東方与太噺 (ノリさん)
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或る男その世界に落ちる

というわけで、ここを開いたあなたは心優しい人だと思う(勝手な想像)

楽しんで頂ければ最高に嬉しいです。

初めての東方作品で不安いっぱいですがどうぞ。


恥の多い生涯を送って来ました。

 

 

今でも愛されている小説の言葉だ。

俺はまだ自分の人生を生涯と呼べるほど生きちゃいない。やっと20歳になってお酒が飲めるようになったのだ。そんな若造が生涯とか大げさだと思う。だけど、正直自分の人生を振り返れば恥の多い人生だったと思う。

 

 

 

 

 

まぁ、そんな事は置いておいてだな。俺こと鷹崎 仁はくそ眠い。

それも、目の前でヘラヘラしてるイケメン、大町亮のせいだ。

 

 

「仁~、そんな眠そうな目で俺の事睨まないでくれよー」

「うっせぇ。プレゼンの資料の作成から何まで俺が肩代わりしてやったんだ。睨まれるくらい我慢しろ」

「まぁまぁ、約束通り焼肉おごるって~。それで許してよー」

「よし、今日のプレゼンが終わり次第すぐ行くぞ」

「え?この後行くの?女の子呼べないじゃん」

「女を呼ぼうとするな。さっさと行くぞ、もう授業始まる」

「何が悲しくて男2人で焼き肉に・・・・・って睨むなよ、わかったからこの授業の後な」

 

こっちこそなんで仲良くもない人間と飯食いに行かにゃならんのだ。

急がないとな。スクリーンとかも用意しないといけないから早めに教室に行かないとマズいんだよなぁ。

 

 

****

 

さて、少しだけ俺こと鷹崎仁について説明しておこうと思う。

といっても、年中学業と部活とバイトに勤しむ大学3年生。料理と裁縫が好きな眼鏡をかけた変な男だ。他にも好きなものはあるが割愛。

自分で自分の事を変とか言うのも変かもしれんが、実際変なものは変なのだから仕方がない。

ま、遠慮なく思った事とか言っちゃうから、敵視?されやすい。

身長が高くガタイもあり、「魚の死んだ目」と親から言われるような目をしているため結構怖がられる。

色々あったので人と話したりするのは得意ではない。色々の部分を話すと長くなるのでスキップ。

人と話したりするときは笑顔で話すようにしている。ただ無理してやっていたからか、後輩から顔が引きつってて怖いと言われた時はショックだった。

 

こんな事しか言えないような面白くない男だ。この世界に合ってないなんて思ってるくらいだ。

 

 

一応、大町亮とはそこそこの長い付き合いで俺なんかより人気者でモテる。あいつの性格というか人柄があっての事だとは思うが。大雑把に言えば本とかに出てくるスペックの高い男だと思えばいい。

そんなやつがなんで俺みたいのとつるんでんのかはわからん。

 

 

ま、たまにやらかした事を俺に持ってくるので迷惑な奴ではあるが、悪い奴ではない。

 

 

 

 

****

 

 

 

さて、俺は無事終わったプレゼンからの解放感に拍車をかけるように大好きな焼き肉屋に来ている訳だから気分が高揚している。いったん家に帰って財布とケータイ、ヘッドホン、携帯充電器、そして何よりも大切にしている小さい綱を輪っかにしたようなお守りなどを出かける時の鞄にまとめて身軽になってから今現在に至る。

 

「ハラミとシロ2人前。あと、砂肝と冷麺1人前ずつ」

「まだ食うのかよ!?すでに2、3人分の分量食ってないか⁉・・・ってまぁいいや。お前のおかげで単位確定したようなもんだし好きなだけ食えよ。俺ももうやけだ。すいませーん、ハイボールとやみつきキャベツ1つずつ!」

「ここは安くて美味い学生に味方の店だから会計は安心しろ。しかし、プレゼン終わった目の前でそのチーム全員の成績が通達されるのは内心驚いた」

「あれなぁ、先輩たちから聞いたら3年前期の最大の試練だって言ってたよ。後輩にあえて言わずに笑いながら眺めるのが4年の楽しみだとも言ってた。あの厳しい先生の授業で秀判定が取れたのはまさしくお前のおかげだな。先輩たちが本気で驚いてた」

「ま、役に立ったんなら何より。おかげで俺もうまい飯が食ている訳だしな」

「ホントお前美味そうに食うよなぁ。普段からそんな表情してればモテるだろうに」

「恋愛事に興味がないわけではないが、モテたいと思ったことがないし、そんな事にうつつを抜かしている暇は俺にはない。それに俺のスペック的に彼女が出来るとは思えん」

「辛辣ぅ。でも俺たち大学生だぜ。彼女の1人や2人は欲しいだろ」

「2人いたら浮気だと思うけどな。あぁ、お前にそんな修羅場みたいな事があったらちゃんと言ってやる。いつかやるんじゃないかって思ってましたってな」

「それは、何かの事件の近隣住民インタビューの時とかでたまにある奴だよなぁ‼」

「大声あげるな血圧あがるぞ」

「誰のせいだよ。ったく、お前の美味そうな表情と喋ってたらまた少し腹減ったきたし俺なんか食お」

「あぁ、それならここの煮卵茶漬けは絶品だ。俺が保証する」

「お前の保証なら間違いはねぇな」

 

 

こうして、何気ない幸せな時間は終わっていった。

 

 

 

****

 

 

 

 

 

焼肉屋で別れた後、亮とは別れた。あいつはこれから先輩たちと飲みに行くらしい。

俺も誘われたが全力で拒否した。めんどくさいから。

明日からは夏休みなので静かに過ごすために、部活に勤しみながらもバイトして1年間ためてきたお金を全部引き出してきた。80万くらいある。

 

「はぁ、食った食った。あ、洗剤買わないと洗濯できないな」

 

近くのコンビニで買えばいいだろう。だいたいコンビニに行けば何でもある。

 

 

と思った瞬間、景色が一変した。たくさんの目に囲まれてるとか気持ち悪い。

 

カイガン‼オレ⁉

 

なんだこれ?!と思ったのもつかの間、また景色が変わった。

 

 

―――――――――――――かなりというか、とんでもない高さの空に落ちてきた。

 

自分でも何を言っているのかわからないが、起こってしまった事を端的に言うとそんな感じなんだ。すまない。

おかしいなー、空って地上から上ったり下りるりたりするもので、いきなり空から落ちるってないんだけどなー。

なんて現実逃避をしてみたが限界だった。

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼死ぬ、これは死ぬ、マジで死ぬ、やばいやばいやばいやばい!」

 

俺は高いのも苦手だし、絶叫マシンみたいなものは怖くて苦手なんだ‼

夜だから月明かりしかない。下がはっきり見えないのは良いんだか悪いんだか。

やばいやばい、ほんとにやばい、このままじゃ本当に死んでしまう‼

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

とんでもない高さから落ちているせいかえらく落ちるまで時間がかかる。高いのとか怖いのに変わりはないんだけどさ、落ちるまでの時間を持て余していると言っても良い。やっと地上が見えてきた位だからまだ相当時間があるなー。

 

 

父さん母さん、息子はよくわからないままつぶれて死ぬようです。今までありがとう。

 

弟よ、お前は俺とは真逆でスペックも高くて人気者でモテモテでしたね。嫌味ったらしくそのさまを見せつけてくる辺り兄はそんなお前が心底大嫌いです。

 

亮よ。ちゃんと課題はしろよ。お前には世話になった事もあったが俺も世話したし貸し借りなしだ。幸せになれよ。

 

 

はい、俺の人脈のなさから暇つぶしの遺言のようなものも終わった。

もうなんか、高いのとか怖いけど叫ぶほどじゃなくなった。あとは落ちるだけ、うんわかりやすい。

 

突然強風に襲われた!

風に吹かれて豆腐屋ジョニー。うん、通じる人少ないな。

 

通じる奴がいたら俺はそいつと仲良くなれるような気がする。気がするだけでなれるかは別だが。

 

そんな事は置いといて、かなりの強風に吹かれ続けたおかげで、落ちる地点が変わったような気がした。

ので、怖いが下を見るとこのままでは地上に空いている大きい穴のようなところに落ちるように見える‼

 

 

って、焦っても落ちるしかないんですけどねー、HAHAHAHA‼

 

 

~~9分後~~

 

 

はい、穴の中に入ってしまいました、ホールインワン。俺の命もホールインワン。ちょっと何言ってるかわかりませんね、はい。

 

少し蒸し暑いような気がするがそんな事はどうでもいい。

 

 

もう目を閉じよう。きっともう助からない。最初から分かっているけど。

はい、終了終了。俺は地獄行きだろうなー。そんな物があればだけどさ。

 

と、思ってたら、気が付いたら無風になっていた。

 

これは、おかしい。穴に落ちた後も少なからず風というか空気というかそんなものを感じた。

勇気をもって目を開けようとしたら、体ににかなりの衝撃がきた。

 

「かはっ」

 

いきなりの衝撃に変な声が出た。おまけにむせた。そして、格好は何とかマンにやられたヤム〇ャのような体勢だった。

 

「げほっげっほっ、ぃっう。なにごと?」

 

目を開け上を向くと地面で寝っ転がっていた。落ちて来たであろう大きな穴はかなり遠くにあるのでかなり落ちてきたことは確かだろう。

あの高さから落ちて俺生きてるのか?知らない間に人間やめてたか?

 

うん、でもやばいな。勢いを殺しきれんかったせいか、なんか左の脇腹が痛い。尋常じゃないくらい痛い。痛みが増してる気がする。骨でも折ったか。

そういえば何で、バトル物の人物って脇腹あたりの骨2,3本もってかれるんだろうね。

 

「あなたは何をしているのかしら?」

「ん?」

 

誰だと思って見てみれば、何と言う事だろう。

この世の物とは思えないほどの美女が俺の事を覗き込んでいた。

 

見た目は本に出てくるエルフっぽい感じ。

なるほどなるほど。俺は死んだんだな。じゃなきゃこんな光景拝めないだろう。

だって、こんなの現実じゃあり得ないし。

 

「あぁ、何だこんな可愛い娘が見えるとは、俺は死んだんですね。最終的な行先はきっと地獄だろうし、地獄にはきっとゴツイ鬼しかいないんだろうし今のうちに見納めておこう、眼福がんぷぶっ‼」

 

信じられない事に顔面殴ってきたよ、この美女。

 

「あなたが馬鹿な事と言うからよ。少しは落ち着いたかしら」

「えぇ、はい、そうですね。めちゃくちゃ痛いです。あと心を読まないでください」

「そう。あと心を読むのは他の奴の特権よ。じゃ、地霊殿はあっちよ」

「地霊殿?なんだそれ?」

「はぁ・・・・、あなたそんな事も知らずにここまで来たの?その能天気さが妬ましい」

「いきなり落っことされて知らない場所に落ちたんだから能天気さは関係ないと思う」

「って事はあなた外の世界の人?何でこんなとこに落ちてるのよ⁉」

「それは俺が聞きたい。ってか外の世界ってなんだよ?」

 

彼女かなり丁寧に説明してくれた。いきなり殴ってきたり、妬んできたりして怖い人かなと思ったが面倒見のいい人なのかもしれない。寝っ転がったまま話すのも気にしてくれてないようだし。

 

「ここは幻想郷っていう忘れられたもの達が来る世界で、俺の元居た世界は外の世界と呼ばれていて、たまに隙間から俺みたいな奴が来てしまうって感じでいいのか?」

「そんな感じで来た人は地上の神社に行けば帰れるわ。例外は除いて基本は帰ってるそうよ。今、そこに行けるよう手配してあげるからから安心しなさい」

「いや、その必要はない」

「何言ってるの?帰りなさいよ。妬ましい」

「なんで妬んでるのかはわからんが、帰る気はないって事だ」

「ここは危ない妖怪とかもいるのよ。大人しく帰りなさい」

「うん、なるほどな。楽しそうでいいね。どっちにしろ旅行に行くつもりだったし大丈夫大丈夫」

「うなずいておいて何で帰らないのよ‼ほんとに能天気ね、妬ましい‼」

「まぁ、そんなにカリカリすんなよ。可愛い顔が台無しだぜ。あ、飴食べるか?」

「あ、うん、い、いただくわ・・・。か、かわいいいいいいいいいいい」

 

そういった所がかわいいと感じさせる面である。とりあえず飴はあげた。

 

ショートしている彼女は置いておくとして、脇腹の痛みがそろそろ限界だ。気を抜いたら耐えられなさそうな痛みになってきた。

 

 

「ところで、そこの女・・・じゃないな。お嬢さん、ここらで腕の良い医者は知らないか?」

「はっ、可愛いなんて言って浮かれさせるなんて妬ましい」

「君は妬まないと死んでしまうのか?それは今はどうでもいいんだ。いい医者知らないかお嬢さん?」

 

「私は水橋パルスィよ。お嬢さんなんてそんな気持ち悪い呼び方しないで頂戴」

 

 

 

妬ましいと連呼する彼女との出会いが、幻想郷での最初の出会いだった。

 

 

 

 

・・・・悪いけどそんな事はいいからとりあえずいい医者紹介してくれないかなぁ‼めっちゃ痛いんだよ‼

 

あ、だめだ、限界。

水橋パルスィと名乗った彼女が驚きながらも抱えてくれるのを最後に、あまりの痛みに俺は意識を手放した。

 

 




はい、最後まで読んで頂きありがとうございます。

ちょと幻想郷に入るまで長いかなと思いましたが、そこはご容赦を。

ゆっくりかもしれんませんが更新していきますので、楽しんでもらえるともう最高でございます。

コメント等で何かあればよろしくお願いします。それでは次回にてお会いしましょう。さようなら。


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其の男地に足付ける

はい、前回読んだ方はまた会えて光栄。初めての方は最初から読んでくださるとかなり読みやすいかと。

長々、語ってもあれんあので、さっそくどうぞ。


「はっ、知らない天井だ‼」

 

起きての一言がこんなのもどうかとは思うが、記憶の最後に会った外ではなくどこか屋内に運ばれたようだ。

おそらく、水・・・・何とかさんが運んでくれたのだろうか。

 

「っいつつつ、おぉ、包帯が巻いてある」

 

もう治療済みと言わんばかりに包帯が巻かれていた。

強打したせいかかなりの大きな痣と腫れが出来たみたいだ

少し薬っぽい匂いもするし、処置が終わってからしばらく眠っていたみたいだ。

暗かった空も、明るくなっている。窓から見える太陽の高さ的にもお昼くらいかなって感じだ。

 

え?12時間以上寝てたって事か!?寝すぎだろ‼

 

薬のおかげか痛みもかなり和らいでいるが、あれだけの痛みを和らげるとか危険なお薬とかじゃないんだろうか。

俺はまだポリスメンのお世話にはなりたくないぞ。いや、一生お世話になりたくないけどさ。

 

 

なんて思っていると、急にトイレに行きたくなった。

しかし、人のうちのトイレを許可なく使うのは気が引けるので―――――――

 

「すいませーん、誰かいませんかー。トイレ使いたいんですけどー」

「勝手に使えばいいじゃない。いちいち確認を取るなんて律儀で妬ましい」

「妬まれる理由がおかしくないか!?まぁいいや。ちょっと借りさせてもらう」

 

 

~~~トイレ中~~~

 

 

 

スッキリした~~~。焼肉の分も出たな。お腹が軽い。

 

 

「さて、えーと、お嬢さんが助けてくれたので良いのかな?」

「水橋パルスィよ。覚えなさい」

「水橋さんが助けてくれたと」

「あなたが倒れた後、何とか私の家まで運んで医者に診て貰ったわ。全治4日の絶対安静だそうよ。人間の治癒力じゃその程度でしょうね」

「そこまでしてくれたのか。いくらかかった?」

「お金はいらないわよ。いいから休みなさい。絶対安静なんだから」

「いや、金はいっぱいあるから払うよ」

「財布見たけど外の通貨じゃない。ここじゃ使えないわよ」

「人の財布の中勝手に見たんですか⁉」

「あなたに払わせようと思ったからね。あれだけお金持って歩いてるなんて妬ましい」

「うーん、まぁいいか。なら貸しにしといてくれ。しばらくはここに居るつもりだからいずれ何らかの形で返す」

「・・・・期待せずに待ってるわ。ところであなた行く当てはあるのかしら?」

「あるように見えるか?こう見えても俺は行き当たりばったりで生きて来た男だぞ」

「自信ありげに言うことではないわね。まぁいいわ、怪我が治るまではここに居ていいから」

「俺としてはありがたいけど、見ず知らずの怪しい男を泊めて大丈夫か」

「わざわざお手洗い使うのに確認するような男なら大丈夫でしょ。私はすることあるからもう出るけど、あなたは休んでなさいよ。夜になったら帰ってくるから、お腹がすいたらそこの果物でも食べてて。それじゃ」

 

 

 

行っちゃったよ。とりあえずお言葉に甘えて果物食おう。腹減ったし。

籠に入ってないあたりわざわざ買いに行ってくれたんだろうか。

冷たいようで優しいなぁ。その優しさが心にしみるよ。きっと普通の男だったら惚れちゃうね。

 

林檎1個にミカン2つにバナナ5本か。違う世界とは言えあっちと同じ食糧があるっていうのは安心だな。

とりあえず、リンゴから食べよう。って包丁ないな。丸かじりでいっか。

 

 

 

 

「しかし、幻想郷ねぇ。異なる世界に来たのかぁ。夢みたいな本で読んだみたいな話だな。そんな事ってあるんだなぁ」

「まぁ、夢でもなんでもなく実際に起こった話だものね」

「そうなんですよね。で、どちら様ですか?」

「あらあら、私のこと知らない?」 

「知らないですね。そんな紫の中華風の服を着た人なんて」

 

過去にコスプレする後輩はいたが、それに等しい恰好がデフォの人なんて知らん。

ましてや俺の女性の家族ないし親族以外のの知り合いなんて片手で数えられるくらいしかいない。

 

「ま、会ったことないから知らなくて当然ね。私は八雲紫よ、よろしくね」

「はぁ、鷹崎仁です。よろしくお願いします」

「いきなりだけど、仁君は何か困ってることとかありそうね」

「そうですね。まずなんでこっちに来ちゃったのかって事ですよね」

「なんでかしらね~。皆目見当もつかないわー」

「正直それよりも、とりあえずこっちの金を得ない事には生活に困るのでどうしようって感じですけどね」

「外のお金とここのお金交換してあげましょうか?」

「本当ですか⁉ありがとうございます‼とりあえず30万円交換してください‼」

「ちょっと、落ち着いて。30万円分って大金を交換するのね」

「ここの物価が分からないのでとりあえず多めに。多くて困る事ってないと思うので」

「ずいぶんあっさり私の言葉を信じるのね」

「えぇ、まぁ、そうですね」

「普通は疑うものだと思うけど」

「まぁ、この場面でそんな嘘ついても八雲さんに得なんてないでしょ」

「偽物のお金と交換するかもしれないわよ?」

「そーゆーこと言ってる時点でしない人だとは思いますけどね。そうだったとしたら、その時はその時って事で」

 

正直今は勝手知った場所じゃないから頼れるものは頼っておきたいって感じだしな。

 

「ふーん、じゃあ、これ30万円分のこっちの通貨ね。基本あなたの居た所と同じだから困る事はないと思うわ」

「じゃ、30万です。ってほとんど一緒ですね。細かい所とか違いますけど、お札と硬貨で変わらなさそうで安心しました」

「さて、ちょと気分が良いからわかる事なら何でも教えてげるわよ」

 

八雲紫さんがそう言ってくれたので遠慮なく聞きたい事を聞きまくった。

 

気絶する前に軽く説明聞いたような気がするけど、とにかく知らない事の方が多いから、情報は出来るだけ多く仕入れておきたい。

 

なるべく負担にならないよう雑談を交えながら話したけど、途中から八雲さんから疲労が見えたような気がする。

きっと気のせい。そう、決して俺が気になったことを聞きまくったから疲れたとかじゃないだろう。

 

 

「結構話し込んじゃいましたけど、八雲さんは時間は大丈夫ですか?」

「ん、えぇ、時間は大丈夫よ。時間は・・・ね」

「なんだか変に意味深長って感じですねぇ」

 

と、八雲さんが後ろを指さし、見ろと言わんかのように指を動かしていた。

あっれーおかしいなーなんか変な汗が出てきたぞー。少し怖いけど後ろを見ることにした。

 

 

「はっはっはっ、何ですか辺に後ろなんか指さして。驚かそうとでもしているんですか?ここには俺と八雲さんしかいませんよ。まぁ、居たとしたらここの家主くら・・い・・・・」

 

 

俺の後ろには鬼のように怒った家主その人が。

あれー、何でそんなに怒ってるの⁉俺、安静にしてたよ⁉

 

「やぁ、おかえりなさい。水・・・えっと・・・そう‼水橋さんですよね。落ち着いてください、お願いだからその手に持ったネギ振り下ろそうとするのはやめて貰えませんか‼」

「人が仕事してる間に他人の家で女とイチャイチャするなんて良い度胸してるじゃないの。妬ましい」

「え?同居人じゃないの?しれっといたからってっきり同居人かと思ってました。八雲さんってここの人じゃ・・・・・ってぇぇぇ⁉あれ?八雲さんは?」

「いなくなったみたいね。・・・さて、大人しくしてたかしら・・・・・って果物なくなってるじゃない。全部食べたの⁉」

「いやーつい、お腹減ってたんで食べちゃいました」

「それだけ食べられるなら体は大丈夫そうね。」

「おかげさまで何とか。治療費とか払いますね。どれくらいでした?ってもどれだけかわからないのでとりあえずこれだけ渡しておきます」

 

 

とりあえず3万円くらいで良いかなと思い、渡した。

 

「いらないわよ。これからの生活のために取っておきなさい」

「いやいや、そういう訳にもいきません。ご迷惑おかけした分の対価は払わないと」

「いやでもあなたお金持ってないじゃない。外の通貨貰ってもどうしようにもないんだけど」

「大丈夫ですって。交換していっぱい持ってますから。こうやって面倒見てもらってるのに代金も払わないなんて申し訳ないですし」

 

 

結局、お互いなかなか譲らないので、渡すのに苦労した。最後は水橋さんに折れてもらったけどね。

まぁ、その後に八雲さんを何を話していたかとか根掘り葉掘り聞かれたことの方が大変だった気がする。

 

 

「はぁ、もういいですか水橋さん。さすがに疲れました」

「もういいわ。貴方が何を話してたかはもうこれ以上聞けるものはないでしょうし」

「最初から正直に話してますよ。なんかいも聞いてきたのはそっちじゃないですか」

「それは・・・まぁ・・・。とりあえず脱ぎなさい」

「え?恥ずかしいんでちょっと・・・。しかし、まさかこんな美女に脱げなんて言われるなんてなぁ。人生捨てたもんじゃないな」

「怪我してる所に薬塗るだけだから、馬鹿な事言ってない脱ぎなさい・・・って噓でしょ‼」

 

そんなに驚くことがあるんだろうか。全体的に薄めに痣があるくらいで、見た感じ悪化はしてないように見えるけど。

 

「え?なんかおかしなことでもありました?もしかして悪化した感じですか?」

「いや、悪化じゃなくて、何で何でこんなに早く治ってるのよ・・・・」

「いや、最初がどんな状態かわからないので何とも言えないんですけど、薬のおかげじゃ?すごく腕のいい薬師さんなんでしょう?」

「そうなんだけど、一面痣だらけの酷い状態だったのにどうして・・・・・」

 

(考えながらも薬を塗ってくれる水橋さん。やさしいなー。正直自分で塗れるけど滅多にない経験としてありがたくしてもらうとしよう。正直めちゃくちゃ緊張するが、若干背中にもあるみたいで塗りにくい所もあるようだしね」

 

「心の声が漏れてるわよ。はい、おわり。とりあえず晩御飯作るから待ってなさい」

「すいません、正直者なんで。あ、1つお願いがあるんですけど・・・・」

「なによ?」

「晩御飯、俺に作らせてもらえませんか?」

「いいけど・・・・。作れるの?」

「えぇ、ま、それなりには。って訳でいいですか?」

「なら、好きにしなさい。台所にある物は何でも使っていいから」

「それじゃさっそく。楽しみにしててくださいね」

「それなら期待して待ってるわ」

 

自分で言っといてなんだけど、期待されると緊張するね。

 

さて、食材は一般家庭の例倉庫にありそうなものはだいたいそろっていた。調味料も問題なくある。

正直水橋さんがどれくらい食べるかわからないけど1汁3菜にしよう。

あと、和ものっぽいお皿とか多いから和風なほうが良いかなぁ。

 

そうと決まれば、話は早い。終えれは凝ったものも作るのが大好きだけど、1人暮らしで学業部活とやっていると時間に余裕はない。ので、手早くおいしいものを作ることも出来る。今回はその中間みたいな感じだ。

 

 

「さぁ、お待たせしました。食事が出来ましたよ」

「まぁ・・・」

 

 

〈メニュー〉

 

・炊きたてご飯

・豆腐とわかめの味噌汁

・塩あんかけ豆腐

・鶏胸肉のショウガ餡かけ

・ほうれん草のからし醤油和え

 

メインが和風かと問われれば微妙だからツッコまないでくれ‼

 

「結構おいしそうじゃない。妬ましい」

「妬ましいって・・・・。さ、温かいうちに食べてください」

 

「「いただきます」」

 

 

うん、今日もおいしくできてるな。しかし、釜でご飯を炊くことになるなんて貴重な経験だったな。うまく炊けたようで安心した。ってこれからしばらく釜生活科か・・・・・。

 

みそ汁はいつも作ってたものだから問題なくできているはず・・・・。うん、おいしい。

 

ほうれん草のからし醤油和えはいい感じの塩気と辛みが鼻を抜ける。どちらかと言えば酒が欲しくなる一品。

 

塩あんかけ豆腐は、塩餡をかける前に表面を少し焼いているので、香ばしくもダシの味がある塩餡にって美味しい。余っていたらしい柚子をしぼって入れたの良かったかもしれない

 

鶏胸肉のショウガ餡かけは、醤油・白だし・ショウガ・水で出来る。簡単だけど結構おいしい。

胸肉は水気をとって一口大に切り、筋を横断する切込みをいれ片栗粉をまとわせて、茹でるだけ。そうすると片栗粉のもちもちした感じと胸の柔らかさが良い感じになる。俺はこの鳥を茹でた汁で餡作るんだけどね。この料理は結構俺の仲でお気に入りの料理だったりする。個人的には鶏胸肉食う時の最高の食べ方だと思ってる。

 

水橋さんが満足してくれればいいんだけど・・・・。って睨んでいらしゃる。

 

口に合わなかったかな?それとも少し量が多かっただろうか?

 

「水橋さんそんなに睨んでどうしたんですか?お口に合いませんでした?」

「いえ、そんな事はないわ。とてもおいしいけれど・・・」

 

 

けれど?

 

 

「美味しすぎて負けてる感じが嫌なのよ‼妬ましいわね‼」

 

 

「えぇ~~~。おいしいもの作って妬まれるって・・・・」

「何よ?文句ある?」

「いいえ、むしろ褒めことでしょ。そんだけ美味いって思って貰えたって事ですから」

「ふーん、あなた変わってるわね」

「よく言われます。自覚もありますけど」

「なおさら変な男ね」

「えぇ、ま、これで20年生きて来たんで」

「20年⁉」

「はい、20年ですね。20歳なので。そんなに若く見えませんでした?」

「えぇ・・・。悪いけどもう少し上だと思ってたわ」

「それも良く言われます。気にしないでください。自覚あるんで」

「へぇ~、そうなのね。妬ましい」

「何が⁉」

 

 

 

こんな感じで、お互い手探りな会話をしながら、食事か終わった・・・・・。

これを機にとは言わないが、少しでもお互いの事を知って仲良くなれるならそれは悪くないなとは思った。

 

やっぱ俺って若干老けて見えるんだなぁ・・・・・・。




最後まで読んでくださりありがとうございます。

今回で2話目なのでだいたいわかっていただけたかと思いますが、こんな感じで進めていきます。

間違いなどあったら遠慮なく指摘お願いします。
もし面白いとか好きだよって方がいてくれれば幸いです。・・・・応援メッセージとか送ってくれてもいいんだよ?

はい、すいません。調子乗りました‼
この物語を楽しんで頂けるよう頑張ってまいりますので、次回もまたよろしくお願いします。


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此の男変人につき

はい、待ってる人はいないとは思うがお待たせ‼

気がついたらお気に入りが2つもついてました。大変嬉しかったので1人でテンションあげてました。

さて今回は少し、真面目もしくは暗めのパートがございますので、そんなん嫌やって方はやめておく事をお勧めします。

さて、結構大切な気がしないでもない本編をどうぞ。


食事も終わり、片付けも終えて話すネタもなくなり無言で向かい合いながら茶をすすっていたんだが、非常に気まずい。

女との会話の広げ方とか困った時のフォローの仕方なんて知らないからなおの事困った。

こんなんだったら亮の奴の話ちゃんと聞いとくべきだったか?そんなこと頼んでもないのに喋ってた気がする。

 

ま、俺の気になった事聞くか。

 

「時に水橋さん、聞きたい事があるんだがよろしいか?」

「改まって何よ?」

「ここってか幻想郷って妖怪とかいっぱいいるんだよな?」

「そうね。そこら辺にいっぱいいるわよ」

「みたいだね。で、ここから本題。水橋さんって妖怪とかその類?」

「そうだって言ったらどうする?」

「それってそうですよって言ってるようなもんだと思うんだが。ってかどうもしない。聞く事が変わるだけかな」

「そういう事よ。で、何が聞きたいのかしら?」

「水橋さんは何の妖怪なんだ?」

「そもそも妖怪じゃないわね。橋姫って知ってるかしら?」

「知ってるぞ」

「知らなくてとうぜ・・・・え?」

「いや、知ってるって」

「なんで知ってるの?そんなに有名ではないと思うのだけど?」

「それは俺が賢い奴だから・・・ってそんな目で睨まないで。ちゃんと話しますよ。昔から民間伝承とかそんな感じなのが好きなんですよ」

「じゃ、橋姫について説明してみなさい!」

 

何でそんなに上から挑戦させてあげる的な感じで言われているのか。

大した知識はないと思われているんだろうか?確かにちょっとしか知らないけどさ。

 

「え~、俺の知ってる事なんてたかが知れてるとは思いますけどそれじゃ。橋姫とは、橋を守る女神のことで悪霊や外敵を防ぐために橋の袂に祀られていた男女二神や人柱や水神信仰などが習合したものって考えられてますね。地方によって伝承は様々で性質も多少異なるっていうのは大体どの民間伝承もそうなんですけどね。って話し戻しますね。その中でも最も有名なのが宇治の橋姫で、ざっくり言うと他の女に夫を奪われた女が憎悪と殺意のあまりに宇治川に身を浸して、生きながらに鬼になり恨みを晴らしたという伝説ですね。丑の刻参りの原型も宇治の橋姫って話もあるみたいですね。個人的には橋姫の中だったら宇治が一番好きですね」

「ふーん、よく知ってるのね」

 

なんかにやけながら赤い顔してそらしてるけど、何かあったんだろうか?ってあぁ、そりゃそうか

 

「自分の事を他人に詳しく語られるって恥ずかしいですよね。すいません、もう少し気の利いた言い方出来なくて」

「いやそれは私から聞いたんだから良いのだけど、なんで宇治の橋姫が好きなのかしら?」

「いや、だっていろいろ気になるじゃないですか。面白いし」

「は?」

 

え?なんかまずい事言ったか?

 

「水橋さん?なんかメッチャ殺気的なものが出てる気がするんですけど・・・」

「良いから続けなさい」

「あっ、はい。まず、鬼になるまでがもう面白いじゃないですか。神様も無茶ぶりすんなーって。フツーに考えて無理だろって。かと思いきやそれ達成して本当に鬼になっちゃってるじゃないですか。お前どんだけ嫉妬してんだよって」

「最後の言葉はそれでいいかしら?」

「ま、待て、話せばわかる。決して馬鹿にしている訳じゃないんだ」

「へぇ、どう言い訳するか聞いてあげるわ」

「うん、言い訳ではなんだけども。面白いと思ったのは事実なので」

「問答無用‼」

 

やばい‼余計なこと言っちゃったっぽい‼

こういう時は逃げるに限る‼

 

「お邪魔しましたっ‼」「待ちなさい‼」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

いやもう、こんなに思いっきり走ったのは久しぶりだね。

自分で思ている以上に速く走れた気がするけど何でだろう。必死だったから思わぬ力が出たみたいだなぁ。

 

走りまくった結果、よくわからんとこに来た。人を襲う妖怪とかもいるらしいから、遭遇しなかったのは幸運だったかもしれない。

見た感じ元の世界の飲み屋街みたいな感じだ。

ちらほら酔った鬼みたいな感しのやら、店からどんちゃん騒ぎの声が聞こえてる。

 

「はぁ、死ぬかと思った。とりあえず気配はないし大丈夫だろ」

 

周りを見渡しても殺気らしきものはないのでとりあえず落ち着くことにする。

思いっきり走ったのと、遠慮して晩御飯の分量を少なめにしたせいか少し腹も減った。

ついでにこの世界の店の食事にも興味がある。

で、この場所は偶然にも飲み屋街に近い。

 

「と、なったらやる事は1つだよな」

外食をする‼未知の世界で未知の店に行く。美味いか不味いかはわからないが、それを含めて心が躍る‼

意気揚々と行こうとしたその時、人とぶつかってしまった。ってなんか肩付近に刺さった気がする。

 

ん?人?なんか角が見えるんだけど気のせい?

 

 

「いたた、あんた危ないじゃないか。しっかり前向いて歩きな」

「あぁ、すいません。そのきれいな赤い角に傷は付きませんでしたか?」

「なっ、あ、あぁ大丈夫だよ。問題ない」

「ね~、勇儀。顔赤くしてるとこ悪いんだけど早く次の店行こうよ~。ってお前人間か。ここに、ましてやこんな時間に人間がいるなんて珍しいね。何かあったの?」

「えぇ、まぁ、大雑把に言うと命の恩人に命を狙われることになったので全力で逃げたらここに。でちょっと腹減ったからどこかで美味い物でも食べようかな・・・って感じですかね」

「えぇ、なにそれ。ちょっと面白いね。まぁ、ここで会ったのも何かの縁てことで、一緒に飲みに行こうよ‼」

「ふむ、こういうのも旅の醍醐味かな。御二人が良いならぜひ」

「私は良いよ。で、勇儀は?」

「え?あぁ、私も構わないよ。むしろ歓迎するよ」

「ほほぉん、へぇ、ふぅん」

「な、なんだい萃香。そんなニヤニヤして」

「いやー、べっつにー。何でもないよー」

「じゃ、歓迎されてるみたいだから参加します。ここらは詳しくないので店は御二人に任せます。出来たら美味しいものが食べられる店で」

「まっかせなさい‼」

「じゃ、ここに詳しい鬼の私たちに任せな」

「あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。俺は鷹崎仁って言います。好きなように呼んでください」

「私は伊吹萃香だよ。よろしくね、仁」

「私は星熊勇儀だよ。よろしく、仁」

 

 

この世界での新たな知人が出来た、伊吹さんと星熊さん。俺からしたら結構うれしい出来事だった。

 

 

*********

 

で、案内されたのがうなぎ屋だった。知り合いの店で味も間違いないとのことだったので俺の期待値はかなり高かったのだか、それ以上の美味しさだった。様々な話をしながら飲む酒と肴は良い物だ。

 

うなぎの味を語りたいが、それよりも大きな問題が起こっていた。

 

今はかなりの酒の量を鬼の二人が飲んでいるせいでお店の女の人(かなり綺麗)が涙目になっていたが等の2人は止まる気配がない。

まぁ、鬼だけあって酒には強いんだろうし問題ないんだろうけど。

あんたら自前の酒飲みながら店の酒飲むとかマジカヨ。

ちなみに俺は星熊さん達の酒をさらに水で薄めた物を飲んでいる。

人間には強すぎるんだとか。少し興味はあるがやめておこう。

 

と思ってたら急に伊吹さん達から

 

「さぁ、私たちにアンタの話を聞かせな‼」

「そうだそうだ~。私たち鬼の事はたくさん話したんだからそっちも話せ~」

 

と話を振られた。さて困ったな。

 

「はぁ、構わないですけどそんなに面白い話でもないですよ?」

「話せ~。何でもいいから話せ~」

「そうだ。私達だけ話してお前が話さないのはずるいじゃないか」

 

うん、確かに鬼の事とか、いろいろ聞いたけどさ。

じゃあ、この世界に来手今に至るまでの話でもするか。

 

「じゃあ、この世界に来てからのお話でもしましょうか?それじゃあさっそく

 

 

~~~~青年説明中~~~~~

 

 

と、まぁこんなとこですかね」

「はっはっははは、あんたそりゃあのパルスィも怒るわ」

「いやでも、聞かれた事に答えようとしたらですよ?まだ話しきってないのに」

「いーや、あんたが悪い。もう少し言い方があったろうに」

「こんな話し方しか知らないですからね。難しいですね」

「でも何て言おうとしてたの?」

「え?あぁ、それはですね。橋姫伝説を初めて読んだのが12歳くらいの頃だったんですよ。で、読んだ俺は面白いと思うと同時に羨ましかったんです。橋姫になった女も橋姫に妬まれた男も。女にはそこまで妬めるほど好きな人が、男にはそこまで妬まれるほど愛されて。素敵な人たちで素晴らしい伝説だなって思ってたんですよ。ちょっと俺はいろいろあって恋愛感情とか手の届かないと思ってる感情の1つなんです。だからそこまでさせる感情が気になてきになってしょうがないんですよ、今でも。だから、偶然素敵な人だなって思える人が助けてくれて。助けてくれた水橋さんは橋姫で。水橋さんがとても素敵な人に感じたのは間違いないなかったんだなって思って嬉しくなっちゃったんですよね」

「おぉ、結構文としてはめちゃくちゃだけど良い事言ってるね‼」

「そうですか?だといいんですけどね」

「いいねぇ、あんた嘘はついてないし面白いし最高じゃないか‼私はアンタが好きだよ‼」

 

星熊さんが思い切り背中をたたいてきた。

鬼の力だからフツーに痛い。

 

 

「星熊さん痛いです。って鬼ってこんな気さくだったんですね」

「そうだよ?もっと怖いと思ってた?」

「そうですね。俺の世界じゃ鬼って空想の怖い生物そのものって感じでしたから」

 

泣いた赤鬼とかこぶとり爺さんの鬼とか例外もあるけどな。

 

「あ~、まぁ、確か私たち鬼は力とか人より強かったりするからねぇ。しょうがないさね」

「ま、こうやって楽しく飲めるなら気が楽でいです。あ、安心してください。酒で潰して首は落としませんよ」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

あー、やっちゃったかー。

鬼だからこそ通じる酒のジョークのつもりだったがまずかったか。

 

 

「あぁすいません。同族が討たれた話のネタは不謹慎でした。すいません」

「あぁ、いや。別に気にしなくていいんだよ。本当にあった話さね」

「そうそう。あの時のお酒はとってもおいしかったしね」

「あ、そうなんですか。二人黙ってたから何と言うか地雷踏んじゃったのかと不安になりましたよ」

「いや、単純に驚いただけさ。そんな古い話良く知ってるなって」

「そうそう、それってかなり前の話だよね~」

「鬼と言ったら酒呑童子の話は有名じゃないですかね?」

「そうかな?」「そうなのかい?」

「いや知らないですけどね」

「「どっちだよ⁉」」

「いやぁ、俺の場合は昔から物語とか大好きだったから知ってた感じですかね。ま、さっきも言いましたけど鬼と言ったら酒呑童子の話は外せないでしょう」

「ほほぅ、お前はやっぱり面白いなー。なんでお前はここに来たんだよ?」

「いや、気が付いたら空から落ちてきた感じで何でって言われてもなんとも言えないですね」

「いや、空からって・・・・。飛べないんだろ?アンタ良く生きてるね」

「いやー、奇跡でも起きましたかね~」

「そうかそうか、まぁ飲みな」

「あ、ありがとうございます。この酒うまいんですけど結構強いですね」

「そりゃ、鬼~のお酒は良いお酒~って言うからね」

「ははははは、伊吹さんそれじゃ答えになってないですよ~」

 

それにそのリズムに合わせるならパンツが正解だ。それにその歌も結構古いと思う。

ま、そんな野暮な事は言わないが。

 

「そういえばアンタ鬼の私たちを見ても驚きもしなかったね。なんでだい?」

「あぁ、それはここがそういう世界だからっての知ってましたからね」

「いやぁ、それだけじゃないような気がするな~」

「ありゃあ、バレましたか」

「鬼に嘘は通じないんですよ~だ」

「嘘はついてませんけどね。まぁ、ちょっと長いし暗いですしおすすめしませんよ?」

「私は聞いてみたいねぇ。萃香は?」

「うん、私も興味あるかな。多少長くても暗くてもいいから話してよ」

「それじゃ。自分語りは恥ずかしい気もしますが、ここで一つお話ししましょう」

 

 

******

 

さて、あの世界に居た頃は小学校中学校高校といじめられっ子だったんですよ。

いじめって何かですか?あー、そうですね。同じ寺子屋にいる人間の仲間であるはずの人々から迫害を受けるって感じですかねぇ。

え?信じられない?本当ことですよ。

 

で、親に相談しても解決しない。教師に相談してもいじめてるグループにえらいとこの息子が数人いるから何も行動してくれやしない。で、小学校の始まってすぐの段階でもう親ですら信じずに自分1人でいたんですよね。

 

随分と空っぽな生き方をしていました。

あぁ、学校は行ってましたよ。おかげで皆勤賞です。

 

で、中学2年のころでしたかね。いじめられっ子の俺に話してくるような女がいましてね。そいつが中3の時に死んじゃったんですよ。

 

死んじゃった奴ね、いま思えば大層いい奴だったんですけど、いじめられて誰も信じれなくなってしまってた俺はそいつの事拒絶しまくってたんですよね。

 

いじめられてる俺に関わると自分がいじめられるのわかってて俺に冷たく拒絶したり無視されても何回も話しかけてくれたんですよ。

 

ま、いろいろすっ飛ばしますけど、そいつ死んだ知らせが学校に入った前日にそいつと今までにないくらい大喧嘩しちゃったんですよ。いや、喧嘩じゃないな。アレは俺が一方的に酷い事言っただけですからね。

 

その原因は簡単に言うとイライラしたからですかね。もうすぐ卒業だね。とかさみしくなるね。とか言ってきたんです。

心にもない事言いやがってって思っちゃったんですよ。酷い男ですよね。

で、色々限界だった俺は堰を切ったかのように酷い事言いまくったんですよ。

 

で、そいつは俺の罵詈雑言を泣きながら黙ってたんですよ。

で、最後に俺が「お前がいても、何も変わらん。むしろ気分が悪くなる。失せろ」って言っちゃったんですよ。

本当にひどいですね。

 

まぁ、その時のそいつの顔がまぁ、涙も流さず絶望したみたいな顔してて。

何故かその時は俺もそいつの顔見たらやばいことしたって思って。でなんか俺まで哀しくなってきて。

 

そいつを置いて逃げるように帰ったんですよ。

 

そしたらそいつが次の日死んじゃって。俺のせいかもしれないし偶々なのかもしれない。

でも、もし俺のせいだったら?そう思ったら怖くて怖くて。

 

で学校が終わって、気が付いたら行きつけ?のよく遊びに行ったりお参りしに行ってた近所の神社で後悔しながら声を殺して泣いてたんですよ。

何であんな言っちゃったんだろうって。完全に後の祭りなんですけどね。

 

そんなときに自分の事を神様って言ってきた2人の女がいたんですよ。

 

1人は赤い服着た女。その当時かなり年上っぽく感じたんで今の俺くらいの年齢ですかね。

もう1人は小さい女。変な帽子かぶってたんですよ。頭に目玉乗ってるやつ。

 

本当に余裕のなかった俺は藁にも縋る思いで、見ず知らずの2人になぜかあらかた話しちゃったんですよね。

でもその2人はどうもしなかった。お前自身問題だと言わんばかりに。慰めもしなかったし、責めもしなかった。

 

俺も神様なんてそんなもんだなってわかってたんでしょうね。

だけどその二人はそんな俺に「いつも参拝ありがとう。辛くなったらまたいつでも来なよ」って言ってくれたんですよ。

 

それだけで救われました。

こんな俺でも受け入れてくれている人?や場所があるんだって思えたから。

 

それ以降はその2人と雑談したり、赤い服の女は軍神だとか言ったんで稽古付けてもらったり。

その時から好きだったし得意だったんで、料理とかお菓子作って持ってって飲み食いしたり。

途中から緑の髪した女の子も増えたんですよね。

 

長い間、その面子で仲良く幸せに過ごせていたと思うんですよね。

いじめはあった。自分自身の空っぽさは埋まらないままだった。

けれどもそれでもいいと思えた。それでも幸せだと笑っていられるくらい。

 

でも、俺が高校3年生の受験の合格発表の日。

 

 

前日も心配で神社で愚痴ってたんですよ。

「大丈夫だよ」とか言ってくれて。嬉しくなって。

 

明日結果報告しに来るよって言ったら、みんな少し暗い顔したように見えたけど。

一瞬の事だったんであまり気にしてなかったんですよ。

 

次の日、無事に合格していた。

 

今まで3人が応援してくれたのもあって頑張れた。お守りをくれたことで心強かった。

 

で、それぞれのお気に入りのお菓子をお礼がてら買って、いつも通り神社に行ったんですよ。

 

そしたら、昨日合ったはずの神社が跡形もなくなくなったんですよ。

 

でも近所の人間は神社があった事すら覚えていない。

 

あぁ、また独りかってなって。泣きはしなかったですけどね。

それならまた元に戻って、1人で居ればいいだけだ。大学では当たり障りなく行けばいい。

 

せっかくのお菓子はもったいないんで3人分を1人で跡形もなくなったその土地で、食べて。

あの時は一気に甘い物を食ったせいかとても胸がつらかったですね~。

 

まぁ、長々と面白くもない話をしちゃいましたけど、こんな不思議体験しちゃったんでそういった類の事ではもう驚かないんですよねって事です。

 

 

*****

 

「っとまぁ、そんな感じですかね」

「「・・・・・・・・・・・・・」」

 

だろうなぁ。俺が相手の立場でもこうなるわ。

でもこんなこと今まで話したことはなかった。親にも誰にも。

きっと、別世界に来たってのと、美味しずぎる酒のせいだろう。

 

「あ~、だから前置きしたじゃないですか。暗いし長いって」

「うん、そりゃそうだけどさ。思ってたより人間にしては辛い話かなって」

「あんたはなんでそんなに・・・あっけらかんと面白い話してるように話せるんだい?」

「え?だって過去の話でしょ。別に話すのは苦でも何でもないですし。せっかく話すなら面白おかしく俺だけのネタにした方が面白いでしょ」

「う~ん、普通はしないと思うけどなぁ」

「でしょうね。でも俺は変な奴ですから」

「自分で言っちゃうあたり清々しいよねぇ」

「アンタはその神社の人の名前は覚えているのかい?」

「もちろん。俺にとって大切な人たちですから。なんて呼んでたかは覚えてますよ。それにまだその時のお守りも持ってますしね」

「注連縄に白蛇と蛙・・・なにこれ?」

「白蛇と蛙はあってますよ。なんでも2人の神様の象徴らしいです。なにこれって言ったのは制作者本人曰くロボットの顔だそうです。ミスマッチにもほどがありますけど、好きですし大切なものですよ」

「そうかい。なぁ萃香・・・」

「まぁ、そうだろうね、勇儀」

「何ですか?2人して。もしかして会った事あります?」

「多分ね。せっかくだし名前聞いてみていも良い?」

「ええ、構いませんよ。えっと、八坂さん、洩矢さん、東風谷さんであってると思います」

「ふーん。ちなみに聞くけど、そいつらにまた会いたいかい?」

「会いたくないと言えば噓になりますけどね。やっぱり会いたくはないですね。今の俺を見たらきっとがっかりさせちゃうでしょうから」

「・・・・そっか。ま、そんな事もあるよね。さ、お前も飲んだ飲んだ‼」

「伊吹さん⁉俺人間なんですけど⁉それ鬼用じゃ⁉」

「そんな事は知るかー‼飲め飲めー‼」

「あぁ、ちょっとこぼれる!飲みます飲みますから落ち着いてください‼」

「萃香の奴、無邪気に人間とこんなに飲めるのが楽しいからってはしゃいじゃって・・・。ま、私も似たようなもんか」

 

 

 

覆水盆に返らず。

俺にもいつか覆水を盆に返すような奇跡が起こったりするんだろうか。

っと、いけないいけない。湿っぽいのは好きじゃないんだ。今夜は飲みまくって楽しむぞー‼




はい、最後までお読みいただきありがとうございます。
いや~、1週間以内に投稿できて良かった~。

今回は割と仁君の根幹にかかわってくる大切な所であります。
結構悩んで書いたところではありますが、すいませんね。変な感じになっちゃって。

さて、このキャラを出して欲しい等のリクエストもお待ちしておりますので遠慮なくコメント等よろしくお願いします。採用するかはわかりませんが迷った時には優先的に出そうかなと思いますので良ければよろしくお願いします。


面白い、この話が好きと思っていただければありがたいです。

最後にちょっとした謝辞を。
お気に入りしてくださった皆さん、改めて本当にありがとうございます。
そのひと手間のおかげでとても元気づけられました。
これからも楽しんで頂けるよう頑張っていきますので引き続きの応援よろしくお願いします。

さて、次はいつ投稿されるかはわかりませんができるだけ早く投稿したいと思います。また会えることをお祈りしつつ、皆さんさようならさようなら。


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急展開?いいえ、ノリと状況に合致ゆえ

はい、どーもーノリさんです。
ゆっくり更新のはずが結構ハイペースに書いている気がするんだ。

まぁ、書ける時に書くんだからしょうがないね。
さぁ、今回はちょっと中途半端に終わってる気がしますけど、一応これは前編、次回が後編的な感じで予定してます。収められなかったんや。

さて、一応注意書きを読んだ上で 許せるっ‼ って方のみご覧ください。

それでは本編です。


さて、いきなりなんだが。俺、鷹崎仁。

 

 

食事処始めました。正確には始めますなんだけどさ。

 

 

いきなりなんだけどこのたび色々あって、食事処を開店する事となった。

正直自分でもビックリしている。でもこうやって立派な店が出来ている。

色んな協力があってできた自慢の店。これ良い店にするも悪い店になるも俺次第。

正直怖い気もするがかなりワクワクしている。

初営業までまだ時間があるから、開店するまでをちょっと振り返ってみようと思う。

 

 

******

 

 

 

~~2週間前~~

 

 

伊吹さん達と飲んでてしばらく。

さて、気が付くとかなりの時間が経っていたようだ。気がついたら寝てしまってたみたいだ。

陽の沈みとかは地底奥深くだから見えないからイマイチ時間はわからないが、多分朝頃のはず。

 

両サイドに美人系の姉さんみたいな鬼とかわいい系の小さい鬼が。

男としては大変嬉しいシチュエーションではあるのだが、こんなことに縁のない人生だったので心臓に悪い。

 

うん、駄目だ。こっそり抜けよう。

 

 

あとトイレ行きたい。酒は飲み過ぎたせいかな。が、二日酔いの気配はない。

よかった、頭痛とか吐き気とかに襲われるのは嫌だからね。

うーん今までないくらい飲んだなぁ。なのに二日酔いみたいなことはないなんて、不思議だなぁ。

 

トイレを済ませたら、2人とも起きていた。2人とも二日酔いの気配はなさそうだ。さす鬼。

 

「おや?起こしてしまいましたか?おはようございます」

「ううん、普通に起きたよ。おはよう、仁」

「あぁ、うん、おはようございます。伊吹さん。部屋の隅で蹲ってる星熊さんはどうしたんですか?」

「んー、別に気にしなくていいと思うよー」

「そうですか?風邪とかひいたんじゃ大変だと思うんですけど?」

「あぁ、そんなんじゃないから大丈夫」

「それならいいんですけど」

「それよりもお前これからどうするんだ?暮らしのメドとかついてないんだろ?」

「まぁ、適当にうろついて、なんかいい感じにしますよ」

「いや、それで何とかなるってもんじゃ・・・」

「大丈夫ですよ。昨日だって伊吹さんみたいな方々に会えたんですから何とかなりますって」

「まぁ、好きにしなよ。困ったことがあったら協力するよ。だいたい夜になったらどっかで飲んでるからさ」

「ありがとうございます。申し訳ないんですけど俺、先に行きますね。代金いくらでした?」

「あー、いいよ。お前が気に入ったから今回は歓迎としてごちそうするよ」

「いや、でも悪いですし払いますよ」

「だったらまた私達と飲んでくれればいいよ」

「そうですか?じゃごちそうになります。それじゃ申し訳ないですけど、行きますね。星熊さんもまた飲みましょう。じゃ、お先に失礼します」

 

ガラガラガラ

 

っと出たは良いもののどうしようか?

伊吹さんに言われた通りアテなんてない。水橋さんの家に置いてきてしまった荷物は取りに行きたいが正直戻りづらい。財布と大切なお守りはあるから何とかなるんだろうけど、あの鞄の中に大事なもんいっぱいあるんだよなぁ。スマホとか飴とかヘッドホンとか。

 

とりあえず家だ。寝床がないと困る。

ここら辺に空き家とかないだろうか?ちょっとうろついて探してみようか。

 

 

~~15分後~~

 

あった。

食品や日用品を買い込むのにも困らず、外食に行くにも困らず、キレイな風呂とトイレもある最高の物件が‼

さらにもともと飯屋でもやっていたのか、調理環境はかなり整っていた。ちょっと表通りからは外れているから店としては厳しい立地かもしれない。

中を見ると、少しホコリ溜まったりしてるし空き家なんだろう。ちょっと1人には広すぎ居る気がしないでもないが、ここかなり良いし買えないかなぁ。

 

「うーん誰に頼めば買えるんだろうか?」

「お兄さん困ってるの~?」

 

と隣に薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳、鴉羽色の帽子に、薄い黄色のリボンをつけている少女がいた。何この世界、美女とか可愛い娘しかいないの?

 

この子からどこ行けばいいか聞けないかな?知っている可能性が低いかもしれないけど聞いてみるか。

 

「おぉ、困ってるぞ~。お嬢ちゃん、どこに行ったらこのおうち買えるかわかるか?」

「わかんない‼あと私は古明地こいしって言うんだよ。よろしくね‼」

「そうかこいしちゃんか。俺は鷹崎仁だ。わかんないかー、そっか。ありがとうね。お礼に飴をあげよう」

「わ~い、ありがとう‼困ってるなら地霊殿にいるお姉ちゃんに聞けばいいと思うよ?」

 

地霊殿か。そういえば、水橋さんも言ってたな。

 

「その地霊殿に行けば何とかなるのかな?」

「そうだよ‼お姉ちゃんはすごいんだよ。お姉ちゃんの知り合いだって言えば地底では誰も逆らわないんだから‼」

「ほー、そりゃすごいな。それなら確かに何とかなりそうだ。じゃ、その地霊殿の行き方を教えてくれるかな?」

「いいよ、案内してあげる。私もちょうど帰る所だったし」

「そうか。じゃあ、よろしく頼む」

「うん‼よろしくね、仁お兄ちゃん」

 

うわー、こんな可愛い笑顔で自然に手を握って一緒に歩くとか・・・。

 

なんていい子なんだ‼お姉ちゃんもきっと可愛かったりするんだろうな~。

 

「ところで仁お兄ちゃんは何で地底にいるの?」

「う~ん、強いて言うなら風に流されて・・・かな」

「ふ~ん、なんかよくわかんないけど大変だったんだね」

「あぁ、そうだな大変だったな。ま、ここ良いところだし楽しいからいいけどね」

「そう言ってくれると嬉しいよ。人間はまだ妖怪とか怖いみたいで基本的にここにはいないからね」

「まぁ、そうだろうなぁ。そのうち何とかなるさ」

「そうだね。お兄ちゃんみたいな人だっているもんね‼」

「俺はちょっと特殊な部類に入るから何とも言えない気がするけどなぁ」

「そうだね。私と仁お兄ちゃんは似てるところがあるから変わってるみたいだね‼」

「ほぉ、似てるところがあるのか。じゃあ、こんな大人になったらだめだぞ~」

「うん‼わかった‼仁お兄ちゃんみたいにならないように生きてくよ‼」

 

自分で言っといてなんだが、こんなに無邪気にそんな事言われるとちょっとクるものがある。

無意識に言ってるんだろうけどさ。まぁそんな事は気にしないんだけど。

 

それからこいしちゃんの案内により、なんとか無事に地霊殿に着いた。

寄り道をしてしまい途中から一緒に似んでたりしてたらかなりの時間がかかってしまった。が地底を探検できたという事で良しとしよう。うん、そうだね、プロテインだね。

 

「と~ちゃ~く。ここが地霊殿だよ‼」

「結構歩いたな。こいしちゃん疲れてない?」

「これくらい大丈夫だよ。お兄ちゃんの方が疲れてそうだけど?」

「うん、俺は疲れた。普段こんなに運動しないからね」

「ダメだよ~。ちゃんと運動しないと」

「気が向いたらするよ。そういえばお姉ちゃんの名前は?」

「さとりって言うんだよ。さ、中に入ろう」

「いや、よく考えたら、いきなりはまずいんじゃないか?」

「大丈夫だよ。私が案内したんだもん。でもいっぱいペット居るから気を付けてね」

 

犬とか多いのかなーなんて思ってたけどそれとは次元が違った。

犬どころじゃない。普通にペットとして飼われている動物から、猛獣と呼ばれる動物から、ハシビロコウみたいな珍しい動物までいる。ここ動物園の間違いじゃねーの。

 

「はい、ここがお姉ちゃんの部屋だよ。ちゃんとノックして入るんだよ」

「もちろん、こいしちゃんも一緒に入るんだろ?」

「うん。でもちょっとしたいことあるから入っちゃっていいよ」

「そうか。それじゃ行かせてもらおう」

 

コンコンコン

 

 

『はい、どうぞ』

 

ガチャ

 

「失礼しまーす。古明地さとりさんはいらっしゃいませんか?」

「え?はい、私がその古明地さとりですけどどちら様でしょうか?」

 

古明地さとりさんはボブに深紅の瞳、フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしていて、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカート、1番の特徴はコードやらなんやらの中で目立つ赤い目だろう。

 

うーん、敵意と言うか警戒心むき出しだなー。まぁ見ず知らずの男がいきなり訪ねてきたらそうなるよね。

それよりも

 

「こいしちゃん。お姉ちゃんの後ろにコソコソして何やってるの?」

「えっ?こいし?」

「あちゃー、何で言っちゃうのっ仁お兄ちゃん!せっかく驚かせようとしたのに~」

「それはすまなかったな。俺は空気が読めない事ても定評あってな。わざとではないとはいえすまん」

「しょうがないな~。飴くれたら許してあげる」

「あぁ、はい。おいしいだろ、この飴。俺も大好きなんだ」

「あの・・・、あなたはどなた?っというかこいしが見えてたんですか⁉」

「え?最初から俺と一緒に入ってきてたじゃないですか?」

「にゅふふ~、やっぱりお兄ちゃんは私と似てるんだね~」

「ちょっと失礼します。・・・・・やっぱり。あなた何者ですか?何の御用でこちらに?」

「いや、見るからにそんなに警戒度あげなくても。俺はちょっと空き家を手に入れたくて困ってたらここに案内されただけの外の世界の人間ですよ?」

「そうだよ、お姉ちゃん。仁お兄ちゃんは何もしてないでしょ?」

「でも・・・、私が心を読めないなんて・・・」

「え?なに?心読まれちゃうの?」

「そうだよ?お姉ちゃんは覚の妖怪なんだから心を読む程度の能力があるんだよ」

「で、さとりさんは俺の心を読もうとしたと」

「ごめんなさい。こいしの言葉が気になった物ですから、つい。不快な思いをさせてしまったでしょう?」

「いや?別に何とも。つーか、心が読めなかったか~。せっかくの自分の心を知る良い機会だったのかもしれないのにな~」

「え?あなた心を読まれたいの?」

「ん~、それはどうだろう?でもそーゆーのあってもいいと思うよ。そんな事よりあの覚の妖怪なんだろ‼ぜひいろいろと聞きたい事があるんだが‼良いかな‼」

「え、えぇ、それは構わないけれど、私のこと知ってるの?嫌じゃないの?怖くないの?」

「もちろん知っているさ‼覚の妖怪の元ネタは岐阜は美濃・飛騨って言ってもわからないかもしれないけど、まぁそこに住むとされる全身毛むくじゃらで人の心を読む妖怪だね。人間の心を読んで驚かしたり食べようとするって言い伝えがあったりするな。一方で基本的には無害で、中には人間と共存していたという伝承もあるくらいだ。むしろ無意識に行動する人間を恐れるような話もあったはず。伐採した竹の爆ぜる音で驚いて逃げたなんて話もあったはずだ‼それに心を読めるってのは人間の憧れる能力の1つだろ。 何で怖がったりする必要があるの?何もしてきてないのに」

「そんなに良い物じゃないわ。それに心を読まれそうになったりしたのに嫌じゃないの?」

「いいじゃないか!実に面白そうで‼自分の知らない思いを知れるかもしれないかもしれないのに何を怖がる要素があるか!昔っから俺の大好きな妖怪の1人だよ‼さぁ、話を聞かせてくれ‼」

「わかりました‼わかりましたから、落ち着いてください‼」

「はっ‼申し訳ない、俺としたことが取り乱したみたいだ。じゃあ、聞かせてもらってもいいだろうか?」

「その前に私から1つ聞かせて。貴方は私が本当に嫌だったりしないの?私はこの地底の妖怪からも嫌われているような嫌われ者よ?」

「嫌われ者か・・・。ま、俺も似たようなもんだしな。それにもし心を読まれたとしても心を読まれるのが嫌だ=さとり・・・じゃない、さとりさんが嫌いではないしな。困ったなぁとは思ったりするかもしれないけど、俺は今のとこさとりさんが嫌じゃないし嫌いでもない。むしろ大好きな妖怪に会えて嬉しく思うくらいだ」

「そ、そうなのね・・・。それならいいのだけど・・・・」

「うふふふ~、良かったねお姉ちゃん」

「こ、こいし‼」

 

「さぁ、いろいろ聞かせてもらおうか」

セリフが完全に悪役ソレだよなぁ。

 

~~1時間後~~

 

 

「いやー、満足満足。この世界は伝承の主役本人からいろいろ聞けるって言うのがいいなぁ」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「え、えぇ、大丈夫よ、こいし。少し疲れただけだから」

「あ、それはすまなかった。嬉しくてつい加減を考えてなかったな」

「いいえ、あなたとの会話は心が読めなくても私の好きな気持ちが伝わってきましたから、大丈夫ですよ。…………それに私も楽しかったし嬉しかったですし」

「そうか、ならよかった」

「ねぇねぇ、仁お兄ちゃん何しに来たか忘れてない?」

「ん?何だっけか?・・・・・・あーーーーー忘れてたぁ‼」

「もう、仁お兄ちゃん忘れちゃいけないでしょ~。寝るとこないんでしょ?」

「え⁉それはどういうことですか、仁さん?」

「あぁ、あのですね。

 

       ~~青年説明中~~

 

                    と言う訳なんです。」

「なるほどそういう事でしたか。でも今日はもう夜ですので明日の朝からの方がいいでしょうね」

「え?もう夜?あれ?俺こいしちゃんとどれくらいの時間に会った?」

「えっ~とね、だいたい12時くらいかな。」

「嘘だろ!?今何時⁉」

「そうねだいたいね~、19時30分だよ‼」

「まじか‼」

 

そのネタ幻想入りしてた事に驚いたのと、時間に驚きのダブルパンチだわ‼

 

「じゃあ、明日また来ますね。すいません今日はいきなり訪ねちゃって」

「え~、仁お兄ちゃん帰っちゃうの~?」

「まぁな、明日でも大丈夫だろうし今日は帰るよ」

「今晩の宿はされるのかしら?」

「う~ん、てきーとにどっかに泊まるか、昨日みたいに星熊さん達と朝まで飲むか・・・・」

「うわぁ、鬼と一緒に朝まで飲むとかお兄ちゃんほんとに人間?」

「うん、人間だけど。こっちに来てからなんかお酒でも強くなったのかな」

「変なの~。ね、お姉ちゃん私仁お兄ちゃんとお話したい。泊めてあげてもいいでしょ~」

「いや、こいしちゃんそれはいけない。大丈夫、明日になったらまた来るよ」

 

正直、女しかいない家に男一人とか気を遣うわ。

気を遣わせても申し訳ないし今日はとっとと帰ることにしよう。

 

「いえ、もう今日はここに泊まっていくといいですよ」

「いや、でも流石にいきなり来ておいて悪いしな。遠慮しておくよ」

「いえでもせっかく来てくださいましたし、こいしもこう言ってるので嫌でなければぜひ」

「しかし、家族水入らずの時間と言うのは大事だろう。そこに俺が入るのもな・・・・」

 

俺はいろいろあってそれが苦であったけど、普通は楽しかったり、好きでなくともそこまで苦でもないはずだ。

少なくとも俺が知っている他人の家はそんな感じだった。

 

「あの・・・・・私ももう少しお話したいから泊まってほしい・・・・・ではダメですか?」

「ダメじゃありません。ぜひよろしくお願いします‼」

 

はっ‼さとりさんの顔を赤らめながらの上目遣いの破壊力が強くて即答してしまった。

 

「それでは私は部屋の準備をさせます。今日はゆっくりしていってくださいね」

「よかったね‼仁お兄ちゃん‼」

「あぁ、2人ともありがとう。それじゃ今日は泊まらせてもらうよ。でもタダで泊めてもらうのは気が引けるから1つ働かせてくれないか?」

「そんなこと気にしなくてもいいのに。ね、おねーちゃん」

「そうですよ仁さん。私たちの我儘もあってここに居てもらう事になったんですからお気になさらずゆっくりしてくれたらいいんですよ?」

「いやぁ、それじゃ俺に気が済まないんでね。かといって出来る事はたいしてないんだけど、今晩のご飯は俺が用意するって言うのでどうかな?一応腕には自信があるから不味い物を出すつもりはないから安心してくれ」

「お兄ちゃんお料理できるのー‼すごいね、お兄ちゃんの料理食べてみたい‼」

「仁さんの手料理ですか・・・・・。私も食べてみたいですね。ではぜひよろしくお願いします」

「よし‼じゃあ、時間も時間だからさっそく作ろうと思うんだけど、何人分作ればいいかな?」

「えーと、仁お兄ちゃんを含めて5人分でいいと思うよ‼」

「はい、5人分あれば今日は大丈夫ですね。調理場にある物は何でも使って構いませんので、楽しみにしていますね」

「これは気合入れて美味しい物を作らないといけないね」

 

こうして俺は地霊殿で宿泊し、お礼を兼ねての料理を振る舞う事になった。ま、俺が鍋振りたかったのもあるんだけどさ。

こう上手く助けられるなんて、思いもよらなかったな。

もしかしたら運命の出会いだったのかなぁ。ま、もし運命なんてものがあるなら・・・だけどな。

 

 




はい、最後まで読んで頂きありがとうございます。

ノリと勢いだけで始めたお話ももう4回目になります。
大まかな流れは決めているのですが突発的に書きたくなったことがあればそっちにふらついたりもするので暖かい目で見ていただければ幸いです。

少しでも楽しんで貰えるようゆっくりですが頑張っていきますので、良ければ応援よろしくお願いします。


・・・・・出来るだけ後編っぽい次話は早めに投稿できるように頑張ります。


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はい、どうもノリさんです。宣言通り何とか早めに投稿する事が出来ました。
超がんばりました。誰か褒めてください。夏コミとかに行きたいです。

一応多分いつも言っている気がしますが、小説情報の文章を読んで大丈夫な方のみお読みすることをお勧めします。

良かったら気軽にコメントとかしてくれると嬉しいです。

それでは前回からの地続き的な感じなのであらすじみたいなものを書いておきたいと思います。
その後に本編が始まりますので何卒よしなに。



〈前回のあらすじ〉



前回を読んでください。いや、もし良かった初めから読んでください。
楽しんで貰えたら幸いです・・・・ってこれあらすじじゃないな。

はじまりはじまり(強引)


さて、古明地姉妹に連れられて調理場へ向かいさっそくいろいろ物色したが、お屋敷だけあって食材やら調味料やらはかなりも物が置かれていた。

まぁ、昼ご飯の名残か食べ終えた食器が水場に残っているのは気にしないでおこう。

へー、冷蔵庫あるんだー。ちょっと方は古い気がするけど、少し暖かめの地底じゃ必需品なのかもなー。

 

と物色している内にメニューも決まった。

 

さて、作る物は決めたしさっそく調理開始と行きたいんだけど・・・

 

「2人ともお風呂入ってくるなりしていいよ。早めに出来るようにするとはいえまだ時間かかるからね。ゆっくりお風呂入って上がってきた位に丁度いい感じだと思うからさ」

「え?見てちゃダメ?」

「ダメって事はないけどな。さして面白いもんじゃないと思うぞ」

「じゃあ、私は見てるね~。がんばれー」

「わ、私も今後のために見ておこうかしら・・・。お邪魔でなければだけど」

「邪魔って事はないから見てるのはいいけど、刃物とかあるから気をつけるようにしてくれよ」

「はーい」

「わかりました」

 

さてはじめましょうか。

さっきからさとりさんを見て気になる事はあるが、それをわざわざ聞くのもどうかと思うのでとりあえず作り始める事にする。

 

さっき聞いたところ今回の食事を用意する人たちは好き嫌いは特にないそうだ。

辛い物とかでも大丈夫とのことなので、大変作り手としてはありがたい。

それに辛い物でも大丈夫なら本命の料理を作れるしな。

 

さて、メインを作るために用意するのは見た感じ豚バラっぽいブロック肉。ナス、タマネギ、ニンジン、ゴボウ、レンコンであろう野菜たち。正直、俺の知っている野菜達かはわからん。異世界のような場所に来た以上は既存の知識を充てはめて考えるのは危険な可能性もあるしね。と言いつつ作るのは俺の既存の知識の当てはめたものなんだけどな。

 

5人ともなればそれなりに大人数なの大皿に出して自由にとてもらったほが良いだろう。

と言う訳でメインは大皿料理になるな。

 

豚バラ肉っぽいブロックをだいたい1センチ角に切る。

タマネギの様な・・・ってもうタマネギでいいわい、めんどくさい‼・・・俺は何に怒っているんだ?

まぁいい、タマネギは好みの厚さである約1センチにくし切りをして、ナスとニンジンとレンコンは乱切りにしたものと、メインでは使わないが短冊に切っておく。

 

ゴボウはささがきをした後にアク抜きを行う。ついでにレンコンとナスも水につけてアク抜きをする。

 

普段の1人でやってる時は結構簡単にやってたけど、5人分ともなると手間だな。

さて下ごしらえはこんなものかな。あとはサイドを作るためのちょろっと準備するだけだな。

 

「ほえ~、お兄ちゃんほんとに料理できるんだね~」

「まぁな。1人で生活してたらこうなったって感じだけどね」

「こんなに手際よく料理するのはすごいですね。私達じゃこうはいかないでしょうし」

「お褒めに預かり恐縮です。さてご飯も炊かなきゃな」

「私達も何か手伝いましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。さっきも言ったけど風呂に行ってても問題ないくらいだしね」

「いやぁ~、お料理が楽しみですなぁ、お姉ちゃん」

「そうね、こいし。ちょっと心配してたけどこれなら大丈夫そうね」

「ま、そいう訳だ。安心してふろにはいってくれていいんだぜ」

「じゃあ、お言葉に甘えていきましょうか、こいし」

「そうだね、お姉ちゃん。じゃあ、期待してるね~」

「はいよ~」

 

っと、あんま見られて料理とか得意じゃないしなぁ。さて、続き続きと。

 

んで、アクを抜いた野菜は一応水っ気を取って処理をした後に、根菜類から炒めていって、あ、ご飯の火を弱めないとな。

あ、小皿とかも出さなきゃ。あ、アレがあるならアレも加えてみるか?

あー、良い物良い物いっぱいあるからいろいろしたくなちゃうなー。

 

そんなこんなで、あっという間に時間は過ぎていき、とりあえずはほぼ完成したんだけど

 

「そういやこれはどこに運んでいきゃいいんだ?」

 

さっき、風呂上がったらしき音がしたから来てくれる・・・よな?

来てもらえないと困るんだけどな。

 

運ぶ用のカートには乗っけたし、蓋もしてるからちょとやそっとじゃ冷めないだろうし中身も見えないから万全なんだけどな。

 

誰か近づいてきてるな。古明地姉妹かな。

 

「うにゅ~~、こんな疲れた日に限ってご飯係とは~~」

「ほら、しっかりする‼さとり様たちをお待たせしたら悪いでしょ」

「でもなんかいいにおいするし、もうご飯できてるんじゃな~い?」

「う~ん、だとしたら申し訳ないわね。急いで調理場に・・・・・・って誰よアンタ!?」

 

「へ?」

いかんいかん、少しぼ~っとしてしまっていた。

 

「うにゅにゅにゅ、怪しい奴だな‼」

「いくわよ‼お空‼」「わかったよ、お燐‼」

 

本気の殺気だ‼やばい、よけなきゃ死ぬ‼

 

「っとぉ‼ちょっと待て、怪しい者じゃないから話を聞いてくれ‼ってそれは危ないからやめろ‼」

「怪しくないやつはあたい達が決める‼それに怪しい奴は大体怪しくないって言うのよ‼」

 

確かにそうですね‼怪しい人間でも言うだろうね‼

 

「そうだ‼ここに何しに来た‼」

 

やばい、この2人の息のあってる攻撃を周りに影響なくよけ続けるのは難しいぞ。今でさえいっぱいいっぱいなんだ。

って、なんか黒髪の方が右手の棒をこっちに向けてきてるんだけど‼見たらわかる。それ絶対やばいヤツ‼

しょうがないけど、懐に潜り込ませてもらう‼

 

「お空‼気をつけて‼」

「先に撃っちゃえばいいんだ‼」

 

確かにそんなん食らったら死ぬだろうけどこのままじゃ‼

 

 

 

 

 

せっかくの料理が吹き飛んでしまうじゃないか‼

 

 

 

基本的に女には手を上げないが、場合によっちゃ女を殴る事を辞さない男なんだよ‼

加減はするがちょっと痛いぞ!

 

鳩尾にスピードと体重をのせて手の平をたたき込む。

 

「ぐふっ‼」

「お空!?」

 

やべ‼思った以上にすっ飛ばしちまったぞ。大丈夫か?

って赤髪の女もこっちに来たな‼しょうがない‼

 

突っ込んできたのは都合がいいな。

突き出してる右手を左手で掴んで、腰に右手をまわして腰をひねってさっきに黒髪のところに投げ飛ばす‼

 

「にゃ‼」

 

あ、やべ、カウンター系だからさらに思ったより勢いよく投げちゃったぞ。

 

「おい、大丈夫か・・・ってやっぱ身構えますよねぇ」

 

って今度はさらに殺気が鋭くなってるな。さっきのは俺の事侮ってる節があったから叩き込めたんだがな・・・。

さすがにもう古明地姉妹が来るまで避け続けるしかないな。

そこそこの音がしたから来てくれると助かるんだけどな・・・。

 

「ごめん‼大丈夫かい、お空」

「いてて、油断してた。全力で行くよ」

 

って、速い‼さすがに今の俺じゃこれは避けれない。

 

「2人とも‼やめなさい‼」

 

 

・・・っふぅ助かったみたいだな。

 

 

 

「2人とも何してるんですか?」

「怪しい男がいましたので・・・・」

「この方は私とこいしのお客様です。なんてことをしてるんですか」

「すいません・・・・」

「うにゅう、ごめんなさい・・・・・」

「ごめんなさい、仁さん。2人がとんだご無礼を・・・」

「いいや、怪我もなかったし、怪しい奴がいたら追い出そうとするのは当然の対応だから気にしないでくれ」

「そう言って貰えると助かります」

「むしろ、そこの黒髪のを思いきり吹っ飛ばしちゃったり赤髪の娘を黒髪の娘のとこに投げ飛ばしたりしちゃったんだけど大丈夫か?」

「大丈夫だよ。吹っ飛ばされた時の壁との衝突がすごかったのとお燐がぶつかってきただけで痛くはなかったしね」

「あたいも怪我とかはないよ」

「それが目的だったからな。余計な怪我をさせなくて良かった」

 

っていかんいかん口調が砕けてきた。ちゃんとしないと。

 

「すごいよ‼仁お兄ちゃんって強かったんだね‼」

「いや割と偶々な気がしないでもないんだけどね」

「いいえ、彼女たちはかなりの実力者たちですよ。油断してたとはいえ普通の人間じゃかなわない位には強いですから」

「あんた人間なの!?それでアタイ達の攻撃を避けてたなんて・・・・」

「すごいな~。あの吹き飛ばしも加減してたんだろ~」

「まぁ、やってみたくらいですけどね。状況が状況とは言え女性に手をあげるにしても、可愛らしい顔に傷をつけるわけにはいきませんからね」

「うにゅ‼」

「にゃにゃにゃ‼」

 

「あ~、恥ずかしがらないで。ここで俺が会った女性たちは、美人さんばっかでしたから自信持ってください‼あ、もちろんさとりさんとこいしちゃんもですよ」

 

「えぇっ‼」

「ほぇ~~」

 

やっぱ恥ずかしいもんなのかね。実際可愛かったり綺麗だったりするし自信持っても良いと思うんだけどなぁ。

 

「さ、料理も冷めますから早々に運んで食べましょう」

 

やっとご飯が食べられる。正直腹が減ってたから早く食べたい。

 

 

~~~食堂~~~

 

黒髪のは霊烏路空、赤髪の猫耳は火焔猫燐と言うらしい。

移動中に俺の事について色々聞かれたが、そんなのは束の間ですぐに食事の準備が始まった。

つーかさっきまで殺しかねない勢いだったのになんだこの変わりようは。まぁ、良いんだけどさ。

 

さて大皿の物を各自で取ってもらってと。

 

「さて、腕によりをかけて作らせてもらいまいた。お口に合うかはわかりませんがどうぞ召し上あがれ」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

さて本日のメニューは中華っぽいかな?

 

〈本日のメニュー〉

 

・ご飯

・溶き卵スープ

・大根と大葉の梅肉和え

・中華風きんぴら

・豚肉と野菜の赤焼き(メイン)

 

なかなか良い感じに出来てると思う。火力の強い所だとつい中華系を作りたくなってしまうのはしょうがない事だと思うんだ。

 

さて、俺も食べよう。

うん、ご飯はいい感じにふっくらと炊けてるし、溶き卵スープもシンプルに仕上げたからあっさりして美味い。

 

大根と大葉の梅肉和えは角切りにした大根に梅肉にごま油少し塩少しを和えて作ったので大変さっぱりしている。

正直、今日のおかずは脂っぽいからこれくらいでちょうどいいだろうと思う。

 

中華風きんぴらは、ゴマ油で炒めた短冊状にした野菜達とささがきしたゴボウを炒めて、醤油と豆板醤を混ぜたものを回し掛けしてさっと炒めただけだ。だけどこれが美味しいんだよね。これはつまみでも十分美味しいんだよ。

 

でメインの豚肉と野菜の赤焼きはイメージとしては酢豚の赤くて辛い版・・・・みたいな感じかな。

なんて料理かわからんので俺が勝手にそう呼んでいるだけなんだけどね。細かい事を言うと、野菜は軽く素揚げしたり蒸したりと分けているのがこだわりだ。こうした方が野菜も美味しいと思うからね。

唐辛子とかをかなり使うので結構辛いんだけど、そのままでもいいけどご飯のお供になるとより美味いと思う。

隠し味に味噌とショウガ汁を入れてるからただ辛いだけじゃないのが特徴だ。

 

「お~、すごくおいしいな‼おかわり‼」

「はいよ~」

「ちょっとお空。あんたお客さんに何させてるのさ」

「いいや、そんだけうまそうに食べてくれるなら作ったこっちも嬉しいから気にしないでくれ。俺のそばにあるんだから俺が盛るよ」

「お兄ちゃん‼私もおかわり‼」

「あの・・・仁さん。私もおかわりをお願いしたいのですが」

「さとり様まで!?そ、それならあたいの分も‼」

「大丈夫ですよ、お燐さん。慌てなくてもいっぱいあるから順番にね」

 

いやぁ、喜んでもらえてよかった~~。やっぱり美味しそうに食べてもらえるってもは嬉しいもんだな。

って、かなり多めに作ったけど減るペースが速そう!?

 

 

~30分後~

 

 

「いや~、食べた食べた」

「あたいも久々にこんな食べたよ」

「美味しかったね~お姉ちゃん」

「そうね、こいし。もうお腹いっぱいだわ」

 

正直、予備用で作っておいた物までなくなるとは思わなかった。

 

「あ~、じゃ、デザートも作っておいたけど明日にするか」

 

「「「「食べます」」」」

 

「え?今腹いっぱいって・・・」

 

「甘いものは別腹なのさ」

「そうそう、仁お兄ちゃんは女心が分かってないね~」

「女心関係あるか?」

「私は仁さんのデザートにも興味があるので・・・」

「私は美味しそうだから食べたいだけだぞ‼」

「わかったよ。じゃ、持ってくるからちょっと待っててくれ」

 

~15分後~

 

「うにゅう~、まだかな~」

「まだかな~、おにーちゃん遅いなぁ」

「こいし様、耳をムニムニしないでいただけませんか・・・・」

 

ガチャ

 

「おまたせ、お茶用意するのに手間取ってね。はい、どうぞ」

 

「うにゅ?何だこれ?」

「プリンみたいなものかな」

「わーい、プリン大好きー」

「お茶も全員分いれたし、お好みの分量のはちみつをかけて食べてください」

「あれ?アンタの分はないのかい?」

「お湯沸かす間に、出来の確認がてら先に食べたから気にしないでいいですよ」

「そうかい?それなら遠慮なく・・・ってお空もう食べたのかい!?」

「うん、美味しかったぞ」

「プリンみたいだけどプリンとは違うんだね~」

「少しショウガの感じがするけど、はちみつでいい感じになってますね」

「美味しいね。アンタこんな美味いデザートも作るなんてやるじゃん」

「お褒めに預かり恐縮です。喜んでもらえて何よりだよ」

 

正直甘味づくりは、料理作るほど自信はないから喜んでもらってよかった。

 

で、ゆっくりお茶の時間になった。

 

「さとり様少し汗をかいておられますよ。どうぞタオルです」

「ありがとう、お燐。さっきのご飯は少し辛かったからかしら」

「うん、そうかもね。で、どうだい?手足に冷えは緩和された?」

「うにゅ?」

「アンタ何言ってんだい?」

「どうしてそんな事を言うんですか?」

「いや、さとりさんて手先とか足先とか冷えやすいのかなって」

「へ~、お兄ちゃんはどうしてそう思ったの?」

「話してたりする時に手をさすってたりしてたからな。もしかして冷え症気味なのかなって思ったんだけど、違ったかな?」

「合ってますけど・・・。って事は今日の料理はまさか?」

「出来るだけ体を温めやすい物を食べてもらうって感じのコンセプトかな」

「すごいね。あんたそんな事を考えて料理してたのか」

「仁お兄ちゃんはすごくいい人なんだね」

「良い人かは別問題として・・・・。せっかく食べてもらうならとことん美味しい物が良いじゃないですか」

「ほえ~、何だかよくわからないけど何かすごい奴なんだな、お前って」

「いいや、誰にでもできる気遣いってやつだよ。俺はそれをやっただけ、大したことじゃないよ」

「でもよく気がつきましたね」

「あ~、それはな、俺元々の世界じゃ学生で人間の心の仕組みとかを研究する心理学ってのをやってたんだ。だからか、普段から人をよく見る癖がついてね」

「そうだったんですね。それで私の事が分かったんですね」

「頭に入ってる知識に当てはめて考えた結果、的中したって感じだけどね」

 

「仁お兄ちゃん、ごはん屋さんやったらいいと思うよ‼」

 

「こいしちゃん急にどうした」

「こいしはいつもこんな感じなんです。ごめんなさい」

「いや謝らなくてもいいんだけど・・・・」

「これだけおいしい物を作れてそんな事が出来るならいいお店になるよ‼」

「ちょっとー、こいしちゃーん。お店やるなんて言ってないよー。お店って色々大変なんだよー」

「大丈夫‼私達もサポートするよ‼」

「ダメだこれ、話聞いてないね。さとりさん何とかしてください」

「うーん、この調子のこいしは止まらないんですよね・・・。でも、貴方がホントにお店を開くのでしたら出来る限りのサポートはしますよ」

「あたいもまた食べたいね。おいしかったしさ」

「うん、なんかよくわからないけど良いと思うぞ」

「って実はこっちも乗り気か!?」

「はい♪。また仁さんのお料理食べたいですからね」

「そ、そうか・・・」

 

真面目に考えてみてもやりたいかやりたくないかで言えばかなりやっては見たい。ただ、現実的かと言われると微妙だ。

ま、でもせっかくだしやってみるか。異世界みたいなところに来るみたいな経験してるし。こんな機会もそうそうないだろうし、期間限定店主的な感じで。

 

「よし‼いっちょやってみますかぁ‼」

 

こうして、お店を開くことを決意した。

 

 

 

 

 

それからはあっという間だった。生活用品の買い出しからお店兼自宅となる家の掃除から整備、メニュー考案から試作と色々あった。

 

服は俺は作務衣が好きなので紺の作務衣を4着買った。俺のサイズはないかと思ったがあったしかなりお安かった。

店での制服用に3着、計7着の紺の作務衣を買った。

あと元の世界で使ってたような、ポケット付きの前掛けタイプのエプロンも購入。

 

その間にもちょいちょい色んな所に行ったりもした。まだまだ行ってない所はいっぱいあるらしいんだけどさ。

 

そこで魔法使い、河童とかいろんな種族と会った。

大体、香霖堂であった人達なんだけどさ。

そこの店主とは何か仲良くなった。今ではなんとなく飲みに誘われたりするくらいになったからね。まぁ、そこで話したりする内容も決まった物があったんだけど、それはまた機会があれば話すこともあるだろう。

 

人里にも行った。寺子屋があって元気な子供たちの声を聞いたらなんだか少し元の世界を思い出し笑みがこぼれた。異世界でも変わらないんだなぁ。そこの美人な教師とも知り合った。白沢と人間のハーフだそうな。白沢と言うのなら、これで俺も繁栄できるだろう。とりあえず目の前の商売繁盛を祈っておこう。そしてお店の事は宣伝しておいた。暇を見て来店すると言ってくれたので、招待状でも送ろうかな?

 

伊吹さんと星熊さんも手伝いに来てくれたりした。つかリフォーム的な事は鬼の皆さんであっという間にやってくれた。やってくれるのはとてもありがたいんだけど、酒飲みながら作業するとか本当にすごい変な光景だなとは思った。伊吹さんと星熊さんにはむしろ店に置く酒選びで活躍してもらったような気がする。

 

なんとあの水橋さんも来てくれた。怒ってるかと思ったが俺の置いていった荷物をわざわざ持ってきてくれたらしい。やっぱり優しい人だなと思った。一応のけじめとしてあの時言おうとしたことを言ったらそっぽ向かれたけどね。でもまた来てくださいと言ったら「考えておくわ」と去っていったので嫌われたわけではないと思う。

 

竹林の医者も紹介された。あんまり病院にお世話になる事はしたくないんだけどね。でも薬の訪問販売は魅力的だったのでよろしく頼むことにした。一式薬箱を買ったらなぜか高校生風のうさ耳が喜んでいた。あとウサギが多かった。ホントにうさ耳だったよ。

あと、リボンいっぱいつけた赤い人に竹林を迷った所を助けられたので、お店の宣伝をした。何かサービスすると言ったら「気が向いたらな」と言ってくれたのでいつか来てくれるだろう。いや、いつの間にか案内してくれてたこいしちゃんがいなくなった時は焦った。

 

 

試作料理は地霊殿の人たちに暇な時に来てもらって食べてもらった。おかげでかなりのメニューが決まったし改良の余地がある事もわかった。

最後の最後まで、お空さんには鶏肉料理を出しても良かったのかはわからなかったけど。

 

で、幻想郷に来て2週間とちょっとにして俺お店が出来た。かなりのお金を使った。かなり口調も砕けて本来の俺になってきた。

 

この間に俺の能力等についてもわかったんだけどこれは今は関係ないから割愛。

 

 

 

******

 

 

 

で、今に至るという訳だ。運が良すぎるな俺は。

 

立派な看板から綺麗な和風の店内。これらすべては俺の周りにいた人たちのおかげだ。

正直超緊張している。でも口元が緩んできてしまう。これは昔からの俺の性格なんだよな。

こんなに良い店が俺の店だなんて信じられない位だけどこれは現実。

 

今日はお世話になった人たちを読んで、プレオープンみたいな感じの事をする。

すべてのテーブルにお通しとか前菜など用意しておくものは用意したし、さてそろそろ時間かな。

 

 

店の名前は  鷹屋

 

 

「いらっしゃい。お好きなお席へどうぞ」

 

 

何のひねりもない名前だけど、俺はここから幻想郷での物語を始める。

 

 




作者:この物語も本編が始まって5話か・・・。
   って何だこれは!?今までプロローグだったのか!?

??:はっはっはっはっはっ、はっはっはっはっはっはっはっはっは、はっはっはっは。
   すり替えておいたのさ‼


茶番挟みました。すいません。元ネタが分からない人は有名な蜘蛛のヒーローの日本版を見てみよう‼

あくまで感覚的には、ここまでがプロローグ的な感じですよって事を伝えたかったんです。
主人公の足場も固まって、物語は本格的にここから始まっていきますって事です。

とは言っても今まで通りにやって行くだけなんであまり気にしな来てもいいかもしれません。

と言う訳で次回はプレオープン時のお話になります。
ここまですべて読んでくださってる方だったら誰が出てくるかはわかると思います。なるべく全員出していきます。

で、その次には通常営業の初めてのお客さんのお話でも書こうかと思っています。
でも誰にしようかは迷っています。ほんとにどうしよう。

アーンケート的な事は運営が  本文以外かつ活動報告、メッセージ等感想欄以外への誘導を行うように。  って書いてるからどうしたらいいんだろう。って訳で皆さんに聞きたくても聞けない状況になっています。助けて欲しいです。

Twitterででも聞けばいいのかな?なんて思っています。
今現在、1人しかフォロワーのいないTwitterのアカウントがあるので、名前は一緒だから良かったら探してみてね‼(誰もそんな事はしない)
よかったらよろしく‼ホントにどうでもいい事しかつぶやいてないけどね(そもそもそんなもん)

とりあえず、気軽にコメントくれると嬉しいです。何かいい感じのコメントを頂ければ私はとても嬉しくなりモチベーション的なものが上がります。

最後に。前から読んでくださってる方、今回だけでも最後まで読んでくださった方ありがとうございます。お気に入りや読んでくださっている方の数が増えるだけで嬉しくなっている様な作者です。

のんびりゆっくり長々と続いていく(予定)ですが楽しんで、また応援してもらえると幸いです。今後ともよろしくお願いします。

長々と書いてしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回のお話は早ければ今週末には投稿できたらと思いますので、よろしくお願いします。


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初めては・・・?

はい、どーも。多分お久しぶりです。ノリさんでございます。

後書きに皆さんにお願いしたい事がございますので、もし良ければご協力よろいくお願いします。

今日はササっと本編始めるぜ‼


「いらっしゃいませ、お好きな席にお座りください」

 

今日のプレオープンに呼んだのは、地霊殿の古明地姉妹にお空さんとお燐さん。リフォームをしてくれた5名の鬼の方と伊吹さんと星熊さん。それに命の恩人である水橋さんの合わせて12名の方々だ。あまり広くない店とはいえこの人数なら全員カウンターに座れる。

 

 

うーん、見事に人間がいない。ホントに面白い世界だな。

 

「よっ、仁。来てやったぜ~」

「無事開店おめでとう。今日は堪能させてもらうよ」

「いらっしゃいませ、伊吹さんに星熊さんに鬼の皆さんいろいろお世話になりました」

「「「「「「「良いって事よ」」」」」」」

 

鬼7名による一斉の返事にはびっくりするなぁ。

打ち合わせした訳じゃないよな。

 

「地霊殿の皆さんも来てくれてありがとう。ほんと色々すいませんでした」

「うにゅ?何のこと?」

「あたいはもう気にしてないからいいよ」

「あはは~、気にしなくてもいいのに~」

「うぅ、気にしてませんから忘れてください」

 

何があったか説明しよう‼︎

ある日風呂が使えなくなって困ってた時お空さんに誘われて地霊殿にお風呂を借りに行ったんだ。

誰もいなかったし入っていいとお空さんに言われて風呂を借りることにしたんだ。

 

で、風呂に入る時に脱いだ服の置き場所を棚の一番上の段に置いた事で、それに気づかず4人が入ってきてしまったというハプニングがあったのだ。

 

ラノベとかだったら「お風呂イベントだっ」って感じになれるんだけどリアルに起こると超焦る。

ってか誘っといて忘れるお空さんが悪いと思うんだが。

幸いにも俺は眼鏡なしじゃほとんど見えないような男だから見る事はなくすぐさま飛び出たけどさ。

 

「何をしたのよ、妬ましいわね」

「やぁ、いらっしゃい。俺は特に何もしてないよ」

「どうかしらね。貴方かなり無自覚でやらかしてそうだし」

「水橋さんは良く俺のことわかってるなぁ。明日からは俺の店も宣伝してくれればうれしい」

「気が向いたらね」

 

水橋さんとは・・・・、特に何も・・・。あれからちょいちょい手伝いに来てくれたのはあったけど・・・。

たまに優しい表情を見せてくれるようになったのでついうっかり

 

「お、とうとうデレが見えて来ましたか」

 

なんてことを言ったとたんに蜂の巣になりそうな勢いで弾幕を打ち続けられた。

あれは目がマジだった。能力に目覚めてなかったら危ない所だったと思う。

 

・・・さて、全員揃って座ってもらい飲み物を各自に用意して始めようと思ったんだけど、ちょっと困ったことがあった。

それはさとりさんがいる事で伊吹さんと星熊さん以外の鬼の皆さんが畏縮しちゃってるという事だ。

まぁ、心を読むという性質上仕方がないとはいえさとりさんも申し訳なさそうにしている。

初めて会った時に自分で嫌われ者って言ってたしな。

 

これではよろしくないので、俺の能力を使う時が来たかな。実験的にではあるけど俺の予想通りなら使えるはずだ。

 

「さとりさん。サードアイって触っても大丈夫ですか?」

「え?えぇ、構いませんけど・・・」

 

サードアイを手で覆って隠すようにしてっと

 

「それでは失礼して。  だ~れだ   」

 

よし、これで大丈夫なはずだ。

 

「さ、お燐さんの心を読んでみなよ」

「あ、あたいか?」

「ごめんなさい、お燐。失礼して・・・???って読めない!?なんで?」

「へぇ、やるじゃんか」

「お褒めに預かり恐縮です、伊吹さん。でもこれに気がつけたの伊吹さんのおかげですけどね」

 

そう。この店の準備だけでなく、この世界に来てからの傷の治りの速さとか逃げ足の速さとか俺の身体的能力の上昇は普通に考えてただ事ではないと思った。そこで幻想郷の中でも屈指の強さを誇るらしい伊吹さんに手伝って貰い手合わせをしてもらったんだけど、その時に覚醒したのがこの能力だ。

 

「どういうことですか?仁さん」

「えーと俺の能力が遊び・童謡を力に変える程度の能力って感じでね。とは言っても発動するものと、しないものがあるからまだ手探りなんだけど・・・・・・。ま、今で言うとさとりさんのサードアイは塞がれて何も見えない状況になっているんだ。だから心が読めなくなったのさ」

「すごいね仁お兄ちゃん‼でもずっとそのまま?」

「いやこいしちゃんの言った事は心配しなくていいよ。俺が辞めたって言ったりしたら解除はできるし、あくまで遊びがベースだからね。今回で言えば名前を当てられたら能力が解除されちゃうんだ。だからさとりさんはこの場にいる間は塞いだのが心を見るサードアイだから・・・・、心の中で俺の名前を思い浮かべたらダメだよ。多分、口で呼ぶ分には問題ないはずだけどね」

 

これにはちょっとした裏技?と言うかちょっとした小技みたいのがあるんだけど今は関係ないからパス。

あと、伊吹さん曰くこの世界に来てからのアルコールに強くなったりとか身体的能力の上昇等には俺の能力は関係のない別の何からしい。わからないものは焦ってもしょうがないのでとりあえず隅に寄せておく。

 

 

「わかりました。ありがとうございます、仁さん。・・・・確かに名前を読んでも解かれていませんね」

「俺も解かれた感じがないから大丈夫みたいだね。今日は気にせず楽しんでいってよ」

 

この言葉を聞いてから、鬼たちは安心したようだ。単純でありがたい。いい意味でね。

でもそれだけさとりさんが強いって事でもあるんだよな。見たことないけど。

 

「大丈夫だよ‼私やお兄ちゃんみたいにお姉ちゃんが心読めない人にはお姉ちゃんはとっても弱いからね‼」

「へぇ~、そうなのか。知らなかったな。そして心を読んだかのように反応してくれてびっくりしているよ」

「ん?あんたさとりに読まれないのかい?」

「えぇ、そうなんですよ星熊さん。何でかは知らないですけどね。俺の中身が空っぽだからですかねぇ、はっはっはっは」

「そんな心配しなくても良いよ。例え空っぽでもあんたの事、私は気に入ってるからね」

「おやぁ、勇儀はやけに彼の肩を持つねぇ」

「なななななにを言うんだ萃香。と、特に他意はないからなあんた‼」

「えぇ?はい、わかってますよ」

 

「嘘だろあの勇儀さんが・・・・・」「まさか人間をあんなに評価するなんて・・・・」

「俺たち鬼でさえあんな事に言われたことないのに・・・」「馬鹿野郎泣く奴があるか・・。姉さんにだってそんなことくらいあるわい」「お前も声震えてるてるじゃねーの」

 

はいそこの鬼の皆さん何言ってるかわかんないけどざわざわしないで。始めらんないから。

 

「くっ、なんて妬ましい男なの・・・・」

「良い評価もらえたってだけで妬まれるんですか!?」

「そうだけどそうじゃないわよ。妬ましい」

「圧倒的にツッコミが足りない‼」

 

 

始める前からてんやわんやじゃないか。

 

「なー、まだ始まらなのか?お腹減ったぞ」

 

おぉ、お空さんあなたの空気のよめなさに感謝したのは初めてです。

 

「はい皆さん始めますからちょっとお静かにお願いします。えー、皆さんのおかげでこの様な事が出来るようになりました。今回は遠慮なく騒いでいってください。開店してからも贔屓にしてもらえれば幸いです。今日は一応コースのようにしていますけど、その間に何か食べたくなったものがあったら注文してもらえれば並行して作るので遠慮しないで言ってくださいね。えーと後は言う事はないかなって訳でそれじゃ、乾杯するのでそれぞれ盃を持ってください。では、これからの皆様の今後の発展とこの店の繁盛を祈って・・・・「カンパーイ‼」っちょっとこいしちゃん!?」

 

「「「「「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」」」」」

 

「ゔぇぇぇぇぇぇい、せっかくいい感じにまとめてたのに嘘だそんな事ーーーーー‼」

 

最後の最後だけ持ってかれた。あっちじゃキレてたかもしれんがこんな可愛い娘には怒るに怒れない。

まぁこればっかりは仕方がないかな。そういう星のもとに生まれて来たんだろう。

 

で、始まってみればみんな楽しくワイワイやってくれて。美味そうに食ってくれて。

なんだか本当にこんな環境に入れていることが恵まれてることだなって改めて感じた。

 

「いい気味ね。変にかっこつけようとするからそんな事になるのよ」

「あの・・・、かっこよくまとまってたと思いますよ、私は」

「さとりさん、お世辞でもうれしいです。水橋さんはなぜか俺に厳しいので癒されます」

「何かしら無性に喧嘩を売られているように感じるわね。妬ましい」

「それはおかしいと思うんですがそれに関しては突っ込んだほうが良いんですか?」

「細かい男は嫌われるわよ、妬ましい。」

「ほほぅ、へぇー、ふーん」

「何よ、気持ち悪いわね」

「はい、今日のお造りはイワシとイカと〆さばな。生姜醤油が良いと思うぞ」

「ありがとうございます、仁さん。お通しの蒸し鶏とほうれん草の和え物も美味しかったですよ」

「ありがとう、さとりさん。はいこれ水橋さんのお造りね。で何を話してたっけ?」

「なんか気持ち悪い返事してたから何なのかなって思ったのよ」

「あぁ、その事ね。いやぁ男性と付き合った事のない水橋さんが男を語るかぁって思ってね」

「なっ!?」

「あらそうなの?パルスィさん」

「ななななななななななななななななな」

「あちゃ~、バグったか。任せたよさとりさん」

「ちょっと仁さん‼私に押し付けていかないでくださーい」

 

他の人のところにも行かないといけないからしょうがないね。

うん、ホントにしょうがないね。大丈夫、さとりさんなら‼

 

 

「あ~あ、仁お兄ちゃんがお姉ちゃんいじめてる~」

「人聞きの悪い事言わないでくれよ。俺がそんな事する訳ないだろう」

「でもさとり様困ってるよ?」

「お空さん、きっとあれは心が読めなくて話すのに慣れていないだけだよ、きっとそう」

「仁お兄ちゃんは悪い男だね~」

「いいや。ただ面白そうだから、そうしたってだけさ」

「いえ~い、かっこいー」

「アタイでもうっすいなぁってわかる掛け合いをしてるよ・・・・・」

「そーなのか?とりあえず、から揚げは美味しいな」

「褒めてくれるのは嬉しいし頼まれて作ったけどさ。その・・・、大丈夫なのか?」

「うにゅ?」

「あ~、そこんところは気にしてないからいいと思うよ。あたいはね」

「お空は美味しければそれでいいもんね~」

「うん?そうだな、美味しい物は大好きだぞ」

「そう思ってくれるなら良かったよ」

 

とりあえず、お空さんはかなり抜けているらしい。

こいしちゃんとの事もあるのでお燐さんがとても大変そうだ。

でもいいバランスがとれているんだろう。

 

 

しばらく経つとだいぶ落ち着いてきた。俺も皆もね。

最初はちょっと1人で好きに作るのとは勝手が違って戸惑ったりもした。

 

やっぱりカウンターって緊張するけど、顔が見えるって言うのが良い物だなぁ。

 

自然な流れで男女に座席が分かれてるのも、なんだかあっちの飲み会と同じで笑みがこぼれてくる。

 

 

「おい、店主‼同じ酒のお替りだ‼」

 

おおっと、鬼の皆さんは飲むペースが速いなぁ。さっきからかなりの頻度で変えてるけどすぐにお替りが来てしまう。

 

「はい、お待たせしました。同じお酒です」

「おう‼ありがとな‼ここでこんなにしっかりと店やれそうになってるとは若いのにやるじゃねぇか」

「ありがとうございます」

 

鬼って基本気前のいい人たちなので、あんまり怖くなかった。

感覚的にはいい感じの親戚のおじさんと話してるみたいだ。

 

「姉さんたちから聞いたが、鬼を初めて見た時にビビんなかったみたいじゃねぇか」

「人間じゃなかなかいねぇからなぁ、そんな肝の据わってるやつ」

「あ~、まぁ、普通ならそうでしょうねぇ」

「お、なんだ。なんか話があるのか?」

「ありますけど聞きたいですか?」

「人間の話も聞いてみたいしな、ぜひ頼む」

「そうですか。でしたら、またここに来ていただいて顔なじみになっていただければお話しますよ」

「っははっははっはは、商売が上手いな兄ちゃん。気に入ったぜ‼」

「ぜひ、今後ともご贔屓に」

「まぁいい。そんなお前に聞きたい事があるんだが・・・」

「はい?何でしょうか?答えられる範囲であればお答えしますよ」

「そう身構えなくてもいい。ほとんどの男なら誰にだって答えられる事さ」

「そうだ。気楽に答えてくれりゃあいいからよ」

「・・・・聞きましょう」

 

この段階でどんな質問が来るのかは概ねわかった。

ジャンル的には大好きだけど苦手な部類の質問だ。

 

「今日の女性の面子でだれが好みだ?」

 

はい訂正。いい感じの親戚のおじさんじゃなくて、お兄さんたちだったわ。

あるよね。こういうノリ。こんだけ1ヶ所に美女たちが集まっていたらさ。

 

「あ~、その質問はなかなか難しい質問ですねぇ」

「気持ちはわかるが男らしく誰か選びな」

「でも俺ここに来てまだ日も浅いですしねぇ。皆さんはどうなんです?」

「俺は断然姉さんだな‼強くて綺麗で気前がいい‼もう最高じゃねぇか」

「いやいや、萃香さんも良いと思うぞ。おれはあの明るさのある萃香さんが良いかなぁ」

「いや、あの古明地姉妹もいいぞ。妹は無邪気な可愛さがあるし、姉の方は落ち着てるけど心を許したら恥ずかしそうながらも甘えてくる感じがありそうなのがなぁ」

「いいや、何と言ってもお空ちゃんだろう。ちょっと抜けてる感じも愛嬌があってかわいいじゃあねーか」

「いや、おれぁお燐ちゃんがいいかなぁ。惚れた相手が出来たらめんどくさいなって態度取るけど、なんやかんやで嬉しそうに世話を見てくれそうな感じが良いなぁ」

 

「「「「「「全員わかるわー」」」」」」

 

はっ、男性一同で思わずハモってしまった。少し女性陣がびっくりしちゃってるじゃないか。

 

「あぁ、女性陣はお気になさらず・・・・・」

「いやー面白そうな話してるじゃん。私達も混ぜてよ‼」

「そうだそうだーー」

「伊吹さんにさとりちゃん!?」

 

ダメだ‼それ以上はいけない‼

当人たちに聞かれてたとわかればいくら酔っていたからとはいえ恥ずかしさのあまり全員が赤鬼になってしまう‼

男だって繊細な心を持っているんだ。

 

「あたいも気になるし続けてくれても構わないんだよ?」

「そうだそうだー。鶏の唐揚げお替り‼」

「はいよ~・・・」

「お前達は酒の席だと毎回やってるのによく飽きないねぇ」

 

おぉっと、ここでお燐さん、お空さん、星熊さんの順に追撃が入ったー‼︎

ダメだ、ダメだ‼︎鬼の皆さんが縮んでいるように見える‼

これ以上は彼らのライフが・・・・

 

「さっきから聞いてみれば皆は呼ばれても私は呼ばれないのね・・・。妬ましい」

「あ、あの盗み聞きみたいになってしまってすいませんっ‼あぁ、パルスィさん落ち込まないでー‼︎」

 

さとりさん君は悪くないよ。ここじゃ聞えて当然だからね。

水橋さんはマジ凹みっぽいぞ。日頃から入口の方にいる事が多いから、地底にいる鬼の皆さんとはあまり接点がないからなんだろうなぁ。

あ、当人たちに聞かれてたとわかって鬼の皆さんの顔がよろしくない顔になってる‼ご愁傷さまです。

 

「・・・‼あ、あとは店主が語る番ですからね。いやぁ、楽しみだなぁ」

 

あ‼この鬼よりにもよって俺を売りやがった‼

 

「っそうだな‼つー訳で頼んだぞ店主‼」

「そうだな、あとは店主だけだもんな‼」

「いやぁ、俺らが話したってのに話さないって事はないよな‼」

「最後で締めはあんただ‼しっかり頼むぞ‼」

 

あーー‼全員裏切りやがった‼

 

なんか女性陣も緊張の面持ちでいらっしゃいますけど‼やっぱりそこは女のプライド的なものでもあるんですかね‼

水橋さん怖いです。そんな禍々しい顔せんといてください。

ま、女性陣の評価を言うのは構わないけどな。俺がそんな事言っていいもんかな。

 

「いやぁ、俺は そこにいる鬼の皆さん のように 女性として好みなのは誰か って事を言えるくらいのお付き合いはまだ出来てないですからねぇ。その質問に対しての俺の答えはいないってのが正確ですかね」

 

せめてもの反撃で鬼の人達と話の内容を強調してやったぜ‼

それに俺の答えとしてはこれが適切だしな。

 

「なにそれ~。はっきりしない男は嫌われちゃうよ~。お姉ちゃんの読んでた絵がいっぱいの本に書いてあったし‼」

「こいし‼どうしてその事を知ってるの!?」

「本棚の上に置いてカバー変える事なんて古典的な手で隠してあったからね~。無意識にとって読んだら面白かった‼後はね・・・・」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ。こんなところで暴露しないでー‼」

 

「やべ、ちょっとさとり様いいかも・・・」

「あぁ、今のはやばいな・・・・」

 

鬼さんたち気持ちはわかるが、若干目が虚ろだぞ。さっきのがちょと効いたか?もうライフはゼロだったか・・・。

とどめを刺したのは俺か?俺ですね、ハイ。

 

あぁ、さとりさん。やっぱり心が読めるが故に嫌われ、距離を置き続けて来たからこそ、恋愛とかに夢見たりするんだろうなぁ。

 

でもそんなに恥ずかしがるようなものなのかな?俺も少女漫画は面白いと思うけどなぁ。まだこの世界じゃメジャーなジャンルじゃないんだろうか?

きっとさとりさんみたいな人ならすぐいい人が出来そうな気がする。最初のハードルが相当高いってだけでさ。

 

「あううぅぅっぅぅぅぅぅぅぅ」

「災難でしたね、さとりさん。はい、お水です」

「誰のせいだと思ってるの・・・・。ってこれお水じゃない‼勇儀、それ頂戴‼」

「え?ってさとり!?おいそんなに一気に飲むもんじゃ・・・ってもう手遅れだたっかぁ」

 

さとりさん酔ってるなー。水って言ったのに・・・・。

勇儀さんが持ってたお酒取っちゃったよ。え?あの量イッキでに飲もうとしてる?って飲んだ!?

 

「あのー、さとりさんその辺にしておいた方が・・・・」

「ふぅ、仁さんっ‼」

「はい、何でしょうかさとりさん‼」

「私が恥ずかしい思いをしたのは貴方のせいです‼︎」

「えぇ?い、いえ、はい、すいませんでした!」

「本当にそう思っていますか!?」

 

えぇ、ちょっとさとりさん悪酔いしてません?なんか急に人が変わりませんでした?

 

ちょっと、そこの皆さん。目をそらしたり、笑ったりしてないで助けてくれませんかね。

え?何ですか、勇儀さん。諦めろ?え、ちょっと俺を見捨てないでくださいよぉぉぉぉぉぉ‼

 

「ちょっと!聞いていますか‼」

「はい、聞いてませんでした‼」

 

あ、俺のバカ野郎‼何で正直に答えちゃうんだよ‼

 

「正直でよろしい‼とりあえずお酒もう一杯‼そして続けますよ‼」

「えぇぇ、困った・・・。あ、水橋さん助けてください、お願いします‼」

「いやよ」

「一刀両断ですか!?」

「都合よく助けてもらえると思ったら大間違いよ。それに・・・。っ妬ましいわね‼」

「なんでそんな禍々しいオーラ的なものが!?実は水橋さんも相当酔ってますね!?」

「そんな訳ないじゃない。妬まし妬ましい」

「仁さん早く来てください‼まだ終わってませんよ‼」

 

あぁ、もう、何だか本当にてんやわんやだなぁ。

困った困った。と言いつつも笑みが零れてしまっているのは仕方がないんだろうなぁ。

多分、今、この瞬間が今まで生きてきた中で、一番楽しいのかもしれない。

 

 

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

いやー、なんとか今週中に投稿できて良かった。
原稿書くことに夢中で課題がやばい事になってるけど明日頑張ろう‼

と言う訳で、アンケートのような物をしたいと思いまして、活動報告に書きました。
このお噺書いてる最中に書いたので、今読むといろいろおかしい所があるんですけど一応そのままにしておきます。

内容をさっぱり言うと 次出す人物を誰にするか悩んでるから、皆さんの希望聞いてみよう‼

といった感じの物です。細かい事はまとめて書いたつもりなので活動報告に行って読んで、アンケートに答えてもらえれば嬉しいです。

活動報告のアンケートについてまとめた所でも同じような事を簡単に書いたのですが、ここではしっかりと書いておこうと思います。

たまたま読んでくださった方々、また読み続けてくださっている方々、面白いと読んでくださっている方々、何だよこれつまんねーなと思われた方様々だと思います。

どの感じ方をした人も読者で、読者の方がいなければお話は成立しないと個人的には思っています。
まだまだ拙い点はあるかもしれませんが、もし少しでも楽しんで頂けたのなら、良ければご協力お願いします。

あ、もちろん強制じゃないですからね。気が向いたらでいいのでよろしくお願いします。

いつものことながら読んでくださった方、お気に入りまでしてくださった方、本当にありがとうございます。その存在だけでも個人的にはとても嬉しかったりします。

次回はいつ投稿できるかはわかりませんが、アンケートの集まり具合によっては割と早く投稿が出来るかもしれません。もし集まらなくてもなるべく早く投稿したいとは思ってはいます。・・・・自分で決めるとなるとかなり迷う事になりそうで怖いんですけどね。

それではまた次回でお会い出来たらお会いしましょう‼


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化かされるのはどっち?幻想狸合戦マミマミ

どーも、アンケートとか自分からやっといて、いざ感想とかアンケートの回答が来たらビビッて三時間近くパソコンの前で悩んでた系作者のノリさんです。

お久しぶりの投稿ですかね?
って今のところ1週間に1本のペースで投稿しているはず・・・。

不定期更新とか亀更新とは何なのか・・・・。

今回は前回やったアンケートでリクエストいただいた人物がメインのお噺となっております。
ご協力頂きありがとうございます。また感想も嬉しかったです。

アンケートは新しいフォームを作ってありますので良ければ活動報告も覘いて回答を打ち込んでもらえると嬉しいです。

それでは、本編はじまります。


もうお昼なんだよなぁ。もう12時過ぎてるとかマジかよ。

昨日のプレオープンも成功?だったし、今日からの通常営業頑張ろ。

 

まず昨日洗いきれなかった物の処理からしていこうかな。

 

しっかし昨日はすごかったなぁ。お酒の減りは尋常じゃないし、食べ物も思ってたより減って、ちょっといきなり自信叩き折られそうになったわ。

地霊殿組とか水橋さんと言うよりは鬼の皆さんがすごかったからなんだけどさ。

さす鬼さす鬼。ふっ、ちょっとハマった。

 

さとりさんや水橋さんは、あの後もっと相手をするのが大変だったのでなるべく思い出したくない。

いやマジでホント。

お酒の席であんな大変な目にあったの久々だった。多分今まででトップの大変さだった。

マジで酒って人どころか妖怪も神様も変えちゃうね。

 

とりあえず起きてから今日の買い出しと仕込みは終わってる。

昼食もおにぎりとみそ汁で簡単だが食べたし、夕方の営業に備えて仕込み始めないとな。

時間をかけないといけない仕込みは寝る前になんとかやったし、その日に仕込んでおくものはそう多くはないから頑張ろ。

 

まだ始めたばかりだからメニューは多くないしその日の仕入れの状況によってメニューが変わっちゃうのは良いのか?と思わないでもないが仕方がない。1人でやっていくにもまず最初で躓いたらいけないしな。

 

少しずつコツコツとやっていくことが大切なんだよなぁ。

 

とりあえず買い出しは昨日ほど客が入る事もないだろうと思って昨日より仕入れは少なくしてきた。

この世界の物価は恐ろしいくらい安い。正直慣れるまで毎日目を疑ったものだ。

 

でもやっぱ昨日ぐらいは用意しておいたほうが良いのかな・・・・。

いや、さすがに開店初日でそんなに客が入る事はないだろ・・・・。

 

*****

 

分量もそう多くなかったので早く終わってしまった。現在2時、開店まで3時間もある。

せっかくなので、ちょっと適当に外うろつこうかな。

 

 

鍵を閉めてっと。とりあえず地底から出るか・・・・。

ちょっと人里に気になってるところあるから、そこに行こうかな。

 

橋の前にいた水橋さんとあいさつしたんだけど、なぜかそっぽを向かれた。

ので、機嫌が悪いんだろうと思い、早々に穴の壁を走り抜けて地上に出た。

あんな時は下手に声をかけない方が良いって言うのが相場だろう。俺の中ではだけどな。

 

 

そういや、今すごいことやったんだよな・・・・。こんな深い穴を壁走りで登りきるとか、やばいな。人間離れが進んでるな、俺。

 

思い返せば、伊吹さんと手合わせしてから俺の人間離れがえらい速度で進んだ気がする。

もういろいろあって慣れて驚かない自分がいるけどさ。だって鬼とか普通にいる世界だしそんな事もあるんだろう。

 

あっちで気まぐれに少し鍛えておいたのは正解だったかもしれないな。鍛えてない状態だったら自分の体に振りまわされていたかもしれない。

俺の気まぐれもたまには役に立つって事だな。

 

 

で人里に到着。

気になってたのは、ここだ。えーと、鈴奈庵?

 

貸本屋らしい。俺は伝承や神話などが好きな事もあり本を読むことが大好きだ。

せっかくなのでここならではの本が読みたいと思い、寺子屋教師に聞いてみたら薦められたのがここだ。

色んな種類の本があるらしく、見ているだけでも飽きないんだとか。

 

実に良いじゃないか。おら、ワクワクすっぞ‼

でも初めての店にはいるのには勇気を要するタイプの人間なので一呼吸おいてから、店内に入った。

 

「お邪魔しまーす。っていないな・・・。おぉ、本がたくさんあるな。どれから手を付けようか」

 

って店員いないのは大丈夫か?

本屋で本を買う時、俺はなんとなく気になった本を手に取って流しでざっと読み、欲しくなったり借りたかったりしたら行動を起こすって感じだ。

時間は帰る時間も考えて、2時間ぐらいかな・・・。いや念のため1時間半くらいだな。

さて‼俺好みの面白い本は見当たらないかな~。

 

 

*****

 

本を探して軽く読んだりしてたら陽の傾きが変わってた・・・。

もうそんなに時間経ったのか・・・・。今何時だろう?短いなぁ、好きな事してる時間って。

 

感想としては控えめに言って最高の貸本屋だった。

面白そうな本ばかりなのが素晴らしい。だから選ぶのに悩みそうなんだけど。

 

でもいくつか例外を除いて、正直あっちで読めてたようなものばっかだったんだよなぁ。

その例外もなんか御札とか貼って封印されていたり、奥に置かれていたりしているようだから迂闊に読めないし困ったもんだ。

 

鬼とかいるんだし、もっとこっちならではの本をたくさん読みたかったんだよな。

 

とりあえず料理のレシピ本2冊とお気に入りだけど最近読んでなかった小説があったからそれ1冊借りていこう。

 

ってあれ?いつの間にかカウンターに中学生・・・くらいかな?の大正ロマンを感じてしまうようなハイカラさん系の女の子がいるけどもしかして留守番か?

もしかして店主不在時の代理の見張りってだけで、借りられないですって事はないよな?

とりあえず時間も聞こう。やばかったら急がないといけないし。

取り合えず今回は3冊を借りれたら借りていこう。

 

「すまない、今何時かわかるかな?」

「今は16時ちょうどですね。そちらの本はどうなさいますか?」

「あぁ、これらは借りていきたい。店主が見当たらないようだが借りられるのか?」

「失礼ですね。私は店の人間の本居小鈴です。貴方は初めて見る顔ですね」

「これは失敬。随分アンタが若くて綺麗なんで、見張りだけの人間かと思っただけだ。気を悪くしたのならすまない。あと俺は最近ここに来た人間だからよろしく。しかし本居ときたか。まぁ、いいや、取り合えず料金はこんだけで足りるか?」

 

本居って言ったら日本史をかじった人間ならなんとなくわかるだろうけど、もしかしたら関係あるのかな?

 

「⁇えぇっとこんなに要りませんよ‼えっと・・・、これだけで十分です。ありがとうございます。それでしたら今後とも鈴奈庵をよろしくお願いします‼」

「本は大好きだからね、また来るよ。今度来た時は 奥に隠されている本 とかも読ませてくれると嬉しいかな」

「なんでそれを!?」

「そうだねぇ。本の声が聞こえたからって言っておこうかな」

 

もちろん嘘だけど、こう言っておいた方が後々都合がいいだろう。変に目をつけられても困るし。

いや、今の言葉は相当やばい奴だったか?ま、いいや。

 

わかった理由なんて、明らかにやばそうな雰囲気を出している本が幾つかあったからなんていえないだろ。

あまりにも感覚的過ぎるし説明しようがない。

 

とりあえず店を出て、本を風呂敷に包んで、本を傷めないように体にくくって全力ダッシュだ‼

開店時間までに間に合うように帰るなら、相当急がなきゃな‼

 

 

 

「ほおぅ、何やら面白い奴が紛れ込んできたのう。久々ちょっくら人間(カモ)をからかいに行ってみるかの」

 

 

*****

 

走り過ぎた。もうマジでしんどい。一応店の格好に着替えて、後は開店するだけにしたけどさ。

店は開くよ。予定日を疲れたから変えるとか情けなさすぎだし、幸先悪すぎるでしょ。

でもあと30分程余裕があるな。せっかくだし借りてきた内のレシピ本でもカウンターで読むか。

 

おぉ、なるほどな。これなら前菜で出せそうとか、これ出すならもうちょっと酒に合うよう味付けは濃くしたほうが良いかもななんて読んでたらあっという間に30分。

 

さて、暖簾出しに行こう。今日はお客さん来るかな。

と、店前に出て暖簾を掛けた途端にすぐに人がいた。メガネで髪が長くて黄緑色の紋付き羽織を着た女性だ。

やっぱ、ここの女性って基本レベルの高い人たち多いね。

それよりも気になるのが格好なんだけどさ。

 

地底って基本的に暖かい。だから熱くない?その羽織着てると暑そうに見えるなぁ。

 

なんて思ってるとその女性が俺の事をじろじろと見ている気がする。

こういう時は何て声かけりゃいいんだろう。こういった時こそ今まで読んできた本を参考にするか。

 

「もし、そこのお嬢さん。私に何か御用ですか?じろじろ見られれるような覚えはないと思うんですけどね」

「ふぉっふぉっふぉ、お嬢さんときたか。これは失敬したの。いや、見慣れない店だと思ってちょっと眺めておったんじゃ」

 

わぁお、喋り方が本の中でしか見たことない老人みたいな喋り方だな。これはこれで全然あり。

 

「あぁ、そうでしたか。こちらこそ失敬しました。うちは今日営業開始なもので見慣れないのも無理はないと思いますよ」

「おぉ、そうじゃったか?して何屋じゃ?」

「うちは看板にもある通りお食事処です。って言っても今のところ夜の時間帯しかやる予定はないのでどちらかと言えば居酒屋みたいな感じですかね」

「ほぅ、居酒屋ときたか。ちょうどいい店がないか探しておったんじゃよ。せっかくの縁だし最初のお客にならせてもらうとするかの」

「ありがとうございます。それじゃ店内のお好きな席へどうぞ」

「ほほう、随分と良い雰囲気の店じゃないか。これは料理も楽しみじゃのう」

「はは、初めての営業なのでお手柔らかに。これはお通しのキュウリの1本漬けと、水とおしぼりです。御召し物脱がれるようでしたら椅子の下にある籠に入れてください。メニューはそこにあるので何かあれば注文してください」

「じゃあとりあえず日本酒の冷を貰おうかの。あと卵焼きと枝豆も頼むぞい」

「承りました。ちなみにうちの卵焼き甘いやつじゃないんですけど大丈夫ですか?」

「うん?あぁ、平気じゃよ。そんな事まで気にするのか?」

「まぁ、一応ですけどね。甘いと思ってたのに違うって言われてもお互い嫌じゃないですか」

「細かい気配りじゃの。好感が持てるぞ」

「そう言って貰えるのは、嬉しいですけど俺が嫌な思いしたくないってだけですからねぇ。はい、こちら日本酒の冷と枝豆です」

「ま、何にせよ、そう言った事はそうそうできるもんじゃないって事じゃ。ここで店を開いている以上は基本的には相手は人ならざるものじゃよ。お前さんはそやつら相手にそれが出来るんじゃ、少しは自信持っても良いんじゃよ?」

「そうですねぇ。初めて来ていただいたお客さんも人間じゃあないですしねぇ」

「!?んふっ、はぁ、ふぅ、何をいきなり言い出してるんじゃ。驚き過ぎて酒を噴くところだったぞい」

「あれ?違いました?ここって俺くらいしか人間いないですし、神様とは違うし・・・かといって亡霊とかではないし・・・、妖怪みたいな匂いのする人だなって思ったんで、てっきり妖怪かと・・・」

「なんと‼儂、人間に完璧に化けておったろ?それにそんなに臭くないはずなんじゃがのう」

「見た感じはもう見紛う事のないくらいの人間でしたね。匂いってのは物の例えなので気にしなくても良いですよ。お客さんからは少し煙草の匂いがしているってだけですし。要は感覚的にって事です」

「なんとまぁ、びっくりな人間が居ったもんじゃのう」

「いやぁ、そんなに褒められると照れますねぇ」

「いや・・、褒めてはおらんのだが・・・・」

 

なんと。すごい奴って褒められたのかと思ったよ。

 

「そうなんですか?とりあえずお待たせいたしました。こちら卵焼きです。熱いの出を気をつけてくださいね」

「うんうん、湯気が出てて何ともいい感じじゃな。大根おろしも添えてあるのもポイント高いぞい」

「ありがとうございます。お酒のお替りはいかかですか?」

「それじゃあ、同じのを頂くとするかの」

「わかりました。せっかくですから熱いうちにどうぞ」

 

卵焼きは正直良い物を作れるようになるまで時間がかかった料理の1つだ。

1人暮らしになってからは、卵があれば卵焼きを作ってた位に練習した。

おかげで今ではかなりの仕上がりになったと思う。

中の最初の2回巻く時は香りの強い出汁を混ぜた溶き卵を使い、次の2回は黄身を多めにした溶き卵を使って巻いて完成。このおかげで外は卵の味がしっかりして、中は口に入れば出汁の香りが鼻を抜けるいい卵焼きになった。

え?だし巻きじゃないのかって?家ではこれが卵焼きの1つだったからいいんだよ。

 

「はふっ、うん、ふっくらとしていて出汁の効いている感じがいいの。これは酒も飲んでしまうな」

「美味しそうに食べてくださいますね。内心ビビりながらやってたので安心しました」

「これだけの物を作っておいてか・・・。だから、自信を持つがいいよ。妖怪相手にこんな商売やれる人間もそういないんじゃから」

「まぁ、こればっかりは性分ですからね。ところでお客さんは何の妖怪なんです?」

「儂か。儂はな・・・と、素直に教えても面白くもなんともないの。そうじゃ、せっかくだし当ててみるといい」

「ここで謎解きですか。良いですけど・・・、ヒントとかってあります?」

「まぁ、見た目からも多少はあるが、それがヒントになるかどうかはわからんぞい。とりあえず、同じお酒をもう一杯と、きゅうりの一本漬けと本日の煮物?とやらを頼むぞい」

「本日の煮物は何か聞かなくていいんですか?」

「基本嫌いな物はないからの。それにさっきの卵焼きは美味かったから味の心配はないしのう。何が出てくるか楽しみにするぞい」

「そうですか。それじゃ煮物はひと手間加えるので少しお待ちを。で、とりあえず日本酒ときゅうりです」

「ありがとう。で、答えは出そうか?」

「候補はありますけどね。何かその格好で引っかかってるんでもう少しでわかるかもしれません」

 

何か引っ掛かってるような気がするんだよな・・・・・。何だろう、ものすごく気持ち悪い。

 

「ほほう‼それはますます驚きじゃの。これで1回で当たったら何か褒美を出してもいいかもしれんぞい」

「マジすか!?よっしゃ!やってやりますよ」

 

俺だって年頃の男だ。こんな美人さんにそんな事言われたらやってやるしかないさ。

 

何してもらおうかな」

「心の声が漏れとるぞい。ほっほっほお前さんなかなか愉快じゃのう。ま、当たればだがの」

 

何とお恥ずかしい。これで当てなきゃ取らぬ・・・・・ん?

 

「・・・ま、もう答えは出ましたよ。と、その前にこちら本日の煮物里芋の甘味噌煮っころがしです」

「里芋か。なかなか良いのう。おまけに甘味噌に刻みネギが散らしてあるの。これは何とも酒が進みそうじゃ。どれ。・・・・・うん?とても美味いのじゃが、なんで外は少しさっくりしてて中はホクホクなんじゃ?」

「それは、里芋をふかしてから、薄く片栗粉をつけて揚げたからですね。甘味噌が染みた煮っころがしも良いんですけどね。酒と合わせるならの甘味噌ダレを絡めて食べたほうがどっちの美味しさもわかりやすく、かつちょうどいい塩梅になっていいかなと思いまして。最後はお客さんの口の中で完成させてもらおうかと思ってこうしたんですよ」

「よく考えられて作っておるの。その心意気のおかげが酒も進む。よし、もう一杯同じ酒を頼むぞい」

「かしこまりました。しかしそんなに美味しそうに食べて頂けると嬉しいですね。それになんだか食べたくなりましたよ。ちょっと失礼して。ん・・・・、美味いな」

「ん、店主。それなら一杯どうかな?ご馳走するぞ」

「遠慮しておきます。営業中ですから」

「営業中につまみ食いしているんじゃから、説得力ないのう」

「はっはっは、これは一本取られましたね」

「一本取ったついでに、どれ一本取り返してみてはどうじゃ?」

「⁇あぁ、謎解きですね。えっと、答えは化け狸ですかね」

「その心は?」

「ま、最初は能力的に化かす系で頭の髪留めが葉っぱもヒントになるなら狸とか狐かなと思って。当てずっぽうでどっちか言えば当たるかなって思ったんですけど。心の声漏れてるって突っ込まれた時、これじゃあ取らぬ狸の皮算用だなって思って。で、そういや人間との知恵比べで負けて人を化かすことをやめた団三郎狸って話あったなーって急に思い出したんですよ。そういえばその話だと美女に化けてたって言うし、ひらめきに賭けて化け狸にしたって所ですね」

「ふむ・・・・、お前さんはなかなか賢いのう。あ~あ、今日はからかいに来たつもりじゃったがすっかり負けてしまったのう」

「って事は?」

「正解じゃよ。儂は化け狸。今日は人里でお前さんを見かけての。面白そうな奴だったからからかってやろうと思ってここに来た訳じゃ。予定通りに進めばこのまま葉っぱのお金を渡して帰るつもりじゃったが、久々にここまで楽しませてもらったしちゃんと払っていくぞい」

「やべぇ、知らない間に最初の客が食い逃げになるところだった・・・」

「ふぉっふぉっふぉ、お前さんほんとに面白うのぅ」

「いや、ホントに知らない間にピンチだった事を実感して驚いてるんですけど・・・」

「ま、お前さんにそれをやったとしても儂を殺そうとしたりせんじゃろ?」

「まぁ、そうですけどねぇ。まぁ、縄で縛ってここに連れてくるかもしれませんね」

「お前さんは儂を化け狸と知った上で、団三郎狸ネタで攻めてくるとは。なかなか度胸あるの?」

「ま、これを言ってもお客さんは私を殺したりはしないでしょう?」

「・・・・全くお前さんは本当に食えん奴じゃのう」

「食えない奴が食って美味しい物を作ってるんですから不思議ですね」

「・・・はぁ、お前さん本当に食えん奴・・・・。‼そうじゃ、お前さんを縄で縛って持っていくかの」

「はぁ、俺みたいな男が貴女みたいな綺麗な人に婿に取ってもらえるなら光栄の極みって感じですね。・・・‼狸 に婿入りとか狐の嫁入りの反対言葉みたいで面白いですね」

「・・・・・はぁ」

「何ですかお客さん。顔赤くしたと思えばいきなりため息なんかついて。・・・あ、そんなに面白くない事言っちゃいました?」

「いいや、お前さんは面白いよ。ただのぅ・・・・、いや、これは儂の問題だから気にしなくても良いよ。さて、いい感じに酔いも回ってきたし、お勘定を頼むぞい」

 

 

~~~会計後~~~

 

「ありがとうございましたー」

 

ガラガラガラ

 

「ふぅ、今日はなかなか愉快な日だったのう」

 

二ツ岩マミゾウ。こんなに人間と張り合たのは久しいことである。

正直思っていた筋書きとは大いに違ったが、それでも面白かったのは思わぬ幸運であった。

そして最後まで彼は彼らしい面白さを含めての終わり方だった。

 

~~~10分前~~~

 

「はい、ありがとうございます。お会計はこちらになります」

「量の割には安いのう。これならいつでもこれそうじゃ。ほい、じゃこれで丁度じゃな。葉っぱじゃないから安心するがよい」

「はい丁度いただきました。また来てくださいね」

「美味い酒に肴があったからの。気が向いたらまた来るぞい。おぉ、そういえばさっきの謎解きの褒美は何がよいかの?」

「そうですねぇ。よく考えても何も出てこないんですよねぇ」

「無欲な奴じゃのう」

「ですねぇ。本当に何も思い浮かばないんですよ」

「こんな美女に頼める機会なんてそうそうないぞい。ほれ何かないのかの?」

「・・・・あ、そうだ。ぜひ今度来て頂く時は化けずに来てくださいよ。その時はちょっとでもおめかしして来てくれると嬉しいですね」

「・・・そんな事でいいのか?もっと大きい事でもいいんじゃよ?」

「まぁ、思い浮かばないんで・・・。それに貴女みたいな人が俺のためにおめかししてきたってっだけでかなりハッピーな事ですから」

「う、うん。それなら仕方ないの。そうかそうか」

「?どうかしたんですか?顔赤くしながらにやけてますけど?」

「んん?いや何でもないぞい。・・・しっかし今日はお前さんを手玉に取るつもりだったんじゃかの。なんだか逆にこっちが手玉を取られた様じゃ」

「はははは、私もそこのところは得意分野ですからね」

「・・・。はて?その心は?」

「お客さんに出したのはうまい 煮っころがし ですよ?うまく手のひらで 転がせ てもおかしくないでしょう?」

「・・・・ほっほっほ、次会う時にはもうちょっと面白い事を言えるようにな」

「結構いいと感じだと思ったんだけどなぁ・・・。善処しておきます」

 

 

~~回想終了~~

 

「まったく、あんな奴初めてじゃ」

 

「人間にあそこまで和気あいあいと本心から話したのはいつぶりかのぅ?」

 

あの店主の事を考えると、いつになく胸の内に溢れる温かさはどういう事なのだろうか?

ふと、あの店主の言葉がよみがえる。

 

『?どうかしたんですか?顔赤くしながらにやけてますけど?』

 

「どうしたもこうしたも。人間相手に年甲斐もなく女として浮かれたなんて言える訳なかろうて。でりかしぃのない奴め」

 

責めるような言葉とは裏腹に、その顔は大層温かく柔らかい笑顔だったそうな。

 




最後まで読んで頂きありがとうございます。

もう7話になります。早いものですね。
最近はこれを書くことが楽しみでしょうがないので課題とかめちゃくちゃ頑張ってます。
その課題中にも「続き書きて~」とか「こういうネタがあっても良いかな~」なんて思ったりしながらやってますけどね。

最初の感想とかを見るのに3時間パソコンの前で悩んだのはマジです。
初めて貰えたんで叩かれてたらどうしようとか超不安やったんや・・・。

と言いつつも、アンケートは活動報告に新しく作ったのでもしよろしければ回答よろしくお願いします。

また、どんな些細な事でも良いので感想・コメントもお待ちしております。
貰えるだけでもうれしいですけど応援とかいい感じの物が頂けると泣くほ嬉しくなります。(笑)

さて、今回の終わり方は今までとちょっと今までとは違った感じに仕上げてみました。
如何でしたでしょうか?

最近急に暑くなって体が重くなってはいますが、頑張っていきますのでよろしくお願いします。皆さんも暑さには気をつけてくださいね。

それでは今回はこの辺で。また次話で会いましょう。さようなら。


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其の男の 本性 ?

はい、不定期更新とは何だったのか。どうもノリさんです。

最初に行っておく‼これはかーなーり暗い‼(元ネタわかってくれる人がいたらいいなぁ)

そう、今回はかなり暗い要素を含んでいます。そのはずです。そして最高文字数のお噺だ‼後書きを含めるとさらに長い‼

ですので苦手な方、長いのやだなって人はは読まずにバックすることをお勧めします。

・・・割とどうでもいいかもしれないけど、伏線のような物の回収をやっている回なので、今まで読んでくれている人がいたら・・・って、ここまで来たら今までの全部読んでくれてるような気がするけど、その回収シーンにも注目しながら読むと面白いかもしれません。
読んでない人がいたら最初のお話からチェックだ‼

また活動報告にて出して欲しい人物のアンケートもやってます。
もし良ければそちらもご協力よろしくお願いします。

それでは本編に参ります。


昨日と同じように、とりあえず起きてから今日の買い出しと仕込みは終わってる。

昼食は冷奴ときゅうりの一本漬けで済まし、夕方の営業に備えて仕込みも終えた。

昨日と同じく時間を掛けないといけないのは寝る前にやったし、その日に仕込んでおくものはそう多くはない。

 

昨日はあの狸のお客さんの後にもちょとずつお客さんは来た。って言っても水橋さんとか、さとりさんとか、鬼の方とか、正直昨日の人たちだったけど。それでもちょっとは新規の顔もいた。これからもご愛顧のほどをよろしくお願いします。

 

さとりさんと水橋さんは、だいたい6時くらいに一緒に来てくれたけど1番のお客さんじゃない旨をを伝えると俺にもわかりやすくがっかりしていた。っていうか俺は 「6時開店て言ってましたよね?」と言われた。「あれ?5時って言わなかったっけ?」と言うと2人からキツく絞られえました。もう今回の件に関係のない俺のだらしない点とかも余分に怒られたよ。

知り合いの店に1番に来たい気持ちはわかる様な気がするけど、何もそこまで怒らなくてもよくないか?と思いました。

幸いだったのは絞られている間はお客さんが来なかった事でした。

 

絞りも終わり、普通に注文を受けた時に聞かれたので1番の客になった方の話をするとさとりさんは顔を赤くし、水橋さんはいつもの妬ましいの連呼が始まったので適当に注文を取ってお客さんの相手した。

 

とりあえず化け狸のお客さんはまた来てくれる時に期待だな。きっと約束を守ってくるだろう。

 

鬼の皆さんは1回来たらたら、かなりの酒と肴を飲み食いしていくのでこちらとしては廃棄も少なくなるしお金は入るわで大変ありがたいお客さんである。

 

今日もお客さんが来るといいなと思いつつ、店を開ける17時まで鈴奈庵で借りたレシピ本を片手に2時間半ほど試作を繰り返した。

 

*****

 

 

 

で、今現在に至る。

 

開店の5時からもう1時間ほど経ってもう6時になってるけど一向に来ない。あまりにの暇だったので俺の晩ご飯を作ってしまっていた。

流石にこれはまずいのかな・・・。まぁ、開店して間もない店だし、飯時(めしどき)はこれからだから焦ってもしょうがないかなぁ。

 

 

 

 

*****

 

 

さぁ、かなりやばい事になってきたな・・・。

さらに1時間半も経って時刻は7時半になった。

 

その間、俺は晩御飯食べたり包丁を研いだりぼーっとしてたよ。する事もないし待つしかないからね。

まずいなぁ。流石に誰も来ないのは店の出だしとしては悪すぎだぞ。

 

はぁ、ちょっと本格にどうするか考えるか。

 

呼び込み?いや、これは従業員がいない以上営業直後に1回しかできない。客が1人でも来たら出来ないし、効果が薄い。

昨日いた人達の口コミに期待・・・。まぁ、これは効果はあるけど確実性がないな・・・・。

 

何か忘れてる気がするんだけどな・・・・・、何だっけ?

 

ん~、あ、なんか幻想郷のあちこちに行った時にやろうと思った事なんだけどな・・・・・。

 

・・・・あ‼招待状的なもの書こうと思って忘れてた‼

そりゃ、広告されてなきゃ客足は伸びないよなぁ。

 

うっかりうっかり、うっかり八兵衛。・・・・ネタ古いよなぁ。

 

えーと、配るとしたら人里の寺子屋教師の・・・白沢と人間のハーフの・・・・、なんて言ったっけな。

とりあえずその人と竹林にいた赤いズボンの人と竹薬師の家。

1回しか基本会ってないから名前とか覚えてないな・・・。

いや、俺が元々名前おぼえるの得意じゃないんだけどさ。最初の印象で俺が勝手につける変なあだ名付けてだと覚えやすいんだけどな・・・。

 

後は霖之助にかな。あ、香霖堂って店だから頼めばビラみたいの置かせてくれるかな。まぁ、霖之助には日頃からの貸しがるし、頼めば置かせてくれるだろう。

そうすれば多少は広告になるのかな。だいたいあそこでいろんな種族と会った気がするし。

まぁ、あそこに来るのって客か怪しい人達しかいなかった気がするが宣伝できればよかろうなので、そんな事は気にしなくても良いかな。

 

お客も来ないし、招待状でも作るか・・・。

 

ガラガラガラ

 

「すいません‼少し匿わせてもらえませんか!?」

「いらっしゃいませ・・・って、え?いや、お断りしたいんですけど」

「うっ、そこを何とか‼もう貴方しかいないんですよ‼」

「いやこの世界でましてや妖怪が匿ってくれとか絶対やばい事に巻き込まれかねないでしょ!俺はただの人間なんで困るんですよ・・・・」

「本当にお願いします‼下手したら殺されかねません‼」

 

うん大変穏やかじゃないな。手をつかんで半涙目で上目づかいとか・・・。

上目遣いになるのは俺の身長が高いせいもあるから仕方はないと思うよ。

だけどさぁ、それにしたってなぁ・・・あざとい。

 

見た感じだとここらじゃ見たことないな。新規顧客獲得のチャンス?なのかなぁ。

格好的に俺がよく知ってるのは天狗とかに近いんだが、もしや?あり得るよね、だって幻想郷だもの。

・・・はぁ、しょうがない俺は美人の頼みにはめっぽう弱いんだ。耐性がないからね。

 

「はぁ、しょうがないですね」

「って事はじゃあ・・・。」

「いや、タダではお断りしますよ。ここで匿って面倒事に巻き込まれるのはごめんなんで」

「え?じゃあ・・・」

「そんな泣きそうな顔しないでください。何度も言うように面倒事に巻き込まれるのはごめんですが、ここはお食事処なんで お客さん だったら無碍に出来ません。その間はいくらでも居座っていただいても構いませんよ。それならあくまで貴女はお客、私は客の相手をしていただけの店主ですからね」

 

マジで変な事に巻き込まれるの嫌だ。なのでここが妥協できるギリギリなんだよな。

むしろ無条件に追い出さないだけ今日の俺は優しいな。

俺って良い事してる‼善行は積めば積むほどいいって言うししといて損はないらしいからな。

 

「・・・・わかりました‼匿っていただけるなら丁度お腹もすいたので良いでしょう‼・・・とりあえずは成功ですかね」

「うん?なんか言いました?」

「いいえ、独り言なのでお構いなく‼」

 

うん、よく見ると元気な感じの表情がよく似合う可愛い娘じゃないか。

切り替えが早すぎる気がしないでもないけど。

さてお客も来た事だし調理場に入ろう。招待状は明日の朝一でやればいいだろう。

 

「⁇どうかしましたか?私の顔にでも何か?」

「いや、大した事じゃあない。鷹屋へようこそいらっしゃいませ、お好きなお席にどうぞ」

「私気になります‼何なんですか男らしくはっきり言いましょうよ‼」

「いや、慌てて店に入って来た時の泣きそうな表情とかから一変して、笑顔になった時にそっちの表情の方が似合ってるし可愛いなって思っただけだ。はい、これ水と今日のお通しのキュウリの一本漬けです」

「あやややややや、そんな恥ずかしい事よく言えますね。いきなりだったので顔が熱くなってしまったじゃないですかー」

「実際に思った事を言っただけだからな。物事の感想や感じた事を正直に言うことを恥ずかしがったりしてどうする。伝えられない気持ちなんて持たない方が賢明だろう」

「ほえ~、それが案外難しかったりするんですけどね~。もっと前にどこぞの吸血姫姉妹にでも聞かせてたら薬になってたかもしれませんね~」

「吸血鬼姉妹!?そういうのもいるのか?」

「えぇ、とても有名じゃないですか。紅魔館ってお屋敷に住んでいるあの姉妹ですよ?」

「すまん。俺、割と最近この世界に落ちて来たからそんなに詳しくないんだ」

「あ、貴方って外の人間だったんですか!?よくこんな人間が来ないようなところに店を構えましたね?」

「そうだなぁ。普通人間がこんなとこで店なんかやらんよなぁ」

「えぇ、初めてじゃないですかね。・・・あ、キュウリ美味しいですね‼」

「結構こだわったからな。お口にあったようで何より」

「お持ち帰りとかできませんか?」

「う~ん、すぐ痛むって事はないはずだから大丈夫だろうけどな・・・。それでなんかあっても困るしな」

「あ、キュウリが好き友人がいるからってだけで無理にとは言いませんよ。さて何を食べましょうか・・・」

「あ、他に客もいないし君が今日の初めてのお客様だから特別にメニューにない物でもできる範囲でリクエストがあったら作ろうか?」

「なんと!私が今日1番目のお客さんでしたか。しかし、何でこんなにお客さんいないんですか?」

「ここに来ての顔見知りに招待状とか作ってなかった。あとは基本的に宣伝不足と伝手がなさ過ぎたせいだな」

「あやや~、それは仕方ありませんね~」

「あぁ、とりあえず明日の営業時間外になんとかするつもりだけど・・・・って何食うか決まったか?」

「えぇ、せっかくリクエストオッケーとの事なので、豚南蛮を特別にアレンジして貰えませんか?」

 

意外と通常メニューのアレンジって意外と難しいんだよぁ。試作繰り返しての完成結果にプラスして何かをしなきゃいけないからさ。

まぁ、注文された以上は作るけど。

 

「すでにメニューに載っている物のアレンジ物か・・・。わかったよ。それじゃ少々お待ちを‼」

「あ、あとさっきのキュウリと、豚南蛮と同じタイミングでご飯とみそ汁お願いします‼」

「はいよ~」

 

さ、本日初めてのお客様だし気合い入れていきますか‼

豚南蛮って言うのは鶏南蛮の豚肉版だ。ここって鳥系の妖怪とかも結構いるから、そんな人たちも似たようなのが食べられるようにとメニューにした。

さて、カウンターで料理する際はお客の人柄に合わせて接客を変える必要がある。

このお客さんは好きそうだから話題をを振る事にしよう。作業しながら話したりするのも腕の見せ所だ‼

 

「おぉ、初めてにしては板についてますねぇ。メモメモっと」

 

と思ったら先手を取られた。板についてるって飲食店のバイトとかしてたら覚えるよなぁ。

 

「何をメモってんだ。はい、キュウリです」

「いえいえお気になさらず。ところで、ここに来てどれくらい経ちました?」

「もう2週間ちょっとか。案外早いもんだなぁ」

「ここ怖くないですか?人間1人もいないですし、鬼とか猛者ばっかりじゃないですか」

「あぁ、確かに普通の人間だったから怖いかもな。でも俺、鬼とか伝承とか大好きだし、不思議体験とかはいろいろ経験してるから怖いって事はなかったな。むしろテンション上がった。男性の鬼は気前が良いし、知り合った女性はみんな可愛かったり綺麗だったりするし。まぁ、それに飲み屋とかもいっぱいあって、温泉もあって楽しい所だからいい場所だとと思うよ」

 

むしろ行楽地としても良いところに化けることも可能じゃないかとも思う。

人間と妖怪の溝が埋まればだけどさ。

 

「へぇ~、思ったより好印象なんですねぇ。ふむふむ。で、何でここで店を始めようと?」

「話すと長くなるからパス。そこんところはあれだ、知り合いなら地霊殿に住んでいる古明地さとりって人に聞くといい。俺の知らない所で色々手配してくれたりしたみたいだしね」

「へぇ~、さとりさんをご存知でしたか。さとりさんが他人にそこまで関わるなんて珍しい」

「やっぱり知り合いか?他人に関わるのが珍しい?あぁ、心読めるせいで自分で嫌われ者だって自分で言ってたもんな。でもさ、あんだけ側にペットとかお空さんとかお燐さんとか星熊さんみたいな人達がいて、俺みたいな他人とも上手く出来るんだから、嫌われ者だからとかって言って閉じこもる必要なんてない気もするんだけどね。ま、あくまで俺の見解だから何とも言えないけどね。彼女には彼女なりの葛藤があったんだろうから何も言わないけどね」

「知り合いどころか大変よく知ってますよ‼さとりさんの事よく見てますね。普通妖怪どころか怨霊とかからも恐れられるような人ですよ?心を読まれるの怖くないんですか?」

「いや、不思議と俺の心は読めないらしい。だからこそ俺は彼女と話す時は目を合わせて心のままに正直に話すようにしているつもりだ。些細な事かもしれないけど、そんな事をきっかけに彼女自身が勇気をもって一歩踏み出せるようになったら嬉しいじゃん。あと恐れられてるって言うけどだいぶ中身は可愛い人だと思うよ。・・・酒で酔わなければ」

「あやややや、さとりさんぜひ聞かせてあげたいですねぇ。そして最後のひと言気になります‼」

「こんなの聞いても重荷になってしまうだけだか伝えられないし、最後のひと言は本人のプライバシーに関わるので俺からは言えません」

「ん~、変なところでお固いですねぇ。あれ?伝えられない気持ちなんて持たない方が賢明だろうってついさっき言ってませんでしたか?矛盾してませんか?」

「矛盾してるね。でも矛盾するのなんてよくある事だろう」

「確かに誰にも矛盾の1つや2つありますよね~」

「抱えてる程度であればいいけどね」

「どういうことです?」

「もう少ししたら出来上がるからもう少し待ってくれよ。ってあぁ、俺自身を客観的に見た場合矛盾を抱えてると言うよりは 矛盾そのもの に近い気がしてね」

「詳しくお願いします‼」

「メモ帳に書き込みながら聞くな。まぁ知りたいんだったら今後この店に通って俺を知って言ってくれれば自然とわかる様になるかもな。ちなみにさっきの言葉はさとりさんには伝わらないほうが良いって言う方が正確な気もするよ」

「あぁ、それならわかります。確かにさとりさん真面目ですしねぇ。変に気にしちゃいそうです」

「そう言う事だ。はいお待ちどう。豚南蛮アレンジとごはんに味噌汁です。豚南蛮は左が通常で、右が洋風になってます」

「何と‼良いような悪いようなタイミング完成しましたね・・・。まぁ良いでしょう。赤と黄色と緑の色合いがとても美味しそうなので早速いただきます‼」

「はい、召し上がれ」

 

いつもの豚南蛮はカラッと揚げた豚バラの1枚肉を甘酢に潜らせてタルタルソースを掛けたら完成。

なんだけど今回通常のそれを半分。あとの半分は洋風に仕上げた。

洋風の方はソースとしてトマトペーストに塩と粗挽きのコショウで味を調え、少しオリーブオイルを混ぜて完成。

で、残していた半分に薄切りのチーズをのせ、霖之助のところで購入したバーナーで軽くチーズを溶かしその上にトマトソースをかける。最後にバジルを少し散らして完成。

 

通常の豚南蛮と洋風の豚南蛮そして添え物として千切りキャベツをもって完成。

見栄えも良くかつ味もいい感じの豚南蛮アレンジだ。せっかくだから通常の味と特別な味の2つを用意した。

即興にしてはよくできてると思う。

 

 

「美味しいですねぇ。あのマミゾウさんが勧めてきた訳です」

「マミゾウ?そんな知り合いいないけど?」

「あれ?今日は二ツ岩マミゾウさんに勧められて地底に来たんですよ?ほら、あの眼鏡をかけた化け狸の。ご存じありません?」

「あぁ、あのお客さんか。名前聞いてなかったからわからなかったな。そうか二ツ岩マミゾウさんね。覚えておこう」

「まぁ、商売中に名前わざわざ聞いたりしませんよねぇ」

「そうだなぁ。商売中に名前とか聞いてくるのはブン屋とか警察とかそこら辺だろ」

 

どっちもお関わり合いたくない職業である。

特にブン屋。あいつらはダメだ。

 

「ゔ。そそそそうですね」

「どうした?って待てよ・・・。さっきのメモ取ってたのって記事にするため?てことはあんたブン屋か」

「あちゃ~、バレてしまっては仕方がありません。どうも私こういう者です」

「はぁ、ご丁寧にどうも。って文々。新聞社会派ルポライター射命丸文さんですか・・・。はぁ、取材のついでにここも取材に来たんですか?」

「いいえ、むしろここをメインに取材に来ました‼後はネタがないか見に来ただけです!」

「本当ですかぁ?怪しい・・・」

「本当ですとも‼この清く正しい射命丸文‼どうして嘘をつきましょうか‼」

「うん、勝手に取材して勝手に記事にしようとしたあたり清く正しくないんだけどな」

「ゔ、そこを突かれると・・・」

「ましてや、殺されるなんて穏やかじゃない事言って騙そうとしてくるなんて・・・」

「ゔうっっ、それは本当に申し訳ありませんでしたっ。マミゾウさんに面白い奴だからとそそのかされて、つい・・・」

「趣味の悪い冗談を・・・。まぁ良いです。面倒事がないのは良い事ですから」

「あ、あの怒ってます?」

「まぁ、それなりには。まぁ、それだけじゃないですけど・・・」

「もしよろしければお聞きしても・・・?」

「構いませんけど、気持ちのいい話じゃないですよ」

「それでも構いません」

「それじゃ。俺、そもそもマスコミ・・・・ブン屋とか嫌いなんですよ」

「それはまた・・・。どうしてですか?」

「それは・・・。まぁ俺、親と弟が事故で死んでるんですよ。その時に記者とかが不躾な質問とか取材を無理やりして来ようとしたりとか、勝手な記事を書いたりして・・・・。そんな事があったから嫌いなんですよ」

 

そう。あれは神社が消え、それに関する何もかも俺以外から消えた2日後。

 

俺の落ち込みを気にした家族が合格祝いと気分転換にと食事に行こうと外に行った時だった。

美味い飯腹一杯食って少し整理もついて、まだしばらくは辛いけど頑張ろうかなと思えきた。

 

その帰り道に事故は起こった。

 

近所の川に架かっている橋を渡っている時、家族の後ろを歩いていた俺を除いた前にいた3人が大型トラックに轢かれた。そして川にトラックごと落ちた。

その場に俺だけが残った。

 

次の日からは大変だった。警察の現場検証に付き合ったりとか葬式の準備だったりとか。

親の死体はバラバラになって一部しか残らなかった。弟に至っては死体すら残らなかった。警察が言うには捜索も難しく、発見は無理だと言われた。

満足に弔う遺体がないような葬式だった。幸い遺産についての揉め事はなかったから良かったと思う。大型トラックのドライバーは生きていた。大きな怪我ではなかったらしい。

 

何も感じる間もなく黙々と葬式などをこなした。一度も泣く事はなかった。周りの大人からは泣く事すらできない精神状態なんだろうと、かわいそうにかと思われていたようだけど。そんな事が聞こえる度に自分はとてつもない決まりの悪さを感じるしかなかった。

 

そんなんじゃなかった。その時の俺には泣くという選択肢はなかった。

その時から思えば昔から俺は悲しくても辛くても、泣く事はなかった。いや、過去を振り返った結果世間一般の尺度に当てはめた結果、辛いとか悲しいとか思っていたんじゃないだろうか。じゃあその当時の俺は?悲しいと思っていたか?辛いと思っていたか?心からそう感じていたか?神社におけるすべてが消えた時は?

それに気がついた時、私はとてつもない恐怖感に襲われた。

 

そんな事は知らずに周りの大人は同じような事を話し続けた。それがますます俺自身の決まりの悪さを増大させた。

 

本当に俺の居場所を何もかも失った気持だった。それでも涙は出なかった。

喪失感は確かにある。この時も、神社が消えた時も。それでも辛いとか悲しいとか思っていなのかと思えるくらい心は平穏だった。いや、きっと悲しみのしているし辛さも感じるのだろう。

だけどそこに俺の心はないのだろう。そんな自分に恐怖し絶望した。

 

さらにそこで追い打ちをかけて来たのがマスコミの人間だ。

その時期は麻薬の話題に敏感だった。そんな時に、俺の家族を殺したドライバーが麻薬を吸って錯乱して事故を起こした。それに俺の家族は巻き込まれたそうだ。納得できるはずもない。怒りを感じないわけがない。普通であれば。なのにマスコミは当たり前のことを聞いてくる次の日もその次の日も。家の前やら学校の前から取材にやってくる。俺の本心とは違っていたとしても、世間一般が望んでいる答えを分かっていたのに、それを答えればすぐ収束したのかもしれないのに、一切質問には答えなかった。限界なんてとうに超えていた。何の限界だったのかは今でもわからないけど。でもとにかく限界だった。

そこにとどめを刺してきた質問があった。

 

『鷹崎さん、1人だけ残った心境はいかがですか?』

 

そんな質問をしてきた記者がいた。生放送のテレビの居たし、いい機会だと思い俺はマスコミに向けて初めての発言をした。

 

『貴方はどこの記者さんですか?○○新聞。なるほど、生前の父が愛読していた新聞社ですね。貴方の会社はそんな質問をしても良いと思っているほどえらいんですね。自分以外の家族を目の前で亡くした人間によくそんな質問が出来ますね。どうせここで言った事は生放送のカメラ以外都合の悪い所は消して無かった事にして使用するんでしょう?最悪生放送ですら都合が悪くなったら何とか適当な理由をでっち上げて切るんでしょう?こっちは無かった事に出来ない出来事が目の前で起こったって言うのに。もう、うんざりしてるんです。いい加減にしてもらえませんか?それとも事故当時の事細かく話したらそのまま記事にしてくれるんですか?人が死んだ瞬間をそのまま伝えてくれるんですか?そんな事不可能でしょう?近所にも学校にも迷惑が掛かってるんです。他のマスコミの方々も、もうこれっきりにしてもらえませんか。俺はもう普通の生活に戻りたいんです。ほんとにもう限界なんです。記者の皆さんのご理解とご協力をお願いします。それでは失礼します」

 

頭も下げた。なんでここまでしないといけないんだろうかと思った。でもそうするしか俺にはできなかった。

家に入ったとたんとんでもない屈辱を受けたんだろう思ったけど、俺はやっぱり何も感じなかった。

 

その日の夜になんとなくテレビをつけたら、俺のあのシーンが流れていた。新聞社の名前は隠されてたけどフルで流されていた。マスコミの貪欲さにはここまで言ったら敬意を表して苦笑いしかできなかった。それに対してコメンテーター達がが俺に対してマスコミをその在り方を責め俺の事を擁護するような事を言って勝手に盛り上がっていたが全くもって的外れで胸に響くことはなく。その日はテレビを切って寝た。

 

次の日からは嘘のようにマスコミは一切消えていた。

記事やニュースにはなったが。俺が記者に逆切れしたみたいな的外れな事を書いた記事もあったが気にもならなかった。

 

高校は卒業まで休まず行った。卒業後、俺は実家をも売って大学に近いマンションを借り独り暮らしを始めた。

もう居場所を失わないように。それから俺は自分の中で世界を完結させることにした。

それからは当り障りな性格を作って生きていた。つかず離れず、ちょっと変わった所はあるけれどおそらく凡庸と言われる大学生を。

ある女2人を除いては。でもこれはまた別のお噺。

 

 

「それはなんというか・・・。今まで大変だったんですね」

「・・・そうだね。でもそんな出来事があっての今の俺だからね」

「・・・お強いんですね。辛くはないんですか?」

 

そんなんじゃない。強いだなんて、そんな大層ご立派なもんじゃない。そう叫びたい。

でも彼女に当たるのは的外れも良いところだ。俺はわかっている。

 

「もう終わったことだよ。今更気にしたってどうしようにもないだろう。記者だからって強く当たってしまってすまなかった」

「そうですか・・・。あのっ、こんなお話を聞いた後に申し訳ないんですけど‼嫌な質問はお答えしなくても良いですから、ちゃんとお店の宣伝をするので‼取材をさせてもらえませんか?」

 

正直、断りたかった。店の宣伝にもなるって事を差し引いてもだ。なんでこんなこと聞いてくるんだとも思った。

 

「・・・・、まぁ店の宣伝なら良いよ。俺自身の事は書かないなら構わない」

 

でもさ、なんかこう答えちゃうんだよなぁ。なんでかなぁ?

 

「ありがとうございます‼それではさっそく・・・」

「その前に食べきっちゃってくれ。冷めるともったいない。今日は店じまいにするから慌てずにに満足するまで取材しなよ」

「あっ、はははは、まだ食べ終わってませんでした。それではお言葉に甘えて。・・・・・大丈夫ですから安心してくださいね」

「何をだい?」

「私は清く正しい射命丸文です。貴方を不快にさせるような取材も記事も書いたりしませんから・・・」

 

今度は真剣なまなざしで。

 

「・・・そっか。まぁ、すでに取材方法に関しては・・・って気がしないでもないがなぁ」

「そ、それは見逃してもらえるとありがたいというか・・・。せっかくいい感じに綺麗まとめたのに台無しですよ」

 

今度は少し拗ねたように。

 

「ははははは、そりゃ悪かったな。まぁ、気を悪くさせたのならすまんな」

 

きっとこの射命丸文と名乗った妖怪少女?(正直ここでの知り合いは見た目はともかく年齢の事を考えたら俺よりはるかに年上ばっかだから少女とかの表現が適切かと聞かれたら・・・・ゲフンゲフンちょっとよくわからないなぁ)の裏はあるけど隠しはしない所が見えたから、取材を受けても良いかな。なんて気になったのかもな。

 

こうして天狗の取材が始まった。

 

~~~4時間後~~~

 

21時半ごろに取材が終わり、片付け仕込みに招待状とビラの準備を少々、終わった後はぐったりした。

1時間くらいだったけど、取材って真面目に受けるとこんなにしんどいんだね。

 

雑談交じりに話してたけど、店の事も俺の事もいろいろ聞いてきた。

俺の事は個人的に気になったから聞いているらしく記事には絶対しないらしい。が、正直あまり面白い話もない。けれど、隠すようなことでもないので話した。鬼の2人に話した俺の不思議体験の話とか。あとは趣味とか?

 

後は店の写真とか俺の写真とか撮った。

俺もこの世界に来た記念にとスマホでツーショット写真を撮らせてもらった。

天狗とツーショットとかレアだろ。超嬉しい。

 

まぁ、何だ。俺も天狗の事いろいろ聞けたしWin-Winって事で良いんじゃないかな。

さてもう寝よう。今日はいつもより疲れた。口に含だものとその他諸々をを水で流し込みその日は眠りについた。

 

 

*****

 

「あやややや、思ったよりも遅くなってしまいましたねぇ。キュウリまで持たせてくれるなんてなんだかんだで優しい人ですね」

 

取材も終わり帰ろうとしたその時に

 

『この後キュウリ好きの友人のところに行ってでも飲む予定とかあるのか?』

『そうですね。一応その予定ではありますけど・・・』

『ならちょと待ってくれ。これ持っていくといい』

『これは?』

『一本漬けだ。今日とか明日の内に食べちゃってくれ。あまり日持ちはしないからな』

『良いんですか?』

『ま、今日客来なかったし宣伝の礼って事でそんなんで良かったら持って行ってくれ』

「ふふっ、ありがとうございます』

『じゃ、気をつけて帰っていい宣伝記事書いてくれよ』

『はい、お任せください‼ありがとうございます‼できれば文々。新聞もよろしくお願いします‼』

『考えとくよ』

 

なんて感じで渡してくれたのだ。

本当にやさしい人である。本人はそんな評価は望んでいないし認めやしないのだろうけれど。

 

普段であれば明るく愉快に楽しんでいる彼なのだろう。あれだって彼自身で嘘偽りはない。

でも、記者が嫌いと言った時に一瞬だけ見せた、何と言えばいいのかわからないけれど、強いていうなら本当に悲しい表情とでも言おうか、それとも本当に何も感じていない顔とでも言えばいいのだろうか。

とにかく‼人伝に聞いたり、店先で明るい表情を見せていた彼とは真逆であったが、その表情も彼自身なのだろう。

ほんとに一瞬だったけどその表情に引き込まれてしまった。

すぐに見えなくなってしまったけど、なんだかその表情が見れただけで不謹慎かもしれないがなんだか嬉しくなってしまった。

 

「さて、今度会った時にはどんな貴方を見せてくれるのかしら?」

 

自然と笑みがこぼれ気分も高揚してきた。

 

ほんとは河童の所に行く予定なんてなかったのだが、嘘から出た実と言う言葉もある。

今からなら行っても問題ないだろう。こうして美味しい手土産もある事だし。

 

「さぁ、ちょっと息抜きしたら、いい記事書くわよ~‼」

 

そうして天狗少女?は風となってその場から消えた。

 




最後までお読みいただきありがとうございます。

ちょっと今回は皆さんの反応が普段以上に悪くなっちゃうかな~なんて心配な回ではではありますが、私はこういうの好きですからね。それにこれは書かないといけないお噺でもありました。

人気キャラでキャラがしっかりしている射命丸文さんだったからこそ書けた物ではあります。なのでおいおい彼女には何かいいお噺でも書いてあげたいなぁなんて思ってたりします。

ここまで読んでくれた読者の方には一応宣伝としてご報告を。
Twitter始めております。日頃のどうでもいい事や小説の進捗報告や投稿報告を呟いています。もし今後このお話が好きになってくれてフォローしてくれる人が増えたらアンケートとって何か企画的な物でもやれたらなぁなんて思っています。
IDは私のページの方にありますので、もし興味があれば是非フォローをよろしくお願いします。

それに合わせてアンケート方もよろしくお願いします。

伏線のような物の回収がどこだったのかの 答え合わせ&解説のような物 は少し間を開けて下に書いておきますので、「まだだ。まだ探すんだ‼」って方や「見つけるまで読まんぞーっ‼」て方、「そんなのどうでもいいよ」って方はここで今回はお別れになります。今までを読んでない方は是非一度は探して頂ければ幸いです。

それでは今回はここまで。読んで頂きありがとうございました。今の所おそらくまた来週の土曜日に更新予定です。
それでは答え合わせを読まない方は、また次回でお会いしましょう。















~~ここからは伏線のような物のの答え合わせ&解説のような物だ。準備は良いかな?~~


さて‼お待たせしましたここからは予告したと通り伏線のような物の答え合わせ&解説のような物です。
行きますよ‼




今回の伏線回収のシーンは




主人公・鷹崎仁の親の事故の回想に当たるシーンであります。


どうでしょうか?ここまでのお噺を読んできたであろう皆さんは当たりましたか?

ここから解説の様な事をしたいと思います。



ところで話は変わりますが、皆さんはこのお話を読み続けて何故このお噺の1番最初で太宰治の「人間失格」の有名な言葉が出て来たのか疑問に思った事はありますか?



そこに疑問を持った人は少ないと思います。娯楽作品ですからそれで全く問題はございません。
そこに疑問を持った人はすごく少ないでしょうし、良くそこまで疑問を持ったなと感心してしまいます。それはそれでいい事だと思います。


そもそも太宰治の「人間失格」の主人公はざっくり言うと幼少期から人間の営みが分からずそれに苦悩し恐怖していました。結果、当たり障りのない道化を演じて生きる事となります。それからは・・・これは「人間失格」自体を読んで頂ければいいと思います。私が言う事ではないですが、とても面白い作品です。

では話を戻しまして、このお噺の主人公である鷹崎仁はどうでしょうか?

彼はとても大切な居場所を全て失って、自分自身の(この場合は仮に心と名称しますが)心の無さ、理解が出来ない事にに気がつきます。
彼は、知らず知らずのうちに道化を演じてきたわけであります。果たして本当に彼が知らずにいつの間にかそうなったのか、わかっていながらその事実を見なかった結果なのかはわかりません。しかしながら彼は自身の心の事に気がついた後も、自分自身に苦悩し恐怖し、それでもなおも道化を演じ続けて生き続ける事を選びました。

因みに、主人公の心理描写や意見が少ないとの言葉を頂いたことがあります。
確かに地の文でも彼の心と言うよりは状況確認の様な描写の方が多かったと思います。
しかし、彼自身の心があるのかないのか。彼自身が分かっていないので、心理描写等はそれほど多くはなりません。あっても今回くらいが限度だと思います。

彼も方向は違えど、「人間失格」なのです。もしかしたら、ここまでのお噺で彼に言葉や行動などに違和感を覚えた事があればそれが原因かと思います。

なので最初のお噺では有名なあの言葉を使わせて頂いた訳であります。

これは「人間失格」な人間が主人公のお噺であります。

よって今後もこのような暗いお噺もあるかもしれませんがご容赦ください。
それでも面白いと、少しでも好きになって貰えるようこれからも精一杯書いていきたいと思いますので何卒応援よろしくお願いします。


そして今まで出した中にもまだ幾つかの伏線のような物が隠されています。
わかり易そうな物からわかり難そうな物まで。
そんなところにも注目して貰いながら何度も読み返してみても、面白いかもしれません。

今回はこれで本当に御終いであります。こんなに長い文章を最後まで読んで頂きありがとうございました。
このお噺を好きになってくれる方、応援してくれる方が増えるよう祈りつつ今回は筆を置きたいと思います。本当にありがとございました。それではまた次回お会いしましょう。


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黒幕系とその従者との邂逅

土曜日投稿と言ったな。あれは嘘だ。
毎度どーも、ノリさんです。
今回はアンケートのとこに書いてあった人物がメインのリクエストお答え回ですよ‼︎

って言ってもこの人に関しては遅かれ早かれ出すつもりではいたんですけどね。

それよりもですね。前回のお噺でした予告を2日ほどフライングしてしまった件について釈明をしておきたいと思います。
いやあのですね。先週の日曜日に何もなかったのでずーっと書き続けてたら割と早く仕上がってしまいまして・・・。予告守るべきかそれとも出来ちゃったら早く投稿したほうがいいのかなぁと悩みまして、Twitterでアンケート取ってみたんですよね。フォロワー少ないんで票数も少ないですけど・・・・。協力してくださった人達はありがとうございました。

で、そのアンケート結果が気にしなくていいとか、早く続きを読ませろって声だけだった(まさかネタで作った「なんでもいい、早く続きを読ませろ‼︎」に1番票が入ったのには驚きました)ので投稿する事にしました。予告しておいてなんですけど、早く読めたラッキー☆と思って許してください。

と、言うわけで本編に行きたいと思います。
正直、前回が内容が特別濃かったお噺(作者はこの噺の投稿現在1番考えて書いたお噺なのでそう感じている)なので、今回は特に薄く感じられるかもしれませんが・・・。いや、そんなことはないはず。これが多分普通の濃さですからね!薄くなんてなってないんだから‼︎

と言い訳のようなもので締めつつ本編に参ります。



「ふぅん、あの人間、本当にこんな事始めたのねぇ」

 

朝8時、今朝発行された文々。新聞を読んでこの世界において古参で賢者な彼女は笑みを浮かべた。

まぁ、その笑みはほとんどの理性ある物であれば「うわっ、やばい、関わりたくないなぁ」と思いその場から去るような色々な含みの入った胡散臭い事この上ない怪しい笑みであったが。ま、心から面白いとも思っている事には変わりはない。

 

「どうかされたのですか?紫様」

「あら、ちょうどいい所に来たわね。頼んでいたことはやってくれたかしら」

「はい、その報告に来たのですがよろしかったでしょうか」

「いやねぇ、そんなに畏まらなくてもいいわよ。それでさっそく結果を聞かせてもらえるかしら?」

「はい、紫様に言われて外の世界から来た鷹崎仁をこの2週間ほど監視していましたが、遠くから見ていた感じ特に問題ないかと。おかしな行動や言動は特にみられませんでした」

「そう・・・。まぁ、外から見てる限りはそうなるかな・・・・。じゃあ貴女自身の見解を聞きましょうか?」

「私のですか?」

「そうよ、藍。貴方自身の見解を聞かせてみなさい。鷹崎仁は幻想郷において脅威となるかどうかをね」

「そうですね・・・・。放っておいても何も問題はないかと。正直、身体能力等の活性化は目覚ましいですがそれで幻想郷の脅威になるほどではないかと。また彼の名面も妖怪などに対しての適応力などは人間にしてはかなり高いだけで、危険を招くような危険な思想の持ち主ではないかと」

「ふぅん、貴女の見解はそうなのね」

 

つまらないわ とでも言いたげに彼女は目を流した。

 

「しかし紫様。1つ疑問に思ったのですがよろしいでしょうか?」

「何かしら?」

「なぜあの男を気になさるのですか?私にはただの変わった人間の男くらいにしか思えないのですが・・・」

「あら、そんなに私が執心しているように見えたかしら?」

「・・・はい、正直今まででは考えられないかと」

「そうねぇ。私もそう思うわ。でも何か引っか引っかかるのよねぇ」

「引っかかる・・・ですか?」

 

何かわからないけれど漠然とした嫌悪感のような物。

彼と最初に話した時に感じた嫌悪感と言うか緊張感は何だったのだろう。

おかげであの時は普段会話するときとは違ってかなりの気を遣っていたので必要以上に疲れてしまった。

 

基本幻想郷の変化を望むタイプであるはずの彼女であるが、彼の行いに少々気を張り過ぎている節はあるのかも。原因はわからないが、もしかしたら最近いろいろあったから疲れていたかもしれない。でも気が向いたら、ちょっと調べてみた方が良いかもしれないわね。

 

「そう・・・ってなんだか橙の様子がおかしくないかしら?」

「え?あっ橙‼今すぐ式を何とかするからな‼」

「ちょっと出かけてくるわ。遅くなるかもしれないけど今日は橙とゆっくり休みなさい」

「あっ、ゆかりさー--」

 

こうして彼女は隙間の中へと消えていった。漠然と抱えた違和感を胸に残したまま。

 

****

 

食事処店主の朝は早い。朝6時に起きて顔を洗い、味噌汁とごはんとサバ味噌にほうれん草のおひたしを食べて、さっそく招待状及びビラを作る。早いって言っても昔から俺の家じゃ6時起なんて当たり前なんだけどな。

まぁ、実質1人暮らしになってから空っぽさを自覚してしまってからも習慣は抜けなかったしな・・・。

 

それは置いといて、ビラを書くにあたって、自分が硬筆は恐ろしく汚い事を自覚している。大学ではとある教授に線文字でも書いているのかと言われたくらいである。が、毛筆は少し自信がある。昔、書道を習っていてコンテストなんかで一番凄い賞なんかも何度かとったことがある。それに一時期写経とかを毛筆でやっていたこともあるので、綺麗に書ける。なので毛筆で書くことにした。

 

 

~~1時間半後~~

 

うん概ねいい感じかな。こんだけしっかりと書いたら大丈夫だろう。

招待状には、1割引券付きだ。これはいい感じじゃないだろうか。俺だったらおそらく嬉しい。

 

と言う訳で、配ってこよう。まずは人里の寺子屋教師に。次に竹林に行ってその後に香霖堂かな。

そうと決まれば、さっそく行くか‼地底の穴を壁走りで突破する脚力をとくと見よ‼

 

 

 

****

 

さて最後の香霖堂に来たわけだが、それまでに不思議な事が起こっていた。

軒先にでも適当に置いていこうと思ったら偶然それぞれの誰かしらとは会った。

ので軽くチラシの説明をして次があるからと長居せずに去った。

朝から時間を取らせても悪いと思ったので、我ながらパーフェクトな対応だったと思う。

 

しかし、寺子屋教師も竹林の案内人も薬師の家の売薬の兎も皆苦笑いだったのだ。

何故だ、綺麗に書いたしクーポンも付けた。なんでそんなリアクションになるんだ。

普通に考えて苦笑いにはならんだろう。

 

そこで、香霖堂で霖之助に渡しその事を話したところ疑問はあっさりと解決された。

 

「あのさ、仁。これを渡してきたの?」

「あぁ、そうだ。特に気を使って綺麗に書いたし、クーポンと軽い案内も付けていい出来だと思うんだが」

「まぁ・・・、その・・・、確かにいい出来だよ。うん、それは認める」

「何だ。煮え切らないな」

「まぁ、友人だしはっきりと言うけど、確かにいい招待状なのは認める。けど、こんなに達筆で書かれたら読める人間はそういないと思う。下手したら果たし状に勘違いされそうだよ」

「は?」

「いや・・・。見る目のある人が見たらそれは大層綺麗な字だなって思うよ。でもこれは普通の人じゃあ崩しすぎたりして読めないんじゃないかな?だから苦笑いだったんじゃないの?」

「んん、あぁ、やっちまったなぁ。写経とか崩し書きに嵌った時ので変に癖が着いちゃったのかなぁ」

「ちなみに誰に渡したの?」

「人里の寺子屋教師に竹林の赤い人と薬師の家とここかな」

「まぁ、それなら幸いまだ読めそうな人達の場所だね」

「てことは一般向けにと思って書いたこのビラも紙屑かぁ」

「どれどれ・・・・、あぁ確かにこれは招待状ほどじゃないけどちょっと読みにくいかもね」

「はぁ、まぁ、いいや。これお前の店に置いてくれよ」

「いいけど・・・。ここじゃ大して効果はないと思うよ?」

「良いんだよ。多少でも広がればいいから」

 

カタンッ

 

「何の音だ?」

「今日のこの時間だと・・・、天狗の新聞が来たのかな」

「へー、天狗の新聞ねぇ。そういや昨日俺の店に取材来てたな」

「へぇ、って事はそのうち・・・。ってさっそく一面に載ってるよ」

「ほう、いい記事になってるか?」

「ちょと待ててくれ・・・・・。ふむ、なかなか好印象を持たれやすい記事じゃないかな。地底で楽しく食事処を営む人間の店主って感じでね」

「へぇ、あの・・・射命丸って名前だったかな?って記者は真面目に記事を書く記者だったんだな」

「まぁ、日頃と言うか他の記事はちょっと違うような気がするけど・・・。彼女の書くのはゴシップ記事のようなものが多いから」

「まじか。気をつけないとな」

「それもそうだけど、他に気をつけた方が良いこともある」

「なんだ?いい記事だったんだろ?」

「記事はいい感じではあったけどね。むしろ良かったからと言うべきかな。人間にとって妖怪は敵って言うのがこの世界における人里ルールだからね。今回の記事をきっかけに人間が妖怪を恐れなくなったり、警戒が薄くなったりするような事が起こったらこの世界のルールが変わってしまう。それこそ困る人たちがいる。人里のお屋敷の当主や人里を手に入れようとして水面下で抗争している妖怪たちからしたら、君は何をしでかすかわからないブラックボックスみたいな存在なんだ。まだ地底で細々とやっている内なら問題はなかったんだろうけど今度からは誰かしらに目をつけられていてもおかしくない。中には本当に危ない連中もいるら気をつけてくれよ」

「はぁ、めんどくせぇなぁ。まぁ、俺は俺のやりたいように楽しくやるから俺の邪魔とか目障りなことしなければなんでもいいや」

 

宣伝するためには注目を集めないといけないから仕方がないのだが、俺はそもそも注目を集めるのがあまり好きではない。

・・・・それに見られ続けてるってのもな。

 

「君ってやつは・・・。まぁ、気をつけておくことに越したことはないからね。これから少し気を遣った方が良い」

「わかったよ。一応覚えておく」

「ところで店員は雇わないのかい?」

「そんな余裕もないかなぁ。今のとこ奥の座敷を開けてる訳じゃないから、使ってるのってカウンターだけだし」

「開けたらもっと人が来れるんじゃないのかい?」

「それは俺の店に客が来るようになったらな」

「それなら心配しなくていい。この新聞は幻想郷のあらゆるところで配られているからね。君の店は急激に知名度が上がったはずだよ。来る人が増えれば仕込みや、片付けとかさらに大変になるんじゃないのかい?」

「そうか・・・。ちょっと考えてみようかな。とりあえず暫くはこのままかな。今のとこ俺だけでやってる方が早いしね」

「うん、まぁ、君の場合はそうかもね。とりあえず、なるべく早く時間を作って店の方にお邪魔するよ」

「ゆっくりでもいいぞ。霧雨さんを誘って来ればいい」

「・・・・。君はすぐにそうやって・・・」

「相変わらずみたいだな。霖之助がいつまでもうじうじ悩んでんのが悪い。短い付き合いの俺が言うのもなんだがいい加減覚悟決めろっての」

「うっ、言ってくれるじゃないか。良いだろう、僕だって男だ‼近いうちに覚悟決めて結果を聞かせてあげようじゃないか」

「それ結局やれずに、また俺に愚痴るフラグか?」

「今度は違う‼」

「まぁそれでも俺は良いけどな。じゃあな‼」

「待て、今日こそ君には言いたい事g・・・ってもういない」

 

逃げるが勝ち。もう地底で怒られるのは確定してるのでここで説教を食らうのはごめんだ‼

まぁ、実際、もし霖之助のいい知らせが聞けるならそれはそれでいいんだけどな。

ダメだったらダメだったで酒の席での笑い話にでもしてやればいいんだ。男の付き合いなんてそんな感じだ。

頑張れよ、霖之助。応援してっからな。

さて、帰ろう。

 

 

まぁ、応援はしてるが、あの霖之助の性格上俺はダメな方に一点張りだがな‼

つくづくひどい友人を持ってしまったなぁ。ご愁傷様です。

 

 

****

 

はい怒られましたよ?え?もちろん水橋さんにですよ?

なんと今日はさとりさんもセットでいらっしゃいましたよ。ハッピーセットとはいかないけどな。

 

ちゃんと前回の反省を踏まえた結果、飛び降りではなく下方向に向かってだけど壁と壁の間をこう・・・マ〇オ的な感じでを跳んでみたんだけどなぁ。あれゲームだと最初慣れない内はちょっと苦戦した覚えがある。そして現実ではやろうと思えば案外できるものだ。

その代償が1時間位その場で正座をさせられ、説教される事だったけどな。

 

途中で無意識のせいで俺以外に見えないからってこいしちゃんが笑わせて来たのはずるいと思う。

おかげで説教時間が増えてしまった。これ以上説教キャラが増えたら俺はどうなっちゃうんだろうね。

 

 

そして店兼自宅に帰り、いつも通り店の準備と暇な時にやる試作をやっていると、あっという間に開店時間17時。

 

よし、暖簾を出しに行こう。今日はさとりさん達の協力のもとちょっとした新しい事もやるから成果に期待だな。

 

最近地底の気温が上がったような気がするけど夏だからだろうか。正直寝苦しいのはちょっとキツイな。

まぁ、陽が落ちる時間になれば多少は気温が下がるけど、俺暑いのあんま得意じゃないんだよなぁ。汗かくし。

 

 

店の中に戻り、客が来るまでぼっとする。はずだったが、あの新聞の宣伝効果はばっちりありそうだ。

幅広く配布しているらしいので、正直俺が作ったビラとか招待状とかいらなかったなぁ。

結構頑張ったのにな。まぁ、結果がよければすべてよしって事にしておこう。

 

結果がよくなかったら?その時はその時でなんか考えよう。

 

 

ガラガラガラ

 

「いらっしゃいませ~。お好きなお席へどうぞ~」

「おう、新聞見て来たぞ‼」

「ありがとうございます。2名様ですね。只今、お通しなどご用意させていただきます」

「知ってる連中に聞いても評判良かったからな。期待してるぜ‼」

「ははは、それは嬉しいような緊張するような。お手柔らかにお願いします」

 

さっそく新聞効果が出ているぞ。これはもっと人増えるかな?

ちょっと不安はあるけど、頑張るぞ‼

 

 

 

*****

 

 

今日の営業11時を乗り越え、片付け全てを終え、最低限の仕込みを終えるともう25時。俺はカウンターに突っ伏していた。

なんでって、そりゃ疲れたから。

 

新聞効果もあってか今日はカウンターが満席になった。

奥の座敷使っていないので、カウンター20人で満員ってところだ。

 

何人か申し訳ない事に帰られてるお客さんもいたので、今後何とかする方法を考えないといかない。

 

それよりも、料理の提供の速度だ。

幸い風呂上りに一杯飲みに来ているような人たち相手なのでちょいちょい注文はいる位なので今の所は注文の遅れはない。が1人は正直予想してたより忙しい。

調理から盛り付け、飲み物の提供に接客にお会計などを1人でやっているので結構忙しい。

 

毎回こんなに多くのお客さんが来るとは思わないが、せめて注文と飲み物の提供、簡単なお通しや前菜類の提供に会計、帰ったお客さんの片付けは誰かがやってくれたら店は効率的に回せる。

霖之助の行ってた通り本格的に店員を雇う事を考えるしかなさそうだ。

 

 

しかしそんな当ても人脈もないし、お世辞にもそんなに広い調理場じゃないからでかい俺にプラスしてもう一人鬼みたいな人が入ってきたら、かなり窮屈になっちゃうしな。

個人的には看板娘と言うかマスコットと言うか、そんな感じの店員が入ると助かる。

お客はそっちの方が入るだろうし。男は可愛い店員がいるだけでもまた来てしまったりするものだ。

俺にそんな経験はないけど。

 

まぁ、だからと言って今の所何にも問題ないんだけどな。体のリミッターが外れて来たからか、恐ろしいくらい早く動けるし、体も軽いし、疲れも寝たらすぐになくなるし。正直、居なくてもいいくらいだ。

まぁ、そこんところはおいおいゆっくり考えますか。

 

 

話は変わるが地底では、さとりさんや水橋さんのような女の娘がレアだって事が分かった。

そりゃ、男の人口が圧倒的に多くてあんだけ可愛かったらアイドルみたいになっちゃうよね。

ファンクラブとかあったし。男ってホント馬鹿。(誉め言葉)

 

ちなみに俺はどこのファンクラブにも入ってはいない。勧誘はめちゃくちゃされてますけどね。

なんかお世話になった人達のファンクラブとかなんか気を遣う。そっちに入ったらたならこっちもとかは面倒なのだ。勧誘されたときに各ファンクラブから布教用としてもらった秘蔵写真的な物は大切にしています。貰えるもんは貰う。つーかさとりさんアンタ嫌われ者じゃないじゃん。むしろ大人気だったぜ。でも、ファンクラブの人間もさとりさんの話をするとちょっと様子が変だったんだよな。いったい両者の間に何があるんだろう?

 

 

 

ブゥン

 

このめちゃくちゃ有名な光る剣のような音は

 

「あら疲れた顔してるわね。お邪魔してもいいかしら」

 

やっぱりか。幻想郷に慣れて来たからかもうこんな事では驚かない。

つーかもう、これくらいで驚いてたらキリがない。

 

「え?あぁ、八雲さんですか?いらっしゃい・・・ってもう今日は営業終わったんですけど何か食べます?」

「そうねぇ。せっかくだし何か頂こうかしら?」

「って言っても大した物はないんですけど・・・」

「そんなの気にしなくていいわよ。開店祝いがてら来たんだし、このお店の料理が食べたいわねぇ」

「わざわざそのために来てくれたんですか?ありがとうございます」

「そうよ。私には招待状くれなかったけどちゃんと来たわよ」

「あぁ、そういえば八雲さんには作ってなかったですね。すいません」

「あら、普通だったらそこは慌てて 誘うつもりはあったんですよ って言うところじゃないかしら?」

「いや、完全に八雲さんのこと忘れてましたから」

「ひどいわ!私の事を知りたいってあれだけ求めて来たのは遊びだったの‼」

「その言い方はちょっと誤解を招きかねませんからやめて貰えませんか!?」

「あら、あれだけお金を私に出させておいてそれはひどいわ・・・・。泣いちゃいそう・・・・」

「だからそんな事言ったら・・・・」

 

バゴンッ‼

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ‼紫様に何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「あああああ、俺の店の扉がぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「あら、藍。来てたのね、いらっしゃい」

 

これは驚くわぁぁぁぁぁ‼

 

「紫様‼すぐにこの不届き物を抹殺するのでお待ちを」

「やっぱり誤解されてるじゃないですかぁぁぁぁぁ」

「貴様、表へ出ろ‼今すぐ叩き潰してやる‼」

「あのー、八雲さーん、お知り合いのようなので止めてもらえませんか?」

「ごめんなさいね。この娘ちょっと・・その・・融通効かないからちょっと付き合ってあげて」

 

アンタの悪ふざけが原因だろ何とかしろよ・・・・。俺は面倒事は嫌いなのに・・・・。

と思うだけ留まったは俺の中では僥倖だったと思う。

 

 

「はぁ、とりあえず付き合うのでちゃんと決着つけたら誤解を解いてくださいよ?」

「わかったわ。それじゃ、ちょっと表に出ましょうか」

 

こうして、ご立腹の狐さんとファイトする事になった。

 

「ルールはそうね。流石に人間と妖怪じゃちょっと種族として差があるから勝敗条件は仁君に決めて貰いましょうか」

「え?良いんですか?それじゃあ、相手の背面にタッチしたら勝ちって事でどうですかね」

「いいかしら、藍?」

「構いません。私は負けませんので」

「それじゃあ、始め‼」

 

さって、こんな深夜の、それもくそ疲れてる時に俺は何やってるんだろうなぁ。

俺は確かに、この世界に落ちてきて怪我をして水橋さんのお家でお世話になっていた時、(不法侵入していた)八雲さんの能力とかに興味があったり幻想郷の事を知りたいって思ったから根掘り葉掘り色々聞いたし、お金も確かにたくさん出して(両替)もらいましたけど‼

やっぱり言葉は選ばないとダメだなと思いました。

 

「かかってこい。そのような条件にするとは愚かだな、人間‼」

「あー、やってみなきゃわからんだろう。それに人間をバカにするもんじゃあないぜ。九尾の妖狐さん」

「む、ならば勝てるとでも?」

「そうだよ。俺は勝てない勝負は受けないし、しないんでね」

「私をバカにしているのか‼」

 

バカにしたつもりはないんだけどなぁ。誰だってそうだろうって事くらいしか言ってないぞ。

むしろ勝てない勝負を挑む方が馬鹿だろう。あぁ、会話って難しいなぁ。

 

と思ってたら、いきなり距離を詰めて、拳と蹴りを織り交ぜてくる。確かに速いし強いが今の俺なら楽に捌ける。

 

「うおっっと、ってかかってこいって言ったのそっちなのに待ってくれないのかよ‼」

「うるさい!紫様に手を出し、あまつさえ私の事は愚弄する始末!もう許しはしない‼」

「ちょっと何ヒートアップしてんの!?」

 

そしてこの狐が 手を出した あたりで噴き出すぐらいなら八雲さんにはぜひ今すぐ誤解を解いてやめさせて貰いたいものだ。笑う姿も様になるんだから美人て得でいいよなとは思いました。

 

そしてますます攻撃の速度が上がってきてるんですけど‼やっば、ちょっときつくなってきたぞ。

 

「なぜ反撃しない‼」

「あぁ、もうこういった手合わせは大好きだけどさぁ。俺に意欲ががない時って女とやりにくいんだよなぁ」

「な!?」

 

お、一瞬隙が出来たな。この隙にこの人が防御できるギリギリであろう速度で拳を腹にたたき込む。

そうすると、彼女は防ぐ。俺は吹っ飛ばして距離を開けさせる。

 

「時間が時間なんでな。これで終わりにさせえてもらう」

「それはこっちのセリフだ‼人間‼」

 

冷静な状態じゃない彼女なら今の俺でも余裕で勝てる。

彼女が突っ込んでくる。俺は構えも何もしない。ただの一言を発するだけ。

 

「 後ろの正面だぁあれ 」

 

そして俺は彼女の背中にタッチした。

 

「そこまで。仁君の勝ちね」

「ふぅ、疲れた・・・」

「しかし、紫様‼」

「そこまでにしておきなさい、藍」

 

八雲さんは一瞬にして狐を黙らせた。一気に八雲さんから殺気のようなものが溢れた。

やべぇ、この人ってこんな顔もするのか・・・・。俺もさすがに今のはビビったぞ。

向けられてる対象が俺じゃない事に感謝だな。しかしあいつも衰えてないみたいだな・・・。

 

・・・・⁇まぁ、いいや。

 

「すまなかったわね、仁君。色々とご迷惑かけちゃったみたいで」

「いや、なんというか。まぁ、お気になさらず・・・。誤解を解いてくれたらそれでいいので・・・」

「とりあえず新しい扉はすぐに用意するわね」

「そうですね。とりあえず店の中戻ります?」

「そうね、そうしましょうか。ほら藍、膨れてないでついていらっしゃい」

「・・・・」

 

泣きそうな顔でこっちを見ないで欲しい。なんだかこっちが悪い事したみたいじゃないか。

俺は勝負に勝っただけだからな。ノープロブレム。大丈夫だ問題ない。

 

で、店の中に帰った途端に扉が元通りになった。

いちいちそんな事は気にしたらキリがないので、もうスルー。

そして八雲さんは狐の彼女にしっかり説明をしてくれた。

だがしかし、俺はまだ睨まれている。まだ気にしてるのか。

 

「そうだ、まだこの娘の紹介知ってなかったわね。藍、自己紹介なさい」

「・・・、八雲藍です」

「そっけないわねぇ。いい加減むくれるのやめたらいいのに」

「しかし、人間に負けるなど・・・・」

「いや・・・、あれは俺が勝てるように条件指定したから勝てた訳であって負けたって程じゃ。って八雲って言いました?ご姉妹か何か?」

「いいえ、違うわよ?」

「しかしどっちも八雲となると呼び方はどうしたら・・・・」

「あら?そんなの気にしてたの?名前で呼べばいいじゃない」

「それじゃあ、紫さんと藍さんで」

「はい、それでよし。前からそっけなくて気になってたのよね~。まぁさん付けだけど今はそれでよしとしましょう。あぁ、それと藍は私の式よ」

「式と言うと式神的なものですか」

「そうよ。貴方もさっき言ってたけど九尾の妖狐に憑かせた式よ」

「それはすごい。本当に耳と9本尻尾があるんですね」

「・・・じろじろ見るなバカ者」

「あぁ、すいません」

 

物語とかでしか存在を確認できなかった者がいると是非いろいろ聞きたくなってしまうし、触ってみたくなるななぁ。

 

「しかし、とてもいい毛並みだし綺麗なしっぽだなぁ。是非モフらせて欲しい」

「なっ!?」

「あらあら」

「あ、つい本音が」

「ふふふ、隠さないのね。本当に面白いわ。ところで貴方の能力も面白いわね。あれは何なのかしら?」

「うーんまだわかってない事が多いんですけど、大雑把に言うと遊び・童謡を力に変える程度の能力って感じですかねぇ。正確にはちょっと違う気がするんですけど今のわかっている情報から言うとそんな感じですかね」

「それで かごめかごめ ね。じゃあ、そのときの効果は」

「お察しの通り、相手の後ろに立つだけですよ。だからさっきの勝負は背面タッチにしたんですよ」

「ふぅん。じゃ藍は初めから勝てない勝負に挑んでたって訳ね」

「えぇ、まぁ、そういう事でs・・・ってあぁ藍さん泣かないで‼」

「あ~あ、女の子泣かすなんて悪いんだ~」

「紫さんは子供ですか!?」

 

もしかして招待状の事気にしてるのか!?

 

「な、泣いてなど・・・」

「ところで、何を作ってくれるのかしら?」

「あぁ、まだその話続いてたんですね」

「もちろんよ。私まだ晩御飯食べられてないのよ。ここの営業時間に来ようと思ってもいっぱいで入れなかったし」

「それはそれは。うーん、あんまりこんな時間に重い物を食べるのは良くないですしねぇ」

「そうねぇ、流石にねぇ」

「メニューに載せるか決めてない試作的に作った物で良ければ、すぐに出せますけど・・・」

「それで構わないわよ。藍、貴女もそれでいいわよね?」

「・・・はい、紫様」

「それじゃ、よろしくね。期待してるわよ」

「かしこまりました」

 

さて、まさか偶然とはいえ狐さんが実際俺の店に来た時にこのメニューを作ったとはね。ピッタリすぎる気がする。

 

まぁ、このまま藍さんに膨れられたり変に敵意を持たれても嫌だからな。せっかくなら仲良くしたいし。

この料理で笑顔にして見せよう。ここは俺の力の見せ所だな‼

 

・・・・・・・大丈夫かなぁ?

 




はい、いつもながら最後まで読んでいただきありがとうございました。

多分ここまできたら全員って言っていいくらい今までのお噺読んでくれてるよねって思いたい。
じゃなきゃわからないところとかも出てたり、今後出てきたりすると思うのでぜひ読んでない方は前のお噺を読んでから見てもらえるとわかりやすいと思います。

さて今回は初めての試みとして、次話とセットで1つのお噺となっています。
長くなりそうだから2つにしたはずなのに結局かなりの文字数になってしまった・・・。前回も今回も削れるところは削ってますからね⁉︎ほんとですよほんと。

後編にあたるお噺も今書いていますけど、文字数・・・どうなることやら。
俺自身小説は文字数そこそこないと読んでも消化不良になっちゃうことも多いのでつい・・・。それに俺の書きたいように書いたら文字数が多くなるのは必然で・・・。

もう俺の読者には文字数多いの覚悟で読んでもらうしかなさそうですね・・・。よろしくお願いします。

そんな感じでグダグダはしてますけど楽しんでもらえるよう、自身も楽しんで書いていけるように頑張っていきますので応援よろしくお願いします。

そしてアンケートのようなものもやっていますので、この人物を出せ‼︎この人物の話を書かせたい‼︎この人物がこの作者の手にかかったらどんなお噺になるんだろう?等あったら活動報告にそれ用のフォーム?がありますのでよろしくお願いします。

もしよろしければTwitterもよろしくお願いします。
一応マイページにTwitterのアカウントのIDのようなものは載せてあるのでお気軽にどうぞ。大したことは言ってないけどね。まぁ、みんなそんなもんでしょ。

今回みたいなことがあったらまたTwitterで聞いてみようと、思いつつ今回はここまででお別れです。私は2、3日ガ○ダムをやるんだ‼︎と言いつつ続き書くんだろうなぁ。また次のお噺でお会いしましょう!それでは‼︎


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閑話 いつかの七夕の思い出

どうも‼七夕をすっかり忘れていたノリさんでございます。

七夕のために慌てて書き上げたお噺ではありますが出来る限りの修正もした上で投稿させてい頂きます。七夕のうちに投稿したからセーフ。
もしミスがあったらすいません。温かい目で許して頂けるとありがたいです。

時間的には七夕ギリギリなんで、七夕の内に読める人は少ないかとは思いますが、そこはご容赦を。

そして今回はいつもとは違った感じでお送りさせて頂くつもりであります。


これは、鷹崎仁のかつての思い出を振り返るお噺。そして、幻想郷に来るちょっと前のお噺となっています。

それでは本編へどうぞ


~鷹崎仁 大学3年生 7月7日~

 

今日は朝から軒並み講義がお休みになり、1日暇な日だった。幸いにも結構な雨が1日中降り続けている。心理検査を行っての検査結果の報告書作成の課題などいくつかあったが、家で出来る作業ばかりだったので1日で終わらせてしまった。

むしろ時間が余ったのでテストの時に必要な文章題の事前に用意する必要のある回答用原稿の準備も終わってしまった。

 

で、気がついたら18時。せっかくの休みが休みでなくなってしまった。

晩御飯どうしようかな。幸い昨日の夜に買い出ししたから生モノとか大体の物はある。

 

と思いつつ、テレビをつけると今日は七夕だから面白くない特番ばかりだったのですぐに消した。

そうか、今日は七夕だったのか。1人暮らしだと季節の行事とか全くしないから忘れていた。よく考えればここ数年の俺の町の七夕は雨が降ってばかりだったと思う。

 

七夕で、雨か・・・・。思い出さずには・・・いられないよな。

 

 

 

 

*****

 

 

~鷹崎仁 高校3年生 7月7日~

 

「くっそつめてぇ」

 

予報の本日は1日快晴とは何だったのか。

 

俺はいつも通り面白くもない、居場所もない学校生活を終わらせてきた。

普段通り、ある日を境にますます通うようになった神社に向かっていた。

だが、途中で豪雨に襲われていた。予報があれでは傘など持つはずもなく、家も神社も両方走ったところでどうにかなるわけではないので、あきらめて濡れながら歩いていた。教科書はこういう時に備えて通学鞄のリュックサックにごみ袋を入れていた。で、それに教科書を包んでリュックに突っ込んでおいたので濡れる心配は無し。

俺は眼鏡のせいでレンズに水も 溜まる ので 堪った もんじゃない。お、ちょっと今の面白い。

 

歩いていたおかげでもう少しで神社には着くが、こんなびしょ濡れで行っても迷惑だし前通り過ぎて家に帰ろう。

幸い今日は俺以外の家族3人は弟の習い事の全国大会に出向いていて家には俺しかいない。多少家が濡れても怒られることはない。

そう思い神社の前を通った時

 

「あ~~‼びしょ濡れじゃないですか‼」

 

はい、何でこんな強い雨のなか外にいるのですかねぇ、早苗さんは。

 

「おう、早苗。今家に帰るからよ。気にすんな」

「もう‼こんなびしょ濡れじゃじゃいけません!早く神社の中に入ってください‼」

「きょうび、びしょ濡れって聞かねぇなぁ」

「そんな事はどうでもいいですから早く入ってください‼」

「お、おう」

 

早苗って時々怖いというか押しが強いというか、そんな時あるよなぁ。

と言う訳で手を引かれて、ちょっとドキッとしてしまいながらも神社に連行されてしまった。

2歳ほど下の娘に連行されるって・・・。

 

軒先に着いたとたん「タオルもってくるからちょっと待っててくださいね」と中に入ってしまった。

 

「やぁ、今日も来たな仁。ってびしょ濡れじゃないか!?早く服を脱げ、すぐに乾かしてやる」

 

はい、本日びしょ濡れ2回目。たまに出る早苗の言葉の古さはこの人の影響じゃないのか?

 

「やぁん、神奈子。軒先で年下男子に脱げなんてエッチー」

「なっ‼ああああ、ちち違うぞ仁!そんなつもりじゃないからな?」

「お邪魔します御2人とも。諏訪子はあんまり神奈子の事からかいすぎるなよ」

「はーい」

 

この2人が自分の事を神様と言ってきた、そして俺を救ってくれた人たち。八坂神奈子と洩矢諏訪子。

最初のうちは様付で呼んでいたし敬語だった。そもそも、女性に対して名前で呼ぶ事も敬語的な物を崩す事も俺は基本的にない。

 

けど出会ってしばらく経ったある日、諏訪子が「普通に話せ!そして名前で呼べ‼話さないと本気の駄々こねるぞ‼」と言ってきたことがあった。正直神様の本気の駄々をこねるは見たかったので「どうぞ!ぜひ神様の本気の駄々こねよろしくお願いします」と言った。そうしたら困ったように唸った。

そこに神奈子が「いじわるしないでやってくれ。そこそこ付き合ってから発ったのに一向に距離が縮んだ気がしないって気にしているんだ。普通に喋ってやってくれ」と言われたので「わかったよ。これでいいのか、諏訪子」と言ったのが始まり。諏訪子曰く「なんだか恥ずかしい事バラされて複雑だけど結果良ければすべてよし‼」だそうだ。そこからなし崩し的に神奈子も諏訪子に話すように話してくれと言われて話すようになった。

 

そしてさっきタオルを取りに行ったのが東風谷早苗。早苗が来てからしばらく経って早苗にも同じように話せと言われて普通に話すようになった。今ではちょっと懐かしい思い出だ。

 

 

「お待たせしました。って神奈子様?お顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「あぁ、早苗。だだだ大丈夫だよ。気にしないでくれ」

「ほら早苗。早くタオルあげないと仁が風邪ひいちゃうよ~」

「はわわわ、ど、どうぞ仁さん‼」

「ありがとう早苗。こんな事では風邪はひかないけどさ。・・・・っと拭き終わったけど中はいるのは遠慮するわ」

「ダメだぞ仁。濡れた服を着続けたらそれこそ風邪をひいてしまう。確かお前のために用意した着替えがあるからそれを出そう。お前は洗面所に行って着替えてこい」

「そんなものいつの間に。それならありがたく着替えさせてもらおうかな。じゃ、お邪魔しまーす」

「はいはい、私は神奈子と一緒に茶の間でお茶いれて待ってるね~。早苗は仁にあの大きい浴衣持って行ってあげて」

「はいっ、諏訪子様‼」

 

って言ったとたんに3人とも行ってしまった。はやっ。

とりあえず俺も洗面所行って濡れた服乾かしてもらおう。

 

 

 

******

 

ところ変わって茶の間。

 

「ねぇ、仁。聞きたい事あるんだけどいい?」

「なんだ、諏訪子。お菓子なら今日は持ってきてないぞ」

「そうなのぉ・・・・ってそうじゃなくってさ!何でおしりにタオル敷いてるの!?」

「そりゃ、畳を濡らさないためだよ」

「なんで濡れるの??」

「流石に見知った仲とは言え、他所の家でノーパンになるほど愉快な性癖は持ち合わせてない」

「うん、細やかな気遣い。良い事だぞ、仁」

「私もそこまでは気が付きませんでした・・・・」

「えぇ、おかしいと思ったの私だけ?」

「いや、多分この2人の感性は独特だから気にしないほうが良い」

「いや、仁が言っちゃダメでしょ」

「なんで?」

「はぁ・・・」

 

なんでそこでため息なんだ諏訪子。

うーん、会話って難しい。

 

で、他愛もない話をしていると早苗がふと話題に挙げてきた。

 

「今日は七夕なのに雨が降っちゃいましたよね。織姫と彦星さんは会えなくなっちゃいますね」

「うん?あぁ、七夕か。あれも一種の信仰だね。私たちの神社でもやっても良かったかもしれないな」

「う~ん、でもやるとしたら誰が運営するのさ。早苗と仁くらいしかいないじゃん」

「俺はパスだぞ。そんなめんどくさそうなのは嫌だ」

「私もちょっと・・・」

「相変わらず早苗は人見知りが激しいなぁ。仁の事始めて見た時もモガガガ」

「早苗?諏訪子の口をふさいでどうした?」

「いいえ、何でもありませんよ」

「はははっ、聞いてやるな仁。早苗にもいろいろあるのさ」

「ふぅん、まぁ良いけどさ。で、何話してたっけ?」

「えっと、七夕で雨が降っちゃったから織姫と彦星が会えなくなってかわいそうだなぁ・・・ってお話です」

「早苗は何でかわいそうだって思うんだい?」

「え?だって会いたい人がいて、会えるチャンスの日が来たのに会えないって悲しくなりませんか?だから、かわいそうだなぁって」

「それはもちろんそうだね。私だってそんな相手がいれば悲しいさ」

「ですよね!」

「でもね、早苗。会えなくなっても想い人を慕い続けられる時間って言うのは幸せな事だと思うよ。私はね」

「ふわぁぁぁ、流石神奈子様‼大人のお答えですね」

「でも神奈子にはモガガガ‼」

 

今度は神奈子に口をふさがれてるよ、諏訪子。お前さっきからいったい何を言おうとしてんの!?

 

「もがーもががっが‼」

「神奈子、離してやってくれ。諏訪子が何言っているのかわからん」

「う、うむ、仁がそう言うなら放そうじゃないか。いいか、諏訪子。余計な事は言うんじゃないぞ」

 

うわっ、ガチ睨みこわっ。

 

「ぷはぁ、ありがとうねぇ、仁。危うく神奈子に気絶させられる所だったよ~」

「で何話そうとしたの?」

「それはね~」

「仁‼」

「はい‼」

「余 計 な 事 は 聞 く な」

「イエス、マム‼」

 

こわっ、神奈子がここまで隠したい事ってなんだよ。って言うか何でそんな事さらっと言おうとしてんの諏訪子は!?

スーパー神様大戦とか始めないでくれよ。ぜってー神奈子はイメージ的にキャノンだよ。何キャノンかって?それはご想像にお任せします。

 

「は、話を戻しましょうか!ね、神奈子様」

「んんっ、そうだな早苗。おぉ、そうだ。じゃあ私と早苗の見解は話したから残りの2人にも聞こうじゃないか?」

「それは良いですね‼」

 

えぇ、そんなに七夕って思い入れあるもんじゃないしな。とりあえず諏訪子より早く言わないとネタがないぞ‼

 

「じゃ、私からね。良いよね?仁」

 

ハイ、先越されましたー。

 

「お先にどうぞ、諏訪子様」

 

もう出だしを挫かれた段階で決まっていたようなものだ。

 

「それじゃあねー。そもそもあれってイチャつき過ぎ、仕事しないのはダメだよって年に1回しか会えなくなったんでしょ?」

「大分ざっくりしたけど、まぁそんな感じだな」

「てことはイチャついてない期間がある分やっぱり余計に相手が恋しくて仕方がないとは思うよ。でもやまない雨はないって言うしさ。いつかは必ず会えるんだよ。それが次なのか、そのまた次なのか。いつになるかはわからないけどね。だから、2人の想い慕いあう気持ちが変わらず在り続けるなら、その時まで2人は精一杯生きて、いつかの幸せな時間のために元気に生きていけると思うよ。・・・って感じかな!」

 

おぉ、諏訪子・・・。

 

「ごめん諏訪子。俺、諏訪子からそんなしっかりした話が聞けるなんて思ってなかった」

「なんだとー‼仁は私の事バカにしてるの!?」

「いや違うって‼てっきり諏訪子はもちょっと面白可笑しく話すと思ってたもんだから、真面目な話が聞けてむしろ普段とのギャップが出てよかったって事だよ‼」

「へぇ、いやぁ、まさかギャップが出ちゃったかー」

 

ほんと諏訪子ってコロコロ表情変わるよなぁ。ほんとに恐れから信仰される祟り神なの?って感じだ。

まぁ祟り神の場合単純な恐れだけの信仰じゃないから何とも言えないけど。

 

「うむ、仁の言う事も一理あるな。かくいう私も同じように思ってた」

「私も諏訪子様がこんなに真面目に答えてくださるとは思ってませんでした。そしてとっても大人な回答ですね」

「えへへ~、やるときはやるのよ~」

 

さっきから早苗の物言いに冷や冷やしてるのは俺だけ?

大人な回答ってそれ受け取り方によっちゃ、馬鹿にしてるみたいになっちゃうよ?

まぁ、でも早苗に限って、そこまでの悪意を持っての発言はないか。

 

う~ん、それにしてもこの諏訪子のチョロさとでも言えばいいのだろうか?ちょっと不安になってくるなぁ。

でも時々いい事言うって事は、諏訪子もちゃんとした神様って事か・・・。

 

「ちょっと仁。失礼な事考えてない?」

 

なんでわかった!?

 

「そんな事はないよ、諏訪子」

「ホントかなぁ」

「ホントホント、オレウソツカナイ」

「なんでカタコトなのさ!?」

「はいはい、諏訪子そこまでにして仁の見解も聞こうじゃないか?」

「でも神奈子~」

「あとで個人的に聞きなよ・・・。ほら早苗が仁のを聞きたくてうずうずしているじゃないか」

「べ、別にそんな事はありませんよ!?」

「あ、わかったよ、早苗‼」

 

今ので何が分かったというんだ。

 

「ななな、なんでしょうか?」

 

早苗もめっちゃ動揺してんじゃん。

 

「もしかして私と神奈子が思っていた以上に大人な回答を出してきたから、自分だけ子供っぽい事言っちゃってちょっと恥ずかしくなってきたんじゃないの?それで仁に最後の望みを託して・・・」

「あぁ、なるほど。早苗、気にすることはないよ」

「神奈子様も諏訪子様も何言ってるんですか!?合ってますけど‼」

「合ってる事は認めるんだな」

 

あらやだこの娘、超素直‼

 

「そうですよ~どうせ子供っぽいですよ~。でも仁さんは私の味方ですよね?」

「いやぁ、私たちと同じかもよ」

「こら、諏訪子。あんまり早苗をからかうもんじゃないぞ」

「いいじゃん、神奈子。で、仁はどうなの?」

「って言われてもさすがに俺ってそこまで七夕に思い入れとかもある訳じゃないしなぁ」

「それはダメですよ‼」

「そーだそーだー。私達も話したんだちゃんと話せー」

「うん、私も仁の見解は興味があるな」

「ですよねぇ。ま、俺の考えでいいなら」

 

っても俺のが一番まとまってないし、めちゃくちゃな気がするんだよなぁ。

 

「あー、じゃ話すけど一応最後までちゃんと聞いてから物言ってくれよ」

「もちろんさ。さ、始めてくれたまえ」

 

え?神奈子さん、そんなに改まって言われるとちょっと困るんだけど。大した事言わないし。

 

「まぁ、まず結果的な事言うと織姫と彦星はかわいそうでもないし、かといって想いあう時間が伸びたりすることもないって感じだな。つーか、毎年会ってんだろ」

 

「え?」

「ん?」

「ほぇ?」

 

上から、早苗、神奈子、諏訪子の順に驚いていた。

まぁ、そりゃそうなるよなぁ。

 

「だってさ、そのお話に出てくる天帝だったっけな?確か神様的ポジションだった気がするんだけど・・・。そいつって確か織姫と彦星に真面目に働いたら1年に1回七夕の日は会わせてあげるって約束したんだろ?確か織姫と彦星って、2人が会う前からどっちも仕事するときは真面目にやるイメージだったからさ。大切な人と会うためにってなったら気合入れて真面目に働くんじゃないの?だから会えないって事はないだろ」

「でもそれじゃ、雨が降ったら会えないんじゃ?」

「まだ終わってないよ早苗。うーん、これは俺の自己完結した結果と言うか、理論的に考えたらめちゃくちゃ感情論ばっかでアレなんだけどさ・・」

「ほら、何でもいいから話しなよ~」

「わかったよ諏訪子。まぁ、確かに雨が降ったら天の川に水が溢れてだったかな?会えなくなるって言うけどさ。俺、天帝がそんなに意地の悪い神様みたいな奴だとは思わないんだよなぁ」

「なんでそこで天帝が出てくるんだ?」

「神奈子もまだ続いてるから。何でって言われるとな、元々天帝は2人がやるべき仕事をしなくなったから、ちゃんと働くように離れさせたんだよな。ちゃんと理由があってそんな事するような人だったら、約束守って真面目に働いていた2人に約束を破るようなことはしないと思う。何かしらの手段で会わせてあげているでしょって思うんだよね」

「なんだか思っていたよりもかなり優しい見解ですね」

「うん、仁ってもっと現実見た物の見方してるから、もっとドライな感じかと思ったよ」

「早苗に諏訪子はどんな目で俺の事見てるんだよ。いや俺も物語とか神話とかは大好きだからね。そんないちいち物語の面白さを叩き潰すような無粋な真似はしないよ」

「でも、天帝の性格とかの描写まで書いてある物なんてあるのか?君が何の根拠もなくそんな補完の仕方はしないと思うんだが」

「神奈子は鋭いなぁ。そうだよ、でもこれは俺のオリジナルだよ。俺も天帝の性格まで補完した上での話は聞いたことがない。よく見なくてもわかる事かもしれないけど、天帝の行動って筋は通ってるし間違ってることは言ってないんだよなぁ。まぁ解決手段が適切かどうかはさておいてだけどね。そんな天帝だからって言うのもあるし、それに・・・・」

「「「それに??」」」

 

「俺の知っている限りでの神様ってのは、約束を守って努力したりしている人間との約束をちょっとやそっとの事でで諦めさせるような薄情な神様ではないからね。むしろ、頑張り続けてたら元に戻して前より幸せなハッピーエンドにしようとしてくるような神様だからさ。筋の通っている天帝も似たようなもんじゃねえかなって思っただけだよ」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

ボッ と音が鳴りそうな感じで3人の顔が赤くなった。

ちょっと面白い。

 

「おいおい、何で顔赤くしてんだ?」

「いやぁ、だってその・・・・」

「そりゃあねぇ。ほら・・・・ね。神奈子」」

「そ、そうだな。諏訪子」

「すまん、俺には何を言ってるのかさっぱりわからん」

「神奈子、この男に何でか言ってやってよ‼」

「私からもお願いします神奈子様‼」

「よし、解説よろしく頼む神奈子」

「お前たち・・・・。はぁ、わかったよ。良いか、仁。」

「おう、なんだ?」

「お前が今言った事はその・・・、勘違いではなければ・・・だな。その・・・・」

「なんだよ言いにくそうにして。俺はそんな神奈子が言いごもるようなエロイことは言った覚えはないぞ」

「そ、そうじゃなくてだな‼えぇい、お前が言ってるのは私達をべた褒めしたのではないかと言う事だ‼」

「ん?・・・・あぁ、そうだな。そうなるのか?まぁ事実だし良いんじゃないか?」

「そ、そうか。それならそれでいいんだが・・・。まったく・・・」

「諏訪子様、仁さんってやっぱりズレてると思います」

「うぅん、まぁ、そうだねぇ」

「おい、褒めたのになんだその言われようは。ひでぇなおい。顔赤くして言われても何も気にならないけどな。そんな事より、腹減ったな」

「えぇ、自分で壊していくスタイル?」

「何を壊すんだ、諏訪子?・・・っても俺部活帰りだし、腹減ったんだよ。今何時?」

「えぇっと、18時ぐらいですね。あ、今日は仁さんも一緒にに食べませんか?」

「俺は今日は家に誰もいないからいいけど、良いのか?」

「うむ、仁ならいくら居て貰っても構わないよ」

「そうだよ!いまさら何気にしてるのさ」

「冷蔵庫の中身」

「そっち!?」

 

当たり前だろ。こうなって俺が料理を作らなかったことがあっただろうか?いや、ない。

 

「冷蔵庫の中身は大丈夫ですよ。今日買い出しに行ってきましたから、何でもありますよ‼」

 

うん、作らせる気満々だったんだな。

 

「でも俺今日疲れたしなー。楽な物にしたいし・・・。今日は手巻き寿司とかでいいか?」

 

そうしたらちょっと俺が巻くもの作ればいいだけだし。

 

「あれ?珍しくご馳走だね?」

「おい諏訪子。その言い方は普段の俺の料理は貧しいとでも言いたいのか?」

「ち、違うよ~。仁の料理って節約しながらおいしくいっぱい食べられるような実用系の料理ばっかじゃん?だから派手に食材使うようなイメージなかったからさ」

「まぁ、確かに・・。でも俺も使う時は考えなしに使う事もあるぞ。今までの料理は早苗が自分でも作れるような物を教えてくださいって言ってたから、教えながら作った結果だぞ」

「そうだったのか。で、早苗は料理の腕は上がったのかい?」

「一応はそれなりに出来るようになりましたけど・・・・。仁さんほどの物は作れませんね‼」

「自信をもって言うな。ってまぁ教えてる側がそう簡単に抜かれても困るんだけどさ」

「でも神奈子様、仁さんの指導が厳しいんですよ~」

「おぉ、そうなのかい?仁、もうちょっと優しくしてあげたらどうだい?」

「早苗が厳しく指導をお願いしますって言ったから無理。俺はしっかりダメなとこはダメって言うぞ」

「ゔ、それはそうですけど・・・」

「まぁいいや。ほら早苗、作りに行くぞ。俺は腹が減った」

「はい‼今日もご指導よろしくお願いします‼」

「早苗ったら嬉しそうにしちゃってさ~」

「うん、笑顔なの良い事じゃないか。でも仁1ついいかな?」

「ん?何だ?」

「どうして手巻き寿司みたいなご馳走にしたんだい?」

「あ、それ私も気になった‼ただ疲れたからって訳じゃないよね?」

「え?そうなんですか、仁さん?」

「そんな訳ないだろう・・・・。と言っても良かったけどやっぱ鋭いね。まぁ、理由はあるよ」

「へぇ?そうなんですか?教えてください、仁さん」

「早苗は食い付き過ぎな気がしないではないけど、大した理由じゃないよ。せっかくの年に1回織姫と彦星が会える日なんだからさ。ハレ(晴れ)の日になりますようにって事で完全に駄洒落だけどご馳走にしようと思ってね。それにハレの日には白米、尾頭つきの魚とか酒とか飲み食いするんだろ?流石に尾頭つきの魚とはいかないけど、お刺身にでもして、色んなものを巻いて美味しく食べられる手巻き寿司が丁度良いかなって思ったんだよ。あ、酒はそっちで勝手に飲んでくれよ。俺は未成年だから飲まないぞ」

 

「⁇どういうことですか?」とわかっていない早苗。

「ほほぅ、やるじゃないか」とわかって静かに笑う神奈子。

「やっぱ仁って学力はいまいちって感じだけど頭はいいよね」と一言多い諏訪子。

 

まさに三者三様といった反応だ。諏訪子はあとでちょっとお説教。

 

「ほら早苗。早く準備するぞ。あっちで作りながら今の解説するから。こっちの準備は任せたよ、2人とも」

「まっかせて‼」

「うん。酒とかその他諸々は任せておけ!」

 

うん神奈子に諏訪子、そうじゃないけど・・・。まぁいいや。賑やかな方が良いだろう。

 

「行きましょう仁さん‼」

「そうだな早苗。俺はもう限界が近い」

「それならなおさら急ぎましょう‼」

 

早苗は俺が何か面白い物でも作るんじゃないかと思ってるんだろうか?えらい元気な気がする。

まぁレパートリーが増えるって楽しいからその気持ちはよくわかるぞ。

さて、何を作ろうか?せっかくだし普段作らないような豪華なほうが良いかな?

 

 

結局その日は雨が降ったままだったけど、俺たちは4人で楽しく時間を過ごした。完全に七夕パーティーだった。酒を勧めてくる大人組2人には参ったが、なんとか飲まずに済んだ。

 

そうそう、雨は降ってるけど織姫と彦星は俺の考えであればきっと会えてる。

都合のいい解釈だし甘い考えなのかもしれないけど、物語ならそれくらいの幸せがあってもいいと思ったんだよな。

 

 

*********

 

~~ 鷹崎仁 大学3年生 7月7日~~

 

時刻は19時と30分。思い出しながら何となくキッチンで手巻き寿司を作ってしまっていた。

元々刺身は今日中に食べちゃおうと思ってたからいいんだけどさ。

なんだか一人で食べきれる量じゃない量を作ってしまった。余ったら明日の朝ごはんにしよう。

 

お、そうだ。せっかくだしこの前部活の先輩から飲めないからあげると言って渡されたお酒の箱があったな。

あれを開けよう。真っ白の箱に入っているから、何の銘柄が入っているか見てなかったけど、先輩曰く日本酒が入っているらしい。さっそく開けて銘柄見てみよう・・・ってこれって。

 

「はははは、これは傑作だな‼」

 

先輩がくれた日本酒の名は 純米吟醸 吉福金寿 と言う 真澄 と言うお酒のちょっと贅沢なやつだ。

それと手巻き寿司のために用意した物を机に並べた頃には雨がやんでいた。本当に久しぶりの雨のない七夕だ。

あの時とは違って、ちゃんとハレの日になってくれたじゃないか。

 

お酒を盃に注ぎ、それを持って晴れたので空を見にベランダに出た。

 

「おぉ、ほんとに急に晴れたなぁ」

 

あの時とは違った景色の。1人だけの七夕パーティーが始まった。

 

なぁ、結局お前たちと過ごしていたあの時間は幻だったのかなぁ。俺以外誰も何にも覚えちゃいないんだぜ。

本当だったのか確かめようがないけどさ、あの時間は本当に幸せだったよ。

変わらず思い出せる思い出と、あの時とは大きく変わってしまった俺、および環境。

時が経つってのは残酷だよな。もう4年ぐらい経とうとしているんだろうか?

その間に色々と大きく変わてしまった。俺自身も。

 

なぁ、俺もう酒飲めるような歳になっちゃたぜ。

もうどうしようもなく駄目な男になってしまったよ。こんなんじゃ、胸張って会えねぇよ。

それまでに何とかなってるといいなぁ。

 

また会えるんだろうか?その時俺はどんな気持ちを抱くのだろう?

あいつ等は今の俺にいったいどんな気持ちをを抱くのだろうか?

 

わからない。わからないけど、その時は笑って会えるようにしよう。

 

「ふぅ、今日はえらく星が綺麗に見えるなぁ」

 

今までで1番綺麗な星空かもしれない。

 

星空を見上げながら

「早苗、神奈子、諏訪子。お前達が本当に居た存在なのかは今となってはもうわかんねぇけど、きっとどっかで元気にやっているよな。また・・・会えるよな?」

 

そして俺は持っていた酒を一気に煽った。

何故か胸にえも言われぬ熱さが込み上げてきたが、頬を撫でた風がその熱さを落ち着かせてくれた。

 

 




さて、いつもながら最後まで読んで頂きありがとうございます。

今日慌てて13時から16時、20時半から23時10分程まで。
何とか七夕に間に合うようにと、6時間ほどで仕上げる事となりました。

いつか書こうと思っていた過去のお噺を、今回の七夕に合わせて急遽七夕と絡めたお噺にアレンジしました。アレンジしながら最初から打ち込まなければいけなかったので、お噺のベースがあったとはいえ、今までで1番大変でした。もうこんな大変な事はしないようにしたい。

真面目なお話を少し。
今回はちょっとこれまでのいつものお噺とは違った方向性の仕上がり方となりました。
最近ので言ったら、さりげなくかわいい狸が出てきたりとか主思いの狐があらぶったりのような日常的なお噺や、主人公の過去の暗い感じのお噺など。
今までのは、そんな感じでした。

しかし今回は読者の皆様をちょっと切ないような、ちょっと胸を打つようなお噺に仕上げたいなと思い書き上げました。もちろんお噺として面白いと思って貰えれば嬉しいです。そして、今回は読者の皆様の胸にちょっとした切なさや、胸を打つような何かが感じて頂けたなら、なお嬉しいです。

今回のお話は、最後のお酒の部分など なぜ? と思うような、わかり難い点もあるかと思います。
ですので、ヒントのような物を書いておきますと

・ハレとケ
・真澄の鏡

の知識があればより楽しんでもらえるかと思います。
真澄の鏡に関しては、pixiv百科事典の 八坂神奈子 の記事を読んで頂けたらとてもわかり易いかと思います。
主に上記の2つの事を知った上で今回のお噺を読み返して頂ければ、なるほど と思って貰えるのではないかと思いますので是非。

今回はここまで。おそらく次は本編の続きでお会いすると思います。
これを最後まで読んでくださった皆様の願いが叶うよう祈りつつ今回はお別れです。
次話でお会いしましょう。さようなら。


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お茶目賢者、怒れる従者

はいどーもー、亀更新とは何の事やら馬車馬の如く書き続けているノリさんです。

好きで小説は書いてるんで楽しいんですけどね。
あ、あと閑話の扱いについてちょっとまとめたのでこのお噺の注意点の所を確認してみてください。

はい、という訳でとうとう本編10話です。
今回で1話から1ヶ月半くらいですかね。
当初はこんなにハイペースで書きつづてけてる事になるなんて思ってませんでした。
総文字数やら平均文字数を見て気がついたらこんなに書いてたの⁉︎って思いました。

こんなネット小説にしちゃ文量が多いお噺を読んで下さり、またお気に入り等などもしてくださった方など本当にありがとうございます。特にお気に入りは当初目標にしてた10人に手の届きそうになっていて驚いています。これからもゆるゆる面白いお噺を書いていけるよう精一杯やっていきますので応援よろしくお願いします。

今回のお話は閑話の前のお噺と合わせて2つで1つの物となっています。読んでない方はそちらも・・・いえ、ぜひ最初から読んでみてください。(笑)

という訳で記念すべき(本編)10話目をどうぞお楽しみください。(いつも通りのお噺です。特に何かした訳ではない)


さて。作ると言っても、もうほとんどの下ごしらえは出来ている。でも一応確認。

 

「2人とも苦手な物とかってありますか?」

「特にないわよ。好き嫌いはしないもの」

「私も特にありません」

 

う~ん、紫さんはともかく藍さんは警戒心むき出しだなぁ。

敬語でそっけなく言うなんてある意味わかり易くて正直な性格だと思うけど。

 

さって、苦手な食べ物もないようなので、ちゃっちゃと作っちゃいますか。

俺が今回作るのはおいなりさんこといなり寿司だ。

俺の作った試作の中に偶然いなり寿司があったのだ。これは女の人・・・と言うかさとりさんやこいしちゃんみたいな口の小さい人でも一口で行けるサイズにしている。

 

醤油、酒、みりん、出汁に漬けた油揚げに酢飯を詰めるのが基本的なおいなりさん。

わざわざ来てくれた紫さんと、俺が仲良くなりたい藍さんにせっかくならと言う訳で特別バージョンにす。

 

熱々のごはんにアサリを混ぜた物を油揚げに詰めた後に少しの塩とお酒をかけた物、鶏胸肉を塩麴に1日漬けて蒸した特性の鶏ハムと青ネギとゴマをを細かく刻んでごはんに混ぜ合わせ、それを油揚げに詰めた後に鶏ガラスープと酒を混ぜそれを注いだ物を用意する。

 

で、アサリと鶏ハムのおいなりさんは油揚げの口を下に向けるのではなく上に向けたまま両サイドから3分の1ほどの所に切り込みを入れ、その切込みにかんぴょうを通し結んで、3分ほど蒸す。

 

それぞれ一口サイズなのでで2個ずつ。計12個のおいなりさんを6個ずつ2つのお皿に盛って、しっかり出汁を取った油揚げとほうれん草のお味噌汁を一緒に出せば完成‼

 

「お待たせしました‼スペシャルいなり寿司セットです。わざわざ来てくださったお礼にご馳走しますのでどうぞ遠慮なく」

「あら・・・・、思っていたよりかなり良い物が出て来たわね、藍」

「おぉ・・・・・」

 

藍さんが目を輝かせている‼やっぱり狐の妖怪だけあって油揚げ好きなんだな。

これは偏見なのか?いやそんな事ないだろ。

 

「ちなみに、左からアサリ入り、鶏ハム入り、普通の出汁に漬けた揚げで包んだいなり寿司になってます。左から順番に熱いかもしれませんけど小さいので一口で食べるのをお勧めします」

「なぜ?」

「食べてみたらわかります。って言っても左から温かい内に食べて貰いたい物だからってだけなんですけどね」

「そう、それじゃあ、いただきましょうか。ほら、藍、いつまでも眺めてないで食べるわよ」

「はっ、すいません。まりにもおいしそうだったのでつい・・」

「良いから食べるわよ。冷めちゃったらもったいないわ。はい、両手を合わせて」

 

「「いただきます」」

 

うーん

美女2人が並んでいただきますをすると、とても美しいものだ。

やっぱ所作の美しさはこういうのから滲み出てくると思う。

 

「あらこのアサリのはなかなか大人の味ね。味はシンプルだけど、アサリの出汁とお酒が良い感じに合わさってとてもおいしいわ」

「ありがとうございます。アサリの酒蒸しからヒントを得て作ったんですけど上手く出来たみたいで良かったです」

「それに一口サイズって言うのもポイントね」

「そうですね。そっちの方がアサリの風味とお酒の香りが同時に美味しく感じられると思ったので」

 

そしてアサリとお酒のうまみが塩でいい感じになっている出汁を吸った揚げも美味しくなっているはずだ。

 

「考えられてるわねぇ」

「即興で貴様がこれを作ったのか?」

「美味くなる組み合わせかどうか、大体どれだけの割合で作ればいいかは今までの料理経験で大体わかるからね。即興って言っても、それら経験をかけ合わせて作っただけだよ」

「ふん、そうか」

「ふぅん。あら藍、自分より美味しい油揚げ料理を作られて悔しいのから」

「そんな事はありません!それにまだ2種類残っています1つ食べただけで判断は・・・」

「ん、2つ目の鶏ハムもいい味してるわね」

「紫様!?」

「せっかく作ってくれたんだから美味しくいただきなさいな。あ、いらないのなら私が貰うわ」

「いえ、、そう言う訳では・・・」

「それなら、変に意識せずに純粋に楽しんで食べなさいな」

「はい・・・」

「あ、一応冷たい緑茶です」

「ありがとう。ちょうど喉乾いてきたのよね。お味はどうかしら、藍?」

「美味しいです。ハムに塩気があるのでネギと鶏ガラスープにしっかりと合って美味しいです」

「お口に合ったようで良かったよ。ちなみにそれはどちらかと言えば一口て食べられる鶏飯って感じのイメージだからおいなりさんっぽくはないかもね」

「そんな事気にしないで良いのよ。美味しければ」

「そう言って貰えると助かります」

「さて最後のだけど、普通のみたいねぇ。前2つが工夫を凝らしてあっただけにちょっと地味ねぇ」

「紫様、これが基本的な物なのでそんな事言っては・・・」

「まぁ、食べてみてくださいよ」

 

普通と思って侮っちゃいけませんぜ、紫さん。

 

「そうね。いただきましょうか。あ~ん」

「そうですよ。普通のだって美味しいですから・・・」

 

「「!?」」

 

それに普通の見た目ってだけで、誰も普通のやつだなんて言ってないぜ。

 

って言ってもそんな大したことはしていない。

梅干を漬ける時に一緒に漬けた赤シソを俺なりの方法でふりかけにした、自家製のふりかけをご飯に混ぜただけ。

夜だからあっさりしてるとはいえ割と味のしっかりした物だったからね。最後はさっぱりしてもらおうかと思ったんだけど

 

「いなり寿司が狐の要素がある藍さんにぴったりの料理だったんですけどね。それだけじゃあちょっと面白くないので美味しく紫さん要素を足してみました。俺なりの遊び心ですよ」

 

ホント俺ってやれるときはやれるいい男だな‼

・・・・世の中が俺に厳しいからね。俺だけは俺を褒めるようにしてるんだよ。

 

「あら、嬉しい心遣いね。即興で作ったとは思えない位の工夫ね。ぜひ藍にも見習わせたいわ」

「藍さんはアドリブが苦手なんですか?」

「そうね。頭話良いんだけど創造性に欠けるというか自主性が欠けているって言うか・・・。まぁ、とにかくそういった類が苦手なのよね」

「ゆ、紫様‼そのような事は・・・」

「あら?それなら貴女も同じ状況になったらこれくらいの事はやって貰えるのかしら?」

「うっ。それは・・・その・・・」

「今回はたまたま出来たからやれたってだけで、俺もいつもこんなにやれるとは限りませんよ」

「まぁ、そうね。でもやれるからやったって言うのもすごい事よ。・・・あらあら藍は今日はよく膨れるわねぇ」

「紫さんのせいでしょ」

「あら貴方の方にも原因はあるわよ?」

 

笑顔で何言ってるんですかねこの人は。それならこっちも笑顔で返してやりますよ。

ア ン タ が 原 因 だ よ ‼

 

「まぁ、いいわ。この味噌汁も出汁がしっかりして美味しいわ。いい旦那さんになるわよ」

「俺、嫁さんにはご飯作って貰いたいタイプなんですけどね」

「あら、相手はいるのかしら?」

「いる訳ないでしょ。こんな俺にいたらびっくりですよ」

「そんなに謙遜しなくてもいいじゃない」

「謙遜も何も。元々モテるタイプじゃありませんから」

「またまた~」

「反応が親戚のおばさんと一緒だなぁ」

 

本当にそっくりだよ。会う度にやるから3回目くらいから苦笑いしかできなかった記憶がある。

そして多分今苦笑いだろう。

 

「おばさん・・・。おばさんねぇ・・・。そんなに老けて見えるかしら」

「いや紫さん見た目は相当お若いですよ。まぁ、感性が古めの人間だっていますし気にしなくても良いんじゃないですか?」

 

休日の楽しみが笑〇見ながら、お題に対して1人で飲みながら答えを考える事って思ってるような人間もいるんだし。

え?誰かって?誰だろうね?え、俺だよ?

 

「・・・まぁ、いいわ。ごちそうさまでした。とても美味しかったわ。来て正解だったわね」

「ごちそうさまでした。そうですね紫様。とても美味しかったです」

「お粗末さまでした。はい、温かいお茶です。皿お下げしますね」

「あら良く出来た店員さんね」

「どっちかって言ったら店長ですけどねぇ。申し訳ないんですけど皿先に洗ってきていいですか?」

「いいわよ。ゆっくりお茶でも飲んでるから。ね、藍」

「はい、紫様」

「それじゃ、ごゆっくり」

 

さてさっと洗っちゃおう。

皿洗いをしている時って水流すと結構会話とか聞えなくなるよな。

後ろで何やら2人で話しているけど何話しているんだろう。

とりあえずこの後はちょっと紫さんに個人的にお話がある。

 

 

「お待たせしました。何話してたんですか?」

「ん~、何でもないわよ~。で、何か話したい事があるんじゃないの?」

「さすが紫さん察しがいい。じゃあ、さっそく」

「なんでいいわよ~。美味しいご飯もご馳走になったし」

 

随分気分がよさそうだ。そんなに気に言って貰えたのかな?それなら良かった。

まぁ、そんなところに水を差すような真似をしてしまう訳だけども。

 

「紫さん俺の何を警戒しているんですか?」

「あら?私が貴方を警戒?なんで?」

 

さっきの決闘で、藍さんを無理やり黙らせた時のような緊張感が部屋に広がった。

まぁ、だからと言って怯む訳でもないんだけどね。うん本性って感じがしていいじゃん。

 

「何でって言われてもな・・・・。話している時の挙動1つ1つに違和感が混ざってたからって所ですかね。初めて話した時はいろいろ俺が聞いたから疲れたのかな?って思ってたんですけど、今回も同じような反応が混ざっていたからこれはやっぱ何か警戒しているなと。例を挙げると、俺と話すときたまに口元ちょっとだけですけど強く締める事があるんですよ。気がついてました?」

「・・・・。そんなつもりはないのだけど?ほら今日も一日外に出歩いてたからこの時間になると・・・・ね。少し眠くなるじゃない?あくびだって噛み殺すわよ」

 

うわぁ、緊張感は緩んだけど正直胡散臭い。隠す気満々だな。

藍さんと違って隠したりするのは上手いんだろうなぁ。

 

「それはあるのかもしれないですけど、今の俺はその可能性は低いと思ってます」

「なぜ?」

「紫さんが俺の店に来た時に言葉を選んで誤解されるような言い方したじゃないですか。藍さんが監視してるのを把握していて、突撃して戦う流れを作りたくてワザとああ言ったんじゃないですか?目的は幻想郷から外の世界に帰らず暮らし始めた俺の力の把握をするためにって所ですかね?」

「実に面白い読みだ事。でもそれは貴方の妄想でしょ?」

「うーん、これまた手厳しい。じゃ、それに関連しているであろう証拠でも見せたら話してもらえますか?」

「あらそんなものあるのかしら?あるんだったら見せて欲しい物ね」

「じゃ、藍さん少しいいですか?」

「・・・・なんだ?」

 

多分この人は紫さんの式と言う事で、主がが現在隠している事は同じく隠すしボロを出すまいとするだろう。

 

「俺が幻想郷に来てから・・・、約2週間ぐらいですかね?ずっと俺の事見てたって言うか監視してたでしょ?」

「いや、そんな事はしていない」

 

だよな。やっぱりそう来るよな。俺が同じ立場だったら動揺もせずにしらを切るだろうね。

でも俺は見られ続けてたら感覚的に視線を感じとってしまうからわかる。だから、見られ続けるのは嫌いなんだ。

 

「あら?それだけ?何もないのかしら?」

「紫さん、ちょっと面白い物が見れますから待っててくださいね。さて藍さん、では少し頭をこっちに出してもらえますか?そう・・・もちょっと前に・・・。はいそこで良いです」

「⁇何をするんだ、貴様⁇」

「藍さんあらかじめ言っておきますね。ごめんなさい。そして失礼します‼」

「貴様は何を・・・‼‼!?‼!?」

 

俺は藍さんの頭の匂いを嗅いだ。風呂上りで来たんだろうか?

・・・うん、文章にすると俺相当ヤバイ事してるなって言うのが分かるね。

 

「え?貴方ちょっと何してるの!?」

「なんあんあななんあなななな‼‼」

 

藍さんの驚き方は面白いなー。バグってるみたいだ。

紫さんも驚きを隠せないようだ。何をしているんだと言わんばかりの目で俺を見ている。

ホントに何やってんだろうね、俺。でも今回はこれが一番紫さんの目的を暴くには最適解だと思った。

 

「うん、この匂い・・・。やっぱりここ2週間の間に視線を感じた所で何度も匂った獣臭い感じの匂いと同じだ。やっぱり藍さんがずっと俺の監視してたんですね?」

「な、いきなり何をするんだ貴様は‼しかも挙句に獣臭いだと‼私はちゃんとこの2週間の監視中もちゃんと身だしなみに気を遣ってたし、今日も風呂に入って身は清めて来た‼だからそんな臭いがする訳ないだろ‼」

 

ビンゴ‼藍さんは真面目でちょっと潔癖気味な感じがしたから引っかかると思った‼

なんだけど・・・・

 

「うううん、そそうだねそんな臭いはしないよ。石鹸のいい香りだったから獣臭くなななんて全くないよ。お願いだから肩をつかんで揺らすのは・・・いったんやめてもらえないかな!?」

 

喋りにくくて、話が進められない。

 

「はい、藍。一端ストップよ。ほら1回座ってお茶でも飲んで落ち着きなさいな。・・・・貴方なかなか酷い事するのね」

「ふぅ、ありがとうございます紫さん。って酷いと言いつつも紫さんの顔がとても緩んでいるように見えるのは気のせいですかね?」

「あら?そんな事ないわよぉ。あぁ、藍がかわいそうだわぁ」

「ううう・・・・・・」

 

紫さん・・・・。多分アンタが1番ひどいと思うよ。いや俺も人の事言えないか?

藍さんには後で改めてお詫びしますがそれよりも先にケリをつけたい。

 

「で、たった今、藍さんが自白したようなもんなんですけど、まだ話してもらえませんか?」

「あら?なんで私に聞くのかしら?今の流れだと藍に聞いた方が適切じゃないかしら?」

「いや、藍さんの性格的に自分から俺の事を監視って考えにくいんですよね。さっき紫さんが言った通りなら自主性に欠けるんでしょ?それに事実確認を行わず俺を処理しようとしてくる辺り自立して行動できるとは言えまだ思考的に浅い部分があるみたいですし・・・。それだったら誰かに指示されてってなりますよ。そうなったら紫さんを思って突撃してくる式で尚且つ主が紫さんだったら命令主は紫さんだなって思うのは普通じゃないですか?」

 

これで違ったらもうわからん。まぁ今回に限ってそれはないとは思うけど。

 

「・・・・・」

「沈黙は肯定って採りますけど良いですか?」

「ふっ、あははははは、ほんと面白いわね貴方。概ね正解よ」

「紫様!?」

「貴方はいったい何なのかしら?ここまで私の事を見透かすような真似をする面白い人間は多分初めてよ‼」

「それ褒められてます?」

「えぇ、とっても。なんだか変に警戒していたのが無駄に思えて来たわ。あ~あ、こんなに面白いんだったらもっと早く来ておけばよかったわ」

「で、なんで藍さんを使って俺なんかの監視を?」

「単純に違和感のような物を感じたからよ。幻想郷に害を成すなら早く処理してしまうに越したことはないから。何かを起こされてからじゃ面倒なのよ。ただ今話したりしてわかったけど、貴方に警戒する要素はなかったわね。取り越し苦労だったってとこよ」

「知らぬ間に死んでもおかしくない状況だったのか・・・・。誤解がとけて良かった。って今の俺にどうこう出来るような事もないですし、幻想郷に仇をなそうなんて思ってないですから安心してください」

 

と言うか俺ここに来てから知らぬ間にピンチが多くないか?

知らぬ間に食い逃げされそうになったり、命狙われたり。

おい、大丈夫なのか?俺。そのうち本当に死んじゃいそうだな。

 

「そうみたいね。あ~あ、人間に見透かされる日が来ちゃうなんて・・・。貴方はいったい何者なのかしら?」

「頑張って集まってる手元の情報を無理矢理繋げたらたまたま今回はつながっただけですよ。それに俺はノリで始めた食事処の店主ですよ。ちょっと変わってるだけのね」

「それをちょっとで済ませていいのかわからないけど、まぁいいわ。いつまで居るか分からないけど、楽しんでいきなさいね」

「そうさせてもらいます。いやー、監視され続けてた問題と俺の疑問が一気に解決して、よかったよかった」

「あら、まだ解決していない問題もあるわよ?」

「え?何ですか?」

「忘れちゃってるの?目の前にあるのに?」

「目の前?ふむ・・・・皿も片づけましたし、お茶も出した・・・」

「いやねぇ、藍を辱めておいて何もないの?」

「あ゛っ」

「・・・・・・・」

 

ああ、藍さんが凄い目と言うか顔で俺の事を見ていらっしゃる‼まさしく鬼のよう‼

まぁ、いきなり頭を嗅がれた上で、嗅がれた理由が主の化けの皮を剥がすために利用しましたじゃそりゃ怒りますよね‼ましてやその事忘れてたとなればねぇ・・・。

そりゃ、そうなりますよね~。はい、さっき言ったそのうちがすぐそこにあったわ。

 

こんな時にまで、化けの皮をはがすのに化かす側の狐を使ったと思うと面白いなと思った俺は大物になるんじゃなかろうか。は~い自重します。

 

こうなったらやる事なんて1つだ。男なら潔く速やかに。

調理場から出て、カウンターの藍さんの後ろに正座する。

ちゃんと藍さんが上座、俺が下座の位置に来るように正座する。

え?何やるかって?

 

決まってるだろ?土下座だよ。

 

「あの~、藍さん。突然頭の匂いを嗅いだりして本当にすいませんでしたぁぁぁぁぁぁ‼今あるいなり寿司全部差し上げますので許してもらえませんか‼」

「ですって藍。どうする?」

「・・・・、まぁ良いでしょう。とりあえず今すぐ包んでください」

「はい!喜んで‼」

 

さぁ、詰めに詰めるぞ!急げ‼じゃないと俺の命が危ない‼出来てる物を詰めるだけだからすぐ出来るけどね‼

原因は自分ですけどね‼だって意地でも紫さんの化けの皮を剥がしたくなったんだもの。

それでもやらなかったほうが良い話ですねごめんなさい。

 

「はい、藍様包み終わりました。どうぞお納めください」

 

さっきと同じ位置に正座して渡す。

30個ほどあるけどこれで足りるか?足りないって事ないよね?

 

「これはありがたく頂きます。これでいきなり人の頭を嗅いできたことは許してあげます」

 

マジで?じゃあ、これで

 

「ただし、忘れていた事とは話が別です」

 

ですよねー。

 

「俺もう渡すようなものはないんですけど・・・」

「別に物でなければいけないという訳ではないです。ので貴方にお任せします」

 

貴女にお任せしますパターンかぁ~~~~~。

難しいよ。俺のそういうのを求めるのは。

かつて可愛い人形を作って欲しいと言われた時に作って持っていったら微妙な顔をされたことのある俺だ。

多分センスがないんだろう。もちろんその時は俺が最もかわいいと思った人形を作っていったよ?

 

「ちょっと仁君いいかしら?」

「はい?お悩み中の俺に助けの手でも差し伸べてくれるんですか?」

「正直、藍の匂いってどんな感じだった?」

「こんな時に何言ってんだ!?」

「紫様!?」

「いやー、単純に気になったのよねぇ。もしちゃんと答えてくれたら助け舟を出すこともやぶさかではないわ」

「別に俺は良いですけど・・・。言おうとしたら藍さんに先に殺されません?」

「大丈夫よ。ね、藍?」

「・・・・。はい、紫様」

 

あぁ、顔俯いて恥ずかしがりながらも、主が言うからって感じでいいって返事しちゃったよ。

紫さんが主人だといろいろ苦労しそうだなぁ。藍さんお疲れ様です。ていうか正座のまま言うの?

 

「じゃ、本人の許可も出た事だしどうぞ~」

 

この人自分の式イジって楽しんでるよ。

 

「う~ん、って言ってもさっき言った通り石鹸の匂いが一番強かったし・・・。女特有の匂いはそりゃしたしなぁ。藍さん特有の感じって・・・」

「ちょ、ちょっと今すごい事言わなかった?女特有の匂い?」

「えぇ、なんか甘いというかなんというかそんな感じの匂いですけど。何か?」

 

強い弱いがあるけど女だったら、道ですれ違った時に香水とかとは違った甘い匂いがするときがある。

皆にも経験あると思うからわかって貰えると思うけど。俺だけって事はないはずだ。

女の部屋に行くと匂いが濃すぎて俺は吐きそうになった事もある。もちろん吐いてはないよ。

っても数人くらいしか女の部屋になんて行った事はないけどな。

 

「・・・どうぞ続けて」

「はぁ。ん~~、まぁ、強いて言うなら」

「強いて言うなら何なのかしらねぇ、藍」

「・・・・・・・」

 

藍さんが何かを堪えようとして黙っている。まぁ、だからと言って俺に助けの手が差し伸べられるため、止まる気はないけどな。

 

「例えるならですけど・・・、なんだか陽の光みたいな温かくて癒されるような匂いがした。濃過ぎずふわっと香る感じ。尻尾とかもそんな感じならぜひ抱き枕代わりにモフりたいと思った。きっととても癒されると思うから一家に一尾欲しい感じだな」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」

「ちょっと!?藍!?」

 

恥ずかしさが限界だったのか藍さんが勢いよく立って左回し蹴りをしてきた。

正座だったし、何より眠かったので反応が遅れた。おかげで避けることは無理そうだ。

 

あー、うん、こういう時は・・・・・。

グッドナイト!明日の朝日が眺められますように・・・・いや、ほんとに・・・・・。

 

顔面右側に強い衝撃を受けつつ、そこでその日の俺の意識は途切れた。

 




いつもながら最後までお読み頂きありがとうございます。

いやー、鈴奈庵6巻を読んだんですけど紫さん、可愛かったですね。

さて、以前アンケートの中に藍さんのリクエストがあったのですが、紫さんが興味本位で送ってそうとありました。のでだったらいっそ本人も巻き込んでしまおうと言う訳でこのようは形のお噺になりました。いかがだったでしょうか?主人公は監視されてる事に気がついていたんだぜ。わからない人は本編の前回を見てみよう‼︎

さて久々?に宣伝。
活動報告にアンケートのフォーム?を作ってありますのでもしこの人物出してくれー‼︎この作者はこの人を出したら噺をどんなお噺に仕上げるんだ‼︎気になる‼︎等リクエストがあればよろしくお願いします。
またTwitterもやってますのでプロフィール?のような所にID?もありますのでよろしければフォローよろしくお願いします。進捗とか日常の何でもない事を呟いてるだけですけど、気になったら是非‼︎たまにちょっとしたアンケートとかやる予定でもあるのでよろしくお願いしま〜す。

という訳で今回はここまでです。次話でお会いしましょう。さようなら〜。


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呼んでるあの娘はセクシーライダー

どうも、タイトルのセンスがおかしいのかな?と思い始めったノリさんでございます。
今回のタイトルを見て誰をメインにしたいのかわかった貴方は察しの良い人だと思う。

結構ハイペースで投稿していますが本来こんなペースで書けるつもりじゃなかったんだ・・・。


今回はかなり軽く読めるお噺じゃないかなと思います。
・・・・まぁ相変わらずの文字数ではありますが・・・・・、そこはご容赦を。
ネット小説の割にはかなり文章量が多いと友人からは言われているのですが・・・・。
書きたいように書いていたら気が付いたらこんな文字数に・・・・。
これでも削っている方なんです。ほんとですよ?

そんな感じではありますけどさっそく本編へどうぞ!



目の前に顔は見えないけどド〇ク〇6のかみさまみたいなおっさんがいる。

 

「おお、仁よ‼死んでしまうとは情けない‼」

 

それほんとに言うんだなぁ。ってか俺死んだの?

 

「神は言っている、ここで死ぬ運命ではないと・・・」

 

おい、それは作品が違うぞ‼つーかお前神じゃないのかよ‼かみさまみたいな見た目してるのに!?じゃあお前誰だよ!?

 

「いや君の居る世界の方にむしろ神様いっぱいいるからね?最近神様もやたら増えちゃってさぁ。インフレ進んじゃったのよ。儂、神様から神様のお使いに格下げになったんだよねぇ」

 

神様も大変なんだなぁ。頑張れよ、応援してるぜ。

 

「あぁ、うん。まぁ、もうよっぽどのことの事がない限り神様に戻れないんだけどさ・・・。あ、もう起きるみたいだね。死んでないから安心して。ちょっと言ってみたかっただけなんだよね~。もう女に蹴られて気絶する様な事しちゃだめだよ~」

 

あぁ、はい、お疲れ様ですって気分で人をヒヤッとさせるな‼

誰なの?ねぇ、結局お前なんなの!?ちょとぉぉぉぉぉ!それだけは気になるから教えてくれぇぇぇぇぇぇ‼

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「はっ!」」

 

ここは・・・・俺の店兼家の俺の部屋だね。

 

えっと昨日は・・・藍さんに蹴られて落ちたんだっけ?

大変、顔と後頭部が痛いですね。蹴られてどっかで頭もぶつけたんだろう。

無事朝日を拝めたことに感謝。時刻は7時か。いつもよりはゆっくりだな。

 

さて、休みだけど何しようかな。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・予定がなんもねぇ」

 

元の世界じゃ、休日なんて課題に使ってばっかだったなー。

課題が終わっても次の課題。やらなきゃいけない課題をもらった週の内に終わらせたら先を見越しての課題の準備。やる課題が無くなったら、やった課題に確認及び修正。で、ちょっと心に余裕があったら音楽流しながら大学とかネットで借りたり買ったりした本を読んでたくらいだ。

家から出てないし、基本課題してばっかだったな。

俺って面白みのない人間なのかなぁ。

 

いや、そんな事はない。ゲームだってするしカラオケ開店直後からフリータイムギリギリまで計10時間、歌い続けたりもする‼・・・・基本1人だけどな・・・・。そして部屋から基本出てない。

 

まだ見知らぬことの多いこの世界でそんな俺が休みに何かなんてする予定がある訳ないか。

せいぜい鈴奈庵に行って本借りて、それ読んだりするくらいか。

 

とりあえず布団から起きよう。そうしよう。

 

「あ~、顔いてぇ。結構ガチで蹴ったんだなぁ。ってなんか枕元に紙が置いてある」

 

手紙か?どれどれ。

 

『お元気かしら?貴方がこの手紙を読んでいるという事は生きているって事よおめでとう。

 反応を見てみたいけどそうはいかないから残念よね。

 よく眠れたのなら良いけど具合が悪ければ無理しない事よ。

 上手くその場を収めようと思ったけど予想外の結果になったから、お詫びの品を置いて行くわ。

 

 P.S. 全然見透かされた事は気にしてないから。

    ええ、蹴られた時ちょっとスカッとしたなんて思ってないから。

    あ、ちゃんとお魚もこの手紙も頭は取るものよ。  

                          幻想郷の可愛い系代表 八雲 紫より』

 

なんだこれ?

色々ツッコミどころがあるけど、やっぱ最初のツッコミはもう決まってる。

 

「アンタ、どっちかて言ったら綺麗系とか美人系な気がするんだけどな」

 

見た目に関していえばアンタは綺麗系とかだろうに。大人の色気って言うの?なんかそんな感じ。

可愛いって言うのはさとりさんとかこいしちゃんとかそこら辺じゃね?

まずここに突っ込む俺がおかしい?

 

「最後のP.S.の文もくだらなさすぎだろ・・・・・。子供でもすぐわかりそうだぞ」

 

うーんそこんとこは可愛げがあるって感じだな。つーかむしろ子供っぽい所があるって感じだな。

そして、俺が蹴られてスカッとしたとか書いてる辺り少しは気にしているんだろう。

 

「でもお詫びの品ってなんだ?枕元には何もないし・・・。もしかして店の方か?」

 

俺の部屋にしているところとは扉ひとつなのですぐに行ける。

 

ガラガラガラ

 

「はぁ、とんでもない目に合ったぜ。ありがたくお詫びの品とやらを頂きますかね」

「とんでもない目に合ったのはこちらの方だ、バカ者」

 

そこには可愛らしいエプロンを着けて、お味噌汁の味見のためか小皿に口を付けながら振り返る藍さんが。

もう一方の手におたまを持っているのがポイント高いと思う。何のポイントかは言わなくても分かると思う。

 

「はい、おやすみなさ~い」

 

 

ガラガラガラ

 

 

何なの?何事?俺死ぬの?

何で起きて俺の調理場見たら、エプロンつけて朝ごはん作ってる藍さんが!?

新婚みたいですね‼まさに狐の嫁入りってか。こんな可愛い嫁さん出来たら毎日幸せだろうね。

はっはっはっはっ、これは夢だよ。

 

 

ガラガラガラ

 

 

「ふぅ、朝からとんでもない物を見ちまったぜ。すげぇ夢だったなぁ」

「貴様は何をしているんだ?人の顔を見ていきなり扉を閉めるなんて。寝ぼけているのか?」

「は~い、おやすみなさい!」

 

 

ガラガラガラ

 

 

布団に籠ってもう1回寝る事にした。

なんでだろう?ラノベとか読んでていいなって思ってたシチュエーションなのに実際起こると怖い。

何が起こっているのか理解が追い付かないから怖い。なぁにこれぇ。次元が違うとこんなに印象変わるんだねぇ。

ハイもう1回寝ようそうしたらなんか解決してるよね・・・

 

「起きろバカ者‼」

「はい!すいませんでした!」

 

部屋に入って布団剥いできましたよ。なんて強引な狐なんだ。

 

「おはようございます。なんで藍さんが俺の調理場で朝ごはんを?」

「おはようございます。その・・・・紫様に言われて・・・」

「あぁ、なるほど。藍さんお手製の朝ごはんがお詫びの品と言う訳ですか」

「そういう事だ。その・・・昨日はやり過ぎたと思っている。すまなかった」

「あぁ、こちらこそ色々すいませんでした。まぁこんな奴なんでそれでもよかったら仲良くしてやってください」

「・・・う、うん。とりあえず朝ごはんが冷めてしまうから行こうか」

「はい、楽しみです」

 

あぁ、藍さんってこんな感じなのか。

 

「ホントに良い嫁さんになりそうな人だなぁ」

「何を言っているんだ貴様は‼」

「藍さんこそ何してんですか!?」

 

裏拳かましてきやがった。危なかったぞ‼

 

「それは貴様が変な事を言うからだ‼」

「正直な感想だからいいじゃないですか‼」

「何だと!?」

「1回目見た時に、新婚みたいだなぁ。これが正しく狐の嫁入りってかって思っちゃうくらい良い光景だったんですよ‼」

「なななななんて恥ずかしい事を朝から考えているんだ‼」

「思っちゃったもんはしょうがないですね。むしろ朝の光景だったからこそって感じだったし。なるほど・・・・、紫さんはそこも計算して・・・・」

「紫様が!?」

 

俺の思考を読むとはすごい頭が良いんだな。もしくは俺の考えがわかり易いのか。

ありがとう紫さん。俺はアンタにでけぇもん貰っちゃったな。

今度鶏ハムでも送ろう。お歳暮ではないがハム送って喜ばない人はベジタリアンとかぐらいしか知らない。

 

「ささ、あんまり話しているとごはんが冷めるからここら辺にしようか」

「誰のせいだと思っているんだ・・・」

 

と文句を言いつつもごはんの用意をしてくれているあたりほんとにいい嫁さんになると思う。

 

「あまり手の凝った物は作れなかったが、食べてくれ」

 

並んだ献立はごはん、豆腐とわかめの味噌汁、焼き鮭、身に覚えのない漬物、ほうれん草の胡麻和え、味付け海苔の6品だ。あとお茶。派手さはないかもしれないがいい感じの朝食だ。

ちょっと自信なさげに言う辺り可愛い。ちょっとしっかりしている時とのギャップってやつか。

 

「いや大丈夫だ。流石によっぽどじゃない限り不味いなんて言わないからさ」

「う、うん、そうか。他人に食べさせる事なんてそうないからな。ちょっと変に気を遣ってしまってな」

「あぁ、わかる。慣れないとそうなるよな。・・・・うん、味噌汁もしっかり出汁からとってて美味しいよ」

「そうかそうか。よかったよかった。まぁ、味見はしていたから美味しくないなんて事はないと思ってはいた」

 

不安そうな表情から褒められて安心して嬉しくなった物を隠そうとして強く出る所可愛いよね。

こんなにコロコロ表情を変えるなんてな。ちょっとは心を開いてくれたのかな?

 

「ところで藍さんは食べないの?」

「私は食べたから気にしないでいい。お替りもあるぞ」

 

その笑顔がとてもまぶしくて、直視できなかった。ので、食べ進めることにした。

やっぱり俺が作る味噌汁や胡麻和えとは違う感じがして。やっぱり個性って出るものだなぁなんて思って。

 

そもそも誰かに朝ご飯を作ってもらう事なんてどれくらいぶりだろう。

誰かと共に過ごす朝なんて久しぶりだ。基本部活の合宿とかも断ってきたからな。

そう思うとちょっと微笑ましい気持ちになった。

 

「悪い、ごはんと味噌汁と漬物と胡麻和えのお替りお願いします」

「お替りだな。朝からお替りがしっかりできるくらい健啖なのは良い事だ。ちょっと待っててくれ」

 

あぁ、なんかいいなぁ、こういうの。

 

 

ガラガラガラガラ

 

 

ってあれ?店の扉開いてたんだ。

こんな時間に来るとしたらさとりさんとか地底の人かな?まぁ、定休日決めてるから来てもおかしくはないし。

 

「お休みと聞いてちょっとお邪魔するぞい」

「ぶぶぅぅぅぅ!んふっ‼」

 

あ、意外過ぎてお茶吹いちゃった。って前とは違ってしっぽが見えてる。

 

「ふぉっふぉっふぉ、面白いりあくしょんじゃのう。・・・って朝から嫌な物を見てしまったぞい」

「何をやっているんだ貴様は・・・ってお前は!?」

「何で狐がこんな朝からここにおるんじゃ?」

「あれ?知り合い?」

「まぁ、知っているとは知っているがのぅ。まったくなんでお前さんが居るんじゃ」

「こちらは紫様の命令があってここに居る。お前に文句を言われる筋合いはない」

「そうかそうか。相変わらずお前さんは主様が主体のようじゃのぅ」

「そういうお前は寺に居場所でも無くてここにでも来たのか?」

 

おぉ、一触即発とはこの事か・・・・・。あぁ、美味しい朝ごはんだなぁ。

 

「なんじゃ儂とて、てっきりお前さんが主に捨てられてここに居るのかと思ったぞい」

「何だと‼貴様言っていい事と悪い事があるぞ‼」

「それはお前さんにも言える事じゃ。自分の言った事思い出してみるといい」

「表に出ろ。覚悟はできているな」

「負け戦に挑むとは良い度胸じゃのう」

 

あーあ、2人が俺に後ろ姿見せて玄関から出ていこうとしてるよ。

弾幕ごっことやらが始まるのかな?正直店の前でやられるのはちょっと困るなぁ。

 

ご馳走様でした。ふぅ、後は熱いお茶でも入れて一服するかな。

さてその前にやらなっきゃいけない事がある。

 

「 後ろの正面だぁあれ 」

 

 

 

******

 

 

 

「やっぱり、食後は熱いお茶だな」

 

ひと仕事した後だとさらにおいしい。

 

さっきちょっと暴れそうだった2人は俺の後ろの普段使っていない個室スペースでノビてますよ。

ノビびているって言っても、俺は紳士だからこんなことで暴力は振るわないし、もちろんエロい事もしていない。

 

ただちょっとモフっただけだ。後ろに立って尻尾をモフモフっとね。

俺は猫とか犬とかモフるのは好きだし、マッサージも良く家でさせられていたのでそういった類の事は得意だ。

 

見ろよ・・・、この2人の気持ちよさそうな顔を・・・・。さっきまで一触即発だったんだぜ・・・・。

ってなんか死亡フラグ回収しちゃった後みたいでで縁起悪いなぁ。

1杯目が飲み終わったし、2杯目を淹れる前に・・・・・

 

 

「さて、おふたりさん。落ち着いたか?まだやるってんならこっちも諦めて貰えるまでやらせて貰うぞ」

「い・・・や・・・・、もう・・・・しない・・・・」

「う、うむ・・・・ふぅ・・・・・もう・・・どうでもよくなったぞい・・・・・・」

 

万事解決。ミッションコンプリート。メガ〇ポリスは日本晴れ。

しかし、気持ちよかったな。2人とも毛質は違ったけどそれぞれ良いしっぽだった。

機会があれば是非またモフらせて頂きたい。

 

「2人ともお茶が入ったからこっちに座りなよ」

「うん、その・・・またも手間をかけさせてしまって、すまなかった」

「いやぁ、朝起きて間もなくあまり頭が働いてなかったとはいえすまんかったのぅ」

「ま、収まったので良いですよ。役得だったのでお気になさらず」

 

今日はホントに良いことが多いな。 

いやぁ、善行の積み重ねかな。良きかな良きかな。

 

「ところでマミゾウさんは何でこんなに朝早くからここへ?何か御用時でも?」

「おぉそうじゃった。お前さんに用事があったのを忘れておった」

「気をつけろ、こいつは何か面倒事でも持ってきたに違いない」

「うるさい狐じゃのぅ。お前さんよ、狐の朝ごはんを食べて異変はないか?何を盛っとるかわからんぞい」

「はい2人ともまた言い争い始めそうになるのはやめてくれ。間にいる俺が気まずい」

「う、うむ、そうじゃのお前さんに迷惑をかける訳にはいかんからの」

「それは私も同じだ。お詫びでいるのに迷惑をかけるなんて」

「で、何の用事があったんですか?わざわざ休みの日を狙ってきたんですから時間のかかるものですか?」

「まぁ、そうじゃな。お前さんに会いたいと言っている人がおってのぅ。その本人の代理で来れないか聞きに来たんじゃよ」

「要は使いっ走りなだけじゃないか」

「うるさいぞ狐。で、どうじゃ?急で悪いんじゃが来れんかのぅ?」

「構いませんよ。今日はたいして予定も何も無かったですし、外に出るのも悪くないでしょう」

「おぉ!そうかそうか‼」

「それじゃ行くとするかの。いやぁ、良かったぞい」

「今からですか⁉それはちょっと急ですよ・・・。そうですね。色々準備したいんで午後からでいいですか?」

「なんで本人が会いに来ないんだ?わざわざ仁を出向かせるなんて・・・」

「忙しい人なんじゃからしょうがなかろう」

「でも俺に会いたいって面白い方ですね。どこにでも居るような奴なのに」

「あぁ、まぁ、それもそうじゃのう・・・。って儂が話した事も影響しておるんじゃろうけど」

「おい、なんだか怪しいぞ。本当に大丈夫なんだろうな?」

「大丈夫に決まっておろう。何じゃ、狐。なぜお前が仁の事をそんなに気にする?」

「はいはい、で、どんな人なんですか?女の人?美人?」

「まぁ、女で美人じゃの」

「性格は?」

「まぁ、礼儀正しく、おっとりとしていて僧侶兼魔法使いって感じじゃな。博愛主義者と言う言葉がっぴったりな感じかのぅ」

「なるほど・・・・・。そんな高貴そうな人にお呼ばれするとはね・・・」

 

これは、モテ期が来たか?

いやぁ、そんな事はないってわかってるんですけど、綺麗な人が俺の呼んでいるって考えるとなんかニヤけちゃうよね。男の(さが)だから仕方がないね。

 

「貴様、鼻の下が伸びているぞ」

「いやぁ、そうか?まぁ、美人さんにお呼ばれしてるんじゃそうなっても男としてはしょうがないよね」

「お前さん、今の状況忘れとらんかの?」

「え?何ですか?藍さんとマミゾウさんが喧嘩しないように間に入ってお話しているだけじゃないですか?」

 

ま、こんな美人2人に挟まれているんだから間違いなく役得ではあるけれどね。

あっちじゃとても考えられない事ではある。はー、偶然とはいえ幻想郷に来てよかったー。

 

「なるほどのぅ、わかっておってその反応か」

「そうかそうか、それだけ、ときたか貴様は大層なご身分だな」

「え?なんか2人とも怒ってる?」

「怒ってないぞい」

「そうだ、なぜおまえに怒らないといけない」

「おふたりともしっぽが逆立ってますよ」

「「何っ⁉」」

「嘘です」

「ぐっ、姑息な・・・」

「むぅ、やりおるのぅ」

「そんなとこ見なくても、露骨に言葉尻が強くなったし眉も吊り上がったしそれって何かした不機嫌になった時の特徴じゃないですか」

「えぇい、気が付かなくてよい所にだけ気が付くのぅ、お前さんは」

「まったくだ、こいつはなんだかいろいろと抜けているぞ」

「えぇ、なんかよくわからんけどメッチャ非難されてるぅ。で、なんで急に不機嫌に?」

「自分で考えろ。私はもう役目も果たしたし返るぞっ」

「狐と被るのは癪じゃが、儂も帰る。一応午後になったら迎えに来るからの」

「えぇ、ちょっとなんで不機嫌に・・・・「「自分で考えろっ」」・・・・はい」

 

 

ガラガラガラピシャ‼

 

 

・・・・何なんだぁ。女ってよくわからねぇ。

 

 

 

*******

 

 

 

13時。約束通りならもうじき迎えが来る頃だろう。

 

さて、人にお招きされたのに何も持って行かないって言うの俺の中では礼儀に反するので甘味を持っていくことにした。僧侶って言ってたけどこれなら大丈夫なはず。う~ん、気配りできる俺っていい奴だなぁ。

 

さて後はマミゾウさんが来るのを待つだけなんだけど、朝の一件はよくわからん。

俺なりに考えてはみたんだがどれも今回のケースに当てはまらない可能性が高いのでわからない。

今まで見てきた男女間のトラブルのケースはいくらでも見てきたが、あくまでカップルとかそういった感情を持ち合わせていた場合の事である。

うーん、よく観察はしてたつもりなんだけどなぁ。まだまだ感情におけるケースで分かっていない物が多いんだなって事を実感した。女は特にホントよくわからん。

 

「お茶でも飲んで一服しますか」

 

ってなんか玄関先に人の気配がするな。

 

ガラガラガラ

 

「ってマミゾウさん?何やってるんですか?」

「やぁ。朝の事があってちょっと入りにくくてのぅ」

「あぁ、気にしないでください。俺がまだ知らない事が多いんだなって学んだ位ですから。俺、まったく気にしてないんで、マミゾウさんも気にしないでください」

 

うん、気遣いのできるいい男の言葉だな。これが神対応とでも言えばいいかな。

 

「むぅ・・・、まったく気にされないのも癪なんじゃが・・・・」

「⁇何か言いました?」

「いいや、何も。用意はできとるかの?」

「はい、ばっちりです。行きましょうか」

「それじゃ案内するぞい。ってなんじゃその手荷物は?」

「美味しい手土産ってとこです。他人の家に行くのに何も持って行かないのも失礼でしょ」

「呼び出したのはこっちなんじゃから、そんな事気にしなくてよいのに。ふぉっふぉっふぉ、変な所で真面目で気配りが出来るんじゃのぅ。もうちと儂にも向けて欲しいぞい」

「それならいつもしてるから大丈夫ですね‼」

「・・・それはどうかの?さて行くとするか」

「?案内よろしくお願いします」

 

まぁちょっと最後の言葉は気になったけどまぁいっか。

さて今日はどんな人に会えるのかな?

 

 

 

********

 

 

 

~道中~

 

「意外と歩きますねぇ」

「まぁ、そうじゃな。それ、もう少しじゃから頑張れ」

「はぁ、歩くのは良いですけどよく汗かきませんね・・・」

 

俺はもともと汗っかきなのもあるが、熱さとも相まってかなりの汗が出ているというのに。

 

「まぁ、これくらいで汗をかいておってものぅ。とはいえ特に今日は暑いから汗をかくのは無理もないぞい」

「まぁ、水分補給してますから大丈夫ですけどね」

「さっきから何を飲んでおるんじゃ?」

「梅ジャムを溶かした梅ジュースですよ。塩分とか糖分とか摂れるので水飲むよりはかなり熱中症対策にもなるのでおススメです」

「なんだか美味しそうじゃのぅ」

「俺の口付けた奴で良ければ飲んでみます?まだあるんで気にしないで飲んで良いですよ」

「う、うむ、それじゃ頂くとするかの。・・・・・うん、確かにこれは美味いし汗で抜ける塩分の補給にもなってよいのぅ」

「でしょ。ははは、良い飲みっぷりですね」

「思わず飲み切ってしまった・・・。もう少しで着くとはとはいえ悪い事をしたのぉ」

「気にしないでくださいよ。まだあるって言ったじゃないですか」

「いやもうこれは空じゃぞ?」

「いやもう1本持ってきてるので・・・」

「なんでそれを渡さんのじゃ‼」

「あ、それもそうですね。俺の口付けたのなんかを飲むより、もう着くんでしたらこっちを渡しても良かったのか」

「っ‼そうなんじゃが、そうじゃない。全く・・・・・・・。お前さんと話しているとペースが狂うのぅ」

「ま、そこを含めて俺との会話は楽しんでください・・・ってなんかお寺が見えて来ましたよ?」

「ん、あそこが目的地じゃ。ほれ、もう着くからそれをよこさんか」

「わかりましたよ、どうぞ」

「と言った所で到着じゃ。ここは命蓮寺と言う寺院じゃよ。お前さんを呼んだ住職を呼び行くからそこで待っておれ」

「わかりました~」

 

と言ってマミゾウさんが中にはいていったので入り口付近で待つことにする。正直色々見て回りたいけどね。

なんか賑わってる所だなって言う印象。妖怪も人も入り混じっているけど険悪な雰囲気はないし、前に霖之助が言っていた妖怪は人間の敵って言うルールが嘘みたいだ。

 

ドルルルルルルルル

 

「って何だこの音?」

 

あっちの世界でよく聞いた音だな。・・・・バイクだ‼この音バイクの音じゃないか‼

でもこの世界に車とかバイクとかってなかったような・・・・。

ってなんか近くなってるのかな?音が大きくなってきたような・・・・・。

 

この音だと大型かな。いいよなー、俺も大型の免許欲しいんだよなー。ハー〇ーダ〇ッドソ〇とか乗り回したい。

と思っていたら目の前で止まった。

 

「あらようこそ、命蓮寺へ。今日はわざわざ来ていただきありがとうございます」

「え?あ?はぁ」

 

何と言う事でしょう。やけに扇情的にライダースーツを着こなす美人さんが。

ちょっと扇情的過ぎて俺のような男には直視できませんね、はい。

 

「なんじゃ、外におったのか?」

「あら、マミゾウさん。すいません。ちょっとお迎えに行った方が言いかと思って出てたんですけど着いていらっしゃったんですね」

「マミゾウさん、この方はどちら様?」

「あぁ、そういえば説明してなかったのぅ。お前さんに会いたがっていたここの住職じゃよ」

「初めまして、命蓮寺住職の聖白蓮と申します。以後お見知りおきを」

「あぁ、こちらこそ初めまして。鷹崎仁と申します。えーと、今日は呼んで頂きありがとうございます?」

「ふふっ、そう硬くならずに。さて、ここで立ち話も良いですが中に入りましょうか」

「そうですね」

 

さて命蓮寺住職聖白蓮。

俺の最初の印象はライダースーツを扇情的に着こなしてこんな大型バイク乗り回してる人が住職なんてほんとに面白いなぁって感想だった。

けどそんな印象があっという間に変わるのは想像に難くないだろう。だって、この寺の住職って事はそこに立てるだけの力があるって事だからな。

 

さて、そんな人が俺を呼びだしてまでの話とは何だろうか?これはちょっと気を引き締めていかないとな。




いつも通りではありますが、最後までお読みいただきありがとうございます。

タイトルの段階ではちゃんと白蓮様がメインの回になるはずだったんですよ。
でも書いてみたらあら不思議。あっという間に狐と狸がメインの回に。
どうしてこうなった・・・・・・?

鈴奈庵6巻を読んで紫さんとマミゾウさんへの熱量が上がってしまい前置きのつもりだった部分が今回のメインになってしまった・・・。反省も後悔もしていない。可愛いと思って貰えたらそれでいいんだ‼

そしてうちの藍様は堅物のイメージから相当変わってしまったなぁ。
もうちょっと固くするつもりだったんだけど、どうしてこうなったんだろう。
まぁ、俺の中では可愛いから良し‼

一応、紫さんと藍さんとマミゾウさんの可愛さの方向性は違うようにしているつもりなので、違いがわかって貰えかつ可愛いと感じてもらえたら幸いです。

そして紫様の置き手紙のP.S.の最後の一文の 頭はとる物よ はお解りいただけましたか?え~簡単に解説すると手紙本文の一文ごとの頭の文字を取ってください。感じの所はひらがなにするとわかり易いと思います。そうして頭を取って繋げると寝覚めにふさわしい言葉が浮かんでくるはずです‼こういった小ネタも挟んでやっております、ノリさんです‼

さていつもの宣伝。
活動報告でアンケ-ト的な事をやっているんで、もし興味があれば是非‼
そしてTwitterもやっているので興味があればそちらも是非。

そんな感じで次回はちゃんと白蓮様メインの回にするから‼今回はたまたまちょっと寄り道が寄り道じゃなくなっただけだから‼

と言う訳で、次回でお会いしましょう!さようなら‼


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八苦を滅した尼公との問答

テスト何それ美味しいの?どうもノリさんでございます。

テスト中でも何のその、勉強よりも小説を書いてしまいましたが、出来上がったら更新はするのです‼

前回のお噺の紫様の置き手紙の意味が分からなかった方は後書きに解説的な物を追加しましたのでそちらもどうぞ‼

と言う訳でさっそく本編へどうぞ‼



さて、気を引き締めると言ってもなんだが・・・・。

賑やかな寺の雰囲気を見ていると気を引き締めても緩むのは無理もないというか・・・・。

 

どうやら聖白蓮さんのお部屋に案内されているようだけど、妖怪多くないか?

一応聞いたとこによれば妖怪は人間の敵と言う事になっているのでは?と聞きたくなったほどだ。

 

そして道中傘のお化けが驚かしに来たときは真面目に驚いた。完全に不意打ちだった。

傘のお化けは俺が驚いたことにとても喜んでいたが、聖さんには怒られていたというか・・・。

 

まぁ、許してあげるよう言ったのでなんとかその場はおさまったが、傘のお化けはなぜだか不思議な顔をしていた。どうもお腹が満たされなかったらしい。ちょっとよくわからないけど、手持ちの飴を上げたらご機嫌で去っていった。

あぁ、あの傘の色いい色だったなぁ。俺、超欲しい。どこで売ってるか聞いておけばよかった。

 

途中いろいろあったが、到着。

 

「さ、ここが私の部屋です。どうぞ」

「その前に着替えないんですか?」

「なぜですか?あぁ、大丈夫ですよ、汗はかいてませんから」

 

違うんですよ。今の貴女のそのライダースーツ姿は非常に刺激が強いんです。

このまま部屋に入れば目のやり場に困ってしまう。

しかしこの場で言わないのも俺らしくないかな?

 

「あのですね・・・・、その格好は非常に目のやり場に困るので是非着替えて欲しいんですけど・・・・」

「あらあら、そうでしたか。じゃあ前をしっかり閉めますね」ジジジッ

 

わぁお、より胸が強調されるというかこれかこれでなかなか刺激が強いような・・・・。

余計スタイルの良さが際立っているような・・・・。

あれ?何でこの人着替えないの?そうか、これが普通の格好なのか?

 

「ほれ白蓮良いから普段の格好にでも着替えてこい。こやつが困っておろう」

「あら・・・確かにこんなおばさんのこんな姿を見ても・・・・」

「いや、もうなんていうかセクシー過ぎるというか、エロいと言うかほんとに目のやり場に困るので着替えて貰えればありがたいってだけなんですけど」

「あらあら、貴方は正直なのね。じゃあ、着替えてくるわ。・・・・・覗いちゃダメよ?」

「イエス、マム」

 

えぇ、覗きませんとも。私は健全かつ紳士的な青年ですから‼

 

「お前さん、えらく鼻の下を伸ばしておったの。そんなに胸が良いのか?」

「いえ、そんな事はないですよ?」

「しかし何でそんなに儂の今日の格好とは反応が違うんじゃ」

「大丈夫ですよ。今日のマミゾウさんと2人で歩いている時もやばかったです。俺が普通の男なら汗かかれた日にゃ、魅力的過ぎてぶっ倒れてたかもしれません」

「いきなり何を言っとるんじゃ⁉」

 

だってノースリーブの女子と一緒ってだけでもドキドキするのに、汗なんてかかれようもんなら、エロさが増すに決まってる。

うん俺相当ヤバイ事言ってるな。でも俺の言いたい事をわかってくれる紳士諸君も多くいるだろう。

俺だけが特殊なんじゃないと思いたい。

 

「いやぁ、だってねぇ。正直エロいですよ、その格好。俺じゃなかったらほんとに危ないですよ、きっと」

「そんな事言われてものぅ。普段はこれじゃし・・・・、儂は強いから襲われる心配はいらんのじゃ。それに人里に出る時は前の着物姿じゃしのぅ」

「まぁ、この前の着物姿はあれはあれで魅力的でしたねぇ。俺はあっちが好みかもしれないです」

「そうか・・・・・。まぁ気が向いたら着てやってm「お待たせしました、どうぞ~ってあらあら」何をニヤけとるんじゃ‼」

「いえ、何でもありませんよ。さ、仁さんお部屋にどうぞ」

「⁇⁇じゃあ、お邪魔します。マミゾウさんは?」

「儂は役目は終えたからどっかに行くぞい。あとは若いおふたりでど~ぞなのじゃ」

「何言ってるんですか?なんか不機嫌になってません?」

「なっとらん。じゃあの」

 

ドロン

 

「消えた・・・」

「貴方も罪な方ですねぇ」

「気を利かすのが苦手なので仕方がないとはいえ、なんで不機嫌になったのかな?あと今の消えたの凄くかっこいいなぁ。今度やり方教えてくれないかな・・・」

「マミゾウさんも苦労しそうですね」

「あ、すいません、考え事してました。何か言いました?」

「いいえ、とりあえず中へどうぞ」

「わかりました。・・・・・・そういえばこれお口に合うかはわかりませんけどどうぞ」

 

部屋に座って渡すタイミングが分からなくなって渡せてなかったけど、美味しい手土産として持ってきた二段のお重を渡した。

 

「あらあら、呼びつけたのはこちらなのにそんなお気遣い頂いて申し訳ありません。さっそく開けても?」

「どうぞ、住職にも食べられる物にしたつもりです」

「それでは失礼して。まぁ、おはぎですか。私おはぎが好きなんですよ‼ありがとうございます‼」

 

こんなおっとりした感じの人でもやっぱり甘味には目がないんだ。女性は甘味が好きって言うし用意して正解だったかもしれない。

尼さんってもっと硬いとか生真面目とか勝手に思ってたけど、普通に女性らしい所もあるんだな。

 

「えっと、これがこしあん。これがきなこ。これはゴマ。このおはぎは周りに何もついてないですよ?」

「それは見た目はちょっとあれですけど、味は保証するんで食べてみてください」

「それでは私の分をこの小皿に取り分けて・・・。ちょっと失礼して。・・・・・⁉これは美味しいですね‼」

「気にいって頂けたようで何よりです」

「これは梅ですか?」

「はい、良い梅が手に入ったので自家製の梅ジャムを包んだおはぎです。爽やかでいいかと思いまして」

「これはこれはそこまでお気遣いいただいてありがとうございます。あ、お茶の方用意させていただきますね。誰か居ませんか?」

「何だい聖?また宝塔でも探せばいいのかい?」

「いえ、そうではなく私とお客さんの分のお茶を用意してほしいのです」

「なんだ、そんな事か。それくらいならお安い御用さ。ちょっと待っててくれ」

「何ですか?今のネズミ?みたいな人は」

「彼女はうちの宝探しの得意な鼠で、名をナズーリンと言います」

「この神社に鼠・・・・・なるほど・・・・・。毘沙門天を祀っている神社にふさわしい人ですね」

「と、言うと?」

「日没する処の天子のおわす毘沙門天の使いはネズミであったという事ですよ」

「??」

「まぁ、毘沙門天に縁のあるいい配置って事ですよ」

「・・・・褒めて頂いているという事で良かったですね。ネズミさん♪」

「なっ、わかっていたのか⁉・・・・とりあえず、お茶だ。そして君は鼠の事バカにしているのなら、死ぬよ」

「馬鹿にするなんてとんでもない。むしろ、毘沙門天の使いの鼠が見つけた宝を今度ぜひ見せてもらいたいと思ったほどだよ」

「そ、そうか・・・。まぁ、機会があった構わないよ。さて邪魔をしても悪いし今日はもう帰るよ。それじゃあ」

「はい、ありがとうございます。お気をつけて帰ってくださいね。あ、このお重のおはぎ良かったら持って行ってください。残りは仲良く分けるようにと他の者に言っておいてください」

「わかったよ。それじゃあ、これで失礼させてもらうよ」

 

さて、本題に入ろうか。この人はいい人ではあるんだろうけど何のために俺を呼んだろうか?

正直、目的が見えない。言葉の1つ1つを見ている事はわかるが、生憎俺は心を読めるわけじゃない。

他人に観察されるって言うのは、あまり気持ちのいい感じがしない。俺がするのは好きなんだけどね。

 

「さて、やっとふたりきりになったところで今日お呼びした目的についてお話ししましょうか」

「そうしてもらえるとありがたいです。さっきから気になってしょうがなかったので」

「それはですね・・・・」

「はい」

 

とりあえず面倒事でない事は祈っておこう。

 

「・・・・ただお話してみたかったからです」

「・・・は?」

「訳が分からないといった顔をなさってますね。それでは順を追って説明しますね」

「・・・・よろしくお願いします」

「この世界では妖怪は人の敵、人間は妖怪の食糧と言ったようなルールと言えばいいのか、もしくは物の見方と言うものがあります。この命蓮寺は人と妖怪が入り混じりながらもお互いを害することなく均衡を保ってはいるもののあくまでこの場においてのみの話です。この世界では基本的に人は妖怪などを恐れます」

「まぁ、そうでしょうね。同族以外がいたら多少なりとも警戒するのは当たり前ですからね。でも話が見えてこないんですけど・・・」

「まだ続きがありますから。そんな世界に現れたのが貴方です。偶然とは言え妖怪、鬼、それどころか怨霊なども跋扈する様な決して人が近寄らない場に踏み込んだ。あまつさえそこで暮らし始め商いまで始めてしまった。これは異例中の異例です。今まで無かった事ではないでしょうかね。人間と妖怪が交わって生活を始める事は人間を管理または支配したいと画策している各勢力の妖怪などは大変に都合の悪い危険人物となった訳ですね」

 

霖之助も似たようなことを言っていた。今のこの世界では人里って呼ばれるところ以外では基本的に生活をしている人間はいないみたいだからね。例外もあるけど、あくまで例外は例外で極めて少数だって言うし。

 

「そんな妖怪達からしたら都合の悪い人物なんでしょうけど、私は大変興味を持ちました。人でありながら妖怪などの中で暮らし続けているあなたの事を新聞で見た時に是非お話したいと思ったんです。本来であればこちらが出向くべきなのでしょうけど、マミゾウさんが呼びに行くと言ってきかないものですからこのように出向いてもらった訳です」

「なるほど、そういった事情でしたか。なんか変に身構えちゃってすいませんでした」

「いえいえ、いきなり見ず知らずの人間から呼び出されたら誰でもそうなります。お気になさらず」

「で、何話しますかね。俺たいして面白い話をもってるわけじゃないんですよね」

「まずこの世界に来てからの事でも聞いていいですか?」

「良いですよ。答えられる事なら何でもお答えします」

 

こうしてお茶とおはぎをお供に他愛のないおしゃべりが始まった。

 

 

 

******

 

 

 

「なるほどそのようにして、この世界で生活しているんですね」

「そうですねぇ。今話してみると短い期間で本当にいろいろあったなぁ」

「お楽しそうで何よりです」

「そう言っている貴女も楽しそうですけどね」

「そうですね。ここでの生活はいろいろありますが楽しい物です。平和的に行かない事も多々ありますけど・・・」

「まぁ、妖怪、鬼、人間、神様等の様々な種族が入り乱れてる世界ですから無理もないでしょうけどね」

「人も妖怪も神も仏も全て同じですのに・・・」

「へぇ、貴女はそうお考えなんですね」

「えぇ、そうですよ。貴方は違いますか?」

「・・・まぁそうですね。俺は違いますかね」

「そうですか・・・・。それではちょっと趣向を変えましょうか」

「⁇」

作麼生(そもさん)

説破(せっぱ)

「やはり、ご存知でしたか」

「まぁ、一応は。簡単に言っちゃえば禅問答の問いかけに対しての応対の一連の流れですよね。でもなんで急に?」

「今までの話を聞いたところの予想で貴方はしっかり対応できるのではと思いまして・・・。それではまいりましょうか。まずは貴方は神や仏などを信じますか?」

「・・・それはどう意味ですかね?」

「と言いますと?」

「その問いは 神様の存在がある事 に対しての信じるなのか、それとも 神様自体を信頼する と言った意味での信じるなのかって事ですよ」

「なるほど、そこまで考えてお話してはいなかったのですけど・・・。そうですね、せっかくですしどちらとも答えて頂きましょうか」

 

・・・、この人、腹の底が見えないんだが俺が警戒し過ぎなのだろうか。

とりあえずは、正直に答えておこう。

 

俺の答えなんて決まっている。

 

「存在がある事は信じている・・・ってか会った事あるしなぁ。そして、信頼しているかに関しては信頼していないって答えになるかな」

「その心は?」

「神様の存在は信じているし・・・・在る事はよく知っている」

「では信頼していない理由は?」

「・・・・・さぁね。人間と同じだからじゃないですか?」

「はて?先程と言っている事と違う気が・・・」

「う~ん、なんて言えばいいかな。俺自身を客観的に見た時にそもそも人間自体そんなに信頼とかしてない節があるように見れるんですよ。だから神様だって心があるじゃないですか。・・・・・・例えばですけどね。・・・・しっかりしているのにちょっとしたことでからかわれて動揺するような神様だったり、普段は笑っておちゃらけてたりするけど・・・・時々見せる真面目な姿が魅力的だったりするような神様だったり、いつもは優しいおっとりした奴だけど・・・・なんか急にぶっ飛んだ面を見せてくるような面白い神様だったり。そこは人間と変わらないですから。少なくとも俺の知っている神様ってそんな感じの人間味あふれるいい奴らだからさ。きっと人と同じでさ、やっぱ今は信頼って言う意味での信じる事はしてないと思うよ」

 

久々にあいつらの事を誰かに話したな。1年ぶりくらいだろうか?

つーか今の俺ってあいつらの事こんな風に思ってたんだな。

 

「・・・・なんだか今のあなたの言葉には普通の人にはない深さのような物がありますね」

「っても俺は今も昔も思った事正直に言ってるだけだからねぇ。深いかどうかはわからないなぁ」

「私がそう感じたのですからそれでいいのですよ。それでは次に行きましょうか」

「こんな感じで良ければそうぞ」

「貴方は先程の私の言葉に対して自分の考えは違うと言いました。では貴方はどのようにお考えなのでしょうか?」

「えーと、人も妖怪も神も仏も全て同じでしたっけ。俺はあえて言い方変えるなら人も妖怪も神も仏も全て違うって考え方ですからね」

「私とは真逆の答えですね。ちなみにその理由は?」

「それは・・・現役で神様祀って皆同じく等しいって言ってるるような住職に対してぶつけるような考えではないんですけど怒らないで聞いてくださいね。う~んどう言ったらいいかなぁ。先に神様と妖怪の違いについて話しましょうか。まず、人間は愚かな事に自分が理解できないものもしくはそもそも人間より優れているものには無意識的か意識的かはわかりませんが恐ろしく感じてしまう物です。同じ人間と言う種族同士ですら知らない事があれば知らないと気が済まないくらいですからね。だから理解できる範疇に収めようとする。その結果、人が制御できない自然や時間や死後などのものを人間でも理解できる形として作られた分類が神様や仏様。人間自身の後ろめたい部分や暗い部分を元として起こる不可解なものや人間より優れていて恐ろしく感じたものを分類したのが妖怪。分類したのは人間と言う同じ種族でも最初からこんなに違うじゃないですか」

「まだ違いがあると?」

「ええ、神様や仏は基本的に人から恐れや信仰を集めて恵みや救いをもたらす事もある。神は人に恐れ、奉られながら人に良い事ををもたらすこともある光だ。そして人間が人間自体を戒めるためにあるものでもある。宗教がいい例ですね。戒律がある。あれは仏教教団の秩序維持のため,正法を護持するために規範が設けられています。それは信仰を絶やさない為だけではないと俺は思っています。人間は規則がないとただの獣と同じでしょうから、人が人としてあるための戒めとしての働きもあると思っています。人や人の生活がより良くあるために、もしくは人が罪を犯さぬようにと言う抑止の力でもあると思いますよ」

「では妖怪はどうなのですか?」

「人間に敬い奉られるのが基本な神に対して基本的に妖怪で有名だったりするのは害悪なものが多い。妖怪は人から生まれ人によって作られ害を及ぼし恐れられる影のような物ですから恐ろしい物が多いのは仕方がないんでしょうね。妖怪は人が犯した過ちに対しての罰の意味合いが強いと思います。それは時の政権の怠惰を示したものであったり、人としてしてはいけない罪を犯した者の哀れな最期を示したものもある。妖怪はそういった罪を犯したのものの罰や末路を示したものによく使われる。そんな例を示す働きがあると思っています。妖怪は人の罪や過ちの重さを示す為の力そのものでもあると思います」

「・・・・、人間中心の都合のいい解釈のような物に感じますね」

「まぁ、あくまで俺は人間ですからね。そりゃあ人間中心になりますよ。人間は同じ人間同士の事ですら知ってる事しか理解できないし、知らない事は理解も出来ないような愚かな生物ですよ。そんな人間である俺に人でない者の視点はわかりませんから」

「・・・そうですか。まぁ良くも悪くも人間立場が中心の考えと言った所ですかね」

「まぁ、そうなりますかね。でも俺の中での最たる違いはまた別ですけどね」

「と、言いますと?」

「神様は個人を救わない。けれど妖怪は個人を救う事もある。これが最大の違いですかね」

「なぜそのように?」

「う~ん、そもそも神様ってが基本的に大衆の信仰なりを集めて成り立ってる物なんですよね。それが個人のみを救ったら大衆は不満に感じるじゃないですか。だから決して神様は個人を救わないし救えない。でも妖怪は個人に対して救いを与える事がある。妖怪に個人も大衆も神様程関係ないからなのかもしれませんし、ただの気まぐれなのかもしれませんけど。結果として妖怪が個人を救う事がある。神様は信仰を基本としているのだから個を選んで大衆を敵に回すことはしないでしょうね」

「なるほど。ひとつの宗教の見方としても大変面白いですね。ではもし個を救うような神様がいたとしたらどう思うのですか?」

「それは確かに一時(いっとき)の救いをもたらすのかもしれません。それは人に最上の幸せを与えるものなのかもしれない。でも・・・・」

「でも?」

 

 

 

「・・・・でも、それは・・・・もっと残酷な災いを呼び込む引き金になるでしょうね」

 

 

 

******

 

 

 

~命蓮寺~

 

 

 

今回は鷹崎仁と言う青年と話したが、なかなか面白い物の見方をする青年であったというのが私の見解である。

ただしその考え方はまるで自身に起こった出来事を理解できる範疇に収めた彼自身が言っていた人間の愚かさを体現したもののようにも感じたが。

 

「どうじゃった?なかなか面白い奴であったろう?」

「そうですね。貴女が言った通り大変面白い人間でした」

「そうじゃろう、そうじゃろう。そしてあのお土産も美味しかったのぅ」

「えぇ、そうですね。大変美味しかったです」

 

個人的にまた食べたいものである。今度からはこちらから出向いていてもいいかもしれない。

 

「あやつとの会話はいい刺激になっておったんじゃないか?」

「ええ、大変いい時間であったと思います。ですか彼は大丈夫なのでしょうか?」

「なんじゃ?何か引っかかる事でもあったのか?」

「ええ、彼の考え方は一見言っている事は無茶苦茶な部分もあるように感じられますけど、あれはあれでなかなか理の通った考えではあると思います。しかしいあの考えに至るまでにいったいどのような経験をしていたのでしょう?」

 

正直普通の人間では到達しないような高みから見た言葉もあったように感じた。

あれは方向性は違うものの、戒律を守り修行した者でもなかなか辿り着けない境地であるように感じる。

 

「まぁ、儂も知らんところが多いからのぅ。まぁ、でもそこまで気にする事かの?」

「何と言いますか・・・・。話していても嘘偽りなく話している事はわかっているのですが、どうも普通の人と話している時のような言葉から感じるその人自身の心のような物を全くと言っていいほど彼からは感じなかったのです」

「う~ん、お前さんの言っている事はちょっとわからんが、まぁ仁はだいぶ変わっておるからのぅ。じゃが根は良い奴だと思うぞい」

「そうですね。変わってはいますけど良い人ではあると思いますよ。面白いお方でしたしね。でもマミゾウさん彼とこれからも関わっていくなら1つ忠告があります」

 

彼女が感じている感情が私の見立て通りならこれからも彼女は彼に関わり続けるだろう。

それは別にいい。私には彼にそんな感情はむけないが、話し相手としてはいい相手である事に変わりはない。

しかし、彼が何かをしたときに彼女が巻き込まれるような事があってはいけない。

余計なお世話かもしれないがひと言は言わせてもらう事としよう。

 

「なんじゃ?」

「彼の考え方は徹底的に自己も他者も否定したものが基盤になっているように感じました。そしてその考え方は、非常に厳しく脆い考えでもあります。何かあった時には彼自身が何をしでかすかわからないような思考であるとも言えます」

「何を言いたいんじゃ?」

 

 

「彼がこのままこの世界に生き続けるというならば、彼は自身の手で自らを殺す事になるでしょう。そうならないように、またそれに巻き込まれないように気をつけるようにと言う事ですよ」

 

 

 

******

 

~帰宅途中~

 

はぁ、疲れた。なんだかいろいろあの後も聞かれたせいか。疲れた。そして後半は勧誘もあって疲れた。

俺はどの宗教も信仰してないしする気もないからなぁ。やんわり断るのが大変だったぜ。

 

気が付いたらもう夕方になっていた。正直、驚き桃の木山椒の木。

マミゾウさんが送ると言ってくれたが来た時の道は覚えているから1人で帰る事にした。

何か気分的に誰かと帰るって感じじゃなかったからね。

 

う~ん、せっかくの休日がもう終わってしまう。

今から帰って普段は飲まないから、今日はなんか適当に作って飲むか。

まぁ、今から誰か誘うのも急だし、そもそも誘うような相手が近くにいない気がする。

 

地霊殿って俺の店からは地味に遠いし、パルスィさんは必ず通るけど酒の席にあまり誘いたくない。

こないだのプレオープンの事があってから、酒の席で会うのには少し抵抗があるのだ。

お店にお客さんとして来た時はそんな事微塵も感じさせないようにするけどね。

 

でも個人的に飲むとなるとなると何を言われるかわからないのが怖いよなぁ。

何か言われそうな事をしているんじゃないかと俺自身が思ってしまっているあたりなんかダメな気がする。

やっぱ誰かを誘うのやめて1人でちびちび飲もう。

 

あ~あ、何か昔の事とか変な事とか喋って疲れたしパッと飲んでそのまま寝て明日も頑張ろ。

この休日は1人宅飲みで静かに終わるなぁ。割と大学生活送ってた時と終わりは変わらないな。

何をつまみに作ろうかと考えつつ、とりあえず全力で走り帰る事にした。

 

 




いつもながら最後までお読みいただきありがとうございます。

日没する処の天子 のところは日本史の聖徳太子に関連したもので、日本が隋の煬帝に送った酷暑の文章が元ネタになっております。読者の中にはもしかしたら習った所だ‼と思った方もいるかもしれません。


そして本編について。如何だったでしょうか?今回は主人公の考えがさらけ出された割と真面目なお噺だったと思います。今回のお噺は「閑話 いつかの七夕の思い出」と関連しているお噺となっているつもりです。今まで読んでくださった方には何か引っかかったものがあったのではないかと思います。

いや~、作者個人は神話とか大好きなのですが何ともまぁ1つの物語にも多種多様な見方があっておもしろいと日々感じています。それは二次創作でも同じことが言えるかもしれませんね。少しでも自分のお話が好きになってもらえたら幸いでございます。

テストが終わって夏休みになったら本編等の執筆と並行して今までのお噺の誤字脱字等の修正などをして投稿したいと思っています。多少表現を変えたりするかもしれませんが基本的にお噺の感じは変えない予定ですので、見直さなくても大丈夫です。細かいところまで見ておきたい!という熱心な方はぜひ気が付いたら見返してみてね。

と言う訳で今回はここまでとなります。また次回でお会いしましょう。
応援メッセージとか感想とかあったら嬉しいです‼アンケートも何回でも投票していただいても構わないので良かったらどうぞ‼

と言う訳で次回でまた会いましょう!今度こそさようなら!


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反転芝浜 ~ 鬼と男とときどき酒と ~

テスト? 大爆発だー ダダダ これで結果をお察しください、どうもノリさんです。

やっと俺にも夏休みが・・・・、と思っても部活やら課題やらで私に休みが存在するのか・・・・?それでもペースを落とさずなるべく書ける時に書いて生きたいと思います。これを書くのは楽しかったりするのでね。
と言う訳で、夏休みも東方与太噺をよろしくね‼

そんな感じで本編に行きたいのですが・・・・今回は事前に知識があた方がお楽しみいただける描写があるのでちょっとキーワード?みたいなものを書いていきますね。

・天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも

・芝浜 落語

この2つの知識をいれて頂けると一発で楽しんで貰えると思います。
芝浜は最低限オチの事を調べて貰えたらお噺がわかり易いと思います。

一応後書きで解説のような物はさせて頂くつもりですが、人によってさまざまな読み方があると思いますので後書きの解説を読んだ後に「あらかじめ言っといてくれ」って人用に書いておきました。

例えば先に調べて読む良し、まず調べずに読んでから後書きの解説のような物を読んでから読み返すも良し。
今例を挙げた以外にも人によって様々な楽しみ方があると思いますのでお好きなやり方で楽しんで貰えれば幸いです。

それでは本編へどうぞ


つまみ用の買い出しも終わり気が付けば19時になっていたが、今から風呂入って一杯ひっかけるとなれば丁度いい時間だろう。

 

何はともあれまずは風呂に入って、とっておきのお酒をあけてちびちび飲もう‼

 

 

*****

 

いい湯だった。俺熱いのよりぬるいのに浸かってる派なんだけど世の中どっち派が多いんだろうか?

実際はどうなのかなぁ。やっぱ熱い派が多いのか?

 

熱いのが苦手俺は地底の温泉施設の風呂は基本的に入りにいかない。

あそこのお湯ってかなり熱いんだよね。

あそこに入った時は元々長湯するようなタイプじゃないけど入って30秒もたたずに上がってしまった。

なので俺は家にある風呂にしか基本的に入らない。

 

 

さて、これから飲むとなるとそのまま寝落ちしても大丈夫なように、鍵はしっかりかけてと・・・・。

なぜか鍵をかけたはずの部屋に置いてあった俺の大好きなあっちの世界のお酒があるので、それを今日のメインにして飲むとしよう。

外の世界の物を入手出来て、鍵かけた俺の家に荷物置けるなんて1人しか思いつかない。

 

確か幻想郷に来て1週間くらいの1人になった時だったかな。

 

「鬼〇ろし飲みたいなぁ」

 

と呟いた事があったが、わざわざ用意してくれたのだろうか?

暇なのかな?と思ったのは仕方のない事だと思うんだ。

って言うか覗いてたとしたら趣味悪くないか?こんな男を見て何が面白いんだか。

 

「さてとりあえずまずは一杯やりますかね」

 

散々言っといてなんだがくれるもんは貰う。

鬼〇ろしは辛口寄りの日本酒だ。あまり多く酒を飲むわけではないけど俺はこれがお気に入りだ。

軽く飲むにはちょうどいい味だし、何より安かった。

近所にあったスーパーでは鬼ころしがいいタイミングで安く売ってたりしたからよく飲むようになっていく内にお気に入りの酒となった。

俺の場合、食費とか本代で結構なお金使ったりもあったから、最初は節約のためにではあったが今では愛飲している。

 

冷やしたグラスとに氷を入れて鬼〇ろし3:水7の割合でよく飲む。

正しいのかわからないけど一番しっくりくる飲みかたがこうだった。

 

「~~~っぷはぁ、何か沁みるなぁぁぁ‼」

 

最初につまみはキュウリに一本漬けに枝豆だ。もう今晩これでいいかなぁ。

 

さて、つまみながら最近忘れがちな俺の能力についてちょっと考えよう。

遊び・童謡を力に変える程度の能力(仮名)って感じの能力なのだがいまいちしっくりといていない。

何でかって言うと、遊びや童謡と言ってもそれなら何でも発動って訳じゃないからだ。

今の所、力を発動しているのは

 

〈童謡・わらべ歌〉

 

かごめかごめ → 対象の後ろ(死角)に立つ

とおりゃんせ → 対象AとBを選択し、Aは俺よりBに近づけなくなる。もし近づいた場合は強制的に俺より離れた位置に移動する

はないちもんめ → 対象の能力等、何か1つだけ使用権を俺に移す

ほたるこい → 対象(複数選択可)の注意を全て俺自身に向けさせる

 

〈遊び〉

 

鬼ごっこ → 俺が鬼役となり対象(複数選択可)を設定し、どこに隠れたり逃げたりしても場所が分かり追跡可能になる

目隠しだ~れだ → 対象の目を手で塞ぐことで何も見えなくなる。副次的効果な使い方としてサードアイのような目に能力がある場合はそれも封じる事が出来る

落とし穴 → 場所と規模と深さを設定したらすぐに落とし穴が出来る。大きめの鬼が入るような穴なら同時に5つまで作成可能。大きい物を作るほど同時に作れる落とし穴の数は減る。ふんだら落ちるそれだけ。解除したら何事もなかったかのように穴は元通りになる

だるまさんが転んだ → 選んだ対象(複数選択可)に俺が背中を向けていると対象は動けなくなる。副次的効果として発動タイプの能力の使用を封じる事も可能。

 

〈行使後) 

解除と思う、または言えば解除すると決めた物はすべて解除され元通りになる。

 

 

 

・・・こんな所か・・・・・。う~ん、紙に書いて整理してみたけど、なんか決して弱いわけじゃないけど強いと言っても良い物か・・・・。

俺の能力の発動できる対象にもちょっとした条件のような物がある。

 

まず、俺よりも高い身体能力及びそれに準ずる力をを持っている対象には能力の行使が出来ない。ただ萃香さんとの手合わせ以降、かなり俺自体の身体能力が上がって身体能力だけなら萃香さんより少し上くらいになったので、それ以上の人には行使できないという事になる。

 

そして、歌の方はキーとなる部分の歌詞を口ずさめば能力は発動するが、省略した場合解除後に時間経過伴って疲れが襲う。感覚的には15分能力行使を続けて3キロ走を全力で走ったくらいなので、単体で行使するだけなら意外と余裕はある。

 

あと童謡とかと遊びは同時に1つずつ掛け合わせて使う事は出来る。相性の良し悪しはあるけどね。

例えば かごめかごめ と だ~れだ は非常に相性がいい。反対に はないちもんめ と だるまさんが転んだ は正直使い道がなかなかなさそうな組み合わせだ。正直だるまさん転んだで動きと能力を封じているのでわざわざ能力を奪わなくても、この身体能力を使って打撃を加えた方が楽だし早く決着を付けられそうだからだ。

 

 

「しっかし、こうなると身体能力の急成長の事はますます謎だな・・・」

「まぁそう難しく考えるなよ‼ほらっ、これを飲め‼私はお前が飲んだっぽいそっちをもらうぞ‼」

「はぁ、いただきます。そしてどうぞ・・・・っふぅ美味いな。って、伊吹さん⁉鍵ちゃんと締めたのに何でここに⁉」

「お前、私の能力忘れたのか?」

「え~~~~と、え~~~~と~~~~~」

「手合わせの時に言ったよな⁉」

「あぁ‼密と疎を操る程度の能力でしたっけ?」

「そうだ‼その能力を持った私にこんな部屋は入れない道理はない‼そしてお酒を飲んでいるところに私がいない訳がないだろう‼」

 

そんなにぺったんこな胸張られても、ちびっ子が自慢しているようにしか見えないぞ?

はい訂正。鍵かけてても荷物置ける点においては2人だったわ。

つーか威張って言ってるけど、完全不法侵入だよね。紫さんと言いこの人と言い人の家って概念があるのか?

って言うかそんな人らがあっさり入ってくるなら鍵意味ないじゃん。セキュリティの意味ないんだな‼

 

「悪くないない酒だが、私の酒の方が美味いな‼」

「そりゃあねぇ。この酒って俺があっちの世界にいた時の安くて多く飲める中でいい味してるって感じで選んでたお酒でしたからね。伊吹さんのお酒って星熊さんの程じゃないですけど美味しいお酒じゃないですか」

「思い出の酒か・・・。ちなみになんてお酒だ?」

「鬼〇ろしですねぇ~」

「え?」

「だから、鬼〇ろしですって」

「何て名前のお酒だ‼縁起でもないな‼」

「この程度じゃ死なないでしょうに」

「そういう問題じゃないだろ!」

「まぁ、飲めりゃいいんじゃないですか?」

「・・・まぁ、そうだな‼とりあえずつまみはないのか?」

 

う~ん、まぁこのチョ・・・・表情の豊かさはもう突っ込まないほうが良いだろうね

 

「えぇ、いきなり来てつまみを要求しますか・・・・」

「ないならないで酒飲み散らかすけど良いのか~~~」

「わかりましたよ。丁度作ろうと思ってたところですから伊吹さんの分もまとめて作りますよ」

「よく言った‼私は肉が良いな‼」

 

えぇ、酒の肴ねだった側がまさかのリクエストかよ。

何つーかある意味気持ちの良い性格してんなぁ。

今日肉の肴の予定だったからいいけどさ。多く買ってきておいてよかった。

 

「何作るんだ?」

「味噌肉野菜炒めですよ。あと唐揚げも足しますかね。俺はもっぱらこれで飲んでましたから」

「そうか‼それなら期待大だな‼とりあえず飲んで私は待つぞ」

「ご自由にどうぞ」

「って何だこれ?」

「ん?あぁ、それ今まで発動した能力を紙に書いてまとめてみたんですよ」

「あぁ、手合わせしてくれって頼まれた時はびっくりしたよ」

「いやぁ、あの時は上がった身体能力に驚いて検証しないとって思ったので、その時近くにいた伊吹さんに頼んだんですよね」

「勢いにしたって普通鬼の私に頼まないと思うけど?」

「いや・・・・、だってここらじゃ人間で強い人なんていないじゃないですか・・・・・」

「まぁ、確かにここら辺には基本人間なんていないよな」

「だから強くて知り合いの人ってなった時に萃香さんが突撃してきたんで・・・」

「あ~?そうだったっけ?」

「そうですよ。開店準備で働きすぎってさとりさんに怒られて、1日休みになってる時に飲むぞって来たのそっちじゃないですか」

「おぉそう言えばそうだったな‼すっかり忘れてだぞ」

「でしょうねぇ。あの日手合わせした後に朝まで飲んだじゃないですか。伊吹さん、俺起こされた頃にはいなかったから驚くし、起こされたパルスィさんは怒ってるしでえらい怖い目に合ったんですよ」

「そうだったのか‼隠れて見ていても良かったなぁ。でもなんでパルスィが怒ってたんだ?」

「それは・・・、店の暖簾とかそういった物を調達するのに女性の意見を聞いたほうが良いと思って誘ってみたらオーケーしてくれたんで頼んだんですけど・・・・・飲み過ぎで寝過ごしたみたいで・・・」

「あぁ、それは怒るわ。お前、女との約束の遅刻はいけないよなぁ」

「その遅刻の原因の片棒担いでるのに・・・・。まぁいいや。まぁその後ごはんご馳走したら許してくれたんでいいですけどね」

「・・・・そっか。ところでまだできないのかぁ」

「もう少し待ってくださいよ。揚げもんって意外と手間かかるんですよね」

「そっかぁ、料理しないからわからないんだよなぁ」

「何かしら作れるようになったほうが良いんじゃないですか?意中の人が出来た時になってから焦っても遅いですし」

「ぶっ‼なんでいきなりそうなるんだ⁉」

「なんとなく。女性は胃袋で男をつかめって言葉もあったくらいですし割とそうなのかなーと思ったから。伊吹さんちっさいけど美人ですしモテそうだからつい・・・」

 

正直色ボケしてる大学生にはこういった返ししとけば大丈夫っだったから、そのノリでつい言ってしまった。

つーか、俺にわざわざ関わってくるのはあの色ボケ男一人しかいない。

 

「そうか・・・・。やっぱりお前も料理できる女のほうが良いのか?」

「出来るならできるでいいと思いますしできないならできないで良いんじゃないですか?出来なくても覚えたいって言うなら俺が教えればいいだけですし」

「そうか・・・」

「伊吹さんもしかして・・・」

「な!なんだよ」

「意中の人でも居るんですか・・・?」

「ち、違うわ、アホ‼自分で酒の肴を作れればいいかな~なんて思っただけだ‼」

「そうですか。それなら今度いくつかレシピお教えしましょうか?」

「お?いいのか?」

「簡単なの幾つかありますから大丈夫ですよ」

「そうか。ぞれじゃあ今度頼むぞ」

「はい。っとできましたよ」

「なぁせっかく休日に2人で飲むんだ。カウンターじゃなくて、個室の方で飲もうぜ。もしくはお前の部屋でもいいけど」

「俺の部屋は勘弁してください。個室なら掃除してあるんでいいですけど。じゃ、いくつか酒とかまとめて持ってくんで先に個室入ってていいんですよ」

「は~い、早く来いよ」

 

 

******

 

結構用意するものが多いからちょっと時間がかかったがまぁいいだろう。

 

酒を注いで向かい合ってそれから飲むときの始めの合図。

「「乾杯‼・・・・・・っぷはぁぁぁ、美味い‼」」

「さっそく食べるぞ~」

「そんな慌てなくても大丈夫ですよ。ってもう食ってる⁉」

「うん‼安定してお前の料理は美味いな。なんでこんなに上手くなったんだ?」

「せっかく食べるなら美味しいほうが良いじゃないですか。それに食は偉大な事にどんなにつらい事とかあったりしてもうまい飯食えたら少しは気分が立ち直るじゃないですか。だから凝ってるうちに今みたいになったといった感じですかね」

「そうだったのか。お前より料理上手い奴なんて見た事ないから教えてもらえるのは嬉しいな」

「俺よりいい料理作る人なんていくらでもいますよ」

「そうなのか?私は見た事ないけどな?」

「気が付いてないだけじゃないですかね。どっちかって言ったら俺よりいい料理を作れる人の傾向と言ったほうが良いかもしれないですけど」

「じゃあ、それってどんな奴だ?」

「そりゃあ、誰かのために料理を作っている人ですよ」

「なんでだ?」

「まぁ、俺が料理に凝る理由って嫌な事とか辛い事から気をそらすことだったり、そんな気持ちを紛らわすためですからね。そんな後ろ向きな物より誰かのために作るって料理の方がよっぽどいい物ですよ」

「ふぅん。ま、私は美味しければ何でもいいけどな‼」

「・・・そうですね」

「なんで苦笑いなんだよ~」

「いやぁ、伊吹さんの豪快さに脱帽しただけですよ」

 

こうして俺たちは酒と肴を共に、言葉と盃を重ねていった。

くだらない事から、幻想郷のどこかであった事。かつてあった異変の事。

本当に伊吹さんは楽しそうに話してくれる。俺もつられて笑顔になれる。

 

気が付けば鬼〇ろしも1.5ℓ飲み干してしまい、仕方がないので3ℓを開ける事にする。

ただ、つまみは伊吹さんと飲む段階で2つじゃなたりないのはわかっていたので多めに用意していた枝豆とか鶏チャーシューがあるからいいけどまさかこんなに飲むとはなぁ。

 

「さぁ、これからが本番だ‼とりあえず私の酒を飲め‼」

「その鬼用の酒をなみなみ俺のグラスに注いで何言ってるんですか⁉」

「なんだよ。お前いけるんだからいいだろ。人間で私の酒飲めるのなんてお前が初めてだからな~。そしてお前のその酒は私が貰う‼」

「え?ちょ・・・・て、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ⁉何やってるんですか⁉」

 

開けたばかりの俺の鬼〇ろしがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼

 

「っぷはぁ、やっぱり弱いなぁ。さ、私の酒を飲め‼」

「嘘だろ・・・・。3リットル1本一気飲みだと・・・・」

 

こいつ・・・・人間じゃぁねぇ・・・・。あ、もともと人間じゃなかったわ。

 

「わかりましたよ。飲みますよ」

「よし、それじゃあ私が紫に教えてもらった合いの手を入れてやろう」

「嫌な予感しかしない・・・」

「良いから飲め‼・・・よし飲み始めたな。特別に手拍子も入れていくぞ~。仁君のちょっといいとこ見てみたい~♪のー「ゴホッ、ゲホッ」おい、吹き出すなよ‼これから良いところだったのに‼」

 

無茶言うな。色々ツッコミ所在り過ぎて思わず吹いたわ。

 

まず見た目幼女にやらせるものにやらせる物じゃないし、何でそんなにノリノリなの?

そしてチョイスが古い。合コンとか行った事ない俺でもわかるくらいに古い。紫さんなんて物仕込んでんだ。

 

でもなんだかこれを見れたことにお得感を感じた俺は間違っていないはずだ。

もう少し見てみたかったような気がする。が、あまりの衝撃にこらえられなかった。

 

「いやぁ、すいません。ちょっと思わず・・・」

「何か変だったのか?教えてもらった通りにやってみたんだけど?」

「いやぁ、何と言えばいいか・・・・。それ俺の世界の合いの手ですけど古いんで思わず懐かしい物出したなって感じですね」

「古いのか⁉紫は新しくて若い男女が飲むときにやっているって言ってたんだけどな~」

「新しいは別として、若い男女が飲むときにやるのは間違ってませんけどね」

「あ~あ、酒で少し服濡れちゃったな~」

「あぁ、そうですね。この手拭き新しいんで使ってください」

「・・・ありがとう。っととりあえず残ってるのは飲み切ってくれよ」

「わかりましたよ。・・・・・・・・・っぷはぁ、めちゃくちゃクるなぁ」

「さて次いってみよ~。で、ちょっと気になってた事1個あるんだけど聞いても良いか?」

 

サラッと俺がいけるからって鬼用の酒をいれるのはいかがなものか?

まぁ、飲むからいいけどさ。

 

「何ですか?珍しく真剣な感じですね」

「まぁ、酒の席にこんなのがあってもいいだろう?」

「良いですけど・・・・満足のいく答えが得られるかは別としてですけどね」

「いいんだよ。じゃ、聞くぞ。お前は・・・外の世界に帰りたいと思わないのか?」

 

外の世界ねぇ。俺が生まれて俺が生き続けた世界。

帰りたくないかと聞かれればどうなんだろう?

別に帰りたくない訳ではないけど、わざわざ今焦って帰りたいと思う事は全くない。

 

う~ん、正直難しい。かなり考えないとその答えは出ないだろう。

けれど今言えるとしたらこれしかないと思う

 

「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」

「⁇⁇」

「・・・とはならないような男ですからねぇ。俺って男は」

「どういう事だ?」

「故郷に恋しさを感じるような、そんな男じゃないって事ですよ」

 

実際そうなんだよなぁ。とりあえず大学あるし生きていかなきゃならないから生活していただけで特別思い入れのある場所があるわけではないと思う。実家も売り払ったしね。

あ~、美味しいお酒だけどやっぱアルコール強いなぁ。

 

「ふるさとが恋しくないのか?」

「そもそも俺に帰るようなふるさとはもうないですし、もう帰るべき場所もないですよ。だから伊吹さんの質問の答えはどっちかって言ったら考えた事もないし考えた所で帰りたいと思う理由も特にないって所ですかね」

「なんでそんなに帰りたいってならないんだ?今まで見て来た人間はみんな帰りたがって、すぐ帰っていったぞ」

「そうなんですか?それは妖怪とかに怖い目に合わされたからじゃないですか?俺は幸いにもそんな事なかったですからねぇ」

 

伊吹さんは何が聞きたいのだろう?俺に元の世界に帰って欲しいのだろうか?

 

「それにしたって今まで帰っていったよ。私が飲もうって誘っても鬼だってわかると恐れた目で見てきた。例え助けたとしても逃げ出したり、敵を見るような目で見てきたりもした。ここまで妖怪とかに関わって偶々来たこの世界に居続けたのはお前が初めてだ」

「そうですか。でも俺お休み期間だし特にあっちでする事もないですからねぇ。今まで飲みに誘っても怖がられてできなかったと?」

「そうだ。私の角を見た途端に警戒むき出しになって・・・・、私はただ外から来た人間と飲みたいだけで何もしてないのに避けられてきたから・・・・・」

 

帰って欲しいのかと思ってたが違った。

伊吹さんは今まで外の人間とも楽しく飲みたかっただけなのに誘っても怯え竦まれ恐れられ。

何もしていないのに自分の存在が自分のしたい事をさせてくれなかった。

 

そんな中で俺という鬼とも対等に楽しく飲めるような例外が出て来た。

今まで俺は伊吹さんと飲んでいる時は楽しく飲んでいるだけかと思ったのだが、もしかしたら彼女なりに戸惑いや葛藤があったのかもしれない。

あぁ、だとしたら俺なりに精一杯の答えで応えなければいけない。

 

「まぁ、俺、別に今までお世話になった妖怪とか鬼の皆さんとか怖いって思った事ないですから。むしろ面白かったり美人だったり勉強になったりして好きですよ。だったらこの世界で楽しんだ方が得でしょ」

「・・・・さっきパルスィの事怖いって言ってたくせに」

「あ~、まぁ、あれはパルスィさんが怖いと言うよりは怒られるのが怖いだけですよ。だって長いですもん。おまけに美人から毒混ざっての説教とか堪えますもん」

「なんだよ、それ。まったく・・・、子供っぽいじゃないか」

「そうですよ。子供っぽいですよ。だから怖い事とか辛い事があれば逃げたりもするし、たまに無茶なことやるし。でもそんな感じで良いんじゃないですか?自分のしたいように、やりたいようにやってダメでも後悔がないならそれで。出来なくなってからじゃもったいないじゃないですか。今この場で俺が伊吹さんと飲んでるのだって、俺が一緒に飲みたいって思ってるからしているだけですから。そんなに難しく考えなくても良いんじゃないですか?きっと人間ってそんな物なんだろうと。都合のいい例外があったらいいなぁくらいに考えてたら気も楽でしょ。現にこうして俺みたいな例外がいたわけだし」

「まったく・・・。お前、私よりもかなりの若造のくせしてなんで年上の私に講釈垂れてんだよ・・・・」

「すみません。こんな言い方しかできないもんで。あ~あれですよ。味は良いけど人間には強過ぎる酒を誰かに飲まされたおかげで酔ってるんですよ。だから酔っ払いの戯言だと思って気にしないでください」

「はは・・・、そりゃ親切な奴がいたもんだな・・・」

「えぇ、こんな世界に入ってばかりで右も左もわからない様な男に気軽に話しかけて飲みに誘ってくれた・・・とっても親切な人ですよ」

「そうか・・・。お前、酔ってるのか?」

「えぇ、かなり飲んじゃいましたからね。今までにないくらい酔ってますよ」

 

これはマジ。俺何杯鬼の酒飲んだ?よく死んでないものだ。

でも美味しいし仕方がないね。どこかの国では酒が飲めるのは生きてるうちだからいっぱい飲もうみたいな歌があったはずだし。違ったかな?

 

「そうか・・・、それなら今夜あった事は覚えてないよな」

「そうですねぇ。俺は頭も悪いし、酔ってたらなおさら忘れてるかもしれませんね。いっそのこと今までの不満ぶちまけます?」

「それなら・・・」

 

伊吹さんが俺の側って言うか前に立ってきたんですがこれは?なに?どういうこと?

手にグラス持ってるから何かするなら置かせてほしいなぁ。

 

「お前は・・・本当に面白い奴だな・・・・」

 

と言っていきなり胸に抱き付いてきた。うわっ、普段から小さいとは思ってたけどこんなに小さいんだな。

なんだかちょっと胸のあたりが濡れて来た気がするけど、そこは突っ込まないのが男ってもんだろう。

グラスに残った酒を飲み干し、グラスを机の上に置く。

 

「伊吹さんは酔ってますか?」

「・・・っ・・よっちゃったなぁっ」

 

俺はその言葉を聞いた後に、伊吹さんの頭を撫で、小さな体に手を回し抱きしめ背をやさしく叩く事にした。

まぁ、普段ならこんな事絶対しないんだけど、今日は酔った男の戯れって事で許してもらおう。

 

「‼⁉‼‼⁉」

「大丈夫ですよ。伊吹さんが俺の事嫌いになった時は無理になるかもしれませんけど、俺から嫌ったり逃げたりする事はないですから。都合が付けば俺で良ければいつでも飲みの相手になりますよ。俺、伊吹さんと飲むのは楽しくて好きですから」

「・・・・っ‼そんなこと言ってくる奴のことぉ・・・・嫌いになれる訳ないだろぉ・・・」

「そりゃ良かった。美人に嫌われたら悲しいですからねぇ」

「ばかっ・・・‼すぐ・・・・そういう事・・言う・・・」

「思った事はすぐ口に出るタイプなんですよ、俺。いやぁ正直者は辛いですねぇ」

「っそう言うのは・・・・・正直って・・・言わないんだよっ」

「まぁ、細かい事は良いじゃないですか。今、伊吹さんがどんな顔してるかはわかりませんけど・・・・俺は大丈夫ですから・・・。今夜は好きなように感情を出したらいいと思いますよ」

「・・・っ・・・・・っぅ・・・・・」

 

俺が何かにおいて腕利きな訳ではないし、生きてるだけでツケが溜まっていく一方だけど。

俺は胸に伊吹さんを抱いたまま自分のグラスに鬼の酒を注ぎしばらく眺めた後に一気に(あお)る。

 

「大いに飲もう。今宵の事は夢になってしまってもいいだろう」

 

きっと、これが俺が彼女のために出来る事。それが例え解決にならない対応であってもそれで少しでも気が楽になるのなら。

今までこの小さな体の中に(つら)さを押し殺してきたのだろうから。

 

 




いつもながら最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回はこの後に解説のような物がありますので後書きは短めに参りますよ。

今回のお噺はいかがだったでしょうか?
こんなの俺の嫁(萃香さん)じゃねぇ‼と言う萃香さんファンの方もおられるかもしれません。それは本当にごめんなさい。
ただ、伊吹萃香と言うキャラクターを調べている内にこう言った面もありそうだなと思ったので書きました。
私のお噺の伊吹萃香と言う登場人物はこういった面もある。という事でご容赦ください。

今回のお噺はまた今までと違う感じにしたつもりなのですが如何だったでしょうか?
好きだとか面白いとか思っていただければ嬉しいです。

最後に、アンケートもやっておりますので自分の活動報告に気が向いたら書き込みしていってください。もしかした参考にさせて頂くかもしれません。

そしてTwitterもやっておりますので良かったらそちらも。進捗状況とかくだらない事、そしてお噺に関連した事とかも今後呟いたりアンケートしたりしたいと思っていますので
もしこのお噺が面白いとか思っていただけたならアンケート共々よろしくお願いします。

あともし面白いと思って貰えたり、また読みたいと思ったらお気に入り登録とかもお願いしますね~

あとがきはここまでにしたいと思います。この後は解説のような物のコーナーに参ります。
ここまでしか読まんよ とか まだ解説は読まずに読み返すという方はここでいったんお別れです。それでは次話でお会いしましょう。さようならさようなら。










ここからは解説のような物のコーナーだ。いいね?








~ 解説のような物のコーナー ~

さてここでは前書きに書いたキーワードに解説のような物を入れていきたいと思います。

まず最初は
・天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも

についての解説にいきます。これは百人一首にありますしもしかしたら日本史を取っていた人なら馴染みがあったかもしれません。これは阿倍仲麻呂(あべのなかまろ)という遣唐使の人が詠んだものです。この仲麻呂は優秀であったためになかなか日本に帰らせてもらえず、念願かなって日本への帰国を許された時に送別の宴で読まれたと言う話があります。
この和歌の意味は

天を仰いではるか遠くを眺めれば、月が昇っている。あの月は奈良の春日にある、三笠山に昇っていたのと同じ月なのだなぁ

と言った感じになります。懐かしき故郷を思ってもしくは故郷に戻れる思いが出ているとても素敵な和歌だと自分は思っています。これは作者個人的には一番と言っていいくらい好きな和歌ではあります。がそれだけで使った訳ではありません。

この歌をを言った後の萃香さんの問いに「そもそも俺に帰るようなふるさとはもうないですし、もう帰るべき場所もないですよ」と言っています。
ここであれ?と思った方がいたかもしれません。その感覚は間違っていませんよ。
遠い故郷を思っての和歌なのにその対象となる故郷はないのに例として使うなんておかしくないか?と思っていただけたら嬉しいです。

仁君は意識して言った訳ではありませんが、ここに彼の無意識的な物があります。
さて・・・彼は本当に元の世界に戻りたくはないのでしょうか?そもそも彼が戻りたいと思うのは故郷と言う場所だけなのでしょうか?人が戻りたいと言う表現を使うのは場所だけではなかったような・・・。と言った所でもうわかっていただけた方も多いと思いますがこれ以上語っても面白くないでしょう。これからのお噺の続きで答え合わせをする日を楽しみにお待ちください。

そして次は
・芝浜 落語 でございます。

これは落語の人情噺の1つなのですが人間の本質の一面を表す大変に面白いお噺だと思います。
ざっくり言うと腕利きだが酒好きが欠点の魚屋の旦那に寄り添い、夫のために優しい嘘をついた女房の話です。ざっくりしすぎな気がしますが、まぁ大まかに言うとこんな感じでしょうね。

今回タイトルの反転と言う通り色んな所が元々の「芝浜」とはひっくり返っております。簡単な所で言えば嘘をつく方の性別がひっくり返っていたり、酒を飲むのを勧めていたりとまぁところどころひっくり返っております。間違い探しのようにすべて探してみるのも面白いかもしれませんね。ものすごく大変な事になりそうな気がしますけどね。

そしてこのお噺のオチとなる言葉の「大いに飲もう。今宵の事は夢になってしまってもいいだろう」は私なりに芝浜のオチの言葉をあの場に合わせてひっくり返したものになります。様々な表現があったのですがこれが一番いい落ち着き所だろうなといった感じがしましたのでこんな感じのひっくり返し方になりました。個人的には本当に一番まとまっているひっくり返した表現だと思います。

芝浜は何の言葉がオチかって?それは落語の「芝浜」を一度聞いてみる事をお勧めします。

もし間違え探しの様な事をする方がいましたら一度は「芝浜」を聞いてみてくださいね。様々な人が様々な芝浜をやていますので大変かもしれませんがそれぞれが面白いので聞いてみてもいいと思います。芝浜って結構長い物が多い気がしますけど是非これを機会に聞いてみてくださいね。

そして、ここまで読んでくれた方に特別サービス‼となるかはわかりませんがちょっとした裏情報を。

今回のこのお噺、ここまで解説挟むような仕様になってしまっているのに、裏テーマとなる児童文学作品がございます。
・・・・今回ちょっとどころの騒ぎじゃないレベルで盛り過ぎたかなぁ。
書きたいように書ているとこういう事もあるんでございますね。許して。

今回の裏テーマは今回のお噺のみで完結した訳ではございませんが、しっかり完結させるつもりまのでそれまで何の児童文学作品なのか考えてみるのも面白いかもしれませんよ。たぶん中学生以上なら誰でも作品名だったら誰でも知ってそうなくらいの作品です。


あとがき全部読んだらちょっとしたネット小説だったら1話分くらいの文量になってしまいましたが、解説のコーナーもこの辺りにしておきたいと思います。

さきほども言いましたが、アンケート及びTwitterの方も是非。
Twitterでは今後こう言った解説がいるようなお噺ではキーワードを事前公開しても良いかなと思ってたりとかしてるのでフォロー等よろしくお願いします。

いい感じの感想とか応援メッセージを書いてくれてもいいよ‼

といったふざけた事を言って今回はここまでにしたいと思います。
それでは次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら


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すれ違う思い ~ 運命の Countdown Start ~

気付けばもう15話いってた‼ ハイペース 亀更新とは 何処へやら どうもノリさんです。

ここまで読んでくださった方はありがとうございます。これからもよろしくお願いします!今知った人は大変かもしれませんが最初から読んでみてください。
ちょっとした仕掛けとかあっておもしろく感じるかもしれません。

このままだと夏休み終わる頃には20話行きそうですね~。
このペースが続けはですけどね・・・・・。

もしかしたら20話以降出来たらちょっとしたアンケートをTwitterで聞いてみようと思ってるので良かったらフォローよろしくお願いします。多分俺のフォロワーなる人ってほぼほぼこのお噺読んできてる人だからそっちの方がアンケート集まりやすそうってだけなんですけどね。

さて今回のお噺は前回ほど込み入ってないし、詰め込み過ぎって事はないはずなので安心して読んでくださいね。タイトルが不穏?まぁ気にせず読んでくださいな。

と言う訳でさっそく本編どうぞ‼



「う、うん?・・・あぁ、もう朝か・・・・」

「・・・すぅ・・・んぅ・・・」

 

あぁ、いけね。昨日あの後寝落ちしたのか。え?てことは一晩中伊吹さん抱いて寝てたの?

 

それは大層寝辛かったろうに・・・・。起きたら謝っておこう。いやでも昨夜の事は下手に触れないほうが良いか。

とりあえず起こさないようにそっと起こして・・・・なんか掛けるものないかな・・・・。

ないから、俺の作務衣の上を掛ければいいか。下にインナー着てるし問題はない。

 

で個室からこっそり出て時計見たけど朝6時か・・・・。今から2人分の朝食を用意すればいい感じの時間かな。

伊吹さんってなんかちゃんと朝ごはん食べてるかわからないから、ちょっと朝から気合入れていきますか。

 

 

******

 

 

現在7時。これだけしっかりと作ればいいかな。

メニューはごはん、シジミの味噌汁、アジの開き、大根サラダの梅ソース和え、キュウリとナスの浅漬け。

こんな感じでいいかな。

 

起こすとするか・・・・。

せっかくだしなんか一風変わった起こし方をしたいな・・・。

やっぱりフライパンを叩いて起こすか、耳元で何か言って起こすのが良いかな。

もしくは、いきなり体を揺さぶるかな・・・。

 

「お~~、おはよ~~」

 

ハイ計画頓挫~。なんてピッタリのタイミングで起きてくるんだろう。

 

「おはようございます、伊吹さん。朝ごはん食べますか?」

「おう、食べる食べる‼」

 

こうして2人で朝ご飯を食べ、お茶を淹れて一服する事になった。

 

「・・・・あのさ、覚えてるだろ?昨日はなんか悪かったな」

「え?何の事ですか?昨日は相当飲んでたんでねぇ」

「いやぁ・・・・、酒が入っていたとはいえ・・・その・・・らしくないことしちゃったって言うか・・・・抱き付いちゃったりして・・・・」

 

うわぁ、ちょっと赤くなってる?可愛い?客観的に見て最高に可愛いですね、写真撮りたい。

 

「あぁ、別に抱きつくくらい良いんじゃないですか?またなんかあったらいつでもどうぞ。それに伊吹さんみたいな美人に抱き付かれるのは役得なので」

 

まぁ、素面の時にでもやられようもんなら心臓にはたいへん悪いが。慣れてないので。

あくまであれはアルコール入ってたから出来た行動だったのだ。

普段の俺じゃ無理無理。野生のポリスメンに ゲットだぜ‼ はされたくないしね。

 

「・・・また・・・・すぐそういう事を言うな・・・・お前は」

「思った事はすぐ口に出るタイプなんですよ、俺。いやぁ正直者は辛いですねぇ」

「そういうのは正直って言わないんだよ・・・・ってしっかり覚えるじゃないか‼」

「さぁ、どうでしょうかねぇ?」

「忘れろ‼今すぐ忘れてくれ‼」

「あははははは、そんな優しい拳痛くもなんとも、ってぇ!今一発本気で殴りましたね⁉」

「い~い~か~ら~、忘れろよ~‼」

「痛い痛い痛い、ストップです。ふぅ、容赦ないですねぇ。鬼なだけあって流石に力が半端ない」

 

両腕を掴むことでようやく収まった。鬼の力で殴られるのはさすがに痛いんだよなぁ。

 

「あぁ、ごめん・・・ってお前が悪いんだから自業自得だ」

「俺なんも悪い事してないですよね?あれ?伊吹さん何かそう思うような出来事があったんですか~?」

「くっ・・・・。お前結構良い性格してるよな・・・」

「そうですかねぇ。まぁ、でも、もし俺にだけ見せてくれた何かがあるのなら、それは俺にとっては大切な思い出でしょうからね。その人との思い出はどんな状況でも忘れませんし忘れられませんよ、絶対に」

「そ、そうか・・・」

「えぇ、俺、伊吹さんに嘘ついたことなかったでしょ?」

「・・・・・・まぁ、そうだな。って言うかその伊吹さんって呼び方やめろよ。何か他人行儀で嫌だ」

「じゃあ、伊吹って呼べばいいんですか?」

 

コケッ と言う効果音でも聞こえそうな崩れ方を伊吹さんがした。

え?違うの?ちゃんと親しみを出せるよう呼び捨てにしたんだけどな。

 

「お前わざとか⁉」

「いや、すいません。いたって真面目に答えたはずなんですけど」

「・・・・そうかぁ、そうだったなぁ、こいつははっきり言わなかったら通じない奴だったなぁ」

 

そんな呆れた顔されても何のことだかさっぱりなので困る。

 

「おーい伊吹さん何言ってるんですか?ちょっと話が見えないんですけどー」

「いやこっちの話だから気にするな。えーとだな、他に呼び方があるだろ?」

「え?まさかぶっきーとかの方がよかったんですか?流石にいきなりあだ名呼びはちょっと・・・」

「いや違うだろ⁉もっとこう・・・えぇい‼そのまま名前で呼べよ‼」

「えぇ、それはちょっとレベル高くないですか?」

「良いからこれからは名前で呼べよ‼昨日の夜あんなことしたんだ‼今更そんなこと気にする必要ないだろ!」

「その言い方は誤解を招きそうだなぁ。わかったわかったよ、萃香。一回落ち着こう」

「っん。もう一回呼んでくれ」

「どうした萃香?顔赤い気がするのは気のせいか?」

「・・・・・・、あぁ気にしないでくれ。今日はもう行くわ。いろいろありがとうな、じゃ‼」

 

あらあら、慌てて出て言っちゃったよ。

 

「あ、はい・・・って行っちゃったよ。あ~あ、お茶半分も残ってる。勿体ないし飲んじゃうか」

 

残ったお茶を飲んだ直後になんか一回凄い衝撃を受けた気がしたが、誰もいないから気のせいだろうか?

 

 

 

*******

 

~2週間後~

 

この2週間は実に平穏な時間であった。店を開いてお客が来てもてなし、次の日の仕込みをして寝て。

暇ができたら鈴奈庵に行って本を借りて読んだり、香霖堂へ行き物色したり、薬の交換に来た兎に注意を受けたり、手合わせした後に萃香や星熊さんと飲んだり、地霊殿に遊びに行ってペットたちにもみくちゃにされたり。

本当にいろいろあったけど、実に面白い事が多かったと思う。

 

 

さて、話が変わってしまうが、俺は森近霖之助と仲がいい。

男同士だからと言うのもあるがなんだか馬が合うのだ。

道具の事教えたり、お互いの意見や考察を言い合っている内に仲良くなったんだっけな?

 

顔良し性格良し頭良しなのは素直にすごいと思う。

ただそんな二次元的ハイスペックのアイツにもにも弱点は存在する。

 

霧雨魔理沙その人である。いや霧雨魔理沙が関連したことになるとめっぽう弱い。

どれくらい弱くなるかと言えば・・・・・。何か良い感じの例え方がないからパス。

 

別に霖之助は霧雨さんが怖いだとか嫌いだから弱くなるとかじゃない。

単純に霖之助が霧雨さんに惚れているから弱いのだ。実に分かりやすい。

最初は気が付かなかったが数回2人のやりとりを見ただけでだいたい分かった。

その事でツッコミをいれるといつも冷静なアイツが狼狽えたりポンコツになったりするのが非常に面白い。

 

 

親しくなってから数少ない男の友人として色々話を聞いているのだが、まぁめんどくさい。

霖之助は良い奴なのだがいい人過ぎると言うか。

まぁ、いろいろ考える過ぎる性分のようだ。俺も人の事は・・・言えるね、大丈夫。

 

 

まぁ、仲良くなってからそんな話をしたりするからアイツとの付き合いは短いが知っている事は多い気がする。

いやむしろ同性同士だからこそ話せるような話がある分ちょっと知っている事は多いのかな?

 

話を戻そう。そう霧雨さんの事が好きなのだが 魔理沙は男として僕の事を見てないんじゃ? とか 僕より彼女に相応しい人がいるんじゃないか? などと考えても無駄な事を考えている。

また、彼女の親父さんに世話になった事もあり、その事とかでもいろいろ考えたりして結局何も出来ていない事がほとんどである。

 

・・・その度に酒を飲みつつ二人で話すことをしていたりするのだが、これはまだいい。

今まで見てきた恋愛事情的にはそんなもんだ。

誰だって奥手になったりもする。そんな感じでポンコツってる霖之助を見るのも楽しいからいい。

 

ただねぇ、この件に関しては非常に俺は面倒なポジションにいる。

他人の色恋沙汰は非常に好きだ。人間の心における大きな変化の1つだろうしね。

 

だがそのなんて言うか・・・その当人達の事に巻き込まれたり関わったりするのは非常に困る。

俺自身そんな経験はないし、今まで他人の事を見たり聞いたりしただけだ。

そもそもそんな素敵イベントが起きるほど俺はモテないし、行動したこともない。

 

だって、不細工だもの・・・。生んでくれた親には申し訳ないけど。

歯を磨くために洗面所行ったら鏡見てため息をつくくらいだ。あぁ、どうしようないくらい不細工だなって。

 

そんな俺の事はどうでもいい。

さっきから脱線してばっかになってしまったが、今俺はその霖之助とその事で余りにじれったいので呼び出しを受けたついでに、余計なお世話かもしれないが仕掛けさせてもらう。

その事で少し話して来た所だ。

 

この後の流れが決まってるんだが・・・仕込みあるから早く終わらせて帰りたいんだよね。

 

香霖堂に寄った後は霧雨さんに呼び出されることがほとんどだ。

あぁ、霧雨さんにまた情報がないかと聞かれるのかぁ。

 

こっちはこっちで面白いので良いのだが、その熱意を俺に向けるくらいならもう少し霖之助に向けたほうが良いと思う。

そんな感じだから霖之助に勘違いされるんだぞ。霧雨さんの好きな人は俺じゃないかって。

 

大変迷惑この上ない話だ。

この世界における数少ない友人達の気持ちを知っていて敵に回してまで恋愛したいとは全く思わない。

これだから巻き込まれるのは困るんだ。

 

あぁ、霧雨さんは霖之助の事が好きだ。もちろん異性として。

だが、 今までの感じや関係が壊れそうで怖くて言えない とか 今更言っても香霖は私の事を女として見てないんじゃないか とか、どこかで聞いたような気もするが、実に乙女らしい一面を見せる。

普段の霧雨さんの男を気にしてないかのようなフレンドリーな態度や弾幕は火力もしくは弾幕はパワーと言った感じのイメージからは正直かけ離れたものである。

 

まぁ、ある意味霧雨さんも霖之助と同じ状態な訳だ。

しかし、本当に両者の事情を知っているが故に板挟みのこちらとしては「いい加減くっついてくれ」と思わなくもない。

 

と、言う訳で仕掛ける事にしました。

はい、大変面白いけど俺には縁のないイベントに付き合わされるとか、もういろいろと限界です。

 

「どうだ?何か新しく香霖の情報が得られたか?」

「得られるわけないだろう。まったく・・・。その情熱を本人に向けていけば良いじゃないか」

「そんな事言ったって・・・。その・・・やっぱり告白しようと思っても本人を見ただけで・・・・その・・・・」

「あ~、わかったよ。要はいつも通りヘタレて帰ってきている訳だ」

「うっ・・・・、なかなか痛い所を突いてくるじゃないか・・・・」

「自覚があるだけましだとは思うけど・・・。どうだ、そろそろ覚悟決めてみないか?」

「なんだ?何かいい方法でもあるのか⁉」

「おぉ、あるぞ。ただし!結局告白できるがどうかはお前次第だから何とも言えないけどな。あと、これをやるのであれば1つ条件がある」

「なんだ?あんまりお金は持ってないぞ」

「いや金は店でちょっと豪勢にご飯食べれるくらいの金があればいい」

「それくらいなら大丈夫だけど・・・・で、条件って何なんだよ?」

「あぁ、簡単な事だ。今回のは俺にできる最大の支援方法だからな。これで告白が出来ないようなら今後俺は協力は一切出来ないし、しない。それでいいなら、今回の作戦を行う。っても霧雨さんは告白する事以外はは大した事しなくていいんだけどな」

「え・・・、お前の協力が無くなるのは困るんだけどなぁ・・・・」

「いい加減覚悟決めないと、誰かに取られてもおかしくないぞ。むしろあんないい奴今まで放っておかれてたのが不思議なくらいだ」

「えへへへ」

 

霖之助の事を褒めるとなぜか霧雨さんが嬉しそうにする。

元の顔立ちが可愛いからいい笑顔なのだが、もう少し危機感を持てといった言葉とは取っていないらしい。

 

「そこ笑ってないで焦る所だからな。で、どうする?やるのか?」

「いや計画の内容を教えてくれよ。じゃないと判断できないぜ」

「だよなぁ。ってもやる事は、さっき言った通り簡単だぜ?俺の店で美味しごはん食べて、最後のデザートが出たらその後霧雨さんが告白するってだけだからね。メニューとかはこっちに任せてもらう事になるけど良い案だろ?」

「そうかぁ?ただお前の店に利益が入るってだけだな気がするけどな」

「今まで任せて俺はあまり干渉しないようにしてきたけど、やるって言ってやれなくて俺に愚痴ってきたりしたのはのは霧雨さんでしょ?もうそんなにやりたいけど出来ないって言うならこっちから場所を作ってあげただけなんだけど?それにそんくらいしないと全くもって進まなさそうだから」

「いやそうかもしれないけどさぁ・・・。ご飯を食べて告白って上手くいかないような気がするんだけどな・・・」

「あぁ、それに関してはただの食事じゃないからな。ちゃんと上手くいくように考えてるから安心してくれ」

「う~ん、でもなぁ」

「まぁ、霖之助を誰かに取られて幸せそうな姿を後ろで眺めて悔しい思いするのがいいならする必要はないですよ?あ~あ、せっかく俺の用意できる最高のシチュエーションを用意しようとしたのになぁ。ここまでしてまだ覚悟決められないなんて、これは誰かに取られても文句言えませんわ~」

 

これはちょっとと言うかかなり意地悪な事を言っている。まぁ、霖之助が好きな人は霧雨さんで、霧雨さんが好きな人は霖之助だから誰かに取られるなんてありえない話ではあるんだけど。

う~んなんて我ながらクソみたいなこと言ってるんだろう。まぁ、こんなやり方しか知らないからしょうがないね。

 

「わかったよ‼わかった‼その計画に乗る‼だからしっかり頼むぜ‼」

「それは俺のセリフな気がするよ。霧雨さんこそお膳立てするんですからしっかり頼みますよ?」

「それでいつやるんだ?」

「2日後だな。2日後の俺の店に開店直後の5時に来てくれ」

「わかった。私は用意するけど香霖はどうするんだ?」

「自分でやってくれ・・・・・・って言いたいところだけど今回は出血大サービスです。もう話は付けてきてるんで集合場所をどこにしてくるかとか気楽に決めたらいいですよ。ぶっちゃけ、今回は霧雨さんが覚悟決めたらすぐ決行できるようにセッティングしていたんで、ここで断られたらと思って内心冷や冷やしてましたよ」

「おぉ、準備が早い・・・ってそうだったのか⁉なんであんな事言ったんだよ」

「だって最後は自分で覚悟決めなきゃダメじゃないですか?そうじゃなきゃ告白を実行できないでしょうし。それができると思ったからこそ、ここまで用意したんですよ」

「お前・・・・。とりあえずありがとうな。今度はちゃんとやりきるよ‼」

 

 

決まったとなれば話は早い。俺はこれから通常営業に加えて準備もしないといけない。

ちょっと手間のかかるものがあるから時間貰ったけど・・・・。

大丈夫かな?構想はあっても作った事のない新作もあるから少々不安ではあるがやってやるぜ‼

 

本当はキューッピット役とかやるような人間じゃないけど、まぁ、偶にはこんな事をやってもいいだろう。

恋に悩める男女のお悩み解決しましょうか。特効薬は知らないけど、俺にできるサポートを処方してやろう。

 

関係はないのだが、あの竹林の薬師なら恋の病の特効薬とか作れそうなのがすごい所だとは思う。

 

 

*******

 

~2日後~

 

 

あぁ、とうとうこの日が来てしまったか・・・。

通常営業と合わせて準備を進めたから、めちゃくちゃ疲れた。

 

まぁ、やれることは用意したし後はなるようにしかないか。

あいつらの覚悟が実る事祈っておこう。

いや、告白が実行されたら結果は見えてるから実行される事を祈っておこう。

 

 

もう幻想郷に来てから1カ月経とうとしてるのかぁ。

早いものだなぁ。まさかこんな事になろうとは予想だにもしてなかった。

 

空から地底に落ちて お店をやって、そこそこお客さんが来てくれて、色んな知り合いも増えて。

何か今までにないくらい充実した夏休みだったと思う。普通じゃない人生送ってるなぁ、俺。

・・・・ホントあっという間だったよ。

おまけにとうとうキューピット役かぁ・・・。

 

はぁ、俺はこんな事する性格じゃない。こんなに他人の恋愛事情に干渉したのも初めてだしな。

ただ、あいつらの進んだ先を見たかったからってのもあるけど、やっぱじれったかったからかな。

俺の都合もあってだけど、こんな提案したことを少し後悔している節もあるが今更どうこう言っても仕方がない。

 

俺もそろそろ覚悟決めなきゃな。ただ心地よい時間はここまでだ。

 

まだ8時だからかなり時間あるんだよな・・・・。先に仕込みを始めちゃうか。

と思ったが昨日夜遅くまでやって終わらせたんだったな。

どうしようか・・。寝る?

 

「よう‼また来たぞ‼」

「あぁ、いらっしゃい伊吹さん」

「・・・・・」

「なんでいきなり睨んできてるんですか?」

 

何か怖くはないけどね。むしろかわいい物だ。

はて?何か睨まれるようなことをしたかな?

 

「なんで呼び方が戻ってるんだよ⁉」

「あぁ、つい。まだ慣れてなくて。いらしゃい萃香。今日は何の用で」

「いや大した要はないけどな。暇だから遊びに来ただけだ」

「そうなんですか?って言っても俺も何もネタがないわけでもないか・・・?」

「何だ?今日は何かあるのか?」

「えぇ、あまり詳しくは言えないですけど、簡単に言うと素敵な出来レースって所ですかね」

「なんだそりゃ?なんだかわからないな?」

「まぁ、それは気にしなくて良いですよ」

「なんだ?他に何かあるのか?」

「まぁ・・・・、ありますよ。気が付いたらもう一か月この幻想郷に来て経ちましたから、いろいろ思い出してたんですよ」

「そうか・・・。もう初めて勇儀と一緒に飲んでから一カ月たつのか・・・。早いなぁ」

「えぇ、とても早いですねぇ。何だか一カ月あっという間でした。まさかいきなり来た世界でこんなことやってるなんて想像できませんでしたよ」

「そうだろうななぁ。私もあの時なんとなく飲んだ人間がこんなことやる事も、・・・こんなに親しくなったりするなんて考えてなかったよ」

「いやぁ、本当に予想外の事が多くて面白かったです。案外やってみたら出来た事も多かったですし、知らなかった事も知れて、おまけに萃香とか含めていろんな人達とも親しくなれたし、楽しかったです」

「なんだよ急に改まって・・・。本当に何かあったのか?」

 

「えぇ、まぁ、そうですね。それをお話しする前にちょっと失礼して・・・。紫さん、覗いてないで出てきて普通に聞けばいいじゃないですか」

 

「あら?スキマから覗いてたのによくわかったわね」

「いや、だって俺の事を見てる人の気配したからね。なんとなくわかりましたよ」

「なんだ、紫もいたのか?」

「はぁい、久しいわね萃香。ちょっと気になるお話してたから盗み聞きしちゃったわ」

 

なんだか急に賑やかになったなぁ。とりあえずお茶でも淹れようか。

 

「で、何なのかしら?貴方の言いたい事って」

「あ、そうだった。それ聞いてたんだった」

「意外と大切な事言うので、ちょっと覚悟決めて聞いてくださいね」

「わかったわ」

「わかったよ、言ってくれ」

「あ~、じゃあさっそく。まぁ簡単に言っちゃうともうそろそろ幻想郷ともお別れだなと思うと少し思うところがありましてね」

「あぁ、なるほどね。そろそろ時間切れって所かしら」

「え?お前いなくなっちゃうのか⁉」

「まだもう少し期間はありますよ。でも元々休みの期間だからそれまでいようって感じで、まぁそろそろお別れの事も考えなきゃいけないなって時期になったから・・・。悔いのないようにしておこうかと思いまして。そうだ、まだ誰にも言ってないんで他言無用でお願いします」

「わかったわ。もうそなに経ってたのね」

「・・・・・・わかった」

 

わかってはいたけど、何でそんなに悲しそうな顔をしているんだよ、萃香。

まだ期間はあるから大丈夫なのに・・・。

俺はまた間違えたのだろうか。だとしたら恐ろしい事だ。

でもいずれは言わなきゃいけない事だから仕方がなかったと言えば仕方なかったのかもしれない。

この事に関しては正解があるのかは謎だけど。

 

「萃香?大丈夫か?」

「・・・もう帰る」

 

あ~、自分が招いた結果とはいえやっぱあんな顔されると胸が痛む。

正直、少なからずあんな事になるんじゃないかとも思った。

もしかしたらもっと上手なやり方があったのかもしれない。

でも覚悟決めた時にぴったりで来たから、俺は覚悟が引っ込まない内に言う事にした。

俺はそういった考えしか思い浮かばなかったし、思いついてしまったら現実そうする事しかできない。

例えどうなるかわかっていてもやってしまうしやれてしまう男なんだよなぁ。

 

「ひどい人ね、貴方。ああなるってわかってて言ったでしょう?」

「まぁ、予想はしてましたけどあそこまでとは思いませんでしたよ。直前に言ってもフォローしようがないので早めに言っておこう位でしたしね」

「あらそうかしら?貴方の行いの結果だからわかっていたんじゃないの?」

「いや本当にあそこまでになるなんて分かりませんでした。まぁ、自分が招いた事ですからちゃんとケジメはつけてから帰りますよ」

「ええ、ぜひそうして頂戴。このまま帰られても迷惑だもの」

「もしかしたら協力頼むかもしれないですけどその時はお願いします」

「気が向いたらいいわよ。で、帰るとなったら私の協力が不可欠だと思うけど、いつぐらいに帰るのかしら?」

「そうですね・・・・。居られてあと2週間って所ですかねぇ。なんで、2週間後に外に送ってもらえるとありがたいです」

「わかったわ。・・・・それでいいのね」

「・・・・ええ、もう決めましたから。それでお願いします」

 

正直2週間後に帰っても少し夏休みに余裕はある。

でも帰る場所がなくても俺はこの世界の人間じゃあない。だから帰った方がいいに決まっている。

しかし、ちょっとでも長くここに居たいと思ったりもしたから、ギリギリの妥協点として2週間に決めたつもりだ。

 

ただこの間に色々となんとかしないといけない。

俺は萃香にかつての俺がされてしまった事と同じであろう事をした。

いずれ言わないといけない事だったから仕方ない面もあった。

だけど、だからこそ俺はそこで終わらせてしまう訳にはいけない。

例え萃香に許してもらう方法がもし最悪の手であっても俺はためらいなく実行に移すだろう。

 

「わかったわ。それじゃ聞きたい事も聞けたし私も行くわ」

「えぇ、いろいろご迷惑おかけしてすいません」

「構わないわよ。貴方が来てからいろいろ面白い事があったもの。これくらいの事してもむしろお釣りが返ってくるくらいにね」

「大した事してませんよ。俺はその場で出来る事をやってただけで」

 

「それでいいのよ。それで面白い事も結果も出来てるんだから。貴方は今まで通りやっていきなさいな。それが貴方にできる最善策でしょうからね。期待しているわ」

 

こうして俺だけが残った。

最後に紫さんらしい励ましの言葉を受けたけど、俺の心が晴れる事はなかった。

 

とりあえずは目の前の事の顛末に決着を付けられるように集中しよう。

悔いのないように、俺が後悔しないように。

 

 

~鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り 14 日~




いつもながら最後まで読んで頂きありがとうございます。


今回はかなりお噺を動かしたつもりです。
彼は元々大学の夏休み期間の間だけ幻想郷にいる予定でしたからね。
これは皆さんにもあらかじめわかっていた事だとは思います。

彼は残りの滞在期間で何をしていくのか、何のために帰るのか
 
そこに注目して暫く読んで頂ければいいかと思います。

タイトルのすれ違う思いはきっと誰にでもある事だと思います。
彼なりの修正の仕方も最後まで読んで見て頂ければ幸いです。

前回が文字が多かったので今回はこの辺にしておきたいと思います。
これからも応援等よろしくお願いします。なるべく更新が遅れないようにしたいなぁ。

それではまた次話でお会いしましょう。さようなら、さようなら。


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恋する食卓~巣立ちの卵~

どうもお久しぶりです。今月の生活費が振り込まれてなくて大ピンチのノリさんでございます。

いやぁ、試合とか帰省とかあって遅くなってしまいましたが入り切り今週中に完成でございます。

前回からの続きです。恋愛要素タグは詐欺じゃなって事です。
まぁ、仁君の恋愛要素とは言ってないけどな‼みたいなノリです。

ではさっそく本編どうぞ‼


萃香の件どうするかいくつか考えたりしてたらあっという間に約束の時間の5時の10分前になっちゃったよ。

 

さて切り替えていきますか。あの二人が今日こそ実行に移しますように。

俺があっちに帰るまでに何とかくっついてもらわないと面白くない。

今までさんざん協力してきたんだし今日で決めちゃってくれないだろうかなぁ。

俺の考えが上手く言ってくれればいいけど、大したことは俺もやんないんだよなぁ。

ちょっと料理にテーマを持たせて、それにちょっとメッセージを添えるだけ。

 

後はあの2人次第だから何とも言えないけど。

さてそろそろ来るかな・・・・。

 

「よう!約束の時間通り来てやったぜ」

「やぁ、今回はいろいろすまないね。今日はよろしく頼むよ」

「はい、いらっしゃい。時間ぴったりで何より。じゃ、この個室に入ってくれ。一応通常営業はするけど気にせずゆっくりしていってくれ」

 

「おぉ、お前の店初めて来たけどなかなか綺麗じゃないか。この個室に入ればいいんだな?よいしょっと」

「僕も初めてだね。実にいい店だ。もっと早くに来ればよかったかもしれないな」

「そう言って貰えて何よりだよ。今日は二人のために特別仕様にしてあるから料理は順番に出していくけどまずは何か飲むか?」

「そうだな・・・・・私はこれだな」

「じゃ、僕もそれにしようかな」

「お、おそろいか。良いじゃないか、仲がよろしい事で。ただ今お持ちしまーす」

 

さてこれから本番だけど個室と言う二人きりの空間で気まずくなるがいい‼

あれ?これで気まずくなったら台無し・・・いやそんな事はないかな。うん、きっとそうだ。

とりあえず日本酒か・・・・・。そう言えばビールとかって見た事ないな。

案外ビールを売ればいい儲けになるかも?

 

いや、そんな事考えてる場合じゃない。

ここから本番なんだから余計な事を考えている暇はないな。

 

「おまたせしました~。ご注文の品とお通しのキュウリの一本漬けです」

「それじゃ香霖。飲もうぜ」

「そうだね。さっそく乾杯でもしようか」

 

「「乾杯‼」」

 

さて、素敵な出来レース。始めましょうかね。

 

 

******

 

 

カブを器にした餡かけ茶碗蒸し、鱈とチーズのホイル焼き、鶏胸肉の間に薄くからしマヨを塗って揚げたミニチキンカツ。ここまでは何とかいい感じだ。部屋の雰囲気も悪くないし、料理も好評なようだ。

勘のいい人だったら今回の料理のテーマはもうわかるかもしれない。

 

ここまでは計画通り。次はメインなんだけどもう運んじゃっていいのかな。

ちょっと聞いてみるか。

 

ガラガラガラ

 

「失礼します。メインを運んでもよろしいでしょうか?」

「はははは、やっぱりお前に敬語で接客されるのは笑っちゃうぜ」

「魔理沙、彼は仕事中なんだから仕方がないんだよ。まぁ、僕も違和感は感じるけどね」

「じゃあ普通にやるよ。運んでもいいか?」

「頼むよ。あと水をお願いしても良いかな。いったん酔いを落ち着かせたい」

「わかったよ。ちょっと待っててくれ」

 

真面目に接客してるだけなのに笑ってくるとは、俺の普段の態度がそんなに砕けてるのだろうか。

まぁ、いい。メインは簡単だけど奥が深く、さらに嫌いな人を見た事がないくらいなものだ。

 

「お待たせしました。水とメインの鍋をお持ちしました」

「おぉ、鍋か!キノコは入ってるか?」

「一応しいたけは入ってる。蓋とるぞ。あっつ。・・・一応どれも煮えているはずだし、出汁も鶏ガラで煮てあるから、すぐに食べて貰って大丈夫なはずだ。今回は鶏モモ、鶏つみれ、しいたけ、豆腐、ネギ、水菜、ほうれんそう、そしてマ〇ニーだ」

「「マ〇ニー?」」

「やっぱり馴染みはなかったか。外の世界じゃ鍋に入れる具材としては割とファンの多い物でな。簡単に言うと溶けない春雨みたいなものかな。鍋の出汁が染みて美味しいんだよ」

「初めて聞いたな。これはいい経験になりそうだね。それじゃあさっそく」

「あ、待ってくれ霖之助。悪いがまだ終わってない」

「なんだよー、まだおあずけか?いい匂いしてるから早く食べたいんだけどな~」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、これで最後だからもう少し待ってくれ霧雨さん。一応鶏ガラで煮てあるからそのままでも美味しいんだけど、今回はこれに付けて食べる事をお勧めするよ」

「これは?なんだか黄色いし生卵かい?」

「う~ん、半分正解かな。っこれは卵の黄身をふんだんに使ったタレだよ。出汁を混ぜながら卵が固まらないように熱するのが難しいんだけど、これを付けた方が美味しい。・・・と思うから普通に食べた後はこれを付けてみてよ。もしタレが薄くなったら新しいの持ってくるから言ってくれ。それじゃ失礼する」

 

ガラガラガラ

 

さて・・・、俺は他のお客さんの相手もしないといけないからね。

幸い今日は多くないから何とかなってるけど、あの2人の事が終わるまではこのままであってほしい物だ。

しかし・・・・・・

 

「このタレ美味しいぞ、香霖‼お前も食べて見ろよ」

「確かにこれはとれも美味しいね。あ、魔理沙、僕が鍋から好きな具を取るよ」

 

個室から声が漏れてるなんて知れたら俺は殺されるんじゃないだろうか。

 

 

 

******

 

 

 

鍋が食べ終わったようなので〆に入らせていただくとしよう。

 

ガラガラガラ

 

「お待たせしました。これが〆のうどんとさっきの卵のタレが入っている大きめの器だ」

「おぉ、器にタレが入っているって事は・・・・・」

「そうだよ霧雨さん。〆は鍋の出汁でうどんを茹でてタレに絡めて食べてもらう釜玉うどんみたいなものだよ」

「でもこの麺やけに太いような気がするのは気のせいかな?」

「いやぁ、太めの方が食べ応えがあっていいかなぁって麺切ってる時に思ったからさ。ちょっと太めにしたよ。その代わり茹でる時間は少しかかるけどね。その間は居させて貰いけど良いかな」

「良いけど・・・・ってお前麺切ってるって言ったよな?って事はこの麺は」

「そう、俺の手打ちうどんだ。慣れてないから意外と大変だったよ」

「へぇ手の込んだ事するんだなぁ」

「まぁ、ね。今回は俺なりにできる最高のもてなしをするつもりだったからね」

「なんだか今日はやけに気合が入っているんだね?どうしたんだい?」

「ま、今日の事が上手くいったらその時に話すよ。とりあえず今は料理を堪能してくれ」

「・・・わかったよ。ところで今日の料理は特別仕様って聞いたけど何が特別なんだい?」

「う~んそれを今言っても面白くないかならなぁ。デザートが終わるまで考えてみたらいいと思うぞ」

「まったく・・・・。お前はもったいぶるのが上手いやつだぜ。まぁ、しょうがないからちょっと考えてみようかな。香霖もわからないんじゃ私にもわからなさそうだけど」

「いや、それは僕の事を買いかぶり過ぎだと思うけど・・・・。せっかくだし一緒に考えてみるかい?」

「じゃ、ちょうど茹で上がったし器にうどんを移して混ぜて食べて貰えれば完成だ。お好みでネギと塩気が足りなかったらこの出汁醤油をいれて食べてくれ。それじゃごゆっくり」

 

 

ガラガラガラ

 

 

さてとここで二人に謎解きをしてもらって、落ち着いてくれればいいんだけどな・・・。

不測の事態に備えておくべきだろうけど、今の所計画通りその心配もなさそうだな。

 

さ、次は最後にデザートだ。これの後の俺のちょっとした言葉を挟めばクライマックス突入・・・・のはずなんだよなぁ。

あとは神のみぞ知・・・ではなくて神ですら知る事の出来ない領域だろうからね。

いい流れになるように祈っとくとしよう。

 

 

******

 

 

「お待たせしました。最後にデザートになります。ってどうした二人とも」

 

デザートを運んだ俺が入った個室には二人してうんうん唸っている二人の姿が・・・。

 

「いや、今日のメニューの共通点がさっぱりわからないんだぜ」

「正直何だかどれも同じ共通点があるとは言えないような気がしてね」

「なんだ、そんなに難しく考えなくてもいいのに。何を難しく考えているんだ?」

「いや、だって肉に魚にだいたいの食材話使われてただろ?私にはさっぱりだぜ」

「僕はいくつか候補はあるけど、最後のデザートを見てからさらに絞ろうと思ってね」

「それならさっそく。冷たい内に食べてくれ」

「おぉ、これは涼しげなデザートだね。鍋とかうどんとかで体が温まってたからちょうどいい」

「何か見た目は何だが茹で卵みたいだなぁ。・・・・・おぉ、香霖凄いぞ‼割ったら中ならなんか黄色い物が出て来た‼」

 

 

最後のデザートはクリームチーズで黄桃を使ったソースを包んだ物に葛餅で薄くコーティングした物だ。

名前はまだ決めてない‼って言うか決められてない‼どうしようかなんて名前にしようか。

 

 

「うん。チーズとこの桃のソースって合うんだね。思ってたよりくどくないさっぱりした味だね」

「しかも葛餅が冷えてるから尚更さっぱりと食べられるようになってる。それに葛からなんだか少し桃の感じがする・・・。よく考えられてるぜ。でもこれで最後だろ?結局何の共通点があるんだ?」

「葛に少しだけ混ぜた桃の果汁の事よくわかったね⁉霖之助はもう気が付いたみたいだな。流石に分かりやすかったかな」

「いや、案外わからなかったよ。デザートが決め手かな。そのまま目に見えた特徴だったからね」

「多分正解だ。霧雨さんはわからないかな?」

「お手上げだ・・・だな。まったくわからないぜ。と言う訳で店主、解説頼むぜ‼」

「案外諦めるの早かったな・・・」

「魔理沙はこういう考えるのはあまり得意じゃないからね」

「う、うるさい!いいから早く解説してくれよ‼」

「わかったよ。今回の料理のテーマは白と黄色だよ。霖之助と霧雨さんが食べる特別なコースだったからね。二人のイメージカラーをテーマにして作った訳だよ。割とこじつけな気がしないではないけどね」

「なーんだ、そんな事だったのか」

「う~ん、何とも予想通りの反応で何とも言えなくなっちゃったよ。まぁそんな事だけど意外と白と黄色を主役にしたコースを組み立てるのも大変だったんだよ?いろんな食材あるけどその中でこれだけの高いレベルで組み合わせるのって難しいんだ。まぁ、俺の力不足とか知識不足なのかもしれないけどね。まぁ、まさしく食材の一期一会ってやつだね」

「・・・思っていたよりもかなり大変なんだな・・・・・。でも美味しかったからやっぱりお前はすごいぜ」

「ありがとう。まぁ、もともとそこまでハズレる事はないだろう組み合わせにしたから美味しくなるのはわかっていたけどね。まぁ、食材ですら多くある中でベストマッチなるような組み合わせで料理をするのは難しいのもあるし、見つけるまでがそもそも大変なんだ。これは人間関係にも言えると思っててね。そこに自分が思うベストマッチな組み合わせがあるんだったら恐れずにやってみたらいいと思うんだ。そこで逃したらもしかしたらもう組み合わせする事さえ叶わない事もあるからね」

 

何事にもタイミングってものがある。逃すべきじゃないタイミングが。

熟れ過ぎた果実はそのままにしておいたら腐っていくだけだし、鮮度を失った魚はもちろん味は落ちる。

絶対に何事にもあるのもだ。

タイミングを逃しそうなものに「手遅れになる前にちゃんと掴み取れ‼」と発破を送るのが今回の俺がしたかった事というか役目だね。

 

「何事にもタイミングがあるんだよ。逃したら泣こうが喚こうがどうにもならないからね。だから、案外進んだ先に見出せるものもあると思う。案外失敗してもそこから見つけられるものもあるし、突き詰めていけば結構いい結果になったりもするんだよ。今日のデザートがそうだったようにね」

「今日のデザートは失敗から生まれた物だったのかい?」

「元々チーズケーキに黄桃のソースをかけて食べて貰うつもりだったんだけどね。ケーキの作り方あんまりはっきりしてなかったのに材料のクリームチーズや黄桃は買って揃えちゃったから、それならまだ和菓子の方が知識があったからそっちで何とかしようって思ってさ。結果、無事揃えてしまった材料を使って和とも洋とも言えないけど美味しい甘味が出来たって訳さ」

「へぇ、失敗から生まれた物とは思えない位美味しかったよ。やっぱり、君には才能があるんじゃないか?」

「才能ねぇ。・・・・そんな物じゃないと思うけどそこに突っ込んだらキリがないから今ツッコむのはいいや。とりあえず失敗しても頑張ってみたら案外どうにかなるって事だ。さて、俺はこの辺にしていったん下がるよ。他のお客さんお相手もあるからね。もしほかに注文があったらその時は呼んでくれ。デザートはもう一つずつあるから上手くいったら頼んでもいいぞ。それじゃごゆっくり」

 

さて俺のやれることはもうやったから後はあのお2人次第だね。さて、頑張れよ、霖之助に霧雨さん。

 

 

******

 

 

~ 個室 ~ 

 

「失敗しても頑張てみたら案外何とかなるか・・・・」

「魔理沙?どうかしたのかい?」

「いやぁ、最近ちょっと失敗したら怖くて出来てない事があってな。他の奴に世話になりっぱなしと言うか世話になってるのがわかっていてもなかなか踏み出せなくてさ」

「魔理沙もか。僕も似たようあ事があってね。お世話になりっぱなしなのにその人にいい結果を見せられずにいてね。何だか自分はこんな男だったのかと考えさせられる毎日だったんだ」

「そうだったのか・・・・。香霖と話しててもいつも通りだったから気が付かなかったぜ?」

「それは魔理沙も同じだよ。いつも通りだったから僕も全く気が付かなかった。ところで何で悩んでたんだい?」

「そ・・・それは香霖には言えない事なんだけどなぁ・・・・ってそういうお前こそ何で悩んでるんだよ?」

「いやぁ・・・それは魔理沙には言えないかなぁ・・・・って感じだったよ」

「ってお前も言わないのかよ⁉・・・って、だった?」

「そうだね。いろいろ悩んで考えて結局どうするのが一番いい結果なのかはわからなかったけど、もう考えても無駄みたいだから悩まない事にしたからね。今なら言えるさ」

「じゃあ、聞かせてくれ。香霖、お前はいったい何のことで悩んでたんだ?」

「それは・・・・長年一緒にいて最初はただ色々教えてあげてたりしてただけなんだけどそのうちなんだか気になるようになってね・・・。最初はその理由について悩んで、その理由についてわかった後もその後どうするか悩んでいてね・・・。ある男に言われたんだ、グズグズしている内に誰かに取られたらどうするんだ?それで良いのか?ってね。今まで一緒にいるのが当たり前だったから、いなくなったらなんて考えた事がなかった。そう考えたらなんだか急に焦ってしまってね。何と言うか・・・今回の事になったんだよね」

「・・・・・どういう事だ?」

「あぁ、回りくどく説明してしまうのも悪い癖かな。それじゃあ単刀直入に・・・・。

 

    魔理沙、君の事が女性として好きです。僕で良ければお付き合いして頂けませんか」

 

「へ・・・・・・・・?あの・・・えっ?」

「いや、その返事はすぐでなくてもいい。君が悩むことがあるならゆっくり考えてくれればそれでいいし、僕は返事がちゃんと返ってくれればそれでいい。ただ、断るのであればちゃんとはっきり言ってくれると嬉しい・・・ってなんでいきなり泣いているんだい⁉あ、そんなにまずい事を言ってしまったかな」

「ちがっ・・・・・うぅぅ・・・・・ひくっ・・・・」

「あぁ、困ったな。えっとどうしらたらいいんだろう・・・」

 

ガラガラガラ

 

「待たせたな‼ショータイムだ」

 

 

*******

 

~ちょっと前~

 

部屋から漏れている感じだとなんかもう上手くいきそうだね。

もうデザートの用意しておこう。

 

「あのおふたり上手くいくといいですね」

「っていてもさとりさんは読めてているでしょ?人が悪いですねぇ」

「あら、貴方にそんな事言われるなんて心外だわ。それに心と行動が一致するかはわからないでしょう?」

「酷いなぁ。その言い方だと俺が人が悪いみたいになっちゃいますよ。まぁ、心と行動が一致するかはわからないって言うのはその通りなんですけど今回は大丈夫でしょう。あ、心と行動が一致してるのは水橋さんの妬ましい連呼とかじゃないですか?」

「ふふふっ。確かに、その通りね」

 

「ふすま一枚向こうでは男女がいちゃついて妬ましいし、目の前でもいちゃつかれて妬ましいし、あぁ、もういろいろと妬ましいわ!」

 

「いちゃついてないですよ?」

「あのパルスィさん⁉いちゃついてないですからね?」

「息ピッタリじゃない。妬ましいわね・・・」

「あの・・・・今のはたまたまですから・・・ね」

「いやぁ、さとりさんとはいろいろお世話になりましたから結構息ピッタリだったりするんですかね」

「仁さん⁉」

「妬ましいわ、ほんっと~~~に妬ましいわ!このお酒お替り‼」

「ありがとうございます。って今日飲み過ぎじゃないですか?ほどほどにしておいた方がいいんじゃ?」

「なによ。久々呼び出されたたから来てみたらこんなの見せつけられて・・・。飲まなきゃやってられないわ」

「う~ん、呼ぶタイミングミスったかなぁ。まぁ、嫉妬してる水橋さんも可愛らしいとは思いますけどね。はいご注文のお酒です」

「かわっ‼」

 

 

『魔理沙、君の事が女性として好きです。僕で良ければお付き合いして頂けませんか』

 

「お?」

 

やったな。ついにやったな。

さてもう邪魔しないようにデザート運んだら、おふたりには注文がない限りは干渉しないようにしよう。

 

 

『へ・・・・・・・・?あの・・・えっ?』

『いや、その返事はすぐでなくてもいい。君が悩むことがあるならゆっくり考えてくれればそれでいいし、僕は返事がちゃんと返ってくれればそれでいい。ただ、断るのであればちゃんとはっきり言ってくれると嬉しい・・・ってなんでいきなり泣いているんだい?あ、そんなにまずい事と言っちゃったかな』

 

用意はできたけど、雲行きが怪しいのか?

何か行き辛いなぁ。よし、こいう時は近づかないのが一番だな。

ほら、触らぬ神に祟りなしって言うだろ?あれ?違う?

 

「仁さん、行ったほうが良いと思いますよ?」

「なぜ俺の考えが分かったんですか⁉」

「心が読めなくても今までの考え方を見てきたら分かります。貴方の事なので行かないでおこう。余計な事からは逃げておこうとでも思っていたのでしょう?」

「概ね正解ですね。流石さとりさん俺の事よくわかってますね」

「良いから行きなさい。ここで私の妬んだ対象に不幸が起こったら私のせいみたいで嫌だわ」

「え~、俺あんな感じの苦手なんだけどなぁ」

「良いから行きなさい。それに貴女がやりたいようにやったらいつも上手くいってるでしょ?自信持ちなさい」

「水橋さん・・・・。珍しく俺の事褒めてる?もしかして俺に惚れちゃいまし・・・・・・ちょっとその高く掲げたグラスを俺に向けるのはやめましょうか、さとりさん助けて」

「・・・・貸しひとつですよ?」

「なんでさとりさんが不機嫌になってるのかは分かりませんけどそれでいいのでお願いします。俺は個室の方に行くので」

 

撤退撤退。楽な方を選びましょう。

う~ん、なんでふたりともいきなり・・・・・。うん、わからん‼

 

『ちがっ・・・・・うぅぅ・・・・・ひくっ・・・・』

『あぁ、困ったな。えっとどうしらたらいいんだろう・・・』

 

こういう時は頼りがいのある感じで行ったほうが良いのかな?

助けに来たぜ!的な感じで。となると・・・・・二人ほど思いつく人物が出るけど。

・・・・今回はこっちで行くか。

 

ガラガラガラ

 

「待たせたな‼ショータイムだ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

まぁ、うん、ですよね~。やっぱりそうなりますよね。

おおよそ最悪の出だしだろうけどここから巻き返すしかない‼頑張れ、俺。

 

 




いつもながら最後まで読んで頂きありがとうございました。
今回で霖之助と魔理沙編が終わるかと思ったか・・・・・もうちょっとだけ続くんじゃよ・・・・

と言う訳で次回で本当に決着です‼
20話投稿記念の企画のアンケートも近々行いたいと思っていますので、皆さんご協力よろしくお願いいたします。

今回は前書きも後書きも短いですがここまでにしたいと思います。正直湿気が多くて参ってはいますが、ペースは落とさず行けるように頑張りますよー

それではまた次話でお会いしましょう、さようならさようなら


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食事の後の跡片付け

ほんとにお久しぶりです、覚えてますか?ノリさんです。

いやぁ、遅くなってしまい本当に申し訳ないです。
課題やら部活やらが忙しかったのもありますが、どうしたらもっと面白いと思って貰えるのか考えながら書いていたら遅くなりました。


結局、俺の今まで書いてきたものに面白さを感じてくれている人はそのまま書いた方が、俺らしく面白いかなと思い結局いつも通り好きなように書きました。
だからと言ってよくなる努力は欠かさないで行きたいと思いますので応援よろしくお願いします。

今回は二つほどお知らせがございますので、後書きまで読んで頂けると嬉しいです。

ではお待たせしました。それでは本編へどうぞ‼



「待たせたな‼ショータイムだ」

 

「「・・・・・・・・」」

 

ですよね~。

 

ガラガラガラ

 

「はいこちらデザートのお替りです」

「え?あ、うん、ありがとう?」

「霧雨さん、いつも本とか返してないけど今日ぐらいはちゃんと霖之助に返してやれよ。それとも俺が言おうか?」

「そっ、それはダメだ!」

「仁?いったい何を言っているんだい?」

「あぁ、それはな。霧雨さんは元々「やめろ‼言うなって‼」」

「・・・魔理沙?」

「あぁ、もう確かにちゃんとすぐに返事してやらなかった私も悪いけどさ・・・・・。流石にやっていい事と悪い事があるだろ⁉」

「それはそうだ。ただ霖之助だけ話しに付いていけてないし、お預けくらってるからさ。とりあえず告白の返事を返してあげなよ。俺に対する文句はその後でいくらでも聞くからさ」

「そ、それもそうか。香霖・・・・私も・・・・ずっと前から好きだった・・・。その・・・私でいいなら香霖の・・・・か、彼女にしてくれ」

「はい、おめでとうおふたりさん。晴れておふたりは正式にカップルとなった訳だ。いやー良かった良かった。やっといい感じで終わったぜ」

「「・・・・・・・」」

「そんなジト目で俺の事を見ないでおくれ。オレハナニモワルイコトシテイナイ。オーケー?」

「「・・・・・・」」

「ほらほら、せっかく結ばれたんだよ?もっとほら・・・・笑顔でさ・・・。ほらデザートも温かくなっちゃうし」

「・・・それもそうだな。さ、香霖食べようぜ!」

「わかったよ、魔理沙。でもこれだけは聞いておきたい。君は最初から分かっていたのか?」

「そりゃまぁ。割と初めからかな。でも2人が好き合ってたって言うのは多分二人を知っている人だったらほとんど知っていたんじゃないかなぁ。ねぇ、さっきから聞き耳を立ているおふたりさん?」

 

ガラガラガラ

 

「あ」「妬ましい」

 

水橋さんのブレなさ、大切だと思う。

 

「な‼さとりにパルスィ⁉お前ら店にいたのかよ‼」

「えぇ、聞く気はなかったのだけど気になったものだからつい」

「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい」

「はいさとりさんパルスィさんと席に戻っててくださいね」

 

ガラガラガラ

 

「いやぁ、いけって言ってるのに二人ともなかなかいかないから間に挟まれている身としては、早くくっつかないかなぁって感じだったよ。出来レースをスムーズに完遂できるように整備しても本人たちが渋っちゃったら成立しなかったし、ほんと大変だったわー」

「耳に痛いな・・・・。本当にいろいろ面倒をかけたね」

「私もいろいろありがとな。いろいろ言いたい事はあるけど上手くいったし勘弁してやる」

「なんで霧雨さんが上から目線なんだ?・・・・まぁ、いいや。上手くいったし俺のこと話しておきますかね」

「さっき言ってた気合入ってる理由か。なんでだ?」

「いやぁ、大した事じゃないんだけどさ。俺外の世界にもうじき帰るからさ。帰る前に2人をくっつけて俺が安心しておきたかったのさ」

「な⁉お前帰っちゃうのか⁉」

「いや、そりゃ元々休みの間だけここに居るつもりだったからね。もうそろそろ帰らないといけないからさ」

「まぁ、元々ある程度の期間いるって言ってたからね。僕はそろそろじゃないかと思っていたけど、後どれくらいいるんだい?」

「今日はもう終わるから、残り13日って所かな。それまで今まで通り好きなように過ごさせてもらうつもりだよ」

「そうか・・・・。何だかいろいろ気を遣わせてしまったみたいだね。本当にありがとう」

「よせよ、霖之助。俺は俺のやりたいようにやっただけだ。むしろ色々余計な事しちまったかもしれないからな。悪かったよ。本来だったらお前らに腰を据えて最後まで付き合ってやるべきだったのかもしれないのにな」

「気にする必要はないんだぜ。ちょっと早くなったぐらいだしな」

「ちょっと・・・・?」

「う、そこは突っ込まないで欲しいんだぜ」

「まぁ、そんな目で見られても仕方はないような気がするよ。僕も今回の事がなければ多分ずるずる先延ばしにしていたと思うしね」

「そう言ってくれてよかったよ。じゃあ、後はおふたりでごゆっくり」

 

ガラガラガラ

 

とりあえずこれで魔理沙と霖之助の恋のお手伝いはこれで終わりかな。

やっと解放されたし少しは楽になるかなと思ったが、この後の事を考えると少し気が重くなってしまった。

 

 

*******

 

 

店が閉店し、この店にいるのは俺含め三人。

一人は古明地さとりさん、もう一人は水橋パルスィさん。

かなり二人飲んじゃってるけど大丈夫だろうか。

特に今日は二人ともよく飲んでいた。理由はわかるようなわからんような感じだが、まぁそんな日もあるよね。

 

「さてお二人を呼んだのは話したい事があったからなんですけど・・・・大丈夫ですか?今日はもう帰ります?」

「私は大丈夫ですけど・・・・・パルスィさん?起きてますか?」

「・・・ムニャ・・・・八ッ!寝てないわよ‼」

「なんて古典的な・・・。いや、大丈夫そうなので話しますね。俺もうじき外の世界に帰るのでその報告をするためにこうして呼んだんですよ」

「⁉」

「まぁ、さとりさんはわかっていたのかもしれないけどね。と言ってもついさっき霧雨さん達の心を読んでだと思うけど」

「わかってはいましたけど・・・。わかったタイミングは大ハズレですね」

「え?マジで?」

「マジです。それよりも・・・」

「貴方、いつ帰るのかしら?」

「今日含めて14日?あれ?13日か?まぁ大体二週間程度で帰りますね」

「そう・・・・・・」

「水橋さん、今日はもう帰りますか?」

「そうさせて貰うわ。はい代金」

「あぁ、どうも。お気をつけて」

 

ガラガラガラ

 

「ああなるってわかっていたのでしょう?」

「まぁ、おおよそはですけどね」

「・・・・・・・・・・まぁ二人で話したい事があったから水橋さんには申し訳ないけどよしとしましょう。これからどうするのかしら?」

「えらく間が空きましたけどそうかしましたか?」

「いいえ、なんでもないわ。それでどうするのかしら?」

「いつも通り、俺のやりたいようにやるだけですよ」

「そう・・・・。でもあまり無理しないように。あと少しは考えて物事を行わないと痛い目を見ますよ」

「わかってはいるんだけどこれはもう性分だしなぁ。とりあえず気をつける事にするよ」

「えぇ、それが良いと思いますよ」

「で、この店の事なんだけど俺帰っちゃったらもし使いたいって人がいたら譲ってあげてくれ。調理器具とか全部残してそのまま店として使えるようにしておくからさ。店の看板とかそこら辺の物は処分するけどね」

「・・・それでいいのですか?」

「良いんだよ。俺はあくまで外の世界の人間だよ?ここでは俺は異物と変わらない。面白いし楽しいから居続けたけどね。そろそろ元の世界に帰らないと。帰らなきゃいけない場所も帰りたい場所も特にあるわけではないけれど、それでも俺の世界はあっちだからね」

「ずっとここに居ても構わないんですよ?最近では外の世界から来ている人間もいるようですし」

「う~ん感覚的なものだからわかって貰えるかわからないけど。なんか俺はここにいちゃいけないような気がするんだよなぁ」

「そんな事ないと思うけれど?」

「まぁ、感覚的なものだから何とも言えないけどね」

「まぁ、無理には引き止めませんが・・・・。ところで萃香さんの件はどうするおつもりで?」

「⁉」

「勇儀の心を読んだら萃香さんから相談を受けた事が読めてね。その内容はともかくそこから私は仁さんがもう帰る事を知りました。萃香さんは相当悩んでいるそうですよ。本人の心を読んだ訳ではないのではっきりとは言えませんけどね」

「・・・・・・・まぁ、だろうね。予想以上に衝撃受けてたみたいだし。まぁ、俺が原因なんだろうけどさ」

 

本当に人の気持ちを考えるのが出来ないみたいだ。ある程度予測はするけど、さっぱりわからん。

さとりさんが俺の帰る事を知ったのはそこからか・・・・。ある意味意外な所からだったな。

 

「それでどうするのですか?」

「どうするもこうするもなぁ。やっぱこういう時は真正面からぶつかるしかないと思ってるよ」

「どういうことですか?」

「いやだから真正面からぶつかるだけだけど?」

「だからその詳細をですね・・・・」

「あぁ、そゆこと。いや、単純に言いたい事あるなら言って貰って俺はそれに対して応答してって感じかな。必要とあれば取っ組み合いもするけどさ」

「鬼と取っ組み合いって正気ですか⁉いくら貴方が幻想郷にで能力に目覚めたからと言って正気の沙汰じゃありません‼」

「う~ん、でも俺の考えついた中でやっぱこれが一番確実で今まで見てきた鬼の性格の事も考えると確実なんですよね~」

「でもそれで怪我したらどうすんですか⁉」

「結構ここに来てから体の性能も上がったし・・・・・無傷とはいかないだろうけど良い所まではいけると思いますよ。それに案外どうにかなったりするものですよ」

「仁さんは鬼の事を舐めているんですか‼本来の鬼はそんなに優しくないんですよ‼」

「まぁ、でしょうねぇ」

「それなら‼」

「でも、これは俺がやっちゃった事で絶対になんとかしなきゃいけない事だから・・・。俺みたいな思いはさせない為にね」

「・・・・・何があったんですか?」

「星熊さんの心を読んだんならわかるんじゃ・・・って星熊さんに話し合の結構前だからそこまでさかのぼって心は読めないか。ま、ざっくり言えば前に今の俺がしたような事と似た状況があってね。その時は俺はされた側だったけどね。その人たちは何言わずに去っていった。けど俺は正直に去る事を言ってからサヨナラしようと思ったんだけど・・・・。なんか思ってたよりかなり複雑になっちゃったよね。まぁそれは置いといて、その時の俺みたいにしないようにしなくちゃならない。このまま帰るのは俺自身が一番やってはいけない事だからね。まぁ、怪我する程度で済むようなら安い物さ」

 

正直、あの時の喪失感は本当に感じていたのかすらもう今となってはわからないが、もしあんな感覚を味わう事があるとしたのなら俺は絶対にそのままではいけないと思い去る事を正直に話した。

ま、結果はこのありさまだけどね。

 

萃香さんを苦しめ、俺の採ろうとしている解決策で心配してくれる人はいるのだろう。

目の前にいるからそれは分かる。でも俺はもうこれを実行すると決めている。

 

 

「怪我するような解決策を取ってどうするんですか!」

「お?心配してくれてるの?でも俺がちょろっと怪我する程度で解決してくれるなら俺は全然いいと思うよ?」

「心配するのは当たり前です‼いい訳ないじゃないですか‼」

「お、おう。心配してくれてありがとう」

「もう聞いてられません‼貴方は自分がいる状況が分かっていないんですか?貴方が怪我をしたら悲しむ人がどれほどいると思うのですか⁉」

「こりゃ・・まいったなぁ・・・・・久々に本気で怒られた気がするよ。まぁでもこれが俺の思いつく最善案だからね。多分俺はやるよ?」

「前から思ってましたけど、どうしてそんなに自分の事を考えずに行動するのですか‼私だって水橋さんだってどれだけ心配してる事か‼」

「落ち着いてくれ。深呼吸深呼吸」

「・・・・・・・・・・ふぅ、少し取り乱しました。お見苦しいところを見せてしまいましたね」

「いや気にしなくていいよ。こんな外見幼い娘怒られるって言うのは何だか背徳感があってこれはこれでなかなか・・・・・」

「そんな事言ってもごまかされませんよ」

「ありゃ、バレましたか。う~んこれは予想外」

「とにかくもう少し考えて、違う方法で解決してください」

「そうは言ってもねぇ。これでも結構考えての結果だったんだけどなぁ」

「もっとあるじゃないですか、取っ組み合いと言うかそんな事にならないようにする方法が」

「いや、そもそも俺は取っ組み合い前提で解決しようとは思ってないよ?」

「え?」

「え?」

 

何だこの沈黙。さとりさんが驚いたかと思いきや気まずい感じの顔になってるような。

何だろう何か見落としているのか・・・・・?

あ、もしかして。

 

「さとりさん、俺が取っ組み合いする事を前提で話してると思ってました?」

「・・・・・はい」

「ぷっ。あはっはっはははははははは」

「わ、笑わないでください」

「ふぅ、いやぁ、すいませんねぇ。俺の言い方が悪かったのもあるでしょうし気にしないでくださいよ」

「早とちりした私も悪いのかもしれませんが、仁さんも悪いんですからね」

「えぇ、わかってますよ。まぁ、流石にただ単に痛いのも辛いのも嫌ですからね。そんな事はしないですよ」

「それならいいんです」

「お、ミスったこと恥ずかしがってますね~顔が赤い」

「そこは触れないでください」

 

うん、こういうのを見ると男としてはさらにいじりたくなるが、グッとこらえて正直な気持ちを伝える事にする。

 

ポンッ ナデナデナデ

 

「⁉」

「心配してくれてありがとう。何か久々に本気で怒られたり心配されたのがなんか嬉しかったよ」

「は、はい・・・。って怒られたり心配されるのが嬉しかったりするんですか?」

「まぁね。しばらくそんな事してくれるような環境に居なかったからさ」

「でも家族は・・・」

「うちの家族は俺を除いて結構前に死んじゃってね。ずっと一人で過ごしていたから」

「そうだったんですか・・・。大丈夫ですよ。ここに居るうちは1人じゃないですから・・・」

「嬉しい事言ってくれるねぇ。思わず帰る気が無くなってしまいそうだよ」

「あら、さっきも言ったけどずっとここに居ても構わないんですよ?って言っても帰るのでしょう?」

「さすがだなぁ。さとりさんは俺の事がよくわかってる」

「心が読めない分よく仁さんの事見たり考えたりしてますから・・・って誤解しなしでくださいね‼」

「誤解?何のことかわからないけどわかったよ」

「え、えぇ、お願いします」

 

まぁ、心が読めないって言うイレギュラーな存在だからよく見て相手のパターンを考えて理解を深めるって言う事なんだろう。

人付き合いがある限り誰もが意識的でも無意識的でもよくやっている事だからそんなに気にする必要はないように思う。

 

「なんだか貴方は意地悪ね」

「そんな事ないと思いますけどねぇ。あ、そうだ。星熊さんって普段どこにいるんですかね?」

「勇儀?大体は地底のどこかにいると思うわよ?」

「頼み事あるんだけどなぁ。まぁ、明日の朝にでも頼むか・・・」

「私がペット達にでも勇儀をここに来るように遣わせましょうか?」

「そこまでしなくていいですよ。あ、俺これから晩飯兼晩酌なんですけど一緒に一杯飲みます?」

「そうねぇ。それなら少し頂こうかしら」

 

こうしてさとりさんとの晩酌が始まった。

 

 

~店の扉の外~

 

 

 

ここまでの話に聞き耳を立てていた者がいた。

地殻の下の嫉妬心。水橋パルスィその人である。

一度、古明地さとりが注意を向けた事に驚いたようだが、最後まで聞く辺りどうにも自分の関心の強さには敵わないらしい。

 

「どうして・・・・・私だけ・・・・・」

 

おや、何をそんなに我慢している?あぁ、彼女は今までどのような気持ちでいたのだろうか。

私には推し量る術はないけれど、この結末は多いに楽しみにさせて頂くとしよう。

 

 

 

 

 

**********

 

 

「おはよう。・・・・・っても誰かいる訳じゃないんだよなぁ」

 

朝五時。二時ごろまで飲み、送り届けた後に寝たから大体二時間半って所かな。

体にだるさや重さはないし大丈夫。ベストコンディションと言っても差し支えないと思う。

 

今日は店を休みにして、萃香の件に決着をつけるための算段を考える。

正直、さとりさんには悪いと思う部分があるが・・・・・・。

まぁ、後でバレても何とかして今回は許してもらうとしよう。

なんか自分からこんなに誰かに何かしたり関わったりって久々な気がするな。

 

いつやるかを決めてしまわないといけない。

出来たら早めに決着が付けれたらいいんだけど、いつにしようか。

 

準備する事もたくさんある。と言ってもやる事は簡単な事だけだけど。

もしかしたら最悪の場合は・・・・無いように祈っておこう。

 

さてまずは星熊さんに頼み事しておきたいから探しにいかないとな。

この時間だったらどこかの店で飲んでるか寝てる可能性が高い・・・・はず。

 

ドンドンドン

 

「おーい、起きてるか~。アタシだ~」

 

ガラガラガラ

 

「あれ?星熊さん?何か御用で?営業はしてませんよ?」

「いや営業時間外なのはさすがに知ってるさね。さとりにお前さんが呼んでるって聞いてきたんだけど?」

「え?さとりさんが?」

「そうだよ。正確にはペットが手紙を届けてくれたんだどな。早めに行ってくれって書いてあったから来たんだよ」

 

さとりさん・・・・ありがとうございます。

何か余計に申し訳なさも感じたけど、もうやるしかない。

 

「ちょっと頼みたい事があってですね。もうご存知だと思うので説明は省きますけど、俺としては早い内に決着を付けたいんですよ。それで出来たらで良いので萃香を連れて指定の時間と場所に来て欲しいんですよ」

「そんな事かい?」

「そんな事です」

「いや、まぁ、良いけどさ・・・・。アタシもちょっと萃香と一悶着あったから連れていけるかはわからないよ」

「それならそれで構いませんよ。もし萃香を連れてこられなくてもその時は星熊さん一人で来てくれたらそれでいいですから」

「で、いつどこに連れてくればいいんだい?」

「いつにしましょうかね?星熊さんがまず空いている日がいつかって所なんですけど」

「いつでも空いてるから別に今日でも構わないよ?」

「今日か・・・・・」

「いや、冗談だよ。流石に何か用意したりしたいんだろうから明日以降にしときな」

「いや、今日しちゃいましょうか。思いったったが吉日って言いますし」

「なんだい?そんなにすぐに準備できるのかい?」

「いや・・・・、時間は少しは要りますけどどちらかと言えば場所と状況が大切かなぁ・・・・」

「じゃあ何時にどこに行けばいいんだい?」

「じゃあですね・・・・・・時間は19時で、無名の丘ってわかりますか?」

「無名の丘ねぇ。アタシ地上の事は詳しくないけど何か聞いた事あるような気がするなぁ。そこに行けばいいのかい?」

「わからないなら場所変えますけど?」

「いや、大丈夫さ。ちゃんと行くさ」

「いやでも案内するために」

「大丈夫だって。アタシを信じなって」

「そうですか。それならよろしくお願いします」

「で、何をするんだい?」

「とっても簡単でとっても単純な事ですよ。あ、もう一個お願いしても良いですか?」

「構わないさね。で何をしたらいいんだい?」

「これあんまり聞かれると困るのでちょっと耳貸してもらっても良いですが?ありがとうございます。えっとですね・・・・ゴニョニョゴニョニョゴニョニョニョ」

「⁉正気かい?」

「はい、正気ですよ。まぁ、難しくないですから大丈夫ですよね?」

「いや、まぁ、そうなんだけどねぇ」

「俺を信じてくれるならお願いします」

「・・・・・・・・正直納得できないけど分かったよ。好きにしな」

「ありがとうございます。それじゃさっそく俺は準備に取り掛かりますけどどうします?」

「用が済んだみたいだから、とりあえず時間までどっかで暇つぶしでもしてるよ」

「そうですか。それじゃ、よろしくお願いします」

「・・・・・・上手くいくのかい?」

「決着は付きますから大丈夫でしょうね・・・・。結果がどうなるかはやってみないとわかりませんけどね」

 

***********

 

行動を決めてからは案外すんなりと準備は進んだ。

 

結果はたぶん誰も救われないのかもしれないけど、どのような形であっても決着を付けなきゃいけない。

決着を付けたがる理由は萃香の為にとかじゃなくて、俺が多分満足できないからってだけだけど。それでいい。

むしろ俺が他人のためになんて事がないんだよなぁ。基本自分がしたいようにやってるだけだから。

俺のやりたいようにやって、それで死ぬなら構わない。

っと、こんな事を言うとさとりさんにまた怒られてしまいそうだなぁ。

 

さて、したい事をしている時とかそのために準備す時間ってのはなかなか早く感じる。

準備するものは大きく二つだけだから、片方は時間がかからなかったけど片方は勘を取り戻すのに時間がかかった。まだ万全とはいかないけど今持って行ける最高の状態ではあると思う。

 

さて、もう待ち合わせの場所に言っておきますか。

 

 

***********

 

~ 19:00 無名の丘 ~

 

 

さてシートも広げて、重箱と酒と杯を用意した。

 

やる事はいたってシンプル。飲み食いして言いたい事でも言い合ってすっきりしようって感じだ。

安直だけど、鬼って結構さっぱりしてるから案外何とかなるんじゃないのかなーって思ったんだけどダメかな。

こういうのとても好きだろうし。

多分だけど、基本的に鬼って人間の一人や二人って有象無象で大して相手にしてないからなんだろうけどね。

神様が人間個人の判別を行う事が難しいように。

 

今回萃香が悲しむ?事になったのはたまたま念願かなって今回俺が酒をまともに飲める外の人間で、そんな人間がいなくなるのが惜しいんろう。

別に俺でなくても飲める相手になれる外の人間なら良かったはずだ。

 

問題はそもそも酒の席についてくれるかだけどね。

もし俺の言葉が嘘だと思われたなら、もしくは嘘をつかれたと思われたなら多分厳しい。

鬼は嘘つかれたりとか大っ嫌いみたいだからね。

 

まぁ、後は単純に俺が嫌われてここに来ない場合は萃香との決着はされないと思う。

その時は星熊さんとサシで飲むだけなんですけどね。

 

なんにせよ、俺はちゃんと伝えないといけない。

俺自身の言葉で伝えて、最後には笑ってちゃんとサヨナラしてもらえるように。

 

「うん、今夜はとても綺麗でいい月夜だなぁ」

 

・・・・・・・・・・やっぱりここから見た月は違うなぁ。

 

 

                        ~鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り 12 日~

 




いつもながら最後まで読んで頂きありがとうございます。

っではさっそくお知らせ一つ目は、二十話という数字が手に届くようになってきました。
そこで記念のお噺として特別編と題して人気投票を行いそれの結果を使ってお噺を書きたいと思います。詳しい事は自分の活動報告に書きたいと思いますが、今回は人気キャラ投票と好きなお噺投票をしたいと思います。

そして二つ目はこのお噺に関する質問やメッセージを募集していきたいと思います‼
こちらも活動報告にて人気投票とは別で書きたいと思います。
簡単に言えば、このお噺に関する事なら何でも質問オーケー。私のお噺出でてくる人物たちにちょっとした質問や作者にこのお噺の事で聞きたい事などどんな事でも良いのでどんどん質問してください‼また応援メッセージなや熱い感想などもくれたらとても嬉しいです。この質問、メッセージの方の送られてきた者を基にお噺を書く事があるかもしれませんので奮ってご参加ください‼

このお噺が投稿されてから慌てて活動報告に詳細を打ち込むので、読んですぐに投票とかしてくれるような人がいたらごめんなさい。すぐ作るので少し待っててください。

と言う訳で次話もなるべく早く投稿できるように頑張っていきます。
それでは皆さん是非人気投票と質問などよろしくお願いいたします。

それでは次話でお会いしましょうさようならさようなら


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月夜に・・・・・・・・

本当にお久しぶりでございます。失踪なんてしてないよ、どうもノリさんです。

いや~本当に忙しかった。課題やら遠征やら。
夏休みと言いながら休みがなかったので秋休みが欲しい所ですね。

なんて冗談はそこまでにしておき、楽しみに待ってたと言ってくださる方もいらっしゃる・・・・・・と良いなぁ

久々の本編更新になってしまいましたが、楽しんで頂ければ幸いです。
それでは本編へどうぞ‼


~無名の丘 六時半~

 

無名の丘は適当に散策したときに偶然見つけた人も妖怪もほぼ近づかない・・・・・と言うか俺以外の誰かが来ているのを見た事がないような場所だ。

今回のように誰にも邪魔されないような場所として使うにはもってこいだ。

そして月も良く見えるし、そもそもこの場所が鈴蘭が咲きまくっているから綺麗な場所なんだ。

 

 

少しゆっくりしたかったので早く来たが、もう月が見えていい感じだった。今日は満月。生きて見てきた中で一番綺麗な月かもしれない。

前から思っていた事ではあったのだが、俺はこの一ヶ月近く経つが何を得たのだろうか?

俺の中では多分何も得てはいない。ただ、俺は俺のやりたいようにやってきただけ。

 

では俺の与えた影響は?

これは多分ある・・・と思う。自惚れかもしれないけど多分ある。

 

まず、そもそもとしてこの世界では人間は妖怪を基本的に敵視していて、妖怪も人間を餌だのそんな感じで見ている。なので人間と妖怪の関係は基本的によろしくない。

しかし、俺は外の人間でありながら帰らずに暫く居座った事で多くの妖怪などと関わりを持ち、その中にはかなり仲良くなった人達もいる。と、言うか妖怪の中ですら嫌われたり恐れられたりするような妖怪たちの集まる地底で楽しく営業してるのが不思議なくらいなんだと霖之助などに言われる。

 

まぁ、この世界じゃ本当にイレギュラーなのだろう。

何回か人里から地底の間の道で妖怪から襲撃を受けた事もあるし、普通に騙されたりしそうになったりもした。

 

でも俺は妖怪を敵視しない。だって特に襲う事にも騙す事にも俺は嫌悪感とか恐怖とか特にないから。

つか人間同士でもやってる事と同じだろう。

欺きあい騙しあい必要とあらば犠牲にする。

生きていくってそんな物だろう?って思って終わるのだ。

 

話が逸れちゃったな。

まぁ、とにかく俺は妖怪などを嫌うことなくむしろ仲良くやってしまった訳だ。

これは店をやっていること自体は新聞効果もあってか人里に行けばちょいちょい声をかけられるようになった。

そこでは妖怪の事とかも良く聞かれたりする。

俺は仲良くやってるのもあるが、ありのままに話す。

それを聞いた人里の人は未知の知識が聞けると言わんばかりに興味津々に聞いてくるくらいだ。

 

人里自体はある意味閉鎖的な社会構造で成り立っているのだ。

まず俺の話したことによってある程度人里の連中の見識を変えた事となる。

閉鎖的社会構造において少数の異端の知識を持った者が出来るだけでも、その社会を破壊するに十分な力を発揮する事もある。

これに気が付いたのは話してしまってからしばらく経ってからだったので後の祭りと言うやつだ。

 

 

妖怪側にも与えた影響はある・・・・と思う。

人間の適応能力やこんな奴もいると言う事だけでも意外と大きいのではないだろうか。

俺と関わっただけとはいえ地底の環境に変化はあったと思う。

 

大きな変化で言えば地霊殿から出なかったらしいさとりさんが地霊殿の外に出てくるようになったことだろう。

地底の妖怪たちは最初は大きく驚いていたがもう一ヶ月も経てば多少は慣れたのか前より抵抗がなくなってきたようだ。まだわだかまりはあったようだけど。

心を読む覚り妖怪と読まれる側の妖怪。以前は距離をお互い近づけなかったものが、近づいたとは言わないでも許容できる範囲は広がったのではないだろうか。

細かい事を言えば襲撃を受けたりしたって事は何かしら妖怪サイドでは俺の影響力に何かしら手を打つ必要があると判断するようになったのではと思う。それが何のためかはわからないが。

 

たった一ヶ月こうして居ただけでこの世界のルールに影響を与えかねないかもしれない事になっている。

 

ここは居心地がいい。何だか懐かしいとさえ感じるくらいに。

けれど俺がこの世界から去らないといけないと強く思った理由は影響を与えたからではない。

正直この程度であればいずれ誰もが影響とさえ感じないようになる。

 

けれど俺にはそんな事よりも大きな事を起こしてしまう可能性がある。

それは・・・・・

 

「待たせて悪いねぇ。ちゃんと連れて来たよ」

「・・・・・・よう」

「久しぶり、萃香。来てくれて嬉しいよ。そして星熊さんもありがとうございました」

「あぁ、いいのいいの気にしないで。アンタとアタシの仲だろう?」

「そうですね。ありがとうございます」

「なんで私の事を呼んだんだ・・・」

「なんでってそりゃ店にも来ないし、かといってどこいるのかもわからないから連れてきてもらって一緒に飲もうかと思ってな」

「・・・・私はもうお前とは飲まない」

「・・・ありゃ、嫌われちゃったかね?」

「私は・・・お前の事は嫌った訳じゃない・・・けど・・・・・」

「けど?」

「お前の言った言葉が嘘に変わったから・・・・・お前と飲むのは・・・・嫌だ」

「まぁ、そうだよなぁ」

「アンタそれでいいのかい?」

「まぁ、実際そうとられてもおかしくないですからねぇ。俺の言葉は嘘じゃないけど、嘘のようなものになってしまった。結果としてみたら・・・・うん、まぁしょうがないんじゃないですかね」

「だったら・・・なんで私を呼んだ?」

「わかってはいるけどさぁ。あれは俺の本心で嘘偽りない気持ちで、間違えた事言ったつもりはないからね。傷ついてたら慰めたいとか、謝りたいとか。別にそんなんじゃ無くてな。嫌われた訳じゃないんだったら俺は一緒に酒飲みたいって思ったからここに呼んだってだけだよ」

「お前は・・・・私がどれだけ悩んでいると思ってるんだ‼私の気持ちも知らないくせに‼」

「確かに知らないな。俺は萃香じゃないし。出来たとしても今までの情報から推測くらいしか出来ないしね」

「もういい。帰る‼」

「アンタその言い方は!」

「それでも‼お前の事おもっと知りたいと、お前とまた楽しく飲みたいと!そう思ったからここに呼んだ‼最初から全て俺はやりたい事をやってきたし、言いたい事を言ってきた!そこに嘘偽りはない‼」

 

あの日言ったその言葉の意味が例え嘘のような物に変わってしまっても、それを言った気持ちに嘘はない。

 

『伊吹さんが俺の事嫌いになった時は無理になるかもしれませんけど、俺から嫌ったり逃げたりする事はないですから。都合が付けば俺で良ければいつでも飲みの相手になりますよ。俺、伊吹さんと飲むのは楽しくて好きですから』

 

確かに俺は言った。萃香からしたら今までの経験から外に帰る事は基本的にこちらに戻ってこない事が分かっていたんだろう。

だからそう言った、やっと見つけた飲める奴が自分の前からいなくなる。おそらくそれは逃げられたと感じてしまったのだろう。今までの経験もあって余計にそう感じさせたのかもしれない。

 

誰も責められないし、おかしい事はない。

誰にだって過去の辛い事や悲しい事から、時に物事を必要以上に大きく捉えてしまうことだってある。

そして今回偶々そうなったってだけの話だ。だからちゃんと話せばわかって貰える。

 

「俺から萃香を嫌ったり逃げたりする事はあらゆる全てに誓ってでも絶対にない。だから、お前も俺の事が嫌いじゃないならまた前みたいに楽しく飲もう。・・・・・・だから俺と飲むのが嫌だなんて悲しい事言わないでくれ」

「アンタ・・・・・・・」

 

俺がしたかった事、俺が伝えたかった事、これで俺の萃香にすることは終わり。

これでだめならその時は、もう諦めるしかない。

 

「うっぅ・・・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

今夜はまだ酔ってはいないけど、許してくれよ?

何に対して言っているのかはわからないけど、思った段階でもう体は動いていた。

 

俺はあの日と同じように伊吹さんの頭を撫で、小さな体に手を回し抱きしめ背をやさしく叩く事にした。

 

「何だかあの日みたいですねぇ。俺はあの日、誰も見せない萃香さんを俺だけが見られたと思って内心すごく嬉しかったんですよ。だから浮かれちゃったのと酒の勢いもあって柄にもなくかっこつけちゃったんですよね~」

「・・・っ・・バカッ・・・っぅ・・・・・」

「馬鹿ですよ。でも馬鹿なりに考えて必死に生きてるんです。何度でも言いますけど、俺のした事言った事全てに嘘偽りなく後悔もしてません。たから俺は萃香さんとの出会いも後悔なんてしないし、したくない。だから、俺は帰る事も一番に伝えました。過去に俺が感じたような、何も言われずにさよならはしたくなくて。萃香には笑ってサヨナラしたかったから」

「うぅっ・・・・・・・ごめん・・・・ごめんなぁ・・・っぅ・・・・・・・・」

「何で萃香が謝るんだよ。悪いことしたの俺じゃないの?」

「ぅつ・・・・・うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・」

 

 

何だかよくわからんもんだなぁ

 

 

「はいはい、悪いけどアンタが慰めてたんじゃ萃香が泣き止まなさそうだからそこまでにしな」

「・・・・わかりました。じゃあ、あっちで準備して待ってるんで落ち着いたら来てください」

 

 

 

とりあえず、一件落着・・・・・かな?

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

あれからどれくらいたったのだろうか?

しばらくして二人が来た。まだ萃香は少し顔が赤いままだったけど落ち着いたらしい

 

さてと始めますか!

 

「「「乾杯‼」」」

 

初っ端から鬼の酒はきついかもなぁ。美味いんだけどね。

 

「やっぱり、クるなぁ」

「何回か飲んでるんだろう?良い加減慣れても良いんじゃないかい?」

「そうだぞ~」

「ってもなぁ。本来これ人間が飲めるもんじゃないだろう?」

「とんでもない事になる代物だな‼」

「何で飲めんのかなぁ~。人間なのになぁ」

「それは分からないさね」

「だよなぁ。体が全体的に人間離れしたり、人間じゃ飲めないお酒を飲んでもなんともないし」

「いいじゃあないか。そのおかげで生き残れてる訳だし、アタシらと飲めてるんだからさ」

「それもそうなんだけど・・・・。なんかなぁ」

「それよりもさ、アタシは聞きたい事があるんだ」

「何ですか?」

「それはさ、何でアンタが急に変える覚悟を決めたのかって事さ」

「星熊さん・・・」

「勇儀だ」

「え?」

「アタシも一緒に酒を飲み明かす仲だろ・・・・・だから萃香だけじゃなくて私に事も名前で呼んでくれ」

「・・・・わかったよ勇儀。それで質問に答えると元々その予定だった・・・・って感じなんだけど?最初から休みの間だけ滞在するつもりだったからね~」

「それだけじゃないんだろう?」

「いやぁ、そんな事もないですよ?」

「アタシに嘘をつくのかい?」

「嘘って訳ではないですけどねぇ」

「何かそれ以外の事があるのか?」

「多分萃香と二人で飲んだ時に言ったとは思うけど。それじゃあ・・・・・天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」

「急に歌を出してきて・・・なんなんだい?」

「私と二人で飲んだあの夜にもそう言ってたな。・・・・・そんな男じゃないって言ってたけどやっぱり・・・」」

「違うんだよ萃香。この歌を詠んだ人は純粋に故郷に思いを馳せながらだったんだと思う。けど俺はやっぱりそうじゃない。・・・・・・・・・今日の月も綺麗だよな」

「?そうだけどそれがどうしたんだい?」

「綺麗だよなぁ。見惚れ着くらいにさ」

「そう、勇儀と萃香は綺麗だなぁで終わるのかもしれない。でもね。俺にはあの月は綺麗なだけじゃない。俺とこの世界の違いを感じさせる象徴みたいなものなんだよ」

「どういうことだい?」

「あの月は確かに構成されてる物質から地球までの距離とか一緒なのかもしれない。それでもね、俺の世界じゃ月に人はいないし、ましてやウサミミ付けた女もいない。同じであって同じじゃない」

「・・・・・・なるほどねぇ」

「勇儀は何か分かったみたいだけど私にはわからないなぁ」

 

勇儀にはわかったみたいだけど、萃香にはわからないみたいだ。

いや、かなり突拍子のない着地点な話だから分かるほうが多分少ない。

 

「じゃあ萃香に質問だ。この幻想郷には多くの妖怪や神様たちがいる。じゃその妖怪や神様たちは何でここに居る?」

「それは・・・・もともとここに居た外の世界に居られなくなったからじゃないか?」

「そうだね。俺もそう聞いてるしね。で、外の世界の知識や技術が多く備わっている俺が来た。その気になれば幻想郷の人里に知識や技術を伝え繁栄をもたらす事が出来る」

「それで?」

「今は違うけどもし俺が人里に肩入れするようになったら?すぐには変化ってものはないだろうけどね。三十年、四十年、もっと遅いかもしれないし、もっと早いのかもしれないけど俺がその気になれば外と似たような人里を作る事が出来る。そうしたらどうなる?外に居られないからここに来た、もしくはもともといた妖怪や神様にしたってこの世界ですらいられなくなってしまう。そうなる前に手は打ってくるだろうけどそれで人と妖怪が衝突したら?」

「・・・・それは・・・・・」

「今の人里とあまり変わらない状態なら人間の大負けだろうね。仮にそうなったとしたら人の感情や信仰を糧にしている妖怪や神は消える。もしくは大きく力を失いその他の者から淘汰される。では、もし人間が勝ったら?」

「人間が妖怪を淘汰する・・・・・⁉」

「そう。もし人間が勝つことになれば今度は恐怖の対象であった妖怪たちを徹底的に排除しようとするだろうね。どちらにせよ、待っているのはバランスが崩れた地獄だ」

「でもお前はそんな事はしないだろ?」

「今はね。でも今後何者かの口車に乗せられたとしたら?何かしらの能力で操られてしまったら?きっとそうなったらタダでは済まないだろう。もしかしたら俺は為政者となって萃香達の目の前に立ちはだかる事になるかもしれない。あり得ないと笑われるかもしれないけど、それでもないとは言いきれない」

「でも・・・・・」

「俺はそう言った未来を作ることも出来る人間だ。だからこそ元居た場所に帰らないといけない。例えどんなに楽しいから居たいと思ってもその可能性がある俺は居続けるわけにはいかない。さっきの歌は故郷を偲んで読んだものらしい。でも俺はそうはならない。だって・・・同じ月なのに違って、違うからこそ帰らないといけない哀しさを感じる。俺が言ったそうはならないって言うのはそういった意味もあったのさ」

「アンタも意外と考えてるんだねぇ」

「ほ・・勇儀の言い方だと普段の俺がまるで考えなしみたいだなぁ」

「そうは言わないけどさ・・・。思い付きで行動とか多いだろ?」

「確かにねぇ。まぁ、大体言うならそんな感じだよ。あの月を見て帰れる故郷を偲ぶんじゃなくて、帰らなきゃいけない覚悟を決めさせられた。たったそれだけ。・・・・それだけの事なんだよ」

 

俺はこの世界に居ちゃいけない。

きっと本当にそうなってしまった時、俺は人間として戦う事を選んでしまうだろうから。

それは嫌だ。こうやって飲んでいる萃香や勇儀、地霊殿の人たち、水橋さんに霧雨さんや霖之助とも道を違える。

そうなる前に帰らなきゃならない。だったら今すぐにでも帰ったほうが良いのかもしれない確かにそうなのかもしれない。でも俺はもう少しだけここに居たかった。だから、せめてもの妥協点としてギリギリの期間を設定した。

 

あれは、俺が帰るという決意で、枷でもある。

きっと最後まで口惜しいかもしれないけど。それは元々わかっていた事だから。

 

 

「・・・そうやってお前は一人で抱えて帰るのか」

「そんな大層なもんじゃないよ。俺が勝手にそう感じただけ・・・・。だからそれでいいんじゃないか?」

「ほんとにそんな感じで去るので良いのか?」

「いいんだよ。やりたいようにやって来てるしね~。むしろ俺がそこまでいていいのかって感じだよ」

 

俺は多分、この幻想郷から帰りたくない。

あっちよりも完全にこっちの方が居心地がいいからね。

だけど、そうあってはいけない。だからもしかしたらそうだからと言い聞かせてるだけかもしれない。

実際さっきのも本当に思ってる事なんだと思うけどね。

 

そうすると萃香が顔を俺の耳元に近付けてきて

 

「嘘つき」

 

と言い放った。

その後俺の顔の側から離れて笑顔ですぐに飲み始めたが、月明かりに照らされ、こっちに笑みを向けて酒を飲む姿は恐ろしく官能的で・・・・・・・・・・蠱惑的だった。

 

「んんっ、アンタはさ、もう少し自分の事を大切に思ったほうが良いよ」

「いや、ちゃんと怖いのとか痛いのとか嫌なんで避けてますよ?」

「そうじゃなくてだねぇ」

「もう少しでいいから自分を好きになれって事だよ‼」

 

バン‼

 

鬼の力だからフツーに痛い。

ってなんかこの感じ・・・・・。

 

「ふふっ」

「お?どうした?もう酔ったのか?」

「いや、今背中叩かれたので、初めて婦たちと飲んだ時の事を思い出してね。あの時叩いてきたのは勇儀だったけど。思い出したら変わってないなと思ってさ」

「それ褒めてるのかい?」

「褒めてるつもりだよ。ここでのいつもだなぁって安心できるからね」

「そうか‼とりあえず飲め‼」

「って萃香そんなにスレスレまで注ぐか⁉いや、飲むよ?ちゃんと飲むからそんな顔しないで・・・・・。あ、そうだ二人に渡しておきたいものが・・・」

「なんだ?なんかくれるのか?」

「何だろうねぇ。気が利いた物だといいけどねぇ」

「大丈夫‼どっちにあげるのも実用的な物だから・・・こっちの紙袋は萃香でこっちは勇儀だね、はい、どーぞ」

「ありがとね」

「サンキュー。おぉ?何だこの細い布は?リボンか?」

「そうそう。萃香いつも同じリボンだから偶には変わった可愛いのとか使っても良いかなって。赤、黒、ピングのレース付きの奴に、太めのリボンに切り込みを入れてそこから細いリボンを通して縞模様みたいにしたやつが二つで計五つのリボンセットさ」

「へぇ、こんなにリボンに装飾ってつけるんだねぇ」

「おぉ~、凝ってるなぁ。こんなに買ったら結構高くついたんじゃないか?」

「いや?そんなに大して布使った訳じゃないからそんな事もないよ。布自体はそんなに高くないしね」

「ん?これお前の手作り?」

「そうだよ。意外かな?」

「まじかぁ。お前何でもできるんだなぁ」

「萃香・・・・そんなに大げさに感心しなくても。一時裁縫にハマったりもしたからなぁ」

「えぇ、お前これそのまま売り物にできるんじゃないか、なぁ勇儀?」

「そうさねぇ。アタシはそう言った事には詳しくないから何とも言えないけど、確かに丁寧だし売り物になるのかもね」

「じゃあ、食事処が潰れそうになったら考えますかねぇ」

「じゃあ、アタシのにも期待できそうだね・・・・・・って何だい?」

「手ぬぐいです」

「ん?」

「だから、手ぬぐいだよ、勇儀」

「何で萃香には可愛らしい物でアタシは手ぬぐいなのさ」

「いやだって・・・勇儀に会った時とかっていつも風呂入った後か、酒飲んでるかだったからあんまり小物とか使うイメージなくてさ。じゃ何だろうってなった時に、地底って基本的に気温高めだったりするし、風呂上りとか酒飲んでる時もたまに汗ぬぐってるからさ。じゃあ、手ぬぐいが良いかなーって」

「うん確かにそうだけどさ・・・・。欲を言えばちょっともう少しねぇ・・・・」

「大丈夫布の模様はしっかり考えてあるから。紺地に桜が散ってるやつでしょ。それに薄い桃色の長めの奴でしょ。で最後に白地に赤い椿の模様が入ってるやつさ」

「へぇ、気が利いてるじゃないか」

「特に椿の奴はお似合いだと思ってね」

「そうなのかい?」

「椿の花言葉は確か完璧な魅力、女性らしさ、誇りとかそんなところだったはずだからね。勇儀に正しくぴったりかなって思ったんだよ」

「・・・・そ、そうかいっ?」

「なんでそこで上擦るんだ?」

「む~~~~~~~~~~~」

「なんで萃香はそこでむくれるのさ?」

「とりあえずその酒を飲め‼」

「え?飲むけどつまみながらゆっくりと・・・・・・」

「良いから飲め‼」

「イエスマム‼」

 

ゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッゴクッ

 

「ふぅ・・・・。何でまたスレスレまで注いでるの⁉」

「良いから飲みまくれ!」

「えぇ・・・・・・」

 

 

何で片っぽは「そうかそうか・・・・・」って言いながら飲んでるわ、片っぽは急にむくれて飲ませてくるわ。

こんなはずではなかった。・・・・・・・・・どうしてこうなった?

 

 

 

 

                  ~鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り 11 日~

 

********

 

 

 

 

 

~同時刻 地底 飲み屋~

 

 

 

ここは鬼や妖怪の中でも荒くれ物が集まったりする地底。

その中でも際立って恐れられている人物がいる。古明地さとりである。

以前の彼女は地霊殿の外から出る事はなかった。

しかし、最近の彼女は外部から入ってきた人間の影響か外にたまに出歩くようになっていた。

 

なぜ彼女が恐れられているのか?答えは明白だ。心を読まれるからである。

基本的に理性あるものなら心を読まれることを忌避する。それは妖怪でも神様でも例外なく。

いや理性がなくても恐れるのかな?本能的に。そこのところはどうでもいいや。

 

以前であれば出歩くことはなかったので怯える必要はよほどの事がない限りはなかった。

しかし出歩くようになっては少なからず警戒する必要が出て来た。

今までしなくてよかった心配をするようになると言うのは結構な負担になる。

私はそれを利用させてもらうとしよう。

 

偶然にもこの地底の飲み屋の一角に数名のその事に不満を抱いている鬼達がが集まっていたからね。

 

 

「ったくよぉ。今まで気にしなくても良かったのによぉ」

「しかも、嬉しそうな顔してるから余計に腹が立つんだよなぁ」

「そうそう、こっちがどんだけ気を遣ってるのかって話だよな‼おい、酒のお替りをそれぞれにもってこい‼」

「はい、ただ今~」

 

 

話しかけるなら今が良い頃合いだね。

 

「もし。そこの鬼の皆さんや」

「なんだお前?なんか用か?」

「ええ、僕はお守りやちょっとした装飾品などを売っているしがない小物屋を営んでいる者でして。お話が少し聞えたんでお声をかけさせて頂いたんですよ」

「へっ、小物屋に何ができるってんだ」

「いやいや、お力になれると思ったのでお声おかけたんですよ。どうやら心を読まれるんじゃないかと気にされているご様子。どうでしょう?わたくしの店の商品に心を読まれなくなるお守りと言った物がございまして、是非使ってはみませんか?」

「そんな都合のいい物があるのかい?」

「はい、完成しております。最近覚り妖怪が出歩くようになってると聞いたものですから準備した次第でありますよ」

「でもたけぇんだろう?生憎払う金はねぇ」

「いえ、お代は頂きません。と言うのもこのお守り試したので効果がある事は確認したもののほかの皆様にもお使いいただけるかはまだ確認できていないんですね。ですので皆さまが使えるか確認してくださると言うのであればこちらの方をすぐにタダでお譲りします」

「本当かい?それなら確認してやるよ。ここには三人いるから三人分貰えるんだろうな?」

「はいもちろんでございます。それではこちらの方どうぞ」

「へぇ、見た感じタダの首にかけるお守りだなぁ」

「えぇ、しかし効果はてきめんですよ。あ、ただ一つお願いと言うか注意がありまして。それを首に掛けたら何があっても外さないでください。効果が十分に発揮されない可能性がございますのでそこのところは絶対に守ってください」

「それくらいならお安い御用だ。どれ・・・・・・首に掛けても何かある感じではないなぁ」

「俺もだな」

「本当に効くんだろうな?」

「はい、もちろんですよ。ただ、心を読まれようとしない限りは効果は発揮しないのでいつも通り変わりませんよ」

「そうか、わかった。これを外さなければいいだけなんだな」

「左様でございます。皆様首に掛けてもらえたようなので数日したら効果のほどを聞きに来ますので、ここの酒場にだいたいこの時間にと言う事でどうでしょう?」

「いいぞ、何だか知らんがありがとうな」

「こちちらこそありがとうございます。それでは私はこれにて失礼いたしますね」

「おう、またな‼」

 

さて、目的も達成しましたし帰りますかね。

 

「店主、金はここに置いて行きますね。お釣りは要りませんので」

 

 

 

~~ 店の外 ~~

 

 

 

 

さて、これでおそらく数日後見に来た頃にはいい感じになっている事だろう。

さぁ、これに対してどう対応するのかなぁ。僕の知っている彼ならあの鬼達を容赦なく殺すんだろうなぁ。

 

久しく会っていないからなぁ。私も、僕も、とっても楽しみにしてるよ、仁。

 

 

 

 

 

 

 




毎度ながら最後まで読んで頂きありがとうございます。

あの歌をここまで引っ張ってしまいました。
いやぁ、これで萃香とのお噺である「反転芝浜 ~ 鬼と男とときどき酒と ~」の不明瞭な点が明らかになったのではないでしょうか?(そうなってるといいなぁ)
えぇ、ただの故郷を思うような男でないという意味以外にもこう言った意味があったんだよって事ですね、はい。

まぁ、反転芝浜の時にあとがきで書いた物とは意味合いは違いますけどね~。
それはそれでお楽しみに~。


さて、ここでいつもの宣伝を。
活動報告に質問用のフォームや人気投票用のフォームを作ったのでそちらもよろしくお願いします。またTwitterもやっていますので、しょうもない事をメインで言ってますが良ければよろしくお願いします。
宣伝はこれまで・・・・・と普段であれば言っているのですが今日はこれだけではございません。

Twitterの方をフォローしてくださった方には結構前にお伝えしてはいたのですが改めて。


東方与太噺の同人誌作成が決定いたしました‼


以前からやってみたかったというのがあります。が、応援してくださったり、本は出ないのかという声をくださった一部の方の為にもやってみようと決意した次第であります。

参加したいとと思っているイベントなどはTwitterの方で言っていたりします。
今後も同人誌関係の宣伝やちょっとしたアンケートなどもTwitterで行っていく予定ですので是非フォロー等よろしくお願いいたします‼

そして、最後にご報告。同人誌を作る事になった事により、加筆・修正や書き下ろしの執筆などの作業が増えた事により本編更新速度は今までのようにはいかないかもしれません。
楽しみに待ってくださっている方には申し訳ありませんが、それでもなるべく早く更新できるように頑張っていきたいと思いますので応援よろしくお願い致します。

それでは次話でまた会いましょう、さようならさようなら。


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そーれっそれそれ

やらなきゃいけない事が多すぎる‼課題の多さに苦しむノリさんです。

お久しぶりになりますが、ちゃんとちょくちょく書いてますよ。
前にも言いましたが失踪なんて致しませんよ。ただ本当に忙しいんですよね、この時期。
もう少ししたら落ち着けるかな~。

そんな辛かったり忙しい時には過去に送ってくれた感想などを読んで励まされたり元気を貰ったりしながら頑張っていました。感想をくれた皆様ありがとうございます‼

なんて私の事はどうでもいいですね。さっそく参りましょうか‼

それでは本編をお楽しみください‼


「お祭りだぁ?」

 

昨日の鬼との飲み会が終わって寝て起きたら借りていた本を返さねばいけない事を思いだし、俺は久々に鈴奈庵に居た。そこで小鈴ちゃんとそのお友達から屋台を出さないかと話をいきなり持ち掛けられた。

 

「はい、毎年来年も豊作になりますようにって感じでやってるんですよ」

「いやでも小鈴ちゃんや。俺には店もあるしさ」

「新聞の影響か貴方の事は人里の皆が知っています。話題性もあって丁度良いのでやって頂けませんか?」

「う~ん、えっと、小鈴ちゃんのお友達の・・・」

「名乗り忘れていましたね。これは失礼いたしました。稗田阿求と言います、以後お見知りおきを」

「あぁ、これはご丁寧にどうも。ご存じだとは思いますが鷹崎仁と言います。地底でしがない食事処を営んでいます」

「小鈴からは常連だと聞いていたので、ここで会えると思っていました」

「小鈴ちゃんや。俺のために待たせちゃってた感じ?」

「う~ん、そうでもないですよ。お客さんの来る時間はだいたい決まってましたから、ここ一週間その時間に合わせて来てたくらいですね」

「一週間⁉」

 

うわぁ、何でそんな事してんの?言ってくれたら来たのに・・・・ってここんとこ忙しくて人里来るの忘れてたわ。

危うく延滞料を取られるところだったからね。あぶないあぶない。

 

「何か悪い事しちゃったなぁ」

「いいえ、お気になさらず。私が好きにやっていた事ですから。それで出て頂けますか?」

「あ~、うん。面白いお誘いではあるんだけどねぇ」

「あの・・・・何か都合の悪い事でもあるんですか?」

「小鈴ちゃんの言う都合の悪い事はないけど・・・・・。店は最悪休みにすればいいしねぇ」

「では何が問題ですか?一応今回は私達からの依頼に近い形なので材料費の方は負担させて頂きますし場所もご用意しますし、決して悪い条件じゃないと思いますが・・・・」

「え?そうなの⁉」

「いや・・・・そのねぇ。えーと稗田さん?」

「阿求とお呼びください。貴方の方が年上なのですから敬語でなくていいんですよ?」

「じゃあ、阿求ちゃん。はっきり言うと俺はもうじき外の世界に帰るからね。あんまり俺の居た痕跡を残したくないのさ。面白そうではあるんだけど、渋ってしまう理由がそれ」

「え?常連さん帰られるんですか⁉」

「いやぁ、俺は元々ちょっとした旅行みたいな感じで居ただけだからね」

「それであの地底でお店を営業するのは驚きを隠せません。でも痕跡を残したくないって言うのはあまり気にしなくてもいいと思いますよ?」

「え?なんで?俺人里でなんかした覚えはないけどな」

「あぁ、常連さんもしかして今人里で人気の新聞をご存じないですか?」

「いや知らないな。この世界に来て新聞ってのは1つしか知らないからな」

「それじゃあ、良かったら先週の読んでください。確か今日の昼には新しいの持ってくるって言ってたのでそろそろ新しいのを記者の人が持って来てくれるはずですよ」

「へぇ~~~見出しは『狸に狐。挟まれるれる店主の運命は⁉』か・・・・・。ってあれ?これ一週間ちょっと前に俺のお店での出来事じゃ?」

 

偶然俺の店に来た二人が鉢合わせし、ちょくちょくバチバチしながら飲み食いしていた時の話だろう。

 

「そうみたいですね。なんだか最近、新聞の発刊ペースが上がってるんですよね~」

「稗田家としては最初はどうかと思っていましたが、里の人たちは娯楽物代わりに読んでいたりするのでその程度なら良いかと思い見逃していました。最近は貴方の記事が目立ちますね。なので里の人間にはよく知られてますから今更痕跡の事は気にしないでいいとおもい・・・・・ってなんで頭を抱えているんですか⁉」

 

あの天狗~~~~~‼取材許可出してないのに勝手に記事にしたな‼

俺は注目されるのが好きじゃないというのに‼会ったらどうしてくれようか。

 

「毎度どうも!清く正しい射命丸です‼新刊を持ってきましたよ‼」

「あ、文さん。いつも新聞ありがとうございます」

「小鈴さん、いつも置かせてもらってありがとうございます」

「いえいえ、文さんの新聞は好評で張り紙を出したらいつもすぐなくなっちゃうんですよ~」

「あやややや、それは嬉しいですねぇ。ところでここでうずくまっている人がいますけど大丈夫ですか?」

「やぁ、いつぞやぶりですね新聞記者さん。なんてお名前でしたっけ?社説欄文さんでしたっけ?」

「いくら新聞作ってるからってそれだとしゃしか合ってないじゃないですか‼射命丸です‼ってあ、あなたは・・・・⁉」

「よくも無許可で新聞の記事にしてくれましたね」

「いやぁ、その・・・ほら・・・・・」

「それに前の時に俺は言ってたはずですよね」

「いや・・・、まぁ・・・はい、すいませんでした」

 

 

俺がマスコミ嫌いな訳を前の取材の時に言っていたはずだ。

 

 

「あの・・・・・常連さん?どうしたんですか?

「いや、こっちの話だから気にしないで。っと、でお祭りはいつどれだけやるんだ?」

「明日と明後日の二日間です」

「明日と明後日の二日間⁉」

「常連さん一週間来れられてなかったですからね~」

「明日となると・・・・出来るものにも限りがあるな・・・・。屋台で何やるかのリス・・・・え~となんか誰が何をやるかとかまとめた表みたいなものはある?」

「今この場にはないですね。ですが大丈夫です。全部覚えているので」

「へぇ~記憶力良いんだなぁ。俺なんか人の名前とかなかなか覚えられないから羨ましいなぁ」

「さっき私の名前も間違えてましたもんね」

「あれはわざとだ」

「ひどい‼」

 

いや射命丸さんよ。俺からしたらお前さんがしたことの方がひどいぞ。

 

「で、飲食店系はどれだけで何をやる?」

「えっとですね・・・・」

 

聞いた感じそこそこ数はあるようだけど、メニューは基本的にしょっぱいもの系が多いようだ。甘い物はかなり少ないみたいだ。甘い物でいい感じの物だと・・・・・・・アレかなぁ。

 

「なるほどね。まぁ、幸いほかの屋台と被らずにやれそうなのはまぁ・・・・」

「ではやって頂けますか?」

「いやぁ、でも材料を用意出来るかはわからないし、流石に作りながら接客までは人が多くなったら出来ないからなぁ。それが解決できるならやっても良いけど・・・・・。接客やって貰うんだったら看板娘になるような人だと良いね」

「では女性の人手が要るという事ですか?」

「阿求ちゃんが人手を用意する必要はないよ」

「と言うと?」

「いやだってここに人手があるじゃん」

「ほうほう、それは興味ありますねぇ。やはり小鈴さんでしょうかそれとも阿求さん?どちらにしてもいい記事になりそうです‼」

「いや違うよ。二人はむしろ祭りを楽しむ年齢だよ?何子供をお祭りの日までで働かせようとしているのさ。確かに見た目は満点だけどさ」

「ははぁ、やはりなかなかやりますねぇ」

「常連さん、その・・・・少し恥ずかしいです」

「何が?」

「なるほど。その・・・・・新聞に書いてあった通りですね」

「え?俺新聞になんて書いてあるの?二人とも何顔赤くしてるの?」

「それは少し考えたらわかりますよ。で、誰にするんですか?」

「射命丸さん、そっくりそのまま言葉を返してあげるよ。少し考えたらわかりますよ」

「でもここに居るのは仁さんと小鈴さんと阿求さん・・・・って私ですか⁉」

「他に誰がいるんだ」

「確かに文さんとてもお綺麗ですしね」

「小鈴さん?」

「えぇ、彼の希望に沿って尚且つ今頼めそうなのは貴女しかいませんしお願いします」

「阿求さんまで⁉」

「で、やってくれますか?」

「私は明日は取材があるので無理ですよ~。ちゃんとお祭りの事を取材しなければいけませんからね‼」

「そうか・・・・・。それなら仕方がないな・・・・」

「わかって貰えたようで何よりです」

「それなら無許可で記事にされた事を地底に持ち帰りながら帰る事にするよ。まぁ、地底にいる誰かに喋っても仕方がないね」

「ふふん、さとりさん達に言って何かするおつもりなんでしょうけど、その程度ではこの射命丸、揺らぎはしませんよ!」

「いや萃香とか勇儀とかだけど?」

「そんな‼それは困ります‼」

 

えらい態度の変わりようだな。昔は妖怪の山も鬼が支配していたって言うのはあったらしいけどそんなに怖いだろうか?

 

「でもなぁ。俺が困ってるのに助けてもらえないんじゃあもう地底に帰って酒飲みながら愚痴るしかないよねぇ」

「地底に帰られたらお祭りは?」

「阿求さんには申し訳ないけど俺はやっぱり参加できないかな~」

「射命丸さん、ここはお願いできませんか?」

「阿求さん、流石にそれは・・・」

「私からもお願いします‼常連さんのお料理が食べてみたいって里の皆も言ってるんです‼」

「小鈴さんまで・・・・」

「いや二人とも、無理強いは良くないからね。俺はこれにて地底に帰って酒でも飲む事にするよ。お邪魔したね」

 

俺は射命丸に背を向けて二人と顔を合わせて去ろうとした。

 

「・・・ますよ」

「ん?」

「やりますよ‼やればいいんでしょう!私もさすがに命は惜しいですからやります‼」

 

・・・・・計画通り。

きっとこの時俺は邪悪な笑みを浮かべていた事だろう。だって目の前にいた小鈴ちゃんとかビビってたし。

 

「よし、それじゃあさっそく準備に取り掛かろう。小鈴ちゃん悪いけど筆と墨と紙とメジャーを用意してもらえるかな。・・・・・・・・・・ありがとう。紙と墨と筆は阿求ちゃんに用意してほしい食材の表を作るからちょっと待っててくれ。・・・・・・・・・・・・・・・ほい、至急って書いてある奴は優先的に用意してください。あと必要なものを地底に取ってくるからそれまでの間に調理場の用意とかお願いします。あと小鈴ちゃんは射命丸のスリーサイズ測って記録しておいてくれ。じゃ各自行動開始‼」

 

 

さぁ、やると決めたら俺は行動は早いぞ‼

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

地底から必要な調味料やらちょっとしたものから色々取ってきて、臨時休業の張り紙を張って戸締りをしてきたから大丈夫だろう。

まだ食材に調達は住んでないみたいだから先に衣装の手直しを終わらせてしまおう。

 

「さて、スリーサイズを見ますかね。ってこれならちょっと手直しするだけで大丈夫そうだな」

「うぅ、乙女の秘密が・・・・・・」

「俺に見られたところでどうという事はないだろう。そう言うのは好きな男でも出来たらしておけ」

「何だかあまりにも扱いが雑過ぎませんかぁ」

「それはないと思うけどな。むしろさっきの事を実力行使で解決しなかっただけ優しいと思うぞ」

「そんな事言っても怖くはないですよ。何せ私は幻想郷最速を自負していますからね。いくら人間が能力に目覚めた所でどうともなりませんよ」

「勇儀とか萃香には勝てるか?」

「何ですか急に?」

「いいから。勝てるのか?」

「いや・・・・・、あの人たちはいろんな意味で勝てませんよ・・・・・」

「俺、今、萃香さんなら単純な身体能力でなら何とか勝てるぞ」

「え〝っ⁉」

「さて、手直しも終わったし、食材もまだ来ないみたいだし、そんなに言うなら一勝負と行こうじゃないか」

「いや~~~、流石に勘弁願いたいというか・・・・・・」

「人間が能力に目覚めた所でどうともならんのだろう?」

「いやぁ・・・・・あはははははははは」

 

「お待たせしました‼食材と調理場の準備が整いました・・・・・っておふたりとも何してるんですか?」

「阿求ちゃん、気にしないでくれ。さ、俺は仕込みに入りますかね。射命丸はそこの手直しした衣装着てみてきつかったり大きかったりしたら、そこのスリーサイズのメモ紙にでも書いておいてくれ。後でまたいじっとくから」

「はぁ、お気をつけて・・・・ってこれ私が着る服だったんですかぁ⁉」

「そうじゃなきゃ取りに行ってないよ。じゃよろしく」

 

 

明日の準備を始めて、射命丸にはバリバリ働いてもらう事にしよう。

何か後ろから悲鳴みたいなものが聞こえた気がするけど、気のせいだろう。

 

 

 

*********

 

~お祭り一日目~

 

昼間は準備で夕方からお祭りは始まる。

仕込みに時間がかかってちゃんと寝てないが、大丈夫だろう。

さてそろそろ射命丸が来るはずだけど来ないな・・・・・・・・・。

 

「遅いな。まさか逃げたんじゃ・・・・」

「逃げてませんよぅ・・・。ただこの衣装は恥ずかしくて・・・・」

「なんだ後ろにいたのか・・・・・っておぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

もし女性定員を雇った時の制服として作っておいたフリル付きの和服メイド服的な物。

ちょっとハイカラさんっぽい。それにエプロン装備で、袖口にフリルが付いてる感じだ。

 

何やかんや言いながら着てくる辺り良い奴だなぁ。

 

昨日引っ張り出して来たこれを店で使わなかった理由は二つある。

一つ目は結局定員を雇う事なく終わったから。

二つ目は・・・・・・・・

 

「やっぱちょっとスカートが色っぽすぎたかなぁ」

「自覚あったんですか⁉」

「いや、まぁ、うん」

 

スカートの長さは膝上のちょっと上ぐらいだ。正直射命丸の私服のミニスカートより長いとは思う。

ただ・・・・・・問題はスリットを深く入れ過ぎた。

一応スリットの間には紐が通してあってオーバーにヒラつく事は無いようにしたのだが、結構ギリギリなとこまで入れちゃってるんだよなぁ。

 

「こんな格好で大衆の目に晒されるなんて・・・・・。もうお嫁にいけません」

「そんな事はないだろ。むしろこんなかわいい娘を嫁にっしたいって人が多いだろうから貰い手には困らないぞ。よかったな」

「・・・・・・そこは『俺が責任取るよ』とかカッコいい台詞の一つや二つ言ってくださいよ‼」

「そんな無責任な言葉、俺はとてもじゃないけど言えないね。さ、諦めてしてほしい事の説明するからこっち来てくれ」

「とほほほほほほ。無断掲載のお代が高くついちゃいました・・・・・」

 

そんな暗い顔すんなって、祭りが終わった後でなんか出来たらするからさ。

さぁ、お祭りが始まるぞ‼

 

 

 

 

**********

 

 

 

~午後10時 お祭り一日目 終了~

 

 

「だぁぁぁぁぁ‼つっかれた~~~~~‼」

「まさかこんなに来るなんて思ってませんでした・・・・・・」

「だよなぁ・・・・・・。ほれ、さっき阿求ちゃんが持って来てくれた冷えたお茶」

「ありがとうございますぅ」

 

 

本当に人が多く来たから用意していた食材が無くなった。

要は売り切れたわけだが、多く用意していたものが売り切れたとなると正直しんどかった。

 

こんなにも人が来た理由はまず射命丸のおかげで出来てしまった俺の話題性と味も好評だったからかな。

 

俺の屋台は最近の外のお祭りじゃ定番になったクレープだ。

林檎のシナモン煮と生クリームを包んだ林檎クレープ、サツマイモをふかして裏ごししたものと生クリームかあんこを選べるサツマイモクレープ、そして牛筋を醤油などででトロトロに煮込み生のタマネギと一緒に包んだ肉レープ。

全部売り切れた・・・・・。明日も夕方から屋台は再開するけど急いで仕込みに入らないとな・・・・。

 

そして何より射命丸の売り子のおかげだろう。

元々記者をやっているからか人里でも顔が知られている(社会派ルポライターとしてだが)。

その時は割と地味な格好だからか、今回のような色物系の服が話題となり人が集まったのもある。

 

「射命丸、お疲れ。また明日も頼みたい」

「明日もですかぁ⁉」

「正直今日でこれだけ来たから、明日もってことはないのかもしれないけど、どうなるかわからないから正直来てくれると助かる」

「頼んではいますけど、それって強制ですよね~~~~」

「いや、別に強制じゃないぞ?明日は取材したいならしてくればいい」

「本当ですか⁉」

「ほんとだよ。そこで嘘はつかないさ」

「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらって取材にします‼」

「じゃ、お疲れ。今日は射命丸がいてくれて助かった。無理矢理で悪かったがありがとうな」

「い、いえ・・・、何だかそう真正面からお礼お言われると照れますねぇ」

「まぁ、こうなった原因はお前にあったって事で許してくれ。じゃ、悪いが俺は急いで調理場戻るわ」

「え⁉まだ何かするんですか⁉」

「今日の内に仕込んどかないと間に合わないものがあるからね。とりあえずお疲れ。その衣装はあげるよ。いらないんだったら切って別のモンにしたり捨てるなりしてくれて構わないから。じゃな、明日の祭り楽しめよ」

「あっ‼はい‼頑張ってくださいね!」

 

 

やっぱ射命丸っていい奴だよなぁ。

 

 

 

 

******

 

 

~お祭り 二日目~

 

 

やべぇ、阿求ちゃんが人手を貸してくれたとはいえ一晩で仕込むのは今までで一番キツかったかも知れない。

結局今日もあんまり寝られなったな。まぁ、あんまり疲れは残ってないから大丈夫なんだけどさ。

 

足りなかった人手は小鈴ちゃんが手伝ってくれるそうでなんともまぁ申し訳ない。

ちゃんと最初は事はていたんだけど、何と言えばいいのか・・・・・簡単に言うと押し負けた。

何でこう女って時々怖いというか押しが強いというか、そんな時あるよなぁ。

何か地元だろうと大学だろうと地続きの異世界みたいな所だろうと、どこに行ってもアイツみたいな女はいるって事だな。

 

小鈴ちゃんがいられるのは七時までだ。まぁ、自分の子供を見ず知らずのとこで働かせるのは親としてはあんまりいい顔はしないのは当然だよなぁ。

まぁ、少しの間だけでもいてくれるのは大変ありがたい。

 

「じゃあ、悪いけど小鈴ちゃんさっき言った仕事お願いね。ちょっと熱かったりするから気をつけてやるように」

「わかりました‼大丈夫ですよ、さっき練習させてもらえましたしね」

「まぁ、さっきの感じなら大丈夫かな。でも昨日とまではいかないかもしれないけど今日もお客さんが多く来るかもしれないから慌てないようにね」

「はい!昨日は行列が出来てましたもんね」

「ありがたい事にね。小鈴ちゃんも阿求ちゃんと来てくれたもんな」

「はい、サツマイモクレープがとても美味しかったです‼」

「それは良かったよ。ってもうちらほらお客さんが来るようだし頑張ろうな」

「はい!もうバリバリお手伝いしますよ‼」

 

実に頼もしい限りである。ただ稀にドジるのが怖いが。

 

「ほれ来てやったぞお前さんや。おや?お前さんは貸本屋の・・・。店は良いのかの?」

「あ、常連さんじゃないですか。仁さんとお知り合いなんですね。お店はお父さんに許可をもらったので大丈夫です・・・・・。途中までですけどね」

「マミゾウさんいらっしゃい。何か久しぶりですね。とりあえず何にしますか?」

「それじゃ、このさつまいもくれぇぷのあんこをお願いするぞい」

「サツマイモクレープのあんこ一つお願いします」

「はいよ‼少々お待ちを!」

「うん、実に美味しそうじゃのう。してあんこはこしあんかつぶあんか?」

「こしあんですね。つぶあんも好きですけど俺はこしあん派なので」

「うむ、わかっておる。流石狐とは大違いじゃの」

「へぇ、藍さんはつぶあん派なんですね」

「なんじゃ?お前さんあの狐が気になるのか?」

「とても気になりますね。ぜひ今度いろいろお話したいくらいですよ」

 

単純に九尾の妖狐ってものがどんなものかいろいろ聞いてみたいものだ。

無理に誘って拳が来るのは御免だけど。

 

「そうかそうか、そんな奴より儂とお茶せんか?」

「えぇ、時間があれ是非。はい、お待ち。熱いんで気をつけてくださいね」

「ふふん、今の言葉しかと聞き届けたからな。それじゃあほかの客も来そうじゃし、またの」

「ありがとうございました~」

「ありがとうございました~~~。って仁さんはおの常連さんとお知り合いなんですか?」

「そうだね。何度か店に来てくれたりもするし何より一番最初の通常営業のお客さんだからね」

「最初のお客さんだったんですか。私も一番最初のお客さんはよく覚えてますよ」

「さ、お客さんも来たし注文と会計よろしくね」

「はいお任せですよ‼」

 

 

さぁ、昨日よりは来んだろ・・・・・・・・・。

気合入れて頑張りますかね!

 

 

 

 

 

~ 午後七時 ~

 

 

そろそろ花火が討ちあがるからか一時の落ち着きを見せた頃。

 

「あ、そろそろ帰らないと・・・・・」

「もうそんな時間か。今日はありがとう。はい少ないけど今日のお礼」

「いえ、そんな、途中までしかお手伝いしか出来てないのに・・・・」

「いや、かなり助かったよ。俺の感謝の気持ちだからお祭りに使うなりなんなり使ってくれ」

「ありがとうございます‼」

「じゃ、送れなくて悪いけどお疲れ様」

「お疲れさまでした!・・・・・・っとよいしょ」

「何してるの?」

「家お客さんとして注文しようと思いまして。サツマイモクレープあんこと生クリームどっちもください」

「ありがとうございます。って二つも食べるのか?」

「お腹もすいてますし、甘い物は大好きなので余裕で食べられますよ‼」

「わかったよ。それじゃあ、ちょっと待っててね」

 

 

 

***********

 

 

小鈴ちゃんにクレープを渡した後すぐに思った事、真面目に困った。

今は打ち上げ花火の最中だから基本的に客は来ないが、これが終わればまた人が来る。

店と違って用意してからの会計等の仕事が一瞬で全部来るから流石に回せない。

回転率が大幅に下がるな。まぁ、屋台を一人でやるのは普通だし、仕方がないか・・・・。

 

「すいませーん」

「はい、少年。どれが良いのかな?」

「このお肉のがいい‼」

「わかったよ。少し待っててくれるな?」

「うん‼偉いから待てるよ」

「そうか確かに偉いな。そんなえらい子にはおにーさんサービスしてあげよう」

「やった!昨日いたおねーさんはいないの?」

 

手を動かしながら調理は簡単なんだけど、なかなかの痛い所だったので少し驚いた。

 

「あ~あのおねーさんはだな・・・」

「いますよ‼もう少しだけ待ってくださいね~」

「射命丸⁉」

「はい!清く正しい射命丸があややややっと参上しましたよ‼」

「お、おう・・・・・・」

「おや?驚きを隠せませんか⁉」

「・・・・・まぁな。はいお待ちどうさま。サービスでお肉の量少し多くしてあげたから皆には内緒だぞ」

「わかった‼じゃあね~、おにーさんおねーさん」

「はい、落としちゃだめですよ~」

「じゃあな~・・・・・・・・ってなんでお前がここに居るんだ?しかも衣装までしっかりと着てきて」

「それは・・・・・、なんとなくですよ。なんとなく楽しそうにやってるのを見て思わず困っているであろう時に来ただけですからね、他意はないですから」

「そうか。何にせよ助かったぜ。多分この花火が終わったらまた人が多く来るところだったからな」

「そこな本当に気にしないんですね・・・「なんか言ったか?」いえ、何でもないですよ‼いや~~~花火も綺麗ですねぇ」

「そうだな。こんなに派手にやるなんて思ってもなかったよ」

「ここの人はお祭りとか宴会とか好きですからねぇ。そこに手加減はしませんよ」

「それは愉快でいい世界だな。・・・・この光景は忘れないようにしないとな」

「仁さん?」

「射命丸のスカートのスリットから見えるおみ足とかな」

「ちょっと、仁さん⁉」

「おっとすまない。とりあえず花火も終わったみたいだし準備始めるぞ」

「いえ・・・・・・まだですよ。最後に大きいのが来るはずですから。・・・・・仁さん・・」

「マジで⁉それは見逃せないな‼」

 

 

ドカン‼ドンドンドンドンドンドカン‼ドカン‼

「                 」

 

最後の乱れ撃ちに紛れて射命丸がなんか言ってるが何言ってるかわからない。

 

「すまん聞えなかった。なんて言ったんだ?」

「何でもないですよ。さぁ、お客さんが来ますよ‼」

「あぁ、じゃ、よろしく頼む」

 

 

何を言ったんだか。恨み言じゃないといいんだけどなぁ。

 

 

 

*********

 

 

~ 祭り終了 三十分前 ~

 

「やっと落ち着いたな・・・・・」

「まさかここまでまた来るとは・・・・。ってなんか作業効率上がってません?」

「それが一応店やってる人間の意地さ。昨日より良い状態に出来なきゃお客さんに悪いからね。って言ってもさすがに疲れたけど」

「それでした一旦裏で息抜きをしてきたらいいんじゃないですか?ほら、私はここに居るのでお客さんが来たら呼びますから」

「いやでも後少しだし・・・・・」

「でもこの後後片付けやらあるんでしょう?いいですから裏で休んでくださいよ」

「わかったよ。じゃあ、客が来たら呼んでくれよ」

「もちろんですよ。この射命丸にお任せを‼」

 

 

 

 

「ふぅ、流石に疲れたなぁ」

 

こんなにせわしなく動いたのは久々かもしれない。違ったかな?

まぁ、なんにせよ全くと言っていいほど勝手の違う環境で動くって言うのはなかなかに疲れる。

 

持ってきたお茶を飲みながら、疲れてるからかいろいろ考える。

あっという間に時間ってのは過ぎていくもんだ。楽しければ楽しいほど。

そのくせ後々色あせないから困ったものだ。いや、いい事でもあるんだけどね。

でも、色褪せな思い出って言うのは時に辛さを感じさせることもある。

今回のここでの思い出がそうならないために俺は何が出来るんだろうなぁ。

 

 

『あ、  さんじゃないですか。お祭りに来て信仰集めですか?』

 

おや?知り合いでも来たのか。

裏に俺がいるってこと忘れずに話してくれよ。そして、お客が来たら言えよ。

 

『いえ、今回はただ遊びに来ただけですよ~。私だってたまには純粋にお祭りを楽しみたいですからね‼』

 

何か聞いた事あるような声だなぁ。

まぁ、声なんて歩いてるだけでいろんなの聞いてるからそう感じるのかもしれないけどね。

でもなんかこの感じ本当に懐かしいような・・・・・。

 

 

『そうなんですか。でも時間的にもう終わりますよ?』

『そうなんですけどここのクレープが気になって・・・」

「そう言えば  えさんは    から来たんですもんね。少し懐かしいんじゃないですか?』

『そうなんですよ‼私大好きだったんですけどここじゃ無かったですからね。昨日も来たんですけど売り切れちゃって食べられなかったのでこの時間ならもしかしたら・・・・って来たんですよ。しかも季節に合わせたネタが良いんですよ‼そしてこの肉レープの名前の付け方‼この店主のセンスは素晴らしいと思います‼』

 

おいおいそんなに褒めるなよ。照れちゃうだろ。射命丸達には微妙な顔されたがわかる人にはわかるみたいだな。

嬉しくなって思わずサービスしちゃうじゃないか。

 

『お、それでは読みが当たりましたね。残りわずかですがありますよ‼』

『全部を三つずつください‼』

『全部三つですか⁉』

『はい‼   様も   様も懐かしくて喜んでくれますから‼』

『はぁ・・・とりあえず店主を呼ぶのでお待ちくださいね』

 

って客が来たら呼ぶって言ってたじゃないか・・・・。

 

「仁さん、お客さんが来ましたよ~」

「大まかに聞こえてたよ。知り合いが来たみたいだな。それに最後に大きい注文じゃないか、多分丁度売り切れるぞ」

「じゃあこれで終わりですか‼」

「そうなるな。さ、戻って最後にひと仕事しますか‼」

 

 

 

俺は分かっていた。多分伊吹さん達と初めて飲んだあの日からあの2人の反応を見て。

でも近づこうとは思わなかった。そのまま何もせず去ろうと思っていた。

多分会ってしまったら本当にどんな顔をすれば、どんな言葉を掛けたらいいのか本当にわからなかったし予想も出来なかったし自分で自分をコントロールできるかわからなかったから。

 

 

 

「お待たせしました~。ありがとうございます、すぐに作りますのでしばらくお待ちを・・・・・」

「っ⁉」

「あれ?二人ともどうしたんですか?」

 

 

 

この場に射命丸が居てくれた事に感謝しながらも、すぐには受け入れられなかった人物の名を口にする。

 

 

 

「早苗・・・・か?」

「仁さんっ・・・・」

 

 

 

―――――――――――――――それでも運命のいたずらか出会ってしまった。

 

 

 

                       ~鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り 9 日~

 

 

 




いつもの事ではありますが、最後まで読んで頂きありがとうございます。
おかげさまで投稿現在(2017年10月5日)UAが1500を超えるくらい読んで頂けている事に感謝しています。

・・・・・まぁ、俺のお噺が面白いというよりは完全に原作パワーなような気がしないでもないですが(笑)。
いつか俺のお噺が面白いと多くの方から言って貰えるようになれるよう頑張っていきたいと思いますので応援よろしくお願いします。

と言いつつ残りの仁君の期間はそう多くはないんですけどね~。

今回の射命丸は個人的にはグッとくる見せ場を作ったつもりではいます。
彼女は彼に何を言ったのでしょうね?想像して楽しんでもらえたら嬉しいです。
個人的にグッとくる感じ伝わるといいなぁ。
そして売り子姿の恥ずかしがっている絵を描いてくれる勇者はいないだろうか・・・・・・・。


はい、話を戻します。

そして今回のお噺でとうとう七夕の閑話以来、そして本編初となる東風谷早苗さんの登場回でした。
まぁ、そうなると次回は・・・・想像ついちゃうかもしれませんね。
お噺の初期から存在を匂わせてはいましたが、いつ出てくるのか不安だった皆さん。
安心してください、ちゃんと出ましたよ。そして出ますよ。
という訳で彼らがどうなるか、いやどうなってしまうのかお楽しみに‼

と言う訳で今回はここまでで筆を置きたいと思います。
俺では皆さん次回でまたお会いしましょう。さようならさようなら



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かこといま

お久しぶりです。ちゃんと生きていましたよ。忙しくて死にかけましたけどね、どうもノリさんです。

今回でついに20話突破しました‼応援してくださっている方が居られましたらありがとうございます‼忘れられし人気投票企画がこれで動きますので良ければ活動報告にありますのでよろしくお願いします‼

という感じですが本編に入りたいと思います。

それでは本編どうぞ‼


「早苗・・・・か?」

「仁さんっ・・・・」

 

「おやおや、二人ともお知り合いでしたか。それなら弾む話も・・・ってあれ?」

 

・・・・・まぁ、今回は素なのかあえてなのかわからないけどこの空気の読めなさに感謝する事にしておこう。

祭りの喧騒よりも、さっきまで聞えなかったクレープを焼く音が聞こえているような気がする。

 

「・・・・・・・・・・・」

「あの~~~、仁さん。何ですかこの空気は?」

「あとで話す。とりあえず集中させてくれ」

「いやそれは良いんですけど、さっきから早苗さんが話したそうにしていますし、久々の再開なら顔くらい見てあげても・・・」

「悪いけど、今の俺にそんな余裕はないよ。ちょっとその事に関してはもう触れないでくれ」

 

なんで、何で出会ってしまった。会わないようにしてきたはずなのに。近づかずに終わろうとしたのに。過去に触れずに帰ろうとしたのに。どこにいてもどこまでも世界は俺に残酷らしい。

久々に少しだけ見たけど、何か少し大人っぽくなってるし、普通に身長とか伸びてるし色々外見だけでも成長してるな。まぁ、三年くらいたってたら早苗の年代だったら結構変わっててもおかしくないか。

元気そうな姿で何より。隣の家の子供とゴーヤは育つのが早いって言いますよね~~~。

 

でも・・・・声とか話している感じとかあの頃と変わってない。

 

・・・・・これは思っていたよりも精神的に衝撃があったらしい。

冷静に分析しているつもりだけど、どうもいつもみたいにコントロールが出来てないみたいだ。

早く帰って貰おう。出来るだけ話さないようにして。

 

 

「・・・お元気でしたか?」

「・・・・・・・・・・・」

「あの、この後少しお時間頂けませんか?いろいろお話がしたいんですけど・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・やっぱり怒ってますよね」

「それは違う」

「え?」

 

 

あ、喋ってしまった。まぁ、喋ってしまった物はしょうがない・・・・・か。

 

 

「お前達には怒りは一切感じてない・・・・と思う。ただ・・・・」

「ただ・・・・・」

「ただ・・・何ですか?」

「いや・・・・・、お待たせしました。ご注文の品です」

「言ってくださいよ。何を言おうとしたんですか?」

「・・・・・・」

「あの・・・・・答えてあげたらいいんじゃないですか?」

「悪いけど早苗と話すつもりはない。金は要らない。お供えもんだと思ってもってけ。ただ、この日この時この場所であった事はすべて忘れろ」

「さすがにそれは酷くないですか‼」

「いや、良いんですよ文さん。それじゃあ、ありがとうございました。・・・・・・もし、少しでもお話をする気になったら・・・・・守矢神社に来てくださいね。明日、待ってますから」

「・・・・・・・・・・」

 

 

・・・・・行ったか。このほんの少しの時間でぶっ倒れそうなぐらい疲れた。

なんで、アイツは笑っていられるんだ。俺は・・・・・・あいつに酷い対応しかしていないというのに。

変わり果てた俺の情けない姿を晒しただけだった

俺にはわからない・・・・・、あいつはいったいどんな気持ちだったんだろうか、どんな心だったんだ。

 

 

「・・・・・・あの大丈夫ですか?」

「あ?あぁ、大丈夫だ。何も問題ないが?」

「いや、明らかにそんな顔色で言われても説得力も何もないんですけど・・・」

「そんな事はないぞ、ほらこんなにもピンピン・・・・・・・っつぅ」

 

 

 

何で目の前に床がある。・・・・・こりゃマズったなぁ。

いつも肝心な時に踏ん張れないんだよなぁ、俺って男はさ。

なんか色々と・・・・情けねぇなぁ・・・・。

 

                       

                        

 

*******

 

 

 

 

また会えた。それはとても嬉しい。

でもかつて共に過ごした彼とは何かが決定的に違った。

喜びも嬉しさもある。だけどこの胸の内にある気持ちは何だろうか。

 

「ただ今戻りました・・・・・」

「おや?早苗元気がないじゃないか?やっぱり祭りが終わりかけてたみたいだな。だからこの時間に行くのは?って言ったんだけどねぇ」

「でも手元に持っているのは何だか美味しそうなものだねっ‼もしかして私達にお土産?」

「神奈子様、諏訪子様・・・・・・」

「・・・・・・話を聞こうじゃないか」

「神奈子?」

「諏訪子、袋の中を見て見ろ。とても美味しい物に違いはないが、・・・・・・同時にとても懐かしい物でもある」

「どれどれ・・・・・あぁ、なるほど。これは・・・・・仁に会ったんだね?」

「・・・・はい」

 

おふたりとも何やら苦い顔をされましたがとりあえず中に入って冷めきる前に食べてしまいましょう。

これは仁さんが作ってくれた二年半ぶりほどの久々のお手製の料理ですからね。

 

 

 

*******

 

 

~ 守矢神社 茶の間 ~

 

 

クレープなんて本当に久々に食べました。やっぱり美味しかったです

仁さんの料理の腕も以前よりさらに磨きがかかっているみたいです

全員、全部クレープは頂きましたよ。やっぱり甘い物は別腹ですね

・・・・・・それだけじゃないとは思いますけどね。私がそうですから

 

さて、いろいろ聞きたいのですが何やら空気が重くなかなか話が切り出せません

 

「・・・・やっぱり美味しかったね。仁の料理はさ」

「そうだな。さらに腕に磨きがかかっているんだろうな。ここに来て食べた甘味の中で1番かもしれないな」

「そうですね。私も料理の腕に自信はある方ですけど、やっぱり仁さんには敵いそうにはないです」

「そうだな。・・・さて早苗、何から聞きたい?」

「神奈子様・・・」

「多分、聞きたい事とか多かったり言いたい事とかまだ整理ついてない感じかな」

「諏訪子様・・・」

 

おふたりにはやっぱり見透かされていたみたいですね

 

「それでは・・・・・まずおふたりは仁さんが幻想郷に来た事を知っていたんですか?」

「知ってたね、私も神奈子も天狗の新聞を見てだけどさ」

「⁉」

「最近新聞見てないなぁって早苗は言ってたけど、ここにあるよ」

 

ドサッ

 

ここ一カ月近くに発行されたであろう新聞が普段から見たら多い数溜まっていました

これだけ文さんが新聞を発行し続けていたという事ですね

全く気が付かなかった。しかも結構内容は仁さんが出ていました

 

「最初は偶然早苗がいなかった時に私が見てね。神奈子に相談してまだ見せないほうが良いだろうって事で隠しておいたんだよ。記事を見る感じ、彼は私達とあまり会いたくないみたいだったしね~」

「まぁ、彼自身望んでいないのなら会う訳にもいかないだろう。ましてや私たちは以前彼に何も告げずに去っていったこともあるからね。その事を気にしているようなら余計に会う訳にもいかない。天狗や色々な所から話を聞いたら色々聞いたし、もうじき帰るというしね」

「でも、とうとう会っちゃったかぁ。結構いろいろ手を回してはいたんだけどなぁ」

「どうして・・・・・・どうして隠したんですか?」

「うん・・・・・、早苗は今日彼にあってどう思った?」

「あんまり話せてないのではっきりとは言えないですけど・・・・なんだか以前とは少し違っていたような気がします・・・・何と言うか・・・・・少し怖いような・・・・・」

「そうか・・・・」

「神奈子はね、変わった彼を早苗に見せた時もしかしたら悲しむんじゃないかって心配してたんだよ」

「いや、まぁ、結果としてそれは杞憂だったわけだけどな・・・・」

「会いたいとは思わなかったんですか?」

「それは会えるのなら会いたいとは思うさ。でも時には思い出のままであった方が良いこともあるからね。あの時の思い出の彼のままの方が早苗には良いんじゃないかと思ってな」

「どうして・・・・そうやって諦めようとするんですか?」

「うん?」

「神奈子様たちの言う事もわかりますけどっ!どうして⁉どうして私達から会いに行こうとしなかったんですか?」

「いや、だからそれはだな・・・・・・・」

「それって神奈子様達も怖かったからじゃないんですか⁉何もい言わずに去ってしまった事を後悔しているから‼だからそんなに彼の事に対して過敏になってるんですよね?だっていつもの神奈子様達ならすぐに会いに行くじゃないですか‼私を理由にして逃げないでくださいよ‼」

「お、おい早苗⁉」

 

ピシャ

 

「あ~あ、言われちゃったね神奈子。今まで協力はしてきたけど実際どうなのさ?」

「何がだ?」

「いやさ、本当に変化した彼に合って悲しむのがいったい誰なのかなって」

「それは・・・・」

「早苗ももう彼と会ったんだしもういいんじゃないのかな?無理して強がるのもさ」

「何の事かな?」

「バレてないと思ってたの?早苗にはバレてなかったけど、私は知ってるんだよ」

「・・・何をだ?」

「毎晩早苗が起きていない時間に新聞を読みながら悲しそうな顔をしてた事だよ~」

「なっ⁉私はそんな顔はしていない‼」

「読んでたことは否定しないよね~。まぁ、何か思うところがあったんじゃないの?神奈子は仁のこと好きだもんね~~」

「なっ⁉」

「戦闘術的な感じで格闘術を教えたり、世話焼いたりとか。特定の人間にしちゃ結構べったりじゃなかったっけ?」

「うぐ・・・・。それを言うなら諏訪子こそどうなんだ?」

「なにがさ?」

「抱き付いたり仁の足の上に座ったり、本当にベタベタしてたのはどちらなんだか」

「そりゃ~、私は仁の事好きだもん」

「それは私も・・・・」

「あぁ、もちろん女としてだよ?」

「なっ⁉」

「神奈子ってばそこんとこ鈍いね~」

「ほほほほほほ本当なのか?」

「わかりやすく動揺してるなぁ」

「早苗が彼の事を好いているのは知っていが、まさかお前までそう思っていたとは・・・・」

「前から本人の前でも言ってたじゃん。仁の事が好きってさ。まぁ、その当人にも気付いて貰えてない辺り仁も相当ニブチンだけどね~」

「確かに『私仁の事好きだよ~』とか当時言ってはいたがそういった意味だとは思ってなくてな・・・・・」

「神奈子と言い・・・・仁と言い鈍いのが多いよねぇ、私の周りにはさ」

「それは何と言うか・・・すまなかったな」

「謝る事じゃないよ。相手の心がが分かるなんて覚妖怪じゃない限りは誰だってそうだしね」

「確かに違いない」

「でもだからこそ間違えるんだよ。で、今回は間違えたみたいだし」

「・・・・・・そうみたいだな。早苗の言った通り、私が少し気が引けていたのかもな」

「少し?」

「・・・・・・まぁ、とにかく後で早苗には謝っておかないとな」

「そうしたらいいよ。その後どうするか考えないとね。後どれくらいで帰るんだっけ?」

「あと・・・・・9日くらいだったかな。あまり時間はないと思えばいい」

「そっか~。とりあえず、明日にでも行動に移さないといけないかもね」

「そうだな。・・・・・・ところでお前はどうなんだ?」

「何が?」

「ここでとぼけないでくれ」

「あははは、ごめんごめん。そうだねぇ・・・怖いよ」

「そうか・・・」

「好きな人が変わってて、私の知ってる彼じゃない彼を見るのは怖いし、そうだったら辛いよ。それに何も言わずに去っていくなんて酷い事したのにさ。その本人に会えるようになったら会いたいなんて身勝手すぎるよね」

「諏訪子・・・」

「でもやっぱ会いたいよ・・・。しょうがなかったとはいえ会えなくなったのは悲しかったしね」

「そうか。まぁ、アレだな。諏訪子も仁の前じゃ、ただの少女と変わらないな」

「何を言うか!そういう神奈子だって稽古つけてる時とかすごく嬉しそうにしてたし、私が仁にくっついた時とか羨ましそうに見てたじゃんかーー‼」

「なっ⁉なんだと!そんな訳ないだろう!私はあくまで友人というか師匠としてだな・・・・」

「ほら、また逃げてる。確かにあの頃の神奈子はそういった立場でもあったと思うよ。でも今はそうじゃない。なのに素直にならずにまたそうやって逃げてる」

「うぐ・・・・」

「私といる時くらい、本音で話してくれるといいのにさぁ。いったいどんだけの付き合いだと思ってるのさ」

「それはまぁそうだがな・・・・・」

「まぁ、それも神奈子だからしょうがないね。仁はどうなってるかなぁ」

「成長はしてるだろうな。ただ記事で見ている限りでしかわからないが、きっといろいろあったような気がするな」

「確かねぇ。何があったんだろうね。ただ、昔から注目される事とか苦手なのにこういうのに出てくるようになったりするなんて良い変化もあったのかもね」

「とりあえず明日からだな・・・。今日はもう休むか」

「私はまだ目が冴えてるから、もう少し起きてるね~」

「わかったよ。起きてるのもほどほどにな」

「わかったよ。おやすみ」

「あぁ、おやすみ。また明日な」

 

 

 

 

********

 

 

 

 

「神奈子は・・・・もう行ったね」

 

私は本当に我儘だ

一緒にいた時も無茶ぶりして、彼は時に笑いながら、時に渋い顔をしながら、時に本当に面倒くさがりながらも、何だかんだ言いながらも私の無茶ぶりに答えてくれた

正直幻想郷に来た事は全く後悔していない

ここはここで楽しいし、いろいろあったからもう愛着みたいなものもない訳じゃない

でもいつまでたっても私の中で彼との思い出は色褪せずに残っていて

思い出だけじゃなくて彼自身への想いも変わるどころか以前にも増してしまっている

 

だから天狗の新聞に写真が載っているのを見た時には本当に驚いた

嬉しかったのもあるが、それよりも私には彼がやつれてしまっているかのように感じた

体がやつれた訳じゃない。でも顔が疲れ果てたような・・・そんな印象を受けた

 

そんな事を感じてからか、インタビュー記事の文章を見ても彼が無理しているようにしか感じられなかった

私はそんな彼に会うのが少し・・・いや、かなり怖くなった

だから神奈子に相談して神奈子の判断に異を唱えずに協力する事にした

 

でも実際いろいろと思っていたのと違う事が多々あった

人里では鈴奈庵くらいしか行かないって聞いてたし、基本的に地底にいると聞いたからあまり早苗と会う確率も低いんじゃないかと思った

 

でも、今回出会ってしまった。これも早苗が会いたいって思ってたから起きた奇跡なのかな?

 

早苗が彼の事を好きって言うのも、ここに来てからも会いたいって思っていたのも知っていた

神奈子が今は自覚してないのかもしれないけど、好きな事も、彼に対して引け目を感じている事も知っていた

私は早苗よりも神奈子よりも前から彼の事が好きだったし、二人の気持ちは痛いほどに分かっているつもりだ

 

でも、私は早苗のように覚悟を決めて動こうとする事も、神奈子のように終わらせようとすることも出来なかった

 

一番本音で話していないのは私かもしれないね

・・・・・・・・一番強がってたのも逃げてたのも私で、きっと私が一番卑怯だと思う

 

何だか仁が絡むと私のペースが乱されるというか、普段の私らしくないのかもしれない

でも何だか、それも嫌じゃなくて・・・・

 

 

「ふふっ、神様三柱に愛されたり、やきもきさせるなんて罪な男だね、仁は」

 

 

明日に備えて寝よう

寝てまた明日からどうするか考えよう

 

 

会えた時には、また笑ってお話しできるよね?

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

~稗田家 客間~

 

 

ま~た知らない天井ですかぁ。ここに来てから一生分の意識を飛ばしている気がする。

 

 

で、ふかふかの布団が俺が寝ているのと、隣に合わせてもう一組。

あぁ、ブン屋が寝てたか。昨日は多分運んできてくれたのかな?

だとしたら申し訳ない事をしたなぁ。無理矢理働かしてしまった物なのに面倒掛けてちゃ世話がない。

 

 

 

「ふぁぁ、今何時だ・・・・」

「大体、九時半くらいですね」

「うわっ、びっくりしたぁ」

「こっちがびっくりですよ。昨日いきなり倒れたりするんですから」

「いや、それは本当に射命丸に申し訳ない。正直君がいて助かった、ありがとう」

「いやぁ、素直にお礼を言われるとなんだか恥ずかしいですねぇ」

「いや本当に感謝しているからな」

「で、なんで急に倒れたんですか?」

「疲れが祟ったかなぁ。いやー働き過ぎってのも良くないね。射命丸も気を付けなよ」

「その言葉はありがたく受け取っておきますが、とぼけないでください。私が今までどれだけの新聞を書き続けてきたと思っているんですか。さすがに物や人を見る目は人よりも自信あるんですよ」

「いやぁ、マスコミは怖いねぇ」

「良いから話してください。もう迷惑かけた以上思い当たる事は話して頂きますよ」

「こうやって拒否しにくくするんだよねぇ。まぁ、良いよ。わざわざ隠す事じゃないけどわざわざ話す事でもないから話してなかっただけだし」

「では、早苗さん達が無関係ではないですよね」

「まぁ、多分ね。簡単に言うと、以前にも話した神社消失が早苗達の事だ。その後日、目の前で俺以外の家族が死んだ。その事でマスコミに追い込まれた時期があった。その事を連想して精神的に負荷が来て倒れちゃったんだと思うよ」

「笑って話してますけどそんな感じで話せることじゃないと思いますよ?」

「普通だったらね。まぁ、俺はそんな感じの人間って事さ」

「まぁ、原因はなんとなくわかりました。詳しくは聞きません」

「うん。そうしてくれると嬉しい」

「で、早苗さんに誘われてましたけど、行かないんですか?」

「行かないよ」

「即答ですか・・・」

「うん。俺と彼女達は会うべきじゃないよ。思い出は思い出のまま終わらせたほうが良いさ」

「会いたくないんですか?」

「・・・・それはどうだろうねぇ」

「珍しくはっきりしませんねぇ」

「そんな事はないと思うけど」

「いいえ、いつもだったらはっきり答えてますよ」

「俺のイメージそんな感じなんだなぁ」

「ええ、私の知っている貴方はいつも面白おかしく生きていて、自分の心に正直で、どんな相手や場所だろうが言いたい事は言う。そんな人間ですよ」

「まぁ、概ね間違っちゃいないけどさ。俺の心って何なんだろうねぇ」

「え?」

「いや、忘れてくれ。まぁ、会いたいような会いたくないようなそんな感じだよ。でも、思い出のまま終わらせておいたほうが良いだろうし、きっと今の俺を見たらがっかりさせちゃうだろうし、何よりも俺が何言っちゃうかわからないしね。それだったら断然合わないほうが良いよね」

「そうやって理屈こねないで、もっと簡単に考えてくださいよ‼」

「⁉」

「さっきから聞いてたらいろいろ確かに筋は通った事を言ってますけど、貴方はまた早苗さん達と笑って話したくないんですか⁉」

「それは・・・・・」

「出来る事ならしたいんじゃないんですか⁉」

「まぁ、確かにとても楽しくて幸せな時間ではあったよ。でも、さ。やっぱ本当に過去で終わらせたほうが良い事だってあると思うんだよ」

「でも少なくとも、過去で終わらせていい物じゃないと思います」

「それを決めるのは俺であって君じゃあないと思うんだけどなぁ」

「そうですね。でも、過去で終わらせていい物だと思っているなら、私に早苗さん達の事を話してくれた時に見せていた本当に幸せな顔はしませんよ・・・・」

「何で君が泣きそうになってるんだ」

「なってません‼とにかく、行ってください‼行った後で私に文句とか恨み節とかあるなら何でも聞きますから‼」

「なんでそこまで・・・・・」

「それは・・・・・貴方を取材してて・・・その内に何だか本当に楽しそうに動いてるの見ていいなぁって思ってたんです。私達天狗の社会は堅苦しいって言うか上下関係が厳しいので結構自由に動けないんですよ」

「それは何か聞いたことはあるな」

「だから、そんなんじゃない本当に自由にしたい事が出来る、やろうと思って実行できる貴方がとてもかっこよくて・・・・。だから貴方には後悔と言うか・・・・自由に動けるはずなのに、貴方のしたいように動いてないのは嫌なんですよ。・・・・・ってさっきからなんだかめちゃくちゃな事言ってますね。記者は理論整然としなきゃいけないのに、これじゃあ失格ですね」

「・・・・・・・・そんな事はないさ。今の言葉は確かに俺の胸を打つだけの熱意はあったよ」

「そう言って貰えると助かります」

「じゃ、行こうか?」

「へ?」

「早苗たちの所へだよ。俺は場所を知らないからね。俺を乗せた以上案内くらいはしてくれるんだろ?」

「やっといつも通りに戻ってくれましたね。良いですよ、案内くらいはします」

「よし決まりだな。とりあえず」

「さっそく行きますか?」

「いや、まず風呂だな」

「はぁ・・・。行こうってノリじゃなかったですか⁉」

「いや、俺昨日から風呂はいってないしなんか気持ち悪いから、一回汚れとか洗い流したい。行くのはそれからかな」

「ぷっ」

「なんだ?笑う事はないだろ」

「いえ、何だか仁さんらしいなぁって思いまして」

「お前のおかげだよ、文」

「えっ⁉」

「さ、風呂やに行こうか」

「え、ちょっと今なんて言いました⁉もう一回‼もう一回言ってください」

「それよりも風呂だな。ここの屋敷の借りるかな」

「ちょっと話を聞いてくださいよぉ~~~~~~~~‼」

 

 

あ~~~、聞えない聞えない。

らしくない所見せまくって、おまけにらしくないことまでして正直恥ずかしいんだ。

し~~~~らないっ(焼き芋の屋台風)。

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

~守屋神社 十二時~

 

 

 

 

「早苗さぁ。誘ったはいいけど来ると思うの?」

「わかりませんけど大丈夫だと思いますよ。多分ですけどね」

「諏訪子が心配するのも無理はないがもし入れ違いになったら大変だしな。今日はここで待つのが一番いいだろうな」

「そりゃそうだろうけどさ~」

「とは言っても、もうお昼時だしね。早苗、一旦中に入ってお昼ごはんにしようじゃないか」

「・・・・・・・そうですね。そうしましょうか」

「今日のお昼は何?」

「諏訪子様すぐに食い付いてきましたね・・・・。えっと、参拝者から頂いた兎肉があるのでそれで炒め物にでもしましょうか」

「お昼からなかなか奮発するな」

「特に深い意味はないですよ」

 

 

「おや皆さんおそろいでしたか」

「天狗じゃないか。どうしたんだいこんな時間に」

「八坂様ご無沙汰してます。えっと今日は案内をしに来ただけです」

「そうか、ご苦労。しかし索道が動いている様子はないが?」

「あ~、それはですね」

 

ガサッ‼

 

「何事⁉」

「敵襲⁉」

「えっ、敵ですか⁉」

 

順に諏訪子、神奈子、早苗か。

何か・・・・反応が物騒すぎないか?

いや、道ですらない草むらから何か飛び出してきたらそうなるものか?

 

それよりも・・・・・・・・。

 

「射命丸さんよぉ。索道があるなら言ってくれても良いんじゃないですかねぇ。飛べないから山肌走ってきた俺の身にもなってくださいよ。せっかく風呂入ったのに葉っぱまみれなんですが・・・・」

「あはははは、それは申し訳ない。ま、まぁ、とりあえず着いたので私はこれでっ‼」

「あっ‼おい‼」

 

逃げやがった‼今度会ったらマジで恨み節行ってやる。

とまぁ、冗談は置いといて。

 

 

「久しぶりだな、神奈子に諏訪子。昨日ぶりだけど久しぶり早苗。昨日は悪かったな」

 

 

過去は過去であった事。もしかしたら本当に過去で終わらせておくべきだったのかもしれない。

偶々、過去と今がつながって、今この場にいる。

 

多分俺にとって大きな何かはあるんだろう。それが何かは・・・・俺にもわからないな。

 

 

 

 

                     ~ 鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り9日  ~

 

 

 




毎度ながら最後まで読んで頂きありがとうございます。

今回はタイトルにこだわった回でした。無理矢理すぎる点がありますけど許してください。だいたいいつもそんな感じがしますけどね。

なんでわざわざひらがなにしたかというと、「まをとって」頂くと「かことい」が残ると思います。
「」の中を漢字変換して頂くと「間を取って」「過去問い」となります。

これらから一文にまとめると、「間を取って、過去問い」と言った感じになります。

仁君が適切なタイミングて過去に向かい問いかけるお噺という意味でこのタイトルにしました。このお話で完結したタイトルではないんですけどね。
少なくとも次回の本編まではかかわりのあるタイトルかな?と思っています。

かなり強引ですね。自覚はあります、はい。でもこんな感じの創作があってもいいのではないでしょうか?楽しんで頂けると幸いです。

私事ながら、今回のお噺で20歳で投稿する最後の噺になります。
20歳最後の投稿が20話目というのは単なる偶然なんですが、なんだか不思議なものを感じます。

これからも楽しんで頂けるように頑張ってまいりますので、応援等して頂ければ幸いです。

人気投票と好きなお噺投票も開始となりますがあまりにも少ないと企画倒れですかね・・・・。


とりあえず今回はここまでで、筆を置きたいと思います。
それでは皆様、次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。


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少女のおもい

越冬のお供の電気ケトルがお亡くなりになってしまいました、今年の冬は厳しそうです。


着々と同人誌用の準備などを進めていますがなかなか大変ですね。本編など進めながら着々と頑張っていきます。皆さんも体調は崩さないよう頑張ってくださいね。・・・・・ケトル買わないとなぁ。

と言いつつ本編をどうぞ‼


射命丸の案内に走りながら(あいつは飛んでいたが)ついていき、たまたま草むらから飛び出た場所はかつてよく見た懐かしの鳥居だった。

これ結構古いけどまだ残ってたんだな・・・・。

思っていたよりも心の整理が自分の中でついていたからか、何も衝撃的な事はなかった。

そこにあるものを適切に捉えられている。いつも通りだな。

そして、その鳥居の先に居たのは・・・・・・・・・

 

 

「久しぶりだな、仁。ちゃんと稽古はしていたか?」

「一応はな。気まぐれでだけど」

「ほんとに久しぶりだね‼また会えて嬉しいよ‼」

「諏訪子は相変わらずちっさいなぁ」

「うっさい‼」

 

 

懐かしい、懐かしいなぁ。

・・・・・やっぱりいたんだよな。あの時の記憶は夢じゃなかったんだな。

なんて言ったらいいのかわからないけど俺はとりあえず嬉しいのかな。

 

 

「仁さん、そんなところにいないでこっちに来て一緒にお昼ご飯でも食べませんか?」

「あぁ、いや、この後用事があるからさ。少ししたら帰らなきゃならんのよ」

「そうなんですか?」

「うん、だからここで良いよ。・・・・・・・さて、何話そうかね?」

「何もないの⁉」

「いや諏訪子や、再会は嬉しいけど話題がなぁ・・・・。ほら俺話題作りとかそう言うの苦手って知ってるだろ?」

 

正直ほんとに何話せばいいんだろうな。久々に会った人間と何から話せばいいのかわからない。

まぁ、昔からの仲だしあんまり気にしなくていいとは思うんだけどな。

 

「そこは相変わらずみたいだな。そんなので大学に行って友人関係は大丈夫なのか?」

「心配すんなよ。なぜか俺に勝手に面倒事持って来てくれる女コンビとか、俺とは正反対のイケメンの人気者とか勝手に寄ってくるから心配いらないよ。第一、俺が一人だろうとそうじゃなかろうと上手い事やってけるのは神奈子が一番知ってるじゃないか」

「それはそうだが・・・」

「なんだ、もしかして俺がお前らが勝手に消えたことが原因で人付き合いから身を離すとでも思ったのか?」

「・・・・・正直言うとそうだな。昔っから人間関係で何かしら問題抱えている奴だったからな。ありえなくはないと思っていたのさ」

 

なるほど。確かに俺はいじめられっ子でもあったし、余計なことまで経験してるからそう思われても仕方がないな」

 

「・・・・・驚くほど思い当たる節しかないなぁ。ふふっ、まぁ、そこんとこは大丈夫だから安心してくれよ。・・・・しかし神奈子は久々見ると・・・・」

「なんだ?何なんだ?何でそんなニヤけているんだ⁉」

「いやぁ、元々思ってはいたけどその注連縄が相変わらずすげぇ浮いてるなって」

「それを久々の会話で言うか⁉」

「やっぱりあっちに限らずそんな恰好を日常的にしてるなんて浮いてるなぁ」

「浮いてる浮いてるって、そんなにか⁉」

「相変わらず神奈子をからかうのは楽しいなぁ。歳を重ねてやっと諏訪子の気持ちがわかるような気がするよ。まぁ、浮いてる気はするし、着づらそうだし、重そう。まぁでも・・・」

「なんだまだからかうつもりか?」

「相変わらず様になってるのがすごいよなぁ。凛々しいって言う感じだな。んで、結構別れてから発ったけど相変わらず綺麗だし、歳とってないみたいだな」

「・・・・・・・」

「にやけるか、照れるかどっちかにしたらいいと思うよ」

「その原因を作った人間が言う言葉じゃないだろう!・・・・相変わらずで安心したよ」

「その安心のされ方が良いのか悪いのか疑問だけどまぁいいや」

「ね~~、神奈子とだけじゃなくてさ~。私とも話してよ‼」

 

諏訪子か。相変わらず本当に小さい。俺が身長高かったり体格の良いせいで前から結構差がすごいんだよね。

まぁ、諏訪子もあの時と全く変わんねぇなぁ。

 

「あーはいはい。昔っからかまってちゃんだよなぁ」

「そんな事ないよっ!」

「いや、俺の膝の上に座ってきたり、抱き付いてきたりして来てるのお前ぐらいじゃないか。神奈子はもちろんしないし、早苗だってそんな事してなかったぞ‼見た目はともかく年齢的には・・・・・まぁ・・・ね」

「仁は相変わらずデリカシーってものがないなぁ。女の子に対して年齢の事を言うのはNGなんだよ?」

「いやでも、まぁ、なぁ」

「なにさ。じゃあ、私がナイスバディの大人っぽいお姉さんになったら仁は私の事好きになってくれるの?」

「いや、諏訪子は好きだけどさ。諏訪子がナイスバディで性格が大人っぽいお姉さんかぁ・・・・・・・・プッ」

「なんで笑うのさー!」

「いや、だってなぁ。正直想像しただけで笑えるって言うかさぁ。なんか笑っちゃったよな」

「失礼な奴めー‼私の恐ろしさが分かってないな~~~~~‼」

「ミシャグジさまの恐ろしさは分かってますよ。まぁ、そのままでいいだろ。俺が好きな洩矢諏訪子ってそんな感じで、見た目とい言い性格と言い可愛い感じだからさ」

「仁がそう言うならそれでいいよ‼ね、ね、久々だけど可愛い?」

「可愛い可愛い」

「えへへぇ」

 

ほんとこういうとこ可愛いんだよな。何と言うか、愛嬌があるよね。

何か見ていて微笑ましくなる本当に子供みたいな感じだ。

 

「私は‼私はどうですか⁉」

 

早苗かぁ。早苗なぁ。

 

「成長したなぁ。何つーか元々だったけど久々見たけど一段と綺麗になってびっくりしたよなぁ」

「本当ですか⁉」

「本当だよ。それにいろいろ成長したみたいだしな」

「もう三年ぐらいたちますからね・・・・・」

「・・・そう・・・だなぁ。本当に成長したよ。身長も前より高くなったし、顔つきも大人っぽくなったしな。それに何より色っぽくなったよ」

「えへへへ、本当ですか?」

「いや、正直お前そんなスタイル良かったっけ?見ない内にめちゃくちゃスタイル良くなったんじゃないのか?なんかその一部露出の多い衣装の感じからして、ボンッキュボンみたいなそんな感じになってるよなぁ」

「いやぁ、それはその・・・・・って良い感じの事言ってたのに台無しじゃないですかーーーー」

「そんな事言ってたっけ?」

「あ~、ほら早苗。仁ってそんな感じだったでしょ。そんなに落ち込まないの」

「諏訪子様~~~」

「お~よしよし。仁は本当に雰囲気ぶち壊し屋なんだから」

「雰囲気ぶち壊し屋ってなんだよ。そんなフラグブレイカーみたいなことした覚えはない」

「まぁ、あながち間違いではない気がするが・・・・。まぁ、確かに早苗は成長したし、巫女としても成長してとても優秀になったよ」

「神奈子様‼」

「それに早苗のスタイルの良さは昔からだよ~。まぁ、確かにあっちに居た時より成長してるけどさ。あっちの時はそもそも露出の少ない、体のラインが出ないような格好してたからね~。恥ずかしがっちゃってたから」

「諏訪子様⁉」

 

なんか、相変わらずだな、いい意味で。

かつては俺もその中にいた。今となっては眩しすぎる場所だな

 

そうだ、俺にはここに来たらしようと思っていたことが一つだけある。

それで終わらせよう。もう返さなきゃいけないし、お昼時に長居は無用だろう。

 

「お、そうだった。今日ここに来たのは用事があったからでな」

「私達に会いに来たんじゃないの?」

「いやそれもあるけど、別件だよ。あ~~~、これだ。早苗、いくぞ。ちゃんとキャッチしろよ~、ほらっ」

「はいっ‼・・・・ってこれは⁉」

 

 

俺があの日からもずっと肌身離さず持っていた小さい綱を輪っかに白蛇と蛙とロボットの顔がついたお守り。

さっき投げる前に改めて見たら結ボロボロだった。まぁ、何度か修繕したりしてるくらいだしボロボロなのは仕方がないんだけどね。

 

「持っていてくれたんですね」

「まぁ、な。お守りって一年とかそこらの効力だろ?返納したくても返納するはずの神社が存在ごとなくなってたんでな。ずっと持ってたんだよ。もう、完全に効果も何もかも切れてるだろうし、返すよ。・・・・・・やっと返せたよ」

「こんなにボロボロになるまで持っててくれたなんて嬉しいな。私の蛙可愛いでしょ」

「まぁ、私の白蛇方も良いと思うわよ」

「いえ、私のロボットが‼」

「「それはない」」

「そんなぁ」

 

本当に愉快な三人組だよ。

一時は本当に救われた。あんなにも絶望したと言うのに相応しい心象にいた俺に根気よく付き合って救ってくれた人たち。人と言う表現が手説じゃない気はするけどね。

さ、もうここでお別れだ。

 

 

「じゃ、俺はいくよ。幸せになれよ、さよなら」

「あのっ・・・・・」

 

俺はその声に振り返らず一目散に来た道を人とは思えない速さで駆け出した。」

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

~守屋神社~

 

 

「・・・・・・行っちゃいましたね」

「そうだね。でも久しく会えなかった仁に合えて私は良かったと思うよ」

「何かまた少し大きくなってたよね。何か前より見上げた感じしたしさ」

「そうですね。私もそう感じました」

「私は以前よりも疲れていたようにしか見えなかったよ。何か色々あったんだろうね」

「まぁ、それはね。私達もその一端だと思うよ。神奈子」

「そうだね。それでも仁はまた元気な顔を見せてくれてよかった・・・そう思ったのよ」

「なんか神奈子は辛気臭いなぁ。おばあちゃんみたいだよ」

「なっ⁉諏訪子その言い方はないだろう!」

「おふたりとも落ち着いて・・・・。このお守りまだ持ってくれてたなんて嬉しいですね」

「そうだね。仁の受験の時に渡したものだったね。何と言うか・・・・私達にもいろいろあったな」

「そうですね、神奈子様。本当にいろいろありましたけど、どんなに時間が経っても仁さんとの思い度は色褪せてません」

「私もだよ。ここに来た事は後悔も何もないんだけどさ。ずっと・・・忘れられなかったし、覚え続けたい思い出だったよ」

「諏訪子様・・・・・・・」

「さ、お腹もすいたしここまでにしようか。ウサギのお肉~♪」

「私も腹が減ったし、仁にも会えたし、中に戻るとしよう、早苗行くよ」

「・・・そうですね。腕によりをかけて美味しい物を作りますよ~‼」

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

~無名の丘~

 

 

 

 

再会して去ってからすぐここに来て目を閉じて寝ていた。

睡眠はしてないよ?今までの事、これからの事を考えてたんだよね。

時間はどんだけ経ったかわからないけど

陽も落ちかけてるし、結構ここに居たんだな。

後しばらくしたら久々に地底に帰ろう。みんな元気に知ってかな~。二、三日会ってないだけで久々に感じるな。

 

「ここにいたんですね」

「ん?・・・あぁ射命丸か。今日は取材しまくってるんじゃないのか?」

「もう今日の分は終わりましたよ。何しているんですか?」

「こりゃあれだ。色々考えてたんだよ」

 

頭の上に射命丸が来ていた。

 

「そうですか。で、お昼のアレは何ですか?」

「アレって?」

「言わなくてもわかるでしょう?」

「まぁね。でも射命丸が何を聞きたいのかはわからない」

「私の説得で前みたいに話しに、前みたいにあの場所に帰ろうとしたんじゃないですか?」

「違うよ。俺は過去を終わらせてきただけだよ」

「どうして」

 

体を起こして俺は答えることにした。まぁ、寝ながらってのも悪いし目を開けたらパンツ見えそうで怖いし。

 

「俺は勝手に消えたアイツらに的外れな憤りを感じたり、恨みを抱いたり、夢として思い出してうなされたりもした。俺はそれが許せない。それにみんな変わったよ。あいつらも変わった。俺も変わった。環境から何もかもが変わった。こんなに変わったんだから今更アイツらの側に戻るのは良くないだろ」

「なんでそんなに自分で自分を苦しめるような事をしているんですか」

「そういう性分なんだろ。俺は辛いのも怖いのも痛いのも嫌いだし嫌だ。でも一度上がったように錯覚して下にさらに勝手に落ちていくのももう嫌だ。一度あんなことがあったら俺はあいつらと、かつてのあの時のように居れるかは正直自信がない。それに俺は分かりやすいらしいからそれであいつらに気を遣わせながら居るのも嫌だしな。それに俺の周りにいる奴は良い奴らが多すぎていけない。俺はそんな善人じゃないし期待にこたえられるような立派な男じゃない。まぁ、そう考えりゃ失望される前にあの時何も言わずに去って行ってくれたのは良かったのかもな」

「・・・・・・・わかりません。私は今までいろんなものや人を取材してきました。だから何か見る目にはかなりあると思いますし、どんなに変でも多少は理解する事が出来ました。でも、貴方はまるで分らない‼わからないんですよ‼」

「多分・・・・と言うか絶対わからないほうが良い。わかってしまえるような人生は送らないほうが良いし、わかって貰おうとも思わないさ。理解されず一人で在ればいい」

「・・・・なんでそんな哀しそうな声して話すんですか!」

「そんな声してた?いやぁ、そんな事ないよ。ほら俺はこう・・・・・やりたいようにやって元気にやってるだけの外から来たおにーさんですよ」

「そんな声にしたってもう遅いんですよ!」

「んな事言われてもねぇ。それに分からないなら無理して知ろうとする必要ないよ?」

「そうやって居たら周りに誰もいなくなりますよ・・・・」

「それでも構わないさ。俺が選択してそうなったのならそれでいい。例え永遠に苦しむことになってもそれは俺の責任だ。その時は永遠に苦しみながら生き続けるさ」

 

射命丸は良い奴だ。困ったとこもあるけどこうやって俺みたいな奴に対して感情のままに接してくれてる。

でも、俺はもう何も出来ずに失うのは御免だ。それならもう何も得なくてもいい。今まで通り帰って生きていくだけだ。

 

「そんなの・・・・・悲しすぎます」

「悲しいのかもねぇ。それでも俺は俺で生きていくのさ。それが俺だからな」

 

他人からしたら理解できないのも無理はないと思う。

さまざまな出来事があった、その中で生きてきた、そうやって積み上げて生きてるのが今の俺だ。

俺は俺の思ったように生きていく。きっと俺の考えを文章にして分かりやすくなんて出来ないと思う。

だって、それが俺の答えであり、俺と言う人間の根本から来ているモノだから。

 

「憤ってくれてありがとう。まぁ、俺みたいな変な男に引っかからんように気をつけ生きな。まぁ、俺みたいなのもそういないだろうけどなっ」

「そうやって笑って、近付けさせないんですね・・・・・」

「そんな事はないけどなぁ。俺の笑顔ってそんなに胡散臭いかね?」

「・・・・・とても素敵な笑顔ですよ」

「そうか。さ、もうじき夜になるし帰りなよ。俺の事なんてわざわざ知る必要もないし、無理して分かろうとする必要なんてないさ」

「好きな人の事を無理をしてでも知りたいって、わかりたいって思うのはいけないんでしょうか?」

「いけないって事はないだろうけどさぁ。その対象は俺じゃないだろ。異性として好きならともかく、友人関係でそこまでしなくてもいいと思うぞ」

「・・・・・・そうですか」

「わかったら帰りなよ。俺はもう少しここでゆっくり・・んっ⁉」

 

チュッ

 

「えへへ、キスなんて初めてしましたよ」

「お前・・・・・・・」

 

手で顔を包んで、回してきたと思ったら、キスをされていた。

 

「知りませんでした?私、貴方の事が好きなんですよ。もちろん異性として。だから、知りたいって思うのも、わかりたいって思うのも良いんですよね。だってあなたがさっきそう言ってたんですから」

「いやまぁ、うん?そうなのかな?」

「最初はただの取材対象でした。でも取材すれば取材するほど惹かれていって・・・・。こんなの初めてだったから混乱しちゃって。気が付いたらも貴方の事ばかりになってました。それでですね。好きだから、貴方には本当に笑っていて欲しいんです。お店にいる時みたいに、お祭りの時みたいに、酒盛りをしている時みたいに、美味しいご飯食べてた時みたいに。これは私の押し付けみたいなものです。それでも・・・」

「もういいよ。お前の気持ちは分かった。こういったのは俺も初めてだから混乱してる。でも、お前のその気持ちは嬉しい」

「はい・・・」

「でも今の俺はそれに対してなんて言えばいいのかわからない」

「良いんですよ。私が伝えたかっただけですから」

「そうか・・・・・。悪いけど、とりあえず帰るよ。射命丸も気をつけて帰れよ」

 

 

俺は、その場から逃げるように地底へと向かった。

逃げてばっかだな、俺。

 

 

**********

 

 

 

この穴を降りれば地底に帰る事になる。

さ、いつも通りいきますか。

 

「さ、ダイビングかい・・・グェッ」

 

誰だ俺服の後ろをつかんだのは?

 

「水橋さんでしたか・・・・・・」

「何、残念そうな顔をして。悪かったわね、勇儀みたいなスタイルの良い女じゃなくて。妬ましい」

「それ俺と勇儀どっちに対して⁉」

「どっちもよ、妬ましい‼」

「うす。で、何で水橋さんがここに?」

「そろそろ帰ってくると思っったからここに来たのよ。危なっかしい降り方されたら困るもの」

「無事ならオーケーじゃ」

「何か?」

「何でもありません」

「じゃあ、降りるわよ」

 

 

********

 

 

 

なんか浮いて降りるって新鮮な感覚だね。俺飛べたらよかったんだけどなぁ。

 

で、なぜか水橋さんの家に連れていかれ、お茶を出され、地上に出ていた間の事を根掘り葉掘り色々聞かれた。

まぁ、射命丸の事はあいつの事もあるから言わなかったけど、それ以外は全部話した。

あぁ、よく考えたら今日一日に飲み物飲んでなかったなぁ。お茶が美味しい。

 

「ふぅん、そんな事もあったの。貴方も大変ね」

「まぁ、人よりはいろいろ経験してますよ。それでこの二、三日の間でなんかありました?」

「・・・・なんでそんなこと聞くのかしら?」

「いや、なんとなくですけど・・・・」

「そう、特にないわよ。貴方なんか疲れてそうね」

「まぁ、よく働いてましたからねぇ。お茶ごちそうさまでした。なんか急に眠くなったんで帰って寝ます」

「何なら泊まっていきなさいよ」

「いやいきなりは悪いんで帰りますよっととと」

 

あ~何で俺倒れてんの?最近よく倒れてるなぁ。

くっそ眠い。おまけになんか力が入らんな。これはまさか盛られた?

いやいやいや、そんなまさかなぁ。

 

 

「悪いけどちょっと盛らせて貰ったわ。今はここで休みなさい。そして、おやすみなさい」

 

 

マジカヨ。なんで・・・・こんな・・・・・こ・・と・・・・・・・・・・。

 

                            ~ 鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り8日  ~





毎度ながら最後まで読んで頂きありがとうございました。

今回は普段より余計に仁君の字の分は少なめでお送りしています。
普段とは違った感じで良いかなと思い、こうしました。
皆さんで想像しながら読んでみてくださいね。

そして射命丸の衝撃の告白‼
・・・・・・まぁ、読者の方は薄々は分かっていたと思いますけどね。
多分、一番早くアクションを起こすのは予想外な方も多かったんじゃないでしょうか?

さて、話変わってありがたい事にUAが間もなく2000を超えます‼
2000達成したときにはTwitterにてアンケートを取ったお噺を書きますのでお楽しみに‼


それではこれからも楽しんで頂けるよう頑張っていきますので、よろしく願いします!
それでは今回はここまでにしたいと思います。それではまたお会いしましょう。さようならさようなら


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I am

久しぶりでございます、床が冷え込み過ぎるせいで足から感覚がなくなるノリさんです。

さて、私事ではありますが、おかげさまでUA2000達成する事が出来ました‼
当初考えていました半分以下のお噺で達成する事が出来ました‼

この様な初めて書いていて、しかも好き放題やっているお噺を読んで頂きましてありがとうございます。これからも精進して参りますので楽しんで頂ければありがたいです。

今回は後書きにおまけの小噺もありますので最後まで読んで頂けると幸いです。

それでは本編へどうぞ‼




おぼろげな感覚の中にいる。体が動くわけでもないし、そもそも体と言う物が存在しているのかも怪しい。

 

目に映っているのは控えめに言って地獄絵図。

 

天は陰り、地は焦土と化し、水は濁り果てている。

人も妖怪も関係なくそこには死体やかつてそれらであった物のカスがあるだけ。

 

後は俺の視点であるところを憎らし気に見つめる数人の人影。

顔は鉛筆で塗りつぶされてしまったみたいな感じで見えない。

それでも向けられた感情はなんとなくだけど分かる。

 

これは誰の何だ?わからない。けれどわかる事が一つだけある。

 

 

 

 

―――――――――――これはきっと昔のお噺

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

あ~寝覚めわりぃ。はっきり覚えてないけどなんか気持ちのいい夢じゃなかったな。

ってここは水橋さんの家か。何かここに落ちて最初の事を思い出すなぁ。

・・・・・じゃないんだよなぁ。

もうね、色々ツッコミどころがある訳ですよ。

 

 

「おはよう。よく眠れたみたいね。さすがにあれから一日経っても起きないのには焦ったわ」

「え?俺一日以上寝てたの?」

「ええそうよ。薬を作った本人からはあらかじめ効能の強さは聞いていたか度ここまでとは思ってなかった。何ともなくて良かったわ」

「まぁ、それよりもね。気になり事があるんですが」

「何かしら?お腹減ったのなら何か作るけど?」

「確かに腹が減ってるのは否定しませんけどね」

「なら何よ?」

「これ何なんですか?」

 

ジャラッ

 

「見てわからないの?手錠と鎖よ」

「そんなさも当然のように言われてもなぁ」

「何が聞きたいのよ」

「そりゃ何でこんな事するのかだよ」

「・・・・・・なんとなくよ」

「・・・・なんとなくで拘束するなよ‼」

「とにかく‼大人しくしていなさい!外に帰る時はちゃんと返してあげるから‼」

 

あぁ、聞く耳も持たずに行っちゃったよ。

しかしこんなぶっとい鎖と、足にかなりの重さの鉄球って漫画の監獄でしか見た事ないぞ。

さっきから外してみようとしてるんだけどバレないようにしてるからかキツイ。

思いっきりやったら鎖ぐらいは引きちぎれそうだが今は情報を集めたほうが良いな。

俺の知ってる限りでは水橋さんは理由もなくこんな事はしないはずだからね。

 

何があった?薬を盛られる前の会話で違和感があったのは地底の事を聞いた時。

あの時は少し違和感を感じた。何だか触れられたくない話題に触れられた時の反応だった。

でも、地底で何かあったとして俺をここまでして引き留めるって何がある?

正直俺の知ってる地底と言う場所は、外敵が現れてもそうそう自分たちで処理してしまえるはずだ。

元々鬼とか妖怪の中でも嫌われ者や荒くれ者が集まる場所ではあるし、戦闘になればそもそも負ける事の方が少ないだろう。

最悪の場合でもさとりさん達が何とかしてるだろうし。

 

う~~~ん、わからん。

 

もう水橋さんが妬ましさを暴走させてヤンデレキャラにシフトチェンジした。

偶々その対象が俺に発動してしまって今に至るとかも・・・・・・ないな。

いや?あり得るのか?だとしたらそれはそれで困るな。

 

 

「何馬鹿な事を考えているのかしら?」

「なんでこんなことになってるのかをいたって真面目に考えていただけですよ」

「で、わかったかしら」

「今の所は水橋さんが妬ましさを暴走させてヤンデレキャラにシフトチェンジしたくらいしか思い浮かば⁉ってぇ・・・・・・」

「やっぱり馬鹿な事考えていたんじゃない。冷めないうちにご飯食べて」

「いただきます」

 

ここは大人しくしておこう。

意外と鎖に長さがあるから全く食べられないという事もないけど食いにくい。

結構ジャラジャラしてうっとおしいんだよなぁ。

 

「美味しいんだけどさ。何かこうずっと見られてると食いづらいんだけど」

「怪しい事してないように見ておかないとね」

「だったらさっきのうちにやってると思うけどなぁ」

「それもそうね。でも一応見ておくわ」

「・・・・まぁ、それはいいや。でもなんでここまでするんだい」

「何となくって言ったでしょ」

「何となくでするなら、水橋んさんが俺の事本気で嫌いなんだなぁって思うけど?」

「それはないわね。だとしたらわざわざ食事の用意もしないもの」

「それもそうだから違和感があるんだよ」

「でしょうね」

「教えてくれないかい?」

「無理ね」

「そっか」

 

水橋さんの意思がここまで硬いなら仕方がない。

短い付き合いでもこうなったら喋ってくれないのは分かっている。

でも、俺は何があったのか知りたい。

とりあえず目の前のご飯と、味噌汁と里芋と豚肉?の煮物を美味しく食べ終えよう。

 

 

「ごちそうさま。俺の知ってる可愛い女の子の中でも水橋さんはトップレベルの腕前だね」

「そんなに女の子の手料理を食べた事あるのかしら?」

「多くはないけど、少しはね」

「妬ましい」

「男としては女性の方から作ってくれたらいいんだけど、俺の場合は教えを請われることの方が多いからその仕上がりを見るために何回かね」

「どんな事であっても妬ましいわ」

「そうかねぇ・・・っとそろそろ行かないとね」

「どこによ」

「どこにってそりゃ自分のお店だよ」

「その拘束された状態で帰れるとでも?」

「あぁ、多分ね」

「例え移動出来たとしても、スペカを使ってでも行かせないわよ」

「ずいぶん穏やかじゃないな。何があった」

「貴方はもうじき外の世界に帰るのだから知らなくてもいい事よ」

「そうか・・・・・・」

「だから帰る日が来るまで二人でここでお話ししてましょう」

「大変魅力的な提案だね」

「諦めてくれるかしら?」

「無理だね。俺いろいろしたい事もあるし、あっちに置いてきた物もあるし」

「そうそれなら仕方がないわね。貴方の身体能力も上がったのも、能力も前に聞いたから知っているわ。でも拘束された状態で私に勝てるなんて思わない事ね」

「そうだなぁ。まぁ、手錠と足枷は鍵がないから完全にはとれないけど鉄球とか手錠をつないでくれてる鎖はこう・・・・・・ふんっ‼・・・とまぁ、引きちぎれるから問題ないとして」

「嘘でしょ⁉」

「ほんとなんだぁ」

 

自分でもどうかしていると思うけどね。

まさかここまで自分の体が人間やめてる成長をしているなんて思ってなかったよ。

 

「でも俺スペカでは戦えないからね~。悪いけどそうなったら困る」

「えっ、あぁ、そうね。そう簡単じゃないわよ」

「だからそうなる前に終わらせてしまえばいい」

「貴方何を言って・・・・・はっ」

「今一瞬意識を失いかけたな。って事は次で上手くいくかな」

「何をしたの?」

「俺の能力だよ」

「そんな能力はなかったはずよ‼」

「前まではね。いや元々そうだったけど俺が勘違いしていただけだったと言うべきかな」

 

ドサッ

 

水橋さんが床に倒れた。

 

「よし上手くいった。で、布団に寝かせて・・・・。置き手紙でも書いていくか。『手荒な真似して済まなかった。今度なんか考えとくから許して欲しい。あとごちそうさま。めっちゃうまかった。 P.S. あと小さじ一杯の砂糖と少し生姜汁をいれると煮物はもう少し丸くなって美味しくなると思うよ‼』・・・こんなもんで良いかな。さて、行きますか」

 

 

水橋さんが何を俺に見せたくなくてここまでしたのか確認しないとね。

ちょっと・・・・いや、かなり不安な気はするけどな。

 

 

 

**********

 

 

 

「なんじゃこりゃあ」

 

ほんとにそんな感じ。

数日前まで元気に営業してた店がなんか物理的につぶれてるし、ところどころ黒煙が上がってるし何があった⁉

おいおいおい、鬼の皆さんはどうしたんだ?酔ってても並大抵の妖怪じゃ勝てないようなのが割とぞろぞろ居るような場所だよ?

 

って俺の店は⁉まさかとは思うけど潰れてませんよね?

とりあえず急いで見に行かなきゃとは思ってるんだけど、これかなぁ・・・・。

 

これは潰れてますね。物理的にね。

はぁ、荷物は無事かなぁ・・・・・・瓦礫がどかさないと・・・・・って結構バラバラになってるなぁ。

 

おかげで探す手間は省けたような気はするけどさ。

あぁ~、あったけど木くずがすげぇなぁ。

 

中身は・・・・・・たぶん大丈夫だろう。

まぁ、大丈夫だろう、多分。

 

でも店が潰れるのはなんか悲しいなぁ。

いや、ほんとにこうなった事が残念でならないんだよなぁ。

ここに来てかあら俺の拠点だったわけだし、いろいろ思い出もあった訳だしさ。

 

 

さて・・・・・・・・何があったか誰かに聞きたいなぁ。

 

 

「あ、仁じゃないか?無事だったのか‼」

「おぉ、お燐さんじゃないか?そっちこそ無事だったのか」

「私達はね。でもさとり様は・・・・・・・・」

「俺の居ない間に何があった?」

「それは・・・・・・歩きながら話すよ。とりあえずさとり様が心配してたから会いに行ってほしい」

「わかったよ」

 

 

さて何があったのか聞くとしましょうか。もう相当に悪い事ってのは分かってるんだけどな。

 

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

 

「簡単に言うとなんか急に暴れる鬼が出て来た。あまりにもひどいからさとりさんが出たけど、心が読めずに撤退する事しか出来なかったって感じでいいのか?」

「大まかに言えばそんな感じさ」

「しかしさとりさんの能力は基本的に思考を行う生物であれ極稀な例外を除けばほぼ無敵なんじゃ?」

「それはそうなんだけど・・・・・なぜか今回は読めなかったのさ。それに鬼達が言ってたことがさとり様に刺さって今は地霊殿から出なくなったのさ。仁君に会う前みたいにね」

「何を言われたんだ?」

「それは・・・・・いや隠してもしょうがないね。鬼が言うには『ここんとこお前が出で来るせいで安心して酒すら飲めないんだよ‼みんなそう思って迷惑してるんだよ‼だからお前に対抗する力を手に入れた!お前はこの場所を治めている立場でももう俺らには勝てねぇんだよ‼お前はあの屋敷から出てくんじゃねぇ‼』ってね」

「それは何つーか、ひでぇな」

「今までこの場所を保つためにさとり様がどれだけの事をしてきたかわかってないのさ」

「まぁ、そんな事があってもおかしくはないけどさぁ。でもなんか話聞く感じだと、いつもの鬼とは違うよな」

「なんでかいつもより強かったと思う。少し戦ったけど、鬼が強いとはいえいつもの鬼とは違う気がしたよ。割とギリギリでさとり様を守りながら撤退できた感じだよ。仁君は強いからさ、悪いんだけど解決に力を貸してもらえないかい?」

「そうだなぁ。さとりさんには悪いけどその事聞かせて貰わないと俺からは何とも言えないな。確認を取りたい事もあるし」

「そんなぁ」

「いやいや、そんな心配な顔しなくても・・・・・。協力しないって言ってる訳じゃないんだし」

「そうは言っても怪しい言い方するからさ」

「ごめんごめん。で、さとりさんは?」

「いつもの部屋の中さ。二人きりで話したほうが良いだろうから一人でいって。・・・さとり様のこと頼んだよ」

「まぁ、やれるだけやるけどさ。なるようになるしかないから期待すんなよ」

 

 

ガチャ

 

 

そこには俺に顔を見せまいとしてい居るのか、椅子の背もたれ事俺にに背を向けていたさとりさんがいた。

 

「よう、久しぶり。なんか色々あったみたいだな」

「・・・・・・・・来ないでください」

「そうは言われてもねぇ。まぁ、概ねの事はお燐さんから聞いたけど、本人に直接聞こうと思ってきたんだ。それに俺の店もなくなって困ったからね。んで、体調はどうだ?」

「・・・・・体調は悪くないですよ。でも・・・・・」

「何か心が読めなかったんだって?原因が分かっているのか?」

「一応・・・・・・・。でもそれを仁さんに言う必要はないですよね」

「何か機嫌悪い?まぁ、いい気持ちは絶対してないだろうけどさ」

「なら来ないでください。今の私は何を言うかわかりませんよ」

「これはお気遣いどーも。でも、俺の事心配してくれるんだ」

「それは・・・・・・・仁さんが私を怖がらないで話してくれる大切な人だから・・・・・」

「ありがとう。でもさ、さとりさんそう思ってるように、さとりさんの事大切に思ってるのは俺も同じだし、俺以外にもいるよ」

「わかってます‼わかってますけど‼」

「怖いのか?」

「・・・・・・・えぇ、そうですよ‼怖いんです‼今までこの地底の為に働いてきましたよ‼私が最も嫌われるのが分かってたから、それでもここが守れるならいいって・・・・・・地霊殿に籠ってずっと・・・・・。色々ありましたけど、落ち着いて来た時に貴方が来て。心を読めなくしてくれる貴方のおかげで色々な物が見れました。心が読めずに戸惑いながらもいろんな人と話す楽しさ。外で遊ぶ楽しさ。外で食べるご飯のおいしさ。何より・・・・地底の人々の暮らしを直接じっくり見られて、楽しそうにしていて良かったなぁって。本当は私が出ている事で嫌がっている者がいる事もわかっていました。でも知れば知るほど、あと一回あと一回と、引き伸ばしてしまって」

「本当に楽しんでいたんだろう?それが悪い訳じゃないさ」

「でも!私が私の心に惑わされてしまったせいで私自身で壊してしまった‼」

「いや、今まで周りがさとりさんに甘えすぎてたって言うか・・・・・そんな感じするけどなぁ」

「でも結果は違います。鬼の皆さんにお前のせいだと言われ、周りの誰も否定しなかった・・・・・・。私はやっぱり・・・・ここから出るべきじゃなかった‼」

「・・・・・・・・・」

「もうどうしようにもないんですよ‼もう戻れない‼もう・・・・仁さんだっていなくなっちゃう・・・・・・もう二度とこんな馬鹿な事はしません。どうせいなくなるなら、もう放っておいてくださいよ‼」

「そうか・・・・・・」

 

 

俺にさとりさんの気持ちは分からない。

怒っているのかもしれないし、悲しんでいるのかもしれない、絶望してるのかもしれないし、失望してるのかもしれない。それでもまださとりさんは地底という場所を諦めきれていない。

自分の居場所が何にも残さずに消えてしまった俺とは違って、まだ諦めきれない場所が目の前にある。

だったら、もしさとりさんが何とかしてほしいと思うなら俺は何とかして見せよう。

きっと何とか出来てしまうから。いつもそうだったように。

だからこそきつい聞き方をしても確認しなくちゃいけない。

 

「ならその言葉を俺の顔を、目を見てもう一度言ってくださいますか」

「⁉」

 

きっと普段と違う言い方をしてるから驚いたのかもしれない。

まだそれを感じれるだけの心の余裕はあるみたいだな。

 

ギッ

 

椅子がこっちを向いた。声の調子から察してはいたけどなんだかやつれて見えた。十分に寝られてなかったのだろうか?

ってか酷く何か怖い物を見るような目で見ているのは気になるがそんなに怖かっただろうか?

ちょっとショックなような・・・・・いや、ここはしっかりしないと。

 

 

「そんな事を言った鬼が憎いですか?」

「・・・・・・」

「そんな事を言った鬼達を止める事もせず、否定もせずただ眺めるだけの住人達が恨めしいですか?」

「そんな事は・・・・」

「でも怖かったでしょう?恐ろしかったでしょう?皆さんあんなものですよ。それでも殺したいと思いませんか?壊したいと思いませんか?」

「何を言って・・・」

「そんなに怖いなら殺すなり壊すなりすればいいじゃないですか。少なくとも俺やこいしちゃんは除いて貴女はそれを行えるだけの力がある」

「でも‼」

「でもではなく‼貴女はそれだけ辛い思いをしていながらなぜそこで我慢するのです‼貴女は今までどれだけこの地底の為に働いてきたのですか?彼らはただその苦労も知らずのうのうと好きなように生活しているだけですよ?それなのに貴女を傷つける‼貴女が力を示せば誰も文句を言わずに暮らし、この地底で貴女は傷つかずに済んだではないか」

「・・・・・・」

「それに心が読めなくても貴女のペット達がかかれば倒せたのではないですか?まぁ多少の犠牲は出たかもしれませんがね」

「やめて・・・・」

「さぁ、そう考えれば解決するじゃないですか?そうしてしまいなさい。貴方が頑張って作り上げた世界に住み着きながらも、貴方を傷つける者は排除すればいい」

「やめてください‼」

「?」

「私は・・・・私は自由でありながら調和のとれた素敵な場所にしたかっただけですし、これからもそうなるように生きたいだけです‼私を傷つけるからと言って排除なんてしようとは思いません‼だから、貴方の言うようなことは絶対にしません‼この地底を治める地霊殿の主として‼」

「本気ですか?また同じ苦しみを、もしくはこれ以上の苦しみを味わうとしても同じことを言い続けられるのですか?」

「本気です。何度傷つくことになっても、私は・・・・・私の意志は変わりません‼」

 

 

・・・・・・息を飲む事すら忘れてしまうくらいに美しいなぁ。

この小さな体で今までどれだけの苦労などをを背負ってきたのだろうか?

きっと押しつぶされたりしても何度でも立ち上がってきたのだろう。

それだけの強さがこの体の中にある。その在り方がただひたすら美しいと感じてしまった。

っていかんいかん。本題に戻さないと。

 

 

「・・・・・・そっか。よし、やっと少しは立ち直ったみたいだね」

「仁さん?」

「そんなに怖がらないでくれよ。さとりさんには悪いけどショック療法みたいなものだよ。おかげで自分の意思を自分の言葉で言えるくらいには持ち直せたみたいだし、上手くいって良かった~」

「ほんとにいつもの仁さんですか?」

「そうだよ?そんなにさっきの怖かった?」

「・・・・はい。なんだかとても怖かったです」

「顔が無駄に強張ってたかなぁ。いかんな、もう少し柔らかくしとかないと」

「ぷっ、違いますよ。顔もありましたけど雰囲気とか全て合わせて怖かったんです。でも今はいつもの仁さんって分かったから大丈夫です」

「そうかよかったよ。ほらこっちおいで」

「なんですか?」

「良いからこっちおいで」

 

 

何も疑ずにこっちに来たな。よしよし。

こういう時にやる事は1つ。

 

 

「ななな、なにを?」

「今ここに居るのは俺とさとりさんだけだ。それに俺にはさとりさんの顔は見えないから大丈夫だよ」

「・・・・何をですか?」

「辛かったよな、怖かったよな。だけどずっと何とか納得しようと無理してたんだよな。だけどもう無理しなくていい。泣いていいんだよ。泣いて全部吐き出しちゃいな」

「っ⁉・・・・・仁さぁん、私・・・・・」

「よしよし、何も言わなくていいから・・・」

 

 

さぁ、さとりさんの意思は聞けたし。上手くいくかわからないけど俺の考え得る最善案に則って行動を開始しよう。

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

ガチャ

 

 

「さとり様は?」

「おぉ、お燐さん。ずっと待ってたのか?」

「まさか。たまたま確認しに来ただけさ」

「そっか。さとりさんはいっまはぐっすり寝てるよ。相当疲弊してたから無理もないけど」

「最近お休みになられてないみたいだったから安心したよ。で、協力してくれるのかい?」

「もちろん。条件付きでだけどね」

「条件って?」

「俺にはこの状況を何とかする最善案がある。それを忠実に実行してほしい」

「そんな事かい?それは構わないけど・・・・」

「もし出来ないなら俺は協力できないし、もし本番でズレるようなことがあったら俺はその時は何するかわからないから覚悟しておいてね」

「っ⁉わ、わかったよ」

「よし。じゃ、さとりさんから心が読めなかった原因みたいなことは聞けたし、作戦会議と行こう。お燐さんと・・・あとは萃香と勇儀に・・・・・水橋さんにも協力を頼まないとなぁ」

「じゃあ、橋姫は任せようか?あたいは鬼の2人を探してくるから」

「いや・・・、あの、この錠とか水橋さんに付けられたんだよね・・・・」

「あぁ、それならアタイは橋姫の方に行ってるよ。何なら鍵もとっておくさ」

「無理しないでくれよ。じゃ、俺飲み屋街行ってくるわ」

「どこで会議するんだい?」

「まぁ、そんなに時間はかからないと思うからどこでも。さとりさんには聞かれないようにしないといけないから・・・・いや、鬼の二人を連れて水橋さんの家に行こう」

「わかった」

 

さぁ、また忙しく動くことになるぞぉ。

 

 

 

************

 

 

 

~ 水橋さんの家 ~

 

 

真剣に頼み込んだ結果なんとか家に入れて貰え、錠も外して貰えた。

いやぁ、萃香達に見つけた時に笑われるは、お揃いだなんてからかってくるからちょっと困ったアクセサリーも消えて一安心。

 

んで、さとりさんお空さんを除いて作戦会議。

お空さんを呼ばなかったのは多分言っても難しいだろうし、言わないほうが良い動きをしてくれそうだから。

さとりさんを呼ばなかったのは彼女自身が自分の意志で決断してもらった方がリアリティが出ていいと思ったから。

 

俺のプランを聞いた皆はだんだんと顔が曇っていく。

まぁ、気持ちのいい作戦ではないからなぁ。

でも、いろんな意味でこれは最善策だと思う。

地底も今までと似たような形に出来るだろうし、さとりさんの在り方を地底に住む妖達に示し、かつ俺に都合のいいように事を運べる策というか案かな。

 

 

「なぁ、仁さ。ホントにこれをやるのか?」

「もちろんだよ萃香。そのためにみんなを集めて話してる訳だからね」

「アタシは反対だよ。もっといい案があるはずだ」

「でも・・・・他に方法があるかと言われたら・・・・・悔しいけどメリットが多くあるのはこの案よね」

「おい、パルスィ‼」

「考えてもみなさいよ。それとも他にいい案があるのかしら?」

「でもっ‼」

「勇儀が反対なら別に参加はしなくてもいい。但しこの事は他言無用だ。それくらいは協力してくれよ」

「でも、お前さん自体はそれでいいのかよ‼」

「良いんだよ。俺が自分の意思で選んだものだからな」

「後悔しても知らないからな‼」

 

 

ビシャ‼

 

 

「あ~あ、怒って行っちゃったな。まぁ、しょうがないからここに居る場にいる人たちは実行してくれる人達ってとこで良いんだね?」

 

「・・・・・そうね」と、水橋さんが言い。

「それがさとり様の為になるなら・・・」と、お燐さんが頷き。

「仁の頼みならしょうがないな」と、萃香が目を伏せる。

 

 

「じゃ、伝えたとおりに頼む。決行は明日の夜21時で。俺はこれから準備があるから、時間までは休むなり好きなようにしてくれ」

 

 

さて、こんな時間だけど竹林の方に駆け出しますかぁ。

 

 

                       ~ 鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り6日  ~

 






〈おまけ なぜ彼が繋がれたのか?〉

~ 水橋さんの家 ~

鍵を外してもらっている時にちょっとした話になった。
勇儀さんから始まったのだ。

「なぁパルスィ、どこでこんなゴツイの手に入れられたんだい?」
「何か怪しい商売人みたいのが押し売りに来たんだけど新素材使ってて丈夫だけど、お試し価格で売ってあげるよって言って本当に安かったからつい・・・・・」
「物騒すぎるだろ。ってかどんだけ切羽詰まってたんだ・・・・」
「そ、それは・・・」
「しっかしさぁ。薬を盛って、拘束って穏やかじゃないよねぇ」
「萃香の言う通り穏やかじゃないと思ったし、ものすごく焦ったよ」
「ごめんなさい」
「いやいいよ。もう終わった事だからね」
「とは言っても何でそんな穏やかじゃない事を?事によってはさとり様に報告しないといけないけど?」
「それは・・・・」
「きっと、あの店の状態とかを見せたくなかったんじゃないかな?多分俺にショックな所を見せたくなかったんだと思うよ。ね?」
「・・・えぇ、そうね」(・・・・言えない。見せたくなかったのは合ってる。・・・・けど私だけ名前で読んでもらえないのが不満だったから、これを機に最後くらい名前で呼んで欲しくて一緒に居たかったからなんて言える訳がない・・・・)
「ん?どうしたの水橋さん?」
「・・・・・なるほどな」
「何がかしら?」
「良いか水橋パルスィ。良い事教えてやるよ。仁を留まらせるならな拘束するなんて真似しなくても良いんだぞ?」
「萃香何言ってんの?」
「じゃあ、仁さ。・・・今夜は貴方とと一緒に居たいの・・・・・って言われたらどうする?」
「良いのか?それみたいな男が泊まっていっても?って言うかな。それでおけーなら泊まってくかな。今の台詞破壊力やべぇな。演技ってわかっててもドキッとしたぜ」
「な‼わかったか?」
「・・・・妬ましい」
「は?」
「目の前でいちゃついて妬ましいのよ‼」
「え?は?うん?ちょっと何言ってるのかわからないですよ、水橋さん」
「もう一度鎖で繋いでやろうかしら・・・」
「そんな怖い事サラッと言わないでくれませんかね‼良いから作戦会議始めるよ‼」
「妬ましい妬ましい」

何で謎の妬ましいを連発するんだこの人は‼

「はい!錠も外れた所で作戦会議始めるぞ‼」
                    
                〈おまけ なぜ彼が繋がれたのか?〉 -終-

                                          
〈ここからが後書き〉

毎度最後までお読みいただきありがとうございます‼

今回のお噺は初めて英語単体でのタイトルとなりました。
さてどういう意味で、誰を表しているタイトルだと思いますか?
今までも偶にそういったタイトルを付けているような気がするので、そう言った点にも注目して読んだり、読み返して頂けると各々の物語像が見えて来て楽しいかもしれません。

前書きにも書きましたがUA2000越え達成しました。とてもありがたいですね。
元々は初めての二次創作作品ですので、不安などの方が圧倒的に多い中で続けているお噺です。しかし、「50話くらい書いたらやっとUA2000とか行くのかなぁ」なんて当初考えていましたので本当に半分以下で達成してしまい驚きました。
お気に入りしてくださっている方も徐々に増えていきまして、大変励みになっています。

さて、次のお噺はUA2000達成記念といたしまして、Twitterで閑話が良いか丸々おふざけの特別編のどっちが良いかをアンケートを採りました。

結果、閑話を書く事になりました。
仁君の大学生活で起こった事のお噺となります。
以前からその存在を匂わせていた?東方において大学に縁のある人物と言ったら・・・。恐らくお分かりいただけたでしょう。

閑話の方は少し自分の中でまとめるのが難しいお噺なのですが、なるべく早く投稿したいとは思います。
が、遅くなってしまうことを覚悟して頂ければありがたいです。
その間は、また最初から読み返して待っててくださいね‼(唐突なダイレクトマーケティング感)

もしお噺が面白いと思ってくださったら、感想など頂けると嬉しいです。
また、Twitterの方ではくだらない事からアンケートまでいろいろ呟いております。気分でツイキャスなんて物もやっていますので、もしお噺が面白いと思って頂けたりしたらフォローをよろしくお願いします。

さて、長くなってしまいましたが、今回はここで筆を置きたいと思います。
UA2000という自分の中で大きい数字を達成できたのも、読者の皆様のおかげであります。
今後とも楽しんで頂けたり、応援などして頂ければ幸いです。

それでは次はUA2000達成記念の閑話でお会いしましょう。さようならさようなら。


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閑話 俺と秘封と廃校の秘密 調

シングルヘール、シングルヘール、鈴はならない。
どーもおひさしぶりでございます、ノリさんです。

こちら、UA2000記念のアンケートで投票で決まった閑話の前編のような物です。
クリスマスイブギリギリで投稿だよ。
予定なんてないよ、生きていくだけだよ。


長々書いてもあれなので、久々の俺のお噺お楽しみ頂ければ幸いです



「この事件の犯人は      だよ」

 

何でこんな事になってるんだろうなぁ。

 

 

***********

 

 

故郷からだいぶ離れた大学に行くことにした俺は引っ越しを終え、家具家電の設置から荷開きを終わらせ買い出しも終えて明日から大学に行くことになっていた。

地元で少しの間独り暮らしを始めていたから慣れている。

地元から引っ越すのは分かっていたので荷開きは必要な物最低限以外出してなかったし手間取る事もなかった。

 

大学では当たり障りなくいこう。

付かず離れず差しさわりない人を演じて。それは今までと同じか。

 

 

 

はぁ、寝よう。俺は、これから、何もなく生きるんだ。

 

 

 

 

*******

 

 

 

大学に着いたのは良いけど早かったかな。

仕方ない。幸い大学側ににカフェがあるから、そこで時間をつぶすか。

 

 

 

 

~大学側のカフェ~

 

 

マスター一人でやってる昔ながらのこじんまりとした店だった。

古いラジカセが置いてあり、店主が可愛らしい緑のマスコットのストラップを眺めていた。

この時間にお客が来るのが珍しいからか、最初は慌てていたけど落ち着いて席に案内する姿がとても映えるマスターだ。

さっそくカウンターに座り、コーヒーと自家製のチーズケーキを注文した。

嬉しい誤算だったのは、ここコーヒーとケーキは美味かったって所だ。

 

コーヒーしっかりとえぐみや渋みとでも言えばいいのかわからないが、余計な雑味もない旨味しか感じないほどのレベル。

このチーズケーキはベイクドチーズケーキだったが、少し燻したのか、ほんのりスモークの雰囲気の感じられる。

しっかりとして濃厚な味で美味い。コーヒーと合わせてだとなお美味い。

・・・・・・・甘いもんは当分要らないとは思ってたけどこれなら本当に美味しいと思えるし良いかな。

 

 

「お客さん、随分美味そうに食べてくれますね」

「マスターの腕がいいからね」

「嬉しい事言ってくれますね。あんまり見慣れない顔ですけどもしかしてそこの大学に入る人です?」

「えぇ、これからここは通うのでよろしくお願いします」

「えぇ、お客さん大きいし、顔ももう覚えましたよ。ところで大丈夫ですか?」

「ん?」

「時間結構ギリギリだと思いますよ」

「あ、やべ。これ代金です」

「はい、ちょうど。また来てくださいね」

「はい!」

 

 

あぁ、ゆっくりし過ぎたなぁ。もっと味わって食べたかったな。

あ、終わったらまた行こう。まぁ、偶には連続で外食もいいだろう。

 

 

 

***********

 

 

~一カ月後~

 

 

学校にも生活にもなんやかんやと適当に過ごしつつ、部活に入ったりしてちぼちと過ごした。

暇になったら現地の伝承になぞって仏閣を回ったり、この地区の都市伝説の廃校の幽霊とやらにつながりそうなものを探したりしながら暮らしている時、合コンとやらに誘われていた。

 

「断る」

「仁さぁ。良いじゃないか合コン行くくらい」

 

 

合コンに誘ってくるこいつは大町亮。

顔良し、性格良し、成績良しの三コンボでモテない訳がないこいつは俺の数少ない友人だ。

出会いは先輩に女絡みでからまれてたところを目撃してしまいなんやかんやあって、先輩を撃退したらなんか話しかけてくるようになった。その後ナンパされてる女二人も助けたような気がするけど俺の大学生活は平穏にだな・・・って話が逸れてしまったな。

そんな出会いをしたからか面倒事を持ってくる事も多い関係と言った感じだ。

 

 

「いや、俺部活あるし。なくても他にすることあるから」

「頼むよ。女子側からお前に興味あるから呼んでくれって言われてるらいいからさ~」

「つーか亮よ。お前今までそう言うの断って来てたじゃねーか。なんでいきなり参加する事にしたんだよ」

「さすがに何度も断ってるからそろそろ一回くらいは行っとかないといけない流れになってな」

「お前のような男女ともに人気のあるやつは大変だな。でもそれだけじゃないだろ」

「まぁ、今回珍しくあの二人が参加するっているから試しにね」

「あの二人って誰だかわからないけどさ。俺呼べって言ってるのって誰だよ」

「さぁ?でもお前呼べなかったら今回はなしって話だから結構お前人気あるんじゃ?」

「馬鹿言え。俺は基本的に授業以外女と関わってないぞ」

「お前そんな悲しい生活してたのかよ」

「いや、そんな事はないと思うぞ。実際部活とかで忙しかったしな」

「とにかくさ。な?出てくれよ」

「断る。俺別に出る必要ないし」

「合コン代出すからさ」

「それでも断る」

「わかった。合コン代に一回あの喫茶店のコーヒーとチーズケーキも付ける」

「・・・・・・しょうがねぇなぁ。わかったよ、行ってやるよ。でも呼んでる女が可愛くなかったらショックだなぁ」

「そう言うの気にするんだな」

「まぁ、それも男だからな。で、いつやるんだ?」

「今夜」

「今夜⁉」

 

まーたこいつ面倒事持ってきたよ。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

~ 居酒屋 ~

 

 

俺の部活が終わり、そこから始めるのがOK。と言う大学生らしい時間制限のなさを発揮しつつ合コンとやらが始まった訳だが、もちろん俺が洒落た格好を居ている訳もなく。

席に座った時にかけられた第一声が

 

「お~、ワイシャツにジーパンか。シンプルだねぇ」

「君が亮の言ってた鷹崎君か。初めまして、俺は中島浩太。こっちの服の感想言ったのが鷲谷鉄平」

「鷲谷鉄平だ‼よろしくな‼」

「あぁ、よろしく」

「いや~~~亮のおかげでいつもの飲み会にならなくて済んだぜ」

「?」

「あぁ、今日のメンバーが僕、鉄平、亮、そして仁君。女子は俺たちの幼馴染の女子二人にゲスト二人だからさ。君が来ないとゲストも来ないていうから結局いつもの面子で飲み会になったって所さ」

「そうそう。だから亮が説得してくれて助かったぜ‼」

「ええ?聞いてないよそんなの⁉」

「言ってないからな。だっていつもの飲み会なら今回はパスって言われそうだたしね」

「ところで俺を呼んだ女って誰だ?」

「え?聞いてないのか?」

「あの二人って言ってたけど、どの二人かわからないかならなぁ」

「あぁ、そうだったのか。それはね」

 

「おっ待たせ~、男子諸君‼連れて来たわよ」

「ちょっと遅れたかな?」

「おぉ、おせーよ愛海。こっちは待ちくたびれたぜ」

「お疲れ様。愛海に真奈美。で、ゲストのお二人もようこそ。好きな所座って」

「お邪魔します。じゃあ、ここにしようかな」

「そうね。彼の前に座っておきましょうか」

 

おいおい、男女で向かい合う形と聞いたけどまさか町で百人に聞いたら百人が美人と答えるような容姿の女のどちらかが俺を呼んだのか?

でもどちらも見覚えないしな。う~ん、緊張するよりも何だか不気味だなぁ。

 

「さぁ、ぼちぼち飲みましょうかね」

「「「「「「「「乾杯‼」」」」」」」」

 

考えてもわかんないし、とりあえず奢りみたいなもんだから好きなように飲み食いしますか。

 

 

 

***********

 

 

 

~ 仁の部屋 ~

 

結局なんかなんもなく終わって結構遅い時間に帰宅した。酒は未成年なので飲んではいないが腹いっぱい食ったので満足した。それに俺の気になってた事について分かったことがあった。それだけでかなりの収穫だ。

けどなんか気持ちは悪いなぁ。結局誰が俺を呼んでいて、何の用があったのかわからないままだ。

 

 

明日、亮を問い詰める事にしよう。

正直慣れない場に言ったせいで疲れたし、少し眠い。

でも、課題は終わってるから調べた廃校の事についてまとめよう。調べられる事は調べられたしな。

さ、パソコン開いて・・・・・・・

 

ピンポーン

 

「?なんか注文したの届くなんて予定はなかったけどな」

 

家賃は安いが、しっかりインターフォンはついてるから安心!

さぁ、いったい誰だこんな俺の家にくるなんて。

 

・・・・・・はぁ。意外って言うかなと言うか、あり得ないはずの人たちがいるんだけど。

 

「はいはい、部屋間違えてますよ」

『そんなはずはないわ』

「いや、間違ってますよ」

『ここは鷹崎仁君の部屋であってるはずよ』

「いえ、それは合ってるけど、、俺の部屋に貴方たちが来るのが間違ってるというか・・・・・・・」

『いいえ、貴方に用事があるからここに来たの。ちなみにこの娘は私の付きそいだから』

『夜分遅くにすいません』

「いえ、お構いなく。それで何の用ですかね?」

『このまま外でお話しを続けさせる気かしら』

「う~ん。まぁ、いっか。今開けます」

 

はぁ、やっぱ亮は面倒事持ってくるなぁ。

チーズケーキ二個にしてやる。

 

ガチャ

 

「はい、どうぞ」

「お邪魔するわ」

「お邪魔します」

 

何だかなぁ。俺の部屋に女が入るなんて思ってもなかったなぁ。

でもや大して話した覚えのない女が部屋にいるのはなんか不気味だ。

招く予定のないお客だけど一応茶は出す。何故って俺は紳士だからね。

紳士は嘘だな。そんな大層なモンじゃない。

 

 

「はい、お茶。で何の用だ?」

「思ったより綺麗ね。男の一人暮らしってもっと汚い物だと思ってたわ」

「その・・・・・・ごめんなさい。悪気も悪意もないの」

「だろうね。むしろそれだけ気を遣えるならこんな時間に男の家には来ないだろうからね」

「あらお褒め頂きありがとう」

「皮肉です」

「知ってるわ」

「・・・・二人って実は仲がいい?」

「いや、今日話したのが初めてだな」

「そうね。今まで大学で見かけたくらいだもの」

「その割には結構仲良く話してるね~」

「そんな事ないわよ、メリー。私にいきなり皮肉を飛ばしてくるような男よ?」

「皮肉を飛ばされないような女だったら、こんな夜遅い時間にまともに話したこともない男の部屋に乗り込んできたりはしないよなぁ」

「本当にごめんね。明日授業とかあるでしょ?ほら、もう帰ろうよ」

「いいえ、思い立ったが吉日よ。そんなに帰りたいなら帰ってもいいわよ。私は帰らないから」

「でも・・・・・」

「あぁ、まぁ、そりゃ怪しい男の家に友達置いていけないよな」

「えぇっと、その、ごめんなさい」

「そこは否定せずに謝るのね・・・」

「友達思いのいい友人じゃないか」

「ええそうね。貴方にはいないでしょうけど」

「・・・・・・まぁ、そうだな。俺にはいねぇよ」

「ごめんなさい。悪い事言ったわ」

「なんだ急に謝って、気持ち悪いな」

「気持ち悪いって何よ‼そりゃ私だってあんな顔されると謝りはするわよ‼」

「そんな顔ってどんな顔だよ。元々の顔立ちは確かによくないけどな」

「そうじゃなくて。なんだかとても悲しそうな顔してたからだと思うよ。蓮子にしては珍しく気を遣って謝ったよね~」

「ちょっと、それだと私が普段気を遣えてないみたいじゃない」

「だって・・・」

 

なんか見た目はどっちも綺麗系だけど、こう・・・・・・話すとなんか気さくな奴らみたいだな。

 

「まぁ、いいや。で、本題に入る前に聞きたいのは、君達の名前知らないんだけど?」

「えっ⁉連呼の事はともかく私の事はわからない?」

「すまん、記憶にない」

「えっと、私はマエリベリー・ハーン。以前講義の時に2人でチーム組んでプレゼン発表したんだけど・・・・」

「そう言えばそんな事もあったような・・・・・。ちょっと待っててくれ」

 

パソコンの中の学校の課題などのデータが入っているファイルを見る。

この段階でプレゼンした授業なんて二つほどしかないから・・・・。

確かにあったな。パワポの表紙に名前打ち込んでたわ~。忘れてた。でもこんな娘と組んでたら少しは何か覚えてても良いんだけどな・・・・・。

 

「あ、そうか」

「思い出してくれた?」

「あぁ、アレだ、パソコン修理に出して作業できないから俺が全部パワポ作った子だ」

「あ、あははは・・・・・」

「変な覚え方されたわね、メリー」

「大丈夫だ、君も大概変な奴で覚えたから。ってかメリー?」

「この子のあだ名みたいなものよ。失礼な事言われたけど、また話が逸れるから今回は我慢しておくわ」

「で、君の名前は?」

「私は宇佐見蓮子よ。で、さっそく本題なんだけど、貴方この地域で都市伝説化している廃校の幽霊について調べているでしょう?」

「まぁ、そうだな。で、それがどうした?」

「私達もそれについて調べていたんだけど、正直手詰まりになっちゃてね。貴方の調べた情報を聞きたいのよ」

「それだけ?」

「ええ、それだけ」

「そうか・・・・。君は本当に変わってるなぁ」

 

正直、普通の女だったらこんな事してないと思う。

良く言えば、まぁ、行動力があるって事だな。

 

 

「よく言われるわ。で、何が分かってるのかしら?」

「言うと思う?それに俺が調べられてるのは一般的に記事になった事だけだよ。その廃校舎は6年前までは実際に中学校として使われていたけど5年前に合併して使われなくなりました。それからと言うものの夜忍び込んだりしたら泣き声とか声とか聞えて誰も近づかない」

「それは知ってるわ。他には?」

「そうだなぁ。あの学校じゃ一回人が死んだって事があるらしいな地元の新聞にも載ってたな。いくつかの記事では他殺とか書いてあったけど、結局事故扱いで処理されてお終い。それ以降誰にも触れられなくなり、残ったのはぼろっちい校舎と変に膨らんだ怪談もどき。俺が分かっているのはそんくらいって感じかな」

「そうなのね・・・。で、他には?」

「他にはって?」

「何となくそれだけじゃないような気がしてね。って言うのも噂の廃校舎に大きい人影が土を掘ってるって言う噂を聞こえてね」

「で、その事調べてるのは俺くらいだから近付いて、わざわざ夜遅くに乗り込んできたと」

「ごめんなさい。蓮子がどうしても行くって聞かないから」

「君も大変だな。え~~っとマエリベリーさん?」

「呼びにくかったら呼びやすく好きなように呼んで構わないから」

「じゃあ、マリーさん」

「それでいいよ」

「で、何を見つけたの?」

「それを話す必要ある?」

「何ですって?」

「いや、だってもう俺の持ってる情報はほとんど渡した訳だし、そもそも俺にメリットがないよね。俺しか持って情報があったとしても、こっちに利益がない限りは渡す義理もないでしょ」

「こっちにはこっちにしかない情報はあるわよ。だからそれを聞きたかったら言いなさい」

「ちょっと!蓮子‼

「それは強盗と変わらんやり口だなぁ」

「欲しい物は何としても手に入れるのよ」

「ますます強盗感が増したな・・・・。ここまで清々しいと言ってしまいそうだけど、今度から交渉するならもっと上手な方法を考えたほうが良い。それじゃ、引き出せる情報も引き出せないよ」

「じゃあ、どうすればいいのよ」

「そうだなぁ。俺は持ってる情報のほとんどを出したんだ。そっちの持ってる情報を全部出したらいいんじゃないかな」

「そうだとしたら貴方から情報を貰えないかもしれないじゃない」

「あのさぁ。俺と、君の立場分かってる?」

「?」

「君は欲しい情報を集めに来ただけかもしれないけど、俺はいきなり知らない人が常識のない時間に家に押しかけてくるわ、こっちの苦労して得た情報をいきなり寄越せと言って来たり、そんな状態ではいそうですかって情報渡すと思うか?」

「・・・・・・・・・」

「それに俺は眠いし疲れたし、悪いけど今日は帰って貰っていいかな」

「う、うん、そうするね。いきなりごめんね」

「・・・・私、貴方の事嫌いだわ」

「う~ん、美人さんにそう言われるとなかなかと堪えるねぇ」

「そう言うところが・・・・」

「ごめん、今すぐ帰るから。ほら行くよ、蓮子」

「いーやまだ言い足りないわ」

「蓮子。行くよ」

 

うわっ、こわっ。

 

「わかったわよ・・・・・。絶対私達だけで真相を掴んでやるんだから」

「お好きにどーぞ。俺は誰かと競ってるつもりはないから、何でもいいよ」

 

あ~、マリーさんに引きずられる様に帰ってゆく・・・・・・。

・・・・・よし帰ったな。さてと・・・・、なんか変に目が冴えてきちゃったから、まとめますか。

 

確かに噂の廃校舎の土を掘っていたのは俺だ。

とある日の深夜に廃校舎に探検しに行った時、なんかある木の下でぼんやりとした白い光源のような物があって、その部分の土だけなんか草が生えてないと言うか、他と比べて違和感があったので掘ってみたら一冊のノートが出て来た。

俺は心霊スポットとか怖くて行けないタイプだ。だって幽霊とか殴って退治できる訳じゃないから普通に怖い。

 

まぁ、その話は置いといて。ノートは噂のもとになった死んだ女の子の物だと言う事が分かった。

ノートの中は日記のような物だった。学校の事が中心ではあったが、なかなか面白かった。

 

元々、人に話しかけたりするのが苦手なタイプであったようだが、とある仲良しグループと関わりを持てたようで嬉しかったことが生き生きと書いてあった。

 

しかし、彼女はその集団に夢を見過ぎていたようだ。

・・・・でも彼女は彼らに綺麗であってほしいと願ったのだろう。

その彼女の行動が彼女に悲劇を起こした。

綺麗であって欲しかった人達は、汚れていて。

汚れていたと思っている人間が純粋であったのだろうか。

 

だとしたら悲しいと言うか・・・・・・・皮肉なものだ。

 

 

でも、この謎の全貌を俺が想像して補完するには、決定的な物が足りない。彼女らが仲間と書いていた人達がいったい誰なのか。これが分かればなんかわかるような気がする。

 

どうやって調べたらいいかなぁ。

新聞とかあさるのはもうないと思うぐらいやったし、もう廃校舎はほとんど探したしなぁ。

 

 

正直彼女の持っていると言っていた情報は気になった。

でも、ちょっと疲れたのもあって俺も言い過ぎたかなぁ。

なんかなぁ、女に対して苦手意識でもあるんだろうか?いや、まさかなぁ。

はー、やめやめ。寝よう。こういう時は寝るに限る。

 

 

 

**********

 

 

~二日後~

 

 

あれから数日たったが一向に進展がない。おまけに亮は学校に来ていない。

もうここいらで終わりかなぁ。

まぁ、確証がないってだけだし、俺が勝手にこうじゃないかって満足する分には良いかな。

 

はぁ、やっぱこの間は言い過ぎたかなぁ。・・・・ちょっと過剰に女に反応し過ぎたかもしれない。

 

ってなんで俺はあの二人のこと気になってるんだ。俺自身の事が訳わからん。

それは置いといて、謝ろうにも目立つ二人だろうからなぁ。大して仲良くないのにわざわざ話しかけてあんまり注目されたくないなぁ。

 

 

講義も終わったしいつもの喫茶店にでも行ってケーキとコーヒーを。

 

 

カランコロンカラン

 

「マスターいつものお願い」

「やぁ、仁君。君にお客さんだよ」

「え?」

「こんにちは」

「マエリベリーさん・・・」

「隣に座って。私もここによく来るの。お話しましょ?」

「あ、あぁ、それじゃお邪魔します」

「いつものってなんかお酒でも頼むみたい」

「あぁ、いや、コーヒーとチーズケーキだよ?」

「わかってるよ。・・・・・・・どうかした?」

「この間は言い過ぎた。すまなかった」

「あ、気にしてたの?むしろこっちが謝らないといけないのに、優しいのね」

「いや、悪いと思ったから謝っただけだ。連れのの子にも言っといてくれ」

「わかったよ。私から言っておく」

「すまないな」

「それは良いけど、今日は私から話したい事があったら、待ってたの」

「俺に用って何だ?」

「あのね、蓮子って向こう見ずだし、いきなり行動起こして巻き込んでくるし、本当に訳わからない事したりもするせいで、大学じゃ浮いちゃってるの。だけどね、偶に気を遣ったり、優しかったりするいい娘なの。だからね、貴方がもし嫌じゃなかったら仲良くして欲しいの」

「いや、俺の事嫌がってるんじゃないのか。散々な物言いしちゃったしさ」

「蓮子が他の人とあんなに楽しそうに話してる所なかなかないよ。それに帰ってる時も絶対引き出してやるって意気込んでたもの。あんなに特定の人物に関心持ったの始めて見たかも」

「それはそれは、まぁ、何と言うか光栄なような面倒なような」

「って言いつつ嫌とは言わないんだね」

「まぁ、そっちの持っている情報に興味があるしね」

「それじゃあね。蓮子説得してあげようか?」

「良いのか?」

「いいよ。じゃ、連絡先交換しない?」

「じゃ・・・・・、これで良いか?」

「・・・・・・うんこれで交換できたね。そうそう、説得する代わりにね・・・」

「メリー‼ってなんでアンタがいるのよ‼」

「たまたまだ。ここは俺のお気に入りでね」

「ふん!行くわよメリー。いい情報が得られそうよ‼」

「じゃあ、よろしくね仁君」

「行くわよ‼メリー‼」

「あぁ・・・・・」

 

カランコロンカラン

 

 

「お待たせしました。モテる男はつらいねぇ」

「えぇ、この会話で何からモテを感じ取れって言うのさ」

「経験を積んだら分かる。それが有意義な人生ってもんさ」

「そんな事よりも、俺はこの店のケーキの皿を積み上げる方が有意義な気がするね」

「はぁ、やれやれ」

 

マスターが携帯触りながら話すねんて珍しいな。まぁ、いっか。

あ、メリーさんお金払ってないんじゃ?

・・・・・・変わりに払っておくか。

 

 

***********

 

 

 

~大学~

 

情報ねぇ。気になるなぁ。

 

いい情報って何だろう?すっごい気になる。

ここらでいいかって思ってたのになぁ。こう中途半端になる時になって湧き出ると困るんだよなぁ。

 

・・・・・今日、接触してみるか。面倒だけど、あの二人を探すかな。

 

 

しかし、彼女たちは学校には来ていなかった。

 

 

 

 

 




毎度のことながら、最後までお読み頂きありがとうございます。

リアルの生活が忙しくなり更新が遅くなってしまいまして申し訳ありません。
今後この様な事もあるかもしれませんが、気長に待っていただけるとありがたいです

さて、今回はUA2000達成記念の閑話です。
今までのお噺を読んで来ているとおっ?っと思う表現がいくつかある様な気がします。・・・・・するよ?俺はね?
そういった点も探しながら楽しみつつ、後編のような物を楽しみに待っていただけると嬉しいです。

いつもと違った形のお噺で書くのに苦労はしていますが何とか〆るつもりなので、どういった結末を迎えるかお楽しみに?
・・・・・・正直こういったお噺書くのは初めてだから面白いとか良いって思って頂けるかめちゃくちゃ不安ではあるんですが・・・・・・。

さぁ、今回は短いですけどここまでで筆を置きたいと思います。
と言う訳で、次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。


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閑話 俺と秘封と廃校の秘密 解

UA2000突破記念後半戦‼

どうも慣れない肉体労働系の仕事で体の節々が痛すぎる、体の歳を感じるノリさんです。

さて前回の閑話の続きではありますが、、読む前に注意点を

・不適切な表現が多く含まれるかもしれません
・文字数は今までの中でトップの多さです

これらが大丈夫な方のみ、お読みください











注意書きはちゃんと読んで、大丈夫って方ですね?
それでは本編をどうぞ!









~ 夜 仁の部屋 ~

 

結局見つからなかった。何かあったのだろうか。

 

マリーさんに連絡をしても返事は来ない。

一応初めて連絡を送ったので名乗っておいたが全く既読すらつかない。

まぁ、偶に俺も一日触らない時もあるし、おかしい事でもないのかもしれないけど、なんかあの・・・・・宇佐見蓮子?だったっけ?あの子と一緒に行動してると危なっかしい事に巻き込まれてそうでなぁ。

 

 

♪~~~~~~♪

 

 

これは電話か。メールじゃないしな。

 

「もしもし?」

『もしもし、俺だ』

「詐欺は間に合ってます」

『オレオレ詐欺じゃねーよ‼』

「で、何だよ。わざわざ夜に電話なんて、穏やかじゃねーな」

『本当に穏やかじゃなんだって‼お前、駅前の病院ってわかるか?』

「わかるけどさぁ、なんだよ、お前俺に駅前今から行けってか。面倒だなぁ」

『来てくれれば分かる。マジでやばい事になってるから‼なるべく早く来てくれ。何か手土産もってとにかく行くんだぞ!いいな‼』

「わかったよ。じゃな」

 

何事だよ。はぁ、この時間から外に出なきゃならないなんてめんどいなぁ。

ましてや病院か・・・・・。はぁ、もう一回風呂に入り直さなきゃいけないなぁ。

 

 

***********

 

 

~ 駅前の病院 ~

 

 

夜に病院に来たのなんて久しぶりだ。

 

 

初めて夜の病院に来たのは家族を失った事故の時以来だろうか。

一応の検査とかって言って病院に連れてこられたんだっけ?

 

元々病院は嫌いだけど、あれ以降特にいかなくなった。

なんか病院の薬臭さとかがダメになったのか、死を感じてしまうから、思い出すからダメなのかはわからないけど、本当にダメだ。

 

「って手土産持って病院来いなんて穏やかじゃないな。あいつとうとう先輩ボコられたのか・・・。ここだな」

 

そういや何処に行けばいいんだ?受付にでも聞くか?

 

「なんでアンタがここに居るのよ?」

 

ん?

 

「お見舞いに来てくれたの?わざわざありがとう」

 

んんんん?」

 

「なんでマリーさんも宇佐見さんも手とかに包帯巻いてるんだい?」

「なんでこの部屋に来たのよ・・・・」

「あれ?仁君?私達のお見舞いに来てくれたんじゃないの?」

「俺は亮から連絡を貰って・・・・ってまぁいい。二人とも怪我したみたいだけど大丈夫か?」

「うん、一応二人とも大きい怪我はして無いから大丈夫だよ。蓮子は少し打撲できちゃったけどね」

「メリーはもっと酷いでしょ。打撲以外にも刃物で切りかかられて腕刺されちゃって、少し縫ったんだから」

「そうか・・・・。あ、これバナナ。良かったら食ってくれ」

「わ~、ありがとう。お腹減ってたから丁度よかった。じゃバナナさっそく貰うわね。蓮子は?」

「じゃあ、私もバナナ」

「はい。本当にありがとう、ちょっと仁君がいた時にはびっくりしたけどね」

「何があったんだ?」

「それは私が返事するよりも蓮子に説明してもらったほうが良いかな」

「そうか・・・・。で、何があったんだ?」

「・・・・・・・・・・・・」

「蓮子、わざわざお見舞いに来てくれたのにそれは失礼でしょ?」

「そうだけど・・・・・」

「無理に話したくないなら話さなくていい。そこまでして聞くつもりはないし、まぁ、気が向いたらでいいさ」

「やっぱり優しいね」

「そんな事はない。俺は俺のやりたいようにやってるだけ。周りの事なんて考えてないただの迷惑な奴だろ。ってやっぱりってなんだ」

「素直じゃないなぁ」

「これが俺の本音だから俺は素直だよ。さて、なんか穏やかな感じじゃない事があったみたいだし、今夜は俺の家に泊まっていくといい」

「そこまでして貰ったら悪いよ」

「今更気にすんな。それに俺腕っぷしには多少の自信はあるから何かあっても安心しろ。そして俺は怪我人に襲いかかるほどド畜生じゃないから安心してくれ」

「この前も手出ししなかったもんね」

「言っとくけどヘタレではないからな」

「ヘタレね」

「蓮子もそう思う?私もそう思う」

 

さんざんな言われようだなぁ、おい!

 

 

**********

 

 

~ 仁の部屋 ~

 

 

帰ってきて、二人に風呂と小さくなって着れなくなくなったスウェットなど貸して温かいお茶を飲んでいるが・・・・・。

自分が原因とはいえ何でこんなことになってんだか。明らかに危険な事に首突っ込みに行ってんだよなぁ。

 

「んで、話してくれる気になったか?」

「さすがにここまでして貰っているのに、何も話さないほど私も礼儀知らずじゃないから話すわ」

「蓮子・・・・・」

「じゃあ、聞かせて貰おうか。何でそんな怪我するような事になったのか」

「この間のこの部屋に来た時は私達の方は大した情報なんて持ってなかったの。でもなぜか情報をくれる匿名のメールが来てたからそれをネタに情報を貴方から引き出せないか考えたの。多分、少し焦ってたのもあったと思うから乱暴な感じになったけど。案の定、上手く貴方から情報は得られなかった」

「なんで焦ってたんだ?」

「一つ目に情報をくれてたメールが一向に届かなくなった事で調査が進まなくなった事。もう一つは今回の廃校の件を調べるようになってから、私たちの家に脅迫文みたいなものが届くようになったの。それでメリーが変に怖がっちゃってね。早めに解決させようと思ったのよ」

「だって帰ってきたら新聞の切り抜きとか赤い文字で『手を引け。じゃないと殺す』って書いてあったら怖いわよ」

「そりゃなぁ。誰だってびっくりするだろ」

「話を戻すわ。であなたの部屋からボロクソ言われて帰ってる途中にメールが来たの。近日中に重要な情報をやるからとある喫茶店に来いって」

「ってあの喫茶店か?」

「そうだよ。私と仁君があの話してた喫茶店」

「何を話してたのかは気になるけど置いといて、で、今日の朝に『今日情報を渡す。時間はいつ渡せるかわからないから、今日一日は指定した喫茶店にいろ』ってね」

「そうか。で?その後は?」

「メールの送り主に場所変更を言ったら、二十一時に駅前の裏通りの中華料理屋の前に来いって言われたから、時間通りに行ったわ。そしたら『店の前の鉢植えの裏に封筒があって、それの情報があるから持って行け。帰る時には気をつけるよう』って。で、気をつけて帰ろうとしたら黒い格好でマスクとかサングラスした四人組に襲われて・・・・」

「そうか。で、その後は?」

「襲われてる途中にあの喫茶店のマスターが買い物帰りだったのか、助けてくれたから逃げたのよ」

「で、病院に駆け込んで治療を受けたと。そこんとこはしっかりしてんなぁ。まぁ、いいや。で、封筒は?」

「ここにあるわよ。でも貴方には見せな・・・」

「蓮子?」

「いなんて事はもう言わないわよ。さすがにここまで来たらそんな事も言ってらんないし」

「じゃそれ見る前に。宇佐見さんに二つほど確認良いか?」

「何かしら?」

「その封筒を取る前に駅前辺りで誰かと会ってないか?」

「ん~、まぁ、この間の飲み会の四人とは会ったけどそれ以外には特に何もないかしら」

「それは俺と君と初めて会ったあの時の飲み会か?」

「そうね。でも初めてじゃないわよ。ちゃんと対面して話した事もあるもの」

「え?まじで?」

「本当よ。まぁ、それは置いといて。後何を聞きたいの?」

「あぁ、もうこの際だから聞くけどそのメールの主から今までそんな情報を貰った?」

「女の子が死んだ時の状況の事が細かく書いてあった物とか、廃校舎の噂とその女の子の事件が関わってる事とか・・・あとは最近噂になってる学生風俗の記事とかかな」

「学生風俗?」

「うん、なんか気が付いたら逃げられなくなって、いやいやだけどそう言った事する娘がちらほらってね」

「見せて貰っていいか?」

「いいわよ。メリーよろしく」

「はい、これ。今あるのはこれだけ」

「蓮子さんじゃなくてマリーさんが貰ってたのか?」

「そうだよ。ある日から急に来てびっくりしたの。なんで私に来たのかな?」

「それは・・・・・まぁ、とりあえず先に読むよ」

 

これは女の子の死亡状況を記録した書類。これは当時の殺人じゃないかと言っていた記事のまとめ。これは学生風俗の記事やそれに関する物。

正直、これだけの情報を集めるのは相当難しいよな。

 

「で、何かわかったのかしら?」

「うん?あぁ、俺の持ってる情報と合わせるとね。その封筒の中身は予想が付くかなぁって」

「本当に?」

「それは・・・ね。じゃあ開けて見てみようか」

「わかったわ。私が明けるから」

 

蓮子さんが明けた封筒の中身が俺の予想した物ならこの件の事ははっきり見えてくる。

 

「これはいつも通り書類と・・・・赤のマスコットのキーホルダー?」

「わぁ、懐かしい。このマスコット昔流行ったんだよね。赤青緑の三色あって仲のいい友達と一つずつ持ってお揃い‼みたいな」

「へぇ、そうなのか」

「メリー‼この書類‼」

「えっ⁉これってどういう事?」

「どれどれ・・・・あぁ、やっぱりね。そうなっちゃうよなぁ」

「何かわかったの?」

「残念ながらね。まぁ、確認をとらないといけないから今は話せないけどさ」

「何よそれ。いいから話しなさい」

「悪いけどこれは今は話せない。明日には話すそれでその・・・・・二人は今危険な状況にあるんだけど頼みたい事がある」

「私は協力するよ。色々お世話になったしね」

「私も気になるわ。それでこの件が解決するならね」

「もしやるとするなら解決する。やらないとなったらそれでお終いだ。この件は迷宮のままさ。まぁ、やる事にはなると思うけどな」

「で、何をするのよ」

「じゃあ、頼みたい事を言う。聞き漏らさないでくれ。まず・・・・・・」

 

 

明日、俺はきっと後悔するかもしれない。

隠し通して今までそれでやってきた物を俺わざわざ掘り起こしてめちゃくちゃにする。

でも知った以上俺はやるしかないだろう。きっとそれを望んでいるはずの人間がいるから。

 

 

話し終わった後、二人は俺のベットで、俺は床で寝た。体が痛い。

 

 

*************

 

 

 

~ 夕方 喫茶店 ~

 

 

「はぁ、しんどい」

「何か大変なのかい?」

「まぁね。そういやマスター、知り合い助けてくれたんだよな。ありがとう」

「あぁ、あの女の子たちか。いや、状況的に助ける以外にないですよ」

「マスターは良い人だな」

「よしてください。そんなんじゃないですよ。いろいろ経験したらこうなってしまったってだけですから」

「そうか・・・・。なぁ、マスター。良いのか?」

「?何かしようとしてるなら、それが間違ってないならやればいいじゃないな。ましてや、自分のしたい事やしなきゃ気が済まない事ならやって後悔したほうが良いと思いますよ。もちろん、やっていい事と悪い事の分別はあると思うけどさ」

「そっか。じゃ、これお代ね」

「はい、いつも通り。後仁君ポイントカード溜まったから、次回は飲み物とデザートはサービスだよ」

「お、ありがたいなぁ。・・・まぁ、また来るよ。すぐにでもね」

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしてます」

 

 

カランコロンカラン

 

 

また・・・か。そうだな。また行きたいと思うから行く。やりたいと思ったからやる。

これは俺はそういう人間だからしょうがないか。

 

 

「もしもし予定通りやるからよろしく。亮には俺から連絡しておく」

 

 

始めましょ、こんな事するつもりじゃあなかったけど、こうなったからにはしょうがないよな。

だって・・・・仕掛けたのはあっちだからなぁ。遠慮なく、容赦なくやらせてもらおう。

 

 

 

 

*********

 

 

~ 二十一時 廃校舎 二階 教室の一室 ~

 

 

「何だよ。こんなとこ呼んでさ」

「しかもこんな時間に入ってきて大丈夫なんですか?」

「そうそう、おまけによりによってここってねぇ」

「そうだよ。・・・・ここっってさ」

「俺は仁から四人を連れてくるように言われただけだから何をするのかわからないよ」

 

ガラガラ

 

「中島浩太、鷲谷鉄平、芦谷愛海、白波真奈美。逃げずによく来てくれた。今日は俺の話を聞いてもらうために君たちの母校であり、君達の関係が始まったこの校舎に来てもらった。亮は帰っても良いし、このまま残って立会人になってもどっちでもいいぞ」

「じゃ、俺は残るよ。ここまでして帰りますは気持ち悪いしね」

「鷹崎仁君だよね。何をいきなり言ってるんだい?」

「全くだぜ。こっちは飲み会なくして来てるんだぞ」

「それはまた女の子をあの人の所にでも届けるためかな?」

「なっ⁉」

「何を⁉」

 

四人の顔色が一気に変わったな。さて、ここから俺のステージかな。

 

「さて最初に結論を言うと、この廃校舎の幽霊の基になった女子生徒の死亡、最近噂される学生風俗、そして宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンを襲った3つの件これらは全部関係がある」

 

「そしてこの事件の犯人は君達四人全員だよ」

「「「「⁉」」」」

 

何でこんな事になってるんだろうなぁ。

 

「さて、最初から説明して行こうと思う。ます中島浩太。君の家は親父さんは四年前に亡くなったみたいだけど、相当借金抱えてたみたいだね。おまけに生前はツケで風俗に通っているみたいじゃないか」

「・・・・・・・」

「しかし、そんな状況なのに大学に通えるのが不思議なくらいだ。何かやばい事してるんじゃないの?」

「そんな事はしてませんよ」

「ほんとかなぁ?まぁ、続き。鷲谷鉄平、君は中学時代までに相当やんちゃしてたみたいだね。こわいお兄さんみたいのにお世話になった事もあれば、何回か警察のお世話になってるみたいじゃないか」

「まぁ、若気の至りってやつだよ。何か悪いか?」

「悪いは悪いけど、君のはある意味質が悪いかな。そしてそこの女二人は親がいないうえに、義理の親の商売柄か知らないけど、多分中学時代から風俗店で働かされてるよね。まぁ、襲われたりもしたんじゃないの?」

「なんでそんなこと聞いてくるのよ‼」

「事実だろう?」

「・・・・・・・・・・・・・・そうだけど・・・・・・・・聞き方ってものがあるでしょう!」

「ねぇ、仁君こんなことやめようよ」

「そうだなぁ、正直俺には何の被害もないからやめても良い。廃校舎の噂の真実を知れたらそれで十分だからな」

「それなら・・・・」

「だが辞めないし、辞めるつもりもない」

「なんでだよ‼」

「それは君達が今を生きている女に手を挙げた加害者になったからだ‼それに俺にだって近々手を下すつもりだったんじゃないのか?」

「それは・・・」

「おい浩太‼」

「さて、話を続けよう。そんな四人が偶々同じ学校に集まった。その経緯なんてどうでもいい。社会的に後ろ暗い事がある四人はそれぞれの事を知った時近い物を感じたからか、お互いを支えあう大学前続く関係になりました。まぁ、それだけ聞くとちょっとしたいい話かもしれないが、いろいろ間違え過ぎたね」

「なぁ、仁。さっぱり話が見えてこないんだけど」

「亮、これからわかるからさ、とは言っても長々と話してもしんどいからざっと行くぞ」

「お願いやめて」

「白波真奈美、そう願ってももう遅い。んで、まず一つ目。これはこの廃校舎の幽霊の噂のもとになった君達の同級生の女の子。彼女が亡くなるなる原因は君達にある。そして、その事が今になっても後を引いている事。二つ目に最近噂になってる学生風俗の噂も君達が原因であると言う事。三つ目に廃校舎の幽霊を調べていた二人の女に手を出した実行犯が君たちって事だ」

「何言ってやがる!いい加減にしろ!」

「落ち着け鉄平‼君もいい加減にしろ!これ以上出鱈目な事を言うなら帰らせてもらう」

「なら何でそんなに青い顔して帰ろうとしてるんだい?・・・まぁ、それなら俺は持ってる情報を持って警察に行くだけだからそれでもどうぞ。わざわざこんな事をしているのは意味があっての事だ」

「その意味って何なんだ‼」

 

 

「知りたきゃ黙って聞いてろ、アホンダラ‼」

 

「「「「「⁉」」」」」」」

 

あぁ、イライラすんなぁ。・・・・・・・・・って、落ち着かないとな。

 

「ふぅ、さ。話を続けよう。まず最初に三つ目の事からサクッと話そう。まぁ、これは簡単。警察に被害届を出せばあっという間に証拠を見つけてくれるでしょう。周辺の監視カメラか目撃者の情報を集めたらわかるでしょ」

「そんなの証拠にならないな」

「どうだろうね。さてここから本題。まず第一に女子生徒の死んだ理由が君たちにあったという訳だけど。恐らく四人とも彼女の事は知っていて、それなりに途中までは仲良く遊んでいたんじゃないのか?」

「そうよ、私、真奈美があるきっかけで仲良くなって、そのつながりで鉄平や浩太とも仲良くなって偶に遊んでいたわ。良い娘だったわ。人見知りだしオドオドしてるけど芯はあって、優しかった」

「だろうね。その彼女に日記がここにある。この中には中学生活が始まってから、君達と仲良くなって嬉しかった事、君達の事情を知ってしまってから何かできないかと苦悩している事、その他諸々が書かれていた。自分のお小遣いを使って流行りのマスコットのキーホルダ―なんかを買って渡したのも彼女なりの応援だったみたいだな」

「そうだったのね・・・・・知らなかったわ。なくしちゃったけどね」

「私は今でも赤の持ってるよ。なんか手放せなくて」

「さて、では何で彼女が死ぬ事になったのか。それは彼女の悪意なき告白から始まったんじゃないかと推測する。死ぬ前の日の日記には

 

『今まで何も知らないふりで仲良くしてきたけど、みんな私が知らないと思って仲良くしてくれるけど、私はまだ四人の中には入れていない。だから、怖いけど、本当に仲良くなりたいから、勇気をもって彼女たちの秘密にしたかったものに踏み込もうと思う。多分間違いなのかもしれない。でも、私はみんなと本当の友達になりたいから。やっぱり怖いけど、今度こそ本当のお友達になりに行く‼明日は上手くいきますようにってお祈りしながら眠る事にする、おやすみなさい』

 

と書いてある。この文面から次の日にきっと君たちの秘密に触れて来たんだろう。まぁ、どういった会話になったかは君達しか知らないから何とも言えないけどね。まぁ、きっと口論になったんだろう。それで揉み合いになった結果彼女は窓から落ちて死亡。その日の夜に心配して迎えに来た父親が花壇で遺体を発見して、通報。で、後は事故扱いで処理されて終わりと」

「でもそうだったとして証拠はないよな。だってほとんど想像じゃないか」

「ここになぜか当時の警察の実況見分とか資料がある。当時はまだ甘いとこはあったかもしれないが、俺の見る限り、これは事件と断定して捜査が始まってもおかしく無いほどにはちゃんと調べれられているよ。父親の靴以外の足の痕跡があった事。それに遺体と地面の間に不自然な跡ががあった事が書いてある。具体的には、遺体が最初に落ちたとされる場所から少しずれていた事、そして二度頭を打っている事。第一発見者である親は遺体に触れてないらしいから、第一発見者よりも早く現場に居合わせてかつ、遺体に触れている人間がいると言う事だ。疑わしきは十分にあったのになぜ捜査がされなかったか‼それは二つ目に最近噂になってる学生風俗の噂も君達が原因であると言う事につながる」

「はぁ、なぁ、仁?何でそこと繋がるんだ?だって全く関係ないだろう?」

「まぁ、表面を聞いただけならそうだね。まぁ、彼らは二つ目の噂である学生風俗のもとになっている事をしている張本人たちだからさ。さて順を追って話そうかな。まずはなぜ捜査が中断されたかなんだけど、おそらくこれは揉み消しがあったからだよ。その揉み消しをしたのは今も昔もこの地域で権力をふるっている地主の人だろうね。

誰とは言わないが」

「それは分かるけど、何でそんな人が出てくるんだ?」

「調べたところ四人とも働かされている風俗はその人の管理しているお店だ。実質その人の下で働いていたよなものだからね。まぁ、面倒事は避けたかったんだろう。でも揉み消した事によりこいつらには大きな貸しが出来て、余計に命令に逆らえなくなったんだろうね。んで、嫌々かもしれないが飲み会に誘って飲ませて気分を緩くさせて店に連れ込んであとはその店の大人たちに任せる。と言った感じかな。でもどこかで漏れたのかそれが噂になったって感じだな」

「でもさ、俺らがやったって証拠は?」

「それはこの写真。この写真はお前達が店側に女を渡しているシーンの写真などなど。おまけにきみたちが店の人間からお金をもらってるシーンまで。出てくるなぁ、これもう立派な人身売買だよねぇ」

「マジかよ・・・・・・。じゃあ俺が仁を誘ったこないだの飲み会も?」

「まぁ、そうだろうね。幸い最高ともいえる女を引っかけられたはいいが酒は飲まないし、俺の事を気にしてばっかで誘いには乗らないしで失敗したんだろうな」

「あぁ、そう言えばそうだったな・・・」

 

偶然とはいえ、あの二人は助かっていた。

本当に偶然だけどね。

 

「ははは」

「浩太?おいどうしたんだよ」

「どうした?僕たちが今まで必死に隠して来た事や、今までやってきたことが推測交じりだけどで、全部バレちゃったんだぞ。こんな素人みたいな奴に、わかるなら警察に持ってかれたら、どうしようにもないじゃないか」

「そうだよ・・・・・、もう隠せないよ」

「一つ聞きたい事がある。何で当時女の子を落としたんだ?」

「それは・・・・・」

「いいよ真奈美。私が言うから。それはね、彼女が無神経にこっちに寄って来ようとしたからよ。隠したいと思ってた事に踏み込むわ、それでも仲良くしたいって言ってきて。大丈夫だよ、私はみんなの事そんな事があっても嫌いになってないからって。必死に生きてきた私たちの思いを無視して‼偉そうに見えたわ!ムカついたはわ!そして何より綺麗な顔して言ってくるのが許せなかった。だから殺したのよ」

「・・・・そうか」

 

たぶん相手に落ち度がなかったののかと問われたらないとは言い切れない。

でも、悪意はない。純粋に思った気持ちを伝えた結果のすれ違い。

 

「もう終わりだな」

「私たちどうなっちゃうの⁉」

「何泣き言言ってるの今更どうしようもないでしょ!」

「浩太、真奈美、愛海‼落ち着けよ‼・・・・・・なぁ、鷹崎、この事は黙っててくれよ。俺らだって好きでこんな事した訳じゃないんだ。皆、弱みとか握られて、そうせざるを得なくて、こうなっただけなんだよ。な、だから」

「そうだなぁ、親は選べないし、無力だから生きている環境や状況からは逃れられない」

 

俺もそうであったように。

 

「そうだよな。だから」

「勘違いするなよ。俺はお前たち過去がどうだろうと、お前たちが何しようと、俺の周りに害がないならどうだっていいんだよ。ただ偶々興味を持った廃校舎の幽霊の秘密が知れればさ。でもなぁ、お前たちは俺の周りに危害を加えた。そして俺にも及びそうになった。それで理由は十分だ。俺がお前たちの為に何かをすることはない」

 

だからと言って許される事ではないから、知ってしまったから、容赦はしない。

 

「ふざけんな!なんだその言い方はよ‼」

「だが俺も鬼じゃない。二つの選択肢はくれてやる。どちらかを選べ。一つ!俺がこれらの事を警察に話してお前たちが捕まえられる。二つ‼お前たちが今から警察に自首して洗いざらい話してくる。さぁ、選べ」

「ふざけんなよ‼なら、死ね‼」

「おいおい刃物かよ。面倒だな。でも、そんな物出して襲ってきていいのか?」

「命乞いならもっとうまくやるんだな‼」

 

あぁ、大きく振り下ろそうとしちゃって胴体ががら空きですねぇ。

俺は前進して腹に膝蹴りをたたき込み、体を曲げかけたところを力ずくで床に投げ落とす!

 

「呼吸しにくいだろ。刃物は危ないから預かっとくよ。死にぞこないの俺を殺そうなんてお前にゃ無理なんだよ」

「はっっっゴホッ」

「さぁ、俺は寛大だからもう一回だけ聞いてやる。どっちを選ぶ。ちなみにそれ以外を選ぼうものなら、各所に流すからな。逃げられると思うなよ」

 

さぁ、選べ。自分から死に行くか、俺がしに行かせるかのどっちかだけどな。

我ながらロクでもない選択肢だな。まぁ、だからと言って辞める気はねーけどさ。

 

「・・・・・わかったよ。俺が自首する。皆の事はわからないように話しておくから」

「何言ってんの⁉何言ってるかわかってるの?」

「愛海の言う通りだよ‼なんで浩太だけ」

「皆がこうなったのは、俺が隠せるって言って皆に手伝わせたからだ。だからそれの責任はちゃんととる」

「・・・・・・浩太。それでいいのか」

「良いんだよ、鉄平。今まですまなかったな」

 

「お前たち何を言っている?そんな選択肢を与えた覚えはないぞ」

「⁉」

「当たり前だろ。そんな事したところで俺が許すと思ったのか?」

「頼む!俺だけで勘弁してくれ‼」

「駄目だ‼お前たちは言うなれば悪だよ。それを裁くのに情けはかけやっても容赦はしねぇよ」

「君ってやつは・・・」

「そんなに憎らし気に俺を見るなよ。それならまず碌な事をしてこなかった自分を憎むんだな。それに、今この会話はこっちのスマホでお前たちが襲った女二人、こっちのスマホで殺された女の子の親に繋がってて全部聞かれてるからな。親がだれかなんて言わなくてもわかっているよなぁ」

「あぁ・・・・」

 

四人みな絶望と言う言葉の相応しい顔をしていた。亮は何とも言えない表情をしていた。

俺は、これ以上長々と語らずに済んだかと思った。

 

 

 

*********

 

~ 次の日 昼 廃校舎 ~

 

「はいメリーさん。携帯返すよ」

「中、見てないよね?」

「見てないよ。使ったのは電話だけだから安心してくれ」

 

昨日は俺の携帯で親と、メリーさんの携帯を使って俺の部屋に一緒にいる二人に聞かせていた。

今日はノートが埋まっていた場所に花を供えに来た。そしたら二人もついてきたけど。

 

一通り済んでから、ちょっと木の下で会話って感じだ。

昨日の顛末は、全員自首した。今日から警察とかが捜査して解決していくだろう。

今回の件ではいろいろあったし、思うところがあった。

 

「まぁ、死んだ人がいる出来事に感謝ってのもおかなしな話だよなぁ」

「そうなの?」

「まぁ、こうやって綺麗な二人と少しの間だけだけど話せた訳だしな」

 

まぁ、それにやった事はどうあれ彼らの彼らを思う気持ちは本物だったし、そんな彼らを思っていた女の子の気持も本物だったんだ。なんでそれは俺にはとても羨ましく思えるものだった。あの日以来作る事を避けてきた。少しは彼らのような互いを思いあえる関係をまた作っても良いかなと思えるほどに。

 

「そうやって煙に巻くのね」

「そんな事ないよ。現にこの件が無かったら、会ってもないしこんな風に話せてなかったろ?」

「前から言おうと思ってたけど、私たち前に会ってるから」

「え?」

「蓮子と私に絡んできたしつこい先輩たちを追い払ってくれたのは仁君だよ?お覚えてない?」

「あ~~~~あぁ!そう言えばあの時の‼」

「今になって気が付くとか遅過ぎよ」

「あははは、仁君らしいけどね」

 

俺らしさって言ったい・・・・・・?

 

「ところで気になったんだけど、貴方は話すの下手なの?」

「え?」

 

何いきなりダメだし?

 

「だってあの四人都話してる時、なんだかいつもと違ってとてもわかり難いし面倒くさい話し方してたから。ああああいうのを話すのが苦手なのかしらって思って」

「あぁ、あれね。確かに蓮子さんの言う通りわかり難いし面倒な話をしてたよな。文章にしたら余計にわかり難いくらいだと思う。まぁ俺の勝手な考えだけど、人間って精神的に追い詰められた緊張状態であんなに長々としかも面倒な話し方されたら、イライラするだろ?」

「それはそうね」

「で、口じゃどうしようにもなくなったら、そのイライラに任せて襲いかかってくる奴が一人はいるだろ。それをねじ伏せたらぐうの音も出ないだろうし、それにせまるための真面目な言葉がインパクトを与え易いかなって思ってさ」

「襲い掛かってくるのも計算済みって事ね」

「なんでそんな危ない事するの!」

「だって、絶対負けない自信があったから。それに一番丸め込みやすそうだったからってのもあるけどさ」

「貴方頭いいわね。馬鹿だけど」

「お褒め頂き光栄だね」

「皮肉よ」

「知ってる」

「盛り上がってるところ悪いけど、この木に何かあるように見えるんだけど?」

「ここは日記が埋まってた場所だからねぇ。なんかあったのかもしれないね」

「そうなのかな・・・・・・。話は変わるけど、結局私にメール送って来てたのって誰だったんだろう」

「それに私達は誰が親なのか知らないわよね」

「気になる?」

「「もちろん」」

「じゃ、行こうか。その疑問が解決する場所に」

 

「貴方と一緒にいる男のお友達に気を付けなさい」

 

「メリーさん?」

「私また変な事言ってた?」

「あぁ、気にしないでいいわよ。割とよくある独り言みたいな物だから」

「そうか・・・・・。まぁ行くか」

 

俺そ近くにいる男の友人なんて呼べそうなのはリアルハイスペック野郎、大町亮ぐらいだけど、何を気をつけるんだ?

まぁ、面倒事は持ってくるけどそんな悪い奴じゃないし・・・・。まぁ、わかんないから今はいいや。

 

 

********

 

 

~ ??? ~

 

 

「ここだよ」

「ここって・・・・」

「本当に言ってるの?」

「さ、行こうか」

 

カランコロンカラン

 

「やぁ、俺らしかいないみたいだね、マスター」

「いらっしゃい、仁君。おや?珍しい組み合わせ・・・でもないかな?

「今はね。じゃ、俺はいつもの」

「私はオレンジジュース」

「えっと私はミルクティーで」

「かしこまりました」

 

カツカツ

 

「ねぇ、貴方は親も、メリーにメール送って来てたのもマスターだって言うの?」

「そうだよ」

「なんで?私メールアドレスなんて教えてないよ?」

「それはマスターに聞いた方が早いよ。ね、マスター?」

「お待たせしました。・・・・・そうですね。ちゃんとお話ししましょうか。ちょっと休憩中に変えてくるので待っててくださいね」

「なるほどね。マスターなら幾つか辻褄が合うわね」

「おぉ流石。頭がいいだけはあるな」

「ねぇ、蓮子、どういう事?仁君も納得してないで教えてよ~」

 

カランコロンカラン

 

「お待たせしました。まずは君達に謝ります。君達を危険な目に合わせて申し訳なかった」

「どういう事?」

「メリー、いい?マスターは私達がこのカフェで廃校舎の幽霊を調べている事を知ってから、どんどん情報をメールで送ってきたわけでしょ。要は私達はマスターの思惑に乗せられたって訳」

「思惑だなんてそんな物ではないですよ。ただ私は彼らを止めて欲しかった。それだけですよ」

「マスターは娘が死んでいた現場を見た第一発見者だ。それに実際の親だからね。当時も警察から情報は得られただろうね。それにここは結構長い事やってる喫茶店みたいだし、マスターのコネクションを使って情報を集めまくったんだろうな」

「その経過で犯人を知ったという訳ね」

「いや、最初からマスターは犯人を知ってた、は言い過ぎだろうけど候補はあったと思うよ」 

「なんでそう思ったのですか?」

「俺がこの店に初めて来た時に、マスターが可愛らしい緑のマスコットのストラップ見てたの覚えててな。でも、娘さんの日記には私は似合うって言われた青色を持つって書いてあったんだよね。で、昨日真奈美さんが持ってたのは赤って言った。じゃあ、緑は?それは愛海さんが当時現場で落としちゃったんだろうね」

「なるほど。それを第一発見者であるマスターは気が付いて持っていた。だから目途がついていたのね」

「その通りです。よく覚えてましたね」

「変に記憶は良いんで」

「人の名前とかは覚えられないのにね」

「メリーさんは笑顔で人の痛いとこをさしてくるね」

「でもそうして今回の情報を私たちに送るなんて回りくどいことしたの?」

「それはですね。私は犯人が彼らであることを知ってはいました。しかし、何度か娘とここに来た彼らの姿を見る限り、そんなに悪い子たちに見えなかった」

「それに娘さんからその事で相談されてたから、知ってはいたんでしょう」

「詳しくは知らなかったですけどね。大変な事させられてる子がいるって言っていたくらいで、あそこまでとは最初は思いもしなかったですが」

「でも何かの機会で知ってしまった。だからこそ余計に迂闊に手も出せなかったし、揉み消しも受け入れてしまった」

「えぇ、仁君の言うとおりです。僕は娘の為に怒り狂いその気持ちを貫き通す力も、ましてや彼らを救う力もなかった。最近でも、彼らが何をしているのか見てしまっても、間違っているとわかっていながらその状況を見過ぎす事しか出来なかった。父親としても人としても最低ですよ」

「で、今回二人が調べてるのを聞いた訳だ。自身では何もできない。でも彼女らになら情報を生かして、彼らを止めてくれるんじゃないかと思った訳だ」

「それは何となくわかったけど、でもなんで私のメールだったの?」

「それはメリーさんがここに通っている常連さんだったからさ」

「そこまで分かっていたんですね」

「どういう事?」

「メリーさんはこの店のポイントカード持ってるだろ?」

「え、うん。持ってるよ?ほら、あと少しでケーキとコーヒーサービスなんだ~」

「で、それを作る時に一応名前と連絡先書いただろ。その情報を使ったんだよ。正直個人営業の店だから出来た事だよね」

「そうだったんだ」

「今回限りと思ってやったことだけど怖がらせてしまったね。すまない・・・・・で許されないよね」

「いや、良いですよ。事情が事情だったし・・・・」

「メリーも甘いわねぇ」

「そうだぞ。こういう時は美味しケーキとコーヒーをご馳走になるのが良いぞ」

「それでいいなら、今日は色々迷惑かけたから好きなものを好きなだけ食べていってくれ。腕によりをかけて作らせて貰います」

「「「ご馳走になります」」」

 

マスターは痛い目を見ましたとさ。

 

 

~夜 帰り道~

 

「はぁ、食った食った」

「あんなに食べるなんて容赦なさすぎよ」

「でも私は普段あんなに食べられないから沢山スイーツ食べられてよかったな」

「メリーも食べ過ぎ。まったくそれだけ食べたら太りもするわよ」

「そういう蓮子だってあんなに食べてたじゃん」

「私はちゃんと計算してるからいいんです~」

「君らは本当に仲いいな」

「もちろん」

「だって私達は秘封俱楽部ですからね」

「・・・そうか。まぁ今回の件ではいろいろ世話になった。ありがとうな」

「何よ急に。・・・まぁこっちもありがとう。いろいろ助かったわ」

「ありがとうね。本当に感謝してるよ」

「じゃあな。気をつけて帰れよ」

「さようなら」

「またね、ばいばい」

 

もうそう話す事もないだろうけどな。

明日から頑張ってみますか。

 

 

 

 

********

 

 

 

~ 三日後 大学内食堂 ~

 

今日の講義も終わり、昼食を亮と食っているところである。

 

「んで、あの後あの二人と仲良くなれたのかよ」

「あ?んな訳ないだろ。俺から絡みに行く事はないし、それにあっちから話しかけて来る事もないだろ。そもそもだな」

「夢がないなぁ。その娘のどちらかと付き合いたいとか思ったりしないのかよ」

「思わんことはないが・・・・・・別にさほど思うところがある訳じゃないしな」

「枯れてんねぇ」

「失礼な奴だ『♪~~』あ、すまん連絡だ。って噂をすれば何とやら」

「もしかして彼女達から連絡かい?」

「そうだな。つー訳で行ってくる」

「なぁ、俺も・・」

「相手は俺一人をご要望だとよ。ほれここに書いてあんだろ?」

「っくっ‼羨ましい‼」

「じゃあな。良い事あったら明日の昼飯ご馳走してやるよ」

「失敗しろバーカ」

 

バーカ失敗も成功もねーよ。俺らの関係はそんなんじゃねぇの。

・・・・・・・また面倒事に首でもツッコむのかなぁ。まぁ、それすらも楽しめそうだからいいけどさ。

彼女たちのグループになっている連絡アプリからの一文はこうだ。

 

 

 

『次の謎を見つけたわ!秘封俱楽部、大学正門に集合‼』

 

 

秘封俱楽部なんて怪しい物に入った覚えはないけどね‼

 

 




毎度のことながら、最後までお読み頂きありがとうございます。
UA2000記念の後編でございました。夜勤で働きながら書き進めるのは大変だった・・・・

さて、そんな私事は置いときまして、まずはタイトルをなぜ前編後編のような分かりやすい表現にしてなかったかと言いますと、ちゃんと理由っぽい物があるんですよ。

テーマとして「調べ解く」といった物にしたかったんですね。
二つで終わらせようとした分、「調べ」のパートは書いてる側は楽しくても読んでる側は面白くないだろうと、当初の予定より大幅カットしました。
その代わり「解く」は様々な意味を持たせられるように頑張りました。ので、くそ長いお噺ではありますがどの「解く」に誰が何からとか考えたりするも楽しいかもしれません。


二つ目は、これは元々東方与太噺のスピンオフ的な感じで書こうかなと思って結局ボツにしたものを、今回用に一から書き起こしたものになります。

UA2000記念のお噺どっちがいい?と言うアンケートをTwitterで採ったところ何でもありの特別編よりこっちがいいとの事なのでこの様になりました。

話が逸れましたが、何故ボツになったのかをお話しますと、二つを読んでわかったかもしれませんが、「こういうお噺書くの俺めちゃくちゃ苦手だし、いつも以上に下手だわ」って事でボツになりました。
今回もない頭をひねってそれっぽい物を何とか頑張って書き上げた次第なので、もしスピオフ的に書いてたら頭がパンクしてしまいますな。

と言う訳で、長々と書きましたが如何だったでしょうか?こんな稚拙な文章を楽しんで頂けたのであったら幸いです。
今回のお噺が今年の最後の投稿となります。書き始め大体半年と少しぐらいでしょうか。こんなに書くとは思ってもいませんでしたし、こんなに続けるとも思ってませんでしたし、こんなに早くいい感じの感想やUAやお気に入りが増え、読んでくれた人がいた事に感謝いたします。

本当にありがとうございました。

まだまだ至らぬ所は多い身ではありますが、まだまだ続ける予定ではあります。そんな自分ですが、来年も応援して頂けると幸いです。来年はまず二月のイベントに持って行く予定の同人誌の原稿をササっと終わらせたいですね。鋭意作成中‼


それでは綺麗にまとまったと思うところで、今回はここで筆を置きたいと思います。
それでは皆さんまた来年、さようならさようなら。


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たとえそれが  であったとしても

寒い、部屋の中が寒すぎる、お久しぶりです。ノリさんです。

皆さんは如何お過ごしでしょうか。これを投稿する時の自分は、雪の積もり方が数年ぶりに厳しく、また雪のせいで部屋が冷えまくり暖房をかけてもさほど温まらないと言う地獄絵図になっております。

最近投稿ペース落ちてきちゃったな~と思いつつ、同人誌用原稿とか仕上げたり課題が多かったりしてあんまり進まないのも無理ないよな~と思いつつ、寒いと行動が鈍くなっていました。出来るなら前の半分くらいには戻せたらいいよなぁ。

さて、久々の本編で忘れられてるかもしれませんが、その時は本編の前のお噺を改めて読んで頂けると幸いです。

それでは本編へどうぞ!


 

 

~ 水橋パルスィ宅  決行三十分前~

 

 

さて、もう時間か・・・・・。

思ってたよりも必要な物の準備が早く終わった。竹林の医者から思っていたよりすんなり頼み事の返事と薬を貰えたし、文にも頼み事は済んだし、手紙も書いて、ちょっとした検証も終わった。

 

んで時間が出来たもんだから、ふと思い出したので急遽以前萃香に約束していたもの・・・・・・・って訳じゃないけどそれに近い物をちょっとした巻物にしての渡してきた。悲しげな顔をしていたようにも見えたが、物自体は喜んでくれたみたいだ。

 

このまま寝ずに行こうかと思ったら水橋さんに怒られて無理矢理横にさせられて二時間ほど畳で寝ることになった。

まぁ、そろそろ起きるかな。

 

「起きたのね。何か飲む?」

「じゃ、水貰えるか?」

「わかったわ、今持ってくるから待ってなさい」

「ふふっ」

「何よ?そんなに何かおかしかったかしら?」

「いや、最初にこの幻想郷に来た時の事を思い出してさ。もうあれから一ヶ月経ったんだなぁって思ってさ」

「・・・・早いのね。もうそんなに経ったのかしら」

「そうだよ~。あの時はいきなり天から落ちて、落ちた先で初めて会った娘は可愛いと言っただけで顔赤くしてさぁ。気を失って、看病されて、幻想郷の事を知って。で、この家から逃げて、鬼と飲み、覚と出会い、ひょんなことからお店をやる事になって、最初のお客様には食い逃げされてたかもしれなし、いきなり取材に来るわ、いきなり決闘する事になるわ、お寺に行ったらセクシーライダーが真面目にいろいろ質問してくるわ、似合わないキューピットやる事になるわ、鬼と色々あって、人里のお祭りの屋台で稼ぎまくって、もう二度と会えないと思っていたやつらにも会えた。細かい事言えばまだまだいろいろあったんだけどな。すっげぇ楽しかったし、内容の濃い一ヶ月だったぜ」

「何個か知らない話もあって、随分他の所でもお楽しみだったみたいね。妬ましい」

「ほんとに何でも妬ましいんだなぁ」

「何よ見境なしって言いたいのかしら?」

「いや、嫉妬のお姫様ならそんなもんなんじゃない?」

「そう。・・・・・妬ましいわね‼」

「本当に見境ないね‼あっはははははは」

「悪かったわね‼」

「ふぅ・・・・・・・。さて懐かしむのもこの辺にしてそろそろ行きますかね」

「・・・・・本当にやるの」

「まぁ、そりゃな。多分これが最適解だよ」

「やっぱりやめましょう。こんなやり方間違っているわ」

「かもね。でも今更止まれる訳ないだろ。他の人達だって決行に同意してくれてるんだ」

「それは本心で納得してると思うの‼」

「違うだろうねぇ。あの作戦を話した時の皆の顔を見ればさ」

「だったら!」

「それでも結局それが一番色んな意味で都合がいい結果を得られる可能性が高いからね」

「だからってみんなの気持ちを無視しても良いと思っているのかしら?」

「でも、あいつらはそれで良いと言った。だから無視なんてしてないよ。彼女らだって大人だろうし、上手い事折り合い付けてやってくれるだろ」

「じゃあ、貴方の気持ちはどうなのよ。そんな事したいなんて思ってないんじゃないの⁉」

「そりゃ、これより良い形で終われるなら、そっちのほうが良いさ。正直俺からしてもあまり気持ちのいい作戦じゃない」

「それならもっと考えましょう。きっといい案が出てくるから」

「それはダメだ。時間がない」

「だって・・・・」

「良いんだよ。それをした結果俺がどう言われようとさ。作戦言った時には『さとりさんがこの地底を自由に歩けるようになるかもしれに方法だから』って言ったけど、一番の理由はそれじゃないんだよ」

「どういう事?」

「一番の理由はさ。この状況を利用して俺が自然に、この地底から去っていく事が出来るからさ」

「え・・?」

「別にさとりさんが地底を自由に歩けるようにするって為なら、人気的なのを高めればいいんだよ。でもさ、今回の作戦の方が自然と地底から去れるだろ?どうせ俺はいなくなるんだから何言われようが関係ないしな」

「確かにそうかもしれない。でも間違ってるわよ」

「それでもやるさ。それが俺自身が出した答えだからな。じゃ、そろそろ行くわ」

「待ちなさい!」

「止めてくれるなよ。これが俺なりにできる地底への恩返しなんだからさ」

「っ‼」

「それに大切なラストを任せてるんだ。信頼してるぜパルスィ。じゃ行ってくるわ」

 

 

さぁ、目薬点眼して行こうか。気分がよくない分しっかりと、成功させないとな。

 

 

「そんな顔してそんな事言われたら・・・・止められるわけないじゃないっ」

 

 

小声でなんか聞えたような気がするけどそれは聞こえないフリして、行きましょうか。

 

 

 

**********

 

 

 

「はっははは、俺たちがこの地底で最強じゃい」

「おう、まさかあの古明地さとりがなんも出来ずに逃げ出すようなことになるなんて思ってもなかったわ」

「あのあんちゃんいいもんくれたなぁ。おかげで酒が上手い」

「やぁ、鬼のお兄さんたち随分景気がよさそうじゃないか。俺の店に被害を出したのはお前らで間違いなさそうだな」

「なんだてめぇ。お前みたいな人間がえらそうな口を利いてんじゃね~ぞ」

「今の俺らは最強だからなぁ、謝るなら今の内だぜ」

「あのねぇ、俺が謝る訳ないでしょ。今日はお前らを俺の前で泣いて謝らせに来たんだよ」

「あ?」

「ははははっ、面白い事を言うな、人間風情が」

「ふっ」

 

いきなり殴ってくるなんて随分野蛮だな。

まっすぐ俺を貫くいいパンチだ。

 

パンッ

 

「外に出ようか。店に迷惑かけんじゃねぇよ」

「止めやがった・・・・⁉」

 

でも外に出た段階で臨戦態勢の俺に当たる訳ない。

 

 

とりあえず、外に出た。

俺と鬼が対峙する。あくまで俺は日本人の中で身長がかなり高いほうってだけで、男性型の鬼と向かい合えば俺が小さく感じるかもしれない。って言うか小さく見えるね。

 

「さ、なめた口利いた罰は受けてもらうぜぇ」

「いやいや、留守の間に勝手に家壊されたら誰でもキレるでしょ」

「はははは、それで俺らに謝れってか?ほ~らごめんごめん」

 

ゴッ

 

「まず一人。鬼でもこめかみにもろに入ったら気絶はするみたいだなぁ」

「一撃・・・・・・」

「こいつ、ただの人間じゃないなぁ。なんか変なもん使ってきやがる」

「単純に殴っただけなんだよなぁ」

 

まぁ、こんなのはどうでもいい。

 

「聞きたい事がある。あんたらのその首から下げてる変な物は誰からどうやって手に入れた」

「あぁ、飲んでたら気の良い兄ちゃんがくれたんだよ。これで心が読まれないってな」

「おかげであの覚妖怪に勝てた。この地底でなぁ、覚妖怪に勝てたら、一番つえーんだよ」

「そうかそのお粗末な頭で考えた結果がそれか」

 

さとりさんってやっぱすごいんだなぁ。あんな小さな体にそれだけの責務とかいろいろあったんだと思うと、やっぱ余計にこいつらを許せないんだよなぁ。

 

「まぁ、いいや。まとめてかかってこい。話はそれからだ。とりあえず十秒待ってやる。それまでに俺を殺さないとゲームオーバーだ」

「満足したか。それじゃあ、死ねやぁ!」

 

これまたいいパンチ。そして連携の質もかなり高い。多分昔組んで戦かなんかしてたのかなぁ。

地霊殿のペット二人と戦った時も、なかなかの連携だったけど、あれはあくまで撃退するための戦い方だった。

でもそれとは違って、今のは正真正銘殺してきている戦い方だ。

 

避けて避けて避けて避けて避けて避けて。

でも今の俺は当たらない。ここに来てからずっと身体能力は成長しっぱなしだったんだ。この程度なら余裕で見える。

 

あぁ、楽しいなぁ。それでも強い人間と手合わせするのは何て楽しいんだ‼

 

「『それでもまぁ、この程度か』」

 

「なんだこいつ。まったく攻撃が当たらねぇ」

「もっと本気で殺すぞ‼」

「もう十秒待ったぞ。お前らの負けだ」

「は?」

 

ヒュッ、バタリ

 

「なっ!?」

「次はお前だ?」

「ま、待てよ。話し合おうぜ?」

 

都合が悪くなればすぐに手の平を返す。

人間も鬼も変わらんと言う事か。

 

「駄目だね」

 

ヒュッ、バタッ

 

これで心が読めなかったと言われる三人は抑えた。これから原因を取り除かないとね。

胸のお守りを引きちぎってみると、なるほど心の読めない仕組みが何となくわかった。

 

このお守りには、俗に言う邪念のような物が込められている。

この強すぎる邪念によって心の表面が隠れた事によって、さとりさんは心が読めなかった。

なるほど、おまけに邪念だから凶暴性なども増してもおかしくなさそうだ。

 

原因はわかった。後は体に残ってる邪念を取り除くだけだ。

今こそ俺の能力の本当の力を使う時だな。本当の力って言っても本質は変わってなくて、俺が勘違いしてただけってオチなんだけどね。

 

今まで俺は遊び・童謡を力に変える程度の能力だと思っていた。

でも違う。俺の能力は「奪い・とる程度の能力」と言った感じだ。

簡単にまとめると

  

〈童謡・わらべ歌〉

 

かごめかごめ → 対象の後ろ(死角)に立つ → 『対象の後ろ(死角)をとる』

とおりゃんせ → 対象AとBを選択し、Aは俺よりBに近づけなくなる。もし近づいた場合は強制的に俺より離れた位置に移動する → 『接近の自由を奪う』

はないちもんめ → 対象の能力等、何か1つだけ使用権を俺に移す → 『対象の能力等、何か一つだけ奪う』

ほたるこい → 対象(複数選択可)の注意を全て俺自身に向けさせる → 『視線を奪う』

 

〈遊び〉

 

鬼ごっこ → 俺が鬼役となり対象(複数選択可)を設定し、どこに隠れたり逃げたりしても場所が分かり追跡可能になる → 『逃げ場を奪う』

目隠しだ~れだ → 対象の目を手で塞ぐことで何も見えなくなる。副次的効果な使い方としてサードアイのような目に能力がある場合はそれも封じる事が出来る → 『視力を奪う』

落とし穴 → 場所と規模と深さを設定したらすぐに落とし穴が出来る。大きめの鬼が入るような穴なら同時に5つまで作成可能。大きい物を作るほど同時に作れる落とし穴の数は減る。ふんだら落ちるそれだけ。解除したら何事もなかったかのように穴は元通りになる → 『足場を奪う』

だるまさんが転んだ → 選んだ対象(複数選択可)に俺が背中を向けていると対象は動けなくなる。副次的効果として発動タイプの能力の使用を封じる事も可能。→ 『行動の自由を奪う』

 

 

まぁ、たまたま童謡とかがキーになってただけで、今の俺は 奪う とか とる とか思えば何でも奪えるようになってしまっている。・・・・・俺と言う人間の醜さの体現みたいな能力だ。性能的には何ともチートみたいなものである。まぁ、俺の聞く限り大体みんなチート能力みたいなもんだけどさ。

 

つー訳で体に残ってる邪念を取り払う。まぁ、本当にこのお守りから感じる邪念と同じものをとるだけでいいんだけどさ。

 

・・・・・・・・・はい、三人分とれた。奪い・とる能力なので奪ったりしたものは俺に来るが、俺にこの程度の邪念なんてどうと言う事はないらしい。何か変化が起こったりはしないようだ。

 

さて・・・、そろそろ気絶してる状態から起きる頃合いかな。

正直ここまでやればいいんだけど・・・・、まぁ、余計な事かもしれないけど俺のやれる事をやろう。

 

 

「うぅん、ここは?」

「お目覚めのようだね。覚えているかい?君たちが行った愚行を。そのせいで建物が壊れるわ、怪我人は出てくるわ。おまけに一番傷つけちゃいけない人間を傷つけた」

「・・・・・・あぁ悪かったよ。酒の勢いとはいえ酷い事しちまったからな」

「都合よくお守りなんて物手に入ったから調子乗っちゃったみたいだ。まぁ、あのお守りくれた兄ちゃんに上手い事乗せられたのかなぁ」

「そんな事はどうでもいいんだ。俺はな、筋の通らない事をされるのは嫌いなんだ。今までお前らが好き勝手やってきたこの場所を守ってきたのはどこの誰だ?お前らが何の仕事もせずに勝手に怨霊共が大人しくしてくれているとでも思っているのか?」

「そりゃ、確かに地霊殿の奴らのおかげだが・・・・・・。だけどな、やっぱ覚が外を出歩くなんて怖いし気を遣っちまうんだよ」

「そうだこの数日どんだけ気を遣って酒を飲まないといけなかったか」

「地底の皆だってそう思ってたからこそ止めなかったんだろ!」

「そうか・・・・・。まぁ、これは俺が許せないからやるだけだから関係ないけどさ。お前ら、鬼のくせして言う事は小さいのな」

 

「は?っいてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

いきなり腕と足の関節をつぶした。ぐしゃりと、拳で。

 

「いいか。散々して貰っておいていい思いして、自分は嫌な思いするのが嫌だから我慢しないために傷つけるのは許されるとでも?そんな訳ないだろ?そんなのが通じるなら地獄も何もいらねぇんだよ。ほら、残りの二人も覚悟しろよ」

 

「アンタいい加減にしな。ちょっとやり過ぎなんじゃないのかい?」

「まぁ、流石に同族が一方的になぶり殺されるのはいい気はしないしさ。これ以上やるなら私も止めさせてもらうよ」

「萃香に勇儀か・・・・。邪魔すんなよ。そいつらはその程度じゃ許されない事をした」

「アンタの言う通りこいつらは許されないことしたし、この期に及んで何と思まぁ情けない事言ってるよ。でもね、これ以上アンタのやり方には賛同できないよ」

「そうそう。いくらなんでもいきなり関節潰すなんてさ。いたぶって殺す以外考えらんないじゃん。さすがにそれは放っておけないな」

「勇儀姐さん・・・・」

「お前達を助けた訳じゃない。アイツの言う通りアンタらは許されない事をした事に変わりないからね」

「そうか・・・・・・。ならまずはお前たちをどかして、その鬼達を処分する」

「いいよ。仁がどんなに強いかはしてるけど私達も相当強いからね」

「今まで誰のおかげでこの肉体が成長したと思う?それは萃香と勇儀、君たちが手合わせしてくれたからだろう?」 

「残念ながらアタシは・・・いや、アタシらはかな」

「そう私と勇儀は仁に対して本気を見せた事はないからね」

「そうか・・・・。まぁ、いいや。かかってこい」

「じゃあお言葉に甘えて‼」

「がぁっ⁉」

 

 

見えなかった。俺の目ですら追えなかった。これが鬼の本気か‼でも多分これは鍛え得てきた勘なのかわからんが無意識的に体をずらして致命傷は避けたらしい。

くっそ、壁に叩きつけられた。痛いし、なんか体の中ぐちゃぐちゃになった感じするし、血反吐いてるし、散々だけどすぐに体が治そうとしてるのもわかる。

まだまだやれる。

 

「さすが鬼の中でも最強と謳われる星熊勇儀だなぁ。かなり痛かったぞ」

「へぇ、まだ立てるんだ。次は外さないよ」

「ははは、もう一発入れさせると思ってるのか?」

「相手は勇儀だけじゃないよ‼」

「萃香⁉」

 

いつの間に後ろに⁉

 

「いよいっしょ~!」

 

これは‼萃香の能力で空気を集めて打ち出している‼

また大ダメージって所か?

俺の体の治癒の速さも考えてまだやれる。まだやれるだろう。

 

 

「まだだ。まだこんなもんじゃ俺を倒せねぇぞ‼」

「人間にしてはしぶといなぁ」

「まぁ、アタシ達が少し鍛えたとはいえ流石だね」

 

「何をしているのですか‼」

「さとりさんか・・・・・・・」

 

お燐さんはホントいい仕事する。さとりさんが優秀って言うだけな事はあるよ。

予定通りさとりさんとお空さんを連れて来てくれたみたいだね。

 

「やぁ、さとりさんご機嫌いかが?ちょっと邪魔しないで貰える?」

「なんでそんなボロボロなんですか!」

「さとり、近付いたらダメだ。今のアイツは鬼を殺そうとしてる」

「え・・・?何かの間違いですよね?」

「間違いじゃないよ。ほら、そこで悶絶してるやつの傷はアイツがやったものだからな」

「ねぇ、仁さん。何かの間違いですよね?あんなに地底の皆さんと仲良くしてたじゃないですか」

「うん、まぁ、そうだね。でも俺がそこの鬼に怪我を負わせたのは事実なんだよねぇ」

「そんな・・・・・・」

「いやぁ、俺ってさ、俺から見て筋が通らない事は嫌いなんだ。だから、店を壊してくれたことも、今まで地底の為に働いてくれてるのに、嫌われている事を知って引き籠り、それでもなお地底の為に居ようとするさとりさんを否定する奴らは筋が通ってなくてイラつくんだ。だから、全員処理する。俺にはそれを実行するだけの力と覚悟ってものがあるんでね」

「さとり様⁉」

 

う~ん、ショックが大きくて倒れかけたか。

ただここで倒れられると話が進まないから・・・・・・・。

 

 

「このスキ頂いたぞ‼」

「あっ⁉」

「しまった⁉」

 

勇儀に萃香も俺がこんなスピード出すなんて予想して無かったろうな。

傍からみりゃ満身創痍なのに変わりはないし、人間が出せる程度のスピードはとうに超えたからな。

 

 

ゴキッ!

 

 

「いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「二つ!・・・・・って流石に三つめはとらせてくれないか」

「当たり前だろ!お前にこれ以上やらせるわけにはいかないよ‼」

「それなら萃香‼お前は俺をどうするんだ?」

「殺してでも止めるよ。それが鬼のやり方だ」

「アタシも一緒だよ萃香。本当にこれ以上はやらせるわけにはいかないからね」

「お燐、お空・・・・・・・・貴女達も勇儀たちと協力して仁さんを殺してでも止めなさい」

「さとり様・・・・・」

「本当に良いんですか?」

「・・・・・構いません。もしこの地底を脅かすのであれば仁さんであっても容赦はしません」

「おや?さらに二人戦闘に参加かい?おいおい、俺のする事はさとりさんにとっても悪い話じゃないんだけどねぇ」

「確かにそうです。私の苦労や気持ちを知らずに、好き勝手に暴れて、この地底の秩序を乱すのであればそれを排除するって選択もありますね」

「だろう?」

「けれどそれは私が選んだ選択の積み重ねが招いた結果です。その責任は私自身でしっかりとります。それに私の理想はこの地底を自由でありながら調和のとれた素敵な場所にすることです‼地底の平穏をを乱すのであれば仁さんでも容赦しません」

「そっか・・・・・・。それなら俺はこの場から逃げさせてもらうとしよう。さすがに鬼二人とさとりさんのペット二人をまとめて相手したら俺もただじゃすまないしな」

「どうやって逃げるつもりだい?」

「そりゃあ、もう。ここら一帯の明かりを奪わせてもらう(・・・・・・・)

 

世界が暗転する。俺がこの一帯の明かりを全部奪ったから。

皆は戸惑っているみたいだが、俺は竹林の薬屋で貰った『暗闇でも目が見える目薬』を点眼しておいたからな。

 

マッハで逃げるよ。あんまり長くはこの広範囲の明かりを奪っておくのはしんどいからね。

この能力、まだ返せるだけマシな能力なのかもな。

 

********

 

 

ここまで来たら、後はパルスィから鞄を貰うだけだな。

 

「はっ、っはぁ、はぁっ」

「仁、鞄よ」

「サンキュー。じゃあ、さよならだ」

「ちょっと待ちなさい」

「袖引っ張って、なんだよ。悪いけどなかなか余裕はないんだ」

「いいから。そのね・・・・・私、アンタの事好きよ」

「俺もだよ。じゃなきゃこんな事頼めてないよ」

「違うわ。その好きじゃなくてアンタの事、男として好きなのよ」

「・・・・・悪いけどその気持ちには答えられない。決してパルスィさんが魅力的じゃないって訳じゃないし、むしろ嬉しいんだけど、俺がその気持ちを理解出来ていないからさ。ごめんな。ほら、それに俺もう帰っちゃうしさ」

「帰るのくらいわかってるわよ。ただちょっと・・・・・・・・貴方を困らせたかっただけだから気にせずに行きなさい」

「そっか。じゃあ行くわ」

「忘れないで。この地底が貴方の居場所じゃなくても私は貴方の味方だから‼」

「ありがとな‼また機会があったら会おうぜ‼」

 

 

俺の採った手段はある意味では信頼してたから出来た事だ。

 正解 だったのか、それとも 誤り だったのか。それは俺にはわからないし、誰にもわからない。

でも少なくとも彼女に少しでも恩返しができたならそれでいい。

彼女に送ったものは無事届いているだろうし、きっと俺の気持ちは伝わってくれるだろう。

自己満足であってもそれでいい。俺は人の気持ちを察せるような器用なタイプじゃないからな。

 

 

 

 

・・・・・・・さようなら、地底。俺の、幻想郷における家だった場所。

 

 

 

 

***************

 

 

 

~ 地霊殿 さとりの部屋 ~

 

 

 

明かりが元に戻ってから、大変でした。

幸い近隣の建物には被害はなく、仁さんが叩きつけられた時にできた壁の穴くらいでした。

なんだか気が付いたら、永遠亭からの医者の弟子?が来て素早く処置していった。

その場を去ろうとした私にそれある店の店主が「良かったら今度お食事に来てください」と言ってくれたのは、進歩だったのでしょうか。そう言えば今まで関わる事を断ってきただけで、自分の言葉を皆の前で言ったのは初めてだったかもしれない。きっとこれを機に何かが変わるきっかけになるかもしれない。

 

 

それでも・・・・・

 

コンコン

 

「はい、何ですか?」

「さとり様・・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。でも今日はもう休みます。貴女達も休みなさい」

「わかりました。その前にどうしても渡して欲しいと言われたものがあります」

「何ですか・・・・って手紙ですか」

「はい、必ず一人の時に読んでくれとの事です。それでは渡しましたので、失礼しました」

「お疲れ様。・・・・・・・読みましょうか」

 

 

ガチャ、パタン

 

 

 

私は今日で多くのものを得たのかもしれない

 

それでも、失ったたった一つのものが、今では前より心から愛おしくて仕方がない

 

「どうしてっ、どうしてこんな事になってしまったのっ。ぅっっっっっっっぅぅぅ」

 

私の好きなもう手の届かない人、絶対に許してあげません、ありがとう、さようなら

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

『さとり様

 

きっとこの手紙が届いているという事は俺の考えた三文芝居が上手くいったという事だろうと思う。

三文芝居の事については時間のある時にでもお燐さんとか勇儀とかにでも聞いてくれ。

 

残念ながら俺の今回の行動は君自身に負担を強いる結果になるかもしれない。それでも俺にはこうするしか君に恩返しができないと思ったからね。それに俺はもう帰るから悪評が付こうが何だろうがあまり関係ないし、都合よく俺が地底を去れる理由にもなるし、あらゆることを考えた結果これが最善だと考えた。ちょっと地底の人らに嫌われてサヨナラってのも寂しい気はするけどね。

周りの皆からは最初はとても反対されたけどね。まぁ、そこは俺がごり押しした。だから協力してくれた人たちは責めないで欲しい。

もしこの事で俺の事を最低だと思ったのならそれでも構わない。俺にはそれしか最善策が浮かばなかったのは事実で、それで起こるリスクとかもある程度わかっていた上で実行したのも事実だからね。

 

さて、何やかんやと語ってしまったが、これまで地底にはお世話になりっぱなしだったし、迷惑かかってたかもしれないから、少しでも君の理想のお手伝いが出来たら幸いだ。もし上手くいっていたのなら地底の住人との橋渡しのちょっとしたお手伝いにはなるだろう。君が俺に語ってくれた地底への想いがあるなら今回の事は君なら上手く生かしてやってくれると思っている。

 

ちゃんと直接お別れを言えなくて、こんな事でしか恩返しができないを許して欲しい。このままこの場所にいるときっと君が怪しまれるので、俺は、旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません。さようなら、体を大事にしてください。俺はどこまでも君の友達です。

                               しがない食事処の店主より』

 

 

                       ~ 鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り5日  ~

 

 




毎度ながら最後までお読みいただきありがとうございました。

これにて地底からお別れって感じのお噺でした。
仁君自身が言っていましたが、この選択が 正解 なのか 誤り なのかはわかりません。人生における選択なんてそんなものだとは思いますけどね。
さぁ、地底から去る事になった仁君は残りの日数はどこに行くのか?どうなるのか?次のお噺を楽しみにして頂けると幸いです。


こんな弱小作家もどきな私ですか何となくでツイキャスなる物をやっていたりしてるんですけど、わざわざ参加してくれている俺の読者の人は仁×パルスィの組み合わせが好きみたいですね。これにはホントに驚き桃の木山椒の木。
で、その2人の辛みがもっと見たいって事だったんですけど、たまたま今回は多めになりましたね。
当初から地底を去る時は最後はやっぱり水橋さんと二人でだよなぁって思ってたんですよね。俺の思ういい女の理想像の一つをそれっぽく書いてますが皆さんどうでしょうか?僕はこんな感じのパルスィさんも大好きですね。


さて、もうじき私はイベントの準備の締めの段階にあるはずなんですが・・・・・・まだまだ不安でしょうがない。原稿は見る度に修正入りますしね。まぁ、テストも近づいていてきて今結構てんやわんやして来ております。ですのでもしかした今まで以上に更新が遅れるかもしれませんが、ご容赦頂ければと思います。それまで気長に、今までのお噺を振り返りつつ待って頂けると、とても嬉しいです。もちろん、なるべく早く投稿できるようには頑張りますけどね。

寒さに気をつけて、自分のお噺を楽しんで頂けると幸いです。
それではまた次のお噺でお会いしましょう。さようなら、さようなら




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あいたい/あいたい

本当にお久しぶりでございます。ノリさんでございます。

前回からかなり間が空いてしまいましたが、失踪した訳ではありませんのでご安心を。
いろいろ忙しかったり寒かったりでなかなか書く時間もなく、書いたと思えば納得いかず書き直しを繰り返していた他こんなに間が空いてしまいました。もし楽しみに待っていた方が居られましたらお待たせしました。冬眠から覚めたと思って頂けると幸いです。

久々に更新したと思ったらまた懲りずに思い付きのタイトルでやっております。
どの漢字があてはまるのか。どっちが誰を示しているのかなど想像しながら読んで頂けると個人的には嬉しいです。

さて、忙しくはありますが出来るだけ多く更新できたらと思いますので、今年度もよろしくお願いいたします。

と言う訳で、今回は後書きにおまけの小噺もつけておきますので最後まで読んで頂けるお幸いです。そして何より読んで楽しんで頂ければ幸いです。間が空いちゃったので曖昧な方は以前のお噺を読んでから読まれるといいと思います。

それでは久しぶりのお噺どうぞご覧ください。


~ 無名の丘 : 朝 ~

 

 

気が付けばここで寝てたらしい。お気に入りとはいえ無意識にここに来たとはびっくりだ。

確かにここは鈴蘭が咲いていて綺麗な場所ではあるんだけどね。

きっちり目を手ぬぐいで隠しているあたり割と変な所に気が利くみたいだ。

はぁ、紫さんに言ってた期限まであと少し日数あるのにどこでどうしたもんかなぁ。このまま野宿は御免被りたいんだよなぁ。

昨日の事は思い出しただけで、気分が重くなる。作戦自体は上手くいったと思う。あの流れから見て俺の予想から外れることはまず無いハズだ。さとりさんには悪い気がしないでもないが、彼女の心の在り方なら大丈夫だろう。

 

予想外だったのは、最後だ。あの場面で告白を受けるなんて思ってもなかった。

幻想郷に来たら美人二人から告られちゃってモテモテだなぁ。いやっほぉぅ‼ ……みたいに思えりゃまだ幸せなんだろうけど、……いやそれでクソ野郎なのか? まぁいい。

彼女の気持ちは本当に嬉しかった。でも俺はその気持ちを理解できない。だから、受け入れられない。

あの男ならそんなこと気にせずにと言うのだろうが、それは俺が認められない。

何かこう……相手に失礼だと思っちゃうんだよなぁ。

 

話変わって俺は自分の能力の本来の力に気が付いてしまった訳だが……よりによって名付けたら「奪う程度の能力」かぁ。俺にはぴったりな、俺らしい…俺の人生を現したかのような醜い能力だ。

 

この力があれば足元などにある枯れた花のように、俺はなんだって奪える。言い方を変えれば何だって手に入れられる。他人の全てを奪ってしまえば簡単だ。

俺はこんな力なんていらなかった。俺は……

 

 

「お前はこんな所で何をしている? 」

「その声は……、藍さんかな」

「手拭いをとって話せ、馬鹿者」

「いやぁ、もう一回寝るんでお気になさらず」

「……まぁ、いい。昨日は派手にやったな」

「見てたんですか。まぁ、そうですね。俺がいなくなった後はどうなったのかはわかりませんけどね」

「お前の考えた通りじゃないのか? これから地底少しずつだが、今よりまとまると思うよ。それも計算ずくだろうけどな」

「いやぁ、俺はそこまで考えてないですよ? とりあえず出来る事をやっただけだからなぁ。それに上手い事地底から去れる理由付けにもなったし、基本的に俺の思ったままにしか動いてないですよ」

「そう思いたいならそれでいい。でもお前はそれがよかったのか? 」

「良いんですよ。そう思ったからそうした。成功する見込みが高い方を選んだ。それだけですよ」

「そうか……。何だか悲しい奴だな。行動にお前の心が感じられないよ。まるで機械的な式みたいな感じだな」

「まぁ、俺は何て言われても構わないんですけどね。まぁ、とりあえず寝るんで今日はこの辺で良いですか? 」

「……わかったよ。紫様が迎えに行くまでの期間大人しくしてろよ」

「はいよ~。またな~」

 

……いなくなったな。気配が無くなった。頭のいい人と話すのは好きだがこういう時は困る。なんか見透かされてる気がしてなぁ。

 

さて、俺の行動にお前の心が感じられないかぁ……。俺だって知りたいよ。心ってどんなものなのかさ。今まで覚えてる生きてきた中でも、一向に見つからないんだよ。悲しいはずなのに泣けない、好きの違いが分からない、わからない。ただ、今の俺の考えが、行動が、心の赴くままにしているって思い続けて生きてきただけだ。俺にはきっと何もない。

 

 

はぁ~、雨にうたれて。偶には気持ちがいいなぁ。このまま余計な思いも流してくれりゃいいのになぁ。

 

 

 

「風邪ひくよ、仁。そんなところで寝っ転がってたらさ」

「………諏訪子か。何でここに居るんだ? 」

「まぁ、適当にうろついてたら見つけただけだよ。そんなに怖い顔しないの」

「そんな事はないと思うんだけどなぁ。で、なんか用か? 」

「用って程じゃないけどさ。天狗から聞いたよ。中々派手にやったみたいだねぇ」

「まぁ、そうだな。上手くいったみたいだし良いんじゃないのか。それをわざわざ話に来たのか? 」

「それにここに来てから二人の美人さんに告白されちゃってぇ。やっぱモテるねぇ、仁は」

「その美人二人を振った俺に対しての嫌味かよ」

「いーや、仁は昔から変わってないなぁって思ってさ」

「何が? 」

「昔、会った時からずっと、変わらず人の気持に鈍い所とかさ」

「そりゃ悪かったな。俺はそう言うの苦手なんだよ。思ったまましゃべっちゃうし、思ったままに生きてるんでな」

「知ってるよ。でもびっくりしたでしょ? 天狗と橋姫から告白された時は」

「そりゃ、もちろん。だってさぁ、あんな可愛くて器量の良い娘達がこんな男に惚れるとか物好きにも程があるからねぇ」

「そんな事言わないの。彼女たちは間違いなく貴方に惚れたんだからさ」

「まぁ、正直な感想を求められてたみたいなんでな」

「ほんと正直者だね。って言うかほんとに二人の気持は気が付いてなかったの? 」 

「知らないなぁ。だって人の気持の事まで見きれる程、余裕のある出来た人間じゃねーしさ。それに俺はそう言った関連は元々疎いし得意じゃないのは知ってるだろ」

「でも、気が付けたんじゃないの? 」

「何が言いたい? 全く気が付かなかったぞ」

「そうだよね。でも気が付けたはずだよ? 」

「俺はそんなに敏くないぞ。だから困惑したわけだし。嘘ついちゃいないさ」

 

何だ?さっきから似たような事ばかり聞いてくるな。

 

「そこは本当だろうね。でも、気が付こうと思ったら気が付けたはずでしょ。そこまで彼女達の事見てた訳じゃないから気が付かなかっただけでしょ? 仁は人を見る目はあるからね。見ようとしなかったからわからなかっただけでしょ? 」

「まぁ、多少見る目はあるかもしれないよ? 頼れる相手とか見たりするのは多少自信あるし。でもそこまで言うのは言い過ぎだよ」

「まぁ、そうだね。私達の気持もわかってなかったりしたしね」

「近くてもわからないものだってあるからな。そりゃしょうがねぇな」

「そうそう。気持ちって難解だよねぇ。わかってるつもりでもわからなかったり、自分でもわかんないのに相手にはわかったり」

「………そうだな。じゃ、俺の今の気持ちを言ってやるよ。誰とも話したくないんだ。虫の居所が悪いんでな。一人にしてくれ」

「そんな動けないってくらい気落ちしている大切な人を置いて行けるほど私は良い性格してないよ」

「はぁ、大切な人…………ね。お前らにとって大切な人は何も言わずにさよならできる程度なんだろ」

「……何言ってんの? 」

「ははっ、だってそうだろう。お前たちは何も言わずに去っていったじゃないか。俺がその件でどれだけ苦しんだかわかるか?わからないよな。所詮人間と神だからな。相容れるはずねぇんだよ。たまたま俺が救いが必要な時に救われて、俺もあんたらみたいな立派な……堂々とした人間になれるなれるんじゃないかと勘違いして………元から最低な男にそんな資格も資質もねぇのに。馬鹿みたいだよ。単純に夢見ちゃって、勘違いして。最後は事実に気が付いて苦しみ続けるだけなのにさ」

「こっちの気も知らないでよくそんな事言えるね」

「俺は最低な男だからな。でもまぁ、しょうがないんじゃないの、人の気持なんてわからないんだから。もうわからないんだよ。…いや、最初から何もわかっていなかったかな。でもそれでいいのさ。それが俺と言う人間だからな。でも、お前らが何も言わずに去ってくれたおかげで分かった事があるよ。神様は個人を救えないし救わない。神様に救えるのは人間と言う群を救うだけだってな。結局、俺は独りで生きるしかないってな」

「喧嘩売ってるなら買うぞ、人間」

「は、やってみろよ神様。確かにたまたま一度は救われた。その神様にだって俺は拳を振り上げるぜ」

 

………わかっている。わかってはいたけど本当に最低な男だ、俺は。

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

血まみれで、地面を這い蹲って倒れるしかなくて、泥まみれになって。やっとこさ膝を立てて立つ…いや、片膝ついて立とうとするくらいしかできない。

あぁ、やっぱりタダの人では神様には敵わないんだなぁ。

 

なんでさ。何であんな事言っちゃったんだろうな。

 

「いい加減な事言わないで。私だけじゃなくて、神奈子だって、早苗だってどんな思いでいたと思ってるの。みんな悩んで悩んで、その上で決断したんだからそんな事本当に思ってるんだったら許さない」

「・・・・・・あれも俺だよ。お前らに見せないようにしてきたんだ。俺はお前たちが思っているようないい奴じゃない」

「そんなはずないでしょ。そうならそんなに辛そうな顔はしない」

「いや、そんな顔してないんだけどなぁ。お前にやられた傷が痛むだけでしょ」

「ほらそうやって軽口叩いて人を自分自身に近付けさせようとしない」

「なーに言ってんの。俺ほど来るもの拒まずな男はいないよ? 」

「去る者は追うんだ」

「はぁ……面倒だなぁ。そりゃ俺だって人間だからね。多少の執着はしますよ」

「でも、自分には近付けさせないように、見たらやばそうなものは見ないでいるんだ」

「そりゃ、やばいもんは見たくないでしょ」

「質問変えようか。仁って他の人と仲良くなりたいの? 」

「そりゃな。そっちの方が面白いだろ」

「ふーん。でもその割には他の人の事見なくなったよね。前までそんな事なかったのにさ」

「前っていつだよ。それに前からこんなもんだろ。さっきから言ってるだっろ苦手なんだよそう言うの」

「ここまで言ってもわからないんだね。仁は何でそんなに臆病になったの」

 

わからない。

 

「…俺は最初から臆病だからな」

「人から目を背ける事はしなかったよ」

「んな事はねーよ。怖くて怖くて仕方がなくて見てなかったよ」

「違うよ。前の仁は人と人の過去とも向き合う強さがあった。でも今は? 逃げてるだけじゃない。情けない姿でただ立ち尽くしてるだけ」

「そっちこそ過去の俺と比較して勝手に失望してるだけじゃないか。今の俺を受け入れろよ。情けなくてもみじめでもそれが俺なんだよ。お前がいなくなってからいろいろあったんだよ」

「失望なんてしてないよ。何があったのか知りたいだけ」

「そんなこと知ってどうなる。俺とお前達は違う。それに話したって無駄だよ。どうせ…もう…どう言ったってどうしようにもないからな」

「わかんないじゃん。言ってくれないとわからないよ」

 

俺の肩に優しく置かれた手。山が笑うかのような温かいあの時と同じ手。

だからこそわからない。お前達の事も、幻想郷での出会った者達の事も、俺自身の事も。

 

気ついたら、手を払い。俺の目の前に諏訪子。その諏訪子は地を背にしていた。

 

 

「じゃあ、お望み通り言ってやるよ。なんで何も言わずにいなくなったんだよ‼ 俺は…本気で救われて、本気で感謝して、本当に大切な場所だったんだ‼ 何も言わず‼ 誰にも伝わらず‼ たった一人で抱えて苦しみ続けた俺の気持はどうなるんだよ‼ 居場所も全部失って、世界でたった一人だけ取り残された俺がどれだけ苦しんだと思ってるんだ‼ 今更どうにかできると思ってんのかよ‼ ふっざけんな‼ お前が、お前達がどんな奇跡を起こそうが俺はもう救われないんだよ‼ もう……救いようがねぇんだよ。…はっ、それこそ俺が救われるとしたら………死んで、その後生き続けた事に罰を与えられた時だ。………もうどうだっていいんだよ。誰が側に居ようがいなくなれば意味がない。どうせ俺には奪うしかできない」

 

言ってることむちゃくちゃでどうしようもないクソみたいなことしか言えなかった。八つ当たりだってわかってるんだ。彼女達には彼女達なりの理由があって…。たまたまかみ合わせが悪かっただけの事。

なのにどうしてお前はそんなにも……

 

「…なんで言葉では怒ってるのに顔は泣いているの? 貴方の心はどうしたいの? いいよ。仁になら何してあげてもいいし、何をされても構わない。それで貴方の心が少しでも安らいでくれるなら…」

「やめろ……」

「辛かったんだよね。苦しかったんだよね。ごめんね。気が付いてあげられなくて。でもまた会ってくれてありがとう。私はそれだけで嬉しかった。だから今度は私が仁を…」

「やめろ‼ くそっ‼ 」

 

俺は何も出来ず何も言えず、走る事しか出来なかった。

 

 

 

***********

 

 

 

ここはどこだろう。ただ辺りは暗く鈴虫が鳴いている事だけはわかる。

あぁ、もう取り返しがつかない。覆水盆に返らず。枯れた花を咲かせる事は叶わず。

 

体に力が入らない。傷は癒えた。体は機能するけど、気と言えばいいのかわからないけど、力が入らない。

どうしてこうなったのだろう。どこで狂ったのだろう。

 

 

「そんなところで木に座り込んでどうしたの? 仁お兄ちゃん」

「お~こんな所にまで現れるのか。おに―さん疲れてるんだ。だから話しかけないほうが良いよ」

「そっかー。地底であんな事やそんな事があった後に神様と戦ってたんだもんね。疲れるよね」

「なんだ全部見てたのか。じゃあ、休ませてくれ。もう疲れたんだよ」

「じゃあ一緒にいてあげるよ‼ 」

「いや、いい。君は家に帰りなさい。お姉ちゃんが待ってるでしょ」

「…そうやって傷つけた人のアフターケアもしちゃうんだね」

「そんなんじゃない。俺は独りになりたいだけ」

「嘘つき。本当にそうなら力尽くでもそうしてるでしょ? それなのにしてないって事はそうじゃないんでしょ? 」

「さっきも言ったけど俺は疲れてるの。だからそんな事わざわざしないの」

「そっか。そうやって人も自分も見えないようにしてきたんだね。…どうして正直になれないの? どうしてもっと我儘になれないの? お兄ちゃんが望めばどんなことだって出来るのに。…復讐も出来るよ? 」

「違う…俺はそんな事を望んじゃいない。俺は…」

「自分の心が知りたい。自分の納得のいく答えが欲しい。でしょ? ふふっ、でも仁お兄ちゃん気が付いてるんでしょ? 」

「もう何も喋るな。いや喋らないでくれ。俺がいったい何をしたって言うんだよ…もういいだろ…」

 

それを言葉にしたら、きっと俺と言う人間の根幹から崩れてしまうから。

 

「本当にただの人間なら、幻想郷に来たからと言っても仁お兄ちゃんみたいな能力もそんなに人間離れした体もしてないよ。そ・れ・に、そんな事でそこまで苦しまないよ? ふふっ、最初から分かってて、それでもなお未練がましくしがみついて、足掻き、答えを求め続けてる仁おにーちゃん」

「………はぁ、本当に最悪な日だなぁ」

「自覚があるから驚きもしないね。それは置いといて、じゃあ私と一緒に最善にしようよ」

「断る。最悪のどん底に落としてくれた本人が何を言ってるんだ」

「あら~失敗しちゃったかぁ。まぁ、いいや。今回はこの辺でお望み通り一人にしてあげる」

「はいはい、じゃ、またな。っても、もう会う事もないだろうけど」

「また会えるよ、絶対に。それまでに答えが見つかってるといいね、仁お兄ちゃん。こいしくなったら呼んでね~。私は無意識にどこにでもいるからさ~。それじゃばいば~い」

 

 

本当に神出鬼没だねぇ。おまけに耳に痛い事言うだけ言って去って行くし。

わかっていたんだ。でも見ないようにしていたんだ。訳が分からなくて、解らなくて本当の事を知るのが怖くて。一人で居続けたほうが良いってわかってたんだ。こうなる事は目に見えてたから。だからもう独りで居よう。

でも、世界はそれすら許さない。生きてる限り、俺は苦しんで苦しんで、死んだ後も苦しんで苦しんで。きっと俺は永遠に許されない。だって―――

 

あぁ、空を見上げれば曇りなき月夜。空はあんなにも澄んで美しいのに、どうして俺はこんなにも濁りきっているのか。

時期的には十五夜の月には少々早い気もするんだけどね。それでも眩しくて…美しい。

 

「こんなにも月が綺麗なら、いっそ魅入られて狂ったほうが…狂えた方が楽だったのかなぁ」

「それはどうかしらね。貴方の運命はそこまで単純じゃないみたいよ? 」

「っ⁉ 誰だ? 」

「そう身構えないの。折角の良い男が台無しよ…って言っても今の貴方にそんなことを要求するのも酷な話かしら? 」

「誰だっけ? 独り言に反応してくる辺りロクな奴じゃなさそうだけど」

「そうねぇ。初対面でそこまで言われるとなかなか癪なのだけれど、今回は見逃してあげるわ」

「そりゃどうも。別に殺されるわけじゃないだろうからどうでもいいけどさ」

「貴方死にたいの? 」

「まさか、死ぬのが怖くて生きて来た人間だよ。今更死にたいなんて思わないさ」

「そう。それなら発言には気をつける事ね。死ぬわよ」

「はいはい。ま、今の俺は並大抵の事じゃ死なないから何でもいいんだよ」

「そうか。それなら格の違いを見せた方が早いわね」

「…は?がふっ⁉ 」

「あら、やっぱり人間の体だけあって脆いのねすぐに穴が開いたじゃない」

「いきなり人の腹に穴製造するとかふっざけんなよ‼ 俺じゃなかったらとっくに死んでるわ! 」

「あら? 聞いてはいたけれど案外すぐ治るのね。ま、でもこれで私の力はわかって貰えたかしら? 」

「あぁ、わかったよ。やっぱロクな奴じゃねぇな」

「自棄になって暴れだしそうな手負いの獣には言われたくないわね」

「あぁ、俺は獣かよ。そう言うアンタは化物か」

「そうね。まぁ、そんなところよ。さて、無駄話してると従者に見つかって面倒だから本題を済ませないとね。優秀過ぎるメイドがいるとそれはそれで大変よね」

「一般的な人間にメイドが居た経験がないからわからん」

「貴方まだ人間のつもり? 」

「誰が何と言おうと俺は人間だ。それは誰にも否定させはしない」

「……そう。まぁ、いいわ。それよりも貴方行く当てはあるのかしら? 」

「ねーからここで寝るつもりだったんだよ」

「あら最近の人間にしてはたくましいのね」

「おかげさまで鍛えてるんでな。そんじょそこらの奴らになら負けねぇよ」  

「ふぅん。ま、何でもいいわ。月が綺麗だったから散歩してただけだけど気が変わった。貴方帰るまで館に来なさいな。歓迎するわよ」

「断る。知らない怪しい人にはついていくなって親に言われてるんでな」

「まだ精神的に余裕はあるみたいね。こんなに素直に誘っているのに何が怪しいのかしら? 」

「少なくともそんな見た目幼女の奴に屋敷来いって言われたら怪しすぎるだろ」

「…ふぅん。へぇ。案外弱ってるかと思ったら元気そうじゃない。気遣いは無用と言う訳ね。咲夜」

「はい、何でしょうお嬢様」

「この客人を貴方の能力で無理矢理屋敷に連れていきなさい」

「かしこまりました」

「おいおい、行くなんて一言も言ってないぞ」

「あら、こうなるのは決まりきってる運命よ。諦めなさいな」

「は? 運命? 」

 

 

俺からしたらほんの一瞬で世界が切り替わる。

 

 

「は? 何だこの赤くてでかい屋敷」

「紅魔館へようこそ、外来人。私は当主のレミリア・スカーレット。そしてこのメイドが十六夜咲夜。まぁ他にもいるけど会ったら名前を聞いてちょうだい。貴方には不本意かもしれないけど歓迎するわ。帰るまでの間ゆっくりしていきなさい」

「いや、遠慮しとく。タダより高い物はないって言うし」

「タダで泊まるのが嫌なら軽く仕事をあげても良いわよ。ま、何にせよあそこで野垂死にするよりはいい運命に出巡り合えるわよ」

「さっきから運命、運命とうるさいなぁ」

 

 

「信じないのなら構わないけれど…。選ぶのは貴方だからお好きにしなさいな。せいぜい目覚めの悪いバットエンドへ向かわないようにね」

 

最悪だろ。何でここで俺は新たな出会いを得なくちゃならんのだ。やっぱり俺は独りではいられないらしい。

疲れたし休めれば何でもいいや。疲れたから風呂に入ったら今日は早々に寝よう。そう思ってこの紅魔館に滞在した事が、どんなエンドに繋がってるかなんてこの時の俺にわかる訳なかった。

 

                       ~ 鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り4日  ~

                                   

 




〈無名の丘にて〉

仁が本当に怒っていた。
今までで見た事ないくらい感情が爆発していた。

私も正直何言ってたか覚えてないくらいの勢いで話してたからかなり無茶苦茶だった気もする。おまけに最後の方はかなり恥ずかしい事を言ったような気がする。

どうしよう。彼が感情を露わにしてくれたことは嬉しかったけど、その眼に映した哀しみは深く深く彼を傷つけていて。

原因の一つは自分たちの行いから来たもの。もちろん悩んだ末の行動だから決して間違ってるって言うつもりはない。けれど彼のあの顔を、言葉を聞くと後悔の念が押し寄せる。

もう戻れないのだろうか。そんなのは嫌だ。けれどどうしたらいいのだろう。
少なくともわかったとしたら、またあの時のように笑って話すには時間がかかると言う事しかわからなかった。

そして、雨にもかかわらず丘には立ち尽くす少女の姿がしばらくあったそうな。




〈マヨヒガにて〉

「以上になります、紫様」
「はい、お疲れ様。引き続き結界の監視と鷹崎仁の監視をよろしくね」
「ところで紫様。彼は…」
「あら駄目よ。詮索しちゃ。話すにしても話すべき時がある。今はまだその時ではないし、何より私の杞憂かもしれない」
「ですが彼になぜそこまで」
「そうねぇ。何か因縁めいたものを感じているからかしらね」
「因縁ですか…」
「まぁ、本当にそうなのかはまだ分からないけどね」
「………」
「そんな不安そうな顔しないの」
「はい」
「もし何かありそうなら貴方を頼らせてもらうかもしれないからそれだけ胸の片隅に置いておきなさい」
「承りました」
「じゃあ、下がっていわよ」
「では失礼します」



「行ったかしらね。……鷹崎仁。最初は殺す気であんな落とし方したけど、死ななかったしもしやと思って放置したら、幻想郷に変化をもたらしたのは良い事ね。でも事と次第によっては…やっぱり私が直接殺すしかないわね。せいぜいそうならないように頑張りなさいな。って言っても聞こえていないのだけれどね、ふふふっ」

賢者は唯々妖しく一人で笑っていた。








〈ここから後書き‼〉

毎度の事ではありますが最後まで読んで頂きありがとうございます。楽しんで頂ければ幸いです。

このお話も同人誌にし、イベントの方で販売したりも致しました。買ってくださった方ありがとうございます。もしまだお手元にない方はご縁がありましたら手に取って頂けると幸いです。またいつになるかはわかりませんが、二冊目の書き下ろしのためのアンケートをTwitterの方で採ろうと思ってもいますので良ければ気軽に参加してくさい。

忙しい上半期ではありますがなるべく更新していきたいと思いますので皆様応援等よろしくお願いいたします。それでは次のお噺でお会い致しましょう。さようならさようなら。


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交わすそれらは嘘か真か

ちょっと頑張ったノリさんです。毎度どーも。

いやぁ、今回はなるはやでと思って頑張りましたよ。感想もらえたって言うのが大きいですけどね‼

ささ、今回もまた楽しんで貰えたら幸いですね。ではさっそく参りますよ~。



 

暖かい布団でぐっすり寝る‼ こんな楽しい事が他にあるか‼ とか、誰かがそんな感じの事言ってたけど、本当にそれだけでもいいもんだよな。

 

 

質の良い睡眠は道具からって言われたらもう納得するね。

と、前置きしたところでやはり西洋の部屋は落ち行かない。って言うか俺からしたら豪奢過ぎる気がしないでもない。

 

昨日は風呂と軽く食事を頂いて夜ぐっすり寝た。メイドの人は常時俺を睨んでくるし、落ち着けるものではなかったけどな。

 

朝ですよ。新しい朝が来た。良くも悪くも嫌でもやってくる。

だからと言って何だと言う感じだろうが、今日は布団から出る気分じゃない。

即ち寝ると言う事だ。おやすみなさい。

 

 

 

 

********

 

 

 

 

「起きなさい」

「………」

「起きなさいもう昼ですよ」

「…………」

「なるほど。わかりましたそのような態度でしたらこっちもそれなりの対応を取らせて頂きます」

「……………」

「では。お覚悟を」

 

 

またか。あの世界が変わる感覚。

 

 

「はぁ、強引すぎるでしょ」

「お嬢様のご命令です」

「なんて言ってたんだ? 」

「今朝お休みになる前に、『放っておいたら布団から出ないつもりでしょうから、昼間は門番でもさせてなさい。昼までは部屋に居させても良いわ。但しそれ以降は無理矢理でも部屋から引き摺り出してでもやらせなさい』との事よ」

「さいですか。はぁ、面倒だ。まぁ、どうせ戻ろうとしてもやらせるんだろうから大人しくやってますよ」

「殊勝な心掛けね。あと『数日ここでの生活を提供するけどその代わりここの住人と言葉を交わしなさい』だそうよ」

「あのお嬢様とやらはホント良い性格してるよ。俺の気分とかわかってて言ってるんだろうからな」

「貴方の状況を鑑みての特別対応です。早く行きなさい」

「はいはい。すぐそこなんで睨まれなくても行きますよ」

 

なんであの人俺を睨むかねぇ。はー怖い怖い。

 

昨日は暗かったから見てなかったけど、ここほんと立派な屋敷だよなぁ。

こうやって門の一つみてもご立派だね、ほんと。

 

 

「ようこそ、今日半日よろしくお願いしますね」

「はい、何か出来る訳ではないけどよろしく」

「とりあえず門番はここに経って一日不審者が来ないか見張り、もし来た場合は撃退するって感じのお仕事です。と言っても基本的には侵入者なんて来ないんですけどね。なので、私はここで稽古していたりしています」

「そうですか。わかりました」

「地味で暇だと思いますが頑張りましょう‼ 」

「はい、よろしくお願いします」

 

 

********

 

 

~ 一時間後 ~

 

 

「門番が寝ていいのか…」

 

三十分も経たずに寝たぞ……。

この屋敷セキュリティ甘すぎるんじゃ?今の所なにも来てないし、来る気配もないし心配ないんだろうけどさ。

 

「いい訳ないでしょ。早く起こしなさい」

「またアンタか。いい加減そのなんだかよくわからん能力使って現れるのをやめろ。心臓に悪い。ってアンタが起こせばいいだろ。俺は女性に触るの苦手なんだよ」

「お嬢様は言葉交わせと言ったのよ。それは貴方にここの住人から何かを得なさいと言う事と同義だわ。貴方から動かなきゃ何も変わらないわよ。しっかりしなさいな。私は仕事に戻るけどサボらないように」

「またいなくなったよ。はぁ、気乗りしないなぁ」

「大丈夫ですよ。起きましたから」

「あぁ、そうですか」

「大変ですね。いきなり来てこんな事する事になって」

「まぁ、そうですね」

「………」

「…………」

 

あぁ、なんて気まずい空間だ。

いや、別に無言でいる事が気まずいって訳ではない。俺は空でも眺めてればいいんだ。それで時間が過ぎてくから。

隣の人が何とかしようとしてくる空気に充てられるのがまずいんだ。

気まずさを感じて何とかしようとしてる人と同じ空間に居る事が気まずい。

 

 

「あ、あの……失礼なんですけど何でこんな事してるんですか? 」

「あ~、聞いてないんですか?お嬢様とやらの命令だそうですよ」

「なるほど。お嬢様の命令であれば仕方ないですね」

「えぇ、まったく」

「…」

「……」

 

サクッ

 

「ナイフかぁ…」

「あれ?おかしいな。寝てないのに…」

「多分俺でしょうね。ま、命令の中にここの住人と話せってのがあったからそれをしろって事なんでしょうね」

「あぁ、そうだったんですか。それじゃあ何話しましょうか」

「いや、俺は人と話す気分じゃないんだよなぁ」

「じゃあ、私から聞いても良いですか! 」

「は、はいどうぞ」

 

何だこの人わんこ系か?

 

「あのですね。貴方の立ち振る舞いを見てて思ったんですけど、格闘技か何かやってましたか? 」

「一応…まぁ、優秀な弟がいたんで居づらくなったんで辞めましたけどね。……それ以降は戦い方は教わってましたけど…。よくわかりましたね」

「大体その人の体の使い方や歩き方などを見ればわかりますよ。伊達に武術を嗜んでいる訳じゃないですからね

「あぁ、なんとなくわかります。強いかどうかとか何となくでわかりますよね」

「ええ、手合わせを偶に申し込まれるんですけど、構えた段階でだいたい勝負の結果が分かると言うか」

「貴方に挑むとか命知らずな人間がいたもんですねぇ」

「もちろん試合形式ですから血生臭い事にはなりませんけどね。わざわざここに来ているので正面からお相手してますよ」

「はぁ、物好きですね」

「と、言う訳でお手合わせ願えませんか」

「嫌です」

「えぇ~、何でですかぁ」

「怪我しないように力を加減出来る自信がないからです。今の俺はこの世界に来てから人から離れた力を得たんですよ。それを乱雑に振るうだけでも大きな力を発揮した。それを俺が身に着けている戦い方を本気で使えば殺しかねない。かといって貴方に手加減できるほど俺は鍛えてたわけじゃない。ましてや手加減して勝てるほど貴女弱くない」

「だから嫌なんですね。わかりました。ではしましょうか」

「あの…話聞いてました? 」

「まぁ、聞いてはいましたけど…何か悩んでいるようですし、体を動かすついでに。貴方の事を知るのにも丁度いいですし……」

「でも嫌なんです。今人と基本的にかかわりたくないんです」

「いや、私妖怪ですから」

「いやそうなんですけど。何と言うか…」

「せっかく全力でお手合わせ出来そうだったんですけど……」

「いやっ、そこまで暗くならなくても。……まぁ、軽い手合わせくらいなら良いですけど…」

「本当ですか! では、いざ尋常に! 」

 

あぁ、いやだなぁ。口で語らず拳で語る事に…。

 

 

 

********

 

 

 

何だよ結構本気でやらせるんじゃねぇか。

今の俺じゃ俺の体に振り回されて加減が難しすぎる。

これだけの身体能力を持ったことに違和感は感じてないけど、自分の体を動かしているとは思えない程の感覚。

改めて意識するとこんなにも人間離れしたのかと嫌でも痛感する。

 

「はぁ、もういいでしょう。俺は疲れました」

「そうですね。この辺にしておきましょうか。お強いですね。誰から教えを受けていたのか聞きたいですね」

「はぁはぁ、ふぅ。闘い方は…まぁ、昔の恩人だった一人に仕込まれたんですよ。…それにしてもよくこれだけの打ち合いをして息が乱れませんね。」

「それは伊達に鍛えてないですから‼ 」

「はぁ偉大ですね。鍛錬って言うのは」

「そうですね。毎日鍛える時には自身と向き合い、そして周りの自然の流れも感じ取ることを意識してますから。貴方もそれだけの武道を嗜んでいるのならそうではないですか? 」

「どう……でしょうね。昔はそのつもりだったのかもしれないですけど、今は絶対にそんな事はないですね。向き合うべき自分も見るべき周りもわからなくなってますから」

「きっとここに来る前に何かあったのではないかと言う事は容易に想像出来ました。正直あまり察しが良い方ではないので何か上手い事は言えないですけど、少なくとも表情が少し明るくなって笑ってくれたのは安心しました」

「笑ってました? 」

「ええ、打ち合いをしている時はとても楽しそうでしたよ。拳の鋭さが増すほど、拳がぶつかるほど笑顔になっていましたよ」

「はぁ、あんまり覚えてないですね。加減するのに必死だったんで」

「じゃあ無意識に出た本当の笑顔って感じですかね」

「どうでしょう。自分ではわからないので何とも」

「まぁ、ここに来る前の貴方に何があったのかわからないですけど、辛かったりする時は辛いって声を上げてぶつかってみれば良いんじゃないですか? もし本当に相手も自分も大切に思っているなら、そうやってぶつかったりぶつける事もきっと大切な事だと思いますよ」

「ははっ、そんな綺麗なモンじゃないですよ。人間でのいい歳した大の大人が的外れな事を言いて駄々こねて酷い事言って当たり散らしただけですからね」

「そういう事出来る関係って素敵だと思いますけどね」

「そんな訳ないでしょう。ただお互い傷ついて苦しいだけじゃないですか」

「お互い傷ついて苦しいって言うのはそうかもしれないですけど、その辺の駆け引きなしで話せるって事でしょう? そこまで心を許せる関係はなかなか無いと思いますよ」

「そうですかね? 」

「じゃあ、その出来事の時に気を遣って話してましたか?それとも考える間もなく言葉が出てましたか? 」

「……どちらかと言えば後者かな」

「だとしたら、大丈夫ですよ。そこまでの信頼があったと思ってるんでしょう」

「俺がですか」

「ええ、もしくはよほど嫌いで縁を切りたいかのどちらかでしょう。聞いてる限りではそうとは思えませんでしたけどね」

「どうでしょうね? 」

「そうやって本音も見ないようにするから苦しむことになっているような気がしますけど……。まぁ、それは私じゃどうにも」

「ははっ、そうですね。まぁ、でももう無理ですよ」

「何でですか? 」

「散々酷い事言ったんですよ。あれも俺の本心なんで言ってしまった事は仕方のないことですけど。どうしてまた顔を合わせに行けますか」

「行けないですか? 」

「出来ないですよ」

「私は出来ると思いますけどね」

「なんでですか」

「だって今も話したくないって言ってたのに話してくれてるじゃないですか」

「いや、それとこれとは違うような…」

「私からしたら貴方は変に迷い過ぎるんですよね。なのに変な所で躊躇いが無さ過ぎる。手合わせしてみたらわかります。探り探りとかではなく無理やり押し込めるかのような形で自身の力を押さえて。そのくせして意外な所でまっすぐな一撃が出てくる」

「どうでしょう?拳が物語るモノが正確とは限りませんよ。貴方の杓子定規で判断されると…困りますから」

「でしょうね。でもみんな自分自身が積み上げてきた経験や見分で物事を判断するしかないじゃないですか。だからだから私は私の積み上げてきた杓子定規であなたを測りますよ。まぁ、それが拳を交わし合うって言うのは女の子らしくはないのかもしれないですけどね。あははは…」

「………。そうですね。貴方の価値観まで否定するようなことは言うべきではなかったかもしれませんね。すいません」

「あぁ、そんな謝らないでください。私だって私の価値観の押し付けみたいなものですから一個人の意見って事で何かの参考になればいいなって…余計なお世話でしたか? 」

「いや、少なくとも話せただけ楽になったような気がします」

「それなら良かった。いやぁ、偉そうな事言っても私はそんな出来てる訳じゃないんですけどね」

「いや、あんたは良く出来てる妖怪だと思いますよ。俺みたいなどっちつかずの半端モンよりは十分しっかり軸がある」

「そう言って貰えると嬉しいです。まぁ、でも私なんか」

「そこは素直に受け取るとこだと思いますよ」

「あ、笑った」

「え? 」

「また笑ってくれましたね。うんやっぱり気難しい顔してるよりも笑ってるほうが良いですよ」

「そうですか。ありがとうございます」

「さ、拳を交わして仲良くなったところでもっといろいろをしましょう! …実はあまり男性とちゃんとお話する機会ってないんで色々聞いてみたいんです! 」

「一般的な男性像に当てはめると当てにならない気はしますけど…答えられる事なら」

 

 

些細な会話は陽が消えるまで続いた。途中侵入者が来たから、少し間が空く事はあったが。

 

 

 

*********

 

 

 

「さ、何か弁明はあるかしら」

「いや、事故で会って悪気はないし何よりも俺が先に居たしむしろこっちが被害者だ」

「そう。最後の言葉はそれでいいのね」

「こいつは人の話聞く気がないな」

「騒がしいわねぇ。良いのよ咲夜、私が先に入るように言ったのだから」

「しかしお嬢様!」

「良いと言っているでしょう。下がりなさい。二人にして頂戴」

「……………わかりました」

「ごめんなさいね。私のメイドが迷惑かけたみたいで」

「だと思うなら予め説得しておいてください」

「そうね。ごめんなさい」

 

くすくす笑ってるなよ。

食事がすんだ後先に風呂に入っていいて言われたから入ったんだかさっくりやられるところだった。

サラッと俺の隣につかりに来る辺り余裕を感じるな。全くもってこいつの意図が分からない。

 

「今日一日…いや半日門番をしてみてどうだったかしら? 」

「めちゃくちゃ嫌だった。人と話すのも、誰かと同じ空間に居ると言うのも嫌だった」

「そう」

「でも、やらなきゃならんからやった。それだけだ。思ったより悪くなかったとは思うぞ。門番としての仕事はしたしな」

「そうじゃないのよねぇ。……美鈴と話して得た物はあったかしら? 」

「さぁね。まぁ、ただあんだけ自分の芯のある人は羨ましいと思うよ。自分にはない物だからね。羨ましいと言うよりは憧れる一つの形だと思う…かな」

「あら?それだけ? 」

「そうだよ。それだけだ」

「そう…。まぁ、それならそれで構わないわ」

「何を企んでいる? そもそもお前は何をしたいんだ? 何が目的で俺をここに連れてきた? 」

「あまり乙女に質問攻めは優雅じゃないわね。でも、そうね……強いて言うならバットエンドを回避する為かしらね? 」

「何を言っているんだ? 」

「貴方はいろんな妖怪たちを巻き込み、流れを変え、そしてその流れから去ろうとした。でもね。流れの大本がその場から去ったところで何も変わらないわよ? それにもともとあなたが抱えてる運命にもそろそろ向き合う時が来ているようね」

「まだ何があるってんだよ。ここまで色々あってまだあんのかよ」

「貴方の運命は人間が抱えるには複雑すぎるの。まぁ、たとえ妖怪でも……。ま、多く語り過ぎてもいけないわね。でも少なくとも私達としてもその運命には無関係ではいられないからね。仕方がなくこうやって慈善事業みたいな事してるのよ」

「頼んでねぇんだが? 」

「頼まれてやるのは慈善事業ではないわよ」

「違いない」

「さ、慈善事業の対価としては何だけど私の酒盛りに付き合いなさい。丁度いいワインを用意したのよ」

「対価を要求するのは慈善事業ではないと思うぞ? 」

「それもそうね。でも、利害は一致してるんだし良いじゃないの? いちいち聞くのは無粋よ」

「そうか。じゃ、図々しく頂くとするかね」

「ま、貴方のような人からワインを勧められるのも面白いかしらね」

「なんだそりゃ? まぁいいや。じゃ、着替えて飲むか? 」

「いいわね。じゃあ素敵な肴を用意してもらえるのよね」

「………わかったよ。アンタこのまま出さないって言ったらあのメイド嗾けるだろ」

「どうかしらね」

「簡単な物しか作らねぇからな」

「美味しいなら良いわよ」

「飯屋元店主なめんなよ」

「期待してるわ」

 

                 ~ 鷹崎仁 幻想郷滞在期間 残り3日  ~

 

**********

 

 

「おいおい。誰の差し金だ?僕は地底から出るように画策はしたがあんなとこに行かせるつもりはなかったんだけどなぁ」

 

 

地底で起こった事の顛末はしている。もちろん当事者だからだ。

しかし今の所望ましい本筋からはズレてしまっている。

 

「まさかあの紅魔の吸血鬼が手を貸してたとは思えないし、当初の予定では怒りに任せて馬鹿な鬼達を殺していたはずなんだけどなぁ」

 

「ましてや、吸血鬼が関わりに行くなんて思ってなかったし…あそこ侵入すると面倒だろうしなぁ」

 

 

ちょっとちょっかい出しに言ったけど面倒だったしね。

 

 

「かといってなにもしないわけにもいかないんだよねぇ」

 

「しょうがない。今は少し待つべきか」

 

 

 

 

「仁。君には苦しんで苦しんで苦しんで苦しみ果ててもらった後に消えてくれないと困るんだよ」

 

 

 

                                     ……To Be Continued




毎度のことながら最後まで読んで頂きありがとうございます。


さぁさぁ、彼はいったい残りの期間でどうするのか?…どうするんでしょうね?
まぁ、皆様の前で考えてみてくださいな。暇ならですよ?暇じゃない時に考えても意味ないですからねぇ。

ささ、なんて事言ってるようなものですがこのお話を投稿した日は私にとって特別な日なんですよね。と言う訳で今日中にもう一回何か起こるかも!……っても書いて出すくらいしかできないんですけどね!(笑)

と言う訳で、また次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。


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閑話 酒、真実が嘘、一つの終わり


気が付いたら一周年!と言う訳で以前Twitterでアンケートを採った時に二位だった人達がメインのお噺です。偏りがある気がするけど二人がメインなんや‼

このお噺はすれ違う思い「~ 運命の Countdown Start ~」から「月夜に・・・・・・・・」までのお噺になります。そしてこのお噺によって「月夜に・・・・・・・」のお噺が完成する感じになっています。(あくまで書いた本人の感覚ではありますが)


さて、何が終わりなのか。普段と比べると短くはありますが書きたい事をいつも通り書きました。それではお噺に参りましょう。


 

 

私の心はどうしてしまったんだ。

元々わかっていた事なのに、元々知っていた事なのに、終わりが見えるとどうしてこんなに苦しいんだ。

今の私はタダの臆病者だ。こんな姿仲間に見られたら人間が来年の話をするくらいには笑われるな。

 

 

*******

 

 

「ってもどうするかねぇ」

 

地霊殿の連中に呼ばれたのは嘘だ。たまたま見かけた萃香の様子がおかしかったから聞きに来た所にちらほら話が見えただけだ。その後本人から少し話を聞けた。アイツは仁にかなり入れ込んでたからなぁ。ってそれはあたしも同じだけどさ。でもアイツにとっては特別何かあったみたいだねぇ。あの落ち込み用は年中酒飲んで愉快にやってるアイツには珍しい事だ。

 

 

「でもあいつのいく所なんて正直わからないしねぇ。引き受けたのは良いけどどうしたもんか」

「あら、勇儀さんではないですか。困った顔してどうしました? 」

「あぁ、アンタは天狗の…何だっけな」

「射命丸文です。はい。何かお困りですか? 」

「あぁ、萃香を探していたんだけどな。アイツどこにいるか正直わかんなくてさ。困ってるんだよ」

「あぁ、仁さんの件ですか。なるほど。良いですよ。萃香さんなら先ほど見ましたし案内しますよ」

「ありがたいねぇ。ま、その前にアンタの知ってること話して貰おうか。答えてくれるよな」

「あぁ、はい‼ 誠心誠意説明させていただきます‼ 」

 

 

~ 少女説明中 ~

 

 

「ふぅん。なるほど二人で店で飲んだ時に何かあったんじゃないかって事だね」

「はい。朝まで帰ってなかったみたいですし…」

「でも何がそんなに奴に執着させることになったんだ? 」

「いやぁ、正直そこまでは私は…。でも以前から人間を助けて酒を飲もうとして失敗してたりしてましたからね。意外と気にしてたみたいですし。それらについて何かあったのでは? 」

「例えば? 」

「そうですねぇ。仁さんでしたら。『この世界に来て会った妖怪の皆さんは美人ですしねぇ。それに面白いですし、怖いなんて思った事なんてないですよ。だから俺は好きで飲んでるんですから、飲み相手にならいくらでもなりますよ』とかそんな感じの事をいい感じに言ったんじゃないですか? 」

「それ仁の物真似かい? 」

「えぇ、似てるでしょう」

「確かに言いそうだし、喋りの雰囲気も似てたね」

「ありがとうございます」

「アンタはそれでいいのかい? 」

「何がですか? 」

「アンタ、アイツに惚れてるだろ? 」

「なぜそれを? 」

「以前からのアンタを知ってる人なら誰でもわかるって。なんやかんやあの店通ってるし、アイツを見る時のアンタは女の目をしてるからね」

「あややややや、お恥ずかしい」

「でも惚れてる相手が他の女と二人でいい感じに飲んでるのは? 」

「正直言うと悔しいです。私もいい感じに二人で飲みたいです! 」

「萃香に先を越されたねぇ」

「ええ。でも彼は誰にでも優しいですから気にしたら負けな気はするんですけどね。そのくせして自分には厳しいですから、ほっておけないと言いますか…」

「あ~、惚気は良いから案内しな。聞きたい事は聞けたしね」

「惚気てるだなんてそんなそんな。はい!ご案内します! 」

 

アタシのやる事は決まった。

 

 

 

********

 

 

 

「よう萃香。ここで飲んでたのか?」

「勇儀……」

「聞いたよ。仁帰る目途が立ったんだってな」

「うん…」

「アイツは元々外の人間なんだから良いじゃないか。笑って送ってやろうぜ」

「そうだな…」

「あーもー。なんだいそのシャキッとしない返事は」

「わかってるんだ。わかってたんだ。アイツは外の人間で、最初からここに居られる期間は決まってて、居られ時間も限度があって」

「ならどうして」

「わかってるんだけど。何だかこう酒が胸に沁みないんだ。どんだけ飲んでも」

「アンタ何でそんなに入れ込んでるんだ」

「それは…二人でアイツの店で飲んでたんだ。その時に」

「…」

「アイツが言ったんだ。私は前から人間と楽しく酒を飲んで他愛もない話してはしゃぐのも好きなんだ。でも拒まれ続けた。でもな、アイツは違った。怖がるどころか楽しいから好きって言ってくれたんだ。初めてだった男にそんな事言われたのは。抱きしめられて嬉しかった安心した癒された。アイツには好きって何回か言ってたけどその瞬間から特別な好きに変わっちゃったんだよ」

「…」

「それに…。『大丈夫ですよ。伊吹さんが俺の事嫌いになった時は無理になるかもしれませんけど、俺から嫌ったり逃げたりする事はないですから。都合が付けば俺で良ければいつでも飲みの相手になりますよ。俺、伊吹さんと飲むのは楽しくて好きですから』って。逃げないって。私といつでも飲んでくれるって。ここに居る間だけなのは頭では分かってたんだ。でもアイツが帰るのを聞かされてなんだか裏切られた気持ちになったんだ。もうぐちゃぐちゃなんだよ」

「…そうか」

 

萃香の気持ちは本物だ。アタシの気持ちが嘘かと聞かれたら決してそうではないけど、ここに居る鬼には比べるまでもなく負けている。きっとアタシじゃそこまで行けない。なら、アタシは友の応援をしよう。子の気持がどうなるかはわからないけど、少なくともアタシはこいつとアイツが幸せになって欲しいとも思った。

 

少しの間だったけど、いい夢を見れたねぇ

 

「それでアンタはどうしたいんだい? 」

「わからない。会いたいけど会いたくない。アイツと飲むのも、アイツの事も好きだ。でも、いっしょにいたら嫌でも別れを意識しちゃうだろうから…」

「いい加減にうじうじするのはよしな‼ 」

「ゆうぎ…」

「アタイらは何だい? 天下無双の鬼だぞ! いつからそんなに臆病になった! どんなにきつくても真っ向から向かい合って何とかするのがアタシらのやり方だろ! 」

「でも…今回は…」

「でもじゃない‼ 」

「うるさい!勇儀だって仁に惚れてるくせに!」

「あぁ、そうさ。あたしは話したことも少ないがアイツの肝の据わってるところが好きだ! 面白い事が好きで最後まで飲み合ってくれるアイツが好きだ! アタシは鬼だ! アンタがうじうじしてる間にアタシが奪っても良いんだな! 」

「それはダメだ‼ 仁は私のだ! 他の誰かに取られるのは死んでも御免だ! 」

「そうだその意気だ萃香! 何を怯える。アイツの言葉を、アイツの事をアンタ自身で全部嘘にするつもりか! 」

「そんな事絶対しない! 仁は本物なんだ‼ 本物の私が恋した人間なんだ‼ 」

「…よし。それならその恋した人間からの伝言だ。時間は19時、無名の丘待つってね」

「それって…」

「あぁそうだ。アンタの愛しい人は何とかしたくて色々考えてたって事さ」

「でも…」

「あのな。まだなんかうじうじしてるのかい」

「違うよ!勇儀はそれでいいの? 」

 

 

は~、ここでそれを言ってくるかねぇ。萃香の察しの良さが悪い方向に働きやがったよ。

アタシは良いんだよ。あんたを徹底的に応援する事にした!そうすぐ言えたらよかったんだけど…。

 

「…」

「無理しなくてもいいんだよ」

「無理なんかしてないさ。ただ、何でアタシにそんなこと聞いてきたのか不思議に思ってな」

「だって…」

「良いんだよ。アンタはあたしを応援する事にした。鬼に二言はない。でもそうさねぇ。ただちょっと応援してやる代わりに協力してほしいんだけど…」

 

小さな復讐くらい許してくれるよな。

 

 

 

**********

 

 

 

そこからの話はまぁ、そう言う事だ。萃香には落ち込んでいるふりをして貰って感情的に話して貰った。

萃香は不思議そうな顔をしてたけどこれには意図がある。

まず仁に対しての小さい復讐で恥ずかしい事でも引き出してあと肴にでもしてからかおうと思った。

そして萃香には、その引き出されるであろう恥ずかしい事を素面の状態(年中飲んでるアタシらに素面なんてあるとか言ってはいけない。要はそういったようないつもの状態でって事だ)で聞いてもらって恥ずかしい思いをして貰って横で笑うって算段だった。

 

でもねぇ。そう言えば忘れてたわ。初めて会った時もきれいとか臆面もなく言ってくる奴だった。って事普通言うのが恥ずかしそうな言葉がフツーに出るのな。こっちが恥ずかしかったさね。ましてや抱いて頭撫でるなんてどこの女たらしだい!(少し羨ましいと思ったのは内緒だけどね)

 

んでもって萃香は萃香でアイツ引きはがしてアタシと二人になった途端

 

「恥ずかしい、でも嬉しい。どうしよう、何かめっちゃくちゃドキドキしたんだけど。どうしよう仁の顔まともに見れるかな」

 

とか開口一番それだから呆れた。あぁ、なんかすごく負けだ気分になったわ。

あ~、やってらんないね。今晩は酒を浴びるように飲んでしまいそうだ。いつも以上にね。

 

でも、二人が幸せになればいいなとより強く思ったのも内緒だ。

 

「ほらいつまでも照れてないで行くよ。私は早く酒盛りがしたいんだ」

「うん。ありがと、勇儀!」

 

まぁ、こいつの笑顔も戻ったし、良しとしよう。この時はこのまま穏やかに終わってくれるとそう思ってたんだ。

 






毎度の事ながら最後まで読んで頂きありがとうございます。

私事ではありますが、ありがたい事に応援もあり五個くらい書いたら終わるつもりが一年続ける事が出来ていました‼いやぁ、こんな未熟も未熟で、稚拙な文章とお噺なのに…と少しまで思っていました。いや、今でも未熟だったり拙いとは思ったりしますけどね。

とにかく最近ではちょいちょいいい感じの感想頂けたりして嬉しかったりして、「誰かに面白いと思って貰えるような物が書けているんだなぁ」とちょっとした自信に繋がったりとありがたいですね。やっぱり書いている以上読者がいないとここまでやれてないですから。

と言う訳で読者の皆様、本当に一年間ありがとうございました。まだ本編は終わった訳でもないですが改めてお礼を。もし少しでも楽しんで頂けたら幸いです。そしてもしよろしければ何卒今後の応援もよろしくお願いします。

それではこの辺で今回はお別れです。本当に嬉しい事なのでもう一度。一年間ありがとうございました‼次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。


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閑話 奇跡。織りし想いを風に乗せて



どうしてこんなにギリギリになってしまったんだ…。これじゃ去年と変わってないじゃないか。いや、きっと投稿は少し早いはずだからセーフ。

て訳で、他愛もない七夕噺おひとつどうぞ


どうして好きになったのか聞かれると困る。きっかけなんていくらでもあって、意識しだしたのは本当にふとした、些細な事だったと思う。そんな風に思わせた貴方と離れてかなり立ったある日のお噺

 

 

 

 

 

 

********

 

 

「良い風が吹いていますね」

 

 

この幻想郷に来てからかなり経ちました。ここは良い所で、最初はやっぱり少し不便する事もあったり、戸惑う事もあったり、あっちの事を思い出して落ち込んだりと色々ありましたが今はとても楽しく暮らしています。

神奈子様に諏訪子様もいろいろあって楽しそうです。もちろん私も楽しいんですけどね。

 

 

「さなえ~。なんか今日暑くない?」

 

今、お茶の間で私を呼んだのが諏訪子様。八百万の神であり、土着神でもあり、祟り神でもあり、この神社の本来の祭神でもあります。……ちょっと多すぎますね。分かりやすく言うと力を持った凄い神様って感じでしょうか?

 

「どーしたの?」

「いえ何でもありませんよ、諏訪子様」

「今戻った。悪いけど早苗。冷えたお茶でも出してもらえるかな?」

「おかえりなさい、神奈子様。今お持ちしますね」

「私にも!」

「もちろん諏訪子様の分もお持ちしますよ」

「さっすが早苗分かってるぅ」

 

すぐ側にある台所にお茶と参拝者さんから頂いて冷やしておいた葛餅もお出ししましょう。

何やら難しい顔をして御二人で話をしていますが、今行っていた用事の事でしょう。あまり私が聞いても良くわからないので御二人に任せておけばいいでしょう。

 

 

「お待たせしました。お茶と参拝者の方から頂いた葛餅です。冷やしておいたので美味しいですよ」

「ありがとう早苗。…うんお茶も葛餅も美味いね。熱い中で火照った体を冷やすのにちょうどいい感じだよ」

「ほんとに暑いよねぇ。いくら梅雨明けしたからって急に暑くなりすぎ。こんなんじゃ干からびちゃうよ」

「そろそろ熱中症に気をつけないといけませんねぇ。あ、梅干は漬けてあるので塩分補給はばっちりですよ‼」

「…昔からの知恵って偉大だよねぇ」

「そうですよねぇ。無いなりに生きていくために知恵を振り絞って来たんですもんね。すごいです」

「こらこら、早苗。素直なのは良い事だけど、鵜呑みにするのはよろしくないな。今諏訪子は早苗は年齢に似合わずおばちゃんぽいなぁと思っているに違いないぞ」

「そうなんですか?」

「えぇと、その…」

「ほらな」

「なんだよー、言うのやめた事を掘り起こさなくたっていいじゃないかー」

「本当に思ってたんですか⁉」

 

 

ちょっとショックです。そんなに若々しくないなぁ。確かにあっちに居た時も偶にお母さんみたいとか言われてた時もありましたけど…。まぁ、こういった事でも実際役立つことが多いので良いんですけどね。

 

「いやー、ごめんって早苗。怒った?」

「いいえ、怒ってませんよ。役立つことも多いんで、むしろ賢く生きってるって感じがするので良いんです。それにこういった中にも思い出がありますから」

「そっか。もぉ~早苗は本当に可愛いなぁ」

「何だか微笑ましいな」

「そうですか?」

「うんうん。恋する乙女は若々しいよ~」

「もう、諏訪子様ったら」

 

 

まぁ、確かに料理と言いこの辺りの事は仁さんに教わった事なんですけどね。

 

「…元気にしてるでしょうか?」

「元気にやってるよ。きっと仁なら上手くやってるさ」

「まぁ、私が鍛えたアイツの事だそんじょそこらの事じゃ動じないわよ」

「…また、会えるでしょうか?」

「…それは」

「いえ、神奈子様。わかっていますから大丈夫ですよ。ここは良い所ですから大丈夫です」

「早苗は、また仁に会いたい?」

「もちろんです。でも今の生活も好きなので会えなくても良いんです。きっと仁さんなら大丈夫ですから。あ、私境内のお掃除してきますね。神奈子様と諏訪子様はゆっくりなさってください」

 

 

 

 

ふと。思わず出てきた言葉で一瞬にして空気を変えてしまった。

そんな気まずさに耐えかねて私は景色が揺れそうな境内の掃除へと逃げ込むしかなかった。

 

 

 

 

***********

 

 

 

 

「ねぇ、神奈子。何とかしてあげられないかな」

「何をだい?」

「さっきの早苗の事だよ。会わせてあげられないかなって」

「…気持ちはわからないではないが難しいだろうね。あのスキマ妖怪がそう簡単に外界との接触を許すとは思わない」

「そうかぁ」

「加えて、何やら最近外界に対して警戒しているからか以前よりも精力的に動いている。まぁ、これは単純に最近いろいろあり過ぎたからかもしれないけどね」

「まぁ、結局難しいてことかぁ」

「いや、まぁ、そうとも言えないんだけどね」

「?」

「まぁ、やり方はいくらでもあるって事さ。まぁ、それよりも彼に会わせるのは良い事なのかね」

「良いことに決まってるじゃん」

「まぁ、単純に考えて会いたい人に会うって事はいいことなんだろう。けれど、もし早苗が悪い意味で衝撃を受ける姿に変わっていたらどうする?」

「さっき大丈夫だみたいな事言ってたのに?」

「早苗はアイツが一番落ち着きがなかった頃を知らないからな」

「まぁ、そうだね。私達も心を開かせるのに時間かかったし。あの頃の仁はなかなか…全部に恨めしさを感じてたもんね」

「あぁ、そうだ。それから心身ともに鍛えて分かれる前までには学校生活を無理なく送れるくらいには回復した。でも、本来アイツは独りで生きて来たんだ。それが崩れて壊れかけで何とか持ち直した。それでも根底にある孤独感や恨みは解消はしていない」

「だから私達の知ってる彼じゃなくて、悪い方向に進んだ彼がいるって事?」

「そう…かもしれないね。でも私は会いたいよ」

「……」

「だって、もしそうだったとしてもやっぱりうじうじしてるくらいなら一目でもいいから会いたいよ。そうなってたら私達が原因でもある訳だしさ。辛くても悲しくても、ずっと会えない位ならその辛さを背負う事になってでも会いに行くよ」

「…それが早苗の為になるだろうか」

「…わからないよ。今のはあくまで私の気持ちだからね…でももう早苗もただの子供じゃないよ。それでもし早苗が悲しむことになっても私達がいるでしょ」

「…軽く言ってくれるねぇ。結構早苗って頑固と言うかなかなか意地っ張りというか…」

「誰に似た事やら。親の顔が見てみたいもんだね」

「鏡でも貸そうか?よく見えるよ」

「いやよ。その胸の鏡で見たってどうせ超絶可愛くてお育ちのいい女の子しか映らないんだもん」

「…ほんと早苗はいい子に育ってくれたなぁと思うよ」

「神奈子の方がおばさん臭いね」

「そう言うお前はかび臭いわね。天日で干しとこうかしら?」

「ん?」

「何か?」

「まぁ、今のは見逃してあげるよ。私は超優しいからね」

「ホントに優しい事。ま、今諏訪子と争ってもどうせ私が勝つだろうしね」

「なんか言った?」

「いや何も。…とりあえず可愛い可愛い早苗の為に一肌脱ぐとしましょうかね」

「半袖にでも変えるの?」

「わかってて言ってるでしょ。…でもいい加減暑いから変えようかしら」

「その時は早苗にでも頼まないとねぇ」

「いや、この白い部分取れるから。んっしょ、ほら」

「ホントだ⁉」

「ま、ちょっとまた出てくるわ。夕飯までには戻るわ」

「いってらっしゃい。…私もちょっとだけ動いておこうかな」

 

 

 

**********

 

 

~ 七月七日  博麗神社 ~

 

 

「はい、じゃあ、飲み物って言うかお酒持ったわね。はいカンパーイ」

 

「「「「「「「かんぱ~い」」」」」」」

 

 

神奈子様に言われて宴会に来ましたが、なんだか急ですね。

まぁ、急に宴会やるのなんて珍しくないんですけどね。

でもこの胸騒ぎは何でしょうか。

 

「よう、早苗。何シケた面してるんだよ。こんなに綺麗な星空の下で酒と肴がつまめるんだぜ」

「魔理沙さん…。いや、七夕になるとちょっと昔の事思い出しちゃって」

「昔って?」

「ここに来るちょっと前の事なんですけどね。ある男の人がいたんですよ」

「なんだ、彼氏か?」

「そんなんじゃないですよ。まぁ何と言うか変わってるけど暖かくて、曲がってるけどまっすぐな不思議な人なんですけど面白い事言ってたんですよ」

「何て言ってたんだ?」

「七夕の日に雨が降ってたら会えないみたいな説があるのはご存知ですか?」

「あ~アレだろ?天の川が溢れてしまって二人は会えなくなりますって奴だ」

「そうです。私はそう思ってたんですよ。その時の七夕は雨が降ってたんですけどね。その男の人は『毎年会ってんだろ』って言いきったんですよ」

「なんじゃそりゃ。いい酒のつまみになりそうな話じゃないか」

「私も飲みながら話してますからね。良いんじゃないですか?」

「んで、続き聞かせろよ」

「そうですね。何でですかって聞いたら『天帝はやる事をしなくなったから、ちゃんと働くように離れ離れにしたんだよな。ちゃんと理由があってそんな事するような人だったら、約束守って真面目に働いていた二人に約束を破るようなことはしないと思う。何かしらの手段で会わせてあげているでしょって思うんだよね』って言いだしまして」

「ははははっ、そりゃいい。むちゃくちゃだけど筋がある」

「そうなんですよね。その男の人結構現実主義って言うか少しドライな感じって言うか、そんな物の見かたしてる人なので意外だったんですよ」

「意外とロマンチストだった訳だ」

「いやぁ、それがそうとも言えなくてですね」

「なんだよ?もったいぶるな」

「『俺の知っている限りでの神様ってのは、約束を守って努力したりしている人間との約束をちょっとやそっとの事でで諦めさせるような薄情な神様ではないからね。むしろ、頑張り続けてたら元に戻して前より幸せなハッピーエンドにしようとしてくるような神様だからさ。筋の通っている天帝も似たようなもんじゃねえかなって思っただけだよ』って言ったんですよ。結局ロマンチストとかじゃなくて彼から見た神奈子様や諏訪子様の姿を見てそう補完してたんですって」

「お前らそんなにいい神様だったけかなぁ」

「あちらでもかなりの信仰はあったんですよ。かつてはですけどね。まぁ、でも私はその考えが好きで、その事を言ってた彼も好きだったので七夕になると思い出すんですよ」

「…なぁ、お前はそいつに会いたいのか?」

「会いたいです。もしかしたら私の知っている彼じゃないのかもしれないですけど、やっぱり一目でもいいから会いたいです」

 

 

魔理沙さんの問いに私は上手く笑って言えていたのでしょうか。

 

 

 

「やっぱり、諏訪子の子孫だね」

「そうみたいだね。私もまだ若いって事だね」

「その台詞が年寄り臭いと思うんだけどねぇ」

 

 

 

********

 

 

 

お開きになり三人で帰ろうと思った所、神奈子様と諏訪子様に神社の裏に呼ばれて来てみれば、そこには課のおう会の賢者が。

 

「はぁい。守矢の巫女さん。突然だけど外の世界でも覗いていかない?」

「え?」

「まぁ、端的に言えば貴女の想い人の姿見たくない?って事よ」

「会えるんですか⁉」

「会うのはダメよ。こっち側に来た以上むやみやたらにあっちに干渉するのは良くないですから。あくまでスキマ越しに見るだけですよ。それでもいいなら今から少しだけ見れますよ」

「早苗、これはお前自身で決める事だ。見ずに帰るもよし、見て帰るも良し」

「だだしこれを見る事により後悔することになっても私たちは何もしない。お前ももう唯の子供ではないだろう?」

「神奈子様…。諏訪子様…」

「「さぁ、どうする早苗」」

「お願いします。後悔する事になっても、一目でも良いので仁さんを見たいです」

「じゃ、話はまとまった様だし、こっちのスキマに入って頂戴」

「じゃ、行こうか早苗」

「はい、諏訪子様」

 

 

 

*******

 

 

 

「結構いい部屋にいるじゃん。無駄な物が無くていい部屋だね」

「なんだ、結構服とかの趣味変わってるな。昔は着れたらいいとか言ってて無頓着だったのに急に色気でも付いたのかしら?」

「手巻き寿司ですか…。私達のこと忘れないでいてくれたんですね」

「そうだね。忘れようとしててもおかしくないのに覚えててくれたんだよ」

「私達の知っている仁はやっぱり仁だったね。結局辛い思い出があったとしても忘れられないのよ」

「神奈子様、それって…」

「まだ、きっとかつての事を気に病んでいるのさ。それでも生きることをやめられない。アイツは臆病なんだよ」

「まぁ、それだから仁なりの強さが身に着いたんだよ。私達だって忘れられのは辛いでしょ?」

「ええ。まだ私や神奈子様や諏訪子様の事覚えてくれたことを確認できただけで充分嬉しいです」

「で、仁はどこにいるの?」

「見えませんね」

「あ、ベランダに居るみたいだよ」

 

 

『早苗、神奈子、諏訪子。お前達が本当に居た存在なのかは今となってはもうわかんねぇけど、きっとどっかで元気にやっているよな。また・・・会えるよな?』

 

 

「紫さん!お願いです、彼に何かさせてくれませんか?」

「えぇ、困ったわねぇ。う~んモノによっては許可するわよ」

「風を少し吹かせるって言うのはダメですか?」

「早苗…」

「諏訪子。早苗に任せよう」

「風ねぇ。なんでそれなのかしら」

「私たちに共通しての思い出の現象が良い風が吹く事だったんです。だから、だからそれだけでもさせてくれませんか?」

「ん~…わかったわ。それは許可します。でもそれが終わったら帰って貰いますね」

「わかりました!さ、神奈子様、諏訪子様。一緒にしましょう‼」

「え?いや私は恥ずかしいし…」

「神奈子はやらないみたいだし、私と早苗でやろうね~」

「別にやらないとは言ってないだろう」

「やるなら早くしてくれないかしら。私は少し眠いのよ」

「わかりました。行きますよ神奈子様、諏訪子様」

 

 

「はいよ~、仁。もっと幸せに生きられますように。それ」

「もっと鍛えなさいな。でも、今のアンタもいい男だよ、頑張りな。ほらっ」

「もう会えないかもしれないですけど、もし会える日が来たら笑って会えることを祈ってます、そーれっ」

 

 

この風に乗せて私達の思いが届きますように。

 

 

最後に見えた仁さんの顔は少し笑っていたような気がしました。何かしら伝わってたらいいな。

 

 

 

*****

 

 

「帰って来たね。私達の神社に」

「さ、今日は休もうじゃないか。また明日から忙しくなるわよ‼」

「はい!」

 

 

星を見上げて呟かずにはいられなかった。

 

 

「今日だって間接的には会えたんです。また会えますよ。きっと奇跡は起こるんですから‼」

 

 




毎度ながら最後まで読んで頂きありがそうございます。
去年の七夕の続き?と言うか。これで去年の七夕の噺は完成でございます。

一年間反応とかもらえて続けられますようにと言う願いを込めて去年の私はこれを書きませんでした。何だか達成できたようで嬉しかったり。

最近は更新頻度遅くなってますが、生きていますし書いているので気長に楽しみに待っていただけると嬉しいです。いやぁ、就活って忙しいですね。
Twitterとかではちょくちょく生存報告的に呟いているので興味があれば是非。

生憎の台風だったりしますが、皆様の願いが叶いますようお祈りしつつこの辺で。
それではまた次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。


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壊れてしまえば

お久しぶりです生きてます、ノリさんです。


暑い暑すぎる。就活、卒論、睡眠。忙しすぎる!あれ?最後のは違うか。
とりあえず本編更新はかなりお久しぶりなので忘れてしまった方は読み返して頂けたら再会です。


それでは本編どうぞ。


俺がここに来た意味は何なんだろうか。

分からない。わかったところで今の俺にはその流れから逃れる気力はないのだろうけど、それでも意味を求めたくなる。求められずにはいられないのだ。

 

 

 

**********

 

 

 

必ずやってくる朝。昨日は意外と遅くまで飲んだが朝の時間帯には起きたみたいだ。

きっと、今日も何かをしろと言われるだろう。今日はいったい何をしろと言われるのか。わからないけれど待つしかできない。いつ、この時間が終わってしまうのだろうか。答えは明白だがそれでも思わずにはいられない。

 

 

「おはようございます。朝食の用意ができました。すぐに食堂へどうぞ」

「ありがとう。今日は何をしたらいいんだい?」

「来ていただければわかります」

「はいはい、相変わらず俺には冷たいねぇ」

「当然です」

「知らない間に嫌われたもんだね」

「良いから来てください。お嬢様がお待ちです」

 

 

*********

 

 

ここのご飯は美味しい。唯一つ言うなら俺は米派だ。どうも洋風の朝食ってのは慣れない。

 

 

「おはよう。あら?なた前髪あげてなかったかしら?」

「あぁ、そうだな吸血鬼。気分変えてみたんだよ」

「ふぅん。昨日一緒にお風呂に入った仲の私を吸血鬼呼ばわりね。…そ。まぁ、吸血鬼は…。いや、良いわ。私はこれから眠るけれど、貴方は図書館の方に行って頂戴」

「図書館?ここにそんな物まであるのか?」

「ええ。幻想郷においても屈指の蔵書数だと思うわよ。だいたい読みたい物の一つや二つは絶対に見つかるわね」

「へぇ、そうか」

「あら?貴方は本を読むのが苦手なタイプだったかしら?」

「いや、むしろ好きだけど?」

「でしょうね」

「何で知ってるんだ?」

「さぁ?」

「隠すような事でもないだろう」

「いずれ分かるわよ。ほら行きなさい」

「はいよ。飯食ったらすぐ行くよ」

「それじゃおやすみなさい。また夜にお会いしましょう」

 

見た目は幼くても立ち振る舞いは淑女のそれか。

なんか騙されてる気分だよなぁ。いや、こっちが勝手にそう思うだけだけど。

まぁ、幻想郷の俺が知ってる奴らは妖怪だったりするし、大概が年齢詐欺みたいな連中だけどな。

 

 

*********

 

 

「いやぁ、いきなり手伝って貰って申し訳ないですね」

「いやお気になさらず。俺のやる事は貴方達に委ねられていますから」

「そうですけど…」

「ま、働かざるもの食うべからずですよ。何もしないで暇してるくらいなら働いてるほうが良いですしね」

「そうですか。いや、正直言うと力持ちの男性がいるといろいろできるので助かるんですよね」

「美人の役に立てるならそれでいいんですけどね。さっきの紫髪の人はいったい?」

「パチュリー様の事ですね。あの御方は体は弱々しい感じですけど、様々な魔法を多く扱える大魔法使いなんですよ」

「俺あの人になんかしましたかねぇ」

 

この大図書館とやらに来て二人きりで少し話したが、終始機嫌が悪そうだったのが目に見えた。

会うのは初めてだし特に何か癇に障るような事は行ったりしてないと思うんだが…。

 

「いえ、始めて見た人を警戒して睨むのと、ぶっきらぼうなのはいつもの事なのでお気になさらず。きっと今頃は特に気にならなくなってるはずですよ」」

「そうですか。しっかし魔法使いねぇ。そんな事言ってた友人が一人いたような」

「そうなんですか?」

「ええ、金髪の女なんですけどね」

「アリスさんですか?」

「アリス?」

「違いましたか?」

「いや知らないな。霧雨…何だったっけな?」

「あぁ、魔理沙さんですか。ここにもよく来ますよ。そのたびに本をいくつか持って行っちゃうので大変なんですけどね~」

「あぁ、なるほど。確かに彼女ならやりそうですね」

「ええ、でもパチュリー様は楽しそうなので良いんですけどね。先ほど言ったアリスさんと言う方も交えて魔法について色々やってたりするので」

「…いいすね。そうやって切磋琢磨しあうような場って言うのは」

「貴方にもそんな場があるんじゃないんですか?」

「あったんでしょうかね?わからないんですよ。弟は何でもすぐに出来て優秀な奴だったし、俺は愚直に一人で稽古に励む事しか出来なかった。いつも教えられてばかりでしたよ」

「そうなんですか?でもなんでそれが辛いみたいな言い方するんです?」

「なんでってそりゃ、教えると言う事は何かしら期待してされてるから…。その期待に応えられないのは申し訳ないじゃないですか」

「これはこれは。貴方…少し自意識過剰では?」

「なんでですか?」

「いえ、お気になさらず。さ、これで終わりですね。もし何か次言われるまでは自由に本を読んで貰って構わないですよ。だけど、奥の方にある部屋に近付くことはお勧めしません。まぁ、流石に死に急ぐ方ではないでしょうし近付くこともないでしょうけどね」

「そうか。忠告ありがとう」

「では、私はこれで。あ、そうだ。貴方は独りで解決する癖を持ちながら、独りでの自身の力を過少に評価し過ぎですよ。だから悩まなくてもいいような事で大きく止まってしまうんですよ」

「急に何ですか?」

「いえ、ただの悪魔の独り言ですからお気になさらず。では」

 

 

 

自意識過剰で、自己完結で、過小評価か…。

何と言うかつくづく俺が思う弱い人間の悪性だよ。

 

 

この図書館は静かでほんのり暗くてけれど決して暗い所がない。考え事をするにも本を読むにも丁度いい。

過小評価に関しては何とも言えないんだ。きっと正しい評価を自分で下せるようになってしまえば、人間ではいられない。下せない事がいけないのだろうか?下せず悩み続けることをやめられてたら楽なんだと思う。それでも俺は悩み苦しむ事を離せない。離したくない。

 

考えながら歩いていると奥の方に来ていた。不思議と本特有の黴臭さもなく、舞う物もなく奥に進むほどに美しくなっていく。まるで宝物でもあるかのように豪奢と言うには質素だが、質素と言うには上品かつ上等な扉が。

 

近付くなって言われてたけど何があるんだ?う~ん、気になる。

まぁ、こう言う時は自分に素直にやりたいようにやってみるか。どうせあと一日いるくらいだし。

 

 

「しっかし高そうな扉だよなぁ。この屋敷はいちいち豪勢なんだよなぁ」

 

ガチャ

 

「あ?」

「あれ?」

 

誰?

 

「お兄ちゃん誰?」

「俺は仁って言うんだ。お前は?」

「私の名前はフランドール・スカーレットって言うの。フランで良いよ」

「そうか。俺は仁で良い。じゃあフラン、君はその部屋で何をしてたんだ?」

「あのね。お姉ちゃんからあんまりお外に出ないようにって言われてるから我慢してたけどなんか面白そうな事ありそうな気がしたから出てみたの」

「そうか。暇なのか?」

「うん、とっても」

「そっか。なら俺も今暇だし一緒に遊ぶか?」

「良いの⁉」

「おぉ。そんなキラキラした目で見られると不安になるなぁ」

「だって、だって。私と遊んでくれるって言ってくれる人はいないんだもの。いいわ、特別に私の部屋に入れてあげる。その代わりいっぱい遊んでね」

「まぁ、どうせ暇だったし遊ぶだけだし。出来るだけ遊んであげよう」

「わーい。さ、どうぞどうぞ」

 

部屋に招かれ扉を閉めた頃には笑顔のフランと、紅い無数の液体が宙を舞っていた。

 

 

 

 

**********

 

 

 

 

「随分と意地悪な事を言うのね、小悪魔」

「何のことですか?パチュリー様?」

「あら、私に対してもとぼけるのかしら?」

「冗談ですよ」

「でしょうね。貴女その辺は弁えてるし。それで何であんな事言ったのかしら?」

「なんででしょうね?何となくみっともなく感じたから…でしょうかね」

「そう…。ま、貴方が何を話そうと勝手だけど、やり過ぎないようにね」

「えぇ、わかっていますよ。パチュリー様の威厳も守っておきましたから」

「何の事かしら」

「私にまでとぼけます?睨んで見えたのは寝不足で目が疲れてたからで、ぶっきらぼうだったのは眠気が限界になってたからって事ですよ」

「そう。頼んでないけどありがとう」

「でも彼なかなか良い性格してますよね」

「あら、貴女が人間にそんな事言うなんて珍しい」

「そんな事ないですよ。ここに人間が基本的に来ないからそう見えるだけで。まぁ、でも彼は人間だって言ってますけど…」

「それは彼がどう認識するかだから私達が考えなくていいわよ」

「…ですね。でもかわいそうですね」

「そうかしら?あれはあれで面白いと思うけれど?」

「そうですかねぇ。…いや、外から見てる分には面白いんですかね?」

「そうね。彼はなかなかいないタイプだからね。それこそ色々聞いただけでも色々絡まり過ぎね。レミィじゃないから私が運命どうこう言ってもしょうがないけれど。あの性格じゃ死ぬんじゃないの?」

「はっきり言いますねぇ」

「まぁ、隠しても仕方ないもの。ま、外の世界に帰ったほうが良いわね」

「それがいいんですかねぇ」

「少なくとも彼にとっては元の生活に戻らなきゃいけない訳だから大変だろうけど、ここに居続けるよりはましなんじゃない?」

「でも、彼は元には戻りませんよ」

「そうかしら?」

「ええ、きっと彼は納得できないまま終われないでしょうからね」

「どうかしらね。それでも彼は折り合いをつける事は出来る男よ」

「随分印象が違いますね」

「まぁ、いろんなものの見方があったほうが色々比較検討しやすいわ」

「お嬢様は何を考えてあの男を招いたんでしょうね」

「さぁ?レミィが何を考えてるのか分からないのはいつもの事だから、気にしないでいいわよ」

「ところでパチュリー様。一つ気になる事が」

「奇遇ね、小悪魔。ちょっと静かすぎるのよねぇ。もしかすると」

「もしかして妹様のお部屋に?」

「早く探しに行きなさい!彼の身に何か危ない事があったらこっちが困るわ」

「はっ、はいっ」

 

 

*******

 

 

「失礼します。妹様!こちらに男の方は来られませんでしたか?」

「お兄ちゃんの事?うん、来たよ。ほら、いっぱい遊んでくれたよ。今そこに居るわよ」

「ちょっと失礼しますね!あの!仁さん!生きてますか⁉」

「ちょっと静かにしてくださいね。耳の再生終わって響くんで…」

「何で生きてるんですか⁉」

 

まぁ、四肢が潰れてるわ、血塗れだわ、悲惨な状況だったんだろうし。その反応も当然っちゃ当然かな。

 

「別に生きてて構わんでしょう」

「いや、まぁ、そうなんですけど…」

「あれ、聞いてませんか?俺はそういう体なんですよ。ちょっと人より治りが早いんですよ」

「ちょっとってレベルじゃ…。ほんとに傷が治って」

「いやぁ、便利っすね。どんなに怪我しても治るんで心配いりませんし。さ、フラン。続けて遊ぶかい?」

「うん!どんなに壊しても壊れないからいっっぱい遊べて好き!」

「妹様、すこしお待ちいただいても良いですか?」

「何で貴女が邪魔するのかな?邪魔するなら…」

「家邪魔しようとは決してそんな事は。パチュリー様がお嬢様に報告に行ったかもしれないので大丈夫な所をお見せしたほうが良いかと…。何せお嬢様のお客様なので何かあった場合はお嬢様が出てくる可能性も…」

「ちっ、アイツが出てくると面倒だな。…それならお姉様に見せてきなさいな。お兄ちゃん、それが終わったらまた遊ぼうね」

「いいぜ」

「仁さん‼」

「なんかまずい事でも言ったか?」

「…いいです。とりあえず行きましょう」

「じゃあ、またあとでなフラン」

「ええ、また後でお茶会に続きをしましょう」

 

 

ギィィ

 

 

「仁さん。近づかないように言いましたよね?」

「いやそれはたまたまだし、フラン部屋の外に出てたから呼ばれてついてっただけで…」

「なんでついていったんですか。命が惜しくないんですか⁉」

「いや、まぁ、惜しくはないですかね。どうせ治っちゃうんで。治るのが分かってるんでなんも怖くないですな」

「狂ってますよ。それでも痛い物は痛いでしょうに」

「めちゃくちゃ痛いですね、うん。でもそれだけでしょう?」

「何を言ってるんですか。それほど痛いなら避けるでしょう?」

「痛みや辛さなんてその気になれば忘れられますよ。感じなくすることだって出来る」

「…、やっぱり貴方みっともないです。最低ですね」

「言い過ぎでは?」

「これでもまだ言い足りない位です。貴女が人間だと言うなら…」

「あ~、それよりも行かなきゃいけないんじゃないんですか?」

「あれは嘘です。しかし言ってしまった以上一応見せに行きますか…」

「じゃ行きましょうか。あまり待たせても悪いですし」

「またあの部屋に行く気ですか…」

「当然。また後でって言いましたしね」

「はぁ、もうどうなっても知りませんよ」

「優しいっすね」

「何を言ってるんですか」

「だって見ず知らずの俺に心配して怒ってくれた訳だし…」

「お嬢様のお客さんだからです。何かあって怒られるのは我々ですから。そうでなければそんな死にたがりの人間ごときの事なんて知った事ではありません」

「冷たいなぁ。…まぁ、どうせもういなくなっちゃうからいいけどさ」

「どうやら無事だったみたいね」

「やぁ、何を心配してたかは知らないけどピンピンしてるよ」

「衣服がぼろぼろのくせして良く言うわ」

「いや、生きてりゃそれでいいでしょ」

「投げやりね。その様子だとかなり遊ばれたみたいだけど楽しかったかしら?」

「俺が楽しかったなんてのはどうでもいい。彼女が楽しんでみたいだしな」

「全く…。その性格じゃ苦労するわよ」

「知ってるさ」

「それなら一度着替えてきなさい。貴方みすぼらしいわよ」

「それもそうだな…」

「あ、そうそう。咲夜と言うメイドには気を付けなさい」

「それ言っちゃっていいんですかパチュリー様?」

「もうじき動くだろうし良いわよ」

「まぁ、そう言う事なら構いませんが…」

「何が何だかわからんがわかったよ」

 

よくよく考えるとまたフランの所に行くなら着替えても意味ないんではと思ったが…。まぁ、どうせ安く買った服だし良いか。

 

 

 

********

 

 

「少々よろしいでしょうか?」

「はい?えっと、咲夜さんでしたっけ?」

「メイドの十六夜咲夜です」

「何の用で?」

「実は以前から貴方を監視するようお嬢様から言われ、監視しておりまして」

「はぁ、こんな形でストーキングしてた報告するとは思わなかったなぁ」

「命令されての監視です。話を戻しますけど、貴女は人間ですか?」

「得体の知れない貴女に言われたくない気もしますが…。まぁ、俺は人間ですよ。そうやって育ってきましたから」

「そうですか…。そうそう、私、偶に状況により仕方なく妖怪退治などもやっていたりしまして…。そうおしゃると言うならその化けの皮剥がして差し上げます。単刀直入に言うと…」

「はぁ?」

「殺して差し上げますから、大人しく殺されてくださいまし」

 

 

目の前には無数の刃。その刃が降り注ぐのは時なんてなかったかの如くすぐの出来事であった。

 

 

 

 

********

 

 

 

 

「お兄ちゃん早く来ないかなぁ」

 

最初はタダの玩具だった。いつものように少し遊べば壊れる玩具。

でも壊れなかった。こわしても壊しても壊しても壊しても、何度でも治って治って治って治って。

それでも私と遊ぶことを辞めなかった。

そうして10と少し壊した後、お客として友として招くことにした。

 

『紅茶淹れられるのか』

『ずっとこの部屋で暮らしてたから…お茶を用意することくらいはできるわ。すぐ茶器を壊しちゃうからあまりできないから特別な時か暇な時しか出来ないけど。とは言え自信あるのよ』

『何かいいことでもあったのか?』

『貴女が壊れずに遊んでくれたから。玩具じゃなかったから。お友達になれそうだから。だからいっぱい痛かったと思うけどお友達になってくれる?』

『もちろん。でなければあれだけ痛い中でこの部屋に残らないだろう』

『だよね。知ってた!』

『だと思うよ。俺と君は同じ匂いがする』

『違うよ?でも似てる』

『なにが違うんだい?』

『例えるなら私は狂ってる。貴方は壊れてる』

『同じようなもんだと思うが』

『同じようで些細な違いよ。まだ壊れきってはないみたいだけど、貴方が私と同じになるかはこれからね。ならないほうが良いと思うけど』

『そうかぁ。でも狂ったって壊れたって良いんじゃね』

『何でよ?』

『君と同じように狂ってしまっても、君は俺と一緒に居てくれるだろう?』

『どうかしら?』

『いてくれるだろうね』

『だと思うわ。だって私と同じ匂いがするもの』

『とりあえず紅茶は俺の方が美味しく淹れられるな』

『貴方の方が美味しく淹れられるって言うの?』

『もちろん。なんなら今すぐ淹れようか?』

『ええ是非。でも馬鹿にされたからきゅっとしてドカーン』

 

『失礼します。妹様!こちらに男の方は来られませんでしたか?』

 

あの時邪魔が入らなければ…今頃楽しいお茶会の続きだったのに…。

いけないわ。思わずお人形さんを壊しちゃったわ。

 

でもいいの。またお兄ちゃんが来たら再会だもの。

 

「お兄ちゃんと私は同じような者なんだから人間になんてこだわらなくていいのにね。こだわるから辛くて苦しいのに。何で壊れず人間のままなのかなぁ。そんなこだわり壊してあげようかしら?」

 

紅い館の隔離された部屋で、宝石の羽をもった幼子が呟く。ただ純粋に相手を想って。

ただ周りの者が聞けばおかしな事を言っているようにしか聞こえないのかもしれないが。

 




毎度ながら、最後までお読み頂きありがとうございます。

如何でしたでしょうか。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

前書きに書いた通り、ただ今私生活が忙しい時期と言う事でかなり更新速度が遅くなってしまってます。落ち着いたらペース上げたりするなり、新刊作ったりしたいですね。

と言う訳で楽しみに待っていただいている方には申し訳ありませんが、余裕が出るまで気長に待って貰えるとありがたいです。もしいい感じの感想などあればどんどん書いてくれてもいいよ!(あつかましい)

Twitterもやってますんで気になった方はぜひフォローよろしくお願いします。しょうもない事呟いて生存を報告してるだけですが是非。

それでは次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら


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月下狂乱

お久しぶりです。長らく待ってた人がいたらお待たせしてごめんなさい。平成最後の夜に投稿します。

それではお噺の続きをどうぞ。


「避けませんか。それでも死んではいないんでしょうけど」

「ご名答。ただ疲れてるから治りが遅いけどな」

「何十本と刺さったナイフを自分で抜いている血だるまの人間なんて見てて気味が悪いですけどね」

「なら投げないでくれると嬉しい。って言うか俺の服どんどん減っていくんだけど…」

「それは良いですね。新しい服でも買って経済を活性化させては?」

「なるほどっ。確かにそれもそうだ、いっつぅ。痛覚はあるからこれ以上刺して欲しくないんだが?」

「それは無理ですね。お嬢様から経過観察の後に好きなように処理するようにと命じられてますので」

「ロクでもない命令だなぁ。そんな事して何になるんだよ」

「それが何にならなくても構わないのですよ。私はお嬢様に仕える者ですから」

「あぁ、そうか。…そう言えば俺も…」

「言いかけずに、最後まで言いなさい」

「いやぁ、ふと思い出しただけですからお気になさらず」

「そう、話す気がないならその口から裂いてあげましょう」

「口は最初から裂けてるでしょう」

「減らず口を行えるくらいには余裕があるようね」

 

 

あぁ、何度も剣の雨。切って裂いて刺さってぶつかる。弾けて散って何故だか散らなかったりして。

床に落ちては赤くなって黒くなってそして濁る。

 

避けようと思ったら避けられるものもあった。それでも俺は避けなかった。避ける事すらしなかった。

避けた所で同じことを繰り返すならきっと避ける意味なんてない。

 

唯ひたすら長く、長く、長く。どれほどの時が経っただろう。

 

「…少なくとも私が観察していた時よりも腑抜けてしまっていたようですね」

「おう、そうか。俺からしたら変わってるつもりなんてないんだけどな。そっちこそ本当に人間?」

「いつまで現実を見ずに隠して誤魔化すつもりですか。そして人間です、今はお嬢様のメイドです」

「はっ、トンデモ人間がいたもんだ。それに俺はあんたに隠してることなんてないよ」

「私には無くともあるでしょう。そろそろ隠しようが無いように、その下した前髪諸々切り落としましょうか。そして無様な姿を妖怪の山の神社の方々にでも晒して差し上げましょうか」

 

ヒュン

 

「ようやく避けましたね」

「黙れ」

「そしていい殺気です。ここに来てからの腑抜けた貴方からは想像できない程の生気を感じられますわ」

「うるさい」

「何か嫌なら、避けるなり反撃するなりしなさいな」

 

いきなり始まる。

 

 

そんなに時間は経ってないはずなのに、何時間も戦い続けているかのような。それほどに彼女のナイフか多く苛烈だ。どこにそれだけの物を用意す時間があったのだろうと問い詰めたくなるような…。おまけに疲労感も恐ろしく違うし…。あっちは優雅に散歩してる程度、俺はフルマラソン全力疾走してるくらいに息がキツイ。…俺も大概人間やめてるよなぁ。…まぁ、それは置いといて、俺と彼女じゃ時間経過が違うみたいだ。…時間のズレ?

 

「やっとわかった」

「何がです?」

「いやぁ、貴女の能力は何なんだろうってずっと考えてたんですよ。最初は瞬間移動かなって思ったんだが。まぁ、そうだなぁ。でも、勝ち筋が見えた」

「ならやってごらんなさい」

「それなら遠慮なく」

 

集中しろ、俺の能力が奪う事なら、きっと出来るはず…。前は偶々そうなっただけだが、今回は意図的に引き起こす。少しでもミスをしたら俺はまた…いや、余計なことを考えるな。やろうとしていることに集中しろ。

 

「…まだですか?」

「……律儀に待ってくれてありがとう。おかげで勝てるよ。ただ手加減できるかどうかはわかんねぇから死んでくれるなよ」

「減らず口を叩けなくしてあげます。時間には逆らえないでしょう?」

 

世界が止まる。紛う事なき今世界は彼女にとって思いの儘だろう。

でも勝てるといったからには絶対に勝つ。目には目を歯には歯を、チートにはチートを。

 

「最後に深く心臓に刺しましょう。これが貴方の墓標よ」

「死ぬなら俺には墓なんていらねぇよ。誰にも知られず野垂れ死ぬさ」

「っ!?」

「捕まえたぞぉ‼︎この腕はもう離さねぇ‼︎」

「離しなさいっ、離せっ!」

「おいおい、さっきの余裕はどこにいったぁ‼︎そんなもんじゃ俺には勝てねぇぞぉ‼︎」

「なんで止まった時間の中で動いているのっ‼︎」

「それは負けを認めたら教えてやるよ。もしくはお前の主人ならこうなることは分かってたんじゃないかぁ‼︎さぁ、お前の両腕を掴んだ訳だが負けを認めなきゃ潰れちまうぞぉ‼︎」

 

 

答えはシンプルだった。人間として生物として時間に縛られるのは当たり前だ。大自然のルール、生命の摂理だ。

と、なればやれる事は簡単だ。まぁ、やっちゃたら人間じゃなくなっちゃうんだけどさ。

 

「くっ、もう一度」

「無駄だよぉ。もうアンタのその力は俺には効かねぇよ‼︎それとも時を止めるのを今やめるかぁ?そうしたら助けが来るかもなぁ」

 

俺と言う人間がそのルールに当てはまらないようにすればいい。流石に概念にまで影響できるかは不明だったし、何より失敗してたら死んでたかもしれない賭けになる。元々死ぬ訳でもないのに何でこんな事してるんだろうな。逃げりゃあいいのにさ。

 

 

「そんな事はしません‼︎私は負けを認める訳にはいきません‼︎」

「そのプライドこと潰すか」

「やれるものならやってみなさい」

「…はぁ、やめやめ。俺の負けでいーよ。はぁ、熱くなるとどうも口が荒くなるなぁ」

「なぜ戦わないのです。貴方を殺そうとしてた私を返り討ちに出来てたはずなのに」

「あのなぁ。散々俺の嫌なとこ突いてきてムカッ腹立ってつい熱くなって色々ひでぇ事なっちまったけども、別にアンタのこと殺したいほど嫌いって訳じゃないし、殺しちまったらここでのうまい飯が食えなくなる。まぁ何より」

「?」

「俺も、貴女もそうかも知んねーけど、人殺しじゃないからね」

「甘い人ですね」

「甘くて良いんだよ。俺には世界が苦過ぎた。貴女に言われた通り見たくない現実を見ず逃げたり閉じこもったりしてるだけだ。それでもやっぱり辛いのも痛いのも苦しいのも嫌なんだよ。そうでなきゃ壊れそうでどうしようにもねぇんだ」

「あの三柱がいなくなった時もですか」

「そうだよ。そうしか出来なかった」

「やれる事はやった上で納得してですか」

「あのね、世界そのものが書き換わってるみたいな感じなのにどうしようもないでしょ」

 

家族がいなくなった時、大切な居場所がなくなって大切な人達がいなくなった時、そして大切な思い出の場所が皆んなの中から消えて俺が世界にひとりぼっちにされた時、全部俺は甘えに甘えた。何も考えず、目を向けず、触れ合うことをやめた。

 

だけど、俺はそれで良かったと思う。他の人からみたら歪み澄んだ甘さかもしれない。それでも俺が辛くないなら、苦しくないなら、辛くさせないなら、それで良いと俺が決めて選んだ道だから、否定するわけにはいかない。

 

恨みました、呪いました、憎みました、それでもあの時の確かに感じていた幸せは焼き付いて離したくない物なのです。だから結果として私は未来を閉じてしまったのです。

 

 

だけれど

 

 

「だけどその在り方が俺なんだよ。それまで否定されたら俺は存在出来ないんだよ。俺は…ここまでそれでそれなりに必死に生きて来たんだよ…そんなに甘いのが悪いのか…」

 

 

 

俺は何を言っているのだろう。何故こんな事を言っているのだろう。なぜこんなに苦しいんだろう。

何故こんな言葉が止まらないんだ。

 

いつぶりだろうか、ここまで訳も分からないままに喋るのは。

 

胸の内を覆いつくし、濡れ固まっていた灰の様なモノが、燃え盛るモノに中てられ渇き、重みを持たぬ言葉として散っていく。ではその灰があった場所には何がある?

 

「そんな顔しながら貴方は泣かないんですね。もういいんじゃないですか。自分を許しても」

「許すって何を許すんだよ。甘えてきた俺に。許し続けてきた俺に」

「貴方は自分を許してなどいない」

「やめろ」

「なぜなら、許している者は過去に焦れて囚われませんもの」

「やめてくれ‼」

「奪って満たされましたか?自分の意志で奪っておいて、手に入れたもので満たされない。何故ならあなたは人間であると良心を捨てられない」

「やめろって言ってんだろ‼」

 

「人から奪う事しか出来ず、それでも奪い続けることを辞められない、永遠に満たされることのない運命」

 

「知った風な口をくんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。これ以上イラつかせるなら全部奪いつくしてやる!」

 

「それが貴方の本性ね、哀れな男。今すぐここから去りなさい」

 

 

哀れな男。何故だろう。否定したいはずのその言葉、胸の内に燃え盛るモノがあったはずなのに、一瞬にして俺の体温を奪い、そして

 

 

「わかったよ…。ただ荷物だけは持って行かせてくれないかな」

「どうぞ、もうこちらにありますよ。去りなさい。貴方には行くべき場所がある」

「…どーも」

 

 

俺は何も言えず、屋敷を去る事しか出来なかった。

 

「…いったいどこに向かえと言うんだ」

 

だって俺には何もなかったから。

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

あいつがここから居なくなってから、そんなに経ってないはずなのに恐ろしく長い時間が経ったような気がした。

気が付けばあいつの事を考えてしまうから余計にそう感じたのかもしれない。

 

想えば不思議な奴だった。いきなり訳わかんない出会いを経て、妖怪を恐れず、思ったままに行動して、気が付けばお店なんかやって、ちょっと目を話したら人里で屋台やって人気出て、勝手に嫌われ者になる道を選んでどこかへ行った。

 

まぁ、私と違って人気者だしいくらでも行く当てなんてあるんだろうけどさ。

でも本当に面白い変な奴だった。面白さ至上主義の塊みたいな奴で、めんどくさがりな癖にして面倒事に突っ込んで行き、辛いくせになんて事ない顔で帰ってくる。

 

本当に馬鹿な男だ。いっつもヘラヘラして、ふとした瞬間にどこか悲しい顔をしてバレないようにまたヘラヘラする。今はどうしているんだろうか?どこかでまたヘラヘラしているんだろうか?正直に言えば会いたい。会ってまたあの時のように他愛の話をしたい。

 

こんな気持ちになったのは久しぶりだ。胸が締め付けられるほど恋焦がれている。

だからこそあいつの気持ちを尊重して送り出す事しができなかった。かつてのような失敗をしないために私は…。

 

「はぁい、恋する乙女さん」

「何よ、こんな辺鄙な所に来るなんて大層暇なのね」

「そんなにつれない態度で良いのかしら~。貴方の想い人が苦しんでるの伝えに来たのに~」

「はぁ、何言ってるのよ。アイツもう帰る頃でしょ」

「あら良く知ってるのね」

「そりゃあ…そんな事は良いのよ。それにあいつはそんなに弱くないわ」

「そうね。でも今回は…本当にダメかもしれないわよ。自ら命を絶つほどに」

「っ‼どういう事?説明しなさい‼」

「説明するより本人に会ったほうが良いじゃない。ほらそこに都合の良いスキマがあるのだから」

「本当に貴女ムカつくわね」

「誉め言葉よ」

 

ためらいなく私は飛び込んだ。

 

 

 

********

 

 

ある森の中。暗く、日も落ちようとしているこの時にふらつく男が一人彷徨っていた。

男は半ば放心状態で手に荷物は持てど気が付けば離してしまいそうなほどに心ここにあらずといった様子。

 

その周辺にある女が現れた。橋姫と呼ばれる地底から滅多に出てこないはずの女。

彼女は探していた。恐らく男を探していた。何よりも想ってしまった男の事を。

大方、賢者にでも唆されたのだろう。かなり平常とはかけ離れた心持らしい。

 

そして男が地面に片足を付き、倒れようとしたその時、ついに出会った。いや、出会ってしまったと言うべきか。

 

「やっと見つけた」

「‼…どうして君がここに…」

「色々あったのよ色々。そっちも…色々あったみたいね。とりあえずどうしてそんなにボロボロなのか話を聞かせて貰おうかしら」

「なんでよりによって君と会ったんだ。会ってしまったんだ…」

「良いから質問に答えなさい」

「…ん~、色々あって人を怒らせちゃってね。いやぁ、強い人でこってり絞られちゃったよ。いやぁ、もっと鍛えないとなぁ」

「…どうして」

「ん?」

「どうしてそんな風に誤魔化すの‼」

「…」

「ずっとわかってたわよ。地底に居た時だって仲良くしてくれても何処か一線踏み込ませないようにしてた事くらい‼それでもそれ以上に踏み込みたいって思ったんだもの‼」

「ちょ、ちょっと、泣きながらいきなり何言ってんだ」

「うるさい、全部アンタのせいよ‼アンタが地底を出て言ったあの日の告白だって…」

「それは…ちゃんと返事したじゃないか」

「上辺はそうね。でもね、あんなふうに軽く流されたら私の立場がないじゃない‼」

「…ごめん」

「謝らないでよ‼自分でもおかしな事言ってるのわかってるから…。でも覚悟を決めて告白したのに、あんな線引きしてるのが見え見えな断り方されてどんな気持ちだったと思う?ねぇ、いっそのことまた憎めたら良かったのに…どうして…ねぇ、どうしたら貴方の心に添い遂げられるの…どうしたら貴方は私に本当の心を見せてくれるの…」

「それは…」

「どうしたら貴方は私をちゃんと見てくれるの…」

「………………」

「どうして黙るの…どうして答えてくれないの…」

「ごめん」

「だから…」

「謝るなって言うんだろう。でも俺は…その問いに返す言葉がないんだよ…」

「どうして…また私を…」

「違う、違うんだ…。今日色々あって、その…前の告白の時にも言った気がするけど俺には恋も愛も感情が理解出来ないんだ。分からないから、心について学ぼうとした。学んだ。知識歳は蓄えられた。では自分に当てはめたら?…ないんだよ。皆の言う心が動かされる感情のそれぞれが。俺には何にも。今までの人生いろいろあったはずなのに」

「それは…」

「わからないよね。君は俺じゃない。俺だって君じゃないから君の心はわからない。俺は分からない事が怖いんだ。なぜ俺の家族は死んだ?何であいつらは何も言わずにいなくなった?何で世界に一人取り残されたんだ?判らない事だらけなんだ…そんな中で生きてきたら自分の心すらわからなくなっちゃっってさぁ。それに…」

「…それに?」

「なぁ、俺って何なのかな?人間なのかな?」

「何を言っているの?」

「なぁ、見てくれよこの額」

「そ、れは…」

「なぁ、人間ってこんな角って生えてくるのかな。なぁ、もしかして俺は、人間じゃないのかな?」

「なんで?どうしてそんな…」

 

「わからないんだよ。もう何もかも」

 

「ずっと、ここに来てから変に力強くなってきて。むしろこっちに居る方が自然みたいでさ。あっちの世界に居た方が異常みたいでさ。でも俺が生き続けたはずの世界なんだよ。俺は人間として生きてきたはずなんだよ。それなのにこんな…」

 

「なぁ、俺の生きてた世界って何なんだ?あの育ててくれた家族って何だったんだ?なぁ、俺って何なんだよ。この力って何なんだ。誰も教えてくれないんだよ」

 

「なぁ、どうやったら恋する?どうしたら愛せる?どうやったら…泣ける?こんなに辛いと感じているはずなのに、苦しいと感じているはずなのに、どうして他の人間のように心から涙を流せないんだよ‼」

 

「どうして…世界は美しい物で溢れているのに、俺は‼この力のせいで…この力で両親だったはずの人間の命を無意識に奪ったかもしれないんだぞ‼大切だったはずの人達の居場所を奪ったかもしれないんだぞ‼もしそうだったらどうしたらいいんだ…俺は…」

 

 

「もう…何も考えなくても良いわよ。辛いなら、苦しいなら、わからないなら、無理に考えず。その答えが判るまで生きましょう?」

「なんでそんな事言うんだ‼いっそのこと俺が完全に人じゃなくなる前に殺して欲しいくらいなのに‼」

「ねぇ、どうしてそんなを嘘を言うのよ。辛いのも苦しいのも嫌なんでしょう?それに少なくともここに来てからの事を楽しそうに語ってた事、他の奴を助けるために覚悟決めて実行した事、全部嘘にしてしまうの?」

「それは…」

「ねぇ。生きるのが辛いのかもしれない。けど生きていけば見えるものもあるのよ。私だってそうだもの。私は人間でも人間じゃなくても変わらず。鷹崎仁、貴方の事が好きよ。貴方にとってどうなのかは知らないし、わからないけど、それでも一緒に過ごしたいと思うことに変わりないもの。だからね、貴方の求めるが見つかるまで、納得する答えが導けるまで一緒に居てあげる」

「…離してくれ。俺はもう綺麗事には…」

「本気で離れようと思えばとっくに離れてるでしょ。綺麗事で良いのよ。今の私の心臓の音聞こえるでしょ。結構緊張してるのよ。顔だって熱いし。ねぇ、もしかしたら貴方が大切だった人達がかつてそうした様に、私も何かの事情で離れる事があるかもしれない。もしかしたらこの胸の高鳴りも、顔の火照りも冷めてしまうかもしれない」

「そうだ。だから俺は…」

「でもね。今の私は貴方から絶対離れないわよ。だって高鳴りも火照りも今ここに確かにあるもの。ねぇ、確かに過去の事も大切だし、今の事も大切よ。でも、それだけに囚われて自分を苦しめないで。分からないなら一緒に考えていきましょう。…貴方のそんな顔を見続けるのは辛いのよ。今この場での、一時の迷いでもいい。利用するだでもいい。それでも貴方が少しでも楽になれるなら…っ⁉」

「…あったけぇなぁ」

「こっちは熱いわ。体に巻き付く腕のせいで…ね」

「俺はお前が望むような男じゃないかもしれないぞ」

「いいのよ。望んで貴方の枷になるなら望みごと捨てるわ」

「気の利いた事とか、気の利いた振る舞いなんてできねぇぞ」

「今までの行動見てたら分かるわ」

「迷惑かけ続けるかもしれないぞ」

「前から変わらないわね」

「めんどくさい男だぞ」

「私も似たようなものだしお互い様ね」

「一生答えが出ないままかもしれないぞ」

「それだけ一緒に居られるって事でしょ。望むところよ」

「じゃあ」

「まだあるの?」

「…俺はお前みたいにお前に恋しないかもしれないぞ」

「これからどれだけの期間生きると思うの?鬼は恐ろしく長生きなのよ。それだけあれば十分よ」

「狂ってる」

「そうね。でもそれもお互い様でしょ?」

「一緒に地獄に落ちるつもりか」

「私が住んでるのは元々地獄よ。旧だけど」

「それもそうだな。…あぁ、月明かりが綺麗だな」

「そうね。私死んでもいいわ」

「一緒に生きるんじゃないのかよ」

「洒落もわからないの?」

「冗談だよ」

「さっきまで弱ってたくせに良い性格してるわ」

「ありがとう。誰かさんのお陰だよ」

 

「「じゃあ、一緒に帰ろうか」」

 

 

月明かり照らされた森が二人の帰り道を照らし、祝福しているようだった。ただしその祝福が本来あるべき未来へと導くものかは、また別のお噺。

 

 

 




毎度の事ながら最後までお読み頂きありがとうございました。

今回のお話で僕が最初のころに考えていたお噺の見せ場の1つを無事お届けする事が出来ました。

本当に遅くなって申し訳ない。忙しかったのはあるんですけど、今回のお噺はかなり今までとは違いこのお噺の核に触れるようなものにしたかったため、仕上げるのに時間がかかりました。あとちょっと後半は特に感じてもらえるかもしれませんが、普段とは書き方を変えてあります。…多分そうなってるの伝わったと思います。(願望)
それはそれとして、とは言っても忙しくて疲れて書く時間取れなかったりって言うのはあるんですけどね。
体力大切。

今回のお噺で今までの仁君の行動や言動におかしなものを感じてた人がいたら今回のお噺でその原因の一端を見せられたらと思い書いてました。これでこいしちゃんがすぐ見えた原因もわかってくれた人にはわかってもらえるような書き方が出来たんじゃないかと思いたい‼…伝わるように書けていたら幸いです。(多分書けてない)

俺TUEEEEEE‼ーする小説とか読むんですけど、実際そうなったらと考えると身の丈に合わない強さを抱え続けるってかなりの苦しみになるんじゃぁないでしょうか。僕は怖くなっちゃいそうですね。まぁ、空元気も元気の内って言うので仁君はすげーと思います。

今度はそんなに期間開けずに投稿したいなぁ…。
さて、平成という時代が終わり新しい時代に変わる訳ですが、僕は変わらず書きたいものを書きたいように、まったりのんびり変わらず書いていきますので、皆様にも変わらず応援して頂けたり、お噺を楽しんで頂ければ幸いです。

それでは皆様、令和になっても変わらずご贔屓頂ければ幸いです。それでは次のお噺でお会いしましょう。さようならさようなら。


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