スマイルプリキュア&時を超える桃太郎 (紅鮭)
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プロローグ

お久しぶりな人はお久しぶりです。


────メルヘンランド

 

 

それは異世界───童話の世界の住人が住む世界。

 

 

 

その中で童話の悪役が住む国───バッドエンド王国

 

そこの住人は地球の…白紙の未来を黒く塗り潰す闇の住人。

 

そのバッドエンド王国のとある研究施設で事件は起きた。

 

ウー、ウー、と警報が鳴り響き渡り、16歳位の少女が追っ手から逃げていた。

 

 

 

「いたか?」

 

「いや…見当たらん」

 

 

 

あっちを捜そうと言い。

追っ手はその場を離れていく。

 

 

 

少女「ハァ…ハァ……あと…1分…」

 

 

 

少女は物陰から少し出て様子を伺いながら物陰から出ていく。

 

 

 

「いたぞーっ!!」

 

 

 

しかし、さっきの追っ手達に見付かってしまった。

少女は走りだす。

 

 

 

「待てーっ!!!」

 

 

 

追っ手の足は速くすぐに追いつかれてしまいそうだった。

 

 

 

…10

 

 

 

…9

 

 

 

…8

 

 

 

少女はキョロキョロとあるものを探しながら奥の方へと進んでいく。

 

「ばかめ…そっちは行き止まりだ!!」

 

 

 

 

……5

 

 

 

 

 

……4

 

 

 

 

 

………3

 

 

 

 

 

…………2

 

 

 

 

 

……………1

 

 

 

 

 

少女は奥の方にあった扉に手をかけ、開き、中に入る。

 

 

 

「ヘッヘッヘッヘッ…、これで奴は袋の鼠だ」

 

 

 

追っ手は笑いながら扉を開く。

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

しかし、そこには少女の姿はどこにもいなかった。

 

 

 

「消えた?」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

果てしなく続く砂漠の上に列車が走る。

その中で先程の少女が擦りむいたり、ケガをした所を手当していた。

 

 

 

???「危機一髪でしたね…ハナさん」

 

 

 

そう言いながらハナと言うさっきの少女にコーヒーを煎れてきたのはこの列車の客室乗務員のナオミである。

 

 

 

ハナ「ありがとう、ナオミちゃん」

 

 

 

ハナはコーヒーに口をつける。

 

 

 

???「ハナさん、危険な役目ご苦労様でした」

 

 

ハナ「オーナー」

 

 

 

今度は後ろから声が掛かってきた。

後ろで旗付き炒飯の旗を倒さないように食べている初老の男、デンライナーのオーナーだ。

 

 

 

オーナー「後は“デンオウ”を…この時代の“特異点”を見つけるだけ…ですね。“プロジェクト・イメージ”は始動目前です。早急に手を打たねば…手遅れになりますよ?」

 

 

ハナ「わかっています。私が来た未来の様には決してさせません…決して!」

 

 

そう言い、ハナは拳を握り締めた。

 

 

 

 

時の列車デンライナー、次の駅は過去か…未来か…。

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

???「あ!」

 

???「どうした?良々(らら)

 

 

 

車の窓から星空を見上げていた少女・良々が声を上げた。

隣に座っている兄と思われる少年・幸一が訊いてみる。

 

 

 

良々「流れ星!!」

 

幸一「へぇ、珍しいな。希望ヶ原でもないのにこんな都会で流れ星が見えるなんて…――そうだ、今度は良々の幸運ををお願いしたらどうだ?お前ついてないことが多いからな」

 

良々「う…よ、余計なお世話よ!」

 

 

 

幸一の言葉にムッとなる良々。

 

 

 

良々「七色ヶ丘で“幸運の星”は必ず掴んでみせる!ラッキー・イン・マイ・ハンド!!」



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不運な少女

この時スマイルプリキュアの時間はだいたい7話後ですね。


────バットエンド王国

 

 

ジョーカー「“ベルト”と“パス”を…盗まれたと?キタカゼさん」

 

 

 

バッドエンド王国では全身が白く、侍のような異形が先程の事のいきさつをジョーカーに話していた。

ジョーカーは驚く様子もなく淡々と確認する。

 

 

ジョーカー「困りますねぇ~、あれはプリキュアを倒す為の切り札だったのにそれをみすみす…どこの馬の骨ともわからない者に持って行かれるとは…あなた方の研究施設の警備態勢は一体どうなっていたのでしょうか?」

 

キタカゼ「返す言葉もありません、ジョーカー」

 

 

 

トランプを両手で弄びながら、ジョーカーはネチネチと皮肉、ため息混じりの言葉をはき続け、頭を下げるキタカゼ。

 

 

 

ジョーカー「もう同じものを作ることは出来ませんか?」

 

キタカゼ「ええ、作れたとしてもあれには“パス”が必要ですので…」

 

ジョーカー「恐らく、ベルトを盗んだ者は…地球で“特異点”を捜すでしょうね」

 

 

 

ジョーカーが考えた末に出した結論は、

 

 

ジョーカー「こうなれば“イマジン”を2体解き放すとしますか…」

 

 

キタカゼ「イマジンをですか?少し、早計すぎませんか?」

 

 

ジョーカー「いえ、そろそろ…“プロジェクト・イメージ”を決行しましよう」

 

 

 

すべては悪の皇帝・ピエーロ様の復活のため。

邪魔なプリキュアを排除するため。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

地球

 

 

 

良々「〜〜〜♪♪〜〜♪〜♪♪〜〜♪」

 

鼻歌を歌い、腰までかかる長い茶髪のロングヘアーをなびかせて湖沿いの道を走る七色ヶ丘中学の制服を着た女子生徒がいた。

彼女の名は野上(のがみ) 良々(らら)

上機嫌で走るというよりスキップしながら歌う良々。

 

 

良々「あ~、いい天気。今日は転校早々、いい事があったりして」

 

 

しかし、良々は気付かなかった。前方L字路の曲がり角に人が走ってきている事に。

そして後ろから『侵略者』が近づいている事に…。

 

 

 

ズドン!

 

 

 

良々「うわっ!!」

 

 

 

良々の背中に強い衝撃が走り、足が一瞬もつれた。

 

 

 

???「(近い…、特異点が近くにいる。早く見つけないと…)」

 

 

そして、とある少女も何かの探知機を手に、走っていた。

 

 

少女「(何としても…、イマジンがくる前にこの時代の特異点を…)」

 

 

そう考えながら、特異点を捜す探知機に目をやっていた。

 

 

良々「とっとっと…」

 

少女「え?」

 

 

なんと運の悪いことに二人は曲がり角で衝突してしまった。少女漫画のごとく。

 

良々「ぐはっ!!」

 

少女「キャッ!!」

 

少女の方は尻餅を付いただけでよかったが、良々は湖の方へと勢いよく突き飛ばされた。

なんとか踏ん張ろうとしたその時、良々の体から砂がこぼれ落ちた。

砂はまるで意志を持っているかのように集まりだす。

 

 

???『お前…ぐあっ!!』

 

良々「う、うああああああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

その砂は何かを喋ろうとしたが良々に踏み潰され、良々の方は砂に足をとられて手摺りを乗り越え湖へと落ちてしまった。

 

 

少女「いたた…って、あ!!」

 

良々「うばっ…げはっ…あっぷ!」

 

 

その後、その少女によって良々は助けられたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

そして良々は近くの公園のトイレで体操服に着替えた。

鞄は海へ落ちる前になんとか手離したから、濡れずには済んだが…。

 

 

 

良々「転校早々、やっぱりついてないなぁ……」

 

少女「ホントごめんね。私が前見てなかったから…」

 

良々「いえ、いいんですいいんです。海に落ちるなんて慣れっこですから」

 

少女「え?慣れっこ?」

 

良々「いやー、私自分で言うのもなんですが、運がないというかついてない事が多いんです」

 

少女「ついてない?」

 

良々「この間はポケットが破けて財布落としましたし、買い物する時商品が売り切れたり、袋の取っ手が切れて卵がダメになったり、野球のボールが後ろから当たったり、傘を持ってない時に大降りの雨が降ったり…」

 

 

 

少女は笑いながら話す良々の話を黙って聞いていたが、あまりの運の無さに心底不憫になった。

 

 

 

少女「た、大変なのね…」

 

良々「そんな事ないと思いますよ」

 

 

 

少女は良々を気遣う様に言うが、良々は少しもガッカリすることなく、むしろニッコリと返答した。

 

 

 

良々「だって、運が悪いって言っても、そんな大した事じゃありません。財布だって普段そんなに多くお金を入てる訳じゃないですし、買えなかったら後日か隣町に買いに行けばいいですし、野球のボールもわざとじゃないですし…それで当たってバッターなんかを責められません。それに大雨で濡れて冷え切った状態で入る暖かいお風呂…私、結構好きなんです」

 

少女「………」

 

良々「たとえどんなに過去がひどくても、未来はどんな色にも染まります。幸運の星はいつか巡り会えますよ。ラッキー・イン・マイ・ハンドです!」

 

 

 

手の平を正面に出し、グッとつかむ様に握り締め、拳をつくる。

気にすることなく言う良々の前向きな様に少女は少し微笑む。

 

 

 

良々「ああっ、そうだ!学校!!遅刻しちゃう!!それじゃ!!」

 

 

 

学校に行くことをすっかり忘れていた良々は体操着姿で通学路へと戻っていった。

 

 

 

少女「不思議な子…。あ、そういえば」

 

 

 

少女は先程、特異点を捜す探知機に強い反応があった事を思い出す。

あの子以外周囲に人はいなかった。ということは、あの子が特異点である可能性がある。

もう一度、探知機を取り出し確認する。

 

 

 

少女「あれ?動かない。壊れた?」

 

 

 

実は良々と衝突したあの時、地面に落ちて壊れてしまったのだ。

 

 

少女「仕方ない。戻って修理するか…」

 

 

 

ヤレヤレとため息を吐きながらポケットに手を入れるが、

 

 

 

少女「あれ…!?“パス”がない!!」

 

 

 

どこを探しても見つからない。

少女・ハナはパスの紛失に青くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良々「やばいなぁ…このままじゃ遅刻かなぁ…?」

 

 

 

良々は時計を見ながらさっき来た道を走っていた。

公園は通学路から引き返した場所にあったので、必然また同じ道を行かなくてはならない。

そして、さっきぶつかった曲がり角をまがった。

 

 

 

良々「ん?」

 

 

 

その時、良々は地面に黒くて四角い物が落ちてることに気づいた。

 

 

 

良々「なんだこれ?」

 

 

 

それは変わったデザインのパスケースだった。

記入してあるマークは時計を連想させた。

それをしばらく見ていると

 

 

 

???「遅刻!遅刻ーッ!!」

 

 

 

という声が聞こえてきた。

 

 

 

良々「ぐはっ!!」

 

???「ぐへっ!!」

 

 

 

野上 良々の本日二回目の衝突だった。

 

 

 

???「いたたた…、ってすみません!!大丈夫ですか!?」

 

 

 

ぶつかてきた少女は良々を気に掛ける。

 

 

 

良々「あ、はい…大丈夫です」

 

 

 

埃を払いながら言った。

 

 

良々「いやー…、今日はよく人にぶつかるなー。そちらも大丈夫でしたか?」

 

???「ええ」

 

良々「そう、よかった。おっと、学校学校!」

 

???「あ、そうだ…私も!!」

 

 

 

互いは登校中だという事を思い出し、走り出した。

 

 

 

良々「その制服…もしかして、あなた七色ヶ丘中学の生徒?」

 

???「そうだけど…あなたは?」

 

良々「私、昨日この街に引っ越してきて、今日七色ヶ丘中学に転入するの」

 

???「え!本当!?」

 

 

 

少女は嬉しそうに訊く。

 

 

 

???「私もついこの間転校してきたばかりなの!」

 

良々「へぇ、学年は?」

 

???「二年生」

 

良々「なら私と同じ学年ね」

 

???「え!じゃあ、同じクラスになることもあるってこと?」

 

良々「その時はよろしく」

 

???「うん!!」

 

良々「私の名前は野上 良々。あなたは?」

 

みゆき「私、星空みゆき──今朝から新らしい出会いがあるなんて、もーっ“ウルトラ・ハッピー”!!」

 

良々「私もあなたと出会えた事は“ウルトラ・ラッキー”!!…だったかもね」

 

みゆき「あーっ、それって私のマネ?」

 

 

自分の専売特許をとられ、はっぷっぷーとみゆきは頬を膨らませる。

そんなみゆきを見て良々は表情をほころばせる。

しかし、この時みゆきはわずかに気づいていた。

 

良々は心から笑っていない事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

七色ヶ丘中学

 

2年2組

 

 

何とか間に合ったみゆきは自分の席へ着く。

 

みゆき「あかねちゃん、おはよう!!」

 

あかね「おっす、みゆき。なんか今日は嬉しそうやな」

 

みゆき「えへへ…、そう?」

 

みゆきの前に座る関西弁の少女・日野あかねにいつの間にか顔がほころんでいることを指摘され、今朝の出来事をあかねに話した。

 

 

あかね「へぇ、また2年に新しい転校生が来るんかい。今度もウチらのクラスがええな」

 

みゆき「そうだね」

 

佐々木「はーい、みんな席についてー…」

 

 

そんな談笑をしてる時、担任の先生・佐々木なみえが教室に入ってきた。

 

 

佐々木「今日、星空さんに続いて新しいお友達が転校してきました」

 

 

みゆきはきた、と思った。

 

 

佐々木「野上さん」

 

良々「はい」

 

 

入ってきたのは当然、野上良々。

体操着ではなく、学校から借た制服を着ており、ネクタイの色は白地に黒の線が引かれたもの。

 

 

みゆき「野上さーん」

 

 

 

遠い席から良々にむかってみゆきが手を振る。

それに気づいた良々も手を振って返す。

 

 

 

佐々木「あら?二人共知り合い」

 

良々「ええ、今朝登校の途中で知り合いました」

 

佐々木「そう…じゃ、星空さんも含めて皆さんに自己紹介しましょう」

 

良々「はい」

 

 

 

黒板に名前を書くと、皆の方に顔を向けると背筋を伸ばした。

 

 

 

良々「野上良々です。昨日この街に来たばかりなのでわからないづくしですが、これから皆と共に学んで友達になっていこうと思います。よろしくねお願いします。以上」

 

 

 

こんな感じでいいだろと思った矢先、

 

 

 

あかね「え~、もう終わりかい!やっぱり自己紹介の時はだ~れもオチ付けへんのかいな」

 

 

 

あかねは残念そうに叫んで立ち上がった。

 

 

 

なお「それはあんただけだって…」

 

 

 

そんなあかねに緑髪の少女・緑川なおが冷やかにツッコんだ。

 

 

 

良々「あなたは?」

 

あかね「ウチは日野あかね。みゆきの友達や。────にしても何や?まるでカンペみたいなかったい挨拶やなぁ。もっとおもろくオチつけることできへんのかいな?」

 

良々「オチ?そんな漫才じゃないだから…」

 

あかね「んん…漫才か……そやな、もし…みゆきと野上さんがコンビを組むんやとしたら…」

 

みゆき「え?私と野上さんが?」

 

あかね「星空キ良々・コンビ~」

 

「「「「「「「はっはっはっはっはっはっはっ」」」」」」」

 

良々「あはははは…、名前からして輝いてるね」

 

あかね「え?ホンマか?」

 

 

 

クラスが受けるのと同時に良々も笑って答える。

あかねも喜んだ。

 

 

 

なお「いつもの通りね…あかねも」

 

れいか「そこがあかねさんのいい所です」

 

 

 

そんな二人のやり取りを見てなおと青髪の少女・青木れいかは微笑む。

 

 

 

やよい「(なんか…明るそうな人だな……)」

 

 

 

前列に座っていた黄色髪の少女・黄瀬やよいもあかねと仲良くしている良々にいい印象を受けた。

 

 

 

みゆき「………………」

 

 

 

一方、みゆきは怪訝な顔をして、良々を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな事もあって今日の授業が終わり、放課後。

 

 

 

みゆき「野上さーん、一緒に帰ろうよ」

 

良々「星空さん」

 

 

 

良々は帰宅の準備をしていると、みゆきが声をかけてきた。

 

 

 

良々「悪いけど、今日はパス。探さなきゃいけない人がいるの」

 

みゆき「探さなきゃいけない人?」

 

良々「登校の途中に星空さんに会う前、ぶつかった人がいてね。その時、このパスを落としちゃったみたいなの。大事な物だったら大変だからこれを届けにいかないと」

 

みゆき「私も手伝おっか?」

 

良々「大丈夫、見つからなかったら交番に届けるから──それじゃ」

 

 

みゆきに挨拶を済ませると良々は教室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

公園

 

 

 

良々はパスの持ち主であるあの少女を捜していた。

 

 

 

良々「やっぱりいないか…」

 

 

 

良々は今度は商店街の方を捜そうとした時、

 

 

 

「や、そこのかわい子ちゃん」

 

 

 

軽薄そうな声が聞こえ振り向くと、チャラチャラした4人の学生達がこちらにやって来た。

制服は七色ヶ丘中学のもの、背丈からみて三年生。

良々は直感で感じた──────不良だ。

 

 

不良A「君、可愛いね。どう?俺達とどっかいかなーい?」

 

良々「あの…私、急いでますので…」

 

不良B「うそうそ、ここら辺ウロウロしてたじゃん。声掛けられるの待ってたんじゃないの?」

 

 

 

なんとか逃げようとするが回り込まれてしまう。

高い背丈がより一層怖さを掻き立てる。

 

 

 

良々「こ、困ります!!」

 

タケル「困ります、だってさ」

 

サトシ「キャーワイイ!!」

 

良々「だ、誰か…」

 

 

 

良々は助けを求めようにも運の悪いことに周囲に人はいない。

 

 

 

サトシ「まあまあ、お茶の一杯くらい…」

 

 

 

と、その内の一人が良々に肩を掴んだその時、良々の身体がビクンと震え、また砂がこぼれ落ちた。

その瞬間、良々の目付きが変わり、掴んできた不良の一人の手と胸倉を掴み、そのまま背負い投げを決めた。

 

 

 

サトシ「うわああああああああああああああっ!!!」

 

不良A「サトシーッ!!」

 

 

 

サトシという不良は野球のボールの様に遠くへ投げ飛ばされた。

 

 

 

不良A「て、てめっ、このアマよくも……!!」

 

 

 

不良達が激昂するに対し、良々はギロッと鋭くなった視線をこちらに向ける。

 

 

 

良々「ガチャガチャ、ガチャガチャうるせぇなぁ……、クツワムシか?てめぇら…!!」

 

 

 

その瞳の色は赤く染まり、その眼をみた不良は思わずビビってしまった。

そしていつの間にか、良々の髪形はポニーテールに纏まって、前髪は左右に分かれ、前髪のみ赤く染まっていた。

 

 

 

?良々「俺、参上…」

 

 

 

良々の声は良々そのものであるが、先程とは打って変わって低く、ドスの利いたものであった。

 

 

 

?良々「こいつは俺の契約者だ…。てめぇらに好き勝手されちゃ困んだよ。言っておくが、俺に前振りはない。最初から最後まで、徹底的にクライマックスだ。覚悟決めとけよ」

 

 

 

ポキポキ指を鳴らし、強烈な殺気を発しながら残った3人の不良に歩み寄る。

 

 

 

タケル「う、うわああああああっ!!」

 

 

 

一人の不良がその恐怖に押し潰されそうになり、がむしゃらに殴り掛かってきた。

ひょいと、良々はそれを避けると相手の懐に飛び込み脇腹にエルボーを叩き込んだ。

相手は咳込み脇腹を抑え一発で倒れ込んだ。

 

 

 

不良B「ひぃ…!!」

 

不良A「タケルーッ!!」

 

 

 

今度は良々の視界に公園に放置してあったあるものが入り込んできた。それは工事用の鉄パイプ。

 

 

 

?良々「おーぅ、いいモン。見っけ!」

 

 

 

良々はその鉄パイプの一本を手にとると、肩を軽く叩きながら不良達に近づく。

 

 

 

不良A「ひぃ…」

 

不良B「やべえよ。こいつ」

 

?良々「おらぁ!!」

 

 

 

鉄パイプは二人の不良に向けて振るわれる。

不良達はスレスレでそれを避け、さっきまでいた場所はカップアイスみたくザックリえぐられていた。

 

 

 

?良々「行くぜ行くぜ行くぜ!!!」

 

 

不良A・B「「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」

 

 

 

逃げようとするも、良々は人間業とは思えない跳躍で二人の前に回り込み、ついに二人の不良は腰が抜け、その場で動けなくなってしまった。

 

 

 

?良々「逃げるなよ。今考えた俺の必殺技を見せてやる」

 

 

 

鉄パイプを振り上げ、ハアアアと気合いを込めると赤いエネルギーのようなものが良々の身体を包み込む。

 

 

 

?良々「必殺・俺の必殺技!!」

 

 

 

そのまんまの名前だが、あからさまくらったらやばそうだ。

そして、そのパイプを振り下ろそうとしたその時、

 

 

 

?良々「ッ!!?」

 

 

 

突然、良々の身体の自由がきかなくなった。

 

 

 

良々『ち…、ちょっと…何やってるの?私…』

 

 

 

良々の身体を止めたのは同じ、良々だった。

いや、正確には良々の『意識』だった。

 

 

 

?良々「なんで…止めんだよ…。せっかく…いい所…なのに…よ……」

 

良々『あなた…誰?私の身体で何やってるの?』

 

?良々「関係……ねぇ…だろ……!」

 

良々『関係なくないわよ!私の身体よ!で~て~け~!!』

 

 

 

内の良々が表に出ようとする。

 

 

 

?良々「ぐっ、うああああああああああああああ!!」

 

 

 

良々の振り上げたパイプは軌道がズレ、二人の目の前に振り下ろされ、パイプは地面に突き刺さった。

そこで良々は正気に戻った。

瞳の色はブラウンになって、髪もおろされ、前髪の色も元に戻っていた。

 

 

 

良々「あ、ゴ、ゴメンなさい。だっ大丈夫でしたか?」

 

不良A「助けてくれーっ!!」

 

不良B「ひぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

 

さっきまで自分がやってた事を思い出し、二人の不良に歩み寄るが気を失った二人を担ぎ、悲鳴を上げて逃げていった。

 

 

 

良々「何なの?……うっ!!」

 

 

 

今度はズキズキと頭痛が走り、フラフラとこの公園を離れる事にした。

 

そして、そんな良々を偶然見ていた人物がいた。

今朝、良々とぶつかった少女・ハナだ。

 

 

 

ハナ「間違いない。ついに見つけた……“特異点”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

丁度その頃、公園の出口から少し離れた所でみゆき、あかね、やよい、なお、れいかの5人が一緒に帰宅していた。

 

 

あかね「…にしても、今日転校してきた野上さん、中々おもろい子やったな」

 

やよい「そうね。みゆきちゃんみたいに明るい人だったから…」

 

なお「にしても、捜さなきゃいけない人って一体どんな人だろうね?」

 

れいか「見つかるといいですね、みゆきさん」

 

みゆき「……………」

 

あかね「?みゆき?おーい、みゆき」

 

 

れいかがみゆきに話をふったが、みゆきは上の空だった。

 

 

 

あかね「こら、みゆき!!」

 

みゆき「ひゃわ!!」

 

 

 

あかねからねこだましをくらい、ハッと話に気付く。

 

 

 

あかね「どないしたんや?ボーっとして」

 

良々「え?ああ…ちょと考え事してて…」

 

あかね「考え事?」

 

やよい「みゆきちゃん、悩み事?」

 

 

 

やよいが訊くと、

 

 

 

あかね「ないない、能天気なみゆきに限って…」

 

 

あかねが否定した。

 

 

みゆき「ちょと!能天気ってなによ!」

 

 

 

はっぷっぷー、とみゆきは頬を膨らませる。

 

 

 

れいか「それで、何を考えていたのですか?」

 

 

 

今度はれいかが訊いてきた。

 

 

 

みゆき「野上さんの事なんだけど彼女、笑顔が…何ていうか……その…空っぽって言うか…本気で笑ってなかったようなの…」

 

なお「愛想笑いってこと?」

 

みゆき「うん…まるで、何にも描かれてない画用紙みたいな…ほんとに何にもない…」

 

やよい「そんな風には見えなかったけど…」

 

あかね「でも、みゆきの人を見る目はほんまや。野上さんが笑ってない言うたら、そうやろな」

 

なお「あ、野上さん」

 

「「「「え!」」」」

 

 

 

なおの指した先には野上良々が公園からでてきた。

まさに噂をすればなんとやら。

早速みゆきは声を掛ける。

 

 

 

みゆき「ホントだ。おーい、野上さーん!」

 

 

 

しかし、良々はこちらに気付く事なく、頭を抱え、おぼつかない足取りでどこかへ行ってしまう。

 

 

 

れいか「どうしたのでしょう?」

 

 

 

れいかが心配する。

 

 

 

みゆき「わかんない…。でも…、なんか頭抱えて苦しそうだった…。――みんな、追い掛けよう!!」

 

あかね「あ、みゆき!」

 

 

みゆきは良々の顔色が良くないのを察すると、5人は良々の後を追う事にした。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ここから少し離れた所で一人の中学生の少年が何かを探しているのか、しきりに地面を見回す。

 

 

 

???「ない…、どこにいったんだ?」

 

 

 

その時、少年は物探しに夢中になり、後ろに『何か』が迫って来ている事に気付かなかった。

その『何か』は少年の背中に入り込み、少年の体から大量の砂がこぼれ落ちた。

 

 

 

???「ッ!?な、何だ…これ?」

 

 

 

少年は自分の体からこぼれた砂に驚いてるとその砂は形を作り出した。

ただし、上半身と下半身が逆になって。

 

 

 

???「う、うあああ……!!」

 

 

 

少年は驚き、後ずさる。

 

 

 

???『キッキッキッキッキッ、そうビビんなってーの。俺はお前に何もしない。それどころかお前の望むべきことをしてやるんだぁ』

 

???「望むべきこと?」

 

 

 

少年は『それ』に聞き返した。

 

 

 

???『そうだ──お前の望みを言え、どんな望みも叶えてやる。お前の支払う代償はたった一つ……』

 

 

 

少年の目の前で囁く『それ』は天使か、悪魔か、それは願った者にしかわからない………。




次回、イマジンVSスマイルプリキュア


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俺、参上!!(前編)

『それ』は異端だった。

使命なんざ知らない。

忠誠?クソくらえだ。

ただ、戦いたい。とにかくド派手に暴れ回りたい。

仲間に付いて行くと決めたその理由も、誰に咎められることなく暴れられるからに過ぎなかった。

だから目的の『地球』に辿り着いた彼は、何も考えずその少女に取り憑いた。

適当に契約を果たして、後は好き勝手に暴れてやろう。

その程度の感覚でしかなかった。

 

 

 

 

 

良々はいつの間にか人気のない場所へ到着していた。

そこはもう使われてない古びた廃倉庫が幾つも並んで建てられていた。

中には錆びたドラム缶や一斗缶が積まれて、訳のわからない機材も放置してあった。

 

 

 

良々「はあ…、一体何だったの?さっきの…」

 

 

 

さっき下品な言葉遣いになり、自分が自分じゃないそんな現象に戸惑いを隠せないでいた。

 

 

 

良々「やっぱり、ついてないのかな…、私…」

 

 

 

 

 

???『いや…“憑いてる”ぜ』

 

 

 

 

 

良々はギョッとした。

一瞬空耳かと思ったが、それは否定された。

良々の体からこぼれ落ちる砂によって。

 

 

良々「なっ、何…?これ…、一体何なの?」

 

 

その砂は次第に集まり、上半身と下半身が上下逆の『何か』になった。

 

 

良々「う、うわぁぁぁぁぁ…!!」

 

 

良々は腰を抜かし、後ずさる。

 

 

???『どうしてお前、あの時俺を止められたんだ?──妙な奴だな』

 

 

良々は訳がわからなくなってきた。

こいつは一体何?

さっき私の身体を動かして、目尻を吊り上げて、目を血走らせて、周囲のすべてを威嚇してたのはこいつだったの??

 

 

 

???『まあ、いいや…。今から決まり事言うからな。一度しかいわねぇからよく聞けよ』

 

 

『それ』は面倒臭そうに呟くと、こう言った。

 

 

???『えーと、…お前の望みを言え。どんな望みも叶えてやろう。お前の支払う代償はたった一つ』

 

良々「の、望み?」

 

 

 

良々は怪訝そうに聞き返す。

 

 

 

???『そうだ、望みだ。早く言え、叶えてやる』

 

 

 

良々は不思議に思いながらも願い事を口にしようとした。

 

 

 

良々「私の望みは…「待って!!」ッ!?」

 

 

 

突如、その場に制止の声が響く。

見るとそこには今朝ぶつかった少女・ハナが息を切らせながら、こっちに歩み寄ってきた。

 

 

 

良々「あなたは…今朝の」

 

???『何だ、テメェ!俺の契約の邪魔すんじゃねぇ!!』

 

 

 

ハナは『それ』を無視し、息を整え良々に話し掛ける。

 

 

 

ハナ「今朝から…もしかしてと思ったんだ…、さっきので確信した…。君が…“特異点”だって事が…」

 

良々「え?特異…

???『“特異点”っ!!?マジかよ!!だああああああ、もう最悪じゃねぇかぁぁぁっ!!!』

 

ハナ「うるさい!!」

 

 

 

訳がわからない良々。

良々が『特異点』と知って嘆く『何か』。

騒ぐ『何か』を踏み潰すハナ。

そしてハナはまるで希望の光を見るかの様な目で良々を見る。

 

 

 

ハナ「見つけた…。君なら…“デンオウ”になれる」

 

良々「え?で、でんおう??」

 

ハナ「もうすぐ闇の世界から侵略者が来る!時の運行を守らないと……!」

 

 

 

話は良々を置いてどんどん先へ進んでいく。

その頃、良々を追跡中のみゆき達はというと、

 

 

 

みゆき「野上さん、確かここら辺に来た気がするんだけど…」

 

あかね「お!おったで!」

 

あかねの声に集まり、物影からこっそり覗いてみた。

 

 

なお「一体誰と話してるの?」

 

やよい「向こうはなんだか深刻そうだけど…」

 

れいか「ちょっと、みんなさん。のぞき見は…」

 

 

 

れいかはあまり乗り気ではなかった様だが、遠くで良々とハナが何を話してるのか気になり、なんとか聞き耳を立てる。

 

 

 

???「クルー!」

 

あかね「あっ!?」

 

みゆき「キャンディ!?」

 

 

 

突然、みゆきの鞄の中から羊に似た妖精が飛び出した。

妖精の名前はキャンディ。

メルヘンランド出身の妖精である。

 

 

 

キャンディ「みゆき、みんな、大変クル!!」

 

みゆき「こ、こらっ、キャンディ!…シーッ」

 

あかね「一体どないしたんや!?」

 

 

 

皆は慌て飛び出たキャンディに驚くも、キャンディは何かを感じているのか、半泣きになりがら訴えかけてくる。

 

 

 

キャンディ「何かが来るクル~!」

 

れいか「何かって、まさか…!」

 

なお「あいつらが!?」

 

 

 

5人はウルフルン達、バッドエンド王国の侵略者が来たと思った。

だが、

 

 

 

キャンディ「違うクル!もっとイヤな気配がするクル!まるで、バッドエナジーを凝縮したような嫌な感じが…『キーッ、キッキッキッキッキッキッ!!』ッ!?」

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 

 

突如、響いてきた不快な笑い声に5人と1匹は物影から身を乗り出し、声のする方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間を少し巻き戻して良々とハナはというと…。

 

 

 

 

 

ハナ「とにかく、あなたの力が必要なの!」

 

良々「いや、全然わかんないだけど…」

 

 

 

口下手のハナのわかりづらい説明に、良々は最早混乱気味であった。

そんな時である。

 

 

 

???『キーッキッキッキッキッキッキッ!!』

 

 

 

倉庫の屋根の上から不快な笑い声が響き渡った。

そこには蝙蝠の様な怪人がこちらを見下ろしていた。

 

 

良々「げっ!?何あれ!!」

 

ハナ「イマジン!!!!」

 

 

良々とハナは驚愕するが、驚きの種類が違っていた。

良々は砂の怪物に続いてまた変なのが来たと驚く程度だったが、ハナは恐怖と絶望感が含まれたモノだった。

その蝙蝠の怪人は便宜上、『バットイマジン』と言うのだが、良々が知るよしもない。

 

 

 

バットイマジン『子~猫ちゃ~ん、みっけ♪』

 

 

 

ニィとバットイマジンの目が細くなった。

おそらく笑ったのだろう。

バットイマジンはピョンと跳ぶと地面に着地した。

 

 

 

ハナ「い、一体何の用なの!?」

 

 

 

ハナはバットイマジンに敵意を込めた視線を向けながら声を出す。

 

 

 

バットイマジン『キーッキッキッキッキッキッキッ、それは自分がよく分かってんじゃねぇのか?ええ?…泥棒猫ちゃん。ジョーカーの旦那も人使いが荒いぜ。いや、蝙蝠使いが荒いと言った方がいいのかな?まあ、何にせよ、俺はジョーカーの旦那にお前から“ベルト”と“パス”奪回するよう頼まれてんだ。無駄な抵抗しないでもらえるかなぁ?────そんじゃま、早いとこ“ベルト”と“パス”を出してもらおうかな…?』

 

良々「パス?」

 

 

 

良々はバットイマジンのパスという言葉に自分の持っていたパスの事を思い出し、ハナに声を掛けようとしたが、

 

 

 

ハナ「ふざけないで!!この“ベルト”はあんた達イマジンから未来を守る為のモノなの!あんた達の思い描く未来────バッドエンドなんかには絶対させない」

 

 

ハナが叫んだ事で、タイミングを見失ってしまった。

バットイマジンはこちらに少しづつ近付いてくるもハナは少しも臆することなく良々の前に出て立ち塞がる。

 

 

 

バットイマジン『キーッキッキッキッキッキッキッキッキッキッキッ…、威勢がいいのは結構だけどよぉ…そのベルトを使えるのはこの時代の“特異点”だけじゃねぇのかぁ?残念だけどお前じゃ使えねぇよ』

 

ハナ「いるわ!“特異点”なら…」

 

バットイマジン『何?まさか…』

 

ハナ「そう、この子が“特異点”よ!」

 

 

 

そう言ってハナは後ろにいた良々の肩を掴んだ。

 

 

 

良々「………え?」

 

 

 

いきなり巻き込まれた良々はたまったものではない。

 

 

 

良々「ちょっと待って!だから“特異点”って何!?何の話してるか解んないんだけど!!どうして私を巻き込むの!!?」

 

ハナ「早くベルト…って、あーっ、パスがないの忘れてた!!」

 

良々「あんた!人の話聞けよ!!」

 

バットイマジン『テメェら…、俺を無視して漫才とは随分余裕じゃねーか。ハッ!!』

 

 

 

バットイマジンは手の平から音波砲を放出し、良々とハナはスレスレでそれを避けた。

 

 

 

「「きゃああああああああああ!!!」」

 

 

 

外れた音波砲は倉庫の壁を破壊し、砂埃を掻き立てる。

 

 

 

良々「ハハハ……な、何あれ…?」

 

 

 

良々はもう目の前がグルグルと回り苦笑するしかなかった。

これは夢だ、これは夢だ、と必死で自分に言い聞かせるが、

 

 

 

ハナ「バカ!何やってんの!?」

 

 

 

耳を引っ張られ現実に引き戻された。

 

 

 

バットイマジン『にしても、“特異点”か…ついでに潰すか!!』

 

 

 

バットイマジンがこちらに向かって歩きだした。

 

 

 

あかね「あかん!!野上さんが危ない」

 

みゆき「みんな!!」

 

やよい「うん!」

 

なお「いくわよ!」

 

れいか「いつでも…!!」

 

 

 

あかねの声を筆頭にみゆきが皆に声を掛け、やよい、なお、れいかが応える。

皆はファンデーション型アイテム『スマイルパクト』を取り出しその蓋を開く。

中に嵌め込まれた七色の宝石の上部に彼女たちはそれぞれピンク、オレンジ、イエロー、グリーン、ブルーの色を表す小さなリボン型の小物・キュアデコルをセットすると、『レディ!』と音声が発せられ、少女たちはそれを確認すると、声を揃えて叫んだ。

 

 

 

みゆき、あかね、やよい、なお、れいか

「「「「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」」」」

 

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!』の音声の後、

『Let’sGo・Happy(Sunny)(Peace)(March)(Beauty)!!』

 

 

5人はそれぞれ自身のパフを体に当ててゆき、コスチュームと髪形を変えていく。

みゆきは長い髪の束が伸びたツインテールとピンクの衣装コスチューム。

あかねはシニヨン状に束ねられた短髪とオレンジの衣装コスチューム。

やよいは扇形に広がる金髪のポニーテールとイエローの衣装コスチューム。

なおは髪量が側頭部と後頭部を結んだトリプルテールとグリーンの衣装コスチューム。

れいかは髪型が後方に半円形に伸び、ブルーの衣装コスチューム。

最後にパフを両頬に当てると変身完了。

 

 

 

みゆき「キラキラ輝く未来の光、キュアハッピー!」

 

あかね「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

 

やよい「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!」

 

なお「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

 

れいか「しんしんと降り積もる清き心、キュアビューティ!」

 

 

 

 

「「「「「五つの光が導く未来、輝け!スマイルプリキュア!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バットイマジン『キーッキッキッキッキッキッキッ、逃げろ逃げろぉ。俺は命乞いの言葉を聴くのが何より好きなんだ。毎晩、子守歌の代わりに聴いて寝るくらいな。おっと、駄洒落になっちゃったか?』

 

 

 

バットイマジンは追ってくる。

まるで無抵抗なネズミを弄ぶ猫のように。

倉庫の裏路地の奥の奥へと逃げていく、良々とハナ。

 

 

 

ハッピー「待ちなさい!!」

 

バットイマジン『ンン?』

 

 

 

すると、バットイマジンに向けて制止の声が掛かった。

良々も声のした方を見るとそこにはスマイルプリキュアが立ち並んでいた。

 

 

 

良々「あれ?星空さんと日野さん。どうしてここに?」

 

 

 

煌びやかな衣装に身を包んだみゆき達を見て良々は思わず声を上げる。

 

 

 

ハッピー「あ!ゴメン、野上さん!私が星空さんってことは秘密なの」

 

サニー「だから何であんたは毎度毎度そう言うの!バレバレやん!!」

 

 

 

自分達がプリキュアな事は秘密なのだが、ハッピー・みゆきは早々ばらしてしまった。

 

 

 

良々「日野さんも可愛いよ。アイドルみたい」

 

サニー「え?そ、そう?」

 

 

 

サニーも自分が褒められつと悪い気はしないので頬を赤らめて照れた。

 

 

 

マーチ「サニーもきっちりばらしてんじゃん」

 

 

 

マーチはサニーも人のことは言えないと思いながら頭を抱えた。

 

 

 

バットイマジン『誰だ?お前ら…』

 

ピース「私達はプリキュアよ!!」

 

バットイマジン『プリキュア?ああ、ウルフルンの旦那が毎度毎度手こずってる奴らか…。んで、そのプリキュアが何の用だ?』

 

マーチ「その前にあなたは一体何者なの?ウルフルンやアカオーニの仲間?」

 

 

ハッピーがまず訊いた。

 

 

バットイマジン『ウルフルンの旦那やアカオーニの野郎の事か?別に仲間じゃねえよ――ただ、手を組んでるだけ。だけどな…俺はジョーカーの旦那にお使いを頼まれて、その真っ最中なんだ。全くめんどくせーのなんのってたまったもんじゃねーよ。俺はさっさと自分の使命を果たしたいのにアイツときたら…(ぐだぐだべらべらなんちゃらかんちゃら)』

 

サニー「(何やコイツ、よう喋るな~)」

 

 

 

サニーはバットイマジンのあまりの口数の多さに少し調子が狂わされてた。

 

 

 

バットイマジン『な?そう思わなくね?』

 

サニー「え?」

 

バットイマジン『あ?んだよ。ノリ悪りーな、おい』

 

 

 

長話も一区切りついた所で『さてと…』とバットイマジンは周囲に漂わす空気を変えた。

 

 

 

バットイマジン『そういう事だからよ。…邪魔する気ならお前たちから潰してもいいんだぜ?』

 

 

 

さっきとは打って変わり、強烈な殺気を5人に向けられ、全員気を引き締める。

 

 

 

バットイマジン『行くぜー!!』

 

 

 

バットイマジンがプリキュア達に向かって羽を広げ滑空する。

 

 

 

マーチ「はぁっ!!」

 

バットイマジン「うおっとっ!!」

 

 

 

まず、初めに動いたのがマーチ、周囲の空気の流れでとっさに反応できた。

カウンターの右ストレートをくらわせようとしたが、バットイマジンは旋回し、回避した。

 

 

 

サニー「でやあああああっ!!」

 

 

 

今度はサニーが上から強烈な拳を振り下ろす。

しかし、バットイマジンは後ろに跳ねとび回避。

 

 

 

バットイマジン『!(冷気?)』

 

ビューティ「はぁ!!」

 

 

 

寒さを感じ後ろを振り返るとビューティがミドルキックをくらわせる。

だが、

 

 

ビューティ「っ!!」

 

バットイマジン『いいコンビネーションだ。つい手が出ちまったぜ。だが───』

 

 

 

それを左腕で防ぎながらビューティの右足を右手で掴んだ。

しかし、

 

 

 

ピース「この!」

 

バットイマジン『グアッ!!』

 

 

 

バットイマジンの背後からピースが雷を纏ったタックルを叩き込みバットイマジンを吹き飛ばした。

 

 

 

バットイマジン『チッ!!』

 

 

 

邪魔が入った事に苛立つも、体制を立て直そうとするが落下地点にはハッピーが回り込んでいた。

バットイマジンがそれに気づいた時には遅かった。

 

 

 

ハッピー「やぁっ!!」

 

バットイマジン『グアッ!!』

 

 

 

バットイマジンの鳩尾にハッピーのパンチが炸裂!

バットイマジンは地面にバウンドしたが、もんどりうって着地した。

 

 

 

バットイマジン『(くそ、5対1じゃさすがにキツイか…。ここは一旦引くか?)』

 

 

 

流石に頭数では敵わないと悟り、逃走を考えたが、

 

 

 

バットイマジン『(ん、いや待てよ…、あいつらの必殺技は確か…)』

 

 

 

何かを閃いたのか口元を上げると、バットイマジンは黒い蝙蝠傘を2本出現させる。

 

 

 

バットイマジン『なかなかやるな。そんじゃま、こっちもちょっと本気だすか』

 

 

 

二本の傘を平行に構え、強靭なダッシュ力でいつの間にか一ヶ所に集まったプリキュア5人に突進した。

 

 

 

5人は散り散りに跳び回避する。

それを見るとバットイマジンはさっきの様子見で一番弱そうな一人に標的を絞る事にした。

 

 

 

バットイマジン『まずテメェだ!』

 

ピース「あ…」

 

 

 

蝙蝠傘が迫る。

ピースは動けない!

 

 

ビューティ「ピース!」

 

 

そこに割り込んできたのはビューティ。

 

氷で剣を作り傘を受け止める。

 

 

 

バットイマジン『一本じゃダメだ…』

 

 

そう、傘は2本ある。

もう一方の傘がビューティの脇腹に決まりふっ飛ぶ。

 

 

 

ビューティ「がふっ!!」

 

ピース「ビューティ!!」

 

 

 

ピースが叫ぶも、今度は身体を捻った蹴りがピースに入る。

 

 

 

ピース「ああっ!!」

 

ハッピー「ピース!!ビューティ!!」

 

サニー「この!」

 

 

 

今度はハッピー、サニー、マーチがバットイマジンに挑む。

サニーが跳び蹴りを繰り出すが、バットイマジンはそれを紙一重で避けると足首を掴み、工場の壁に向かってぶん投げた。

 

 

 

サニー「うわっ」

 

 

 

サニーは壁を粉砕し、工場内に投げ込まれた。

 

 

 

マーチ「サニー!!」

 

 

 

マーチはサニーを気にするも風を纏った素早さで殴り掛かるが、今度は傘が開き、マーチの拳を盾の様に防いだ。

続いて盾にした傘で払いのけ、マーチの体制を崩すともう一方の傘で槍の様に突く。

 

 

 

マーチ「ぐふっ!」

 

 

 

傘は尖ってはいなかったもののマーチの胸部に入り、突き飛ばされる。

 

 

 

ハッピー「みんな!…くっ!」

 

 

 

最後にハッピーが後ろに回り込み、バットイマジンの首めがけて回し蹴りを叩き込もうとする。

 

 

 

ハッピー「はぁっ!!」

 

 

 

しかし、バットイマジンは全く後ろを振り向かずに頭を屈めて回避した。

 

 

 

ハッピー「え!?」

 

 

 

ハッピーは驚くも、バットイマジンは傘ではたかれ、ふっ飛ばされた。

 

 

 

ハッピー「ああっ!!」

 

 

 

バットイマジン『どうした?そんなもんか?プリキュア』

 

 

 

キャンディ「頑張るクル。みんな!!」

 

 

 

隠れていたキャンディも出てきて応援する。

 

 

 

良々「(うぉ、何この大福!めちゃくちゃかわいい!)」

 

 

 

良々はキャンディを見てそう思った。

 

 

 

マーチ「こうなったら、みんなの必殺技を撃つしかないわ」

 

バットイマジン『必殺技か?ならやめといた方がいいぜ』

 

 

 

バットイマジンはマーチの言葉を聞き取るとこう言った。

 

 

 

バットイマジン『この傘は特別製でな、どんな攻撃も防いじまうんだ。例えお前らの必殺技をまとめて放とうともコイツは破れねぇ、よ』

 

ハッピー「そんなの、やってみなくちゃわかんないじゃない」

 

バットイマジン『絶対無理だ、やめとけ。この傘の前じゃ、お前らの必殺技など霧雨もならねぇよ。キッキッキッキッ!』

 

サニー「なんやと~?なら、試してみるかい!!」

 

マーチ「そこまで言われちゃ引き下がれないわね」

 

 

 

5人の中でも特に負けず嫌いのサニーとマーチが声をだす中で、ビューティだけ冷静に僅か疑問に思っていた。

何故、ここまで露骨に挑発するのか、と。

 

 

 

ハッピー「じゃあ、みんな全員で必殺技を放つわよ!!」

 

 

 

ハッピーの声に皆は頷く、ビューティも気にすることなく必殺技の体制にはいる。

 

 

 

 

 

まず、ハッピーが前に出た。

スマイルパクトに気合を込めると、彼女は両手でハートをつくり、前方に突き出された両腕から桃色の光線が発射された。

 

 

 

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!」

 

 

 

続いてサニー。

上空に炎を凝縮した球体が出現した。

 

 

 

サニー「プリキュア!サニーファイヤー!」

 

 

 

炎の球体をサニーはバレーボールの要領でアタックした。

続いてピース。

ピースの両腕に電流が迸る。ある程度のパワーを確認し、ピースは両手を「チョキ」の形にして前方に突き出すと電気が放出された。

 

 

 

ピース「プリキュア!ピースサンダー!」

 

 

 

続いてマーチ。

マーチには風を凝縮した球体が目の前に召喚された。

 

 

 

マーチ「プリキュア!マーチシュート!」

 

 

 

風の球体をマーチはサッカーボールの要領で蹴るかのように勢いよく飛ばされる。

ビューティは右手に氷を凝縮し、左手でそれぞれ左上・右上・縦の順で三本の線を引いて雪の結晶を作った。

 

 

 

ビューティ「プリキュア!ビューティブリザード!」

 

 

 

雪の結晶と氷の球を合わせた光波状の冷気を放つ。

 

 

 

そして、必殺技の一斉攻撃が決まった。

 

 

 

ハッピー「やった!」

 

 

 

大きな爆発を起こし、ハッピーを含む皆は勝利を疑わなかった。

 

 

 

サニー「よっしゃ!さすがに…あの傘もこの攻撃には耐えられへんやろ…」

 

ピース「つ、疲れた…。ハァ…」

 

 

 

サニーはガッツポーズをし、ピースはパワーを使い果たしてへたりこんでしまった。

 

 

 

ビューティ「でも…こんなにあっさりやられて、どうかとおもいます…が……」

 

マーチ「何言ってんの。皆の必殺技をくらって…倒せないわけ…」

 

 

 

ビューティはどこか腑に落ちない感じだったが、マーチが喋りかけたその時、

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッキッキッキッキッキッキッ…』

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 

 

その場にまた不快な笑い声が響き渡った。

 

 

 

バットイマジン『さすがプリキュア、ウルフルンの旦那が手を焼くだけの事はある。今のはくらったらやばかった』

 

ハッピー「どうして…?」

 

 

 

ハッピーは何故バットイマジンが無傷なのか解せなかった。

 

 

 

バットイマジン『どうして?俺は最初からお前らとまともにやり合う気なんてサラサラねーよ──お前らプリキュアの必殺技が一度しか撃てない事はから知ってた。一人や二人に対して警戒されるより、『お前らの必殺技をまとめて放ったとしても破れない』なんてハッタリをかまして全員まとめて放ってくるのを待っていた。後は傘の影に隠れて避ければいいだけだ…』

 

 

 

ペラペラとご丁寧に説明され、プリキュアの5人は悔しさの余り奥歯を噛み締めた。

 

 

 

キャンディ「ひ、卑怯クル!どうしてまともに戦わないクル~!」

 

 

 

キャンディが皆に変わって叫ぶ。

 

 

 

バットイマジン『卑怯?おいおいおい、何ほざいてんだ。俺は蝙蝠だぜ?──「卑怯なコウモリ」て本読んだことねぇのか?俺をウルフルンの旦那やアカオーニの野郎、アカンベェと一緒にされちゃあ困る。あいつらは粗暴過ぎて不器用な奴だ。俺は効率的に敵を倒せればそれでいいんだよ』

 

ハッピー「そんなんだからあなたは動物達からも鳥達からも相手にされなくなっちゃうのよ」

 

バットイマジン『んだとぉ?このガキ…』

 

 

 

ハッピーはバットイマジンに対し、悪態をついた。

しかし、それはバットイマジンの怒りを買っただけだった。

 

 

 

バットイマジン『なら、もうサービスタイムは終わりだ。ここから先はガチで行っちゃうぜぇ』

 

 

バットイマジンは蝙蝠傘を取り出し、プリキュアに歩み寄っていく。

必殺技を放ち、エネルギーを使った今の彼女達では勝ち目はほぼ皆無である。

 

 

 

キャンディ「わあああ、マズイクル~!プリキュアのエネルギーが尽きかけているクル~!!」

 

良々「それってピンチって事!?」

 

キャンディ「そうクル~!!」

 

良々「そんな…。星空さん、みんな……」

 

 

 

良々は悔しかった。

何もできずただ見てるだけの自分が…。

何か手はないか考えてたその時。

 

 

 

ハナ「せめて“パス”があれば……」

 

 

 

ハナがそう呟いた。

 

 

 

良々「“パス”?あ!ねぇ、パスって…」

 

 

 

良々は返すはずだったパスを取り出した。

 

 

 

ハナ「それ!一体どこで!?」

 

良々「あなたとぶつかった、あの曲がり角。あなたに返そうと捜してたの」

 

ハナ「ありがとう!!これならいけるかもしれない」

 

 

 

そう言ってハナが取り出したのはバックル部分にパスと同じマークの入った銀地に黒模様のベルト。

ハナは銀色のベルトを取り出すと、それを良々の腰に巻きつけた。

ベルトのバックル部分を下腹部へ当てるとベルトは自動で良々の腰へと巻きついた。

 

 

 

ハナ「そのバックル部分にパスを翳して!!」

 

良々「えっと、こう?」

 

 

 

言われるがままに良々はパスをバックルに横切らせる。

するとベルトから放たれた透明な光が良々の全身を包んだ。

 

 

 

バットイマジン『ん!?』

 

ハッピー「野上さん!?」

 

 

向こうではプリキュアとバットイマジンがこちらに気付き良々の方を見る。

光が晴れると、そこにはレオタードみたく密着した黒いライダースーツを身に纏った良々がいた。

さらに手には手の甲から肘まで覆う白い手甲、

足は膝を覆う程の長い足袋。

靴の代わりに草鞋、髪は線路・レールを連想させるカチューシャで髪を結んだベルトの戦士────『デンオウ・プラットフォーム』がそこにいた。



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俺、参上!!(後編)

俺、いよいよ参上ッ!!


 

 

 

デンオウPF「おお!」

 

キャンディ「へ、変身したクル!!プリキュア?いや、違うクル」

 

 

 

自分の服が変わった事に思わず声を漏らす良々。

キャンディは最初はプリキュアかと思ったが、似ているだけで違うらしい。

 

 

 

ハナ「それが“デンオウ”よ!!どう?」

 

 

 

ハナは変身した良々・デンオウPFに感想を聞いた。

 

 

 

デンオウPF「これが…デンオウ?──なんか地味…」

 

ハナ「地味ぃ!!?(ガーン)」

 

 

 

露骨に嫌そうに答えた。

良々的にはすごくダサいらしい。

 

 

 

ハナ「贅沢言わないの!!」

 

 

デンオウPF「えー、私も星空さん達みたいに可愛いのが…」

 

ハナ「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!早く戦って!!」

 

デンオウPF「え?戦うって?」

 

ハナ「あのイマジンと戦うの!!」

 

デンオウPF「……えーっ!!無理無理!私、暴力喧嘩嫌いだもん」

 

 

 

 

 

 

そしてそれを遠目で見ていたバットイマジンとプリキュア達は。

 

 

 

ハッピー「の、野上さん…」

 

サニー「何やっとんねん…」

 

ピース「………」

 

マーチ「あちゃー」

 

ビューティ「あらあら……」

 

 

 

バットイマジン『あれがデンオウ?』

 

 

 

呆れていた。

 

 

 

バットイマジン『フンッ、あんまり強そうには見えねぇけどなぁ…』

 

 

 

先に動いたのはバットイマジン。

デンオウPF目掛けて飛び出した。

 

 

 

バットイマジン『その力、見せて貰おうかぁっ!!』

 

サニー「あっ!!」

 

ハッピー「野上さん、危ない!!」

 

 

 

その言葉に気付いた時にはバットイマジンはデンオウPFに飛行しながら跳び蹴りをくらわした。

デンオウPFはゴロゴロと転がり倉庫の壁にぶつかり停止した。

 

 

 

バットイマジン『やったぜ』

 

ハッピー「あぁ……」

 

 

 

しかし、デンオウPFは何事もなく立ち上がってきた。

 

 

 

バットイマジン『何ぃ!?』

 

ハッピー「野上さん!」

 

ハナ「あなた、大丈夫なの!?」

 

デンオウPF「え、ええ、正直…余り痛く…」

 

 

 

どうやらデンオウPFはあまりダメージを受けていないようだ。

 

 

 

デンオウPF「(どうやらこのスーツ、あの蝙蝠怪人に蹴られたり、殴られたりする程度じゃビクともしないようね)──よし!」

 

 

 

今ので自信がついたデンオウPFはバットイマジンに向かって走り出す。

今度はこっちの番だ。

 

 

 

デンオウPF「やあああああああああっ!」

 

 

 

デンオウPFの右ストレートがバットイマジンに決まった。

 

 

 

バットイマジン『ん?何だぁ~?何かしたのかぁ?』

 

「えっ!?」

 

 

 

効かない。

デンオウPFはすぐに下がり、バットイマジンは腹を摩って全然ダメージを受けてる様子はなかった。

 

 

 

バットイマジン『おいおい、何だ今のヘナチョコパンチは?拍子抜けだぜ』

 

デンオウPF「くっ、おりゃ!どりゃあ!どっせい!このやろう!」

 

 

 

デンオウPFは何度もパンチやキックをくらわすがバットイマジンはまるで応えてなかった。

そしてバットイマジンの方もいい加減鬱陶しくなってきた。

 

 

 

バットイマジン『うぜぇなあ…、フンッ!!』

 

デンオウPF「グッ!!」

 

バットイマジン『って、あまり効いちゃいねぇのか…』

 

 

 

バットイマジンはデンオウPFを払い飛ばしたが、打撃程度では無駄だとわかると立ち上がったデンオウPFの腹部を鷲掴みした。

何をする気だと疑問に思ったが、理解した時には遅すぎた。

ドンッ!!

何かが内臓を突き破り、背中へと出た。

 

 

 

デンオウPF「がは…っ!!」

 

 

 

あまりのダメージに思わず腹を抑え、膝を付く。

 

 

 

バットイマジン『キキキキキキキッ、どうやら外部からの衝撃にはいくらか耐えられるらしいが、内側からの衝撃には弱いらしいなぁ…』

 

デンオウPF「お…音波……?」

 

バットイマジン『おー、よく分かったな。いい分析力だ』

 

 

 

昼食後でない事が幸いした。

今、胃に物があったら吐いている程、口の中には酸っぱい胃液が逆流しているのがわかる。

このままじゃマズイと思い距離を取ろうと咄嗟に立ち上がり、走る。

 

 

 

バットイマジン『逃がすかよ』

 

 

 

しかし、それを黙って見てるバットイマジンではない。

音波砲を連射してデンオウPFを狙い撃ちする。

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッキッ、情けねぇなぁ、デンオウ。ちったぁ戦えよ』

 

デンオウPF「う、うるさい───ぐはっ!!」

 

 

 

音波砲がデンオウPFを直撃した。

腹を抑えてうずくまった。

 

 

 

バットイマジン『全く、一体デンオウってどんなのかと思ったが、てんで大した事ないなかったな。あまりに弱くて片腹痛いぜ。おっと、本当に痛いのはお前の方だったか?』

 

 

 

キキキッと笑い、今度は蝙蝠傘を取り出しデンオウをめった打ちにする。

 

 

 

デンオウPF「ぐっ…!」

 

 

デンオウPFはそれを素手で防いだり避けたりするが、さっきの蹴りとは比べものにならない程痛い。

 

 

 

ハナ「そんな…、ダメなの…?デンオウは……未来を救う戦士じゃないの……?」

 

 

 

ハナはデンオウの劣勢に最早絶望の色に染まっていた。

いや、考えてみれば当然の事だ。

戦いの経験のない少女にいきなり戦えなど自分勝手もいい所だ。

 

 

 

ハナ「もういい、君!もう戦わなくていい!!このままじゃあなたが死んじゃう!!だから…、早く逃げて!!」

 

 

 

ハナが大きく叫んだ。

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッ…、そりゃそうだな。勝ち目のない戦いをしちゃおうなんて事程馬鹿げた行為はねぇよ。お前がいつ逃げ出すか楽しみだぜ(ま、逃がしゃしねぇんだけどな)』

 

ハッピー「はぁっ!!」

 

バットイマジン『ガッ!?』

 

 

 

いきなり後方からのミドルキック。

バットイマジンは横くの字に曲がり、吹っ飛んだ。

 

 

 

ハッピー「大丈夫!?野上さん」

 

デンオウPF「星空さん!」

 

 

 

助けに入ったのはキュアハッピー。

 

 

 

サニー「おおきにな、野上さん」

 

ピース「あなたが戦ってる間に、ちょとでも回復できたから…」

 

マーチ「後はあたし達にまかせて」

 

ビューティ「よく頑張りました」

 

 

 

サニーも、ピースも、マーチも、ビューティもデンオウPFの前に現れた。

 

 

 

デンオウPF「ちょ…、ちょと待ってみんな!私も──」

 

 

 

そこまで言ってデンオウPFは口を閉じた。

自分に何ができる。

共闘しても彼女達の足を引っ張るだけじゃないか…。

そうしてる間にバットイマジンは立ち上がってくる。

 

 

 

ハッピー「野上さん、後は任せて逃げて…。大丈夫、私達は負けないから」

 

 

 

ハッピーはニッコリと笑って言う。

デンオウPFは踵を返し、情けない気持ち胸一杯で走っていった。

 

 

 

バットイマジン『プリキュアァ~、よくもやってくれたなぁ。しっかしまあ、デンオウの方は薄情だったなぁ…。お前らもお前らだ。あんなヘナチョコ守って何になる?』

 

ハッピー「決まってるわ!」

 

 

 

5人は一声に答えた。

 

 

 

「「「「「友達だから(や)(です)!!!」」」」」

 

 

 

それを建物の影に隠れて聞いていた良々は涙を流した。

壁に背中を預けながら腰を落とし、両手を顔に当てる。

みんなは私のために戦ってくれている。

だけど結局、私には何もできない。

彼女達の力になる事もできない、情けない。

 

 

 

情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『本当に情けねぇな』

 

 

 

不意に頭にそんな声が響いた。

良々の体から砂がこぼれ落ち形作る。

あの時の上半身と下半身が逆の砂の怪人だ。

 

 

 

???『本当に助けに行かねぇのか?あいつらはお前の為に戦ってんだぞ』

 

 

 

良々はうずくまり涙目で目を逸らす。

 

 

 

???『いい加減にしやがれ!!いつまでメソメソしてんだよ!!──俺はな、メソメソした奴は嫌いなんだよ!その上仲間を見捨てちまう様な薄情な奴は大嫌ぇだよ!!お前も…いつまで逃げてんだ。いつまで泣いてんだ。お前がまず戦わなきゃなんねぇのはてめえ自身だ、コノヤロウ!──お前自身が変わんなきゃ…何も変わんねぇんだよ!!!』

 

 

 

『それ』が言った言葉を聞いた瞬間、良々の中の何かが弾けた。

 

 

 

「りたい…」

 

『あ?』

 

「私!!変わりたい!!!!」

 

 

 

そう叫んだ時、ベルトの4つのボタンの内、赤いボタンが僅かに光った。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

ハッピー「あぁっ!」

 

サニー「ぐっ!」

 

ピース「うっ!」

 

マーチ「くっ!」

 

ビューティ「あぅっ!」

 

 

 

5人のプリキュアはバットイマジンに苦戦をしいられていた。

 

 

 

バットイマジン『キーッキッキッキッキッ!やっぱ、決定打がねぇとキツイかな?プリキュア~~』

 

 

 

全然余裕のバットイマジンは最早勝利を疑わなかった。

 

 

 

ハナ「プリキュア…」

 

キャンディ「みんな頑張るクル!負けないでクル!」

 

 

 

ハナもキャンディも見守るしかなかった。

 

 

 

バットイマジン『さ~て、そろそろ飽きたし、とどめといくかな』

 

 

 

バットイマジンは蝙蝠傘を撫でながらゆっくりと歩み寄ってくる

 

 

 

ハナ「!」

 

ハッピー「!」

 

 

 

ハナとハッピーの視線がある物にとまった。

 

 

 

バットイマジン『んん?』

 

 

 

バットイマジンはそれが自分の背後にむけられていることに気づいた。

 

 

 

視線の先には──

 

 

 

 

ハッピー「野上さん…」

 

 

バットイマジン『コイツは意外だな、てっきり尻尾を巻いて逃げちゃったかと思ったぜ。で、デンオウ、お前はここに何しにきた?』

 

 

デンオウPF「あんたを倒しに来た」

 

 

バットイマジン『あ?』

 

 

デンオウPF「聞こえなかったの?何度でも言ってやるわ。──お前を倒しに来た」

 

 

 

バットイマジン『………、キッ、キッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ、サイコー!デンオウになると面白いギャグが言える様になるのか?キッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ、あー腹痛て…』

 

 

 

 

 

抱腹絶倒である。

プリキュア達はバットイマジンのその態度に胸糞が悪くなった。

 

 

 

 

バットイマジン『キッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ、ヒャッ、ヒャッ…』

 

 

 

 

だが、デンオウPFが表情を崩さず睨むのを見て、バットイマジンは笑いを止める。

 

 

 

 

バットイマジン『だが、そんなギャグが言える元気があるって事は、まだ俺の怖さが理解できてねぇとみえるな。そんなボロボロの体で本気で俺に勝てると思ってんのか!?お前も可哀想な奴だ。あの女に関わっちまったが故にこんな戦いに引きずり込まれちまって───まあ、お前が特異点である事がすでに運の尽きだたったが…』

 

 

 

デンオウPF「別に私は勝てるなんて思っちゃいない。

そして、私は確かに不運かもしれない。

でも、自分が“不幸”だなんて一度も思った事はない。

私は心のどこかで自分で自分を“諦めてた”。

自分の不運を仕方ないとばかり受け入れていた。

だけど、星空さん達は本気で幸せを掴みたいと思っているから、あんなに楽しそうに笑うんだ!!

うずくまってただ泣いているだけの私が、みんなを置いて一人で逃げるような私が星空さんやみんなと仲良く笑い合っていいはずがない!!

友達であっていいはずがない!!!!」

 

ハッピー「野上さん…」

 

バットイマジン『おおぅ、友情じゃん。泣けるねぇ…』

 

 

 

キッキッキッと、バットイマジンは笑う。

心底腹の立つ、人を馬鹿にした態度だった。

 

 

 

デンオウPF「私は逃げない…自分自身を変えたい!そんでもって、お前を倒す!!」

 

 

 

 

バットイマジン『はっ、減らず口を叩くんじゃねぇよ、バーカ!!』

 

 

 

バットイマジンは羽根を広げて、滑空しながらこちらに迫ってくる。

その瞬間、デンオウPFのベルトのバックル部分が赤く点滅し、陽気な音楽が流れる。

デンオウPFは驚くも再びパスをバックルに横切らせた。

 

 

 

 <SWORD FORM>

 

 

 

その電子音と共に暴走族の特攻服を連想させるシルバーラインの入った赤い陣羽織が出現、バットイマジンを弾き返す。

 

 

 

バットイマジン『グッ!』

 

 

 

その陣羽織はデンオウの周囲を一周するとデンオウはそれをはおる。

ベルトは陣羽織をしっかり締め、髪は前髪を残して大きなリボンで一つに纏まるポニーテールとなり、前髪は真ん中分けとなり、白い鉢巻きが額に巻かれる。

ちなみにポニーテールの白いリボンは逆さ蝶々結びで、まるで桃を連想させるようだ。

太ももには赤いラインが入り、髪は全体も赤く染まり、瞳の色も赤くなり、目付きは先ほどとは違い目尻が上がって鋭くなる。

そして最後に背中に黒字で「電王」と書かれ、変身完了。

──デンオウ・ソードフォーム

 

 

デンオウSF「俺、再び参上ッ!!」

 

 

 

 

 

 

ハッピー「変わった!」

 

 

 

声は良々本人のモノだがその声の気迫はまるで別人。

ハッピーは黒から赤い姿に変わった事に驚いた。

弾かれたバットイマジンは体制を立て直し、デンオウSFを睨む。

 

 

 

バットイマジン『今更、黒から赤になったからってよ。一体何になる!!』

 

 

 

バットイマジンは今度こそ飛び出したが、デンオウSFはバットイマジンの攻撃をかわすと飛行中のバットイマジンの横顔に裏拳を叩き込んだ。

 

 

 

バットイマジン『グホッ!!…っ!?』

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

 

殴り飛ばされたバットイマジンは倉庫の壁を突き破り、中へと転がった。

プリキュアはそれを見て驚きを隠せなかった。

まずはあの攻撃を完全に見切った事と、それに合わせて攻撃を決めた事、そしてデンオウの攻撃が効いた事。

 

 

 

ハッピー「す…すごい…」

 

 

 

ハッピーは思わず呟いた。

デンオウSFは落ち着き払って左腰に両手を構えた。

そこにはバトン・デンガッシャーが左右の腰に4本。

その内の左腰の2本を並行に連結し、上へと投げる。

落下の刹那、右腰にもあった残る2本のデンガッシャーで挟むように連結し、組み上がると同時に赤い刃が出現し、剣となった。

それを片手にバットイマジンを追撃するため倉庫の中に入る。

バットイマジンはよろめきながら立ち上がると、デンオウSFではなく『それ』に問い掛けた。

 

 

バットイマジン『こ、この力に…気配…、まさか…“同胞”か!?』

 

デンオウSF「だったらどうした?」

 

バットイマジン『お前、一体何考えてやがる。俺らの“使命”を忘れたのか!?』

 

 

 

使命

そう、これはあくまで過程でしかないのだ。

そのためには『特異点』が邪魔になると言うことも。

しかし『それ』は──デンオウSFは組み上げたデンガッシャーを肩に背負いながら、あまりにもアッサリと返した。

 

 

 

デンオウSF「そんなもん最初っから覚えてねぇな。さっきはヘコんだが、こっちの方が面白そうだぜ。って言うか、俺はこーゆーのがやりたくて来たんだよ!相手は関係ねぇ!!」

 

 

バットイマジン『だったら、あのプリキュア共を相手にすりゃいいじゃねえか!!どうして俺だ!?』

 

 

デンオウSF「別に俺はどっちでも構わねぇ。けどな、お前と違って俺は強い奴と戦いてぇんだ。なぜなら────

そっちの方が面白れぇからに決まってんだろ!!!」

 

バットイマジン『コイツ……バカか?』

 

バカである。

訂正はしない。

なぜなら

 

 

 

 

デンオウSF「言っとくが俺は、最初からクライマックスだぜ!!!」

 

 

聞いちゃいないからだ。

 

 

 

デンオウSF「行くぜ行くぜ行くぜーっ!!」

 

 

 

デンガッシャー・ソードモードを振り上げ、バットイマジンに斬りかかる。

5人のプリキュア達も助太刀するため倉庫内に入るが、デンオウSFの攻撃は凄まじかった。

 

 

 

デンオウSF「オラオラオラオラオラオラオラオラーッ!!!」

 

 

 

太刀筋、剣の振り方はまるで素人同然。

子供のチャンバラゴッコと言ってもいいような物だったが、とにかく速かった。

 

 

 

バットイマジン『ブッ!がっ!!がふっ!!おまっ…やめっ!!』

 

 

 

バットイマジンも蝙蝠傘を取り出し応戦するが、敵の斬撃は防げず、避けることもできない。

傘を広げ盾にするも、下から払われ斬られてしまう。

デンオウSFが最も得意とするレンジでの戦いにバットイマジンはなす術なく、斬り飛ばされ、叩き伏せられる。

飛んで逃げようと思っても距離を詰められ過ぎて逃げる暇などない。

倒れようとしても胸倉をつかまれ、頭突き、蹴り、タックルなどが炸裂し、太刀打ちできずされるがままだった。

 

 

 

ピース「すごい、あのコウモリさんを圧倒してる…」

 

 

 

助太刀する隙も与えないデンオウを見てピースは呟いた。

 

 

 

マーチ「ってゆうか…野上さん、なんかテンション上がってない?」

 

ビューティ「口調や一人称も変わってますし…何があったんでしょう?」

 

 

 

マーチ、ビューティはデンオウ・良々の強さより性格の変わりように驚いていた。

マーチの方はどちらかと言えば引いていた。

 

 

 

ハッピー「桃太郎…」

 

サニー「え?」

 

 

 

ハッピーが不意にそんな事を呟いた。

 

 

ハッピー「桃太郎だよ!陣羽織に鉢巻き、絶対桃太郎だよ!!」

 

 

 

ハッピーはまるでヒーローショーを見に来た子供の様に目を輝かせ、はしゃいだ。

 

 

 

サニー「そうか?ウチには改造した学ラン着てバイクをブイブイいわしとる田舎の不良にしかみえへんけどな…」

 

 

 

一方、サニーの目には不良にしか写らなかった。

 

そんな話しをよそについにバットイマジンは倉庫の外に投げ出され、最早立つこともやっとなくらいフラフラのグロッキー状態だった。

 

 

 

バットイマジン『何だこいつは!チクショー、デンオウがこんなに強えなんて聞いてねぇぞ!!』

 

 

 

バットイマジンは泣き言を言うが、デンオウSFは容赦しない。

 

 

 

デンオウSF「よーし、さっきは外したが目ん玉ひんむいてよく見とけ──俺の必殺技をよぉ」

 

 

 

デンオウSFはバックルにパスを長い間翳すと電子音が響く。

 

 

 

 <FULL CHARGE>

 

 

その電子音と共にパスを放り、剣を構える。

 

 

 

デンオウSF「俺の必殺技・パート2!!」

 

 

ベルトバックルが点滅し、バックルからの光の線は剣の柄頭につながり、デンガッシャーの赤い刃は真上に射出された。

デンガッシャーから射出された赤い刃はデンオウSFのスイングに沿って宙を舞い、バットイマジンを一刀両断した。

バットイマジンは断末魔の悲鳴を上げる間もなく爆発した。

 

赤い刃が元の位置に戻ると「ふぅ…」と息を吐き出し、

 

 

 

デンオウSF「ぅおっしゃー!!ようやく決まったぜーっ!!んんー、にしてもいいなぁデンオウ(こいつ)は!気に入ったぜ!!」

 

 

 

デンオウスーツをまじまじ見て、まるで面白いゲームかオモチャを与えられた子供の様にはしゃいでいた。

 

 

 

良々『そろそろいい?』

 

デンオウSF「おう」

 

 

 

ベルトを外すと羽織やライダースーツ、デンガッシャーは霧散し元の姿へと戻った。

もちろん、髪形や目付きも。

 

 

 

みゆき「野上さん!!」

 

 

 

あっちも元に戻ったみゆき、あかね、やよい、なお、れいかが駆け寄ってきた。

 

 

 

みゆき「すごいね!あのコウモリさん倒しちゃうなんて、あれなんなの?」

 

 

 

目を輝かせて訊くみゆき。

 

 

 

良々「わかんない。それに…実際戦ったのは私じゃないし」

 

みゆき「?」

 

あかね「それってどうゆうこっちゃ?」

 

良々「さあ…?」

 

 

 

あかねは疑問に思うが、良々は皆が無事でよかったと笑う。

 

 

 

みゆき「あ、ようやく笑ってくれた!」

 

 

 

みゆきは良々の笑顔を見て言った。

 

 

 

みゆき「野上さん、ずっと本気で笑ってなかった気がしたの。でも今、本気の笑顔が見れた気がするの」

 

 

 

良々はそれを聞いて、心の中の何かが暖かくなっていくのを感じた。

それは大雨に降られてずぶ濡れになった時に入る風呂よりも暖かい、そんな気分だった。

 

 

 

良々「あの…星空さん」

 

みゆき「ん?」

 

良々「あなたの事…みゆきちゃんって呼んでいいかな?」

 

みゆき「!」

 

良々「…友達だから」

 

 

 

さっきまでの自分じゃ胸を張れずに言えなかった事を言う。

それに対してみゆきはパアッと満面の笑顔となる。

 

 

 

みゆき「もちろんだよ!!じゃあ私も良々ちゃんてよんでいい?」

 

良々「うん!」

 

あかね「ウチもあかねって呼んでええよ」

 

良々「よろしく、あかねちゃん。えっと…」

 

 

やよい「あ、そういえば私達の名前まだだったね。私の名前は黄瀬やよい」

 

なお「緑川なお。よろしくね」

 

れいか「青木れいかと申します」

 

 

良々「よろしく、やよいちゃん、なおさん、れいかさん」

 

 

 

良々が挨拶し終えたとき、キャンディが戻ってきた。

 

 

 

キャンディ「みゆきー!!」

 

みゆき「あっ、キャンディ」

 

良々「ん?そういえばこの変わった大福みたいな生き物、なんなの?」

 

キャンディ「ムッ、キャンディは大福じゃないクル~!」

 

 

 

と言われてキャンディは怒った。

 

 

 

みゆき「この子はキャンディ、妖精よ」

 

良々「妖精?ずいぶんぷにぷにした妖精ね…」

 

 

 

キャンディの両頬をつっつきながら言った。

 

 

 

れいか「それはそうと──」

 

 

 

今度はれいかが言い出した。

 

 

 

れいか「さっき良々さんが変身した。あれは何だったのでしょう?」

 

あかね「ウチも思ってた所や」

 

やよい「良々ちゃん性格変わってたし…」

 

なお「プリキュア…じゃなかったわよね」

 

みゆき「桃太郎だったわよね?」

 

 

 

良々の変身した姿に皆が一斉に訊いてきた。

 

 

 

良々「いや…だから私にも良く──

「デンオウ…」

 

 

 

全員が声のした方を向く。

良々の言葉を遮ったのは、ハナ。

 

 

 

良々「あなたは…」

 

 

 

ハナ「それがあの姿の名前。過去と未来を守る戦士──デンオウ」



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スマイルプリキュア take a デンライナー

ハナ「ずっとなれる人を探してた……一緒に戦って欲しいの。時の運行を、守るために」

 

良々「ちょと待って!」

 

 

 

良々はハナの言葉を遮った。

 

 

 

良々「まず、あなたは一体…誰?」

 

 

 

質問は山の様にあったが、まず名前を聞いてないので良々が尋ねる。

 

 

 

ハナ「あ、名乗りが遅れたわね。私の名前はハナ。未来からやって来たわ」

 

「「「「「「未来!?」」」」」」

 

 

 

にわかに眉唾物の話しがでた。

良々は怪訝そうな顔をしたがみゆきはと言うと。

 

 

 

みゆき「という事は未来人!?すっごーい!!」

 

 

 

みゆきは子供の様にハシャギ、喜んでいた。

良々はこの時、みゆきちゃんはメルヘンチックなんだな、と思っていた。

ハナは左手の時計をチラっと見ると

 

 

 

ハナ「そろそろね…」

 

 

 

良々の思考は、その一言に断ち切られる。

 

 

 

ハナ「端に寄っといた方がいいわよ。もうすぐここに電車が来るから」

 

良々「電車?」

 

あかね「んなアホな。ここは廃倉庫で、それに線路もないんにどこに電車が…」

 

 

 

あかねがキョロキョロと辺りを見回しながら言ってると。

 

 

 

カララララララララララッッ!! 

 

 

 

陽気な音を立てて路上に線路が展開された。

その伸びてきた先の風景があり得ない歪み方をしたかと思うと赤いヘッドの電車が走り、7人の前で停車する。

ハナ以外の全員がこの光景に目を疑い、固まっていた。

いや、約一名目を輝かせているのもいるが…。

ドアオープン。

 

 

 

ハナ「さぁ、しょうがないからみんな早く乗って。説明は車内でするから…」

 

 

 

ハナを筆頭に次々デンライナーに乗車するとデンライナーは再発進、再び歪みの中へと消えて行った。

 

 

 

そして、場面は変わらず、倉庫の一角。

 

 

 

バットイマジン『────はぁ…はぁ…はぁ…、くそ…』

 

 

 

ドラム缶の影から現れたのは、身体の半分が砂と化してるバットイマジンだった。

 

 

 

バットイマジン『おのれ、デンオウめ…』

 

 

 

あの時、バットイマジンは両断されたかに見えたが、致命傷をさけていた。

しかし、デンオウに滅多打ちにされたダメージが大きかったらしく、そのまま隠れてやり過ごしていたのだ。

 

 

 

バットイマジン『次はこうはいかねぇぞ…、ぜってーぶっ潰してやる。だが、ダメージが大きいか…回復するのを待とう』

 

 

 

バットイマジンは羽を広げ、どこかへと飛んで行った。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

今度こそ場面は変わって電車の中──

 

 

ナオミ「本日もデンライナーのご利用、まことにありがとうございます。客室乗務員の──ナオミでーす♪御用がある時は、気軽に“ナオミちゃん”って呼んで下さいね♪」

 

 

 

中は普通の電車だった。

しかも、食堂車。

なんか未来的なシンプルさが一周して逆に田舎っぽい。

ナオミと名乗る客室乗務員の格好がアレでなければ、ここが異世界を走る電車の中とはわからないだろう。

 

 

 

ナオミ「ご注文は?」

 

 

 

ナオミが聞いてくる。

 

 

 

ハナ「あの、何か飲まない?落ち着くし」

 

 

 

ハナの提案に皆の反応はというと

 

 

 

みゆき「私、メロンソーダ!」

 

あかね「ウチ、コーラ」

 

やよい「オレンジジュースお願いします」

 

なお「あたし、お茶で…」

 

れいか「ハーブティー頂けません?」

 

キャンディ「キャンディはイチゴ牛乳くださいクル~」

 

 

 

良々「あんたら落ち着きすぎだ!!」

 

 

 

混乱覚めやらぬ良々、今度はナオミが断ち切る。

 

 

 

ナオミ「オリジナルコーヒーはいかがですか?」

 

良々「あんたも話の流れを断ち切らないで!!」

 

ナオミ「すっごくおいしいコーヒーはいかがですか?」

 

 

 

とことんまで話を聞かない女だ。

ハナもそうだった未来人はこんな押し売りの様な人たちばっかなのか?

 

 

 

ハナ「じゃあ、メロンソーダにコーラにオレンジジュースに、お茶とハーブティーとイチゴ牛乳。あと、オリジナルコーヒーを2つ」

 

 

 

ハナがマイペースに注文を出すと、

 

 

 

???『俺も』

 

良々「え?」

 

 

 

良々の身体から再び砂が湧き上がり、今度は赤い角を生やした怪人が現れた。

 

 

 

「「「「「「「(ぎょっ!!)」」」」」」」

 

ハナ「………」

 

ナオミ「ハーイ、コーヒー1つ追加ですね♪」

 

 

 

ハナを除いた全員が目を見開き驚くが、ナオミは普通に接していた。

 

 

 

 

 

 

 

良々ピンク色の泡がブレンドされたコーヒーに口を付け、何とか気を落ち着かせる。

ちなみに良々はコーヒーにはうるさいのだが、中々コクも香りもよかったので、文句を言わず顔をほころばせる。

 

 

 

ハナ「さて、まず何から話していいのやら…」

 

良々「ちょと待って」

 

 

 

ハナが説明しようとした時、良々が止めた。

 

 

良々「まず、みゆきちゃん達の“アレ”について説明してくれないかな?アイドルみたいな衣装に身を包んで戦ってた“アレ”のこと」

 

 

 

この中で最も何も事情が知らないのは、良々。

まずはみゆき達の事について知ろうとした。

 

 

 

みゆき「プリキュアの事?」

 

良々「そう、そのプ…プリキュアって何?」

 

キャンディ「それはキャンディが説明さしてもらうクル!」

 

 

 

キャンディがテーブルに上がって説明することにした。

 

 

 

キャンディ「プリキュアは──伝説の戦士クル!」

 

良々「で…伝説の戦士?」

 

キャンディ「そうクル。伝説の戦士クル!」

 

 

 

キャンディが胸を張って堂々と答える。

 

 

 

良々「……………それで?」

 

キャンディ「…………クル?」

 

良々「………えぇ!!?説明終わり!?」

 

 

 

 

その後、みゆき達5人から詳しくプリキュアの事について聞いた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

良々「悪と戦い、世界を救う戦士ねぇ…」

 

 

 

ハッキリ言って信じ難い話しだ。

メルヘンランドやバットエンド王国、世界をバッドエンドにしようとする狼や赤鬼や魔女。

専門用語がたくさん出てきて、理解しづらい事もあったが、ここまで来るともはや物語の領域だ。

良々はそんな子供アニメみたいなものはとっくに卒業したはずだった。

 

 

 

赤い怪人『へぇ、つーことはお前ら、正義の味方御一行なのか?』

 

 

 

コーヒーを飲みながら聞いていた赤い怪人がみゆき達の方に目をやる。

 

 

 

みゆき「まぁ、そんな感じ…。で、あなたは誰?」

 

 

 

今度はみゆきがその赤い怪人に尋ねた。

 

 

 

赤い怪人『俺か?俺は…イマ…イマ…ん~────』

 

ハナ「コイツらは『イマジン』」

 

赤いイマジン『そう、それだ』

 

れいか「イマジン?確か、ビートルズに同じ名前の曲がありましたね」

 

 

 

意味は確か『想像する』とれいか言葉を挟む。

ハナは続ける。

 

 

 

ハナ「あの蝙蝠もそう。コイツらはあなた達プリキュアに敵対しているバッドエンド王国からの使者なのよ」

 

あかね「え!!なんやコイツ敵なんか!!?」

 

ハナ「敵よ」

 

赤いイマジン『人聞き悪い事言うな。俺をあんな蝙蝠野郎と一緒にすんじゃねぇよ。俺はバッドエンド王国(あいつら)の事情なんざ知っちゃこっちゃねぇ。ただ好き勝手暴れまくりたいだけの…』

 

あかね「十分悪い奴やんけ!!」

 

 

 

あかねが思わずツッコむ。

 

 

 

キャンディ「でもキャンディはそんなイマジンなんて今まで知らなかったクル」

 

 

 

メルヘンランド出身のキャンディはウルフルンやアカオーニ、バッドエンド王国の事は兄から聞いていたが、イマジンなどというものは聞いたことがなかった。

 

 

 

ハナ「そうね。イマジンはこの時間帯で最近生まれたものだから。──“ある物”の誕生により作り出された」

 

みゆき「ある物?」

 

 

 

皆が疑問に思う中、やよいが手を挙げる。

 

 

 

やよい「もしかして、プリキュア?」

 

ハナ「正解」

 

 

 

ハナは静かに返した。

 

 

 

ハナ「あなた達が誕生したことにより、未来が次第にハッピーエンドへと向かおうとしてるの」

 

みゆき「本当!?」

 

 

 

みゆきが未来がハッピーエンドに向かっていることを知り、喜ぶ。

 

 

 

みゆき「いいことじゃないですか。私たちのおかげで未来がウルトラハッピーなんて」

 

 

 

ハナ「ところが、それを快く思ってない者もいる───バッドエンド王国の住人よ。そしてさらに、バッドエンドの未来の住人…」

 

 

なお「どうして?バッドエンドの未来の人が?」

 

 

 

誰でもハッピーエンドがいいに決まっていると考える皆の中で皆を代表してなおが訊いた。

 

 

 

ハナ「バッドエンドの未来にも、あなたたちがハッピーエンドを望んでいるのと同じようにその未来を快く思っている人間がいるの。そのバットエンドの未来人の精神に収集したバッドエナジーを加えて生み出したのが──

───イマジン」

 

みゆき「てゆうことはバッドエナジーが加わると未来の人ってみんなこんな姿になるの?」

 

赤いイマジン『言っとくが俺がこんな姿なのはこいつのせいなんだぜ』

 

 

 

と赤いイマジンは良々を指さす。

 

 

 

良々「え!何で私!?」

 

ハナ「イマジンは黙ってて!!私が話してるのよ!!」

 

赤いイマジン『んだと、コラァ!!』

 

 

 

とハナが赤いイマジンに喧嘩腰で黙らせようとするが、向こうも短気な様でチンピラのように腰をあげ、立ち上がる。

 

 

 

ハナ「何よ!!やる気!!?」

 

みゆき「二人ともやめて!!」

 

あかね「電車ん中で喧嘩すんなや」

 

 

 

みゆき、あかねを筆頭に二人を抑える。

ハナは気を取り直して説明をする。

 

 

 

ハナ「要約するにコイツらイマジンとは未来の人間の精神をバッドエナジーを加えて作りあげ、肉体はさっきれいかちゃんの言った通り、人間に取り憑き、取り憑いた人間の持ってる“イメージ”を使って身体を作ってるの」

 

 

赤いイマジン『そういうこった。にしても…何だ?このイメージ。センスねぇな。一体何のイメージだ?』

 

良々「ん~、『桃太郎』の…赤鬼かな?」

 

赤いイマジン『桃太郎ぉ!?』

 

ハナ「ぷふっ」

 

赤いイマジン『笑うんじゃねぇ!!お前イメージ貧困過ぎだろ』

 

 

 

イメージが桃太郎と聞いて不満なようだ。

 

 

 

やよい「でも、何で桃太郎本人じゃなくて赤鬼さんなの?」

 

良々「昔読んだ時、桃太郎に退治される赤鬼さんがかわいそうだなーと思ったからその影響じゃないかしら」

 

赤いイマジン『だからってコレはねぇだろ』

 

あかね「んー、確かに顔は鬼ってゆうより、角の生えた赤いドクロって感じやな」

 

赤いイマジン『それ以前の問題だろ!!』

 

 

 

プリキュアの敵のアカオーニと比べると虎の腰巻はしていないし、金棒も持ってなければ、パーマヘアーでもない。

鬼らしさに欠けてる。

 

 

良々「そうだ。あなたの名前まだ聞いてなかったわね」

 

赤いイマジン『あ?名前?そんなもん…ねぇよ』

 

良々「え?」

 

みゆき「どういうこと?」

 

赤いイマジン『俺らイマジンは未来の記憶がねぇんだ。精神は持ってきても記憶がない。自分の名前すらわかんねぇんだ』

 

 

 

良々がふ~ん、と少し考えると。

 

 

 

良々「じゃあ、名前ないと不便だしさ。みんなこのイマジンの名前考えない?」

 

みゆき、あかね「「さんせー」」

 

赤いイマジン『はぁ!?おい!勝手に決めんな!!俺は犬や猫じゃねぇぞ!!』

 

ハナ「そんな馴れ馴れしくしたら住み着いちゃうわよ」

 

赤いイマジン『だから、犬猫か!!俺は』

 

 

 

赤いイマジンの叫びを流しながら、話し合う。

 

 

 

みゆき「じゃあ、どんな名前付けようか」

 

やよい「オニタロウとかは…どうかな?」

 

なお「鬼と桃太郎くっつけただけじゃない。やっぱりここは鬼島桃太(きじまとうた)とか」

 

れいか「もう少し、呼びやすいお名前の方がいいと思いますよ」

 

良々「あかねちゃん考えてよ」

 

あかね「え?ウチ?」

 

良々「今朝みたいなカッコイイ名前を…」

 

あかね「う~ん、桃太郎…モモタロー…モモタロ………モモタロス。『モモタロス』ってのはどうや?」

 

良々「お、いいわね!それ」

 

赤いイマジン『ええ!?待て、コラ!!』

 

みゆき「うん、呼びやすいし。いいわね」

 

やよい「賛成」

 

赤いイマジン『だから待て!!お前ら!!』

 

なお「いいんじゃないの?ちょっと可愛いし」

 

れいか「決まりですね」

 

良々「これからよろしく、モモタロス」

 

(命名)モモタロス『俺は認めてねぇ!!お前ら揃いも揃ってセンスおかしいぞーっ!!』

 

 

 

狭い車両の中でモモタロスの不満げな叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

その後、モモタロスは何とか落ち着いたが、ブスッとすぬてしまった。

ハナは構わず説明を続ける。

 

 

 

ハナ「取り憑いた人間に望みを聞き、それを叶える事で『ある物』を頂く…」

 

良々「ある物?」

 

やよい「もしかして…命とか、ですか?」

 

 

 

やよいが恐る恐る聞くとハナは首を横に振り、重く言葉を返す。

 

 

 

ハナ「『過去』よ…」

 

 

「「「「「「「過去(クル)?」」」」」」」

 

 

 

皆は一斉に首を傾げた。

 

 

 

れいか「思い出って事ですか?」

 

ハナ「そう、奴らは願いを叶えるとその対価として、その人の大切な過去をもらう。それがイマジンと契約した人間の代償」

 

 

 

ばんっと、ハナの話の途中でモモタロスがテーブルを叩き、立ち上がった。

 

 

 

モモタロス『そうだ…契約だ!』

 

 

 

モモタロスはあの時、良々が願い事を言おうとした事を思いだした。

 

 

 

モモタロス『お前、あの時何て言おうとした?お前の望みは何だ!?』

 

 

 

モモタロスが改めて良々に聞こうとすると、ハナがそれを止めた。

 

 

 

ハナ「ダメよ。願い事をいえばコイツは自由になる。――けど、願い事を言わなきゃコイツは手出しはできない」

 

モモタロス『てめっ、余計な事言うな!!ハナクソ女!』

 

ハナ「何ですって~…!!」

 

 

 

ハナクソ女と言われて激怒するハナ。

 

 

 

モモタロス『やんのか?コラァ』

 

ハナ「イマジンの癖に生意気よ!!」

 

モモタロス『どこのガキ大将だ?テメェはよ!!』

 

 

 

両者一歩も退かぬメンチの中、その場にいた全員は止めたくても止められない状況だった。

 

下手に声を掛ければとばっちりを喰らう恐れがあったからだ。

 

沈黙の末、両者は右コブシを振り上げた。

 

それを見ていた良々は即座に察知し動いた。

 

 

 

モモタロス『だらああああああああああっ!!』

 

ハナ「はああああああああああっ!!」

 

良々「二人共そこまで!!喧嘩は…」

 

 

 

良々の言葉はそこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハナ「え…」

 

モモタロス『あ…』

 

 

 

なぜなら、ハナのコブシを顔面から、モモタロスのコブシを後頭部に受けていたからだ。

 

 

 

みゆき「キャーッ!!良々ちゃーん」

 

 

 

みゆき達が急いで駆け寄る。

 

 

 

良々「大丈夫…、慣れてるから…(ガクッ)」

 

なお「いや、どんな慣れ!?」

 

 

 

鼻血を出しながら、笑顔を作る良々にツッコミをいれるなお。

 

 

 

ハナ「モモタロス!!あんた何て事してくれたの!!」

 

モモタロス『バカ!俺はグーで受け止めようとしただけだ。殴ったのはお前だろ!!』

 

キャンディ「二人共悪いクル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良々を横に寝かせ、安静にさせた後、今度はデンオウの話に移る。

 

 

 

ハナ「そして、バッドエンド王国の連中は未来から何らかの方法でこの列車のパスを手に入れた。私はパスを取り返すため、バッドエンド王国に侵入しパスを取り戻したんだけど、そこで恐ろしい計画を知った」

 

みゆき「恐ろしい計画?」

 

ハナ「プロジェクト・イメージ───奴らの狙いはイマジンを地球へと送り込んで時の運行を乱し世界をバッドエンドへと早く導き、そしてパスを元に作ったベルトを使ってプリキュアを倒す事」

 

あかね「ウチらを!?」

 

 

 

あかねを含む、それを聞いた皆は緊張した。

 

 

 

ハナ「そこで私はそのプロジェクト・イメージを阻止するため私はベルトを奪い、そのベルトを戦力にしょうとしたの」

 

良々「でも、どうして私が変身するの?」

 

 

 

起き上がった良々はなぜ自分が変身するのか理解できなかった。

 

 

 

ハナ「それは貴方が『特異点』だからよ。特異点はその時代にごく僅かしかいない珍しい存在でね。その特異点こそが唯一デンオウになれる存在なの。

───これからもイマジンはバッドエンド王国から次々とやって来る。良々ちゃんって言ったわね、デンオウになって戦ってほしいの。過去と未来を守る為に……」

 

みゆき「そうだよ!良々ちゃん私たちと一緒に戦おうよ!」

 

あかね「そやな、あの強さ見たらなぁ」

 

やよい「頼りになりそうだし」

 

なお「うん、5人より6人!」

 

れいか「どうでしょうか?良々さん」

 

良々「……………」

 

 

 

良々は黙って、残ったコーヒーを最後まで飲むと一息ついて言った。

 

 

 

良々「──もう少し考えさせてもらえないかな?私も…心の準備があるから」

 

 

 

どこか煮え切らない表情で立ち上がった。

 

 

 

電車は一時停止。

くわしい説明はとりあえず後日合流してからということにして、二人は「現在」に帰ることになった。

列車のドアが開いた時、良々は心奪われ感嘆した。

 

 

良々「うわぁ…」

 

みゆき「きれー…」

 

あかね「おぉ…」

 

やよい「はぁ…」

 

なお「何なの?………ここ」

 

れいか「なんて神秘的なのでしょう…」

 

キャンディ「絶景クル…」

 

 

 

みゆき達もそれに同意せざるを得なかった。

列車の窓の外を全く見ていなかったからわからなかったが、

三人の前に広がるのは見渡す限り続く銀色の砂漠。

彼方に見える巨岩の上には虹色に輝く空とオーロラ。

本来なら交じり合うはずの無い二つの自然の神秘が、ここまで調和して融合しているとは。

やよいの方はスケッチブックを持って来ればよかったと少し後悔している。

 

 

 

ハナ「ここは時間の中だからね。この足元にある砂の一粒一粒が、流れる時間そのものなのよ」

 

 

 

両手を広げ、抱えきれない、もう戻らない愛おしいものを懐かしむように、ハナは独り言のように呟く。

 

 

 

ハナ「デンライナーはこの時の中を行き来する電車なの。過去と今と未来へ、続いていく時の運行を守るために」

 

良々「時の運行…?」

 

 

 

良々は時の運行を守るとは一体何なのか?

まだ、それは聞いてなかったので訊こうとした時、ハナがデンライナーを降りた拍子にそのポケットからキーホルダーが落ちた。

 

 

 

良々「ハナさん落ちましたよ?」

 

ハナ「え?あ、そうだ。これ、拾ったままだった!」

 

 

 

話を聞くところによるとハナはパスを探している時にこのキーホルダーを拾って交番に届ける途中、公園で良々を目撃したのだと言う。

 

 

良々「あれ?よく見ればネームプレート付きだ──羽黒テツオ」

 

なお「羽黒?ああ、あたしその人知ってるわよ」

 

良々「ホント?」

 

なお「3年の先輩で、かなり札付きの不良らしいわ」

 

良々「でも、困ってたら大変だし、明日位にちょっと行って返してくるわ」

 

みゆき「大丈夫なの?」

 

良々「心配ないわよ。返すだけだからさ」

 

 

現在に戻ると、そこは先ほど戦った廃工場地帯。

時刻は午後の7時7分。

6人は大慌てで別れて家路に着いた。

その後、6人とも親から

 

「こんな遅くまでどこほっつき歩いてた!!」

 

と、叱られるのはまた別の話。



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過去を白く、未来を黒く

この小説をお気に入りしてくださる皆さん、どうもありがとうございます。
感想、批評お待ちしております。


 

 

 

 

 

 

深夜 0時

 

 

 

 

バットイマジン『ふぅ、やっと回復できたぜ…』

 

 

とある高層ビルの屋上にて、バットイマジンは傷が回復し体が元通りになっていた。

 

 

 

バットイマジン『さ・て・と。面倒くせぇが、キタカゼの旦那に一報しねぇとな』

 

 

 

バットイマジンは頭から音波を放出し、キタカゼと通信できるようにした。

 

 

 

バットイマジン『もしもし旦那、聞こえるかい?』

 

 

キタカゼ[やっと来ましたか。報告が遅いですよ。で、ベルトとパスは回収できたのですか?]

 

バットイマジン『それがよ、最悪の事態だ。ベルトとパスは特異点の手に渡って、もう一体のヤツが裏切っちまった』

 

キタカゼ[何ィ…?]

 

バットイマジン『その上、あのデンオウの強さ。ありゃぁ、もうやべーってーの。プリキュアと戦って比べてみたが、肉弾戦ならそいつら以上だな』

 

キタカゼ[フムゥ…]

 

 

 

キタカゼは通信の向こうで考えを巡らせている。

 

 

 

キタカゼ[そうなれば───あなたは本来の“使命”を全うしなさい。もうベルトの回収はよろしいです。あれは“例のベルト”を作るための試作段階のベルトですから。取られた物に固執するのも詮無きことです…]

 

バットイマジン『会いさ了解…』

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

翌朝 7時 野上宅

 

 

 

PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPP!

 

 

 

良々「う~ん…」

 

 

 

良々は枕元の目覚まし時計の音で目をさまし、スイッチを止めて再びベットの中に入る。

 

 

 

良々「あと5分…」

 

 

 

低血圧の良々にとって朝はかなりつらいらしい。

 

 

 

???「何が後5分だ。とっとと起きろ!」

 

 

 

ベットを剥がし、頭を軽くひっぱたいたのは良々の兄・野上幸一。

ちなみに高校2年生、良々とは3つ年上。

 

 

 

幸一「朝飯作ってる間に顔洗って着替えてきちまえ」

 

 

 

結構荒々しいが、面倒見のいい兄である。

幸一は部屋のカーテンを開けると下へ降りて行った。

良々はその間に髪を梳かし、顔を洗って、歯を磨き、着替えて居間へと降りてくる。

 

 

 

幸一・良々「「いただきまーす」」

 

 

 

親は朝早く仕事に行ってしまうので、必然的に幸一がご飯を作り、良々と一緒に食べる。

 

 

 

幸一「どうだ?学校は?」

 

 

 

幸一は転校初日の学校について訊いてきた。

 

 

 

良々「昨日はちょっと訳のわからない事に巻き込まれたけど、友達が5人もできた」

 

幸一「ほう」

 

 

 

幸一は納得したようにうなずいた。

 

 

 

幸一「だからか…」

 

良々「何が?」

 

 

 

その発言に良々が尋ねる。

 

 

 

幸一「何だか、昨日から特にお前の顔がいきいきしてる気がしてな」

 

良々「え!───そう…かな?」

 

幸一「良々、もし何か困った事があったら俺に話せよ。後で隠してましたじゃ、俺怒るぞ」

 

 

 

幸一は笑いながらも真剣な眼差しで良々を見る。

 

 

 

良々「ありがとう、兄さん」

 

 

 

良々は朝ごはんを食べ終えると、すぐに鞄を持って登校した。

 

 

 

幸一「さて、俺はまだ時間あるし、ニュースでも見るか」

 

 

 

幸一はテレビを点けた。

 

 

 

 

 

 

『ニュースをお伝えします。昨晩から七色ヶ丘の市街地で奇妙な死体が相次いで発見されました。死因はすべて転落死。被害者には年齢性別など関連性はなく、目撃者の情報を照合したところ「黒い影のようなものが被害者を空高く連れ去った」といい、警察は無差別殺人事件として捜査を続ける方針です』

 

 

 

幸一「おいおい、七色ヶ丘ってここじゃないか…。何事もなければいいんだが…」

 

 

 

しかし、幸一の予想に反してこの日は最悪の日となる。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

七色ヶ丘中学

クラスは今朝の無差別殺人のニュースでもちきりだった。

今日は全校集会で校長先生の話しだけで終わった。

全員速やかに帰宅し、外出は控えるようにの事だった。

 

 

 

そして良々は3年の教室で羽黒テツオを捜していた。

 

 

 

3年生「羽黒なら昨日から来てないよ」

 

良々「どこへ行ったか分かりますか?」

 

3年生「さあ…、昨日から家にも帰ってないみたいだし…」

 

良々「そうですか。ありがとうございます」

 

 

 

良々は3年の先輩から行方を聞こうとしたが、手掛かりはなし。

 

 

 

その途中でみゆきに合流。

 

 

 

みゆき「どうだった?」

 

良々「羽黒先輩、昨日今日無断欠席だって」

 

 

 

しょうがないから担任から聞いてきた住所で自宅まで行く事に。

良々とみゆきはメモを見ながら羽黒の自宅へと向かった。

 

 

 

良々「よくわかんないなぁ…」

 

みゆき「あかねちゃんか、やよいちゃん、連れて来ればよかったね」

 

 

 

両者とも引っ越してきたしてきた者同士、ゴチャゴチャした道に四苦八苦しながら歩いていると公園に通りかかった。

そんなときである。

 

 

 

 

「やめて下さい」

 

 

 

 

良々、みゆきは公園の中から助けを求める声に反応しその方を向く。

 

 

 

 

みゆき「やよいちゃん!?」

 

 

 

見るとそこにはやよいが4人の不良に絡まれていた。

みゆきはいてもたってもいられず、駆け出した。

 

 

 

みゆき「ちょっと、あなた達!やよいちゃんに何するの!!」

 

やよい「み、みゆきちゃん!」

 

 

 

みゆきはその不良に果敢に挑んでいくが、

 

 

 

不良A「お!お嬢ちゃんも可愛いね!どう?俺らとどっか行かない?」

 

 

 

完全に舐められてしまい、ミイラ取りがミイラの状態になってしまいつつあった。

不良は怖いが、今度は良々が勇気を振り絞って向かっていった。

 

 

 

良々「コラ!!二人から手を離せ!!」

 

 

不良A「なんだ、今度────げっ!!」

 

 

良々「あ」

 

 

 

遠くでよくわかんなかったが、近付いて見るとその4人の不良は昨日良々に絡んできた不良共だった。

 

 

 

不良×4「「「「ち、ちーす!!」」」」

 

 

 

不良共は慌てて良々に深々と頭を下げた。

取り残されたみゆきとやよいはその光景にまるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていた。

不良はそそくさと逃げるように去ろうとすると、

 

 

 

良々「あ!待って!」

 

不良×4「「「「はいぃぃぃ!!!何か!?」」」」

 

 

 

良々の一言で背筋をピンと伸ばし、回れ右をした。

 

 

 

良々「ちょっと、訊きたい事があるんだけど」

 

不良×4「「「「はい!何でも聞いてください!」」」」

 

 

 

完全にビビりまくりな事は放っておき、良々は何もしてこないならそれでいいと思いテツオの事を聞いた。

 

 

 

良々「あなた達、七色ヶ丘中学の三年生よね?羽黒テツオ先輩知らない?」

 

不良A「テ、テツオですか?」

 

良々「知ってるの?」

 

不良B「ええ、ダチですから…」

 

良々「どこに居るか知らない?」

 

不良×4「「「「…………」」」」

 

 

 

不良達は何か戸惑っている風にして口を噤む。

 

 

 

良々「どうしたの?」

 

不良A「あ、いえ、テツオの事なんですが…。その…拉致られちまいまして…」

 

良々「拉致られた?」

 

サトシ「はい、まるで蝙蝠の様な怪人がいきなり俺達の前に現れてテツオを…」

 

良々「蝙蝠?」

 

 

 

その言葉を聞くと一人の胸ぐらを掴み上げる。

 

 

 

良々「おい…!!」

 

サトシ「え?」

 

良々「今の話は本当かぁ!?」

 

サトシ「ひぃ!?は、はい!!」

 

 

 

途端に良々の髪形が前髪が真ん中分けとなり、その前髪が赤く染まり、ポニーテールとなった。

 

 

 

やよい「良々ちゃん!?」

 

みゆき「もしかして、モモタロスさんが!?」

 

 

 

そう、モモタロスが良々に憑依し、M良々となっていた。

 

 

M良々「あんの蝙蝠野郎…生きてやがったのかーっ!!!」

 

サトシ「アーレー…」

 

不良A「サトシーッ!!」

 

 

 

そのままブン投げられたサトシという男はそのまま公園の高い木のてっぺんに引っ掛かり、「助けてくれー!!」と泣きわめいていた。

 

 

 

良々『うわーっ!!何てことしてんの!!アンタ』

 

M良々「うるせぇ!!そんな事より、あの蝙蝠野郎…俺の必殺技をくらって生きていやがったとは…。次は必ずブッ倒してやる!!」

 

 

 

そういうと、M良々はそのまま走り出していった。

 

 

 

みゆき「ああ!!良々ちゃん、じゃなくて…モモタロスさん?えっとこの場合を呼べば…どっち?」

 

やよい「どっちでもいいから、早く追いかけようよ」

 

みゆき「いや、私達はあかねちゃん達を呼んで来よう」

 

ハナ「あーもう、あのバカモモ!勝手に飛び出して…。にしても、あのイマジンが生きてたなんて…」

 

 

 

ハナはモモタロスが勝手に外に出たのに憤慨し、同時にバットイマジンが生存に慌てる。

契約が果たされたら厄介だ。

何としてもこの時代で仕留めたい。

そのためには契約者を早く見つけねば。

 

 

 

 

 

 

その頃、あかねは七色ヶ丘中学にいた。

速やかに下校するように言われたが、少しばかり部活の練習をし、部員全員で集団下校する事になった。

 

 

 

後輩A「だ、大丈夫かしら?」

 

 

一人の後輩の女の子がビクビクしながら辺りを警戒する。

 

 

ゆか「大丈夫よ。こんな真昼間からそうそう出るわけないじゃん」

 

 

現バレー部のエースと言われるゆかが落ち着かせるようにいう。

 

 

あかね「にしても…一体だれがこんなん酷い事を」

 

 

 

あかねは心底に嫌な気持ちだった。

何の罪もない人が次々と殺されていく事に憤りを感じていた。

 

 

 

あかね「それにしても、ゆか。そのキーホルダーええなぁ」

 

 

あかねがゆかの鞄に付いているキーホルダーを褒めた。

 

 

ゆか「そう?可愛い?」

 

あかね「うん、可愛ええよ!」

 

 

 

さっきまで暗い雰囲気だったのに、あかねを初め次第にガールズトークで明るくなっていった。

しかし、それを白けた目で見る双眸が…。

あかね達バレー部が笑いながら話しているその最中。

突如、黒い影がゆかを空高く連れ去った。

 

 

 

ゆか「ッ!?キャアアアアアアアアッ!!!」

 

部員A「ゆか!!」

 

後輩「ゆか先輩!!」

 

あかね「なっ!?あれって…」

 

 

 

あかねは忘れもしない。

昨日、良々が倒したイマジンだ。

なぜ生きてる?

いや、今はそんな事より、友達のゆかが連れさらわれた。

 

 

 

ゆか「いやっ!降ろして!離して!!いやぁぁぁぁぁ!!」

 

バットイマジン『そう喚くな。すぐに降ろしてやるよ』

 

 

 

バットイマジンは叫ぶゆかに構わず、キーホルダーをむしり取るとゴミの様に投げ捨てた。

 

 

 

バットイマジン『ほら』

 

ゆか「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

部員「「「「「ゆか!!」」」」」

 

あかね「あかん!!」

 

 

 

あんな高い所から落ちたら大怪我は確実、怪我で済まない場合もある。

部員のほとんどが両手で目を隠す。

あかねは何とかキャッチしようと走り出そうとしたその時、後ろから誰かが物凄いスピードで追い抜いた。

 

 

 

あかね「え!?良々!?」

 

 

 

オリンピック選手並のダッシュ力であかねを追い越し、落下するゆか目掛けて大ジャーンプ!!

空中でゆかを抱き抱え、アスファルトの路地に着地する。

 

 

 

M良々「ふぅ…」

 

 

 

もしこれが走り幅跳びならば世界記録間違いなしだろう。

 

 

 

ゆか「あ、ありが…」

 

M良々「重い」

 

ゆか「ぐえっ!?」

 

 

 

そう呟いてゆかを乱暴に放った。

ゆかはまるでつぶれたカエルの様な声を出す。

 

 

 

ゆか「ちょっと!助けてくれたのはお礼をいうけど、重いってどういう事よ!!」

 

M良々「チッ、見ろ。こんな女助けるから蝙蝠野郎逃がしちまったじゃねぇか」

 

 

 

ゆかの文句を適当に流し、ぶつぶつとM良々は独り言を話す。

 

 

 

あかね「良々ー、ゆかー」

 

 

 

向こうから、あかねと部員が駆け寄ってくる。

 

 

 

良々『代わって』

 

M良々「え!おい…」

 

 

 

モモタロスを追い出し、元の良々が表に出る。

部員はゆかを心配したり助けてくれた良々にお礼を言ったりしている。

適当に相槌をうちながら皆から少し離れ、あかねと良々は話す。

 

 

 

良々「見た?あの蝙蝠のイマジン」

 

あかね「ああ、でも昨日倒したはずやろ」

 

良々「でも、生きていた!これで納得がいった。この街で起こっている無差別殺人事件の犯人はあいつよ!」

 

あかね「そなら、早く止めへんと!」

 

部員B「ゆかさん怪我はないの?」

 

ゆか「ええ、ただキーホルダーを取られただけ…」

 

 

 

良々とあかねが行動を起こそうとしたその時、部員の一人とゆかのその会話に良々は反応する。

 

 

 

あかね「どないしたんや?良々」

 

良々「解った…」

 

あかね「え?わ、何や!?」

 

 

 

良々はあかねの手をつかみ、走り出す。

 

 

 

あかね「一体どないしたんや?」

 

良々「あのイマジンとの契約者が解ったの!」

 

あかね「契約者!?」

 

良々「昨日ハナさんが言ってたじゃない。『奴らは願いを叶えるとその対価として、その人の大切な過去をもらう』って、蝙蝠イマジンはあの人のキーホルダーだけを取って行った。つまり、蝙蝠イマジンの契約者の願いはたぶんキーホルダーに関する事じゃないのかな?」

 

 

 

良々は羽黒テツオのキーホルダーを取り出す。

 

 

 

良々「そして、このキーホルダーの持ち主、羽黒先輩は蝙蝠イマジンにさらわれている」

 

あかね「それが一体どないしたんや?」

 

 

 

あかねは良々が何を言いたいのかよく見えてこない。

 

 

 

良々「ここからは私の推測なんだけど、その蝙蝠イマジンの願いはたぶん『あるキーホルダーを探してくる事』、その契約者は羽黒先輩」

 

あかね「え!?いや、でも、十分考えられる…」

 

良々「このキーホルダーを返せばあの蝙蝠イマジンもたぶん止まる」

 

みゆき「良々ちゃん!あかねちゃん!」

 

あかね「みゆき!」

 

 

 

そこまで言うと向こうからみゆき、やよい、キャンディがなお、れいかを連れて来た。

 

 

 

良々「これで全員そろった」

 

あかね「おし!そんじゃ、あの蝙蝠倒しにいくでーっ!!」

 

 

 

あかねが走り出すが、

 

 

 

れいか「あかねさん、相手の居場所わかるのですか?」

 

あかね「あっ、わからん…」

 

 

 

ズコッと皆一斉にこけそうになる。

 

 

 

なお「弱ったわね」

 

 

 

なおも何かいい考えはないか考える。

 

 

 

良々「そうだ、モモタロスに訊いてみよう───モモタロス聞こえる?」

 

モモタロス『何だ?』

 

良々「あの蝙蝠イマジンの居場所わかる?」

 

モモタロス『蝙蝠野郎か?ああ、あいつの匂いなら覚えた。やつは…、左側のあの高いビルの上だ!』

 

 

 

左側を向くと大きなビルがそびえていた。

 

 

 

良々「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

テツオ「違う…」

 

 

 

ビルの屋上で膝を抱えバットイマジンの渡すキーホルダーを拒むみ続けるテツオ。

バットイマジンの契約者はやはりテツオだった。

彼の足元には主を亡くし、二度と戻る事のないキーホルダーが山となって転がっていた。

 

 

 

バットイマジン『チッ、一体てめぇの望む物は何なんだ?ああ!?』

 

 

 

バットイマジンは思い通りに事が運ばずいらつき、ついに我慢の限界を迎え自らの契約者を痛めつけようとしたその瞬間、

 

 

 

良々「待って!」

 

 

 

良々とみゆき、あかね、やよい、なお、れいかがようやく駆けつけた。

 

 

 

バットイマジン『またお前らかぁ…』

 

 

 

バットイマジンはウンザリとしたふうにこちらを見た。

 

 

 

良々「探してるのはこれでしょ?」

 

 

 

良々がキーホルダーをバットイマジンに投げ渡す。

それを見たテツオが目を見開く。

 

 

 

テツオ「そ、それだ!!」

 

 

 

テツオはバットイマジンからキーホルダーを奪い取る。

 

 

 

良々「これでいいでしょ!?もう人を襲うのは…」

 

 

 

良々はバットイマジンに人を襲うのをやめさせようと言おうとした。

その時、バットイマジンは嘲笑を込めた笑みを浮かべる。

 

 

バットイマジン『キッキッキッキッキッキッ、ご苦労様…探す手間が省けたぜ』

 

良々「え?」

 

 

 

良々も含む、みゆき達も全員バットイマジンが何を言っているのか理解できなかった。

これで終わりなのではないのかと。

 

 

 

バットイマジン『さあ、お前の望みはかなった。契約完了───』

 

 

 

その場にいた者は目を見開き、その光景に息をのんだ。

 

 

 

バットイマジン『開け、記憶のページよ!!』

 

 

 

バットイマジンがテツオをまるで本のように切り開き、彩った『渦』の中に飛び込んでいった。

テツオは力なく膝をつく。

 

 

 

ハナ「しまった!遅かった!!」

 

 

 

突如、屋上の扉が開き、ハナが現れた。

ハナは慌ててテツオに駆け寄り、ポケットの中のカードを出す。

それをテツオに翳すと、黒かったカードの表面にバットイマジンの姿と、[-2Y/12.24]という数字が浮かび上がった。

二年前の日付だ。

ハナはそのままテツオに問いかける。

 

 

 

 

ハナ「ねぇ、二年前の12月24日に、何があったか覚えてる?」

 

テツオ「12月、24日…?」

 

 

 

 

その目には、涙。

 

 

 

 

テツオ「俺の母さんの命日だ…」

 

みゆき「お母さんの…?」

 

 

 

みゆきはテツオの顔を覗き込み、テツオは淡々とあの日の事を語る。

 

 

 

テツオ「あの日、俺は…仲間たちと夜遅くまで遊んでて…そしたら俺の携帯に電話が掛かってきたんだ。母さんが入院してる病院からだった…。

───母さんの病気があんなに酷かったなんて知らなかったんだ!!母さんの死に目にも立ち会えなくて…これが、母さんの最期のクリスマスプレゼントになるなんて……!!!」

 

 

 

テツオは手にしてるキーホルダーを顔に寄せ、人目を気にすることなく大声で泣いた。

するとテツオの泣き声を掻き消すように、突如遠くにそびえていたビルが崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

【二年前12月24日】

 

 

 

 

 

テツオは母の危機も知らず、仲間とつるんでクリスマスイブ一色の夜街を満喫していた。

と、テツオの身体から砂が零れる。

仲間がいぶかしむ目前で、群青の瞳と共にテツオが車道を走るタンクローリーに突っ込んだ。

 

 

「テツオ、危ない!!!」

 

 

しかし、その警告に意味はなかった。タンクローリーは既に止まっていたからだ。

テツオの手で

それだけではない、彼はドライバーを押しのけ、ハンドルを奪うとそのまま暴走を開始したのだ。

車を次々と吹き飛ばし、陸橋の柱をぶち抜き、ビルを抉るタンクローリー。

歪められていく過去は、やがて現代へと侵食を始める…

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

【現在】

 

 

 

 

 

ビルが、街が、少しずつ崩壊を始め、炎が吹き上がる。屋上からでも聞こえてくるサイレンと悲鳴。

 

 

 

ウルフルン「ウルッフッフッフッフッ、おうおうやっとおっ始めやがったか…。さて、俺様も始めるか」

 

 

 

その阿鼻絶叫の街を空から見下ろしながらバッドエンド王国の三幹部の一人・ウルフルンはそれを楽しそうにみる。

 

 

 

ウルフルン「世界よ!!最悪の結末、バッドエンドに染まれっ!!」

 

 

ウルフルンは魔本を開き、黒い絵の具チューブを握りつぶす。

 

 

ウルフルン「白紙の未来を黒く塗り潰すのだ」

 

 

 

魔本の白紙のページにその絵具をべったりと塗りたくる。

すると、青空は途端に闇に覆われ暗くなり、夜が…いや、闇が世界を支配する。

 

 

 

「ああ、もうだめだ…」

 

「もう……終わりよ」

 

 

 

破壊される街の人々は絶望の色に染まり、バッドエナジーが放出される。

 

 

 

ウルフルン「ウルフッフ、人間どもの発したバッドエナジーが、悪の皇帝ピエーロ様を蘇らせていくのだっ!」

 

 

 

しかし、今回は規模が違った。

 

 

 

ウルフルン「おお、すげぇ!これほどの量のバッドエナジーは初めてだ!!イマジンが過去で暴れるだけでここまで違うとは…」

 

 

 

 

ピエーロの時計の針がいつもは一つ進むだけなのだが、今回は二つも進んだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みゆき「なに、この寒いというか…気持ち悪い感じ…」

 

あかね「まるで真冬の海に放りだされて…体温が奪われていくみたいや」

 

 

 

バッドエナジーの影響を受けないみゆき達もかすかに影響を受ける。

 

 

 

良々「一体、何が…起こっているの?街も…人も…」

 

 

 

良々は屋上の手すりにつかまり、その街の惨劇を見る。

 

 

 

ハナ「過去でイマジンが暴れているのよ」

 

 

 

ハナが良々に静かに言う。

 

 

 

良々「『イマジンは、望みを叶える代わりに過去を貰う』って言ったわよね。奴らが望みを叶えるのは、記憶を呼び起こしてその人と過去とを繋げるため。あのイマジンは今、彼が一番強く繋がった過去にいる。目的は一つ、過去を変えて、そこから続く未来を変えること」

 

良々「未来?未来って……じゃあなんで……なんで今街があんなことになってるのよ!!!!!」

 

 

 

怒りのこもった声で、良々が大声を出す。

その時の良々は、普段の彼女からは想像できないくらい激しく激昂し、感情が高ぶっていた。

 

 

 

ハナ「『過去』にとっては、『今』だって『未来』だから。あのイマジンが、『過去』で街を破壊すれば、それはまず『今』を壊していく」

 

 

 

ハナがカードを良々に渡す。

 

 

 

ハナ「これをパスに入れて…私達たちも行こう。早くあのイマジンを止めないと、彩った過去が白紙に戻され、未来が黒く塗りつぶされてしまう。そうなったら、世界はバッドエンドになって、街の人達もこの子も、死ぬ…!」

 

 

 

ハナは冷たくも真剣な眼差しで良々やみゆき達に告げる。

 

 

 

「……………ッ!!」

 

 

 

良々はハナから目を逸らし、手摺りを強く握る。

 

 

 

ハナ「どうしたの!?早く!!」

 

みゆき「怖いのね…」

 

ハナ「え?」

 

 

 

みゆきはそっと言った。

よく見ると良々が震えているのがわかる。

良々は恐怖に押しつぶされそうになり、一歩踏み出せないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

みゆき「戦おうよ!!良々ちゃん!!」

 

良々「みゆきちゃん。でも…」

 

みゆき「過去も…未来も…決めるのは自分自身だよ。それらを好きにする権利は誰にもない!!そうでしょ!?」

 

あかね「そや!ウチな、昨日デンオウになって、ってハナさんに言われた時、アンタが少し震えてること、わかってた…」

 

やよい「怖いのよね。私も初めは怖かった。でも、勇気を振り絞って戦う覚悟を決めたから今じゃ戦える!」

 

なお「大丈夫、いざとなったら私たちが守ってあげるから!」

 

れいか「戦いましょう。怖い事は恥ずべき事ではありません…、むしろ当たり前の事です!」

 

 

 

皆の言葉が熱く心に響く。

そうだ、私は変わるって決めたんだ。

恐怖は確かにある。

押し潰されそうな程。

でも、こんな最悪な未来受け入れたくない!

ならば、私のやるべき事は既に決まっている!

 

 

 

良々「なんだか良く解らないけど、やらなきゃいけない事だけはわかった気がする…!」

 

 

 

口にしたのは曖昧な答えだが、その瞳には決意と覚悟がこもっていた。

彼女の中に燃えるのは、ヒーローになれた喜びなんかじゃない。

たとえ自分とは関わりがなかったとしても、その未来を理不尽に奪うことを許さない、ただ真っ直ぐな感情。

それは、彼女が始めて抱いた『正しい怒り』だったのかも知れない。

彼女の恐怖はなくなり、勇気へと変わった。

 

 

 

 

 

 

ハナ「───ありがとう」

 

 

 

ハナの小さな呟きに口元を少し上げて小さな笑みで返す。

 

 

 

みゆき「よし!それじゃみんな、過去へ…」

 

ハナ「あ、ちょっと待って!!」

 

 

 

いきなりハナが思い出した様に声を掛ける。

 

 

 

ハナ「悪いけど、デンオウである良々ちゃんはともかく、あなたたちプリキュアが過去へ行けるのは一人、いや多くて二人だけ!」

 

 

みゆき「え!どうして!?」

 

 

 

みゆきは問いただす。

 

 

 

ハナ「良々ちゃんは特異点だけれどみんなは違う。過去で戦って建物の壁や小枝を折ったりするだけで未来を変えかねないの。多少の乱れなら修復可能なんだけど、その影響を最小限に押さえるためにもここは一人に…」

 

 

 

確かに、現代で暴れているウルフルンを放っておくわけにはいかない。

 

 

 

あかね「なら、ウチが行く!!」

 

みゆき「あかねちゃん!?」

 

 

 

名乗り出たのはあかね。

 

 

 

あかね「あの蝙蝠、うちのバレー部の友達を傷付けようとしたんや。絶対許せへん…!!」

 

 

 

それ以前にあかねは関係のない者を巻き込む奴の行動は許せなかった。

 

 

 

良々「決まりね」

 

 

 

あかねの真剣な表情を見て良々はベルトを装着し、赤いボタンにを押すと陽気なミュージックホーンの待機音が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモタロス『来た!!』

 

 

 

待ってましたと言わんばかりにモモタロスが立ち上がり良々の元へ向かう。

 

 

 

良々「変身ッ!!」

 

 

 

良々と赤いイマジンの叫びが空に響き、高らかに発車メロディと電子音が鳴り渡った。

 

 

 

 

 <SWORD FORM>

 

 

 

 

ライダースーツに改造学ラン風の陣羽織を纏う。

髪と瞳の色が変わり、白い鉢巻きに逆さ蝶々結びの白いリボンのポニーテール。

 

 

 

デンオウSF「俺、参上!!」

 

 

 

変身完了と同時に時の列車・デンライナーが出現。

 

 

 

デンオウSF「行くぜ、関西女!!」

 

あかね「誰が関西女や!ウチは日野あかね!!ちゃんと名前で呼ばんかい!!」

 

 

 

デンオウとあかねは、そのままの勢いでデンライナーに飛び乗った。

デンオウは先頭車両運転室の計器と一体化したバイク・デンバードに搭乗。

 

 

 

 

チケットの入ったパスを装填し、時の列車が走り出す。

行き先は[-2Y/12.24]デンバードに跨がったデンオウの瞳が強く輝いた。

 



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時を超えて蝙蝠退治

 

 

 

 

【二年前の12月24日】

 

 

 

 

夜の街を暴走を続けるテツオのタンクローリー。

そこに突然発車メロディが響く。

歪んだ空間からタンクローリーの横を線路が走り、さらに赤いヘッドの列車・デンライナー『ゴウカ』が現れ、並走を開始した!!

一瞬焦ったが、テツオはタンクローリーをぶつけ、脱線させようとする。

なんとか堪えるデンライナーだったが、こちらも負けじと車体を切り、タンクローリーをぶっつけまくる。

 

 

 

あかね「うわぁーっ!!むちゃくちゃすんなや!!酔うでこれ!!」

 

 

 

切り離しを忘れていた食堂車の固定されたテーブルにあかねとハナがしがみつき体を投げ飛ばされないようにする。

浮かんだ線路の下で、一般人の車が驚いたようにブレーキをかける。

 

 

 

デンオウSF「ぃよっしゃあ!!押し潰せ!!」

 

 

 

景気よく叫ぶデンオウSF・モモタロスを、良々が制した。

 

 

 

良々『バカ!爆発したらどうすんの!なんとか接触してブレーキかけるのよ!!』

 

デンオウSF「えぇい、メンド臭ぇ!!」

 

 

 

何だかんだでモモタロスは指示に従い、デンライナーをタンクローリーに押し付けた。

 

 

 

あかね「う!ナオミさん、袋持ってきて……昼食ったお好み焼き、もんじゃ焼きにして出しそう…」

 

ハナ「ナオモちゃん、私も…」

 

ナオミ「は、はいはい!」

 

 

 

食堂車の中でハナとあかねが弾み回っているが、そんなこと構っていられない。

徐々に二台の車両が減速し、道にいる人達は散り散りに逃げ去っていく。

しかし、一人だけ子どもが泣きじゃくって取り残されていた。

 

 

 

「『危ない!!」』

 

 

 

デンバードを先頭車両から緊急射出。

子どもを捕まえ、離脱した後ろで、タンクローリーとデンライナーがようやく停止した。

 

 

 

母親「ミヨちゃん!」

 

 

 

子どもの母親が駆けつける。

何も言わず子どもを預け、走り去る親子を見送るデンオウSF。

 

 

 

バットイマジン『チャーンス!!』

 

 

 

だが、この一瞬の脱力をバットイマジンが見逃すはずは無い。

タンクローリーを完全に止められたとわかるとテツオから分離。

空中から強襲し、デンオウSFを掴んで飛び上がる。

 

 

 

あかね「のわ!!モモタロス!!」

 

 

 

酔いを直したあかねが食堂車から出てきて見たものはバットイマジンによって空中に吊り上げられたデンオウSFの姿だった。

 

 

 

あかね「くっ!良々、モモタロス!今行くで!!」

 

 

 

あかねがスマイルパクトを開き、オレンジ色のリボンのキュアデコルをセットすると『レディ』の音声の後あかねは叫ぶ。

 

 

 

あかね「プリキュア・スマイルチャージ!!」

 

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!Let’sGo・Sunny』

 

 

あかねは火の粉と共に身体にパフを当ててゆき、オレンジを基調としたコスチュームへと変わると、髪の色がオレンジに染まり、シニヨン状に束ねられた短髪となって、最後にパフを両頬に当てて変身完了。

 

 

 

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

 

 

 

闇をも照らす小さくも暖かい太陽が参上した。

 

 

 

バットイマジン『キーッキッキッキッキッキッキッキッ、くらえ!!』

 

デンオウSF「うわっ、ちょっとまて!!───グヘッ!!」

 

 

 

建物の角や看板にぶつけられまくるデンオウSF。

反撃しようにも両腕をガッチリ固定され、反撃できない。

 

 

 

デンオウSF「このっ!離しやがれ!!」

 

バットイマジン『そうゆうなってーの、楽しく夜空のドライブと行こうぜ!』

 

 

 

次も看板目掛けて叩きつけようとした。

 

 

 

サニー「アターック!!」

 

バットイマジン『ぐぁっ!!』

 

 

 

しかし、それはいきなり目の前に飛び出してきたサニーのスパイクによってはたき落とされた。

 

 

 

デンオウSF「おぅ、助かったぜ!関西女」

 

サニー「だから、関西女言うな!!」

 

デンオウSF「は!勝手に名前付けるような奴に言われたかねーよ」

 

サニー「なら、お前の事『ポチ』って呼んだろか?」

 

デンオウSF「だから犬か!!俺は!!」

 

良々『危ない!!』

 

「「!?」」

 

 

 

デンオウSF・モモタロスとサニーが漫才のようなやり取りをしてると良々の意思が危機を察知し心の中で叫ぶ。

モモタロスはそれに気付き、サニーも察知し、避けた。

さっきまでいたアスファルトは粉々に粉砕されていた。

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッキッキッキッ、戦闘中に漫才してんじゃねーよ』

 

 

 

上空からバットイマジンが音波砲を発射していたのだ。

 

 

 

デンオウSF「この蝙蝠野郎!!――今度は確実に仕留めてやらぁ!!」

 

 

 

デンオウSFはデンガッシャーを素早く組み立て、剣にし、勢いよくジャンプして、バットイマジン目掛けてデンガッシャーを振り下ろす。

 

 

 

バットイマジン『おっと』

 

 

 

しかし、バットイマジンはそれを難なく避ける。

そして、着地する動きの止まる瞬間、音波砲を発射。

 

 

 

デンオウSF「ぐあっ!!」

 

 

 

デンオウは避ける事ができず直撃した。

 

 

 

サニー「モモタロス!く、おりゃあっ!!」

 

 

 

サニーも上空にいるバットイマジン目掛けて殴りかかるが、避けられる。

そして、着地の瞬間音波砲が発射され吹き飛ばされた。

 

 

 

サニー「うわぁ!!」

 

 

 

倒れたサニーの元へデンオウSFが駆け寄る。

 

 

 

デンオウSF「おい、大丈夫か!?」

 

サニー「ああ、おおきに」

 

 

 

サニーもこの程度ではやられたりしない。

 

 

 

デンオウSF「おいコラ、蝙蝠野郎!!降りてこい!空なんか飛ぶんじゃねぇ!!」

 

 

 

デンオウSFは上空を飛ぶバットイマジンに向かって叫ぶが、卑怯モットーの奴にとってそんなものは馬耳東風。

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッ、バーカ。蝙蝠が空飛ぶのなんて当たり前だろ?この羽は扇子じゃねぇんだよ。悔しかったらここまでこい』

 

 

デンオウSF「くそ、あん畜生め!!」

 

 

 

デンオウSFがいくら悪態をつこうともそれは負け惜しみにしかならなかった。

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッ、くらえ!!』

 

 

 

再び音波砲を発射しデンオウSFとサニーを狙い撃つ。

 

 

 

デンオウSF「うぉーっ!!」

 

サニー「うぁぁっ!!」

 

 

 

二人は避けて避けて避けまくる。

そして何とか隙を付き物影に隠れる。

 

 

 

バットイマジン『ちっ、隠れたか…』

 

 

 

バットイマジンはデンオウSFとサニーを捜してる間、こちらは作戦会議。

 

 

 

サニー「モモタロス、何とかならへんの?」

 

デンオウSF「あ?バカ言ってんじゃねぇよ。俺空なんか飛べねぇし…」

 

 

 

その通り、デンオウSF・モモタロスの戦い方は離れた相手にダッシュで近付き、直に叩き斬る接近戦の戦闘スタイル。

空を飛ぶ遠距離系相手では分が悪いのだ。

サニーもバレーボールで鍛えたジャンプ力があるが、それでも空中を自在に飛べる相手には敵わない。

 

 

 

サニー「こんな時、なおがおったらなぁ…」

 

 

 

風のキュアマーチなら風を纏ったスピードで建物を足場にして戦えると思ったが、今いないメンバーを頼ってもしかたがない。

第一、自分から行くと言っておきながらこんな早く諦めてどうする。

 

 

 

良々『モモタロス、モモタロス』

 

デンオウSF「ん?」

 

 

 

良々がモモタロスに心の中で語りかけてきた。

 

 

 

デンオウSF「なんだ?」

 

良々『ちょと変わってくれないかな?あなたも心の中で聞いといて』

 

デンオウSF「?」

 

 

 

目付きと瞳の色だけ戻り、意識だけ良々と変わる。

 

 

 

デンオウSF・良々「あかねちゃん…じゃなくて、サニー」

 

サニー「うぉ!良々かい!?」

 

デンオウSF・良々「時間がないから二つ答えて」

 

サニー「?」

 

デンオウSF・良々「あかねちゃんってバレー部よね?」

 

サニー「え?そ、そやけど…?」

 

デンオウSF・良々「あの必殺技の火の玉って一回しか撃てない?」

 

サニー「一回だけ。撃った後は疲れがドッときて動けへん様になってまう」

 

 

 

それだけ聞くとデンオウSF・良々はわずかに口元を上げる。

 

 

 

デンオウSF・良々「十分!私に考えがある。よく聞いて…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バットイマジン『野郎…、何処へいった?』

 

 

 

バットイマジンがデンオウSFとサニーを捜す。

 

 

 

デンオウSF「おい、誰を捜してやがんだ?蝙蝠野郎」

 

 

 

バットイマジンは声のした方を振り向くとデンオウSFがデンガッシャーで軽く肩を叩きながらバットイマジンを見上げていた。

 

 

 

デンオウSF「てぇあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

その場でジャンプ。

バットイマジンに斬り掛かるが、バットイマジンは待たしてもヒラリと避けてしまう。

着地すると同時に音波砲が襲い掛かってくるが、デンオウSFはでんぐり返ってそれを避けた。

 

 

 

バットイマジン『ほう、避けたか…。でも、お前も学習しねぇ奴だな。剣しか振り回せねぇバカが空中戦で俺に勝てるわけねぇだろ?』

 

デンオウSF「何ィ?」

 

良々『気にしないで』

 

デンオウSF「チッ、分かってるよ」

 

 

 

勝つためには我慢も必要。

デンオウSFは怒る気持ちを堪え、逃げる。

 

 

 

バットイマジン『おい、逃げんじゃねぇよ!!』

 

 

 

音波砲を連射し、デンオウSFの背中目掛けて撃ちまくる。

 

 

 

デンオウSF「おい、成功すんのか?」

 

良々『させる。しなきゃ負ける。多分あいつに同じ手は二度通用しない。モモタロスが剣しか振れないバカだと思い込んで、なおかつ自分が空を飛べて有利だと油断しきっている今しかチャンスはない!』

 

デンオウSF「誰がバカだ!」

 

良々『とにかく走って!』

 

 

 

半信半疑のデンオウSF・モモタロスは言われるまま路地を走り続ける。

しばらく歩くとT字路が見えた。

このまま行けば左右に分かれる直線に差し掛かる。

 

 

 

バットイマジン『何をする気だ?』

 

 

 

バットイマジンは不思議に思う最中。

デンオウSFはT字路に差し掛かった時、正面の建物を踏み台にして振り返りながらデンガッシャーを振りかぶり、バットイマジンを横一閃で斬ろうとする。

 

 

 

バットイマジン『バーカ』

 

 

 

しかし、バットイマジンはそれを避ける。

だか、問題無い。

それは作戦の内だ。

バットイマジンがデンオウSFの落下地点をみるとそこにはサニーがいた。

 

 

 

デンオウSF「今だ!!関西女!!」

 

サニー「よっしゃ!こいや!」

 

 

 

サニーは腰を軽く落とし、両手を下の方へと伸ばし、手を組む。

その構えはバレーボールで言うレシーブの構え。

落下するデンオウSFの足の裏をキャッチし、まるでサーカスの曲芸の如く再び空へと舞い上がった。

 

 

 

バットイマジン『なっ…!?』

 

 

 

デンオウSFは呆気に取られるバットイマジンに目掛けて叩き斬る。

 

 

 

バットイマジン『ぐはっ!!』

 

デンオウSF「おっしゃっ!当たったぁ!」

 

 

 

本日初めての攻撃に歓喜を上げるデンオウSF。

 

 

 

サニー「よーし!オーライ、オーライ」

 

 

 

サニーは休む間もなく、デンオウSFの落下地点へと駆け込む。

今度はトスの体制。

デンオウSFはサニーの両手の平に器用に乗り、全身のバネを生かし再び跳び上がる。

 

 

 

デンオウSF「うぉりああああぁぁぁっ!!」

 

バットイマジン『がっ!!』

 

 

 

 

二撃目!三撃目!四撃目!と次々と攻撃を当てられて行く。

 

 

 

 

バットイマジン『くっ、調子に乗るんじゃねぇぞおおおぉぉっ!!』

 

 

 

デンオウSF目掛けてバットイマジンが音波砲を発射しようとする。

 

 

 

デンオウSF「おい、俺だけ見てていいのか?」

 

 

 

デンオウSFの視線の先にはバットイマジンの背後へサニーが跳び上がって身体を後ろへ反らし、右手を後ろの方へと振りかぶる。

 

 

 

サニー「アターック!!」

 

バットイマジン『ぐあっ!!』

 

 

 

バットイマジンの背中にサニー渾身のスパイクが叩き込まれた。

バットイマジンは墜落こそは免れたが、かなり低空へと落とされた。

 

 

 

バットイマジン『ぐぁっ…、ぐぅっ……』

 

デンオウSF「今だ!!決めるぞ!!」

 

サニー「分かっとるがな!!」

 

 

 

サニーはスマイルパクトに力を込める。

 

 

 

サニー「気合いや~!!」

 

 

 

すると上空に小さな太陽の様な火の玉が出現した。

 

 

 

バットイマジン『うっ!』

 

 

 

さすがは蝙蝠といった所だろう。

バットイマジンはその眩しさに目を覆い隠す。

サニーはそんなこと気にせず走り出し、空高く跳ぶ!

 

 

 

サニー「プリキュア!サニーファイアー!!」

 

 

 

キュアサニーの必殺技───『サニーファイアー』が打ち出された。

 

 

 

バットイマジン『くっ』

 

 

 

しかし、バットイマジンは旋回し、それをかわす。

 

 

 

サニー「アカン!外した!」

 

 

 

一回きりの技を外して焦るサニー。

良々の作戦はデンオウSFをバレーボールの様に打ち返し、空中の敵を斬り、弱らせた所でスパイク、敵を低空に落とした後、サニーファイアーを打つ!

良々の説明はここまで。

後は彼女を信じるしかない。

しかし、サニーファイアーが外れた!

 

 

 

バットイマジン『キッキッキッ!当たるかよ!バーカ』

 

 

 

バットイマジンはざまあみろとでも言いそうな表情でサニーに叫ぶ。

 

 

 

 

 <FULL CHARGE>

 

 

 

 

そんな電子音が聞こえた。

バットイマジンが振り向くとデンオウSFはバッターの様に強化したデンガッシャーを構える。

 

 

 

デンオウSF「俺の必殺技・サニーバージョン!!」

 

 

 

そして、

 

 

 

デンオウSF「うぉりあああああああぁぁぁっ!!」

 

サニー「サ、サニーファイアーを…打ち返したぁ!?」

 

 

 

サニーファイアーはバックスクリーンであるバットイマジン目掛けて一直線に向かって飛ぶ。

サニーファイアーを利用した二重の攻撃。

 

 

 

サニー「いける!これなら当たる!」

 

 

 

サニーが喜びの声を上げる。

しかし、───

 

 

 

バットイマジン『くおっっ』

 

サニー「え!?」

 

 

 

しかし、バットイマジンはそれさえも避けた。

 

 

 

サニー「そんな…」

 

 

 

 

 

サニーが絶望し、膝を着く。

 

 

 

バットイマジン『キッ………キッキッキッキヒャヒャヒャヒャヒャ、バーカバーカ、何してんの~!?当たらなきゃ意味ねーんだよ。バーカバーカバーカキヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ』

 

 

 

 

馬鹿にするバットイマジンにサニーは悔しさのあまり唇を噛むが、そんなバットイマジンをデンオウSFはニャッと笑い。

 

 

 

 

 

 

デンオウSF「バーカ……、───てめぇがなぁっ!!!」

 

バットイマジン『あ?』

 

 

 

バットイマジンは、初めは意味が解らなかったが、その答えにすぐに気がついた。

 

 

 

バットイマジン『あ、あ…あ…あああ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デンガッシャーの“切っ先がない”。

 

 

 

バットイマジン『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!?』

 

 

 

 

あわてて振り向くがもう遅い!

ズバッとバットイマジンの片翼が切り裂かれた。

 

 

 

バットイマジン『うわっ!!』

 

 

 

見るとデンガッシャーの刃は炎を纏っており、バットイマジンのもう一方の片翼も切り裂いた。

 

 

 

サニー「そうか!打ち返した時、切っ先もサニーファイアーの中に隠して打ち返してたんやな!!」

 

 

 

サニーの言った通り、打ち返し、そしてさらに、見えない様に刃を隠しながら万一外した時の為に備えてた。

いわば三重の攻撃。

炎を纏い赤く燃えた赤い刃はデンオウのスイングで真上に上がり、力強く振り下ろすと同時に刃も勢いよく落下。

 

 

 

バットイマジン『クソッ!!俺が…この俺が…こんな…こんなクソガキ共に…二度も……!!』

 

 

 

必死で手足をばたつかせるも、もはや羽を失った蝙蝠は重力に抗えず墜落する。

射出された刃はバットイマジンの墜落と同時に大きく大地を抉り、バットイマジンを斬り裂く。

 

 

 

バットイマジン『ぐわあああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

 

 

バットイマジンは今度こそ断末魔の悲鳴を上げ、爆発した。

 

 

 

デンオウSF「ふっ、決まったぜ…」

 

サニー「やった…」

 

 

 

サニーも緊張の糸が切れ、脱力する。

 

 

 

デンオウSF「ほらよ」

 

サニー「!」

 

 

 

上からデンオウSFが手を差し延べる。

 

 

 

サニー「おおきにな」

 

 

 

サニーはその手をつかみ立ち上がる。

 

 

 

サニー「中々やるやん」

 

デンオウSF「お前も…いや、お前らもな。あかね、良々」

 

 

 

 

デンオウSFは二人の名を初めて口にする。

そのまま意気揚々と帰ろうとする。

その後ろではバットイマジンの残骸が砂となって崩れ始めていた。

しかし様子がおかしい。崩れた砂が増えてゆく。

 

 

 

 

デンオウSF「ッ?」

 

サニー「何や…?」

 

 

その事に気が付いた二人は即座に振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────むか~しむかし、動物と鳥が戦争をしていた時の事でした。

蝙蝠は、戦いの様子を見て、動物の方が勝ちそうになると、

「私はネズミに似ているから動物の仲間です」

と言って動物の味方に付きました。

しかし、動物が負けそうになると、

「私には翼があるから鳥の仲間です」

と言って鳥の方に寝返りました。

そのうち動物と鳥は仲直りしました。

しかし、蝙蝠はどちらにもいい顔をした卑怯者だと、動物からも鳥からも仲間はずれにされてしまいました。

 

 

では自分がお日様の下を飛ぶにはもう、自分が食べてきた虫どもの仲間になるしかないではないか──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サニー「何や…あれ?」

 

 

 

振り返ったサニーの呟きが夜の空に吸い込まれる。

バットイマジンの残骸だった砂は急速に増大、集合し、天へ吸い上げられてゆく。

砂竜巻から三本の槍の様な突起が飛び出す。

それは一見、コーカサスオオカブトに見えたが、獣の様な頭部に巨大に三本大きく突き出したクワガタムシの様なアゴ、節足の足は鳥の様な足、その足の間の腹から4連の蜂の腹部、黒光する身体からは毛や羽毛が所々生え並び、透明な後ろ羽根は蝙蝠の翼の魔虫───『ギガンデス・キマイラ』が出現した!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ギガンデス・キマイラ『GIIIIIIIIIIIIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』

 

デンオウSF「何だ?こりゃ…」

 

ハナ「イメージが暴走した!気をつけて!!」

 

サニー「気をつけるって…どないすんねん!!」

 

 

 

ハナの叫びに、サニーが割と冷静に状況を判断する。

絶叫と共に腹部の節足の間にある蜂の腹から機銃掃射のように針が打ち出され、デンオウSFとサニーの周囲に降り注ぐ。

 

 

 

ギガンデス・キマイラ『GIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

デンオウSF「しっかりつかまってろよ!!振り落とされんな!!」

 

サニー「うわっ!!」

 

 

 

爆風によろめきながらデンオウSFはサニーを連れてデンバードに跨がり走り出す。

 

 

 

サニー「一体、どないすんねん!?相手あんなでかくなって確実にパワーアップしてもうたやん!!あんなんにどないしたら勝てるちゅうんや!!!」

 

 

 

デンオウSFの『俺の必殺技』では、あそこまで巨大化した相手を斬れるとは思えない。

サニーは必殺技を放ち、ばてばての状態。

しかしデンオウSFの方は、信じられないことを言ってのけた。

 

 

 

デンオウSF「デカいもんにはデカいもんに決まってるだろ!」

 

 

 

サニー「はぁ!?」

 

 

 

乱れ飛ぶ針をすり抜けながら一気に加速してジャンプ。

後方から駆けつけたデンライナーの先頭車両の屋根が展開し、運転室に格納された。

 

 

 

サニー「え?何?何するつもりや?」

 

 

 

運転席となったデンバードの赤いボタンに触れる。

ディスプレイに

 

 

 

 <Mode GOUKA>

 

 

 

の文字が浮かび上がる。

そして爆炎の中、客車を切り離した。

デンライナーの先頭車両五台が、『戦闘車両』へと変形した。

一号車からは四連砲塔『ゴウカノン』がせり上がる。

二号車は車体がスライドし、大型ミサイルランチャー『ドギーランチャー』が口を開ける。

三号車が開いた車体からは爆弾投擲機『モンキーボマー』が出現。

四号車から立ち上がった「止り木」からは誘導カッターミサイル『バーディーミサイル』が姿を見せた。

大通りへ出たところで急カーブ。

線路が悲鳴を上げ、デンライナーがドリフト。

 

 

 

デンオウSF「なんでもいい!!ブチ込めェェッ!!」

 

サニー「ええぇぇぇ!?」

 

 

 

そこから正に『業火』の名に相応しい一斉放火が放たれた。

一号車のゴウカノンが牽制射撃し、

二号車が連射する大型ミサイル『ドギーバーク』がギガンデス・キマイラに襲い掛かる。

三号車からバラまかれる巨大爆弾『モンキーボム』の爆炎の中をもがくギガンデス・キマイラ。

四号車から飛び立った『バーディーミサイル』がギガンデス・キマイラの胴体を真っ二つに切り裂きギガンデス・キマイラは完全に消滅した。

 

 

 

デンオウSF「ふぅ、やったぜ…」

 

サニー「ホンマむちゃくちゃやなぁ、お前…」

 

デンオウSF「へ!そいつはどう、も」

 

良々『モモタロス、ちょっといい?』

 

デンオウSF「あ?」

 

 

 

デンオウSFとサニーは変身を解除し、外に降りる。

 

 

 

良々「よいしょっと…」

 

ハナ「良々ちゃん、あかねちゃん何する気なの!?」

 

 

 

ハナはデンライナーの外で倒れたテツオに肩を掛ける二人に問う。

自分たちも過去を変えたら未来が変わるかもしれないのだ。

 

 

 

良々「大丈夫、ほんのちょっとだけ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

良々「羽黒先輩…羽黒先輩…」

 

あかね「いや、この場合ウチらの方が年上やし、テツオ君の方が…」

 

 

 

 

 

 

───誰?

テツオは意識が戻り、目を開けた。

目の前には二人の少女がいた。

 

 

 

テツオ「うわっ!誰だ!?アンタら!」

 

良々「え?あー、私達は…未来の後輩です」

 

テツオ「?」

 

あかね「とにかく、君のお母さんが大変なんや!」

 

テツオ「母さんが!!?」

 

 

 

周囲を見るとそこはテツオの母親の入院している病院。

 

 

 

テツオ「母さん!!」

 

テツオの母「………テツオ?」

 

 

 

テツオの母は既に危篤状態。

それでもテツオにクリスマスプレゼントを最期の力を振り絞り手渡す。

 

 

 

テツオの母「立派な大人になるのよ……」

 

 

 

その言葉を残し、静かに息を引き取った。

それを見届けた二人はデンライナーに乗車し、現代に帰って行った。

しかし、そのデンライナーを離れた場所で眺めていた二人の人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???『良かったの?私達も助けにいかなくて』

 

???「ああ、今はデンオウに任せておく。俺達の出る時じゃない。それに、あの程度の敵に負ける様じゃ…この先の戦い、勝ち残れない。―――そろそろ行くぞ」

 

???『はーい』

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

ウルフルンの侵略も無事に食い止め、帰る頃は戦いは終わっており、街も何事もなく修復されていた。

無差別殺人のニュースもなかった事になっており、何事もなくめでたしめでたし、ハッピーエンド。

ちなみにテツオはというと、母親の最期の言葉『立派な大人』になるため、素行は悪くなくなり、部活や学校行事にも積極的に取り組む様になった。

テツオがぐれた理由は母親の死に目に立ち会えなかった事が原因だったのだろう。

未来は代わらなかったが、テツオの心は変わった。

そして、皆はデンライナーに集合していた。

 

 

 

ハナ「時の運行は、守れたみたいね」

 

 

 

良々に向かって、ハナが言った。

 

 

 

ハナ「これからもバッドエンド王国からイマジンは次々と来る。もう一度訊くけど、デンオウとなって戦ってくれる?」

 

 

良々「未来を守る戦い、か…。思ってたより重たいかも知れないわね…。でも、やってみせる。私にしか出来ないっていうんなら、尚更…」

 

 

 

良々は腕を伸ばし、握る様に拳を作る。

 

 

 

良々「ラッキー・イン・マイ・ハンド!!」

 

みゆき「何それ?どう言う意味?」

 

良々「幸運の星をつかむためのおまじない。お父さんが教えてくれたの」

 

モモタロス『それより良々。俺との契約。早く言えよ』

 

 

 

キッチリ覚えていたモモタロスが、彼女に再び問いかけた。

 

 

 

良々「ちょと考えたんだけど。望み決まったわよ」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

ハナ「ちょっと!!」

 

モモタロス『おっ!何だ?何だ?』

 

 

 

良々のとんでも発言にその場にいた皆が驚愕し、大慌てする。

モモタロスはやっと解放される事に期待していた。

 

 

 

 

良々「私の望みは…

 

モモタロス『うんうん!』

 

良々「なーい~しょ♪」

 

 

 

ズコーッと冷静なれいかを除いて、皆すっころんでしまった。

 

 

 

モモタロス『なんだそりゃあ!?内緒ってお前!結局言わねぇのと同じじゃねぇかぁ!!』

 

良々「今は内緒って事。その内言うから」

 

モモタロス『そりゃねぇだろ…』

 

 

 

ガックリとうなだれるモモタロス。

 

 

 

ナオミ「コーヒー出来ました♪」

 

モモタロス『あ、出来た?とにかく、もっとマシな契約を考えろ!いいな?(ごくっ)アチッ!!』

 

 

 

呆気に取られながらも、楽しそうに笑うハナやみゆき、あかね、やよい、なお、れいかを目尻に良々はモモタロスとの口論を始めていた。

モモタロスの契約が果たされる日はまだまだ遠い様だ。

 



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茶釜狸と南瓜魔女

 

 

野上宅

 

 

 

 

良々「〜♪〜〜♪」

 

 

 

良々は休日を利用して机で裁縫をしていた。

鼻歌を歌いながら楽しそうだ。

 

 

 

モモタロス『よう、良々。ヒマだから遊びに来てやったぜ』

 

 

 

すると、モモタロスが机の横に現れた。

 

 

 

良々「あ!モモタロス。もう、いきなり人の部屋にはいって来ないでよ」

 

 

 

良々の方は合図も無しに入られた事に少し迷惑する。

 

 

 

モモタロス『え!ここ、お前の部屋!?』

 

 

 

キョロキョロと見渡し一言。

 

 

 

モモタロス『牢獄?』

 

良々「お前失礼だな!!」

 

モモタロス『だって何も無いじゃん』

 

 

 

良々の部屋は地味でセンスがない。

そして、これといって個性がない。

 

 

 

モモタロス『つーか、普段ここで何してんだ?お前。瞑想?』

 

 

 

この砂怪人は私を女してと見てないのか、女への気遣いというか女への礼儀を知らないのか…。

おそらく両方だろう。

 

 

 

良々「普段家にいる時は勉強。いらないモノがない様しっかり整理してるの」

 

モモタロス『ふ〜ん。で、今勉強してんのか?』

 

良々「いや…」

 

 

 

そう言うと針を動かし最後の仕上げに掛かる。

 

 

 

良々「で〜きた」

 

 

 

あらかじめ用意していた小さなスコップを取り出すとモモタロスをスコップですくい、縫った物の中に詰め込み始めた。

 

 

 

モモタロス『え?おい!何すんだ!?』

 

 

 

すべてぎゅうぎゅうに入れ終わるとチャックをしめる。

 

 

 

モモタロス『おい!何してんだ!?』

 

 

良々「おお!ピッタリ入った」

 

 

 

鏡の前に持ってくるとそれはモモタロスをディフォルメした二頭身のぬいぐるみだった。

 

 

モモタロス『なんだこりゃー!!』

 

 

 

モモタロスは訳の解らないぬいぐるみみ押し込まれて驚いていた。

 

 

 

「いやー、私もキャンディみたいな妖精が欲しかったから…。でも中々よ」

 

 

 

しかし、モモタロスは不満なようだ。

 

 

 

モモタロス『どうせだったらもっとでかくてカッコイイのにして欲しかったぜ。こんなアニメキャラクターみたいな奴じゃなくてよ』

 

良々「あまりでかくしすぎると鞄に入らなかったり、先生や他の生徒に見つかるでしょ」

 

モモタロス『おい!もしかして、お前が通ってる学校ってゆう場所に連れていく気か?』

 

良々「結構楽しいわよ」

 

モモタロス『けっ、学校って難しい話聴く所だろ?俺は退屈だな』

 

良々「ははは、モモタロスはすぐに居眠りしそうね」

 

 

 

良々は笑いながら、後で食べる為に持ってきたプリンを開封する。

 

 

 

モモタロス『あのな、前から思っていたがモモタロスって、俺はその名前…ん?何だ?その食いモン』

 

 

良々「プリンよ。一口食べる?」

 

 

 

スプーンですくってモモタロスに食わせる。

 

 

 

モモタロス『うぉっ!!めっちゃくちゃ甘くてうめぇ!!』

 

良々「そう?」

 

モモタロス『おい!もっとくれ!!そのプリンってやつ』

 

良々「ダメ、後は私の分」

 

モモタロス『いーじゃねーか!くれ!』

 

良々「ダ〜メ、プリンは私の好物なの!」

 

 

 

その後しばらく、良々はモモタロスとプリンの取り合いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッドエンド王国

 

 

ウルフルン「クソ!あのバカ蝙蝠め!!」

 

 

 

ウルフルンは苛立っていた。

腹いせに壁に拳を打ち付けて、怒りをぶつけていた。

 

 

 

???「おやおや、壁に八つ当たりとは、何ともまぁ…子供じみた真似を…」

 

 

 

フッフッフッと傘を持った全身白色の侍風な男がウルフルンを嘲笑う様に言った。

 

 

 

ウルフルン「キタカゼ…!」

 

 

 

ウルフルンはキタカゼを睨む。

 

 

 

キタカゼ「そう、睨まないでください」

 

 

 

キタカゼは表情こそはわからないが、ウルフルンを笑いに来たことは確かだろう。

 

 

 

ウルフルン「そもそも、お前のとこの研究施設の警備がもっと厳重ならベルトとパスは奪われなかったんだ!!」

 

キタカゼ「そういうあなたこそ、そのベルトとパスを使い…我々を出し抜こうとしたのではありませんか?フッ、盗っ人猛々しいとは正にこの事…」

 

ウルフルン「んだと?一端の研究員が三幹部の俺様に向かって偉そうに…」

 

 

 

ガルルルルとウルフルンは唸り声を上げて威嚇するがキタカゼはどこ吹く風。

すると、パンパンと手を叩く音が響いて透き通ったソプラノボイスが聞こえてきた。。

 

 

 

???「三幹部?ろくに成果を上げられないうえ、アタシが試作で作ったイマジンをダメにしちゃって…」

 

ウルフルン「ハロウィッチ…!」

 

 

 

続いて出てきたのはハロウィンのカボチャの被り物に大きな三角帽子をかぶり、マントのようなブカブカコートを羽織った女・ハロウィッチ。

 

 

 

ハロウィッチ「まぁ、一体は裏切ったって聞くし、こちらの人選ミスだったわ。次はアタシに任せてちょうだい♪」

 

 

 

カボチャの中でクスリと笑うと、踵を返し一つの光の玉と一緒に地球へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

あかね「ぶあっはっはっはっはっはっはっはっ!!似とる似とるっはっはっはっはっはっっ!!」

 

 

 

次の日の月曜の昼休み。

良々は4人にモモタロスの二頭身のぬいぐるみを見せた。

あかねは、かなり似ていたのかウケが良かった。

 

 

 

モモタロス『笑い過ぎだ。コラ』

 

 

 

モモタロスは何だかんだ言ってぬいぐるみの中に入っている。

あんな狭いデンライナーの食堂車に乗ってるより外の世界の方が伸び伸びできるからだ。

初めはハナに反対させられたが、良々とキャンディが互いに見張っているという条件で妥協された。

 

 

 

キャンディ「キャンディにお友達ができたみたいクル」

 

 

 

キャンディとは大体同じ大きさなのでよく引っ付いてくる。

 

 

 

モモタロス『気安く触んな。キャンドル』

 

 

キャンディ「キャンディクル!」

 

 

 

モモタロスはしつこくかまってくるキャンディが鬱陶しかったが、あまり何も言わなかった。

キャンディはすぐ泣くので、モモタロスも扱いには困っているのだ。

 

 

 

モモタロス『にしても、学校なんて…どんな所かと思ったらホント退屈だな』

 

良々「そんなことないわよ!皆とお弁当食べる時間とかだって、楽しいし」

 

モモタロス『だけど、もっと体動かせるような場所ないのか?欲求不満がクライマックスだぜ』

みゆき「じゃあ、帰りに部活見学していかない?」

 

モモタロス『部活?何だそりゃ?』

 

なお「クラブ活動の事。今日は体育の時間がなかったけど、部活なら体動かせると思うわよ」

 

 

 

なおの提案に帰りは皆で運動部の活動を見ることにした。

 

 

 

良々「そういば、れいかさんは?」

 

やよい「れいかちゃんは生徒会のお仕事よ」

 

良々「ああ、生徒会副会長だっけ?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

一方場所は変わって生徒会室そこでは入江生徒会長、れいかが書類などを見直して会議していた。

 

 

 

 

 

入江「───以上で会議を終了します」

 

 

 

そして、昼休みも終了間際になって、入江会長が資料を閉じて会議をお開きにした。

れいかは男子にモテモテに対し、入江会長は女子に人気がある。

しかし、気取り気が無く誰にも優しく、礼儀正しい。

まさに男のれいかと言った所だろう。

入江会長は一足先に生徒会室を出て自分の教室へ向かっていく。

 

しかし、その生徒会室の前で光の球が怪しく輝く。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

放課後、ソフト部グラウンド

 

 

 

M良々「ぬぅうぉりゃあああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

カキンと気持ちのいい音を立ててボールをグラウンドの彼方へと打ち飛ばした。

 

 

 

「そんな…打たれた…、私の全力投球が…」

 

「部長!!しっかりしてください!!」

 

 

 

マウントに両手両膝をついてうなだれるこのソフト部のエースでもある部長。

 

 

 

M良々「んー、まあまあだな…」

 

 

 

モモタロスの取りついたM良々がバットで軽く肩を叩きながら満足そうな笑みを浮かべる。

最初、良々はモモタロスに体を預けて、ソフトボールの練習中に一発打たせてくれと駆け込んできた。

部長は困惑しながらも親切に投げようとしたが、M良々の一言がまずかった。

「要するにこの棒でその球ぶっ叩きゃいいんだろ?簡単だぜ」

その一言で部長の闘志に火が付き、そんな甘くない事を思い知らしてやろうとした。

しかし、結果は惨敗。

5球も投げたが5球とも場外ホームラン。

 

 

 

M良々「しかし、あかねの火の玉に比べりゃまだまだだな」

 

良々『最後はダメだし!?』

 

 

 

心の中で良々はその部長を大いに憐れんだ。

 

 

 

部長「認めない…───けど、是非我がソフト部に入って貰いたい!!入部して!!」

 

良々「す、すいません…、私色々多忙でして…部活はちょっと…」

 

 

 

モモタロスの実力に惚れたのか部長は良々の手を取り、勧誘するも良々は丁重に断る。

なぜなら、デンオウの事もあるが、この前に剣道部を見学した時。

モモタロスは竹刀を持った事で勢いづいたのか、剣道部員を怪我こそはさせなかったものの全員叩かれ過ぎて、トラウマを植え付けてしまったからだ。

ソフト部に入って乱闘でも起こしたらたまったものではない。

良々はれいかを除いた皆の元へと戻る。

 

 

 

みゆき「凄いねー、あんな速い球打ちゃうなんて…」

 

 

モモタロス『なーに、大した事ねーよ』

 

 

 

鞄から出たモモタロスのぬいぐるみは大きく胸を張る。

 

 

 

モモタロス『ん?』

 

やよい「どうしたの?」

 

モモタロス『良々、匂わねぇか?』

 

良々「え!?そんな汗くさい!?」

 

モモタロス『バカ、違う!!これは…

─────イマジンだ』

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

時を同じくしてれいか。

放課後も生徒会の仕事を終え、下駄箱を開けようとしたその時、

 

 

 

「キャアアアアアアッ!!」

 

 

 

突如、女の子の悲鳴が聞こえた。

れいかは何事かと思い声のした方へと向かう。

悲鳴の音源は渡り廊下の方だった。

れいかの目に飛び込んで来たのは俯せに倒れている女子生徒。

そして、

 

 

 

 

れいか「茶釜?」

 

 

 

そう、茶道などでお茶を煎れる時に使う茶釜。

しかもデカイ。

その茶釜の下から手足が生えて、さらにポコンと目の回りに隈のある顔が飛び出た。

 

 

 

れいか「タ、タヌキ!?」

 

???『そうなのだ』

 

 

 

れいかは一瞬呆気に取られたがすぐ気付いた。

あのタヌキから直感的に感じるこの雰囲気。

 

 

 

れいか「あなた、イマジンですか?」

 

???『お、ぶくの事を知っているなんて…お前こそ何なのだ?』

 

 

 

このイマジンは『ラコーンドックイマジン』───『分福茶釜』のタヌキをイメージして実体化したイマジン。

 

 

 

れいか「私は七色ヶ丘中学生徒会副会長、青木れいかです」

 

 

ラコーンドックイマジン『ん?生徒会…?』

 

れいか「それよりあなた!」

 

ラコーンドックイマジン『ん?』

 

 

 

れいか「その子は何故倒れているのですか?」

 

 

 

 

れいかはゆっくりと低い声で問いながらラコーンドックイマジンを睨む。

 

 

ラコーンドックイマジン『決まっているのだ。コイツには契約の為、潰れて貰ったのだ』

 

れいか「なんて事を…」

 

 

 

れいかはたったそれだけの為に生徒を襲った事に当然の如く怒りを覚えた。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『しかし、副会長か…。なら、お前もターゲットなのだ』

 

れいか「(ターゲット?)それはどういう事です?」

 

 

 

れいかはラコーンドックイマジンの言った言葉に疑問を抱くが、ラコーンドックイマジンは柄杓のハンマーを取り出し、れいかに襲い掛かる。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『くらうのだ!!』

 

 

 

れいかはとっさに避けるも後ろの壁を粉砕した。

 

 

 

れいか「くっ!(ここでは戦えません…)」

 

 

 

遠くの方で何人かの生徒が気付いたらしく、足音がだんだんと近づいてくる。

自分が狙われているとわかれば、他の生徒を巻き込まない為に学校の外に連れ出すしかない。

れいかは走り出した。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『あ、待つのだ!』

 

 

 

ラコーンドックイマジンは四肢と頭を引っ込め、茶釜となり、ポンポンと鞠のように弾みながられいかを追いかけて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、しばらくして良々達が来た。

渡り廊下に到着した時には幾人かの生徒か教師が倒れた女子生徒を介抱し、辺りを調べていた。

 

 

 

みゆき「イマジンは?」

 

良々「いないみたいね」

 

モモタロス『だか、匂いは残ってる。そう遠くへは行ってねぇはずだ』

 

 

みんなはモモタロスに従いイマジンの後を追う。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

七色ヶ丘中学から少し離れた空き地。

 

れいか「ここなら…」

 

 

 

上履きのまま塀を飛び越え、走り出してきたが今はそんな事気にしてる場合ではない。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『ふん!わざわざこんな人気のない場所に逃げ込んでようやく観念したのだか?』

 

 

 

ラコーンドックイマジンは得意げにいうが、れいかはいたって冷静。

 

 

 

れいか「いえ、ここなら遠慮なくあなたと戦えます」

 

 

 

れいかはスマイルパクトを取り出し、水色のキュアデコルをセットする。

すると、『レディ』の音声の後叫ぶ。

 

 

 

れいか「プリキュア・スマイルチャージ!!」

 

 

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!・Beauty』

 

 

 

れいかはパフにふー、と息をかけると輝く冷気が彼女の身体を取り囲み水色の衣装に、髪は水色に染まり後方へ伸びる。

最後にパフを両頬に当てて変身完了。

 

 

 

れいか「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!!」

 

 

 

優しく透き通る心を持った戦士が降り立った。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『な、プリキュアだったのだか?お前!』

 

ビューティ「行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくしてようやく良々達はれいかの元へと駆けつけてきた。

 

 

 

みゆき「いた!」

 

キャンディ「ビューティが戦ってるクル!!」

 

 

 

ビューティはラコーンドックイマジンに何発も拳を繰り出していたが、ラコーンドックイマジンはまったく効いていない。

 

 

 

ビューティ「なんて硬い身体…」

 

ラコーンドックイマジン『ポンポコポーン、ぶくの体は鋼鉄製の茶釜なのだ。その程度の攻撃などいくらでも耐えられるのだ』

 

 

 

ポンポンと茶釜の腹を叩く。

 

 

 

みゆき「みんな行くよ!!」

 

あかね「おし!」

 

やよい「うん」

 

なお「ええ!」

 

良々「わかった!」

 

 

 

みゆき、やよい、あかね、なおはスマイルパクトを開き、それぞれ変身。

良々もベルトを腰に巻き、赤いボタンを押してパスを横切らせる。

 

 

 

「「「「プリキュア・スマイルチャージ!」」」」

 

「変身!」

 

 

 

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!』

 

 <SWORD FORM>

 

 

 

 

みゆき「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

 

あかね「太陽さんさん熱血パワー!キュアサニー!」

 

やよい「ぴかぴかぴかりんジャンケンポン♪キュアピース!」

 

なお「勇気りんりん直球勝負!キュアマーチ」

 

M良々「俺、参上!」

 

 

 

それぞれの登場台詞が終わるとデンオウはデンガッシャーを組み上げる。

 

 

 

デンオウSF「行くぜ行くぜ行くぜーっ!!」

 

 

 

組み上がるのと同時に先頭切って走りだす。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『ぬおっ!デンオウ!?』

 

ビューティ「皆さんも」

 

 

 

援軍が来てくれた事に少し安堵するビューティだったが、デンオウSFの周囲にバスケットボール程の大きさの赤いエネルギー弾が着弾した。

 

 

 

デンオウSF「うおっ!」

 

プリキュア「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

 

全員が驚く中、現れたのは杖を持ったハロウィッチだった。

 

 

ハッピー「なっ、何?」

 

 

ラコーンドックイマジン『あなたは…』

 

 

デンオウSF「てめぇは…!!」

 

 

 

ハロウィッチの登場に各々の反応をした。

 

 

 

ハロウィッチ「初めまして、アンタがデンオウそしてアンタ達が伝説の戦士プリキュアね。アタシの名前はハロウィッチ」

 

 

 

ハロウィッチは当たりを見回し、確認する様に言う。

 

途中キャンディにも視線を向けると、キャンディは怯えてハッピーの背中に隠れる。

 

 

 

デンオウSF「よう、カボチャ女。俺は取りあえず久しぶりって言っとこうか?」

 

ハロウィッチ「あら?アンタなの?裏切り者のイマジン…」

 

デンオウSF「裏切り者?俺はお前らに付いたつもりも覚えもねェ!」

 

ハロウィッチ「フン、粗悪ね」

 

デンオウSF「あ?」

 

 

 

ハロウィッチとデンオウSFのただならぬ雰囲気にまず割って入ったのはマーチ。

 

 

 

マーチ「モモタロス、知ってるの?」

 

 

 

しかし、それに答えたのはハロウィッチだった。

 

 

 

ハロウィッチ「知ってるも何も、イマジンはアタシが作ったのよ」

 

ピース「作っ…た?」

 

ハロウィッチ「そう、いわばアタシはそいつの産みの親つまりお母さんってワケ」

 

「「「「「『お母さんんっ!!!?」」」」」』

 

デンオウSF「言葉のアヤだ、バカ」

 

 

 

その場にいた全員が口をあんぐりと開け驚く。

 

 

 

デンオウSF「てめぇみたいなのが母ちゃんだったら、俺はグレるな」

 

 

 

デンオウSFは皮肉気に言った。

 

 

 

ハロウィッチ「はっ!やっぱりアンタは駄作ね。それにモモタロスなんてダッサい名前付けられて、人間ごときに飼い馴らされて、呆れを通り越して哀れね」

 

 

デンオウSF「…ッ!!」

 

 

 

デンオウSFは少し動揺するも。

 

 

 

デンオウSF「うるせえ!!俺は世界がバッドだろうがヘッドだろうが関係ねぇ!ただかっこ良く戦えりゃそれでいいんだよ!」

 

ハロウィッチ「ヘッドがバッドなのはアンタの方じゃないの?」

 

デンオウSF「どういう意味だ?」

 

 

 

デンオウSFがハッピーに顔を向けて訊いた。

 

 

 

ハッピー「頭が悪いって事じゃないかな?」

 

デンオウSF「何ぃ!?もういっぺん言ってみ…がはっ!!」

 

 

 

最後まで言わないうちにエネルギー弾を撃たれ吹っ飛ばされた。

 

 

 

サニー「モモタロス!!」

 

ハロウィッチ「人の事心配してる場合かしら?」

 

 

 

ハロウィッチは次々とエネルギー弾を放ち、プリキュアを攻撃する。

しかし、全員咄嗟に避けた。

全員思わぬ敵の登場に驚くも気を引きしめる。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『あ、見てる場合じゃないのだ。今の内に逃げちゃお』

 

 

 

一方ラコーンドックイマジンは自分の契約を果たすまでやられるわけにはいかないのでコソコソと逃げようとする。

 

 

 

良々『モモタロス、イマジンが逃げる』

 

デンオウSF「なに!?逃がすか亀狸!!うぉっ!」

 

 

 

慌てて飛び起きイマジン目掛けてダッシュするが、ハロウィッチはエネルギー弾をデンオウSFの足元に撃って動きを制する。

 

 

 

ハロウィッチ「アンタ達の相手はアタシよ」

 

デンオウSF「チッ!カボチャ女が…!!」

 

 

 

デンオウSFが悪態をつくがハロウィッチは強かった。

まず最初に飛び出したハッピーの拳を難無く避け、サニーやマーチのパワーやスピードを受け流し、返り討ちにする。

ビューティやピースの攻撃も通用せず、デンオウSFは持ち前のスピードで斬り掛かるが杖で迎え撃つ。

 

 

 

ハロウィッチ「動きはスマートとは言い難いけど、力強い動き…だけど、それだけじゃアタシには敵わないわ」

 

 

 

ハロウィッチは杖を華麗に振るい、相手の力を利用して剣筋をそらし、反撃する。

 

 

 

ハロウィッチ「はっっ!!」

 

デンオウSF「ぐあっ!!」

 

 

 

長い杖で鳩尾を突かれたデンオウSFは吹き飛ばされゴロゴロところがった。

 

 

 

ハッピー「モモタロスさん」

 

デンオウSF「くそっ!!」

 

良々『モモタロス、大丈夫?』

 

デンオウSF「ああ、どうってことねぇよ」

 

 

 

むくりと起き上がる。

ハロウィッチはフフッと笑うと杖を下ろした。

 

 

 

ハロウィッチ「やーめた」

 

 

 

まるで気まぐれな子供みたいに言った。

 

 

 

デンオウSF「何!?」

 

ハロウィッチ「あのイマジンは充分逃がしたし、アンタ達いじめるのはまた今度にするわ」

 

 

 

ハロウィッチがエネルギー弾を放ち、爆風がおさまるとその姿はもう無かった。

 

 

 

ハッピー「逃げられた…」

 

デンオウSF「くそ!!」

 

 

 

デンオウSFは悔しさのあまり地面を蹴飛ばした。

 



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オーナー

良々、みゆき、あかね、やよい、なお、れいかは帰りデンライナーの食堂車に集まっていた。

 

 

 

モモタロス『くそ!!あのカボチャ女!!』

 

 

 

モモタロスはよほど悔しかったのか怒り心頭でテーブルを叩く。

 

 

 

ハナ「やめなさいよ!!今はあのイマジンを何とかしないと…」

 

 

みゆき「それもそうですね」

 

 

 

ハナの言葉にみゆきは同意する。

 

 

 

やよい「れいかちゃん、あのイマジンはれいかちゃんに襲い掛かってきたの?」

 

れいか「ええ、契約内容まではわかりませんでしたが、私が生徒会副会長だと相手は知ると襲い掛かってきました」

 

 

 

やよいの質問にれいかはその通りに言った。

 

なお「でも、手掛かりがそれだけじゃあ…ねぇ…」

 

 

 

なおが頭を悩ます。

 

 

 

良々「れいかちゃん、失礼は承知で言わしてもらうけど……誰かに恨みを買うって事は……」

 

 

れいか「!?」

 

「「「「良々ちゃん!!!」」」」

 

みゆき「ありえないよ!!れいかちゃんに限ってそんな事!!」

 

 

 

生徒会副会長に恨みを持ち、仕返しするそんな願いかと良々は考えた。

しかし皆はそれを否定する。

 

 

 

良々「そ、そうね。ゴメン…」

 

れいか「いえ、こんなわたくしでも知らず知らずの内に人に迷惑を掛けているかもしれません。可能性はないとは言い切れないでしょう…」

 

 

 

皆が再び思考に入ろうとすると、そこへ極彩色の泡を浮かべたコーヒーが全員分運ばれてきた。

 

ナオミだ。

 

 

 

ナオミ「考える時にはコーヒーどうぞ♪頭がスッキリしますよ♪」

 

良々「あれ?ナオミさん。私たち注文していませんよ?」

 

ナオミ「オーナーからの差し入れです♪」

 

あかね「オーナー?」

 

 

 

聞き返すあかね。

 

 

 

???「なんか賑やかですね~」

 

 

 

車両の後方から陽気な声が聞こえ、皆が一斉に振りかえる。

初老の男は読んでいた英字新聞をしまいながら告げた。

 

 

 

オーナー「あ、ナオミ君。私にはいつもの、お願いします」

 

ナオミ「ハーイ♪」

 

 

 

立ち去るナオミ。

オーナーと呼ばれた初老の男は、柔和で不敵な笑みを浮かべながら7人と妖精1人、イマジン1体を見やる。

それを受けてハナが、良々達に簡単な紹介をした。

 

 

 

ハナ「彼がこのデンライナーのオーナー。私はあの人と契約して、イマジンを追ってるの」

 

みゆき「え?契約って…あの人イマジン?」

 

ハナ「違う違う」

 

 

 

ハナが手を振って否定する。

 

 

 

モモタロス『まぁ、どちらかっ…つうとこの女の方が怪物じみてるって──へぶっ!』

 

 

 

殴られた。

 

 

 

ナオミ「ハイ、どーぞ♪」

 

 

 

ナオミがオーナーに差し出したのは、デンライナーマークの旗付きピラフ。

 

 

 

オーナー「んん~っ、今日の旗もいいですねぇ~。この旗を最後まで倒れないように食べるのが、私の醍醐味なんですよ」

 

 

 

スプーンを手刀で跳ね上げ、オーナーは棒倒しの要領でピラフを食べ始めた。

 

 

 

良々「あの…オーナーさん」

 

オーナー「呼び捨てで結構ですよ?」

 

良々「オーナー、一つ聞いて良いですか?」

 

 

 

陽気なオーナーに対して、良々が深刻に質問を投げかけた。

 

 

 

良々「デンライナーって、何なんです?」

 

オーナー「列車ですよ」

 

あかね「いや、そのまんまやん」

 

やよい「ハナさんから前に時の列車って聞きましたけど、じゃあなんで時間越えたりしてるんですか」

 

なお「この列車はいったいどこに向かっているの?」

 

れいか「あなたはどうしてハナさんとイマジンを追っているのですか?」

 

 

 

その他、思いっきり危機感をぶちまけるような質問を繰り出そうとするも、オーナーの一言に全て吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

オーナー「わかっている人なんてそうはいませんよ。ハナさんだって全て知っているわけじゃあない。でも、知っていても知らなくても、時間は流れますからねぇ。いいんですよ」

 

みゆき「いいんですよって、それでいいんですかそれ?」

 

良々「なんか投げやり…」

 

オーナー「ただ、これだけは知っておいて下さい──

─“チケットまたはパスが無い者は、何人たりとも時を越えてはならない”──絶、対、に…!!」

 

 

 

 

 

オーナーが吹き上げた威圧感に圧されるかのように、ピラフの旗が倒れた。

 

 

 

オーナー「おぅ!」

 

 

 

とたんにしょんぼり顔と逆ムンクな手つきで残念がる。

 

 

 

オーナー「新記録だと思ったのに~」

 

 

 

唐突にナプキンをしまい、退席してしまった。

あっけに取られて 結局何も聞けず終いになってしまったが、一つだけ言えることがあった。

 

 

 

あかね「ひょっとしてあのおっちゃん、ウチらのことなんかどうでもええんとちゃう?」

 

 

 

そう。

彼はプリキュア、デンオウについて何一つ触れず語らなかった。

あまりにも中立過ぎる。

──なんとなく、背筋が冷たくなった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

この日は皆それぞれ帰宅し、イマジンの事は明日に持ち越しになった。

 

 

 

良々「あー、疲れた」

 

 

 

放課後の部活見学に続いて、ハロウィッチの戦いで良々は疲れが溜まっていた。

夕飯を食べてベットに横になるとすぐに寝息を立てた。

 

 

 

モモタロス『おい、良々…って、もう寝てんのか』

 

 

 

ちょうどその時モモタロスが上半身下半身逆の姿になって遊びにやってきたが、良々が寝ているのに少しがっくりした。

 

 

 

モモタロス『ん!』

 

 

 

その時であるモモタロスがとっさに感づいた。

あのラコーンドックイマジンの匂いである。

ここから少し遠いが、奴が近くにいる。

 

 

 

モモタロス『おい、良…』

 

 

 

すぐに良々を起こそうとしたが、その時ハロウィッチの言葉が頭をよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

『人間ごときに飼い馴らされて、呆れを通り越して哀れね』

 

 

 

 

 

その言葉に戸惑い、モモタロスは勝手に良々の身体に憑いた。

 

 

 

M良々「かぼちゃ女、俺は別にこいつらの手下になったわけじゃねぇ」

 

 

 

玄関から靴を持ってきて2階から飛び降りる。

ハロウィッチの言葉に反発する気持ちで現場に向かう。

 

 

 

みゆき「ん?良々ちゃん?」

 

 

 

しかしその途中で部屋のカーテンを閉めようとしていたみゆきに見られてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソフト部部長「おしかったな~。あの子入部してくれたらすぐレギュラーのイス取れる腕なのに…」

 

部員「そしたら、エース交代ですか?」

 

ソフト部部長「それは勘弁…」

 

 

 

今日良々と会ったソフトボール部の部長。

一人の部員と一緒に帰宅していた。

その時である。

彼女たちの目の前に突如あのラコーンドックドックイマジンが現れた。

 

 

 

ソフト部部長「え?」

 

部員「な!?」

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

M良々「こっちか?」

 

「「きゃあああああああああああああ!!!」」

 

 

 

M良々が走る最中悲鳴が聞こえてきた。

その悲鳴が聞こえた方に向かって走り出す。

そこで見たものはラコーンドックイマジンとその足元に倒れる二人の少女。

 

 

 

M良々「見つけたぞ狸亀野郎!!」

 

ラコーンドックイマジン『ん!お前はデンオウ!!』

 

 

 

ラコーンドックイマジンも気付き振りかえる。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『プリキュアは一緒じゃないのだか?』

 

 

 

あたりを見回し問いかける。

 

 

 

M良々「ハッ!!てめぇごとき、俺だけで十分だ!!」

 

ラコーンドックイマジン『ふん!!なら、お前だけならぶくだけでも十分なのだ!!』

 

M良々「面白れぇ!変身!」

 

 

 

 

<SWORD FORM>

 

 

 

 

デンオウSF「俺、参上!!」

 

 

 

変身と同時にデンオウSFはデンガッシャーをソードモードに組み上げ、ラコーンドックイマジンは柄杓ハンマーを取り出す。

 

 

 

デンオウSF「行くぜ行くぜ行くぜーっ!!!」

 

 

ラコーンドックイマジン目掛けて一気に駆け出しデンガッシャーで斬りつける。

ラコーンドックイマジンの柄杓ハンマーを素早い身のこなしで避けながら何度も何度も斬りつける。

しかし、ふっふっふっとラコーンドックイマジンは不敵に笑い、デンオウSFは一旦距離を置く。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『全然効かないのだ!!』

 

デンオウSF「チッ、バカみてぇに硬ぇな…」

 

 

 

ラコーンドックイマジンの茶釜の体にデンガッシャーの刃は全く歯が立たない。

 

 

 

みゆき「良々ちゃん!!」

 

デンオウSF「! みゆきか」

 

 

 

後ろから現れたのはみゆき。

 

 

 

スマイルパクトを取り出しキュアデコルをセットする。

 

 

 

みゆき「プリキュアスマイルチャージ!!」

 

 

 

早速キュアハッピーへと変身しデンオウSFの助太刀に走る。

 

 

 

ハッピー「はあっ!!」

 

 

 

ハッピーも加わりラコーンドックイマジンに加わるがハッピーの攻撃でもダメージを与える事は叶わなかった。

 

 

 

ハッピー「ううっ…かったー…」

 

デンオウSF「チッ!どいてろ!!邪魔だ!!」

 

ハッピー「きゃっ」

 

 

 

だが、デンオウSFはハッピーの助太刀を快く思わずハッピーを突き飛ばした。

 

 

 

ハッピー「ちょっと何すんのよ!!」

 

デンオウSF「余計なことすんな!!俺だけで十分だ!!」

 

 

ラコーンドックイマジン『ふん、二対一はさすがにキツイ…しからば』

 

 

 

ラコーンドックイマジンは二人から距離を取り、前屈みの体制になると背中の茶釜の口が開き、上に向かって砲弾の様なものを連続して発射した。

 

 

 

ハッピー「え、何?」

 

 

 

二人は上を見上げてたが、打ち上げたそれは楕円を描きながら落下してきた。

 

 

 

デンオウSF「避けろ!」

 

ハッピー「え!?」

 

 

 

直感的にやばいと感じ避けようとするも手足に当たった。

 

 

デンオウSF「ギャアア!!あちちち…」

 

ハッピー「キャアッ!!熱い!!何これ!?」

 

デンオウSF「お茶だ!!あっちーっ!!」

 

 

 

ラコーンドックイマジンの背中から打ち出されたものそれはお茶、しかも物凄い熱湯で当たった箇所は火傷するほどっだった。

 

 

ラコーンドックイマジン『もっとお茶をくらうのだ!!』

 

ハッピー「させない!!」

 

 

ハッピーはスマイルパクトに気合を込めると、両腕をハートの形にし、ピンク色の光線を放つ。

 

 

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!!」

 

 

 

だか、ラコーンドックイマジンは咄嗟に両手足を引込め茶釜になる。

ハッピーシャワーは茶釜状態のラコーンドックイマジンに直撃した。

しかし、光が消えるとそこには無傷の茶釜が残っていた。

 

 

 

ハッピー「うそ!効いてない!?」

 

 

 

必殺技を放ち、ばてて動けなくなる

 

 

 

デンオウSF「お前じゃだめだ!俺がやる!!」

 

 

駆け出し、やたらめったら斬りまくる。

しかし、

 

 

 

ラコーンドックイマジン『だから…効かないといっているのだ!!』

 

デンオウSF「ぐっ!!(何故だ?思うように力が…)」

 

 

 

デンオウSFは何故だか知らないが体に思いのほか力が入らなかった。

だが、そんな事を考ええる余裕なんてなかった。

デンオウSFはパスをバックルにかざす。

 

 

 

<FULL CHARGE>

 

 

 

デンオウSF「くらえ、俺の必殺技・パート2」

 

 

 

切っ先のオーラソードはデンガッシャーからドリルのように回転しながら分離し、デンオウのスイングに沿って宙を舞い、真上から振り下ろさせた。

しかし、オーラソードはラコーンドックイマジンの鋼鉄の茶釜に当たったかと思うと、激しい金属音を鳴らし、弾いた。

 

 

 

デンオウSF「何ッ!?」

 

 

そのオーラソードはデンオウSFに向かって跳ね返ってきた。

普段ならこんなヘマはしないのだが、この時は力が入らないことに多少なりと焦っていた。

咄嗟の事にデンオウSFは反応できずこのまま当たってしまうと観念した。

 

 

ハッピー「危ない!!」

 

 

なんと、ハッピーが動けないデンオウSFを抱え、押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズバッ

 

 

 

 

 

デンオウSF「なっ!?」

 

ハッピー「うっ…」

 

 

 

ハッピーは右上腕部を抑える。

そこからは赤い血がにじみ出ていた。

 

 

 

デンオウSF「お前…」

 

ハッピー「…怪我はない?」

 

デンオウSF「バカ!お前が…」

 

 

 

ラコーンドックイマジン『でやああああああ!!』

 

 

 

ラコーンドックイマジンが柄杓ハンマーを振りおろしてきた。

デンオウSFは咄嗟に避ける。

ハッピーを遠くへ離し戦おうとしたその時、

 

 

 

良々『モモタロス、…何やってんの?』

 

デンオウSF「良々!?」

 

 

 

良々がデンオウSF・モモタロスに呼びかけた。

 

 

 

デンオウSF「ぐあっ…!!」

 

 

 

デンオウSF・モモタロスはそれに戸惑う。

その無防備な所をラコーンドックイマジンは見逃すはずもなく、柄杓ハンマーをモロにくらい、吹っ飛ばされてしまった。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『フフフ、なんだかよく知らないけど、デンオウを倒すチャンスなのだ!!』

 

 

 

勢いよく振りかぶり、ハンマーを振りおろしデンオウSFにとどめを刺そうとしたその時、

 

 

 

あかね「みゆきーっ!!」

 

やよい「良々ちゃーん!!」

 

 

 

向こうの方からキャンディに連れられてやってきた。

あかね、やよい、なお、れいかが走ってくる。

 

 

ラコーンドックイマジン『増援か。今日はここまでにしておくのだ』

 

 

ラコーンドックイマジンはその場から消えていった。



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デンオウ決裂!?合言葉は“ごめんなさい”!?

変身が解かれ、良々とみゆきは皆と合流した。

 

良々のあまり怪我はなかったが、みゆきは腕の傷が少しひどかった。

 

 

 

キャンディ「みゆき、大丈夫クル?」

 

みゆき「ありがとうキャンディ、ちょっと掠っただけだから…」

 

なお「イマジンにやられたの?」

 

 

 

なおが良々に尋ねた。

 

 

 

良々「それが私が眠ってる隙にモモタロスが私の中にはいって…よく分からないの」

 

れいか「あのイマジンは、たしか刃物を使わなかった気がしますが…そうなのですか?」

 

みゆき「え……いや…うん!そ、そうそうなの!!」

 

 

 

しかし、堪のいい良々はみゆきが何かを隠している事がすぐにわかった。

 

 

 

良々「みゆきちゃん、本当にその怪我イマジンからの攻撃なの?」

 

 

みゆき「え!?う、…うん…それか…どっかぶつけた…かな?」

 

 

 

曖昧な返答、目を合わせていない、明らかに挙動不審。

わかりやすかった。

その態度に他のメンバーもかすかに気付き始めた。

 

 

 

良々「みゆきちゃん、本当の事言って。あんたはオヤツのつまみ食いもごまかせない単純なんだから…」

 

 

 

ズイっとみゆきの目の前に顔を近付け、逸らし続ける目線の先に回り込む。

 

 

 

みゆき「わかった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デンライナー・食堂車

 

良々「モモタロス!!モモタロスはいる?」

 

 

 

ドアを開き良々が声を上げて乗車してきた。

その怒声に驚きながらも飲んでいたコーヒーを置き、良々の方を振り返る。

ハナも何事かと思い良々の方を見る。

 

 

 

モモタロス『な、何だよ…良々。何怒ってんだ?』

 

 

 

モモタロスは戸惑いながらもとりあえず良々がどうして怒ってるのか尋ねた。

 

 

 

良々「じゃあ逆に訊くけど、どうして私が怒ってるのか分かる?」

 

モモタロス『え…ああ、勝手に…身体使って悪かった…』

 

 

 

良々はきっと寝てる間に身体を使われて怒ってると思ったが、

 

 

 

良々「違う。私はそんな事で怒ってるんじゃない!!」

 

モモタロス『え?』

 

良々「モモタロス、みゆきちゃんに怪我させたのよね?」

 

モモタロス『ッ!!』

 

 

 

良々の言葉にドキッとする。

 

 

 

ハナ「何それ!!ホントなの!?」

 

モモタロス『違う!!あれはなアイツが勝手に…』

 

 

 

それを聞いたハナが物凄い剣幕で問いただすが、モモタロスが否定する。

しかし、自分の所為じゃない、それが良々の怒りを掻き立てた。

 

 

 

良々「ふざけんな!!全部みゆきちゃんから聞いてるの!あんた、自分の技に自爆しそうになってみゆきちゃんがあんたを庇って怪我をしたって!!相手の攻撃ならまだしも自分のヘマで友達を傷付けたのよ!分かってるの!?」

 

 

 

確かに元を辿ればモモタロスに原因がある。

しかし、モモタロスはそれでも自分の面子を保つために弁解の言葉を吐いた。

 

 

 

モモタロス『あん時は仕方なかったんだよ!身体に思うように力が入らなくて、体調が良好ならあんな奴…』

 

ハナ「アンタ…いい加減に…──」

 

 

 

ハナが拳を握り締め、身を乗り出したその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂車に乾いた音が響いた。

ちなみにハナはまだ殴っていない。

良々がモモタロスの頬をはたいたのだ。

痛くはなかったが、叩かれた左頬を押さえた。

 

 

 

良々「もう、あんたとは戦えない…」

 

 

 

それだけ言って、それ以上何も言わずデンライナーを降りる。

 

 

 

モモタロス『おい、良々…』

 

 

 

モモタロスが呼び止めたが、良々はそれを無視した。

 

 

 

モモタロス『チッ、そうかよ…』

 

 

 

モモタロスの方も不快になり、食堂車を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナオミ「良々ちゃん、かなり怒ってましたね……」

 

ナオミがコーヒーを差しながらハナに話しかけた。

ハナはコーヒーカップを傾けながら「ええ」とだけ答える。

あの時はハナも思わずビビってしまったからだ。

 

 

 

 

 

一方、モモタロスの方はというと寝台車のベットで横になり、布団を被っていた。

そして、先程の良々の言葉が頭をよぎっていた。

 

 

 

『もう、あんたとは戦えない…』

 

 

 

 

モモタロス『ケッ、何が戦えねぇだ…』

 

 

 

この時モモタロスはどうせ、戦いになったら俺を呼ぶに決まってると、そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

一方、良々はそのまままっすぐ家に帰った。

 

 

 

良々「ただいま」

 

幸一「あれ?良々、お前自分の部屋で寝てたんじゃなかったのか?いつの間に外出したんだ」

 

 

 

リビングでテレビを見ていた兄の幸一が玄関に顔を出した。

 

 

 

良々「コンビニ行ってた」

 

 

 

本当の事を言えるはずもないので、適当にごまかす。

そのままゆっくりと階段を上がっていく。

 

 

 

幸一「そうだ良々、冷蔵庫にお前の好きな『紅鮭屋』のプリンあるから、食べるか?」

 

 

 

幸一が良々の背中に向かって言う。

良々は立ち止まりせっかくなので、何か腹に入れて嫌な事を少しでも忘れようとした。

しかし、今日食べたプリンは高級スイーツ店『紅鮭屋』のプリンだったのにどこか味気なかった。

 

 

 

 

そこから先はあまり覚えておらず、風呂に入り、歯を磨いて、そのまま布団に潜り、眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、七色ヶ丘中学では何人かの生徒達が狸の怪物に襲われ、病院送りにされていたとの噂がたっていた。

良々、みゆき、あかね、やよい、なお、れいかは契約者を探すため屋上に集まりそれぞれの分かって情報をまとめていた。

 

まず一つ目、襲われているのは女子。男子に今の所被害はない。

二つ目は襲われた女子のほとんどは生徒会会長の入江に好意を持っていた、もしくは入江のクラスメイトだという事が判った。

 

 

 

れいか「入江会長が契約者なのでしょうか?」

 

良々「いや、まだ分からない…。情報が少ないし、漠然としているから…」

 

 

 

皆が探索に困難をきたしてる中、「そうだ!」と今度はなおが切り出した。

 

 

 

なお「モモタロスに捜して貰おうよ」

 

良々「ッ!」

 

 

 

 

それを聞いて良々は目を見開いた。

 

 

 

やよい「そうだね。モモタロスさんなら、イマジンが匂いで判るから」

 

あかね「ほな早速、モモタロス呼んでくれるかいな。良々」

 

 

 

あかねが良々に向かって言うが良々はそっぽを向いて、

 

 

 

良々「呼ばない」

 

 

 

と、短くはっきり言った。

5人は当然驚く。

 

 

 

みゆき「昨日の事、怒ってるの?」

 

 

 

みゆきが恐る恐る訊き、良々は「当たり前よ」と返した。

 

 

 

みゆき「昨日の事なら私気にしてないしさ、怪我だって大した事ないし、そんなに怒る事…

 

良々「怒るよ!!友達傷付けられて怒るのは当たり前でしょ?そんな事されてヘラヘラ笑ってられるなんて考えられない!!友達じゃないよ」

 

みゆき「いや、でも…」

 

あかね「みゆき、ウチも良々と同意見や。ウチかて同じ事されたら怒る」

 

 

 

他のメンバーは何も口を挟まなかった。

それはつまり否定しないという事だ。

 

 

 

良々「悪いけど、ここで頼ったらまたアイツは調子に乗る。同じ事がまた起こらないと限らない以上、私はモモタロスを頼らない」

 

 

 

良々さっさと屋上から出て行ってしまった。

5人は掛ける言葉が見つからず、良々の背中を見る事しか出来なかった。

 

 

 

良々は飛び出したはいいもの手掛かりもろくになく適当に歩いて考えていた。

とりあえず一番目星のついている入江会長のいる生徒会室に向かった。

しかし、その途中である人物を見かけ、足を止めた。

なぜなら、その人物からは自分と同じ砂が所々こぼれていたからだ。

 

 

 

 

???「はぁ…」

 

 

 

その契約者は校舎の中庭のベンチに腰掛け、膝に頬杖を付き、悩みのため息を吐き出していた。

 

 

 

れいか「あなただったのですね、寺田さん」

 

寺田「!」

 

 

 

横からいきなり声を掛けられ寺田という女子は肩を跳ね上げた。

そこには良々はもちろん呼ばれてやってきた5人がいた。

寺田という女子はれいかと同じ生徒会の会計である。

 

 

 

寺田「青木副会長…」

 

 

 

寺田は怪訝そうな顔をするもれいかは率直に尋ねた。

 

 

 

れいか「寺田さん、いきなりですみません。最近、狸の怪物を見ませんでしたか?」

 

寺田「ッ!!」

 

 

 

狸の怪物という単語に寺田は激しく動揺する。

 

 

 

れいか「知っているのですね?教えていただけませんか?」

 

 

 

れいかが寺田に問い詰めるが、

 

 

 

寺田「し、知りません!」

 

 

 

視線に耐えられなくなった寺田は逃げるようその場から立ち去った。

 

 

 

みゆき「待って!」

 

 

 

それを見てみゆきが追いかけた。

みゆきに続き皆も追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みゆきが寺田を追いかけていたその時、寺田の前にラコーンドックイマジンが地響きを鳴らし降り立った。

 

 

 

寺田「ッ!!」

 

みゆき「イマジン!!」

 

 

 

それを見ていた生徒たちは阿鼻絶叫と共に蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。

みゆきの驚きを無視し、ラコーンドックイマジンは寺田に向かって告げる。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『さあ、これだけ入江という男の近くにいる女を排除すれば…契約はほぼ完了なのだ!!』

 

寺田「ちょっ…ちょっと待って!!私は…」

 

みゆき「契約って…。寺田さん、まさかあなたがこの怪物に人を襲わせる様にねがったの?」

 

寺田「違う!!私はそんな事、望んでいない!!」

 

みゆき「じゃあ何を…?」

 

寺田「そ、それは…」

 

 

みゆきの疑問に寺田は頬を赤くし、言葉を詰まらせてると、ラコーンドックイマジンが割り込んできた。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『くだらん茶番はいい!!さあ、契約完了!!』

 

 

 

寺田に手を伸ばそうとしたその時、

 

 

 

みゆき「やめて!寺田さん早く逃げて!!」

 

ラコーンドックイマジン『邪魔なのだ!!』

 

みゆき「ああっ!!」

 

 

 

みゆきが立ちふさがるが、止まるはずもなく軽くあしらわれてしまった。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『さぁ、開け!!記憶のページよ!!』

 

 

 

寺田を本の様に切り開かれ彩った渦の中に飛び込む。

 

 

 

良々「しまった!」

 

 

 

そこでようやく良々達は追いついたが、イマジンはすでに過去へ飛んだ後だった。

良々はあらかじめハナに渡されていたデンライナーのブランクチケットを取り出し、寺田に翳す。

ラコーンドックイマジンの姿と表示された日付け。

 

 

[-LY/04.17]。

 

 

 

みゆき「去年の4月17日?」

 

れいか「この日付け…。たしか寺田さんが生徒会に入った日…」

 

良々「寺田さん、この日…あなたに何があったの?」

 

 

 

良々は寺田に話しを聞こうとするが寺田は戸惑ったが、観念したのか打ち明けた。

 

 

 

寺田「私……、入江会長が……好き。一目惚れしてるの…」

 

 

それを聞いて皆は「え!?」と驚く。

いきなりの恋愛ばなしに一瞬固まってしまったが、寺田は続ける。

 

 

 

寺田「あの日から私は…入江会長に一目惚れして…でも、振られるのが怖くて告白することが…出来なかった。そんな想いを溜め込んでいた時、あの怪物が私の目の前に現れたの…」

 

 

 

 

 

『お前の望みを言うのだ。どんな望みも叶えてやるのだ。お前の支払う代償はたった一つなのだ』

 

 

 

 

 

寺田「だから私、『入江会長に振り向いて貰いたい』ってお願いしたの…。でも、何で他の女子が襲われなきゃいけないの」

 

 

 

告白と同時に寺田は両手で顔を覆い、泣き崩れる。

 

 

 

やよい「どういう事なの?入江さんに振り向いて貰いたいっていう願いなのに、何で他の人が…?」

 

 

 

やよいがラコーンドックイマジンの契約手段に疑問を持ち、口にした。

何故、このような方法で契約完了なのだ?

 

 

 

れいか「おそらく、入江会長の身近の女子を襲う事で寺田さんと入江会長との距離が他の女子より近くなる…ということでしょうか?」

 

みゆき「そんな無茶苦茶な…!」

 

なお「やり方がひど過ぎる!」

 

あかね「契約完了できれば、手段選ばんちゅう事かい!!」

 

良々「胸糞悪い…」

 

 

 

イマジンの下衆なやり口を改めて知った。

先日戦ったバットイマジンも他の人間からキーホルダーを奪い、人間を空から突き落とすといった残忍なやり方をしていた。

イマジンにとっては契約が完了し過去へのページが開けばそれでいいのだ。

 

 

 

「やっと過去へ跳んだ、か…」

 

 

 

突如、背中からの声に6人が振り向く。

待ち侘びた様にカボチャの被り物の中で小さく呟くハロウィッチがそこにいた。

 

 

 

「「「「「「ハロウィッチ!!」」」」」」

 

 

 

ハロウィッチ「にしてもいい天気ねぇ……雲一つ無い快晴♪――――虫酸が走る…」

 

 

 

不愉快さが伝わる声色で呟く。

 

 

 

ハロウィッチ「世界よ、最悪の結末…バッドエンドに染まれぇ!!」

 

 

 

右手に白紙の魔本を持ち、左手で黒い絵の具のチューブを握り潰す。

 

 

 

ハロウィッチ「白紙の未来を黒く塗り潰すのよ!!」

 

 

 

ハロウィッチが絵の具を白いページに塗りたくると空が紫に染まり、不気味な黒い茨や枯木の茂る森が辺りを支配した。

 

 

 

寺田「こんな汚れた私なんて…誰も好きになってくれない…」

 

 

 

周囲の生徒や寺田が下を俯き、絶望の色へ染まる。

 

 

 

 

 

 

ハロウィッチ「アッハッハッハッハッハッ、人間たちのバッドエナジーが悪の皇帝ピエーロ様を蘇らせていくのよ!!」

 

 

 

ピエーロの時計の針が一つ進んだ。

 

 

 

ハロウィッチ「フフフフ、まだ足りない!イマジンよ!!過去で暴れてバッドエナジーを生み出せ!!」

 

 

 

ハロウィッチが歓喜の声を上げる。

 

 

 

みゆき「そんなことさせない!みんな!!」

 

「「「「「うん!!」」」」」

 

 

 

スマイルパクトを取り出し、プリキュアメンバーは叫ぶ。

 

 

 

「「「「「プリキュア・スマイルチャージ!」」」」」

 

 

『ゴーゴーレッツゴー!!』

 

 

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

 

サニー「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー」

 

ピース「ピカピカピカリンジヤンケンポン♪キュアピース!」

 

マーチ「勇気凛々、直球勝負!キュアマーチ!」

 

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

 

「「「「「五つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア」」」」」

 

 

 

5人がプリキュアに変身し、良々もラコーンドックイマジンのチケットをパスへ入れ、ベルトを腰に巻き、そのままバックルにパスを横切らせる。

 

 

 

良々「変身!」

 

 

 

そのまま良々はデンオウPFに変身し、空の歪みから出現したデンライナーへ飛び乗った。

 

 

 

ハロウィッチ「チッ、デンオウは逃がしたか…。まぁ、いっか、こっちの方が楽しそうだし♪あ…それとちなみにアタシ、アカンベェ使わないから」

 

 

 

マントの様なぶかぶかコートをひろげ、お気楽な声を上げる。

プリキュア達は全員身構える。

 

 

 

ハロウィッチ「さぁて、何して遊ぶ?♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

【昨年4月17日】

 

 

寺田は七色ヶ丘中学の生徒会の会計に就任され、集会が終わり自分の教室に戻る途中、笑顔の素敵な生徒会会長に思いふけていた。

そんな時である、彼女が突然倒れ込み、体から砂が溢れ、ラコーンドックイマジンがその姿を現した。

辺りの生徒は悲鳴を上げてその場から逃げる。

そんな生徒には目もくれず、ラコーンドックイマジンは窓を突き破り、校庭へと飛び出る。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『ポンポコポーン!まずはこの校舎からブッ壊してやるのだーっ!』

 

 

 

柄杓ハンマーを振り上げたその時、

線路が展開し、デンライナーが現れた。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『ん?何だ!?』

 

 

 

デンライナーが陽気な音楽を鳴らしながら出現し、デンライナーはラコーンドックイマジンを覆い、掻っ攫う。

その時、その光景を校舎の影から隠れてじっと見ていた人影がいた。

その手の中には懐中時計が時を刻み、その人物はそれを見届けるとそのまま消え去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デンライナーはラコーンドックイマジンを人気のない昨日の空き地へ連れ出し、良々の変身したデンオウPFがラコーンドックイマジンの前に降り立つ。

 

 

ラコーンドックイマジン『くっ、またお前か…』

 

デンオウPF「私が相手よ!」

 

 

 

デンオウPFが身構え、戦闘体制にはいる。

 

 

 

 

 

 

【現在】

 

 

ハロウィッチ「ハァッ!!」

 

 

 

ハロウィッチは杖を振るい、エネルギー光球をいくつも出現させ、プリキュアに向けて撃ち出す。

 

 

 

マーチ「プリキュア!マーチシュート!!」

 

ピース「プリキュア!ピースサンダー!!」

 

 

 

マーチとピースの必殺技とハロウィッチの光球がぶつかり、炸裂。

マーチとピースはその衝撃波から腕で目を覆う。

だが、その隙にハロウィッチは二人の懐へ潜り込む。

 

 

 

マーチ「ああっ!!」

 

ピース「あぅ!!」

 

 

 

マーチとピースはハロウィッチの攻撃に吹っ飛ぶ!

 

 

 

ハッピー「マーチ!ピース!」

 

ビューティ「はぁっ!」

 

 

 

続いてビューティがハロウィッチに挑むが、ハロウィッチの素早い身のこなしの前には攻撃が全てあしらわれてしまう。

 

 

 

ビューティ「合気道っ…!?」

 

 

 

ビューティの言った通り、ハロウィッチは相手の力のみを使い相手をあしらう合気道に似た戦い方をする。

攻撃が決まらなければ、していないも同然。

ビューティは無駄に体力を消費する。

ハッピー、サニーも攻撃に加わるが、それでも形勢は変わらない。

 

 

 

ハッピー「うっ!」

 

サニー「くっ!」

 

ビューティ「ああっ!!」

 

 

 

ハロウィッチは格闘においてもプリキュアを凌駕し、追い詰めていく。

 

 

 

ハロウィッチ「アッハッハッハッハッ、どう?どう?アタシって強いでしょ」

 

 

 

自慢げに、痛快そうに笑うハロウィッチ。

普段戦っているアカンベェは無駄に大きい故攻撃しやすいが、素早く自分達と同じ大きさの相手には攻撃しづらい。

そして何より、今まで戦った敵とは明らか力量が違う。

 

 

 

ハロウィッチ「じゃあ、そろそろ御開きにしょっか?」

 

 

 

ハロウィッチは杖を掲げると先程とは比べものにならない力を感じる。

 

 

 

サニー「あかん、このままやと…」

 

ハッピー「まだ…、あきらめない!!」

 

 

 

ハッピーが立ち上がる。

ハッピーだけではない他の4人も、誰も諦める顔をしてはいない。

 

 

 

ハロウィッチ「はっ、諦めなくても結果は…――っっ!!」

 

 

 

しかし、ハロウィッチは一瞬、驚愕に目を見開く。

 

 

 

その視線の先には赤いキャップの帽子の上に薄茶色のフェルト帽を目深にかぶり、同色の外套を羽織っている男がいた。

だが、ハロウィッチの驚愕と同時に油断が生まれた。

 

 

 

ハッピー「(今だ!!)はあっ!!」

 

ハロウィッチ「ぐっ!?」

 

 

 

ハッピーはハロウィッチ目掛けて駆け出し、拳を叩き込む。

油断していたハロウィッチに見事ヒットした。

サニー、ピース、マーチ、ビューティも戦闘に加わる。

 

 

 

ハロウィッチ「クッ!!」

 

 

 

先程の油断でハロウィッチは回避の反応が鈍り始め、形勢は逆転していく。

 

 

 

ハロウィッチ「クッ、こ…このっっ!!」

 

 

 

ハロウィッチはエネルギー光球を放つが、冷静さを欠いた今の攻撃は当たらない。

 

 

 

サニー「ウチらが決める!ビューティ、挟み込むで!!」

 

ビューティ「わかりました」

 

 

 

 

サニーとビューティはスマイルパクトに気合いを込め、ハロウィッチの両サイドから必殺技を放つ。

 

 

 

サニー「プリキュア!サニーファイヤー!!」

 

ビューティ「プリキュア!ビューティブリザード!!」

 

 

ハロウィッチ「ぐっ、こんな所で……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆音と共にサニーとビューティの必殺技が炸裂する。

しかし、粉塵が晴れるとコートに焦げ目をつけたハロウィッチが佇んでいた。

 

 

 

ピース「うそ、効いてない!?」

 

マーチ「いや…───」

 

 

 

マーチはハロウィッチの服の焦げ目から、少なくともダメージは与えてると分析した。

 

 

 

ハロウィッチ「(アップルボムの爆風で威力はへらしたけど、さすがに至近距離距離での…アップルボムはムチャ…だったかな…?)」

 

 

 

手傷を負わされ分が悪いと判断したハロウィッチはそのまま消えた。

ハロウィッチがいなくなった事により、バッドエンドの空間も元に戻り、青空が戻った。

プリキュアも変身を解く。

ホッと一息つくのもつかの間、近くの扉からハナが顔を出した。

 

 

 

ハナ「みんな!!」

 

 

 

皆はびっくりするも、ハナの慌て様にただ事ではない事を察知する。

 

 

 

みゆき「どうしたんですか?」

 

ハナ「みんな、過去へ来て!良々ちゃんが…良々ちゃんが危ない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―時間は少し遡り、5分程前―

 

 

モモタロスは別に自分に罪悪感とか無かったが、流石に怒らせ過ぎたかと少し動揺している様子だ。

寝台車の二段ベットの上で次顔を合わせたら何と言おうか考えてると、

どこからも無く匂う独特の匂い、待ち望んでいたイマジンの匂いだった。

 

 

 

モモタロス『おい!!良々!!』

 

 

 

モモタロスは食堂車へと入って来たのに対し、ハナとナオミが驚く。

 

 

 

ナオミ「えっ!?モモタロスちゃん!?」

 

ハナ「ちょっと!何でアンタがここにいるの!?」

 

モモタロス『はぁ?どいうことだよ』

 

 

 

モモタロスは全く状況が飲み込めていない。

 

 

 

ハナ「良々ちゃんは今戦っているのよ!」

 

モモタロス『何だと!?』

 

 

 

そうか!モモタロスはやっと気付いた。

良々は自分を締め出したのだ。

本来イマジンと契約者はリンクしている。

だが、イマジンに制御できる特異点の良々はその繋がり――リンクを切る事ができる。

だから今までイマジンの匂いに気付かなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

【昨年4月17日】

 

 

ラコーンドックイマジン『おりゃっ!!』

 

 

 

ラコーンドックイマジンの振り下ろした柄杓ハンマーがデンオウPFを潰そうと迫る。

しかし、デンオウPFは地面を転がり、攻撃を回避する。

 

 

 

デンオウPF「ハァ…ハァ…」

 

 

 

元々運動が得意ではない良々は既に息が上がっていた。

 

 

 

デンオウPF「ハァッ!」

 

 

 

がむしゃらに拳を繰り出すが、ラコーンドックイマジンは回避しようとも防ごうともせず、真正面からデンオウPFの攻撃をまともに受けた。

なぜなら、

 

 

 

ラコーンドックイマジン『ははははは、全然…全く効かないのだ!!』

 

 

 

ソードフォームの斬撃も効果がないのに、ソードフォームより戦闘スペックが低いプラットフォームの攻撃など、無意味なのは火を見るより明らかだった。

 

 

 

デンオウPF「くそ…ぐ、あうっっ!!」

 

 

 

ラコーンドックイマジンの体当たりが決まる。

鋼鉄の体での体当たりはデンオウPFの体を吹き飛ばし、骨を軋ませる。

デンオウPFは地面に強く叩きつけられ、「がふっ」と苦しい息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、デンライナーの中ではみゆき達が固唾を飲んで見守っていた。

 

 

みゆき「良々ちゃん!!!」

 

 

吹っ飛ばされるを良々窓から見てたみゆきが叫ぶ。

その横ではナオミやキャンディが応援し、気の弱いやよいに至っては見ていられないと目を背けてた。

モモタロスは何処か落ち着かない様子だった。

冷静に座りつつも外が気になるのか横目で窓を見ている。

そこには無様にもやられながらも立ち上がるデンオウPFの姿があった。

 

 

 

モモタロス『~~~ッ!!』

 

 

 

その様子を見ていたなおとあかねはモモタロスに向かって怒鳴る。

 

 

 

なお「ちょっと、モモタロス!!何とかできないの!?」

 

あかね「せや!このまんまやと、良々死んでしまうで!!」

 

モモタロス『さっきから呼びかけてらぁ!!だけどアイツ、俺の事無視してやがるんだ!!』

 

 

それを聞いたハナは視線を一度モモタロスの方に向ける。

確かにモモタロスの立場ならば、良々には死んで欲しくないから直ぐに取り憑く筈だ。

だが、それをしないという事は……

 

 

ハナ「モモを…本気で締め出したって事なの……?」

 

 

 

必死にラコーンドックイマジンに向かって立ち向かうデンオウPFを見て呟くハナ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもうみゆきは我慢の限界だった。

 

 

 

みゆき「もう見てらんない!!」

 

あかね「いや、みゆき怪我してるやろ!!ウチがいく!!」

 

やよい「あかねちゃん、私も…」

 

 

 

5人がデンライナーの外へ出ようと車両のドアの前に立ったその時、ドアが開き、ずいっとステッキの取っ手が先頭にいたみゆきに突出され、皆は動きを制された。

 

 

 

オーナー「皆さん、お待ちください…」

 

「「「「「「「オ、オーナー…」」」」」」」

 

 

 

食堂車に入ってきたオーナーがドアの前に杖をついて仁王立ちで通せんぼした。

 

 

 

あかね「何や、おっちゃん!そこどいてくれ!!」

 

 

 

あかねが言うとオーナーはこう切り出した。

 

 

 

オーナー「私がどいてどうするのです?まさか、列車を降りるのですか?」

 

なお「あ…、当たり前でしょ!?」

 

れいか「良々さんを助けに行くのです…!」

 

オーナー「ならば、“チケット”はありますか?」

 

やよい「え、チケット?」

 

みゆき「チケットってあのイマジンと日付けの書かれいる?」

 

オーナー「そうです。チケットが無い者は…何人たりとも時を超えることはできません。昨日も申したはずですが?」

 

 

みゆき「え?」

一同「「「「えええええええええええ!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラコーンドックイマジン

「おらっ!ぶくのお茶をくらうのだ!!」

 

 

 

背中からお茶を次々と吹き出し、デンオウPFを襲う。

 

 

 

デンオウPF「うあああああっ!!熱い!!熱い熱いぃぃ!!」

 

 

 

あまりの熱湯にデンオウPFは当たりをのた打ち回り、苦しむ。

続いてきたのはお腹を膨らまし、強烈なボディプレス!

 

 

 

デンオウPF「うぐああああっっ!!!」

 

 

 

地面をへこませる程ののしかかりが、直撃する。

 

 

 

キャンディ「良々、もうよける力も残ってないクル!!やられちゃうクル!!」

 

 

 

キャンディの叫びを聞いて、皆は動揺を隠せない。

それはモモタロスも同じだった。

 

 

 

モモタロス『何やってんだよ……、俺を呼べよ……』

 

 

 

小さく何度も呼びかけるが良々は反応しない。

 

 

 

みゆき「お願いです!!降ろしてください!!」

 

 

 

みゆき達が必死に懇願するが、オーナーは「ダメです」の一点張り。

 

 

 

あかね「何ででや?この前ウチ、コウモリイマジンと戦こうたときは何も問題あらへんかったんに…」

 

 

オーナー「それは…良々さんが以前あなたとのチケットの共有を認めたからです……しかし、この時間へ来る途中、良々さんは事前に私に『今回はあなた方とはチケットを共有しない』と言われました」

 

 

やよい「え!良々ちゃんが!?」

 

なお「何で……!?」

 

 

 

何でそんなことするのか疑問に思ったが、そんな事より。

 

 

 

れいか「しかし、そこをなんとか…」

 

オーナー「ダメです」

 

ハナ「なら私に行かせてください!!」

 

みゆき「ハナさん!?」

 

 

 

皆が食い下がる中、ハナが前へ出た。

 

 

 

ハナ「私はオーナーと契約しています。オーナーと契約している私なら、特権で自由にデンライナーを降りれるはずです。私に良々ちゃんを説得させに行かせてください」

 

 

 

オーナーは少し沈黙した後、「いいでしょう」と許可を得た。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『トドメなのだ!!』

デンオウPF「がっ!!」

 

 

 

ラコーンドックイマジンの柄杓ハンマーをモロにくらい、身体が吹っ飛ぶ。

地面に叩きつけられて、かなりのダメージが良々の身体を襲う。

起き上がろうにも中々起き上がれず、這い蹲ったままだった。

そんなデンオウPFへハナが駆けつけた。

 

 

 

ハナ「良々ちゃん!!」

 

デンオウPF「ハナ…さん…?」

 

ハナ「何でモモタロス呼ばないの!?」

 

デンオウPF「………」

 

ハナ「このままじゃ…あなたが……──

デンオウPF「ダメ…」

 

ハナ「え!?」

 

 

 

デンオウPFはハナの言葉を途中で遮った。

 

 

 

デンオウPF「モモタロスは…このままじゃ、ダメ……なの………」

 

 

 

モモタロス『おい、良々!!』

 

デンオウPF「モモタロス……?」

 

 

 

 

 

 

 

モモタロス『ようやく繋がった!!良々、待ってろ!!すぐに助けに行く…

デンオウPF「来ないで!!」

 

 

 

あまりのダメージで良々のシャットアウトが切れ、モモタロスが飛び出していこうとしたが、良々はそれを拒んだ。

 

 

 

モモタロス『な、何でだよ!?』

 

デンオウPF「モモタロス。モモタロスは…前に、好き勝手暴れたい、カッコ良く戦えればそれでいい……そう、言ったわよね?」

 

モモタロス『!?あぁ…』

 

デンオウPF「それで……そんな自分勝手な理由で………戦って、私の大事な友達を傷付けるようなら……私はアンタの力なんか……借りない…。死んでもゴメンよ!!!」

 

 

モモタロス『ッ!!』

 

 

 

仲間を見捨てる薄情な奴は嫌いだ。

そんなことをモモタロスは良々と出会った日に言った。

あいつは心底友達を…仲間を大事してる。

今の言葉で改めて分かった。

 

 

 

モモタロス『もう……わかった!!これからは一人で勝手に戦わねぇし、お前の仲間を傷付けるような戦い方しねぇって誓う!!

だから……だから、頼むから俺を呼んでくれ!!良々ーっ!!!』

 

 

 

モモタロスの渾身の頼みに良々は

 

 

 

デンオウPF「なら、…自分が本当に悪いと思ったなら……、まず何を言わなきゃいけないかくらい分かりなさい!それを言えなきゃ…。アンタの居場所なんか…ない!!」

 

 

 

それを聞いてモモタロスは少し戸惑ったが、意地を張るだけ自分が情けなくなるだけだ。

モモタロスはすぅっと息を吸い込み立ち上がり、

言った。

 

 

 

モモタロス『ごめんなさあああああぁぁぁぁぁい!!!』

 

 

 

突然の叫び声に全員驚くも、モモタロスは良々の元へ向かった。

オーナーはそれを見届けると、席へ腰を下ろした。

デンオウPFはベルトの赤いボタンを押し、バックルにパスを横切らせる。

 

 

 

<SWORD FORM>

 

 

 

赤い陣羽織が出現し、良々の髪が赤く染まり、髪が一つに纏まり、ポニーテールとなる。

逆さ蝶々結びの白いリボンに鉢巻き、瞳の色が赤くなり、目付きも変わる。

 

 

 

デンオウSF「俺!ようやく、参上!!」

 

 

 

右手親指で自分を指し、両腕を大きく開き、ポーズをとる。

 

 

 

ハナ「モモタロス!!」

 

 

 

ソードフォーム・モモタロスの登場でハナが安堵の声を上げる。

デンライナーの中でも全員が歓喜の声を上げる。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『今更出て来ても遅いのだ!!』

 

 

 

ラコーンドックイマジンが、柄杓ハンマーを振り上げ襲い掛かるが、デンオウSFの蹴りでラコーンドックイマジンが吹き飛んだ!

 

 

 

デンオウSF「いまさらもクソもあるかぁ!!俺は最初から最後までクライマックスだ!!」

 

 

 

デンオウSFは両腰のデンガッシャーを組み立て即座に駆け出す。

 

 

 

デンオウSF「行くぜ行くぜ行くぜーっ!!」

 

 

ラコーンドックイマジン『おのれぇっ!!だけど、お前の攻撃なんて、痛くも痒くも……――がっ!??』

 

 

デンオウSF「オラオラオラァッ!!」

 

ラコーンドックイマジン『があぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

 

デンオウSFのデンガッシャーの斬撃ががラコーンドックイマジンの茶釜に炸裂!!

何と今度は火花を散らし確実にダメージを受けている。

 

 

 

デンオウSF「(何だ!?昨日とは違う。いや、いつもより力のみなぎりかたが違う!!)」

 

 

 

デンオウSFは左手を握ったりひらいたりして、力の具合を調べるが、今まで感じた事のない力が実感できる。

 

 

実はこのデンオウベルトとはとり憑いたイマジンの戦闘能力をオーラアーマーとしてそのまま受け継ぎ、さらにそのスペックを極限まで引き出す事が可能な代物なのである。

しかし、イマジンの力の源は取り付いた人間の精神力に左右されるため、昨晩の様に意識のない状態ではその力を存分に発揮することは出来ないのだ。

だが、モモタロスにはそんな事を考えらるほどの頭脳はない。

ただ一つ、今なら誰にも負ける気がしない。

それだけしか考えていなかった。

 

 

 

 

デンオウSF「何だか知んねぇけど、今日の俺は最高にクライマックスだ!!覚悟決めとけよ!!──良々、何か作戦あるか?」

良々『なら…、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬って斬って斬まくれぇーっ!!』

 

デンオウSF「分かり易くて結構!!」

 

 

デンオウSFはダッシュで駆け出し、斬る斬る斬りまくる!!

 

 

ラコーンドックイマジン『うっ…ぐうっ……何故だ!?何なのだ!?何で……こんな力がどこに…──くらえっ!!』

 

 

 

ラコーンドックイマジンの背中の茶釜が再び開き、熱いお茶が再び発射された!!

 

 

 

デンオウSF「またアレか!!」

 

 

 

デンオウSFは上を見上げて避けようとしたが、

 

 

 

良々『モモタロス、上を向かなくていい!そのまま一気に走り出して!』

 

 

 

デンオウSFは良々の指示に従い、ラコーンドックイマジン目掛けて走り出す。

 

 

 

良々『右に避けて!』

 

 

 

言われたとおりに避けると、見事に回避した。

 

 

 

良々『今度は左!……一旦下がって!』

 

 

 

雨のように落ちてくる砲丸の様な熱湯のお茶をデンオウSFは良々の指示で難なく回避する。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『何でなのだ!?何で避けられる!?』

 

デンオウSF「どういうことなんだ?何で落ちてくる所が分かんだよ!?」

 

良々『影よ。ちょうど太陽は私たちの背中に昇っている。そこから分かるお茶玉の影から大体の落下地点がつかめたの。──もっとも、それを見切るのに結構時間掛かっちゃったけど…』

 

 

 

言っている内容はいまいち理解できないが、それを聴きながらモモタロスは思った。

 

 

 

デンオウSF「良々…やっぱおめぇはスゲエよ…」

 

 

 

懐まで潜り込んだデンオウSFは後ろ蹴りを放つとラコーンドックイマジンを仰向けにひっくり返した。

 

 

 

ラコーンドックイマジン

「うぐぅ…、しまった!!起き上がれないぃぃぃ…」

 

 

 

どうやら、背中の茶釜が邪魔をして亀のように起き上がれなくなってしまったようだ。

 

 

 

デンオウSF「よーし、良々!一気に決めるぜ!!」

 

良々『あー、待って待って!』

 

デンオウSF「?あんだよ?」

 

 

 

デンオウSFがパスを取り出し、必殺技を放とうとしたとき、良々が呼び止めた。

 

 

 

良々『ハナさんにお願いしてきてくんない?』

 

デンオウSF「おい、ハナクソ女!!」

 

ハナ「ちょ…ちょっと、その呼び名……」

 

 

 

観戦していたハナはデンオウに呼びつけられた。

ハナは自分の呼ばれ方に不満を持つが、デンオウSFは構わず続けた。

 

 

 

デンオウSF「そんな事より、みゆきを呼んできてくれって良々が言ってやがる!!連れてきてくれ」

 

 

ハナは急いでデンライナーのみゆきの元へと向かった。

オーナーは良々がチケットの共有を認めた事で、みゆきをこの時間へ降ろす許可をくれた。

 

 

 

みゆき「良々ちゃん、来たよ!」

 

 

 

みゆきが駆け付けたのを確認するとデンオウSFは良々の意識が表に出る。

 

 

 

デンオウSF・良々「みゆきちゃん、怪我してるのは分かるけど…今、戦える?」

 

 

 

するとみゆきは笑顔を作り、怪我した場所を叩く。

 

 

 

みゆき「大丈夫!このくらい、なんともないよ」

 

デンオウSF・良々「そう──なら、協力して。あのイマジンは二人で倒す!」

 

 

 

 

 

 

みゆきがキュアハッピーに変身し、良々が作戦を説明してると、ラコーンドックイマジンはやっと起き上がってきた。

 

 

ラコーンドックイマジン『この~…だけど一人増えたくらいでぶくの茶釜は砕けないのだぁ!!』

 

デンオウSF「本当にそうか?」

 

 

 

デンオウSFはパスをベルトのバックルに翳す。

 

 

 

デンオウSF「行くぜ、俺の必殺技・ハッピーバージョン!!」

 

 

 <FULL CHARGE>

 

 

 

デンオウSFはデンガッシャーを水平に構え、切っ先をラコーンドックイマジン目掛けて突き出す。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『うおっ!?』

 

 

切っ先──オーラソードはドリルの様に回転し、ラコーンドックイマジンの腹部・茶釜の底にぶつかる。

そのあまりの突貫力はラコーンドックイマジンを貫かなくも、ラコーンドックイマジンを大きく後ろへ押し出した。

 

 

 

ラコーンドックイマジン『こんな攻撃でぶくが……』

 

 

 

ラコーンドックイマジンも負けてはいない!

足を踏ん張り、オーラソードをを跳ね返さんばかりに踏み止まる。

 

 

 

だが、その背中ではハッピーがスマイルパクトに気合いを込める。

 

 

 

デンオウSF「今だ!!ハッピー!!」

 

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!!」

 

 

 

両手をハートの形にしそのまま突き出すと、両手からピンク色の輝くの光線が放たれた!

 

 

 

ラコーンドックイマジン『なっ…!?う、うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 

 

正面からデンオウのオーラソード、背後からハッピーシャワー。

二つの必殺技の挟み撃ちで流石のラコーンドックイマジンもこれには茶釜が耐え切れなくなり、ついには粉々に爆発した。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「やったーっ(クル)!!!」」」」」」」

 

 

 

 

デンライナーの中では皆が二人の勝利を分かち合っていた。

 

イマジンはギガンデスになることはなく、そのまま消滅。

デンライナーは時の砂漠へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

ナオミ「お待たせしました~♪」

 

 

 

注文された飲み物が全員に運ばれてくる。

良々はなおに包帯を巻かれ、傷の手当てをされていた。

 

 

 

なお「何ですぐ私達呼ばなかったのかな?そしたらこんな怪我しないですんだのに」

 

 

 

確かに、どうしてオーナーにまで言って自分達をデンライナーから降ろさないようにして一人で戦っていたのか分からなかった。

 

 

 

良々「信じてたから…──モモタロスなら、ちゃんと分かってくれるって信じてたから……―――これでも信頼してるのよ」

 

 

 

それを聞いたモモタロスは照れ臭そうに頬を掻くと、コーヒーを飲み干す。

 

 

 

みゆき「そういえば、寺田さんはあれからどうなったのかな?」

 

 

 

みゆきの疑問にれいかが答えた。

 

 

 

れいか「彼女はその想いを会長に伝えたらしいです。――しかし、残念ながらその想いは実らなかったようです…。」

 

 

 

それを聞いて皆の表情が少し残念にくもる。

 

 

 

オーナー「失恋するのも…恋の内です」

 

 

 

オーナーは炒飯に挿さったデンライナーの旗を倒さぬように倒さないようゆっくり食べながら淡々と言う。

 

 

 

オーナー「恋は実ればハッピーエンド…そうかもしれません。しかし、幸せ不幸せは表裏一体、心の在り方でその価値は決まるのです。彼女は今回の一件で大切な事を学んだと思います。――――彼女の物語はほんの序章にしか過ぎません。これからどんな物語になるのか……」

 

 

 

炒飯に再びスプーンを入れると旗が倒れた。

 

 

 

ナオミ「はい、ざ~んねん♪」

 

オーナー「まぁ、いいですけどね。──時の流れはどう進むか誰にも判らない。だから実に面白く、美しい…のだと思います」

 

 

 

オーナーはナプキンをしまうとそのまま退席してしまった。

 

 

 

モモタロス『おい、良々。お前、案外本気(マジ)で戦おうとしてたんだな?』

 

良々「まあね。これが、私にできる事だから」

 

モモタロス『何がまあねだ、この野郎』

 

 

 

モモタロスはじゃれるように良々の頭をわしわしと撫でる。

 

 

 

モモタロス『まぁモモタロスってのはセンスねぇけど、センスねぇよな。セ ンスねぇけど……呼びたきゃ勝手に呼べよ』

 

 

 

嬉しそうな声を上げるモモタロスに思わず皆は微笑む。

 

 

 

良々「そうするわ、モモタロス」

 

モモタロス「………やっぱ、センスねぇ~」

 

 

モモタロスの力ない声で皆がドッと笑い声をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

良々「みゆきちゃん」

 

みゆき「ん?」

 

 

 

良々はみゆきや皆に何か耳打つとみゆきはニカッと笑いスマイルパクトを開く。

 

 

 

良々「モモタロス」

 

モモタロス『ん?…うおおおっっ!!』

 

 

 

モモタロスが振り向き見たのは、テーブルの幅程の巨大なプリン。

モモタロスはそれを見て驚く。

 

 

モモタロス『プリン!!どうしたんだコレ!!』

 

みゆき「キュアデコルでだしたの」

 

良々「じゃ、みんなで分けて食べましょ」

 

モモタロス『やったー!!プリンだプリンだー、わーい♪』

 

 

 

プリンはみんなで仲良く分けて食べた。

その食べたプリンは…なんでか凄く美味しく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バッドエンド王国

 

 

 

ハロウィッチがようやく帰還してきた。

ハロウィッチが向かった場所はキタカゼの研究施設。

 

 

 

ハロウィッチ「キタカゼ」

 

キタカゼ「ハロウィッチですか?」

 

 

 

ハロウィッチは短くはっきりと伝えた。

 

 

 

ハロウィッチ「現代で“桜井”を見たわ」

 

 

 

それを聞くとキタカゼは少し反応した。

 

 

 

キタカゼ「ほぅ、貴方が言うならそれは見間違いではないでしょうねぇ…もう少しここに留まっておくというのも悪くはない」

 

 

 

キタカゼは不気味な笑みを浮かべる



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僕に釣られてみる?(前編)

久々の投稿です。


七色ヶ丘臨海公園

 

 

 

 

 

アカオーニ「ま、待ってくれだオニ!!」

 

デンオウSF「それはこっちのセリフだ!!待ちやがれーっ!!!」

 

 

公園の真ん中で赤鬼を追いかけ回す桃太郎。

言うまでもない、桃太郎はデンオウSFだ。

そして、追いかけ回される赤鬼はバッドエンド王国のアカオーニである。

 

 

「いけー!ももたろー」

「がんばってー」

 

周囲では小さな子供が声援を送り、デンオウSFを応援する。

どうしてこんな状況になったのか。

それは遡ること3分前。

 

良々「最悪だー!!」

 

 

良々そう叫びながら走っていた。

何故なら、今朝目が覚めたら目覚まし時計が電池切れで止まっていたからだ。

今は遅刻寸前、息を切らしながら走る。

 

 

良々「にしても…どうしてこんなに鞄が重たく感じるのかしら……?連日の戦いの所為?」

 

 

ここ最近イマジンに加え、ウルフルンや、マジョリーナ、ハロウィッチの侵略に加え、青っ鼻のアカンベエ(ちなみに、デンオウの技は浄化ではなく、消滅なので有効である)など、最近は戦いに戦いの連続である。

体に疲れが溜まっているな、と思っていたその時、

 

 

モモタロス『うはぁ、今朝から早々ついてねぇなぁ。良々』

 

 

すると、バックの中からぬいぐるみに入ったモモタロスがひょっこり顔を見せた。

 

良々「うん……ってお前の所為かぁ!!!」

 

モモタロス『へ?何だよ』

 

 

モモタロスは訳がわからないというような顔をした。

 

 

良々「いい?アンタは今契約してないからアンタは今砂なわけ!!いくら小さなぬいぐるみに入ってもその質量は変わらないの!」

 

モモタロス『だから?』

 

良々「アンタ、ホントバカ!?私は今までアンタくらいの砂袋をバックにいれて走ってたって事なの!!そりゃ疲れんの当たり前だぁ!!」

 

モモタロス『ああ、そういや。今俺砂だったな』

 

良々「なるほどじゃなーい!!」

 

 

モモタロスをデンライナーに帰して時計を見た。

このままじゃ本当に遅刻してしまう。

そこで、近道する為にすぐそばの臨海公園を横断することにした。

しかし、その途中でモモタロスがまたひょっこり出てきた。

 

 

モモタロス『おい、良々』

 

良々「今度は何?」

 

 

走りながら、返答する。

 

 

モモタロス『バッドエンドの匂いだ』

 

 

その一言で立ち止まる。

 

 

 

 

 

 

 

バッドエンド王国からやって来たのは、大柄の巨体に金棒を担ぎ上げた赤鬼。

アカオーニ。

 

アカオーニは臨海公園の上空に佇んで公園を見下ろしていた。

公園では無邪気に遊ぶ子供達とそれを微笑ましそうに見守っている母親の姿があった。

 

 

アカオーニ「ぐあー、気分悪いオニ!なんていい笑顔オニ!」

 

 

アカオーニも含め、バッドエンドの住人は笑顔を嫌う。

それはアカオーニも例外ではない。

アカオーニはこの笑顔を黒く染めてやろうと思い魔本を開く。

 

 

アカオーニ「世界よ最悪の結末、バッドエンドに……「てぁっっ!!」ぐへっ!!?」

 

 

アカオーニが魔本を広げ、黒いチューブを握り潰そうとしたその時、掛け声と共に何かがアカオーニの腰に直撃!!

アカオーニはそのまま公園の芝生の上に墜落した。

辺りの子供や人は何事かと思いアカオーニに注目する。

 

 

アカオーニ「あいたたたたた、一体なんだオニ!!」

 

M良々「よう、赤鬼野郎。お前、バッドエンドだな?」

 

 

アカオーニの目の前に現れたのは前髪と瞳の色の赤い、モモタロスの取り憑いたM良々だった。

先程アカオーニの腰に直撃したのはM

M良々の蹴り上げた駐車止めの短い石柱。

 

 

アカオーニ「お前誰だオニ!!」

 

 

金棒を振り上げ威嚇するアカオーニに対しM良々は平然と余裕をかました。

 

 

M良々「俺が誰だぁ……?何だ、お前、俺を知らねぇのか?」

 

アカオーニ「お前なんか知るかオニ!!」

 

M良々「俺を知らねぇとは遅れたやつだな」

 

 

M良々はベルトを腰に巻き付けると高らかに宣言した。

 

 

M良々「じゃあ今から、俺のカッコいい変身見してやるからよくみとけ」

 

 

ベルトの赤いボタンを押し、跳び六方みたいに両腕を広げ、叫ぶ。

 

 

M良々「変身っ!!」

 

 

 

 <SWORD FORM>

 

 

 

手に持っていたパスケースをバックルに横切らせる。

すると、良々の身体は黒と灰色のライダースーツを身に纏い、

手には手の甲を丸く覆う肘までの白い手甲、

足は白足袋に膝を覆う白い脚絆。

それに何処からともなく現れた丈の特攻服のような陣羽織を羽織り、ベルトが羽織を締める。

最後に髪全体が赤く染まり、白く大きな逆さ蝶々のリボンが良々の髪をポニーテールへと纏め上げ、白い鉢巻きが真ん中分けの額に巻かれる。

 

 

デンオウM「俺、参上!!!」

 

 

親指で自分を指し、腰を回しながら両腕を広げ、決めゼリフを叫ぶ。

 

 

子供A「あ、へんしんした!」

 

子供B「ママ~、あのおねえちゃんももたろうにへんしんしたよ!」

 

母親「何かの撮影かしら?」

 

 

それを見ていた子供達は目を輝かせて口々に喜んでおり、大人は何かの撮影かと不思議がった。

そんな子供達にデンオウSFは手を振って応える。

 

 

アカオーニ「ぬ!お前、まさか噂のデンオウかオニ!?」

 

デンオウSF「何だよ、知ってんじゃねぇか…」

 

アカオーニ「知ってるぞオニ!特異点に取り憑いたマヌケだとなぁオニ!」

 

 

その言い方にカチンと来たが、気を取り直して言い放つ。

 

 

デンオウSF「その言い方は気にくわねぇな。まぁ、最初はハズレだと俺も思ったさ。けどな、案外こいつはアタリだ!何故なら退屈しねぇからだ」

 

 

モモタロスがチンタラしているのをみて、良々が口を挟んで来た。

 

 

良々『モモタロス、戦うなら早く戦って早目に終らして!』

 

デンオウSF「へいへい…」

 

アカオーニ「特異点もろとも潰してやるオニ!」

 

 

アカオーニは金棒を振り上げ、こちらに向かってくる。

 

 

デンオウSFは腰のデンガッシャーに手を延ばしたその時、

 

 

 

 

 

 

ゴキッ!

 

アカオーニ「あがっ……!!!」

 

良々『へ?』

 

デンオウSF「あ?」

 

 

何かが砕ける音と共にアカオーニは地面に這い蹲った。

 

 

良々『モモタロス…何かやった?』

 

デンオウSF「いや、まだ何も…してねぇ…はず」

 

アカオーニ「こ…腰が……オニ!」

 

デンオウSF「腰?………あ」

 

 

お気付きの方も多いだろう。

実は先程M良々が蹴り飛ばした駐車止めの石柱がアカオーニの腰にクリーンヒットし、腰を砕いてしまったのだ。

 

 

アカオーニ「痛いオニ痛いオニ~!!」

 

 

アカオーニは腰を抑えながら呻く。

 

 

デンオウSF「おいおい、萎えんじゃねーか。ま、弱った奴をいたぶるのは好きじゃねぇけど、目の前にいる敵はほっとく訳にはいかねぇよな?」

 

 

デンオウSFはデンガッシャーを素早く組み上げ、突撃して行く!!

 

 

デンオウSF「行くぜ行くぜ行くぜーっ!!」

 

アカオーニ「ま、待て…オニ!」

 

とまあ、こんな経緯があり、アカオーニは腰を抑えながら、デンガッシャーを振り回すデンオウSFから逃げ回っていた。

 

 

デンオウSF「てめぇ!!いい加減往生しやがれ!!俺は鬼ごっこする気はねぇんだよ!!!」

 

アカオーニ「だから、待ってくれと言ってるオニ!!」

 

 

アカオーニはアカンベェを呼ぼうとしたが、腰が痛い上に逃げ回りながらではそれは無理だった。

 

 

デンオウSF「だから逃げんじゃねぇ!!赤鬼野郎!!!」

 

 

デンオウSFは埒があかないとみると、アカオーニの落としていった金棒を拾い上げ、アカオーニ目掛けてぶん投げる!

 

 

カーン!

 

アカオーニ「ぐほっ!!」

 

 

金棒はアカオーニの後頭部にヒット!!

 

 

 

そのまま地面に倒れこむ。

 

 

 

デンオウSF「じゃあ、最後に俺の必殺技くらわしてお終いだ。ちなみに今日のは一味違うぜ」

 

アカオーニ「ほざけオニ!!」

 

 

強気にでるアカオーニだったが、腰を抑えてよっこらせと立ち上がる。

 

 

デンオウSFはパスをベルトのバックルに翳すと電子音が辺りに響く。

 

 

 

 

 <FULL CHARGE>

 

 

 

 

デンオウSFはパスを放るとデンガッシャーを構える。

バックルから出た光の線はデンガッシャーの柄頭に繋がり、オーラソードを上空へ飛ばす

 

 

デンオウSF「俺の必殺技……パート2ダッシュ」

 

 

デンオウSFはデンガッシャー本体を横に振るとオーラソードがそのスイングに沿って飛来し、アカオーニを斬りつける。

 

 

デンオウSF「てぁっ!!」

 

アカオーニ「ぐあっ!!」

 

デンオウSF「とりゃぁっっ!!」

 

 

今度はデンガッシャーを反対に振るうとオーラソードはアカオーニを反対からも斬りつける。

 

 

アカオーニ「ぐふ、はっ…!!」

 

 

 

 

デンオウSF「これで終わりだぁっ!!」

 

 

アカオーニの死角からオーラソードを振り下ろさせる!!

アカオーニはオーラソードを視界に捉えるが回避するには遅すぎた。

 

 

ズドォォォォン!!!

 

 

轟音と共にオーラソードが地面をえぐり、土埃が辺りに舞う。

 

 

デンオウSF「ん?チッ、手応えがねぇ。逃げたか…」

 

 

オーラソードがデンガッシャーに戻り、デンオウSFがつまらなそうにぼやく。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、この戦いは見られていた。

ひとつの光の球体に…

 

 

???『ふ~ん、アレがデンオウか…結構いい釣り場になりそうだね♡』

 

フワフワと光の球体──イマジンはベルトを外し、変身を解いた良々を見つめていた。

 

 

 

 

 

【バッドエンド王国】

 

先程地球より帰還したアカオーニはベットにうつ伏せに寝て、マジョリーナに湿布を貼ってもらっていた。

 

 

アカオーニ「いててて…もっと優しくするオニ」

 

マジョリーナ「贅沢言うなだわさ」

 

ウルフルン「で、偉そうに出かけて行った割には惨敗して、バッドエナジーすら集められず、その上腰おかしくして戻って来たってことか?」

 

ハロウィッチ「ホント、情けないわね」

 

ウルフルン「ああ、情けない」

 

マジョリーナ「情けないだわさ」

 

アカオーニ「うるさいオニー!!──あいたたたたた……」

 

ハロウィッチ「あんまり怒鳴ると腰に響くよ。だからデンオウには気を付けろって言ったじゃん」

 

アカオーニ「あんな過激派だったとは知らなかったオニ。ルールもへったくれもないオニ」

 

ハロウィッチ「はぁ?知らなかったって、…まるで子供の言い訳ね」

 

 

ハロウィッチは嘲笑う。

 

 

アカオーニ「何だとオニ!!…いたたたたた───くそ~、鬼が桃太郎にやられる……、おとぎ話と同じで面白くないオニ!!」

 

ウルフルン「それより、今回お前が持ってったイマジンはどうなんだ?」

 

アカオーニ「え?」

 

ハロウィッチ「え?じゃないわよ。出かける前に一体渡したじゃん」

 

 

ハロウィッチが確認するようにアカオーニに尋ねる。

 

 

アカオーニ「あ、忘れてたオニ」

 

 

ついうっかりという感じで言う。

 

 

ハロウィッチ「じゃあ、あっちに置きっぱなしってこと!?」

 

 

ハロウィッチは頭を抑え溜息をついた。

 

 

ハロウィッチ「もういい、アタシが行ってくる」

 

 

ハロウィッチは光の球体を連れてまた地球へと向かって行った。

 

【デンライナー・食堂車】

 

 

ナオミ「はい、コーヒーお待たせしました~♪」

 

モモタロス『お、来た来た』

 

 

ナオミの極彩色の泡の乗ったスペシャルブレンドコーヒーがモモタロスに持ってこられる。

 

 

モモタロス『ん~、美味い!!やっぱ戦いの後のコーヒーは最高だな』

 

ナオミ「ありがとうござます♪」

 

 

ナオミは褒められて上機嫌となり、ナオミのコーヒーを飲みながら絶賛するモモタロス。

ハナは何か本を読みながら一服しており、オーナーは相変わらず炒飯と格闘中。

すると、モモタロスが何かに気付いたかのか辺りを見回す。

 

 

モモタロス『おい、なん~か…匂わねぇか?』

 

ナオミ「わかりますか?実はコーヒーにジャムを……」

 

モモタロス『そうじゃなくて…イマジンの匂い…?』

 

ハナ「イマジンはアンタでしょ?」

 

モモタロス『………そうでした』

 

 

モモタロスは不審な匂いを嗅ぎとるも対して気にする事もなく。

そのままコーヒーを満喫する。

しかし、どうも鼻に付き顔をしかめる。

 

 

モモタロス『どうも引っかかる……おい!俺じゃねぇのがいるだろ』

 

ハナ「まさか、アンタだけ十分!」

 

 

しかし、それもハナに一蹴されてしまう。

 

 

オーナー「別にいいですよ。…イマジンだろうと、ヒマジンだろうと…チケットさえあれば誰でも時の列車には乗れます」

 

 

パタと炒飯に刺さっていた旗が倒れた。

 

 

オーナー「おぅ!」

 

 

逆ムンクの手付きで残念がる。

 

その頃、サッカー少年・斎藤大輝は今日もトボトボと帰路に着いていた。

結局、今回の練習試合 でもベンチから出してもらえなかった。

あまりの居た堪れるなさに今日も早退してしまったが、 メンタル的にはもう大丈夫なのだ。

それなのに監督は、いつまでも自分を復帰させてくれない。

「ベンチで見ているだけでも立派な活躍だ」

なんて綺麗事を言ったって、自分をベンチから出さないのは監督の方じゃないか。

理不尽極まりない。

思い返せば去年の10月自分が皆の期待を背負って挑んだPK戦…。

 

 

大輝「俺だって…」

 

 

大輝は足元に転がっていた空き缶を蹴り飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

良々「だめだぁ…完全に遅刻だ」

 

 

ガックリと項垂れながらも走る良々。

あの戦いの後、変身を解いた途端、その戦いを見ていた子供達に囲まれ、色々な質問責めに会い、誤魔化すのにかなり時間が掛かった。

 

 

良々「佐々木先生に、何て言い訳しよう。戦ってましたなんて言えるわけないし…」

 

 

はぁ、と溜息を吐いてると、先程大輝に蹴られた空き缶が運の悪い事に良々の頭にヒットした。

 

 

良々「痛ぇっ!!」

 

 

そのままふらつき荷台に荷物を積んだ停車した軽トラにぶつかる。

 

 

良々「ぐはっ!!」

 

 

すると荷台に積んでいたダンボールが見事良々の上に落下。

ダンボールには重たい物が入っていたらしく。

良々は白目を剥いて倒れてしまった。

 

 

大輝「あ、…やべ」

 

 

大輝はそのまま知らん顔して走り去ってしまった。

 

 

そんな時、気を失った良々の身体に光の球体が近づいて来て良々の身体の中に入り込んだ。

 

 

「君、大丈夫かい!?」

 

 

そこにトラックの業者の人が良々に駆け寄って来た。

声を掛けられた良々はゆっくりと起き上がり、青い瞳が怪しく光っていた。

 

【七色ヶ丘中学校】

 

その頃、みゆき達の教室では

 

みゆきが良々の席を見ながら心配そうな顔をしていた。

 

 

みゆき「良々ちゃん遅いね」

 

あかね「何かあったんやろか?」

 

 

あかねももうすぐ授業が始まるのにまだ教室に来てない良々を心配する。

とうとう予鈴が鳴り、授業が始まる。

ドアが開き担任の佐々木が教室に入ってきた。

 

 

佐々木「HRを始める前に皆さんにお伝えしなければならない事があります。先程、野上さんが病院に搬送されたとのご連絡がありました」

 

 

それを聞いたみゆき達は驚きに目を見開き、教室はざわめく。

 

 

佐々木「大した事ではありませんが、野上さんは今日はお休みです。帰りに誰か野上さんのお見舞いに行ってくれる人はいませんか?」

 

みゆき「なら私行きます!」

 

あかね「ウチも行かせて下さい」

 

そして、放課後

 

みゆき、あかね、やよい、なお、れいか、いつものメンバーは良々のいる病院に到着した。

 

 

あかね「にしても、良々ってどこまでついてへんのやろか」

 

みゆき「トラックに積んであった荷物に頭を打つなんてそうそうないよね」

 

やよい「最初はトラックに跳ねられたかと思ってビックリしちゃったよ」

 

なお「まあ、大したことなくてよかったじゃない」

 

れいか「皆さん、着きましたよ」

 

 

良々のいる病室に着き、扉を開ける。

 

 

あかね「おう、良々。お見舞いに来たで。どや、ひとりで心細かった……や………ろ………」

 

なお「あかね、どうしたの?……え?」

 

 

 

先頭にあかね立っていたあかねがいきなり止まり、他の4人もあかねの脇から病室を覗くと、そこには

 

 

 

看護婦「あい、あ~ん」

 

良々「あ~ん♫」

 

看護婦A「おいしい?」

 

良々「んん、おいしい♡」

 

おばあちゃん「お饅頭食べるかえ?」

 

良々「ありがとうござます」

 

看護婦B「他に欲しい物があったら言ってね」

 

良々「いえ、皆さんさえ居て頂ければ、僕…とっても幸せですよ♡」

 

看護婦B「もう、上手いこと言って♡♡」

 

看護婦や他の患者(主に女性)に囲まれてちやほやされていた。

 

やよい「随分、楽しそうだね」

 

みゆき「うん」

 

婦長「コラーッ!!アンタ達」

 

 

たまたまそこに通りかかった婦長が、みゆき達を押しのけズンズンと中へと入ってきた。

 

 

婦長「ほら!自分の職場に戻った戻った、患者さんは自分のベットに!あなたもね、病院は怪我を治す所なの。あんまり看護婦さんに迷惑かけちゃダメでしょ?」

 

 

婦長が良々に言い聞かせる様に軽くお説教するが、良々は涙腺をウルウルさせて婦長を見る。

その顔に婦長はドキッとした。

同性な事はわかっていたが、なぜだか良々の雰囲気は優男を思わせる感じがしたのだ。

 

 

良々「ごめんなさい…、僕…ひとりでいるのが…とてもつらくて…つい……、看護婦さんや他の患者さんに迷惑かけたのなら謝ります。ごめんなさい!」

 

婦長「あ、いえ…」

 

 

婦長も流石に言いすぎたと思い、

手を振って良々に何か声を掛けようとした時、良々が婦長の手を強く握った。

 

 

良々「でも、婦長さんって、しっかりしてて、とてもお優しい方なのですね…。まるで一昨年亡くなった僕の姉の様…、たった一人の家族だった……うっ、うっ、うっ…」

 

婦長「そうだったの…」

 

良々あまりのつらい様子に婦長や周りの看護婦や患者は涙ぐんだ。

 

 

みゆき「そうなんだ…、良々ちゃん。一昨年お姉さん亡くしてたんだ」

 

やよい「つらかったのね……」

 

なお「ああ…」

 

 

みゆき、やよい、なおは良々の話に涙していたが、あかねとれいかはというと…

 

 

あかね「何か…わざとらしいなぁ」

 

れいか「お姉さんがいたことにも初耳ですし…」

 

 

そして、皆はあまり気にしていなかった。

今の良々は七三に分かれた青い前髪、髪は首のうなじの部分で束ねる様に結ばれて、双眼は青く光り、黒縁の横長六角形の眼鏡が掛かっている事に。

 

 

 

 

 

【デンライナー・食堂車】

 

 

 

 

モモタロス『クソッ!!やられた!!』

 

 

モモタロスはテーブルを叩き、憤慨していた。

 

 

ハナ「どうしたの?」

 

モモタロス『良々がのっとられたんだよ!!やっぱさっきのは勘違いじゃなかった。もう一体別なイマジンが取り憑いていやがる!!』

 

ハナ「何ですって!?」

 

モモタロス『クソッ!!何考えてやがる。俺がいる事はわかってる筈だろ!!』

 

ハナ「何で?……そんな事してもメリットなんてないはずなのに………それで!良々ちゃんは今どうなの?」

 

モモタロス『繋がんねぇ!多分良々の奴意識ねぇんだ』

 

ハナ「何とかならないの!?」

 

モモタロス『無茶ゆうな!主導権握られてんだぞ!!』

 

 

ハナはどうしたらいいのか焦るあまり、頭皮をかく。

 

 

モモタロス『こうなったら俺が直接追い出すしかねぇ!!』

 

 

モモタロスは席に座り唸る。

 

 

ハナ「イマジンに2体も憑かれるなんて、どこまで運が悪いの。良々ちゃん」

 

 

ハナは時計を見ながら呟く。

デンライナー停車時刻まで後少し

 

 

 

 

 

同じ頃、サッカー少年の斎藤大輝はというと、

 

 

大輝「つい、逃げちゃったけどあのお姉ちゃん大丈夫かなあ?」

 

 

コンクリートの壁に向かってボールを蹴り一人で練習しながら、今朝の事に罪悪感を抱いていた。

 

 

大輝「今度会ったら謝ろう…」

 

 

そう、自分に言い聞かせて練習を続けた。

 

しかし、そんな大輝に魔の手が迫る。

 

 

ハロウィッチ「よし、あの子供に取り憑け」

 

 

ハロウィッチがそう言うと、光の球体は大輝の身体の中へと入る。

途端に、大輝の身体から砂がこぼれる。

 

 

大輝「え?」

 

 

砂は大輝のイメージに従い、形作る。

 

 

大輝「ひっ…!」

 

 

その砂の怪物に驚くが、

女のシルエットが見える砂の怪物は大輝をなだめながら要求した。

 

 

???『そう、怖がらなくていいよ。あたしはアンタの願いを叶える妖精さ。…ただ、アンタはあたしにあるモノをくれればいい。さあ、言ってごらん。アンタの望みを……』



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僕に釣られてみる?(後編)

 

看護婦さんや婦長はすっかり丸め込まれ、良々の虜にされていた。

 

 

医師「婦長!!何をやってるんですか!?君たちも!サッサと自分の仕事に戻りなさい!!」

 

 

ようやく通りかかった医師により自体は収まった。

 

 

それを見てみゆき、あかね、やよい、なお、れいかは良々のベッドに近づいてきた。

 

 

あかね「何や良々、思ったより元気そうやな」

 

なお「心配しちゃったよ」

 

 

みゆき達の存在に気付き、良々は振り向く。

 

 

良々「ごめんね。心配掛けちゃって」

 

 

ニッコリと笑顔を作り、愛想良く返す。

 

 

やよい「怪我はもう大丈夫なの?」

 

良々「全然!もう何ともないよ。ほらほら」

 

 

良々は肩を回して大丈夫な事を示す。

 

 

れいか「そう、それは何より…」

 

 

れいかもニッコリと微笑み安心する。

 

 

みゆき「そういえば、良々ちゃん。良々ちゃんって眼鏡掛けるの?」

 

 

みゆきが良々の眼鏡の事を指摘した。

 

 

良々「まあね。でも、そんなに気にしないでいいよ」

 

 

その時、キャンディは珍しく、みゆきのバックの中で眠っていた。

だが、外の話し声で目が覚めた。

 

 

キャンディ「ん?…クル?」

 

 

まぶたを開き、バックのチャックの隙間から覗く。

丁度そこには良々が見えた。

しかし、キャンディは良々を見て飛び上がった。

 

 

キャンディ「クル~~~~ッ!!」

 

みゆき「キャンディ!?」

 

良々「ッ!」

 

 

みゆきは突然キャンディがバックから飛び出した事に驚き、良々も両目を大きく見開いた。

 

 

キャンディ「みゆき!みんな!!聞いて…──ふぐっ」

 

みゆき「こら、キャンディ!」

 

 

周囲の患者がその声に反応し、こちらに顔を向けている。

キャンディはみゆきに口を塞がれモガモガしている。

 

 

あかね「何でもありまへん!」

 

なお「た…ただのオモチャです!」

 

 

他の4人は何とか誤魔化す。

 

 

良々「みゆきちゃん、その子何か伝えたいみたいだから、ひと気のない屋上にでも行って訊いてきてくれば?」

 

みゆき「そうだね。分かった」

 

 

みゆきはキャンディを連れて屋上の方へと向かった。

 

 

良々「(妖精か…、だったらこの子達が伝説の戦士プリキュアか……)」

 

 

そういえばデンオウの近くにはプリキュアがいるとハロウィッチが言っていた事を思い出した。

 

 

良々「(竿は引き際が肝心。手の込んだ餌ほど魚は食わない――折角ののんびりライフもオジャンにしたくないしね♪)」

 

 

不敵な笑みを浮かべ、青い瞳を光らせる。

 

病院の屋上に来たみゆきはキョロキョロと辺りを見回し、誰もいない事を確認して、キャンディの口から手を話した。

 

 

みゆき「もう、どうしたの?キャンディ」

 

キャンディ「みゆき!聞いてクル」

 

 

キャンディの慌て様にみゆきも怪訝な表情になる。

 

 

キャンディ「良々の身体から今まで感じた事のないバッドエナジーが溢れていたクル」

 

みゆき「それどういう事?」

 

キャンディ「前にコウモリのイマジンから感じた気配と同じクル!もしかして、他のイマジンがとり憑いているかもしれないクル」

 

みゆき「他のイマジンって…良々ちゃんの中に、モモタロスさんの他にもイマジンがいるって事!?」

 

キャンディ「そうクル!!」

 

みゆき「ええっ!!?」

 

 

みゆきは驚愕する。

 

 

みゆき「何でもっと早く言ってくれなかったの?」

 

キャンディ「みゆきがキャンディの口閉じちゃったからク~ル」

 

みゆき「あはは…そっか。──とにかく、皆に知らせないと…」

 

 

みゆきはキャンディを抱えて、大急ぎで先程の病室へと戻って行った。

 

みゆき「みんな!!」

 

 

みゆきが病室に戻った時、他の4人はベッドや周りのパイプ椅子に腰掛けていた。

 

 

なお「ん?」

 

あかね「みゆき、どないしたん?そないに血相かいて」

 

みゆき「それがね…!」

 

 

みゆきが説明に移ろうとしたその時、列車のブレーキ音と共にベッドの横のサイドボードが開かれ、ハナが転がり込んできた。

 

 

ハナ「いない!?」

 

やよい「って、ええ!!?ハナさん!?」

 

あかね「一体、どっから出てきとんねん!?」

 

 

ハナはあかね達の驚きには目もくれず辺りを見回し、

 

 

ハナ「良々ちゃんは!?」

 

 

その一言でみゆきもハッとなり、気付くが、良々の姿が見当たらない。

 

 

れいか「良々さんなら、先ほど会計を済ませて来ると言い残して一階へと降りて行きましたが…」

 

みゆき「一人で!?」

 

れいか「はい」

 

ハナ「マズイ!!」

 

やよい「どうしたの?みゆきちゃんもハナさんも…」

 

 

ハナ・みゆき「「それがね!!#¥〒◇〆*£△%◇♭◎*〒〆&£▽*〒○□$」」

 

やよい・れいか

「「?????」」

 

あかね「いや、落ち着いて!!分からへんって。ちゃんと一人づつ…」

 

なお「え?それ本当なの!?」

 

あかね「って、ええ!!分かったんかい!!?」

 

 

あかねは思わず声が出た。

 

 

なお「良々ちゃんに二体目のイマジンが憑いたらしいみたい」

 

やよい「え!?二体目って…」

 

れいか「一人に二体憑くなど…そんな事が可能なのでしょうか!?」

 

ハナ「まあ、可能といえば可能なんだけど…そんな事してもメリットなんて無い筈なのよ」

 

みゆき「とにかく、良々ちゃんを追いかけようよ!!」

 

 

みゆきの言う通り、話をするより良々を見つけ確保する方が優先事項である。

 

 

ハナ「そうね」

 

皆は立ち上がり、病室を出る。

 

 

 

 

 

 

 

あかね「それと、なお。何でハナさんとみゆきが同時に喋ってても聞き取る事が出来たんや?」

 

なお「弟や妹達が同時に話し掛けてくる事なんて私とっちゃ日常茶飯事だからね」

 

れいか「……聖徳太子みたいですね…」

 

 

なおの聞き取り能力に皆は苦笑いを浮かべる。

 

良々に取り憑いたイマジンは会計を済ませるとあかね達の待つ病室には戻らず、住宅街の道を上機嫌にスキップしていた。

 

 

?良々「あ~、最高!自由ってイイよね~♪」

 

 

?良々は携帯電話を取り出し、この辺りの情報を調べはじめる。

 

 

?良々「ん~、確かこの街は七色ヶ丘だったよね。せっかくだから何か面白い所ないかな?お、このクレープ屋さん美味しそう」

 

 

たまたま通りかかったクレープ屋の売店車を覗き込んでよだれを垂らす。

 

?良々「はむっ」

 

 

?良々は良々本人の財布でクレープを購入し、ほおばる。

 

 

?良々「でも、本当は男の子に憑きたかったんだけどなぁ…。ま、この子の身体でも、楽しませて…」

 

 

 

 

調子に乗るなよ…

 

 

?良々「!」

 

 

 

?良々の中から声が響いた。

 

 

『調子に乗るなよ……調子に乗るなよ…!』

 

 

その声に ?良々は僅かに口元を上げ、可笑しそうに呟く。

 

 

?良々「早速掛かったのは──外道…かな?」

 

 

『調子に乗るなって言ってんだよ!!!』

 

 

声の主――モモタロスは元いたイマジンを押し出し、モモタロスは良々に取り憑いた。

 

 

M良々「俺、参上ォッ!!」

 

 

おしゃれメガネが外れ、後ろ髪がポニーテールの様に一つに纏まり、前髪が赤く染まる。

 

 

M良々「オイてめぇ!!何勝手に人ん家に土足で入り込んでんだよ!!一体いつ良々に取り憑きやがった!!?」

 

 

すると今度はイマジンの方が良々に取り憑いた。

 

?良々「あれ?先客がいたんだ」

 

 

また、入れ代わり取り憑く。

 

 

M良々「見りゃあ分かんだろ!!」

 

?良々「間抜けな魚に餌はいらない──この身体イイよね。僕にも使わせてよ?」

 

M良々「はあ?何勝手な事言ってやがる!!」

 

みゆき「良々ちゃ~ん」

 

ハナ「そんなに遠くへは行ってない筈なんだけど…」

 

 

辺りを見回し、6人は住宅街を手分けして捜す。

そして、集合。

 

 

あかね「おった?」

 

ハナ「いや、まだ…」

 

れいか「何処へ行ったのでしょうか?」

 

やよい「今度はこっち探してみようか?」

 

 

また、捜しに行こうとした時、なおが何かに気付いた。

 

 

なお「! ねえ、何か聞こえてこない?」

 

 

みゆき「向こうから?」

 

 

 

 

 

 

 

M良々「いいか!この身体は俺のモンなんだ!てめぇが好き勝手使っていいモンじゃねぇんだよ!!」

 

?良々「へぇ、それは初耳だねぇ。この身体に名前でも書いてあるの?」

 

小馬鹿にする様に揚げ足を取る。

 

M良々「だいたいてめぇなぁ、後から来て生意気なんだよ!!こういうのは早い者勝ちに決まってんだろ!!分かったらさっさと出てけ!!」

 

?良々「君ってホント、乱暴だねぇ。この子の身体も乱暴に扱ってるんじゃないの?その点、僕は女の子には優しいから、僕の方が有効的に使える。だから、引っ込むのは君の方だ」

 

M良々「とにかく、出ろ!」

?良々「いや、出るのは君の方だ」

M良々「出ろ!」

?良々「いやだよ」

M良々「出ろってコンチクショーめ!!!」

 

 

みゆき達が到着した時には、はたから見れば独り芝居をしている様にしか見えない奇行を良々はしていた。

 

 

そして、ついに……

 

 

 

良々『いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!!』

 

 

本物の良々の意識が2体のイマジンを追い出した。

 

 

良々「一体…何なのよ……ハァ…ハァ……人が気絶してる間に………」

 

 

良々はその場にバタリと倒れてしまった。

 

 

ハナ「良々ちゃん!!」

 

ハナやみゆきが駆け寄り、良々を起こす。

 

やよい「大丈夫?」

 

良々「なんとか…」

 

 

ようやく立ち上がった良々。

しかし、この場の7人にゆっくりする暇はなかった。

 

 

「うわあっ!!」

 

 

突如聞こえて来た悲鳴。

7人は声のした方に向かって走る。

 

 

 

 

 

???『ふ~ん…』

 

 

一方、良々から追い出されたイマジン2体はデンライナーの食堂車にいた。

新しく入ってきたイマジンは身体か水色、目はオレンジ。

身体には亀甲のような亀裂がはいっており、よくみると“URA”という文字。

青いイマジンは自分の体をマジマジと見ると微妙な声をだす。

 

 

青いイマジン『取り憑いた人間のイメージで実体化するって聞いたけど──ふっ、コレはなかなか…』

 

 

青いイマジンは鼻で笑いながらモモタロスをみる。

 

 

モモタロス『何だよ良々のセンスの無さなめんなよ!!』

 

青いイマジン『はははっ、そんな事ないよ。君はよく似合ってるから。ははははっ…』

 

モモタロス『なら、腹抱えて笑うのやめろ!馬鹿にしてんのか!?』

 

 

その青いイマジンを見て何か閃いたのかナオミがポンと手を叩いた。

 

 

ナオミ「もしかして、良々ちゃんの事だから…、桃太郎に続いて──“浦島太郎”かも!」

 

青いイマジン『浦島太郎…?』

 

 

確かに、顔つきは正に海亀によく似ていた。

ただ、大きな甲羅は背負っておらず、意外とスマートな体型だった。

 

 

モモタロス『へっ!こいつはいい。よし、お前は今日から“ウラタロス”だ!!』

 

(命名)ウラタロス『ウラタロスねぇ』

 

モモタロス『おい、ウラタロス』

 

 

ダンっとテーブルに足を掛け、喧嘩腰で意気揚々と喧嘩を売る。

 

 

モモタロス『決着つけようぜ!!』

 

 

一方、ウラタロスは

 

 

ウラタロス『ココで?』

 

モモタロス『他にどこがあんだよ』

 

ウラタロス『そーゆーのやめない?面倒だしさぁ…』

 

モモタロス『何だとコラ!!』

 

 

ウラタロスはどこ吹く風。

この両者は基本、温度差が違う様だ。

その態度に業を煮やし、完全にチンピラと化すモモタロス。

それを興味津々と見るナオミ。

 

悲鳴のした方向を追うと、見つけた。

 

臨海公園の芝生の上で気絶した子供が横たわっており、女性型イマジンがその子供を見下ろしていた。

 

みゆき「待ちなさい!」

 

 

5人は倒れた少年との間に割って入った。

 

 

???イマジン『ん?誰だい?アンタ達』

 

 

突然の乱入者にいぶかしむ。

 

 

みゆき「え?女のイマジン」

 

なお「珍しいね…」

 

あかね「半魚人かいな?」

 

 

初めて見る女型イマジンにみゆき達は各々感想をもらした。

 

 

???イマジン『何だか知んないけど、アタシゃ忙しんだよ。それに、アタシは半魚人じゃなくて人魚!』

 

みゆき「え!?人魚なの!?でも脚あるよ?」

 

マーメイドイマジン『知らないよ。実体化したらこうだったんだから』

 

 

この女型イマジンは『人魚姫』の人魚をイメージして実体化したイマジン、『マーメイドイマジン』。

人魚とは言っても下半身は二股に別れて、尾ビレの様な足先に、腰はヒレを模したミニスカート、胸部は二枚のヒレで隠れている。

顔はモモタロスとは違い表情があり、人間の様な整った顔つきサラサラの長い髪に、胸ビレの耳。

体色を除けば、人がコスプレをしているので納得してしまう姿だった。

 

 

マーメイドイマジン『それよりお嬢ちゃん達、今言った通りアタシは今忙しいんだ。邪魔するなら…痛い目みてもらうよ?』

 

 

マーメイドイマジンは不敵に笑い、U字ハープ型の武器をチラつかせる。

 

 

れいか「いえ、残念ながら…邪魔させていただきます」

 

 

みゆき、あかね、やよい、なお、れいかは変身アイテム・スマイルパクトを取り出し、各々のキュアデコルをセットする。

 

 

『Ready』

 

 

「「「「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」」」」

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!』

 

 

皆がそれぞれの色のコスチュームを身に纏い、髪が増量し、最後にパフを両頬にあてて、変身完了。

 

 

キュアハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

 

キュアサニー「太陽サンサン、熱血パワー!キュアサニー」

 

キュアピース「ピカピカピカリン、ジャンケンポン♪キュアピース」

 

キュアマーチ「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ」

 

キュアビューティ「しんしんと降り積もる、清き心!キュアビューティ!」

 

 

「「「「「五つの光が導く未来、輝け!!スマイルプリキュア!!」」」」」

 

 

五人の決め台詞が決まり、イマジンの前に立ち尽くす!!

 

 

マーメイドイマジン『スマイルプリキュア!?』

 

 

マーメイドイマジンが驚きの声を上げる。

 

 

 

ハッピー「はあっ!!」

 

マーメイドイマジン『うわっ!!…とっとっとっ』

 

まずはハッピー。

その場から一気に跳躍し、マーメイドイマジンに拳を食らわす。

しかし、マーメイドイマジンはそれを回避する。

 

 

サニー「だあぁっっ!!」

 

マーメイドイマジン『おうっ!!』

 

 

今度はサニーの蹴りをハープ型の武器で防ぐ。

 

 

マーメイドイマジン『ちょ、ちょっと…!何するんだい!?』

 

 

5人の連携攻撃を必死で避け続けるマーメイドイマジン。

 

 

マーチ「あんた、やる気ないの!?」

 

 

マーチは反撃しないマーメイドイマジンにもどかしさを感じ、言う。

 

 

マーメイドイマジン『私の目的はアンタ達と争う事じゃないの!分かる?』

 

 

ハッピー「え!?そうなの?」

 

ピース「なんだ…」

 

 

ハッピーやピースはあのイマジンが自分に敵対していない事を聞き、驚き、ホッと警戒を解いてしまった。

 

 

マーメイドイマジン『それじゃあね』

 

 

その隙にマーメイドイマジンは手を振って逃げ出した。

 

 

サニー「あ!逃げるで!!」

 

ビューティ「二人共、しっかり!!相手は戦う気は無くとも、過去へは跳ぶつもりです!!それだけは何としても阻止しなければなりません!!」

 

ハッピー「あ!そうか!!」

 

 

今回の敵はあまり戦いに乗り気ではなく、過去へ跳ぶことを目的としている。

ハッピーも含め、プリキュア達は戦いは常に相手もヤル気でいるのだが、戦う気のない敵を相手にするのは何か気が引けていた。

 

 

 

ハナ「もうみんな戦っている!!」

 

 

 

そこへ遅れて登場して来たハナ、良々、キャンディ。

5人が既にプリキュアに変身して、戦っているのを見ると良々もベルトとパスを手にとり、ベルトを腰に巻きつけようとした。

しかし、良々はフラつき近くのフェンスにもたれかかった。

 

 

ハナ「良々ちゃん!!」

 

キャンディ「良々、大丈夫クル?」

 

 

グッタリとする良々をハナとキャンディは気にかける。

 

 

良々「ありがとう、キャンディ。でも、私も…戦わないと……」

 

ハナ「そんな、無理しないで」

 

良々「大丈夫です。この位、何ともありません」

 

 

ハナの心配も他所に良々は腰にベルトを巻き、赤いボタンを押すとバックルが光り、変身メロディが鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

モモタロス『あん?』

 

完全にチンピラ化したモモタロスの頭に、突如ベルトのメロディが響いてきた。

呼び出しだ。

よく臭うとウラタロス以外の臭いもしている。

せっかく目の前のいけ好かない野郎を相手しようとしていたのに、急がなければならないことが悔しい。

不戦敗のようなムシャクシャを抑えるように振り向き、宣戦布告を放った。

 

 

モモタロス『チッ。テメェとの決着は後だ。――逃げんじゃねぇぞ!』

 

 

良々の元へ向かうモモタロスを、ウラタロスは冷めた目つきで見送る。

 

 

ウラタロス『ばいば~い』

 

良々「変身…」

 

 

 <SWORD FORM>

 

 

電子音がなり、ライダースーツに、陣羽織、リボンが素早く装着され、髪と瞳の色が赤く染まる。

 

 

デンオウSF「俺、…邪魔だな。俺、参上!!」

 

 

妙にポージングにこだわり、フェンスをよけるデンオウSFはさて置き、ポーズを決めた後はその場からひとっ跳びで、マーメイドイマジンの前にとびだす。

 

 

マーメイドイマジン『なっ!?デ、デンオウ!?』

 

デンオウSF「女相手は乗り気じゃねえんだが、ソッコーで終わらせて貰うぜ!!」

 

 

デンオウSFはデンガッシャーを組み上げ、突撃開始!!

 

 

マーメイドイマジン『チッ!アンタもどうして、仲間のクセに邪魔をする!!』

 

デンオウSF「テメェこそ邪魔すんじゃねえ!!こっちも取り込み中なんだ!!さっさと消えて貰うぜ!!」

 

マーメイドイマジン『チッ、問答無用ってわけね…』

 

だか、6人ですぐにマーメイドイマジンを取り囲み、攻撃のラッシュを叩き込む。

 

しかし、放たれるラッシュを時には潜り、時には飛び退き、跳ねて転がり、絶妙に回避し、逃げ続けるマーメイドイマジン。

デンオウSFの怒りに、反論をも返す。

 

 

デンオウ『こっのぉ……ジッとしてろ!!逃げるんじゃねぇっ!!』

 

マーメイドイマジン『私の目的は、アンタ達と戦うことじゃない!!』

 

ハッピー「なんか…これじゃ私たちが悪者みたいね」

 

ビューティ「た、確かに…」

 

 

確かに、今の状況を冷静に考えると、一人相手に大人数でイジメているのと大差なかった。

流石にかわいそうになってきたハッピーは攻撃の手を緩めたその次の瞬間、マーメイドイマジンの周囲、デンオウ、プリキュア目掛けてエネルギー光球を撃ち込まれた。

 

 

デンオウSF「ぐあっっ!!」

 

プリキュア達「キャアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

6人は一斉に吹き飛ばされた。

ただし、攻撃したのはマーメイドイマジンではない。

 

 

ハロウィッチ「悪いけど、こいつはやらせないよ…、契約を果たしてもらうまでは」

 

デンオウSF「カボチャ女、また邪魔しにきやがったな!!」

 

マーメイドイマジン『ハロウィッチ様…』

 

ハロウィッチ「とっとと行きなさい』

 

マーメイドイマジン『は、はい!』

 

デンオウSF「ま、待ちやがれ!!」

 

 

マーメイドイマジンが走り出したのを見るとデンオウもプリキュアも立ち上がり追いかけるためたち上がる。

 

 

ハロウィッチ「はあっ!!」

 

デンオウSF「うっ…、ぐおぁぁっっ!!」

 

サニー「モモタロス!!」

 

 

光球で吹き飛ばされたデンオウSFに駆け寄る。

 

 

サニー「大丈夫か?」

 

デンオウSF「何とかな…」

 

 

デンオウが顔を上げるとそこにハロウィッチの姿はなかった。

 

 

デンオウSF「カボチャ女は?」

 

ハッピー「逃げたみたい…」

 

 

ハロウィッチはマーメイドイマジンを逃がすため割り込んできたと見て間違いないだろう。

追いかけたいのはやまやまだったが、良々の体力もそろそろ限界だ。

あのイマジンは後で見つけるとして、あっちの青イマジンの事も気に掛かる。

向こうでハナが介抱している子供も病院に送っていかなければならないので、全員変身を解除し、モモタロスはデンライナーに戻って行った。

 

 

みゆき「ハナさん!その子大丈夫?」

 

ハナ「うん、でも一応病院に連れていかないと…」

 

 

デンライナーの停車時刻までまだ時間がかかる。

 

デンライナーでは、ご丁寧にウラタロスが一杯貰って待っていた。そこに到着したモモタロスが、芝居がかった脅しをかける。

 

 

モモタロス『待たせたな。さぁて!!続きといこうぜ』

 

 

その態度に呆れた様子のウラタロスは冷ややかな目で。

 

 

ウラタロス『ホント。マヌケ釣るのに餌は要らないね』

 

 

それが赤いモモタロスをさらに真っ赤にした。

 

 

モモタロス『言ってくれるじゃねぇか』

 

ウラタロス『それが?』

 

 

その姿をウキウキ顔で見つめるナオミ。

 

 

ナオミ「うわぁ…桃太郎対浦島太郎だぁ…♪ガンバレー♪」

 

 

暢気すぎる。

 

 

モモタロス『フンッ!!』

 

 

いきなりウラタロスの首筋を掴むモモタロス。

しかし黙って食らってやる筋合いもない。

 

 

ウラタロス『い、た、い、なぁ、もうっ!』

 

 

モモタロスの腕を捻り、テーブルに頭をを打ちつけた。

もんどりうって叩きつけられるモモタロスに、ウラタロスの追撃ボディプレスが襲い掛かる。

 

 

モモタロス『くらうか!!』

 

 

それをモモタロスは机の下に潜ってかわし、キッチンテーブルに投げ飛ばす。掴み合い、投げ合う二体のイマジン。

 

 

モモタロス『この野郎!!』

 

ウラタロス『効かないよ!!』

 

 

デンライナーが激しく揺れる。

盛り上がるナオミ。

車輪も悲鳴を上げ始め、このままでは脱線する。

急げ!良々、みゆき。



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なおは許セン、亀は慢心

モモタロス『フンッ!!』

 

 

いきなりウラタロスの首筋を掴むモモタロス。

しかし黙って食らってやる筋合いもない。

 

 

ウラタロス『い、た、い、なぁ、もうっ!』

 

 

モモタロスの腕を捻り、テーブルに頭をを打ちつけた。

もんどりうって叩きつけられるモモタロスに、ウラタロスの追撃ボディプレスが襲い掛かる。

 

 

モモタロス『くらうか!!』

 

 

それをモモタロスは机の下に潜ってかわし、キッチンテーブルに投げ飛ばす。掴み合い、投げ合う二体のイマジン。

 

 

モモタロス『この野郎!!』

 

ウラタロス『効かないよ!!』

 

 

デンライナーが激しく揺れる。

盛り上がるナオミ。

車輪も悲鳴を上げ始め、このままでは脱線する。

 

 

モモタロス『へぶっ!!』

 

ウラタロス『ぐほぁっ!!』

 

 

突然、デンライナーの食堂車のドアが開き、第三者が乱入してきた。

 

 

ハナ「何やってんの!!あんた達!!デンライナーが壊れたら、私達、時の中を永遠に彷徨う事になるのよ!!それでもやるっていうなら──」

 

 

ダンっとテーブルに脚を掛けると、

 

 

ハナ「私が相手になる!!!」

 

 

ハナの怒声にモモタロス、ウラタロスはあまりの恐怖に凍てついてしまった。

 

それは後ろにいた6人も同じだった。

 

 

「「「「「「(怖っ!!)」」」」」」

 

ナオミ「カッコイイ~!」

 

 

しかし、まだ反抗的な態度を見せるモモタロス。

 

 

モモタロス『けっ、ハナクソ女が…』

 

 

そう呟いた瞬間、ハナはモモタロスとウラタロスの間の壁にフォークを投げつけ突き刺さり、直立した。

 

 

モモタロス『──っ!!』

 

ウラタロス『──っ!!』

 

 

それを見て一言、

 

 

モモタロス『これは良くないんじゃない?』

 

冷静にいった。

 

不気味な怪物にサッカーチームの友達が襲われたと母親から話を聞き、斎藤大輝はベッドの中で震えだした。

間違いない。

優しそうな声で言い寄って来たあいつの仕業だ。

でもどうすればいいの?

怪物に立ち向かう力も勇気もない少年には、ただ怯える事しか出来なかった。

 

マーメイドイマジン『“サッカーチームのレギュラーに戻りたい”。それがアンタの願い?…お安い御用♡すぐにアンタはレギュラーに返り咲くよ』

 

ハロウィッチ「無駄な戦いをしないというのは賢明だけど、…思ったより弱いねぇ、アンタ」

 

マーメイドイマジン『手厳しいお言葉でございます』

 

 

別の場所ではハロウィッチとマーメイドイマジンがこれからの作戦を練っていた。

契約者の精神力、つまりイメージが弱かったためか、あまり強いイマジンにはならなかったらしい。

過去へ飛び契約者とのつながりを絶ってしまえば関係ないのだが、契約の最中ではイマジンの力量は契約者の精神に比例する。

 

 

ハロウィッチ「仕方ない、キタカゼに渡されたこれを使うか…」

 

 

ハロウィッチが取り出したのは絵の具で絵を描くために使う絵筆。

それををかざし振ると、マーメイドイマジンの身体がみるみる内に変化していく。

 

 

マーメイドイマジン『お、おおおおおおおお!!!ハロウィッチ様…これは……』

 

 

ハロウィッチ「バッドエナジーは何も集めるだけではない…ふふふっ」

 

 

 

【デンライナー・食堂車】

 

 

ウラタロス『いやー、ハナさんに、良々ちゃんに、みゆきちゃんに、あかねちゃんに、やよいちゃんに、なおちゃん、れいかちゃん。いいね~、女の子が7人もいる列車なんて♪あ、ナオミちゃんもいれたら8人か…』

 

 

すっかり上機嫌のウラタロス。

 

 

キャンディ「キャンディも女の子クル」

 

ウラタロス『はいはい、プラス一匹ね…』

 

 

適当に流した。

 

 

ウラタロス『にしても…酷いよねぇ、この姿。ま、外に出る時は彼女の身体借りるから、いっか…』

 

良々・モモタロス

「『いいわけない(でしょ・だろ)!!!」』

 

 

ふたりは息を揃えて返した。

 

 

モモタロス『いいか!良々の身体は俺のモンだ。テメェの入る隙間は一ミリたりともねぇ!!』

 

良々「あんたも何さらっと言ってんの!私の身体はアパートじゃないのよ!それと、そうゆう言い方やめて、エロいから」

 

ウラタロス『あららホント、デリカシーないよね~、あのイマジン』

 

 

何気に肩を組んでくるウラタロスを振り払う。

 

 

良々「勝手に人の身体を使うイマジンに言う資格は無いから」

 

ウラタロス『釣れないな~』

 

 

爪をいじりながら、いじける。

 

 

なお「それより、ウラタロス」

 

ウラタロス『もう、その名前確定!?』

 

 

ウラタロスのショックも構わず、なおは続ける。

 

 

なお「何で良々ちゃんに取り付いたの?どうせあいつらの回し者でしょ?」

 

ウラタロス『ああ、誤解しないでよね。僕はバッドエンドとは関係無いよ。僕はのんびりライフを堪能できればそれでいいんだから』

 

ハナ「信じらんないわ。そんな事、…大体良々ちゃんは───」

 

ウラタロス『特異点でしょ?』

 

 

ハナの言葉を先に発したウラタロスの言葉にハナとモモタロスは驚いた。

 

 

モモタロス『ちょっと待て! お前、分かって憑いたのか!?』

 

ハナ「自由に動けなくなるのに!?」

 

ウラタロス『デメリットなくして、メリット無し。時の運行を変える…なんて、やりたい奴がやればいいし…』

 

ハナ「そっか、イマジンの本来の目的さえ考えなかったらそっちの方が得する事もあるんだ」

 

ウラタロス『そーゆーこと』

 

 

話の趣旨がいまいち理解できない他の6人は何となく話を聞いていたが、れいかが疑問を投げかけた。

 

 

れいか「あの、どういうことでしょうか?ウラタロスさんは良々さんが特異点だと分かって憑いたらしいのですけど、特異点にとってのメリットとは何なのですか?」

 

良々「確かに、ハナさんから特異点についてあまり聞かされて貰っていないから…どういう事?」

 

 

そう聞くと、ウラタロスは椅子に腰をかけ、咳払いする。

 

 

ウラタロス『まず、一言で言えば、特異点とは“どんな時の変化も受けない”と言っておこうかな』

 

やよい「どんな時の変化も受けない?」

 

みゆき「歳を取らないって事?」

 

ウラタロス『それはちょっと違う。まぁ、僕達イマジンが特異点に取り憑くという事は時の影響を受けず、時の流れに置き去りにされる事を意味するんだ。時の流れに置き去りにされる事は時の改ざんができなくなり、その上特異点に縛られて自由に動けなくなってしまうという足枷付き。イマジンにとってそれはデメリットにしかならない。

ところが、特異点に取り憑いてれば、その取り憑いたイマジンは特異点と繋がっているからこの特異点である良々ちゃんの過去に何が起きたとしても、現代の良々ちゃんには影響がなく、僕も安全って事。加えて、良々ちゃんに取り憑いて、過去にさえ跳ばなければ何をしてもその行動が時の運行を乱す事はないと言う事なんだ。おわかり?』

 

みゆき「う~、眠い…。もうちょっとわかりやすく…」

 

あかね「あ~、アタマピヨピヨする~~~……」

 

 

みゆきや、あかねは難しい授業を聞いてるみたいでパニック状態だった。

 

 

れいか「つまり特異点って言うのは絵本に挟む”しおり”みたいな物なのですか?」

 

みゆき「しおり?」

 

れいか「そして『時間』そのものがその『絵本』であり、『特異点』が『しおり』、『それ以外の人』は『絵本の中の登場人物』と言ったところ──」

 

 

みゆきや他の皆がれいかが説明を聴きながら想像する。

 

 

れいか「絵本のどのページにしおりを挟んでも本の内容、つまり時の流れには直接関係しないのが特異点の利点なのです。『桃太郎』でおばあさんが川で洗濯をしているところで犬猿雉が登場してきては内容がこんがらがってしまいますから…」

 

ウラタロス『まぁ…、そんな所』

 

あかね「う~ん、物は言いようちゅうか…何ちゅうか…」

 

 

ハナ「まあ、特異点についてはまだよく分からない所が多いから…そんなに急がなくてもいいよ。それより今は逃げたイマジンを追わないと」

 

良々「よし、じゃあ行こ──とっとっとっとっ…」

 

 

立ち上がった良々はフラフラとふらつき、なおとれいかに支えられた。

 

 

なお「ちょっと、無茶しないで。良々ちゃん」

 

れいか「まだ体調が優れないのですね。ここはわたくし達にお任せください」

 

良々「う~ん、分かった」

 

 

良々の調子が悪いので、留守番組と捜査組に分かれて行動することにした。

捜査組はハナとれいかとなお、留守番組は良々とみゆきとあかねとやよい、モモタロス。

捜査組の方針はハナとれいかとなおは襲われた少年の病院へ行き、留守番組はウラタロスの見張りで決まった。

 

 

 

 

 

 

探索を開始して一時間が経過。

やはり病院へ行ってみると、襲われた少年が何人も入院していた。

さらに、その少年達の共通点は同じ少年サッカーチームのメンバーであることがわかった。

それならば、まだ襲われていないメンバーから何か情報が聞き出せるかもしれない。

ハナはデコルで具現化したケータイでれいかとなおに連絡を取り、二人は聞きこみを再開。

今度はデンライナーのみゆき達に連絡をいれた。

ついでに良々とウラタロスの様子をみゆきに聞いた所。

 

 

みゆき「良々ちゃんならウラタロスさんと一緒にイマジン探し手伝いに行きましたけど?」

 

ハナ「何ですって!!?」

 

あれ程無茶はするなと言い聞かせたのに。

その上、あの何を企んでいるか分からない腹黒イマジンを逃がすなんて…。

すると今度はモモタロスが大泣きになりながら事情を話してきた。

 

 

モモタロス『そうゆうなって…あいつもあれで苦労してたっつーか、何とゆーかさぁ…──』

 

それはハナとなおとれいかが探索に行ってしばらくしてのことだった。

 

 

ウラタロス『ふーん、…案外──』

 

モモタロス『なんだよ…?』

 

ウラタロス『静か過ぎってゆーか、退屈ってゆーか…』

 

モモタロス『いっとくけどな、てめーがいなかったら楽しい電車なんだよ!ここは』

 

あかね「こら、モモタロス!!そないな言い方あかんやろ!」

 

やよい「イマジン同士仲良くしようよ。ね?」

 

モモタロス『何だよ、こいつの肩入れするのかよ?』

 

 

モモタロスはウラタロスを指差し言う。

 

 

良々「そうねぇ…ウラタロスの方が優しそうだし、私モモタロスより、ウラタロスと一緒に戦っちゃおうかしらねぇ?」

 

良々はからかう感じでチラッとウラタロスほうへと視線を向ける。

 

モモタロス『はぁ!?この間コンビ解散しかけたばっかなのにか!?』

 

良々「冗談よ。モモタロスってすぐ本気にするんだから」

 

 

からからと、良々がおおらかに笑う。

それにつられて、みゆき、あかね、やよい、そしてキャンディも笑う。

 

その様子を見て、ウラタロスはクスリと笑う。

 

 

ウラタロス『それにしても──ホント久しぶりだなぁ…こんなに楽しく人と話すのって…』

 

みゆき「? それってどういうこと?」

 

みゆきが何となく訊いてみると、ウラタロスは少しの沈黙の後口を開いた。

 

 

 

ウラタロス『僕はねぇ、捨てられたんだ。ハロウィッチに…』

 

やよい「え?」

 

 

皆が静かに驚く中、ウラタロスはゆっくりと話す。

 

 

 

 

 

僕はね、イマジンの中では出来損ないだったみたいなんだ──

 

ハロウィッチに見限られて、時の砂漠に放り出され──

 

そこから先は語る価値もない

ただ、砂と岩しかない世界を彷徨う日々──

 

何年も何年も彷徨って、手足は砂のザラザラした感触しかしなくて…砂の味しかしない唇を毎日毎日噛み締めた──

 

本当に辛かった!!

淋しかった!!

苦しかった…

死にたかった…

 

そんなある日、地平線の彼方にこの列車を見たんだ──

 

その中から聞こえてくる女の子達の笑い声──

 

僕はいつも憧れを抱いていた──

 

いつか…いつか僕も…あの列車に乗るんだ──

 

 

ウラタロス『そして、この列車の歪みに乗って現代に帰ってこれたんだ。そして、ようやく手に入れたんだ──自由を…。叶えたんだ──夢を…』

 

良々やみゆき、あかね、やよい、モモタロス、キャンディはこの話を聴き、涙した。

モモタロスに至っては号泣している。

 

モモタロス『──と、言うわけでアイツ…俺たちの役に立ちたいってお願いするから良々と一緒に…──

ハナ「馬鹿!!バカモモ!!」

 

 

ハナはこの話を聴き、モモタロスの鼓膜をぶち破らんばかりの怒声をあげる。

 

 

ハナ「アンタ達イマジンはハロウィッチに作られたのは ついこの間なのよ!どうして何年も彷徨えるのよ!!』

 

モモタロス『え?』

 

みゆき「あ…」

 

 

 

ハナ「砂の味しかしない唇!?砂の感触しかしない手足!?──良々ちゃんに取り憑くまで実体がなかったのに…そんなの嘘に決まってるでしょ!?みゆきちゃん達ならともかくイマジンのアンタが騙されてどうするの!!」

 

たしかに、思い返してみれば、3人に残ってといったのは他でもない、ウラタロス。

イマジンを探索するなら少なくとも一人は連れて行くぐらいはするはず…

 

やよい「と、言うことは…」

 

あかね「ウチらまんまと…」

 

『「「「「騙された~~~~~!!!』」」」」

 

 

急いで良々に渡したケータイに連絡したが、どこの誰かも分からない人が出た。

おそらく、良々に憑いたウラタロスが隙をついてその人のポケットにいれたのだろう。

モモタロスも良々と連絡をしようとしたが、ウラタロスが見事締め出していた。

 

その頃、なおとれいかは公園で斎藤大輝に聞き込みをしていた。

サッカーチームのレギュラーから補欠へと落とされた彼が契約者である可能性があるとれいかは予想した。

しかし、大輝はなかなか答えてくれない。

それもそうだろう。

大輝は小学生、なおとれいかは中学2年生。

たとえ一対一だとしても、中学生の大きさは小学生にとってはかなり恐怖感を抱くはずだ。

ましてや見ず知らずの他人ときたらなおさらだ。

 

 

なお「大輝くん、本当の事を教えて。あの怪物の事について…」

 

 

なおが屈んで同じ目線で話しかけるが、何も答えない。

それもそのはず、あの怪物にお願いしたのは自分だ。

本当の事を答えて、その後、責められる事を大輝は恐れていたのだ。

 

 

なお「黙ってないで、何か言って!」

 

 

 

なおがとうとう痺れを切らして大声を出してしまった。

大輝はビクッと体を震わせる。

 

 

れいか「なお!」

 

なお「あ、ご…ごめん……」

 

 

大輝は何とか逃げ出したいが、自分の友達が襲われている事にに罪悪感をもっていたので…話そうかどうか迷っていた。

そんな時である。

 

 

良々「なおちゃん、れいかちゃん」

 

なお・れいか「「良々(ちゃん・さん)」」

 

 

二人が振り向くと良々が駆け寄ってきた。

 

 

大輝「(あっ!)」

 

 

大輝は良々を見て声に出さず驚いた。

今朝、大輝が蹴った空き缶に当たったお姉さんだと。

そんな事を知らない良々は早速事情を聞く。

すると、ウラタロスが良々を押しのけ、表にでてきた。

ウラタロスに憑依された良々──U良々は爪をいじりながら、ニッコリと愛想よく笑う。

 

 

U良々「子供の相手なら僕に任せて、二人は少し席を外してくれるかな?」

 

 

そう言われ心配に思いながらもその場を離れる。

 

 

なお「大丈夫かな?」

 

れいか「彼にまかせましょう」

 

 

すると、れいかのケータイに着信。

れいかはそれを取ると適当に相槌を打つ。

そして、れいかの電話が終わると同時にU良々が戻ってきた。

 

 

なお「何か訊けた?」

 

U良々「いやー、どうもあの子…イマジンと関係ないみたいだったよ」

 

なお「え?」

 

少し驚いた顔をするなおと、U良々の言葉に耳を疑うれいか。

当初の推測とは全く違う答えがかえってきたから当然である。

 

 

U良々「だけど、大体の予想はついた…」

 

なお「本当?」

 

U良々「みゆきちゃんから聴いたけどあのイマジン。人魚がモチーフらしいね。こんな陸地を探さないで、海の方を探しに行こうよ。たしか、…この近くに水族館があったよね。そこから──」

 

 

なおの手を掴んで連れていこうとしたその時、

れいかがU良々の肩を掴んだ。

 

 

れいか「どうやら…、貴方は嘘が得意なようですね。それも、ただの嘘ではなく、本当にそう思わせる説得力もある…」

 

 

れいかの言葉を聞いてU良々はフッと口元を釣り上げる。

 

 

U良々「あれ~、釣られてくれないんだ…」

 

なお「え!嘘って?」

 

 

れいかの言葉を聞き、なおは驚愕する。

 

 

れいか「今、ハナさんから連絡がありました。みゆきさん達を嘘でまるめこんで、デンライナーを降りたらしいではありませんか?」

 

 

U良々「まあね♪意外と簡単に釣れちゃって、こっちも拍子抜けだけどね」

 

 

U良々は嘘だと言われると何のためらいもなく話し、悪びれる様子もなく、シニカルな笑みを浮かべる。

 

 

なお「嘘だったの?じゃあ、大輝くんは…?」

 

U良々「ああ、彼なら適当に帰したよ」

 

 

あっさりと答えた。

 

 

なお「あんた…!!」

 

 

なおが怒りを露わにし、睨みつける。

曲がったことが嫌いな性格のなおは嘘をつくウラタロスの性格が気に入らなかった。

 

 

 

なお「私は嘘が大っ嫌いだ!だってそんなの卑怯でしかない!!」

 

U良々「言葉の裏には針千本、千の偽り、万の嘘。渡る世間は嘘ばかり。この世の殆どは嘘で成り立ってる。

それに、人生を面白くするのは、千の真実より一つの嘘だよ」

 

なお「嘘って言うのは、真実から逃げる事を言うんだ!私はどんな事があっても逃げも隠れもしない!!」

 

U良々「生真面目だねぇ…」

 

れいか「そうやって、人に嘘をついて楽しいのですか!?」

 

 

れいかも珍しく怒り、U良々を睨みつける。

 

 

U良々「楽しいよ♪」

 

なお「あんた!!」

 

大輝「ごめんなさい!!」

 

 

さも、他人をもてあそぶ、ウラタロスのその態度になおは怒りをさらに燃え上がらせる。

なおがつかみかかろうとしたその時、話の途中で大輝が割り入ってきた。

 

 

大輝「僕なんだ怪物にお願いしたの…」

 

 

大輝はマーメイドイマジンに望みを言った事を話した。

話の途中でウラタロスは興が削がれたのか、良々の意識が表面に出た。

 

 

なお「『レギュラーに戻りたい』か…あのやる気のないイマジンにとってはかなり堅実なやり口だね」

 

れいか「ええ。だからこそ、私達の相手をしたがらないのですね」

 

大輝「ねぇ、他のレギュラー助けてあげて!!家知ってるから」

 

良々「案内して!!」

 

 

良々が大輝に案内してもらうよう頼むと大輝は頷き、それと──と大輝は言う。

 

 

大輝「それと、お姉さんごめんなさい。今朝、お姉さんに当たった空き缶、僕が蹴ったんだ。でも、ワザとじゃないんだ。ごめんなさい」

 

 

それを聞いて良々は大輝の頭に手を置き、「許してあげる」とニッコリと笑い、短く言った。

「正直は一生の宝です」とれいかも加えて言った。

 

 

 

【現在・16時44分44秒】

 

 

 

デンライナーが停車し、みゆき、あかね、やよい、キャンディはデンライナーを降りた。

ドアの前にはハナが皆を待っていた。

 

 

あかね「もう、許さんへんで!!あの嘘つきガメ!!」

 

みゆき「嘘つきは針千本飲ましてやるんだから!!」

 

 

ウラタロスの話に本気でもらい泣きをしてしまったみゆきとあかねは怒り心頭で言った。

やよい、キャンディはそれほど怒りを抱いていなかったが、ウラタロスは泳がせておくのはよくないと思い、捕まえるつもりではあった。

 

 

「うわああぁぁ!!」

 

 

すると突如、子供の悲鳴が聞こえた。

皆は一斉にその方を振り向き、駆け出した。

辿り着くとそこは河原。

マーメイドイマジンと倒れた子供がそこにいた。

 

 

キャンディ「イマジンクル!!」

 

みゆき「けど、なんか…姿が前と違う…」

 

 

みゆきの言うとおり、マーメイドイマジンは体に半透明の羽衣を纏っていた。

 

 

あかね「とにかく、行くで!!」

 

 

あかねの言うとおり、考えるより先にまず戦う事が先決だ。

 

3人は変身し、マーメイドイマジンの前に降り立つ。

 

 

マーメイドイマジン『現れたわね、プリキュア。ハロウィッチ様に授かったこの力──試させて貰うわよ』

 

先ほどとはとは違い。

 

マーメイドイマジンは自信に満ちた顔で言う。

 

 

ハッピー「たあああああ!!」

 

サニー「はああああああ!!」

 

ピース「やああああああ!!」

 

 

三人は一斉に駆け出した。

対して、マーメイドイマジンは帯を手に取り、三人目掛けて振るった。

 

 

ハッピー「ああっ!」

 

サニー「うあっ!!」

 

ピース「きゃああっ!!」

 

 

いとも簡単に振り払われてしまった。

 

 

ハッピー「何?この力…」

 

ピース「強くなってる…」

 

 

アカンベェの巨体すら受け止めるプリキュアの力がまるで通用しない。

 

 

ピース「なら、必殺技で…」

 

 

ピースはスマイルパクトに気合いを込め、体に浄化の光を貯める。

 

 

ピース「プリキュア!ピースサンダー!!」

 

 

ピースの両手のチョキから電撃が放たれ、それがマーメイドイマジンに見事直撃!!

 

 

サニー「やった!!」

 

サニーが仕留めたと思い、声を上げる。

しかし、

 

 

マーメイドイマジン『この程度で精一杯……?』

 

 

サニー「何やと?!」

 

ピース「うそ…、効いてない」

 

 

マーメイドイマジンは確かにピースサンダーをくらったはず。

しかし、マーメイドイマジンは傷一つ、羽衣に焦げ目すらついていなかった。

 

 

マーメイドイマジン『電撃っていうんだったら―――せめてこの位……やって欲しいね!!』

 

 

マーメイドイマジンの右手に紫電が走り、それが電撃となり、ピースを襲った!!

 

 

ピース「あ、ああああああっっっ!!」

 

 

ハッピー・サニー「「ピース!!」」

 

 

電撃をくらい、吹き飛ばされたピースに二人は叫ぶ。

 

 

マーメイドイマジン『人の事、気にしてる場合じゃないよ──くらいな!!』

 

 

続けて繰り出したのは、強力な水流。

 

 

ハッピー・サニー「「ああああああああああっっ!!!」」

 

 

二人はその水圧に押されて、遠くまで吹き飛ばされた。

 

 

キャンディ「あのイマジン何であんなに強くなってるクル?」

 

ハッピー「何でこんなに強くなってるの…?」

 

 

三人のプリキュアはマーメイドイマジンの異常なパワーアップに苦戦をしいられた。

 

 

ハロウィッチ「フフフッ、さすがね…。ここまで強化するとは思わなかったけど」

 

 

マーメイドイマジンの後ろからハロウィッチが現れた。

 

 

サニー「ハロウィッチ」

 

ハッピー「何なの?そのイマジン。さっきとは全然違う」

 

ハロウィッチ「教えてあげるわ」

 

 

ハロウィッチは一本の絵筆を取り出す。

 

 

ハロウィッチ「イマジンとはその名の通り、イメージで身体を形成し、力を発揮する。この絵筆はイマジンの本来のイメージに私のイメージをさらに加える事ができ、通常の何倍もの力を発揮する事ができるのよ」

 

 

ちなみに、ハロウィッチが加えたイメージは『クラゲの骨なし』のクラゲ。

電撃を吸収し、自在に放出出来る力が備わった。

 

 

ハロウィッチ「もっとも、これを使うと時計の針の短針が一つ戻っちゃうのが欠点だけど……」

 

 

この絵筆はバッドエナジーを消費するため、ピエーロの時計の短針が一つ戻る。

 

 

ハッピー「時計?」

 

ハロウィッチ「いや、何でもない」

 

 

大輝「和哉!!」

 

 

すると、そこに大輝と大輝に連れてこられた良々、なお、れいかがその河原に到着した。

 

 

マーメイドイマジン『契約者…、丁度いい』

 

 

帯を伸ばし、大輝を巻き取り、引き寄せる。

 

 

良々「大輝君!!」

 

なお「しまった!!」

 

 

三人はデンオウ・プリキュアである自分達が狙われると思い込み、大輝への注意を怠ってしまった。

 

 

マーメイドイマジン『望みは叶えたよ。今度はお前の過去を貰う…』

 

 

大輝の頭に手を当てて、

 

 

マーメイドイマジン『さぁ、開きな!記憶のページ!』

 

 

大輝を本の如く開き、その彩った渦の中へと入って行く。

 

 

 

【去年10月15日】

 

 

 

大事なPKの瞬間、大輝は突然気絶した。

慌てて駆け寄る監督の目の前で、大輝から吹き出た砂からマーメイドイマジンが出現する。

すると、マーメイドイマジンの身体から黒いオーラが発生し、空を紫にそめ、枯れ木と茨の生い茂る世界に変える。

すると、辺りにいた人々は元気を失い。

崩れ落ちていく。

 

それは現在にも影響を及ぼし、大輝の元気がなくなっていく。

 

 

大輝「僕は嘘つきだ、卑怯者だ…。レギュラーになる資格なんてない…。もう、サッカーやめる……」

 

なお「大輝君!しっかりして!!」

 

 

ハロウィッチは元気がなくなった大輝を見て満足そうに本を開く。

そのページには[-LY/10.15]。

そのページの日付が薄くなり、代わりにそのページが少しづつ黒く塗りつぶされていく。

実はイマジンをパワーアップしたあの絵筆は現在でバッドエナジーを収集するために使う黒絵具も混ざっており、そのイマジンが過去に跳べば、過去からバッドエナジーを収集出来る。

そして、今回はピエーロの時計の短針が二つ進んだ。

 

 

良々「ハロウィッチ!!」

 

 

良々がハロウィッチを睨みつける。

 

 

ハロウィッチ「アタシに構うより先に、イマジン何とかした方がいいんじゃな~い?もうアタシ、用事済んだから…──じゃあねぇ~♡」

 

 

ハロウィッチはそう告げると、踵を返し、消えた。

悔しそうにするも、良々はブランクチケットを大輝の頭に翳す。

マーメイドイマジンの姿と、日付。

 

 

[-LY/10.15]

 

 

良々「みんな、行こう!」

 

 

 

【デンライナー・食堂車】

 

 

 

モモタロス『てめぇ!!よくもつまんねぇ嘘ついてくれたなぁ、コラ!!』

 

ウラタロス『釣り針のエサは美味しそうに見えるからね…』

 

モモタロス『訳わかんねぇ事言ってんじゃねぇよ!!』

 

 

デンライナーが過去への路線を渡ろうとしている途中、モモタロスはウラタロスを締め上げようとしている所だった。

良々もデンライナーを自動操縦に切り替え、食堂車に来ていた。

 

 

オーナー「車内での揉め事はこまります」

 

 

騒ぎを聞きつけたオーナーが後ろからやって来た。

 

 

オーナー「そういえば、ウラタロス君」

 

ウラタロス『!はい!?』

 

オーナー「あなたは、パスもしくはチケットをお持ちですか?」

 

ウラタロス『え?いや、そんな物ありません』

 

オーナー「そうですか…。ならば、あなたはこのデンライナーにご乗車する事はできません」

 

ウラタロス『え?!』

 

 

オーナーの突然の宣告にウラタロスはもちろん、一同騒然とする。

 

 

オーナー「即、刻…途中下車して貰います」

 

 

オーナーは懐から『乗車拒否』と書かれたレッドカードを取りだした。

 

 

良々「ま、待ってください!」

 

 

オーナーにある質問を投げかけた。

 

 

良々「ウラタロスが途中下車って…。そうなったら…ウラタロスはどうなるのですか?」

 

 

オーナーはしばらく黙ったのち、告げる。

 

 

良々「時の砂漠に放り出され、時間の中を彷徨い続けます。永、遠、に…」

 

 

それを聞いたウラタロスは何も言わず皆から目をそらし、良々や他の皆は沈黙な面持ちになる。

 

 

オーナー「しかし、それを決めるのは良々さんです。良々さんがウラタロス君とパスを共用しないと言うのであれば、即刻退去させます」

 

 

ウラタロスの運命は良々が握っている。

 

 

モモタロス『良々、迷う事はねぇ!こんな奴さっさと追い出せ!!』

 

 

と、意気込むモモタロス。

ハナ、みゆき、あかね、やよい、なお、れいか、キャンディは良々の決断に期待の混じった視線を向ける。

 

そして、良々は口を開いた。

 

良々「わかりました。その前にみんな、ウラタロスなんだけどさ…──」

 

 

皆が良々の判決をジッと見守る中、ウラタロスは有罪判決を待つ被告人のように諦めていた。

 

 

 

 

 

良々「許してあげようよ」

 

 

 

みゆき「え?」

 

モモタロス『は!?』

 

あかね「!?」

 

やよい「?」

 

なお「はい?」

 

れいか「?」

 

ハナ「ちょ…!」

 

キャンディ「クル?」

 

 

皆は良々の予想外の発言に面食らった。

 

 

モモタロス『おい、良々!』

 

 

モモタロスが良々に声を掛ける。

 

 

あかね「嘘つきのこいつ庇うんか?」

 

 

あかねも不思議そうに良々に疑問を投げかける。

 

 

良々「うん。だって、ウラタロスは嘘しかついてないじゃん」

 

あかね「え?」

 

 

良々は当たり前のごとく、言った。

 

 

良々「じゃあ訊くけど、ウラタロスが皆に嘘ついてお金とか盗った?ウラタロスが嘘ついて誰かを傷付けた?」

 

みゆき「それは…」

 

れいか「言われてみれば…」

 

 

確かに思い返してみれば、ウラタロスは嘘ついて実質的な被害を出していない。

嘘をついて皆を出し抜いた程度の事。

 

 

良々「確かに騙されるのは気持ちのいいことじゃない。けど、もう過ぎた事だし、私は許す」

 

 

モモタロス『だけどよ!!こいつ何考えてるかわかんねぇぞ!また、嘘つかれて寝首でもかかれたらどうすんだよ!!』

 

 

それでもモモタロスは納得せず、良々に言う。

 

 

なお「私も…このイマジンはあんまり信用出来ない。何か根拠あるの?」

 

良々「ない」

 

 

即答。

思わず皆はずっこけそうになる。

 

 

良々「てゆうか、人を信じるのに根拠が必要なの?――じゃあ訊くけど、私やみゆきちゃんといていつもどんな気持ち?いつ嘘つかれるのか、いつ騙されるのか、そんな事いちいち考えてるの?」

 

なお「! それは…」

 

 

なおの性格は自身がよくわかっている。

友達を疑うなんて微塵もない。

 

 

良々「はっきり言って、そんなの面倒くさい。騙されてその後どうなるかなんて…、考えるのも面倒くさい。疲れちゃうわよ」

 

 

そして、一息ついて宣言する。

 

 

良々「人を信じるって事は頭の中で、どうこう考える事じゃない。ましてや、他人にすがりつく事でもない。

ただ、ありのままその人を受け入れてあげればいい──ただそれだけ…。

もし、それでも騙されたら──その時はその時。またどうするか考えればいい」

 

 

皆が唖然としている中、オーナーはほくそ笑み、確認する。

 

 

オーナー「では、ウラタロス君はこのままでよろしいのですね?」

 

 

良々「はい」

 

 

そのやり取りの中、ウラタロスは複雑な心境で呟く。

 

 

ウラタロス『釣った魚に助けられ…か、カッコ悪る』



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助けた亀に釣れられて

【去年10月15日】

 

 

マーメイドイマジン『さーて、一体何処にいる?』

 

 

マーメイドイマジンはバッドエンドになった世界で何かを探すように辺りを見回す。

 

 

すると、懐中時計を片手に薄茶色のフェルト帽を目深にかぶり、同色の外套を羽織っている男が視界に入った。

何故かその男のみ、バッドエンドに染まってない。

 

 

マーメイドイマジン『みーっけ!』

 

 

マーメイドイマジンはその男をみると腕を翳し、その男目掛けて、電撃を放った。

しかし、その間に割って入るかの如く、デンライナーがその電撃を防ぐ。

 

 

 

マーメイドイマジン『何ぃっ!?』

 

デンライナーから降りてきたのは良々、なお、れいかの3人。

 

まず、なおとれいかが変身アイテム・スマイルパクトを開く。

そして、自身のキュアデコルをセット。

 

『Ready』の音声の後、二人は同時に叫ぶ!!

 

 

 

「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!』

 

 

二人はパフを身体に当てていき、なおは黄緑色の、れいかは水色のコスチュームへと姿を変えてゆく。

そして二人の髪が増量し、なおは後ろと左右に結ばれたいわゆるトリプルポニーテール、れいかは後ろに真っ直ぐ流す形となった。

そして、最後にパフを両頬に当てて変身完了!

 

続いて良々は変身アイテム・デンオウベルトを腰に巻くと、左手で赤いセレクトボタンを押し、右手のパスをベルトのバックル部分へ横切らせた。

 

 

良々「変身…」

 

 

 

<SWORD FORM>

 

 

 

良々は黒いライダースーツにその上から、赤い陣羽織が覆い被さった。

良々の髪と瞳が赤く染まり、髪を大きな白いリボンが逆さ蝶々結びでポニーテールを形成し、額には白鉢巻がしっかり巻かれた。

 

 

デンオウSF「俺、参上!!」

 

親指で自分を指し、そして勢い良く腰を捻り、両腕を広げ、高らかに宣言する良々の変身した戦士──デンオウ・ソードフォーム。

 

 

 

マーチ「勇気リンリン、直球勝負!キュアマーチ!」

 

折れず、曲がらず、心身ともに真っ直ぐな風の戦士──キュアマーチが名乗りを上げる。

 

 

キュアビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

 

優しくも、雪の様に澄んだ心を持つ戦士──キュアビューティが降り立った。

 

マーメイドイマジン『だあああああああぁぁぁぁぁ、またアイツらかぁ!!』

 

 

マーメイドイマジンはその三人を見るとウンザリした声を出す。

 

 

マーメイドイマジン『何度も言わせるな!!アタシはアンタ達と戦う事が目的じゃない!!』

 

デンオウSF「知るか!!こっちはそれが目的なんだよ!!行くぜ行くぜ行くぜぇーっ!!!」

 

 

デンオウSFが先頭切って走り出す。

 

 

マーメイドイマジン『ちっ、なら…、面倒だけどアンタらから始末してやる』

 

 

マーメイドイマジンは、まず自分の目的を阻害する目の前の敵を排除し、その後ゆっくり自分の目的を果たす事に決めた。

マーメイドイマジンは自分に突っ込んでくるデンオウSF目掛けて帯を鞭の様に振るった。

しかし、キュアハッピー達を吹き飛ばす帯であろうと所詮は布。

デンオウSFは素早く組み上げた得物でその帯を細切れにする。

 

 

マーメイドイマジン『何ぃ!?』

 

 

帯が切り刻まれた事に驚くも次は電撃を繰り出そうとするが、続けて両サイドからマーチとビューティが拳を振り上げ、パンチを繰り出す。

 

 

マーチ「はあっ!!」

 

ビューティ「やあっ!!」

 

 

マーチは持ち前のスピードを生かし、反撃を許さない連続攻撃を繰り出す。

ビューティは相手の出方を伺い、無駄な攻撃を削ぎ落とし、弱くとも急所を狙った確実な一撃を叩き込む。

そして、今回デンオウはSF二人のサポートに回る。

主にマーメイドイマジンの攻撃を防ぎながら突撃していく。

 

 

マーメイドイマジン『うぐっ!!』

 

 

さらに追撃するデンオウSF、マーチ、ビューティ。

コンビネーションにマーメイドイマジンは圧倒され、優勢に持ち込む。

 

 

マーメイドイマジン『クソ~、少々面倒だね』

 

 

悪態をつきながら考える。

すると、何処からともなく磯の香りがしてきた。

それに気付いたマーメイドイマジンは三人を飛び越え、トビウオの様なヒレで空を滑空する。

 

 

デンオウSF『逃がすか!』

 

 

デンオウSFはマシン・デンバードに跨り、マーメイドイマジンを追う。

マーチ、ビューティも建物の屋根の上を跳躍し、後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マーメイドイマジンは近くの防波堤に到着すると海に飛び込んだ。

そして遅れて来た三人。

 

 

デンオウSF「くそ、また逃げられた」

 

 

デンオウSFが海面を覗きこんだ。

その時である。

海面から2本の帯が飛び出した。

 

 

マーチ「危ない!!」

 

 

それを察知したマーチはデンオウSFの襟首を掴み、後ろへ引っ張った。

しかし、そのためマーチが代わりにその帯に巻かれ、海中へと引きずり込まれた。

 

 

ビューティ「マーチ!!」

 

デンオウSF「今行くぜ!!」

 

ビューティ「え!?」

 

 

デンオウSFが身を乗り出し、ダイビング!!

その時ビューティが何か叫んでいたがデンオウSFの耳には入らなかった。

 

 

マーチを海中へ引きずり込んだマーメイドイマジンは帯に縛られたままのマーチをハープ型の武器で滅多打ちにする。

 

 

マーチ「グッ!」

 

マーメイドイマジン『フンッ、手も足も出ないだろうね』

 

 

優勢になった途端マーメイドイマジンは勢いづく。

 

 

デンオウSF「待ちやがれ!!」

 

 

マーメイドイマジン『デンオウ?!』

 

 

良々『ナオさんを助けるのよ!モモタロス』

 

 

しかし、しばらく潜ったあとデンオウSFはハッと気付く。

 

デンオウSF「あー、良々。ちょっといいか?」

良々『何?』

デンオウSF「飛び込んで今思い出したんだが…」

良々『だから何?』

 

 

 

 

デンオウSFから衝撃の告白。

 

 

 

 

デンオウSF「俺、カナヅチだ」

 

良々『は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マーメイドイマジン『?』

 

マーチ「モモタロス?」

 

 

マーチもマーメイドイマジンもデンオウSFの異変に気が付く。

異様に手足をバタつかせ、もがき苦しんでいる感じであった。

 

 

マーチ「まさか…あいつ泳げないの?」

 

マーメイドイマジン『こいつはいい』

 

 

デンオウが泳げない事に感ずくとマーチをハープ型の武器で挟み込み、近くの岩礁に拘束した。

マーチは何とか脱出しようとしたが息が出来ない水中では思うように力が入らない。

 

 

デンオウSF「マーチ!!」

 

 

拘束されたマーチを助けようと必死でもがくが、泳げないデンオウSFは水中ではほとんど満足に身体を動かせなかった。

 

 

マーメイドイマジン『まあ、アンタが泳げようが泳げまいが、水中戦でアタシに勝てる奴なんかいないよ』

 

 

その隙を突いてマーメイドイマジンが突撃してきた。

水中という立体空間をフルに使った文字通りの縦横無尽な突撃にもてあそばれ、ついにオーラアーマーが霧散。

身体の自由は取り戻した良々だったが、それまでに深く沈み過ぎた。

このまま では海底から脱出することもままならない。

それを見て助けねばと思いマーチも拘束を破ろうと必死になる。

しかし、両者とも息が続かず、ここまでかと思ったその時、

 

 

 

 

 

 

 

ウラタロス『お困りのようだね、良~々ちゃん♬』

 

良々『ウラタロス…?』

 

 

 

ウラタロスの飄々とした声が頭の中に届いた。

 

 

 

ウラタロス『全く君は甘いねぇ、僕みたいなの信用しちゃってさぁ…』

 

良々『何の用なの……?悪いけど…あなたの相手しているヒマ…』

 

ウラタロス『良々ちゃん、僕は嘘つきだ』

 

良々『何よ……今更……』

 

 

 

 

 

 

ウラタロス『けどね、僕は嘘はつけども裏切らない…』

 

 

期待も、友も。

 

 

ウラタロス『ボタンを押してご覧。僕は女の子のピンチを黙って見過ごしたりしないからさ♪』

 

 

見ると、ベルトの青いセレクトボタンが光っている。

デンオウPF・良々は青いセレクトボタンを押す。

すると、バックル部分が青く点滅し、どこからともなく海底を連想させるメロディが流れて来た。

そして、パスを横切らせる。

 

 

 

 

 

<ROD FORM>

 

 

 

 

その電子音と共に、赤い陣羽織のが再び形成される。

しかし、その陣羽織はそのまま羽織る事なく裏返り、群青色で腰までの丈のアロハシャツとなってそれを羽織る。

太ももの赤いラインは群青色のラインへと変わる。

前髪の青い七三に、後ろ髪はうなじの部分で結い。

さらに群青色の亀甲模様の海亀折り紙が何処からともなく現れ、デンオウの頭部に密着するとバンダナとなって、それをニット帽の様に頭部全体を覆う様に締まる。

後ろの結びは白く長く、ウサギの耳みたく上方に伸びた。

最後に青い瞳にオレンジ色の六角レンズのサングラスを掛けて変身完了!!

 

 

 

ビューティ「マーチ、モモタロスさん…」

 

 

 

岩場から二人を信じて待つことしかできず、祈るように海面を見つめていた。

すると、いきなり水柱が上がりマーメイドイマジンが岩場に着地した。

 

 

 

ビューティ「な?!」

 

マーメイドイマジン『ふん…』

 

 

 

マーメイドイマジンはビューティを見て得意そうな顔をする。

 

 

 

マーメイドイマジン『弱かったね、あの二人…』

 

ビューティ「二人をどうしたのですか!?」

 

マーメイドイマジン『さあね?ま、今頃は溺れてるだろうよ』

 

 

 

そう言って、デンオウSFが持っていたデンガッシャーを無造作に放った。

 

 

 

ビューティ「そんな…」

 

 

 

ビューティは信じられないというような表情になり、目を見開く。

 

 

 

マーメイドイマジン『残ったのはアンタだけだね。すぐに倒してやるよ』

 

 

 

マーメイドイマジンが腕に電気を走らせ、ビューティにゆっくり歩み寄って来る。

ビューティも二人の仇を取るため身構える。

その時だった。

海面から再び水柱が立ち昇り二人の頭上を飛び越え、ビューティの後方に着地した。

脇にはマーチを抱え、背中には「電王」の文字。

群青色のアロハシャツを着こなしたデンオウ──

──デンオウ・ロッドフォームがクルリとこちらに身体を向けた。

そして、爪をいじる動作をしながら、オレンジレンズのサングラス越しに光る青い瞳がマーメイドイマジンを睨み宣言する。

 

 

 

 

デンオウRF「お前、僕に釣られてみる?」

 

 

 

 

その言葉に身を竦ませたマーメイドイマジンが再び海へ飛び込もうとするが、デンオウRFは信じられない驚異の跳躍を見せる。

瞬く間にマーメイドイマジンの後ろ首を締め上げる。

 

 

 

デンオウRF「逃、げ、る、な!!」

 

 

 

マーメイドイマジンを引き戻し、落ちていたデンガッシャーを拾い上げ、そのまま華麗に回し蹴り!

それでも止まらず流れる様に一回転、二回転、三回転の回し蹴りを叩き込む。

そして隙をつき、素早くデンガッシャーを分解し、直列に連結する。

振りかぶるとその長さが倍近くにまで伸び、先端から刃が飛び出す。

デンガッシャー・ロッドモード。

そして立ち上がろうとしたマーメイドイマジンに強烈なスイングを炸裂させた!

 

 

 

マーメイドイマジン『うあっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

マーチ「ごほっ!ごほっ!」

 

ビューティ「大丈夫ですか?マーチ」

 

 

 

その頃、マーチは海水を吐き出し、意識を取り戻した。

 

 

 

マーチ「ビューティ…?」

 

ビューティ「よかった」

 

 

 

ビューティはホッと胸を撫で下ろし、安堵した。

その目を覚ましたマーチの目に入って来たのは青い姿のデンオウ。

その姿を見てポツリとつぶやく。

 

 

マーチ「浦島太郎…?」

 

 

 

 

吹き飛ぶその胴にさらに突きの連撃が襲い掛かる。

 

 

 

マーメイドイマジン『この!調子に乗るんじゃないわよ!!』

 

 

 

両腕から紫電を迸らせ、デンオウRF目掛けて放電する。

しかし、デンオウRFは相手からけして目を逸らさず、電撃を見切り、スレスレでそれを回避する。

それでもよけきれない時は跳躍し、遥か向こうの岩場に着地、体操選手のように空中で身体を捻らせ、マーメイドイマジンを翻弄する。

水の様にしなやかで形にとらわれない柔軟な動きでマーメイドイマジンを次第に追い詰めて行く。

マーメイドイマジンは這いつくばって逃げ惑い、ズタズタに打ち貫かれながらも捨て身でデンガッシャーにしがみ付くと、投げ飛ばされるように海に飛び込んだ。

 

 

 

ビューティ「あ!」

 

マーチ「逃げられた」

 

 

 

戦線復帰したマーチとビューティが駆け寄った時にはマーメイドイマジンは海へと逃げた後だった。

だがその姿を見ても、デンオウRFは冷静を保ったまま。

 

 

 

デンオウRF「悪いけど、僕は逃がさないよ」

 

 

 

その言葉と同時に遠くの海中からRFの変身待機音を奏でながら、青いデンライナーが姿を見せた。

 

 

 

マーチ「あ、新しいデンライナー?!」

 

 

 

デンオウRF「なおちゃん、早速だけど…一緒に乗ってもらうよ。れいかちゃんはここで待っててね」

 

 

 

マーチ「え?ちょ…うわぁ!」

 

 

 

 

マーチの手を引き、青いデンライナー──デンライナー『イスルギ』から分離した亀型飛行艇──レドームへと乗り込む。

レドームはヒレの様なオレンジ色のブレードフィンを伸ばし追撃を開始する。

 

 

 

 

マーメイドイマジン『くそ~、冗談じゃないよ。とにかく、今は海中に身をひそめて隙をつくしか…』

 

 

 

マーメイドイマジンは電撃が効かない事に悪態をつきながら逃走していた。

隙あらばどう反撃しようか模索している。

 

 

 

 

 

 

 

 

その上空ではデンオウRFはレドームの下からソナーを放出し、マーメイドイマジンを追う。

 

 

 

マーチ「見つからない?」

 

デンオウRF「だけど相手の目的は分かっているよ。外海へ逃げる…なんて事はまずない。それに、ここいらの水深なんてたかがしれる。いくら海底に身をひそめ息を殺そうがカッパの屁だ」

 

 

 

ソナーと直結しているオレンジのサングラスが反応を示した。

 

 

 

デンオウRF「言った筈だよ。僕は逃がさないって…」

 

 

 

マーメイドイマジンの影を確認するとマーチに呼び掛ける。

 

 

 

デンオウRF「なおちゃん、相手は特に深い所にいるみたいだ。ちょっと君の力、かしてくれるかな?」

 

マーチ「どうするの?」

 

 

 

マーメイドイマジンは海底に身を潜めながら海面上空をみる。

そこにはレドームの影が見えた。

だが、マーメイドイマジンは海中まで追って来ないのを見ると一安心し、そのまま息をひそめる。

しかし、上空で常に準備は整っている。

 

 

 

デンオウRF「よし、あそこにお願いね!」

 

 

 

デンオウRFの海中を指さし、合図する。

マーチはスマイルパクトに気合いを込めると辺りの風がマーチの右脚に集中する。

 

 

 

マーチ「プリキュア!マーチシュート!!」

 

 

 

風のボールを蹴り上げ大きくカーブしながら、海中へと飛び込む。

 

 

 

マーメイドイマジン『残念、ここまで届かなけりゃ意味な……ッ!!?』

 

 

 

マーメイドイマジンは辺りの海流の流れの異変を察知したが、もう遅い。

マーチシュートの風が海流の流れを荒れさせ、大渦を起こした!

 

 

 

マーメイドイマジン『ぐ…ぐごぎががががががががががが………!!!』

 

 

 

突然の流れで反応する事が出来なかったマーメイドイマジンは海流の流れに翻弄され、海面付近に引き上げられた。

その一瞬をデンオウRFは見逃さない。

 

 

 

デンオウRF「そら!」

 

 

 

デンガッシャーから放たれた釣り針とワイヤーがマーメイドイマジンを素早く釣り上げ、陸の方へと投げた。

 

 

 

マーメイドイマジン『ぐあっ!!』

 

 

 

マーメイドイマジンは岩場に叩きつけられ、それを追ってマーチ、ビューティ、デンオウRFが岩場に立つ。

 

 

 

マーメイドイマジン『クソッ!!』

 

 

 

マーメイドイマジンは両手を突き出すが、それより先にデンオウRFのデンガッシャーがその、両手を弾いた。

その後、マーメイドイマジンの両手から電撃が放出されたが、それは見事に外れた。

 

 

 

マーメイドイマジン『何!?』

 

 

 

何故自分の攻撃が読まれたのかマーメイドイマジンは戸惑いを隠せない。

 

 

 

デンオウRF「無駄だよ。君の両手から出ている電撃は手の平の向きからおおよそどこに目掛けて放たれるか判断できる。それに電撃を放つ際必ず腕に充電しなきゃいけないからね。呼吸が分かれば…もう取るに足らない」

 

 

 

 

相手の一歩先を見切る戦法に翻弄され、足りない打撃はマーチとビューティが補い、マーメイドイマジンを次第に追い詰めて行く。

デンオウRFはデンガッシャーを振るい、足を引っ掛け、叩く。

マーチは相手の懐に潜り込み、速さを活かした接近戦で追い込む。

ビューティは逃走を図ろうとするマーメイドイマジンに回り込み、退路を断つ。

 

 

 

デンオウRF「釣った魚は早目に調理しちゃいますか…。

調理方は「あらい」でお願いね。れいかちゃん」

 

 

 

ビューティ「承知しました」

 

 

 

ビューティがスマイルパクトに力を込め、強力な冷気を放つ。

 

 

ビューティ「プリキュア!ビューティブリザード!!」

 

 

マーメイドイマジン『う、うぁああああああああああ!!!』

 

 

 

マーメイドイマジンの全身が凍結し、氷の彫像と化す。

 

 

 

デンオウRF「仕上げに、三枚におろすとしますか…」

 

 

その死刑宣告のあとトドメと言わんばかりにデンオウRFはパスを取り出し、ベルトのバックルへ翳した。

 

 

 

 <FULL CHARGE>

 

 

 

デンオウのバックルが青く点滅し光の線がデンガッシャーの柄頭に繋がるとデンオウRFは切っ先を凍結したマーメイドイマジンに向けて、構え、投げる。

デンガッシャーがマーメイドイマジンを貫くとそこを中心に六角形のエネルギーが展開し、マーメイドイマジンをロック──“ソリッドアタック”が決まる。

デンオウRFはその場で跳躍し、飛び蹴り──“デンライダーキック”をくらわした。

マーメイドイマジンは粉々に粉砕され、氷の粒が海へと落ちる。

しかし、その氷の粒が次第に増大し、大きくなってゆく…。

 

 

 

 

 

 

──むかしむかし、 深い深い海の底に、サンゴの壁とコハクのまどのお城がありました。

そのお城は、人魚の王さまのお城です。

王さまには6人の姫がおりまして、その中でも、とりわけ一番末の姫はきれいでした。

人魚たちの世界では、十五歳になると海の上の人間の世界を見に行くことを許されていました。

末っ子の姫は、お姉さんたちが見てきた人間の世界の様子を、いつも胸ときめかして聞いています。

「ああ、はやく15歳になって、人間の世界を見てみたいわ」

そうするうちに、一番末の姫もついに15歳をむかえ、海の上に出る日がきました。

喜んだ姫が上へ上へとのぼっていくと、最初に目に入ったのは大きな船でした。

「わあー、すごい。人間て、こんなに大きな物を作るんだ」

人魚姫は船を追いかけると、甲板のすき間から、そっと中をのぞいてみました。

船の中はパーティーをしていて、にぎやかな音楽が流れるなか、美しく着かざった人たちがダンスをしています。

その中に、ひときわ目をひく美しい少年がいました。

それは、パーティーの主役の王子です。

そのパーティーは、王子の誕生日を祝う誕生パーティーだったのです。

「すてきな王子さま」

人魚姫は夜になっても、うっとりと王子のようすを見つめていました。

すると突然、海の景色が変わりました。

稲光が走ると風がふき、波がうねりはじめたのです。

「嵐だわ!」

船乗り達があわてて帆をたたみますが、嵐はますます激しくなる一方。

船は見るまに横倒しになってしまいました。

船に乗っていた人びとが、荒れくるう海に放り出されます。

「大変! 王子さまー!」

人魚姫は大急ぎで王子の姿を探しだすと、ぐったりしている王子のからだをだいて、浜辺へと運びました。

「王子さま、しっかりして。王子さま!」

人魚姫は王子さまを、けんめいに看病しました。

気がつくと、もう朝になっていました。

そこへ、沿岸の村の娘がこちらに近づいてきます。

「あっ、いけない」

人魚姫はビックリして、海に身をかくしました。

すると娘は王子に気がついて、あわてて人を呼びました。

王子はそのとき、息をふきかえしました。

「あ、ありがとう。あなたが、わたしを助けてくれたのですね」

 王子は目の前にいる娘を、命の恩人と勘違いしてしまいました。

人魚姫はションボリして城に帰ってきましたが、どうしても王子のことが忘れられません。

「ああ、すてきな王子さま…──そうだ!」

以前姉達からとある魔女の話を聞かされた事を思い出しました。

その魔女は何でも望みを叶えてくれる力があると…。

もし、人間になれば、王子さまにまた会えるかもしれない。

そこで魔女のところへ出かけると、人間の女にしてくれるようたのみました。

魔女は人魚姫の願いを聞くと、こう答えました。

「ほう、人間の王子に会うために、人間の女にねぇ。なるほど。まあ、アタシの力を持ってすれば、人魚のしっぽを人間のような足にかえることは出来るわ。でもそのかわりに、アンタは声を失い話す事が出来なくなる。それと、もしお前が王子と結婚できなかった場合、アンタは二度と人魚には戻れない。いや、それどころか心臓が破れて、お前は海の泡になってしまう…。それでもいいの?」

「いいわ。王子さまと、一緒にいられるのなら」

「分かったわ」

魔女は小さな薬瓶を取り出すと、人魚姫に渡しました。

「この薬を呑めばアンタは人間となって人間の世界に行く事が出来る。でもね、――アンタの舌は動かなくなり言葉を出す事も、歌う事も出来なくなる。本当にいいの?」

人魚姫に迷いはありませんでした。

魔女の薬で人間の女になった人魚姫は、口のきけない身で人間の世界へ戻り、王子の城をたずねました。

「おお、なんと美しい娘だ」

王子は人魚姫をひと目見て気に入り、妹のようにかわいがりました。

しかし王子の心は、命の恩人と思いこんでいる、あの浜辺で会った娘にうばわれていたのです。

やがて王子と娘は、結婚式をあげることになりました。

二人は船に乗りこむと、新婚旅行に向かいます。

王子と結婚できなかった姫は、次の日の朝、海の泡になってしまうのです。

しかし人魚姫には、どうすることもできません。

ただ、船の手すりにもたれて泣くばかりでした。

そのとき、波の上にあの魔女が姿を見せました。

「どうやらアンタの想いは届かなかったようね。このままじゃアンタは泡になって死んじゃうわ。

――でもね、まだアンタの生きる道は残されている」

魔女は人魚姫にナイフを一本渡し、告げました。

「王子様の心臓を取って来なさい…それを食らえばアンタは王子と一つになり、また人魚に戻れる…」

人魚姫はナイフを受け取ると、王子の眠る寝室へと入っていきました。

「(王子さま、さようなら、わたしは人魚にもどります)」

人魚姫は王子のひたいにお別れのキスをすると、ナイフをひといきに突き立てようとしました。

「………」

でも、人魚姫には、愛する王子を殺すことができません。

人魚姫はナイフを投げ捨てると、海に身を投げました。

波にもまれながら人魚姫は、だんだんと自分のからだがとけて、泡となってゆきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、物語はまだ終わりません。

人魚姫の最期を見届けた魔女はその泡をかき集め、東の海へ向かいました。

そこの海底には竜王の住む『竜宮城』が存在しており、竜王はその竜宮城を受け継ぐ姫が欲しいといつも言っておりました。

魔女は人魚姫の泡で美しい一人の娘をつくりました。

魔女によって作られた娘は『乙姫』と名付けられ、竜王と共に竜宮城で暮らしました。

しかし、乙姫は人間の男の若さを貰わなければいずれ死んでしまう身体だったのです。

砂浜で海亀が若い男を連れ出し、竜宮城へ招待します。

若い男は若さを取られている事にも気付かず、お土産の玉手箱を開ける事で初めて気付くのです。

しかし、そんな乙姫も重い病にかかってしまいました。

その病は木の上に住む猿の生肝を食う事だった。

「そういえば亀、お前は友達に猿がいたそうだな。そいつを竜宮城へ連れて来たらどうだ?」

クラゲがそんな事を言い、亀は葛藤しました。

それもそうです。乙姫様のためとはいえ仲の良い友達を黙す事に戸惑いを感じました。

「猿の生肝を取って来たらたーんと褒美わ取らせる」

海亀は竜王の言った褒美に目が眩み猿を竜宮城へ連れてくる事にしました。

ああ、友情とは、かくもはかない…。

 

「お猿さん、お猿さん」

「海亀さん、何か用かい?」

「どうだい?竜宮城に遊びに来ないかな?」

海亀は猿をまんまと騙し、竜宮城へ連れてきました。

海亀に連れられ、猿は竜宮城の門をくぐるとカレイとヒラメ、クラゲが意味ありげに笑い、猿は少し気になったが、竜宮城へ入りました。

竜宮城の中はまるで天国の様でした。

食べた事のないたいそうなごちそうがところせましと並んでいました。

猿はとうとう酔いつぶれ引っくり返ってしまいました。

すると、隣の部屋からヒソヒソと話し声が。

「ひっひっひっ、馬鹿な猿め」

「騙されているとも知らずに…」

「これで、猿の生肝は頂きだな!」

これには猿はビックリ仰天!

「うわーん、大変だー!!」

猿は力一杯大声を張り上げました。

「生肝を松の枝に干してそのまんまだ!このままじゃ生肝が腐ってダメになってしまう!」

それを聞いた海亀は急いで猿を陸へ戻しました。

しかし、猿は陸へ戻ると木の上に登り、

「アホー、アホー、生肝なんか干せるか!よくも僕を騙したな!!カレイとヒラメとクラゲから話は聞いたぞ!とっとと帰れ!!」

猿は海亀目掛けて石を投げる。

石は海亀の甲羅に当たり、ヒビがはいりました。

その事を耳にした竜王は怒りました。カレイとヒラメを踏み潰し、クラゲはボコボコにされ、骨を抜かれ、その上竜宮城を追い出されてしまいました。

だから、いつまでも波の上をプカプカ浮いているのでした。

乙姫はというと…

病によって亡くなり、あれ程美しかった竜宮城はすっかり廃れて、なくなってしまいました。──

 

 

 

 

マーチ「何あれ…?」

 

 

クラゲの身体に、傘から竜のような首と尻尾が生えた、ギガンデス

──『ギガンデス・ミズチ』がその姿を表した。

 

 

 

 

デンオウRF「釣った魚はでかく見える……だけじゃないか」

 

 

ギガンデス・ミズチ

『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

 

 

呑気に呟くデンオウRFを見下ろし、ギガンデス・ミズチは口から火球を発射してきた。

着弾と同時に爆発する火の玉を避けながら、デンオウRFが二人に向かって叫ぶ。

 

 

 

デンオウRF「二人共!デンライナーに飛び乗れ!!」

 

 

 

マーチとビューティはデンオウRFに言われるがまま後ろの食堂車を切り離したデンライナー・ゴウカに飛び乗る。

そして、その後から先程のデンライナー・イスルギがゴウカと並んだ。

線路は一つに合流し、イスルギの後ろにゴウカが連結!!

協調運転を開始する。

マシン・デンバードを操作すると運転モニターには

 

 

 

<Mode ISURUGI>

 

 

 

のコードが光る。

イスルギのレドームがせり上がり、ゴウカからはゴウカノン、ドギーランチャー、モンキーボマー、バーディーミサイルが出現した。

 

まず、ゴウカノンがギガンデス・ミズチを攻撃。

続けて、ギガンデスの左側に回り込みドギーバーグでダメージを与え、バーディーミサイルが舞い踊る。

しかし、相手はすぐに潜水。

海洋生物型のギガンデスなら視界をロクに確保出来ない水中戦の方が得意な筈。

デンオウRFは下方モニターを確認しながら、モンキーボマーを爆雷代わりに沈め始めた。

これなら直撃しなくても、炸裂の衝撃で炙り出せる。

思ったとおり潜行していられなくなったギガンデスは海面に飛び出し、デンライナーにクラゲの触手を巻きつけてきた。

デンオウRFがレドームのブレードフィンを広げ、線路のみを残し、一時脱線!

デンライナーを宙へ浮かした。

速度を変え、間一髪、線路だけを絡み付かれがらも驚異的な運転で新たな線路を形成し、加速して距離を取る。

ゴウカノンで触手を、ドギーバーグで飛んで来る電撃、火球を撃ち落とす。

勝ち目が無いとわかるとギガンデス・ミズチは逃走を謀る。

それより一瞬早くイスルギのレーザーブレードが頭部を捕らえた。一瞬のスパークの後、身体を両断されたギガンデス・ミズチはゆっくりと崩れ海の塵となった。

 

 

 

 

 

【現在】

 

 

そこにはベンチでレギュラーメンバーを大声で応援する大輝の姿が。

 

 

なお「大輝君、練習頑張ってレギュラーになるんだって、いままでは逃げてた自分を誤魔化していただけみたい」

 

 

デンライナーの食堂車の中では嬉しそうに話すなお。

 

 

ウラタロス『誤魔化して、嘘ついて偽ってこその人生だよ。なおちゃんも、そこは解って欲しいんだけどね』

 

なお「あのね、私は別にあんたを信じた訳じゃない。私はただ友達が信じたモノを信じただけ…」

 

 

そう言いながら、なおは良々の方に視線を向けた。

それに気付いた良々は口元を僅かに上げる。

 

 

ウラタロス『素直じゃないねぇ…』

 

モモタロス『おい、亀野郎!俺はまだテメェを許したわけじゃねぇんだからな!それに、お前は良々のお情けでココにいられる事を忘れんな!』

 

ウラタロス『ホント、間抜けを黙らすのに餌は要らないね』

 

モモタロス『んだとぉ…?新入りの癖しやがって…、先輩に対する口の利き方を知らねぇみてぇだな…』

 

ウラタロス『おやおや、ただの古株が何を言ってるやら…』

 

 

その言葉に眉を上げるモモタロス。

 

 

モモタロス『テメェ…亀鍋にすっぞ、コラ!』

 

ウラタロス『桃缶にしてあげようか?ん?』

 

モモタロス『テメェはそのあと雑炊だ!』

 

ハナ「やめなさい!!二人共!!」

 

 

ギスギスした雰囲気を醸し出し、喧嘩勃発かと思いきや良々がとっておきのジョーカーを繰り出した。

 

 

良々『二人とも、喧嘩したら私のパス共有しないから…』

 

 

そう言ってパスをチラつかせる。

 

 

ウラタロス『やだな~、そんな本気にしないでよ、良々ちゃん』

 

モモタロス『ちょっとしたコミュニケーションだろ?な~、カメ公!!♡』

 

ウラタロス『ね~、先輩!!♡』

 

 

そう言って肩を組む。

後ろでは、モモタロスがウラタロスの肩に爪を食い込ませ、ウラタロスはモモタロスの尻をつねっているのだが…。

 

 

あかね「うまくやっていけるんか?あの二人…」

 

みゆき「でも、桃太郎に浦島太郎か…、もっと増えるといいね」

 

ハナ「勘弁してほしいわよ…」

 

 

ナオミからコーヒーを貰い、他のメンバーは楽しそうに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──夜

 

 

ハロウィッチは高層ビルの屋上で星を眺めていた。

 

 

ハロウィッチ「あれが天の川、アルタイル、ベガ、デネブ…もうすぐ七夕か…」

 

 

自分もいれて二人の男と三人でこの星を見たのを思い出した。

 

 

ハロウィッチ「桜井…貴方は……」

 

 

すると、頭の中から声が聞こえてきた。

 

 

ハロウィッチ「!」

 

???『なぁ、お前…現代で桜井を見たんだってなぁ…』

 

ハロウィッチ「アンタか…、いきなり人の頭に入ってくるなんて失礼ね」

 

???『あっはは、ごめん。反省するよ──俺、そーゆー顔してるだろ?』

 

 

 

声の主は反省の欠片もない陽気な口調で言った。

 

 

 

ハロウィッチ「知らない…」

 

???『ああ、顔見えないんだっけ?まあいいや』

 

 

 

耳触りな声にハロウィッチはかぶり物の中の顔をしかめる。

だが、耳を塞いだ所で声は頭の中に響く。

 

 

 

ハロウィッチ「で、用件は何?」

 

???『ああ、えっと…バッドエンド…だっけ?お前がいるの?』

 

ハロウィッチ「そうだけど?」

 

???『桜井侑人の足取り…まだ分かんないの?』

 

ハロウィッチ「キタカゼも探してるけど、まだ明確な居所は掴めていないわ」

 

???『な~んだ。ああ、そうだ、アイツの開発したデンオウのベルト──それを盗られて邪魔されてるらしいな』

 

ハロウィッチ「ええ、情けない…」

 

???『大丈夫、あいつがうまくやってくれるよ…。必ず…』

 

ハロウィッチ「あいつ?」

 

 

 

意味ありげに笑う声にハロウィッチは不審に思い訊き返す。

 

 

 

ハロウィッチ「あいつって誰?」

 

 

 

しかし、その返答は返される事なく、通信は途絶えた。

 

 

 

ハロウィッチ「勝手な奴…まぁいい。私は私のすべき事をすればいい。

────桜井…必ず見つける」

 

 

ハロウィッチは星空を見上げながら、バッドエンド王国へと帰還した。



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俺の強さにお前が泣いた(前編)

今回の主役は金イマジンとやよいです。


夜、街灯が路地を照らす中、

良々の兄・幸一がホクホクした顔で封筒の中身を確認していた。

 

 

幸一「いやー、バイト代結構でたな。帰りにプリンでも買って帰るか…」

 

 

どうやら、今日が給料日の様でバイト代が思ったよりたくさん出たらしい。

帰りに妹に何か買ってやろうと考えながら歩いていると、後ろからエンジン音が。

 

一瞬の出来事だった。

幸一の持っていた給料封筒が後ろからやってきたスクーターに乗っていた男にかすめ取られた。

 

 

幸一「ぬおっ!?」

 

 

それを認識し、何が起きたか理解すると、自分も走り、叫ぶ。

 

 

幸一「ドロボー!!俺のバイト代返せー!!」

 

 

しかし、こちらは歩きに対して向こうはスクーター。

みるみる内に引き離されてゆく。

幸一も叫ぶが周りには人がいない。

スクーターのナンバーも薄暗くて見えにくく。

このまま逃げられてしまうと諦め掛けたその時、

交差点の曲がり角からフード付きのコートに身を包んだ小柄な人物が飛び出してきた。

 

 

幸一「危ない!!」

 

 

幸一がそのコートの人物に叫ぶ。

スクーターの男も驚き、ブレーキを掛けるが間に合わない。

 

 

 

 

 

 

 

ドガッ!!

 

 

幸一は目を逸らし、ゆっくり事故現場になっている交差点に目を向ける。

 

 

幸一「え?」

 

 

幸一が驚いたのも無理はない。

何と、ぶっ飛ばされたのはスクーターの方でコートの人物は何事も無い風に立っていた。

 

 

コート「おいこら、危ないなぁ。こないな夜道の中ブイブイ走り回んな。もっと安全運転せんかい」

 

 

コートの人物は関西弁を喋り、注意する。

しかし、それを最後まで聴かずスクーターの男は走り去って行ってしまった。

 

 

コート「何や?一体…」

 

幸一「おーい!あの男捕まえてくれ!!俺の給料泥棒だ!!」

 

 

幸一が息を切らしながらコートの人物に向かって叫ぶ。

 

 

コート「泥棒!?」

 

幸一「そうだ!俺の“なけなし”のバイト代盗られた!!」

 

 

そのコートの人物は幸一のそのセリフに反応した。

いや、厳密には『なけなし』という単語に反応した。

 

 

コート「なけな……い?泣け、ない…?泣けない!?」

 

 

しかし、そのコートの人物は『なけなし』を『泣けない』と聞き違え、幸一に詰め寄った。

 

 

コート「泣けないやと!?バイト代が無いとお前泣けないんか?!そら、一大事や!!」

 

幸一「え?いや、俺はなけなしって…

コート「わーった!!そなら俺が取り返してくる!!」

 

幸一「え!?ちょっと!」

 

 

幸一の制止も聞かずコートの人物はスクーター男の後を追った。

その速いこと速いこと、あっという間に背後に追いつき、走りながら跳躍。

スクーター男の真ん前に着地した。

 

 

スクーター男「どけぇ!!」

 

コート「どすこい!!」

 

 

スクーター男が殴りかかってきたのに対し、コートの人物は屈んで避け、掌底、いわば相撲の張り手をブチかました。

 

 

スクーター男「ぐほっ!!」

 

 

掌底はスクーター男の溝内に入り、スクーター男は胃液を吐き出した。

それだけでは無い、後ろへ押し出す力が強過ぎたのか、スクーター男は重力に逆らい、後方へと飛ばされた。

例えるならば弾丸の如く、後方目掛けて20m以上。

幸一も目を疑った。

自分よりも小柄なあの体の何処にそんな力があるのだろうか?

しかし、幸一は自分の方に飛んできたそのスクーター男に駆け寄る。

ぶっ飛ばされて気を失ってるらしいが、軽い軽傷で済んだらしい。

 

 

幸一「良かったー。バイト代全額無事だ」

 

 

男の懐から出てきた茶封筒の中身を確認し、幸一はホッと一安心した。

 

 

コート「よかったなぁ、兄ちゃん!」

 

 

コートの人物は親指で首を鳴らし、ガッハッハッハッと豪快に笑った。

 

 

幸一「(!声高いな……女の子か?…まあ、いいや)ありがとう。少ないけど、良かったらこれで…何か買って食べてよ」

 

 

幸一はお礼にバイト代の中から二千円取り出した。

 

 

コート「いや、金は要らん。そやな、代わりと言ってはなんやけど…俺、“探しモン”があるんや。知ってるかどうか訊きたいんやけど、ええか?」

 

幸一「探し物?どんな物かな?」

 

 

コート「これや」

 

 

取り出したのは、クレヨンで描かれた何か。

それは人の形をしており、黄色の体に黒い頭をしている。

 

 

幸一「何だコレ?」

 

コート「“ヒーロー”や!!」

 

幸一「ヒーロー?」

 

コート「そや!“黒いヘルメットを被ったヒーロー”俺はそいつを捜しとるんや!!」

 

幸一「黒いヘルメットを被ったヒーローね……」

 

 

その絵をまじまじと見ながら考える。

幼稚園、または小学校低学年が書いた様なそのクレヨン画を見て、考えを巡らす。

 

 

幸一「あ、もしかして……」

 

コート「! 何か分かったんか?」

 

 

コートの人物は食いついてきた。

 

 

幸一「これは、…『仮面サンダー』だろ!!」

 

コート「仮面サンダー?」

 

 

『仮面サンダー』とは日曜日の朝、放映中の子供達に人気のヒーローである。

サンダーの名の通り、電撃で敵を倒す。

 

 

幸一「確か、明日七色ヶ丘スタジアムの隣にある遊園地でショーが公開されるらしいんだ。バイト先の先輩からチケット貰ったから、良かったら受け取ってよ」

 

コート「ええんか!?」

 

幸一「もちろん、バイト代取り返してくれたお礼だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コート「いやー、ええ兄ちゃんやったなぁ!これがこのヒーローかいな?まぁええわ。明日、コイツと行ってみるか」

 

 

コートの人物はクレヨン画のヒーローとチケットに描かれている『仮面サンダー』を見比べていた。

 

 

???「おい」

 

コート「ん?」

 

 

すると突然背中から声を掛けられた。

 

 

???「夜のお散歩とはご苦労だなぁ…」

 

 

声の主は赤い前髪を真ん中分けにし、ポニーテールの赤い瞳の女―――

 

 

M良々「俺、参上…!」

 

 

M良々だった。

 

 

コート「なんや、お嬢ちゃん。こないな時間に一人で。

危ないやろ――送ってったろかい?」

 

M良々「余計なお世話だ、この野郎。てゆうかお嬢ちゃんなんて呼ぶな!」

 

 

M良々はペースを少し崩されながらも、指を指して言い放つ。

 

 

M良々「お前…イマジンだろ?」

 

コート「!」

 

 

イマジンと指摘され、フードの中の顔が真剣な表情になる。

 

 

コート「ほう、驚いたなぁ。俺の事を知っとるとなると、同業者か?」

 

M良々「せっかく鉢合わせしたんだ。戦ろうぜ」

 

 

意気揚々と喧嘩を売るM良々。

 

 

コート「悪いな、もうこないな時間やし、俺はこの契約者を家に送って寝かさんといかんねん」

 

 

「また今度な」と手を振り、その場を去る。

 

 

M良々「あ?逃げんのか?」

 

コート「安っぽい挑発やな~。いきがるだけの強さじゃ、俺には勝てへん。それに――――お前みたいな、ザコ相手に俺が本気だしたら…泣いてまうで?」

 

M良々「誰がザコだ!!この野郎!!」

 

 

雑魚呼ばわりに我慢ならなくなったM良々が拳を振り上げ、殴りかかる。

 

 

コート「フンッ!!」

 

M良々「何!!?」

 

 

何と、M良々の拳を軽々と受け止めたのだ。

力自慢のM良々・モモタロスが信じられないと言った表情をし、面食らってる時、コートの人物はもう一方の手がM良々の胸倉を掴む。

 

 

コート「強さにもレベルがあってな。俺の強さは―――――

泣けるで!!!」

 

M良々「どああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

投げられたM良々はゴミ捨て場に突っ込んだ。

 

 

コート「涙はこれで拭いとき…」

 

 

ちり紙を投げ渡され、コートの人物はその場から去っていった。

 

 

M良々「待て、この野郎!こんなもんで泣けるか!!」

 

良々『痛~い…』

 

M良々「泣くな!!」

 

 

ゴミ袋を掻き分けなんとか這い出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

いつもの場所。

デンライナーの食堂車とは違い、ここはプリキュアメンバーの秘密基地、通称『不思議図書館』。

 

 

 

ウラタロス『あっはっはっはっはっはっはっはっ!!投げ飛ばされてそのまんまなんてね…。僕なら恥ずかしくて死んじゃうなぁ』

 

 

昨夜の事を聞き、ウラタロスは腹を抱えて笑う。

 

 

モモタロス『うるせー!!たまたま油断してただけだ!!』

 

ウラタロス『その油断が恥だってまだわかんないのかな~?』

 

モモタロス『何だと!?この亀!!』

 

キャンディ『モモタロス、暴力はいけないクル!』

 

 

小さなぬいぐるみに入ったモモタロスとウラタロスが喧嘩をしてキャンディが割って入る中、ハナ、プリキュアメンバーは良々から昨夜の事を聞かされていた。

 

 

ハナ「もう、イマジンが動いてるって事?」

 

良々「うん、どんな契約内容かわからないけど…」

 

なお「それにしても…あのモモタロスが投げ飛ばされるなんてね」

 

あかね「相当な力持ちみたいやな」

 

みゆき「他に何か手掛かりないの?」

 

 

現状では情報があまり無い。

分かっている事は

契約者は小柄で声色から女、イマジンは力持ち。

皆が思考に浸っていると、モモタロスが声を掛けた。

 

 

モモタロス『それだけじゃねえ、あのイマジンは何か妙だった』

 

れいか「? 妙といいますと?」

 

モモタロス『俺等イマジンの身体にはバッドエナジーがいくつか含まれている。これは解ってるな?俺はそのバッドエナジーを嗅ぎつけイマジンを追える。

だがあのイマジン、本来の匂いが薄かった。何か別の匂いでごっちゃになっていた感じがしたな』

 

良々「何かの匂いって?」

 

モモタロス『分かんねぇ、何かだ…』

 

 

つまり、モモタロスの鼻は今回はアテにはできないという事だ。

 

 

 

 

 

ウルフルン「ウルッフッフッフッフッフッフッフッ!!」

 

???『旦那、何をそんな馬鹿笑いしてんだい?』

 

ウルフルン「馬鹿とは無礼だな、コラ!!いいか、悪者はまず意味もなく笑いながら登場するものなんだよ」

 

???『あ、そ』

 

 

ビルの屋上ではウルフルンが悪だくみの笑みを浮かべて笑っていた。

隣ではウルフルンの連れて来たイマジンが呆れている。

そのイマジンは全身がまるで甲冑の様な重装甲のイマジン。

『裸のサイ』のサイをイメージして実体化したイマジン――アームドライノイマジン。

 

 

アームドライノイマジン

『で、旦那。そのプリキュアと…デンオウだっけ?俺達の宿敵って言うのは…』

 

ウルフルン「その通りだ。俺達の使命は夢も希望もなく、幸せも訪れない真っ黒な未来――バッドエンドへする事だ。だが、5人のプリキュアに加え、裏切り者のイマジンを味方につけたデンオウ!!奴らがいる限りその未来は黒く染まらねぇ!!」

 

 

憎々しげに淡々と語るウルフルン。

 

 

アームドライノイマジン

『なるほど、旦那が手こずるなんて相手方も中々やる様だ。ジョーカーの資料にも一通り目を通したけど…一筋縄じゃいかないかもね』

 

 

アームドライノイマジンはプリキュアの資料を取り出す。

 

 

アームドライノイマジン

『だけど、相手は子供、しかも女。俺の敵じゃないね』

 

 

アームドライノイマジンはフッと余裕の笑みを浮かべる。

 

 

ウルフルン「何か策でもあるのか?」

 

アームドライノイマジン

『ありますよ~ん!』

 

 

アームドライノイマジンは甲冑の中で笑みを浮かべる。

ウルフルンより悪そうな笑みを…。

 

 

 

 

 

 

 

 

7人は不思議図書館を出た。

7人が出た場所は少々殺風景な部屋。

 

 

あかね「ん?なんや?ココ」

 

みゆき「なんか、寂しい部屋だね」

 

 

あかね、みゆきが出た場所の感想を述べると良々が言う。

 

 

良々「私の部屋」

 

みゆき、あかね、やよい、なお、ハナ

「「「「「え"?!」」」」」

 

 

良々の部屋だとわかると、れいかを除いて驚く。

 

 

みゆき「ご、…ごめんなさい」

 

 

みゆきがとりあえず謝る。

 

 

良々「ああ、気にしないでいいよ」

 

モモタロス『やっぱ、個性がねぇんだよ』

 

良々「そうかなぁ?」

 

 

流石にモモタロスからこの部屋を牢獄と評されている為、みゆき達からも私の部屋だと聞いて驚かれると、流石に怖くなってくる。

そんな事を考えていると、他の部屋にいた幸一が部屋のドアをノックして来た。

 

 

幸一「おい、良々どうした?騒がしいぞ」

 

良々「え!?兄さん!ちょっと待って!」

 

 

部屋に入ってきた幸一は良々の他にみゆき達6人の女の子が上がり込んで入る事が目に止まる。

 

 

幸一「お、良々のお友達かい?」

 

 

 

 

 

 

 

幸一「何だよ、良々。一言言ってくれりゃ、お菓子とコーヒーぐらいは用意したのに…」

 

ハナ「いえ!そんな気を使わなくても…」

 

 

あの後、7人は幸一に勧められて、居間の方でコーヒーをご馳走になっていた。

良々によると幸一の淹れたコーヒーは香りも良く、美味しいのだと。

でもやはりみゆき達には少々苦いらしく、顔をしかめて砂糖を入れる。

ふと、みゆきは部屋の隅と本棚に目をやる。

そこには星を中心に、宇宙に関する本が並べてあった。

部屋の隅には天体望遠鏡と一枚の写真が…。

 

 

みゆき「あの…」

 

幸一「ん?」

 

みゆき「星が好きなんですか?」

 

 

みゆきは不意にそんな事をきいてみる。

 

 

幸一「ああ、俺達の両親。天文物理学者なんだ」

 

「「「「「「学者?!」」」」」」

 

良々「あれ?言ってなかったっけ?」

 

 

いや、少し思い返してみれば良々は学年での成績は10位前後と割りと高く、戦いの中でもいく度か奇策を思いつく事もある。

学者の娘なら頭がいいのも頷ける。

 

 

幸一「俺や良々も星を見るのが好きでね。俺の友達と一緒に良く星を眺めにいったよ」

 

 

幸一は本棚に飾ってあった写真立てを一つ取って持ってくる。

 

 

あかね「これ、お兄さん?」

 

 

その写真には星空の下、三人の男女が写っていた。

右側から幸一、髪の長い同い年位の女性、左側は同い年位の茶髪の男。

 

 

幸一「ああ、丁度君たちと同じ中学2年の時の天文部の写真だ。部員は俺も含め、三人しかいなかったけど楽しかったな」

 

 

幸一は懐かしむ様に語る。

 

 

良々「私達が引っ越す前の『希望ヶ原』って町は都会じゃ珍しく、星がよく見える名所があるの」

 

みゆき「へ~、私も見てみたいな~」

 

良々「希望ヶ原はこっからかなり遠いよ?でも、いつか連れて行ってあげたいわ」

 

そう言いながらコーヒーを一口飲む。

すると突然、幸一が話題を変えてきた。

 

 

幸一「そういえば良々、昨日の夜おかしな奴に会ったんだけど…」

 

良々「おかしな奴?」

 

幸一「ああ…なんでも、そいつ黒いヘルメットを被ったヒーローって言うのを捜しているみたいなんだ…心当たりあるか?」

 

良々「黒いヘルメットを被ったヒーロー?…何それ?みんな知ってる?」

 

みゆき「黒いヘルメットを…」

 

なお「被ったヒーロー?」

 

あかね「何や?それ」

 

れいか「わかりませんね」

 

 

良々は今度はやよいに顔を向けた。

やよいはヒーローものが好きなので何かわかるかもしれないかと、ちょっと期待していたが、首を横に振った。

しかし、やよいには心当たりがあった。

そして、それを捜している人物も…。

 

 

やよい「(まさか、……)」

 

 

良々「で、兄さん。その、おかしな奴がどうしたの?」

 

 

良々の質問に幸一は昨日、そのコートの人物がバイト代を取り返してくれた事を話した。

 

 

幸一「しかし驚いたなぁ、あの時は。こう言っちゃあ失礼だが、人間業とは思えなかったよ」

 

 

談笑する幸一の話を聴いて良々は勿論、みゆき達も真剣な顔になる。

スクーターにぶつかっても平気な頑丈さ。

走りながら人間一人を軽く跳び越える脚力。

人をただのツッパリで20mもぶっ飛ばすその怪力。

容姿も聞かされて、良々が昨日出会ったコートの人物――イマジンの契約者に間違いない。

それがすでに幸一と出会っていたとは…。

 

 

ハナ「幸一さん!」

 

幸一「ん?」

 

ハナ「そのイマジ…いや、そのコートの人物の何か目的とか、ありませんでしたか?」

 

幸一「だから、そいつが黒いヘルメットを被ったヒーローを捜してるんだ」

 

 

皆はおそらくそれが契約内容だと予想した。

 

 

幸一「でも、その時丁度『仮面サンダー』のアトラクションショーのチケットをバイト先から貰ってな、俺も良々もあんまり興味なかったからその子にあげたんだ。今頃、ショーを楽しんでるんじゃないか?」

 

良々「そのアトラクションショーってどこでやってる!?」

 

幸一「え?七色ヶ丘スタジアムのすぐ隣の遊園地…」

 

 

それだけ聞くと皆は立ち上がり、出発する。

良々を除く皆は「ごちそうさまでした」を忘れずに…。

 

 

幸一「?なんだ、皆そんなに興味があったのか?――それとも…」

 

 

そう不敵な笑みを残し、コーヒーを飲み干す。



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俺の強さにお前が泣いた(後編)

とある路地で、ある男が一人出歩いていた。

すると突然、その男の目の前に異形の者が現れた。

 

 

 

男「な?!」

 

 

 

男は驚き、後ずさる。

周りにいた人間は悲鳴を上げ、一目散にその場を逃げていく。

全身甲冑で覆われたイマジン――アームドライノイマジン。

 

 

 

アームドライノイマジン『あんた、七色フェアリーズの蟹沢?』

 

蟹沢「そ、そうだ…」

 

 

 

蟹沢という男は恐る恐る答える。

それを聞くとアームドライノイマジンはサムズダウンするとゆっくり告げる。

 

 

 

アームドライノイマジン『あ、そ――じゃあ死んでよ』

 

蟹沢「ひっ、うあああああああああああっっっっ!!」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

良々「(まさか…兄さんがイマジンと出会ってたなんて…)」

 

幸一からの話を聞いて少し驚き、戸惑っていたが、思わぬ情報が手に入った。

早速、7人は仮面サンダーのアトラクションショーが開催されている遊園地に出発する事に決めた。

 

 

 

ハナ「幸一さんはたしか…七色ヶ丘スタジアムの隣の遊園地で開催しているって言ってたわね?」

 

あかね「あ、そこならウチ知ってる。前に家族で野球見に行った事あるから」

 

 

みゆき「じゃあ、急ごう!」

 

やよい「……………」

 

れいか「やよいさん?」

 

なお「どうしたの?さっきから…?」

 

 

 

やよいはドキッとしたが、冷静に手を横に振る。

 

 

 

やよい「え?…いや、なんでもないよぉ…」

 

 

 

その様子に良々は気付き、もう少し問答としたその時、

 

 

 

モモタロス『良々!』

 

良々「! どうしたの?」

 

モモタロス『イマジンだ…近いぞ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蟹沢「ぐわっ!!」

 

 

 

蟹沢という男はアームドライノイマジンに殴り飛ばされ、硬いアスファルトの路地に叩きつけられた。

 

 

 

アームドライノイマジン『呆気ないな。おら、ちょっとは抵抗してみろよ』

 

 

 

アームドライノイマジンは楽しむかのように倒れ伏せる蟹沢の腹に何度もけりをくらわせる。

蟹沢は腹を抑えて咳き込む。

 

 

 

M良々「てやあああぁぁぁぁっっ!!」

 

アームドライノイマジン『グッ!?』

 

 

 

その時、モモタロスに憑依されたM良々がアームドライノイマジンを蹴り飛ばした。

アームドライノイマジンは少しフラついたが、すぐにM良々を睨む。

 

 

 

M良々「よぅ…、おっさんをここまで痛めつけるなんて…悪い趣味してんじゃねぇか」

 

アームドライノイマジン『早速、お出ましってわけ?フッ、鼻だけは効くみたいだな』

 

 

アームドライノイマジンはフラついた身体を立て直す。

 

 

みゆき「良々ちゃーん!!」

 

 

 

M良々の後ろからみゆき、ハナ達6人が駆けつける。

みゆき達は満身創痍で転がっている蟹沢に駆け寄る。

 

 

ハナ「大丈夫ですか?!!」

 

れいか「ひどい…」

 

みゆき「こんなになるまで痛めつけるなんて…」

 

アームドライノイマジン『ひどい?他の奴がヌルいだけだろぉ?確実にそいつを機能停止にしとけば契約もスムーズに済むし…。それに――他人の顔が苦痛に歪むさまって結構好きなのよ、俺』

 

 

 

ブチッ――モモタロスは生まれて初めて、心の中で太い綱が切れる音を聞いた。

モモタロスだけじゃない。

良々もみゆき達もその場にいた皆が、怒りに眉を上げる。

 

 

 

M良々「初めてかもな…」

 

アームドライノイマジン『あ?』

 

M良々「ここまで気に食わない上に、今すぐにでもブチのめしてやりたいって思ったイマジンはよ…」

 

 

 

M良々はベルトを取り出すと、それを腰に巻く。

 

 

 

アームドライノイマジン『気に食わない――ねぇ…。俺も同感だ。俺を顎で使うあの犬コロも、俺に楯突くお前らもなぁ…』

 

M良々「そいつはどうも…!!――変身!!」

 

 

 

赤いセレクトボタンを押し、パスをバックルに横切らせる。

 

 

 

<SWORD FORM>

 

 

 

黒いライダースーツにリボンに鉢巻、赤い陣羽織を羽織り、いきなり突進!

 

 

 

デンオウSF『俺、さんじょおおおおおおおおっっっ!!!』

 

アームドライノイマジン『うっ…!?』

 

 

 

蹴りを叩き込みながらデンガッシャーをソードモードに組み上げる。

 

 

 

デンオウSF「今日は特別に前振りナシだ!!行くぜ行くぜ行くぜーっっ!!」

 

 

 

デンオウSFは反撃の隙を与えない。

強力なラッシュを叩き込む。

 

 

 

みゆき「みんな!!」

 

あかね・やよい・なお・れいか

「「「「うん!!」」」」

 

 

 

みゆき達もスマイルパクトを開き、自身のキュアデコルをセットする。

 

 

 

『Ready』

 

「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」」」」

 

『Go!GoGoLet’sGo!!』

 

 

 

5人もそれぞれのプリキュアに変身する。

前振りは省略。

5人全員、アームドライノイマジン目掛けて走る。

 

 

 

デンオウSF「てぇぇあ!!!」

 

 

 

デンオウSFがデンガッシャーを振り上げ、何度も何度も斬り掛かる。

プリキュア達もアームドライノイマジンを囲み一斉に攻撃する。

しかし、

 

 

 

アームドライノイマジン『ウザいんだよ!!』

 

プリキュア「「「「「きゃあああああああ!!!」」」」」

 

デンオウSF「おわあぁぁぁっっっ!!?」

 

 

 

弾き返された。

 

 

 

マーチ「何?この硬さ…」

 

 

 

アームドライノイマジンは全身が甲冑の様な鎧に身を包まれており、プリキュアやデンオウSFの攻撃をまるで寄せ付けなかった。

 

 

 

サニー「なら、これでどうや?」

 

 

 

サニーがスマイルパクトに気合いを込め、必殺技を発動させる。

 

 

 

サニー「プリキュア!サニーファイヤー!!」

 

 

 

火の球は一直線にアームドライノイマジン目掛けて飛んで行く。

爆音を響かせ、アームドライノイマジンに直撃。

 

 

 

サニー「やった!!――ッ!?」

 

 

アームドライノイマジン『全然効かないなぁ~』

 

 

 

アームドライノイマジンの西洋甲冑の様なボディには焦げ目すらついておらず、余裕をかます。

 

 

 

アームドライノイマジン『じゃあちょっくらこっちも…』

 

 

 

アームドライノイマジンは左肩を前に構える様にして、姿勢をひくくしての体当たり。

だが、脚に力を入れ体重を前方へ乗せた時、力を入れた脚―――左足がアスファルトに沈み、次の瞬間、車いやコンボイと遜色無しの迫力とその衝撃。

 

 

 

サニー「あああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

 

 

サニーはその衝撃と肩角で打ち上げられた。

 

 

マーチ「サニー!!」

 

ビューティ「くっ!!」

 

デンオウSF「やろっ!!」

 

 

 

マーチ、ビューティ、デンオウSFがアームドライノイマジンに仕掛けるが、アームドライノイマジンは角付きの盾を構え、三人の攻撃を防ぐ。

そしてすかさずなぎ払い、その甲冑姿からは想像出来ないほど、素早いフットワークで三人を蹴散らす。

 

 

 

デンオウSF「ぐぁっ!!」

 

マーチ「うっ!!」

 

ビューティ「ああっ!!」

 

アームドライノイマジン『はぁっはっはっはっはっはっはっはっ…!!あっけねぇ。もう終わりか?』

 

 

 

両手を広げ、勝ち誇るアームドライノイマジン。

その防御力は凄まじく、プリキュアとデンオウの攻撃を寄せ付けない。

以前戦ったラコーンドックイマジンより遥かに硬い。

 

 

 

ピース「みんな!!」

 

ハッピー「私達も行こう!!」

 

 

 

ハッピーとピースも駆け出す。

 

 

 

アームドライノイマジン『何人来ようがザコはザコなんだよ』

 

 

 

ハッピーとピースはアームドライノイマジンに拳を喰らわすが、5人の中で格闘に向いていないハッピーとピースでは殆ど相手にならなかった。

 

 

 

良々『………』

 

 

 

良々はアームドライノイマジンを見据えながら考えていた。

 

 

 

デンオウSF「どうした。良々…?」

 

 

 

それに気付き、デンオウSF・モモタロスは問う。

 

 

 

良々『あのイマジン、昨夜出会ったイマジンなのかな?』

 

デンオウSF「あん? どういう事だ?」

 

良々『あのイマジン確かに怪力だけど、粗暴過ぎる。昨夜のはもう少し、おおらかで気さくな感じがした』

 

デンオウSF「そうかぁ…?」

 

 

 

しかし、モモタロスも薄々気付いていた。

昨夜のとは匂いがハッキリとしていて、違う事に。

 

 

たが、こんな事を考えている間にハッピーとピースは投げ飛ばされて、今にもやられそうだった。

ピースは必殺技を放つべく、スマイルパクトに気合いを込める。

 

 

 

ピース「プリキュア!ピースサンダー!!」

 

 

 

ピースの必殺技が炸裂、ピースは相手は電気をよく通す金属を身に纏っている事に目を付け、雷の必殺技をくらわせる。

これなら効果があるだろと思った。

しかし、

 

 

 

アームドライノイマジン『クックックッ!!』

 

ピース「え?」

 

 

アームドライノイマジン『なるほど、金属ならよく電気を通すから雷が有効…だと?浅知恵だな。

―――金属が電気を通すのは表面のみだ。隙間でもない限り電気は内側には届かない。もっとも、俺の鎧の隙間には絶縁体の物質だ。生憎電気は通さない』

 

ピース「そんな…」

 

 

 

ピースは必殺技を放ち、バテバテの状態になる。

 

 

 

ハッピー「だったら、私が…」

 

 

 

今度はハッピーがスマイルパクトに気合いを込める。

 

 

ハッピー「む〜っ!!気合いだ気合いだ気合いだーっ!!」

 

 

 

ハッピーは両手をハートの形にして光線を放つ。

 

 

 

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!!」

 

アームドライノイマジン『ぐうっ…!!』

 

ハッピー「やった!!」

 

 

 

ハッピーシャワーがアームドライノイマジンに決まり、ハッピーは勝利を確信する。

しかし、

 

 

 

アームドライノイマジン『おいおい、こんなんじゃ全然もの足りないぜ』

 

ハッピー「え?」

 

 

 

巻き上がった砂埃の中から、ハッピーが突撃し、ハッピーを突き上げた。

 

 

 

ハッピー「ああっ!!」

 

ピース「ハッピー!!」

 

 

 

突き上げられたハッピーの元へ駆け寄る。

だが、相手は待ってはくれない。

 

 

 

今度はピースも突き上げる。

 

 

 

ピース「きゃああああぁぁ!!!」

 

 

突き上げられた二人は地面に叩きつけられ、その場にたおれる。

 

 

 

 

 

 

 

キャンディ「ハッピーとピースが危ないクル!」

 

 

 

キャンディの言葉にハッと気付き、サニー、マーチ、ビューティ、デンオウSFは駆け出す。

 

 

 

アームドライノイマジン『おっと、お前らは後だ。コイツと遊んでろ…』

 

 

 

アームドライノイマジンの鎧が膨らみ、3メートルを越える巨体に鉤爪を併せ持つ犀頭の怪物が姿を見せた。

 

 

 

ゲラス『ヴオオオオオオオオオオオォォォォォォ!!!!』

 

サニー「何や!?この怪物!!」

 

アームドライノイマジン『そいつの名は“ゲラス”。俺の分身体だ

―――やれ!ゲラス!!』

 

ゲラス『ヴオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!』

 

 

 

巨大な鉤爪を振り上げ、4人に攻撃を仕掛けるゲラス。

ハッピーとピースの元へ行きたいのは山々だが、この巨体に似合わぬスピード。攻撃も重く、かするだけでもやばそうだ。

 

 

 

アームドライノイマジン『じゃ、弱い奴から片付けちゃうか…。そこで怯えてる黄色ちゃんかな?』

 

 

 

ゆらりとアームドライノイマジンはピースの方を向く。

ハッピーはピースの前に立ち、アームドライノイマジンからピースを庇う様に立ちふさがる。

 

 

 

アームドライノイマジン『んん?何だよ?逃げないのか?』

 

ハッピー「逃げるわけ…ないでしょ!!」

 

ピース「ハッピー!」

 

 

 

ハッピーは強い目で相手を睨み構える。

 

 

 

アームドライノイマジン『女の癖して、調子に乗ってんじゃねぇよ…。俺はそうやって弱いのに楯突く奴が一番好かねぇんだ。弱い奴は弱い奴らしく、蹲って震えてりゃいいんだよ』

 

 

 

ハッピーは拳を握りしめアームドライノイマジンを睨む。

コイツだけには負けたくない、と。

 

 

 

アームドライノイマジン『ま、いいや、それじゃあね…。儚い人生だったな、お前ら』

 

 

 

アームドライノイマジンは角付き盾を構え、突撃体制にはいる。

そして、アームドライノイマジンが一気に駆け出し、シールドホーンがハッピーの腹部目掛けて突き出される。

ハッピーは逃げ出さなかった。

自分の友達を守る為、目の前の許せないイマジンを止める為、退く訳にはいかない。

 

その後ろではサニー、マーチ、ビューティ、デンオウがそれに気付き、何か叫んでいた。

 

 

 

 

 

そして遂に、アームドライノイマジンのシールドホーンの先端の角がハッピーの腹部を貫こうとした。

その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「泣かない…人生?そらちょい寂しいなぁ…」

 

 

ハッピー「ッ?!!」

 

 

 

ハッピーは突如聞こえたその声に目を開ける。

関西弁だから、あかねちゃん・サニーかと思ったが声が違う。

その目の前にはピースがアームドライノイマジンの盾を受け止めていた。

 

 

 

アームドライノイマジン『何だ…?!俺のシールドホーンが…、ピクリともしない…だと?』

 

 

 

ピース「泣かれへんのは…、お前の強さや!!――フンッ!!!!」

 

アームドライノイマジン『ぐあっ!!!』

 

 

 

アームドライノイマジンはピースの張り手で吹き飛ばされた。

そのまま路地をゴロゴロと転がる。

得意気に親指を顎に当て、首を鳴らすピースを見ながら、プリキュアの他のメンバーは驚きを隠せなかった。

ピースは基本身体、能力スペックは5人の中では最も低い。

5人の中で最もパワーのあるサニーを含む3人に加え、デンオウをぶっ飛ばしたイマジンを逆にぶっ飛ばしたのだから、驚かない方がおかしい。

 

 

 

アームドライノイマジン『て…てめぇ、まさか……』

 

 

 

アームドライノイマジンは立ち上がりながらピースを睨む。

そこでデンオウSFもようやく、気付いた。

 

 

 

デンオウSF「おい、お前ら」

 

サニー「何や?」

 

デンオウSF「イマジンだ」

 

 

 

そう言って指をさす。

 

 

 

キャンディ「イマジンならあそこにいるクル」

 

デンオウSF「違う!!ピースだ…あいつにイマジンが取り憑いてやがる」

 

ハッピー・サニー・マーチ・ビューティ

「「「「ええっ!!?」」」」

 

 

 

驚愕の事実。

 

 

 

ピース「俺の強さは泣けるで…」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

負傷した蟹沢を病院に搬送していたハナがようやく戻って来た。

 

 

 

ハナ「これって……」

 

ピース「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

アームドライノイマジン『グウッッ!!』

 

ピース「ハッ!!ハッ!!ハッ!!ハッ!!ハッ!!」

 

 

 

展開は、イマジンの取り憑いたピースがアームドライノイマジンを徐々に押し始めた。

張り手を連打をし、アームドライノイマジンにダメージを与える。

 

 

 

アームドライノイマジン『このっ!!』

 

 

 

アームドライノイマジンのシールドホーンで反撃を試みるが、ピースはその小さな体格を生かし懐へと潜り込む。

 

 

 

ピース「どすこいっっ!!!」

 

アームドライノ『グオアッッ!!!』

 

 

 

渾身の突っ張りが命中!!

アームドライノイマジンは後方へとふき飛ばされた。

 

 

 

ピース「はっはっはっ!!まだまだ泣かれへんなぁ、こないな強さじゃあ!!」

 

 

 

 

それを見ていたハッピーにサニー、マーチ、ビューティ、デンオウSFそして、キャンディは唖然としてこの光景を見ていた。

先ほどまで苦戦していたイマジンを相手に優位に戦っているのだから。

 

 

 

アームドライノイマジン『コラァ!!ゲラス!!テメェは犀の置物か!?とっとと加勢しに来い!!』

 

 

 

ゲラスもハッと我に帰り、ヴオオオ!!と吠えるとピース目掛けて走り出した。

 

 

 

ハッピー「あっ!」

 

サニー「あぶない!!ピース!!」

 

ピース「んん!?――どわぁ!!」

 

 

 

サニーの掛け声に気付き、ゲラスの振り下ろした拳を間一髪躱す。

 

 

 

ビューティ「皆さん!とりあえず、ピースを助けましょう!!」

 

サニー「それがええな!!」

 

 

 

そして、他の5人も助太刀に掛けだす。

イマジン同士のイザコザに最初はどうすればいいか戸惑ったが、とりあえず仲間のピースを助ける事にする。

 

 

 

デンオウSF「よっしゃあ!!行くぜぇ!!」

 

 

 

デンオウSFが気を取り直して先陣切って掛け出す。

 

 

 

良々『と、その前にこっちは選手交代!!』

 

デンオウSF「は?」

 

 

 

突拍子もない良々の発言に驚きを隠せないデンオウSFを他所に良々の意思の入った左手は青いセレクトボタンを押し、パスをタッチしていた。

 

 

 

 

<ROD FORM>

 

 

 

 

 

 

赤い特攻服のような陣羽織が裏返り、着物にアロハシャツを組み合わせたような上着にバンダナと黒ぶちオレンジサングラスが装着され、デンオウSFはデンオウRFへと姿を変える。

 

 

 

デンオウRF「やっぱり、適した釣り竿を使わないとね♪」

 

 

 

アームドライノイマジンはピース1人で十分なので、他のメンバーはゲラスを引き受ける事にする。

ゲラスは4人をけちらそうとするがデンオウRFが足を払い、糸を引っ掛けころばせる。

 

 

 

ゲラス『ブオォッ!?』

 

 

ハッピー「はあっ!」

 

サニー「たあっ!!」

 

 

 

ハッピーとサニーのダブルパンチがゲラスを押し倒す。

 

 

 

アームドライノイマジン『チッ、ここは一旦退くか…』

 

 

 

不愉快そうに呟き、ゲラスを取り込んで姿を消した。

 

 

 

デンオウRF「逃げた魚は深追い禁止…だね」

 

ピース「俺の強さにお前が逃げた!ごっつあんです」

 

デンオウRF「………女の子がごっつあんなんて言わないの…」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

全員が変身を解いて、近くの公園でやよいに事情を聞く事にした。

ハナもやよいにイマジンが取り憑いた事に驚きを隠せなかった。

 

 

 

あかね「これは…どういう事かな?やよい」

 

 

 

あかねは怒ってはいなかったが困ったようにこめかみをかきながら尋ねた。

 

 

 

やよい「あ…あかねちゃん、みんな!これはね…その…」

 

???『やよい。俺が説明する、外出るで』

 

 

 

テンパるやよいを見て、中のイマジンがやよいに声をかける。

 

 

 

やよい「え?待って!!」

 

???『安心し、お前の友達に手は出さん。立ち会うだけや』

 

 

 

やよいから砂がこぼれ落ち、金色の熊のイマジンが実体化し、姿を見せる。

 

 

 

なお「契約してる…?」

 

 

 

一応、良々が確認する。

 

 

 

良々「あなた、私の顔に見覚えある?」

 

イマジン『ん?………あ、昨日のお嬢ちゃんか?』

 

 

 

やっぱり、昨日のイマジンに間違いない。

そんな事を考えていると、

 

 

 

M良々「おい熊野郎!!昨日はよくもはやってくれやがったなぁ」

 

 

 

モモタロスが取り憑き、熊イマジンを睨む。

 

 

 

イマジン『お前か…その子に取り憑いとったイマジンは…、俺の強さに悔し泣きしとったんちゃうんか?』

 

 

 

熊イマジンの軽口にM良々が青筋を浮かべ、食いかかる。

 

 

 

M良々「誰が泣くか、コラ。昨日投げ飛ばした位でいい気になってんじゃねぇぞ?」

 

熊イマジン『それやったら、もう一度戦ってみるか?まぁ…俺が勝つに決まってるけどなぁ~』

 

M良々「上等だ…。皮剥いで足拭きマットにでもしてやろうか?ん?」

 

 

 

次第にギスギスした一発即発の事態になる。

 

 

 

ハナ「やめなさい!」

 

M良々「って!!」

 

 

 

ハナに引っ叩かれ、収まる。

 

 

 

やよい「キンタロスもやめて!!」

 

 

熊イマジン『向こうが掴みかかって来るんや。しゃあないやろ?』

 

 

 

熊イマジンもやよいに免じて押しとどまる。

 

 

 

みゆき「ん?キンタロス?」

 

 

 

やよいが熊イマジンをそう呼んだのに気が付いた。

 

 

 

やよい「ああ、このイマジンの名前。多分、『金太郎』の熊だから…“キンタロス”」

 

M良々「へ、相っ変わらずセンスねぇな」

 

キンタロス「お前に言われたないわ、モモタロス」

 

M良々「なっ!?テメェ!どっから…『ハイハイそこまで、キリがない』

 

 

 

モモタロスは何か言い返そうとした時、良々はモモタロスを追い出した。

 

 

 

良々「本題に入ろう。みんな…」

 

一同「うん…」

 

 

 

まず、みゆきが尋ねる。

 

 

 

みゆき「じゃあ…、やよいちゃん。いつからあのイマジンが入ってきたの?」

 

やよい「丁度、一週間前…」

 

みゆき「そんなに?!!」

 

なお「何で私達に一声掛けてくれなかったの?」

 

 

 

やよいは叱られる子供のようにビクビク冷や汗を流しながら、答える。

 

 

 

やよい「わ…悪いイマジンじゃ……ないと思ったから」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは丁度一週間前。

夜の事。

 

 

 

いつもの様に宿題を終えたやよいは、寝るまでの間マンガでも読もうと古い本棚から一冊のマンガ本に手を伸ばす。

かなり古いマンガだったが無償にそれが読みたくなった。

やよいが古いマンガをとった時、その本棚から一枚の紙がヒラヒラと落ちてきた。

 

 

 

やよい「ん?――何かしら?」

 

 

 

その紙に気づき、それを広げる。

 

 

 

やよい「わ、懐かしい…」

 

 

 

それはクレヨンで描かれた黒い頭に黄色い身体の人型の何か。横にはカタカナで「ヒーロー」と。

やよいはそれに見覚えがあった。

4歳くらいの頃、この絵を描いた記憶がうっすらと残っている。

 

 

 

やよい「だけど、この絵…何だったんだろう……?」

 

 

 

やよいはこの絵を描いた記憶はあるのだが、この絵の『ヒーロー』と言う物が何なのか…全く覚えがなかった。

少し考えたが、特に気にする事もなくそのまま就寝した。

その時である。

やよいの身体に『それ』がはいったのは…。

 

 

 

 

 

青い空の下。

 

 

 

やよい「ここは……?」

 

 

 

瓦礫が転がる広場の真ん中に立ち尽くしていた。

辺りを見回し、ある事に気付く。

 

 

 

やよい「まさか…、ここって……遊園地?」

 

 

 

その場所にやよいは見覚えがあった。乗り物や、建造物が壊されているが間違いない。

七色ヶ丘スタジアムの隣にある遊園地・七色パーク、そのの広場。

だが、どうしてこれ程までに荒らされている?

まるで、廃墟か何かだ。

そんな事を思っていると、やよいのすぐ隣の建物がこちらに向かって崩れ、瓦礫がやよいの頭上目掛けて降ってきた。

 

 

 

やよい「あ…!!―――あれっ??!」

 

 

 

驚くも、やよいはその場を離れようと駆け出そうとした。

しかし、足が動かない。

ピッタリ地面にくっついているかのようにその場を離れることができなかった。

 

 

 

やよい「そんな…足が……」

 

 

 

足が動かない事に焦り、上を見るが瓦礫は無情にもやよいの頭上目掛け迫ってくる。

 

 

 

やよい「ひっ…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 

 

あまりの恐怖に頭を抱え蹲る。

ガラガラと瓦礫がついに降り注ぐ。

しかし、やよいの頭上にはいつまでたっても瓦礫が落ちてこない。

瞼を開き、上を見ると誰かが瓦礫を支え、持ち上げていた。

 

 

『大丈夫か!?やよい!!』

 

 

 

 

 

やよい「―――っ!!」

 

 

 

その時、やよいの夢は終り、目を覚ました。

 

 

 

やよい「夢……?」

 

 

 

やよいは今見ていた夢を思い返す。

 

 

 

やよい「何だろう…――今の夢…?」

 

 

 

やよいはあの夢にどこか既視感を覚えた。

あの最後に出てきて瓦礫を支えた人物は一体誰なのか…。

目をこすり、上半身を起こして布団からでようとする。

だが、その時にジャリっとした感触が、足に伝わる。

 

 

 

やよい「え?何…!?」

 

 

 

布団の中を見るとそこには大量の砂。

 

 

 

やよい「え?!――これって…!」

 

 

 

やよいは間違いであって欲しいと願ったが、そうはいかない。

砂は上半身下半身を逆に形作る。

イマジンだ。

 

 

 

???『お前の望みを言うてくれ。どんな望みも叶えた…

やよい「イマジン!?」

 

 

やよいがイマジンの決まり文句を遮る。

これがやよいとキンタロスのファーストコンタクトだった。

 

 

 

キンタロス『お、何や何や?俺の事知っとるんか?なら、話は早いな。早よう願い…

やよい「来ないで!!」

キンタロス『ぶお!!?』

 

 

 

やよいが近くにあった通学鞄をキンタロス目掛けて投げる。

今のキンタロスは砂のお城状態なので簡単に砕け散る。

しかし、また再生。

 

 

 

キンタロス『コラ!何するんや!痛かないけどビックリするやろ!!』

 

 

 

声を上げてやよいを叱る。

 

 

 

やよい「あ、ご、ごめんなさい…。じゃなくて!!」

 

 

叱られた事に反射的に謝るも、気を取り直してイマジンに対して身構える。

 

 

やよい「何でイマジンが私に取り憑いてるの!?」

 

キンタロス『何でって…、特に理由ないけど…―――ま、細かい事はええやん。宝くじに当たったようなもんやで』

 

 

 

陽気に言うキンタロスだったが、やよいの方はとんでも無い。

ハズレくじに当たったようなものである。

 

 

 

やよい「とにかく、私の身体から出てって!!」

 

キンタロス『そんな毛嫌いせえへんでもええやろに…。“縁は異なもの味なもの”言うやろ?これも何かの縁や。仲良くし―――ぶべっ!!」

 

 

 

今度は辞書が飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、今日は休み。

やよいは着替えて外に出て、商店街を歩いていた。

 

 

 

キンタロス『なあ、これからどこ行くんや?』

 

やよい「………」

 

 

 

心の中でキンタロスはやよいに話し掛ける。

しかし、返事はなし。

 

 

 

キンタロス『早よう願い言うて貰わんと俺困んねん』

 

やよい「………」

 

キンタロス『もしかして、俺の事嫌い?』

 

やよい「………」

 

 

 

やよいは極力口をきかないようにしていた。

はずみで望みを言ってしまう事を恐れたからだ。

 

 

 

キンタロス『返事ぐらいしてもええやん…』

 

 

 

キンタロスが何かボヤくが無視。

早く、ハナさんや皆に会ってこのイマジンを何とかしてもらおうと思っている時。

 

 

 

「えーん、えーん、えーん!!」

 

やよい「!」

 

 

 

丁度、目の前に母親と娘の一組の親子に気が付いた。

その親子の娘の方は何故か泣いている。

 

 

 

母親「ミヨちゃん…もう諦めましょ」

 

ミヨ「やだやだやだー!!」

 

母親「困ったわ~…」

 

やよい「どうしました?」

 

 

 

やよいは気になり、一応問いただしてみた。

 

 

 

母親「娘の持っていた風船が木に引っかかってしまって…」

 

 

 

すぐそばの木、その上を見ると確かに風船が引っかかってっていた。それもかなり高く。

 

 

 

母親「ミヨちゃん…残念だけど、もう取れないわよ。」

 

ミヨ「そんなぁ~…」

 

やよい「……」

 

 

 

やよいは何とか風船をとってあげたかったが、自分一人ではどうしようもなかった。

すると、その時である。

 

 

 

やよい「ッ!!」

 

 

 

やよいの瞳が金色に光ったかと思うと、カチューシャが落ちて、首後ろ髪がお団子結びになり。簪が一本刺さった髪型へと変化した。

そう、今のやよいにはキンタロスが取り憑いたやよい

―――Kやよいとなった。

 

 

 

Kやよい「よっしゃ。お嬢ちゃん、俺に任しとき」

 

ミヨ「え?」

 

 

 

Kやよいはミヨという子の頭をポンポンと撫でるとその木の隣にある街灯を足場に垂直に登り、風船と同じ高さまで来るとその場で真横にジャンプ!

 

 

 

Kやよい「とあっ!!」

 

 

 

すれ違い様に風船を素早く取る。

そして、もんどりを打って華麗に着地。

周りで見ていた人々は思わず拍手を送り、Kやよいは構わずミヨに風船を差し出す。

 

 

 

Kやよい「今度は手離さんようにな」

 

母親「ありがとうございます」

 

ミヨ「ありがとう、お姉ちゃん」

 

Kやよい「どういたしまして。それと“お兄ちゃん”やで」

 

 

 

お礼を言うミヨに対してキンタロスはニカっと笑い返す。やよいはそのキンタロスの行動を不思議そうに黙って見ていた。

 

 

 

 

 

キンタロス『いやー、ええ事した後は気持ちええな。そう思わん?』

 

やよい「え?う、うん…」

 

 

 

やよいはこのイマジンはもしかしたら、悪いイマジンではないのだろうかと思い始めていた。

あの時、ミヨという女の子の風船を取り頭を撫でている時、彼からは全く邪な下心が感じられなかった。

やよいはもう少しこのイマジンの様子を見る事にした。

 

 

 

しばらく歩いていると、今度は目の前にトラックが道の端に停車していて、運転手と思わしき業者の人が困った顔をしていた。

やよいはこれを利用し、自分に取り憑いたイマジンが悪いイマジンではないのか試してみる事にした。

最悪の事を考慮し、やよいは何時でも変身出来る準備をする。

余り気の進まない事だが、やよいはキンタロスに心の中で話し掛ける。

 

 

 

やよい「ちょっといいかな?」

 

キンタロス『ん?』

 

 

 

話し終わるとキンタロスはやよいに取り憑き、Kやよいになる。

 

 

 

Kやよい「どないしたか?兄ちゃん」

 

業者「ん?」

 

Kやよい「何か困っとるん?」

 

 

 

Kやよいは親し気に話し掛ける。

 

 

 

業者「ん?ああ、ちょっとヘマやらかしちゃってね」

 

Kやよい「ヘマ?」

 

 

 

業者の人が言うにはトラックの前輪が溝に嵌ってしまったらしい。

 

 

 

業者「まだ配達が残っているのに困ったモンだよ」

 

 

 

それを聞いてKやよいは

 

 

 

Kやよい「そなら、俺が持ち上げたろかい?」

 

業者「は?何言ってんの?こんな時に変な冗談はよしてよ。あー、早くレッカー車来ないか――――」

 

Kやよい「あよーいしょ」

 

業者「な…って、―――え?」

 

 

 

まるでちょっと重たい荷物でも持つかの様にトラックを溝から引き上げ、ズシンと軽く置いた。

 

 

 

Kやよい「こんなモンでええか?」

 

業者「あ、……ありがとう…?」

 

 

 

お礼の言葉を聞くと「どういたしまして」と返してその場を去った。

業者の人は今一瞬何が起こったか理解できず、混乱してしまった。

中学生位の女の子がトラックを持ち上げた。

その現象に幻をみたかと思ったが、バンパーにはくっきり手形が残っていた。

 

 

 

 

 

 

次に来たのは公園だった。

休みの日だからか親子の姿が何組か見えた。

やよいはベンチに座り、考え込む。

すると、心の中でキンタロスが話し掛けて来た。

 

 

 

キンタロス『なぁ、お嬢ちゃん。どうしたんや?さっきから黙って…考え事かいな?あ!もしかして、望み考えてんか?』

 

 

 

そのキンタロスの言葉に対して、やよいは

 

 

 

やよい「ねぇ、さっきどうして無条件であの人助けてくれたの?」

 

キンタロス『ん?』

 

 

 

実は、さっきやよいは『あの業者の人を助けて欲しい』とキンタロスに言ったのだ。

適当にこじつければ、『望み』として契約成立できた筈だ。

 

 

 

キンタロス『ああ、そやな。けど、あれはお前の望みとちゃうやろ?俺はお前自身の望みを叶えたいんや』

 

やよい「私の望み?」

 

キンタロス『そや!あれはお前の“頼み”やろ。俺はお前自身の為に契約したいんや』

 

 

 

やよいは何故かキンタロスの話しを黙って聴いていた。

自分の為に―――。

その言葉がやよいの心に強く残った。

 

 

 

キンタロス『願いはゆっくりでええで。俺はもうひと眠りするさかいな』

 

 

 

などとキンタロスがつぶやきながら欠伸をしてると、やよいは立ち上がり言う。

 

 

 

やよい「ねえ…」

 

キンタロス『ん?』

 

やよい「願い事決まったわ」

 



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やよいのヒーロー(前編)

回想終了

現在に戻る。

 

 

 

キンタロス『とまあ、そんなこんながあって、俺とやよいが出会ったんや』

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

バッドエンド王国

ハロウィッチの部屋

 

今日は非番なハロウィッチは自室で雑誌を読みながらクリームソーダを飲んでだらけきっていた。

 

 

 

ハロウィッチ「あー、非番超最高♪」

 

 

 

雑誌のページを捲ると七夕に流星群が観測できると載っていた。

そのページに目が留まりしばらく読んでいると、テーブルの上に置いてあった携帯に着信音。

 

 

 

ハロウィッチ「おや?」

 

 

 

誰からか確認すると[ウルフルン]。

 

 

 

ハロウィッチ「物凄く珍しい事にワンちゃんからだわ♡吉報だといいんだけど―――もしもし?」

 

ウルフルン「おいコラ!ハロウィッチ!!」

 

 

 

電話に出た途端、いきなり怒鳴ってきたので携帯を耳から離す。

 

 

 

ハロウィッチ「どうしたの~?」

 

ウルフルン「どうしたもこうしたもねぇ!!どういう事だ!!?デンオウ以外にも俺達に敵対するイマジンが現れたぞ!!」

 

ハロウィッチ「どういう事?」

 

 

 

ハロウィッチはウルフルンからキュアピースに取り憑いたイマジンの事を聴いた。

 

 

 

ハロウィッチ「プリキュアに取り憑いたイマジン?…………ああ、ちょっとアンタ達じゃ不安だからさ先に1体あらかじめ送っといたの。

可笑しいわね。プリキュアやデンオウの事はあらかじめ話してある筈なのに…、寝てたのかしら?」

 

ウルフルン「ふざけるな!!これで三度目だぞ!!てめぇはまともなイマジンが作れねぇのか!?」

 

 

 

ウルフルンの物言いに小さく舌打ちし、言い返す。

 

 

 

ハロウィッチ「何?ウルフルン、アンタさっきっから…

―――弱音でも愚痴りにきたの?」

 

ウルフルン「な!?弱音!?」

 

ハロウィッチ「イマジンが一体敵に回ったからってどうってことないでしょ?使えなきゃ消しちゃっていいからさ。愚痴るヒマがあるなら自分の仕事に集中しなさいよ、じゃあね~」

 

ウルフルン「あ、おい!!」

 

 

 

 

携帯を閉じる。

 

 

 

ハロウィッチ「さてと…」

 

 

 

ハロウィッチが向かった先はキタカゼの研究室。

 

 

 

ハロウィッチ「邪魔するよ~」

 

キタカゼ「ハロウィッチ…」

 

 

 

机に向かって作業する白い侍風の男・キタカゼが振り返り返事をした。

 

 

 

ハロウィッチ「私が送り込んだ覚えの無いイマジンが現れたんだけど…」

 

 

 

実はウルフルンに話した事は全くの嘘。

 

 

 

キタカゼ「ほぅ…」

 

 

 

キタカゼは興味深そうに聴くと、こう推測した。

 

 

 

キタカゼ「おそらく“彼”が―――

痺れを切らし、重い腰を上げたのでしょう」

 

ハロウィッチ「アイツか…」

 

 

 

ハロウィッチは忌々しくつぶやく。

ハロウィッチとキタカゼ以外でイマジンを従える者。

あの胸くそ悪く気持ち悪い笑みが頭をよぎった。

 

 

 

ハロウィッチ「キタカゼ、“私の”ベルトの制作は順調?」

 

キタカゼ「ええ、パスケースはレプリカですが、このベルトがあれば―――

あなたの身体に眠るイマジンを制御出来る。以前造ったデンオウのベルトなどとは比べ物にならない」

 

ハロウィッチ「そう…」

 

 

ハロウィッチはその話を聞くとカボチャの被り物の中で嬉しそうに笑う。

 

 

 

ハロウィッチ「それと…あの3人は心配ないけど、ジョーカーには悟られない様にね。色々面倒だから…」

 

 

 

ジョーカーの行動は読めない。

奴は普段軽率な口調に道化の様な立ち振る舞いが目立つが、頭は切れ抜け目が無い。

 

 

 

キタカゼ「分かっていますよ」

 

ハロウィッチ「それとキタカゼ。私との約束…忘れてないでしょうね?」

 

キタカゼ「約束?ああ…しかし、それは我々に協力し、十分な成果を上げた時です。愛しい人を想えば…苦ではありませんよ」

 

 

 

フッフッフッと笑いながら優しく語り掛ける。

ハロウィッチはその後、何も言わず研究室を出た。

 

 

 

ハロウィッチ「誰にも邪魔はさせない…。たとえ誰であろうと、アタシの目的を邪魔するヤツは叩き潰す…!!それがデンオウ――

良々......貴方であろうと……!!」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

やよいとキンタロスから話を聞いて皆は納得。

モモタロスがこのイマジンの匂いを嗅ぎとれなかったのは やよいのプリキュアとしての力が邪魔をしていたと思えば頷ける。

 

 

 

良々「――――で、やよいちゃんの望みは…えっと、その“黒いヘルメットを被ったヒーロー”を見つける事だから…それを捜してるわけ?」

 

 

 

出会いの回想が一段落し、今度は契約内容の『黒いヘルメットを被ったヒーロー』のに話題を変える。

 

 

 

キンタロス『そやで…、コレや!!』

 

やよい「あっ!それ!!」

 

 

 

キンタロスが懐から取り出したのは、一枚の画用紙。

やよいはそれをみると、慌ててキンタロスの手から取り上げようとするも、キンタロスはその画用紙に描かれているモノを見せた。

 

 

 

みゆき「コレが…そうなの?」

 

モモタロス『下手くそ…』

 

 

ぬいぐるみモモタロスがそう呟くと同時にその場にいた全員からリンチにされたのは言うまでもない。

やよいは少しショックを受けていた。

さっき取り上げようとしたのは恥ずかしかったためだろう。

 

 

 

キンタロス『こら、何言うとんねん!!お前、この絵見て何も感じんのか!?やよいのこのヒーローに憧れる情熱が伝わらんのか?!泣けるで!!』

 

 

 

キンタロスがその絵を突き出し、絶賛する。

それを聞いて嬉しいやら照れるやら、やよいは顔を真っ赤にする。

 

 

 

キンタロス『おお!そや、すっかり忘れてた。やよい、昨日アトラクションショーのチケットが手に入ったんや。今度こそお前の探しとるヒーローに間違いないで。早速見に行こうや』

 

 

 

キンタロスはアトラクションショーのチケットを取り出す。

 

 

 

ハナ「待ちなさい!!」

 

 

 

すると、今度はハナが制止をかける。

 

 

 

ハナ「やよいちゃん、騙されちゃダメよ。ヒーローに会わせるだとか、何とか言うけど――結局イマジンは勝手な解釈で願い事を叶える奴等なのよ。こんなイマジンに付き合う必要はないわ」

 

やよい「え!?」

 

みゆき「ハ、ハナさん!!」

 

 

 

ハナの異議を唱えるような物言いにみゆきや皆は言い過ぎだと思った。

 

 

 

れいか「でもハナさん。確かに、今までのイマジンは悪い者ばかりでしたがモモタロスさんや、ウラタロスさんみたいに いいイマジンもいました。きっと、彼もそんなイマジンなはずです」

 

ハナ「どうだか…」

 

 

 

ハナは忌々しそうにキンタロスを睨む。

 

 

 

キンタロス『他の奴がどうなんか俺は知らん。けどな、俺も興味あんねん――このヒーローに…俺をここまで突き動かして懸命さすこの絵の正体!俺はそれが何か確かめたい!これは契約なんて安っぽいもんや無い。“約束”や!!約束したからには絶対果たす!!!』

 

ハナ「カッコいい事言って何するつもりよ!アンタ達イマジンの自由にはさせない!!」

 

みゆき「ハナさん」

 

 

 

キンタロスとの口論にみゆきが途中から割って入ってきた。

 

 

 

みゆき「ヒーローショーに行かせてあげたら?」

 

ハナ「みゆきちゃん?!」

 

みゆき「やよいちゃんが悪い奴じゃないって言うんだからさ。悪い奴じゃないよ、きっと…」

 

ハナ「みゆきちゃんまで…」

 

良々「そんなに心配なら、ハナさんついて行ってあげたら?」

 

 

 

良々が提案する。

 

 

 

なお「一応、二手に別れる?あのイマジンも気になるし…」

 

あかね「せやな」

 

 

 

なおとあかねが顔を合わせる。

 

 

 

論議の結果、二手に別れてイマジンを追う事にした。

 

 

 

やよいに付いてアトラクションショーを見に行くのは

・みゆき、あかね、ハナ

 

アームドライノイマジンを追うのは

・良々、なお、れいか

 

 

 

に決定した。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

とある広場では…

 

 

 

???「ほら、こうやってバットを構えて…」

 

 

 

子供達に囲まれて、野球を教えている青年がいた。

彼の名は「花坂 四郎」

七色ヶ丘フェアリーズのレギュラーだ。

 

 

 

男の子「花坂さん、僕のフォームも見てください」

 

花坂「よーし」

 

 

 

花坂が男の子にアドバイスをしようとした時、

 

 

 

アームドライノイマジン『七色ヶ丘フェアリーズの花坂ってお前で間違いないね?』

 

 

 

声のした方を向くと、アームドライノイマジンが花坂の前に現れた。

子供達は驚き、逃げ惑う。

 

 

 

花坂「な、何だ?!お前!!」

 

アームドライノイマジン『消えろよ…』

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

・良々、なお、れいかside

 

三人は今、先程の戦いの場の周辺を嗅ぎ回っていた。――文字通り、モモタロスの鼻を使って。

 

 

 

なお「どう?」

 

れいか「何かわかりました?」

 

モモタロス『今捜してんだ。集中させろ!』

 

 

 

ぬいぐるみに入ったモモタロスは良々のカバンから身を乗り出し、あっちを向いたり、こっちを向いたりして、アームドライノイマジンの匂いを嗅ぎとろうとしている。

 

 

 

良々「頼むわよ。今はモモタロスの鼻が頼りなんだから…」

 

モモタロス『へっ、任しとけ。俺にかかりゃイマジンを見つけるなんて――プールの中でコンタクトレンズを探すようなもんだ』

 

なお「いや、それって難しい事の例えじゃないの?」

 

モモタロス『え?ま…まぁ、細かい事気にすんな』

 

 

 

街に出て詮索してると電気屋の横を通る。その時、れいかが急に立ち止まった。

 

 

 

れいか「二人共、これを!」

 

 

 

れいかは良々となおに電気屋のTVを指さす。

二人はニュースに注目した。

 

 

 

ニュースキャスター『――――先程病院に搬送された七色ヶ丘フェアリーズの「蟹沢 猿彦」選手に次いで七色ヶ丘フェアリーズの「花坂 四郎」選手が病院に搬送されたとの事です。蟹沢選手と花坂選手は七色ヶ丘フェアリーズの1軍レギュラーであり、七色ヶ丘市内で相次ぎ七色ヶ丘フェアリーズのレギュラー選手が襲われる事件が多発しています。二人の他に…「火地山 泥太(かちやま でいた)」選手、「笠持 蔵之介(かさもち くらのすけ)」選手、「宇佐見 亀吉(うさみ かめきち)」選手など――――』

 

 

なお「これって…」

 

モモタロス『あのサイ野郎の仕業だな』

 

良々「共通点は――プロ野球の選手、それもレギュラーか…」

 

 

 

TVに映っていた蟹沢という選手の顔はあの時アームドライノイマジンにやられていた男だ。

以前斎藤 大輝という少年の事件を思い出していた。

彼は少年サッカーチームのレギュラーに戻りたいとイマジンに願ったことがある。

 

 

 

なお「今回もそうなんじゃない?」

 

良々「レギュラーから2軍に落ちた選手か…。確か、やよいちゃんが行く遊園地のとなりにある七色ヶ丘スタジアムは七色ヶ丘フェアリーズの運営するスタジアムだったわね?」

 

れいか「行ってみましょう」

 

 

 

三人は七色ヶ丘スタジアムへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

怪人ナマケッキン「グワッファッファッファッファッ!!俺は怪人ナマケッキン様だ。この場にいる子供達を我がアジトに連れて行き、怠け者にしてくれる~!」

 

 

 

???「「「「「そうはさせないぞ、ナマケッキン!!」」」」」

 

ナマケッキン「ぬぅ?何奴!!」

 

「正義の使者、キュアレッド」

 

「正義の使者、キュアブルー」

 

「正義の使者、キュアグリーン」

 

「正義の使者、キュアイエロー」

 

「正義の使者、キュアピンク」

 

 

「「「「「プリティ戦隊!キュアレンジャー!!」」」」」

 

 

 

一方こちらは七色ヶ丘スタジアムの隣にある『七色パーク』。

そのアトラクションステージで『プリティ戦隊 キュアレンジャー』のショーが開催されていた。

 

 

 

Kやよい「“仮面サンダー”は出てこないんか?」

 

みゆき「この後、出てくるんじゃない?」

 

あかね「にしても、最近のショーは気合い入っとるな~。スーツ着てる人暑くないんか?」

 

 

 

ジュース缶を片手にのんびりとショーを楽しんでいた。

 

 

 

ハナ「ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 

 

突然ハナが声を出し、Kやよい――キンタロスに呼び掛け。

 

 

 

ハナ「まさかアンタ、こんな大勢人がいる場所で暴れるつもり!?」

 

 

 

それに対しKやよいは

 

 

 

Kやよい「お前アホか…。どうして俺が暴れなあかんのや?」

 

 

 

ハナがキンタロスが怪しい行動をしないか、目を光らせていた。

それを鞄から頭を出し、見ていたキャンディはみゆきとあかねに呼び掛ける。

 

 

 

キャンディ「みゆき、あかね…」

 

あかね「ん?」

 

みゆき「何?キャンディ?」

 

 

キャンディ「ハナ…どうして怒ってるクル?」

 

みゆき「怒ってる?」

 

キャンディ「モモタロスやウラタロス――イマジンの事になるとハナ…怖くなるクル。さっきも何か怖かったクル~」

 

みゆき「言われてみたら――」

 

あかね「確かに…」

 

 

 

ハナを見ていると、イマジンのモモタロスと人間のみゆき達とでは接する温度にかなりの差がある。

現にキンタロスにも猜疑心や敵対心がえらく強い。

そして、ハナのその感情に僅かばかりの憎悪がこもっていた。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その遊園地に隣接する野球スタジアム――七色ヶ丘スタジアムでは。

 

 

 

良々「ここに契約者がいるのかな?」

 

 

 

正面入口の近くで良々は途中で購入したスポーツ新聞を開く。

そこにはこんな記事が小さく載っていた。

 

 

 

《「加西 鉄郎」選手、2軍落ち》

 

 

 

なお「この加西選手が怪しいね…」

 

 

 

なおが呟く。

何とか中に入って加西選手に事情を聞きたいのは山々だったが、相手は2軍落ちになってもプロ野球選手。

そう安々と会えるものではない。

 

 

 

モモタロス『いや待て、匂いは近いがこの中じゃねぇ』

 

 

 

モモタロスがそう言うと、スタジアムのすぐそばのベンチに一人の少年が座っていた。

少年といっても、年は良々達とあまり変わらない中学生ほどの年。

その身体からは大量の砂。

 

 

 

良々「彼がイマジンの契約者みたい」

 

モモタロス『とりあえず締めてやろうか?』

 

なお「やめなさい」

 

 

 

とっちめようと意気込むモモタロスをなおが止める。

れいかはあの少年の顔をじっと見て口を開いた。

 

 

 

れいか「もしかして彼、“加西 淳一”君ではないでしょうか?」

 

 

 

それを聞いた二人は驚いた。

 

 

 

なお「知り合い?」

 

れいか「いえ…しかし、彼は七色ヶ丘中学の生徒です。全校生徒の名前と顔を覚えておりますので間違いないかと…」

 

なお「――って言うか“加西”って…」

 

良々「加西選手の息子さんか何か?」

 

れいか「そこまではどうかわかりません」

 

 

 

しかし、契約者である以上何とか事情を聞き出したいがどのように聞き出せばいいのか分からずにいた。

 

 

 

良々は胸をトントンと叩くと、デンライナーのウラタロスに連絡を取る。

 

 

 

良々「――と言う訳、彼からイマジンの情報を聞き出せない?」

 

ウラタロス『男を釣り上げるのは趣味じゃないんだけど、良々ちゃんの頼みじゃ…ねぇ~』

 

 

 

渋々ながらも、仁義を通して良々に憑依し、淳一に接近。

 

 

 

U良々「すみません」

 

 

 

それに気付き、淳一がこちらを向く。

 

 

 

U良々「突然声を掛けて申し訳ありません。私、野上 良々と申します。加西 淳一君ですね?」

 

淳一「? はい…」

 

 

 

淳一は少し警戒するもその問いに答える。

しかし、U良々はフレンドリーな笑みを浮かべながら続ける。

 

 

 

U良々「そんな堅くならず…、少しお話を聞かせてもらいたいだけなのです。そうですね、隣の遊園地でヒーローショーを観ながら…アイスクリームでもどうでしょう?」

 

 

 

ゆっくり時間をかけながら、少しづつ相手の警戒を解いてゆく。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

U良々「お待たせしました~♡」

 

 

 

七色パークの園内でU良々がアイスクリームを両手に向こうのベンチで待っている加西 淳一の下へ足を運ぶ。

 

 

 

U良々「チョコミントとミックスベリー。どっちがいいです?」

 

淳一「え、いえ…俺は――」

 

 

 

アイスを勧めるも淳一は遠慮しがちだったが、U良々はミックスベリーを差し出した。

 

 

 

U良々「じゃあ、ミックスベリー。私のオススメです」

 

淳一「じゃ…、いただきます」

 

U良々「いただいちゃって下さい♡」

 

 

 

U良々も淳一の隣に座り、チョコミントに口を付けながらおちゃらけ口調から一転、真剣な面目で語りかける。

 

 

 

U良々「加西君、あなたに幾つか訊きたい事があります。…よろしいでしょうか?」

 

 

 

早速、本題にはいる。

 

 

 

淳一「な、何…?」

 

U良々「あなたには少々残酷な事実を突き付けられるかもしれません…」

 

淳一「え?」

 

U良々「今事態は最悪の方向へと進んでいます…あなたの願いを聞いた怪物によって……」

 

淳一「え?!何で…怪物の事を?」

 

 

 

話してもいないイマジンの事を指摘され、少し驚く淳一。

だが、良々は話を続ける。

 

 

 

U良々「池が淀めば、魚は苦しむ。

聞かせてもらえませんか?手遅れになる前に…

―――あなたは怪物に何を望みました?」

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

加西 鉄郎

 

プロ野球チーム「七色ヶ丘フェアリーズ」の選手

努力家である彼は休みの日は、まだ暗い朝早くからバットを振り、雨の日も風の日も血の滲む様な練習を積み重ねてきた。

しかし、現実はそう甘くはない。

彼はいつもベンチを温め、グラウンドの土を踏む事は滅多になかった。

 

それは息子の淳一に後ろ指を指す結果になる。

 

「おい、加西。お前の父ちゃん本当にプロ野球選手なのか?試合で見たことないぞぉ?」

 

「どうせ、下手くそだから試合に出しちゃくれないんだよ」

 

などとクラスメートで言われた。

 

淳一「そんな事ない!!」

 

自分の父親を馬鹿にされて頭にきた淳一はそのクラスメートに掴みかかる。

 

淳一「見てろ!!今夜の試合絶対父さんは絶対ホームランを打つからな!!」

 

淳一はついカッとなりあんな見栄を張ってしまったが、試合に父が出るとは限らない。

その夜、試合は大詰めの9回フェアリーズの攻撃、今夜も出ないと半ば諦めかけたその時。

 

 

 

『おーっと、ここで七色の監督。代打のようです』

 

『笠持に変わりまして、代打 加西 鉄郎ー』

 

 

それを聞き、バッターボックスに立つ自分の父を見て、淳一の表情がぱあっと明るくなる。

これで父さんはホームランを打ってヒーローだ!!

と喜びに浸っていた。

 

しかし、

 

『加西選手ー、送りバントー!』

 

え?

 

途端に淳一の表情が曇る。

 

『送りバント成功ー!加西選手、ランナーをうまく回しました』

 

そこから先の展開は淳一の耳には入らず、淳一の目の前は暗くなった。

 

 

 

翌朝

 

「何だよ。昨日はホームラン打つとか言って、結局セコイ送りバントじゃんか」

 

昨日のクラスメートからは散々と言われるが、淳一は言い返す気力もない。余程ショックだったのだろう。

 

「それに見ろよコレ」

 

もう一人のクラスメートの取りだしたスポーツ新聞をみせる。

 

「お前の父ちゃん、とうとう2軍落ちだってよ」

 

淳一「!!」

 

そこには小さく《「加西 鉄郎」選手 2軍落ち》と記事に載っていた。

 

淳一はその記事が信じられず、スポーツ新聞を取り上げる。

 

「それに比べて蟹沢と花坂のホームラン凄かったよなー?」

 

「ああ、天才だよ」

 

もはや淳一にクラスメートの言葉は聞こえず大粒の悔し涙を流した。

 

 

 

どうして…どうしてだよ。

父さん、あんなに努力してるのに何で報われないんだ。

鉄郎の2軍落ち記事を思い出しながら暗い部屋でうずくまり、すすり泣いていた。

 

その時である。

淳一の背中から『それ』が入ったのは…。

 

『お前の望みを言いな。どんな望みでも叶えてやるよ。お前の支払う代償はたった一つだ。さぁ望みを言え…』

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「うわあぁっ」」」」」

 

ナマケッキン「グワッファッファッファッファッ!!!他愛ないな。キュアレンジャー!!」

 

 

 

一方こちらは七色パーク・ヒーローショー。

ショーはまさにクライマックスを迎えていた。

周りの子供達は

 

「キュアレンジャー!!頑張れー!!」

「負けるなー!!」

 

と声援を送っていた。

 

 

 

みゆき達はと言うと…

 

 

みゆき「頑張れー!!キュアレンジャー!!」

 

Kやよい「気張りやー!!」

 

やよい『頑張れー!!』

 

キャンディ「がんばるクル~!」

 

 

三人と一匹は周りの子供達に溶け込んで応援していた。

 

あかねやハナは最初は子供っぽいな~など思い頬杖を突きながらショーを観ていたが、キュアレンジャーが苦悩したり、懸命に戦う姿など中々見所があり何時の間にか夢中になっていた。

 

 

 

ナマケッキン「グワッファッファッファッファッ!!これでキュアレンジャーの最後だぁー!!」

 

 

 

???「それはどうかな?ナマケッキン」

 

ナマケッキン「んん?!今度は何だ!?」

 

 

 

ナマケッキンがあたりを見回しながら叫ぶ。

 

 

 

???「チェンジ・シフト!!」

 

 

 

颯爽とその場に登場したのは黒い仮面に金色のライダースーツのヒーロー。

 

 

 

仮面サンダー「仮面サンダー、参上!!」

 

 

 

Kやよい「おお!!来たで!!仮面サンダーや!!」

 

 

 

その後、仮面サンダーの参戦で反撃開始。

 

 

 

仮面サンダー「であああああ!!!」

 

キュアレンジャー

「「「「「レインボー・エナジーブレイク!!」」」」」

 

ナマケッキン「グワアアアアアアアア!!!」

 

 

巨大な爆発音がしてナマケッキンは退場。

 

 

仮面サンダー「サンダー…チョップ」

 

 

後から技名を静かに言い戦いは終わった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

Kやよい「いやー、おもろかったな」

 

みゆき「うん、夢中になっちゃった」

 

 

 

四人は席から立ち上がり、外に出る。

 

 

 

あかね「で、どやった?」

 

Kやよい「ん?」

 

あかね「やよいの探しとたヒーローやったか?」

 

Kやよい「ああ、そやそや!―やよいどやった?」

 

 

 

しばらくしたのちKやよいが残念そうにみゆき達に告げる。

 

 

 

Kやよい「違うやて」

 

 

 

その言葉にみゆきとあかねは表情を曇らせる。

 

 

 

Kやよい「ま~た振り出しか…。しゃあない!また一から探すか」

 

ハナ「何でよ?」

 

Kやよい「あん?」

 

みゆき「ハナさん?」

 

ハナ「どうして…そんなに律儀に捜してるのよ」

 

 

 

ハナは理解できなかった。さっきもそうだが、このイマジンは本来の使命を忘れ、過去へ飛ぶ事よりヒーローショーをみゆき達と楽しんでいた。

今までのイマジンは契約者の意思に関係なく、犯罪の様なマネをして力ずくで願いを叶えている。

しかし、このイマジンは地道にやよいの意思を尊重し、動いている。

 

 

 

Kやよい「どうしてって、願い叶えるんがイマジンの仕事ちゃうんか?」

 

ハナ「あなた達イマジンは過去を変える事が使命なんじゃないの!?」

 

Kやよい「それもそやけどなぁ、そんな今すぐやなくてもええやろ?ま、のんびり行こうや」

 

 

 

ハナは唖然とした。

このイマジンの頭の中では、

「望み」>「時の改ざん」

という方程式が成立している。

まるっきり他のイマジンと逆の思考だ。

だが、本来の使命は忘れてない。

ハナは今のうちに叩いておこうかと思ったその時、

 

 

 

ドォォン!!

 

 

 

と、ここからそう遠くない向こうの方で爆音に似た大きな音が響いた。

 

 

 

みゆき「何?」

 

キャンディ「イマジンクル!」

 

 

 

キャンディがイマジンの気配を感じ取った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

淳一「そんな…、俺の所為で…」

 

 

 

現状を知らされた淳一は言葉を失った。自分の所為で人が傷付いている事を知ると自分を責めた。

 

 

 

U良々「あなたの所為ではありません。ヤツらがあまりにも身勝手なだけです。それに今は後悔してる場合ではありません。これ以上犠牲者を増やさない為に、まず…怪物を止めないと―――」

 

 

 

そこまで言った時、モモタロスが頭の中で叫ぶ。

 

 

 

モモタロス『カメ!!危ねえ!!避けろ!!』

 

 

 

その言葉の意味を考える間もなく、咄嗟に淳一の手を掴み、その場を離れる。

 

 

 

ドオォォン!!

 

 

 

二人の座っていたベンチの丁度真下、そこから土が盛り上がったかと思うと、ベンチを粉々に粉砕しながら地中から巨大なモノが姿を現した。

辺りにいた客は何事かと思い一斉にこちらを向く。

淳一も訳がわからず、急な展開に目を見開く。

 

 

 

ゲラス『ヴオオオオオオオオォォォ!!!』

 

 

 

そこから出現したのは犀頭の怪物・ゲラス。

コイツが現れたという事は…。

 

 

 

アームドライノイマジン『よう、デンオウとデートとは熱いじゃん』

 

淳一「あんたは…!!」

 

 

 

ゲラスとアームドライノイマジンを目撃すると、辺りにいた客は悲鳴を上げ、一斉に逃げその場を離れる。

アームドライノイマジンはゲラスを取り込み、こちらを向く。

 

 

U良々「とうとう来ちゃったか…。ま、間抜けを釣るのに餌はいらないけどね…」

 

なお「良々ちゃん!!」

 

 

 

すぐ近くに隠れて様子を伺っていた、なお、れいかが駆け寄る。

 

 

 

U良々「さて、竿はまだ足りないけど釣り上げますか…」

 

淳一「待ってくれ。おい、あんた!!」

 

 

 

U良々は淳一を逃がそうとしたその時、淳一はU良々を押しのけ、アームドライノイマジンの前へ出る。

 

 

 

アームドライノイマジン『んん?どうした、契約者』

 

淳一「約束が違うぞ!!俺はあんたに“父さんが試合に出て活躍出来るようにしてくれ”と頼んだ筈だ!!それがどうして他の選手を襲う結果になる!!」

 

アームドライノイマジン『簡単だよ。お前の父ちゃんが試合で活躍出来ないのは他に上手い選手がいるからだろ?だから、その障害を排除しちまえばすぐに活躍出来る』

 

なお「そんなの筋が通ってないよ!!」

 

れいか「それでは、現状何も解決しません!」

 

 

 

 

なおも、れいかも、それを聴いて反論する。

 

 

 

アームドライノイマジン『はっ!確かにな。俺がやっている事はお膳立てに過ぎねぇ。たとえそれで試合に出れたとしても、そいつの親父が活躍出来るとは限らない。何でか分かるかぁ?』

 

 

 

一息置いて、アームドライノイマジンは淳一の胸ぐらを掴み上げ、息がかかるほど顔を近づけ言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

アームドライノイマジン『それはお前の親父が “ヘボい” からだよ』

 

 

 

自分の父がヘボい。

それは淳一が今まで何度も否定してきた言葉。

その言葉を聞いた瞬間、淳一の心に何かが刺さる。

瞳孔が開ききる。

 

 

 

 

アームドライノイマジン『お前の親父の事はお前が良く知ってるだろぉ…?お前の親父の力じゃ活躍出来ない事くらい』

 

淳一「ち…ちが――」

 

 

 

淳一はそれを否定しようとするが、その言葉には最早覇気が込もっていなかった。

 

 

 

アームドライノイマジン『お前すら親父を信じていない。信じていたなら、俺などに願わない。

そうだろ?

―――あんな下手クソ、未来永劫活躍できるワケないんだよ!!』

 

 

 

 

サディスティックな本性がむき出しとなり、淳一に残酷な言葉を突きつける。

その言葉がトドメとなり、淳一は目から大粒の涙をこぼす。

 

 

 

なお「ひどい…!」

 

れいか「なんという冷酷な…!」

 

 

 

非難する中、淳一の身体に時空の裂け目が僅かに開きはじめる。

 

 

 

U良々「まずい!ページが開く!!」

 

 

 

U良々の言葉と同時にアームドライノイマジンは淳一の胸ぐらから手を離し、頭に手を翳す。

 

 

 

アームドライノイマジン『開け、記憶の―――

Kやよい「どりああああああ!!!」

グホッ!!??』

 

 

U良々・なお・れいか

「「「ええっ!!?」」」

 

 

 

突然の乱入に面食らう一同。

 

 

 

なお「やよいちゃん…じゃなくて、キンタロス!?」

 

Kやよい「お前を過去へ行かせる訳にはいかんと、やよいに頼まれた」

 

アームドライノイマジン『チィッ!!何邪魔してんだよ!!裏切り者がぁっ!!』

 

 

 

 

鬱陶しそうににらみ、角付き盾――シールドホーンを取りだし、角の部分をミサイルの様に連射する。

 

 

 

 

U良々・なお・れいか

「「「うわああ!!」」」

 

 

 

三人はこれを何とか避け、キンタロスはやよいから飛び出し、張り手で角を叩き落す。

 

 

 

キンタロス『大丈夫か!?やよい!』

 

やよい「う、うん―――え?」

 

 

 

 

やよいはその言葉に既視感を覚えた。

あれ?前にもこんな事があった様な…。

 

しかし、その一瞬の隙を突き、アームドライノイマジンは淳一の頭に手を翳す。

 

 

 

アームドライノイマジン『さぁ、開け!記憶のページ!!』

 

 

 

 

 

淳一を切り開き、渦の中へ飛び込む。

 

 

 

良々「遅かった…」

 

 

 

良々の意識が表にでる。

 

 

 

みゆき「みんな~!」

 

 

 

遠くから、みゆき、あかね、ハナが遅れて駆け寄ってくる。

 

 

 

あかね「やよい…ちゅうか、キンタロス速過ぎや…ゼェ…ゼェ…」

 

ハナ「イマジンは?」

 

良々「ゴメン、過去に逃げられた」

 

 

 

良々はブランクチケットを取り出すと淳一に翳す。

 

 

 

 

[-10Y/08.04]

 

 

 

 

良々「十年前!?こんな昔に何があったの?」

 

 

 

チケットに記入された日付を確認すると、淳一はゆっくり語る。

 

 

 

淳一「忘れられねーよ…。

その日は、俺が初めて父さんのホームランを見た日だ。

あの日の父さんは、すげぇカッコよかった。

俺のヒーローだったんだ…。

あの日の父さんの勇姿が忘れられなくて…。

でも、幻想だったのかなぁ…?

淡い…夢だったのかなぁ…。?」

 

 

 

淳一は涙を流す。

 

 

 

やよい「それは幻想でも夢でもないよ」

 

淳一「え?」

 

 

やよいはかがんで、淳一に目線を合わせる。

 

 

 

かつてのやよいも自分自身に自信が持てずにいた。

だが、以前みゆきは自分にこんな事を言ってくれた。

「黄瀬さん、私ね、本で読んだことがあるの。絵は心を映す鏡だって」

「黄瀬さんは確かにちょっぴり泣き虫かもしれないけど、とっても優しくて思い遣りたっぷりで、だから そんなカッコイイヒーローの絵が描けるんだと思う」

つまりみゆきはやよいを肯定していた。

その絵はあなたの心の証しなのだと。

ヒーロ ーなんて子供っぽい、

当時、自分は子供っぽいと思っていたやよいだった。

しかし友達に支えられ、背中を押してくれた事により、その子供っぽさを少しずつ強さと認識し始め、自信が持てる様になった。

 

 

 

やよい「自信を持ってお父さんを最後まで応援してあげようよ。

あなたにとってお父さんは

十年前からのヒーローなんでしょ?」

 

 

やよいの言葉を聞き、淳一はもう一度父の姿を思い出す。

 

 

 

キンタロス『やよい』

 

 

 

今度はキンタロスがやよいに話し掛けてきた。

 

 

 

キンタロス『空気読まへんとこ悪いけどええか?』

 

やよい「何?」

 

 

 

キンタロスはやよいの頭に手を翳す。

 

 

 

 

 

 

キンタロス『開け、記憶のページ』

 

 

皆が呆気に取られる中キンタロスはやよいを切り開き、渦の中へと飛び込む。

 

 

 

やよい「え?キンタロス…?」

 

 

 

閉じたやよいもその場にいる全員が目を見開く。

 

 

 

ハナ「何よ!やっぱり、イマジンはイマジンなのよ」

 

 

 

ハナはそれを見て忌々し気に呟く。

 

 

 

みゆき「でも、どうして?まだやよいちゃんの望みは叶えてないのに…」

 

ハナ「記憶が強く繋がれれば跳べるのよ」

 

 

 

ハナはブランクチケットを取りだし、それを翳す。

 

 

 

[-10Y/08.04]

 

 

ハナ「同じ日付?」

 

 

 

それは偶然にも同じ十年前の8月4日。

 

 

みゆき「やよいちゃんもこの日、何かあったの?」

 

 

みゆきの問いにやよいは記憶を掘り起こす。

十年前、やよいが4歳の頃の夏休み。

 

 

 

勇一『やよいー、来週の4日お父さんお休みだ。七色パークにでも行くか?』

 

やよい『やったー!』

 

 

 

4歳の頃、父・勇一の言葉に喜びながらカレンダーに丸をしたのを覚えている。

しかし、

 

 

 

やよい「ごめん、よく覚えてない…」

 

 

 

詳しく覚えていなかった。

そんな事をしている内に…

 

 

 

 

 

ウルフルン「ようやく行ったかよ…」

 

 

「「「「「「「「ウルフルン!!」」」」」」」

 

 

 

その様子を上空で伺っていたウルフルンは本を開く。

 

 

 

ウルフルン「世界よ!!最悪の結末、バッドエンドに染まれ!!」

 

 

ウルフルンは黒い絵の具のチューブを握りつぶす。

 

 

ウルフルン「白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!!」

 

 

それを白紙のページにベッタリと塗りたくると、辺りは夜の世界へと変わる。

 

 

辺りにいた人々は絶望の色に染まる。

 

 

淳一「やっぱり…頑張っても無駄なんだ」

 

 

 

淳一も元気を失い、うな垂れ、両手をつく。

 

 

 

ウルフルン「ウルッフッフッフッフッフッ、人間共の発したバッドエナジーが、悪の皇帝ピエーロさまを…蘇らせてゆくのだぁ!!」

 

 

時計の針は二つも進む。

 

 

 

みゆき「みんな!!」

 

「「「「「うん!!」」」」」

 

 

みゆきの掛け声であかね、やよい、なお、れいかはスマイルパクトに自身のキュアデコルを嵌めると『Ready』の音声の後一斉に叫ぶ。

 

 

 

「「「「「プリキュア・スマイルチャージ!!」」」」」

 

 

『Go!GoGoLet’sGo!!』

 

 

 

5人はそれぞれ自身のパフを体に当ててゆき、コスチュームと髪形を変えていく。

みゆきは長い髪の束が伸びたツインテールとピンクの衣装コスチューム。

あかねはシニヨン状に束ねられた短髪とオレンジの衣装コスチューム。

やよいは扇形に広がる金髪のポニーテールとイエローの衣装コスチューム。

なおはツインテールとポニーテールのトリプルテールとグリーンの衣装コスチューム。

れいかは髪型が後方に伸び、ブルーの衣装コスチューム。

最後にパフを両頬に当てると変身完了。

 

 

みゆき「キラキラ輝く未来の光、キュアハッピー!」

 

あかね「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

 

やよい「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!」

 

なお「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

 

れいか「しんしんと降り積もる清き心、キュアビューティ!」

 

 

 

「「「「「五つの光が導く未来、輝け!スマイルプリキュア!!」」」」」

 

 

 

良々の方は青いセレクトボタンを押し、パスを横切らせる。

 

 

 <ROD FORM>

 

 

アロハシャツの様な着物を着て、青い髪の上にバンダナで頭を覆い、目尻は下がりおっとりとした感じになり、オレンジレンズのサングラスが顔にかかり、変身完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【十年前8月4日】

 

 

 

淳一の母「淳ちゃん、今日はお父さんが試合に出るって」

 

淳一「うん、僕、頑張って応援するんだ!」

 

淳一の母「そう」

 

 

 

七色パークのすぐ隣、七色ヶ丘スタジアムに続く道、当時4歳の淳一は父の試合に胸を高鳴らせていた。

母親もそんな淳一を見てニッコリ微笑む。

 

同時刻、七色パークの出入口では

 

 

 

やよい「パパー、早く太陽マンに会いたいね」

 

勇一「ん?そうだなぁ…」

 

ちはる「やよいがいい子にしてたから、太陽マンも会いに来てくれるわよ」

 

 

 

やよいは父の勇一と母のちはるの手を握りながら、七色パークに入場してゆく。

誰が見ても微笑ましい幸せな時間。

しかし、それは淳一から零れる砂により終わりを告げる。

悪夢の時間が始まる。

 

 

 

淳一「うっ」

 

淳一の母「どうしたの?淳ちゃん」

 

 

 

淳一の身体から砂が噴き出し、アームドライノイマジンが姿を見せる。

 

 

 

淳一の母「き…、きゃああああああああああ!!!」

 

 

 

淳一の母は自分の息子から怪物が現れた事に当然のごとく驚愕する。

 

 

 

アームドライノイマジン『邪魔だ』

 

 

 

アームドライノイマジンは淳一の母を突き飛ばすと七色パークの園内にはいり、高い建物の上に着地し辺りを見回す。

 

 

 

アームドライノイマジン『さて、何処にいるのかなぁ?まあいいや、ここら一帯全部ぶっ壊してやる』

 

 

 

シールドホーンを取りだし、ミサイルの様に発射し辺りを吹き飛ばし始めた。

 

 

 

 

アトラクションや建物が崩壊し、辺りは阿鼻絶叫の嵐に包まれた。

まさに “地獄” と化す。

 

その内、振り子の様な海賊船のアトラクションに目を付け、ホーンミサイルを発射する。

それは海賊船を支えているマストに直撃し、海賊船は空中に投げ出される。

その落下地点にも数名逃げ遅れた人達が…

このままでは海賊船に乗っている人達も落下地点にいる人達もただでは済まない!!

 

 

 

 

 

 

しかし、その次の瞬間。

空間の歪みの中からブレーキ音を鳴らしながら、連結したデンライナー・ゴウカとイスルギが姿を見せた。

 

 

 

デンオウRF「発射準備OK?」

 

ハッピー『ぎゃあああああ!!待って待って待って待ってちょっと待って!!』

 

ピース『無理だよ!!ほんと、無理無理!!』

 

デンオウRF「ホント、良々ちゃんはいつもその場の思いつきで事を進めるねぇ…。まあ、出来るだけソフトに飛ばしてあげるからさぁ」

 

 

 

音声のみで明らかに嫌がるハッピーとピース。

デンオウRFはモニターで海賊船の落下地点に標準をセットする。

 

 

デンオウRF「プリキュア、発射」

 

 

手元のボタンを押すと、モンキーボマーの車両が開き、モンキーボムの代わりにキュアハッピーとキュアピースが投げ出された。

 

 

 

ハッピー・ピース

「ぎあああああああああああああああ!!!」

 

 

 

しかし、ハッピーとピースはなんとか体制を立て直し、勢いを保ったまま海賊船の落下地点にいる人達を抱え、その場を離れる。

落下する海賊船も、レドームの上に乗ったデンオウRFに釣り上げられ、勢いを殺されてゆっくりと降ろされた。

 

 

 

アームドライノイマジン『チッ、もう来やがったか』

 

 

 

アームドライノイマジンは忌々しげに呟くとその場を離れようと踵を返す。

 

 

 

デンオウRF「逃がさないよ!」

 

アームドライノイマジン『うわっ?!』

 

 

 

デンオウRFの振り下ろしたデンガッシャー・ロッドモードの糸に絡め取られ、遊園地の広場に叩き付けた。

 

 

 

デンオウRF「サイの一本釣りてとこかな?さて――」

 

 

 

得物を肩にアームドライノイマジンを見据え、宣言する。

 

 

 

デンオウRF「お前、僕に釣られてみる?」

 

アームドライノイマジン『はぁ?釣られる趣味はねぇよ!!』



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やよいのヒーロー(後編)

【現在】

 

七色パークの広場では、

キュアサニー

キュアマーチ

キュアビューティ

そして、キャンディがウルフルンと対峙していた。

 

 

 

ウルフルン「さて、人数も減った事だし、早速あのサイのアドバイスの通りにするか…」

 

 

 

 

ウルフルンはアカンベェの『つけっパナ』を取り出す。

 

 

 

ウルフルン「いでよ!アカンベェ!!」

 

 

 

近くの海賊船のアトラクションがアカンベェと化す。

 

 

 

海賊船アカンベェ『アッカンベェ~!!』

 

サニー「げっ!青っパナかい!」

 

マーチ「マズイね…」

 

 

 

青っパナのアカンベェはプリキュア全員で放つ『レインボー・ヒーリング』という技でしか破れない。

それか、バッドエナジーを『浄化』ではなく『消滅』させるデンオウの技でなければ倒す事ができない。

 

 

 

ウルフルン「青っパナは全員揃わないか、デンオウでなけりゃ倒せねぇみてーだからな!まず、この場で三人倒してやるぜ」

 

サニー「どないする?」

 

ビューティ「三人が帰ってくるまで、わたくし達でくい止めるしかありません!」

 

マーチ「それしかないね」

 

 

サニー、マーチ、ビューティはアカンベェに向き直る。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

【十年前 8月4日】

 

 

ちはる「やよいー!!」

 

勇一「やよいーっ!!」

 

 

 

七色パーク内

辺りがパニックを起している中、やよいの両親が大きな声を出して娘の名前を呼ぶ。

 

 

ちはる「あなた…」

 

勇一「心配するな、やよいはきっと無事だ!お前は出入口の辺りで待っていてくれ…」

 

 

勇一はちはるにそう言うと、再びパーク内を探すために回り始めた。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

【七色パーク・中央広場】

 

 

ハナ「みんな頑張って…」

 

 

ハナが見守る中、デンオウ、プリキュア、イマジンの戦いは…

 

 

 

ハッピー「やあぁぁぁぁぁっ!!」

 

ピース「たあぁぁぁぁ!!」

 

デンオウRF「ハァッ!!」

 

 

 

ハッピーとピースとデンオウRFがアームドライノイマジンに各自攻撃を叩き込む。

 

 

 

アームドライノイマジン『はっ、効かねぇよ!!』

 

ハッピー・ピース・デンオウRF

「「「うわぁっ!!」」」

 

 

 

だが、力不足なのかシールドホーンの一振りで払われる。

 

 

 

ハッピー「どこを攻撃しても全く受け付けない」

 

デンオウRF「鎧の部分はもちろんだけど、関節部もやたらと頑丈だね」

 

 

 

デンオウRFがデンガッシャーをクルクルと回しながらアームドライノイマジンと距離を置いて戦っている間、良々は模索しながら対策を考える。

 

 

 

良々『(ウラタロス、敵は鎧の様な身体をしているけど、それは主に上半身のみ、下半身は意外と不釣合いに鎧の面積が少ない。だったら脚を引っ掛けて転ばしちゃわない?)』

 

デンオウRF「(なるほど、確かに…重そうな身体をしてるから、起き上がりにくいだろうね♪)」

 

 

早速作戦開始。

デンオウRFはデンガッシャーを振り上げ、アームドライノイマジンの頭上に何度も振り下ろし、上に注意を逸らす。

 

 

デンオウRF「もらった!!」

 

 

そして、僅かに膝が曲がったその瞬間、指揮者の様に振り下ろしたデンガッシャーを巧みにまわし、渾身の一撃をそのイマジンの膝目掛けて払おうとした。

しかし、

 

 

 

アームドライノイマジン『ふんっ!』

 

デンオウRF「何っ?!」

 

 

 

脚を上げて突き出されたデンガッシャーを避け、踏みつける。

 

 

デンオウRF「えっ?!」

 

アームドライノイマジン『やっぱ脚狙ってきたか…。だが、こんなの先っぽを抑えられたらクソの役にも立たねーよ―――フッ!!』

 

デンオウRF「ぐあああっ!!」

 

 

アームドライノイマジンはデンガッシャーを抑え付けたまま至近距離からシールドホーンのミサイルを連続で喰らわし、吹き飛ばす。

 

 

ハッピー「ウラタロス!」

 

アームドライノイマジン『あー、マジウザい――ハァッッ!!』

 

ハッピー「がふっ!!」

 

 

デンオウRFがやられて、ハッピーが向かって行ったが、アームドライノイマジンはいい加減ウンザリした感じに言い放ち、ハッピーを蹴り飛ばす。

 

 

遠くに蹴り飛ばされたハッピーは人にぶつかり、停止する。

 

 

ハッピー「いたた、すみません。って、じゃなくて…!―――ここは危険ですよ!!早く逃げてください!!」

 

 

ハッピーが逃げる様に促すがその男は辺りをウロウロし、何かを探すそぶりをする。

ハッピーも辺りを見回すと、向こうに光る何かが…。

 

 

ハッピー「もしかして、コレですか?」

 

 

ハッピーが拾ったのは――――懐中時計。

薄茶色のフェルト帽を目深にかぶり、同色の外套を羽織っている男に渡そうとした。

だが、その男の顔を見た時、

 

 

 

ハッピー「(あれ?この人…)」

 

 

 

アームドライノイマジン『見~つけた~』

 

 

 

ハッピーが振り返るとアームドライノイマジンがこちらに歩みよってくる。

 

 

アームドライノイマジン『桜井 侑人ぉ…』

 

 

その『桜井 侑人』と呼ばれた男はハッピーから懐中時計をひったくると一目散にその場から逃げる。

 

 

アームドライノイマジン『逃がすかよ!!』

 

 

それを見るとアームドライノイマジンはその男の後を追おうとした。

 

 

ハッピー「させない!!―――うーっ!…気合いだ!気合いだ!気合いだーっ!!!」

 

 

ハッピーはアームドライノイマジンの真正面に立ちふさがり、スマイルパクトに気合いを込める!!

 

 

 

ハッピー「プリキュア!ハッピー…シャワー!!」

 

 

両手でハートを形作り、至近距離からアームドライノイマジン目掛けて放つ!!

 

 

 

アームドライノイマジン『うおっ!!?』

 

 

 

至近距離の渾身の一撃!!

アームドライノイマジンは流石に回避する事が出来ず、吹き飛ぶ。

 

 

アームドライノイマジン『クソが!!』

 

 

だが、それでも倒れない。

四者の一進一退の攻防が続く中、

 

 

 

「えーん、えーん、えーん…」

 

 

 

何処からともなく子供の泣き声が聞こえてきた。

皆が泣き声のする方に向くと、

黄色の髪の女の子が泣きじゃくっていた。

 

 

???「パパァ〜、ママァ〜…」

 

 

プリキュア、デンオウ、ハナはその少女の顔に見覚えが…。

 

 

 

ハッピー「やよいちゃん…?」

 

 

 

その少女は紛れもなく、幼い頃のやよい。

 

 

アームドライノイマジンはその少女を視界に捉えると、ニヤリとほそく笑む。

それを瞬時に理解したハッピーはハナに向かって大きく叫ぶ。

 

 

 

ハッピー「ハナさん!!やよいちゃんを…!!」

 

アームドライノイマジン『遅ぇ…』

 

 

 

アームドライノイマジンはシールドホーンの角を幼いやよいの隣にある建造物に向け、

 

 

 

ハッピー「やめてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

連射した。

 

 

 

アームドライノイマジン『御愁傷様…』

 

 

 

建物の巨大な瓦礫がやよいに向かって落ちる。

もし、過去のやよいが死ねばそれは現在のやよいの存在が消える事を意味する。

ハナはやよいを助け出そうと、走り出すが間に合わない。

誰もが諦めかけたその時!

 

 

巨大な瓦礫がやよいの頭上に迫ったその時である。

やよいの身体から砂がこぼれた。

 

 

キンタロス『んぬぅ…!!』

 

 

キンタロスが現れ、間一髪その巨大な瓦礫を持ち上げる。

 

 

キンタロス『大丈夫か!?やよい!!』

 

 

キンタロスが脚元のやよいに向かって言った。

その光景を目の当たりにして、ピースは目を見開く。

 

 

ピース「思い出した…」

 

 

 

 

 

皆がホッとする中、面白くないのはアームドライノイマジン。

 

 

 

アームドライノイマジン『また邪魔しやがったな、この裏切り者!!』

 

 

 

業を煮やしたアームドライノイマジンはシールドホーンの角ミサイルをキンタロスの背中目掛けて連射した。

 

 

 

キンタロス『ぐあっ…!!』

 

 

 

そのうちの一本がキンタロスの背中に命中。

キンタロスは串刺しになった。

安心の束の間、皆が再び大きく目を瞠目させる。

 

 

 

ピース「キンタロスーッ!!!」

 

キンタロス『う…ぁ……』

 

 

 

キンタロスは腹と背中から砂をこぼし片膝を付くが、瓦礫を落とさぬ様腕に力を込める。

 

 

 

キンタロス『早よ…、やよい…を…』

 

 

 

キンタロスはハナに向かって、やよいを助ける様に促す。

ハナはショックで気を失った幼いやよいを抱きかかえ、その場を離れる。

 

 

 

アームドライノイマジン『チッ、しぶてぇなぁ…』

 

 

 

再びシールドホーンを向けたが、デンオウRFのデンガッシャーから放たれた釣り糸がそれを絡め取った。

 

 

 

ハッピー「ハァッ!!」

 

アームドライノイマジン『グァッ…!』

 

 

 

そしてすかさず、ハッピーは渾身の蹴りを叩き込む。

それと同時にデンオウRFがアームドライノイマジンを釣り上げ、遠くへ飛ばす。

 

 

 

デンオウRF「ピース…、あの熊くんの所にいってあげなよ」

 

 

 

デンオウRFはピースに向かって言うとピースはキンタロスの元へ向かう。

だがその途端、キンタロスが力尽き、瓦礫の下敷きになってしまった。

 

 

 

ピース「キンタロス!!」

 

ハナ「アナタ…!!」

 

 

 

やよいを無事に避難させたハナも戻ってくる。

 

 

 

キンタロス『…………やよいは…無事か…?』

 

 

 

瓦礫の下敷きになったキンタロスは瀕死となり、今にも身体が砂と化し崩れてしまいそうだった。

そしてキンタロスが吐いた言葉は最後までやよいを案ずる言葉だった。

 

 

 

ハナ「大丈夫…でも、あんた…何で……?」

 

キンタロス『気にすんな…俺らの事嫌いやったんやろ?』

 

 

 

ハナの態度からキンタロスは自虐気味に言う。

 

 

 

ピース「キンタロス!何で!?…何で!?」

 

 

 

ピースは泣きそうな声を絞り出し、どうしてここまで自分の為に尽くしてくれたのか問いただした。

 

 

 

 

 

 

 

キンタロス『――言うたハズや』

 

 

ピース「え?」

 

 

キンタロス『俺を…こないに……こないに必死させたヒーローの正体……。

見つけるって…。

やよいの…ヒーロー、どうしても……見つけるって…』

 

 

 

途切れ途切れに弱々しい声で語る。

 

 

 

キンタロス『一週間…懸命に……捜した。……けど…見つからへんかった。

だから賭けたんや!

過去へ行ったら…やよいが追いかけて来て……あの日やよいが見たヒーローに……会わせられる。

そう…思って賭けたんや。

けど、…結局…見せれん…かったわ。…ゴメンなぁ……やよい』

 

 

ピース「違う!!!」

 

キンタロス『!?』

 

 

 

ピースはキンタロスの言葉を断ち切った。

 

 

ピース「私…、思い出した…。

昔、会ったこのヒーロー

ーーーそれはあなたよ!キンタロス」

 

キンタロス『俺…!?』

 

ピース「私…忘れてた。あなたに助けてもらった事…、ずっと……」

 

 

キンタロスは自分が持っていたやよいの絵を出しそれを見る。

 

 

 

キンタロス『そっか、これ…俺か…。

通りで見つからん筈や…、

ちゅうか…見つけとったんやな…

アホやなぁ……俺……』

 

 

 

そうしてる間に、キンタロスの身体は崩れてゆく。

 

 

 

ハナ「待って!消える事ないでしょ!!」

 

キンタロス『無理言うな……』

 

ハナ「駄目よ!」

 

キンタロス『何でや、俺たちのこと嫌いなんやからええやろ?』

 

 

 

キンタロスの言葉にハナは言葉をつまらせるが、ハナは意を決して自分の内なる思いをぶまける。

 

 

 

ハナ「そうよ、大嫌いよ!!

あんた達イマジンなんかみんな消えちゃえばいいと思ってる。

ーーー私はね、あんた達が時の運行を変えたせいでバッドエンドになった。未来にいたの!

その未来では誰もが生きる希望も持たず、全てを諦めた腐った世界…

私はあんた達イマジンやバッドエンドの住人を根絶やしにするためこの時代に来たの!!」

 

 

 

ハッピーとデンオウRFもアームドライノイマジンを抑えながら、ハナの思いを聴く。

 

 

 

ハナ「でも…私がちょっと待ちなさいって言ってんのよ!待ちなさいよ!!!」

 

 

キンタロス『ーームチャ言うな…』

 

 

 

キンタロスが呟くとまた身体が崩れる。

 

 

 

キンタロス『ウッ!…すまん、やよい。お別れや…』

 

ピース「え?」

 

キンタロス『俺は満足や。やよいを救えた。やよいのヒーローも見つけられた。

もう、思い残す事はない…』

 

ピース「そんな…」

 

 

 

 

 

 

デンオウRF・良々「ふざけんじゃないわよ!!!!!」

 

 

デンオウRFがアームドライノイマジンを投げ飛ばしたその時、

良々の意識が表に出て叫ぶ。

声は同じだが、気迫と口調でハナとハッピーとピースは瞬時に理解した。

 

 

 

 

デンオウRF・良々「何がヒーローよ…。

滑稽ね。笑わせるーーー

女の子を泣かせて、涙の一つも拭いてやれない奴をあんたはヒーローって言うの…。

はっ、ちゃんちゃらおかしいわ」

 

ハッピー「ちょっと!良々ちゃん」

 

デンオウRF・良々「うるさい!!!

ーーー何お別れみたいな言葉吐いてんの?何死んじゃうみたいな台詞言ってんの?

本当にやよいちゃんのヒーローなら、ずっとそばにいて守ってやんなさいよ。

死んだらそれで終りよ。死んだら、二度と会えないのよ!!

こんな…こんな簡単に終わらせないでよ。意地でも…やよいちゃんの為にも…生きなさいよ!!

ーーーもう、あんな思い…二度と…させないで…」

 

 

 

ハッピーがその時見た良々の表情は何処か哀しみが込められていた。

サングラスの越しの目からは涙が溢れていた。

 

 

 

ウラタロス『良々ちゃん、残念だけど、彼は契約完了していてイメージを借りて身体を構成できない…。

もう、どうしようもないよ』

 

 

 

ウラタロスが声を掛け、良々をなだめるが、良々はそれを聞くと涙を拭き、決心して口を開く。

 

 

 

デンオウRF・良々「キンタロス、あなた…やよいちゃんとの契約は完了してるのよね?」

 

ウラタロス『良々ちゃん。まさか…』

 

デンオウRF・良々

「ーーー今度は私と契約して!!」

 

 

ウラタロス『ええ!?』

 

モモタロス『はぁ!!?』

 

ハッピー「え!?」

 

キンタロス『なっ?!』

 

ピース「っ!!」

 

ハナ「良々ちゃん!?」

 

 

 

デンライナー食堂車内にいたモモタロスもコーヒーを吹き出し、ハッピー、ピース、ハナも驚く。

 

 

 

デンオウRF・良々「私と契約して、一緒に戦って!!」

 

モモタロス『待て良々!!もう満員だ!!』

 

 

 

デンオウRF「はぁ…、僕は良々ちゃんのやる事に口出ししないけど、君はどうするの?」

 

 

 

ウラタロスが表に出たデンオウRFはキンタロスの方に目を向け、

 

 

 

 

デンオウRF「女性の誘いを蹴るつもり?君も男なら、垂らした竿を他人に任せるそんな無責任な真似はやめなよ。それに、心残り…あるんじゃないの?」

 

 

 

キンタロスはしばらくの沈黙ののち、口を開く。

 

 

 

キンタロス『心残りか…やっぱ大ありや!!』

 

 

 

キンタロスは光の球となると、デンオウRFの中に入り、PFとなる。

 

 

キンタロス『ホンマにええんか?』

 

デンオウPF「だけど一つ警告しとくわ。

今度私の友達を悲しませたら、その時は容赦無く叩き出す」

 

 

キンタロス『おおきに、ホンマおおきに!!』

 

 

その時、デンオウベルトのセレクトボタンの内、金色のボタンが光る。

それを押すと、煌びやかなメロディが流れ、パスを横切らせる。

 

 

 <AX FORM>

 

 

 

デンオウPFの周りに現れたのは、SFの袖のない長ランの様な陣羽織。

それがデンオウの前にくると、前後逆になり、金色の縁取りの黒い前掛けとなって、ベルトが締まる。

太ももの群青色のラインが金色に変わり、

良々の長い髪が金髪に染まり、前髪は真ん中分け、首後ろで毛糸玉の様なお団子ヘアーに簪が一本刺さる。

そして、何処からともなく現れた「金」と記載された三角巾が頭頂部から首後ろにかけて髪を纏め、さらに頭頂部から一束飛び出た長い銀髪。いわゆるアホ毛が突き出し、デンオウの頭上前方ちょい上から針金の様に直角に曲がり、毛先がデンオウの鼻筋を通る。

瞳は金色に輝き、優しくも力強い目つきになり、前掛けの胸部に「電」とブロックの様な四角い黒文字、ベルトから下の垂れ部分には「王」と黒いブロック文字が記入され、変身完了。

デンオウ・アックスフォーム

 

 

 

デンオウAF「俺の強さにお前が泣いた!!」

 

 

 

デンオウAFは親指で首を鳴らし、決め台詞と共に懐紙吹雪が舞い落ちる。

 

 

 

デンオウAF「涙はこれで拭いとき…」

 

 

アームドライノイマジン『誰が泣くか!!』

 

 

 

アームドライノイマジンはシールドホーンのホーンミサイルを連射するが、デンオウAFは微動だにせずにその全てを体のみで受け止め、跳ね返した。

 

 

アームドライノイマジン『な、何ぃ!?』

 

ピース「す、すごい……」

 

ハッピー「……信じられない」

 

 

 

アームドライノイマジンだけでなく、遠くではピースとハッピーがデンオウAFの恐ろしいまでの頑強さに驚愕していた。

続いてアームドライノイマジンは、ホーンミサイルが効果がないと理解するとシールドホーンを突き出し、デンオウAFに向かって突進する。

肉弾戦に持ち込む気だ!

しかし、デンオウAFはシールドホーンの先端を軽く片手で掴み、

 

 

アームドライノイマジン『止めた!?』

 

 

アームドライノイマジンがシールドホーンを押そうが引っ張ろうがそれはまるで固定されたかの様にしっかりと掴まれて微動だにしない。

防御どころか、大の大人が暴れる幼児を抑える程度の無造作ぶりな余裕に驚きを隠せず、冷や汗を流した。

その時、デンオウAFはゆっくりアームドライノイマジンに問いただす。

 

 

 

デンオウAF「一つ聞く……お前の契約者は、一体どんな望みを言うたんや?」

 

 

 

アームドライノイマジン『あ?……な、何を突然………はっ、他愛のない願いだ。“野球選手の親父が活躍出来る様にしてくれ”だと。

だから一番てっとり早い方法で他の上手い選手を潰す事にした』

 

 

デンオウAF「なんでや!?あいつの望みは、親父さんがヒーローみたく活躍出来る事を願ってたんや!!それがどうして他の選手を潰す結果になるん!?」

 

 

 

アームドライノイマジンのやり方が理解できないデンオウAF、アームドライノイマジンもなぜコイツはそんなことを訊くのだといった感じで続けて言った。

 

 

 

アームドライノイマジン『はぁ?バカかてめえは!なんで俺があんなヘボが活躍出来るまで待ってやらなくちゃなんねぇんだ?そんなガキ共のままごとなんてどうでもいい!!ただあのガキは過去へ繋がるページを開いてくれりゃそれでいいんだよ!!』

 

デンオウAF「……そうか」

 

 

 

デンオウAFの握っていたシールドホーンに力が入り、ピシッと音を立ててヒビがはいる。

 

 

 

アームドライノイマジン『なっ!』

 

 

どうでもいい

 

アームドライノイマジンの言ったこの言葉がデンオウAFの怒りに火をつけた!

掴んだままだったシールドホーンの先端をそのままの状態で力任せに砕いたのだ!!

 

 

デンオウAF「よぅくわかった…お前がやよいやあの女の言うてた、 “ 勝手な解釈で願いを叶える奴 ” の一人っちゅうことやな……?」

 

アームドライノイマジン『な、何言ってやがる!?これが俺らにとっての当然のやり方だろ!?』

 

デンオウAF「当然か…おい、新しい契約者。名前は?」

 

良々『良々』

 

デンオウAF「良々、俺は決めたで!!俺はデンオウになる!そんで、皆の一途な願いを踏みにじるこないな連中を、一人残らず叩き潰したるんや!!!せえい!!」

 

アームドライノイマジン『グワアアァァァッ!』

 

 

 

怒りと決意を込めたツッパリをアームドライノイマジンに叩きつけるデンオウAF!!

見事鳩尾にめり込み、遥か遠くの瓦礫の山に突っ込む。

 

 

デンオウAF「この強さ…お前相手なら、抑える必要ないなぁ」

 

 

こいつだけは許さん!!

 

そのキンタロスの意思と良々の想いが交差し、実現した金色の力。

良々もSFやRFとは比べものにならない力強さを実感している。

 

 

アームドライノイマジン『野郎…、だがそんな即席の付け焼き刃で俺がやられるかぁああああっ!!!』

 

 

アームドライノイマジンの身体が膨らみ、分身体・ゲラスが襲いかかる。

 

 

 

ゲラス『ヴオオオオオオオッッ!!』

 

デンオウAF「こいつはデカくて楽しめそうやな」

 

 

 

首を鳴らし、足元のデンガッシャーを拾い上げ、真ん中から分解。

刃の付いた先端の方を上空へ放り、落下の刹那、持ち手の方をさらに分解。

落下して来た先端の方が持ち手となるデンガッシャーに連結。

側面に刃のあるもう一方は先端に刃のあるデンガッシャーに並行に連結。

すると側面に刃のあるデンガッシャーの刃が大きくなり鉞となってそれを担ぐ。

 

 

ハッピー「き、金太郎だぁ…」

 

 

ハッピーは鉞に前掛け姿のデンオウAFを見て金太郎を思わせた。

 

 

ピース「でも、なんか…料亭の人みたい…」

 

 

ピースの方は前掛けに三角巾で、料亭の料理人にも見えなくもなかった。

 

 

ゲラス『ヴオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

そうしてる間にゲラスは突進してきた。

自分の身体の2倍以上の体格から岩石の様な硬く巨大な拳(こぶし)を繰り出してくる。

デンオウAFはデンガッシャー・アックスモードを短く持ち、ゲラスの拳を受け流す。

象の様なこの巨体に、カモシカの様な不釣合いの俊敏さ。

デンオウAFは次第に防戦に追い込まれてゆく。

 

 

 

アームドライノイマジン『やれぇ!!ゲラス、そのままぶちのめせーっ!!』

 

 

 

アームドライノイマジンが指示し、ゲラスを使っての猛攻撃にはいる。

 

 

 

ハッピー「はぁっ!!」

 

ピース「やあっ!!」

 

アームドライノイマジン『ぐはぁっ!!?』

 

 

 

だが、その隙を突かれて不意打ちを食らってしまった。

するとその一瞬、ゲラスの動きが鈍った。

その一瞬を良々は見逃さなかった。

 

 

 

アームドライノイマジン『チッ!そういやいたか…、でもテメエらなんかが相手になるかああああああっ!!』

 

 

 

アームドライノイマジンが拳を振り上げ、迫ってくるがピースはそれを避け、電撃を纏った拳をアームドライノイマジンの腹に叩き込む!

 

 

 

アームドライノイマジン『はっ!効かねぇよ!!』

 

 

 

拳を振り上げ、振り払おうとするも二人は一斉に離れ、それを避け、ハッピーも同じ場所に拳を叩き込む。

それを何度も繰り返しアームドライノイマジンは次第に苛立っていく。

 

 

 

アームドライノイマジン『チョロチョロウザいんだよ!!』

 

 

 

アームドライノイマジンが二人目掛けて突進してきた時、ピースがまた鳩尾に電撃の拳を叩き込む。

 

 

 

ビリッ!!

アームドライノイマジン『グゥッッ!!』

 

 

 

ビリッとアームドライノイマジンの身体に電撃が走り、アームドライノイマジンは苦悶の声を漏らす。

 

 

 

アームドライノイマジン『痺れた?なぜ…俺に電撃は聞かないハズ…!!』

 

 

 

すると、腹部に違和感を感じとり見ると、わずかにヒビが入っている。

 

 

 

アームドライノイマジン『しまった!ここから漏電したのか!』

 

 

 

そう、金属が電気を伝わるのはその表面のみ。

だがアームドライノイマジンの隙間は絶縁体が敷き詰められており、電気が身体に流れる事はない。

だがハッピーの「ハッピーシャワー」とデンオウAFのツッパリを立て続けにくらい、鎧の腹部にヒビが入っていたのだ。

そのヒビからピースの電撃が漏電し、ダメージを与えたのだ。

 

 

 

電撃が効けばこちらのもの!!

 

 

 

ピース「はぁああっ!!」

 

アームドライノイマジン『んぎぃいいい!!』

 

 

 

ピースはアームドライノイマジンに電撃を纏ったパンチ、キックを次々と叩き込み、ハッピーはアームドライノイマジンの攻撃を防ぎつつピースに道を作る!!

 

キュアピースはプリキュアメンバーの中で能力のパラメータは総合的に高いとは言い切れない。

だが、その爆発力は激しく、瞬間的なアップでは5人の中ではトップクラスである。

そして今、その力が爆発しアームドライノイマジンの力を凌駕するまでいっていた。

 

 

 

 

一方、デンオウAFとゲラスの戦いは…。

ゲラスの動きが鈍り、デンオウAFに流れが傾きはじめた。

 

 

 

デンオウAF「どうした?動きが随分と遅おなったな」

 

 

良々『あの怪物は “ 分身 ” と言うより、敵の “ 離れた身体の一部 ” と言った方がいい。いわば “ 操り人形 ” 』

 

 

デンオウAF「そうか!本体の命令がなかったら、ただのでく人形言う事やな!」

 

 

 

ゲラスは苦し紛れと言わんばかりに力いっぱい両腕を振り回したり、突進したりするが、最早無駄な足掻き。

 

 

デンオウAF「せいっっ!!!」

 

 

デンオウAFがデンガッシャーを力一杯横薙ぎに振り、ゲラスを吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

ピース「やああああああああっ!!!」

 

 

高圧電流を帯びたピースのキックがアームドライノイマジンの腹に打ち込まれた。

 

 

アームドライノイマジン『ぐほあああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!』

 

 

蹴られた場所から凄まじい火花を上げて、アームドライノイマジンは蹴り上げられて宙を舞った。

 

 

 

 

そして、アームドライノイマジンもゲラスも満身創痍となり、立つこともやっとのフラフラ状態となる。

デンオウAFはゲラスを目の前に、パスをベルトのバックルに翳す。

 

 

 

 

 <FULL CHARGE>

 

 

 

ピースもスマイルパクトを前方のアームドライノに向けて突き出し、気合いを込める。

 

 

 

 

デンオウAFは上空に向かってデンガシャーを投げ、相撲の見合いの構え。

そして、力を溜めると自身もジャンプし、空中でそれをキャッチ。

そのまま真下にいるゲラスに向けて己の体重とパワー、そして思いを込めた一撃を放つ!!!

 

デンオウAF「でああああああああああっっっ!!!」

 

 

 

ピースもスマイルパクトに気合いを溜め終わると右手をチョキにして上に翳す。

 

 

ピース「プリキュア…」

 

 

 

すると、落雷。

いつもはこの場で少し驚くが今回は驚かず、雷を纏って回転。

そして、チョキにした両手をアームドライノイマジン目掛けて突き出し、放電!!

 

 

ピース「ピース…サンダー!!!」

 

アームドライノイマジン『グゥアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

ゲラス『ヴオオ…ォオオォォ……』

 

 

ゲラスも鉞を突き立てられた薪の様にその体を二つ両断され、ゆっくりと左右に崩れ落ちた。

 

 

アームドライノイマジン『ぐ…おぉ…ああぁ……』

 

 

わずかな断末魔を残しながら、アームドライノイマジンは身体をスパークさせ、地面に倒れ伏し、分身体共々爆炎の中に消えていった。

 

 

 

デンオウAF「ダイナミックチョップ……」

 

良々『後で言うんだ』

 

デンオウAF「ヒーローは後で技名を言うんや」

 

 

 

 

 

モモタロス『あの野郎!カッコ付けやがって~』

 

ウラタロス『ま、楽できたからいいんじゃない?』

 

ナオミ「でも、暴走していませんか?」

 

 

デンライナーの中の3人は各々の感想を漏らす中、アームドライノイマジンとゲラスの残骸である砂がギガンデスを形成する。

 

 

 

――むか~しむかし、アフリカの大草原のどまんなかに一頭のサイが住んでおりました。

このサイは乱暴者で他の動物たちは皆このサイを恐れておりました。動物たちは何とかこのサイを追い出そうと試みます。しかし、めっぽう強いサイに恐れをなして誰ひとりとして逆らうものはいませんでした。

動物たちはライオンを議長とした会議を開き、サイの脅威から逃れるいい考えはないものか、相談しました。しかし、これといったいい考えは浮かばず、挙句の果てには自分達が住んでいる草原から出て行こうとする結論に達しまし、大草原にはサイのみが残る結果となってしまいました。

ところが、そんな中で唯一脱出せずに残っていたのが、ウジクイという鳥でした。ウジクイはサイをまったく恐れておらず、逆にみんなを追い払ったサイをこらしめてやろうと考えていました。そこで、一頭残るサイに向かってこんな提案をしました。

「サイさん、サイさん。貴方はこの草原の王様です。どうですか?君の偉さを象徴とする銅像を立てませんか?」

おだてられたサイは、ウジクイの言うことに興味を示し、何が何でも自分の銅像がほしくなりました。ところが、自分やウジクイでは銅像を作ることはできません。追い払って誰一人残っていない今となっては、作ってくれる動物もいません。

「なら、貴方自身が銅像になればいいじゃないですか」

と、ウジクイは提案します。

何やかんやと言いくるめられたサイは、ウジクイの言うことに納得してしまい、自ら銅像そのものになりました。つまり、ある高台にじっと立っている事でした。どんなことがあっても動かず、物も食べず、じっとしていなくてはならなくなりました。

さらにウジクイはサイにこう釘を刺す。

「そうそう、自分が銅像になった以上銅像であることを放棄する事。それは王様の地位を降りることになります。だから、決して降りないでください」

サイはウジクイの言う通り動かず我慢しました。

そして何日の時間が過ぎ、サイはとうとう我慢できなくなり、高台から飛び降りた。

その時である。

何と、サイの硬い鎧がそのまま残ったのです。そして鎧を脱いだサイは仔豚のごとく弱々しいものでしたが、それでもサイは自由になれた事が嬉しかった。

同時にそれまで自分の姿を見ることなどなかっただけに高台に残った自分の銅像をひと目見たいと思い振り向いた。

その時、稲光がピカッと光り、高台に立つサイの銅像が目に入ってきた。それは仔豚同様になった裸のサイには世にも恐ろしい姿であり、仔豚同然のサイは大慌てで逃げるのでした。

そして、いつしか大草原には色々な動物が戻り、かつての世界に戻りました。サイの抜け殻である銅像はというとそのまま残り、動物達は過去の戒めとしたのでした。

 

 

 

 

だが、そのサイの銅像は長い年月を得て魂を宿し、怪物へとその姿を変える――

 

 

残骸の砂が集まり、増大し、犀頭の鎧を着た悪魔の様な銅像の怪物――――

ギガンデス・ガーゴイルとなった。

 

 

ギガンデス・ガーゴイル

『GIGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!』

 

 

ハッピー「ぎゃー!?大きくなったーっ!!!」

 

ピース「アカンベエより大きいーっ!!!」

 

 

 

初めて見るギガンデスに驚愕するハッピーとピース。

 

 

 

良々『デンライナーを使って!!』

 

デンオウAF「デンライナー?」

 

 

 

そうしてる間にギガンデスが飛びかかってきた。

間一髪、デンライナー・ゴウカが体当たりし、その隙にデンオウAFは先頭車両の運転席のマシン・デンバードに跨る。

モニターにギガンデス・ガーゴイルを映し、マシン・デンバードのスイッチを押し、操作、ゴウカの先頭車両、5両が『戦闘車両』に変形した。

いきなり小細工無し、問答無用の一斉砲撃!!

だが、鋼鉄の身体を持つギガンデス・ガーゴイルは爆炎は上げるものの怯まず暴れだした。

攻撃がまるで “ 効かんです ” なんて洒落てる場合ではない。

 

 

デンオウAF「逆に蜂の巣突ついたんちゃうか!?」

 

良々『蜂の方が遥かに可愛い!!』

 

 

砲撃しながら躱していると、AFの待機音。

新たなデンライナー『レッコウ』が地中から姿をみせた。

 

 

良々『ついでに!』

 

 

 

レッコウだけではなく、イスルギも現れ、ゴウカに沿って並走しはじめた。

モニターには連結準備完了の文字が映しだされる。

 

 

 <Mode REKKOU>

 <Formation

  REKKOUSEKKA>

 

 

 

 

ミュージックホーンの三重奏を奏でながら、レッコウ、イスルギ、ゴウカの順に連結。

 

デンライナー・烈光石火

 

レッコウのサイドアックスが展開し、イスルギのレドームがせり上がる。

レドームがイスルギから分離、ブレードフィンを出し、丸鋸の様に回転しながらギガンデス・ガーゴイルの周りを飛び回り、何度も何度も斬りつける。

動きが止まったその隙にギガンデス・ガーゴイルの目の前に線路を形成し、レッコウの腹がギガンデス・ガーゴイルに向く形で停車。

 

 

デンオウAF「ぬんっ!!」

 

 

 

デンオウAFがデンバードのハンドルを力一杯振り切ると、

右に2本、左に3本、昆虫の節足を連想させるサイドアックスが左右から相撲の張り手の様にギガンデス・ガーゴイルに襲いかかった!!

鋼鉄をも砕くその攻撃はギガンデス・ガーゴイルに確実にダメージを与えてゆく!!

最後に左右のサイドアックスで挟み込み。

うっちゃり!!

 

ギガンデス・ガーゴイルは宙を舞って転がるが、フラフラになりながらもまだ立ち上がる。

トドメだ!!

ギガンデス・ガーゴイルの足元に線路が敷かれ、レッコウ最大の武器・フロントアックスが車体前面に展開し、フリーエネルギーを発し、巨大な刃を形成しながらギガンデス・ガーゴイルの真下を通過。

見事、真っ二つに切り裂かれたギガンデス・ガーゴイルは爆発しながら消滅した。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

【現代】

 

良々「加西くん」

 

淳一「なんだ…野上か。どうした?」

 

 

 

現代に帰った後、良々は淳一に声を掛けた。

淳一は先ほどのイマジン騒動であまり元気がなかった。

 

 

良々「加西くんのお父さんって、インタビューとか受けた事ある?」

 

 

加西「?―ないよ」

 

 

怪訝そうな顔をし、答える。

すると、良々はスポーツ新聞を一部取り出し、それを淳一に見せる。

 

 

良々「じゃあ、この記事も知らないかな?」

 

 

よく見ると、10年前の古新聞。

赤マルで囲ってる記事があった。

淳一はそれを見ると、「えっ?」と目を見開き、その記事をみる。

 

 

《 加西選手―インタビュー》

 

 

 

 

 

 

 

私は今まで何度も野球を辞めたいと思った事があります。

 

幼い頃からプロ野球選手の夢をみて血の滲むような努力の末、ようやく掴んだプロ野球選手の夢。

 

しかし、その世界は甘くはなく、試合にも中々出れず試合を眺めているだけの日々が続き、野球などやっている意味などないと思う時がありました。

 

それでも、私が野球を諦めなかったのは幼い私の息子が見送りの時、必ず言ってくれる一言。

 

 

「お父さん、がんばって」

 

 

曇りのない笑顔でただそれだけの応援。

 

挫けそうになった時は、何時もその笑顔を思い出し自分を奮い立たせてきました。

 

私が今、プロ野球選手を続けられるのは息子のお陰なのです。

 

 

 

 

 

淳一は知らず知らずの内に父の支えとなっていたのだ。

息子の想いにこたえる為、諦めず毎日毎日努力をし続けていた。

10年もの長い年月。

淳一が10年前から見ている父の練習の影にはそんな想いが込められていたのだ。

 

 

 

淳一「俺、…馬鹿だ。父さんがこんなに頑張っているのに…体裁ばっか…気にして……」

 

 

気付けば淳一は感動と自分を恥じた涙をこぼし、新聞を濡らしていた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

【デンライナー・食堂車】

 

 

モモタロス『何だと!?そりゃ本当か!?』

 

あかね「うん、ホンマホンマ!!」

 

 

食堂車では何やら皆が集まって大騒ぎしていた。

 

 

良々「あれ?みんなどうしたの?」

 

 

淳一の所から帰ってきた良々はこの騒ぎに怪訝な顔をする。

モモタロスが新入りのキンタロスに悪態をたれているかと思いきや、皆真剣な顔だ。

 

 

あかね「あ、良々。どこ行ってたんや!」

 

良々「どうしたの?」

 

 

あかねがうろたえながら話し掛ける。

 

 

なお「驚かないで聴いて!!もう一人のデンオウがこの時代に現れたの!!」

 

 

良々「え!?」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

それはサニー、マーチ、ビューティが現在で青っパナの海賊船アカンベエと戦ってる時。

 

 

 

海賊船アカンベエ『アッカンベェ~』

 

 

 

ドンドンドンドンと、派手な音を鳴らして外壁から大砲を次々と撃つ海賊船アカンベエ。

 

 

 

キャンディ「また来たクル!!」

 

サニー「クッ!!」

 

 

キャンディの叫びにサニー、マーチ、ビューティは一斉にその場を離れる。

撃ち出された大砲の砲弾には青っパナのアカンベエの顔が不気味に舌を出して、「アカンベエ」「アカンベエ」と喋りながら突撃してくる。

サニー、マーチ、ビューティは躱そうと走り出すがアカンベエの砲弾は誘導ミサイルの様に迫ってくる。

 

 

ビューティ「プリキュア!ビューティブリザード!!」

 

 

ビューティが三本の線を描き、強力な冷気を放出する。

冷気を浴びせられた砲弾アカンベエは浄化され消え去ったが、まだ本体が生きている限り次々と砲弾アカンベエが襲いかかってくる。

 

 

サニー「キリがないな」

 

マーチ「これじゃ近づけないよ」

 

ビューティ「何かいい手は…」

 

 

要塞の様なアカンベエを前にどうやって戦えばいいのか考えていたその時、

 

 

~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪~♪♪

 

 

独特のミュージックホーンを鳴らし、赤いヘッドの列車がこちらに向かって線路を敷きながら走行してくる。

 

 

マーチ「デンライナーだ!!」

 

 

マーチは良々達が戻って来たと思った。

 

 

 

キャンディ「でも、音が違うクル」

 

 

しかし、キャンディはミュージックホーンがいつもと違うと感じ取った。

まるで機械的なシンセサイザーのミュージックホーン。

よく見ると車両の横にはあるハズのない青い線。

そして、エコーのかかった電子音が辺りに響く。

 

 

 

 

 

 《STRIKE FORM》

 

 

 

そのデンライナーから降り立った男は

藍色でデンオウと同じ形のライダースーツに同色の足袋。

その上から同色の膝丈コートに、四本の線路を連想させる四股燕尾の肩掛け。

首からは太い鎖にデンオウのマークとターンテーブルが合わさった様な薄銅色の大きな懐中時計。

短髪の青髪に、鋭角的な赤いゴーグルと頬の大きな銀色の金属パーツが口のみを残して仮面の様に顔を隠していた。

 

 

 

その男の双眸は目の前のアカンベエとアトラクションの上に立っているウルフルンを無言で見据えていた。

 

 

ウルフルン「何だテメエは…、初めて見る顔だな。

――顔隠してるが…。

何モンだ!!?」

 

 

ウルフルンがこの場にいる皆を代表して問いただす。

その男はこう答えた。

 

 

 

???「私はデンオウ…。新たなデンオウだ!」

 

ウルフルン「何ぃ!?」

 

「「「「ええ!!?」」」」

 

 

その男は自らを『デンオウ』と名乗った。

ウルフルンはともかく、サニー、マーチ、ビューティ、キャンディはそんな唐突な展開に呆気に取られた!!

確かに、腰には薄銅色だが、デンオウと同じ形のベルトとデンガッシャーがあった。

 

 

 

ウルフルン「あ、新しいデンオウ…だと……!?」

 

NEWデンオウ「だが、君たちの知っているデンオウと私は異なる存在だ。区別する為、私は『NEWデンオウ』と名乗っておこう」

 

 

NEWデンオウは凛とした佇まいに重い口調でウルフルンやプリキュアに宣言する。

 

 

 

 

サニー「ち、ちょ待ってーな!それはともかく…」

 

ビューティ「あなたは…わたくし達の味方なのですか?」

 

 

 

サニーとビューティはとりあえずNEWデンオウが敵か味方か恐る恐る尋ねた。

 

 

NEWデンオウ「君達と敵対するつもりはない。―――ヤツは私が代わりに相手をしよう」

 

 

NEWデンオウはウルフルンと海賊船アカンベエの前に立ち塞がる。

 

 

ウルフルン「チッ!やっぱ敵か!!じゃあ遠慮なく叩き潰せ、アカンベエ!!」

 

 

海賊船アカンベエ『アッカンベェ~!!』

 

 

 

NEWデンオウは落ち着き払って指を二回鳴らす。

 

 

NEWデンオウ「テディ!」

 

テディ『ハッ!』

 

 

登場したのはテディと呼ばれる青鬼イマジン。

 

 

マーチ「イマジン!?」

 

NEWデンオウ「いや、コイツは派遣イマジン―――説明は後だ」

 

 

また指を二回鳴らす。

 

 

NEWデンオウ「テディ!――『マチェーテディ』だ」

 

テディ『了解』

 

 

なんと、テディが宙返りすると、テディは剣となりNEWデンオウの手に収まった。

 

 

 

 

NEWデンオウ「貴様のカウントダウンは……既に始まっている」

 

 

海賊船アカンベエ『アッカンベェ~!!』

 

 

先程と同じ海賊船アカンベエは砲弾アカンベエを撃ち出してきた。

 

 

サニー「来たで!!」

 

 

 

それに対しNEWデンオウはマチェーテディの先端――切っ先を砲弾アカンベエに向ける。

すると、マチェーテディの切っ先の銃口から破壊光弾が発射され、砲弾アカンベエをすべて撃ち落とした!!

 

 

NEWデンオウ「何だ?花火か?ならもっと派手なのを頼む」

 

 

 

余裕の軽口にイラつく、ウルフルンとアカンベエ。

 

 

ウルフルン「調子に乗りやがって~!アカンベエ!!次の攻撃だ!!」

 

海賊船アカンベエ『アッカンベェ~!!』

 

 

今度は海賊船アカンベエの中からゾロゾロと海賊衣装に身を包んだ。骸骨アカンベエが百体ほど這い出て来た。

 

 

 

マーチ「ヒッ!何あれ!?」

 

 

お化け嫌いのマーチはそれを見て青ざめるが、サニーとビューティは別の意味で恐ろしさを感じ取った。

 

 

サニー「おい、この数はマズうないか!?」

 

ビューティ「加勢しましょう!!」

 

 

三人は(マーチは嫌々)加勢しようとした。

 

 

NEWデンオウ「来なくていい。というか、その方がやりやすい」

 

 

 

そう、言い終わると同時に、呆気にとられる皆を他所に、NEWデンオウはマチェーテディを振りかぶり、駆け出した。

マチェーテディの刃が煌めいた瞬間、その光は目の前に立っていた骸骨アカンベエ数体をいともたやすく横一文字に斬り裂いた。

 

 

 

『アッ…!』

 

『……カン…!』

 

『…………ベェ~…!』

 

 

刹那閃く剣の軌跡。

そして疾風の如く唸る閃光。

マチェーテディを振り上げれば、今度は4、5体の骸骨アカンベエが訳も分からず両断され宙を舞う。

台風の如く振り回せば、それにそって何十体もの骸骨アカンベエが木の葉の如く吹き飛ぶ。

その圧倒的な速さの前に、骸骨アカンベエはおろか、それを遠くで見ていたウルフルンやプリキュア達も目に捉える事ができなかった。

それはまさに “ 常識 ” の範疇を超えた現象だったからだ。

そして、百体の骸骨アカンベエは消滅し、残るは海賊船アカンベエ本体。

 

 

NEWデンオウ「テディ、カウントは… “ 8 ” でいい」

 

テディ『了解、カウントは8』

 

 

NEWデンオウはテディにそう告げると、手に余る程の大きさのデカイ懐中時計を操作し、「8」の数字をセットする。

 

 

 

NEWデンオウ「スタート」

 

テディ『8…』

 

 

まず駆け出し、海賊船アカンベエにすれ違いざま横一閃。

海賊船アカンベエは手足を振り回し、NEWデンオウを近づけない様にするが、それを縫う様に回避し、次々と斬撃を入れる。

 

 

テディ『7…、6…』

 

 

少し距離を置いて、NEWデンオウはパスを取り出す。

 

 

テディ『5…』

 

 

 《FULL CHARGE》

 

 

エコーの効いた電子音が海賊船アカンベエに死刑宣告を言い渡す。

 

 

テディ『4…、3…』

 

 

NEWデンオウの首にかかった懐中時計が強く光り輝き、その場から海賊船アカンベエの真上にジャンプ。

マチェーテディを頭上に振りかぶり、エネルギーチャージ!!

 

 

テディ『2…、1…』

 

 

マチェーテディを海賊船アカンベエの青っパナ目掛け振り下ろした!!

 

 

テディ『0!!』

 

 

カウントダウンが終了すると同時にアカンベエの青っパナが両断された。

 

 

NEWデンオウ「カウント・スラッシュ…」

 

海賊船アカンベエ『アッカンベェ~……』

 

 

技名を静かに呟く中、海賊船アカンベエは消滅し、元のアトラクションの乗り物に戻った。

 

 

 

ウルフルン「NEWデンオウだと…、聞いてねぇぞ!!」

 

 

ウルフルンが消えると同時にバッドエンド空間もなくなった。

 

 

 

あかね「ほえー、アッサリ勝ちよった…」

 

キャンディ「あれ?NEWデンオウはクル?どこ行っちゃったクル」

 

れいか「そういえば…、あら…?」

 

なお「何時の間に?」

 

辺りを見回したが、NEWデンオウの姿はどこにも見当たらなかった。



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