落ち着け、先ずは鋏を下ろそうか。 (赤茄子 秋)
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閑話 謎の男

これはまだ先の話である。

季節は冬、場所は北岡法律事務所の主人である北岡秀一の家であり、彼は仮面ライダーゾルダでもある。

最も優秀な弁護士と言われている北岡。この屋敷にはそれにふさわしい僅かな光も全て反射させる程に手入れされた大理石でできた床、一つ見るだけで売れば並の人は2、3年は遊んで暮らせる豪華な装飾品、そしてそれらを越えてこの屋敷の主人公巨大な黒いデスクがあり、そこに彼は一人の男を対面にして座っている。

 

だが、今は仕事の話をしに来た…いや、正確には弁護士の仕事を頼まれに来たのでは無い。

 

「お前はあの男に手を出すつもりか?やめとけやめとけ、浅倉じゃあるまいし。死にたいの?」

 

彼の名前は佐野満、大企業の御曹司であったが、勘当され、今は北岡秀一に仮面ライダーインペラーとして自分を売り込んでいた。

 

「あれ、もしかして北岡さん…ビビってるんですか?それなら俺がバシッと倒してあげますよ!」

 

もう何度目かわからない自己アピール、それに北岡もうんざりし始めていた。特に腹が立ったのは『自分がいれば楽にライダーの力を使えてお買い得ですよ?』だと言った事だ。ライダーバトルはそんなに甘いものじゃない。そして北岡の頭の中には一人の男が思い浮かぶ。

 

「ビビってるよ。俺は、あいつには勝てない。どう転んでもだ。」

 

こんな北岡は隣にいる由良吾郎でも初めてではない。だが、共通してるのが全てあの男と関連してるのはわかっていた。

 

「いやぁ、でも北岡さんでしょ?余裕ですよ。」

 

突然弱気になった北岡を煽てて少しでも機嫌を直そうとする佐野。だが、それは逆効果であった。北岡は「ふっふっふっ…」と不気味に笑い始めたのだ。

 

「…少しだけ昔の話をしよう。」

 

北岡が最初に絞り出したのはその言葉だけであった。なのに、重たい、とても重いのだ。まるで突如として巨大な岩石に押し潰されてしまうように感じるほど、空気が重くなった。まるでここだけ氷河期になったように、空気が冷えきっていた。

 

「俺があるライダーと最初に戦った時の事だ。一言で言うならば、実力…いや、次元が違う存在と思わされたよ。」

 

「次元って、そんな大げさな…」

 

「勝てる戦いだと思ってたんだ。だが、次元が違えばそこに存在する差すら埋める気になれなかったよ。」

 

北岡の弱音に、佐野はどう反応すればいいかわからなかった。いつもの傲慢で自信家なあのスーパー弁護士はどこに行ったのか?今でもこれがドッキリと言われても信じられるだろう。それだけ、落ち込んでいるのだ。

 

「…そんなにですか?」

 

「あぁ。」と頷くと、そのまま話を続ける。佐野はこれを聞いて、驚くのは早すぎたと悟った。

 

「あの時は何をされたかわかった時にはっきりしたよ。こいつはヤバい、立ち向かうのが間違いだ!ってね。あの浅倉を片手だけで倒し、俺や浅倉、秋山を一撃で吹き飛ばした13人目のライダーを倒し、ライダー12人を相手にバイクと飛び道具だけで全員を簡単に戦闘不能にした奴だ。優しい先輩として忠告をしてやる。そいつとだけは絶対に戦うな、勝ち目なんてないぞ。」

 

「そんな…まさか。」

 

どれも眉唾物である。どれも嘘としか思えない。これをやれるなんてのはあり得ないだろう。全て一人のライダーの成した事だ。北岡秀一がここまで怖じ気づいているのは、勘違いか間違いじゃないかと。薬でもきめてるんじゃないかと。

 

「教えてやる。これは全て事実だ。他のライダーに聞いても構わない。どいつからも同じだろうがね。」

 

そして、北岡は重かった頭をゆっくりと上げて、捻り出すように、言った。

 

「仮面ライダーシザース 須藤雅史とは聖人であり、悪魔のような男だ。」

 

 

 




追記

タグに【勘違い】を追加しました。


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4月 俺、ライダーになります。
プロローグ


『FINAL VENT』

 

「グガァァァァァァ!!!」

 

爆音と共にモンスターは弾け飛ぶ。文字通り爆発四散したのだ。

 

ビル街の中心で起こる非日常、にも関わらずここには誰も居ない。

 

「…きつ、かったぁ。」

 

いや、一人だけ居る。野次馬は居ないが、モンスターを倒した張本人がそこに座り込んでいた。

 

黄金に光る鎧に腕には大きな蟹の様な鋏、その格好のまま、彼は大の字になって地べたに横たわる。

 

「キチキチキチキチ」

 

そして、今しがた倒されたモンスターのコアを食らうのは人の形をした蟹のモンスター。

 

しっかりと味わうというよりは、飲み込むのに近い食事をするとチラリと横たわる彼を見る。

 

「…俺を食うなよ。」

 

彼がこの様に言うのは彼が扱うこの蟹もまた倒したモンスターと同類だからだ。

 

モンスターは人を食らい、この世界…ミラーワールドに引きずり込む。引きずり込まれたが最後、2度と元の世界に帰る事はできない。

 

「…本当に食うなよ?」

 

「キチキチキチキチ」

 

鋏を研ぎ、ナイフを舐めるように鋏を泡で洗い出した彼の契約モンスター…ボルキャンサーに本気で警戒をする。

 

「落ちつけ…そして、鋏を下ろせ。」

 

「キチキチキチキチ」

 

全力でミラーワールドから逃げる。

 

ボルキャンサーも走る。

 

「追いかけてくるな!」

 

そのままなんとかミラーワールドから脱出する。

目の前ではキチキチキ言いながら鋏を振り回すボルキャンサー。

 

「どうして、こうなっちゃんだろうなぁ…本当に。」

 

彼は仮面ライダーシザース、本名は須藤雅史(すどう まさし)、13人のライダーの参加するバトル・ロワイアルの参加者の一人…になっちゃった人である。

 

 

「誰か…助けてくれ。」

 

彼の切実な心の叫びは、誰も居ないこの世界では静かに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界は仮面ライダー龍騎の世界、彼は憑依した瞬間にそれを悟った。

 

モンスターに襲われたタイミング?違う。

 

ライダーが戦ってるのを見たタイミング?違う。

 

登場人物と遭遇したタイミング?まぁ、それが正解であるが…先ずは彼の憑依のタイミングから説明しよう。

 

場所は須藤雅史のアパートらしき場所、そこで年期の入ったちゃぶ台の前に、座っていたのが最初に気づいた事であった。

 

時間は夜、晩御飯を食べたかはわからない。テレビは点いておらず、カーテンも締め切られている。

 

時計を見てみると真夜中の12時だ。

 

「(どこ…ここ。)」

 

最初は彼も酷く焦っていた。ここは彼の知る場所では無いからだ。

 

普通に寝て目覚めたらここに居た、何を言ってるかわからないと思うが…彼は夢か?と考えた。

 

だが、五感がリアルさがそれは違うと感じさせた。

 

「須藤雅史、約束の物だ。有意義に使うと良い。」

 

「…はい?」

 

本当に夢であって欲しいと思ったのは次の瞬間だったが。

 

神崎士朗、目の前の茶色いコートを着た男が無機質な真っ黒のカードデッキをちゃぶ台に置くとそのまま何処かへ消えていった。

 

「…はい?」

 

戸惑いのスクリューに裸一貫で巻き込まれながら、彼は須藤雅史に憑依したのだ。

 

 




Q.この作品を書くきっかけは?

A.蟹を食ってたらなんとなく。


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1話 うわっ…俺の契約モンスター、弱すぎ。

「…マジかよ。」

 

彼は本気でデッキを投げ捨てたかった。

 

この世界に彼は心当たりがあったからだ。

 

「須藤雅史って…お前は駄目だろ。」

 

須藤雅史、22歳。職業は刑事だが、悪事を働き一般人をモンスターに襲わせまくった凶悪犯。

 

主人公が唯一、「あんただけは許せない。」と言わせた程の極悪人。

 

また、劇中では出落ちも良いところであり…2~3話で退場。しかも、自分の契約モンスターに食われて死亡という最悪の終わりかたである。

 

「今日は土曜日、で2017年か。」

 

そして、様々な齟齬に気付く。先ず、須藤雅史の年齢が原作よりも6歳も若いこと。

原作よりも時間が15年も後の事、そして…

 

「浅倉威(あさくら たけし)捕まえたメンバーの一人って…死亡フラグがもう立ってるじゃねぇか。」

 

壁に飾ってあった賞状で確認してしまう。

 

須藤雅史が若くして刑事として働けているのは、このように手柄をあげていたからだとわかる。

 

だが、彼の脂汗が止まらないのはそれが原因では無い。

 

彼は原作をある程度は知っている。

 

…劇中で四人のライダーを葬った最凶のライダー、仮面ライダー王蛇に命を狙われる可能性が高いことも判明したのだ。

 

なので、今の彼は来るべき最悪な未来を乗り越えなければならない。

 

一つは原作での死亡ポイントの回避、これは簡単かもしれない。

 

が、もう一つの浅倉威から逃げ切るのは不可能に近い。

倒すか、倒して貰うか、そうでもしなければ絶対に殺されてしまうだろう。

 

それに、これを仮に乗り越えられても…ライダーになれば最後の一人になるまで戦わなければならない。

 

死亡フラグしか見当たらない絶望的な状態だ。

 

だが、少なからず彼にもこの戦いに生き残れる可能性…一筋の光明を見出だした。

 

「まだ…契約してないのが救いか。」

 

仮面ライダーシザースは刑事なのもあってか本人のスペックは中々高かったが、契約したモンスター、デッキ構成、ステータス等が他のライダーよりもかなり劣っていたのだ。

 

なので、救いはまだある。

 

「よし…なんとか上手くドラグレッダー辺りを捕まえよう。」

 

そして、固く心に誓った。

 

「…ボルキャンサーだけは捕まえないようにしよう。」

 

ボルキャンサー、それが仮面ライダーシザースが原作で契約したモンスターだ。

ステータスは防御力を除いて特筆すべき所はまったく存在しない。

また、先程も言ったが、契約が切れた瞬間に主を食い殺すというモンスターらしい行動をする。

 

「メタルゲラスとか見習えよ…主を殺されたから仇討ちしてんだぞ。」

 

だが、全てのモンスターが契約が途切れた瞬間に襲いかかる訳では無い。

原作では仮面ライダーガイや仮面ライダーライアの契約モンスターが主の仇討ちを行おうとしていた。

 

残念ながら、主を殺した張本人に再契約されてしまったのだが。

 

「でも…強かったモンスターってなんだっけ?」

 

そう思いながら、机にカードを並べる。

 

8枚のカードは全てに何も書かれていない。

 

つまり、モンスターと契約しなければこのデッキはただのインテリアとなるのだ。

 

だが、契約しなければ死ぬのは間違い無いだろう。

 

浅倉威、仮面ライダー王蛇から己の命を守るには。

 

「じゃあ、ちょうど夜明けだし…モンスター探し」

 

そう思い、ちゃぶ台の前から立ち上がろうとした時だった。

 

真後ろの鏡から違和感を感じた。何か居る。直感的にそれを気づいた須藤は真横に飛ぶ。

 

「っ!!…?」

 

そこで振り返る。刑事であるこの体は身体能力が高く、何故か自分でも体の動かしかたをわかっていた。

 

「何も…居ない?」

 

しかし、振り返っても別に何も異常らしい異常は見当たら無い。

気のせいだったのか?そう思った彼は机に再度近づく。

念のために、後ろの鏡は倒しておく。

 

「…嘘だろ。」

 

カードを集めようと屈んだ時に、ようやく異変に気付く。驚きのあまり、穴が空くほどに覗きこむ。

先程まで何も書かれていなかったカードにはいくつか何かが書かれている。

それはデッキケースもそうであり、模様が浮かび上がっている。

 

「嘘って言ってくれよぉ…本当に…」

 

若干涙声の彼の手から1枚のカードが木の葉が舞うように落ちる。

 

 

【ADVENT ボルキャンサー】

 

ATTACK 1500

 

「こいつ…原作よりも弱い。」

 

彼の一筋の光明はあっさりと黒く塗りつぶされた。




Q.シザースを選んだ理由は?

A.一番書きやすそうだったから。


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2話 契約…してるよな?

「…駄目だな、現実は変わらない。」

 

彼の目の前には8枚のうち、出来上がってしまった4枚のカードを机に並べる。

 

【ADVENT ボルキャンサー】

 

ATTACK 1500

 

【STRIKE VENT シザースピンチ】

 

ATTACK 500

 

【GUARD VENT シェルディフェンス】

 

GUARD 1000

 

【FINAL VENT シザースアタック】

 

ATTACK 2000

 

「なぁにこれぇ…おかしいよな、ドラグレッダーのATTACKは5000だぞ!?てか、弱体化しすぎだろ!?オーディンの剣どころか、ブランク体の主人公の剣でも運が良ければ勝てそうだぞ!?」

 

突っ込みどころが多過ぎて追い付かない状況だった。

 

先ず、圧倒的な弱体化。

 

原作でのカード能力の半分の能力しか持っていない。

 

FINAL VENTはオーディンの剣と同じとバカにされていたが、普通の龍騎やナイトの剣と同じともはやバカにできないレベルである。

 

STRIKE VENTはブランク体の龍騎の剣の能力を200しか上回っておらず、他のライダーの主な武器の4分の1と簡単に壊れてしまいそうだ。泣きたい。

 

更にシザース唯一のアドバンテージ、原作では仮面ライダー王蛇のFINAL VENTですら壊れなかったGUARD VENTも、もはや頼れる自信が無い。

 

「ふざけんなよ…再契約したいのに、CONTRACTも1枚しか無いのかよ。」

 

そしてモンスターと契約をするためのカード、CONTRACTも1枚しか無かった。

他のカードは何の為にあるかはわからない。

 

つまり…

 

「俺は、こいつと共に生き残らないといけないのか…?絶望しかないんですけど。」

 

どれ程の絶望か、簡単に説明しよう。

 

ボルキャンサーの能力値は1500

原作では3000だったが。

 

他のライダーの契約モンスターは基本的には4000を超えている。場合によっては7000を越える化け物も存在する。

 

2倍以上の力の差が最初から存在してしまっているのだ。

 

「(本当に絶望的だ。「そんな契約モンスターで大丈夫か?」って聞かれたら「一番良いのを頼む!」って即答するぞ。)」

 

大きな溜め息をつきながら、ふと何も映さないテレビを見てみる。

 

「…こいつ、契約できてるんだよな?」

 

ボルキャンサーが鋏を研ぎながら、須藤の足先から頭までじっくりと見ていたのに悪寒が走る。

 

何度もカードを見て確認したが、しっかりと契約されている。

 

「こいつ…俺を食いたいのかよ。」

 

そもそも須藤を狙って襲ってきたのだ。最悪な形での、契約。

 

味方なのに、背後を常に気を付けなければならない。

 

「…誰か、助けてくれ。」

 

独り暮らしのアパートに、それは虚しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.龍騎の中で好きなキャラは?

A.浅倉、ゴロちゃん、編集長


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3話 こいつ、病んでるな。

須藤雅史の部屋を須藤雅史が漁っていた。

 

「日記発見…と。」

 

見つかった須藤の手がかりはそれだけだった。

 

須藤雅史22歳、職業は刑事、家族は居らず、現在は東京のアパートで独り暮らし。

 

「…どれどれ。」

 

ボルキャンサーに背後を気を付けながら、日記を開く。

 

 

 

●月○日

 

今日から日記をつけようと思う。新しい俺のスタートとして、刑事として、頑張っていきたい。

 

 

 

 

●月■日

 

刑事とは多忙な仕事だ。そして、心を消耗する仕事だ。

 

また浅倉威が事件を起こした、こいつは捕まえなければ。

 

 

●月★日

 

浅倉威の逮捕に成功した。大規模な作戦だったが、何とか確保できた。この戦いだけで5人もの刑事が亡くなった…悔やみきれない。

 

 

「…なんか、普通の刑事なんだが。」

 

須藤雅史はそんな奴だったのか?そう考えるのは無理も無い。

 

自分の殺した人間を行方不明事件に巻き込み、喰わせた奴だ。

 

彼はボルキャンサーの強化の為に罪の無いどころかまったく関係無い人々を喰わせた奴だ。

 

「いや…たしかに、初期のステータスこれならそうするかもだが…」

 

ふと、机に置かれた最弱のモンスターカードを見る。

 

…なんか、涙が出てきていた。

 

「…続きだな。」

 

また日記を開く。

 

 

■月○日

 

後輩ができた。俺の後ろを産まれたアヒルのように付いてくる。

仕事やる気がでてきてくれたら嬉しかったが…駄目だ、上司も上層部も何でわからない?

 

俺達警察のやるべき事は違うだろう。

 

 

■月★日

 

浅倉威の懲役10年が決まってしまった。あのスーパー弁護士は人の心を持っていない。

これでは殺された仲間や人々が悔やみきれない。

 

★月○日

 

以前から捜査をしてる行方不明事件に進展は無い。

それどころか、捜査官も行方不明になり始めた。どうなってるんだ?

 

○月■日

 

単独での捜査を続け、ついに正体を掴んだが…なんだあの化け物は。

 

あの人形の蟹は…鏡の中に人を引きずり込みやがった。

それを見てから鏡の世界が見えてしまう…どうにかして、俺だけでも助からなければ!

 

「…」

 

チラリと何も映さないテレビを見る。

 

「こいつ…俺を殺すためにわざわざ来たのかよ。」

 

その行動力、ぜひともこれからの戦いで発揮して欲しい。

 

 

 

 

 

○月★日

 

例の件…俺は、遂に道を踏み外す。もう、警察なんてものは無意味で無価値だ…明日、力を貰う。

 

明後日は…例の件でしくじらないようにしないとな。

 

 

 

 

 

「…待てよ。」

 

読んでいて気づいた、今の須藤雅史は…悪に染まる一歩手前の須藤雅史だと。

須藤雅史は浅倉の件や化け物で警察に絶望した…そして、遂に道を踏み外す。

 

「しかも…これ、今日かよ!」

 

待ち合わせ場所と時間は日記帳に書かれている。

 

そして出合うのは…

 

「加賀友之…」

 

須藤雅史と共に悪事を働き、最後は殺してしまった奴だ。

原作では、それが理由で須藤はライダーになったのだが…

 

「…行くしかないな。」

 

今の須藤雅史には色々と確認したいことがある。

 

「前の俺がどんな奴か…聞けるだけ聞いてみるか。」

 




Q.原作沿い?

A.最初はそうです。


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4話 こいつは死ぬ運命なのか?

須藤には出かける迄に時間はあった。

 

「じゃあ…纏めたらこんな感じか。」

 

手帳に書かれているのは今後の目標のような物である。

 

【城戸真司と仲良くする。】

 

【無意味に人を殺さない。】

 

【浅倉威は頑張って逃げる。】

 

【モンスターでレベルをあげる。】

 

【ライダー同士の戦いには基本的に関わらない。】

 

この五つがとりあえずの須藤雅史の目標となった。

先ず、主人公である城戸真司、仮面ライダー龍騎の事である。

彼はバカだが、真っ直ぐな心を持っており、原作では常にライダー同士の戦いに苦悩していた。

彼と協力関係を結ぶのが最善だ。何故なら協力しやすいから。あと、強い。

 

次に、人を殺さない。

これは城戸真司との協力の最低条件だ。

無意味とは、仮にライダー同士の戦いで仕方なく殺す場合を除く場合だ。モンスターの強化の為に一般人を襲えば間違い無くBadEndだ。

 

次は最初にして最大の関門。

浅倉威は殺人鬼だ。イライラするだけで人を殺すこいつはマジで危険だ。

今は具体的な対策方法は思い付かないが、気を付けよう。

 

4つ目、ボルキャンサーの強化だ。

これは本当にこのままでは雑魚のモンスターが2匹でも出たら殺されてしまうからだ。

地道にレベルを上げていかなければ…死ぬ。

 

最後は…絶対にライダーとの戦いを避ける事だ。

あくまでも、須藤がライダーになったのは成り行き。

 

絶対に…生き残りたい。

 

「書いてて思ったけど…どれも一歩間違えたら、死に直結するのか。」

 

須藤は思いっきり泣きたいが、それをなんとか心の中に押し留める。

今はやるべき事がある。

 

「…さて。行くか。」

 

荷物の確認をしてから、外に出る。

太陽が少し暑い…春の風が須藤を横切る。

 

この目標を目指して…彼のライダーとしての戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりですね…須藤雅史さん。」

 

「加賀友之さんですか、どうも。」

 

須藤は待ち合わせの場所で待っていると、少し痩せこけた男がやって来た。

彼は原作には出てなかったが、須藤が殺した人間だ。

それも、金をもっと寄越せと調子に乗って殺した人間だ。

 

「では…早速ですね。初仕事でしょうが…頑張ってくださいね。」

 

そう言って渡された封筒には紙束の入ってるのがわかる、そして共に大きめの薄い茶封筒を受けとる。

 

中身を軽く確認してみる。そこには身元や死体の場所等様ざまな情報が書かれていた。

誉めらない仕事は…かなり真っ黒な仕事のようだ。

 

「クライアントも新人の貴方に期待してましたよ。」

 

「そうですか…では、加賀友之さん。」

 

須藤はそのまま茶封筒と札束の入った封筒を地面に投げ捨てる。

 

「貴方を逮捕します。」

 

突然の事に、何が起こったかわからなかった加賀も直ぐに理解する。

顔は先程迄の余裕を持った顔をしておらず、脂汗が溢れ出ていた。

 

「なっ何故だ!?あんた…この前までの腐りきった目をしてたあんたが何でだ!?」

 

腐りきった目をしてたのは初耳だが、この男には大した情報が無いと須藤は悟った。

会ったのは精々2,3回だろう。これなら原作の須藤を演じるか、いっそ生まれ変わったように今の須藤を押し通すかが最善だな。

 

「俺は、刑事だ。久しく忘れていただけだ…そして、お前を捕まえる。(悪いな、ここで引き受けたら俺がほぼ確実に死ぬんだ。許せ。)」

 

最初から加賀友之と会う前から、これは決めていた事だった。

それは城戸真司と協力を結ぶのに…一番邪魔な存在だからだ。

 

ジリジリと壁際に追い詰める。須藤は刑事だ。身体能力ではこの痩せこけた不健康そうな男には負けない。

 

「くっ来る…っ!?うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「…(えぇぇぇぇぇ!??!?)」

 

突然の事だった。窓の壁に寄りかかった加賀を抱きつくように鹿の頭を持つようなミラーモンスターが引きずり込んだのだ。

 

驚きの余りに、声も出なかったようだ。

 

「…一体だけだよな。」

 

先ずは敵の数だ。一匹だけ、他には見当たらず…今は加賀友之を貪っている。

 

「初陣か。」

 

ポケットからカードデッキを取り出す。近くには何故か既にボルキャンサーがスタンバイしている。

仕事が早い…ように見えたが、なんかチラチラと貪られている加賀友之と主である周藤を交互に見ている。

 

「飯はこいつで我慢…じゃなくて、俺を狙うな。」

 

そう呟きながら、窓にデッキを構える。

 

そこから反射されたベルトが自分の腰に装着される。

 

「変身!」

 

仮面ライダーシザースの戦いが始まる。




Q,何故、加賀友之は死んだのか?

A,予定調和


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5話 こいつが…雑魚なのか?

現在のボルキャンサー 1500


加賀友之を貪り終えるモンスター。

 

既に体は殆ど存在せず、靴の中に残った加賀を貪り続ける。

 

「ビギィ…」

 

そして鹿のような角を持ったそのモンスターは食べ終わると今度は別の獲物を探す。

 

先程居た他の男、須藤雅史を狙おうと先程加賀友之を引きずり込んだ窓に近づこうとすると…

 

「ビギャァァァァッッッ!!?」

 

「……え?(何が起こったんだ…バイクで吹き飛ばしたんだよな?なんで吹き飛ばせたんだ?)。」

 

そのままミラーワールドにやって来た須藤雅史、仮面ライダーシザースに轢き倒されたが…ここで須藤は早くも気づく。

 

「バイクは最高だな!」

 

「ビギィ…ビギャァァァァッッッ!!?」

 

そのままミラーワールドの移動に使われるバイクでまたモンスターをふきとばしたのだ。

 

地べたに寝そべっていたモンスターを轢き、吹き飛ばしたのだ。

 

バイクが強いとわかった瞬間である。ゲスイ。

 

「…なんか、プスプスいってるな。」

 

だが、そう上手くいかないのがこの世界だ。

 

バイクの調子が悪くなった。もともと、戦闘に使われない物なので当たり前なのだが…原作では壊れた描写は無かったので戦術としてこれだけで生き残れそうな気がしたのだが。

 

「まぁ、仕方ないか。」

 

充分な仕事をしてくれた。モンスターの足も少しふらついている。

不意打ちと追撃は基本だと、誰かが言っていた気がする。ただ、死体蹴りはしない。何故なら死体になったらコアを喰われるから。ある意味これが死体蹴りじゃないかと思うが。

 

「やるか…先ずは、一匹から。」

 

『STRIKE VENT』

 

バイクから降りると直ぐに左手に着いているシザースバイザーにカードを入れる。

すると、直ぐに空中から右手に大きなボルキャンサーと同じ鋏が装着される。

 

「ビギッビギッギ!!」

 

すると、モンスターはサスマタの様な武器を取り出す。何処から取り出したかはわからない。

 

大きな獲物だ。お互いに武器を構えると…少しだけの静寂が訪れる。

 

これが、戦いの緊張…それに少しだけ高揚感を感じる。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

「ビギ!!」

 

そして、鋏とサスマタがぶつかりあう。ぶつかりあうと、火花をあがる。

 

これが…そうか。戦いなのか!そう思った次の瞬間だ。

 

「嘘だろ!?」

 

仮面ライダーシザースのメインウェポンであるシザースピンチは…粉々に砕け散った。なぉ、サスマタは健在である。傷一つ見当たらない。

 

「ビギャァァァァ!!」

 

バイクに轢かれたのを怒っているモンスターは鋏が粉々になったのを良いことに、そのままサスマタで攻撃を仕掛ける。

 

「うっ…ぐっ、がぁっ!!(やべぇ…早い、痛い、強い。てか…俺の鋏が脆すぎる!!!)」

 

そして、身のこなしだけでモンスターに勝てるわけもなく、そのままサスマタに切りつけられてしまう。

 

一度、二度、三度と…連続で振るわれるサスマタに避けるのも苦しくなってくる。

 

そして、地面を無様に転がされてしまう。

 

速さもそうだが…このモンスター、強い。

 

単にシザースが弱すぎるのもあるが。

 

「くそ、これならどうだ。」

 

『GUARD VENT』

 

空から落ちてきた蟹の盾をそのままサスマタとぶつける。

 

「あぶねぇ…」

 

この角度…よく見るとガード出来なければデッキを破壊されていた。

ギリギリだった。もし間に合わなかったら…目の前のモンスターに喰われるか、ボルキャンサーに喰われていただろう。

 

「ビギリ、ビギビギ!」

 

盾で押さえつけることで、何とかサスマタの攻撃を防ぐ事に成功する。

なんとか、甲羅の盾だけは役にたちそうだ。

サスマタを通さないが…このままではじり貧なのは須藤も理解していた。

 

「(どうする?『FINAL VENT』で倒せるかもわからないし、避けられたらそれこそ終わりだ。こっちは防御力だけは何とかあるから…でも、制限時間が来る。)」

 

ライダーがミラーワールドに存在できるのは10分も無い。

それまでに蹴りをつけなければならないのだが…盾を使うだけではどうしても限界があった。

 

盾で攻撃をガードし、盾で押し返し、を繰り返す。

こちらは常にガードのタイミングを見極めながら、動かなければならない。

一度でも失敗すれば、更に敵のモンスターのペースになってしまう。

 

「ビギ!ビギャァァァァ!」

 

そして、モンスターが攻撃を緩める事は無い。

甲羅の盾を壊す勢いで攻撃を仕掛け続ける。

本当にこのまま攻撃されていれば壊れてしまうだろう。

 

「(雑魚モンスターにこんだけ手こずるって…俺のスペック低すぎじゃ無いですか!?これ、サバイブ貰ってやっと他のライダーと互角じゃありませんか!?)」

 

心の中でどれだけ現実から目を背けても、現実は変わらない。

徐々にモンスターに須藤雅史、仮面ライダーシザースは追い詰められている。

 

「(このままだと本当にじり貧だ。『ADVENT』を使ってボルキャンサー呼んで…倒されたら本当に勝ち目が無くなる。シザースピンチが一撃で壊されるのがおかしいんだよ!何でだよ!シザースがピンチになってるんですけど!?絶体絶命なんですけども!?くそが、こっちは防御しか取り柄が無いんだぞ!?どうやって攻撃をしたら…したら…?)」

 

そこで、須藤は閃いた。

 

決して誉められない戦いを彼はする事を決めた。

どんなに汚くても、どんなに難しくても…勝たなければならないのだ。

仮にコレがテレビなら、泥臭くてカッコいいと言われそうだが…彼の求める戦い、目標は安定した勝利だ。

 

本来ならば、この方法は選びたくなかった。

 

「おりゃぁぁぁぁ!!」

 

「ビギギッ!?」

 

そのまま盾でサスマタを空中に吹き飛ばす。これでモンスターから武器は無くなった。

 

そして…

 

「どっしゃゃゃゃ!!」

 

「ビギャァァァァ!!」

 

そのまま空中にあったサスマタでモンスターを貫く。

 

「最終的に…勝てば良いんだよ!」

 

どんなに汚くても、勝てば官軍。

敗者に選べるのは負け方だけ、どんなに汚くても…今は勝たなければならない。

 

「おら、おら、おらぁっ!!」

 

そのままサスマタを何度も突き刺す。バイクで吹き飛ばしたお陰もあり、徐々にモンスターは足がふらつき、もう限界のようだ。

 

最後にサスマタを突き刺して力の限り、上空に投げ飛ばす。

 

「ビギリァ!」

 

直後に、カードをデッキから取り出す。

 

選ぶのは勿論、このカードだ。仮面ライダーシザースの紋章が刻まれたカードを流れるようにバイザーにセットする。

 

これが、仮面ライダーシザースの必殺技。

 

『FINAL VENT』

 

「ビギャァァァァ!!!!」

 

ボルキャンサーが空中に投げ飛ばされたモンスターにシザースを投げ飛ばす。

そのままぶつかりあい、モンスターは爆発四散。

 

爆炎の中には白く輝くコアが出てくる。

 

「…はぁはぁはぁー、やってやったぞ!」

 

初めての戦闘、初めての仮面ライダー、初めての勝利、シザースは満身創痍に近いがとても心は晴れ渡っていた。

一部曇り空でもあるのだが…今後の戦いに不安を拭いきれていないのもある。

 

「キチキチキチ」

 

そして、特に役だたなかったコアに飛び付くボルキャンサー。

 

余程お腹が空いていたのだろう。吸い込むようにコアを取り込んだ。

 

「キチキチキチ」

 

そして今回は満足してくれたのか、そのままどこかへ消えた。

 

自分を食べに来なかっただけマシなのかもしれない。

 

あと、今回のMVPはバイクだろう。こいつが一番ダメージを与えていた。

全てのライダーの標準装備だが…今後はバイクを軸にして戦おうと心に決める。

 

「さてと…どんだけ上がったかね。」

 

そして、デッキからシザースはカードを取り出す。

勿論、最後のカード。『ADVENT』のカードをだ。

 

【ADVENT ボルキャンサー】

 

ATTACK 1520

 

「…シッテタ。」

 

彼の戦いは始まったばかりだ。大声で叫びたかったが、モンスターが来ても困る。そのままミラーワールドの世界から脱出する。

 

「(20しか上がってねぇ…)」

 

他のカードも確認するが…どれも20しか上がっていなかった。

 

「…帰るか。」

 

須藤雅史の明日は何処だろうか…そう思いながら家に真っ直ぐに向かって行く。

 

 

 

 

なお、途中で更にモンスターの襲撃もあったが、バイクで轢き倒した。

 

ステータスも10上がった。

 

バイク強い。




Q.好きなライダーは?

A.G3-X


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6話 刑事の仕事?をしよう。

感謝を。


「あ、まっさん。おはようございます!」

 

「あぁ、おはよう。山下。」

 

仮面ライダーシザース、須藤雅史は刑事だ。当然、今日は月曜日なので、仕事だ。

 

幸いな事に、須藤雅史はしっかりと仕事をこなす几帳面な人間だったので。

 

刑事になった時からの手帳や資料が残されており、日曜日を丸々使い、それを徹夜で読みといた。

なので、後輩である彼女。山下鏡花の名前も、警部の岩元豪助などの部署の仲間の名前を把握した。

ただ、まっさんと呼ばれていたのには驚きだ。そこそこ良い関係を築けているのだろう。

 

「岩元警部、おはようございます。」

 

「おぉ、雅史か。最近元気が無かったように見えたが、大丈夫そうだな。」

 

「まっさん、今はなんか目が生き生きしてますね。」

 

「それは、普段は死んでるようにしか聞こえないんだが。」

 

「あれ?自覚ありませんでしたか?」

 

「…まぁ、どうだろうな。(昔の須藤は、知らないし。)」

 

そして重要な事だが、憑依をする物語は沢山ある。その中でも憑依がバレる瞬間というのは盛り上がるだろう、そして何かしらの事件が起こる。

 

仲間との関係の悪化は少なからず起き、事件に巻き込まれやすくもなる。

 

今の須藤雅史はどうするのか?

 

それを悩んだ結果、須藤は今の自分でいくことにした。

 

どうせ、バレるなら疲れない方が良いのだ。

 

「…まっさん、変わりました?」

 

「どうしてそう思う?(大丈夫だよな?…大丈夫だよな?)」

 

「だって、昔は少し距離を感じてたんですけど…今は近づいた気がしたので。あっ、これは別にまっさんにときめたいたとかじゃないで。」

 

特に問題は無さそうにみえる、昔の須藤もこんな奴だったのだろう。

 

「…そうかよ。」

 

なんだこのあざとい後輩…そう思いながら、自分のデスクに向かう。

特にこれと言った特徴は無く、普通のデスクだ。

とりあえず、デスクの中にあった捜査資料を広げて見る。

 

「(行方不明者が顕著に出始めたのは先月からか…で、捜査官の行方不明者が8人。一般人は未知数。ヤバイな。)」

 

これを見ただけで、モンスターがあちこちに出ててヤバイのだが…一部の場所では被害がある時期を境にして無くなってる。もう他にライダーが居るのだと感じとる。

だが、今の須藤には力が無い…マジで無い。

 

今後の戦略が【毎日モンスターを倒す。バイクの不意打ちと追撃は基本!ただし、1匹づつ。そして、武器は敵のを奪い取れ!】である。

 

これが本当に仮面ライダーのやることなのか?という疑問があるが、そんな事をいってる余裕なんて物は存在しない。そうでもしなければ生き残れないのだ。

 

「あれ、まっさん…またその捜査資料を見てるんですか?熱心ですねー。」

 

そう言ってあざとい後輩は須藤の机にコーヒーを置く。

かなり読み込んでいたようだ、いつの間にか出勤してから二時間もたっている。

 

「あぁ…まるで情報が無いんだよな。(ブラックか…甘いのが好きなんだが。)」

 

そう言って苦いコーヒーを一口飲む。ほろ苦さが口に広がり、何故かこれを甘く優しく感じる。この世界の方が苦すぎるからだろう。

 

「どうすっかねぇ…」

 

警察ですら情報が無い。無理も無いだろう。普通なら鏡の世界からモンスターが人を拐うなんて発想には至らない。

 

普通ならテロや組織的な誘拐事件と考える…が、そんな動きをしてれば情報が何も得られないのは有り得ない。

電車や街中での集団失踪、周りには痕跡の欠片も存在しない。

 

しかも、捜査官が8人も行方不明になってるのだ。自分からやりたいとは思わない案件だ。

 

「ふぅ…ん?(ここは、失踪者が多いな。)」

 

そして捜査資料を読み進めるとあることに気づいた。この駅周辺の一角でわかってるだけで7人も失踪してるのだ。

 

「(つまり、2匹以上居るか…強い奴モンスターか、大食いのモンスターでも居るのか。絶対に近づないようにしよう。)」

 

だが、今の須藤には力が無い。不意打ちはできても一回だけ。須藤には2匹も相手できる力を持ってないのだ。

 

「(逆に…ここは3人か。先ずはここから行くか。)」

 

須藤はここで他のライダーとは違うアドバンテージを得ていた。それはモンスターの生息地の予測が可能な事だ。モンスターは何処にでも居るが、毎日狩るには場所を把握しなければならないのだ。

 

須藤は弱い、本当に弱い、どうしようもなく弱い。なので力をつけなければならない。

 

だが、一般人を襲うのは論外だ。間違い無くBad Endに一直線だ。したがって、モンスターを狩るしかない。

 

「じゃあ、情報を集めて来るわ。」

 

そして、刑事のアドバンテージは他にもある。それは捜査の過程でモンスターを狩れるのだ。

基本的に情報を得られる事なんて無い捜査だ。

なので「何の成果も挙げられませんでした!」で押し通す予定だ。

 

「あっまっさん!…気を付けてくださいね?」

 

山下は不安そうな顔をする。当たり前の事ではあるだろう。この捜査で何人も帰ってこないのだから。

 

「当たり前だろ。」

 

須藤はそう言って警察署を出た。

外には須藤が使う覆面パトカーが置かれており、珍しくも無い一般的な白い車だ。

 

「先ずは公園からか…。」

 

これから刑事として、ライダーとして戦う。そう心に誓いながら、心と車のエンジンをかける。

 

その時ふと、車の窓ガラスを見ると。

 

「…ん?」

 

「キチキチキチ」

 

ボルキャンサーが何か涎を垂らしてるように見えた、これは一刻も早くコアを与えなければならないだろう。

さもなければ…

 

「(…喰われる。)」

 

須藤は全力で車を走らせた。




Q.好きなライダーの曲は?

A.climax jump ,Revolution 今でも聞いてます。


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7話 真っ白に…燃え尽きたよ。①

予想外の反響ですわ…。

沢山のお気に入りと感想、ありがとうございます。
申し訳ありませんが、作者の都合により返信は一部の方だけにさせて貰います。



本来ならば慌ただしいこの警察署も、何の進展も無い今回の行方不明事件では静かだった。

 

捜査資料には大した情報も無く、証拠も証言も無い。被害は増え続ける一方、捜査官ですら行方不明になっている。

 

だがそんな中でも、普段ならばこの行方不明事件に何故か他人よりも熱心に打ち込む、彼だけはやる気に満ち溢れていた。

 

「警部、まっさん…どうかしたんですか?」

 

「いや…さっぱりでな。」

 

須藤雅史は何故か自分のデスクで項垂れていた。

 

この世の絶望のような暗さを纏い、全身からは気だるさが漂い、目からは生気が失われている。

 

人間がこうなるのは普通ではない。

 

山下鏡花がここまで酷い須藤雅史を見るのは初めてだった。

 

「…まっさん、生きてますか?」

 

 

 

恐る恐る、彼女は近づいてみると。開いてるのか閉じてるのかわからない目をしながら、ゆっくりと体を持ち上げる須藤。何度かポキポキと何処を鳴らしてるのかわからない関節を鳴らすと、何故か不安が漂う作った笑顔をしていた。

 

大丈夫ですか?ではなく、生きてますか?と聞いたのはこの挙動のおかしさからだ。

 

もう挙動がゾンビ以外の何者でも無かった。

完全に生きる屍である。

 

「あ、あぁ…大丈夫だ。最近の疲れが溜まっちゃったみたいでな。まだ、生きてるよ。」

 

何故か、「まだ」が少しだけ重く感じる。

 

「…本当に、ですか?」

 

「大丈夫だ…そう、俺は大丈夫だ。」

 

まるで自分に言い聞かせるように何度も「大丈夫」と唱える姿は不気味だ。

 

こうなったのは突然の事であり、山下には心当たりは無いが、予想はできた。

 

何か彼に事件が起こったのだ。

 

「大丈夫…大丈夫…(大丈夫…大丈夫…)」

 

それは彼が仮面ライダーシザースとして一週間を過ぎようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『FINAL VENT』

 

「ピァァァァァ!!!」

 

この日、須藤は2度目の飛鳥文…シザースアタックでモンスターを倒していた。

今回の敵で、ちょうど10匹を倒した瞬間だった。

 

「…。」

 

そして流れるように無言でバイザーにカードをセット、すると甲羅の盾が須藤に届けられると。そのまま構える。

もう周りに敵は居ない。

 

 

 

 

ボルキャンサーを除いて。

 

「キチキチキチ」

 

ボルキャンサーが襲ってきても大丈夫なように盾を構えたのだ。

最初は不意打ちの失敗などでモンスターを仕留め損ね、ボルキャンサーに襲われた時もあった。

その時は何とか別のモンスターを見つけてバイクで轢き倒して事なきを得た。

 

ただ、それまでにボルキャンサーと須藤が5分も戦ったので満身創痍もいいところだった。

 

「あれだけ戦えるなら…モンスターと戦ってほしい。」

 

何度も盾を使い、何とかミラーワールドから脱出。ボルキャンサーの機嫌を伺いながらモンスターを狩る。

それが須藤雅史のライダーとしての日課になっていた。

 

「さてと…どんだけ上がったかな。」

 

【ADVENT ボルキャンサー】

 

ATTACK 1710

 

【STRIKE VENT シザースピンチ】

 

ATTACK 700

 

【GUARD VENT シェルディフェンス】

 

GUARD 1710

 

【FINAL VENT シザースアタック】

 

ATTENTION 2210

 

「…ちょっと、待て。」

 

ここで、違和感を感じた。目を全力で逸らしたくなるレベルの違和感に気づいて、しまった。

 

全ての装備は均等にパワーアップしている。

初めてモンスターを狩ったときから考えると、210のパワーアップをしたはずなのだ。

 

だが、一つだけおかしい。普通ならありえないだろう。まだ原作のレベルにも至っていないのに…そうだ、STRIKE VENTだけおかしい。

 

「…いやいや…はい?嘘でしょ?カンスト?いやいや…え?表記バグだよな、そうだよな?そうだと言ってください!おかしいんじゃん!俺、頑張ってるじゃん!原作よりも頑張ってる自信あるぞ!?」

 

須藤はどんなにスペックが低くても、それをレベルでカバーできる!と考えていたのでこれは完璧な計算違いであった。

 

シザースピンチ、原作ではATTACK 1000のこの蟹の腕は何故か敵と武器をぶつけ合うと粉々に砕け散る。

 

原作で龍騎やナイトを吹き飛ばしてたあの映像は嘘としか考えられない。

 

なので使い方としては敵のモンスターが武器を持ってない場合or武器を奪うのが難しい場合、武器をぶつけないように、敵を攻撃する…が、これまでの須藤の戦法になっていた。

 

だが、それも難しく防げる攻撃を受ける事も多々あった。シザースバイザーも攻撃の手段として使えるが、こちらも硬いだけで、攻撃力は皆無に等しかったのを実証済みだ。

なので、最低でも敵の武器と打ち合えるまでパワーアップさせようと考えていたのだが。

 

「…ふざけんなよ。」

 

須藤雅史に明日はあるのだろうか。

 

「キチキチキチ」

 

そんな須藤が戦慄してるのを気にせず、ボルキャンサーはムシャムシャとコアを頬張っている。

本当はボルキャンサーに一番関係する食料事情に大打撃を受けているのだが。

 

「神様は俺が嫌いなのかな…?」

 

須藤は一度だけ、大きな溜め息を吐く。すると肺に入る限界まで、多めに空気を吸い込む。そして、この世界の天まで届けるつもりで、こう叫んだ。

 

「俺は、お前が大嫌いだよぉぉ!!!!」

 

虚しすぎる叫びはこの無人の世界のビル街によく響いた。

 

②に続く。




Q.シザースサバイブの予定はあるのか?

A.予定はありますよ、醍醐味ですし。ただボルキャンサーは頭の中で書けてるけども、シザースの方が頭に描けてないですね。デザインって難しい。


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8話 真っ白に…燃え尽きたよ。②

あらすじを編集しました。



「…まっさん、ケンカでもしたんですか?」

 

山下の前には何故かボロボロの姿の先輩刑事が居た。ここ最近、彼は精神的にも身体的にもボロボロのように見える。

 

顔が死にかけてるように見えるのだ。

 

というか、もう生きる屍を通り越して某ボクサーマンガのように真っ白に燃え尽きている。

 

「いや…階段から転んでな。…大丈夫だ。」

 

須藤雅史は仮面ライダーだ。

 

ライダー同士の戦いに参加したくない、モンスターを狩るだけのライダーだ。

 

モンスターから人を守る為だけに変身する仮面ライダー龍騎と似てはいるが、根本的には違う。

 

城戸真司、仮面ライダー龍騎は人を守る為、他人を守る為にライダーになる。

 

対して須藤雅史、仮面ライダーシザースは自分を守る為に変身する。

力を備える為に、モンスターを狩る。自分をライダーから守る為に戦う。ボルキャンサーの餌の確保の為に戦う。

 

そもそも人を守れるだけの力が無いので仕方ない事でもあるのだが。

 

「はぁ…。」

 

そして他人からでもわかると思うが日に日に、須藤は消耗していた。仙豆や薬草があれば回復する世界でも無い、某マンガの龍玉も無い、人間の傷は治るが、今の須藤にとっては治るのが遅過ぎる。

 

毎日のボルキャンサーの食料確保は常に命懸けだ。

ボルキャンサーにはもっと働いてほしいが、それで倒されてしまったら須藤を待つのは死だけだ。

今は耐えるしかなかったのだ。

 

「えーと…あっ、そうだ!まっさん、今回の行方不明者事件の取材が来てたんですけども、まっさんはどうします?」

 

山下はそんな須藤を気遣うが、本人の表情に変化は無い。変化させるだけのパワーが残ってないのだ。

 

「…やめとくわ。ちょい、疲れぎみでな。(少しでも体を休めないと…ストレスと過労で死んでしまう。)」

 

「…そうですか、わかりました。あまり気を詰めないでくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…死んでしまう。」

 

今日も日課のモンスター狩り、あれから何日もモンスターを倒してはパワーアップしてを繰り返していたのだが…

 

「…シザースピンチが役にたたない。」

 

STRIKE VENT、シザースピンチは仮面ライダーシザースのメインウェポンだ。

なのに、今ではもはやただの飾りである。

 

個人的にはカッコいいと思っていたこの鋏の攻撃力は700から上がらない。原作では1000だったのだが。

 

これは他のライダーのメインウェポンの3分の1程度である。

 

例えるならば周りが真剣やピストルで戦ってる中で、彼だけは檜の棒どころか、うまい棒で戦ってる気分だ。

 

むしろ食べ、れるだけ、うまい棒の方がマシかもしれない。

 

「…」

 

自然と流れそうな涙を須藤はぐっと我慢する。

 

そんな彼のメインウェポンは全ライダーの標準装備、ライドシューターである。もう涙が出てきそうである。

 

「キチキチキチ」

 

そして、またバイクで轢き倒したモンスターに嬉々として貪りつくシザースの契約モンスター、ボルキャンサー。

 

だが、ここで疑問に思うかもしれない。

 

バイクで戦ってるなら、体にダメージは無いのではないか?と。

 

たしかに、普通のモンスターにはバイクの戦術は有効だ。

単体で動くモンスターの最善の攻撃なのは、須藤にとっては間違い無い。

 

まぁ、たまにあるボルキャンサーとの戦闘もモンスターさえ渡せればなんとか満足してくれる。

 

「…まだ欲しいのかよ。」

 

「キチキチキチ」

 

蟹は鋏を振り回しながら、須藤に高速で接近する。

 

それに盾を構えながら後ろに下がる。

 

「満足してくれ…頼むから。」

 

だが、世の中には常に例外が存在する。

その戦いの一部始終をお見せしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…居たな。変身。」

 

須藤はデッキを鏡に掲げ、慣れた手つきで現れたバックルに嵌め込む。

そして、仮面ライダーシザースに変身する。

 

今回のモンスターは一番最初に倒したモンスターであり、鹿のような角を頭を持つモンスターだ。

 

「さて…前みたいにはいかないぞ。」

 

以前はバイクの轢き方をよくわかってなかった須藤。だが、何度もモンスターを倒すうちにあることに気づく。それは「あれ?これ、側面で打てば壊れないな。」と。

 

ライドシューターは前の装甲が薄いので、正面から轢き倒す方法ではバイクが壊れてしまっていた。

正確には、後輪の辺りの装甲が硬いのに気づいたのだ。

なので、今の側面でバットのようにドリフトをして当てるこの方法では何度もモンスターを轢き倒せるのだ。

 

今回もそうしようと、いつも通りにライドシューターを動かそうとした。

 

動かせていた。

 

「…ふぁっ!?」

 

「ッ!ギジャァ!!」

 

タイミングは完璧だった。バイクの技術力が足りないだとか、ライドシューターの地力が足りない等では無かった。

 

モンスターは跳躍し、バイクに飛び乗った。

 

「って、うぉ!!?」

 

そして、バイクに乗ったまま須藤を引きずり出すとそのまま投げ飛ばす。バイクはそのまま壁に衝突してめり込む。この戦いでまた使うのは難しいだろう。

 

勘の良い人は、もうお気づきだろうか。

 

「痛…マジか、バイク避けるのか。」

 

跳躍力と瞬発力のあるモンスターにはこの戦法がまるで通じないのだ。

 

この前はたまたまモンスターが鏡に自分から近づいてきたのでバイクで轢き倒せた。

一言で言えば、運が良かったのだ。

 

「ギジャギシャ…ギジャァァァ!!」

 

「くそ…俺も成長してるんだよ!」

 

『STRIKE VENT』

 

だが、バイクだけが彼の戦法では無い。(メインではあるが。)

右腕にあるバイザーにカードをセットすると、原作でのシザースのメインウェポン『シザースピンチ』を左腕に召喚する。

 

「やっぱり、駄目ですよね!!知ってるよ、くそが!」

 

素のスペックはライダーの戦いに大きな影響を与える。

須藤は何故かわからないが、武道の心得があり、それを扱えていた。

なので上手くモンスター相手に立ち回れている。

 

だが、武道とは常に対人を想定して作られているのが当たり前の事だ。

剣道、柔道、空手、まだまだ挙げればキリがないが。どれも、モンスターを想定して作られてないのが当たり前だ。

また、使い手が人間であるのも当たり前であり、ライダーの身体能力を前提とした武道なんてのは存分しない。

 

「ギジャギシャ」

 

「ガハッ…くそっがぁぁぁぁ!!(こいつは…やっぱり、強い。)」

 

何度も切りつけてもモンスターにダメージがあるようには見えない。

単純に考えれば、他のライダーの一撃≒シザースの三撃なのだから当然であった。

なのでモンスターは余裕綽々であり、周りをジャンプしながら飛び回り蹴りを須藤におみまいする。

 

高速の動きからその高速の動きをこなす足から放たれる強烈なキック。

いくら武道で蹴りの受け流しを心得ていても、完璧に受け流す事は須藤にはできなかった。

こんな人外の動きを想定してない武道は、役にたっていなかった。

 

「は…はは…(上手く動けないな、てか殴り合うのが久しぶりだからな…きっついんですけど。)」

 

そのまま何度も地面に寝そべる須藤に飛んでは蹴り、飛んでは蹴りを繰り返す。

 

 

 

「や…やばい…(速すぎる…不意打ちを避けられただけでボロボロなんですけど。おかしくないか?普通はライダーが普通のモンスターにここまでボコボコにされるのか?されないよな?何で俺は、こんなに弱いんだ!?憑依したんだろ?憑依なんて主人公の特権だろ?主人公補正を少しでもよこせよぉぉぉぉぉぉ!!)」

 

シザースピンチは役にたたない、バイクは壁にめり込み、ライダーとしてのスペックは最低ランク。

バイザーにカードをセットして盾を召喚する余裕も無かった。

 

もう、打てる手が見当たらない。

 

その時だった。

 

「ギジャァァァ!!」

 

モンスターがダメ押しの為にサスマタのような武器を召喚したのは。

 

「…うぉぉぉぉぉ!!!」

 

そこからは、早かった。

 

『GUARD VENT』

 

腕についた鋏を投げつけるとそれはサスマタで弾かれて粉々になる、いつも役立たないこの鋏だが、明確な隙を作る事に成功する。

 

「武器を寄越せぇぇぇぇぇ!」

 

「ギジャッッ!?」

 

そのまま慣れた手つきで盾を使って武器を奪い取る。

 

 

そう…これが仮面ライダーシザースの唯一無二の接近戦闘術だ。敵が武器を出した時に勝負は決まっていたのだ。

 

「逃げんな!!」

 

「ギジャギシャァ!!?」

 

そして早くも戦況が悪そうと感じ、逃げようとするモンスターの足をサスマタで地面に縫い付ける。

突然の事に飛ぼうとした反動でそのまま地面に頭を打つ、意識が朦朧としてるようだ。

 

『FINAL VENT』

 

「ギジャァァァ!!!」

 

そして、空中に現れたボルキャンサーが空中に跳躍した須藤を投げ飛ばす。

必殺の飛鳥文化アタックだ。

 

「…倒せたか。」

 

クリティカルヒット、モンスターは爆散。エネルギーコアは流れるようにボルキャンサーが食らいつく。

 

前回と似た形の勝利…のはずなのだが、須藤にはまるで喜びの感情が現れていない。

 

そして、コアを貪るボルキャンサーを見ながらふと口からこぼれる。

 

「…俺、成長できてるんだよな?」

 

盾を拾うのも忘れた須藤は、そのまま呆然とボルキャンサーがコアを貪るのを眺めていた。




Q.須藤に救いはないのですか?

A.須藤?まぁ、5月頃から狂いますね。


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9話 導入終了のお知らせです。

「あの…まっさん?」

 

ここは普段なら警察署の中でも人の通りが少ない3階の踊り場、そこに急に呼び出された山下鏡花は戸惑っていた。

 

「山下、さっきの男は誰だ?」

 

須藤雅史、彼は彼女の先輩刑事であり、年は1つしか変わらないが学年で言えば2つ違うこの須藤の顔を見るのは初めてだった。

 

何か覚悟を決めた男のような鋭く雄々しい顔を。

 

「いや…その…今回の取材で。」

 

世間でいう壁ドンを須藤にされた状況で、心の準備ができてない彼女はこの状況からの脱出の為に少しだけ左にずれようとすると。

 

「今回の取材でか、なるほど。それで、彼との関係は?」

 

逆の空いてる手でその退路は断たれてしまう。彼女は須藤は頼りになる先輩と認識していた。あくまでも先輩、そこには男女の関係は無かった、そして考える事も無かったのだが…須藤の顔をこの至近距離で見てしまい、少しだけドキリとしてしまっていた。

 

「なっ、何でも無いです…別に何の関係も無いです、今の私はフリーです。なので…その…」

 

そして、男との関係の他にも口からポロポロ溢れてるのに本人は気づいてない。

 

「…そうか、わかった。次に取材があったときには、必ず俺も呼んでくれ。」

 

「は…はぃ…。」

 

そのか弱く直ぐに消えてしまいそうな声を聞いてから、山下はやっと解放された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…マジか。」

 

須藤雅史は13人の仮面ライダーの一人だ。

当然ながら、他にもライダーは居る。

 

中でも特に彼がコンタクトを取りたいライダーが居る。

 

「(城戸真司…だよな?)」

 

城戸真司。仮面ライダー龍騎の主人公であり、強力なモンスターであるドラグレッダーと契約したライダーである。どこかのライダーの契約モンスターの3倍以上の初期ステータスをもったこのモンスターは本当に強い。

 

そして、主人公である彼はライダー同士の戦いを止めるために、人をモンスターから守る為だけに戦う。

つまり、今の須藤にとって一番手っ取り早いかつ安全な同盟を組める相手なのだ。

 

「(つまり…山下の取材相手ってOREジャーナルかよ!)」

 

【Open Resource Evolution ジャーナル】

 

この世界では、原作の2002年ではなく、その15年後なのでちゃんとスマホが使われている。

 

なのでここではLINE等と提携してるモバイルネットニュースサービスを行う小さな会社だ。

 

これは須藤が前もって調べたので、最低限の情報は持っている。

 

調べた理由は簡単な理由だ。

 

城戸真司、この作品の主人公の職業はOREジャーナルの新人ジャーナリストだからだ。

 

ライダーになるきっかけもジャーナリストとして調べてる最中にデッキを拾ったからだ。

 

カードは拾った、どこかの蟹の主人公でもそうだった。

なのに、同じ蟹の須藤には未来はあるのだろうか?

【紙屑の蟹】じゃなくて【星屑の龍】とかと契約したかったと切実に思う。

 

「山下、少し話がある。来てくれ。(この期を逃せば…俺は、生き残れない。)」

 

「え?あっはい…わかりました。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月20日

 

とある喫茶店には、いつも通りの格好をした須藤と山下、そして二人の普段なら関係を持たない者達が居た。

 

コーヒーをお互いに頼み、しばらくすると全員にブラックのコーヒーが運ばれる。

なぜか、一人だけそれに納得してない者も居るのだが。

 

「須藤雅史さん、今回は態々御時間をとらせて頂き、ありがとうございます。OREジャーナリストの桃井令子です。」

 

「城戸真司っす、よろしくお願いしまっす。」

 

一人は美形の女ジャーナリスト、かなり若いがジャーナリストとして経験が積まれていると覇気でわかる。

対して、もう一人の青年のジャーナリストは新人のようであり、若干緊張してるのが見てとれる。

彼こそが、この物語の本来の主人公、仮面ライダー龍騎なのだが。

 

「気にしないでください。こちらも我々警察以外の観点から、新しい発見があるかもしれませから。」

 

そういうと、お互いに名刺を交換する。山下は元々交換していたので須藤だけだ。

 

「そう言って頂けて幸いです。では…先ずはこちらを御覧になって下さい。」

 

そう言って見せるのはタブレットの動画であり、どうやら監視カメラの動画のようだ。

 

特にモンスターが人を襲うスプラッターなシーンをも無く、普通に歩行者が行き交う姿が映されている。

 

「…どこかおかしい所がありましたか?」

 

「こちらの人物を御覧ください。」

 

そう言って新しいタブレットを出し、次に見せたのは先程の映像とは同じだが、別の角度から映された映像であった。

だが、一部死角が存在する以外は不明な点は見当たらなかった。

 

見慣れたこの蟹を見るまでは。

 

「…(おいボルキャンサー、そこで何をしてる。)」

 

この手の監視カメラの映像には下に日時が書かれている。どうやら須藤との契約前の時だ。

 

幸いな事に、後輩の山下とジャーナリストの桃井、そして主人公には見えないようだ。 見えない振りをしてる可能性も…いや、城戸真司は良くも悪くも誠実であり、真っ直ぐだ。

 

つまり、城戸真司はまだデッキを拾ってないのだろう。

ミラーワールドを何かしらで認識をしなければ、モンスターはカメラ越しでも見えないのかもしれない。

 

「…人が消えた?」

 

「はい、突然です。別の世界に行ってしまったように。」

 

最初に見た映像を①、次に見たのを②としよう。

 

画像を比較して貰う、①の動画で赤いパーカーを着ていた男が②の動画の監視カメラの僅かな死角の間に消えてしまったのだ。

 

周りに通行人は居ない、これでは目撃証言はあがらないだろう。

 

他にも動画②の動画に居た若いOLが①の動画では消えている。須藤は確信する。

 

「なるほど、神隠ですか。(間違い無く、あの蟹が食ったな…)」

 

神隠しならぬ蟹隠しをしたボルキャンサーだが、三人ほど食べ終わると別のポイントに移動した。

 

「うーん…ん?(…あれ?)」

 

ここで、須藤は不味い事に気づく。

 

「(…これライダーになった時に主人公に勘違いされないかな?いやいや…襲わせてないよ?ただ、俺の契約前に食ってるだけで、今の俺は人を食うな!って命令してるよ?その代わり身を粉にしてモンスターを狩ってるんだよ!?)」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「いえ…この映像を見ただけでは分かりませんね。誘拐事件だとするならば、この近くからどこかへ繋がる隠し通路でもあるんですかね。(てか、早くない?OREジャーナル早くない?ミラーワールド判明したの48話とかそこら辺じゃなかった?)」

 

仮面ライダー龍騎は全50話の話であり、OREジャーナルの桃井が最後に真相を解明したのだが…今の時代はネットが広く繋がれている。だが、行き過ぎれば神崎士郎に消される。

それだけは注意しなければならないのだが、目の前の人物には何を言っても無駄なんだろう。

桃井令子は真実を追い求めるジャーナリストの鑑のような人物なのだから。

 

「なるほど…それでは、次は…」

 

「そうですね…これは…」

 

この後も須藤にとって新しい情報も無く、OREジャーナルにとっても新しい情報は無かった。




Q.次回から本編ですか?

A.最初の導入は終わったので、そうなりますね。


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10話 落ち着け、まだ慌てるような時間じゃない。

4月 3日

 

今日からある意味で新しい俺のスタートになってしまった。

とりあえず、俺は頑張って生き残りたい。

 

4月 5日

 

契約した俺の相棒…とはまだ呼びたくないが、ボルキャンサーが役に立たない。本当にやくだたない。

モンスターを倒すだけで、毎回ボロボロだ…明日からはバイクの運転の練習をしようかな…。

 

4月10日

 

ふざっけんなよ!?本当にふざけんなよ!?ただでさえ弱いんだよ!?バグとかじゃないのか!?神崎早くメンテナンスしろよぉぉぉぉぉぉ!!

 

…落ち着こう。今日から俺は、盾とバイクで戦うんだ。

 

4月15日

 

バイクの運転技術が上手くなってきた。

 

けど、モンスターがバンバン避ける。

 

不意討ちとかしないと殆ど当たらない。

 

…俺は、生き残れる気がしない。

 

 

 

4月18日

 

後輩の取材相手がまさかのあのOREジャーナルだった!!

最近は体も心もボロボロだったが、これで安定してモンスターを狩れるかもしれない!!

 

 

 

4月20日

 

なんとか主人公とコンタクトを取るのに成功した、これでなんとか生き残れるといいのだが…そういえば、城戸君って、どこでデッキを拾ってたっけ…。

あの膨大な行方不明者のリストからみつかるかなぁ…。

 

4月21日

 

色々あったが、城戸君の信頼感が半端ない。やめてくれ、俺はそんな聖人君子でもなければ正義感が溢れる主人公でもないんだ。ただの打算的な命が惜しい人間なんだ。全部君の言葉なんだよ、丸パクリなんだ。

だから、その目で俺を見ないでくれ…。

 

4月22日

 

どうして、こうなってしまったのか。

 

 

 

 

??月??日

 

俺はどこで道を踏み外したかはわからない。

 

気づいたらこうなっていたとしか言えない。

 

何で俺は、近づいただけで殺されるみたいな危険人物みたいになっているのだろうか。

 

え?ライダー12人を相手した?知らねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多すぎるわ…。」

 

須藤は城戸真司がどこでデッキを拾うか、捜査資料から探していた。

結果をいえば、それは見つからなかった。

理由としては、行方不明者が多いのもあるが一番の要因は。

 

「…覚えてるわけないだろ、マジで誰だよ。」

 

原作で、誰の行方不明者の家からデッキを拾ったのかわからないのだ。

無理もない、急に「仮面ライダーアギトで、【GM01スコーピオン】の装弾数わかる?」と言われて答えられるような人間じゃないのだ。(ちなみに、答えは72発)あくまでも、彼は凡人だ。

 

原作の大まかな流れや、登場する主要キャラはわかっても、細かい所はわからない。

加賀のように名前が出たらわかるかもしれないが。

 

性別が男、だけで彼には絞り込めなかった。

 

「…どうしようか。」

 

途方にくれながら、ふと愛用しているマグカップを見てみる。

柄はオレンジ色の蟹で「蟹は栄養満点!」と書かれてた独特のマグカップだ。昔の須藤はどんなつもりでこれを買ったのだろうか。何故か、今の須藤もこれを気に入ったが。

 

「…こっちもどうしようか。」

 

「キチキチキチキチ」

 

コーヒーの反射した先には、須藤の真後ろにボルキャンサーが居るように映っている。

表情が多くないボルキャンサーだが、須藤も僅かな表情の変化で、この契約した相棒(とは本人は呼びたくないが)を見ただけで察する。

 

「キチキチ」

 

「外回り…行ってきます。」

 

そう一言いうと、彼はまた狩りに出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なんだよ、これ。」

 

城戸真司は行方不明者の家で、奇妙なカードデッキを拾った。

 

無機質な真っ黒のそのカードデッキだが、何故か引き込まれる。

まるで城戸真司を何かに引きずり込もうとしてるように感じてしまう。

だから、拾ったまま持ってきてしまったのだろう。

 

そして、だからこそ…先程の事が現実に思えてしまう。

 

「…え?」

 

いや、さっき巨大な赤い龍に襲われたのも、目の前で起こってるのも現実なのだろう。

車に反射した鏡の世界には存在しないものが存在している。

巨大な蜘蛛のような化け物を誰も気に止めない、悠然とそれは街中を…鏡の中の街を闊歩しているのだ。

 

何故か、わかるのだ。近くに、このような化け物が存在してるのが。

耳鳴りのような直感、これがライダーの持つ第六感とはまだ気づいて無いが。

 

「え?なっ何がぁぁぁぁ!?」

 

そして、何故か鏡に引き込まれてしまう。

文字通りに、鏡の世界に引きずり込まれたのだ。

 

理由はわからない。

 

手に持っていたデッキの作用か、謎の引力で鏡に引きずり込まれたのだ。

 

「うぉぉぉぉぉっっ!!?」

 

そして、中ではいつの間にか全身を灰色のスーツで覆われていた。

鏡のトンネルのような場所を延々と引きずられる。

 

これが、彼の最初の仮面ライダーとしての変身であった。

 



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11話 そうだ、ミラーワールドに行こう。

「…いてて…は?って?なんだこれ。」

 

城戸真司は鏡の世界に引きずり込まれた。

 

先ず気づいたのは自分のよくわからない状況だろう。

 

腕には謎の機械、ベルトには拾ったデッキが差し込まれ、全身は肌を一切見せない灰色のスーツが体を覆っている。

 

次に周りの世界が現実の世界を全てを反転させたような世界であること。

 

ここがどこで、どうしてこんな格好をしてるのか。

 

そして目の前に居る巨大な蜘蛛はなんなのか。

 

「ピキピキピキピ…ピキピキ」

 

蜘蛛の化け物は本来狙っていた獲物から城戸真司に狙いを変更する。

目の前に弱そうな獲物がいるのだ、食事を行うのには特に問題も無い。

 

「ぐはぁっ!!」

 

事実、一度前足を払うだけで簡単に吹き飛んでしまった。

そのまま10mは打ち上げられ、壁面の装飾にぶつかり、そのまま地面に自由落下する。

ライダーの装甲が無ければ、とっくに死んでいるだろう。

 

「どっ、どうすんだよ。」

 

だが、体に痛みは当然ながらあった。打撲程度ではあるが。

 

「ピキピキピキピ…ピキピ!!」

 

どこへ逃げようか迷っていると、突然蜘蛛のモンスターは吹き飛ばされる。

 

「…へ?」

 

原因はバイクが轢いたからだ。

すると、ゆっくりとバイクが開く。上のカバーのようなものがゆっくりと上がると中から一人のライダーが現れる。

 

「大丈夫か?」

 

これが仮面ライダーシザース、須藤雅史との出合いであった。

 

「ピキピキピキピ…ピキピキ!!」

 

また、蜘蛛は立ち上がろうとするが、またバイクに吹き飛ばされる。

そこに居るのは勿論、彼だ。

 

「…こいつは俺が貰うぞ。」

 

「お好きにどうぞ。」

 

これが城戸真司と仮面ライダーナイト、秋山蓮との出合いでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ヤバい。」

 

須藤は目の前で起こってる現象に釘付けだった。

 

鏡の中では巨大な蜘蛛と城戸真司、まだ契約をしてないのでブランク体の状態で戦っているのだ。

 

だが、須藤はそれを見守っていた。理由としていくつかある。

 

一つは、この後に直ぐに今後のライダーバトルで城戸真司にとって重要なポジションとなるライダー、仮面ライダーナイトが助けに来るからだ。

 

もう一つは…須藤にこの蜘蛛を倒せるかわからないからだ。というか、殆ど勝てないのがわかってるからだ。

 

「…バイクで嵌めたら5割、失敗したら…うん、1割無いわ。合わせて…3割か無理です。」

 

この蜘蛛の武器は鋼鉄のように鋭く硬い足だ。なので、武器を持っていない。敵の武器を奪えないのが、須藤にはいたい。

 

また蜘蛛のモンスターなので…立体的な動きが可能なのだ。某巨人のマンガのような動きはしないが、ビルの壁面を走ったり、跳びはねたりと、本家の蜘蛛をそのまま大きくしたような動きをする。なのでバイクを簡単に回避をしてしまうのだ。

 

そして…戦う旨味も少ないのだ。こいつは原作では二回殺さなければ死なない。仮面ライダーナイトのFINAL VENTでも一度しか殺せなかった。つまり、ナイトの半分の力のFINAL VENTしか力を持ってない須藤では殆ど勝てる見込みが無いのだ。

 

本当に、須藤に相性の悪い敵なのだ。

 

これで必殺技でも倒せなければ悲惨な未来が待っている。

 

個人的にはこの後に起こる原作のワンシーン、ブランク体の龍騎が剣で立ち向かっていき「おっ、折れたぁ!?」と言って剣を折られてからの「邪魔をするな!」と叱られるシーンが見たかったのだが。

 

 

「城戸君、強く生きろよ。」

 

「キチキチキチキチ」

 

「…俺も、強く生き…ん?」

 

須藤が立ち去ろうとした時に、視界の端にテレビで覚えのある黒いコートが見えた。

秋山蓮らしき人物を見つけたのだ。

 

仮面ライダーナイト、秋山蓮。原作では最後に生き残ったライダーであり、最終的には城戸真司の親友ポジションになる人物だ。

 

そこで、須藤は思い付いた。

 

「…よし、ナイトに便乗しよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜘蛛と対峙しながら、須藤は盾を召喚する。それを身に付けると、城戸を守るように立ち塞がった。

 

「…まぁ良い。」

 

そう言うと、秋山蓮はデッキからカードを1枚抜き取る。

 

『SWORD VENT』

 

そして、空から落ちて来たのは漆黒の槍「ウィングランサー」だ。かなり大きな得物であり、それは巨大で硬い蜘蛛の足と簡単に渡り合っていた。

 

「…俺も。」

 

それを見て、彼はデッキをから見よう見まねでカードを引き抜き、腕についていたバイザーに装填する。

 

『SWORD VENT』

 

するとまた虚空から現れた剣が勢い良く地面に刺さる。それは少し力を入れると、簡単に抜けた。この蜘蛛には先ほどまで痛い目を合わされていた、だからこの剣で倒すまではいかなくても一矢報いてやろうと、そして走り出した。

 

「ちょっと、待て!」

 

気づいた須藤の止める声も無視して、そのまま蜘蛛の足に切りかかった。素人の振るそれは単純な剣の力だけの攻撃だった。

 

「うぉぉ!!おっ、折れたぁ!?」

 

そして、二人のわかりきっていた事だが剣は簡単に弾けとんだ。ポッキリと真ん中から折れているのだ。もう剣としての力は無いだろう。

 

「ピキピキ!」

 

「うぉっ!?」

 

そして、そのまま城戸を吹き飛ばそうと蜘蛛の足のうち二本の敵意を受けてしまう。

何度も受けていたからわかる、これは先ほどの少しづつ敵の体力を奪うような凪ぎ払うような攻撃じゃない。

明確な敵意、足に貫かれてしまう。そう感じとり、とっさに身を丸めた。

 

ガキンと鈍い音が鳴った。だが痛みはない、ゆっくりと顔を向けてみると、そこには黄金のライダーが居た。

 

「危ないから、下がってて。」

 

盾の使い方が上手く、城戸への攻撃を完璧に受け流し、受け止めていた。まるで盾の名手だ。盾だけでもわかる。この人は物凄く強いと。

 

「邪魔をするなぁ!」

 

そして、先ほどの黒いライダーが不意をついて剣で敵の足を吹き飛ばす。

あれほど固かった足は関節から吹き飛び、カランカランと音をたてて地面に転がった。

 

 

「俺が貰う。」

 

「だから、どうぞって言ったけど。」

 

『FINAL VENT』

 

そして、黒い方のライダー、仮面ライダーナイトはバイザーに必殺のカードをセットする。

すると、上空から契約モンスター『ダークウィング』が現れ、そのままナイトの背中に装着された。

空中に飛び上がり、そのまま回転しながら敵を貫く。

必殺の『飛翔斬』が決まった。

 

「…ふぅ。」

 

そう一息つくと、また剣を構え直す。それは須藤に対してだ。城戸は急な出来事にわけがわからない。急に黒いライダーが剣を構えたのだが、黄金のライダーはまったく気にも止めてない。

 

「…まだ、終わりじゃないぞ。」

 

だが、次の瞬間に黄金のライダーが動かなかった理由がわかった。突如して大きな猛獣のような雄叫びが聞こえた。そしてそれが先ほどの赤い龍と気づいた。

 

「グォォォォォン!!」

 

「…不味いな。」

 

そう言うのは黒いライダー、秋山だ。既にミラーワールドの滞在時間も1分をきっており、もう時間的にこのモンスターを狩れる時間も無いのだ。雑魚程度なら狩れたかもしれない、だがこいつはかなりの大物であるのは誰の眼にも明らかだった。

 

「…うぉっ!!」

 

そして、龍が火球を乱れ打つ。火球はとても威力が大きく、当たれば致命的なダメージを負ってしまうのは城戸でも簡単にわかった。

それが自分に向かって来たのには、もうどうしようもなかった。また咄嗟に身構えてしまう。

 

「…え?」

 

だが、またしても爆発音は近くで聞こえたが自分には灼熱の痛みは無い。どういう事かと、見てみるとまた黄金のライダーが盾で攻撃を受け止めていた。

 

「早く行け、少しの時間は稼いでやる。」

 

そう言うと、そのまま城戸とは違う方向に駆けた。龍もそれにつられて須藤を追った。

城戸真司は何もすることはできず、そのままミラーワールドを脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(こいつ、強すぎじゃないかなぁ?ちょっとは俺のモンスターにも分けてくれよぉぉぉぉぉぉ!!!)」

 

ドラグレッダーに追われながら、彼は全力でバイクを走らせていた。

ドラグレッダーは天を駆ける龍だ、バイクのスピードに簡単に追い付き、攻撃を続ける。

ここだけ見れば須藤が自分から命を捨てに行ったように見える。

 

が、1発として…いや、傷1つとして、彼もバイクもダメージを負っていなかった。それは偏に須藤のバイクの技術力にある。おそらく、ミラーワールドで一番バイクを乗りこなせるのは須藤だ。

 

「グォォォォォン!!」

 

「…羨ましい。」

 

ジグザグに地下の駐車場を避けると、火球は柱に当たり外れる。ドラグレッダーにとって空を飛べるアドバンテージが少ない狭い空間なのもあったが、須藤のバイクの運転技術の前では関係ないのかもしれない。

 

ただ、必死に覚えた理由が契約モンスターが役にたたないからなのは残念過ぎるのだが。

 

ドラグレッダーを地下の駐車場で簡単にまいてしまう。今頃は地下で須藤を探し回っているだろう。

 

「…よし。(俺のドライブテクも捨てたもんじゃないな。レーサーとして食ってけるんじゃ…ん?)」

 

特に危なげもなく、須藤は現実世界に帰ってきた。須藤がこんな行動をしたのは簡単だ。他の二人からの信用を得るためだ。

 

そして、予想通りに待っていた三人の人物。

 

イメージは黒、鋭い目付きをした黒いコートの男。ほぼ主人公の秋山蓮。

 

そのとなりには一人の女性、イメージは白や桃、優しい目付きをした黒幕の妹、神崎優衣。

 

そして、この作品の主人公、青いジャンパーと赤いスクーターを引いた、バカで真っ直ぐな男、城戸真司。

 

「少しだけ時間、いいかな?」

 

「構いませんよ。」

 

物語は動き出していた。




次回から主に主人公以外の視点も増えてきます。


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12話 蟹の啓示

4月21日

 

 

 

城戸は二人のライダーに助けられ、なんとか生きていた。

 

秋山蓮、仮面ライダーナイトがモンスターを倒し。

 

須藤雅史、仮面ライダーシザースがモンスターの攻撃から自分を守ってくれたのだ。

 

「…仮面、ライダー?」

 

「そう、貴方は巻き込まれたの。」

 

そして、事情の説明の為に喫茶店【花鶏】に連れて来られた。

 

そこで聞いたのはミラーワールドと、そこに存在する人を食らうモンスター、そしてそれと戦う仮面ライダーの事である。

 

ミラーワールドとは文字通り、鏡の中の世界であり、そこに人間が入ってしまえばモンスターに補食されるかそのまま消滅してしまうかの、二つに一つしかないらしい。

 

例外として、仮面ライダーだけは9分55秒のみ存在する事が可能である。

 

また、ミラーモンスターはストーカー並にしつこく、一度狙った獲物は食い殺すまで逃がさないという、ドン引きである。

 

更に衝撃的なのは、赤い龍に城戸は狙われていた。ボルキャンサーの倍以上強いこの龍に狙われるのは可哀想としかいえない。

 

「不運なやつだ、どこも旨そうに見えないがな。」

 

そんな城戸に、彼は哀れみの言葉を呟く。小バカにしたような言葉だ。いや、小バカにしてるのだろう。

 

「蓮、この人モンスターに狙われてるんだよ!そんな言い方は良くないよ!」

 

それに対して、激しく言い返す優衣。優しい心を持った人物だと、城戸は感じる。

 

「…冗談だ。あの龍は俺が倒す。」

 

そういうと、彼はまたモンスターを狩りに外に出た。

 

「お前は手を出すなよ。」

 

そう須藤に一言残して。

 

 

 

 

城戸真司は出ていった秋山をそのまま無言で見送る。中に居るのは神崎優衣と呼ばれる女性と、以前出会った刑事だけだ。

 

「…刑事さんもライダー、なんだよな?」

 

恐る恐る、まるで城戸は自分なりに丁寧に話しかけた。

 

「まぁ…ね。もう少し軽い感じでいいよ。年も殆ど同じだからね。」

 

そう言われると気が緩む。先ほどの男と比べてフレンドリーな人だと好感が持てた。

 

「なぁ、なんでライダーになったか聞いてもいいかな?」

 

なので、城戸は思いきって聞いてみた。何故、あんなモンスターとまともに戦えるのか。普通の人間ならば、あんなモンスターとはまともに戦えないだろう。

だからこそ、誰でもいいんじゃないか?何故、自分がやるのか?と。

 

これには、隣の神崎優衣も静かに聞いていた。

彼女が考えているのは、須藤がどんな願いを叶える為にライダーになったかだ。

ライダーは願いを叶える為に戦う。一見して人が良さそうに見える彼の願いが気になったのだ。

 

「そうだなぁ…」

 

須藤は少し悩む。どうにか、ライダーとして言葉にしようとしているのだろう。

城戸真司という迷える子羊を納得させようとしてるのだと、感じ取った。何故、それがわかるのか?それは眼でわかったのだ。横からしか見えないが、どこか優しく、険しい眼をしてるのだ。それはまるでこの言葉が自分の事のように、真剣に言葉を選んでいるのが感じ取れるのだ。

 

「俺がライダーになったのは、刑事だからだよ。」

 

そして出てきた言葉は、神崎優衣が思った方向とは違い、城戸真司はまだ頭で理解できていなかった。

 

「刑事…だから?」

 

刑事とは犯罪者を捕まえる職業だ。それ以外には特に思い付かないし、ライダーとどう繋がるのか、城戸はわからなかった。

 

「人を守る為に刑事になった。だから、モンスターから人を守る為にライダーになった。それだけだよ。」

 

だが、この言葉を聞くと、何故か自分が求めていたような言葉で、ストンと心の中に落ちて、染み渡る。

まるで城戸真司を知ってるような…まるで城戸真司の心を読んでるんじゃないかと思うような言葉だった。

 

「あんた…凄ぇな。」

 

城戸の心の底からの、称賛だった。とても、この人にはなれないと感じた。

今まで、城戸真司には憧れる人物は何人か居た。今の編集長もそうだが、先輩である桃井黎子もそうだ。だが、この僅かな会話だけで心が揺さぶられたのは初めてだった。

 

「じゃあ、質問なんだけどいいかな?」

 

そして、もう須藤をただの刑事として見れなかった。城戸は自分とは住んでいる世界が違うと感じた。そうわかっているのだが、この人のようになりたい、この人のように、ライダーとして、人を守りたいと憧れてしまったのだ。さっきの戦いもそうだった。モンスターが目の前に居た、だが城戸が居たから立ち向かわずに、守りに徹した。そんな須藤に、憧れたのだ。

 

「なんだい?」

 

須藤は神崎優衣に淹れて貰った紅茶を飲みながら、それに答える。

その姿が城戸の眼にはもう自分と同じ人間じゃないと思うどころか、別次元の存在ではないかと感じ始める。

 

「契約のモンスターってどうやって選んだんだ?」

 

契約のモンスター。まだ城戸はライダーになるかも決めていない。が、それでも須藤がどうやってモンスターを選んだのか気になって仕方がなかったのだ。この人ならばどのように選んだのか?さっきの戦いで人を守るのが得意なのはよくわかった。だから、聞きたかったのだ。

 

「…見えるかい?」

 

すると、須藤はデッキを持たせて、カフェに置いてある鏡を指差す。

そこには分厚い黄金の装甲を身に纏う蟹のような人型のモンスターが居た。鋏を何度もパチパチと開いては閉じを繰り返し、須藤を凝視している。主を常に見守っているのだ。いつどこから敵が来ても対応できるように、眼を光らせるのはまるで野獣だ。とてもモンスターと人間の関係には見えない。そう城戸は感じ取った。

 

「あぁ…この蟹みたいな奴か。どうしてこのモンスターなんだ?」

 

理由は色々思い付いた。カッコいいとか、強そうとか、黄金が好きなど、様々だったが。どれもピンと来なかった。この人が選ぶにはこんな理由ではないと、そんな理由であそこまでの信頼関係は産まれないと。

 

そして、彼はその予想なんかを簡単に飛び越える理由を答えた。

 

「俺からこいつは選んでない。あいつが俺を選んだ。だから、俺はこいつと契約してるんだよ。」

 

嘘は言っていない。

 

「…え?」

 

衝撃だった。新人ジャーナリストでも、城戸はよく聞いた事がある。

 

『俺がこいつを選んだんじゃない、あいつが俺を選んだのさ。』

 

最前線で戦い逸話を残すスナイパーや多大な功績を挙げる警察犬のチーム達と同じ言葉を言ったのだ。

『相棒は自分で選ぶ者ではない、いつの間にか隣に居る奴がそうなるんだ。』そう言われてるように感じた。

 

既に須藤に引き込まれていたが、もう後戻りできないレベルまで引き込まれてしまっていた。

 

「…じゃあ、俺はどうしたら。」

 

では、自分だったらどうしたら良いのか?

そんな城戸を見かねてか、須藤はこう告げた。

 

「あの龍も、君を選ぼうとしてるのかもね。」

 

「俺を?」

 

須藤はまるで自分の契約の時を思い出してるのか、眼が実家に帰ってきた時に久々に見る愛犬のように優しい眼をしている。

だが、どこか虚しさを感じる。城戸は『ライダーってのは、楽じゃない。』と言ってるように感じる。が、どこか吹っ切れたような眼でもあった。

 

ライダーになったのに、後悔なんて無いのだろう。

 

「君には龍が契約するに値するか、試されていたのかもしれない。けど、契約するのも、突っぱねるのも、城戸君しだいだよ。」

 

まるで神の啓示のようであった。黄金に輝く蟹も、それを体現したのではないかとすら感じる。

 

今の城戸の心は簡単に鷲掴まれた。

 

「ありがとう…なんか少しだけ決まったかもしれない。」

 

「そうか、役にたてなら良かったよ。」

 

須藤は城戸と直接眼を合わせなかったが、またゆっくりとカップを口に運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 



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13話 仮面ライダー龍騎

ここはとあるビルの一室である。そこには4台のパソコンとコピー機、ドアとは対角に存在する大きな机には雑多に書類が積み重なっている。

 

「てめっ、真司!お前昨日は仕事サボって何してた!!」

 

そして、ここの編集長兼社長の大久保大介は新入りであり大学の後輩である城戸真司の首にホールドしていた。

ここではよくある光景であり、いつも通りに的確に決められたそれは城戸を軽く窒息させていた。

 

「すっすいません。編集長!ちょっと、刑事さんと仕事をしてて…」

 

だが、今回は言い訳を用意していた。須藤を言い訳に使うのに若干の罪悪感を感じなからも、今はそれよりもこの首の腕をほどくのが先決だ。それを聞くと編集長はゆっくりと腕を外した。

 

「ったく、ならそう言えって。行方不明事件でなんかわかったか?」

 

そう言うと編集長は散らかった机の椅子に座り、引き出しから取り出した孫の手で肩を揉み始める。

 

「それが…まったく。」

 

本当ならば全てをぶちまけたかった。だが、須藤に別れ際に言われた。「この事は言わない方がいい。誰も信じないし…信じてもパニックになるだけだ。」それを聞いて納得した。町中に強盗が居るなら戸締まりの徹底や万が一に備えての武器の準備などの対応ができる。

 

しかし、ミラーワールドのモンスターには対策なんてのはほぼ不可能だ。少し周りを見るだけで、窓ガラス コーヒーの入ったカップ 電源の点いてないパソコン 誰かの手鏡など、数え上げればキリが無いだろう。

 

反射のしない物がある場所なんてない。それがあっても、水の必要な人間は生きていけないだろう。

 

「まぁ、そう簡単にはいかねぇよな。」

 

特に期待はしてなかったが、城戸真司の良いところは別にある。それがわかっている編集長はまた孫の手を動かし始める。

 

「あ、令子さん。何かわかりましたか?」

 

「いえ何も…何もわからないわ。密室の中でどうしたらああなるのかね。」

 

桃井は深い溜め息を吐く。まるで証拠が出ない。隠し通路や隠し部屋が存在するかもと、徹底的に現場を洗ってみたが、何一つ、証拠も証言も見つからなかった。

 

「まぁ…そんな時もありますよ。あ、次行くときは俺も行きますよ。」

 

そして、城戸は自分のポケットを見つめる。そこには神崎優衣から警告はされたが、ライダーになれるデッキが入っている。

 

「城戸君は…ちょっと待って。」

 

すると、桃井が何かを言う前に電話が掛かってくる。どうやら、事件のようだ。何の事件かは、何故か察することができた。

 

「もしもし、はい…わかりました。編集長、また行方不明事件です。今度は渋谷の森ビルです。」

 

それを聞くと、編集長よりも素早く反応する…いや、もう外に出る準備ができていた。

 

「うし、行ってきます!!」

 

そして返事も聞かずに、彼はそのまま出ていった。

 

「あ、城戸君!!」

 

そう桃井は叫んだが、既に扉は閉まってしまった。猪突猛進のバカとは思っていたが…先ほどの一緒に行きますよ!の発言はなんだったのだろうか。

 

「まぁまぁ令子…あいつも、ジャーナリストなんだよ。ひよっこだけどな。」

 

「はぁ…行ってきます。」

 

桃井は若干溜め息を吐きながら、渋谷へ向かった。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

ここは渋谷の森ビル、その屋上にビルの作業員以外の人は居ない。だが、ここはミラーワールド。そこに居るのは仮面ライダーナイトである秋山蓮以外に人間は居ない。

 

「こいつ、生きていたのか?」

 

そして、相対するのは以前戦った蜘蛛のようなモンスターだ。

だが、前回とは違い。ケンタウロスのように人型の上半身が生え、更に精度は高くないがそいつは針を連続で飛ばしている。ライダーでなければ一撃であの世行きの攻撃だ。

 

「ぐっ、ダークウィング!!」

 

正面から接近しての戦闘は分が悪い、そう感じた彼は契約モンスターであるダークウィングを呼び出す。すると、そのまま背中と合体し、空を飛び回る。

 

「何だと!?」

 

だが、一度距離を取ろうとビルの外側に移動しようとすると。蜘蛛型のモンスターは壁を高速で移動し、ナイトに蜘蛛らしく、糸を巻き付ける。

 

「ぐぁっ!」

 

そして、巻き付かれては翼で羽ばたく事はできずにそのまま地面に落下する。決して低くない高度からの落下はライダーのパワードスーツを纏っていても少なくないダメージを負ってしまう。

 

「ギチギチギチ」

 

蜘蛛は一度ナイトと距離をとった場所に着地する。ナイトもロープをほどこうとしているが、硬い蜘蛛の糸は簡単にほどけてくれない。

そして、蜘蛛からまた巨体な針が射出される。今度は動かない的を狙うので、精度は悪いが、今度こそ、避けられない。

 

やってくる痛みに備え、できるだけ身を丸めようと動こうとした時だ。

 

「ハァッ!!」

 

赤いライダーが、針を叩き落としたのだ。

 

「グォォォォォン!!」

 

そして、その周りには赤い龍が付き従っている。あの強力なモンスターと契約したのだとナイトは理解した。

 

そして、流れるように左手についたドラグバイザーを開く。デッキから取り出すのは必殺のカード。

 

『FINAL VENT』

 

「はぁぁぁ…!!」

 

空中に飛び上がり、きりもみしながら龍の炎に包まれて放たれる仮面ライダー龍騎の必殺技。『ドラゴンライダーキック』が放たれる。

 

「ビキビキ!!」

 

モンスターは灼熱の飛び蹴りを受け、爆発四散。中からは白く光輝くコアが現れる。それをドラグレッダーは大きな口で一呑みにする。

 

これを見た秋山は少なくない焦燥を感じる。近い将来に、自分への脅威になるからだ。

 

ライダー同士のバトル・ロワイアルは最後の一人になるまで終わらない。つまりは、このライダーもこの前に出会った金色のライダーも倒さなければ…いや、殺さなければならないのだ。

 

バトル・ロワイアルの景品は【自分の望みを叶える力を得る】だ。これは秋山蓮に残された唯一の希望。

 

「龍騎か…今のうちに潰しておくか!」

 

彼女を生き返らせる為に、彼は剣を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

 

「まっさん。また行方不明事件です。」

「…またか、場所は?」

「渋谷の森ビルって場所で。母親が娘を残して突然消えたらしいです。」

「…わかった。警部、行ってきます。」

「あ、私も行きますよ!」

 

 

 

 

という感じのやり取りがあってから、須藤雅史は渋谷へやって来ていた。

 

「…警視庁の須藤です。状況は?」

 

ちなみに言い忘れていたことだが、彼は原作と違い本庁で働いている。「行方不明事件対策本部」の一員として、働いているのだ。

 

まぁ、本部は何の証拠も証言も得られず、解散したのだが。今は須藤を含めて数人しか本庁では事件の捜査を行っていない。

 

なので基本的な捜査は各地区で行い、事件が起これば須藤達が駆けつけるようになっているのだ。

 

「はい、突然この子の母親が消えてしまい…こちらで防犯カメラの確認しましたが、彼女の母親の所在は不明です。」

 

そう言って試着室を見てみると、鞄や脱がれた靴など、娘を置いてどこかに行くには置いてくのはあり得ないような物が置き去りにされている。

 

「(やっぱりミラーモンスターか。)そうですか、では先ずは母親の身辺調査をして行方不明事件かどうかと…もう一度、防犯カメラのチェックですね。」

 

「まっさん、私は「山下は防犯カメラのチェックだ。俺は、聞き込みをしてくる。」わかりました。」

 

山下にそう告げて向かうのは1階だ。理由としては、モンスターがそこに居るのがライダーなのでわかるからだ。その能力で今回の敵がどのようなモンスターか確認し、勝てそうなら倒す。須藤は素早く1階に駆け付けた。途中で桃井らしき人物が居たのにも気づいたが、ここではスルーした。

 

「…(そういえば、こんなイベントがあったな。)」

 

1階はガラス張りであり、沢山の人が思い思いに動いている。その中でも、何人かの人はある一点を向いている。そして、須藤も向いている。

 

須藤の視線の先には既にモンスターが討伐され、目の前には必死に鏡を叩く女とミラーワールドで秋山蓮にボコボコにされている城戸真司が居た。

 

「あっ…」

 

「…(…)」

 

また鏡を必死に叩いていた女性。神崎優衣と眼があってしまった。

須藤は眼があった瞬間に「さっさと立ち去れば良かった。」と後悔した。

 

「須藤さん、お願いがあるんです!」

 

何故なら、彼女のお願いなんて今は1つしかないからだ。もう二人の戦いを止めて欲しいなんて願いが簡単にわかってしまう。

 

だが、ここで逃げてみれば彼女達との仲は最悪になるだろう。

 

生き残るには須藤は城戸真司とは協力関係を結ばなければならない。

 

ここで逃げれば、たとえ生き残っても、何の支えも無い須藤は簡単にミラーワールドで塵となる。

 

つまり、逃げ道は存在しない。一応捕捉しておくが、ボルキャンサーという支えは存在はしてる。他のライダーの契約モンスターが鉄なら、こちらはダンボールであるが。

 

「二人を止めて下さい!」

 

そして、予想通り過ぎる願いに須藤にできるのは大嫌いな神様に祈る事しかできない。

 

「(大丈夫だ、オーディンとか浅倉に襲われるよりはマシだ。なんとかなる…そう、なんとかなる。)期待はしないでくれよ。俺、弱いから。」

 

そんな事を思いながら、須藤は二人の戦いを止めにトイレへ向かった。

 

 

 

★★★★★

 

城戸真司は人を守る為に、ライダーになることを誓った。そして、ドラグレッダーと契約して仮面ライダーとなり初めてモンスターを倒した。

 

人を守った実感を得た。

 

「う…あ…」

 

だから、今の状況を良くわかっていない。

 

「終わりだ。」

 

赤いライダーである龍騎はもう一人のライダーであるナイトに追い詰められていた。最初は良くわからず、そのままやられたが、途中からは果敢に立ち向かった。だが、ライダーとしての経験が数分しかない龍騎は一方的にやられ、ナイトに地に伏せられていた。

 

「…(刑事さん…ライダーって、なんなんだよ。)」

 

そして、ナイトのランスが龍騎の首を貫こうとした時だ。突如として、ライダーなら聞き慣れたエンジン音が響き渡る。

 

それは徐々に近付いているのがわかる。ナイトは龍騎から大きく後ろに飛び退く。そしてナイトが居た場所には全ライダーの共通の装備であるライドシューターが止まり、ゆっくりと天井の扉が開いていく。

 

「刑事…さん?」

 

そこに居たのは仮面ライダー龍騎になる前に、城戸真司を助けた黄金のライダー。

 

「間に合ったようだね。」

 

須藤雅史、仮面ライダーシザースである。

 

「どういうつもりだ?」

 

ライドシューターからゆっくりと降りてきたシザースを睨み付けるナイト。

ライダーを前にしてる筈なのだが、その姿はかなり落ち着いてるように見える。

 

「秋山蓮だな。外に居る優衣さんに頼まれて、この戦いを止めに来た。」

 

「…」

 

窓の外を見てみると神崎優衣が不安な顔をしながら三人の動向を見守っている。

目先の戦いに夢中になり、仮面ライダーナイト、秋山蓮は気がつかなかったのだ。

 

「今ここで争う理由は無いはずだ。ここは一先ず、矛を下げて貰えるか?」

 

そう言ってランスを下ろすように促すが、ナイトが武器を捨てる様子は無い。

 

「俺達はライダーだ、戦う理由も価値も、それだけで良い!」

 

そして、ついに須藤に向けてランスを振りかざした。



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14話 違う、そうじゃない。

「(凄ぇ…)」

 

城戸は感嘆していた。

 

今迄の人生で武器を使って争う事が少なかったのも普通の人は当たり前だ。だが、それでもわかるのだ。どれだけレベルの高い戦いが目の前で繰り広げられているかを。城戸を一方的に倒した秋山が身の丈ほどもある巨大なランスを振りかぶり、それを須藤が盾で全て受け流している。

 

先程は一撃で剣が飛び、二撃目で自分を吹き飛ばしたランスを完璧に受け流しているのだ。

 

一朝一夕でできる物ではない。いったい、どれだけの鍛練をしたのだろうか。城戸には想像もつかない。そして一度として反撃もしていない。

まさか、自分が逃げる時間を稼いでいるのでは?と城戸は考える。

 

その思惑通りに、城戸はこの場から立ち去るタイミングをバイク越しに伺う、そして城戸は気づいた。

 

「(まさか…流れ弾とかから守るため…?)」

 

目の前に止まっているバイクはまるで城戸を守るように停められている。最初にバイクをここに停めたのは戦闘が起こっても負傷した城戸を流れ弾から守る為に、対応できるように、先手を打っていたのだと何故かわかった。

 

だが、それだけではない。

 

「(…須藤さんって、やっぱり凄ぇ。)」

 

このバイクの置かれた隠喩、それは「ここで俺の戦いを見ていろ。」だ。つまりは、ライダーとして新米である城戸への実践のレクチャーである。

 

あの秋山蓮を手玉にとるとは…驚きを隠せない。

 

すると、後ろからモンスターの気配を感じとる。新手か?と振り向くと。

 

「キチキチキチ」

 

城戸は更に気づく。須藤を見守るボルキャンサーの存在にだ。

 

木々の間から見守るその姿は堅牢に見える黄金の鎧を纏っている。ボルキャンサーが参戦すれば、あっさりと勝負はつくように見える。いや、間違いなくつくのだろう。

 

だが、ボルキャンサーは戦いに手を出すようには見えない。見守るだけで、じっと須藤を見つめている。あの目は野獣の目なのだが…それは理性で止めているこの戦いに参加したい心が現れてしまったのだろうと感じとる。

 

主を信じているのだと、城戸は感じとる。なんて忠誠心の高さなのか、とまた彼の中で須藤の立場が1つ上がったのであった。

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「(こいつ、さっきから盾での防御しかしていない。…あくまでも、戦わないつもりなのか。)」

 

秋山も少しづつ苛立ちを隠せなくなっていた。向こうからの攻撃は無い、だがこちらの攻撃は全て受け流されている。盾の扱いの上手さはドラグレッダーに襲われた時に確認していた。だが、ここまで盾だけで武器も持たない上に戦うつもりも無いのには秋山も限界が来ていた。

 

「何のつもりだ、戦え!」

 

乱暴にランスを振るう秋山。当たれば大ダメージはさけられない。巨大な漆黒のランスを何度も振るう。

 

「甘いよなぁ…」

 

それを溜め息混じりの嘲笑をしながら、また盾で受け流す。

 

「くっ、いい加減にしろ!!」

 

まるで井戸に居る蛙を上から見下ろす人間のように、須藤は秋山を相手していると感じとる。

そんなふざけた事をされて煽り耐性の低い秋山が怒らない訳が無い。

 

一度距離をとり、ランスを地面に突き刺して立てると。腰に装着されているバイザーにカードをセットする。

 

『NASTY VENT』

 

秋山が発動したのは超音波で敵を混乱させるカードだ。空を飛ぶダークウィングの超音波により須藤は地面を転げ回る

 

「何故、効いていない!?」

 

事も無く、一瞬で距離を詰めて来たのだ。

 

これは想定外であった。どんな敵でも間違いなく地面をのたうち回るだけの力を持つこのカードならば、大きな隙ができると考えていたのだから。

 

「くっ!!」

 

そして、反射的に須藤に向けて地面に突き刺していたランスを抜き取り、須藤を貫こうと穿つ。

 

咄嗟の反応によりモーションも大きく、ワンテンポ遅れた攻撃になってしまった。今度も今までのように受け流す

 

「なっ…」

 

だけでは終わらなかった。そのまま盾を器用に使い、そのままランスを上に打ち上げる。

だが、武器を1つ失った程度では秋山も勝負を諦めない。そのまま腰にあるバイザーで首を貫いてやろうと引き抜こうとした時だ。

 

「うっ…」

 

「…」

 

いつの間にか、秋山のランスは須藤の手にあった。しかも、それは今自分の目の前にある。完璧な敗けである。

 

「…(俺は、死ぬのか。)」

 

そして、時間にして5秒も無いのだが…秋山には永遠にも近い時間が流れた。このライダーバトルへの参加は未だに目を覚まさない恋人を救うために参戦した。神崎士郎に勧められたこの戦いで必ず生き残り、恋人を救う。そう決心していたのだが、とても今の状況を覆せる手を思い浮かべられなかった。

 

一歩でも動けば、それだけで自分の寿命が縮むだけだ。

 

走馬灯のように恋人との思い出が頭を流れる。ずっと一人でいた自分に声を掛けてきた時、笑顔を浮かべながら浜辺で夕日を眺めた時、蓮と初めて名前を呼ばれた時。悪くない気持ちだが…彼女を救えないのには悔いが残る。

 

このまま彼女を先に待っても悪くないのかもしれない、だがそれは自分が許さない。秋山は決意をあらたにし、最後まで足掻こうとした時だ。

 

それはガシャンッ!という地面に何かが落ちた音で急に冷静ないつもの秋山蓮に引き戻された。

 

「…どういうつもりだ。」

 

その時が来ると感じた時にはランスは須藤の手には無く、地面にはランスが転がっている。いつでも止めは刺せただろう。だが、頭の中がこんがらがり、秋山はフリーズした。

 

「…」

 

須藤の事を秋山は知らない。どんな思惑があり、どんな考えがあり、どんな理由でライダーになったのか。秋山は知らない。

 

「(俺は弱い…少なくとも、あいつよりも。)」

 

無言で去る須藤の背中を見ながら、秋山は己の弱さを嘆いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「(俺の求めてた展開と全然違うんだけど!?どこで間違った!?)」

 

須藤は激しく後悔した。原作では神崎優衣が窓ガラスを割ることで何とか冷静になり、秋山は矛を引いた。須藤は最初は直ぐに襲われてミラーワールドの塵となると思っていた。が、よくよく考えれば「原作で神崎優衣がやっていた説得を代わりにやればいいんじゃね?」と途中からは軽いつもりでやって来た。

 

「甘いよなぁ…(少し前の俺を殴りたい。)」

 

結果は戦うことになってしまった。

 

だが、須藤も最悪の事態は想定済みである。しっかりと盾を装着してやって来たので、突進してきた秋山蓮のランスを的確に後ろに受け流せている。

 

「(あ、そういえば1話だと止められなかったら普通に殺ろうとしてたような…どうすればいいんだ!?そこまでかんがえてなかった。)」

 

何度もランスが横に縦に、薙ごうと、貫こうとするが、全てを盾で受け流す。

 

正確には受け流すことでしか渡り合えないのだが。それを秋山が知るわけがない。

 

『NASTY VENT』

 

「うぉぉ…!!なんだこれ!?」

 

そして、ライダーとして戦わせる為に契約モンスターの蝙蝠型モンスターの超音波を須藤に浴びせる。

それは少し離れた場所に居る城戸ですら地面にのたうち回る程の威力を持つ。一定時間は相手の足止めを確実にできるカードなのだ。

 

「貴様、何故効いていない!?」

 

だが、須藤に対して有効打にはなっていなかった。秋山蓮の契約モンスターであるがゆえに、秋山に超音波が効かないのは当たり前だ。

 

では、須藤には何故この超音波攻撃が効かないのか?それは須藤が最悪の事態、仮面ライダーナイトとの戦闘を想定していたからだ。

 

気づいた人も居るかもしれないが、須藤は一度として秋山と会話のキャッチボールをしていない。

 

「(何も聞こえねぇ…)」

 

トイレでペーパーを水で濡らして耳に嵌める、即席の耳栓を作っていたからだ。水は音をよく吸収する、超音波も音だ。原作を知っていたからこそできた対策であった。

 

戦いにおいて対策があるかないかでは勝率は格段に違う。須藤はそのまま突撃する。

予想外の行動をされた秋山は一瞬だけフリーズをするが、ランスで貫こうと穿つ。

 

「(隙ありだぜ、その武器貰った!)」

 

そして、慣れた手つきで盾を器用に扱ってランスを打ち上げる。

秋山はこの攻撃で更に一瞬反応が遅れていた、勝機。

 

「(…勝った。第3部完!)」

 

そして、須藤は秋山の顔の前にランスの先を向けた。間違いなく、須藤の勝ちだ。須藤はこれからの戦いでも相手の武器を奪う戦法が扱える。

 

そう確信した。

 

「(うぉ…!?お…重てぇ…!!)」

 

一瞬でその確信は消えさったのだが。

 

心無しか、片手で構えるランスは小刻みにプルプルと震えてるように見える。顔は見えないが、身体中からは汗が吹き出している。

 

「(待って、おかしい。重い。俺の鋏の何倍も重い!くそ、そりゃそうですよね!あれはハリボテで、こっちはしっかりした武器だもんね!)」

 

須藤は5秒もたたないうちに武器を落とした。ダンベルを持ち上げて空中で静止させる筋トレが思い浮かんだが、今はそんな事を考えている場合ではなかった。

 

「(やば、急いで逃げ…ん?)」

 

このままではじり貧なのは目に見えている。須藤は走り去ろうとした瞬間に気づく。

 

秋山がまったく動かないのだ。何を考えているのかわからないが…これはチャンスである。

 

「(…無言で立ち去ろう。なんか秋山君は放心状態だ。今なら逃げれる。音をなるべくたてないように…ひっそりと…逃げる。)」

 

須藤はそのままなるべく音をたてないように気をつけながら、ミラーワールドを去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

神崎優衣に三人の男がこちらへ向かってきている。

 

「あ、須藤さん!」

 

「あぁ城戸君か。怪我は大丈夫かい?」

 

「須藤さんのお陰で大丈夫っす。」

 

どうやら怪我もなく、無事に戦いを止めてくれたらようだ。

 

「刑事さん、ありがとうございました。」

 

それに気づいた神崎優衣は須藤の元に駆け寄り、そのまま頭を下げた。ここで須藤がダメだった場合は窓ガラスをぶち壊す予定だったので、弁償代を払う必要も無くなった。なお、須藤個人では城戸と秋山の借金の絡みを見たかったので残念である。

 

「いやいや秋山君は強かったから。また戦ったら負けそうだよ。ところで話は変わって提案なんだけどさ。」

 

謙遜にしか聞こえない、神崎優衣にもミラーワールドを認知する力はある。あれほど秋山を一方的に倒したのだ。だが、今はそんな言葉を返す前に彼女は提案が気になっている。

 

「なんですか?」

 

それは城戸も秋山も同じである。そして、須藤は手を差し出しながらこう言った。

 

「これからは協力してモンスターを倒さないか?」

 

モンスターを倒すための協力関係を結ぼうと、須藤は提案したのだ。

 

「それはこちらこそよろしくですよ!ご教授よろしくお願いしまっす!」

 

最初に反応したのは城戸だ。すぐに両手で差し出された手を握り返していた。

 

「…秋山君もどうかな?」

 

その状態のまま秋山の方を見ると

 

「良いだろう。このバカが足を引っ張らない事を除けば、問題無い。」

 

どうやら問題無く協力関係を結べそうである。

 

「あん?なんですか、須藤さんにボコボコにされてなかったかこの野郎?」

 

だが、バカに反応した城戸は秋山にくってかかっていた。

 

「俺にボコボコにされてた奴が何を言っている?」

 

それを事実で返しながら嘲笑う秋山。

 

「んだとぉぉぉぉ!!」

 

これから先に何度も見るであろう記念すべき第一回目の喧嘩が始まった。

 

「(…同士討ちに捲き込まれないように気を付けよう。)」

 

須藤はそんな事を思いながら、仕事に戻った。




Q.須藤さんのボルキャンサーは人を食べますか?

A,須藤さんの頑張りによってモンスターのコアの食事だけで、人間は襲いません。まぁ、毎日1~3匹を献上しなかったら大変な事になりますね。


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5月 須藤はつらいよ。
15話 須藤vs北岡


閑話①での北岡さんの体験

須藤伝説の序章です


5月1日

 

城戸君達と良い感じにモンスターを狩れてる。メイン盾として活躍できてるよ。やっぱり、火力は大事だな。ポジション的にはチュートリアルとかで主人公を守る仲間だな。一人で狩るよりも圧倒的に楽だ。

 

5月2日

 

なんか城戸君に秋山君がカードの作り方を教えてた。え?作れるの?隣でしっかりと聞いて作り方を覚えた。

 

…さて、作るか。

 

だが、作るにもどのようなカードにすべきか?自分の能力をあげるバフ系か、相手の能力を下げるデバフ系か。

 

バフ系のカードには何人も増えるトリックベントや武器をコピーするコピーベントがあるが…俺が増えたところで大した事無いし、コピーしても他のライダーの武器が重くて扱えないとか笑えない。

 

デバフのカードを作るか。

 

5月4日

 

やっとカードを作れたよ。名付けて【BUBBLE VENT】だ。能力は単純、泡だらけの世界を作るカードだ。遊◯王で言う所のフィールド魔法だった。泡だらけの世界ができた。以上。使えねぇ!!

 

5月5日

 

ボロボロの北岡さんを見つけた。ここら辺にヤバイのでも居んのかな?注意しておこう。

 

あと、なんか鋏の暴発が起こったけど、この鋏って遠距離武器なのか…?

 

5月10日

 

刑事として仕事をしてる時に…うん。城戸君が捕まった。何を言ってるかわからないかもしれないけども、城戸君は捕まった。

まぁ、原作でもあるシーンだから問題無い。少し励ましといた。

 

 

5月15日

 

あ、手塚さんだ。仲良くなっとこ。

 

5月17日

 

芝浦来たか…来ちゃったかぁ…。とりあえず、あいつとは絶対に関わらないようにしよう。

 

5月19日

 

この世界には回復アイテムは無いと言ったな。

 

あれは嘘だ。

 

5月20日

 

泣きたい。涙が少し出た。

 

5月24日

 

泣きたい。涙がでない。

 

 

5月28日

 

泣きたい。涙が枯れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

北岡が須藤と出会ったのはこの時が初めてであった。

 

それは何の変哲もない休日、強いて言えばいつもよりも気分が良かった日だ。だが気分が良いのは特に理由は無い。気分が良かったから彼は車を走らせていたのだ。

 

「ふっふふーん…中々見当たら無いねぇ。」

 

鼻歌混じりに車からとある場所に訪れる。それはここ最近になってモンスターの数が激減した駅の周りのエリアだ。

 

彼はただ車を走らせていたわけではない。北岡も何を隠そう、仮面ライダーなのだ。

だが仮面ライダーでも今回は狩るのはモンスターではない。

 

手頃なライダーを観察もしくは倒すために彼は車を走らせていた。

 

体の調子は良く、ゴロちゃんからの最高の手料理で精神的余裕もある。間違い無くベストコンディションであった。

 

「おぉ…本当にいたね。」

 

その機を逃す北岡では無かった。最近やけにモンスターが静かなエリアにライダーが出る可能性が高いのを見越し、普段ならしないであろう。わざわざ彼から出向いたのだ。

 

これは彼の性格からすれば考えづらいのだが、それを無視できるほどに調子が良かったのだ。

 

そして、ライダーと一度は戦いたかったからなのだが。

 

「一人か…良い感じに先手をとれそうだね。」

 

北岡の前には窓ガラス、だがそこには普通の人間には見えない者が見えている。

 

金色の装甲、右手には巨大な鋏のライダーが何をするでもなく一人でポツンと立っていた。全体的に見ると金属の部屋だ。換気扇のファンが回るこの空間はパイプに囲まれ、障害物に囲われ、本来ならば視界の悪いそこに居る理由はモンスターも見当たらないので、倒した後で少しだけ放心状態なのだと北岡は推測する。

 

そして、北岡には絶好の好機に見えた。

 

ただでさえ視界の悪いフィールド、更にそのライダーの周りには無数の泡が浮かぶそのフィールドは視界を自分から潰し、どうぞ奇襲してくださいといってるようにしか見えない。

 

北岡は仮面ライダーゾルダ、銃器を使い戦うライダーだ。

 

射線さえ通れば攻撃は可能。だが、目の前のライダーは大きな鋏を持ってることから近接戦型のライダーだと確信する。

 

「じゃあ…先ずは記念すべき一人目、行ってみようか。」

 

須藤や城戸達とは違い、彼のデッキは緑色だ。そこには牛の頭蓋骨のようなマークが特徴的であり、事実彼の契約するモンスターも牛と戦車を掛け合わせたようなモンスターである。(マグナギガ AP6000)

 

「変身!」

 

鏡にデッキを掲げ、いつものようにライダーに変身する。そこには緑色に銀の仮面と装甲をしたライダーが現れる。

腰には巨大なハンドガンである召喚銃マグナバイザー。

 

これから行われるであろう圧倒的な力での蹂躙。おそらく戦いにすらならない。そんな事を目の前のライダーのスペックを確認できるならそう確信するだろう。

 

「夕飯までには帰れるかな?」

 

だが、まだ北岡は知らない。ここでこのライダーに立ち向かい、どれだけ悲惨な結果になるかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「(うーん…どうしよか。)」

 

須藤一人悩んでいた。それはカードの事だ。

 

須藤の手には三枚のカード。どれにも何も描かれては居ない。作る前のカードだ。

 

ためしに作ったカードは泡の世界を作るだけで逃走の際の目眩ましには使えるかもしれないが、モンスターとの戦いではまるで役にたたない。

 

須藤は弱い。どうしようもなく弱い。須藤の体は高スペックだ。だがライダーのスペックは間違い無くドベである。

 

勝ち残るには知恵を絞らなければならない。なので紙屑を作らないように、須藤は1枚も無駄にしないように、ミラーワールドで考え込む。既に一枚をゴミにしたのだ、1人で没頭するにはミラーワールドは最適の場所だ。

 

それに、場所は誰も来ないであろう閉鎖空間。そんな場所だが、既に狩りのノルマをこなした須藤の頭はエネルギーが足りないのか妙案はでないでいた。

 

「…なんだ?」

 

そんな中、突然須藤は思考を止める。誰も近づかないであろう、この空間に、何かが居るのに気づいたのだ。

「はぁ…またか。(うわぁ…モンスターだよ。最悪だわ。)」

 

そして須藤は大きな溜め息を吐く。今日は既に2匹のモンスターを狩り、疲れも残っている状況で、自分がモンスターに襲われそうになっている、と経験から考えたからだ。

 

通常なら周りに餌がたくさんあるので須藤を狙うメリットは少ない。が、須藤は脳を酷使してたからか、その考えには至らなかった。

 

 

★★★★★

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

━━━━━どういう事なんだ!?

 

泡の溢れる世界で、北岡は絶望していた。既に身体中は傷だらけ、今もどこから攻撃が飛んで来るかもわからない。

 

━━━━━なんなんだ、なんなんだ!?

 

時は数刻遡る。

 

 

 

 

北岡は1人で黄金のライダーを狩るために、こっそりと影から狙っていた。マグナバイザーを構え、確実に先制攻撃を仕掛けるために。

 

北岡の頭の中では既にプランはできている。

 

①マグナバイザーによる狙撃で相手を撃つ。

 

②撃った直後に直ぐに隠れ、狙撃ポイントを変えて撹乱。

 

③この①②を相手が弱るまで繰り返す。

 

④弱った所をファイナルベントで吹き飛ばす。

 

北岡は慎重な男だ。確実に倒すため、確実にこのライダーの息の根を止めるため、回避や防御も出来ないほどに痛め付けてから仕留める。

 

「(あんな鋏ぶら下げて、近接型って分かりやす過ぎ。)」

 

北岡のプランは確実性を考えれば完璧だった。

 

「…っ!?」

 

相手が近接型のライダーと仮定をしていればだが。

 

北岡は突然の右肩の痛みに即座に狙撃されたであろう場所に向けて障害物に身を隠しながら構える。

 

「…どういう事だ。」

 

そして構えながら思い出す。

 

ここは閉鎖空間だ。それこそ北岡を狙撃するポイントなんて物はない。外へ直接繋がる出入口も位置的に狙撃は不可能だ。

 

黄金のライダーは何故か部屋の中心に棒立ちなので、北岡が狙撃はできるが逆は不可能だろう。

となると、何が北岡を襲ったのか。

 

「(それに、なんだこの違和感。何か気づいてない事があるのか…?)」

 

言葉に表せない違和感を感じながらも、北岡は音をたてずに、迅速に狙撃ポイントを変える為に壁を背にしながら動き出す。

 

既に襲う前から狙撃ポイントは全て把握している。

新たな狙撃のポイントは目の前の複数のパイプによって身を隠すことができるスペースだ。銃弾を遮るものはなく、確実に狙撃が可能だろう。

 

「ぐっ…(また、どこからだ!?)」

 

だが、北岡の右肩にまた弾丸が飛んで来る。しかも、今回は3発。全てが北岡の右肩に着弾したのだ。

そして4発の弾丸を受けてからやっと、北岡は違和感に気づく。同時に大きく戦慄する。

 

「(どういう事なんだ!?)」

 

これでも仮面ライダーゾルダは銃の扱いに長けたライダーだ。マグナバイザーでもどんな銃でも同様だが、必ず発砲音は出るのだ。

 

サイレンサーを付けてるなんてレベルじゃない。ファンが回るだけのこの部屋だが、サイレンサーでも音は少なからず出てしまう。あくまでと分かりづらくしてるだけで来ると分かっていて、かつこのような狭い空間なら気づける筈だ。

 

全く銃音のしない銃なんて、存在しないはずだ。

 

「ぐふっ…!?」

 

だが、そんな考えを邪魔するようにまた弾丸が北岡を襲う。右肩、左足、背中、マグナバイザーに1発ずつ着弾した。どれもダメージとしては少ない。だが、ダメージは蓄積する。特に右肩のダメージは大きい。これでは正確な狙撃は不可能だろう。

 

だが、何だろうか。北岡にはまだ違和感がある。

 

透明人間などが居るわけでもない。居ても何度も攻撃されていれば足音や気配で感知できる。間違い無く、北岡ともう1人のライダーだけだ。

 

「(撤退…しかないか。)」

 

北岡は最短距離で出口へ向かう。

 

初陣としては最悪だろう。だが、北岡の心は負けているとは思っていなかった。何かトリックがある。この空間で狙撃のできる方法がある。

 

空間と空間を繋ぐなど、方法は思い付く。しかしそれは無いだろう。そんな事ができるなら足元から落とし、その先を直接上空に繋げて落とせば良い。

 

弾丸程の小さな穴しか開けられないカードを使ってるかもしれないが、それならこんなチマチマしたダメージは与えない筈だ。

 

「ぐ…ふぅ、がぁ…!!」

 

だが、そんな北岡を嘲笑うように弾丸の雨が降り注ぐ。そう、弾丸の雨だ。先程までとはまるで違う。全てが北岡に殺意を向けた弾丸だ。

 

数十を越える弾丸を受けた北岡は地に伏せてしまう。全身を満遍なく痛みが襲う。

 

だが、あるのは絶望では無い。

 

「そうか…あいつが撃ってたのか。」

 

これだけの弾丸が撃たれて、ほんの少しの、僅かな銃音。それは狙っていたライダーの方向からだ。

 

北岡の心はまだ折れていない。最後の力を振り絞り、立ち上がる。出口は目と鼻の先だ。あと、数歩だけ。そこから飛び降りれば逃げられる。

 

今度は確実に仕留める。そんな決意を持ち、一歩を踏み出した時だ。

 

 

1発の弾丸が北岡の前で直角に曲がり、北岡を撃ち抜いた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…(どういう事だ!?なんなんだ、なんなんだ!?)」

 

北岡は何とか踏ん張るが、心は間違い無く折れた。

 

黄金のライダーが北岡を狙撃するには2つの越えなければならない障害がある。

 

①北岡に弾丸を届かせること。

 

②北岡の居場所を認識すること。

 

残っていた違和感の正体はこれだったのだ。

 

北岡は2度目の攻撃の際にバラバラの方向から狙撃されたのだ。

これは直角に曲がった弾丸からわかった事だが。弾丸は全て泡を反射している。

 

どういう原理かはわからない。だが、泡を使ったこの場所は奴のフィールドであり、テリトリーだ。

 

次に北岡の位置をどう認識するかだ。

これははっきり言って、ありえないとしか言えない。だが、今の北岡にはこれしか思い付かない。

 

北岡の位置を、泡を通して把握している。

 

鏡のように反射させた泡でこちらの位置を視認しているのだ。直接視線を遮っても意味が無い。この空間には泡が溢れており、隠れ場所などは最初から無かったのだ。やはりここは奴のフィールドであり、テリトリーなのだ。

 

だがこれらを全て踏まえて、ありえないとしか言えない。

 

仮に北岡が同じ能力を持っていても、こんなことは不可能だ。泡を利用した遠見と泡を利用した跳弾。

 

泡を通して立体的に相手の位置を把握するなんてのが不可能。そしてそれから泡の配置や角度を演算し、弾丸を放つ。誤差数%の…いや、1%以下の精度でなければここまで正確な狙撃は不可能だ。

 

何度も言うが、人間技じゃない。ライダーだって中身は人間なのだ。だが、これはもう違う。

 

「間違いだったんだ…あいつと戦うことが…」

 

━━━━━次元が違う

 

北岡の心を染め上げるのは暗く青い絶望。ライダーバトルの初陣で、最初に化け物と出会ってしまった事による絶望。

 

「はぁ…はぁ…」

 

北岡は何とか出口に辿り着く。ここを一歩踏み出す。それだけで、逃げれる。

 

北岡は残った力で外に飛び出る。

 

着地の事は考えていない。地面を転がるよるに、スマートさの欠片も無い着地だ。

 

だが、今の心を埋め尽くすのは生きていることによる安堵だ。

 

「…帰らないと、帰らないと。」

 

立ち上がる力も当然だが、残っていない。地面を這って移動する事しかできない。

だが、それでも生きていることだけが何とか北岡の心を保っていた。

 

カタン

 

だが、そんな心を粉々に砕くように。

 

「あ…ぁぁ…」

 

黄金のライダーが、北岡の前に舞い降りた。

 

 

 

 

★★★★★

 

「…(北岡さんじゃないですか。)」

 

須藤の目の前にはボロボロのまま地面を這う仮面ライダーゾルダ。

 

恐らくモンスターに襲われたのだろう。

 

「大丈夫か、肩を貸そう。」

 

返事を待たずに肩を貸し、そのままミラーワールドを出る。

 

名刺を交換した後も終始無言であった北岡だが、体調が悪かったのだろうか。須藤はそれとなくそんな事を聞いてみるが、どうやら本当に体調が悪かったようだ。

 

ここら辺にはモンスターも出るし、体調はしっかりと管理しないといけませんね。と言って別れた。

 

これが北岡と須藤の最初の出合いである。




北岡「悪魔だ…俺をボコボコにして何であんな発言ができるんだ…」

須藤「ボロボロの北岡さんを介抱したし、友好的な関係を築けてるな!」


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16話 お先真っ暗

私は何をしているのだろうか?




人と車で溢れかえる交差点。反射した世界から獲物を狙う捕食者が居るなんてのは気づかない。だが、それは知らない方が平和だろう。防ぎようのない災厄は人に余計な恐怖を煽ることしかできないのだから。

 

そして、これからその捕食者の存在を認知してしまっても、それが運命なのだから。

 

そんな事を道路から眺め、考えているのは1人の青年だ。

 

手塚海之(てづか みゆき)

 

彼は占い師だ。外した占いは無く、見えた運命は全て的中してきた。今もボンヤリとだが、町行く人々の運命が見える。

コインや炎を使えば更に細かく運命を見ることができるが、それをするのは基本的には奇異な運命を持つものと客だけだ。

 

「ちょっと、いいかな。」

 

だが、今回声を掛けたのはそのどちらでも無かった。

 

「私は占い師をしている。今回はサービスでどうだろうか?」

 

「あ、いいですよ。ちょうど暇してたので。」

 

運命が全く見えない男、これが手塚の須藤との最初の出会いだった。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

「…何も見えないのかぁ。」

 

須藤は占いをされた。その占い師の名前は手塚。仮面ライダーライアである。

 

出逢えた事はラッキーである。間違いなく今後の須藤の運命を左右する存在になるだろう。

 

だが、御近づきの印に渡された占いの結果は須藤が一人でベッドでくるまる程には酷かった。

 

手塚曰く…

 

「須藤の寿命、運命はもう終わってるはずだ。」

 

「今後の運命が全く見えない。」

 

「こんな事は初めてだ。」

 

 

比喩抜きでのお先真っ暗である。どうすればよいのだろうか。しかも「君はとっくに死んでる筈なのに…」と、おっしゃる。

 

死んでてもおかしくない。それを聞いた須藤には心当たりが多すぎる。

 

興味本位で名刺を交換してきた彼と、今後はどう交流をすれば良いのか。須藤は一晩中悩み込むのであった。

 

 

 

★★★★★

 

とある山中の廃屋。本来なら誰も来ないであろうこの場所には、人が詰めかけていた。一人は青いジャンパーを着た青年、手には三千万円の入った茶色い鞄を持っているが、それは他の青い制服を着た、市民の味方に回収されてしまう。

 

「13:14 城戸真司、拉致監禁の罪で逮捕する。」

 

「俺は、無実だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

これからの人生で経験はすることは無いであろう。

 

警察官に囲まれ、城戸真司は連行された。

 

パトカーのサイレンと、一人の青年の嘆きだけがコダマするのであった。

 

★★★★★

 

時間は経ち、三日後。とある警察署の面会室だ。

 

「須藤さん…助けてください。俺、本当に何もしてないんですぅ…!!」

 

若干涙声が混じった声で懇願するのは、面会に来た茶色いコートを来た男。

 

「まぁまぁ…俺も頑張るから、刑期は短く「やってないんですよぉぉ!!」冗談だから、落ち着いて。」

 

表情の変化が乏しい…いや、殆ど無い顔で言われても冗談には全く見えない。

いつも通りに淡々と答えているのが、自分を救う術があるのがあるから冷静なのだと信じたい。

 

「でも状況証拠だけを見たら、城戸君だね。」

 

「そ、そうですけど…」

 

今回捕まったのはちゃんと理由がある。

 

先ず、城戸真司の勤めるOREジャーナルで、同僚の島田奈々子の誘拐事件が起こった。犯行に至った理由は自分の妻の医療費を手に入れる為と、記事で自分の人生を無茶苦茶にしたOREジャーナルへの復讐であった。そして身代金が要求され、その身代金を届けたのが城戸だったのだが。

 

「犯人は…モンスターに襲われて、俺が倒したんです。」

 

両者を遮るアクリル板の壁に顔を近づけ、小声で話すのは二人だけの、いやライダーだけに話せる本当の理由だ。

秋山には茶化され、編集長や同僚からは何故犯行に及んだのかと本気で問いかけられ。複雑に感情が入り交じってしまい、疑心暗鬼になっていた。そんな心は高速で磨耗していた時に現れたのは刑事の須藤だ。自分に真摯に向き合う少ない人物、なんとか自分の無実の証明ができる…そう、城戸は信じている。

 

「大丈夫だ。既に、先手は打っている。」

 

「流石は…流石は須藤さんです!!俺、このまま一生牢屋暮らしかと…!!」

 

そして、期待通りであった。信じるものは救われる。この言葉がこれ程身に染みた時は無いだろう。

 

同時に、須藤の後ろの扉が開き一人の男が部屋に入る。

 

「北岡さん、後は頼みますよ。」

 

「えぇ。このスーパー弁護士に、任せてくださいよ。」

 

「ありがとうございます、期待してますね。」

 

そう言うと、須藤はそのまま外へ出ていった。

 

だが、今は須藤が出ていった事よりも重要なのは目の前の男だろう。

 

北岡、城戸には聞き覚えがある。北岡秀一、どんな黒い事でも白にしてしまう凄腕の弁護士であり、主に先輩の桃井が担当しているが、新米とは言えジャーナリストの城戸には北岡の凄さがわかっていた。

 

同時に須藤の偉大さを再確認した。

 

今回の様な事件は真犯人が見つからなければそのまま事件が終了してしまう事もある。

だが、もう犯人はこの世に居ない。死体もモンスターの腹の中。この事件で城戸が可能な事はアリバイの証明程度だが、現場には城戸と誘拐された島田しか居なかった。島田の誘拐時のアリバイも証明できない。

 

もはや、詰みである。だが、そんな事はこの弁護士には関係が無い。

 

やはり、須藤のカリスマがこのような人を呼び寄せたのだろう。もう城戸の無罪放免は確実となる程度には、安心できる。

 

「ふーん、君がライダーねぇ…まぁいいか。」

 

北岡は品定めをするように城戸を爪先からてっぺんまで眺めると、そのまま椅子に座り込み、資料やテープの準備を始めた。

 

「北岡さん…も、ライダーなんですか?」

 

「まぁね。」

 

なんてことも無いように軽く答える北岡。城戸自身に然程興味が無いようにも見える。

 

「…さてと、じゃあいくつか質問させて貰うから。」

 

「おっ、おっす。」

 

「先ずは、須藤雅司との関係から。」

 

「尊敬をしてる人です。」

 

「舎弟…と。じゃあ、彼の交友関係。」

 

北岡は録音テープを回しながら質問を続ける。最初は真面目に返答をしていた城戸であったが、そのどれもが須藤に対する質問だと気づくのに時間は掛からなかった。

 

秋山辺りなら一発で気づくのには触れないでおく。

 

「ちょっと、これ事件と関係無くないですか!?」

 

「あるさ、俺のモチベーションに繋がる。」

 

「待てよ!須藤さんに手を出したら、俺が許さねぇからな!」

 

城戸の感情は一気に燃え上がった。自分の慕う者であり、自分のライダーどうしの戦いを止めるという考えに共感をしてくれた同士でもある。

目の前にそれを脅かす脅威がある。もしここに二人を遮る壁が無ければ声を荒げるだけでなく、高価なスーツの襟首に掴みかかっていただろう。

 

「…」

 

逆に、北岡は冷めていた。まるで感情に一直線のバカの考えはお見通しであるかのような顔をしている。

 

その顔は城戸の燃え上がる感情にガソリンを注ぐだけであるのだが、二人を遮る壁が通すのは声とお互いの表情だけである。やがて城戸の頭から徐々に熱さがとれ始め、睨み付けはすれど先ほどまでの様に声を荒げる様なことは無くなった。

 

それを見計らうと、気持ちの切り替えに北岡は足を組み直す。さてと…と少し考える素振りを見せ、城戸に初めて自分から目を合わせた。

 

「龍の逆鱗って撫でたことはある?」

 

「龍のげ、げきりん?」

 

先ほどの事を訂正しよう。感情だけでなく、普通にバカである。北岡は大きく溜め息を吐くと、先生が生徒に教えるようになるべくゆっくりと話す。

 

「…龍という圧倒的な存在の急所、そこを愚かな人間が撫でる事の例えだ。」

 

「…つまり。」

 

城戸は今の言葉を聞いて察しただろう。北岡は須藤という龍に触れ、返り討ちにあったのだと。

 

だが、北岡の例えは少し間違っている。北岡の場合、余りの龍の大きさに逆鱗と気づかずに触れた。

故意か事故か、それだけの違いだが。どちらも愚者の行動に違いは無い。

北岡に後悔などのマイナスの感情が無いとは言えない。だが、顔はどこか晴れ晴れとしていた。

 

「初めてだったよ。俺が普通の人間なんだと実感し…いや、させられたのは。」

 

その顔を正面から見て、城戸も理解しただろう。北岡にとっての須藤はゲームで絶対に勝てないようなチートを使うボスのような存在。

ある種の不運なイベントにぶつかってしまったのだと。

 

「でも、北岡さんだって、凄腕の弁護士じゃないですか。」

 

「犬のやってるボール遊びと、人間のやってる球技を同レベルの事だと思うか?」

 

ただ追い回すだけの犬と戦術を練り、戦う球技。同じ球を使う事でも、やるのが犬と人では次元が違う。思考も技術も規模も、どれも違うのだ。

 

「けど…俺は諦めないよ。」

 

それでも、北岡の目には光があった。命を燃え尽きるまでに、必ず手に入れたい欲望への渇望。その為に須藤という絶対的な存在への挑戦をやめるつもりは無かった。

 

犬だけで遊ぶのは球技とは言えない。球技になるには人という存在が教育することによってのみ叶うことを北岡知っている。

 

今の自分で勝てないのはわかっているのだ。

 

だが自分だけで駄目なら自分以外ともやればいい、それで駄目なら他人をぶつけて漁夫の利を狙うのもいい。

 

技術で勝てないなら罠を、罠が駄目なら戦略を、戦略で勝てないのなら特攻をしてでも勝ちに行く。

 

「最後まで、抗うだけだ。」

 

その言葉を残すと、北岡は面会室から出ていった。

 

 

 




Q.前回の北岡戦がわからないよぉぉぉ。

A.須藤の持つハサミは遠距離武器で、勝手に暴発する暴れん坊。しかもほぼ無音。泡に反射した弾丸が北岡を襲いかかりました。須藤が北岡を倒しましたが、須藤はそんな事知りません。

北岡は絶好調の状態で須藤にボコボコにされて見逃され、脅されたと思ってビビっています。


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17話 激動で異動で移動

いつも誤字の報告ありがとうございます。

処理が追い付いてませんが、修正していきたいと思います。




「今回も助かった、ありがとう。」

 

いつものように須藤が守り、城戸と秋山がモンスターを倒すという作業をこなし、三人は仲良く帰宅していた。

 

「いやいや、須藤さんがあそこでバシッと攻撃を防いでくれたからですよ!」

 

「須藤も大変だな。足手まといのフォローは。」

 

「あぁ!?んだとごらぁぁぁ!!」

 

この流れもいつもの事であり、この場に居る全員のルーティーンのようなものであった。

 

そんな日常を見ながら秋山はふと考えていた。

 

秋山蓮にとって、須藤雅司は城戸真司程の熱意を持っている存在という訳ではない。

 

実力は未知数、目的も満たしたい欲望も不明、表情の薄い顔からは何を考えているかはわからない。

そんな理解ができない男であるが、それでも一つわかっている事があった。

 

それは眼だ。無表情であっても、眼に意思を感じないのはロボットだけだ。須藤の眼には意思がある。燃えるように眼を光らせる事もあれば、氷のように冷えきった眼をしている時もある。だが時折あるのだ、彼の眼が狩人の眼になり、直ぐに収まるような時がだ。

 

城戸は気づいていないと確信できるが、秋山は理解した。

 

須藤が常に何かを警戒しているのを。

 

何と戦っているのか?何を見据えているのか?何が見えているのか?自分とは違う何かを見ているのは確かだが、それ以外には何もわからない。

 

秋山は須藤との実力の差は理解している。それは以前の一騎討ちがやはり大きいだろう。あしらわれ、見逃され、あまつさえ協力関係を結んできた。

 

理解できない。自分の命を取ろうとしてきた人間に、積極的に協力を仰ぐなんてのは普通では無い。バカの代名詞とも言える城戸真司等の例外はあれど、普通はありえないのだ。

 

裏がある。そうとしか思えなかった。

敵意は感じないが、何かしらの意思を感じる。

悪意か善意かはわからない。まだ…いや、これからも須藤を理解できる時が来るとはわからない。それ程の存在だとはわかっている。

 

それでも城戸や北岡等と等しく、倒すべき敵でしかないのも変わらない。

 

自分の欲望を叶えるため、必ず…

 

「秋山君、どうかしたのか?」

 

「…いや、何でもない。」

 

考え込んでいたようで、いつの間にか自分のバイクの前で棒立ちしていた。できるだけ自然を装うように、黒いヘルメットを被り、直接眼を合わせないようにする。

 

須藤ならば、眼を見るだけで全てを読み取られてしまいそうだからだ。

 

「おい、蓮!早くしろよ、今日は俺の餃子だぞ!」

 

「知るか…さっさといけ。」

 

こんな非日常な日常を過ごしながらも、必ず…恋人を生き返らせる為、秋山が剣を下ろすことは…下ろせる事は無いのだろう。

 

この日常を壊す。

 

それがいつになるかは、まだわからない。

 

 

 

★★★★★

 

「…すいませんが、警視監。それはどういった事でしょうか?」

 

刑事歴30年を越えるベテラン。岩元警部は行方不明者事件について呼び出された。

 

事件の解決に補充の人員を寄越さない等の不満はあった。だが危険な仕事であるのもわかっている。覚悟ある人間が入らなければ事件の解決は不可能。そう考えているからこその自分なりの少数精鋭でのチームであった。

 

山下は資料等の作成に長けた女性刑事である。僅かな疑問を拾い上げ、それが事件の解決に役立ったのは1度や2度では無い。

 

須藤は全国警察空手道大会、全国警察柔道大会に2度出場、共に2連覇した程の実力者である。特にあの極悪犯、浅倉威の逮捕をした刑事であるのも有名だ。

 

そんな優秀な人材を渡されているだけマシなのだ。

 

どうせ小言を小一時間言われて解放される。そしてまた事件の捜査を続けて、いつか結果を出してみせる。

 

そんな甘い考えで向かったのだ。

 

「文字通りだ。君たちは明日からこの件に関わらなくて良い。」

 

須藤達行方不明事件を担当する刑事は当然だが、成果は挙げられていない。

鏡の世界に連れ去られ、化け物に捕食されてるなど普通は誰も思わないからだ。

 

「待ってください。成果は無くても、俺達刑事にはできる仕事はありました。それを急にやめろと言われて、納得いきませんよ!」

 

だが、岩元警部は納得がいっていなかった。自分たちがやっていたのは見つからない犯人を追うことだけでない。行方不明者のリストの作成や被害者や現場の関連性についての考察を纏めた資料の作成、行方不明者の家族の対応。最低限の仕事は行っていた筈なのだ。

 

一人や二人の人員の補充や入れ替えなら理解はできた。だが、全員を入れ替えるのは考えられない。今までの捜査を否定されるような、そんな気分になるのは必然である。

 

「会議で決まったことだ。資料を来週までに纏めて提出してくれ。君たち三人の辞令は追って告げる。」

 

「幹部会議…ですか。」

 

上からの命令。警視監は上から2番目の階級だ。今回の事件について、警察官のトップ達が会議をする程に重要な事件なのだろう。

だが、それならば尚更おかしい。自分はベテランだと岩元は自負しているが、今回の事件に自分が外されても部下の二人は優秀な上に若く、実績も積んでいる。

やはり、外されるのはありえないのだ。

 

「じゃあ、捜査の引き継ぎはどこがやるんですか?場所は?人員は?」

 

では、この後の行方不明事件はどうするのか?そう岩元は聞くが。

 

「捜査を離れる君に関係無いことだ。」

 

「…っ!!」

 

もし自分が冷静でなかったら、このまま上司に詰め寄っていただろう、「関係無いわけ無い!」と。だが、現実は冷酷であり、上からの命令には逆らえない。それが社会であり、逆らえば首を切られてしまうだけなのだ。

 

現に目の前に居る自分の上司は話を終わりと言うように、自分のデスクで資料を読み始める。

 

行方不明者の家族はどうなるのか、それを思うと心は苦しくなる。だが、自分にも養う家族が居る。家族を道連れにしてでも反抗することはできない。

 

自然と握り締めていた拳からゆっくりと力を抜き、軽く深呼吸をする。理不尽な辞令なんてのは今に始まった事ではない。だが幹部会議で決まったのなら、この手の捜査に優秀な人員が補充されるだろう。政府が秘匿してる特殊部隊なんかも出るかもしれない。停滞しているこの事件に進展があるかもしれない。

 

「…わかりました。ですが、若い二人の召集は考えてください。」

 

納得はしていない、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、そのまま部屋を退室し、自分のデスクへと向かうのであった。

 

 

 

★★★★★

 

突然の辞令は恐ろしい。

明日からは資料を纏めて、来週からは別の仕事にゴー。

刑事ってこんなことが起こるのか。公務員も大変だな。

特命係とかに配属されたらされたで面白…くはないか。これからは仕事をサボれないなぁー。

そんな考えをしていた。

 

「…すまない。俺の、力不足だ。」

 

「警部、頭を上げてください!私が事件解決に役立たなかったんです。だから、頭を上げてください!」

 

この光景を見るまではだが。

 

上司は頭を下げ、後輩は全力で上司のフォロー。自分はどうだ、何にもしていない。これだけの熱意を持っていた二人とは違い、事件の真相を知り、黙っている。なので、自分がたった一言。「鏡から化け物が来ている」と言えばこの二人を救えるのだろうか?いや、救えない。むしろ奈落の底へ突き落としているだろう。

 

だから自分には何もできないのは当たり前なのだが。

 

「須藤…君を活かせない私を許してくれ。」

 

「活かせないのは私です!私がしっかりとフォローをしていたら…!!」

 

「ちょっと落ち着「すまない、本当に!」わかりましたから。とりあえず、お茶でも「まっさぁぁぁぁん!!」(めんどくせぇぇぇぇぇ!!)」

 

上司と後輩の謝罪に対して、申し訳なくなるのは何故だろうか?自分は仕事という事は見回りで何の成果も挙げてない。なのに二人して何を謝っているのだろうか?

 

自分を活かしきれないとは、何を言っているのだろうか?仕事の成果を挙げるどころか、自分はまともに働いてないのだが。

 

「…力不足は俺です。何の成果も挙げられていないですから。二人は謝「私の責任だ。」だから「私の責任です!」わかりました、ちょっとトイレ行ってきます。」

 

感情が高ぶっている時に一番効果的なのは時間を置くことだ。頭に回った血が少しずつ抜けていき、冷静になるからだ。

 

そして、須藤はそのままトイレに二時間籠って時間を稼ぐのであった。

 

その後、積もった資料を纏めるのに初めて仕事らしい仕事をするのであった。

 

★★★★★

 

明林大学ゲームサークル 【マトリックス】

 

そこに在籍する気弱に背中を丸めた青年。心の中もその様子から察するに、マイナスな気持ちに包まれている

 

わけではない。

 

むしろ、逆である。

 

━━━ライダーのバトル・ロワイアルか、面白そうだ。

 

そんな新作のゲームを遊ぶような軽い気持ちで、彼はライダーを始めた。

 

芝浦淳(しばうら じゅん)

 

天才的な頭脳と楽しければ人の命も簡単に取ってしまう残忍かつ凶悪な男。

芝浦コーポレーションの社長の息子でもあるが、そのせいか子供のように自分の考えが上手くいかない事が大嫌いである。

 

「こんにちは、明林大学のマトリックスの皆さんですか。ちょっと、取材よろしいですか?」

 

そして、芝浦の予定通りに餌に飛び付くマスメディア。ここからが、芝浦のゲームの始まりである。

 




Q.最近の悩みは?

A.パソコン作りたい、小説書きたい、時間が足りない。


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18話 運命の特異点

ライダーでも刑事でも勘違いされてます。


東京の夜景は美しいと言われている、残業によってできたビルのまばらな明かり、そして聳え立つ塔のイルミネーション。これらを一望できる丘や遊園地の観覧車はデートスポットになっていると言われているが。空はどうだろうか、車やごみに工場から出てくる排気ガス、空を夜ですら灰色に染めている。輝きが強い一部の星は僅かに顔を見せる程度であり、夜の主役ともいえる月ですら濁っている。汚い空だ、汚れた空だ。そんな空を見ながら地面に倒れるのはボロボロになり、地面を転げ回って汚れた一人の男。

 

今の時代、月もスッポンも変わらないのだろう。

 

最近ネットで話題になっているリアルデッドファイト。

互いに鎖鎌やロングソードのような武器を持ち、仮面を被り、どちらかが倒れるまで戦いは続く。

まるで城戸達がやっているライダー同士のバトル・ロワイアルである。

 

それが、海沿いの廃工場で起こるとの情報があり。記者である城戸は単独でやって来ていた。理由は情報源が1つではなく、他の記者は別のポイントに向かったからである。

 

「うぐ…」

 

そしてやって来た城戸だったが、実際にはライダー同士の戦いは起こっていなかった。

生身の人間が武器をもって戦うだけのデスマッチであったのだ。だがそこまでだったら、城戸が簡単に地面に転がるような事にはならない。

 

モンスターが現れ、それを倒すためにライダーになると途中でライダーが乱入してきた。

そしてそのライダーが戦いを仕掛け、ライダーとの戦いを拒絶している城戸は一方的に倒されたのだ。

 

もはや体に力は入らない。ミラーワールドから弾き出され、時間経過で消滅しないのが唯一の救いだろう。

 

「だらしないなぁ、弱すぎない?」

 

その城戸に悠然と歩み寄るのは城戸よりも少し若い青年だ。

 

一目で高級だとわかる灰色のスーツ、悪戯をして喜ぶ無邪気な子供のような笑顔を浮かべ、転がっている城戸の側で屈む込む。

 

「お前…なんで、こんな事…」

 

城戸には不思議にしか思えなかった。自分を嬲った後でにやりと笑っているのだ。人を殴るだけで心を痛める城戸ならありえない。城戸もどちらかと言えば特種な感性を持っているが。それでも、目の前の男が正常には見えなかった。

 

「何を言ってるの?そういうゲームでしょ?」

 

そして、そんな城戸を嘲笑する。何を当たり前の事を言ってるのか?と。この男、芝浦淳はルールに則って普通にゲームをしているに過ぎないのだ。

 

芝浦にとっては城戸は異端。城戸にとっては芝浦は異端。どちらの意思もわかり合うわけがないのだ。

 

「こんな…ライダー同士の戦い、絶対に止めてやる。」

 

だからこそ、城戸は自分の意思を曲げるつもりはなかった。目の前の男が遊びで人の命を奪うようなこの戦いは絶対に止める、と。

 

「君にできるの?そんな弱っちくてさ。」

 

だが、今の城戸を見て脅威を感じる筈も無かった。目の前に居るのは城戸が戦う意思を持たなかったとはいえ、自分に負けた敗者でしかないからだ。

 

「俺じゃなくても…須藤さ…い…る…」

 

その言葉を残すと、城戸は意識を手放した。

 

この言葉も負け犬の遠吠え、そう切り捨てて城戸の命を奪うのも容易かった。モンスターに喰わせれば証拠も残らない。

 

「…良いこと思いついちゃった。」

 

が、自称天才のこの男はそうはしなかった。何故なら、こっちの方が面白いからだ。そして城戸の手にあるデッキケースから1枚、カードを抜き取った。

 

★★★★★

 

「…(もう嫌だ。本当に嫌だ。帰りたい。元居た世界に帰りたい。)」

 

心の中でぶつぶつと呟き続けるのは寿命が既に無いと言われた男、須藤雅司。芝浦にボロボロにされた城戸が見つかったのは想定内ではあった。だが、城戸のポケットから雑に入れられた紙切れが残っていたのは想定外であった。

 

内容は簡単だ。「カードは貰った。今度はスドウと遊ぶ。」である。須藤が自分の世界に引きこもる程度には絶望しか無いだろう。

 

「これは不味いな。」

 

そう呟くのは仮面ライダーライア いつの間にか秋山達と仲良く?なっていた手塚海之だ。

 

花鶏に集まって居るライダーは城戸を含めて四人。

 

「カードを奪われるとは、情けないどころか呆れるぞ。」

 

いつもクールに振る舞う男、仮面ライダーナイト 秋山蓮

 

「蓮、そんな事言わないで。早く真司君のカードを取り返さないと。」

 

この四人と神崎士朗の妹である神崎優衣だ。

不謹慎な言葉を使う秋山に叱咤するのはいつもの光景でもある。だが今日はいつもよりも怒気が入っていた、今の事態は深刻であるからだ。

 

奪われたカードはADVENTのカード、ドラグレッダーを召喚するカードだ。これはモンスターとの契約の印であり、これを燃やしたり千切ったりされればどうなるか。

 

「このままだと…真司君、死んじゃうんだよ?」

 

ドラグレッダーは契約があるから城戸を襲わない。契約が破棄されればまた城戸や他の人間を襲う。ライダーの力はモンスターに依存している。モンスターの契約が無くなって直ぐに襲われれば、城戸に死以外の道は無いのだ。

 

「俺には関係無い。むしろ…1人脱落してくれて助かる。」

 

そう言って秋山は自分の部屋に戻る。神崎妹はそのまま秋山を追う。無駄な事かもしれないが、秋山の説得に向かうのだろう。自然と、残るのは須藤と手塚であった。

 

「…須藤、どうするつもりだ。」

 

突然というわけではないが、ほぼ置物と化していた須藤は一瞬反応に遅れる。

 

「…あぁ(やべ、話し聞いてなかった。何の話をして…あぁ、カードを皆で取り返す話だったか。)問題無い。」

 

★★★★★

 

「…」

 

須藤雅司について、手塚はよくわかっていない。秋山の運命を覗きライダーと見破り、戦いの無益さを説きながら行動を共にしていると偶然にも再会した。城戸がボロボロで見つかり、神崎の妹が連絡した仲間が須藤。

 

彼もライダーであったのだ。

紙切れに次のターゲットとして書かれていたのは須藤。恐らく、どこかでこの手紙を置いていった人物は須藤に接触を謀るだろう。

 

「…須藤、どうするつもりだ。」

 

そして問題なのはこの後の須藤の行動だ。この挑戦とも遊びとも取れる相手に対してどう行動するのか。

早い話し、須藤と常に誰かが行動を共にすればこの相手に対応する事が可能だ。

 

そういった返答を予想していたが、それはある意味期待を裏切られた。

 

「…あぁ

 

 

 

(その程度のこと)問題無い。

 

 

 

問題無い。それだけの言葉だが、この場でこれ程力強い言葉はあるだろうか?

(謎の言葉の補完が発生したが。)

 

顔に焦りの表情1つ無い。感情が顔に全くでない人間でもない限り、少なからず表情に動きがある。

 

自分の命の危機の筈だ。だが、先ほどからこの状況にまったく動じていないのだ。まるで予期していたかのように、先ほど自分達の話し合いに参加していなかったのは、今思えば子供同士の議論会を見守る先生のようだった。

 

須藤はこの状況を脅威と感じてないのか?この状況を脅威と感じてないならば、何が彼の脅威となるのか?この先の脅威にこれを越える脅威をもう見据えてるのか。

 

須藤の顔はそんな自分の心配も見据えたように真っ直ぐとしていた。

まるで、自分を信じろといってるようだ。

 

「…わかった。健闘を祈るよ。」

 

彼には要らぬ心配であった。話が終わり、須藤はそのまま自分の家に帰る。その背中には見えない闘志を感じた。彼に任せて大丈夫だと安心するには十分な程に。

 

自分に彼の運命が読めないのは何故かわからない、しかしそれは自分の能力程度では読めないような存在、彼が運命の特異点だからなのかもしれない。

 

ならば、これから起こるであろう…秋山の死を回避できるかもしれないと。

 

★★★★★

 

 

突然の人事異動だったが、須藤は元の刑事科に戻されていた。他の二人は知らない。

 

行方不明事件もどうなるかは知らない。

 

「本日からここに配属された、須藤だ。皆、よろしく頼む。」

 

屈強な捜査官に囲まれた中身は一般人の男は、仮面のような顔をしていたが内心は緊張でガタガタと震えていた。この職場でやっていける自信が無いのもある。が、一番はそれでは無い。

 

「須藤です。皆さんのような立派な刑事を目指したいと思います。よろしくお願いいたします。」

 

至って普通の模範的な挨拶である。この後は新入りの今後の活躍を期待し、拍手が起こるところであろう。

 

しかし完璧な普通の挨拶をしたのにも関わらず、捜査官達はざわついていた。小声で話し合い、後退りしている者も居る。

 

「あれが…浅……警察官か。」

 

あれが経験の浅い下端警察官か。

 

須藤にはそう脳内変換された。

 

「あいつは…で、ダントツだ。」

 

あいつは役立たずで、ダントツだ。

ネガティブ思考の須藤にはこう変換された。

 

「(うっ…大丈夫だ、この程度…致命傷に過ぎない。)」

 

もうこの職場でやってける気がしない。須藤はいきなり心が折れかけていた。本人の前での陰口程心にダメージを与える事は無い。

 

仮面ライダーだけあり、顔には出てないがもし出ていたらなら恥ずかしさの余りにそのまま膝から崩れ落ちていたかもしれない。

 

だが、そんな者は些細な事だ。そんな事よりも重要な事が1つだけある。

 

「では須藤、向こうのデスクを使え。期待してるぞ。」

 

辞職にでも期待されてるのか、とも思いながら須藤は指定されたデスクに座る。一応、座る前に画ビョウとかの確認もしておく。画ビョウは無く、安心して座ることができる。そういった新人イビりは無さそうだ。だが、誰も須藤に近寄らない。チラチラと自分を見ては居るが、誰一人として近寄ってくる気配は無い。

 

「(普通なら新米刑事に対して先輩や同期が話しかけてくるんじゃ…?)」

 

刑事ドラマなどの経験で多少の誇張はあっても、ここまでドライだろうか?

 

須藤に関わりたくないのか。女性の刑事も居るが、目を合わせると直ぐに逸らす。

 

今日の挨拶もそうだが、須藤は他の刑事に話しかけられた時の練習をしていたのだ。

 

その時間、実に3日。

 

書類を纏めるのが早く、暇な時間が多かっただけなのだが。それでもこれはやるだけの価値はあったはずなのだ。初対面の相手のイメージは声と見た目で決まる。スーツは下ろし立て、髪も軽く整え、発声練習もした。

 

だが最初からマイナス方向に振り切れているなら、意味がなかった。

 

これはこれで須藤の精神に多大なダメージを与える、だが須藤の一番の悩みは違う。

 

こっちは死にたくはなるが、耐えれば生きてはいける。

 

問題なのはボルキャンサーへの餌の調達。モンスター狩りというもはや使命と化した最重要案件だ。

 

ふと、須藤はデスクにあるパソコンに目を写す。

 

「…どうするかな。」

 

そこにボルキャンサーの姿は無い。

 

最近は須藤の心情を理解したのか、ある日を境に署内には現れなくなった。

が、それが逆に須藤に不信感を募らせていた。

 

「(油断させてパクリ…普通にありそうだわ。)」

 

須藤に安息の時など無い。寝るときですら全ての反射する物を毛布で覆うのも日課だ。むしろ、寝るときが一番危険かもしれない。

 

「外回り、行ってきます。」

 

今はちょうど大きな事件が無い事や、初日という事もあってか、須藤には仕事が無かった。意図的に渡されてないのかもしれないと考えもしたが、それなら逆にありがたいのかもしれない。

 

誰かの静止の声が聞こえた気もしたが、自分に話しかける人なんて居ないだろうとそのまま出ていく。

 

その後、ボルキャンサーが警察署から離れた個人の駐車場で出待ちをしていたのに腰を抜かすのであった。

 

外出=食事 この蟹にはその方程式が完成されているのだろう。

 

★★★★★

 

「警部、彼が単独でよろしいんですか?」

 

今年から刑事になった川村は不信感を抱いていた。自分が初めて配属された時は捜査官全員から拍手で受け入れられ、孤立する時間なんて無かった。

 

だが、須藤はどうだろうか。

誰一人として腕を上げることすらなく、隣同士でざわざわと須藤について話していた。それは陰口…ではなく。浅倉を捕まえただの、空手や柔道で優勝しただの、むしろ優秀な事はわかった。

 

が、何故彼を皆が敬遠するのかが、わからなかった。

 

今の行動もそうだ。刑事は普通、二人以上で行動する。だが、彼が一人で外回りに向かった時は自分を除いて誰一人として彼を呼び止めることはなかった。

 

「川村君、彼は一人で大丈夫だ。」

 

「……え?」

 

川村はまだ話が続くと思っていたが、予想外な方向に裏切られた。川村への問いに山田警部は一言で済ませたのだ。驚きのあまり、そのあと数秒の間ができてしまうほどに。

 

動揺した心を落ち着かせ、再度問う。

 

「いや、いくら優秀でもそれは…」

 

「必要無いんだよ。」

 

今度も一言で終わらされた。この説明だけで納得しろと?新米であり、純粋な正義感を持つ川村には理解できない。だが、周りの刑事は誰一人として警部の発言に異論を唱えていなかった。

 

やがて、大きな溜め息を吐くと「川村」と呼ぶ。

 

「彼のパートナーの大抵が彼の足を引っ張るだけ引っ張り殉職。もしくはパートナーを辞退している。彼が相手にする犯罪者のレベルが悪いというのもあるが…彼とチームを組んだ者は大抵殉職している。この意味がわかるな?」

 

「それって…え?」

 

頭の中で突然の理解できない情報が駆け巡る。あまりに唐突で、あまりに意味不明。川村の刑事としての常識が崩れていくのがわかった。

 

一人で二人以上の仕事をこなし、パートナーは殉職。

 

 

彼は…刑事と犯人の死神のような存在なのかと。

 

「だから、必要無いんだ。彼一人で十分…いや、過剰だからな。気にするな。理解しろとは言わん、納得させろ。わかったな?」

 

「…わかりました。」

 

よく分からない言葉でまくし立てられ、ショート気味の頭では上手く言い返すこともできず、川村はそのまましぶしぶとデスクに戻るのであった。

 

 




Q.須藤って強いの?

A.須藤のスペックは高い 須藤のスペックは。

クトゥルフの能力値で表すとこんな感じです。

str:18 dex:18 luck:???
app:13 pow:?? con:??
siz:15 int:?? edu:??


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19話 ひばな散る

くっそ…激しい戦いだった…

だが、私は生還した…!!

引っ越しが忙しく遅れましたが、よろしくお願いします!


「…編集長、これは?」

 

城戸が見たのはいつもあわただしく電話や声が飛び交う職場では無かった。扉を開けて直ぐ、目の前には編集長を含めた全員が整列している。そして、整列の先にあるのは編集長のデスク。だが、OREジャーナルの社長である編集長は目の前だ。

 

では、誰に向けて整列しているのだろうか。

 

「真司…今日から、あい…」

 

編集長である大久保が指差す方向には一人の青年が居た。一目で上流層の住人だとわかる灰色のスーツ、整髪料で逆立つように整えられた黒い髪、遊び心を忘れない純粋な双眸、と言えば良く聞こえるがその遊びの方向が人道的とはとても言えないだろう。

 

その瞳がギロリと大久保を睨む、だがその睨みは威嚇とは違う。「わかってるよな?」という嫌らしいアイコンタクトだ。

 

「…彼が、社長だ。」

 

その言葉を聞いた真司は少しだけ頭を整理する。

 

目の前には社長であるはずの大久保編集長、だが社長は芝浦。つまり、大久保が社長を芝浦に譲ったという事である。

 

「はぁっ!?て、あり得ないですよ!何が起こったんですか!?」

 

無論、そんな事が起こるはずが無い。

でなければ元編集長である大久保も、整列している桃井も苦虫を歯で噛み潰したような顔をする筈が無いのだ。

 

「お宅のお客さんのデータ…全部、俺が盗んだの。セキュリティ甘過ぎ、今時こんなんじゃ簡単に盗られちゃうからね?」

 

そしてその原因を軽くデスクに足を投げ出しながら手元で何かを弄る芝浦、言葉の軽さとは裏腹にとんでもない事を言っている。流石のバカでも、城戸でも事の重要性を理解した。

 

「は!??は、犯罪じゃないですか!?」

 

芝浦は顧客情報を人質に、会社を乗っ取ったのだ。

 

芝浦自身、パソコンでクラッキングが可能な程の技術を持っている。だがOREジャーナルを狙ったのは仮面ライダーである真司が所属してるというだけでは無い。

 

「これから面白くなるよ~楽しみにしといてよね。」

 

歳に不相応の無邪気な笑顔、それは真司達には嫌悪感と不安感しか感じることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

★★★★★

 

外回りも大変だ。

 

そんな感想を抱きながらラーメン屋に押し入った強盗犯を引きずる須藤。

頬は大きく腫れ、目は白い。

この強盗の不幸は須藤がその店でラーメンを食べていたことだろう。

モンスターに慣れた男が人間など怖れる事は無かった。腹を抉る拳、その後に脳を揺らすように頭を殴打、そこで手錠をかけるというかなり刑事らしいのか刑事らしくないのかわからない日常を繰り返している。

 

「おい、しっかり歩け。(餌と勘違いされるから。)」

 

少し外に出るだけで引ったくりや食い逃げがそこらに溢れている。

 

調書や尋問等のよく分からない仕事は同じ刑事科に所属する若い刑事に全て押し付ける。成果も全部渡す、成果なぞ挙げて仕事が忙しくなると困るからだ。

 

なので若い刑事に渡すのだ、強引に。

 

須藤は他の刑事に嫌われている(と思い込んでいる)。

 

なら距離を近づけるべきではないかと思うだろう。

 

だが、須藤の場合は違う。外回りはモンスターのハンティングの時間でもある。正直に言うと、須藤は特命係等の自由な職場に居たいが、そんな事をしていれば職を失う可能性もあるだろう。

だが、クビになっても構わないと須藤は考えている。

 

このバトル・ロイヤルに巻き込まれた時点で、須藤は人生のドン底に居るのだから。

 

「よろしく」

 

「あ、須藤さ…」

 

本日三人目の犯罪者を押し付け、また外回りに向かう。

 

まだ昼を少し過ぎただけの空は青く澄みきっている。

こんな空を見上げていると煤けた心が少しだけ洗われていく、そんな気分だ。

 

「(あー、天気が良いなぁ…良いことあれば良いなぁ…)」

 

そんなフラグを回収するかの如く、プルルルと須藤のスマホが鳴り響く。

嫌な予感を感じながらも、画面を開くと【手塚】と表示されている。

 

「(いや、まだだ。まだご飯一緒に食べないか?とかのお誘いかもしれない。)」

 

ふぅ、と一息吐く。気持ちを少しだけ集中させ、何があっても動じない準備をする。

 

「(そんな、毎回ライダー関係とは決まってないよね?)」

 

そんな淡い期待を抱きながら通話をonにすると。

 

「もしもし」

 

「須藤、俺だ。城戸のカードの件だが…進捗はどうだ?」

 

ライダーの話であった。

 

だが、須藤はここで疑問に思う。話では皆で取り返す話だった(と思い込んでる)はずだ。

それが何故、須藤個人に進捗を尋ねてくるのか。

 

「(あ…あぁ…)」

 

そこでふと、須藤は気づく。

昨晩、自分は話を半分も聞いていなかった事に。

ここで素直になんの事だっけ?と聞くのも1つの手だろう。

だが、須藤はそんな事はできない。あの真剣な話し合いをしてた時に、何も聞かずに「問題無い。」と答えたのだ。

これで失う信頼は計り知れない。

 

「(…もしかして。俺はなんか準備とか頼まれてたのかな?)」

 

この場合、何を準備するかはわからない。

だが、自分に何かを頼んでいたのだろう。

その何かを聞き返すのもありではあった。

 

 

だが、須藤が導き出した答えは。

 

「明日までになんとかしてみる。」

 

当たり障りの無い回答をする事であった。

 

後に、激しく後悔することになるのである。

 

 

 

 

 

★★★★★

 

 

秋山が訪れたのはとある大学、その校門であった。大抵の生徒はここを通り、通学と帰宅をする。周りには活動が終わったサークルがチラホラと帰りはじめているが、人は少ない。

 

「…お前か、新しいライダーは。」

 

そこで門を横切ろうとする男の前に立ち塞がる。

長身に鋭い顔つきをした、黒いコートを着た男が立ち塞がれば普通なら萎縮してもおかしく無い。

 

だが、目の前の男。芝浦はそれどころか無邪気にわらっている。

 

「うん?そうだよ。君がスドウ?」

 

「…違う」

 

スドウという単語に秋山のこめかみがぴくりと動く。心なしか、不機嫌な表情が更に不機嫌さを増したようにも感じる。だが、そんな事を目の前の芝浦は気づかない。

 

少なからず残念と思っては居るが、目の前の秋山がライダーなのは雰囲気を見てわかる。

ゲームが無ければつまらない世界からリアルファイトの面白い世界に入り込む、これから楽しい遊びができるのに純粋な悪戯っ子が喜ばないわけがなかった。

 

「貴様程度、須藤が相手するまでも無い」

 

「良いね、やろうか」

 

お互いにデッキを見せ合い、蝙蝠とサイを表すエンブレムがキラリと光る。そしてどちらの目も秋山は静かに、芝浦はギラギラと滾らせていた。

 

 

二人は校内の外れにある男子トイレに向かった。

 

監視カメラも無ければ、人が通ることもない。

 

そしてひび割れた鏡を前に、二人は示し合わせたようにデッキを掲げる。

 

「「変身!」」

 

漆黒の鎧を身に纏う蝙蝠使いのライダー、仮面ライダーナイト。

 

赤い角を持ち、重厚なる白い鎧を纏うサイ使いのライダー、仮面ライダーガイ。

 

ミラーワールドに入ればただでさえ静かだった場所が、小鳥のさえずりさえなくなってしまう。

 

【SWORD VENT】

 

【STRIKE VENT】

 

二人は互いにメインウェポンを取り出す。

秋山は身の丈ほどの長さを持つ巨大な漆黒のランス。

須藤では持ち上げる事すら困難なそれを両手で構える姿は、歴然の槍使いである。

対して芝浦はメタルゲラスの頭をそのまま腕に装着しており、龍騎の【STRIKE VENT】に比べて頭は大きく感じる。

なにより、鋭く長い角は簡単にライダーの装甲を貫いてしまいそうだ。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 

戦いが、始まった。




Q.遅かったけど、失踪しない?

A.受験忙しかった、今書いてる二作は完結させたいです。
ただ、評価が6よりも下がったら打ち切ると思います。
私の作品の拙さと、需要が無いと判断するからです。
なので、出来る限り頑張りますよ!!


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20話 災厄のライダー + 人物紹介

シリアス+勘違い=ギャグ






激しい打ち合いが続く。

互いの重量級の武器は重みのある金属音を何度も響かせている。芝浦の一撃は地面を大きく抉るが秋山に届かない、秋山の攻撃は芝浦の装甲へのダメージを与えられない。両者は拮抗している。

だが、秋山は優勢だった。

 

「はぁぁ!!」

 

「ぐっ!」

 

長く、重く、使い慣れた獲物の秋山。

対して芝浦の片手に着けた獲物は片手で振るには重い、重すぎる。秋山のランスとさほど重量は変わらないだろう。

だが、バランス型のライダーである秋山と違い芝浦はガード型、パワー型と呼ばれるタイプであり。耐久力のあるライダーだ。そして、重い一撃を放つことのできるライダーだ。

スピードは無い、がパワーと耐久力ではナイトのスペックを遥かに凌ぐ。

 

それでも秋山が優勢なのは、上手く立ち回れてるからだ。バランス型とは器用貧乏とも言えるかもしれない。

だが、どれにも特化してないからこそ応用力が高い。

 

「くそっ…!」

 

「はぁっ!!」

 

秋山の攻撃には尖ったところがないからこそ、どんなに尖った相手にも勝機を見いだせる。

早くも無ければ、パワーも無い。だが、着実に相手へのダメージを蓄積させることができる。

 

3分がたつ頃には、芝浦は当たらない攻撃に腹をたてていた。芝浦が望むゲームは気持ちの良い戦いだ、常に命のやり取りが行われ、駆け引きがおこなわれる。

 

だが、これは駆け引きはない。淡々と作業のように攻撃してくるのはAIと変わらない。

攻撃されたダメージは大したことはないが、それでもストレスは溜まっていた。

つまらない戦い、駆け引きが無い戦い。

そう…思わされていた。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

そしてこの無茶な攻撃は芝浦の駆け引きの敗けを表してした。

最初から駆け引きが起こっていたのに、芝浦は気づいていなかった。焦りが体を惑わせた。

 

「ふんっ!!」

 

「ぐはぁっ!!」

 

大振りの攻撃を最小限の動きでかわし、全体重とスーツのパワーを乗せた攻撃を放った。

 

大きな隙を見せた芝浦に対処は不可能。

勝敗は決しただろう。

 

穿たれた衝撃は芝浦の足腰では吸収できず、そのまま大きく吹き飛んだ。

だが芝浦にダメージは大した事は無い。

胸部の装甲には少しだけヒビが入った程度のダメージだが、体への衝撃をふせいだわけではない。

 

背中から着地した芝浦は更なる大きな隙を見せていた。

 

「…終わりだ」

 

それを見逃す、秋山ではない。

 

即座に移動し、起き上がろうとする芝浦の首にランスを構える。狙うのは、当然であるが装甲が無いところだ。

芝浦は即座に反撃しようとするだろう。だが、どう足掻こうがこちらの攻撃の方が速いのは明らかだ。

 

「…はは」

 

乾いた笑いが木霊する。

自身と秋山にあった違いは経験の差と、見据えた相手の差だ。

須藤という規格外の存在との戦いを経験しているか、須藤という規格外の存在をどう感じているか。

 

この勝負は

 

「…っ!」

 

「はっ」

 

秋山の敗北である。

 

ランスを押し込むように首に穿つ、しかし刃先は他の装甲に比べて柔らかい首を貫くことはなかった。

僅かに逸れたのだ。胸部の装甲にランスは刺さったのだ。秋山は何故かわからない。使い慣れたランスで、少しだけ力を込めて貫くだけの動きなのに、外したのを。

 

秋山は理解していなかったのだ。人を殺すとは何か、恋人の為にライダーを、他人を殺すことを。

深層心理の中では、人殺しの自分は恋人と一緒に居ても良いのか?と。恋人に人殺しの秋山は、隣に居るべきでは無いのではないかと。葛藤していたのを、本人は気づいていない。なぜ外したのかを、気づいていない。

唖然としているのがその証拠だ。

 

そして、その大きな隙を逃す芝浦では無かった。

ランスを払い除け、立ち上がると同時に秋山の装甲を穿った。秋山には防御をする余裕は無かった。

自身の余りの想定外の行動に、心と頭は追い付いていなかったのだ。

 

そして、この瞬間に秋山の敗北は確定した。

 

秋山の与えたダメージは微々たる物だ。芝浦の装甲が全てを受けきったからだ。

では、秋山はどうか。ダメージは無かった。

だが、この一撃は秋山には致命的だった。

 

ライフが0になるまで戦いは終わらない、だがダメージはバトルの動きに比例していく。

局所的でも、そうでなくても、ダメージとは負わないに越したことはない。

 

秋山の受けた攻撃が致命的なのは、足や腕に当たらなかったことでは無い。腹に当たったことだ。柔らかいそこには内臓が詰まっている。内臓のダメージとは計り知れないものであり、大の大人でもうずくまり、動けなくなるものだ。少し小突かれただけでも余韻が残るのに、あの重い鈍器で穿たれたのだ。

 

秋山は動けない。

致命的なダメージを受け、地面に落ちたカナブンの様に手足が動いても立ち上がる気配が無い。

 

立場が逆転し、今度は芝浦が秋山に歩み寄る。

まだ時間はたっぷりと残っているからだ。

 

「君さぁ…覚悟もないのに、何でライダーなんかやってるの?殺す覚悟も無い人に、ライダーはやって欲しくないんだよねぇ…」

 

覚悟とはいつしたのだろうか。

ダークウィングとの契約をした時か、恋人が事故で目覚めなくなった時か、神崎士郎からデッキを受け取った時か。どれも、自分の覚悟があった筈だ。

 

だが、人を手にかける覚悟を…経験したのは初めてであった。

 

「ぐっ…ふぅ…がっ…」

 

秋山には反論する余裕は無い、ただただ痛みが収まるのを待つことだけである。

 

「終わりだね…」

 

そんな秋山を終わらせるため、ゲームを終わらせるために芝浦は大きく武器を振り上げ…

 

★★★★★

 

 

神崎士郎とは、何者なのか。

 

それを調べるのは妹である神崎優衣である。

調べると言っても、情報は皆無に等しい。

どうやってライダーやモンスターを、ミラーワールドを作り上げた。もしくは、ミラーワールドへの扉を開いたのか。

 

神崎優衣は何も知らない。

 

どこで研究をしていたかも、どんな実験があったのかも、何もかもがわからない。

 

そもそも、幼い時に両親が亡くなって別れてから出会っても居なかった。そして、いつの間にか行方不明になっていた。

だが、手掛かりは一つだけあった。

 

その手掛かり…何処かの洋館とそれに写る子供の写真を片手に街をさ迷い歩く。

 

これは神崎優衣が暇な時にやる事であり、今も暇だからさ迷い歩いていた。

 

だが、今回は違う。

 

「…ここだな」

 

「そうみたいですね」

 

手塚海之、占い師である彼は写真を占う…ような事はできない。できるのは人の運命を見ることだけである。

だが、それでも占い師とは人を見破る職業の人間だ。

洞察力は高く、それはこの僅かな証拠からも見つけ出していた。

 

写真に写る窓、そこには緑色のラインが入った電車がある。更に、ネットでこの電車は何処を走っているのかも判明した。とあるサイトで即座に分かるのに神崎優衣は驚いていた。

運行年数や、場所の考察までしてくれるのだから圧巻である。

 

そして導かれたように、向かったのは古びた洋館だ。

 

外観も老朽化した点以外は差ほど変わらず、違うところは窓が全て割れ、その代わりに新聞紙で覆われていることくらいだ。

 

「…行くぞ」

 

だが、二人は少しだけ覚悟している。

写真の日付は10年以上前、対して写っている電車の運行が開始されたのは2年前。おかしな順序だ、それと聞いた話ではずっと昔からここの洋館は変わってないらしく、窓は無かったのだ。

近所の子供が入り込んだ時の物ではない。更に他のサイトでこの写真について調べて貰うと(何故かその道のプロが居り)、この写真は合成では無い事もわかった。

 

つまり…これは、真実を写している。

だが、矛盾している。

ならば…ここには何かある、そう確信せざるをえないだろう。

 

「はい」

 

見学ということで鍵を借りたのだが、何故かここの敷地を所有する不動産は二人だけで行かせた。

何故かはわからないが、特別な理由でもあるのだろう。

 

中は開放的で、しばらく手入れをされてないようで埃まみれで。クモの巣も張っている。

 

「油断しないでくれ、何が起こっても不思議じゃない」

 

そう言うと、二人は二階と一階で探索を分かれた。

何かが起こっても、この距離ならば1分もかからないので心配無いだろう。

 

手塚は優衣を見送りながら、一階の小部屋へ向かう。

これから探索が始まる、だが手塚の頭から払拭できない物が残る。

人の運命を見ることができ、見てきた本物の占い師。それでもわからないのがある。最近では須藤が一番だろう。

 

だが、また新しい奇特な運命を見てしまっていた。

 

「(神崎優衣…君は何者なんだ)」

 

★★★★

 

 

北岡は拘置所に来ていた。

死刑確定者が居る場所、または刑事被告人と呼ばれるまだ刑務所に送られる前の犯罪者等が居る場所でもある。

 

古びたパイプ椅子をギイギイと鳴らし、足を組みながら手元に写真や法廷で使われた書類が綴じられた資料を閉じる。

 

閉じる間際に中からチラリと見える赤い一色の凄惨な写真も見えるが、北岡の目の前に居る男は死刑確定の犯罪者…いや、北岡が死刑にしなかった犯罪者だ。

 

「懲役10年…良い落とし所でしょ。」

 

浅倉威(あさくら たけし)、数々の悪逆非道の事件を起こし、やっと捕まえる事ができた極悪犯罪者である。

今回の事件も、ナイフでコンビニの店員を襲い惨殺した。彼に人生を狂わされた人間も少なくないだろう。

 

「何で無罪じゃない?弁護士だろ?」

 

だが、目の前の浅倉はキレていた。

10年、たった10年だ。数々の犯罪を起こし、数々の人を殺し運命を狂わせた犯罪者がたったの10年である。

何処に不満があるのか。

それは認識の違いだろう。弁護士ならば無罪にできて当たり前という事、自身が犯罪を起こしてるはっきりとした自覚も反省も無いことだ。

 

「俺以外なら死刑だから。結構グレーな事もしたし、これ以上は高望みじゃないの?」

 

北岡も大きくため息を吐く、両者に価値観の差がありすぎるのは北岡も自覚していた。

かと言って、この差を埋めるつもりは無いのだが。

 

「第一…イラついたからって、理由も意味わかんないし。」

 

理解はできない。こういう奴だと納得はできても、理解する事はできない。

ここで話すことはもう無い、そして意味がないと素早く判断した北岡は荷物を纏め始める。

元々少なかった荷物は直ぐに鞄に仕舞われ、椅子を立ち上がるとドアに向かって真っ直ぐに歩き始める。

 

「今はお前にイライラしてるぞ…俺を捕まえた刑事よりもなぁっ!あぁっぁ!!」

 

怒声をあげ、両者を隔てる透明な壁を大きく揺らす。ギシギシと音は立てているが、それを壊す前にその怒声に警官達が駆けつける。

北岡の後ろでは激しい揉み合いになっているだろう、そうわかるだけの怒声と騒音が響いている。

 

「お前とは2度と会いたくないね。」

 

後の事は警官に任せ、北岡はそう呟いてから部屋を後にするのであった。

 

★★★★★

 

「ああっぁぁぁぁ!!」

 

監獄で暴れる、無茶苦茶に暴れる。

だがどれだけ蹴りつけようが、殴り付けようがコンクリートでできた監獄に傷はつかない。

精々、僅かな染みが残る程度だ。

 

「イライラする。刑事も弁護士も。あぁぁぁぁ!!」

 

だが何度も何度も自分の鬱憤を晴らすために、暴れまわる。毎度の事なのか、それとも休憩でもしてるのか。止めさせに来る人間は居ない。

 

だが、突如としてピタリと浅倉の動きは止まる。

拳を下ろし、牢屋の外。誰も居ない筈のその方向に向く。

 

「…誰だ」

 

野生の勘とでも言うのだろうか。

何かが居るのは把握していた、だが何かもわからないし、何も見えない。しかし、瞬きをした次の瞬間にその男は居た。

 

茶色いコートを身に纏う、彫りの深い男だ。

しかし、その男は一人だけでそこに居た。

面会ならば付き添いは居る筈だ、牢屋の中から攻撃されても対応をできるように、万が一にも脱獄しても対応できるように。

 

ならば、刑事か?そう浅倉は考えると晴らした鬱憤が溜まり始める。しかし、目の前の男は…いつの間にか、隣に居た。

 

浅倉は僅かに驚くが、男の発した言葉で更に驚く。

 

「ここを出してやる。」

 

「…何だと?」

 

浅倉にこんな奴の面識はない。面識があるからといってフレンドリーになる浅倉ではない。そして、浅倉はきれていた。何故なら【刑事っぽく見えてイラついた】からだ。

 

「ふっ…あぁぁぁぁ!」

 

浅倉の不意打ち気味の拳が襲いかかる。

自分をイラつかせたそのモノに制裁を加え、自身の鬱憤を晴らすために。

 

ドスンッ!と鈍く思い音がひびきわたる。

この力で殴られれば、顔は歪み骨折は免れないだろう。

 

しかし、浅倉の手にあるのは鈍いコンクリートを殴った痛みだけ。そして目の前に居た男は。

 

「…出れるのか?」

 

浅倉の真後ろに居た。

浅倉にはわからないが、こいつは妙な力を使う。

この妙な力は何かはわからないが、そんな事はどうでもよかった。

ただ、浅倉を貶めた奴等に復讐できるのではないかと。脱獄すれば、逆恨みの復讐を果たせるのではないかと。

本人に逆恨みの自覚が無いのは質が悪いが。

 

「俺がここに居るのが、その証拠だ。」

 

 




Q.何話までで完結しそう?

A.100はいかないかなぁって感じてます。



★★★★★

人物紹介

須藤雅司(すどう まさし)
仮面ライダーシザース、に憑依してしまった主人公。余りのスペックの弱さに絶望しながらも健気に戦います。

城戸真司(きど しんじ)
原作の主人公、仮面ライダー龍騎。人を守るためにライダーになるが、他のライダー達の戦いに自分はどうすべきかと苦悩する。須藤の舎弟1号。2号はまだ居ない。

秋山蓮(あきやま れん)
仮面ライダーナイト、原作で須藤を倒した男。
須藤には警戒し、実力を認めている。

神崎士郎(かんざき しろう)
ライダーバトルのゲームマスターであり、原作でも黒幕。須藤に対しては対して接触はしてないし、警戒もしていない様子。

神崎優衣(かんざき ゆい)
士郎の妹で、兄について独自に調べている。

手塚海之(てづか みゆき)
仮面ライダーライア、奇特な存在感を放つ須藤に興味を持っていると、後にライダーとして知り合う。

北岡秀一(きたおか しゅういち)
仮面ライダーゾルダ。職業は弁護士であり、彼が白と言えば白、黒と言えば黒となるほどの腕前である。
須藤に惨敗してる。

芝浦淳(しばうら じゅん)
仮面ライダーガイ、金持ちのボンボン。楽しければそれが非人道的でも法に違反していても行う。
現在は須藤を新たな遊び相手として狙ってる。

浅倉威(あさくら たけし)
仮面ライダー王蛇、まだ本編にライダーとしては出てない。原作では最もライダーを殺したライダー。非常に危険な犯罪者であり、とある人物に復讐を誓う。

桃井令子(ももい れいこ)
OREジャーナルに所属するジャーナリストで、行方不明事件について調査している。


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21話 須藤vs芝浦

須藤伝説の一幕


突然鳴り響いたけたたましいエンジン音に二人は驚く。

この世界には人間は居ない、車はあっても動かす者が居ない。

この世界で鳴るエンジンなど、一つしかない。

 

それは秋山と芝浦の間にピタリと止まる。

目的は、二人の戦い。では、ここに来るようなライダーとは誰か。秋山には、心当たりが二人居る。そして、心の底でとあるライダーが来るのを望んでいた。

 

ガチリと音がなり、ライドシューターの天井が開かれると一人のライダーが降りる。

バイクから飛び退き芝浦の前に立ち塞がるのは、彼だ。

 

「秋山、大丈夫だよな?」

 

仮面ライダーシザース

 

秋山はそれを聞き、背中にビリッ!と電流が走る。

それは歓喜なのかもしれない。この言葉の意味するのなんてのは一つのみ、「お前がこんな所で負ける雑魚じゃない、なら大丈夫だろ?お前の力は認めてるぞ」そう言われてるのだ。

 

格下の存在からそんな事を言われても嫌味にしかならない時もある。だが、遥か格上。自身の知る最強の存在の言葉は、秋山に力を与える。

 

「問題…無、い…!」

 

フラフラとなりながらも、ランスを杖にして無理矢理立ち上がる。秋山も須藤も誰も気づいていないが、秋山はここで心の限界を越えていた。ひとつ先のステージに上がったのだ。

 

だが、今はそれを確かめる暇も無い。

 

「助けに来たんだ」

 

「いや、たまたま通りかかっただけだ」

 

須藤は直ぐに【GUARD VENT】で盾を召喚する。

須藤は盾を軽く振ると、調子に問題が無いのを確認する。そして、芝浦の方へ向いたまま言う。

 

「秋山…わかるな」

 

「…」

 

わかっている、今の秋山は足手まといだ。

戦いたい、己の尻拭いは自分でやりたい。

だが無理だ。ダークウィングを呼び出し、背中に合体する。今の秋山は動くのにも精一杯なのだ、それでもダークウィングの力を借りれば何とか脱出する事はできそうだ。ダークウィングを使って戦えよ!と言いたいだろうが、そもそも武器を振る余裕も無い。

 

それに、大事なことなので再度言おう。

 

須藤との戦いに邪魔になる。

 

ゆっくりと舞い上がり、そのまま戦いの余波が届かない遠くへ連れていかれる。

その光景に振り向く須藤、見送っているのだろうと端からは見える。

最後まで心配をかけてしまったこと、そして自分の情けない醜態を晒した事に秋山の肩はズシリと重くなるのであった。

 

★★★★★

 

「もしかして…君が、スドウかい?」

 

「あぁ、期待以下の弱そうな奴だろ?」

 

見送りが終わり、思う存分戦える時間となる。

芝浦は一枚のカードを取り出す。それはドラグレッダーのカード、つまりは城戸のカードだ。

これを取り返す為に来たのだと芝浦には検討がついている。そしてそれは概ね正しい。

 

だが、相手は須藤だった。

 

「っ!?」

 

見せた瞬間にとてつもない圧力が芝浦を襲う。秋山の威圧感とは桁違い、桁外れの威圧だ。

わかる、こいつは真なる強者だと。

 

「ははっ…楽しい試合(ゲーム)になると良いね」

 

いや、なる。先程までの秋山の試合よりは確実に。

芝浦は臨戦態勢を取る。ワクワクが止まらないのである、この須藤と戦うのが。

 

カードをしまい、全力を出す準備を終えたときだ。

 

「…ふっ」

 

この芝浦に対して須藤は失笑していた。

 

「何がおかしいのかな?」

 

いや、わかっている。芝浦はわかっている。須藤の威圧に若干だが、萎縮したのに。萎縮してしまったのにだ。

 

「いや…まだ、お互いの妥協点を探れないかと考えたんだけど」

 

違う、これは芝浦を失格だと言っているのだ。「お前のような小物、雑魚とは相手にする暇も無い」そう言っているのだ。ふざけるな、まだ始まってない。そんなのは認めない、そして自分の力は必ず認めさせる。そう決意する。

 

「戦うのに、妥協なんかあるわけないじゃんか」

 

「だよね…お前は、そうだよ」

 

またがっかりしたような発言に芝浦はキレかけている。

この余裕な姿をさらけ出したこの男、その足元を必ずすくうと芝浦は駆け出した。

 

★★★★★

 

手塚は洋館の探索を続けていた。家具も殆ど無い、情報らしい情報は見当たらない。ここには何かある、そう考えていた。だが、見当たらない。

1階には何もなさそうだ、2階で探索している神崎優衣に期待しよう。そう考え始めた時に、最後の部屋を開ける。

 

「…ここは?」

 

最後に入った部屋は大量の姿見が並んでいた。壁に沿うように何十枚もだ。更に床には黒い染みが広がっている。手塚は血の跡では無いかと察するが、血の量は部屋全体にあり、よく見ると壁や天井にもある。

 

気味が悪い。何があったのか、想像もしたくない。

そんな時だ、鏡の中を誰かが横切った。

途端に振り向く、だがそこには誰もいない。だがそんな事をできる奴を、手塚は一人知っている。

 

「…神崎、士郎」

 

乱反射する鏡の部屋、その鏡に姿を表すのはこのライダーの戦いのゲームマスター。神崎士郎である。

 

「なぜ、戦わない」

 

「それは俺が聞きたい、なぜ戦わせようとする」

 

手塚には疑問だった、成り行きでライダーになったのはわかっている。だが、そんな手塚を戦わせるのはなぜだ。そもそも、神崎士郎には何のメリットがあるのだ?

 

最初は神様かそれに類する何か、そう考えていた。だが、妹の存在や彼女の運命を覗くと人間だということがわかった。ある時期から前を見ることができない、ある時期から後を見ることができない。

そんな奇特な運命だが、彼女は人間なのだ。

そして、神崎士郎もまた人間なのだ。

 

それも賢い人間だ、このライダー同士の戦いを行うのにメリットは感じられない。勝者に願いを叶える権利を与えられるというが、それが本当に行われるかも怪しい。

 

神崎士郎の目的は何なのか?予想はしてたが、神崎士郎の運命を見ることもできない。

 

そんな時だ、神崎が何かを投擲した。

それに驚きつつも、片手で掴みとる。それはカードだ。黄金の片翼にサファイアが埋め込まれたようなカードだ。

 

「これは…」

 

【SURVIVE】…日本語で【生存】と表記されたカードだ。何のカードかはわからない。武器でも無ければ、モンスターを呼び出すカードでもない。

このカードは何なのか?そもそも、何故手塚に渡したのか?それがわからない。

 

「使え、その力はいずれ必要になるはずだ」

 

「待て、話は終わってない!」

 

神崎士郎は一方的に消えてしまった。手塚の疑問にも答えず、謎のカードを渡してだ。

だが、そのカードに触れているとわかる。底知れぬ力を感じるのだ。

 

そのパワーに何故か引き込まれる、だがガチャリ!と開いた扉の音で意識が引き戻された。

扉を飽けたのは神崎優衣だ、2階の探索が終わったのか手には紙束を持っている。

 

「手塚さん…大丈夫ですか?」

 

半ば呆然状態だった手塚だが、カードを優衣に見えないようにしまいこむ。これは別にここで見つかった情報というわけではない、今は見せる必要は無いのだ。

 

「あ…あぁ、大丈夫だ。こっちは特に何もなかった。そっちは何が見つかったんだ?」

 

「それが…」

 

優衣は一度床に座り込むと、持ってきた紙束を広げた。どれもしわくちゃの古びた画用紙で、そこにはクレヨンで小学生や幼稚園児が書いた描か見つかった。

 

それだけならここの前の家主が忘れたのだと思うだろう。だが、それはここに何かがあるという物的証拠であった。

 

「モンスターの…絵?」

 

手塚はライダーだ、書かれているモンスターの絵には見覚えがあるものがたくさんある。

中には城戸の契約モンスターのドラグレッダー、秋山の契約モンスターのダークウィング、須藤の契約モンスターのボルキャンサー、そして手塚の契約モンスターのエビルダイバーもあった。

 

「待ってくれ、ここは10年は誰も入ってないと言っていたんだ。つまり…」

 

この画用紙に書かれている絵についてはまた詳しく調べれば良い。だが、予想はできてる。これは10年以上前に書かれていると。それも、恐らく子供が。

 

「(何か、どころか…ここから始まったのか?)」

 

手塚の中で、この兄妹を解き明かさなければならない。そういう使命感が生まれた。なぜかはわからない、だが須藤のような運命とは異質なのは違いない。

 

この戦いとはなんなのか、それを解き明かせなければならないと。

 

★★★★★

 

それは偶然だった、たまたま狩りを終えて家に帰ろうとしていた時だった。たまたま秋山と芝浦との戦闘を見てしまい、秋山はピンチだった。これは不味いと、特に考えずに突っ込んだ。秋山ほどのライダーをここで失うのは惜しい、だが須藤は気づいてない。

 

最初にたてた誓いを、色々と忘れかけてるのに。

 

「なんだ…さっきのは気のせいなのか?」

 

何が気のせいなのかは須藤にはさっぱりわからないが、須藤はコテンパンにされていた。一応は全ての攻撃をガードしきったので地に伏す事にはなっていない、だが体力は限界に近い。

それもそうだろう。唯一の(使えない)武器は【C0NFINE VENT】という相手のカードを封殺するチートカードによって防がれた。少しでも視界を悪くしようと使った【BUBBLE VENT】も同様に防がれた。芝浦の登場でこのチートカードを思い出した須藤もつくろうとしたが何故か作れない、泣きそうになった。サバイヴのカードも作れなかったので、契約モンスターならではの能力で無ければ作れないのかもしれない。だが完全にカード作りが失敗したわけではない、蟹の特性?を活かしたとあるカードを作る事に須藤は成功していた。それを作っても泣きそうになったのは後で話すことになるだろう。

 

「スドウ…お前、何で本気を出さない」

 

「本、気…?(待って、俺疲れて立ってるのも辛いのわかるよな?何を期待してるか知らんが、俺は量産型ライダーと同等の力だと自負してるぞ!)」

 

心のなかですら須藤は嘘をつく。実は量産型のライダーよりも弱いんじゃないかと思い始めているのは内緒だ。

救いの手なんてあるほど、この世界は優しくない。

 

「さっきから防御ばっかり、攻撃なんていくらでもできるだろ?お前…何を狙ってる?」

 

「(何も狙ってないんだよなぁ!?そんな事できるほどの能力が無いんだよなぁ!?)」

 

須藤は戦いが始まる前から絶望していた。秋山に「わかるよね?」と言って一緒に戦おうとしたのに退避され、思わぬ絶望的状況に失笑。芝浦には本気を出せ、攻撃をしろ!と一方的に攻撃され、それをひたすら盾で凌いでを繰り返していた。

 

もはや、逃げ道もない。起死回生の手立ても無い。

 

そして、遂にこの攻防に終わりの時がきた。

 

「(そろそろ使うか…?いや、まだ早い)」

 

須藤があるカードを使おうと、攻撃を凌いでいたときだ。疲れのせいか、ガードがずれた。

 

「(あ…死んだわ)」

 

盾は強い、須藤の中で最強の装備だ。

だが、それはジャストミートして他のライダーの攻撃を防げるのだ。ずれたガードは攻撃の威力を多少は殺せただろう。

だが、それでも攻撃は須藤に直撃してしまった。

それは簡単に、須藤を遥か遠くに吹き飛ばした。

足の踏ん張りが足りなかったとか、そういう問題じゃない。単純な、ライダーとしてのスペックの差だ。

 

情けないとは言わない、むしろよくここまで立ち回れたと称賛すべきだろう。

須藤は遂に須藤の終わりを迎える、そう感じてしまった。今まで須藤として立ち回っていたのが、これで終わりなのだ、と。

 

「須藤…お前!!」

 

地面に倒れ込み、立ち上がろうとするが足は言うことをきかない。座ってから、動けないのだ。

この状況に芝浦もキレている。そりゃそうだ、ただの雑魚をずっと相手していたのだから。

 

「(あー…死ぬんか、こっから勝ち筋見当たらないな)」

 

芝浦の制限時間はまだまだ残っている、もはや須藤の奇策であるカードを取り出す余裕もない。

終わった、そう思った時だった。

 

「最初から…これが目的だったのか!!!」

 

「(…何が?)」

 

★★★★★

 

弄ばれていた、いつからと聞かれたらおそらく最初からだろう。徹底的に防御に回るのに疑問は持っていた、だから攻撃になりそうなカードは全て封じた。

ライダーとして須藤の手札は少ない、だから攻撃に転じなかった、須藤は大したことはなかったのだ。そう考えていた。

 

だが、結果はどうだ。

 

「最初から…これが目的だったのか!!!」

 

怒りが抑えられない、誰へのと聞かれたら芝浦自身の怒りだろう。須藤はヤバい、そうわかっていながら戦いの中で油断させられていた。

警戒していたのに、油断させられていたのだ。

 

盾で威力を吸収されたが何とか当てた攻撃でも疑問だった。不自然過ぎた、直接秋山に当てた時よりも飛び過ぎていた。秋山がダンベルなら、須藤はまるで段ボールを蹴り飛ばすように飛んでいった。

 

それも策略の一つだったのだ。

わざとガードをずらし、最低限のダメージで最高のパフォーマンスを行うために。芝浦と距離をとるためだ。

わざわざ疲れた振りをして、うっかりガードが外れたように見せた須藤の演技力は計り知れない。

 

須藤は地面に座り込んだまま、手に持っていた…芝浦から奪い取ったカードをバイザーにセットする。

いつ取られたかは芝浦にもわからないが、おそらく吹き飛ばされた直前だろう。その瞬間に抜き去ったのだろう。

 

【ADVENT】

 

けたたましい獣の雄叫びが遠くから響き渡る。

空中を高速で移動する風切り音までもが響き、芝浦の目の前にそれはやって来た。

赤い装甲は夕日で光輝き、そこらのモンスターとは一線を格す圧力がそこからは発生していた。

 

「グォォォォォォォォォン!!」

 

ドラグレッダー、芝浦が奪った城戸のカードだ。

 

そして、ドラグレッダーが獲物として狙うのは芝浦だった。

 

「ぐはぁっ!?」

 

炎の球は芝浦に直撃した。元々スピードの無い芝浦だ、だがその代わりに防御力があった。その防御を軽々と越える攻撃を受けたのは想定外だったが。

 

「くそっ!!スドウめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

須藤の先程までの不自然な行動、答えはこうだろう。

 

城戸という子分を痛め付けた芝浦、それの仕返しにあえて痛め付けた城戸のカードで逆襲すると。

だが、カードは芝浦が持っている。そのカードを奪うために、あのような雑魚を演じ、油断させ、その隙にカードを奪ったのだ。そして、全て須藤のシナリオ通りとなったのだろう。

 

「がぁぁっ!!」

 

絶え間無い炎の攻撃が芝浦を襲い続ける。

 

これは、須藤の復讐。ただ倒すのではなく、できる限り芝浦へダメージを与えるための復讐。悪魔の所業、芝浦はただひたすら生き残るためにミラーワールドを走り続ける事しかできないのであった。




Q,神崎って何で須藤を警戒してないの?

A,神崎は須藤のステータス等が見えるわけでは無いですから、それにオーディンの前には全てのライダーは等しく雑魚ですから。基本的にどのライダーも警戒に値してないです。


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22話 復活の呪文

回復力と防御力が高くて、中の人のスペックが高いライダーが居るらしいぞ。チートかな?

チートだったら良かったなー…


秋山がやられ、須藤が戦っている。

そんな事を秋山から電話で伝えられると、直ぐに手塚はバイクを走らせた。

 

今から向かっても間に合わないのは確実だが、手塚は知りたいのだ。須藤とはどれ程の強者なのかと。

 

秋山は頑なに口を閉じ、城戸からは抽象的過ぎてよくわからなかった。須藤が強い、それしか城戸からは伝わらなかった。だが手塚の目も節穴ではない、須藤には特別な何かがある、そう確信している。

 

そして学校に着き、最初に見つけたのは秋山であった。腹をおさえて地面に座り込んでいる。どうやら芝浦との戦いでダメージを負ったようだ。

しかし、命に別状は無さそうである。

 

「おい蓮、須藤さんは?」

 

一緒に来た城戸は秋山に駆け寄る、手塚は付近の安全と須藤のバトルを見れたらと思い周りを見回した。

 

「…終わったらしいぞ」

 

遠くの方で苦痛の悲鳴をあげた声がした。見てみれば、傷だらけの芝浦が居る。そして近づこうにも怯えたように走り去っていく。城戸のカードは恐らく取り上げられただろう、須藤がわざわざ生かしてボロボロにしたのだから。手塚は何をしたらあの男の心を折れるのかがわからない、ただ一方的に殴り倒してもライダーバトルなら不意を狙ったりと勝ち筋はいくらでもある。だが、完膚無きまでに粉砕していた。いったい何をしたんだと。

 

そして芝浦が去って数秒すると、遠くの窓ガラスから須藤が現れる。コートの襟首を治したりと、ライダーバトル後の身だしなみを整えている。

 

だが、驚いたのはそこではない。

 

「(無傷での勝利…?秋山を倒したライダーに?)」

 

傷らしい傷も、痛がる素振りも無い。無傷で、あのライダーを倒した。何をしたからはわからない、そしてその手には1枚のカード…城戸のカードがあった。

 

「(最強のライダー…とでも呼ぶべきか)」

 

これにより、手塚は須藤の力を認めたのであった。

 

★★★★★

 

辛くも、何とか生き延びた須藤。だが須藤に傷は見当たらない、逆に芝浦には大量の傷が身体中にできているだろう。

ドラグレッダー、須藤にそれだけ強力な奴が来てくれたならどれだけ心強いのか。

 

「さてと…城戸君に渡しに行くか」

 

須藤の手には二つのカードがある。

一つは芝浦から奪い返したドラグレッダー、ADVENTのカードだ。

そしてもう一つは須藤のカードだ。これは須藤の作った秘策…と呼べるかはわからないが便利なカードだ。

 

これを作ったとき、作れたときの須藤の気持ちは形容できないだろう。

蟹に限らないが、いくつかの生物には自切という捕食者から逃げるときに体の一部を切り落とす生態を持っている。

須藤が眼をつけたのはそこだ、蟹ならば手足が切り落とされる。ならば蟹の腕はそのままか?否、しっかりと栄養を取れば複製され元に戻る。

 

須藤は身の負担を軽減する方法を模索していた、ライダーやモンスターとの戦いで腕を切り落とされる可能性だってある。ならば、そうなっても大丈夫なカードを作ろう。

 

カードに念じたのだ、「お願いですから!!回復力を俺に分けてくださぁぁぁぁぁぁい!!」と。

 

その願いは叶った、むしろ叶いすぎた。

 

【REBIRTH VENT】

 

復活の呪文である。これができた時には須藤は「へぁっ!?」と驚いたウルトラマンのような声が出ていた。

だが正確には復活の呪文ではない。これは時間の巻き戻しに近いレベルの回復のカードだ。他者に対しては使えない、元に戻るだけなので須藤が瀕死なら助かるが死んだら使えない。そして効果の代償なのか、週に一度しか使えない。

そもそも、こういうのは相手を疲弊させた時に使えれば強いカードなのだ。だが、須藤は元が酷い。どれくらい酷いかは三輪車がイージス艦に挑むと言えばわかりやすいだろうか。そんなの相手に何故勝ててるのか、須藤には全くわからない。

 

だが後に、須藤は気づく。「これただのゾンビと変わんないんじゃ…」と。回復力と防御力があっても、まずは相手を凌ぎきる持久力が足りない。人としての持久力は高いがライダーのスペックが足りない所を少しでも補うのに持久力は必要だ。

 

例えば10の攻撃を防ぐのに他のライダーは10の体力を使うとする、だが須藤は30以上とその何倍もの体力を使わなければならないのだ。他のライダーの体力が100で須藤が300でやっと成立するのだ。だがこれは防御に限っての話だ。

 

そして攻撃力、それが須藤の求めるもの。それさえあれば須藤は無敵かもしれない。防御力に回復力を手にいれた、あとはそこをサバイヴか何かで補う。

 

「須藤さーん!!」

 

遠くから城戸の声が聞こえる、見てみれば手塚と秋山も居た。

 

「もう少し…人生楽にならんかな」

 

そんな事をぼやくが、その願いが叶う可能性は低いだろう。

 

★★★★★

 

いつ頃から計画は狂ったのだろうか。

世の中を自分に住みやすく、楽しくするため。

ライダーバトルを真似たゲームを日本に、世界に広げようとした。昔見た【自殺サークル】なんて映画ほど、広がれば面白いなぁ。そう考える芝浦が今居るのは、警察署だ。

 

芝浦は傷だらけの体のまま、警察署に連行されていた。無警戒であった島田というOREジャーナルの人間によって、芝浦の計画は頓挫した。

まさか、芝浦と同等かそれ以上のハッキング技術があるとは予想できなかったからだ。

 

そして、同時進行していたライダーバトルでの楽しいゲームも頓挫した。

そして、取調室で刑事とのつまらない掛け合いに飽き始めてた時に奴は来た。

 

「また会ったな」

 

須藤雅史、ここまで頭の回り実力もある男はそうはいないだろう。その表面上の性格は穏やかだ、だが中身は身内に手を出すものには一切の容赦が無い。身内には聖人だが、身の外は…怪物や悪魔としか表現できないだろう。敵に回すべき人では無かった。

 

「俺を立件、できると思うの?」

 

なぜ芝浦がこんなことを聞いたかは、ちょっとした反抗である。自分は大企業の御曹司、そう簡単には牢屋にぶちこめない。

牢屋にぶちこんで、ライダーバトルからフェードアウトする事はできないぞ?暗にそう伝えると。

 

「いや、無理だろ。顧問弁護士に北岡さん居るし」

 

あっさりと認めた。そのあまりの手応えの無さに芝浦は呆然とする。だが芝浦も知恵が回る男だ、直ぐに理解する。

 

「(俺程度…何の障害にもならないってことかよ、ふざけやがって)」

 

心の中で呟くのはこんな事をわざわざ須藤に言う必要も無いからだ、須藤は自分よりも頭の回る嫌な奴だからだ。

 

「それに…北岡さんに借りを作る程、俺も盲目じゃない」

 

芝浦のこめかみがピクリと動く。新たな勘違いに気づいたからだ。たしかに、障害にもならない雑魚と思われてるかもしれない。だがこの男は、やろうと思えば芝浦を牢獄に閉じ込めることもできるのだと。

 

弁護士の北岡とのコネクションがあるのだ、人脈もあり力もあり、知恵もある。

秋山や城戸が須藤を認める、いやそれだけのカリスマを持っているのを再確認した。

 

「…弁護士、呼ぶよ」

 

持っている力の敗北を悟った芝浦はそう弱々しく呟く。

 

「そうか、じゃあな」

 

そして、それを予期していたのだろう。特に気にも止めずに須藤は取調室から退室する。

 

「次は勝つから、お前には…負けない」

 

退室の間際、芝浦はそう小さいながらも確かな力を感じさせる言葉を言う。

すると須藤の足が扉の前で止まった、そして振り向きもせずに須藤はこう言った。

 

「大人は暇じゃないんだよ。俺以外のライダー倒したら、考えてやる」

 

★★★★★

 

秋山の死の色は消えてはいなかったが、薄くなっていた。これは須藤のおかげなのだろう。手塚の占いはAnotherのヒロインのように死の色を見たら直ぐにわかるという物である。

 

たが彼の能力はその更に上、見たものを占えばどのように死ぬのかすら見ることができる。運命という物を覗ける能力者だからこその能力だ。

 

そしてその能力をいかし、彼は行動していた。

 

神崎優衣と見つけた洋館は二人の秘密とした、理由は特に無い。ただ強いて言うのなら少しでも運命を歪めずに手塚自身が調べたいと考えているからだ。

 

神崎士郎、そして神崎優衣を調べるために。

 

神崎優衣の方は10歳頃両親に不幸があり、今の家に引き取られたらしい。そして両親の亡くなった場所だが、あの洋館であった。原因不明の爆発事故だったらしい。

 

だが、神崎優衣には幼少期の記憶は無かった。何も覚えていないのである。不自然だ、ショックによる記憶喪失なんて物じゃない。神崎優衣は記憶を消されたのだろう、運命すらねじ曲げる記憶の消去など聞いたこともない。

 

なので手塚にできるのは、運命を覗ける範囲で最も古い記憶。もしくはそれに関するであろう記憶を探し、見つけていた。

 

「…ここか」

 

神崎優衣の過ごしていた、小学校。

 

「すまないが、10年前に4年生を担当していた吉田という教師はいらっしゃらないかな」

 

中も至って普通の場所で、特筆することも無い。

事務室に行き、記憶では神崎優衣の担任であった吉田という男性教師を呼ぶ。

 

「吉田教頭は現在会議中でして、少々お待ち頂いても宜しきでしょうか?」

 

「わかりました、では待たせて貰います」

 

応接室に通され、フカフカのソファーで待たされる。学校自体はどこにでもある公立校だ。今回の目的は、神崎兄妹の情報の入手。それだけだ。

 

「待たせてしまって悪いね、教頭の吉田です」

 

そしてやって来たのは中年の男性教師だ、少し体型がふくよなかで白髪混じりの黒髪に眼鏡をした人だ。

 

「手塚と申します、神崎優衣さんとは恋人の関係を築かせて貰ってます」

 

そして手塚は準備していた言葉をそのまま話す。神崎優衣の恋人と偽るのだ。そして、手塚は占い師だ。占い師とは巧みに人の心を掌握する職業の人間だ。

 

手塚はその巧みな話術を披露すると、最初は少し警戒していた教師から緊張感は無くなっていた。

 

「ほう…なるほど、つまり結婚式でのビデオレターかな?」

 

「まぁ、サプライズで」

 

にこやかな作り笑いで場の雰囲気を良くする。ここまでは手塚のいつも通りにやっている事と変わらない、そしてバレないように相手の運命の記憶を覗き込む。

 

「ですが、まだ式の日取りも何も決まってないので…こうしてアポを取りに来ました。」

 

「そうだ、神崎さんの昔話でも聞いてくかい?」

 

「いえ、それはビデオレターの楽しみにしておきます」

 

手塚は万が一の予防線は張っておく。ここにはビデオレターのアポを取りに来ただけ、ストーカーが神崎優衣の恋人を成り済ますという事になればめんどくさくなるからだ。

 

「(両日から虐待を受けていた子供、それ位か。記憶がないのはショックの影響かもしれないが、他に目立った情報は無いか。)」

 

部屋を後にするが、まったく情報が無いわけではない。記憶には神崎優衣の同級生らしき人物に他の教諭。まだ調査は始まったばかりなのだ。

 

記憶を紐解いて行けば必ず見つかる筈だ、何かしらの神崎兄妹の情報が。

 

★★★★★

芝浦の事があってから三日ほど。

いつものように軽くモンスターを狩ってから戻ってくるといつもの光景とは程遠い慌ただしい状況だった。

 

「皆さん、どうかしたんでんすか?」

 

須藤がそう聞くといつもは目も合わせない先輩刑事が答える。その目には須藤を見つけた歓喜と何かに対する絶望を感じた。

 

「緊急事態だ、お前も直ぐに準備しろ!」

 

須藤は厄介事が起こったのだと把握する。恐らくかなりめんどくさい状況なのだろう。そこで須藤という猫の手も借りたい状況で肉壁も手にはいると。

 

いったい自分にどんな面倒な案件をなすりつけてくるのか、そう考えていると先輩刑事ははっきり答えた。

 

「浅倉威が脱獄しやがった!」

 

頭の中でその名前が木霊する。浅倉威、須藤にとって最大の脅威、須藤が会いたくない人No.1,須藤を殺しそうな人、というかSPだったら浅倉は須藤を殺してた。

 

ライダーの世界に刑事は要らない。そんな言葉を思い出していると、これから我が身はどうなるのかと不安で押しつぶれそうになる。

 

そして、止まった。

 

「あ…はい」

 

須藤の思考は停止、それしか答えることができなくなった。先輩刑事の後を付いてくだけの親を追いかける小鳥程に須藤は思考は停止してしまった。




Q,一番書きやすいキャラは?

A,手塚、あれは書きやすいです。あと手塚の時系列が分かりにくいかと思うので並べとくと。

芝浦事件→洋館→小学校訪問→浅倉事件です。


須藤「北岡さんに借りを作るほど、俺も盲目じゃない(どうせお前死ぬのに、そんなのしたら無駄じゃん)」


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23話 立て籠り事件

すいません!今後は頑張って投稿します!


家族で賑わう筈のファミリーレストランは、今は恐怖が渦巻いている。椅子や机は即席のバリケードに利用され、中に居た人達は一ヶ所に纏められている。

 

「お願いします、娘を離してください!」

 

そしてバリケードを背にして座る男、浅倉威は少女を捕まえていた。慎重で狡猾で残忍な男は、把握してるのだ。ここからの警察の動きなぞ取るに足らない、予測でき新たな力を手にいれた浅倉からすれば目の前を通り過ぎるハエのようにうざいだけのものとなっている。

 

「始まるぞ…祭りの時間だ」

 

そしてその場で唯一。

 

「(おいおい…どういうことだよ)」

 

城戸真司はミラーワールドに居たということで人質とならずに、難を逃れ…いや、受難を得ていた。

 

この状況で城戸真司が出来ることなどたかが知れているだろう、最悪なのは人質が増えることだ。今の城戸にできるのは隠れていること、そして刑事である須藤へ連絡を取ることだろう。

 

「(須藤さん…)」

 

スマホで須藤へひたすらにメッセージを送るが、既読はつかない。

 

須藤の助けを期待したい城戸だが、事態は刻々と進み続けていた。

 

★★★★★

 

「…警部、どうなさいますか」

 

不安そうに顔色を伺う若い刑事は、無言で「こちらからは打つ手が見当たらない」と返事をするのを見ると無言になってしまう。

 

この状況に陥っているのには理由がある。

 

「機動部隊ですが…到着が遅れてるようで」

 

1つはこれだ、機動部隊が投入できる準備が終わっていないのだ。これで下手に刺激したときに現場の警察官だけで対応が出来るかと言われると、難しいと言える。

 

更に言えば中の状況も把握できていない、中にどれだけの人質がどのように捕らえられているのか、椅子や机でバリケードが作られている可能性も高いだろう。

 

今は立て籠られたファミレスに向けて電話を繋いでいる。現場にできるのは包囲したこの場所でいかに時間を稼ぎ、犠牲者を出さないようにすることだけだ。

 

「警部!」

 

「なんだ、この忙しい時に」

 

一台の車が現場へやって来る。普通の乗用車であり、そこからは三人程刑事が降り立つと遅れて一人の茶色いコートに身を包む男が現れる。

 

「須藤が到着しました!」

 

「っ!!あの、須藤雅史か?」

 

須藤とはあの須藤雅司のことだろう。並の警察官100人と等価かそれ以上と呼ばれているあの須藤雅司のことだろう。

 

数々の難事件を独自に調査、何人もの凶悪犯を逮捕してきたあの須藤雅司だ。

 

少し前までは上司に恵まれなかった等色々と大変であったようだが、その生ける伝説とも呼ばれている男が来ているのだ。

 

その男をチラリと見てみると警部の男は軽く戦慄する。

 

他の刑事が今の状況に少なからず緊迫感を感じているにも関わらず平然としている、まるで自分には関係が無いとでも言ってるようだ。

 

だが、直ぐにその瞳を見て警部にはわかる。

 

「(…研ぎ澄ましている。あの眼光、噂は本当だったか)」

 

決して熱くならず、冷静に、そして静かに闘志を燃やしているのだろう。

 

だが、相手もまた生ける負の伝説とも呼べる犯罪者だ。やくざであろうが子供であろうが苛ついたという理由で惨殺する男だ、並の警察官では奴に立ち向かうことすら不可能だろう。

 

「遅れました、警視庁の矢沢です」

 

「警視庁からわざわざご苦労様です、頼りにさせて頂きます」

 

やって来た警視庁の刑事と軽く挨拶を交わし、もう一度警部はチラリと須藤を見る。その須藤視線は自分達へは向けられていない、立て籠られたファミレスの方へ向けられている。既に浅倉しか見えていないのだろう。

 

呆然としたような瞳をしているが、これも全体的に現場を見ているのだろう。

 

すると一人の警官が駆け寄ってくる。

 

「警部、浅倉と回線が繋がりました」

 

遂にか、こちら側はまだ準備が整のっていない。

 

だがここからが現場の仕事、いかに時間を稼ぐかが重要性となってくる。

 

「…浅倉か、私はここの指揮を任されている山田だ。要望はなんだ」

 

金か?車か?食事か?どれも今の浅倉の欲するものとしてはピンと来ない、そして警部の男の嫌な予感は的中する。

 

「弁護士の北岡を呼べ、そいつと引き換えに人質を解放する」

 

 

★★★★★

 

手塚のスマホが鳴り響く。

 

着信は城戸からだ。今は午後を少しすぎたころ、現在も神崎について調査を進めている最中で、一段落ついたところなのでちょうどよいタイミングだろう。

 

「城戸か、どうした?」

 

城戸からかかってきた電話、内容は簡単に纏めると「須藤さんを知らないか?」と「脱獄犯が来ててヤバい」である。

 

そう聞くと手塚は「わかった、直ぐに…」と城戸を助けるために動こうとするが、その動きは止まってしまう。

 

「…状況は分かった、だが直ぐに向かえそうに無い」

 

何故か、そう訂正し直す。

 

そして「秋山には俺から連絡しておく、そのまま身を潜めていろ」と足早に最後は伝えて無理矢理に通話を切る。

 

普段の彼ならば絶対にやらない行為だ、だが状況が変わってしまったのだ。

 

「神崎士郎、何のようだ」

 

突然現れた、神崎士郎によって。

 

「妙な詮索をするのはやめろ、身を滅ぼすことになる」

 

手塚は驚きを隠せない。

これは警告だ、手塚はコソコソと動いていたわけではないがバレるのには早すぎる。ライダーバトルとは関係ない事の方が聞き込み場所は多かったにもかかわらずだ。

 

流石はライダーを管理してる者だ。どこまで把握しているのか、手塚には検討がつかない。これなら恐らく、妹や他のライダーの動きも注意深く観察しているのだろう。

 

だが同時に収穫もあった。

 

「俺に隠し事をする事は…1人を除いて不可能だ。必ず、ライダーバトルは終わらせる」

 

神崎が警告をしたという事はだ、神崎にとって触れられたくない情報がこの調査の先にある可能性が高いからだ。これは大きな収穫だ、後は見つけることだけだ。

 

それに手塚に真なる意味で隠し事ができるのは、1人を除いて存在しない。神崎は手塚にどんな方法を取っているかはわからないが、心を見せない。それを解き明かすヒントがあれば、手塚に勝機はあるのだ。

 

「警告はしたぞ」

 

すると神崎は消える、やけにあっさりとした警告に拍子抜けする手塚。

 

「わざわざ警告しておいて…何も無しか」

 

何の目的があっての警告か、だが今はそれをゆっくりと考えている時間は無い。

 

手塚は直ぐに城戸の元へ向かうためにバイクを走らせた。

 

★★★★★

 

北岡は嫌な役回りだと思いつつ、その場に来ていた。

 

「ご協力感謝します」

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

敬礼をしてくる警官達に囲まれ、大量の報道関係者が居るのを確認する。それを見て北岡は安堵する、これだけ集まったメディアの前で警察が万が一にも守れなければ大問題となるからだ。

 

それと、ここらでクリーンなイメージを見せるために来たのだ。

 

北岡はかなりグレーな仕事も引き受ける、黒よりのグレーの仕事をだ。そんな北岡のイメージアップに今回は持ってこないなのである。

 

「部隊はまだなのか!?」

 

「まだの…ようです」

 

後ろで嫌な会話が聞こえてくるが北岡は聞かなかったことにする。

 

「(なんで準備が終わってないかなぁ、浅倉は殺すときは殺すよ?まずかったかなぁ)」

 

少しだけ北岡は後悔するが、その隣に居た警官を見て少しだけ驚く。

 

「(須藤さん…そうか、刑事だったからな)」

 

北岡も弁護士だ、須藤の噂は嫌というほど耳にはいる。

 

すると北岡は須藤と目があった気がする、直ぐにファミレスへと目を向けたが須藤は北岡から何かを読み取ったのか少しだけ身震いをする。

 

「仕方ない…須藤、北岡さんが入り人質が解放されたと同時に浅倉を…おい、須藤!?」

 

そして、北岡が現場の指揮を取る刑事から話を聞き、ファミレスへ向かおうと歩を進めた瞬間的。

 

「須藤さん!?」

 

北岡も思わず叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして何故か、須藤はファミレスの窓を突き破った。




活動報告にて色々と報告したい事がありますので、読んで頂ければ幸いです。

Q,須藤は気でも狂ったのか?

A,はい、半分狂ってます。そういう状況です。


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