酒は飲んでも飲まれるな (しゃけ式)
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やはり未成年が酒を飲むのは間違っている(当たり前)

「じゃあヒッキー!乾杯の音頭お願い!」

 

 

「俺でいいのか?もっと他にいるだろ」

 

 

「比企谷君、指名されたのでしょ?場を盛り下げないでちょうだい」

 

 

「そうか、なら不躾ながら。…えー、今年は色んなことがあったが、まあここまでやってこれたんだ。来年も気を抜かずに頑張っていきましょう。ではご唱和ください。乾杯!」

 

 

乾杯!!と一斉にグラスがぶつけられる。高二の大晦日、忘年会での一部分だ。この頃はしがらみが何も無くて、純粋に楽しんでいたなあ。

 

 

 

 

─────これが俺の悪夢の始まりとも知らずに。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

チュンチュン、と子鳥のさえずりで目を覚ます。おお、リアルな朝チュンなんて初めてかもな。レアな体験をしたもんだ。

 

 

(ん…?ここどこだ?)

 

 

辺りを見渡す。どこかの一室のようで、まるでホテルのような雰囲気だ。左手に窓があり、ベッドから見る景色はビルの中層からしてここは上階らしい。右手には、というか俺の隣には不自然な膨らみがあるので誰かが寝ているのだろう。

 

 

(てか寒ィな)

 

 

肌を擦り合わせて緩和する。自分の服装を見ると、上下合わせて何も着ていないようだった。そりゃ寒いわな。

 

 

「………いやいやいや、ちょっと待て。なんでホテルにいて俺は裸なんだ?」

 

 

昨日のことを思い返しても、いかんせん乾杯のあとの記憶が曖昧だ。もしかして酒でも飲んでたのか?そう考えると頭が痛く感じてきた気がする。

 

 

「んん……、どうした、比企谷。起きたのか…?」

 

 

布団の右側がもぞもぞと動き顔を出す。そこに居たのは紛れもない平塚先生だった。

 

 

「」

 

 

「急に絶句なんてしてなんだ?…あ、きゃっ!」

 

 

なぜか、なぜか(大事なことなので二回言いました)裸だった平塚先生は恥ずかしそうに布団で体をくるみ、俺の方を見て、しかし俺の裸を見るのも恥ずかしかったのか目を逸らした。別に上半身しか見えてないんだがな。

 

……というか、誰だよアンタ。なんで三十路のBBAが乙女な声出してんだよ。萌えねえから。いやマジで。冷や汗しかでねえわ。

 

 

「あの……平塚先生。昨日のことなんですけど…」

 

 

「あ、ああ。昨日な。いくら酔っていたからとはいえ教え子に飲ませたのは本当に悪かったと思っている。…教師失格だな」

 

 

「ああ、だから…」

 

 

「そ、それとだな。昨日のことは……、その、本気、なの?」

 

 

顔を羞恥の色に染めながら、涙目で俺を見つめる平塚先生(アラサー)。もじもじと照れる姿は乙女そのものだ。

 

 

 

というか。

 

 

 

(誰だお前ええええええ!!!!!!!マジでやめてくれよほんと!!俺昨日何したんだよぉぉぉおおお!!!)

 

 

「ほ、本気と言いますかなんといいますか……。えっと、昨日のことなんすけど…」

 

 

「あ、ああ。なんか思い出すのも恥ずかしいな…。…いや、違うぞ!!べ、別に思い出したくないわけじゃないんだからね!」

 

 

「(セルフツンデレには触れないでおこう)……あの、俺昨日のことは、ちょっとというか、覚えてないなー、なんて…」

 

 

怖え…。もしかしたら冷や汗で水溜りができるじゃね?なんて思いながら続きを待った。待ったのだが。

 

 

「うぇっ……」

 

 

「ひ、平塚先生!泣かないでください!」

 

 

なぜかはわからないが(十中八九俺のせいだが)泣き出してしまった。一回りも歳食ってる人のあやし方なんて知らねえよ…。

 

 

「だ、だって八幡が悲しいこと言うから…」

 

 

「は、八幡!?…すいません!俺やっぱ覚えてました!」

 

 

「……ほんと?」

 

 

「ええそりゃもちろんですとも!!なんなら先生の乳首の色でも答えましょうか!?」

 

 

「うええええん!!!!」

 

 

ええ!!!???なんで泣く!?

 

 

「私昨日乳首見せてないいいいい!!!!!」

 

 

「ええ、でも服着てないじゃないですか!?」

 

 

「昨日シた後にシャワー浴びてそのまま寝たああ!!!昨日は着衣のままヤったあああ!!!!」

 

 

「だああ!!泣きながら変な事言わないでください!!ほら、アレですよ!!!先生が寝た後にこっそり覗いちゃったんですよ!!」

 

 

こうなりゃヤケクソだ、とりあえずはこの場を凌ごう。その後のことはその後考える。

 

 

「………八幡のエッチ」

 

 

「ともあれ、信じてくれましたか!?」

 

 

「…まあ、信じる」

 

 

はああああああぁぁぁぁ……。マジで誰だよこれ……。キャラ崩壊甚だしいぞ…。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

あれからどうにかして先生をなだめたあと、どうにかこのことは秘密にと約束してから家に帰らせた。俺もその帰宅の帰り途中だ。

 

……まさか俺が朝帰りするなんてな…。

 

 

と、これからのことを考えつつ気落ちしながらトボトボと歩いていると、向かい側からサブレを散歩させている由比ヶ浜が目に入った。

 

俺に気づくなりまるで尻尾を振るかのようにこちらへ寄ってきて、俺を抱きしめた。

 

 

 

………抱きしめた??

 

 

「ヒッキー、会いたかった」

 

 

豊満なバストが押し付けられ、俺の八幡が反応する。馬鹿野郎、こんな状況で反応してんじゃねえよ俺!!

 

 

「ゆ、由比ヶ浜サン??ちょっと離れまセンカ?」

 

 

「なんでそんなこと言うの。別にいいじゃん」

 

 

そっぽを向き(依然抱きついているままだが)、視線をそらす。

 

 

「……彼女なんだから」

 

 

「」

 

 

「ちょ、ヒッキー!?」

 

 

脱力して由比ヶ浜にもたれかかってしまったが、なんとか持ちこたえる。

 

彼女、というと指示語か?別に会話の中に女性は出てこなかったのになあ。バカだなあ由比ヶ浜は。それか“彼女”じゃなくて“狩野女”か?俺の知り合いに狩野さんなんていねえし、由比ヶ浜の知り合いだろうな。常日頃から変なあだ名を付けるやつだとは思っていたが、狩野女はねえわ。訳分からん。

 

 

「……昨日あんなことしたんだもんね、疲れてても無理ないか」

 

 

おぉーう、これは確定かぁ……(絶望)

 

 

「い、一応聞くがどんなことをしたか覚えてるか?」

 

 

「ええ!?何言わせようとしてるの!?…あ、これもプレイの一貫……。…えっとね、まずディープなのして、それからあたしのでパ○ズ○して、それから…」

 

 

「ストップ!やっぱそうだよな!知ってたよチクショウ!!」

 

 

「あ、ちょ、ヒッキー!?なんで逃げちゃうの!?」

 

 

気付いたら俺は一陣の風になっていた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「ただいま…」

 

 

そろそろ俺のSAN値が付きそうな頃、やっと家に帰ることが出来た。ホテルからの道のり以上に疲れた気がするわ。シャワーとかどうでもいいから早く寝たい。なんで俺は元日からこんなことしてんだよ……。

 

 

「お、お兄ちゃん!」

 

 

風呂上がりなのか小町が下着姿で声をかけてくる。声が上ずっていたが、どうしたのだろうか。

 

 

「昨日のことはその……、小町忘れるからさ!お兄ちゃんも忘れてよ!……兄妹なんだし」

 

 

「Oh......my…God……」

 

 

「ど、どうしたの?」

 

 

「…すまん、部屋で休むわ。腰も痛えしな!」

 

 

「こ、腰って……。あ、安静にしてなよー!」

 

 

血の繋がった妹にも手を出していました\(^o^)/

 

実妹はやべえよ、やべえ。洒落になんねえわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻っても俺の気分は優れなかった。最低でも一晩で3回もヤってしまったのだ。慣れないことをしたもんだから腰が痛い。というか太ももが筋肉痛になってるわ、なんだこれ。

 

 

(ケータイとか見ても大丈夫だよな…?)

 

 

もう正直この思考自体がフラグだとは思うのだが、もし平塚先生がメールしてきていて、あまつさえそれを無視していたとなったら間違いなくめんどくさいことになる。

 

それとさすがに俺でもこれ以上はしていないだろうという希望的観測だ。残るメンバーを考えてみても、昨日忘年会に来ていたやつは俺とお相手3人(この表現は癪だが)を除くと、雪ノ下と一色と葉山一派と何故かついてきた材木座だ。あ、葉山一派つっても葉山と三浦と海老名さんだけだ。男2人はそもそも声をかけられていなかった。

 

この中で正直怪しいのは一色だ。雪ノ下は貞操が硬そうだから大丈夫として、残る女3人だと三浦と海老名さんはそもそもあまり話さないからな。そう考えると蓋然性では一色が0ではないのだ。

 

 

(ま、見てみないことに話は始まらないか)

 

 

意を決してケータイを開くと、メール欄には新着5件とあった。

 

 

………新着5件??

 

 

平塚先生と由比ヶ浜と小町で3つ、ならあと2つは誰だ?ていうかそもそも小町は同じ家なのにメールをするのか?

 

忘れていた冷や汗が鎌首をもたげ、指先が震える。動悸も激しくなって窓を開けて深呼吸するが、依然落ち着かない。

 

…まさか小町と朝の平塚先生の分を抜いて残りの女勢全員なんてことはねえよな。

 

 

恐る恐るメール欄を見てみると、記されていた名前は上から由比ヶ浜、平塚先生、小町、そして一色に雪ノ下だ。

 

 

(いやいや、まだ決まったわけじゃねえし?そもそも俺が何股かけてるなんて話も本当じゃねえわけだし?)

 

 

1件目

 

From 由比ヶ浜 (←名前欄を変えれることに気づいたので変えた)

 

To ヒッキー

 

昨日のこと、すっごく嬉しかったからね!まさかヒッキーも同じこと考えてくれてたなんて……、本当嬉しい!

 

 

大好きだよ、ヒッキー。

 

 

 

 

(ま、まあこいつに限っては分かってたことだからな。次の平塚先生もわかってるし?最悪二股の可能性だってあるし?)

 

 

 

 

2件目

 

From 平塚先生

 

To 比企谷八幡

 

新年明けましておめでとうございます。先程はお見苦しい姿をお見せにしてしまい誠に申し訳ございません。…まぁ、未来の花嫁の事だと思って許してね?あなた。

 

それと、昨日仰っていた私の実家へ挨拶をするとの事なのですが、少し待っていてもらえませんか?私としても早く報告したいのですが、いかんせん私の休みの日は平日の1日のみなのでどうしてもあなたと休みの日が被りません。なので春休みはいかがでしょうか?

 

返信、待っています。

 

 

 

 

(これはスルー。重すぎてこええよ)

 

 

 

 

From 小町

 

To お兄ちゃん

 

昨日のことってさ、お兄ちゃん本気なの?そりゃシてる最中はすっごく幸せだったけどさ、やっぱり冷静に考えたらダメだよ。小町たちは兄妹なんだからね。

 

……妹としては忘れなきゃだけど、小町としては忘れたくないよ。これだけは覚えといてね。

 

 

 

 

(お、おお…。これはなんかすげえ生々しいな…。ほんとすまんな小町…)

 

 

そしてここからが問題だ。普通に昨日はありがとう的なメールならいいのだが、果たしてどうなんだろうな…。

 

 

 

 

From 一色

 

To 先輩

 

あの、昨日はありがとうございました。わたしあんなことするの初めてで、正直今も痛みが取れません。

 

……けど、先輩にもらった痛みなのでちょっと嬉しくも感じますね笑

 

ポエミーと思うかもしれませんが、これに関しては何も嘘はありません。大好きな先輩からの贈り物なら、わたしはどんなものだって嬉しいと思います!

 

…それと、最初の方にいつか来る葉山先輩との練習ってのは嘘ですからね?これは嘘です!私が好きなのは先輩だけです!

 

 

 

 

(これは普通にアウトだな。痛みって完全に破瓜じゃねえか)

 

 

なんか一周まわって落ち着いてきた。幸い学校までまだ6日ある。それまでにどうするかを考えよう。

 

 

 

 

From 雪ノ下

 

To 比企谷八幡

 

昨日はお疲れ様。痛がってた腰は大丈夫かしら?まあそうにも関わらず私と致してしまったのだから多分悪化してるわよね。

 

とりあえず、あんなことをしたからには責任を取ってもらうわよ?

 

 

 

 

「っだはあああああああぁぁぁぁ……………、全滅かよ……」

 

 

でかい溜息をつき、今一度状況を整理する。

 

まず俺は一晩で5人と関係を持ってしまった。その5人とは平塚先生、由比ヶ浜、小町、一色、雪ノ下だ。この中で早急に手を打たなければならないのは由比ヶ浜と平塚先生だ。この2人はクラスで顔を合わせることになるから、優先的にどうにかしないといけない。

 

…というか、俺は隠すべきなのか?謝って高校生活をまたぼっちで過ごすべきじゃないのか?

 

ただそうなると全員を敵に回すわけになるのか。由比ヶ浜は多分俺のメンタルを削ることばかり言いそうだな。一色にしても同様だ。雪ノ下はいまいちよく分からないが、やろうと思えば俺は社会的に死ぬ。権力って怖い。でも小町をないがしろにするのが一番やべえよな。家族間でそんな問題をこさえてしまったのだ、十中八九家を勘当されるだろう。まあ平塚先生は………、ダメだ。撲殺される未来しか見えねえ。

 

 

はい、隠すべきですね。とりあえずメールで俺らだけの秘密みたいな感じで有耶無耶にするか…。小町には忘れるべきだと言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1月7日。三学期初の登校日、俺は家をギリギリに出た。無駄に早く着いても由比ヶ浜に詰問されるかもしれないので、回避するにはギリギリに出ることしかなかったからだ。

 

 

それも束の間、学校に着き教室に入る。ザワザワとした喧騒はさる事ながら、二つの視線を感じた。

 

 

(ッ!?由比ヶ浜はわかってるとして、あと1人は誰だ!?)

 

 

極力下を向きながら歩き、席を見つけて即座に座る。寝た振りをしようとすると後ろから「ちょっとヒッキーのとこ行ってくるね」との死刑宣告が。こええよぉ……、こええよぉ…。

 

 

しかしガラガラと音を立てて平塚先生が入ってき、由比ヶ浜はこちらへ来ることなく朝礼が始まった。その間俺は虚空を眺めていた。前をチラッと見ると平塚先生がこちらを見ており、すぐに顔を赤らめてそっぽを向く。

 

 

(心臓に悪ィ…、早く朝礼終わんねえかな)

 

 

そう思いながら顔を伏せて寝ようとすると。

 

 

「こら、八ま……比企谷!朝礼中に寝るな!」

 

 

(何だそのわざとらしい言い間違い方!!?こんなことされるなら寝るに寝れねえ!!)

 

 

やむにやまれず前を向くが、先生は俺の方を見る度に顔を背ける。それはそれはわかりやすく。

 

 

 

朝礼が終わり、礼をすると由比ヶ浜が一目散にこちらへ駆けてくる。逃げようかと思うがそうもいかずに捕まった。

 

 

「ねえヒッキー、おはよう!」

 

 

「お、おはよう。由比ヶ浜」

 

 

「…むー、ちゃんと『結衣』って呼んで」

 

 

(えええ!?無茶振りだと!?)「すまん、急にそうしたら俺達の関係がバレるだろ?」

 

 

「それもそっか。……じゃあさ、2人っきりの時は結衣って呼んでよね?」

 

 

「あ、ああ…。…結衣」

 

 

それで満足したのか、にこにこと元いた場所へ戻った由比ヶ浜。ほんと、朝から冷や汗をかかせる。

 

 

心臓を押さえつけていると、不意に背中を叩かれた。一気に血の気が引いたが一応振り向くと、なんてことはない。葉山だった。こいつなら何か知ってるかもな……、いや知られていても困るのだが。

 

 

「比企谷君、ちょっといいかな?」

 

 

廊下を指さしてそう言う。ついてこいと言っているのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「ああ」

 

対して特に断る理由もない俺は、葉山の後ろをついていくことにした。

 

 

適当に歩いていると、おもむろに葉山が口を開いた。

 

 

「なあ比企谷」

 

 

「なんだ?」

 

 

「君は恋愛についてどう思う?」

 

 

「藪から棒にどうした。別にしたいやつはしときゃいいんじゃねえの」

 

 

「それがたとえ歪な形でもか?」

 

 

「ま、まあそれは人それぞれだし?いんじゃねえの?いやマジで」

 

 

やっぱこいつ俺のこと知ってんのか!?脅しにかける気なのか!?

 

 

「……そうだよな、じゃないとこんなことしないもんな」

 

 

ほらぁー!やっぱ知ってんじゃん!!

 

 

「俺を、抱くなんて」

 

 

「………ゑ?」

 

 

「俺と、ヤるなんて」

 

 

「生々しい表現に変えてんじゃねえぞ!!」

 

 

「安心してくれ!誰にも言わないから!……そう、誰にもな」

 

 

そう言って尻を優しく抑えながらクラスへ戻る葉山。その後ろ姿にはどこか哀愁が漂っていることに気付き、不覚にも吐き気がした。

 

 

 

 

 

比企谷八幡、17歳。現在6股中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





一つだけ元ネタ(銀魂)と違う点を補足。




これはドッキリではない。





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クソ野郎が罪悪感を感じるのは間違っている

 

昼休み、俺の周りは早くも修羅場と化していた。

 

 

「ねえヒッキー。あたしのお弁当を食べれないってどういうこと?」

 

 

「結衣先輩、そうじゃなくて先輩はわたしのお弁当を食べるって言ったんですよ」

 

 

「…勘違いもここまでくると酷いよね。別にヒッキーはそんなこと言ってないじゃん」

 

 

「言わなくてもわかるってことですよ。もう少し頭を使ってからものを言ってくれませんか?」

 

 

……ことの次第は4時間目の終わりにまで遡る。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

(ふぅ、やっと昼にありつけるな)

 

 

4時間目の終わりを告げるチャイムが流れ、礼をしてから一斉に緊張感が解かれる。ある者は購買へ急ぎ、またある者は仲の良い友達()と昼飯を食べるために席をくっつける。俺は俺でいつものベストプレイスに向かおうと思っていたのだが、これからのことを考えすぎて板書がおざなりになっていたので授業が終わってからも必死にノートに写していた。

 

 

が、そこで一つの可能性に気付く。

 

 

(俺このままだと由比ヶ浜に捕まらね?葉山はどうでもいいにしても、由比ヶ浜は多分こっちに来るぞ?)

 

 

コンマ数秒の逡巡に対して俺の行動はスムーズで、やっと書き終えたノートをしまいもせずに昼飯の入ったコンビニの袋を持って教室を出ようとする。しかしそれでも遅かった。

 

 

「わっ、先輩!急に出てこないでくださいよ〜」

 

 

教室の出入り口で運悪く一色と鉢合わせしてしまった。理由は言わずもがな、わかってしまう自分が憎らしい。

 

 

「すまん一色、葉山か?葉山なら後ろの席ににいるから用があるならそこにしてくれ」

 

 

「何言ってるんですか?わたしが探していたのは先輩ですよ?いつもの場所に行っても誰もいませんでしたし、クラスの方に来たんですが」

 

 

「お、おおそれはすまん。それで何の用だ?早くしてくれないか?」

 

 

「ああ、これですこれ」

 

 

そう言って布でできた小さな袋を前に持ち上げた。

 

 

「お弁当作ってきたんですよ。……彼女としては当然のことです」

 

 

「い、一色(裏声)!?そのことは内緒つっただろ!!頼むから俺のトラウマを刺激しないでくれ!」

 

 

「あ、すみません!気が回らなくてごめんなさい…」

 

 

小声で付け足された爆弾発言にきょどりながらも注意する。トラウマというのは過去に好きなのがクラス中に触れ回ってバカにされ、一時期学校に行くのが辛かったというものだ。なおこのことは一色以外にも由比ヶ浜と雪ノ下にも言っており、みなそれぞれ納得してくれているようだ。下手に嘘をついて何か言われるよりも、多少の嘘で共通しているものの方が漏れても安心できるからな。

 

 

「じ、じゃあベストプレイスに向かうからお前はクラスに戻っておいてくれ」

 

 

「え、なんで一緒に食べないんですか?」

 

 

意味が全くわからないと言った様子で首を傾げる一色。まあ弁当をくれたのにも関わらず一緒に食べないってのは確かに意味わかんねえわな。

 

 

「なら早く移動するぞ!ほれ、急ぎたまえ!」

 

 

テンパっているのが傍目にも伝わりそうなもんだが、今はそれよりここを離れることだ。ずっとここにいたら由比ヶh…「ヒッキー!あたしもお弁当作ってきたんだけど、食べない?」………うーん、この。

 

 

「お、おお由比ヶ浜か。すまんこの弁当は一人乗りなんだ、だから明日な」

 

 

「何意味わかんないこと言ってんの?!」

 

 

「んんっ、…ぅおほん!俺自分のやつ買ってたんだけど一色にももらっちゃったんだよ。流石にお前のやつも足したら一人で食いきれないだろ」

 

 

「あ、先輩自分の分持ってたんですね…、すいません。でも何も言わずに食べようとしてくれたそういうとこ、好きですよ」

 

 

「」

 

 

うっ、と喉からこみ上げるものを抑えて、しかしそれでも驚きすぎて絶句してしまう。幸い由比ヶ浜には聞こえていないようで、ひとまず安堵するがそれでも危なっかしいものは危ない。

 

目線で注意すると一色は少しびびったようで、縮こまりながら上目遣いで謝った。謝ったと言っても首を少し下げただけで、例によって声は出していない。

 

 

「ヒッキー、あたしのじゃなくていろはちゃんのを食べるの?」

 

 

「あ、えっと、いやぁ…」

 

 

「ほら先輩、早く行きましょう」

 

 

そう言って俺の手を取り廊下に出ようとする。俺の手を取り、ということは必然的に俺と手を繋いでいるような形になるので、当然由比ヶ浜は面白くない。ムッとした顔で俺の反対側の手を取った。

 

 

「あ、あの由比ヶ浜さん?俺そっちの手はビニール袋持ってるから落としそうなんスけど…」

 

 

「ねえヒッキー、あたしのお弁当を食べれないってどういうこと?」

 

 

 

────こうして冒頭に至る。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「あたし前から思ってたんだけど、いろはちゃんのそういうとこホント無理なんだけど!」

 

 

「え?なんですか?自分が料理下手くそだからって逆ギレですか?もうちょっと先輩の立場になって考えてみてくださいよ」

 

 

「だからそういうところだって!」

 

 

「自分だって料理もできないのに先輩に無理やり食べさせようとしてるくせに!」

 

 

「あ、あの〜…、喧嘩はよそで…」

 

 

「ヒッキー!!」「先輩!!」

 

 

ビクッ!?と二人の顔を見る。そこには今まで見たこともないような形相でこちらを見る般若がいた。ふぇぇ…、ぼっちには荷が重すぎるよぉ…。

 

「まあまあ、2人とも。そのへんにしておかないかい?比企谷が困ってるよ」

 

 

未だ冷めぬ怒りの渦中に割って入ったのは、なんと葉山だった。いや、それはそれで問題だけどさ。なんにせよ助けてくれた葉山にどこかヒーロー性を感じた俺はつい感謝の視線を向けてしまった。そう、向けてしまったのだ。

 

 

「……比企谷、そういうのは2人っきりの時にしてくれよ」

 

 

キマシタワー!!!と叫んで後ろにぶっ倒れた海老名さん。ほんとマジでそういう冗談はやめてほしいって前までは思えたんだが、今はあながち間違いでもないからなあ……、ああいや、間違いだろ。俺が戸塚以外の男と交わるとかマジで間違いだわ。キメエ。ヤったの俺だけど。

 

 

「葉山先輩、客観的に見てわたしと結衣先輩のどっちが悪いですか?ここで決めてもらって悪くない方が先輩とお昼を一緒にできるってことにしたいんですけど、いいですよね?」

 

 

「ちょっとそれずるくない?!」

 

 

「これ以上客観的な方法はないですよ〜、ね?先輩!」

 

 

「お、おお。確かにな」

 

 

ここで葉山が決めたら俺は確実にどちらか2人と昼飯を共にすることになる。本来ならばそれも避けなければいけないのだが、この機会を逃すと最悪3人(ないしは4人)で食べることになるかもしれないのだ。多少のデメリットには目を瞑るべきだろう。

 

さすがの葉山もいきなり判断を煽られたからか、少し狼狽して悩んでいる。が、やはり客観的に見れば後から言い出してなおかつ変にキレた由比ヶ浜が悪いということになり、結果俺と一色はベストプレイスで飯を食うことになった。

 

去り際に由比ヶ浜が「次はあたしと食べてよねー!」とでかい声で言ったのには驚いたな。あんな声量で言ったら周りに誤解されるぞ、とも思ったが(悲しいことに)なんら誤解はないと思いさらに気が滅入るのであった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

ベストプレイスへ向かう道中、俺は一色とあの日のことを話していた。無論俺は一切合切忘れてしまっているが。

 

 

「あの日、わたし嬉しかったですよ?メールでも言いましたけど、あの痛みがわたしを、その…、女にしてくれたんですから」

 

 

下腹部のあたりをさすりながらそう言う。…こういうのを見ると、やはり俺はトンデモナイことをしでかしたんだなあ、と嫌でも理解してしまう。

 

 

「なあ一色、俺思うんだけどさ」

 

 

「はい?」

 

 

「俺とお前が交わった時さ、なんて言ったか覚えてるか?」

 

 

「え、ええ!?なんですか急に!!」

 

 

なぜか、それはそのことを覚えていないのならば今回のことはなかったことにするべきだと伝えるためだ。多分だが俺は酔っ払っていたから一色達とヤってしまったのだろう。一夜の間違いってところだな。そして俺がそのことを全く覚えてないときた。つまりもしかしたら一色もあまり覚えてないのかもしれない。ヤった、というのは本当でもお互いにあまり覚えていないのならばヤっていないのと等しいのではないか?加えて一色は年下だ。俺より酒の耐性がなくても無理はない。

 

 

「いや、ちょっとな。今後の俺たちのためについてだ」

 

 

「……ならちょっと恥ずかしいですけど、いやかなり恥ずかしいですけど、ちゃんと言います…」

 

 

紅潮させた頬を隠すように片手を当て、話し出す。

 

 

「まず先輩が、わたしの部屋に入って『You are 3!!!』って叫びました」

 

 

「待て待て待て、なんだそれ。俺の話だよな?」

 

 

「多分酔っ払ってたんじゃないですか?わたしはお酒飲んでませんでしたから覚えてますけど」

 

 

ツッコミどころが多すぎるが、とりあえず一つ一つ消化していこう。

 

 

You are 3!!!って完全にヤった順番じゃねーか!!最後が平塚先生だと確定しているからあの人が1番2番に来ることはないが、一色が3番目かあ…。まあだからといって何かが変わるわけじゃないんだけどね。しかも俺は何一つ覚えてないんだけどね。てかよくバレなかったな。……いや、さすがにヤった相手が既に2回も他の女とヤっているなんて普通考えないか。

 

そして一色の部屋に入ったというのもおかしな話だ。あの時の俺の財布の中身は飲食代で使うかもしれないからとかなり多めに入っていた。ホテルの相場は確か休憩で8000円くらいなので、それを加味しても俺は多くてもホテルに2回しか行っていない。そうじゃないと計算が合わないのだ。最後の平塚先生とのホテルは先生が出したかもしれないから置いておくにしても、3番目に家に行くのはおかしくないか?家に行くとしたらそれはお開きの合図だ。つまり最後かその一つ前ぐらいじゃないとやはり計算が合わないのだが、……いや、まあいいか。

 

あと地味に一色が爆弾発言をしていた。

 

 

 

酒を飲んでいない、だと………。

 

 

 

これにより俺の考えていた策は(つい)えた。やはり隠し通すしかないか…。

 

 

「その後は?」

 

 

「せ、先輩がわたしの服を脱がして……、あ、その時先輩は集中してたっぽいので何も言ってませんでしたよ?…まあ見られるのはめっちゃ恥ずかしかったですけど」

 

 

「お、おお。その後は?」

 

 

「確かおもむろに時計を見て、『よし一色!新年あけましておめで挿入!するぞ!』とか意味わかんないことを言いましたね。もしかして気にしてるのってそのことですか?」

 

 

セクハラ親父か俺は!!!???馬鹿じゃねーの!!バァッッカじゃねえの!!??

 

 

「でも耐えきれなかったのか、58分くらいで挿れちゃいましたね」

 

「………そうか。まあ、そのことは忘れような。頼むから忘れてくれ」

 

 

「は、はあ。まあ先輩がそういうなら忘れますけど…」

 

 

予想外のダメージを負った俺は早くこの傷を癒そうとベストプレイスへ早足で向かったが、その足はすぐに亀の足へと変わった。

 

 

「なあ一色。ここまで来てなんだがやっぱり屋上で食べないか?」

 

 

「え、嫌ですよ面倒臭い。もうすぐそこなんですから」

 

 

ぐいぐい、と俺を引っ張ってベストプレイスへと向かう一色。しかしそこには。

 

 

「あ、あら偶然ね比企谷君。なんだか教室で食べるのは飽きたからここで食べようと思ってこちらへ来たのだけれど…、比企谷君。なぜあなたは一色さんと一緒にいるのかしら」

 

 

「あの、雪ノ下先輩?先輩はわたしとお昼ご飯を食べるんです。だからどいてくれませんか?」

 

前門の虎後門の狼ってところか。教室では由比ヶ浜が、ベストプレイスでは雪ノ下が。なんか一周まわって落ち着いてきたな。

 

 

「あなたの発言にはいささか理解し難いところがあるとおもうのだけれど、自分では理解しているかしら?」

 

 

「えっとぉ〜、わたし的にはぁ〜、そんなことないと思いますけどぉ〜?」

 

 

「その腹の立つ口調をやめなさい。そもそもなぜあなたが比企谷君とお昼ご飯を食べる前提なの?」

 

 

「それは先輩が決めたことですし、ねー先輩?」

 

 

「」

 

 

「先輩?」

 

 

目を光らせて答えを催促する。その眼光はまさに野獣そのもので、俺はすぐさま頷くしかできなかった。

 

 

「それよりも雪ノ下先輩の方がおかしいんじゃないですかー?教室で食べたくないだけなら他のところでもいいですよね?」

 

 

「それはたまたま私がここを通りがかったからよ」

 

 

「ならここどいてくれませんか?わたしは先輩と2人でお昼ご飯を食べたいんですよ」

 

 

「嫌よ。あなたこそ比企谷君を置いてどこかへ行けばいいじゃない」

 

 

一色は飄々とした態度を崩さず、また雪ノ下も毅然とした態度を取り続ける。しかしこの言い合いは思わぬ方向へと流れることになった。

 

 

ん?何傍観者気取りしてんだって?そう思うなら俺と交代してみろよ。極力口は挟みたくねえんだよ、こええし。

 

 

「雪ノ下先輩…、自分で言ってる事の意味のわかんなさには気付いていますか?」

 

 

「あなたこそ荒唐無稽な話をしていることに自覚はあるのかしら?」

 

 

「じゃあ雪ノ下先輩はここで 独 り 寂 し く 食べててください。わたし達は別の場所で食べてくるので」

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!どうしてもと言うのなら比企谷君を置いていくべきよ!」

 

 

「……は?」

 

 

氷も凍るような絶対的な冷気を纏った一色は、静かに言い放った。

 

 

「いや、だからこれはあなたのためを思って言ってるのよ!そこのケダモノ谷君と二人っきりで一緒にいたら襲われるわ!」

 

 

「じゃあ襲われて結構です。では行きますよ、先輩」

 

 

「だから待ちなさい!!比企谷君は私の…」

 

 

「雪ノ下!!!」

 

 

俺が雪ノ下以上の声量で一喝すると、雪ノ下は我に返ったような顔をしてごめんなさい、とこぼして席を立った。底知れぬ罪悪感に苛まれながらも、ひとまずの危機を脱して安堵していた。

 

 

「さすが先輩です。さ、食べましょう!」

 

 

広げた弁当は綺麗に彩られ、食欲をそそったが、俺はなぜかその味をしっかりと堪能することは出来なかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

学校からの帰り道。雪ノ下に合わせる顔がなかったので由比ヶ浜に今日は休むと言い帰ることにしたのだ。2人を奉仕部に残すのは正直怖くて仕方がないが、ダメ押しに由比ヶ浜と雪ノ下にメールを送って釘を指しておいた。それくらいしかできなかった。

 

 

(こうして考えると、ほんと俺はクソ野郎だな。六股なんざするもんじゃねえな…)

 

 

立ち替わりに襲う罪悪感を押し殺し、自転車を押す。どうしても乗る気にはなれなかった。

 

 

そんな折、俺に声をかけてきたやつが1人。

 

 

「八幡!!!どうしたのだ、そんな思いつめた顔をして!」

 

 

声の主は材木座で、今はお前の相手をしているほどの元気はないとあしらったが。

 

 

 

「案ずるな、八幡。我はお前の味方だ」

 

 

 

今日何度も流した冷や汗が、ここへ来て最高潮へと達した。

 

 

材木座だし、大丈夫だよな?!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





個人的にガハマさんといろはすの喧嘩でいろはすがガハマさんに自分かて飯まずいやんけみたいなことを言ったシーンはよく書けていると思います。意味のわからないところから責めるやり口は怒った女性がやりがちですからね(笑)

それにしても八幡はクソ野郎ですね…。




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クズとデブの企てはどう転んでも間違っている


まさか2話でランキングに乗れるとは思っていませんでした。ありがとうございます!



俺と材木座は机を挟んで向かい合っていた。とりあえず最寄りのサイゼにでも入ってゆっくり話そうと言われたのでなすがままについて行ったというわけだ。

 

 

サイゼに入ってからは終始無言で、会話と言える会話も何を頼むか聞かれた時だけである。ちなみに俺も材木座もドリンクバーしか頼んでいない。こういった頼むものが同じというだけで勘ぐってしまう俺は毒されてるんだなあ、なんて呑気に考える。

 

 

とは言ったものの、依然話し(づら)い雰囲気の中ついに材木座が口を開いた。

 

 

「八幡、何か勘違いをしておるな?」

 

 

「」

 

 

「そう絶句するな。大方八幡は我とヤったなんて妄想を繰り広げておるのだろう?」

 

 

「ななな何言ってんだよ!?そん、そ、そんなわけねーべさ?!」

 

 

「皆まで言うな。我は八幡の状況はわかっているつもりだ。無論我ともヤっていない!」

 

 

「………話だけ聞いてやるよ」

 

 

「六股」

 

 

「いくらやれば黙っててくれる?」

 

 

「八幡…、それはさすがに我でも擁護できんぞ……」

 

 

なんにせよこいつは知っているのだ。確かに忘年会にも来ていたし、こいつが知っていてもなんら不思議ではない。

 

 

「けぷこんけぷこん、にしても八幡……傍から見ればマジで羨ましいぞ。変わってほしいくらい」

 

 

「んなこと言えんのは第三者だけだ」

 

 

「いや、だってな?奉仕部の美少女2人に小悪魔後輩生徒会長に美人教師に、あとは実妹と葉山で六股であろう?」

 

 

「葉山を入れるな馬鹿野郎!!!………まあ、六股は否定出来ねえんだがな…」

 

 

「お、おお…。まあとりあえず本題に入ろう。なぜ我がこんなことを言い出したと思う?」

 

 

腕組をしながら尊大な様子で聞いてくる材木座。多少イラッとはするが、今はそんな些細なことよりこの問いだ。

 

こういうのはゲーム理論が役に立つ。俺自身ゲーム理論の思考法というのは曖昧なもんだが、簡単に言えば相手の気持ちになって物事を考えるといったものだ。この場合、俺が材木座だとしてなぜこんなことをいうのか、言い換えればこの行為にどんな利益があるのかだ。

 

普通に考えればこれをネタに脅すことが可能だ。それか俺の相手の六人の誰かが狙いか…?さすがにそんなゲスいことは考えてないだろうが(そもそも俺がゲスいことをしているというのはとりあえず隅にやって)、それならば一体何が目的なんだ?

 

 

────小町か、小町だな。あんだけ可愛いんだ、脅してでもお近づきになりたいんだろうよ。

 

 

「小町をやるくらいなら俺は舌を噛むぞ」

 

 

「待つのだ八幡!!我は別に八幡の足元を見て言い出した訳では無い!!」

 

 

…ならなんだ?他にはもう思いつくものがないので、静かに材木座の答えを待つ。その姿がやつの厨二心にミートしたのか、にやりと笑って焦らしやがる。なんでかわからんが腹立つな、こいつ。

 

 

「それはだな、八幡」

 

 

一呼吸置き、無駄に溜める。早く言えよマジで。

 

 

 

 

 

「友情、さ」

 

 

 

 

 

さ、さ、さ……、と自らエコーを入れる材木座。それにしても。

 

 

「友情か。…はっ、俺には一番似合わねえ言葉じゃねえか」

 

 

「ニヤリ。しかし似合わぬ者同士の友情というのもまた乙なもんだろう?そうは思わんか、八幡よ」

 

 

「かもな」

 

 

久しく向けられていなかった純然たる友人としての好意を、不覚にも嬉しく感じてしまう。こんなこと死んでも言わねえけど、それでも少しだけ救われてしまった。本当に残念なことにな。

 

 

「あ、でも我ノンケだからな?それだけはお願いだから理解してくださいよ?」

 

 

「俺の感動を返せ」

 

 

「それより八幡、これからどうするのか決めておるのか?」

 

 

「いや……まあ、とりあえずは隠し通すしかねえかな、なんて」

 

 

「浅はかだな……、浅はかすぎるぞ八幡!!!」

 

 

立ち上がりどでかい声を出して俺を威圧する。しかし周囲の目線により逆に威圧された材木座はしゅんとなって席に座り直す。

 

 

「ん゛ん゛っ、繰り返し言うがそれは浅はかだ。よく考えてみろ、これから1年間も隠し通せるのか?しかも二股ならともかく六股だぞ?」

 

 

「だよなあ…、でも他にやりようもねえし…」

 

 

「ならば八幡、1人ずつきっぱり別れていくのだ。それが多分一番現実的で安全なやり方であろうな」

 

 

「まあ、そうだわな。具体的にはどうすればいいと思う?」

 

 

「とりあえずは雪ノ下女史からだろう。さすがの我でもあれは面倒臭そうと思うからな!」

 

 

「雪ノ下か…」

 

 

こんなことを言うのは少しはばかられるのだが、確かに雪ノ下はなんとなく重いところがちらほらと見られる。加えて今日の一色との昼飯の下り、あれはどう考えても道理にかなっていない意味不明な主張を繰り返していた。確かにめんどくさいだろう。

 

 

「しかしだな、材木座。面倒臭い相手を先に処理しても、いやしたからこそその後に面倒臭いことが待ってるんじゃないか?しかもあの雪ノ下だ、別れる理由を探られたらバレる自信しかない。ここはとりあえず泳がしておくべきじゃないか?」

 

 

「ふむぅ…、なるほどな。では雪ノ下女史はとりあえず保留にしよう」

 

 

「そこでなんだが、まずは由比ヶ浜なんてどうだ?」

 

 

「その心は?」

 

 

「目下顔を合わせることになる平塚先生との不安要素をなくすためだ。他にも由比ヶ浜はアホっぽいからだとか雪ノ下と比べて重くなさそうだからだとかは色々あるが」

 

 

「おお、意外と八幡も考えておるのだな…。よし、それでいこう!!」

 

 

トントン拍子に話が進んだが、とりあえずまずは由比ヶ浜を振ることが決まった。……なんかこんなことを考えていること自体罪悪感が青天井なんだが、だからといって下手に謝ったりするのは俺の自己満足なんだろうな。

 

 

「内容はどうする?実は今日一色に似たようなことをしようとしたんだが、失敗してな。酒は飲んですらいないようだ」

 

 

「む、知らなかったのか?あの場で飲んでいたのは八幡と平塚先生と雪ノ下女史と葉山だけだぞ?つまりお主が手を出した残りの3人はシラフだったというわけだ!!」

 

 

ええ…、てことは3人は酒の勢いだが残りはガチでヤったってことかよ…。ていうか小町ィ!お前妹だろお!!まあ手を出した兄が言えることじゃないんですけどね。

 

 

「とりあえず材木座。明日から早速由比ヶ浜に試したいんだが、内容は何かないのか?ないなら俺が考えるが」

 

 

そう聞くと、待っていましたと言わんばかりに胸を反らせて話し出した。その内容とは………。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「お、おはよう!由比ヶ浜!」

 

 

「おはよ、ヒッキー…って、どうしたのその服装!?」

 

 

次の日、朝の教室。俺は材木座に言われた通り、まず(えり)をすべて上に立て、真ん中にに大きくバツと書かれたマスクを着用して挨拶をした。マスクのイメージはクレヨンしんちゃんの紅さそり隊のあの人を想像してくれるとわかりやすい。

 

 

「え〜、いやな?ちょっとイメチェン、的な?してみたんだがどうだ?」

 

 

『作戦その一、服装で相手を幻滅させる!!八幡は良くも悪くも細いからすらっと見えるのでな、見た目もなんとなくかっこよく見えるのだ。つまり!!!見た目が悪くなったら相手もあれ?なんかこいつ気持ち悪いぞ?となれば勝ったも同然!!』

 

 

「え、ええ…。それはちょっと…」

 

 

「幻滅したか?幻滅したな?!」

 

 

「幻滅ってほどはないけどさ…。……ちょっと待ってね」

 

 

そう言って由比ヶ浜は俺の前に立ち、後ろ襟に手を伸ばして襟を直す。そのまま前の襟も同じようにし、その仕草はなんとなく────

 

 

「なんだか新婚さん、みたいだね?ヒッキー」

 

 

なんて感じてしまう。何が幻滅だ材木座。なんかいい雰囲気になってしまったじゃねえかよ。

 

 

「ヒッキー?……そんなに顔赤くしたら、バレちゃうよ?」

 

 

「お、おふっ、おほ、そうだな!隠さなきゃな!」

 

 

ちょっと今のはやべえなオイ!!!秘密の共有ってことで六股を隠してる俺なのに、俺自身が秘密の共有にやられてどうすんだよ!…しかし、見ようとしていなかっただけで由比ヶ浜って可愛いんだな。小声で下から覗き込んで、顔も少し赤らめながら上目遣いで俺のえりを持つ。密着しているから由比ヶ浜の胸も体に当たって破壊力抜群だ。

 

 

 

……この作戦は失敗だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして昼休み。教室の外で俺と材木座は話していた。周りにはほとんど誰もおらず、俺が知っている名前のやつは葉山くらいしかいなかった。

 

 

「して、どうだった八幡?我の天才的な作戦は成功したか?」

 

 

「してねえしむしろ失敗だよ…。てかとっとと由比ヶ浜を振らねえとな。残り何人いると思ってんだ」

 

 

「おい比企谷、結衣を振るってどういうことだ?お前の相手は俺だろ?」

 

 

例え由比ヶ浜を2日で振ったとしても、全員を2日で考えても2週間弱必要になる。その間バレずに、なんてことは本当に出来るのか?あれ?なんか俺詰んでね?

 

 

「なら次の作戦だ!!!作戦その二、あれ?前にあんなことがあった人と普通に話してるなんて、もしかしてヒッキー女だったら誰でもいいの??だ!!!」

 

 

「キモいからその声真似とかやめろ」

 

 

「おうふ、やはり八幡の罵倒は来るものがあるな……。で、だ。八幡よ、お主のクラスにあんなことがあったやつはいるか?」

 

 

「ん……、あんま思いつかねえな」

 

 

「相模さんなんかはどうだい?あの娘は君に随分傷つけられただろ。…まあ、今となってはあれも君の優しさだと気付けたんだけどね」

 

 

「ああ、そうか相模か。なるほどな。1人いたわ」

 

 

「あいわかった!ならばその女子に昼飯を誘ってみるんだ!…一応聞くが、その女子は弁当を群れて食べる(やから)か?」

 

 

「あいつ自身はそういう気質があるんだがな、色々あって今は1人で食ってることが多い」

 

 

「その心意気やよし!!!さあ、行ってくるのだ!!貴様の六股を刺されずに終えるために!!!」

 

 

「でけえ声で言うなクソデブ!!!」

 

 

「ちょっと待て比企谷!!六股ってなんだよ!」

 

 

イラッとしたので材木座を放り出してそのまま教室に帰る。最後に葉山が「そうか、つまりきみはそんなやつなんだな…。でも俺は……」なんて言っていたが、一体誰と話していたんだ?あんなに気落ちした葉山は初めて見たぞ?

 

 

 

 

 

 

「なあ相模、一緒に食べないか?」

 

 

そして教室。弁当を持っておもむろに相模の前の席を陣取ったかと思うと飯の勧誘をする俺ガイル。ありえない異常事態にクラスは騒然とし、わかっていたことだが由比ヶ浜は自身の脳の処理能力が追いつかないのか唖然としている。

 

ちなみに昨日の夜にメールが来た雪ノ下と一色にはベストプレイスに行くつもりだと伝えた。別に嘘は言ってねえし?ただ由比ヶ浜に捕まるつもりだから行けねえかもって言ってねえだけだし?(ゲス顔)

 

 

一方の相模も全く予期していない事態に絶句しながら、ようやくその口を開いた。

 

 

「は、な、ちょ、ええ!?なんでうちがお前なんかと!!?」

 

 

「うるせえな、別にいいだろ?気になるヤツと飯が食いたいってそんなにおかしなことか?」

 

 

そして俺は俺で周りの視線はどうでもよくなり、勝手に思いついたことをペラペラと並べる。この際だ、どうにでもなってしまえなんて思いが胸をよぎる。

 

 

「ちょっととりあえず別のとこ行くよ!!屋上ね!!!」

 

 

すぐに弁当をたたんで俺の手を掴み走り出す。というかなんであんだけ嫌ってたやつと手をつなげるんだろうな。マザーテレサよろしく嫌いなやつと好きな人の関係は表裏一体ってか?別にあれだけのことで相模の俺に対する好感度に絶対値記号をつけたとは思えねえんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

「ねえ八幡……、うち気持ちよかったよ…」

 

 

ラブホテル、ベッドでの相模の一言。

 

 

 

………どうしてこうなった??

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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クズが開き直るのは間違っている

話は4時間前にまで遡る。

 

 

 

屋上へと移動した(俺の場合は連れられた、だが)俺と相模はそこでようやく手を離し、切れた息を整えながら相模は俺へ先ほどのことを問いただしてきた。

 

 

「ねえ、比企谷!!さっきのはどういうこと!!」

 

 

激昂した様子の相模はいつにも増して面倒臭そうで、早々にちゃんとした会話は望めないと割り切り適当なことを考え出した俺だった。

 

 

こいつ、俺の名前ちゃんと言えたんだなあ…。ちょっと感心。

 

 

「どういうも何も、さっき言った通りだが?俺がお前と飯を食べたい、ってことだ」

 

 

「だからなんで!!!」

 

 

「なんで、なんでか……。強いて言うなら、お前が誰よりも悲しい目をしていたからかな」

 

 

────ここから、俺の暴走が始まる。

 

 

「な、ちょ、ええ!?うちが悲しい目!?なにそれ?!」

 

 

「知るか、そんなもん風にでも聞いてくれ。…ただな、俺はその悲しい目を少しでも癒せたらと思っただけだ」

 

 

「いや、でも…!うちは、アンタに酷いことだって…」

 

 

「それを自覚してくれただけで俺にとっては最上級に嬉しいことさ。そう、あの澄み渡った快晴のようにな」

 

 

「……でも、比企谷は結衣ちゃんと…」

 

 

「うるせえ口だな」

 

 

「んむっ!?…………んっ…」

 

 

 

が、そんなこんなで昼休みは終わって、相模と俺は別々に教室へ戻った。相模を先に帰し──その時メアドの交換をせがまれた。無論断りはしなかった──、俺はしばらく空を見ながら一言。

 

 

 

 

「…なんか、鳥になってみてえな」

 

 

 

 

何を思ってそんなことを言ったのかは、俺自身よくわからない。しかしその言葉が嘘偽りのない本心だったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして放課後に差し掛かる前、6時間目のことだ。数学の授業だったので開き直ってスマホで鳥の生態について調べていると、不意にメールが届いた。差出人は相模で、さっきのことをしっかり話し合いたいらしい。今日も奉仕部は休みか、なんて考えているともう一通メールが来た。……中身は見てもらった方が早いか。

 

 

 

 

From 由比ヶ浜

 

To ヒッキー

 

さっきのあれどういうことなの!?

がっかりしたってレベルじゃないよホント…。

みんな言ってたよ?なんであいつがさがみんとー、とか。

ん〜、どうだろ。みたいに適当に誤魔化したけどさ。

こんどあんなことしたらホント怒るからね?

ろうかに出ていった時も追いかけよう迷ったくらいだし。

すぐ行っちゃったからあれだけどさ、次からはやめてよ?

 

 

………嫉妬してるなんて、言わせないでよね。

 

 

 

 

はい、これである。表面上はちょっと嫉妬した彼女が彼氏に送るラブラブメール(死語)だが、恐らくわかる人にはわかるだろう。

 

不自然な平仮名、わかりにくい文章。

 

 

 

 

 

つまるところ、縦読みである。

 

 

 

 

 

この裏の含みに俺はすぐに気が付き、すぐさま相模に校門の前に集合だとメールで伝え、俺は俺で雪ノ下に奉仕部は休むと言い(この時の理由は小町の代わりに買い物に行くということにした。受験期の問題なのでさしもの雪ノ下も嫌と言えなかったようだ)、終礼が終わるとすぐに出ていけるようにまだ数学の時間だが帰る用意を済ませた。

 

6時間目が終わり平塚先生が来るのを待つ時間さえも俺はトイレに逃げ込み、用を足して教室に戻る。すると平塚先生はすでに到着しており、残る周りのやつらも席に座っているのだ。

 

…というか唐突に思い出したが材木座はどうしたんだ。なぜあいつは進捗を聞きに来なかった?

 

 

なんてことを考えていると終礼は早いもんで、起立の号令がかけられたと同時に俺はカバンを持ち、礼で流れるように教室から出る。元々の俺の影の薄さも相まって恐らくほとんどのやつらが見えていないだろうな。……まあ俺が一番バレてほしくないやつらには丸見えなんだろうが。

 

 

 

 

 

そして相模と帰っている途中、疲れたから休憩しようと言われて近くにあったラブホに入ってパンパンしたというわけだ。自業自得もいいところで、何のために相模を誘ったんだと言わざるを得ないがあんな顔で誘われたら行かないわけにはいかないだろう?(ゲス顔)

 

 

元々そんな能力があったのかあの一晩で急激に上手くなったのかはわからないが、嬌声を上げまくっていた相模を見るに俺自身も上手くなったのだろう。なんて、適当に考察をしてみるが不謹慎極まりない。

 

 

ここで前話の最後に繋がるわけだが、そのすぐ後机の上に置いた俺のスマホが鳴動した。常時マナーモードにしているので電話かメールかはわからないが、とりあえず相模の頭を一撫でしてからスマホを確認しに行くと、雪ノ下からメールがあった。

 

 

 

 

From 雪ノ下

 

To 比企谷八幡

 

小町さんに買い物のことを聞いたら別に今日じゃなくてもいいそうよ?だからとりあえず買っていないのなら奉仕部へ戻ってきなさい。けれど買っていても戻ってきなさい。とりあえずあなたは戻ってきて説明しなさい。

 

 

 

 

時が、止まった。

 

 

 

一瞬本当に息が詰まり、しかし内容を見返しても焦る鼓動は一向に落ち着かなく、むしろ見れば見る分だけ動悸が激しくなる。

 

 

とりあえず小町は俺の嘘を良い感じに解釈してくれたようだ。多分俺が小町のことを気遣って買い物なりなんなりしてくるのを言外の優しさ的な感じで受け取ってくれたに違いない。

 

そして雪ノ下だが、いくら二日連続で休むと言ってもアリバイを確認するとかマジで面倒臭えなこいつ……。いや実際嘘をついてるのは俺だから何も言えたもんじゃないが、それにしてもアリバイ確認って…。

 

 

と、それよりもヤバそうなのがこの最後の一文の『説明しなさい』だ。特に何を説明しろと言われているわけでもないが、今の俺に説明できることと言ったらあの一夜の情事しか思い当たるものがない。由比ヶ浜はともかく、一色とか雪ノ下は言いそうだもんな…。つい口が滑った、みたいなふりしていざ言ってみたらまさかその相手全員が当事者だったなんて、みたいなことは考えたくもない。

 

俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎるというラノベがあったはずだが、今の俺の状況は

 

俺の部活仲間と生徒会長と担任とクラスメイト(女)とクラスメイト(男)と実妹が修羅場すぎる

 

である。まだ修羅場は水面下なだけマシだが、これがもし浮上してきたら間違いなく俺は死ぬ。社会的に死ぬのは当たり前だが自責の念に駆られて自殺するかもしれないし、はたまたは誰かに刺されるかもしれないし、最悪の場合は親から家を追い出されて餓死なんてことも考えうる。

 

 

目下俺のしなければならないことは奉仕部にダッシュで戻ることであり、まだ見ぬ未来を想像することではないな。

 

 

相模にまた明日と告げてすぐにホテルを出た。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 

「あら、随分早かったわね。もしかして走ってきたのかしら?」

 

 

「ゆきのん、それは見たらわかるじゃん…」

 

 

あれから全力疾走で奉仕部の部室に辿り着き、ドアを開けたところで息を整えている。というかよく考えたら早く出ることを意識しすぎて自転車を学校に置いてきていたので、俺は無駄に走ったというわけだ。

 

 

「椅子は空けてあるわ、座りなさい」

 

 

「はぁ、はぁ、助、かるわ、はぁ…」

 

 

朦朧としながらいつもの場所に進むと、なぜかいつもと違う光景に目を疑う。

 

 

「………なんかお前ら、近くね?」

 

 

いつもは黒板から向かって長机の右端に雪ノ下、その反対側に俺、そしてその間をうろちょろするのが由比ヶ浜という布陣なのだが。

 

 

今日に限ってはなぜか左端の俺の席は変わらず、その左に由比ヶ浜、これはまあうろちょろする変域の端っこということだろうが、雪ノ下はその正面、つまり俺の右側に席を置いている。これに関しては本当に意味がわからない。いや、意図はわかるのだが。

 

 

「大事な話だからだよ、ヒッキー。とりあえず早く説明して」

 

 

「いや、あの、あれは…「ヒッキー?」「比企谷君?」…はい」

 

 

ゲームオーバーが近付く。まあ、大晦日からは9日経っているのでそれだけの間隠し通せたというだけでも僥倖か。……腹を括るか。

 

 

「実はな、あの時は知っていたかもしれないが酒に酔っていたんだ。つっても傍目でわかる程度かは知らんが」

 

 

「え!?ヒッキーお酒飲んでたの!?」

 

 

「未成年の飲酒は法律で禁止されているのよ。…まあ、私が言えたことでもないけれど」

 

 

「…でな、言い難いんだがもしかしたら俺はちょっとおかしかったかもしれない」

 

 

「あ、だよね!じゃないとさがみんのとこなんか行かないもんね?」

 

 

「……えっ?」

 

 

「えっ?」

 

 

「…………いや、そうだ」

 

 

 

 

あっぶねええええええええ!!!!!!!忘年会じゃなくて今日の昼休みのことかあああああぁぁぁぁ!!!!!!

 

 

いやー、あぶねえ…。こいつがアホじゃなかったら速攻バレてただろうな。雪ノ下も聞いただけの話じゃ要領を得なかったのかもしれない。なんせ話したのは由比ヶ浜だ。わからなくても無理はない。

 

 

「急におかしくなったのは多分昼休みのはじめの方に飲んでしまったからだろうな。水筒に酒ってのも、恐らく父親が持っていかなければならないやつを持ってきたっぽいし」

 

 

「じゃあ今もその水筒は持ってるのかしら?」

 

 

「いや、言ったかはわからんが初め飲んだ時は腐ったお茶か?って思ったんだから中身は捨ててしまったよ。すまんな」

 

 

「そう。…まあ、確かにそうじゃないと相模さんなんかと話さないわよね」

 

 

「………………」

 

 

ますます本当のことが言い(づら)くなった。いや、そもそも本当のことを言った時点でアウトなのだが、ほんの少しの『こいつらなら笑って許してくれんじゃね?指何本かで許してくれんじゃね?』的な生ぬるい妄想をしていたのだが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。

 

 

「……あっ」

 

 

「えっ?」「どうしたの?」

 

 

「いやいや、なんでもない」

 

 

「何それ、いいじゃん教えてよ」

 

 

「別に変なこと思い出しただけだから気にすんな」

 

 

「その変なことを教えてよ!隠し事?」

 

 

ガラガラ!

 

 

「いや、別に……「あっ、比企谷!ちょっと、早いよ〜。うちに追いつけるわけ…」…だああ!?ちょっ、ちょっとだけ外に出てろ!」

 

 

入ってきた相模を奉仕部の教室から押し出す。絶対に入ってくるなよ?と由比ヶ浜と雪ノ下に念を押して俺も廊下に出る。…さっきの「あっ」が実を結ぶことなく消化されてしまった。

 

 

廊下では、急に押し出された(見ようによっちゃボディタッチにも)相模は顔を赤らめながらくねくねしていた。

 

 

「相模」

 

 

「どうしたの?もしかしてうち達が付き合ったのを奉仕部の人達に言うのためらってる?」

 

 

「いや、まあ、そんなところだ」

 

 

「…もう、ほんと比企谷は優しいんだね」

 

 

えっ?と俺が疑問を返すことなく相模は続けた。

 

 

「だって、うちの比企谷が奉仕部のみんなに取られるかもってことを心配してるんでしょ?別に気にしなくていいよ?…は、八幡ならそういうの、大丈夫だって知ってるから」

 

 

「…………」

 

 

OK。把握した。こいつは高校生にありがちな『恋するわたしに恋してる!』的な自分に酔っている典型例のようなやつだ。痛々しいことこの上ないが、悲しいことにこういうやつが正直一番扱い易い。

 

 

「相模」

 

 

「ん〜?」

 

 

「……実は俺な、あいつらから好意を寄せられてるのわかってたんだよ」

 

 

実は、と切り出すのは地味に効果がある。使い古された手だが、使い古されたからこそ秘密の共有というのは絶大な効力を持つと裏付けされている。

 

 

「あ、そうなんだ。てっきり八幡のことだから気付いてないと思ってた」

 

 

「けどさ、実際の好きな人はお前なんだよ。お前しかいないんだ」

 

 

こういうところで『相模』じゃなくて『お前』と呼ぶのもポイントだ。わかってほしいから語調が強くなるみたいに感じてくれる。

 

 

「えっ、そ、そうだよね…。急に言われるとうち照れちゃう…」

 

 

「それとな、……………えっと」

 

 

「何?」

 

 

 

 

………あれ?こいつの下の名前ってなんだっけ?次はたまに呼ぶ下の名前が乙女心()をくすぐるみたいなやつなんだが、そして俺の名前も下の名前で呼ぶのは2人きりの時だけというやつをやりたかったのだが、肝心のこいつの下の名前を思い出せない。

 

 

 

()ガミ()さんじゃねえよな?

 

 

 

「…とにかく!俺の名前を呼ぶのは……、2人きりの時だけな。………ガミ」

 

 

「ひゃっ……ん」

 

 

壁ドンをして軽くキスをする。あとこのことはクラスでも秘密な、と最後に言葉を残して奉仕部に戻る。怪訝な顔をした2人に納得させらるるだけの言い訳をするのに最終下刻時間までかかってしまった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃん…、その、おかえり?」

 

 

あれ以来、小町はびっくりするぐらいしおらしくなりおかえりを言うのにも頬を紅潮させるほどだ。

 

 

「おう、ただいま小町。今日も今日とて可愛いな、さすが俺の妹」

 

 

え、あ、うん…。うぇひひ。なんて笑い返され、その姿を尻目に部屋に向かう。

 

 

 

 

 

「………もうこの際安価にしようか」

 

 

カチャカチャカチャ…。

 

 

 

 

【悲報】一晩のうちに五股してしまったんだがこれからどうしよう (1)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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間違った日常が間違ったらそれは正しい日常に戻るのだろうか

そんなに長く続けるような話でもないので、起承転結の転辺りに入ります。遅かったのはその辺りが関わっているのでどうかご容赦を!



0001 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 8mNhMHt

 

しかもほとんどが同じ学校\(^o^)/

 

 

 

0002 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID moBU1234

 

嘘乙糞スレ建てんな氏ね

 

 

 

0003 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID aBCdEfgh

 

フィギュア定期写真はよ

 

 

 

0004 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 8mNhMHt

 

いやいやwマジなんだが

 

 

俺どうすりゃいいの?

 

 

 

0005 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID taMa21nW

 

詳細は?

 

 

 

0006 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 8mNhMHt

 

酒の勢いで

 

 

 

朝起きたら1回りくらい年上の女性が隣で寝てたわ

 

 

 

0007 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID H1ra2kA

 

>>6 奇遇だな、私も似たようなことがあった。

 

とりあえず>>1の写真キボンヌ

 

 

 

0008 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 8mNhMHt

 

>>7 出したら俺が詰むだろうが。

 

 

つかキボンヌって………、何歳のBBA抱いたんだよオッサン

 

 

 

0009 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 774nOmB3

 

>>7 キボンヌ草

 

 

 

0010 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID Za1mKNgU

 

>>7 これはオッサン

 

 

 

0011 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID H1ra2kA

 

まだアラサーだよクソが氏ね

 

 

 

0012 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 8mNhMHt

 

>>11 それがオッサンって言うんだよオッサン

 

 

 

というかオッサンよりも俺だよ俺。死ぬしかねえの?

 

 

 

0013 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID t2KaNGel

 

>>12 確かに人としてはダメなことをしてると思うけど、僕だったらその人がどうあれ死んでほしくないと思うな。

 

簡単に死ぬなんて言ったらダメだよ

 

 

 

0014 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID taMa21nW

 

>>13 天使あらわる

 

 

 

0015 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID Za1mKNgU

 

>>13 やべえキュンってしたわ

 

 

 

0016 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID 8mNhMHt

 

>>13 確かに胸に来たけどお前が浮気されてたら殺したくなるだろ?

 

 

 

0017 名無しにかわりまして名無しがお送りします

ID t2KaNGel

 

>>16 確かに辛いとは思うけど、やっぱり僕はそれよりも大好きな人に死なれる方が嫌だよ

 

だから簡単に死ぬとか言っちゃダメだよ?

 

 

 

 

〜〜〜以下、天使を讃える流れが500ほど

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

翌朝、俺は小町に起こされた。長らく俺の部屋に来ていなかった小町だが、なぜか今日は起こしに来てくれていた。寝そべりながら時計を確認しても別段遅刻するような時間ではなかったので、今回は本当に自分から起こしに来てくれたのだろう。

 

 

「お兄ちゃん、朝だよ。ほら起きて?」

 

 

カーテンを開けて俺を揺さぶる。差し込む光が俺を射抜き、条件反射で目を細めてしまうが、いつまでも寝転がっているわけにもいかないので布団を押しのけて上体だけ起こす。押しのけた布団は足元に寄り、布団の温もりが無くなったので若干身震いをする。

 

ふと小町を見てみると、既に制服に着替えていたことからするにいつもより早起きしたから俺を起こしに来たのかもな。やることがないから、みたいな。

 

 

そして、なぜか小町はいつものように赤面しながら目線をふいと反らせ、しかしチラチラ見てくる。

 

 

「どうした?……って、あ」

 

 

「も、もうお兄ちゃん?!朝だからしょうがないのはわかるけどさ………、小町も女の子なんだよ…?」

 

 

そこにはいきり立った俺の愚息が。

 

 

「お、おおすまんな。ほっといたらおさまるからお前は先に下に降りといてくれ」

 

 

「…ねえお兄ちゃん」

 

 

「どうした?」

 

 

「今の小町は小町だからね。比企谷でもなんでもないただの小町」

 

 

「は?何言って……ってオイ!?」

 

 

小町はそう言ってそっと俺の愚息に手を重ねてきた。

 

 

 

 

………あとは、察してください(泣)

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

朝からすっきりとした気分で通学路を歩いていた俺は、しかしすぐに打ち消されることとなった。

 

 

「あ、ヒッキー!今日は自転車じゃないんだね!」

 

 

「え?…お、おお由比ヶ浜。おはよう」

 

 

あのあと小町は逃げるように学校へ向かったので、2人乗りができなくなり今日はすっきりしているから歩くか、なんて考えたのが完璧に裏目に出たようだ。

 

 

「もう、二人っきりの時は結衣って呼んで」

 

 

「…ああ、そうだったな。結衣…「八幡!!!朝から出会うとはまた数奇な運命であるな!!!」…ガハマ!!な!!由比ヶ浜!!」

 

 

「えっ!?…あ、そうだね!ヒッキー!」

 

 

「ふむ?もしやお主らは一緒に登校しておるのか?もしかして我邪魔?」

 

 

「そんなことないぞ?なんなら一緒に行くか?」

 

 

そして材木座にアイコンタクト。すると材木座はニヤリと返してそうだな!と肯定してくれた。やっぱこういう周りには気付かれないような会話っていいよな。すっげえ厨二心をくすぐられる。

 

 

「む〜、せっかくヒッキーと一緒に学校行けると思ったのに」

 

 

「何言ってるんだ?一緒に行ってるだろ?」

 

 

「そういうことじゃないし!ヒッキーの鈍感!」

 

 

なんて言われるが、全部気付いて言っている身としては少し心が痛む。まあ下手に二人になってボロを出すよりかはましか。材木座に感謝だな。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

そして授業中、昼前の4時間目にある一通のメールが届いた。

 

 

From 材木座

 

To 比企谷八幡

 

八幡よ、雪ノ下女史の姉の雪ノ下陽乃さんのことは知っておるな?今日の放課後すぐに最寄り駅のスタバに来いとのことだ。

 

……あと我に質問しても何も意味はないからな?正直何を聞かれても何も言えないし、ましてあの人の命令を逆らうなんてことしたら我は死ねるレベルだ。

 

 

 

「えっ!?!?」

 

 

ガタッ!!と膝で机を蹴りあげて大きな音を立ててしまう。一斉に周りがこちらを向き、俺は軽く会釈をして先生の方を、あぁダメだ平塚先生見つめたら恥ずかしがって授業どころじゃなくなる。

 

怪訝な顔をしたクラスメイトも次第に関心が薄れ、元通りの授業に戻ったが依然俺はオロオロとしていた。無論心の中でだが。

 

 

雪ノ下さんが俺に用?タイムリーなネタとしてはあの日の情事以外に何も思いつかないが、しかし雪ノ下さんは忘年会には来ていない。まして年が明けてから俺と出会ってもいないのだ。理由が全くわからないのだが、とりあえず命の危険はなぜか感じてしまう。

 

それになぜ材木座が雪ノ下さんと繋がっているのか。……いくら考えても共通項は見つかりそうにないので考えるのはやめるが、にしても意味のわからない組み合わせだ。

 

 

…そして、三日連続奉仕部を休むことが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みに入るなり、由比ヶ浜が突然俺のことを呼んだ。

 

 

「ヒッキー!お弁当作ったんだけど食べてくれない?ていうか食べて!」

 

 

小包を2つ持って俺の席に向かってくる。危険を察知したのか前に座っているモブA君は即座に席を移動し、遠巻きに観察している。

 

 

「お、おお弁当か。ならありがたくもらうわ」

 

 

そして俺は二度と同じ間違いを犯さない男だ。こんなこともあろうかと弁当は持って来ずに誰かからもらう算段だったのだ!…そこ、ヒモって言うなバカ野郎。人間誰しもヒモなんだよ。超ひも理論知らねえのか?スーパーストリングな理論だぞ。まあ理系理系したことなんざあんま知らねえけども。

 

 

「えへへ〜、今日のは自信作なんだ〜!」

 

 

そう言って自分で弁当箱を開ける由比ヶ浜。中には多少形の崩れた卵焼きに、焦げあとが痛々しいハンバーグ。他にも多かれ少なかれダメージはありそうだが以前に比べると大分進歩したと言えるだろう。

 

 

「いただきま…「ちょっと先輩!!何結衣先輩のお弁当食べようとしてるんですか!先輩はこっちです!」…」

 

 

ずけずけと入ってきた一色が俺の隣のモブBさんの席を陣取り(既に俺の周りにはこの2人しか居ない)、弁当を渡してきた。

 

 

「んっ!」

 

 

「…え?俺もう貰ってんだけど…?」

 

 

「んんっ!!」

 

 

「カンタかお前は」

 

 

「本当、下品な人ね。見ていられないわ」

 

 

「いやいや、別にカンタは下品ではないだろ…って」

 

 

「何かしら?私がここにいるのはそんなにおかしなこと?」

 

 

気付けば後ろの席に雪ノ下も座っていた。

 

 

…その事態によりクラスのやつらは軒並み教室から出ていき、残ったのは俺を含めた4人のみとなった。都合良く相模は過去の友達に誘われて嬉しそうに飯を食いに行ったのでいない。三浦たちにしても、葉山が気を利かせて連れていった。最後に教室を出る時、俺を見てフッと爽やかな、しかしどこかニヒルな笑みを残して出ていった時はやっぱ葉山はイケメンなんだな、と感じた。

 

だから俺が葉山に手を出してしまったのも仕方ないね(白目)

 

 

「あ、なあ雪ノ下。俺今日も奉仕部…」

 

 

「「はぁ?」」

 

 

ビクッ!!とその声にびびる。声を揃えて異を示す2人の「は?」には万感の思いが込められていたのだろう。怖くて仕方が無い。

 

 

だがそんな中助けてくれたのは意外にも一色だった。

 

 

「ちょっと、先輩方?そうやって先輩を威圧するのやめませんか?」

 

 

「あなたには関係ないわ」

 

 

「関係あるなしこそ関係ありませんよ。理由も聞かないで頭ごなしに否定するのはちょっと頭が悪いかな〜、なんて」

 

 

「へえ?ちなみに私はあなたと同じ1年生の頃、学年一位以外を取ったことなかったのだけれど?」

 

 

「ふふっ」

 

 

「ちょ、ちょっといろはちゃん!?確かに決めつけるのは悪かったし、これ以上ゆきのんを挑発しないで!」

 

 

「いやですけどぉ〜、まさか先輩がそんな馬鹿みたいなことを言うなんてぇ〜、マジ爆笑レベルじゃないですかぁ〜?」

 

 

「だからその腹の立つ話し方をやめなさいと前にも言ったでしょう!!…ああ、頭が悪いから忘れてたのね。ごめんなさい」

 

 

「ま、それでもいいんですけどね。わたし自身そんなに頭良くないですし。…ですけど、先輩の事情も聞かずにダメだと決めつけるのははっきり言って論外ですよ。駄々こねてる子どもですか」

 

 

「は?」

 

 

「ん?」

 

 

雪ノ下はこめかみに青筋を立て、一色はうまい具合に煽って自分の土俵に引きずり込む。挟まれた由比ヶ浜は初めに「は?」と言ったことを忘れたかのようにおろおろしている。というか一色口喧嘩強いんだな。雪ノ下の視線に射抜かれても余裕のある表情は崩さず、雪ノ下の反論も的確なことを言われているからかいまいち覇気がない。

 

…いや、覇気がないというよりはいつもの正論の迫力がないの間違いか。

 

 

「じゃあ聞きますけど雪ノ下先輩。縁起悪いですけど、もしも先輩の家族の誰かが事故にあったから休むのだとしたら許しますか?許しますよね?なのに雪ノ下先輩はそんな切羽詰まった事情を聞くことなくダメだと決めつけたんですよ?これって頭の悪い人のやることですよね」

 

 

「比企谷君ならそういった優先事項は先に言ってから休むというはずよ。効率重視の彼ならまずそうするわね」

 

 

「……なるほど、それは一理ありますね」

 

 

「ね?だからこの話は終わり!ヒッキーもさすがに3日連続休むのは…「あ、ですけど先輩」…まだあるの……」

 

 

「これで最後です。雪ノ下先輩」

 

 

「何かしら?口喧嘩を吹っ掛けてきて挙句負けた一色いろはさん」

 

 

「その主張の中に、先輩の気持ちは加味されていますか?」

 

 

「…は?」

 

 

「ですから、先輩の気持ちを考えてその主張をしましたか?って言ったんです」

 

 

「あなた何を聞いていたのかしら?考えたからこそ効率重視に行き着いたのでしょ」

 

 

「なるほど、つまり雪ノ下先輩は()()()()()()()()()()発言したんですね」

 

 

「何回も同じことを言わせないでちょうだい」

 

 

「じゃあ先輩は自分の身内の不幸を簡単に周りに言いますか?」

 

 

「…言わないわね。恐らく言えないわ」

 

 

「先輩のことですから、周囲に気を使わせるのは本意ではないでしょう。加えてここに来て3日連続休んでるんですよね?大事なことだから連続してるんじゃないですかね」

 

「………、そうね。一色さん、ごめんなさい。誠に不本意だけど比企谷君には休んでもらうわ」

 

 

「いえいえ、先輩が困らないのならわたしはそれで。じゃあ先輩!時間もなくなってきたことですし早くこれ食べてください!」

 

 

そう言って持ってきた二つのうちの片方を俺に渡す。

 

 

「「は?」」

 

 

………時間なくなるぞ、いやマジで。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言うね。多分ことの発端は私だよ?二股の八幡君」

 

 

 

 

「…は?」

 

 

 

 

 

スタバでの会話の一節、雪ノ下さんはどでかい爆弾を投下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フェアリーテイルの61巻のゼレフの息子のくだり凄かったですよね!てっきりまた真島ヒロが伏線の立て逃げをしてたのかと(蹴


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物語が急速に進むのは間違っていない

どんがめ更新ですみません。あとこれ含めると3話くらいですかね。


「…一体どういうことですか?何の話か要領を得ないのですが」

 

 

何の話かなど、言われるまでもなくあの一夜の情事だろう。しかしそれをバカ正直に漏らすなんて愚の骨頂極まりない。それに雪ノ下さんは俺のことを()()()八幡君といった。これはカマをかけているだけだろう。詳しくは知らないはず。

 

とりあえず、引き出せる情報は全て引き出そう。

 

 

「二股、なんて冠詞をつけたんだよ?わからない?」

 

 

「生憎俺は女難の相が出ているらしくて」

 

 

「でも二股出来たんだよ?女難なんて言ってるけど、本当は女なんて簡単とか思ってない?」

 

 

「俺にそんな器量はありませんよ」

 

 

「……雪乃ちゃんだけなら誰もこんなめんどくさいことしないのに。なんであの娘にも手を出しちゃったの?そんなに雪乃ちゃんの貧相な体じゃ不満?」

 

 

語気を強めて言及する。雪ノ下さんには珍しい、仮面を外しての心からの怒り。ひしひしと伝わる感情に知らないふりをして話を進める。

 

 

「そんなことありませんよ」

 

 

まあ実際は何一つ記憶はないのだが。

 

 

「雪ノ下さん、ちゃんともう1人の方のスタイル見てから言いました?」

 

 

そして、少し勝負に出る。もしも雪ノ下さんが嗅ぎつけた相手が由比ヶ浜なら割とやばいことになるのだが、あの情事でやらかした相手は4人だ。

 

追加して雪ノ下のことも少しだけ貶す。行動はああでもこの人は俺と同じ重度のシスコンだ。いざ他人に貶されたとなれば、多少は感情を揺さぶれるかもしれない。

 

 

「……まあ、ガハマちゃんみたいな感じじゃなかったと思うけど」

 

 

由比ヶ浜じゃない、スタイルが雪ノ下より少し良いやつ。加えて「思うけど」、と雪ノ下さんをもって曖昧な記憶の相手。消去法で十中八九一色だな。平塚先生ならそんな言い方はせず、しかもスタイルが良い。小町も雪ノ下に負けず劣らずの貧乳だ。引き合いに由比ヶ浜を出すとは考えられない。雪ノ下は初めからバレており、由比ヶ浜みたいな感じじゃない由比ヶ浜というのも意味不明だ。

 

 

「ねえ、今からでも雪乃ちゃん一筋になってくれない?」

 

 

「…その前に、まず事の発端の説明をして頂けませんか。多分その雪ノ下さんが言う“二股”についても関係あると思うので」

 

 

言われた雪ノ下さんは顎に手を当て、難しい顔をする。きっとわかりやすいように頭の中で推敲してくれているのだろう。

 

 

少しして、雪ノ下さんは口を開いた。

 

 

「あの日なんで静ちゃんがあんなに酔っ払ってたかわかる?」

 

 

「いえ、単に酔いつぶれただけだと思っていましたが」

 

 

「あれ、私が静ちゃんの飲むお酒をめちゃくちゃ度数の強いやつに変えてたんだ」

 

 

「へ?」

 

 

「ほら、静ちゃんって絡み酒じゃない?」

 

 

「いや、別にそんなこと知りませんけど…」

 

 

「まあそうなんだよ。でね、静ちゃんが酔いつぶれたら多分比企谷君に絡みそうだな〜、あわよくばお酒の勢いで雪乃ちゃんに手を出してくれないかな〜、って」

 

 

「」

 

 

「あれ、どうしたの?」

 

 

絶句。まさか元凶がこんなところにいたなんて。この人がそんなことしなければ、俺はこんなことで頭を悩ませるこたはなかったのにな。…まあその後にも手を出してしまった時点でそんなことは言えるはずもないのだが。

 

 

「いえ、それで?」

 

 

「まあ結果は君も知っての通り、というか当事者だけど上手くいってたんだよね。……けどさ」

 

 

「ええ、あいつですよね」

 

 

「相模ちゃん」 「いっし………え?」

 

 

「だから、相模ちゃんに手を出したじゃない。それより何、一色さん?」

 

 

「いいいいいいえなんでもありません!!……そうですね、魔が差したというかなんというか」

 

 

相模!?どこにこの人たちが繋がる要素がある!?

 

 

「…ちょっとだけ幻滅したよ。他の子ならまだしも、なんでよりにもよって相模ちゃんなの?」

 

 

「いやまあ、そのあれですよ。親近感、そう親近感!親近感ですよ。というかそれより、なんで雪ノ下さんがそのことを知ってるんですか?」

 

 

「メール」

 

 

「え?」

 

 

「だからメールだよ。多分付き合い始めたその日かな?相模ちゃんが相談したいことがあるって言ってきてね」

 

 

以下、雪ノ下さんの言ったことを要約すると、相模は周りの人には言うなと言われたから言わなかったが自慢したかったので害のなさそうな雪ノ下さんに報告したそうだ。その理由もそれだけではなく、間接的に俺から雪ノ下が手を引くように伝えて欲しいみたいなことをほのめかしていたらしい。

 

 

…バカ女のバカさ加減を見誤っていたな。それが原因で文化祭が飛びかけたというのに。

 

 

「…まさかそこまでバカだとは」

 

 

「さすがの私もちょっと引いたね」

 

 

「あの、それと材木座と繋がっていたのはなぜですか?」

 

 

「2人のことをちょっと監視するようにお願いしたんだよ。さすがにガハマちゃんにこんなことは頼めないでしょ?」

 

 

「それはそうですね。てことは材木座が俺のことを知っていたのも全部雪ノ下さんが教えたってことですか?」

 

 

「うん。元々知ってたっぽいところもあったんだけどね」

 

 

てことは材木座は雪ノ下さんから言われるまでもなく俺の…、もう何股かを数えるのも面倒だがそのことを知っており、その上で雪ノ下さんから俺のことを聞いて板挟みに苦しんだというわけか。

 

つまり俺が二股以上のことをしているのだとやはり雪ノ下さんは知らないわけだ。

 

 

「……最後に聞くよ、君は本当に“二股”をしたの?」

 

 

「ええ。“二股”ですね」

 

 

毅然とした態度でそう答えると、雪ノ下さんは少し目を細め、短く息を切って出ていってしまった。

 

 

俺にはなぜか、その仕草が壊れたおもちゃを捨てる時のように見えた。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

翌日、久しぶりに出た奉仕部ではやはり席は戻っておらず、ひたすらに3人が近い状態で奉仕部は始まった。

 

 

「…ちょっとゆきのん近くない?」

 

 

「由比ヶ浜さんこそ、寒いのなら暖房をつけるけど?」

 

 

と、いつもの痴話喧嘩で時間が過ぎていく。

 

 

しかしそれも30分くらいのこと。扉が開く音に俺たち3人の視線が集中すると、そこには相模が立っていた。

 

…そして、俺の冷や汗も最高潮に達した。

 

 

「あの、奉仕部に依頼なんだけどいいよね?」

 

 

人当たりの良さそうに、しかしどこか小馬鹿に見るような目つきはあの日(文化祭の依頼)を彷彿とさせる。

 

 

「なにかしら」

 

 

当然のごとく相模の見え透いた下賎な視線に雪ノ下は気付いており、現にいつもより目つきが鋭くなっている。さすがに不快な気分をさせたからといって追っ払うようなことはしなかったあたり、成長しているんだな。まあ前の戸部のやつはありがたかったけれども。

 

 

「ね、ここってこっちが依頼したら手ほどきしてくれるんだよね?」

 

 

「少し違うわね。ただいたずらに魚を与えるのではないわ」

 

 

「「魚のとり方を教える」」

 

 

「…!」

 

 

「だよね!だからさ、うちにデートの仕方を教えて欲しいの!」

 

 

「「「は?」」」

 

 

黙って聞いていた俺と由比ヶ浜もつい声を漏らしてしまい、結果奉仕部3人で声を揃える形になった。

 

 

「や、だってうちね?こう見えて男子と付き合ったことあんまりないからさ〜。魚のとり方ならぬ男子の釣り方?教えて欲しいんだよねー」

 

 

「さがみんの言うそれって…」

 

 

「うん、比企谷を貸して欲しいなー?ってことだよ。別に彼氏を作ってほしいって言ってるわけじゃないし、いいよね?」

 

 

「認められないわ」

 

 

「なんで?」

 

 

「彼はうちの部員なの。勝手なことは許されないわ」

 

 

「でも見捨てるのは奉仕部の理念に反すると思うよ?雪ノ下さん」

 

 

「……」

 

 

一色の時も思ったが、こいつ(雪ノ下)は恋愛が絡むと主張の一貫性がなくなるらしい。反して一色や相模は逆に口が回るようになるようだ。いや、回るというよりかは主題を明らかにしながら話すのか。だから一貫性を持つ。

 

 

「すまん雪ノ下、由比ヶ浜。こいつの言ってる事は屁理屈なりに理屈が通ってる。俺がやるからお前らはここで活動頼むわ。俺のことは待ってて……つっても、多分完全下校時間までかかるだろうから先に帰っててくれ」

 

 

「終わった?なら早く行こ?」

 

 

相模が俺の手を取って部屋をあとにする。あいつらの顔が見えなくなるまで時間はそうかからなかった。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「どういうつもりだ?内緒つっただろ?」

 

 

パルコ内での会話。ウインドウショッピングなるものをしながら俺はそう尋ねた。

 

 

「でもさ、やっぱうちらカレカノじゃん?そういうこともしたいなーって思ってさ。あれなら怪しまれずにデート行けるでしょ?」

 

 

「…それとだな、雪ノ下さん…、陽乃さんが知っていたのはどういうことだ?俺は初めに内緒って言ったよな?中学のトラウマまで話してよ」

 

 

語気を強めてたしなめるように言う。今まで優しくしてきた分耐性がないのか、はたまたは文化祭での出来事を思い出したのか、ビビっていると言うには充分な青い顔だった。

 

 

「あ、その、ごめん……、うちそんなつもりなくて…」

 

 

あれ?これもしかして別れられる?なんかそんな雰囲気じゃね?

 

 

「…そんなつもりがなくてもな、事実は変わらないんだよ。そこに思惑は関係ない。起きたことだけが俺に対する態度なんだよ」

 

 

それっぽいことを言って混乱させる。正直なに言ってるか俺もわからん。

 

 

「うっ…、ひっく……、うち、そんなつもりじゃ……」

 

 

しまいには泣きだした相模。これはもう一押しだな。

 

 

「……すまん、俺もこんなことは言いたくなかったんだがな。ただお前といてトラウマが…、トラウマが………アナムネーシスするんだよ。とりま別れてくれ」

 

 

ダメだ、トラウマの後の言葉が思いつかなくなったせいで後ろがめちゃくちゃになってしまった。

 

 

「そんな、うち別れたくない!!」

 

 

「本当に俺のことを好きならさ、別れて俺のことを楽にしてくれよ」

 

 

それだけ言い残して去った俺は、少しの罪悪感に胸を締め付けられながら帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




贅沢な望みかも知れませんが、どうか感想もしくは評価などくれると嬉しいです!読者の方と話すの結構好きなんですよ(笑)


それと関係ないことを一つ。デレステでありすガチャ復刻きたのに全く出ないとかどういうことじゃ…。吸われた俺の金はどこへ…。


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クソが為に鐘は鳴るわけねえだろボケ

次の日、相模は学校に来ていなかった。

 

 

葉山みたいな人気者ならいざ知らず、学校のやつが1人休んだところで周りはそう騒ぎ立てやしない。仲間うちであっても、明日は来るだろうなどと短絡的な思考でそいつへの興味をなくす。無論興味と言うほどの大仰なもんでもないだろうが、ともかく学校を欠席するというのは自分の思ったほど影響力を持たないのだ。まして俺や相模みたいな爪弾きものはな。

 

 

クラスを見ると、やはりいつもの喧騒が空気を支配していた。何気ない挨拶や今日の時間割の内容、あとは他愛のない雑談。その中に1人でも相模のことを話しているやつがいるかと言えば、誰も彼も気にしていないように見える。恐らく今日この教室で最も相模に関する思考が多かったのは俺だろう。

 

 

その点ではあいつ(相模)が休んだ成果はあったといえるだろう。あいつはバカだが(さか)しいやつだ。昨日の今日でタイミング良く休むとは思えず、そこに意思が込められているのは十二分に理解できる。

 

 

 

………まあ、ヨリを戻すのかと言われればそれまでの話なんだがな。

 

 

 

思考を打ち切り一時間目の用意をしようと席を立つと、待っていたかのようにあるクラスメイトが仁王立ちをして行き道を塞いだ。

 

 

「何の用だ、海老名さん」

 

 

「ふっ、ここを通りたくば私を倒してからいけぇー!」

 

 

「…マジで言ってんなら俺トイレ行ってくるんだけど」

 

 

「もーつれないねー比企谷君は。じゃ、ちょっと来てくれる?廊下でいいからさ」

 

 

一足先に廊下へ向かう海老名さん。思い当たる理由は思いつかず、だが後ろめたいことなら山ほどあるので一応は警戒する。軽やかな足取りに含意はないのか、先ほどの会話に何かほのめかしてはいなかったか。しきりに考えるが答えは出ない。

 

 

廊下に出ると、都合よく周りに人はおらず会話には適切な環境だった。

 

 

「単刀直入に聞くけど、もしかしてはやはちもしくははちはやしてる?」

 

 

「んなわけねえだろ。俺はノンケだって何回言わせんだよ」

 

 

「戸塚くん相手でも?」

 

 

「すいませんでした」

 

 

「あははっ、まあそれは置いといてね?」

 

 

言葉をそこで切って、俺の目を見据える。飄々(ひょうひょう)とした目は、なぜか全てを見通されているような印象を与えるのだった。

 

 

「君、何股してる?」

 

 

「……言ってる意味がわからねえよ」

 

 

「じゃあ言い方を変えるね。結衣と雪ノ下さんと一色さん、あとは隼人くんもいたら個人的にすっごく嬉しいんだけど、その人達以外にはあと何人と関係を持ってるの?」

 

 

………。さて、これはどう答えるべきなんだろうか。このタイミングでこんなことを言ってくるというのは、まず間違いなく雪ノ下さんが関係しているのだろう。そこに疑いの余地はない。

 

だが昨日雪ノ下さんは二股の、とはっきりと言った。つまり俺が二股以上をしているとは思っていないはず。ならば海老名さんはなぜ俺が前提から四股(葉山を除くと三股)していると言っている?雪ノ下さんと海老名さんに直接的な面識はなかったはずであり、また手を組むメリットも希薄だ。

 

そうなると海老名さんは1人で俺の情事に気付いたわけになるのだが、なぜ俺との繋がりが薄い海老名さんが気付けたのかが謎になる。答えを見つけるには情報が足りないな。とりあえず適当に返事をする。

 

 

「俺にそんな甲斐性があるように見えるか?」

 

 

「う〜ん…、比企谷君は専業主婦希望なんだよね?甲斐性でいえばあるようには見えないんだけど、女の子の扱いに関しては天性のものを持ってるように見えるよ」

 

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

 

「今のは皮肉のつもりで言ったんだけどね?」

 

 

友好的な雰囲気の中に少しの嫌悪。久しく向けられていなかった懐かしい感覚に、俺は少し昔のことが想起された。

 

 

「…仮にだ。事実かは置いといて俺がその質問に答えて海老名さんに何の利益がある?」

 

 

「そういう質問はずるいな〜」

 

 

「なら理由もなく変な質問するのもずるいと思うが。一蹴するのも怪しまれるだろ」

 

 

「んん……、それはそうか。一本取られたね」

 

 

「一見すると海老名さんがいじめてる側にしか見えないんだけどな」

 

 

「一回しか言わないからよく聞いてね?」

 

 

 

 

 

 

────君が女の子のことを簡単に考えすぎてるからだよ。

 

 

 

 

今までとは違う、凍えるような視線に俺は文字通り身震いし、少したじろいだ。

 

 

 

「そんなに驚かなくてもいいよ?…けど、今の動きは怪しいね。図星突かれたのかな」

 

 

「……………この際だ、海老名さんには全部吐くよ」

 

 

そして、俺は雪ノ下さんの犯行も話に交えながら事の顛末(てんまつ)を語り出した。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

すべて聞き終えると、海老名さんはいつもの笑顔を顔に()()()()()、満足げな表情をしてありがとうと言い教室へ戻って行った。

 

 

それからの授業は先ほどのことを整理していた。

 

 

(あのことを他人に話してもよかったのか?海老名さんなら事情を知ればうまいことやってくれるとも思ったんだが、早まったことをしたかもしれない)

 

 

冷や汗が背筋を這う。嫌な感覚は消えることなく、俺の背後で鎌首をもたげる。さっきのあれはやっぱり早まったか…?

 

 

(今思えば俺は海老名さんに言わされたのかもな。世の痴漢冤罪の方々はあんな感じの心境なのだろうか)

 

 

俺の場合は冤罪どころではなく真っ黒なので比べるのもおこがましいというものだが。

 

 

(………そろそろ潮時なのかもな)

 

 

ToLOVEるを読んでは幾度となく羨ましいと感じていたが、実際に体験するとろくなもんじゃない。加えて役得すらほとんど無いのだ。いくら自業自得とはいえ、そろそろうんざりとしてきた。

 

 

ふう、と一息つく。何かが変わるわけでもないが、爪をもう片方の指の腹に突き立てる。確かに感じるその痛みは、錯覚ではなかった。

 

 

 

 

罪悪感を少しでも和らげようとしている俺に、吐き気を覚えたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6時間目も終わり、今日こそはと奉仕部へ向かおうとする。何日も連続で休んでいたからな。流石に今日行かなかったら怪しまれるどころの騒ぎじゃない。

 

 

のだが。

 

 

「ごめんヒッキー!なんかゆきのんがヒッキーはすぐには来たらダメって言ってたからここで待ってて!用事が終わり次第呼びに来るから!」

 

 

と、今度は来るな発言をされた。それだけ言ってぱたぱたと駆けていく由比ヶ浜。何やら急いでいるような様子だったが、俺に知る由《よし》はない。

 

 

 

少しすると、この時間には会うと思っていなかったやつが現れた。

 

 

「あれ、八幡?奉仕部には行かないの?というかなんで教室にいるの?」

 

 

「戸塚」

 

 

体操服を身にまとい教室に入ってくる。そういえば長く戸塚と話していなかったな。いざ2人にならないと気付かないほど、俺は切羽詰まっていたのだろうか。

 

 

「戸塚こそ部活じゃないのか?」

 

 

「ちょっと忘れ物。八幡は?」

 

 

「なんか由比ヶ浜に今は来るなって言われてな…。まあそれに従ってるってとこだ」

 

 

「あはは、そうなんだ」

 

 

………やっぱ、いざ戸塚の前に立つと罪悪感がヤバい。どれくらいヤバいかつったら平塚先生の婚姻届に判子押すくらいヤバい。

 

 

気付けばまた指に爪を立てていた。口から内臓が出そうなほどの嘔吐感を催し、黙っているだけで発狂しそうな程だった。

 

 

 

 

────このまま、黙ってはいられなかった。

 

 

 

 

「戸塚」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「先に言っておくけどな、お前は確実に俺を軽蔑する。それを念頭に置いておいてくれ」

 

 

「何言ってるの?僕は別に八幡のことそんなふうに思ったりは…」

 

 

「俺は七股をしていた。……今は六股かもしれんが」

 

 

その懺悔に呆気に取られたのか、戸塚はしばらく無言だった。

 

 

「どうしても戸塚には、戸塚にだけは知ってもらわなければダメだと思ったんだ」

 

 

「そんなの…」

 

 

「言い訳はしない。今後どう付き合ってくれても構わない。…ただ、知っておいて欲しかった」

 

 

「っ…、聞きたくない!」

 

 

「戸塚!」

 

 

呼び止める俺の声も虚しく、戸塚は走り去ってしまった。残されたのは俺と虚無感のみで、0が残るという表現に自嘲的な笑みを浮かべるしかなかった。

 

今日の俺は一体どうしたんだろうか。海老名さんには話を漏らすし、戸塚にはゲロってしまうし。挙句泣かせてしまったと来た。普段の俺なら今の俺は助走をつけて殴りつけるレベルだ。後悔先に立たず、なんて言うが後悔は立つものじゃないな。後ろに居座り続ける、なんとも致し難い厄介者だ。

 

 

再度教室の扉が開かれたことに、俺は声をかけられるまで気付かなかった。

 

 

「ヒッキー、なんかさっき彩ちゃん泣いてたけど…。あと、もう奉仕部来ていいよ。早くしてね」

 

 

言い残し、教室をあとにする由比ヶ浜。どことなくよそよそしい感じがしたのは俺が沈んでいるからだろうか。

 

 

…だが、もしそうならば由比ヶ浜というやつは心配こそすれ邪険には扱わないはずだ。ということは、そうするだけの()()があったのだろう。

 

 

 

 

まあ、予想はつくわな。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

奉仕部の部室には、雪ノ下、由比ヶ浜の他に一色と平塚先生、そして雪ノ下さんと海老名さんがいた。

 

 

「あの…、これは一体…」

 

 

「言わなくてもわかるでしょ?君が招いたことなんだよ」

 

 

雪ノ下さんが冷たく言い放つ。バレていたんだな。多分()()()から。

 

 

「ヒッキー、ほんとなの?」

 

 

「……ああ。本当だ」

 

 

「なんでそんなことしたんですか!?わたしのこと好きだって、何度も言ってくれたじゃないですか!」

 

 

「………すまん」

 

 

「本心から謝っているように見えるけど、それ以上になんでバレてるのかわからないって顔してるね。まあ半分くらい私のせいなんだけどさ」

 

 

「何が言いたいのかさっぱりわかりませんよ」

 

 

「ネタばらしというか、この子達がここまで信じてる理由を教えようと思ってね」

 

 

「……んなの、海老名さんが録音でもしてたんでしょう。それくらい想像はつきますよ」

 

 

当てられたのが気に食わなかったのか、雪ノ下さんは顔をしかめる。ここまでわかりやすい雪ノ下さんは初めてだな。

 

 

「ただわからないこともあります。なぜ雪ノ下さんと海老名さんが手を組んだのですか?そこは考えても答えが出ませんでした」

 

 

「そこは私が答えるよ」

 

 

すっと前に出た海老名さんは、雪ノ下さんに目配せをして続けた。

 

 

「利害の一致というか、お互いにメリットが合致したんだよ。この……、えっと、5股?をバラしたら比企谷君が誰か1人に絞るかもしれないでしょ?私は結衣が、陽乃さんは雪ノ下さんが選ばれたらってことでそこまでの道筋はやることが同じだったからさ」

 

 

「待って」

 

 

そこに待ったをかけたのは、雪ノ下だった。

 

 

「やっぱり私は信じられないわ。……というか、彼がn股をしていたことを隠す理由がわからないの。彼なら気づいた時点で私達に嫌われるようなことをすると思わない?」

 

 

口々になるほど、と言葉を重ねる。

 

 

……こいつのこういう愚直なところは、恋人関係にならなければ見れなかったんだな。遅まきながら気付いた。

 

 

が、そこへ。

 

 

「八幡!!」

 

 

「…戸塚」

 

 

先程別れたはずの戸塚が、扉を開けて入ってきた。

 

 

「……いい機会だ、雪ノ下の質問に答えるよ」

 

 

息を吸い、間を一つ溜める。

 

 

 

 

 

「俺は戸塚と付き合っている。嫌われるようなことっつか、そんなわかりやすいことしたら戸塚にバレてしまうからな。俺はこいつとの間に本物を見つけた」

 

 

 

 

 

………へ?と周りのヤツらが疑問を浮かべるのは無理もなかった。戸塚は戸塚で顔を赤らめていた。可愛いヤツめ。

 

 

 

 

 

 




戸塚と付き合っている、これは初めから考えていた結末でした(笑)
一つだけネタばらし(?)すると、1話での6股発言は葉山を抜いて戸塚を入れた発言でした。だからしきりに葉山を抜こうとしていたわけです。

他にも色々伏線的なものは張っていたので、よければ探してみてください(笑)


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真冬の夜の淫夢


最終話です。



「な、何言ってるの…?彩ちゃん男の子だよ…?」

 

 

由比ヶ浜が信じられないと言った表情で確認する。周りのやつらも何が何だかといった面持ちでこちらを見ている。

 

 

「いやまあある意味では男の子っつか男の娘だけど…。というか、お前らはそんな差別思想の持ち主か?」

 

 

「これは差別ではなくて常識の話よ」

 

 

「常識で言うならそもそも俺みたいなクソ野郎に執着すること自体非常識だと思うが。…その点で、ほんと戸塚には感謝してるよ」

 

 

頭を撫でる、なんて気持ちの悪いことはしないが戸塚の方に目をやってついつい笑みがこぼれる。戸塚も嬉しそうにしてくれており、やはり俺が選んだ彼女(戸塚)は間違えていなかったと思える。

 

 

「あの、先輩…」

 

 

目を伏せながら、小さく一色が問う。

 

 

「わたし達とは、本当に遊びだったんですか…?」

 

 

震える声に幾ばくかの罪悪感を感じながら、 言葉を返す。

 

 

「…遊びっつか、まあ望まない恋愛だったのは確かだ。今更こんな話するのは虫が良すぎるとは思うんだが、これから俺のことはどう扱ってくれてもいい。いないものとして接してくれても、害虫みたいに忌避してくれても、周りに俺のことを触れ回ってくれてもいい。甘んじて受け入れる覚悟は………、あるとは言えないが、そんだけのことをされることはしてきたつもりだ」

 

 

辺りは静まり返る。この長い間は、俺の処遇を1人1人考えているからなのだろうか。

 

 

そんな折り、くすっと微笑を浮かべたのはまたしても一色だった。

 

 

 

「先輩…、わたしが、そんな簡単に好きな人を嫌いになれると思いますか…?」

 

 

 

涙を浮かべる。それでもなお笑顔を絶やそうとしないのは一色なりの気遣いなのか、答えは出ない。

 

 

ところどころに嗚咽をにじませながら、一色は続けた。

 

 

 

「わた、わたし…、本当に先輩のことが…っ、先輩のこと………、好きでしたぁ……っ」

 

 

 

「いっし…」

 

 

呼び終える頃には、すでに奉仕部を出た後だった。去り際に煌めいた光は言わずもがなだろう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

それから俺達は程なくして解散した。半ば強引に雪ノ下さんに俺が手を出した女達には関わるなと約束させられ、後味の悪い幕切れとなった。

 

 

 

 

まあ、これ以上ないほどクソみたいなことをしたのは俺だから何も言えないんだがな。あとやっぱあの人シスコンだわ。

 

 

 

 

「ね、八幡」

 

 

戸塚が声をかける。繋いだ手は暖かくて、確かな体温を感じさせる。

 

 

「どうした」

 

 

紅く染まった顔は夕暮れだけなのか、これからずっとなのか。

 

それとも、今日限りなのか。

 

 

「僕が奉仕部に向かった理由、言ってなかったよね」

 

 

そういえば、と口をつく。あの時は初めに俺の名前を呼んだ以外は口を開いていなかったように思える。

 

 

「僕は別れる気は無いよ。今回のことはやっぱりダメなことだと思うし、正直僕も戸惑ったけどさ、それでも」

 

 

手をぎゅっと繋ぎ直される。汗が滲んでいるのは緊張からか、それとも。

 

 

「好きなんだ、誰よりも八幡のこと」

 

 

「…」

 

 

「あれ、八幡?もしかして泣いてる?」

 

 

「…、うるせ」

 

 

余った手で目を抑え、零れそうになった涙を拭う。それでも手は離さない。

 

 

 

 

間違いまくった青春だとは思うが、俺はこの青春を肯定したい。利他的に生きることこそが最も利己的だと考えていた俺だが、こうして変わらない絆を持ってしまうと、やはり考え方は変わってしまったのだ。

 

 

夕日に照らされながら、道路を歩く。隣には戸塚がおり、それはこれからも変わらないだろう。いや、変えさせない。俺が見つけた本物は間違っていなかったのだと、これから一生かけて証明していくんだ。

 

 

再度手を握り直し、俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は葉山を屋上に呼び出した。現在ここにいるのは俺と葉山だけで、昼休みだというのにやけに静かな学校は嫌に緊張感を感じさせる。

 

 

「ここに呼び出した理由はわかっているよ。本当は戸塚と付き合っていたんだろ?」

 

 

「…ああ。本当に悪いと思っている」

 

 

「ま、それなら納得なんだけどね。どうりでヤる前の手際が良かったわけだよ」

 

 

「お、おお…」

 

 

失礼極まりないが鳥肌が立ち、腕を後ろで組み必死に隠そうとする。今の生々しさはマジで気持ち悪い。

 

 

「俺のことは忘れてくれよ。じゃないと戸塚が可哀想だ」

 

 

「葉山」

 

 

「なんだい?」

 

 

にこやかな笑顔でこちらを向く。

 

 

「やっぱお前イケメンだな。俺にはもったいないくらいだ」

 

 

「……その言葉をもらえただけで充分だったね。比企谷、今までありがとうな」

 

 

「葉山…」

 

 

「じゃあね、()()()()()

 

 

身を(ひるがえ)して屋上を後にする葉山。去り際のあいつの背中は妙に広く見え、それがまた頼れるやつなのだと再実感させられた。

 

 

最後の呼び方、あれが俺達のこれからの関係を暗示していたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

「ねえヒッキー、ちょっといい?」

 

 

放課後、帰ろうとしていた俺を由比ヶ浜が引き止めた。

 

 

「…別にいいが、雪ノ下さんに関わるなって言われてたろ?」

 

 

「そうだけど、最後に一つだけ」

 

 

最後、という言葉に少しの痛みを感じたがそれを言えるほど俺の立ち位置は高くない。

 

 

「なら廊下でいいか?さすがに教室じゃ話せることも話せねえだろ」

 

 

「わかった」

 

 

お互いそれまでとは違う冷静さで、というか由比ヶ浜がいつもの由比ヶ浜からは考えられない落ち着きで返事をするその姿に、かつてこいつらにも感じた本物は崩れ落ちたのだと、瓦解してしまったのだと理解してしまう。

 

 

10秒にも満たない移動時間が、俺には驚くほど長く感じた。

 

 

「ヒッキー昔言ってたよね。本物がほしいって」

 

 

「ああ」

 

 

「それで、本物は彩ちゃんとの間に見つけたって」

 

 

「…ああ」

 

 

「じゃあさ、ヒッキーにとっての本物って結局なんだったの?」

 

 

「それは…」

 

 

核心を突く質問に戸惑う。口ごもった俺に畳み掛けるかのごとく、由比ヶ浜は質問をかぶせる。

 

 

「恋愛関係?…は奉仕部とは違うか。居場所?それとも、歯車になりたかったとかそんな感じ?」

 

 

歯車…。言い得て妙な喩えに思わず首肯してしまいそうになる。確かに奉仕部での俺は、居場所というよりは共依存を望む、さながら一つでも欠けたら機能しない歯車のようなものを求めていたように感じる。

 

しかし、戸塚との間に見つけたのはそういったものでは無いのも事実である。

 

 

「あの頃はそうだっただろうな。お互いがお互いを必要として、求めて、依存し合う。俺たちにとってはこれ以上ない幸せで、はたから見たら滑稽なことこの上ない関係」

 

 

だが、と繋げる。

 

 

「戸塚との本物はそれとは違う。言ってみたら……、あー、あんまり良い喩えは思いつかないんだが多分それが本物なんだよ。個人によって違うけど、当人同士が共有しあえるもの、的な?」

 

 

「ぷっ、やっぱりヒッキーって変な人だね」

 

 

「言うな。そんなの()()()が一番知ってるだろ?」

 

 

「……そだね」

 

 

寂しげにも見える表情は、果たして俺の思い込みなのか。答えは出ない。

 

 

「あたしは多分これからもヒッキーを好きなんだと思うよ。ずっと好き。………世界観が違えば殺して首だけ持って帰るレベル」

 

 

「怖えよ!!!」

 

 

「あははっ。だからね、ヒッキー」

 

 

そう言っては体を俺に近づける。

 

 

 

 

 

「一生あたしのこと、覚えててよね」

 

 

 

 

 

それだけ言うと由比ヶ浜は教室へ戻り、帰りの支度をする。

 

 

最後に残された言葉は、おそらく一生俺の心に居座り続けるだろう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

今日も今日とて戸塚と帰る。お互いに言葉を交わさないのは、言わずとも通じてるからだと信じたい。

 

しかしすれ違いがこの空気を生み出しているのも事実だろう。

 

 

「戸塚」

 

 

「なに?」

 

 

「俺が死んだら、それは自業自得だから心配すんなよ」

 

 

「えっ、なにそれ。これから殺される予定でもあるの?」

 

 

「万が一の話だ」

 

 

「……万が一でもそんなことは言わないで欲しかったな」

 

 

……………………。

 

 

そして始まる無言タイム。やはりどこかすれ違っている。解決策は見つからないし、このままずっとこうなのかもしれない。しかし今の俺にはそうならないことを願うばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなことがあったんだけどさ、どうしたら仲直り出来るんだろうな、小町」

 

 

「……戸塚さんと付き合ってる?いやいやいや、戸塚さんは男の子だし、しかもお兄ちゃんは小町と…」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「う、ううん!何でもないよ!それより、戸塚さんとの仲直りだっけ?」

 

 

「ああ。どうにもすれ違いが多くてな…」

 

 

「まあそれは時間が解決するんじゃない?友達との喧嘩とかって大体そんなもん……、あっ…(察し)」

 

 

「今まで友達がいなくて悪かったな」

 

 

「今のお兄ちゃんには小町がいるもんね」

 

 

「ああ、それと戸塚も………、うっ」

 

 

ドクっ、と脈打つ愚息から放出されるナニ。

 

 

これから先、俺の青春はどうなるかはわからない。青春なんてものは、もう既に終えてしまっているかもしれない。はたまた、青春は死ぬまでが青春かもしれない。

 

そんなことは神のみぞ知る、と言ったところだ。多分、それが人生なんだろう。臭いセリフだが正しく世の真理を伝えている。何もわからないから面白くもあり、こうして俺と戸塚はカップルになったということだからな。

 

 

まあ、なんだ。しかし。

 

 

今回の話で得た教訓があるとしたら、それは『酒は飲んでも飲まれるな』ってところか。

 

 

 

 

「あっ、ちょっと待って小町!今お兄ちゃんイったばっかだから結構しんどい!!」

 

 

 

 

あ、あと未成年はお酒を飲んじゃダメだからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






くぅ疲(ry

更新も遅く、話の内容も馬鹿みたいなこんなssを最後まで読んでくださりありがとうございました。正直途中からキャラを多く出しすぎたとめげそうにもなりましたが、皆様のおかげで(特に感想などはすごくモチベが上がりました)なんとかここまで書き上げることができました。

前に書いた方はわりかし話の内容が重かったので、次に書くやつはちょっと軽めにしようと考えていたら別の意味で重くなってしまいました(笑)俺重い話しか書けないんですかね…(笑)

ともあれ、最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。

おそらく次回作は去年の夏からしたためている俺ガイル×中妹のクロスオーバー(まあ溜まってる話数は全然ないのですが)か劣等生×とあるのクロスオーバーだと思います。よければ新作にそれが上がっていたら読んでやってください(土下座)



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