インフィニット・ストラトス 〜マネージャーですが何か?〜 (通りすがる傭兵)
しおりを挟む

キャラ紹介その1

自分の脳内整理も兼ねてキャラ紹介。
原作組に関してはだいたい原作通りなので、適当です。





べ、別に次の話がかけてないわけじゃないんだからねっ///


 

石狩成政

 

本作の主人公。

癖っ毛の茶味がかった黒髪に、青い目をしている。

顔立ちは女装しても問題ないくらいには整っていて、本人も時々ノリノリで女装するのでタチが悪い。

 

性格は楽しい方向に行きたがる賑やかし、そして熱血漢。しかし根性論はあまり好きではない。

普段はマネージャーと言う立場なので自制してストッパーをかけているのでクールぶっている。

 

趣味は特にない、と本人は思っているのだがジャンプが好き。

どうしても納豆が食えないらしい。

 

両親が世界中を放浪しているせいで見識は広く、同学年でも頭一つ抜けて大人びている。

兄は某インディなジョーンズのような考古学者、中学時代にはちょいちょい付いていって酷い目に遭っている。

 

小5の時、交通事故のせいで足に障害ができ、スポーツ全般ができなくなったため、マネージャーをやるようになった。

主に剣道部などの武道系のものが多いが、メジャーなスポーツはイロハくらいは学んんでいる。

本人曰く「人の努力する姿はかっこいいから」との事。

選手への道は閉ざされているため、日頃トレーニングなどは行っていない、せいぜいランニング程。

中学時代の箒の先輩に当たり、絶賛片思い中だが、叶わないと半ば諦めている。

 

忘れがちだが高2、になるはずだった。

勉強をさぼってマネージャー業に専念しようとしていたが、レベルの高さと専門教科にひーこらいっている有様で他の生徒とそう代わりない。

出身が冬木。最近実家から綺麗に装丁された古文書らしき洋本が届いたらしい。

 

親しい人は名前呼び、そうでもないと苗字呼びになる。

 

使用機体は打鉄(ほとんど成政の専用機扱い)

 

篠ノ之 箒

 

本作メインヒロイン(のつもり)

原作組の容姿に関しては省略。

原作よりは大分丸くなっている。もはや別人では?って時々思っていたり。

その理由は番外編か何かで語るつもりですが、だいたい成政のせい、とだけ。

原作通り一夏に恋心を抱いている、のだが、最近成政のことが気になってモヤモヤしているとかしてないとか。

 

剣道部所属で、1年生ながらも地区大会でベスト8と奮闘、次は全国と今日も鍛錬を重ねる。

 

使用機体はラファールであったり打鉄であったり、本人曰く刀が振れればそれでいいとの事。

 

成政をさん付けで呼んでいるが本人は先輩と呼びたい。

 

 

織斑一夏

 

原作主人公。

とにかく真っ直ぐしか考えていない直情型の馬鹿。良くも悪くも主人公なので自分の主張を押し付けたがるのが玉に瑕。

が、皆を引っ張るカリスマ性はあり、リーダーとして物事を引っ張っていくのが得意。

物事を解決する時は結構力技が多く、理論的な成政と反発することもしばしば。

いわゆる天才なのだが、最近剣の腕が伸び悩んでいる。

唐変木は相変わらず。

 

 

セシリア オルコット

 

殆ど原作通り。成政とはどうにも反りが合わないとか。

 

 

 

鈴ちゃん。

 

最近影が薄い子。作者が本名をうっかり忘れたせいでちゃん付け。だいたい原作通り。

 

 

 

シャルル デュノア(20話時点

 

みんな大好きシャルちゃん、本作ではまだ男。

器用貧乏で、あらゆることをそつなくこなす。この濃いメンバーの中でのツッコミ担当が半ば決まりつつある。

 

 

 

ラウラ ボーデヴィッヒ

 

寄らば斬ると言わんばかりの雰囲気を醸す軍人。千冬を師と崇めており、決勝棄権の原因となった一夏のことを毛嫌いしている。

成政の事は男で弱気と見下しているが、成政の便利さはわかっているため、私情と分けて接している。

最近成政が近いのでイライラしている。

(軍人の訓練気になるからね。しょうがないね)

 

 

 

 

神上 マヒロ

 

他所から借りてきた妖怪ロマン男、の女子ver

ぱっと見男子レベルの体格であったり、ベリーショートの髪型であったりと女らしくないのが特徴。

蔵王工業テストパイロットであり、学年1の問題児のあだ名を貰う。

ロマンに生きる馬鹿であり、良くも悪くも正直。時々未来でも読んでいるかのように一夏達にちょっかいを出しに行っているとか。

 

使用機体は強羅

わかりやすく言うとマジンガーとか一昔前のアニメに出てくるようなロボットのいでたちをした第2世代。最近第3世代機に乗り換えるとの噂も。

最近アニメ研究会を立ち上げようと四苦八苦しているらしい。

 

 

更識 簪

 

 

物静かな文学少女、と思うが、かなりの負けず嫌いで、実はオタク。時々同室の神上とアニメ上映会を行なっていたりする。

ワカメみたいな髪型の男子と画面越しに怒鳴りあっている姿が目撃されるようになってきたとか。

専用機を自作中。ソフト面の問題さえ解決すれば、殆ど完成と本人は語る。

 

 

 

 

???

 

IS学園生徒会長。

出番はまだない。

 

 

蔵王工業

 

変態。

 

 

作者

 

バカ。

 

 

 

 

 

 




あ、題名変えました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ。

書き直しver

結構変わってると思います。


 

 

アメリカ、のどこか片田舎。

 

古き良き、といえば聞こえは良いが実際はボロボロなだけのバーでグラスを傾ける女性2人組。

 

時折白髪も目立つマスターにお代わりを頼みつつ、雑談を交えながらグラスを傾ける。

 

「エクスキュースミー、イズユアネーム、オータム?」

「ああん?」

 

机のすぐ下で、日本語丸出しの下手くそな英語で女性2人組に声がかけられた。

近くにいた方、茶髪のロングヘアーの着崩した服装の女性が応対すれば、横にちょこんと佇んでいたのは、まだ10歳程度の少年。

 

「ああ、日本語わかりますが、では話が早いです」

「なんだクソガキ、あたしに何か用か?」

「はい、

 

 

 

 

 

 

クソむかついているのでぶん殴らせてください」

 

そう言い放った少年は目線を合わせてしゃがみこんだ女性の顔面に全力で右ストレートを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、数年が経過する。

 

「997、998、999、1000!休憩です」

素振り千本を終わらせ、竹刀を振るっていた生徒たちは思い思いに散っていく。

面を取って汗を拭いたり、水分補給をしたり、友人と話したりする中、武道場の隅でメモを取っている青年、

 

「次は、かかり稽古か、んー」

 

とんとんと手に持つバインダーをペン先で小突きながら思案に耽っていた。

バインダーに挟み込まれている紙には人影らしき落書きや、大量の雑多な書き込みがされている。

男女入り混じって練習する剣道場で、怪我をしているわけでもないのに1人制服姿で過ごす青年の姿はどこか異質だったが、さもそこにいるのが当然とでもいうように居座っていた。

「おーい、成政」

「どうした士郎、何かあったか?」

「いや、ちょっと相談が」

「はいはい今いくよ」

 

ボリボリと湿気でもっさりした頭を書いていた成政と呼ばれた青年は、奥で名を呼ぶ士郎と呼んだ赤毛の同年代の青年に呼ばれてかけていく。

 

「なんか素振りの時に違和感があってな、解るか?」

「んー、構えてみ?二刀流は多少齧った程度だが......」

 

短い竹刀を2本構える士郎の腕周りをベタベタと触っていく成政、しばらく悩んだあと、

 

「お前肘に疲れ溜まってんな。サポーター付けた方がいい、壊すかもしれん。ほい、これ」

「ありがとう、助かる、っていつも持ち歩いてんのかこれ」

「マネージャーですから」

 

むふー、と胸を張る成政。

 

「おい成政!僕のも見て欲しいんですけど」

「今いくから待ってろ慎二ー」

 

穂群原高校1年、石狩成政。

世にも珍しい、剣道部所属のマネージャーである。

 

 

 

 

 

 

「で、なんでお前ら俺の家に来るんだよ」

「「「だって飯(ごはん)美味しいもん」」」

「士郎、お代わりを」

「あーはいはい、ちょっと待ってろ」

 

練習を終わらせて家に帰る、と思いきや士郎の家に押しかけて飯をたかる成政ほか数名。

ため息をつきながらもしっかり食器を用意するあたり、どうにも士郎はお人好しなのだ。

 

「リン、その唐揚げは渡せません」

「私だって譲れないもの、渡さないわ」

「あの、でしたら私が......」

「「これは私の唐揚げくんよ(です)!」」

「はうう......」

 

「慎二、テレビつけてー」

「全く、ほれ」

 

女性陣がが最後一つの唐揚げを取り合っている中、お茶を啜りつつチャンネルを回す成政。

 

「どの番組もおんなじ事しかやってないなぁ......」

「そりゃそうだろ。世界で唯一の男性IS操縦者だぜ?世界の常識が狂う事になるんだ、当然だろ?」

「おいお前ら!ちょっとセイバー達を抑えるのを手伝ってくれよ!」

 

結局唐揚げの取り合いが大げんかに発展した女性陣が庭に出て殴り合いで決着をつける事になったから止めて欲しいと助けを求める士郎だが、

 

「三股野郎は黙ってろ」

「妹の恋心踏みにじる奴は地獄に落ちろ」

「なんでさ!」

 

リア充滅ぶべし、そしてシスコンに慈悲はなかったのである。

結局身体を張って止めに入って揉みくちゃにされる士郎を眺めながらテレビのチャンネルを回す2人。

 

「なあ、これからどうなると思う?」

「僕がそんな事知るわけないでしょうが。まあ世界中の男子総当たりでISの適正くらいは調べるだろうけど」

「僕らには関係ない話か。それより大会が心配になるな、あと3ヶ月もないんだし」

「それもそうか」

「束ねるは星の息吹......」

「「「それはまずい!」」」

 

唐揚げのために本気を出した居候を止めるべく、成政と慎二はテレビの電源を落とし、中庭に飛び込もうとして、

 

「ただいまー!シローごはーん!ん、唐揚げおいしそう、もーらい」

「「「「「あっ」」」」」

「えっ、私今何かした」

「「「いやグッドタイミング、タイガー」」」

「だから私はタイガーじゃなーい!」

 

突然入ってきた剣道部顧問、そして成政達1-2担任の藤村大河によって、唐揚げ戦争は終わりを告げたのだった。

 

「から......あげ......」

「おいセイバーが黒くなってるぞ誰か止めろォ!」

 

 

 

「「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

皆で手を合わせ、しっかりと挨拶をする。

1人になるとさぼりがちになってしまうが、食事の大切さを忘れて欲しくない、と士郎は皆に毎回やらせている。

皆も美味しいご飯のお礼だから、と好意的に受け止めているし、慎二に至っては何故か菓子にまで手を合わせる様になっていた。

 

「じゃ、僕は帰るから」

 

荷物は家においてからきているので、手ぶらで家路につく。

慎二や桜、大河とは家が逆方向なのでいつも1人だ。

三月とはいえまだ少し寒い、制服の襟を立てながら、ゆっくりと歩く。

「こういう時、不便だよねぇ」

 

成政は自分の足を見ながらため息をついた。

成政が小学生の頃、交通事故にあった。全治2ヶ月とそれなりに重かったが、特に命に別状もなかった。

それの代償、とでも言うべきか、成政は走ることができなくなった。

足首に深刻な障害が生まれ、走ることはもちろん、足で踏ん張ることも制限されてしまい、スポーツなどはまともに出来ない。

本人はそれほど重く受け止めることはなく、出来ないなら仕方ないが、好きな剣道には触れてたかった、のでマネージャーに転職した。

これが、世にも稀な剣道部マネージャーの誕生の経緯である。

 

成政の足は日常生活に特に支障は無いが、最近立ちっぱなしが多いので足の負担をかけない様杖を買えと病院の先生から言われていた。

それを思い出したはいいものの、もう9時、あらかたの店は閉まっている。

 

「ま、明日でいっか」

 

こんな楽観的な思考回路だからこそ、成政はすぐに前を向き、人並みには悩むことはない。

「さて、朝ごはんは何かなー」

 

そして、明日も衛宮家に飯をたかりに行く気満々なのだ。

そして次の日、

 

「んあ、メール。学校から?こんな春休み中に一体......あっ」

 

成政は朝起きて携帯を覗き込むと、学校から男子はさっさと来いとの旨が届いた。

思い当たるのは、と考え事をしていたが昨日のニュースを思い出し、

 

「はあ、めんどくせえ」

 

ため息をつきながらのろのろと着替え始める。さぼってもいいのだが、そうなると担任である大河からの呼び出しを貰うことになる。うるさいのはごめんなのだ。

 

「じゃ、いってきます」

 

誰もいない玄関にそう声をかけてから、成政は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

出席順に並び、順番を待つ。

成政は名字が石狩なのでそれなりに早い。

1組が終わり、一つ前の男子ががっくりと肩を落としたのを見送ってから、係員らしき女性に支持されるままに先へ進む。

 

「おお、すごいなこりゃあ」

 

カーテンをめくった先には、灰色の鎧武者が鎮座していた。

成政は特にロボットに詳しかったり、アニメを見るタイプではない、が男の子であればメカを見ると得てして興奮するものなのだ。

「じゃ、ちゃっちゃと終わらせちゃって。私だって朝からの呼び出しで眠いのよ......」

「あはは、後ろにもそう言っときますね」

 

鎧武者の隣で書類を持ち、気だるそうにしている係員の女性に愛想笑いをしながら、鎧武者、日本製のIS『打鉄』に触れる。

成政はぺたり、と手の平全体を押し付け、金属の冷たい感触を味わう。

 

 

特に何も起こらない。

 

「はい、次ね」

「期待してたんですけどねー」

 

あはは、と笑いながら手の平を打鉄から剥がそうとした所で、

 

『......待って』

 

そこから、成政の意識がふっつりと途絶える。

 

成政が次に目を覚ましたのは、

 

「うん?」

 

知らない病院だった。

 

 

 

 

 

 

 

「......というわけなのよ。つまり、えーと」

「石狩成政です」

「成政、あんたは貧乏くじ引いたわけ。よかったわね、女子校の中で男子2人よ」

「全然嬉しくないです......!て女子校?」

「そ、IS学園に転校よ。1年生として」

「さいですか......」

 

そこ後来た係員の女性に大雑把に説明を受けている成政。

 

曰く、自分はISを動かした。

曰く、政府に保護されなければいけない。

曰く、と言うわけだから転校する。

 

「......まあそうなりますよねー」

「えらく淡白ね。こう、暴れたり暴言のひとつやふたつ覚悟してたんだけど」

「それをぶつけるとすればIS作った人に投げつけます」

「あっそう。変わってるのね」

「あんまり言われないですね......残念ながら」

「ふん、で、家族と連絡とってもらえるかしら?要人保護プログラムで家族とは離れ離れになっちゃうから、最後に声の一つくらいは聞かせてやりなさいな」

 

気を利かせてなのか、係員は成政にそう告げた、のだが、

 

「いやー、それはやまやまなんですけど、

兄貴は世界中で遺跡探してるんで何処にいるかなんてさっぱりですし、両親は3年前にちょっと世界征服して来るって言ったっきり帰って来ませんよ。お金は振り込んでくれるので多分生きてますけど」

「ず、随分個性的な家族ね......」

「それはよく言われます」

 

これには、女性も苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

で、

 

「と言うわけで僕東京行って来るから」

「「軽い!」」

「おかわりください、シロウ」

「あーはいはい」

「「そして士郎はいつも通りすぎ!」」

「先輩、口元にご飯が」

「すまん、ありがとう桜」

「いえいえ」

「そして僕の妹は可愛い!」

「私の妹でもあるんですけど」

 

色々とごたついたせいでもう昼になったので、いつも通りの面子は衛宮家に押しかけて飯を食べていた。

 

 

「んでさー、僕転校するんだってさ」

「急な話だな、で、何処行くんだ?」

「IS学園、どんなのかはよく分からん」

「成政はスポーツ系の部活さえあれば大丈夫なんだろ?」

「もちろん、マネージャーですから。ああそうそういなくなるから色々と渡すもんがあったんだった」

 

成政は家から持って来ていた通学用にカバンからノートを取り出した。

その数、約50。

 

「これ練習メニューね。あとこれはアドバイスブック、でこれが新入生の注意108カ条に、マネージャーのハウツーをまとめたノート。これ渡しとくな。あとこれとこれが......」

「お、おう......」

 

成政の説明を受けながら、カバンにぎっしりと詰められていたノートを渡されて思わずよろける士郎。

その中から慎二が適当に拾い上げて開くと、

 

「......」

 

慎二は無言でノートを閉じた。そしてため息をつく。

 

(文字が細かすぎて読めないんですけど!)

 

ある意味、成政の愛の現れなのかもしれない。

 

しばらく世間話をしたり、6月の大会の話などをしたりしていると、

 

「ごっそうさん。じゃあもう僕行かなきゃだから」

成政は慌ただしくご飯をかきこむと茶碗を片付けて席を立つ。

 

「おい、もう行くのか?」

「無理して待ってもらってるし、待たせるのはダメでしょ?」

「突然すぎるだろ、もっと伸ばせないのか?クラスのみんなにも話通してもいないし」

「死ぬわけじゃないから」

「そうだぞ衛宮、たかが東京だ、すぐに行ける」

「そうね、夏休みにでも会いに行くわ」

「遠坂がそう言うと心配なんだが。お前電車乗れる?」

「あったりまえじゃない!って何よその微妙な顔は」

「いや、うん。そのー」

 

同席していた赤い外套を着込んでいる少女こと遠坂は、成績優秀、頭脳明晰、しかも美少女と完璧に見えるのだが......

 

「お前機械使える?」

「当たり前でしょ?慎二にできるなら私にももできて当然じゃない」

「嘘だっ!」

 

機械音痴、それも重度の奴なのである。

電話すら扱う手つきが覚束ない遠坂が電車に乗れるはずがない。

 

「いや、うん、それは......無理だ」

「は、お前何言ってんの」

「姉さんは、ちょっと......」

「おかわり」

「話してる時ぐらいは自重しようなセイバー」

 

良くも悪くもいつも通りすぎて、まだ当たり前の日常が続くような気がする。

 

「じゃ、またな」

 

別れ言葉は、簡潔に。

別れに涙を見せるのはかっこ悪いから、と皆に背中を向けて、成政は去っていった。

 

 

 

 

 

 

「すまん、携帯忘れた」

「お前いつも何処か抜けてるよな」

「ほんとそれ。サンキュー慎二、じゃ、気を取り直して。see you!」





「女子校かー、どうしたら上手く溶け込めるものか......」











「よし、女装しよ」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話

どうも、初投稿のスピノキングと申します。
もともとは読専だったのですが、とあるネタまみれのssを読んでからは創作意欲が止まらず、むしゃくしゃして書きました。
そのとあるssの作者に許可も一応もらったので、主人公をサブキャラとして出そうと思っています。そういう人が嫌いな人は、ごめんなさい。


なんだか箒アンチが多い気がしてるのでヒロインにしてみました。
剣道少女かわいいですし…いじめてやらないでください。
それでは、どうぞ。


2017/7/12 ちょっと改稿しました。これから夏休みなのでしばらくこちらの作業も行っていきます。


「ふんふんふーん、ふふーふーん」

 

 新学期も始まり、騒がしい教室の中。

 特に誰とも話すこともなく、机に向かい本を読んでいる、黒髪長髪に眼鏡といかにも文学少女といったいでたちの地味な女性。顔は黒い長髪に隠れて見えないが、不自然に少し大柄で、ガッチリとした体。集中しているのか、副担任の仕切りの元自己紹介が始まってものんきに読書を続けていた。そして、

 

「織斑一夏です。えっと……以上です!」

 

 名前だけというあんまりな自己紹介にズダダン、とクラス中がずっこけようとも、我関せずとその姿勢を貫いていた。

 それはこのクラスの担任が出てこようが、前でドタバタが繰り広げられようが、教室の窓際最後尾というサボりには最適な席にいる彼女は、自分の世界に入り込み何も気にしない。

 しかし、

 

「そしてそこのもう一人の男子」

「あだあっ?!」

 

 突然飛来した板状の何かが頭に直撃し、女子とも思えないような声で椅子ごとひっくり返った事で中断された。

 

「今すぐに女装を解いて自己紹介をするか、グラウンドを50周するか選べ」

「自己紹介をさせていただきます、はい!」

 

 若干食い気味に担任の脅迫もとい注意に答える。

 そして、被っていたウィッグをとる。

 そこに現れたのは茶色の短髪で、

 

「えー、申し遅れましたが、二人目の男子操縦者、」

 

 男らしい低い声に、中性的な顔立ち、青い眼をした、

「石狩 成政、16歳です。よろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げて挨拶をしたそいつは、

「という訳だ、話題の2人目の男子だ。仲良くしてやれ」

 

 どこからどう見ても男だった。

 

(どうしてしてこうなったのだ…)

 

 自業自得なのだが、入学早々大恥をかくことになった成政は、SHR終了からずっと頭を抱えていた。

 少し顔を上げると、視界に映るのは、女、女、女……と女だらけ。

 女子校に紛れ込んでいるのではないだろうか、と思うほど清々しいくらい女だらけのここは、『IS学園』。次世代のIS操縦者を育てることを目的とした学校だ。

 ISというのは正式名称「インフィニティッド ストラトス」で、突如現れ、他の兵器を駆逐した超高性能ロボットである。ただし、女性しか乗れないという欠陥兵器にもかかわらず、その高性能により世界中に広まった。

 そのせいで世の男は肩身の狭い思いをしているのだが、ところが先日女子しか動かせないはずのそれを動かした男子がいた。

 成政自身は詳しくは知らないのだが、うっかり動かした男が先ほど織斑一夏とかいう自己紹介でバカをやらかしていた男なのだが、彼のせいで全国の男性にIS適性検査が行われ、成政までもISを動かせるという事実が発覚、平穏な生活はどこへやら、とここにしょっぴかれる羽目になった。

 それにもう一つ、

 

「どうしてもう一回高校1年生をやり直す羽目になったんだっ」

 

 この男、つい一ヶ月前まで高校一年生、今は高校2年の筈、だったのだが。

 ISの技術がどうの、男子は纏めるべきなど理由をつけられ、もう一度1年生をやり直す事になっていた。

 それよりももっと問題なのが、現在進行形で女装しているがために味わう事になった知りたくなかった女子の悩み諸々だ。

 形だけでも女子なら恥ずかしくない、とウィッグをまた被っているおかげで、他クラスの野次馬の目はもう一人の男子、一夏の方に向いているが、女装の事実が広まるのも時間の問題だろう。それと、

 

「スカートってこんなに寒いのか……ヘックシュン!」

 

 春だからといっていたかをくくっていたが、スカートが膝丈とはいえとにかく寒い。

 男子のズボンがいかに暖かいか、そして女子がファッションのために色々投げ捨てている事とかを実感していた時、

「久しぶりですね、先輩」

「どちら様、ってモッピーちゃん?」

「私の名前は箒だ!その呼び方はやめろ」

 

 成政に声をかけてきたのは、つり目にポニーテール、そして出るところはでた少女。

 名を、篠ノ之 箒という。

 

「モッピーちゃんがどうしてここに?」

「私の姉の所為だ」

「…ごめんよくわかんない」

 彼女のフルネームは篠ノ之 箒。珍しい苗字ではあるが、彼女は有名人ではない。彼女の姉、ISの基礎理論を作った篠ノ之 束が問題なのだ。

 その姉は現在行方を眩まし、日本政府が彼女の家族が人質とならないように、と家族バラバラになっていた。

 高校を機に、安全なここに入ってきた、と箒はそう告げた。

 

「ところで、中体連はどうだった?」

「団体はベスト8止まりだったが、個人では」

「個人では?」

「驚くなよ……優勝だ!」

「おめでとうモッピー!」

「ちょっ、抱きつくな!」

 

 嬉しさのあまり抱きついてしまう成政だが、剣道を嗜む箒に呆気なく剥がされてしまう。インドア派の成政の力はそう強くないのだ。

 

「もうちょい嬉しさを分かち合わせてくれてもよかったのに」

「時と場所をわきまえろ!」

「そうだった、失礼」

「それに、だ。先輩は男子という自覚があるのか?今日の服装といい、振る舞いといい、まるで女だ」

「いや、女子高みたいだし、形から入ろうかなって」

 

 成政の筋が通っていてどこかおかしい言葉に、思わず顔をしかめた。

 

「確認だが、今日で何徹目なのだ?」

「んー、今日で三徹目かな?」

「…ああ、成る程」

 

 成政の一言で大体察した箒は、無理矢理にでも話題を変える事にした。

 

「そ、そういえば、成政さんはどうしてこの教室に?ここは高校一年生の…」

「むしろこっちが聞きたいよ…」

 

 俯いて沈んだ声でそう漏らす成政。また地雷を踏んでしまった事に気付いて慌てて箒は空気を変えようと明るい声で話しかけた。

 

「先輩、部活はどうするのだ?」

「成政でいいよ、同級生な訳だし…ははっ」

「そんなことできるわけがないだろう!」

 

 思わず机を叩く箒、驚く周囲と成政を気にすることもなく、言葉を続ける。

 

「成政さんは、私をずっと支えてきてくれたのだ、そんな人を、蔑ろにできるわけがないだろう!これからも成政さんは、私のパートナーなのだからな!」

「も、モッピーちゃん…」

「これが、私の思いだ」

「それなんて告白?」

「えっ?」

 

 成政の言葉をきっかけに、周りでぽつぽつと拍手の音が、そしてその音は、クラス中を、そして外の野次馬にも広まっていく。

 

「おめでとう箒ちゃん、これからも頑張ってね」

「女子高のここでこれが見られるなんて…ぐすっ」

「良かったな、箒」

「いいですね、これぞ青春です…私、泣きそうで…ぐしゅっ…」

「あ、ああああ」

 

 周囲では二人の新たな門出を祝うようなムードに、中には色々な意味で涙ぐんでいる人も。その中には、副担任の山田真耶先生も混ざっていた。

 一拍おいて盛大な勘違いに気がついた箒は、顔を真っ赤にして、

「ち、違うのだ!これには深いわけが!成政さんも説明してやって…」

 

 わたわたと手を振り、誤解を解く助けをと後ろを振り向けば、そこにあるのはからの椅子のみ。

 そして机の上におかれたメモ用紙の隅に一言、

 

『後よろしく』

「んがあああああああああああ!」

 

 乙女が出すようには思えない怒りの叫びを教室の用具入れの中で隠れて聞いていた成政であった。

 

 先程残りの休み時間と少しの授業時間、そして箒の脳細胞の一部を生贄として、なんとか誤解は解けた。その間、問題の片割れはずっとロッカーに引きこもっていたのだが。

 その中でついでのように着替えていたので、今はちゃんとズボンを履いている。

 

「あんなに綺麗に爆弾を落とすとは思ってなかったなあ……」

 

 山田先生の授業を聴きながら、先ほどの箒の醜態のことを考えていた成政。

 成政の前の席にいる問題の彼女はというと、それを忘れる為なのか、真面目にノートを取っている。

 

「まあ、いっか」

 

 他ごとを考えるのも失礼だろうし、と授業に戻る事にした。

 

「えっと、ここの注釈は大切なのでよく読んでおいてくださいね」

 

 副担任の山田先生は、童顔で身長も低く、ぱっと見中学生にしか見えない。が、ある部分を見ればちゃんと大人とわかる。

 肝心の授業は、丁寧で分かりやすく、板書の字も綺麗で、とりやすい。先程から質問にも丁寧に答え、優しい人だな、と成政は思っていた。

 

『ここはこうがっとして、ぐわーってやればできます』

『ぜんぜんわかりません先生!日本語でお願いします!』

『だーれーがタイガーじゃ!』

『そんなこと言っていません』

 

 

「ここまでで解らないところはありますか?」

「はい!」

「織斑くん、どこが解らないですか?」

「ほとんどぜんぶ分かりません!」

 

 一夏がそう言った瞬間、教室が凍りついた。

 

「えっ、他に解らない人はいますか?」

 

 山田先生がそう言うが、成政としてはしっかりとはいかないが、一通りは目を通して、要点に書き込みくらいはしている。

 だが、見ず知らずとはいえもう一人の男子を見捨てるのも、と思ったので、助け舟を出すことにした。

 

「山田先生。さっきのページの、上から3行目辺りに書いてあることが分かりません」

「は、はい!そこはですね…」

 

 それとなくはフォローして、気まずい空気を回避する。その後千冬担任が挙動不審な一夏に質問をすれば、

 

「織斑、参考書はどうした?」

「電話帳と間違えて捨てました!」

「阿保か」

 

 と寸劇と一緒に振り下ろされた出席簿を見て大爆笑していた成政に出席簿その2が飛んできた事件もありつつ、2時間目もつつがなく終わった。

 その休み時間、

 

「ほうほう、やっぱりアレがモッピーちゃんの初恋相手、とな…」

 

 連れ立って教室を出て行った箒と一夏をニヤニヤしながら見送る成政。

 前に部活の合宿で恋バナとかで盛り上がっていた時にうっかり箒が漏らした、

 

「私には初恋の幼馴染がいてな」

 

 という台詞と、先ほどの会話から聞こえた、久しぶりだとかいうキーワード。

 そして人付き合いがあまりよろしくない箒の交友関係では男子で気軽に話せる奴はいない、という消去法で成政は、一夏がそれだと推理していた。

 人の恋路を応援しようとか、ちょっかいを出そうとかとは思っていないが、成政にとって箒は元とはいえ大切なチームメイト、そして何より大切な後輩だ。もしあれがろくでなしのクソ野郎であった場合、彼は殴りに行くつもりだったのだが、見る限りそういう奴でもないらしい。

 

(まあ、裏方らしく頑張りましょうかね)

 

 もしデートとか出かけるのであれば、男子目線からでもアドバイスしてやろうか、と余計なことを考えていた時、

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 金髪に縦ロールという特徴的な髪形の女子が、成政にそう声をかけた。

 




改稿していて思いましたが、二か月程度では文章力はさっぱり上がりませんて。
とりあえず完結目指してがんばります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話

「ちょっとよろしくて?」

「はいはい何でしょう?」

成政に話しかけてきたのは、縦巻きの金髪ロールが特徴的な女子。

「まぁ!何ですのその返事は!男の分際でわたくしに話し掛けられるだけでも光栄なのですよ!」

「えーっと、気に障ったんなら謝るよ、えっと、どちら様で?」

「わたくしを知らない?この『セシリア・オルコット』を?イギリス代表候補生にして、入試首席のこのわたくしを!?」

めんどくさい、と成政は一瞬思ったものの、ことを荒立てるのは良くないから、と

「イギリス?それは遠くから、お疲れ様です」

へりくだった態度を取った。

成政はこんな態度の女性は大会や練習試合でよく見たし、怒ってチームに迷惑はかけられないので、自然とこのような態度が身についていた。

「まあ、このような極東の島国に、わたくしが足を運ぶ価値が有るのかは怪しいですが、国のためですもの」

「まあ、日本にも良いものあるから。それで、何の用でしたっけ?」

「こほん。どうせ今までISの事など知らなかったのでしょう?であれば、このエリートのわたくしが教えてさしあげてもよろしくってよ?」

「ほんとに、助かるよ。と言いたいところだけど、お断りするよ」

「何ですって、わたくしがせっかく手を差し伸べて差し上げましたのに!」

「それはもう一人の男子に言ってやってくれないかな、困ってたみたいだし」

セシリアの言葉を遮って、今は不在の一夏の席を示す成政。

納得はいかないものの、彼の断りは正当な理由でのもの。怒鳴り散らすのは英国淑女らしくないとセシリアは怒りを飲み込み、

「そう、ですわね。では、御機嫌よう」

「ごめんね、断っちゃって」

「...やはり、男は軟弱者ばかりですわね」

最後にセシリアが言った独り言は、成政に届くことはなかった。

 

 

 

「次はISの武装についてだが、その前にクラス代表を決めようと思う」

「千ふ、織斑先生、クラス代表って何ですか?」

一夏の質問に、千冬先生はクラスを見回しながら答えた。

「クラス代表というのは、簡単にいえば学級委員長のようなものだ。学校行事でクラスを纏めたり、クラス代表戦に出場したりと、まあクラスの顔だな。

自薦、推薦は問わん、誰かいないか?」

「はいはーい!織斑君がいいと思います!」

「同じく織斑君を推薦します!」

「えっ、ちょ、俺ぇ?!」

「ねえ、石狩さんはやらないの?」

前の喧騒を他人事のようにのんびり眺めていると、成政の隣、白髪の女子が彼にそう声をかけてきた。

「男子だから目立つだろうけど、あいにく僕には荷が重すぎるよ。それに、クラス代表戦があるなら、強い人がやった方が良い」

「うーん、そっか。負けたらみんなに迷惑かけちゃうしね」

他とは違い、落ち着いた性格のようだ。

前の方では、どうやら賑やかしとして一夏の名前が挙がっていた。不思議と成政の名前は上がらなかったが、そのまま特に反対意見もなく、「ちょっと待った、男子なら他にもいるだろ!俺は成政を推薦する!」

「ちょっとぉ?!」

「納得いきませんわ!」

バシン、と机と叩いて怒りを露わにするセシリアが怒鳴った。

「このような選出は認められませんわ!」

まあ当たり前だろうな、と思う成政。

ISの代表候補生、というのは彼はいまいち理解していないが、要するに全日本の選抜メンバーみたいなものだと考えていた。

何であれ、相当な努力を積んできたはず。

クラストップの実力を持つと自負してきたであろうセシリアが、ぽっと出のど素人に出番を取られるなど、怒らない理由がない。

ついでにこのまま自分の推薦を有耶無耶にしてくれれば、と思っていたのだが、

「下等な男がクラス代表なんて、このIS学園での良い恥じさらしですわ。私はにそんな屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

そう声を荒げるセシリア。ついカッとなって言ったかもしれない、とまだ成政の許容範囲だったが、

「実力からすればこのわたくしがなるのが必然!それを物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!大体! 文化として後進的な国で暮らさなければ行けないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で⋯⋯⋯⋯⋯」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

成政の中で。何かが、切れるような音がした。

 

 

 

 

セシリアと一夏が口喧嘩をしている時、箒もまた、怒っていた。

思い人が馬鹿にされ、かつ戦友たる成政までもがそうだと言われている。

だからといってそこに日に油を注ぐような行為をするほど馬鹿ではない。そんな訳で上手く丸め込めそうな成政に仲裁を頼もうとして、

「.........」

辞めた。

理由は、成政がキレているからだ。

彼が怒ることはあまり無い。それ故に、その前兆は印象に残っている。

鉛筆をカツカツと叩きつけるのが彼が不機嫌な時の癖で、その速さでどれ程怒っているか大体わかる。

今の成政は、残像が見える程に激しく鉛筆を叩きつけている。つまり、そういうことだ。

その状態になった時、出来ることといえば、

「少し、いいか?」

「なに、箒さん」

「今すぐに耳を塞げ」

「えっ、どうして?」

「良いから塞げ。巻き込まれたくなかったらな」

こう隣に進言する位だ。

 

 

 

 

 

「どうした石狩、自薦か?」

二人の口喧嘩は、千冬先生の一言で一旦区切りとなった。

名前を呼ばれたもう一人の男子に目を向けると、真っ直ぐに手を挙げている。

「いえ、発言の許可を願います」

「許可しよう」

成政は席を立つと、一度深呼吸をして、二人の方を向いた。

「二人の言い分を、もう一度聞かせてもらえないかな?」

その顔は普段どおりで、会話に軽く割り込んでくるような調子だった。

その裏では、怒りを押し込めていたのだが、それに二人は気づかない。

「男子だからって、俺たちのこと馬鹿にしたんだぞ!それに日本の事まで、散々言いやがって」

「男なんて誰であろうと、最低な輩に決まってますわ。それに、このような素人にクラス代表を任せるわけにはまいりません、わたくしこそクラス代表にふさわしいと思いませんか!」

せめて相手の言い分や自分の非を認める気持ちが1ミリでも2人にあったなら、彼はそのままいつもの調子で場を納めただろう。しかし、そうはならなかった。

「...そうですか」

成政は、そう一言呟いた。

暫く黙っていたかと思うと、

「少し、黙れ」

成政が、豹変した。

 

 

 

 

 

 

物腰の柔らかい青年は消えた。

そこにいるのは、鬼そのものだった。

髪を逆立て、肩を怒らせたその姿に、女子生徒がが震え上がる。

立っていた二人が思わず一歩下がる程に、彼は圧力を伴っていた。

「クラス代表は強い奴がやる。文句があるなら、二人で思う存分戦ったらいい。

 

そんなくだらん、意味のない、クソみたいな言い争いに、部外者を巻き込むな。迷惑じゃ、他所でやれ!

そして二人はお互いの国も侮辱した。

それが、どう言うことか分かっとるんか!考えろ!」

大音声でそう見得を切った成政。

隣にいた白髪の子は哀れ目を回しているが、そんな事すら目に入っていない。

暫く肩で息をしていた成政が落ち着くと、いつもより低い声で、質問が飛ばした。

「先生、クラス代表は、強い奴がやる。それでいいんですよね?

であれば、

 

 

俺は、篠ノ之 箒を推薦します。

クラスで、彼女が一番強い、俺はそう思います」

「そうか。では、1週間後、放課後にに4人でクラス代表決定戦を行う。本来ならばすぐにでも行いたいが、織斑は専用機が支給されるのでな、それが届く1週間後にさせてもらう。

鷹月、教科書の、コアについて書かれている部分だ、音読しろ」

「は、はい!」

ISをISたらしめるコアは467個しか世界にない。専用機が与えられるとは、467個のうち1つを自由に扱える、ということになる。

というような内容の文章が読まれた後、織斑先生はクラスを見回すと、

「というように、専用機がいかに貴重で大切なものかわかったと思う。特に織斑はそれをわかって置くように。

そして大前提だが、ISは曲がりなりにも兵器だ。決してファッションと勘違いはするなよ!」

「「「はい!」」」

不満げな3人と巻き込まれた1人を置いて授業は進む。

「...あれ、なんで私がクラス代表に?」

 




なんでほかの人は読みやすくてうまいんでしょうか…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話

それではどうぞー


 

 

荒れた3時間目からしばらく時はたち放課後。

 

「一夏、成政さん。剣道場に行こう」

「練習、か。それならいろいろ持ってこなきゃいけないから先行ってて」

「分かった。では行くぞ」

「ちょ、俺に拒否権はないのか?」

「ない」

 

箒は一夏の襟首を掴もうとして、辞めた。

その代わり、

 

「久々に稽古を付けてやる。ISの貸し出しが駄目な以上、体を動かすのが筋というものだ」

「…それは、そうなのだが」

「どうした、何故そこで黙る」

「実は……」

 

一夏は、中学校で剣道を辞めたことを正直に話した。

箒の苛烈な性格からして、罵声の一つや二つ、そして暴力を覚悟し、身を硬くしていたのだが、

 

「……そうか。何か訳があるのだろう?」

「……あれ?何も言わないのか」

「何を言ったって変わるものでもないだろう。私も大人になったということだ」

「……なんか、変わったな、箒。成政のお陰なんだろうけど」

 

一夏のその何気無い一言に、箒は顔を真っ赤にして、

 

「ななななんでそこで成政さんの名前が出てくるんだ?!」

「いやだってさ、仲が良さそうだったし」

「いや成政さんとはただの部活の先輩後輩という関係であって決して恋人などという爛れた関係ではないと説明しただろう!」

「叩くな箒、痛い痛い!」

 

バシバシと一夏の頭を叩きながら必死に弁明をし、有耶無耶にしようと襟首をつかんで剣道場に一夏を引きずっていく。

 

「うるさい!そんな性格、鍛え直してやる!」

(私は、一夏が好きなはずなのに。成政さんの名前が出るだけで何故あそこまで慌てたんだろうか...)

 

そんな事を思いながら。

 

 

 

 

「どうしてこうなった...」

「構えろ一夏。勘を取り戻すのであれば、実践が一番だ」

剣道場に向かい、剣道部部長に道場の使用許可を求めると、

「どうせだったら試合しましょうよ、試合。

剣道部も目立つし、一石二鳥でしょ?」

「だけど防具が...他人のものを借りるのも」

「僕のでよければあるよ、ほい」

「なんでさっ!」

 

とトントン拍子に話は進み、現在に至る。

なお部長つながりで話が広まり、放送部が職権乱用で校内放送をかけたため、多くの観客が押しかけている。

 

「ビデオは回ってるからいつでも始めていいですよ」

「いやお前はやらないのかよ!」

 

道着に着替えた一夏と箒とは違い、成政は制服姿のままで、着替えるそぶりすら見せなかった。側には大量の荷物が入っているであろうふくらんだ鞄がある。

 

「まあそれはおいおい、ということで。

いつでも始めてくださって結構です」

「そう、では……」

審判役の生徒が腕を振り下ろす。

 

「始めっ!」

そして、道場に竹刀の快音が響く。

決着は一撃でついた。

 

「胴あり、1本!」

「ええ……」

 

横薙ぎに竹刀を振り抜いた箒と、上段に振り上げて、一切動かなかった一夏。

「せめて1合くらいは打ち合わないと」

 

「ぜ、全然動けなかった...」

「君本当に経験者?」

「構え直せ一夏、もう一回だ!」

「ああ、次こそは...」

 

「んで、20戦20敗と、散々だな。生きてるかー」

「なんとか、な」

 

中学校で剣道を離れた一夏が全国1位の箒に勝てるはずもなく、フルボッコにされること1時間。

疲労困憊の一夏とは違い、消化不良だった箒はそのまま剣道部の練習に参加している。

 

「そんじゃ、着替えて俺の部屋に行こうか。織斑先生から鍵貰ってるし、早く動け」

「分かってるよ.。ああ頭がくらくらする」

 

フラフラしながら更衣室に向かう一夏。

 

それを見送ると、成政は持ってきた大量の荷物をまとめ、出口に向かった。

 

「さて、課題は山積み、1週間でなんとかなるのやら...」

 

成政はその後着替えた一夏と合流し、寮へ向かった。

 

「ところで、あの時何が言いたかったんだ?」

「ん、なんのこと?」

「クラス代表戦決めの時だよ。怒ってたのはわかるんだが、その」

「ああ、怒ると思わずああなっちゃうんだ。それに、あれは僕も頭に血が上ってたから、言葉もまとまらないままでね、えっと……

多分、男子とか女子とか云々が気に入らなかったから、かな。

男だから弱いとか、女だから強いとか、そんな言い分が気に入らないんだよ、僕は。逆もまた然り。

むしろ強さなんて男女関係ないと思ってる。

技術や体を鍛えて、頑張って、強くなる。

それが差別とか偏見で無駄になるのが嫌なだけだよ。

 

あと、織斑に言いたいことがひとつ」

「なんだ?」

 

成政は一夏の進行方向を遮るよう前に立ち、足を止める。

 

「馬鹿にされて怒ったのは、分かる。

けどさ、もっと心に余裕を持ちなよ。慣れない場所にいて、困惑してたのはわかるけど、さ。

言っていいことと悪い事もある。

ちゃんとセシリアさんには謝らないと」

「...分かったよ、けど。俺はセシリアにもちゃんと謝って貰いたい」

「それは、織斑の仕事だよ」

「そうか、ありがとうな。成政」

 

にっ、と笑う一夏。

女子であれば惚れてしまいそうなほどに清々しい笑みを見て、成政は納得した。

ああ、箒ちゃんが惚れるわけだ、と。

 

「それと、今日は俺の部屋に来てもらおうと思ってる」

「部屋?どうしてだ。別にいいけど、洗濯物とか取り込まなきゃいけないし、戻ろうと思ってるんだけど」

「主夫かよ」

「千冬姉は家事がてんで駄目だからな。ずっと俺がやってるよ」

「今明かされる衝撃の真実...」

 

速報!世界最強は家事がてんで駄目!

思い浮かんだ不謹慎なテロップを頭の隅に押し込めていると、山田先生が彼らの方に走ってきた。

「織斑君と石狩君、丁度いいところに!」

 

走ってきたのか、赤い顔で息を切らせている山田先生。不思議に思ったのか、成政がどうしたのか聞くと、息を整えたあと、こう答えた。

 

「実は、織斑君の部屋が決まったので、鍵を渡しにきました」

「ええっ、暫くは自宅通学って」

「それについては、色々あるのだ」

「あ、織斑先生」

 

会話の途中で割り込んできたのは、担任の千冬だった。深々とため息をついた後、吐き捨てるように言った。

 

「警備の都合上、だ。家よりもこちらの方が警備が硬いのでな。誘拐されてモルモットにはなりたくないだろう?」

「も、モルモット?!」

「あー、うるさい女性権利団体かなんかが騒いでたんですか?」

「その通りだ石狩。全く余計な仕事増やしおって」

 

思い出したらイライラしてきた、と言うと、懐からタバコを取り出し吸い始める。

 

「今のお前ら二人は、世界でたった二人の男性操縦者なんだ、それを自覚しろ。

荷物はもう運んである。一夏、荷物は日用品と着替えだけでいいだろう?」

「そ、そんなぁ」

 

ショックのあまり崩れ落ちる一夏。彼の部屋にある漫画や、隠してあった薄い本諸々が持ってこれなかったわけになる。健全な男子高校生となれば、そのショックも大きいものだ。

 

「さっさといけ、と言いたいが。ここの寮は広い。山田先生に案内してもらえ」

「はい!」

「は、はい...」

 

階段で足を滑らせた山田先生を一夏がお姫様抱っこをするハプニングがあったものの、無事部屋についた。何故か二人とも別部屋だったが、大人の事情ということで二人も納得した。どちらも同居人は不在だったので、角部屋で少し広い一夏の部屋で話をする事となった。

「えらくとっ散らかってるな...この段ボール箱邪魔なんだが、一体何が入ってるんだ?」

「さあ、俺のじゃないし、ルームメイトのじゃないか?女子は何かと荷物多いし」

「...なあ、この段ボール箱動いた気がするんだが」

「気のせいだろ。段ボールが動くなんて、まさか人でも入ってる訳?」

「それもそうか。まあ、まずは...」

「「...片付けだな」」

 

 

 

一夏の荷物を片付け、人が座れるほどのスペースを開けることに成功した2人。

 

「で、話ってなんだ?」

「話というのは、これだ!」

 

いつの間に持ち込んでいたのか、会社なんかで使いそうなホワイトボードに、ペンで文字を書き込んでいく成政。

書き終わった後、その文字を手で示す。

 

「そう、不憫な織斑のために、箒ちゃんと俺が考えた、その名も、

『織斑一夏強化合宿』だ!」

「強化合宿...?」

「そう、強化合宿だ!」

 

キュポ、とマーカーの蓋を外すと、題字の下に何かを書き込んでいく。

 

「織斑は、小学校は剣道をやっていたと聞いた。確認だが、中学はどうしてやめたんだ?」

「うちは貧乏だったからな、少しでも千冬姉に協力したくて、バイトしてたんだ」

「ふむ。で、やってたバイトの内容は?」

「新聞配達とか、牛乳配達くらい。自転車を借りて、毎朝走ってたな」

「となると基礎体力はそこそこある、と」

 

これなら計画を変えるか、という呟きに首を傾げている一夏を放って考え始める成政。

 

「よし、だいたい決まった」

 

それと同時に、道着のままの箒が帰ってきた。

「ただい...二人とも、どうしたんだ?私の部屋で」

「ここ俺の部屋らしいんだけど」

 

無言で頭を抱える箒。

 

「この年頃の男女を同じ部屋にするとは、千冬さんは何を考えているんだ...」

「大人の事情だってさ」

 

成政の言葉に納得したのか、深々と溜息をつく箒。

 

「しょうがない、か...」

「まあそれは置いといて、モッピーちゃん。説明手伝って」

「少し待て、着替えてくる」

「あいよ」

 

箒はシャワー室のある部屋の奥に消え、暫くすると水音が聞こえてくる。

持ち歩いているメモ帳に今後の予定を書いていると、一夏が声をかけた。

 

「ところで 、お前、箒と気軽に話してるけど、一体どんな関係なんだ?」

「選手とマネージャーだよ。剣道部ではマネージャーやってたんだ。一緒になったのは二年だけだけど」

「マネージャー?」

「野球部とかサッカー部にいるじゃないか、知らないのか?」

「うーん…イマイチわからん、バイト漬けだったし」

「そうか。わかんないと困る部分もあるし、説明するよ」

 

ホワイトボードを裏返し、何も書いていない面を出す。そこにマネージャーとは何かを書き込んでいく成政。

 

「マネージャーというのは、選手のサポートを行うんだ。ドリンクの準備であったり、洗濯だったり、時々練習の手伝いもしたりしたな。

他にも、体作りのアドバイスとか、いろいろやっていた。

僕はサブコーチも兼任していたから、練習メニューとかも考えたりしていたな」

 

トントン、と書いた文章を指し示す成政。

一夏の反応を見て、理解できていると感じたので彼はそのまま続けた。

「他にも、試合のビデオを撮ったりもする。合宿の時は食事も作っていたな」

「へー、色々するんだな」

「ぶっちゃけ僕も転職するまでこんなに忙しいとは思ってなかった。元々選手だったから、その有り難みも十分分かっているけどな」

「そういうもんなのか」

「やってみると意外と楽しいものなんだなこれが」

「上がったぞ」

 

ちょうど話が終わったタイミングで箒が出てきた。髪も乾いておらず、ガシガシとタオルで頭を拭いている。Tシャツにゆったりした半ズボンとかなりラフな格好をしていて、若干一夏が顔を赤くしていた。

 

「箒も上がったことだし、織斑の課題と、これからの予定を話し合おうと思う」

 

 

 

 

 

 

 

「まず、ISがこの1週間使えない。

できることといえば、仮想で作戦を立てたり、技術を鍛える事ぐらいだ」

「はい質問!」

 

一夏が元気よく手を挙げる。

 

「なんだ?」

「なんでISが使えないんですか!」

「貸し出しが目一杯入ってる。今申し込んでも一ヶ月後になるそうだ」

 

昼休み、山田先生にISを借りたいと言ったのだが、そう断られた。

特例でもないので、織斑先生も無理やり捻じ込めないと言われては引き下がる他ない、と断念した、と成政は告げた。

 

「そうなると作戦は成政さん、剣道は私が担当だな」

「至れり尽くせりだな...お前らの練習は?俺に時間を割くとなると、自分の時間がとれなくなるだろ?」

「それについては問題いらない」

 

そう質問した一夏に成政は答えた。

 

「そもそも俺は勝ちを投げてるし、モッピーは技術を鍛える必要はない。作戦さえあれば十分だ」

「いや、それはおかしいだろ」

 

そう成政が言った時、一夏は疑問を唱えた。

 

「勝負を投げる?おかしいじゃないか。やる前から諦めるなよ。相手が代表候補生かなんかか知らないけど、悔しくないのか?

あんなに馬鹿にされて、散々言われて。

俺は悔しいんだよ、勝ちたいんだよ!だからお前も、簡単に諦めるなよ!」

「おい一夏、落ち着け!」

 

そう声を荒げる一夏。箒はそれを止めようとするが、頭に血が上っているのか聞き入れない。

 

「僕だってさ、勝ちたいよそりゃあ」

「だったら!」

 

一夏とは反対に落ち着いている成政。彼を宥めるようにゆっくりと話す。

 

「僕がマネージャーだって話はしたでしょ?」

「だったら箒たちの試合を間近で見てたんだろ、技術だってそれなりに学んでるはずだ」

「そうではなく、選手から転向したことが重要なのだ」

 

口を挟んだのは箒。不機嫌そうな一夏を見て、諭すように続けた。

 

「詳しくは成政さんから聞いて欲しいが、簡単にいえば『負傷したから』マネージャーになった、そうですよね」

「そう。そのせいで足さばきもできないし、踏み込めないから竹刀も力が無い。

だから辞めたんだ」

 

それを聞いて申し訳なさそうに顔を伏せる一夏。その沈んだ気持ちを切り替えるようの手を叩いて、声を張る。

 

「まあ、気にしないで。早く本題に戻ろうよ」

「そうだ一夏。成政さんに謝ることも大事だが、今はその時期じゃ無いんだ。切り替えろ」

「ああ、分かった...」

 

気持ちは沈んだままだが、話は聞いてくれるようになったと判断した成政は、話を続ける。

 

「じゃ、本題ね。さっきの20試合を見ていて感じた織斑の課題と長所、それをピックアップしていくよ。モッピーもどんどん言ってって」

「分かった」

「まず最初に...」

 

 

 

 

「とまあ、2人の意見を纏めるとこんな感じか」

 

さっきまで真っ白だったホワイトボードには、大量の書き込みがなされている。

 

「じゃ、これからの方針として、

長所である思い切りの良さ。それを伸ばすために剣の振り方の基礎をもう一度やってもらう。踏み込みはいいから、それを生かしたい。

弱点は防御のなさ。目はいいから、場数さえ踏めば良くなるから、これは剣道部の基礎練を一緒に行う、って事で」

「で、具体的には何をするんだ?」

 

それはこれから考えようと、と成政が言おうとすると、箒が代わりに答えた。

 

「剣道部は平日練習だから、今週は全部顔を出せ。部長さんには私が入部する代わりとしての交換条件で話を通した。剣の基礎は練習後に私が稽古を付けよう」

「土日は射撃対策と戦略立て、かな。

ぶっつけ本番になるけど、まあ、頑張れ」

「結局最後は丸投げなのか…」

「マネージャーの仕事はそんなもんだ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話

作(何かと話題になったりならなかったりしなかったヤツが登場します。
⁇(ロマンが俺を呼んでいる...
作(呼んでないです。


では、どうぞ。


 

「まあ、作戦なんて、レベルを上げて物理で殴れ、くらいじゃね?」

 

「「......」」

 

「真面目にやるよ、だからそんな目で見るなよなぁ!」

 

「早くしろ」

 

  箒に急かされて真面目モードになる成政。

 

 2人が気張りすぎだから気持ちをほぐそうと思ったのに、とぼやきながら鞄を漁る。

 

 暫くしてその中から白いディスク取り出すと、某ドラゴンなクエストのような効果音をつけながら掲げた。

 

「一応、というか入学試験の分だけだけど、セシリアさんがISに乗ってる動画をゲットしました。山田先生には感謝しないと」

 

「成る程、対戦相手の動画か。それがあれが試合が楽になるな」

 

「そのとーり。しかも相手は専用機、だったから尖ってるし、対策はしやすいよ」

 

「それはいいのか悪いのか...」

 

  溜息をつく一夏に対して、若干作り笑顔だったが成政は笑って言った。

 

 こうでもしないと不安が隠せないから。

 

「戦闘スタイルがわかれば、それの対策が立てやすくなる。得意分野を徹底的に潰すか、それで隠したい弱点をあぶり出せばいいからな」

 

  1週間の付け焼き刃ではなんともならないものなのだが、と心の中で付け足してはいる。

 

「そうだぞ、何事も前向きに、だ」

 

  大真面目にそれに頷いている箒を見ていると、少しだけ気持ちも軽くなる。

 

 

 

  その代わり、と前置きして成政は話を続けた。

 

「それを借りる交換条件として、3人の入学試験の時の動画を献上する事になったけど、まあ不可抗力、ということで」

 

  そのまま入学試験のISを使った模擬戦の話になったのだが、何故か気まずい表情をする一夏。

 

 不思議に思った箒がその理由を聞くと、

 

「いや、対戦相手が山田先生で、勝ったには勝ったんだけどさその」

 

「その...?」

 

「張り切りすぎて壁に突っ込んで勝手に気絶したから勝ったというか...」

 

 あっけに取られて一歩も動けなかった、と語る一夏、それを聞いてせっかくの貴重な起動チャンスを棒に振るなよなぁ!と胸元を掴んで揺さぶる成政。

 

 箒が騒ぐ2人を溜息をつきながら叩いて止めると、視線で成政に無言で続きを促す。

 

「で、手に入れた映像がこちらです」

 

  備え付けのAV設備の中にあるDVDプレイヤーの中に、ディスクを取り込むと動画が再生される。

 

 編集もされていないので、タイトルも無く、もちろんBGMもない。

 

 突然流れ出した動画を、3人は食い入るように見つめた。

 

 正味5分ほどだったが、彼らには1時間に感じられるほどだった。

 

  動画が終わった後も誰も口を開かない。

 

 成政は何か思案をするように頭をかき、

 

 箒は目を閉じたまま動かず、

 

 一夏は動揺を隠す様子もなく頭を抱えた。

 

 暫くして、一夏が口を開いた。

 

「...射撃だな」

 

「射撃一辺倒だったな」

 

「剣を使う素振りすらなかったな」

 

  セシリアの使う機体は射撃編重タイプで、近接戦闘をする場面は一回もなかった。

 

  教官のISから常に一定の距離を取り続け、時々ビットからレーザーを撃ち、最後は手に持っていた大型のライフルで一撃。

 

  さて、ここで確認しよう。

 

 ここにいるのは、剣道バカ2人、そしてバイトに明け暮れていた学生。

 

 この3人は射撃のイロハをわかるような人材か?

 

 もちろん答えは否だ。

 

「「「対策がわからん(ない)...」」」

 

 当然の如く、こうなる、が、

 

「まあ、素人意見でもいいから出してこう」

 

「もう一回DVD見せてくれないか?」

 

「私ももう一回見せてもらおう」

 

「じゃ、ずっと再生しとくから」

 

  思考停止しない事、試合であれ、他であれ、大切な事だ。成政と箒は経験則から、一夏は姉から、それを教わっていた。

 

  動画がループになるようにリモコンをいじると、成政はホワイトボードをもう一度使えるよう消しにかかる。

 

 それは些細なことでもいい、と言う藁にもすがる思いの裏返しでもあったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 暫くして、気づいたのは、一夏だった。

 

「なあ、ちょっと止めるぞ」

 

「どうした、何か見つけたのか」

 

「いや、気のせいかもしれないけど、セシリアってさ、自分で動く砲台みたいなの、あるじゃないか」

 

「あれビットって言うらしいぞ。自立砲台だってさ。山田先生が言ってた」

 

「アレを撃ってる時のセシリアさ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーー止まってないか?」

 

「その話もっと詳しく」

 

  突破口が、見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の話を聞くと、セシリアはビットを撃つ時、動きが止まるという弱点がある事がわかった。何度も動画を確認して、それが一夏の勘違いでない事がわかった。そうなれば、それを軸として作戦を組み立てることとなる。

 

「一番早いのは、ビットを撃つ瞬間に被弾を無視して突っ込んで一撃、だろうなぁ」

 

「そうなのだろうが、おそらく一発きりになるぞ、自分の弱点は把握しているだろう」

 

「となると、千冬姉みたいな『零落白夜』のような一撃必殺、とか」

 

「千冬さんのそれは、確かワンオフ・アビリティという機体固有の物だ。私たちでは使いようもない」

 

「というか、ISを一撃で倒すロマン溢れる武装ってあるわけ?バランスブレイカー過ぎだろう、あるわけ無い」

 

「あったとしても、此処は学校だ。

 

 そんな都合よく置いてあるわけ無いだろう」

 

「ですよねー」

 

  意見を出せば出すほど非現実的になっていく作戦。話せば話すほど勝利が遠のく現実に、3人は思わず頭を抱えた。

 

「今から射撃訓練でもするか?多少でも知っていれば」

 

「下手の横好きレベルにしかならん。余計な事を考えるな。ただでさえ剣道の腕が錆びついているというのに」

 

「あだっ!」

 

  意見を出した一夏の頭を軽く叩く箒。

 

 その瞬間、部屋の電気が消えた。

 

「なんだ?!停電か?」

 

「箒、竹刀!」

 

  「なんで、停電じゃ無いのか?」

 

「ここら辺の電気が消えてない、この部屋だけだ!伏せていろ一夏」

 

  窓の外を一瞥しただけで状況を把握した箒は、狼狽える2人を守るように竹刀を持って立つ。

 

「先程から、人の気配がした。他の生徒かと思っていたが、これは都合が良すぎる」

 

「つまり、特殊部隊か何か、と言うこと」

 

「ど、どうするんだよ箒!」

 

「どうも何も戦うしかなかろう!」

 

 竹刀を構えるが、見えるのは暗闇ばかりで、まだ目が慣れるまでは時間かかかる。

 

  (暗くて何も見えない、ならば...)

 

  目を閉じ、意識を他に集中させる。

 

 試合の時以上に、ギリギリまで神経を尖らせ、僅かな音も聞き逃さない。

 

 

 

 カサリ

 

 

 

 成政の背後、入り口近く。

 

「...っ!そこ、はっ!」

 

  物音だけを頼りに、竹刀を振り下ろす。

 

「いたっ...」

 

「もう1人!」

 

  箒は、物音の発生源は2つだと見抜いていた。そして、1人を叩き伏せた今、残るは1人。

 

「チェストォ!」

 

 横薙ぎの一閃、胴を撃つその一撃。此処暫くで最高の胴打ちだと撃った本人が思うほどのそれは、

 

「なんのこれしき!」

 

「っ、防ぐか!」

 

「よし、見つけた!」

 

  そのタイミングで、壁伝いにスイッチを探していた一夏が電気をつけた。

 

 そこにいたのは、

 

「フハハハハハ、俺、参上!」

 

「「...誰だ?!」」

 

 不審者が、ベッドの上で高笑いをしていた。

 

 雑に切られてボサボサのショートカットが男らしい、IS学園の制服を着た女子生徒。手には竹刀の一撃を防いだであろうおもちゃの刀らしき物が。

 

「うう...痛い...」

 

「ごめんね、モッピーちゃんが迷惑かけて」

 

 そして巻き込まれたであろうメガネに水色の髪の生徒、近くにいた成政がそれを慰めている。

 

「むしゃくしゃしてやった。しかぁし!俺は後悔していないぞ簪ぃ!だから私は謝らない」

 

  異様な雰囲気を纏い、大声で喚き散らす不審者。

 

「夜中に叫ぶな!近所迷惑だろう」

 

「いやそこじゃないだろ!、と言うか君誰?」

 

「ふっ、コノシュンカンヲマッテイタンダー!」

 

 変な叫びをあげてその場で宙返りをすると、一夏の前に着地、そのまま彼を指差して、大声でいった。

 

「愛と正義と火薬を振りまくロマンの勇者、又の名を妖怪ロマン馬鹿、そう呼んでくれたまえ」

 

「ええ...」

 

((すごく面倒な奴が来たな...))

 

 仲良く同じ事を思っていた箒と成政だった。

 

  そんな事のためにここまでするかとと箒が八つ当たりで追いかけ回したが、

 

「夜中に騒がしいと言っている!」

 

「フハハハハ、未熟未熟ゥ!」

 

 とカンフー映画ばりの身体能力を見せつけるだけに終わった。

 

  ちなみに、下に短パンを履いていた、とだけ言っておく。

 

「放課後からずっと段ボールに隠れていた甲斐があったよ。まさに、スニーキングミッション。松明で儀式しなきゃ」

 

 箒が疲労困ぱいするまで鬼ごっこを続けた後、またふざけ出した不審者。ISでも使っているのか、虚空から松明を取り出して振り回す始末。

 

  飛び込んで来た謎の少女は支離滅裂な事ばかり言って目的が掴めない。悩む成政に助け舟を出したのは、巻き込まれた水色の髪の子だった。

 

「私は簪...マヒロ、自己紹介は?」

 

「私はマヒロなどと言う奴ではない。そう、通りすがりの「仮面ライダーじゃないでしょ...失礼」

 

  台詞を先回りされて明らかに動揺する不審者と、若干誇らしげにする簪。

 

  「...私だって、成長してる...」

 

 不審者は大きく息を吐くと、ここは簪ちゃんに免じてやってやりますか、と言って、

 

「...ごほん。3組、神上マヒロです。

 

 好きなものはロマン。趣味はアニメと特撮鑑賞。蔵王工業の専属パイロットやってます。ハイこれ名刺ね」

 

  自己紹介と同時にサラリーマンよろしく名刺を配るマヒロ。その変わり身の早さに目をパチクリさせていたが、すぐに再起動して名刺を受け取った。

 

「はあ、どうも」

 

「蔵王、工業...?」

 

「そーう、蔵王工業。愛と火薬とロマンを振りまく素敵な会社ですよ」

 

  名刺を配ったのは、社員としての義務だと彼女は語った。

 

  ISというまだ未知のジャンル、そして現れた男性操縦者。他の企業に先駆けて、他を蹴落とさなければ生き残れない。

 

 いや、蹴落として来たからこそ蔵王が生き残っている事なのだが、

 

「私にもくれるのか。特にネームバリューも無いぞ?」

 

  「またまたご冗談を。もしこれを見て束さんがウチに来たら、洗n...特撮とかいっぱい見せてロマン馬鹿にしてロマン兵器一杯作って貰うんだー」

 

  単純に変態技術者しかいないから他が手を出さないだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でさ、もし束さん見つけたら連絡ちょうだいね?すぐに駆けつけて簀巻きにして連行するから」

 

「いいぞ、どうせ姉さんだし」

 

「いやそんな扱いでいいのか?!」

 

 あっけらかんとそんなことを言う投げやりな箒の態度に思わずツッコミを入れてしまう一夏だが、

 

「どうせどこかほっつき歩いているのだし、定職につければ万々歳だろう」

 

 そもそも姉さんはどこから金を手に入れているのか、と実の妹が思うほどに、束の生活は謎に包まれているのだ。これを機に真っ当な人間に、と思っているのだが、一生叶わぬ願いである。

 

「ところで、蔵王工業はどんなものを作ってるんだ?聞いたこともないんだが」

 

「主にグレネードとか、大口径砲とか、ロマン溢れる兵器かな」

 

「威力は?」

 

「へっぽこISなんて木っ端微塵です」

 

「そこもっと詳しく」

 

 猫の手も借りたいような、この状況。

 

 選手を勝たせるためなら(スポーツマンシップの範囲で)あらゆることを行う成政。

 

  たとえ悪魔だろうか天使だろうが、ロマンロマンとうるさい妖怪だろうが、この行き詰まった状況を打破するために手をとりたかった。

 

「ちょっと待った、イヤイヤおかしいだろ!」

 

 それに待ったをかけたのは、一夏だった。

 

 2人の間に割って入ると、

 

「いや、よく考えろよ!部屋に忍び込んでくるような不審者だぞ、ちょっとは疑えよ」

 

  正論を言う一夏に対して頭を冷やしたか、

 

「...言われてみれば確かに」

 

「むー、不審者とは心外です」

 

  ぷんすか、とわざわざ口で言って怒りをあらわにするマヒロ。もちろんわざとやっているので全然可愛くない。

 

「ちゃんと山田先生に許可はとりましたよ?引っ越し祝いに隣に蕎麦配るので鍵を開けてくださいって」

 

 何故か随分と古風な慣習だった。それならしょうがないと言いかけたお人好しの一夏だったが、

 

「...あの手この手で丸め込んで...誤魔化しただけ」

 

「それは言わない約束でしょ簪ちゃん!」

 

「ダメじゃないか!」

 

  疲れきっていて早く寝たいと思っていた箒が、2人を物理的に叩きだそうと竹刀に手をかけたその時、救世主が現れた。

 

「ほう?騒がしいと思えばそんな事をしていたのか。不法侵入なぞ、反省文ものだぞ」

 

「ちっちっち、バレなきゃ犯罪じゃぁ無いんですよ」

 

「バレてしまえば犯罪と言うことだな、神上」

 

「そうそう...うん?」

 

  流れるように会話に入って来た声の主。

 

 この場の雰囲気すら変えるほどの存在感を持ったその人は、

 

「千冬姉、どうしたんだよ?」

 

「寮長としての義務を果たしに来た」

 

 1年1組担任、織斑先生だ。

 

  「消灯時間も近いと言うのに他人の部屋で何をしているのだ、よりにもよって一夏の部屋で」

 

「いやそれはですねちょっと企業の売り込みに参った次第で」

 

「話は寮長室で聞こうか」

 

  部屋にずかずかと入った千冬は、簪とマヒロの襟首を掴むと、部屋の外に引きずっていった。

 

「石狩も部屋に戻れ、次はないぞ」

 

 そう言い残して扉は閉まった。

 

「ふははは、この俺を倒しても第2第3の俺が貴様にあいにいくからなぁぁぁぁぁぁあ!」

 

「...あれ、私も?」

 

 マヒロのどこかで聞いたような断末魔が響く。

 

 この時、3人の心に、織斑先生を怒らせてはいけないと刻み込まされた。

 

「「「......」」」

 

 凍りついた角部屋で最初に動いたのは、成政だった。

 

「じゃあ、僕帰るから。おやすみ」

 

「そ、そうか、おやすみ」

 

「おう、また明日な」

 

  成政の一言で、今日はお開きとなった。

 

 次の日、3組と4組のとある生徒は、体調不良で欠席したと言う。その日からか、IS学園寮には幽霊がいると言う噂がまことしやかに囁かれることとなった。

 

 




今回、他作品キャラが出張してます。
自分にssを書かせてくれたきっかけ、の作品、
葉川柚介さん「IS学園の中心で「ロマン」を叫んだ男」
https://novel.syosetu.org/55310/
より、主人公「神上真宏」と蔵王重工をお借りしました。
葉川さん、ありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話

これでもう書きだめは打ち止めです、なので更新遅くなりますよ。


さて、ジャーマネのクラス代表決定戦です。
いまいちパッとしないですけど、どうぞ。


 

 

 

 

 

 

「体力もつけた、技術も鍛えた。戦略も、申し訳程度には立てた。短かったが、自信を持ってトレーニングできたと胸を張って言える。

 

  後は、お前が頑張るだけだ、一夏」

 

「おう、任せろ!」

 

 

  アリーナ内のピットで言葉を交わす2人。気力は十分、目は鋭く、体は闘いを求めて震えている。であれば、後は戦うのみ。

 

 最後に無言で、拳をぶつけ合う。

 

 言葉は 、不要だ。

 

 

「...いや普通逆だろう」

 

 

 冷静な千冬が思わず突っ込んでいるのは、初戦は、成政vsセシリアだからだ。

 

 決して一夏が出るわけではない。

 

 なんかそんな雰囲気だが、あくまで戦うのは成政の方である。

 

 

「こうでもしないと緊張するんだよ!いつも試合前にこんなことして落ち着かせるから、応用で自分も落ち着かないかなって」

 

「で、成果は」

 

「むしろ緊張して来た」

 

「なんかすまん」

 

「ききき気にするな、あわて、あわわわわ」

 

「腹をくくれ成政」

 

 

 ありがたい出席簿アタックを貰い、正気に戻ったところで、彼は目の前の鉄の塊を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

  負傷により、長い間選手として試合に臨むことは無かった。

 

 それを可能にしたのが、IS。

 

  成政の負傷を無理矢理に帳消しにし、選手として再び蘇らせた。とはいえここ1週間は訓練もろくにしていないので、素人そのものの動きになる。

 

 

(頼むぞ、打鉄)

 

 

 誰にも言うでも無く、ハンガーに固定された訓練機である打鉄に手を添え、念じる。

成政は千冬に無理を通してもらい使うISを自身が初めて起動したものにしてもらっている。特に理由はないが、初めて触るものよりは扱いやすいだろうと考えてのことだった。彼にとってはありがたいことに、このISは成政の専用機扱いとなることが決定した。

 

 前回の焼き直しのように、手のひら全体を押し付ける。 その装甲は、心なしか、ほんのり暖かい気がした。

 

  手の先にあるISに意識を集中させる。

 

 意識さえ見せてくれれば、ISはそれを汲んでくれる、と座学で山田先生は言った。

 

 教科書通りの堅い話の中に、詩的な表現を混ぜ込んでくるものだから、その時は少し可笑しかったが、あながち間違いでもないらしい。

 

 光に包まれ、すぐ後には、武者らしい走行を纏った成政の姿がそこにあった。

 

 

「神上から借りた装備はすでにダウンロード済みだ、確認しろ」

 

「...確認しました。大丈夫です」

 

「そうか。一夏、そろそろお前の専用機が来る、着替えてこい」

 

「頑張れ、成政!」

「ああ、任せろ」

 

 

  そう言ってハンガーを出て行く一夏。

 

 2人だけになり、静かになるハンガー内。

 

 

「どこまでやれるか見ものだな、精々足掻けよ?」

 

 

 何を思っているのか彼にはわからないが、思わせぶりに笑いながらそう話しかける織斑先生。

 

 

「選手を最高に仕立てるのはマネージャーの仕事ですよ?仕事はきっちりこなしますって」

 

「そうか、行ってこい」

 

 

  小さな声援を言葉に受けて、彼は進む。

 

 カタパルトに足をかけ、姿勢を低くする。

 

 カウントが終わり、圧縮空気の音と同時に、成政の身体は空へ放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「遅い、ですわね。レディを待たせるのは恥ではなくって?」

 

「それについては謝るよ」

 

 

 成政がアリーナの空へ飛び立ち、規定とされている位置に着くと、もうすでに先客がいた。

 

 当たり前だが、対戦相手のセシリアだ。

 

  慣れない飛行に戸惑い、時間のかかった彼と違い、直ぐにここに来たのだろう。

 

  青い専用機が目に眩しい。灰色で無骨な打鉄とは大違いで、美しいデザインだ、と成政は思った。

 

 

「では、最後に...」

 

「あ、ちょっと待ってくれるかな」

 

「...なんですの?」

 

 

 何かを話そうとしたセシリアを制すと、反対のピットにいるであろう山田先生に通信を入れた。

 

「山田先生、スタート前に2分だけ、時間を貰えませんか?」

 

「別にいいですけど、どうしました?」

 

「子供みたいにはしゃぎたいだけですよ」

 

「セシリアさんがいいなら...」

 

「構いませんわ。這い蹲るまでの時間が長引いただけです」

 

 

  それを聞き、酷いいいようだな、と感想を漏らすが、当然のように答えは帰ってこない。

 

 

「じゃ、失礼して、と」

 

 

 

 慣れない手つきでISを操作し、アリーナの地面に降り立つ。

 

 そして彼は歩いた。何のことはない、生徒であれば誰だって出来ることだ。

 

 上空から見下ろすセシリアは、特に何も感じなかったが、彼にとっては違う。

 

 彼の歩みはいつしか早歩きになり、遂には走り出していた。

 

 その彼はと言うと、笑っていた。

 

「はは、ははは、あははははははははっ!すげえ、すげえよ!まじですげえ、ははっ!」

 

 

  ぐるぐると回ったり、飛び跳ねたり、足をわざと縺れさせて転んだりと、まるで子供みたいのように、アリーナを跳ね回った。

 

「ISなんて意外といいものじゃんか、また走れるとは思ってなかった、ははっ」

 

 

 

  彼がマネージャーをやめたのは、足の怪我だった。

 

 小学生も終わろうとしていた時、彼は交通事故にあった。何のことはない、不注意で飛び出し、跳ね飛ばされただけの、新聞の角に描かれる程度の事故だった。

 

 そして、成政はその日を境に走れなくなった。

 

 足首に負荷がかかり、激しい運動ができない。そう言われたことを、彼は今でも覚えている。

 

  もう走ることも、体育でみんなと楽しく授業を受けるのも、好きだった剣道をすることも、できなくなった。そう知った時、表面上は明るく振舞い、割り切ったようなそぶりを見せていたが、陰では彼は嘆き悲しんでいた。もう、あんなことは出来ないと。

 

 しかし、ISを付ける、と制約付きのものの、自由に跳ね回ることのできる翼を手に入れた彼は、

 

「やっベー超楽しい、にゃははははは!」

 

  まるで新しいおもちゃを与えられた子供の様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変お見苦しいところをお見せしました」

 

「ふん」

 

  結局、申請していた2分ではなく、たっぷり10分ほど自由を楽しんだ成政。

 

  待たされたセシリアの心中は言わずもがなであろう。

 

「最後に、一つだけ貴方にチャンスをあげますわ」

 

「チャンス、とは?」

 

「今までの非礼を詫び、わたくしに頭を下げる事ですわ。ちょうど日本には土下座という文化があるようですし、見て見たいですわね」

 

「お断り、かな。僕は貴方に謝る気はないし、むしろそっちに謝ってほしいね」

 

「そうですか、では」

 

  試合開始のブザーが、鳴り響く。

 

「お別れですわね。踊りなさい、わたくしとブルーティアーズの奏でるワルツで!」

 

 セシリアのレーザーライフルの一閃で、火蓋は切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...卑怯そのもの、だな。日本男子たるもの正々堂々、と言いたいが、成政さんにそれは通じないな」

 

「よく考えたもんですよ。1試合の試合動画だけであんなに弱点を突いた対策を考えるなんて」

 

  所変わって織斑先生のいない反対側のハンガー。

 

 一方的な試合展開を見ながら、2人はそう評した。

 

  開幕速攻で、ISを自重で地面に落とし、そのままがむしゃらにスラスターを吹かす。

 

 壁に当たったところで、蔵王の特注品の、ISをすっぽりと覆うほどの大楯(とは名ばかりの馬鹿でかい板)を6枚も展開し、打鉄備え付けシールドも活用して、擬似的なトーチカを作った。

 

  弾速はあるが火力に劣るレーザーライフルでは盾は貫通できない。

 

 

(そんな手を取ってくるなんて、初心者とは思えませんね)

 

 

 他の専用機や、ラファールならば、大楯を貫通できる火力や、弱点を突くような装備があるだろう。しかし、ブルーティアーズにそれはない。思わず歯噛みするほどの、完璧な対策だった。

 

 ビットでも火力が足りない以上、隠し玉の腰のミサイルビットを使うべきなのだろうが、セシリアのプライドが許さなかった。

 

  男程度にそれを切りたくない、そのプライドが、試合時間を引き延ばしていく。

 

 それこそが、成政の狙いだとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

(試合開始から20分弱、そろそろフィッティングとやらも終わってるだろ)

 

 成政は、勝ちを投げている。

 

 そもそも参加するつもりなどなく、マネージャーに徹するつもりだったのだ。

 

 それは、こうなった今でも変わりはない。

 

 試合に負けて、勝負に勝つ。

 

 一夏のための布石を、置く。

 

 故に、攻撃を投げ捨て、防御に特化させた装備をマヒロに頼んだのだ。

 

「でも、このままじゃ終われないよなぁ」

 

 しかし、成政も男の子。選手として動けるようになった今、

 

「勝負、するか」

 

  マネージャーに徹する必要はないのだ。

 

(せっかく動けるんだし、楽しまなきゃね)

 

  今一度、選手として、戦う。

 

 大楯を全て収納し、手に初期装備、小太刀の「葵」を展開する。

 

  持っている武器は、それだけだ。

 

「おや、諦めたんですの?」

 

「いいや」

 

 刀を掲げ、切っ先を突きつける。

 

「たまには選手に戻ってみたくなる時もあるんだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ無理いいいいいい!」

 

「大口叩いた割には、大したことないんですのねっ!」

 

  レーザーの雨が降り注ぐ中、無様にも成政は走って逃げていた。

 

 ISは飛べるにも関わらずにそれをしないのは、彼が単純に忘れているだけだ。

 

「無理無理死ぬ死ぬやばいってあー!」

 

 調子に乗って後先考えず大見得切った結果がこれだ。元より勝算があった訳でもなく、そもそも時間制限一杯試合を引き延ばして一夏に繋げるつもりだったので、作戦もクソもない。

 

  成政が一夏に提案した作戦を使えばいいのだが、あれは初見でこそ輝くもの、こちらが使うわけには、と頭の隅に押し込めていた。

 

  そもそも近接寄りの打鉄と遠距離型のティアーズの相性は最悪に近い。打鉄のパイロットが織斑先生のようなトップクラスの選手でもない限り、100回やって1回勝てるかどうか、位になる。

 

 つまり、成政は何もなければ無様に敗北する。

 

 

 

「やっぱり、男は無様ですわね」

 

 落胆を隠せないセシリア。

 

 事故で両親が死に、貴族であった2人の遺産をそっくりそのまま受け継いだセシリア。

 

 財産を狙う魑魅魍魎たちを退け、代表候補生にまで上り詰めたその努力は並ではない。

 

 それ故に、彼女の理想は、高かった。

 

 だからこそ、無意識に漏らしてしまったのだ。ISを動かせると聞いて期待した自分が馬鹿だった、所詮男などそんなものだったんですわね、と。

 

 その発言を、彼、いや打鉄は聞き逃さなかったのだろう。

 

「無理無理む、ん、なんだこれ?」

 

 成政の視界の端に、音声ファイルを再生しますか?と書かれたテロップが浮かんだ。

 

  戦闘中に、と不思議に思いながらも、再生ボタンを押す。

 

 数秒もかからずにそれは流された。

 

 口から漏れた、何気ない一言。

 

 無様な逃げを選び続けた彼の足を止めた。

 

 お前は何故、剣道を始めたんだ。

 

 お前は何故、剣道を辞めなかったのか。

 

 お前は、勝負で無様に逃げ回るために、ここに立ったのか。

 

 そう、自問する。答えは、もう分かっていた。

 

 磨り減り、すっからかんになったシールドエネルギー、近接ブレード一本のみの装備、使えない大楯、あまり良くない駆動力、優れた防御力。

 

  まだ手札は残っている。

 

 カードゲームで同じデッキを使っても、コピーしただけの人とと製作者の腕が異なるように、配られた手札を上手くは使えない。

 

  上手く使えないならば、下手なりでいい。

 

 そう、彼は割り切った。

 

 下手だからと謙遜して、プレイをやめるな。

 

 別に、下手だあろうと構わない。

 

 下手であれ、上手であれ、

 

「勝ちたい...、いや、勝つんだよ!」

 

 勝利への熱意は、誰だって同じなのだから。

 

 

 

 それに、彼は、負けられない理由を持っていたのだから。

 

 忘れていた、自分でも押し込めようとしていた、ある思いを。

 

 

 

 大楯を数m手前の地点に突き刺し、高速移動していた自分の身体を無理矢理にでも止める。

 

 弾かれ、無様にも地面に這いつくばる。

 

 残り少ないシールドがさらに減る。

 

  奇行に走った成政を見て、セシリアは攻撃の手を止めた。それこそが、最大の失策だった。

 

 彼は雄叫びをあげると、剣を片手に持ち、後ろに大きく振りかぶる。

 

「自爆特攻ですか?その程度、読めましてよ」

 

 自身を守るコースにビットを配置し、ライフルの照準を合わせる。

 

 スコープを覗き込んだ時、偶然にも、セシリアは彼の顔を捉えた。

 

 まるで、楽しくて、楽しくて仕方がないと、笑う顔を。

 

(な、何故笑ってますの?!)

 

 勝ち筋は潰した、あとは引き金を引くか、ビットに号令を出すだけで勝負は終わる、なのに。

 

「何故、勝ちを諦めないんですの?」

 

 成政は、その質問に答えた。

 

 

 

「そりゃあ、惚れた女の子の前でかっこ悪いとこ見せたくないからな。それに、勝ったほうがおもしろいじゃん!」

 

 

 

 そう叫んで、成政は驚くような行動に出た。

 

「ちぇいさー!」

 

 持っていた近接刀「葵」をセシリア目掛けて全力でぶん投げたのだ。

 

「なっ...しまっ!」

 

 予想外の行動に、反応がワンテンポ遅れる。

 

 セシリアの視線が、成政から逸れる。

 

「ぶっ飛ばせ、打鉄ェ!」

 

  その瞬間に、打鉄は大空を駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  決戦日の昼休み、箒は保健室を訪れていた。

 

 見舞相手は、成政。

 

 どうして彼がそこにいるかというと、

 

「スラスターを全開にしてセシリアに突撃したものの、逸れてアリーナの壁に激突、その衝撃で気絶したのだ」

 

「あんなに啖呵切っといて恥ずかし...」

 

「布団を被るのは認めるが、見舞客に失礼だとは思わんのか?」

 

「恥ずかしいものは恥ずかしいし...」

 

 無様な負けを知り、布団をかぶってふて寝をはじめる成政。溜息をつきながら 、その隣で食堂のおばちゃんから差し入れられたリンゴを剥いている箒。

 

「...なんでナイフじゃなくて刀で剥いてんの?」

 

「違う、短刀だ」

 

 物騒な事に、刃渡り20センチ弱の刀で器用にリンゴを剥いているのを除けば、さぞかし微笑ましい光景だっただろう。

 

 成政の質問に箒は手を止めると、それを鞘に収め、慈しむように抱きしめた。

 

「昔、父に貰ったものなんだ。今では家族は離れてしまっているし、何か、思い出のものをいつも持ち歩きたくてな」

 

 ちゃんと許可は取ってあるし、無闇やたらには持ち歩いていないさ、と付け加える箒。

 

 暫く場が静かになる。

 

「切ったものはそこに置いてある。食べるなら早くしろ」

 

 沈黙に耐えきれず、そっぽを向いてしまう箒。

 

 その意図を知ってか知らずか、無言でしゃくしゃくとリンゴを齧る成政。

 

「で、結局クラス代表はどうなったの?」

 

  その質問に。少しだけ不機嫌な表情になる箒。

 

「...結論から言うと、一夏がクラス代表だ」

 

「試合内容は?」

 

「イマイチどころか凡ミスで敗北だった」

 

「鍛え直し、だな」

 

「成政さんならそういうと思ったぞ、っと、時間だな」

 

  今日1日は休めと千冬さんも言っていた、無理をするなよ、と言い残して、保健室を去る。

 

「...剣道だけじゃ、やっぱり限界かぁ」

 

 射撃のイロハ誰かに教えてもらえないかなぁ、と言葉とは裏腹に、楽しそうだった。

 

 

 

 

「最後の言葉はだれに向けたものだったのだろうか……」

 

 

 

 

 

 

「「「織斑くんクラス代表おめでとー!」」」

 

「なんでだあああ?!」

 

  放課後、一夏がクラス代表決定パーティーで女子に揉みくちゃにされている頃、

 

「こんなに来なくてもいいのに...」

 

「剣道部マネージャーつもりなんだろう?1日でも早く来てもらわんと困るからな」

 

  保健室でのんびりしていた。

 

 箒がパーティー会場から持って来た料理を摘みながら、いろいろなことを話した。

 

 剣道の事、クラス代表決定戦の事、これからの事。

 

  一夏がセシリアのビットのもう一つの弱点、必ず死角を狙ってくる事に土壇場で気が付いた話をした時は、成政が思わずなんたるチート!と叫んで悔しがったり、一夏とセシリアがクラスみんなの前で仲直りしたと聞けば、それは良かったと胸をなでおろしていたり。

 

  取り留めのないことばかりであったが、2人はいろいろな話で盛り上がった。

 

 そんな黄金のような時間は、あっという間に過ぎて行く。

 

「そろそろ部活にも行かねばならない、それではな、成政さん。お大事に」

 

「そっか、モッピーちゃんも剣道頑張ってね」

 

「ああ、今年も全国に行ってやろうではないか」

 

「頼もしくて何よりだよ」

 

  姿が見えなくなるまで手を振って見送る、と言うベタなことをした後、成政はなんと無く寂しくなった。

 

 この言い知れないような気持ち。

 

 胸に穴が空いたような、なんとも言えない感情。

 

 それに思い当たりそうなものを探して...

 

「...やめだやめ、あいつには好きな人がいるんだし」

 

  顔を真っ赤にして否定する。

 

 あいつは幼馴染に恋をしていて、あいつと自分は選手とマネージャーで。

 

 そう自分に言い聞かせて、布団をかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  マネージャーは、試合には出ない。

 

 会場に来る事はあっても、傍観者だ。

 

 手伝いをするとしても、応援をしたり、せいぜいドリンクを出したりする程度だ。

 

 絶対に、勝負の土俵には上がらない、否、上がれない。

 

 しかし、世の中には、マネージャーから選手になる変わり種も、存在するということを忘れてはならないだろう。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話

 

 

クラス代表決定戦からしばらく。

成政を取り巻く環境は少しだけ変わっていた。

まず、話しかける人が大きく増えたことだ。

あの大騒ぎと、セシリアの謝罪の影響か、1組では女尊男卑は鳴りを潜めた。

一夏がセシリアに対して勝ちに等しい試合をし、実力を示したというのがあるだろう。

その影響もあってか、剣道部入部の時も、成政がとやかく言われることもなく好意的に受け入れられた。

そしてもう一つは、

「一夏さん。わたくしも、練習に参加してもよろしくて?」

「大丈夫だろ。な、みんなっ?!」

「べ、別に構わんが顔が近い!」

「それなら、放課後にミーティングだな」

セシリアが練習に混ざるようになってきたこと。

成政としては、近接格闘の弱点である遠距離攻撃。その専門家を招くことができ、セシリアとしては、近距離戦闘の強化が出来る。

まさにwin-winの関係、なのだが、

「と、ところで成政さん?」

「はい、どうしました?」

「い、一夏さんの好きな料理とか好みのタイプとか好きな色とか服装とか教えて下さいませんか?一緒に練習する仲になったわけですし練習相手のことを知るのは当然ですわよねそうですわね!」

 

 

 

「恋ってなんなんだろうなー」

「あー、なりなりが難しいこと言ってる」

「本音ちゃんは...相談できそうにないか」

「んー?」

乙女心とは如何なるものであろうか。

そう、考える成政だった。

「そのうち石狩相談事務所とでも看板をかけたら面白そうだね。もちろん顧問は俺で」

「マヒロさんはいい加減に勝手に部屋にあがりこまないで下さい。後、相談事務所開設は考えておきます」

「いや考えるのかよ?!」

「選手のメンタルケアは大事ですし」

「まっひーお菓子たべる?」

「たべりゅー!」

前とは違う、女子らしい騒がしさ。

なんか毒されて来たなー、と溜息をつかずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

「第8回 ミーティングを開始します」

「成政は真面目だな」

「真面目よりかは性分のようなものだけどね」

セシリアを混ぜての初ミーティング。

今回のお題は、

「射撃について、だ」

セシリアという専門家を招いた以上、今まで突っ込めなかったこの議題をとりあげることが出来る。そのチャンスを逃すわけにはいかない。

「と言っても今回はあまり詰めるようなことは無し、触りだけでも、って感じ。実物もある訳だし」

「成る程、だから射撃訓練場集合だったのか」

「大正解、今日は空いてたしね」

「成る程、百聞は一見に如かず、ということだな」

「どう言う事ですの?」

「実物を見るのは、話を聞くのよりいい、って事、日本のことわざだ」

学園からの貸し出し、という名目で半ば成政の専用機となっている打鉄を纏う。念じてから装着するのに数秒とかからない。超一流、とまでは行かないものの、ISに触れて1ヶ月の素人としてならば、頭一つ抜けている。

「スムーズですわね」

「いいよなぁ、俺はまだまだ時間かかるし」

「イメージ的には剣道の防具をつける感じなんだが、一夏にはちょっと無理か」

大事なのは想像力、らしい。と今日の講義を思い出しながら、装備カタログを呼び出す。

「ジャンルとしては、特に有名な物ばかり拾ってきた。アサルト、スナイパー、ショットガン、「グレラン」ミサイル...ん?」

「あと大口径キャノンとかガトリングも忘れて貰っちゃあ困りますよ?」

「神上さん?どうしてここに」

「いやいや、ちょっとお手伝いをね」

確かに、今マヒロがあげたものはマイナーな物ばかり、しかし、

(不測の事態に備える点であれば、いいか)

クラス代表決定戦でトンデモ兵器を持ち出している以上、誰かが同じ事をしないとは限らない。そのためにも、と

「...じゃあお願いします」

「かしこまっ!」

マヒロの参加を許可した。専用機を持ち、多彩な兵器を扱う彼女が見本になると信じての決断だったのだが、この後、彼女を参加させた事を後悔する羽目になる。

「じゃあ、追加で色々持ってくるから!」

「...了解しました。カタログデータは下さいね」

 

 

「まずはアサルト。銃の中じゃ一番使われてると思う。山田先生曰く、

『打鉄に装備されている焔火や、ラファールに装備されてるヴェントなんかが扱いやすいですね、アサルトは癖が少ない事が特徴ですけど、特のこの二つはいいですよ』

との事。

まあ、撃てばわかると思うので」

じゃあまずは焔火から、と打鉄のスロットからそれを取り出すと、同じく白式を展開していた一夏に渡す。

「構え方に関しては、セシリアさんに聞いてくれ、僕は説明を聞いてもサッパリだから」

「そうか、じゃあ頼むよ、セシリア」

「はい、かしこまりましたわ」

嬉しさが隠せないのか、軽やかな足取りで一夏を伴って射撃場に向かうセシリア。

恨めしげにそちらを睨む箒に気づいた成政は、

「羨ましいか?」

「別に、そういう、訳では...無いのだが」

「素直に言えばいいのに」

「言えるわけがなかろう!」

珍しくラファール装備の箒にど突かれてよろけそうになり、

「成政さん!」

「あ、ああ、すまん」

箒が背中に回した手で受け止めた事で事無きを得た。別に倒れてもISがあるので怪我をする事も無いのだが、半ば反射的なものだ、仕方がない、のだが、

「すすすすすまん!すまんがか、顔が」

「そ、それは申し訳ない事を、した..」

うっかり力加減を間違えて持ち上げ過ぎて顔が目の前まで迫ってくるという、こんなラブコメは、想定外なのだった。

(やばい滅茶苦茶綺麗やべーかわいいいやいや待て待て箒は一夏に恋してるんだから出しゃばって拗らせるわけには行かないしそう気のせいだから気のせいということにしようでも照れた顔が...ってそうじゃなくてそうだったレポート書かなきゃいけないんだった他ごとなんか考えられないなはははは)

(なななななんということを私はいや成政さんの顔を近くで見られてむしろって何を考えているのだ一夏が好きなのだろうそもそも一般的に見れば成政さんよりも一夏の方がずっとイケメンというかでも意外と悪くってあああああ!)

照れ隠しにひたすらレポートを打ち込む成政とめちゃめちゃな素振りをして気を紛らわそうとする二人は、

((どうしてあんな奴になんか...))

 

 

なったばかりの恋人みたいだったと、3組のM.Kさんは語った。

「見てるこっちがハラハラするんですよ。素直に告ってくっつけばいいのに。

それが世界崩壊の危機とかのタイミングだったらなお良しなんだけど、さすがに上手くは行かないか」

 

 

 

「ふぃー、終わったー」

「一夏さんは筋がいいですわね。このまま教えてあげれば、かなりのものになりますが、白式は剣だけなのでしょう?」

「ああ、なんでも零落白夜の再現でスロットが埋まってるんだって」

「それが惜しくてなりませんね...って」

「「何してるんだ(ますの?)」

射撃場から戻った2人を出迎えたのは、

「いや違うからそんな訳ないしそもそも似合わないっていうかちゃんと最初なんだしそもそもあんな言葉があるくらいだし...」

音声認識ソフトをオンにしてるせいで独り言をレポートに書き込み、それに気付かない成政と、

「そんな邪念があるから剣が鈍るのだ今日明日が主将にみっちりしごいてもらわねばついでに一夏と成政さんに見てもらってってなんか今日はいつもより調子が悪いな...」

トチ狂ったのか何故かアサルトライフルで素振りをしている箒。

どう見ても、何かあったに違いない。

「なあ、2人とも顔が真っ赤だぞ、何があったんだ?」

「「何でもない」」

「いや、でも」

「「な ん で も な い !」」

「あっ、はい...」

2人の鬼気迫る表情に鈍い一夏でもこれ以上踏み込むのはまずい、と気が付い

「箒、さっきよりも顔が赤いぞ、風邪か?」

「な、ななななな...」

「んー、熱は無いみたいだが」

この男は、どうしようもなくニブかった。

互いのおでこをくっつけて熱を測るという光景を目にして、

「神上さん」

「はいはい、何でしょう?」

「大火力兵器のデモンストレーションを見てみたいんですけど。対戦相手はセットするので」

「いいんですか!いやー、最近シュミレーターが処理落ちするからって出禁喰らったので、ありがたいですねー」

 

 

「ところで一夏、聞けばお前の武器剣だけなんだってな」

「ああ、雪片だけだぞ」

「神上と戦ってみろ。多分いい経験になる」

「...?何だ突然、別にいいけど」

「最後に一つだけ」

「何だ?」

「いっぺん死んでこい」

「......は?」

 

「...あの、成政さんがとても言い表せないような鬼の表情をしているのですが」

「あれは、ストレスが限界突破寸前の時の顔だな。だが突然、何でだろうな」

「さあ、何故でしょうね」

「おい、セシリアは何故笑っているんだ」

「さあ、何故でしょうね?」

訳知り顔でニマニマしているセシリアは、何かを察しているようだが、

「おい、教えろ!」

「それは自分で気づくべきことですわー」

「いいから教えろ!何が言いたいのだ」

「さあて、何故でしょうね」

箒にはそれがさっぱりわからなかった。

 

 

 

「汚ねえ花火だー!」

「ぎゃああああああああああ!」

「たーまやー」

 

 

 

 

「じゃあ、また呼んで下さいね!」

妙にキラキラしたマヒロを見送り、

「じゃあ、私は一夏を保健室に連れて行くから」

「わ、わたくしも同行いたしますわ!」

「...やだもう、ぐれねーどこわい」

あまりの恐怖に幼児退行した一夏を連れて行く箒とセシリアのために保健室に連絡をし、

「訓練場使用終わりました」

「はい、お疲れ様」

訓練場の掃除、そして使用証明書を書いて、

「んー、今日も疲れたー」

成政の一日が終わる。

本当ならシャワーを浴びたり、予習復習や宿題をやったりするのだが、今日は珍しく宿題もなく、予習も終わっている。

今日の反省は、明日、セシリアと頭をつきあわせながら問題を洗い出すことになっている。

つまり、消灯時間まで暇をもてあますことになった。

ルームメイトの本音は大浴場の使用時間のため部屋を出払っている為、しばらくは1人。

汗でベタベタだし、とインナーの間に風を入れながら部屋に入る。奥の冷蔵庫からスポドリを取り出し、ニュースでも、と振り返ると、

「やあやあ、みんな大好き、大天災の束さんだよー?」

「...はい?」

疫病神が、そこにいた。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話

UA5500
お気に入り58。

ありがとうございますっ!(五体投地


 

 

 

「やーやー、びっくりした?」

不可思議なコスプレをした女性を見て、また不審者か、と成政は失礼にもそう思った。

この前も自称ロマン妖怪が侵入してきたばっかりで、そう言ったことに慣れてきたのだ。

この場合の対処法が一つ、

「はいはいびっくりしましたねー」

適当にあしらってさっさと織斑先生を呼び出すに限る。元世界最強だ、そこらへんの人ならば簡単に叩き出せる。

部屋の真ん中にいた束を避けるようにして、内線電話で寮長室に電話をかけようとすると

「ざーんねーん。邪魔は入らせないよ?」

「なっ...!」

どういった理屈か、受話器がパーツごとにバラバラに分解された。

「へっへーん、天災に不可能はないのだよ」

自慢げに笑う束、裏表もなく、ただ楽しそうに笑っているが、成政には、それが異常者が笑っている様にしか見えない。

「僕に何か用ですか?」

こいつはヤバイ、何かわからないがとにかくヤバイ。

そう警鐘を鳴らす本能をできるだけ押し殺し、彼は話を続ける。その間に練習用の木刀が立て掛けられている方に少しづつは進んでいるが、どうせ狙いは把握されているだろう。

「いやいや、本当は箒ちゃんの顔を見に来ただけなんだけどね。いつまでも君が箒ちゃんの隣にいるからさ、気になっちゃってー」

「ただの選手とマネージャーの関係だけ、ですが」

「ええー、本当にそうなの?」

明らかに箒と成政の関係をそれ以上、と疑っている。確かに一切そう言った感情が無いとは彼は言い張れないが、箒に思い人がいる以上引くつもりではある。

「選手とマネージャーで恋愛なんかがあると、部活が上手く回らないので」

そう、自分に言い聞かせている。

「ところで、足の調子はどう?」

成政の体をジロジロと眺めていたかと思うと、突然別の話題を飛ばしてきた。

「......まあ、おかげさまで」

「またまたー、悪くなってるよ?」

「医者にはちゃんと良くなっていると言われています」

「じゃあそいつはヤブだね、まあ私は天災だから敵うはずも無いだろうけど」

どこからその情報を仕入れたかは知らないが、事実だ。実際に成政の足は悪化している。

無理はしていないが、歩くだけで痛むようになってきている上、もう2、3年すれば歩けないかもしれない、と言われている。

「こんなゴミに構ってる時間なんか無いと思ってたけど、有意義な時間だったよ」

待っててねいとしの箒ちゃーん、と言ったかと思うと、空気にでも溶けるように消えた束。「ただーいまー」

「......」

「んー?なりなりどうしたのー」

「......なんでもない」

「そっかー」

「そういや、名前名乗り忘れたな」

人間、規格外なことに遭遇すると、一周回って普通のことしか考えられなくなるらしい。

 

 

 

 

 

 

「最近勝てないんだ、なんでだろう」

「簡単にわかればマネージャーはいらないよ」

「「はぁ......」」

練習がオフの日の放課後。男子2人は、中庭のベンチで話しこんでいた。

「千冬姉は、カタログスペックでは勝ってるんだから、負けるのはおかしい、って言うし」

「あの人は感覚派だから、アドバイスの貰いようもないしなあ」

「はあ、俺は強くならなきゃいけないのに」

そううなだれる一夏。クラス代表決定戦からも、時々3人で模擬戦をしているが、一夏は未だに白星を挙げられていない。

それが悩みなのだろうが、成政の見立てではすぐに勝てる様になるはずだと踏んでいる。

センスは、一夏は十分に持ち合わせている。それこそ、世界一位を取れるほどに。しかしそれを生かせる経験値がない。単純に場数が足りていないだけで、もう2、3ヶ月もあれば勝てる様にもなる。

「男だからって気張る必要もないんだよ。もっとのんびり行こうぜ?」

「いや、そういう事じゃなくて、さ」

そういやお前には話してなかったか、と成政に向き直る一夏。

「物心ついた時から両親はいなくて、ずっと千冬姉が家計を支えてたんだ。高校の時もずっとバイトして家にいなくて、卒業しても家にいなくて、気がついたら世界一位だ。

だから、次は俺の番なんだよ。

俺が、千冬姉や、みんなを支えてやりたい。守ってやりたい。だから、強くなりたいんだ」

「お、おう......」

(これはまた重い過去だな、想定外なんですけど)

純粋に姉に勝ちたいだの、かっこいい姿をみんなに見せたいだの、という普通の理由を思ってたので、正直重すぎて辛い。過去には色々相談事に乗ったりしていたが、その時はもっと、日常的な悩みばかりだった。

「これ以上さ、千冬姉に無理させたくないんだよ。あんなんじゃ貰い手もいないだろうし、そろそろ花嫁修行の一つや二つ」

「そっちが本音か」

「だってさ、千冬姉今「放送禁止」歳だぜ」

「マジかよ、アレで「放送禁止」歳」

《織斑先生が今幾つなのかは、プライバシーの保護のため放送禁止とさせていただきます》

「そんでさ、なんでマネージャーやってるんだ?」

「前に話さなかったか?怪我で辞めたって」

「そうなんだけど、だったら辞めればよかったじゃないか」

「そりゃあ、剣道が好きだからな」

「辛くなかったか?」

「辛い?どうしてまた」

「だってさ、自分にできないことを、他人が楽しそうに目の前でやってるんだぞ。俺は、辛くて見てられないよ」

不器用なりに自分のことを心配してるのか、それとも純粋な興味なのか、とも取れるような一夏の言葉。少し悩んでから、成政は、

「出来ないから辛いとか、一夏は自分の価値観を人に押し付ける気があるな」

「そうか?そんなつもりはないけど」

「1回目のミーティングの時もそうだったじゃないか、あの時も戦えだのどうの」

「あ、あれは多少勘違いもあったし......」

歪んでる、とそう言外に告げた。

言い訳をしようと他所を向く彼に詰め寄ると、真っ直ぐに目を見て話す。

「一夏は、優しい。お前は人が困ってたら放って置けないし、他人が馬鹿にされたら憤る、そういう男だ。だがな」

脳内に、歪んだ生き方を貫くと決めた、あの赤い髪が思い浮かぶ。

「それに、自分の価値観を押し付けて、不幸そうに見えるから、とか、自分から見て可哀想だから、そんな感情が相手を逆に不幸にしてしまう、という場合も無いわけじゃない」

 

『所で衛宮、お前将来どうするんだ?』

『俺か?俺は、正義の味方になるんだ』

『......お前まじで言ってるの?』

『ああ、歪んでいて、捻くれて、修羅の道だってわかってる、だけど』

『だけど?』

『......親父と、俺との約束だからな』

『そうか、頑張れ』

 

「それを今すぐ変えられるとは思わないし、変えろというつもりもないけど、せめて自分がわがままを言っている、とか、これは俺の考えを押し付けてるだけだ、とか前置きする様に心掛けろ」

無自覚と自覚してるじゃ差もあるからな、と付け足す。どこか見当違いと言われてしまうかもしれないが、仲間の精神を正すのも、マネージャーの役目である、と思っている成政。

実際は、相談事という名のただのお節介だが。

「わかった、成政がそう言うんだし、これから少し心がける様にするよ」

「ま、僕が正しいこと言ってるとも限らないし、心の片隅にでも置いておくことをオススメするよ」

悩みが少しでも晴れればいいんだがな、と成政は空を見上げた。

「でさ、話を戻すけど、なんで剣道を続けてるんだ」

「人がうまいこと有耶無耶にしようとした話をなんで覚えてるかな」

「あ、言いたくないなら」

「相手に散々言わせて自分が言わないのは無しですよっと」

成政は椅子から立ち上がると、立て掛けていた杖を肩に担いで、一夏に向き直る。

「他人であれ、自分であれ、何かに真剣に向き合う姿は、かっこいいじゃんか」

 

 

 

翌日

「「なんじゃこりゃああああああ?!」」

週に一回程クラスに張り出される、新聞部の書いている新聞。いつもはくだらないゴシップだったり、アリーナの使用状況だったりと言った内容なのだが、

《男子2人の密会 秘密の放課後》

明らかに見出しに悪意しかない。

あからさまにBLなのだ、アイエエエ!

写真のアングルも、ちょうど成政が一夏に詰め寄った所であり、よく見ると手が重なっている様に見えなくもない(もちろんそんなことはない)。

成政は一夏に頼み、掲示板からあるだけ新聞を剥がしてもらい、

「......よし。織斑先生に報告しよう」

「そうだな。千冬姉はこう言うの嫌いだし」

面倒ごとは織斑先生、最近成立した1年1組のルールだ。その結果事態の解決は速やかに進み、この記事は闇に葬られる事となった。

「ちゃんと撮影許可は取らんか、馬鹿者。写真は没収、罰として『新聞部全員』アリーナ10周だ」

こんな一幕があったとか無かったとか。

 

 

 

「織斑×石狩ね」

「いいや、石狩×織斑ね」

「薄い本が厚くなるわね。今年の夏は忙しいわよ!締め切りちゃんと守りなさいよ?」

「「「おう!」」」

「あの、大学受験は......」

「「「物事に犠牲はつきものよ!」」」

「それは犠牲にしちゃいけないものだと思うんですけど」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話

某Aから始まるフロムゲーがやりたい。
成(おい、受験はどうするんだよ
作(アッハイ


 

 

5月、世間では新しい環境にも慣れてきたりする事だろう。ここ、IS学園も例外ではなく、

「おはようみんな」

「おはよう」

「おはよー織斑くん、石狩くん」

「おりむーおはよー」

当初は浮いていた男子も、1ヶ月も経てばだいぶクラスに馴染み、挨拶くらいは返ってくるようになった。

「ねーねー、石狩くん、ちょっとした噂があるんだけど」

1組のムードメーカー、相川さんがちょいちょいと成政に手招きしていたので、素直についていく。クラスメイトと親睦を深めておいて悪いことはなく、パーティーに行けなかったこともあり、成政は積極的に絡みに行くようにしていた。

「して、噂とは?」

相川は周りを見回して、憚るように少し音量を下げて、

「2組のクラス代表、変わるんだって」

「なんと。どういうことだ」

クラス代表戦も近い今、少しでも他組の情報は拾っておきたい所だ。試合前にもう情報戦は始まっているのだ。

「えっと確か......何処かの国の代表候補生だとか何とか。しかも専用機持ち」

「これは、ちょっとキツイな。あの時はまぐれだし」

セシリア戦の時は、ブルーティアーズが試作ISで、かなり性能が偏っていたからこそ、その隙をついた戦略を立てることができた。しかし、毎回そうとは限らないし、何より学校の訓練機と専用機では差がありすぎる事を身をもって知っている。

「何話してるんだ、成政、相川さん」

「あ、織斑くん。2組のクラス代表、変わるらしいんだって。今はカナダの代表候補生で、専用機はなかったんだけど、噂によれば専用機持ってるらしいよ?」

「せっかくのアドバンテージがな」

「あ、そうか。専用機持ってるの1組と3組だけなんだっけ」

「正確には4組もなんだが、まだ調整段階だから出せないらしいから、実質1、3組だけだな」

ミサイル全てをマニュアルで飛ばす変態機体、とマヒロが言っていたようないなかったような、と言いかけた時、

「その情報、古いわよ!」

鶴の一声、とでも言うのだろうか。

その声に反応して、全員が振り向いた。

茶味がかったツインテールに、黄色いリボン。

戸口にもたれかかり、腕を組んで格好をつけている、女子生徒。

スタイルがよければかっこよく決まっていたのだろうが、

「......似合わないねえ」

「わかる」

「何よ、文句でもあるって言うの?」

「いや、別にないけど......ねぇ」

「まあ、人それぞれだし」

「だから何が言いたいのよ!」

どことは言わないが、その少女は平坦であった。それはさておき、

「鈴?鈴じゃないか!」

「久しぶりね、一夏っ?!」

「邪魔だ馬鹿者。クラスに戻らんか」

間がいいのか悪いのか、感動の再会(?)は織斑先生の出席簿によって遮られ、

「くっ、待ってなさいよ!」

どこかで聞いたような捨て台詞を吐いて退散することとなった。

 

 

それから時は流れて昼休み。

「ふふふ、逃げずにきたわね、一夏」

「券売機の前に立つなよ、みんなの邪魔になる」

「......そこのテーブル空いてるし、そっちで食べましょ」

なんだろうか、この地味にポンコツでやり辛い雰囲気は、と思いながらうどんを頼む成政。

(しっかし、レパートリーが豊富なことで)

日本にあるからこそ日本料理は多いが、世界各国の料理が取り揃えられているこの食堂。

それでいてちゃんと健康を気遣ったメニューや、ダイエット食まであるとなると、

「日本人は食に対しての意識、謎だよなあ」

なんで日本人は食事に対してこんなにも全力なのか、と思わずにはいられないのだ。

出てきたかき揚げうどんに七味をかけながら、噂の2組転校生の話を聞いていたのだが、

「私はね、中国の代表候補生なのよ!」

「凄いじゃないか!」

「中国、八極拳が有名か。何か武道でも嗜んでいるのか?」

「中華といえば三国志だな。あれは面白い」

「あら、これ美味しいですわね。一夏さん、これなんですの?」

「ああ、チキン南蛮、かな?セシリアがそうまで言うなら一口くれよ」

もれなく全員がスルー。

「ちょっと無視するってどう言うことよ!」

バン、と卓を叩いて怒りを露わにし、

「特に一夏、何で私を無視するのよ!」

「いやだってセシリアが......」

「だってもへったくれもないわよ!」

ギャーギャーと騒ぐ2人に挟まれるセシリアだったが、

「あら、日本食って美味しいのですわね」

「厳密には違うとは思うが、まあいいだろう」

「味噌汁の作り方ぐらいは教えられるよ?」

「あら、では今度の週末にでも」

貴族社会で高いスルー技術でも身につけていたのか、他の2人とさも当然のように会話していた。

「と言うか一夏よ、その女は誰なのだ?とても馴れ馴れしいが、何か接点でもあったのか」

「ああ、鈴とは」

「幼馴染なのよ!」

とにかく自己主張が激しいタイプらしい鈴。

正直こう言ったタイプとはソリが合わないのだが、と思いながら七味をかける成政。

「一夏とは小5からの付き合いで、......ってあんたいつまで七味かけてんのよ!」

「えっ?」

皆が成政のうどんを見ると、

「いやだって、これくらいかけるでしょ」

「中国人だってかけないわよ!」

「えっ、それは......」

「何がおかしいんですの?」

こんもりと山になるほどに盛られた七味の山が。それをさも当然のように混ぜている成政。

周囲を気にせず真っ赤になったかき揚げを齧り、

「んで、話の続きはいいの?」

「そうでしたわね。えっと......鳳 鈴々でしたっけ」

「あんまりその呼び方は好きじゃないし、スズでいいわ」

「わたくしはセシリア オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

「あら、そうなの、よろしくね」

「こちらこそ、よろしく頼みますわ」

和やかな雰囲気で握手を交わしているように見えるが、

(ああ言うのって大体腹の中では黒いこと考えてるんだよな、遠坂さんとかまさにそれだし)

おほほほほ、と笑うあかいあくまを脳内に浮かべながら、そんなやりとりを眺めている成政であった。

「おい、一夏」

ガタリ、と席を立つ箒。一夏の方へ歩み寄ると、

「幼馴染とはどう言うことだ、1から10まできっちり説明しろ!」

一夏の胸ぐらを掴んでガックンガックン揺すり出した。

「箒落ち、落ち着け!今そこを持たれると」

「ストップモッピーちゃん、ステイ!」

「いいから話せええええええ!」

「やばい、吐きそう......おえっ」

「「「一夏(さん)?!」」

結局青い顔になっただけで済みました。

 

「なるほど、私が転校した後か」

「そうなんだよ。結局中二の夏にあっちに帰っちまったけどな。こうなるとは思ってなかったよ.....」

「IS操縦者、しかも代表ともなれば給料はいいからねっ。家族が今大変だし、私が頑張らなきゃ」

「家族か......」

「少し、羨ましいですわね」

(その薄い)胸を張りながら誇らしげに語る鈴の笑顔が眩しいのか、その他2人はどこか遠くを見ていた。

箒の両親は音信不通、セシリアに至ってはこの世にはいない。だからこそ、親孝行をする鈴が眩しく見えたのだろう。

「「「「ご馳走様でした」」」」

日本式に両手を合わせて挨拶をする。

食器を片付けながら、一夏が成政に話しかけてきた。

「なあ、成政。お前の家族ってどうしてるんだろうな」

「どうした藪から棒に?」

「いや、こうなった訳だし。箒みたいに、要人保護プログラム、が適用される訳だろ」

なんか申し訳なくってさ、と暗くなる一夏を知ってか知らずか、

「さあ、兄貴は考古学者だから世界中飛び回ってるし、両親は......今多分アラスカで自給自足してるし」

暗さを吹き飛ばすように、この前手紙が来たぞ、と笑う成政を見て、

「家族、かぁ......」

朧げな、今はいなくなってしまった両親の記憶を思い出す一夏だった。

 

 

 

「さて、クラス代表の噂も本当だった事だし」

「15日のクラス対抗戦、だな」

「ああ、それを見据えての作戦会議だ」

そして放課後。いつも通り一夏の部屋でミーティングとなる。

「使う専用機だが、公開された情報をかき集めてみた」

部分展開したISをプロジェクター代わりにして画像を投射する。

「近接タイプで、メインは青龍刀が二本。しかも白式のようなふざけた機構もついてるようには見えない、だから」

「隠された機能がある、と言う事ですわね」

「第三世代、と明記されてるしな」

「......あの、第三世代ってなに?」

ISにおける第三世代とは、イメージインターフェイスを使用した特殊な機構を搭載するISを指す。例を挙げるとティアーズのビットなどだが、

「座学が疎かな一夏のために説明すると.......なんだろう、超能力?」

「そんな胡散臭いものと一緒にしないで貰えます?」

まだ男子2人は勉強が足りない様子だった。

「要するになんか凄そうな能力だが、その対策だけはどうにもならない」

だから対二刀流のトレーニングをする、と言ってプロジェクターの電源を落とす。

「と言うわけで、衛宮、聞こえてるか?」

「ああ、バッチリだ」

突然聞こえてきた男の声に思わず辺りを見回す一夏とセシリアだが、

「そこの2人、コッチだ」

手に持ったスマホを指差して示す。そこには、

「なあ、本当に俺でいいのか?」

「はあ?二刀流使いなんて偏屈のお前だけなんだよ。専門外だ」

「はい。シロウの刀さばきは眼を見張るものがあります、自信を持ってください」

「が、頑張ってください!」

「アルトリアがそう言うんなら......」

「おい、ラブコメはいいから始めてくれ」

画面外で誰かと話していた人影が座る。

「あー、衛宮士郎だ。成政と同じ高校で剣道をしていた、先輩だからってかしこまらなくていいし、どんどん質問をしていってほしい」

赤い髪に、青と白のTシャツをきた精悍な青年がそこにいる。

「二刀流、対策だったな。俺流でいいなら、いいぞ」

「大太刀は篠ノ之流があるが、二刀流なんて殆どいないからな、頼む」

「ああ、任せろ、まず......」

メモはしっかり取れよ、と事前に手渡していたメモ帳とペンを手に取る3人。

だいぶ勤勉になってきたな、と一歩引いた立ち位置で成長に涙するおっさんくさい成政だった。

 

 

 

「二刀流は、性質上パワーが無い。その代わりに手数で補うんだ、意見としては、いっそのこと力押しがいいかもしれない」

「成る程......あ、俺が使っているのは太刀ぐらいの刃渡りなんだが、お前ならどうする?」

「太刀か......防御するときは刃を目一杯使い、攻撃するときはリーチと遠心力を生かして相手の一歩外からされるとこっちは少し嫌だな」

「成る程、ありがとう」

「突きを戦術のメインとして組み立てるのはどうだ?二刀流とはいえ防御は難しいだろう?」

「逆、かな。片方で逸らして、片方で切りつける。むしろやり易いかな。槍よりも交戦距離は短いんだし、手痛い反撃をくらうと思う」

「ふむ、ダメか」

「では、二刀流、その弱点を補うとしたらどうですの?」

「実践、でだよな。うーん、おーい慎二!」

セシリアの質問に詰まり、外野に助けを求める士郎。呼ばれてきたのは、濃い紫色の、海藻みたいな髪をした士郎と同じくらいの背格好の男だ。

「僕忙しいんですけど......」

「二刀流の弱点を補うとすれば、だって。ロボットゲームやってる慎二だったら何か言えるだろ?」

「はあ、全くしょうがないなぁ」

士郎を押しのけてカメラの前に座り、心底嫌そうな顔をしながらも話し出した。

「データを見る限り、接近戦よりだろ?僕だったら、格闘戦を余儀なくさせるような装備を積む」

「......どう言うことですの?」

「簡単なのにどうしてわかんないかなぁ」

これだから凡人は、と呆れてため息をつく慎二の態度に、少し苛立つセシリアだったが、一夏の前ではみっともない姿は見せられないとその態度を抑え込む。

「ショートレンジメインの機体でやられると嫌なのは、とにかく射程に入らせないようにチマチマ攻撃される事。嫌なことをされれば勝てないんだから、その対策を考える。

だったら、一発デカいキャノンを積むなり、ミサイルガン積みするなり、それこそその白式?みたいに紙装甲高機動にして弾幕をくぐり抜けるしか無いけど、見た目は重装甲、その線はどう見てもない」

これだからnoobは嫌いなんだ、という慎二。

「成る程、ありがとうございますわ」

「ふん、当然のことだろ」

さっさと代われよ、と士郎を無理やり座らせ、画面から消えていった慎二を見送りながら、

「彼、どういった人なんですの。随分ゲームに詳しいですが......」

「ゲームの世界トップランカー、だってさ」

将来はプログラマーになる気らしいけど、と語る成政。

「......ゲームも意外と侮れないのですわね」

これをきっかけに、セシリアがFPSにはまることとなるのだが、それはまた別のお話。

 

 

「時間も時間だし。続きは次回だな」

「ああ、おやす......」

「邪魔するわよー!」

消灯時間も近いというのに、一夏の部屋を訪れた鈴。これが、少しの波乱を呼ぶこととなる。

 




成政のヒロインが増えるかもしれない、という悩み。
意見あればどーぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話

お気に入り70
UA7000

7が多いなぁ(気のせい。

原作持ってないからイベントわかんない、辛い。


 

 

 

「うおっ!なんだ鈴か、どうしたんだ?」

「へっへーん、引越しに来たのよ!」

肩に下げていたボストンバックを降ろし、部屋に上がり込もうとする鈴を箒が咎める。

「引越し、だと?ここは3人部屋では無いが」

「何言ってんのよ、あんたが出て行けば、って後ろの2人は何してるのよ」

「「何もしてないよ(ですわ)!」」

「あっそ。それで......」

さっきまで対策会議をしていた事を悟られては不味い、と証拠隠滅を図るセシリアと成政。

バレないかとヒヤヒヤしていたが、鈴の興味が別に移った為、胸をなでおろしていたのだが、

(......なんで同じ事してるんだろ)

(やっぱりこの男、気に入りませんわね)

まだ仲直りを済ませていない為、同じ事をされると少し苛立ってしまう。なのでこの後軽く軽口でもいうつもりだったのだが、

「そちらの意見には全くもって正当性がないでは無いか、そんな女に私の部屋は渡さん!」

「はあ?私と一夏が同じ部屋になるのは当然でしょうが!」

「2人とも頭を冷やせって、おい!」

それどころではなくなっていた。

 

 

 

 

「2人とも落ち着けって、なあ」

一夏は良くも悪くもみんなに優しい。

それ故に、どっちが悪いとははっきりと言えないし、強く出られない。

だからそんな一夏の言葉は2人に届かない。

「うるさいうるさいうるさい、いいからでてけって言ってんでしょ!」

「断る、理由がない」

正義は我にあり、と堂々とした態度で臨む箒。

セカンド幼馴染か何かは知らんが、どこの馬の骨とも知らない奴に一夏は渡さん、とでも言うように立ちはだかる。そんな彼女に対して、鈴は決定打がない。

「ぐぬぬ......」

だが、彼女は負けるのが嫌だった。折角1年も会えなかった思い人と同室になるチャンス。しかも彼とは別クラスなので、こうでもしなければ日常的に会うチャンスはなくなる。

だから、なりふり構ってはいられなかった。

「ふん、どうせもう1人の男子とつるんでるんでしょ、あんな意気地なしの!そっちの部屋にでも行けばいいじゃない!」

言ってはいけない事を、言ってしまった。

 

 

 

スタン、と軽い音が部屋に響く。

それと同時に、鈴の顔が青ざめる。なぜなら、

「事情も知らないくせに、よくもそんな事を言ってくれたな」

箒が木刀を投擲し、鈴の顔の真横スレスレに突き刺したからだ。

左は残心を取っているが、箒は右手にもう一本木刀を持っている。

何をしようとしているかは、言うまでもない。

「あの人の何も知らないくせに、そんな事を言うな!」

「ひっ」

怒りの為すままに、箒は木刀を振り下ろし、

「人に木刀を向けるなって習わなかったのか」

割って入った成政に止められた。

もちろん真剣白刃取りなどできるはずもなく、咄嗟に持っていた杖で木刀を受け止めた形になる。だが、半ば滑り込むような形で割って入った以上、姿勢は崩れたまま。力で抑え込まれ、

「おい成政、血、血が!」

「大丈夫だ、問題ない」

頭から血を流す結果となっていた。

「すまない、大丈夫か」

「は......はい、大丈夫、です」

折れ曲がってしまった杖を使わず、壁を支えにして立ち上がり、鈴に手を伸ばす成政。彼女を助け起こすと、一夏とセシリアには、この事を他言無用に、と口止めをした。

「なぜですの!あのままでは、鈴さんは死んでいたかもしれません、それを他言無用に、とはどう言う事ですの?!」

「箒のあれは......深くは聞かないでくれ」

「ですが!」

「......分かった。成政にとっては、その方が良いんだろう?」

「一夏さん?!」

「すまない、恩にきる」

憔悴した箒と鈴には、一夏と自分の部屋のどちらかで休むように、そう伝えてほしいと言って、自分は軽く頭にタオルを巻くと部屋を出ていった。

成政が壁伝いに歩き、向かった先は、

 

 

 

 

「成る程、この事件をなかったことにして欲しい、と」

「はい、こんな事があれば、2人は退学、ないしは経歴に傷が出来ます。箒は剣道の天才です。鍛えればいずれ、貴方を超える。それほどの才です。凰さんは、たった1年半で代表候補に登りつめた実績があります。

あんなに優秀な選手を、自分のせいでダメにはしたくありません。お願いします」

成政は、寮長である織斑先生に話を通すことにした。あれだけ大きな物音を立てれば、誰かが気づく、その前に先手を打っておく、という判断だ。

「しかし良いのか?かなり無理をかけただろう」

「まあ、マネージャーくらい使い潰しても結構ですし、大丈夫ですよ」

「まあ、そうは言うが、体が資本だろう、大切に扱え。それに、倒れれば、悲しむ人もいるだろう」

「あはは、同室の本音さんには迷惑をかけます。ちゃんと謝っておかないと」

「......そうか、SHRで話は通す。病院に送っていこう」

「ありがとうございます」

成政は深々と頭を下げると、そのまま椅子に大きくもたれかかった。

車を寮の前に回すから呼ぶまで待っていろ、と部屋を出て行く織斑先生。

それを見届けてから、大きく息を吐く成政、

「ああああああ怖かったあああああ!」

死の恐怖なんて、一般人であればそうそう味わえるものではない。諸事情により成政はその手の事に少し巻き込まれていた所為もあって経験済みだが、慣れるものではない。

「はぁ、また、やっちゃったか」

 

 

 

翌日、

「朝のショートを始める、日直」

「起立、礼!」

いつも通り、の毎日になるはずだったが、

「ちふ......織斑先生!」

「なんだ織斑?」

「成政は、今日は休みですか?」

窓際最後列、もう1人の男子の姿は、そこに無かった。

「ああ、そうだ」

織斑先生は出席簿からメモを取り出すと、

「今日は石狩、篠ノ之は欠席だ。石狩が階段から落ちて頭を負傷、それを見てしまった篠ノ之が心労で倒れてしまった。石狩は今日1日は病院で検査だ。すぐに戻ってくるだろう、篠ノ之も同じだ。他に何かあるか?」

誰も何も言ってこないのを確認した後、

「では、織斑、オルコットはこの後職員室に来るように。では、SHRを終わる」

つかつかと教室をを出て行ってしまった。

一拍おいて何の事か理解したセシリアが一夏の手をそれとなく掴んで、教室を飛び出した。

織斑先生を追いかけた2人は職員室、ではなくその奥にある応接室に通される。そこには先客がいた。

「あんたらもか、成る程ね」

「そう言うことですの」

「やっぱりか」

今日は休みの2人を除けば、昨日の事件の目撃者。そうなれば、大体の想像はつく。3者とも似たような反応を見せたところで、織斑先生が入って来る。3人に座るよう促し、彼女は反対側に座った。

彼女は3人の顔を見てから、大きく息を吸い込んで、話し始める。

「1組の2人は知っているだろうが、もう一度話す。

昨晩、階段を降りていた石狩が階段から落ち、頭部に怪我を負ってしまった。それを見てしまった篠ノ之は、強いショックを受け、その両名は今日は休みだ」

「そう言う事になっている、の間違いじゃありませんこと?」

「ああ、その通りだ」

織斑先生が暗に言っているのは、昨夜の事件をなかった事にする、だから話を合わせろ、という事。

「納得いかないでしょ」

異論を挟んできたのは、今回の被害者の筈の鈴だった。

「おかしいでしょ!確かに私は中国の代表候補生で、怪我でもしたら外交問題になる。けど、そんな面子の為にこんなみみっちい工作をしたって言うの、おかしいじゃない!」

「しかし、鈴さん」

「でももだっても無いわよ!

私が事件を起こした元凶だって事ぐらいわかるわよ、だから、自分のケジメくらい自分で」

「そう言うよう伝えたのは、石狩だ」

ヒートアップしていた鈴が、固まる。

「優秀な選手を、ここで終らせるのは惜しい、だそうだ」

「は、ふざけてんじゃないわよ!おかしいんじゃないの?あんな怪我までして、あいつも庇いだてするって訳?」

「成政は、そう言う奴なんだよ」

先程から俯いたままの一夏が、口を開く。

「まだ会って1ヶ月も経ってないけど、あいつはそう言う奴なんだ。

鈴は意気地なしって言ったけど、あいつは、選手を怪我でやめてしまったんだ。

それでも、あいつは剣道が好きで、マネージャーをやってる。剣道でみんなが頑張る姿が好きだからって、言っていたんだ。でもさ、

 

あいつが悔しくない訳ないじゃないか、俺には笑って言ったけどさ、悔しくない訳ないんだよ。

 

選手をやめる、その悔しさを知ってる、だからこそ、あいつは他の奴にやめて欲しく無い、道を閉ざされてはいけない、って」

そう、思ってるんじゃないかな。

妄想まみれで、ただの想像かもしれないけど、とそう付け加えたが、一夏の言葉は、まさに成政が思っている事そのままだった。

「あと、成政から伝言だ。

『箒が帰ってきたら、変わらず接してやって欲しい』、だそうだ」

授業までには戻れよ、と言って出て行く織斑先生を誰も見ることはなく、3人は、思考の海の中に沈んでいた。

結局、3人は授業に遅れ、一夏とセシリアは仲良く出席簿を貰うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私は、またやってしまった、のか。

部屋の隅に放った木刀を取れば、あの時の光景が蘇る。

切っ先に、拭いても取れなかった、うっすらと残る血の跡が、現実を私に突きつける。

お前は、人を殺しかけたんだぞ、と。

あの時はとにかく頭が真っ白で、気がついたら、あんな事に......

「やめ、やめろぉ!こっちに来ないでくれ!そんな目で私を見ないでくれ!」

あの時の皆の目まで、蘇る。

鈴の怯えた目。

セシリアの困惑した目。

一夏の責めるような目。

そして、成政さんの、いつも通りの、目。

モッピーちゃんは悪くないから、さ。そんな声まで、聞こえてくる。

「どうして、どうしてわたしを責めてくれないんだ、どうして、楽にしてくれない」

鈴のように、ずっと怯えてくれれば自分の過ちを見つめ直したのに。

セシリアのように、困惑しながらもしっかりと理詰めで責めてくれれば良かったのに。

一夏のように、真っ直ぐ立ち向かってくれれば気が楽だったのに、なのに、

「どうして、あんなに怒らないの......」

どうしてあんなに期待した目を向ける、どうしてわたしの奥を見つめてくる、どうして、どうして、どうして、

 

わたしをせめてくれないの?

 

 

「私は、バカだよ。今も昔も、変わらないのに、何で、なんで、なんで......」

 

わたしの独白は、誰にも届かない。

ただ、闇に溶けていく......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰か、助けてよ。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話

スマホ投稿だと誤字脱字が酷いww

......もっと気をつけよ。

UA8000!

......原作を揃えるべきだろうか?


 

 

「結局来なかったな、成政」

「ええ、大丈夫でしょうか......」

「ところであの、箒だっけ?そっちは」

「来てるには来てるけど、話しかけようとしても逃げちまうし、どうにもならないよ。2時間目にはもう帰っちまったし」

 

昼休み、一夏、セシリア、鈴の3人は食堂に集まっていた。クラス代表戦が近い今、一夏と鈴が頻繁に会っていると八百長を疑われるのでよろしくはないのだが、場合が場合なのだ、仕方がないと織斑先生も黙認してくれている。

 

「こんな時は、時間が解決してくれるのを祈るしかありませんわ」

 

一歩引いた立場にあるセシリアからは消極的な意見が、

 

「いっそのこと無理やり2人きりにすればいいじゃない。腹を割って話せば解決するわよ」

 

当事者である鈴からは強気な意見が出るものの、

 

「こんな事初めてだし、下手に拗らせたら嫌だよ。ギクシャクしたまま練習もしたくないし」

 

結局、決めかねたまま様子見、という事になってしまう。進展しない状況に苛立つが、まだ時間はある、と一夏は自分に言い聞かせた。

 

「ところで一夏、成政ってどんな奴なのよ。話だけ聞いてたんじゃわかんなくて」

「......よく知らずにあんなことが言えましたわね」

「あの時は色々とあったのよ」

 

察しなさいよ、と言いながらラーメンをすする自由な鈴をみて溜息をつくセシリア。

 

「貴女はもう少し、いや、何でもないですわ」

 

世の中には言わないほうがいいこともある、ということだ。

 

「で、成政のことだろ。俺も1ヶ月前にあったばかりだし、セシリアもまだ2、3回会っただけだろ?あんまり言えることはないぞ」

「それでも構わないわ。ちゃんとけじめはつけなきゃ行けない、でしょ」

「そうだな、まずは」

「あの、一夏さん......ケジメって何ですの?」

 

そういや、日本に住んでいた鈴はともかく、セシリアはイギリス人だったな、と若干忘れていた一夏だった。普段があんなに日本人よろしく流暢に話していれば当然とも言えるが。

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 

「......とまあ、こういう奴なんだ」

 

一夏が一通り話すと、鈴は頭を抱えてしまい、セシリアは何か考え事を始めた。

特に当たり障りのない、要点だけを抜き出して説明したものだったはずだけど、と慌てて、

 

「なんか俺変なことでも言ったか、気を悪くしたんなら」

「いや、そういう事じゃないんだけど、ね。

自分に嫌気がさして、あー、なんてこと言っちゃったかな」

「選手からドロップアウトしていたのですか、道理で......」

 

 

仲良く溜息をつく2人を見て、怒っているわけではないと一旦胸をなでおろす一夏。

そこに、

 

「隣失礼するよ」

「ああ、別にいいけ、って成政?!」

「何だ、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔でもして」

 

一夏の隣に座ったのは、先程まで話題に上がっていた成政だ。身体中に湿布だったり包帯だったりを巻いているが、元気に歩いているあたり、無事なようだ。しかも、

 

「まさしくその通りだな、写真でも撮っておけば良かったな」

「箒まで、お前、どうして怪我してるんだ!」

 

箒まで同じように包帯に湿布となると、ただ事ではない。おまけに顔に大きな青あざまで付いているとなると大ごとだ。何があったかと2人に質問すれば、

 

「「()()()()()()()()()()(だ)」」

 

そうシンプルな回答が返ってきただけで、2人は多くを語らない。

しかし、流れるように向かい合って座るあたり、しっかりと仲直りできているようだが、

 

「ちょ、殴り合ったってどういう事だよ。しかも箒の顔に青あざまで作って、おい!」

 

日替わりのコロッケ定食を食べようとしていた成政に詰め寄り、問いただす。

一夏はこういった雰囲気を察せない。だからこそ友人からは唐変木だのフラグブレイカーだの呼ばれていたりするのだが、それはそれ、これはこれ、だ。

 

「これは、まあ、アレだ。2人だけの秘密にしたいんだが、ダメか?」

「ダメに決まってるだろ、俺が納得できない。ちゃんと理由を聞かせてくれ」

「そうですわよ。うら若き乙女の顔に傷など、本来はあってはならない事です、理由をお聞かせ願えるかしら?」

「そーよそーよ、2人だけなんて水臭いじゃない。混ぜなさいよ!」

 

残り2人が敵になってしまっては、成政は話すしかない。最後の助け、と箒にアイコンタクトを送っても、勝手にしろと言わんばかりに無視される。

仕方ないと溜息を付いて、彼は口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋の中、1時間目は何とか行けたものの、体調を崩したと嘘をついて部屋に引きこもっていた箒。

何かをブツブツと呟くばかりで、はたから見れば精神異常者にも見えただろう。髪もボサボサで、寝不足で隈もつき、制服もシワだらけ、といったいでたちが、それに拍車をかける。

 

「よお、モッピーちゃん。元気か」

 

織斑先生を説き伏せてマスターキーを借りて来た成政が、無断で入って来た。一瞬顔を上げた箒だが、また俯いて何かをブツブツと呟く。

頭に巻かれた白い包帯が痛々しいものの、至って元気な成政は、笑いながらいつも通りに、箒に声をかける。

 

「体調崩したんだってな。体が資本なんだから、体調管理はしっかりとね」

「......」

「着替えたほうがいいんじゃないか?制服がシワになるだろ」

「......」

「あーあー、木刀がこんなところに。ものは大事に扱わないと」

「......」

「はろー、もしもーし?」

「......」

「ねえ、聞いてるモッピーちゃーん。ねえってば、おーい」

 

しつこい位に語りかける成政に帰って来たのは、枕がひとつ。ぽすり、と軽い音を立てて成政の体にあたり、床に落ちる。

 

「もう、放って置いてくれ。私に、構わなくていいから」

「とは言われましても、選手のメンタルケアも、マネージャーの仕事なわけなんだが」

「いいから出ていけ!」

 

よほど近づかれたくないのか、手当たり次第に近くの物を投げつける箒。

それをものともせず、ゆっくりとだが成政は歩みを進める。そして、

 

「......甘ったれんなクソ後輩が!」

 

胸元を掴んで、思いっきり右ストレートを顔面に叩き込む。素人丸出しの、腕の力だけで振るうパンチだが、女子の体を吹き飛ばすには十分だ。箒の体が壁に当たってすごい音を立てるが、今は授業中で全員が出払っている、誰も来ることはない。

 

「どうせ、お前は、合わせる顔がないだの、全部自分のせいだから、だの考えてるんだろ。

んなこたぁ2年前に嫌ってほど知ってるんだよ!あん時みたいに素直に謝れば良かったがな、こうウジウジしてるなんて、見てられん!

 

それに、一夏や、他のやつにでも慰めてもらうつもりだったか?箒は悪くないから、って。

でもなぁ、今回のは純粋に、お前が悪い。元凶の凰にも責任が無いわけじゃない、が。お前は暴力でそれに答えるという、最悪なことをした。文句があるなら、言ってみやがれ!」

 

だらりとした箒の胸ぐらを掴んで立ち上がらせ、そのまま殴り続ける成政。顔、腹と場所を問わず何回も殴りつける。

はたから見れば、ただの暴力、八つ当たりだ。それは成政もしっかりと理解はしている。

 

「こんなうじうじした箒を、僕は見たくないんだよ!だから、あの時みたいに、全力でかかって来やがれ!」

「......しだって」

「なんだ?」

「私だって、こんなことしたくなかった、けど!」

 

今まで、動かなかった箒が、動く。

顔狙いのパンチをガードし、返す刀で成政にボディブローを叩き込む。

 

「頭に血が上ってたのもある。慣れない環境でストレスもあった、でも、それ以上に、自分の尊敬する人を馬鹿にされて、黙っていられるか!」

 

今までの仕返しと言わんばかりにカウンターを打ち込む。足の弱い成政が倒れて、立ち上がるたびに何度も、何度も、殴りつける。

気がつけば、言葉を交わしあいながら、ノーガードで殴り合っていた。

とあるロマン妖怪がいたら、こんな言葉を漏らしたに違いない。どこの少年漫画かよ、と。

 

「そういう時に何で木刀を使うんだよ!」

「知らん!近くにあっただけだ!」

「ちゃんと道具は片付けろ!」

「防犯用だ!」

「せめて警棒にしろ!もしくは竹刀!」

「次からはそうさせてもらおう!」

「マネージャーを尊敬すんな、選手にしろ!織斑先生とかいるじゃないか!」

「尊敬しているとも!それ以上に、今の私を作ったのは成政さんだ、するなという方がおかしい!」

「そうか、ありがとう!」

「当然のことだ!それに成政さんは自己評価が低すぎる、もっと周りを見ろ!」

「ちゃんと見てるが!それであの評価だ!」

「だったら先輩の目は節穴だ!」

「しっつれいな!僕の視力は両目2.0だぞ!」

「視力の事をいってるんじゃなぁい!」

 

 

「今日朝イチでなんで鈴のとこ行かなかった!ちゃんと謝れ、なんですぐしなかった引きこもりめ!」

「そう簡単に割り切れるほど、私はっ、単純じゃないんだ!それに部屋を知らん!」

「んなもん自分で調べろ、ズボラ!」

「ズボラではない、料理洗濯掃除、全部できるぞ!」

「箒の味噌汁はしょっぱ過ぎるんだよ!」

 

 

 

「滅びろたけのこ派!」

「たけのここそ至高だ!箒こそ間違っているんだ!きのこなんてなくなればいい!」

「うるさい!あの軸のクッキーが私は好きなんだ!たけのこは食べた後口がパサつくから嫌いだ!」

「たけのこの方がチョコ多いし美味しいじゃないか!」

「全体で見れば同じだ!」

「そいつは詭弁だ!明◯に騙されてる!」

「そもそもきのこもたけのこも◯治だ!」

 

何故か会話はどんどん関係ない方へずれていき、

 

「うるひゃい!私は、私はなぁ、まだ、1割くらいしか力をらしてはいないのら」

「ほう、そーか、ぼくは、まだ、はぁ、はぁ、5ぱーせんとくらいしか、だしてないし」

「わたしのほんきは、せんぱいよりもすごいのだぞ、ほらぁ!」

「うぐぅ、まだまだ、いける!ぼくのほんきをくらえ!」

「わたしのほんきはな、こんな、ものでは、ない、の、だ」

「そ、うか、ぼくも、おなじ、だ」

 

力を使い果たし、青あざ血まみれで床にパタリと倒れこむ両者。顔は腫れて、身体中がボコボコだが、対照的に心は晴れ渡っている。

 

「......わたし、なんでなやんでたんだっけ?」

「わすれた。とりあえみんなにあやまれよ」

「わかった」

 

殴ったり殴られ過ぎたりして頭が働かないのか、微妙にしたったらずな2人だが、互いの言ってることくらいは理解できる。

悲鳴をあげる体に鞭打ち、立て掛けた杖を支えにし立ち上がる。そして、箒に手を伸ばす。

 

「ほら、いこうぜ」

「ああ」

 

迷いなくその手をとり、お互いに肩を貸し合う。そのまま、お互いを支えあいながら、教室に行くため、皆に謝りに行くため、2人は進んだ。

中休みだったので箒の様子を見にきて、2人のひどい姿を見てしまった山田先生が気絶するというオチを挟んで、の事だったが。

 

 

「まあ、通りすがった織斑先生が、山田先生ごと保健室に放り込んで今に至るんだけどな」

「......すまん、全然わからん」

「要するに、悩んでる時は」

 

何が何だかサッパリだ、と混乱する一夏におもむろに箒が拳を突きつけると、

 

「この手に限る」

「いやその理屈はおかしい」

「「......ご馳走さまでした」」

 

何故かキャラを無くしたセシリアのツッコミで気まずくなった空気から逃げるように食器を片付け出す2人。一夏達も食べ終わっており、一緒に食器を片付け人もまばらになって来たテーブルに戻る。昼休みもまだある事だし、雑談には丁度いいと怪我人コンビに気を使ってか、セシリアが引き留めたのだ。

 

「鈴、少しいいか?」

「なに?いいわよ」

 

先に来ても席に座らず立っていた箒が座ろうとした鈴にそう言い、空間の開いた通路のようなところで向き合う。そして、

 

「あの時は!本っっっっっっ当に済まなかった!」

 

思い切り土下座した。

日本に住んでいた事もある鈴だが、土下座の存在は知っていたかもしれないが見たことはない。それは日本でも例外ではなく、周りにいた人達がざわめく。

あたふたとする鈴に対して、土下座を敢行し続ける箒。そんな光景を横目にしながら、

 

「......いやぁ、土下座とはね」

 

箒はやることなす事極端だな、と 溜息をつきながらやれやれと首を傾げていた。

 

「あだだだだ!なんで痛いぎゃああああ!」

「お前な、怪我人だって自覚あるのかよ」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話

 

 

すったもんだがなんやかんやであれがこうなって一夏が鈴にグーパンされたりという事件があったりしたものの、それ以外は特に事件もなく平穏に時は過ぎ、クラス代表戦当日となっていた。

 

 

「やってきたことを思い出せ。お前なら勝てる」

「男の意地を見せろ、一夏!」

「一夏さんなら勝てますわ」

「おう、任せろ!」

 

試合前、ピットに最後に挨拶を、とやってきた3人に一夏は任せろと言わんばかりに胸を叩く。4月の代表決定戦の時とは違い、自信満々に勝負に挑む様子を見て成政は、

 

「まあ、あんだけやっても勝率なんて3対7、良くて4対6だぞ。いくら白式があるからって勝てるか分からんぞ」

「あんだけみんなが頑張ってくれたんだ、俺がその頑張りに答えなきゃな」

「いや、そういう意味じゃなくてだな......」

 

調子乗んな、と嗜めるつもりで成政は言ったのだが、一夏のスルースキルにかかれば立て板に水と言わんばかり。全くもって効果がない。これだから鈍感野郎は、と溜息をつく成政に変わってすかさずフォローを入れたのは箒だった。成政の持っていたバインダーをひったくると、つかつかと一夏に歩み寄り織斑先生よろしく縦に振り下ろす。

 

「あいた!何するんだよ箒」

「緊張するな、いつも通りにやれ。それに、いくらクラス代表だからといって気負わなくていいんだからな」

「お、おう......」

「そうですわよ。一夏さんは、まだ素人の域を出ませんわ。このクラス代表戦も学年初期のクラスの力を見るもの、であれば、他の方々の胸を借りるつもりで、挑んでくださいな」

「ああ、分かったよ。ありがとうセシリア」

「こ、こんな事貴族として人の上に立つものとして......」

 

惚れた一夏に褒められてなのか、照れ隠しにベラベラとよくわからないことを語り出し、それを真面目に聞いている2人を意識の隅に追いやって、箒と成政は問題の対戦相手に頭を抱えていた。

 

「「3組とか勝てる気がしない(ぞ)」」

 

そう、あのロマン馬鹿の神上がよりによっての対戦相手なのだ。唯一の代表候補生の鈴に対策を絞っていた一夏に対して、これは痛い。

神上の専用機、『強羅』は訓練機のラファールのようなオールラウンダータイプに近い。近接も遠距離もこなすが、打鉄の様に高いシールドの代わりに速度が遅い。シールドをサクサク切り裂く『零落白夜』を使う白式にとっては相性がまだマシな部類だが、問題なのは。

 

『ヒャッハー!汚物は消毒ダァ!』

 

成政の脳裏に蘇る。訓練時の、爆炎がアリーナを覆い尽くすあの光景だ。まだ未熟だったとはいえ、一夏が消し炭になった事はまだ記憶も新しい。

それに、噂によれば『強羅』、馬鹿みたいな武装を大量に積んでいるらしい。

外付けジェネレーターを備えたエネルギー砲、実用性皆無のパイルバンカー、チェーンソー、逆刃刀、そして極め付けは、

 

『解体現場からパチってきた様な柱』

 

と、まるで想像が付かない。

セシリアの時の様に武装の偏りで作戦も立てられず、トリッキーな武装とあればセオリーも無い、という事。3人にとっては、1番当たりたくない相手だったのだが、

 

「まあ何とかなるって、雪片さえ当てれば勝ちなんだからさ!」

「自信を持ってくれてるんなら、いっか」

 

本人が大丈夫と言ってる以上、何とかなるだろう。試合も始まるので、成政達は観客席に戻っていった、ピットに戻れるのは、全試合が終わった後になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、決勝か......」

「3組の時はヒヤヒヤしましたわ」

「あんなもんマグレとしか言いようがないというのに、マヒロに申し訳ないくらいではないか?」

「運も実力のうち、ってねー。何はともあれ勝ったんだったら、勝ちを喜ぶべきだよっ」

「まあ、本人が言うのならば、そうなのか」

敗北したマヒロも交えて、観客席で雑談をかわしながら決勝戦を待つ。決勝の組み合わせは1組対2組、一夏対鈴という事だ。みっちり対策を取ってきたが、実際はどう転ぶか分からない。

 

「頑張っておりむらくーん!」

「おりむー、がんばれー!」

 

1組の皆が応援する中、一夏の専用機、白式が姿を現した。が、

 

「なっ、アレは......」

「成る程、考えましたわね」

「それは悪手だろ一夏、何考えてんだあのバカ!」

 

いつもとは違い、左には見覚えのある近接ブレードが握られている。一夏なりの秘策として、二刀には二刀で対応する、と言うつもりだろうか。確かに、二刀流の手数に対抗するには理にかなった方法なのだろうが、

 

「付け焼き刃の二刀流で勝てるわけないだろうが。しかも葵といい、雪片といい両手で持つ様な太刀だぞ、マトモに振れる訳ないだろ!」

「一体誰が......おい、神上、何故笑っている」

「いやあ、二刀流はいいですねぇ。ベストは六刀流か三刀流なんですけど」

「元凶は貴様かぁぁぁ!」

 

ロマン馬鹿が色々吹き込んでいたらしい。すぐに影響されよって、と頭を抱える2人とは対照的に、セシリアは何が何だかサッパリ、とポカンとしている。

そう騒いでいると鈴も反対側のピットから出てきた。無骨な手足に、肩部に浮くスパイクアーマー、前情報通りの近接タイプのようだ。

一夏と鈴が何か言葉を交わした後、試合のカウントが始まる。一夏は雪片を右に握り、二刀を構える、本当に二刀流でいくらしい。

成政にとっては、まさに想定外。二刀流なんて衛宮の話を数度聞いただけで、当たり前だが教えてもいないし練習する姿も見ていない。

まさにぶっつけ本番、一発勝負。

かと言ってもうすでに自分は外野にいる、口出しはできない。成政は脱力して椅子にもたれかかる。それでも試合を見ることをやめないあたり、期待はしているのだろうが。

 

 

 

『試合 開始!』

 

 

 

 

 

序盤はほぼ互角の展開で進んだ。一夏の付け焼き刃な二刀流では到底敵うはずもなく、試合開始早々に葵を手放し、雪片だけで戦っていた。

しかし、互いに被弾はしていない。鈴の二刀流に対して、一夏は雪片の長い刀身を利用して受け流す。ワザと零落白夜を発動させない事で白式のシールドもまだ余裕を持たせている。

対策の成果がしっかり出てるな、としたり顔で成政が1人うなづいていると、

 

『のわっ!な、なんだ?』

 

『へっへーん、どうよ。私の龍砲の味は!』

 

不自然に一夏が吹き飛ぶ。鈴のISに注目すると、肩のあたりについていたスパイクアーマーが少し変形している。

さっき鈴が言った龍砲が第三世代の特長であるトンデモ兵装なのだろう、と成政はアタリをつけた。

 

(まあ、なにがどうなるわけでも無いけど)

 

考察は試合後にビデオを見ながら、答えは本人に聞けばいいし、とバインダーに思いついたことを書き留めていると、凄まじい衝撃音があたりに響き渡った。

 

「な、なんだ?」

「成政さん、あそこ!」

「あ、あのISは一体なんですの?」

 

見上げれば、アリーナのシールドを破って悠々と黒のISらしきものが侵入していた。

一拍おいて、悲鳴が観客席を覆う。こうなれば観戦もへったくれもない。

火事場には慣れている身の成政がすぐに頭を切り替え、近くにいた皆に大声で声をかける。

 

「みんな、避難誘導を頼む。声を大声で張るだけでいいから。いざとなったらISを使っても構わない!」

「任されましたわ!」

「分かった!」

 

あるはずの返事はひとつない、そう気づいた箒は隣の席に目を落とすと、そこにいるはずのショートカットのロマンを愛する少女はいなかった。

 

 

 

 

 

 

「一体全体なにがどーなってんだ!みんなは、無事か?」

「私に聞かれても知るわけないでしょ!とりあえずなんとか、一夏、避けて!」

「へ、のわっ?!」

 

試合中に突然の乱入者。謎のISは、アリーナのシールドを突き破って、2人の前に立ちふさがる。

最初は一夏の方を見定めるようジロジロと見ていたが、長い腕を振って、手の平についた発射口からビームを撃ち出す。アリーナの客席の方に意識を向けていた一夏が鈴の一言でギリギリ攻撃を躱す。

チリチリとした殺意が背中を覆い、死の危険を感じさせる、がしかし、一夏は怯まない。

 

「とりあえずこいつを倒すぞ、鈴!」

 

何故なら、皆を守ると決めたのだ。それに、ここで逃げれば、男がすたる。

 

「奇遇ね、私も同じ事考えてたの、よっ!」

 

牽制のつもりか、肩の龍砲を撃ち出す鈴。それを全身のスラスターを吹かして躱す謎のIS。

その隙を見て、本命の双刀、双天牙月を連結して投げつけるが、あちらもお見通しだったらしく、その長い腕を振るい弾いてしまう。

 

「それなら.....って不味いか」

「一夏、SEはどれだけ残ってる?」

「零落白夜が2回、それで無くなるくらい」

「......だったら私が前に出る、隙を見て、頼むわよ」

「ああ、すまん!」

 

戦闘時に私情を挟むな、と成政と箒に散々叩き込まれた一夏、本当なら鈴を前に立たせたくはないが、今の自分では足手纏いになる、ということくらいは分かる。それが、悔しい。

 

「やっぱり、俺が弱いから......くそっ」

「なに考え事してんのよ、来てるわよ!」

 

考え事する暇もなく、連続して赤いレーザーが一夏を襲う。悪態をつきながらスラスターを吹かし、白式は空を舞う。

 

「もっと、もっと強く、なりたい!」

 

 

 

 

 

 

「よし、誰もいないな」

 

先程までごった返していた観客席も、今では人はすっかりいなくなっている。残っているのは避難誘導のためにいた成政たちだけだ。

安全のためにもう一度声をかけ、辺りを見回すが、返事はない。

 

 

「そっちはどうだ、誰もいないか?」

「こちらも終わりましたわ!」

「よし。箒は......ってあれ?箒は?」

「あら、神上さんもいらっしゃらないですわね」

変に胸騒ぎがする、もしかして、と成政はアリーナ、その一角に目を向け、直感的に走り出す。

 

「ちょっと、成政さん?」

「セシリアはピットに!いざとなったら一夏と鈴の援護に回ってくれ」

「わかりましたわ、でも成政さんは?」

「ちょっと箒を探してくる!」

 

そう怒鳴りながら、観客席を飛び出し、避難場所の反対、放送席に向けて走り出す。ISの無断使用は、この際無理を言って見過ごしてもらえないかなぁ、とどうでもいいことを頭の片隅におきながら。

 

「あいつのことだから、どうせ一夏の応援とかなんとか言って、一夏の方に行くはず。アリーナに声を通すとすれば、実況用のあそこに向かう筈だ」

 

慣れないISのスラスター移動に戸惑いながら、走りとは比べ物にならないスピードで、灰色の武士が廊下を駆ける。

 

 

 

 




最近書き方変えてみたんですけど、どうですかね?

行間を多めに開けてみたんですけど、どうでしょう?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話

 

 

「くそっ、このままじゃ......」

「ああもう、何で当たらないのよっ!」

 

謎のISが侵入して5分ほど経つが、一夏と鈴は苦戦を強いられていた。

途中山田先生が通信で退避を促して来たが、ハッキングによりシールドが強化され、誰にも出入りできないデスマッチ状態に。

果敢にも接近戦を仕掛けようと近づけば高出力レーザーの雨あられ、離れていてもレーザーが休む間も無く襲いかかる。

時折鈴が衝撃砲で反撃するが、ありえないくらい人間離れした機動力でかわされる。

それが、2人の集中力を削り取り、苛立ちを募らせる。

それに、無意識下で死の恐怖を押し込めていると言うのもあるだろう。いくら絶対防御があるから、と説明されていても、アリーナの強力なバリアを貫くあの威力を見てしまえば、何も思わないわけがない。必然、回避機動も大ぶりになり、チャンスを失う。

ただ、虚しく時間だけが過ぎていく。

 

「こんの、大人しくしろってえの!」

「やめろ鈴、それはっ」

「きゃあああああああ!」

 

痺れを切らした鈴が双天牙月を振って突撃するが、謎のISはまるで機械の様に正確に、腕を振るい、鈴を撃ち落とす。

(は......え、鈴......?)

 

一夏が下を見下ろせば、鈴が倒れ伏している。まだ甲龍は展開しているものの、鈴は眼を閉じていて、動く様子はない。

一夏の頭は真っ白になった。

鈴が、倒れている。

やったのは、誰だ?

あいつだ、目の前のあのISがやった。

あいつを、あいつを......

 

『一夏ぁ!落ち着けぇ!あと3分、3分で教師陣が入れるようになる、それまで、今できる事を考えろ!』

 

頭から、冷水をかけられるようだった。

狭張っていた視界が広がり、視界がクリアになる。

俺は、今何を......?

 

『ああもうこんな所に、モッピーちゃん逃げるぞ!』

『逃げる?一体どういう』

『ココは他よりシールドが薄いんだから、危ないって言ってるのさ!』

『っ、そういう事は早く言わんか!』

『しっかり掴まれ、舌噛むなよ?』

『それくらい分かっている!』

 

聞き慣れたブースト音を聞いて、2人が無事逃げた事を察して、一夏は胸ををなで下ろした。

「今、できる事、か」

 

今の未熟な自分では何も出来ない。目の前のあいつは倒せない。であれば、どうする?

自分に何が出来て、何が出来ないかと問いかける。

今の自分にできる事は、足止め。

ただ、鈴を守るだけで、いい。

 

燃費の悪い零落白夜は使えない。かといって逃げるだけじゃ、あいつの注意が鈴に逸れるかもしれない。だから倒す気で、あいつに攻撃するしかない、そう自分に確かめる。

 

「踏ん張ってくれよ、白式!」

 

ブースターを吹かし、白式は謎のISに斬りかかろうとして、あることに気づいた。

 

「......あれ?」

 

なぜ、あいつは攻撃してこなかった?

考え事をしていたぶん、動きは単調どころか止まっていたはず、なのに、なぜレーザーが飛んでこない。

 

「まるでゲームのイベン......まさか」

 

あいつは、NPC......無人機?

確証はない、だけど、あんな滅茶苦茶な機動力にも説明がつくし、何より。

 

「遠慮しなくても、いいよなぁ!」

 

一夏はまだ知らない事だが、零落白夜は理論上絶対防御すら貫通する可能性があり、無意識にリミッターをかけられている。

だが、それは操縦者の意識一つで変えられる。

そして操縦者は遠慮はいらないと言った。

ならば、白式は主人の命に従うのみ。

 

この場に限り、零落白夜は文字通り、

必殺剣となる。

 

 

 

 

 

しかし、零落白夜、ひいては一夏の剣が相手に当たらないのは身をもってわかっている事、だからもう一つ、手札が欲しい。

 

「何か、他に手は......」

 

1番初めに鈴の双天牙月が思い浮かんだが、ちょうど謎のISの真下、取りに行くにも、何か利用するにも難しい。

 

頼りになりそうな鈴は現在意識がない、戦力外だ。

 

だが、この場にはもう一つ、手札がある。

 

「......あった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでは、アリーナに出られませんわ......」

 

成政と箒が実況席から飛び出したのとほぼ同時刻、セシリアはピットにいた。

しかし、セシリアの前には文字通り壁が立ちはだかり、道を阻む。

 

「一夏さんが、この向こうで戦っているというのに......私はっ!」

 

怒りと、自分の情けなさに両手を握りしめる。ISを展開したとしても、火力に劣るティアーズではこの壁は破れない。

自分の愛する人の窮地に、自分は何も出来ない。まるで、両親が自分をかばって死んだ、あの時のように。

その時、セシリアの背後に扉が音を立てて開く。そこに居たのは、

 

「神上さん?どうしてココに?」

「いやいや、ちょっとお手伝いをね?」

 

マヒロはISを纏うと、拡張領域からあるものを引っ張り出した。

急拵えらしい外装に、本体から突き出る杭らしき何か。普通のISではまともに扱えないような馬鹿でかいそれを扱えるのは、ひとえにマヒロのパワーに特化した専用機のお陰だ。

マヒロは引っ張り出したそれを、固く閉じた壁の前に設置し、工具を使って手際よく固定していく。暫くして作業が終わると距離を取る。

 

「はーい、セシリアちゃん、チョイと下がってね。あと安全の為にISを纏うように」

「一体なんですの?これは」

「ん、これ?」

 

手慣れた様子でISを纏ったセシリアがマヒロに問いかければ、セシリアの方に顔を向け、笑いかけるように首をかしげるマヒロ。

全身を装甲で覆っているマヒロの専用機だからこそ表情は窺えないが、きっと、

 

「ウチが開発した、建物解体用、

 

 

 

火薬、それとレールガンの要領で杭を撃ち出す試作品の超強力パイルバンカーだよ?」

 

イタズラが成功したような悪ガキのような、無邪気な笑顔を浮かべていた事だろう。

かくして立ちはだかっていた壁は木っ端微塵に粉砕され、闘技場に蒼の騎士とヒーローが舞う。

 

 

「遅くなりましたわ、一夏さん!」

「ヒーローは遅れてやってくるってね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああああああ!」

 

まるで先程の焼き直しだ、もしISに意識があれば、侵入者はそう思っただろう。

小細工も何もない、ただの突撃。

零落白夜の特性はこの機体にダウンロードされており、自身のSEを喰らって発動する諸刃の剣なのはもちろん理解している。

自身にインプットされたコマンドから最適解を割り出す。回避し、至近距離でレーザーを発射する。そうすれば白式の少ないSEはなくなり、戦闘不能となるだろう。

そう判断して、全身に取り付けられたブースターに火を入れようとして、

 

《警告 ロックオン反応アリ》

 

「私を.....

 

忘れてもらっちゃ困るのよ!」

「そこですわっ!」

「消し飛べ」

 

戦場、特に接近戦の間合いでは、

 

「ぜやあああああああああ!」

 

一瞬が、勝敗を分ける。

 

 

 

 

 

一夏は右手で大きく振りかぶり、雪片で袈裟がけに斬りつけるが、謎のISは左腕を剣の側面に叩きつける事で剃らす。

が、それはあくまでも囮。

零落白夜のメリット、デメリットは織斑先生や成政に散々言われていた。名前も知れ渡っているから、対策はしやすい、と。

だったらそれを逆手に利用する。

左に持つのは、試合開始時に持っていた近接ブレード、葵。

 

「本命は、こっちだ!」

 

葵の切っ先が謎のISの装甲を貫き通し、白式はブーストの余勢を駆って自分ごと壁に叩きつけ、

「はあああああああ!」

 

そのまま唐竹割りの要領で刀を振り下ろし、返す刀で胴を真っ二つに叩き斬る。

 

 

 

 

「鈴、無事か?」

「ええ、なんとか、ね」

 

地面に倒れた鈴を助け起こす一夏。

謎のISは鉄屑となり、起き上がってくる気配はない。という訳で、鈴のところに向かったのだ。

 

「本当に大丈夫なんだな?怪我してないんだな!」

「大丈夫ったら大丈夫よ」

「心配だし、保健室に......」

『一夏さん、後ろですわ!』

 

セシリアの声とほぼ同時に、何かを感じて一夏が振り向くと謎のISの右腕が光を放つ。

 

「まさか、自爆?!伏せろ!」

「心配には及びません!」

 

直後、スラスターを吹かして飛んできた強羅がサッカーよろしく右腕をけ蹴っ飛ばし、被害もなく事件は終幕となった。

 

「必殺、ファイ......なんでもない」

 

 

 

 

「や、やっと終わった......」

「足が、足がぁぁぁ」

「外国人のセシリアに正座はキツかったか」

「なんで俺まで......」

 

乱入事件の日から2日後、問題児4人は呼び出しをくらい、織斑先生にみっちり説教を食らっていた。

教師陣をなぜ待たなかった、一歩間違えれば死んでいた、ピットを粉微塵に破壊した、などなど。

特に箒とマヒロがみっちり絞られたのはいうまでも無い。箒は自分の命を省みず実況席に立ち入り、マヒロはピットに1ヶ月ほど使用禁止になる程のダメージを与えたのだ。

全員反省文30枚、自室謹慎3日と相成った。

 

「これでレビューが書けます、ふう。威力はバッチリだし、実用化出来そうだね」

「......それ、本気で言ってますの。ピットを1ヶ月使用禁止にするようなアレを、実用化?」

「蔵王工業基準で言えばまだ軽い方」

「頭おかしいですわ......」

 

 

 

 

 

 

「......暇だ。やる事がない」

 

謹慎1日目、成政は暇を持て余していた。

毎日部活に入り浸り、部員とあーでもないこーでもないと議論を交わし、練習を管轄し、自主トレに付き合い、と忙しい毎日を送っていたが、剣道部との関わりを切るだけでこうもやる事がないのか、と思わず笑う成政。

 

「趣味を持て、と常々言ってたけど自分が趣味を持ってないんじゃね」

 

中学時代、副部長兼マネージャーとしての立場にあった成政は、そう部員たちに言ってきた。

剣道以外にも、心に余裕を持て。自分の心に余裕があれば、それは剣道にも現れるから、と。剣道だけで気が詰まるような生活を送って欲しくない、という成政の気持ちもあったが、実際に趣味を持つ人が大会を勝ち上がってくるという経験則があった。

そう言った自分に趣味がないとは、まさになんの説得力もない言葉だった、なのに、

 

「なんで、みんな従ってくれたんだろうな」

 

剣道もできない、口だけは達者な自分になぜ付き合ってくれたのだろうか。不平不満をぶつける事はあっても、何故か自分に辞めろとは言ってこなかった中学時代の仲間に想いを馳せる。

この女尊男卑の風の中、なぜ男の自分がマネージャーに徹する事ができたのだろうか。

 

「......一体、なんでだろうね」

 

とりあえず暇潰しにルームメイトの本音にでも本でも借りるか、と部屋の本棚に向かい、一冊の文庫本を手に取ろうとした時、部屋のチャイムが鳴る。

「失礼するわよ」

「お邪魔しますわ」

「どうぞ」

 

セシリアと鈴、珍しい組み合わせだなと思いつつも、成政は茶を淹れに備え付けのキッチンに向かった。

 

「どうも、粗茶ですが」

「......ありがとう」

「いただきますわ」

本音が常備している菓子類からお茶請けの羊羹を引っ張り出し、日本茶に添えて出す。2人はそれを摘みながら、成政の淹れる日本茶を啜る。暫く無言だったが、耐えられなくなったのか鈴が口を開いた。

 

「あのさ、石狩、さん」

「成政でいいよ。固いのは性に合わない」

「じゃあ、成政。私は、あんたに謝らなきゃいけない」

「散々言ってたねぇ、軟弱者とか、ヘタレだとかなんとか」

「そっ、そこまでは言ってないわよ!」

「ジョークジョーク、ただの冗談だよ」

 

いつも通りというべきか、鈴の纏う暗い雰囲気を吹き飛ばすように笑ってみせる成政、

 

「ああもう、自分が悩んでるのがバカらしくなってきたわ......」

「おや、今日はお悩み相談で?」

「私が一夏の部屋に押しかけた時の事よ、わかってるくせに」

「はいはい、そうですか」

「なんか、えらく適当ね」

 

思い詰めたような表情をする鈴に対して、対象的にサバサバとしている成政。

 

「だって、事実を言われても何も傷つく事はないし、そっちも気に止む事はないってコト」

「......やはり、間違いでしたわね。見損ないましたわ」

「おや、セシリアちゃん帰っちゃうの?」

「ええ、無駄な話は聞かない主義でして」

「そうか、夜道には気をつけて」

「では、御機嫌よう石狩()()

 

縁を切るようにそう言って部屋を出ていくセシリアを見送って、残った鈴と2人きりになる。

一息つこうとお茶をすする成政に対して、鈴が何を言っているんだ、と驚きを顔に貼り付けていた。

 

「ちょ、どういう事よ、説明して!」

「言った通り。自分で言っちゃあアレだけど、僕は怪我をしても、無様に剣道にすがりつく愚か者、って事。足もリハビリを真面目にすれば治ったかもしれないのに、それをしないで、早々に見切りをつけて裏方に移ったしね」

「それは理想が高すぎるわよ!あんな事故があっても剣道を辞めなかった自分を、もっと褒めなさいよ」

「という事は、箒か誰かが話したの?」

「......一夏が、全部話してくれたわよ」

「成る程、だったら話が早い。石狩成政は選手を辞め、マネージャーとしてまだ剣道にすがりつく、理想に溺れる軟弱者、そう覚えておいて結構」

「そうじゃなくて、そうじゃないけどっ。あんたは、もっと自分に、自信を持ちなさいよ!」

 

感情も露わに、卓に拳を叩きつけ、詰め寄る鈴に対して、成政は首を横に振る。

 

「いいや、足りない。まだ足りないよ」

「......足りないって、何がよ」

「アイツの隣に立つには、足りないんだよ。アイツの隣には、選手が相応しいんだ、マネージャーじゃない。とは言っても、もう叶わない理想だし、心の底にでも、押し込めておくことにするよ。雑念があると集中できないし」

この事は他言無用で、と付け足し、湯呑みを片付けにいく成政。

その背中を見送ると、鈴は一言、こう呟いた。

 

「一夏も、あんたも、揃いも揃ってどうして男は馬鹿ばっかりなのよ!」

 

 

 

 

 

 

「にしても、これはなんなんだろうな」

 

深夜、箒も寝静まった頃にテレビをつけて動画を眺める。

こっそりと録画していたクラス代表試合、そのラスト。一夏が二刀流で謎のISを切り捨てたシーンを何回も何回もリピートし、ある一点で止める。

 

「光の反射でもないしなぁ......なんなんだか」

 

そろそろ寝よ、と成政はテレビの電気を消して布団に潜り込んだ。

 

謎は、まだ解けないままだ。

 

 





なんだかんだで不器用な成政。
感想で「セシリアと鈴とはどうするんです?」とありましたが、ss読んでる限りセシリアと主人公は気が合わなさそうですし、こんな感じで決着となります。後で(忘れなければ)ちゃんと仲直りはさせますので心配は無用です!
......これ、アンチじゃないですよね?大丈夫ですよね?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話

今回は何故か筆が乗らず、微妙です。

読みにくくてごめんなさい。


 

 

 

「......お嫁に行けない、ぐすっ」

「ははははは、冗談きついんじゃない一夏くーん、お前は男だろう?」

「このっ......お前のせいで!」

「いやそうだったなごめんごめん、今の一夏くんは、一夏 ちゃん だもんなー」

「後で絶対に殴ってやる」

 

クラス代表戦から3日後、1組ではコミカルな事が繰り広げられていた。

 

「おりむーにあってるー」

「織斑くんまさか女装似合うなんてやばい私死んじゃうかもあははは!」

「これはこれでアリですわね」

「ひゃははは、一夏ザマァ!本当に似合ってるわよあっはっは!」

「やめろ......見ないでくれ.....」

 

罰ゲームで一夏が女装して今日1日過ごす事になっているのである。

まだSHRの始まらない時間だが、珍しくクラス全員と2組の生徒まで一夏の女装姿を拝みに来ている。

そうなったのは、有耶無耶になってしまったクラス代表戦をやり直そうと誰かが言い出したものの、沈んだ空気で雰囲気もままならないと、

 

「罰ゲームで負けた方が食らうって事にしない?あられもない写真とか」

「「「「やろう!織斑君!」」」」

「なんでさ!?」

 

モチベーションを上げるために成政が言い出した罰ゲームでの結果だ。当然の如く一夏は敗北、罰ゲーム決定となった。

公平を期す為罰ゲームはくじ引き方式で1、2組が1人づつ書いたものを集め、負けた一夏に引かせたところ、

 

「女装(男装で) by成政」

「何してくれてんだよ成政ぁ!」

「ヘーキヘーキ、僕もやったから」

「そういう問題じゃないわ!」

 

こうなったわけである。

そんな時に役に立つであろう織斑先生は朝イチで買収したのでとやかく言われることも無かったりする。

 

 

 

「はーい、皆さんおはようございます」

「「「「おはよーございます!」」」」

「今日もみなさん元気ですねー。今日の休みは......」

「先生、一夏が休みです」

流れるように嘘を吐く成政。山田先生には情報は何も言っていないので、徹底的に誤魔化すつもりらしい。

 

「そうですか、分かりました。あんな事があった後ですし、当然ですよね」

「ちょっ、先生!」

「大丈夫です、何があっても、ちゃんと接しますから。そうよねみんな!」

「「「おう!」」」

 

意義を申し立てようとした一夏の声を、さらに大きな声で上書きし、消す。アイデアの光る相川のファインプレーだ。

なんだかんだでノリのいい1組、こう言った無茶振りにもしっかりと反応してくれる気のいい奴らの集まりである。

 

「......どういう、ことだ?」

 

ただし、一部を除き。

 

 

 

 

「そうそう、1組に新しい仲間が入る事になりました、みなさん暖かく接してあげてくださいね。入って来てください」

 

やいのやいのと盛り上がっていたところに、思いっきり爆弾が投下される。それまでの歓声が嘘のように静まりかえり、ドアの開く音だけが響く。

織斑先生に連れられて、入って来た転校生2人。

1人は金髪に中性的な顔立ち。

もう1人は、小柄で銀髪、そして鋭い目つきに眼帯が目を引く。

ただ、問題なのは、

 

「お.....」

「「「「男だーっ!?」」」

 

金髪の方がズボンを履く、男子だった事。

 

 

狂喜乱舞した1組の面子を抑えるのにはさしものブリュンヒルデも無理があったのか、静かになるのに5分ほどかかった。

40人が密閉空間で大声で叫べば、女子とは言えどもそれなりの音量になるわけで、当然の如くそれは鼓膜にも影響がでるわけで、

 

「ぐう、耳が、頭がぁ......」

 

壁際と窓で声が跳ね返るせいで人一倍大きい被害を被る羽目になった成政は、

 

「........、.................」

「な、何も聞こえない」

 

金髪男子の転校生の自己紹介を聞き逃し、

 

「.......が、.........」

「え、もう一回言ってくれる?」

「.........!」

「へぶっ!?」

訳も分からないまま銀髪の方にも理不尽なビンタを喰らう事になり、

 

「ふ、不幸だ......」

 

踏んだり蹴ったりの1日をスタートする羽目になった。自業自得だ、とのちに箒は語っていたが。

 

 

 

 

「おーい、なりなり〜」

「その声はのんちゃんか、どうしたの?」

「えっと〜、更衣室と逆方向だから、気になっちゃって〜」

 

次の授業はIS実技。みんなが着替えに更衣室に向かう中、成政だけが逆方向に歩いていた。

 

「急がば回れ、ってね?」

「んー?どういう事」

「これから起きそうな出来事を予想しただけ」

 

階段あるしついてきてくれる、と本音を誘ってワザと遠回りな道を行く。

男子の転校生とくれば、他クラスに情報が伝わらない筈がないし、人混みに囲まれれば走れない成政では足留めを喰らい遅刻必至、成政は進んで出席簿で叩かれに行くような馬鹿ではないのだ。案の定というべきか、遅刻ギリギリだった男子2人に対して、

 

「5分前行動は基本だろうに、はぁ」

「なんでお前はこんなに早いんだよ!」

「頭を使うんだよ、頭を」

「ははは、こんな日もあるよ織斑くん」

 

こんな無駄口を叩くくらいに余裕を持って行動していた。マネージャーは選手よりも素早い行動が求められる故、状況判断は大事なのだ。

 

 

 

 

 

2時間分ぶち抜きで行われるIS実技、その始めのデモンストレーションで、副担の山田先生がセシリアと鈴を軽くあしらっている中、いつもの3人は、

 

「2対1であそこまで立ち回れるとか、流石代表候補生、と言いたいね」

「ああ、射撃も正確、鈴の近接にも適確に反応しているし、すごい腕だ」

「千冬姉はアレを剣一本で潜り抜けて、しかも世界一、なんだよな」

「山田先生のメインが銃撃だからって参考にならないわけじゃない、しっかり見とけよ一夏」

「ああ、千冬姉より強くなるんだ、これくらい」

「......おい、男子ども。山田先生のナニを見ている」

「「何も見てないですよ」」

「貴様ら何故敬語なのだ!」

 

こんなおふざけもはさみながらだが、戦闘の分析は欠かさない。

元は付くが代表候補生、いつもの頼りなさと違い、現役代表候補生2人に引けを取らない苛烈な戦闘を繰り広げる山田先生。

そして、それを見逃すほど成政は馬鹿ではない。日本トップクラスの実力持ちの戦い、まだまだ初心者な1年にとっては学べる部分は多い。

 

(録画しとこ。にしても山田先生の胸って大きいよなぁ)

(分かる。結構エロいんだよなぁ)

(一夏は巨乳好きか?)

(......否定はしない)

(その手の本があったから、後で貸そう)

(すまん、恩にきる。毎日くたくたで最近できてないんだ)

(箒に見つかったらヤバイから、頑張れよ)

 

その舞台裏でこんな卑猥な会話が繰り広げられてたりするのだが、健全な男子高校生としては当然の事である。

《ナニが出来ていないとかそう言う質問はお控えください》

 

 

 

「では、実技を行う、出席順に! 専用機持ちのところへ並べ」

「「「「はい!」」」

「まあそうなるよね」

 

自由に、といえば公平にばらける訳もないので先回りして釘をさす織斑先生。この1組の扱いにも慣れてきた、という事だろう。

一応学園の打鉄を専用機としてもらっている成政も専用機持ち扱いとなる。

 

「1組の石狩です、よろしく」

「よろしくね。2人目の男子さん」

 

今日は1、2組合同の実技、というわけで2組生徒が振り分けられた成政。挨拶も済ませ、いざ実践、かと思いきや、

 

「みんな知っている事だけど、ISについて改めて言っておきたい」

 

そもそもISとは、と語り出す成政。兵器を扱う以上当然の事な訳なのだが、そんなの聞き飽きた、と聞き流そうとする生徒も多い。

 

「まあ、口で言っても分からないし、実践してみましょうか」

 

打鉄を右腕だけ部分展開、手慣れた様子で近接ブレード『葵』を取り出す。そして、

 

「これが打鉄初期装備の近接ブレード『葵』な訳ですが、ちゃんと切れます、こんな風に」

 

さも当然のように自分の左腕を斬りつける成政。若干気の抜けていた生徒たちの目に、鮮血の赤が映る。

 

「軽く撫で斬りしただけでコレです。もし人間相手にISがこれを全力で振れば、まあ軽く真っ二つです」

 

次にコレがISで使うアサルトライフルと同じ弾丸で撃たれた人のビデオですが、と明らかにヤバそうな動画を流し出そうとするので、

 

「乙女にトラウマを植え付けるな馬鹿者」

「いっだああ!」

 

それを見つけた担任に出席簿で制裁を喰らっていた。

先ほどの光景でも十分にトラウマが植え付けられ、次の日からサイコパス呼ばわりされる羽目になったのだが、成政は何故なのかさっぱり理解しなかった。

 

「いや、口で言っても伝わらないし」

「誰だって貴様のようにグロ耐性があるわけでは無いのだ」

 

 

「コツは、体の延長線上だと考える事。自分の体の様に、となると専用機持ちの様に日頃から扱ってないといけないしね。例をあげると.......ウィンタースポーツとかかな。スキーとかスノボとかだったら分かりやすいかな」

「あ、わかりやすいかも」

 

教え方は普通に上手かった模様。

 

 

授業開始からしばらくの事、成政が打鉄を降りて一人一人のアドバイスを書きながら指導をしていると、後ろから声をかけられた。

 

「ねえ、ちょっといいかな」

「えっと.....2組の人?」

「ええ、ちょっと。転校してきた......ラウラさん、だっけ」

「えっと......どっち?」

「......銀髪の子、なんだけど、私達に全然教える様子も見えなくて、困ってるのよ」

 

こっち見てるんだしなんとかしてよ、と言うその金髪の子が示す方向を見れば、

 

「......」

 

腕を組み、無言でこちらを睨みつけるラウラの姿が。親の仇と言わんばかりに殺気マシマシで睨みつけるラウラだが、成政は殺気を感じた事もなく、ましてや名も知らぬ赤の他人、

 

「じゃあ纏めて教えるよ、ISに乗って歩いてみて」

「わかった、ありがとう」

 

気にする様子もなくおーいみんなー、と同じグループのみんなを呼びに行ったらしいその子の背中を見送る。

その様子もずっと眺めていた銀髪少女の視線を気にして、やりづらさを感じて背中を向け、皆の指導に戻る。

(なんでこっち睨んでくるんだろ)

 

しばらくの間、視線が気になって集中できなかった成政だった。

 

 

 

 

 

「なあ、銀髪の子がコッチ睨んで集中できなかったんだけど」

「いきなり自分の腕を斬りつける奴が目の前にいる方が集中できないわ!」

「腕は大丈夫なのか成政、結構酷い傷に見えるけど」

「薄皮一枚だろう。かすり傷だ」

 

時は流れて昼休み、たまには弁当にしようぜ、と言う一夏の一言により各々がおかずやご飯ものを持ち込んで屋上での食事となった。

 

「薄皮一枚、初めてじゃ無いし加減分かってるよ」

「何回もやってるのかよ......」

「か、変わった人だね」

「変人と馬鹿は違いますよデュノアさん」

 

平気平気、と包帯を巻いた左腕を振ってみせる成政に対して、オロオロとする一夏。

「おい馬鹿、傷に触ったらどうするんだ!頭もまだ完治してるわけじゃ無いんだし」

「これでも身体は丈夫なんだ、気にすんな一夏」

「そうは言ってもなぁ......」

「木刀で頭を2回も叩いてピンピンしてるんだ。問題ない」

「おい箒」

「......しまった、ノーカウント。私はまだ1回しか叩いてない」

「それはそれで問題じゃないかなぁ」

 

男子という事で一夏が誘った金髪ことシャルルのツッコミが華麗にスルーされるが、

 

「まあ細けえこたあいいんだよ。シャルル君出汁巻食べる?」

「ワショク?食べたことないし貰おうかな」

「まいどー、300円」

「お金取るの?!」

「グラム当たりだから」

「ぼったくりじゃないか!」

 

まあ、そのうち慣れるだろう。

 

「所で君、スポーツは?」

「えっ、えっと」

「石狩成政。2人目と言ったほうがいいかもしれないね」

「こちらこそよろしく。シャルル・デュノアだよ」

成政が差し伸べた手を自然に握り返し、握手を交わす。一部それを面白くない目で見ているものがいたが、成政は気付かないフリをする事にした。

 

「スポーツは、特にやってないかな。あ、でも水泳は得意だったよ」

「ふーむ、そうか、成る程」

「えっ、何?」

「いや、つまらない事」

 

ひらひらと手を振ってオーバーなリアクションをして見せる成政。彼は純日本人なのだが、家族と旅行で外国を飛び回っていたためか若干日本人らしくないリアクションをとったりする。

 

「細かい事気にしたらダメだって、もっと気楽にいこうよはっはっは」

「そ、そうかな、ははは」

「成政ってこんなキャラだったっけな?」

「......気にするな一夏、何時ものことだ」

 

シャルルの背中をバシバシ叩いて笑う成政、そのあまりにらしくない仕草に首をかしげる一夏。

 

「あんなこと普通しないよなぁ」

「一夏さん、サンドウィッチを作ったんですの」

「......ああ、ありがとなセシリア」

 

考え事で上の空だった一夏は、特に深く考えることもなくセシリアのサンドウィッチに噛り付いた。

 

 

 

やはりというべきか評判通りというべきか、イギリスの料理が不味かった、と保健室でのちに一夏は語ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

「......」

 

昼休み、成政の目が途中から笑っていなかった事は、箒だけが気付いていた。

 

「何か、ある様だな」

「どうにもあの転校生、きな臭いなぁ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話

これで書き溜めすっからかんじゃーい!


原作持ってないから時系列めちゃくちゃかもしれません、ご了承ください。


 

 

 

 

「部屋の変更、ですか」

「はい、デュノア君も来たので、織斑君と箒さん、石狩君と本音さんとの相部屋も解消です」

 

放課後、男子3人は放送で呼び出され、なんの話だろうと話をしながら職員室に向かうと、部屋の変更について、と前置きして話が始まった。

 

「俺は誰となるんです、成政とですか?」

「織斑君はデュノア君とです。男子同士」

「あの、山田先生、僕は......」

 

失礼を承知で話を遮って。成政が自分の事を聞くと、悲痛な面持ちで成政に向き直る山田先生。

 

「残念ながら、石狩君はまた女子と相部屋です」

「おう......」

「すみません!部屋が余ってなくて」

「いいですってば、だから頭上げてくださいって!」

「ですけど......私、教師なのに」

「教師だってできないこともありますって!」

「でも、私は」

 

ウルウルと涙目、しかも上目遣いで成政を見てくる山田先生、成政がなだめても自分を責め続けて泣く一歩手前までやって来てしまい、

 

「貴様ら教師に向かって何をしている」

「織斑先生、これにはそれなりに深いわけ、がああああ!」

 

そろそろ教育委員会に体罰で訴えられないだろうか、と思ってしまう成政だった。

 

「そもそも政府が裏技で私に教員免許を取らせたのだ、期待するな」

「千冬姉とんでもないこと言わなかったか?!」

 

 

 

 

 

「で、相部屋がお前と」

「......私は2人目の男子と聞いてたのだが」

「僕が2人目です!」

「そうか」

 

荷物の運び込みもすみ、本棚に本を並べ始めた頃、ランニングから帰って来たらしいラウラとばったり出会った成政。ラウラがシャワーで汗を流したところで、部屋の取り決めを決めようという流れになったのだが、

 

「じゃあ、服はここから......」

「制服と下着とランニング用の服だけ、一段で十分だ」

「本は」

「教科書だけだ。他にはない」

「その段ボールは」

「レーションだ。食うか」

「貰う」

 

部屋の隅に山積みされた段ボールから無機質なアルミ包装のレーションを投げるラウラ。成政はそれを暫く見つめ、無表情のままラウラの肩に手を置くと、

 

「自己紹介頼める?聞いてなくて」

「む、そんな事か。ドイツ特殊部隊、シュヴァルツェア・ハーゼ所属、ラウラ ボーデヴィッヒ少佐だ」

 

小柄ながらも様になっている敬礼を見せられたが、成政にとってはどうでもいい。

 

「軍人て事は訓練とか面白いことしてるよねというか軍属の訓練とかむっちゃ興味あるし聞かせてくれるかな大丈夫大丈夫守秘義務とかあると思うけど口は堅いしどうせ喋ってもバレないからほら全部話してよプロの意見なんてそうそう聞けないし特殊部隊って事はレベルの高い訓練してるんでしょねえ教えて!」

 

 

 

 

「なあ、ボーデヴィッヒさんが燃えつきた様に真っ白なんだけど、誰か知らない?」

「昨日はいい話が聞けたなー」

「おい成政」

 

 

 

 

 

「銃の扱いが得意と聞いたので、デュノア君も交えてミーティングです。僕の銃も届いたし」

「えっと、よろしく、ね」

「おう、よろしくなシャルル!」

 

今日は親交を深めることも兼ねて男子3人で訓練となった。近接オンリーな一夏が模擬戦であっさりシャルルに沈められた所で、反省会も兼ねてのミーティングが始まる。

 

「射撃武器のない白式に乗ってるから当然だとは思うけど、一夏は射撃武器の特性を理解してないね」

「そうか?それなりには勉強してるし、セシリアとかにも聞いてるんだけどな」

「聞くのと実践するのじゃ全然違うよ。僕のライフルを貸すから、撃ってみて」

「わかった」

 

貸し出したアサルトを受け取り、マトに向かって構える一夏。4月にやったことをしっかりと覚えていたらしく、2、3シャルルが注意しただけでしっかりとした構えになっていた。

 

「じゃあ、石狩君もやってみようか」

「了解。来てくれ、『虎徹』」

 

初めて呼び出す装備なので、しっかりと名前を呼ぶ。一瞬後には、成政の手に大ぶりなライフルが握られていた。

 

「これは、また随分と古い銃を使うんだね」

「慣れてる銃の型をそのまま大きくしてくれって頼んだんだ」

 

本当はストックも木製が良かったんだけどな、と独り言を漏らす成政。

シャルルが驚いたのも無理はない。

成政がわざわざ作ってもらったのは、第二次大戦以前や当時に使われている様な、古い作動方式のボルトアクションライフルだったからだ。

 

1発撃つ度に、ボルトを引き、薬莢を出す必要のあるこの機構の銃は、ISでは全く使われないと言ってもおかしくない。

ボルトアクションライフル自体が消えたわけではないが、使われているのは猟銃であったり、命中精度の高さを求める特殊部隊であり、弾丸をばら撒く事を求めるIS競技では、姿を消している。つまる所時代遅れの三流兵器、と言うわけだ。

 

 

 

オマケだが、この銃は蔵王工業製である。

 

 

 

閑話休題(話を戻そう)

何故こんな武器を使うかとシャルルが尋ねれば、

 

「使い慣れてる、としか」

 

シャルルは人の趣味嗜好にとやかく口を出すタイプでもないので、私情は傍に置いて指導に入った。

 

「ライフル、ってことで良いんだよね。だったら狙うときはもっと脇を締めて、半身になるようにして。あと腕も伸ばして......」

 

 

 

 

「やっぱ餅は餅屋、だな。ありがとシャルル。参考になったよ」

「も、餅は.......?」

「専門的な事は専門家に聞け、という事。にわかよりもその道のプロに聞いた方が100倍為になる、って事。日本のことわざだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習後ロッカーで着替えている時、成政は一夏に声をかけた。シャルルはさっさと着替えて出て行ってしまったので、2人きりだ。

 

「なあ、一夏。デュノアについて話がある」

「ん、シャルルのことか。何だ?」

「実はだな......」

 

続きを言いかけて、途中で言っていいものかと口をつぐむ。

 

「何だよ、変なことでも誰にも言わねえって」

「......そうか。なら言おう」

 

成政は決意を改める様に大きく深呼吸をしてから、言葉を続けた。

 

「実は僕、デュノアが、女じゃないかと思ってるんだ」

「......えっ?」

「冗談でも何でもない、真剣な話なんだ」

 

呆気にとられる一夏を置いて、話を続ける成政。その内容は、少々突飛なものではあったものの、筋の通ったものだった。

 

「まず1つ目、デュノアは何故僕たちと着替えない?男子同士裸を見せ合っても何の問題もないだろう」

「それは、純粋に恥ずかしいとかじゃないのか?育ちがセシリアみたいに特殊だったりするかもしれないだろ」

「2つ目、歩き方が少し変だ。若干内股気味で、走る時も歩幅が小さい。

まるでスカートでも履いてたみたいに見えるんだ」

「それは......」

「3つ目、体格が男子らしくない。

高校生ともなれば、いくら小柄でもどっちにせよらしくなってくる。だが、シャルルにはそれがない。素晴らしく不自然だ」

「......」

「4つ目、体の筋肉だ。

屋上で昼休み、一緒に昼食を食べた時、ワザとらしく背中を叩いたろう。

体つきを調べる目的でやったが、触って見れば、あの体格と比べて筋肉がなさすぎる。

 

最後に、ニュースになっていない。

僕でもあんなに騒がれたんだ、日本の外で見つかっても速報くらい入る、不自然すぎだ。

あくまで僕の意見だが、シャルルが男子でない理由を挙げるとすればこんな所だ」

 

1つ1つ指を立てながら証拠を列挙していく成政に対して、最初は反論を試みていたものの押し黙ってしまった一夏。

それに追い打ちをかけるような一言を、成政は告げた。

 

「僕は、今すぐにこれを織斑先生に報告すべきだと思っている」

「っ、それは!」

「ああ、シャルルが本当に男か調べて、白黒はっきりさせる。たとえ専用機があろうと、教師陣には勝てないだろう」

「そういうことじゃなくて!」

「なんだ」

「つまり、シャルルを......」

最悪の結果を予想してか言い澱む一夏に対して、成政は容赦はしなかった。

 

「シャルル・デュノアは限りなく黒に近いグレーだ。どこかの国が送り込んだスパイの可能性も十分にあり得る。殺されるなり誘拐されるなりしても知らんぞ」

「ゆ、誘拐?!」

「あり得るんだよ。一夏はもっと自分について考えるべきだ。

今の自分が、世界で2人しかいない男性IS操縦者、という事実をな」

 

モルモットにされて、解剖されてもおかしくなかったんだぞ。

 

一瞬別人と勘違いするほどまでに、冷え切った声で成政はそう告げる。

その気迫に飲み込まれたかのように、思わず一歩後ずさりする一夏、その目を逸らそうともせず、真っ直ぐに見たままに続ける。

 

「死にたくなければさっさとデュノアを調べてもらえ。僕だって担当選手が死ぬのを見るのは嫌だからな」

「俺はっ、俺はっ......」

「よく考えろよ、自分が、何をすべきか」

 

そう立ち尽くしたままの一夏に告げ、更衣室を去ろうとする。

まさに扉が閉まろうとしたその時、奥から小さな、だが芯のある声が届く。

 

「それでも、俺は、シャルルを信じたい」

 

 

成政はそれに応えることなく、扉を閉め、去っていった。

 

「全く、これだからお人好しは嫌いなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よく考えろ』

 

先程告げられたその一言が、頭にこびりついて離れない。

「でも、俺はシャルルを信じるって決めたんだ」

 

朴念仁だとか唐変木だとか言われているが、一夏は人間観察自体が不得意なわけでなく、単純に恋愛感情について疎いだけなのだ。

時間をかけねば人の内面、悩みに気づけない成政と違い、一夏はすぐに気がついた、否気付いてしまったのだ。

 

「あんなに辛そうな顔をしてたら、ほっとけないだろうがっ!」

 

時折、シャルルが会話の端に見せる、その影に。

他の皆は気付いてすらいない。だが、一夏だけは気付いてしまった。楽しそうに笑う、シャルルの影、歪みに。

お人好しな一夏は、見て見ぬ振りなどできない、どんな事であろうとも、ぶつかっていく事しかしない。

 

「でも、俺に何ができるってんだ......」

 

ISの展開にも手間取り、生身でも剣道の勘も取り戻せていない。もしシャルルが映画のようなスパイだったら、到底勝ち目はない。

かといって政治的に権力があるわけでもない。姉がいくら元世界最強とはいえ、発言力は高が知れているし、何より頼りたくなかった。

 

 

「何か、何か無いか......」

 

歩きながら、ヒントになりそうな物を片っ端から思い浮かべていく一夏。

この時ばかりはISの授業内容、その専門知識の無さに、自分に対する苛立ちを隠せず、拳を握り締める。

 

「みんなを守る、そう決めたのに、なんてザマだよ、織斑一夏」

 

やり場のない怒りを閉じ込めたまま、自室へ歩みを進める一夏。

 

 

 

 

分かれ道は、もう、すぐそこまで。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話


わーい、UA10000わーい!





たけじんまんさん、毎回感想と誤字脱字指摘、ありがとうございます。


 

 

 

更衣室での一件から数日後、部屋で図書委員オススメらしい恋愛小説を読んで暇を潰していた成政。

 

「なんで武侠小説無いんだろ、はぁ」

 

功夫の参考になるかもしれないとそういった類の小説を探すも、あいにくIS学園はほとんど女子校だったせいか、一冊も見つからなかった。

腹いせにカウンター前の棚から適当に掴んだこの本を読んでいるのだが、

 

「.......さっぱり共感できん」

 

なぜ壁ドンされただけで顔が赤くなるのか、とかなぜあーんして貰うだけでこうも主人公は嬉しそうなのか、とか。

まだ恋愛経験のない成政にとっては、過ぎたものだったらしい。

それよりも、成政の集中力を奪うのは、

 

「あいつらどうしてるんだか」

 

一夏とシャルルの事だ。

成政が一夏にああまで言ったのには、ちゃんとした理由がある。

お人好しの究極形、正義の味方、その結末を。

とはいえ、直接彼と話したこともなく、聞いた話も、人柄も又聞き程度のもの。それでも伝わる 、結末の悲惨が、こびりついて頭から離れない。

そんな彼でも明確なグレーなスタンスの人物には敵意を持って接していたに違いない。だというのに、問題の一夏はのうのうと信じると言ってのけた。

「危うすぎるんだよねこれが」

 

自己犠牲、字面にすればかっこいいかもしれない、しかし成政は、

 

「自分が死んだら、誰がどうなるかわかって言ってんだか」

 

残されてしまった者の悲しみ、その一端とはいえそれを知ってしまっている。

だからこそやめておけと伝えたのだが、

「あいつは良くも悪くも真っ直ぐだからな」

 

真っ直ぐな一夏の性格。常人からすれば若干歪んでいるようにも見えるその在り方、しかし、成政にはそれが少しだけ眩しかった。

 

「あそこまでズバズバ言えるって、さぞ気持ちいんだろうなぁ......」

 

その後の後始末も考えたらプラマイ0なのだが、思った事を素直に言える一夏が、少しだけ羨ましく感じる成政だった。

 

 

 

 

 

 

 

その日の消灯時間ギリギリ、一夏は成政の部屋の前にいた。

事故が元とはいえ、シャルルの秘密、シャルルが女性である事、その背景にあるデュノア社の事、シャルルの生い立ち、などなど。

ここまで聞いてしまった以上、一夏はもうシャルルを放って置けない。

 

「......虫のいいことは、分かってるけど」

 

だが、一夏は対策が考えられなかった。

このままではシャルルは本国フランスに強制送還され、犯罪者になってしまう。それだけは、許せない。

だからこそ、秘密を守れそうかつ案を持っていそうな成政のところに来たのだ。

 

「すまん、ちょっといい、か?」

 

はやる気持ちがそうさせたのか、ノックもせずに部屋の扉を開け、踏み込んでしまった一夏、彼が見てしまったのは、

 

「そうそう、そんな感じで......」

「なるほど、興味深い」

 

それなりに衣服の乱れたラウラが成政を押し倒し、今にも襲おうとしているように見える光景。

 

「シッー!」

「のわっ?!」

 

ラウラは一夏を認識した瞬間、跳ねるように踏み出し一夏を押しのけて部屋から走り去ってしまった。

 

「......なにがあったんだ?」

「いろいろ、だ。深くは聞かないでくれ」

 

ぱんぱんと乱れた衣服を整え、10秒後にはいつも通りに戻った成政が改めて問う。

 

「で、デュノアの事か。こんな夜遅くに、と言うことはそう言うことだろう」

「ああ、その通りだ。成政の言う通りだったけど......」

 

一夏は両膝を地面に付け、両手を両膝の前に置く、そして、

 

「頼む!シャルルを助けてやってくれ。調子のいい事を言ってるのは分かってる、無理を言ってるのも分かってる。だけど!

俺は、シャルルに何も出来ないんだ。頼む、俺に、力を貸してくれ!」

 

頭を地面に擦り付けた。その姿を見て、深くため息をついた後、成政は、

 

 

「任せろ」

「無理を言ってるのは......えっ?」

「どうせお前の事だ、背負い込むのは分かってる。突き放すんなら話は別だが、依頼されたとあっては断れない。

選手の希望を出来るだけ叶えるのも、マネージャーの仕事だし、頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

「おかえり、一夏」

「ああ、助っ人を連れて来た」

「助っ人です」

 

シャルルの身の上話と事件の経緯を聞き、これからどうするか、と言う話題になる。

 

「一応、対策は考えたには考えたんだけど......不十分かな、って思う」

「ダメでも良いからいろいろ出そう。組み合わせたらいけるかもしれない」

「成政、学生証のここ見てくれ。特記事項21の所」

「なになに、『特記事項第21、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。』と」

「これを使えばいけるんじゃないか?」

「確かにこれはいいけど......問題が先送りになるだけだしなぁ」

 

特記事項21、これを使えば公的にはシャルルがフランスにちょっかいを出される事は無くなる。が、あくまでそれはIS学園生徒の時のみ、卒業するまでの時間稼ぎにしかならない。

これを活用して時間を稼ぎ、3年以内に問題を解決できるような素晴らしいアイデアが浮かぶのを待つか、今ここで後門の憂いを断つべきか、

 

「......この問題は先送りすべきじゃない。学園かデュノア社が許可を通せば、3年じゃなくても連れ戻される可能性だって無いわけじゃない」

「やっぱり駄目か......」

「一夏、ごめん。やっぱり僕」

「いや、でもこれは最終手段として使える。いざとなれば教師をどうにかして抱え込んで説得してもらえばいい。セーフティとしては上出来だ」

「でも、最終手段、なんだろ」

「ああ、別の手を考えよう」

 

下手な鉄砲もなんとやら、と言わんばかりにさまざまな案を考える2人。

その間、シャルルはずっと布団にくるまって黙り込んでいる。当事者を放置しての話し合いは、朝まで続いた。

 

 

 

 

 

 

「ゔぁー......」

「あびゃー......」

「酷い顔だな2人とも、おはよう」

 

((結局何も出来なかったな......))

一夏の出した特記事項21を利用しての時間稼ぎ、以上の案は出ず、そのまま次の日になってしまった。夜通し話し合いをしていたせいで2人ともFXで有り金溶かしたような酷い顔になっていた。

結局問題は持ち越しのまま、次の日の朝を迎えてしまった。

 

 

 

 

「......くかー」

「起きろ織斑、授業中だ」

バシン

「にゅああああ?!」

(寝たらしぬ寝たら死ぬ寝たら死ぬ寝たら......)

 

睡魔と戦いながらも1日を終え、放課後。

特に何もいい考えが浮かばないまま、話し合い2回目を迎え、

 

「ゔぁー」

「まだだ、まだ何か......」

 

3回目を迎え、

 

「......眠い」

「.....しんどい」

 

4回目、

 

「これもう無理じゃないかなー」

 

目の下にくっきり隈を作り、虚ろな目でそう切り出した成政。

ここ3日、ろくに寝ないでシャルルをどうにかする案を考えたのだが、全く浮かばない。

同じような顔の一夏も、はっきりとはいかないが、自分たちの限界を薄々は感じていた。

 

「はぁ、まじでシャルルが男だったら万事解決なのに」

「あはは、それは、無理かな......」

 

寝不足で口が軽いのも手伝い、愚痴を漏らす一夏。ぼーっとした頭でそれを聞いていた成政は、深夜テンションのなせる技なのか、とんでもないことを言い出した。

 

「いっその事、シャルルを男で通すか」

「それは、無理じゃないかな。こんな短い期間で2人に分かっちゃったんだし、これ以上隠し通せる訳ないよ」

「いや、世の中には体と中身の性別違う人も居るわけだし、シャルルの男って自称も筋が通るし」

「......僕、そんなんじゃないんだけど」

「デスヨネー」

 

ちゃんと寝ているシャルルに呆気なく却下される成政の案、正気だったらこんな事考えない。

はあ、と揃ってため息をつく3人。

まさしく八方塞がり、袋小路にはまってしまったようなもの。

最初に一夏の言った案通り、問題を先送りにしよう、そう諦めの言葉が出そうになってしまうが、それだけはしたくない、と弱気な考えを押し込める。

 

「要するにシャルルを、フランスが手出しできない様にすればいいんだよな」

「......うん。でも、僕がデュノアなのもついて回るし、どうしようもないよ」

 

閉じそうになる重いまぶたと格闘しながらも話すことは辞めない。言葉さえ出れば対策が出るかもしれないと、気合いで持ちこたえながら言葉を話す一夏。

申し訳なさそうに頭を下げるシャルルが、フラフラしてもう限界に見える2人を止めようと口を開いた瞬間、

 

「......いけるかもしれない」

「なにが?」

「いけるかもしれない。シャルルをフランスが手出しできない様にする」

 

寝不足で酷い顔のまま、2人に笑いかける成政。

 

「要するにフランスと仲の悪そうな国の、重要な場所に置けばいいんだよな?」

「ど、どうやって?!」

「まあ色々と問題はあるが......まあなんとかするさ。それはだな」

「それは?」

「それは......」

 

 

 

 

「その前に寝させて」

「もう、無、くかー」

「今は大事なところでしょー!」

 

 

 

 

 

 

寝落ちしてぐっすりと眠る2人をベットに運び、布団をかけるシャルル。

一夏の寝顔を眺めながら、ポツリと呟く。

 

「恋、しちゃったのかなぁ」

 

自分の酷い身の上話を聞いてまで、助けようとしてくれる優しさ。

自分に対して色眼鏡をかけず接してくれた真っ直ぐさ。

暫く前から一夏を見るたびの溜まる、胸のモヤモヤは一体なんなんだろうか。

 

「恋じゃねえの?」

「うわっ!」

 

一夏と同じく寝ていた様に見えた成政が声をかけ、思わず飛び上がるシャルル。

 

「ま、ライバルは多いが頑張れ。応援はしないぞ、他人の恋路にちょっかいを出せば馬に蹴られるって言うし、恋の相談は受け付けていないんでな」

 

自分の部屋で寝る、と言って立ち上がり、フラフラしながら出て行く。

「......ありがとう」

 

シャルルは、去っていく後ろ姿にそう告げた。

 

「あ、そうそう。ライバルは具体的に言うと......今で3人」

「多くない?!」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話

今回の話はちょっと短め。
つまらんシーンは筆が乗りませんねぇ......。

みなさん夏バテには気をつけましょうねー。


 

 

 

「来月、学年別タッグトーナメントが開催される。ここに登録用紙を置いておくので、お互いの署名の上、来週までに私か山田先生に提出する様に、以上だ」

「起立、礼」

「「「ありがとうございました」」」

 

学年別タッグトーナメント。

一学期のIS操作技術、実践能力を見るため、と銘打たれた、実際は将来有望な生徒を見たいと外が言ったので設けられたイベント。

優勝者には、クラス対抗戦の事故で有耶無耶になった半年間デザート無料のフリーパスが配られる。

優勝商品を目標にするもの、自身の実力を試そうとするもの、それ以外の目標を掲げるもの、興味を持たないもの、もしくは自社商品の売り込みをしようとするもの、理由もやる気も皆様々だ。成政とてこのイベント、スルーするつもりなどない。

 

「さて、と」

 

誰をマネージメントするものか、とイベントで舞い上がるクラスメイトを見回す。

戦う姿も、話したこともないクラスメイトもいる、がそれがいい。

「どうしたものかねー」

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、成政。タッグトーナメントはどうするんだ?俺はシャルと組もうと思ってるんだが」

「しょーじき、勝つんなら専用機持ちの誰か、あと剣道部の誰か」

「仲良い人の方が気が楽だもんな」

「それもあるが、データが揃っていると言うのもある。なるべく同じ組がいいが、文句は言えない」

 

いつもの如く男子2人は相席で顔をつきあわせながら飯を食っている。

今日の日替わりはボルシチというロシアの料理らしいのだが、

 

「辛くない、訴えるぞロシア......!」

「赤いイコール辛い訳じゃないだろ」

 

とてつもなくどうでもいい事を言いながらであるが、箸を休めることはない。要するに意外といける、という事だ。

「うむ、懐かしきロシアの味よ......」

「アキヤマが言うと説得力があるな、日本人だけど」

「赤といえば井伊の赤備えではないか?」

「そこは真田というべきだろう左衛門座」

「赤......赤といえばイタリアの撃墜王レッドバロンことManfred Albrecht Freiherr von Richthofenではないか?」

「「「それだ!」」」

「なぜそこだけネイティヴなのだ。全く訳が分からんぞ」

 

 

隣席で騒ぐ制服をコスプレチックに改造した、もう見慣れてしまった女子の集団を眺めながら、世間話に興ずる。

 

「改造自由とはいえフリーダムすぎないかあれ」

「......僕も改造しようかな。これ動きにくいし」

 

この話は後々波乱を呼ぶことになるのだが、今はまだそれを誰も知らない。

 

「ところで、セシリアや凰とかも居るのにどうしてシャルルと組もうと思ったんだ?」

「シャルルの戦闘スタイルは、相手を牽制してなるべく中距離を保つタイプだろ?シャルが怯ませたうちに、俺が白式で一撃、って訳だ。それに、俺がヘマしてもカバーしてくれそうだし、何より」

「何より?」

 

一夏は一旦言葉を切ると、近くに誰もいないことを確認してから、小声で言葉を続けた。

 

「シャルのことがバレないように、って事。成政の言う通りにはしたけど、その前にばれちゃおしまいだからな」

「......それもそうか」

 

4月に会ったときとは違い、少しだけそういった細かい事にも頭が回るようになってきた一夏、その成長に思わず驚く成政だったが、なんとなく負けた気がするので顔には出さなかった。

シャルルの問題については6割くらいはケリがついていた。後は本人ともう1人の許可さえ取れれば丸く収まる、と言うところまで来ていて、あとはタッグマッチトーナメントに合わせてくるその関係者に最終確認を通して、終わり。

と言う訳なので、タッグマッチが終わるまでシャルルが女という事実を漏らす訳にはいかない。

タッグともなれば顔を合わす事も増え、成政のように部屋に押しかける可能性もなくはないだろう。少しでも秘密が漏れる可能性を減らそうと言う一夏のファインプレーだ。

「で、これから、の話だったな。つまり練習メニューの事だろ」

「ああ、それでなんだが」

「悪い、今回ばかりは出来ない」

「えっ」

 

いつもなら本人が断っても押し付けがましく練習に付き合うような成政だが、今回は無理 、とはっきりと告げた。

驚く一夏を見て、理由を簡単に告げる。

 

「今回はタッグマッチなんだ。自分も1選手として出ないといけないし、一夏たちと当たるとも限らない。そんな相手と一緒に練習して手の内を明かすほど馬鹿じゃないし、何よりタッグのもう1人に失礼だろう」

「あー、それもそうか」

「それに、本当ならマネージャーに頼りすぎもどうかと思うぞ、自分で頑張れ」

「わかった、ごめんな成政」

「気にするな」

 

ごちそうさま、とちゃんと手を合わせてから食器を片付けに行く2人、礼儀は欠かしてはならないと常日頃から成政は言っているし、剣道では挨拶などの礼儀を重視するスポーツだ、必然的にそうなる。

昼休みもまだ半ば、やる事もないのでタッグの相手を探しに教室に戻った成政だが、

 

「私か?残念だが同じ剣道部の四十院さんと組むのでな、すまない」

「わたくしは2組の凰さんと組みますわ。勝てる勝負を捨てる気はありませんの」

 

専用機持ちと親しい箒はもうすでに先約で埋まっていた。一縷の望みをかけ元ルームメイトの本音に声をかけに行ったのだが、

 

「私はかんちゃんと組むから〜」

「さいですか」

 

あえなく撃沈。

一層の事適当に行き当たりばったりで、と考え始めたところで、成政はとあることを思い出した。

目的の席へ向かうと、その席の主は成政の読めない言葉がびっしりと書かれた本を読みながら昼食をとっていた。しかし上の空のようで内容は頭に入っていないようで、ただページをめくっていた、の方が正しいだろう。

彼はその本をひょいと掴んで内容を見る。予備知識もないので読めるはずもない。

「......なんだ」

「別に、ただ、少しお願いがありまして」

 

本を取られてなのか、邪魔されてなのか不満げな表情を見せる彼女に、成政は登録用紙とペンを手渡す。

 

「今度のタッグマッチ、僕と組んでくれませんか?

 

 

 

 

 

......ラウラ・ボーデヴィッヒさん?」

「まず、貴様に私と組する資格があるのか?それを確かめさせて貰おうか」

 

もそもそとしたレーションを口の中に押し込んでから、銀髪の少女は、不満げにそう告げた。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、

 

「これはどうかな」

「ふん、こうすればいい」

 

自室にて机を挟んで睨みあうラウラと成政。

互いに火花を散らしあう2人の表情は真剣そのもの、誰にも邪魔はさせないと言わせるような雰囲気は謎のオーラを纏い、薄暗い部屋がそれを加速させていた。

そして、

 

「チェックメイト、私の勝ちだ」

「だぁー、負けたー」

 

黒の女王が白の王を盤の端に追い詰め、戦争が終わる。勝ったのは黒、ラウラの陣営だ。

 

「いやー、楽しい試合だったよ」

「こんなゲームの何が面白いのか、私にはわからんな」

 

不満げに盤と駒を箱にしまうラウラだが、簡単とは言えないチェスのルールを理解し、戦略も立てられているということは相当やり込んでいることだろう。

 

「まあ、親交を深めるのも済んだところで」

 

成政は虚空からホワイトボード、ペン、資料などを手慣れた様子で取り出し、ラウラにも手渡す。

ISの収納領域の無駄遣い、とも言われそうだが、本人はISを便利グッズとしか思っていないため、最低限の武装以外にも日用品やこういったよく使うものなどを詰め込んでいる。専用機持ちならではの特権だが、成政以外はしていない。

 

さて、と前置きして、大きく深呼吸をする。

 

「僕がボーデヴィッヒさんの相手にふさわしい理由、それを説明しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグマッチトーナメント、その1回戦第1試合、専用機コンビだったセシリア・凰コンビとの試合を僅か3分で終わらせたマヒロが次の対戦相手は、とトーナメント表を見回していた。

対戦表発表直後の前評判では代表候補かつ専用機持ちの2人の圧勝、だったのだが、

 

「この俺も本気を出さざるを得ない......!」

 

マヒロの悪ノリもとい本気モード、そしてそれをどこからか聞きつけた蔵王工業が変態ぶりを見せつけ、連携なぞなんぼのもんじゃい、とアリーナの空ごと焼き払い、

 

「味方だったはずなのに、ずっと背中に死の気配、っていうのかな。そういうものが張り付いてる気がしていて、とてもじゃないけど生きた心地がしなかったです。代表の先輩のしごきの方が10倍マシでした......」

カナダ代表候補生のパートナーにそう言わしめるほどの圧倒的な火力を見せつけて決着となった。

 

そして、電光掲示板が示すのは、

 

『1回戦第2試合、

織斑一夏 シャルル・デュノア ペア

vs

石狩成政 ラウラ・ボーデヴィッヒ ペア』

 

「やっぱり、.........違うわなー」

 

勝ち上がった方が自分達と戦う訳になる。だと言うのに、マヒロは焦る事もなく、能天気に構えていた。

 

「神上さん、こっちこっち」

「あー、ごめんねー」

 

ペアの子に声を掛けられ、呼ばれた方へ走って行くマヒロ。

「さて、ズレている以上、どう転ぶかな?」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話

みんながハードル上げすぎて難産でした......
自分でも若干納得はいっていないです。

あ、活動報告のアンケート、参加お願いしますね!


 

 

 

話は少し過去にさかのぼる。

 

タッグマッチトーナメント、その2週間前。

全員のペアも出揃い、放課後のアリーナでも連携練習も見られ始めるようになった頃。

中庭を見渡せば、2人で相談事をする生徒も増え、学校全体が緊張感を帯びるようになってきた。その例に漏れず、成政とラウラも話し合いを重ねていた。

 

「ところでなぜ私を選んだのだ?実力順でならば納得はいくが、いつも練習を見る1人目や篠ノ之と組む方が自然なのではないのか」

「同じ部屋だったから話すのが楽なのと、他は先客がいたから、かな」

「ふん、つまり私は消去法か、くだらん」

「まあそれもあるけど、結果的にはいい感じだったかな」

「......と言うと」

 

小腹が空いたのでラウラが大量に運び込んでいた馬鹿みたいに甘いレーションのチョコを齧りながら、という少し締まらないような格好だったが、成政は少し間を置いて真剣な表情で話し始めた。

 

「正直、実力的にはボーデヴィッヒさんがずば抜けて高そうなのは事実。まだ1回しか見てないから何も言えないけど、ひとつひとつの動作に無駄がないし、綺麗だ。それに軍にいた、って言うことはそれこそ質の高い、実戦に近いような事もやってきたんでしょ」

「......」

「そして、1対他の経験があるとすれば、代表候補生か、軍人のボーデヴィッヒさん。他の代表候補はまだ未経験と聞いたけど、経験は?」

「勿論、ある。そもそも1対1の状況などそうそう作れるものではない」

「そうだよね。じゃあそれを前提として話すけど、2対2、今回のようなタッグ同士で戦う時のセオリーか何かって知ってる?」

「......1対1、もしくは2対1を作る。1人で多くの敵と戦うとなれば、全方位に気を配る必要がある。もし相手全員が自分と同じ技量の持ち主であれば、まず勝ち目はないだろう」

「成る程、剣道じゃこういうことは聞けないからね、メモメモ、っと」

 

時々挟まれる成政の腑抜けた発言にラウラが気を抜かれながら、ではあるものの話し合いは滞りなく進んでいった。

 

「で、話を戻すと。そこがボーデヴィッヒさんと組んだ理由な訳になるんだよ。

聞くけど、たった2週間程度、毎日2時間さわれたとして28時間。

それだけで完璧な連携なんて組める?」

「不可能だ、あり得ん」

 

即答、だった。

 

「連携、と言っても形は様々、簡単に前衛後衛合わせるとしてもアリーナの広さでは難しいだろう。それに、いちいち声を掛け合っていたのでは遊びのようなものだ。アイコンタクトで合図を取る、相手の意思を汲むと言った基本的な事も、この様な短期間ではままならんだろう」

 

(しかし、こいつと話していると調子が狂うな、話が止まらん)

 

「僕も素人だし、足手纏いは自覚してるつもり。だからいっそのこと1人でも大丈夫なボーデヴィッヒさんに戦闘は任せて、こう言った情報支援に徹する。僕のいつも通りの仕事だ。ボーデヴィッヒさんは表で戦う、僕は裏で戦う。

他の人だとこうも上手くハマるほど実力が高くないからねぇ」

「一応は理に適っている意見だな。もしくは弱者らしい、というべきか?」

「まあそうだねぇ。身の上は弁えてるつもりだし、自分のできることなんてたかが知れてるよ」

 

自分では何もしようとしない成政を皮肉ってか、辛辣な言葉を口にするラウラだが、成政はそれに噛みつくことも無く、飄々と受け流してみせた。

 

「自分では出来ない事、できる事。線を一本引いてみるだけでやれることは大きく変わってくるからね。広く浅く、より深く狭く、の方が効率がいいからね」

「貴様は1人目とは違うのだな。あいつは教官の偉業を阻んで置いて、教官を守るなどとほざく大馬鹿だが、貴様は自分の立場を弁えてるらしい」

「自分の立場を弁えているというかは、こっちの方が性に合ってる感じなんだけどね。

ISを使えば動けるとはいっても、普段は動けないんじゃイメージも湧かないよ。それにマネージャーの方が面白いから、あと」

 

 

「一夏は、弱者じゃない、強者だ。侮ってると足元すくわれるよ?」

 

 

まあそうならない対策を今から考えるんですけどねー、と気の抜けた発言を続けてしまうあたり、真面目な空気がどうしても作れない成政だった。

 

「じゃ、一夏の機体の細かい情報から......」

 

 

 

 

 

 

 

 

「......ぜですか教官!」

「ん、なんだなんだ?」

 

トレーニングがてら散歩を日課にしている成政。人工芝と並木を眺めながらのんびり歩いていると、ルームメイトのラウラの怒鳴り声が耳に入ったので、声につられるままにそこへ向かった。

物陰から様子を伺うと、ラウラと織斑先生が口論をしているらしい事くらいは解るのだが、肝心の内容は途切れ途切れ。

『......ですから、なぜ教官がこんな極東の1施設で教鞭を振るっているのですか。ISをファッションなどと勘違いしているような輩よりも、私達シュバルェア・ハーゼの......』

「のわっ?!」

 

なのだが、突然音声がクリアになる。それこそ眼前でも変わらない程の大きさで、思わず驚いて声を出してしまう成政。

『......そこに誰かいるのか?』

『話をそらさないでください教官。私は今大切な話をしているのです』

 

ラウラの意図しないファインプレーによって、なんとか存在がバレずに済んだ成政。

壁際に寄りかかって胸を撫で下ろしていると、頭の近くに何かある事に気付く。

 

「これ、打鉄の頭?」

 

最近あまり展開はしていないものの、見慣れた視界に入る棘のような灰色のセンサー類、ご丁寧に目の前に製造ナンバーと打鉄の名前を出されては、信じずにはいられない。

 

「......ま、いっか」

 

なぜ展開したのかなどの理由はともかく、打鉄は今やっている出歯亀には最適だ。打鉄を閉じることもなく、成政はそのままこっそり覗き見を続けた。

 

 

『ですから、ドイツに......』

『私にできることはほとんど教えた。他は自身が修練の中で見つけるものだ、私には何も口出しできん』

『しかし......!』

『話は終わりだ。部屋に戻れ』

『っ......失礼します』

 

「なるほどわからん」

 

ラウラが逆方向に走り去っていったところで、

成政はそう呟く。

あまりにも断片的すぎて理解が追いつかない。わかったことといえば、せいぜい織斑先生がドイツにいたことくらいだ。

何がどうなっているのやら、と成政が腕を組みながらその場で考え事をしていると、

 

「盗み聞きは楽しかったか?」

「わひゃい?!」

やはりバレていたらしい、と察した成政は諦めてすごすごと織斑先生の前に姿を現した。

 

「そうだな、罰に私の話にでも付き合ってもらおうか。ISの無断展開は黙っておいてやろう」

「まじっすか......」

 

織斑先生に肩に手を置かれた時点で、成政に逃げ場はなかった。

 

 

 

 

 

 

「第2回 モンド・グロッソ決勝、私が決勝を棄権したのは知っているか?」

「知りませんよ。全国大会前で忙しかったですし」

「そうか」

 

実際、その頃は全国大会に出場する事となった現部長(当時は副部長)のためにデータ集めであったり、練習メニュー作成であったり、大会の日取りの確認であったりと忙しく、成政はテレビをつける程暇していなかったのだ。

 

「世間では、原因不明の途中棄権とされているが、実際は違う」

「というと?」

「......観戦に来ていた一夏が、テロリストに攫われたのだ。恐らく、目的は私の優勝を阻止する為だろう」

「それで一夏を助けるために、試合をすっぽかした、ですか」

「ああそうだ。全く、我ながら呆れるような事をしたものだ」

そう後悔の言葉を口にする割に、織斑先生は深刻そうな顔をせず、むしろ満足げにしていた。

 

「国の期待を裏切り、関係者の期待も裏切り、個人の都合で勝手に勝負を捨てる。最低な人ですね」

「ぐうの音も出ないほどその通りだが、私は後悔していない。たった1人の家族を守れたんだからな」

 

成政のような裏方からすれば、そんな勝手な行為は許されない事だ。

時間をかけ、金をかけ、期待をかけて送り込んだはずの選手が、決勝という最高の舞台を個人的な理由で無断で休むなど、しかも目の前でそんな事を誇らしげに語られては腑が煮えくりかえるような思いだろう。

だが、とても人間らしい事だった。

「私は最低な女だよ。だから選手をやめ、1年ほど教官としてドイツにいた。一夏を捜索の礼も兼ねて、だがな」

「へー、で、ラウラに出会ったと」

「ああ、教え子の1人だ」

 

成る程、だいたい全体像が見えて来た、と成政は呟いた。

「1年前、織斑先生はラウラの教官をしていた。

その過程でラウラは尊敬に値する師を見つけた、織斑先生だ。

ラウラは軍属、つまりは裏事情も全部知ってる訳ですよね。

尊敬する師、その偉業を下らない理由で阻んだ一夏をラウラは許せない、と」

「どうやらそうらしい。全く、何処で間違えたのだ......」

 

吸わないとやってられないと言わんばかりに、生徒の目の前で堂々とタバコを吸い出す教師。不真面目な教師なのは明らかだ。

そんなんだから教え子がひねくれ者ばかりなんじゃあ、という言葉が成政の口から出そうになるが、

 

「今何か変なこと考えなかったか?」

「イイエナニモ、カンガエテイナイデスハイ」

 

元世界最強は、他人の脳内を読める。

ロクでもないことを考えれば出席簿アタックをもらう羽目になるので、気をつけよう、と後でクラスに張り紙でもしておくか、と現実逃避する成政。

 

「ラウラは力の持ち方、振るい方を履き違えている様で、私が何を言っても聞きそうにない。

それに、私では上手く伝えられない」

「で、僕が代わりに、ですか」

「一夏では、上手く伝えられそうにないのでな」

「まあそうですよね」

 

織斑先生はタバコを携帯灰皿に押し付けて火を消すと、ベンチから立ち上がる。

この場から立ち去ろうとする織斑先生の後ろ姿に向かって、成政は笑って声をかけた。

 

「全力でお断りさせていただきます」

「何?」

「無理だって言ってるんですよ。やれない仕事は断ると決めていますので。

 

戦いの意味なんて16年だけしか生きていない若造に分かるわけないじゃないですかやだもー。それに、週刊マンガみたいに戦って理解した方が自分のためになりますし、僕はそっちの方が好きです」

 

それでは、とこの場を去る成政。

選手として同じ目線ではなく、マネージとして一歩引いた立ち位置から。

そして、より面白い方向へ。

それが、成政の考え方の根幹だ。

 

「ふっ、面白い奴だな」

「よく言われてたら良かったんですけど、あいにくまだ5人ほどにしか言われてないです」

「......そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それと、教師には敬語を使え馬鹿者が」

「あいだぁ!?」

 

 

 




書いてみて思っている事。
心理描写難しいね。あとどうにも一人称っぽくなる、三人称のつもりなんだけどなぁ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話


番外編、行ってみますか、というわけで。
成政の里帰りともう一本、お送りいたしますよー。

fate/stay night の知識がないと訳がわからないかもです。
御免なさい。




 

 

 

 

番外編1 石狩君の里帰り。

 

5月、GWの連休を利用して成政は、

 

「冬木よ、私は帰って来たー!」

 

東京から飛行機とバスを乗り継ぐこと5時間ほど、成政は生まれ育ったT県冬木市に帰って来ていた。

日本政府から大量のお給金は貰っている上、石狩家はそれなりに裕福な方。気軽に、とはいかないが半年に一回ほどであれば、生活にも余裕が残る程度に成政の口座にお金がある。

「さて、と。みんな元気にしてるかなー」

 

剣道部の地区大会、県大会まではもう1ヶ月もない。自分がいなくて大丈夫だろうか、という親バカに似たような気持ちで、穂群原学園の校門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

「お願いします」

「どちらさ、って成政じゃないか!」

「よう、久しぶり衛宮、みんな。積もる話もあるけど、休憩時間に、な?」

「ああ、面白い話聞かせてくれよ」

 

成政が剣道場の重い扉を開けば、元気に竹刀を振るう皆の姿があった。

練習を中断するわけにもいかないので、軽く言葉を交わしてから練習に戻らせる。

 

「次は、掛かり稽古」

「「「はい!」」」

「お久しぶりです、コーチ」

「......元気か?」

「ええ、おかげさまで」

「......そうか」

 

寡黙なコーチは成政に一言だけ声をかけて練習に戻っていく。

あの人らしいや、と昔を懐かしむが、まだ1ヶ月も経たないうちにそれはおかしいと思い直す。

慣れない生活の反動か、無意識に気が緩んでいたらしい、これはいかんと自分の頬を張ると、コーチに言伝を頼んで挨拶もそこそこに武道場を去った。

そして大きく伸びをして、

 

「さて、久し振りの我が家に帰りますかな」

 

今回の帰省、やることはたくさんあるのだ。

 

 

 

 

 

団地が立ち並ぶ一角の外れにある、植木に囲まれたこぢんまりとした二階建ての木造瓦葺きの一軒家、ここが石狩家だ。

庭先の植木鉢の底に隠した錆びた鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで回す。

ガラガラと引き戸を開け、埃臭い空気に顔をしかめながら敷居をくぐる。

代わり映えしないごちゃごちゃした部屋の様子に、思わず成政は胸を撫で下ろした。

 

兄の趣味である歴史の雑誌、グッズ各種。

母が好きだった純文学の本の山。

父のものはここにはない、というより大好きすぎて文字通り肌身離さず持ち歩いているゆえここにはないのだ。

そして、自分の集めていた雑誌のスクラップ、その手の専門誌。

埃っぽい空気と一緒にだったが、そのインクと紙のカビ臭い匂いを肺いっぱいに吸い込み、

 

「うえっげっほげほ!」

 

まずは換気と掃除しよう、と涙目で咳き込みながら心に決めた成政だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久し振りだな、ここに来るのは」

 

成政は制服を脱いで私服に着替え、自宅から歩く事しばらく。このご時世には不釣り合いな武家屋敷の門をくぐると、その家主から優しく声がかかった。

「来たな成政。茶を出すから座っててくれ。晩飯はまだかかる」

「ああ、わかった」

「今日のディナーはなんですか士郎!」

「秘密だ。せっかく成政が帰って来たんだし、ちょっと奮発してるけどな。お楽しみは......」

「やっぱり愛しています士郎っ!」

「ちょ、セイバーやめ、うわっ!」

 

ドタバタと繰り広げられる恋人同士の大騒ぎをBGMにのんびりと靴を脱ぎ、久し振りに訪れる衛宮家の構造を思い出しながら居間を目指した。

 

一際大きめな襖を開けると、見慣れたテーブルと、

 

「はあ、シロウはいつもああなんだから......見せつけられる身にもなって見なさいよ」

「全くもってその通りだ。自分ごとながら恥ずかしい事この上ない」

「それはブーメランという奴ではないでしょうか......」

「それを言ったらダメだろライダー。赤い悪魔がお怒りに」

「誰が赤い悪魔ですって?」

「そりゃもちろん遠坂のことだろ、なあ桜?」

「わかっているなら勝手に巻き込まないでください兄さん!」

 

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐいつも通りの友人達を眺めながら、自分の気持ちも切り替えるように大声で告げる。

 

「ただいま、みんな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成政とその友人達は思い出話に花を咲かせ、虎が乱入して来て大騒ぎし、正義の味方が何故かプライドをかけての料理対決が始まり、それを肴にして贋作者と海藻が将来の夢を語り合い、そこに赤い悪魔が噛み付いたのを後輩と怪物が宥め、幸運Eのなせる技か流れ弾で狗が死んだり、と色々と事件はあったものの、夜遅くまで宴会は続いた。

そして皆が疲れて寝静まった深夜、

 

「はいよ、約束の物だ」

「悪いな衛宮、こんな夜遅くに」

「いいって、俺と成政の中じゃないか」

 

士郎は玄関で風呂敷に包まれた箱を手渡すと、眠たげにあくびをしながら自分と恋人の寝室に戻って行った。

それを見送ることもなく、成政はとある方向を目指す。

 

 

まだ春先なので夜は肌寒いが、歩くにはちょうどいいくらいだ。

丑三つ時の、皆がもう寝静まる頃。

家々の窓に光はなく、道を幻想的な満月が照らしていた。

かつん、かつんと杖の音を深夜の住宅街に響かせながら、成政は歩みを進める。

ちょうど1年まえ、ここで死闘が繰り広げられていたことは、成政の友人と若干数名以外は知らないのだ。それを思い出し、懐かしみながら、かつん、かつんと歩みを進めた。

 

 

森の中、石段の上に佇み、後ろに纏められた髪を揺らしながら刀を振るう人影。

それを見つけた成政は声をかけようとしたが、武人の鍛錬を中断するような無粋な真似はしたくない、と無言で残りの石段と向き合った。

成政は階段を登りきると、ひと段落ついたらしく空を見上げる無名の剣士に声をかけた。

「やっと戻った、アサシン」

「遅い帰参でござったな、マスター」

「今日は満月、僕はまだ未成年だけど、一杯やろう」

「このような月夜、蔑ろにするのは勿体無いと思っていた所、さすがは拙者のマスターでござる」

 

成政は石段の上に座り、隣を叩いて座るよう促した。

アサシンは従い、自分の主人の隣に腰を下ろすと、

 

「マスター、酒は?」

「ああ、今夜はゆっくりできる」

 

成政は袋にいれていた大きめの水筒を投げ渡す。アサシンはそれを受け取り、蓋を開けて中を改めると、ニヤリと笑った。それもそのはず中身は日本酒の熱燗、しかも上物だ。

 

「では、今宵の満月に」

「「乾杯」」

 

今はもうない、たった3日だけの主従関係であったが、この2人は、確かに絆をかわしあっていたのだ。

 

 

 

 

《もちろんいかがわしい意味ではありません。主人公はホモではないので》

「ええー、ほんとにござるかぁ?」

《おい、注意書きに突っ込むなよなぁ!》

 

 

 

 

 

 

 

「でさ、アサシン。僕、凄く面白い場所にいるんだ」

「ほう」

「全国、ひいては世界から優秀な、才能溢れる同年代の若者が集い、競い合う、そんな場所。しかも世界1位が教師やってるんだぜ?」

「はっはっは、変わった教師は女狐めの夫だけかと思えば、その上もあったか」

「その人毎回出席簿で弟の頭叩いててさあ、技術の無駄遣い、っていうの?綺麗な太刀筋、いや出席簿筋でさあ」

「ほう、マスターにそこまで言わせるとは、一度手合わせ願いたいものだな」

「強いよあの人、すごく強い。刀振らせたらセイバーくらい綺麗なんだもん。あればかりは才能だよ、すごい」

「楽しそうでござるな。先日は愚痴ばかりでござったろうに、随分変わったようだな」

「いやいや、ほんと面白いやつばかりでさ、巻き込まれて不幸かと思ってたけど、これはこれで面白いよ、アサシン」

「そうか、それは何より、でござるな」

 

かたん、と今まで日本茶を啜っていた湯呑みを置く成政。

会話が途切れたことを不自然に思ったアサシンが成政の方をむけば、

 

「アサシン、1勝負いいか?」

「面白いものを持っているでござるな。受けて立とう」

 

胸元に真剣を突きつけられても、楽しそうにからからと笑ってみせるアサシン。

全く、これだから侍、いやSAMURAIはと打鉄を纏った成政は大げさに頭を抱えてみせる。

 

そして、空気が切り替わる。

肌寒さは消え、刺すような痛みすら伴うような空気に。

薄暗い、頼りないような月明かりは、武人を引き立てる最高の照明に。

そして、2人は、

 

「今できる最高の勝負を」

「元より手加減はできるほどの腕ではない。全力で試合おうぞ」

 

成政は、上段、振り下ろす一撃に全てをかけた構えに。

アサシンは、自然体。身の丈もあろう、細くか弱そうに見える日本刀をさげて。

アサシンが自然体を取るのは、それが最適だからだ。素人の目には隙だらけでも、成政が見れば、かろうじて隙がないのがわかる程度。

それだけ、この男は武に全てを捧げてきたのだ。

「「......いざ」」

 

勝負は一撃。

どちらが勝ったかは、言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、アサシン。僕好きな人が出来たんだ」

「ぼーいみーつがーる、というやつでござるか?」

「ちょっと違うと思うけど」

「そうでござるかぁ」

 

石段の上に腰掛け、空になった湯呑みを弄びながら話を進める2人。

満月を見上げながら、成政は吐き出すように言葉を紡ぐ。

 

「で、そいつ、片思いらしい幼馴染の初恋相手がいてさ。学園で5年ぶりの再会だってさ。あと、アサシンみたいにポニーテールに刀下げてるんだよ」

「それは何ともろまんちっくでござるなぁ」

「でも、きっとまだ初恋相手のこと好きだろうし、僕みたいなのが横槍さしてもいいのかなあ、って聞いてるのか?」

 

深く息を吐く成政に対して、アサシンは思わず目頭あたりを押さえて悩み出す。

 

「恋愛相談は女狐めか騎士王に頼めばよかろうに......」

「部長はうっかり口を滑らせるし、キャスさんは恋愛面じゃ少女漫画の主人公ばりに純粋だから役に立たないし」

「拙者は武一筋に生きてきた農民、そういった色恋沙汰と関わりがあるわけがなかろう」

「いいんだよ別に。吐き出して気持ちの整理をしたかっただけ」

 

ぱんぱんと衣服についた汚れを払い、持ち込んだ荷物をまとめ始める成政。

 

「まあ、初恋は叶わないって言うし、女子がたくさんいれば他に好きな人も見つかるよ。

邪魔したね、アサシン。聞いてくれてありがとう」

「そうか、ではまた」

 

石段を下る主の背中を、無名の剣士は特に何も言うことなく、視界から消えるまで見つめていた。

 

「全くもって、儘ならぬものであるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所で正義の味方やワカメ殿などはこの事を知らないと見えた。

相談事は大所帯の方がよかろうて。あやつらは一時期大人数に恋心を抱かせていたと聞く。さぞいい助言が貰えるであろう」

時々だが、善意は人を傷つけるものになる。

 

 

 

番外編2 髪飾りと海藻は。

 

 

 

 

もしかしたらあるかもしれない、ちょっとだけ未来の話。

 

 

 

 

『おい!そこ回りくどい事になってるぞ、真っ直ぐに組んだ方がいい』

「そこは、ここと干渉するから、仕方ない......」

『っかー、ダメだなお前。干渉する方はサブ的な役割だから、メインを潰してまですることじゃないだろ?』

「うる......さい!」

 

IS学園、整備室。

作業灯の灯りがともり、機材が散乱し油の匂いが立ち込めるここの片隅で1人騒ぐ少女がいた。

 

「そこ......違う」

『はあ?この僕が間違えるわけないじゃん』

「3行目......真ん中」

『うっ、たまたまだ』

「ふふっ」

 

端に設置された大型PCに向かい合い、カタカタとキーボードに文字を打ち込んでいく。

その傍に置かれたスマホの画面にも同じようにPCと向き合う、紫で特徴的な癖毛をした青年が映っていて、

 

「慎二、そのコードはおかしい......」

『はあ?何言ってんですか。お前のやり口がくどいだけであって、こっちの方が効率いいんです!』

 

口論を重ねながらも、作業の手は止めない。

少女の名前は、更識 簪。

日本代表候補生の1人にして、打鉄弐式の持ち主。

が、乗機であるこの弐式、諸事情あって企業が放置したものをむきになった簪が貰い受け、完成に向け日々1人で作業に励んでいた。

ハード面の問題はないが、問題はソフト。主武装の48連装ミサイル『山嵐』のプログラムが未完成、機体の機動プログラムも未完成と、たとえ乗っても歩くだけで精一杯という有様。

しかも、打鉄弐式の強みは、主武装の山嵐、そのマルチロックシステム。たとえ本職であろうとも難しいとされる48発のミサイル全てが別々の軌道を描くようなプログラミングを目標とするそれは、簪にとっては高い壁だった。

 

数日前までは。

 

『だーかーらー!そんなヌルい追尾じゃ避けられるぞ!』

「だったら、これっ!」

『はっはー、世界ランカーを舐めてもらっちゃあ困るね!』

 

シュミレーターの中で火花を散らす、画面の向こうで楽しげに笑うワカメみたいな髪の青年、間桐慎二。その彼との出会いが、簪と打鉄弐式を少しだけ変えた。

 

 

 

 

 

時は4月、クラス代表決定戦の試合前日、

 

「なあ慎二、機体を見てくれないか?」

『この僕にかかれば、クソnoobだって勝てるような機体を組んでやるさ!500時間程度簡単に覆してやるよ』

「それで負けたら僕の所為だろ慎二、ハードル上げてくれるなよ......」

『はん!真面目にやれば絶対に勝てるくせに。この僕を倒しておいて何を今更』

「あれはまぐれだから」

 

そう愚痴りながらアリーナに併設されているピットに向かう成政。

側から見れば独り言のように聞こえるが、スマホのビデオ通話を使っているので独り言のように見えるだけだ。

「さて、スペックデータは」

「......どいて」

 

使う予定のIS、打鉄のデータを呼び出そうとピットに設置されている大型PCの前に座ると、後ろからそう声をかけられた。

 

「......どいて」

「あー、はいはーい。退きますよ」

 

声をかけてきたのは水色の髪で、眼鏡の少女。しばらく前にロマン馬鹿と一緒に部屋に押しかけてきた簪だった。

席を退くように告げられ、素直に場所を譲る。

 

『おい、なんでどいたんだよ』

「いや、僕らの用事ってあんまり急ぎでもなくない?」

『急ぎなんですけど!ていうかスマホの振るなよな酔うだろ。スペックデータはやくよこせ......うん?』

 

怒鳴り立てる慎二を避けるように画面を適当な方向に向けた慎二が止まる。

その方向を確認してみると、

 

「......」

 

簪が向き合う大型PCの画面がバッチリ映るポジションだった。

『おい、スピーカーモードにしろ』

 

成政には特に断る理由もないので、イヤホンを外し、スピーカーモードに切り替える。

すると、

 

『おいそこの根暗眼鏡!上から5行目間違えてるぞ』

「ひう!」

 

聞いたこともない男の声が背後からすれば誰だって驚くだろう。椅子から飛び上がりそうになるくらいにびっくりしていた簪だが、すぐに元凶と睨んだ成政の方を向いた。

 

「......」

「いや、僕じゃなくてさ、こいつこいつ」

 

成政が慌ててスマホを指し示す。

簪は画面越しに慎二を睨み付けると、

 

「貴方には関係ない」

『ん、何の話だ?僕はその貧弱なプログラミングを指摘しただけであって、君がどこで何をどうしているかなんて全く興味がないんだ。早く直せよ』

「......」

 

慎二は負けず嫌いで口が上手い。

負けるのが嫌だから、あの手この手で話を引き延ばし、論点をずらし、自分の得意分野に引きずり込んで殴る。

そして、受験を決めている日本のトップクラスの工科大学、そのA判定は伊達ではないのだ。

 

要するに、話が長い。

 

それを長い付き合いから知っている成政は、スマホに充電器を差し込んで、他にいる先輩に声をかけ、色々と役立ちそうな情報を集める事とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、約半日後。

 

「そろそろピット閉めるわよ?」

「......ありがとう、ございます」

 

日も暮れ、寮の消灯時間も差し迫ってきた頃、簪は荷物をまとめてピットを出た。

全体の見直しやシュミレートはあの大型PCを通すか、ISを通すかしないと出来ないが、プログラミング自体は普通のノートパソコンでも可能だ。

シャワーもそこそこに着替えを済ませると、PCを立ち上げ、仮想ホログラムでできたキーボードを呼び出し、

 

『......なんだよ』

「作業、見せる」

 

言葉は不要、行動で示すと言わんばかりに、両手を使ってプログラムを書き上げて行く。

両手が別々に動き、生き物のように文字列が踊る。普通の人から見れば、達人芸と思うだろう。

素人如きが出しゃばるな、そう簪は告げたのだ。

が、慎二とてプログラマーを目指すものの端くれ、馬鹿にされて黙っているわけにはいかないのだ。

 

『はっはっはー、僕の方が早いじゃないか、フハハハハ!』

「っ、負け、ない!」

 

同じくプログラムを書き出した慎二。

両手で1つのキーボード、だが速度は簪のそれと遜色ない。

さらに対抗心を燃やして簪が速度を上げ、それに追いつき追い越せと慎二が粘る。

 

そして、朝日は登る。

 

 

結局勝負は引き分けとなり、お互いの連絡先を交換し再戦の約束を取り付けて戦いを重ねる事しばし

互いは互いを認め合い、冒頭のように、慎二も専用機の開発に絡むようになった。

 

 

自分の使えない魔術を使える、気の弱かった妹が気に入らない優秀な兄。

完璧超人、ハイスペックの姉の背中を追いかける気弱な妹。

 

彼らはコンプレックスを抱く似た者同士。

意外と、気が合うのかもしれない。

 

 

 

 

番外編3 大和撫子の誕生日。

 

 

今から2年前、2人がまだ中学生の頃の話。

 

 

 

「気を付け、礼」

「「「ありがとうございました!」




箒ちゃん誕生日おめでとうー!

記念になんか書こうかと思ったけど無理だったー!ごめん!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話


......本来ならもっと見直しすべきなんでしょうが、投稿します。

どうしてそうなったかと申しますと、全部シンフォギアのせいです、アクシズのせいなんです、4期のせいなんです。
シンフォギアは良いぞ!(布教
あ、拙い戦闘描写ですが、大目に見てください。


 

 

 

 

 

 

「まさか、ラウラと組んでるとはな」

「成り行きといいますかなんというか」

 

相対する男子2人。

試合前のわずかな時間、ISの機能を使って周りには聞こえない雑談をする位には時間はある。

 

「僕の事も忘れてもらっちゃ困るなあ」

 

一夏の後ろから顔を出したのは、量産機ラファールのカスタムモデルを纏ったシャルル。

いつもニコニコと笑っている彼だが、今日は何やら一味違う様だ。

 

「織斑、一夏......!」

 

そう忌々しげに一夏を睨みつけるラウラは、ドイツの試作ISを纏い、肩部のレールガンを光らせる。

 

 

この場に立つのは専用機3、訓練機1。

唯一専用機を持たない成政。

性能も、格好良さも劣る訳で。

 

(すっごく居た堪れない......)

 

試合会場に立つのも久しぶりなのも相まって、複雑で気まずい気持ちになっている成政なのだが、

 

「試合だったら手段は選ばない、全力で逝かせてもらおうか!」

「なんか字が違う気がするが、いいぜ、来いよ!」

 

互いに武器を実体化し、開戦の合図を今か今かと待ちわびる。

 

『おい、石狩。口を閉じろ』

『突然何さ、一体どういう......』

 

試合開始のカウントが進む中、相手には聞こえない個別通信で対戦相手を話す石狩に嫌気がさしたか、そう声をかけてきたラウラ。その発言の意図を読めず、成政が質問を返したところで、

 

『試合、開始っ!』

 

「嘘おおおおおおおお?!」

「はあっ?!」

「ちょ、えっ!」

「くたばれ、1人目ェェェェ!」

(ああ、舌噛むなってそういう事ですか)

ワイヤーブレードを巻き付けられ、一夏の方へ思い切りぶん投げられながら、成政は発言の意図を身を以て理解した。

が、理解はしても体は追いつかない。

ドミノよろしく成政はまず一夏の白式にぶつかり、続いてシャルルのラファールの方へ弾き飛ばされる。

 

「めーがーまーわーるー!」

「あわわ!ストップストップ!」

 

女子らしくワタワタするシャルルなど目に入るはずもなく、打鉄が強化した視界のせいでさらに目を回す成政。

 

「ぎゃふっ!」

 

最後にはアリーナの壁に無様にぶつかり、ひゅるひゅると落ちていった。

 

「えっと、大丈夫?」

 

犬神家のように逆さまのまま動かない成政を心配して、シャルルが声をかける。もちろん試合中なので相手への警戒は欠かさず、アサルトライフルを構えたままだ。

 

「心臓に悪いわこんなもん!酔うわ!」

 

一生に一度あるかないかの体験をしたせいで乱暴な口調になっているが、ISの面目躍如とでも言うように成政自体は心臓に悪い思いをした事以外は何の問題もない。

ただ、シールドエネルギーは3割ほど犠牲となった。

 

「だ、大丈夫みt」

「隙ありぃ!」

クラスメイトが無事なことに対して胸をなでおろすシャルルだが、今は試合中、遠慮などないのだ、と言うわけで成政はライフルをぶっ放した。卑怯というなかれ、

 

「試合中に油断する方がわりぃんだ!」

「やってくれたなー!」

 

ライフル弾が直撃し、シャルルも気持ちを切り替え、アサルトライフルの引き金を引く。

 

一夏 vs ラウラ

シャルル vs 成政

 

 

開戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「まずは、相手を分断しよう。いくら格下とは言え、油断は禁物だ。それに白式の零落白夜はラッキーヒットでも負ける。細心の注意を払うように」

「ふん。その程度分かっている。貴様は分かっている事をネチネチと説明する役立たずの上官か何かか?」

 

試合1週間前、戦略を立てる、とミーティングを立ち上げた成政だが、ラウラはてんで取り合おうともしなかった。

 

「軍属のネットワークを舐めてもらっては困る。織斑一夏がどのような生活を送り、どれ位の身体能力を持つか、其れくらい把握済みだ。

貴様は其れがわからんらしいな、失望したぞ」

「じゃあ、一夏の剣の特徴は?」

「なに?」

「よく使う構えは?初手でよく振る太刀筋は?得意な防御は?苦手な構えは?弱点は?そもそも一夏はどんな剣を使う?」

 

成政はマネージャー、不要と切り捨てられればそれまでだが、勝てる試合をそんなちっぽけなプライドで棄てるのは彼は気に入らない。

 

「そもそも白式はマトモなスペックデータも出ちゃいない。それにあいつも100%白式の力を引き出しているとは言えない。

それを踏まえて、白式の最高速は幾つだ?その程度もわからずして、試合に勝てると思ってんのかど三流が!」

 

成政は敗北が嫌いだ。

マネージャーとして、選手の努力する姿を見ている以上、それを踏みにじられる敗北が大嫌いだ。

しかし、相手選手とて同じく努力はしている。勝者がいるならば、敗者も存在するのも事実、どうあれ、勝つのならば相手の努力を踏みにじる必要がある。

ならば、それに見合う試合をするべきだ。

相手をねじ伏せてまで勝つ理由、それを見つけなければならない。

それすら持たないようならば、勝ったとしても相手に失礼ではないだろうか。

 

「相手をねじ伏せたいならばそれ相応の努力をしろ。

相手を叩きのめしたいなら相手以上の実力を持て。

相手に勝つならば、勝者足りうる覚悟を見せろ。

強いからって胡座かいてんじゃねえぞ!」

 

長ゼリフを大声で張り上げ、肩で息をする成政。

それに圧倒されていたラウラが、長い沈黙の後、口を開く。

 

「......Es ist nicht alles Geld,was glänzt.

成る程、私は貴様の価値を正確に測りかねていたらしい。

貴様は私の道具足り得る存在となった。であれば使い手として、死ぬ程こき使ってやろう」

「......あー、もっとわかりやすく」

「お前に価値があるということだ。それくらい理解しろ馬鹿者め!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「ぜああああああ!」

「なんのっ!」

 

プラズマ手刀が唸りを上げ、白式に切り込む。一夏がそれを持ち前の反射神経でもって受け止めるが、そこが弱点となる。

 

「そこ!」

「くそっ、まだまだ!」

 

もう片方の手で腕を斬りつけ、後ろに下がりながら肩のレールガンを撃つ。

一夏の剣のベースは、幼い頃に学んだ篠ノ之流と、剣道で培った剣術。

あくまで剣道を行う相手同士での戦いが想定されており、こう言った変則手への対応についてはまだまだ遅い。

 

(成る程、聞いていた通りだ)

 

一夏は一旦下がったラウラを追撃しようと白式のブースターを吹かすが、

 

「どうした?足元の注意が疎かになっているぞ?」

「なっ、ワイヤーブレード?!」

 

剣道ではありえない上下からの攻撃。

飛んできたワイヤーブレードが雪片に絡みつき、白式の動きを封じる。

その隙を見逃すラウラではない。

ワイヤーを手繰り寄せるのと同時に、ブーストを駆って白式にタックルをかますが、

 

「こっちだって、努力してるんだよ!」

「何!」

 

一夏は唯一の武装である雪片を手放し、自由になる。そのままラウラのタックルを半身になる事でかわし、ガラ空きの胴体を蹴り飛ばす。

 

「ただやられるだけの俺じゃないぞ、ラウラ!」

「面白い、そうでなくてはな!」

 

一夏が落ちてきた雪片を掴んで正眼に構え、吹き飛ばされたラウラはすぐさま態勢を立て直し、軍隊格闘術らしい、無骨な構えを取る。

『一夏、もう少ししたらそっちに行けるよ!』

『ああ、頼むぜシャル』

 

自身の視界の隅、地表近くで戦うオレンジのラファールを一瞥した後、一夏は雪片を握る手に力を込める。

 

「さあ、かかってきやがれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、もうどうにもならん。やっぱ向いてないわー」

 

ガンガンとシールド表面で弾丸を弾く音を聞きながら、成政は諦め半分でそう呟いていた。

セシリア戦で使用した蔵王製の大型シールド、その弱点はとにかく重くて取り回しが悪いので、地面に立てるくらいしなければ有効活用できない。

機動戦を仕掛けながらシールドを立てることには成功したものの、代償としてSEを半分も献上していたのでは割に合わない。

盾の裏に引きこもって時間を稼ぐのはいいが、ちょっかいを出さなければ無視されてシャルルが一夏の援護に行きかねない。

時々顔を出して射撃を行う隙にちまちまとSEを削られているのが今の現状だ。

ライフルに1発1発丁寧に弾を込めながら現実逃避をするが、その弾丸も残りわずかとなってしまった。

 

ボルトを引いて薬莢を排出、戻して射撃体制を整える。

 

「かといってどうにもなるわけでないし、なぁ」

ハイパーセンサーでだんだんシャルルが距離を詰めてきているのを感じながら、溜息をつく。

接近戦で勝負を決める腹なのだろう、シャルルの行動をそう読んだ成政は、ライフルの先にナイフほどの大きさのブレードを取り付ける。

「さて、どれだけ削れることやら」

 

成政はそう呟きながら、シールドの陰から飛び出した。

 

「そこだっ!」

「ただでやられるわけにもいかないんでね」

 

アサルトライフルの弾丸が成政のすぐ後ろを掠める、それには目もくれず、別のシールドを目指すような進路を取る。

 

これで、シャルルの思考を近接戦闘から外す。

小型ブレードを左手に展開し、思い切り振りかぶって投げつける。

それを余裕を持ってシャルルがかわすうちに成政は距離を詰める。

が、相手は歴戦の代表候補生、それくらい想定済みと言わんばかりに弾丸のシャワーを浴びせにかかる。手に持っていたライフルを盾がわりにダメージを抑えようとするが、焼け石に水、ライフルは使い物にならなくなるようなダメージを受け、成政の打鉄も失速する。

 

「これで、終わりだよっ!」

 

その隙を狙ってシャルルはナイフ「ブレッド・スライサー」を展開し、成政に躍りかかる。

 

誰もがシャルルの勝ちを確信しただろう。

それはシャルルとて例外ではない。

「だらっしゃああああああ!」

 

最後の抵抗、と成政が使い物にならなくなったライフルを投げつけるが、無理な姿勢で投げた所為かあらぬ方向へ飛んでいく。

そのまま抵抗もなく、シャルルのナイフを受け成政のSEはゼロになった。

 

「よし、これで一夏の援護に......」

『石狩成政、打鉄、シールドエネルギーゼロ。

織斑一夏、白式、シールドエネルギーゼロ』

「え......」

 

響いたアナウンスは、成政と一夏の脱落を知らせるものだった。

 

「ジャックポッド、ってねー」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

そのままつつがなく試合は進行し、地力で勝るラウラがシャルルを沈めて幕引きとなった。

実弾兵器をメインで使うシャルルに、ラウラの専用機、シュバルツェア・レーゲンの第3世代兵器、『AIC』が相性が良かった、というのもあるだろう。

「ちなみにAICっていうのは、略さずにいうとすっごくめんどくさいから、簡単にいうと『一定の空間を固定する』事が出来る、兵器だってさ。

でもレーザーとかエネルギー兵器は駄目みたい、あととても集中しないといけないから周りの事が見えなくなるらしいよ」

「お前は何をしているのだ」

「いや、別に、時々こう噛み砕いて自分に説明するといい感じにわかりやすくてさ」

 

一夏達を下し、次戦に駒を進めた成政とラウラ。次戦までは時間があるため、何故か貸切状態の控え室で反省会と相成っていた。

 

「いや、実力不足を実感したね。3割も削れないなんてさー」

 

たはは、と頭をかきながら恥ずかしげに笑う成政。その能天気な様子の彼に苛立ちを感じてか、ラウラは拳を机に叩きつける。

 

「貴様、何故邪魔をした!」

「はい、何でしょうか」

「とぼけるな、あの戦いの最後、ちょっかいを出してきたのはお前だろう!」

 

何故成政と同じタイミングで一夏のSEが0になったのか。

それは至極簡単な事、

 

「ああ、ライフル投げつけた事?」

「そうだ、あのような手助けなど不要だ、自分の実力だけで、織斑一夏を叩きのめす事が出来ていたはずなのに!余計なことを」

 

その発言と同時、ラウラの脳裏には先ほどの光景が映る。

 

 

格闘とも言えない素人丸出しの足技にペースを乱され、姿勢を崩した所で、白式が雪片を大上段に振り上げる。

防ぐことなど、出来なかったはずだった。

しかし、横合いから飛んできた影が今まさに振り下ろされようとしていた雪片の軌道を逸らす。

窮地から脱したラウラは、レーザーブレードで白式の零落白夜で磨り減った残り少ないSEを削り取り、0にした。

 

 

「あれは、あの旧式ライフルは貴様のものだ!見間違える訳があるはずがない!」

「あれ、蔵王の人に頼んで作ってもらったんだよー、いくら頑丈でも修理出さないとだから次は使えないね」

「そうではない!何故貴様が邪魔をしたのか聞いているのだ!」

「負けそうだったからだけど」

 

詰め寄るラウラに、成政はそう告げる。

「だって、勝ちたかったんじゃないの?」

「違う、そうではない、そうではないのだ!私は、自分の実力で織斑一夏を、叩きのめし、不相応な夢だと分からせたかっただけなのだ!」

「......やる気なくなるね、そんな事言われると」

 

成政はすぐそばまで詰め寄っていたラウラを手で突き放すと、杖を持ってさっさと控え室を出てしまった。

 

「試合に勝ちたくないなら、僕ももう付き合いきれないなぁ。やる気出してくれないかなー。

 

ああ、そうそう。今回のタッグマッチ、リーグトーナメント方式なんだけど。

決勝リーグは総当たり戦、で結果が出るんだけどさ。『敗者復活枠』があるんだってさ。

一夏が勝ち上がってるといいねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私に勝てるものはいるかあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!ぶるああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

「篠ノ之さん落ち着いてくださいまし!」

 

その後行われていた第3試合、自分の存在を誇示するかのように大声を張り上げながら斬りかかるポニーテールの少女がいた。

なお、試合にはちゃんと勝っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





作者&マヒロ
「「原作と違う、何でぇ?!」」

VTシステム、出番なくなるの巻。

いやだって、アニメとか二次創作みてる限りアレ、シャルの助太刀ない限り勝ってますやん。

マヒロ「やべ、口が滑った」
作者 「......」
マヒロ「ま、また次回!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話

戦闘描写が戦闘描写じゃなくなる謎。

戦闘というより戦闘中の人の脳内を書いている気がします......ドウシテコウナッタ。


第20話

 

 

「なあ、とてつもなく否な予感がするんだ」

「たかが第2世代機、そう気にすることでもあるまい。決勝では織斑一夏が待っているのだ。有象無象など蹴散らしてくれる」

「じゃあ、頑張ってね!僕応援してるから」

「貴様は選手という自覚を持たんのか」

 

予選トーナメント2回戦、成政ペアに対するは、学年1の問題児として名高い神上と、カナダ代表候補生、ティナのコンビ。

成政がマークしていたペアのひとつなのだが、このペアだけ、もとい神上だけは対策が立てられていない。

その理由はたったひとつ、

 

「お ま た せ」

 

訳のわからない兵装ばかり持ち出してくる、マネージャー泣かせの存在だからである。

 

 

きゅらきゅらと金属が擦れる音を立てながら、重々しい音を立ててアリーナにそれは現れた。

正規のハンガーからではなく、整地用重機出入り口から入場した神上の専用機『強羅』。

それは、

 

「うわぁ......」

「......」

「これぞ、男の浪漫。『ガチタン』だ!」

(女の子よね......)

 

 

どうしようもなく、戦車だった。

 

背中に背負われた黒鉄色に輝く、開戦を今か今かと待ちわびる2門の大型キャノン。

肩部には成政も使っている蔵王特製大楯が取り付けてあり、企業のロゴがでかでかと描かれている。

特に目を引くのは、特徴的な脚部。

下半身を丸ごと覆い被さるような追加パッケージは、第二次世界大戦時の戦車を思い起こさせるような角張った装甲とキャタピラを備えている。

そして、載せれるだけ載せろという意思が溢れ出るように、所狭しと取り付けられた武装群。

腕には駄目押しのように大型シールドとガトリング砲2門を2丁。

しかも何時もは黒に赤とアニメ映えしそうなカラーリングなのだが、試合に合わせてわざわざサンドカラーベースの迷彩柄に塗り替えるという気合の入り様だ。

 

「そのせいで試合開始時間ぶっちぎった訳じゃないでしょうね」

「いやー、無茶言って持ってきてもらったもんだからね、5割ほどしかできてない試作品だし」

「あなたねぇ!」

 

ラファールに乗って真下の強羅に怒鳴り立てるティナ、問題児の世話は苦労が絶えない。

 

『えー、10分遅れですが、2回戦第1試合、開始します、準備はよろしいですか?』

 

山田先生の若干涙ぐんだアナウンスが会場に響くと、選手たちは気持ちを引き締め、各々の武器を構える。

 

「問題ない」

 

シュバルツィア・レーゲンに乗るラウラはプラズマブレードを構え、レールカノンに弾を込める。

 

「大丈夫です」

 

打鉄に乗る成政は手持ちシールドを左腕に取り付け、近接刀『葵』を正眼に構える。

 

「いつでもいけます」

 

ラファールに乗るティナはマシンガン2丁を呼び出し、くるくると回す。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

強羅に乗るマヒロは兵器庫に火を入れ、装甲に覆われた頭部のツインアイが輝く。

 

『それでは、試合、開始!』

 

 

 

 

それから5分程経過する。

 

「ねえ、織斑先生から試合をしろって通信がきてるんだけど」

「奇遇だね、僕も」

 

仲良くシールドの陰に隠れている訓練機持ちの2人、SEにもまだ余裕も残っているし、弾もまだある。

ではなぜ、2人は戦わないのか。

 

「アレの中に飛び込んだら、死ぬよね?」

「絶対防御が信頼できなくなるなんて思わなかったけどね、あんなもの見せられちゃたまったもんじゃないわよ」

 

答えは簡単、2人の戦闘についていけないからである。

 

開始数分にしてアリーナの地表はめくれ上がり数々のクレーターが激しさを物語っている。

そして絶え間なく響く銃声と金属がこすれあう不快で甲高い音が戦闘をしていることを示す。

そう、ラウラとマヒロが互いにぶつかり合い、火花を散らす死闘を演じているからだ。

 

開始30秒で打鉄のSEを半分まで減らし、1回戦の焼き直しのように壁に衝突していた成政が、マヒロの追撃のガトリングを防ごうと盾をありったけ実体化させヤドカリよろしく引きこもり、その1分後には同じように吹き飛ばされたティナを流れ弾から守ろうと成政が盾の裏に引き込んだのだ。

 

そうして、お互いのパートナーをガン無視したタイマン勝負と相成ったわけである。

かと言って、互いのパートナーの事を疎かにし

ているわけでもなく、様子を伺おうと成政が恐る恐る陰から顔を出せば、

 

「ひう!」

 

綺麗に照準をつけるの時間すら惜しいと言うように地面を弾丸で抉りながらガトリング砲2基が狙いを定め、成政は情けない声をあげながら引っ込む。

分間6000発、秒に直せば0.01秒に1発のペースで飛んでくる鉛玉は銃弾の間隙のないその様子は、雨どころではなく高圧洗浄機か何かを思わせる。

片手だけでこうなのだから、正面に立ったならばどうなるかは言うまでもないだろう。

背中の砲がこちらを向かないだけでも救いというものだ。

 

ではティナの方はどうだろうか。

 

 

先程の成政の様子で学習したのか、ハイパーセンサーを活用して視界に映る盾を透けるように設定、体を晒すことなく射撃を可能にする。

マシンガンを呼び出し、そのまま引き金を引こうとして、

 

「え」

 

どこからともなくワイヤーが飛び、生き物のように絡みつく。普段より力を込めていたせいもあって、手から搦め捕ろうとしたワイヤーの動きに合わせて体が引き摺り出される。

 

「ストップ!」

 

とっさに成政が襟首を掴んで抑えなければ、あの地獄に放り出されていただろう。

ティナのお礼に対する応対もそこそこに、考え事をする成政。

 

「......これ、制限時間あったよね」

 

試合要項を呼び出し、ティナにも見えるよう投影ディスプレイに映しながら、試合時間の項目を探す。程なくしてその一文は見つかった。

 

試合時間は1時間とする。それを超過した場合は、ペアの残りSEの合計の多い方を勝ちとする。

大会規約保存しといて良かった、と思いながら成政は試合開始からの時間を打鉄に問う。

 

『現在の経過時間 7:26』

 

あと、53分。現実は非情だった。

 

「無理じゃない?」

 

ハイライトの消えた目でそう呟くティナ、それに対して成政はとりあえず頑張れと自分の相方に祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

「時代遅れの欠陥兵器が!」

「欠陥兵器で何が悪いんだこんちきしょう!」

 

訳がわからない、ラウラは目の前の相手をそう評した。

専用機持ちではあるが、たかが時代遅れの第2世代機。事前の戦闘データを見ても、わざわざ火力だけは高い取り回しの悪い兵器ばかりを使用する偏屈者で、ISをゲームか何かと間違えているような立ち回り、そう思っていた。

「全砲門、開け!」

「ちいっ」

 

戦ってもその印象は変わらない。その偏屈な装備に振り回され、一部余計な被弾を招いているのも事実だが、

 

(このままではジリ貧か、どうなっているんだ彼奴は)

 

「ふんぬ!」

 

ラウラの放ったレールカノンの一撃を拳でもって物理的に払いのける強羅、SEもそれに応じて減ったが微々たる量だ。それを気にする事もなくそのまま背中のキャノン砲をラウラに向けて撃ち放つ。

強羅の実弾キャノン砲は弾速も遅く、普段のラウラなら斬り放ってそのまま肉薄するところだが、

 

「全くもって、馬鹿げている......」

「馬鹿じゃない、ロマンだ!」

 

全弾グレネードの榴弾砲なのでそうはいかない。1回戦、うっかり双刀でこれを切り払ってしまった鈴が大ダメージを負って落ちていったのは記憶に新しい。

しかも近づくだけで起爆する近接信管内蔵と厄介極まりないもので、回避をいつもより一回り大きくしなければならない事も、ラウラを苛立たせていた。

そして、ワイヤーブレードの射程の一歩外側に陣取るように、なおかつ弱点である脚部を晒さぬように、正面をラウラに向け続ける。

時にラウラの攻撃や地表の凹凸すらも利用して、高速戦闘を繰り広げるマヒロ。

そしてラウラと同じアンカーガンを壁に打ち込み、映画さながらに壁を駆け上がって飛び上がり接近戦すらも仕掛けてくる。

 

たかが第2世代、そしてわざと空中への適性を捨てた足回り、ふざけた言動。

軍人としてのプライドを逆撫でするような、ISの事をゲームのロボか何かと勘違いしているような立ち振る舞い。

「どうして、貴様のような奴がこんなにも......」

「あ、なんだって?!」

 

だが、マヒロは強い。

取り回しの悪さを補ってありあまる火力の高さ、それを存分に活かすための立ち回り、そして弾丸を当たるための先読み技能はずば抜けて高い。さらに、第2世代機の長所である高いパワーと耐久を活かしてのパワープレイも一役買っている。

ラウラの預かり知らぬところだが、マヒロはISと似たロボを動かすゲームの対人戦を軽く4000戦ほどやり込み、プレイ時間も廃人ゲーマーとそう変わりない。ゲーム内でも相変わらず重装甲高火力低機動の強羅と似たような機体ばかりを扱うため、この立ち回りは無意識でやっているのだが、やり方がおかしくとも多くの経験に裏打ちされたものだ、弱いはずがない。

 

純粋な暴力、それを力として見ているラウラには、マヒロの強さが分からない。

 

見てくればかりの旧式機体に己を預け、わざわざ取り回しの悪い武器を好んで用い、避けられる攻撃をワザと受けて弾く。ラウラからすれば、非効率そのものだ。

 

先程の言葉は爆音に掻き消されマヒロに届くことはなかったが、もし聞いていればこう答えただろう。

 

『それが、ロマンだから』

 

 

 

だが、ラウラとて負ける理由もない。

邪魔が入り、消化不良に終わった織斑一夏との再戦。今度こそ一夏の心ごとその紛い物の雪片をへし折る、そのためには、こんな物に負けるなどあってはならないのだ。

 

「沈め、アンティーク風情があああああ!!」

 

苛立ちで冷静さを失ったラウラは、弾丸の雨の間に体をねじ込み、強引に強羅に接近戦を仕掛ける。

それが、マヒロの罠だとも知らずに。

 

「この瞬間を待っていたんだ!」

 

それを罠だと気付いた瞬間にはもう遅い。

マヒロは武装群をパージして身軽になり、盾に隠していた蔵王謹製の3連装パイルバンカーが露わになる。それを振りかぶるように身体を捻り、力を溜めるような仕草を見せる。

 

ラウラはその攻撃を見切り、カウンターを叩き込むつもりでいた。

マヒロは射撃戦とは違い、素人とそう変わらない近接能力であることを開始数分で交えた接近戦でラウラは既に見抜いていた。

おそらく、あの攻撃もISの出力に物を言わせた直線的な攻撃なはず、見切るには容易い、そう判断していた。

集中を妨害する弾幕も消えた以上、接近戦でかなりのアドバンテージを誇るAICも必然的に使用可能となる。

負ける要素など、微塵もなかった。

 

「そんな物で、私が倒せると思うか!」

「必殺......!」

 

ラウラ唯一の誤算は、

 

「一歩音超え、二歩無間、三歩絶刀……!」

「な、瞬時加速、だと?!」

 

「『無明 三段突き』!」

 

必殺技は相手を 必ず殺す からこそ必殺技こそ足り得る、それを知らなかった事だろう。

 

 

3回連続の瞬時加速で今までの鈍重さが嘘のような速度に達した強羅は、かの幕末の剣豪が用いたという縮地さながらに一瞬で距離を詰め、ラウラの視界から一瞬消える程までに加速する。

そのまま腕のパイルバンカーを押し付け、唯でさえ強力なパイル、しかもそれを3連装にした改造版を解き放った。

ISの絶対防御すら貫通しラウラの体を揺さぶり、レーゲンのSEを8割も削る馬鹿げた程の

威力。

 

「ふはははは、どうだ、まいったか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

朦朧とする意識の中でも、マヒロの言葉はラウラに正確に届いていた。

 

 

(私が、負ける......)

 

『そうだ、今のままでは負けてしまうな』

 

 

突然どこからか響く、暗く冷たい、それでいて心地よい声。

その言葉は、敗北の危機に揺れるラウラの心の隙間に容易く入り込む。

 

『負けるのは嫌か?』

 

(私に、力が無いと、言うのか......)

 

『負ければ、そうなってしまうな』

 

(嫌だ、嫌だ、いやだ.......)

 

『ならば、勝たなければならない。勝利こそ、我が主には相応しいはずだ』

 

(だったら、私に、

 

ラウラは、悪魔に魂を売った。

 

「力を、寄越せぇぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

『承認した。であれば、期待に応えよう。』

 

ダメージレベル......D、クリア

操縦者の感情......規定値に到達、クリア

操縦者の承認、クリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《Valkyrie Trace System》起動。

 

 

 

 




しんどい。

しばらく投稿話の改稿作業に入るので、更新遅れますね。
ちょっとだけ雰囲気を甘くしたり、貼り忘れの伏線を張ったりするので、乞うご期待!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話

ああああああ戦闘してない!!!!むずかしいいよおおおおおおお!

最近スランプ?気味ですかねー。文章がスラスラ浮かばない。
しばらく忙しくなるので、よろしく。


 

 

一際大きな衝撃音が響き渡るのと前後して、弾丸の嵐が収まる。それを察して、成政とティナの2人は盾の陰から顔を出した。

 

「終わった、のかな?」

「そう......みたいね」

 

打鉄のハイパーセンサーであたりを探れば、壁あたりで伏せるラウラと、まだ煙をあげるパイルバンカーのついた腕を突き上げて勝利の雄叫びをあげる強羅がいる。

「おっしゃああああああああ!」

「アニメみたい」

「本人曰く将来の夢はヒーローらしいわよ。ISを使えばリアリティのある合体ロボになれるから、ですって」

「色々と斜め上な発想だ事で......」

 

マヒロはそれを本気で考えている上、蔵王工業もノリノリなので、実現する時間はそう遠くない。

 

そうほのぼのと会話を交わす2人だが、まだ試合中である。

 

「ボーデヴィッヒさんも駄目みたいなわけみたいだし、降伏していい?」

「そんなルールないわよ、最後まで頑張りなさい」

 

さりげなく成政にアサルトライフルを突きつけていたティナに対して、成政は近接ブレードを実体化させる。

 

「じゃあ、悪あがきでもしましょ」

「力を、寄越せぇぇぇぇぇぇええええ!!!」

「わひゃい!?」

 

最後のあがきにせめて一太刀と声を出して気合を入れ直そうとしたところで、ラウラの大声に驚いて情けない声を上げて飛び上がる成政。

 

声の主に一言文句でも言ってやろうとラウラの方を振り向くと、

 

『のわあああああああああああああ!』

 

何かが超高速で成政のすぐ横をかすめ、遅れてついてきた衝撃波で砂埃が舞う。

 

それを切り払って現れたのは、

 

「......ねえ、ISって変形するの?」

「うそ、まさか......」

 

 

第1回世界大会王者、かの有名な織斑千冬の愛機であり、世界最強と謳われたIS、

 

暮桜が、そこにあった。

 

 

 

 

 

 

「なーんか闇落ちしたみたい」

「ありえない......」

 

打鉄から当時のデータを呼び出し、比べる。

現役時代、綺麗な桜色だった暮桜だが、今成政達と相対しているものは違い、黒みを帯び、人が乗る部分がなにか液体のような物質で覆われている。

それに対して成政が気の抜けた感想を漏らして居ると、隣にいるティナの様子がおかしい。

 

「ん、どうかしたの?」

「ありえない、こんなの、馬鹿げてる......!

 

あのIS擬き、シールドが存在してない!」

「そうなん......えっ?!」

 

ISにとってシールドエネルギーとは生命線そのもの。中のパイロットをあらゆる傷と衝撃から守るために存在して居るそれは、存在してしかるべき物なのだ。

もしそれがない状態で高速機動などをすれば、パイロットの内臓破裂、全身に大きなダメージ、下手をすれば死に至るのだ。

 

「そんな、どうかして」

 

言葉を最後まで告げる事なく、ティナが成政の視界から消失し、黒い影が隣に立っていた。

 

ISのハイパーセンサーをもってしても影しか捉えられない神速の踏み込み、その居合技術。

世界最強は、伊達ではなかった。

 

とっさに後ろに下がって距離を取り、消えたティナの行方を探す成政。幸いにして彼女はすぐに見つかったが、壁に力なくもたれかかる彼女は遠目からしてもうごけるようには見えなかった。

 

 

 

この場に存在するISは4機。

1機は成政自身が使用している。

もう1機はティナと一緒に吹き飛んだ。

先程の謎の物体がマヒロだとするならば、

 

「ボーデヴィッヒさん......」

 

消去法でそうなる。

『あーあー、てすてす、聞こえてるぅ?』

 

とりあえず冷静に、と成政が自身に言い聞かせていると、マヒロが通信を繋げて声をかけてきた。

 

「聞こえてる。大丈夫?」

『イヤー、手酷く食らっちゃってね。SEはあるけど動けないよ、手を貸せそうにないね。

ところで目の前のアレ、どう思う?』

「どうもこうも......何とも、としか」

『アレは「VTシステム」、織斑千冬の動きを再現しようとプログラミングされたナニカ。実際は脳にも肉体にも高い負荷がかかるし、長時間使えば廃人待った無しのシロモノ。かといって千冬の動きを完全に再現できるわけでもなかった失敗作、かな』

「それ、危なくない?」

『勿論違法だよ。ドイツは無茶するねー』

「......」

 

一介の学生とは関係のない言葉がぽんぽんと出てきて成政の頭はもう一杯一杯だった。

だからと言って帰ってふて寝する事は許されない、まだ試合中なのだ。

しかし、このような事件がある以上続行はもうできないだろう。現に無線の奥では先生方が応対に追われているし、アリーナのシールドにも色がつき、外から中が見えないような設定になっている。

成政は、深く、深くため息をついた。

とりあえずいつも通りにいこう。

 

「反則する人は僕は嫌いです」

『あ、おい!』

 

成政はそう呟くと、ISを解除してしまう。

すたっ、とでこぼこした地面に降り立つと、散歩でもするかのように歩き始めた。

マヒロの声も意に解することもなく、いつも通りに杖をついて歩く先は、

 

「ルールの範囲内であれば勝つためなら何でもしてください、ただし、ルールの範囲内でだけ」

 

暮桜擬きの正面、約5メートル。

そこはもう暮桜のキルゾーン、刀を一振りすれば、成政の首と胴体は永遠にお別れすることになるだろう。

そんな死の恐怖に怯える事もなく、成政は苛立ちを隠すこともなくそれを睨みつけ、言葉を投げつける。

 

「正々堂々、なんて無茶なこたあいいやせん。じゃがな、スポーツっちゅうのはあくまで競技、人を殺してまでやるような事ではありゃあせんのじゃ。

 

 

仕置じゃ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。その根性叩きなおしたる。

軍人なんじゃろお主、じゃったら、もっとしゃきっとせんかい」

 

4メートル、3メートル、2メートル。

一歩ずつ前進し、ついに1メートルという超至近距離まで詰め寄る成政。暮桜もどきはピクリとも動いていない。

「降りんかいボーデヴィッヒ。その捻くれた精神粉微塵にしちゃる。

尊敬しとる織斑先生の機体に成りすまして強くなっとるつもりか?

つまらんやっちゃな、実につまらん」

 

『ちょちょ、そこまでやる?』

 

腹に据えかねたのか暮桜もどきをバンバンと叩く成政。2人は知らない事だが、VTシステムが認識しているのはISの反応だけであり、生身の人間に刃が振り下ろされないのが幸いした。

しかし生身でISに立ち向かうなど馬鹿もいいところ。だが、ISの絶対性を認識していない成政にとっては普通の行為、ただただ反則をかましたペアに文句をつけに行っているだけなのだ。

 

「降りろ」

 

暮桜は動かない。その必要がないからだ。

 

「降りろよ」

 

矮小な人間の言葉など、取るに足りない。

暮桜はそう判断し、対戦相手にのみ注意を向けたままだ。

 

「降りろっつってんだクソボケがぁ!」

 

成政は拳を握り締めると、姿勢を下げて力を溜め、飛び上がって暮桜もどきの顔面をアッパーカットで殴り飛ばした。

『嘘おおおおおおおおお!?』

「さっさと降りんかいこのクソアマがああああああああ!」

 

 

 

 

 

それとほぼ同時刻。

 

「どけ、箒」

「いいや、ここは通せない。理由を説明してもらおう、何を怒っているのだ」

「どけよ」

「落ち着け一夏、何があった」

ピットで押し問答をする一夏と箒。

2人ともISを展開し、今にも刀を抜きかねない緊迫した雰囲気だ。

先程ラウラのレーゲンが変形し暮桜もどきになった時、それを観客席で見ていた一夏は弾かれるようにピットに向かった。

 

そこにちょうど居合わせていたのが箒たちだった。

何事かはわからないが今にもアリーナに飛び込みそうな一夏の様子を見て箒が慌てて止めに入ったのだ。

 

「いいからどけって!あんな物俺は認めねえ」

「だから説明しろと言っている!」

 

試合前に瞑想をして精神統一をしていた箒は試合の様子を見ていないのだ。

それを知っている一夏が説明すればいいのだが、頭に血が上っていてそれどころではなかった。

 

「あんな物、千冬姉のまがい物なんて俺は認めねえ!」

「だから一体何がどうしたと言うのだ、説明してくれ一夏」

 

今にも箒を切り捨ててまでアリーナに飛び込もうとする剣呑な雰囲気の一夏。

助け舟を出したのは、一夏を追いかけてきたシャルルだった。

 

「あの、箒さん、実は......」

 

 

 

「何だと......」

 

説明を終えた直後 、思わず箒はそういった。

予想外のことが起こりすぎて何が何だかさっぱりなのだ。

それに、成政は知らない事だが、箒は自分が優勝したら一夏に付き合ってもらうと言う約束を取り付けてある、その為に努力してきたのだが、その様子ではトーナメントも中止な事くらい分かる。

 

「あいつ、許さねえ......」

「落ち着いて下さい、今は焦ってもどうにもなりませんわ」

 

元華族の家系だと言う四楓院さんが一夏を上手い事抑えている間、箒はこれからどうすべきかを考える。

 

(そのような事、前例はない。もし仮にボーデヴィッヒの身にそのようなことがあった場合、自身だけではなく出場している選手にも被害が及ぶのではないか?

 

 

もし、先輩が怪我でもすれば.......)

 

最悪の展開が箒の脳内をよぎる。

「いや、しかし......」

 

そんなことあるはずがない、そう言い聞かせて不安を押し込めようとした。

 

『あーあー、もしもーし。こちら神上、応答せよー』

 

その時、ISから聞き慣れた声が届く。アリーナの中にいるはずのマヒロだ。

いつも通り砕けすぎて締まらない声だが、そこに織り込まれているいつもはない真剣さを読み取れないほど箒は馬鹿ではない。

箒が半ば怒鳴るように答える。

 

「っ、マヒロか!どうしたんだ?」

『いやー、なり君がとんでもない無茶やらかしてるから止めて欲しくて』

「先輩がどうかしたのか!」

『生身でISに殴りかか、ちょっとそれはっ!』

 

言葉の途中で慌てて無線を切ってしまったマヒロ。

事態を重く見た箒はすぐさま行動に移った。

 

「一夏、ここをこじ開ける、手伝え!」

「任せろ箒!」

 

2人はピットに降りているシャッターに取り付くと、下の部分に手を掛けて持ち上げにかかる。

だが、それはISのパワーアシストをもってしても簡単なことではない、が。

 

「手伝うよ一夏!」

「級友を守るのも義務ですから」

 

IS4機にかかれば、出来ないことなど殆どない。

かくしてピットのシャッターは白旗を上げ、4人はアリーナに飛び込んだ。

 

そこで、箒の目に映ったのは、

 

 

 

「嘘、だろう......」

 

 

血を流して倒れる、成政の姿だった。

 

 

 

「先ぱぁぁぁぁあああああああい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やっベー、原作知識そろそろ役に立たなくなるかもしれないぱたーん?

これからどうしたもんかねー』

 




もうやめて成政くん!
打鉄のシールドエネルギーが無くなったら、闇のバトルで魂が繋がっている成政くんも死んじゃう!
お願い成政くん、この攻撃を耐えれば、攻撃のチャンスが回ってくるから!

次回「成政、死す」
ISバトル、スタンバイ!


嘘じゃないかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話

書き直したい、全体的に(自己嫌悪

とりあえず福音戦までやりますので。


 

 

 

マヒロは思考の海に沈んでいた。

 

(まず、クラス代表決定戦、については情報なし。聞けば4人出たらしい。多分あいつが顔を突っ込んだから原作とずれた。

クラス対抗戦、一夏の最初の対戦相手が俺の時点で狂い始めてる。

幸い鈴戦で無人機は襲撃してくれたけど、危うくセシリアの援護が間に合わないところだったぞ。

それに今のタッグトーナメント。

初戦で勝っちゃってるし、もうおかしいよ)

 

一夏と暮桜もどきが鍔迫り合いをし、迫真の剣舞を繰り広げる光景から目を逸らしたマヒロは、どうにでもなーれ、と半ば諦めて空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

マヒロは、実は前世の記憶がある。

生まれた時も、場所もほとんど同じ日本。

 

ただ、マヒロのもといた世界では、インフィニット・ストラトスみたいなロボットはいなかったし、もちろん男尊女卑も女尊男卑もない、ついでに言うなら蔵王工業もない。

しかし、マヒロは初めてISを見た時、説明もなしにそれを理解した、それは何故か。

知っていたから。

マヒロは『インフィニット・ストラトス』という物語をアニメで知っていたのだ。

 

その時はマヒロはまだアニメとゲームをこよなく愛する、ちょっと変わった青年だった。

 

ある日突然、車に跳ね飛ばされて彼は死んだ。

誰かを助けるためにという高尚な理由もなく、わき見運転をしていた大型トラックに跳ね飛ばされて、あっけなく最後を迎えた。

そして、記憶を残したままこの世界にやってきたのだ。

 

「お母さん、元気な女の子ですよ!」

「びゃあああああああ!(なんで女なんやねーん!)」

 

 

ただし、女だったのは彼の想定外だったが。

 

立派に社会人として暮らし、それなりに頭の良かった彼もといマヒロが小学校をアニメを布教しながら楽しく過ごしていたところに、災厄はきたのだった。

 

白騎士事件

 

ニュースでそう呼ばれるようになった一連の事件、それを見てからマヒロはこの世界がアニメだと知った。

 

「だからと言ってどうにもなる訳ないけど」

 

転生してすぐにこの事件に接していればマヒロは舞い上がって原作に絡みに言ったことだろうが、生を受けて7年。前世と同じようにサブカルを愛する楽しい少女は、

「まあ、百合は苦手じゃないけど、今じゃ男が好きだしなぁ」

 

普通に女子をやっていた。

恋愛感情はまだ湧いていないが、テレビなどで男性アイドルグループなどの特集を見れば自然と見てしまうし、気を使っていなかった服装や髪型にも神経をとがらせるようになってしまい、それだけ見ていれば立派な女子、身体が変われば心も変わる、ということだろう。

とはいえ男子だったことをすっぱり忘れてしまった訳でもなく、ベリーショートに一人称は俺、と少し変わった子供にはなってしまったが。

 

インフィニット・ストラトスの世界とわかったはいいが、友達にも原作に出てきた名前は見当たらず、かといってチート能力など持ち合わせていない。

だからといって指をくわえてただ見ているわけでもなかった。自由にロボが動かせると聞けばロマンな心が舞い上がるのも事実。

それがちょっと暴走して夏休みに一人旅しちゃったくらいだ。

中学校にあがった途端にIS製造に関わる会社を巡り、今では蔵王工業のテストパイロットという地位に登りつめ、専用機『強羅』を操つり毎日火薬をばらまくトリガーハッピーなJKだ。

 

 

彼女にはこれからの展開の記憶がある。実質未来が見える、というなんというデタラメな記憶であろうか。

しかし、マヒロはそれを変えようとは思わない、原作でさえ綱渡りであったはずなのに、自分が下手に突いて最悪な展開に転がり込んでしまっては目も当てられない大惨事になってしまう。

という建前のもと、めんどくさいしゲームを現実で再現するという夢を叶えたいのが本音だったりする。

音速で空を飛び、多数の武器を振り回す。

これが最高と言わずしてなにを最高といえばよいのか、とでも言うように原作が最低回るような手助け以外はせずに、硝煙の匂いが漂う学園生活を満喫している。

 

そんなマヒロにも悩みはある。

そう、原作にはいなかったはずの2人目、成政の事だ。

ネット小説でよくあるように自分と同じ転生者か、と疑って部屋の段ボールに隠れてみたり押しかけてみたりしたが、特に怪しい点もない。

逆にいえばよくあるような展開が通じず、行動が読めない。

マネージャーという変わった思考回路の持ち主である成政は時々行動も変わっており、代表決定戦では自分に盾を貸してくれと頼みに来たり、クラス対抗戦では箒を抱えて走っていたり、何故かラウラと組んでいたり、かといって戦うわけでもなかったり。

(あいつは一体なにがしたいのだ!)

 

話題の成政がそれを聞いていたならば、

 

『マネージャーですから!』

 

としか答えない。

成政本人は常識人を自称しているが、周りから見ると彼は十分に変人なのだ。

 

(あいつ変人すぎる......思考回路ワカラナイ)

 

そうツッコむマヒロも人のことは言えないのだが。

 

 

 

 

さて、今の状況を整理する。

 

一夏とシャルルが暮桜もどきと戦闘中。

箒は倒れた成政のそばに膝をついて動かない。

四楓院はティナの救助に。

マヒロは絶賛放置プレイの真っ最中。

 

(まあ、原作通り一夏が切り飛ばしてラウラを助けて終わり、でしょ)

 

一番状況を把握しているのは、この中で楽観的なマヒロだ。

成政がちゃんと生きてるのも知ってるし、何より戦場から離れてのんびり考え事に耽るくらいには大人でもある。

それにISも不要な装甲をパージすれば動けるようになる、と斜に構えていた、のだが。

 

「消えろ」

 

マヒロの知る由も無い理由で何故か原作よりも殺意増しましな一夏が暮桜もどきを叩き伏せ、殺す気で刀を振っているのは想定外だった。

 

しかも、

 

「まだ話しちょう途中じゃろうが!」

 

白式に飛び蹴りを喰らわせる程成政が意外と元気だったのも想定外だった。

 

『なんかもう、疲れた』

 

 

 

 

 

「私は、まだ......」

 

箒は倒れ臥す成政のそばに座り込み、自分の不甲斐なさに拳を握りしめていた。

もしあの時のただならぬ一夏の雰囲気を察して、早くアリーナに飛び込んでいればこんな成政の姿は見なかったかもしれない。

もし、私が試合を見ていたら、早く助けに行けたかもしれない。

ifが積み重なって箒自身を責め立てる。

 

「まだ、先輩に何もできていないのに......」

 

ひたすらに、懺悔の言葉が口から溢れてくる。

5月に怪我を負わせてしまったことをまだ謝っていない。

日頃からの感謝を告げていない。

そして、

 

「私を、真っ当な剣士に戻してくれた、礼を、まだっ、言ってないのに!」

 

「それは、まあ気恥ずかしいから後にして」

 

「.......え」

 

聞き慣れた、声がした。

箒が顔を上げると、

 

「マネージャーが心配されるなんて、本末転倒だねぇ。

 

じゃ、まだ試合あるから」

 

逆光で顔は見せずとも、誰かなんて決まっている。

 

打鉄を纏いかける、その男は、

 

「先輩っ!」

 

「まだ話ちょう途中じゃろうが!」

 

 

 

 

 

 

一夏に飛び蹴りをかました成政は、そのまま白式をひっぺがし、暮桜もどきの襟元を持って立ち上がらせる。

 

「おうおうおう、さっきはようやってくれたのお、なあ」

 

いつの間にか展開した葵を持ち、それで肩をトントンと叩いてみせる。

 

「人ん話ちゅうのは最後まで聞くもんやと習わんかったか?なあ」

「......」

 

VTシステムに発声機能など無い。

全てはヴァルキリーを再現するためのもの、不要なものは全て削ぎ落とした。

故に答えない、答えられない、のだが

 

「なんか喋れや、ああん?」

 

それが逆に成政の気に障った。

 

「何も喋れへん木偶人形か、おんしは。じゃったら、

 

 

 

続きは病院、じゃな」

 

力の抜けている暮桜もどきを持ち上げ、握っていた手を離す。

地面に着くまでのその一瞬、空中に浮く時を見計らって、

 

刀は不要、信じるものは己の拳のみ。

姿勢は下げ、利き足と逆の足を前に出す。

左は敵の方に平を向ける。

そして、右手を脇に寄せてーーーーー

あとは、右足を踏み込むのみ。

 

放たれた正拳突きは、暮桜もどきを貫いた。

 

「っし、久々じゃったがうまくいくもんよのう」

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ、あ......」

「気がついたか、ラウラ」

「っ、教か、ぐぅっ!」

「起き上がらなくてもいい、全身打撲で暫くは動けないそうだ」

 

ラウラが目を覚ますと、まず白い天井が目に入った。

ラウラが目を覚ましたのに気がついたのか、そばにいた千冬が声をかけ、反射的に起き上がろうとして傷の痛みに呻くラウラを制した。

 

「教官、私は......」

「ここは保健室だ。表向きはタッグマッチ中の事故として処理された」

「......」

「本来なら話すべきではないが、当事者として話くらいはしておこう。

だが、私の独り言ということにしておいてくれ。

 

シュバルツェア・レーゲンにはVTシステムが搭載されていた。発動条件はまだわからないが、おそらく一定以上のダメージと、操縦者の強い思いだろうと推測されている。

これは操縦者の意向を無視し、ドイツ軍部の一部が勝手に取り付けたものという見方が強い。

以上、長い独り言だ。理解したか?」

「......はい」

「貴様には言いたいことが山ほどあるが、一つだけに留めておく。後も詰まっているようだしな」

 

千冬はドアを一瞥し、立ち上がる。

そして、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴様は何者だ」

「わ、私ですか?私は......」

 

黒兎隊、隊長。

IS学園生徒。

試験管ベイビーの出来損ない。

 

肩書きは沢山あるのに、ラウラは即答することができなかった。

そもそもラウラは自分の名前など記号程度にしか認識していない。

記号に意味を問われても、返答には困るだけだ。

 

答えが浮かばす考え込んでしまったラウラに対し、千冬は、

 

「ふえっ?きょ、教官?!」

「今はそれでいい。この場所で、自分が何かを見つけるのだ、ラウラ」

 

頭に手を置き、不器用ながらもその銀髪をぐしゃぐしゃと撫でた後、そう告げて保健室を後にした。

 

そして千冬と入れ違いにして入ってきたのは、

 

「ボーデヴィッヒさん、怪我の調子はどうですかな」

 

両足首をギプスで固定し、頭に包帯を巻いた痛々しい姿で車椅子を駆る成政だった。

 

「それじゃ、反省会を始めようか」

 

いつもの調子で笑いながら、成政はクルクルとペンを回した。

 

 

 

 

 

カラン

 

「あ、ごめんボーデヴィッヒさん拾ってくれる?」

「見ての通り起き上がれないのだが」

 

「「......」」

 

「調子に乗ってやった事もないペン回しをした結果がこれだよ!」

「大声は傷に響くのでやめて欲しいのだが」




成政君は意外とハイスペックです。
まあ、全力でも箒と一夏とどっこいどっこいくらいの実力ですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話

駆け足と無理やりとご都合主義がミックスしました。
多めにみてください......。

だって早く臨海学校編やりたいんだもん!


 

 

 

「まあ反省会な訳ですが、2試合目のビデオは無いです。しょうがないので無しでやりますよ」

「......」

「というわけで1試合目から。

まあ客観的に見ても上手い事試合は回ってたし、細かく言うことはあるけど総評としてはよくやったという感じかな。

2試合目は、まあ敗北に関しては僕の情報収集不足です。こればかりは申し訳ない」

 

ぺこり、と頭を下げる成政。

 

「初見の相手に対して1人で放り出すという馬鹿なことを強制してしまったのはマネージャーとして失格です。

その後に関しては、んーと守秘義務?があるんですがね、当事者だし......」

「そうでは無いだろう」

「はい?」

「もっと、ほかにいうことがあるのでは無いか?」

 

ベッドに寝たまま、成政と反対方向を向いて顔を見せず話を聞いていたラウラがそう呟く。

 

「ああ、試合要項はちゃんと読んでね。反則は良く無いと思うよ?」

「そういう事では、無いっ!」

「じゃあなんなのさ?」

 

声を荒げるラウラ。それに対してなぜ怒っているのかわからない、と言わんばかりに首をかしげる成政。

 

「貴様が試合前、情報収集、トレーニングなどかなりの時間を要して試合準備をしていたのも、だ。

私はそれを台無しにしたんだぞ、何故罵声の1つも浴びせないのだ!」

「じゃあバーカ。ばーかばーか」

「ふざけているのか!」

「選手に罵声を浴びせるのは観客だけで充分です。マネージャーは選手と一緒に喜んだり悲しんだりして、気持ちを共有するもの。んでたまには選手を慰めるのも仕事な訳ですよ」

 

成政は車椅子を動かしてラウラの目の前につけると、バインダーでラウラの頭を軽く叩く。

 

「ボーデヴィッヒさんが試合を台無しにしたのも事実。だけど、選手としての素質は一流だったし、試合の取り組みも素晴らしかった。

だから自分を責めなさんな」

「だが、私は......」

「ボーデヴィッヒさん。選手に必要なものはなんだと思う?」

「......わからない」

 

力なく首を横に振るラウラ。

今までであれば即答できた筈なのだが、ラウラは力の在り方、というものが分からなくなっていた。

 

「簡単な事さ、勝ちたいと思う気持ち」

「勝ち、たい?」

「そ、実力もいるし、経験も必要。何より体づくりも大事だけど、大事なのは勝ちたいという信念。

ボーデヴィッヒさんは最後まで諦めなかった、だからああなったわけなんだけど、あれは偶然が重なって起きた事故みたいなもん。

だから、ボーデヴィッヒさんは間違ってない。自分を責める必要もないよ」

「......そう、なのか?」

「そうそう。そもそも力なんてとてもあやふやなものだし、20年も生きていない僕らが分かるはずもないもん。

正直、案外くだらないものの方がいいかもよ?例えば、正義の味方になりたいとか、義妹に誇れる兄貴になりたいとか、燕が斬りたいとか、あとは、カッコよくなりたいとか」

「......」

「とりあえず、肩の力を抜いていこうよ。

まだ時間はあるんだし、ゆっくり探せばいいんじゃない?」

 

ポンポン、と成政はラウラの肩を叩くと、保健室を後にしようと車椅子を動かす。

 

「......お前は、強いのだな」

「そお?全然強くないよ。

僕は今でも人に銃を向けるのがちょっとだけ怖いくらいだし、争いごとは得意じゃない。

高いところは苦手だから空高く飛ぶのも嫌だし、飛んでると酔いそうになるし。

だからさ、戦ってるみんなの方が強いと思うし、羨ましいよ」

「そのような意味ではない。心の在り方が強い、のだ。

私は、昔は落ちこぼれで、教官に教わったことで、今の地位に立っている。

だからこそ、教官に憧れていた。

だが、今では、何を目標にすればいいか分からないのだ。信念も、何もない。

そんな空っぽな私と違って、何かを貴様らは持っている。だから、強いと言ったのだ」

「じゃ、その何かを見つけようか。少しなら手伝うよ?」

「......ありがとう」

 

「まずはクラスに馴染めるよう頑張ってみ」

「せーんーぱーい?」

「ぎっくぅ!」

 

成政が保健室を去ろうとドアを開けると、修羅が立っていた。

 

「聞きましたよ?思いっきり走ってたみたいですね、生身で」

「ぎく」

「生身でISを殴りつけたとも」

「ぎく」

「本当ですか?」

「......ソンナコトナイヨ」

 

先ほどとはうって変わって錆びついたロボットのようにカクカクとした動かない成政。

心なしか汗をかき、ちょっとずつ箒から距離を取る。

 

「嘘ですね。一夏を蹴飛ばしたのはともかく、

......なんでそんなに無理してたんですか!」

「いやー、あの時は頭に血が上ってまして」

 

成政にタックルを仕掛ける箒。車椅子の成政が避けられるはずもなく、ガタンガタン、と車椅子が倒れる音が響く。

 

「いつもそうだ、成政さんは無理をして、どんなに疲れていても笑っていて......

私が、気がつかないと思ってたんですか!」

 

箒に押し倒されるような形になっている成政は、その箒の言葉を無言で聞いていた。

 

「先輩は、いつもそうだ。

選手のため、みんなのためと言って、自分は無理をしてもいいと思ってる。

みんな先輩のことを心配してないわけ無いじゃないですか!

私が、無理してる事くらい分からないわけ無いじゃないですか......」

「......なあ、篠ノ之」

 

涙目で訴える箒に対して、気まずそうな顔をしたラウラが声をかけた。

 

「石狩が息をしていないと思うのだが」

 

箒が無言で体を起こすと、青い顔になっていた成政がぜーはーぜーはーと肩で息をして、一言。

 

「役得でした」

「っ、馬鹿ぁ!」

 

箒は成政をグーで殴った後、顔を真っ赤にして保健室から出て行った。

 

 

 

「誰か助けてー」

「自業自得だろう」

「ボーデヴィッヒさん意外と日本語知ってるんだね」

「これくらい今の世の中では一般常識だぞ」

「あ、ボーデヴィッヒさんにお願いが」

「......貴様、いや貴方は命の恩人だ。私にできることならば、協力しよう」

「実は......」

 

うちあげられた魚のように、床に横たわって動かない成政。

自力で起き上がれなくなった彼が救助されるのは、シャルルがラウラの見舞いに来る30分後となる。

 

 

 

 

 

次の日、

 

 

「転校生を紹介しますー。と言ってもみなさん知ってると思いますが、ははは」

「まやちゃんが壊れてる......!」

 

髪はボサボサ、スーツはシワだらけで目の下に大きな隈を作って悲しそうに笑う山田先生。

その様子に1組が戦慄していると、

 

「失礼します」

 

扉をあけて誰かが入ってきた。

中性的な顔立ちに、ショートカットの金髪。

どこかでみたような顔だが、最大の違いは制服の下がスカート、という事だろう。

その誰かは教卓前まで来ると、輝くような笑顔で、

 

「本日転校してきました。

シャルロット・D・ボーデヴィッヒと言います。よろしくお願いします!」

「「「「「ええええええええ!!!」」」」」

 

ざわざわと教室がざわめく中、新しく頰にガーゼを貼った成政はシャルロットの方を向くと、無言でサムズアップしていた。

だが、このままで終わらないのが1組クオリティ。

 

「あれ、そういえば昨日の大浴場は男子使ってたよね」

 

誰かがそうポツリと漏らした事で、騒がしかった教室が一気に静まり返る。

 

無言で立ち上がるセシリアと箒。

 

「一夏さん?昨日何があったんですの?」

「一夏、どういう事か説明してもらおうか」

「えっと、それは、その......」

 

冷や汗をダラダラと垂らして、助けを求めるようにして辺りを見回す一夏。

怪我のせいで風呂に入れず、何があったかは知らない成政だが、ふと彼に魔が差した。

 

「一夏」

「成政?」

「ゆうべは お た の し み でしたね」

「ちょっとおおおおおおおおおお!?」

たまにはこの朴念仁に天誅を。

 

「とはいえISを展開するのは無しで。

セシリアはステイ、校則違反というか法律違反だから、落ち着いて。

箒は.......竹刀なら許す。木刀は死んじゃうからダメ」

「わかった」

「......仕方がありませんわね」

「ありがたいけどちゃんと止めて!」

「止めたいのは山々だけど怪我人だからー」

「棒読みがすぎるぞ!」

「一夏ぁ!」

 

突如、教室のドアが吹き飛ぶ。幸運にも誰も当たることはなかったが、戸口に立つ人物が問題だった。

 

「り、鈴?!」

「死ねえええええええええ!」

 

甲龍を部分展開し、龍砲を一夏に突きつける鈴。

いくら威力が低いとはいえこの距離で人間相手に撃ったとなれば、シャレにならない。

 

しかし、

 

「私の妹に手を出すのは、やめてもらおうか」

 

不可視の砲弾を空間ごと固定する。

そのような事を出来るISはシュバルツェア・レーゲンただ1機、そしてその機体を駆るのは、

 

「色々と吹っ切れたみたいだね、ボーデヴィッヒさん」

「ラウラで構わない」

 

昨日とはうって変わってどこか吹っ切れた様子のラウラ。窓を開け、ISを解除して悠々と教室に入り、一夏の前に立つ。

誰も何も言わないのは、緊急事態が重なりすぎてあっけにとられているせいだろう。

そして、ラウラは思い切り息を吸い込むと、

 

「本当にすまなかった!」

 

一夏の机に思い切り頭を振り下ろした。

 

「数々の非礼を詫びる。自分が軍属だからと言って、貴方たちを下に見ていた。

自分が未熟であるのにそう言ってしまった事、心より申し訳なく思う。

そして織斑一夏、貴方には勝手な逆恨みを抱いた上、酷い事を言ってしまった。

本当に、すまない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、食堂まで車椅子で向かっていたところ、ちょうど見かけた一夏に声をかけた成政。

車椅子を押す事を頼み、特に急ぎでもない一夏はのんびりと2人で話していた。

 

「なあ、あのラウラの変わりよう、お前のせいだな」

「もっちろーん。一夏は納得いかないだろうけど、仲良くしてやってくれないか?」

「......無理だ、と言いたいところだが。成政が言うんならしょうがない。あいつも吹っ切れたみたいだしな」

 

とりあえずは一件落着、かと胸を撫で下ろす成政、

 

「でもあいつは1発殴る」

「ご勝手にー」

 

拳を握り締める一夏を、成政は止めるつもりもない。自分も殴り合いをしているのだし、時には言葉だけでは解決しない事もある。

 

「ま、クラスには案外馴染めそうだし、ね」

「だな」

食堂でクラスメイト'sに弄られるラウラを見ながら、男子2人は年寄りみたくほっこりしていた。

 

「織斑一夏、お前を私のライバルにしてやる!明日、第3アリーナで勝負だ!」

「ラウラ、髪の毛に芋けんぴついてるよ」

「む、すまぬ妹よ、あむ」

((髪に芋けんぴってどう言う事だよ?!))

 

問題だが、案外さっさと解決しそうだ。

 

 

「ところでこの車椅子、妙にゴテゴテしてるな」

「蔵王製」

「ん?」

「最高時速200キロ、1tの荷重に耐え、空も飛べる、らしい」

「なんだよそのオーバースペックは?!」

「ちなみに機銃も積んでる」ガシャ

「下ろせそんな危険物!」

「今なら198000円」

「早く返品してこい!あと誰が買うんだよ」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話

臨海学校編、スタート!
(ショッピングなどなかった)


 

 

「うーみだー死ね」

「いいじゃないか海、なんでそんなこと言うんだよ」

「飛行機落ちて4回くらい泳いだしサメに追っかけられたし魚に噛まれて病院送り。 ......ご感想は?」

「すまん」

 

青く輝く海、白い砂浜。

そして不釣り合いな死んだ魚のような目をした車椅子に座る男子、成政。

一応水着には着替えているものの、ジャケットに麦わら帽子を装備と泳ぐ気はさらさらない。

成政は海より山派なのだ、登れないが。

 

足はもう歩けないという主治医からのお墨付きで、もちろん泳ぐこともできない。

とは言ったものの本人は、

 

『これでマネージャー業に専念できる』

 

と案外前向きでクラスの皆がずっこけていた。

 

それはともかく、

 

「うーみーだー!」

「いぇぃ!!!」

「ちょっと待ったぁ!」

 

波打ち際に走り寄り、海に飛び込もうとするクラスメイトを呼び止める成政。

不思議そうな顔をして成政の方を見るクラスメイトに対して、成政は笛を取り出し、

 

「準備体操しないとダメでしょうが!」

 

総員整れーつ!と号令をかけた。

 

 

「ゔぁー、暑い、死にそう」

 

1人ビーチパラソルの下でだらける成政。

車椅子を降り、シートに寝転がってかき氷を食べていた。

視線の先では騒ぐクラスメイトや、ビーチバレーに興じるラウラや一夏、そして隣でのんびりと読書をしている簪がいる。

友人に頼まれているのでさりげなくカメラを回し、写真を撮りながら、

 

「ざしちゃんざしちゃん、にぱー」

「に、にぱー......」

 

成政の急な無茶振りに戸惑いながらも、成政のやっている通り笑顔でピースサインをする簪。

若干恥ずかしいのか控えめなものだったが、いつもの不愛想な顔とのギャップと相まって、

 

(この写真は、あいつにだけ送っておこう)

 

こっそり頼みにきた某生徒会長のお願い(強制)を蹴っ飛ばす程に、輝いて見えた。

 

「ざしちゃん、開発は順調かな?」

「......あとは、動かして、試すだけ」

「おお、良かったね。で、慎二はあいからわず?」

「......あいかわらず」

 

若干頬を染めながら答える簪。

4月あたりから連絡を取り合うようになった簪と成政の友人の慎二。2人の関係は意外とうまくいっているらしく、この様子から色々と順調だと察し、この後来るであろう惚気話を回避するため成政は、ビーチバレーでロケットパンチを持ち出したマヒロに注意を入れるべく車椅子を動かそうとして、

 

「ぐぬぬにににににに!」

「......大丈夫?」

「砂にはまったみたい、助けて」

 

砂にはまった車椅子を掘り出すべく、簪は読んでいた文庫本に栞を挟んだ。

 

 

 

 

 

 

「マヒロ、ロケットパンチは反則です」

「だったら人間じゃないちっふー先生はどうなんでしょうか!」

「............生物学上はホモサピエンスですので問題ありません」

「どうしてそこで悩んだ成政。そして神上はあとでマンツーマンで訓練してやる」

「結構です」

「釣れないこというなよ神上、ん?」

「そ、それでは試合開始!」

「師匠、見ていてください!」

「......し、師匠?僕が?」

「それはもちろん自分を導いてくれた存z」

「ラウラの顔面に織斑先生のスパイクがー!」

「メディーック、じゃなくて保健委員、怪我人が!」

 

 

 

 

 

 

 

 

時は過ぎて夕方、たまには夕日でもと気が向いた成政は旅館近くの崖に向かうと、先客がいた。

 

「や、箒ちゃん」

「......成政さんか」

 

最近物憂げな様子を見る事が多かった箒、個人的なことかと触れるのを避けてきたが、

 

「......地区大会、惜しかったね」

「そう、だな。私の実力不足だ」

 

先月行われていた剣道部地区大会。

団体戦は2回戦敗退、個人戦は、

 

「ベスト8、もうちょっとだったね」

「ああ、次は勝つ、必ず勝ってみせる」

 

惜しくも県大会を逃す事となってしまった。それを悔やんでなのか、と心配して声をかけたのだが、拳を握りしめ決意を新たにする箒、この様子なら心配はいらないかと成政はこの場を去った。

 

「そうそう、水着似合ってるね」

「お世辞か?」

「本当のこと言っただけだよ、じゃあまた後で」

 

 

 

 

「やはり、力が、欲しいな......成政さんの期待に、応えられるような力が」

 

根本的な箒の悩みを、察することも出来ずに。

 

 

 

 

 

 

「この刺身、うまい、美味すぎる!」

「しかもこれ、本わさだぞ成政。やっぱり風味が段違いだぜ」

 

夕食、海沿いの旅館らしく立派な刺身が添えられた立派なもので、皆は騒ぎながら美味しい料理に舌鼓をうっていた。

 

「へぇ、そうなんだ......あむ」

「あっ」

「っ〜!」

 

海外組は刺身自体が珍しく、シャルロットがワサビを丸ごと食べて悶絶していたり、

 

「大丈夫かセシリア、無理して正座しなくてもいいんだぞ」

「ご、郷に入れば郷に従え、です、わ」

 

慣れない正座に足を痛めていたりと、日本文化の洗礼を受けていた。

 

 

 

 

 

夕食後、ラウラと今後の練習計画について話しながら自分の部屋に向かっていると、何故か部屋の前にいつものメンバーが群がり、聞き耳を立てていた。

 

「師匠、あれは?」

「おーい、何してるんだ?」

「しー、今いいところなんだから」

 

鈴がそういうので、成政達も何も聞かず扉の前まで来た。

ちょっと聞いてみろとジェスチャーされたので、大人しく耳を当て

 

「自分の部屋の前でこそこそする必要などない、というわけではいどーん」

 

るわけもなく襖をスパーンと開け放つ。

決して海が近くて苛立っているわけではない。そんな訳ない、ないったらないのである。

 

「ん、なんだ貴様ら」

 

襖の奥では織斑姉弟が倫理的にやばい事、ではなく普通にマッサージをしていた。

 

「貴様は私と一夏が情事でもしていたというのか、全く。教師がそんなことするはずもないだろう」

「なんだみんな、マッサージされたいのなら言えばよかったのに」

「言える訳なかろうて......」

 

聞き耳を立てていた皆を正座させて説教タイムに入った千冬。いつでも持ち歩くらしい出席簿で全員叩かれるおまけ付きだ。

 

《男子が女子にマッサージをするなど、下手をすれば事案になります。気をつけましょう》

 

「一夏、そろそろ女子の使用時間も終わるはずだ。石狩も行ってこい」

「もうそんな時間か、行こうぜ成政」

「一夏、僕の着替えとってくれ。動くのが面倒でね」

 

暗に出て行けと言われているので、素直に出て行くことにする成政。学園ではあまりできなかった男子同士の込み入った話でもするかとのんびり風呂に入ろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ああー、いきかえるぅー」

「おっさんくさいんじゃないか、一夏」

「いいじゃねえか、2人きりなんだし。ふふふーん」

 

露天風呂で星空を眺める成政。隣の一夏は手ぬぐいを頭に乗せて鼻歌を歌っていた。

風呂の中で思い切り手足を伸ばすが、成政の膝から下はうんともすんとも動かない。

 

「ま、当然か」

「......なんか、ごめんな。その足」

「どうかしたか?」

「いや、俺がもっと早く行ければ、守れたかもしれないんだろ、だからさ」

 

申し訳なさそうに下を向いてしまう一夏。成政は暗い雰囲気は嫌いなので、

 

「たらればを言っても仕方ないさ。それに可哀想だなんて思われるとこっちが迷惑だ」

「あた!何すんだよ」

「抱え込みすぎんなよ。周りに相談することも覚えろよ」

「......ああ」

 

無言で拳をぶつける男子2人。

男子は単純だから楽だ、成政は常々そう思っている。

 

 

「ところでさ、お前さ、本物の戦争に行けって言われたらどうする」

「んあ?なんでそう突然に」

「いや、素朴な疑問さ。

ISなんてアラスカ条約で兵器扱いが禁止されてるとは言え、どう見ても兵器だろ。

もし戦争なんて起きれば、条約がなんだの言ってる場合じゃない。専用機持ちなんて最前線に放り出されるに決まってる。

ISを使えば簡単に人なんて殺せる。

白式の零落白夜なんてISごと操縦者を真っ二つにできるんだぞ?

それこそ今が1940年代だったらセシリアたちとドンパチやってるだろうさ。

全く、平和な世の中だねぇ」

「......よく考えれば、使ってるのは武器、だもんなぁ」

「刀だぞ刀。銃刀法違反じゃないか、犯罪者だな」

「......レーザーブレードは刃物に入るのか?」

「さあ?物が切れれば刃物だろ」

 

2人はしばらく黙り込み、思考の海に沈む。

成政の言葉に思うところでもあったのか、一夏は眉間にしわを寄せてうんうん唸る始末だ。

 

「まあ、3年もあるんだし、ゆっくり考えればいいさ。

 

 

 

 

 

ところでお前好きな人はいるわけ?」

「は?」

 

先程の真面目な様子とはうって変わってニヤニヤしながら一夏の脇腹を突く成政。

 

「いつも女子に囲まれてるわけだし、気になる子とか1人や2人」

「恋愛とかよくわかんないんだよなぁ」

「......what?」

「正直いつも忙しいし、まだ女子だらけの状況に慣れてるわけでもないし、恋人作ってる様な余裕もないし何よりさっぱり」

「馬に蹴られて死ね」

「ストレートだなおい!」

 

この朴念仁に恋愛を聞いたのが悪かった、と成政は罵声を浴びせた後思った。

体を洗うために風呂から出ようと、手すりに手を伸ばす。

気を利かせたらしい一夏が手を掴み、風呂から引き上げようとするが、一向に持ち上がらない。

 

「一夏、お前力無さすぎやしないか?」

「なんの話だよ一体?」

 

声が聞こえてきたのは、頭上ではなくその隣。

急に声をかけられてキョトンとしている以外は、先程と変わりない。

 

「じゃあ、誰が引っ張ってるんだ?」

 

成政が頭上を見上げると、

 

「ぐぬぬぬぬ!」

「ラウラ、何してんの」

「師匠の助けをするは弟子の務め、なり!」

「いや全然上がってないから」

 

ラウラは小柄であるため、力を発揮しづらいし、格闘系競技やバスケなど体のリーチを活かすスポーツ全般では不利なのだ。

時々小柄にもかかわらず訳のわからない成績を叩き出す天才もいるが、ラウラにそう言った才能はない。

ただ、戦闘センスはずば抜けて高いのだが、

 

「一夏、ここは男子風呂だな?」

「逆に入った時に女子が着替えてたから男子風呂......だと思う」

「なるほど。頬が赤いのはそのせいか。で、なぜラウラはここに?」

「日本では裸の付き合いというものがあるのだろう?クラリッサがそう言っていた」

 

一般常識が致命的に足りない。

 

「......とりあえず、下は隠そうか」

 

成政は頭の上に乗せていた手ぬぐいを無言で差し出した。

ラウラが言われるままに腰に手ぬぐいを巻いているうちに一夏に引き上げてもらい、3人で仲良く背中を流したりした。

その後すぐに2人がかりでラウラを風呂から叩き出し、無駄に洗練された軍隊格闘術で痛めつけられた体を労わる様に風呂に浸かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......臨海学校終わったら告白でもするかなぁ」

「なんか言ったか成政?」

「いや、なんでもないさ」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話

おや、不穏な空気が...?


 

「What is this?」

 

いつもの様に窓を開ける成政。慣れない障子に手間取ったが、すぐ開いた、のだが。

何がどうしてそうなったのか、目の前の地面にメカメカしい棒状のものが2つ。隣には『抜いてください』と書かれた木製の看板が。

寝起きだったので思わず英語で反応してしまったが、

 

「......行くか、どうせ旅館のものを勝手に触るのはどうかと思うし」

 

馬鹿正直に指示に従うほど寝ぼけてはいない。

不思議には思ったが、特に看板の指示に従うこともなく、成政は朝食を食べに大広間に向かった。

 

「ん、何だこれ?」

 

 

 

 

 

 

「今日は長距離飛行訓練ですよ。海の上を飛びます!」

「......おえっ」

「なりなりの顔がまっさおだー」

「やまやん、なり君が青い顔して吐きそうになっておりますがいかがいたしましょう?」

「ふええええええ?!」

 

山田先生が得意げに海上飛行と言った瞬間に青い顔をする成政。詳しくは語らないが、それ程までにトラウマなのだ。

本人の頑なな拒否もあり、物陰で皆の飛行の様子を山田先生と見学することとなった。

専用機持ちとは違って、ぎこちなくたどたどしい、拙い機動。

IS適正Dランクの成政でもまだましな飛行ができる位だ。

だが、

「いいよなぁ、ああ言うの」

 

成政は、そう言った下手くそさが大好きだ。

練習に手を抜いて周りが悪いだの用具が悪いだのほざく馬鹿とはもちろん違う。

下手くそだが、楽しそうにプレーをする選手がたまらなく好きなのだ。

もし篠ノ之束が人類が自由に空を舞う為の翼としてISを開発したことを知っていれば感慨もひとしおだったのだろうが、残念なことに勉強不足なのだ。

 

先程とうってかわって楽しそうにする成政の様子を見てか、山田先生は成政の隣に腰を下ろした。

 

「石狩君、楽しそうですね」

「ああ、山田先生。これはお見苦しい所を」

「そんな事ないですよ。ただ、楽しそうだから気になって」

「......僕、人のああいう姿、好きなんですよ。

必死に頑張って、下手くそなりにできていて、やった、できた。とか、まだまだ足りない、って感情が伝わってきます。

嬉しさと悔しさがないまぜになった様なモヤっとした感じ、っていうんですかね。

正直無い物ねだりで、スポーツができる皆が羨ましいだけかもしれませんけど、いつ見ても、いいものです」

「ふふっ、実は私も、なんです。だから教師になったんですよ」

「えっ、本当なんですか?!確か元代表候補、なんでしたよね」

「ええ、後輩を導くのも、先輩の役目ですから。それに......織斑先生の後は、ちょっと」

「偉大な先人を持つと苦労する、ですか」

「はい、正直、気弱な私にはできる気がしなくて......」

「まあ、諦めも肝心、ですし」

「でも、教師としては織斑先生より先輩ですから!びしばし指導してますから!」

「頼りない先輩ですね」

「ひどい!」

 

軽く雑談を交わした後、山田先生は今戻ってきた生徒にアドバイスでもあるのか、駆け出していった。

その背中から視線を外すと、成政はここから1つ向こうの岬で飛んでいる赤いISを見つけた。

 

「あれ、誰が乗っているんだろうな?」

 

訓練機とは違って綺麗な挙動を描くIS。その航跡は赤いレーザーを帯び、どこかの前衛芸術の様な美しいが無茶苦茶な幾何学模様を描いていた。

 

(なんか見え覚えあるクセだなぁ)

 

一瞬誰が乗っているか心当たりがあったが、そんなわけないか、と呟くと同時に山田先生が石狩君もアドバイスを、と声をかけた。

マネージャーとしての仕事を放り出すわけにもいかない、と成政は快く引き受け、皆の待つ砂浜へと向かう。

「石狩くーん」

「はいはい、今行きますよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、あっ、はい。本当ですか?!」

 

訓練中に突然連絡でも入ったのか、無線で誰かと連絡を取り合う山田先生。

訓練していた生徒と、補助のために青い顔をしながらも打鉄で同じく空を飛んでいた成政は首をかしげる。

 

「やまやんなにがあったんだろ?」

「さあ、何だろうな?ところでやまやんて」

「かわいいじゃん」

「......」

「かわいいじゃん」

「2回は言わなくていいからな」

 

女子らしいノリに目頭を揉む成政、やはり女子高生はわからんと愚痴をこぼしていると、

 

「すみません、急いで旅館に戻ってください!」

 

切羽詰まるようにそう言い残すと、山田先生はラファールを駆って2人をそっちのけで旅館へ飛んで行ってしまった。

 

「はい?どうしてですか」

「詳しくは言えないですけど、とにかく緊急事態なんです!」

「えー、せっかくの臨海学校なのに」

「そういう事なら早く戻りましょうか。

......僕もそろそろ限界ですし。うっぷ」

「あ、やっぱり。肩貸そうか?」

「助かる......すまん吐きそう」

「BD版だとキラキラがつくから吐いても大丈夫よ」

「メタいアドバイスをありがとう......じゃあ遠慮なく、おろろろろろろ」

 

《そもそも2時創作なのでBDは出ません》

 

 

 

 

 

 

「まるで意味がわからんぞ」

「......わけがわからないよ」

「なんかイベントと問題がワンセットで起きるよね、ウチの学年。それダウト」

「ええ〜、そんな〜。ちょっとたんま〜」

「ゆるく言っても通用しないわよ布仏さん」

 

その後、旅館に戻ってきた成政たちを出迎えたのは、旅館の外に出るなというありがたい千冬の言葉。

とうぜん反発はあったものの、緊急事態の一言で黙らされた。専用機持ちが抜けていたのも、それに拍車をかけていた。

暇を持て余す羽目になった成政たちは、専用機が未完成ということで弾かれた簪も交えて部屋で静かにダウトをしていた。

 

「......箒もいないし、ツマンネ」

 

結局飽きて手札を放り出し、畳に寝転ぶ。

一緒にトランプで遊んでいた面々は文句を言ってくるが、どこ吹く風と無視して天井を見上げる。

 

「やっはろー、元気?」

「ん、まあ元気かな」

 

それを塞ぐように見慣れたショートカットが視界を塞いでくる。

元気もないので適当にマヒロをあしらい、横になる成政。

 

「うんうん、それは良かった。

じゃあ、

 

 

 

 

『ひとっ走り付き合えよ』」

 

 

「マヒロさんIS展開は良くない、廊下を走るのも良くなああああああああああああ!」

 

石狩成政、拉致される。

 

「海は嫌ああああああああ!」

『耳元で叫ばないでよー』

 

 

 

 

 

 

 

マヒロは海岸近くの無人島まで飛ぶと、抱えていた荷物を投げ捨て、拡張領域から何かを引っ張り出し始めた。

 

『早くIS出して』

「ちょっと待った。部屋から出るなって僕らは言われてるんだが、それは一体どういう」

『早く!』

 

フルフェイスに隠れて表情は窺えないが、声色だけでも真剣味が伝わってくる。

前にも同じような事を経験し、痛い目を見ているので素直に従うことにした成政は言われるままに打鉄を展開すると、

 

『後ろ失礼』

「......あの、何つけてるの?」

 

強羅は背中に回り込み、工具を使って何かを取り付けている様子。

ハイパーセンサーを起動してその何かを見るものの、専門知識がない成政では何かはさっぱりわからず、打鉄もデータがありませんとテロップを出すという始末。

マヒロがそれに答えたのは、取り付けが終わってからだった。

 

『ブースター』

「ブースター?」

『うちの試作ブースター。とにかくISをかっ飛ばす機能しかない』

「方向転換とか止まるとかそういう機能は?」

『Nothing 』

「ないの?!」

『錨はあるからそれで頑張って』

「何故に錨を選んだし」

 

暫くの間キーボードを弄っていたマヒロだが、キーをひ叩くと、ISを解除して正面に回り込む。

 

「端折って説明すると、暴走した軍用ISが暴走して、日本に迫ってる。自衛隊の出動にも時間がかかるから、専用機のあるIS学園生で撃破、できなくても足止めしろとの命令」

「軍用?!アラスカ条約違反じゃないか」

「国防用なら例外になる。条約の穴をすり抜けてるから違反じゃない」

「んな滅茶苦茶な......」

「で、マッハ2で飛ぶISを落とすには、一夏と高速パッケージを装備した誰か、まあセシリアが行くはずだったんだけど」

「......零落白夜で一撃、で終わりと。ってだった?」

「束博士が割り込んで来て、ダウンロードの終わってない紅茶バカの機体より箒ちゃんの紅椿のほうが速い、って押し切って今向かってる」

「すまん、全然わからん」

「要約すると慣れない専用機に乗った浮かれてる後輩が軍用ISと接触しようとしてんの!」

「よし行こう」

「即答?!」

 

即座に決断した成政を見て、半ば諦めたように言葉を漏らしたマヒロ。

 

「言っとくけど、本当だったら専用機持ちか先生に頼みたいところなんだ。

だけど、明確なデータがあるのはキミの打鉄だけ。このブースターはデリケートだから、他の機体で使おうと思うと変な方向に飛んでしまう。だから専用機じゃダメ。

先生たちは最終防衛ラインがあるから戦えないし、1組の2人はオペレートで動けない。

俺が行ければよかったんだけど、強羅じゃ遅すぎて間に合わない。

......だけど、一次移行もしてない訓練機じゃ絶対に勝てないし、キミもそこまでの実力者じゃない。

死ぬかもしれないけど、本当にいいの?今ならまだ俺が乗れば」

「いい、平気。選手が困ってるなら、助けるのはマネージャーの仕事だ。ついでにガツンと言わなきゃいけないしね」

「ブレないねぇ......」

「それはお互い様だろ?こんな欠陥兵器持ち出して。錨ってなんだよ錨って」

 

諦めたように笑うマヒロの頭を軽く叩きながら笑う成政。お互い、自分のやりたい事に忠実に生きているのだ、意外と通じるところもあるのだろう。

ひとしきり笑った後、マヒロは死地に赴く友人に言葉を送る。

 

「人はいつか死ぬ。俺だって死ぬし、キミだって死ぬ。みんないつか死ぬ。......だが今日じゃない。この言葉、覚えといてくれ」

「バーサーカーと鬼ごっこするより簡単だろ?いけるいける」

「......聞かなかった事にするよ」

(fateも混ざってんのかこの世界ぃ?!確かに10年前に大火災があったが、偶然じゃなかったのかよ!)

 

成政の軽い一言でまたマヒロの胃が荒れるが、そんな事おかまいなしに時間は過ぎていく。

 

「......交戦予定地は送っておいた。

そろそろ出発しないと間に合わない」

「じゃ、よろしく」

「......死なない、よな」

「多分」

「多分て、お前さぁ」

「99パーセント死なないよ。僕の多分は大体当たるからさ」

 

ブースターの最終確認にチェックを入れながら、心配げなマヒロとは逆に何時ものように緊張感のない軽い雰囲気で笑う成政。

 

「システムオールグリーン。

......じゃ、行ってくる」

「任せたよ」

「任された」

 

安全のためにマヒロは強羅を展開し、物陰に隠れる。

同時にカウントダウンが目の前に表示され、示された数字はどんどん0に近付いてくる。

そして、

 

『カウント0。

強襲ブーストシステム《スターダスト》

高速下戦闘補助システム《シューティングスター》

起動します』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......はっや。使わなくてよかったー」




アァァァァァクセルシィンクロォォォォ!
嘘です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話

「......確かに速い、けどさぁ」
『何?』
「......マッハ20は要らねえよ?!」
『いやー、ウチの中学の教師に負けたくなくて、って開発主任が』
「その教師人間かよ?!織斑先生より人間やめてるとか反則」
『多分人間じゃない?』
「多分て......ちなみに何中学?」
(椚ヶ......まあ、嘘ですが。単に、ロマンを追い求めただけです)
「こいつ、直接脳内に......!」



多分嘘です。月は欠けてもいないのでヌルヌル教師はこの世界線には存在しません......ホントダヨ?

あと、展開は大体知っていると思うので端折ります。
知らない?......ごめんなさい、原作なり他作品で確認をお願いします。



あと短めです。


「それでは、よい空の旅をー!」

『できる訳ないでしょうがああああああああああ!うわあああああああああああああ!』

 

成政が蔵王の変態ブースターでかっ飛びングし始めたのと同じ頃、

 

 

「一夏、しっかりしろ、一夏ぁ!」

「......っ、ぁ」

 

箒は満身創痍の一夏を抱え、件の軍用IS『銀の福音』から逃げ回っていた。

何故絶対防御があるはずのISの防御すら貫通す程の攻撃を受け、一夏が大怪我をすることとなったのか。

 

(浮かれていた......私の、せいだ。私が、未熟なばかりに!)

 

慣れない専用機、初めての実戦、浮ついた心構え、あり得なかったはずの偶然。

そして、自身を顧みなかった一夏。

その積み重ねが、一夏の重傷という今の結果を生み出してしまったのだ。

だが、決して箒だけのせいでは無い。

箒の専用機受領と示し合わせたような軍用機の暴走、海域にいるはずのなかった密漁船。

その責任を全て押し付けるのは、酷というものだろう。だが、箒にはそれを考えるだけの余裕もない。

 

「ぐっ、ああああああ!」

 

360度から襲いかかってくる光弾を避けられず、腕に抱える一夏に衝撃が行かぬよう体を丸めて自身を盾にする。

剣道とは比べものにならないほどの衝撃が箒を遅い、喉の奥から鉄臭い何かがせり上がってくる。

それを無理やり飲み込み、前を見据える。

視界の端に映るすエネルギー値はレッドゾーンに突入している。

いつ落ちてもおかしくは、ない。

 

福音の側からしても、死に体の紅椿を追撃するのはおかしくはない。最大脅威である白式は排除したものの、自身のデータベースに存在しない高性能IS。ましてや、自身に追いすがる機動力と高い攻撃力を誇る機体を放って置くはずもなく、自身の操縦者を守るために機械の翼を羽ばたかせる。

 

「このままでは......」

『箒、セシリアとラウラが到着する。もう少し、もう少しでいい、耐えてくれ!』

『箒ちゃん、頑張って!』

「......ははっ、無理を言ってくれる。くっ!」

 

無線の奥では千冬が声を荒げ、姉である束が回線に無理やり割り込んで悲痛な励ましを送ってくる。

思わず弱音が出てしまうのも、無理はない。

 

(いっその事、私を道連れに......。いや、一夏を巻き込むわけにもいかない。

それに、まだ、死ぬわけにはゆかんのだ!)

 

「まだ、私にはやる事があるのだ!おおおおおおああああああああっ!」

 

自身を奮い立たせるよう、大声を張り上げて気合を入れなおす。

試合以上に神経を研ぎ澄ませ、機体全てに気を配れ、生存のためにできることを全てしろ。

 

「あああああああああっ!」

 

刀はエネルギー切れで出すこともできない。

であれば己の体を使え。

相手の行動を読み切れ。

今までの戦闘を思い出せば不可能ではない。

 

光の弾幕をバレルロールでくぐり抜け、直撃する弾は腕で防ぐ。それでも受け損なった弾は一夏に届かないよう体を張ってでも受ける。

頰をかすめて飛んだレーザーがリボンを焼き切り、髪の毛がばさりと広がる。

砕けた装甲の破片が目元をかすめ、視界の右半分が赤く染まる。

それでも、まだ先は遠い。

視界の端に出していたレーダーがISの反応を捉えたが、箒はそれも見えていない。

 

ただ、前に、愚直にまっすぐ、紅椿は飛び続ける。

 

水平線の奥に黒点が見えた。

拡大すると、ブルーティアーズの背にレーゲンが相乗りしている。

セシリアとラウラの悲痛な表情を捉えた。

 

もう少し、もう少しだ。

そんな一縷の望みにすがるように箒は左手を伸ばした。

 

『紅椿、活動限界です。申し訳ありません主よ』

「届け、届けぇぇぇぇぇ!」

 

エネルギーが底をついた。

紅椿の装甲が赤い光を放ち、四肢の先から粒子になって消えていく。

それでもなお、守るように箒の周りに纏わり付き、箒と一夏を包み込む。

もうすぐ、もうすぐで2人に手が届く。

それを嘲笑うかのように前に福音が回り込んできて、その翼が輝く。

容赦などAIに求めるものでもないらしい。

それでも、箒は手を伸ばす。

 

「諦め、られるかぁぁぁぁあああああああ!」

「邪魔だどけこのポンコツ!」

 

聞き慣れた誰かの声が聞こえた気がした。

そこで、箒の意識は途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃ、あとは任せるよ』

『しかし、師匠!』

『君らは箒ちゃんと一夏を抱えてちゃあまともに戦闘なんてできない。たとえどっちかが抱えて逃げて、もう1人が立ち向かっても勝てっこない』

『それでも、時間稼ぎ程度であればわたくしにも、貴方がやる必要は!』

『君達は誰1人欠けちゃいけない。みんなコイツを倒すのに必要なんだ。後は言わなくてもわかるよね。僕は捨て駒で十分だ。

......あと止まらないし』

『ですが、それではまるで......』

『平気平気、ちゃんと帰ってくるって。

これでも逃げ足だけは早い方だからね』

『......すまない、師匠。必ず、必ず助けに戻る!それまで、頑張ってくれ!』

『ラウラさん?!』

『あはは、弟子にそう言われたら頑張らざるを得ないなぁ。はい行った行った』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、それでいい。それでいいんだ」

 

成政は水平線に消えていくレーゲンとティアーズの背から目線を外し、泡立つ海面に視線を落とす。

あれだけの衝突であればSEは0になっていそうなものだが、世の中上手くいかないらしい。

飛び蹴りをしなかったせいだろうか、それとも必殺技名を叫ばないからなのか、と現実逃避まじりにそう愚痴る。

一瞬海中で光を放ったかと思うと、衝突時の傷が嘘のように消え、新しく翼を生やし、装いまで新たとなった絶望が生まれた。

 

だからと言って成政のやる事は変わらない。

ブレード『葵』を鞘から抜きはなち、左手にはライフル『虎徹』を。

 

「じゃ、データ、バッチリ取らせてもらおうかな。これも、マネージャーの仕事だしね。

ああ、こんな時にこの言葉って言うんだっけか。

 

 

 

 

 

 

別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

『何を言っているんだ石狩!早くそこか』

 

怒鳴る千冬を無視して、成政は無線を遮断した。試合に横槍を入れられても面白くないし、自分の戦い方は卑怯でカッコ悪い、人にはあまり見せるものでもないし、何より成政自身が恥ずかしい。

静かになった世界に聞こえてくるのは、海風の吹く音、自身の心臓の音、そして唸りを上げて、主の命令を待つ打鉄の鼓動。

相手も準備は万端らしい。

 

「さあて、やろうか、銀の福音。

ウチの一夏と箒をボコった罪は重いよ?」

 

成政は、虎徹の引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『打鉄、活動限界です。全機能を停止します』

「......まあ、うまく、やれた、か......な?

ありがと、うちがね。

ごめ、ん、ほう......き、ちゃ......」

 




小休止の間幕です。

作「やっはろー、作者のスピノキングです。
話もひと段落ついたところで今回はちょっと息抜き兼反省会、というものをやってみようと思います。というわけで主人公'sの皆さんに来てもらいました。ハイ拍手ー!」
一夏・成政、士郎
「「「よろしくお願いします!」」」
作「じゃあ軽く自己紹介とか、あらすじをサクッと説明しちゃおうかな。士郎くんよろしく」
士「それは......いらなくないか?」
作「というと?」
マヒロ「こんな駄作読んでくれる人なんて......もが」
成「士郎続けて!この空間がネタまみれになる前に!」
士「あ、ああ。

女性だけが動かせるはずのISを動かしてしまった原作主人公織斑一夏。そしてもう1人、動かすことのできた男子こと本作主人公が、石狩成政、だな。
男子2人以外は女子の学校で繰り広げられるハイスピードバトルラブコメ、が原作の謳い文句だったか?
現在は駆け足気味だが臨海学校編になる訳だ。
ここで成政がヤバイ雰囲気になってる訳なんだが......」
作「それはおいおい、ね。
そうそう原作の3、4巻をやっと買えたんだよね。近くに本屋にはないし、あっても11巻だけだったし、遠出ついでに買って来ました」
一「で、作者、これからどうするんだ?
書くときも悩みながらだったんだし、更新ペースを守ろうとして適当な話になってたんだろ。納得言ってるのか?」
成「わーお、辛口だねぇ。それは読者の皆様が一番よくわかっている事だろうけ、ど!」グキ
マ「あふぅ......」パタリ
作「臨海学校編、作中だと24〜26話の3話ですね。書き直します」
一・成・士
「「「やっぱりな」」」
作「まあこれでも物書きの端くれなのでプライドだってあるんですよ。正直自分で書いてて『あれも足りないこれも足りない』とまあ頭を抱えながら執筆してましたし。
夏休み中にがっつり書き直します!
それまで更新も止まりますが!末長く『マネージャーですが何か?』をよろしくお願いします!」











マ「で!ここからは作品についての質問コーナー!」
士「まだ来てないけどね」
マ「まあそうだけどさぁ......」
リヨ成
「まあ質問来たら割り込み編集するからね、うけけけけ」
一・士・作
「「「......ん?」」」
リヨ成
「とりあえず作者は僕に強力な専用機とかかっこいい単一機能を付けるべきじゃないかな!」
葵カマエ

ギャースワイワイガヤガヤチュドーン


マヒロ
「えー、こんな馬鹿どもですが、これからもよろしくお願いします!
ていうかなんで俺が纏め役なのさ?!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 リメイク

リメイクバージョン!の24話ですよ。
話の大筋は大体変わっていませんが、ちょっと新キャラが出たりフラグを立てて見たりしました。


 

成政side

 

皆さん、海です。

ところでみなさんは海と言われると何を思いますか?

 

海といえば海水浴。海水浴といえばスイカ割りをしたり、砂で城を作ってみたり、マリンスポーツもいいでしょう。スポーツはいい。

ですが、

 

「ファッッッッッッッック!」

「なんだよ急に!」

「海なんてすべからく干からびてしまえばいいんだ!滅べ!」

「の割には着替えてるんだな」

「......」

 

誰がなんと言おうと僕は海が嫌いです。

ですが、TPOくらいはさすがに弁えます。

ちなみに今の服装はゆったりした海パンに防水パーカーです。

 

 

 

 

「......あつぅい」

 

皆が元気に海に飛び込む。

色とりどりの水着が綺麗で目に眩しいな。

それより砂浜の照り返しが目にキツイ、サングラス買ってくればよかった。

あーもう準備体操もしないで......あ、鈴が溺れた。一夏がすぐに助けたから大ごとにならなくてよかった、ふう。

 

暑さのせいでなーんもやる気が出ない。

足も動かなくなったから移動も面倒だし、車椅子は砂に沈むし、やってらんね。

 

「隣、いい?」

「んあ?簪ちゃんか。みんなの所に行かなくていいの?」

「海は......苦手......」

「わかる」

 

こんな所に海嫌い仲間がいたとは、嬉しいな。互いに背もたれにもたれかかってひたすら暑さに耐える。

話をする限り、今回の臨海学校をボイコットして開発に専念するつもりだったらしいが、慎二曰く『はあ?たまには休み取らないとダメでしょうが?!』との事で半ば無理やり来させられたらしい。

後であいつには簪ちゃんの水着の写真でも送ることにしよう。

話題も尽きたので、カバンの中に詰めていた文庫本を引っ張り出すと、見事に二つ折りになっていて非常に読みにくい。

しかも舞台は冬の雪山、情景が浮かばないことこの上ない。

人物像は浮かぶがなぜみんな水着なんだ。今いるのは冬山の山荘なはずだろう?!

ラストシーンで雪崩が迫ってくるシリアスなシーンも目の前の波打ち際で遊ぶみんなと化学反応を起こしてただサーフィンでもしてるようにしか見えない。

やめよう、これ以上読んでも不毛なだけだ。

 

「織斑くーん!ビーチバレーしようよ!」

「お、いいぜ!」

 

その時、僕のスポーツアンテナ(さっき命名)にとある言葉が引っかかった。

ビーチバレー、か。

バレーのルールは知っているがビーチバレーでは確かルールが少し違ったはず。人数が3対3、だったか。

日陰から出るのも億劫だけど、スポーツなら話は別だ。公式戦でもない遊びだったなら、

 

「審判は任せて貰おうか」

「いや、遊びだからそこまではいらないかな......」

 

神は死んだ。

まあ、試合くらいは見ることにしよう。

 

「よーし、頑張るぞ!」

「おう!」

「ふぁーいとー」

 

一夏のチームは相川さんと布仏さん、と。

そういや布仏さんの水着は着ぐるみみたいだが、それは水着なのか不思議でならない。

そういえばつい先日全身を覆うタイプの水着がトレンドとスポーツネットで話題になっていたが、その親戚か?後で聞いておくとしよう。

布仏さんの実力は未知数だが、相川さんはハンドボール部、足腰の強さは言うまでもない。長身の一夏がアタッカーならば攻撃に偏りがちだが良いチームになりそうだ。

対するは、ラウラにシャルル、いやシャルロットか、まだ慣れないな......。

最後はマヒロか。

ラウラは料理研究部に入ったと聞いたが、残り2人は何の部活なのだろうか。特にマヒロ。

ラウラの身体能力は高い、そしてシャルロットも悪くはないはずだ。マヒロは......まあ日頃からあの様な機体を使っているんだし、体幹は強いだろう。

身長的にはマヒロがアタッカーになるが、どうなる事やら。

 

ふむ、ラウラたちが先行か。

シャロットが前衛と、ふむ。

ラウラには荷が重いだろうから、初めはマヒロが手本を見せるらしいな。

さて、どんな試合を見せてくれるのか。

ボールを高く上げて、ってフローターサーブか、意外と本格てk

 

「ロケットスパーイク!」

「のわーっ!」

「マヒロ、ロケットパンチはどう見ても反則」

 

どんなスポーツにもISを使って良いスポーツはないからな。と言うかISの無断展開はいいのかよ。僕も時々やってるけど、資料を作るのに便利だし、ちゃんと許可はもらっている、事後で。

 

「ましてや人に向けて打つなこんなもの!もし当たったらどうするんだ」

「ボクシンググローブつけてるからヘーキヘーキ」

「............自重はしろよ」

「いやそれでいいの?!」

 

ボクシンググローブをつけてるなら、まあ、大丈夫だろう。加減はできるだろうし、多分、きっと、メイビー......。

 

「それは別として相手コートに選手が触れるのはネットタッチ扱いにする。流石にやりすぎだ。それにスパイクは手で持って相手コートに叩きつけるものではない。

よって、織斑チーム1点、サーブ権も織斑チームに」

「お、なんか知らないけどやったぜ!」

「では、試合再開します」

 

僕は、首から下げていたホイッスルに息を思い切り吹き込んだ。

 

「あの、審判は要らないって言ったんだけど」

「あ、つい癖が。でも続行させてもらう」

 

あのバカ放っておけるか。それに最近スポーツまともにさせてもらってないんだぞ!

 

「マネージャーのアイデンティティとせっかくの仕事をとらないでください!」

「......なら、いいけど」

 

やったぜ!

思わず、僕は両手を天に掲げた。

 

「......ころんびあ」

「む、何か言ったか神上」

「いや別にー」

 

 

 

 

 

 

 

 

はー、遊んだ遊んだ。

あの後先生方も乱入してきて先生方対生徒で楽しい試合になってたけど、織斑先生がおかしかったなぁ。まあ反則だらけで結局引き分けになったけど。

踏み込みで地面がえぐれるなんて、セイバーさん以来だよ。

......つまり先生はサーヴァン、ないか。

きっと逸般人なだけだと信じたい。1000年に1人の天才とかそう言うのであって欲しい、じゃないと納得できない。日本人は時々NIHONJIN扱いされるが、同じホモ・サピエンスなのか疑わしい時もある。特に侍。

 

 

 

「ロケットォ、パァァァァンチ!」

「ふっ、甘いぞ神上!」

「マヒロのロケットを弾いた!?」

「さすが教官だな、やはり素晴らしい」

「アウト、生徒チームに一点」

「あの、織斑先生、ボールは相手コートに弾いてください、ね」

「すまん、なにぶん久しぶりでな」

「始めますよー」

 

 

 

あの時は一周回って冷静だったけど、よく考えたら常識はずれなんだよ。

......やめだやめだ。あれはただの幻、暑さが見せた幻覚だ、これだから海は嫌いなんだ。

 

文庫本を片付けて、と。

簪ちゃんは、まあ流石に帰ってるわな。

ただ、パラソルを畳むには少々骨が折れる。

適当なクラスメイトでも捕まえて、とあたりを見渡した瞬間、猛烈な風が身体中を叩いた。

 

「のわああああ?!」

 

わけもわからず、反射的に地面に伏せる。

ああパラソル飛んでった......借り物なのに。

とりあえずまず疑うとすれば、そう思って沖合を見れば、小型セスナが見事に墜落している。

 

みんな海から上がっていたからいいものの、下手を打てば大惨事だったんだぞ、まったく。

ざわざわとする周囲を横目に、携帯を取り出してあの番号にかける。

いつもは繋がらないけど、多分目の前にいるだろうし......

 

『あ、もしもし?』

 

すぐに電話は繋がった。いつもの皮肉っぽい軽薄な声が聞こえてくる。

 

「早く出てきて、いろいろ迷惑」

『はいはい、わかりました、よっと!』

 

金属が擦れるような衝撃音を立てて横倒しになっていたセスナのドアが吹き飛び、あんちくしょうが顔を出した。

 

「ようなり、元気にしてたか?」

「兄貴のせいで今腹が痛いんだよ......!」

 

相変わらず無傷な兄を見て、思わず僕は顔をしかめた。

これだから海は嫌いなんだ、高確率で兄貴が降ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさか出先で見かけなかった弟に会うとは、人生わかんないもんですなぁ、はっはっはー!」

「......あのう、この方は」

 

たまたま一番近くにいた山田先生がおずおずと尋ねる。先ほどの衝撃音を聞いてかやじ馬も結構集まってきちゃったな、はぁ。

 

金髪、手入れの入っていないボサボサのロングヘアー、胡散臭いアロハにジーンズ。いつも割れてる丸メガネ。

 

「この胡散臭い大人がウチの兄です、ご迷惑をおかけします......」

「はい、耕太・ハルフォーフです、よろしく!」

 

チャラ男そのもの、と言った様子で指をかっこよく振るバカ兄貴......ん、ハルフォーフ?

 

「そうそう、2ヶ月前に結婚したわ。はいこれ写真な」

 

あっけにとられる僕の手にボロくさいデジカメが渡された。画面に映るのは、濃緑色のぱっつん髪で、見覚えのある眼帯をつけ、恥ずかしそうにはにかみながら兄貴と肩を並べて映す謎の女性。

側から見れば微笑ましいツーショットなのだが、

 

「......これ、どっからどう見ても軍服だよな?」

「うん、ドイツの特殊部隊軍人だって」

 

背景が明らかに殺伐としすぎている......。

よく見たら何かが後ろで燃えている様子、また墜落したのか。

ん、よくよく見ると......

 

「後ろに見覚えのある銀髪が」

「おや、こーにいではないか」

「うっすラウラちゃん久しぶりー。にゃんぱすー!」

「にゃんぱすー」

「知り合いかよ」

 

いぇーい、と謎の掛け声と一緒にハイタッチを交わすラウラとバカ兄貴。

ショックのあまり地面を殴りつけたくなる。

それをやるのも兄貴に負けた気がするのでやらない。

 

「そーらーを自由にとーびたいなー」

「はい、たーけこーぷたー!」

「「あははははは!」」

 

ラウラの手を持って振り回し出した兄貴。

ボロボロの男が中学生くらいの女児を連れ去ろうとしている......ように見える、かもしれない。きっとそうだ、そうに決まっている。

 

「110番したら捕まらないかな」

「面倒ごとを増やすな馬鹿者」

 

通報しようと携帯を取り出したら没収され、ついでのように頭を叩かれた。

そのまま兄貴に近づくと、ラウラを引っぺがした後、何か話している様子の織斑先生。

そう言えば兄貴と先生は面識があるのだろうか、それとも友達の友達のような実質他人の......

 

「千冬ちゃんまだ結婚できないのー?うぷぷー!NDK?NDK?年下に先越されるなんでどんな気持ち?」

「殺す」

 

どうやら面識があるらしい。

兄貴は常識が欠けているとはいえ初対面を煽ることはしない。兄貴の煽りは若干デレ?のようなもので親しい人にしかやらない。一種の愛情表現のようなものなのだが、

 

「やーいやーいアラサー独身教師ー!」

「その発言取り消せぇ!」

 

語彙力が小学生並みなので見ているこっちが恥ずかしいのだ。

あ、なぐられてやんの。ざまあ。

 

 

結局事故は事故らしく、兄貴は無傷なのに病院送りとなった。砂浜には大きなクレーン車が来て鉄クズを釣りあげて運んでいるし、警察も来ているらしく、ドラマで見るような黄色いテープも貼られている。

暫くこの辺りの砂浜は使えないらしいので、ISの授業は別の場所で行われることとなった。

『また来るぜい、野郎ども』

『2度と来るな!そしてここにいる野郎は2人だけだー!』

『はっはー!3人の間違いだろう?そこの世界最強はどう見てもおとk』

『その口を閉じろ、2度と利くな』

 

オプションで兄貴に素晴らしいアッパーカットをかます織斑先生が見られたので、まあ良しとしよう。

しかし、元気そうでよかった。まあインディジョーンズばりの冒険をしている兄貴が不死身なのは知っているが、うっかり死ねば死体も見つからないかもしれないし、一応は肉親な訳だしな。

 

しかし、別れ際に不思議なものを渡された。

古文書は兄貴の専門外なはずなんだが、しかも『やばい時以外開けるな。いいか、本当に開けるなよ?絶対にだぞ、絶対に緊急時にしか開けるなよ』という胡散臭いメモ書きまで付いている。

しかしオカルト関係では兄貴のほうが僕より遥かに詳しい、とりあえず素直に従って置く事としよう。守らないとろくな目に合わないことくらい、学習済みだ。

さて、次は夕食と、一体どんな料理が出るんだろうな、実に楽しみだ。

 

 

 

 

「うーまーいーぞー!」

 

 

 

 

 

 

「しかし、一夏がマッサージうまいなんて意外だな、勉強したのか?」

「ああ、千冬姉はいつものヘロヘロで帰って来てたからな。何かできないかと思って勉強してたんだ」

「へぇ、参考になるな。ストレッチの役に立つかもしれない」

 

夕食後、みんなとの雑談を切り上げて部屋に戻ると、変な声が部屋から聞こえて来たのですぐに飛び込んで見ると、一夏が織斑先生に馬乗りになっていた。

すわ事案かと思ったが、聞けばマッサージらしい。

 

「次いいか?足腰を使わないから最近強張ってきてな、それと腕がパンパンになってしまって」

「ん、ああ、いいぜ」

「んんっ......」

 

しっかし、いい笑顔でして。いつもの硬い雰囲気とは違って普通の女性にし見えないな。

こんな顔を普段の生活で見せれば恋人の1人や2人できそうなのに。あ、なんか戻った。

立ち上がって部屋の襖を思いっきり引いて、

 

「貴様ら覗きか?いい趣味をしているな」

「......どうしてみんながここにいるのやら」

「なんだみんなか。して欲しいなら素直に言えばよかったのに」

 

いつものメンバーが聞き耳を立てていたらしく、部屋の前で折り重なって倒れている。

どうせ織斑先生の変な声でも聞いて事案かと思ったんだろう、男子高校生かよ。

そのまま女子会でもするらしく、織斑先生に適当な理由をつけられて部屋から追い出されてしまった。

「ちょうどいいタイミングだし、風呂行こうぜ成政」

「ああ、頼むよ」

 

 

 

 

「はふう、生き返る、くゎー」

 

思わず変な声が出てしまった。しかし、温泉付きとは、さすがIS学園、お金持ちは違うな。

コレで学費がタダというんだから、倍率が高くなるのも頷ける。最初はIS学園なんて、とは思っていたが悪くはないな。

 

「ああ、いい湯だな〜、ふふふん」

「おっさんくさいな、一夏」

「いいじゃねえか、シャワーだけじゃ満足できねえよ。最近は大浴場も使えるようになったけど、週に2回で、たった1時間だしな」

「それは言えてるが、仕草がなぁ」

 

古臭い鼻歌を歌ったり、手ぬぐいを頭に乗っけていたりと、絵に描いたような日本人そのものだし、入った直後から一歩も動かないのは流石にじじむさいと言われてもしょうがないだろうに。

 

暇だな。

「そうだ、男子2人きりなんだし恋バナでもしよう」

「......恋バナ、かぁ」

「なんだ一夏、そんな複雑そうな顔をして」

「成政ってさ、好きな人は」

「いる。けど......やっぱなんでもない」

「はあ、そうか、そうだよなぁ。高校生ともなれば好きな人くらいできるよなぁ」

 

深ーくため息を吐く一夏。

相当の唐変木な一夏だが、もしかして。

 

「もしかしてだが、一夏は恋愛感情がわからない、とか」

「まさにその通りなんだ。

ライクはわかるがラブの方はさっぱり。

やっぱ男子に相談すると話がわかりやすくていい」

 

それを考える余裕もないし、と苦笑いしながら付け足す一夏。

成る程、つまるところ一夏は恋愛感情そのものを理解していない、と。これは唐変木と言われても仕方ない。なんせ恋愛自体を理解してないんだからそれ以前の問題か。

これは箒たちは結構頑張らないといけないか?

 

「......まあ、気長に待てばいいさ」

「そうそう、そんな事よりなりの好きな方が気になるよね一夏くん!」

「......まあそうで、ん?」

 

どうした一夏、僕の後ろに誰かいるのか。

そう思い後ろを振り返ると、

 

「やあ」

「帰れよ」

「弟が辛辣で辛い......」

 

なぜか兄貴がいる。バカな、先ほどまで影も形もなかったはず、まさか、

 

「不法侵入してきちゃった」

 

てへぺろと言っていいのは女子だけだ。

早い所織斑先生につまみ出して欲しいところだが、あいにくここは男子風呂、まさか、

 

「そう、男子風呂なら先生は入ってこられない、邪魔もなく腹を割って話ができるという訳だ!」

「くそう、こんな手があったなんて!」

「......ほう、次からは気をつける事としよう」

 

ん?

 

「そ、その声は?!」

「千冬姉?!ここ男子風呂なのにどうしているんだよ」

 

男子のプライバシーはどこへ消えたのか、浴衣を着たままISを纏う織斑先生が男子風呂に舞い降りた。

 

「安心しろ、ハイパーセンサーを使って人影を捉えているだけだ、別に覗いているわけではない。目も閉じているしな」

「あ、ほんとだ。本当に目瞑ってる」

「というわけで、この不届き者は回収していく。後でゆっくり話そうじゃないか」

「嫌だなぁ千冬ちゃん冗談もわからないとか、いやん堅物すぎー、こんなんだから男も寄ってこないんだゾ?」

「死ね」

 

あ、また兄貴が空飛んでる。

さすがIS、2桁メートルは飛んだな。でもあれで死なないんだからうちの兄貴も人間じゃないよな。

 

「一夏、体洗いたいから上げてくれ」

「いいぞ?どうすればいい」

「そこに自前の台車があるからここまで運んで乗っけてくれないか?」

「おっけー、任された」

 

にしても、恋愛、かぁ。

目の前の核地雷をなんとかしないと僕まで巻き添えをくらいそうだし、

 

「さっさと告白済ませちゃおうかなぁ」

 

箒が後腐れなく一夏に片思いできるようにな。それに、片想いしてるこっちももやもやして最近考え事ばっかりしてるし、

まあ頭が整理できる時間見つけるとして、

 

「となると、臨海学校終わったあたりか」

 

夏休みを挟めば、悩みなんかも解消できてるだろうし、これくらいでいいかな。

 

 

 

 

 

「そう言えば今日箒ちゃん見てねぇ!」

「夕食の時にはいたぞ、端っこだったけど」

「箒ちゃん見てないと、なんかこう、不安になってきた......部屋知ってる?」

「......知らない」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 リメイクー

*一部コピペが含まれます。


 

 

 専用機持ちは専用パッケージの訓練、そして訓練機しか持たない一般生徒は長距離飛行訓練。

 

「長距離飛行訓練?」

 

  しおりに書かれたその文言を、文系アウトドア派マネージャーの成政は理解できなかった。

  成政は勉強中の身の上、そう言った専門的な文言は理解できない、のだが、

 

「ただ長く飛ぶだけになんの意味があるんだろう。マラソンならペース配分とかするけど、ISだったら神経すり減らすだけで体力減らないのに」

 

 そう首をかしげるばかりだった。

  誰も彼も、成政の周りにいる人物のように鋼のメンタルと鋼鉄の神経は持ち合わせていないのである。

 

 

 

 

 

「おろろろろろろ」

「だいじょーぶー?」

「だい、じょうぶ、ではないっ、うっぷ」

 

  成政は海が嫌いである。

  近くにいるだけで吐き気がするくらい嫌いだ。というかすでに吐いた。

  長距離飛行訓練で海岸から約20キロ、何もない海上で陸も見えなくなってしまった以上、色々な意味で限界だったのだ。

 

『石狩くーん、戻りますかー?』

「お、お言葉に甘えて......」

『わかりまーしたー。布仏さん、付き添ってあげてください』

「わかーりまーしたー」

「これでも専用機持ちだから楽できると思ったのに......おえっ」

「さぼりはよくないのだー」

 

  成政は学園の打鉄1機を一応専用機として受領されているのだが、シャルロットのようにカスタムモデルでもなければ、特別な武装を積んでいるわけでもないし、まだ1次移行も済ませていない。

  というか学園の訓練機をひとつ自由に扱えると言った方が正しいのである。

  そのため、専用気持ち側ではなく一般生徒側に入れられており、今に至る。

 

「しんどい」

「成政君大丈夫?水いる?」

「大丈夫ではないから水をください......」

 

 陸に戻り、昨日の焼き直しと言わんばかりに日陰で横になる成政。気を利かせてたクラスメイトが、体を冷やそうと濡れタオルを首に巻こうとしていたが、

 

「すまない、それは熱中症の対処法で現在の処置としては間違いで僕はストレス性の胃炎でこうなっているわけでこの場合の最適解は胃薬を渡す事だが、心遣いだけは受け取っておこう。ありがとう」

「貶されてるのか褒められてるのかわかんないわね......」

 

 このようなへんちくりんな受け答えをするせいで成政は一夏ばりに人気が出ないのである。

  顔がイマイチ(某新聞部2年談)との意見もあるが、世間一般から見れば中の上くらいなのだ。比較対象になる一夏がハイスペックすぎるだけであって、致し方ないことである。

 

「......とても、つらい」

 

 結局、訓練を中断して旅館に戻って静養することを言い渡されてしまった成政は、1人静かにとぼとぼと帰り道を戻ることとなった。

  旅館に戻ると山田先生が連絡でも入れていたのか部屋に布団が敷かれており、眠気の誘うまま成政はそのまま布団にダイブして寝てしまった。

 

 そこからしばらく時は経ち、成政は、

 

(襖って薄いから会話が丸聞こえなんだよねー)

「依頼主はIS学園上層部。目標は、ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS、銀の福音、シルバリオ・ゴスペルだ。制御下を離れて暴走状態に陥った当機への対処が......」

 

 襖一枚を隔てた向こう、何やら不穏な空気ただよう会話を盗み聞きしていた。

  もちろん、悪いことと自覚しているが、そのような怪しい事に首を突っ込みたがるのもまた、男の子だから仕方ないのである。

 

「現在も福音は超音速で移動中のため、アプローチは一回が限度。そこで決めなければならない」

 

(ほうほうふむふむ、となると一夏は順当として、運び役が必要になるんじゃないか)

 

  3ヶ月程度とはいえ、成政は一夏たち専用機持ち達と付き合いもある。大まかなスペック自体は把握しているため、作戦を考えるのも容易い。

  奇しくも成政と千冬の作戦は同じ方向へ進み、

 

(んー、となると専用機のパッケージがいるかな。それの情報はないからどうしようもないや。

 でも本当なら一夏とラウラ、せめて教員の誰かが専用機を使ってしまえばいいんだけど、難しいかなぁ)

 

  専用機の扱いはデリケートなため、専属の操縦者でなければ性能は大きく下がる。

  それを知っている成政ではあるが、

 

(実戦でぶっつけ本番はキツイでしょうに......素直に自衛隊を待つのがベストでしょ先生)

 

 命懸けの実戦のヒリヒリした雰囲気というものは、それだけで体を強張らせ、視界を狭める。

  ISの絶対防御を微塵も信じるつもりのない成政には、一夏にはこの仕事は荷が重すぎると考えてしまうのも無理はない。

 

「一夏は頭が硬いからなあ。それに白式の燃費はクソだし、一撃離脱で外せば終わりの重圧に耐えられるわけないでしょうに......なんで先生が出ないわけ?」

 

  成政がそう文句を垂れながらブツブツと独り言を漏らしているうちに向こう側では進展があったらしく、

 

「では、この作戦は織斑、篠ノ之の2人で行う、そのほかは待機だ」

「......ダニィ?!」

 

 思いもよらなかった方向に話が進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......という訳」

「まじか、天災まじか......まあ身内に贔屓するのはわかるがよりにもよってこのタイミングとは、間が悪すぎる」

 

  その後、マヒロを捕まえてこっそり事の顛末を聞いていた成政は頭をかかえた。

 

「初っ端で戦闘、しかも実戦。それによくわからない機能を積んだ第四世代?!

  んなもん失敗しない理由がないでしょうに!せめて慣らし運転をしてだな」

 

 半ば錯乱したように怒鳴り散らす成政を諌めようとするマヒロだったが、

 

「してたけど」

「何時間?」

「......20分、くらい?」

「シィィィィッッッッッッット!」

 

 火に油を注ぐばかりで、成政の怒りばかりが募っていく。

  地団駄を踏もうにも足が動かないので、八つ当たりに車椅子の手すりに怒りを叩きつけ、

 

「始めての実戦で突っ込むバカは彼奴だけで十分なのに、あんにゃろう。説教してやる!」

「もう出発したけど」

「ファッッッッッッッッック!」

 

 海が近いせいでストレスがたまっているのか、怒りのあまり叫び出す成政。いつもの二割増しで怒鳴り声が長い。

 ひとしきり罵声を叫びまくった後、いつも通りの声で成政はマヒロにこう告げる。

 

「マヒロ、どうせ訳の分からんパッケージあるだろ。速いやつ」

「......まあ、あるには、あるけど」

「箒に説教しに行くから貸して」

「アッハイ」

 

  いつも通りのはずなのに、物理的な重圧を感じる程の声。

  マヒロは、首を縦に振らずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、しっかりしろ、一夏ぁ!」

「......っ、ぁ」

 

  箒は満身創痍の一夏を抱え、件の軍用IS『銀の福音』から逃げ回っていた。

  何故絶対防御があるはずのISの防御すら貫通する程の攻撃を受け、一夏が大怪我をすることとなったのか。

 

(浮かれていた......私の、せいだ。私が、未熟なばかりに!)

 

  慣れない専用機、初めての実戦、浮ついた心構え、あり得なかったはずの偶然。

 そして、自身を顧みなかった一夏。

  その積み重ねが、一夏の重傷という今の結果を生み出してしまったのだ。

 

 だが、決して箒だけのせいでは無い。

 箒の専用機受領と示し合わせたような軍用機の暴走、海域にいるはずのなかった密漁船。

 

 その責任を全て押し付けるのは、酷というものだろう。だが、箒にはそれを考えるだけの余裕もない。

 

「ぐっ、ああああああ!」

 

 360度から襲いかかってくる光弾を避けられず、腕に抱える一夏に衝撃が行かぬよう体を丸めて自身を盾にする。

 剣道とは比べものにならないほどの衝撃が箒を遅い、喉の奥から鉄臭い何かがせり上がってくる。

  それを無理やり飲み込み、前を見据える。

  視界の端に映るすエネルギー値はレッドゾーンに突入している。

 いつ落ちてもおかしくは、ない。

 

  福音の側からしても、死に体の紅椿を追撃するのはおかしくはない。最大脅威である白式は排除したものの、自身のデータベースに存在しない高性能IS。ましてや、自身に追いすがる機動力と高い攻撃力を誇る機体を放って置くはずもなく、自身の操縦者を守るために機械の翼を羽ばたかせる。

 

「このままでは......」

『箒、セシリアとラウラが到着する。もう少し、もう少しでいい、耐えてくれ!』

『箒ちゃん、頑張って!』

「......ははっ、無理を言ってくれる。くっ!」

 

 無線の奥では千冬が声を荒げ、姉である束が回線に無理やり割り込んで悲痛な励ましを送ってくる。

  思わず弱音が出てしまうのも、無理はない。

 

(いっその事、私を道連れに......。いや、一夏を巻き込むわけにもいかない。

  それに、まだ、死ぬわけにはゆかんのだ!)

 

「まだ、私にはやる事があるのだ!おおおおおおああああああああっ!」

 

 自身を奮い立たせるよう、大声を張り上げて気合を入れなおす。

  試合以上に神経を研ぎ澄ませ、機体全てに気を配れ、生存のためにできることを全てしろ。

 

「あああああああああっ!」

 

 刀はエネルギー切れで出すこともできない。

 であれば己の体を使え。

 相手の行動を読み切れ。

 今までの戦闘を思い出せば不可能ではない。

 

 光の弾幕をバレルロールでくぐり抜け、直撃する弾は腕で防ぐ。それでも受け損なった弾は一夏に届かないよう体を張ってでも受ける。

 頰をかすめて飛んだレーザーがリボンを焼き切り、髪の毛がばさりと広がる。

  砕けた装甲の破片が目元をかすめ、視界の右半分が赤く染まる。

 それでも、まだ先は遠い。

  視界の端に出していたレーダーがISの反応を捉えたが、箒はそれも見えていない。

 

  ただ、前に、愚直にまっすぐ、紅椿は飛び続ける。

 

 水平線の奥に黒点が見えた。

 拡大すると、ブルーティアーズの背にレーゲンが相乗りしている。

 セシリアとラウラの悲痛な表情を捉えた。

 

 もう少し、もう少しだ。

 そんな一縷の望みにすがるように箒は左手を伸ばした。

 

『紅椿、活動限界です。申し訳ありません主よ』

「届け、届けぇぇぇぇぇ!」

 

 エネルギーが底をついた。

 紅椿の装甲が赤い光を放ち、四肢の先から粒子になって消えていく。

  それでもなお、守るように箒の周りに纏わり付き、箒と一夏を包み込む。

 もうすぐ、もうすぐで2人に手が届く。

 それを嘲笑うかのように前に福音が回り込んできて、その翼が輝く。

 容赦などAIに求めるものでもないらしい。

  それでも、箒は手を伸ばす。

 

「諦め、られるかぁぁぁぁあああああああ!」

「邪魔だどけこのポンコツ!僕は箒に話があるんだそこを退けぇ!」

 

 聞き慣れた誰かの声が聞こえた気がした。

 そこで、箒の意識はブッツリと途切れることとなった。

 

 




あの、活動報告で質問、募集中です(涙目


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 リメイク

続けてサクッと投稿しちゃいます。
これでも戦闘描写頑張ったんすよ!?


 

 

 

 

「全く、無理をするからこうなるんだよ」

 

意識のない箒と一夏を抱え、福音と相対する成政。

福音は突然割り込んできた打鉄に戸惑っているのか動かないままだ。

 

『石狩さん、どうしてここに?』

『なりさん、早くそこから離れて下さい!』

 

そこにセシリア達から通信が入る。慌てた2人とは反対に安心しきった声で成政が気軽に答えた。

 

「ちょうどいいところに、ラウラ、頼みたいことが」

 

セシリアの背中から飛び降りたラウラが詰めよろうとスラスターを吹かした瞬間に、

 

「2人のこと、よろしく頼むよ」

 

手に抱えていた一夏と箒を放り出した。

 

「なんとっ?!」

 

慌てて2人の下に滑り込んで海中に沈むことを防いだラウラだが、福音からは遠く離れてしまった。

何をするんだといいかけたラウラの目に飛び込んできたのは、

 

「チェストおおおおお!」

「Laーーー」

 

無謀にも福音に斬りかかる打鉄の姿だった。

 

『な、何をしているんだなりさん。無謀にもほどがある!それに、なりさんは』

「知ってる知ってる。実力が足りない、でしょ?んなもん百も承知だよ。でもさ」

 

ーーここで僕がデータを取っておけば、後が楽になる、そうだろ?ーー

 

「そ、それはっ!」

 

成政の言いたいことをラウラは察した、いや、察してしまったという方が正しいだろう。

成政はここで捨て駒になるつもりなのだ。

 

「それでは、なりさんは!」

「平気平気、これでも逃げ足は早い方なんだ。裏技もあるしね」

 

背中を向けてひらひらと手を振ってみせる成政。見る分には余裕そうだが、内心はとにかく焦っていた。

「回線はずっと開いておく。カメラは回せるだけ回して送るから参考にして。

それと、スペックデータくらいあるでしょ?だったら次は勝てる、だろ?」

『......確かにそれは正論だ。ですが、なりさん自身の事は考えられていないではないですか!こんなもの、まるで、まるで!』

『ラウラさん、行きましょう』

『セシリア?!』

 

言い募るラウラを制したのはセシリアだった。

 

『石狩さんがおっしゃることは、ベストではないですが、この場における最適解に近いかもしれません。

それに、一夏さんと箒さんを、殺すわけには参りませんわ。ここは、一度引くべきです』

「そうそう、箒ちゃんと一夏、2人を置いて戻ってくるくらいは耐えてみせるよ」

 

冷静に判断を下すセシリア。

彼女もまた、成政に対して怒っているだろうが、貴族としての合理性が彼女に冷徹な判断を下させる。

 

大きく弧を描いて飛ぶセシリアがレーゲンの背中を掴み、離脱していく。

 

『石狩成政。

オルコット家当主、セシリア・オルコットが命じます。

死ぬのは、許しません。

皆を悲しませることも許しません。

無事に、帰ってきてください。

......私は、もう身近な人の死を見たくは、ありません』

「オーケイ、命じられました。

さあて、派手に粘るとしましょうかねぇ!

あとラウラ、さん付けはやめてくれ。ちょっと気恥ずかしいからな」

 

 

 

成政は水平線に消えていくレーゲンとティアーズの背から目線を外し、泡立つ海面に視線を落とす。

とりあえず使い物にならなくなったブースターを括り付けて海中に叩き落としてやったのだが、世の中上手くいかないらしい。

飛び蹴りをしなかったせいだろうか、それとも必殺技名を叫ばないからなのか、はたまた主人公ではないせいか、と現実逃避まじりにそう心の中で愚痴る。

一瞬海中で光を放ったかと思うと、衝突時の傷が嘘のように消え、新しく翼を生やし、装いまで新たとなった絶望が生まれた。

 

だからと言って成政のやる事は変わらない。

ブレード『葵』を鞘から抜きはなち、左手にはライフル『虎徹』を。

「じゃ、データ、バッチリ取らせてもらおうかな。これも、マネージャーの仕事だしね。

ああ、こんな時にこの言葉って言うんだっけか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

 

通信は打鉄に頼んで一方通行にしてある。邪魔は入らない。

ここから旅館までは約200キロ。セシリアのティアーズとIS1機が乗ったとして、時間を計算すると約40分ほどかかるだろう。

さらに、一夏と箒の負担を軽くするため遅く飛ぶとして倍の80分。

80たす40で120。約2時間。

成政は大雑把にそう弾き出し、改めてため息をついた。

 

「いやー、キツイねぇ。でもまあ試合時間にはちょうどいいくらい、かな!」

 

正面から襲いかかる光弾を盾で受け止める。

蔵王製の頼れる大盾は力量を余すところなく発揮し、主の身を守ってくれる。

そのまま腰を落として改めて衝撃に備えるが、

 

「Laー」

「っ?!があああああ!」

 

後ろに回り込まれてしまっては盾も意味をなさず、

身を焼かれるような衝撃が走る。

 

「こんにゃろっ!」

 

ライフルを向けるが、福音はもう射線の外に出てしまって撃てない。そのまま踊るように成政の周りをくるくると周り、光弾を浴びせてくる。

 

「よし、当たっ......てないかぁ」

 

時折がむしゃらに撃った弾が福音に向かうが、新しく生えた光の翼が弾丸を焼き焦がしてしまう。

 

そのままじりじりとSEは削られ、時間が過ぎていく。

(まだ、まだだ、まだデータは不十分なはずだ!)

「リミッター外して!僕の生存は無視でいい、1秒でも長く動いてくれ、打鉄!」

 

届くかもわからないままにそう叫んで喰らいつく。白翼と刀が交錯し、光弾が雨を降らし、無骨なライフルが空を抉る。

だが、一次以降も済ませていない訓練機と軍用機体、性能差は歴然とし、操縦者の腕もそれをひっくり返せるほど高くはない。

 

「がああああさあ!」

 

光弾が身を焼き、操縦者の心を削る。

 

「ああああああああ!」

 

白翼が刀身を根元から蒸発させ、返す刀でライフルの重心を焼き切る。

 

「まだああああああああ!」

 

身を削ってまで迫った打鉄の拳を、福音自身の拳で打ちはらう。

 

「まだ、まだ、まだだあああああ!」

 

バキン

 

度重なる弾幕に悲鳴をあげる最後の頼みの綱、蔵王製大楯が、破れ、その破片が主を傷つける。

 

それでも、まだ足りない。

まだ足りないと、打鉄は己の四肢を使って福音に挑み続ける。

 

 

「なんか出せ、なにかあるだろ打鉄!」

『了解、VTシステム、限定起動』

 

掛け声と同時に四肢の先から黒い泥が染み出す、がラウラの時の焼き直しではなく、胴体部までは覆わない。

折れたはずの葵の剣先を泥が補い、かつての栄光をここに再現する。

 

が、それは子供騙しに過ぎず、成政が落ちるまでの時間を引き延ばしただけに過ぎない。

それはまるで、蟷螂が馬車に立ち向かうような、騎士が風車に立ち向かうような、そんな滑稽な姿を思わせた。

しかし、誰がその姿を笑えよう。

血を流し、目を潰され、肌を焼かれ、身を裂かれえるその姿を、いったい誰が笑えるというのだろう。

『っよし、繋がったよ箒ちゃん!』

『先輩、先輩!聞こえますか、先輩!』

「っう、その声は、箒ちゃんかぁ」

 

突然割り込んできた無線に対して、もっと時間がかかっていても良かったのにと漏らす成政。

 

『先輩、無事か?!無事なんだな!』

「ああ、生きて、るよ?」

『そうか、良かった......だったら、今すぐ私も』

「確かに一対多のデータも欲しいけど、ダメ。

これは、僕の仕事で、イマココは、僕のフィールドだ。誰にも渡さない。それと、

 

 

 

 

 

 

 

 

ここどこかわかんないや、いやあ方向音痴でごめんね?」

『そういう問題ではないだろう?!ISの機能を使えば現在地くらい把握できるはずだ!今すぐにでも!』

「だーめ、ところで一夏は元気?生きてる?」

『話をそらすな!あと生きてはいるが......まだ、目をさまさないままだ』

「そ、じゃあ伝言よろしく」

『だから話題を逸らしてくれるな!』

「本棚上から3段目、右から5冊目。

引き出し1番下の二重底。

それと、車椅子のカゴに2冊。

ちなみにベッドの下は絶対に覗かな」

 

ブツッ、と音を立てて無線が途切れる。

 

「ガッ、あああああああアアアアガアアア!」

 

VTシステムは操縦者の身体と心を殺す。

限定起動であっても例外では無い。

そして何より、機体エネルギーをバカ食いするのだ。

無線機能にすらエネルギーを回すこともできず、無敵を誇る絶対防御も今では障子紙程度の強度しか持たないだろう。

それでも、成政はカメラを回し、音声を余すところなく録音し、相手の傾向を分析してボイスメモに残す。

相手選手を研究するのもまた、マネージャーの仕事、ならば、やれる事を全力で。

 

 

 

(ああ、いつから、こんな仕事をするようになったんだっけか)

 

昔は真面目にやっていたわけでは無い。

ドリンクとかタオルを出すだけで、ふてくされて練習をまともに見ることもなかった。

基礎を学び出したのはいつだったか。

ルール講習を真面目に聞くようになったのはいつだったか。

 

「いかんいかん、集中集中」

 

視界を遮る血を乱暴に拭い、刺さっていた破片を抜いて捨てる。

痛む四肢に鞭を打ち、構えを取れと怒鳴るVTシステムの言うがままに体を動かし続ける。

 

正眼の構えを取り、せめて一太刀、と構えなおしたところで、

 

『主よ、申し訳ありません。打鉄、活動限界です......』

 

ふわり、と生ぬるい海風を身体中が受け止める。

それについで、今までになかった無重力感を体は訴えかけてくる。

成政が重くなった手に視線を落とすと、焼け爛れて裂けた制服だけが見える。

 

「ああ、そう......お疲れ様」

 

最後に、付き合いの良かった相棒に声をかけた。

もう、止めようにも、止まらない。

身に迫る光弾を、成政はスローモションのように感じていた。

 

(ははっ、走馬灯、かぁ。味わうのは、人生、2回目、だなぁ、あはは)

 

そして、

 

「そういえば、真面目にやり始めたの、箒ちゃん、転校してきてから、だっけなぁ......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「打鉄、反応、ロストしました」

「何という、事に......」

「先......ぱ、い?」




アレ、これどう考えても死んでね(焦




か、活動報告で質問受け付けてるってばよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話

まず始めに。
マネージャーは、補佐役だ。せいぜいが脇役止まり。
どうあがいても、主人公になどなれやしないのだ。
そして、






いつだって都合の良い奇跡を起こすのは、主人公だ。


 

「やるわよ、箒」

「......はっ、何をだ」

「敵討ちよ」

「......私抜きで、やってくれないか。

戦力が足りないと言うのならば、紅椿も持っていってくれてかまわない。

 

 

 

私はもう、ISには乗らない......」

 

伏せる一夏の傍で座り込む箒と、それを見下ろす鈴。

「......悔しくないの」

「悔しい、何がだ。何もなかっただろう」

 

気炎をあげる鈴に対して、淡々とした口調で応対する箒。

 

「何も、なかった?あ、あんたねぇ!」

 

襟元を掴んで部屋から引きずりだし、外に叩きつける。もちろんISあってのことだが、今の鈴ならばなしでも出来たはずだろう、そう説得させるだけの怒りが、彼女にはあった。

 

「一夏はまだ目を覚まさないし、成政は生きてるかすらわからない。

それの原因になったのはあんたでしょ!

それを、何もなかった、ですって、ふざけんじゃないわよ、ざっけんじゃないわよ!」

「......」

 

無言のままの箒に詰め寄り、襟元を掴んで倒れた箒を無理やり立たせる。

 

「あんたねえ、何考えてんの!」

 

そう叫んで、箒を殴りつける。

されるがままに吹き飛ばされ、ピクリとも動かない箒。

 

「なんとか言いなさいよ!」

「......帰って、くれないか?

もう、私は戦わない」

「っ......失望したわ。あんたがそんなやつだって思わなかった。

あんた抜きで、私達は敵討ちするから」

 

鈴は肩を落として去っていった。

 

「待ってるから」

 

振り返って、鈴は叫ぶ。

 

「あんたのこと待ってるから!

私のライバルは、こんな事で折れるはずはないって信じてるから、それに!

あいつの事、諦めてるんじゃないでしょ!」

 

 

 

 

 

「いかんな。可愛い女子が傷をつけられるなど。

お主も、そうは思わんか、篠ノ之箒」

「......誰」

 

 

座り込んだままの箒が頭上から聞こえてきた声の主を探すよう、のろのろと空を仰ぐと、声の主はすぐに見つかった。

 

「ふはは、ははは、はーはっはっっは!」

 

木の上、その細枝の上に立つ謎の人影。

頭まで覆う全身長袖で若干ゆったりとした、今時のものではなく古典的な服装。

夕暮れをバックに立ち、苦無を構えるそのシルエットはまさしく、

 

「忍、者?」

「とおう!」

 

その忍者は腕を組んだまま空中で前転をして、

 

「ぎゃふん!」

「......」

 

首から落ちた。

何も言わず、ただ目の前で起こる寸劇を虚ろな目で、笑うこともなく見つめる箒。

 

「ぐう、頭痛い......」

「......」

 

自分の無様さに居たたまれなくなったのか、気を紛らわせるように服の汚れを払い、一度咳払いしてから、何事もなかったと言い張るように佇まいを正し、

 

「では気を取り直して、自己紹介を。

耕太・ハルフォーフ。旧姓石狩耕太。

今話題の2人目の男子、の兄といえばわかるだろう?」

 

キメ顔で耕太はそう言った。

 

「で、あいつがくたばったと聞いたから馬鹿にしにきたんだけど」

 

無神経にも、その男はそう告げる。

他にも何か言っているようだが、箒の耳にはそれ以外は何も耳に入らない。

「なんと言った」

 

踏み込み、一閃。

右腕にISを展開し、雨月を首元に寸止めして、もう一度箒は問う。

 

「いま、なんと言った」

 

箒の様子がおかしいことに気付かず、耕太は素直に答える。

 

「成政が死んだと聞いたので馬鹿にしにきたんだよ」

「黙れぇぇぇぇぇ!」

 

箒は刀を力任せに振りかぶる。

ISの腕力が引き出される神速の袈裟斬りは人間ごときには見ることすらできない。

 

ただの人間であるならば、だが。

 

「全く、主人は言葉が足りぬのだ。

こんななりでも拙者の主人、守らねばならぬ。やれやれ、難儀よのう」

肉を割く鈍い音でなく、鈴のような甲高い音がこの場に響き渡る。

 

「なっ?!」

「太刀筋に迷いがある。それで人を斬るのはいささか野暮というものではないでござろうか」

 

雨月が折れた。いや、刃物ですっぱりと斬られたようにバラバラに斬り刻まれた、の方が正しいだろう。

今の箒の心のありようを示すように、バラバラに砕け散る。

 

そして、いるはずのない人影が目の前に立っていた。

 

「拙者とて農民ではあるが、刀を持つ以上侍の端くれ。そのような心構えで人を斬るのは、見逃せぬ」

 

藍色の着流しに、腰まで伸びる長髪を首元で束ねている。

その佇まいはまるで自然そのもの。ともすればすぐにでも景色に溶け込んでしまいそうなほどに透明だ。

 

一番目立つのは、その手に下げられた長過ぎるまでの日本刀だが、その白刃の輝きすらその佇まいを邪魔することはなく、そこにあるのが自然だと言っているようだった。

しゃらん、と刀を振るうその侍はやれやれと首を振り、

 

「まあ、最後まで話してやってはくれぬか、主人よ。それをせねば誤解も解けぬだろう」

「あ、そうだっけ?じゃあ言葉を省略せずにきっちりと言い直せばいいの?」

「左様にござる」

「お前そんなござるござる言ってたっけ」

「気のせいでござる」

「......」

 

ジト目で侍を睨みつける耕太。そして冷や汗をかいて目を逸らす侍。

普段ならば笑うような光景だったが、箒はその余裕もなく、さらに刀をへし折られたショックもあって頭が真っ白になっていた。

しかし、

 

「じゃあ、気を取り直して。

 

成政が死んだと聞いたのでそんな馬鹿なことを言うお前らを馬鹿にしにきたんだよ」

「えっ......」

「一回死ぬのはウチの一家の恒例行事だし。

あれくらいで死なないよ、俺の弟は」

「そ、それは本当か?!」

「......まあ、確証は持てないけど、多分、きっと生きてる」

 

微妙にいいよどむ耕太だが、藁にもすがる思いで箒は摑みかかる勢いで続きを求める。

 

「本当か?生きているのか!」

「海の上で迷子だろ?近くに無人島はあるからどうにかして生きてるだろ。

1ヶ月サバイバル生活できるくらい男の嗜みだ」

「生きているのか、生きているんだな!」

「まあ彼奴ならば生きているだろう」

 

口を挟んだのは手持ち無沙汰だった侍。

2人が振り向くと、からからと笑って続けた。

 

「彼奴ならば生きている。

確証はないが、拙者の直感は、彼奴は生きている、そう言っている」

 

ふわふわとした言葉。

1ミリも確証はなく、証拠も根拠もあやふやなもの。それでも、箒にとっては、天の救いそのものだった。

 

「よかった、いきているのだな、よかった......じゃあ、助けに行かないと......」

 

ふらふらとしながらだが、立ち上がる。

力の入らない足で地を踏みしめ、悲しみを断ち切るよう涙を拭う。

 

「ちゃーんと目の前の敵に集中してね。

救助作業はそれから、だよ」

「はい!」

 

反撃の狼煙が、今上がる。

「待っていろ、先輩。助けに行くからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、もしもし?シローくん?

うんうん、厄介事。ちょーっと弟の好きな人がピンチになりそうだってアサシンが。

......で、どうしろって?簡単だよ。

そこの食っちゃ寝してる騎士王とOLさんと正義の味方をここまでよこしてくれる?ペガサス使えば5分かからないでしょ。

いけるって、よかった。え、飯おごれ、と。

......虫料理でもつくろうか、いらない?

まあ冗談だけどね、ちゃんとおごるよ、じゃ、よろしく」

 

どこかに電話をかける耕太の視界の隅で、6条の閃光が飛び立っていく。

それを一瞥したのち、ポツリと呟いた。

 

「ま、なんとかなるさ。なんせ、あいつがマネージメントしてたんだしな」

 

 

 

 

 

「俺がいても、成政の前情報があっても、最初からセカンドシフトしていても原作と変わらず、かぁ。

これは想定外、だったけ、ど」

 

装甲は焼け付いて剥がれ落ち、顔を覆うアーマーは脱落して何処かに消えた。

最後の抵抗とばかりにギリギリと首を絞め上げる福音を睨みつけるが、どうにもなるわけでもない。

ただ、それでも最後まで諦めない。

それが、主人公、マヒロが目指すスーパーヒーローのあり方なのだから。

白翼が輝き、一斉発射のカウントダウンが始まる。受ければ死ぬかもしれないことぐらいマヒロは理解しているし、他の皆が間に合わないことも知っている。

「......ああ、2回目の人生も短かったなぁ」

 

体は酸素を求め喘ぐが、それも許されず、さらに喉を締め上げられる。

チカチカと視界が点滅し、ガンガンと頭は痛みを訴えてくる。

それでも、マヒロは目を閉じることはない。

最期まで相手を睨みつける。

 

そして、光が目の前を覆い尽くして、

 

「マヒロォォォォ!」

 

白刃が、煌めき、福音を弾き飛ばす。

そこにいたのは、

 

「ごめんみんな、待たせたな!」

 

我らがヒーロー、織斑 一夏。

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、ここから先は原作通りだった、とでも言っておこう。

一夏が復活して、みんなで協力して福音を叩き落とした。中に人がいたなんて聞いてなかったけど、千冬さんなりの心遣い的なものだったのだろう。

問題なく箒が絢爛舞踏を発動していたんだけど、一切一夏に回すことなく自前でギュンギュンエネルギー回してた、一夏に恋してないから方向性が変わるのかな?

原作だと一夏の力になりたいから、エネルギー譲渡能力になった。

じゃあ、一夏に特別な感情を持たない今の箒なら......ああなる、のかな。

イレギュラーが1人いるだけで変わることもあるけど、どうにも何かの強制力が働いてるみたいにイベントだけはキッチリと起きる。多分、これが小説の世界だからだろうね。神様なんているかもしれないけど、そんな都合のいい神なんているわけでもなし、ははは。

 

ここからはアニメでも描かれなかった二学期以降の話、ここからは何が起きるか俺にはわからない。登場人物通りに楽しむことになりそう、だけど。

 

...

......

.........

ないないないないないない!

まさか、ないわー。俺元々男だし、ないない。

でも一応これでも男ですし?!恋心くらい理解は出来てるけど......ないない、マジナイワー。

 

 

 

 

けど、さ。

あいつは、生きているのだろうか。

この一件で、この世界は遊びじゃないとやっと理解できた。

みんな一夏が戻ってきて嬉しいだろうに、何故か気落ちしている。クラスの皆も不思議がってるし、隠し通せるかはわからないな。

 

俺が止めていれば、あいつが俺たちの目の前から消えることはなかったのだろうか。

......絶対に、あいつがいなくなった責任は、俺にある。

その責任は、これからずっと背負わなきゃならない事だ。

 

 

 

「捜索打ち切りとは、どういう事です千冬さん、納得がいきません!」

 

臨海学校から暫く、夏休み前で学園全体が少しだけ浮つき始めた頃、職員室に怒鳴り声が通る。

 

「何がどうなろうと、石狩の捜索は打ち切る、そう決まった。それと織斑先生、だ。」

「......っ、私1人でも探します。夏休み全部を使えば、手がかかりくらいは見つけられる。

姉さんにも手伝ってもらえれば」

「篠ノ之!」

腕を組んで座ったままだが、その迫力は箒を押しとどめるには十分なものだった。

「......捜索は、表向きには打ち切りだ。

しかし、それはあくまで表向きの話であって、裏では続くだろう。

裏社会の人間が、な」

「うら、しゃかい?」

「私と束の関係者の一夏とは違って、石狩には後ろ盾もなく、目だった実力もない。

DNAも一欠片でも取り合いになる男子操縦者、その片割れが行方不明ともなれば、殺してでもデータを得ようとする国があってもおかしくない。......死ぬぞ、篠ノ之」

「それでも、私は行きます。先輩は必ず生きています。そして、私は助けると言いました。

意地でも助けに」

「やめてくれ篠ノ之。やめろ......」

 

スチール製の机が凹み、周りがざわざわと騒がしくなる。

それでも、千冬の声は箒の耳に届く。

それが、消え入りそうな、ブリュンヒルデにはあるまじき情けない声でも。

 

「......私は、教え子を2人も失いたくない。

死地に教え子を送るようなことはもうしたくない。

これ以上......これ以上、私を、悲しませないでくれ」

 

ぽたり、ぽたりと透明な雫が、千冬のスカートを濡らす。それが何故かを理解できない箒でもない。

 

「......失礼、しました」

 

頭を下げてから、箒は職員室を去った。

 

 

 

 

 

いつも通りの放課後、夕暮れが照らす1年1組の教室に、いつものように集まった専用機持ち達。人数は同じだが、あいつが足りない。

 

「箒、どうだった?」

 

ふるふると力なく首を振った。それを見て項垂れる一同。

無言の空間が教室を支配する、耐えられなくなったのかこの空気を和まそうと鈴が口を開こうとするが、言葉が思い浮かはず、結局口を閉じてしまう。

 

「......箒、これ」

 

その時、一夏がカバンから1冊のノートを取り出した。

 

「なんだ、これは」

「車椅子に入ってたノート。

成政は捨てろって言ったけど、これだけは見せておきたいんだ」

 

日記と、自分の名前だけが書かれた大学ノート。皆が覗き込む中、1枚1枚、ページをゆっくりめくる。

『4月○日。

箒とばったりあって本当にびびった。

中学ではうまく言っていたらしい、いつもと変わらない様子で、本当に安心した』

 

『4月X日。

たて巻きロールに喧嘩を売られたので買うことになった。

箒は織斑の剣を見たいと剣道場に行ったが、相変わらず、箒の剣は綺麗だった。

織斑は真っ直ぐな剣、根はいい奴なのだろう。

恐らく箒の初恋相手だろうし、冷やかし半分にのんびり見守ることにした』

 

『4月@日

いやー、負けた負けた。完敗だよ。

それにしても、変な事を試合中に口走った気がするが、さっぱり覚えていない。

病室に箒がきてくれた時は、素直に嬉しかった。りんごの切り方上達していたし、美味しかった。

でも、長モノを振り回すのはやめてほしい、心臓に悪いよ』

 

『4月[]日

たて巻きロールことセシリアちゃんがデレた。

何が起きたのかさっぱり理解できないけど、箒のライバルができた。

とても辛い、頑張って応援しなければ。

それにしても射撃が上手い人だった、きっといいアドバイスを貰えるに違いない』

 

『5月◇日

箒に叩かれた。とても痛い。

頭の傷が痛むので早く寝ることにした。

箒のことだから絶対に気に病んでいるだろうし、明日は頑張ろう』

 

『5月*日

やっぱりこの手に限る。

暫くは顔周りが痛くなりそうだけど、これでいつも通りに戻ってくれるのなら安いものだ。

にしても女子に力負けしたのは少し悲しい』

 

『5月△日

試合中になんか来た。

逃げようとあたりを見回せば箒がいなかったので、急いで探したら案の定変な所にいた。

全く、自分の命をなんだと思っているのやら......もっと周りの人のことを考えるべきだろうに』

『6月&日

明日からタッグトーナメントが始まる。

箒ちゃんが組んでくれなかったのがショックだったけど、ラウラとはうまく行っている気がする。きっと勝てるだろう。

第1試合、誰と当たるか非常に楽しみだ』

 

『6月£日

ラウラがアホな事を考えているので殴った。

そしたら足が動かなくなった。

別に後悔はしてないが、車椅子生活は少し不便になりそうだ』

 

『6月#日

初めて生身で空を飛んだ。

明日は絶対にマヒロに四方固めを極めてやる』

 

『7月%日

明日から臨海学校だ、とても気が重い。

とりあえず、箒の水着姿を褒めたらきっと可愛い仕草をしてくれるに違いないので、それでよしとしよう。

実に楽しみだ』

 

『7月=日

箒ちゃんが見られなかった、訴えてやる。

一夏に見られるのも恥ずかしいので、長々と書くのはやめにする』

 

毎日毎日律儀につけられていたノートは、ここで終わっている。

簡素だが、楽しげな学園生活を、彼なりに記したこのノート、続きが書かれることは、もうない。

肩を震わせ、もうたくさんだとノートを閉じる箒。

不意に、ラウラが箒の手からノートをひったくったかと思うと裏表紙をめくりだし、何故か頭を抑えてよろけ出す。

 

「こ、これは......」

「何が書いてあるのだ」

 

ノートを取り返した箒が、そう問いながら裏表紙をめくる。

 

「世俗に疎い私でも、それくらいは理解できる。

 

 

 

......恋文の、下書きだ」

 

でたらめに書き、消して、書いて、消す。

普通のも、熱意にあふれたものも、古典的なものも、おかしいものも、あった。

 

風が、はらりとページをめくる。

そこには綺麗な字で、文章が綴られていた。

 

『まあ、他人行儀なのもあれだし、長引かせるとこっちが恥ずかしいし。

僕は、篠ノ之 箒、君が好きだ。

どこが好き、と言われるとおっぱいが最初に浮かぶけど、君が全部好きだ。

 

練習を頑張る姿も、

休み時間に話す時の顔も、

時々見せるむすっとした顔も、

竹刀を振り回して怒る姿も、

試合に必死に取り組む姿も、

他にもあるけど、とにかく君が好きだ。

 

初恋の一夏がまだ好きなのは分かってるけど、ぼくは、君が好きだ』

 

お世辞にも、整った文章とは言えない。

失礼なことも書いてある。

感動するような言葉回しなんてどこにもない。

だけど、

どうして、

 

「......ぅ、あ......」

 

ぽたり、ぽたり、と涙が紙面を濡らす。

意識せず手に力が入り、ぐしゃりとノートを潰す。

「......りたく、なかった」

 

下半身の力が抜け、箒は思わず、その場に座り込んだ。

 

「......こんなもの、知りたく、なかった」

 

拭っても拭っても、とめどなく涙が溢れてくる。しまいには両手で顔を抑えるが、その隙間から、こぼれ落ちていく。

 

「......ああ、わかってはいた、でも知りたくはなかった。

先輩は生きてる、生きてるけど......

もう、会えるかもわからない。

それを、よりにもよって、今、こんな形でっ!

 

私は、先輩が好きで、

先輩は、私が好きだった。

こんなの、あんまりだろう......

知らなければ、よかった、こんなもの!」

 

声を大にして泣き叫ぶ。

知らなければよかった。

知らなければ、幸せになれたのに。

余計なものを、背負いこむ必要など、なかったのに。

 

 

少女の慟哭を一夏達は見ることしかできなかった。

7月は終わる。

学園は、夏休みに入ろうとしていた。

 




多分これが現在の限界です。

文書力が足りない......ください。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話

暫くはやりたいことに向けて前準備を詰め込んでいく感じ。

暫くは説明とか多めですので、ご勘弁を


 

 

 

あれから、もう一ヶ月が経ちますね。

先輩に届くかどうかもわからないこの手紙を、私は風に乗せて送ります。

先輩に、届くと信じて。

 

福音は、先輩が身をもって送ってくれたデータのおかげで倒しました。

先輩の死体も上がらず、打鉄のコアも場所がわからない。絶望的な状況ですが、私はそれが、先輩がどこかで生きている。そう信じるに足る理由になります。

 

ですが、皆はそうは思わないようです。

一夏、セシリア、鈴、ラウラ、シャルロット、マヒロ、織斑先生、山田先生。

皆表面では繕っていても、どこか今までと違うような気がします。

 

一夏はずっと笑って、私たちに心配かけまいと気丈に振る舞っていますが、時折追い詰められたような顔をして1人でいるのを見かけます。

練習も今までとは違って余裕もなく、どこか焦りを感じています。剣先も、鈍くなってしまいました。

 

セシリアはさすが貴族とでも言うのでしょうか、本当にいつもと変わらないです。

ですが、ここではないどこかを見つめ、そして涙を流しているのを一度見かけてしまいました。

 

鈴は、落胆を怒りを隠さず、もうずっとピリピリしたままです。

声をかけても、話をしようと誘っても、何秒か私を睨みつけて、去ってしまいます。

 

ラウラは、まるで転校直後に戻ってしまったようです。あの抜き身のナイフのようなつめたい態度を纏い、いつも窓の外を眺めています。

毎日深夜まで練習して、足や腕にベタベタと湿布を貼っているのを見かねて声をかけても、何も答えずに行ってしまいました。

 

シャルロットは、いつもの柔らかく、それでいて芯の通ったような性格は、変わってしまっていました。

いつものように振る舞ってはいるものの、どこか疲れているように、ため息ばかりつくようになりました。

 

マヒロは、もう別人といっていいほどに萎れてしまっています。

トラブルメーカーも鳴りを潜め、いつものようなからかい半分でも元気になるような言葉を、ここ1ヶ月聞いていません。

 

織斑先生は、どこか無理をしているように感じます。

最近では化粧も雑で、目の下の隈を隠すこともなく授業に臨み、いつもの日本刀のような澄んだ立ち振る舞いが、まるで嘘のようです。

山田先生は、やはり優しい人だったのでしょう。

責任を感じてか、暫く休職すると告げて学校にすら顔を出していないようです。

 

やっぱり、皆にとって、先輩は大切な人だったのでしょうか。

いつもの日常に先輩がいないだけで、どこか景色が色褪せて見えます。

 

 

 

剣道部の練習中に、どう言うわけか部長からしばらくは来なくていいとも告げられてしまいました。

クラスメイトには、体調管理はできているのか、と声をかけられるようになりました。

私は、どこかおかしいのでしょうか。

つい昨日には竹刀と木刀まで取り上げられ、玄関からランニングシューズが消えていました。新手のイジメでしょうか。

今度織斑先生にでも相談しようと思っています。

 

 

 

 

なんだか、少しだけ、心に穴の空いたような、そんな空虚さを感じます。

この気持ちを、なんと表現すれば良いのでしょうか。

私には、わかりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会いたい、会いたいです、先輩。

あのノートの言葉の答えを、言わせて下さい。

どうか、あの言葉の続きを、私に教えてください。

 

「私の返事を、聞いてください......」

 

出すあてもない封筒が、涙で湿っていく。

鉛筆の文字が滲み、宛名の文字が消えていく。

それは、まるで、先輩が去っていった1ヶ月前を思い出させるようだった。

 

「どうして、どうして、いなくなったんですか......」

 

コンコン、と扉を叩く音がする。

同室の相川は実家に帰っているはずだ、織斑先生だろうか。

そう不審に思いながらも、扉は開いていると返事をした。

 

思えば、相手が名乗らなかったのを不審に思うべきだったのだろう。

 

カランカラン、と空き缶が転がるような音が後ろからする。後ろを振り向くと、何か英語で書かれた青い缶が転がっていた。

次の瞬間、

 

「な、に?!」

 

視界が白一色に染まる。

頭はキンキンと金切り音を立て、考えるなと訴えて来る。

平衡感覚を失い、椅子から転げ落ちる。

朧げな意識の中、最後に見たのは、

 

「......突撃、隣の更識さん......」

 

その言葉と、見覚えのあるような気がする空色の髪と、口元を隠すように扇子を広げた誰かの姿だった。

 

 

 

 

 

 

「......やっぱり、似合わない......」

 

 

 

 

 

 

「いや、連れて来いと言いはしたけどさ」

 

とある地方都市の、住宅地の外れ。

ひときわ目を惹く広い洋館の広間で、目頭を揉むワカメのような頭をした青年はそういった。

 

「......誘拐しろとは言ってないよね!常識的にあり得ないよね!」

「......自分、不器用ですから」

「色々とおかしいよね!」

「......ブイ」

「だあああっ、もういいよ!」

 

誇らしげにピースサインをする目の前の少女から視線を逸らし、ぐしゃぐしゃと頭を掻きながらそう叫ぶと、青年こと間桐慎二は深々とため息をついた。

 

「で、今どこにいるの?」

「......ハイエースで、ダンケダンケ」

「車に積んでるんだな、わかった」

 

慎二はどこかに電話をかけ、二、三言告げるとすぐに切ってしまった。

「ほら、いくぞ。衛宮も待ってる」

「......うん」

 

若干足を早め、並んでぴったりと寄り添う。

間桐慎二と、更識簪。

簪が告白してから、初めてのデートである。

 

「......ふふふ」

「なんだよ」

「......なんでも、ない」

 

 

 

 

 

 

「......さっぱりわけがわからない」

 

目をさましてから、一夏はそうポツリと漏らした。

部屋で素振りをしていたら扉が蹴破られて、気がつけば簀巻きにされて転がされていた。

非常識にも程がある。が、それが逆に一夏の頭を冷やしていた。気絶していたせいでここ暫くないぐらいぐっすり寝ていたのもあるが、これは蛇足だろう。

無言のままごろごろと転がる。

目隠しをされ、簀巻きにされて転がっている以上、頼りになるのは聴覚と嗅覚だけだ。

すんすんと鼻を動かすと、乾いてはいるが、ふんわりを香る青臭いが嫌ではない匂いが鼻を通る。

 

「畳、か」

 

畳に使われるい草の特徴的な匂い。

彼の友人の五反田弾の家で散々嗅いでいたのもありすぐに思い至ったのだが、なんの解決にもならない。

そのままごろごろと転がっていると、何かとぶつかった。

 

「そこに、誰かいるのか?」

 

ぶつかった何かから声が聞こえる。学園で散々聞いてきた声だ、声の主はすぐに思い当たった。

 

「その声はラウラか?!」

「あたしもいるわよー」

「ぼ、僕も、一夏は大丈夫?」

「......俺もいるぞー」

 

一言叫べば、打てば響くように皆の声も聞こえて来る。皆が無事のようで、一夏は内心胸を撫でおろすが、

 

「あれ、セシリアはどこだ?」

「そういえば箒もいないじゃない。ねーえ」

 

鈴が声を張るが、返事は返ってこない。

その時、ペタペタと足音が聞こえて来た。全員が身を硬くして備える。

スーッと襖が開く音がして、ハキハキとした青年の声が通る。

 

「だれだ、大声なんか出して......ってなんだこれ!?」

「そ、その声は!」

「おまえ一夏か?!遊びに来るとは聞いてたけどそりゃねえだろ!」

「えっ、なんの話だ」

「と、とにかく縄といてやるからな。じっとしてろよ」

 

 

 

 

 

 

 

「で、何がどうなってるんだ」

「俺にもさっぱりわからん」

 

とりあえず縄を解いた士郎は、一夏と頭を付き合わせて互いの情報をやりとりしていた。

「ただ、慎二からみんなが遊びに来るからよろしくとは聞いてる。ちゃんと食材も買い込んだし」

「それを俺たちは聞いてないんだ。誰も外出するなんて言ってない。

そうだ、その、シンジとか言う奴に電話すれば」

「デート中だからかけて来るな、だってさ。

遠坂は家にいないから連絡もつかないし、セイバーも武道場から出てこないし」

 

やれやれと首を振る士郎。

その後ろでは、鈴たちが同じく頭を付き合わせて考え事をしていた。

 

「ピンチよ。私の甲龍がない。きっと誘拐された間にパクられたに違いないわ、どうしよう」

「俺の強羅はもともとオーバーホール中でない」

「私のレーゲンも今ドイツだが......」

「僕のラファールもなくなってるよう......」

 

専用機は、国家の技術力の結晶だ。

おいそれと他人に渡せるものでもないし、一部データが漏れるだけで国際問題になりかねない。

マヒロの強羅とシャルロットのリヴァイブカスタムは例外だが、大切なものに変わりはないのだ。

 

「おそらく、下手人が取ったのには間違いはない。ISなど乗られてしまえば一巻の終わり 、1番優先される事柄だ。どこかで売りさばかれていなければ良いのだが」

「ちょ、そうなったら国にどうやって説明すればいいのよ!」

 

不穏なことを呟くラウラ、そして冷や汗を垂らす鈴。純粋な国家代表はこの場では鈴だけで、それだけ国との繋がりも深いのだろう。慌てぶりも群を抜いて高い。

 

「......だとしたら、セッシーとモッピーはどうしてるんだろうね」

「うん、僕不安だよ......」

 

ポツリとマヒロが漏らした言葉に、シャルロットも同調する。

 

イギリスだけが開発に成功した遠隔射撃ビット、通称BTシステムを搭載した第三世代、ブルーティアーズ。

篠ノ之博士謹製の唯一の、まだ謎の多い第四世代IS、赤椿。

もし売りさばかれるとすれば、きっと高い値がつくに違いない。

 

「私にわかるはずもないだろう......」

 

なぜ2人が選ばれたのだろうかはわからないが、悪い事態になっていませんように。

そう、ラウラは自分の無力さを噛み締めた。

 

「ただいまー」

「おかえり遠坂、っとそっちの人は」

「御機嫌よう。セシリア・オルコットと申します。凛さんの友人ですわ」

「シロー!ただーいまー!」

「イリヤまで来たのか、今日は楽しくなるな」

 

玄関先で家主である士郎と誰かが話す声が届く。さらっと重大なセリフが紛れ込んでいるが、最近神経をすり減らしていた一堂は誰も気づかないまま、この状況をどうするべきかという話し合いは続く。

壁を一枚挟んで、こちらも話し合いが始まっていた。

 

「で、あいつがいなくなったらしいわね。あいつの兄弟から話が回って来たわ」

「ああ、慎二が成政のクラスメイトを引っ張って来たのもそのせいだと思う。遠坂」

「探せるか、でしょう?できるわよ。

準備に時間かかるから、その前にご飯にしましょ」

「さんせいさんせーい!」

「......あの、リンさん。これは一体......?」

 

2人だけで話を進めているので、ついていけずそうそうに白旗を上げるセシリア。

それに気づいたリンはうっかりしたとこめかみに手を当て、

 

「ああ、それについては皆で話をした方がいいわ。もうすぐお昼だし、全員がそろってからにしましょ?」

「奥の部屋にみんな揃ってるし、休みの間に積もる話もあるだろ?イギリスからの長旅だろうし、ゆっくり休めよ」

「では、お言葉に甘えて......」

 

言われるままに奥の部屋で疲れを癒そうと襖を開けて、

 

「あら、みなさん。どうしてここに?」

「「「「セシリア?!」」」」

「な、なんですの、幽霊でも見たような眼で私を......ちゃんといきてますわよ!」

「......うぅ、ひっぐ、よ、よがったあああ!」

「ら、ラウラさんはなんで抱きつくのです?

だ、誰か状況を説明してくださいまし!」

 

 

 

「......という訳なのよ」

「......なるほど、理解しましたわ。確かにそれは一大事ですが......別段慌てることもないでしょう」

 

これまでの顛末を聞いて、ふむふむと頷いてから、セシリアは普段通りのままでそう言った。

 

「はぁ?!他の国だからってテキトーなこと言ってるんじゃないでしょうね!」

「理詰めとけばすぐにわかるでしょうに」

 

荒ぶる鈴に対してセシリアはやれやれと首を振る。

 

「簡単な事ですわ。

まず、この出来事の顛末は慎二という方が計画したと聞きました。

士郎さんやMs遠坂が親しげに話す以上、同年代の方。必然的に、鈴さんが心配するような盗難があったとしても、それを売買出来るコネの持ち合わせなどないでしょう。恐らく一時的に預かっているだけ、そう考えるのが自然ですわ」

「慌てる必要もないね」

 

客間らしいその部屋に積まれていた座布団を重ね枕がわりにしてふて寝するマヒロがそう答える。鈴が何か言いたげにするが、諦めて腰を下ろし、黙り込んでしまった。

 

「お前ら、飯にしようぜ」

 

奥から士郎が声をかけるまで、沈黙は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は人数が来るって聞いてたし、みんなに手伝って貰ったんだ」

「最近してないから腕が鈍ってないか心配だったわ。口に合えばいいけど」

「わ、私も頑張りました!」

 

そんなに広くもないテーブルにぎゅうぎゅうに詰め、思い思いの料理に箸を伸ばすIS学園組。

感想を言うまでもなく黙り込んで黙々と食べている様は、ただただ必要であるから食事をとっている、そんな無機質さを感じさせた。

 

「おい、なんだよ。感想の1つや2つくれたっていいじゃないか」

「......ご馳走様。美味かった」

「そうじゃなくてさぁ......」

 

唐揚げ自信作だったのに、と項垂れる士郎。そこに割り込むように玄関から声が届く。

 

「おい衛宮、いるんだろ、飯くわせろ!」

「お、お邪魔します......」

「慎二じゃないか、おかえり」

 

今回の下手人、間桐慎二である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話

「たけじんマン」さん作「兜甲児のIS学園日記」とのコラボストーリーを成政くん救出と同時進行で始めていきましょう!わーい!


ぼちぼちコラボの前振りを......と。


 

 

「返すわこれ。何をどうしてもISってわかんねーわ」

 

昼食も終わり、手持ち無沙汰にしていた専用機組にポイと待機状態のISを興味が失せたと投げ渡す慎二。

 

「......なんか変なことしてないでしょうね」

「しねえよ」

 

顰めっ面で睨み返す鈴を適当にあしらったところで、慎二が切り返して聞く。

 

「で、どうせあいつの場所もわからないだろうし、白旗でもあげてるんだろ?」

「こいつ......!」

 

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ、図星と察すると腹を抱えて笑いだした。

 

「はっはははは、ははははははっ!」

「何がおかしいのよ」

「いやあ別に、そんな心配無用だって事だよ」

「やっぱ性格悪いな慎二......」

「士郎も僕の性格が悪いって言うの、その通りですけど?」

「自覚してるんなら直せよな」

「だが断る」

「「だはははははは!」」

 

ひとしきり漫才をしたあと、慎二はさも当然だと言うように、軽く告げる。

 

「IS学園に剣道部が存在する限り死なないだろあいつ。最悪秋大会には戻ってくるさ」

「微妙に説得力があるけど納得いかないっ!」

「そうだワカメもどき!なりさんを心配しないとはどういう了見だ!」

「ワカメもどきは余計だろ!」

 

なぜかラウラまで割り込んできて、2対1での取っ組み合いが始まろうとしたが、

 

「し ず か に し て く れ る か し ら ?」

「「「ハイ」」」

 

凛が手に持ったマグカップを握り潰しながら言った一言で黙らされた。

 

 

 

 

 

「まず、ここから話すことは。常識の外、場合によっては血みどろの裏の仕事に関わることになるわ。その覚悟があるならサインして」

 

人数分のコピー用紙にプリントされた誓約書。それが人数分差し出される。

各々が内容を把握しよう読み始めた時、ペンを取る音がした。

 

「はい」

 

1番先に突き出したのは、なんとマヒロだった。

 

「俺が成政を殺した1番の原因だ。だったら、責任は取る」

 

突き出された誓約書に漏れがないか確認したあと、紙は伏せて机の上に置かれた。

若干不愉快な顔になった凛が一堂を見渡す。

 

「できた」

「はいこれ」

「......」

「覚悟は、できてる」

「当然ですわね」

 

6人全員、誓約書にサインをした。

ならば、覚悟はできているのねと前置きすると、凛は少し笑ってこう言った。

 

「あなたたち、魔術は信じているかしら?」

「「「「は?」」」」

(ですよねー)

 

 

「魔術?魔法じゃないのか」

「魔法は科学技術で再現できないもの、魔術はできるかもしれないもの、かしらね。

実際に見たら納得できるんじゃないかしら」

 

そう凛は言うと、指を鉄砲の形にして、あっさりと指先に火をつける。

 

「こんな感じにね。他にも色々できるけど」

「......ただのマジックではないのか?」

 

疑り深くそんなことを言いはじめるラウラ。

化学の申し子と言わんばかりに生まれた時から特殊な場所に籍を置いたラウラが一番疑り深いのは当たり前だろう。

逆に、日本人2人とイギリス人は、

 

「すげー、もう一回見せてくれ!」

「へー、凄いこともあるんだねー」

「これは興味深いですわね......」

「あんたたち適応早すぎよ、もっと疑うとか何かしないとこっちがアホみたいじゃない」

 

すんなり納得していた。

 

「あの、マヒロはともかく一夏とセシリアはすごいね。僕なんてもう何が何だか......」

「いや、幽霊がいるなら魔術もあるだろ」

「そうですわね、一夏さんと同じですわ」

「ゆゆゆゆ幽霊?!いるの!?」

「いや、夏になれば特集番組組まれてるじゃないか」

「それほとんど合成だから。俺も作った動画あったし」

「そうなのか?!」

「存在するしないに関わらず、イギリスでは有効的な存在として受け入れられています。

それに、いた方がロマンチックでしょう?」

「なるほど、セシリアらしいね」

 

実際、イギリスではパブやホテルに幽霊用の席があったりと、身近な存在として受け入れられていたりする。

「それ、俺にも使えないか?」

 

恐る恐る一夏が聞いた。

魔法が使えるというのは、誰しも少しは憧れるものだろう。後ろではシャルルが目をキラキラさせて凛の方を向いてはいたが、

 

「......無理ね。才能がないと思うわ」

「あー、IS適正値みたいな奴?」

「あいえすなんちゃらはわからないけど、魔術回路がないと魔術は使えない。

ちなみに言っておくけど慎二もないから一般人と変わりないわよ?」

「けっ、僕にはこの頭があるので大丈夫ですー!」

「そうか、使えないのかぁ......」

「魔法少女とか憧れてたのに......」

「い、意外とロマンチストなのだな」

 

使えないと言われて肩を落とす2人。特にシャルロットの願望がちょっぴりメルヘンだったのだが、その願いは叶わない方が良いのである。

 

 

「話を戻すけど、人探しの魔術だって存在するわ。幸い条件も揃ってるし、今すぐできる」

「本当か、じゃあ今すぐやってくれ!」

「でも、本当にいいの?」

「なんでだ?」

 

凛の言いたいことがわからないのか、首をかしげる一夏。

それを見て凛はブツブツと何かをつぶやいた後、まっすぐに目を見て告げる。

 

「この魔術なら、死体であっても見つけられる。今すぐにそこに行ったとして、石狩が死体の可能性もないわけじゃない。

それでもいいの?」

 

問うたのは、死に相対できる覚悟があるか。

誓約書に書いたとはいえ、怖気ついてもおかしくはないから、と凛なりの気遣いだったのだが、

 

「構わない、頼む」

 

一夏は、きっぱりとそう答えた。

それを見て呆れたように頭を抱えるが、諦めて素直に用意をする。

 

「じゃ、始めるわよ」

 

 

 

 

「一応説明すると、使うのは地図と宝石と縄。

今からするのは人探しというより、モノ探しをする感じね」

 

指先に縄をくくり、その先に宝石をつけた凛がみんなに見せつけるように説明する。

それを振り子のように下げると、世界地図を机に広げる。

 

「私は集中して目を瞑るから、宝石が大きく振れたら教えてちょうだい。

どんどん地図を細かいものにして、精度を上げてくから」

「わかった」

 

目を瞑り、何かをブツブツと唱えだす凛。

暫くしないうちに締め切った室内のはずなのに風が吹き始め、髪がばさりばさりと揺れる。

しかし世界地図の上をゆっくりと撫でるように動く振り子は、微動だにしない。

時間が経つにつれて深くなる凛の眉間の皺、次第に量が増えていく、頬を伝う汗。

一夏を始め、魔術に理解の無いものは何が起きているかはわからない。

ただ、両手を組んで成功してくれと祈る他ない。

その振り子が、突然触れ始める。

輪の中心は、日本。

 

それを士郎が告げると、凛はゆっくりと目を開く。そして、

 

 

「......やばい、ミスった」

「ミスったってどう言うことだ遠坂?!」

「よりにもよってこんなところでうっかりかよ?!」

「姉さん最低です」

「爆発オチじゃないけど、爆発オチじゃないけどーサイテー!」

 

その瞬間、衛宮家は光に包まれた。

 

「シロー、そろそろ昼食をっ?!」

「っ!これは......」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこからしばらく経ったわけで、状況はとーてーもまずいこととなっております」

「全くもってその通りだなこの野郎!」

 

謎の光と同時、日本のどこかに来てしまったらしい一夏や士郎、凛たちなのだが、もれなく

はぐれてしまったのだ。

 

そう判断したのは、日本語の看板と話し声、これだけのパーツが揃って居れば、そう考えるのも容易い。

この場にいるのはマヒロ、簪、慎二の3人。

そして、冒頭のマヒロの愚痴に戻る。

3人に何かあったわけでもないのだが、ちょうど話し合おうと入った大型デパートにテロリストがやって来てしまえば話は別だ。

いち早くそれを察した簪が指示を出して、現在進行形で女子トイレに隠れている3人なのだが、

 

「じぃーーー」

「......なんだよ、出てけって?」

「じぃーー」

「......はっきり言えって」

「じぃーーーーーーーー」

「やめてやれ簪、緊急事態だ」

「......わかった」

 

簪が、場違いな慎二ではなく、何故かマヒロを睨みつけていたのは蛇足だろう。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話

コラボストーリー導入編、ちょいちょい聞き覚えのありそうでないような名前がちらほらと。


 

 

 

 

「で、これからどうする」

 

最初に切り出したのは慎二。

こう言った非日常に短い間とはいえ浸かっていた上、頭の回転は早い。ついでにプライドも人一倍高いので当然のごとく仕切り役を始めた。

 

「......ここは、様子見」

「素人がどうこう言ってもね」

 

対するマヒロと簪の2人の意見は消極的。

客は人質に取られている以上、専門職に任せるべきだ。ISがあるとはいえ学生が口を出すべきではないとマヒロが告げるが、

 

「僕もそうしたい。が、問題は衛宮だ、あいつがこの状況を見れば動かないはずもない。

この近くに居るはずだし、巻き込まれた可能性も高いだろ」

 

ついさっき、衛宮家の居間での人物立ち位置を頭に思い浮かべる慎二。

慎二と簪、そして少し離れてマヒロ。

一夏たちIS学園組。

魔術を行っていた凛と士郎、そのそばにいたセシリア、そしておまけのイリヤ。

自分たちと同じように飛ばされているのならば、このような形で纏まっていることは容易に予測がつく。そして、慎二と凛との距離もそれなりに近かった。つまるところ、ここにいる可能性も高いのだ、と簡単に予測を立てた。

 

「十中八九、衛宮はこれを解決しようとしてくる。だったら、手伝って恩を売るのも悪くない。幸い、ここには世界最強の兵器が2つあるわけだしな」

「......ふふ、ラノベみたい」

「厄介ごとはアニメだけで十分なのに」

 

耳をすますと、慌ただしく駆け回るような足音が聞こえてくる。そして聞きなれた声も届く。

 

「始まったみたいだ、行くぞ!」

「がん、ばる」

「いっちょいきますか」

 

ISを展開し、ガシガシと拳を打ち合わせて準備万端とでも言いたげな簪と、モップを手に持ち鼻息を荒くするマヒロ。慎二はその2人ににニヤリと笑いかけると、女子トイレを飛び出した。

 

IS2機に魔術師3人。そこら辺の基地を襲っても無傷で帰れるこの面子にかかれば、テロリスト制圧なぞ5分とかからなかった。

 

「衛宮さぁ」

「何だよ慎二」

「金属バットは世紀末だからやめろ」

「世紀末?何のことだよ」

「お前サブカルネタ弱すぎぃ!」

「うるさーい!」

 

「騒がしいですわねぇ......」

「それがまたいいんだけどね」

 

士郎がボケて、慎二が騒ぎ、女子陣がまとめて物理で黙らせる。

その、どこか見慣れた気がするやり取りを煩わしげに眺めるセシリアをたしなめるマヒロ。たはは、と笑っていつものように場の雰囲気を和ませようとするその笑顔は、微妙に引き攣っていたが、見咎めるものはいなかった。

 

ISはないものの、モップ一本で果敢にテロリストに向けて立ち向かって居たマヒロ。

一歩引いた簪から見れば、いつものような勇気とか根性とか浪漫とは違う何かが突き動かしているように見えた。

「マヒロ、無理してる、よね」

「ないない。むしろアニメみたいな展開で燃えてるところだよ!」

 

簪が心配して声をかけるても、笑い飛ばして誤魔化してしまう。悪の組織でもでてこいやー、と己を奮い立たせるように天に向かって吠える彼女を、凛が何か言いたげな目で見つめていた。

 

「警察も来たことだし、後のことは任せましょ」

 

そう凛は皆に告げ、警察と反対方向、スタッフ用の非常口から退散していった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「織斑先生!兜さん!」

 

夏休みでも教師は忙しい。

今日も今日とて、山田先生は学園中を駆け回るのだ。

それはさておき、どこか慌てた顔で走って来た山田先生が声をかけたのは、かの織斑千冬と楽しげに談笑する。スーツを着こなしたここIS学園では珍しい男性職員。

 

「どうしたんだ山田先生、そんなに慌てて」

「とりあえず落ち着いて下さい、ほら深呼吸して」

「そそそそれどころじゃないんですよ!」

 

早く来て下さい、と2人の裾を引っ張って急がせるその姿はどう見ても子供だったのだが、只事ではないと察した2人は山田先生に従って廊下をかけた。

3人が向かった先はアリーナの管制室。

ここではIS学園全てのISが管理できるよう、設備が集中している。

何があったと千冬が問う暇もなく、山田先生はコンソールを叩きだした。

「少し前にレゾナンスで立てこもり事件があったのは知ってますよね」

「レゾナンス?」

「IS学園近くの大型商業施設だ。私や生徒たちもよく利用している。

そこで何かあったのか?」

「はい、これを見て下さい」

 

目的の物を探し出したのか、とある動画をスクリーンに投影する山田先生。そこに映っていたのは、

 

「ブルーティアーズに打鉄弐式。どれも専用機持ちの機体ではないか。巻き込まれたのか?」

「おかしいな、確かさっき廊下ですれ違ったはずなんだけど」

「はい、しかもこれを見て下さい!」

 

呼び出されたデータにあるのは、食堂で優雅に食事を楽しみながら談笑する、機体の持ち主であるはずのセシリアと簪。

 

「1時間前からログを遡ってみましたけど、2人はずっとここに居ました。それに、国元や企業に専用機返却をする時でも学園に手続きがあります。書類、受け取っていませんよね」

「つまり、もしかしたらティアーズと打鉄弍式が2つある、って事か」

「その通りです!」

「なん、だと?!」

「......」

 

ISのコアは467。増えもしないし減りもしない。ある意味絶対不変の真理として存在する常識、それが打ち破られた。

 

「見間違いではない、のか」

「昨日は10時に寝ました、間違えるはずがないんです!」

「だとすれば、また束の仕業か」

 

もしコアを増やせるとすれば、親友の束しか居ない。そう考えた千冬は電話をかけ、張本人であろう束を問いただそうとして、

 

「ちーちゃんちーちゃん!よくわかんないけど白式が増えたんだけど、他にもフランスのボクっ娘とか中国の、それに紅椿、倉持の失敗作の子まで2人になってるんだけど!」

「お前ではないんだな!」

「そう、同じコアなんて作れない。それぞれ毎回違うコアができるはずなのに、わかんないけど同じコアがあるんだよ!」

「わかった、お前ではないんだな!」

 

乱暴に電話を切った千冬は、もう1人の頼りのなりそうな人物。

後ろに逆立った髪に、太いもみあげが特徴的な青年、兜甲児に声をかける。

 

「甲児、何か心当たりはあるか」

「いや、わからない。

あいつらにはISコアを作るよりも、機械獣なんかを作る方が早く済む。

それに、同じコアを用意する理由がわからない」

「そうか......」

 

 

頼りにしていたぶん、答えが出ず落胆する千冬。そこにすかさず束が無理やり学園のセキュリティに割り込み、3人に大声を張り上げる。

 

「ちょっと、話聞いて」

「うお、驚かさないでくれよ」

「な、ん、だ?」

「ひう!?また軽々と......」

 

 

「箒ちゃんアリーナにいるよね。

 

 

 

 

 

 

目の前にそのもうひとつの紅椿があるんだよ!もうこれわけわかんないよ!」

 

あまりの事態の複雑さに訳がわからないと涙目になって泣き言を漏らす束を山田先生がたしなめる横で、千冬は教師として行動する。

 

「甲児、今すぐアリーナに行け。もし抵抗するならばマジンガーで応戦しても構わない、私も今すぐ向かう!」

「わかった!」

 

あまりの余裕のなさにドアが開く時間も惜しいと物理的に吹き飛ばしながら、甲児はアリーナへの廊下を突っ走った。

 

「今すぐ行けと言ったがドアを壊してもいいとは言っていないぞ!」

「すまん、後で直しておく!」

「全く、あいつは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下がってくださいホウキ、今の貴方では荷が重すぎる!」

「私は強くならねばならないのだ、これくらい......!」

 

砂埃が上がり、一瞬相手が自分たちを見失う隙間を見つけて会話を交わす箒とセイバー。

凛がうっかりを発動させた瞬間に、武道場での稽古が終わり、声をかけようと居間の障子を開けてしまったせいで巻きこまれてしまったのだ。

コンマ1秒もない時間に間に合ってしまったのは、ひとえに凛のうっかりスキルが天元突破していたからである。

そして気がつけば何故かIS学園のアリーナにおり、見たことのない機体がラウラと闘っていたから、このように割り込んでいるのだ。

 

「伏せてください!」

 

砂煙を切り裂いてぶおんと赤い斧が箒の頭上を掠める。その隙を見てセイバーが聖剣で砂煙を払い、相手の姿があらわになる。

 

赤いマントを身に纏い全身を装甲で覆う謎のIS。その手には大ぶりの片手斧がそれぞれ握られており、油断なく箒たち2人に向けられている。

「貴様は何者だ、何が目的だ!」

 

侵入者らしい赤い機体に問えば、くぐもった声で答えが返ってくる。

 

『それはこちらのセリフだ、天下のIS学園にこうやすやすと侵入するなど、只者ではないだろう』

「1年1組、剣道部所属、篠ノ之箒だ!」

 

姉のせいでそれなりに有名人な箒。自分の名前を振りかざすのは嫌だが仕方ないとそう叫ぶが 、

 

『馬鹿を抜かせ、私が篠ノ之箒だ。冗談も大概にしろ!』

「嘘を、つくな!」

 

叫ぶと同時に剣を振り抜き、斬撃を飛ばす。

それは相手にあたりはすれども、傷ひとつつかない。それならばと箒はワンオフアビリティ、『絢爛舞踏』を起動させた。

本来ならば白式と対になるようエネルギー供給機構が備わっているが、どういうわけかその機構は排されてしまい、自分にひたすらエネルギーを回す仕様となっている。それを使えば、手に持つ実体剣ふた振りにエネルギーをまとわせて擬似的なエネルギーソードを作ることも可能だ。その威力は、零落白夜には劣るものの、実体剣とは比べ物にならない。

「止まれ篠ノ之もどき!」

「くっ、邪魔立てするな!」

 

もちろん当たれば、の話である。

赤い機体裏から回り込んでいたレーゲンが斬りかかろうとした紅椿を空間に固定する。

振りほどこうにも、IS自体を止められてしまってはひとりではどうにもならない。

 

『これで終わりだっ!』

 

箒は、頭上から斧が振り下ろされるのを黙って見るしかなかった。

 

だが、この場にはもう1人、いる。

 

『約束されし......勝利の、剣っ!』

 

アリーナの空を、星の奔流が切り裂いた。

その斬撃はやすやすとシールドを貫き、空へと放たれる。その様子は、校舎からでも一望できた。

 

 

 

「......とても見覚えがあるような、ないような」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話

ちょこっと展開が早すぎる......?気がする。

主にスパロボキャラが掴めていないので「オメーそこ違うやんけ!」と言う部分あればご指摘願います


 

 

 

 

 

金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

謎の赤いISが振るう人間サイズの大斧を、その少女、セイバーは弾いてみせた。

それどころか、弾かれた反動を利用して回転斬りを仕掛け、あわよくば隙を狙ってみせるほどの余裕と余力まで残している。

 

(なかなか、これは手強いな)

 

思わず赤いISのパイロットは歯噛みする。生身とIS、それだけの差があるにも関わらずに自身の斧を弾く力を持ち合わせ、さらに怯まずに勝負しようという気概が構えから溢れている。

武術経験者であるパイロットからすれば、セイバーの構えは無骨。しかし確かな経験に裏打ちされ、研ぎ澄まされたその剣術はたとえ初見の相手であろうと引けを取らない。

 

「どうした、こちらから行くぞ」

 

考え事をして開いた一瞬の空白に合わせるようにセイバーが距離を詰め、足を狙っての薙ぎ払いを飛行して避け、しばらくの思考時間を確保する。

 

『しかし、彼女のISは一体。騎士のよう、と言えばイギリスだが、そんな噂は聞いてはいないし』

「隙だらけだな、たかが空中でやり過ごせると思ったか」

 

思考の海に沈もうとした彼女の目の前にセイバーが突如としてあらわれ、袈裟懸けに剣を振り下ろす。

ギャリギャリと音を立ててバリアが紫電を発し、SEが眼を見張るほどに減少する。

地上に踏みとどまり続け、自分が飛べないと無意識的に思っていた思考が甘いとセイバーは言外に告げているようで、

 

『成る程、まだ私は未熟なようだ』

「これで終わりではないだろう」

 

ニヤリと笑って挑発してみせるセイバーを見、仮面の奥で彼女は釣られて口角が上がる。

 

『楽しませてくれる......!』

 

そして、改めて両腕の斧を握り直した。

 

 

「本当に箒みたいだな」

 

ラウラと剣を交える、赤い機体のパイロット。

ハイパーセンサーを活用してその女性の顔を覗き見れば、見慣れた箒だと判断できる。

もしかすればの可能性もあるが、1番可能性が高いとすればアレだろうとあたりをつけた甲児は4人の誤解を解くべく、

 

「来い、マジンガー!」

 

話し合い(物理)を敢行する事にした。

大音声を響き渡らせ、腕を天高く突き上げる。

 

 

 

ちょうど同じ頃、IS学園寮の廊下では、

 

「「右手上げて左手あげて右手下げないで左手下げる!......なんだ鏡か」」

「「んなわけないでしょうが!」」

 

2人の一夏がネタをかまし、これまた2人の鈴がツッコミを入れていた。

 

「だいたいあんた、何者よ、一夏みたいな顔して」

「いやいや俺だから」

「そんなオレオレ詐欺みたいなのに引っかからないわよ!顔洗って出直してきなさい一夏もどき!」

 

いつの間にか学園寮の廊下に佇んでいた一夏たちは、とりあえず職員室に向かおうとしたところ、誰かにぶつかってしまう。

謝ろうとその人に手を差し出そうとした結果、何故か目の前に同じ顔があり、お約束のようなネタを振ってから今に至る。

 

「そういうあんたの方が嘘くさいのよ!どうせ酢豚にパイナップル入れないくせに」

「酢豚にパイナップルは常識でしょ」

「......」

「「こんなところに同士が!」」

 

何故かハッスルしだした鈴同士が抱きついているが、特に記述するようなこともないので省略する。どことは言わないがないから書けないのだ。

他のメンバーも自分同士でまじまじと見つめあっていたり、自分しか知らないようなことを聞いて答えが返ってきて驚いたりとショックを受けていた。

それはさておき、

 

「......ハイパーセンサーで見ても俺だなぁ」

「そうだな。どうなってるんだこれ」

「僕男装しようか?こうも同じだと紛らわしいよ」

「へ、部屋にあるからついてきて。サイズ合うかなぁ」

「唐揚げにレモンかける?」

「かける」

「よろしい、ならば戦争よ」

「ああん、やってみなさいよ!」

「一夏が2人......これがエクシーズ」

 

ラウラ以外同一人物が2人もいるせいで紛らわしいことになり始めた一夏たち一行。

「よし、何かわかりやすいトレードマークつけよう」

 

どうやらよそ者らしい、いつの間にかここにいた方の一夏の提案によってどうにか判別がつくようになった。

片方の一夏は袖を捲り上げて、

シャルロットはこちらの世界のシャルロットが持っていたズボンに履き替え男装モードに、

ラウラは髪の長さが違うらしく何もせず、

鈴は迷ったら唐揚げにレモンをかけるかどうかを聞く事で判別する事になった。

 

「「あたしの扱いだけ適当すぎるでしょ!」」

 

かけるほうが元からここにいた鈴である。

ちなみにだが、作者はかける派だ。

 

「それで、本題だ。こいつの顔に見覚えは」

 

本来の目的を思い出し、一夏に成政の写真、臨海学校の時ビーチバレーの審判をしていた時の一枚、をみせる一夏。差し出されたスマホを受け取る一夏の後ろから覗き込む元いたらしいシャルロット達。

 

「これ臨海学校の時の人じゃない?髪型はだいぶ違うけど目つきとかそっくりだもん」

「ちょっとしか見てないからな、あんまり覚えてないから自信ないぞ」

「多分そうじゃない?シャルロットの言う通り

目元とか、顔つきとかそっくりだもの」

「ほ、本当か?!今どこに!」

 

一夏に詰め寄る一夏。はたから見れば腐っている人が喜びそうな光景だが、今は夏休みである。

たじろいでしまった一夏が多分と前置きしてから、

 

「ほ、保健室じゃないか......?」

「みんな行くぞ!」

「ガツンと言ってやるんだから!」

「お仕置きでもしなければな」

「みんな程々にね、あはは」

 

答えを聞いた途端、勝手知ったる自分の庭だと一夏達はベランダから飛び降り、空中をショートカットして校舎玄関まで飛んで行ってしまった。

 

「......そんなに、大切な人だったのか」

「どうする一夏、ついてく?」

「そうだな、俺たちも行こう。セシリアとかみんなにも声かけて行こうぜ」

 

こちらは寄り道しながら、のんびりと向かう事になった。

 

「いやー、あっちの俺は彼女持ちかぁ」

「それは、ないんじゃないかなぁ......」

(告白の文言でも聞きに行こうかしら)

 

致命的な勘違いをされていたが。

 

 

 

「私は、強くならねばいかんのだ、この程度の敵などっ」

「とりあえず落ち着いてくれ!」

 

高速の踏み込みからの切り上げを腕を交差させる事で辛うじてガードするマジンガー。

そのままパンチを繰り出し、紅椿にボディブローを決めるものの、箒の気炎は衰えを見せず、今まで以上に激しく甲児を攻め立てる。

(千冬よりは戦いが上手い訳じゃないが、機体性能がここまで高いとやりにくい)

 

この世界に来てすぐに世界最強に勝った甲児とはいえ、その時乗っていたのは訓練機の打鉄。今の箒が乗っている紅椿とは性能は雲泥の差、圧倒的に紅椿が上なのだ。

そして、箒を無意識的に傷つけたくないと攻撃を控えているのもあるが、

(ラウラは......無事、のようだな。あのセイバーとか言う奴は信頼できるみたいだし)

 

ラウラをかばっているのがあるだろう。

甲児が乱入する直前にノックアウトされてしまったラウラを放っては置けず、かといって話を聞きそうにない紅椿に乗っている箒を放っておくのもどうかと悩んでいたところに、

 

「どうやらただ事ではないらしいですね。ここは一時休戦はどうでしょうか」

 

と申し出た金髪の子ことセイバーにより、ラウラを戦いの余波から守りつつピットまで運ぶこととなったのだ。

なるべく被害が出ないように、そして攻撃の余波も出ないようにと回避でもなく防御に徹していたのはそれが理由なのだ。

横目で確認すれば、指示した通りピットの扉をあけてラウラを担ぎ込んでいるセイバーがいる。それならば、現在、アリーナにいるのは2人のみ。

 

「よし、こっからは、本気だっ!」

「ぜやああああああああ!」

 

斬りかかってきた紅椿の刃を半身になることでかわしてがら空きになった胴体に、

 

「ロケットォ、アッパー!」

 

渾身の一撃を叩き込む。

浮いた胴体にもう一撃追い討ちをかけ、回し蹴りで弾き飛ばす。起き上がって来たところでかかってこいと指を動かしてみせる。

 

「っ、まだまだぁ!」

「そうだ、それでいい!」

 

いろいろ溜め込んでいるのなら、体を動かしてスッキリさせてしまえばいい。それでダメならぶん殴れ。

博士らしからぬ甲児の物理で解決しようぜ、と言うこの考え方は、どこぞの熱血バカのが移ったせいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「成政ぁ!」

 

自動ドアが開く時間も惜しいと無理やり手動でこじ開けると、一夏達は保健室に踏み入った。

部屋の1番奥、ちょくちょく皆が世話になった見晴らしのよいベッドの部分だけにカーテンがかかっており、誰がいるかをうかがうことはできない。

もし違うのだったら謝ればいいとなかば投げやりな気持ちで一夏はカーテンを引いた。

そこにいたのは、

 

「......」

 

無言で空を見上げ続ける肩まで伸びる黒髪を下げた、瘦せ細り、目に大きい隈を作っているどこか見覚えのある人物だった。

 

「......今日は一段と騒がしいな、織斑さん。ところで名前を名乗ったつもりはないんだけどな」

 

散々聞いたよく通る低温ではなく、ガラガラと金属同士を擦りあわせるようなかすれ声ではあったが、答えを返してくれた。もっとも、その発言は妙に他人行儀だったが。

 

「いや、俺だよ俺、一夏だよ」

「そんな事は分かっている。

ひとりにしてくれないか、静かに過ごしていたいんだ」

「ちょっと、話くらい聞きなさいよ!」

「大声はお腹いっぱいだよ、帰ってくれないかな、鈴音さん」

「ちょっと成政くん、そんなつっけんどんな態度やめてよ、せっかく来て......」

「折角?親切の押し売りか何かが趣味なのかい、ここのデュノアさんは」

「なりさん!冗談も休み休み」

 

 

聞き分けのないような子供にでも言い聞かせるような様子で、表面上は優しくそう告げる。

知っている人物のはずなのに、他人に話かけているような違和感。そして突き放すような態度。

思わずラウラが声を荒げるが、シャルロットは手でそれを制した。

 

「ねえ、成政くん。

自己紹介、してくれるかな......」

 

震えるような声で、シャルロットは問うた。

「あまり、無理はしたくないんだけどね。こほっ」

 

軽く咳をしながら、思い出すように虚空を見つめた後、彼は話し始めた。

 

「僕の名前は石狩成政、年は17。

7月7日、IS学園の臨海学校の折に拾われたしがない漂流者だよ。

所々記憶が抜けててね、あやふやなところも多いんだ、今はこれくらいしかできないね」

 

 

成政は以前とは比べものにならないような、枯れ木のように細い手で、はにかみながら頭をかいてみせた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話

今回は短め


 

 

カーテンを開いて、窓から見える空を仰ぐ。

夏らしい大きく立ち昇る入道雲と、それを際立たせるように後ろから照らす夕焼け。 海面に反射して過剰なくらいに自己主張する太陽は、どこでも変わらないようだ。

頭を掻くと、どこか馴染みのないサラサラとした髪の毛が、指の隙間をするりと抜けていく。同じように、僕の周りは変わってしまったことばかりのような気がする。

織斑君はもっとフランクで、いつもみんなに頼られる存在で、もっと周りは騒がしい気がする。他のみんなも、言い表せないような、何かが違った気がする。

そして、武士のように凛とした、ポニーテールのあの子。名前を聞きそびれてしまったが、あの子を見ていると、同じ顔をした、でも少し違う誰かのことが思い浮かぶ。

一体、なんなのだろうか。

彼女を見て、何故か、『すまなかった』。

この言葉が浮かんだのは、如何してなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「記憶喪失、ですか」

「見つけた時にはもうすでに海中だったからな。脳に障害が出ているのかもしれない」

 

騒ぎすぎだと席を外され、誰もいない食堂の端で説明を受けるこちらに来た一夏たち。

彼らの向こう側に座るのは、アリーナでマジンガーを操縦していた兜甲児、成政を最初に見つけた人物だ。

 

「だけど、朧げなから記憶は残っているらしい。ふとした拍子に戻るかもしれない」

「だが、戻らないのかもしれない......ですよね」

 

ラウラの鋭い質問に、目をそらす甲児。

そもそも博士とはいえ医療は専門外な彼にそれを聞くのは間違っているのだが、一夏達が縋れるのもまた、甲児たち限られた人物だけなのだ。

 

「ところで、君たちのことなんだが」

「しょ、正真正銘本物の織斑一夏ですよ!疑うんだったら頬を引っ張るなりなんなりしても構いませんし」

「ISを使えるだけで十分証明になるわよ」

「それもそうか」

 

微妙に話が脱線しだすが、甲児はそれにいちいち目くじらをたてるほど子供でもない。

しばらくして落ち着くのも待って、口を開いた。

 

「多分君達は......平行世界の一夏たち、なんだろうと俺は考えている」

「「「「平行世界?」」」」

首を傾げる4人を見、知らないと感じた甲児は簡単な説明することにした。

 

「平行世界というのは、もしかしたらありえたかもしれない、つまるところifの世界線、なんだ。

例えば、IS自体が生まれなかったとしたら。

白騎士事件が起きなかったとしたら。

ちゃんと兵器としてではなく、空を目指すものとしてISが利用されていたら、とか。

そんなありえない事がありえた世界、そんなものが存在するんだ。

今回の場合は、君以外にもIS学園には彼、石狩君もいたんだろ」

「はい、2人目の男性操縦者です」

「ここでは俺を始め、あと2人ほどISを使える男がいる。まあ今はここにはいないからな、説明はできない」

「んーと、兜さん。つまりは、似たような世界がたくさんある、って事ですか」

「ああ、それがたまたまくっついたのが、今回のように君達がここに来た原因だろう。

戻るめどは立っていないが、こちらの束さんが俺の友達と協力して元の世界に戻す装置を開発している、心配はしなくていい」

「よかった、戻れるのだな......」

 

ほう、と胸をなでおろすラウラ。ラウラだけでなく、他の皆も安堵していた。

もし戻れなければ、そんな得体のしれないような不安が今の今まで胸を押さえていたのだ、重しが取れて軽くなったというところだろう。

「あの、セシリアとかマヒロとか、後更識さんや他のみんなはどこに行ったんだろう」

「心配ない。先ほど箒ともう1人とは会ったんだ、話を聞いてくれないからちょっとおとなしくはしてもらったが」

「なにすんのよ、って言いたいところだけど、感謝するわ。最近のあいつは、目も当てられないし」

「保健室に運んではおいたから、しばらくしたら話ができるくらいにはなるだろう。説明はそっちでしておいてくれ」

「わかりました、えっと、兜さん」

「むず痒いけど......まあ、いいか」

 

この場はここでお開きとなった。

ワイワイと雑談をしながらこの場を去る一夏達の後ろ姿に、甲児は声をかけた。

 

「いつもISは身につけておいてくれ。この世界は、少しだけ物騒だからな」

「は、はい?わかりました」

 

 

 

「部屋は、自分の部屋と」

「男子部屋は他には教師寮だけだし、あっちは1人部屋だからな、順当なところだろ」

「おう、しばらくよろしく頼むぜ」

 

何か初めてのものを見るようにキョロキョロと辺りを見回す一夏を見て、部屋の持ち主である一夏は思わず苦笑いする。

 

「自分の部屋だろ、そう警戒するもんでもねえよ」

「いや、結構違いがあるから。それにほら、竹刀とかあまり使い込んでないみたいだしな」

「あー、別に蹴り技とか教えて貰ってるからな、最近時間が取れねえんだ」

「じゃ、勝負でもしようぜ。俺と戦えるなんてこんな事でもない限り出来ないしな」

「そこはISでの勝負を頼むよ、剣道は自信がないかな」

「決まりだな、時間があったらしようぜ。負けたらアイスぐらい奢ってやる」

 

やはり固い制服では疲れるのか、それを脱いで椅子にかけると、勝手知ったる自分の部屋だと言わんばかりにベッドに倒れこむ一夏。

 

「おい、俺のベッドだぞ」

「お前は俺で俺はお前、つまりお前のものは俺のもんだ!疲れてるんだしさ」

 

文句をドヤ顔で跳ね返すと、枕を抱えてゴロゴロと転がり始めた。しばらく不満げにしていた部屋の主人だが、諦めてか奥に引っ込んでしまった。

それを視界の横で眺めて居た一夏は、全身の力を抜いて両腕を広げる。

「生きてた、んだよな」

 

1ヶ月前に消えた、自分の力不足のせいで守れなかった友人。死んだと思われて居たはずの彼が、目の前にいて、言葉を交わすことができた。

あの時差し伸べられなかった手が、届く。

 

「けど、あいつは俺たちを恨んでないのかな。原因は俺なんだし」

 

今は覚えてないからいいとして、成政が堕ちる直接の原因は箒と一夏の攻撃が失敗したせい、それはもちろん自分が1番よくわかっているからだ。もし成政の記憶が戻れば、と隅に押し込めて居た罪悪感が顔を出す。

眉間にしわを寄せる様子を見ていたのか、エプロン姿になっていた部屋の主の一夏が見かねて声をかけた。

 

「なんか困り事か」

「っ、ああ。ちょっとな」

「困ってるんなら周りにでも相談しろよ。大人に頼ることは悪いことじゃない、ちっぽけなプライドなんて捨てちまえ、ってな。でなきゃ勝てないしな」

「そう、だな。まあ些細なことだし、心配してたんなら大丈夫だ」

「そうか、それならいい」

「ところで、何作ってるんだ」

 

部屋にうっすらと漂う甘い香りを察知し、キッチンの方を覗き込もうと体を起こす一夏。

 

「んあ?セシリアのお茶会に誘われてるし、茶菓子の一つや二つな」

「......よし、俺も一品任せてもらおうか」

「不味いもん作ったら承知しねえからな」

「当然、俺を誰だと思っていやがる」

「俺だろ」

「......紛らわしいな」

 

反応に困るような返しをされ思わずほおを掻きながら立ち上がると、袖を捲り上げて厨房に向かう。

 

「で、手伝う事はあるか」

「そこの小麦粉をふるいにかけてくれるか」

「任せろ、もう1人の俺」

「アニメじゃねえんだから。デュエルでもするか?」

「冗談、でも嗜む程度にはしてるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「兄貴、これからどーすんの」
「っは!もちろんスカイダイビングですけど」
「ヤダモー、だから兄貴とは飛行機乗らないって言ったのに」
「俺が飛行機を落とすんじゃない、乗った飛行機が落ちるだけなんだ」
「はいはいわかったわかった」
「じゃ、準備よろしく。俺はこいつを東京湾に安全に墜落させにゃならんのだ」
「あー、またお金が賠償金で飛んでいく......」

ぷすぷすと焦げ臭い匂いが漂うプロペラ機の機内。そこで諦めたように緊急用のパラシュートを引っ張り出す精悍な男性が2人。

「よしオッケー、準備できた」
「パラシュート取ってくれ」
「はいよ、先いってら」

そのまま青年は扉を開けると、消えようとする西日が照らす港湾に飛び込んだ。

「ぬわああああああ風強いいいいい!」
「あー、それは逸れるわ。ん、今のいい感じのダジャレじゃね?」
「知るかよバカああああああああああ!」

石狩成政、17歳。
職業、冒険家である。
《本編の出番はありません》


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話

大変長らくお待たせしました......

どうにも案が浮かばなくてですね、申し訳ない。
たけじんマンさんには感謝の極みです......
短いですけど。


 

 

今日も空が綺麗、と言えればよかったがあいにく曇りだ。だがそれもいい。

曇りといえばマイナスイメージが強いが、よく観察すれば時折光が透けて見える。その光の輝きを探すのが、間違い探しのようで意外と楽しい。

 

最近無性に字が書きたくなっている。記憶が確かなら小説を書く趣味もなく、勉強が好きでもなかったはずなんだが。そもそも記憶が確かではないので当てにならないか。

昨日の夕方やって来た謎の隣人は、養護教諭さんの話によればまだ目を覚まさないらしい。

話し相手くらい欲しかったんだが。

 

 

 

 

......そうなると暇だし、ちょっと脱走するか。

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、少しいいだろうか」

 

武道場で鍛錬に励む箒に声をかけたのは、セイバー。汗を軽く拭いてから振り向くと、どうやら練習しに来たのではないらしい軽装だった。

 

「何か話か?」

「はい。ホウキの事についてお話が」

「......それは、寝ているもう1人の私についてか」

「はい」

「......解った。その代わり話を聞いてほしい友人を連れてくる。先に向かってくれ」

「分かりました、では失礼する」

 

セイバーが去ったのを見届けると、箒は荷物から携帯を取り出し、2人に電話をかける。

 

「すまない2人、ちょっといいだろうか」

 

それから数分後、保健室にて。

箒の横に座るセイバーの元に、3人が集まった。

 

「少し遅くなった」

「いえ、問題はありません」

 

座ってくださいと3人に促すと、言われる通りに3人は椅子に座る。

「ホウキと、カンザシ。そちらの2人はご存知ですが、そちらは」

「ん、ああ、俺?」

 

他の2人は一応名前だけ知っていたので、残り1人、タンクトップに黄色い安全ヘルメットと、IS学園にしては奇妙ないでたちの男に名前を問うた。

 

「俺は巴 武蔵っていうんだ、よろしくな」

「はい、私の事はセイバーと呼んでください。真名は訳あって伏せさせて貰います」

「わかった」

 

一通りの自己紹介を終え、少しの空白が訪れる。

最初に口を開いたのは武蔵だ。

 

「話では聞いちゃいたが、本当にそっくりだな」

「うん、双子みたい......」

「まあ実際は同じ人物らしい、と聞いた」

「あいつ辺りが好きそうな話だな」

「で、本題はどうなのだ、セイバーさん」

 

脱線しそうになったところで、箒が本題に斬り込む。セイバーは一つ息を吐いて、

 

「......ホウキ、彼女の戦い方を見ていて、どうでしたか」

「どう、とは」

「貴方の戦い方を見ている限り、細部は違えど動きは古武術、篠ノ之流が元になっています。

ですが、余りにも2人の動きは違いすぎる。

その印象を、教えていただきたい」

 

不可思議な問いに、考え込む箒。

暫くして、答えが出たのか口を開いた。

 

「なんというか、勝ち急いでいる、というか。

焦りが見て取れる感じだったし、集中力を欠いていたな。同じ篠ノ之流を修めているとは、一瞬わからなかった」

 

その通りだと頷いてから、セイバーは一言。

「はい、彼女は焦っている。

普段から彼女の勝ちに対する姿勢は貪欲ですが、あくまで一部では余裕を持っていた。

それに、戦い自体を楽しんでもいました。

そう聞いてはいますが、今はその余裕が感じられないのです」

「......スランプ、とかじゃねえのか?」

 

深刻そうに俯くセイバーを見て、理由を察してか黙り込む3人。

聞いた話ですが、と前置きして、セイバーが口を開いた。

 

「......友人が、死にました。

親しい間柄で、練習によく付き合う男でした。

彼が一つ上でしたが、ISとやらを動かしたせいで同じ組に所属することとなったと聞いています。

ですが、彼はホウキ、彼女にどうやら片思いしていたらしいのです。

彼が消えた後、彼女はそれを聞いて何を思ったか、想像に難く無いでしょう。

 

 

 

 

 

 

まあ、この通り生きていたわけですが」

 

がしゃり、とカーテンを引く。

箒の隣、つまり成政があてがわれたベッドがあるのだが、そこにあったのは空のベッド。

 

「「「「えっ?!」」」」

 

思わず空いていた窓から身を乗り出す4人。

もちろん下に彼がいるはずもない。

反射的に簪は横を見ると、カーテンとシーツを束ねてロープにしたものが窓からぶら下がっている。つまり映画よろしくこれをつたって脱走したという訳らしい。

「アグレッシブなこったな」

「ハリウッドみたい」

「馬鹿だな」

 

三者三様な感想を述べる中、セイバーが疑わしげにベッドの端に立てかけられた杖を見ていたが、まあいいかと成政のベッドに腰掛ける。

 

「彼は脚が悪い、探さなくてもそのうち見つかるでしょう」

「いや、探さなくていいのか?!」

「彼の自由奔放さは折り紙つきですし」

「しかし、病人じゃ無いのか?」

「生まれてこのかた病気はした事ないとか」

「......あんまり、関係ない......」

「......過労では、しょっちゅう倒れていたがな」

「そう、彼は本当に......ホウキ?!」

 

ぱさり、と布を払う音がした方をむけば、よろよろと箒がベッドから身を起こしていた。

「......しかし、私が2人か。意味がわからないが、姉さんの仕業だろう?」

「それは、ちょっと違うが......」

 

かくかくしかじか、と箒にセイバーが現状を説明している間に、この世界の箒が2人にとある提案をしていた。

 

「私の悩み、と言ってもそちらの私だが。

私達で解決できないだろうか......」

「いや、心の悩みとかは俺は専門外なんだが」

「......あくまで、ただの他人」

「それでも、だ。

 

 

 

 

ぶっちゃけよく一緒に練習に付き合っているとか明らかに気があるだろう成政という奴」

「「確かに」」

 

親切心がないわけではないのだが、結局他人の恋路が気になるだけである。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話

さて、これからどうしたもんか。
特に主人公とか、主人公とか、成政とか......


 

 

「大介さん、マリアさん。今日もありがとうございました」

 

IS学園の端、校舎群から少し距離を置いた場所ある馬術部施設。セシリアが日課にと毎日馬術部に足しげく通い、馬に乗っているのだ。

そして今日の部も終わりと、馬の管理を任されている男性職員とその妹に律儀に頭を下げたところだ。

 

「しかし上達したもんだなあ」

「いえ、アレックスさんの調子が良かったので」

 

アレックスとは、馬術部の栗毛の馬の事。なぜかその名前でメスである。

「そうか、だったら褒めてやらんとな。

おいアレックス、うちの妹の頭は食べ物じゃないぞ。それと、セシリアがお礼を言いたいと」

がじがじと大介の妹、マリアの頭を丸かじりしていたアレックスがセシリアの方に向く。その隙に脱出したマリアは大介の後ろに隠れて、プルプルと震えていた。

 

「お前なんか大っ嫌いだ!」

「落ち着けよ、アレックスもどうどう.......」

「ええ、優しくしていればアレックスも答えてくださります。日々の積み重ね、ですわ」

 

ブラシでたてがみを整えながら、スキンシップをしているセシリアを何か怖いものでも見るような目で見ていたマリアだが、ふいに真剣な表情になって大介の方を見た。

 

「兄さま」

「どうしたマリア、何かあったか」

「......はい、見えてしまいました」

「場所は」

「......大きなショッピングモール、IS学園が見える場所、です」

「そうなると、レゾナンスか」

「どうされました?」

 

空気が変わったのを感じ取ってか、真剣な顔でそう問うたセシリアに対して、大介は短く告げる。

 

「専用機持ち全員、それと甲児達にも声をかけといてくれ。

今回は、レゾナンス周辺、人も多い。

早めにけりをつけるぞ、ってな」

「分かりましたわ」

 

では、と軽く前置きしてから校舎に向かって走り出したセシリア。もちろん連絡を回すことも忘れず、抜かりなく行なっていた。

 

 

「......わかった、すぐに向かう」

「どうかしたのか?」

 

ゲームの手を止め、立ち上がる一夏。何があったのかと訓練帰りのもう1人の一夏が聞いたところで、事の真剣さに気がついたか表情が硬くなった。

 

「......敵だ」

「そうか、よく分からんが、俺も協力する。

みんなを、守りたい」

 

主人公2人、世界は違えど、その心は変わらない。皆を守るために、受け継いだ白刃を振るうのだ。

 

 

「わかった、すぐに準備する」

「何かあったようね」

 

机に向かっていた鈴が突然立ち上がる。それに合わせるように、ベットで寝ていたもう1人も立ち上がる。

言葉は不要、言わずとも理解できる。

「邪魔ものをぶっ飛ばしに行くわよ」

「そうこなくっちゃね」

 

「そう、分かった、頑張るよ」

「どうしたの?」

「どうかしたのか、シャルロット」

 

一緒に走り込みをこなしていたシャルロットが立ち止まる。釣られて別の世界の方のシャルロットとラウラも立ち止まる。

首をかしげる2人に対して、シャルロットは真剣な顔で問いかける。

 

「......本当は、君達を巻き込みたくはない。

こっちの世界の問題で、部外者の2人を巻き込むのは、正直卑怯なんだと思う。けど、僕の実力が足りないのも事実なんだ。

命をかける事になる、けど......」

「手伝うよ」

「当然のことだろう」

「いやいや、命をかける事になるんだよ!」

「構わない。なりさんは命懸けでライバルを守って、愛する人も守った。

ならば、負けてはいられない、だろうシャル?」

「うん、場所は違うけどここはIS学園。

僕たちの帰る場所だ」

 

何か言おうとしたシャルロットだが、2人の意思が硬いと見て諦めてため息をついた。

「はぁ......自分がこんなに頑固だなんて思わなかったよ」

「さっき言ったこともあるけど、きっと一夏も同じように言うだろうしね」

「うむ、ライバルが行くならば私も行かねばならん」

「よし、じゃあ行こうか、ついてきて!」

 

時間も惜しいとジャージ姿のまま走り出す3人、その後ろ姿を頼もしげに、体育教師剣鉄也は眺めていた。

 

「最近の子供は大人び過ぎてるんだ、こう言うのは大人に任せればいいのにな」

 

言葉とは裏腹に、彼は楽しげに口角を釣り上げて、笑っていた。

 

「俺も行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「財布がない......」

 

ちょうど同じ頃、成政は海辺の公園に設置された自販機前で地面に両手をつき、うな垂れていた。ちっちゃい子があれなにー、と成政の方を指差して、その親がみちゃいけませんと言う定番のやり取りとも言うべき事もやっていたが、成政はへこたれない。

 

「下に100円でも落ちているかもしれない......!」

 

ここに、夏休み中の公園で自販機の下を覗く、病院着を羽織った上にパーカーでごまかす、長髪の変な男が誕生した。

もちろん硬貨などそう見つかるわけもなく、埃だらけになって肩を落とすだけに終わる。

 

「お金、貸そうか......?」

「いや、あ、すみません」

 

キラキラした目で成政が振り向けば、そこには快活そうな見た目をした、ちょうど成政と同年代であろう女の子がいた。

「お茶でいいですか?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

ペットボトルの麦茶を買って、その女の子も自分の分の飲み物を買い、近場にあったベンチに座った。

 

「ふう、美味しいなぁ」

「......そうですね」

 

青空を見上げ、そうしみじみと呟く成政とは対照的に、どこか元気のない女の子。

不審に思った成政は、力になれるかもしれないとこう持ちかけた。

 

「なにか、悩み事でもある、よかったら聞かせてよ」

「......いえ、他人を巻き込むのはどうかと思いますし」

「まあまあそう言わずに、ここで会ったのも何かの縁、でしょ」

不審者に話しかけられて戸惑うのが普通ではあるが、彼女は相当参っていたのか、しばらくして口を開いた。

 

「......俺、いや私は、神上マヒロって言います。IS学園の生徒です。

そこで、友人関係で少しトラブルがあって......」

「何か友達と喧嘩でもしたわけ?」

「いえ、そうではないのですけど......」

 

一つ間を置いて、彼女、神上マヒロは話し始めた。

 

「実は、私、友人を殺してしまったんです」

 

 

 

 

 

 

「ねえ慎二、マヒロがいない」

「......誰だそれ」

「短髪で、一人称が俺、身長の高い私と一緒にいた人ですわ」

「そういえばいないわね」

「さっきトイレに行くって言ってたし、すぐ戻るだろ」

「それもそうね。いざとなれば携帯なりなんなり使えばいいし、大丈夫よね?」

「そうですわね。どこかをふらついているのでしょう、連絡すればすぐにきますわ」

 

 

 

 

 

 

 

「......というわけなんです」

「成る程、頼まれたは良いけど素直に受けっとったせいで友人が死に、自分が殺したのではないのか、と」

 

うーん、と成政が考えこむ中、マヒロは俯いたままだった。

 

「うかれていたんです。

企業のテストパイロットになって、IS学園に入って、専用機を貰って。

これでヒーローになれる、カッコ良くなれるって。そのツケが、まわりまわって来たんです。

 

どうせなら、私が死ねばよかったんです」

 

その直後、成政は鋭い口調で怒鳴った。

 

「それは言ったらいけない」

 

その剣幕に思わず身を小さくし、距離をとるが、成政はそれを許さない。むしろ距離を詰め、顔がくっつくくらいまで近づいて続ける。

 

「それを言えば死んだ、その友人に迷惑だ。

君はその友人の覚悟を土足で踏み躙った事になる。むしろ胸を張って送り出した事を誇るべきだ」

「誇れ、何を誇るんですか?!殺人をですか!」

「最悪な状況を回避した事を、だよ。まあ確かにその判断はベストじゃない。

他にやり方もあっただろうし、誰も死なない大円団もあった。だけど、もしを追いかけてもどうにもならない」

 

他に言いたい事があるであろうマヒロを手で制して、成政は続ける。

 

「その彼女?はきっと自分が死ぬかもしれないくらい理解できてたさ。

それこそ状況くらいは理解できてたんだろう。そして訓練機で飛び出すこともわかってた。それで死を覚悟してないとか、ナイナイ」

ISだって万能じゃないし、と苦笑いしながら答える成政に安心したのか、ふう、と溜息を吐いた。

 

「ありがとうございます、少しだけ、肩の荷がおりました」

「いいって、こんな僕の言葉が参考になったら御の字だよ。

こっちこそお茶奢ってくれてありがとう」

 

よし、とマヒロは自分の頬を張って気を引き締めると立ち上がり、気持ちを切り替えるように拳を天高く突き上げる。

 

「もう、悩むのはやめた、私は悪くない。悪いのは石狩成政というマネージャーバカだけ!」

「初対面の人にバカはないでしょ......」

「えっ?」

 

思わず振り返れば、気まずそうに頬を掻く成政がそこにいるだけだ。

辺りをキョロキョロと見渡しても、もちろん誰もいない。

 

「お兄さん、名前は」

「だから、石狩成政、だけど?」

 

しばし見つめ合う両者。

何を思いついたか、マヒロはヘアゴムを取り出して成政の伸びた挑発を後ろに流して纏めると、

 

「あ、ああああああああああ!!!」

「わひゃい!?」

 

突然大声を張り上げたかと思えば、携帯を慌てて取り出そうとして四苦八苦した挙句地面に落っことし、拾い上げようとして蹴飛ばし、と漫画のような寸劇を披露し始めた。

それを大声で痛む頭で微笑ましげには見ているが、もちろん成政は目の前の彼女の顔を知らない。

「......ん、どっかで見たような、でも誰だったか」

 

欠けた記憶と必死にマヒロの顔をつなぎあわせようと頭を捻る成政。

 

「ダメだ、さっぱりわからん......」

 

そういえば自分の記憶喪失のことを話していなかったな、と顔を上げたところで。

 

「......えっ?!」

 

空から戦闘機が降って来た。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35話

自分の未熟さが歯がゆいです。


 

 

「今日の天気は晴れ、時々戦闘機、と」

「呑気なこと言ってないで、逃げるよ!」

 

呑気にそう呟く成政に対して、マヒロは必死だ。なんせ女子高生が男子高校生を抱えて全力疾走をしなければならないからである。

戦闘機が墜落してきたのならば非常事態ということは誰でも理解できる。かといって頼みの綱のISは手元にない。

ならば、無様に逃げるしか手は無い。

 

「ほら、背中乗って!」

「はい?」

「あんたは足が悪いから走れないの!」

「ああ、そうでしたっけ」

「軽、ちゃんとご飯食べてる?!」

「最近は食欲がなくてねぇ......」

「後で色々聞かせて貰いますから、ねっ!」

 

救いだったのが成政の体重が軽く、そしてマヒロが女子の割にガタイが良かったことだろう。

すぐさま成政をお姫様抱っこで抱え上げたマヒロは、どこか避難できる場所はないかと行くあてもなく走り出した。

 

「わーお、UFOとかメカみたいな動物が空飛んでら、アニメみたい」

「そんな訳、って機械獣だーっ?!」

 

空を見上げれば、ビルの谷間を縫うように機械の獣が駆け回り、辺りを炎が覆い始める。

そんな事よりアニメの敵が現実の空を飛び回っている方が、よっぽどマヒロ的にはヤバイのだが。

(どうする、東京にシェルターがあるなんて聞いてない、かといってISのない俺じゃあ何もできない。素直にIS学園を目指す?あそこなら安全......よし)

 

「IS学園どっちかわかる?!」

「この通りをまっすぐ、だったかな」

「わかった」

 

その前に休憩、と抱えていた成政を下ろす。

そして壁に手をついて、荒い息を整ようと深呼吸。

 

「お茶、飲みかけだけど」

「ありがとう」

 

渡されたペットボトルの茶を一気飲みして、空ボトルを地面に投げ捨てる。それを律儀に成政は拾いに行き、少し離れたゴミ箱に捨てにいっているのを視界の横で見ながら、マヒロは空を見上げた。

 

馬鹿でかい機械獣に倒して、その周りをくるくると小さい何かが飛び、時折閃光が走る。

きっと自衛隊の打鉄なのだろうが、ハイパーセンサーがない今、それを確認するすべはない。

 

裾で汗を拭い、休憩は終わりと成政を背負おうと歩み寄ろうとして、

 

「馬鹿野郎来るな!」

「っ!」

 

成政の怒号に、一瞬体が固まる。その一瞬がマヒロの命運を分けた。

 

ズガン、という衝撃音と同時に、何かが2人の間に突き立てられる。そして地面を覆っていたアスファルトが飛び散り、反射的に後ろに飛んでいたマヒロの体を打ち据える。

立ち込める砂埃で視界が取れない状況で、マヒロは最悪の状況を考えてしまった。

 

(もし、成政が瓦礫の下敷きに......)

「成政、無事?生きてる!」

「なんとかてところ。一応怪我はないよ」

 

よかった、と胸をなでおろす。だが全くもって状況は大丈夫ではない。

緊急事態なのにのほほんとした成政が指を折りながら状況を整理していく。

 

「神上ちゃんがいる方がIS学園側で、こっちは反対側。瓦礫がビルが丸っと落ちてきてるし、崩れそうだし通りたくはないね。

で、件のビルは燃えてるしダメ元でも通れない。ここ以外の道を探さないと」

 

絶望的だ、と全部を投げ出したくなるような状況だ。

空では謎の機械とISが戦闘を繰り広げ、いつ流れ弾が落ちて来てもおかしくない。そしてビルが立ち並ぶこの街、一つ倒れるだけでどうなるかは言わなくとも理解できる。

そして走れない上に地理も理解できていないであろう成政をここに置いて行くのは、

 

「......まるで、成政を見捨てるみたいじゃない」

 

もしここにISがあれば全部解決したのに、こんな瓦礫ひとっ飛びして、上空で暴れるあいつらも叩きのめして、主人公みたいに全部解決できたのに。

夏休みだからとオーバーホールに出すんじゃなかった。

ともかく、間が悪かったとしか言いようはない。だが、それでも自分自身を責めずにはいられない。

 

「どうするの?」

「さあ、救助を待つしか」

「絶望的じゃん......」

「死ななきゃいいけど」

「なんでそう気楽そうなのよ」

「死ぬ気で死なないように頑張るんで」

「理由になってないでしょ」

「なんか、これ以上のヤバいことにあった気がするんだよねぇ。なんとなくだけど、これくらいだったら多分いける、って思ってる。

根拠なんてないけど」

 

マヒロの方から顔は察することはできないが、先ほどと変わりもしない気楽そうな声、成政の言う通り余裕があると判断したマヒロは、体についた砂を払い、成政と反対方向を向く。

 

「すぐに戻る、だから......まってて」

「気楽に待つよ」

 

 

 

 

 

「さて、これからどうしたものか」

 

ふいー、と大きく息を吐いて空を見上げる。

そこではまだ機械の獣とISとがしのぎを削りあっているが、先ほどよりISは少なくなっている。

近場のビルにも亀裂が走っており、崩れるのも時間の問題か、と判断し、この場から動くこととした。

転がっていた鉄パイプを杖代わりに立ち上がり、比較的被害のなさそうなビルを探そうと、元来た道を戻る。

 

「ふーふー、ふふんふふんー」

 

どこかで聞いたような、うろ覚えの曲を鼻歌で歌いながら、ゆっくり散歩するように街を歩く成政。

時折降ってくる瓦礫に驚いたり、道が塞がれていることに悪態をつきながら歩くことしばし、気がつけが学園の見える、マヒロと出会ったあの公園に足を踏み入れていた。

 

そこはもはや公園ではなくなってはいた。

芝生はめくり上がり、遊具は半壊、自販機も下半分以外は見当たらない。

だが、ベンチが一脚だけ無傷で残っていたので、座って体を休める。

 

頭上ではいまだに戦いが繰り広げられ、メキメキと何かが崩れるような音がせわしなく響く。

工事現場より騒がしい騒音に顔をしかめながらだが、成政は断片だけの記憶を探る。

 

「......なにか、やり残したことがある気がする」

 

今の自分は記憶喪失で戸籍もない、だけどISだけは一丁前に動かせるらしい謎の人間、別に死んでも悲しむ人もいないだろうし、成政もそうだと諦めている。

たとえここにISがあって、もし乗りこなせたとしても、自分の実力では流れ弾すら避けられない事も思い出した。

 

ただ、何かを忘れている気がするのだ。

喉の奥に小骨が引っかかったような、パズルの最後のピースがどうしてもはまらないような、そんなもどかしい感触。

長く、腰の下まで下ろした髪を1つに束ねたあの後ろ姿は、いったい誰だっただろうか、と夢想する。

美しい剣さばきを見せてくれるあの姿は誰のものだったか。

4月の教室で、話をしたあの誰か。

一夏やシャルロット、鈴やセシリア、そしてラウラ、彼女らと笑う、もう1人いたはずの誰か。

 

そう、7月の臨海学校の時、

あんな赤い流れ星を操っていたのは誰かに、

 

伝えたい何かが、あったはずじゃないのか。

そんな言葉が、脳裏に浮かぶ。

 

その時だった。

 

「っ、流れ星?!」

 

IS学園から飛び立つ、何条もの流れ星。

白、黄、黒、と様々な色の隆盛が空に飛び立つ中で、赤く輝く流星が二条流れた。

 

「......行こう」

 

理由などないそもそもわざわざ危険地帯に足を運ぶ意図がわからない。

このような脚で、間に合うはずもない。

だが、自分にはあったはずだ。

こんな時に、空を翔ける事ができる、人類最高の翼が、あったはずじゃないか。

 

「......こい、打鉄」

 

がしゃり、と金属の擦れる音がベンチのすぐ隣で聞こえた。

そこにあったのは、ボロボロのまま、あの7月の臨海学校での、最後の姿。

打鉄の武者然とした意匠と合わさって、まるで落ち武者が古い主君への恩義を返すため、馳せ参じたような、そんなイメージを受け取った。

 

「無理させて、悪かったな。

 

 

 

だけど、もう一度だけ、頼むぞ。打鉄」

 

その言葉に答えるように、打鉄はグオンと駆動音を一際大きく唸らせる。

 

一瞬ののち、その廃材同然の打鉄を纏った成政は、ふらふらと、しかしはっきりとした意思で持ってして空をかける。

 

あの赤い流れ星、その駆り手に、

 

「君に、伝えたいことがあるんだ。ねえ、箒ちゃん」

 

篠ノ之 箒に、会うために。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36話

長らくお待たせしました、やめて石投げないで(・ω・`)

ともかくこれで36話。話もだんだんと終わりに近づいて参りましたよ!


 

 

「はぁ、はぁ、はぁ......つ、着いた」

 

汗まみれ、埃まみれになりながら転がり込むように昇降口にたどり着いたマヒロ。

 

「み、みんなは、何処に......」

 

キョロキョロと辺りを見回して、見慣れた人影を見つけて助けを求めた。

 

「い、一夏!」

「なんだ、呼んだか?」

「とにかく成政がピンチで、でも俺じゃあISが無いから助けられなくて、だから、だから!」

「ちょっと待ってくれ!一体、そもそも君が......」

 

半ばパニックになってまくし立てるマヒロ、だが訳がわからないと一夏は手でどうどうと落ち着かせようとして、

 

「早くしないと、成政が、成政がぁ......」

 

ボロボロと涙を流すマヒロを見て、半ば口からでかけていた言葉を引っ込めた。

 

「わかった、よくわかんないけど俺に任せろ!」

 

 

 

 

 

「くそ、しくじった、か......」

 

ギリギリと首を締め上げてくる金属の鞭を引き剥がそうとするが、硬く、ビクともしない。

それどころか更にギリギリと箒の首を締め上げ、酸素欠乏でチラチラと視界に黒点が映り出す。

思えば、これも自業自得なのだ、と笑った。

これも全て、成政を見捨てた自分の因果応報、受けるべくして受ける罰なのだと。

『箒、しっかりしろ、今行くからな!』

『あんた、こんなところでくたばんじゃないわよ、ねえ!』

『箒、頑張って!』

『ホウキ、もう少しだけ、もう少しだけ耐えろ!』

 

一夏達の声が聞こえる、がノイズがかかったようにぼやけて、聞こえているはずなのに聴こえない。まるで、深海に沈み込んだようで、

 

(ここにいるのが私だけみたいだ......先輩も、同じだったのだろうか)

 

あの時の、成政のようだった。

 

2人を助ける為に訓練機で飛び出して、たった1人で強大な敵に立ち向かっていた彼は、墜ちるまでずっとこんな気持ちだったのだろうか。

 

とりとめの無い日常が、箒の脳裏に浮かび、そして消えていく。

 

 

 

私が小学校五年生の時、要人保護プログラムで家族から引き剥がされて、他人との関わりを避け自分の世界に閉じこもっていた。

自分の周囲全てを、憎んでいたあの頃。

そんな私に手を差し伸べ、救ってくれたのは、とある男子マネージャーだった。

 

 

 

 

『そこの仏頂面でポニテの君、剣道部に入らないかい!』

『......』

『無視はよく無いぞ無視はー』

 

中学入学式の次の日。

朝早くから校門で勧誘のビラ配りをしていた先輩とすれ違ったのが、最初の出会いだった。

 

『すみませーん、篠田さんいますかー!』

『......私はもう帰る』

『見学くらいしていってよ、素っ気ないなぁ』

『帰る』

 

『篠田さんいますかー』

『......なんだ』

『剣道部入ってよー』

『帰る』

 

『しーのーだーさーん!』

『なんだ』

『僕と契約して剣道部に入ってよ!』

『帰る』

 

『しいいいいのおおおおだあああさあああん!』

『......帰る』

 

4月の間ずっと教室に押しかけ、執拗に勧誘を重ねてきた先輩。

先に折れたのは、私だった。

 

『もう本入部の締め切りだからさ、剣道部って書くだけでいいからさ!』

『......辞めたくなればやめる、行きたくなったらいく。それでもいいか』

『それでもいーよ、かもん!』

 

クラスメイトの面倒ごとはやめてほしい、という雰囲気もありはしたが、私が入部届けに判子を押した理由は、

 

『剣道、楽しいよ、だからやってみようよ!』

そのキラキラと輝く純粋な瞳に、惹かれてしまったからだろう。

 

入ったはいいものの、宣言通り幽霊部員で、1ヶ月に1度くらいしか顔を出さなかったな。

1年生のため試合にも出ることはなく、練習試合もほとんど不参加。

ただ、時折やってきて武道場に端っこで、勘の鈍らない程度に素振りをしては帰っていくのを続けた。

 

『冬木一中剣道部、ファイトー!』

『『『おす!』』』

『......』

『箒ちゃん、頑張ろ!』

 

そして迎えた夏の大会。

 

『地区予選、敗退かぁ』

『......』

『次、頑張ろう!』

 

あっけない敗北。

あっけない終わり。

県大会に登ることもできないまま、最初の夏を終えた。そして、秋の新人戦に向け、新体制がスタートする。

 

『てな訳で、ご紹介に預かりました副部長の石狩です。皆さん、秋大会はとりあえず県大会出場目指して、皆さん頑張りましょー!』

 

新体制となっても相変わらず、私の出席率は悪いままだった。

 

『なあ、あの篠田っていうの、かんじわるいっつーか』

『わかるー、なんか空気読めない、って感じ?』

『......そもそもあいつ、なんで剣道部にいるんだよ』

『さあ?なんで入ったんだろ』

 

悪評が立つのも、そう遅くはなかった。

同じクラスの仲間たちや、先輩たちがそう話すのをたまたま陰で聞いてしまった私は、

『やはり、私は必要ないようだな......』

 

そして、要人保護プログラムの定期的な引っ越しも、目前に迫っていた。

 

(あと1週間で、転校になるのか......)

 

小学校から何回も繰り返してきた転校。

偽名で自分を偽り、転校後の住所もデタラメで手紙も届かない。

そんな毎日を繰り返すうち、私の心は擦り切れ、何も感じなくなっていた。

別れは告げない、そのつもりだったはずなのに。なぜか武道場に足を運んでいたのは、

 

『剣道、楽しいよ、だからやってみようよ!』

 

脳裏に浮かんだ、しつこく自分を勧誘してきた男の姿を頭から追い出した。

そうだ、こんなものただの気まぐれ、どうせ必要とされていないならば、別れもいらない。

そう言い訳をして、きびすを返す。

 

もう、会うことはないだろう、そう思っていたのだが、

 

『何か悩み事でもあるの?』

 

いつのまにか、にこにこと笑うあいつが立っていた。

 

『......あなたには関係のないことだ』

『まあまあ、そう言わずに。先輩に任せなさいな』

 

長い付き合いでもないのに馴れ馴れしく肩に手を置き、自信たっぷりに胸を張るこの男。その心遣いは、逆にひび割れた私の心には毒でしかなかった。

『あなたには関係のないことだっ!』

『それを言われると余計気になるな。何があったの?』

 

そいつを突き飛ばそうと手を伸ばすが、ひょい、とかわされる。しかもにこにこと笑顔を崩さないままだった。私は、それが自分をバカにしているようで、

 

『......っ、ふざけるな!』

 

気がつけば、背中に背負っていた木刀を振り抜いていた。

 

 

 

 

『それで、言いたいことはそれだけか?篠田 箒』

 

ぴちゃり、ぴちゃりと水の滴る音が聞こえる。

我に帰って木刀を手からとり落すが、それに構わずそいつは私の肩を掴んだ。

 

『お前には関係ない、自分の問題だから自分で解決できる。だから構わないでくれ。

 

僕は、そういう言葉が大っ嫌いだ!』

 

女子だから、と手加減することもなく、私の顔を殴りつけた。痛みで地面にへたり込む私を見下ろし、額から滴る血を制服の裾で乱雑に拭って、続けた。

 

『なんでも自分で解決できるなんて思うなよ。そんな事が出来るのは神様だけだ、そしてお前はただの人間だ!

たしかに心無い人は笑うかもしれない、無視するかもしれない、でもさ、お前の隣に立っている人は、全員そうじゃないだろ。

 

いつも笑わない篠田の事を相談しにきた、お前のクラスメイト。

たまにでいいから、と笑顔で毎回出迎えた顧問の先生方、そして担任の先生。

みんなお前のことを心配してるんだ。

それに、お前を誘った、僕が、1番心配してるんだよ!』

 

呆気にとられる私の胸ぐらを掴んで無理やり立たせて、そいつは心の限り叫んだ。

 

『もっと、僕たちを頼っていいんだよ。

だから、1人だけで抱え込むな!』

 

それから何があったか、あまり覚えていない。

ただ、たくさん泣いたことだけは、はっきりと覚えている。

声の限りに、ずっと。

 

 

それから私とそいつ、いや先輩との、長いようで短かった付き合いが始まったのだろう。

『要人保護プログラムねぇ......

なんとか出来るツテがあるよ!』

『いや、法律をどうこう出来るものなのか?!』

『出来るんじゃなくてするんだよ!』

 

黒い服を着た怖いおじさんが沢山いる家にお邪魔したり、

 

『雷同さん、なんとかできませんか?』

『やーだこの子かわいいー!』

『......なんとかしよう』

 

どこか見覚えのあるエプロンを着た、虎のような新任教師がやってきたり、

 

『この秋からこの学校に勤めることになりました、藤村大河です。よろしくお願いしま…...誰がタイガーじゃおらぁん!?』

『ひっ』

 

部活に毎日顔を出し始めたのもこの頃だった。

最初は他の部員にも距離を置かれていたものの、だんだんと話すことも増えて、4月には溶け込むことができた。

 

『はっはっは、やっと来たかこの不良部員めー!』

『美綴さんやめてあげてくださいなー』

『ず、随分、活動的なのだな......』

 

そして練習漬けの毎日は、瞬く間に過ぎていって、

 

『卒業式かぁ』

『おめでとうございます、先輩。

そして、ありがとうございました』

『......あー、こっちこそありがとう。

また、どこかで』

『はい!』

 

卒業式の日、校門前の満開の桜の下で、別れを告げた。

また、会えると信じて。

 

 

「せん......ぱい、また、会える......かな......」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37話

あと少し、あと少し......


 

 

「......うん、僕弱すぎるね!」

 

張り切って飛び出したはいいものの流れ弾一つで成政がノックアウトされてしばらく。ビルの壁に突っ込み、フロアを丸ごとぶち抜き、ひときわ太い柱にぶつかってやっと止まり、逆さまになりながらそう自嘲していた。

一夏だったら躱せていただろう。

鈴だったら跳ね返せていただろう。

ラウラだったら止めていた。

セシリアは紙一重で躱して反撃した。

シャルロットだったら蜂の巣にしていた。

簪ならば棒立ちでもミサイルでなんとかできた。

マヒロだったら喰らっても問題なかった。

そう思うと、自分の不甲斐なさがよくわかる。

 

「けど、やらなくちゃいけないんだよね」

 

それでも、前に進む。

進まなくては、いけないのだ。

 

「みんなができて僕ができない道理がない。

専用機だって関係ない、お前でもできるはずだ、そうだろ?」

 

任せんしゃい、と言うようにボロボロの体を引き抜き、瓦礫を払って打鉄が浮き上がる。

とはいえ、彼に何かができるわけでもない。

 

「何か武器あったっけな......?」

 

成政の頭はまだ霞みがかったように記憶があやふや、そして武器の数など普段気にしないようなもの、覚えているわけもない。

 

「何かでろ!」

 

よく使っていたらしい刀を取り出す要領で、腕を前に出してそう唱える。

 

特に何も起きない。

 

「だよなぁ......そこまでISって気が利くわけでもないもんな」

 

無茶言ってすまんな、と謝ろうとして何か嫌な予感がし、その場から飛びのく。

 

その一瞬後、ビルのフロアを貫いて長い鉄骨が落ちて来た。ボロボロの打鉄が当たっていれば、と顔が青くなる成政。

同時、凄まじい風切り音がして、衝撃でビルのガラスを粉々に砕いて成政の上に降り注ぐ。

 

「なにしやがんだもー!」

 

文句の1つでも言おうとガラスがなくなった窓から身を乗り出すと、そこでは、アニメで見るような超巨大ロボ、としか言えないような何かが機械獣を振り回してぶん投げていたり、腹を抜き手で貫いたり、目からビームを出したりと縦横無尽な活躍。何故かそのうちの1機がどこかで見かけた柔道技をかけていたのを、成政はとりあえず見なかったことにした。

 

とはいえ、何もしないわけでもない。

こんなポンコツでも、人助けのひとつやふたつくらい出来るのだ、と成政は自分のほおを張った。

 

「さて、どうしたものかな、っと」

 

とりあえず変なのが少なそうなの、とふらふらと高度を上げて、キョロキョロと辺りを見渡す。

打鉄のハイパーセンサーは現在故障中で、あいにく成政の肉眼でしか見ることはできない。

そして目まぐるしく変わる戦況と、IS以上の速さで飛び回ったり吹き飛ばされたりする機械獣の成れの果てのせいで、何がどうなっているかがわからない。

 

「そういえば、マヒロは無事なのかなぁ......」

 

そう呟いて、意識を少し逸らした瞬間、

 

「あ」

 

気がつけば、影が全身を覆っていて、見上げた頭上には、物言わぬ瓦礫が今にも降り注がんとしていた。

重力というものは一定のはずなのに、瓦礫がゆっくりと落ちてくるのが見える。

これが走馬灯か、と頭の片隅で呑気に考えて始めた成政。ボロボロの打鉄に、この大量の瓦礫は耐えられないだろう。

そのまま、瓦礫に押し潰されそうになって......

 

『大丈夫か!』

 

赤い稲妻が、地面を掠め、瓦礫を殴り飛ばした。

 

「......はえ?」

 

バラバラと自分の周りに降り注ぐ瓦礫を気にする暇もなく、成政は先ほどの声を反芻していた。聞き間違えようのない、凛とした、少し低くて、よく通る声。

成政はその声の持ち主を知っている。のだが、

 

「どうにも、こんな風じゃなかったような、いやでも赤かったからこれであっているような」

 

機体が記憶と少し違う気がするのだ。

赤かったのは覚えている、だがこんなにがっしりどっしりとした機体だったかろうか、と首をかしげた。

 

『そこのIS、早くここから離れた方がいいぞ、残念だがISごときじゃコイツらには勝てない』

『......逃げ遅れた人に、助けを』

『そういう訳だ、早く行け!』

 

三者三様に退避を促す声がその赤いロボットから響いてくるのだが、成政はそれを右から左へ受け流して、

 

「箒......ちゃんだよね?」

『私の名前は箒で合っているが、それが』

「いき、てるよね?」

『なんだ貴様、馴れ馴れしいな。この通り生きているのだが!』

「はあああああ、よかった、よかった......」

『あ、おい、なぜ泣き出すのだ、貴様、おい!いま立て込んでいるのだが!』

 

 

 

 

「つまりここは並行世界で、君は別の世界の箒ちゃん、簪さん、と言うわけでいいんだよね?」

『多分そんなんじゃねえかな。しかし良く俺の雑な説明で理解できたな』

「並行世界は行ったことあるので」

『そんな旅行に行ったみたいな口調で言う事じゃねえだろ』

「慣れですから」

『よくわからんが苦労してるんだな』

 

どうにも食い違う話をまとめて、自分の置かれた現状を理解した成政。

打鉄を守るようにそばにいる赤いロボットことゲッターロボと一緒に、IS学園に向けて街を歩きながら他愛もない会話を交わしていた。

「しかし、よく見たら顔つき違うねぇ。こう、そっちの箒ちゃんは顔が硬いし、雰囲気も刺々しいと言うかなんというか」

『まあ確かに刺々しいのは分かるな。お前の方の箒はどんななんだ?』

「もうちょっと柔らかくて、優しいかな。でも試合の時は一振の刀みたいに鋭い剣気を出しててさ、ギャップ?みたいな感じでかっこいいんだよね」

『この戦いが終わったら、改めて手合わせを願いたいものだな』

「え、改めて?」

『口だけじゃなくて、手も動かして』

『わかってる、ぜっ!』

 

ボロボロの打鉄に無理はさせまいと、自ら護衛を買って出た武蔵。残り2人も異存はないと言い、成政は時々降って来る瓦礫をかわすだけで済んでいる。

 

「ところで箒ちゃん無事かなぁ......無理してないといいんだけど」

『無理はしているな。さっきまでベッドの上だったし、酷い顔だった』

「その話詳しく」

『たまたま鉢合わせして、戦った』

『まー酷いもんだったな。疲れも酷かったし、動きも鈍い。日頃から紅椿は見てたが、もっと動けるだろうな』

「無茶してるな、はぁ。帰ったらお説教しないと」

『愛されてるんだな、そっちの箒は』

「剣の才能もあるし、なんだかんだで長い付き合いになるしね。それなりに愛着も湧くよ」

『そういう意味じゃないんだがなー』

『......にぶちん』

「え、僕何かした?」

『そういう意味の愛されているでは、ないのだ』

 

質問の意味を察した瞬間、みるみる顔を赤くしてブンブンと両手をふる成政。そういうのじゃないから、違うから、と弁明するのを見て、3人は砂糖を吐きそうな甘い気配を感じ取っていた。

 

『で、話を戻そう。この世界の敵、まあ今武蔵さんがぶん投げたああいうのだが、ISごときでは太刀打ちできない、というのはIS学園では常識になっている』

『要するに、黒子役かかませ』

『簪の言い方は酷いが、実際かなり近い。その為のスーパーロボットであり、私達だ。

もう1人の私、はおそらく一夏達と一緒に避難誘導や火の粉を払うくらいはしているとは思うが、自衛以外の戦闘はしていないだろう』

 

戦闘に集中している武蔵を置いて、2人がそう説明する。それにうんうんと頷いている成政だったのだが、ふと疑問が浮かんだ。

 

(あれ、常識とかなんとか言ってるけど、

 

 

 

 

......僕らの世界の出身者はこれ知らなくない?)

「ごめん、用事ができた」

『おい、ちょっと!』

 

そこからの行動は早かった。

無意識のうちにスラスターを吹かし、サクッと瞬時加速を発動させ、止めようとするゲッターを振り切って空に舞い上がる。そして目立つIS学園の中央タワーに向かって、駆け出した。

 

「まずいまずいまずいまずい」

 

疲れは人を鈍らせる。体は言わずもがな、特に鈍るのは頭、思考回路だ。

武蔵らの話ぶりを見る限り箒の疲れが相当に酷いのは明らか、その状態では相手の実力もわからない。箒があの強敵に立ち向かって蟻のように潰される最悪の未来を、成政は幻視していた。

 

そしてそれは、現実のものとなっていた。

 

「箒ぃぃぃぃぃい!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38話

ながらーーーーーーくお待たせしました&短めです。ごめんなさい


 

 

 

IS学園上空。

成政が駆け付けた先にいたのは、一際大きな機械獣の繰り出す触手のようなものに巻きつかれ、力なく垂れ下がる箒だった。

「箒っ!?」

「成政っ、無事か!」

「んな事はどうでもいい、箒を助けないと」

「そんなボロボロの打鉄で攻撃するつもりかよ、いくら絶対防御があるからって過信できるもんでもないんだぞ」

 

すぐさま飛びかかろうとする成政の肩を掴んで引き止める一夏。

「止めるなよ」

「すまん成政、俺の力が足りなかったばかりに」

「じゃあ足りるようなんとかする」

「っと、危ねえ!」

 

一夏との再会の言葉もそこそこに、成政は箒を助けるための手段を考える。

敵の目の前だというのに体を動かすことも忘れて、思考だけに全神経を集中させる。

 

今できる事は何か。

持ち札はどんなものなのか。

切れるカードは何なのか。

この場における最善策は。

 

「ダメだ、ダメだ、ダメだ......!」

 

このような状況にあっても、成政は冷静なままだった。

正確に敵の力量をはかり、自軍戦力を叩き出し、能力値を当てはめて脳内でシュミレートする。

何回も、何回も、何回も、何回も。

だが、勝てない。

1パーセント以下の薄い希望を見出せたとしても、そこから先は袋小路、敗北一直線。時間稼ぎもいいところだ。

援軍なんてハナから期待などして居ない。そんな御都合主義はありえないと切り捨てた。

 

「成政、まだか!」

「まだだ!」

「なるべく早く頼むぞ、こっちだって戦いっぱなしなんだ!」

 

成政には、勝てる未来が見えなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「なんだ、簡単な事じゃないか」

 

「誰かが犠牲になればいい」

 

「マネージャーなんていても居なくても変わらない」

 

「臨海学校の時もできたじゃないか」

 

「お前ならできる」

 

「お膳立ては裏方の仕事だろう」

 

すとん、と湧いた言葉が心に響く。

そうだ、誰かが犠牲になればいい。

1番この場から居なくなっても、困らない奴が。

 

 

......いや、そうじゃないだろう。

僕は死ねば、きっと誰かが悲しむ。多分。

それに、箒ちゃんには言いたいことは山ほどあるし、伝えてない事だって沢山ある。

それに、1発殴るまでは死んでも死に切れない。

誰も死なずに、全員が笑顔で居られるような結末を。

ご都合主義でも構わない、ハッピーエンドが一番に決まってる。誰も死なないで、またあの生活に戻りたい。

だったら、僕に何ができる。

このボロボロの打鉄と、へっぽこ三流操縦者に、何ができる。

石狩成政に、出来ることは......

 

 

◇◇◇

 

 

「......一夏、箒のこと、よろしく頼む」

「なんだよ急に」

「なに、ちょっと主人公を気取ってみるだけさ」

 

右手に銃を、左手に剣を。

弾はマガジン1つ分と、装填されていた1発の6発きり。刀は半ばでへし折れ、ナイフ程度の刀身が残るのみ。

全力には程遠く、もし万全であっても勝てる相手ではない、そのことは成政とて理解できている。

「......ほんと、貧乏くじばっかだよなぁ」

 

それでも、彼は行く。

 

「なんせ、好きになっちゃったんだもんなぁ!」

 

愛する彼女を、救うために。

 

視界がモノクロに切り替わり、流れる景色が平静のそれよりもゆっくり見える。だが、それは成政の体も同じ。

手負いのISを舐めたのか、機械獣が差し向けた触手はたった数本。

その慢心、その油断の隙間を、針に糸を通すかのような細い道を、成政は選びぬかなければならない。だが不思議と、緊張はしていなかった。

 

身体の中心を貫通するように伸ばされたソレはバレルロールで軸をずらしてかわす。

横薙ぎの一閃を、剣の腹で弾いて逸らす。

斜め上の袈裟懸けに落ち潰そうとするソレを、銃撃で弾き、駄目押しに銃で殴って無理やりどかす。

 

「届け」

 

足に巻きつこうと後ろから迫るものを撃つ。

 

「届け」

 

絞め殺そうと迫るものを斬りとばす。

 

「届け」

 

引き金を引いても何もおきなくなった銃を逆さに持ち、投げ飛ばして邪魔なものを払う。

 

「届け、届け、届け」

 

かいくぐって身体に巻きつかれた、だが問題ない。

ISを解除、勢いをそのままに空中に飛び出し、機体を再構成してかわす。

 

「邪魔だあああああああああ!」

 

彼女に巻きついていた触手を一刀両断する。

代償として、刀は根元から木っ端微塵に砕け散る。

だが、問題はない。

 

「届ええええええええええええ!」

 

手を伸ばす。

意識を失い、落ちる彼女へ手を伸ばす。

目をとじ、傷だらけになった彼女に手を伸ばす。

 

そして、

 

「届、いたっ!」

 

 

訓練機で、鈍足であるはずの打鉄。

 

しかし、搭乗者の気迫がそうさせたのか、機体は全力以上を以て応える。

 

「飛べ、打鉄えええええええぇ!」

 

数多の剣士が目指し、折れていった。

天才と言わしめた剣士、その一握りのみがたどり着くことのできた究極奥義、縮地。

機械の鎧の助けはあれど、石狩成政、そして打鉄の全力は、

 

「消え、たっ?!」

 

ISのハイパーセンサーがとらえきれない程の神速で、空を駆けた。

 

だが、その代償は。

 

「これまで、か。ありがとう、打鉄」

『シスーー......活動、限ーー......。本機は、役にーー、立て......』

「ああ、お疲れさま。いい、試合だった」

『活動、停............』

 

気がつけば立っていたビルの屋上、そこに抱え込んでいた箒を下ろしたところで、打鉄は光と消えた。

しかし、まだ機械獣は健在。

せっかくの獲物は逃がさないと、成政達に触手を差し向ける。

だが、ソレを防ぐすべはもう成政にはない。

 

「......最後に告白くらいはしときたかったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったら、さっさと告白しちまえよ、こんのヘタレ野郎め!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第39話

 

 

 

 

「......は」

 

死を覚悟していた成政だが、その覚悟とか決意は杞憂に終わる。

突然現れた赤い機体、その腕のドリルが絶望を切り裂き、打ち砕いたのだ。

 

『ゲッターライガーのスピードをなめないで』

そう、成政の窮地を救ったのは、ゲッターロボ。何も告げずに、置き去りにしてきたはずの彼らだった。

 

「さっきまで一緒にいて置いてきたのに、こんなに早く......というか形変わってるような」

 

力が抜け、へなへなと座り込む成政。それに対して武蔵らはさも当然といったように返す。

 

『へっ、俺達のゲッターを甘く見んな。これくらいなんでもないぜ!』

『武蔵さんの言う通りだ。ゲッターロボは可変機なのでな。

先ほどの形態もあれば、このライガーのようなスピード型にもなれるしパワー型にもなれる。あらゆる事態を想定したからこその変形、というわけだ』

『そういう事。あのくらいの距離ならゲッターならあっという間。......ちょっとGがきつかったけど』

 

先程おいてきた気まずさと、申し訳なさに襲われ、それでも何かを言おうと口を開こうとした成政を、ゲッターに乗る箒が制した。

 

『それにだ、一人だけで何とかしようとするんじゃない。

今の私にこうして仲間がいて信頼しているように、あなたもその仲間を力を借りていいんじゃないのか?

それに、一人じゃないから仲間という言葉もあるからな』

『箒、それって長谷川千雨のでしょ?おととい私が貸した漫画の』

『......バレたか。まあそういう事だ』

 

簪のツッコミに照れ臭そうに応える箒。

だが、成政はその言葉に対し、雷に打たれたように固まっていた。

まさか平行世界の人物とはいえ、独りよがりな箒にそのような事を言われるとは思いもよらなかった。

 

『もっと、僕たちを頼っていいんだよ。

だから、1人だけで抱え込むな!』

 

かつて、自分が箒に告げた言葉だ。

「そっくりそのまま、よりによって箒に返されるとはなあ」

 

恥ずかしさ半分、照れ臭さ半分で頭を掻く成政。その姿を見て安心したか、ゲッターは振り向き、敵を見据える。

 

『かかってこいや機械獣』

『私たち、ゲッターチームが相手だ!』

『木っ端微塵にしてあげる』

 

両足を踏みしめ、胸を張り、堂々と敵に向かって名乗りをあげるゲッターロボ。

 

「そうだぜ、一人だけでどうにかしようとすんじゃねえよ。一人だけじゃどうやっても限界がある…だからこそ、こういう時は仲間に頼ったり協力し合うのさ!」

「そういう事、俺が鉄也さんに教わった事でもあるしな。

こっちは任せな、俺の実力と超合金のボディと光子力エネルギーで生まれ変わった白式の力、見せてやるよ」

「さあ、行くわよ! こっちは暴れたくてうずうずしてるんだから、やってやるわよ!」

 

背後からそう、三者三様に声がする。

成政が振り向いた時には、3機のISが空を舞っていた。

 

「白式に、甲龍......でも、シルエットが違う」

『あーあー、聞こえてるか』

「一夏?」

『俺は織斑一夏で合っているんだが、別の世界、といったほうが伝わるか?』

「つまり、一夏だけど一夏じゃない、と」

『そういうこった。さっきまで立て込んでてな』

「よくわからん」

『わからねえのかよ......』

『一夏、喋ってないでさっさと行くわよ!』

『すまん鈴、ちょっと待ってくれ。

そういうわけだ、もう俺は行く。

あとは俺たちに任せて、ゆっくり休んでくれ』

白式の翼が空を切り裂き、左腕にマウントされたガトリングを敵に浴びせかけ、怯んだ所を一閃。その剣筋の鋭さは、成政が普段見ていたそれと一味も二味も違う。その事が先の一夏の言葉を裏付けるものであった。

鈴の甲龍も、さらに攻撃的なフォルムになっていた。が、攻撃的なスタイルは相変わらず、双天牙月で敵を引き裂き、龍砲の見えない砲弾が敵を打ち、増設されているクローで装甲をえぐり砕く。

場馴れしてるような手際の良さ、動きの鮮やかさ。だがそれを差し置いて、目立つのは、見覚えがあるようでない、全身装甲のIS。

黒と赤をベースにした太く、逞しい身体。

背中に付けられたコウモリの様な赤い大翼。

悪魔、と言われればそう見えるような、一種悪趣味に見える様な姿だ。

 

『オオオオオオオオオ!!!』

 

白式と同様に剣を一本だけ背負っているが、一夏とは違い技術はお粗末、ただ力任せに振り回しているだけの荒削りなもの。

しかし雄叫びをあげ、恐れずに戦うその姿。見てくれと違い、まさに勇者とでもいうべき様なその戦い様を、成政は時間も忘れて、ずっと眺めていた。

 

 

 

 

 

「......っ、ん......」

「ほ、箒っ!えとどうすればいいんだっけ打撲だったら冷やさないとだし血が出てたら止血しなきゃだし頭打ってたら動かしたらいけないしあわわわわ......」

マネージャーのいらない知識のせいで素直に心配もできない成政。そもそも紅椿はまだ稼働しているので、絶対防御は発動中、自然箒は無傷なのだが、よりにもよって現在傷だらけの成政にそれを理解しろと言うのも無理な話なのだ。

あわあわと周りを見回したり服のポケットをひっくり返したり、かと思えばジャケットを脱いでバッサバッサと振って何かないかと探しだす、落ち着きのない成政。そんな彼の膝に箒はそっと手を乗せた。

 

「......私は、大丈夫だ、先輩」

「箒ちゃん、でも」

「大丈夫だ」

「......大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「本当に?」

「本当に、大丈夫だ。心配性だな、実に先輩らしい」

聞き分けの悪い子供に言い聞かせるようにゆっくりと語りかける箒、自然と成政も落ち着きを取り戻していた。

無言で、紅椿の無骨な手を伸ばし、確かめるように成政の肌に触れる。それを彼は包み込むように抱きしめた。

 

「本当に、先輩か?」

「うん」

「本当に、あなたは石狩先輩か?」

「そうだよ、箒ちゃん」

「生きて、いるのか?」

「生きてるよ。五体満足で無傷って訳じゃないけど、僕は、生きて、ここにいる」

「......よかった。本当に......本当に、良かった」「そっか」

 

いつものように快活に、とはいかないが、静かに、そう静かに笑う。

それに答えるように成政は立ち上がり、手を貸す。いつのまにか箒は紅椿を消していて、二人同じ目線になって、向き合う。

「......先輩」

「箒ちゃん」

 

一瞬の空白、その後、

 

「「歯ァ食いしばれこのバカ箒(先輩)!」」

 

見事なクロスカウンターが決まった。

 

「馬鹿なの、まじ馬鹿なの箒ちゃん?!練習する時は練習して、休む時は休む、最初に教えたよねぇ!」

「先輩こそかってに出しゃばってヒーロー気取りですか、そんな柄じゃないでしょう!それで死にかけるなんて冗談もいいとこです!」

「うるせぇ!」

「そっちが黙ってください!」

 

かたや疲労で倒れたばかりの病人、かたや満身創痍のけが人、絶対安静のはずなのにいつもの如く殴り合う馬鹿2人。

初手で顔面を張り倒した瞬間から尊敬だとか遠慮などは遠く彼方、機械獣と一緒に木っ端微塵に粉砕されている。

殴る蹴るは当たり前、関節技、プロレス技、噛みつき、金的、篠ノ之流組手術その他色々。

ルール無用のつかみ合いに殴り合い、お互い言いたい事をぶちまけながら拳をぶつけ合い。

 

「こんの馬鹿先輩めっ!」

「こんのアホ後輩がっ!」

 

始まりと同じく、2人はクロスカウンターで地に沈む。だが、地力は箒に軍配があがる。

しばらく息を整えたかと思えば、立ち上がって、叫ぶ。

 

「バーカバーカ、先輩のバーカ!」

「んだとぉ!?」

 

馬鹿にされて立ち上がらない男は根性なしで、成政はヘタレではあるが根性なしではない。

 

「撤回しろこんちくしょう!」

「私は撤回しませんから!」

 

成政は立ち上がるや否や、助走付きドロップキックを箒の顔狙いでぶちかます。

小休止を挟んでのラウンド2、開始である。

 

『......何してんだあいつら』

『そりゃあ、痴話喧嘩だろ』

「すっげえ身に覚えがあるんだけど」

「だって一夏朴念仁だし」

『......激しく同意』

「えっ?」

『というか、ここにいる男は全員そうではないのか?......特に武蔵さんとか』

『ん、なんか言ったか箒、というか顔が赤いが』

『なななななんにもいってないですよ!目の前の敵に集中しないとですよね』

『あ、ああ。そうだな』

「みんな大変ね......」

 

敵と戦う片手間に、サボってちょっとだけほんわかしていた一同であった。

それは、それだけ余裕のある事の裏返しでもある。現に、機械獣は8割以上が駆逐され、残るは取りこぼしと、先ほどまで箒を捕まえていたボス格らしい一際大きな機体のみ。

 

『よし、みんな気合い入れてくぞっ!』

『おう!』

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ......」

 

肌の見えるところには青あざを至る所に作って、鼻からは血を流し、目元は大きく腫れ上がっている。

両者膝に手をつき、息を整える。体はふらつき、意識は朦朧。体の方はもう限界だと激痛でメッセージを送り、頭の方はやってられるかと正常に働くことを放棄した。

しかし目線は相手を睨みつけ、眼光は互いを射抜く。

満身創痍であっても、気持ちは変わらず、始まったときと同じように闘志に燃え上がっている。

 

「......これで、ラス、と」

「臨む、とこ、ろ、です!」

 

己を奮い立たせるように雄叫びをあげ、軸足を半歩下げ、姿勢を落とし、拳を握りしめる。

両者の間は4メートル。長いようで短い、その距離。決着をつけるには、十分だ。

 

「だああああああああああ!!!」

「はぁあああああああああ!!!」

 

一歩目で距離を詰め、二歩目で歯を食いしばり、三歩目で準備を整える。

そして、

 

「先輩のっ、馬鹿ぁ!」

「ご、ふっ!?」

 

箒渾身の、下からドリルのように抉りこむコークスクリューブローが炸裂し、

 

「僕の、負け、か、な」

 

成政を、地に打ち倒した。

 

「け、けが人に遠慮ないねぇ......人の事言えないけど」

「つ、つい、熱くなってしまって」

「まあ、大丈夫......」

 

箒の手を借りて立ち上がろうとし、ふと視線をその後ろに向けた成政から血の気が失せる。

「......じゃない」

「どうしました?」

 

手を差し出したまま首をかしげる箒の手を取って立ち上がり、そのまま流れるように手を引っ張って体勢を崩して足を払い、華麗にお姫様抱っこ。この間約0コンマ5秒。

 

「あの、先輩、そういう事はもっとこう」

「にいいげええええるううううのおお!」

 

今の今までは落ち着いてはいたが、ここは戦場ど真ん中、流れ弾の1つや2つ飛んでくる。

無茶を言うなと軋む身体に鞭打ち、ビルのヘリに躊躇なく脚をかけ、自分の体を空中に押し出す。その直後、飛んできた何かの残骸がビルを押しつぶした。

 

「きゃああああああああああ!!」

「カモン、打鉄ぇ!」

 

聞いたことのない後輩の女子らしい声を背後に、いつものようにそう叫ぶ。プロならば1秒もかからないが、成政はへっぽこ。数秒はかかる、のだが、

 

「......あっ」

「えっ」

 

風が頬を撫で、長い髪がたなびく中、箒が恐る恐る顔を上げて、冷や汗をダラダラと垂らす成政を見上げる。

 

「なんで目をそらすんです?」

「いやぁ......そのぉ」

 

てへぺろ。とさしてかわいくもない仕草をして、成政は答えた。

 

「打鉄が壊れてるの忘れてた、ゴメンね?」

「謝って済む問題じゃないでしょ!?」

 

成政達が地面に着くまでは、残り数秒と少し。

 

 




成政「やっちまったZE!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第40話

なんやかんやゴタゴタしてる話ですがご容赦を。
作者もラストはなんとなしに決めてるんですがどこをどうして着地すかは謎のままでして。



 

 

 

「これ、パルクールの応用で受け身でき」

「たらパラシュートの存在価値がありませんよ」

「だよねー」

 

  死ぬかもしれないというこの状況でものほほんとしている成政に毒されてか、やたら落ち着いている箒。現在2人が居るのは地上から約20メートルほど、このままではもしかしなくとも死ぬ事は明らかだ。

 

「まあ、どうにでもなーるでしょ」

「いや死ぬかもしれないんですが!なんでそんなに落ち着いて居られるんですか?」

「いやー、なに。慣れ」

「慣れ」

「なんだかんだでウチの家族は死なないし大丈夫かなーって。根拠はないけど」

「それは希望的観測と言うのではって地面が地面ががががが!!!!!」

「まーそうかもしれないけどさ」

 

何かを見つけて、ほら、と横を指差す成政。

 

「だいたいだれか駆けつけてくれんだよね」

「いつもなぜあなたはこんなことばかり!」

 

その指先にはスポーツカーばりの速度で自転車を駆る謎の美人OLの姿が。

 

「イシカリ、手を!」

「ありがとライダーさん、たよりになるぅ!」

「ま、ママチャリ!?」

 

瓦礫を使ってジャンプ、そのまま2人をひっ摑んだと思うと、そのまま自転車を横に傾け、ビルの壁面を走り始めた。

 

「しっかり捕まってくださいっ!」

「お、おち、落ちるっ!」

「落ちません、私の騎乗スキルはA+ですので」

「なんだそれは」

 

後ろを見れば何故か鳥型の機械獣がママチャリをロックオン、それを噛み砕こうと翼をはためかせてビルの隙間に飛び込んでくる。

 

「うし、後ろっ、どうするんですかこんなもの、ISもないのにい、ママチャリなのに!」

「あはははは、もうどうにでもなーれ」

「先輩!?」

「飛ばしていきますよ」

 

 ライダースーツを着込んだライダーが腰を浮かし、さらにペダルを踏み込む。チェーンが限界を超えて唸りを上げ、フレームはギシギシと悲鳴を上げても、漕ぎ続ける。

 

「貴方に足りないものは、それはっ!

情熱思想理念頭脳気品優雅さ、勤勉さ!そしてなによりも、

 

 

......速さが足りない!」

 

 衝撃波がビルの窓ガラスを叩き割り、巻き込まれるようにたまたま進行上のルートに近かった機械獣もその巻き添えを喰らい、轢き潰された。

 この日、ママチャリはマッハで走ることができることは証明された。

 

 

「全く、ビルの屋上から落ちてくるのを見たときはヒヤヒヤしましたよ」

「無茶言ってごめんね、たはは」

「桜も心配して居ましたよ」

「やー、申し訳ない」

「まったく、あなたと言う人は」

 

仲良く会話する傍ら、目を疑うような光景(空中を飛ぶママチャリ)や機械獣と三人乗り自転車でのカー(?)チェイスなど信じがたい目にあった箒は放心状態でただただ空を見ていた。

 

「世の中、壊れているのは姉さんだけではなかったか」

「私はこれでも常識人です」

「はいっ!?」

 

独り言にも目ざとくツッコんでくるライダー、よっぽど気にしているらしく眉間にしわを寄せていた。

 

「これくらい私達にはできて当然、という事です。むしろ私は軽い方ですよ」

「だって人間じゃないしね。セイバーさんもアーチャーも、もちろんライダーさんも」

「あの、神秘の秘匿はいいんですか?」

「こーでもしないと説明できないじゃん。箒ちゃんは頭固いしこれでも説得できるかどうか」

「冗談もほどほどにしてくださいよ先輩。どこからどう見たって人間そのものですよ。先ほどのライダーさんがISを使っているとすれば簡単に説明できます」

「まあそうなんだけど、さあ」

 

どうしたら説明できるもんかな、とうんうん悩みだした成政。戦場で考え事とは随分余裕があるものだ、とそれを間近で見ているライダーは1人感心していた。

 

「ま、細かいことは後でするなりなんなりと。箒ちゃん、さっさと持ってた赤いIS使って逃げようよ、ライダーさんも忙しい中きてるんだし。さっき忘れてたのは水に流すとして」

「そう、ですね。わかりました」

 

 若干無理矢理な話の切り上げ方に渋々、と納得がいかないままではあるが、言われるままに紅椿を展開しようと紅の鎧をイメージしてようとして、

 

『紅椿 展開不能 現在アップデート中、完了までの残り時間は未定だよ。ゆっくりしていってね箒ちゃん!』

「ええっ!?」

「うそん」

「これは、面白いですね」

 

ブザー音と眼前にフヨフヨと浮かぶ謎のテロップと束の声をベースにしたような人工音声、それに驚く箒とその他2名だった。

 

「というかアップデート中とはなんぞやという質問」

「私にもさっぱりだ、むしろ姉さんの考えてることがわかっていたらそれこそノーベル賞ものだろう」

『ひっどいなぁ、姉妹なのに』

『そもそもゴミに私の高尚な思想を理解しろという方が、ってあいたあ!』

『その言葉遣いは自分としてもどーかと思うってば』

『ぬぎぎ......』

「姉さんの事を考えていたら空耳が、いや気のせいだろう」

『気のせいじゃないよ、私のいとしの箒ちゃーーーん!まあ厳密には違うんだけど』

「はわっ!?」

 

ISのハイパーセンサー同様に空中にディスプレイを展開、そして大声で愛を叫ぶ天災が画面いっぱいに映し出された。

 興味深そうに実体のないテロップをつついていたりしていたライダーが一番割りを食ったのは確かだろうが、一番驚いていたのは成政だった。

 

「い、いつぞやの不法侵入者!しかも2人!?」

『天災に対してその言い方はないだろおい、解体するぞ盗っ人。それに臨海学校でも声聞いてるだろうがっ!』

「あっ、そういえば。どっか聞き覚えのあるような声だなーって」

『印象が薄い!』

 

 顰めっ面でいちいちオーバーリアクションを取る天災こと束、それを自分の黒歴史でも見ているように若干頬を引きつらせて笑う、これも束。

 

「姉さんが2人......?まさかクローンでも」

『いくら束さんでもそこらへんの倫理はわきまえてるよっ。まあ作れるけどねーん』

『せっかくはるばる並行世界にまで会いに来たって言うのに、気づいてくれないなんて妹失格じゃないの箒ちゃん』

「いや、そもそも滅多に家族に会おうともしない姉さんの方が姉失格といいますか」

『ゴッフゥ!?』

『自爆!まさかのブーメランが刺さっちゃったの、阿呆らしー平行世界の私、ぷぷぷ。

そんなことより、本題に入りまーすっ!』

 

 心に深刻な傷を負って倒れた束を放置して、もう1人の束が話し始めた。しかし視線は箒たちではなく、どこか別のところをあっちこっち見ているように定まらない。

 

『箒ちゃんの紅椿なんだけど、実際はいくつかリミッターが仕掛けてあるの。

 安全機構というか、展開装甲も絢爛舞踏もいかんせん不安定でね、フル出力で動かしたら壊れちゃうかもしれなかったから。でもでもリミッターかけた状態でも最高のISなのは保証するよっ。なにせ私の作品だしね』

『私の作品だ。勝手にパクらないでくれるかな』

『ごめんごめーん、私だったらこんな未完成品渡さないか、いやーうっかり!』

 

場所変わるねーん、と言い残して画面からフェードアウトしていく束。残ったのは復活したらしいしかめっ面をした方の束、そのまま画面中央に位置取って、先程と同じようにせわしなく視線を向け始める。

 

 

『ちっ、後で締める。

ともかく、紅椿は不安定な未完成品、今2人がかりで調整と改良、それをひっくるめてアップデートをしてる。本当だったらこんな状態で渡して箒ちゃんを危険に晒すような事はしなかった。本当だったら、ね』

「つまり、何か原因があったと言うことですか」

『その通りだよピンク髪。

 どいつもこいつも箒ちゃんの周りに纏わり付いたゴミのせいで』

 

言っているだけで怒りが湧いてきたのか、そのイライラをキーボードにぶつけ出す束。もちろん画面の外での出来事なので成政たちには分からない。

 

『あんの野郎経歴は黒塗りだらけだしやたら外国行ってるせいで調べる範囲も多いしアナログ情報ばかりで現地に行く羽目にもなるし、おまけにイギリスでは頭のイカれたマジシャンと戦う羽目にはなるし、散々だったんだよああ今思い出しただけでもイライラしてきた!馬鹿!ファック!○×#$€□%=£......』

 

 そんな悪態をつきながらも仕事を止めることはしないあたり一流なのだが、その女性らしからぬ様々な言語での悪態の数々が台無しにしているのを本人だけが知らない。

 

『あの子の了承も得て仕掛けたウイルスも時限式で融通は効かないし、時間もないから途中で切り上げたけど、紅椿の調整には遅すぎた、。10徹して間に合わなかったのはアレが初めてだよ。

 それでそのまま7月7日のXデイ。そのあとの顛末は知っての通り、無事にいっくんの白式もセカンドシフト、紅椿も実戦データはバッチリ確保して、華々しいデビューを飾った訳。

 

私の完璧な計画では、こうなるはずだった。だけど計画は狂いに狂った。

 いっくんと箒ちゃんは死にかけるわ、あの子はなんでかセカンドシフトするわ、他の国の代表候補は出張ってくるわ。華々しい箒ちゃんデビュー作戦はこれにして失敗となった訳。

 その原因はたった1つ。邪魔なイレギュラーが全部元凶。小石程度の凡人が、私を崩して壊した。それがお前だよ、石狩成政』

 

 

腕を組んで聞き入っていた3人、少し間をおいて成政が顔を上げ、指を鳴らした。

 

「ところでお腹空かない?そろそろ12時だよね」

『知るか!』

「というか話が長い、途中から飽きた」

『聞けよ!天災が話してんだぞ興味持てよ、というかさっきのはなんだ、マッハで生身で移動するなんて正気ですか、シールド張るのが遅れてたら2人とも摩擦熱でこんがり焼けたミンチになってたんだよ!』

「よし、ハンバーグにしよう」

『 聞 け よ !』

「まあ冗談です、ちゃんと1から8位までは聞いてますが全部は無理です、長いので」

 

 冗談を適度に織り交ぜつつ事の要旨はしっかり捉える、成政も調子が戻ってきたらしくいつものような話し方になっていた。それは相手が天災であろうと変わりはない。

 

「要するにあかつばき?って言う箒ちゃんのISは使用不能、と言うこと」

『暫くはね。オンラインだけでの作業だから30分もかかるけど、そこは仕方ないから文句言うな』

「だったら僕のISは使えませんか?他からエネルギーを受け取るとかすれば動かせるって授業で習いましたし」

『エネルギーバイパス?紅椿ならそれくらいお茶の子さいさいへのかっぱ、アップデートの済んだリソースでできる。多分5分もかからないしね。ま、紅椿が起動するまでの繋ぎにはちょうどいいかな』

 

ちょいちょいーっと、と鼻歌を歌いながら文字通り片手間にエネルギーバイパスのための作業を並行して行う束だったが、

 

『へわ、ちょ、ちょっと待った!』

 

 素人目から見ても明らかに緊急事態、が起きた。レッドアラートらしく警告音と、顔に反射している赤い光。元々の作業を放り出して慌ただしく手を動かす束に、これまた慌てた声で突っ込む束。

 

『どーなってんの?!アップデートが中断されたんだけど、何かした?!』

『わかんない、ただ打鉄1機を繋いだ程度でこんなにエネルギーが奪われるはずないのに。このままじゃ紅椿まで動かなくなっちゃう、えと、ええと』

「打鉄パワーダウンで装甲消えちゃいましたし、そのせいじゃないですかね?」

『そんなはずない、ありえない、その程度紅椿だったら10秒もかからないはずなのに。

こんなのISを1から作るレベルのエネルギー量に匹敵するレベル......』

『ああもうこういう時に波動エンジンがあったら万事解決オールオッケーで楽なのになーって、作業の手止めないでよっ!』

『ああもう考え事してるんだから黙ってよ!』

 

画面の向こうはてんやわんやなのだが、状況をさっぱり飲み込めない画面の外の傍観者3人。

 

「何が起きてるんでしょうか?」

「何かが起きたのはわかる、何かあるんでしょ」

「いや、その何かを知りたいんだと思いますが」

『ISを1から、いやでも、ISを作るようなプログラムはできないようにしてあるはず。

 だったらエネルギー切れ?いやある程度来ればセーフティがかかるはずだし、何よりそこまで消費するような事態はセカンドシフトでもありえないはず、ああもうもう少しなのに、なんだ、何が足りないの?!』

 

正解にたどり着きそうでたどり着けない、そのもどかしさにイライラと頭をかきむしる。

 それでも片手で作業を続け、目は言葉と数字の羅列を追いかけ続ける。

 

「時間もかかるようですし、ここでは危険でしょう。とりあえず乗ってください。IS学園であれば安全と呼びかけをしていました。恐らく避難先に指定されているのでしょう。ならば、そこへ向かうべきでしょう」

「えっと、また自転車で、です、か?」

「そこの車のキーの持ち合わせはあるのなら、そちらにしますが」

「瓦礫で道がふさがれてるかもしれないじゃないかな、だったら歩く、歩いた方が確実だろう!」

「箒ちゃん、こっから学園まで10キロはあるけどどうするの」

「ぬぐぐ......」

「文句言ってないで乗った乗った。

 僕はまだ死にたくないし、箒ちゃんは死にたい訳?」

「そんなはずはない、せっかく先輩に会えたのにくたばるなんてもってのほかだ!」

「じゃー乗ろっか」

「......はい、わかりました」

 

先程のことがよっぽどトラウマなのか、明らかに肩を落とす箒。

 それを元気付けようと、成政は肩に手を置いて自分なりに励まそうと言葉をかけた。

 

「ほら、遺跡の隣の採掘現場で行き先のわからない真っ暗な穴の底行きのトロッコよりマシだから!」

「先輩はどこで何をしてるんですか?!」

「考古学だよ......多分」

「多分てなんなんですか!」




なぜか束さんのCVを小林ゆうさんにするとあら不思議、某ツチノコに。
わざとじゃないんです、なんか混ざったんですご容赦ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第41話

気がつけばそろそろ一ヶ月に......長らくお待たせいたしました。
もうちょい、もうちょいで終わりますんで!


 

 

 

自転車に乗り、夏の暑さと風が肌を撫でる気持ち良さを感じながら、成政はこれまでの事を振り返っていた。

 

「35億分の2を引き当て、入った学校ではうっかりすれば死んだかもな事数回、しかもそのうち一回はガチ目に瀕死になった挙句、その拍子に並行世界に来たとかどういう小説よ」

「その前に聖杯戦争に首突っ込んだのもカウントすると......」

「いやその前に飛行機墜落事故にも巻き込まれてるし、もっとあるな」

「なんの話です?」

「いや、人生楽しいなあって話」

「そうですか」

 

特に自分語りが趣味でもないので、話を切り上げる。もし今まで遭遇してきた数々のイベントのあれこれを彼に語らせるならば、時間が圧倒的に足りない。その上世間一般とは程遠い価値観の中で育ったので、覚えていない日常と切り捨てる事すら常識はずれだったりする。もし伝記でも書こうものなら長編スペクタクルの完成間違いなしだ。

なのでこんな非常時にのほほんと出来ているわけである。成政にとってはこの程度、交通事故を目撃した程度に過ぎないのだ。詰まる所結構珍しいのだが、そこまで凄いとは思っていない。

 

『おい間抜けバッカジャーマネ!』

「わひゃいっ!?」

 

だが、他人から見れば話は別である。

唐突に脳内に響き渡る慎二の怒鳴り声、反射的に顔を背けるが効果はなく、それをみた箒は首をかしげる。

だがその脳内音声、こと魔術を利用した念話と呼ばれるものは口を開かずとも会話ができる便利な仕組み、外に声も漏れることはなく、逃げ場のない罵倒が成政を襲う。

 

『あんだけ無茶するとか馬鹿じゃねえの馬鹿だよね馬鹿だったな!

正義の味方を気取るのはアイツと赤いのだけで十分だろうが、心配させやがって!』

「なはは、それに関してはなんとも」

『ともかく、繋がったってことはライダーがそこにいるんだな?』

「今乗せてもらって、学園に向かってる所」

『そいつは重畳、僕らと簪、あとイギリスのは衛宮と救助活動中だ、こっちはこっちで忙しいから切る。覚悟してけよ』

 

一方的にがなりたてて念話を切ってしまった慎二。自分勝手だが自分を心配してくれているのは伝わった。そして一緒に来ていたらしい皆のことも聞き、そういえば結構会ってないなぁ、と他ごとすら考え始めていた。

 

(そうでもしないとこの後のことなんて怖くて考えたくもないし......)

 

「っと、ここ左だねライダーさん」

「分かりました」

 

意識を現実に戻せば、それなりのスピードでドリフト気味に無人の交差点を曲がる自転車の上だ。確かここを曲がればあとは直線まっしぐら、というところで前方にわらわらとした何かを見つけた。

 

「なんだろう、瓦礫......では、無いようですね。人でしょうか」

「こんな都会に馬に乗る人?冗談キツくないですか?」

「いえ、見る限り人ではないよう、ですね。

オートマタ?慎二の言葉を借りるならロボット、でしょうか」

「でかいロボットがあるくらいだし、自衛隊の救助ロボとかじゃないかなぁ。ちょうど学園に人が避難してるらしいし、医療品とか食料とか届けに来たのかも」

「その割には、トラックもないようですし、その線は薄いのでは?」

「とりあえず近づくだけ近づいて見てはどうでしょうか、ライダー、さん?」

「ライダーで結構です、シノノノ」

 

箒の提案に乗り、近づいて見る事とした。

前方集団もそれなりの速さでIS学園に近づいているが、神話の英霊の操る自転車にとってはその程度どうということもなく、距離を詰めていくことしばらく。人の顔が判別できる程度まで近づいたところで、ゴテゴテと装飾された車だかサソリ擬きだか表現し難いナニカの上に立つ、指揮官らしい一際大きな声が聞こえた。

 

「フフフ、いいぞ、機械獣による陽動作戦はうまくいったようだな」

「向こうの機械獣がやられるのは惜しいが、それも作戦成功となればその犠牲も安いもの。本命は寧ろこちらよ!」

「フフフハハハッ!」

「ほほほほ、あはははは!」

 

男性の声と女性の声が交互に喋るという奇妙な話し方、しかも声真似のレベルなどでもなく、明らかに別人が同じ体に入っているというような感覚。

 

「ねえ箒ちゃん、ライダーさん、今の人の声聞いた?

 一人の人間から男と女の声が順番にしてたんだけど気のせいだと思う?」

「聞いたというか、聞こえてしまいましたね。

 英霊にも多重人格者はいるにはいますが、ここまで変わりはしませんでしたよ」

「ええ、聞こえましたよ私にも。

 また何か可笑しな人物なのでしょうか?」

『今度は何? こんな時にまた想定外の奴?』

『あちゃー、こりゃたぶんあいつだろうねえ』

「ちなみにどちら様で?」

『説明しようにもどうしたらいいものか。それに気づかれたみたいだし、この際見た方が早いよ』

 

どこからかモニタリングしていたらしい、この世界であろう束が渋い顔を見せるのと、集団の1人が気付くのはほぼ同時。

 

「あしゅら様、あそこに何やら人が......」

「何? どれ、どいつだ我々の後ろにいるとかいうバカはって、自転車ァ!?

 なぁぜ、こんな所で自転車が走っているのだァ!?

 そもそもこんな道路を自転車で走るなど、どういう事なのだ!」

 

軍団の1人の報告を受け、フードを被った指揮官が、後ろにいる成政達を見るなり男女両方の声で驚きの声を上げた。

しかもその指揮官の顔を成政達は見てしまったが、その顔も問題だった。

なぜならその顔は......右半身が肌の白い女の顔、左半身が浅黒い肌の男の顔。

しかもそれどころか、体さえも左右それぞれ男と女で合体しているという、衝撃的な見た目の人物だったのだ。

 

「すまん、最近寝不足だったから幻覚だと思うんだ」

「私にも見えているので残念ながら現実です、イシカリ」

『ゲェェェーーッ!なにあれ気持ち悪っ!』

「なんだあの面妖な......名状しがたき......」

『這いよる混沌ニャルラトホテプ?』

「何かは知りませんが絶対に違います。こんな時にふざけないでください」

 『男と女の体が左右の半身ずつくっついてて......興味はあるけど、どんなビックリ人間さ』

『まあ解説すると、アレはあしゅら男爵、多分今回の黒幕じゃない?』

「男爵だから一応男って見解でオーケー?」

『さあ、性別あしゅら男爵、みたいな感じだし』

 

束の曖昧な答えに首をかしげていると、先ほど言われた事を思い出した成政。大きく息を吸い込むと、

 

「つーかあんたら自転車が道路走るなとかうんたかんたら言ってたけどさあ。

日本の法律だと車両で括られて同じジャンルわけされてるから道路を走っても無問題なんですが!むしろ馬を走らせるのに自治体に許可を取らないそちらの方が問題だと思うんですけどー!」

「全くもって今関係ない事ですよねそれ」

 

どうでもいいことにツッコミを入れだし、一周回って平静に戻った箒がツッコミを入れるいつもの光景。

成政に馬術の嗜みはないとはいえ、一時期某農業ラブコメ漫画にハマっていた時に調べていたのだ......役に立たないことかと思いきや、意外なところで役に立つ事もある。

「ん?よく見ればき、貴様は篠ノ之箒!

 どういう事だ、ゲッターは向こうにいるはずだぞ、何故そのパイロットのはずの貴様がここにいる!」

「わっ、私か?!」

『ゲッターの箒ちゃんか、たぶんあっちで戦っているこの世界の方の箒ちゃんの事だろうねえ、まあ並行世界なんて信じるのも無理な話だよね』

「あっちの箒ちゃんも可愛かったよー、まあ見慣れてる方が安心感はあるけど」

「あ、ありがとうございます......」

『それ褒めてんの?それとも貶してる?』

 

カラクリがわかれば簡単な話なのだが、どうやら敵方にこの情報は届いていない様子。

「もしや我々の目を欺く為に、あっちのは囮か?それに見慣れぬ連中といるがこやつらは一体......ええい、叩きのめしてしまえば済むことよ!

第3小隊は反転、奴らを血祭りに上げよ!」

「うおおぉぉーーっ!」

「ではそっちは任せたぞ、私は作戦を指揮を執る為に本隊を率いねばならないからな」

 

ぶつぶつ呟いていたかと思えば、まどろっこしくなったか、部下に指示を出し、自分は車内に戻った男爵。

だが成政たちにそんな事を気にする暇はなく、最後尾から反転してきた馬のようなものにまたがった敵をさばかねばならない。

 

「あっちは剣に銃、こっちはなーんにもなし」

「姉さん赤椿は、まだ時間がかかるのか!」

『進めてるけど5分はかかっちゃう、どうにかするけど期待はしないでね!』

「流石に飛び越えるのは......難しいですか」

「かといってUターンもダメだしね。たかが自転車、スピードを落とせば......って危なっ!」

流れ弾がアスファルトに跳ね返り顔を掠める。

なんとか距離を保ち、弾幕を躱すライダーだが、そろそろ自転車の耐久力も限界。

 

「このままでは、不味いですか......」

 

自分はこの程度で傷がつくことはないが、箒と成政は人間、この速度で地面に叩きつけられればどうなるかは自明の理。

「仕方ない......では」

 

市街地では発生する余波で使えない、ライダーの奥の手。使用は躊躇われるが、この状況を打破するにはこれしかない。と己の武装である杭剣を顕現させ、構えたところで、

 

「おや、この音は......?」

 

背後から急速に接近するエンジン音に気がつくとほぼ同時、その乗り手の気配を察知し手を降ろす。

長い黒髪で赤いレーサー服を着た女性が乗った一台のバイク高速で接近、成政たちの自転車に横付けする形で速度を落とし並走する。

 

「こんな時に? 一般人だとすれば危険じゃ」

「そこのライダーさん!危ないから下がった方が!」

「いえ、心配はいらないでしょう」

「えっ?」

「しかし!」

「......彼女、恐らくかなりのやり手です」

「うおおぉー! 邪魔が来ても構わん、やってしまえぇー!」

「おおぉーーっ!」

 

邪魔者など関係ないと6人の鉄仮面が距離を詰めて、掲げる剣を煌めかせて襲い掛かって来る、そんな時だった。

 

「ごふぁっ!」

「うげげっ!」

「ぐへっ!?」

「あーらごめん遊ばせ」

 

その黒髪のバイクレーサーが急加速、バイクごと突撃し、あろう事か鉄仮面を被ったような敵を顔面から前輪で蹴っとばした。

しかもそれでドミノ倒しの要領で後に続く2人の鉄仮面にも被害を被らせた。

 

「成る程、ああすればよかったのですか」

「その手があったか。全然思いつかなかったなー、盲点だったわ」

「感心するところですかココ?」

「これだから人様の戦いを見るのはやめられないのよ、面白いなぁ」

「は、はぁ......」

 

1人だけこの場の空気について行けない箒はさておき、突然の乱入者に驚き声を上げる鉄仮面達。

 

「おのれ......何者だ貴様は!もう容赦せんぞお!」

「あら、容赦はしないって言うのなら最初からじゃなくって?

 まあいいわ、こういう時は名乗るのが礼儀、名乗らせてもらおうかしら。

平行世界から来たっていう恋する少年と少女を送り届ける為にも、ここはかっこ付けたいしね」

 

鉄仮面の問いに対し、バイクに乗った謎の女性はヘルメットを外し、金色の髪を風になびかせながら振り返る。

「......甲児君から容態聞いたのより、結構マシになってるじゃない、安心したわ、成政君」

「知り合いですか、イシカリ?」

「いや、面識はないんだけど......」

 

覚えのない女性から名指しされ、困惑する成政。まあ当然よね、と女性は前置きして話を続ける。

 

「IS学園の臨海学校の時に衰弱した君が発見されてね。君の命を助けるために甲児君達だけじゃなくて私も協力したの。たまたまその場に居合わせたのもあるけどね。

 だから正確には無関係で初対面って訳じゃないのよ。けど、あの時意識なかった君からしたら初対面と変わりはないわね」

「そっか、それはありがとうございます」

「ていうか先輩、この人にも助けられてたんですか?それにさっきから甲児さんから聞いたとか言ってますが、あなたはあの兜甲児とかいう人の知り合いで?」

若干頰を緩ませる成政にジト目を向ける箒だが、即座に意識を切り替え、謎の女バイクレーサーに向き直る。

 

「ええ、そうよ。私は甲児君達とは共に戦う仲間であり戦友。

一応、如月ハニー、って名前はあるけど、今はこちらの名前で名乗らせてもらおうかしら」

 

もったいぶるように間を開けて、跨っていたバイクから降りるその女性。

瞬間、彼女の纏っていた雰囲気が一変する。

 

「ある時は探偵の助手。

 ある時は華麗なるバイクレーサー。

 そしてまたある時は、異世界から来た平和と秩序を守る戦士。しかしてその実態は!」

 

首元のチョーカー、そのハートの意匠がが施された部分の触れた瞬間、あたりがまばゆい光につつまれる。

 

「ハニー・フラァッシュ!」

「うわ眩しっ!?」

 

閃光が晴れる頃にそこに立っていたのは、赤いショートヘアーに赤と黒のコントラストがセクシーな戦闘コスチュームを纏ったハニー。

同じく現れた細剣・シルバーフルーレを右手に握り締め、穂先を相手に突きつける。

 

「あ、あなたは一体......」

「天に星を、地に花を、人に愛を! 愛の戦士、キューティーハニー!

 あなたの人生、変わるわよ」

 

成政の質問に答える様に決め台詞を決めた後、ハニーは鉄仮面達を睨みつける。

「恋する少年少女のため、ここを通してもらおうかしら、鉄仮面!」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第42話

ふりがなってどうやってつけるんだべさ......


追記、できましたありがとうございやす


 

『キューティーハニー......普段は如月ハニーという長い金髪に赤いカチューシャの女性だけど、その正体は如月博士が死んだ娘のDNAを元に作られた生体アンドロイド。

正確にはサイボーグなんだけど、彼女は博士が開発した空中元素固定装置によってイメージ通りに様々な変身が可能な、通称・アイシステムによって悪と戦う正義のダイナミックヒロインなんだよ!』

「な、なんだってーっ!」

『まあ私も風の噂で聞いた話だし、アイシステムも見るの初めてなんだけどね』

「そうなんかーい」

『「あははははははは!」』

「姉さんと先輩ノリノリですね......」

「ほんの一ヶ月前まで死にかけてたなんて想像できないでしょ?男の子は凄いわね」

 

事情を知る束のなんか一昔前のナレーションっぽい説明をうけ、これまたそれに合わせて大げさに驚く成政。ツッコミ疲れた箒のおざなりな対応に対して、大人の女性らしく丁寧に対応して見せるハニー。

残り2人はというと、

 

『な…なんじゃありゃああああ!まるで漫画に出るような変身ヒロインじゃないか、アニメじゃ無いんだからさ!

ってなんでそこの女は反応が薄いのさ!』

「いや、英霊にも似たようなの居ますし......」

 

天災の束すらこの驚き様なのに反応の薄いライダー。ライダーの様な英霊にとっては、何もないところから武装を呼び出したりするのは基本常識、そこまでの事でもないのだ。

「こっちの方が数は多いんだ、囲んで袋叩きにしてしまえっ!」

「「「おーっ!」」」

「なんか増えてるっ?!」

「数だけの雑魚よ、問題ないわ」

 

何故か増えた鉄仮面に対し、ウインクすらしてみせるほどの余裕をみせるハニー。そのまま細剣を構え、敵の大集団の中に飛び込んでいく。

「はあああああっ!」

「ぐあっ!」

「こんのぉ!」

「甘いわ!」

 

敵中ど真ん中、そこでダンスでも踊る様に激しく、華麗に細剣シルバーフルーレを振るう。

その目にも留まらぬ太刀筋、切っ先の迷いのなさ。そして敵中で不敵に笑いながらも、その眼差しは真剣に、相手一人一人を見つめている。

箒はそのハニーの姿に見入り、なぜか自分に足りないものはなんだろう、と考え始めていた。

IS......絶対的な強さを持つ、最強の鎧。それを着ていれば、傷つかず、何をしても相手を傷つけない。

剣道だってそれは同じだ。竹製の竹刀に、堅牢な防具。打ち込んでも痛いだけで、目に見えるような傷は負わない、できて青アザ程度。

それは裏を返せば、相手をどの様にしてもいいという免罪符と同じ。無意識のうちに箒はそれを理解し、故に迷うことはなく、剣を振るうことができていた、今までは。

 

しかし箒は今、迷っている。

私は、剣を振るっても良いのだろうか。

私に、その理由はあるのだろうか。

私に......篠ノ之箒は、剣を振るうに値する人物なのだろうか。

我武者羅に剣を振るっても、答は出ないままで、無様に命を散らす所だった。

 

「私は......私は......何者だ?」

「さあね、さっぱりわからない。それが面白いんじゃないの?」

 

振り返れば、不敵に成政が笑っていた。

 

「わからないこと、知らないこと、不思議に思うもの。世の中にはそんなものがたくさんある。それこそ、世界中を旅して歩いて飛んで放浪して......何をしてもしたりない程、溢れてる。でも、一番近くにあるのは自分さ。自分が一番自分で理解できない。だからそれがいい」

「先輩は、わからないんですか?あんなにマネージャーで頑張っているのに。自分のやりたいこととか、居場所があるじゃないですか」

「アレは楽しいからやってるだけ。生きる意味なんてさっぱり分かってないよ。

だから、面白いんじゃない!......とまあ、親の受け売りなんだけどね」

「......なんか、最後の一言で台無しです」

「辛辣っ!?」

 

しんみりとした雰囲気だったはずなのに、箒にガチの真顔で返されて落胆する成政。

「まあとりあえずそんな事よりさ、

 

......戦場怖いから早く安全な所行きたい」

「通常運転で安心しました」

 

いくら常識がフライアウェイしていようと根は小心者、怖いもんは怖いのである。

ギャグ漫画よろしく大げさにガクガクと震えて見せる成政の姿に、思わず笑みが溢れる。

「さあ、IS学園に帰りましょう、先輩!」

「ああ、そうだね箒ちゃん!」

 

「若いって、ほんと良いわよねぇ」

『ほんとほんと、面白いアイデアが浮かぶのは子供のうちだけだからねえ。ISだって考えたの小学生の時だし』

「わ、若い......私だってまだ若いんですっ!」

『お前が張り合ってどうするのさ、この場に限っちゃ明らかに年m』

「殺しますよ?」

『スミマセンナンデモアリマセン』

 

そんな青春を遠い目で眺める大人一同だった。

 

 

 

時は少しだけ遡る。IS学園、その正門前。

成政たちが目指すそこではあしゅらと鉄仮面軍団や、増援の機械獣が防衛部隊と戦っていた。

 

「ああもう、台所のあいつみたいでキリがない!」

「この兵士達は元は死んだ人間と聞いた。クラリッサの言っていたゾンビという奴だな。

 やりづらさはあるが、ここで止める!」

「野郎オブクラッシャー!」

「マヒロちゃん生き生きしてるね、なんかさっきまで沈んでたのに」

「ロボ見たら元気出た。多分成政も生きてるだろうしいいかなって!」

「素晴らしく単純だな」

「いやそれほどでもー」

「褒めてないと思うよそれ、っと!」

 

 

シャルロットが渡されたロケットランチャー、説明によれば甲児が作ったらしい、の引き金を引く。マヒロもそれに倣って、同じくロケットランチャーをブッ放す。

すると弾頭から大きめのネットが出て鉄仮面達に被さって絡まり、身動きが取れなくなる。

そこへ相方のラウラが同じく渡されたマシンガンで蜂の巣にし、断末魔の叫びをあげて倒れ伏す鉄仮面たち。

 

 

「今更だけど、あんまりいい気分しないね......人を、撃つなんて。吐きそう」

「同感だ。訓練されたとはいえ、生身の人間を撃つのは初めてだ。いい気なぞしないな」

「だったら下がる?シャルちゃんがいなくてもなんとかなるとは思うけど」

 

事前に正当防衛として見なされて罪にはならないだろうと言われてはいるが、人を撃ち殺した恐怖や罪悪感を感じてしまうのも無理はない。

軍人で、人に銃を向ける覚悟があるラウラですら青い顔を隠しきれていないのだ。

「でも、そんな暇はないしね、僕も戦う」

「無理をしなくてもいいんだぞ」

「いや、戦う。成政はここに戻ってくるんだよね、だったら守らなきゃ。

それに、別の世界だって言われても。

ここが僕たちの居場所、そのことに変わりはないよ」

「そうか、なら私も張り切らねばな。マヒロに遅れを取るわけにはいかん。生身のやつに負けていられるか!」

 

その間バリバリバリー、と弾丸をばら撒まくだけで会話に割り込むことはしないマヒロ。

 

「アニメだとこういうのあるけど、こんなふうに裏方が頑張っているんですっ、画面の外のことも忘れないでくださいな!」

「......お前は一体誰に何を言っているんだ」

「いや、日頃思っていることを少し。こうでもしないとやってられないしね」

「その通りだ、なっ?!」

 

突然弾幕が強くなり、物陰に隠れる事を余儀なくされる2人。

 

「怯むなーっ、撃て撃て!こちらの方が多いのだ、押し切れーっ!」

「「「うぉぉぉぉおっ!!!」」」

 

その隙を見て声を荒げるあしゅら男爵。

先生や有志の生徒で構成された防衛戦、夏休みということもあり、そこまで人数が多いわけでもない。

しかも、通常兵器と侮るなかれ。相手の手持ちマシンガンですら、ISのシールドを削ってダメージを与えられる。もはや通常兵器でISは倒せない、という常識は遥か彼方だ。

「このままでは、長くは持たないぞ......シャルロット危ない!」

「えっ......しまった!」

 

「隙ありだ、くらえ!」

 

機械獣と鉄仮面部隊が一斉に放つ破壊光線と特殊振動弾、ISの絶対防御を容易く発動させる衝撃波が襲いかかる。

生身のシャルロットが耐えられるはずもない。

 

「......ごめん、母さん」

 

立ち尽くしたままその場にへたり込んで、動かないシャルロット。

思わず漏れた言葉は、天国にいる母への言葉だった。

このままでは間に合わない、と自分の身を盾にして守ろうとするラウラに噛り付いてまで止めようとするマヒロの姿が、視界の端に映る。

 

 

 

 

だが、彼女は幸運だった。

 

「 “I am the bone of my sword “」

 

そこに、正義の味方がいたのだから。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 

 

「......え?」

「全く、こんな年端のいかぬ少女に命をかけさせるとはな、気に入らん」

 

いつのまにか、目の前に人が立っていた。

風にたなびく赤い衣に、前に差し出された腕の先には、桃色の花弁が傷一つなくそこにある。

 

「怪我はないかね?」

「あっ......はい」

 

精悍な青年が差し伸べた手を素直に取り立ち上がる。青年はシャルロットに怪我がない事を確認し、安心したように頷く。

 

「ならばよかった。応援もきたようだし、私は他を回らねはならないので失礼するよ」

「あのっ、お名前は!」

「名前かね、名乗るような名前もない。

ただ、名乗るとすれば......」

「アーーーーーーーチャアアアアアアア!!!

また女口説いてんの?!」

「マスター、いや、これは違っごふっ!?」

「屋上から人?!ってリンさん?」

 

キザに決めようとした青年の上に飛び蹴り、倒れた上に追い打ちにそのままげしげしと足蹴りをする始末。これにはこの場にいた全員の顔がひきつる。

「あら、ごめんなさいね、おほほほほ......」

 

全員の注目に気がつき、居心地が悪くなったかアーチャーと呼ばれた青年を連れてそそくさと帰っていく凛。

 

「......ナニモナカッタ、イイネ?」

「あっ......うん」

「そう、だな、そういう事にすべきだろう」

「もう1人の僕大丈夫?って何この微妙な空気」

「おい、デュエルしろよ」

「ごめんちょっとわかんないかな」

 

偶然なのか狙っているのか、某決闘するカードゲームアニメの台詞を口走るもう1人のシャルロット。それに真っ先に食いついたマヒロがやんわりと否定されたところで、場が動く。

 

「さて、もう一人の僕やラウラを痛めつけてくれたんだ、それ相応のお返しをしないと......ねえっ!」

 

その途端、もう1人のシャルロットはラファールの両手にマシンガンやアサルトライフルを展開、一斉に弾を撃ちまくる!

鉄仮面達の断末魔の悲鳴などが聞こえるが、彼女は気にせず攻撃の手を緩めない。

数を大分減らしたところで締めとばかりに、エネルギー式のバズーカを右手にコールしてそのケーブルを自分のラファールに繋ぐ。

 

「ダウンサイジングの問題もあったけど、取り回しの良さとかも含めてこの形になった、超高熱ビームバズーカ......目標をセンターに入れて......当たれぇぇーーっ!」

 

チャージが完了し、鉄仮面の集団と機械獣に向けて放たれたその光の奔流は、鉄仮面達も3体の機械獣も纏めて一気に焼き尽くした。

 

「ふう、スッキリした」

「いやスッキリってもんなのこれ?!」

「それでいいんじゃなーいの?」

「細かいことは考えたらきりが無いよ、もう1人の僕」

「えええ......」

「シャルロット、クラリッサからこのような言葉を聞いたことがある。

 

......考えるな、感じろ」

「おのれ、だがまだまだ。残存部隊、よーい!」

 

それでも撃ち漏らしは多く、あしゅら男爵の号令で体勢を建て直して再び仕掛けようとする。が、

 

約束されし勝利の剣(エクス、カリバー)っっっっっっっ!!」

 

またしても閃光一閃。先ほどとは段違いの光が敵を消し飛ばす。そのまま叩きつけられた光は天に昇り、雲を切り裂き空を照らす。

「......あ、成る程」

 

シャルロットは、深く考えるのをやめた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第43話

あと2、3話ってトコですかねー。
年明けまでは......ダメみたいですね。冬休み中には終わるとイイナー。


 

 

「これで形成逆転だよ、あしゅら男爵!」

 

ドヤ顔でそう言い放ち、銃口を突きつけるシャルロット。だがあしゅら男爵は往生際が悪かった。

 

「おのれ、だが、まだ終わった訳ではない!

 いでよ機械獣、そして戦闘獣ビラニアスにオベリウスよ! IS学園を破壊するのだあ!」

 

杖を振りかざし、残りの機械獣を操るあしゅら男爵。

しかもそれだけではなく、海と空から機械獣と似て異なるもの......戦闘サイボーグ、戦闘獣が彼方から現れたのだ。

 

「なんか出たーっ!?」

「ミケーネの戦闘獣まで......不味いね」

「こここここの程度想定の範囲内だよっ!?」

「説得力皆無だなマヒロ」

「頭から煙出てるよ......無理もないけど」

「......一夏たちも、ここに着くまで時間がかかるそうだ。2、3分は、我々で凌がねば。

このレーゲンでどこまで凌げるのやら、ワイヤーも空、弾も少なく、エネルギーも僅か」

「ごめん、ビームバズーカが想定以上にエネルギー取っちゃって。弾なら幾らでもあるけど」

「ないよりはましか」

 

うろたえ出す一同を見て、形勢逆転、と高らかに笑う男爵。

 

「ほほほ、ISより少し大きい位のサイズになってはいるが、機械獣よりも性能は上なのは変わらんのだぞ!」

「わはは、そういう事だ!」

「しゃ、しゃべった?!」

「それにあそこに…人間の頭脳がある?戦闘獣とやらは、人間の頭脳を持っていて......厄介だな」

 

あくまで冷静に分析を重ねるラウラ。

ロボットであれば勝ち目はあったかもしれないが、柔軟な思考を持つ人間ともなれば、話は別だ。

 

「ふふふ…どうだ、これでも形勢逆転などと言えるのかね?」

「いいや、ここから形勢逆転だ!」

 

どこからともなく響く、凛とした声。

ふと空を見上げたマヒロの目に、ありえない光景が飛び込んできた。

 

「......これは、雪?」

 

手を翳せば、光の欠けら、としか言いようのないものが手に降り積もる。夏真っ盛り、雪が降るのはとても奇妙な事だ。

なんでだろう、と首をかしげるマヒロの疑問を解いたのは、赤い彗星。

 

「......私はもう、迷わない!

この剣は、私が捧げるあの人のために。行くぞ、赤椿。

 

絢爛舞踏、発動っ!」

 

迷いを振り切った赤い流星。

真の姿を見せる赤椿、篠ノ之箒の、登場だ。

「みんな、受け取れっ!」

「エネルギーが、回復する......?!」

「これなら、まだ戦える!」

 

 

 

『これが赤椿の真骨頂。ワンオフアビリティ、絢爛舞踏の正しい使い方さ。

無限に等しいエネルギー生成能力、それを周りに配る補給能力。

本当だったら馬鹿みたいに燃費の悪い白式の対になるように作ったんだけどなぁ〜』

『どうせ箒ちゃんといっくんをくっつけようと下世話なことが半分でしょうに。

並行世界とはいえ自分の考えることは一緒か』

(妹の心姉は知らず、ですか。姉様方に逢いたいですね......)

「かっこいいぞ箒ちゃーん!」

『君の打鉄の修理も終わったから早く行け!』

「戦うの嫌いなのに」

「今更それを言いますか?投げますよ」

「いや、担いでからそれを言うのは反則だぁぁぁああああああああああああああ!!!」

『哀れ星になったか......』

 

 

 

「撃って撃って撃ちまくれ!」

「弾幕を張るのは得意だよっ!」

 

ガンガンガン、と弾丸の雨あられ。武器庫と同等と言わんばかりのシャルロットの武器の量に、思わず怯む戦闘獣。

「......はぁ、僕のラファールがあればなあ」

「同じく、強羅で吹っ飛ばしたいのに」

 

ぼやくシャルとマヒロは蚊帳の外。IS用の武器は人間が扱える代物でもなく、物陰に隠れる他はないのだ。

 

『おやぁ、なにかお困りで?それなら、蔵王工業におまかせあれ!』

「わわっ!?なになに?」

「こ、この声は......主任!?」

『いやいや、ちょっとお手伝いをね!』

 

ほいーっと、と気の抜けた声で2人の前に降りてきたのは、5m大の人型の鉄の塊。

小脇に大型のコンテナを二つ抱え、さながら宅配業者か何か、と言わんばかりに帽子をかぶっている始末。その帽子に刻まれたエンブレムは......蔵王工業。

愛と正義とロマンを届ける、みんな大好き大艦巨砲主義の変態企業だ。

 

「いやいやいやいやいや、ここ並行世界ですよね!?そうホイホイ来れるもんなの!」

『そこはこう、助っ人がね!』

「助っ人......?」

『まあ守秘義務ってもんもあるし、名前は言えないなぁ!

それはそうとして、お届けものですよっとね!』

「わわ......リヴァイ......ヴ?」

「ヒャッハー強羅だ、とんでもねえ待ってたんだ!」

 

コンテナの中身はシャルとマヒロのIS、はるばる主任がツテをたどって持ってきたのだ。しかし、そこは蔵王工業クオリティ。

海をまたいでの輸送中は暇を持て余す、そして目の前にはメカ、となるとやることは一つだけ。

『ちょーっと改造しすぎちゃったかな?ヤハハハハ!』

「ふええ......なにこれ」

「わーい、新しいオモチャだ!」

 

シャルロットの目の前には、ゴテゴテと装甲と武装を盛りに盛ったリヴァイヴ。見る人が見れば武蔵坊弁慶のよう、とでも言うだろう。

そしてマヒロの強羅というと。

 

「無限軌道とか大型砲とか燃える!」

 

そこにあったのはISではなく戦車。

最近最終章の公開された戦車アニメ、それを見て燃えに燃えた暇人どもの魔改造により戦車と化した強羅だ。光を反射する超大型砲が目に眩しい。

「やってやーるやってやーるやってやーるぞー!いーやなあーいつをぼーっこぼこにぃ!」

「負けていられん......なっ!」

「き、機械獣が一撃で......」

 

蔵王謹製変態クオリティの大型砲、その威力は機械獣の腕を一撃で消しとばすほど。それに対抗心を燃やした箒がもう片方の腕を切り落とす。

「......なんでこんなに武装あるんだろう」

『たくさん積んでれば便利だろう?』

「それはそうですけど......こんなに入らないです」

「シャルロット......その腕太いのは?」

「主任さんが言うにはとっつきだって。何だろう?」

『敵に近づいて引き金を引いて見ろ!そうすりゃ分かる』

「援護するよ、ぶち込んできてよもう1人の僕!」

「うん。やあああっ!」

 

ラウラとシャルロットの援護を受け、機械獣の懐に潜り込んだシャル。そのまま右腕をおおきく振りかぶって、当てると同時に引き金を引く。

 

 

「ところでシャルちゃんのパイルってアレ?」

『5月の試作品の時より威力を強化したアレさ!』

「具体的に言うと、ゴーレム襲撃の時シャッターを吹っ飛ばしたアレ?」

『もうちょいで発売出来るんだけどさ、どうにも先方は不満げでね。そう言う時は威力を倍にするのが蔵王流サ、ハッハー!』

 

 

「......えっ」

「えっ?」

「......なんと」

 

凄まじい衝撃もなく、音もなく。

ただ、現象だけがそこにある。

具体的に言うと、跡形も無く消し飛んだ。

 

「ヒュウ、文字通り消し飛ばすとはねえ」

『まだまだ絶対防御を貫くには足りない、アレの10倍を目指さないとねぇ!』

「さっすが主任、俺たちにできないことを平然とやってのける、そっこに痺れる憧れるゥ!」

『ヤハハハハ!じゃ俺帰るから、後は頑張ってねぇ!』

内情を知る2名を除き、全員が絶句する。

ゲッターでも出来ないようなふざけた威力、それをたかがISと侮っていたそれが叩き出したのだ、とくにあしゅら男爵の驚きようは目を見張るものだったのだが、

 

「ァアアアアアアアアアア!!!」

「鳥だ、いや飛行機だ!」

「いやどう見たって人では......」

「スーパーマンだ!」

「そうなのか!?」

「そんな訳ないでしょっ!」

 

視界を横切って空を飛ぶ人影の方がシャルロットたちにとっては重要だったらしく、無かったこととなった。

空を横切る人影......経緯はさておきライダーの怪力により生身で空を飛ぶ貴重な体験をすることとなった成政の事なのだが、本人的にはそれよりも戦場のど真ん中に放り込まれる方が嫌らしい、そこが成政クオリティ。

「おーーーちーーーるーーー!」

「せ、先輩!?」

一足先にいた箒が気付いた時にはもう遅く、衝突事故間違いなし、となるところだったが、

 

「やばばばばばば、ヘルプ、ヘルプミー箒ちゃーん!!」

「う、受け止めますから落ち着いてください!」

 

箒の反射神経と赤椿の高性能さに助けられ、なんとか無傷ですんだ。ただし、戦場のど真ん中、危険地帯は相変わらずである。

 

「だだだ大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ、問題ない」

「よ、良かったです......」

 

とはいえ機械獣は残り1匹、それに時間的にも街の方で戦っていたゲッターロボや一夏たちも引き返して来る頃、あとは消化試合、と胸をなでおろしたのが悪かったのか、

「なりさんっ、後ろ後ろ!」

「後ろ?」

「何でしょう?」

 

2人が振り返った時には、もう遅く。

 

「......ウソ」

「見事にペロリと」

「どどどどうしよう、早く助けなきゃ!」

「せっかく生きてたのだ、また死なせてはたまったものではない!」

 

むっしゃむっしゃと魚の様な機械獣が口の中の物を噛み砕く、ISと言えど、あの中では無事では済まない筈だ。そう焦ったラウラが飛び立とうとして、

 

「いやー、危ないところだった。あれ、何焦ってんの?もっとリラックスリラックスー」

「......その抱え方は恥ずかしいので降ろしてくださいっ!」

 

なぜか、打鉄装備の成政が箒を抱きかかえて目の前にいた。もちろん担ぐというような無粋な真似はしていない。

音もなく前触れもなく現れた2人に混乱するのも訳はなく。

「なななななんん、なりさん?!」

「真面目に死ぬかと思った」

「いや明らかに喰われてたよね?喰われてたよね!?」

「体内から反撃するのはお約束なのに」

「いやそれは画面の中だけだろう」

 

ここから成政までの距離はざっと直線距離で1km、ハイパーセンサーがあればISだろうと接近を感知できた筈なのに何故か警報も鳴らず、声を出すまで気付かなかった、普通ならばありえない。

だが、その普通ならばありえないがまかり通るこの並行世界、その洗礼にさらされたシャルロットは直ぐに手品のタネに気がついた。

 

「もしかして、テレポーテーション?」

「ご明察、おそらく正解......かな?」

「かな?」

『詳しくはこの天災パーフェクツな何でもありのスーパー科学者たる篠ノ之タバーネが』

『前置きが長い』

『ひっどい!?』

『馬鹿でもわかるように説明するとこのISは3次元に強力な斥力をかけて次元を歪ませているんだよ。その圧力で次元を歪ませ孔を開ける。発生させたエネルギーの反作用でもう一つ穴が開く、それを繋ぐようにトンネルができ、短時間だけど自由にその中を行動できる。その現象の結果が観測者から見れば、地点AからBに過程を省略して移動したように見える。俗に言われる瞬間移動......線じゃ無くて点と点で移動してる様な現象を引き起こしてるわけ』

「なるほどわからん」

「何が何だかさっぱりだ、もっとわかりやすく説明してくれ姉さん」

『こ、れ、だ、か、ら、凡人はーっ!』

『よーするに瞬間移動ができるの、スッゴーイ!』

「わーい、たーのしー!」

「マヒロ、ナニとは言わんがそれ以上はまずい」

 

長ったらしい説明を纏めると、瞬間移動が出来るようになったのだ。ただし、成政の打鉄は訓練機、鈍い灰色が輝く初期仕様のまま。最適化もされてない打鉄が過程をすっ飛ばしてワンオフアビリティを覚えたのか。

 

『それには、深いわけがあるんだ』

 

深刻な顔をした束......成政たちの世界の方の......が口を開く。

 

 

 

 

ほとんど時は同じく、学園から少し離れた海の上にて。

 

『オラオラー!やっちまえー!』

『あの話......気になるのに......』

『後一体吹き飛ばせば、聞ける、さっ!』

羨ましい......と呟く簪を置いて、ゲッターのパンチが残り一体の機械獣を叩きのめしていた。

 

『......言ってはなんだが、今回ばかりは裏方に回っているような気がするな。

問題に首を突っ込まないのは久し振りじゃないか?』

『ん?まあ、言われてみればそうだな』

 

いつも先陣を切って敵に突っ込んでいるゲッターチーム一同、それ故黒幕だったりラスボスだったりと会うことも多くなるのだが、今回ばかりは蚊帳の外。

メタい事を言えば主人公じゃないので、当然のこととも言える。

 

『ぶつくさ言うなよムサシ。

敵を叩きのめす、それだけでいいじゃねえか』

『しかしなぁ、同じ人間が2人だぞ?気にならないわけないだろ』

『並行世界なんて言われても、私には実感が湧かんのでな』

『フリードさんまで......残党は良いのか?』

『ああ、一夏と鈴が出てるし、いざとなればアイツもいる、なんとかなるだろう』

 

甲児の乗るマジンガーを筆頭に、ゲッターチームのゲッターロボ、そしてデュークの乗るグレンダイザー。

単騎で100倍の戦力が相手だろうと勝てるような彼らにすれば、正直な話、機械獣一匹相手には過剰戦力以外の何物でもない。

 

「あの、慈悲とか......」

「「「無い(な)」」」

それが鉄屑になるまで、数分とかからなかったとか。

 

 

 

「こっち、こっちですわ!」

「メディーック......なんちゃって」

「ふざけてないで手伝ってくださいまし!」

「僕に力仕事とか......ヌググ」

「つべこべいってないで働いてくださいな!」

「おい、こっちだ!」

 

一方その頃、誰からも存在を忘れかけられていた慎二に簪、そしてセシリア。

彼らは現在、自衛隊員に混じって救助活動を頑張っているのであった。

「あーもう出番がなさすぎるのですわー!」

 

セシリアの心の叫びが届いたかどうかは、神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第44話

はい、新年明けましておめでとうございます。
2018年も頑張ってまいりましょう!


 

 

 

 

『まあ、私は天災な訳なんだけど、人の感情というのはどうにも理解できなくてね。

でも凡人を観察するのは至極つまらない......。

その時、手元にあったのがISだったんだ』

 

束の話は、自分語りから始まった。

話を聞いている成政たちは知らないのだが、こっそりと回線を開いている並行世界のシャルロットのお陰で全員に声が届いている。

 

『幸い8割型完成していたはいいけど、空いたリソースの有効活用法が見つからなくてね。

ちょうどいいや、って自己進化プログラムをパパッと作ってポイーっと放り込んだのさ。

この子たちは人間と触れ合い、多くを学ぶ。だったら、それを観察すれば感情が理解できると思ったんだ』

「......つまり、自己進化する機械、という事か?」

『大正解だよ銀髪の、といっても機械なんて凡人の作る屑鉄と比較されちゃ困るねえ。

束さんが作ったのは、機械以上人未満......どっちつかずの名無しのなにか。人工的に生命を作った、とは違うけどね。そこまで束さんは落ちぶれちゃいない、それに興味もないしね。

 

まあそれはさておき、束さんはコア一つ一つにそれぞれプログラムを埋め込んで、それを観察した。

2、3年もすれば個々に違いも生まれて、10年も経てば自我を作る子も現れた......今のところ、2人だけ』

 

 

 

(もしかして......あの時の?)

「この子に自我、ねぇ......どうしたの一夏?」

「ん、ああいや、なんでもないよ鈴」

「ふーん、ま、敵が残ってる可能性もあるんだし、気は抜かないでよね」

「解ってるって」

 

因縁の臨海学校、白式のセカンドシフト時に現れた白い騎士、一夏はその姿を思い出していた。

(......もし自我があるんだったら、コイツは俺の事をどう思ってるんだろうか)

 

一夏はなんとなく、右腕......普段待機状態であるガントレッドのある場所に視線を落とす。

IS学園までは、もうすぐだ。

 

 

 

『1人目は言えないけど、2人目は石狩......君の打鉄さ。

といっても、宿ったのがつい最近......6月の終わりくらいだよ』

「つまり、彼......石狩君がこちらに来た原因がその子かしら?」

『当たり、詳しくはわからないけど、99パーセントその打鉄が原因だよ。

自分の操縦手の命を繋げる、助けようとする。

モニタリングしていて、気がついたんだよ。

これがヒトの感情......自己犠牲の精神、誰かを愛しく思う気持ち、なんてさ。

 

セカンドシフト、ワンオフアビリティ。今までの私はそれが個性......コアの自我の発現だって思ってたんだけど、こんなの予想外だったよ。

しかもよりにもよって凡人が操るのがこうなるとは、この天災が裏切られるなんて、久しぶりだよ。これだから世界は面白いんだ』

 

空を見上げ、太陽の光に隠れて見えない星々に想いを馳せる束。ISは元々は宇宙進出のために開発されたもの、特殊な思い入れでもあるのだろうかと推測するが、答えは本人のみぞ知る、というところだ。

『それはさておき、どうして空間跳躍なんて馬鹿げた能力になったか......こればかりはログから引っ張り出してもどうにも分かんなかったよ。仮説は無いことはないんだけど、馬鹿げてるからどうでもいいや』

「あの、姉さん」

『なーに箒ちゃん』

「先輩の場合馬鹿げてる方が当たるので話してください」

『うええ......別にいいんだけど、マジで馬鹿げてるよ、いいの?』

「別に構いやしませんよ、何がきたって驚くこともありませんし」

本人がこういうのなら仕方ない、と束はその仮説を話すと決めた。

 

『自分の力じゃどうにもならない、と判断したその子は、手っ取り早く操縦者、そいつの脳内を検索して何かないか、ってなったわけ。

そんで実用的かつ再現可能と判断したのが次元移動......というわけになる。

そこから考えるに、バカみたいな質問だけど......今まで並行世界に行った事は?』

「5回ほど」

『そうかそうか、そんなことあるわけないよねーってええええええ!』

「ありますあります」

『......こいつどうかしてるよ』

「さすが成政、略してさすなり!」

「略すな」

 

こういう時もボケに走るのを忘れないマヒロはさておき、話は続く。

 

『それだったら話は早いや。そいつの記憶を参考にして並行世界の存在、そしてその間を移動する方法を再現したんだと思う。

でも並行世界に繋いだとしても、もし誰もいなかったら助かるものも助からない。

そして成政を無事保護できるような力を持った人が近くにいる......って事でこの世界が選ばれたんじゃないかな?』

「あ、戦闘が終わってすぐに出てきたよ!」

「なるほど、助けてくれる人が居合わせたこの世界に、というわけですか」

『まあ分の悪い賭けだったとは思うよ』

『うんうん、みんなの力を合わせてやっとこさって感じ。半分死んでるようなもんだったし、足なんて綺麗に無くなってたからね、付けた』

「なにそれ知らないうっそおマジで?!」

「わーっ急に脱がないでしょ普通!」

「破廉恥だぞ先輩」

 

もう1人の束のトンデモ発言に焦って服を脱ぎ出す成政、女子オンリーの周りが慌てて引き止めているうちにも話は進む。

 

「実際血まみれで突然現れたもんだから、びっくりしたのよ?こっちの一夏君なんか慌てに慌てて大変だったんだから」

「どちら様で?」

「謎のおねーさん、とでも読んでくれるかしら?」

「は、はあ」

 

途中から変身を解いたハニーも合流、当事者として当時をを振り返る。

 

『こっちも銀の福音事件はあったんだよ。しかもそれに便乗してあしゅら男爵だったり恐竜帝国だったりその他大勢押しかけてきて、もうてんてこ舞いだったんだから』

「そして、事件を解決して一息ついていたところにISの反応が突然現れて。

すわ増援か?と思いきや沈みかけた成政君を見つけた、って聞いてるわ」

『顔を見ても誰も心当たりもなく、手がかりといえば学生手帳の名前だけ。調べても出てきたにはきたけど元気にしてるし......』

「ワケありなのはわかってたけど、みんなお節介でね。助けようってすぐに決まったの。

そこからIS学園に運んで、って所かしら」

『まあ、いろいろ身体は弄ったけどね。

そうそう君、なんか身体軽いでしょ?

走るのも早くなった事ないかな?』

「そもそも走るどころか歩くのもやっとな筈だったんですけど......」

「元気に、走ってましたよね先輩」

「見事なお姫様抱っこも披露してくれましたが?」

「ちょ、ライダーさん!」

「おっと失礼、口が滑ってしまいました」

 

ちゃっかり野次馬してたライダーが割り込んできたり、

 

「おーい、無事かー成政ぁ!」

「元気してるー!」

「おお、一夏に鈴!さっきぶり」

「俺もいるぞ!」

「なんか紛らわしいわね」

「これは一体、どういう事ですの?」

「かくかくしかじか」

「まるまるうまうま、って訳よ」

「成る程、理解しました」

 

ISで出ていた一夏と鈴音、そして並行世界の方の一夏、鈴音、セシリアが合流、さらに場は賑やかに。

 

『で......なんの話だっけ?』

「先輩の足の話です」

『そうそう、だってそりゃあ私のわからないとんでも技術の詰め合わせだもん。

ついでにISの技術も入れたからちょっと浮ける』

「あ、ほんとだおもしろーい」

「か、壁に立ってるってどういう事だよ!」

「決まっている、僕にもわからん」

「開き直っていい訳ないでしょ!」

「もうなんでもありですね......」

『それにかこつけてマッド共が嬉々として楽しそうに』

「博士も人の事言えないでしょうに」

『そこはオフレコで頼むよ如月さーん』

「よお、無事に記憶も戻ったみたいだし良かったな」

「あ、甲児君お疲れ様、どうだった」

「ダメだ。またあしゅら男爵は捨てゼリフ吐いて逃げちまったよ。懲りないやつなんだから」

特徴的な前髪が特徴の兜甲児が手を振っている、その奥にはゲッターチームやスーパーロボットたちのパイロット、そして協力者たち。

当事者そっちのけでやいのやいの、と騒ぎ出した一同から少しだけ距離を置いた2人は、この不思議な体験をかみしめていた。

 

「色々あったねえ」

「まさか、並行世界とは......まだ私には理解できていません」

「そりゃそうだよ。こんな馬鹿げたことありえないさ。

しかし、箒ちゃんが2人とは奇妙な事で」

「あいつは......もう1人の私は、剣に迷いがなかった。

きっと、信念たりうるなにかを、持っているんだと思います。

私には足りなかった、何かを」

「でも、今の箒ちゃんの剣は迷いはある?」

「......あります、でも、その剣を振るうための誰かは、見つけました」

「そっか、良かったね。誰?」

「先輩です」

「一夏じゃなくて?」

「確かに一夏は、私にとってのヒーローです。

幼い頃の一夏は、私を守ってくれた、支えてくれた、好敵手であってくれた、でも」

「でも?」

「先輩はそれ以上に、カッコよかったんです」

 

くるり、と長い髪を翻らせて、こちらを振り返る箒。特にわけもなく、成政の心臓が跳ねる。

「先輩が助けに来てくれた時、嬉しかったんです。記憶をなくして、ボロボロになって、それでも手を伸ばす先輩に、惚れちゃいました」

「ほ、惚れっ?!」

 

 

 

「好きです、先輩」

たった一言。

夕日を背に立つ彼女は、そう言った。

 

「ずっとそばにいてください」

「......僕も、箒ちゃんが大好きです!」

 

恥ずかしくて思わず顔を伏せた。

成政はそれでも、言葉を止められなかった。

 

「剣を振るう凛とした姿とか、

休憩の時に見せるホッとした顔とか、

打ち上げで嬉しそうに笑う顔とか、

......君の全部が、大好きです!

僕と、お付き合いしてくれますか!」

「......はいっ!」

 

どちらともなく、手を繋ぐ。

時は夕暮れ、オレンジの夕日が、2人を優しく包み込む。

向かい合った2人の顔と顔の距離が縮まる。

そして......

 

 

 

◇◇◇

 

「一夏、少しいいか?」

「はい、えっと、誰ですか?」

「鉄也、剣鉄也だ。ちょっと話があってな」

「話......?」

「お前の戦い方を見ていてな、少し思うところがあってな、伝えにきたんだ。コッチも似たようなもんだったし、こんな機会滅多にない」

 

突然声をかけて来た見知らぬジャージの男性......剣鉄也と向き合う一夏。

暫く無言で見つめあったのち、鉄也が重い口を開く。

 

「自分の在り方を見失うな。

何のために戦うか、それをもう一度胸に刻め。

1回の失敗くらいで、折れるなよ」

「どういう事ですか?」

「......それくらい自分で考えろ、大いに悩め。

誰だって悩む時はあるが、本当の男なら自力で立ち直れるはずだ。俺はそう信じている」

 

 

「一体、何だったんだ......?」

「よう、もう1人の俺、もう帰るのか?」

「っと、まーな。千冬姉も心配してるだろうし、宿題も溜まってるしな」

「私達はこれから夏休みを満喫すんのよ!」

「しばらくはゆっくり休みたいですわね」

「そうか、そっちも頑張れよ!」

 

W束と並行世界のトンデモ技術により、元の世界に帰ることの決まった一行。今はこの奇跡のような出会い、そして別れを惜しんでいるところだ。

 

「しかし、IS学園でこんな物がなあ」

「前から気がついてたけど、嬉しいもんだな」

「マヒロは嬉しいよ......それに比べて」

「「「「一夏(さん)といえば......」」」」

「な、なんだよ!」

 

2人の一夏の視線の先には、微妙によそよそしい成政と箒が、甲児に別れを告げていた。

 

「あんまり覚えていないんですけど、ご迷惑をおかけしました」

「いいっていいって、困った時はお互い様さ」

「あの時はつい、申し訳ない事を」

「頭をあげなよ2人とも、クヨクヨしてても始まらねえって。せっかくあんな風に」

「「それについては恥ずかしいので言わないでください!」」

「初々しいねえ、ははは」

「武蔵さん、それに2人とも......」

「うむ、いい告白っぷりだったな」

「うああああ、い、言うな!」

「ずっとそばにいてください......ふふふ」

「簪までやめろぉ!」

 

いじり始めた2人を追いかけ回す箒。だがゲッターチームの運動神経は凄まじく、逃走中もかくやの鬼ごっこが始まった。

 

「......ったく、無理しないでよ、疲れてるのに」

「カノジョの事が心配か?」

「そそそそそう言うわけではなくマネージャーとしてですね!?純粋に選手としての箒ちゃんを心配してると言うかなんと言うか」

「もっと堂々とすればいいのに、告白したんだろお前ら」

「いや、そのう......恥ずかしいんですよ」

 

まだ先は長いか、とため息をつく武蔵。

「まあ、とりあえず頑張りな」

「......うっす」

『出発するよー!』

「わかりましたー!」

 

武蔵に一礼してから、呼びかけた束の方へ歩く。

己の道を歩み出した男の背中を、武蔵は眺めていた。

 

「ってお前らいつまで追いかけっこしてんだ!特に箒、もうすぐ帰るんだろうが!」

 

 

 

 

 

『はいIS学園にとうちゃーく、長旅お疲れ様でした。

じゃねー』

「ありがとうございました、姉さん」

『お前のことなんか認めないからな!箒ちゃんと結婚したければ束さんをこえてゆけ!』

「魔王か何かですかアンタは」

『絶対認めないからなー!』

 

負け犬の遠吠え、とも取れるような発言を叩きつけて通信を切った束。成政的には倒せそうなのは千冬さん位なので呼べばいいか、とどうでもいいことを考えていたのだが、

 

「せーんぱい」

「ん?どうした」

 

箒の呼びかけに振り向けば、他の皆が並んでいた。そして何故か箒の指は下を指していて、

 

「......正座」

「はい?」

「正座」

「ど、どうしてでしょう?」

「ふふふふふ......」

「もしもーし、箒さーん?」

 

意味深な笑みを浮かべるだけで、答えようとしない箒。代わりに答えたのは、清々しい笑みをたたえた慎二だった。

 

「説教の時間に決まってるだろ馬鹿野郎!」

「ほう、私も混ぜてもらおうか」

「三十六計逃げるに如か......ず?!」

 

即打鉄を展開、逃げようとした成政の首元によく見かけた黒い板状の物体......出席簿が刀のごとく添えられていた。

 

「一ヶ月に及ぶ無断欠席、その理由指導室で聴かせてもらおう」

「えと、手加減とかは」

「足の怪我も治ったそうじゃないか、今までは病人と手加減していたが......これからはしなくてもいいな」

 

この短時間、誰も連絡したそぶりは見せなかった、となると犯人は1人。

 

「あ、あんのクソウサギぃーーー!!!!」

 

虚しい叫びが、学園にこだまする。

よく晴れた、暑い夏の日のことだった。




一応、たけじんまんさんのスパロボコラボはこれにて完結。
先方に多大なご迷惑をかけたこと、この場を借りて謝罪します。
良くも悪くも、良い経験となりました。

本編も学園祭が終わったら完結させるつもりです。
......まあ、最近ISのソシャゲ出たんで、そっちルートでリメイクする予定、ですけど。
今回は本当ですからね!消しませんよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第45話

ISAB面白いですねえ!
あーいや、資料ですから......

ところであのゲームの時系列、夏休み終わった後なのか、文化祭終わった後なのか。
それとも潔く2年生?

みなさんはどう思われますか?


 

 

「いやー、夏休みは酷い目にあった」

「それで片付けていいもんなんですか?」

「面白かったしいいじゃんいいじゃん」

 

9月1日、一般的に夏休みが終わり、二学期始業式が行われることが多い。IS学園も例外でなく、9月1日に始業式が行われる。

ワイワイガヤガヤと講堂に向かう騒がしい人並みに紛れて、実は晴れて恋人となった成政と箒が談笑していた。

 

「心残りといえば、アレだねえ。応援行けなかったコトかな」

「私もその、それどころではなかったですし」

「試合ビデオがあれば良いんだけど」

「部長が親に頼んでおいたものがあるそうです」

「やりぃ!後でダビングさせてもらお」

「ふふ、いつも通りですね」

「そうだね、いつも通り、だねえ」

 

他愛ない会話。

何気ない仕草。

いつもの日常。

 

自分たちだけが知っている、日常の尊さ。

今まで知らなかった、とてつもない奇蹟の上で成り立っていたこの退屈な日常を幸せそうに噛みしめる2人。

だが、ここはIS学園。

普通の学園とはちょっぴり日常とかけ離れた場所。この後に待ち受けるのは、夏休みで体にこびりついた退屈さを、熱意と、努力と、根性と、ちょっとの狂気で吹き飛ばす特大イベント。

 

 

「盛り上がっていきたいかー!」

「「「「「「「「「YEAAAAAAAAA!!!!!!!!」」」」」」」

「テンション上げていきたいかー!」

「「「「「「「「「YEAAAAAAAAA!!!!!!!!」」」」」」」

「ノっていきたいかー!!!!」

「「「「「「「「「YEAAAAAAAAA!!!!!!!!」」」」」」」

「よろしい、だったら学園祭よっ!」

「「「「「「「「「FOOOOOOOO!!!!!!!!」」」」」」」

 

 

そう、IS学園の目玉イベントの1つ、学園祭である。

 

その後に続く長ったらしい先生方の話も終わり、各々教室に戻っていく、その空白時間のこと。

一足先に戻って提出する課題を纏めていた箒に、暇を持て余す一夏が声をかける。

 

「よっ、箒」

「どうした一夏?」

「いやあ、学園祭なんて初めてだからさ、ちょっとワクワクしてんだよ。でも外国組がイマイチピンと来てないらしくて」

「外国にそのような文化は無いのか?」

「あの様子だし、多分ないんだろ」

「生徒会長曰く、2週間後からだそうだが、一体どのような出し物をするのだろうか?」

「さあな、無難にお化け屋敷とか?」

「いや、それでは皆が納得しないだろう」

「じゃあ何だろうな、楽しみだ!」

 

ニコニコと笑う一夏だが、学園祭が学園内外から沢山の人が来る行事、当然珍しい男性、かつイケメンの一夏であれば矢面に立たされるのは確定事項なのだが、いかんせんこの男は鈍かった。それを知りながらも、まあ一夏だしいいかと黙っておく箒。こんな心遣いが彼の唐変木を加速させるのだが、言わぬが花というものだろう。

純和風な日本人らしいこの2人、ミーハーな文化に対するアンテナはもちろん立っていない。

学園祭といえば軽い出店やったり、アトラクションを作ったり......と一昔前の知識しか持ち合わせがなかった。

要するに、テンションの上がりまくった楽しい事好き今時ミーハー女子高生(+男子高校生1名)の熱量を舐めていたのである。

そのぶっ飛んだ発想を含めて(主に男子高校生と生徒会長)。

 

『あー、あー、マイクテストマイクテスト。

本日はお日柄もよく〜』

「なんだ、校内放送?」

「先輩の声?道理で見当たらないと」

「なになに?なんだろー」

「織斑君何か聞いてる?」

「い、いや、全く」

 

取り留めのない成政の世間話をバックに、質問が飛び交う1組。当然のように誰も真実を知らず、放送の続きを黙って聞くのみ。

 

『えー、話は変わりますが。今回の放送なんですがとある方のご助力を賜りまして、実は少し前から計画していたのですよ。

学校のイベント、といえばもちろん、この方』

『はぁい、みんな大好き生徒会長、楯無おねーさんよ?』

「ああ、この声さっき壇上で」

「生徒会長、更識楯無......?」

「さっきイェーイって言ってた人だ!」

「青い髪の人......だっけ」

 

イマイチピンとこない人も多い中、放送先では知ったことではないと話は進む。

 

『生徒会が毎年運営する学園祭、2、3年生の先輩方であれば様子はご存知でしょう。

クラス、部活対抗人気投票、個人発表、その他諸々......細かいところは去年と変わらないみたい、ですね。詳しい要項は今週中に冊子でお配りする、との事です』

『去年のアンケート調べで悪かったことは改善するし、ちゃんと他にも新しいイベントも開催するわ、そこんとこ心配しないで』

『生徒会長、扇子広げてもわかんないっす』

『あらごめんなさい、つい』

 

「仲よさそうだな、会長と成政。知り合いだったのかな、何か知らないかほう、き?」

 

一夏がそう気軽に振り返ると同時、箒は竹刀を担いで廊下を全力疾走していたのだが、

「告白したばかりと言うのに先輩は......!」

 

「篠ノ之さんなんか鬼気迫る表情で走ってったね」

「さあ?」

「あーでも、石狩君と篠ノ之さんて仲良いよね」

「それはそうだ、なりさんと篠ノ之は将来の仲を誓い合ったからな」

「「「「なんですと?!」」」」

 

むしろ残っていた方が、この事故を防げていたので良かったかもしれない。

 

 

『あ、そうそう会長、今回の目玉ってなんでしょう』

『そうね、今年は予想外のとっておきが入学してくれたから、活用させて貰いましょうか。

 

 

そうね......人気投票一位のクラス、部活には、

「男子2人を1ヶ月貸し出しちゃう権限」をプレゼント、どうかしら石狩君?』

『別に構いやしませんよ?新しい世界に触れるのも好きですし、面白そうです』

『思いつきの割にはいいセンいったわね。

じゃ、許可も取れた事だし決定ね』

『でも1組が1位だったらどーするんです?貸し出しもへったくれもないじゃないですか』

『あら、生徒会だって出し物は出すわよ?部活でなくクラス部門に出場することになるんだけど』

『叩きのめしてあげましょう』

『あらあら、吠えるわね。そこまでいうんだったら、万に1つもないけれど1組が勝った時を考えて、特典は3ヶ月間デザートフリーパスとの選択式、でいいかしら』

『まあそこらへんで妥当じゃないですかね。ここのデザート美味しいですけど財布には優しくないですし』

『決まりね、早速パンフに付け足しておくわ。

......あら、誰かしら』

 

不審に思った会長が席を外したらしく、物音が遠ざかる。そして成政の叫びと同じくしてマイクにとんでもない衝撃音が届き、1組では聞き覚えのある凛とした声が続く。

 

『うぇっ!?と、扉が』

『先輩!この私というものがありながら!』

『ちょ、ま、箒ちゃん?!』

『他の女にうつつを抜かすとは......成敗してくれる!』

『箒ちゃん待ったこれ誤解だから真剣はまってぇ!』

 

金属の擦れる音、棒状のものを振り下ろした時の風切り音など物騒な音がしばらく続き、どっちかが逃げ出したか窓ガラスの破れる音が聞こえ、続いて足音が遠ざかる。

ちなみに、会長の計らいでこの間の痴話喧嘩は全校にもれなく放送された。

 

『痴話喧嘩も程々にね〜。

はあ、おねーさんも彼氏の1つ2つ欲しくなっちゃう。仲がいいほどなんとやら、とはいうけど、私の妹はいつになったら仲直りを......ごほん。

今回は飛び入りゲストだったけど、明日の昼休みからの放送では、一回ごとにゲストを招こうと思っているわ、楽しみにしていてね。

以上、会長とマネージャーのアイエススクールフェスタラジオ、アイラジ第1回放送を終わります。これからの放送をお楽しみに〜』

 

「はい?!」

 

遅れて、自分が生贄になった事を思い知る一夏であった。

 

「......」

「酷い目にあった」

「そ、そうですわね......」

「だいじょうぶ、成政?」

「心遣いだけ受け取っておくよ」

顔に青あざを作った成政と、怒っているのかそっぽを向いている箒がしばらくして戻ってきた。実は集合時間に少し遅れて、だったがのだが、ちょうど千冬が席を外していたおかげで出席簿の魔の手から助かった。

 

「集合時間はしっかり守ってくださいね、石狩君、篠ノ之さん」

「も、申し訳ありません」

「す、すみませんでした......」

 

山田先生にはきっちり絞られたが。




千冬「私は手遅れじゃない私はまだ大丈夫私はまだ大丈夫私はまだ大丈夫私はまだ大丈夫私はまだ大丈夫......」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第46話

やべえ、日常回のネタが出ない......


 

 

 

 

「生徒会長に啖呵切ってきちゃったので一位しか認めない」

「開口一番それかよ」

「一夏をダシにして使い回しまくればいけるよ多分、まあ休みはねーけど」

「俺だけブラック確定!?それを言うんだったら成政も」

「僕は勿論やるよ、だけど人気を考えるに暇になりそうなんだよねー、いやあ人気者はつらいねえ!」

「笑顔で言う事じゃねーだろ!」

 

9月2日、6時間目。

織斑先生の快い計らいで、文化祭に向けての話し合いが行われる運びとなった。

仕切るのはクラス代表の一夏......でなく当然のように成政だ、クラス代表とは一体。

「とりあえず、何にしましょうか、出し物。

前提としてステージだと票は稼ぎにくいから却下で。他のグループも使うし」

「クラス喫茶とかどうだろ、軽食とかお茶とか出せば?」

「もう一声欲しいな、何かインパクトのあるワードが欲しい」

「じゃあ......織斑一夏のご奉仕喫茶」

「おいいいいいい!」

 

誰が言い出したかトンデモ意見、いかがわしい言葉にも聞こえないことはない。

この発言がインスピレーションを与えたか、他にも(とんでもない)意見が続々と。

 

「王様ゲームってどうかな?」

「織斑一夏の執事喫茶!」

「いやコスプレ喫茶よ!」

「ポッキーゲームしたいなあ!」

「猫耳つけよう猫耳!」

「いっそ脱がせない?」

「おい最後の!」

 

聞こえた意見をかつかつと黒板に書いてはいるものの、成政の琴線に触れるものはない。

 

(んー、箒ちゃんの可愛い格好が見たい......)

 

そんな折、1番の被害者が声を荒げる。だが、それが悪手だった。

 

「だいたいなんで俺がコスプレなんか!」

「ヘーキヘーキ、みんなでやれば怖くないのよー、デュフフ」

「それだあっ!!」

 

ガガガッ!と黒板に大きく文字を刻み、思い切り手を叩きつける。

 

「メイド喫茶で行こう!男子は執事服でどうだ!」

「「「「「「「「「さんせーい!」」」」」」」」」

 

1年1組、メイド喫茶に決定。

 

「いーや俺は認めないぞ!だいたいそんな大量のメイド服なんてある訳がないじゃないか!」

「今束さんに発注した。箒ちゃんのメイド服っていったら只でクラス全員分引き受けてくれた、明日届けに来るって」

「何してくれてるんですかあの人は!」

「衣装製作くらい天災にかかればチョチョイのチョイだってさ」

「つーかいつメアド交換したんだよ!」

「交換というかスマホハッキングされた」

「......なら、仕方ないか、うん」

「あ、織斑先生と山田先生の分もあるそうです」

「うぇえええええええええええ!?」

「殺す」

 

 

 

『はーい、みんな大好き生徒会長の更識楯無とー』

『最近同室の織斑の愚痴が止まらない石狩成政の』

『『アイラジ!はーじまーるよー!』』

『1回目の放送は散々だったけど、2回目からは真面目にやっていくわ』

『昨日はお騒がせしました』

『ところで石狩くん?あの後どうだったの?何か聞かれた?』

『......き、聞かないでください』

『あらー、色々あったそうでーす。詳しくは本人から篠ノ之さんにでも聞いた方がいいんじゃないかしら。私、気になります!』

『煽らないで下さい。さて、オープニングトークはこれくらいにしてと』

『まだおねーさん話したい事あるんだけど〜』

『明日にして下さい尺がなくなっちゃいます。

えーと、この番組は、生徒会がお送りする学園祭に向けての情報発信をテーマとした生放送番組です。質問などがおありでしたら生徒会前質問箱にどしどし質問してください!』

『文化祭まであと2週間、出し物が決まっていると言うところもあれば、決まらないと言うところもあるでしょうね。

ちなみに生徒会は、観客参加型の演劇を企画しています、おひまがあれば是非いらして下さいな』

『はいはい宣伝乙。

さて、本番も近づいてまいりました。出し物が決定したクラスは、担任の先生のハンコを貰った上で、申請書を生徒会に提出して下さい。締め切りは今週金曜日6時までとなっていますので、気をつけてくださいな』

『さーて、連絡事項も終わったし、質問コーナー始めるわよ』

『沢山の質問、感謝感激なんとやら、ですが時間もないので厳選させて頂きます。

さーて最初は......ラジオネーム?でいいんですよね』

『いいわよー』

『えー、それでは気を取り直して。

ラジオネーム、2年生のだりーなさん、から。

 

最近みんな文化祭と浮ついていて、授業中オチオチ寝て入られません、何か対処法をお願いします。

 

......どしょっぱつからキワモノですねえ』

『えー、と。私わかっちゃった』

『何がです?』

『クラスメイト全員叩きのめせば快適に寝られるんじゃないかしら』

『そんな脳筋解答誰が参考にするか。

......普通に早寝早起きするか、耳栓でも買えば良いんではないでしょうか。

だりーなさん、購買に耳栓が販売していたと思うので、参考にどうぞ』

『じゃあ次いくわよ?

えーと、1年、あら、隠す気ないわね、話題の織斑一夏君から。

 

 

だれか助けて下さい脱がされます!

 

 

えっとー、うん、頑張りなさい!』

『コラテラルダメージ故、致し方無し。

次のお便りは、おっと、先生がたからですか。名前は、あだ名が多すぎて困ってしまいます!さんから。

 

生徒の皆さんが授業に集中してくれません、ビシッと一言お願います!

 

......だそうですが、生徒会長、一言』

『織斑先生に頼めば良いんじゃないかしら』

『やめてください死人が出ます』

 

 

 

 

そしてなんやかんやあって、学園祭1日前。

今日は授業は丸一日おやすみ、朝から晩まで全ての時間を準備に当てることができる。

 

「そのテーブルこっち寄せて!バランス悪いから!」

「このカーテンどうするの?」

「メニュー表刷り終わったよ!」

「整理券を今のうちに、あと看板も作っとかないと当日慌てるよ!」

「クッキーってどこだっけ?」

「接客班集合、衣装の最終確認するよ!」

 

あーでもないこーでもないと慌ただしく、それでいて楽しく準備が進む。教室前廊下には資材が積み上がり、そこかしこで走り回る制服姿の生徒たちの姿、これぞまさしく文化祭。本番1日前とはいえ、熱気は本番のそれに遅れを取らない。

 

「織斑くんそれ取って!」

「あいよー!」

「織斑くんカーテンレールに手が」

「任せろ!」

「こっちの重い荷物がー」

「よしきた!」

「おりむー私にクッキー食べさせてー」

「はいはい分かりましたよ!」

「一夏ー、2組も手伝ってよー」

「はいはい今行く、ってなるか!」

「ちぇー」

 

男子ゆえいろいろな場所でこき使われる一夏は、ちょいちょいToLoveるも起こしつつではあるが、忙しくも楽しく、かつ順調に仕事をこなしていた。

こんな時に一緒にこき使われそうである成政であるのだが、

 

『ごめん、生徒会の仕事ガー』

 

と顔を出さなかった。

だからいなくても誰も気にしない、と言うわけである。

 

「......怪しい。先輩だったら仕事の百や二百引き受けててもここでする筈。

考え難いことだがサボっているに違いない。

すまない、少し外す」

「どうしたの箒ちゃん?」

「いや、ちょっとな」

 

約1名を除いて。

 

 

 

 

 

「秋さん、正気ですか?」

「正気も何も、上がそう言うんだから仕方ねーだろったく」

「いやそうじゃなくて。こんな事をやらせるのに秋さんをチョイスした上が正気かと聞いてるんです」

「いつもの担当が寿退社した。で暇だったのがアタシだった。お分かり?」

「なんとまあ......御愁傷様です」

「アタシだってやりたかねえよ......」

 

IS学園近くの喫茶店、の奥まった席で2人の男女が向かい合っていた。

モダン風に装飾されたこの場には合うだろうが、街中では浮いてしまうような場違いなタキシードを着た若い男と、OLらしくパンツスーツを着こなし、赤茶けたロングヘアをうざったそうにいじる目付きの悪い女。

 

「つうかよ、ナリ。その服装なんなんだ?」

「制服だと町じゃ目立ちますし、時間もなかったので。学園祭の衣装ですよ」

「似合わねーなオメー。ジャージで十分だろ」

「動きにくくて仕方ないです、けどメイド喫茶なんで」

「メイド喫茶ねえ、最近のガキが考えるこたあ分かんねえな」

「客が入ればなんでもいいんすよ」

「......はぁ。で、約束のモンは良いんだろうな」

「こ本番だと色々変わるとは思いますけど、大丈夫です?」

「大体で十分だ。それにメイド喫茶はご指名が出来るんだろ?」

「うっわ、悪い顔してる」

「うぇ!?マジかよ......直らねえなあ」

 

なんでこうかなあ、と頭を抱える女性。ツリ目に赤い目、と見栄えの悪い事を気にしているのは、乙女心とかそういうのなんだろう。成政にはさっぱり理解不能なのでスルーした。

 

「はいこれ。店のシフト表です」

「さて、目標のシフトは......ん?」

「織斑君は2日ともフルシフトだからね」

「なんだこのブラック店舗」

「稼げれば良いんですよ」

「あと......なんで......漢字読めねえ」

「なんです?」

「なんでこいつのシフトだけ、めっちゃ分かりやすく色分けされてんだ?」

「彼女です」

「......すまん、聞こえ」

「彼女です」

 

無言で成政の手を取る女性。

そのまま顔を伏せわなわなと震えていたかと思えば、

 

「カノジョってなんでか知らんけどめっちゃ可愛いよな、輝いて見えるよな!」

「わかります!?いやあ、ほんっっっっっっっっっっっっっとにカワイイんですよ箒ちゃん!」

「いやいやスコールの方が可愛いに決まってんじゃんお前」

「は?箒ちゃんの方が可愛いですし」

 

そのまま何故かなし崩し的に嫁自慢が始まる2人。その日、喫茶店ではブラックコーヒーの売り上げが増えたとか増えなかったとか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。