いつも頑張るお前の傍に。いつも支えてくれる君と一緒に。 (小鴉丸)
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第一話 幼馴染み

甘いの書きたいという勢い作品part2になります! 後悔はしてません!

あらすじにも書いてますが僕のもう一つのバンドリ作品「俺と君を繋ぐ音」と設定、オリキャラは同じのが登場します。

それではどうぞ!


〜総士side〜

 

 

「いらっしゃいませ」

 

店の扉が開いて客が入ってくると挨拶をする。因みに時間は四時半、店を閉める一時間半前だ。

 

「あら、今日は総士くんだけなのね」

 

その客はよくこの時間に来る常連さんだった。

この人、鈴波若菜さんは小説家でどうも人が少ない時が落ち着けるからこの時間帯が好きらしい。

 

席に腰を下ろして注文してくる。注文はいつも通りのコーヒーを一杯だ。

 

「ええ、つぐはバンドの練習中です」

 

コーヒーをコップに注いで鈴波さんに持っていく。

今はこの人一人……というか休日のこの時間帯はこの人しか居ないと言っても大抵嘘にはならない。

 

それと、よく俺達は雑談をする仲だ。それはいつの間にか出来ていた仲だった。

 

「バンドね~。総士くん再開すれば? 人気だったじゃないエタハピ」

 

「再開は……厳しいですね。主に一名が……」

 

「う~んそうねぇ……」

 

鈴波さんは俺達が組んでいたバンドの演奏を見に来ていた人でもあるらしい。

 

「話は変わるけどつぐみちゃんは何時に帰ってくるかしら。少し話したい事があったのだけど」

 

「大体五時半じゃないですかね。鈴波さんはやっぱり五時には戻るんですか?」

 

「そうね。息抜きはそれくらいにしておきたいし……あまり長いし過ぎるのもね、執筆はまだだから」

 

息抜きと言っているが本当はアイデア探しだ。アイデア探しに色んなところを歩くらしいが結局家の近くのここに足が向かってるらしい。(本人談)

 

「それにしても……」

 

からかう様な表情をして俺を見てくる。話が予想できた俺は何故かたじろぐ。

 

「な、何ですか」

 

「まだ付き合ってないのね」

 

予想的中だ。

 

「い、いや……だって……」

 

「もう! 前も言ったでしょ!? あなた達両思いなんだから片方が告ればハッピーエンドよ!?」

 

「俺はそんな感じしませんけど……」

 

今更だが俺がバイトしている羽沢珈琲店。ここの娘の羽沢つぐみと俺、白羽総士は幼馴染み。

そして俺はつぐみに好意を寄せている。

 

「つぐみちゃんもあなたの事が好きなのに、どうしてこうもすれ違うのかしらねぇ……。ひょっとしてあれ? 近くに居過ぎるゆえに、ってやつ?」

 

「知りませんよ。……俺はあいつの笑顔が見れればそれでいいですって」

 

「でも好きなんでしょ?」

 

逃げようと思ったのに失敗したようだ。

 

「うっ……そ、そうですけど……。だってあいつそんな素振りは見せないから分からないんすよ」

 

無言で首を振られて、ビシッと指を指され言われる。

 

「時間はまぁまぁあるわね。それじゃつぐみちゃんが帰ってくるまで総士くんに色々お姉さんが教えてあげるわ!」

 

「マジすか……」

 

何度目だろうか、この流れは。

そんな事を思いながら俺は幼馴染みの帰りを待った。

 

「(頼む、つぐ。早く帰ってこい……)」

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「みんな今日はお疲れ」

 

Afterglowのみんなで練習が終わって私達はスタジオの片付けをして、スタジオの外に出た。

 

「つぐ~この後どうするの~?」

 

「私は家に帰るよ」

 

「ん〜……総士?」

 

「ふぇっ!?」

 

急に幼馴染みの名前を言われてビクッとする。

 

「つぐみはほんとに総士の事好きだよね」

 

「ははっ、つぐは分かりやすいな~」

 

「もう〜! つぐだけだなんてずるいよ〜!」

 

みんなから一斉に言われて私は戸惑う。

 

「そ、総士くんは関係ないよ〜!」

 

「そんな顔を赤くして言っても説得力なんて無いぞ?」

 

巴ちゃんに言われた通り自分でも赤くなってるんじゃないかと思っていたところだ。

 

「ふむふむ……今夜はお楽しみだね〜。明日にでも総士に話を聞くかな〜」

 

「お楽し――!?」

 

ますます赤くなるのが分かる。

モカちゃんは時々凄い発言をする、それは相手の心にくるものが多い。

 

「おいおいモカ、あまりつぐをからかうな」

 

「はーい」

 

「ううっ……」

 

「ほらつぐー? 帰るよー」

 

ひまりちゃんが後ろから前に押して止まってた私を無理やり進ませる。

 

「うん……。でっでも! 何もしないよ? 本当だからね!?」

 

「分かってるよ、モカの冗談だって」

 

「えへへ〜」

 

そしてみんなで歩いて帰る。その中で私は総士くんの事を考えていた。

 

白羽総士くん。家のお手伝いをしてくれる幼馴染み。昔から私を支えてくれて、いつの間にか心の支えになっていた。

その総士くんが私は好きになっていた。昔言ってくれたある言葉は思い出すと今でもドキドキとしてしまう。

きっとその日から総士くんを強く意識し始めたんだと思う。

 

「おーい! つぐも早く来いよー! 帰るぞー!」

 

「つぐみが来ないとみんなで帰れない」

 

巴ちゃん達が少し離れた場所から私を呼んでいる。

 

「ほらほら~、つぐー。早く早く〜!」

 

「わわっ! ひまりちゃん強いよ~!」

 

そんな事をしながらみんなの場所に着いて再び一緒に歩く。

 

「(総士くん、まだ家に居るかな?)」

 

「あー、また総士の事考えてるー」

 

「ええっ!? どうして分かったの!?」

 

「……ホントに考えてたんだ」

 

「相変わらず総士に惚れてるな」

 

「まさかつぐがここまで好きだったなんて〜!」

 

考えてる事をモカちゃんに当てられてつい口に出してしまった。

 

「うう〜! みんな、いじわるだよー!」

 

そして帰り道には私の声とみんなの笑い声が響いていた。




つぐって可愛いですよね。花音と張るくらい可愛いですよ。頑張り屋さんなとことか、照れるとことか、弱々しくなるとことか……。
こんな幼馴染みが欲しいよ!

と、自分の事はこれぐらいで作品の話を……。
最初に言ってた通り勢い作品二作目ですw
ハロハピの次はアフグロ、お互いに好きなキャラがヒロインとなってます。

こちらの作品も頑張りますので読んでくださると嬉しい限りです! それと感想は気軽にどうぞ!作者のやる気に繋がると思うのでw

読んでくださりありがとです!


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第二話 泊まり

今日当たってなかったつぐの星2が当たって星2をコンプしましたw
つぐ可愛いよつぐ(ハァハァ)

……それでは二話です


~総士side〜

 

 

携帯の音が鳴った。

 

「ん、ちょっとすいません」

 

鈴波さんの話を遮る理由が出来て内心嬉しく思いながら携帯を操作する。どうやらLINEだったらしい。

 

『今日用事で帰ってこれないからつぐちゃんの家に泊まって~。つぐちゃんの親には言ってあるから大丈夫よ〜』

 

母さんからのLINEだ。内容は家に帰ってこないからつぐの家に泊まってくれ、というのだった。

昔からこういう事はあった。俺は前に「もう高校生だから別に」と言ったら「ろくにご飯作れないくせに何を言ってるの」と論破されてしまった。

それとは別に好きな子と同じ屋根の下で暮らすのは精神的と身体的にやばいものがある。主に寝る時とか……。

 

『分かった』

 

考えても仕方ないので一言返して携帯を閉じる。

 

「――終わった? それなら話の続きをするわね」

 

話の続き、それは恋愛に関する話だ。まさに今から再開される――と思っていた、がその未来は崩れていった。

 

「ただいま〜!」

 

「あら」

 

鈴波さんが扉の方を見る。そこには一人の少女が立っていた。

 

「(待ってた! 超待ってたよ!)おっ、おかえりつぐ!」

 

思わず声が大きくなる。

 

「? う、うん……ただいま?」

 

何故か喜んでいる俺に首を傾げる。それはそうだろう、帰ってきたらいきなり喜ばれるのだ。

 

「もう……つまらないわねぇ」

 

そう言いながら鈴波さんは席を立ち扉に向かう。

 

「あれ? 鈴波さん帰るんですか?」

 

「ごめんねぇつぐちゃん、また今度話しましょうね」

 

そう言って店を出ていった。

 

「……どうしたの?」

 

つぐが俺に近づいて聞いてくる。内容は今のことだろう。

 

「つぐが帰ってくるまで話すー、なんて事になってた」

 

「あぁ……」

 

あれか、というふうに頷かれる。

つぐに聞いた話自分も前にされたらしい、その時は今の状況と逆だ。

 

「ま、まあお店閉めよっか。後は私がやっておくから帰る準備してていいよ」

 

「いや、今日は泊まるから手伝うわ。俺の母さんからつぐの親には言ってあるらしいからなー」

 

鍵をしながら話すと「え?」という声が聞こえた。

 

「どうした?」

 

「う、ううん! 何でもないよ!」

 

「? 変なやつだな」

 

店を閉める準備が終わって外にかけてる看板をopenからclosedにひっくり返す。

 

「じゃ俺は一応親に挨拶してくるから先に戻るぞ」

 

「う、うん。私ももう少ししたら行くね!」

 

いくら俺らが親しくて親が言ってても言わないと、そう思い俺はつぐの親に挨拶に向かった。

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

総士くんが店の奥に行く姿を見ていた。

 

「(ど、どうしよう!? モカちゃんのせいで変な事を考えちゃうよ~!)」

 

私はみんなと別れる前にモカちゃんに言われた事を思い出していた。

 

『ふむふむ……今夜はお楽しみだね〜』

 

冗談だと分かっていてもドキドキしてしまう。

 

総士くんが泊まること自体は何回もあった、だけど高校になってからは今日が初めてだ。片思いの好意を寄せている私は好きな人と一つ屋根の下で過ごすなんて寝れるかどうかが心配だ。

 

「(それに総士くんが泊まるってことは……)」

 

さっきも言ったが心配なことは寝る時だ。何も起きないとは思うが緊張する。

それと総士くんが私の部屋で寝る理由は空いている場所がそこしかないからだ。

 

「(うん、大丈夫。いつも通り、いつも通りにすればいいもんね)」

 

そう自分に言い聞かせながら奥の部屋へと向かった。

 

 

 

 

〜総士side~

 

 

つぐの親に挨拶が済んですぐにご飯となった。親さん達は店で俺に話しかけるように話してくれる。

 

「学校はどうだい?」

 

「楽しいっすよ、普通に」

 

「彼女はどう?」

 

お父さんに続いてつぐのお母さんが聞いてくる。

 

「いないですよ。……ま、片思いはしてますけどね」

 

つぐの方を見ないようにして言う。

 

「へぇ~、総くんが目を付けるなんてよっぽどなのね。私にこそっと教えてくれないかしら」

 

耳を近づけて耳打ちをしろと言わんばかりにしてくる。そんな馬鹿正直に「あなたの子です」などとは言えない。

その場は適当に流す事にした。

 

「とりあえず可愛いとだけ」

 

「あら、それは残念。でも恋愛で悩んだらいつでも相談してね――」

 

そして俺の隣に座ってるつぐのお母さんが今度は俺に耳打ちをして。

 

「あの子の親なのだから」

 

「なっ――」

 

思わず食事中にも関わらず立ちそうになる。

つぐは何があったのか分かってない表情で見ていて、お父さんの方は……うん、あれは知っている顔だな。笑いをこらえてるのが分かる。

 

「……ま、まぁ悩んだら頼ります。いえ頼らせてくださいお願いします」

 

気付かれてるなら開き直ってやる。

 

俺は苦笑いしながら食事を続けた。

 

 

 

そして食事が終わった後に風呂に入った。上がった後は二階にあるつぐの部屋に行き自分の布団を床に敷いた。

なぜ布団が? と思われるかもだがこれは昔によく泊まっていた事が関係する。

男女なので同じベッドに寝るわけにもいかない、そこでだいぶ前に家から余ってる布団を持って来ていたのだ。

 

「ふう……」

 

布団の上に横になる。

 

「(つぐの部屋に上がるのも久々だな……)」

 

俺の部屋とは違い女の子(つぐ)のいい匂いがしてドキドキしてしまう。

 

「(今頃あいつは風呂か……)」

 

つい想像してしまう。だが頭を横に振り考えを振り払う。

 

「(ダメだ、変に考える前に寝よう。正直色々とやばい……、心とか)」

 

眠気はないが目を閉じておけばそのうち寝れるだろう。そんな考えを持って目をつぶっておくことにした。




一話を投稿した時点での高評価ありがとうございます! どちらの作品も読んでくださる方にも感謝です!

感想は気軽にどうぞ〜。
向こうでも言ってますけどやる気やら何やらに繋がりますので。(勿論こうした方がいいなどのアドバイスもありがたいです!)

今回も読んでもらいありがとです!


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第三話 少しだけでも

シリアスなんて知りません
今言うことじゃないと思いますけど、この作品は甘いのを書きたいという願望だけで出来ています!


〜つぐみside〜

 

 

「ふ~、さっぱりした〜」

 

お風呂からあがって髪を乾かして自分の部屋へと向かった。

自分の部屋の前に来てふと思い出した事があった。

 

「(そ、そういえば総士くんが居るんだった……)」

 

部屋に入る前にその事を意識してしまう。

昔はそうでもなかった……と思う。確かお兄ちゃんと言っていた気もする。

 

「(う、うん! 頑張れ私!)」

 

グッと両手を握りしめて気合を入れる。

 

「総士くん? 入るよ?」

 

自分の部屋なのに緊張してしまう。

心臓がドキドキとするなか扉を開ける。

 

「…………」

 

部屋の中は電気がオレンジ色にしており、その総士くんは既に布団に入って寝息を立てていた。

 

「(寝てる……疲れてたんだ……)」

 

一人で任せてたから仕方ないだろう。

 

「…………」

 

好きな男の子が自分の部屋で寝てる。周りには誰もいなく、やりたい事があるなら今だ。

 

「(少しだけ、少しだけならいいよね?)」

 

私は足音がしないようにして総士くんに近づく。そして――。

 

「お、お邪魔します」

 

総士くんが入ってる布団に私も入った。

布団の中はとても暖かくて、とても落ち着いた。今は総士くんの背中を見ている形になる。

 

「総士くん……」

 

別の匂いがしてドキドキする中、口を開く。

 

こうでもしないと出来ないから、いつかはちゃんと思いを伝えたいけど今はまだ出来ない。だから練習、これは練習と自分に言い聞かせて。

 

「私は、総士くんの事が好き。いつも支えてくれて、昔から気遣ってくれる……そんな総士くんにいつの間にか惹かれていたんだよ?」

 

当の本人には届いていない声だけど続ける。

 

「Afterglowのみんなと居る時でも総士くんの事を考えちゃうくらい好き、家のお手伝いをして二人でいる時だと余計に考えちゃう。総士くんの好きなところはいっぱいあるよ」

 

全て本当の事だ。自分の性格からして嘘をつくなんて下手だから、尚更こんな時は正直に全部言えるんだろう。

 

「まず笑顔が好き、草薙先輩と話してる時に見せる何気ない笑顔が好き。行こう、って言って私の手を引っ張る時の暖かい手が好き。いつも優しい総士くんが好き。そしていつも支えてくれる――」

 

とそこまで言った時だった。

 

「う、……ぅん」

 

ごろん、と総士くんの体が反対を向いた。

 

「!? (か、顔がこんなに……!)」

 

目と鼻の先、総士くんの顔がある。そして右手が私に被さっている。鼓動が早くなるのが分かると同時に、私はとても癒されていた。

 

今ならよく眠れそう……。だってこんな幸せな事はないから……。

 

「おやすみ、総士くん」

 

でもちゃんと自分のベッドで寝ないといけないから目を閉じるだけで、少し時間が経ったらベッドに行く。

総士くんは私の事をどう思ってるのか分からないから、私はただの幼馴染みだから。

 

今はこの夢のような時間を味わっておきたい。私は目をつぶり、この感覚をゆっくりと感じていた。

 

 

 

 

~総士side~

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

「(どういう事だ……)」

 

ふと目を覚ました俺。最初に思った事は寝れたんだな、という事。そして次は何でつぐが俺の布団で寝てるんだ、という事だ。

 

風呂から上がった後なのだろうか髪からはシャンプーの匂いがする。可愛らしい寝息を立てていてその姿に胸が締め付けられる。

 

「何で居るんだよ。いや、お前の部屋だけどさ……」

 

髪を触り、言う。

俺とつぐの顔が近くてそれにドキドキとしてしまう。

 

「よっ――と」

 

変な事にならないうちにつぐを抱えてベッドに運ぶ。

 

「ぅ、――総士、くん……」

 

その最中つぐが言葉を漏らす。

ベッドに寝かせ、俺はつぐに覆い被さり声を掛ける。

 

「お前、何を考えてんだよ。男の布団に入るなんて……余計に意識するだろ」

 

目をつぶって寝息を立てているつぐは反応をしない。だけど俺は言い続けた。

 

「お前は俺の事どう思ってんだ。それが知りたい」

 

返事は返ってこない。そんなのは分かりきっている。

 

「ただの幼馴染みと思ってるのか、昔と同じように兄と思ってるのか。……それとも、――」

 

そこで言い止める。

体を離し寝てるつぐを見て思う。俺が気持ちを伝えるために動いたら幼馴染み(今の関係)が崩れるんじゃないかと。

実のところそれが怖くて何もしないというのもある。

 

「でも――」

 

この思いは変わらない、変われない。

 

「俺はお前の事が一人の女として好きだ。いつか絶対に伝える。お前がどう思っていても、俺は――」

 

 

 

 

お前の事が好きだから。




以上、二人のすれ違いの回でした。
俺君(俺と君を繋ぐ音の略)も頑張りますのでよろしくです!

それはそうと今日からうさぎイベですね! 僕は低速の中頑張りますよ! 皆さんも頑張りましょうね!

感想は気軽に下さいね〜。
今回も読んでくださりありがとです!


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第四話 騒がしい朝

いついつは久しぶりな気がする……。

お気に入り、評価してくださった方ありがとうございます! これからも頑張ります!


~総士side~

 

 

「――う、……しく――」

 

寝ぼけている中声を掛けられる。

こんな朝早くから誰だよ、と思いながら毛布を深くかぶる。

 

「ね――、きて……! …………ってば!」

 

体が強い揺れに襲われる。外から揺さぶられてるようだ。

 

「総士くん、起きてってば!」

 

バッ、と勢いよく布団を剥がされる、そして窓も思いっきり開けられた。

 

「朝だよー!」

 

「(ま、眩し……)」

 

いきなり明るくなった部屋にうまく目を開けられずにいる。おまけに窓も開けられて朝の冷たい風が入り込んできた。

 

俺は目を擦りぼやける視界の中、窓のそばに立つ人物を見る。

 

「今日は日曜だろ? ゆっくりさせてくれ……。てかどうしてつぐが居るんだ……」

 

「? 日曜日だけどお店はあるんだよ? それと昨日は私の家に泊まってるんだからね? 」

 

…………あぁ、そうか。泊まってたんだった。

 

こんな感じに朝はとても寝ぼけている。

俺は絶望的に朝に弱い、学校に遅刻しない方が珍しいくらいだ。

 

「ご飯できてるから降りてきてね?」

 

俺が頷くとつぐは「ん。待ってるね」と言って部屋の外に行った。

 

俺は一旦立って背伸びをして目を覚ます。

 

「さてと、降りますか」

 

半分寝ぼけながら下に降りるのだった。

 

 

 

 

〜つぐみside~

 

 

「おはよーっす」

 

「おはよー」

 

総士くんが上から降りてきて挨拶をした。それに私じゃなくて少し間の抜けた返事が聞こえる。

 

「……何でお前が居るんだ」

 

「いや〜まさか本当にお楽しみだったとは〜。もうモカちゃんはびっくりですよ〜」

 

「だから違うってば〜!」

 

「お楽しみ?」

 

「そ、総士くんは気にしないで!」

 

「? おう」

 

幼馴染みの青葉モカちゃん。

私達のバンドAfterglowの一人でとてもマイペースな人。たまに凄い事を言っちゃうから私やひまりちゃんはびっくりする事が多い。

 

私はご飯を二人の前に持っていく。

 

「おー相変わらず美味そうだね~」

 

「毎日食べたいくらいだな」

 

「〜~~~!?」

 

総士くんが何気なく言っただろう言葉に私は反応してしまう。

 

「はっ、恥ずかしいよ……っ」

 

「あっ――わ、わりぃ……」

 

お互いに目をそらす。

総士くんも自分で言った言葉をその意味で理解したようだ。

 

二人の間に微妙な雰囲気が流れる……と思ったが……。

 

「むふふ〜、毎日ですか~」

 

「何だよモカ」

 

「いや〜? 別に〜?」

 

モカちゃんはご飯を食べながらどこか意味を含めるように言ってくる。

 

私はモカちゃんの横に座りご飯を食べ始めた。

 

その間にモカちゃんと総士くんの話を聞いていた。

 

「で、何でお前は居るんだよ。ここは人の家だぞ」

 

「それは総士もじゃない? ここは女の子の家だよー?」

 

「俺は訳ありだ」

 

意外とモカちゃんは総士くんと仲がいい。

 

私達Afterglowの練習を見てくれる時があるからバンドメンバーと全員仲はいいがモカちゃんとはその中でも特にいい。

仲がいいというかマイペースなモカちゃんと結構話してる姿を見るという事だ。

 

「ふむふむ〜。ところで女の子、それもつぐみたいに可愛い子とこの年になって一つ屋根の下、一夜を共に過ごした訳ですが~……何かありましたか白羽さん?」

 

「何もねぇよ」

 

「ふーむ。私も総士に抱かれたかったな~、つぐだけずる――」

 

「もう! モカちゃんってば――」

 

とモカちゃんが冗談交じり(かどうかは知らない)に言うと、次の瞬間総士くんが動いていた。

 

席を立ってモカちゃんの後ろに立った総士くんの行動で私達はびっくりする。

 

「「っ!?」」

 

何のためらいもなく、後ろから抱きついたのだ。

 

そのまま総士くんはモカちゃんの耳元で何かを言っているが聞き取れない。

 

「――――――」

 

総士くんがモカちゃんから離れようとしたその時だった。

 

「おはようつぐみ、総士」

 

「よお! 二人共元気か?」

 

「おっはよー!」

 

蘭ちゃん、巴ちゃん、ひまりちゃんが何故か入ってきた。

 

三人は今の光景を見て少し驚いている。

 

「朝から大胆だな総士」

 

「こうでもしないと黙らないと思ったからな。いつもこいつが抱きついてくるし、逆でもいいだろ」

 

そう言いモカちゃんから離れる。

 

巴ちゃんと総士くんが話している姿を見るとやっぱりお姉ちゃんとお兄ちゃんが話してるように見える。

 

「何で朝ごはん中に……」

 

「あはは、色々とあってね……」

 

「どうせモカが変な事を言ったんでしょ?」

 

「んー、そんな感じかな?」

 

苦笑いをしながら蘭ちゃんと話す。

 

ひまりちゃんはモカちゃんの目の前で手を振っている。

 

モカちゃんはいつものようにぼーっとしているから何を考えてるのかは分からない。

 

「ってか多いな。朝なのに騒がしいわ」

 

総士くんが椅子に座ってお茶を飲み言った。

 

「朝ご飯中か。それは邪魔しちゃったな」

 

「どうする? 一回帰る?」

 

「あ、それなら私の部屋で待ってて。今日は練習でしょ?」

 

「それなら助かるよ~、さすがつぐ~!」

 

「きゃっ!? もう、ひまりちゃんってば〜」

 

ひまりちゃんに抱きつかれて笑い合う。

 

三人は二階に上がっていって私達は再びご飯を食べ始めた。

 

 

 

 

~モカside~

 

 

ご飯を食べた後、私は少し外に出て風に当たっていた。

 

「(まさか、あっちから抱きつかれるなんて……)」

 

今あたしの意識を支配してるのはさっきの総士の行動だ。

 

まだ匂いが残ってる。体が触れた場所の温もりが残ってる。

そして、耳元で言われたあの言葉も……。

 

『……これで満足かよ、モカ』

 

「――っ」

 

あんな事を優しく言われたらますます……私は……。

 

私は誰にも聞こえない声で呟く。

 

それはいつの間にか生まれていた気持ちだ。そしてAfterglowの中では蘭しか知らない事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総士の事――もっと好きになっちゃうよ」

 

 




パスパレも書き始めちゃいましたw

もうここまで来たらやりますよ、そのバンドのイベの開始とともに投稿って予定ですね。後二つですけど……。

と、今回は次の朝の話、最後はモカの話でした。
「おい鴉、モカのキャラが違うぞ」 なんて事になりそうですがそこは目をつぶってもらえると……。

取り敢えずは今回も読んでもらいありがとです!


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第五話 片思い

今回はモカの思いがメインです。

間が開きましたがどうぞ。


~総士side~

 

 

「いらっしゃいませ」

 

客が入ってくるといつもどうりに挨拶をして注文を取る。そして注文されたものを客に出す。

 

「どうぞ」

 

ここは朝のうちは客が少ない。日にもよるが特に多いのは十二時から二時半にかけての時間帯だ。

 

「(ふぅ。今日も人は少なそうだな)」

 

まだ十時を回ったくらいで見渡しても一人しかいない。俺は適当に考え事をして時間を潰す事にした。

 

そういえば、と今日バイトに入るやつを思い出す。

外国人の少女でこう言っては悪いがちょっとズレてる部分がある。でもいつも元気で明るいから客には人気だ。

 

「(でもあいつなぁ……)」

 

考えながら注いでいたコーヒーを一口飲む。

元気なのはいいんだけど逆にそれが面倒になる事もある。例えば……。

 

「たのもー!!」

 

丁度いいタイミングで来た。

 

若宮イヴという少女。モデルをやってるらしい事から当然見た目は良い、背も高く肌も綺麗。すれ違ったら男なら一度は振り向くんじゃないだろうか。

 

「うるさい。早く着替えてこいよ」

 

「うう……反応が冷たいです……」

 

とぼとぼと奥の部屋に向かっていく。その背中を見ていると後ろから声を掛けられる。

 

「よっ総士。相変わらず見た目だけは家庭的だな」

 

「……莉緒、何してんだお前」

 

遠回しな貶しをスルーして声を掛けてきた人物を見る。

 

そいつは沙霧莉緒。俺達が組んでいたバンド“Eternal Happiness”でギターをしていた男だ。

 

「何って……イヴの付き添いだが?」

 

そうだった、こいつらはどういう事か知り合いで割と仲が良い関係だ。結構前イヴに聞いたのだがなかなか面白い事だった。

 

「喫茶店デートか? 他所でやってくれよ」

 

「あはは、お前じゃないんだからさ。で? その本人はつぐとはどうなんだ?」

 

自然な流れでからかってくるのはこいつがよくする事だ。それは中学の頃から変わっていない。

 

「思いは募る一方です。以上」

 

「そっかー」

 

席に座りながら返事をしてくる。自分から聞いてきたくせに素っ気ない反応をされる。

 

その時イヴが奥から着替えてやって来た。

 

「装着です! どうですかリオさん?」

 

くるりとその場で一回転。よくアニメで見るあれだ。

 

莉緒は持っていたメニュー表を机に置いて一目イヴを見てから感想を述べた。

 

「似合ってるな。でも姫としてその格好は如何なものかと」

 

「だから! 姫じゃないですってば!」

 

イヴに強く言われるが笑っている莉緒を見るとこの二人はこういうやり取りをよくしている事が分かる。

 

この雰囲気が続くと入れなくなるので先に間に入って注文を取ることにした。

 

「注文はお決まりでしょうか?」

 

「あぁ、悪い悪い。じゃあこれで」

 

 

 

 

〜モカside~

 

 

「……モカ」

 

「んー? どうしたのー蘭ー」

 

バンド練習の休憩中に外で風を浴びてると蘭が心配そうな顔で声を掛けてくる。どうしてそんな顔をしているんだろう。

 

「あ、何か奢ってくれるのかなー? いやー友達思いだなー蘭は」

 

いつものようにのんびりと言うが蘭の表情は変わらない。

 

「今日さ、らしくないミスしてたよ」

 

「そうだねー。疲れてるのかな?」

 

適当に誤魔化してみようとしたがAfterglowの中でも一番の親友といえる蘭の目は誤魔化せなかったようだ。

 

蘭は優しく語り掛けてくる。

 

「朝の事なんでしょモカ」

 

やっぱりばれちゃったかー。

 

親友相手に隠すことは難しいようだ。あたしは素直に言う事にする。

 

「あははー、分かっちゃうー?」

 

「当たり前でしょ。何年一緒だと思ってんの」

 

そんな何気ない言葉が嬉しくも感じる。

 

「あんなの反則だよねー、人の気持ちも知らないでさー」

 

総士に朝抱きつかれた事が練習中も頭から離れなかった。思い出しただけでドキドキする。

 

私はつい愚痴みたいなのを言ってしまう。

 

「確かに総士がつぐの事を好きなのは知ってるよー? でも、もうちょっと周りも見てほしいものだよー」

 

「モカ……」

 

それは自分に言い聞かせているようだった。総士はつぐしか見ていない、と。あたしはただの幼馴染みだ、と。

 

つぐもあたしが総士の事を好きとは知らないだろう、そこまで勘がいい方ではないはずだ。

 

「……ふぅ。言葉にしてみたら案外スッキリしたよー、それじゃ休憩も終わる頃だから戻ろ?」

 

蘭の横を通り過ぎてスタジオ内に戻ろうとするがその時「待って」と言われて足を止めた。蘭は少し間を置いて真っ直ぐに私を見て言う。

 

「あたし、そういう話は疎いけどモカが悩んでるのなら相談に乗るよ。いつものように遠慮はしないでいいから、モカはいつも通りにいればいいんだから」

 

言い終えた蘭は今度は「行くよ」と行ってあたしの手を取りスタジオに向かう。

一瞬見えた顔は少し赤かった。きっと恥ずかしかったんだろう。

 

でも――

 

「(ありがと、蘭)」

 

その親友と繋がれた手を見ながら心の中でそう思ったのだった。




評価や感想をして下さった方、いつも感謝しています! 頑張りますのでこれからもこの作品いついつをよろしくお願いします!

今回も読んでもらいありがとです!


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第六話 バンド仲間

気付いたら1ヶ月空いてました、すいません!

今回は急投稿なので短いです。


~総士side〜

 

 

「俺が終わるまで居座るか、普通?」

 

「折角の休みなんだ。たまには友達と話とかしたいさ」

 

「そういうものか?」

 

「そういうもんだよ、きっと」

 

まぁ高校が別れて会う機会が少ないから、話すとなればそういうものか。

 

一人で納得してやまぶきベーカリーに足を運ぶ。

あれから莉緒は俺が上がるまで喫茶点に居座っていた、俺が上がったのはつぐが帰ってきた十四時だ。それまでは俺やイヴを見ながら時間を潰していたらしい。

 

「それにしても久々だな。何か奢るぞ」

 

「お、マジか? ラッキー!」

 

「ラッキ〜、ごちになりまーす」

 

後ろから抱きつかれる。声、匂いで誰かはすぐに分かった。

 

「……お前は何だよ」

 

「いやー、総士が奢ってくれるなんてー。今日はついてるなぁ~」

 

俺はお前に奢るなんて一言も言ってない、というかそもそも話に入ってない訳だが。

 

巻きついている腕を解いてその人物を見ながら言う。

 

「モカは蘭に奢ってもらえ」

 

「はぁ? 何であたしが……総士がやってよ」

 

「親友に迷惑は掛けれないよ〜。総士のお金で食べたパンが一番美味しいの~」

 

こ、こいつ……。

 

九郎と張るくらい性格悪いぞ、いやでもあいつが一番か。財布と相談をしてどうするかを割と真面目に考える俺を見て、莉緒は笑っている。

 

「……一人二つまでな。蘭もいいぞ、俺が払うから」

 

蘭は意外そうな表情で「ありがと」とお礼を言ってやまぶきベーカリーに入っていった。それに続いて俺らも入る。

 

中に入るとパンのいい香りが漂ってくる。俺はメロンパンを一つだけトレイに置いてレジへ持って行く、そこには山吹沙綾が立っていた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「あいつらのも一緒に払うから待っててくれ」

 

「ふふっ、優しいんですね白羽さん」

 

その言葉にため息をついて「ついでだ」と言う。

 

「よろしくな総士」

 

「あたしこれ〜」

 

「ん」

 

全員が選び終えてトレイをレジに置く。値段は1200円、まぁ別にいいだろ。そう思いながら支払って、袋に入ったパンをそれぞれに手渡した。

 

「ありがとうございましたー!」

 

後ろから聞こえる声を聞きながら店を出る。出るや否やすぐに蘭達は俺達に別れを告げた。

 

「それじゃ、あたし達は帰るから。パンありがとね」

 

「じゃーねー総士ー」

 

別に話そうとは思ってなかったけどさ、ただ奢っただけって……何だろう、何やってんだろう俺。

 

二人と別れた後は、野郎二人でパンを食べながら道を歩く。奏とも滅多にない光景に不思議に思いながらも、家に着く途中までの道を行く。

 

「そーいや、奏や龍斗は元気か?」

 

ふと莉緒が口を開いた。

 

「元気だぞ。因みにまだ花音とはくっついてない」

 

「かのも大変だな~。ま、かのが思いっきりいけば変わると思うけどな、俺は。そういえば龍斗は音楽再開したんだろ?」

 

「ああ、確かゆりさんの妹達と一緒にって俺は聞いてるぞ?」

 

ゆりさんとは昔ライブハウスで出会ったとあるバンドのリーダーの人だ。高三になった今でも、バンドはやってるらしい。

 

「ゆりさんの妹? ……確かりみちゃんだっけ? “達”って事はあの子もバンドを始めたんだな」

 

「そこは俺も詳しくは知らないな。ただ龍斗が始めたってだけで」

 

最近楽しそうなのは目に見えて分かってたしな。

 

「楽しそうなら何よりだ。俺みたいに九郎(お荷物)がないのが羨ましいぜ」

 

疲れきった笑いをしながら言う莉緒。中学時代からあいつに苦労してたもんな……こいつ。

 

 

 

 

それからは互いの高校の雑談をしながら俺と莉緒の家に別れる十字路に着いた。それぞれの道の前に立って俺らも別れの挨拶をする。

 

「それじゃパンありがとな。それとつぐ、頑張れよ」

 

「ははっ、お前もイヴ()と頑張らないとだろ。じゃあな」

 

背を向けたまま「ちげぇよ」と言いながらもその声は少し嬉しそうに思えた。

 

「おう。また今度な」

 

「ああ」

 

俺らもそれぞれの道を歩いてるんだな……。奏や莉緒、龍斗。九郎はどうか知らないけど、あの頃とは違い自分の道を歩き始めたと今回話して実感した。

 

「(さて。俺も頑張らないとな)」

 




次の話からはちゃんとバランスよく投稿していきますので許してください!(それとちゃんと書きますので!)

こんな僕ですがこれからもよろしくお願いします!


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第七話 秘める想い

モカ誕生日おめでとうー!(遅い)

あ、誕生日は関係無いですよ?


~奏side~

 

 

「頼む! 課題を見せてくれ!」

 

「……やだ」

 

ある日の学校。俺は総士に現文の課題を見せてもらうために頭を下げられていた。この課題は今日の小テストに出る範囲でもあり、割と重要なものなのだが……。

 

「親友であるお前にしか頼めないんだよ!」

 

「教科書を読め、それで変な点数は取らないからさ」

 

うむむ……、と唸りながら思考する。

 

別に俺が頭いい訳じゃない、点数は平均点以上なだけだ。総士のように学年トップを狙えるような成績は生憎持ち合わせてない。

 

「く、後輩にも見捨てられた上に親友にまで見捨てられるのか……。なんて人生だ……っ」

 

十数年しか生きてないのに人生を語るか。

 

ぶつぶつバカらしい事を言う総士にクラスの仲のいい女子が近付いてきた。俺もそこそこは話す奴だったので会話に参加していた。

 

「また白羽くんの手伝い?」

 

「まぁそんなとこ」

 

「総士くん、あたしが教えてあげよっかー? いつも教えてもらうお礼にさ」

 

そう、総士はクラスの男女問わずから勉強について質問される事が多い。クラスじゃなくても後輩である龍斗や蘭達、そして俺も聞く時がある。

 

「え、マジで? ラッキー! ありがとな!」

 

明るくお礼を言う総士に女子生徒は顔を赤くして教え始める。

 

そんな光景を俺はもう一人の女子と見ていた。

 

「もうあの子ったら、柄にもなく照れちゃって」

 

「あぁ、あの人総士が……」

 

「うん好きなんだよ。残念だけどね」

 

ため息混じりに言う。

 

総士はモテる、それは一年から三年生の間でもだ。告られた数は本人曰く数えれないらしい。

難があるとすれば、それを総士は全て断っているという事だ。理由は恋愛に興味無い、既に彼女がいるなどと色々広まっている。

 

本当の理由を知っているのはごく僅かの人だけだ。

 

「イケメンだもんなぁ」

 

「ふふ、でもね。草薙くんも人気なんだよ?」

 

俺の呟きに予想外の返しをされる。

 

「は?」

 

「Eternal Happinessの草薙奏、白羽総士、九十九龍斗。この学校で有名だよー。中学の頃は凄かったでしょ?」

 

そんなにか? 自分らだと実感はないが……。

 

「有名って、流石にオーバーだろ。昔はみんなが楽しめればと思ってただけだし」

 

「実はね、私ライブ見た事あるんだ〜。とっても楽しかったよ」

 

笑顔で俺に言ってくる。

それはまたいつか見てみたい、と言っているようにも思えた。

 

「そりゃどーも」

 

適当にお礼を言う。

 

俺らの話が終わって総士に近付く。俺が近付くや否や、総士は抱きついてきた。

 

「わぁーーっかんねぇーー!! 必殺のカンペ作ろう! な!?」

 

先程まで総士に教えていた女子生徒は降参というふうに両手を上げる。

 

「殺すな。それとカンペ作るくらいなら補習や再テストでも受けろ、間違っても俺は親友に道を外して欲しくない」

 

「くっ──! 奏、お前は親友を見捨てるのか!?」

 

「見捨ててねぇ。嫌なら漢字ぐらい丸暗記しろ」

 

教室で叫ぶ総士と冷静な俺のやり取り。それをクラスメイトはまた始まった、という目で見ている。

 

「そもそもお前、教えても覚えないだろ」

 

「やってみないと分からないだろ!」

 

どっからその自信が出てくるんだよ。こっちは何回もやってんだぞ。

 

……なんというか、莉緒も九郎を世話する時はこんな感じなのか。と思ってしまう。

 

「……一応教えてやる。“見せる”じゃなくて“教える”だからな」

 

「ありがとう〜! 奏〜!!」

 

結果は目に見えてるけど……本人が頑張るなら別にいいか。

 

 

 

 

〜モカside〜

 

 

「つぐ〜! 宿題教えて〜!」

 

昼休み、なにやらひーちゃんがつぐに抱きついてお願いをしていた。その手には現代文の課題を持っていた。

 

「わわっ、ひまりちゃん!?」

 

「お願い〜! ここだけでいいからさ〜!」

 

既にご飯を食べ終えてのんびりとしていた蘭とともちんは呆れた様子でひーちゃんを見ている。

 

「現代文だなんて……総士みたいだな」

 

「でも現代文はつぐみの得意教科じゃん」

 

二人とも微笑みながら言う。

 

「──でも〜、総士の為に勉強したから現代文がずば抜けて点数いいよね〜。つぐは〜」

 

言っていて自分の胸が締め付けられるのが分かった。でもそんな感情は表に出さずにつぐをからかう。

 

「も、もう! モカちゃんってば……」

 

もじもじとして顔を赤らめるつぐ。

 

同じ女として見てもつぐは可愛いと思う。

女の子っぽいし、頑張り屋さんだし……そんなつぐを近くで見たいた総士は当然、その魅力に気付くだろう。

 

「(あたしは……)」

 

「モカちゃん? どうかしたの?」

 

声を掛けられて驚いて顔を上げると、目の前につぐの顔があった。心配そうな表情だったので慌ててなんとも無いふりをする。

 

「いやー。今日の夜ご飯はどうしようかなー、ってねー」

 

「相変わらずだな、モカは」

 

「あーもー! そんな事より教えてってばー!」

 

ひーちゃんがつぐを引っ張る。

 

そっか、つぐはあたしの気持ちを知らないんだった。総士もあたしの気持ちに気付いてないと思う。

 

そもそも二人は両想いなのだ。他人のあたしが入れる余地なんて無い。

 

「ひ、ひまりちゃん慌てないでよー! ごめんね、先に私達教室に居るから!」

 

ひーちゃんに腕を絡まされてそのまま校舎に戻る。そんな姿をあたしは見ながら色々な思いに浸っていた。

 

「……モカ。悩みがあるなら相談してくれよな? アタシ達、仲間なんだからさ」

 

やっぱりともちんはメンバーの少しの悩みに敏感だ。蘭の悩みなんてすぐに言い当てたりもする。

 

「(ごめん)」

 

心の中でともちんに謝る。

これはあたしの問題だから、結局は自分で解決しないといけない悩みだから。

 

「ふっふっふー。それじゃあ今日の夜ご飯について話そうかな〜」

 

「……ま、言ったからにはその相談に乗るさ」

 

十年以上の付き合いである幼馴染みに嘘をつくのはやっぱり辛い。

 

だけどこうしないとダメだと思う。

もしも弱さを見せたらあたしはダメになると思うから……、いつもの“青葉モカ”じゃ居られなくなるから……。

 

「ありがとー。ともちん〜」

 

誤魔化すように抱きつく。

蘭の心配そうな表情が一瞬だけ目に入る。まるで「無理しないで」と言うような目だった。

 

「(でも、違うから。あたしと──)」

 

──あたしとつぐは違う。あたしじゃ総士に振り向いてもらえない。

 

それは十年以上続いているから。

 




せめてモカに触れようと思いながら書きました。
誕生日おめでとうですしね()

それでは読んでもらいありがとうです! 感想などは気軽にどうぞです〜。


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第八話 雨宿り

評価してくださった方、ありがとうございます! これからも頑張りますんでよろしくお願いします!


〜総士side〜

 

 

「じゃーな。補習頑張れよ」

 

「総士先輩、ファイトです!」

 

くそっ、あいつら。他人事みたいに……。

 

問題の小テストも終わり放課後、俺は現代文の補習を受けていた。理由は単純で点数が悪かったからだ。

 

……例え今日のテストが悪くなくとも補習は確定していた、と先生は言っているが気にしないでおこう。

 

「うるせー! 帰れ帰れ!」

 

「おっとお怒りだ、雨が降る前に帰るぞ龍斗」

 

そう言うと奏は龍斗を連れて帰っていった。

二人が帰った後、俺は先生に注意され再び補習に戻る。

 

「どうして白羽は現文だけ無理なんだろうなぁ……。それ以外だとどれを取っても優秀なのに」

 

今日だけで何回目のセリフか分からない。クラスの奴にも言われ先生にも言われ、挙句に龍斗にさえ言われてしまう。

 

「さぁ……、長い文章が無理なんじゃないんですかね」

 

机をシャーペンでトントンと叩きながら答える。

 

「それなら俺は英語の方が長いと思うんだが」

 

「英語はスラスラ読めるじゃないすか、そして簡単に書ける。現文は文とか漢字は読めますけど、書くの全般が無理なんですよ」

 

先生は分からん……、と言ったふうに首をかしげる。

 

「でもやれば出来る奴だろ白羽は。現文も頑張って覚えてみろ」

 

「はいはい、できる限りは頑張りますよ」

 

補習課題をちまちまと書き始める。

 

何気なく奏の言葉が気になり外を見てみると、空は曇り始めていた。

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「遅くまでお疲れ様、羽沢さん。後は私がするから帰っていいわよ」

 

「で、でも……」

 

「外も真っ暗になるし危ないわ。それにいつも頑張ってるんだから、たまには体を休ませないとね」

 

「ぁ──」

 

生徒会長と二人で作業をしていると突然そんな事を言われる。外を見ると暗く、時間は十八時を回ろうとしていた。

 

「えっと……そ、それじゃあ……」

 

目を通していた書類を一箇所に集めて机の上に置く。その後に自分の鞄を持って会長に挨拶をして生徒会室を出る事にした。

 

「お疲れ様でした会長。お先に失礼します」

 

ぺこりと頭を下げて会長に挨拶をする。すると会長は優しく微笑んで手を振りながら「また明日」と言ってくれた。

 

廊下に出ると生徒は誰一人見当たらなかった、だが外には部活帰りの生徒と思われる人達が見える。因みに蘭ちゃん達には遅くなるから先に帰っててと言っている。

 

「(それにしても……)」

 

校舎を出てから空を見ると曇り空だった。

雨が降ると心配になったが、朝に折りたたみ傘を鞄に入れていたので安心して家へ帰る。

 

生徒会の仕事が長引く時はこんな風に私だけで帰る事が多い。多い、というのは稀に遅くまで練習しているひまりちゃんと帰る事があるからだ。

 

今は一人で帰ってるからぼーっと考え事をしながら歩く。

 

考える内容はさっきの会長の言葉だ。

 

『それにいつも頑張ってるんだから、たまには体を休ませないとね』

 

この言葉は前に総士くんに言われたのに似ていて、思わず声が漏れた。

 

『つぐはいつも頑張ってるんだから無理だけはするなよ』

 

「〜〜っ!」

 

頭に手を乗せ優しい声で言ってくれた総士くんを思い出す。あの時の表情を思い出すだけで胸がドキドキと早まってしまう。

 

「(う〜〜っ! ダメだよつぐみ!)」

 

頭をぶんぶんと振って考えを振り払う。

 

総士くんは私の事なんか意識すらしてないんだから。ただの幼馴染み、ただの後輩なだけ。それ以上の関係なんて夢なだけだよ……。でも、期待なんかしていない……なんて言ったら嘘になる。

それは昔言われた言葉がずっと心に残ってるから。

 

『頑張るお前の姿が好きだから一緒に居るんだ』

 

あの時の言葉はどういう意味だったんだろう。確認しようと思うが、今だと恥ずかしくて聞くに聞けない。

 

「(何気ない一言だよね……)」

 

ため息をして道を歩き続けているとぽつ──、と肌に何かが落ちてきた。

 

「あ。雨……」

 

私は鞄から折りたたみ傘を取り出して広げる。雨は徐々に強くなっていき、傘を持ってない人がひどく濡れる前に帰ろうと走り始めるのが見えた。

 

雨が降り始めても傘を持ってる私は比較的のんびりと歩く。

前後に見える人もそれは同じだ。後ろにいる人はイヤホンで音楽を聴きながら歩いていて、前の人は所謂相合傘というのをしている。

 

「(いいなぁ。私も……)」

 

あぁ、やっぱり総士くんの事を考えてしまう。

 

「(今頃何してるんだろう、総士くん)」

 

 

 

 

〜総士side〜

 

 

「うぉぉぉおおおお!!!! な──っんで雨降るんだよぉぉぉおおおッ!!!!」

 

最悪の状況での嫌な予感というのは大抵当たるものだ。

傘を持ってきてない日に限って曇ってて雨が降る、補習から解放されてハイテンションだった俺は雨とともにテンションが落ちていった。

 

今は鞄で頭を覆いながら全力で家まで走っている最中だ。

 

「(あの時の言葉……まさかこんなひどい雨とはな!)」

 

奏の言葉で雨が降るのはほぼ確信していたが、ここまで強い雨とは思っていなかった。おまけに雷までなる始末だ。

 

学校から出て三分経ったくらいで既にびしょ濡れだ。自転車を適当に拝借してもよかったが、生徒会側が最近放置自転車を処分したので一つも無くてその考えは消え去った。

 

「うおっ!? ──わ、わりぃ!」

 

曲がり角で自転車の人と接触しそうになり謝る。

走るのはそこそこ早いので家までの中間地点である近くの学校──羽女をあまり時間がかからずに通り過ぎる事が出来た。

 

今の時間は……おおよそ六時半くらいか。つぐは流石に帰ってるだろ、というか帰ってないと色々とまずいぞ。

 

──ピシャアッ!!!

 

考え事をしていると、空が光り大きな音が鳴った。

 

「うひゃあ。今のは……どうだ? 結構な音だったぞ」

 

更に強くなった雨に打たれながらも帰路を走り続ける。取り敢えず一息つきたいから、誰も使ってない小屋が近くにあるのでそこまで走ることにした。

 

 

 

 

「っ、ふぅ……。あーくそ、びしょ濡れだよ」

 

小屋に着いた俺は制服を脱いで絞る。相当水を吸っていたらしく、数回捻ってようやく絞り取れたようだ。バサッ、バサッと広げて気持ちだけ軽くなった制服を再び着た。

 

──ピシャッ!!

 

「きゃあっ!!」

 

先程よりも大きくはないが雷が鳴る。

 

「あ?」

 

雷の音で消えそうになったが俺はその声を聞き逃さなかった。女の子の声が聞こえたのだ。

 

その声は小屋の奥にある部屋から聞こえてきた。確認のために誰が居るのかを見に行く事にした。

 

「おーい、誰かいるのか?」

 

携帯のライトで照らしながら暗い小屋の奥へと進むと、小さく屈んで震えてる影が見えた。

 

「おい、お前大丈夫か?」

 

「ぅえ?」

 

その少女はキョトンとした表情で俺を見上げてきた。そして涙ぐんだ声で俺の名前が呼ばれる。

 

「そ、総士くん……?」

 

「は? つ……つぐ? 何してんだ、こんなとこで」

 

どういう事かそこには小動物のように震えるつぐが居た。

 

髪は濡れていて、雨に打たれたのだろうか。でも折りたたみ傘のようなものが近くにあるから濡れるのはおかしい。

 

「か、雷が……」

 

指を指された方──雨が振り続ける外を見る。

 

「あー……、成程」

 

これが帰ってないとまずいと思った理由。つぐは雷が苦手なのだ、それは持っている傘を投げ出すほどに。

昔は鳴る度に泣いて俺や蘭達に抱きついてた記憶がある。

 

ピカッ! と再び光が走る。

 

「きゃあああああっ!!!!」

 

「おわっ!?」

 

雷に驚いたつぐが勢いよく俺に抱きついてきた。腰に腕を回されて尻餅をついてしまう。

 

「いやぁ、もう無理だよぉ……。総士くん……離れないでぇ」

 

怯えるように体を震わせながら強く抱きしめられる。上目遣いでお願いしてくるつぐに心が締め付けられる感じがした。

 

「お、おう……(や、やばい! 可愛すぎる……っ!)」

 

濡れた髪に微妙に透けて下着が見える制服、そして上目遣いという三連コンボに俺はクリティカルを受けてしまう。

 

濡れて体温が下がっているせいか、つぐの体温をダイレクトに感じる。思わず人ってこんなにも温かいんだな、と変な事を思ってしまった。

 

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「ご、ごめんね総士くん。急にあんな事して……」

 

「あー、あんま気にしてない……から気にすんな。それより雨が弱いうちに帰ろうぜ」

 

お互いに顔を逸らしながら話す。

 

ううっ、どうしてあんな恥ずかしい事をしたんだろう……。いくら怖いからって、あれはないよ……私。

 

「そ、そうだね。じゃあ帰ろっか」

 

鞄を持って小屋の外に出ようとする。そこで私は総士くんのある事に気が付いた。

 

「あれ? 総士くん、傘は?」

 

「ねぇよ。だから濡れてんだがな」

 

笑いながら言われる。

 

「そのまま帰るつもりなの?」

 

「だな。このくらいならダッシュすれば十分くらいで着くと思うし」

 

走る準備をするかのように準備運動を始める。それを見ていたつもりだが、知らぬ間に私は総士くんに叫んでいた。

 

「だ、ダメだよ! 風邪ひいちゃうよ!?」

 

「大丈夫だって、男はそんなに弱くねぇって」

 

「ううん、昔そう言って風邪ひいたじゃん!」

 

「って言ってもなぁ。傘は持ってないんだぞ?」

 

その言葉で私は一瞬止まる。そして手に持っているある物に視線を落とした。

 

そしてそれを総士くんに突き出して。

 

「──か、傘ならあるよっ! ほら!」

 

 

 

 

 

「何か久々だな、こんな風に帰るの」

 

「っ──そ、そうだね」

 

雨が振り続ける中、私達は一つの傘(・・・・)を使って帰っていた。

 

「(また勢いだけで言っちゃったよ〜! ど、どうしよう……)」

 

内心、言った事に半分後悔しながらも相合傘をしていた。嬉しさもあるけどこんなに恥ずかしいなんて思ってもなかったのだ。

 

「あー、もうちょっとこっち寄れよ。濡れるだろ?」

 

「うぇっ!?」

 

そんな事を言われて変な声を出してしまう。

総士くんはいつもの表情で恥ずかしがってるのは私だけというのが見て取れた。

 

やっぱり……私はただの幼馴染みなのかな。

 

「う、うん……じゃあ──」

 

更に総士くんに近付く。

 

「(わぁ……)」

 

つい雨で体に張り付いた制服に目がいってしまう。ドキッと心臓がなった気がした。

 

「(私のドキドキ、聞こえてないかな? 聞こえてないよね?)」

 

ぽーっ、としながら眺めていると話を切り出される。

 

「こうしてると昔を思い出すよな。小学校の頃だけど」

 

「うぅ、今思うと恥ずかしいよ……」

 

恋愛感情でなく幼馴染み、仲のいいお兄ちゃんのような人と思ってたあの頃はよく雨の日に相合傘で帰っていたのだ。

 

『総士お兄ちゃん! 帰ろー!』

 

『ってつぐ、また傘持ってきてないのか』

 

『えへへ〜、お兄ちゃんと一緒に帰りたかったから〜!』

 

思い出すだけで顔が熱くなる。草薙さんやひまりちゃんにからかわれてた事も思い出して、なお恥ずかしくなった。

 

その話をきっかけに、いつものように自然と話が続くようになった。

 

「あの頃から私達あまり変わってないね~」

 

「俺の方は変わったけどな。花音が奏に積極的になったとか」

 

花音先輩はお店の常連さんで、総士くんの親友である草薙先輩に好意を寄せてる人だ。確か向こうも幼馴染みだったと思う。

 

「私ちょっと前まで付き合ってると思ってたんだよね。まだだなんて聞いた時はビックリしちゃったよ」

 

「確かにあれは知らない人から見たら付き合ってるようにしか見えないよな」

 

草薙先輩以外のエタハピメンバーは花音先輩の思いに気付いているらしい。何で草薙先輩に言わないのか理由を昔聞いた事がある、「奏自身がそのうち気付く」と全員が口を揃えて言ったのだ。

 

そんな事を話していると、商店街に入っていて私の家の前に着いていた。

 

「あ、送ってくれてありがとね総士くん。傘は借りてていいよ」

 

「マジか? それなら明日返しに来るわ。じゃまた明日な」

 

お礼を言われながら別れの挨拶をされる。私もお別れの挨拶をする。

 

「うん、また明日ね。ちゃんとお風呂に入るんだよ?」

 

「ははっ、親か何かかよ。安心しろって風邪だけはひかねぇからさ」

 

その日はそう言って私達は別れたのだった。

 




今回も読んでもらいありがとです!


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第九話 看病

実は昨日熱を出して寝込んでましたw
つぐに看病されたら興奮で熱が上がりそうですよね。

とまぁそれは置いといて、今回はサブタイ通りの話になります。


〜総士side〜

 

 

「ゲホッ、ゲホッ! ……っあ〜、俺の無遅刻無欠席が……」

 

「馬鹿みたいに濡れて帰ってくるからよ」

 

「それと無遅刻は何かの幻想だ。病人は黙って寝てろ、先生には俺から伝えておくから」

 

母さんと奏が口を揃えて言った。

 

俺の身に何があったのか──。

それは単純、昨日の雨で風邪を引いたのだ。熱は三十七度六分、正直頭が痛くてこうやって話すのが精一杯だ。

 

「料理は作り置きしておくから温めて食べなさいね、それと安静にしておく事」

 

「ゴホッ……あー、あーたりめーだろ。寝る事しか出来ねぇよ」

 

「そ。それならいいわ。何かあったら電話しなさいね」

 

そう言って母さんは部屋を出ていく。その後に奏も出て行こうとしたが、一旦止まり俺に話し掛けてきた。

 

「……つぐみに連絡しとこうか?」

 

「いらんお世話だ。風邪でもうつったら悪いだろ……」

 

「ふーん、そっか。ま、お大事に」

 

そして奏も部屋を出ていった。

 

一人になった部屋には時計の音と、外から登校している学生の楽しそうな声が聞こえる。

 

「(あー、うるせぇ……)」

 

カーテンを閉め、電気を落とす。カーテン越しに少し光が入ってくるが毛布をかぶり真っ暗になるようにする。

 

今は寝よう。起きていても頭が痛くなるだけなんだ。

 

そうして俺は再び眠りについた。

 

 

 

 

〜モカside〜

 

 

「つーぐー! お昼だよー!!」

 

「…………」

 

午前の授業が終わりお昼になった。あたし達は中庭でご飯を食うことになったのだが……。

 

「……つぐ?」

 

「朝からずっと考え事してるよな。何かあったのか?」

 

と言ってもつぐは黙り込んだままだった。

あの真面目なつぐが人の、それもあたし達(幼馴染み)の話を無視するなんて明日世界が滅ぶんじゃないか、というくらい珍しい。

 

「つぐみ……どうしたの? 熱でも──」

 

そう蘭が言い近寄った途端につぐは勢いよく立ち上がった。勿論、突然の事だったからみんな驚く。

 

「私、今日用事あったから! 先生に帰るって言ってて!」

 

「え? お、おい! つぐ!?」

 

言うや否や校舎に走っていく。そんな姿をあたし達は眺めることしか出来なかった。

 

見えなくなったところで、再びあたしは誰に向けてでもなく質問をした。

 

「どうしたんだろつぐ。朝からぼーっとしてたけど」

 

「だよな……。モカ、蘭思い当たる節あるか?」

 

ともちんから聞かれるが、あたしや蘭は何も聞いてない。当然分からないと答えるしかなかった。

 

「でも隠し事があるのは確かだね。つぐみこういうの隠すの下手だし」

 

「それにしても〜、みんなに隠して学校抜け出してまでする事って何かな〜」

 

「家で……何かあったとかか?」

 

「それならあたし達に言うはずだよ」

 

蘭の言う通り、家庭の事情ならあたし達に一言言うはずだ。言わないという事はそれ以外の何か……もっと個人的な……。

 

「なら何だろね? そんなつぐが熱心になる事って」

 

「総士の事しか思い浮かばないな」

 

「あははっ。そだねー、つぐ総士の事大好きだもんね〜」

 

「「「「…………」」」」

 

四人の間に変な空気が生まれる。そうじゃない、そうではない事を思っていた。

だけどその結論にたどり着いてしまって──。

 

「総士……?」

 

「いやいや、まさか……」

 

蘭の言葉にその場が凍った気がした。

 

言い方は悪いが、総士の事になるとつぐは何をしでかすか分からない。

例を挙げるなら小学生の頃の喧嘩だろう。上級生にさえ立ち向かう、それくらい総士を想っているから……。

 

「──っ。取り敢えずあたしが龍斗に電話してみるよー、向こうもお昼だと思うしー」

 

考えを振り切るように携帯を取り出して龍斗に電話をかけた。すると三回目のコールで通話が繋がった。

 

「りゅー?」

 

『──いえ何かモカから電話来たんで……。って、何だお前からなんて珍しい』

 

「やぁやぁりゅーくん、今時間いいかな〜?」

 

『りゅーくんはやめろ。で、要件は?』

 

相変わらずの恥ずかしがり屋のようだ。向こうが不機嫌になる前にあたしは手短に言った。

 

「ごめんごめん。今日さー、総士学校来てるー?」

 

『いや風邪引いたらしくて休んでるけど……。それがどうかしたのか?』

 

「つぐに色々とあってね〜。ま、それが聞けてよかったよ。それじゃあね〜」

 

『えっ、おいま──』

 

プツッと通話を切る。

 

龍斗には悪いが十分すぎる情報を聞けた。

風邪で学校に来ていない、それだけで十分つぐが行動を起こす理由になる。

 

あたしはみんなに総士が来ていない事を話す。するとみんなはそれぞれを見合って頷き合った。全員同じ事を考えたのだ、逆にそれしか思い付かないわけでもあり……。

 

「総士だね」

 

「総士だな」

 

「総士だね〜」

 

「総士か〜」

 

全員が総士の名前を口にした。

 

理由が分かったともちんとひーちゃんは話をする。それはつぐを応援する為の会話で……。

 

「総士が絡んでるならあたし達にはどうする事も出来ないな。何とかして先生に説明しないと……ひまり、手伝ってくれよ」

 

「まっかせてよ巴! つぐの為なら頑張るよ! ね? モカ、蘭!」

 

ひーちゃんはあたしと蘭にも手伝うように言ってくる。

 

「……まぁね」

 

それに蘭は間を置いて答える。

きっとあたしを思っての事だろう、こういう所は蘭素直だもんな〜。モカちゃんは嬉しいよ〜うんうん。

 

「そだねー。周りに気付かれないように、あたし達がどうにかしないとねー」

 

その言葉は自分に言ってるように思えて、少し……胸が締め付けられた。

 

 

 

 

 

〜つぐみside〜

 

 

「はあっ……はぁっ! ──っ! つ、着いた……」

 

こんな全力で走ったのはいつ以来だろう。息は切れて、汗もかいている。けどそんなのが気にならないくらい、私は焦っていた。

 

「そ、総士くん! 私! つぐみだよ!」

 

インターホンを押しながら声を上げる。

 

焦りの原因は今朝の草薙さんからのLINEのメッセージだった。

 

『今日のバイト、風邪引いたから総士来ないからな。それと学校終わった後に見舞行ってくれ、あいつ家で一人だからさ』

 

それが授業中にずっと頭にあって全く集中出来なかったし、みんなの話もあまり聞いてなかった気がする。こんなにも、もやもやするくらいなら──、と私は思い切って学校をサボって総士くんの家に来た訳だ。

 

「ど、どうしよう……。総士くん、出てくれない……」

 

鍵なんて持ってないし、やっぱり無駄なのかな……。総士くんのお母さんは仕事で居ないし、お父さんも……。

 

と思っていた時だった。

 

「おや、君は……つぐみちゃんじゃないか?」

 

「え……? 駿二(しゅんじ)さん?」

 

扉の前で立ち尽くしていると後ろから声を掛けられた。その声は今、考えていた人の声で……。

 

「やっぱり、つぐみちゃんじゃないか。どうしたんだいこんな時間に」

 

「あ、あの……えっと──」

 

スーツ姿の男の人、白羽駿二さん。総士くんのお父さんで私の親とは昔から仲がいいらしく、よく珈琲店に足を運んでくれている。

 

私は急に言い寄られて戸惑ってしまう。

それもそうだ、学校をサボって看病しに来ました、だなんて平気で言えるものじゃなくて……。

 

「そ、そう! が、学校……が早く終わって、総士くん……熱って聞いたので、その──あのぉ……」

 

必死に苦し紛れの言い訳をする。取り敢えず思い付いた事を口に出しているが、これだと挙動不審の人みたいだ。

 

追い返される。

 

そう思っていた私は、駿二さんの反応を見てますます戸惑う事になった。

 

「ん? あぁ、そうか。あいつ熱だったな。へぇ──ほう……。これは……」

 

顎に指を当て、何かを一人で納得したように頷く駿二さん。そして持っていた鞄から鍵を取り出して、私に渡した。

 

当然、私は更に戸惑い始めてしまい。

 

「え? え?」

 

「俺は仕事の忘れ物を取りに来ただけなんだよね。まぁそれだけ。つぐみちゃんがあいつの看病してくれるなら、家に居ても大丈夫だろ。きっと母さんもそう言うだろうし」

 

それは家に入っていいという事だろうか?

 

私はゆっくりと鍵穴に鍵を指して回す。カチッと音が鳴り、駿二さんはすぐさま家に入った。

 

それからしばらくして駿二さんは戻ってくる。その手には紙袋を持っていて、それが忘れ物という事はすぐに分かった。

 

「えっ……あ、あの! わた、私──っ!」

 

「バカ息子の事頼んだよ。家にあるのは好きに使っていいから、じゃ後はよろしく」

 

「え、あ──」

 

そう言い残すと車に乗りこんですぐに行ってしまった。つまり、その場には私一人という事で……。

 

「(ま、任された? そ、それならちゃんとしないと?)」

 

実感の無いまま私は家に上がる。

 

靴を脱いで、取り敢えず総士くんが寝ているであろう、二階の部屋に行く。

その前にリビングを除くと作り置きされているお粥があった。きっと総士くんのお母さんが仕事前に作っていったのだろう。

 

「そ、総士くん? 入るね……?」

 

部屋の前に着いた私は恐る恐る扉を開ける。扉を開けた先には、総士くんがベットの上で寝ていた。

 

一目見た時に気付いたのは、額の汗が凄い事だ。それと息も荒い。

 

「汗拭かないと……っ、タオルは確か一階に……!」

 

慌てて一階に降りて、洗面台の近くにあったタオルを手に取る。そして風呂場にあった桶に水を注いでそれを二階へと持っていく。

 

再び総士くんの部屋に来た私は、水でタオルを濡らして総士くんの汗を拭き取る作業を開始した。

 

「は──ぁ、……っ」

 

「(凄い汗……ちゃんと拭かないとっ!)」

 

額だけでなく、服が張り付いているのが分かる事から相当なものだと分かる。額を拭いて、顔も軽く拭く。そして首も拭いて──。

 

「(ど、どうしよう。体も拭いた方がいいのかな……でもそれだと、服、捲らないとだし……)」

 

自分で顔が赤くなるのが分かる。

 

つまりそれは、総士くんの裸を見るという事で……いや、やましい事は何も考えてはないが……。

 

「(看病、看病だから! うん。大丈夫……だよね?)」

 

意味もなく周りをキョロキョロと見てから、総士くんの服を捲る。普段は見れない場所に私の視線は奪われて、つい声を漏らしてしまった。

 

「(鍛えてるのかな……筋肉凄い……。昔とは大違いで……、男の子って感じが更にして──)」

 

目に焼き付けるように所々拭いていく。

そうして上半身を拭き終わった私は一階に降りる事にした。

 

時間は十三時を過ぎていて、もう十四時になる前だ。それなのにお粥が置かれているという事は、まだ食べてないという事で。

 

「レンジ、レンジ……あった」

 

置かれていたお粥を温めている間に、私はリンゴが詰まっていた袋から一つ取り出して剥き始めた。食べやすいように切って、皿に並べる。

 

そうしてる間にお粥は温められていて、お盆にその二つを載せてから二階へと上がった。

 

部屋にある机にお盆を置いてから私は総士くんに声を掛ける。

 

「総士くん? ご飯だよ?」

 

「……う。つぐ……か?」

 

すると総士くんはゆっくりと体を起こした。

 

 

 

 

〜総士side〜

 

 

「(どうして、つぐが……。夢、か……?)」

 

ズキズキと頭痛がする中で俺はその声を聞いた。

聞き間違えるはずはない、俺が一番大切に思う人物の声。でも、だからこそ夢だと思ってしまい──。

 

「お口、開けれる?」

 

お粥……だろうか。それらしきものを混ぜているように見える。

 

「ふーっ、ふー……はい、お粥だよ?」

 

「(夢。夢だよな……。それなら、少しくらい、甘えても……)」

 

朦朧とする意識の中で口を開けると、そこにスプーンで掬われたお粥が入れられる。

 

朝は食べてないから不思議ととても美味しく感じてしまう。夢の中といっても、好きな人にこうしてもらえるというのもあるのだろうか?

 

それからつぐは俺にお粥を与える度に、息を吹きかけ少し冷ましてから食べやすいようにしてくれる。

 

「美味い……ありが、とな」

 

「えへへっ……。うん、どういたしまして」

 

いくらでも食べれるような気がした。つぐがしてくれるからだろうか。

だがそれは本当だったようで、俺はそこにあったお粥を全部食べてしまった。

 

その後はつぐが剥いてくれたのだろうリンゴを少し食べてから、薬を飲んで再びベットに横になった。

 

「ごほっ……ゲホッ、っ……」

 

額の汗に気付いたのか冷たいタオルで拭き取ってくれる。細かいところに気を使ってくれる、そんなつぐに俺は感謝していた。

 

「総士くん、何かしてほしい事ある?」

 

人を思いやる心。そして、その思いやりを実行するという事はそう簡単に出来ることではない。だけどつぐはそれが出来てしまう。

 

それを知っている俺は、勿論甘えたくなるわけで……。いや、こういう(風邪を引いた)状態だからいつもはしないお願いをしてしまう。

 

丁度腹も満たされて睡魔が襲ってきていたのだ。

 

たまには……甘えてもいいよな。これは、夢なんだから……。

 

「手──握って、くれるか……?」

 

弱々しく言う。するとつぐは否定する事なく俺の手を取って、握ってくれた。

 

「(つぐの手って、小さいんだな……。だけど、温かい。それに落ち着く、熱が、伝わって……)」

 

手を握られると急に安心して瞳が閉じていった。

最後に見えたのは握られた手と、優しく笑うつぐの顔だった。

 

 

 

 

〜奏side〜

 

 

学校が終わって総士の家に届け物をしに来たが、総士の母親である春香(はるか)さんが面白いものを見せるかのような仕草をして、家に上げてくれた。

 

流されるままに俺は朝と同じく二階の部屋へと行く。そして扉を開けると──まぁ、なかなか総士にとっては幸せそうな光景が広がっていた。

 

「つぐみ? どうして?」

 

そこにはベットで寝ている総士と、そのベットに体を預けて総士の手を握って寝ているつぐみの姿があった。

 

俺の呟きに春香さんが答えてくれる。

これは駿二さん情報らしいが、昼から総士の看病をしていたそうだ。

 

「それにしても、幸せそうに寝てるわねぇ〜。邪魔するのも悪いし降りましょうか」

 

「ですね」

 

俺は扉の近くにファイルを置いて一階に降りる事にした。

 

手を握りあって寝ている二人は、まるで常に隣合って生きているかのようにも思えた。

 




今回も読んでもらいありがとです!


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第十話 先手を

さぁ、こっちを待ってる人はいたのだろうか。待っててくれた方には感謝です。

では今年初のいついつです


~モカside~

 

 

「やっほー、つぐー」

 

「あ、モカちゃん。いらっしゃい」

 

店に入るといつものように笑顔のつぐが迎えてくれる。それはここに来ると毎回見る光景。そしてその光景にはもう一人……。

 

「いらっしゃ──ってモカか」

 

「お客様に向かってその態度はなんだー。接客態度がなってないぞー?」

 

そう総士も居る。

 

あたしは軽いやりとりをしながら空いている席に腰を下ろした。休日の早めだからか結構空いているようだ。そして椅子に座ったあとに注文を取るため総士が来てくれた。

 

「お前も暇してんだな、こんな早くに来るなんて」

 

「暇なんてしてないんだけどなー。たまたま時間があっただけでー、その中で用事が出来たんだよー」

 

机に腰をかけペンを回しながらいつものように話す。

 

向こうからしたら何気ない事なんだろうなぁ。あたしからしたら、とても幸せな事なのに……。

 

「それ暇って事だろ。勉強でもしてろ」

 

「宿題は終わってるからねー、暇なんだよね」

 

「暇って言ってるじゃねぇか。で、注文は」

 

おっと口が滑った。しまったなー、と思っていると注文を取られる。別に頼みたいのもあまりないし……うーん。

 

「じゃあ総士のチョイスに任せますー」

 

机でパタパタと手足を動かしながら何かをねだる子供のように言う。たまにはこういうのもいいだろう、総士に任せるのも。……何が出てくるかは予想ついてしまうが。

 

注文を受けた総士は店の奥へ行く。その最中でつぐとすれ違った時に私は見逃さなかった。

 

何気ない一瞬、一日に何回も起きるだろうそのすれ違う瞬間。総士はつぐに何かを短く言うだけ。ただそれだけの事なのにつぐはとても嬉しそうに頷く。

 

その笑顔にはどんな思いが気持ちが込められているのか、私には分かる。どこまでも純粋で素直なつぐの一途な思い……何十年も隣に居て、それでもすれ違い続ける思いを。

 

「(でも……)」

 

だからだろう。知っているからこそ、あたし自身の総士に対する思いは強くなる。幼馴染みで親友、その恋物語を邪魔する形になっているとしても、諦めたくない。

 

「──モカ? 大丈夫か? いつも以上にぼーっとしてるけど」

 

「おわぁ。驚いたなーもう」

 

考え事をしていたからか総士が近くにいた事に気付かなかった。お盆に案の定、ブラックコーヒーを載せ持ってきていた。

 

「驚いてるようには見えないけどな。で何だ、考え事か?」

 

「考え事……というより昔を思い出していてねー」

 

変に気を遣われないように別に考えてもなかった事を話す。話題は適当に昔のつぐの夢にする事にした。

 

「ほら、昔につぐ言ってたじゃんー? 将来の夢は──」

 

「わぁぁぁあああ!?!? も、ももモカちゃん! 変な事言わないでよ!」

 

まだ何も言ってないのにつぐが別の席から慌てて口を塞ぎに来る。テーブル拭きをしていて反対側を見ていたはずなのに凄い反応だ、とつい感心する。

でもつぐが慌てるのは仕方ない。普通に今言うと恥ずかしいのだ。無邪気な時だったから何も感じず言えたが、今だと言うのは相当の勇気がいるだろう。

 

「……あぁ、俺と喫茶店をする。ってやつだろ? それっぽい事は今やってるから現に叶ってるじゃねぇか、別に隠す必要なんて無いだろ」

 

「ふえ? あ……う、うん! そうだね、そう……。あはは、私ったら何やってんだろう」

 

「(あれー? ひょっとして総士……勘違いしてる?)」

 

つぐの昔の夢、ひょっとすると今もかもしれないが、それは“総士と素敵な喫茶店を作る”だ。総士はそれをどうやら違う意味で覚えているらしい。本来の意味は大人になってから二人で総士と一緒に喫茶店をやる、なんだけど……。

 

「(ま、そういう面白いところもあたしは好きなんだけどねー)」

 

クスッと可笑しくて笑ってしまう。

 

でも昔の夢か……。あたしも相当恥ずかしい事を望んでいたなぁ、と思い出す。確か──。

 

「(総士と結婚したい(ずっと一緒にいたい)。なんて、つぐと変わんなくて喧嘩したなー。懐かしい……)」

 

どういう事か、一口飲んだコーヒーは苦さをあまり感じなかった。

 

 

 

 

 

~総士side~

 

 

病み上がりというのもあり客が少ないのは助かる。いや、店的には悪いのだろうが。

 

「(それにしても昔の夢、ね)」

 

さっきのモカの言葉を頭の中で思い出す。

それに関してはつぐよりもお前本人の言葉が印象に残ってるんだがな、といっても本人は覚えてないか。あの頃は素直だったなー、うんうんと懐かしさに浸る。

 

今は俺一人なんてどうでもいいだろうな。じゃないとあんな気安く接さないだろ。でも逆に、それが心地よかったりもするんだが……。当然、本人には恥ずかしくて黙ってる。

 

「あら今度はモカちゃんに手を出すの?」

 

「……別にそういうんじゃないですって」

 

いきなり別の席に座っていた鈴波さんが話しかけてくる。この人は……暇してるのかぁ、と失礼な事をつい考えてしまった。

 

「というか、人聞きの悪いこと言わないでください。っ、俺はつぐ一筋です。モカは仲のいい幼馴染なだけで……」

 

「そこから始まる恋もある!」

 

「ありませ──……あぁーー、ありますけど。はぁ……」

 

全くこの人は……。調子狂うというか、人で遊んでんのか。しかもそれは否定出来ないところを付いてくるから尚更タチが悪い。

 

「ん~! 総士くんは可愛いねぇ。イケメンなのに可愛いわ」

 

何をどうしたらこういう性格になるのだろうか。関係ないと思うが小説書く人はこんな人が多いのか、勝手な偏見だけど。

 

「で、またからかう為に来たんですか?」

 

「それこそ人聞きの悪い。アイデア補充よ。……ってあら? もうモカちゃん帰るのね」

 

その言葉でカウンターの方を見ると本当にモカが会計をしていた。いや、何しに来たんだよ。と思い見てると名前を呼ばれた。

 

「あ、そうだ総士ー」

 

「あら、お呼びよ」

 

会計を済ませたモカがとてとてと近くに寄ってくる。何をされるのか、ちょっと身構えたが変な事をするような雰囲気でなくて、構えを解く。

 

「明日バイト休みなんでしょー?」

 

「……何でお前が人のシフト知ってんだよ」

 

まぁまぁー、と流されて紙切れを差し出される。それを手に取り紙に書いてある文字を読む。

 

「遊園地の……ペアチケット? 何だこれ、つぐに渡せばいいのか?」

 

二枚だからつぐと行くのだろうか? ……ないと思うが、俺とつぐで? いや、天地がひっくり返ってもモカがそんな事するはずないか。

 

取り敢えずどういう事なのか説明を聞く。

 

「いやいや、総士が持っててよー。そうしないと意味無いじゃん」

 

「は? 何で俺が持たないといけないんだよ。つぐと行くんだろ?」

 

「一緒に行くのは総士とだよー? 何のために休み聞いたと思ってんのー」

 

…………は?

 

一瞬、いや数秒間言われた意味が理解出来なかった。というか今も理解出来てない。

こいつなんて言った? 俺と行くだって? 遊園地に? 一体何のために……。

 

独りでに混乱する俺をよそにモカは口を動かす。

 

「明日駅で待ち合わせねー。時間は10時、寝坊しないでねー? 久々のモカちゃんとのお出かけなんだからー。いやー、ギリギリで用事思い出してよかったよー」

 

それじゃあねー、とマイペースのまま告げて去っていく。

鈴波さんは少々今の出来事に驚いて、何を思ったのか口笛を鳴らした。その一方、俺はというと。

 

「? 総士くん? どうしたの、立ち尽くして」

 

「……明日、雪だな」

 

「? 変な総士くん」

 

相当混乱していたのだった。

 




感想などは気軽に、それでは読んでもらいありがとうございました。


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