霊
 年齢 :不明(外見は10代半ば)
 職業 :英霊の分霊
 立場 :八神遼平が召喚した分霊
 属性 :風、架空元素・虚数
 ライン:八神遼平
 方針 :喧嘩を売ってきた時臣師を半殺し
     徹底的に苦しませた上で臓硯を殺す
 備考 :分霊だが自意識持ち
     道具系のスキルや宝具なし
     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メディア
マスター   八神遼平&タマモ
属性     中立・悪
ステータス  筋力 D  魔力 A++
       耐久 C  幸運 A
       敏捷 B  宝具 -
保有スキル  【高速神言】:A
       【呪具作成】:B
宝具     なし


<パラメータ>
 名前 :メドゥーサ
 性別 :女
 種族 :分霊
 年齢 :不明(外見は20歳ぐらい)
 職業 :英霊の分霊
 立場 :八神遼平が召喚した分霊
 属性 :土・水
 ライン:八神遼平
 備考 :分霊だが自意識持ち
     道具系のスキルや宝具なし
     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メドゥーサ
マスター   八神遼平&タマモ
属性     混沌・善
ステータス  筋力 B  魔力 B
       耐久 D  幸運 A
       敏捷 A  宝具 B
保有スキル  【魔眼】:A+
       【怪力】:B
       【神性】:E-
       【対魔力】:B
       【騎乗】:A
宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B
       【自己封印・暗黒神殿】:C-


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第14話 今後の相談(憑依二十一ヶ月後)

 柳洞寺地下の大空洞から自宅へ戻る途中、僕は今回の降霊術について真凛と(ライン経由で)会話をしていた。

 

「悪かったな。

 結局、お前の危惧が正しかった」

「そんなに気にしないでいいわ。

 あの時私は不安を感じていたけど、明白なリスクは説明できなかったしね。

 『特殊な方法であっても、降霊に失敗した場合分霊は英霊の座に戻る可能性が高く、英霊の座に戻らなくても普通の分霊が降霊されるだけ』だと私も考えていたわけだし、……さすがにこの結果は予想できなかったわ。

 ……もっとも、二人の協力が得られた以上、結果論だけどメリットの方が大きくなったのは確かね」

「そうか?」

 

 メリットがあることは否定しないが、デメリットも同じぐらい存在するような気がするんだが。

 例えば、メディアとメドゥーサがどうやっても僕の魂の空間(ソウルスペース)から出られない場合、よく言えば『頼りになる守護霊が死ぬまで守ってくれる』となるが、悪く言えば『いつでもマスターを操り人形にできる技術と力を持った女性英霊(しかも二人)に、死ぬまで取り憑かれる』となるよな、どう考えても。

 本人に聞かれたら怖すぎるので、こんなことはライン経由であっても誰にも話せないけど。

 

「ええ、メディアとメドゥーサというとてつもなく強大な分霊を、自意識を持った状態で降霊したことで、貴方の魂の空間(ソウルスペース)はさらに空きスペースが減ったわ。

 でも、彼女たちの知識や能力をこちらが引き出して理解したりや使いこなす訓練をする必要もなく、彼女自身が活用してくれるわけだから、これはすごいアドバンテージよ。

 貴方も考えているでしょうけど、これで聖杯戦争までの1年間でかなりのことが可能よ。

 それこそ、当初の目標だった『キャスターのクラススキルをもった分霊を降霊してクラススキルを借りる』よりも、現状の方が効果は大きいわ」

「確かにそうだね。

 彼女たちがクラススキルを持っていなかったのは残念だけど、それを言ったらきりがないしね」

 

 そう、現実とは思い通りにはいかないもの。

 理想と現実に折り合いを付けつつ、よりよい未来を目指して進むしかない。

 

「そうですよ。

 結果オーライです。

 マスターの予定通りにはいきませんでしたけど、結果としてよりよい未来を掴んだわけですから、さすがです!」

 

 タマモが誉めてくれるのは嬉しいが、能天気過ぎる台詞に真凛がしっかり注意をしてきた。

 

「あなたねえ、メリットは今説明した通りだけど、デメリットもしっかりあるのよ。

 それをきちんと理解してるのかしら?」

「……もしかして、サーヴァント召喚について、ですか?」

「そうよ。

 確かに『聖杯戦争開始までの準備』という意味では『彼女たちの協力』というメリットは絶大だけど、聖杯戦争が始まっても彼女たちが魂の空間(ソウルスペース)ら出れなかったらどうするのよ?」

「あ~、それはちょっと困りますね」

 

 タマモもやっと、現時点における最大の懸念材料を理解したようだった。

 そうなんだよな。

 そしてその可能性が高いのが、厄介なんだよなぁ。

 

魂の空間(ソウルスペース)閉じ込めてしまったことは、二人とも事故として(一応)認めてくれたわけだし、あとは影の分身やいずれ人形を操ることで、実質的に(僕の)外での活動はできるわけだから、閉じ込めた件で彼女たちの機嫌を損ねる心配は(多分)少ないと思う。

 問題は、聖杯戦争が始まっても二人がサーヴァントとしての体を得られない場合だ。

 二人はすでに聖杯を求めてないから『二人との関係』と言う意味では問題ないけど、僕の最大の目的である『アンリ・マユ復活阻止』という意味では大問題だ。

 ……ああ、時臣師と約束したダブルキャスター召喚ができないという意味でも問題か」

 

 そんなことになると、僕は桜ちゃんの婚約者から外されてしまうだろう。

 

「ダブルキャスター召喚は最悪失敗したことにするとしても、……そうね、それが一番問題よね」

「言われてみれば、……そうですね。

 確かにそんなことになってしまえば、1年掛けて色々準備しても、雁夜さんのサポートぐらいしかできませんね」

「彼女たちをサーヴァントとして再召喚できなかった場合、『すでに二人の英霊を降霊している身で僕がさらにサーヴァント召喚をする』ことになるけど。

 ……今度こそ何が起きるか分からないから、できればやりたくないし」

「そうね。

 新しく召喚したサーヴァントまで貴方の魂の空間(ソウルスペース)に取り込んでしまったら、間違いなく聖杯戦争は滅茶苦茶ね。

 それ以前に、さすがの貴方もサーヴァントを追加で二人も取り込んでおいて、何も問題が起きないなんてことはないでしょうし」

 

 今までの前科から、真凛の言葉を否定できないのが怖すぎる。

 

「それに、ゴルゴンが召喚される可能性も残っているわけだしね」

 

 真凛はご丁寧にも止めを刺してきたため、こっちは精神的にずたぼろだった。

 

「で、そうなった場合、一体どうするつもりなの?」

「今考えているアイデアだと、……タマモと『人形の体を得た真凛』の二人がマスターになって、ダブルキャスターを召喚することかな?

 もちろん、メディアたちが了承したらの話だけど」

 

 僕がサーヴァントを召喚すると何が起きるか想像がつかないけど、タマモと真凛なら召喚に問題はないはずだ、……多分。

 

「彼女たちを『サーヴァントとして再召喚すること』を諦めてもらって、別の英霊を私たちに召喚させる気?」

「その通り。

 幸いにも縁の品にキャスター二人分が残っているからね」

「クー・フーリンとエミヤのこと?」

「他に候補がなければ、その案が有力だね。

 クー・フーリンには『正当防衛を除いて、サーヴァント以外の殺害』だけ禁止して、あとは自由に戦ってもらえばいいし、エミヤも『アンリ・マユ復活阻止』のためなら協力してくれるだろうからね」

 

 二人とも、複数クラスに適性がある英霊だから、キャスターとして召喚されても、十分強いはずだ。

 さすがに、『クー・フーリンが刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)なしで召喚される』ととんでもなく弱体化してしまうけど、さすがにそれはないと思いたい。

 

「確かにそれなら、クー・フーリンは喜んで戦うでしょうし、エミヤが切嗣のことを覚えていたとしても、アンリ・マユ復活阻止に全力を注いでくれるでしょうね」

「アチャ子の召喚にも心惹かれるものがあるけど、縁の品が分からないしなぁ。

 ……ああ、アイリスフィールの髪の毛とかがあれば、アチャ子が召喚できるかもしれないけど、いくら無限に近い数存在する平行世界とはいえ、本当にアチャ子が存在するか分からないのも怖いしね」

「……そうね、それが賢明ね」

「友だちになれそうだったので、ちょっと残念です」

 

 さすがに、二次創作キャラのアチャ子が英霊の座に実在するとしても、『アチャ子が実際にはどんな性格でどんな能力か?』なんて分からないんだから、そんなリスクの大きすぎる賭けは却下である。

 降霊術で降霊できるとしても、確定情報が皆無だし、分霊を解放できないわけだから、……やっぱり降霊する気になれないな。

 プリズマイリヤの魔法少女イリヤの分霊なら召喚できそうな気もするが、……やっぱり聖杯の化身(イリヤ)を召喚するのはトラブルの元にしかならない気がするので、やっぱり止めといた方がいいだろう。

 

「ただし、大聖杯から令呪を貰ったわけじゃない私とタマモが、サーヴァントを召喚できるのかしら?」

 

 ……しまった!

 その問題もあったな。

 

「あ~、その辺は、……後でメディア達と相談しよう。

 できるだけ成功確率が高くて、有効な方法を1年掛けて考えれば、……何とかなるはず。

 

 そんなことを話しつつ家に帰り、眠りについた後、僕は精神世界でメディアとメドゥーサも含めた会議を始めた。

 

 

 まずは、例の『記憶データの流し込み』で、一気に『月姫』『空の境界』『魔法使いの夜』をメディア達に見てもらった。

 二人とも色々と興味を引かれた様子だったが、先に僕の方針を伝えることにした。

 

「研究対象として興味を持った相手もいたでしょうが、聖杯戦争が終わるまでは、私としては人形師の蒼崎橙子以外接触する気はありません。

 もちろん、メディアが自力で人形を作れれば、橙子との接触も必要ないと思っていますが」

「それは無理ね。

 私が生前身に付けた技は魔術と秘薬がメインだから、人形作りは専門外よ。

 もちろん、これから研究を始めても時間と材料さえあれば私一人で作れる自信はあるけど、……さすがに聖杯戦争に間に合うかはわからないわね」

「やっぱりそうですか。

 ……では、やはり?」

「ええ、少しでも早く高度な人形を手に入れたいから、橙子と接触するのは賛成よ。

 それ以外のメンバーとは、余裕ができてからどうするか考えましょう。

 ……聖杯戦争が終わるまでは、人形入手以外は聖杯戦争が最優先で構わないわ」

「私もそれで構いません」

 

 よかった。

 ただでさえ、厄介な状況に関わっているんだから、まずはそれにけりを着けるまでは他に手出ししないのが賢明だよな。

 

「ただし、手出しはしないけど、情報収集だけはさせてもらうわよ」

 

 この時代の魔術や強者の存在を、自分の目で確認したいのだろうか?

 まあ、『遠坂凛に接近戦で敗れる』などという失態を別世界の自分がやってしまった以上、その二の舞を防ぐため情報収集に力を入れるのは当然といえば当然か。

 

「……できるだけ気づかれないようにお願いします。

 万が一、偵察していることがばれても、本来の流れを変えてしまわないように注意してもらえれば構いません。

 ……ああ、偵察の影響を問わず、さっき見た物語と違う展開に気付いたら、すぐに教えていただけると助かります」

 

 そうだった。

 ちょっと忘れていたけど、この世界に僕という『八神遼平』という異物が存在する以上、Fate以外の出来事も原作通り展開する保証はない。

 可能なら、原作通り歴史が進むか調査しておくべきだろう。

 それと、可能なら『月姫がどのルートに進むか?』についても知っておいたほうがいい。

 さっきメディアに注意したように、調査行為自体が原因となり歴史が変わってしまったら本末転倒だけどね。

 

「そうね。

 できるだけ気づかれないように対策して、可能な限り遠くから使い魔で監視するように努めるし、何か異常があればすぐに連絡するわ。

 それでいいかしら?」

「ええ、そうしていただければ問題ありません」

 

 メディアはこの時代の魔術や魔術師を格下と見下しているのだろうが、『魔法使い』や『直死の魔眼の使い手』がこの時代に存在することを知って、メディアもそれなりに警戒しているのだろうか?

 まあ、警戒するに越したことはないか。

 時間を作って、メディアが収集した映像を再構成することで、実写版の『月姫』を作ってもらうのも面白そうだしね。

 

 

 この後、『この世界で僕が覚醒してから今まで何をしてきたか?』について、ダイジェスト版の映像を見てもらいながら説明を行った。

 なお、本人に確認したところ、『分霊が持っていた記憶』はあくまでも『分霊の力をいつ誰が(借りて)使ったか?』とか、『(分霊も一緒にいた)精神世界の会議室で話されたこと』のみだった。

 そのため、『精神世界の会議室で行われたた作戦会議の内容は全部知っているが、外の世界で何をやっていたかについては一切情報がない』という、ごく限られた情報しか持っていなかったらしい。

 ……これは多分本当だろう。

 

 それと、彼女たちの分霊を精神世界の会議室にいさせた理由だが、これは見た目は麗しいので、(分霊を)二人ともずっと部屋に飾っておいたのが原因である。

 ……さすがに、マネキンのように立たせっぱなしは良くないかと思って、ソファーに座らせて凛々しく飾っておいたけど。

 分霊に変なことをしなかったこと、そして首尾一貫してメディアとメドゥーサに協力を求める方針で、無理矢理従わせることなどを一切口に出していなかったのは大正解だった。

 まさか『分霊が見聞きしたことを記憶していて、その情報をメディアたちが受けとる』なんて、ほんとに想定外だったもんな。

 

 

 そんなことを考えつつ、『この型月世界の冬木市で僕がやってきたこと』の説明を無事に終えた。

 

「ある程度は予想できていたけど、……本当に色々やってきたわけね」

 

 メディアの口調は少々呆れ気味だった。

 まあ、『僕に可能な範囲で、思い付く限り色々やってきたこと』は否定しない。

 とどめに、『サーヴァントではない自意識を持った分霊』を二人(事故とはいえ)召喚している時点で、イレギュラーも極まっている状態だろう。

 

「それにしても、普通の使い魔ではないとは思っていたけど、……なるほどね」

「ええ、変化スキルを使えるようになったり、不完全とはいえ令呪を作れるようになったりと、私の想像を越えるすごい使い魔です。

 さすがは、ご先祖様が命を削って、というか命を対価として作り出しただけのことはあります。

 最近では、メドゥーサの分霊からスキルを借りて最低レベルとはいえ『魔眼』を使えるまでになったんですけど、……今後もスキルを借りてもいいですか?」

「私に悪影響が無ければ問題ありません。

 スキルを貸していると言っても、現時点では私への影響は微々たるものです。

 魂の空間(ソウルスペース)にいる限りスキルの使い道もありませんし、自由に使って構いません」

 

 さすがはメドゥーサというべきか、とても寛容な回答だった。

 

「それと、真凛もがんばってメディアの分霊からスキルを借りて、『高速神言』をなんとか使えるまでになったんですが……」

「私の分霊から力を借りたとはいえ、正直この時代にあのスキルの使い手が現れるとは予想していなかったわ。

 ……そうね、私が使っていないときなら、『高速神言』の使用許可を出しましょう。

 それといまさらでしょうけど、マスターが死ねば私たちも英霊の座に戻ることになって、これらのスキルは使えなくなるわ。

 それが嫌なら、全力でマスターを守りなさい」

 

 なるほどね。

 僕の護衛戦力として信頼しているから、スキルを貸すことを認めたのか。

 ……まあ、お互いの利害が一致するわけで、無償で理由も言わずに助けられるよりは納得できるし、……うん、問題ないな。

 もっとも、そんなことを言わなくても、真凛はよほどのことをしない限り僕を見捨てたりはしないと思うけど。

 

「で、私もせめて『石化の魔眼を劣化させた圧力の魔眼』とか、『高速神言を劣化させた高速詠唱』とかを使えるようになりたいと思っているんですけど「却下」

 

 僕の希望は、即座にメディアによって切り捨てられた。

 

「私たちが一番力を発揮できるようになる方法は、『貴方が魔術回路を鍛えて、魔力量と魔力回復量、そして魔力の出力を増やすこと』と『私たちが自由に動けるようにすること』よ。

 私たちのサーヴァントや人形の体の作成は、今後の課題ね。

 そして、聞いた話だとすでにタマモの魔力量と魔力回復量は限界まで伸ばしているようだし、残る可能性は貴方だけよ。

 魔力さえあれば、私とメドゥーサと真凛の3人が影の分身を操作して、さらに魔術を使って戦えるわ。

 それすらもあなたの魔術回路の最大出力と言う制限が存在するから、少しでも魔力量と最大出力を上げるために、他のことは一切目もくれずに死ぬ気で魔術回路を鍛えなさい」

 

 うわ~、『基本を限界まで鍛えることが最強への道』とはよく聞かれる台詞だけど、僕の場合、徹底的に『基礎の基礎である魔術回路を鍛えること』以外してはいけないし、期待もされてないのかよ。

 ……いや、まあ、生き延びることを最優先とした場合、それが当然の結論なんだろうけど。

 なにせ僕が死ねと同時に、メディアとメドゥーサがこの世界から消滅し、タマモもマスターを失ってしまう。

 そんなリスクを負うぐらいなら、僕は『隠れている』か『最後衛で仲間のフォロー』を行って、残りのメンバーが『攻撃』『防御』などを担当したほうが、よっぽど安全かつ効率的だ。

 

 ……ああ、なるほど、僕は将棋の『王将』みたいな存在で、駒としては弱い存在だが、一番重要な存在なわけだ。

 僕の技術を伸ばすことを考えるよりも、魔術回路を鍛えて、供給可能な魔力量を増やし、(僕より強い)仲間(使い魔、分霊)の能力の底上げをしたほうがいいのは言うまでもない。

 僕に魔術を修行する時間があったとしても、逃走、隠蔽、回復、防御系の魔術を中心に身に付けるべきなんだろう。

 後は王将らしく、仲間の行動を指揮……は厳しいから、せめてフォローできるように、戦術の勉強をするべきか?

 

 だが、それでも、唯一かもしれないが僕には降霊術の素質があるんだ。

 これでさらなるパワーアップとかして、僕の戦力化はできないものだろうか?

 

 そんなことを考えていたのが顔に出ていたのか、メディアは冷たい声で止めを刺してきた。

 

「今までの貴方の成果は評価するけど、それは『八神家の魔術刻印』と『タマモという使い魔』のおかげという面が強いわ。

 さらにいえば、貴方自身の成果も、『前世の観測世界の知識』と『二つの魂が融合したことによる魂の空間(ソウルスペース)広さと特性』に依るものが多いことを忘れないように。

 『本当の貴方の成果』といえるものはそれほどないし、魔術刻印無しの貴方は『魔術師見習い』でしかないのよ。

 そのことをしっかり自覚しておかないと、聖杯戦争で痛い目を見るわよ」

 

 ……さ、さすがはメディア様。

 本当に、本っ当~に容赦のないお言葉である。

 そして、メディアに指摘されたことを自覚せずに調子に乗った結果が、『意図しない自意識を持った二人の英霊召喚』だからなぁ。

 ええ、全く反論できません。

 

 

「それから、間桐滴に対してはどう対処するつもりなのですか?」

 

 僕が精神的ショックから立ち直れていない時、今まで黙っていたメドゥーサが発言した。

 やっぱり、原作の桜の立場に該当する少女のことは気になるのか?

 それとも、『本人の責任は全くないのに他者に弄ばれる少女』は誰であろうと放ってはおけないのだろうか?

 

「滴を苦しめている原因は臓硯とはいえ、私の責任もないわけじゃないですからね。

 『臓硯を確実に始末して、滴を助け出せるだけの戦力と準備』が整った時点で実行するつもりです。

 そして、滴の体を治療して、可能な範囲で彼女の希望を叶えたいと思っています」

「可能な範囲で、ですか?」

「ええ、臓硯や鶴野に対する復讐は当然としても、雁夜さんや遠坂家、そして私に対してまで恨みを抱いている可能性も否定できませんから。

 その場合、残念ながら復讐の手伝いはできなし、当然恨みを晴らす行為をさせるわけにはいきません」

 

 そう、可哀想とは思うけど、こっちがサポートできることには限度がある。

 僕は博愛主義者じゃないから、無制限に何でもサポートしてあげると言えるわけがない。

 そう言う意味では、僕にとっても衛宮士郎の生き方には全く共感できない。

 共感はできないが、排除しようとは思わないし、そういう存在だと理解していれば、それなりにうまく付き合えるとは思うけど。

 

「そう。まあ、それが当然ね」

「それは、……仕方ありませんね」

 

 それを理解しているようで、凛とタマモも賛成のようだ。

 

「あと、滴が苦しむことになった要因である私たちでは、何を言っても無視されるか怒らせるだけかもしれないので、貴女たちに滴の対応していただけると助かるんですが」

 

 口に出して言えるはずもないが、悲劇そのものの過去を持つ彼女たちなら、滴と仲良くなれるのではないかとも考えている。

 

「……そうね、その理由もあるけど、男の貴方に人生経験が少ないタマモと真凛じゃ滴のことを理解できそうにないわね。

 いいわ。救出したら、私とメドゥーサで面倒をみましょう」

「よろしくお願いします。」

 

 多分、これがベストの対応のはずだ。

 僕が関与するのは、滴自身か彼女たちが指示した時に限定したほうがいいと思う。

 

 

 その後、改めてメディアたちの状況を説明してもらったところ、今回の降霊術について現状で判明しているのは次のことだった。

 

 僕は、

『八神家流の降霊術に、サーヴァント召喚の魔法陣と呪文を組み合わせて、クラススキルを持った分霊の降霊』

を狙ったが、

『令呪(2画)を消費して大聖杯からサーヴァント召喚システム(サーヴァントに与える日本語や常識の知識を含む)を一部コピーして、大聖杯を通さない大規模な降霊術が発動』

してしまい、

『すでに降霊済みで、魂の空間(ソウルスペース)に存在する分霊のメディアとメドゥーサの影響もあり、自意識を持つ英霊を召喚することに成功した』

らしい。

 

 そのため、二人にはクラススキルはないそうだが、……聞けば聞くほど、あの時恐ろしいことが起きていたようだ。

 もしかしたら、無意識のうちに二人分霊の力まで借りて降霊術を発動していた可能性もある。

 まさに奇跡と言っても、過言ではあるまい。

 ……同じことを再現するのはほとんど不可能じゃないか?

 まあ、頼まれても同じことをするつもりは欠片もないけど。

 

 

 メディアによると、『アンリ・マユを取り込んですでにシステムに異常が発生している大聖杯のすぐ近くで、すでに令呪を持つ存在が、サーヴァント召喚の召喚陣と召喚呪文を使った上で、独自の降霊術を行使したこと』で誤作動が起きた可能性が高いらしい。

 ついでにいえば、『同じ条件で再び降霊術を使っても、同じ結果になる可能性はほとんどない』らしい。

 ああ、なるほど、改めて状況を説明されると、そりゃ誤作動も起きるわ。

 というか、そんなことが起きてよく僕が無事だったものだ。

 くわばら、くわばら。

 

 さらに説明は続き、今回の降霊術は、すでに僕が同じ英霊の分霊を降霊済みだったので、通常の降霊ではなく、『二重降霊による分霊の補完』とでもいうべき状況になったとのこと。

 その結果が、『分霊の能力強化&自意識の追加』になったらしい。

 僕はてっきり同じ分霊が二人存在したので、弱い方が吸収されたのかと思っていたが、それとは比べ物にならないほど凄いことが起きていたらしい。

 

 ついでなので、『サーヴァントとして召喚された場合のフルスペック状態(予想)』について本人に確認したところ、想像以上のデータを教えてくれた。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    キャスター

真名     メディア

マスター   ?(原作の遠坂凛以上の能力を持つ魔術師)

属性     中立・悪

ステータス  筋力 C  魔力 A++

       耐久 B  幸運 ?(マスターの影響大?)

       敏捷 A  宝具 EX

クラス別能力 【陣地作成】:A

       【道具作成】:A

保有スキル  【高速神言】:A

       【金羊の皮】:EX

       【騎乗】:A+ NEW

宝具     【破戒すべき全ての符】:C

       【降臨せし太陽神の戦車】:A+ NEW

       【天に捧げし魔法の杯】:EX NEW

 

【降臨せし太陽神の戦車】:A+ NEW

 メディアが太陽神ヘリオスに願いを掛けて、天空から降ろしてもらった『竜が牽く戦車(チャリオット)』。

 ギリシャ神話には、『メディアは竜が牽く戦車(チャリオット)に乗って、イアソンの元から去った』という伝説が残っている。

 この宝具を所持している場合、戦車(チャリオット)の操縦のため、メディアは【騎乗】スキルを保有する。

 

【天に捧げし魔法の杯】:EX NEW

 メディアが愛用した薬やお酒を調合するクラーテルと呼ばれる台付の杯。

 若返りの薬など、魔女の秘薬を作成可能。

 ギリシャ神話において『天に上げられコップ座になった』と伝えられている為、宝具のランクが最高ランクになっている。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ライダー

真名     メドゥーサ

マスター   ?(原作の遠坂凛以上の能力を持つ魔術師)

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 A

       耐久 C  幸運 ?(マスターの影響大?)

       敏捷 A  宝具 A+

クラス別能力 【騎乗】:A+

       【対魔力】:B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【単独行動】:C

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【海神の加護】:A NEW

       【大地制御】:B NEW

宝具     【騎英の手綱】:A+

       【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

【海神の加護】 NEW

 ポセイドンが愛人だったメドゥーサに与えた加護。

 水に関連するあらゆる攻撃を完全に無効化し、水中にいる間は「筋力」「耐久」「敏捷」「魔力」のステータスが1ランク向上する。

 

【大地制御】 NEW

 かつて大地の女神だったメドゥーサが保有する高度な自然干渉能力。

 地脈もある程度操作可能。

 

 

 このステータスは、『原作の遠坂凛以上の魔術師がマスターとなり、現地補正と知名度補正が最高となるそれぞれの故郷でサーヴァントとして召喚されれば、たぶんこれぐらいのステータスになるのではないか?』とのこと。

 

 なんぞこれ?

 メドゥーサに追加されたスキルもすごいけど、メディアに追加された宝具が半端ないぞ。

 さすがは『星座のコップ座になったとまで言われているメディアのクラーテル』と、『太陽神がメディアに下賜した戦車(チャリオット)』というべきか。

 どれも彼女たちの伝説で語られている逸話や伝承に基づくものばかりだから、フルスペックの彼女たちなら持っていてもおかしくはないんだろうけど。

 もっとも、分霊として降霊した彼女は、物質系宝具を持っていないのが残念ではあるが……。

 

 

「って、ちょっと待て!

 降霊した英霊は物質系宝具を持っていないが、魔術系宝具やスキルは分霊も(弱体化はしても)持っている。

 もしかして、現地補正や知名度補正が掛かるのは聖杯戦争で召喚されるサーヴァントであって、八神家の降霊術で降霊した分霊には関係ないのでは?」

「降霊術でも、現地補正や知名度補正が掛かるわ。

 だたし、力業で覆すことが可能よ」

「つまり?」

「ここで『出身地がヨーロッパの英霊を召喚すると、普通は現地補正と知名度補正で弱体化する』のだけど、分霊を弱体化しないように降霊させればいいだけよ」

「それって、もしかして?」

 

 期待を胸に、恐る恐る尋ねるとメディアはすぐに頷いた。

 

「ええ、とてつもない降霊術の技量と莫大な魔力が必要になるわ。

 ……頭の痛いことに、体質と才能と偶然でそれを成し遂げてしまった存在がここにいるわけだけど」

 

 そう言って、メディアは大げさに溜息をついた。

 詳しくメディアから事情を聞いてみると、『二重降霊による分霊の補完』によって、現在の二人ともほぼフルスペックと言っていい状態まで強化されているらしい。

 

「本来降霊術において、分霊を降霊した状態でさらに降霊術を行使する『二重降霊』なんてありえないのよ」

「あっ、そうか!

 普通は分霊を降霊し続けるためには精神集中も必要だし、何より維持するだけで魔力を消費するから、とんでもない集中力と魔力を必要とする降霊術を、分霊を降霊したままの状態でできるわけないのか」

「おまけに、そこまで強力な魂を納めるだけの魂の空間(ソウルスペース)を持っている人は滅多にいないわ。

 ところが貴方は、『規格外の広さを持つ魂の空間(ソウルスペース)と『一度降霊した分霊を解放させないという体質』によって、この二つの問題をクリアしてしまった」

「じゃ、じゃあ?」

「ええ、今の私たちは生前の能力をほぼ完璧に保有しているわ。

 もっとも、体がなく、魂は貴方の中から出られないせいで、そのメリットが全く意味をなしてないけど」

「その通りですね」

 

 メディアは少々呆れ顔で、メドゥーサの声からもそんな感じが伝わってきた。

 これで二人が自由に外に出られたのなら(サーヴァント以外のほとんどの相手には)無双状態だが、それが可能なら『自意識ありでこれほど強力な英霊』を召喚できなかったわけで、ものすごく複雑である。

 まさに矛盾状態だな。

 

「そして依り主である貴方が死ぬようなことがあれば、私たちは強制的に英霊の座に戻されるでしょうね」

「それを防ぎたければ、いやでも貴方の命を守らなければいけない、というわけですね」

 

 嫌味のつもりはないかもしれないが、メドゥーサの台詞に慌てて僕は謝罪した。

 

「本当に申し訳ありません」

「別に貴方を責めたわけじゃないわ。

 ただの現状確認よ。

 とはいえ、貴方が迂闊な行動をとって死ぬようなことがあれば、私たちも道連れになるんだから、絶対に忘れないようにしてほしいわね」

「そうですね。

 桜を見守り続けられるようにするためにも、貴方に死なれては困ります。

 ……そういえば、貴女の魔術か秘薬で彼を死なないようにできませんか?」

 

 あっさりと、メドゥーサはものすごいことをメディアに尋ねてきた。

 

「そうね、吸血鬼化なら少し研究すればできると思うけど「それは勘弁してください。

 ……成長期が終わった後、吸血衝動なしで、水も日光も平気なら考えなくもないですけど」

 

 これは衛宮切嗣の父である衛宮矩賢が研究していたことでもある。

 ここまでデメリットが無くなれば、……後は子供が残せるならば、別に吸血鬼になってもいいとは思う。

 

「冗談よ。

 私も吸血鬼をマスターにするのは嫌だし、何より貴方の魂の空間(ソウルスペース)にいる私たちまで吸血鬼化の影響が及ぶ可能性もあるわけだし」

 

 確か吸血鬼になると魂まで汚染させるから、体を人形に変えたとしてもその体もまた吸血鬼化するんだっけ?

 それなら、魂の空間(ソウルスペース)にいる英霊まで影響を及ぼす可能性は否定できないか。

 

「まあ、その辺はおいおい対策を考えましょう。

 とりあえずは、聖杯戦争中に私たちとは完全に別行動をとって、令呪を完全に隠し通せば、……多分、切嗣と綺礼以外には貴方がマスターだとばれないでしょう」

「いや、誰よりもその二人にばれないようにしたいんですけど」

 

 あの二人に僕の存在がばれるということは、『僕の死亡フラグが立つ』と考えていいだろう。

 

「無理ね。

 姿を現さなくても、この町にいるマスターになる可能性を持っている魔術師として、遠坂家の娘たちと弟子である貴方と雁夜は絶対にマークされるわ」

「となると、ばれること前提で家族には旅行に行ってもらって、私は隠れ家に身を潜めているのが一番安全ってことになるのかな?」

「そういうことね」

 

 ……それが一番いい方法か。

 『マスターの可能性が高いからとりあえず殺しておこう』と雨生龍之介を銃殺するような相手の場合、徹底的に隠れているのが一番か。

 僕もサーヴァントや切嗣、綺礼と戦うなんて絶対に嫌だしな。

 

 

 なお、原作において『魔術を駆使して謀略の限りを尽くしたメディア』にとって、『魔術と科学の両方を使ってあらゆる手段を使った切嗣』はとても興味深い存在らしい。

 たしかに、『切嗣がメディアを召喚して、完全な協力関係を構築』していたら、恐ろしいことになっていただろうな。

 そういうわけで、メディアもまた、切嗣対策と戦術のバリエーション追加を兼ねて、銃などの武器の調査も行うらしい。

 疑問に思って、「魔術師であるメディアが銃などを使うんですか?」と率直に尋ねたところ、「私は使うつもりはないけど、竜牙兵に使わせるつもりよ」という回答が返ってきた。

 なるほど、あいつらなら特攻兵として遠慮なく使えるし、銃で武装されたらケイネス以外のマスターにとっては相当な脅威だな。

 元々、剣や槍などで武装していたわけだし、そこに銃などの武器が加わってもメディアにとっては問題ないわけか。

 しかし、

 

「武器の調達はどうするんですか?

 時臣師はもちろん、雁夜さんでも入手は厳しいと思いますよ」

「あら、切嗣が日本に武器を持ち込んで使っていた以上、同様にこの国へ武器を持ち込んでそれを扱うところが日本にも必ずあるはずでしょう?

 そこで、影を使って購入すればいいわ」

 

 となると、ヤクザである藤村組を頼るか?

 しかし、武器を奪われて出所である藤村組に迷惑をかけるのは避けておきたいな。

 ……藤村組は、原作情報では一般市民には迷惑をかけない暴力団らしいし。

 

「では、影で犯罪者を狩って、ばれない程度に生命力を奪って、さらに武器も没収するというのはどうでしょうか?

 ああ、藤村組への鉄砲玉、じゃ意味が分かりませんよね。

 藤村組へ襲撃しようとする奴がいれば、それも狩ればそれなりの武器が手に入るはずです。

 襲撃者のバックの組織を襲撃して、武器と資金とある程度の生命力を奪った後、警察に通報するのもありですね。

 もちろん、魔術の痕跡は一切残さないで。

 ……できますよね?」

 

 魔術師にばれなければ影でやりたい放題だし、メディアなら魔力の隠蔽も完璧にできるだろうと、かなり大胆な提案をしてみた。

 ちなみに僕のモットーは、『犯罪者に人権はない』である。

 よって、犯罪者を狩って痛い目に合わせるのは願ったり叶ったりである。

 ……いや、前世では力もコネもなかったので、このことを想像(妄想)しただけで、何も行動してはいなかったけど。

 

「当然よ。

 最初から魔力の隠蔽を重視して魔術や使い魔を使えば、この時代の魔術師なら痕跡すら見つけられないわ」

 

 実に頼もしいお言葉である。

 こうして、武器入手と生命力補充と資金集めと近所の治安向上を兼ねて、メディアの影による犯罪者狩りが行われることが決定した。

 

 

「話を戻しますが、貴女たちの宝具はともかくスキルの方は?」

「ええ、さっき説明したフルスペックと同じよ」

 

 おお、すばらしい回答だ。

 となると、次に聞くべきことは、

 

「それでは、そのスキルを借りることは?」

「『スキルを使いこなせるだけの素質を持ち、私が力を貸してもいいと考えた相手』なら構わないわ」

 

 やっぱりそうか。

 これからは、僕たちが使えるかどうか以前に、スキルを借りる為にはメディアたちの許可が必要になるんだよなぁ。

 

「私としては、貴方たちが桜を守っている限り、自由にスキルや宝具を使って構いません。

 ただし、制御できず自滅した場合の責任は取れませんが」

 

 おお、さすがはメドゥーサ。

 最後に物騒なことを言っているけど、寛容だな。

 僕はスキルを使う訓練の時間はとれなさそうだけど、タマモと真凛ならいずれ使いこなしてくれるだろう。

 

「念のため言っておきますが、『海神の加護』はポセイドン様からいただいた加護、そして『大地の制御』は私が大地の女神であった頃の能力の一部です。

 どちらのスキルも、制御するのに失敗すれば何が起きるかわかりませんよ」

 

 メドゥーサはそう言って口元を緩めたが、それはどう考えても脅しですよ。

 

 

「ところで、聖杯戦争開始後にお二人がサーヴァントの体を得られて、ここから外に出れたとしてやっぱりパラメータは弱体化するでしょうか?」

「……そうね。

 改めてサーヴァントとして召喚され直すようなものだから、今の力をサーヴァントの体に継承できるようなシステムを構築していなければ、……まず弱体化するでしょうね」

「では、ヨーロッパ、いえ地中海でそれを実行すれば?」

「地中海の近くにいる限り、現地補正と知名度補正があるでしょうけど、日本に戻れば当然補正が無くなって弱体化するわね」

 

 そう、うまい話はないか。

 まあ、そんなことが可能なら、『マスター達は令呪入手後、サーヴァントの故郷で召喚してから冬木市に来る』ことをマスター全員(特に切嗣)が実行するだろうから、多分無理だとは思っていたけど。

 

「やっぱりそうなりますか?」

「ええ、今回のような裏技でも使わない限り無理でしょうね」

「では、令呪を使えばどうですか?

 と言っても、現時点では一画しか残っていませんけど」

「タマモの解析プログラムで半分まで解析が終わっているようだから、その解析結果を元にして私が令呪を調べれば、それほど時間は掛からずに令呪の完全解析は終わるわ。

 そうなれば、令呪の数は少しは増えるわよ」

 

 さすがは、神代の魔術師。

 キャスターのクラススキルを持っていなくても、技術力は半端ないな。

 

「では?」

「……たぶん、無理ね。

 令呪はマスターとサーヴァントの二人の力で可能なことを実現化させる。

 とはいえ、貴方も知っての通り、長期間効果を発揮させる命令だと令呪の効果はかなり弱体化するわ。

 『サーヴァントに対して、日本でも故郷と同じ補正を与えること』、あるいは『故郷で得た補正を日本に戻った後も継続させること』は、さすがの令呪でも不可能のはずよ。

 一度手に入れた能力ということで、『故郷レベルの補正を短時間だけ与えること』なら可能かもしれないけど」

 

 なるほど、実に理解できる意見だ。

 やっぱりそう簡単にはいかないか。

 

「現地補正は『故郷との地脈との相性』、知名度補正は『英霊が遺した偉業とそれを讃える(現地の)人々の認識』、そういったものがサーヴァントのパラメータに影響を与えるわけだから、遠く離れた場所で同じ効果を持たせるなんて私でもできないわ。

 ……誤魔化せるとすれば、マスター補正だけね」

「えっ?

 できるんですか?」

「何言ってるの。

 すでに貴方がしたことよ。

 貴方とタマモが私たちのダブルマスターになって、私たちのパラメータを上げたように、複数の優秀な魔術師をマスターに設定できれば、生前と同じステータスになるでしょう。

 残念ながらサーヴァントシステムでは、スキルと宝具は現地補正と知名度補正しか影響がないようだけど」

 

 本当にうまく行かないものだ。

 メディアなら時間をかければ何でもできそうなイメージを持っていたが、やはり彼女でもできないことはあったわけだ。

 マスター候補の優秀な魔術師は、……やっぱり『人形の体を得た真凛』が有力候補かな?

 まさか、凛ちゃんや桜ちゃんは巻き込めないしなぁ。

 

 

 メディアたちには令呪とサーヴァントシステムの解析を始めてもらい、タマモと真凛はスキル使用の訓練を、僕は魔術回路を鍛える訓練をしつつ、蒼崎橙子と穏便に接触する方法を考えるとするか。

 

 さーて、これから聖杯戦争が始まるまで、忙しくなりそうだ。

 




【にじファンでの後書き】
 彼女たちのフルスペック状態を考えてみました。
 意見などがありましたら、お知らせください。

 PV54万達成しました。
 どうもありがとうございます。


【備考】
2012.06.07 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.06.09 【海神の加護】の効果を『水中にいる間は「筋力」「耐久」「敏捷」「魔力」のステータスが1ランク向上する』と追記しました。


【設定】

<パラメータ>
 名前 :メディア
 性別 :女
 種族 :分霊
 年齢 :不明(外見は10代半ば)
 職業 :英霊の分霊
 立場 :八神遼平が召喚した分霊
 属性 :風、架空元素・虚数
 ライン:八神遼平
 方針 :喧嘩を売ってきた時臣師を半殺し
     徹底的に苦しませた上で臓硯を殺す
     武器入手と生命力補充と資金集めと近所の治安向上を兼ねて、犯罪者狩りの実行(聖杯戦争開始前まで)
 備考 :分霊だが自意識持ち
     道具系のスキルや宝具なし
     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メディア
マスター   八神遼平&タマモ
属性     中立・悪
ステータス  筋力 D  魔力 A++
       耐久 C  幸運 A
       敏捷 B  宝具 -
保有スキル  【高速神言】:A
       【呪具作成】:B
       【騎乗】:A+ NEW
宝具     なし


<パラメータ>
 名前 :メドゥーサ
 性別 :女
 種族 :分霊
 年齢 :不明(外見は20歳ぐらい)
 職業 :英霊の分霊
 立場 :八神遼平が召喚した分霊
 属性 :土・水
 ライン:八神遼平
 備考 :分霊だが自意識持ち
     道具系のスキルや宝具なし
     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

<分霊のパラメータ>
種族     分霊
真名     メドゥーサ
マスター   八神遼平&タマモ
属性     混沌・善
ステータス  筋力 B  魔力 B
       耐久 D  幸運 A
       敏捷 A  宝具 B
保有スキル  【魔眼】:A+
       【怪力】:B
       【神性】:E-
       【対魔力】:B
       【騎乗】:A
       【海神の加護】:A NEW
       【大地制御】:B NEW
宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B
       【自己封印・暗黒神殿】:C-


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第15話 臓硯の謀略(憑依二十二ヶ月後)

 メディアたちを降霊してから、約一ヶ月。

 本当に色々なことが一気に起きた。

 

 まずは、メディアによって雁夜さんが持っていた『閉じた魔術回路』が全部開放された。

 雁夜さんにメディアたちのことを説明し、『魔術回路が増やせる可能性があること』を伝えると、雁夜さんは自分から『自分の魔術回路の調査』と『可能なら閉じた魔術回路の開放』を依頼してきた。

 当然というべきか、雁夜さんも僕と同じく魔術回路を増やせるものなら増やしたかったらしい。

 

 で、メディアはそれを承諾し、雁夜さんの閉じた魔術回路が開放された。

 結果は、魔術回路のメインが40本、サブがそれぞれ25本まで増えることになった。

 

 ……そう、なんと僕よりも魔術回路が多いのである。

 『何だよ、それ。何で僕より多いんだよ!』とその時は思ったけど、……よく考えればマキリは500年の歴史を持っているんだった。

 臓硯以降の代は衰退の一途だったらしいが、それまでに積み上げてきたものは当然雁夜さんも受け継いでいるわけで、……それが全て開放されたのなら十分あり得る結果だったか。

 この結果には雁夜さん自身が驚きを隠せず、あまりにも一気に増えた魔術回路を持てあますというか、しばらくは魔力を全く制御できない状態が続いていたぐらいである。

 

 

 ……ということは、原作において桜が慎二の子供を産んでいれば、あるいは雁夜さんが葵さんと結婚して子供を作っていれば、その子は今の雁夜さんレベル、もしかするとそれ以上の素質を持っていた可能性は十分あったわけか。

 ……もしかしなくても、禅城一族の能力って、チートと言ってもいいレベルじゃないか?

 この能力が知れ渡れば、『引く手あまた』どころじゃなくて、『誘拐されて無理やり、それも死ぬまでずっと子供を産まされ続ける』レベルなんじゃないか?

 ……そうだ。凛ちゃんはその能力を継いでいる可能性が高いとなると、原作の凛ルートにおいて士郎と凛の間に生まれた子のスペックって、もしかしてとんでもないレベルになってたりして。

 まあ、確認しようがないことは置いといて、この件についての情報漏洩と桜ちゃんたちの護衛はしっかりしておかないといけないな。

 

 

 それから、『意外なことに』と言っては失礼だろうけど、雁夜さんはメディアたちから評価が高かった。

 原作の雁夜に対しては『道化師(ピエロ)』と評価していたが、この世界の雁夜さんは(僕の誘導があったとはいえ)『桜ちゃんを養子に出すことを阻止する』ときちんと結果を出し、見返りを求めることなく桜ちゃんたちの幸せを守るため、今もひたすら努力を続けている。

 そういう態度と行動と結果が高評価なのだと思う。

 まあ僕も、隠している情報はあっても、持ちつ持たれつの協力関係を構築しているし、『信頼できる同盟者』だとは思っているけど。

 

 そのことをタマモと真凛に(ライン経由で)話すと、

 

「まあ、二人とも生前男に酷い目に合わされてますからね。

 その分、一途で献身的な雁夜さんの評価は高いんじゃないですか?」

「そうね。

 生前、誠実でまともな男には縁がなかったようだし、それで評価に補正が掛かっている可能性もあるわね」

「あ~、そうかもしれないね」

 

 さんざんな言われようだが、……多分それが正解なんだろうな。

 メディア達には聞かせられない結論ではあるけど。

 

 雁夜さんとは逆に、『原作において桜を地獄送り込む片棒を担いだ時臣師』の評価は地に潜るほど落ちている。

 『この時代にしては』という前提はつくが、魔術の技術力はそれなりに評価しているが、性格や人間性については最低ランクの評価となっている。

 まあ、この世界では『メディアたちに明確に喧嘩を売る発言をしている』せいもあるんだろうけど。

 

 そのせいもあって、僕の時臣師への不義理(契約外の情報未提供や最低限協力の方針)について、メディアとメドゥーサは特に気にしなかった。

 まあ、メディアも士郎との契約は解釈の曲解など平気でやっていたし、自分との契約がないがしろにしない限り、契約の曲解についてはそれほど煩くはなさそうだ。

 メドゥーサは時臣師についてはすでに敵として分類したため、どんな不義理をしようとも気にしない感じである。

 メドゥーサって、ホント敵に分類した相手に対してはクールというか、無視、いや視界にいれないタイプなんだな。

 僕もそれに含まれないように気を付けておこう。

 

 

「プリンセスのおかげで、強くなることができました。

 本当に感謝しています」

 

 新たに開いた魔術回路の訓練をしつつ、雁夜さんはメディアにお礼を言っていた。

 ちなみに、僕が降霊した分霊を知っている雁夜さんは、当然メディア達の真名を知っている。

 しかし、会話から正体がばれることを避ける為、雁夜さんは普段から彼女たちを『プリンセス』『ガーディアン』と呼んでいる。

 

「私はあなたに眠っていたものを目覚めさせただけよ。

 ただし、その力も使いこなせなければ意味はないわ」

「わかっています。

 桜ちゃんたちを守るため、もっと力をつけてみせます」

 

 とってもかっこいい台詞で、雁夜さんは宣言していた。

 メディアは、そんな雁夜さんを興味深げに見ている。

 その言葉をどこまで守れるのか期待しているのだろうか?

 メドゥーサの方は何も言わないが、優しげな雰囲気で雁夜さんを見守っている。

 

 ……なんだろう、雁夜さんが正統派主人公に見えてきた。

 それも、『チート等一切なく、恵まれない環境の中、ほんの少しの才能と僅かな知識と仲間の協力の元、努力を積み重ねて少しずつ強くなり、一歩一歩目的へ近づいていく古典派主人公』に。

 前世知識で該当するキャラとなると、……『灼眼のシャナ』の坂井悠二か?

 最初は特殊能力と智謀のみだったが、少しずつ、しかし着実に強くなって、ついには最強クラスの強さを手に入れた主人公である。

 ……終盤でラスボスになった時には、僕も唖然としてしまったけど。

 

 一方僕は、『偶然手に入れたチート能力を駆使して、自身より強い仲間の協力の元、虎の威を借りる狐のごとく、裏から戦争を操ろうとする悪役』か?

 ……否定する要素がないのは正直悲しいが、雁夜さんの目的と僕の目的は一致しており、僕が桜ちゃんと凛ちゃんを幸せにするよう努力して、葵さんに危害を加えるようなことがなければ、 ……雁夜さんと対立する未来は来ないはずだ、……多分。

 ……念のため、雁夜さんとの連絡は密にして、雁夜さんが僕に対して誤解したり嘘を信じ込んだりしないように注意しておくか。

 

 

 そんな日々を過ごしていたが、ある日雁夜さんから提案があった。

 

「君の予知夢が正しければ、あと1年ぐらいで聖杯戦争が始まる。

 時臣師との接触は使い魔経由だけだけど、桜ちゃんと時臣師の弟子である君は毎日ここに来ている。

 そのことを知れば、『俺が時臣師と手を組んでいること』を予想するマスターが出てくる可能性がある。

 それを避けるため、桜ちゃんや君は聖杯戦争が終わるまで、俺には会わない方がいいと思うんだけどどうかな?

 ……もちろん、時臣師の使い魔には引き続き来てもらって、魔術の修行は続けるつもりだ」

 

 雁夜さんも僕と同じことを考えていたか。

 この時点で、遠坂家と完全に接触を断っておけば、よほど念入りに調査しない限り時臣師との関係は掴めないし、掴めたとしても一部でしかないだろう。

 僕はメディア達とも相談した上で、雁夜さんの意見を受け入れた。

 桜ちゃんは、大好きな雁夜おじさんに当分会えなくなることを悲しんでいたけど、「1年経てばまた会えるよ」との言葉に、笑顔でお別れを言っていた。

 ……これが、二人の最後の会話にならないように、可能な限り雁夜さんをサポートしてあげたいな。

 そしてこのことが、新しいイベント、いや事件のトリガーになるとは、僕も雁夜さんも全く予想していなかった。

 

 

 雁夜さんの家に、僕や桜ちゃんが遊び(修行)に行かなくなってから少し経ってから、いきなり臓硯が時臣師に連絡してきた。

 どうやら臓硯は、雁夜さんが桜ちゃんと接触を断つのを虎視眈々と待っていたらしい。

 そうすれば、『雁夜さんから時臣師へ都合の悪い情報が伝わらない』と考えていたのだろう。

 あるいは、すでに雁夜さんが実情を話していたとしても、誤魔化しきれるとか、盟約で押しきれるとか考えていたのかもしれない。

 

 臓硯は、『重要が話があるので、遠坂邸へ訪問したい』と時臣師に申し入れ、時臣師はそれを了承していた。

 『ついにきたか』と時臣師の了承の元、僕たちは音声を伝達する時臣師の使い魔経由で遠坂邸の一室にいる二人の会話を聞いていた。

 

「久しいの。

 お主が当主になった時に、挨拶に来たとき以来か」

「そうですね。

 あれから時間が経ったものです。

 ……それで、本日のご用件は何ですか?」

 

 内心は色々と含むものがあるだろうに、時臣師はあくまでも優雅に、余裕を持って臓硯の対応をしていた。

 

「ふむ、それはの。

 我が間桐家と遠坂家との古き盟約に基づいて、援助を頼みたいのよ」

「援助、ですか?

 資金でしたらある程度援助は可能ですが、間桐家が資金面で困窮しているとは聞いていませんが」

 

 養子の話だと分かっているだろうに、時臣師は完璧にとぼけて見せた。

 

「資金面は問題ない。

 問題なのは人材よ」

「人材ですか?

 慎二君は魔術回路を持たず、雁夜君は間桐家を継ぐつもりがなく家を出ていったので、後継者とするために封印指定の子を養女に迎えたと聞いていますが」

 

 時臣師はあくまでもとぼけてみせ、臓硯はそのことに気付いていないようだった。

 

「ほっほっほっ、話が早くて助かるわ。

 お主も知っての通り、マキリの業を受け継がせるために滴という小娘を引き取った。

 確かに、封印指定の娘だけあって才能はあるが、……所詮はそれだけよ。

 禅城家の『配偶者の才能を限界まで引き出す特性』とは比較にならん。

 それゆえ、お主の家を継がぬ次女を間桐にもらえぬか?

 全て閉じているとはいえ、慎二はそれなりの数の魔術回路を持っておる。

 慎二、そして遠坂の血と禅城の能力を合わせ持つ娘との間に生まれた子なら、マキリの業を継ぐに相応しい才を持って産まれようぞ。

 そうなれば、これからも間桐家は安泰となり、聖杯戦争も問題なく続けられるはずよ」

 

 なるほど。

 原作においても、こんな感じで時臣師を口説き落として桜ちゃんを養子にもらったのか?

 しかし、この日のために僕は時臣師を説得済みなわけだから、当然この依頼に対する回答は決まっていた。

 

「確かに、桜と慎二くんの子なら、優秀な素質を持つ子供が生まれる可能性は高いでしょう」

「そうじゃろう?

 では「申し訳ありませんが、桜を渡すわけにはいきません」

「なんじゃと!

 間桐と遠坂の古き盟約を破棄するつもりか?」

 

 予想外の回答だったのか、あの臓硯が明らかに驚愕していた。

 

「いいえ、違います。

 残念ですが、すでに桜は婚約者がいるのです」

「婚約者じゃと?」

 

 さすがの臓硯も予想外だったのか、おうむ返しで問い返してきた。

 

「その通りです。

 桜の嫁ぎ先はすでに先約があり、桜を婚約者とする対価も受け取り済みなのです。

 そのため、残念ですが貴方の依頼を承諾できません」

「ふむ、違約金ならば間桐家から出してもよいが?」

 

 臓硯はよほど桜が欲しいらしい。

 ここまで言われても引き下がらないとは、正直驚いた。

 時臣師としてもこの時点で臓硯を敵に回すのは得策ではないと考えているらしく、可能な限り穏便に、しかし完全に断ろうとしているようだ。

 

「違約金ですか。

 ……残念ながら、違約金ではいくら払っても相手は承諾しないでしょう。

 なにしろその家は、秘伝である魔術を遠坂家に提供したのですからね」

「馬鹿な!

 自家の魔術を、それも秘伝まで提供したのか?」

「その通りです。

 そこまでするほど桜の価値を認め、桜を大切にすると約束してくれたわけです。

 そのため、今さら断るわけにはいきません」

 

 完全に予想外の説明だったのか、臓硯はしばらく黙り込んでしまった。

 

「……くくく、そうじゃの。

 さすがに、すでにそこまでされておっては断るわけにはいくまい。

 どうやら儂は、どうしようもないほど出遅れておったか。

 ……そうよの、お主は三人目の子を作るつもりはないか?

 それが娘ならば、間桐の養子としてもらいうけることを予約したいのだが?」

 

 その手があったか!

 凛ちゃんは遠坂家の後継者、桜ちゃんは予約済みならば、3人目を作ってもらえばいい。

 そして二人連続で類まれな素質を持つ子供だったから、三人目もこの二人と同レベルの優秀な素質を持つ子である可能性はかなり高い。

 

 ……この発想はなかったな。

 約1年後に三人目の子供が産まれたとしても、慎二との年齢差は6歳ぐらい。

 結婚するのに全く問題ない年齢差だよな。

 

「……現在は聖杯戦争の準備で忙しいため、3人目以降の子供のことは全く考えていません。

 聖杯戦争を勝つことができれば、その時点で改めてこの話をしませんか?」

 

 さすがの時臣師も予想外だったのか少し詰まったものの、すぐにうまく言い逃れた。

 まあ確かに忙しいのも事実だし、『聖杯戦争開始直前に妻が出産』なんてことになったら色々と大変だから、説得力のある回答ではある。

 

 ……しかし、遠坂家の三人目の子供というのはいいアイデアだよな。

 公式設定によれば、凛は時計塔の重鎮になった未来もあるようだし、同レベルの素質を持つ子供を作ってもらい、桜ちゃんと同じく八神家の魔術を教えるということで仲間に引き入れることに成功すれば、頼もしい仲間になってくれる可能性は高い、はず。

 高い確率で、その子にも遠坂家の秘伝の魔術が教えられることはないだろうが、そこは八神家の魔術を教えると言いつつ、実はメディアやメドゥーサの弟子にすれば、超一流の魔術師になることも夢ではないだろう。

 メドゥーサはともかく、メディアが弟子入りを認めるかは疑問だけど。

 ……それ以前に、時臣師が3人目を作るかもわからない状況では、「取らぬ狸の皮算用」だけどね。

 

「よかろう。

 お主が聖杯戦争を生き残り、いい返事をしてくれるのを待っておるぞ」

 

 臓硯も現時点ではこれ以上の回答は望めないと判断したのか、大人しく引き下がった。

 大人しく引き下がりすぎて逆に不安だが、遠坂家の娘をもらえる可能性がゼロでない以上、凛ちゃんや桜ちゃんを誘拐するような暴挙は、……時臣師が死なない限りは多分ないだろう。

 逆に言えば、聖杯戦争で時臣師が戦死した後、『時臣師の遺言』とか嘘を言って、桜ちゃんを養子にしようと連れて行ってしまう可能性は十分ありえるか。

 うん、その辺も注意するように時臣師と葵さんにアドバイスしておこう。

 

 

 こうして、(時臣師が死亡するまでの間は)桜ちゃんの間桐家行きフラグをへし折ったわけだが、その後完全に予想外の事件が起きてしまった。

 それは、……雁夜さん誘拐事件である。

 養子入りの話があったので、念のためにメディアに頼んで凛ちゃんと桜ちゃんの危険を察知できるように(時臣師に気付かれないように)使い魔で監視をしてもらっていたが、……まさか雁夜さんが誘拐されてしまうとは。

 当然犯人は臓硯だと思われる。

 原因は、……雁夜さんが遠坂家と一切接触を断った(ふりをした)ので、誘拐してもばれないか、ばれても放置されると判断したのか?

 それとも、この間メディアに頼んで、雁夜さんの閉じた魔術回路を全部開いたけど、そのことが臓硯にばれて『雁夜さんを手駒にする』とか、『慎二にも同じことをして魔術回路を開く』とかの理由で、雁夜さんを誘拐したのか?

 いかん、どれが原因だとしても、提案したのは僕だからどう考えても僕が原因だよな。

 当然僕は、急いで対策会議を行った。

 

「メディアの調査結果からも、臓硯の魔力残滓が見つかったから、犯人は臓硯で間違いない」

「マスターやサーヴァントに万が一にも発見されないように、彼の家には一切魔術を掛けておかなかったのが失敗だったわね」

 

 メディアも、臓硯に出し抜かれたのが悔しそうだ。

 

「仕方ないわ。

 仮にも臓硯は聖杯戦争の創始者の生き残り。

 臓硯が本気で襲撃を掛けるのを撃退、あるいは逃走できるレベルの結界とかを仕掛けたら、どうやっても時臣師に怪しまれるのは避けられないわ。

 メディアさんたちの存在を隠蔽することを重視することを決めた以上、どうしても雁夜さんの防御が甘くなるのは避けられないわ。

 それよりも、今は雁夜さんの救出方法を検討するのが先よ。

 何かプランはあるかしら?」

 

 真凛がメディアをなだめてくれたが、……さてどうするべきか?

 雁夜さんには恩もあるし、大切な協力者だし、雁夜さんから僕の秘密(の一部)がばれるとやばいから、絶対に救出する必要があるのは間違いないが、……今の戦力で助けられるか?

 メディアもメドゥーサも僕の中にいる為、『最大魔力使用量は僕と(ラインで繋がっている)タマモの合計量までで、魔力最大出力は僕の魔術回路の限界まで』しかない。

 それで、百戦錬磨、……いや老獪かつ外道であり、物量勝負のマキリの蟲相手に雁夜さんの救出が可能なのだろうか?

 ……まあ、監禁場所は間桐邸の地下室なんだろうけど。

 

「雁夜さんにはお世話になっていますから、何としても助けたいんですけど、……部屋を埋め尽くす蟲相手では、私も無事に逃げ切れる自信がないですね」

 

 楽天家のタマモも、あの蟲群相手では弱気になっているが、無理もない。

 

「物量相手に正面から攻めるのは愚策よ。

 そういうわけで、いつでも影の分身を消して脱出可能な私とメディアさん、メドゥーサさんの3人で救出作戦を行おうと思いますが、いかがですか?」

「それが賢明ね。

 万が一にもリョウが死んだり捕まったりしたら取り返しがつかない以上、いつでも自由に撤退可能な私たちが突入するのは確定事項。

 突入時に念入りに結界を調査して対策を施せば、影の体が消滅するとか、リョウとのラインが切れることもないわね」

 

 メディアは真凛の提案に乗り気に見えた。

 

「そうですね。

 今の臓硯が得意とするのは、蟲の操作と制御だけでしょう。

 蟲に気を付けて存在を隠しながら、一撃離脱で雁夜を救出し、彼の安全を確保した時点で臓硯の抹殺を行うことを提案します。

 もちろん、滴も救出したいですね。

 それ以外の間桐邸の住人たちは余裕があり、敵対しなければ生かしておくことにしましょう」

 

 さすがはメドゥーサ。

 敵には一切容赦せず、助けたいと思わない相手に対しては非情な対応である。

 しかし非情ではあるが、戦力不足の今はそれが賢明だな。

 僕もわざわざ成功確率を下げてまで、慎二や鶴野を助けたいとまでは思っていないし。

 

 こうして、影の体を使う真凛、メディア、メドゥーサの3人による雁夜&滴救出作戦が決定したが、当然時臣師にも承諾をもらってある。

 時臣師も(秘密の)弟子である雁夜さんの救出を当然望んでおり、遠坂家と間桐家の盟約があるため表向きは動けないが、裏では全面的にバックアップしてくれることになった。

 具体的には、『雁夜さんを助ける為』と同意を得た上で、桜ちゃんはもちろん、凛ちゃんが保有する全魔力を提供してもらえることになったのだ。

 葵さんと桜ちゃん、あるいは葵さんと凛ちゃんがさらに仮契約(パクティオー)を結び、時臣師からも魔力をもらうことも考えたのだが、メディアが嫌がったのでこのことは頼まないことになった。

 

 とはいえ、時臣師は僕がメディアとメドゥーサの分霊を降霊したことは知っていても、現在その二人が自意識を持った上さらにパワーアップしたことは知らない。

 当然『僕とタマモが参加する救出作戦』は無謀だと考えており、『捕まってもすぐに脱出可能で犯人が分かりにくい影で作った分身だけの救出作戦』の許可が出た。

 元々、真凛、メディア、メドゥーサの3人だけで実行することを考えていたから、僕もすぐに承諾して作戦が実行されることになった。

 

 

 現時点で可能な限りの準備を終え、昼に影の分身(覆面&全身を覆うローブ姿)で真凛、メディア、メドゥーサが間桐邸へ突入した。

 夜だと臓硯が自由に外を行動可能なため、あえて昼に突入したが、所詮は現代の魔術師の結界。

 神代の魔術師相手では、臓硯が張った結界であろうとメディアの敵ではなく、いともあっさりと3人は間桐邸へ侵入に成功した。

 事前の作戦通り僕とタマモは留守番の為、真凛の視覚と聴覚の情報を受け取って観戦モードである。

 現場の指揮はメディアに一任してあるから、こっちができることは(ないとは思うけど)気付いたことをアドバイスするぐらいである。

 そして、真凛たちが地下室への階段を降りたところで、雁夜さんの声が聞こえてきた。

 どうやら、まだ声を出せるほどの気力と体力と自意識を持っているらしい。

 これなら雁夜さんを無事に助け出せるか?

 真凛たちが地下室を覗き込むと、すぐに臓硯とその前にいて鎖に繋がれた雁夜さんが目に入った。

 

「くくく、マキリの血筋のもう終わったものとばかり思っておったが、いやいやどうして、まだまだ捨てたものではなかったらしいの。

 それなりにしか素質がなかったはずのお前が、何をどうやったかは知らんが、まさかこれほど魔術回路を開けるとは!

 全く想像しておらんかったわ!!

 その業を儂が手に入れれば、使い物にならないと考えておった慎二も化けるやもしれん。

 さらに、お主とこの小娘、そして遠坂の娘との間に子を為せば、いずれも優れた後継者になろうて。

 そして、その二人の間に子を産ませれば、あるいは儂にも匹敵する強さを得られるかもしれんな」

 

 この外道爺!

 何てことを考えていやがる!!

 滴と桜ちゃんという親子ほども年齢を離れた娘たちに雁夜さんの子供を産ませて、さらにその子たちの間に子供を産ませるだと?

 こいつ、本気で間桐家の人間の出産を『馬の交配や種付け』レベルでしか考えていない!

 

 当然雁夜さんは拒絶するんだろうけど、……本人の意志は完全に無視して体を操作するとかして、強制的に無理矢理やるんだろうなぁ。

 

「ふざけるな!

 俺は絶対にそんなことを許さない!!

 答えろ、臓硯!

 お前はなぜ、そこまでして聖杯を得て、生き長らえようとする!?」

 

 地下室の壁に張り付けられた雁夜さんが当然ぶちきれて、臓硯に向かって叫んでいた。

 今気づいたが、臓硯の傍には、蟲と精液らしきものにまみれた滴らしき幼女も吊り下げられていた。

 

「決まっておる。

 人として生まれて、永遠の命を求めないものなどおらぬわ!」

 

 臓硯の明確な答えに対し、雁夜さんは鋭く追及した。

 

「永遠の命を求めるなら、蟲に魂を移すなんてしないでさっさと吸血鬼になれば、体が腐ることも苦痛を感じることもなく、よっぽど簡単に永遠の命を手に入れられたはずだ。

 それをしなかったということは、最初は生き長らえるのは手段だったはずだ。

 そして、生き長らえることでいつかは聖杯を手に入れて、『聖杯でしか実現できない何か』を実行することがお前の目的だったんだろうが!

 長い時の流れの中で、体や魂だけでなく精神までも腐りきって本当の目的を忘れたんだよ、貴様は!

 答えろ、臓硯!!

 貴様が故郷を捨て、人であることまで捨てて聖杯を手に入れようとしたのは、……一体何のためだったんだ!?」

 

 今の雁夜さんの言葉は、『こんなこともあろうかと』雁夜さんに僕が伝授しておいた『臓硯への精神攻撃用の言葉の刃』である。

 捕まった時の時間稼ぎ用に伝授しておいたのだが、雁夜さん自身の疑問でもあり、これ以上ないぐらい激怒している雁夜さんの迫力も加わった結果、臓硯の魂に届いたようだ。

 

「なぜ?

 ……そうよ。

 儂は絶対にやらなければいけないことがあって、聖杯を手に入れようとした、はず。

 それは、……永遠に生きることことではない、なかった。

 しかし、……それは、一体何だった!?

 ……おお、おおおおおおお」

 

 完全に忘れていた自身の命題を雁夜さんに指摘され、臓硯は苦悩し始めた。

 

 

 その隙を逃さず、地下室の入り口から、メディアは臓硯への攻撃と雁夜さんを束縛する鎖を破壊する魔術を発動した。

 臓硯は胴体を切断され、体を構成する蟲が飛び散ったが、上半身だけになった臓硯はまだ苦悩し続けている。

 同時に鎖も破壊され、雁夜さんが自由の身になった瞬間、メディアは雁夜さんを、メドゥーサが滴を抱きかかえ、そして真凛がメディアの指示により地下室にあったミイラ化した死体を回収した。

 そして、全員即座に地下室から地上へ戻り、そのまま間桐邸から離脱した。

 置き土産にメディアが地下室を火の海にしていったが、……所詮は僕の魔術回路で発動可能なレベルの魔術、それぐらいで臓硯は死なないんだろうな。

 可能ならば、完全に抹殺するか、捕獲して情報を取り出してもらいたかったが、二人の安全を確保しながらそれをするのは困難だろう。

 火の海となっても、臓硯の苦悩の叫びが聞こえているので、まだ臓硯は正気に戻っていないらしい。

 今なら臓硯を完全抹殺、または捕縛ができそうな気もするが、……ここは欲を出さない方が正しいんだろう。

 それを理解して、僕は何も言わずに黙って見ていた。

 

 地下室は盛大に燃えていたが、石造りの地下室だし、地上階では破壊などを一切しないでメディア達は離脱したため、……多分蟲が全部燃えるか、あるいはその前に鎮火させられて、地下室以外が燃えたり壊れたりすることはないだろう。

 こうして、二人の救出ミッションが無事に犠牲なく成功したのはいいが、……今回僕は完全に傍観者だったな。

 いや、まあ、三人のメインエネルギー(魔力)供給源(の一人)兼中継者として重要な役目はあったし、あんな蟲の群れに突入するなんて可能な限り避けたい行為ではあるけど。

 

 

 その後、事前に隠れ家として準備してあった冬木市外にある空きビルに移動すると、メディアたちはさっそく雁夜さんと滴の検査と治療を開始した。

 なお、そこは事前に僕とタマモが待機していたので、これで全員集合である。

 僕としては、この後『最大級の警戒対象の一人である臓硯』の抹殺を頼みたいところだったが、メディアが間桐邸に残してきた使い魔の情報によると、すでに臓硯を構成していた蟲は燃え尽きているが、臓硯が滅んだかどうかは確認できなかったらしい。

 原作にもあったとおり、あれは蟲で作った遠隔操作用の体でしかなく、本体は別の場所に隠れている可能性は十分にある。

 ……いや、その可能性が高いと言うべきだろう。

 今回は元々イレギュラーな事態でだから、臓硯の抹殺は今後の課題としておき、雁夜さんと滴の二人を救出できたことで満足するべきか。

 

 なお、僕の予想通り、地下室の火事は蟲たちを焼き殺した後に自然に鎮火したらしい。

 地下室は完全に焼け焦げ、その煙は間桐邸に充満してかなり大変なことになったらしいが、幸いにも間桐邸の住人はすぐに逃げ出したので死傷者はゼロで済んだらしい。

 間桐邸の住人たちは最悪死んでも構わないとは思っていたが、まあ無事で何よりだ。

 ……今考えると、臓硯に命令されていたとはいえ、滴を虐待していたであろう間桐鶴野は殺した方が良かったかもしれなかったけど。

 

 

 隠れ家への追跡も監視者もいないことを確認した後、さっそくメディア達は二人の診断を開始した。

 そして、メディアによる調査の結果、雁夜さんには一切異常がないことが確認できた。

 どうやら臓硯は、『閉じた魔術回路を開いた雁夜さんの体』を詳細に調査することを重視していたらしく、調査以外は何もしていなかったらしい。

 まあ、衰える一方だった間桐家の『中興の祖』と成り得る存在をやっと見出だしたのだから、捕縛はしても丁重に扱うのは当然か。

 ……だが、雁夜さんがかなり消耗しているように見えるが、やはり誘拐され、監禁されたのは精神的にきつかったのだろうか?

 

 一方滴は、元々水属性持ちだったため、魔術の属性を弄られるようなことはされていないものの、『蟲に慣らし強力な魔術師にするため』という理由で、原作の桜と同様に修行と言う名の拷問漬けにされ、蟲もすでにかなりの数を体内に埋め込まれていたらしい。

 今も気絶したままであり、そのまま寝かせている。

 

 さすがのメディアとメドゥーサも、滴の調査結果には顔を顰めていた。

 そして、まずは滴の周辺に隠れ家に張ってあるものよりもさらに強力な結界を張った。

 これにより、臓硯との接続を完全に断ち切って探知&蟲操作の可能性を限りなく低くした後、さらに滴の体内の蟲のマスター権限をメディアとメドゥーサに変更を始めた。

 将来的には蟲を排除するか、滴にマスター権限を譲る予定らしいが、暫定処置として二人がマスターとなり、蟲の悪影響が最小限になるように蟲に命令したようだ。

 これは無事に成功し、とりあえず滴の容態は安定したらしい。

 

 

 滴のことはメディアたちに任せ、僕は雁夜さんに話しかけた。

 

「雁夜さん。

 救出するのが遅くなってすいません。

 無事で本当によかったです」

「ああ、ありがとう。

 絶対に助けてくれるとは思っていたけど、滴ちゃんも一緒に助けてくれたのには感謝している。

 あれくらいで臓硯は滅びないだろうが、……いや絶対に生きているだろうが、少なくとも滴ちゃんをあの地獄から助けることはできた。

 そのことには、本当に感謝している。

 後は、再び臓硯に拐われないようにして、あの子を守ってあげたいと思っている」

 

 そう言って雁夜さんは、滴に対して憐れむような、謝るような複雑な視線を向けた。

 

「やっぱり、責任を感じてますか?」

「……まあ、そうだね。

 俺が間桐家に残って『マキリの後継者』という名の『臓硯の道具』になるつもりは欠片もないけど、『俺が間桐家から去ったことであの子が代わりに連れてこられたこと』はまぎれもない事実だからね。

 もっとも、俺が間桐家に残っていたとして、俺の妻となる女性はやっぱり蟲漬けにされていたわけだから、臓硯を滅ぼさない限り、一人の女性が絶対に不幸になる運命だったけどね」

「ああ、そういえば、臓硯は桜ちゃんと滴に雁夜さんの子供を産ませるようなことを言っていましたね」

「……ああ、その通りだ。

 俺にとって、絶対に許せないことをアイツは実行しようとしていた。

 今までもアイツを殺したいとは思っていたが、……今はもうアイツを殺すのは確定事項だ。

 どんなことが起きようと、何があろうと、アイツは必ず殺す。

 手段を選ぶつもりもないし、俺自身が手を下せなくても構わない。

 アイツは生きていれば、いつか必ず桜ちゃんたちやその子供たちに害を与える存在となる。

 それを改めて理解した以上、絶対に滅ぼしてやる」

 

 冷静に、ありったけの殺意を籠めた雁夜さんの言葉は物凄く怖かった。

 頼もしくはあるが、……正気だよね?

 

「私も同感よ。

 貴方がそのつもりなら、私もできる限り力を貸すわ。

 ……あんなおぞましい存在が同じ街に存在するなんて、虫酸が走ってしかたないわ」

「同感です。

 今後の憂いを絶つために、完全に臓硯の息の根を止める必要があります」

 

 いつの間にかメディアとメドゥーサが僕の後ろに立っていて、怒気をまとわせながら発言した。

 

「当然です。

 あんな百害あって一利なしの害虫なんて、さっさと退治しましょう!」

「私も賛成よ。

 向こうから喧嘩を売ってきた以上、時臣師の黙認もあるし、容赦する必要はないわね」

 

 どうやら、雁夜さん+うちの女性陣全員が、臓硯抹殺にものすごく積極的に賛成のようである。

 喧嘩を売られた以上、今後の僕たちの身の安全も考えると、……やっぱり後腐れないように臓硯は確実に滅ぼすべきだろうな。

 今回の行動により、臓硯は『危険だからいずれ倒すべき存在』から『向こうから喧嘩を売ってきた絶対に倒すべき敵』へとランクアップしたわけだしな。

 

「僕も賛成です。

 臓硯を確実に滅ぼせるか封印できるだけの準備が整い次第、できるだけ早く攻撃するべきですね。

 ……まあ、僕だけではそんなことはまだできませんけど」

 

 そう言ってメディアの方を見ると、メディアはすぐに返答した。

 

「そうね。

 貴方が迂闊な行動を取って、臓硯に捕まるようなことがあれば面倒だから、実行は私たちに任せてちょうだい。

 貴方たちにできそうなことは、……滴の保護と心のケアだけど」

「それは俺がやります。

 義理の姪ですから、対外的にも俺が滴の保護者となった方がいいでしょう」

「対外的にはそれでいいとして、滴が貴方を受け入れるかしら?

 自分が苦しむ羽目になった原因の一人である貴方を」

「確かに、受け入れてくれない。

 ……いえ、憎まれる可能性は十分にあります。

 でも、可能なかぎり滴ちゃんに話しかけてみます」

 

 雁夜さんはやる気に満ち溢れているが、なぜか諦めというか、苦しみも抱えているように見える。

 雁夜さんはそこまでひどい状況の滴を目の当たりにしたのだろうか?

 確かに、「いつか姉が助けに来てくれる」と希望を持っていた原作の桜と比較しても、『父を殺され、姉を拐われ、自分は売られた』滴では希望なんて持てるはずがないから、あの桜以上に精神がヤバい状態である可能性は全く否定できない。

 僕は『ツンデレ』なら許容範囲だけど、『ヤンデレ』とかはノーサンキューである。

 ……いや、救出した以上最低限の責任は取るつもりだから、放置とか追放とかやるつもりはないけど、素人の手に負えないレベルまで精神が病んでしまったら、後は専門家に任せるか、(メディアたち、そして可能なら滴本人から了承を貰った上で)記憶封印処置をするしかないと思う。

 

 とりあえず、その日は雁夜さんとメディアを隠れ家に残し、僕たちは家に帰った。

 今後は、滴の治療と処遇の検討、そして臓硯対策で忙しくなりそうだ。

 ……ああ、時臣師にも「雁夜さん救出成功」の第一報を入れておいて、何て説明するか考えておかないと。

 滴を助けられたのは嬉しいけど、臓硯のせいで面倒なことが一気に増えてしまった。

 

 これで、無事に聖杯戦争が始まるんだろうか?

 そんな不安を感じることが増えてきている今日この頃である。

 




【にじファンでの後書き】
 PV64万達成しました。
 どうもありがとうございます。

 久々に雁夜さんが活躍(?)しました。
 一応この物語はタイトルにもあるとおり、雁夜さんはサブ主人公ですからね。
 ……最近は出番があまりありませんでしたけど。


【備考】
2012.06.23 『にじファン』で掲載


【改訂】
2012.06.23 時臣師が『雁夜救出作戦』を条件付きで承認したことを追記


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第16話 事件の後始末(憑依二十二ヶ月後)

 翌日、滴は目を覚ましたが、意思が全く感じられかった。

 それどころか全く言葉も発しなかった。

 目は虚ろで、完全な無表情状態。

 どう見ても『精神崩壊済みの幼女』である。

 

「この子は、あの地下室で見掛けたときからこの状態だった。

 臓硯の指示に完全に従う人形となることで、自分の心を守ったんだと思う。

 ……それでも耐えきれないほどひどいことをされて、君たちが助けに来てくれたときには気絶していたわけだけどね」

「無理もないわね。

 味方は誰もいない状況で、さらに助け出される可能性はもちろん、すがれる希望すら存在しない中で生きていくには、心を完全に閉ざす方法しか見つけられなかったのね。

 5歳では無理はないけど……。

 やっぱり、もっと早く救いだすべきだったわね」

 

 メディアは辛そうに呟いた。

 そうか、あの地獄を耐えきった間桐桜は人並み外れて精神が強靭だったわけで、そこまで強くない娘ではこうなってしまうのは当然だったか。

 

「すまない。

 俺にもっと力があれば」

「いえ、貴方を責めているわけではないのよ。

 ただ、あの子が可哀想だからつい言ってしまっただけ」

 

 謝罪した雁夜さんに対して、メディアはフォローの言葉を掛けた。

 メディアは自分の過去を思いだし、滴に共感してしまったのだろうか?

 『自我を奪われ、愛する母国を裏切り、大切な弟を自分の手で殺してしまい、自分を利用した男の妻になってしまったメディアの過去』もかなり、いやとてつもなく悲惨であり、『誰かが助け出すべき悲劇のヒロイン』だったのは間違いない。

 最後まで誰も彼女を助けることなく、自分だけで復讐を遂げたがゆえに、『裏切りの魔女』と呼ばれることになってしまったけど。

 だからこそ、メディアは滴を助けてあげたいのかな?

 

「その、ぎりぎりとはいえ、心が壊れていなくて良かったですね」

「それは違うわ。

 ……多分、臓硯は心が壊れるぎりぎりのラインを越えないレベルを見極めて、滴の修行という名の拷問を行ったんでしょうね」

 

 タマモのフォローも、即座に真凛が否定してしまった。

 確かにあのサディストなら、それぐらい簡単にやってのけるか。

 

「滴はやっと解放されたわけだけど、自我を取り戻せるかしら?」

 

 真凛の問いに対して、雁夜さんは考えながらゆっくり話し出した。

 

「臓硯は苦労して手に入れた滴ちゃんが逆らわないように、様々な手段を講じたはずだ。

 滴ちゃんの体内の蟲を常に支配下に置いているのはもちろん、魔術による傀儡化、あるいは……」

「あるいは何ですか?」

 

 嫌な予感がしたが、僕は雁夜さんに先を促した。

 

「あるいは魔術に頼らずに絶対に逆らえないように、滴ちゃんを洗脳した可能性がある」

 

 ……確かに原作の桜に対して、臓硯の洗脳による支配は、黒桜化が進むまでは有効だった。

 それが滴に対しても行われても不思議ではないか。

 

「貴方は大丈夫だったのかしら?」

「ええ、最初は蟲を埋め込むつもりだったようですけど、俺の魔術回路の数に気付いたらすぐに方針転換をして、ずっと俺の体、特に魔術回路の検査、調査をしていました」

 

 雁夜さんの魔術回路の調査?

 すごく嫌な予感がするのは気のせいか?

 

「多分、臓硯も予想以上に貴方が強くなっているのを理解して、蟲を埋め込むことより貴方の体の調査を優先したのね。

 ……いくら詳細に調査したとしても、そう簡単に私が使った業を再現できるとは思えないけど」

「……俺も貴女の技術をあれだけの調査で再現できるとは思いませんが、……劣化コピーならできるかもしれません。

 ですが、万が一にも魔術回路を開けたとして、兄の素質では最大限高く見積もっても俺と大差ないレベルでしょう」

 

 まあ短期的にはそうかもしれないけど、『閉じた魔術回路だけを持った魔術師の子孫の子供たち』をたくさん養子にして、『成功すれば儲けもの、失敗したら廃棄』、つまり『下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる』と『無理矢理魔術回路を開いて、生き残った者を自分の手駒にする』という『HxHのキメラアント式育成』を実行されると将来ものすごく面倒なことになるが、……さすがにこの日本でそんな真似はできないよな、……できないよね?

 

「そうね、まあ『臓硯の手駒が増えるかもしれない』程度は覚えておきましょう」

 

 同じことをメディアも考えたらしいが、実現可能性の低さと効果が出るまでの時間を考えて、脅威度は低いと判断したのか軽く流していた。

 

「それで滴ちゃんですが、貴女たちならこの子の洗脳を解くことができますか?」

「魔術による洗脳なら無効化できると思うけど、『この時代の心理学に基づいた魔術を使わない洗脳』については、当然私には分からないわ。

 貴女もそうでしょ?」

「そうですね。

 記憶を覗いてどんな洗脳がされてきたかを調べることはできますが、それを元に洗脳の解除方法を調べなければ対処できません。

 それでも対処するとなると、魔術を使った力づくの対応となります」

「やっぱり、そうなるわね」

「それはつまり?」

 

 ものすごく嫌な予感がしたが、僕はメディアに尋ねた。

 

「『魔術を使って洗脳を上書き』するか、『間桐家に引き取られてからの記憶をすべて封印する』ことで、洗脳を無効化するしかないわね。

 ……できれば、どちらの手段も使いたくないのだけど」

 

 そりゃ、メディアは『女神に洗脳されてイアソンに惚れたこと』が原因で、『幸せな王女』から『恐れられ嫌われる魔女』へ転落してしまったんだから、洗脳や精神操作はトラウマというか逆鱗そのものだろうね。

 

「気持ちは分かるつもりですが、このままだと臓硯に洗脳されたままですから、いつどんな臓硯の命令が発動するかわかりません。

 記憶を全部チェックして滴ちゃんに埋め込まれた命令が全て判明したとしても、この二つの方法以外だとそれを防ぐためには相当手間が掛かるでしょうし、第一臓硯が現れれば再び臓硯の支配下に戻ってしまいます。

 それだけは、絶対に阻止する必要があります。

 ……まあ、僕が言わなくても皆さんも気づいているでしょうけど」

 

 僕の言葉にメディア以外はすぐに頷き、メディアはしぶしぶ、本当にしぶしぶといった感じで頷いた。

 

「となると、魔術を使って滴ちゃんの洗脳を解くのは決定事項ですね。

 そして、再洗脳をするのは論外ですから、残る方法は『滴ちゃんが間桐家に養子入りした日から今日までの記憶』を完全封印する、ということになりますか?」

「それしか、ないのか?

 ……そうだ!

 予知夢では、僕では助けられなかった桜ちゃんは、どうやって救われたんだ?」

 

 それを聞いてきたか。

 まあ、それぐらい教えても問題ないよな。

 

「その未来では、桜ちゃんは実に11年にも渡って間桐家で地獄を見ました。

 ですが紆余曲折の末、愛する人と大切な姉である凛ちゃん、そして桜ちゃんが召喚したサーヴァントの努力によって、自力で臓硯の支配から脱出し、臓硯を滅ぼして、後悔はあるものの幸せな日々を手に入れていました」

 

 すっごい省略したけど、第五次聖杯戦争とアンリ・マユのことを隠して説明するとこうなるよな。

 全ての事情を知っているメディアたちも何もコメントしなかったから、この説明で問題あるまい。

 

「……そ、そうか。

 そうだったのか。

 君の助力がなければ、桜ちゃんは11年もあの苦痛を味わい続けていたのか。

 ……それが実現しなくて、本当に、本当によかった」

 

 薄々は想像していたんだろうけど、『かつてありえた桜ちゃんのおぞましき未来』を知り、そしてそれを回避できたことに雁夜さんは心の底から安堵していた。

 

「しかしそうなると、滴ちゃんには桜ちゃんが自力で洗脳を解いた方法は全く使えないな。

 滴ちゃんには、残っている家族は『魔術協会で生きているかもしれない生き別れの姉』しかいないし、俺たちではその子を引き取るのは不可能に近いだろう、……少なくとも短期間では」

 

 最初は否定した雁夜さんだったけど、メディアとメドゥーサを見て『短期間では』と条件を追加した。

 確かに、時間があってこの二人がやる気になれば、滴ちゃんの姉を引き取ることも十分可能だろう。

 もっとも、聖杯戦争の準備で忙しい今、聖杯戦争が終わるまでは不可能だけど。

 

「そうね。

 家族もなく、愛する人も、信頼できる人もいなくて、自分の回りにいるのは自分を虐める人たちのみ。

 それに抵抗できる力もなく、耐えることすらできず、心を閉ざして閉じこもることしかできなくなっている今の状態では、……悔しいけど、記憶を封印する以外に対処方法はなさそうね」

 

 原作でも、『士郎が凛によって聖杯戦争の記憶を完全に封印されるバッドエンド』があったし、『魔法使いの夜』でもルーン魔術に記憶封じの魔術があったから、メディアなら『臓硯の洗脳部分だけをより強力に封印』して洗脳を無効化し、さらに間桐家に引き取られた以降の記憶を完全に封じることは容易いだろう。

 

「メディアなら滴ちゃんの記憶封印は完全にできるだろうけど、その後滴ちゃんにはどこまで説明して、どんな対応をするのがいいですかね?」

 

 僕のその言葉に、全員悩み顔になってしまった。

 

「問題はそれよね。

 父親を殺され、姉と引き離された直後の状態に戻ったこの子に、『間桐家で蟲漬けの拷問の日々を与えられ、助け出したときには心も体もぼろぼろになってしまったから、その期間の記憶を封じた』と教えたとしても……」

「普通は信用しませんし、信じたら信じたで恐慌状態になりかねませんね」

「私も同感です」

「同じく」

 

 真凛の言葉に、全員悲観的な予想を返した。

 どうやら、全員同じことを予想していたらしい。

 

 

「となると、『間桐家に引き取られた後、滴ちゃんに辛いことがあって精神病になってしまったから、治療のため一時的に記憶を封じました。君が記憶を取り戻したいと望み、辛い記憶を受け止められるだけの強さを身に付けたときに、封印した記憶を解放します』と説明するのがいいでしょうか?」

「そうですね。

 その説明なら嘘は一切言っていませんし、滴ちゃん自身が未来を選択できますから、滴ちゃんも受け入れやすいはずです。

 マスターのお考えは素晴らしいです」

 

 タマモは大袈裟に僕のアイデアを称賛したけど、雁夜さんは浮かない顔だった。

 

「滴ちゃんにとって、間桐家で過ごした時間は痛みと苦しみが続くだけで、何も良いことはなかった。

 いっそ、記憶を封印した期間は『家族を失ったショックで長い間眠り続けた』と説明して、辛い過去は完全に秘密にした上で俺の養子として育てればどうだい?

 『兄さんが育てるはずだったが、事情があって育てられなくなったため、俺が引き取ることになった』と説明すれば辻褄は合うし、苦痛の日々は無かったことにできる」

 

 う~ん、滴ちゃんに一生秘密にできればそれもいいかと思うんだけど、絶対に誰かが、というか臓硯が滴ちゃんにばらすのを阻止できない気がするんだよなぁ。

 

「滴ちゃんが死ぬまで、この地獄の体験について隠しきれる自信があるのなら、それもいいかもしれないけど……、臓硯が滴ちゃんにそのことをばらそうとした場合、貴方はそれを完全に阻止できる自信があるのかしら?」

 

 雁夜さんの楽観的な判断に対して、メディアは容赦なく穴をついてきた。

 やっぱりメディアも同じことを危惧していたらしい。

 

「そ、それは、……確かに、臓硯が本気を出せば、……僕程度では阻止することは不可能、だ」

 

 雁夜さんはメディアの言葉に対して、反論の言葉を見つかられなかった。

 

「そういうことよ。

 後から他人にばらされて、滴ちゃんに私たちに対する不信や疑惑を埋め込まれるよりも、最初から話せる範囲で嘘のない説明をするほうが賢明よ」

「だけど、将来記憶の封印解除を依頼してきて、取り戻した記憶に耐え切れなかったらどうするつもりなんだ!?」

「その場合は、……気が進まないけど、記憶を再封印するだけのことよ。

 私たちが優先するのは、滴の心身が正常な状態にあること。

 本人が望んでも、過酷な過去に耐え切れないのなら、……再び封印するだけよ。

 事前にそのことを伝えておけば、滴も文句はないでしょう」

 

 副作用とかなしで記憶の再封印が可能なら、その対応はありかな?

 いくら本人が記憶を取り戻すことを望んでも、精神崩壊してしまったら意味がないし。

 しかし、メディアの方から記憶の再封印を提案するとは、本気で滴ちゃんを助けたいんだな。

 

「確かにそれなら、……本人の意志も尊重しているし、最悪の場合もフォローが可能、か」

「もっとも私たちが育てるんだから、そんな柔な精神の持ち主にするつもりはないけどね」

「もちろんです。

 自分の意志で未来を決め、妨害する者は全て蹴散らせるだけの力を与えましょう」

 

 ずいぶん過激なことを言っているが、……まあ教育方針としては間違っていないか。

 メディアとメドゥーサが母親代わりって、すごいことになりそうだな。

 父親代わりは、やっぱり雁夜さんか?

 多分、滴ちゃんの保護者は雁夜さんになるだろうし。

 となると『厳しい母親(二人)と、優しいというか甘い父親兼保護者』という組み合わせになりそうだな。

 ……まあ、バランスが取れてちょうどいいか。

 そういえば、真凛は全く発言していないけど、何か気になることでもあるのかな?

 

「真凛はどうだ?」

「……ベストではないけど、それがベターな対応だと思うわ。

 ごめんなさいね。

 桜もこんな状態になるかもしれないと思うと、冷静になれなかったのよ」

 

 そうか。

 真凛のコアとなっているのは凛ちゃんからコピーした記憶と人格だから、桜ちゃんが体験したかもしれない可能性の実例を見せられて、これ以上ないぐらい動揺していたのか。

 無理もないか。下手にフォローするよりも落ち着くまでそっとしていたほうがいいだろう。

 

 

「ではまとめると、

 

・滴ちゃんが間桐家に引き取られてからの全ての記憶は封印。

・自意識を取り戻した滴ちゃんに、嘘は一切言わず、詳細はぼかしつつ可能な範囲で説明。

・将来滴ちゃんが記憶の封印を解くことを希望し、メディアたちがそれに耐えきれると判断したときに、記憶の封印を解除。

・封印を解かれた記憶に耐えきれなかったときは、記憶の再封印実施。

 

といったところですか?」

「そうなるわね。

 そうそう、滴の記憶封印を確実にしたいから、貴方滴ちゃんと仮契約(パクティオー)してラインを繋げなさい」

「あ~、やっぱり、そうなりますよね。

 ……勝手にキスするのは気が引けますが、治療行為と言うことで許してもらいましょう 」

 

 すぐにメディアが仮契約(パクティオー)の準備をして、僕と滴ちゃん、タマモと滴ちゃんのラインを繋げることに成功した。

 それはつまり、滴ちゃんのラインがメディア、メドゥーサ、真凛とも接続されたことになる。

 これで、メディアとメドゥーサはラインを通じて、滴ちゃんの治療が可能になったわけだ。

 滴ちゃんに食事をとらせて寝かせた後、すぐに二人は滴ちゃんの記憶の解析を始めていた。

 この二人が本気になった以上、滴ちゃんの記憶封印は完璧に実行されるだろう。

 ……問題は、記憶を封印して洗脳も解けて(封印して)、正気を取り戻した後の滴ちゃんの反応だけど、……これは幸運と滴ちゃんの心の強さを祈るしかないか。

 

 

 臓硯が滴ちゃんに手出しするのを妨害するため、メディアによって常に間桐邸を監視し、臓硯の動向を探ることになった。

 救出作戦後、避難していた間桐家の人間が帰宅したぐらいで、それ以外の人の出入りはないようだ。

 消防車やら警察やらの出動は全くなかった。

 どうやったかは知らないが、うまくもみ消したようだ。

 ……まあ、地下室には焼け死んだ大量の蟲やら、多分死体もたくさん転がっているだろうから、絶対に部外者を入れるわけにはいかないんだろうけど。

 

 

「そういえば、地下室から真凛が持ってきたミイラは何に使うんですか?」

 

 ホムンクルスを作る材料にでもするんだろうか?

 あるいは、……間桐家の魔術師の体質を徹底的に調べて、雁夜さんのパワーアップに役立てるのだろうか?

 いや、雁夜さんの魔術回路を全部開いた以上、今さら先祖のミイラを調べてもそれほど意味はないよな。

 

「あのミイラは、間桐家の魔術刻印を持っていたから真凛に回収を頼んだのよ。

 多分、雁夜の数代前の先祖でしょうね。

 魔術刻印は問題なく保存されていたようだから、雁夜に移植できるわ。

 念のため、トラップが仕掛けられていないか確認してから移植をする予定だけど」

 

 ……ああ、そういえば『可能なら臓硯襲撃時に間桐家の魔術刻印』とか、『(存在するなら)秘蔵の令呪』とかを回収する予定だったっけ。

 聖杯戦争で未使用だった令呪は監督役の神父が回収することになっているけど、間桐家のマスターの令呪を臓硯が回収して保管していてもおかしくないはずだし。

 

「間桐家の魔術刻印が無事に手に入ったのは嬉しいですね」

 

 あとは雁夜さんが令呪を手に入れば完璧なんだが。

 ……まあ、魔術回路数が僕を上回っている今の雁夜さんなら、もうちょっと訓練して魔力量を増やせば、遠からず令呪が手に入ると楽観視しているけど。

 

「臓硯は魂を蟲の体に移すことはできても、魔術師用の魔術刻印を蟲の体で使うことはできなかったから、いずれ現れるであろう優秀な後継者の為に魔術刻印を保管しといたんでしょうね」

「じゃあ、これで雁夜さんは?」

「ええ、魔術回路を全部開放し、魔術刻印も手に入るわ。

 後は魔術刻印を使いこなすだけの知識と経験を積めば、間違いなく一流の魔術師になれる。

 そうなれば、雁夜だけでも滴を守ることも可能になるわ。

 ……いえ、私がそれが可能なぐらい強くしましょう」

 

 なんか、メディアさんが熱血教師になっている。

 そんなに雁夜さんは、弟子として教えがいがあったのだろうか?

 いや、かつて自分を最後まで守ってくれる人がいなかったことが、結果として悲しい未来に至ってしまった原因だった。

 その悲劇を繰り返さない為、雁夜さんを『滴ちゃんの保護者兼守護者』として相応しい存在に育て上げることを決意したのか?

 ……こりゃ、雁夜さんはこれから大変だな。

 

 ……っと、そういえば

 

「聖杯戦争開始まであと1年ぐらいですけど、そんな短期間で移植できますか?」

「何を言っているのよ。

 貴方が使っている魔術刻印を制御する魔術があるでしょ?

 私が手を加えてさらに制御精度や効率をアップしたから、この魔術刻印も一年で移植を終わるわ」

「お、お手柔らかにお願いします」

 

 メディアの宣言に、雁夜さんは顔を引きつらせながら答えていた。

 

 

 その後、時臣師の使い魔を真凛が連れてきて、詳細な報告を行うことになった。

 

「事前に相談した通り、真凛たちの影だけで間桐邸に突入したところ、雁夜さんの言葉で臓硯がものすごく動揺していた状態でした。

 その隙をついて雁夜さんと滴ちゃんを救出し、足止めに地下室を燃やしてすぐに離脱しました。

 詳細は雁夜さんから聞いてください」

「ふむ、初の実戦を経験したばかりであり、雁夜君の無事を確認したから詳細は聞いていなかったが、初の実戦で冷静に、そして完璧に目標を達成するとは大したものだ。

 この経験を糧にして、驕ることなく精進したまえ」

 

 誉めてくれるのは嬉しいが、僕がしたのは魔力提供と戦場観察だけで、メディアたちが勝手に全部やってくれたから、初の実戦には該当しないよなぁ。

 聖杯戦争の前に、一度ぐらい実戦経験したほうがいいか。

 『メディアによる武器収集の為のヤクザ狩り』にでも、(僕の影の分身を)参加させるべきかな?

 

 

「では、雁夜君。

 君がどんな状況で拐われて、一体どんなことをされたのか、詳細を教えてもらえるかね?」

 

 僕が考え事をしている間に時臣師は雁夜さんへ質問を行い、雁夜さんもまた詳細に自分の身に起きたことを説明していった。

 メディアとメドゥーサのこと以外は特に隠すこともないので、嘘はもちろん、二人のこと以外一切隠し事なしの説明となった。

 

「なるほど。

 予想通り、臓硯は完全に本来の目的を忘れていたのだね。

 確かに、根源に至るためには膨大な時間が必要なのは事実であり、その手段として不老不死を求めることはよくあることではあるが、……まさか目的と手段が入れ替わったあげく、本来の目的を忘れていたとは。

 それなら、臓硯があそこまで愚かな真似をしていたことが納得できる。

 本来の目的を忘れ、ただ生き残ることだけを考えている臓硯にとって、自分以外の全ての存在は『自分が不老不死へ至るための道具』であり、『暇潰しの玩具』だったのだろうね」

「全く否定できないな。

 いや、間違いなくそれが正解だろう」

 

 冷静に分析する時臣師に対して、雁夜さんは怒りを込めて肯定した。

 

「しかし、君の指摘を受けて、臓硯が苦悩したと言うことは失った願いを思い出す可能性もあるわけだね」

「確かに、本来の目的が不老不死ではなかったことは思い出したようだが、……なにせ数十年、下手をすれば百年以上忘れていたことだ。

 そう簡単に思い出せるものではないはず。

 それに、体を蟲に変えたときに、その記憶を物理的に失った可能性もある」

「その可能性も十分ありそうだね。

 ……しかし、己が人生を懸けて追い求めたものをずっと忘れていたことに気づいたものの、それを思い出すことができないとは。

 これ以上ないぐらいの精神的拷問だね。

 私は根源へ至るという目標を忘れることは絶対にありえないが、……そのような状況に陥ることなど考えたくもない!」

 

 そう言った時臣師の声からは、僅かだが恐れが感じられた。

 

「今まで罪のない女性、そしてマキリの後継者を苦しめ、殺してきた罰と考えれば、……いやそれでも足りないな。

 あいつは、永遠に解けない命題を抱えながら、解くことも諦めることもできず、魂が滅びるまで苦悩するのがお似合いだ」

 

 雁夜さんはすごく残酷なことを言ってはいるが、臓硯相手だとちょうどいい罰だと思えてしまうから、怖いものだ。

 

「とはいえ、臓硯がどうなったかについて確認できない以上、彼の動向を監視する必要があるのは言うまでもないね」

「そうだな。

 基本的にあいつのテリトリーは冬木市内だから、俺は滴ちゃんと一緒にこの市外の拠点に隠れているつもりだ。

 あとは、間桐邸の監視の他に、冬木市で若い女性が行方不明になる事件が発生したかどうか調べておけば、臓硯の動きがある程度読めると思う」

「ふむ、以前聞いた件だね。

 臓硯は蟲の体を維持するため、数ヵ月に一人のペースで若い女性の肉を必要としている。

 もし、若い女性が行方不明にならないようなら、臓硯は滅んだか、この町から逃げた可能性が高い。……そういうことかな?」

「ああ、その通りだ。

 あいつが目的を持って逃亡したら厄介な存在になるが、……今の俺では何もできないしな」

「目的を持って逃亡、ね。

 やはり、次、あるいはその次以降の聖杯戦争に勝てるだけの手駒を用意するといったところかな?

 あとは、完全な裏切り者となった君を確実に殺すために彼自身が力を蓄える為、といったところかね」

「多分、そんなところだろう。

 前者なら聖杯戦争の時に気を付ければいいが、後者の場合は厄介なことになるな」

「なに、君が臓硯を確実に撃退できるだけの力をつければいいだけのことだ。

 以前の君ならそんなことはとても期待できなかったが、今の君ならば十分臓硯を越えることが可能だろう」

 

 そう、時臣師も雁夜さんが閉じた魔術回路を全部開いて、一気に才能を開花させたことを知っているのだ。

 ちなみに、時臣師には「降霊したメディアの力を借りたら、僕の魔術回路が開いて、同じことをしたら雁夜さんの魔術回路も開いた」と正直に事実を伝えている。

 さすがの時臣師も驚いていたが、「メディアの能力なら可能でもおかしくない」と意外とあっさりと受け入れていた。

 

 こうして、今後の方針として、僕たちは『臓硯の動向を調べつつ、後は今まで通り聖杯戦争の準備を行うこと』になった。

 

 

 翌朝、間桐鶴野は慎二を連れて、大きなスーツケースを抱えて家を出ていった。

 そして、タクシーに乗ると移動を開始した。

 多分、臓硯から逃亡するため、冬木市から脱出するつもりなのだと思う。

 ありえないとは思うが臓硯が死んだか、あるいは臓硯が一時的に活動できない状態になり、慌てて逃げた可能性が高い。

 なにしろ、『誘拐した雁夜さん』と『修行と言う名の虐待をしていた滴ちゃん』を助けるため、間桐邸に襲撃をしかけられたばかりだ。

 特に滴ちゃんの虐待については、自分もかなり関わっているため、このままここにいれば命に関わる危険があると考えてすぐに逃げるのは、当然とも言える行為だろう。

 同じ状況に置かれたら、僕なら間違いなくとっとと逃げる。

 

 

 と思っていたら、メディアが予想外のことを言っていた。

 

「可能性は低いけど、鶴野や慎二の体内、あるいは荷物の中に臓硯が隠れている可能性もあるわよ。

 どうするつもりかしら?」

 

 そんなことが、……ありえるか?

 確かに冬木は遠坂家の管理地だから、ここから逃げたとしても臓硯が失うものは間桐邸と地下室にいるマキリの蟲だけだ。

 しかしマキリの蟲は、臓硯の体の一部であり、力そのものと言える。

 いくら火事があったとはいえ、マキリの蟲が全滅まではしていないはずだ。

 たかが一回侵入を許した程度でそこまでするだろうか?

 

「魔術でチェックすることは「無理ね」

 

 楽観的願望はメディアに即行で否定されてしまった。

 やっぱりそうか。

 となると

 

「いるかどうかもわからないし、いるのがわかったとしても、手出しできないから……、とりあえず放置するしかないね」

 

 臓硯を完全殲滅したいのはやまやまだが、……臓硯が冬木からいなくなりこっちが戦力強化できる時間が手に入るなら、……まあメリットとデメリットが釣り合うだろう。

 ……臓硯が何を考えて冬木から出て行ったのかが不気味ではあるけど。

 あとできることと言えば、……何だろう?

 迂闊に自宅の周りに結界を張って時臣師にばれると面倒だし、……メディアに頼んで使い魔で警戒してもらうぐらいか?

 後は、間桐邸を常に監視するぐらいしかできることはなさそうだな。

 

「そう、貴方がそう決めたのなら従いましょう。

 その判断が正しいことを祈っているわ」

 

 メディアの言葉はものすごく不吉だったが、さすがに切嗣のように『とりあえず』で殺せないしなぁ。

 メディアの使い魔で監視したが、鶴野たちが乗ったタクシーは結局そのまま冬木市から出ていってしまった。

 

 その後調べてみると、間桐邸の使用人もすでに全員解雇していた。

 ここまでしたとなると、鶴野は本気で一生ここに戻るつもりはないんだろう。

 

 

 これで(鶴野と一緒に逃げていなければ)間桐邸に残っているのは臓硯だけのはずだが、しばらく24時間体制でメディアたちが監視しても一切動きを見せなかった。

 そして、冬木市内での若い女性が失踪する事件も全く起きなくなった。

 

 そこで、再び分身で間桐邸へ侵入してみると完全にもぬけの殻で、臓硯はどこにもいなかった。

 とりあえず、地下室にわずかに残っていたマキリの蟲を皆殺しにして、マキリの魔術書を全て回収してから間桐邸から立ち去った。

 このことを時臣師に説明すると、時臣師は『臓硯が死んだ可能性が高い』と判断した。

 しかし、臓硯は一回襲撃を受けたぐらいで逃げ出すようなタマだろうか?

 ……雁夜さんの言葉によって忘れていた理想を思い出し、『理想を実現するために必要な何かをするために出て行った』可能性ならあるか。

 あるいは、冬木市に隠れ家があってそこに潜んでいるのかもしれない。

 あのまま臓硯が焼け死んでくれれば嬉しいけど、あの程度で臓硯が死ぬとは思えないから、……臓硯が再登場したときは絶対に面倒なことになるんだろうなぁ。

 

 

 こうして、臓硯は行方不明となり、残された間桐親子も冬木市から逃げ出し、雁夜さんの誘拐から始まった事件は一先ず終了となった。

 滴ちゃんの保護者は雁夜さんへ変更され、滴ちゃんの『体の治療』と『記憶の封印』は確実にゆっくり時間を掛けて行われることになった。

 

 その処置が無事に終わったとして、滴ちゃんは正気を取り戻せるのか?

 取り戻せたとして、生きる希望を持てるのだろうか?

 そして、滴ちゃんが地獄を見た原因(マキリの後継者を放棄:雁夜さん、桜ちゃんの養子入り妨害:僕、マキリの養子入りを回避:桜ちゃん)に対して、(記憶が封印済みとはいえ)恨まないでくれるだろうか?

 

 はあ。これからも、問題は山積みとしか言いようがないな。

 




 ハールメンでの初更新です。
 よろしくお願いします。

 設定の矛盾や誤字などがありましたら、ぜひお知らせください。

 7/16時点で、評価は5.33をいただきました。
 この評価が少しでも上がるように、今後も努力していきます。


【改訂履歴】
2012.07.21 『臓硯の逃亡の可能性』について追記しました。


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第17話 新しい仲間(憑依二十三ヶ月後)

 雁夜さんの誘拐事件が起きてから一ヶ月が経った。

 

 雁夜さんは誘拐時の後遺症などは全くなく、新しく開いた魔術回路の訓練と魔術の修行に日々努力している。

 問題は、やっぱり滴ちゃんの方だった。

 

 メディアたちは滴ちゃんの記憶の調査や分析を行い、まずは『臓硯たちによる洗脳や暗示の記憶』のみを完全かつ強固に封印した。

 当然、この記憶は一生思い出す必要はないので、メディアでも解除できないぐらい強力な封印が施されている。

 『臓硯がどんな細工をしていようと、絶対に滴は思い出すことはない』とメディアが断言するぐらいのものだ。

 多分、滴ちゃんが死ぬまで思い出すことはないだろう。

 しかし、それ以外には記憶を弄ることもなく、精神に対しても不干渉のままだ。

 その状態でしばらく様子を見たが、滴ちゃんは相変わらず完全に心を閉ざしたままで、食事や睡眠などの行動は行うものの、それ以外の行動や意思表示や会話は全く行わない状況が続いていた。

 

 これにより、メディアはものすごく悔しそうだったが、滴ちゃんの精神の自然回復を諦めた。

 そして、滴ちゃんの『間桐邸に入居した後から救出された日までの記憶』の封印を行った。

 この記憶は、メディアだけが解放できる封印が施されている。

 

 これにより、「心を閉ざす要因を全て封印したので、時間が経てば意識が覚醒するでしょう」とメディアは判断し、メドゥーサも同意した。

 この結果に、雁夜さんは安堵し、タマモや真凛も喜んでいた。

 

 

 滴ちゃんが自意識を取り戻すのを待つ日々を過ごしていた時、予想外のことが発生した。

 それは、またもやタマモが原因だった。

 

「マスター、喜んでください。

 ついに、ついに完成したんです!」

 

 いつも通り夜寝て眠りにつき精神世界へ入ると、ハイテンションなタマモが出迎えてきた。

 そんなタマモを真凛やメディアは苦笑して見ており、メドゥーサはいつも通りクール、いや少し喜んでいるように見える。

 一体何事だ?

 

「いいから落ち着け、一体何が完成した?

 というか、お前がそんなに喜ぶような物を、誰かが作っていたとは聞いていないぞ」

 

 そう、メディアたちは滴ちゃんに付きっきりとなり、重要案件である『蒼崎橙子と接触して人形を作ってもらうこと』すら後回しになっているのだ。

 可能性としてあるのは、……メディア達がホムンクルスでも作ったのか?

 メディアのスキルなら、ホムンクルスぐらい作れても不思議ではないと思うけど。

 ……そういえば、ホムンクルス作成って錬金術ではよく聞くけど、『魔女の業』には含まれているのか?

 

「あっ、すいません。

 ……実はですね、完成したのは、何と二人目の仮想人格にして、マスターの第三の使い魔なんです」

 

 スパーン

 次の瞬間、私は具現化したハリセンでタマモを思いっきり叩いた。

 

「勝手に仮想人格を作るなと言ってあっただろうが!

 ……で、今度は誰の記憶を元にして、どんな人格を作ったんだ?」

 

 ハリセンに驚いて眼を丸くしているタマモに、私は質問をぶつけた。

 とはいえ、私はこの時点である程度予想はできていた。

 

 タマモの持つ仮想人格作成プログラムは、『モデルとする人格の詳細な情報』を必要とする。

 タマモ自身は、『私の記憶にある玉藻御前と琥珀さんの人格』を、真凛は『遠坂凛の人格』をモデルとし、さらに『凛ちゃんの記憶と人格』までコピーしている。

 

 つまり、今回作成した仮想人格もまた、私の記憶に存在するキャラクターをモデルにしている可能性は高い。

 そうなると……

 

「じゃじゃ~ん、はい、登場です!」

 

 タマモの声に合わせて登場したのは、……20歳ぐらいの間桐桜(の外見をした女性)だった。

 

「やっぱりか。

 ……ああ、すいません。

 前に同じことがあったのに、私の監督不行き届きでこんなことになってしまって」

「いえ、気にしないでください。

 確かに最初は驚きましたけど、今は仮想人格とはいえ、この世界に存在できることを感謝しているんです」

 

 ……おいおい、この人さりげなくとんでもない発言をしていないか?

 

「誠に失礼ながら、貴女は今、自分の置かれた状況と自分自身の状態について把握していますか?」

「ええ、もちろんですよ。

 私はタマモさんが作った二人目の仮想人格で、貴方の三人目の使い魔になるんですよね。

 あっ、ご挨拶が遅れました。

 不束者ですが、これからよろしくお願いします」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 はっ、思わずつられて返答してしまったが、なんだかこの人、『原作の間桐桜の人格再現性』がかなり高くないか?

 

「マスター、すごいでしょう?

 メディアさんとメドゥーサさん、特にメドゥーサさんの協力があったおかげで、ここまで間桐桜さんの性格を再現できました」

 

 タマモは自信満々に説明を始めた。

 ……こいつ、本当に反省しているのか?

 全く反省していないか、反省よりも自慢の方が上回っているのか?

 いや、今考えるべきことはそんなことではない。

 

「何だ。お前の独断じゃなかったのか?」

「はい、そうなんですよ。

 滴ちゃんを助けることができたのは、議論の余地なくいいことです。

 ですが、どうしても『滴ちゃんの治療や保護』に人手と時間を取られてしまいます。

 ですから人手不足を解消し、さらに滴ちゃんをより理解できる人材を増やすため、間桐桜をモデルとした仮想人格をみんなと相談して作ったのです」

「すいません、自己紹介を忘れていました。

 私の名前は、八神真桜(まお)です。

 真の桜と書いて、『まお』と読みます」

 

 そう言って、真桜は私に微笑んできた。

 

「私が付けてあげたのよ。

 私が真凛で、この子が真桜。

 とってもいい名前でしょ?」

 

 そう言って、真凛は真桜の隣でニコニコ笑っていた。

 メディアやメドゥーサも真桜を優しく見守っているところを見ると、私だけ知らされていなかったらしい。

 

「マスターだけ内緒にするのは心苦しかったんですけど、『事前にマスターに教えると、説得までに時間がかかる可能性が高いから内緒にした方がいい』とアドバイスをいただきまして……」

「おいおい、私がそこまで反対しそうなことをしたのか?

 もったいぶらずにさっさと全部吐け!」

「は、はい!

 桜ちゃんの記憶と人格をコピーして、それをコアにして仮想人格を作ったのは真凛と同じなんですけど……」

 

 そこまで言って、タマモは上目づかいで私の様子を伺った。

 その仕草は可愛かったが、そんなことでは誤魔化されない。

 『いいからさっさと先を続けろ』という意志を込めて睨み付けると、タマモは慌てて説明を続けた。

 

「そ、その、ですね。

 メドゥーサさんの記憶にあった『間桐桜の記憶』も、真桜にインプットしてあるんです」

「……ちょっと待て、少し話を整理させてくれ。

 まず、メドゥーサのことだけど、……メドゥーサは第五次聖杯戦争の記憶を持っているのか?」

「はい、召喚直後は思い出せませんでしたが、真桜の人格構築のため桜の記憶にアクセスした際に、聖杯戦争で召喚された記憶を思い出すことができました。

 そして、その思い出した記憶を全て真桜に提供しました」

 

 メドゥーサは桜のことを思い出せたのが嬉しいのか、微笑みながら答えた。

 

「そんなことがありえるのか?

 エミヤという例外中の例外以外、『原作においてサーヴァントたちは、平行世界の聖杯戦争の記録も記憶も持っていた人はいなかった』と記憶しているんだが?」

 

 第五次聖杯戦争のサーヴァントたちの態度と行動を見る限り、平行世界の聖杯戦争について何も知らなかったはずだ。

 エミヤですら、覚えていたのは『生前に参加した聖杯戦争の記憶(の一部、断片)』だけで、『サーヴァントとして聖杯戦争に参加した記憶も記録』も持っていなかった。

 これは間違いないはずだ。

 

「そうね。

 少なくとも聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは、平行世界の聖杯戦争の記録はもちろん、英霊の座の記憶も持っていない状態で召喚されるみたいね。

 だけど、私たちは違うわ。

 私は聖杯戦争の記憶や記録はないけど『英霊の座にいたときの記憶』は持っているし、メドゥーサにいたっては英霊の座にいたときの記憶はもちろん、聖杯戦争の記憶を持っているのよ」

「なんでそんなことが?」

「さあ?

 そこまでは私にもわからないわ。

 まあ、考えられることは、元々私たちの降霊はイレギュラーなものだったし、あとは術者であるあなたが『間桐桜の記憶を持ったメドゥーサ』の召喚を望んでいたことが影響したとも考えられるわね。

 それに、エミヤも聖杯戦争に召喚された記憶はなくても、英霊になった後の記憶を持っていたのよ。

 私たちだけが特別というわけではないわ」

 

 うーむ、『イレギュラーの降霊と私の願いの相乗効果』が、メドゥーサの記憶にまで影響を及ぼしたのだろうか?

 

「リョウ、私は桜と過ごした記憶を思い出せたことに感謝しています。

 ですから、貴方が悩む必要はありません」

「そっか、それならいいんだけど。

 ……ところで嫌じゃなければ、どこまで思い出せたか教えてくれないか?」

「構いません。

 私が思い出せたのは、第五次聖杯戦争の記憶だけです。

 もっとも、貴方が上位世界で見た期間だけですが……」

「……ってことは、まさか?」

「はい、貴方がセイバールート、凛ルート、桜ルートと呼ぶそれぞれの世界の記憶を持っています。

 ただし、聖杯戦争を生き残り、桜と共に暮らしたはずの『桜ルートの世界の記憶』は、『聖杯戦争終了直後まで』と『3年後に皆で花見をした頃の記憶』だけしかありません。

 ……私としては、桜が幸せになれた記憶を思い出せただけでも十分ですが」

 

 そいつはすごい。

 『3パターンの聖杯戦争におけるサーヴァントたちとの戦闘経験』を持っていると言うのは間違いなく戦闘力向上に繋がるだろうし、何よりあの世界の記憶を持っているのなら、桜ちゃんのことをこの世界でも絶対に守ってくれるだろう。

 

「そっか、原作で描写されていた期間限定とはいえ、メドゥーサは記憶を思い出せたのか。

 となると、その記憶をメドゥーサが持っていたのは、……どう考えても私が原因としか思えないね」

「その通りです。

 ……とはいえ、さすがに『hollow ataraxiaの世界』の記憶までは持っていませんが」

「まあ、あれは『アンリ・マユが作り出したバゼットの夢の世界』みたいなものだから、その記憶がないのはしょうがない。

 で、その記憶を真桜にインプットしたわけか」

「はい、その通りです。

 正確には、『それぞれの世界で私に流れ込んできた桜の記憶』を真桜にインプットしました。

 ただし、聖杯戦争中の記憶はほとんどなく、あるのはそれ以前の記憶です。

 『士郎や大河と過ごした幸せな日々の記憶』もありましたが、そのほとんどは『間桐家で過ごした絶望の日々の記憶』です」

 

 そう言ったメドゥーサの声は、悲しみに満ちていた。

 しかし、それを聞いた私はそんなことを気にする余裕は欠片もなかった。

 

「おいおいおいおい、そんなきつい記憶を受け取った真桜は大丈夫なのか?

 というか、何でわざわざそんなことを?」

「正直、私も悩みました。

 あの記憶はあの世界の桜もの。

 いくら桜をモデルとした仮想人格を作るためとはいえ、勝手に桜の記憶を渡していいのだろうかと」

 

 その気持ちはよくわかる。

 それに加えて、『そんなきつい記憶を与えられた仮想人格が発狂したり、壊れたり、暴走したりしないのか?』についてもかなり心配だ。

 

「その気持ちは分かるけど、あの世界の桜の記憶を持った仮想人格がいればこの世界の桜ちゃんが同じ目に会うのを全力で阻止するだろうし、同じ境遇の滴ちゃんを一番よく理解し、立ち直る手助けをすることが可能になるわ。

 『現在の滴の状況を知れば、あの世界にいた桜も記憶の提供を同意してくれた可能性は高いのでは?』

 そう言って私が説得したのよ」

 

 ……なるほど、メディアが説得したのか。

 『桜ちゃんの為』と言われれば、メドゥーサも反対できなかったんだろう。

 言っていることも、一応正論だしな。

 

 もっとも、私がこのことを知れば、真桜に客観的事実を教えることは許可しても、間桐桜の記憶そのものを真桜に渡すことは反対しただろう。

 よって、説得に時間が掛かると判断して、私に内緒でことを進めたメディアの判断は正しい。

 ……なぜなら、万が一にも『桜の仮想人格が黒桜化すること』になったら、絶対に『創作者であるタマモ』や『マスターである私』にトラブルが降りかかることになる。

 いくら、メディアやメドゥーサがフォローしてくれると約束してくれても、この世に絶対はない。

 リスクが大きすぎて、よほどのことが無い限り私は説得に応じないだろう。

 

 しかし、真桜という仮想人格が誕生した後なら、さすがに『記憶を消せ』とか『人格を作り直せ』など言うほど、私は非情にはなれない。

 本当にメディアは私の性格を見抜いているなぁ。

 それはともかく、これで、タマモ、メドゥーサ、メディアの意見は分かった。

 

「で、真凛の意見はどうだったんだ?」

「私としても仲間、それも妹的存在が増えるのは嬉しかったから、もちろん賛成したわよ。

 もっとも、真桜とは違って私は『あの世界の遠坂凛の記憶』を全く持っていないから、真桜の姉とは言えないけどね」

「そんなことはありません。

 真凛さんは私のもう一人の姉さんです」

 

 残念そうに言った真凛に対して、即座に真桜は否定した。

 

「そう言ってくれると嬉しいわ、真桜」

 

 喜んでいる真凛は置いといて、あと一つ確認が必要だな。

 

「『今は仮想人格とはいえ、この世界に存在できることを感謝しているんです』ってさっき言ってたけど、つまりそれは……自分を間桐桜のコピーだと自覚しているってことか?」

「はい、覚醒したときに『自分は間桐桜だ』と自覚していましたけど、同時に『タマモさんに作られた仮想人格であり、八神さんの使い魔である』とも認識していました。

 おかげで、パニックになることもなく、すぐに落ち着いて自分の状況を受け入れることができました」

 

 そういう場合、『SAO』みたいに『自分がコピーだと受け入れられなくて、自我が崩壊する』とか、『灼眼のシャナ』の坂井悠二のようにすさまじいショックをうけるのが定番なのに、すぐに落ち着けたとは大したものだ。

 まあ、最初から『仮想人格』兼『使い魔』だと自覚していたようだし、同じ境遇の真凛もいたのがいい結果に繋がったのか?

 

「それにしても、『メドゥーサが持っていた間桐桜の記憶』があったとはいえ、……よくここまで人格を再現できたな」

「その理由は簡単よ。

 タマモが持っている『人格構築プログラム』は、タマモ自身や真凛を生み出したようにかなり優れたプログラムだけど、まだ改善の余地があったから私が手を加えたのよ。

 当然、辛い記憶を受け取っても、人格に悪影響を及ぼさないようにも手を入れてあるわ。

 それと、桜とメドゥーサの相性が良くて、『聖杯戦争の間に、メドゥーサに大量の間桐桜の記憶が流れ込んでいた』という理由も大きいわね。

 この二つが影響しあって、『間桐桜のコピー人格』と言っても過言ではないぐらいの仮想人格が生まれたのよ」

 

 さすがは神代の魔術師。

 八神家の技術の結晶をこの短期間で解析して改良までしてしまうとは恐るべし。

 とはいえ、タマモとメディアとメドゥーサの3人の協力があれば、……確かにこれぐらいできてもおかしくないか。

 

 

 んっ?

 そういえば……

 

「おい、タマモ。

 真凛はお前の魂の空間(ソウルスペース)にいるけど、確かそれで容量一杯だったよな。

 となると?」

「はい、真桜はマスターの魂の空間(ソウルスペース)にいます。

 あっ、安心してください。

 英霊の魂に比べれば、真桜が占める容量なんて微々たるものですから」

 

 いや、そういうことを言いたいんじゃなくて、人の中に勝手に仮想人格、それも異性の人格を作ったことに文句を言いたいんだが……、言っても無駄か。

 なら、建設的な行動を取るとしよう。

 

「真桜という人材が増えることで、信頼できる仲間は増え、真桜に滴ちゃんのケアを頼める。

 それは嬉しいけど、私の魂の空間(ソウルスペース)にいる以上、真桜も私の魔術回路と魔力を使うわけだから、戦力的な意味では変化はないよな。

 数は増加しても、一人辺りで使用可能な魔力量は減るわけだから。

 その問題を解消するためにも、一刻も早く『魔術回路付きの人形の体』を皆に作ってあげたいところだけど、滴ちゃんの治療とかで忙しいから橙子とは接触できないしなぁ」

 

 手数は増えても、魔力が増えない。

 つまりは、総合的な戦力的な向上にほとんど繋がっていない。

 メディア、メドゥーサ、真凛、真桜という優秀な人材がいるというのに、魔力量という制限で実力を発揮できないなんてものすごくもったいない。

 

「それなんですけど、……聖杯戦争まであと1年もないので『魔術回路を持った限りなく人間に近い人形の制作』は無理だと、メディアさんは判断されたそうです」

「そうなんですか?」

 

 そうなると聖杯戦争が、魔力供給面でかなり厳しくなってしまう。

 いくら強力なサーヴァントでも、魔力がなければ戦闘どころか、現界することすらできなくなる。

 特にキャスターなんて、魔力がないと本気で『ただの役立たず』である。 

 

「ええ、『これから橙子を探し、人形の作成を依頼する』となると、……残念だけど1年では足りないでしょうね」

「そうですか?

 確かに『橙子が自分の人形を作る期間』は明記されていなかったけど、そんなに時間が掛かっているようには思えないけど」

 

 『魔法使いの夜』の番外編で、事件終了の1年後に『橙子の人形』が三咲市に来ていたと言うことは、人形作りは1年未満で終わっていたはずだ。

 

「それは、作ったのが『自分の人形』だからよ。

 私たちの、つまり他人の、それも魔術回路まで持たせた人形を作るとなると、モデルとなる肉体もないから完成までには相当時間が掛かるはず。

 人形作りの技術を教わって私が作るのなら、もっと早く作れる可能性はあるけど……」

「普通、秘伝の技術を教えるわけないですね。

 余程の対価を用意すれば、……いや将来ならともかく、今の私たちでは用意できないか」

 

 下手に未来情報を与えて、余計なトラブルが起きたら面倒だしなぁ。

 

「そういうことよ。

 まあ、将来の研究対象として人形作りは面白そうだから、時間があれば橙子とは会ってみるつもりよ」

「でも、それじゃあ、聖杯戦争までには人形は手に入らない」

「ええ、そうね。

 それで代案として、真凛と真桜にはホムンクルスの体を作ることを考えているわ」

「ホムンクルスって、アイリスフィールみたいな?」

 

 確かにアイリスフィールは生まれたときから成年時の肉体になっていて、その後短期間で普通に行動できていたらしい。

 『人形作成が間に合わないから、ホムンクルスを作る』という代案は確かに有効だろう。

 でも、

 

「メディアは【呪具作成】スキルを持っていますけど、……さすがにホムンクルス作成は対象外なのでは?

 それとも、生前ホムンクルスを作ったことがあったんですか?」

「残念ながら、生前私が教わったものに錬金術は含まれていなかったわ。

 だから、『ホムンクルス作成技術を含めた錬金術の知識』をもらってきたのよ」

「はあっ?

 『錬金術の知識をもらってきた』って、一体どこから?

 原作で錬金術を使っていたのはアインツベルンだけ……、ってまさかアインツベルン城を捜索して、ホムンクルス作成関連の魔術書とか手に入れたんですか?」

 

 メディアの驚愕の発言に、私は驚きを隠せなかった。

 確かに、冬木市の郊外、アインツベルンの森にあるアインツベルン城は、アインツベルンが聖杯戦争の時に使用する拠点。

 そういった魔術書や魔術具、あるいはホムンクルスの調整施設とかが保管されていてもおかしくはないだろうけど。

 

「その手もあったわね。

 なかなかいい発想だけど、残念ながら違うわ。

 私が知識をもらったのは、ユスティーツァから、よ」

「……も、もしかして、『大聖杯の礎となった冬の聖女のユスティーツァ』のことですか?」

 

 完璧に予想外の回答に私は頭が真っ白になってしまった。

 

「ええ、そうよ。

 他ならぬ貴方が、大聖杯の調査を許可していたでしょう。

 大聖杯からアンリ・マユの影響を排除した上で魔力を受け取るシステムの構築もしていたけど、並行してユスティーツァの記憶にアクセスできないかずっと試していたのよ。

 そして、この間やっとユスティーツァの記憶にアクセスすることに成功して、彼女の記憶を見ることに成功したわ。

 当然そこには、アインツベルンの魔術情報が含まれている。

 ホムンクルスを作るのは初めてだし、何よりも時間がないからユスティーツァクラスのホムンクルスを作るのは不可能だけど……、聖杯戦争が終わるまで活動可能なホムンクルスを2体作るのなら、……多分間に合うわ」

 

 さすがはメディア。

 とんでもないことを、さらっと言っているな。

 それにしても、『臓硯を捕まえて記憶を吸い出すこと』は考えていたのに、『ユスティーツァの記憶を見ること』を考え付かなかったのは迂闊だった。

 200年前の記憶とはいえ、他ならぬユスティーツァというホムンクルスを作り出した技術の情報があれば、メディアにとって十分有効活用できるだろう。

 その技術があれば、ホムンクルスの肉体を二人手に入れることが……。

 って、

 

「なんで、二人だけなんですか?」

「それはもちろん、『凛と桜から髪の毛を提供してもらって、それを元にホムンクルスを作ること』で聖杯戦争に間に合わせるからよ。

 サーヴァントの体すら持っていない私とメドゥーサを元にしたホムンクルスを作るのは、現時点の技術では不可能だわ」

 

 ああ、なるほど。

 確かに二人の髪の毛を提供してもらえば、ホムンクルスを作ることが容易になるわけか。

 で、それを真凛と真桜の体にする、と。

 

「でも、まさか、『ホムンクルスを作るから髪の毛をください』とは言えないですよね」

「そうね。

 できるだけあの二人を騙すようなことはしたくないから、……外出した時に抜け落ちた髪の毛を回収して、二人には秘密のままホムンクルスを作りましょう」

 

 いいのか、それ!?

 ……いや、まあ、記憶と人格を勝手にコピーして仮想人格を作っている時点で今さらなんだろうけど。

 

「安心なさい。

 真凛と真桜の主な役目は魔力供給役よ。

 戦闘に参加するとしても、それは影の体のみ。

 凛ちゃんと桜ちゃんの遺伝情報を元にしてホムンクルスを作ったことが、部外者にばれるようなことは絶対にないわ」

 

 すでにメディアはやる気満々のようだ。

 これは今さら止められないな。

 ……ま、まあ、メディアたちがすでに動いていることなら、僕にはどうしようもできないか。

 

 

 そのとき僕は、会話に加わることもできず、どうするべきか迷っている様子の真桜に気づいた。

 

「ああ、悪い。

 真桜の考えも教えてくれないか?」

「は、はいっ。

 さっきも言いましたけど、仮想人格とはいえ私がこの世界に存在できることを感謝しているんです。

 この世界には姉さんとメドゥーサもいて、私に優しくしてくれるメディアさんやタマモさんもいます。

 ですから、マスターである八神さんに恩返ししたいと思っています。

 そして、私が努力することで、この世界の私を守り通すことも、さらに私と同じ境遇だった滴ちゃんを助けることもできます。

 体の方も、ホムンクルスや人形の体を作ってもらえれば、普通の人間と変わりません。

 いえ、蟲をたくさん埋め込まれ、聖杯として改造されたあの世界の体と比べればよっぽど恵まれています。

 ですから、八神さんの使い魔として作られたというわけではなく、私自身の意志で八神さんのお手伝いをしたいんです!」

 

 あ~、なるほど。

 あの世界の境遇があまりにも酷かったせいで、この世界のこの境遇でも十分恵まれていると感じているわけか。

 本当に、間桐桜って不幸だったんだなぁ。

 桜の悲惨な過去を実感し、思わず私も涙ぐんでしまいそうだ。

 

「わかった。

 私としても君が協力してくれるのはとても心強い。

 真凛と一緒に手伝ってくれ」

「はい、わかりました」

 

 真桜は満面の笑顔で頷いた。

 その笑顔は、私も一瞬くらっときたぐらい、とても魅力的な笑顔だった。

 

 

「それにしても、『八神さんが聖杯戦争に関わっていること』だけが違うのに、私の過去とは全く違う状況になったんですね。

 ……本当に驚きました」

「まあ、そうなるように努力したからね。

 上位世界の情報もあって、『ちょっと努力すれば助けられそうな人』が身近にいたから、私にできる範囲で動いただけだけどね。

 とはいえ、桜ちゃんを助けられたことは雁夜さんの助力が大きいし、タマモがいなければ君たちは存在しなかった。

 きっかけが私であることは事実だけど、あとはドミノ倒し的に変化が広がっている感じだね」

「はい、雁夜おじさんが無事で本当によかったです。

 私は、……雁夜おじさんが無理をして命を削っていって、最後には死んでいくのを見ることしかできなかったから」

 

 そう言って真桜は悲しんで顔を俯かせた。

 

 おや、この桜は小説版の桜の方かな?

 アニメ版では、死んだ雁夜さんに対して「バカな人」と、追い討ちをかける非情な台詞を言っていたからなぁ。

 いくらあの蟲地獄で心が荒んでいたとしても、さすがにあれは雁夜が可哀想だった。

 まあ、雁夜も填められたとはいえ、『桜の母親の葵を殺しかけて、結局精神を破壊した』わけだから、そう言う意味では当然の報いとも言えるかもしれないが。

 あっ、そうだ!

 

「君にとって、雁夜さんは『雁夜おじさん』が慣れた呼び方なんだろうけど、今後は『雁夜さん』で頼むよ」

「あっ、そうですね。

 その呼び方は、この世界の凛ちゃんと桜ちゃんだけの呼び方ですものね。

 わかりました。

 今後は『雁夜さん』と呼びます」

「それと、まあ私が言わなくても変えるだろうけど、雁夜さん以外の間桐一族の呼び方も気を付けて」

「……そうですね。

 気を付けます」

 

 臓硯を『お祖父様』とか呼んだりして、関係者に聞かれたら絶対に不審に思われる。

 上位世界の情報は絶対に秘密にしなければいけない情報である以上、不審に思われることはできるだけ避ける必要がある。

 

 おっと、このことで念を押しとく必要があるな。

 

「そうそう、すでに知っていると思うけど、『私が上位世界の情報を持っていること』は時臣師にも話せないし、聖杯戦争中は表立って協力することはできない。

 可能な範囲では手助けするつもりだけど、守り切れないことがあるかもしれない。

 ……それは理解しているかな?」

「はい、お父様の手助けはしたいと思いますけど、……一番大切なのは『アンリ・マユの復活阻止』であることは私も理解しています。

 ですから、お父様への手助けの優先順位が下がってしまうことも理解できますし、何よりすでに八神さんは十分情報を提供し、魔術技術も提供してくれています。

 それに、お父様もあれだけの情報と魔術技術を手に入れたのだから、後は大丈夫だと思います」

「綺礼とギルガメッシュが裏切らなければ、という前提がつくのよね、それ。

 まあそれも、貴方から二人が裏切る可能性について知らされているから、それでも防げなかったら完全にお父様の自己責任なんだけど」

「そうですね。

 あとはお父様のことを信じるだけです」

 

 私が考えていたことを真凛が指摘してくれたが、真凛もこれ以上の助力は必要ないと思っているらしい。

 真桜の方も納得しているようだし、これなら時臣師に何が起きても大丈夫だろう。

 ……いや、遠坂家の『うっかり』の伝統を考えると、どこかであっさりと殺されてしまいそうな気がするんだよねぇ、どうしても。

 いい人だと思うし、この世界では桜ちゃんを守っているし、恩人でもあるわけだから、可能なら助けてあげたいとは思うけどねぇ。

 

 ……ああ、でも時臣師が生き残ったままだと、凛ちゃんの未来は『魔術を捨てる』か、『冷酷非情な魔女になる』かの、究極の二択なんだっけ。

 私たちがずっと一緒にいれば三つ目の未来があるかもしれないけど、……どう転んでも時臣師の存在は凛ちゃんたちにいい影響は与えないような気もする。

 ……ま、まあ、今からそんな物騒なことを考える必要は無いか。

 そういうことは、聖杯戦争が終わって時臣師が生き残っていれば対策を考えればいいか。

 そんなことを考えていたが、真桜はまだ心配事があったらしい。

 

「……でも、雁夜さんがお父様と八神さんの協力者ですから、お母様に危害が加えられることはないですよね」

「もちろんよ、絶対にお母様には手を出させないわ。

 お父様とは違って、お母様は聖杯戦争に一切関係ないから、メディアさんやメドゥーサさんも協力して守ってくれるから大丈夫よ」

 そうだったのか!?

 いつのまにそんな約束を。

 ……いや、まあ、この世界でも葵さんは一切悪いことをしていないから、メディア達も協力する気だったのか。

 原作においては、『桜の養子入りを止めなかったこと』と『嵌められて雁夜へ精神攻撃を加えたこと』はしていたけど、……まあ葵さんだけではどうしようもないことだしな。

 真凛の保証により、真桜は葵さんの安全については安心したようだった。

 

 

 こうして僕たちのメンバーに、新しく真桜が加わった。

 真凛とも本当の姉妹のように仲良くしているようだし、ホムンクルスの体を手に入れれば、頼りになる仲間(使い魔)になってくれるに違いない。

 ……一応確認したが、メディアが作るホムンクルスは『聖杯の機能は持たせず、肉体年齢20歳頃の凛や桜の体』を目指して作るらしい。

 

 とはいえ、残り期間は1年もない。

 メディアが持っているホムンクルスの情報はユスティーツァの知識のみなので、目標通りにはいかない可能性はある、とのこと。

 もっとも、『目標通りにはいかない可能性はある』とは言っても、『失敗する可能性はある』とは言わないのはさすがだな。 

 想像するに、『凛と桜のホムンクルスを作ること』は成功させる自信はあるんだろうけど、聖杯戦争開始時点で『完全状態の20歳の凛 or 桜』まで成長させられるかどうかはわからない、といったところか。

 僕にできることはないし、メディアのホムンクルス作成の成功を祈るしかないな。

 

 

 それから少し時間が経った後、真桜の件に比べればインパクトは小さいが、普通に考えれば重大なことが発生した。

 それは、雁夜さんのことである。

 

 『魔術刻印に罠が仕掛けられていないこと』のメディアによる確認や、時臣師による『マキリの魔術刻印用の魔術刻印を制御する魔術』開発(メディアによるチェックも実施)、そしてそれを雁夜さんが覚えるのに時間が掛かった結果、魔術刻印の移植まで一ヶ月掛かってしまった。

 まあ、一番時間が掛かったのは、雁夜さんが魔術を覚えることで、メディアの調査やチェックは当然時臣師には内緒だから、知るよしもないのだが。

 

 そして、雁夜さんと時臣師の関係を内緒にするため、時臣師が魔術刻印の移植を行うわけにもいかず、メディアの存在を時臣師に明かすわけにもいかず、なんと雁夜さん自身が移植を行うことになってしまったのだ。

 しかもご丁寧にも、逐一指示をしてくれる時臣師の使い魔のフォロー(僕たちにとっては監視)付きである。

 監視がなければ、メディアにパパッと移植してもらえたのに。

 

 ともかく、雁夜さんはしっかりと事前準備を行い、さらに時臣師から逐次アドバイスがあったおかげで、無事に魔術刻印の一部を移植することは成功した。

 まあ、 PS2版の原作で『凛が士郎へ魔術刻印の一部を移植していた』ように、魔術刻印の移植作業はそれほど難しくはないのかもしれない。

 

 そして移植が完了した瞬間、雁夜さんは急に右手を押さえて苦痛の呻きを漏らした。

 『魔術刻印を移植した副作用がいきなり起きたのか?』と心配したのだが、雁夜さんの右手を見てすぐに疑問は解消された。

 それは、雁夜さんの右手に令呪があったからだ。

 

 雁夜さん自身もすぐにそれを目にして、徐々に状況を理解して喜びの表情を露にしていった。

 

「やった。やっと俺は、令呪を手に入れた!」

『おめでとう、雁夜君。

 これで君もマスター候補だ。

 後は少しでもバーサーカーを制御できるように、より魔術の訓練に励みなさい』

 喜んでいる雁夜さんとは対照的に、時臣師は冷静さを保ったまま(使い魔を通して)雁夜さんを誉めている。

 

 それにしても、このタイミングで令呪を受け取ったのは、偶然……ではないんだろうな。

 原作では、『一定レベル以上の魔力を保有』して、『聖杯戦争に参加する意志がある者』に令呪を与えると説明されていた。

 ……聖杯戦争開始直前になってもマスターが揃わない場合は、(魔術回路を持っているだけの)龍之介や(聖杯戦争を知らない)士郎のような人がマスターになるが、あれは例外だしな。

 

 ともかく、この二つの条件に加えて、描写されていなかった条件として、多分(遠坂家と間桐家については)『聖杯御三家の魔術刻印を持つ者を、聖杯御三家から参加するマスターと認識して優先的に令呪を与えるシステム』になっているのかもしれない。

 魔術刻印なら『各家に絶対に一つしかない』わけで、『聖杯戦争開始直前に魔術刻印を保有する者がその時点での当主であり、聖杯戦争参加予定者』である可能性は非常に高い。

 『聖杯御三家の血を引く魔術師』という条件だけでは、誤って予定外の(遠坂家 or 間桐家の)魔術師をマスターに選んでしまう可能性もある。

 それに比べて、この条件ならば当主と次期当主以外がマスターになる可能性はなく、大聖杯に設定する『聖杯御三家のマスター選択条件』の一つとして相応しいと思う。

 さらに言えば、御三家同士の争いを避けるため、『御三家からも参加するマスターは一人ずつ』という条件も当然設定されているのだろう。

 

 そう考えると、この聖杯戦争において凛や桜が令呪を与えられず、素人の龍之介が令呪を手に入れた理由も納得できる。

 まあ、原作の雁夜が令呪を得たように『間桐家の魔術刻印が無くても令呪は得られた例』が存在するが、聖杯戦争が始まる直前だったことを考えると、あれは聖杯御三家の特別枠ではなく、一般参加枠だったのかもしれない。

 間桐桜も遺伝子をいじられたせいで、遠坂家の人間だと認識されなかった可能性が高そうだ。

 ただ、その場合『衛宮切嗣が令呪を得て、アイリスフィールが令呪をもらえなかった理由』が不明だが、……まあ聖杯を作っている一族だし、聖杯システムに干渉して、特定の魔術師をマスターとして認定することが可能なんだろうな、多分。

 

 

 そんな考察は置いといて、こうして雁夜さんはついに令呪を手に入れた。

 『ランスロットを召喚する際に使用する縁の品(ランスロットの兜)』もすでに時臣師から受け取っており、後は『聖杯戦争が始まるまで、ひたすら魔術回路を鍛えるだけ』という段階に入った。

 雁夜さんとしては、バーサーカーは魔力消費量が多いし、意志疎通もできないため召喚を急ぐ必要もなく、聖杯戦争開始直前に召喚する予定らしい。

 となると、教会がバーサーカーとキャスター以外の召喚を確認した時点で、雁夜さんがバーサーカーを召喚し、その後に僕がキャスターを召喚すればいいかな?

 

 後の問題は、……僕が無事にキャスターを召喚できるかどうか、か。

 こればっかりは、時臣さんが作ったダブルキャスター召喚陣を信用するしかないが、うっかり間違えてしまう可能性がありそうなので、現在はメディアに解析を依頼中である。

 ユスティーツァの記憶があれば、より完全なダブルキャスター召喚陣に作り変えることも可能だろう。

 となると残る不安要素は、……僕ということになるか。

 

 メディアたちとよ~く相談して、トラブルが発生する可能性が少しでも下がるように努力しておこう。

 




 おかげさまで、評価が7点まで上がりました。
 どうもありがとうございます。

 また、感想を書いていただけると嬉しいです。
 設定ミスや矛盾などの指摘があれば、可能な限り修正するつもりです。


【改訂】
2012.07.27 名前が間違っていたので『ユスティーツァ』に修正


【設定】

<パラメータ>
 名前 :八神真桜(まお)
 性別 :女
 種族 :仮想人格
 年齢 :0歳(精神年齢は16歳、外見は19歳)
 職業 :使い魔(仮想人格)
 立場 :八神遼平の使い魔
 ライン:八神遼平、タマモ
 方針 :アンリ・マユの復活阻止
     間桐滴の救済
     自分の体(人形 or ホムンクルス)の入手
 外見 :大人モード、黒猫モード、幼女モードの3パターン(影の分身の体)
 備考 :4歳の遠坂桜の記憶と人格、そしてメドゥーサが持っていた間桐桜の記憶を核に、八神遼平の記憶を元にして(メディアが改良した)人格構築プログラムで作られた間桐桜の仮想人格
     自分を間桐桜のコピー人格だと認識


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第18話 滴の覚醒(憑依二年後)

 滴ちゃんの記憶の封印が終わってから一ヶ月が経った。

 

 その間、臓硯は冬木市において目撃されず、女性が行方不明になる事件も発生しなかった。

 となると、普通に考えれば、『臓硯は死んだ』『臓硯は冬木市から逃げ出した』『臓硯は冬眠している』のどれかが正解のはずだ。

 ……いや、いくら蟲の体でも冬眠はないかな?

 傷を癒すためや魔力を増やすためなら、餌となる人を襲う方が早くて効率がいいだろうし。

 

 

 そんな風に、臓硯対策に色々考えている日々を過ごしていると、やっと滴ちゃんが言葉を発したとの連絡があった。

 

「……ここは、どこ?

 貴女は誰?

 私は、……確か間桐家に引き取られたはず」

 

 滴ちゃんの第一声は、これだったらしい。

 どうも、『壊れた自我が甦った』というよりは、『記憶喪失だった人が記憶を取り戻した感じ』だったらしい。

 滴ちゃんの介護をしていた真桜は、僕たちに連絡を入れながら、滴ちゃんへの説明を始めた。

 いきなり会っても警戒されるだろうから、とりあえず僕は真桜のライン経由で状況を見守ることにしたが、メディアだけはすぐに影の分身を飛ばした。

 

「ここは、冬木市の隣の市にあるビルの中よ。

 私の名は、八神真桜。

 安心して私は貴女の味方よ。

 貴女の世話係を任されているからここにいるのよ」

 

 そう言って、真桜は優しく微笑んだ。

 しかし、滴ちゃんは信用していないのか、それとも警戒しているのか、表情は変わらなかった。

 

「貴女が私の味方なら事情を教えて」

 

 滴ちゃんが真桜に質問したときに、ちょうどメディア(当然影の分身)がその部屋に入ってきた。

 

「あなたは?」

 

 すぐに気づいて質問する滴ちゃんに対して、メディアはベッドに近づきながら答えた。

 

「私の名前は、……今はプリンセスと呼ばれているわ。

 それと、私が貴女の治療を担当しているから、ドクターでも先生でも好きに呼んでいいわよ」

「……それでは、今はドクターと呼ぶ。

 ドクター、貴女は間桐とはどんな関係?」

「貴女を引き取った間桐臓硯とは一切関係無いわ。

 そして、間桐家から間桐臓硯も現当主の間桐鶴野もいなくなったから、唯一残った間桐雁夜が貴女の保護者になったのよ。

 で、私は彼に頼まれて貴女を看護していたの」

 

 最初は素直に話を聞いていたが、『看護』という言葉を聞いて滴ちゃんは不審そうに顔をしかめた。

 

「私は病気などになった記憶はない。

 私が覚えているのは、間桐鶴野が私を引き取り、家に入ったところまで。

 それ以降、何が起きたのか教えて」

 

 うん?

 僕たちと同年代のはずだが、思考や対応が妙に大人びている。

 僕は転生者だから例外だとしても、精神の成長が早い凛ちゃんよりも精神年齢が上に見える。

 

 ……まさか、『実は滴ちゃんもトリッパーだった』なんてオチはないよなぁ。

 その予想が正しいと、すっごく面倒なことになりそうな気がする。

 特に事情を知っていながら助けてくれなかった僕への恨みとか憎しみとかが。

 僕という例が存在する以上、僕以外にもこの世界に転生者やトリッパーがいてもおかしくはないんだろうけど。

 ……とりあえず、時期を見て、『Fate』とか『月姫』とか原作知識を持つ人しか知らないであろう単語を伝え、反応を確認してみるか。

 

「貴女の身に起きたのは、よくある話よ。

 貴方は引き取られた間桐家で虐待されて、保護と治療のためここに連れてきたのよ。

 ここに来た時、貴方の体はぼろぼろで、心は完全に閉ざしていたわ。

 記憶がないのもそのせいよ」

「……そう。

 それが事実なら、……感謝する」

「事実なら、ね」

 

 滴ちゃんの結構失礼な返答に対してもメディアは怒りを見せることなく、面白そうに反応を見ていた。

 

「ええ、何も覚えていないから今の私では、事実かどうか判断するための材料が少なすぎる。

 ただ、貴女の話が全て事実なら、これ以上ないほど恩知らずな台詞だとは自覚している」

「全くその通りね。

 安心なさい。

 これから、事実と判断できるだけの情報を提供するし、可能な限り質問にも答えるわ」

 

 そう言ってメディアは滴に対して親切に対応し、時々あった滴の質問に答えながら以下の事情説明を行った。

 

・ドクター(メディア)が滴を保護した時には、体はぼろぼろで、心を完全に閉ざしていた。

・ドクター(メディア)の治療によって、体はほぼ完治している。

・ドクター(メディア)の催眠療法(実は魔術)によって、滴が間桐家で過ごした日々の記憶を封じている。

・記憶を封じた結果、滴の精神状態は改善した。

・滴が記憶を取り戻したいと望み、記憶を取り戻しても大丈夫だとドクター(メディア)が判断した時に、記憶の封印を解除する。

・現在は実質的な保護者はドクター(メディア)が担当する。

・将来、戸籍上の保護者は、間桐鶴野から間桐雁夜に変更する予定。

・間桐雁夜は、間桐家とは数年前から絶縁状態であり、『滴に対する虐待』については一切関わっていない。

・間桐雁夜はまともな大人であり、滴に対して虐待する恐れは少ない。滴が会うことを望んだ後、都合がつき次第雁夜が会いに来る。

 

 上記のように、魔術のことは全て隠して説明したが、滴ちゃんはまだ警戒しているようだった。

 まあ、無理もないか。

 滴ちゃんにとって都合のいいことを言われても、記憶もなくそれを証明するものは何も無い状態では信じられるはずもない。

 だがそれは予想通りであり、今後少しずつ信頼してもらっていく予定である。

 そんなことを考えていると、メディアが滴ちゃんに対して突っ込んだ質問をしてきた。

 

「一応、現在の状況を理解してくれたようだけど、……私からも質問していいかしら?」

「構わない」

「貴女の対応や理解度、それに精神年齢はとても6歳児には見えないわ。

 それには何か理由があるのかしら?」

 

 本命が『そういう風に育てられてきたから』、対抗が『天才だから』、大穴が『前世の知識があるから(トリッパーだから)』と言ったところか?

 他にも『無回答』や『回答拒否』、『わからない』という答えもあり得るとは思うけど。

 

「その理由は簡単。

 私の父は魔術を使って、魔術関連のあらゆる情報を私の頭に入力した。

 そのせいで、私の精神年齢は本来のものよりかなり高くなっている」

 

 まじかい?

 っていうか、そこまではっきりと『魔術』って言ったってことは、メディア達が魔術関係者だと見抜いていたわけか。

 それはそれで衝撃的な事実だけど、トリッパーじゃなくてよかった。

 

 それから、……この説明は嘘じゃないよな?

 この説明が事実なら、『自分で身に着けたわけではない多くの知識を持っている頭でっかちの聡明な(天才な?)幼女』ということになる。

 僕の知っている中で、この条件に近しいキャラクターというと、……機動戦艦ナデシコのルリちゃん?

 滴ちゃんの記憶は封印されている為、ひねくれ度合はルリちゃんの方が上かもしれないが、……確かに境遇は近いかもしれない。

 

「そう、それだけの情報を貴女は持っているわけね。

 その情報量で、精神年齢が引き上げられたのなら分からなくもないけど、……ならどうして、間桐家に引き取られることになったのかしら?

 それだけの情報を持っているのなら、調査が終わるまでは魔術協会が手放さないはず。

 ……いえ、それ以前になぜ貴女は後継者でもないのに、それほどの情報を入力されたのかしら?」

「やっぱり、貴方も魔術関係者だったの。

 ……その理由は簡単。

 あくまでも父の後継者は姉で、私は非常時用のバックアップ。

 そのため、魔術関連の記憶についても、状況に応じて封印や封印を解除する仕掛けが施されていた。

 実際、父が死に、私と姉が魔術協会に捕えられた時点で、私の記憶から魔術に関することは自動的に全て封印された」

 

 ……うちのご先祖様もそうだけど、本当にハイレベルな魔術師って、いざというときの対応に余念がないよな。

 対照的に、『泥縄的に対応して遠坂家の悲願(聖杯を使って根源への到達)を凛へ伝えられなかった』という大ポカをした原作の時臣の準備不足が際立ってしまう。

 さすがにこの世界では、遠坂家に関わる全てのことを本に書き残しているから、時臣師が死ぬことがあっても、原作の凛みたいに失伝情報のオンパレードってことにはならないだろうけど。

 

「それは大したものだけど、……魔術協会も無能ではないらしいから、一通り貴女の記憶をチェックしたんじゃないの?」

「多分、父の技量が優れていたのと、後継者が姉だと明白だったので、私への調査はおざなりだったので気づかれなかったと思う。

 魔術協会でも、精神操作、記憶読み取りなどを得意とする魔術師は少ないという情報がある。

 そのため、私の聞き取り調査をする際にそういった人材は呼ばれなかった可能性が高い」

 

 まあ、確かにその通りか。

 封印指定の魔術師はすでに狩られて、彼の遺産やら魔術刻印やらは押収済みだろうし、後継者たる長女も確保済み。

 その状態で、魔術を受け継いでいない可能性が高く、実際魔術について何も知らない(ように見えた)次女の調査に時間をかけるなんて、効率の悪いことは普通しないだろう。

 ……多分、そこまで考えて、狩られた封印指定の魔術師は滴ちゃんをバックアップにしたんだろうなぁ。

 で、隠し通せたからこそ、衰退しきった家系である間桐家が滴ちゃんを引き取ることができたわけか。

 

「それと、その記憶の封印が解かれたのは魔術協会から解放され、間桐鶴野に引き取られた後」

「つまり?」

「ええ、引き取られてすぐに魔術の記憶が蘇り、この記憶を元に今後どうやって間桐家を利用、あるいは乗っ取って、姉の救出をするか考えながら間桐家へ向かったのは覚えている。

 でも、……」

「それ以降の記憶は、私が封印済みだから思い出せるはずがないわね」

「そうみたい。

 ……あなたは、私が何を考えていたかまで読み取った?」

「信じるかどうかは貴女の自由だけど、私が読みとったのは記憶にある映像と音声だけよ。

 その時、貴女が何を考えていたかまでは知らないわ」

 

 そうだったんだ。

 ……確かに時間に余裕があるとか、思考内容を読み取る必要性があるとかならともかく、治療の為被害者の数ヶ月分の記憶を読み取る必要があるなら、読み取る情報を最小限の情報にするのは当然といえば当然か。

 メディアも滴ちゃんの治療を急いでいたしな。

 

 それにしても、大量の記憶を強制的に入力されたとはいえ、精神年齢の成長と精神力の強さが半端ないな。

 養子になってすぐに考えたことが、養子先の利用とか乗っ取りとか、とんでもなくアグレッシブすぎる。

 ……まあ、所詮子供の考えで、間桐家を利用するどころか、何もできないうちに臓硯によって蟲地獄に放り込まれて精神崩壊寸前まで行ってしまったんだろうけど。

 

「そう。

 ……別に構わない。

 今言った通り、私の望みは姉を助けるのに必要なあらゆる力を手に入れること。

 その手助けをお願いしたい」

「あら、私の言うことを事実かどうか判断できないんじゃなかったかしら?」

「それはさっきの話。

 説明を聞いて、自分の置かれた環境を理解した今は、貴女に頼る以外の選択肢はない。

 ……それが例え悪魔との契約であろうとも、私の目的を適えられる可能性がそれしかない以上、その可能性に賭けるだけ」

 

 メディアが興味を牽かれる様子を見せる中、滴ちゃんは冷静なまま、しかし強い意志を込めてそう答えた。

 しかし、メディアを目の前にして『悪魔との契約であろうとも』とまで言うとは、度胸あるよな。

 今のメディアは十代半ばの王女時代外見だけど、気配というかオーラはまさしく魔女、……じゃなかった神代の魔術師。

 普通は怖くてそこまで言えない。

 

「ふふふふ、いいわ。

 その年齢で、これだけの強い意志、そして冷静かつ的確な判断力。

 十分見込みがあるわね」

 

 あらら、どうやら滴ちゃんの反応はメディアの琴線に触れたらしい。

 まあ確かに、魔術師としての素質はともかく、これだけの逸材ならば弟子に取ろうと思っても不思議ではない。

 実際、原作のメディアも、凛のことを『弟子にしてもよかった』ような発言をしていたし。

 しかし、『家族を助ける為に力を求める幼女』ということは、『機動戦艦のルリちゃん』というよりは、『ゼロの使い魔のタバサ』に近いか?

 タバサも、魔術の技量があり、戦闘経験は豊富でも、人間づきあいというか社会経験は乏しかったし。

 

「では?」

「ただし、今は優先順位が高いことがあるから、それが終わるまでは魔術を教えることぐらいしかできないわよ」

「構わない。

 魔術協会に捕らわれた姉の救出が、短期間で実現できるとは思わない」

「ますます見込みがあるわね。

 でも、まだ一つだけ足りないことがあるわ」

「……手助けの対価?」

「ええ、知っての通り魔術の原則は「等価交換」

 

 メディアの言葉に、滴ちゃんは即答した。

 いくら見込みがあるとはいえ、ただで手助けするほどメディアは甘くないようだ。

 ……あるいは、まだ滴ちゃんを試しているのかもしれないけど。

 

「今の私には渡せるものは何もない。

 力と知識と技術を身に付けたら労働で返す、と約束することしかできない。

 それでは駄目?」

「いいえ、身の程を理解しているのはいいことよ。

 ……それと、ちょうど私たちは少しでも多くの魔力を必要としているの。

 将来の労働と、1年後まで貴女のほとんどの魔力を提供することを了承するのなら、その条件で契約してもいいわ。

 そして魔力の対価として、魔術について教えるわ。

 もちろん、貴女の体に悪影響を及ぼさないレベルに抑えるわ」

「わかった。

 それでいい」

 

 こうして、滴ちゃんは『魔術協会から姉を奪還する』というとんでもなく困難な目標を達成するため、メディアに弟子入りした。

 ……多分、優秀な魔術師になるだろうから魔力の供給源として頼りになるとは思うけど、……滴ちゃんが令呪を手に入れる可能性はないか?

 例えば、ウェイバーの分の令呪を奪ってしまうとか。

 ……ウェイバーって、この時点では確か三流魔術師だから、滴ちゃんにそれなりの才能が会った場合、1年後にはウェイバー以上になっている可能性は否定できない。

 ま、まあ、魔術刻印もないし、わずか7歳だし、聖杯を求める理由はないし、それ以前に聖杯戦争について教えるつもりもないけど。

 

 ……いや、違うか。

 『魔術協会から姉を奪還することが可能な強力な使い魔を得る』という理由なら、(聖杯戦争のことを知れば)サーヴァントを召喚することを望む可能性は十分にあるか。

 『戦うことを拒絶し、魔力を極限まで奪われている魔術師』でも令呪を授かってしまうことがあるのは、原作の桜が証明しているから、……聖杯戦争が終わるまで滴ちゃんは冬木市に立ち入らせないようにすれば大丈夫か?

 (アインツベルンが裏技でドイツにいたまま令呪を授かるようにしたらしい)例外の切嗣を除いた全員が、冬木市内で令呪を得たはずだから、冬木市内に入らなければ、才能がある魔術師でも令呪は与えられないはずだ。

 念のため、魔術師はもちろん、大聖杯にも滴が魔術師だと感知できないような特性の隠蔽用の魔術具をメディアに作ってもらうのもありだな。

 そこまでしても令呪を授かってしまったら、すぐに僕に令呪を移植してもらえばいいか。

 あとは可能な限り、聖杯戦争については内緒にしておくべきだな。

 

 そういうわけで、メディアと真桜(の影)と一緒に、滴ちゃんは冬木市外に用意した隠れ家で暮らすことになった。

 可能性は低いと思うが、裏切って情報漏洩が起きることを防ぐため、僕たちは聖杯戦争が終わるまでは会う予定はない。

 

 保護者となる雁夜さんだけは滴ちゃんが望めば会いに行くことになったが、滴ちゃんの方は今のところ会うつもりはなさそうだ。

 まあこれは当然の対応だろうし、メディアと真桜を通してメッセージを伝えて少しずつでも信頼してもらうしかないだろう。

 僕としては、聖杯戦争が終わる前大きなトラブルにならなければそれでいのだが、……さてどうなるやら。

 

 

 最近の一番の課題だった『滴ちゃんの救出&治療&保護』が一段落したので、後は開始まで一年を切った聖杯戦争の準備を本格的に開始することになった。

 聖杯戦争の準備でやるべきことは、優先順位で並べると次のようになる。

 

 

 

<聖杯戦争の準備項目>

1.聖杯戦争のシステム解析

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 大聖杯のシステム解析とユスティーツァの記憶から、聖杯戦争のシステム(サーヴァント召喚、令呪)について解析する。

 

2.メディアとメドゥーサのサーヴァントとしての再召喚の準備

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 メディアとメドゥーサが魂の空間(ソウルスペース)から脱出し、サーヴァント(キャスター)の体を手にいれる。

 

3.真凛と真桜のホムンクルス作成

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 ユスティーツァの記憶にアクセスした得たアインツベルンの技術を盗用し、凛ちゃんと桜ちゃんの髪の毛を元にして作成する。

 これにより、真凛と真桜による魔力供給が可能となり、己の魔術回路を使って魔術行使が可能となる。

 

4.聖杯戦争用の陣地作成(柳洞寺地下の大空洞、柳洞寺、予備)

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 大空洞と予備の陣地は徹底的に隠蔽して作成し、柳洞寺に作るダミー用の陣地は陣地構築準備のみ実施する。

 キャスターのクラススキル【陣地作成】スキル入手後に強化予定。

 

5.大聖杯からの魔力供給

 (担当:メディア、メドゥーサ)

 大聖杯に潜むアンリ・マユの毒を取り除いたうえで、聖杯戦争のシステムとは別に、大聖杯から魔力供給を可能にさせる。

 これが実現すれば、大聖杯に魔力がある限り、事実上魔力不足が起きなくなる。

 

6.(藤村組を除く)ヤクザ(犯罪者を含む)を襲撃して、武器&資金&魔力(生命力)調達

 (担当:八神遼平、メディア、メドゥーサ、真凛、真桜)

 魔術師の仕業だとばれないように、証拠隠滅と魔力隠蔽を徹底する。

 

7.盗聴器や監視カメラ、監視用使い魔の設置

 (担当:八神遼平、真凛、真桜)

  ・遠坂邸      アサシンが防諜するため、設置断念

  ・教会       アサシンが防諜するため、設置断念

  ・アインツベルン城 切嗣が防諜するため、設置断念

  ・ハイアットホテル 最上階を外部から監視できるように監視カメラと使い魔を設置

            最上階のあちこちに盗聴器を設置

  ・廃工場      冬木市内に存在する廃工場のリストアップのみ実施

  ・マッケンジー邸  家を外部から監視できるように監視カメラと使い魔を設置

            ウェイバーが使う予定の部屋に盗聴器を設置

  ・青髭の拠点    予備の陣地の防犯用に監視カメラと盗聴器と使い魔を設置

  ・柳洞寺      ダミー用の陣地の防犯用に監視カメラと盗聴器と使い魔を設置

  ・大空洞      本命の陣地の防犯用に監視カメラと盗聴器と使い魔を設置

 

8.八神版令呪のサーヴァントへの絶対命令権追加

 (担当:メディア、メドゥーサ、タマモ)

 令呪の解析実施&大聖杯のシステム解析により、八神版令呪にサーヴァントへの絶対命令権を追加して、本物の令呪と同じ機能を持たせる。

 

9.八神版令呪の作成

 (担当:タマモ)

 令呪作成に必要な魔力を貯めて、八神版令呪を量産する。

 

10.竜牙兵の作成

 (担当:メディア)

 メディアの【呪具作成】スキルで竜牙兵を作成する。

 銃器や手榴弾を扱う竜牙兵も作成予定。

 

11.蒼崎橙子との接触

 (担当:八神遼平、タマモ、真凛、真桜)

 蒼崎橙子と接触し、可能なら人形作成を依頼。

 秘伝である人形作成技術は渡さないのは分かり切っている為、橙子が作った『魔術回路を持つ人形』を譲ってもらい、それを解析して人形作成技術を入手する。

 

12.八神遼平の修行

 (担当:八神遼平)

 魔術回路を徹底的に鍛えて、魔力発生量と魔力出力の向上

 実戦経験を積む(ヤクザ狩りに参加?)

 

13.幻想魔術具の作成

 (担当:八神遼平、タマモ、メディア、メドゥーサ)

 八神家の技術で、宝具の力を一時的に借りることが可能な幻想魔術具を作成する。

 

14.ネタアイテムの作成

 (担当:八神遼平、タマモ、メディア、メドゥーサ)

  ・クラスカード(元ネタ:プリズマイリヤ)

  ・オーバーソウル用媒介(元ネタ:シャーマンキング)

 

 

 

 改めてリストアップすると、……本当にやることが多い上、メディアとメドゥーサに頼ることがあまりにも多い。

 ど~考えても優先順位が低い作業は、メディアとメドゥーサ抜きでやるしかないな。

 それから、メディア達抜きでも対応可能な作業は、極力僕たちだけでやっとく必要もありそうだ。

 いくら技術チートのメディアがいても、時間と言う壁は超えられない。

 原作でも、メディアは『一ヶ月寝ないで聖杯戦争の準備をした』とか言っていたし。

 滴ちゃんを見捨てるという選択肢はないが、……滴ちゃんの治療に取られた時間が結構高くついたな。

 

 

 あの時は、『陣地作成』『龍脈操作』『魔力(生命力)搾取』『竜牙兵作成』『アサシン召喚』をするだけでも『睡眠なしの一ヶ月』が必要だったわけだからなぁ。

 あの世界のメディアはマスターである葛木にべた惚れだったので、聖杯戦争を勝つためにメディアは自主的に手段を選ばず、努力を惜しまず戦争の準備を行っていた。

 『この世界で同じことをしてくれ』なんて言ったら、良くて無視、下手すれば逆鱗に触れる事態になりかねない。

 ……サーヴァントや分霊は寝る必要がないとはいえ、作業をすれば精神的に消耗する。

 この世界におけるメディアとメドゥーサの共同作業による処理能力は、……多分あの世界でのメディアの処理能力と比べると、甘く見ても半分、いや三分の一以下ってところか?

 二人に頼みたい仕事は、あの世界のメディアよりも多いことを考えると、……やっぱり優先順位が下位の作業はこっちでやるしかないか。

 

 となると、幻想魔術具やクラスカードの作成は諦めるか、メディアとメドゥーサ以外のメンバーで作るしかないわけか。

 といっても、真桜は滴ちゃんの世話で忙しいだろうから、参加できるメンバーは僕、タマモ、真凛の三人だけか。

 ……雁夜さんとは接触できないし、時臣師との接触も今後はできるだけ少なくした方がいいしなぁ。

 しかし、僕は『聖杯戦争が始まるまで最優先で魔術回路を鍛えること』をメディアに指示されているから、さぼるわけいかない。

 ってことは、幻想魔術具やクラスカードの作成は、タマモと真凛に任せたほうがいいのか?

 ……この二人なら時間に余裕はあるだろうけど、……聖杯戦争までに作ることができるのだろうか?

 期待しないで、駄目元で頼んでおくか。

 もっとも、僕が参加したからといって、どれだけ戦力になったかはわからないけど。

 

 

 僕はメディアとメドゥーサが少しでも本来の力を発揮できるように、ただ魔術回路を鍛えることに専念しよう。

 それが、僕たちに力を貸してくれる彼女たちへのせめてもの恩返しになるし、誠意を見せることになるだろう。

 

 さて、後は聖杯戦争までにどこまでこれらの準備が間に合うか、だな。

 




 おかげさまで、稼働を開始した累計ランキングで12位を取ることができました。
 評価していただき、ありがとうございます。

 ずいぶんお待たせしましたが、聖杯戦争前の出来事はほぼ書き終えましたので、次回はいよいよサーヴァント召喚が始まる予定です。
 楽しみに待っていてください。

 それと、<聖杯戦争の準備項目>に色々書きましたが、何か抜けていましたらお知らせください。

 それでは。


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キャラ設定(第一部終了時点)

 このページには、第一部終了時点のキャラ設定を記載しています。
 この内容を読まなくても、本編の閲覧には問題ありません。

 本作品の詳細なキャラ設定に興味がありましたらご覧になってください。


<パラメータ>

 名前 :八神遼平

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :5歳(前世の記憶あり)

 職業 :幼稚園生

 立場 :遠坂時臣の弟子

     遠坂桜の婚約者(候補)

     (魔術の)八神家当主(六代目)

 属性 :架空元素・無

 回路 :メイン30本、サブそれぞれ20本

 能力 :魔術(降霊など)

     令呪(一画)

     八神家の魔術刻印

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

 体質 :霊媒体質

     テレパシー(受信)

 使い魔:タマモ(子狐)、八神真凛(仮想人格)、八神真桜(仮想人格)

 降霊 :メディア(分霊)、メドゥーサ(分霊)

 ライン:メディア、メドゥーサ、タマモ、八神真凛、八神真桜、遠坂凛、遠坂桜、間桐滴

 所持 :八神家の魔術書

     八神家の特製保管箱

     雨生家の魔術書(コピー)

 訓練 :念能力の方法を流用して『魔力制御』の訓練中

     魔術回路を作り直すという、死と隣り合わせの修行を実施中(1回/日)

     魔術回路を鍛える訓練がメイン

 方針 :命を大事に

     アンリ・マユの復活阻止

     前世の記憶は絶対秘密

 備考 :転生系トリッパー(Fateなどの原作知識あり)

 

 

<パラメータ>

 名前 :メディア

 性別 :女

 種族 :分霊

 年齢 :不明(外見は10代半ば)

 職業 :英霊の分霊

 立場 :八神遼平が召喚した分霊(八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)に幽閉中)

 属性 :風、架空元素・虚数

 ライン:八神遼平

 方針 :喧嘩を売ってきた遠坂時臣を半殺し

     徹底的に苦しませた上で臓硯を殺す

     武器入手と生命力補充と資金集めと近所の治安向上を兼ねて、犯罪者狩りの実行(聖杯戦争開始前まで)

     人形の体の入手

     サーヴァントとして再召喚

     真凛と真桜のホムンクルスの体の作成

 備考 :分霊だが自意識持ち

     道具系のスキルや宝具なし

     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メディア

マスター   八神遼平&タマモ

属性     中立・悪

ステータス  筋力 D  魔力 A++

       耐久 C  幸運 A

       敏捷 B  宝具 -

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

       【騎乗】:A+

宝具     なし

 

 

<パラメータ>

 名前 :メドゥーサ

 性別 :女

 種族 :分霊

 年齢 :不明(外見は20歳ぐらい)

 職業 :英霊の分霊

 立場 :八神遼平が召喚した分霊(八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)に幽閉中)

 属性 :土・水

 ライン:八神遼平

 方針 :遠坂桜の庇護

     人形の体の入手

     サーヴァントとして再召喚

 備考 :分霊だが自意識持ち

     道具系のスキルや宝具なし

     八神遼平の魂の空間(ソウルスペース)から脱出不可

 

<分霊のパラメータ>

種族     分霊

真名     メドゥーサ

マスター   八神遼平&タマモ

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 B

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 A  宝具 B

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

       【海神の加護】:A

       【大地制御】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

<パラメータ>

 名前 :タマモ

 性別 :雌

 種族 :狐

 年齢 :2歳(封印期間を除く)

 職業 :使い魔

 立場 :八神遼平の使い魔

 属性 :架空元素・無

 回路 :?(八神家の先祖から移植されたもの)

 能力 :精神(夢)世界での接触

     人格構築プログラム(メディアによる改良済み)

     解析プログラム

     変化

     八神版令呪の作成

     八神版令呪(五画)→(六画)

     魔眼(メドゥーサのスキル借用)

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

 使い魔:八神真凛(仮想人格)

 ライン:八神遼平、八神真凛、メディア、メドゥーサ

 所持 :首輪

 外見 :キャス狐モード、少女モード、幼女モードの3パターン(変化スキル使用)

 備考 :歩く八神家の魔術書(記録は順次封印解除中)

     『八神家最後の魔術師』の人生最後の大魔術で作成された使い魔

     八神家で育成&作成した『八神家の魔術回路移植用&降霊術対応の狐』

     解析プログラムで、聖杯戦争のシステムを解析予定

     令呪(魔力蓄積機能のみ)は解析済みのため、魔力があれば作成可能

 

 

<パラメータ>

 名前 :八神真凛(まりん)

 性別 :女

 種族 :仮想人格

 年齢 :1歳(誕生時の精神年齢は18歳、外見は20歳)

 職業 :使い魔(仮想人格)

 立場 :タマモの使い魔兼バックアップ人格

     八神遼平、遠坂凛、遠坂桜の教師

 能力 :高速神言(メディアのスキル借用)

 ライン:八神遼平、タマモ

 方針 :アンリ・マユの復活阻止

     遠坂時臣を助けるアイデアを提案予定

     自分の体(人形 or ホムンクルス)の入手

 外見 :大人モード、黒猫モード、幼女モードの3パターン(影の分身の体)

 備考 :4歳の遠坂凛の記憶と人格を核に、八神遼平の記憶を元にして、人格構築プログラムで作られた遠坂凛の仮想人格

 

 

<パラメータ>

 名前 :八神真桜(まお)

 性別 :女

 種族 :仮想人格

 年齢 :0歳(誕生時の精神年齢は16歳、外見は19歳)

 職業 :使い魔(仮想人格)

 立場 :八神遼平の使い魔

 ライン:八神遼平、タマモ

 方針 :アンリ・マユの復活阻止

     間桐滴の救済

     自分の体(人形 or ホムンクルス)の入手

 外見 :大人モード、黒猫モード、幼女モードの3パターン(影の分身の体)

 備考 :4歳の遠坂桜の記憶と人格、そしてメドゥーサが持っていた間桐桜の記憶を核に、八神遼平の記憶を元にして(メディアが改良した)人格構築プログラムで作られた間桐桜の仮想人格

     自分を間桐桜のコピー人格だと認識

     間桐滴の看護を担当 NEW

 

 

<パラメータ>

 名前 :間桐雁夜

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :25歳

 職業 :社会人

 立場 :遠坂時臣の弟子、八神遼平の同盟者

 属性 :水

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ25本

 能力 :魔術(水、降霊)

     念能力を参考にした魔力操作(纏、凝、流、円、周)

     間桐家の魔術刻印(一部)

 所持 :雨生家の魔術書

     間桐家の魔術書

 訓練 :魔術回路を作り直すという、死と隣り合わせの修行を実施中(1回/日)

     念能力の方法を流用して『魔力制御』の訓練中

 方針 :遠坂家の女性3人(ついでに遠坂時臣)を守る

     間桐臓硯の抹殺

     間桐滴の保護

 備考 :間桐家から勘当中

     八神遼平から予知情報(実際には原作知識)の一部を教わる

     遠坂時臣の弟子であることは、遠坂家と八神遼平以外には秘密。

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂時臣

 性別 :男

 種族 :人間

 年齢 :28歳

 職業 :魔術師

 立場 :遠坂家当主(五代目)

 属性 :炎

 回路 :?

 能力 :魔術(宝石、錬金、召喚、降霊、卜占、治癒など)

     遠坂家の魔術刻印

     令呪(三画)

 使い魔:八神遼平と間桐雁夜の教育用使い魔を使役中

 ライン:遠坂葵

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂葵

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :28歳

 職業 :主婦

 立場 :遠坂時臣の妻、凛と桜の母親

 回路 :なし

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 ライン:遠坂時臣

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂凛

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :5歳

 職業 :幼稚園生

 立場 :遠坂時臣の弟子

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本

 属性 :五大元素

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 ライン:八神遼平

 

 

<パラメータ>

 名前 :遠坂桜

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :4歳

 職業 :幼稚園生

 立場 :遠坂時臣の弟子

     八神遼平の婚約者(仮)

 回路 :メイン40本、サブそれぞれ30本

 属性 :架空元素・虚数

 体質 :配偶者の血統の能力を最大限引き出した子を成す

 ライン:八神遼平

 

 

<パラメータ>

 名前 :間桐滴

 性別 :女

 種族 :人間

 年齢 :5歳

 職業 :魔術師見習い

 立場 :間桐鶴野の養子

     間桐雁夜の保護下

     メディアの弟子 NEW

 回路 :?

 属性 :水

 方針 :魔術協会に捕まっている姉の救出 NEW

     姉の救出に必要なあらゆる力の入手 NEW

 ライン:八神遼平

 備考 :狩られた封印指定の魔術師の次女

     養子入りの時点で、魔術に関する知識は一切持っていなかった

     体内の蟲のマスター権限が、メディアとメドゥーサに移行済み

     『臓硯たちによる洗脳や暗示の記憶』を完全封印済み

     『間桐邸に入居した後から救出された日までの記憶』を封印済み

 



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本編(第二部)
第19話 サーヴァント召喚(聖杯戦争開始)


 臓硯によって起こされた事件から早くも十ヶ月が経ち、とうとう聖杯戦争が始まる時期となった。

 

 すなわち、いよいよサーヴァント召喚が行われる時が来たのである。

 

 すでに、ウェイバーがマッケンジー邸に住み着いており、『令呪を手に入れたことを喜んでいる声』が盗聴器から聞こえている。

 原作通りの展開なら、時期的にはすでにアサシンが召喚済みのはずだ。

 当然、言峰綺礼の命令で、アサシンはすでに遠坂邸や教会で防諜を行っていると予想される。

 メディアやメドゥーサが魔術を使えばアサシンの存在を確認するのも不可能ではないだろうが、メディアたちの存在がばれる可能性も高く、デメリットの方が多いので何もしていない。

 まあ、綺礼には一切接触していないので、問題なくアサシンが召喚されているはずだけど。

 

 

 ウェイバーの監視を始めた翌日の夜、ウェイバーは鶏を籠に入れて外出し、雑木林の奥の空地へ向かった。

 そして、ウェイバーは意外にも手際よく鶏を始末すると、呪文を唱えながら鶏の血で魔方陣を描き始めた。

 そう、ついにライダーの召喚が行われるのだ。

 今頃、アインツベルン城と遠坂邸でも同様にサーヴァント召喚の準備をしているのだろうが、それを見れないのは本当に残念だ。

 そんなことを考えながらウェイバーの様子を見ていると、ついに魔方陣が完成した。

 ウェイバーは縁の品である『イスカンダルのマントの切れ端』を魔方陣の傍に置いて、召喚の呪文を唱え始めた。

 

「――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――

 ――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 

 呪文を唱え終えると同時に、風と光が乱舞し、魔方陣が凄まじい光を放った。

 次の瞬間、魔方陣の中央には筋骨隆々の大男が出現し、ウェイバーに向かって言葉を放った。

 

「問おう。

 貴様が余のマスターか?」

 

 そこにいるのは、間違いなくライダーのイスカンダル。

 今の僕は令呪を持っているだけでまだマスターではない。

 そのため、『サーヴァントの能力を解析する透視能力』がないから絶対ではないが、この外見と迫力から言って間違いないだろう。

 

 

 さっそく、ウェイバーとイスカンダルの会話が始まっていたが、詳細は後で『さっきから記録している録画映像』を見て確認することにして、僕は急いで雁夜さんに『ライダーが召喚されたこと』を使い魔経由で連絡した。

 すでに、『今日の深夜にサーヴァントたちが召喚されること』を連絡してあった雁夜さんは、サーヴァント召喚の準備を終えて、僕の連絡を待っていた。

 そして、僕の連絡を受けてすぐ、雁夜さんは魔方陣から離れた場所でランスロットの分霊の降霊を行った。

 無論、魔方陣から離れたのは、『降霊術行使の際に間違ってサーヴァントが召喚されないようにするため』だ。

 雁夜さんはランスロットの降霊状態を維持したまま魔方陣の前へ移動し、サーヴァントの召喚の詠唱を開始した。

 もちろん、バーサーカー召喚用の呪文である。

 

「――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 されど、汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

 汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 

 次の瞬間、ライダー召喚と同じ現象が起き、そこには底知れぬ闇を纏ったバーサーカーの姿があった。

 雁夜さんはランスロットの召喚に成功した。

 もっとも、僕以上の魔術回路と魔力量、そしてマキリの魔術刻印と令呪を持った雁夜さんが、ランスロットの兜と分霊まで用意してサーヴァント召喚に臨んだのだから、失敗することなどありえないけど。

 

「やったぞ、八神君。

 君の言った通り、俺はランスロットの召喚に成功した」

「おめでとうございます、雁夜さん。

 後は、以前相談した通り、魔力を使いすぎないレベルで『バーサーカーを制御する訓練』と、『ランスロットの分霊とバーサーカー召喚の相乗効果の調査』などをお願いします。

 ……ああ、今日はサーヴァント召喚で魔力切れでしょうから、気絶する前に寝て、調査とかは明日した方がいいですよ。

 これで、残るクラスはランサーとキャスターだけのはずです。

 ……時間が惜しいので、僕もすぐにキャスター召喚を始めます」

「そうか、気を付けてくれよ。

 ……本当に俺がフォローしなくて大丈夫か?」

「はい、心配してくれるのは嬉しいですけど、メディア達がフォローしてくれるから大丈夫です。

 それに、雁夜さんもこれからは他のマスターたちから監視されるでしょうし、使い魔経由の連絡以外は全く会わない方がいいですし」

 

 ちょっと調べれば、『間桐臓硯は行方不明』、『間桐鶴野と慎二は海外逃亡中』で、『雁夜さんが冬木市へ戻ってから行方不明』ということはすぐにわかるだろうから、間違いなくマスター候補として雁夜さんは警戒されているだろう。

 そんな雁夜さんが僕たちのところへ来れば、『いざというときにバーサーカーで対応してくれる』というメリットは大きいが、それ以上に『他のマスターたちにこの拠点の場所がばれてしまう』というデメリットの方がもっと大きい。

 ……ちなみに、万が一にも情報が漏洩することを避ける為、大聖杯のある大空洞に僕たちの本命の陣地を構築したことは、時臣師はもちろん、雁夜さんにも内緒にしているのである。

 ここに拠点を作れば、魔力も集めやすいし、敵に見つかりにくいし、何より大聖杯が側にあるので、大聖杯を傷つけるような攻撃はできなくなる、はずだ。

 

「……そうだな。

 分かった。

 それじゃあ、サーヴァント召喚が無事に終わったら連絡を入れてくれ。

 ……幸運を祈っているよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 

 雁夜さんとの連絡を切った後、僕は周りを見渡した。

 ここは、約1年掛けてメディアとメドゥーサが構築した本命の陣地であり、場所は大聖杯がある柳洞寺地下の大空洞。

 僕の目の前には、すでにサーヴァント召喚用の魔方陣が作成済みであり、魔方陣の向こうには『エルトリアの神殿から発掘されたギリシャの古い地母神縁の物品にあたる鏡』と『コルキスにあったメディア縁の文献』が置かれている。

 いずれも原作において、メドゥーサとメディアを召喚した際に使われた縁の品であり、準備は万全だ。

 

 この時点で、ランサー(ディルムッド)が召喚済みかどうかは定かではないが、この縁の品でランサークラスの英霊が召喚される可能性はないはず。

 ……ならば、少しでも早くメディア達をキャスターとして再召喚して、キャスターのクラススキルを使えるようにするべきだと僕たちは考えていた。

 そうすれば、強力なクラススキルの『陣地作成』と『道具作成』を使って、拠点やアイテムの強化が可能になる。

 この意見は皆にも賛同され、サーヴァントのランサークラスとキャスタークラスだけが残っていると推測される状況で、僕たちがサーヴァント召喚を行うことに決めていた。

 

 

 縁の品の後ろには、(影の体の)メディアとメドゥーサが佇んでいる。

 そして、僕の右側にはキャス孤モードのタマモが、珍しく緊張した面持ちで立っている。

 まあ、それも無理はない。

 これから行う召喚の結果によっては、僕たちの運命が大きく変わってしまうんだからな。

 僕も不安が無いわけではないが、ゴルゴンさえ召喚されなければ問題はなく、ゴルゴン召喚阻止についてはメディアたちが色々と対策してくれたので、僕はただサーヴァント召喚を遂行すればいい。

 

 そして、僕たちの後ろに真凛と真桜が立っていて、この二人とタマモと僕の計4人が、現在『八神版令呪』を持っている。

 メディアの協力により、『八神版令呪』はオリジナルの令呪と同等の能力を持つまで改良され、現在の令呪(オリジナル&八神版)保有数は、僕:3画、タマモ:3画、真凛:1画、真桜:1画まで増えている。

 ……さすがに、オリジナルと同等まで高性能化した八神版令呪は、作成に大量の魔力が必要であり、聖杯戦争の準備やらホムンクルス作成やらに魔力を大量に消費したため、結局これだけしか作ることができなかった。

 僕やタマモ以外にも、真凛と真桜に令呪を持たせているのはいざというときの予備&保険である。

 ……僕やタマモが令呪を4画以上持っていることがばれることがあれば、面倒なことが起きると考えていることもあるけど。

 

 ちなみに、真凛と真桜は、現在メディアが作成したホムンクルスの体を使っており、自力での魔力回復が可能になっている。

 当然令呪は、このホムンクルスの体に持たせてある。

 ホムンクルスの肉体を成長の時間があまり取れなかったせいで、『Fate/stay night』と同じ年齢、つまり真凛は17歳、真桜は16歳の肉体年齢のホムンクルスの体を使っているが、……まあ問題ないだろう。

 

 

 

 サーヴァント召喚の準備は問題なし。

 ……いよいよ、僕とタマモによるダブルキャスター召喚が始まる。

 

 この召喚は、『ダブルキャスターを召喚する』だけでなく、『メディアとメドゥーサをサーヴァントとして再召喚する』ことも目的としている為、時臣師が改造した魔方陣をさらにメディアがかなりカスタマイズした。

 メディアによると、かつて僕の魂の空間(ソウルスペース)内で起きた『以前降霊した分霊と、新しく降霊した自意識ありの分霊が融合した現象』を、サーヴァント召喚において再現して、『魂の空間(ソウルスペース)内からの脱出とサーヴァント化をまとめて行う』らしい。

 以前二人に確認した際には、次のような説明をしてくれた。

 

「システムを解析してカスタマイズするのには時間が掛かっても、一部の機能を停止させるのはずっと容易だわ。

 具体的には、サーヴァントが人格を持たない状態で召喚するだけ。

 元々、普通の降霊術では召喚した分霊に自意識を持っていないわ。

 聖杯戦争において、『自意識を持った英霊をサーヴァントとして召喚できること』の方が異常なのだから、その『自意識を持たせる機能』だけを止めれば、『自意識のないサーヴァント』が召喚されるわ。

 『自意識の無いサーヴァント』と『自意識を持った分霊である私たち』をライン経由で直接接続すれば、かつて分霊が融合したように、私たちもサーヴァントの体に融合しようとする現象が起きるはず。

 その瞬間に令呪を使って、『サーヴァントの全力を持って、マスターにダメージを与えないように、自分の分霊を魂の空間(ソウルスペース)から引っ張り出して融合しろ』と命令すれば、『分霊の自意識と記憶を持ったキャスタークラスの二人のサーヴァント』が誕生するはずよ」

「そうですね。

 メディアと私の魔術技術、そして大聖杯から読み取ったサーヴァント召喚システムの情報を元にして構築したシステムですから、この方法が成功する確率はかなり高いでしょう」

 

 そう、メディアとメドゥーサはひたすら『サーヴァント召喚システムのカスタマイズ(一部の機能停止)の研究』を進めて、理論上は『僕の魂の空間(ソウルスペース)内にいる分霊がサーヴァントの体を手に入れること』が可能になったのだ。

 まあ、聖杯システムのカスタマイズなんてできるのは、『神代の魔術師であるメディアとメドゥーサだけ』なんだろうけど。

 これが成功すれば、メディア達は『分霊』から『サーヴァント』へと体が変化するが、精神や記憶はそのまま継続するので、『自分が消える』とか、『別の自分と融合して新しい自分が生まれること』は起きない。

 やはりメディア達も、今の記憶と人格が消えるとか変わってしまうことは嫌だったらしい。

 

 

 それと、実は『ダブルキャスター召喚』の方も問題が残っている。

 かつてエーデルフェルトの姉妹が行ったのは、『善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァントを二体召喚』であり、それを元にメディアたちがカスタマイズした『縁の強い二人の英霊をサーヴァントとして同一クラスで召喚』を試すのは、当然今回の聖杯戦争が初めてである。

 時臣師がベースを作り、メディアとメドゥーサの二人がさらに手を加えたが、試すことはできない為、当然ぶっつけ本番である。

 おまけにメディアとメドゥーサは、『縁が強い』といっても『生前直接会ったこと』はないという弱点がある。

 まあ共通点は意外と多く、『ギリシャ神話に登場する、ギリシャの女神に恨みを持つ反英霊』であり、『平行世界において第五次聖杯戦争で召喚されたサーヴァント』であり、『この時代において同時に召喚され、術者の魂の空間(ソウルスペース)に一緒に閉じ込められる』という新しい繋がりができあがっているため、成功確率は十分にあるとメディアは豪語していた。

 

 とはいえ、メディアも『メディアとメドゥーサの召喚に失敗することもありえる』とは考えており、その場合は二回目に行うサーヴァント召喚の時に『自分(メディア)を善悪両方の側面からキャスタークラスで二体召喚』することになっている。

 これは、『メドゥーサを善悪両方の側面からキャスタークラスで二体召喚』すると、『元女神』と『邪神クラスの魔物であるゴルゴン』が召喚できてしまう可能性もあり、そうなってしまえば破滅しか待っていない為だ。

 この件については、メドゥーサ自身も『聖杯戦争でゴルゴンが召喚されるのは危険』だと考えていたのですんなりと決まった。

 

 なお、メディアを善悪両方の側面から召喚する場合。メディアは『魔女』の自分と融合を行い、『王女』の自分は自意識ありで召喚するつもりらしい。

 ……そんな器用な真似が成功するのかは分からないが、まあ僕にはメディアを信じることしかできない。

 そして、いよいよその成果が試されるときが来た。

 

 

 

 僕はメディアとメドゥーサに向かって頷き、二人が頷き返すのを確認すると、タイミングを合わせてタマモと一緒に召喚の呪文を唱え始めた。

 

「「――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」」

 

 召喚の呪文を唱えている最中に僕が考えていたのは、やっぱりダブルサーヴァント召喚のことだった。

 元々エーデルフェルトが行った裏技は、『善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァントを二体召喚』である。

 ちなみに、『hollow ataraxia』の世界では、青セイバーと黒セイバー(セイバーオルタ)の姿を取っていた。

 確かに、『騎士王』と『黒い影に汚染されて黒化した騎士王』なら、善と悪、光と闇の組み合わせと言えるだろう。

 ……となると、『セイバーを黒い影で黒化させた黒桜』も、当然悪であり、闇の存在と言えるだろう。

 その場合、黒桜の対となる存在は、『凛の姉妹愛と士郎の愛によってアンリ・マユから解放された聖杯の力を持つ間桐桜』か?

 それとも、『桜を救った衛宮士郎』か?

 ……いや、それよりももっと対に相応しい存在が、……。

 そこまで考えが及んだ時、ついに詠唱が終了した。

 

「「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」」

 

 次の瞬間、魔法陣から眩い光が溢れだした。

 よしっ!

 凛じゃないけど、間違いなく『強大な存在を召喚した手応え』があった。

 この手応えなら、間違いなくサーヴァントを、それもダブルサーヴァントの召喚に成功したはず。

 後は、メディアとメドゥーサがサーヴァントとして召喚されたことを確認して、すぐに令呪を使って『分霊との融合』を命令しないと……。

 

「えっ!?」

 

 そんなことを考えていた僕は、光が収まった魔法陣を見た時、そんな言葉しか出てこなかった。

 なぜなら、魔法陣には誰も、そう誰もいなかったのだ。

 ……遠坂凛のアーチャー召喚時のように、別の場所に召喚されてしまったのだろうか?

 慌てて魔方陣の向こう側を見ると、驚愕の表情を張り付けるメディア達がいた。

 なんでそんなに驚いているかと不思議に思い、反射的に後ろを振り向くと、いきなり何かが僕の視界に表示された。

 

 慌てて確認すると、……それは、サーヴァントのパラメータだった。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    キャスター

真名     遠坂凛

マスター   タマモ&八神真凛

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 D  魔力 A

       耐久 E  幸運 A+

       敏捷 C  宝具 EX

クラス別能力 【陣地作成】:A

       【道具作成】:A

保有スキル  【魔術】:A

       【中国武術】:E

       【魔法】:A

宝具     【七色に輝く宝石剣】:EX

       【宝石】:A

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    キャスター

真名     間桐桜

マスター   八神遼平&八神真桜

属性     混沌・悪

ステータス  筋力 E  魔力 A(A++)

       耐久 B(A) 幸運 E

       敏捷 E  宝具 -

クラス別能力 【陣地作成】:B

       【道具作成】:-

保有スキル  【魔術】:D

       【蟲使い】:C

       【再生】:B(A)

       【黒い影】:B(A)

       【マキリの聖杯】:EX

宝具     なし

備考 【マキリの聖杯】スキルを得た代償に、道具作成スキルは失われている。

   【マキリの聖杯】スキルの未使用時は、一部のステータスとスキルは弱体化する。

 

 

 

 そう、召喚されたサーヴァントはダブルキャスターではあり、目的の一つは達成された。

 ……されたのだが、あろうことか召喚されたのは、英霊リンと反英霊サクラだった。

 どうやら、『Fate/stay nigth』の桜ルートの『黒桜』と『宝石剣使いの遠坂凛』がサーヴァントとして召喚されてしまったらしい。

 ……ま、まあ、ここは『アンリ・マユがいる大聖杯が近くにある』し、『桜の記憶と人格をコピーして作られた仮想人格の真桜』が『桜の遺伝子を元に作られたホムンクルスの体』を使っているし、『同じ状況の真凛もいる』わけだから、……ありえない話ではなかったか。

 つまり、『悪(闇)の象徴である黒桜』と、その対となる『善(光)の象徴となる宝石剣使いの遠坂凛』が姉妹セットで召喚されたわけか?

 確かに、『世界を滅ぼしかけた存在』なら反英霊として『英霊の座』に登録される資格は十分だろうし、『アンリ・マユの誕生を阻止した存在』もまた、英霊として『英霊の座』に登録される資格は十分にあるだろう。

 ああ、そういえばここって、『宝石剣を持った凛』と『黒桜』の決戦の場所でもあったな。

 ……あ、あはははは、ヤ、ヤバすぎる事態だ。

 

 現実逃避したかったのはやまやまだったが、何とか精神を立て直して、二人の様子を観察してみた。

 英霊リンと反英霊サクラは、どうもサーヴァントの体がホムンクルスの体と憑依・融合しているように見える。

 

「二人とも大丈夫か?」

 

 『とりあえず、本人に状況を確認するべきだ』とやっと思いついた僕は、慌てて二人に問いかけた。

 

「え、え~と、これって、……もしかして、この体にサーヴァントが融合した?」

「一体、何が起きたんですか?

 ……って、姉さん、ものすごい魔力を放出していますよ!」

「何言ってるのよ!

 そっちも、すごい魔力を出しているわよ。

 ……というか、真桜の髪の毛が真っ白よ。

 おまけに影で作った服まで着て、まるであの世界の黒桜じゃない!」

 

 状況を少しは理解しているようだが、真凛と真桜はプチパニック状態になっているようだ。

 ……無理もない。

 

 とはいえ、『サーヴァントの体を操作(支配)しているのは真凛と真桜だ』ということが確認できたのは、まずは安心材料である。

 『英霊リンが自意識ありで召喚』されても問題ないが、『反英霊サクラが自意識ありで召喚』されたら、速攻で令呪を使って自害を命じなければこっちの命が、いや下手すると全人類の命が危ない。

 原作ではそういうルートはなかったけど、『大空洞で凛が黒桜を殺した(止めを刺した)世界』も十分ありえるわけで、その世界の凛と黒桜が対峙すれば、どう考えても双方が状況を理解した瞬間に戦闘が始まるのは避けられない。

 二人がここで戦闘を始めただけでも、僕たちが生き残れる可能性は限りなく少なくなってしまう。

 

 

 メディア達の方を振り返ると、メディアは頭痛を堪えるような表情を見せている。

 メドゥーサは気が付くと真桜の前に移動しており、さっそく魔術を使って真桜の調査を始めている。

 

 

 全員が落ち着いて『とりあえず命に別状はないこと』と『緊急の危険性はないこと』を確認した後、改めて状況の整理が行われた。

 その結果は次の通り。

 

・ダブルキャスターとして、英霊リンと反英霊サクラが召喚された。

・英霊リンのマスターは、タマモと真凛の二人。

・反英霊サクラのマスターは、八神遼平と真桜の二人。

・英霊リンと反英霊サクラは、それぞれホムンクルスの肉体に憑依&融合状態となっており、『受肉したサーヴァント』と言っていい状態。

・凛と桜の遺伝子情報から作ったホムンクルスの体の為か、拒絶反応などは今のところ確認されていない。

・ホムンクルスの体が生命活動を停止した場合、『サーヴァントとして分離する』のか、『英霊の座に戻ってしまう』のかは現時点では不明。

・真凛と真桜の仮想人格は、僕やタマモの魂の空間(ソウルスペース)内にはすでに存在せず、サーヴァントと融合した状態になっている。

 『仮想人格が魂の空間(ソウルスペース)内からサーヴァントの体へライン経由で移動して融合した』と推測される。

・英霊リンと反英霊サクラは『自意識を持っていない状態』で召喚されており、融合した真凛と真桜の人格だけが存在している。

・反英霊サクラと融合した直後に、真桜が『無意識のうちに大聖杯とのリンクを切断した』ため、反英霊サクラは大聖杯からの魔力供給はない。

 これにより、反英霊サクラの体が大聖杯の中にいるアンリ・マユに汚染・影響される可能性は低くなっているが、大聖杯からの魔力供給はないため、マスターから供給される魔力のみ使用可。

・反英霊サクラの【マキリの聖杯】スキルを使えば無限に魔力を得られそうだが、精神汚染などが怖いので現在スキルを封印中の為、パワーダウン発生。

 

 ……なんだろう、これは?

 『真凛と真桜がサーヴァントの体を得て、さらに受肉化して自力での魔力回復が可能になった』のは喜ばしいが、色々あって全力を発揮できない状況のようだ。

 

 

「考えてみれば『ダブルサーヴァントを召喚する』という時点ですでに相当イレギュラーなことをしていたわけだから、さらに私とメドゥーサと言う『直接関わりの無い存在』を一緒に召喚しようというのが無理と言えば無理だったわね。

 その点、リンとサクラなら、姉妹でもあり、善と悪、光と闇という対照的な存在であり、ここで第二魔法と第三魔法を使って戦った世界もあるわけだから、ある意味召喚されるべくして召喚されたとも言えるわね」

 魂の空間(ソウルスペース)から脱出もできず、サーヴァントの体を得られず相当悔しいだろうに、メディアは一切そんなそぶりを見せずに冷静に分析していた。

 しかし、メディアが言った理由も大きいだろうけど、僕は召喚呪文を唱え終わる瞬間に、ちょうど『黒桜』と『宝石剣使いの凛』のことを考えていたんだよなぁ。

 まさかとは思うが、その思考が『凛と桜を召喚する最後の一押し』になってしまったのか?

 ……『降霊術に特化した才能』と言われている身である以上、全く否定できない。

 ……まあ、メディアが言った理由もあるし、色々な要因が重なり合ってこんな結果になったんだろうな。

 うん、そういうことにしておこう。

 

 

 まだまだ色々と調べたいことや聞きたいことはあったが、僕とタマモはサーヴァントを、それもダブルサーヴァントを召喚したことによって魔力切れ寸前でくたくたであり、そろそろ意識を保つのは限界に近づいていた。

 そこで、後の事と雁夜さんへの連絡をメディアたちに任せると、この大空洞内に(メディアとメドゥーサが魔術で)作った家の中に入って、そのままベッドへ倒れこんだ。

 

 キャスター二人の召喚は予定通りだが、何と『真凛と真桜がサーヴァント化』という、予想外の事態になってしまった。

 『桜と真桜が幸せならそれで満足なメドゥーサ』ならともかく、『自分の体を得ること』と『魂の空間(ソウルスペース)からの脱出』を望んでいたメディアは、今まで通り僕に協力してくれるかなぁ?

 ……メディアと契約した内容はきちんと守ってきたし、失礼なことも可能な限りしてこなかったから、……さすがに離反されることはないと思うけど。

 明日起きたら、真凛と真桜の状況確認と、メディアの考えと今後の方針を聞いておかない、と。

 

 そこまで考えるのが限界で、僕は夢も見ないほど深い眠りへと落ちていった。

 




 お待たせしました。
 いよいよ聖杯戦争開始です。

 とはいえ、主人公陣営はいきなりイレギュラーなことが起きてしまいました。
 真桜が登場した時点で、この状況を予想された方もいるとは思いますが。

 詳細は次話で明らかになりますが、様々な問題も抱えており、主人公は四苦八苦する羽目になる予定です。


 ダブルキャスターのパラメータは、下記の通り設定しました。
 能力、スキル、宝具などについて、ご意見、ご感想、修正案などがありましたらお知らせください。


【改訂】
2012.08.19 英霊リンのスキルに『【中国武術】:E』を追加
2012.08.30 英霊リンと反英霊サクラのパラメータを修正


【聖杯戦争の進行状況】
・ケイネス、ソラウ、衛宮切嗣、アイリスフィール、舞弥、アルトリア以外は冬木市入りを確認
・サーヴァント8人召喚済み(キャスター2人) 注:アルトリア召喚は原作知識


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【設定】

〇英霊リンのパラメータ(オリジナル設定)
<詳細>
 第五次聖杯戦争において、世界を滅ぼすアンリ・マユを産みだそうとした間桐桜(黒桜)を、衛宮士郎と共に阻止して世界を救った。
 その為、反英霊サクラと対となる存在として英霊の座に登録された。

<能力>
クラス    キャスター
真名     遠坂凛
マスター   タマモ&八神真凛
属性     秩序・中庸
ステータス  筋力 D  魔力 A
       耐久 E  幸運 A+
       敏捷 C  宝具 EX
クラス別能力 【陣地作成】:A
       【道具作成】:A
保有スキル  【魔術】:A
       【中国武術】:E
       【魔法】:A
宝具     【七色に輝く宝石剣】:EX
       【宝石】:A
備考 遠坂凛の人格は無く、代わりに八神真凛の仮想人格と融合済み

<技能>
【魔術】:A
 得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する宝石魔術を得意とする。
 属性は『五大元素』。遠坂の一族が得意とする転換の他に強化の特性を身に着けている。
 遠坂家の魔術刻印を所持する。

【中国武術】:E
 八極拳の達人である言峰綺礼に10年間師事して身に着けた武術。
 遠坂凛は『今時の魔術師は、護身術も必修科目』と言っているが、少なくとも衛宮士郎は知らなかった。
 なお、『hollow ataraxia』において、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと初めて喧嘩した際には、遠坂凛の初撃の崩拳をかわされた後、バックドロップで反撃されてわずか13秒でKO負けをくらっている。
 このことから、(接近戦を得意とする)武闘派魔術師と比べると遠坂凛の武術のレベルはそれほど高くないと推測される。(注 ルヴィアとの喧嘩では、魔術は双方とも未使用)

【魔法】:A
 第二魔法である、並行世界の運営。
 本来は、無数に存在する平行世界を観察し、自己の同一性を保ったまま任意の世界間を行き来する、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの魔法。
 遠坂凛の場合、宝具【七色に輝く宝石剣ゼルレッチ】を使うことで、無限に列なる並行世界に門は開けられないものの、(多重次元屈折現象で)ごくわずかな隙間を開き、大気に満ちる魔力程度ならば共有を可能とする。

<宝具>
【七色に輝く宝石剣ゼルレッチ】:EX
 第二魔法の能力を持つ、限定魔術礼装。
 ゼルレッチの弟子の家系だけが使用可能。
 並行世界への門は開けられないものの、向こう側を覗く程度の干渉を可能とし、大気に満ちる魔力程度なら互いに分け合う事さえ可能とする。
 宝石の由来は、その多角面が万華鏡に似ていることから。

【宝石】:A
 遠坂凛が長期間魔力を移し続けた宝石。
 これを使えばA判定の大魔術を一瞬で発動できる。
 個数制限あり。



〇反英霊サクラのパラメータ(オリジナル設定)
<詳細>
 第五次聖杯戦争において、衛宮士郎がセイバーオルタを殺せず、その結果衛宮士郎と遠坂凛が間桐桜(黒桜)に敗れた世界の間桐桜のなれの果て。
 アンリ・マユを産みだし、世界を滅ぼそうとしたため、反英霊として英霊の座に登録された。

<能力>
クラス    キャスター
真名     間桐桜
マスター   八神遼平&八神真桜
属性     混沌・悪
ステータス  筋力 E  魔力 A(A++)
       耐久 B(A) 幸運 E
       敏捷 E  宝具 -
クラス別能力 【陣地作成】:B
       【道具作成】:-
保有スキル  【魔術】:D
       【蟲使い】:C
       【再生】:B(A)
       【黒い影】:B(A)
       【マキリの聖杯】:EX
宝具     なし
備考 【マキリの聖杯】スキルを得た代償に道具作成スキルは失われている。
   【マキリの聖杯】スキルの未使用時は、一部のステータスとスキルは弱体化する。
   間桐桜の人格は無く、代わりに八神真桜の仮想人格と融合済み

<技能>
【魔術】:D
 マキリの業は覚えていない(教えられていない)。
 そのため、『己の負の面を表に出して魔力をぶつけること』、『吸収』、『使い魔作成&制御』のみ可能

【蟲使い】:C
 蟲をある程度制御可能。
 マキリの蟲限定で、制御力向上。

【再生】:B(A)
 肉体の再生能力。
 ランクAの場合、自分の心臓の即時再生も可能となる。

【黒い影】:B(A)
 桜が作り出した影の使い魔。
 サイズを大きくすることや、同時に複数体作り出すことが可能。
 黒い影に取り込んだサーヴァントはそのまま殺すことも出来るが、黒化させて使役することも出来る。

【マキリの聖杯】:EX
 アイリスフィールの聖杯の破片を触媒として生み出された刻印虫を埋め込まれ、それにより間桐桜はマキリ製の聖杯として改造された。
 アインツベルン製の聖杯より性能は落ちるが、サーヴァントの魂を格納することが可能。
 無尽蔵ともいえる魔力を聖杯から汲み出すが、一度に放てる魔力は一千ほど。

 【マキリの聖杯】スキルは、使えば使うほど精神が汚染されて(黒化して)いく可能性がある。
 このスキルを使うと、無限に魔力が供給される。

 【マキリの聖杯】スキルを未使用時、間桐桜のステータスとスキルは下記の通りパワーダウンする。
   【耐久】 :ランクA→B
   【魔力】 :ランクA++→A
   【再生】 :ランクA→B
   【黒い影】:ランクA→B&サーヴァント吸収能力の弱体化


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閑話(聖杯戦争の準備)

 サーヴァント召喚による魔力不足を回復するために眠りについた僕は、少し時間が経った後にいつも通り精神世界で覚醒した。

 魔力不足のせいか精神的にも疲れていて、魔術の勉強をする気になれず、精神世界のソファーに座ったまま最近のことを思い出していた。

 

 まず、最初に思い出したのは、やはりお世話になった人たちのことだ。

 

 雁夜さんは『時臣師の弟子であり協力者』であることを隠すため、僕や桜ちゃんとの直接の接触は完全に断っていた。

 ……まあ、僕は使い魔や影の体で密かに会っていたんだけどね。

 雁夜さんは、遠坂家の女性陣(+ついでに時臣師)を守れる力をつけるため、毎日厳しい修行を続けていた。

 僕が伝言係となって、『葵さんたちの雁夜さんへの応援メッセージ』を伝えているから、雁夜さんのやる気はいつでもマックス状態だった。

 ちょろい、と思ってしまった僕は、やっぱり腹黒だろうか?

 

 一方僕は、対外的には『凛ちゃんと桜ちゃんの遊び友達』として遠坂家に出入りして、実際には『時臣師の秘密の弟子』として凛ちゃん、桜ちゃんと一緒に時臣師から魔術の指導を受けていた。

 メディアとメドゥーサがいるから、時臣師の指導はなくても問題ないのだが、『自意識を持った分霊を降霊済み』ということは内緒にしているため、それを隠す意味もあって引き続き指導を受けていた。

 午後は時臣師に、睡眠中は精神世界でメディアとメドゥーサを師として魔術について指導を受けていることもあって、時臣師の僕への評価はかなり高かった(降霊術関連だけだが)。

 いや、まあ、「仮にも自分の弟子ならば、時臣に無能だと思われるようなことは絶対にしては駄目よ」と、メディアに満面の笑みで脅迫されたこともあって、文字通り命がけで修行をしていただけなんだけどね。

 

 メドゥーサはメドゥーサで、「桜を守れるだけの強さを早く身に付けてください」と、修行中は常に無言の圧力を加えてきているので、修行中は一瞬たりとも気を抜けない状況が続いていた。

 

 さらに寝る直前の訓練では、魔力生成量を増やすため、『魔術回路の再構築』&『魔力を使いきるまでの訓練』を毎日行い、毎晩気絶同然に眠りについている日々を過ごした。

 

 おかげで、自分でも驚くほどすごい勢いで、降霊術の技量は上達し、魔力発生量もかなり増えていった。

 それにより、僕がメディアやメドゥーサのスキルの一部を(かなり弱体化したが)借りることもできるようになった。

 さらに、僕が『分霊からスキルを借りること』をサポートすることで、タマモたちが借りているスキルのレベルを向上させることができるようになり、パーティー全体の実力の底上げにも繋がったのは嬉しかった。

 

 

 僕の使い魔のタマモと真凛と真桜の3人は、相変わらず元気に毎日を過ごしていた。

 具体的には、タマモは天然のトラブルメイカーぶりを発揮して色々やらかして、真凛は僕に対する魔術の修行をスパルタで容赦なく行い、真桜は滴の世話と治療を毎日がんばっていた。

 

 

 凛ちゃんは最近知恵がついてきて、結構生意気なことを言ったり、背伸びをした言動を取ったりすることも増えてきたが、所詮は子供のすることであり、僕にとってはどれも可愛いとしか思えない。

 誉めたり、お礼を言うと、顔を赤らめて視線を逸らしながら「おれいをいってほしくて、したんじゃないわ」とツンデレのテンプレ台詞を言ってきたりする。

 微笑ましいやら、可愛らしいやらで思わず笑ってしまうと、「なにがおかしいのよ!」と凛ちゃんはますますむきになり、それをまた僕が笑うということを繰り返す光景は最近ではよくあることだった。

 

 桜ちゃんの方は、家族の次に僕を慕ってくれている。

 それはいいのだが、気がつくと僕のことを「おにいちゃん」と呼び始めてしまった。

 婚約者なのにおにいちゃんとはこれいかに。

 ……まっ、いいか。

 年上の幼馴染みに対する呼び方として、そうおかしなものじゃないし。

 

 また、桜ちゃんは真凛や真桜に可愛がられ、楽しみながら魔術を学び、凛ちゃんや僕に追い付こうと日々努力している。

 元々、桜ちゃんは凛ちゃんに匹敵する天才的な才能を持っているわけで、「この調子で技量が上がっていけば、魔術刻印なしでもいずれ一流の魔術師になれる」とメディアが認めるぐらいの成長速度だった。

 

 綺礼には僕が弟子であることを完全に隠しているが、……少し調べれば『僕の先祖が魔術師であること』は分かってしまうだろう。

 だから、『切嗣には確実に、綺礼にもいずればれる可能性は高い』と思っている。

 一応時臣師に依頼して僕も気を付けることで、一度も綺礼とは会わないで過ごしてきたけどね。

 ……綺礼の興味を持たれるようなことがあれば、それは絶対に不幸な未来に繋がることが容易に予想できたので、僕は全力を尽くして避けたのもあるけど。

 

 時臣師との関係も特に問題はない。

 真凛と同じく、『桜ちゃんの外見を参考にして真桜という仮想人格の使い魔を作ったこと』を伝えたが、真桜の正体には気づいていないようだった。

 ……まあ、普通に考えれば、『桜ちゃんの記憶と人格をコピーして、それを一気に成長させた仮想人格』なんて予想できないから、当然といえば当然ではある。

 そういうわけで、秘密の弟子として魔術の指導を受け続け、『降霊術については優秀な弟子』という評価をもらうことができた。

 ……言い換えれば、『降霊術以外は平凡(魔術刻印に登録された魔術を除く)』ということでもあるが、……いいんだ、僕は『降霊術一点特化型の魔術使い』として生きていくから、悔しくなんかない。

 

 それと、気が付くと僕は、遠坂家公認で桜の婚約者になっていた。

 以前から、婚約者候補ではなく、婚約者扱いしているような感じを受けていたのだが、それは勘違いではなかったらしい。

 時臣としても、『魔術刻印を受け継ぎ、魔術の素質もそれなりに期待でき、遠坂家の分家になってくれる存在』として、僕のことはかなり高評価だったらしい。

 僕がすでに令呪を持っていることもあり、時臣師にとって『僕がダブルキャスターを呼ぶこと』は、確定事項なのかもしれない。

 どうせ、

『自分が聖杯を得る手助けをするために、綺礼に令呪が与えられ、さらに助力を申し出てきた雁夜くんも令呪を手に入れた。

 ならば、私の弟子であり降霊術の優れた才能を持ち、すでに令呪を手に入れた八神くんならば、必ずやダブルキャスターを召喚できるだろう』

とか、ご都合主義を展開していたのだろう。

 それだけ自分が作成した『ダブルサーヴァント召喚用の魔法陣』に自信を持っているのかもしれない。

 

 葵さんにしても、『最愛の夫』と『(桜を助けたことで評価が鰻上りの)幼馴染の雁夜』の二人が認めた存在が桜の婚約者となり、『今後、桜を養子に出す必要がなくなった』ということもあって、僕を受け入れやすかったようだ。

 もともと、以前から公園などでよく会っていた間柄でもあったし。

 考えてみれば、葵にとって願ったり叶ったりの状況だよな。

 

 僕が桜ちゃんの婚約者になったことについて、桜ちゃんは無邪気に喜び、凛もすんなり認めていた。

 元々僕に対しては、姉弟子ということでかなり威張っていたが、『桜の婚約者=自分の義弟』と考えたのか「おねえさんとよびなさい」と言ってきたりしたが、僕が家族になることに満更でもないようだった。

 ……もしかして、この世界では僕による凛攻略ルートもありえたのか?

 なんならこれから、姉妹育成&ハーレムルートを目指すのも悪くないか?

 ……やっぱり止めておこう、メディアやメドゥーサを怒らせたら、本気で命がいくらあっても足りないしな。

 そういうわけで、僕は凛ちゃんと桜ちゃんを一緒に可愛がって、愛でるだけにしておこう。

 ただ、その結果『僕は桜一筋でも、向こうから好意を寄せてきて、桜が二股を認めてくれるなら問題ないはず。桜も大好きなお姉さんとずっと一緒なのは嬉しいだろうし』などと、ちょっと妄想してしまった僕だった。

 

 

 ただ、ここまで時臣師から高評価をもらうと、『裏がないか?』とつい考えてしまった。

 例えば、笑顔の裏で『聖杯戦争の際にダブルキャスター諸とも僕を抹殺すること』を画策しているとか。

 そうすれば、凛に遠坂家の魔術を、桜に八神家の魔術を継がせられるし、桜を僕に嫁がせる必要もなくなる。

 桜は八神家の魔術で自衛できるだけの力を手に入れられるだろうから、そのまま遠坂家にいても問題ない。

 そして、時臣師が『色々と裏で何か画策していること』に気づいていたら、僕の存在を危険視していてもおかしくない。

 元々、『前世の記憶持ち』で『魔術関連の前世知識はないはずなのに、(原作知識があるため)なぜか極秘レベルの重要情報を知っていることがある』という怪しい存在でもあるし。

 ……いや、真面目に魔術の授業を受けていたから、気になったことや気づいたことを質問した際に、つい原作知識を元にしたことを言ってしまったことがあったんだよね。

 発想元を聞かれたら、前世の魔術関連の小説や漫画と答えたけど。

 

 聖杯戦争の最中に僕を抹殺してしまえば不安要素はきれいになくなるし、『聖杯戦争中にサーヴァントに殺された』と桜ちゃんたちに伝えれば疑うこともないだろうし、凛ちゃんたちに『魔術師の世界の厳しさを分からせる経験』としてもちょうどいい。

 

 あれ?

 自分で考えておきながら、『時臣師にとっての八神遼平を抹殺した際のメリット』がすごいことになってないか?

 いやいや、八神家の魔術刻印は『八神家の血を引く魔術師』だけが継承できる。

 ならば、万が一にも時臣師が僕の抹殺を計画するとしても、それは僕と桜の子供ができてからのはずだ。

 そうしなければ、八神家の最大の遺産である『八神家の魔術刻印』が使えなくなるというデメリットが大きすぎる。

 

 まあ、魔術刻印の価値以上に僕を抹殺するメリットがある場合は、僕の抹殺を優先する場合もありえるけど、露骨に時臣師を裏切るつもりはないし、……多分大丈夫だろう。

 単に、『聖杯戦争において時臣師に提供する情報を制限し、必要以上にサポートしないだけ』のつもりだし、それで時臣師が自滅してもそれは僕の責任ではない。

 

 ……そういえば、橙子レベルの人形師だと、奪った魔術刻印を元にして人形を作ることで、奪った魔術刻印を使うことも可能だったっけ?

 時臣師なら、魔術協会にいる橙子と接触を取るのは簡単、か。

 

 契約では、……しまった!

 『僕が召喚したサーヴァントの行動自由権』はしっかり書いてあるけど、『時臣陣営による八神遼平の殺傷禁止』を入れ忘れた。

 これだと、時臣師が僕を殺しても契約違反にはならないし、うっかりハサンが僕を殺してしまう事もあるかもしれない。

 

 ……今後は、時臣師の動向をばれない範囲でもっと調査しておいたほうが良さそうだな。

 特に、僕に対するスタンスや方針を重点的に。

 

 なお、聖杯戦争中、つまり今は『葵さんたちを人質にされる危険性』を僕が訴えたこともあって、『無計画、予約なしの飛び込み宿泊、クレジットカードを使わず現金払い』で長期旅行へ出掛けており、連絡はライン経由限定と徹底して情報を隠して安全を確保している。

 ここまですれば、さすがの切嗣や綺礼でもどこにいるか見つけることは不可能だろう。

 

 

 雁夜さんの技量も、使い魔経由で時臣師の指導を受け、研鑽を続けた結果、『技術はまだまだだが、魔力量と集中力はすでに一人前の魔術師レベル』という評価をもらっている。

 これにより、時臣師も『雁夜さんがバーサーカーを召喚すること』に対して不安は全く持っていないようだった。

 

 『僕と雁夜さんが時臣師の弟子であること』は当初の予定通り教会側にも最後まで隠すことが決まっており、『時臣師の指導』ならびに『遠坂邸への出入り』はアサシンの召喚する少し前に終了した。

 そのため、今後は『緊急時のみ使い魔経由で連絡をとること』になっている。

 僕たちが、綺礼のアサシンの召喚を確認できていないのはそのためだ。

 こちらとしても、『真凛と真桜がサーヴァント化したこと』を時臣師に説明しなくてすんでいるので、助かっている面もあるけど。

 

 この最後の連絡において、僕は『自分で避難場所を見つけて、そこに隠れる予定』と時臣師に伝えてある。

 時臣師は、葵さんたちの旅行に加わることを薦めてくれたのだが、「いざというときにすぐに対応できるようにしたいんです」と話して断ったのだ。

 自分の命は惜しいが、『せっかくマスターになるんだから、現地で聖杯戦争の展開を見たい』という気持ちが勝った結果なんだけど。

 

 

 僕と雁夜さんは、直接会うことはできるだけ避けるが、使い魔や影経由で常に情報交換を行っている。

 雁夜さんの目的が『遠坂家の女性3人(ついでに遠坂時臣)を守ること』であり、僕たちというかメディアの目的が『喧嘩を売ってきた遠坂時臣を半殺しにすること』なので、本来なら対立する立場になる。

 しかし、『僕が召喚したサーヴァントの行動の自由』を時臣師本人が認めており、メディアも『時臣の半殺しが目的で、殺すつもりはない』と雁夜さんに明言している。

 そのため、雁夜さんとは聖杯戦争において下記の協定を結んでいる。

 

<八神遼平と間桐雁夜の協定>

1.時臣陣営と八神陣営が戦う場合、雁夜陣営は中立を維持する。

2.遠坂家の女性陣に危険が迫った場合は、協力して敵を排除して女性陣を守る。

3.雁夜陣営と八神陣営は、対時臣陣営以外の戦闘において協力するが、協力していることをできるだけ他陣営へ隠す。

 

 協定の「2」は、綺礼&切嗣対策の為なのは言うまでもない。

 それと、一回だけだが葵さんが買い物帰りに体調を崩したことがあり、そのせいもあって雁夜さんは葵さんに対して過保護気味になっている。

 なお、葵さんは気分が悪くなった後、少しその場で休んだ後そのまま一人で帰宅しており、その後も特に体調に問題はなかった。

 時臣師は葵さんを心配して、念のため魔術を使って調査したらしいが、魔術を掛けられた形跡もなく、それを聞いて雁夜さんも安心しており、問題は何もなかった。

 

 実際、葵さんが誘拐されて外道な魔術師の子供を産まされる可能性は十分にあるわけで、雁夜さんが過保護気味になっても仕方がないとは思う。

 もっとも僕は、葵さんが体調を崩したと聞いたとき、3人目の子供を妊娠したのかな? と思ったんだけど、その兆候はないらしい。

 

 

 滴ちゃんは、当初の予定通り、冬木市外にある拠点で暮らし、メディアに魔術を習っている。

 本気で魔術協会に捕まっている姉を奪還するつもりらしく、凄まじい集中力と努力により、メディアも驚くほどの成長を見せている。

 ……見せてはいるが、所詮はまだ6歳だし、魔術刻印もないため、まだまだ半人前らしい。

 ……たった十ヶ月で、素人が半人前になっただけでも十分すごいと思う。

 才能もあるし、やる気もあるし、メディアという最高の師までついている。

 となれば、『将来、一流の魔術師となり、魔術協会から姉を奪還すること』も不可能ではないだろう。

 ……問題は、『それまで滴ちゃんのお姉さんが、五体満足&自我を保ったまま生きているか?』ということだが、……それは幸運を祈るしかないな。

 桜ちゃんのように特殊な素質を持っていなければ、……多分実験台にされるようなことはないだろう。

 となると、父親の魔術刻印を全部押収され、自家の秘伝の魔術を全て聞きだされた後は、……『魔術協会の下働き』か『記憶を封印されて追放処理』か?

 橙子と連絡を取った際に、一緒に『滴ちゃんの姉の消息と待遇』を確認することにした。

 ちなみに、時臣師には滴ちゃんを助ける義理も意味もなく、聖杯戦争の準備で忙しいときにわざわざ調査をしてくれるとも思わなかったので、時臣師にはこの件について全く話していない。

 

 それはともかく、滴ちゃんはこの1年、冬木市には一度も入らずに過ごした。

 その結果、令呪を手に入れてしまうようなハプニングもなく、現時点ではとりあえず平穏な日々を過ごせているようだ。

 ただし、雁夜さんはとうとう滴ちゃんと会えないまま聖杯戦争に突入してしまった。

 結局『間桐家の人間』ということで滴ちゃんの警戒はとけず、滴ちゃんと会えたのはメディア、メドゥーサ、真凛、真桜の4人だけだった。

 僕は自分の正体を隠すためもあって、あえて会いに行かなかった。

 聖杯戦争を無事に生き残れたら、滴ちゃんに会いに行くのもいいかな?

 みんなが滴ちゃんと仲良くなっているのに、僕だけ会ったことすらないというのは寂しいし。

 

 

 僕の関係者の近況はこんなところで、残りの重要事項と言えば、やはり聖杯戦争の準備だろう。

 

 魔力供給源として有力なプランだったホムンクルス作成はほぼ成功した。

 メディアがユスティーツァの記憶から『アインツベルン製ホムンクルスの作り方に関するデータ』を読み取り、凛ちゃんと桜ちゃんの髪の毛を元に、わずか半年でホムンクルスを二体作り上げてたのだ。。

 もう少し時間があれば、ホムンクルスの肉体年齢を20歳まで成長することが可能だったぐらいだ。

 しかし、『真凛と真桜が聖杯戦争開始までにホムンクルスの体の操作に慣れ、魔術回路などをまともに動かすための訓練期間』が必要だったため、肉体年齢を10代半ばまで成長させた後、真凛と真桜によるホムンクルスの体を使いこなす訓練が始まったのだった。

 たった四ヶ月だったが、(ホムンクルスとはいえ)本物の体を手に入れた二人は、きつくて辛い肉体の訓練(リハビリのような体を動かす訓練)と魔術の訓練を進んで行い、『一般人レベルの運動能力』を手に入れ、『全ての魔術回路を開くこと』で『簡単な魔術行使』まで可能になった。

 魔術回路はほとんど鍛えられていないが、魔術回路数が多いため、かなりの魔力量を生成可能になった。

 

 これで僕の陣営にいて魔力供給が可能なのは、僕、タマモ、真凛、真桜、凛ちゃん、桜ちゃん、滴ちゃんの7人まで増えたわけだ。

 ちなみに魔力生成量は、凛ちゃん>桜ちゃん>僕>タマモ>滴ちゃん>真凛=真桜となっている。

 まあ、凛ちゃんと桜ちゃんと同じ魔術回路を持っているんだから、遠からず真凛と真桜の魔力生成量は僕とタマモを越えるんだろうけど。

 さらに、メディアによって『大聖杯からの魔力供給を受けるシステム』も構築済みであり、これが使えれば僕の陣営で魔力不足が起きることはまずないはずだ。

 

 ……あっ、忘れてた。

 今の真凛と真桜は、(受肉化した)サーヴァントになっているんだった。

 ということは、……魔力生成量も増えているのか?

 そうだったら嬉しいな。

 後で確認しておかないと。

 何でかはしらないけど、今日は真凛と真桜がこの精神世界に来ないし、ライン経由でも連絡がとれないでいるので、事情を聞くことができないでいる。

 

 元々、真凛と真桜は戦闘に参加するのは無理だけど、魔術や使い魔操作で聖杯戦争のバックアップを担当してもらう予定、……だったんだけどねぇ。

 ……寝る前に見た感じだと、『ホムンクルスの体にサーヴァントの体が憑依&融合していた感じ』だったが、本当に大丈夫なのだろうか?

 『アーチャーの腕を移植した士郎』はアーチャーの腕を時限爆弾とまで言っていたし、どんな制約があるかきっちり調べておかないと。

 

 

 拠点の方は、大空洞の内部に作った本命の拠点(サーヴァント召喚を行った場所)、予備用の『青髭が拠点にしていた場所』に作った拠点はすでに完成している。

 そして、ダミー&囮用の拠点として使う予定の柳洞寺についても、陣地作成の完成直前まで作成済みだから、後は必要に応じて陣地作成の最終段階を行えばいい。

 

 戦争をする以上拠点を複数作るのは基本だと僕は考えてメディア達に提案し、その結果三拠点を作ったのだ。

 何が起きてもおかしくないのが戦争だし、手段を選ばない切嗣と狂人の綺礼がいるのだからこれぐらいの対策は当然だ。

 あとは、真凛と真桜の陣地作成スキルで三拠点をさらに強化すれば、準備は万全だと思う。

 

 

 ヤクザ狩りも、警察はもちろん、魔術関係者や教会関係者にばれることなく、無事に終了した。

 雑魚狩りではあるが、度胸をつけ、実践経験を積むため、単独行動中のヤクザ狩りには僕、タマモ、真凛、真桜も参加したぐらいだ。

 

 基本的には、僕たちの本当の姿からかけ離れた影の体を構築し、その影を使って素手で(犯罪者の)ヤクザを半殺しにして、少し生命力を奪い、犯罪の証拠(麻薬、覚醒剤、一発の銃弾、ナイフのどれか)を残して、警察に通報した。

 ……手間賃として、お金と銃器(銃弾含む)は没収したから、やっていることは強盗そのものだ。

 もっとも僕は、もとから『正義の味方』ではなく『悪の敵』になるつもりだから、『犯罪者の人権は認めない』し、『犯罪者に犯罪行為をすることはOK』という考えだから、全く問題ない。

 しかし、ヤクザの方も『銃器を奪われました』と警察に訴えられずはずもなく、『お金を奪われた』と訴えるのもヤクザ仲間での評価を下げるだけのため、結局僕たちが指名手配されることはなかった。

 多分警察には、『ヤクザ(犯罪者)狩り』がいることは結構有名になっているだろうけど、被害者が訴えず、やっていることは『犯罪者を警察へ通報』であり、警察にとっても利益のあることなのでお目こぼしされているのではないかと予想している。

 そんなわけで、薬物の売買は壊滅状態、銃器やナイフを持ち歩くヤクザも皆無となり、冬木市の治安は向上する結果となった。

 

 ……いや、まあ、町を歩いていて、メディア特製の違法物質探知機に反応があったら、影で一人残らず狩り尽くすことを繰り返していたら、ヤクザも学習して違法なものは持ち歩かないようになっただけ、とも言う。

 こりずに時々バカが出てくるが、見つけ次第速やかに刈り取ることで、冬木市は日本でもあり得ないぐらい安全な都市になり、過ごしやすくなったのはいいことだ。

 

 そうそう、藤村組の組員も時には銃器や刃物を持ち歩いていたこともあったが、さすがにそれは見逃しておいた。

 藤村組の組員で違法薬物を持っている人はいなかったから、だけどね。

 

 結果として、影の体なら全く問題なく戦えるまで実戦経験を積め、真凛や真桜も『犯罪者相手なら容赦不要』と、動揺することなく犯罪者を半殺しにできるまで成長した。

 ……成長だよな?

 

 タマモはどうしたって?

 タマモは元々狐の使い魔であり、獣は獲物に対して容赦しないのが当然。

 僕の命令があれば、嬉々としてヤクザをぼこぼこにして、やり過ぎないように止める必要があったぐらいだ。

 

 こうして、僕たちは(影経由で弱い者いじめとはいえ)全員戦える度胸はついた。

 対サーヴァント戦には元々参加するつもりもないから、対マスター戦において、影の体経由で本体へ呪いやダメージを与える特殊攻撃以外は恐れるものはないだろう。

 

 ……あっ、攻撃される可能性は低いと思うが、切嗣の起源弾は要注意か。

 影経由で魔術などを使うときは、当然魔術回路の出力は上がっている。

 そのときに、影に起源弾を食らってしまうと、僕がひどい目にあってしまう。

 メディアに呪いや起源弾の効果を遮断する魔術具の作成を頼んでおこう。

 ……メディアのことだから、実はすでに作ってあって、僕が言い出すまで隠しておく、なんて意地悪をしても不思議でもないけど。

 

 僕はメディアの弟子であり、同時にこの世界での憑代兼魂の空間(ソウルスペース)に閉じ込めた原因でもあるから、愛の鞭というべきか結構厳しく指導とか、対応されることが多い。

 メディアたちにとって、僕の生存が彼女たちの生命線だから、できるだけ早く可能な限り死ににくいようになってもらいたい気持ちは理解できるから、素直に従っているけど。

 早くメディアに一人前と認めてもらえるぐらい色々な意味で強くなりたいものだ。

 

 

 聖杯戦争に話を戻すが、盗聴器や監視カメラ、監視用使い魔の設置など、優先順位が高いものはほぼ予定通り準備を終えている。

 

 ……元々時間があれば、程度に考えていた橙子との接触は、結局聖杯戦争後になった。

 宗十郎の連絡先(=有珠邸の連絡先)は調査済みなので連絡を取るだけなら容易だと思うが、橙子たちが聖杯戦争に関わってさらに面倒になるのを避けるため、という理由もある。

 

 結局、幻想魔術具やネタアイテム作成は、予想通りメディアたちに手伝ってもらうことはできなかった。

 そこで、睡眠時間に精神世界にいるときに、タマモと真凛と真桜と一緒に自作を目指したのだが、所詮魔術具作成の経験者がおらず、知識も貰い物という状態ではろくなものができなかった。

 ……せめて、『プリズマ・イリヤ』のクラスカードは作りたかったなぁ。

 やっぱり、魔法(魔術)関連の世界に転生したからには、クロウカードや仮契約(パクティオー)カードのように『特殊な能力を持ったカード』の存在には憧れる。

 『降霊術で英霊の分霊の一部、あるいは分霊の力の一部をカードに封じ、そのカード(封じた英霊の分霊 or 英霊の力)と適性があるものが、その力を使える』ようになれば、降霊術の適性がない人も英霊の力を借りることができるわけで、ぜひ作りたかったのだが。

 ……まあ、聖杯戦争が終わった後にでも、ゆっくり作るとするか。

 

 こんなことを考えつつ、僕は朝が来るのを待っていた。

 

 目が覚めたら、とうとう僕にとっての聖杯戦争が始まるわけだ。

 さあて、どんなことになるのやら。

 




 話が長くなったので、回想部分を『閑話』として分けて投稿しました。

 おかげさまで、被お気に入り件数が1000件を突破しました。
 どうもありがとうございます。

 評価は残念ながら7点を下回っている状態が続いています。
 今後も、『内容は面白く、展開は(行き過ぎないレベルで)予想外で、文章は読みやすい』をモットーに作品を作っていきます。

 何か気づいたことなどがありましたら、ぜひお知らせください。


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第20話 メディアの裏技(聖杯戦争二日目)

 朝食を食べた後、皆を集めて僕は作戦会議を開いた。

 

「昨日の夜、何かあったんですか?」

「ずっと徹夜で訓練していたのよ。

 本来サーヴァントの体は睡眠を取る必要はないらしいけど、ホムンクルスと融合したせいで少しは睡眠が必要になったみたいだわ。

 おかげで眠くてしょうがないわ」

「ええ、そうですね。

 早くこの体を使いこなす必要があるとはいえ、徹夜は辛いですね」

 

 僕はメディアに尋ねたのだが、真凛と真桜がすぐに答えてくれた。

 なるほど、確かに真凛も真桜も疲れと眠気を感じさせる顔をしている。

 あ~、なるほど。

 いきなり『サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体』になった以上、影の体ともホムンクルスとも違う感覚だから訓練が必要なのは当然だろう。

 昨日の夜、二人とも精神世界に来なかったのはそういう理由だったのか。

 

「真凛と真桜は、『ホムンクルスの体を使いこなす訓練』と『ホムンクルスの体にある魔術回路で魔術を使う訓練』はしていたけど、……真凛は『魔法使いの遠坂凛』、真桜は『マキリの聖杯になった間桐桜』の体をいきなり使う羽目になったのよ。

 サーヴァントの体に関して、『体を使いこなす訓練』は第一段階、次に『魔術回路を使いこなす訓練』をして、最後に真凛が『宝石剣を使う訓練』、真桜が『スキルを使う訓練』を終えて、初めてまともに戦えるようになるのよ。

 ……死にたくなければ、最終段階を終えるまでここに隠れて、ひたすら訓練するしかないわ。

 もちろん、他のサーヴァントと戦うなんて論外よ」

「やっぱり、サーヴァントの体と融合したわけだから、それだけの訓練が必要ですか」

「当然よ。

 通常のサーヴァントなら『生前の全盛期の体を魔力で構築した体』を手に入れるわけだから、すぐに使いこなせるわ。

 一方、真凛と真桜は『オリジナルの未来の体』を手に入れたわけで、『オリジナルの未来の経験』がない以上、訓練を積むことで少しずつ理解しないといけない。

 ……正直これはかなりのハンデね」

 

 聞けば聞くほど大変そうだな。

 それだけ訓練が必要なのはわかるが、……聖杯戦争が終わるまでにそれだけの訓練が終わるのか?

 

「ああ、安心して。

 確かに一からそれだけの訓練をしていたら、いつ終わるか分からないけど、……幸いこの体にはオリジナルの記憶も残っているわ。

 その記憶を取捨選択しながら取り込むことで、訓練時間の短縮は可能よ」

 

 真凛は頼もしいことを言ってくれている。

 元々真凛は、5歳の遠坂凛の記憶と人格のコピーをコアにした仮想人格だから、未来の遠坂凛の(一部の)記憶を取り込むのも、気を付けてやれば問題ないだろう。

 ……しかし、

 

「真桜はそんなことをして大丈夫か?

 元々、間桐桜の記憶はきついものが多いのに、黒桜の記憶を受け取れば、お前もアンリ・マユの影響を受けてしまわないか?」

「……私も少し不安です。

 でも、『貴方の力を借りるだけの仮想人格』だったはずの私が、偶然とはいえあの世界の私の力を取り戻すことができました。

 これは、ただの偶然かもしれません。

 でも、私にとっては待ち望んでいた奇跡です。

 この力で、この世界の私と滴ちゃん、そしてお父様を守ってみせます。

 そのためなら、記憶ぐらい受け止めて見せます。

 ……それに、記憶の取り込みはメドゥーサも一緒にやっていますから、万が一のことがあってもフォローしてくれます。

 だから大丈夫です!」

「その通りです。

 私が常に真桜のフォローを実施します。

 あの世界のように、アンリ・マユに汚染させるようなことは絶対にさせません」

 

 真桜の表情を見る限り、強がりではなく自信があって言っているようだ。

 メドゥーサの方もそんな真桜を全力で支える覚悟があるようだ。

 これなら、……大丈夫か?

 

「わかった。

 ただし、くれぐれも気を付けてくれよ。

 強くなるに越したことはないけど、真桜の命が一番大事なんだからな。

 ……メドゥーサ、真桜のことを頼むよ」

「はい、焦らないで、でも急いで強くなります」

「もちろんです。

 真桜のことは任せてください」

 

 真桜とメドゥーサは顔を見合わせると、ゆっくりと微笑んだ。

 この二人なら大丈夫だろう。

 しかし、不安な事は他にもある。

 

「真凛と真桜は、『サーヴァントとホムンクルスと仮想人格の融合体』という状態みたいですが、体に異常はないんですか?

 アーチャー、じゃなかった、英霊エミヤの腕を移植した士郎は、腕の封印を解いただけで死へのカウントダウンが始まっていましたけど」

 

 あれはひどかった。

 ゲームをやっていたとき、僕は全く士郎が助かる方法が思いつかず、「桜ルートは『士郎が犠牲となるエンディング』しかないのか?」と考えながらプレイしていたぐらいだ。

 

「衛宮士郎の場合は『生身の体にサーヴァントの体をそのまま移植した』からあれだけ酷い目にあったのよ。

 真凛たちの場合、『ホムンクルスの体にサーヴァントが融合した』わけだから、彼のようにはならないわ」

 

 そうなのか、それは良かった。

 僕はメディアの説明を聞いて安堵したが、しかし『移植』と『融合』でなぜそこまで差が出たのか不思議だった。

 僕の表情から僕の考えを読み取ったのか、メディアは説明を続けた。

 

「貴方が使える降霊術でも英霊の分霊を召喚するけど、それは『魂の空間(ソウルスペース)に英霊の分霊を格納して、術者は分霊の力の一部を借りる』だけ。

 だけど、降霊術を使うことで『召喚した分霊を己の体と融合させることで、分霊の力を自由に使うこと』も、理論上は可能よ。

 もっとも、そんなことをすれば死ぬまで分霊と分離できないし、それ以前に分霊との融合に失敗すれば必ず死ぬわね。

 それも、よほど英霊と相性が良くないかぎり成功しない、リスクの大きすぎる無謀な賭けだわ」

 

 ……聞いているだけでも即座に理解できるほど危険すぎる行為だから、そのリスクは当然だろう。

 いつか僕が分霊との融合が可能な技量に達したとして、僕は実行しようなどとは絶対に思わない。

 しかし、『遠坂凛と遠坂桜の遺伝子から作ったホムンクルス』と『遠坂凛と遠坂桜の人格と記憶のコピーから作った仮想人格』ならば、英霊リンと反英霊サクラとの相性が抜群なのは言うまでもない。

 というか、英霊の分霊との融合なんて、融合対象の英霊が『未来の自分』か『前世の自分』ぐらい縁が深くないと成功しないんじゃないか?

 まあ、世の中には『向こう見ずな馬鹿』とか、『追い詰められて他に手段はない人』とかは結構いるだろうから、一発逆転で挑戦する人がいてもおかしくはないとは思うが、……世間的には自殺と同義なんだろうなぁ。

 

 真凛と真桜に悪影響がなさそうなのは朗報だが、世の中には絶対はないから、毎日メディアやメドゥーサに健康診断をしてもらって、異常がないかチェックしてもらったほうがいいだろうな。

 

 

 一番の心配事項にけりがついたので、僕は次の心配事項を確認することにした。

 それはもちろん、『メディアの考えと今後の方針』である。

 

 ずっと僕の魂の空間(ソウルスペース)に閉じ込められ、唯一の脱出できる可能性としてサーヴァントとしての再召喚を期待していたのに、実際はまさかの英霊リンと反英霊サクラの召喚だからなぁ。

 契約違反ではないが、果てしなく続く幽閉の日々に怒りを露わにするぐらいは十分ありえると思っていたのだが……。

 僕が見たところ、現在の機嫌は普通のようだ。

 ただしこれが、嵐の前の静けさでない保証もない。

 

 僕は虎穴に飛び込むような勇気を振り絞ってメディアに問いかけた。

 

「あの、意図したわけではありませんが、真凛と真桜がダブルキャスターになった以上、メディアとメドゥーサは今までと変わらない状態ですよね。

 ……これからどうするつもりですか?」

「本当に貴方は、イレギュラーな事態を起こしやすい運命みたいね。

 降霊術で自意識をもった私たちを召喚したことといい、誰も予想していなかった英霊リンと反英霊サクラの召喚といい、……まったく困った存在だわ」

 

 その言葉に思わずびくっと反応してしまったが、意外にもメディアは僕に対して(怖くない)笑顔を見せた。

 

「安心なさい。

 リンとサクラを召喚することまでは予想していなかったけど、私たちのサーヴァント化が失敗することがありえることは十分予想していたわ。

 だから、サーヴァント化に失敗したときに実行する次善の策も考案済みよ。

 貴方風に言えば『こんなこともあろうかと』、次の策は考えておいたのよ」

 

 ……まさかメディアにそのセリフを言われるとは!

 確かに、魔術チートのメディアこそが、一番それを言うのに相応しい立場だったか。

 

「もう準備は終わっているし、試すのは早い方がいいわね。

 失敗したらすぐに戻ってくるから、ここで待っていなさい」

 

 そう言って、メディアはメドゥーサを連れ、さらに縁の品まで持って拠点を出て行った。

 あっという間の展開に、止めるどころか、何をするか尋ねることすらできなかった。

 

 ……まあ、今の二人の体は影の体だから、術者(僕)が逆探知されるとか、影を経由して直接術者(僕)へダメージを与える攻撃を受けない限り、特に問題はないはず。

 そう考えた僕たちは、真凛と真桜がサーヴァントの体を使いこなす訓練を手伝いながら、メディア達の帰りを待っていた。

 ちなみに、サーヴァントの体、保有スキル、宝具(真凛のみ)を使うためには訓練が必要だが、クラススキルだけはサーヴァントの体に付与されたものであるため、今の真凛と真桜でも十分使えるらしい。

 そのため、訓練をある程度したら、クラススキルの【道具作成】スキルで魔術具を作り、さらに【陣地作成】スキルで拠点を強化する予定らしい。

 ……真凛がある程度サーヴァントの体に慣れた後、時間に余裕がありそうなら、ネタアイテムの作成が可能か聞いてみることにしよう。

 【道具作成】スキルと八神家の降霊術を合体させれば、クラスカードができる……といいなぁ。

 

 

 その後、真凛たちの訓練を手伝いながら、今後の展開を考えていた。

 

 第四次聖杯戦争は、セイバー、アーチャー、ライダー、バーサーカーの召喚を準備をした日の夜を初日(サーヴァントが召喚されたのは、二日目の日付変更直後)とすると、『アサシン(の分身の一人)が、アーチャーに殺される茶番』が起きるのは6日目。

 それまでの間に、原作では

 

・切嗣パーティーとケイネスパーティーが冬木市に来る。

・ケイネスがランサーを召喚する。

・龍之介が殺人事件を起こしてキャスターを召喚する。

 

ということが起きた。

 このうち龍之介は、この世界では『殺人犯として指名手配になっただけでなく、すでに警察に捕まっている』ので出番なしで終了。

 可能なら『ケイネスによるランサー召喚シーン』を見てみたいが、……無理をする必要はないだろう。

 ということは、原作通りの展開ならば、6日目まではこちらから行動を起こさない限りは平穏だ。

 

 ……メディア達は一体何をするつもりなのか、今さらながら不安になってきた。

 しかし、彼女たちの行動の邪魔をするわけにはいかないから、帰ってくるまではライン経由でも話しかけない方がいいだろう。

 

 

 影の体を飛ばして雁夜さんに状況を確認してみると、僕の予知夢(原作知識)よりも強い状態のランスロットの召喚に成功し、今は命令通りに動かす為の訓練を少しずつ行っているところらしい。

 バーサーカーって、狂化スキルを使って狂化の呪いのせいで正気を失ってしまうから、ほんと管理が大変なサーヴァントだよな。

 今の雁夜さんは、魔力量も多いし、マキリの魔術刻印も持っているから、狂化スキルを使わない限りはバーサーカーでも十分に制御可能だとは思うけど。

 

 それと、『ランスロットの分霊とバーサーカー召喚の相乗効果の調査』の結果については、驚くべき回答があった。

 

「君と相談した通り、ランスロットの分霊を降霊した状態でバーサーカーの召喚を行ったわけだが、……バーサーカーと僕との間にラインが繋がった瞬間、僕の中にいたランスロットの分霊とバーサーカーの間にもラインが繋がってしまったらしい」

「それって、まさか、分霊がバーサーカーのクラススキルを手に入れましたか?

 いや、もしかして、分霊が自意識を持ったとか?」

「さすがにそれはないよ。

 ただ、ランスロットの分霊とバーサーカーの間にラインが繋がって、バーサーカーの存在が錨のような状態になって分霊を繋ぎとめているらしくて、僕は何もしなくても、ランスロットの分霊は僕の中に留まっている状態になったんだ。

 ようは、君が降霊した分霊と同じ状態だね」

「ってことは、ランスロットの分霊を憑依させ続けるために必要な意識の集中とか、魔力の消費とかが?」

「ああ、そういうことをしないでも分霊は俺の中に留まっている。

 これで、ランスロットの力を借りることに集中できる。

 今度こそ成功させてやる」

 

 そう、雁夜さんはマキリの末裔であり、属性は水で、「吸収」や「使い魔の制御」といった分野に適正があり、逆に降霊術の適正はそれほど高くなかった。

 そのため、メディアが閉じていた魔術回路を開いた後に十ヶ月も訓練をしても、ランスロットの分霊から借りられたスキルは、【対魔力】と【己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)】の二つだけであり、しかも使用可能時間はかなり短かくて実戦では使えそうもなかった。

 しかし、現在の状況ならば、ランスロットのランクAのスキルや宝具の力を借りることも不可能ではないだろう。

 雁夜さんには是非、【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】を使いこなしてもらい、対マスター戦で無双してもらいたいものだ。

 

「そういうわけで、これからバーサーカーを制御する訓練と並行して、分霊の力を引き出す訓練も行う予定だ」

 

 雁夜さんの声は自信満々であり、強化されたバーサーカーの召喚成功によって、かなり自信がついたと想像できる。

 一応忠告しといた方がいいだろうな。

 

「今の雁夜さんの魔術師としての才能と、この三年積み重ねてきた努力は、一流の魔術師にも劣らないでしょう。

 それは、召喚されたバーサーカーの強さが証明しています。

 ですが、僕と同じく修行期間が短いのも紛れもない事実です。

 時臣師やランサーのマスターであるケイネスは、幼少時から同様の訓練を行っています。

 才能や努力が同等ならば、後は修行期間の長さがものをいいます。

 それと、以前も言いましたけど、バーサーカーはサーヴァントの中でもトップクラスで扱いが難しいクラス、実質ハンデがついているようなものです。

 くれぐれも、そのことを忘れないでください」

「ああ、わかっているよ。

 俺の目的は、葵さんたちの為、時臣をフォローすることだ。

 俺が死ぬような無茶をするつもりはないよ」

 

 雁夜さんは冷静に判断しているように見えるから大丈夫かな?

 雁夜さんは結局ランスロットの分霊を降霊させるのが精一杯で、重ねて英霊エミヤの分霊を同時に卸すところは試すことすらできなかった。

 ……雁夜さんの魂の空間(ソウルスペース)に二人分の分霊を格納する許容量があるかどうかは不明だったけど。

 投影魔術と【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】の合わせ技は夢で終わってしまったなぁ。

 ほんと、残念だ。

 

「それよりも、君の方こそ大丈夫か?

 昨日プリンセスに概要を聞いたけど、あの二人のサーヴァント化に失敗して、その代わりに真凛ちゃんと真桜ちゃんがサーヴァント化したと聞いたぞ」

 

 雁夜さんの言葉からすると、英霊リンと反英霊サクラのサーヴァント(自意識なし)を召喚したことは内緒にしたのかな?

 とりあえず、こちらからは話さないほうがよさそうだな。

 

「ええ、とりあえず体に問題はなさそうなので、今は二人ともサーヴァントの体を使いこなす訓練中です。

 今はそれすらも満足にできない状態なので、しばらくは戦わずに隠れているつもりですよ」

「そうか。

 俺は時臣師に協力することを約束しているが、君への協力を惜しむつもりはない。

 他のサーヴァントに襲われるようなことがあれば、すぐに連絡をくれ」

「ありがとうございます。

 ないとは思いますけど、その時はお願いします」

「もちろんだ。

 じゃあ、気を付けてくれよ」

 

 雁夜さんは、やる気満々だな。

 頼りにできる同盟者が、実力をつけ、優秀なサーヴァントの召喚に成功したのはとても頼もしい。

 僕たちの方もがんばらないと。

 

 

 そういえば、この世界は僕の干渉によって、僕と雁夜さんの状況が大きく変わった。

 この世界のマスターを現時点の魔力量だけで比較すると、

 

真凛=真桜>ケイネス≧時臣師≧切嗣>雁夜さん≧僕>タマモ>綺礼>>ウェイバー

 

ってところかな?

 

 公式設定では、知名度補正×現地補正×マスターの魔力量による補正で、サーヴァントの強さが決まるらしい。

 原作の状況から推測すると、この世界のサーヴァントの状況は、次のような状態だと推測できる。

 

<知名度補正×現地補正×マスターの魔力量=総合的な補正>

         知名度×現地補正×マスターの魔力量=弱体化

・アルトリア  : 大 × 無  ×   大    = 微

・ギルガメッシュ: 中 × 無  ×   大    = 少

・ディルムッド : 少 × 無  ×   大    = 中

・イスカンダル : 大 × 無  ×   少    = 中

・リン     : 無 × 大  ×   最大   =中~少?

・サクラ    : 無 × 大  ×   最大   =中~少?

・ランスロット : 大 × 無  ×   中    = 少

・ハサン    : 少 × 無  ×   少    = 大

 

 こんな感じかな?

 リンとサクラが『マスターの魔力量最大』となっているのは、当然『真凛+タマモ』、『真桜+僕』というように二人もマスターがいるためだ。

 生前のパラメータは予想するしかないが、(リン、サクラ、ランスロット以外の)それぞれの原作におけるパラメータと上記の考察を比較すると、……うん、大体あっていそうだ。

 

 弱体化の程度だけで考えれば、アルトリアが有利か。

 もっとも、ギルガメッシュは持っている宝具が強いので、ステータスが多少弱体化しようと全然関係ないのが恐ろしいところで、原作において時臣師がギルガメッシュの召喚に成功した時点で『勝ったも同然』だと確信していたのも無理はない。

 

 僕が召喚したリンとサクラについては、未来の英霊の為、知名度補正なしの影響がどこまで大きいかが不安要素だな。

 もっとも、現地補正大だし、マスターが二人もいるから、それで多少は相殺しているんだろうけど。

 

 そんなことを考えつつメディア達の帰宅を待っていると、昼頃にいきなり目の前にメディアとメドゥーサが転移してきた。

 『今日は失敗したのか?』と呼びかけようとして、目の前に現れたものを見て僕は絶句してしまった。

 

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メディア

マスター   なし

属性     中立・悪

ステータス  筋力 E  魔力 E

       耐久 E  幸運 A

       敏捷 E  宝具 -

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【高速神言】:B

       【呪具作成】:C

宝具     なし

 

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メドゥーサ

 

マスター   なし

属性     混沌・善

ステータス  筋力 E  魔力 E

       耐久 E  幸運 A

       敏捷 E  宝具 -

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【魔眼】:A

       【怪力】:C

       【神性】:E-

       【対魔力】:C

       【騎乗】:B

宝具     なし

 

 

 そう、視界に表示されたのは二人分のサーヴァントのパラメータだったのだ。

 

 一体二人に何が起きたんだ?

 突っ込みどころが多すぎて、僕はちょっとしたパニックになってしまった。

 

 とりあえず質問が必要なのは、

・どうやってサーヴァントを召喚したのか?

・なんでアサシンになっているのか?

・なんでステータスは幸運以外全部ランクEなのか?

・なんで宝具が一つもなくて、スキルも減少&弱体化しているのか?

だよな。

 

 質問しようとした瞬間、メディアが一瞬で僕の目の前に移動し、僕が口を開く前にメディアが指示をしてきた。

 

「事情は後で説明するわ。

 いますぐ、私の言う通りに行動して、その後令呪を使って私に命じなさい」

 

 有無を言わさないメディアの言葉に、僕はコクコクと黙って頷くことしかできなかった。

 

 まず、サーヴァントのメディアとメドゥーサの二人と、僕は仮契約(パクティオー)を行うことでラインを接続した。

 これで、マスターなしの状態でも僕経由で魔力を受け取れるので、サーヴァントの二人が魔力切れで消滅する可能性は無くなった。

 ……もちろん、僕の魔力が足りる限り、という条件付きだが。

 さらに、魂の空間(ソウルスペース)内にいる二人の分霊が、今構築したばかりのラインを経由してそれぞれのサーヴァントと直接繋がったのが感じ取れた。

 

 その後すぐに、メディアが僕の右手を、メドゥーサが僕の左手を握ってきた。

 その感触を感じ取りながら、僕はメディアから伝えられた言葉をそのまま繰り返した。

 

「聖杯の誓約に従い、メディアとメドゥーサに対してマスターが命じる。

 僕の魂の空間(ソウルスペース)内に存在する己の分霊を取り込んで、自分の体と融合させろ」

 令呪で命じた瞬間、僕の魂の空間(ソウルスペース)からメディアとメドゥーサの分霊が出て行ったことが感じられた。

 そして、その分霊は目の前にいるサーヴァントのメディアとメドゥーサと融合し、次の瞬間、サーヴァント召喚時と同レベルの激しい光と風が巻き起こった。

 

 すぐに光と風は収まり、僕は状況を確認しようとしたが、すでに二人とも僕の傍にはいなかった。

 その時にはすでにメディアとメドゥーサは僕から離れ、真凛と真桜の前にいた。

 そして真凛と真桜は、ライン経由でメディアの指示を聞いていたらしく、すぐに呪文の詠唱を始めた。

 

「「告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。

 我に従え、ならばこの命運、汝が杖に預けよう!」」

 

 っておい、これは『サーヴァント召喚』、……じゃない。

 『サーヴァントとの再契約の呪文』じゃないか!

 

「「アサシンの名に懸けて誓いを受けましょう。

 貴女を我が主として認めます」」

 

 驚いている僕を置き去りにしたまま、真凛はメディアと、真桜はメドゥーサと手を触れ合わせ、再び激しい光と風が巻き起こった。

 慌てて二人のパラメータをチェックした僕は、さらなる驚きに襲われた。

 

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メディア

マスター   八神真凛

属性     中立・悪

ステータス  筋力 D  魔力 A++

       耐久 C  幸運 A

       敏捷 B  宝具 -

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【高速神言】:A

       【呪具作成】:B

       【騎乗】:A+

宝具     なし

 

 

<パラメータ>

クラス    アサシン

真名     メドゥーサ

マスター   八神真桜

属性     混沌・善

ステータス  筋力 B  魔力 B

       耐久 D  幸運 A

       敏捷 A  宝具 B

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【魔眼】:A+

       【怪力】:B

       【神性】:E-

       【対魔力】:B

       【騎乗】:A

       【海神の加護】:A

       【大地制御】:B

宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B

       【自己封印・暗黒神殿】:C-

 

 

 なんだろう、このさらに突っ込みどころ満載の状況は?

 ……とりあえず、本人に事情を確認するべきか。

 

「あの~、無事にマスターと契約はできたようですし、よければ細かい事情を教えてもらえませんか?」

「ええ、構わないわ」

 

 僕の質問に対して、メディアはこちらを振り向くと、自信満々で答えた。

 

「最初にしたことは簡単なことよ。

 私たちはここから出た後、アサシンの分体を二人捕獲して、彼らを生贄として私たち自身のサーヴァントを召喚したのよ」

「まさか!

 そんなことできるはずがないわ!!」

 

 真凛が驚きのあまり声を上げたが、僕も同感である。

 アサシンを生贄にしてサーヴァント召喚?

 何の冗談だ、それは。

 

「そうでもないのよ。

 第五次聖杯戦争のある時間軸において、臓硯は『マキリの蟲で佐々木小次郎を倒し、その体を苗床にしてハサンの召喚を成功させる』という離れ業を行ったわ」

「……つまり?」

「ええ、ユスティーツァの記憶を元に、私の魔術でその業を再現して、『アサシンの分体を生贄にすることで、サーヴァントの召喚を行った』のよ」

 

 ……いともあっさりと、なんてとんでもないことを言っているんだ!

 それに、臓硯がやったのは『一人しかいないアサシンを苗床に召喚』したのに対して、メディアは『最大で80人いるアサシンの分体の一人を生贄にして召喚』をやってみせたのか。

 ……本当にメディアって、(魔術の技量が)規格外の存在だよな。

 

「それで、メディア達のクラスがアサシンだったんですか。

 ……いや、でも、同じシステムを再現できたとしても、生贄とした分体のアサシンは、オリジナルの80分の1の霊力しか持っていないはず。

 等価交換の原則から言っても、それを生贄にして召喚したのなら、同じぐらい弱いか、とんでもなく不完全なサーヴァントしか召喚できないんじゃないですか?」

「ええ、その通りよ。

 おかげで召喚できたサーヴァントは、『ステータスは幸運以外最低ランク』で『宝具なし』。

 あるのは、『数も減り弱体化したスキル』と『アサシンのクラススキル』だけだったわ。

 あと、元々自意識を持たない状態のサーヴァントを召喚するつもりだったから問題なかったけど、あの召喚ではどうやってもまともな自意識を持ったサーヴァントは召喚できないわね」

 

 あー、そういえば、召喚されたばかりの(5次)ハサンも、クー・フーリンの心臓を食べるまでは明確な自意識があるような描写は少なかったな。

 

「……となると、『召喚した自意識のないサーヴァント』を乗っ取って、ここまで連れてきたんですか?」

「ええ、いくらサーヴァントといえども自意識がなければ、精神防御は完全に無防備よ。

 影の体で憑依して、体の制御権を奪うのは簡単だったわ」

 

 まあ、簡単なのは『メディアとメドゥーサが自分自身のサーヴァントに対して行った』からであり、僕が同じことを試しても絶対に成功しないのは予想できる。

 

「『最弱状態のアサシンクラスの二人のサーヴァント』を連れて帰ってきたことは、今の説明で理解できました。

 ……で、令呪を使うことで『分霊とサーヴァントの力』を引き出して、僕の魂の空間(ソウルスペース)から分霊を脱出させて、そのままサーヴァントと融合して、最後に真凛と真桜をマスターとして契約した、ってとこですか?」

 

 自分で言っていて、目眩がしそうな事のオンパレードだな、おい。

 令呪も使って色々したとはいえ、『最弱状態のサーヴァントを、ここまで一気にパワーアップさせた』なんて、こんなことがあっていいのか?

 ……さすがに、元々分霊が持っていた宝具しか持っていないみたいだけど。

 

「ええ、そうよ。

 オリジナルと同等レベルの力を持った分霊っである私たちが、貴方の魂の空間(ソウルスペース)の中にいたのよ。

 それがサーヴァントの体と融合して、さらに優秀なマスターとラインを結べば、当然サーヴァントの能力は向上するわ。

 もっとも、イレギュラーな処理だから、融合後も私たちが元々持っていたスキルや宝具しかないのが残念だけど」

「えっ、……てことは!?」

「ええ、私は宝具が一つもないし、メドゥーサは騎英の手綱(ベルレフォーン)がない状態。

 これを手に入れることはできないでしょうね。

 どうしても宝具が欲しければ、……真凛の【道具作成】スキルで、騎英の手綱(ベルレフォーン)などの幻想魔術具を作るしかないかしら?

 言っておくけど、短期間で作ることになる幻想魔術具でどこまで宝具の性能を再現できるかは、作ってみないと分からないわよ」

 

 そういうことだったのか!

 くそ~、宝具が揃えば多少の弱体化は問題なかったのになぁ。

 幻想魔術具も現時点ではどこまでオリジナルの性能を再現できるか不明だから、あまり期待できないし。

 

 

 って、そういえば。

 

「真凛と真桜と再契約したのは、……やっぱり、僕よりもマスターとしての素質が上回っていたからですか?」

「その通りよ。

 元々『魔術師として超一流の素質を持つ魔術師の遺伝子を使ったホムンクルス』だったのに、サーヴァントの体が融合して『ありえないぐらい優れた魔術師のサーヴァント』になっているのよ。

 当然の選択だわ。

 ……もしかして、貴方が契約したかった?」

「いえ、別に」

 

 悔しいのは事実だけど、メディア達が強い方が絶対にいいからな。

 

 しかし、これでキャスター二人にアサシン二人(実質、キャスターとライダーが一人ずつ)で、サーヴァントが計4人。

 魔力供給が可能なのが、僕、タマモ、真凛、真桜、凛ちゃん、桜ちゃん、滴ちゃんの7人だから、魔力不足による弱体化も起きにくいはず。

 怖いぐらい順調に戦力アップが続いているけど、……何か落とし穴とか罠とかないか?

 あまりにも順調すぎて、お調子者の僕でも怖くなってくるぞ。

 

 

 あっ、そうだ。

 メディア達がサーヴァントとなれ、僕の魂の空間(ソウルスペース)から脱出できたのはいいことだけど、

 

「僕の魂の空間(ソウルスペース)には分霊がいなくなったから、当然分霊からスキルを借りれなくなったよな。

 ……となると、スキルを借りてた僕たちが一気に弱体化してしまったか」

「ああ、そうですね。

 せっかく、スキルを借りる訓練と使いこなす訓練をずっとしてきたのに、全部無駄になってしまいました」

「それは痛いわね」

「残念ですけど、……メディアさんとメドゥーサさんの幸せには変えられませんから、仕方ありませんよ」

 

 タマモたちはメディアとメドゥーサのスキルが借りられなくなったが、それは仕方ないという態度だった。

 が、メディアの返答は予想外のものだった。

 

「何言っているの?

 もう一度私たちの分霊を降霊させればいいだけでしょ?」

「……いいんですか?」

「分霊を降霊して力を借りる程度のことに、いちいち文句をつけたりはしないわ。

 そんなことを気にしていたら、最終的には降霊術を使う全ての魔術師を殺さないといけなくなるし、そんな面倒なことはしないわ。

 ……ただし、自意識を持った分霊は必要ないわ。

 あくまでも、自意識がない普通の分霊を降霊しなさい」

「わかりました」

 

 確かに、自分の分霊の力を勝手に使われるのは面白くないだろうけど、降霊術がこの世に存在する以上今さら気にすることでもないか。

 いくら、メディアでも、この世界にいる全ての降霊術の魔術師を殺すとか、この世界で降霊術が使えないようにするのは不可能だろうし。

 

 

「今思いついたんですが、再度降霊した分霊と融合することで、さらにパワーアップはできませんかね?」

「……それは、どうかしらね?

 確かに今の私たちは、生前と比較すれば少し弱体化しているから、パワーアップできる余地があるのは間違いないわ。

 でも、最弱状態からここまで力を取り戻せたのは、『分霊と融合して霊力を回復した後に、真凛たちと契約を結んだ』からよ」

「つまり、さらに分霊と融合しただけではパワーアップにはつながらないわけですか?」

「その可能性が高いわね。

 今の私の体は『大聖杯が構築したサーヴァントの体』であり、分霊を元にして作られたけど分霊とは別の存在。

 分霊と融合することでスキルや魔術系宝具も増えて、不足していた霊力を補充できたわ。

 だけど、今はもう霊力は十分足りているから、さらに霊力を増やしたとしても能力向上には繋がらないわね」

 

 残念だ。

 となると、メディア達は生前と同じ能力を取り戻すことも、彼女たちの全ての宝具を取り戻すこともできないのか。

 

 真凛や真桜の方も、……多分あれ以上スキルや宝具は持っていないだろうから、分霊を降霊して分霊と融合させる意味はない、か。。

 

 

 ……ん?

 僕が、英霊リンや反英霊サクラの分霊を降霊して、二人の力を借りるって手もあったか。

 ……まあ、反英霊サクラを降霊するなんてどう考えても自殺行為だから、実行するつもりは欠片もないが。

 英霊リンの方も、【中国武術】は必要ないし、【魔法】はリン以外が使えるはずがないし、【魔術】も属性が違うから、……分霊を降霊する意味が全くないか。

 

 

 その後、僕が降霊術を実行したところ、『強力ではあっても自意識が無いメディアとメドゥーサの分霊』の再降霊に成功した。

 どうやら、僕の降霊術の腕前も向上していたらしい。

 ……もちろん、召喚の縁の品(人)として、サーヴァントになったメディアとメドゥーサを使ったのも効果があったのだろう。

 さっそく、タマモと真凛と真桜が試したところ、以前と同じく分霊からスキルを借りることができた。

 で、やっぱり僕の意志や技術では、分霊を魂の空間(ソウルスペース)から解放することはできなかった。

 ……その必要はないから別に構わないんだけど。

 

 ともかく、こうして無事にメディアとメドゥーサがサーヴァントになることができた。

 しかし、……やっぱり、(分霊が持っていなかった)宝具がないは痛い。

 破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)があればアルトリアを奪う事も可能だったし、騎英の手綱(ベルレフォーン)があれば最強クラスの必殺技になったのになぁ。

 ……本当に残念だ。

 

 

 そういえば、メディア達がサーヴァントになるため仕方がないこととはいえ、この時点でアサシンの分体を二体も狩ったわけだから、綺礼、そして綺礼から連絡を受けた時臣師はものすごく警戒レベルを上げたんだろうなぁ。

 ……まあ、メディア達がサーヴァントになれたのなら、対価としては安いものか。

 それにしても、分裂して最弱状態のアサシン相手とはいえ、『影の体で2体も捕獲して、救援が来る前に生贄にして再召喚を行ってここへ戻ってきた』のか。

 原作情報があったとはいえ、半端ない離れ業だよな。

 

 

「そういえば、気配遮断スキルを持つアサシンをどうやって見つけたんですか?

 あれを使われると、よほどのことをしない限り探知できないはずですが」

 

 アサシンは当然全員霊体化して見つからない状態で、遠坂邸や教会を防諜しているだろうし、本当に一体どうやったのだろう?

 

「簡単なことよ。

 『円』を使ってアサシンを見つけて、そのまま魔術で捕獲しただけよ。

 最弱状態だったから、捕縛するのも簡単だったわ」

「『円』ですか?

 ……ああ、そういえばそうでした。

 『円』は元々魔力を使って魔力展開範囲内の存在を探知するものでした。

 さすがのアサシンも探知されたわけですか?」

「正確には、教会の近辺で『円』を展開して、『円』の効果範囲内に探知できない人型の空間があったから、そこにアサシンがいるというのがわかっただけよ」

 

 ああ、なるほど。

 一帯全てを探知範囲内において、その中で結界でもないのに探知できない部分があれば、そこは気配遮断スキルを使ったアサシンがいるはず、ということか。

 『完全に気配を断てば発見することは不可能に近い』という効果を逆手に取った探知方法だな。

 『円』にそんな使い方があるとは思わなかった。

 

「しかし、選択の余地がないとはいえアサシンですか?」

 

 僕の言葉に、メドゥーサは反応を示さなかったが、メディアははっきりと顔を顰めた。

 

「私も気に入らないけど、仕方ないわ。

 可能ならクラスを変えたいところだけど、ユスティーツァの記憶にもサーヴァントのクラスを変える方法はなかったから、どうしようもないわね」

「やっぱり、サーヴァントのクラスチェンジはできないんですか?」

「あら、貴方もクラスチェンジを考えていたの?」

「ええ、雁夜さんが召喚したランスロットが予想以上に強かったので、セイバークラスに変えられればもっと強くなる可能性が高いと考えていたんです」

 

 バーサーカーの狂化によるパワーアップは暴走というリスクが大きい。

 それよりは、『理性を奪われることが無く、対魔力や騎乗スキルを持ったセイバークラス』の方がよっぽど強くなると思う。

 

「気持ちはわかるけど、令呪を三画使っても無理でしょうね。

 クラスチェンジは諦めて、バーサーカーをうまく運用する方法を考えた方が建設的よ」

「……わかりました。

 そうします」

 

 クラスチェンジのことは諦めるとして、メディアには他にも聞きたいことがあった。

 

「それにしても、よく臓硯の裏技を再現できましたね」

「私たちを舐めないでほしいわね。

 仮にも、大聖杯のユスティーツァの記憶を手に入れたのよ。

 つまり、ユスティーツァが記憶していた『聖杯戦争に使われた聖杯御三家の秘術』は全て入手済みよ。

 それを元に研究したことで、貴方が記憶していた『聖杯戦争の裏技』は、私の魔術で再現することは可能なのよ。

 

 なんだと!

 それはすごい。

 というか、すごすぎる。

 このことを知ったら、『聖杯御三家が即座に同盟を組んで、僕たちを一人残らず殺しに来てもおかしくない』ぐらい恐ろしい事実だ。

 ……まあ、臓硯は行方不明だし、時臣師も『弟子のしたこと』ということで交渉次第では黙認にしてくれる、はずだから、本当に怖いのはアインツベルンだけだけど。

 

 

 ちなみに、メディアが言った『僕が知っている聖杯戦争の裏技や強化策』などは次の通り。

 

<聖杯戦争の裏技>

1.エーデルフェルトは、双子の姉妹で参加し、善悪両方の側面から同一クラスでサーヴァント(セイバー?)を二体召喚した。

2.アインツベルンは、8番目のクラス『アヴェンジャー』でサーヴァントを召喚した。

3.ケイネスは、魔力のレイラインの接続先と令呪の持ち主をそれぞれ別の人物に分けた。

4.キャスター(メディア)は、サーヴァントでありながらサーヴァント(アサシン)を召喚した。

5.言峰綺礼は、ランサーのマスターから令呪を奪って、サーヴァント(ランサー)に対して令呪で主替えを同意させた。

6.間桐桜は、偽臣の書を令呪で作り出して、マスター権限を譲った。

7.間桐臓硯は、アサシン(佐々木小次郎)を殺し、彼の体を使って真アサシンを召喚した。(この際、臓硯が令呪を持っていたか不明)

 

<聖杯戦争におけるサーヴァントの強化策>

1.遠坂凛が(キャスターが死んでマスターなしの状態になった)アルトリアと契約して、アルトリアはパワーアップ(未熟なマスターが原因だった弱体化の解消)。

2.ハサンは【自己改造】スキルを使うためクー・フーリンの心臓を食べ、彼の戦闘力を己の物とし、さらに高い知性を手に入れた。

  ((5次)ハサンとクー・フーリンは、宝具以外の全てのパラメータが一致している)

 

 

 間桐臓硯は裏技の「7」でハサンを召喚し、強化策の「2」でハサンのパワーアップを行った。

 同様にこの世界のメディアとメドゥーサは、アサシンの分体を生贄にすることで『最弱状態かつ自意識が無い状態のメディアとメドゥーサのサーヴァント召喚』(裏技の「4」と「7」の組み合わせ)を行い、『強大な力を持つ分霊とサーヴァントを融合させること』と『優秀なマスター(真凛と真桜)と再契約すること』(強化策の「1」)の合わせ技で、第五次聖杯戦争とほぼ同等の能力を手に入れた、ということか。

 

 一つ一つの要素を考えれば、メディアとメドゥーサなら実現してもおかしくないとは思う。

 だけど、それをまとめてやったことで、『自意識を持った分霊』が『強力なサーヴァント』に成り上がってしまった、というのはマジでありえない。

 裏技やらルール違反の常習犯である聖杯御三家も、このことを知ったら絶叫、下手すれば発狂するんじゃないか?

 メディアのチートぶりをずっと見てきた僕でさえ、信じられないことだしなぁ。

 

 

「って、もしかして、……今回と同様にアサシンの分体を捕獲すれば、他のサーヴァントも召喚できるんですか?」

「サーヴァント召喚だけならできるわよ。

 ただし、『縁の品か分霊が必要』なのと、『召喚したサーヴァントは、アサシンのクラススキルと一部の劣化スキルを持っているだけ』よ。

 おまけに、自我がほとんどないから、『命令された通りにしか動けないただの人形』でしかないわよ」

 

 僕の思い付きに対するメディアの回答は、全くもって容赦がなかった。

 たしかに、今回は『自意識持ちの強力な分霊』という非常識な存在がサーヴァントと融合したからこそ、これだけの強さと自意識を手に入れることができたんだった。

 『自意識持ちの強力な分霊』がいなければ、(最弱状態の)他のサーヴァントを召喚する意味が全くない。

 

 『自意識持ちの分霊召喚』も、令呪を使った上偶然成功したようなものだし、再度成功させる自信は全くない。

 ……諦めるのが賢明か。

 

 『クー・フーリンが使用した戦車の一部』と『衛宮士郎の髪の毛』、それと『柳洞寺の山門』という縁の品があるから、『この方法を使って、クー・フーリンと英霊エミヤ、それと佐々木小次郎なら召喚できるかも?』とか思っていたけど、甘すぎる考えだったか。

 

 

「それと、意志がないとはいえ、私の分霊がいる貴方の魂の空間(ソウルスペース)内に、男の英霊たちを同居させることは絶対に許せないわ。

 どうしても降霊したのなら、女性の英霊だけを召喚しなさい」

 

 えっ!?

 いつの間にか、僕が降霊していい存在は『女性限定』が決定済みだったのか?

「そうね、私が可愛いと認める少女なら好きに降霊して構わないわよ」

「それは、……例えば、アルトリアとか、ジャンヌとか?」

「ええ、それはいい考えね。

 特にジャンヌは、神を信じ、最後まで国のために尽くしてきたのに、必要がなくなったらすぐに裏切られた挙げ句、哀れな最期だったようだし。

 彼女なら文句はないわ」

「メドゥーサの意見はどうですか?」

「私は別にありません。

 桜や真桜に悪影響を及ぼすことが無ければ誰でも……いえ、ペルセウス以外なら誰でも結構です。

 まあ、メディアの意見に従うのならば、男の英霊は降霊しないのでしょうが」

 

 まあ、そうなるだろうな。

 メディアも、イアソンなんて二度と顔も見たくないだろうし。

 

 しかしそうなると、『メディアの分霊が僕の魂の空間にいる限り、降霊できる英霊は絶対に女性英霊のみ』となるのか。

 それも『メディアが可愛いと認める英霊』以外は全て許可制。

 美少女英霊って、ジャンヌとアルトリア以外だと、赤セイバーとか、実在するか不明のアチャ子(イリヤ)ぐらいか?

 女性の英霊という範囲でも、原作キャラ以外ではほとんど思いつけない。

 『女性の英霊のみ許可』って、無茶苦茶制限が厳しいじゃないか。

 まあ、英霊って基本男がなるものだから、女性の英霊が少ないのは当然ではあるんだけど。

 

 

 ……ああ、キャス孤もいたか。

 ここにも、キャス狐もどきならいるけど。

 しかし、

 

「キャス孤は召喚できないしなぁ」

「何を言っているのですか?

 確かに、玉藻御前様は神様の分霊なので、冬木の聖杯戦争でサーヴァントとして呼ぶことはできないでしょう。

 ですが、降霊術ならば、古来より『神降し』の言葉もあるように、神様の分霊を降霊することも可能なのですよ。

 ……実際に降霊できるかどうかは別問題ですが」

「それ、いいわね」

 

 うぉっ、僕の独り言に、タマモだけでなくメディアまで食いついてきた。

 

「玉藻御前なら、狐を多分タマモを縁の存在にして降霊術を使えば、降霊できる可能性はあると思います。

 ですが、僕の魂の空間(ソウルスペース)はかなり広いようですけど、すでに二人の英霊で埋まっているんですよ?

 分霊とはいえ神様が入る余裕はありますか?」

「私の見たところ、最低でもサーヴァント一人分ぐらいの余裕はあるわ。

 キャス狐のイメージで召喚すれば、それぐらいで収まるでしょう。

 万が一何かあったら私が全力でフォローするから、さっさとしなさい」

 

 なんかメディアのテンションが高いぞ。

 あるいは、自分が解放されたから、安心して無理難題を言っているのか?

 こりゃ、断るのは難しそうだな。

 それに、もし本当にキャス狐の分霊の召喚に成功すれば、タマモがその力を借りられる可能性は高そうだ。

 しかし、この時期にわざわざそんなリスクを背負う必要はあるのか?

 

「……仕方ないわね。

 玉藻御前の降霊は保留でいいわ」

「わかりました」

 

 悩みまくる僕を見て、脈がないと悟ったのかメディアの方から保留を言ってきてくれた。

 よかった。

 いくら僕でも、必要性が少ないのに神霊の降霊をする気にはなれない。

 リスクが怖すぎる。

 メディアには逆らえないから、保留にしてくれて本当に助かった。

 

 

「そうそう、今までは順調なことばかりだったけど、予定通り行かないこともあるわよ。

 例の、貴方から依頼されていた大聖杯からの魔力供給だけど……」

「えっ、まさか?」

「ええ、大聖杯を使ってルール違反をするマスターやサーヴァントがいることを想定していたみたいで、かなり面倒なプロテクトが掛かっていたわ。

 時間を掛ければプロテクトを解除することも可能だけど、今の時点で下手に手を出すと大聖杯のシステムがおかしくなる可能性が高いわ」

「え~と、そういうことも想定して準備をしていたのでは?

 それに、ユスティーツァの記憶に解決策はなかったんですか?」

 

 この時点でそんなことを言われると、すごく困ってしまうのだが。

 一体何があったんだ?

 

「どうも、後から対策を付け加えたらしくて、ユスティーツァの記憶にはプロテクトの情報は無かったわ。

 元々御三家の誰かが裏切ることを防ぐために、御三家が協力して対策を施したんでしょうね。

 少なくとも、私が読み取れる範囲では、プロテクトに関わる情報は無かったわ」

 

 あ~、なるほど。

 裏技やら謀略やらやりたい放題の聖杯御三家だから、『大聖杯から魔力を不正に受け取ること』も想定の範囲内だったわけか。

 サーヴァントを7体、今回と前回は8体(メディアとメドゥーサはイレギュラーなので除外)召喚して、マスターに令呪を与えた時点で、残る魔力は『聖杯戦争が終わるまでにサーヴァントへ供給する魔力+α』ぐらいしかないはず。

 その魔力を一人のサーヴァントが奪ってしまえば、残るサーヴァントは初期保有魔力とマスターから供給される魔力だけで戦わなくてはいけない。

 当然、大聖杯から魔力を奪ったサーヴァントが圧倒的に有利になる。

 その対策をしておくのは当然だったか。

 

「所詮、聖杯御三家が手を組んだとしても、この時代の魔術である以上、私に解析できないものはないけど、……さすがに聖杯戦争が終わるまでに解析を終える自信はないわ」

「それなら仕方ないですね。

 無駄になるとデメリットが多いので、他の作業にその時間を使ってください」

「そのつもりよ」

 

 こうして、原作では何もなかったはずの聖杯戦争二日目において、『メディアとメドゥーサのサーヴァント化』という、僕にとっても完全に予想外のことが起きた。

 というか、メディア達が起こしてしまった。

 

 そういえば、サーヴァント化の際にアサシンの分体を二体倒しているわけだから、事実上これが『聖杯戦争の開幕戦』になるわけか。

 戦いっていうよりは、開幕を告げる儀式みたいなものだったな。

 少なくとも時臣師陣営は、『内緒にしていたはずの複数体いるアサシンの存在がバレた挙句に、分体が二体も殺されてしまった』んだから、今頃ものすごく焦っているんだろうなぁ。

 

 これで第四次聖杯戦争も、完全に原作崩壊状態になったな。

 

 僕の陣営はサーヴァントが4人もいてそれだけ聞けば心強いけど、いるのはキャスター二人とアサシン二人(実質はライダーとキャスター)。

 つまり、後衛3人と遊撃1人とものすごく偏った戦力である。

 おまけに真凛と真桜は『体を使いこなすところから訓練中』だし、メディアは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)という唯一の宝具が、メドゥーサは騎英の手綱(ベルレフォーン)という切り札の宝具がないというそれぞれ不安材料がある状態。

 やっぱり、できるだけ搦め手で攻めるべきなんだろうなぁ。

 

 はてさて、これからどうなることやら。

 




 ご覧の通り、またまたとんでもないことが起きました。
 私なりに考察して、『八神家の降霊術』+『メディアの魔術』+『ユスティーツァの記憶』+『原作知識』があれば可能ではないか? と考えました。

 これで、聖杯戦争に参加するメンバーが大体揃いました。
 原作崩壊が確定し、今後の展開はすごいことになる予定です。


【聖杯戦争の進行状況】
・ケイネス、ソラウ、衛宮切嗣、アイリスフィール、舞弥、アルトリア以外は冬木市入りを確認
・サーヴァント10人召喚済み(キャスター2人、アサシン3人)
・アサシンの分体(最大80体)のうち、2体死亡確認(生贄:2体)


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【設定】

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    アサシン
真名     メディア
マスター   八神真凛
属性     中立・悪
ステータス  筋力 D  魔力 A++
       耐久 C  幸運 A
       敏捷 B  宝具 -
クラス別能力 【気配遮断】:A+
保有スキル  【高速神言】:A
       【呪具作成】:B
       【騎乗】:A+
宝具     なし
備考
 八神遼平の魂の空間ソウルスペースにいた分霊と融合済み

<パラメータ>
クラス    アサシン
真名     メドゥーサ
マスター   八神真桜
属性     混沌・善
ステータス  筋力 B  魔力 B
       耐久 D  幸運 A
       敏捷 A  宝具 B
クラス別能力 【気配遮断】:A+
保有スキル  【魔眼】:A+
       【怪力】:B
       【神性】:E-
       【対魔力】:B
       【騎乗】:A
       【海神の加護】:A
       【大地制御】:B
宝具     【他者封印・鮮血神殿】:B
       【自己封印・暗黒神殿】:C-
備考
 八神遼平の魂の空間ソウルスペースにいた分霊と融合済み

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    バーサーカー
真名     ランスロット
マスター   間桐雁夜
属性     秩序・狂
ステータス  筋力 A(A+)  魔力 B
       耐久 B(A)   幸運 A
       敏捷 A+(A++) 宝具 A++
クラス別能力 【狂化】:C
保有スキル  【対魔力】:E
       【精霊の加護】:A
       【無窮の武練】:A+
       【勇猛】:A
       【心眼(真)】:D
宝具     【騎士は徒手にて死せず】:A++
       【己が栄光の為でなく】:B
       【無毀なる湖光】:A++
備考
 魔術回路を全部開いた間桐雁夜がマスターのため、原作よりもパワーアップしてスキルも増えている。
 ただし、狂化によって【対魔力】と【心眼(真)】はランクダウンしており、【勇猛】は効果を発揮できない。


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第21話 バタフライ効果(聖杯戦争四日目)

 聖杯戦争の三日目は、何事もなく平穏な一日だった。

 

 そして夜になり、いつも通り眠りについて精神世界で覚醒した後、僕はタマモと一緒に魔術の勉強をしていた。

 真凛、真桜の二人は『サーヴァントの体を使いこなす訓練』を今日もずっと行っている。

 そして、その訓練はメディアとメドゥーサが手伝っているので、今日もこの精神世界は二人っきりである。

 二人きりだからとタマモは思いっきり甘えてきたので、狐モードのタマモの頭とか尻尾をなでたり、タマモの体にもたれかかったりしながら僕は勉強を続けていた。

 

 

 勉強を始めてから数時間後、日付が変わって少し経った後、いきなりメディア達が僕の前に現れた。

 

「一体何が起きたんだ?

 舞弥でも発見したのか?

 それとも、もしかしてアルトリアたちがもう冬木市に来たのか?」

「アルトリアとアイリスフィールは美少女と美女のコンビで目立ちますから、発見しやすかったのかもしれませんね」

 

 僕とタマモはそんな呑気な予想をしていたのだが、メディアの回答はとんでもないものだった。

 

「現在遠坂邸に向かって、綺礼から命令を受けたアサシンの一人が移動しているわ。

 多分、例の茶番を始めるつもりよ。

 貴方もリアルタイムで見たいでしょうし、イレギュラーな事態に備えるためにも、全員ここで状況を確認することになったわ」

「ホント?

 ……何でこんなに早まったんだ?」

「メディアさんの行動が原因じゃないですか?

 アサシンの分体を二人も殺されたら、そりゃ時臣師も焦りますよ」

 

 タマモの指摘にメディアは苦笑しながら答えた。

 

「多分そうでしょうね。

 ……っと、そのことは後で話しましょう。

 そろそろ始まるわよ」

 

 慌てて『すでに遠坂邸を表示しているディスプレイ』を見ると、アサシンが遠坂邸の庭へ飛び込んでいくところだった。

 それを見て、僕もまた影を遠坂邸へ飛ばした。

 アサシンは、結界を構築する宝石を礫で連続で破壊し、アサシンダンスと呼ばれた華麗(笑)な動きで動的な結界を躱して、ついに結界の要となる宝石のところへ辿りついた。

 そして、その宝石へアサシンが手を伸ばしたところで、……その手を槍が貫いた。

 

 遠坂邸の屋根を見ると、そこには神々しい姿のギルガメッシュが立ちはだかっていた。

 さすがは、リアルギルガメッシュ。

 使い魔経由の映像でも、その迫力と威厳、残酷さ、ついでに慢心が伝わってくる気がする。

 ギルガメッシュの背後には、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から出現した宝具の原典の数が続々と増えていき、ギルガメッシュの威容がますます高まっている。

 ああ、確かにこんなのをいきなり見せられたら、絶望のどん底に落とされても仕方ないか。

 

「地を這う虫けら風情が、誰の許しを得て面を上げる?」

 

 ギルガメッシュはアサシンを見下ろしながら、冷酷な声で問いただした。

 問いただしておきながら、ギルガメッシュはアサシンの答えを待つことなく攻撃を開始した。

 次の瞬間、背後の宝具の原典群は恐るべき速度でアサシンへ向かって投射され、その爆撃とでもいうべき攻撃により、アサシンはギルガメッシュを見上げることしかできずに殺された。

 始めに剣で頭を割られたところまでは見えたが、あとは舞い上がった粉塵によって全てを覆いつくしてしまった。

 正直、『戦闘』よりも『処刑』と呼ぶのが一番相応しいと思ってしまったぐらいの圧倒的な戦力差だった。

 

「貴様は我を見るに能わぬ。

 虫けらは虫らしく、地だけを眺めながら死ね」

 

 最後にギルガメッシュが、慈悲の欠片もない台詞を投げかけ、そのまま霊体化して姿を消した。

 こうして、全く戦いにならないまま、聖杯戦争の第二戦は終了した。

 ……まあ、他のマスターたちにとっては、これが『初めて確認したサーヴァント同士の戦闘』だから、公式にはこれが開幕戦になるのかもしれない。

 

「あれが、ギルガメッシュですか。

 実物を見たのは初めてですが、……なるほど、あれではまともに戦って勝てる可能性があるのは、アルトリアかエミヤぐらいでしょうね。

 正気を失ったヘラクレスでは勝てなかったのも当然ですね」

「あれっ?

 メドゥーサって、第五次聖杯戦争でギルガメッシュに会ったことなかった?」

「はい、偶然ですが、私がギルガメッシュと会った記憶はありません。

 セイバールートと凛ルートの世界ではギルガメッシュが登場する前に私が倒され、桜ルートの世界ではギルガメッシュが桜に殺されていましたので」

 

 ……そういえばそうだったか。

 確かに、バトルロワイヤルの上、ギルガメッシュは終盤まで出てこなかった(&出てきた直後に桜に殺された)わけだから、最後まで会わないで終わってしまうサーヴァントがいてもおかしくなかったか。

 

 メディアは『原作でメディアがギルガメッシュに殺されたシーン』を思い出したのか、顔を顰めたが何も言わないでいた。

 

「結局このイベントは、起きた時間以外は完全に原作通りですよね。

 お父様は一体何で予定を早めたんでしょうか?」

「……一番簡単に思いつく理由は、青髭が召喚された日よりも早く、私たちがサーヴァント化したせいでしょうね」

 

 真桜の疑問に対して、真凛が自分の考えを教えていた。

 ……ああ、言われてみればそうだった。

 

「原作世界の第四次聖杯戦争において、最後に召喚されたサーヴァントはキャスターの青髭。

 でもこの世界では、すでにキャスターとして私たちが召喚済みでしょ?

 他のサーヴァントも原作通り召喚されていれば、まだ召喚されていない可能性があるのはランサーのみ。

 最後のサーヴァントであるランサーの召喚が確認されたから、予定通りこの茶番を実行したんじゃないかしら?」

「なるほど、そうだったんですか。

 お父様が実行を早めたわけではなくて、『サーヴァントの7クラス召喚が早まったこと』が原因だったんですね」

「普通に考えればその通りね」

 

 真凛と真桜は『サーヴァントの7クラス召喚の前倒し説』で納得していたが、メディアが認識の誤りを指摘してきた。

 

「残念だけどその可能性は少ないわね。

 ケイネスとソラウの二人については、昨日の朝にハイアットホテルに入って以来ずっと盗聴と監視をしているけど、現時点ではランサーの姿はもちろん、声も一切確認されていないわ。

 もちろん、ケイネスやソラウがランサーに対して話しかける様子もないし、二人の会話から判断するとまだ召喚前みたいね。

 当然教会、ひいては時臣もランサーが召喚されていないことは知っているでしょう。

 ……となると、『どうしても急がなければいけない事情』が時臣陣営で発生して、慌てて茶番を実行したという可能性が高いわね」

 

 そう、ハイアットホテル最上階に対する窓の外からの監視、ならびに最上階に設置した盗聴器は正常に動作しており、ケイネスたちの動向は完全に僕たちに筒抜けになっている。

 だから、メディアの分析はかなり精度が高いと考えている。

 

「それと、遠坂邸を監視していた使い魔は、私の使い魔と貴方の影を除くと、計4体いたわよ」

「え~と、ということは、雁夜さん、切嗣……じゃなくて舞弥、ケイネス、ウェイバーの使い魔がいたわけですね」

「ええ、そうね。

 それと、ウェイバーはマッケンジー邸から動く様子はないわ。

 ……この辺は原作と同じ展開みたいね」

 

 『メディアによる使い魔の監視網』と『事前に準備した監視カメラと盗聴器』によって、ケイネス以外にもウェイバーの動向も完全に把握している。

 つまり、やろうと思えば、『サーヴァント召喚前にウェイバーやケイネスを襲って令呪を奪う事』も可能だっただろう。

 半人前のウェイバーはもちろんだが、たかが『超一流の魔術師』が今のメディアやメドゥーサを相手にした場合、勝つことおろか、逃げることすら不可能なのは言うまでもない。

 しかし、メディアの目的は『時臣師の半殺し』と『(生きていて、かつ冬木市にいれば)臓硯の抹殺』である。

 他のマスターやサーヴァントについては、『喧嘩を売ってきたら100倍返し』といったところだろう。

 ゆえに、『将来の敵』ではあるが、現時点では一切こちらと関わりのないウェイバーとケイネスについては、情報収集以外は一切何もしていない。

 

 原作では、第五次聖杯戦争において『令呪を手に入れたがサーヴァント召喚前の魔術師』をメディアが発見&抹殺して令呪を奪ったらしい。

 だが、原作のメディアは『葛木の為に全力を尽くし、手段を全く選ばず聖杯を求めた神代の魔術師』であり、この世界のメディアとは別人と言っていいほどスタンスが違う。

 今のメディアなら、『火の粉が掛からない限りは無闇に人を殺さない』と思う。

 メドゥーサの方は、何度も言ったが『桜、真桜、滴の安全と幸せを優先する』という態度であり、それに影響を及ぼす恐れがない限り、ウェイバーとケイネスについては放置でも特に気にしていないようだった。

 この二人は一般人を巻き込むことをよしとしない魔術師だから、よほどのことがないかぎり、桜と滴の危険性を上げるようなことはしないとは思うけど。

 

 正直に言えば、ウェイバーやケイネスから令呪を奪わなかった理由には、『サーヴァントへの魔力供給量が追いつかないから、これ以上サーヴァントが増えても戦力アップにはつながらない』という切実な理由もあった。

 なにせ、僕たちの陣営には、すでにサーヴァントが4人もいるのだ。

 そのうち二人が『受肉状態の為、自力で魔力回復が可能』とはいえ、これ以上サーヴァントを増やすのは現実的ではない。

 『サーヴァントを召喚した直後に令呪を使ってサーヴァントを自害させて、敵となるサーヴァントの数を減らす』という方法もないわけではないが、『さすがにそれは自害させられるサーヴァントが哀れ過ぎる』という意見が多く、実行には移されなかった。

 『こっちが手を出さなくても、勝手に潰しあってくれる』という予測もあるし。

 

 通常のマスターとサーヴァントは『聖杯戦争期間中に他の6人のサーヴァントを倒さなくて聖杯が手に入らない』という時間の制約があるから、どうしても焦りがあるし、積極的に行動に出る傾向が高い。

 しかし、僕たちは原作情報というチート知識を持っているので、『アンリ・マユに汚染された聖杯はいらない』と全員考えている。

 ……まあ、メディアは『大聖杯を構築したシステムを全て解析したい』とは思っているみたいだけど、『小聖杯はいらない』とはっきりと言っている。

 そのため、無差別殺人や大規模破壊事件が起きない限りは、聖杯戦争を放置していても問題は無く、聖杯が完成しないまま聖杯戦争が終わっても全く問題はないどころか、『アンリ・マユ復活阻止』の目的からすると喜ばしい状況となる。

 さらに、柳洞寺の地下の大空洞という見つかりにくい拠点を構築済みである僕たちは、ひたすら穴熊を決め込むのもありである。

 もちろん聖杯戦争の終盤には、アンリ・マユが復活しないように何らかの対処をする必要があるんだろうけど。

 

 つまり、僕たちの陣営は取れる選択肢が多く、準備にも多くの時間を費やしてきたから、サーヴァントが4人いることを除いても『戦略的に有利』だと言えるだろう。

 『戦術面ではギルガメッシュを擁する遠坂陣営が圧倒的に有利』なのは間違いないから、油断なんてできようもないけど。

 

 

 それにしても、メディアが予想した『時臣陣営の何か急がなければいけない事情』が一体何だったのか、ものすごく気になる。

 メディアがアサシンの分体を襲ってから、もう丸一日以上経っている。

 よって、それが急ぐ原因にしては対応が遅すぎる。

 かといって、他に思い当る要素はないし、他のマスターやサーヴァントもまだ遠坂邸や教会にはちょっかいを掛けていないはずだ。

 僕たちの監視でも、それらしいものは見えなかったし。

 ギルガメッシュもさっきアサシンを蹂躙していたわけで、異常や問題があるとは考えられない。

 ……残った可能性は、『アサシンに何か異常が発生した』ぐらいしか思いつかないが、……一体何が起きたんだ?

 『アサシンの多重人格が仲間割れを起こした』とか、『アサシンの分体の一部が勝手に離脱してどこかへ逃げてしまった』とか、そんなとんでもないトラブルが起きてしまったのだろうか?

 

「もしかして、アサシンの分体を生贄にしたときに、何か呪いとか掛けましたか?」

「いいえ、サーヴァント召喚に集中していたからそんな余計なことはしていないわ。

 ……なるほど、『急がなければいけない事情』がアサシンの身に起きたと推測して、原因が私かもしれないと考えたのね」

「ええ、そうです。

 メディアなら、それぐらいできてもおかしくないと思うので」

 

 実際メディアならサーヴァント、それも分体となって弱体化したアサシン相手なら、呪いをかけるのも可能だと僕は確信している。

 僕がそう言うと、メディアは少し考え込んだ後、何か思いついたのか面白そうな顔をした。

 

「確かに、私はアサシンの分体を生贄にしただけよ。

 でも、その情報が他のアサシンや綺礼に伝わった可能性は十分あるわね」

「それって、『自分を生贄にしてサーヴァントが召喚されている』ってことが伝わっちゃったんですか!?」

 

 タマモが驚いて叫んでしまったが、驚いたのは僕も同じだ。

 この時点で『メディアとメドゥーサがサーヴァント化した』のが時臣陣営にばれると思いっきり警戒されて、面倒なことになるのは間違いない。

 『アサシンの分体による集団攻撃』も面倒だけど、『ギルガメッシュの出陣』なんてあれば、僕たちにできるのは逃げることだけだ。

 ……そう簡単にこの拠点が見つかるとは思っていないけどね。

 

「それはないわ。

 ただ、『生贄にされて自分が消えていく状態』について、『何かに吸収されていく』と感じて、それを報告していた可能性はあるわね」

「つまり、お父様と綺礼からすると、『気配遮断を使っていたアサシンの分体が、何故か誰かに見つかった挙句に拘束され、『何かに吸収されていく』と報告した直後に消滅した』という状況が二回もあったわけね」

「……まるで、あの世界の私に捕まったサーヴァントの最期みたいですね」

「そうね。普通に考えれば、『吸収される』=『魂食いをされる』と判断するわよね」

 

 メディアの推測に、真凛が時臣師の情報を予測したところ、真桜がとんでもない発言をしてきた。

 ……が、確かに考えてみれば、『黒桜がサーヴァントを捕獲&吸収した状況』によく似ているとしかいいようがない。

 

「となると時臣師陣営は、消えたアサシンから受け取った情報を元に推理すると

『アサシンの【気配遮断】スキルを無効化できる探知系のスキル or 宝具を持ったサーヴァントがいて、さらにそのサーヴァントは【魂食い】に類するスキルも持っていて、アサシンの分体を捕獲&吸収した可能性が高い』

ってことになりますか?」

 

 自分で予想しておきながら、とんでもないサーヴァントの予想像が出てきてしまった。

 いや、まあ、その予想像が『探知系スキルを持った黒桜』でしかないことに気付いて、僕自身もちょっと驚いてしまったわけだが。

 実際は、メディアが『魔力操作の『円』でアサシンを発見し、アサシンを生贄にしてサーヴァントの召喚を成功させた』だけだが、……良く考えると、僕が考えた『【気配遮断】スキルを無効化できる探知系スキル or 宝具と【魂食い】スキルを持っている謎のサーヴァント』と大差ない規格外なサーヴァントであることには違いはないか。

 

「多分、時臣たちは似たような想像をしたんじゃないかしら?

 人間の魂食いをすれば、サーヴァントは魔力の補充が可能。

 それが『最弱とはいえサーヴァントと呼べるだけの力を持っているアサシンの分体』の魂食いが可能ならば、当然回復できる魔力量は人間とは比較にならない。

 謎のサーヴァントに時間を与えれば与えるほど、アサシンの分体の数は減り、分体の魂食いによって謎のサーヴァントを強化する結果となる。

 この状態で少しでも自分に有利な状況にするため、茶番の実行を早めて、少しでも早く聖杯戦争の戦闘を起こさせて、アサシンの分体が全滅する前に謎のサーヴァントとそのマスターを見つけようとしているんじゃないかしら?」

 

「「「「なるほど!!」」」」

 

 メディアの見事な推理に、僕たちは感嘆の声を上げた。

 確かにそれなら納得できる。

 

「それと、貴方は時臣師と最後に連絡を取った時に、『メディアとメドゥーサ、あるいは二人のメディアを召喚するつもりです』って言っていたから、多分貴方のことは疑っていないでしょうね」

「そうですか?」

「ええ。悔しいけど【気配遮断】スキルを使われると、事前に強力な結界を張っている場所でないかぎり、魔術でアサシンを見つけることは不可能よ。

 そうなれば、魔術師である私ではアサシンを見つけることは不可能、……本来ならね。

 時臣も同じことを考えているでしょう。

 メドゥーサも魔眼は持っていても探知系の魔眼ではないし、私と同じく探知系の能力や宝具を持っているような伝承もないから、雁夜のランスロットと一緒に、私たちは探索対象外になっているでしょうね」

 

 なるほどね~。

 時臣師もここまでメディアがチートなことができるとは、完全に想定外だったわけか。

 ……まあ、実は『1年以上も前に自意識をもったメディアとメドゥーサの分霊が降霊済み』で、『ずっと大聖杯を調査した結果、ユスティーツァの記憶を読み取り済み』で、『僕が提供した原作情報を組み合わせることで、御三家しか使いないはずの聖杯戦争の裏技まで使用可能』になり、とどめに『僕が発案したネタ技を使うことでアサシンすら探知可能になった』なんて、予知能力者か、読心術者か、あるいは『僕の状況を完全に監視していた人』でもない限り、気づきようがないから無理もないんだけどね。

 ……つまり、『僕が自意識を持ったメディアとメドゥーサの分霊を召喚しておきながら、それを内緒にしていたこと』が全ての原因か。

 ちょっと、悪いことしたかな?

 

 

「そういえば、『アサシンの分体を生贄にしてサーヴァントの召喚を行った』わけですけど、他にも何かに応用って可能ですか?」

「つまり、さっき言った『魂食い』をアサシンの分体に対して私が実行しろってことかしら?」

 

 ちょっとした思いつきを伝えただけだったが、その回答は恐ろしく冷たかった。

 

「いや、強制するつもりは全く、全くありません。

 ……ただちょっと気に成ったから、技術的に可能か確認したかっただけです」

「そう、それならいいわ。

 言っておくけど、技術的に可能だとしても、あんな存在を吸収するなんて考えたくもないわ」

「同感ですね。

 とはいえ、アサシンなどは論外ですが、……アルトリアならぜひ血を吸いたいですね。

 彼女の血なら、とても甘美で魔力もたっぷりあるでしょう」

 

 珍しく願望を露わにしたメドゥーサだったが、真凛やタマモはちょっと引いていた。

 メディアと真桜は全然気にしていなかったけど。

 そういえば、メドゥーサって吸血種だったっけな。

 分霊のときは吸血できなかったら、すっかり忘れていた。

 

「明日目が覚めたら、皆の血を少しずつ提供しようか?

 体調に影響のないレベルの献血で、メドゥーサが魔力回復できてメドゥーサ自身も嬉しいんなら、やって損はないよね」

「ありがとうございます。

 貴方に感謝します」

 

 思いつきを言っただけなのに、何故かメドゥーサにものすごく喜ばれてしまった。

 そんなに嬉しかったのだろうか?

 まあ、こっちに特にデメリットもなく、メドゥーサにとってメリットが大きいならやる価値はあると思う。

 

 

 あっ、ちょっと思いついてしまった。

 地雷を自ら踏むに行く行為ではあるが、……確認するだけなら大丈夫のはずだ。

 それに、これを実行した場合、メリットが大きいのは確かだし。

 

「あの~、あくまでも可能性を確認するだけで、強制するつもりは一切ありません。

 ……聞くだけでも、気分を害する可能性があるかもしれませんが、……」

「なんとなくあなたが言いたいことが想像つくけど、……いいからさっさと言いなさい」

「はっ、はい。

 聞きたいのは真桜なんだけど、……真桜は黒桜の体を今使っているから、大聖杯との接続は切っているとはいえ、体はマキリの聖杯そのものなんだよな?」

「ええ、そうですよ。

 といっても、大聖杯と接続していない以上、サーヴァントの魂を格納することにしか使えませんけど、……って、まさか?」

「うん、そのまさか。

 敵サーヴァント、例えばアサシンの分体の魂を君の聖杯に格納した場合、魔力回復できるとか、アサシンのスキルを借りれるとか、そういう効果はないかな?」

 

 僕の遠慮のない質問に、真桜は顔を顰めつつも、目を閉じて考え込んでゆっくりと答え始めた。

 

「取り込んだサーヴァントのスキルや能力を借りるのは、不可能です。

 八神家の降霊術を身に付ければ、いずれは『メディアさんたちの分霊からスキルを借りている』ように、『聖杯の中に取り込んだサーヴァントからスキルを借りること』も可能になるかもしれません。

 ですが、あの世界の私にそれができたとは思えません。

 それに、それが可能だったら、取り込んだサーヴァントのスキルを使って、もっと有利に戦えていたでしょう。

 私が降霊術を身に付ければ、いずれスキルを借りることは可能になるかもしれませんが。

 ですが、『聖杯を『願望機である小聖杯』として機能させるために、サーヴァントの魂を魔力として変換する』ように、『私が取り込んだサーヴァントの魂を魔力に変換して利用すること』は、……可能です。

 もちろん、そんなことをしてしまえば、アイリスフィールの聖杯へ取り込まれるサーヴァントの魂が減り、大聖杯が起動できなく……まさか!!」

「うん、『真桜が同意してくれて、真桜の体に悪影響がなければ』という前提付きだけど、……今話した通り、真桜がサーヴァントの魂を数人取り込んで、それにより大聖杯を起動できないようにすれば、……アンリ・マユは復活できないよね」

 

 僕のアイデアを聞くと、メディアは冷たい笑みを見せて発言した。

 

「面白い考えね。

 真桜が今使っている桜の体は、『マキリの聖杯として完成した間桐桜』が英霊の座に登録された存在。

 普通に考えれば、ギルガメッシュを含めた英霊7人の魂を取り込んでも問題ないでしょう。

 ……まあ、安全を考えれば、ギルガメッシュを含めても4人以下ってところかしら?

 その人数なら、アンリ・マユみたいな呪われた存在を取り込まない限り、真桜に悪影響を及ぼす恐れはないはずよ」

「メディアの言うことは、……多分、間違っていません。

 『すでに完成した聖杯』を真桜は持っており、この世界において聖杯は空っぽの状態です。

 ですから、サーヴァントの魂を数人取り込むことは問題ないはずです。

 ……この世界において、私とメディアというイレギュラーな存在により、サーヴァントが実質10人存在しています。

 万が一にもこの魂が全てアイリスフィールの聖杯に収まった場合、間違いなくアンリ・マユが復活するでしょう。

 それを防ぐためにも、……申し訳ありませんが、真桜には協力してもらう必要があります」

 

 メディアとメドゥーサの説明を聞いた真凛は、心配そうに真桜へ声を掛けた。

 

「真桜、本当に大丈夫なの?」

「はい、メディアさんとメドゥーサが説明してくれた通り、数人分の魂を格納するだけなら問題ないはずです。

 ……わかりました。

 サーヴァントを取り込む機会があれば、私の聖杯に取り込みます」

「ああ、頼むよ。

 ただし、くれぐれも無理しないで」

「はい、気を付けます」

 

 よし、となるとまずは、あちこちに偵察、防諜をしているであろう、アサシンの分体を片っ端から襲撃して、真桜の聖杯に取り込むとするか。

 メディアとメドゥーサが協力してくれれば、かなりの時間ばれることなく実行できるだろう。

 そうすれば、この拠点がアサシンに見つかる可能性も減るから一石二鳥だ。

 ちなみに、霊体化可能な人は霊体化して、そうでない人はメディアによる瞬間移動によって拠点への出入りをしているから、マスターやサーヴァントの追跡ではこの拠点を見つけることは不可能だ。

 

「そういえば、……あの世界のセイバーオルタと同じように、真桜がサーヴァントを取り込んで黒化&受肉化して、配下にすることはできるのか?」

「……大聖杯との接続を切っているので能力が低下していますが、【黒い影】を使うことでサーヴァントの取り込みができるはずです。

 そして、取り込んだ後、そのまま魂を保管するか、魔力として変換するか、あるいは黒化するかは、私の意志で決められます。

 あの世界の私は、ギルガメッシュは制御できないと判断してすぐに魔力化して、……完全な状態で取り込めたアルトリアさんは、黒化することで支配できました」

 

 

 ……まあ、あのことは触れない方が賢明だ。

 

「じゃあ、練習がてらアサシンの分体を取り込むか?

 で、黒化&受肉化か魔力化を試せばいい」

「その方がいいでしょうね。

 いきなりまともなサーヴァント相手にやって失敗したら、真桜がただじゃすまないわ」

「そうしましょう。

 私たちが可能な限りフォローすれば、事故なども起きないでしょう」

 

 僕の提案にメディアとメドゥーサも賛成し、それを聞いた真桜は静かに、しかし覚悟を決めて頷いた。

 

「わかりました。

 アンリ・マユの復活を阻止するため、そして魔力を得る為、まずはアサシンを狩ります。

 すいませんが、姉さんも手伝ってください」

「任せなさい。

 ……もっとも、メディアさんとメドゥーサさんの二人がいれば、私の出番はないでしょうけどね」

 

 こうして、『気配遮断スキルを使ったメディアとメドゥーサが『円』でアサシンを見つけだし、そこへ真桜が黒い影で襲撃を掛けて、一瞬で取り込む』という作戦が始まった。

 綺礼は原作通り、『サーヴァントを失ったマスター』として教会へ保護を依頼して、そのまま教会の中にいることが確認されている。

 綺礼も警戒していたようだが、やはり教会の防諜にはどうしてもアサシンを使う必要があったらしく、アサシンの分体4体でチームを組んで教会の周辺にいたことが確認できた。

 そして当然ながら、位置を確認次第、アサシン四体を一気に狩りつくした。

 狩った後、即座に瞬間移動で拠点へ撤退したこともあり、襲撃時の光景を目撃されることなく、無事にミッションを終えた。

 

 で、聖杯の中にいるアサシンの分体(全員男)をどうするか相談したのだが、メディアの強い希望によりアサシンは4人とも魔力に変換された。

 ……やっぱりメディアは、男のサーヴァントを仲間にする気は欠片もないんだろうなぁ。

 う~む、僕の最初の予定では、一人ぐらいは『使い捨ての強行偵察用アサシン』にする予定だったのに、……どうしてこうなった?

 まあ、女性のアサシンの分体を捕まえれば、メディアも黒化して支配下に置くことに賛成してくれるだろう。

 ……ただ、アサシンの分体の女性というと、『指揮者の役割を持っていた人格』しか思い当らないから、捕獲できる可能性はものすごく少ないけど。

 

 

 そして、僕たちがアサシン狩りを終えた直後、他の陣営で僕たちと同様に独自の行動を開始していたことが判明した。

 

 メディアの連絡により、いつもの通り『精神世界にあるディスプレイ』にハイアットホテルの最上階の部屋を表示すると、そこにはすでにサーヴァント召喚陣が描かれていた。

 どうやら、『聖杯戦争が始まるまでの時間がない』と判断したのか、ケイネスたちは急遽ランサー召喚を行うことにしたようだ。

 今朝、いや昨日の朝、ケイネスたちは冬木市に到着した後、最低限の防御システムを構築し、その後から旅の疲れをとるためにずっと休んでいた。

 よって、『体調も整った今ならサーヴァント召喚に問題ない』という判断もあったのかもしれない。

 

 なお、ケイネスたちは魔術的な防御システムを構築したので、魔術による盗聴や監視は難しいが、未だに機械を使った(室内の)盗聴や(窓の外からの)監視には気づいていないあたり、やっぱり実戦経験が足りてないんだろうな。

 ケイネスって、『魔術師同士の決闘』ぐらいはしたことはあっても、封印指定狩りの現場には出たことがないのかもしれない。

 原作の描写を読んだ限りでは、どうみても武闘派とか、戦闘部門所属の経験があったようには見えなかったから、生粋の研究者タイプなのだろう。

 橙子の分類でいえば、『創る者』であり『使う者』なんだろうな。

 そんな人が、『権威付けの為だけに殺し合いの儀式に参加すること』自体が、自殺行為としか言いようがない。

 それが分かっていて、魔術協会の誰かさんが『ケイネスを破滅させるために聖杯戦争へ送り込んだ』という裏事情があったら、その誰かさんは大した謀略家だよな。

 ……否定できないのが怖いところではあるけど。

 

 

 そんなことを考えていると、ついにケイネスがサーヴァント召喚を開始するようだ。

 魔方陣の前にケイネスとソラウが立ち、詠唱を開始した。

 

「――告げる。

 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ――

 ――誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――!」

 

 呪文を唱え終えると同時に、風と光が乱舞し、魔方陣が凄まじい光を放った。

 そして、光が収まると、魔方陣の中央には泣き黒子を持った男が凛々しく立っていた。

 彼はケイネスとソラウの存在に気が付くと、すぐに跪き頭を下げた。

 

「お答えいただきたい、貴公が私のマスターでしょうか?」

 

 ソラウは頬を赤く染めてイケメンを凝視しており、彼の問いに答えられそうにない。

 ……これが一目惚れか。

 一目惚れしたところを初めて見たが、本当に男を見ただけで惚れてるのな。

 こっちの女性陣は大丈夫かな?

 メディアとメドゥーサは絶対に大丈夫だろうけど、真凛と真桜が愛の黒子の魅了の魔力に耐えられるか?

 そんなことを考えながら見ていると、ケイネスはディルムッドに対して言葉を発した。

 

「そうだ。

 私がお前を召喚したマスターだ。

 そして、貴様はディルムッド・オディナで相違ないか?」

「はっ、我が名はディルムッド・オディナであり、生前はフィオナ騎士団に所属しておりました」

 

 ケイネスが実に偉そうに発言したが、ディルムッドは全く気にせずに忠実に答えた。

 ……ほんと、もったいないなぁ。

 ケイネスとディルムッドって、まじで『猫に小判』、『豚に真珠』状態だと思う。

 かといって、ディルムッドが主替えに同意するわけないから、ディルムッドの召喚以降の記憶を完全に消去して、僕に召喚されたと偽の記憶を与えないかぎり、ディルムッドを配下にできないんだろうなぁ。

 ……ああ、真桜の黒化っていう手もあったか。

 原作通り、ケイネスが令呪で自害を命じた後に真桜がディルムッドを回収して、……駄目だ。

 そんなことをしたら、『メディアの死体を黒化して臓硯が操った』のと同じ状況になってしまう。

 メディアの気持ちを考えると、それは無理だな。

 う~ん、やっぱりディルムッドはスカウトできないか。

 残念だなぁ。

 

「そうか、私はアーチボルト家当主のケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。

 聖杯戦争に勝ち、願望機たる聖杯を得るためにこの戦いに参戦し、貴様を召喚した。

 私が聖杯を得る為、全力で尽くせ」

「はっ、マスターが聖杯を得る為、全力で忠誠を尽くすことをここに誓います」

「それと、貴様のマスターは私以外にももう一人いる。

 私の婚約者でありソフィアリ家のソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだ」

 

 そう言って、ケイネスはソラウを紹介したが、すぐに答えようとしないのを見てソラウに注意した。

 僕から見れば、ソラウがディルムッドに見とれていることは一目瞭然なんだけど、気付いていないのか、無意識のうちに気付きたいくないと思っているのか、ケイネスは『ソラウがディルムッドに見とれていたこと』をスルーしたようだ。

 我に返ったソラウが慌ててディルムッドに自己紹介を行い、ディルムッドはソラウをもう一人のマスターとして認めていた。

 その後、ケイネスは重要なことをディルムッドに尋ねた。

 

「始めに確認するべきことがある。

 ともに聖杯に至った暁には、貴様は何を願うのか?」

「聖杯など求めはしませし、褒賞も必要ありません。

 今生の主たるマスターに忠誠を尽くし、騎士としての名誉を全うすること。

 それだけが私の望みです」

「なんだと?」

 

 ディルムッドは本気で言ったんだろうけど、ケイネスには信じられない内容だったらしく、言葉が続かないようだった。

 ……まあ、普通は信じられないよね。

 原作知識があるとか、ディルムッドの伝説を詳しく調べてディルムッドの心情を深くまで理解できていれば、話は別なんだろうけど。

 あ~それでも、自己中で、自分とは違う生き方や考え方があるとは考えられず、この世の全ては自分の思い通りに進むと思っている世間知らずのケイネスじゃ、……やっぱり無理か。

 ちなみにソラウは、再びディルムッドを見つめてうっとりとしている。

 

 

「馬鹿な!

 それでは貴様は何のために召喚に応じたのだ。

 ……聖杯を得られれば、貴様にも相応の褒美はやるつもりだ。

 私は魔術師としての栄誉のために聖杯戦争に参加したのだ。

 貴様が大それた願望を持っていようとも、よほどのことでない限り、聖杯に願うことを許そう」

「いえ、私は騎士としての面目を果たせればそれで結構です。

 願望機たる聖杯は、マスターであるケイネス様とソラウ様に譲り渡します」

 

 ディルムッドは正直に答えたんだろけど、……傍目で見ててもわかるぐらい全然通じていない。

 その後もケイネスはしつこくディルムッドに問い質していたが、ディルムッドは同じ回答を繰り返し、ケイネスはどんどん機嫌が悪くなっているのがよくわかった。

 

 

 後の会話は聞く価値は少ないと判断して、僕の影を鳥型にしてハイアットホテルの近くまで飛ばした。

 そして、影経由で見ることで、僕はディルムッドのパラメータを確認することができた。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    ランサー

真名     ディルムッド・オディナ

マスター   ケイネス

属性     秩序・中庸

ステータス  筋力 A  魔力 B

       耐久 B  幸運 D

       敏捷 A++ 宝具 B

クラス別能力 【対魔力】:A

保有スキル  【心眼(真)】:B

       【愛の黒子】:C

宝具     【破魔の紅薔薇】:B

       【必滅の黄薔薇】:B

 何なんだ、この強さは!?

 原作よりも、すごく、いやものすごくパワーアップしているぞ。

 知名度も現地補正も原作と変わるはずがないから、パワーアップするためにはマスターの魔力量が一気に増えることでもないかぎり……。

 まさか、僕たちと同様に、ケイネスとソラウのダブルマスター方式で召喚したのか?

 

 そう思いついた瞬間、ディルムッドのマスター欄に『&ソラウ』が追加された。

 どうやらFateと同じく、観察者が気づくか知ることで、パラメータ表示に追記される仕様らしい。

 しかし、ソラウがマスターに追加されるだけで、ここまで強くなるか?

 いくらソラウが名家の出身だったとしても、……いや、そうだったな。

 ソラウは後継者にならなかっただけで、優秀な魔術回路を多数持っている。

 つまり、魔力量だけで考えれば、『ケイネスに準ずるぐらいの魔力量』を持っていてもおかしくない。

 ただでさえケイネスの魔力量が多いらしいのに、それが二倍になったと考えれば、これだけのランサーのパワーアップにも納得できる。

 

 とはいえ、幾らなんでも強くなり過ぎじゃないか?

 なにせ、筋力、耐久、敏捷、幸運、耐魔力が1ランク、魔力に至っては2ランクも、原作のパラメータより上昇しているのである。

 多分、このステータスが生前の全盛期、つまり本来のディルムッドのステータスなんだろうけど、……やっぱり強すぎる気がする。

 

 

 どうしても疑問が拭えなかったのでメディア達に質問すると、意外にもあっさりと答えてくれた。

 

「そうね。

 マスターの魔力量が増えた以外で強くなる要因となると、……一番可能性が高いのは、能力が上がるスキルが増えたのかしら?」

「ああ、なるほど。

 マスターが強くなれば、スキルが増える可能性もあったか」

 

 ということは、ディルムッドはパラメータが向上するようなスキルを手に入れたのか。

 ……しかし、一体どんなスキルなんだろう?

 

「ディルムッドの伝説からすると、やっぱり加護系のスキルかしら?

 彼は、『妖精王オェングスと魔道王マナナンという二柱の神から宝具を授かったという伝説』があるから、一緒に加護をもらっていてもおかしくないわね」

 

 確かにメドゥーサも【海神の加護】を持っていたし、ディルムッドも【神の加護】を持っていてもおかしくないか。

 そう考えた瞬間、ディルムッドのパラメータが更新され、保有スキルに【神々の加護】が追加されていた。

 

【神々の加護】:B

 養父であり愛と若さと美を司る神である妖精王オェングスと、海神である魔道王マナナンから与えられた加護。

 これにより、【幸運】と【魔力】と【対魔力】のステータスが1ランク向上する。

 

 

 うわ~、これのせいか。

 このスキルが追加されたせいで、ディルムッドがさらに強くなっていたのか。

 この二柱の加護があれば、そりゃ強くなるわ。

 ……もしかして、ディルムッドに一目惚れしたソラウが(正規の)マスター(の一人)になったから、愛を司るオェングスから加護が追加され、ついでにマナナンの加護も増えたのか?

 なんか、ありそうで怖いな。

 ケイネスが知ったら、間違いなくブチギレるだろうけど。

 

 しかし、……ここまで強くなると、原作通りアルトリアとディルムッドの戦闘があれば、……いきなりアルトリアが殺されないか?

 なにせ、原作の状態、つまり『今よりも一回り以上弱い状態で、アルトリアが不覚を取って左腕が使えなくなった』ぐらいだからなぁ。

 まあ、アルトリアが殺されそうになったら、そのときに介入すればいいか。

 メディアもアルトリアを配下(おもちゃ?)に欲しがっているから助けるのを手伝ってくれるだろう、……多分。

 

 

 それと、『ケイネスとソラウが二人ともディルムッドのマスターになっている』のは、偶然……じゃないんだろうなぁ。

 なにせケイネスは『降霊術の天才』と称される存在だ。

 未熟な僕とは違って、サーヴァント召喚において意図したものと異なる結果になったとは思えない。

 ……となると、ケイネスは方針を変えた可能性が高い、か。

 

 原作ではディルムッドが召喚された後に例の茶番が行われたが、この世界では時臣師が焦った(らしい)結果、ディルムッド召喚前に茶番が実行された。

 当然、ケイネスもそれを使い魔経由で見ていたはずだ。

 で、ギルガメッシュの強さ、特に多数の宝具(の原型)を所有していることを知って、ケイネスはギルガメッシュを強敵だと認識して、ディルムッドを強化する必要性を感じたのかもしれない。

 そして、『ケイネスの魔力温存』よりも『ディルムッドの強化』の優先順位が上がった結果、『ディルムッドのマスターをケイネスとソラウの二人にする特殊召喚』に変更した、という展開ならありそうだな。

 原作において、『マスターと魔力供給者を分離する』というカスタマイズをやってのけたケイネスなら、『マスターを二人にすること』など簡単だろう。

 

 どちらにせよ、元から厄介な相手だったディルムッドが、一層面倒な存在になってしまった。

 【対魔力】:Aってことは、魔術は全く意味を為さない。

 キャスターにとっては、一番厄介な相手になってしまったな。

 どうしてもガチで戦う羽目になったら、3人がかりでディルムッドを拘束して、残りの一人でケイネスとソラウを襲撃すれば何とかなるとは思うけど、……決着がつくまでにこっちにも犠牲が出る可能性は高そうだ。

 ……うん、漁夫の利を狙って、切嗣の外道戦法でディルムッドが消滅するまで放置するのが賢明だな。

 

 

 それと、ケイネスはディルムッドに対して間違いなく不信感をもっているようだが、それでも『ギルガメッシュに対抗するため、ディルムッドをできるだけ強化する必要がある』と理解していたらしく、ディルムッドが生前使っていた二本の剣、つまり憤怒の長剣(モラルタ)小怒の短剣(ベガルタ)の捜索を魔術協会へ依頼していた。

 まあ、ケイネスにとっては、『手札で最強の魔術礼装の強化』という考えだけなのかもしれないけど。

 

 とはいえ、『この世に現存するかどうかも分からない宝具が、聖杯戦争が終わるまでに見つかる可能性』はかなり低いだろう。

 『実は魔術協会に秘蔵されていた』なんてことがあれば話は別だろうが、そんなことがあればケイネスはさっさと秘蔵されていた品を手に入れて、それを縁の品としてディルムッドを召喚していたに違いない。

 そして、原作に出てきた『現存していた宝具』は、全て遠き理想郷(アヴァロン)斬り抉る戦神の剣(フラガラック)の二つだけだったことを考えると、宝具はほとんど現存していないと考えていいだろう。

 そう考えると、『実は魔術協会に秘蔵されていた』という可能性はないはずだ、……ないといいなぁ。

 

 ただでさえ原作より大幅に強くなったディルムッドが、憤怒の長剣(モラルタ)小怒の短剣(ベガルタ)を手に入れたら、手に付けられない強さになってしまう。

 相性的に、ランスロットも無毀なる湖光(アロンダイト)を使わないと対抗できないだろうし、アルトリアが勝てない可能性もますます高くなるだろうなぁ。

 まあ、見つかると決まったわけではないし、万が一にも見つかることがあれば、その時に対処を考えればいいか。

 

 

 なお、ギルガメッシュとイスカンダルは、全て原作と同じパラメータなのは確認済みである。

 つまり、第四次聖杯戦争に参加するサーヴァントは、次の点が原作と違う結果になった。

 

・ランスロットとディルムッドのパラメータとスキルが大幅強化

・キャスターは青髭ではなく、英霊リンと反英霊サクラの二人

・(裏技で)メディアとメドゥーサがアサシンのサーヴァント化

 

 そして、なんというか、この6人のうち2人がアルトリアと戦いを希望し、さらに1人はアルトリアの存在、もう1人はアルトリアの血を欲しがっているという、アルトリアが(色々な意味で)モテモテの状態である。

 ……アルトリアは『ディルムッドとの決闘』以外は嬉しくないんだろうけど。

 

 おまけに、原作通りの展開だと、ギルガメッシュからは『玩具』として気に入られ、イスカンダルからは『王ではない』とアイデンティティーを否定されてしまうんだから、アルトリアって本当に不幸である。

 【幸運】:Dは、伊達じゃないな。

 

 アルトリアに少しでも幸せな未来が待っていますように、なんて柄でもないことを考えてしまった。

 ……切嗣がマスターである限り、絶対に不幸な未来しかないんだろうけど。

 




 聖杯戦争が始まって、やっとまともな戦闘シーンです。
 ……まあ、一方的な殲滅戦なんですが。

 バタフライ効果も発生して、いよいよ混沌としてきました。
 次話ではいよいよ、セイバー vs ランサーのシーンを描く予定です。
 楽しみに待っていてください。

  

【聖杯戦争の進行状況】
・衛宮切嗣、アイリスフィール、アルトリア以外は冬木市入りを確認
 注:舞弥は使い魔の存在から推測
・サーヴァント10人召喚済み(キャスター2人、アサシン3人)
・アサシンの分体(最大80体)のうち、7体死亡確認(生贄:2体、茶番:1体、マキリの聖杯への取込:4体)


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・真桜に悪影響がない範囲で、マキリの聖杯にサーヴァント取り込み
 (現時点で、アサシンの分体を4体、魔力に変換済み)
・アルトリアを配下にする(メディアの希望)
・アルトリアの血を吸う(メドゥーサの希望)
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・八神陣営の全員の生き残り(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【設定】

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    ランサー
真名     ディルムッド・オディナ
マスター   ケイネス&ソラウ
属性     秩序・中庸
ステータス  筋力 A  魔力 B
       耐久 B  幸運 D
       敏捷 A++ 宝具 B
クラス別能力 【対魔力】:A
保有スキル  【心眼(真)】:B
       【愛の黒子】:C
       【神々の加護】:B
宝具     【破魔の紅薔薇】:B
       【必滅の黄薔薇】:B

【神々の加護】:B
 養父であり愛と若さと美を司る神である妖精王オェングスと、海神である魔道王マナナンから与えられた加護。
 これにより、【幸運】と【魔力】と【対魔力】のステータスが1ランク向上する。


<サーヴァントのパラメータ>
クラス    アーチャー
真名     ギルガメッシュ
マスター   遠坂時臣
属性     混沌・善
ステータス  筋力 B  魔力 A
       耐久 B  幸運 A
       敏捷 B  宝具 EX
クラス別能力 【対魔力】:C
       【単独行動】:A
保有スキル  【黄金率】:A
       【カリスマ】:A+
       【神性】:B
宝具     【王の財宝】:E~A++
       【天地乖離す開闢の星】:EX


<サーヴァントのパラメータ>
クラス    ライダー
真名     イスカンダル
マスター   ウェイバー
属性     中立・善
ステータス  筋力 B  魔力 C
       耐久 A  幸運 A+
       敏捷 D  宝具 A++
クラス別能力 【対魔力】:D
       【騎乗】:A+
保有スキル  【カリスマ】:A
       【軍略】:B
       【神性】:C
宝具     【遥かなる蹂躙制覇】:A+
       【王の軍勢 】:EX


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第22話 サーヴァント集結(聖杯戦争五日目)

 次の日、朝食を食べて少し経った後、みんなで集まって打ち合わせを開始した。

 

 もっとも、最初にしたことは、精神世界での約束通りメドゥーサに対して、僕、タマモ、真凛、真桜が血液を提供したんだけど。

 当然と言うべきか、吸血方法は首筋への噛みつきだった。

 痛覚を一時的に麻痺してから吸血してもらったので痛みはなかったが、正面から噛みつく為に抱きしめられた格好になったのはちょっと恥ずかしかった。

 ……これで僕の体が少年なら恰好がつくんだけど、今の僕は幼児だからなぁ。

 なお、噛み跡はすぐに魔術刻印が自動的に治癒してしまったので、全く問題なかった。

 

 で、吸血を終えたメドゥーサの感想はというと、

『真桜>真凛>>僕>>>タマモ』

という結果だった。

 

 詳細を確認すると、

「やはり、受肉したサーヴァント、それも少女の血はおいしいですね。

 リョウの血も魔力は多く、普通なら十分に美味しい血なのですが、……比較対象が真桜たちではかなり劣ってしまいます。

 体が小さいゆえに、飲める血の量が少ないのも減点材料です。

 タマモは、 ……意外にもと言ったら失礼なのでしょうが、予想以上に魔力の量は多く、血の質も良かった。

 ただ、……」

「ただ、何ですか?

 所詮血の味のことですから、遠慮なく感想を言ってください」

「では、遠慮なく。

 やはり私の好みは人の血であって、狐の血ではありません」

 

 ああ、なるほど。

 いくらタマモが優秀な使い魔であり、今は人の姿に変身していると言っても、やはり素体が狐である以上、メドゥーサの好みには会わなかったか。

 

「好みに合わないんじゃ、仕方ないですね。

 では、私は血を提供しなくていいんですね」

「はい、三人の血で十分な魔力を回復できました。

 特に、真桜と真凛の血は素晴らしい。

 毎日飲めれば、魔力が十分貯まるでしょう」

 

 メドゥーサは珍しく饒舌でハイテンションだった。

 吸血行為は、メドゥーサにとってかなり重要な行為だったみたいだな。

 

「二人とも、献血量とか大丈夫か?」

「はい、これぐらいなら、……一日もあれば十分に回復できます」

「そうね、この量なら特に問題ないわ。

 ……まあ、戦闘後とかで出血した後とか、疲れている時は勘弁してほしいけど」

「さすがにそこまで欲しいとは言いませんよ。

 戦闘などがなく、体調が万全のときだけで結構です。

 ……まあ、『魔力供給がメインで、ここに籠りっきりの人』には、ぜひ積極的に献血してもらいたいところですが……」

 

 そう言ってメドゥーサは意味ありげに僕の方へ視線を向けた。

 いくら空気が読めない僕でも、ここまであからさまにアピールされれば、彼女が言いたいことはすぐに分かった。

 

「了解。

 魔力切れにでもなってない限り、僕の血はできるだけ提供するよ。

 ただし、この体はまだ6歳時で血液の量は少ないんだから、それを忘れないでくれよ」

「ええ、もちろんです。

 ……一時の満足のために、ずっと続く幸せを自ら破壊するほど私は愚かではないですよ」

 

 それって、言葉は飾っているけど、「ずっと血をもらうつもりだから、殺すなんてもったいない」と言っているのと同じだと思うけど。

 ……まっ、いっか。

 どんな理由であろうとも、『メドゥーサが自主的かつ積極的に僕を守る気になった』のなら、歓迎するべきことだしな。

 

 なにせ、今の真凛と真桜は『受肉化したサーヴァント』であり、自分自身が己のマスター(の一人)でもある。

 極論を言ってしまえば、この二人に僕やタマモは必要ない。

 それは、この二人をマスターとしているメディアとメドゥーサも同じだからなぁ。

 メディアについては今さら言うまでもないが、メドゥーサも『本気で怒らせる』とか、『敵認定される』ことがあったら、あっさりと縁を切られてしまう可能性が高い。

 油断せず、増長せず、慎重に関係を築いていかないといけない。

 

 

 ともかく、こうして(メドゥーサだけだが)新しい魔力回復手段も見つかり、戦力強化や戦闘準備、敵の監視、そして修行を行っていた。

 

 なお、時臣陣営は警戒レベルを最大にしたらしく、教会の周辺で『円』を使ってもアサシンを見つけることはできなかった。

 メディアの予想では、『教会の中から外部の警戒をしているのでは?』ということだった。

 確かに、メディアの予想通りに警戒をしていれば、メディアから探知できない状態で最低限の警戒網は構築できる。

 さらに、(建前上は)不可侵の場所である教会の中まで入ったことがばれると、原作の青髭みたいに『教会認定のターゲット』にされかねないから、こちらは襲撃できないわけか。

 実際、あれ以来アサシン(の分身)狩りはできていない。

 

 

 そして、ここまでくると予想通りと言うべきか、原作の流れよりも早くディルムッドが出陣してきた。

 盗聴した限りでは、『ディルムッドの剣』が見つかる見込みはまだないらしい。

 しかし、ホテルの要塞化も終え、ケイネスが少しでも早くデビュー戦を行いたいと考えた結果、今日出陣することになったらしい。

 

 ……予想はしていたが、やっぱりこいつは『戦争童貞』かつ『戦争の戦術知識が皆無』なんだろうなぁ。

 ディルムッドの能力は高く、『特殊効果の詳細がばれても防ぐのが難しタイプの宝具』を持っているので、積極的に戦闘を求めるのは間違っていない、……と思う。

 しかし、一対一ならともかく、サーヴァントを複数呼び寄せて当然の状況で、『自分はディルムッドの近くに待機する予定なのに、サーヴァント相手に最後まで隠蔽魔術で姿を隠せる』と思っている時点で、完全に終わっている。

 『この時代の魔術師が使う隠蔽魔術など、サーヴァント、特にキャスターのサーヴァント相手なら全く無意味』だとか考えないのだろうか?

 実際、出陣した後、『ディルムッドから距離を取って移動する隠蔽魔術で隠れた(つもりの)ケイネス』を、『円』を使うことなくメディアがあっさりと見つけてしまった。

 もちろん『メディアの影を使った探索』であり、本体は拠点にいたままの状態でだ。

 

 これで、ケイネスの命は、僕……じゃない、メディアの掌の上である。

 『ディルムッドがアルトリアと戦って、アルトリアがピンチになる事態』があっても、その時点でケイネスの命をネタに脅迫すれば、ディルムッドを撤退させることも可能だろう。

 

 

 その後、ディルムッドが一日中街中を練り歩くのを使い魔で監視していたが、夕方になっても誰も接触しようとしなかった。

 そして日が落ちたころ、メドゥーサが街を歩く美女と男装の美少女のペアを発見した。

 僕も影を飛ばして美少女のパラメータを確認したが、間違いなくアルトリアだった。

 ……ついでにいえば、原作と完全に同じパラメータだった。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    セイバー

真名     アルトリア

マスター   衛宮切嗣

属性     秩序・善

ステータス  筋力 B  魔力 A

       耐久 A  幸運 D

       敏捷 A  宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:A

       【騎乗】:A

保有スキル  【直感】:A

       【魔力放出】:A

       【カリスマ】:B

宝具     【風王結界 】:C

       【約束された勝利の剣】:A++

 

 よかった。

 さすがにバタフライ現象はアルトリアまで影響していなかったか。

 当然、隣にいる美女はアイリスフィールだろう。

 茶番が起きるのが早かったせいか、アルトリアたちが冬木市に来る時期も早まったようだな。

 

 しかし、このパラメータでは、……アルトリアがディルムッドに勝てる可能性はないだろうなぁ。

 努力でカバー可能な能力差を超えている可能性が高い。

 そんなことを考えていると、アルトリアがディルムッドの気配に気づいたらしく、ディルムッドの方へ移動していった。

 そして、最終的にはディルムッドが待ち構える倉庫街へアルトリアとアイリスフィールは向かった。

 

 となると、切嗣ももうすぐこの近くに来るはずだな。

 切嗣と舞弥はまだ発見できないが、マスターを狩るために必ず戦場が見える場所へ来るはずだ。

 そこで見つけて今後常に監視をすれば、少しは危険度を下げることができるだろう。

 

 なおイスカンダルとウェイバーは、マッケンジー邸を出発したときから、事前に配置してあった複数の使い魔を使って遠距離監視を行っており、今は二人が橋の上にいて観戦中なのも確認済みだ。

 後は作業クレーンの上にアサシンが来れば、役者は全員揃う。

 

 今回は練習もかねて、僕たちは全員それぞれの使い魔や影で偵察を行うことにした。

 偵察人員を増やすことで、イレギュラーな事態が発生してもすぐに発見して対策をとることができるだろう。

 

 

 おっと、そろそろ雁夜さんとも相談しておいたほうがいいな。

 雁夜さんのところに置いてある使い魔経由で会話をしようとしたところ、雁夜さんの方から使い魔を通じて連絡があった。

 

「八神君、気づいているとは思うが……」

「はい、ランサーとセイバーが倉庫街へ向かっていますね。

 ライダーも様子を伺っていますし、アーチャーも近くにいる可能性が高いです。

 ……雁夜さんのバーサーカーはどうしますか?」

「そうだな、アーチャーがそう簡単に負けるとは思わないが、……念のため俺の分身と一緒に倉庫街の近くに待機させておこう。

 ……戦闘に参加するかどうかは状況次第だな。

 今のところバーサーカーは僕の制御下にあるが、戦闘中や狂化中でも制御できるかどうかは一度試さないとわからない。

 いざというときに制御できないと問題だから、余裕があればバーサーカーに短時間でいいから戦わせたいと思っている」

 

 雁夜さんには、予知で見たサーヴァントの能力はすでに伝えてあり、『ディルムッドがとんでもなくパワーアップしていること』も、『ディルムッドがランスロットと相性が悪いこと』も理解している。

 しかし、ランスロットもまたパワーアップしているので、『倒すことはできなくとも、逃げることなら十分に可能』だと思っているのだろう。

 ……まあ、ランスロットが霊体化して全力で逃げれば、ギルガメッシュ以外には捕まらないし殺されないと思う。

 

「わかりました。

 僕たちは偵察がメインで、何があっても真凛と真桜は戦場に出さないつもりです」

「その方がいいだろう。

 何かあれば俺のバーサーカーを使う。

 君たちは偵察に専念してくれ。

 ……そうだな。

 何か重要なことが起きたら、連絡してくれると助かる」

「わかりました。

 何かあればすぐに連絡します。

 雁屋さんも気を付けてください」

「ああ、任せてくれ」

 

 これでよし。

 後はアルトリアたちの状況をしっかり確認しておくだけだ。

 ちょうどそのとき、倉庫街の道でディルムッドとアルトリアが対峙して、会話を始めたところだった。

 

「よくぞ来た。

 今日一日、街を練り歩いてきたが、穴熊を決め込む腰抜けばかり。

 ……俺の誘いに応じた猛者はお前だけだ」

 

 ディルムッドはそう言ってアルトリアを讃えた後、すぐに問い質した。

 

「その清澄な闘気……セイバーとお見受けしたが、如何に?」

「確かに私はセイバーだ。

 ……そういうお前はランサーに相違ないな?」

「その通りだ。

 ……これから死合おうという相手と、尋常に名乗りを交わすこともままならぬとはな。

 興の乗らぬ縛りがあったものだ」

「是非もあるまい。

 もとより我ら自身の栄誉を競う戦いではない。

 お前とて、この時代の主のためにその槍を捧げたのであろう?」

「フム、違いない」

 

 二人が本当に意気投合しているのは、見ているだけでもよく分かった。

 しかし、『栄誉を競う戦いではない』と分かっているのなら、どうしてあんな結果になったのだろうか?

 ……ああ、栄誉は競わなくても、『騎士の誇り』は大事だったってことか?

 しかし、揃いも揃って『騎士の誇り』を認めてくれないマスターだったのが、悲劇の始まりだったということか。

 そういう意味では、『貴族としての誇りと矜持を持つ時臣師』に召喚されていれば、最後には自害させられるけど、それまでは『騎士として相応しい扱い』をしてくれたんだろうなぁ。

 ……だが、殺し屋の切嗣ならともかく、名門出身のはずのケイネスが『騎士の誇り』を理解できないものなのだろうか?

 ……ああ、ケイネスは『魔術師の名門』であっても、『貴族の名門』ではなかったかということか。

 

 つくづく思うのが、マスターとサーヴァントの相性は特に重要だってことだ。

 僕たちの場合、真凛と真桜との相性は全く問題無く、メディアとメドゥーサもお互いに納得できる関係を築いていることもあり、このままでいけば……アルトリアの扱い以外では多分問題は起きないと思う。

 くれぐれも、『アルトリアの処遇を巡って仲間割れ』ということがないように気を付けておこう。

 

 そんなことを考えているうちに、アルトリアも蒼銀の鎧を武装し、「この私に勝利を!」というアイリスフィールの言葉を受けて、ディルムッドへ突撃した。

 

 次の瞬間、超高速の剣戟が始まり、僕の目には残像と剣戟で発生する光しか見えない状態になってしまった。

 仕方なくメドゥーサに解説を頼むと、予想通りディルムッドが有利に戦いを進めているらしい。

 アルトリアの風王結界(インビジブル・エア)で剣の形状、間合いが分からないのは原作と変わらないが、アルトリアを圧倒的に上回る速度によって、予想される剣の最大射程範囲以上の間合いを常に保ち、その外側から槍で攻撃することで、アルトリアを一方的に攻撃しているらしい。

 まだ様子見なのか、アルトリアは何とか無傷で躱しているらしいが、ディルムッドが本気になればすぐに大ダメージを受ける羽目になるだろう。

 ……確かに、原作よりも一回り強いディルムッドが間合いの大きい二槍を使って攻撃すれば、アルトリア相手なら十分アウトレンジ攻撃が成立するんだろうな。

 そんなことを考えていると、いきなり二人は動きを止めていた。

 二人とも無傷ではあるが、ディルムッドは涼しい顔でいるのに対して、アルトリアは肩で息をしていて、どっちが優勢かは一目で分かる状態だった。

 しかも、僕の予想が正しければ、ディルムッドはまだまだ余力があると思う。

 そして、アルトリアは全力で戦ってこの結果だとしたら、……ディルムッドが全力を出した瞬間に、決着がついてもおかしくない。

 

 その頃、メディアによる偵察によって、あっさりと切嗣と舞弥が発見されていた。

 ……倉庫街の近くにいると分かっていて、かつ『アルトリアたちを(望遠鏡で)視界に納められる場所』を探しただけで、あっさりと見つけてしまったらしい。

 やっぱり、原作知識チートって恐ろしいものがあるな。

 とりあえず、二人にはメディア特製の使い魔が監視につくので、今後は強力な結界内に入らない限り、常に情報が手に入るだろう。

 

 さらにクレーンの上にアサシン(の分体)が姿を現し、いよいよ舞台は整いつつあった。

 

 

「名乗りもないままの戦いに、名誉も糞もあるまいが……」

 

 ディルムッドはいつでも戦える状態を維持しつつ、アルトリアに声を掛けた。

 

「ともかく、賞賛を受け取れ。

 様子見とはいえ全ての攻撃を躱すとは、……女とは感じさせない優れた騎士だ」

「無用な謙遜だぞ、ランサー。

 貴殿の名を知らぬとはいえ、それだけの技量を持つ者からの賛辞……私には誉れだ。

 ありがたく頂戴しよう」

 

 戦闘中、刃を向け合った状態だったが、間違いなくこの二人は理解し合い、意気投合していた。

 ……本当に誇り高いんだろうなぁ。

 まあ僕の場合、そういうシーンを見ても『こっちに迷惑を掛けないなら好きなだけどうぞ』と考えるタイプだが、そういうことを全く理解できない、理解しようとしない人もいるわけで、

 

「戯れ合いはそこまでにしろ、ランサー」

 

と野暮なことを言う人もいるわけだ。

 

 

「ランサーの……マスター!?」

 

 アイリスフィールはその声に驚いて辺りを見渡すが、当然見つかるはずもない。

 そのまま、(隠れているつもりの)ケイネスはディルムッドに指示を行った。

 

「様子見は終わりだ。

 貴様の実力を隠したままでは、セイバーを仕留められない。

 全力を以って、速やかに始末しろ。

 ……宝具の開帳も許す」

「了解した。

 我が主よ」

 

 そう答えると、ディルムッドは左手に持っていた必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を放り捨てると、破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を構えた。

 

「……そういう訳だ。

 ここから先は()りに行かせてもらうぞ」

 

 ディルムッドはあえてただの突きを放った。

 そして、アルトリアによる剣の防御を誘い、風王結界(インビジブル・エア)破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で無効化することで、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の姿を露わにした。

 これにより、アルトリアの剣の刃渡りを理解したディルムッドは、次の瞬間から積極的な攻めを開始した。

 

 原作と同様に、ディルムッドは破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)のみでアルトリアを攻撃しているが、『本気になった槍使い』に『技量は互角だが、能力で劣り、リーチでも負けている剣使い』が勝てる道理は無く、さらに破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で鎧まで無効化され、あっという間にアルトリアは数か所も深手を負ってしまった。

 戦闘の合間にアイリスフィールがすぐに治療をするが、アルトリアに余裕は一切ないように見えた。

 事前の予想通り、『原作より大幅にパワーアップしたディルムッド』に、『原作と同じ強さのアルトリア』では勝ち目がないようだな。

 約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真名開放を命中させることができれば、間違いなくアルトリアの勝利だろうが、……どう考えても『真名開放に必要な時間をディルムッドが作らせない』か、『真名開放の攻撃をあっさりと避けてしまうこと』が容易に予想できてしまう。

 原作でも、メドゥーサを約束された勝利の剣(エクスカリバー)の真名開放で倒せたのも、メドゥーサ自身がアルトリアを攻撃するために向かってきたいたという要素が大きかったらしいし。

 同じことをアルトリアも考えたのか、無言で甲冑を解除して、一撃必殺、捨て身の一撃の構えを取った。

 

「ずいぶんと思い切ったものだな。乾坤一擲で来るつもりか。

 その勇敢さ。潔い決断。捨て身の覚悟。

 決して嫌いではないがな……」

 

 ディルムッドはあえて挑発するような言葉と足取りで、その位置を変えていった。

 

「この場に限って言わせてもらえばそれは失策だぞ、セイバー」

 

 ディルムッドのそんな挑発とも忠告ともとれる言葉に対して、アルトリアは一切答えず、表情すら全く変えなかった。

 しかしそれは、ディルムッドの言葉を無視したのではなく、次の一撃に全神経を集中し、余計なことを一切考える余裕がないことは僕にも理解できた。

 ディルムッドもそれを悟ったのか、それ以上言葉を掛けることもなく、軽快なフットワークで移動を続けた。

 と、わずかに、ディルムッドの足運びが鈍った。

 

 次の瞬間、アルトリアは剣を振りかぶり、その剣から大気の噴流を放ち、その反動と魔力放出の相乗効果で、超音速の弾丸となってディルムッドへ突撃した、と思う。

 何せ僕の目には、アルトリアがものすごい速さで剣を振りかぶったと思ったら、次の瞬間大音量と共に姿が消えたようにしか見えなかったのだ。

 その直後、そこにはすれ違って背を向け合うアルトリアとディルムッドの姿があった。

 しかし、ディルムッドは無傷だったのに対して、アルトリアは左腕から大量の血を流していた。

 ディルムッドの前に、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)が転がっているのを見ると、原作と同じくアルトリアの捨て身の攻撃は必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で迎撃されたらしい。

 ……ただ、ディルムッドはそのアルトリアの捨て身の一撃さえ、無傷で躱したらしい。

 さすがは、敏捷:A++。

 アルトリアが甲冑の魔力を移動に回し、さらに風王結界(インビジブル・エア)で加速しても、ディルムッドにとっては無傷で躱せる速度でしかなかったわけか。

 

「殺せたと思ったが、……奪えたのは片腕だけか。

 あの状況から、それだけの傷で防ぐとはな。

 ……さすがはセイバー、ということか」

 

 ディルムッドは一撃でけりをつけられなかったことを悔やむ様子もなく、凄惨な笑みでアルトリアを見据えた。

 対照的に、アルトリアは苦痛と焦燥を隠せずにいた。

 

「……アイリスフィール。申し訳ありませんが、再度治療を」

「かけたわ!

 かけたのに、そんな……」

 

 アイリスフィールは、アルトリアへの治療が効果を発揮しないことに狼狽しきっていた。

 宝具には『傷が治らない呪い』を持っているものも結構あるのに、全然思いつかなかったか、……いや初陣かつ想定外の状況に動揺しきっているのだろう。

 

「治癒は間違いなく掛けたのよ。

 セイバー、あなたは今の状態で完治しているはずなの」

 

 それを聞いたアルトリアは、自身の左腕を凝視した。

 それは、出血もさることながら、傷も深く、どうやら左手の腱を完全に切られたらしく、左手が開いたまま全く動いていなかった。

 

 うわ~、今のでアルトリアが死ななかったのは良かったけど、左手が完全に使えなくなったのかよ。

 ……これは決まったな。

 この状態では、アルトリアは絶対にディルムッドには勝てない。

 たとえ、何らかの突発事態が起きてディルムッドが必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を失うことになっても、……やはり結果は同じだろう。

 

 その様子を見ながら、ディルムッドは必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を拾い上げて、アルトリアに声を掛けた。

 

「我が『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の力を見抜き、鎧が無意だと悟ったところまでは良かったがな。

 ……だが、鎧を捨てたのは早計だったな。

 そうでなければ、『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』は防げていたものを」

 

 ディルムッドは嘯きながら、右手に破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)を、左手に必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を持ち、それぞれ翼のように大きく掲げて構えた。

 

「成る程……『一たび穿てば、その傷を決して癒さぬ』という呪いの槍。

 もっと早く気付くべきだった……。

 フィオナ騎士団、随一の戦士……『輝く貌』のディルムッド。

 まさか手合わせの栄に与《あずか》るとは想像もしていませんでした」

「確かに、聖杯戦争がなければ、このようなことはありえなかったな。

 ……だが、誉れ高いのは俺の方だ。

 時空を超えて『英霊の座』にまで招かれた者ならば、その黄金の宝剣を見れば真名などすぐに分かる。

 かの名高き騎士王と鍔迫り合って、左手を奪えるまでに到ったとは……どうやらこの俺も捨てたものではないらしいな」

 

 ディルムッドは皮肉ではなく、本気で喜んでいる様子だった。

 

「さて、互いの名も知れたところで、ようやく騎士として尋常なる勝負を挑めるわけだが、……それとも片腕を奪われた後では不満かな?」

「確かに、貴方相手では、この状態の私が勝てる可能性は低いだろう。

 ……しかし、だからといって最後まで諦めるつもりはない。

 貴方が万が一にも手加減するつもりならば、それは私にとって屈辱だ!」

 

 アルトリアは自分の状況と、勝てる可能性について冷静に判断しているようだが、闘気は全く衰える様子を見せなかった。

 

「それでこそ、誉れ高き騎士王。

 安心しろ、セイバー。

 手加減など一切するつもりなどない。

 次こそは獲る」

「それは私に獲られなかった時の話だぞ、ランサー」

 

 両者は不敵な挑発を交わしながら、少しずつ間合いを詰めていった。

 いよいよ決着の時か、というときに、予想通り雷鳴の響きが二人へ向かって轟いていった。

 当然それは、イスカンダルとウェイバーが乗った神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)

 空を駆け抜けると、アルトリアたちの上空を旋回した後、二人の間に降り立った

 

「双方、武器を収めよ。

 王の御前である!」

 

 降り立っていきなり吼えた大音量は、凄まじいものだった。

 それに加えて、イスカンダルの眼光は、影経由で見ている僕ですらとてつもない圧力を感じるぐらいとてつもない威圧感を発していた。

 

「我が名は征服王イスカンダル。

 此度の聖杯戦争においては、ライダーのクラスを得て現界した!」

 

 いきなり発せられたイスカンダルのとんでもない宣言に、居合わす全員が呆気にとられてしまった。

 事前に知っていた僕たちでさえ、思わず苦笑してしまったぐらい、明らかに常識外れの宣言だった。

 当然それを許せるはずがないウェイバーが非難したが、イスカンダルのデコピン一発で沈んでしまった。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより先に、まずは問うておくことがある。

 うぬら各々が聖杯に何を期するのかは知らぬ。

 だが今一度考えてみよ。

 その願望、天地を喰らう大望に比してもなお、まだ重いものであるのかどうか」

 

 イスカンダルの言葉に、さっそくアルトリアが不審を感じたらしく、すぐに問いただした。

 

「貴様……何が言いたい?」

「うむ、噛み砕いて言うとだな」

 

 イスカンダルはいきなりくだけた口調に切り替えて続けた。

 

「ひとつ我が軍門に降り、聖杯を余に譲る気はないか?

 さすれば余は貴様らを朋友(とも)として遇し、世界を征する悦楽を共に分かち合う所存である」

 

 あまりにも突拍子もない言葉に、今度こそ全員が呆れかえってしまった。

 ちなみに、隣にいるメディア達ですら呆れ顔を隠そうとしていない。

 

「先に名乗った心意気には、まぁ感服せんでもないが……その提案は承諾しかねる。

 俺が聖杯を捧げるのは、今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。

 断じて貴様ではないぞ、ライダー」

「……そもそも、そんな戯言を述べ立てるために、貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたというのか?

 戯れ事が過ぎたな、征服王。

 騎士として許し難い侮辱だ」

 

 まあ、当然だわな。

 これが、『メディアとメディアを第五次聖杯戦争で召喚したマスター』の組み合わせだったら、……いやそれでも無理か。

 ここでサーヴァントが独自の判断で裏切ったら、速攻でマスターが令呪を使って、サーヴァントが裏切った罰(十中八九、自決命令)を受ける羽目になる。

 イスカンダルのスカウトを成功させるためには、『サーヴァントがスカウトに同意する』だけでは『マスターとサーヴァントをセットでスカウトする』か、『イスカンダルがマスターの令呪を短時間で無効化する手段を持っている』、あるいは『サーヴァントがスカウトに同意した瞬間にマスターを抹殺する』ことが必須条件となる。

 それ以前に、どう見ても騎士の二人が、忠誠を誓った主(マスター)を裏切るはずがないだろうに。

 ……やっぱりイスカンダルって、ただの馬鹿なんじゃないか?

 

「……待遇は応相談だが?」

「「くどい!」」

 

 当然、二人からはこれ以上ないぐらいきっぱりと拒絶された。

 

「重ねて言うなら……私もまた一人の王としてブリテンを預かる身だ。

 いかな大王といえども、臣下に降るわけにはいかぬ」

「ほう? ブリテンの王とな?

 こりゃ驚いた。名にしおう騎士王が、こんな小娘だったとは」

「……その小娘の一太刀を浴びているか? 征服王!」

 

 さすがにその発言は許せなかったアルトリアは、剣の構えを取った。

 が、イスカンダルは全く気にしていなかった。

 

「こりゃ~、交渉決裂かぁ。勿体ないなぁ。残念だなぁ」

「ら、い、だぁぁぁ……。

 ど~すんだよぉ。征服とか何とか言いながら、結局総スカンじゃないかよぉ……お前、本気でセイバーとランサーを手下にできると思ってたのか?」

 

 やっと復帰したウェイバーが当然の質問をしてきたが、イスカンダルは何ら悪びれずにあっさりと答えた。

 

「いや、まぁ、『ものは試し』と言うではないか」

「『ものは試し』で真名ばらしたのかよ!?」

 

 逆上したウェイバーは、イスカンダルの胸にポカポカ両手で連打しながら泣きじゃくっていた。

 いきなり発生した場違いな突っ込み漫才を終わらせたのは、ケイネスの冷たい、凍りつくような声だった。

 

「そうか、よりにもよって貴様か。

 一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思っていれば……よりにもよって、君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはねぇ。

 ウェイバー・ベルベット君」

「あ……う……」

 

 今まで泣きじゃくっていたのが嘘のように、ケイネスに剥き出しの恨みや憎しみをぶつけられたウェイバーは動揺しまくっていた。

 

「残念だ。実に残念だなぁ。

 可愛い教え子には幸せになってもらいたかったんだがねぇ。

 ウェイバー、君のような凡才は、凡才なりに凡庸で平和な人生を手に入れられたはずだったのにねぇ」

 

 しかし、ケイネスって本当にねちっこいというか、性格が悪いというか、……普通に抹殺宣言してやればいいのに、何でそこまで嫌味を言うんだろう?

 

「仕方ないなぁ、ウェイバー君。

 君については、私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。

 魔術師同士が殺し合うという本当の意味……その恐怖と苦痛とを、余すところなく教えてあげよう。

 光栄に思いたまえ」

 

 どこまでも嫌味たっぷり、かつ殺意を込められた台詞にウェイバーは怯えていた。

 ……いや、良く考えれば、僕もいきなりあんなものをぶつけられたら怯えてしまうかもしれない。

 『怒らせると怖い』という意味では、メディアとメドゥーサの二人で散々味わっているから、今ではそこそこ怒気や殺意の耐性は得たと思うけど。

 

 しかし、そんな怯えるウェイバーの肩に、イスカンダルは手を置いた。

 

 

「おう、魔術師よ。

 察するに、貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。

 だとしたら片腹痛いのう。

 余のマスターたるべき男は、余と共に戦場を馳せる勇者でなければならぬ。

 姿を晒す度胸さえない臆病者なんぞ、役者不足も甚だしいわ」

 

 ケイネスはそれに反論できず、怒りの気配を振りまくだけだった。

 ……いや、まあ、僕も姿を晒す度胸は欠片もないんだけどね。

 ケイネスとかウェイバーだけならともかく、切嗣や綺礼が敵にいる状況で姿を晒すのはどう考えても自殺行為だし。

 

 それはともかく、『サーヴァントの主であろうとするケイネス』と『自分の意志にしか従わない征服王』という二人は完全に水と油だから、ケイネスがイスカンダルを召喚できていたとしても、絶対に激しい対立が起きていただろう。

 『イスカンダルを従わせようとするケイネス』と『歯牙にもかけないイスカンダル』という姿が簡単に想像できる。

 その結果、すさまじい争いが勃発し、良くて相討ち、下手すればケイネスがイスカンダルに殺された可能性もあっただろう。

 ソラウがいれば、イスカンダルの現界には支障ないというわけで、イスカンダルもケイネスを殺さない理由もあまりないし。

 『そういう意味では、ウェイバーに感謝してもいいぐらいではないか?』なんて僕は考えてしまった。

 ……ケイネスは絶対に認めないだろうけど。

 

「おいこら!

 他にもおるだろうが。

 闇に紛れて覗き見をしておる連中は!」

「……どういうことだ? ライダー」

 

 疑問に思ったアルトリアがイスカンダルに尋ねたところ、イスカンダルは満面の笑みで答えた。

 

「セイバー、それにランサーよ。

 うぬらの真っ向切っての競い合い、まことに見事であった。

 あれほどに清澄な剣戟を響かせては、惹かれて出てきた英霊が、よもや余独りということはあるまいて」

 

 イスカンダルはそこで口調を替え、あたりに響き渡る大声で挑発を行った。

 

「情けない。情けないのぅ!

 冬木に集った英雄豪傑どもよ。

 このセイバーとランサーが見せつけた気概に、何も感じるところがないと抜かすか?

 誇るべき真名を持ち合わせておきながら、コソコソと覗き見に徹するというのなら、腰抜けだわな。

 英霊が聞いて呆れるわなぁ。

 んん!?」

 

 そしてイスカンダルは、ひとしきり豪笑した後、最後に一際大声で強く言い放った。

 

「聖杯に招かれし英霊は、今、ここに集うがいい!

 なおも顔見せを怖じるような臆病者は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」

 

 その熱弁は、辺り一帯に響き渡った。

 生で聴くと、本当に半端ない挑発である。

 これを無視できる人は、『本当に精神的に強い』か、『イスカンダルを歯牙にもかけていない』人でないと無理だと思わされるぐらいだ。

 

 そして、この挑発を見過ごせない英霊が即座に登場した。

 

 

 黄金の光が街灯のポールの上に現れた。

 当然それは、黄金の甲冑に身を包むギルガメッシュだった。

 

「我を差し置いて『王』を称する不埒者が、一夜のうちに二匹も涌くとはな」

 

 ギルガメッシュの最初の言葉は、傲岸不遜かつ冷酷非情なものだった。

 

「難癖つけられたところでなぁ……。

 イスカンダルたる余は、世に知れ渡る征服王に他ならぬのだが?」

「たわけ。

 真の王たる英雄は、天上天下に我ただ独り。

 あとは有象無象の雑種にすぎん」

 

 ものすごいことを本気で言い放つところは、さすが英雄王と思えるが、……隣にいるメディアの気配がものすごく怖くなっているんですけど。

 

「そこまで言うのなら、まずは名乗りを上げたらどうだ?

 貴様も王たる者ならば、まさか己の威名を憚りはすまい?」

「問いを投げるか?

 雑種風情が、王たるこの我に向けて?」

 

 普通に考えれば当然の問いに対して、ギルガメッシュの反応は彼ら全員にとって完全に予想外のものだっただろう。

 本当に『こいつは思考回路が違いすぎる』と理解していないと、気が狂っているとしか思えない反応だよな。

 

「わが拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すらないわ!」

 

 時代が昔過ぎて肖像画なんて残っていないのに、無茶なことを堂々と宣言したギルガメッシュは、左右の空間に剣と槍を出現させた。

 当然、イスカンダルを殺すために出したのだろう。

 

 

 一方、イスカンダルの挑発の直後から、僕たちはイスカンダルたちの様子を確認しつつ、念話であることを確認していた。

 

「一応確認しておくけど、真凛と真桜はあそこに行く気はないよね」

「もちろんよ。

 侮蔑されるのは正直むかつくけど、今の状態で出ていくなんて自殺行為そのものだし、それ以前に私たちの存在を隠した方が絶対に有利だわ」

「私も同意見です。

 終盤ならともかく、今の状態で今顔見せする必要はないと思います」

「了解。それで頼むよ」

 

 うん、賢明な意見だな。

 その結論を出してくれて僕はとても嬉しい。

 

「……で、メドゥーサの意見は?」

「別にイスカンダルにどう思われようと、私は一切気にしません」

 

 メドゥーサはクールに、イスカンダルの侮蔑を切って捨てた。

 さすがはメドゥーサ。

 敵認定した相手の言葉など歯牙にもかけていない。

 

「最後に、メディアの意見を聞きたいんですけど……」

「私があんなことを言われて、黙って隠れていると思うかしら?」

「いいえ、全く考えられません」

 

 念のため聞いてみたが、やはりメディアは黙っていられないようだった。

 誇り高いメディアが、あんな挑発されたら当然やり返すに決まっているよなぁ。

 

「よく分かっているじゃない。

 ……安心なさい、私自身が行くつもりはないわ」

「そうですか、それはよかった。

 ……でも黙っていないって、一体どうするつもりなんですか?」

 

 顔は見せなくとも、挨拶代りに魔術の爆撃でもするのだろうか?

 ものすごく物騒ではあるが、挨拶には間違いない。

 ……倉庫街にいるほとんどのサーヴァントを敵に回す可能性が高いので、できれば避けてほしいけど。

 

「私の影を送るわ。

 影とはいえ、私自身の姿であり、私の一部。

 征服王といえども、文句は言わせないわ」

 

 メディアがそう言った瞬間、イスカンダルたちの前にメディアの影が出現した。

 そのタイミングは、ちょうどギルガメッシュが剣と槍を出現させ、イスカンダルを狙ったときだった。

 

「おお、キャスターも来たか。

 これで、バーサーカー以外は揃ったな。

 ……しかしその体は、……もしかすると偽物か?」

 

 視線はギルガメッシュに向けたまま、それでも豪胆にイスカンダルはメディアに質問をぶつけてきた。

 

「ええ、対魔力スキルを持つサーヴァントが多いこの聖杯戦争において、魔術師である私は最弱の存在。

 おまけに、魔術を完全に無効化する「対魔力:A」のサーヴァントが二人もいる状況では、残念ながら影で顔を出すのが精一杯ですわ。

 ……征服王には軽蔑されるかもしれませんけど」

「いやいや、余は『ここに集うがいい』と言ったのみ。

 よって、影であろうとお主はここに集ったのだから、余に文句はないぞ。

 無論、己自身がここへ来た方が高い評価なのは事実だが、……お主の言う通り魔術師の天敵が揃っておる状況を冷静に分析し、影だけの派遣に留めたお主の判断も余は評価しよう。

 それにな、挑発に対して感情的にならず、冷静に対処できるお主なら参謀として頼りになりそうだ。

 どうだ?

 参謀として、余の部下にならぬか?」

 

 ……さすがは征服王というべきか。

 この切迫した状況でメディアの判断をお世辞抜きで肯定して、即座に参謀としてスカウトするとは。

 メディアの登場に気が削がれたのか、ギルガメッシュもイスカンダルへの攻撃を中断し、二人の会話を黙って聞いている。

 

 征服王が見抜いた通り、僕も『メディアは参謀として戦略や謀略を考案するのが適役』だと思う。

 もっとも、魔術のレベルは桁違いだが、実戦経験が少ないのが原因か、詰めが甘いところがあるように感じる。

 それも、イスカンダルのような実戦経験豊富な指揮官の部下になれば、その弱点も消え、最強のコンビとなるだろう。

 ……まあ、原作のFateで『油断から失敗を招くシーン』を嫌と言うほど見て、『凛に殴り倒される』という衝撃シーンまで見ているわけだから、この世界では油断しないとは思うけど。

 

「そこまで私を評価していただいたのは光栄ですが、マスターを裏切るわけにはいきません。

 よって、断らせていただきます。

 それと、キャスターと呼ばれるのは個人的に好みません。

 強制するつもりはありませんが、できればプリンセスと呼んでいただけないでしょうか?」

「すると、お主?」

「ええ、生前はとある王家の一員でした。

 私にとっても、ずいぶんと昔の話ですが……」

「ふむ、するとお主は、『王家の出身』で『キャスターとして召喚されるほどの知名度と魔術の技量』を持ち、さらに『参謀としての能力』も兼ね備えた人材というわけだな?」

「……大体合っていますが、それが何か?」

「うむ、そのような人材は参謀とするだけでは勿体ない。

 どうだ?

 参謀だけでなく、今生の余の嫁にならんか?」

 

 イスカンダルの『とんでも発言パート2』に、再び全員が呆れてしまった。

 

「何言ってんだよ、お前!

 いきなり敵のサーヴァントにプロポーズするなんて、お前正気か?」

「うむ、余は本気だぞ。

 優れた才能を持ついい女に出会ったのだぞ。

 ならば、その女を口説くのは、男として当然ではないか!」

「ふ……ふふ、あはははははは!」

 

 メディアは大爆笑していた。

 それほど、イスカンダルのプロポーズが大うけしたらしい。

 なお、隣の本体まで大笑いしている。

 しばらく笑った後、何とか笑いを堪えてメディアは返答した。

 

「……ここまで、率直かつ気持ちのいいプロポーズは生まれて初めてね」

「そうか、では!?」

「残念だけど、私は男が嫌いなの。

 特に筋肉ダルマの男はね。

 そういうわけで、例え受肉できたとしても、当分結婚するつもりはないわ」

 

 よかった。きっぱりイスカンダルのプロポーズを断ってくれた。

 メディアの幸せを祈らないわけではないが、……征服王イスカンダルと参謀兼魔術師のメディアがコンビを組んで世界征服を始めたら、本気で誰も止められなくなってしまうのは間違いない。

 さらにいえば、メディアと僕は同盟関係であり、同盟破棄されたからといって令呪で自害を命じる権利はないので僕にもメディアを止められない。

 ……第一、メディアが僕たちに敵対でもしないかぎり、真凛が『メディアの自害』を令呪で命じるはずもないしな。

 

「そうか、残念だのう。

 ……もしかすると、生前はよっぽど男運が無かったのか?」

「余計なお世話よ!」

 

 メディアが怒りを込めて言い返したが、イスカンダルはマイペースに言葉を続けた。

 

「まあ、よい。

 この戦いを通じて、余が『お主の嫌う男ども』と全く違う存在であることを理解すれば、気が変わることもあろう。

 ……しかし、男嫌いの元王女で、『キャスター』と呼ばれるのが嫌いとな?

 一つ、思い当たる名前が出てきたぞ。

 ……もしかすると、男だけでなく神も嫌っておるか?」

 

 さすがは(原作において)ギルガメッシュの真名に気づいたイスカンダル。

 今までの会話から、メディアの真名も気づいたらしい。

 ……まあ、時臣師にすでにばれている以上、真名の隠蔽はそれほど重視していなかったから当然かもしれないけど。

 

「……どうやら私の真名に気づいたようね。

 だったら、私を口説くことが無謀だと理解したのでは?」

「何を言う。

 お主はやり返しただけだろう?

 同じような状況に置かれることがあれば、余も絶対に復讐する。

 ……無論、余が知っている伝承がどこまで事実かは知らんがな。

 余は部下に対して、相応しい地位と報酬を必ず提供する。

 戦いで死者が出ることは避けられないが、部下を裏切ったり使い捨てたり、ましてや無駄死にさせるような真似は絶対にやらん」

「……貴方のような人と生前に会えていれば、……私も少しはましな人生を送れたかもしれなかったわね」

「では!?」

「残念ですが、お断りします。

 あなたと比較すれば、遥かに小者で魅力もほとんどありませんが、それでも私を受け入れ、私が望む待遇を与えてくれているマスターがいます。

 『身の程をわきまえているだけ』とも言えますが、『英霊を召喚し令呪を持っているだけ』で、『サーヴァントより偉い』とか、『サーヴァントは自分の道具』だと考えているマスターが多い中ではありがたい存在です。

 マスターが私を裏切るようなことがない限り、あなたのスカウトはお断りします」

 

 なんか、物凄く貶されたような気もするけど……、ともあれ、メディアがきっぱりとスカウトを断ってくれて何よりだ。

 なお、それを聞いたウェイバーは、傷ついた表情を見せた。

 自分もそれに該当すると自覚したのかな?

 しかし、当然と言うべきか、イスカンダルは諦めが悪いようだ。

 

「うむ、その忠義はあっぱれである。

 では、お主はマスターごとスカウトするとしよう。

 次に会うときには、マスターも一緒に連れてくるがいい。

 ……おお、さすがにマスター本人が来いとは言わんぞ。

 お主と同じく、影で構わん」

「いい加減にしろ、ライダー!

 聖杯戦争でサーヴァントをスカウトしようなんて、無理な話なんだよ!!」

 

 ペシッ

 ウェイバーはしごく当然のことを言ったのだが、再びイスカンダルのデコピン一発で沈んでしまった。

 

「不可能と言われることに挑戦し、実現してみせることこそ我が覇道。

 一度や二度失敗したぐらいで諦める余ではないわ!!」

 

 さすがは、全ての国民が憧れる存在であろうとした征服王。

 カリスマと器の大きさ、そして自らの遺志を貫き通す力は大したものだ。

 ……ちょっと、いやかなり破天荒だとは思うけど。

 

「わかりました。

 その言葉を、マスターに伝えておきます。

 影で会うだけなら、あのマスターでもさすがに断らないでしょう。

 ……それと、一応言っておきますが、マスターが同意したとしても私が認めるのはスカウトまでです。

 プロポーズまでは受けるつもりはありません」

「うむ、余は無理強いするつもりはない。

 お主が参謀となった後、時間を掛けて口説くつもりだから、安心するがよい」

 

 ちょっと待て!

 そこまで言われて会わなければ、僕は『とんでもない臆病者であり、メディアに恥をかかせ、イスカンダルの招待を無視した無礼者』ってことにならないか?

 まいったな、この時点で会わないという選択肢はなくなってしまったな。

 『生き残るためならプライドを捨てることは平気な僕』でも、『影で作った分身で会う』という『僕本体へ危害を加えられる可能性が低い招待』すら断るのは、さすがに気がひける。

 ……イスカンダルと直に会話したいという願望もあるのは否定しないけど。

 

 隣にいるメディア(本体)の方を見ると、にっこりと微笑んできた。

 多分、『危険は少ないから僕自身が直接イスカンダルに会って、スカウトをきっぱりと断れ』って意味かな?

 

 ……しかたない。

 『王の宴』のときにでも、メディアと一緒にゲスト枠で参加させてもらうか。

 元王族のメディアなら、たぶん宴への参加は許可されるだろう。

 もっとも、『自分とその仲間が幸せならそれで十分な僕』が『世界征服を目指すイスカンダル』の部下になることはありえないけどね。

 

 

 と、そんなことを考えていると、雁夜さんから連絡が入ってきた。

 

「まさか、プリンセスまで現れるとはね。

 まあ、ライダーにあんなことを言われれば、顔を出さないわけにはいかないのは分かるけど……」

「ええ。まあ、そういうことです。

 で、バーサーカーはどうしますか?」

「元々一回は戦闘させるつもりだったし、何より彼が知性を失っていなければ、ライダーの挑発に応えてあの場に現れていたのは間違いない。

 俺としても、できるだけ彼の誇りを汚したくないから、バーサーカーもあの場に呼び出すよ」

「わかりました。

 気を付けてください」

 

 次の瞬間、漆黒の全身鎧を身にまとったバーサーカーが彼らの前に現れた。

 サーヴァントたちにとってこの状況でバーサーカーまで現れるとは完全に予想外だったらしく、バーサーカーに対して最大限警戒していた。

 そんな中、我が道を行くイスカンダルは、全く空気を読まずにその場にいる全員に声を掛けた。

 

「おお、バーサーカーも来たか。

 これで、すでに破れたアサシン以外の6クラス全てのメンバーが揃ったな。

 皆のもの、余の呼び掛けに応じてくれて感謝する」

 

 ……本当ならキャスタークラスなのは真凛と真桜の二人であり、メディアは本来アサシンクラスではあるが、……確かに、6クラスのサーヴァントが集まったわけだから、勢揃いと言っても過言ではないだろう。

 

「……で、征服王。

 アイツには誘いを掛けないのか?」

 

 ランスロットを警戒しつつ、ディルムッドは軽い口調でイスカンダルに尋ねたが、イスカンダルは顔を顰めて答えた。

 

「誘おうにもなぁ。

 ありゃあ、のっけから交渉の余地がなさそうだわなぁ。

 ……で、坊主よ。

 サーヴァントとしちゃ、どの程度のモンだ?

 あれは」

「……判らない。

 まるっきり判らない」

 

 イスカンダルにランスロットの強さを尋ねられたウェイバーだったが、彼は呆気にとられたまま否定することしかできなかった。

 ……やっぱり、サーヴァントのパラメータとかを隠せるのはかなり有利だよな。

 まあ、一度戦えばパラメータは大体想像できちゃうんだろうけど。

 

「何だぁ?

 貴様とてマスターの端くれであろうが。

 得手だの不得手だの、色々と『観える』ものなんだろ、ええ?」

「見えないんだよ!

 あの黒い奴、間違いなくサーヴァントなのに……ステータスも何も全然読めない」

 

 予想外の事態にウェイバーは狼狽しきっていた。

 いや、英霊をこの世に召喚していて、英霊と宝具って本気で何でもありなんだから、いちいち驚いていたら身がもたないと思うけどなぁ。

 ……まあ、僕自身もイレギュラーな事態がたくさん起きて(起こして)、驚き慣れしているというのもあるけど。

 

「さて、すでに敗退したアサシンを除く6人のサーヴァントがここに揃った。

 つまり、この中で最後の一人になるまで生き残ったものが、聖杯を手にするわけだが……」

「たわけ、それは我に決まっておる。

 お前たちは全力で戦い、我と戦うだけの資格を持っているか命を掛けて証明してみるがいい」

「で、資格があったものだけお主は戦うわけか?」

「無論だ。

 ただし、まだ我の目に適う者はおらぬ。

 もっと本気で戦い、我を楽しませるがよい」

 

 

 イスカンダルとギルガメッシュが上から目線の会話をしていたとき、それはいきなり起きた。

 

「……ar……ur……ッ!!」

 

 地獄の底からわき出したような呪いのごとき叫びと共に、ランスロットはアルトリアへ向かって突進を開始した。

 僕は、慌てて雁夜さんに事情を聞くことにした。

 ……まあ、ランスロットの叫び声から何が起きたかは大体予想できたけど。

 

「雁夜さん、何が起きたんですか?」

「バーサーカーがセイバーを認識した瞬間、いきなり暴走した。

 止めようとしたんだが、……この感じだとすぐにはバーサーカーを制御できそうにない!」

 

 おいおい、原作より遥かにパワーアップした雁夜さんでさえ、バーサーカーを制御できないのかよ。

 ……あ~、そういえば、ランスロットも雁夜さんのおかげでパワーアップしていたから、力関係はあんまり変わらないのか。

 で、アーサー王を認識したランスロットは現在暴走&攻撃中、と。

 

 アルトリアは必死で防御しているが、左手が使えないこともあり、ランスロットの猛攻を防ぐのが精一杯に見える。

 

 

 ちなみに、ランスロットが両手に持っているのは、『剣の形をしたただの鉄の塊』である。

 『ランスロットにとって持ちやすい形』でさえあれば、後は彼が持つだけでランクD相当の宝具になるわけだから、形以外は一切手を加えていない物を複数個作ってランスロットに持たせたのだ。

 それで、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を持つアーサー王を追い詰めているんだから、本当にランスロットってチートな存在だな。

 それと、ギルガメッシュは目の前の戦いに興味がわいたのか、ポールの上で笑みを浮かべたまま観戦を続けているので、彼の介入は考えなくて良さそうだ。

 

「雁夜さん、幸いにもバーサーカーが攻撃しているのはセイバーだけです。

 しかも圧倒的に有利みたいなので、バーサーカーが落ち着くか、ダメージを受けるまでは放置しませんか?

 この状態で制御しようとすると、雁夜さんが相当疲労するでしょうし。

 ……魔力量は大丈夫ですよね」

「ああ、この日のために魔力を貯めてきたから、まだ十分余裕はある」

 

 さすがは魔術回路を作る修行をずっと続け、さらに魔術回路を全開放した雁夜さん。

 バーサーカーが暴走してもまだ余裕があるとは、大した魔力量だ。

 

「……わかった。

 しばらくは、バーサーカーに任せよう。

 しかし、ランスロットとアーサー王の因縁は伝説で知っていたが、……まさか理性を失ったバーサーカーが一瞬で暴走してセイバーに襲いかかるとは!

 ……完全に予想外だったな」

「そうですね。

 でも、早めにそれが分かって良かったじゃないですか。

 それと、暴走すると狂化していなくても制御が難しくなるということもわかりましたし」

「そうだな。

 それは確かに重要な情報だな。

 後は、バーサーカーが無事に撤退できることを祈ろう」

 

と、そこへ第三者から雁夜さんへのメッセージが加わった。

 

「それと、セイバーは可能なら私のものにしたいから、止めを刺す前に必ずバーサーカーを止めなさい」

「……だ、そうです」

 

 メディアは本気でアルトリアを自分のものにしたいようだ。

 ……破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)を幻想魔術具で作れる見込みは立ったのだろうか?

 あれがないと、アルトリアをものにするのは不可能に近いと思うけど……。

 

 雁夜さんもメディアに逆らう愚を理解しているらしく、素直に承諾していた。

 

「わかりました、プリンセス。

 バーサーカーがセイバーを殺す寸前まで追い詰めることがあれば、最悪令呪を使ってでも撤退させます」

「そうして頂戴。

 時臣には、『魔力切れになりそうだったから撤退させた』といえば問題ないでしょう」

「了解しました」

 

 こうして、ランスロット vs アルトリアの戦いは続くことが決まった。

 ランスロットの二刀流の攻撃により、アルトリアは防戦一方だった。

 アルトリアは左手が使えない上、ランスロットは二刀流で技量は上なのだから当然と言えるだろう。

 そのため、アルトリアは全く反撃できないまま、どんどん追い詰められていった。

 

「セイバー……ッ!」

 

 切羽詰まったアイリスフィールの声が掛けられたが、アルトリアは返答すらできないほど切羽詰まっていた。

 『これは雁夜さんが令呪を使うしかないか?』 と思ったとき、いきなりランスロットの剣が切り落とされ、もう一本の剣は黄色い槍で防がれていた。

 

「悪ふざけはその程度にしておいてもらおうか、バーサーカー」

 

 そう、介入してきたのはディルムッドだった。

 

「そこのセイバーには、この俺と先約があってな。

 ……これ以上つまらん茶々を入れるつもりなら、俺とて黙っておらんぞ?」

「ランサー……」

 

 ディルムッドのその騎士道にアルトリアは感動していた。

 ……ディルムッドって、顔だけじゃなくて行動もかっこいいんだよなぁ。

 ディルムッドって、『モテ過ぎて不幸になる男』のいい例か?

 

 もっともバーサーカーとなっているランスロットに言葉が通じるはずもなく、邪魔をするディルムッドを排除するためランスロットは攻撃を開始し、それを撃退すべくディルムッドも攻撃を開始した。

 こうして、ダメージが大きすぎて戦線離脱中のアルトリアを置き去りにして、ランスロット vs ディルムッドの戦いが始まった。

 ……が、本当に相性は最悪の戦いだった。

 ディルムッドの破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)によって、一太刀で鉄剣は切断され、ランスロットの鎧もまた無効化されてしまう。

 ランスロットがいくら強くても、二槍流の達人相手、それも宝具の効果や鎧を無効化する槍を持たれていては、勝ち目は薄いとしか思えなかった。

 

 

 戦いが続く中、ディルムッドとランスロットが偶然距離を取ったとき、ケイネスからディルムッドへ詰問があった。

 

「ランサー、貴様はセイバーよりもバーサーカーを倒すことを優先するのか?」

「はっ、セイバーとは一対一で決着をつけたいと望みます。

 ゆえに、それを妨害するバーサーカーを倒すか、撃退させる許可を」

「……セイバーに圧勝した貴様の実力は理解しているが、……バーサーカーもまたセイバーに圧勝している。

 そして、バーサーカーのステータスの詳細は今も見えない状態だ」

「ご安心を、我が主よ。

 いくらステータスが優れようとも、理性を失ったバーサーカーなど私の敵ではございませぬ」

「……よかろう。

 ランサーよ、さっさとバーサーカーを仕留め、続けてセイバーに止めを刺せ」

「はっ、承知しました」

 

 原作では、ケイネスは令呪を使ってまでアルトリアを殺そうとしたが、この世界のケイネスの判断は違ったようだ。

 多分、この世界ではディルムッドとランスロットが、アルトリアより明らかに強く、まず倒すべきはランスロットだと判断したのだろう。

 実際、ケイネスの言う通り、アルトリアはディルムッドに負け、(負傷しているとはいえ)ランスロットにボロ負けしている。

 『ディルムッドならいつでもアルトリアを倒せる』と判断してもおかしくないだろう。

 実際、僕も同じ判断だし。

 ……もっとも、神(原作者)によれば、『一番相性が良くて、かつ強力なランスロットは最後まで倒さず、ランスロットに他のサーヴァントを倒させて、残り二人になった時点でディルムッドにランスロットを倒させる』戦略が一番有効らしいけど、……やっぱりケイネスには気付けないんだろうなぁ。

 まあ、原作知識を持って、かつこうやって傍観者の立場だからそういう発想ができるわけで、現地にいて原作知識なしでそれを考え付けと言われても、……やっぱり僕でも無理だろうな。

 どうしても、『倒せる時に強敵を倒せ』って発想になるだろうし。

 ……切嗣ならすぐに気づきそうだけど。

 

 

 ケイネスの許可が出た為、ディルムッドはランスロットとの戦闘を再開した。

 『両手に鉄剣の切れ端しかないランスロットでは勝ち目は無いから、そろそろ撤退を助言したほうがいいかな?』と思っていたのだが、いきなりランスロットが叫びだした。

 そして、ランスロットは今まで以上の勢いで鉄剣の切れ端と鉄剣で切りかかり、ありえないことにディルムッドと互角の戦いを始めてしまった。

 

「……そう、ランスロットを狂化させたのね。

 魔力の消耗は激しいけど、……この状況では正しい判断ね」

「あ~、なるほど。

 雁夜さん、ランスロットを狂化させたんだ。

 ……確かにそれぐらいしないと、このディルムッドと互角に戦うのは不可能ってことか」

 

 もちろん、狂化しようと破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)とまともにぶつかれば、武器である鉄剣を切り裂かれてしまう。

 僕の目では確認できないけど、多分破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の穂先とぶつかることを避けることで、武器を失うことを避けているのだろう。

 それを可能としたのは、狂化することでディルムッドと互角まで上げた敏捷のおかげだろう。

 

 ……って、おいおい、『パワーアップ&狂化のランスロット』と互角って、ディルムッドって本当に強いんだな。

 こいつに真っ向から戦って確実に勝てるのって、……やっぱり、ギルガメッシュか『固有結界を使ったイスカンダル』だけか?

 いくらディルムッドでも、物量で攻められれば最後には力尽きると思う。

 

 

 しかし、狂化したランスロットでもディルムッドを倒せなさそうだし、長期戦になれば間違いなく雁夜さんの魔力が足りなくなるだろうから、……今度こそ雁夜さんに撤退を助言するときかな。

 そう思ったとき、いきなり彼女は現れた。

 

 現れたのは、黒髪でバイザーのような黒い仮面と漆黒の鎧を纏った少女だった。

 片手には漆黒の剣を持っている。

 ……って、髪の色を除けば、どう見てもセイバーオルタ(通称:黒セイバー)じゃないか!?

 

 一体何が起きたんだ!?

 メディアが何かしたのかと慌てて振り返ったが、メディア達も驚愕の表情をしていた。

 どうやら、彼女たちも何も知らないらしい。

 ……慌てて影経由で注視するとパラメータが見えたことから、彼女もまたサーヴァントであることは間違いないらしい。

 しかし、確認できたパラメータはさらに混乱させるものだった。

 

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    セイバー

真名     アルトリア

マスター   不明

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 A+ 魔力 A+

       耐久 A 幸運 B

       敏捷 B 宝具 A++

クラス別能力 【対魔力】:B

       【騎乗】:-

保有スキル  【直感】:B

       【魔力放出】:A

       【カリスマ】:E

宝具     【約束された勝利の剣】:A++

 

 

 やっぱりセイバーオルタじゃないか!?

 だけど、ステータス、そして髪の色が違うとか、一体何が起きているんだ?

 

 

 傍観者である僕たちが混乱しているのと同様に、セイバーオルタが現れた戦場でも絶賛大混乱中で、ディルムッドもランスロットと距離をとってセイバーオルタを警戒していた。

 特に、闇色の約束された勝利の剣(エクスカリバー)を見たアルトリアとか、パラメータを見たらしいウェイバーは驚愕の表情で声も出せないでいる。

 イスカンダル、そしてギルガメッシュは面白そうにセイバーオルタを観察していた。

 

 『僕ごときに聖杯戦争を完全にコントロールできるとは考えていなかった』けど、……さすがにこれは想定外だ。

 ただ、間違いなく言えることは、新しい、そしてイレギュラーな登場人物が加わり、これからの戦闘がますます混沌としてきたということだ。

 

 イレギュラー要素とバタフライ効果の相乗効果なんだろうけど、……一体何がどうなっているんだ!?

 

 ……本当にこの聖杯戦争、無事に終わるのだろうか?

 そろそろ本気で不安になってきた僕だった。

 




 続けてのまともな戦闘シーンです。
 うまく表現できているといいんですが。

 話が長くなったので、ものすごく中途半端ですがここまでで切りました。
 次話で、セイバーオルタの正体が明かされる予定です。
 楽しみに待っていてください。


【改訂】
2012.09.29 本編の表現を少し修正しました。


【聖杯戦争の進行状況】
・雨生龍之介は警察に捕まり、青髭を召喚できないで退場
・原作登場人物全員(龍之介と青髭除く)の冬木市入りを確認 NEW
・サーヴァント11人召喚済み(セイバー2人、キャスター2人、アサシン3人)NEW
・アサシンの分体(最大80体)のうち、7体死亡確認(生贄:2体、茶番:1体、マキリの聖杯への取込:4体)
・セイバーオルタの登場 NEW


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・真桜に悪影響がない範囲で、マキリの聖杯にサーヴァント取り込み
 (現時点で、アサシンの分体を4体、魔力に変換済み)
・アルトリアを配下にする(メディアの希望)
・アルトリアの血を吸う(メドゥーサの希望)
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・八神陣営の全員の生き残り(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【設定】

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    セイバー
真名     アルトリア
マスター   不明
属性     秩序・悪
ステータス  筋力 A+ 魔力 A+
       耐久 A 幸運 B
       敏捷 B 宝具 A++
クラス別能力 【対魔力】:B
       【騎乗】:-
保有スキル  【直感】:B
       【魔力放出】:A
       【カリスマ】:E
宝具     【約束された勝利の剣】:A++


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第23話 セイバーオルタの目的(聖杯戦争五日目)

 いきなり現れたセイバーオルタらしい漆黒の少女は、ランスロットに向かっていきなり叫んだ。

 

「ランスロット!

 貴様の願い通り、私が裁いてやろう。

 お前の全力を以って、私の裁きを受けとめるがいい!!」

「Arrrrrrrthurrrrrr!!」

 

 セイバーオルタはランスロットの名を呼び、ランスロットもまたはっきりとアーサー王の名を呼んだ。

 この発言からして、この少女は人格や記憶もセイバーオルタで間違いなさそうだ。

 しかし、いったいどこから、そしてどうしてここに現れた?

 アルトリアが知らない様子から考えると、『切嗣が密かに裏技を使って追加召喚していた』とか、『臓硯が裏技で召喚した』とかの可能性が高そうだけど。

 いや、どちらにしろ、面倒なことには変わらない!

 

 そんなことを考えていると、ランスロットを覆っていた黒い霧が消えていき……、って、えええええ!!

 見間違いなどではなく、ランスロットがはっきり見えるようになり、ランスロットの手には無毀なる湖光(アロンダイト)が握られていた。

 

湖の騎士(サー、ランスロット)

 なぜ、貴方が!!」

 

 漆黒の少女の呼びかけに加えて、見間違えようのないランスロットの姿を目にして、アルトリアは悲鳴のような声をあげていた。

 しかし、アルトリアの叫びに対して、二人は全く反応を示さず、お互い見つめ合い、いや睨み合ったままだった。

 そして、セイバーオルタはその手に黒い剣を具現化させると、ランスロットに向かって一気に駆け出した。

 ランスロットもまた、セイバーオルタに向かって全力で駆け出し、二人はちょうど中間地点で激突した。

 

 似た意匠を持つ二本の闇色の剣は正面から激突すると、凄まじい衝撃音が響き、同時にとんでもない量の魔力が辺りに撒き散らされた。

 

「なぜ、なぜ、お前が、……約束された勝利の剣(エクスカリバー)を持っている!!」

 

 思わずアルトリアが叫んだのも無理はない。

 色は闇色に染まっていても、無毀なる湖光(アロンダイト)との激突時に見せた威力は、アルトリアから見ても本物以外考えられなかったのだろう。

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 今度はランスロットが無毀なる湖光(アロンダイト)で攻撃をしかけるが、セイバーオルタは約束された勝利の剣(エクスカリバー)で弾き返した。

 

「貴様の願い通り、徹底的に叩きのめしてやろう。

 来るがいい、ランスロット!!」

 

 そのまま二人は狂気と覇気をぶつけ合い、互角の戦いを始めた。

 狂気に犯されたランスロットは、ただセイバーオルタに向かって突撃するだけだった。

 しかし、セイバーオルタもまたランスロットに正面から打ち掛かり、その場で熾烈な剣戟が繰り返された。

 

 ……て、あれっ?

 ランスロットの無毀なる湖光(アロンダイト)って、使うと『全パラメータが1ランクアップ』という(接近戦用とはいえ)公式チート宝具じゃなかったっけ?

 つまり『パワーアップした雁夜さんが召喚したことによる強化+狂化+無毀なる湖光(アロンダイト)の効果』で、現在のランスロットのパラメータがとんでもないことになっているはずでは?

 ……ああ、それと無毀なる湖光(アロンダイト)には『龍属性を持つ英霊に対して追加ダメージ』という特性まであったか。

 まじでアルトリアの天敵だよな。

 

 同じ疑問を感じたのか、メディアはすでに雁夜さんに問いかけていた。

「雁夜、貴方『狂化』を解除したの?」

「その通りです、プリンセス。

 正直、これ以上の魔力消費は厳しすぎる。

 ……それに、いきなり現れた黒いセイバーの正体も目的も分かりません。

 そこで、今回の戦闘はここまでとして、機会を見つけ次第バーサーカーを逃がすつもりです。

 よって、魔力切れになるのを避ける為、『狂化』を解除しました」

「そう、その判断は正しいわね。

 実戦経験も積めたし、貴方もバーサーカーの制御について少しはコツを掴めたようだし、……確かに潮時でしょうね。

 黒いセイバーと距離を取れたら、……魔力供給を遮断して、強制的に霊体化させてバーサーカーを撤退させなさい。

 今の貴方なら可能でしょう?」

 

 あっ、なるほど。

 その手があったが。

 原作の雁夜さんならともかく、この世界の雁夜さんなら、自分の意志でランスロットへの魔力供給量を遮断することも可能だったか!

 

「ええ、十分可能です。

 了解しました。

 戦闘が小康状態に入り次第、霊体化させてバーサーカーを撤退させます」

 

 

 こうして、ランスロットを撤退させる機会を伺いながら、僕たちは二人の戦闘の観戦を続けることになった。

 

 改めてセイバーオルタの姿を確認したが、黒一色の鎧と服、そしてバイザーのような黒い仮面とそこまではセイバーオルタそのものだ。

 しかし、黒目黒髪で、良く見れば肌の色も違うし、呆然と二人の戦闘を見ているアルトリアと比較すると、……少し背が高いか?

 このセイバーオルタは、僕の知らない世界から来た存在か?

 それとも、黒桜に『間桐家伝統の肉体改造』を施された結果、ここまで体が変化したのだろうか?

 

 そんなことを考えつつ、戦う二人以外の状況を確認してみると、全員動く様子はなかった。

 ディルムッドは元々アルトリアを守りたかっただけなのか、ランスロットとセイバーオルタの戦いには介入せず、少し離れた場所で二人の戦いを観戦するだけだった。

 ケイネスもそれを良しとしたのか、彼の指示もなかった。

 

「ほう、バーサーカーはかの有名な湖の騎士ランスロットだったとは驚いた。

 理性を失ってもあの技量とは、さすがは最強の円卓の騎士。

 ……惜しいのう、バーサーカーでなければぜひとも部下に欲しかったのだが」

「お前、本当にいい加減にしろよな!

 それにもっと重要なことがあるだろ。

 ありえないんだよ!

 なんで、なんでセイバーがもう一人いるんだよ!」

「どうした、坊主?

 確かにいるはずのない8人目のサーヴァントがいきなり現れたのだ。

 動揺するのも無理はないが、もちっと落ち着いて対応できんのか?」

「バカ!

 そんなんじゃない!!

 あいつのクラスはセイバーだと、はっきりパラメータに表示されているんだ。

 つまり、ここにはセイバーが二人いるんだぞ!

 そんなこと、……ありえるはずがないのに!」

「ふむ、確かにそいつも不思議よの。

 坊主の目には、あやつがセイバーだと見えておるのか。

 ……だが、それだけではないぞ。

 あの黒い剣は、セイバーの剣と色以外は全て同一。

 ……どうやらこの聖杯戦争、一筋縄ではいかんようだのう」

 

 そんなことを話しながら、イスカンダルとウェイバーも観戦していた。

 ちょっと錯乱中のウェイバーの気持ちはよくわかる。

 セイバーオルタの存在を知っている僕でさえ、何が起きているのか全然分からず混乱中なんだからなぁ。

 

 『この様子なら二人の戦闘に邪魔は入らないか?』と思ったまさにその時、予想外の事態が発生した。

 

 

 ランスロットとセイバーオルタの戦いは相変わらず凄まじいもので、その余波で吹き飛んだ破片の一つが、たまたま街灯の柱に激突してそれをへし折ったのだ。

 ……そして、運が悪いことに、その街灯はギルガメッシュが乗っていたものだった。

 まあ、辺り一面に破片が飛び散っていたから、激しい戦闘が続いていれば、いつかは同じことが起きていたんだろうけど。

 

「雑種が!

 唯一の王たる我を地上に降ろすとは!

 その罪、万死に値する!!」

 

 地上に引きずりおろされたギルガメッシュは、一瞬でブチ切れて剣と槍を二人に向かった射出した。

 が、そんなものに殺られる二人ではなく、すぐさま戦闘を中止して距離を取り、同時に振り返ってそれぞれ飛んできたものを叩き落とした。

 それを見たギルガメッシュは、当然ながらさらに沸騰した。

 

「貴様ら!

 大人しく死んでおればいいものを!

 我が宝物の前に、その程度の力など無力であることを知るがいい!!」

 

 今度は一気に16個もの武器を出現させると、即座に二人に向けて撃ち放った。

 当然、それは凄まじい音と共に大破壊を巻き起こす。

 ……が、土煙が風に飛ばされると、そこには無傷で攻撃を防ぎきった二人の姿があった。

 おまけに、ランスロットは無毀なる湖光(アロンダイト)ではなく、今ギルガメッシュが放った宝具の原典を手にしている。

 ……何をどう判断したのか僕には想像もできないが、……どうやら無毀なる湖光(アロンダイト)を格納し、奪った武器で迎撃することを選んだらしい。

 さすが、チートサーヴァントが二人揃っているだけあって、ギルガメッシュの投射攻撃程度なら、全く問題ないらしい。

 

「……その汚らわしい手で、我が宝物を使うとは。

 許さんぞ、雑種っ!!」

 

 完全に切れたらしいギルガメッシュは、とうとう32個もの武器を出現させて攻撃しようとした。

 『そろそろ時臣師の我慢も限界かな?』と見ていると、予想通り時臣師が令呪を使ってギルガメッシュに諫言したらしく、彼は急に視線の方向を変えた。

 

「貴様ごときの諫言で、王たる我に引き下がれと?

 大きく出たな、時臣……」

 

 ものすごく不満そうだったが、ギルガメッシュは展開していた武器を消し去った。

 

「……命拾いしたな、狂犬。

 今の貴様では理解するだけの知性はないだろうが、……再び同じことを繰り返せばその時は死以外の結末があると思うな!」

 

 そう吐き捨てると、他のサーヴァントたちを見下ろして、ギルガメッシュは傲慢に言い放った。

 

「雑種ども。

 次までにそこの黒い奴らを退治しておけ。

 我とまみえるのは真の英雄のみで良い」

 

 そう言うと、ギルガメッシュは霊体化して姿を消した。

 

 ふう、まずは一人撤退か。

 時臣師も多分令呪を使っただろうし、ここは原作と同じ展開になっちゃったか?

 ……まあ、ギルガメッシュが怒った原因は、最初は不可抗力だし、二つ目は武器を手にしただけだから、雁夜さんに責任はないはず。

 機嫌は損ねているだろうけど、『雁夜さんが裏切った』とか『非協力的だ』とか言われる恐れはないだろう。

 ……なぜか、何個か宝具の原典が置き去りにされているが、ギルガメッシュが回収を忘れたのか?

 まあいい、使えるものは回収するのが僕のモットーでもあるし、目立たないように影を使って回収しておこう。

 

と、そんなことを考えていると、ランスロットも霊体化して姿を消していた。

 ランスロットがギルガメッシュと対峙して、『アーサー王に対する暴走』が収まった時を狙って、雁夜さんが強制的にランスロットを霊体化させたのだろう。

 霊体化してしまえばランスロットも無事に撤退できるはずだ。

 

「雁夜さん、大丈夫ですか」

「……あ、ああ、俺もバーサーカーも全く問題ないが、……本気で疲れた。

 魔力を使いすぎたのも原因だけど、……まさかアーチャーと戦う羽目になるとは」

 

 雁夜さんの声は、本気で疲労困憊といった状況だった。

 戦いが終わり、大量の魔力と気力を消費した疲れが一気に出てきたのだろう。

 

「あれは不可抗力ですよ。

 バーサーカーが戦ったのは、セイバーとランサーと黒いセイバーとアーチャーですけど、セイバー以外は相手から戦闘を仕掛けてきたわけですし」

「……そうだな。

 多分その説明で時臣も納得すると思うが、……とにかく疲れた。

 魔力回復のためしばらく寝てるから、何か緊急事態があったら起こしてくれ」

「わかりました。

 後のことは任せてゆっくり寝ててください」

「……ああ、……頼んだ、よ」

 

 雁夜さんの声は途切れた。

 多分、眠りの世界へ直行したのだろう。

 

 ランスロットは、アルトリア、ディルムッド、セイバーオルタ、ギルガメッシュと4人連続で戦ったんだから戦闘経験は十分積めたし、魔力の消費量もかなりのものだろうから、あの時点で撤退できて本当によかった。

 そして、ランスロットは『暴走すれば(今の雁夜さんでも)制御が難しくなること』もわかったし、『ランスロットは予想以上に強いこと』、『ディルムッドには相性が悪すぎること』、そして『アルトリアを見ただけで暴走すること』も確認できたから収穫は多いと言える。

 ……まあ、原作知識で知っていたことも多かったけど。

 

 さて、これで撤退したサーヴァントは二人目。

 今倉庫街に残っているサーヴァントは、ぼろぼろのアルトリア、無傷のディルムッド、一度も戦ってないイスカンダル、メディアの影、偵察中のアサシンの分体、そして謎だらけのセイバーオルタである。

 サーヴァント以外だと、アイリスフィールとウェイバー、そしてケイネスがいるな。

 ……ああ、隠れてマスターの狙撃を狙っている切嗣と舞弥もいたか。

 

 

「アーチャーだけでなく、バーサーカーも退散したようだのう。

 まあ、バーサーカーの方は、四連戦だったから無理もないが」

「そうだな。

 両方とも決着を着けたかったのだが残念だ。

 ……まあいい、次の機会にけりをつけてやろう」

「……随分と好戦的な奴よ。

 ところで、少し聞きたいことがあるのだが、……色違いとはいえ約束された勝利の剣(エクスカリバー)を持っておるということは、……もしかすると、お主も騎士王か?」

「そうだ。

 ……正確には、かつて騎士王だった存在、だがな」

 

 セイバーオルタはあっさりとイスカンダルの問いに答えた。

 しかし、当然それを許せない人がいる。

 

「ふざけるな、ブリテンの王は私だ!」

「そうだな、『かつてのブリテンの王』で、『未だにくだらない願いを持ち続ける愚か者』はお前だな」

「貴様!」

「私もかつて同じ願いを持っていたからな。

 今思えば、あの頃の私は本当に愚かだった」

 

 アルトリアは激昂し、セイバーオルタはアルトリアを相手にせず、しかしアルトリアの怒りに油を注ぐような発言を続けていた。

 

「……つまり、どういうことだ?」

 

 ディルムッドの率直な問いに対して、セイバーオルトは淡々と言葉を紡いだ。

 

「かつて、この聖杯戦争に召喚されたが、聖杯を手にすることなく私はこの世界を去った。

 そして、別の聖杯戦争に召喚され、その世界で不覚を取って悪性の存在に囚われてしまった。

 普通ならそこで殺されて終わりだろうが、……私は殺されず悪性に汚染された結果この状態になったのだ。

 つまり、私はかつて騎士王ではあったが、今は別の存在へと変質している身だ。

 『別の存在へと変質した私』と『かつての私』は、全く異なる存在。

 ならば、その二人が同時にこの世界に存在していても、おかしくはないだろう?」

「……確かに、理論上は貴女の言う通りね。

 でも、聖杯戦争は7クラスのサーヴァントが召喚されて聖杯を求めて戦う儀式であり、本来なら同クラスのサーヴァントは一人しか召喚されないルールになっているはずよ。

 話を聞いていると、どうやら貴女の方がイレギュラーな存在みたいだけど、一体何が起きたのかしら?」

 

 僕たちがしてきたことを完全にしらばっくれて、メディアはセイバーオルタに質問した。

 こういう駆け引きでは、やはりメディアは頼もしいな。

 

「大したことではない。

 『私を取り込んだ悪性の存在』もこの聖杯戦争で召喚された為、私も引きずられてこの世界に来ただけだ」

「……って、まさか、お前以外にもサーヴァントがいるのか!?」

「そういうことだ」

 

 ウェイバーの質問に対して、セイバーオルタはあっさりと頷いた。

 その場にいた人たち(サーヴァント含む)は彼女以外全員驚愕の表情をしたが、それは僕たちも同様だった。

 当然、僕たちは全員一斉に真桜の方を見たが、真桜は必死で顔を横に振っていた。

 でも、『私(アルトリア)を取り込んだ悪性の存在もこの聖杯戦争で召喚された』って、どう考えても『真桜と融合している黒桜』のことだよな?

 

「し、知りません。

 私は今でセイバーオルタさんのことは見たこともありませんし、それ以前に存在にも気付きませんでした。

 彼女の言うことが事実だったとしても、この体と同時に、でも別の場所に召喚されたんじゃないですか?」

 

 ついでに、黒桜とのラインが完全に閉じられていれば、真桜がセイバーオルタの存在に気付けなかったのも無理はないか。

 ……しかし、今の今までメディアの監視網から完全に隠れることなどできるんだろうか?

 

「その可能性は低いわね。

 あれだけ強力、かつ目立つ存在が私の目から逃げられるはずはないわ。

 それに、あの戦場は完全に私の監視下にあったのに、瞬間移動でもしたみたいにいきなり現れたのよ。

 ……ただ、出現場所の近くには真桜が作った影がいたけどね」

「……そういえば、セイバーオルタさんが現れた時、私の影のすぐ傍でした。

 あの時は偶然だと思っていましたけど、……まさかっ!?」

「ええ、真桜が気づいた通り、あの時セイバーオルタは貴女の影を通って現れた可能性があるわね。

 しかも、今までずっと貴女の中に潜んでいて、初めてこの世界に現れたと考えれば、……今まで見つからなかったことにも説明がつくわ。

 何で今まで出てこなかったのに、今日になって出てきたのかは分からないけどね」

「……言われてみれば、セイバーオルタさんが現れた時、初めて感じる反応がありました。

 すぐそばに彼女が現れたので、てっきりその反応だと思っていましたけど」

 

 おいおいおい、黒桜の中にいたのが本当なら、……下手すると僕たちの情報、正確には真桜が見聞きしたことが全部ばれてるってことだろ?

 おまけに、『真桜の支配下にいない』どころか、『本来マスターである黒桜の体と融合している真桜でさえ探知できない』となると、……ものすごくやばいんじゃね?

 しかも、真桜の意志を無視して、黒桜の中に自由に出入りできることさえ可能だった場合、……脅威以外の何物でもない。

 

 僕たちがセイバーオルタの謎解きをしているのと同様に、戦場でもセイバーオルタに対して質問は続いていた。

 といっても、質問をするのは興味津々かつ遠慮を知らないイスカンダルだけだったけど。

 

「ところで、お主がイレギュラーな存在であり、本来いるはずがない二人目のセイバーだと分かったわけだが、……お主のことは何と呼べばよいかのう?

 お主のこともセイバーと呼ぶと、そこにいる騎士王と区別がつかん。

 ……特に希望がないなら、黒セイバー、あるいはブラックセイバーとでも呼ぶがそれでよいか?」

「そうだな。

 ……ファントム」

「ん、何か言ったか?」

「私のことはファントムと呼べ。

 英霊ですらなくなった私は、亡霊とでもいうべき存在だろう。

 今の私には亡霊(ファントム)が相応しい名だ」

「ふむ。では、ファントムよ。

 『お主を取り込んだ悪性の存在』とやらもこの聖杯戦争に召喚されたらしいが、……そやつは今も『他のサーヴァントも取り込む能力』を持っておるのか?」

「ああ、多分可能だろう。

 そして取り込まれれば、今の私のように闇に染められ、強制的に支配下に置かれるだろうな」

 

 あああああ、どんどん黒桜の情報がばれていく。

 しかも、そのことを知ったことで、『黒桜(真桜)に対する警戒レベル』は間違いなく最大級になってしまうだろう。

 

「そりゃ困るのう」

「困るのう、じゃないだろ!

 アイツの言っていることが事実なら、そのサーヴァントは他のサーヴァントにとって天敵そのものだぞ。

 下手すれば、聖杯戦争そのものが成立しなくなるじゃないか!」

「ふん、取り込まれる前に倒せばいいだけのことよ。

 それゆえ、今ファントムに聞いておるのではないか」

「うっ」

 

 ウェイバーの指摘に対して、イスカンダルは冷静に返答していた。

 実際、黒桜の情報をばらされるほどこっちが不利になるわけで、僕は今ものすごく困っている。

 いったい、セイバーオルタ、じゃなかったファントムはどういう目的で何のために戦っているんだ?

 

「それにしても、色々と教えてくれて余は助かるが、このことはお主のマスターに許可をもらっておるのか?」

「問題はない。

 不完全な召喚だったせいで、私に対する支配はほぼ完全に解除された。

 魔力供給元としては必要だが、私の行動を制限したり強制したりすることはもうできない。

 恨みはもうないが、……この世界で従うつもりはない」

 

 あ~、やっぱりそうか。

 まあ、黒桜そのものならともかく、『黒桜の体を乗っ取った真桜(桜のコピー人格)』に従うはずもないよなぁ。

 ……ってことは、最悪の場合、『八神陣営の全情報を持ち、強力なサーヴァントでありながら、独自の行動を取る存在』ってことになるのか?

 おまけに、弱体化しているとはいえ対魔力スキルを持っているわけだし、……いかん、僕たちにとってファントムは『天敵と呼ぶに相応しい存在』になりかねない。

 僕たちが有利に戦えているのは『原作情報とそれを元にした戦略』なのに、その全てを知った敵がいたら、有利さが消えるどころか、一気に不利になってしまう。

 やばい、やばすぎる!!

 

「それでお主の意志でここに現れ、お主が望んでかつての部下と決闘を行った、というところか?」

「その通りだ」

「余計な邪魔が入らなければ決着が着くまで戦えたろうに、残念だったのう」

「また機会はある。

 そのときに、決着をつければいいだけのことだ」

 

 戦場では相変わらず穏やかに二人の会話が続いてた。

 他のメンバーは空気を読んだのか、誰も口出ししない状態が続いている。

 

「うむ、裏切った部下を裁くのは王の義務。

 生前はそれが果たせなかったと聞いておる。

 こうして再会できたからには、きっちりとけじめをつけるのは当然よのう。

 残念ながら理性は残っとらんようだが、……裁かん理由にはならんわな。

 ……あっちのセイバーはそれどころではないようだが」

 

 イスカンダルの言葉通り、アルトリアは『自称未来、それも悪性の存在に取り込まれて変質した騎士王の登場』と『かつて信頼した部下であり裏切り者でもあるランスロットがよりにもよってバーサーカーになっていた』という衝撃の事実二連発で、完全に呆然自失状態になっている。

 今も、イスカンダルの言葉に反応すらしていない。

 

「情けないことだが、……かつての私も似たようなものだ。

 バーサーカーの正体がランスロットだと分かっても、しばらくはそのことが信じられなかった」

「……裏切ったとはいえ、信頼していた部下がバーサーカーとなって襲いかかってくれば、……さすがにショックを受けるのは仕方ないと思うぞ。

 もっとも、すぐに立ち直り速やかに鎮圧できないようでは、ましてやその事実を受け入れられないようでは、そやつには王たる資格はないがな」

「そうだな。

 だから、かつての私は間違っていた。

 ランスロットに対してどれほど感謝していようと、どれほど頼りに思っていようと、……不義の罪が明らかになった以上、一切躊躇することなくあの二人を罰するべきだった。

 ……それができなかったことが私の罪だな」

 

 ファントムは静かに、しかし冷静にイスカンダルの言葉を認めていた。

 だが、それに納得できない人もいたようだった。

 

「私とグラニア姫の関係をフィンが許したように、お前は許すことはできなかったのか?」

「無理だな。

 お前たちは婚約の段階で逃げ出した。

 しかし、私とギネヴィアはすでに結婚していたのだ。

 ……無論、私は女であるから偽装結婚だったがな。

 だが『王妃による不義の罪は死刑』と法で決まっている。

 ……さらにランスロットは、不義がばれたときに罪のない騎士たちを多数殺していた。

 王が法を破ることはできないし、ましてや罪を犯したのが妻と部下ならば、猶の事厳しく対処しなければならなかったのだ」

 

 自分の状況と似ていた為か、ディルムッドがランスロットを庇ったが、ファントムは容赦なく否定した。

 さすがにその言葉には反論できなかったのか、ディルムッドはそれ以上何も言わなかった。

 

「うむ、法を守ってこそ王。

 そして、身内なればこそ、情を殺して厳しく対処するのは当然であるな」

「そういうことだ。

 そして、それを貫き通すことができなかったからこそ、私は国を滅ぼすことになったのだろうな」

「まあ、それだけが原因とは一概には言えんが、……それが原因の一つだったのは間違いなかろうなぁ」

 

 なぜかは知らないが、いきなりファントムとイスカンダルはしみじみと分かりあっていた。

 ファントム(セイバーオルタ)って、黒化したせいでイスカンダルに近い思想に変わったのか?

 まあ、セイバーオルタって発言や行動が暴君な感じだったから、まごうことなき暴君であるイスカンダルと息があっても不思議ではないか。

 もっとも、『暴君でありながら結果として民を幸せにした征服王』と同じく、セイバーオルタの行動が周りを幸せにするかどうは未知数だけど。

 

「で、お主の目的はそれだけか?

 それだけならば、バーサーカーに勝てば目的は達成、ということになるのか?」

「……本当にお前は懲りないなぁ。

 セイバー、……じゃなかった。ファントムまでスカウトするのかよ!」

「何を言う。

 余はこれから世界征服を行うのだぞ。

 有能な人材はいくらでも必要に決まっとるわ!」

「断る。

 ランスロットを裁く以外にも、この聖杯戦争でやらなければならないことがある」

「ほう、それはなんだ?」

「その一つは、今度こそランサーと決着をつけることだ」

 

 ファントムはそう言って、まっすぐにディルムッドの方を見た。

 

「ランサーよ、本来ならばセイバーと最後まで戦いたいところだろうが、……先に私と戦ってくれないだろうか?

 前の時は決着を付けられず、それが最後まで心残りだったのでな」

 

 ファントムはいきなりディルムッドに戦いを申込み、ディルムッドは驚いた表情を見せた。

 そして、当然ながらそれを許せない存在がいた。

 

「ふざけるな。

 私の方が先だ!」

「ふん、全力でも不覚をとったのに、その左腕で勝てると本気で思っているのか?

 それこそ、ランサーへの侮辱だな」

「くっ。だが、私は引くわけにはいかない」

「別に引けといっているわけではないし、私もここで決着をつけるつもりはない。

 私の知るランサーよりも強くなっているようだから、どれほど違うか確認したいだけだ。

 決着は、後日つける。

 ……無論、ただとは言わん。

 『ディルムッドを倒すこと』、『ゲイボウを破壊すること』以外の方法で、お前のその左腕を治す方法を教えてやろう。

 それでも承諾できないというならば、お前を動けない状態にしてからランサーへ挑むだけだ。

 万全な状態ならともかく、心身ともに傷ついたお前など短時間で無力化してやろう」

「貴様!」

 

 あまりの暴言にアルトリアが激昂したが、ファントムは平然と言い返した。

 

「どうした?

 大人しく見ているか、力づくで止めるか、好きな方が選べばいい。

 言っておくが、私は『愚かだった昔の自分』が大嫌いだ。

 お前が相手になるというのなら、容赦するつもりはないぞ」

 

 ファントムの本気の脅しに、アルトリアは悔しそうに俯いてしまった。

 ファントムが約束された勝利の剣(エクスカリバー)を持っている以上、彼女がもう一人の自分である可能性は高く、今の状態では勝てる可能性が低いことを理解したのだろう。

 

「そういうわけだ、ライダー。

 ランサー相手に力試しをするが別に構わないな?」

「おお、構わんぞ。

 アーチャーの攻撃を無傷で凌いだ戦いぶりも見事だったが、やはりお主の接近戦の戦いを見てみたいからの」

「いいだろう。

 今の私は力を出し惜しみする理由も必要もない。

 好きなだけ見ればいい」

 

 それを聞いたイスカンダルは、ディルムッドの方へ向いた。

 

「聞いた通りだ。

 ファントムはお主との戦いを望んでおるが、お主はそれを受けるか?」

「望むところだ、ファントムよ。

 しかも、別の世界の私相手とはいえ、『今度こそ決着を付ける為』というこの上なく光栄な理由とあらば、戦いを断わる理由はない。

 まあ、今回は実力の確認だけのようだがな。

 ……しかし、『かつてお前と戦った私』は何があって、お前と決着を付けられなかったのだ?

 考えたくないが、……お前との再戦が叶う前に、他のサーヴァントに倒されてしまったのか?」

 

 まあ、普通ならそう考えるよなぁ。

 そして、その問いに対して、あろうことかファントムは一切隠すことなくディルムッドに話し始めてしまった。

 

「簡単なことだ。

 私のマスターが、お前のマスターの婚約者を誘拐した。

 そして、私との二回目の戦闘の途中で、婚約者の命と引き換えとして令呪を使わせてお前を自害させた。

 ……それだけだ」

「なんだと!

 ソラウを誘拐だと!!」

 

 思わずといった感じの、ケイネスの声、いや叫びが響いてきた。

 

「そ、そのようなことが!

 ……いや待て。

 お前のマスターは、そこの女ではないのか?

 彼女にそのような悪辣な真似が出来るとは思えん」

「私はアイリスフィールに忠誠を誓っていたが、本当のマスターは別にいる。

 今もこの近くに潜み、お前のマスターを射殺する機会を伺っている可能性が高いぞ」

「主よ、お気を付けください!!」

「……安心したまえ、必要ないとは思うが、念のため防御システムを展開した。

 サーヴァントに直接攻撃されない限り、この守りは万全だ。

 彼女の方も異常はないことを確認したところだ」

「はっ、了解しました」

 

 僕からは見えないけど、慌てて月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)でも展開したのかな?

 というか、今までマジで防御システムを展開していなかったのか。

 隠蔽の魔術だけで十分だと思っていたのだとしたら、迂闊にも程があるなぁ。

 

「どこまで事実かはわからんが、忠告感謝する。

 ……それにしても、かつてのマスターであり今は関係ないとはいえ、そこまで教えてくれるのは何故だ?」

「お前には借りがあった、それだけだ。

 それに聖杯戦争が終わるまで、マスターとは一切会話をせず、直接掛けられた言葉は『令呪で命令された三回』だけ。

 そして、最後には手酷い裏切りを受けた。

 今となれば裏切った理由も理解できるのだが、……一切事情を説明することなく私を裏切ったことは今でも許せない。

 よって、恨みはあっても恩などはない!」

 

 ファントムはきっぱりと言い切った。

 ……こりゃ本気で怒っているな。

 元々あった怒りや恨みが、黒化してパワーアップしてしまったのだろうか?

 まあ、そういう負の感情はアンリ・マユの呪いと相性がいいのは間違いないんだろうけど。

 

「安易な同情などお前を怒らせるだけだろうが、……酷いマスターにあたったものだな」

「全くだ。

 ……だが、お前も似たようなものだ。

 私と同じような目に遭いたくなければ、マスターとは腹を割って話しておいた方がいいぞ。

 ……令呪で自害させられた後、血涙を流し、全てを呪って消えていったお前の姿は痛ましかった。

 せめてマスターから、『婚約者を助けるためにお前の命をくれ』と一言説明があれば、まだ納得しようがあったろうにな」

「……お前の言う通りだ。

 私は主の為に命を捧げる覚悟がある。

 主や主の婚約者の命を救うために必要であるならば、躊躇いなく私は死を選ぼう。

 お前との決着がつけられずにこの世界から去ることになれば心残りはあるだろうが、……主たちの命を優先するのは当然のことだ」

 

 自害させられた時のディルムッドの状況を知らないから、結構あっさりと自分の自害を認めているな。

 ……まあ、騎士たる者、自分の命で(本当に)主の婚約者の命が助かるのなら、躊躇なく命を捧げる覚悟を持っているんだろうけど。

 そんなディルムッドでさえ、『事情の説明なし』『事前の予告なし』『ケイネスに己の全てを否定され、残っているのはセイバーとの戦いだけ』という状況で令呪を使って自害させられたのは、流石に許せなかったんだろうけど。

 本当に、原作においては『ディルムッドの不運』と『切嗣の悪辣さ』が目立ってたよなぁ。

 

 

「……ところで、そこまで外道なお前のマスター、いや元マスターは、本当に約束を守ったのか?

 私の知る限り、そのようなことをする連中は、約束など平気で踏みにじる奴らばかりだったが……」

 

 やっぱりそこは突っ込むか。

 さすがは経験豊富な歴戦の戦士。

 いつの時代も手段を選ばない外道は存在したらしい。

 

「お前の予想通りだ。

 一応契約は守って、誘拐した婚約者はお前のマスターに返したらしい。

 だが、お前の自害を見届けた後、二人まとめてマスターの仲間に銃撃された。

 そして、婚約者は即死し、死にきれなかったお前のマスターは私が介錯した」

 

 うわ~、切嗣のやったことを本当に全部ばらしているし。

 ファントム以外の全員があまりに悪辣な行為に顔をしかめているし、ケイネスが絶句している気配まで伝わってきている。

 

「……そんな馬鹿な。

 いくら聖杯を求める戦いとはいえ、彼はそこまでしたのか!?」

 

 想像を絶する内容に、アルトリアは思わず叫んでいた。

 

「ああ、そうだ。

 まだ召喚されたばかりだから気づいていないだろうが、……お前のマスターは『目的の為なら手段を一切選ばない外道の魔術使い』だ。

 『騎士』とは対極に位置する『暗殺者』そのものと言っていい。

 当然、お前との相性は最悪だな。

 そのことをさっさと受け入れておかないと、後で苦しむことになるぞ

 戦いにおいてお前があいつと同意できることは、……何もないだろうしな」

 

 一応、『聖杯を手に入れるという目的』なら同意していたんだろうけど、最後に聖杯を破壊させられて、それすら裏切られたわけだしな。

 ……本当にこの二人は、相性最悪としか言えない組み合わせだったよなぁ。

 もっとも、第四次聖杯戦争は相性最悪な組み合わせが多かったんだけどね。

 

「……どこまでも外道な奴だ。

 情報提供を感謝する、ファントムよ。

 そのお礼は、これからの戦いで全力を尽くすことで示そう。

 ……主よ、この者と戦う許可をいただきたい。

 私如きの判断ですが、ファントムとセイバーの様子を見た限り、隠していることはあってもファントムの言葉に嘘は無いと判断します」

「……仕方あるまい。

 ファントムの発言がどこまで事実かは分からぬが、そいつがサーヴァントであることは間違いない。

 ならば、いつかは倒さなければならない敵だ。

 様子見など不要。

 全力で貴様の全能力を駆使し、ファントムを倒せ!」

「はっ、承りました、主よ」

 

 ディルムッドはケイネスの許可を得た後、ファントムの方へ向き直った。

 

「主の許可も出た。

 準備はいいか、ファントム?」

「無論だ」

「では、いくぞ!」

 

 言葉と同時に、ディルムッドが速度に物を言わせてファントムに攻撃を開始した。

 ファントムは戦闘開始と同時に鎧を解除し、その魔力を全て移動に回すことで機動力を上げているが、……それでもディルムッドには追いつけなかった。

 

「セイバーが今のお前と同じことをして、どのような目にあったか見ていなかったのか?

 ……いや、彼女がお前の過去なら経験済みのはずだな。

 一体何を考えている?」

 

 ファントムの体にあちこちに、軽傷とはいえ必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)で傷をつけることに成功したディルムッドは、ファントムから距離を取ってから立ち止まって問いただした。

 一方、ファントムは平然と答えていた。

 

「安心しろ、すでに対策済みだ。

 今の私に、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)は効かない」

 

 その言葉通り、ファントムの傷は全て治っていった。

 破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)の傷は即座に、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の傷はゆっくりとだが、出血は止まり傷口が塞がっていったのだ。

 

「なぜだ?

 なぜ、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の傷が治る!?」

「お前も知っているだろうが、神秘はより強い神秘によって上書きされる。

 それだけのことだ」

 

 っておい、まさか、ファントムはあれを持っているのか?

 セイバーオルタがあれを持っているなんてありえるのか!?

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の呪いを上回る神秘の力で傷を癒しているというのか?

 しかし、……いや、まさか?」

「まさか、お前はかつて失った私の聖剣の鞘を取り戻したのか!?」

 

 ディルムッドと同時に同じ結論に達したのか、アルトリアが驚愕の声をあげていた。

 

「そのとおりだ。

 こことは別の世界で、私は全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り戻し、それは今も所持している」

「騎士王の聖剣の鞘は、『持ち主のあらゆる傷を癒す力』を持つという。

 それは、……必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の傷も例外ではない、ということか。

 その回復力は脅威だな。

 これでは、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の能力が意味を為さなくなる」

「そうだな、お前が私を殺すためには、コアを破壊するか、一撃で全身を消滅させるか、あるいは私の魔力を全て消費させなければ無理だろうな」

 

 ファントムの挑発、いや残酷な事実に対して、ディルムッドは逆に戦意を掻き立てられたのか、獰猛に笑って答えた。

 

「いいだろう。

 では、お前のコアを破壊してみせよう」

「そう簡単にはさせんぞ」

 

 次の瞬間、二人は物凄いスピードで移動を始め、僕の目では残像と剣戟の光しか見えない攻防を繰り広げた。

 しかし、セイバーオルタが全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り戻してるって、こいつはどんな聖杯戦争を戦ってきたんだ?

 全て遠き理想郷(アヴァロン)を士郎の体から取り戻したのはセイバールートだけだし、セイバーが黒化したのは桜ルートだけだしなぁ……。

 この二つの要素を含んだ展開って、一体どんな世界だ?

 

 というか、アルトリアが全て遠き理想郷(アヴァロン)を持っていて、それでも黒桜の黒化は防げなかったのか?

 ……ああ、黒化した後に全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り戻した場合なら、黒化は解除できない可能性はあるか。

 呪いなら全て遠き理想郷(アヴァロン)で解除できても、受肉化&肉体の変質は全て遠き理想郷(アヴァロン)の治癒力の対象外である可能性は高い。

 

 その予想が正しい場合、桜ルートのセイバーオルタが全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り戻せる展開って一体どんな状況だったんだ?

 本人の言うことが事実なら、彼女のマスターが黒桜なのは確かみたいだし、……いくら桜の(正義の)味方の衛宮士郎でも、黒桜の仲間になるとは思えない。

 そのまさかが起きてしまった世界からファントムは来たのだろうか?

 ……ダメだ、情報が少なすぎて、まともな推測ができない。

 もっと情報が欲しいなぁ。

 

 まあ、原作知識というチート情報を持つ僕でさえこの状況だから、他の陣営、特にセイバー(衛宮)陣営の混乱具合はとんでもないものになっているだろう。

 自分の存在と手の内をばらされた切嗣も、……いや、彼だけは冷静に対処方法を考えていそうだ。

 自分の手の内を知り、パラメータを見てもセイバーと表示されている以上、本人の言う通り『ファントムは未来のアルトリアの可能性が高い』と判断するだろう。

 しかも自分に対して、悪意というか敵意をはっきり持っている以上、『最優先で排除すべき存在』だと考える可能性もある。

 もっとも、切嗣ではどうやってもまともなサーヴァントは殺せないだろうし、手札で唯一ファントムを殺せそうなアルトリアは、心身ともに大ダメージ状態で戦力になりそうもないけど。

 切嗣は『目的のためなら手段を選ばない』を体現したような存在だから、できるだけ刺激するとか追い詰めるようなことはしたくなかったけど、……ファントムの存在が一気に追い詰めた可能性があるな。

 これからは、切嗣の行動が完全に原作から乖離して、全く読めなくなったとみたほうがいいな。

 

 

 ファントムとディルムッドはしばらく激しい剣戟を交わした後、いきなり距離をとって動きを止めた。

 お互い武器を構えて向き合ったままだが、戦う様子は見られなかった。

 そして、その間にディルムッドによってつけられたファントムの二種類の傷は、時間差はあったものの全て治っていった。

 

「これでは決着がつきそうにないな」

「そうだな。

 技量も能力もほぼ互角。

 だが、私が負った傷は魔力があるかぎりすぐに治るが、お前の傷はマスターが治療する必要がある。

 治療する時間を与えなければ私が有利だ」

「それは否定しない。

 が、速さで勝り、二槍を使う私に貴公が傷を負わせるのは困難ではないか?

 実際、未だに私は無傷のままだぞ?」

 

 そう、恐るべきことにディルムッドはファントム相手、それも鎧を解除して高起動モードになったファントム相手でも、無傷のままだったのだ。

 ……まあ、今のディルムッドは敏捷:A++だから、敏捷:Bのファントムでは高起動モードであろうとも、この状況は当然か。

 

「その通りだな。

 全力を発揮できるようになった、お前がここまで強いとは思わなかった。

 この世界へ来れたことを感謝しなければな」

「それは私も同感だ。

 まさか、二人の騎士王と、それも『聖剣の鞘を取り戻している騎士王』と戦えるというありえない奇跡が起きようとは!」

「とはいえ、これ以上今ここで戦っても決着はつかないだろう。

 お前の実力も理解できたし、私にとってはこれ以上今戦う必要はない。

 今日のところはここまでとしないか?」

「……悔しいが、お互い決め手に欠ける状況なのは確か、か。

 申し訳ありません、主よ。

 戦いの許可をいただいておきながら、ファントムを倒すことを達成できませんでした。

 『この場で決着を付けよ』という命令ならば、ファントムを倒すことに全力を尽くしますが、……ファントムを倒すためにはコアを一撃で破壊する必要があります。

 これだけの能力と技量を持つファントム相手にそれを実行するとなると、相討ちとなる可能性も0ではありません」

 

 さすがはディルムッド。

 自分の身を省みない相討ち覚悟ならば、ファントムを倒せる自信があるんだな。

 しかし、当然というべきか、『序盤からディルムッドを失う可能性がある危険な賭けを実行すること』をケイネスが選べるはずもなかった。

 

「……いや、聖杯戦争はまだ序盤。

 そこまでする必要は無い。

 聖剣の鞘を取り戻した騎士王は、伝承通り『不死身』と呼ぶに相応しい存在のようだ。

 それが分かっただけでもよしとしよう」

「はっ、寛大な評価、感謝いたします」

 

 妙にケイネスの物分りがいいけど、これもバタフライ効果か?

 あるいは、……ソラウの安全を確認した際に、ソラウから何か言われたせいでケイネスの発言が変化したか?

 ……ソラウにべた惚れで、ソラウにも監視されている今の状況なら十分有りそうな話だ。

 おかげで、ディルムッドは『主との約束を守れない無能な自分を許してくれた』と喜んでいるみたいだし、……何でか知らないけどランサー(ケイネス)陣営はバタフライ効果がプラスに偏っているなぁ。

 

「貴様も連戦によって魔力をかなり消耗したはずだ。

 貴様はセイバーに圧勝し、バーサーカー相手に有利に戦い、ファントムと自称するもう一人のセイバーとも互角以上に戦った。

 これ以上無理に戦う必要はない。

 今日の戦いはここまでとし、帰還して疲れを癒すがいい」

「はっ、ありがたき幸せ」

 

 ディルムッドはケイネスに感謝の言葉を伝えると、イスカンダルたちの方へ向き直った。

 

「そういうわけで、俺はここで帰らせてもらう。

 ライダーよ、お前とはセイバーとの決着をつけた後、改めて決闘を挑ませてもらおう」

「おう、構わんぞ。

 ……しかし、惜しいのう。

 お主は、我が軍団の先陣を任せるのに相応しい人材なんだがのう」

「無駄だ、征服王。

 私は生前果たせなかった「最後まで主への忠義を果たす」という願いを叶えるために、主の召喚に答えたのだ。

 万が一、主から『お前はもう必要ない』と言われることがあったとしても、……その時はそのまま英霊の座に戻るだけのことだ」

 

 あまりにしつこいイスカンダルの勧誘に辟易したのか、ディルムッドの己の願いを口にした。

 確かにそれを聞けば、誰もが勧誘することを諦めるのは間違いないが、……これを聞いたケイネスとソラウはどういう反応をするんだろうか?

 

「『自分の主は一人だけと決め、その主から不要だと言われれば大人しく英霊の座に帰る』と決意しておるわけか。

 本当に惜しいのう。

 ……しかし、そこまで決意しておるならば、諦めるしかあるまい」

 

 そう言ったイスカンダルは、一気に気迫に満ちた表情をすると、ディルムッドに言葉を叩きつけた。

 

「では、余の前に立ちふさがるときは、容赦なく叩き潰してくれよう!

 お主のその忠誠、セイバーを倒し、余と戦うことで証明してみせるがいい!!」

「望むところだ、ライダー!!」

 

 きっぱりとイスカンダルの勧誘を断ったディルムッドは、アルトリアと視線を交わした。

 そして無言のまま、二人が頷きあった後、ディルムッドは霊体化して去っていった。

 

 

「そういうわけだ。

 お前のその左腕を治したいのなら、全て遠き理想郷(アヴァロン)を使えばいい。

 そして、全て遠き理想郷(アヴァロン)の行方はアイリスフィールが知っている。

 後で教えてもらうがいい。

 お前が本当に信頼されていれば教えてくれるだろう」

 

 そう言ってファントムは視線をアイリスフィールへ向けたが、その視線に耐え切れず、アイリスフィールは顔を俯かせてしまった。

 いまさら、『アルトリアに全て遠き理想郷(アヴァロン)所持を内緒にしていたこと』について罪の意識でも感じたのだろうか?

 その様子を見たアルトリアは、『信じられない』といった表情を見せていた。

 こりゃ、アルトリアとアイリスフィールとの間にあった絆までひびが入ったか?

 セイバー(衛宮)陣営って、どこまでも不利になっていくなぁ。

 ひょっとしなくても、僕の存在が彼らにとっての疫病神か?

 僕とメディアは『アルトリアが欲しい』と思ってはいても、彼らに不利益な行動は一切とっていなかったはずなんだが、……運命って本当に不思議なものだ。

 

 

「結局、お前は戦わないのか?」

 

 今日の戦いはこのまま終わりそうだと感じたらしいウェイバーがイスカンダルに尋ねたが、彼の回答は予想通りだった。

 

「うむ、余はハイエナのような真似は好まぬ。

 セイバーと戦うのはランサーとの決着がついた後よ。

 それと、ファントム。

 お主の傷はすでに完治しておるが、魔力を相当消耗しておろう?」

「まだ戦うことは可能だが、……魔力量は万全と言える状態ではないのは確かだな」

「そういうことだ。

 お主が魔力を回復した後、余と戦うことを望むのならいつでもかかってくるがいい。

 無論、お主が言い訳の余地なく負けた際には、余の配下になってもらうがの」

「……いいだろう。

 どうせこの世界には私の主はいない。

 私に『お前には絶対に勝てない』、『私が従うのに相応しい存在』だと認めさせるようなことがあれば、そのときは喜んで従ってやろう」

「その言葉、もう取り消しはできぬぞ?」

「貴様こそ、『殺さずに勝つ』と考えていたせいで負けた、などと言い訳を言う羽目にならないように気を付けるのだな」

「ふはははははは。

 『勝利してなお滅ぼさぬ』『制覇してなお辱めぬ』、それこそ我が覇道。

 この二度目の遠征もまた、死ぬまでそれを貫き通すまでよ!」

「その減らず口がいつまで続けられるか、楽しみにしておくぞ」

 

 こうしてファントムはイスカンダルと戦闘の約束を取り付けると、残りの二人に視線をずらした。

 

「残るはキャスター、いやプリンセスとセイバーだが……、二人とも戦う気はないようだな」

「ええ、私は元々戦うつもりはありません」

「だろうな」

 

 メディアはあっさりと戦意がないと回答し、ファントムもそれを予想していたのか、あっさりと受け入れた。

 一方、アルトリアは悔しそうな顔をしているが、何も言えないでいる。

 『ランスロットとディルムッド相手に互角に戦ったファントム』が相手では、『片手が使えない状態では絶対に勝てない』と本人も分かっているのだろう。

 

「となると、もうこの場には戦う相手がいないわけだな。

 では、私も引き上げるとしよう」

 

 そう言ってファントムは背を向けて、街へ向かって歩き出した。

 そのまま立ち去るかと思いきや、少し歩いたところでファントムは立ち止まって振り返った。

 

「ああ、言っておくべきことが残っていたな。

 セイバー。

 いつまでも現実から目を逸らし己を偽っていると、私のようになるぞ。

 そして、アイリスフィール。

 愛する者に尽くすのは結構だが、私が現れた今、これ以上セイバーを騙すのは不可能だ。

 彼とよく相談した後、セイバーに全て話すことを薦めるぞ。

 ……まあ、彼の回答は容易に予想できるがな」

 

 そう言って、今度こそファントムは去っていった。

 

 

「それでは、私も帰らせてもらうわ」

「おう、お主のマスターによろしくな」

「ええ、わかりました。

 そうそう、私のマスターもずっと監視しているから、ここで話したことはすべて聞いているはずよ」

「そうか、それなら話は早い。

 では、プリンセスのマスターよ。

 余はお主を待っておるぞ。

 我が覇道に少しでも興味を持ったならば、いつでも我が元へ来るがよい」

 

 それを聞いて口元を笑みの形に緩めた後、メディアの影が戦場から姿を消した。

 

 

「さてと、では余も去るとしよう」

「結局お前は、何をしたかったんだよ」

「いや、余はそういうことをあまり深く考えんのだ。

 ……とはいえ、一癖も二癖もある強者たちと出会い、その力と技をこの目で見届け、さらに謎のサーヴァントまでいると知ることができた。

 いやいや、世界征服の最初の一歩となるこの聖杯戦争も、存分に余を楽しませてくれそうよのう」

「聖杯を手に入れるのは私だ。

 お前のその夢が叶うことなどない!」

 

 アルトリアがイスカンダルの言葉を否定したが、イスカンダルは柳に風とその言葉を受け流した。

 

「そのセリフは、まずランサーを倒してから言うのだな。

 ……では、騎士王、しばしの別れだ。

 余が言うまでもないだろうが、……どうやらこの聖杯戦争、お主との因縁がある輩が多いようだ。

 そのような腑抜けた顔をしておるようでは、あっと言う間に負けてしまうぞ。

 ……おい、坊主。

 貴様は何か気の利いた台詞はないのか?」

「勝手な事言うなよ。

 ……まあいいさ、ちょうど言いたいことがあるし」

 

 ウェイバーは真面目な表情になると、真っ直ぐ立ってアルトリアの方を向いた。

 

「立場的には敵同士ですが、お会いできて光栄です、アーサー王陛下。

 僕の名は、ウェイバー・ベルベット。

 ロンドン、ブリテンの都市にある魔術協会で学んでいる身です。

 貴女の強さは伝説で嫌と言うほど聞いていますし、この目でも拝見しましたが、……この聖杯戦争では僕たちが勝ちます」

 

 意外、と言ってはいけないのかもしれないが、ウェイバーは正々堂々とアルトリアに向かって宣戦布告を行った。

 

「なんだ、余とはずいぶん態度が違うではないか」

「当たり前だ!

 態度を変えてほしいなら、それなりの言動をとれよ。

 お前は『偉そう』であっても、『尊敬できる対象』じゃないんだよ!」

「そうかのう?

 これでも生前は部下に慕われていたと自負しておるが?」

「僕はお前の部下じゃなくてマスターだ!」

 

 いきなり始まった主従漫才にちょっと戸惑いつつ、アルトリアはウェイバーに対して返答した。

 

「ウェイバー、貴方の宣戦布告を受諾しました。

 必ずやランサーを打ち破り、その後にはライダーと決着を着けることを誓いましょう」

「ええ、その日が来るのを待っています」

 

 ウェイバーはアルトリアに対して、凛々しく対峙していた。

 何度もイスカンダル相手に見せていた醜態が嘘みたいだった。

 アルトリアも、ウェイバーの気持ちのいい宣戦布告に少し癒されたように見える。

 いや、本当にそんな感じに見えるんだよな。

 まあ、それだけ、アルトリアは精神的にぼろぼろで、彼女にとって救いとなるのは、ディルムッドとウェイバーしかいないのも無理はないけど。

 味方であるはずの切嗣はもちろん、忠誠を誓ったアイリスフィールすら信じられず、救いは敵のはずの二人しかいないとは、……なんでここまでアルトリアが不幸になってしまったんだろう?

 

「まさか、坊主が騎士王に宣戦布告するとは驚いた。

 さすがに余も全く予想しとらんかったぞ」

「そんなの、大したことないさ。

 女だったことには驚いたけど、かの有名な騎士王と会えたんだぞ。

 だったら、挨拶するのは当然じゃないか。

 これまでの会話と戦闘から、礼を尽くせば礼をもって対応してくれるのは分かっていたし。

 だったら、無闇に恐れる必要もないよ。

 ……アーチャーが本当に高名な王様だったとしても、さすがにあいつに対して宣戦布告する気にはなれないけど」

「うむ、サーヴァントの真名は分からないのが当たり前だろうに、それだけでぶち切れるとは余にも予想できんかった。

 確かに坊主は、あやつに対して話しかけん方が無難だわな」

 

 ウェイバーは勢いよく頷き、強く同意していた。

 確かに僕もギルガメッシュから回答を求められないかぎり、彼に話しかけようとは思わない。

 どんな行動が彼の逆鱗に触れるかわからないから、ギルガメッシュとは話すことすら怖くて仕方がない。

 基本的に、僕が出歩くときは影の分身を使うつもりだが、ギルガメッシュなら『影経由で本体へ直接ダメージを与える宝具(の原型)』を持っていてもおかしくないから、絶対に油断などできるはずもない。

 

「さて、坊主の挨拶も済んだし、我らも帰るとしよう」

 

 そう言うとイスカンダルは、神牛に鞭を打ち付け空へ駆け上がって去っていった。

 

 

 そのとき僕は、すっかり存在を忘れていたハサンのことを思い出した。

『まだアサシンはいるのか、いるなら真桜に狩ってもらうか?』と考えてクレーンの上を見たとき、僕は驚きのあまり完全に頭が真っ白になってしまった。

 

 なぜなら、クレーンの上には二人のアサシンがいたのだ。

 それだけなら、綺礼がバックアップを寄越したとも考えられる。

 しかし、二人目のアサシンは妄想心音(ザバーニーヤ)を発動して、目の前のアサシンへの攻撃を開始したのだ。

 襲われたアサシンも、妄想心音(ザバーニーヤ)発動時に敵の攻撃に気づき、すぐに逃げ出そうとした。

 だが、射程範囲から逃れるのが間に合わず、そのままアサシンは心臓を奪われてしまった。

 そして心臓を奪ったアサシンは、その心臓を飲み込むとすぐに霊体化した。

 ……多分、用が済んだので拠点にでも戻っていったのだろう。

 

 

 その時点で、やっと僕は我に返ることができた。

 そして、表示されていたことすら気づいていなかった『謎のアサシンのパラメータ』を初めて確認することができた。

 

<サーヴァントのパラメータ>

クラス    アサシン

真名     ハサン・サッバーハ

マスター   不明

属性     秩序・悪

ステータス  筋力 E 魔力 E

       耐久 E 幸運 C

       敏捷 E 宝具 B+

クラス別能力 【気配遮断】:A+

保有スキル  【投擲(短刀)】:B

       【風除けの加護】:A

       【自己改造】:C

宝具     【妄想心音】:B+

 

 

 ステータスが低い以外は、どう見ても『第五次聖杯戦争の(真)アサシンのハサン』だよな。

 つまり、『臓硯が戻ってきて5次ハサンを召喚した』ってことか?

 慌てて報告しようとすると、全員すでに僕の方を見ていた。

 

「あのアサシンなら私たちも確認したわ。

 あのステータスから判断すると、臓硯がアサシンの分体を苗床にしてハサンを召喚していたみたいね」

 

 あ~、なるほど。

 臓硯がハサンを召喚済みだったわけか。

 

「道理で時臣が焦るわけだわ。

 臓硯がアサシンを召喚したことを確認していたのなら、それは間違いなく脅威。

 しかも、今と同じように他のアサシンの分体を襲っていた可能性もあるわね」

 

 メディアの推測が正しければ、奇しくも僕たちと臓硯は似たようなことをしていたことになる。

 

「ハサンの分体たちは、真桜だけじゃなくて、臓硯が召喚したハサンにも襲われていたとしたらたまったものじゃないですね。

 でも、臓硯はどうやってアサシンを見つけて襲ったんでしょうかね?」

 

 タマモは理解できないといった顔をしていたが、言われてみれば確かにそれは不思議だな。

 

「多分、使い魔を囮に使ったんじゃないかしら?

 使い魔を捕獲するためには、魔術とかを使えない場合はサーヴァントの実体化が必要。

 使い魔をあえて捕まえさせて、実体化&油断したところで隠していた蟲で襲ってしまえば、……一回限りだけど成功する可能性はあるわね。

 

 なるほど。

 原作でも、『監視カメラを持った使い魔のコウモリを、アサシンの分体の一人が捕獲して綺礼に渡しているシーン』があったな。

 

 それにしても、裏技の本家の臓硯が、アサシンを召喚するとはねぇ。

 現時点ではステータスは低いけど、今後サーヴァント(主にアサシンの分体?)を狩って自己改造スキルでどんどん強くなる予定か?

 で、臓硯の目的はやっぱり不老不死か?

 でも、原作では(第四次聖杯戦争は)様子見とか言っていたのに、なんで方針が変わったんだろう?

 もしかして、雁夜さんやメディアたちへの復讐か?

 ……十分ありそうだな。

 

 あっ、ハサンの存在には切嗣たちも気づいていたんだった。

 となると、『アサシンが二人現れて、後から現れたアサシンが、ずっと偵察していたアサシンを殺して去ったシーン』を切嗣たちも目撃していた可能性は高いよな。

 ……ただでさえ、切嗣の行動が読めなくなっているのに、とどめに近い状況だな。

 この後のホテル爆破、……まさかとは思うけどホテルの人と宿泊客を避難させずにホテルごと爆破するなんてことは、……今の切嗣ならやりかねないな。

 切嗣たちの行動を、セイバーオルタの次ぐらいの優先度で監視しとかないとやばそうだ。

 

 あと、ハサンが二人いてややこしいので、今後は腕ハサン(5次真アサシン)と分身ハサン(4次アサシン)と呼び分けることにした。

 

 

「そうそう、自称ファントムことセイバーオルタについては、今も使い魔で尾行させているわ。

 どうやら彼女は霊体化できないようね。

 他にも尾行している使い魔の気配はあるけど、ファントムは一切気にしないで街へ向かっているわ。

 多分、分身ハサンの分体もいるでしょうね。

 これが今の映像よ」

 

 メディアがそう言うと、部屋の壁にファントムが歩いている姿が映し出された。

 使い魔から受け取った映像をリアルタイムで表示しているのだろう。

 

 ファントムはさすがに鎧の具現化を解き、黒のゴスロリ……ではなく、凛からプレゼントされた服を着ていた。

 さっさと彼女と接触して、事情を聞くとか、可能なら協力体制を構築したいところだけど……、情報が足りなすぎるな。

 

 ファントムの話が事実なら、黒桜に取り込まれ、黒桜(の体)と一緒にこの世界に召喚されてきたらしい。

 おまけにアヴァロンを持っているなんて、どんな世界から来たセイバーオルタなんだか。

 

 とりあえず、ファントムの正体を探るため、黒桜の記憶をメディアとメドゥーサと真桜の三人が再度調査することになった。

 今までにメドゥーサと真桜が黒桜の記憶を調査&取り込んだ範囲では、『原作の桜ルートのデッドエンド』、つまり『士郎がセイバーオルタに止めをさせず、それにより凛が負けて、凛と士郎が黒桜に取り込まれた世界』だと判断していたらしい。

 まさかとは思うが、『黒桜の記憶が改竄されていた』のか、あるいは『実は黒桜の自意識が存在していて、真桜の記憶を逆に読み取ってそれを元に作った偽物の記憶を二人に見せた』とか?

 どっちにしても大問題なので、三人には僕の予想を伝え、黒桜の意識や汚染に気を付けて、最大レベルの警戒をした上で慎重かつ徹底的に調査するように頼んだ。

 

「誰に言っているのかしら?

 私は魔術師だし、何より呪いとか人間の負の感情などは得意分野よ。

 さすがに、アンリ・マユそのものが相手だときついのは確かだけど、『アンリ・マユの影響を受けた小娘』相手なら、体ごと取り込まれない限り私が負けることなどありえないわ」

 

 実に頼もしいお言葉である。

 さすがは神代の魔術師。

 とはいえ、さすがのメディアも、黒桜に取り込まれたら『脱出」とか『黒桜を取り込み返す』とかはできないのか。

 まあ、きちんと相手の能力を見極めて判断しているようだし、後は任せて大丈夫だろう。

 

 

 それから、今気づいたけど、『メディアの分霊を降霊した』のは僕だけど、『サーヴァントとしてのメディアのマスターは真凛』だったよな。

 まあ、真凛の存在は内緒だから、僕がメディアのマスターのふりをして、イスカンダルと会わないといけないってことか。

 多分、それは『王の宴』のときか?

 

 アルトリアとイスカンダルに(影の体とはいえ)直接会って会話できるのなら楽しみだけど、……ギルガメッシュと会うというのは恐怖しか感じない。

 しかし、いまさらメディアに断ることなどできるわけがない。

 ギルガメッシュに対しては最大限の敬意を示して謁見の挨拶を行い、後は質問されるまで一切話しかけないのが賢明か。

 

 ファントムのこともあるし、本気で前途多難だなぁ。

 




 更新が遅くなり、申し訳ありません。
 その分と言ってはなんですが、戦闘シーンを増やしたつもりです。

 今回の話でセイバーオルタの正体が少し明らかになりました。
 次話でさらなる驚愕の事実が明らかになる予定です。
 楽しみに待っていてください。

 それと、腕ハサンが登場しましたが、予想していた人はいましたかね?
 これで、この物語に登場する人物は(現時点の構想では)全員登場しました。
 それにしても、気が付けばずいぶん登場人物が増えていました。

追記(10/19)
 『評価:0』と『評価:10』がリセットされたようですね。
 よろしければ、再評価をお願いします。

 それと、おかげさまで『UA:10万突破』を達成できました。
 どうもありがとうございます。

 今後も面白い物語の更新を目指して、がんばっていきます。


【聖杯戦争の進行状況】
・雨生龍之介は警察に捕まり、青髭を召喚できないで退場
・原作登場人物全員(臓硯と龍之介と青髭除く)の冬木市入りを確認
・サーヴァント12人召喚済み(セイバー2人、キャスター2人、アサシン4人)NEW
・アサシンの分体(最大80体)のうち、8体死亡確認(生贄:2体、茶番:1体、マキリの聖杯への取込:4体、腕ハサンの生贄(未確認):1体、腕ハサンの餌:1体)NEW
必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の攻撃により、セイバーの左手が動かない状態
・バーサーカー(ランスロット)の正体暴露 NEW
・セイバーオルタが、未来のセイバーだと告白 NEW
・セイバーオルタによる未来情報と切嗣の詳細情報の暴露 NEW
・セイバーオルタの主のサーヴァントが聖杯戦争に召喚されたことを暴露 NEW
・腕ハサン(5次真アサシン)の登場 NEW


【八神陣営の聖杯戦争の方針】
・真桜に悪影響がない範囲で、マキリの聖杯にサーヴァント取り込み
 (現時点で、アサシンの分体を4体、魔力に変換済み)
・アルトリアを配下にする(メディアの希望)
・アルトリアの血を吸う(メドゥーサの希望)
・遠坂時臣が死なないようにする(真凛と真桜の希望)
・遠坂時臣の半殺し(メディアの決定事項)
・間桐臓硯の殲滅(メディアの決定事項)
・遠坂家の女性陣と間桐滴の保護(絶対目標)
・八神陣営の全員の生き残り(絶対目標)
・アンリ・マユの復活阻止(絶対目標)


【改訂】
2012.10.17 切嗣の行動予測を追記


【設定】

<サーヴァントのパラメータ>
クラス    アサシン
真名     ハサン・サッバーハ
マスター   不明
属性     秩序・悪
ステータス  筋力 E 魔力 E
       耐久 E 幸運 C
       敏捷 E 宝具 B+
クラス別能力 【気配遮断】:A+
保有スキル  【投擲(短刀)】:B
       【風除けの加護】:A
       【自己改造】:C
宝具     【妄想心音】:B+
備考
 高い確率で、マスターは間桐臓硯だと予想


<ファントム(セイバーオルタ)によって聖杯戦争の参加者全員に提供された情報>
・ファントムは、かつて騎士王だった存在
・第四次聖杯戦争に召喚されたが、聖杯を手にすることなく世界を去った。
・その後、別の聖杯戦争に召喚され、その世界で不覚を取って悪性の存在に囚われた。
 そして、殺されず悪性に汚染された結果この状態(黒セイバー)になった。
・『アルトリアを取り込んだ悪性の存在』が第四次聖杯戦争で召喚された為、引きずられてこの世界に来た
・『アルトリアを取り込んだ悪性の存在』は、今も『他のサーヴァントも取り込む能力』を持っている。
 取り込まれれば、ファントムのように闇に染められ、強制的に支配下に置かれる。
・セイバーのマスターが、ランサーのマスターの婚約者を誘拐した。
 そして、セイバーとランサーのの二回目の戦闘の途中で、婚約者の命と引き換えとして令呪を使わせてランサーを自害させた。
・ランサーは、令呪で自害させられた後、血涙を流し、全てを呪って消えていった。
・誘拐された婚約者はランサーのマスターに返されたが、ランサーの自害後に、二人まとめてセイバーのマスターの仲間に銃撃されて殺された。
・セイバーはアイリスフィールに忠誠を誓っているが、本当のマスターは別にいる。
・セイバーは、聖杯戦争が終わるまでマスターとは一切会話をせず、直接掛けられた言葉は『令呪で命令された三回』だけ。
・セイバーは、聖杯戦争の最後にマスターから手酷い裏切りを受けた。
・セイバーのマスターは、『目的の為なら手段を一切選ばない外道の魔術使い』。
 『騎士』とは対極に位置する『暗殺者』そのもの。
 セイバーとの相性は最悪。
・ファントムは別の世界で、全て遠き理想郷(アヴァロン)を取り戻し、今も所持している。
 そのため、必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)の傷も短時間で治癒可能。
全て遠き理想郷(アヴァロン)の行方はアイリスフィールが知っている。


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