ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット (グレン×グレン)
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プロローグ 第三次世界大戦と、駒王学園の淫乱風紀委員長

 

 インフィニット・ストラトスの名前を知らないものは、この世界には存在しない。

 

 それは、とある天才科学者の手によって開発された最強の戦闘兵器の名前だからだ。

 

 篠ノ乃束によって開発されたそれは、もともとは宇宙開発用のパワードスーツだったが、白騎士事件によって兵器としてのポテンシャルが圧倒的だという事実を突き付けられることとなる。

 

 世界で467機しか存在することを許されないISは、そのまま世界のパワーバランスを決める重要な装備となった。

 

 そして、その最大の欠陥ともいえる特性が、世界を大きく塗り替える。

 

 ISコアは、なぜか女性しか受け入れない。

 

 軍事力という非常に重要なポジションの中核を女性が完全に占める結果となったことで、世界は一気に女尊男卑へと傾いた。

 

 そして、そんなISの技術を極めるための国際共同施設がIS学園である。

 

 この学園に入学するということがある種のエリートコースの確定ともいえる存在。

 

 それが今、まさに破滅の時を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんだ、なんなんだこれは!」

 

 襲い掛かるISの攻撃をかわしながら、IS学園の教師は狼狽していた。

 

 今目の前にはあり得ない光景が広がっている。

 

 IS学園を襲撃しているのはISだ。

 

 これはむしろ当たり前だろう。ISを数十機も保有しているIS学園を攻め落とすのならば、それこそISが必要だ。

 

 だから数十機のISが投入されていることもそれはまだ許容できる。

 

 だが、それにしても問題がある。

 

 まずは機種だ。これが驚くべきことに誰も見たことがないタイプの機体を使用している。

 

 ISの技術は基本的に公開することが原則だ。むろん抜け道はいくつもあるが、これだけ大量生産されるような機体を秘匿しておく必要性が薄い。

 

 なぜなら、ISコアに機体を慣らすことも必要である以上、これだけの数のコアを使わない状況を作るのは困難だからだ。

 

 少なく見積もっても百機は越えている状況下。いくらなんでも秘匿しておくなどありえない。

 

 そして何よりも、最もあり得ない光景が彼女を狼狽させる。

 

「・・・ふむ、IS学園の教師というからには代表候補性クラスだと踏んでいたが。それでもこれが限界か」

 

 そう、敵のISを装着した()が詰まらなさそうに感想を漏らす。

 

 そう、男がISを動かしている。

 

「これは、どういうことよ!?」

 

 あり得ない。そんなことはあり得ない。

 

 男がISを動かしているだなんて話は聞いたことがない。そんなことが起これば、間違いなく世界中でニュースになるほどの大騒ぎになるはずだ。

 

 だが、現実にこのIS学園を襲撃しているIS操縦者の半数が男性だった。

 

 百機を超えるISの半数を男が操縦している。

 

 これはもう、男性でもISコアに適合できる人物が現れたとかそういうレベルではない。

 

 信じられないし信じたくないが、しかしもっと具体的な回答が一つだけある。

 

 そう、それは―

 

「ああ、君が考えている通りだ。今我々が襲撃に使用しているISコアは、性別関係なく使える新規製造されたISコアだよ」

 

 そう、目の前の少年はあっさりと信じたくないことを言い放った。

 

「・・・嘘、でしょ?」

 

「真実さ。ついでに言えば、これを開発したのは篠ノ之束ではないことも付け加えておこう」

 

 そう愉快そうに告げる少年の言葉に、教師は意識が遠のき始めていることを理解していた。

 

 あり得ない現実がいくつも襲い掛かり、しかしそれでもかろうじて意識をつなぎとめる。

 

 この学園には何百人もの生徒がいるのだ。ここで自分たちが倒れれば、何人死ぬかわかったものではない。

 

「う、うぁああああああああ!!!」

 

 感情を声に乗せて吐き出しながら、彼女はアサルトライフルをフルオートで放つ。

 

 ISで使用される銃火器は、歩兵が運用する場合複数人での部隊運用で行われる火力の装備だ。

 

 だからこそISのシールドエネルギーを削ることができるのだし、だからこそ殺傷性能は高いのだ。

 

 その弾丸を前に、少年は気がくるっているとしか思えない行動をした。

 

「さて、ではせめてもの情けだ」

 

 少年は、ISを除装した。

 

 あり得ない。あり得るはずがない。

 

 ISの手持ち火器は、戦闘車両や戦闘機の搭載火器に匹敵する火力を持っている。

 

 そんなものを生身の人間がどうこうできるはずが―

 

「人の輝きを見ながら、逝くといい」

 

 その現実を、少年はたやすく踏破する。

 

 手に槍を呼び出したかと思うと、少年は放たれた弾丸をすべて切り払い、さらに跳躍して彼女の懐へと潜り込む。

 

 そのすべてが人間の領域ではない。ISをもってしてもできるかどうかわからない芸当すらやってのけた。

 

 だが、少年は微笑を浮かべて安心させるように告げる。

 

「これが人間の力だよ。人間は、素質次第でこれだけのことができるのさ」

 

 その言葉はただの事実をありのままに告げているだけの声色で―

 

「―ははっ」

 

 絶対防御すら突破して心臓を貫いた槍に、感謝の感情すら抱いてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そして、この事件を開戦の狼煙として始まった第三次世界大戦を引き起こした組織こそ、「人類統一同盟」だ」

 

 そう教師が告げる中、兵藤一誠はノートにペンを走らせていた。

 

 といってもそこまで真剣というわけではない。

 

 なにせたった一年程前の出来事だ。散々ニュースでやっていたし、十分すぎるほど知識がある。

 

「人類統一同盟は確認されているだけでも300機以上のISを保有し、さらには男女両用という観点を出しに世界各国から移民を募集。女尊男卑にうっぷんがたまっていた男たちを中心に、多くの人間が統一同盟に参加することとなったのは知っているだろう」

 

 その通りだ。

 

 女尊男卑はかなり徹底的に行われており、女の言うことなら即座に逮捕され、男は反論すら封じられることすらあるらしい。

 

 そういった目にあっていた者たちは我先にと人類統一同盟に参加し、そして意外にも女性からも参加者が多かった。

 

 もともと、ISという存在がなければ女は何も変わっているわけではない。そんな不安定な状況下でISにかかわることなく女尊男卑を堂々と掲げられるような手合いなど、ある種の問題児だろう。

 

 まともな神経の持ち主で、かつ繊細な類はむしろその不安定な状況に不安を抱いていたのだろう。そういった女性もまた、足早に人類統一同盟に参加した。

 

 そのせいで、女性の割合が多いという理由で入学したのに、自分の学年ではほぼ一対一という割合で残念だった。

 

 と、そこでチャイムが鳴り授業が終了される。

 

「ようイッセー。今日の授業は退屈だったな」

 

「まったくだ。つい最近の出来事なんだからもっと手短にまとめてほしいもんだぜ」

 

 悪友である松田誠太と元浜太一が即座にイッセーに近づいて、そしてすぐに耳元に口を寄せる。

 

「・・・イッセー、レアもののDVDが入った。今日ウチくるか?」

 

「当たり前だ」

 

 静かにうなづき合い、そしてその手を握り合う。

 

 ・・・まあ大体この流れでわかっていると思うが、そして何より原作を読んでいるならすぐにわかることだが、兵藤一誠はスケベである。

 

 男なら高確率で一度は抱くであろうハーレム形成をいまだあきらめず、そのための努力として偏差値の高い駒王学園に入学した男。それが兵藤一誠だ。

 

 松田と元浜も同様であり、それゆえに変態三人組とすら揶揄されることがある。

 

 実際、中学時代には覗き行為を何度もするというあのご時世において正気を疑う豪快なまねすら何度も行ったことがある猛者だ。

 

 しかし、そんな彼らも今や覗きからすっぱり足を洗い、まあスケベだけどいいやつらという認識を女子たちに与えている。

 

 そんな原作を知るものなら目を疑う奇跡を成し遂げた理由は単純明快だった。

 

「・・・やあ、元気してるね諸君!」

 

 そう凛とした声が響き、そして皆の視線が一斉に集まった。

 

 そこにいるのは赤い髪を伸ばした美少女だった。

 

 胸が極端に薄いという要素さえ除けば、十人中十人が振り返るものすごい美少女。

 

 彼女の名前はレヴィア・聖羅。この学園の二年生だ。

 

「あ、レヴィアさん!」

 

「レヴィアさんお久しぶりです! 故郷の方の問題解決したんですね?」

 

「レヴィアお姉さま、会いたかったです!!」

 

「そんなに慌てないでくれないかい? 僕は一人しかいないんだから」

 

 皆があつまってくる中、レヴィアはそれを朗らかに受け止める。

 

 レヴィア・聖羅はこの駒王学園において二年生で最も人気がある美少女だといってもいい。

 

 公明正大で正義感のある性格。美しき容姿。そしてカリスマ性のある威風堂々としたたたずまい。

 

 それらを併せ持つ彼女は、たった一つの欠点を除けば完璧といってもいいその在り方ゆえに人気が高かった。

 

 そんな彼女は、視線をイッセーたちに向けると、ニコリとほほ笑んだ。

 

「・・・うん。今日も元気で何よりだ。・・・今夜は僕も混ぜてくれよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それこそが、レヴィア・聖羅の最大の欠点だった。

 

 そう、一年前のことだ。兵藤一誠達は覗きを敢行しようとして、レヴィアにあっさりと見つかってお縄についた。

 

 いかに突然のイレギュラーで世界が動いていたとはいえ、当時はいまだ女尊男卑に傾いていた時代だ。しかも高校ともなればだいぶ大人な判断になる。

 

 そんな状況下で教室にまで引っ張ってこられては、命の危険すら感じたものだ。

 

 ・・・そんなものは涙を流してうんうんうなづくレヴィアを見て吹っ飛んだが。

 

「わかる! わかるとも! 無防備な状態で衣服を脱ぐ女の子の姿は実に興奮するとも盛るとも萌えるとも発情するともさ!」

 

 想像しただけで鼻血を流しだすレヴィアをみて、ほぼ全員が納得した。

 

 あ、この人スケベな人だ。あとバイセクシャルだ。

 

 そして涙を流しながら、レヴィアはイッセーたちを抱きしめる。

 

「ああ、僕みたいにむらむらしたら銭湯に行って女湯を入ってヒャッハーできない君たちがかわいそうでたまらない! なんで君たちは女に生まれなかったんだと悲しくてたまらない!!」

 

「あ、アンタわかってくれるのか?」

 

「わかるともさ! 女の子の一糸まとわぬ裸体やわずかに纏った下着姿は至極の美だとも!!」

 

 一瞬でイッセー達とわかり合うというトンデモない業を成し遂げたレヴィアは、しかし涙を流しながら首を振った。

 

「だが! 世の中には見られて興奮するばかりの女性がいるわけではなく、情けないことに裸体や下着姿を見られることに不快感を抱く者たちが多いのだよ! 実に涙が出るほど悲しいことに!! 悲しいことに!!」

 

「・・・松田、イッセー。俺はさすがに引いてきたんだが」

 

 元浜が何か別の意味で賢者の領域に到達しかけるほどの暴走っぷりだったが、しかしレヴィアは止まらない。

 

「ああ、僕は実に悲しい! エロでここまでいい会話ができそうな人々が、社会に迷惑をかけることも、少年院に送られて離せない環境におかれるかもしれないことも悲しいことだ! 阻止しなければいけない!!」

 

 微妙に涙に赤いものが混じり始めているが、しかしそれでも見ほれてしまうのは美人ゆえのとくというものだろう。

 

 そして、そんな中レヴィアは爆弾発言をした。

 

「だから、僕がそんな制御しきれない君たちの劣情を吸い取ってあげよう!!」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 その場にいる者たちの大半が、一斉に時間を停止させた。

 

 そして五分後時間が戻ったときには、すでにレヴィアと三人組の姿はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貧乳も悪くないって、俺はあの時初めて思い知りました」

 

「ふっふっふ。貧乳でもできることはいっぱいあるのさ」

 

 思い出して鼻血を流しながらうんうんうなづくイッセーにうんうんうなづきながら、レヴィアは得意げにうなづいた。

 

 そしてその手にはエロDVDがある。

 

「そういうわけで今晩はこれをおかずにしながらしっぽりいかないかい? いい加減君たちの獣のごときがっついた行為が待ち遠しくて」

 

「マジですか! ぜひさせてください!!」

 

「クソ! 昨日放出してしまった俺の馬鹿! 知ってたら一週間前から準備してたのに!!」

 

 松田と元浜が美女とのエロい行為に暴走しかけるが、とがめる者は誰もいない。

 

 すでに学園の童貞と処女の半分を平らげたといわれる今の彼女を敵に回せば、間違いなくその半分が敵に回る。レヴィア・聖羅はエロで学園を掌握しているのだ。

 

 それに対抗できるのは生徒会長の支取蒼那を含めて五人もいない。

 

 いないのだが―

 

「レヴィアさん?」

 

 いま、その一人がすぐに現れた。

 

 その割と本気で殺気のこもっている声に反応して、レヴィア達はビクリと肩を震わせる。

 

 そしてゆっくりと視線を向けると、そこには赤茶の髪をしたバンダナをつけた少女がいた。

 

「ら、蘭ちゃん・・・」

 

「正座してください、正座」

 

 じっとりとにらみつけられて、蛇ににらまれたカエルのごとく動けなくなるレヴィアたちに、冷徹に蘭は地面を指示した。

 

「年頃の男子がそういうのが大好きなのは否定しませんけど、それでもDVD《それ》は法律に違反してます。わかりますね?」

 

「「「じゃ、レヴィアさんまた明日~」」」

 

「あ、三人ともずるい!?」

 

 一斉に逃げるイッセーたちにレヴィアが苦情を告げるが、しかしDVDを持ってきたのはレヴィアである。

 

 すでにイッセーたちは覗きを卒業している。なぜなら性欲を最高の形で発散できるすごい理想の女性がすぐ近くにいるからだ。

 

 それでもスケベ根性は全く以て治っていないが、覗きはもうしていないし学校の中で堂々とエロDVDを広げるような真似をしない程度には制御できるようになった。

 

 ぶっちゃけレヴィアが一番問題があるということに気づくのにも時間がかからなかった。

 

「いや、俺たちは持ってきてないんで」

 

「じゃ、蘭ちゃんいつものごとく説教よろしく」

 

「あ、こんど差し入れに何か持ってくるよ」

 

「あ、ありがとうございます。じゃあ、レヴィアさんは今からお説教です」

 

「ああ、皆冷たい! ホント助けてぇえええええ!!!」

 

 悲鳴を上げるレヴィアを無情にも見捨てながら、イッセーたちはそのまま教室を出る。

 

 ・・・こんな真似をしても全く嫌われないあたりがレヴィアの人徳だ。

 

 エロいことさえ除けば正義の人物。学校で起こったいじめ問題などはいつの間にやらレヴィアが介入して即座に下手人はお仕置きされる。そのうえ彼らはレヴィアに慰められて応援されてみな頑張って成長を遂げ、レヴィアの参加に入っているようなものなので報復も阻止されるという展開だ。

 

 それどころか性欲に忠実なレヴィアは童貞処女を食い散らかし、天性の才能と莫大な熱意と甚大な努力で鍛え上げられた技量で皆を魅了する。

 

 駒王学園のサキュバスと噂されるエロいお姉さんであるレヴィアは、同時にエロさえ除けば学園を守護する風紀委員なのである。

 

「しっかしレヴィアさんも懲りないよな。一時期の俺たちを思い出すぜ」

 

「ああ。俺たちも情熱の前に理性なんて吹き飛んだからな。レヴィアさんもそうなんだろう」

 

 松田と元浜がうんうんうなづき、イッセーも最終的に結論が出てくる。

 

「つまり俺たちよりエロいんだな、あの人」

 

「・・・そうなんだよ。ホント、お前らがいてくれて助かった」

 

 と、そこに廊下から少年が歩いてきながら片手を上げる。

 

「お、織斑」

 

「よっ! 今日もレヴィアの相手ご苦労さん」

 

 そこにいるのは織斑一夏という少年だ。

 

 かの最強のIS乗りである織斑千冬の実弟であることを知る者こそ少ないが、それを差し引いてもイケメンで料理ができて正義感が強いという高水準を持つため学園内でもそこそこ人気が高いという美少年だ。

 

 正義感が強い上に悪に容赦しない性格なためやりすぎることがあり、三人組が覗きを敢行した時は骨を折りかねない勢いで取り押さえに行ったものだが、レヴィアに強制されて組技を習得してからはだいぶ収まり、レヴィアが吸い取って制御がだいぶできたことから三人組とも親しい仲だ。

 

「・・・なんていうか、俺たちがここまで仲良くなるとは予想外だよな。イケメン嫌いなのに」

 

「悪かったな。ま、俺も女の敵そのものだったお前らとこんなに親しくなるとは思わなかったけどさ」

 

 松田と皮肉を言い合うが、しかしそれに関して待ったをかけたいのが人情というものだろう。

 

「・・・一年女子に付き合ってくださいと言われて第一声が「・・・どこの買い物?」などといってきたお前も立派な女の敵だろ」

 

 元浜がそう言って涙を流しながらにらみつける。

 

 一夏はそれに対して視線をそらしながら困り果てた。

 

「仕方ないだろ! 俺はそういうのが苦手っていうか・・・鈍感なのはわかってるけどどう鈍感なのかよくわからなくてさ」

 

「ふざけんな畜生! 覗きだってレヴィアさんのおかげでどうにか辞めれるようになったのに、俺たちはいまだに彼女ができないってのに! あんな可愛い子相手に「あ、ごめん」だなんて気づいてから即答したお前に俺たちの気持ちがわかってたまるか!!」

 

「よく知らない子と付き合う方が失礼な気がしたんだよ。ほら、そういうのってもっと良く知り合ってからするべきだろ?」

 

 イッセーに胸倉まで掴まれるが、一夏としてはそのあたりは譲れない一線なのでとにかく断固として固辞するほかない。

 

 イッセーもそれはわかっているが、しかしどうしても納得がいかないのである。

 

 悲しい男の性だ。

 

「とりあえず付き合ってから知っていけばいいじゃねえか! くそ、蘭ちゃんという通い妻がいるからってなんて羨ましい奴!!」

 

「いや、その、蘭とはまだ付き合ってるわけじゃ・・・」

 

「顔が赤いんだよぉおおおおお!!!」

 

 そう、それも断った理由の一つだった。

 

 今年に入ってから駒王学園に入った五反田蘭との間柄は年月の経った夫婦といっても差支えがない状態で、よく知る女子生徒からは手を付けられないと判断されている。

 

 なにせ、下手に敵意を向ければ速攻でレヴィアを敵に回すからだ。

 

 だが、わかっていてもうらやましいのが男の性。

 

 イッセーは耐え切れずに涙を流して明日へ逃走を開始したのであった。

 

「・・・しかし、蘭ちゃんとは付き合ってるわけじゃないんだろ? だったら別にいいじゃないか」

 

「いや、付き合ってるわけじゃないけど、まだちょっと恋愛とかはする気がないんだよ」

 

 元浜の不思議そうな声にそう答えながら、一夏は静かに手を握るとそれを見つめる。

 

『・・・選ばせることしかできなくて、ごめんなさい』

 

『だから少し怖いけど、一夏さんと一緒なら大丈夫です』

 

 炎とともにフラッシュバックするあの泣き顔と笑顔を思い出して、一夏は決意を再確認する。

 

「・・・守れる男になりたいんだよ、俺は」

 

「守れる?」

 

「ああ、目の前の悲劇から大事なものを全部守り切れるような、そんな男になりたい。そうなってからじゃなきゃ、きっと俺は答えられない」

 

 元浜の言葉にうなづきながら、一夏はそういった。

 

「今時古臭いとは思うけどさ、やっぱり男は女を守ってこそだろ?」

 

「ふむ、確かにお前らしい理由だな」

 

「ま! 俺もかっこつけたいところはあるからな! こっちのISも男が使えるように研究が進んでるし、頑張ればなれるだろ!!」

 

 元浜も松田も笑いながらそれを認めてくれる。

 

 はっきり言っていいやつらだと一夏も思っている。

 

 変態なのはどうしようもないが、それはレヴィアが矯正しているので大丈夫。自分も過激なところをだいぶフォローしてもらっているし、抑えられているうちはお互い様だ。

 

 しかし、それはそれとして―。

 

「まあ、長い時間があるから、ゆっくりやっていくさ」

 

 ・・・悪魔の自分の身ならば、決して不可能ではないのだからと、そう安心している自分もいるのが怠慢だと情けなく思う。

 




はい、長くてすいませんm( __ __ )m

最低限つかみを見せるために必要なことを書いていたらこんなに長くなってしまいました。普段は読みやすさと区切り重視で三千~五千ぐらいなのに長くなってしまってごめんなさい!









最初に書いてありますが、これは以前試しに書いてみてエタった自作品「インフィニット・ストラトスD×D」のリベンジ版です。

ですが、かなりむちゃくちゃ変更されています!

インフィニット・ストラトスと他作品のクロスオーバーって見かけないよね? 的なところから始まり大好きなD×Dとクロスさせる試みだった前作ですが、しかし致命的な欠点である「ISは全寮制かつ人工島の学園物だから他作品と絡ませずらい」を克服するため、D×D本編の数十年前という異色の設定をぶちかましました。

そのためISが中心になりすぎており、かつパワーバランスをまじめに考えた結果、IS側がD×D側に圧倒的に劣勢という形になってしまいました。

・・・そして今回リベンジに伴い、そのあたりの改善やイッセーたちの大活躍を見せたいと判断したことから、そのあたりはむちゃくちゃ改善してます。

そのためにどうしても必要だったのが第三次世界大戦です。

最初はこれだしていいものか真剣に悩んでましたが、活動報告で相談した時に背中を押されたので、とりあえず試しに書いてみようということになりました。

続きが気になる方はぜひ感想and評価をプリーズミー!!









あ、因みに作品の都合上インフィニット・ストラトスD×Dの設定も結構流用しているので、あちらを見るとネタバレになるということだけはご了承くださいな


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設定資料集

まあ、これぐらいは必要だと思いましたので。

これからどんどん増えていくと思いますので、お楽しみください。


◎地球統一同盟

 一年前、IS学園を壊滅させた事件を狼煙として活動を開始した軍事組織。

 男女共用型のISを大量に保有していることから、圧倒的すぎる戦力と影響力を持ち着々と勢力を伸ばし占領地を増やす一大勢力。

 

 

◎セーラ・レヴィアタン眷属

 

◇セーラ・レヴィアタン 別名 レヴィア・聖羅

 真なる魔王レヴィアタンの末裔の1人として育てられたが、聡明ゆえに旧魔王派が終わりだということを理解し、現政権へと亡命した悪魔。

 それだけの立場でありながら、レーティングゲームに消極的なので眷属悪魔を作らないことで有名。一夏と蘭が眷属になったときは割とニュースになったレベル。

 性格は一言でいうならエッチなお姉さん。変態三人組に匹敵するレベルの変態ぶりを持つが、節度はわきまえるため風紀委員長として活動中。

 とにかく硬い、超硬い。耐久力に特化したそのスペックは、ディフェンスだけなら旧四大魔王すら圧倒するだけの領域。あのヴァーリ・ルシファーですら覇龍抜きでは千日手になる。反面それ以外のスペックは魔王の血であることを考えればあきれるほど低いという極端なステータスをしている。

 

◇織斑千冬 駒価値 女王

 レヴィアの女王。

 IS学園襲撃事件以降、教師としての最後の責務として襲撃犯に対する落とし前をつけることを目的に行動。その際彼女自身が目撃した情報から異形組織がかかわっている可能性を考慮し、レヴィアの支援を受けながら独自に捜査を続けていた。

 ISを装備することを前提としているとはいえ、人間最強の戦闘能力は伊達ではなく、名実ともにレヴィア眷属の最強戦力。その戦闘能力は専用機である不知火・桜花と組み合わせれば、最上級堕天使であるコカビエルを一蹴できるほどに高い。

 性的に暴走したレヴィアを眷属内で唯一楽にあしらえる逸材。そのあらゆる意味で規格外のスペックから、現在は三大勢力の特殊部隊として出向している。

 

◇織斑一夏  駒価値 戦車

 レヴィアの戦車の1人。

 世界最強のIS使いである織斑千冬の実の弟だが、学園内ではイッセー達との大立ち回りとレヴィアに時々搾り取られている姿が印象に残っておりそれに気づくものはほぼいない。

 顔よし、家事万能、強い、正義感があって曲がったことは黙って見ない性格なため非常に持てているが、蘭がほぼ通い妻状態なのと「レヴィア込みでの事実上同居」一夏の朴念仁エピソードをレヴィアが周囲に対する善意でばらまいたことから極めてめずらしい事態になっている。

 割と原作においては問題点も多々ある性格だったが、イッセーがそうであるようにレヴィアがいくらか矯正したもよう。

 ☆神器 剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)

 一夏の神器。

 手に持った剣の性能を大幅に向上させる神器。

 

◇五反田蘭 駒価値 戦車

 レヴィアの戦車の1人。

 ぼけるときはノリノリでボケるレヴィアと、天然で朴念仁ぶちかます一夏に頭を悩ませるツッコミポジション。高校に入ったことで少しは成長したが、まだまだ薄い胸も悩みの種。

 女王の駒を擁していないレヴィアの側近として様々な会合に参加することもあり、性格的にもしっかりこなすため、秘書に近いポジションが固まっている。

 ☆神器 龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)

 龍を模した大砲を形成する神器。極東の龍の中でも強大な部類である八面王を封印した神器。

 上級悪魔相当の破壊力の砲撃を放つことができる。シンプルで隙も大きいが、それゆえに扱いやすい。

 

 

◎駒王学園関係

 

◆兵藤一誠 松田 元浜

 非童貞、非童貞(大事なことなの以下略

 レヴィアが自分に匹敵するスケベ根性の持ち主ということで速攻でお持ち帰りしてすい尽くした。

 その結果、高すぎる精力をすぐに放出できることからめっきり覗きも減り、変態行為が薄れたことで根っこの善人部分が見えるようになったことから学園内で心底嫌っている人はいないというポジションに収まった。

 のちにイッセーはリアスの眷属悪魔になり、松田と元浜はライザーとのレーティングゲームの際にレヴィアの眷属となる。……メタ的な悩み、下の名前どうしよう。

 

 

◎教会関係者

 

 ◇セシリア・オルコット

 元イギリスの代表候補性。今は英国教協会のエージェント。

 オルコット家存続のために代表候補性になったはいいが、人類統一同盟の宣戦布告と男女両用型ISコアの登場のごたごたでそれどころではなくなり、オルコット家の没落が確定する。

 スターダスト・ティアーズの開発決定を機に悪魔祓いとして居場所を得るも、それゆえに女尊男卑思想が粉砕され、よく言えば成長、悪く言えば自虐的になる。

☆神器 聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)

 原作にも登場した神器。自らが思い描いた聖剣を想像することができる。

 セシリアは形状変化に優れた資質を持ち、これにより刀剣類と形容することが難しいほどの形状変化を自在に行うことが可能。この特性がスターダスト・ティアーズの本格的な開発にもつながっている。

 

 

◎堕天使勢力関係

 ◆フリード

 男女共用型コアを装備したISを保有。

 戦争時の混乱で流出したものを使用したとも思われるが、なぜ神の子を見張るものの本部で研究されずにこんな場末の小競り合いで使用されたのかは不明。

 



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IS 資料集

おそらく大量に登場することになるオリジナルISの紹介ページを作ることにしました。


〇不知火

 織斑一夏が使用するIS。レヴィアが取り寄せた日本の概念実証機。

 

 設計コンセプトは「あらゆる次世代要素を取り除いて、現行技術で一から最高の第一世代機を開発した場合、どれだけの性能が出せるか」であり、第三世代機が開発されている現代からは考えられない先祖返りの第一世代機。その特性上実戦も競技戦闘も想定しておらず、当然量産の予定もない機体。

 

 その設計思想上、拡張性においては現在使用されているISの中ではぶっちぎりで最下位。反面、基本性能においては現行最新鋭の機体でも最高峰であり、そこに目を付けたレヴィアが、一夏の護身用としてコア以外の機体をすべて買い上げたという逸話を持つ。ちなみに開発業者はすでに用済みなったこともあり、金持ちの道楽と判断している。

 

基本的な期待性能はISの基本ともいえる高機動性能に重点を置いている。シールドエネルギーの総量も拡張領域(パススロット)の総量もトップクラスであり、また特殊機能をすべて排除しているため整備性などの運用能力も非常に高い。

 

パッケージを運用できないため局地的な運用には不向きだが、裏を返せばそれ以外の状況のおいては非常に高い。

 

 

〇スターダスト・ティアーズ

 

イギリス製の第三世代機。異形の存在をしる英国上層部の判断により、対異形戦闘を考慮した非常に実験的な側面を持つ。

 

原型機は、同じくイギリス製の第三世代機であるブルー・ティアーズ。当初は機動力で下手な上級すら圧倒するISを対異形戦闘でも運用できないかという実験目的だったが、BT兵器の火力では高位の異形には通用しないと判断されたため計画はとん挫されるかと思われ。しかし原型機のテストパイロットであるセシリア・オルコットが神器(セイクリッド・ギア)に覚醒したことを機に、それを併用することを設計に組み込んだ結果完成にこぎつける。

 

セシリアの神器である聖剣創造《ブレード・ブラックスミス》と彼女の運用方法である形状変化を最大限に応用し、弾丸として使用できる形状に変化した聖剣を、電磁投射砲で発射することで戦闘を行う。また、ブルー・ティアーズのもう一つの特性である第三世代武装ビットは健在であり、これによる多角的な運用も可能。

 

ブルー・ティアーズは実験機であったために近接戦闘に難がある機体だったが、こちらはセシリアが神器があるため十分に対応可能。むしろこれにより拡張領域の多くを削減できたため、シールドエネルギーや基本性能の向上に一役買っている。

 

〇不知火・桜花

 レヴィアが織斑千冬用に提供したIS。

 もともと高性能機であった不知火だが、しかし汎用性を考慮に入れた設計であるため戦闘においては武装の選択次第で様々な状況で戦える機体だった。しかし千冬はあえて昏桜などのような近接戦闘特化型機体への改修を要求。レヴィアもそれにこたえて出費した結果生まれたのが桜花。

 操作性は及び近接戦闘に必要ない機能を必要最低限レベルにまで撤去、現行ISとしては破格のスペックを保有。千冬がコカビエルをごくわずかな時間で撃破できたのも、ひとえにこの機体のスペックがあってこそ。

 また、日本政府の実験であった単一仕様能力の再現を、悪魔の技術まで組み込んだ結果、千冬に合わせて零落白夜が発言している。しかもこの零落白夜、悪魔の技術の影響か魔力や光力といった異形のエネルギーすら無効化可能に進化した。反面豊富な拡張領域という不知火の強みの一つは失われている。

 開発段階から千冬用の調整を行っているうえに非常にピーキーな仕上がりであるため千冬以外が運用することは不可能といっていい。しかしそれゆえに千冬が使用した場合、第三世代機の専用機であろうが一蹴し、最上級クラスすら切り捨てれるほどの圧倒的性能を発揮することができる。

 

〇ゴースト

 人類統一同盟の主力IS。第三世代の機体。

 数の暴力という軍事兵器の一つの極点を目的とした機体。そのためカタログスペックでは特筆すべきものを持たないが、生産性及び整備性や操作性などのそれ以外の性能は桁違いに高い。一部の精鋭が使用するのではなく大量の訓練された兵隊に使用させることを前提としている傑作機。

 第三世代武装として、VTシステムの安全版であるヴァルキリー・スレイヴを搭載。これにより訓練期間を大幅に短縮できるというメリットを持ち、大量の男性IS搭乗者を生み出すことに成功している。

 ●対異形戦闘用パッケージ モデルケラウノス

 対異形戦を目的として開発されたパッケージ。

 バックパックに専用の原子力バッテリーを内蔵しており、攻撃に放射線を纏うことが可能。

 もとより理論そのものは完成していたが、ISに対抗できる戦術兵器が存在しないこと、およびISそのものが宇宙空間で対応できるため放射線対策が万全であることから早々に発想段階から打ち切られたもの。しかし、それらの対策がなくISでも苦戦する存在である異形存在用に限定すれば、その性能は間違いなく必要な兵器。

 

〇ゴーストⅡ

 ゴーストを母体として開発された第四世代機。すでに十数機が清算されているが、これは軍事的連携のテストも兼ねているため、量産機というよりかは実験機に近い。

 第四世代機の基本装備である展開装甲を主要として装備されており、それによる高い万能性が特徴。異形技術の投入によりエネルギー総量も大きいため、ゴーストに比べれば継続戦闘能力は低いが、パッケージ分の余力があるため量産機の中では比較的短い程度に収まっている。

 しかし高すぎる万能性ゆえに優秀なテストパイロットをもってしてもなお本領を発揮できないものが続出。実戦テストを行ったが、カタログスペックを引き出せるものはろくにいなかった。万能を極めているがゆえに欠陥機となってしまった機体。

 これを機に人類統一同盟は展開装甲はサブウェポンとして切り替えて新たなるアプローチを開始。当時研究されていた方向性と組み合わせた、第五世代機の試作実験を本格的に開始する。

 

〇アマルガム・レオーネ

 篠ノ乃箒が試験搭乗者を務める実験機で、種別は第三世代。本来は功績もあり第四世代機を授与される予定だったが、それを拒んだ箒の意向に合わせて提供された機体。

 その本質は液体金属でできたゴーレムであり、形状を自由に変更することで近距離戦闘において非常に高い汎用性を発揮する。液体金属に関してはナノマシンと各種術式の複合で行われており、人間と異形の技術を複合させている試験機でもある、

 液状金属を変化させることによって高い汎用性を発揮する。空気抵抗に対する干渉による高い運動性能や、第三世代ISでは破格の大質量攻撃などが可能。とはいえそれは理論上可能なだけであり、基本的には圧力をかけてカッターにするのが基本的な運用思想。その特性と箒の神器もあり、基本的には近接戦闘特化だが、液状金属を腕として使用することで、多重砲撃を行うなど理論上は砲撃戦でも応用可能。

 展開装甲とは別のアプローチで単騎による高い汎用性を目指した機体。事実、異形技術を使っているとはいえ近接戦闘の応用性では展開装甲をしのぐレベルに到達している。

 



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旧校舎のディアボロス 1

そこそこ感想が来たので、連載してみることにしました!!


 そんなある日のこと、レヴィア達は風紀委員室で作業を行っていた。

 

 色欲の権化たるレヴィアであるが、別に学校内でしているわけではない。

 

 やるなら学校と同じ規模のセットを作ってそこでやるというド級のまねをぶちかます。それがレヴィアという女だ。

 

 なので一夏としても蘭としても学園内では平和に過ごせているのだが、その静寂は無残にも破られた。

 

「・・・た、大変だぁあああああ!!」

 

「なんだい松田くん? ここは風紀を守る場所なんだからもうちょっと節度をもって」

 

「大変だレヴィアさん! イッセーに彼女ができた!!」

 

「なんだって!? それは本当かい!?」

 

 思わずカップを取り落とすほどの元浜の叫びにレヴィアは動揺した。

 

「なんだと!? あの兵藤に女ができたって!?」

 

「そんな! 一年前に比べたらだいぶましだけど、それでも変態なのに変わりはないのに!!」

 

「っていうか、レヴィアさんにすい尽くされて欲望出てこないだけじゃね?」

 

「いいえ、それでもエロい会話は普通にする程度の欲望は残ってるわ」

 

「それダメダメじゃん。なんで告白されたんだあいつ」

 

「あの、レヴィアさんの場合はどうなるんでしょうか?」

 

 あまりにもあれな風紀委員たちの反応に、蘭がおずおずとフォローを入れるがしかしそれは弱弱しい。

 

 じっさい蘭としてはレヴィアで慣れているとはいえ変態すぎるイッセーたちには困っているところもあるので、それは仕方がないことなのだが。

 

「いや待てよ。そりゃあいつら変態で女の敵だったけどさ、それでも根はいいやつらばっかりじゃないか。レヴィアみたいな女だったら好きになってもおかしくないんじゃないか?」

 

「一夏くん? それ、僕が変態だって暗に肯定してるよね?」

 

「自覚してください」

 

 レヴィアの鋭い視線に対して、蘭がバッサリと切り捨てた。

 

 先輩に対してあれな対応ではあるが、風紀委員たちは風紀委員長が風紀に半ばケンカを売っているのは自覚しているので何も言わなかった。

 

「・・・ふむ、それで? いったいどんな子なんだい?」

 

「お嬢様学校の制服を着た、天野夕麻ちゃんって子だ。・・・あんな美少女があの学校にいたとは、俺も気づかなかった」

 

 元浜の眼鏡キャラらしい解説台詞を聴きながら、松田は涙を流して床を殴りつけた。

 

「しかも週末にはもうデートだとよ!! くそ、あの野郎罰ゲームか何か扱いされて涙を流せばいいんだ!!」

 

「いや、それはちょっとかわいそうじゃありませんか?」

 

 友人に対してあんまりな物言いに、蘭はさすがに声を上げた。

 

「友達なら祝福してあげましょう? だって、イッセー先輩いい人じゃないですか。レヴィアさん並にいやらしいけど」

 

「蘭ちゃん、君は本当に俺たちに対して優しいなぁ」

 

「それはもう、レヴィアさんで慣れてますから」

 

「ああ。レヴィアのおかげでだいぶ慣れたなぁ」

 

 蘭と一夏は遠い目をして過去を懐かしむような表情を浮かべる。

 

「・・・やはりレヴィアさんに喰われたという噂は本当らしいな」

 

「俺らもがっつり食われているから、まぁそっとしておいてやろうな」

 

 元浜と松田はうんうんとうなづき合いが、しかしその間にレヴィアは深く考えていた。

 

「・・・ふむ、う~ん」

 

「どうしたんだ、レヴィア?」

 

 一夏がそれに気づいて声を変えると、レヴィアは少し不安げな表情を浮かべていた。

 

「うん、確かだけど、この子この学校の子じゃないと思うよ?」

 

「え?」

 

 特に外見的に高校生で間違いないような形だったので一夏は首をかしげるが、レヴィアははっきりと断言する。

 

「他行とのもめ事を考慮して、周囲の高校の生徒の顔は全部把握してる。あの高校に天野夕麻何て名前の女子生徒は存在しない」

 

 そうはっきりと断言しながら、レヴィアは指を口元に当てて考え込む。

 

「・・・考えすぎだとは思うけど、蘭ちゃんちょっとデート覗いてくれないかな? その日は僕と一夏くんは用事があるの知ってるだろ?」

 

「・・・何かあるんですか?」

 

 いつもよりわずかだが真剣なトーンの声に、蘭は目を細めて促した。

 

 そして一瞬、一般人の動体視力ではわからないような高速の動きで、ハンドサインが展開される。

 

 それを見て、一夏と蘭はレヴィアの懸念を理解した。

 

「蘭、任せた。俺とレヴィアも終わったらすぐに行くから」

 

「任せてください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やあ! 俺は兵藤一誠! 親しい奴からはイッセーって呼ばれてるぜ!!

 

 夢はでっかくハーレムを作ること。おっぱい一杯夢いっぱいを合言葉に、女子比率の大きい難関校に合格した、エロと熱血で生きる男さ!

 

 入学直後にきれいな同級生に童貞食べてもらったりといろいろあったけど、それでもまだ彼女はできないのが残念だった俺にも彼女ができた。

 

 その名も天野夕麻ちゃん! 黒髪美少女のむちゃくちゃ可愛い女の子!

 

 そんなわけで今日は初デートだったんだけど・・・。

 

「死んでくれないかな?」

 

 いきなり、夕麻ちゃんがそんなことを聞いてきた。

 

 え? ど、どういうこと?

 

 これはまさかあれか? 昔覗きの常習犯だったことをうらんでいる女たちによる報復か何かだったりするのか?

 

 た、確かに女尊男卑がひどかった最近の情勢的によく捕まらなかったって自分でも思うときはあるけど、え、これマジで?

 

「ご、ごめん夕麻ちゃん。よく聞こえなかったからもう一度言ってくれるかな?」

 

 なんかの冗談だと思って、俺はもう一回聞いてみる。

 

 あ、これどっきり? どっきりだよね?

 

「死んでくれないかなって、言ったの」

 

 夕麻ちゃんははっきりとそう言い切った。

 

 え? あれ? これ、どういうこと?

 

「ごめんねイッセーくん。何も知らない坊やの君には悪いんだけど、恨むならあなたに神器《セイクリッド・ギア》を与えた聖書の神様をうらんでくれると嬉しいかな?」

 

 よくわからないことを夕麻ちゃんの背中から、黒い翼が生える。

 

 まるで黒い白鳥というべき綺麗な翼を見とれていると、いつの間にか夕麻ちゃんの手には光り輝く槍があった。

 

 いや、光り輝いているんじゃない。アレ、光そのものだ。

 

 え、これ、どういう状況?

 

 訳が分からなくて、俺は全然動けない。

 

「じゃ、そういうことで」

 

 夕麻ちゃんの手が振り上げられ―

 

「逃げてくださいイッセー先輩!」

 

 その夕麻ちゃんに向けて、光の奔流が放たれた。

 

「・・・チィッ!」

 

 夕麻ちゃんは間一髪でそれを交わすけど、その一撃は公園の地面を大きく削り取った。

 

 そして俺はその衝撃で吹っ飛ばされる。

 

「うわぁあああああ!?」

 

 地面にたたきつけられてむちゃくちゃ痛い!?

 

 な、なんなんだこれ、いったい何なんだ!?

 

「大丈夫ですか、イッセー先輩」

 

 と、そこにいたのは赤茶色の髪をしたよく知る後輩。

 

 五反田蘭ちゃんが、なんか龍みたいな大きい筒をもってそこにいた。

 

「逃げて・・・いいえ、私から離れないでくださいイッセー先輩」

 

「え、え? どういうこと?」

 

 すごい真剣な表情をしてる蘭ちゃんに、忌々しそうに舌打ちをする夕麻ちゃん。

 

 にらみ合う二人についていけず、俺は首をかしげてしまった。

 

「そう、あなた悪魔ね? 悪いけどこっちも仕事なのよ。邪魔しないでくれるかしら?」

 

「悪いけど、この人はダメな人だけど大事な先輩の一人なの。堕天使なんかには殺させない」

 

 一触即発。そういう状況下としか思えなかった。

 

 だけど大事な先輩か。織斑がいるから違うのはわかるけど、だけどこれはこれですごいうれしい・・・じゃない!

 

 ど、ど、どうすればいいんだこれは!

 

 なんかいつの間にかぞろぞろと人が集まってるけど、どうも普通の人じゃないっぽいぞ!?

 

「イッセー先輩。説明は後でするから、とにかく私から離れないでください。はっきり言って、守り切れる自信もあまりないです」

 

「え? 俺ってマジで殺されそうなの? 覗きって殺されなきゃならないような罪!?」

 

「それとこれとはたぶん別問題です。だけど、レヴィアさんと一夏さんが来るまでは安心できません」

 

 周りを警戒しながら、蘭ちゃんは汗を一筋流しながら厳しい表情を浮かべる。

 

 くそ! なんか俺にできることはないのかよ!?

 

 俺はせめて警察に連絡しようかと思ったけど、さっき吹っ飛ばされた時にスマホを落としてしまったらしい。

 

 ああもう! 年下の女の子に体張らせてる場合じゃない! 何とか・・・何とか・・・何とか!

 

 くそ! 誰か助けてくれぇえええええええ!!

 

「・・・え? イッセー先輩、それって?」

 

「この紋章、グレモリーの!?」

 

 目を閉じてとにかく困り果ててたら、そんな驚きの蘭ちゃんと夕麻ちゃんの声が聞こえてきて、俺はなんとなく目を開けた。

 

 なんかポケットからすごい輝きが放たれてる。探ってみたら、駅前でもらったチラシが輝いていた。

 

「あなたの願い、かなえます!」だなんて胡散臭いチラシが、なんかマジで輝いている。

 

 え、ええ!? ナニコレぇえええええ!?

 

 あ、なんか人が出てきたぞぉおおおおおおお!?

 

「貴方ね、私を呼んだのは。あら? 蘭じゃない?」

 

「リアスさん! すごくちょうどいいところに!!」

 

 そこにいたのは、駒王学園二大お姉さまとすら呼ばれるスーパー美少女、リアス・グレモリー先輩だった。

 

 え、え、ええええええ!? なんでリアス先輩がこんな胡散臭いチラシから出てくるんだぁああああ!?

 

「リアス先輩! この人が、神器のせいで堕天使に殺されそうになってるんです!」

 

「そうなの? まったくもう、聖書の神ももう少し人を選べばいいのに・・・あら?」

 

 蘭ちゃんと話しながら、リアス先輩は俺の方を見て興味深そうに眼を見開いた。

 

「あらあら。これはまた・・・」

 

「あの、できればすぐに決断してほしいんですけど!?」

 

「ちょっとグレモリー! こっちは仕事で来てるんだから、眷属にする気がないなら邪魔しないでくれるかしら!?」

 

 俺をしげしげとみるリアス先輩に、戸惑いながらの蘭ちゃんの催促と、イラつきながらの夕麻ちゃんの文句が届く。

 

 それを聞いてから我に返ったリアス先輩は、微笑みながら俺を抱きしめた。

 

「ちょうどいいわ。この子、私がもらうわよ」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 え、え、ええええええええええ!?

 

 

 

 

 

 

 

 



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旧校舎のディアボロス 2

初手から原作とは少し違う展開になってまいりました!

さて、イッセーの悪魔の転生はうまくいくのか!?


 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、レヴィアと一夏は所用を済ませてから蘭の報告を受けて駒王学園に来ていた。

 

「まさかと思ったけどやっぱり堕天使だったか。イッセーくん大丈夫だろうか」

 

「蘭も無事みたいだし、たぶん大丈夫だと思うけどな。クソッ! 堕天使の連中はなんで一般人を殺すような真似を・・・」

 

「どこの国でも似たようなことはしてるさ。いつ押されるかわからない核ミサイルの発射スイッチを壊すだなんて、僕たちのところだってやってるとは思うけどね」

 

 そう話し合いながら、二人は足早に学園の敷地内を歩いていく。

 

 向かう場所は旧校舎。そこにリアス・グレモリーが存在した。

 

「無事だよねイッセー君?」

 

「大丈夫かイッセー!」

 

 半ば飛び込むようにして目的の場所に入った二人の視界に―

 

「うぉおおおおおおお! ハーレム王に、俺は、なる!!」

 

 目を輝かせて決意を表明するイッセーの姿があった。

 

「・・・ていや!」

 

 レヴィアは躊躇なくドロップキックを叩き込んだ。

 

「痛い!? 何するんですかレヴィアさん!!」

 

 当然イッセーは悲鳴を上げるが、しかしレヴィアは聞く耳を持たずにその腕をひねる上げる。

 

「人が心配してるのに、何を暴走しているのかな君はぁ?」

 

「い、痛い痛い痛い! 誰か助けてぇええええええええ!!!」

 

 旧校舎中に、イッセーの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突だが、神話とか宗教とかの大半は、実際に存在している。

 

 神、悪魔、堕天使、妖怪、仙人、龍、魔物。

 

 あるといわれながらもその存在を疑問視され、一部では創作とすら思われている者。

 

 北欧神話しかり、ギリシャ神話しかり、中国神話しかり。古くから歴史に存在する神々のほとんどは、生存しているかはさておいて実在する存在だ。

 

 当然聖書の教えの天使や悪魔や堕天使も存在しており、彼らはかつては覇権をめぐって血みどろの争いを続けてきた。

 

 その裏で信仰を奪われてた神話体系はそれを奪い取るべく隙を伺う、そんな冷戦状態が今も続いていた。

 

 その中でも、悪魔というものは弱体化をしている勢力の一つである。

 

 長きにわたる聖書の教えの三大勢力の争いにより、純血の悪魔の大半は死んでいった。

 

 挙句の果てに、その死亡した悪魔の中には、悪魔を統率する四大魔王も含まれていた。

 

 生存した悪魔たちは残存した悪魔の中から最強の四人を選んで新四代魔王として担ぎ上げ、戦争続行を訴える元四大魔王とその賛同者を追い払い、何とか生き残ることに成功した。

 

 だが、その弱体化のスキをついてほかの神話体系や宗教が動く可能性はいくらでもある。

 

 それに対抗するべく、悪魔はある一つのアイテムを作り出した。

 

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)

 

 多種族を悪魔に転生させる能力を持ったそれにより、上級悪魔たちは自分たち直属の下僕悪魔を用意し、それによって戦力を増やしていた。

 

 人間界のチェスになぞらえたことが原因で、チェスのように互いの眷属を競わせるレーティングゲームという娯楽も生まれ、そして一種の模擬戦として本格的にはやっていくことにもなる。

 

 それによって活躍した転生悪魔は中級から上級へと昇格することができることもあって、転生悪魔は悪魔にとってなくてはならないものへとなっていた。

 

 そして、それと同じように天使や堕天使も戦力を復活させるべく動いていた。

 

 そのうちの一つとして、聖書の神が作り出したある力を利用するものが何人も生まれ出ていた。

 

 神器(セイクリッド・ギア)。聖書の神が人に与える特殊な力。

 

 そのほとんどは人間界で役に立つ程度の力で、明確な意味で自覚するものは少ない。だが、一部には異形たちと真正面から渡り合えるだけの力を持つ者がおり、そういった能力の持ち主が転生悪魔となって昇格するという話も大きかった。

 

 だが、その神器は必ずしも人に利益を与えるとは限らない。

 

 神器に適合することができず、体を病む者もいる。力にのまれ、悪逆非道に興じる者もいる。そして、力を制御できず暴走して悲劇を生み出すものもいる。

 

 兵藤一誠は、三番目になると堕天使に判断されたのだ。

 

 人間のままではいずれ大きな被害を生み出すと判断された以上、悪魔や天使といえどうかつに手を出すのは困難だった。

 

 だが、人間以上の力を手にすれば制御できるかもしれない。

 

 ゆえに、リアス・グレモリーは悪魔の駒を使ってイッセーにこう誘いをかけたのだ。

 

「あなた、私の下僕にならない?」と。

 

 もちろん普通の高校生であるイッセーは戸惑ったが、しかしある情報を聞いて手のひらを返した。

 

 それは、上級悪魔になったときの特典や特権。

 

 上級悪魔になれば、同じように悪魔の駒をもち自分の眷属を作ることができるようになるということ。

 

 そして、上級悪魔の中には自分の眷属悪魔をハーレムにしている者がいるという事実。

 

 それを聞いて、イッセーは一の二もなくうなづいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーくんらしいことだねぇ」

 

 あきれ半分関心半分で、レヴィアはそうつぶやいた。

 

 冷静に考えると恥ずかしくなったのか、イッセーも少し顔を赤くして弁解を試みる。

 

「いや、だってハーレムですよレヴィアさん! 男なら一度は憧れるって、なあ織斑?」

 

「いや、俺はあんまり」

 

「なんでだよ!?」

 

 あっさり一夏に否定されて、イッセーはどうしたものかと困り果てるが、蘭はそれを見てため息をつく。

 

「無理ですよイッセー先輩。一夏さんは枯れてるところありますから。すわれてますし」

 

「蘭!? そ、それは言うなって・・・」

 

 一夏はその言葉に慌て始めるが、しかしイッセーは全然動じなかった。

 

「ああ、レヴィアさんに食べられてるのか二人とも。んなこったろうとおもったよ」

 

「そうなんです。レヴィアさん、眷属は一度は性的に食べると決めてて・・・すごくて・・・いつの間にかずるずると・・・」

 

 すごく遠くを見始める蘭に微妙い同情心を覚えるイッセーだが、彼としては願ったりかなったりなのでまああまり深く同情はしない。

 

 とはいえイッセーとしては同性とエロいことをするのはノーサンキューなので、そういう意味では同情するべきな気もしてきた。

 

「ってことはやっぱり俺と一夏は穴兄弟なのか。よろしくな、兄弟!」

 

「うっせえよ!」

 

 思わず怒鳴ってしまう一夏だが、しかし赤い髪の少女たちの笑い声が聞こえて我に返った。

 

「あなた本当に色欲が豊富なのねぇ、レヴィア」

 

「いいじゃんかリアスちゃん。多少強引な手は使ったけど、同意の上だよ、同意の」

 

 そう親しげに言葉を交わすリアスとレヴィアを見て、イッセーは首を傾げた。

 

「あれ? そういえば二人は友達なんですか?」

 

「ああ、そうなんだよ」

 

 それにこたえるのは新しい人物。

 

 リアス・グレモリーの騎士(ナイト)、木場祐斗だった。

 

「新旧の魔王血族だからね。そういう意味では結構一緒にお茶をしたりしてるんだよ?」

 

「お茶菓子にご相伴には預からせてもらってます」

 

 戦車(ルーク)である塔城小猫もそれにうなづいた。

 

 むぐむぐと羊羹をほおばりながらなので、説得力がある。

 

 この二人のお茶会の茶菓子なのだから、実に高級で美味なものが出たのだということはイッセーでもわかった。

 

「あ、小猫? 口に羊羹ついてるよ」

 

「そう? ありがと」

 

 と、一年生同士で仲睦まじい様子を見せている中、茶葉のいい香りが部屋中に漂ってきた。

 

「あらあら。お茶が入りましたけどお代わりはどうですか?」

 

 これまたリアス・グレモリーの眷属悪魔。女王(クイーン)の駒を担当する姫島朱乃が紅茶を運びながらニコニコと笑顔を浮かべて入ってくる。

 

「一夏さんもどうぞ。いい茶葉が入りましたわ」

 

「あ、ありがとうございます、姫島先輩」

 

「そんなつれないですわね。朱乃でいいですわ」

 

 と、朱乃がより自然な笑みを浮かべながら一夏に紅茶を入れる。

 

 その様子がふと気になって、イッセーは蘭に耳打ちした。

 

「なあ、もしかして朱乃さんって・・・」

 

「一夏さんが気に入ってるみたいです。一夏さんって巻き込まれ体質だからいじりがいがあるみたいで」

 

 と、蘭はため息をつきながら羊羹をぱくつきだした。

 

「いいの? 蘭ちゃん織斑のこと好きだろ?」

 

「一夏さんはフラグメーカーなんで、もう何人かぐらいはあきらめてます。それに、今の朱乃さんは単にかわいがってるだけですから」

 

 意外と冷静な対応に、イッセーは蘭に感心する。

 

 堕天使とのもめ事の際においても冷静な対応をしていたし、彼女もだいぶいろいろな経験をしてきたのだろう。

 

 そして、それを自分もすることになるのだろう。

 

 ついさっき、冷たい目を向けてきた夕麻のことを思い出す。

 

 彼女のように殺気を向けて本当に殺そうとしてくるものと、自分たちは戦わなければならないのだろう。

 

 だが、それは当然の代償だ。

 

 ・・・すべてはハーレムを作るため、イッセーは決意を固めてこぶしを握り締めた。

 

 ハーレム王に、俺は、なる!

 




このタイミングで簡単なD×D側の説明をさせていただきました。

まったく世界観の違う二つの作品を混ぜる場合、どうしても説明会が早めに二つ必要なのが難点ですね。


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旧校舎のディアボロス 3

 

「・・・なんてこと、できるんだろうか」

 

「いきなりあきらめるなよ」

 

 イッセーは数日で挫折しかけていた。

 

 それをあきれ半分で見ながら、一夏はとりあえず話を聞く。

 

「イッセーは素人なんだから、そう簡単に仕事ができるわけでもないだろ? レヴィアから聞いたけどアンケートはすごくいいんじゃないか。そういうのめったにないぞ?」

 

「そうだけどさぁ。仕事がうまくいったわけじゃないんだから微妙っていうか・・・」

 

 イッセーはそういいながら、これまでの仕事の戦績を思い返す。

 

 一日目は、小猫のお得意さまがダブルブッキングしたのでそこに行くことになった。

 

 だが、コスプレをしてお姫様抱っこしてもらいたいという倒錯的な願いだったのでイッセーでは無理だった。ちなみに依頼人は男である。

 

 そこで物は試しと莫大な財宝や美女を願った依頼人だったが、悪魔の機器で試してみたところ、目にすると同時に命を代償にされるという悲惨な結果が出てきてしまった。

 

 人は平等ではない。それが悪魔の代名詞だ。現実は、非常に非情である。

 

「それで、朝までドラグ・ソボールごっこして遊んでたんだ。おかげでいい返事がもらえたけど、依頼は一つもできなかった」

 

「そうか、面白いもんな、ドラグ・ソボール」

 

 うんうんとうなづいたが、しかし少し同情する。

 

 可愛い系の小猫とエロすぎるだけで普通の男子であるイッセーとでは客層が違いすぎる。リベラルすぎないだろうか?

 

 だが、真の問題は次の夜だった。

 

 今度は新規に客が来たので、今度こそと気合を入れてイッセーは自転車で向かった。

 

 そこにいたのは、(おとこ)だった。

 

「魔法少女ミルキーオルタナティヴ・・・だったっけ?」

 

「うん。その魔法少女のコスプレをしてた」

 

 イッセーの言葉に一夏は脳裏に想像する。

 

 ボディビルダーかプロレスラーか・・・とでも形容するしかない筋骨隆々の男が、そんな魔法少女のコスプレをしてる姿を。

 

 五秒間想像して、素直な感想を口に出すことにする。

 

「なんていうか・・・すごいな」

 

「ああ、すごかった」

 

 願いもすごかった。なんでも魔法少女にしてくれと来たらしい。

 

 当然そんなことを言われても困るので、仕方なくアニメ全話鑑賞という形になった。

 

「最近の魔法少女って燃えるんだな。熱血ヒーローものって感じがしたよ」

 

「俺、ヒーローもの苦手なんだよ。あいつら人を救うシステムみたいな感じがしないか?」

 

「どんな中二病だよ」

 

「レヴィアにも言われたんだけど、それ」

 

 一夏として素直な感想だったのだが、なぜか理解を得られない。

 

 レヴィア曰く「フィクションの演技なんだから仕方がないじゃないか。一夏くんはもうちょっとそういうところで融通を利かせようよ。僕は好きだよ勧善懲悪」と返された。

 

 どうも自分は変なところがあると、最近思ってきている。

 

「ああ、それなのに好いてくれてる蘭にはちゃんとしっかり答えてやらないとな」

 

「おい、のろけてんじゃねえよ!」

 

 イッセーとつかみ合いになって一分後。関節をひねりあげて一夏が勝利した。

 

「痛い痛い痛い! くそ、お前なんでそんなに強いんだよ!!」

 

「これでも篠ノ之流を習ってたからな。一般人には負けないって」

 

 イッセーをサラリと制したのは当然といえば当然だ。

 

 一時期は古流武術を習い、そこそこできるようになったのが自分だ。

 

 姉である千冬にはかなわなかったが、それでもたいていの喧嘩には負け知らずだった。

 

 とはいえ、レヴィアには圧倒されるし、冥界の実力者相手にはやられることも多い。落ち込んでいる暇はないと思うが、少しは自信があったのでショックを受けたこともある。

 

 それよりも、レヴィアの眷属になってから喧嘩をした時にレヴィアに説教されたことの方がショックではある。

 

『一夏君。月並みな言葉だけど、大いなる力には大いなる責任が伴うって言葉を知るといいよ』

 

 普段は柔らかかつ余裕の表情を浮かべることの多いレヴィアが、その時は真剣に目線を合わせて言ってきたので、今でもよく覚えている。

 

『どの越えた正義は間違いなく悪だ。力を持つものは、力を持たないものに対して節度をもって接さなくてはならない。今の君はただの乱暴者だ』

 

 正直言って、昔の一夏は結構容赦がない性格だった。

 

 女の子をいじめるようなものに手加減をしたことはないし、そんなことをするような連中に手加減をする必要はないとすら考えていた。

 

 相手が悪いのにその親が怒ってくることに関しても、その程度だからその程度の子供ができるんだとすら考えていた。

 

 今にして思えば子供ゆえの理不尽さなのだろう。

 

 小さい子供は自分を中心に世界を考える。自分が正しいという根拠のない正義を掲げるものだ。

 

 それを、レヴィアは真正面から叩き壊してくれた。

 

 今の自分があるのはレヴィアのおかげだろう。

 

「ま、今の俺もまだまだなんだけどな」

 

 だから、素直にそういうことができた。

 

「そっか。そのまだまだなお前に歯が立たないんじゃ、俺は最もまだまだなんだろうな」

 

 と、イッセーはさらにため息をつく。

 

「どうしたんだよ? 何かあったのか?」

 

「いや、俺、戦闘でも役に立たないからさ・・・」

 

 そういってイッセーは、昨夜起こったはぐれ悪魔との戦いについて話してきた。

 

 転生悪魔といえど、すべてが主である上級悪魔に忠実というわけではない。

 

 上級悪魔の中には、能力が高いと見るや無理やり転生させる悪質な悪魔もいる。転生悪魔の中には、強大な力を手にしたことで暴力に酔いしれる悪魔もいる。

 

 そういった手合いが主の元を脱走して、好き勝手に暴れるのをはぐれ悪魔という。

 

 秩序の維持のため、冥界では基本的に彼らの討伐が行われる。イッセーが参加したのもそんな仕事の一つだ。

 

 その中で、イッセーは自分の無力を痛感した。

 

 転生悪魔は、チェスの駒を模した役割を持つ。

 

 魔力を強化する僧侶(ビショップ)

 

 速さを強化する騎士(ナイト)

 

 力と硬さを強化する戦車(ルーク)

 

 そしてそれらすべてを強化する女王(クイーン)

 

 その力を最大限に駆使したリアス・グレモリー眷属の戦いぶりに、一夏はだいぶ自身を喪失していた。

 

「木場も小猫ちゃんも朱乃さんもむちゃくちゃ強かった。俺は何もできなかったよ」

 

 心底落ち込んだという顔で、イッセーは沈み込む。

 

 それを見て、一夏はため息をついた。

 

「お前、何言ってんだ?」

 

「何言ってんだじゃねえよ。・・・だって、皆はぐれ悪魔相手に全然苦戦しなかったんだぜ?」

 

「そうじゃないって。俺が言ってるのは、だったら落ち込んでる暇なんてないって話だよ」

 

 その言葉に、イッセーは顔を上げる。

 

 そこに映った一夏の表情は何かつらいものを耐えている者の顔だった。

 

「俺だって、自分が強いだなんて思ってない。少なくとも、俺より強い悪魔なんて何人もいる。木場たちより強い悪魔だって何人もな」

 

「マジかよ。そんなのでも上級悪魔になれないのか?」

 

「ああ、冥界は貴族主義が多いらしいし、まがい物が大きな顔をするのは誰だっていやだろってレヴィアは言ってたけどな」

 

 そう返しながら、一夏は昔のことを思い出す。

 

 今でも手に取るように思い出せる。

 

 あれは自分の弱さの象徴だ。

 

 最も敬愛する姉の栄光に泥を塗った。

 

 自分を愛してくれるものを巻き込んだ。

 

 そして、敬愛する主の心に大きな傷を負わせた。

 

 その原因の一つは間違いなく自分の弱さであり、そしてそれを払拭くできないでいる。

 

「月並みな言葉だけどさ、だったら強くなるしかないだろ」

 

「・・・織斑はむちゃくちゃ強いだろ? それでもまだ足りないのかよ」

 

「ああ、足りない。全く足りない」

 

 一夏はそういうと、空を仰ぐ。

 

「俺は、ISよりも強くなりたいんだ」

 

「ISより!? おいおい、すごいこと言うな」

 

 イッセーが驚くのも無理はないだろう。

 

 ISは世界最強の兵器だ。

 

 連合艦隊をたった一機で手玉に取るほどのポテンシャルは伊達ではない。最高級の戦闘機に匹敵する最高速度で、まるでゲームのようにGを感じさせない運動性能を発揮するのだ。そして万が一当たっても、機銃の一発や二発では落とされてはくれないほどの頑丈さも持っている。

 

 男と女が戦争すれば、世界は三日も持たないとはたとえではあるが伊達ではない。ISという圧倒的な兵器の差は、それほどまで揺らがないのだ。

 

 それを倒すだなんてむちゃくちゃだと思うが、しかし一夏の表情はなんとことがない顔だった。

 

「実際、上級クラスにもなればISを一対一で倒すことだって不可能じゃないんだぜ? 機動力では苦戦するけど、火力と防御力が違いすぎる」

 

「そんなに違うのか?」

 

「あ。下の上だって戦車と攻撃ヘリを足して二で割らないぐらい。上になればそれが束になったって圧倒できる」

 

 実際そういう世界だから笑えない。

 

 ドラグ・ソボールほどではないが、たった一人の精鋭が万を超える軍勢を蹂躙することだって、決して不可能ではないのがこの世界だ。

 

 少なくとも上級悪魔なら一撃でイージス艦を航行不能にすることだってできるだろう。

 

「最上級悪魔クラスが暴れれば、地方都市ぐらいなら更地になるからな。ISでも一機じゃ倒せないのがこの世界だよ。・・・そして、そんな領域に俺達だってなれるんだ」

 

「なれるか、それ?」

 

「なれるさ、少なくとも俺はなる」

 

 拳を握り締め、一夏はそう断言する。

 

 それは、誓いだ。

 

 弱い自分を払しょくし、強くなることを決意した男の誓い。

 

「俺は、女を守れる男になりたいんだ」

 

 かっこいいからとかそういうわけではない。

 

 今時男が女より強いだなんて時代錯誤だ。

 

 ISの使用者はいまだ女性が多いとかそういう話ではなく、科学の発達は男女の垣根を削っていくものだからだ。

 

 冥界の実力者のも女は多く、レーティングゲームの序列二位や四大魔王の1人など、桁違いの実力者が多くいる。

 

 それでも、それでもだ。

 

「男の意地ってやつだよ。ISを超えることができるなら、超えて守れるぐらいじゃないと駄目だろ?」

 

 そういう一夏の顔は決意に満ち溢れており、イッセーは素直に感心した。

 

「お前、変わってるって言われるだろ?」

 

「元女の敵に言われたくねえよ」

 

 そういうと二人して自然と笑うが、そこでイッセーは話を続ける。

 

「ま、先ずはリアス部長に怒られないようになることから始めてみるさ」

 

「そうなのか? レヴィアはリアス先輩はお前のこと気に入ってるって言ってたけど」

 

「いや、実はシスターを道案内して怒られてさ・・・」

 

 そういいながら和気あいあいと話す姿は、かつて叩きのめされた側と叩きのめした側だとはとても思えなかった。

 

 このあたり、兵藤一誠は人徳がある少年だということだろう。

 



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旧校舎のディアボロス 4

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事態が急変したのは次の日の朝だった。

 

「リアス先輩から呼び出しって、いったい何なんだ?」

 

「それが、何でもはぐれ悪魔祓いが出てきたみたいなんです」

 

「これまた面倒なことだね。このあたりは悪魔の勢力図になって久しいんだけど」

 

 そう言葉を交わしながら、レヴィア達は生徒会室に足早に向かっていた。

 

 早朝、リアスから火急の要件が出てきた。

 

 なんでも、兵藤一誠が悪魔の仕事で家に向かったところ、はぐれ悪魔祓いと鉢合わせたというのだ。

 

 悪魔祓いというのは、教会に属して悪魔を滅ぼす戦士たちのことである。

 

 天使の力を借りて光力をふるう悪魔祓いは、優秀なものならば上級悪魔でも警戒に値する実力を発揮することもある。

 

 敬虔な信徒である彼らは、そうであるがゆえに誠実でありまじめな人物であることが多い。少なくとも善の側の存在であろうとしている者たちが大半だ。

 

 だが、彼らも人間。中には殺戮の快楽の酔いしれ、道を外すものもいる。

 

 そういった者たちの多くは粛清されるが、中には逃げ出して堕天使の庇護下に入る者たちも何人もいるのだ。

 

 どうにもそのうちの一人と出くわしたらしい。

 

 しかも堕天使も何人も関与しているらしい。

 

 数を減らした堕天使にしては相当の規模の事態といえる。これは現地レベルとはいえ警戒に値する状況に違いなかった。

 

「・・・遅くなって失礼。それで話は?」

 

 生徒会室に入るなり、レヴィアはそう尋ねた。

 

「とりあえず、いまのところは膠着状態ですね」

 

 そう返すのは、支取蒼那ことソーナ・シトリー。

 

 現レヴィアタン、セラフォルー・レヴィアタンの妹。そしてシトリー家の次期当主である彼女は、ある目的のために駒王学園に転入している。

 

 そして、彼女もまたこの地の悪魔の一人である以上事情は聴いている。。

 

「あくまで偶発的な戦闘でしたので、こちらとしてもこれ以上のもめ事は避けるべきでしょう。三大勢力の戦争を私たちの勝手な都合で行うわけにはいきませんから」

 

 冷静にそう答えながら、ソーナは資料を提出する。

 

 そこに映っているのは白い髪の神父だった。

 

「できれば私は相当の報復をしたいのだけれど? だってイッセーが襲われたんだもの」

 

 不機嫌そうな表情を浮かべて、リアスは足を組みなおした。

 

 情愛の深いグレモリーの中でも、特にリアスは情愛が深い人物だ。

 

 イッセーのことも可愛いと思っておりお気に入りであり、それゆえに相当腹に据えかねているのだろう。

 

「まあ落ち着いて。うかつに事を大きくするわけにはいかなでしょ?」

 

 レヴィアはそういってとりなすが、しかし心中は穏やかではない。

 

 レヴィアにとってもイッセーは可愛い弟分だ。できることなら落とし前はつけさせておきたかった。

 

「とりあえず、組織の一員として動いているのか独自に動いているのかは調べないとね。まずはそこから判断しないと」

 

「それについては眷属を動かしています。どうやら独自に動いているようですね」

 

 ソーナの動きは実に素早かった。

 

 つまり、今回の件はあくまで現場による独断。其れならやりようはいくらでもある。

 

 現場で小競り合いの殺し合いが起きることなど日常茶飯事。別段珍しいことでもない。

 

 ましてや新旧魔王の血族があつまっているこの街で事を起こしたのだ。相当の報復をされても独断行動ならどうとでもなるだろう。

 

「OK。だったら今回の件はリアスちゃんがメインで、僕たちがバックアップに回ろうか。ソーナちゃんは念のため警戒しててよ」

 

「意外ね。兵藤くんはレヴィアのお気に入いりみたいだし、自分でどうにかするものだと思ったけど」

 

「人の眷属の報復にでしゃばる気はないよ。まあ、やってくれっていうならやるけど」

 

 そういいながら視線を向けるレヴィアだが、リアスは不敵な笑みを浮かべると立ち上がった。

 

「結構よ。私の下僕のお礼参りは私がするわ」

 

 そうはっきりと断言してから、リアスはしかし少し顔を曇らせた。

 

「とはいえ、できれば手助けしてほしいところもあるのだけれど」

 

「何かしら? 正直、あなたたちだけでも事足りる戦力だと思うけれど?」

 

 ソーナの疑念ももっともだが、しかしリアスが語ったことは別の意味で面倒なところだった。

 

 なんでも、イッセーがその堕天使勢力のシスターと懇意になっていたらしい。

 

 どうも不当な理由もしくは騙された形で堕天使側に入ったらしい。イッセーとしてもできることなら助けたいと思っているようだ。

 

「話を聞く限り堕天使に与するような子じゃないらしいし、助けられるのなら助けてあげたいのだけれど、そちらは許可してくれるかしら?」

 

「ああ、そういえばシスターを道案内したとかそんなこと言ってましたね」

 

 一夏も昨日聞いた話を思い出して、詳しく説明する。

 

「そんなことあったんですか。なんていうか・・・すごい偶然ですね」

 

「引きが強いというかなんというか。さすがはリアスちゃんの眷属だねぇ」

 

 あきれ半分で蘭とレヴィアが感心し、それを聞いたリアスはほおを膨らませる。

 

「どういう意味よ」

 

「言ったとおりだよ。君、レアキャラばかり引き当ててるじゃんか」

 

 リアスの眷属の特性を思い出しながら、レヴィアは軽く笑う。

 

 彼女の眷属は、その来歴だけでいうのならば間違いなく最上級だ。

 

 しかも実力も若手の中では優秀極まりない。間違いなく将来的にレーティングゲームのトップにたてるだろう。

 

「そういえば、イッセーくんに自分の駒価値伝えてないのかい? あの子、だいぶ落ち込んでたけど」

 

「・・・そういえばそうね。転生の時に駒は見せたはずなのだけど」

 

 イッセーくんは結構ぬけてるところもあるからねぇ。とレヴィアは苦笑した。

 

「できれば伝えてやってください。あいつ、結構落ち込んでましたから」

 

「そうね、わかったわ織斑くん」

 

 リアスが一夏にそう告げたとき、部屋に飛び込んできた人がいた。

 

 その影を見て、蘭はきょとんとした表情を浮かべる。

 

 彼は慌てて飛び込んでくるような類ではなかったからだ。

 

「あれ? 木場先輩じゃないですか」

 

「や、やあ五反田さん。・・・部長、大変です」

 

 さらりと挨拶をするのはさすがだが、しかし表情は割と切迫していた。

 

「・・・兵藤君が、堕天使に襲われました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レヴィア・聖羅は兵藤一誠のことをよく理解している。

 

 彼は、基本的にはただの一般人だ。

 

 先祖代々さかのぼっても、異形の猪児にもかかわってこなかった生粋の一般人。そんな中に突然神滅具が降ってわいても向こうが困るだろう。

 

 性格は、読んで字のごとし。スケベすぎるのが難点だが、それさえ除けは一つのことにまじめに取り込み、仲間に対しては誠実であろうとする近年そうは見かけない好漢だ。

 

 一度覗きを強行しているので女子からの人気は高くないが、しかしいい側面をちゃんと見てくれているので、普通に話し合う程度のことならば数多い。

 

 そして何より、彼は今時珍しいぐらいの情熱的なパワータイプなのだ。

 

 一度こうすると決心したのなら、上記の特性はすべてその補佐に回る。

 

 ・・・つまり、リアスはイッセーを説得できなかったということだ。

 

「だからって下僕だけで行かせる? また豪快な手段をとってくれるねぇ」

 

「大丈夫よ。祐斗と小猫がいるなら、たとえ相手が中級堕天使だってどうにかなるわよ」

 

 そういい合いながら二人が見下ろすのは、堕天使レイナーレが連れてきた三人の堕天使だ。

 

 調子に乗っていたのか、上に黙って行動しているということまでぺらぺらとしゃべってくれて助かった。おかげで行動を躊躇する必要性が欠片もなくなったのだ。

 

 これは完璧に人の領地で実験行為を行った堕天使側が悪い。殺されても文句は言えないだろう。

 

「うん、だけど殺すのはやめておこうか」

 

「そう? 私としては落とし前はつけておきたいのだけれど?」

 

 バチバチと魔力を漏らすリアスをみて、下級でしかない堕天使たちはガタガタと震えている。

 

 今更になって格の差を突き付けられて、心が折れていたといっても過言ではなかった。

 

 それをかばって両手を前に出したレヴィアがなだめに入る。

 

「落ち着きなよリアスちゃん。ここはイッセーくんの気持ちも考えてあげないとね」

 

「イッセーの?」

 

 その言葉に、リアスは何か問題があったかと考えて思い直す。

 

 特にこれまでの悪魔としての対応に問題はなかったはずなのだが・・・。

 

「・・・血を見たこともない一般人の前で、不用意に殺しをするべきじゃないって話だよ」

 

「そんなに問題かしら? 死刑にされて当然の行動をしているものしか滅してないのだけれど?」

 

 リアスからしてみれば心底疑問だった。

 

 脱走した挙句人間を襲う悪魔に、自分の領地で実験を無断で行ってる堕天使。

 

 どちらも尋ねるまでもなく滅ぼす対象だ。堂々と見せつけてもむしろ誇らしさしか出てこないが・・・。

 

「普通の人間はね、目の前で殺しなんてものが行われたらショックを受けるんだよ。そのあたりしっかりと考えて行動しなきゃだめだよ」

 

 そうたしなめてから、レヴィアは廃教会に視線を向ける。

 

 堕天使たちの言っていたことが本当なら、すぐにでも助けに行ってやりたいところだ。

 

 だが、イッセーのことを思うともう少しだけ任せてみたいという感情も沸き上がる。

 

 これはきっと、兵藤一誠の殻を破るチャンスなのだ。

 

 リアスそれは同意見なのか、無言で廃教会を見つめていた。

 

「あらあら。では、私はこのカラスたちを堕天使たちに引き渡す手続きを行ってまいりますわ」

 

「お願いね、朱乃。あと、少し心配だからできれば早めに戻ってきて」

 

「それは心配ないでしょう。だって、一夏くんがいるんですもの」

 

 ニコニコしながら朱乃はさらりと流し、堕天使たちを魔法陣の中に送り込んでいく。

 

「・・・勝てるかな?」

 

 レヴィアは不安に駆られて尋ねるが、リアスはむしろ自信ありげだった。

 

「勝つわよ。ええ、必ず」

 

 その確信の理由がわからなくて、レヴィアはそれを聞いてみた。

 

 そして、理由を聞いたら確かに確信できるもんだと納得した。

 

 ああ、それは確かに根拠にしては十分すぎるだろう。

 



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旧校舎のディアボロス 5

 

 イッセーたちは教会を探し、地下室をすぐに発見した。

 

 どう考えてもそこで実験をしているのは明白だ。

 

 実験の内容はわからないが、アーシアがただじゃすまないことは簡単に想像できる。

 

 ゆえに、とにかく急いでイッセーは階段を下りていた。

 

「うぉおおおおおお! アーシアぁあああああ!!」

 

 両開きの扉を蹴破って、イッセーは祭壇の間に殴りこんだ。

 

 そこで儀式を見学していたはぐれ悪魔祓いたちが一斉に振り返るが、しかしイッセーはそいつらには全く構わない。

 

 彼の目に映るのは、まるで聖書の神の子のごとく十字架にはりつけにされた金髪の少女と、その少女の隣に並んでいるかつての恋人の姿だったのだから。

 

「アーシア! ・・・夕麻ちゃんも」

 

「クソガキ風情が私の名前を呼ばないでくれる? ミッテルト達は何をしているのかしら?」

 

 不快感を隠しもしないで、しかしレイナーレは十字架から放たれる魔法陣を操作する。

 

 操作が進むごとに光も強くなっていく。

 

 ああ、これはまずい。

 

「何をする気なんだ! アーシアを離しやがれ!!」

 

 何とか駆け寄ろうとするイッセーに、悪魔祓いたちが襲い掛かる。

 

 兵士(ポーン)の駒の特性を戦車(ルーク)に代え、強引に突破しようとするが、しかし数が多い。

 

 このままでは間に合わない。そう心のどこかで認めてしまったその時だった。

 

「こらこら、イッセーくんは独断専行しすぎだよ」

 

 悪魔祓いたちの持つ光の剣が、急激に弱弱しくなって消えていく。

 

 そして、そこに飛び込んだ影が手に持った剣を一閃すると、漫画みたいに人が吹き飛んだ。

 

「本当です。追いかけるのも大変だったんですから、ちゃんと後ろを見てくださいね」

 

「木場、蘭ちゃん!」

 

 イッセーは感動して涙を流しそうになるなが、しかし腰のあたりをむんずとつかまれてそれどころではない。

 

 形容するまでもなく持ち上げられている。しかも視線を合わせれば、一夏も一緒に持ち上げられていた。

 

「お、織斑? これ、どういうことだ?」

 

「あきらめろイッセー。これが一番早い」

 

 そろりそろりと下を向けば、そこには軽々と大の男二人を抱えている小猫の姿があった。

 

「行ってらっしゃいイッセー先輩に一夏先輩」

 

 そのまま豪快に、十字架に向かて二人は投げ飛ばされる。

 

 そんな状況で、一夏は冷静に剣を引き抜いていた。

 

 片刃の両手剣を持ち、一夏はたどり着くと同時に一閃。

 

 十字架の基部を切り裂き、そしてそれをイッセーに押し出した。

 

「うぉ・・・重い! マジで重い!!」

 

「頑張ってそのまま逃げろ! こっちは俺が―」

 

 言いながらレイナーレに切りかかるが、しかしレイナーレも負けてはいない。

 

 光の槍で攻撃をかろうじて防ぎながら、高い天井のギリギリまで舞い上がってにらみつける。

 

「下級悪魔の群れの分際で、この私の偉大な計画の邪魔をしてくれるとはね・・・!」

 

「何が偉大な計画だよ。上に黙ってこそこそとしてるって聞いてるぜ!!」

 

 真正面から剣と槍をぶつけ合いながら、一夏は吠える。

 

 そう、そのあたりはレヴィアによって確認がすでに取られている。

 

 だから、ここで彼らと殺し合うことには何の問題もないのだ。

 

 ゆえにこちらも遠慮はしない。

 

 もとより、悪を倒すのに容赦するような性分ではないのだ。殺しても問題ないというリミッターの軽減も手伝い、一夏はしっかりと全滅させるつもりでいた。

 

 その気迫を察知したのか、レイナーレもまた吠える。

 

「だったらこっちも容赦しないわよ! ・・・フリード!」

 

「はいはいはい~。めんどくさいけどやるしかないのよね~」

 

 そういいながら、白髪の神父が部屋の隅から現れた。

 

 目を見るだけで、彼が狂気にとらわれた人物であることがすぐにわかる。

 

「フリード。こいつらを始末しなさい! あなたならできるでしょう?」

 

「かしこまりました~! まあ、俺様ちゃんにはこんな素敵☆アイ♪テムが存在するからりんと!!」

 

 そういいながら引き放つのは手首につけられた腕輪だった。

 

 だが、それはただの腕輪ではない。

 

「・・・まさか」

 

「そんの、まさかちゃんだよん!」

 

 一瞬でフリードは光に包まれる。そしてその四肢に鋼の鎧を纏い、背中には鋼鉄の翼が生える。

 

 IS。インフィニット・ストラトスが、異形たちの戦いの場に現れた。

 

「ほい! そういうことで雑魚の方々はさっさと退散してちょ♪ こっから先は―」

 

 次の瞬間には、十メートル以上離れていた一夏の目の前で、フリードはブレードを振り上げていた。

 

「巻き込まれて、死んじまうぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか十字架ごと階段を上りきったイッセーは、そのままへたり込んで息を吐く。

 

 走りすぎて気持ちが悪く、少しはいてしまったが何とか大丈夫だ。

 

 少し休めばまた走れる。まあ、その時は十字架の方はおいていこうと思っているが。

 

「だ・・・大丈夫か・・・アーシア」

 

「イッセーさん・・・」

 

 アーシア・アルジェントは涙を浮かべながら、静かに首を振っていた。

 

「私を置いて行ってください。そうすれば、レイナーレ様もイッセーさんを襲いに行ったりはしないはずです」

 

 この期に及んで心から他人の心配だけをするアーシアに、イッセーは苦笑してその額を小突いた。

 

「いたっ!」

 

「馬鹿なこと言うんじゃねえよ。俺がアーシアを見捨てるわけないじゃないか」

 

 そういいながら立ち上がると、イッセーはアーシアにかけられた拘束を解こうとやっきになる。

 

「ハンバーガー、うまかったよな? ゲームセンターも面白かったよな?」

 

「は、はい。主に怒られてしまいそうな気もしますが、楽しかったです」

 

「勝手に怒らせときゃいいんだよそんな奴ら。結局アーシアに何もしてくれないんだから」

 

 しいて言うなら神道と関係の深いイッセーからしてみれば、祈りに対して何も返さない神様なんてこちらから願い下げだった。

 

 アーシアには、そんなものに振り回される方がどうかしているって気づいてほしいと常に願う。

 

「これが終わったら、部長かレヴィアさんにでも頼んで、アーシアの居場所用意してもらうから。だから、アーシアはもっと俺を頼ってくれ」

 

「そんなわけにはいきません! 見ず知らずの他人にご迷惑をかけるだなんて・・・」

 

 そんな失礼なまねはできない。そう言おうとしたアーシアだったが、それより先にイッセーの声が届いた。

 

「友達を助けるのなんて、当たり前のことじゃないか」

 

 ・・・その言葉が、アーシアの心に深く届く。

 

 アーシア・アルジェントは、翻弄され続けの人生を送ってきた。

 

 生まれたときから孤児院に預けられ、そこで質素ながらも人並みの暮らしを得ていた。

 

 偶然他者をいやす力に目覚め、それによって聖女として祭り上げられた。

 

 信徒はみな敬ってくれたが、決して友達はできない院生でもあった。

 

 そして、悪魔を治したことで魔女として追放され、堕天使の元に転がり込むことになった。

 

 本当にいろいろと不幸な人生だ。

 

 今、その人生を真正面からぶち壊そうとしてくれる少年がいる。

 

 それはきっと、心のどこかでアーシアが求めてやまなかったものなのだろう。

 

「私、シスター失格ですね・・・」

 

「辞めちまえばいいだろ、そんなもん」

 

 イッセーはばっさりと言い切った。

 

 彼にしてみれば、こんなかわいくて優しい子に救いをもたらさない神なら、いない方がましだとすら言いきれる。

 

 信仰はすくわれるという見返りあってのものだ。それがないなら信仰する必要なんて欠片もなかった。

 

 だから、神じゃなくて自分がアーシアを救って見せる。

 

 そう思い、神器を展開しながら十字架を破壊しようとして。

 

「あら駄目よ。その子は私が使うんだから」

 

 その足に、光の槍が深々と突き刺さった。

 



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旧校舎のディアボロス 6

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕、木場祐斗はISの戦闘を間近で見ることはこれが初めてだ。

 

 人間界における最強の戦術兵器、IS(インフィニット・ストラトス)

 

 正直に言えば、少し侮っていたといってもいい。

 

 強力とはいえ所詮は人間界の兵器。武闘派の上級悪魔クラスが一人いれば、充分撃破できる。狭い屋内なら僕達でも勝算があるだろう。

 

 ・・・甘かった。心からそう反省してしまうほどに甘かった。

 

「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」

 

 その動きはあまりにも速く、迅かった。

 

 一瞬で目で追いきれない速度に到達したと思ったら、それを壁に激突する前に減速して跳ぶように別方向へ。

 

 そして、隙をついて手に持っているブレードで切りかかる。

 

 ただそれだけの稚拙な戦法なのに、僕たちは手も足も出てなかった。

 

「これが、男女両用型ISの性能なのか・・・!」

 

「いえーすでーす。これが人類統一同盟から流出した男女共用型ISコアと、日本第二世代IS「打鉄」の性能でーす。さすが、技術大国ニッポン!!」

 

 口調はふざけた調子だが、しかし実力は本物だ。

 

 あれだけのスピードの動きを目で追って確かに反映させられる。それができるからこその脅威といっていい。

 

 少し、科学を舐めすぎていたようだ・・・。

 

「まあ、そんなわけで君たちにはそろそろ終わってもらおうかなんと思っているわけですよ? どうする? どうする? もうちょっと頑張っちゃう?」

 

 ぜひそうしてくれた方がこちらも楽しめる。

 

 そういわんばかりの醜悪な表情を浮かべながら、その少年はブレードを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やらせねえよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕が反応するより早く、それをブレードが弾き飛ばす。

 

 ISにはかなりのパワーアシストがかけられている。それをあっさり突破するとは、いったい何が起こってるんだ?

 

 だが、その疑問はあっさりと解消された。

 

「あ~あ。レヴィアさんの許可もなく使ったら、今夜はお仕置きですよ?」

 

 五反田さんが苦笑しながらため息をつき。

 

「・・・また、IS」

 

 小猫ちゃんは目を大きく見開いた。

 

 そこにあるのは白と青で塗り分けされたスマートな機体。

 

 フリードが纏っている打鉄よりもスマートなそれは、一目で高性能機であることがすぐにわかった。

 

「・・・おんやぁ? そっちも流出したISコア使っちゃってるの? ちょっとちょっと、興ざめ何だけ・・・ど!!」

 

 フリードはそう文句を言いながら、ブレードを使って切りかかる。

 

 だが、それは織斑くんには届かない。

 

 すべてをあっさりとかわし、織斑くんは一瞬でフリードの後ろに回り込む。

 

「俺の・・・」

 

 それにフリードは反応して振り返りざまに切るが、織斑くんは軽くジャンプするようにしてそれをあっさりと避ける。

 

「・・・仲間に・・・」

 

 そして反対側に回り込むと同時に、勢いよくブレードを振り上げた。

 

「・・・手を出すんじゃねえ!!」

 

 その一撃はスラスターを損傷させ、シールドエネルギーを大きく削る。

 

 なんて破壊力、そしてなんて技量。

 

 相当の技術で開発された武器を、相当の技量で振るわなければあそこまでの威力は出すことはできないだろう。間違いなく高水準の一撃だった。

 

 他国の代表候補生に匹敵するであろうレベルの脅威。それが目の前にあった。

 

「・・・う~ん。これはちょっちやばいかねえ」

 

 フリードはそういうと、ロケットランチャーを取り出すと真上に向ける。

 

「悪いが今回は帰らせてもらうぜイケメン&ロリコンビ! 次あったときが、本当の殺し合いだ!!」

 

「な、待て!!」

 

 織斑くんはすぐに追いかけようとするが、しかしフリードが引き金を引く方が早い。

 

 天井が崩落し、そこからフリードが強引に脱出する。

 

 一夏くんは追いかけるよりも倒れた人を崩落から救うことに意識を傾けたので、追撃は困難だった。

 

「逃げられましたね」

 

「ああ」

 

 五反田さんと僕は、苦い顔でうなづき合う。

 

 あのまま戦えば、間違いなく織斑くんが勝っていただろう。

 

 生身での戦闘能力は互角だっただろうが、ISの性能とISの動かし方では織斑くんの方が上だった。

 

 それがわかったからこそ、フリードは仕切り直しを選択したのだ。

 

「・・・また来たら面倒」

 

 小猫ちゃんの気持ちもよくわかるよ。正直話していて疲れるタイプだしね。

 

 それに、今度仕掛けてくるときはもっと広いところだろう。屋外の可能性が非常に高い。

 

 この地下室もかなり広いけど、ISクラスの機動兵器の本領を発揮するには足りないだろうからね。

 

「何度来たって関係ない。俺が、必ず守ってやるさ」

 

 織斑くんは微笑みながらそう言ってくれるが、しかしそれは呑み込めない。

 

「それじゃあグレモリー眷属の名折れだよ。僕も、皆を守って見せるさ」

 

 そう、僕はグレモリーの騎士だ。

 

 仲間を守るのは織斑くんだけの仕事じゃないからね。

 

 その言葉を聞いて、織斑くんは不敵な笑みを浮かべる。

 

「そうだな。俺もIS抜きでこれぐらいはできるようになってやるさ」

 

「ああ、お互い頑張ろうね」

 

 そういい合い、僕たちは握手を交わした。

 

 やはり彼は侍の血筋を感じさせる。とても好感の持てる在り方だった。

 

「って皆さんのんびりしてる場合じゃないです! イッセー先輩を助けに行かないと」

 

 そういえばそうだった。

 

 持ちこたえていてくれよ、イッセーくん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両足が激痛で震えて、しりもちをつきそうになる。

 

 だが、イッセーは決して倒れなかった。

 

「案外持つわね。並の下級悪魔ならこれで殺せてるんだけど、結構素質があったのかしら」

 

『Boost』

 

 そうあきれながら、レイナーレは槍を新たに生み出して一歩一歩近づいていく。

 

「夕麻ちゃん。アーシアに何をする気だ!?」

 

「その子の神器をいただくのよ。そして私に移植するの」

 

 レイナーレはそういいながらほほ笑む。

 

「その子の神器の名前は聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)。回復系の神器の中でも、桁違いの能力を持った一品なの」

 

『Boost』

 

 レイナーレは簡単に告げてくれる。

 

 元来、回復の力を持った神器はいくつも存在する。

 

 だが、その大半は聖書の神に祝福された存在に限定され、悪魔や堕天使には効果を発揮しない。

 

 もし発揮するのならば、禁手(バランス・ブレイカー)という進化形態に到達してあるいは、という形になるのだ。

 

 だが、アーシアの神器はそんなことをしなくてもけがを治療してくれる。それも、禁手に匹敵する圧倒的な回復量でだ。

 

 もし、堕天使の中にそんな力を持つものがいれば、そんな存在が重宝されないだなんてあるだろうか。

 

「そう、その子の力を使って、私は至高の堕天使になるの! だから、死んで頂戴?」

 

 そう笑顔でいうレイナーレは、常軌を逸しているように見えた。

 

 少なくとも、何も悪いことをしていない少女に対して、殺すと告げる表情ではかけらもない。

 

『Boost』

 

「ふざけんな! なんで殺す必要があるんだ! そんなことしなくても神器だけ抜き取ればいいだろうが!!」

 

「ごめんなさいねぇ。今の技術だと、殺さないで抜き取るなんてできないのよ。だから、悪く思わないでくれるかしら」

 

 イッセーの弾劾もレイナーレには届かない。

 

 今のレイナーレの目には、自分が栄光をつかむ姿しか見えていない。

 

 人の命に価値を見出していないも同然の表情だった。

 

「ふざけんな! デートの時の優しい夕麻ちゃんはどこ行ったんだよ! 全部演技だったってのか!?」

 

『Boost』

 

 イッセーは、今でもあのデートはいい思い出だったと思っている。

 

 何の変哲もないデートだが、笑顔の夕麻が見れただけでも頑張った買いがあったと思っていたのだ。

 

「ええ、実にありきたりなデートだったは。素人のガキが初めてデートになったらああなるわね。デート自体はつまらなかったけど、舞い上がってるあなたを見るのは楽しかったわよ?」

 

「・・・素敵な名前だなって、思ったんだぜ?」

 

「頑張って付けたもの。貴方は赤が似合うから夕暮れ時に殺そうと思ってつけたの。皮肉が効いてるでしょう?」

 

「・・・・・・告白されたの、初めてだったんだ」

 

「私みたいな可愛い子に告白されて舞い上がっちゃったんだ。うふふ、童貞らしいわねぇ」

 

『Boost』

 

「レイナーレぇえええええ!!!」

 

「あっははは! 腐った悪魔の餓鬼が私の名前を呼ぶんじゃないよ!」

 

 そういうなり、レイナーレは光の槍を連続して放つ。

 

「そこで串刺しになってなさい!!」

 

 本来、この戦いは勝負にはならないだろう。

 

 神器をろくに覚醒させていない。戦闘経験が全くない。ましてや戦うための技術を何一つ習得していない。そして何より下級悪魔。

 

 無い無い尽くしの状況で、しかし彼は最後まであきらめなかった。

 

―ゆえに、この勝利は必然である。

 

『explosion!』

 

 イッセーの左腕が赤く輝き、そして莫大な出力が放出される。

 

 その力の奔流に対して、イッセーは躊躇なく一歩を踏み出していた。

 

 戸惑っていたらレイナーレを逃がしてしまう。それだけは絶対に許せない。

 

「うぉおおおおおおおおお!!!」

 

 迫りくる光の槍を体当たりで粉砕し、イッセーは足を進める。

 

「・・・え、な、なんなの!?」

 

 レイナーレは恐怖に駆られて逃げ出そうとしたが、しかし間に合わない。

 

 すでにイッセーに足をつかまれ、動きを封じられた彼女になすすべはなかった。

 

「吹っ飛べ、クソ堕天使ぃいいいいいい!!!」

 

 その全力の拳は、すでに上級悪魔の領域にすらとうたつしたものだった。

 

 その渾身の拳は、平凡な少年が、勇気を振り絞て放たれた一撃だった。

 

 ゆえに、レイナーレに耐えられるわけがなく―

 

「私は、至高の堕天使に―」

 

 その拳は、レイナーレをその願望ごと粉々に打ち砕いた。

 



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旧校舎のディアボロス 終

 

 上半身が粉砕されて、そして塵になるレイナーレ。

 

 その光景を、イッセーは胸に重いものを感じながら見つめていた。

 

 ・・・生まれて初めて、他者の命を奪った。

 

 その事実に心が震えて、何か言いたくなって―

 

「よ、お疲れさん」

 

 と、肩をたたかれて我に返った。

 

「・・・織斑」

 

「いろいろあったけど、とりあえず後ろを見てみな」

 

 そういわれて後ろを向くと、小猫と蘭に拘束を引きちぎられたアーシアが、祐斗に上着をかけられている光景だった。

 

「あれが、お前が守り抜いた戦果だ。それを忘れたらいけないぜ?」

 

「・・・ああ」

 

 アーシアを、守りきることができた。

 

 それは、それだけは誰にも否定させない自分の結果だ。

 

 命を奪う衝撃は未だ残っているが、しかしさっきより気にならなくなっている。

 

 それは、それだけの価値があることだと自分の中で結論ができたからだろう。

 

「ありがとな、織斑」

 

「気にするなって」

 

 そういいながら、一夏はイッセーに肩を貸した。

 

 まだ足に大けがを負っているイッセーに無理をさせるわけにはいかないからだ。

 

「やあ、みんなよくお疲れさま」

 

「あらあら。皆さんご苦労様ですわ」

 

「イッセー。よく頑張ったわね」

 

 と、廃教会の扉を開けてレヴィア達が微笑みながら入ってきた。

 

「はい、すべて終わりました部長。それで、外の方は?」

 

 木場が訪ねると、リアスは微笑みながら後ろ指し示した。

 

 そこには、ぼろぼろになった堕天使が三人、気絶した状態で拘束されていた。

 

「本当なら滅してもよかったのだけれど、レヴィアが死人は少ない方がいいっていうものだから」

 

「それは当然だろう? イッセーくんは素人なんだから、ちょっとは手加減してあげないと」

 

 頬すら膨らませるレヴィアの心遣いに、イッセーは涙が出そうになった。

 

 正直レイナーレ一人でも結構苦しかったのだ。長い間続けばどうなるか分かったものではない。

 

「イッセーさん!」

 

 と、そこにアーシアが体当たりをするかのように抱き着いてきた。

 

 傷が痛むがそれを無視して、イッセーはアーシアの頭をなでる。

 

「大丈夫か、アーシア」

 

「私なんかよりイッセーさんです! こんなに怪我なんてして・・・」

 

 涙すら浮かべてアーシアはイッセーの治療を開始しする。

 

 その姿が何だか微笑ましくて、イッセーは満面の笑みを浮かべるとそっと抱き寄せた。

 

「い、イッセーさん」

 

「アーシア」

 

 静かに、イッセーは手を差し伸べる。

 

「おかえり、アーシア」

 

 その言葉に、アーシアは別の理由で涙ぐみ、しかし笑顔で返す。

 

「はい、ただいま、イッセーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新入りの歓迎会をするから参加しないかといわれたけど、何が出るんだろうかねえ」

 

 わざわざ朝食を抜いてくるという子供みたいなマネをしながら、レヴィアはそう後ろの二人に尋ねる。

 

「たぶん、出てくるならお菓子だと思いますよ? それとは別に朝ご飯はきちんと食べてください」

 

 蘭はお堅いことを言うが、自分が言わないとレヴィアは聞いてくれないと思うのでもう自分の役目と割り切ってる。

 

「食べすぎも禁止だからな。健康に悪いんだぞ」

 

「はいはい。僕の眷属はハレの日でも厳格でつまらないことで」

 

 一夏にまで言われてぶーぶー言いながら、しかしレヴィアの機嫌は良い。

 

 なにせ兵藤一誠はレヴィア・聖羅のお気に入りだ。そんな彼が中級堕天使を一撃で滅ぼしたというのだから、褒めるべきところではあるのだろう。

 

 それに何より、恐ろしい力の持ち主だというのだから鼻が高いものだ。

 

「かつて三大勢力に恐怖を教え込んだ二天龍。その片割れである赤龍帝ドライグの魂を宿す「赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)」か」

 

「確か、神滅具(ロンギヌス)の一つ何だって。十三種類各一個しかない、神すら殺せるっていう」

 

 一夏としては割と気になる話だ。

 

 神器の中でも最高峰の一角を占める神滅具は、神器使いにとってある意味あこがれの的だ。

 

 強さを求める者として、興味だけはどうしても引かれてしまう。

 

「なあ、アイツどこまで行くんだろうな」

 

「あんまり興味は無いです」

 

 一夏は蘭に振ってみたが、意外とそっけない返事が返ってきた。

 

 むしろ蘭こそこの話に乗ってきそうだと思った一夏だったが、しかしすぐに蘭は小さく笑顔を浮かべる。

 

「それより一夏さんがどれだけ強くなるかの方が、私にとっては大事ですから」

 

「そ、そうか?」

 

 裏の意味を察する能力はかけらもないが、今回そういうのが全くないのはさすがにわかる。

 

 蘭は、本心から一夏が強くなる事の方が大事なのだ。正直劣等感を感じていた部分もあったので、救われた気がする。

 

「私を守れるぐらい強くなってくださいね。・・・油断してると引き離しちゃいますから」

 

 そう晴れやかな表情で返され、一夏は顔を真っ赤にして言葉に詰まった。

 

 彼女の好意はすでに知っている。返答こそ男の意地で先延ばしにしてしまっているが、しかしうれしい物はうれしかった。

 

「あの鈍感な一夏くんがイチャイチャ砂糖たっぷりの展開をするだなんてねぇ。レヴィアさんは涙が止まらないよ」

 

「ハンカチまで出して嘘泣きするなよな!」

 

 主のワルノリにツッコミを入れながら扉を開ければ、そこではイッセーも涙を流していた。

 

「イッセー!? どうしたんだよお前!!」

 

「一夏か。だって見ろよ、部長の手作りケーキだぜ!? 学園の二大お姉さまが作った手作りケーキだぜ!?」

 

 心の底からマジ泣きしているイッセーを見ると、もはやあきれるしかない。

 

 そんな風景を見ながらレヴィアが視線をずらすと、そこには駒王学園の制服をきたアーシア・アルジェントの姿があった。

 

「やあ、アーシアちゃん。その様子だと覚悟はできたみたいだね」

 

「はい。これからは、部長さんの元でお世話になることにしました」

 

 そういいながら、アーシアは悪魔の翼を展開する。

 

 アーシアは、リアスの転生悪魔として生きる道を選択した。

 

 すでに神に見捨てられたような立場であること。現場の独断とはいえ殺されかけた堕天使側においておくわけにはいかないこと。彼女の神器を心無い者が狙ってくる可能性。それらいろいろとした理由はあるが、しかし全部彼女にとってはおまけだろう。

 

 転生悪魔として長い寿命を生きる、兵藤一誠の隣にいたいといういじましい恋心が最大の理由なことぐらいは、レヴィアにもわかる。

 

「アーシアちゃん。たぶん君は時々後悔するだろう。敬虔な信者が悪魔になるなんて、後の生活が本当に大変だからね」

 

「は、はい! 死んだつもりで頑張ります! 主よ、どうか見守って下さアウ!?」

 

 いきなり天に祈りを捧げて罰を喰らっている。

 

「まずは、お祈りをしないようにすることから始めようか」

 

「は、はい・・・。実はさっきもやってしまいました・・・」

 

 涙目のアーシアに、レヴィアは苦笑を浮かべてしまう。

 

 これからこの子はとても大変なことになるだろう。

 

 信徒からも堕天使側からも裏切り者扱いされるだろうし、信仰を捨てていないまま悪魔になったのだから、悪魔としても扱いに困るような類だ。

 

 三大勢力が和平の一つでも結んでくれればそれもなくなるだろうが、それは無理というものだろう。

 

 今から和平について動きを入れたとしても、それが形になるまでに何年かかることかわからない。数百年ぐらいかかっても全くおかしくないぐらい、怨恨は大きかった。

 

 そのうえ第三次世界大戦の勃発で、世界は表も裏も割と大変なのだ。

 

 ・・・それでも、自分たちは生きていかないといけない。

 

 レヴィアはポケットに手を入れると、そこから結晶体を取り出した。

 

 ISコア。この世界において最も希少な兵器の中枢を、レヴィアはいくつも所持している。

 

 それらはすべて未登録。篠ノ之束博士が、一夏が大変なことになったことを聞きつけて送り付けてきたとんでもないものだ。

 

『これの使い方はいっくんに任せます。あと、いっくんなら動かせるから遠慮なく使ってね♪』

 

 そう短く書かれていた手紙の内容通り、一夏はISコアを起動させることができた。

 

 人類統一同盟が作り上げた男女両用コアではなく、束博士が作ったなぜか女にしか動かせないISコア。それを、男が動かすというのは前代未聞の出来事だった。

 

 本来なら、その存在を公にするということもありえただろう。

 

 だがレヴィアの眷属悪魔になってしまった一夏がそんなことをすれば、第三次世界大戦はさらに混沌とした戦いになる。

 

 三大勢力が堂々と表の社会で戦争を行う、そんな激戦になるのが目に見えていた。

 

「・・・なんとか、してかないとね」

 

 これをどうすればいいかは、いまだわからない。

 

 わからないが、しかし責任だけはきちんと果たさなければならない。

 

 そう、それがレヴィア聖羅の・・・否。

 

「セーラ・レヴィアタンの果たすべき役目だからね」

 

 そう決意を込めて、レヴィアは表情を作り変える。

 

「レヴィア。そろそろ半分ぐらい食べられてるけど食べないのか?」

 

「・・・食べないのなら、全部もらいます」

 

「あ、食べる食べる♪」

 

 一夏と蘭にせっつかれて、レヴィアはすぐに切り替える。

 

 一瞬で表情を明るいものに切り替えて、レヴィアはすきっ腹にケーキを詰め込み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼穹を舞う剣士と、赤き龍宿す戦士は、いま正しい意味で邂逅を果たした。

 

 彼らはもちろん、その主も同胞たちもまだ知らない。

 

 彼らこそその第三次世界大戦を、混沌足る争いを終焉させるための切り札となるであろう存在であることを。

 



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戦闘校舎のフェニックス 1

 

 日々の努力というものは、間違いなく大事である。

 

 やれば必ず伸びるとは言えない。やらなくても伸びる者は伸びる。だが、たいていの人にとって継続する努力は伸びるために必要なことである。

 

 だから、それをしているものは伸びるのだ。

 

 其のため、レヴィアは眷属にトレーニングを徹底させている。

 

 例えば―

 

「ハイ! あと1kmで終了だからね!」

 

「「ハイ!」」

 

 早朝フルマラソンとかである。

 

 拷問というなかれ。悪魔というものな基本的に人間よりスペックが高い生き物だ。フルマラソンを走りきれるようになる確率も、人間に比べればはるかに高い。

 

 人間だって努力すればフルマラソンを走りきることも不可能ではないのだから、悪魔ならもっとできるようになるはずなのだ。

 

 じっさい、三人そろってプロのマラソン選手並みの速さでマラソンを継続している。何年も前から少しずつ伸ばしているからこそだが、努力の成果はしっかりと出ているのだ。

 

「いやでもさぁ、アーシアちゃんだっけ? あの子すごいねえ」

 

「そうですね。悪魔は言葉はわかるけど書くのは別なのに、もう日本語を漢字まで覚えてきてますからっ!」

 

「なんか、俺より頭いい気がしてきたんだけどさ! 大丈夫かな、俺」

 

 新しい悪魔の思わぬ才女っぷりを話のタネにしながらマラソンを続けていく。

 

 特に一夏は微妙に落ち込んですらいるが、しかし二人は特に気にしていない。

 

「君は君で平均以上だから問題ないよ。それに、勉強ができればいいってわけじゃないからね」

 

 レヴィアは笑顔でそういうと、ペースをわざと落として一夏に並ぶ。

 

 そして、そんな一夏の頭をやさしくなでる。

 

「君は僕の剣だろう? だったら頑張れ僕の戦車(ルーク)

 

「・・・ああ!」

 

 元気が入ったのを確認して、レヴィアはペースを元に戻した。

 

「さ、ラストスパート行くよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてゴールとして設定した公園についた時、すでにそこには先客がいた。

 

「あら、レヴィアじゃない」

 

「よ、よう・・・一夏」

 

 ヘロヘロの状態で腕立て伏せをしているイッセーと、その上に乗っかっているリアスという取り合わせだった。

 

「イッセーくんの特訓か何かかい? ハードトレーニングは体壊すよ?」

 

 そういいながら、レヴィアはペットボトルを取り出すと水分補給を始める。

 

「だ、大丈夫ですレヴィアさん・・・。俺も、まあ、これぐらいはできないと・・・」

 

「あまり無理しない方がいいですよイッセー先輩。学校がつらくなりますからね?」

 

「あら? イッセーならこれぐらい大丈夫よ? なんなら後で保健室でお昼寝する?」

 

「あと五百回ぐらい頑張らせていただきます!!」

 

 蘭の心配も何のそのといわんばかり豪快に腕立て伏せを続行するイッセーに、どうしたんだと一夏は首をかしげる。

 

「・・・ああ、リアスちゃんは寝るとき裸派だったね」

 

「はだ・・・っ!? 駄目でしょうリアス先輩、女性が異性にみだりに裸を見せたりしたら!!」

 

 そういう方向では堅物の側に属する一夏は速攻で止めに入るが、リアスはまったく気にしない。

 

「あら、いいじゃない別に減るものじゃないし」

 

「女の尊厳が減ります!」

 

「イッセー相手なら大丈夫よ。一緒にシャワーを浴びたことがあるもの」

 

「もうちょっと貞淑さを身に着けてくださいよ! イッセースケベですよ!!」

 

 などと言い合っている二人をよそに、レヴィアはやはり力尽きたイッセーをツンツンとつついた。

 

「とりあえず、ギリギリのラインを見極めるところから始めた方がいいよ? 限界超えると一気に壊れるしね」

 

「いや、だけど俺弱いし・・・」

 

「だったらなおさら無茶しちゃだめですって。こういうのって、結構長い間時間をかけて強くなっていくものなんですよ?」

 

 蘭にも説得されるが、イッセーはあまり納得していないようだった。

 

 無理もない。イッセーは今までそういった特訓すら特にしたことがない人生だったのだから。

 

 そういう意味では素人が陥りやすい横道にそれているといってもいい。

 

 だが、それでもいいだろうとレヴィアは思う。

 

 間違えながらでも、自分で経験したことはなんだかんだで力になることだ。

 

 試行錯誤や失敗も、取り返しが効くのであれば立派な成長。一生懸命取り組んで、地道に前に進むのはイッセーの美徳だろう。

 

「ま、最初のうちは手当たり次第にやってみるのもいいかもね。何かあったらすぐにいうんだよ? 僕にとっても君は大事な弟分だからね」

 

「はい! とにかく努力と根性で頑張るッス!!」

 

 イッセーは力強くうなづいた。

 

 それを見て、レヴィアは優しく微笑む。

 

 少しずつ日差しが強くなっていく中、日常はいつも通りに進んでいた。

 



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戦闘校舎のフェニックス 2

 

 そんな日の一日、一夏は松田と元浜に呼び出されていた。

 

「一夏! イッセーを殴り倒すのを手伝ってくれ!!」

 

「なんでだよ」

 

 血涙を流さんばかりの二人の憎悪の燃え具合に、一夏はどうしたものかと首をかしげる。

 

 そして、涙をぬぐった元浜の眼鏡がきらりと光った。

 

「あの野郎、最近周りに女の子が増えたのは知ってるだろ?」

 

「ああ。オカルト研究部とは親密だから、大体知り合いだけど?」

 

「お前も死ね!!」

 

 松田が速攻で殴りかかるが、一夏はさらりとそれをかわす。

 

「しかもアーシアちゃんがホームステイしてるっていう話まである。あの野郎最近女っ気が増えすぎだ」

 

「いや、イッセーはなんだかんだで戸惑ってたから勘弁してやれよ」

 

 リアスが強引に話を勧めたところがあるのだが、まあ知らないとそこまではわからないだろう。

 

 なにせお嬢様育ちの大金持ちなのだ。どうしても自分のペースで物事を進めるように思考回路が形成されている。

 

 そのあたりは適宜レヴィアがフォローを入れており、に話も通さずに荷物を持ち込むという暴挙はとりあえず封じることができた。一瞬でイッセーの両親が乗り気になったので逆に手間がかかるという結果になったが。

 

「あれでレヴィアとリアス先輩が喧嘩したんだよな「だから荷物も運んだ方がいい」とか「いや社会的な常識は考慮しないと」と言い合って」

 

 一夏は思い出しながら頭を抱えるが、しかし二人は聞いていない。

 

「・・・既に両親公認の中だと・・・っ!?」

 

「あの野郎、どこまで進んでやがる!!」

 

 ひとしきり怒りに燃えた二人だったが、すぐに我に返るとそのまま拳を震わせた。

 

「だから、だから女の子を紹介してくれって俺たちは頼んだんだよ!!」

 

「いや、あいつの周りで増えた女の子も大体それで打ち止めなんだけどな」

 

 元浜の涙ながらのその懇願に対して、イッセーは知り合いを紹介したらしい。

 

 ミルたんを。

 

「・・・確かに一回殴られた方がいい気がしてきたな」

 

 女を紹介してくれと言われたのにあれはないだろう。無理なら無理と素直に言えばいいだろうに。

 

「わかった。ちょっと文句を言いに行こうか」

 

「え、いいのか?」

 

「マジか! でも今どこにいるか・・・」

 

「いや、いまならたぶん旧校舎だろ。さすがにこれはひどい気がしてきた」

 

 正義感が強いのが一夏の長所だ。子供のころはやりすぎることもあったが、レヴィアによってしっかり矯正されている。

 

 そういうわけで、しっかりと説教を入れることにする。

 

「怖かった。あの(おとこ)どもに囲まれるのは恐怖以外の何物でもなかった」

 

「何なんだ。あいつら一体何なんだ・・・」

 

「な、何人もいるんだな・・・」

 

 あの後顔写真を見せてもらったが、いろいろな意味でインパクトがある人物だった。

 

 あれが複数とは確かに悪夢だ。イッセーはかなり本気で怒られていい。

 

 そう思いながら旧校舎に入り、そしてオカルト研究部の部室を目指す。

 

「それにしても、織斑もリアス先輩と知り合いなんだな」

 

「ああ、レヴィアがリアス先輩と仲がいいから、その縁でさ」

 

 元浜にそう答えながら、一夏はオカルト研究部の扉を開け―

 

「う、うぉおおおおおおおお!!!」

 

 そこには号泣しながら崩れ落ちるイッセーの姿があった。

 

 しかも、よくわからないが悪魔らしい人たちが何人もいた。

 

「な、なんだ!? どうしたイッセー!!」

 

「っていうかあのコスプレ美少女軍団はなんなんだ!?」

 

 松田がイッセーに駆け寄り、元浜が眼鏡を光らせて興奮する。

 

「ちょっと織斑くん!? あなたなんでその二人を連れてきてるのよ!!」

 

「え、あ、ごめんなさい!! 昼間だから問題ないと思って!!」

 

 一応昼間のオカルト研究部は普通に学校の部活として機能していたはずだ。

 

 特に何か来るという連絡はなかったし、何の問題もないと思ったのだが。

 

 そのとき、スマートフォンが鳴った。

 

 一夏は恐る恐る取り出すと、視線でOKが出たので静かに出る。

 

「レヴィアか?」

 

『あ、一夏君。悪いんだけど悪魔がらみで連絡があったから、オカ研の部室には近づかないでね? 委員会の仕事のついでに言うつもりだったんだけど珍しく遅いし』

 

「ごめんもう遅い!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連絡を受けて、すぐにレヴィアは蘭を連れてやってきた。

 

「あーあーあーあー。ライザー君もよくやるねぇ、悪趣味だよそういうの」

 

「いやいやセーラ様。貴族としてせめて何も持たない奴に見せつけてやったまでですよ」

 

 レヴィアに軽くにらまれて、ライザーは困った表情を浮かべながらもしかし余裕は崩さない。

 

「・・・あれ? レヴィアさんの苗字のイントネーションおかしくないか、あの人」

 

「あ、違います元浜先輩。レヴィアさん普段は偽名使ってるんです」

 

 微妙な違いに気づいた元浜に、蘭がすぐに説明する。

 

「セーラ・レヴィアタンがレヴィアさんの本名なんですが、レヴィアさん本名苦手に思ってて、だから普段は気に入ってるファミリーネームの方をもじってレヴィアと呼ばせるためにレヴィア・聖羅って名乗ってるんです」

 

「え、マジなの? っていうかレヴィアさんってそんなに偉いのかよ」

 

 蘭の言葉にものすごいものを感じた松田も食いつくが、そこでライザーが二人をにらみつける。

 

「おいそこの人間ども。この方は偉大なる先代レヴィアタン様の末裔、セーラ・レヴィアタン様だぞ! 本来貴様らなんぞがそんな軽い態度で接していいお方じゃないということがわかってないようだな」

 

 無礼者を手打ちにしたいというほどの表情を浮かべるライザーだが、そこにレヴィアが手を挙げて止める。

 

「気にしなくていいよ。彼らは僕の友人だからね」

 

「・・・失礼ですが、友人はもう少し選んだ方がいいと思いますが?」

 

「「どういう意味だ!!」」

 

「言わなきゃわからんならそれまでだな」

 

 二人の文句もさらりと流して、ライザーは立ち上がった。

 

「ま、いうべきことは言ったし俺はそろそろ帰るさ。・・・リアス、試合は十日後でどうだ?」

 

「・・・私にハンデを上げるというの?」

 

 ライザーのその言葉にリアスは不機嫌そうに眉を顰めるが、ライザーは真剣な表情でそれをとがめる。

 

「レーティングゲームを甘く見るな。実力者が準備できずに情けなく負けたことなんて腐るほどある。・・・一度もレーティングゲームを経験していないお前がハンデをもらうのは当然だ」

 

 ライザーのその言葉に、リアスは反論できずに押し黙る。

 

 ・・・なぜ、こんなことになったのか。

 

 それは、具体的に言えばリアスの父親のせいであるといえる。

 




基本的に魔改造はISの方なのですが、D×Dにも魔改造を入れてみようかと思っております。


・・・ぶっちゃけ、彼らも事情知ってていいと思うんだよ


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戦闘校舎のフェニックス 3

さてさて、ここで意外な展開が!


 

 ライザー・フェニックスはリアス・グレモリーの婚約者である。

 

 そもそもリアスは貴族であり、産まれたときから豪遊が約束されている身分。むろん、それに対する責任をきちんと果たさなくてはいけない立場である。

 

 ゆえに結婚相手にも相応の地位や能力が求められる。加えていえば、自分以外の誰かの意見に大きく左右される立場だ。いわゆる政略結婚である。

 

 悪魔の上層部は血統主義が多く、必然的に当主の悪魔には純潔を求める傾向がある。そして貴族主義であるがゆえに貴族同士で婚姻させたがる風潮がある。

 

 そこで選ばれたのがライザーだ。

 

 ライザーは72柱の悪魔の家系の一つ、フェニックス家の三男である。

 

 フェニックス家は戦争終結後からどんどんその価値を高めていった一族。しかも三男坊となれば跡継ぎの婚約者としては都合がいい立場。加えて新進気鋭のルーキーとして有望とされ、レーティングゲームでも多くの勝ち星を挙げている才児だ。

 

 そんな有望なライザーとの婚姻だが、リアスはそれを固辞していた。

 

 其のため、条件として「大学卒業までに婚約者を作れなかったら」という条件を付けていたのだが、なぜかリアスの父であるジオティクスはそれを急に取りやめて婚姻を速めてきたのである。

 

 そしてリアスはそれに反発し、イッセーで童貞を捨てようと画策したが、メイドであるグレイフィアが間一髪介入して阻止した。

 

 そして次の日である今日、その件についてもあり話をしてライザーが乱入。そして対策として、非公式のレーティングゲームによる決着という流れになった。

 

 とはいえライザーはフルメンバー。それに大してリアスは眷属が駒にして半分以上は埋まっているが穴も多く、加えて僧侶の一人は使用できないという状況である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶっちゃけこれ出来レースでしょ。グレモリー卿もさすがにこれは卑劣じゃないかい?」

 

 話をまとめたレヴィアは、明確な非難の表情を浮かべる。

 

「それに関してはメイドの口からはとても。・・・まあ、セーラ様から直々に反対のお言葉があれば、御当主さまもお考え直しになるとは思いますが」

 

 メイドであるグレイフィアはそういうが、しかしそういうわけにもいかない。

 

「さすがにそういうわけにはいかないよ。貴族は生まれついて豪遊できる特権を持っているんだから、それに対する責任は果たさないといけないわけだしね」

 

 そう肩をすくめるレヴィアだが、しかしすぐに表情を曇らせる。

 

「とはいえ、なぜかいまだに婚約者の話が一つたりとも上がってこない身としては、ちょっと肩身が狭くなるけど」

 

「それは自業自得でしょう」

 

 冗談めかした様子が一切ないレヴィアに、バッサリとリアスのことばがたたきつけられた。

 

「失礼な! 確かに注文の一つはつけてるけど、それ以外に関してはたとえ相手が不細工であっとしても受け入れる覚悟はできている!!」

 

 レヴィアは真剣に反論する。

 

 それは間違いなく本心のことばだったが、しかし事情を知るもの全員は残念なものを見る視線を向ける。

 

「お言葉ですがセーラ様。・・・週一回乱○パーティさせろというのはなかなか難易度が高いと思うのですが」

 

「眷属でハーレム作ってる男に言われた!?」

 

 一番理解がありそうだと思っていたライザーに言われてしまい、レヴィアは涙すら浮かべながら絶叫する。

 

「いや、間違いなくそれが原因だよな」

 

「ささやかなつもりかもしれませんけど、すごい難易度高いですからね?」

 

 一夏と蘭(眷属)にすら言われて、レヴィアは肩を落とし・・・しかしすぐに立ち上がった。

 

「いや、これでも三日にするつもりなのを一日にまで減らしたんだ! これ以上は妥協できない!!」

 

 決意の炎を目にともして宣言するレヴィアだが、どう考えても残念すぎる。

 

 王族の末裔が乱○パーティを定期的に開催など、普通に考えれば醜聞以外の何物でもない。そんな難易度の高さでは婿の貰い手がないだろう。

 

「なあイッセー。レヴィアさんって時々馬鹿だよな」

 

「ああ、でもぜひ混ぜてもらいたい・・・痛いよアーシア」

 

「元浜、こいつやっぱり一度〆た方がいいんじゃないか?」

 

 変態三人組ですら肯定的な意見が少ないのが如実に物語っているだろう。

 

「まあ話を戻すけど、僕個人としては政略結婚には賛成だし、強権をふるって無理やりご破算にだなんてさすがにしないさ」

 

 レヴィアはそういって軽く笑うが、しかし鋭い視線をライザーとグレイフィアに向ける。

 

「だけど、アンフェアな条件はさすがに是正させてもらう」

 

「具体的には?」

 

「未だ余っている騎士と戦車、そして使用できない僧侶の代役をたてさせろって話さ。・・・駒数の差を埋めるってだけなんだから、それ位はいいだろう?」

 

 グレイフィアにそう答え、レヴィアは後ろの一夏を指さいした。

 

「まずは反対する気満々の一夏くんを戦車として付ける。いわば一時的なトレードだ」

 

「レヴィア、お前わかってるな!」

 

 レヴィアの裁量に一夏はうれしそうな表情を浮かべる。

 

「だってそういうの嫌いだろう? 僕は眷属の心情は考慮するんだよ?」

 

「あ、だったら私も参加します! 女の子の結婚を勝手に決められるのは我慢できません!」

 

 蘭もすぐに反応するが、しかしそれにはグレイフィアが待ったをかける。

 

「駄目です。さすがに神権簒奪(スナッチャー・セイクリッド)の異名を持つあなたの参戦はハンデどころではありません。・・・あくまで埋めるのは駒価値の差のみです」

 

 五分五分の状況にするのならまだしも、圧倒的有利に持ち込むのだけは見過ごせない。

 

 そういわんばかりのグレイフィアの言葉に、レヴィアも肩をすくめてそれに応じるそぶりを見せる。

 

「ま、僕が強権つかって止めたことになりかねないしね。一夏くんにもISは使わせないから安心してよ」

 

「ま、あれはダメだよな」

 

「・・・うぅ。わかりました」

 

 一夏も蘭もそれは受け入れるが、そこでライザーが怪訝な表情を見せた。

 

「しかし、それではセーラ様は僧侶と騎士をどうするおつもりで? 確かセーラ様の眷属はその二人だけのはずですが」

 

「え、そうなの?」

 

 ライザーの疑問にイッセーがさらに疑問を募らせる。

 

 それに対して、レヴィアは自虐的な笑みを浮かべた。

 

「あまり眷属を作るつもりはなかったんだよ。・・・一夏くんがフラグ立てたの回収するのに使う気だったし」

 

「どういう意味だよ!!」

 

 速攻で一夏から文句が飛び出るが、しかし誰も反論しない。

 

 この男がフラグメーカーなのは誰もが知っている常識の領域だ。今更何か言う気にもならない。

 

 隣の蘭ですら反論の欠片も見せないのに気づいて、一夏も状況の不利を悟ったのかすぐに黙った。

 

「だけどそれだとあと二人いるよな? ・・・今から当てあるのか?」

 

「それは大丈夫だよイッセー君。あてならそこに二人もいるじゃないか」

 

 と、レヴィアはニコニコと笑顔を浮かべて指を突き出した。

 

 ・・・松田と元浜の二人に。

 

「「・・・え?」」

 

 二人そろってまさかそんなことになるとは欠片も思わず、きょとんとした表情を浮かべている。

 

 だが、レヴィアはそれに対して速攻で切り札を抜いた。

 

「二人とも。そこのライザー君は自分の眷属悪魔でハーレムを作っている。そしてそれは決して彼だけの話ではない」

 

「ふふん。俺の自慢の女たちですからね。セーラさまはお目が高い」

 

 得意げなライザーに肯定の笑みを浮かべてから、レヴィアは速攻でさらに続けた。

 

「そして、冥界では活躍さえすれば下僕悪魔でも上級になって眷属悪魔を作れるようになる」

 

 そう、それはつまり―

 

「つまり二人ともハーレムを作れる可能性が法的にクリアされるわけなんだけど」

 

「忠誠を誓わせてください、レヴィアさん」

 

「俺たちはあなたの忠実なしもべです」

 

 音速で二人そろって傅いた。

 

 コンマ一秒の判断である。

 

「うんうん。ハーレム作れるとなれば転生したくもなるよなぁ」

 

「まあ、無理だろうが気持ちだけは汲んでやる。頑張れよ」

 

 イッセーとライザー(馬鹿な男二人)がすべてを理解するかのように納得のうなずきを見せた。

 

「・・・男って阿呆ですわね」

 

「・・・バカばっかり」

 

 ライザーの眷属の1人と小猫が冷たい視線を浮かべる中、しかしこれで条件はクリアーされた。

 

 だが、しかし肝心のリアスが話に置いてけぼりにされているのは事実だった。

 

「ちょっと待ちなさいレヴィア! 私は別に―」

 

「リアスちゃん。ぶっちゃけこのレーティングゲームは圧倒的に君が不利だ」

 

 その反論を切り捨てるように、レヴィアははっきりと告げた。

 

「君だってわかっているだろう? これはどっちが勝つかわかっている状況で、それでも断れない状況に追い込んで行う出来レースだ。・・・本来、僕は貴族の婚姻は政略要素を込みで行うべきだとすら考えているのもね」

 

「・・・・・・・・・」

 

 そう、それは先ほどレヴィアが言ったとおりだ。

 

 彼女は貴族として、己の婚姻を政治的取引に使うべきものだと決めている。

 

 最低限の条件の設定こそ致命的に誤っているが、それでも本質的に今回はリアスの敵となる状況なのだ。

 

 それにもかかわらずリアスに協力する気になっている理由は二つ。

 

 それは、彼女の眷属が政略結婚を好まないという事実。それを組んだというのが一つ。

 

 そしてもう一つは―

 

「さすがにこれはやり口が汚い。魔王レヴィアタンの末裔として、これを黙ってみているのも我慢ならない。・・・つまりはそういうことさ」

 

 セーラ・レヴィアタンは王道を行くものだ。

 

 時に清濁併せ呑む覚悟を持っているとはいえ、それでも本質は民の未来を憂う王なのだ。

 

「魔王を輩出する家系であるグレモリー家に対して、セーラ・レヴィアタンは誇りあるあり方を行うことを望む。・・・つまりはそういうことだよ」

 

「やるなら条件は極力五分に。・・・ルシファー様も納得されるでしょう」

 

 グレイフィアはそれに納得したのか、静かに一歩を下がった。

 

「御当主様には私から伝えておきます。ライザー様はよろしいでしょうか?」

 

「かまいません。所詮は特異性だよりの猪武者と、素人二人。この程度なら何の問題もない」

 

 ライザーはむしろ余裕の表情を浮かべている。

 

 それに関しては裏付けがあるしっかりとしたものだ。

 

 なにせ、レーティングゲームに関しては自分の方が経験豊富。加えて眷属たちも経験豊富。とどめにリアスの眷属はもちろん、ハンデとして送り込まれるレヴィアの眷属たちもレーティングゲームの経験はなし。

 

 圧倒的に有利な状況で、とんとん拍子に話が進んでいく。

 

「だけど、後で「ハンデありだからやっぱりなし」だなんて言われても困るわよ」

 

「大丈夫大丈夫。その時は今度こそ強権珍しくふるうから。もともと向こうが約束破ってきたんだから、それ位はしてもらわないとねぇ?」

 

 と、リアスの最後の懸念もレヴィアが粉砕する。

 

 そして、レーティングゲームの始まりが決定した。

 




・・・なんていうか、どうしてもIS側はテコ入れというか魔改造が必須ですので、バランスとるためにもD×D側にもある程度テコ入れをしようと思っていたのですよ。

冷静に考えて、いまだに二人が悪魔側について知らないのもどうかだよな~っと思って入れてみました!!


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戦闘校舎のフェニックス 4

 

「ひー、ひー、ひー・・・」

 

「ふー、ふー、ふー・・・」

 

 山道を息を荒げながら、イッセーと元浜はひーこらひーこら上っていた。

 

 全身から汗をだくだく流しながら、それでも何とか先行する女性陣に追いつこうと必死になって登っていく。

 

 それだけの苦労をしている理由は、山道だからではない。

 

 背中に結構な量の荷物を背負っているからだ。

 

 こんなものを背負っていれば、慣れている人でも悲鳴を上げるのではないかというぐらいの量の荷物を背負っている。

 

 それは悲鳴も上げるだろう。普通上げる。

 

「あ、部長。山菜をとってきました。今日の晩御飯に使いましょう」

 

「いい景色だなぁ。元写真部だし、一度ぐらい風景をとるのもありか?」

 

 その隣を平然とした顔で木場と松田が通り過ぎていく。

 

 身体能力の高い松田はともかく、線の細い祐斗にすら平然と追い抜かれているのだが、二人は不満を抱かない。

 

 なぜなら―

 

「お先に失礼します」

 

「あ、じゃあ先に行ってますね」

 

 くわえてさらにそれ以上の荷物を持った小猫と蘭が平然としてさらにその先を言っているからだ。

 

「くそ、あれが戦車(ルーク)の駒の力か・・・」

 

「ち、小さい子が怪力・・・萌えるけどそんな余裕がないな、イッセー・・・うぷっ」

 

 元浜は本気で吐き掛けている。

 

 仮にも最近トレーニングを始めていたイッセーはともかく、典型的なオタク系の元浜にとってこれは地獄以外の何物でもない。戦闘経験のある悪魔の身体能力はシャレにならないということか。

 

「なあ、少し持とうか?」

 

「駄目よ織斑くん。そんなことしたら特訓にならないわ」

 

 一夏が気を利かせて持とうとするが、しかしリアスがダメだしをする。

 

 ちなみに、リアスたち戦車以外の女性陣は軽装である。

 

 このあたり、女尊男卑の匂いがしないでもないが、これはただのレディーファーストでありイッセーたちも納得してるので文句はなかった。

 

「でも、元浜君の荷物は少し持ってあげていいよ? っていうかこのままだと、ついても特訓できそうにないし」

 

 レヴィアは苦笑しながらOKを出すが、しかし元浜自身がそれを防ぐように手のひらを向ける。

 

「大丈夫だ織斑。俺は、なんとしても登りきって見せる」

 

「いや、無理しない方がいいと思うけどさ」

 

 顔色が青くなっている元浜がさすがに心配な一夏だが、元浜はしかし気合を入れた表情を見せる。

 

「そう、だってみんなが服を脱いで一緒に歩いてくれてるんだ。そんな状況下で奮い立たなきゃ男じゃない」

 

「誰かぁあああああ!! 荷物持ってあげて!! 元浜が幻覚見てるぅううううう!!!」

 

 イッセーの絶叫が響き渡り、そしてやまびことなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで山頂の別荘にたどり着き、そして特訓の火ぶたが切って落とされた。

 

「まあ、松田くんと元浜くんとイッセー君の三人は、とにかく戦闘慣れしてくれないと意味がないんだけどね?」

 

 と、レヴィアは辛辣だがそんな意見をはっきりと口にする。

 

「質問! 十日で戦闘訓練ってできるもんなんですがレヴィアさん?」

 

「いい質問だ松田君。まあ、君たちなら最低限形にできると確信しているともさ」

 

 そうレヴィアは告げると、口元に淫靡な微笑を浮かべる。

 

「このレーティングゲームで勝ったら、お尻の穴使わせてあげる」

 

「「「絶対勝つぞ、ファイッオー!!」」」

 

 男とは、非常に情けない生き物なのである。

 

 それはともかくとして、特訓の一日目が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LESSN1 木場裕斗による剣術特訓。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い!?」

 

「元浜くん、適当に振り回しているだけじゃあ何の意味もないよ!」

 

 木刀を持たされて剣術の訓練をすることになったが、しかしイッセーたちは手も足も出なかった。

 

「戦うときは相手だけじゃなく周りも見る。そうじゃないと相手の動きに反応できないからね」

 

「うわぁ、俺全然戦える気がしないぜ」

 

「んなこと言うなよ松田。俺も自信がなくなってきた」

 

 いきなり自信を無くす松田にイッセーは活を入れたいところだったが、自分も自信がなくなってきてどうにも入れきれない。

 

 先日の堕天使との戦いで強いのは知っていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった。

 

 と、そこに別口で体を温めていた一夏が木刀をもって近づいてくる。

 

「じゃ、次は俺だな」

 

「あ、織斑ならいけるかもな」

 

 ぼろぼろになった元浜が、一縷の望みを託して一夏を見つめる。

 

「イケメン同士の戦いか。すごいことになりそうだな」

 

「だな。織斑って剣術習得してるって聞いたしな」

 

 イッセーと松田はそう表しながら観戦するが、すぐにため息をつく。

 

「「「・・・見切れない」」」

 

 高水準の戦いに、三人の動体視力の限界を超えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LESSN2 姫島朱乃お姉さまによる、魔力特訓。

 

「いいですか、魔力は全身から集めるようにイメージするのです」

 

 そういいながら展開する朱乃の魔力を見つつ、アーシアも含めた四人は一生懸命魔力を集めようとする。

 

「できましたぁ!」

 

 アーシアはすぐに魔力を集めることに成功したが、しかしイッセーたちはそうはいかなかった。

 

「ええい! せっかくファンタジーの存在になれたのにファンタジー能力が使えないでどうするんだ!」

 

 元浜が額に汗すら流して気合を入れるが、しかしなかなか魔力が生まれない。

 

「あらあら。やっぱり初心者には厳しかったかしら?」

 

「ふむ、じゃあ少しアプローチを変えてみるかな?」

 

 少し困った表情を浮かべる朱乃の前に出て、レヴィアはさらりと一言告げてきた。

 

「三人とも、イメージするんだ、僕のスカートの内側を」

 

 ・・・とたん、三人は黙り込んだ。

 

 それを見て、レヴィアはにやりと笑う。

 

「さあ、持ち上げたくないかい? スカートの内側をその目に移したくはないかい? だったら魔力で風を起こすイメージをしてみるんだ」

 

「あの、レヴィアさま? それはさすがにハードルが―」

 

 あまりにあれな発言よりも、一足飛びで難易度が上昇している試練に対して朱乃は声を出すが、しかしそのあと絶句することになる。

 

「・・・うぉおおおおおおおおおおお!!! 燃えろ、俺の中の魔力ぅうううううう!!!」

 

 元浜の眼鏡が光り、そしてそのとたんに莫大な魔力が放出される。

 

 それらは暴風と化してレヴィアのスカートをめくり、その内側の縞々パンツをイッセーたちの視界に収めることに成功した。

 

「ひゃっはぁああああ! パンツだぁああああ!!」

 

「ボーダー! しかも青と白!! シンプルだけどそれがいい!!」

 

「でかした元浜! お前やっぱりすごいな!!」

 

 三人は抱き合って喜びあう。

 

 その様子を涙すら浮かべながら、レヴィアは素直に祝福した。

 

「やはりこの三人のやる気を出すならエロい方向が一番だね。うんうん、僕は信じてたよ」

 

「あらあら。欲望に忠実なのは悪魔らしいですわね」

 

 朱乃も最初は絶句したが、これはこれで面白いので放置することにした。

 

「ですが、私にやったらお仕置きしないといけませんわね。基本的にはびりびりと」

 

「いいじゃないか朱乃ちゃん。見えそうで見えないぐらいたくしあげた方が三人ともやる気を出すよ?」

 

「や、やる気を出すじゃありません! イッセーさんいやらしすぎです!!」

 

 アーシアが顔を真っ赤にして起こり始めるが、そんなアーシアの肩をレヴィアはツンツンとつついた。

 

「おやぁ? パンツで興奮して怒るのはイッセーくんだけでいいのかなぁ?」

 

「え? いえ、その松田さんと元浜さんもいやらしすぎるのはよくないと思いますが・・・」

 

「そっかそっか~。イッセーくんがほかの女で興奮するのはそんなにいやか~? だったらアーシアちゃんがやってみるかい? 僕は残念だけどそういうことなら身を引くよ?」

 

「はぅうう! 駄目です! そんなことは主がお許しになりません! ああ、主よ、私をお導きくださ・・・あう!?」

 

「あ、ごめんごめん。ちょっと本気で悪乗りしすぎたよ」

 

 神に祈りだして激痛に悶えるアーシアに、さすがに罪悪感が沸いたレヴィアがすぐに謝る。

 

 成り行きで悪魔に転生したとはいえ、信仰心をいきなり捨てるというのは難しいだろう。

 

 少しずつゆっくり共生していかないとと考えながら、レヴィアはイッセーたちの方を向く。

 

 そして、眼が点になった。

 

 そこには、魔力を使って野菜の皮むきを行っている三人の姿があった。

 

「・・・なに、やってるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LESSON3 塔城小猫による格闘特訓。

 

「俺は・・・もう、だめだ・・・」

 

「元浜ぁあああああ!!!」

 

 息も絶え絶えになって倒れ伏す元浜を抱きかかえ、イッセーは絶叫した。

 

 ぶっちゃけこれが一番大変かもしれない。

 

 なにせ小猫は容赦なく拳を叩き込んでくるのだ。戦車によって強化された筋力で。

 

 普通に死ねる。マジで死ねる。

 

「・・・動きは早いですが、やはり素人ですね」

 

「くそ、どさくさに紛れて合法的にタッチしたいのに!!」

 

 さっきからタックルだけで挑んでいる松田だったが、しかしイッセー達とは違いかろうじて勝負になっている。

 

 このあたり、人間時代の元の身体能力の性出てきているというべきだろうか。

 

「兵士の駒で転生したのに、プロモーションもなしにこれですか」

 

「ふっふっふ。これでもガタイには自信があるのさ! さあ、元浜じゃないけどそのちっさいおっぱいをタッチしてやるぜ!!」

 

 多少青あざを作りながらも、松田は決して止まらない。

 

 そう、タックルならば事実上合法的に女性に触れることができるのだから。

 

 その熱意の元に、再びタックルの連打が仕掛けられるが・・・。

 

「ならどうぞ触れてください」

 

「ぐぅおおおおおおお!?」

 

 即座に寝技に持ち込まれ、悲鳴が上がる。

 

 いかに身体能力が高かろうと、それだけで戦いに勝てるわけではない。

 

 最低限の技量が必要だということを、松田はその体に叩き込まれていた。

 

「強すぎだろ小猫ちゃんも。それに比べて、俺たちマジで情けないぜ・・・」

 

 その圧倒的な光景に、イッセーは少し落ち込んでしまう。

 

「そんなことはありません。イッセー先輩たちにも長所はあります」

 

 小猫はそう否定するが、しかしイッセーには思いつかない。

 

「具体的には?」

 

「いやらしいところ」

 

 それは誉め言葉にはならないということぐらいはよくわかる。

 

 それはそれとしていやらしいことをやめられないあたり、自分たちは割とどうしようもないのではないかとすら思ってしまうのだが。

 

 だが、小猫のことばはまだ続いた。

 

「それと、頑張り屋さん」

 

「・・・っ」

 

 その言葉に、イッセーは少しすくわれた気がした。

 

 そして、それに応じるように元浜が立ち上がった。

 

「ふ、ふふふ・・・。ロリコンの俺が、合法的にロリッコにタッチできるチャンスを逃すわけにはいかないさ・・・」

 

「うぉおおおおお!!! せめて、せめて頭を胸に当ててやるぅうう!!」

 

 元浜も松田も、気合を入れてなお特訓を続けようとしている。

 

 そんな光景を見れば、イッセーも黙ってはいられない。

 

「よっしゃ! 俺も気合入れるぜ!!」

 

 そして突進行い、投げ飛ばされた松田という名の砲弾に元浜もろとも弾き飛ばされた。

 



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戦闘校舎のフェニックス 5

ハイスクールD×Dのまとめウィキを作ってみました。

URLは活動報告においてあります


 そして夕食をとってから深夜。今度はレヴィア達に呼び出されて夜の山で特訓を開始することになる。

 

「さて、ここからはより実践的な特訓をやっていこうと思う」

 

 ジャージ姿のレヴィアはそう言った。

 

 とはいえ、昼の特訓でも戦闘訓練は積んでいたし、これ以上さらに何を特訓するというのだろうかという疑問が起こる。

 

「レヴィアさん? 具体的にはどうするんですか?」

 

「答えは簡単。・・・それぞれの戦い方を作り上げるのさ」

 

 そう告げるレヴィアはすぐに説明する。

 

 戦闘職の育成というのは、本来数年かけて培っていくもの。祐斗も小猫も何年も訓練を積んでいるからこそあの強さを持っているのだ。

 

 そんな状況下で素人が全方位で特訓をしたところで、足手まといが生まれるのがオチ。そんな状態ではたとえ一夏が協力してくれたとしても勝算はそこまで大きくないだろう。

 

 ゆえに、レヴィアは対策を考える。

 

「要は限定特化型の戦力を作るんだよ。それなら、型にはまれば短期間でもそこそこの戦力になるからね」

 

 道具とは、シンプルな方が使いやすいものだ。

 

 十得ナイフとコンバットナイフの二つがあって、戦闘に十得ナイフを選ぶやつはそうはいない。つまりはそういうことである。

 

 特化型は安定性において汎用型にかけるがしかし突破力では上回る。この短期間で戦力として運用するならば特化型にする方が役に立つだろう。

 

「というわけで、これから君たちを特定条件に特化した戦力に切り替える。まずは松田君!」

 

「はい!」

 

 真っ先に呼ばれて、松田は緊張しながら返事をする。

 

「君は身体能力だけなら木場くんや小猫ちゃんにも劣らない。だから君はアーシアちゃんの護衛・・・というより運搬役だ」

 

 それについてイッセー達にも理解できた。

 

 夕食の時にも、イッセーとアーシアに関しては攻撃を避ける技術が必要だとリアスに言われた。

 

 イッセーは赤龍帝の籠手の能力の都合上長期戦で真価を発揮するため。アーシアは、回復能力というレーティングゲームにおいて反則一歩手前の能力を最大限に生かすためだ。

 

 だが、アーシアは誰がどう見ても文系少女。今から鍛えたからといって、そんな高い身体能力を確保できる可能性は低かった。

 

 だからこそ、松田だ。

 

 彼の高い身体能力を機動力特化で鍛え上げることで、アーシアの足となる。

 

 そうすれば、アーシア自身は回復に専念できる分より特化した戦力になるだろう。

 

「よっしゃ! シスターの体を触り放題!! 燃えてきたぜ!!」

 

「うんうん。と、いうことでこれね」

 

 そういってレヴィアが渡すのは巨大なお盛だった。

 

 誰がどう見ても数十キロはあるであろうおもりを、レヴィアはぽんと松田に渡す。

 

「重い!? なんですかコレ!?」

 

「アーシアちゃんの二倍ぐらいの重さのおもりだよ。これを軽々運べるようになれば、アーシアちゃんぐらい簡単に運べるはずさ」

 

 なるほど確かにその通りだ。

 

「というわけでそのままランニングから始めようか。最終的には全力疾走で十分ぐらいはできるようになってもらわないとね♪」

 

「ちくしょぉおおおおおおおお!! やってやるぁああああああああ!!!」

 

 滝のような涙を流しながら、松田は全力で走っていった。

 

 だが、イッセーにも元浜にもそれを笑う余裕はない。

 

 おそらく、それと同レベルの苦難が襲い掛かってくるのは間違いないのだから。

 

「次は元浜くん! ぶっちゃけ君が一番戦力じゃない」

 

「はっきり言いましたねレヴィアさん! 知ってたけどさ!!」

 

 こっちも同じく号泣する。

 

 しかしこれは仕方がないだろう。

 

 高い身体能力をもとから持っている松田や、神滅具という強大な異能をもつイッセーとは違う。彼は本当に戦闘能力という意味では最弱だ。

 

 転生した時も兵士の駒一つで済んだ。これは松田も同様だが、しかし同じ駒価値一でも幅というものはある。

 

 ぶっちゃけ彼が今回の合宿メンバーで一番価値がない。

 

 だが、それでも元浜はくじけなかった。

 

「それでも俺は頑張りますからね! すべてはハーレムを作るために!!」

 

 そう、こんなところでくじけているわけにはいかない。

 

 全てはハーレムを作るため。何が何でも上級悪魔にならなければならないのだから。

 

「それでレヴィアさん! 俺は一体何をすればいい」

 

「簡単だよ。女の乳をつかんでから逃げればいい」

 

 沈黙が生まれた。

 

 だが、レヴィアは一切それにかまわず続ける。

 

「簡単に言えば、とにかく一人引き付けるんだ。少人数同士の戦場ならば、一人足止めできるかどうかが大きく変わる。元浜くんは今回はそれに集中してくれ」

 

 普通なら、これはかなり残酷な言葉だろう。レヴィアも内心そう思っている。

 

 ようは、お前は役に立たないから囮になれといっているのだ。

 

 だが、完全文系というかオタク系の元浜をこの短期間に戦士に育成することはとてもできない。少なくともレヴィアにはできない。

 

 だから、レヴィアは頭を下げようとして。

 

「―大丈夫ですレヴィアさん。俺は頑張ります」

 

 そんな言葉を聞いて、レヴィアは動きを止めた。

 

「俺が一番役に立たないのはわかってます。・・・だからってへこたれてちゃいられませんしね。・・・そう、ハーレムを作るためにもまずは一勝しないといけませんし!」

 

 そう一手に借りと笑う元浜に、レヴィアはすまなそうに微笑んだ。

 

「・・・ありがとう。じゃあ、君の場合はもっと大変だ」

 

「・・・へ?」

 

 ぽかんとする元浜の肩に、手が置かれた。

 

「じゃあ、私と一夏さんが相手をします」

 

「要は追いかけっこだよ。俺達二人から全力で逃げろ」

 

「・・・・・・・・・・・・ハイ」

 

 一転して絶望の表情を浮かべた元浜が、ドナドナよろしく連れていかれる。

 

 そして、最後に残ったのがイッセーだった。

 

「・・・イッセーくん。正直言って、今回のレーティングゲームは君が切り札だ」

 

「俺が?」

 

 イッセーはどうにも実感がわかない。

 

 自分が弱いのは昼の特訓でよくわかった。

 

 木場のような剣術も、小猫のような体術も、朱乃のような魔力の才能も、アーシアのような回復能力もない。ましてや身体能力でも松田に大きく引き離されている。

 

 はっきり言って元浜と大して変わらない。駒価値八の神滅具持ちという立場からしてみれば、むしろ最も悲惨だといってもいい。

 

 だが、レヴィアは静かに首を振った。

 

「というより、まともに戦って勝ち目があるのはたぶん君だけだ。ほかのみんなじゃ火力が足りない」

 

 ライザー・フェニックスはそれだけの脅威なのだ。

 

 どれだけ小物臭い醜態をさらそうとも、期待のルーキーといわれたその実力は本物。そして、フェニックスの不死の力も本物なのだ。

 

「フェニックスの不死を突破する方法は大きく分けて二つ。桁違いの出力で消し飛ばすか、精神の限界を超えるまでボコり続けるかの二つ。このうち、前者を行えるところまで行けるのはおそらく君だけだ」

 

 レヴィアは、まっすぐイッセーを見つめて言い切った。

 

「・・・君が、切り札だ」

 

 その言葉に、イッセーは自身が全くなかった。

 

 まったくなかったが、それでも信じた。

 

 なぜなら、それを言っているのはレヴィア・聖羅だ。

 

 彼女はこういう時消して嘘を言わない。そういう立派な人物だとわかっているから、信じられる。

 

「わかりました、レヴィアさん」

 

 だったらもはややるしかないだろう。イッセーは腹をくくる。

 

「それで、俺はどうすればいいんですか?」

 

「簡単だよ。・・・最大まで倍加を高めて僕に魔力の一撃を叩き込むんだ」

 

 その言葉にイッセーは唖然とする。

 

 それはそうだろう。かつて初めて神器を最大限に発動させた時ですら、一撃で中級堕天使であるレイナーレを葬ったのだ。

 

 それをレヴィアにたたきつけることにイッセーは躊躇するが、レヴィアはにやりと笑うと堂々と両手を広げる。

 

「大丈夫。絶対に倒れないと約束しよう。・・・限界を超える一番簡単な方法は、限界まで全力を出すことを繰り返すことだからね?」

 

 レヴィアの顔に恐怖はない。

 

 フェニックスの不死すら突破する火力に到達しようとも、自分を殺すことはできないという自信があったからだ。

 

「さあ、気合を入れなよイッセーくん。・・・切り札になるためには楽な道はないということだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そういえば・・・そういえば・・・」

 

 数日後の深夜特訓の帰り、元浜は気になったことがあったので聞いてみることにした。

 

「なんだよ? それと、冷たすぎるのは体に悪いぞ?」

 

「いや、最近はやっぱり冷たい方がいいってニュースでやってたぞ?」

 

 一夏と松田はスポーツドリンクを飲みながら、それに聞き返す。

 

「いや、そりゃ勝手に結婚決められるのはあれだけどさ? でも、レヴィアさんも言ってたけど貴族っていろいろ縛りあるだろ? ノーブラなんたらとか」

 

「ノブレスオブリージュですよ?」

 

 蘭が訂正するが本題はそこではない。

 

 実際確かにそうだろう。貴族というものは特権を持っているが、それは責任を果たしてこそだ。そうでなければいずれ地球の様々な国家のようにクーデターが起きる。

 

 また、その特権を維持するためにも様々なしがらみが存在する。その一つが婚姻だろう。

 

 今までの話や態度を見る限り、リアスはわがままなところはあるが決して責任感がないわけではない。少なくとも貴族の責任を果たそうという気概ぐらいはあるはずだ。

 

 それなのに、リアスはこの結婚に関してだけは決して首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「そういえばそうですね。私は結婚が勝手に決められるのがいやだったので考えもしませんでした」

 

「だよなぁ」

 

 蘭に同意されて元浜はさらに首をかしげるが、そこによくわかってそうな人が乱入した。

 

「ああ、それは簡単だよ。そういう意味では僕と同じさ」

 

「おわっ!? レヴィアさん・・・っていうかイッセー無事か!?」

 

 松田がレヴィアに背負われているイッセーをみて驚きの声を上げるが、しかし冷静に考えれば今更の話でもある。

 

 なにせイッセーは全力全開をとにかく連発しているのだ。必然的に消耗は大きいというものだろう。

 

 だからレヴィアは一切気にせず、普通に簡単に説明する。

 

「リアスちゃんはあれで結構乙女なんだよ。だから、リアスとして愛してもらいたいのさ」

 

 そう苦笑するレヴィアだが、その口調は割と重いものだ。

 

 ・・・人というものは、結構色眼鏡でものを見る生き物だ。

 

 親の七光りということわざがあるように、家族や家系というものを重要視してしまうのが人というもの。それは悪魔にとっても変わらない。

 

 ましてやリアスは72柱の一つであるグレモリーだ。魔王すら輩出したその名は重く、それゆえにどうしても付きまとってしまう。

 

 リアスは、結婚する相手にはそれ抜きで愛してもらいたいと思っている。

 

「わがままなのは間違いないさ。貴族の婚姻は家の存続や影響力すら考慮に入れるべき商談。もちろん相手の心情を考慮した政略結婚も多いけど、恋愛感情を最優先にはしていられないさ」

 

 なにせ、結婚したということは相手の家系と自分の家系が家族になるということだ。どれだけ努力しようとも、影響がないわけにはならないのだ。必然的に政治的な影響力も大きくなってしまうだろう。

 

 だからこそ、地位ある貴族にはどうしても婚姻に責任が伴う。貴族を出奔するわけでもなくそれを無視するわけにはいかないのだ。

 

 だから、レヴィアは最初から愛情を考慮しない。真なるレヴィアタンの末裔という自分の立場で、それを優先した婚姻などするわけにはいかないとすら思っている。

 

 ゆえに、レヴィアはリアスのそれをわがままだと思っている。それは貴族として問題があるとすら思っている。

 

 しかし―

 

「それでも、リアスちゃんは条件は付けたんだ。それをグレモリー卿も呑んだんだ」

 

 大学を卒業するまでは待つ。それは、リアスが自分の責任も考慮して出した苦渋の決断だっただろう。そして、ジオティクス・グレモリーもそれを飲んだのだ。

 

 だが、彼は事情も説明せずそれを破談にした。

 

「だから、僕は一夏くんや君たちを差し向けるのさ。最初に貴族として恥ずかしい真似をしたのは彼なのだから、それ位はしないとフェアじゃない」

 

 そう言って、レヴィアは苦笑した。

 

「・・・なんていうか、面倒な性格してるよなレヴィアさん」

 

「同感だ。意外と面倒くさいなレヴィアさん」

 

「うるさいよ、そこ」

 

 そういい合う三人を見ながら、一夏と蘭は顔を見合わせて苦笑した。

 

 実際それもあるのだろうが、ほかにも理由はきちんとある。それは彼女も一度言っている。

 

 簡単だ。一夏と蘭は周りの勝手な都合で行われる結婚が気に入らない。それが理由の一つだ。

 

 織斑一夏は両親に捨てられた。だから親の勝手な都合に子供が振り回されることが気に入らなくてたまらない。

 

 五反田蘭は普通の家族のもとに生まれた。だから、普通に恋愛で結ばれない婚姻が気に入らない。

 

 レヴィアにしてみればある意味当然の政略結婚なのに、眷属の心情を気にして介入できる機会を用意した。

 

 本当に、人のいい眷属思いの主に出会ったものだと二人は思う。

 

「私の分も頑張ってくださいね、一夏さん。出ないとレヴィアさんの心意気が無駄になっちゃいますから」

 

「わかってるさ。絶対に、このレーティングゲームは負けられないな」

 

 二人は笑い合うと、決意をしっかりと込めなおした。

 

 



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戦闘校舎のフェニックス 6

 

 そしてレーティングゲーム開始の時間となる。

 

 其の時、レヴィアは特別の観覧席に招待されていた。

 

 その観覧席に出るのは、ジオティクスを含めたリアスやライザーの親族。そして婚姻のセッティングを整えた機関の者たちだ。

 

 本来ならレヴィアといえど気軽に入れる場所ではないが、今回は一夏たち眷属を特別参加させている手前、参加を要望できた。

 

「それで、勝ち目はどれぐらいあります?」

 

「イッセー君をどれだけ温存できるか・・・だろうね」

 

 蘭の質問に、レヴィアは率直に答える。

 

 実際、真正面からライザーの限界を突破できる火力を出せるのはイッセーだけだろう。

 

 実際、イッセーの最大火力はすでに上級悪魔の上を超え、ライザーを一撃で大きく消耗させれるレベルにまで到達していた。

 

 当てることさえできれば、一撃で戦局をひっくり返すことすらできるだろう。一撃当てることさえできれば、一夏なら一人で追い込むこともできるかもしれない。

 

 そう、()()()ことが()()()のなら。

 

 それだけの倍化ともなれば相当の時間がかかるし、来るということも分かってしまう。ましてやライザーはルーキーとしては非常に優れており、それ位なら把握できるだろう。

 

 油断してわざと喰らうというヘマをしてくれると期待するのは、いくらなんでも都合が良すぎる。

 

「蘭ちゃんが参加できれば勝算もごっそり上がるんだけどね・・・」

 

「それがわかってるからダメだしされたんですよね・・・」

 

 はあ・・・と、二人は同時にため息をつく。

 

 グレイフィア自体は恋愛結婚であるから心情的には複雑だろうが、メイドの立場では妨害側に回らざるを得ない。

 

 そういう意味でも難点であり、どうしても初期段階においてはライザーに有利な状況に置くしかなかった。

 

 だが、それでも勝算はある。

 

 赤龍帝の力は想像以上だ。あれがあるから勝算は0から数割程度に上がっている。

 

 あとは、それを生かすことができるかどうか。

 

「ま、あとは頑張りなよリアスちゃん」

 

 そうつぶやきながら観戦室へと入ると、すぐに視線が集まって誉め言葉が襲い掛かった。

 

「いつもお美しいですなレヴィア様」

 

「このような場所で申し訳ありません」

 

「ささ、こちらの席へどうぞ」

 

 そう席を進めてくる悪魔に丁重に断ってから、レヴィアは真っ先に席を選んで座る。

 

「お久しぶりですねグレモリー卿」

 

「これはセーラ様。お久しぶりです」

 

 リアスの父親なだけあり、最低限の敬意は見せるがへりくだりはしないジオティクスがレヴィアは嫌いではない。

 

 なにせ、昔から家名だけでものを見られるのには辟易している。旧魔王派にいたっては末裔たちですらそれを良しとしているのだから救えない。

 

 ましてや、彼らは守るべき民たちを滅ぼしかねない最終戦争すら行おうとしているのだ。

 

 王の義務とは守ること。愛すべき臣民たちを、そして国を守ること。

 

 時として、臣民たちを切り捨てねば国を守れず、そしてくにを守れないことでより多くの臣民たちが苦しむこともある以上、苦渋の決断をするべき時もあるし、そういう冷酷さが必要な時もある。

 

 だが、それすら忘れ無意味な戦争を行うようなまねをし、さらにはそれゆえに民から見限られたことすら忘れた旧魔王血族に未練はない。

 

 未練がないからこそ、似たような側面を見せる旧家をレヴィアは好まない。

 

 そういう意味では、レヴィアはリベラル派に属するジオティクス・グレモリーには好感を持っていた。

 

 持っていたところでこれである。

 

「しかしグレモリー卿。親が子供とかわした約束を破るのはどうでしょうか。いや、リアスちゃんのわがままなのはわかるんですが、飲んだのは貴方でしょう?」

 

 なので、今回は容赦をせずにはっきりと攻め立てる。

 

 政略結婚は貴族である以上考慮しなければならない事情だ。それはレヴィアもとっくの昔に受け入れ、貴族の責務として果たそうとすらしている。だから そこは文句を言わない。

 

 言わないが、貴族として恥ずべきことをしたのは躊躇なく責めるのがレヴィアだった。

 

 当人もその自覚はあるのか、一瞬ジオティクスは視線をそらした。そして、そこに同意するのがさらに一人。

 

「全くですわ。娘の婚姻を勝手に取り進めるなんて、私は反対したんですよセーラ様」

 

 リアスの母親であるヴェネラナにまでそういわれ、ジオティクスはどっちに視線を向けても攻められるという地獄を味わった。

 

「・・・そこに関しては欲を向けすぎたかもしれないが、しかしだね・・・」

 

「わかってますよ、白龍皇のことでしょう?」

 

 さすがにいじめすぎるのもどうかと思い、レヴィアはため息交じりに同情意見を出した。

 

 娘に甘いというより親バカの気があるジオティクスが、これだけの無理強いをするのだ。理由があるとすればそれだとはレヴィアも思っていたのだ。

 

「白龍皇って、赤龍帝と対になるドラゴンですよね?」

 

「そうだよ。ウェールズの伝承における、赤い龍と白い龍。それが赤龍帝ドライグと白龍皇アルビオンだ」

 

 蘭がすぐに正解を行ったのをほほえましく思いながら、レヴィアがさらに補足する。

 

 赤龍帝と白龍皇は、かつて三大勢力の戦争のさい、彼らを巻き込んで喧嘩をぶちかましたことがきっかけで封印されたドラゴンだ。

 

 彼らは神器の贄となり、そしてその神器は13の神を滅ぼす神滅具(ロンギヌス)として恐れられている。

 

 そして、二天龍と呼ばれる彼らを宿した者は、その多くが人間に宿った状態でも宿敵として激戦を行い、多くの被害を生んできた。

 

 その赤龍帝を、よりにもよってリアスが眷属としてしまったのである。それは当時の戦争を知る親としては白龍皇がいつ襲ってこないか心配にもなるだろう。

 

 だが、リアスの勝気な性格では戻って来いといわれても戻るわけがない。むしろ赤龍帝であるイッセーを守るために、自ら率先して巻き込まれるだろう。

 

 だから、結婚を利用して呼び戻そう・・・というのが真の目論見だったわけだ。

 

「実際孫がいるとはいえ、悪魔は人間の貴族と違って数が少ない。・・・何かあってからでは遅いではないか」

 

「まあ、イッセーくんは僕の舎弟であった以上ある意味責任はあるわけですから、これ以上は強くは言えないですけどね・・・」

 

 なにせ、一年以上舎弟として風紀委員の仕事を手伝わせた挙句、その力に欠片も気づかなかったのだ。

 

 ある意味、レヴィアの落ち度が原因だともいえる。

 

「でもいいじゃないですか。それならリアス先輩を助けるのはレヴィアさんの義務ですよね?」

 

「そこを言われたら反論できないねぇ。ま、そういうわけで容赦なく鍛えた僕の下僕があなたのもくろみを阻止しちゃってもいいですか?」

 

 蘭に悪戯めいた笑みで促されて、レヴィアは苦笑しながらそう告げる。

 

 それに答えたのは、ジオティクスではなくフェニックス当主だった。

 

「かまいませんよセーラ様。そもそも、いまだ未覚醒の赤龍帝を眷属ごと倒せなければ、白龍皇が襲い掛かってきたときには話にならないわけだ。そして赤龍帝にしてもライザーを倒さなければ白龍皇を倒すなど不可能でしょう」

 

 仮にも息子に対して少し辛辣な意見を述べながら、フェニックス当主は笑みを浮かべる。

 

「息子は挫折の経験が足りない。そういう意味では、私としては負けても得をするゲームです。グレモリー卿には悪いが、私は気楽に見られますよ」

 

「これは手厳しい」

 

 ジオティクスは苦笑するが、しかし確かにそれなら安心できる。

 

 赤龍帝が白龍皇を倒すことができるのなら、レヴィアと組めば苦戦することもなく倒せるとわかっているのだ。

 

 なにせ、神や魔王すら圧倒するといわれている二天龍も、神器に封印されている現状では倒しうる程度にまで下がっている。つまり神や魔王クラスがいれば、戦うことはできるのだ。

 

 そして、レヴィアはいずれ必ずその領域に到達するといわれている逸材だ。彼女が赤龍帝と手を組めば、勝率は大きく上がる。

 

 仮にも魔王の末裔を娘の護衛としてみるその意見にはいい顔をしない悪魔も多かったが、しかしそれならそれで都合がいい。

 

「なら大丈夫です。一夏さんもいますから!」

 

 蘭は顔を紅潮させてそう断言するぐらい勢いづいている。

 

 そんな蘭にたまらなくなり、レヴィアは顔を砲刷りさせた。

 

「うんうん。蘭ちゃんは一夏くんが絡むとさらに可愛くなるねぇ。・・・今夜食べせて痛い痛い痛い!?」

 

「レ・ヴィ・ア・さ・ん?」

 

「うんごめん悪かった悪かった悪かった!! 悪かったけどこの場ではわきまえて僕も悪かったから!? ああ、お構いなくみなさま僕ら流のスキンシップですから! ですから!!」

 

 プレッシャーをみなぎらせ、まったく別の意味で顔を赤くして頬をつねる上げる蘭にレヴィアは速攻で謝らざるを得ない。そして旧家の悪魔たちが蘭に危害を加えんと全力を出すのをとどめるのも忘れてはならない。

 

 間違いない。蘭はここまで計算に入れてお仕置きを発動させている。

 

「蘭ちゃん・・・恐ろしい子!」

 

「いい加減お仕置きも発展させないと何してくるかわからないですからね!」

 

 頬を膨らませながらそっぽを向く蘭に、レヴィアは苦笑するほかない。

 

「やれやれ。一夏くんも巻き込むつもりだったんだけどなぁ」

 

「そういう問題じゃないです。・・・あ、始まったみたいですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これぞ必殺、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

「「「きゃぁあああああ!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、衣服を粉砕するという技が発動していた。

 

「・・・レヴィアさん?」

 

「違うよ!? 僕そんなこと計画してないよ! でも後で頭下げて習得するけど!」

 

 もはやさっきの領域にすら到達している蘭の怒気におびえながら、レヴィアはしかし自分の無実を主張した。

 

 じっさい、責任があるなら効果的な特訓方法を編み出した朱乃である。レヴィアは全くかかわっていないので責任はない。

 

「しかし恐ろしい技ですな。どうも防護加護ごと破壊しているようだ」

 

「ええ、赤龍帝としての力はほとんど使っていないのにあれとは恐るべし・・・」

 

「たかが転生悪魔と侮っておりましたが、これはまた眼福な」

 

 意外と旧家の悪魔は戦慄していた。・・・一部本音が漏れていたが。

 

「レヴィアさん、習得したらお仕置きですからね」

 

「ちぇー」

 

 そして蘭はしっかりとレヴィアに釘を刺していおいた。

 

「あなた? しっかりと目を剥いておりませんでした?」

 

「むいてないからねヴェネラナ」

 

 そして夫妻もまた力関係がしっかりとわかる形を見せていた。

 

 そしてそんなことをしているうちに、イッセーと小猫は体育館から脱出した。

 

 そして、脱出した直後に朱乃の雷撃が体育館ごとライザーの眷属を吹き飛ばす。

 

「朱乃さん、火力在りますからね。直撃したら並の転生悪魔は一撃ですよ」

 

「よく言うよ。火力だけなら蘭ちゃんの方が上じゃないか」

 

 感心する蘭にレヴィアは苦笑を漏らす。

 

 じっさい、まともに戦えば蘭の方が勝率は高いだろう。それだけのポテンシャルを彼女は持っている。

 

 前代未聞の特性はそれだけのものがあるのだ。

 

 ゆえに参加できなかったが、これは意外と勝算が高い。

 

 この調子でいけば―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二人とも!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、二人を爆発が包み込んだ。

 

 

 

 



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戦闘校舎のフェニックス 7

 

 イッセーは、目の前で爆発が起きるのを感じた。

 

 そして、その爆発が真正面で切り裂かれるとの感じた。

 

「え、な、な、なんだぁ!?」

 

 あまりの突然の事態に反応できなかったが、しかしイッセーはすぐに見る。

 

 自分たちと同じ制服を身にまとい、そして一振りの装飾の施された長剣を持つ少年の姿が、そこにはあった。

 

「あ、織斑先輩・・・」

 

「大丈夫だったか、小猫ちゃん」

 

 そういってにやりと笑った一夏は、そのまま長剣を下手人へと突き付ける。

 

「横から不意打ちとか、卑怯だなアンタ」

 

「あら、レーティングゲームでは常套手段ですよ?」

 

 そういって、ドレスに身を包んだ妖艶な雰囲気の女性が空に浮かぶ。

 

 ライザー・フェニックスの眷属悪魔。その中でも最強の女王の立ち位置に立つ爆弾女王(ボム・クイーン)ユーベルーナ。

 

「味方が数人倒されようと、その隙を突いてより多くの敵を倒せればこちらが有利。それなのに気づかれて防がれるとは屈辱ですね」

 

「残心って言葉があってな! 勝った直後こそ気を付けるもんなんだよ」

 

 そう言い放つ一夏は、後ろを振り向くことなく二人に声を張り上げる。

 

「ここは俺に任せろ! 二人は先に行くんだ!!」

 

「あらあら、それは困りますわね」

 

 そこにさらに現れるのは姫島朱乃。

 

 体中から雷をバチバチと鳴らしながら、朱乃は微笑を浮かべて一夏の前に出る。

 

「女王は女王同士で相手をしますわ。皆さんは先に行ってください。小猫ちゃんと一夏くんはアーシアちゃんのところで回復するのが先ですわよ? ダメージ、割と入っているでしょう?」

 

 朱乃が見抜いた通り、余波を吹き飛ばしたからといって爆発の影響は少なからず残っていた。

 

 位置が離れていたためにダメージがないイッセーとは違い、少なくないダメージを刻まれている。

 

「わかりました。でも、回復が終わったらまず朱乃さんを助けに行きますからね」

 

「・・・イッセー先輩。すいませんが先に行っていてください」

 

「お、おう! わかったぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・よし! でかした一夏くん!!」

 

「一夏さん、かっこいい・・・」

 

 喝采を上げるレヴィアに、とろけた声を出す蘭。

 

 だが、その気持ちもわかるといわんばかりのファインプレーだ。

 

 間一髪のタイミングで割って入り、敵の攻撃を迎撃。どこかの物語の主人公のような活躍である。

 

「誇らしいですよね、レヴィアさん。あれも全部、レヴィアさんを守るために特訓したからなんですよ?」

 

「ふむ、それは何というか、うれしいというか後ろめたいというか・・・」

 

 主・・・というより親友を守るため、一夏は全力で己を鍛え上げた。

 

 女尊男卑とISの組み合わせが出ている状況では、鍛えたところで守れないと別の方法で支えるやり方を模索していた一夏だが、悪魔になったことで状況は一変した。

 

 なにせ、鍛えればISを超えるほどの戦闘能力を得れるようになるのだ。

 

 内心では男は女を守るものという古臭い理屈を持っている節のある一夏にとって、これはまさに水を得た魚も同義だ。

 

 だからこそ、徹底的におのれを鍛え上げた。

 

 すでに彼の戦闘能力は、その気になれば並の上級悪魔となら渡り合えるレベルにまで高まっているだろう。

 

 その彼が、戦車の駒で強化されているのにもかかわらずダメージを殺しきれなかった当たり敵の戦力も強大だが、しかしかなりの戦いになるはずだ。

 

 これならあるいはと、そう感じさせるほどにはいい出だしだった。

 

「ほほう、ライザー殿の圧勝かと思いましたが、意外ですな」

 

「しかしそれで婚姻が流れては貴族の在り方としてはいささか不満ですな」

 

「いいではないですか。セーラさま直々のご判断なのですから、それは良しとしましょう」

 

「ですな。少し手助けをしたていどで逆転されるなら、それはライザー氏が情けないだけでしょう」

 

 後ろで貴族たちが会話する内容を聴きながら、レヴィアはしかし少し暗い気持ちになった。

 

 セーラ・レヴィアタンの判断ならば、良しとする。

 

 旧家にとって家紋からくる権威は非常に大きいものだ。

 

 当然旧魔王派はそれが根幹となっている。そして、意外なことに新魔王派も割とそれが大きいのだ。

 

 考えてみれば当然だろう。二つを分けているのはあの時点での戦争継続と戦争中断。他にも些細な事柄はあったかもしれないが、基本的にはそれが原因だ。

 

 別に保守派と革新派の対立でも何でもない。そう見えるのは、トップに据えられた四大魔王が全員革新派であるがゆえに誤解に過ぎない。

 

 じっさいには旧魔王派にも負けず劣らずの保守派があつまっており、それが冥界の発展を妨げている部類もあった。

 

 とはいえ、革新派もまた革新が速すぎて民がついていけていない側面もある。だからこそ、旧家が足を引っ張っている現状はある意味好都合でもある。

 

 レヴィアは心情的には革新派だが、保守派の気持ちもわかるのだ。急激に環境を変化させた自分だからこそ、それが苦しいものだということもよくわかる。

 

 だが、レヴィアはその政治の在り方に極力首を突っ込まない方針を固めていた。

 

 もし自分が堂々と考えを主張すれば、その影響力は莫大なものになるだろう。

 

 そうなれば、きっと民は考えることをやめてしまう。ただレヴィアの影響力に目を焼かれ、それしか見えなくなってしまうものが大量に出てくる恐れがあった。現政権側の真なる魔王の末裔とはそういうものだ。

 

 だからこそ、レヴィアは今まで大きく政治的に動かないようにしてきた。

 

 領地経営すら、大まかな意向を伝えた後現地の役人に丸投げしている。冥界のインタビューに関しても、上から圧力をかけさせてもらってでもどちらかを褒めるのならその欠点もいうなどして、バランス調整に努めてきた。

 

 いずれは日本の天皇家のように、君臨すれども統治せずの立ち位置を確保できればとも思うのだが、しかし悪魔達はレヴィアに政治に参加してもらいたいらしい。

 

 どうしたものかと考えていると、しかし試合は大きく動いていた。

 

 木場と合流したイッセーたちが、残りの試合メンバーと戦闘を繰り広げている。

 

 そして、イッセーが木場にタッチしたかと思うと、木場の神器が増幅され、周りを一網打尽にしたのだ。

 

「なるほど、赤龍帝は倍加した力を譲渡すると聞きましたが、あれですか」

 

「恐るべきは神滅具。リアス・グレモリーもなかなか強大な戦力を獲得することに成功したものだ」

 

 感心しながらも、しょせんは龍だよりと揶揄するような言葉も届く。

 

 だが、これで戦力は大きく減った。

 

 それを機に、イッセーたちは小猫とも合流してライザーを討ちに本校舎へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、地獄が始まった。

 



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戦闘校舎のフェニックス 8

 

 戦いは、圧倒的だった。

 

 たとえ傷つこうと、炎の中からよみがえるフェニックス。

 

 彼らはレーティングゲームが始まって以来、その力を思う存分振るうことによってのし上がってきた家系である。

 

 その意味を、イッセーたちは十分に理解していなかった。

 

「・・・ゴメン、なさい」

 

『リアス・グレモリーの戦車(ルーク)撃破(テイク)

 

 負傷から回復した小猫が、こんどこそ倒れ伏す。

 

「く・・・こんな、ところで」

 

『リアス・グレモリーの騎士(ナイト)、撃破』

 

 イッセーとの共闘で敵の半数近くを屠ってきた木場が、焼き尽くされる。

 

「い、イッセー、後を、頼む・・・っ」

 

『リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)、撃破』

 

 アーシアを狙った攻撃を、アーシアを投げ飛ばして何とか防ぎながら、松田が吹き飛ばされた。

 

「す、すまんイッセー。俺は、もう・・・」

 

「ようやく捕まえましたわ! 焼き尽くされなさい!!」

 

『・・・り、リアス・グレモリーさまの兵士、撃破』

 

 レイヴェル相手に洋服崩壊をかまして、追いかけまわされていた元浜も叩きのめされた。

 

 それは圧倒的な光景だった。

 

「くそ、くそ、くそぅ・・・っ!」

 

 イッセーは、息も絶え絶えになりながら、しかしそれでもライザーに殴りかかる。

 

 だが、ライザーはそれをあっさりかわすと、拳をみぞおちにねじ込んだ。

 

「・・・ぐぁ・・・っ」

 

「その辺にしておけ。もうお前は限界だよ」

 

 ライザーの言う通り、イッセーはすでに限界だった。

 

 度重なる倍化の限界を超え、神器はすでにバースト状態に陥っていた。

 

 これではどう頑張っても神器を使うことはできない。そしてそれでは試合に勝てない。

 

 この試合に勝つための最も有効な策は、イッセーの神器を限界まで倍加させて、それをもってしてライザーを倒すこと。

 

 その前提条件が、イッセーの限界で崩れ去っていた。これでは勝ち目がほぼなくなっているようなものである。

 

 すでにイッセーもボロボロで、アーシアも術式で封じられた。

 

 朱乃と一夏はまだ無事なようだが、しかし敵の女王に足止めされている。

 

 完全に、詰んでいる。

 

 だけど、それでもイッセーはあきらめない。

 

「やめて、もうやめて、イッセー! もういいから! もういいから!!」

 

 さっきからリアスの声が聞こえるが、しかしイッセーはライザーに殴りかかるのをやめなかった。

 

 ああ、そんな声をしないでください、部長。

 

 イッセーは、リアスがなぜライザーと結婚したくないのかを思い出す。

 

 合宿のある日の深夜。たまたま目が覚めたイッセーは、リアスに直接聞くことができた。

 

 ・・・ただのリアスとして愛してくれるひとと結婚したい。

 

 はっきり言ってよくわからない願いだ。

 

 イッセーにとってリアスとは、すなわちリアス部長のことであり、グレモリーとかいうわけのわからない家系のこととは直接的に頭の中で結びつかなかったのだ。

 

 それを素直に伝えたとき、なぜかリアスが顔を赤くしていたのだけはよく覚えている。

 

 そして、そのあと特訓が伸び悩んでいると思っていた自分をしっかり慰めてくれたこともだ。

 

 ああ、自分はきっといい主に選ばれたんだと、その時本当に理解した。

 

 わがままなところはある、スパルタなところもある。だけど本当にきれいで、可愛いところのある主だ。

 

 その主、ただのリアスではなくグレモリーのリアスとしてみる男が目の前にいる。

 

 ああ、そうだ。

 

 そんな男との結婚は・・・。

 

「・・・断じて、絶対、許さねねぇ・・・っ」

 

「この、化け物がっ!」

 

 ついにライザーは炎を展開すると、それを全力で展開する。

 

 これまでのレーティングゲームで一切見せたことのないその出力に、外の観客も何人かが立ち上がった。

 

 下級悪魔があれクラスの攻撃を受ければ、レーティングゲームのシステムでも死なさずには済ませられないかもしれない。

 

 そして、その攻撃が放たれようとしたその時。

 

「・・・もういいわ!」

 

 リアスが、ライザーにぶつかってでも止めに入った。

 

「り、リアス?」

 

「もういい。もういいから、もう、いいから・・・っ」

 

 そのまま涙を流しながら、リアスは動き出そうとするイッセーを押しとどめた。

 

「ありがとう、イッセー。本当に頑張ってくれてありがとう・・・」

 

 そう優しくなでながら告げられるリアスのことばに、イッセーの緊張が解けたのか動きが止まる。

 

「朱乃、祐斗、小猫、アーシア・・・松田君に元浜くんに一夏君。それいイッセー・・・ふがいない私のために、ここまで頑張ってくれて、本当にありがとう」

 

 だが、これ以上は見てられない。

 

 これ以上、傷つくイッセーを黙ってみていることなんてできやしない。

 

 だから、もういいのだ。

 

「ライザー、・・・私の―」

 

 負け。

 

 その言葉を言うより一瞬早く、アナウンスが鳴り響く。

 

『ライザー・フェニックス様の女王(クイーン)、撃破』

 

 それが、戦局を再びひっくり返す大きな布石だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・な、なんだって?」

 

 赤龍帝の執念に魅入られていた悪魔たちは、観客席という見やすい場所にいながらこの展開に驚いていた。

 

 追い詰められたユーベルーナがフェニックスの涙で逆転を図っていたところまでは見ていたが、そこからは赤龍帝に畏怖されてそちらに視線が言っていた。

 

 そして、ライザーの目の前に一人の男が立つ。

 

『まだだ。まだ終わってないぜ』

 

 ぼろぼろになった制服を纏い、体中に血をにじませながら、しかし彼はしっかりと立っていた。

 

「やれやれ。君は本当にヒーロー体質だねぇ」

 

「リアス先輩にフラグが建たないといいんですけど」

 

 やれやれといわんばかりに苦笑しながら、レヴィアと蘭はしかし誇らしげな気持ちで画面を見る。

 

「よくも、俺の仲間や友達相手にここまで大暴れしてくれたな」

 

 一瞬でアーシアを封じていた結界をたたき切ったその少年は、その刃の切っ先をまっすぐ突きつける。

 

「リアス先輩。悪いけど、もうちょっと待ってもらいます。こいつは、切らないと気が済まない・・・!」

 

 セーラ・レヴィアタンの戦車。レヴィアの双翼の片割れ。

 

 そして、世界最強の人間の弟。

 

 織斑一夏が、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は、まどろみの中にいた。

 

 全身が痛いような気持ちいいようなわけのわからない感覚の中、しかしイッセーは何かに引っ張られるように焦っていた。

 

 ―まずいよな・・・早くしないとレーティングゲームが・・・。

 

 ライザーを早く殴り倒さないと、リアスが望まぬ結婚をしてしまう。

 

 記憶も定かではないが、しかしこれだけは断言できる。

 

 最後に覚えているリアスの顔は、泣いていた。

 

 ああ、自分は馬鹿だから細かい事情などはさっぱりよくわからない。

 

 わからないが・・・それだけで十分だ。

 

 愛する主を泣かせた男がいる。そいつが女の旦那になろうとしている。

 

 そんなものは断じて認めるわけにはいかない。意地でも婚姻は破壊する。

 

『ほう。あまりに才能がなくて残念だったが、しかし思ったより見どころはあるじゃないか』

 

 イッセーの耳に、声が届く。

 

 その声のする方に視線を向け、イッセーは少し覚醒した。

 

 十メートルを超える巨体の赤い龍が、そこにいた。

 

―あんた、誰だ?

 

『俺か? 俺はお前の神器に宿るドラゴンだよ。赤龍帝ってのは本来俺の名前なんだ』

 

 そういえばそんなことも言われていた。

 

 ウェールズの伝承における赤い龍。赤龍帝ドライグ。

 

 それを封印したのが赤龍帝の籠手だったが、なるほど、こいつがそうなのか。

 

『しっかし根性は見せたがそれでも無様だな。俺の宿主なんだからもうちょっと成果を上げてくれ。出ないと俺が白い奴に笑われる』

 

 白い奴というのが気になったが、しかし成果を上げるという点においては同感だ。

 

 たぶんだが、まだ決着はついていない。

 

 誰かが必死になって食い下がっている。

 

 だったら、ここでぼんやりしていていいわけがない。

 

『敗北は糧になる以上、負けるのが悪いとは言わない。だが、負けたままで終わるような奴に赤龍帝は名乗れない。・・・だから、勝つための力を代償付きでくれてやろう』

 

 ―代償付き? ・・・わかった、くれ。

 

 イッセーはすぐに答え、それを聞いたドライグはあきれたような軽く笑う。

 

『おいおい、そういうのは具体的に何が代償か聞いてからするもんだぞ? 魂とか言われたらどうするつもりだ?』

 

―は? 何言ってんだアンタ。

 

 心配そうに言ってくるドライグに、イッセーはあきれながらはっきりと言い切った。

 

―俺の魂ぐらいで部長の涙が止まるなら、安いもんだ。

 




松田と元浜の戦闘シーンを期待していた方はごめんなさい。テンポ的なあれを重視しました。



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戦闘校舎のフェニックス 9

 

 ライザー・フェニックスは翻弄されていた。

 

 正直に言えば、兵藤一誠の相手は疲れたといっていい。

 

 なにせ殴っても殴っても立ち上がってくるのだ。しかもぼろぼろになっているのにもかかわらず。

 

 正直恐ろしいとすら思ってしまったが、しかしそれでも戦闘能力は大したことがなかった。

 

 そう、フェニックスの再生能力を抜きにしても、自分はこのレーティングゲームで最強の存在だ。

 

 それは間違いなく自他ともに認める事実である。あるのだが・・・。

 

「なぜだ、なぜおれが翻弄されている!!」

 

 いま、ライザーは完全に防戦一方に追い込まれていた。

 

 全身に何度も裂傷が刻まれ、しかも反撃の炎はすべて弾き飛ばされる。

 

 それだけの一撃を放つものは、この場においてただ一人。

 

「俺の仲間をあれだけやってくれたんだ。覚悟はできてるんだろうな、ライザー・フェニックス!!」

 

 織斑一夏が、一人でライザーをここまで追い込んでいた。

 

「ぬぅうおおおおおおおおお!!!」

 

「うぅああああああああああ!!!」

 

 超高速度での攻撃の応酬が巻き起こり、そして一夏がそれらをすべて打ち勝つ。

 

 本来なら生半可な剣なら問答無用で熔け落ちているはずなのに、しかし一夏の剣は全くの無傷。

 

 それだけの奇跡を成し遂げられる一因。それはもはや一つしか考えられなかった。

 

「それも神器(セイクリッド・ギア)か!!」

 

「そうだ! これが、俺の神器、剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)だ!!」

 

 剣豪の腕。それは、所有している剣を超強化する神器。

 

 ただの剣を伝説の魔剣聖剣と同等のクラスへと引き上げるそれは、この場において攻撃力で他を寄せ付けない領域へと高められていることの証明。

 

 そして、その一撃を使う一夏も弱者ではない。

 

 仮にもセーラ・レヴィアタンが自ら選んだ眷属は伊達ではないということか。少なくとも同年代の転生悪魔では頭一つとびぬけた戦闘能力を発揮している。

 

「ぬぅううう! なぜだ、なぜそこまでして、この冥界に必要な婚姻を邪魔する! お前たちの主は婚姻そのものには反対していなかったはずだ!!」

 

 ライザーにはそれがわからない。

 

 セーラ・レヴィアタンは政略結婚という概念そのものは受け入れている。今回の件に関しても、介入するのは本来の条件を反故にしたジオティクスに対する意趣返しだといっていたはずだ。

 

 にもかかわらず、なぜか一夏は限界以上の全力をもってしてライザーを倒そうとしている。

 

「何言ってんだお前は、決まってんだろ」

 

 それに対して、一夏は嫌悪感のこもった表情を浮かべてライザーをにらみつける。

 

「あんた、最後の最後でリアス先輩が見せた顔を見ただろう! 見たうえでそんなことが言えるのなら、アンタはリアス先輩と結婚する資格なんてない!!」

 

 あの時、イッセーをかばった時、リアスは―

 

「リアス先輩はないいていたんだ! ふがいない自分に、自分のために傷ついた下僕たちに、そして何よりぼろぼろになっても立ち上がったイッセーに!!」

 

 放たれる炎を全力で切り飛ばしながら、一夏は再びライザーの体を大きく切り伏せる。

 

「お兄様!? 今助けに―」

 

「あらあら、そうはいきませんわよ?」

 

 レイヴェルが助けに入ろうとしても、そこに朱乃が妨害の雷を放って近づかせない。

 

 くしくも、最終決戦は二対二の状況にまで追い込まれていた。

 

「そんな涙を見せる相手と結婚して満足か!? ・・・ふざけんじゃねえよそれでも男か! 男が女に流させていいのは、うれし涙だけだろうが!!!」

 

 裂帛の気合とともに、ライザーの体が縦に両断される。

 

 それだけの想いを込めた一撃は、確かに今までで一番ライザーの精神を消耗させ・・・。

 

「なるほど、確かに男としては思うところはあるな」

 

 だが、ライザーは決して倒れない。

 

 それほどまでにフェニックスの再生能力は強大。精神を大きく消耗させてこそいるが、一夏の今の戦闘能力ではとどめを刺すには足りなかった。

 

「なら、俺との結婚生活でそれ以上の幸せを与えて見せるさ。ハーレム作れる俺が、それぐらいできないと思ってるのか?」

 

 そういいながら、ライザーは強引に一夏の首をつかみにかかる。

 

 一夏はそれを切り飛ばすことで防ごうとするが、それより早くライザーの腕が爆発した。

 

「な・・・グッ!」

 

 そして炎と共に再生したうえで一夏の喉をしっかりとつかむ。

 

 そして、その結果生じた隙を逃さず、ライザーは一夏の右手をつかんで剣の攻撃を防ぐことにも成功した。

 

「そろそろ寝ているがいい! 俺をここまで追い込んだのはお前が初めてだ。さすがはセーラ様の眷属に選ばれることはあると言っておこうか!!」

 

「・・・くそ、負けて、負けてたまるか・・・っ!!」

 

 意識が遠のきそうになるが、しかしそれでも一夏はライザーを引きはがそうと蹴りを叩き込む。

 

 そう、負けるわけにはいかない。負けたくない。

 

 一夏にとって、女とは男が守るものだ。

 

 今時古臭いといっても過言ではない考え方だが、しかし一夏は少なくとも自分はそうであるべく頑張ってきた。

 

 少なくとも守り守られる関係には到達したいと心から願っている。レヴィアに守られている今の現状に甘んじることだけは、絶対にしたくなかった。

 

 ああ、だからこそ負けたくない。

 

 だって、それがレーティングゲームにおける常とう手段だとわかっていたとしても・・・。

 

「女を戦わせて高みの見物してるような奴に、負けてたまるかよ・・・!」

 

 守るべき存在に守らせるその在り方だけは、一夏としては決して認めたくないものなのだから。

 

「そうか? 今時はやらないぜその考え方」

 

「それで・・・も、ゆずれ・・・ない、んだ・・・よ」

 

 しかし意識はどんどん薄れ、そして力も抜けていく。

 

 それでも、それでもせめて気持ちの上だけでは負けないとにらみつけ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、この戦い、最後まで粘ったお前の勝ちだよ」

 

 ライザーの顔面に、濡れたこぶしがたたきつけられた。

 

 同時に、莫大な力がその水分へと流れだす。

 

『Transfer!』

 

 その瞬間、ライザーの頭部が爆ぜた。

 

「ギャァアアアアアアアアアアアアア!?」

 

 あまりの激痛にライザーはのたうち回り、そして一夏は解放される。

 

「ゲホッッゲホッフゲッホォ! ・・・な、なんだ?」

 

 助かったのは良いが状況がわからない。そんな状態で視線を向ければ、いつの間にか新たな存在が其の場に現れていた。

 

 赤い龍を模した鎧。

 

 そこから放たれるオーラは明らかに莫大であり、圧倒的だった。

 

「大丈夫か、織斑」

 

「おまえ、イッセーか!?」

 

 なんでそんな姿に・・・とは思うが、しかし今は戦闘中だった。

 

「・・・バカな! 今のは・・・聖水!?」

 

 よろよろと立ち上がりながら、ライザーは唖然として自分の体についた水分を見つめる。

 

 聖水。聖別された特殊な水は、すなわち悪魔にとっての害悪となる。

 

 むろん、たかが聖水を浴びた程度で上級悪魔が死ぬほどの激痛を味わうわけがない。

 

 訳がないが・・・。

 

「禁手化した赤龍帝の力を譲渡すれば、これぐらいはできるってわけさ」

 

 鎧越しでわからないが、しかしイッセーはにやりと笑っているだろう。

 

「あり得ない! お前は今自分でも触れてたはずだ! こんな威力の聖水を、下級悪魔のお前が浴びてただで済むはずが―」

 

 言いかけたライザーは、しかし目を剥いて沈黙する。

 

 その理由が一夏にわからず首をかしげるが、イッセーはそのまま左腕を掲げた。

 

「気づいたか? そうさ、俺は左腕をドラゴンにささげてきたばっかでな。ドラゴンの腕なら聖水なんて関係ないだろ?」

 

 その言葉に、その場にいた全員が言葉を失う。

 

 ドラゴンにささげてしまった以上、もはやその腕はイッセー自身のものではない。

 

 一生治ることのないそんな代償に対してイッセーは軽く答えた。

 

「安いだろ? たった左腕一本で、部長が救えるんだからよ」

 

「イッセー・・・お前、すごいなほんと」

 

 その姿に笑みすら浮かべ、一夏はイッセーの肩をたたく。

 

「やるじゃねえか! ああ、男ならそれぐらいやって見せないとな!」

 

「ま、負けられないからな! ・・・そういうわけで」

 

 すでに限界だったのか鎧が解除されたイッセーだが、しかし状況はもう覆らない。

 

 聖水の影響でライザーの再生力は極限まで低下した。

 

 精神力の低下が、ライザーの治癒の力すら低下させているのだ。今から大きなダメージを受ければ、ライザーはもう耐えられない。

 

「ま、まて! この婚姻は、冥界の未来のために必要なことなんだ! お前ら下級悪魔風情が、本来偉そうにかかわっていいことじゃないんだぞ!?」

 

 心が折れたのかライザーは命乞いをするが、しかし二人は取り合わない。

 

「知らねえよ。俺は、守りたいものを守るだけだ」

 

「リアス部長泣かせておいて、今更情けない面見せんじゃねえ」

 

 一夏が剣を差し出し、イッセーはそれを手に取る。

 

『Transfer!』

 

 最後の譲渡が行われ、ただでさえ強力になっている剣が正真正銘最強クラスの聖剣魔剣と同等レベルにまで跳ね上がった。

 

「ま、まて、やめ、やめ、やめ―」

 

 ライザーは顔を引きつらせて後ろに下がるが、しかし間に合わない。

 

「「いっせーのーせ!!」」

 

「・・・ぎゃぁあああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 莫大なオーラを纏った斬撃が、ライザーを性根ごと真っ二つにたたき切った。

 



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戦闘校舎のフェニックス 終

 数日後、イッセーはレヴィアに招待されて、喫茶店に足を運んでいた。

 

 お嬢様ご用達の高級喫茶店。一部のメニューは数千円に到達する、超がつくほどの金のかかった店だった。

 

「さあ、イッセーくんはチーズケーキが好物だったね」

 

「あ、はい! ゴチになります!!」

 

 緊張のあまり吐きそうになりながらも、イッセーはしかし食欲を出そうと気合を入れる。

 

 こんなところでおごってくれるレヴィアに心から感謝しなければならない。

 

 と、そんな上がりっぱなりのイッセーの肩をつつきながら、一夏は苦笑していた。

 

「気にすんなよ。レヴィアもこんなときじゃなければこんな高級店なんて来ないからさ」

 

「そうですよ。たまにカップ麺で食事を済ませる時だってあるんですから。ね、レヴィアさん?」

 

 ニヤニヤとからかうように笑う二人を紅茶を飲んでスルーしながら、レヴィアはイッセーにケーキを進める。

 

「さあ、今回の功労賞だよ。遠慮せずにお食べ」

 

「い、いただきます」

 

 そういって、四人はケーキを食べ始めた。

 

「それにしても一夏君は本当にコーヒーをブラックで飲まないねぇ」

 

「レヴィアこそやめとけよ。胃があれるぞ?」

 

「別に食べながらなら大丈夫じゃないでしょうか?」

 

「織斑って健康オタクなんだな」

 

 そんな風に会話を楽しみながらケーキを食べ終え、食後の紅茶が運ばれてくる。

 

 それを静かに楽しみながら、レヴィアは少し苦い顔をしてイッセーに視線を向ける。

 

「それはともかくイッセーくん。仕方がないとはいえあれはさすがにまずかったよ」

 

「あれっていうと赤龍帝の鎧ですか? でも、あれぐらいしないと勝てなかったし・・・」

 

「それはそうだけど、君はもう少し自分の価値を考えた方がいい」

 

 自分の価値、といわれて、イッセーにはピンとこなかった。

 

 確かに赤龍帝の籠手を持っているのは大きな価値だが、ドラゴン化はそれを一時的にでも発揮するために必要だったことだ。

 

 あれがなければ勝てなかった。だから別にそれには問題ないと思う。

 

「それは俺もそう思うぜ。だってリアス先輩を守るためだったんだろう? むしろ褒めるところじゃないか」

 

 一夏も同意見なのかフォローを入れるが、レヴィアはそんな一夏にもため息をついた。

 

「じゃあわかりやすく言おう。蘭ちゃん、一夏くんが君を助けるために右腕をなくしたとして、君はそれを喜べるかい?」

 

「無理に決まってるじゃないですか! 好きな人が自分のせいで右手無くしたなんて、そんなの全然うれしくないです!」

 

 即答だった。

 

 想像しただけでいやな気持になったのか、蘭が涙目で一夏の方をみる。

 

 それを悪く思いながら、レヴィアはイッセーに向き直った。

 

「そういうことだよ。愛する下僕が自分のために左腕を捧げたなんて、情愛の深いリアスちゃんならかなり長い間気にすることだろうね」

 

「あ・・・」

 

 そこに至って、イッセーはリアスの態度の理由に気が付いた。

 

 ことが終わってから、リアスはイッセーの左腕を悲しげに見つめていた。

 

 これが終わってもまたあるかもしれない、とも言っていた。

 

 あれは、また同じことがあるかもしれないという不安ではなく、その時になってまた何か別のものを差し出すことになったらどうするのかという意味だったのだ。

 

 その時イッセーは何も考えずにほかに何かを差し出すだけだと返した。それでリアスが救えるなら安いものだと。

 

 それは、男として当然のことだったのかもしれない。だが、守られる女の側からしていればたまったもんじゃないだろう。

 

「今回は仕方がないことだったけれど、次からは僕に相談するなりなんなりすることを先にしようか。結婚関係は当分大丈夫だろうけど、ドラゴンはいろいろ引き付けるからトラブルも多いだろうしね」

 

 そういって、レヴィアはイッセーの左腕をとると、それを寂しげに撫でる。

 

「まったく、こんなことならまず殴り込みをかけて事情を問いただすべきだった。・・・君には悪いことをしたよ」

 

 本心からそう思っていることが取れる声色で、レヴィアは目を閉じた。

 

 その様子をみて、イッセーも罪悪感を感じて目を閉じる。

 

 敬愛する主や尊敬する人を悲しませていては、ハーレム王になんて一生慣れないだろう。

 

 こんなことがないように、もっと強くならなければならないと、イッセーは固く決意する。

 

 とはいえ、それで納得できない古風な人も中に入る。

 

「いや、でもそれは男としては勲章っていうか誇りっていうか。守られることを喜んでほしいんだけどなぁ」

 

 一夏としては素直にそう思うのでいろいろと思うところがあるのだが、しかし直後悲鳴を上げそうな表情になった。

 

 当然、空気を読んでない馬鹿に女子二人がお仕置きとして足を踏んづけたのである。

 

「一夏君。下僕が主を守るのは当然で、必要となるならば盾になって散るのも仕方がない。だがそんなことをされても僕はうれしくも何ともないんだ。この文明の発達した時代に過度の男の沽券なんてはやらないよ」

 

「全くです。私を守りたいなら私を泣かせない方法で守ってください」

 

「い、痛い痛い痛い! わかった、できるだけ何とかするから怒らないでくれよ!!」

 

「・・・このとーへんぼく」

 

 美少女二人に怒られる一夏をみて、イッセーは自分とは別の意味で一夏が問題児だということを痛感する。

 

 むしろ、覗き行為という最大の失態を封じ込めることに成功した自分の方がかなりましな部類ではないかとすら思ってしまうレベルだった。

 

 とはいえ、そんな彼に今回はとても助けられた。

 

 一夏がライザーを抑え込んでくれなかったら、リアスはすぐにでも投了をしていただろう。

 

 そうなれば、イッセーの左腕を犠牲にした覚醒も無意味になるところだった。

 

 様々な状況が神合わさったからこその勝利。ふたを開ければ自分たちの方が優勢な勝利だったが、しかしかなりの苦戦だった。

 

 こんなゲームで何度もしなければ、上級悪魔にはなれないのだ。

 

 険しきは昇格の道。これを潜り抜けて最上級にすらなったという転生悪魔たちを、イッセーは心から尊敬する。

 

 だが、だからといって夢をあきらめてはいられない。

 

 そう、ハーレム王になると決めた以上、こんなところで負けるわけにはいかないのだから。

 

「ま、お前も頑張って心配かけさせないように守り通せよ織斑。俺も女子を悲しませないようにハーレム王目指すからさ」

 

 そういうと、イッセーは拳を前に突き出した。

 

 思えば、覗きを敢行した時に容赦なくボコってきた一夏のことをイッセーは微妙に思っていた。

 

 だが、或る意味どこまでも男らしい側面を持つ彼には、尊敬できる部分もいっぱいある。

 

 だから、いまは尊敬するし感謝も使用。

 

「・・・まあ、確かに女の子を泣かせるのは男として失格だよな。頑張ってみるさ」

 

 そして、見直したのは一夏も同義だ。

 

 女の裸をこそこそと覗き見るような行為をする男なんて、下劣で卑怯だとすら一夏は思う。

 

 だが、イッセーたちはハーレムを作るために一生懸命努力して、難関校である駒王学園に入学したのだ。

 

 入学したのは一夏もだが、レヴィアのサポートの元優秀な家庭教師をつけてもらったことも大きい。そういう意味では半ば独学のイッセーたちの方がすごい。

 

 何より、今回のレーティングゲームでの男の張りっぷりは尊敬に値する。

 

 あれだけ叩きのめされても、意識を失うまで前に出続けた意志力は、素直に称賛するべきだ。

 

 じっさい、レヴィアに排出されて本質の部分が出てきてからは、イッセー達は女子からも見直されている。

 

 夢に向かって一生懸命で、人を色眼鏡で見ない彼は、最初に除きをしなければ持てていたかもしれない。

 

 だから、一夏も拳を前に突き出した。

 

「これからよろしくな、織斑」

 

「ああ、よろしく頼むぜ、イッセー」

 

 二人は、ここに友情を誓い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、帰りにホテルによろう。今回の敢闘賞二人に僕らでご褒美を―」

 

「レヴィアさん。私に一夏さんいがいの男の前で裸を見せろと?」

 

「あ、ごめんごめんちょっとした冗談というかなんというか待って待って待ってここ喫茶店ぎゃぁあああああああ!?」

 

 あと、レヴィア(アホ)の失言による制裁は二人ともスルーした。

 

 友情の連携会話でなかったことにするあたり、実は意外と本質的に似た者同士かもしれない。

 



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月下校庭のエクスカリバー

 

 風紀委員としての仕事は割と忙しいところもあるが、それ以上にレヴィアは仕事ができる。

 

 加えてカリスマ性あふれるレヴィアに仕えんと風紀委員に属したがる生徒も多く、それゆえに意外と仕事はすぐに終わるのが駒王学園の風紀委員だったりする。

 

 そのため、生徒の悩み相談などを受け付ける機会も多かったりするのだ。

 

「それで? 今回のお悩みは何なのかな松田くん?」

 

 とはいえ、眷属悪魔のお悩み相談を風紀委員室で受けるのは意外な話だったが。

 

「ああ、それがイッセーが木場のこと心配してるみたいなんですよレヴィアさん」

 

 と、松田は出された紅茶を飲みながら、そういってくる。

 

「俺から見ててもアイツ最近ぼんやりしてて。ほら、球技大会でもやばかったでしょう?」

 

「そういえば、隙だらけだったよな」

 

 資料を整理していた一夏もそれに同意した。

 

 最近、リアスの眷属である木場祐斗の様子が明らかにおかしい。

 

 ここ最近は球技大会の準備やそれに伴う警戒もあって、風紀委員としての仕事が多くて意識をまわしている余裕があまりなかった。

 

 そのせいで見過ごしていたが、確かにこれは気になるところだ。

 

「そういえば、俺は木場のことあまり知らないな。・・・もともと教会の出身だったらしいけど」

 

「そうなんですか? でも、その割には信仰心が残ってるアーシア先輩とそんなに親しげに会話したりもしてませんよね?」

 

 一夏が首を傾けて思い出した内容だが、蘭からしてみれば意外だろう。

 

 教会出身の割には、同僚であるともいえるアーシアと教会についてしゃべったことは特になり。

 

 それどころか、二人の記憶では祐斗は教会に敵意すら持っている節があった。

 

「別に、リアス先輩は教会の信徒を堕落させたりしそうなタイプじゃないし、何かあって追放されたとかそういうことじゃないのか?」

 

 と、付き添いできた元浜が眼鏡をキランと輝かせる。

 

「アーシアちゃんだって、悪魔()を治したことが原因で追放されたんだろ? 木場も似たようなことがあって、それで教会を敵視してたっておかしくないだろ。人に話したがることでもないしな」

 

「元浜さん、その眼鏡伊達じゃなかったんですね」

 

「酷いな蘭ちゃん!?」

 

 眼鏡キャラらしい解説を行う元浜に、蘭がひどいことを言った。

 

 本人としても悪気はないのだが、だからこそなおさらダメージが大きいことも世の中には一杯存在するのだ。

 

「まあ、木場くんはある意味アーシアちゃんよりひどいからね。・・・冥界にも転生悪魔を奴隷扱いする質の悪いのはいるけど、そういう意味では教会も同様ってわけさ」

 

 レヴィアはそうため息をつくと、外を見る。

 

 すでに天気は雨であり、このままだと大降りになりそうだ。

 

「何か知ってるのか、レヴィア?」

 

「僕の独断では言えないよ。それぐらいの内容だって思ってくれ」

 

 一夏にそう答えてから、レヴィアは立ち上がると資料を集め始める。

 

「さて、とりあえず今日は早めに終わらせて変えるとしようか。木場くんに関しては、こんどリアスちゃんの許可を取ってから説明するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、そんな余裕は与えられなかった。

 

「あの、いったいなんで私まで参加してるんですか?」

 

「一夏くんをこんなところに連れ込みたいんだったらどうぞ? 僕は乱交大好きだから何の問題もないけど?」

 

 そう答えながら服を脱ぐ二人は、ソーナの自宅に来ていた。

 

 サウナすら存在するこの家に来るのは、レヴィアにとっても久しぶりだ。

 

「ええ、ここのサウナはなかなか気持ちいから好きだわ」

 

「そうねリアス。旧校舎を改造してサウナを作りたくなってきますわね」

 

 リアスと朱乃も服を脱ぎながらそう答える。

 

 しかしまあ、なんというか胸が大きい。

 

 バイセクシャルのレヴィアは割と欲情し、蘭は自分のスタイルと比較して落ち込みそうになる。

 

「うぅ・・・。ま、まだ成長期ですし、これからですよね?」

 

「大丈夫大丈夫。蘭ちゃん年相応だから」

 

 涙目の蘭をフォローしながら、レヴィアはそろそろ本題に入る。

 

「それで、ソーナちゃん? 今回何があったのかな?」

 

「ええ、いささか厄介なことになっているの」

 

 サウナの中で、ソーナ・シトリーは真剣な表情を浮かべている。

 

「本日、私達に教会の戦士たちが接触を図ってきたわ」

 

「・・・それは、またタイミングの悪い」

 

 レヴィアは額に手を当てる。

 

 基本的に、教会の戦士たちは悪魔を嫌っている。

 

 彼らは主のために生きそして死ぬことを是とする集団。必然的に、主がいさめる欲望を肯定してそれを楽しむ集団である悪魔を嫌っている。

 

 正直に言って敵でしかないが、レヴィアは彼らに同情心を持っているところがある。

 

 魔王直結の末裔である彼女だからこそ知りえた情報が、彼らのある意味無意味な行いに憐憫の情を抱かせるのだ。

 

「彼女たちは、この地の担当であるリアスと交渉したいといってきたわ」

 

「私達と交渉? 教会の信徒が?」

 

「珍しいですね。教会の信徒って悪魔相手だとかたくななのに」

 

 リアスと蘭は首をかしげる。

 

 特に最近、この陣営で教会と揉めた記憶はない、そして、協力して何かを成し遂げねばならないようなイレギュラーもまた存在しない。

 

 そして、それはつまり―

 

「OK。一度人を雇って精査しよう。・・・これは何やらきな臭いことが起こりそうだね」

 

「話が早くて助かります。さすがはレヴィアね」

 

 レヴィアが言うが早いかスマホを動かしてすでに一斉送信しているところを見て、ソーナは口元を緩めた。

 

 優秀な友を持てるということは、なかなかに喜ばしいことだ。

 

「と、言いたいですがすでに調べ終えてます。どうもこの街で教会のエージェントが何人も殺されているようですね」

 

「遅いよ! うわ、取り消しのメール出しとかないと・・・」

 

 だが、これではっきりした。

 

 どうやらこの街、再びトラブルに巻き込まれているらしい。

 

「でもどうします? 私たちが殺したわけじゃないんですから、私達と教会以外にもそれができる勢力がこの街にいるってことですよね?」

 

「その通りです。おそらくは堕天使だと思われますが、しかしほかの神話勢力である可能性も捨てられないですね」

 

 蘭の疑念はもっともだが、ソーナとしては慎重に行かざるを得ない。

 

 なにせ、潜在的な敵までふくめれば、堕天使や教会だけを相手にしていればいいというものではない。

 

 ギリシャ・北欧を代表とする神話勢力。レヴィアが元居た旧魔王派。

 

 警戒に値する勢力は数多く、いつ何が起こってもなにもおかしくないのだ。

 

 いわば世界規模での冷戦状態。すでに燃え盛っている第三次世界大戦ほどではないが、それでも非常に強大な敵であることには変わりなかった。

 

「これは、割とかなりやばい事態が起こるかもね・・・」

 

 口調こそ茶化しているが、しかしレヴィアの表情は真剣そのものだった。

 

「蘭ちゃん、あの人に連絡を頼むよ。近くにいてくれればそれでいいから」

 

「わかりました。すぐに準備します」

 

 蘭にすぐに指示を出しながら、レヴィアは窓の向こうにある星を眺める。

 

 ・・・次の日もこんな形で夜空を見上げられるのかどうか、ふと不安になった。

 



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月下校庭のエクスカリバー 2

本作品は、基本的に双方ともにある程度魔改造が基本となっております。

・・・さすがに跡形もなく、とはいかないように努力しますがそういうわけにもいかないのはリメイク前の作品を見ればよくわかるかと


 そして教会との会合の日。レヴィアは無理を言ってはなし合いをする隣の部屋でスタンバっていた。

 

「ふむ、会話の内容もこれなら聞こえるね」

 

「いや、最初から中にいればいいだけの話だろ?」

 

 一夏は特に考えずにそういうことを言うが、しかしレヴィアはちっちっちと指を振る。

 

「それはダメだ。あくまで話し合いは教会のエージェントとリアスちゃんのだからね。眷属以外が部屋にいては、不機嫌になるだろう?」

 

「それなら最初から聞かないって選択肢ないのかよ、レヴィアさん」

 

 最近だいぶ慣れていた松田が、タメ口でレヴィアに尋ねるが、しかしそこでもレヴィアは指を振る。

 

「ちょっと嫌なことがあってね。ほら、リアスちゃんもまだまだ子供だし、相手も子供みたいだから。感情的になって揉めたら大変だろう?」

 

 レヴィアがいるのはすなわち、リアス・教会双方に対する安全装置だ。

 

 ここで二人が揉めてそれがきっかけで三大勢力の戦争再開だなんて笑えない。

 

 そう、三大勢力での戦争なんてやってはいけないのだ。

 

 そんなことになれば、間違いなく三大勢力は共倒れだろう。よしんばどれかの勢力がまともに機能しても、ほかの神話体系に狙われて滅ぼされるのがオチである。

 

 ゆえに、戦争が勃発しかねないこの現状は警戒する以外の何物でもないのだった。

 

「さて、それでは彼女たちはどうするんだろうね」

 

 そういって視線を向けるのは、朱乃に連れられて入ってきた三人の教会の人間だった。

 

「ふむ、全員ミスコンにでも出れそうなレベルの美少女だな。しかも三人ともタイプが違うとは驚きだ」

 

 元浜の眼鏡がきらりと光りあほなことを言うが、しかしそれに誰も突っ込まない。

 

 それほどまでに、三人が三人とも目を疑うような美少女なのだ。

 

 ISは第三次世界大戦勃発前までは基本的には軍用ではなくスポーツとして扱われていた。そのため、選手にはある程度の美しさが求められている。

 

 彼女たちは三人ともその要求ラインを余裕で通り越しているようなものだ。

 

 だが、それは消して見掛け倒しではない。

 

「できるなアイツら。誰一人として隙が無い」

 

 一夏が目を鋭くして観察する。

 

 そう、あの場にいる三人には隙が無い。

 

 同年代であそこまで鍛え上げるのは困難なレベルだっただろう。真ん中の一名は少し隙があるが、しかしそれでも松田や元浜では一人では倒せないだろう。

 

「あ、話し合いが始まりますよ?」

 

 蘭が気が付いた時には、すでに話が始まっていた。

 

『お初にお目にかかりますわ、グレモリー次期当主、リアス・グレモリーさん。私、英国教協会から派遣されたエージェントのセシリア・オルコットと申しますわ』

 

『ご丁寧にどうも。改めて、この地を治めるリアス・グレモリーよ。後ろに控えているのは私の眷属たち・・・イッセーは知っているわね?』

 

 真ん中に座るセシリアを名乗る少女と、リアスが言葉を交わし合う。

 

 彼女たちの一人がイッセーの昔馴染みで、昨夜イッセーの家に来ていたのはすでに知っている。

 

 下手をすればその場で殺し合いが勃発してもおかしくない状況だったが、イッセーの両親が何も知らないことを察したのかあの場では収めてくれたようだ。

 

 そして、話は本題に入る。

 

 かつて最強クラスの聖剣として名高かった聖剣エクスカリバー。

 

 今は七つに再鍛造されたそれのうち、現存する六つの半分が盗まれたというのだ。

 

「オイオイ! そんな簡単に盗めるものなのかよ!?」

 

「普通に考えて難しいね。今はエクスカリバーの使い手は全員見繕えている。つまり所有者を倒すなり殺すなりしてるってことだからさ」

 

 いろいろおどろく松田に、レヴィアは表情を険しくして応える。

 

 最強クラスの聖剣であるエクスカリバーの使い手は、上級悪魔にも匹敵する高水準の実力を持っていることと同義だ。

 

 確かにエクスカリバーは七分の一に弱体化している。また使い手の素質があるものが、必ずしも剣の使い手として優れているわけでもない。しかしそれでも脅威であることに変わりはないのだ。

 

 それを倒すということは、各種勢力でも上位側の存在が出てきているということだ。

 

『犯人はわかっているのかしら』

 

『ああ、下手人は神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部、コカビエルさ』

 

「は?」

 

 青い髪の少女の言った犯人の名前を聞いて、レヴィアは思わず大きな声を上げた。

 

『あら? なにか音が聞こえなかったかしら?』

 

『ネズミでもいるのだろう。もう少し掃除をきちんとしておくといい』

 

 栗毛の神の少女と青い髪の少女がいぶかしむが、しかし勝手に納得してくれたようだ。

 

「れれれレヴィアさん。驚きすぎ驚きすぎ」

 

 元浜が口元に指をあてていさめ、レヴィアは照れくさそうに笑うと頬を書いた。

 

「ごめんごめん。あまりにも驚きの名前が出てきたからね」

 

「でも、おかしいですよね」

 

 レヴィアが謝る中、蘭は不思議そうに首をかしげる。

 

「神の子を見張るものなら、当然自分の領地ぐらい持ってるはずです。なんで悪魔の領地になんて逃げ込んだんでしょう?」

 

「その神の子を見張るものと揉めて追い出されたとか? いや、そんな状態でエクスカリバー盗むなんて喧嘩売るようなことするわけないか・・・」

 

 元浜と一緒になって考え込んでいるが、しかし答えは出てこない。

 

 だが、この微妙な情勢で厄介なことをしてくれたことだけは間違いない。

 

 それを考えると、できる限りしっかりと動いた方がよさそうだ。

 

「おいレヴィアさん。なんかやばいこと言ってるぞ?」

 

「ああ、確かにこれは・・・」

 

 話を進めていると、今回戦闘を担当するのはセシリアたち三人だけらしい。

 

 神の子を見張るものに所属する最上級堕天使を相手にするには、いささか不安の残る構成だろう。

 

 まるで死を恐れているように思えない姿に、一夏は苛立たし気に奥歯をかみしめる。

 

「死んで来いって言われてるようなもんだろうが。そんなに神様ってのは偉いのかよ・・・っ」

 

「偉いんだよ。それが宗教ってものさ」

 

 レヴィアは紅茶を飲むとあっさりと答える。

 

「宗教とは、心の支えにして人生の意味にして正義の定義だよ。当然聖職者を名乗るのならそれが当然。死ぬことを恐れることはないよ。正しく生きてきたのなら、死後の幸せが保証されてるんだから」

 

 そういいながら紅茶を飲み干すと、レヴィアは苦笑する。

 

「だから厄介なんだ。定義されている正義を胸に戦っているから、時として平然と凶行に走りかねない―」

 

『そうか、では私に浄化されるといい』

 

 ・・・・・・・・・

 

 沈黙が走った。

 

『アーシアに触れるな!』

 

『何のつもりだ? 信仰を持ちながら悪徳にまみれた存在になったものを浄化しようというのだ。天からほめたたえられることこそあれ、とがめられることはないだろうに』

 

 そして、どんどんエスカレートしていった。

 

 レヴィア達は顔を見合わせた。

 

「よし、いこう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如壁が粉砕され、その直前まで口論していたイッセーとゼノヴィアは慌てて振り向いた。

 

「な、な、なんだ!?」

 

「敵襲か!? どういうつもりだリアス・グレモリー!」

 

「ふはははは! リアスちゃんは関係ないよ君たち!」

 

 誇りを振り払いながら現れるのは、セーラ・レヴィアタン眷属。

 

 その姿を見て、ゼノヴィア達は警戒して後ろに下がる。

 

「セーラ・レヴィアタン! 旧レヴィアタンの末裔か」

 

「何てこと! コカビエルを倒しに来たと思ったら、魔王の末裔とも戦うことになるなんて! アーメン、これも神の試練ですか!」

 

 ゼノヴィアとイリナは即座に戦闘態勢をとるが、しかし1人冷静なものがいた。

 

「あら、やはりおりましたのね」

 

「気づいてたのか」

 

 別の部屋にいるのに存在に気づいていたことに、一夏は警戒心を上げて腰を落とす。

 

 だが、セシリアは首を振るとそのまま腰を下ろしてお茶を飲み始める。

 

「私は戦いませんわよ。というより、一応止めましたからね」

 

「何を言うかセシリア! 信徒として信仰心を持つものが悪魔に落ちぶれているのを黙ってみている気か?」

 

 ゼノヴィアがにらんでくるが、しかしセシリアは逆に睨み返す。

 

「仮にも領主に無理難題を押し付けに来た上に、その眷属を殺すなど戦争再開の引き金になりますわよ? 私は没落したとはいえ貴族ですので、そのような下賤なまねには興味がありませんわ。責任を取って私が取り押さえなければいけませんので、ゼノヴィアさんもイリナさんも剣を収めなさい」

 

 その言葉に、一同の空気が弛緩する。

 

 悪魔側としては好都合な言葉だ。なにせ、エクスカリバー使いを二人も同時に敵に回せば、少なくない数の被害者が出てくることは容易に想定できるからだ。

 

「それと兵藤さんでよろしくて?」

 

「え、あ、はい」

 

「貴方ももう少し宗教について勉強なさいな。宗教を重要視しないこの国の人には理解できないかもしれませんが、他国でそんな発言をすれば、集団リンチを受けてもおかしくありませんわよ」

 

「あ、どうも」

 

 しかも、イッセーの方の叱責もきちんとしてくれている。

 これはなかなか常識人ではないだろうか。

 

 そう思ったのだが―

 

「文化的に後進であるとはいえ、戦火に包まれてないこともあり相応に水準の高い国家にいるのですから、もう少し水準の高い人物になるのが責務というものですわ。・・・我がイングランドのように上質な国家となるのは無理でも、やりようはいくらでもありますのよ?」

 

 ・・・最後に無自覚に挑発をぶちかましてきた。

 

「いや、世界メシマズランキングトップ独走じゃねえか、イギリス」

 

「一夏くん! メッ!」

 

 慌てて止めるが、セシリアの額に青筋が浮かんだのは誰もが見て取れた。

 

「・・・あらあら、我が国の合理的軽視をどうしようもないとか、第二次大戦で人のことを鬼畜などとおっしゃっただけあって野蛮な人柄が日本の特色なのかしら?」

 

「・・・食事を馬鹿にするやつが大したことあるとは思えないけどな。っていうか、いつの話してんだよこら」

 

「ちょっと!? なんで君たちが戦意むき出しにしてるのさ!!」

 

 どうしたもんかとレヴィアは頭を抱えたが、しかしそれよりもなおひどいことになってきた。

 

「面白い。じゃあ、少し模擬戦でもしてガスを抜くのはどうかな?」

 

 その言葉共に、部屋中に大量の剣が現れる。

 

 そしてそれを生み出した男は、いつもでは考えられないほど目の座った表情を浮かべていた。

 

「・・・失敗作としては、ぜひ成功作がどれほどのものか味わってみたかったんだ。さっきから勝手なことばかり言ってるんだし、それ位の代償は必要だろう?」

 

 木場祐斗は、冷笑すら浮かべて聖剣使い達をにらみつけた。

 




セシリアがだいぶ大人になっているのですが、まあ、彼女もかなり揉まれたのです。


この作品での魔改造は

1 レヴィアふくむD×D勢

2 第三次世界大戦

・・・この二つでお送りしています。


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月下校庭のエクスカリバー 3

 

 おっす! 俺イッセー!

 

 なんかわからないけど、教会の人たちと模擬戦することになった。

 

 ・・・なんでこうなった!

 

「いいね。最近昔を思い出してすごくイライラしていたんだ。発散するにはいい機会だ」

 

 うっわぁ。木場の奴いろいろとやばいことになってる。

 

 なんでも、教会の人体実験の被験者になったうえ、さらに失敗作として処分されたのが原因だ。

 

 しかもそれはエクスカリバーを使うための研究。そういうわけで、木場はエクスカリバーをうらんでいるらしい。

 

 いや、俺も確かにちょっといろいろ言いすぎたよ?

 

 でも、なんも悪いことしてないアーシアを、悪魔をいやしたからなんて理由で追放した教会にはいろいろといいたいことがあったから、ぶっちゃけ都合がよかったというかなんというか・・・。

 

「まあ、喧嘩を買ったのは君なんだから責任は取りなさい」

 

 辛辣だねレヴィアさん!

 

「一夏くんも。頼むからもうちょっと笑って流すとかスルーするとか覚えてくれ。そんなことじゃあ僕が本格的に社交界デビューした時心配だよ」

 

「わ、悪い。いいこと言ったと思ったらあんなこと言われてカチンときた」

 

「それでレヴィアさん。木場には何か言うことないの?」

 

 一夏にも説教するレヴィアさんに俺は聞いてみる。

 

 ぶっちゃけ、一番状況悪化させたのは木場だと思う。

 

 いや、俺はあの後リアス部長に怒られればすぐに引くつもりだったし、一夏だって時々問題起こしたらレヴィアさんが即座に〆るからすぐ終わる。

 

 だが木場の場合は先制攻撃といってもいいことをしてるんだ。これはまずいだろう。

 

「まあ、人様の縄張りで好き勝手させろといったうえでその眷属に手を出そうとしたんだ。勢い余って殺しても「そっちが悪い」で突っぱねれるとは思うけどね」

 

 物騒なこと言うな、レヴィアさん。

 

 だけど、レヴィアさんははあとため息をついた。

 

「言いたいことは少しあるけど、取り合えず頭を冷やしてもらうのが先だよ。そういうわけでまあ、頑張ってね♪」

 

 ウインク付きで地獄を見せられるのは確定ですか!

 

「それで、どうするんだ? なんか当たったらむちゃくちゃやばいんだろ?」

 

 さっき聖剣使いと上級悪魔の戦闘が映ったビデオを参考までに見せてもらったけど、切られたところが消滅してたりとかしてたんですけど!

 

 やばいよ、切られたら死んじゃうじゃん!

 

 俺は正直結構ビビってるけど、一夏は特に心配せず余裕だった。

 

「いや、切り合いなんてのは一発切られたらそれで終わりだからな。やることはいつもと変わりないさ。アーシアもいるだろ?」

 

「そ、それはそうなんだけどさ・・・」

 

「別にいいさ」

 

 おびえ越しの俺に、木場は冷たい声を放った。

 

「全員僕が切ればいい。なんなら下がってくれてもいいんだよ?」

 

「木場。これは手合わせだからな。必要以上の怪我を出させるなよ」

 

 織斑が釘をさすが、果たして木場の耳に届いているのか。

 

 で、俺の目の前にはセシリアさんが出てきた。

 

「・・・イリナが出てくるかと思ったんだけど」

 

「そうもいきませんわ。仮にも幼馴染ですし、それ位は気を使いませんと」

 

 そういうセシリアさんは、なんというか失望の色を顔に浮かべていた。

 

「しかし、弱いですわね」

 

「弱い?」

 

 いや、確かに俺は弱いですけど、それが何か?

 

「・・・私の父は、弱い人でしたわ」

 

 セシリアさんは、顔を伏せるとそう告げる。

 

「ISの影響がなくとも、家では母が主導権を握り、父はその顔色を窺ってへこへこする。そのせいか、私は男が嫌いでした」

 

 だけど、セシリアさんの言葉は続く。

 

「ですが、そんな父と母が一緒に出掛けて事故で死に、そしてその後男女共用型ISコアが出現しての混乱で、私は思い知りました」

 

 あの時代、女は男より強いという風潮があった。

 

 それは世の中ではむしろ常識みたいに言われていたけど、それは―

 

「―しょせん、女の強さもISによりかかっているからのものだということに気づきましたわ」

 

 そういうセシリアさんの表情は、やけっぱちとでも言いたくなりそうな顔がした。

 

「ええ、その影響で没落したオルコット家の私は教会の戦士としての道を歩むことになり、神への信仰心を強さに変える、そんなものなしに強い者たちに会って衝撃を受けました」

 

 そういいながら、セシリアさんは一振りの剣を何もないところから生み出した。

 

「私は、強い男に嫁ぎたいのです。地に堕ちたオルコットの未来を明るくする、そんな強い子を産んでくれる同年代の強い男を」

 

 そしてフェンシングのように切っ先を向けると、セシリアさんは闘争の笑みを浮かべた。

 

「さあ、あなたはお強いですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前には、紫藤イリナっていう女の子がいる。

 

 動きを見ればわかる。この子、強いな。

 

「女に手を上げるのは好きじゃないんだけどな。素直にアーシアに謝るっていうなら、手を引いてもいいんだぜ?」

 

 つってもそんなことはならないんだろうな。

 

 レヴィア曰く、信仰心の強さは排他的になりやすくなるってらしい。

 

 十字軍遠征による略奪や虐殺。コンキスタドールによる原住民の処刑。聖書の教えが行ってきた過激な行為はいくらでもある。

 

 しかも悪魔って基本敵だしな。

 

 敵を治した女を聖女扱いだなんてふざけんな! って感じなんだろう。

 

「久しぶりに再会した幼馴染は、悪徳に堕ちていた。・・・なんて悲劇」

 

 紫藤はなんか涙ぐんでいた。

 

 確かに、友達が滅ぼすべき敵になっていたなんて知っていたらショックだよな。

 

 だけど、それをきっかけに和解の道を作るってアニメとかでよくあるよな。

 

 正直ヒーローってのは気に入らない。・・・レヴィアに理由を説明したら「フィクションの区別はつけようよ。中二病?」とかあきれられたけど。

 

 ああ、完全に作りものって割り切ってみたら、まあ見れなくはないかな? 俺は俺の助けたいものを助けるだけだけど。

 

 まあそういうわけで話は聞くけど、そういう話みたいなことにらないだろうか・・・。

 

「ああ、これも主の試練なのだわ!!」

 

 ・・・あ、ならなそうだ。

 

「友情すら感じる幼馴染を乗り越え、主のためあえて刃をふるえという主のお達し! それを乗り越えてこそ、私は真なる信仰に目覚めることができるのよ!!」

 

 ああ、これはダメなタイプだ。

 

 完全に信仰に酔ってやがる。信仰してる自分が大好きなタイプだ。

 

「いや、俺も宗教観緩いからエラそうなことは言えないけどさ」

 

 これは、ちょっと駄目じゃないか?

 

「その信仰はどうかと思うぞ!!」

 

「アーメン! まずはあなたを裁いてあげるわ!!」

 

 俺とイリナは真正面から剣をぶつけ合う。

 

「・・・エクスカリバーと真正面から打ち合えるだなんて! その剣、いったい何!?」

 

「誰が教えるかよ!!」

 

 俺は体格差で押し切って攻撃を連続で叩き込む。

 

 確かにエクスカリバーの使い手なだけあって優れた剣術だ。

 

 だけど、これぐらいなら何とかなる!!

 

「ああん! 悪魔相手に苦戦だなんて主に怒られちゃう! ・・・本気、出すわよ!」

 

 イリナは追い込まれながらそういうが、この剣術でどうやって・・・。

 

 と、思った瞬間日本刀の姿をしていた剣が急に歪曲した。

 

「うわっと!」

 

 とっさに首を振って回避すると、さらにイリナは切りかかる。

 

 ・・・ああ、間違いなく何の変哲もない日本刀だ。なのにどうして?

 

 そう思った瞬間、こんどは日本刀がひも状になり俺の足に巻き付いた。

 

「なっ! クソっ!!」

 

 急いで切り裂こうとするが、なんだこれ、頑丈で切れない・・・!

 

「これが擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の力! ただの剣だと思うと痛い目見るわよ?」

 

「・・・くそっ!」

 

 まずい、思った以上に強い!

 

 だけど、男としてそう簡単に負けるわけには・・・!

 

 



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月下校庭のエクスカリバー 4

 

 木場祐斗は、ゼノヴィアを相手に防戦一方に追い込まれていた。

 

 様々な魔剣を作り出してはたたきつける木場だったが、しかしそれはゼノヴィアには通用しない。

 

 聖剣が一振りされるごとに、瞬くまに魔剣は粉砕されていった。

 

「わが破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)の前には子供のおもちゃだね」

 

「七分の一でもこれだけの威力か・・・! 全部壊すのは修羅の道だね!」

 

 木場はそれでも逆に戦意を向上させる。

 

 そんな様子をみて、レヴィアは軽くため息をついた。

 

「これは駄目だね。完全に頭に血が上っている」

 

「ええ、いつもの祐斗じゃないわ」

 

 リアスも不安げに見つめるが、しかし木場の様子は変わらない。

 

「典型的なテクニックタイプの木場君が、正面から力押しに回ってる時点で悪手だよ。あれじゃあいつもの力も出てないだろうね」

 

 そう酷評すると、レヴィアはほかの戦いも確認する。

 

「一夏君もいつもの癖が出てたからやらかされるかと思ったけど、本当にやらかしてるし・・・」

 

 一夏は有頂天になっていると、左手を握ったり開いたりする癖がある。

 

 エクスカリバーを使いを押し込んでいたことでその癖が出ているのに気づいていたが、やはりまだまだだということか。

 

 そして、イッセーだが・・・。

 

「なかなかやりますわね。剣技ではあの二人にはかなわないとはいえ、回避能力はなかなかですわ」

 

「そりゃそうさ! なんたって周りが一生懸命鍛えてくれたからな!!」

 

 意外にも一番善戦しているのはイッセーだった。

 

 相手がエクスカリバー使いでないことを考慮に入れても、かなり戦えているといってもいい。

 

 だが、その表情は何かエロかった。

 

 そして、松田と元浜も無言でエロい表情を浮かべて何かに期待していた。

 

 その気配に不穏なものを感じたのか、セシリアはバックステップで距離をとると、防御を重視した構えをとる。

 

「・・・なにかいやらしいですが、いったい何を考えておりますの?」

 

「はっはっは! 敵に秘密を教えるほど馬鹿じゃないぜ!!」

 

「・・・気を付けてください。イッセー先輩は女性の衣服を破壊する技を持っています」

 

 速攻で小猫がすべてをばらした。

 

「・・・な、ななななんですかそのいやらしい技は!! 恥を知りなさい!!」

 

「小猫ちゃん!? なぜネタバレを敵にばらす!?」

 

「警戒されたじゃないか、どうしてくれるんだ!!」

 

「ああああああ! な、なんてことだぁああああ!」

 

 顔を真っ赤にして胸をかばうセシリアに背を向けるという失態を犯しながら文句をいうイッセーに松田も便乗し、元浜に至っては崩れ落ちる。

 

 そんな馬鹿三人組に冷たい視線を向けながら、小猫はその理由を簡潔に言った。

 

「女の敵、最低です」

 

「うう、辛辣だよ子猫ちゃん!!」

 

 しかし事実なので誰一人反論できなかった。

 

 そして、それに大きなショックを受ける少女が一人。

 

「な、なんてことなの!? あの日の大事な幼馴染が変態に堕ちていただなんて!? ああ、主よ!!」

 

 衝撃を受けただけではなく、よほど心が揺れ動いたのか手を組んで天に祈るイリナ。

 

 それに対してイッセーは不満げな表情を浮かべるが、それより先に動いた人物がいた。

 

「戦闘中に―」

 

 一夏は一瞬で距離を詰めると、そのままイリナにつかみかかる。

 

「あ!?」

 

「油断しすぎだ!!」

 

 そして見事なまでの一本背負いを叩き込んだ!!

 

「あうっ! ま、まだ―」

 

 慌てて起き上がろうとするイリナの首元に、日本刀が突き付けられる。

 

「・・・まだやるか?」

 

「・・・参りました」

 

 隙を見せたのは完璧に自分が原因なので、イリナは素直に敗北を認めた。

 

「うう、悪魔に転生した人間に負けるだなんて・・・。主になんといってお詫びすればいいのかしら」

 

 ずーんという擬音が付きそうなほど落ち込むイリナに、戦闘中のゼノヴィアが声をかけた。

 

「気にするなイリナ。少なくとも、いま相対した悪魔の中では最強の使い手だ。・・・いずれ上級悪魔に昇格することもあり得るだろう」

 

「戦闘中に余裕があるね!!」

 

 木場は激高しながら切りかかるが、しかしゼノヴィアはそれを一振りで破壊する。

 

「悪いが、そろそろ決めようか」

 

「・・・なめるな!!」

 

 余裕の表情を崩さないゼノヴィアに、木場は最大規模の魔剣を生み出して切りかかる。

 

 しかし、それすら一太刀で破壊したゼノヴィアは、一瞬でその腹に柄をたたきつけた。

 

「・・・がっ!」

 

「まったく。何があったのかは知らないが、いくらなんでも激高しすぎだ。この程度でエクスカリバーの使い手を倒そうなどと片腹痛い」

 

 ため息をつきながら、ゼノヴィアはエクスカリバーを下す。

 

 ここにきて状況は一勝一敗。最後の戦いはイッセーに託されたわけだが・・・。

 

「うぉおおおおおおお! 金髪おっぱい!」

 

「そ、そんなに言うほどありませんわよ!?」

 

「いや、十分にスタイルがいい! だからその裸を、見る!!」

 

 そしてイッセーのやる気は十分。

 

 エクスカリバーに比べれば格下とはいえ、聖剣を相手にすべてをかわして攻めるという奮戦を見せていた。

 

「うぉおおおおおお! 英国貴族のおっぱいぃいいいいい!!!」

 

 その執念は限界を超え、兵藤一誠という男を極限の領域へと高める。

 

「行け、イッセー!」

 

「俺たちに、光を!」

 

 親友たちもまた思いを託し、そして未来をつなげようとせめて声を張り上げていた。

 

「そうだ、イッセーくん! 僕たちに素晴らしいものを見せてくれ!!」

 

 そして、レヴィアもまた彼に信頼を抱いて願いを託す。

 

「・・・変態達が劣情を暴走させてるだけ」

 

 小猫がそれらを簡単にまとめてからため息をついた。

 

「イッセーさん! そんなにおっぱいが見たいなら・・・私のを・・・」

 

「アーシア先輩、それは言ってはいけない道です! 戻ってください!!」

 

 恋は盲目を体現しているアーシアを蘭が引き戻そうと必死になっているが、しかしそれはそれとしてすごい戦いではある。

 

 今の兵藤一誠は、間違いなく少し前まで一般人だった下級悪魔の次元を超えていた。

 

 ゆえに、セシリア・オルコットでは対応しきれない。

 

 否、その能力は紫藤イリナやゼノヴィアですら困難な領域だろう。

 

 それを、ただの神器使いであるセシリアがしのぐことは困難に近く―

 

「もらった!」

 

 ゆえに、兵藤一誠の手はあと少しというところまで届き―

 

「・・・そうはいきませんわ」

 

 ―しかし、セシリア・オルコットが一歩上を行く。

 

 イッセーがセシリアに触れるほんのわずかの一瞬。

 

 その一瞬で、セシリアの足元から大量の聖剣が生えた。

 

 それを()()かわしたイッセーは、間違いなく将来の素質が高かっただろう。

 

 だが、ただの神器をもってして、エクスカリバーの使い手と並び立つのは伊達ではない。

 

 彼女もまた、一流の実力者なのである。

 

「・・・あれ? 力が・・・っ」

 

 聖剣のオーラの影響を受け、イッセーは崩れ落ちる。

 

 今ここにおいて、戦いの決着はついた。

 

「驚きました。戦い方は素人に毛が生えた程度なのに、しかし優れた反応速度ですね」

 

 セシリアはそういいながら聖剣を解除すると、そのままリアスたちの方をみて笑みを浮かべた。

 

「二勝一敗。・・・これで、勝負は終了ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ~、負けた~」

 

「大丈夫ですか、イッセーさん」

 

 アーシアから回復を受けながら、イッセーは肩を落として落ち込んでいた。

 

「うう、金髪美少女のおっぱい見たかった」

 

「そこかよ。女に負けたこととか落ち込むところはほかにあるだろ」

 

 悪魔でおっぱいが見れなかったことに落ち込むイッセーに、一夏はあきれ半分でため息をつく。

 

「別にそれはな~。俺の周り、俺より強い女の子ばっかりだし」

 

「だから気合を入れろって話だよ。人類統一同盟が男でも動かせるISを開発したんだから、もう男は弱いだなんて言えないんだぜ?」

 

 一夏は日本刀を手入れしながら、何かを思う表情で真摯にイッセーを諭す。

 

「そりゃ俺の価値観は古いかもしれないけど、男の意地ってやつはやっぱり大切にしないといけないだろ? 特にお前はハーレム目指してるんだから、それこそすごい男じゃなきゃいけないだろうが」

 

 それは確かにその通りだ。

 

 多くの女を引き寄せるには、それ相応のものが必要だ。

 

 それを周りに認めさせるには、相応の能力が必要だ。

 

 ハーレムなどという夢を認めさせるには、それにふさわしい人物にならなければならない。

 

 上級悪魔になるためには、戦闘能力も必要不可欠。そしてそれ以外にも必要なものは多くある。

 

「なるほどなぁ。俺たちの夢は険しいということか」

 

 それを理解して、元浜も肩を落とすが、すぐに気合を入れなおした。

 

「よっしゃ! だったら明日からもっと走るか!」

 

「そうだな。まずは体力をつけなくちゃ話にならないからな!」

 

 松田もそれに同調し、イッセーもまた気合を入れなおす。

 

「・・・ああ、そうだな。俺、赤龍帝だし」

 

「そういうことだよ。ま、俺は特に興味がないんだけどな」

 

 一夏のその言葉に、数秒後集中攻撃が放たれたがそれはともかく。

 

「うう、主の教え的に問題があるのですが、受け入れるしかないのでしょうか」

 

「アーシアさんはまだいいですよ。一夏さんは間違いなく冥界じゃそうなるのに自覚が足りてないし・・・」

 

「二人に同情します」

 

 肩を落とすアーシアと蘭に、小猫はおやつの饅頭を差し出した。

 

 しかし、それはそれとして問題は多い。

 

 なにせ、相手は堕天使幹部のコカビエルだ。

 

 間違いなく堕天使陣営において最強クラス。そんな手合いが、いかに魔王末裔とはいえまだ子供の悪魔の領地に侵入など大事件以外の何物でもない。

 

 それがわかっているがゆえに、レヴィアは即座の対処を決めた。

 

「リアスちゃん。・・・魔王様に連絡するべきだ」

 

「だめよ」

 

 レヴィアの言葉にリアスは即答する。

 

「そんなことになればお兄様に迷惑がかかるわ。・・・魔王が妹のために無理をしたなんて知られれば―」

 

「足を引っ張らないのも立派な支援。・・・これは僕らで解決していいレベルの領域じゃない」

 

 リアスの反論を、レヴィアは切って捨てる。

 

「・・・魔王レヴィアタン直系の末裔である貴女なら解決していいレベルじゃないの?」

 

「勘違いしないでほしい。魔王レヴィアタンの妹君はソーナちゃんだ。僕は先祖が魔王だったただの悪魔だよ」

 

 レヴィアは苦苦しい表情でそう告げる。

 

 が、それは一瞬のこと。すぐに笑みを浮かべると指を鳴らした。

 

「まあ、ルシファー様やレヴィアタン様じゃなければ問題ないでしょ。・・・そういうわけで、すでに通信はつなげてある」

 

 そういうなり、レヴィアの後ろに通信用の魔法陣が展開される。

 

 そして、そこに映し出されるのは二人の悪魔の姿だった。

 

 その二人を見て、レヴィアは深く一礼する。

 

「緊急の呼び出しをお受け下さり、ありがとうございますアジュカ・ベルゼブブさま、ファルビウム・アスモデウスさま」

 

「あ、アジュカさまにファルビウムさま!?」

 

 想定外の人物に、リアスは言葉を失い、そして部屋にいるほとんどの人たちが即座に跪いた。

 

「イ、イッセー先輩たちも早く! この人たち魔王様です!!」

 

「・・・え? えっと、マジ?」

 

「うぉおおおおお!? や、やややばい! 反応遅れた!?」

 

「え、ちょ、嘘だろおい!!」

 

「・・・あ、そうなんですか? 主に仕える者が悪魔の頂点とお会いするだなんて、主よ、これも試練ですかあうぅ!?」

 

 慌てる蘭の言葉に、状況が把握できていない者たちは混乱の極みになっていた。

 

 特にアーシアは条件反射で神に祈りを捧げて天罰を喰らっている。

 

『ああ、別に気にしなくていいよ。・・・面倒くさい状況になってるよねもう』

 

 と、眠そうな顔をした魔王が非常に眠そうな感じでそう答える。

 

「はい。それはもうコカビエルというとんでもない問題がやってきてしまいまして・・・」

 

『コカビエルって言ったら堕天使のタカ派筆頭じゃないか。本当にめんどくさいなぁ』

 

 いやそうな顔をするその魔王の言葉に、もう片方もうなづいた。

 

『ああ、それにこちらも問題がちょうど発生している状態だ。・・・すまないが増援を送るのには数日かかるとみていいだろう』

 

 その言葉に、レヴィアはすぐに眉を顰める。

 

「・・・何かあったのですか、アジュカ様?」

 

『ああ。現在魔王の領地で開戦派の悪魔たちがデモを起こしている。おそらく収まるのに数日かかるだろう』

 

『このタイミングでコカビエルが何かしたら、間違いなく世論は戦争再開に傾くだろうねぇ。・・・君たちが殺されたら本当に戦争勃発だよ』

 

「・・・え? マジ? 戦争ってそんなに起きかねないのかよ?」

 

 魔王二人の言葉に、松田が唖然として声を漏らす。

 

「・・・あり得るね。現魔王派は停戦を目的として旧魔王派を追い出したけど、それはあくまで当時の話だ。・・・転生悪魔による戦力増大をあてにして戦争再開を望む派閥は存在してる」

 

 レヴィアはそれにうなづきながら、一筋の汗を流す。

 

「エクスカリバーが都合よく三本も盗まれたことといい。まさか開戦派で示し合わせて戦争再開の口実を作ろうとしてる・・・なんてことがあるかもしれない」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいレヴィアさん! それってマジでやばくないですか!?」

 

「お、俺のハーレム王の未来に戦争の影が!? マジで!?」

 

 元浜とイッセーが愕然とするが、しかしこれは非常にあり得る話だ。

 

 現政権の中にだって、最終的な勝利のために必要だから一時的な停戦を了承したものも多いだろう。そしてそれは天使や堕天使にも一定数いるはずだ。

 

 もし、彼らがどこかの勢力が動いた時に便乗するための準備を起こしていたとしたら・・・。

 

「・・・まずいね。コレ、下手に魔王様を呼んだら逆効果だ」

 

『だよね。たぶんだけど、デモを先導してる連中はコカビエルの動きを察知したとかじゃない? 足止めして君たちがコカビエルにエクスカリバーで惨殺される・・・って格好の戦争勃発理由を作ろうとしてるんだよ』

 

 眠そうな顔をしている方の魔王―ファルビウム・アスモデウス―が確信すら持った声色でそう言い切る。

 

 しかし、これでは下手に魔王が動けばそれこそ戦争が勃発しかねない。

 

『堕天使総督であるアザゼル自身は戦争継続には反対の方針をとっているはずだ。おそらく、堕天使側がコカビエルの動きを知っていれば、止めるための戦力が動かされるだろう』

 

「それに期待するしかないですが、しかしそれだけってわけにもいきませんね」

 

 ため息をつくと、レヴィアは立ち上がる。

 

「是非もない。リアスちゃん、悪いけど二日持たせて」

 

「どこに行くの、レヴィア?」

 

 リアスの当然の疑問に、レヴィアは苦笑を浮かべながら答えを返した。

 

「コカビエルを倒せそうな戦力を、いまから呼んでくるんだよ」

 



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月下校庭のエクスカリバー 5

 

 レヴィアが出立して一日後、一夏は一人鍛錬を行っていた。

 

 素振り数百本から、敵をイメージしてのシャドウトレーニング。

 

 相手の動きを脳内に再現し、それに対して真正面から対応するという簡単なものだ。

 

 今回の相手は、今までの中でも上位に位置するライザーを選択。

 

 だが、相手が悪かった。

 

 ライザーが強すぎるという意味ではない。守れる強さを求める者としてみれば、必然的に強敵の方がいいのだから。

 

 悪かったのは相性だ。

 

 ライザーは72柱のフェニックスとしてオーソドックスな戦闘を行う。

 

 つまり、生半可な攻撃は再生力で突破するのだ。

 

 これでは言っては悪いが訓練にならない。

 

 剣の腕を磨くのならば、小技すら技量でしのいでくれる相手の方がいいのは自明の理だ。

 

 そんなことにすら気づかないほど、自分は緊張しているのだということがよくわかった。

 

「・・・コカビエル、か」

 

 神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部。聖書にすら記される最高峰の堕天使の一角。そして、異形社会のセオリーに照らし合わせればそれは最強クラスの堕天使であることの証明。

 

 間違いなく、今までとは段違いの相手だろう。ライザーが眷属を全力で投入したとしても返り討ちにできるほどの能力があるはずだ。

 

「勝てるのか、俺たちに」

 

 タイミングよく冥界で発生したデモのせいで、魔王たちは増援を送れないという。

 

 しかもそのデモは開戦を促す運動だ。

 

 かつての大戦で不具になったり、家族を失った当事者や、若いがゆえに血気盛んで、天界や堕天使と揉めて痛い目を見た者たちが積極的に動いているらしい。

 

 一夏としてみれば競い合う競技があるのならそれで十分だし、戦争なんて起こして民間人を巻き込むのは本意ではないのでまったく理解できないが、怨恨というのは大きいのだろう。

 

 しかし、タイミングがあまりに悪い。

 

 おかげで当分増援が来てくれそうにない。この状態でコカビエルが暴れれば、かなりの被害が出てきてしまうのは間違いない。

 

 レヴィアのいう増援のあてにも心当たりがあるが、しかしできれば巻き込みたくはなかった。

 

 彼女には彼女のやりたいことがある。それを邪魔するのは非常に心苦しかった。

 

「・・・あらあら、一夏くんは休憩中でしたか?」

 

 その声に、一夏は顔を向けた。

 

 長い黒髪をポニーテールにした、かつての幼馴染を思わせるその姿に、一夏は目を細めた。

 

「朱乃さん」

 

「はい。朱乃ですわ」

 

 朱乃は名前を呼ばれたのがうれしいのか、普段とは違う普通の少女が浮かべるような微笑をその顔に浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 一夏はいつの間にやら朱乃の手製の弁当を食べることになっていた。

 

 持ってきてくれたことには礼を言わなければならないし、ちょうどいい時間帯でおなかが減っていることも事実だ。

 

 だからそれに関しては問題ない。ないのだが。

 

(・・・これ、あれか?)

 

 一夏は極めて鈍感である。

 

 周りの女性からのアプローチを全く理解できないのは序の口。

 

 ひどいときは校舎裏に呼び出されて誰もいないところを確信して顔を赤くした女子から「付き合ってください」といわれても意味を理解できない。

 

 まず真っ先に考えるのは「どこに買い物に行くんだろう」。そして続いて「なんで顔赤くしているんだろう」。そして最後に「そもそも、なんで誰もいないところに呼び出したんだろう」などと考える筋金入りの朴念仁である。

 

 そういうわけで、レヴィアはそれを矯正するためにあらゆる手段をこうして徹底的に矯正した。

 

 一日一恋愛漫画を徹底し、とにかく女性が告白したがっているパターンを徹底的に叩き込んだ。

 

 叩き込まれた一夏は軽いノイローゼに襲われたが、それ以上に鈍感で女性が傷つくのはまずいとレヴィアに怒られたので気合を入れた。

 

 自分のせいで女の子が傷つくのは男としてあってはならない。その一念で、何とか客観的に見ることでそういうものだということだけはわかるようになった。

 

 なったので、なったので一夏は想定できる。

 

 あれ? これもしかして好意抱かれてね?

 

 朱乃はこういうことを普通にできるタイプではあるが、一人でいるときにわざわざ持ってくるというのがまず警戒点だ。

 

 なにせ一夏はレヴィアの眷属。リアスの眷属ではないのだ。

 

 それになんていうかニコニコしているのはいつものことだが顔が赤い。

 

『一夏くん。君の周りで顔がほんのり赤い女の子を見かけたら、表情が笑顔なら君がフラグを立てたと思い、それを聞いてみるんだ。そしてその返答にかかわらず僕と蘭ちゃんに相談するんだ。君が笑いものにされるかもしれないが、君はそれぐらいしないと危険すぎる』

 

 などと真剣に両肩に手を置かれて言われては、下僕としては実行するほかない。

 

 ゆえに、今回もそうしよう。

 

「えっと、これは俺、いつの間にかフラグ立ててました?」

 

「あら、すぐに気づきましたのね。すごい鈍感だと聞かされていたのですが」

 

 即答だった。

 

「おれ、好意を抱かれるようなことしましたっけ?」

 

 一夏はそのあたりを即座に聞くことにした。

 

 特に特定個人に好かれるような行動をとったつもりはまたくない。

 

 蘭の場合は一目惚れであり、そのあとある事件をへて本格的に好かれるようになっているが、そういう事件が起こったわけではない。

 

 だから、どうしても気になってしまったのだ。

 

「・・・そうですわね。といっても、大したことではありませんのよ?」

 

 朱乃は顔を赤くしながら照れくさそうに笑う。

 

「最初はなんていうか、強くなると思ったからですの」

 

「強くなる?」

 

 それはそれでうれしいが、それがどうしたのだろうか?

 

「私も女ですから、守られたいという願望はありますの。祐斗くんもそれは同じでしたが、なんというか・・・あの子はリアスの騎士であろうとしているところがありましたから」

 

「はあ」

 

 やはりこういう恋愛事情は苦手だ。まったくわからない。

 

「・・・そうですわね。それが大きく変わったのはレーティングゲームの時でしょうか」

 

 そこで、朱乃の表情に艶めかしさというべき色が増えた。

 

「敵の女王がフェニックスの涙を使った時、私は反応が遅れてしまいました。其れなのに、一夏君はすぐに反応して対応して見せましたわ。おかげで、捕らわれた後に救われるお姫様みたいな感覚を得たのが一つ」

 

「は、はあ」

 

 男として当然のことをしただけなのだが、そういわれるとなんていうか照れる。

 

「そして、そのあとのライザー・フェニックスと一対一での戦い。女の部分がしびれましたわ」

 

 そう告げると、朱乃は一夏にしなだれかかる。

 

「あ、あの、朱乃さん!?」

 

「はい。なんですか?」

 

 素直に首を傾げられると、どうしたものかと思ってしまう。

 

「・・・いや、その、俺は・・・」

 

 実をいうと、あれに対しては個人的な反感もあったのだ。

 

 レーティングゲームのセオリーからしてみれば、実にくだらない男の沽券。

 

「・・・あれ、実は男のくせして女を戦わせて様子見してるライザーにイライラしてたのが結構あって・・・」

 

 だからそんなに尊敬しないでくれ。

 

 そういう一夏の個人的すぎる理由を伝えてみたのだが、朱乃は少しきょとんとするとすぐに笑みを浮かべた。

 

「あ、そうですよね。ほんと、いつの時代の話なんだか―」

 

「いいえ、むしろもっと好きになりましたわ」

 

 そういってさらにしなだれかかられた。

 

「え、えっと、朱乃さん!?」

 

「ええ、今時なかなか言えない言葉。そんなことを胸にして戦えるだなんて・・・女がうずきますわ」

 

 うるんだ瞳で見られ、一夏は顔を真っ赤にする。

 

 女がうずく。そんなことを言われたら、矯正されている今の自分なら確かに気づく。

 

 そして、同じぐらいあることに気が付いた。

 

 ああ、姫島朱乃という女は―

 

「―守られたいんですか、朱乃さんは」

 

「―ええ、古い女といわれるかもしれませんが、そういう感情もあったりしますのよ」

 

 守られるだけは確かに嫌だ。好きな男が自分のために傷つくのは心が痛む。

 

 だが、同時に傷つきそうになる自分を守ってくれる男を求める。そういう昔の女の感情を朱乃は持っていた。

 

「今時古いかもしれませんけど、そういう女のロマンにあこがれる自分も確かにありますの。・・・笑います?」

 

「笑いませんよ」

 

 それどころか、むしろ好ましいという感情すら湧いてくる。

 

 ああ、守ってくれといわれるなんて、むしろ男の本懐だろう。

 

「そういうことなら任せてください・・・とまで言えないのが残念ですけど、それでも守るために全力を出します。男ですから」

 

「ええ、私も守られるだけの女ではないので、それぐらいでちょうどいいですわ」

 

 一夏の決断に朱乃は微笑むと、そのまま唇を触れ合わせた。

 

 因みに、一夏がそれに気づくのに五秒かかった。

 

「・・・な、朱乃さん!?」

 

「たぶん蘭ちゃんが初めてでしょうけど、それでもおいしくいただきましたわ」

 

 そういっていつもどうりのお嬢様のような笑みを浮かべると、朱乃はすぐに悪戯娘のような可憐な笑みを浮かべた。

 

「因みに私は不倫もいいと思うタイプですので、ここまで言わせた以上しっかり狙っていきますわ」

 

「ふ、不倫!? いや、俺が困りますって!!」

 

 一夏としてたまったものではない。

 

 すでに嫁がいる状態で、不倫などと不誠実すぎる。

 

「あ、悪魔はハーレムOKなんだから、やるならまとめて娶ります! そんな不純な恋愛なんて絶対しません!」

 

「あら、娶ってくださいますの?」

 

 墓穴を掘った。

 

 この日より、織斑一夏は人生の墓場を豪華にするための毎日を送ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・っ!?」

 

「どうしたんですか、蘭ちゃん?」

 

「ついに、恐れいていた事態が起きた予感が!」

 

 乙女の勘は非常に優れているのである。

 




はい、ラブコメ回のスタートです!

本作品はクロスオーバーをするにあたって、互いの惚れた相手が変わっていたりとかを普通にするのでお覚悟願います。

あと、数が多いという問題に対抗するため、基本としてIS側のヒロインはゲストヒロイン的立場で運用することになるでしょう。御容赦ください。


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月下校庭のエクスカリバー 6

 

 一方、イッセーはイッセーでいろいろと動いていた。

 

「いやだ、いやだぞ、俺は逃げるぞぉおおおおお!!!」

 

「だめです」

 

 シトリー眷属の兵士、匙元士郎が涙を流して逃亡しようとする。

 

 そして、そのベルトを小猫がつかんで離さない。見ていて滑稽なほどだが、それほどまでに兵士と戦車の駒による筋力強化の差は大きかったのだ。

 

 匙元士郎が逃亡を試みている理由は単純明白である。

 

 ・・・一下級悪魔が、好き好んでエクスカリバー使いに喧嘩を売るわけがない。

 

「なんで、エクスカリバーを破壊しようだなんていうんだよ、お前らは!!」

 

「いや、そうでもしないと木場が納得しないだろうし」

 

 殺意すら混じり始めている匙の文句に、イッセーはあっさり答えた。

 

 結局、あの後木場は一人でエクスカリバー使いを探しに出て行った。

 

 いつもならレヴィアは気づいただろうが、コカビエルに気を取られているらしい。特に言及することなく増援を呼びに行ってしまった

 

 それだけの相手なのだと生唾を飲み込むが、しかし問題なのは木場の方だ。

 

 変なことをして、はぐれになられたらリアスが悲しむ。

 

 イッセーはそれだけの理由で、エクスカリバーを一本ぐらいは破壊させてはくれないかと頼みに行こうとしたのだ。

 

「まあ行けるだろう。なにせこちらとしては領内でもめ事を起こされてるんだ、自衛の許可ぐらいは貰ってもばちは当たらんだろう。・・・うっかり外を出歩くうっかりさんだろうが、身は守らないといけないからな」

 

「元浜先輩。眼鏡ですね」

 

 眼鏡をキランと輝かせながら含み笑いを浮かべる元浜に、小猫は冷静に、しかし素直に賞賛する。

 

 ぶっちゃけ、ここまで頭がいいとは思わなかったという顔である。

 

 イッセーもそれにうなづく。それに、それ以外にも勝算はあるのだ。

 

「そうそう。それに向こうは堕天使の手に渡るぐらいなら破壊するって言ってるんだ、俺たちが壊したってそのまま放置して向こうが回収すればいいわけ立つだろ?」

 

「それに俺を巻き込むなって言ってんだよぉおおおお! 殺す気かお前らぁああああ!!」

 

「だから逃げんなって」

 

 ついに限界を声て小猫を引きずる一歩手前にまでいった匙だが、しかしそこで松田も参戦した。

 

 二人掛かりではさすがにかなわず、結局匙は引きずられる。

 

「くそぉおおおおお! お前らのところのレヴィアさんとリアス先輩は厳しいながらも優しいだろうが! うちのソーナ会長は厳しくて厳しいんだよ!! バレたらどんなことされるか」

 

「いやいや、レヴィアさんだって厳しい時は厳しいぞ。こんなことしたのがばれたら、半月はエロいことしてくれないだろうな」

 

 松田がそれを想像したのか、涙を流して反論する。

 

 ・・・とたん、イッセーと元浜の歩く速度が数割減したのはご愛敬である。

 

「まあ、逆に匙は「舎弟が迷惑かけたね。お詫びに・・・っ」ってエロいことしてくれるだろうからそれが報酬ってことで」

 

「払うのレヴィアさんかよ!? ・・・え、マジ? マジで?」

 

 渾身のツッコミを入れた後、しかし鼻の下を伸ばしながら念のため確認する匙に、小猫は何も言わず冷たい視線を向けた。

 

 いつの世も、エロい男というものは年頃女子に嫌われやすいのである。レヴィアなどは例外なのである。

 

 だがまあ、いつものことといえばいつものことなので気にしない。

 

 そんなことより、気にするべきことはいくつもあった。

 

「ですが、どうやって探しますか? この街結構広いですよ?」

 

「あ、確かに」

 

 その言葉に、元浜がぽんと手を打った。

 

 そういえば、コンタクトを取る方法が一切ない。

 

 これではどうしようもないと思ったその次の瞬間だった。

 

「・・・まったく、人が目を離した隙に何を考えておりますのイリナさんは」

 

「もっと言ってやってくれセシリア。私はいつもこれに振り回されてるんだ」

 

「うぅ・・・。だって、だって聖人の絵だって言ってたんだもん!」

 

 ・・・・・・・・・いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・まあ、私はカードを持っているのでどうとでもなるのですが」

 

「さすがは没落したとはいえ貴族。おかげで助かった」

 

「食べすぎですわよ! あとで請求書を送りますからね?」

 

 食後のコーヒーまでちゃっかりといただいているゼノヴィアを軽くにらんでから、セシリアは事情をイッセー達に説明した。

 

 なんでも、イリナが詐欺にあって全財産を変な絵を購入するのに使ってしまったらしい。

 

「職務中にすることでもなければ、最低限の生活費は残しておくものでしょうに。・・・私にそんなことを言われて恥ずかしくありませんの?」

 

「何を言うの!? そこに聖人の絵が描かれているのなら、全てを捧げてでも買い求めるのが信徒というものでしょう!?」

 

 心外だといわんばかりにイリナが文句をいうが、誰一人として味方になってくれそうなものはいなかった。

 

「うわーん! みんながひどい! 主よ、どうかこの私にお慈悲をぉおおおおお!!」

 

「痛い!? ちょっとあんた、悪魔(俺たち)の前で神に祈るなよ!?」

 

 イリナの祈りでダメージが入り、匙が即座に文句をつける。

 

 あんなに嫌がっていたエクスカリバー使いの前で、しかしそこそこ根性のある男であった。

 

「それで、いったい何の用だ?」

 

 話が進まないと判断したのか、ゼノヴィアが鋭い視線をイッセー達に向ける。

 

 それを真正面から受け止めて、イッセーは答えた。

 

「エクスカリバーを一本だけでも俺たちの手で破壊したい」

 

 その言葉に、三人は一瞬だけ沈黙するが、ゼノヴィアはふうと息を吐いた。

 

「個人的には、一本ぐらい破壊させてもいいとは思うけどね」

 

「まあ、貴族が領地でもめ事を起こされてるのですし、自分たちで解決しようとするのは当然ですけれど」

 

 セシリアも困り顔だが、しかし言いたいことはわかるのか目立った反論はしてこない。

 

「い、いやいや! 相手はイッセーくんとはいえ悪魔なのよ?」

 

「とはいってもイリナさん。人の領地で激突するのを黙ってろなどと、さすがに誰も納得できないのは事実ですわ。・・・ちゃんと核を返してくださるのなら、一本ぐらいは譲ってあげても仕方がないのではありませんか?」

 

 セシリアはそういうが、イリナは微妙に納得していない。

 

「そういうなよイリナちゃん。俺たちはエクスカリバーを独占したいんじゃない。木場にエクスカリバーを破壊させてあげたいだけなんだから」

 

 松田がそういうが、しかしやはり納得できてなさそうな表情だった。

 

「そもそも、なんでその木場君っていう子はエクスカリバーを破壊したいのよ?」

 

「・・・それは本人に聞いた方が早いだろ」

 

 と、ほかの誰よりも早く携帯電話をちらつかせながら元浜が告げた。

 

 そして、レストランのドアが開いて木場が入ってくる。

 

「まさか、エクスカリバーの使い手に許可を取ろうだなんてね」

 

 複雑な表情を浮かべながら、木場は警戒心を崩さずにみなと同じ席に座り込んだ。

 

「そういうなって。イッセーは知ってるみたいだけど、俺たちはそもそもなんでお前がエクスカリバーを憎んでいるのかだってわからないんだぜ? 教えてくれたら許可を出してくれるかもしれないじゃねえか?」

 

 元浜はすぐになだめるが、しかしイッセーはそれに立ち上がる。

 

「いや! その、それはなんていうか黙っていた方がいいと思うんだけど・・・」

 

 事情を知っているイッセーとしては、あまりこういうのを話すのはよくないような気がした。

 

 なにせ相当にプライベートな事情なのだ。内容も陰惨だし、人に話して気分がよくなるようなことではない。

 

 だが、木場は静かにそれを手でとどめると首を振った。

 

「・・・いや、それでエクスカリバーを破壊させてくれるなら構わないさ」

 

 そういうと、木場はぽつぽつと過去を語りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、木場は名無しの孤児だった。

 

 日本では珍しいかもしれないが、貧しい国では珍しくも何ともない孤児の1人。

 

 そんな彼は、聖剣計画の被検体として拾われる。

 

 そして記号替わりとはいえ名を与えられ、そして何人もの同類たちとともに厳しい実験を受けることになった。

 

 お前は選ばれたのだ。選ばれた存在になるためのものだといわれたとおりに信じて。

 

 しかし、実験は凄惨を極め、そして一人また一人と減っていった。

 

 それでも、彼らは頑張った。

 

 仲間たちで寄り添い、聖歌を謳った。それがいつか報われるものだと固く信じて。

 

 だが、それは裏切られた。

 

「・・・毒ガスを使って殺したそうだな。あの件は我々の間でも汚点だよ」

 

 ゼノヴィアが、心底いやそうな顔でそう告げる。

 

「そ、そうか。教会の総意ってわけじゃなかったんだな」

 

 それならアーシアもほっとするだろうと思い、イッセーは少し安心した。

 

 とはいえ、教会の者によって罪のない子供たちが殺された事実には変わりない。そういう意味では問題は先送りにされていなかった。

 

「私は詳しいことは知りませんけど、それだけのことをしたのなら相当の処罰を受けているのではありませんこと?」

 

「ええ。関係者はたいてい処罰を受けたし、首謀者は追放されて堕天使側に行ったらしいわ」

 

 セシリアの質問にイリナが答えるが、しかしそれは不安材料だ。

 

「ってことは、エクスカリバーを盗んだ連中はそいつの手でエクスカリバーが使えるんじゃないか?」

 

 元浜が実にいやそうな顔で推測を口にする。

 

 もしそうだとするならば、敵の戦力はさらに上がっているからだ。

 

「そうだろうね。実は少し前にエクスカリバー使いに襲われたけど、フリードとかいうあの男はエクスカリバーを使っていたよ」

 

「おま!? そういうことは先に言えよ!!」

 

 木場の言葉にイッセーは大声を上げる。

 

 フリードとは以前にも因縁があるので当然といえば当然だ。しかも、時期から見てゼノヴィア達が来る前に襲われた可能性すらある。

 

「お願いだから教えてください。・・・祐斗先輩が死んでしまったら、いやです」

 

「・・・お前、こんなロリっ子を悲しませてただで済むと思ってるんだろうな?」

 

「ご、ごめん。僕も少し思い詰めてて・・・元浜君目が本気だよ!?」

 

 涙目の小猫にロリコンである元浜が殺意すら見せ、木場は思わず怖気づく。

 

「っていうかフリードってフリード・セルゼン? 天才だったけど教会から追放されたっていう?」

 

 うわぁ、とでも言いたげな顔で、イリナはいやそうな顔をする。

 

「あ、そっちでも扱いに困ってたの?」

 

「ああ。信仰心など欠片も持たない殺戮衝動に忠実な男。まさかあんな男の手にエクスカリバーが渡っているとは・・・」

 

 イッセーの同情の視線に、ゼノヴィアは眉間にしわを寄せる。

 

「しかも彼は男女共用型のISを保有していたからね。相当に危険な相手になるだろう」

 

「それは最悪ですわね。ISがそんな下賤な男に手にわたっているだなんて、元代表候補生として許せませんわ」

 

 木場の言葉にセシリアもいやそうな顔をする。

 

 誰もが嫌がる男、フリード・セルゼン。ある意味わかりやすい男だった。

 

 しかし、だとすると難易度はより高くなっている。

 

 なにせエクスカリバーもISも人間が持てる中では強力な武装なのだ。

 

 二つ合わされば必ず強くなるというわけではないが、しかし脅威であることには変わりない。

 

 しかも使い手もまた強敵となれば、その難易度はうなぎのぼりだ。

 

 そうなると、イッセーとしては匙に罪悪感すら湧いて出てくる。

 

 想定の遥か上空を行く難易度だ。さすがに付き合わせるのはまずい気がする。

 

 なにせ、彼は全く持って乗り気ではないのだ。もうこれは、黙っていてくれればそのまま返してもいいだろうという気分にすらなってくる。

 

「・・・匙、悪かった。お前はもう帰っても・・・ぉぉ!?」

 

 そう言いかけたイッセーは、匙の顔を見てぎょっとなった。

 

「う、うぅ、うぅうう!!」

 

 号泣していた。

 

 鼻水すら流す勢いで号泣していた。

 

「・・・木場ぁ。俺は、お前のことがいけ好かなかった。イケメン王子として女子からの人気を不動のものとしていたお前のことが正直嫌いだった」

 

 そういいながら、しかし匙は全力で木場の両手を握る。

 

「だがそんなことはどうでもいい! 今の話を聞いた以上、俺も全力でお前に力を貸すぜ! ああ、会長のお仕置きもあえて受けるさ!!」

 

「え、あ、どうも・・・」

 

 勢いについていけず木場が戸惑う中、匙は涙をぬぐうとこぶしを握り締めた。

 

「ああ、俺は本気出して協力するぜ! だからお前もリアス先輩を裏切るな! お前の恩人を泣かせたら承知しないぞ!!」

 

「ああ、俺たちも力を貸すぜ」

 

「もちろん私も協力します」

 

「そうですわね。没落したとはいえ私は英国貴族。今の話を聞いて義憤に燃えねばオルコット家の名に傷がつきますわ」

 

 松田も、小猫も、そしてセシリアも木場を励ますように声をかける。

 

「元々我々も仕事だしな。ついでに聖剣計画の汚名をそそぐとするか」

 

「ええ! そういうことなら私も上に怒られるわ! 木場くん! 一本破壊するだけなら主も許してくれるはずよ!!」

 

「おお、こいつらも悪い奴じゃないんだな」

 

 ゼノヴィアとイリナも乗り気になり、それに元浜が感心する。

 

 皆の心が一致団結する中、匙は鼻をすすると照れくさそうに笑みを浮かべた。

 

「ああ! そういうことなら、俺の話も聞いてくれ! 実は俺には夢があるんだ」

 

「へえ? どんな」

 

 少しつきものが取れたのか、木場が匙を促した。

 

「・・・会長とできちゃった婚をすることだ!!」

 

 沈黙が発生した。

 

 ついでに言うと二つの意味で沈黙が発生した。

 

 そして、その沈黙に気づくことなく匙は続ける。

 

「ああ、みなまで言うな。できちゃった結婚はまず致す必要があるから実は難易度が高い。会長みたいなタイプならなおさらだ。だけど、俺は必ず会長とできちゃった婚をして見せる」

 

「最低ですわ! すべて台無しですわ!!」

 

「やはり所詮は悪魔か。いいことを言ったと思ったのだが欲望に忠実すぎる」

 

「・・・あの、私を一緒にしないでください」

 

 いろいろ酷評するセシリアとゼノヴィアに小猫が文句をいうが、しかし問題はこれでは終わらない。

 

「・・・匙!」

 

 号泣の涙を流し、イッセーは匙の手を取った。

 

「俺は、俺の夢は部長の乳首を吸うことだ!」

 

 二秒後、匙も号泣した。

 

「兵藤! お前、そんな難易度の高いことが本当にできると思っているのか!」

 

「できるとも! あきらめなければ夢はかなう! 少なくとも、俺は部長の乳首を見たことがある!」

 

 その言葉に、匙はもちろん松田と元浜も愕然とした。

 

「そ、そんな素敵なことが!?」

 

「い、いつの間にそんなことに!?」

 

「な、なんて羨ましい奴!」

 

「・・・とりあえず今のうちに話を進めましょう。変態は放っておきます」

 

 小猫は作戦を円滑に進めるため、地図を取り出した。

 

「あの、放っておいてよろしいのですか?」

 

「かまいません。匙先輩はわかりませんが三馬鹿先輩は吸収力は良いので、後で説明すればわかってくれます。素直なので文句も言わないでしょう」

 

 ためらいがちのセシリアに太鼓判をおし、小猫は話を進めるべくさらに細かい地図も取り出した。

 



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月下校庭のエクスカリバー 7

 

 

 そしてよる、メンバーを分割してエクスカリバーの破壊作戦が決行された。

 

 戦力としては、エクスカリバーの使い手であるイリナとゼノヴィアが小猫と組み、木場は先走ることを警戒して匙と松田と元浜の三人態勢。

 

 そして、或る意味最強戦力であるイッセーはセシリアと組むことになった。

 

「・・・あの、セシリアさん?」

 

「セシリアでいいですわよ」

 

 そして、イッセーはどうしたものかと不思議に思う。

 

 なんというか、セシリアは自分に対して態度がいいような感じがするのだ。

 

「あの、セシリア? 俺の顔に何かついてるか?」

 

「あら、誤解させたのなら申し訳ありませんわ。ただ、興味がありまして」

 

 その言葉にイッセーは首をかしげる。

 

 はて、色欲の権化でしかない自分がそこまで興味をひかれるような要素を持っているだろうか?

 

「私、もともとはイギリスでISの代表候補生をしていましたの。ですから、ウェールズの伝承に登場する二天龍には少し興味がありましたわ」

 

「ああ、そういえばドライグってイギリスの伝承だったっけ」

 

『忘れるなよ相棒。ちなみにその伝承はアーサー王伝説に絡んでいるぞ』

 

 木場のことといいイリナといい、妙なところでエクスカリバーと縁があるなと、イッセーは妙な感覚にとらわれる。

 

「それに、イッセーさんはお強いですから」

 

「え? 俺が? 結局負けたじゃん」

 

 イッセーとしては、自分が強いという自覚はあまりない。

 

 それなら、一夏や木場の方がはるかに強いとすら思っている。

 

 だが、セシリアは静かに首を振った。

 

「織斑さんは確かにお強い方ですが、イッセーさんも強いですわよ。少なくとも、私の父よりかは」

 

「え? セシリアのお父さんって?」

 

 少し踏み込みすぎたかと思ったが、しかし聞いてしまったら仕方がない。

 

 セシリアも隠す気はないのか、苦笑を浮かべると話し始める。

 

「私の父は、とても情けない人だったと記憶しております。・・・ああ、ISが開発されたからではありませんよ? 開発されてからはもっとひどいですが、その前からひどかったですわ」

 

「お父さんのこと、嫌いなのか?」

 

「どうなんでしょう。少なくとも、母は疎ましく思っているように見えました。・・・今となっては、もうわかりませんが」

 

 その言葉で、イッセーは彼女の両親がもういないということを理解してしまった。

 

「あ、ごめん」

 

「いえ、話したのは私ですから。・・・ですが、両親の死因は同じ事故でした」

 

 だから、本当の関係はよくわかっていない。とセシリアは続けた。

 

 その後、セシリアはオルコットを存続させるべく苦労したそうだ。

 

 IS適正を受けたのもその一環。そして、彼女はA+という非常に高い判定をもらった。

 

 その結果、本国からは様々な優遇措置をもらったそうだが、しかしそれも男女共用型のISの存在で無に帰した。

 

「イギリスは統一同盟に参加するかどうかで二分され、そのごたごたで結局オルコット家は没落。私は、そのあと判明した神器の適性から英国教協会のエージェントにして、ISと異形技術の連携のテスターに選ばれましたが、それまでには間に合いませんでしたの」

 

「・・・難しいな。一般人の俺にはよくわからないよ」

 

 それでも、少なくともいろいろと貴族としてのしがらみがあったのはわかる。

 

「でも、仲が良くないのに結婚するとかセシリアの両親は大変だよな。リアス部長も許嫁との婚約を強制されたけど、セシリアは強制されなかったのか?」

 

「あらお詳しい。・・・どちらかというと、第三次世界大戦の影響で食い尽くされて、それだけの価値がなくなったということが正しいですわね」

 

 おかげでいろいろと苦労した。と顔に書いてあるがセシリアは口には出さなかった。

 

 イッセーはそれについて考える。

 

 確かに没落した貴族にうまみは少ないだろうが、しかしそれでも狙いどころはあるだろう。

 

 IS適正がA+の人物などそうはいない。代表候補生だったということから考えて、狙って獲物にしようとする輩は多いだろう。

 

 つまり―

 

「―セシリアも、結婚したい相手のタイプとかこだわってるのか? そのために教会に?」

 

 ―彼女も結婚相手に条件を求めているということだ。

 

 そんな風に思って聞いていたが、セシリアは図星を突かれたかのように目を丸くする。

 

「頭の回転も速いのですね。・・・ええ、私は強い人と結婚したいのです。それが私の理想」

 

 セシリアは空を仰ぐと、苦笑を浮かべる。

 

「・・・ISが女性だけのものだったころ、私は特に男性を情けなく思っていましたわ。女性に比べれば男は情けないものだらけだと」

 

 だが、人類統一同盟によって男性でも使えるISができたことがそれを変えた。

 

 いや、それ以上に異形の存在とかかわることが原因だったとセシリアは笑う。

 

「男がISを使える。この事実に狼狽して醜態をさらす女性たち。そして、異形の社会に存在する、ISを余裕で打倒できるであろう者たちを見て思い知らされました。・・・ああ、しょせんかつての女尊男卑はISによりかかっただけの情けない女の矜持だったと」

 

 自分もそんな者たちの一人だったのかと思うと、セシリアは本当に情けなく思えてくる。

 

 ISという兵器を超える者たちが闊歩する異形社会において、男と女は大差ない。

 

 身体能力ではなく魔力などといった異形の力を主要とする悪魔や天使ともなれば、女性であっても魔王や熾天使として無双の力をふるう。そしてそれは、男も同じだ。

 

 そんな本当に本人の力によって戦う者たちからしてみれば、ISが女性にしか使えないという、ごくわずかな権力にすがっている女が馬鹿らしく思えた。

 

「私も、父のことは笑えませんわね」

 

「いや、それは違うって」

 

 なので、イッセーがさらりと否定してセシリアはぽかんとした。

 

「え?」

 

「だって、少なくともセシリアはISを持ってるんだろ? そして、持つために一生懸命頑張ってたんじゃないか」

 

 イッセーは素直にそう感心する。

 

「俺なんか、ハーレム作るのが夢で女子の多い駒王学園に入学したけど、レヴィアさんに会うまで覗きがやめられなくってさ」

 

 おかげでやめた今でも結構距離取られていると、イッセーは自重した。

 

「いや、ぶっちゃけ覗きをやめられたのもレヴィアさんに抜かれて賢者タイム入っているだけだし、そういう意味じゃ全然努力が成果になってないからさ」

 

 だから、努力を成果にしているセシリアはすごい。

 

 そう、イッセーは言い切った。

 

「ああ、セシリアはすごいって。俺は父さんも母さんも生きてるけど覗きで迷惑かけっぱなし。でもセシリアは、父さんも母さんも死んでるのに頑張って代表候補生にまでなってるんだろ?」

 

 だったら弱いわけがない。

 

「ああ、俺なんかよりすごいよセシリアは」

 

 そういって励ますように笑うと、セシリアは顔を真っ赤にして首を振った。

 

「いいえ、それは違いますわイッセーさん」

 

 今度はイッセーがきょとんとする番だった。

 

 自分より頑張って、自分より成果を上げて、自分より強い。

 

 そんなセシリアが、イッセーのことをすごいといったのだ。

 

「貴方はアーシア・アルジェントさんをかばって、神にすら戦うといいました。・・・おそらくは、一人になってもという意味で」

 

「え? そりゃぁ、部長に迷惑はかけられないし・・・」

 

 当然のことを言ったつもりだったが、セシリアはそれを苦笑して否定した。

 

「聖書にしるされし神を、一介の下級悪魔が敵に回すだなんて恐れ多くてできませんわ。仮にも信徒である身からすれば、思わず愕然となりそうでしたもの」

 

「え? マジで? いや、それは俺が馬鹿だからよくわからないだけだって。それに、アーシアみたいな優しい子を追放するなんて許せなかったからさ」

 

 イッセーとしては当然のことを言ったつもりだったし、リアスが叱責したら謝って下がるつもりだった。

 

 だが、そんなイッセーをセシリアは目を細めて見つめる。

 

「貴方は、あなたが思っているよりはるかに強いですわ。ええ、思わず見惚れてしまうぐらい―」

 

 そう言いかけたセシリアは、しかしすぐに動きを止める。

 

「イッセーさん、下がってください」

 

「え?」

 

 思わずつられて視線を向けるイッセーの視界に、黒い翼が映った。

 

「ほう? 悪魔が神父の恰好をするとは、教会と同盟でも結んだか?」

 

「それに、そこにいる女もただものではないな。・・・教会の狗がようやく追ってきたか」

 

 敵意を隠しもせず、にらみつける数人の男たち。

 

 間違いない。イッセーはかつてあったレイナーレを思い出す。

 

「・・・堕天使か!」

 

「そのようですわね。エクスカリバーはありませんが、この数はさすがに大胆ですわ」

 

 イッセーは自然とセシリアの前に出る。

 

 仮にも男が女の影に隠れているわけにはいかないだろうという自然な判断だったが、しかしその肩に手を置かれた。

 

「イッセーさんは籠手の倍化を高めてくださいな。ここは、私が前に出ますわ」

 

「いや、さっきまでの話的に男の俺が前に出ないわけにも・・・」

 

「大丈夫ですわ」

 

 イッセーのことばを遮り、セシリアは笑みを浮かべる。

 

「ご安心ください。私、これでも元代表候補生でしたので」

 

 そういうと、セシリアはイヤーカフスに触れた。

 

「さて、見たところ中級堕天使とお見受けしますが」

 

 そして、静かに笑みを浮かべた。

 

「私と、このスターダスト・ティアーズの組み合わせを打倒するなら上級は連れてきてくださいませんと困りますわ」

 

 絶対的強者による、余裕の笑みを。

 




イッセー、フラグを立てる。



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月下校庭のエクスカリバー 8

 

 一方そのころ、木場たちも戦闘に巻き込まれていた。

 

「ひゃっほーい! 神父がより取り見取りだぜい!!」

 

 しかも、本命を引き当てるというある種の強運あるいは凶運を見せて。

 

「フリード・セルゼン!」

 

 木場は獲物(エクスカリバー)に巡り合えたことに喚起し、即座に魔剣を引き抜いて切りかかる。

 

 ゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)に比べれば破壊力は少ないのか、木場の魔剣がすぐに破壊されることはない。

 

 だが、それでも剣の性能が圧倒的であることは変わらない。

 

 瞬く間に木場の魔剣はぼろぼろになり、それを見たフリードが楽しそうに歯を剥いた。

 

「どうよ! このエクスカリバーはそんじゃそこらの魔剣なんかじゃぁ倒せませんぜ!」

 

「ならスピードで翻弄すれば!」

 

 ゼノヴィア達と対峙した時に比べれば、木場は冷静さを保っている。

 

 ゆえに、本来の機動力で翻弄するスタイルへと変更して戦闘を再開し―

 

「―残念でえ~す! 僕ちんの天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)は機動力特化型なんですよん!」

 

 逆にスピードで圧倒された。

 

「うぉおおおおおおお!? は、早くてみえん!」

 

「お、おいどうするんだよ! 俺たちこのままじゃ介入できないぞ!!」

 

 元浜と匙が慌てるが、しかし松田はその戦いを静かに見ていた。

 

 指先でリズムをとりながら、木場とフリードの攻防を観察し、その動きのリズムをつかみ取る。

 

「・・・元浜、匙。俺が隙を作るからその間に何かして見せろ」

 

「できるのか?」

 

 冷静な松田の口調に、匙は何かしらの勝算を思い浮かべる。

 

「レヴィアさんの悪魔になってから、ハーレムを作るために俺だって努力はしてんのさ。・・・任せろ」

 

「ならば俺も見せねばなるまいて。眼鏡キャラの本領をな」

 

 キランと眼鏡を光らせながら、元浜も立ち上がる。

 

 そんな二人の様子を見れば、匙も黙ってみているわけにはいかないだろう。

 

「OK。俺たちで木場を助けるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 堕天使たちは、正直に言って相手を舐めていた。

 

 インフィニット・ストラトスは、確かに人間が保有する中では最強クラスの兵器である。

 

 最新鋭のジェット機に匹敵する最高速度を、複葉機や攻撃ヘリなど歯牙にもかけない旋回半径で動くという圧倒的な運動性能こそがその強大さの根幹だ。

 

 さらにはシールドエネルギーがあるため装甲車よりは頑丈であり、拡張領域を最大限に使用すれば、戦車ぐらいの火力だって叩き出せる。

 

 そのうえで人からそこまで逸脱していないため、歩兵の代役として動くこともできる。まさに兵器の王様だ。

 

 だが、それをもってしても異形社会にとってはまだ核の方が恐ろしい。

 

 なにせ、ISの火力はせいぜい機甲部隊レベルだ。その程度、上級悪魔なら出せて当然のちゃちな火力でしかない。

 

 それを何発もくらい合いながら戦うのが異形たちの戦いだ。そしてそれを使用する者たちの反応速度は、おおむね人間を超越している。

 

 はっきりいって中の上クラスならISを単独で打倒することは十分可能と予測が出ている。そして自分たちはそれだけの領域に到達した戦士だ。情けないことにそれぐらいならゴロゴロいる。

 

 ゆえに、ISなど恐るるにも足らなかった。

 

 その青いISも、観たところ専用機だがその程度。

 

 見るからに遠距離戦闘型であり、この距離まで詰めれた時点で勝ちは確定だった。

 

「死ぬがいい!!」

 

 堕天使たちは一瞬で間合いに入る。

 

 その速度は第一世代のISならば十分追いつけるものであり、そしてその動きで堕天使たちは死角へと回り込む。

 

 そして一撃で勝負を決しようと光の槍を投げ放ち―

 

「残念ですわね」

 

 顔を一切向けることなく、セシリアは首を傾けるだけでそれをかわした。

 

 そしてそのまま顔を向けることなく手に持ったライフルを向けると発砲する。

 

「ちぃ!」

 

 堕天使たちはそれをかわすが、しかしセシリアは慌てない。

 

 戦闘で最初の一発が命中することは珍しい。彼女も実戦をいくつも潜り抜けている猛者なのだ。それぐらいは理解している。

 

「ISはハイパーセンサーによって使用者に360度の視界を与えます。そんなことも知らないのなら、ISを倒すことなんて夢のまた夢ですわ」

 

「ほざくな小娘! 避けるだけがうまくても、我々の体を貫けるものか!!」

 

 堕天使たちは光の槍を広範囲に投げつけながら、しかし負ける気だけはしなかった。

 

「我々はコカビエル様とともに腐った上層部に活を入れる者。我々の耐久力は上級に次ぐのだよ!」

 

 その言葉に、セシリアも言いたいことが分かったのか静かにうなづく。

 

 通常、ISの火力は決して大きい方ではない。

 

 手持ち火器を中心としている第二世代以前は特に顕著だ。この手のタイプは車載火器をベースにした物が多く、必然的に口径は20mmを下回るものがほとんど。大きいものでは対戦車兵器程度だろう。

 

 そして、そんなものの一発や二発でやられてくれるほど中級以降の異形存在は伊達ではない。

 

 たとえ下級であろうと、戦車と攻撃ヘリをたして二で割らない戦闘が可能なのだ。がくんと実力が上がる中級クラスともなれば、砲撃戦主体の場合、その火力は大規模の機甲部隊にも匹敵するだろう。最上級クラスならば陸軍一個師団を単独で滅ぼせてもおかしくない。

 

 ましてや、機動力に関しても比例して大きく上昇するのだ。生命体としての性能の違いもあり、旋回性能なども戦闘機を遥かに凌ぐ。

 

 そんな化け物とまともに勝負すれば、いかにISといえど価値の目は薄い。いな、火力に特化した第三世代以降でなければ勝ち目などないだろう。

 

 それが異形の現実。

 

 そう、ゆえにISでは彼らを打倒することは困難であり―

 

「・・・ですが、私の場合は別ですわ」

 

―異形を祓う者であるセシリアの場合は例外だった。

 

 それを実証するように、セシリアのはなった弾丸が堕天使を貫いた。

 

「ぐぁあ!? 馬鹿な、俺を、貫いただと!?」

 

「そんな馬鹿な! 見る限りレールガンではあるが、それでもせいぜい15mm程度のサイズのはず!」

 

「その程度の弾丸で、牽制ならともかく我らをここまで傷つけられるはずが・・・」

 

 狼狽する隙を突いて、こんどは確実に敵をしとめる。

 

 ああ、確かにスターダスト・ティアーズの主武装はスナイパーライフルだ。

 

 人間の手持ち火器の約二倍のサイズとなっているこのスナイパーライフルは、人間が使用する対物ライフルと口径はそこまで変わらない。

 

 反動を抑制する能力が高いこともあり、電磁投射で放つ威力は実際の対物ライフルに比べれば上だがその程度だ。

 

 そう、そんな科学の代物で、中の上クラスの堕天使を殺せるわけがない。

 

 その種は、弾丸にあった。

 

「・・・おお、なんかすごい! むちゃくちゃつええ! IS強い!!」

 

『確かになかなかすごいおもちゃだが、それだけじゃない。相棒、落ちた弾丸を左手でつかめ』

 

 感心しているドライグにいわれるままに、イッセーは撃ち抜くのに使われた弾丸を左手でひろう。

 

『それを右手で静かにつついてみろ。それで理由は痛いほどにわかる』

 

「ん? ああ・・・って痛い!?」

 

 激痛が走って、イッセーは大声を上げた。

 

 そして、その激痛には覚えがあった。

 

 忘れるわけがない。つい先日、彼女のそれを喰らったばかりだ。

 

「これ、聖剣か!?」

 

『そうだ。剣といってもいろいろな形状がありそれを自由に使えるのが聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の利点だが、弾丸として使えるほどにまで形状を変えるとは面白い。これなら上級悪魔にすら届くだろうさ』

 

 ドライグがそう感心する中、しかしセシリアも決して楽には勝てているわけではなかった。

 

「数で押せ! 周囲を囲んで機動力を殺せば、ISの耐久力なら押しつぶせる!!」

 

「確かに脅威だが、数を集めておいて正解だった!!」

 

 数の差という当たり前の利点を最大限に生かし、堕天使たちはセシリアに前後左右から攻撃を加えていく。

 

 しかもセシリアはイッセーのカバーに入る必要がある。つまりは置いて逃げれない。

 

「セシリア!」

 

「安心しなさい」

 

 だが、セシリアは笑顔を浮かべた。

 

 そしてそのタイミングで、背中のパーツが外れていく。

 

 だが、それは相手の攻撃で破壊されたのでは断じてない。

 

「・・・行きなさい。ガンポッドビット!」

 

 排除されたのではなく射出されたパーツが曲線を描いて動き、堕天使たちの背後に回り込む。

 

 そして、電磁加速の音とともに細い杭状の弾丸と化して堕天使を背後から強襲した。

 

「ぬぅおおお!」

 

「お、おのれ! あれは第三世代機か!」

 

 数の差すら大きく詰められ、堕天使たちは一気に総崩れになる。

 

 だが、それでも彼らはまだあきらめていなかった。

 

「ならば固まれ。障壁を互いに張って防御するのだ!!」

 

「そのうえでいったん引くぞ! ISと神器の組み合わせ、ここまで脅威だとは思わなかった!」

 

 状況が不利とみて、彼らは即座に逃げを選択する。

 

 それそのものは正しい戦術判断力だ。

 

 だが、しかし致命的なミスがあった。

 

「なるほど確かに、私とスターダスト・ティアーズの火力ではこれほどの密度の障壁を突破することは困難でしょう・・・ですが」

 

 そう、セシリアはすでに勝利を確信している。

 

 短い付き合いだが、彼はきっと何かをしてくれるという確信があった。

 

「逃がすわけねえだろ、行くぜドライグ!!」

 

『おう! 俺も暴れたりないんでな、思う存分ぶっ放せ!!』

 

『explosion!』

 

 彼は、ただ黙ってみていたわけではない。

 

 自分の真価が時間をかけた上だということがわかっているから、注意が引き付けられているうちにため込んでいたにすぎない。

 

 そう、兵藤一誠は仲間に任せて戦場で縮こまっているような臆病者では決してないのだから。

 

「喰らいやがれ、ドラゴンショットぉおおおおお!!」

 

「・・・まさか、赤龍帝ッ!?」

 

 気づいた時にはもう遅い。

 

 赤龍帝ドライグの放つ力の奔流が、堕天使たちを結界ごと易々と吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お~やおや~ん。お兄さん、調子、悪いね?」

 

 さわやかな口調でそう告げ、フリードはニヤニヤと笑いながら木場を攻め立てる。

 

「まだだ! まだ、終われない・・・っ!」

 

 木場は魔剣を何度も作り直しながら、それでも何とかエクスカリバーを破壊しようと迫る。

 

 目の前に恨みの根源がある。

 

 自分たちがなりたくてなりたくてたまらなかったエクスカリバーの使い手。

 

 それなのに、自分たちは失敗作として処分され、自分以外はみな死んだ。

 

 挙句の果てにその使い手がこんなゲスなどと、出来の悪い悪夢としか言いようがない。

 

 ゆえに負けるわけにはいかない。

 

 しかしこのままでは負けるしかない。

 

 そんな状況に涙を流したくなり―

 

「よ、木場。助けに来たぜ!」

 

 その言葉に、驚愕した。

 

 気づけば、フリードの動きが止まっていた。

 

 フリードの腰にタックルを仕掛けた松田が、その体勢でにやりと笑う。

 

「お前が引き付けてたおかげで、エクスカリバーは気にしなくて済んだぜ、ありがとよ!!」

 

「うっぜぇ! 男に抱き着かれる趣味はねえんだよ!!」

 

 フリードはエクスカリバーで切り裂こうとするが、しかしその腕に紫の触手が巻き付いた。

 

「おっと! 俺を忘れてもらっちゃぁ困るぜ?」

 

「チッ! こいつも神器使いか!!」

 

 フリードはエクスカリバーで触手を切り裂こうとするが、しかし触手はなかなか切れない。

 

「俺のラインはそう簡単には切れねえよ! 松田、そろそろ離れていいぜ!」

 

「おうよ!」

 

 もとより一瞬だけ足止めできればいいと判断したのだろう。松田はあっさりとためらうことなく距離をとった。

 

 そして、それに続いて新たなる参戦者が現れる。

 

「・・・木場が悪魔になった経緯から推察して、被験者の女の子は中学生以下の少女だった可能性が非常に大きい」

 

 ぶつぶつつぶやきながら、元浜が眼鏡を動かしつつ前に出る。

 

 そこにあるのは、怒り。

 

 未発達の少女を愛するロリコンとして、そんな未発達な少女が死んでいったことに対する強い怒りが生まれていた。

 

「ましてや貴様みたいな品のない奴が選ばれるとかマジ屈辱だ。すべてのロリコンを代表して、お前に天誅を下す!」

 

「悪魔が何言ってやがんだ馬ー鹿! だいたいてめえに何ができるってんだ、あん?」

 

 悔しいがフリードの言う通りだと木場も思った。

 

 高い身体能力をもつ松田や神器持ちの自分や匙とは違う。

 

 元浜は平均的な高校生レベルの能力だし、加えていえば特殊な力も持っていない。

 

 そういう意味では一番戦力にならないのだが、しかし彼には余裕があった。

 

「知っているか。悪魔に取って魔力で一番大事なのはイメージなのだと」

 

 元浜の眼鏡が動き、光を反射してきらりと光る。

 

 ・・・否

 

「くらうがいい、眼鏡キャラがギャグ系バトルでぶちかます、常識レベルの必殺技!」

 

 それは、月明かりの反射などではなく、魔力の光。

 

「眼鏡・・・ビィイイイイイイイイッム!!」

 

「・・・マジですか」

 

 思わず唖然としたフリードはもろに喰らった。

 

 そして爆発が生まれ、あたりが煙に包まれる。

 

「・・・お前ら、すごいんだな」

 

 想定外の人物たちの大活躍に、匙はあきれながらも感心する。

 

「ハーレムを目指してるんでな、俺たちも」

 

「リアス先輩の婚約騒ぎじゃぁ大して役に立てなかったけど、そんなままじゃあいられないさ」

 

 二人してガッツポーズを決めるが、しかし本当に強くなった。

 

「これは、僕も負けてられないね」

 

 そう、まだ負けてはいられない。

 

 幸いだが、まだフリードは死んでない。

 

 どうやらエクスカリバーで防いだようだ。そして、彼も本気を見せている。

 

「うひゃひゃひゃひゃ! 雑魚かと思ったら歯ごたえがありそうだねぇ。楽しめそうだねぇ」

 

 すでにその体には打鉄が纏われていた。

 

 ISとエクスカリバー。人間たちが持てる装備としては最高峰の組み合わせは、間違いなく強敵の誕生だろう。

 

 しかし、それを乗り越えれない程度で七本のエクスカリバーをすべて破壊することなどできはしない。

 

 木場は真正面からフリードをにらみつけ―

 

「・・・ほう? 魔剣創造(ソード・バース)とは珍しいものを見た。興味深いな」

 

 足音が、聞こえた。

 

「な、増援だって!?」

 

 匙がいやそうな表情を浮かべるなか、その男は姿を現した。

 

 神父の恰好に身を包んだ中年男性。彼は研究者と思しき興味深そうな視線で木場たちを観察する。

 

「それに、そこの神器は黒い龍脈《アブソーション・ライン》か? あの系列はほぼアザゼルが集めていたはずだが・・・」

 

「バルパーのオッサン。今結構白熱してるから茶々入れないでくんない?」

 

 研究者の悪癖といわんばかりに解析に熱中している中年にフリードがツッコミを入れるが、問題はそこではない。

 

 バルパー。その名前はつい最近聞いたばかりだ。

 

 エクスカリバー破壊の算段が付いた後、ゼノヴィア達が教えてくれた聖剣計画の当時の首謀者。

 

 上に何も言わず非人道的な実験を重ねた末、被験者たちを抹殺した異端の徒。

 

「バルパー・・・ガリレイ!!」

 

 頭に血が上っている中、しかしフリードを警戒してむやみに突っ込まなかったのはかろうじて褒められるべきだろう。

 

「あ、オッサン。このベロがなかなか切れなくて大変なんだけどさ、どうにかなんない?」

 

「愚か者。そんなものは聖剣の因子を剣に集めれば簡単に切れるわ」

 

「・・・ほっと!」

 

 フリードたちは緊張感の緩い会話を続けるが、しかし木場の耳には入らない。

 

「ちょうどいい。エクスカリバーと聖剣計画の首謀者。・・・まさか両方を一度に切れる機会があるとはね!!」

 

 難易度は上昇しているが、しかし同時に商品もでかい。

 

 この事実に木場は歓喜すら浮かべる。

 

「ここでお前たちは終わらせる!」

 

「ハッハー! ISだけでも翻弄されてたあんたが、今の俺を倒せるわけが―」

 

 嘲笑するフリードだったが、即座に交代すると振り下ろされた聖剣を急いでかわす。

 

「・・・チッ! 外したか」

 

「ちょっとゼノヴィア! 一人で先走らないでよ!!」

 

 たまたま近くにいて聞きつけたらしい。イリナとゼノヴィアがエクスカリバー片手にフリードとバルパーをにらみつけていた。

 

「異端の徒、フリード・セルゼンとバルパー・ガリレイ! ここで我がエクスカリバーに断罪されるといい!」

 

「素敵なエクスカリバーで悪いことする異端者さん! 私たちがさばいてあげるわ、アーメン!」

 

 エクスカリバーが聖なるオーラを放出し、フリードたちは警戒して少し交代する。

 

「・・・いったん引くぞフリード。さすがに計画の修正が必要だ」

 

「おk。んじゃ、今度会った時が本当のバトルってことでよろしくねん?」

 

 そういうなり、フリードは閃光弾を発射して相手の動きを止める。

 

 閃光が収まったときには、すでにはるかかなたまで逃げ去っていた。

 

 だが、そんなことを気にしている余裕はない。

 

 この千載一遇の好機、逃すわけにはいかなかった。

 

「逃がすか、バルパー!!」

 

「あ、まて木場!!」

 

 松田が慌てて呼び止めるが、木場の耳には届かない。

 

 暗闇の中に木場祐斗の姿が溶け込んでいった。

 




どうしても、ISの方にテコ入れが必要やったんや・・・っ


いや、上級悪魔クラスとの戦闘まで考慮すると、本当に魔改造の一つや二つはしないとIS側がダメージを与えられないという残酷な現実がございまして。下級中級ならまだ大丈夫なんですがね?


そういうわけで魔改造。セシリアに聖剣創造を与えたのはこれが理由です。


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月下校庭のエクスカリバー 9

 

「・・・イッセー先輩たちが、エクスカリバーを破壊するために行動してた!?」

 

 トラブルが発生したということで連絡を受けた蘭が、唖然とする。

 

 一歩間違えれば戦争勃発というデリケートな時にこんな真似である。むしろ聖剣使いたちがよく受け入れたと感心する。

 

「それで、イッセーたちは大丈夫だったんですか?」

 

「はい。ですが、祐斗くんは先走って行方が知れないそうですわ」

 

 そうため息をつきながらの朱乃の説明に、一夏も蘭も不安げな表情を浮かべる。

 

「・・・せめてレヴィアの準備が終わるまで待っててくれればよかったのに。いや、気持ちはわかるけどさ」

 

 一夏は拳を握っていろいろとたまったものを押し込める。

 

 ぶつけないのは、自分もまあ似たようなことをするタイプだということを自覚しているからだ。

 

 それがわかっているからか、蘭もすぐに苦笑を浮かべてしまう。

 

「まあ、体当たりでどうにかするのがイッセー先輩ですから」

 

「あらあら。よくわかってますのね?」

 

「・・・一応言っておきますけど、私は一夏さん一筋ですからね?」

 

 数秒間、朱乃と蘭の間で火花が散ったが、一夏は全く気付かない。

 

 そういう空気を読む能力がないため仕方がないが、しかしこれでよく生き残っていたものである。

 

「それで、イッセー達はどうなったんですか?」

 

「・・・リアスにお尻たたき千回の刑にされてますわ」

 

 Sの気配を漂わせる朱乃の笑顔とともに放たれた言葉に一夏はイッセーの冥福を祈った。

 

 一見するときゃしゃな外見のリアスだが、魔力を併用することで下手な格闘家が裸足で逃げ出すほどの怪力を発揮することができるのが上級悪魔だ。間違いなく相当の破壊力になるだろう。

 

 椅子に座れるのだろうかという感想を抱きながら、しかし一夏は不安に思う。

 

 木場がいつもの冷静さを欠いているのは見ていてよくわかっていた。

 

 自分だって、大切な姉が殺されるようなことがあれば、関係する者に対して冷静ではいられない。むしろ冷静でいようなんて考えない。だから止めようとはしなかった。

 

 だが、少し落ち着いて考えすぎていたかもしれない。

 

 レヴィアの教育を受けた結果いろいろと落ち着いていると自覚している一夏だったが、もう少し昔に戻るべきだったのかもしれないと考え直しそうになる。

 

「・・・朱乃さん。俺達、木場を捜しに行っていいですか?」

 

「駄目ですわ」

 

 速攻で断られた。

 

「探すも何も場所がわかりませんもの。それは使い魔でちゃんと探索していますので、一夏くんたちは何かあったときのために英気を養ってください」

 

「・・・でも!」

 

 相手がコカビエルクラスの堕天使なら、すでに敗北して殺されている可能性だってある。

 

 そう思うといてもたってもいられなくなるが、一夏はすぐに気が付いた。

 

 ・・・朱乃の手もわずかだが震えている。

 

 彼女もつらいが我慢している。その事実に気が付いて、一夏はぐっとこらえた。

 

 自分はしょせん戦うことぐらいしか能がない。そんな自分が人捜しなんてできるとも思えない。

 

 ISのハイパーセンサーを使えばだいぶできるだろうが、街中で堂々と使うわけにもいかない能力だ。

 

「・・・わかりました」

 

 一夏は、深呼吸一つしてそう告げる。

 

 だが―

 

「―見つかったらすぐに教えてください。たぶん、俺が一番早くつけるはずですから」

 

 ―それだけは譲れない。

 

「アイツも俺の友達ですから」

 

 その一夏の姿を見て、朱乃はほおを赤くして蘭はそれを見てため息をついた。

 

「・・・一夏さん、やっぱりあなたは上級悪魔を目指すべきです。レヴィアさんに甘えてちゃいけませんよ?」

 

「蘭!?」

 

 もう何もかもあきらめた人間のそれに、一夏は理不尽さを感じて絶叫する。

 

「あらあら。蘭ちゃんは悪魔なんですから、悪魔のルールには従ってもらわないと困りますわ?」

 

「わかってます! わかってますけど、乙女心は複雑なんです!!」

 

 ニコニコ笑顔で朱乃が蘭をからかっていたが、しかしすぐに事態は急変する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー!」

 

「織斑!!」

 

 息を切らせて駆け付けた一夏に、イッセーは声をかけるがその表情は硬い。

 

「コカビエルが宣戦布告したって本当か!?」

 

 そう、この緊急事態はコカビエルの宣戦布告だった。

 

 ・・・リアスが管理している駒王学園を中心として暴れ回る。コカビエルはイッセーの家にわざわざ来た上で宣戦布告したのだ。

 

 その目的は戦争再開。くしくもファルビウムやレヴィアが危惧した展開通りだった。

 

 エクスカリバーを盗み出したのは、天界を統治する熾天使であるミカエルを引きずり出すため。それを魔王サーゼクス・ルシファーの実妹が抑え、魔王レヴィアタンにつらなるレヴィアとソーナがいるこの駒王町で行うことで、連鎖反応で戦争を引き起こす。くわえていえばコカビエルが神の子を見張るもの(グリゴリ)の一員である以上堕天使も必然的に巻き込まれる。

 

 少なくとも、今開戦を求めるデモ運動が起こっている悪魔側が被害を受ければ間違いなく戦争が再開されるだろう。

 

 状況は、あまりにも非常時だった。

 

「織斑くん、レヴィアさんは?」

 

「・・・何とかなったからすぐに来るって言ってるけど、どれだけ急いでも三十分はかかるって」

 

 リアスの質問に答えながら、一夏はどうしたものかと考える。

 

 ()()が来てくれれば勝算はあるが、しかしそれまで自分たちが持ちこたえられるかどうかが問題だ。

 

 コカビエルはそれだけの相手だろう。少なく見積もっても、最上級悪魔クラスは想定するべき敵なのだ。

 

「・・・リアス。今、私達の眷属が学園全体を大規模な結界で覆っています」

 

「と、とりあえず当分は大丈夫だと思います」

 

 生徒会長にしてシトリー家の次期当主であるソーナが、なぜか尻をさすりながらの匙とともに声をかける。

 

 展開されている結界は見事なものだが、しかし相手はコカビエルだ。

 

「・・・どれぐらい持つかしら?」

 

「正直ですが、コカビエルが本気で行動を起こせば数分持てばいい方でしょうね」

 

 リアスにそう答えるソーナは、普段通りの表情のようでいて緊張の色が濃い。

 

「実際、彼が全力を出せばたかが地方都市であるこの街を消滅させることは容易でしょう。そしてコカビエルたちはその準備をしています」

 

 さらに最悪の情報が飛び出てきて、全員の表情がさらにこわばった。

 

「ふざけやがって・・・っ!」

 

 奥歯が砕けるかもしれないほどかみしめながら、一夏は義憤に燃える。

 

 これだけの大被害を起こす事態を、大義すらなく起こそうとする。そんな暴虐な在り方に怒りを覚える。

 

「ああ、あの野郎許せねえ!」

 

 そしてイッセーも怒りに燃えるが、こちらはもっとシンプルだ。

 

 単純に、自分の住んでいる街と平和を乱そうとすることに対する怒り。

 

 そして、それゆえにその炎は強く燃え上がる。

 

「しかし、そんな化け物俺たちでどうにかできるのか・・・?」

 

「お、おう! レヴィアさんの当ても三十分かかるんだろ? 俺たちでそこまで持ちこたえられるのか?」

 

 松田と元浜も気合を入れようとしているが、しかし命がけの実戦を経験していないからか、少し及び腰だった。

 

 しかし当然といえば当然だろう。

 

 悪魔になったと思ったら、いきなり敵勢力の最強格と一戦を交えるのである。むしろ気合を入れているイッセーの方がおかしいといえる。

 

 それがわかってるからか、リアスは微笑を浮かべると手を置いた。

 

「・・・大丈夫よ。ここには赤龍帝もいるのよ? それにレヴィアの手回しでベルゼブブさまとアスモデウスさまの勅命を受けた部隊を派遣される予定だったもの」

 

「ええ、そちらに関しても40分もあれば到着するそうです。レヴィアにはお礼を言わねばなりませんね」

 

 そういうと、二人はほっと息を吐く。

 

 実の兄や姉に迷惑をかけるのは心が痛む。そういう意味ではレヴィアが責任を負う形のこれは正直少し気が楽だった。

 

 あとで、何かお礼をしよう。二人はそう心に決め、そしてゆえに決意する。

 

 なにせ、お礼をするためには生き残らなければならないのだから。

 

「一時間は持たせて見せます。リアス、お願いしましたよ」

 

「ええ。・・・みんな! この戦いはこれまでとは違う死戦になるわ! だけど、必ず生きて帰るわよ!!」

 

『はい!』

 

 緊張感を浮かべながら、グレモリー眷属は気合を入れて学園へと足を踏み入れようとする。

 

「・・・それでは、コカビエルの相手は私がいたしますわ」

 

 そこに、セシリアはISをすでに纏った状態で待ち構えていた。

 

「ええ、悔しいけど、私たちがコカビエルに一撃入れるにはイッセーの協力が必要不可欠。・・・誰かが時間を稼いでくれないとそれも難しいわ」

 

「わかっています。・・・イリナさんを痛めつけてくれたお礼はきちんと致しますわ」

 

 そう、すでにイリナの戦闘は不可能だ。

 

 コカビエルやフリードの前に敗れ、その消耗は甚大。加えて得物である擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)も奪われた。

 

 彼女はもう戦えない。そして、木場とゼノヴィアの行方もいまだ知れない。もしかしたら、死んでいる可能性すらある。

 

 だが、それでも決して負けるわけにはいかない戦いだった。

 

「・・・セシリアだっけ? 悪いが、俺もコカビエルの相手に回るからな」

 

「すいません。私もそっちに回らせてもらいます」

 

 一夏と蘭もセシリアに並ぶ。

 

 切り札を使用したとして勝てる可能性は高くないだろう。だが、戦うことはできるはずだ。

 

 レヴィアは三十分で来るといった。なら、それまで持たせるのは眷属としての使命だ。

 

「・・・流れ弾が当たっても文句は聞きませんわよ?」

 

「大丈夫。かわして見せるって」

 

「そうですよ。私も一夏さんもこれでも結構強いんですよ?」

 

 軽口をたたくセシリアに、自信に満ちた表情を浮かべて二人は答える。

 

「・・・さあ、突入するわよ!!」

 

 そして、リアスの号令とともに全員が結界の中へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結界の内側は、すでに魔境となっていた。

 

 校庭中に、巨大な犬のような姿をした獣が何頭もいる。

 

 だが、それは決して狗などというような生き物ではない。

 

 なぜなら、犬には頭は三つもないのだから。

 

「冥府の番犬ケルベロス・・・! こんなものまで持ち込んでいるというの!?」

 

 リアスが舌打ちをする中、しかしそれ以上に問題がある光景が映っていた。

 

 それは巨大な魔法陣。中央にはバルパー・ガリレイが陣取り、そして周囲にエクスカリバーが浮かんでいる。

 

「どうやら、あれが儀式の中心のようですわね!!」

 

 セシリアは儀式を中断させるべく、躊躇なくレールガンを発射する。

 

 バルパーはただの研究者。この一撃を耐えることなどできるわけがない。

 

 だが、その一撃は眼前に降下した光の槍に弾き飛ばされた。

 

「無粋なまねをするな。しょせん絡繰りに頼らなければ戦えない奴はこれだから困る」

 

 侮蔑の感情が混じった声に全員が振り仰げば、そこには宙に浮く椅子にコカビエルが腰かけていた。

 

「バルパー。あとどれぐらいでエクスカリバーは合一する?」

 

「あと五分もかからんよ」

 

「そうか、頼むぞ」

 

 コカビエルはバルパーと短く会話をすると、指を鳴らした。

 

 そして、ケルベロスの視線が一斉に向き、さらには堕天使やはぐれ悪魔祓いが何人も現れる。

 

「さて、余興の時間だ。奴らと遊んでやれ」

 

『はっ!』

 

 コカビエルの命を受け、全員がリアス達に向かって襲い掛かる。

 

 今ここに、駒王町の命運をかけた戦いが始まろうとしていた。

 



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月下校庭のエクスカリバー 10

 襲い掛かるはぐれ悪魔祓いと堕天使、そしてケルベロスの群れに対して、一番に動いたのは蘭だった。

 

「させない!」

 

「え、ちょっと!?」

 

「蘭ちゃん!」

 

 元浜と松田の制止の声を聴きもせずに前に出る蘭は、即座に両腕を構える。

 

 そして、それは現れた。

 

 八つの蛇がまとわりついた筒のようなそれは、間違いなく神器(セイクリッド・ギア)

 

 だが、その出力はあまりにも甚大。

 

 例えていうのならば、疑似的な禁手(バランス・ブレイカー)を遂げた赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に近い。それだけの圧倒的な力の奔流が込められていた。

 

「まずは一発!!」

 

 そして、そこから莫大な破壊の奔流が放たれた。

 

「な、なにぃいいい!?」

 

「これは・・・ぐぁああああ!!!」

 

 その奔流の前に、突出していた堕天使や悪魔祓い、そしてケルベロスが一撃で吹き飛ばされる。

 

 そしてそのままコカビエルに向かっていったが、コカビエルは背中から十枚の翼を出すと楯のよう体の前にかざす。

 

 そして、宙に浮かぶ椅子を消し飛ばしながらその奔流が結界を突き抜けた。

 

「・・・あ、やっちゃった」

 

「えええええええええ!?」

 

 あまりの破壊力に、イッセーは大声を上げるほかない。

 

 それだけの圧倒的な破壊力の奔流に、敵が全員一旦動きを止めていた。

 

「ああ、あれが蘭の神器なんだ。なんでもやつらおう? とかいうドラゴンを封印してるってレヴィアが言ってたな」

 

 そう一夏が説明しながら、さらに自分が突出する。

 

「・・・ほう? これはそこそこ楽しめそうだな」

 

 そして、破壊の奔流を耐えきったコカビエルがうれしそうな表情を浮かべて光の槍を一夏に向けて投げ放った。

 

 このままなら確実に直撃。そしてそうなれば一撃で死んでもおかしくない。

 

 だが、一夏は全くためらわずに直進しながら、手首につけている腕輪を構える。

 

「行くぜ、不知火!!」

 

 次の瞬間一夏の体が光に包まれ、そして巨大な具足を身にまとう。

 

 肥大化したとでも例えるべき両腕と両足。そして背中に浮遊する翼。

 

 それは、間違いなくISだった。

 

 白と青で色分けされたそれは、間違いなく最強の戦術兵器、インフィニット・ストラトス。

 

「行くぜ、不知火!!」

 

 そして一気に加速し、その勢いのままに一撃をケルベロスへと叩き込む。

 

 神器によって強化された一撃を、鍛え上げられた技量で導き、ISの加速力で叩き込む。

 

 あらゆる条件が好条件であるがゆえに、魔獣殺しは一瞬で達成される。

 

 そして、その妙技によって生まれた一瞬のスキをセシリアは見逃さない。

 

「お行きなさい、ガンポッドビット!」

 

 スターダスト・ティアーズのビットが射出され、聖剣で構成された弾丸が隙を見せた悪魔祓いを撃ち抜いていく。

 

 そして、一歩遅れながらもリアスたちもすぐに我に返った。

 

「行くわよ、私のかわいい下僕たち!!」

 

 消滅の魔力を全力で放ちながら、リアスもまたコカビエルへと一撃を放つ。

 

 それをコカビエルは一言も発さずにあっさりとかき消すが、その時間のロスをついて、一夏はコカビエルの眼前へと迫っていた。

 

「さすがに早さだけはあるな」

 

「他は神器で補えるしな!」

 

 一夏の渾身の斬撃を、コカビエルは翼を盾にしてあっさりと防ぐ。

 

 さらにコカビエルは余っている翼を器用に動かして、ビットによる攻撃をすべてはじいた。

 

「さすがに、圧倒的ですわね・・・っ!」

 

「そういうことだ小娘に小僧。ただ速いだけの玩具で俺は殺せんぞ?」

 

 憐憫の感情すら浮かべてコカビエルは笑う。だが、しかしその表情がわずかに喜色を浮かべた。

 

「・・・ほう? 思ったよりはやるようだな」

 

 コカビエルの視界の先、リアスたちは敵を前にして善戦していた。

 

 すでに敵の五分の一が撃破されており、あたりには血しぶきが待っていた。

 

「うぉおお吐きそう! だが頑張るぜ!」

 

「これが終わったらレヴィアさんにご褒美もらってやる眼鏡ビーム!!」

 

 松田と元浜すら一対一で堕天使を抑え込むという所業を見せ、気合で何とか食い下がっていた。

 

「なかなか面白いペットを持っているようじゃないか。セーラ・レヴィアタンもリアス・グレモリーも引きが強い」

 

「私の可愛い下僕を侮辱するとは、万死に値するわね!!」

 

 一夏とセシリアの攻撃を捌きながらのコカビエルの挑発に、リアスはそれとわかっていても怒りを燃やす。

 

 そして、それを受けてコカビエルは歯を剥いた。

 

「なら倒して見せろ!! 神の子を見張るものの一角を崩せるこの機会、好機と思えぬのならお前たちの器も知れるものだ!!」

 

「ぐぁ!?」

 

 いうと同時に、コカビエルは一夏にケリを叩き込んで弾き飛ばす。

 

 そして、巨大な光の槍を生み出すと、アーシアに向けて投げつけた。

 

「・・・アーシア先輩!?」

 

 すぐに蘭が砲撃を放つが、それでも完全には殺しきれない。

 

 そしてアーシアにむけ、いまだ上級堕天使レベルの光力を発揮する光の槍が迫り―

 

「アーシア! 逃げ―」

 

「その心配は不要だ、兵藤一誠」

 

「お待たせ、イッセー君」

 

 ―その槍を、二振りの刃が切り裂いた。

 

 莫大な破壊力を生み出す聖剣と、光を喰らう魔剣。

 

 それらを持つものはすなわち―

 

「ゼノヴィアさん! ご無事でしたのね!」

 

「木場! 無事なら無事って言えよな!!」

 

 セシリアとイッセーの歓喜の声が届き、二人は笑みを浮かべながら剣を構えた。

 

 そして、それと同時に魔法陣がより強大な輝きを放つ。

 

「―完成だ」

 

 陶酔したバルパーの声が響く中、エクスカリバーが合一して一振りの剣となる。

 

 そして、魔法陣は莫大な力を放出する。

 

「あと二十分もすればこの都市は吹き飛ぶ。開戦の火ぶたとしてはまあ十分だろう」

 

「ご苦労バルパー。これでようやく戦争ができるというものだ」

 

 バルパーのこ言葉を受け、コカビエルは満足そうにうなづいた。

 

 そして、イッセー達は一様に顔を引きつらせる。

 

 当然だ。魔王たちの増援が来るまではあと三十分はかかる。レヴィアが来るにしてもギリギリだろう。

 

 何とかしなければ街が崩壊する。だが、とてもじゃないがこのままでは間に合わない。

 

「・・・さて、それではそろそろ余興も終焉と行こうか。フリード」

 

「はーいなボス!」

 

 その言葉とともに、片手をあげてフリードが姿を現す。

 

 そして、猟奇的な笑みを浮かべながらフリードはエクスカリバーを手に取った。

 

「こいつで邪魔な連中をズンバラリンと切り裂きパーティすればいいんでしょ? 処刑用BGM流してそれまでにできるかどうかレッツチャレンジ! ってかんじで?」

 

「わかってるじゃないか。ああ、しっかりと楽しんで来い」

 

「そしてエクスカリバーの力を示してくるといい、それがお前の役目だフリード」

 

 フリードに満足そうにうなづいたコカビエルとバルパーに、全員がさらなる脅威を感じてわずかながらに気おされる。

 

 コカビエルだけでも強力だというのに、ここに四本まとめて合一化されたエクスカリバーが追加されるのだから難易度が大幅に上昇する。

 

「・・・さて、それではお前たちとの戦いもそろそろ終わらせておくとしようか!!」

 

 そして、コカビエルの視線が一夏に向けられた。

 

 そして次の瞬間、一夏の目の前にコカビエルが映る。

 

「速い!?」

 

「違うな、貴様らが遅いのだ」

 

 即座に振り下ろされた一撃を何とか受け止めるが、さらに横っ腹に翼の攻撃が叩き込まれ、一夏は結界にたたきつけられる。

 

 今の一撃でシールドエネルギーは飽和し、絶対防御まで発動。エネルギーの大半は消滅したうえに意識まで飛びかけた。

 

「一夏さん!?」

 

「次はお前だ!!」

 

 そしてその隙を突いて、コカビエルは蘭へと光の槍を放つ。

 

 並の悪魔なら一撃で数十はまとめて滅ぼせる圧倒的な光力。だが、それを蘭は何とか耐えきった。

 

「・・・ほう。戦車とはいえ並の耐久力ではない。・・・神器か」

 

「この・・・っ!」

 

 反撃の砲撃をあっさりとかわしながら、コカビエルは感心する。

 

「だが所詮は下らぬおもちゃ。その程度で俺を殺せると思うなよ!」

 

「なら、こんなおもちゃはどうですの!」

 

 真後ろに回り込んだビットが砲撃を放つが、コカビエルは見ずに即座に叩き落す。

 

「ぬるいな小娘。確かにこの中では有数の腕だが、俺を相手にするにはまだまだ足りんぞ?」

 

「くっ! これが神の子を見張るものの力・・・っ」

 

 聖剣といえど、伝説クラスでないのならば相手もならない。

 

 最上級の堕天使のそのまた上クラスの力に、セシリアは歯噛みする。

 

「さて、それではそろそろ終わらせたいところだが・・・」

 

 その時だった。

 

「・・・僕は、剣になる」

 

 均衡(バランス)崩壊する力(ブレイカー)が、放たれた。

 



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月下校庭のエクスカリバー 11

「・・・なんだ、あれは」

 

 薄れていた意識を取り戻しながら、一夏はその光景に感動すら覚える。

 

 合一化されたエクスカリバーという圧倒的な力を、さらに圧倒する木場の剣。

 

 さらにゼノヴィアもデュランダルを引き抜き、エクスカリバーを圧倒する。

 

 本来の折れる前のエクスカリバーを威力でなら上回るとされているデュランダルは当然として、しかし木場の魔剣は合一前のエクスカリバーにすら届かなかったはず。それがいったいどうしたというのか。

 

「どうやら、禁手(バランス・ブレイカー)に至ったようですわね」

 

 一夏をかばうように位置どったセシリアが、感歎の表情を浮かべる。

 

 その言葉に、一夏は驚いた。

 

 禁手。神器の覚醒形態ともいえる進化形態。

 

 最終到達点ともされるそれは、神器保有者である一夏や蘭ですらいまだ届かない未知の領域。所有者全体はおろか上級者の間で見ても、おそらく全体の一割にも届かないであろう最高難易度の領域だ。

 

 一夏とさほど変わらない年齢でそれに届く。それがどれほどの偉業かなど言われるまでもなくわかっていた。

 

「シィーット! 禁手にデュランダルとか何の冗談だよ!! こんなもん生身で勝てるわきゃねーだろうが! どういうことだよバルパーのオッサン!?」

 

 そのあまりの連続展開にフリードが絶叫する。

 

 すでにISまで装備しているが、禁手の影響で反応速度も上がっているのか木場はその反撃を簡単にいなしていた。

 

 そして、それに対してバルパーは返答することができない。

 

 それほどまでに、木場の禁手に驚愕していた。

 

「あり得ない、あり得ないぞ聖魔剣など!? 反発しあう二つの要素がまじりあうなど・・・っ!」

 

「糞が! 悪いがボス、これ以上はごめんだぜ!!」

 

 そういうなり、フリードはバルパーをひっつかむとそのまま高速で離脱する。

 

「あ、待ちなさい!!」

 

 蘭が即座に逃がさないとばかりに砲撃を放つが、フリードはそれを回避。それどころか、その結果空いた穴から結界の外に飛び出そうとする。

 

「って逃がすか!」

 

 一夏はそれにすぐに反応して即座に追いすがるが、その顔面に強大なオーラを放つ剣が映り込んだ。

 

 ・・・あろうことか、フリードはエクスカリバーを囮にして離脱を図ったのだ。

 

 そして、ついうっかりそれを受け取ることに意識を向けた一夏から逃れ、そしてその直後に結界がとじる。

 

「あ、待て!!」

 

「誰が待つかバーカ! 悪いがここらで逃げさせてもらうぴょーん!!」

 

 そういうが早いか、フリードは再び加速して離脱していった。

 

「・・・会長! 結界を解除してください!」

 

「駄目です。ここで結界を解除すれば、コカビエルとの戦闘の余波がすぐにあふれてきます。・・・申し訳ありませんが、バルパーとフリードは優先順位がはるかにしたです」

 

 正論で封じ込められてしまうと反論ができない。

 

 そして、確かにフリードやバルパーに意識を向けている暇もなかった。

 

 なぜなら、そこにはさらに強大な化け物がいるのだから。

 

「・・・フム。まあいいか、俺一人でも充分事足りるしな」

 

 そういいながら、コカビエルは感心するかのように木場とゼノヴィアを見る。

 

「ああ、少しは誉めてやろう。・・・使えるべき主をなくしてまで、お前たちはよくやっている。禁手とデュランダルとはなかなか感心したぞ」

 

 そう、本当に賞賛の感情をこめて、コカビエルはそう告げた。

 

 コカビエルは確かに心から褒めていたし、実際それだけの成果を上げているといってもいい。

 

 だが、その褒め方が問題だった。

 

「・・・なん、ですって?」

 

 リアスが、怪訝な表情で聞き返す。

 

 コカビエルは木場とゼノヴィアを褒める際、今こう言ったのだ。

 

 仕えるべき()()()()()まで、と。

 

 木場はまあいい。悪魔にとっての大本の主といえる四大魔王は、その全員がかつての戦争で死んでいる。

 

 確かに新たにリアスの兄であるサーゼクスたちが四大魔王に就任しているが、それはあくまで新たにだ。死んでいるということには違いがない。

 

 そんなことは周知の事実だ。今時の異形社会ならば子供でも知っている常識レベルの知識であり、ほかの神話体系にも知られている。知らない方が問題なレベルだ。

 

 だが、ゼノヴィアの主は聖書の神だ。聖四文字であらわされる、アブラハムの宗教における全能にして勇逸の存在である『神』だ。

 

 コカビエルの言うことが正しければ、その神すらすでに死んでいるということになるではないか。

 

「こ、コカビエル様は何を言っておられるのだ?」

 

「は? 神が死んだとでもいうのかよ?」

 

 堕天使やはぐれ悪魔祓いですら唖然としているなか、コカビエルは自分が言ったことに気が付いたようだ。

 

「・・・ああ、若手や下級の連中が知っているわけがないか。まあ、隠す必要もないしな」

 

 そう勝手に納得すると、最大限の憐みを見せた表情で、ゼノヴィアに目を向ける。

 

「先の大戦で四代魔王が死んだことは知っているだろう? その時、聖書の神も相討ちになって死んだのさ」

 

 その言葉に衝撃を受けたのは、コカビエルを除く全員だった。

 

 それもそうだ。この場にいるものは三大勢力。聖書の神はある意味でその頂点に存在する存在だ。

 

 転生悪魔であり、基本無宗教のイッセー達ですらさすがに驚いている。それほどまでに聖書の教えというものは大きな存在であり、影響力が大きいのだ。

 

 その、最高存在が数百年以上前にすでに死んでいるなど、誰一人として知らなかった。

 

「嘘だ! そんな話、聞いたことがないぞ!!」

 

「本当だよ。その転生悪魔の聖魔剣が証拠だ。聖書の神が死んだことで、聖と魔のバランスはすでに崩れている。だからそんなイレギュラーが生まれるのさ。バルパーはそろそろ気づいているだろうがな」

 

 反論の余地を許さない証拠を突き付けられ、ゼノヴィアは愕然とする。

 

「まあ、隠されているのは仕方がない。キリスト教を中心とする神の奴を信仰している人間どもの数は人間全体の約半数。最近は信仰心が緩い奴も多いが、それでも極限まで少なく見積もっても数億人は本気で信仰しているだろう。それも、人間たちの主要国家である先進国でろくに信仰してないのはこの日本だしな」

 

 そう、この情報は決して公言することができない。

 

 そんなことになれば、まともな信者は間違いなくパニックを起こす。

 

 事実、敬虔な信徒であるゼノヴィアとアーシアは足がふらついていていつ倒れてもおかしくない。セシリアも愕然としてレールガンを落としているし、神に裏切られた感情すら持っていたはずの木場ですら剣を持つ腕が下がっている。

 

 まともな信仰を持っていたものの反応がこれだ。少なくとも、三大勢力の天使側として戦っている教会の戦士や神父やシスターがこれを知れば、どうなるかというあまりにもわかりやすい実例だろう。

 

 冗談抜きでショックで死ぬものがいてもおかしくない。それほどまでに、信徒にとって劇薬極まりない情報だった。

 

「主は、いない? 死んでいる? では、私たちに与えられる愛は・・・」

 

 愕然としたアーシアが、弱弱しくそう疑念を浮かべる。

 

 教会から追放され、そして悪魔になってもなお信仰を捨てなかったアーシアにとって、この事実はあまりにも毒すぎた。

 

「死んでいるのだから、そんなものあるわけないに決まっているだろう」

 

 そう、コカビエルは冷酷に一蹴する。

 

「まあ、聖書の神はその奇跡を運用するにあたってシステムを構築していた。今はミカエルがそれをうまく運用しているからある程度は機能している。・・・ある程度は、だがな」

 

 そう苛立たしげに言い放つと、コカビエルは大きく声を上げた。

 

「そして残ったのはなんだ? 魔王を含めた上級悪魔の大半を失った悪魔! 根本ともいえる神を失った天使! そして戦争はないと断言までしやがった腑抜け共の堕天使だ! ・・・なんだそれはふざけるな!!」

 

 ショックですでに倒れているアーシアを視界にすら入れず、コカビエルは唾を出すほどに怒り狂う。

 

「振り上げた拳をただ下すなど腑抜けたこと!! そんなに戦争をする気がないというのなら、俺一人でも戦争を起こしてやる!! 手始めにサーゼクスとセラフォルーの妹を殺して、ついでに忌々しいレヴィアタンの忘れ形見も血祭りにあげてな!!」

 

「・・・ふざけるな!!」

 

 その顔面に、一夏は剣の切っ先を突き付ける。

 

「なんの大義も正義もない力なんてただの暴力だ!! てめえ、堕天使の指導者の一人のくせして、そんな小さい真似で満足できるのか!?」

 

「小さい? ハッ! そんなものは体の震えを止めてから言うんだな」

 

 コカビエルはそれを一蹴する。

 

 事実、一夏の体はわずかながらに震えていた。

 

 怒りのあまり手加減すら忘れた圧倒的な力の奔流に、本能が恐怖をうんで体の動きを阻害する。

 

「所詮、それが弱者の限界だ。強大な力の前に震えるしか能のない小鹿が、俺の邪魔をしようなど片腹痛い!」

 

「それが・・・どうした! 俺は戦えるぜ!」

 

 震えながらも、しかし一夏は剣を構える。

 

 たとえ相手が脅威以外の何物でもなかろうと、しかしそれでも一夏は守りたいものを守るだけだ。

 

 それが、守る王である彼女の眷属である自分の在り方なのだから。

 

「ああ、まったくじゃねえかこの野郎が!!」

 

 そして、そこに並び立つ姿があった。

 

 赤龍帝、兵藤一誠。彼はこの場において震えすらしていなかった。

 

 そこにあるのは純粋な怒り。大切な街を勝手な理由で滅ぼそうとし、そして大切なアーシアを傷つけられた怒りが彼を突き動かす。

 

 たとえ心得が無かろうと本能で理解させるコカビエルの圧倒的な力に、しかしイッセーは全く臆していなかった。

 

「お前みたいなクソ野郎に! 俺のハーレム王国の建設の邪魔はさせねえぞ! このカラス野郎が!!」

 

「イッセー、お前・・・」

 

 その姿に、一夏は感心するしかない。

 

 これだけの圧倒的な力を前に、しかし彼は自然体だった。

 

 それだけのことができるようになるのに、自分は一体どれだけの修練を積めばできるようになるのか。

 

 ああ、子供のころ、友達を愚弄する悪ガキ相手に手加減もせずに叩きのめしてはレヴィアに説教されたことを思い出す。

 

『一夏君。弱者を相手に加減をせずに叩きのめしている時点で、君はただの乱暴者だ。真の強者はむやみに人を傷つけない』

 

 そういって寸止めや捕縛術の訓練をされたが、その意味を理解するのにはかなり時間がかかったものだ。

 

 ああ、いまなら本当によくわかる。

 

 こういうのが、本当の意味で強いものなのだろう。そう感じさせるほどに、自然と強さを感じさせてくれる。

 

「・・・俺についてくればハーレムを簡単に作らせてやろう。手ごろな女を見繕ってやるが?」

 

「え、マジで!?」

 

 自然体すぎるのも考え物だが。

 

「イッセー!! あなた何考えてるの!?」

 

「イッセー先輩、状況を考えてください」

 

「イッセー先輩、平常運転過ぎます!!」

 

 主と後輩二人から即座にツッコミがとび、イッセーは肩をびくりと震わせた。

 

「え、えっと、その、どうしてもハーレムってことばには弱くて・・・」

 

「・・・はははっ! お前、本当に平常運転すぎるだろ」

 

 なんというか、肩の力が抜けて、一夏は笑ってしまう。

 

 だが、おかげで震えは収まった。

 

「コカビエル! 悪いが、俺たちだっていることを忘れてもらっちゃ困るぜ!!」

 

 そういいながら、一夏は今度こそためらいなく剣を突き付ける。

 

「俺の仲間は誰一人やらせない! そして、俺もやれたりなんて絶対しない!!」

 

「もちろんだぜ織斑! ・・・コカビエル、悪いが俺は俺の力でハーレムを作ってやるよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん。さすがは僕の愛しい一夏君とイッセー君だ。いい啖呵だね」

 

「だが未熟だ。彼我の戦力差が読めていないのは難点だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉とともに、結界が切り裂かれ、そしてより強大な結界で上書きされる。

 

 その場の全員が、上を見上げた。

 

 グレモリー眷属はもちろん、神の不在に沈むゼノヴィアも、そして一夏と蘭もそれを見た。

 

 そこにいるのは二人の影。シルエットはともに女性だが、片方はISを纏っている。

 

 そして、その姿を見て一夏は目に涙すら浮かべる。

 

「ははは。まだ三十分経ってないぜ?」

 

「馬鹿者。こういうのは言った時間よりも早く来るのが基本というものだ」

 

 一夏にたいして厳しく、しかし慈愛を感じさせる口調で返すその声の主は、舞い降りるとイッセーをみて笑みを浮かべる。

 

「そこの少年。彼奴ほどの相手を前に自然体とはなかなかの器だが、しかし貴様ではまだ未熟だ。ここは任せて下がっていろ」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 その姿を見て、イッセーは唖然とした。

 

 いいや、その場にいるほぼ全員が、驚くべき人物の登場に唖然としている。

 

 しかし、リアスたちはできる限り早く冷静さを取り戻した。

 

 そう、セーラ・レヴィアタンの眷属には織斑一夏がいる。彼はレヴィアの頼れる眷属だ。

 

 ならば、彼の唯一の肉親である彼女が事情を知っていても何ら不思議ではない。

 

「さて、切っていいな?」

 

「どうぞどうぞ。そのために呼んだんですからお願いします」

 

 そして、連れてきたレヴィアはそう告げると、コカビエルに向けて意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、お前の野望はここまでだよ、コカビエル」

 

 それは、人類最強。

 

 それは、表の人間における至高を体現するものの1人。

 

 それは、世界中の人間が知っているであろう最強の戦士。

 

「・・・織斑、千冬?」

 

 人類最強のIS使い。初代ブリュンヒルデ織斑千冬が、そこにいた。

 




はい! 皆さんお待たせしました!

ブリュンヒルデキター!!


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月下校庭のエクスカリバー 12

 

「レヴィア、結界は任せる」

 

「お任せあれ」

 

 千冬に促され、レヴィアは即座に結界を強化する。

 

 一瞬でシトリー眷属総出で張った結界を遥かに凌ぐ結界が、さらに強化された。

 

 その出力に堕天使たちは失神するものすら出てくるほどの魔力。その魔力量は明らかに魔王クラスのものだった。

 

 その圧倒的な結界を見て、コカビエルは哄笑を上げる。

 

「フハハハハ! なんだ、思ったより楽しめそうじゃないか! 次の相手はお前か、セーラ・レヴィアタン」

 

「貴様の耳は節穴か? 私はレヴィアから切っていいといわれたはずだが?」

 

 即座に罵倒を返しながら、千冬が一歩前に進み出る。

 

 その姿を見て、コカビエルは馬鹿にしたように笑う。

 

「お前が俺を? ・・・寝言は寝てから言うがいい。誰が見ても分かるぐらい、お前には力がない」

 

 むしろお前が寝言を言っていると、表の人間なら応えただろう。

 

 最強の戦術兵器であるISの、さらに最強の使い手が目の前にいる。公式戦においては最強で、モンド・グロッソの二連覇こそ逃したもののそれはイレギュラー故。まともに戦っていれば優勝は高確率でなされていたと判断されているのが彼女だ。

 

 だが、コカビエルの発言は決して的外れではない。織斑千冬はある意味で最も最弱だった。

 

 この業界では戦闘能力とはすなわち異能の力といっていい。それほどまでに魔力や神器の力は強大で、単純な火力や耐久力ならISなど歯牙にもかけない者がゴロゴロいる。

 

 なにせISの火力は第二世代が使用する実弾武装なら戦闘車両の火器をベースにした者が基本だ。ロケットランチャーを使うにしても、攻撃ヘリや戦車クラスに毛が生えた物が限界だろう。レールガンなどの第三世代以降の装備をもってしても、艦載兵器クラスに到達すれば偉業といえる。

 

 下級悪魔でも火力重視ならロケットランチャークラスの火力は平然と出せる。そしてそれを連射することも用意。上級悪魔クラスなら山肌を削る火砲部隊クラスの攻撃をポンポン出せる。そして魔王クラスなら小規模な山なら吹き飛ばせるだろう。

 

 例えるならば、核シェルターすらやすやすと切り裂き撃ち抜けるナイフや拳銃とでもいうべき存在。それこそが、ISという超兵器や、かつて核兵器が登場しても異形社会が自分たちの優位性を確信できる理由だった。

 

 核兵器は確かに最強の戦略兵器だ。だが被害範囲が広すぎて一対一の戦いで使えるようなものではない。

 

 ISは確かに最強の戦術兵器だ。だが速さ以外は上級悪魔どころか中級クラスにすら届かない。

 

 そして、千冬が持っているのはただの霊刀。それがISサイズに大型化された特注品だ。

 

 確かにそこそこ強力だろうが、聖魔剣やデュランダルには及ばない。普通に木場が使う魔剣の方が強力だろう。それは最上級の存在を相手にするのには心ともなかった。

 

 そして異能の気配もない。織斑千冬は、驚異的な才能を持っているが神器は持っていないただの人間だった。

 

 そんな存在がおもちゃを持った程度で、最上級クラスの存在と戦えるわけがない。

 

 そう思いやれやれとため息をつこうとした瞬間、コカビエルはとっさにその身を横にずらした。

 

「・・・さっきからぺらぺらとしゃべっているので、いつ来てもいいものかと思ったぞ? まさか本当に油断していたとはな」

 

 そんな千冬のあきれとともに、コカビエルの首筋に赤い筋が走る。

 

 千冬は、ただの霊的強化をされた刀でコカビエルに刃を届かせたのだ。

 

 その光景に愕然とするのは木場とゼノヴィアだ。

 

 コカビエルが放つ圧倒的な力のオーラは、聖魔剣やデュランダルをもってしても届くかどうかわからないものだった。

 

 にもかかわらず、少し高い金を払えば買えるような霊刀が、コカビエルの防護を突破した事実が信じられない。

 

「あり得ない。あんな刀が聖魔剣やデュランダルに並ぶなんて・・・」

 

「武器の性能だけで物事を図るとは、愚かな判断だな」

 

 そんな木場に対して、千冬の言葉が鋭く突き刺さる。

 

「どれだけ優れた刀匠が作り上げた名刀だろうと、使い手が武の理念すら知らぬ愚か者が振るう限り、ナマクラにすぎん。逆に武の理を極めたものが振るうのならば、ナマクラでも名刀と称されるような斬撃が可能となるだろう」

 

 そう教師ができの悪い生徒に説明するかのように言葉を紡ぎながら、千冬は切っ先をコカビエルに向けた。

 

「切れる刃も届く足もある。・・・これでも不服か? ならばそのおごりのまま死ぬがいい」

 

 まさに切れ味の鋭い日本刀と称せるような鋭い殺気を向けながら、千冬はコカビエルをにらみつけた。

 

「我が弟とその友人を、下らぬ欲望で傷つけた報いを受けるがいい」

 

「ふ、ふふふ・・・ふははははは!!!」

 

 その姿に、コカビエルは声を上げて歓喜の笑みを浮かべる。

 

 正直に言えば前座と割り切っていた。

 

 それほどまでに若手と実力者の能力の差は大きいのがこの業界で、そこに表の人間が現れた程度でどうこうなるわけがないのが本来の形だ。

 

 だが、今ここにいるのは間違いなく自分を殺すことができるだけの強者。

 

 ISというおもちゃも、世界最強人間と称される女傑が振るえばこれほどまでに使えるのかと、コカビエルは実に納得した。

 

「面白い! そうだ、これでこそ戦争だ!!」

 

 いうが早いか、こんどはコカビエルが一瞬で千冬を切り裂ける間合いに入る。

 

 そして同時に光の剣が生まれ、千冬を切り刻まんと振るわれ―。

 

 闇を切り裂く閃光が二つ。そして刃の音とそれによって生まれる風も二つ。

 

 コカビエルが放った光の剣は、瞬く間に弾き飛ばされる。

 

 そしてその瞬間に、十の翼が刃となって一斉に襲い掛かる。

 

 しかし、その攻撃が届くより早く、千冬は間合いの外に下がっていた。

 

「なるほど。曲芸も化け物が使えばここまで凶器になるか。私も少しなめていたな」

 

「そうか、ならこんどは曲撃ちと行こうか!」

 

 続けてコカビエルが放つのは光の槍。

 

 だが、これまでのそれとは数が違う。

 

 槍が一瞬で数十発も生まれ、そして千冬に襲い掛かる。

 

 それは対ISの基本戦術。上級以上の異形存在だからこそできる、ISという戦術兵器を打倒するための戦闘方法だった。

 

 ISの機動力は確かに目を見張る。異形存在でも速度に特化した上級存在でなければ互角の速度は出せないだろう。最上級クラスでも鈍足な部類なら確実においていかれるレベルだ。

 

 だが、しょせんは使うのはただの人間。

 

 いかにPICが存在しようと限度はある。運動性能においてはどうしても使い手が人間であるが故の限界が存在する。単純に体がもたないのだ。

 

 そして、何より耐久力と火力は下級でも対抗できるクラスでしかない。それがISという兵器の限界。

 

 ゆえに、対ISの最適解はある程度の面制圧による広範囲攻撃。

 

 さらに、結界に囲まれたこの空間はISの本領を発揮するには狭すぎる。

 

 ゆえに最新鋭のISと国家代表クラスが運用したとして、それでもコカビエル相手には一分持てばいい方であり―

 

「・・・なるほど、ではこちらも曲芸で挑もう」

 

 真正面からたたき切って懐に飛び込むなど、コカビエルは想定できるはずがなかった。

 

 ―決着は一瞬。コカビエルの胴体に深い断絶が生まれ、鮮血が飛び散った。

 

「・・・悪いが、私はエネルギーには強いんだ。戦術を間違えたな」

 

「れ、零落白夜、だと!?」

 

 コカビエルは驚愕する。

 

 零落白夜。織斑千冬の単一仕様能力(ワンオフアビリティ)。ISの究極系ともいえるオンリーワンの固有能力。

 

 千冬のそれはエネルギーの無効化。これにより敵のISのエネルギーをゼロにするという戦法こそが、織斑千冬が最強たるゆえんの一つ。

 

 だが、それはあくまでISの業界での話であり、異形存在の魔力や光力などに対して試されたことはこれまでなかった。

 

 否―

 

「試しておいて正解だった。おかげでためらいなく戦術に組み込めるしね」

 

 そうレヴィアが得意げに笑い、コカビエルは敗北の理由を悟った。

 

 そう、それは戦争における基本的な戦術の一つ。

 

 敵手の能力を知り、そして自陣営の能力を隠し通す戦いの基本。

 

 その名を、情報戦。

 

 コカビエルはその一手で明確な敗北を喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、すげえええええええええ!!! 抱いてください!!」

 

「あ、あれが人類最強ブリュンヒルデ! しかもISスーツエロい!」

 

「よし、お前らそこになおれ」

 

 煩悩を垂れ流しながら絶賛する松田と元浜に、一夏は躊躇なく剣を向けた。

 

 マジで切ってしまおうかといわんばかりのその姿に、全員が止めるべきか真剣に考慮するレベルだった。

 

「松田さんも元浜さんもストップ! 一夏さんシスコンですから本当に危険です!!」

 

「うんうん。一夏君は千冬さんが好きすぎるからそういうのはやめた方がいいよ?」

 

 割と真剣な表情で蘭とレヴィアが警告する中、千冬は鋭い視線を堕天使たちに向けていた。

 

 その視線と成果に、堕天使も悪魔祓いもすくみ上る。

 

「に・・・」

 

 ほどなく、限界は訪れた。

 

「逃げろぉおおおおお!」

 

「う、うわぁあああああ!!!」

 

「勝てっこねえ!」

 

 蜘蛛の子を散らすように、その場から全力で逃走する者たちを、しかし千冬は追いかけない。

 

「・・・ここから先は貴様らの仕事だ。さっさと仕事をするといい」

 

 そんなことを明後日の方向に向けて千冬は告げる。

 

「あの、そこのあなた? どこに向かって言っているの?」

 

 その光景にリアスが心配そうに声をかけたとき、それは舞い降りた。

 

「・・・気づいていたのか。コカビエルをやるだけのことはある」

 

 そこ似たのは白い龍。

 

 純白の鎧に身を包んだ男が、倒れ伏すコカビエルの隣に立っていた。

 

「・・・私たちが来る前から来ていたな? 大方神の子を見張るものとやらの使いだろうが、なぜ出てこなかった?」

 

 千冬は明らかに敵意すら込めた質問を送る。

 

 返答次第では貴様も切る。そういわんばかりのことばだった。

 

 はたから見ている側ですらすくみ上るような気配。メンタルの弱いものならそれだけで失神してもおかしくないようなレベルだった。

 

 そして、そんな警告を受けながら、白い鎧の男は平然と答える。

 

「なに。俺は強いものと戦うのが好きなんでね、見所があるので様子を見ていた」

 

 次の瞬間に、すでに千冬は間合いに入っていた。

 

『Divid!』

 

 そして、その音とともに霊刀がはじかれる。

 

「悪いが、コカビエルごときを倒せたからといって俺まで倒せると思われては困る」

 

 男は平然とつぶやきながら、展開している光の翼を魅せつける。

 

白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)。能力は敵の力を半減にする能力だ。そこそこ優れた霊刀とはいえ、半減されればナマクラ以下。この鎧を傷つけることなどできないさ」

 

「・・・チッ」

 

 舌打ちをしながら、しかし千冬は距離を開けない。

 

 半端に距離を開けてさらに半減の発動を許せば、勝ち目がないことがわかっているからだ。

 

 そんないつ戦闘を行っても構わないといわんばかりの気配に、男は震える。

 

 恐怖ではない。それは、武者震いだった。

 

「ああ、実にいい。もし貴女がエクスカリバーの使い手になれば、とても楽しい殺し合いができそうだ。・・・だが」

 

 そういうと、男は肩をすくめながらコカビエルを抱える。

 

「悪いが戦闘はアザゼルに禁止されてるんでね。今日のところはもう帰るさ」

 

「・・・あ、そうなの? なんていうか、サンキュー?」

 

 状況が呑み込めないイッセーはなんとなく礼を言うが、そんなイッセーを男はあきれたような視線で射貫く。

 

「まったく。仮にも俺の宿命のライバルがこんな様子では調子が狂うな。・・・まあ、有望な若手と優れた剣士を見れたから良しとするか」

 

「あのねえ。そういうのやめてくれないかな?」

 

 ため息をつく男の視線からイッセーをかばうように、レヴィアが間に割り込んだ。

 

 その視線は警戒心よりもあきれが色濃く、どうしたものかという感情を移している。

 

「白龍皇。コカビエルを止めに来たのが仕事なら、ここで僕たちと事を構えるのは問題なのはわかるだろう? あと十分もすれば現ベルゼブブ及び現アスモデウスの勅命を受けた部隊も来る。そろそろ帰った方がもめ事が少なくてうれしいんだけど?」

 

「ふむ、そんな実力者ならぜひ戦ってみたいが、さすがにそんなことすればバラキエルあたりに殴られそうだ。今日のところは帰るとするか」

 

 そういうなり、男は翼を広げると空に浮かぶ。

 

『無視か、白いの?』

 

 その背中に、赤い籠手から声が投げかけられる。

 

『・・・久しぶりだな、赤いの』

 

 返答は、男ではなく白い翼から放たれた。

 

『せっかく出会えたが、この状況ではあれだな』

 

『まったくだ。だが、いずれ戦う運命だ』

 

『しかしどうした? 以前のような敵意が伝わってこないが?』

 

『それはお互い様だろう? それに、今ここで事を構えるのは本意ではない』

 

『なるほどな。お互い、いまは決着以外にも興味の対象があるということか』

 

『そういうことだ。長い付き合いだ、たまにはそういうこともあるだろう』

 

『確かにな。じゃあ、またなアルビオン』

 

「・・・えっと、もういいのか?」

 

 赤い籠手と白い翼の会話が終わったようなので、イッセーはなんとなく聞いてみた。

 

 というより、なんていうか状況が読めてないものも多くどうしたものかという空気になってしまう。

 

 それを感じ取ったのか、男は翼をきらめかせると声を響かせる。

 

「俺は今代の白龍皇。いずれ命を懸けてそこの赤龍帝と雌雄を決するものだ」

 

 そこにあるのは敵意でもなければ殺意でもない。しかし、明確な戦意があった。

 

「君たちがその戦いを邪魔するというのなら構わない。その時はまとめて相手をするさ。それまで己を鍛え上げるといい」

 

 その言葉を最後に、白い男は一瞬で空の向こうへと飛び去って行く。

 

 長い二天龍の歴史においても、類を見ない特異な才能を発揮する二天龍の使い手の、それが初めての邂逅だった。

 




攻撃力・・・及第点ギリギリ

機動力・・・最上級のそのまた上

防御力・・・アウト

戦闘技量・・・最上級

以上が、IS装備状態の織斑千冬のスペックになります。零落白夜でごり押ししましたが、あれがうまくいかなければ長期戦になって勝敗はわからなかったでしょう。

現実問題、ISは機動力だけが突出しているためまともな異能社会の実力者なら対処はよほど相性が悪くない限り容易です。ライザークラスなら少してこずる程度で済みます。

ですが使い手が世界最強ともなれば、そして通用する得物さえ用意することができれば、こういうことも可能なポテンシャルを秘めているのがこの作品におけるISです。


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月下校庭のエクスカリバー 終

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・さて、奴は見逃してよかったんだな?」

 

 ISを解除しながら、千冬は念のためにレヴィアに確認する。

 

 どうも目の前にいる少年と因縁があるようだが、果たしてこの場で切らなくてよかったのだろうか。そういう疑問だった。

 

 それに対して、苦笑が返答として返される。

 

「仕方がないよ。ここでアルビオンとブリュンヒルデの殺し合いが勃発したらそれこそ駒王町が滅びるって。僕の一存で神の子を見張るものと戦争するわけにもいかないしね」

 

 肩をすくめて答えながら、レヴィアはあきれ半分で回りを見る。

 

 校庭はクレーターや血しぶきだらけで、とてもこのままにしていいような状況ではない。

 

 今からこれを直さなければならないが、しかし大仕事になりそうだ。

 

「とりあえずご苦労様、四人とも。大した怪我がなくて何よりだよ」

 

「はい。コカビエルとかいくらなんでも危険すぎるので心臓が止まるかと思いました」

 

 レヴィアのいたわりの言葉に、気が抜けたのか蘭は腰を落としながら返答する。

 

「・・・死ぬかと思った。死ぬかと思った」

 

「こ、これがハーレムを作るための試練なのかよ。ハーレムって、大変なんだな」

 

 元浜と松田もげっそりとした表情で肩を落とす。

 

 死人が出ない競技でハーレムを作れるかと思ったら、悪魔になってから大して日がたってないのにこの凄惨な殺し合いだ。さすがに精神的な負担が大きいだろう。

 

「・・・千冬姉」

 

 そして、一夏は千冬の前に立つ。

 

「情けないところ見せちゃったな。・・・次に会うときは、強くなったところを見せるつもりだったのに」

 

 一夏は申し訳ないような顔をして、静かにうつむく。

 

 そんな一夏の頭に、千冬は力強く手を置いた。

 

「馬鹿者」

 

 そして、即座に力が込められた。

 

「痛い痛い痛い痛い!? マジで痛い!!」

 

「戯けが未熟者が。たかが一年足らずで見違えるほどお前は才能豊かというわけでもないだろう。そんな顔をするな馬鹿者」

 

 容赦なくアイアンクローが放たれ、一夏は絶叫する。

 

「こ、怖い。スパルタだこの人・・・」

 

「ブリュンヒルデって怖い逸話のヴァルキリーだけど、その名にたがわぬ怖さだ・・・」

 

「IS学園でも鬼教師だったらしいですからね・・・」

 

 蘭たちが同情の視線を向ける中、ようやく解放された一夏はそのままへたり込んだ。

 

「いってぇ・・・。いくら情けないからって、アイアンクローはないんじゃないか?」

 

「貴様が情けない表情を浮かべるからだ」

 

 そう一太刀で切り捨ててから、千冬はやっと表情を変えた。

 

「・・・まあ、あれだけの化け物を相手によく立ち向かう意志を示せた。成長は認めてやる」

 

「・・・そっか」

 

「見るといい、あれがブラコンのツンデレというものぐへぁ!?」

 

 どこから取り出したのか、千冬は出席簿をもってして余計なことを言ったレヴィアの後頭部に一撃を叩き込んだ。

 

 煙すら吹いて倒れるレヴィアに、全員が一歩後ろに下がる。

 

 今何か喋れば、あれの二の舞になるのは自分だという確信があった。

 

「まあいい。しかし、あの少年も厄介な輩に目をつけられたものだ」

 

 そういいながら、千冬は視線をイッセー達に向ける。

 

 なぜか尻たたきが発生しているが、しかしその光景は微笑ましい。

 

「兵藤一誠といったか。・・・あの状況であそこまで啖呵を切れるとは器が大きいのかただの阿呆なのか。どちらにしろ今後が気になる相手だな」

 

「め、珍しいですね。千冬さんがそこまで気に掛けるだなんて」

 

 後頭部をさすりながら、レヴィアは起き上がりながらそう聞いてみる。

 

 割と恐れを知らないその姿に眷属たちが一周回った感じの敬意を向ける中、千冬は目を閉じながら苦笑を浮かべる。

 

「大したことではない。だが、あの状況下で膝すら震わさずに啖呵を切れるのは、実力者かただの阿呆が大半。だが、中にはいるんだよ」

 

 その瞼の裏に映っている光景が何なのか、それは一夏達にはわからない。

 

 だが、それはきっと―

 

「生き残れば将来大物になる、そういう器がな」

 

 ―きっと、明るいものだと信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・巡回がてら遊びに来たよリアスちゃん!」

 

 そういいながら、レヴィアは眷属たちとともにオカルト研究部室に突入した。

 

 と、そこに最近見たばかりの人の姿を発見する。

 

「ゼノヴィアにセシリア? なんでまだいるんだ?」

 

 一夏の言う通り、二人はすでに任務を終えたはずである。

 

 本来なら、悪魔の縄張りであるここにいるわけがないのだが・・・。

 

「私の場合はこういうことだ」

 

 そういうなり、ゼノヴィアは背中から悪魔の翼をはやしてのけた。

 

「・・・え?」

 

「ああ、ゼノヴィアの奴。神が死んでたからってヤケクソで部長の眷属悪魔になったらしいんだ」

 

 唖然とする蘭の前で、イッセーはあきれの表情を浮かべながらそう補足する。

 

「マジか。そんなやぶれかぶれで悪魔になっていいものなのか?」

 

「・・・元浜先輩は人のこと言えません」

 

 心底あきれた元浜に、小猫が辛辣なツッコミを入れる。

 

 出世すればハーレムが作れるだなんていううたい文句で即座に転生を決意した松田や元浜に人のことを言う資格はないだろう。

 

 だが、そんな小猫の前で松田は真剣な表情を浮かべる。

 

「小猫ちゃん。おっぱいは命より重いんだぞ!」

 

「では今から死んでください」

 

「え? ちょ・・・あ、マジでごめんぎゃぁあああああああ!?」

 

 余計なことを言った松田の悲鳴をBGMに、レヴィアは苦笑を浮かべてしまう。

 

 貧乳を気にしている少女の前で、胸の話は禁句なのである。

 

「ま、まあそれはわかったけど、セシリアちゃんはなんでまた?」

 

「私は今後の事情を説明するために残りましたわ。ゼノヴィアさんは細かい話を聞いていないもので」

 

 そう告げるとともに、セシリアは簡単に事情を説明する。

 

 エクスカリバーは合一化されたのをいいことに、そのままイリナが持ち帰ることになった。これはもともとそういう任務だったので好都合ともいえるだろう。

 

 そして、教会側は一応という形だったが、聖剣計画の失態について謝罪。同時に、堕天使側の動きが不透明であるとことを理由に苦肉の策ということを隠しもしないが悪魔との連携をとる方針を固めているそうだ。

 

「へえ。教会にしては柔軟すぎる対応だね」

 

「そこまで言うこと? 堕天使が怪しいんだから当然警戒して連絡を取ることぐらいありそうだけど?」

 

 レヴィアの感心する理由がわからないリアスだったが、そんなリアスにレヴィアは逆にあきれてしまう。

 

「あのねえリアスちゃん。教会にとって滅ぼす対象なのは堕天使も悪魔も変わらない。そんな相手と連絡を取り合うだなんてまともな聖職者なら業腹だよ」

 

「だろうね。教会側も今回の事件とその動機を警戒しているということだよ」

 

 そういいながら、ゼノヴィアは悪魔の翼をしまうとため息をついた。

 

「しかし、これで私の背信の徒。ああ、主よお許しくだはうあっ!?」

 

「・・・アーシア先輩みたいなことしてますね」

 

 悪魔になったばかりですぐに神に祈りはじめ、そして天罰を喰らうその姿にアーシアを思い出して、蘭はため息をつく。

 

 いまだにアーシアも直っていないが、そろそろ本当に直した方がいいのではないかと思ってしまう。

 

「まあ、そういうわけですから私は帰りますわ。・・・教会から追放された以上、オルコットの復興のために今よりもっと忙しくなりますもの」

 

 セシリアはそういいながらソファーから立ち上がる。

 

 その言葉に、全員の表情が痛みを浮かべた。

 

「おいおいセシリアちゃん。それマジかよ?」

 

「本当だ。その・・・私が教会をやめるときに、主の死を知っていることを伝えたのが原因で・・・その・・・」

 

「「「お前のせいかよ!!」」」

 

 変態三人組からの総ツッコミがゼノヴィアに向かって放たれた。

 

 完全にとばっちりといえばとばっちりである。これは完璧にゼノヴィアが悪い。

 

「いや、その、私は別にセシリアが知っていることまではいわなかったんだぞ? イリナが知らないということは伝えたが」

 

「ゼノヴィアちゃん? それ、知らないのはイリナちゃんだけだって言ってるようなものだからね?」

 

 レヴィアがため息をつきながらどうしたものかと考える。

 

 さすがにこれは可愛そうだ。さて、どうしたものか。

 

 さてどうしたものかと考えて、レヴィアは良いことを思いついて手を打った。

 

「そうだ。セシリアちゃん暇だったら僕に雇われてくれないかな?」

 

「・・・雇う? 眷属悪魔になるのではなくて?」

 

 微妙なニュアンスにセシリアが首をかしげるが、レヴィアとしてもこのままいきなり眷属悪魔に使用などとは考えない。

 

「ほら、セシリアちゃんは一応信徒なわけだし、いきなり悪魔ってのは抵抗あると思ってね。できれば、一人味方がほしかったんだよ」

 

 そうレヴィアは前置きすると、真剣な表情を見せる。

 

「・・・一年とちょっと前に起きたIS学園の襲撃事件。千冬さんの目撃証言だけだから確証はないが、その襲撃者の中に神滅具の一つである黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の使い手がいたらしい」

 

『!?』

 

 その言葉に、一夏と蘭を除く全員が驚愕する。

 

 IS学園の襲撃事件は、表の世界を揺るがす第三次世界大戦の火ぶたを切った事件だ。その影響力は計り知れない。

 

 それに、神滅具の使い手がいたなどと驚愕の事態以外の何物でもない。

 

 むろん、神滅具の持ち主が必ずしも異能社会の中から見つかるわけではない。それはイッセーの場合でも証明されている。

 

 だが、人類統一同盟の兵士として使い手が参加しているとなればそれは緊急事態だ。

 

「僕から話を聞いた千冬さんがそういう感想を持っているだけだから、冥界はまだ本腰を入れて動いていない。あくまで僕が千冬さんに個人的に出資して調べているだけだ。だけど、いずれ本格的に動くべきだと思っている」

 

 聖槍の存在が人類統一同盟に知られたのならば、遅かれ早かれ異能の研究が盛んになることは間違いないだろう。

 

 そうなれば、聖槍の大本である聖書の教えの天使はもちろん、悪魔や堕天使も存在が公表されるようなものだ。

 

 そして、あらゆる神話と妖怪たちの存在が認識される日も近いだろう。

 

 もしそうなれば、この世界はさらに混沌とした状況へと進むことになる。

 

「正直千冬さんと関係者だけでは動きが大変でね。できれば腕の立つ実力者がほしかったんだよ」

 

 そうレヴィアはいい、そしてセシリアはそれに対して少しの間沈黙する。

 

 だが、その沈黙はわずかだった。

 

「オルコット家復興のため、手段を選んでいる余裕はありませんか。それに・・・」

 

 セシリアの視線がイッセーに向く。

 

 それはイッセー自身が気づくよりも早く戻されたが、しかしセシリアはそれで十分だった。

 

「それに立ち向かい続けていれば、彼に届くかもしれませんわね」

 

「・・・一応言っておくけど、彼、一時期覗きの常習犯だからね?」

 

 レヴィアは親切心で一応警告をしておく。

 

 とたんに、セシリアの顔は怒りで真っ赤に燃え上がった。

 

「なんですってぇ!? イッセーさん! 貴方そんな不埒なことをしていたんですの!?」

 

「そ、そこに楽園があったからです! それに今はやってないから!! あと松田と元浜もやってたから!!」

 

 一瞬でスケープゴートまで用意しながら、イッセーは訳も分からず悲鳴を上げる。

 

 確かに覗きは悪いことだが、いまいきなりそこまで怒られるほどではないような気がする。

 

「こ、このセシリア・オルコットがいる限り、そんなことは許しませんわよ! 今度そのようなことをいたしましたら、スターダスト・ティアーズでハチの巣にしますからね!?」

 

「は、はぃいいい! なんかよくわからないけどごめんなさい!!」

 

 何やらよくわからないが、怒った女の子には逆らわない方がいいということだけはわかっている。

 

 わかっているが、しかしまったくわかってないのだ。

 

 なんで、松田と元浜はスルーしてイッセーだけ怒られているのかということが。

 

「・・・なあ、これってもしかして」

 

「ああ、かっこよかったからねぇ、あの時のイッセー君」

 

 顔から色が消えうせている元浜に、レヴィアは確信を持ってそう告げる。

 

 あの時のイッセーは、途中でとても駄目になったがとても格好良かった。間違いなく格好良かった。

 

 あんなものを見せられれば、割と落ちる女子は多いだろう。

 

 しかもレヴィア達は知らないが、セシリアは強い男を求めている。

 

 コカビエルという圧倒的な強者に全員が程度はともかく臆する中、全く臆さず文句を言ってののけたイッセーに強さを感じてもおかしくはなかった。

 

「ああ、確かにあれは格好良かったからなぁ」

 

「い、一夏さんもかっこいいですから! ですから!!」

 

「ぐぬぬ! イッセーめぇえええ!!!」

 

 同じ男として敬意を見せる一夏をフォローする蘭に、その隣で嫉妬の涙を流す松田。

 

 そしてリアスやアーシアも嫉妬の炎を見せてイッセーをにらんでいた。

 

 何はともあれ季節も夏。

 

 恋も戦いも白熱していく一方であった。

 



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停止教室のヴァンパイア

ついにここまでやってきた!


 

 時は移り変わり季節は夏。

 

 レヴィア達は風紀委員としての仕事を熱意をもってしているが、レヴィアの性格からそれ以外にもいろいろな行動をとっている。

 

 その一つとして、今ここにプール掃除が行われていた。

 

「掃除終了! 実は僕、制服の下に水着着てたんだよねー!!」

 

「レヴィアさん、子供じゃないんですから・・・」

 

 一番乗りでプールに飛び込もうとするレヴィアを、蘭がしっかりと取り押さえる。

 

 そして、そのまま準備体操を強制した。

 

「いいな、プール」

 

「ああ、水着・・・いい」

 

「夏・・・最高!!」

 

 そしていつもの三人組は、鼻血を流して興奮する。

 

 そして、そのまま小猫に蹴り飛ばされてプールに墜落した。

 

「・・・いいから着替えてください変態先輩衆」

 

「小猫ー? まだ準備運動も終えてないんだからその辺にしておきなさい」

 

「あらあら。小猫ちゃん手加減を忘れてはいけませんわよー?」

 

 プールに撃沈する音に気が付いたリアスと朱乃が、そういってやんわりと注意する。

 

 そう、いまグレモリー眷属とレヴィアタン眷属は、学校のプールを独占していた。

 

 理由は単純だ、ソーナから学校のプール清掃を依頼されたのだ。その報酬として真っ先の使用が許可されたから。

 

 元々オカルト研究部に対する依頼だったが、割と楽しいことが大好きなレヴィアがそれを察知して、眷属を引き連れて乗り込んできたのだ。

 

「しっかし、イッセー君も大変だね。アザゼルが接触してきたんだっけ?」

 

 ひと泳ぎした体を休めながら、レヴィアはリアスにそう尋ねる。

 

 ・・・少し前からイッセーに羽振りのいいお得意様ができていたのだが、それが何とアザゼルだというのだ。

 

 当然とんでもない事態である。

 

 ちなみにいうと、三大勢力の間で初の会談が行われようとしている時期である。

 

 どうやらアザゼルという男、トラブルメーカーの素質があるらしい。

 

「まったくだわ! しかもその会談がこの駒王学園で行われるらしいし・・・」

 

 リアスもさすがに困った顔をしている。

 

 たしかに、魔王の縁者とエクスカリバーと堕天使の幹部が集まった戦闘なんて、最近はめっきりなかった。

 

 千冬のおかげで規模こそそこまで大きくはならなかったものの、質や深度という意味ならば、ここ百年ぐらいでは五指に入るレベルではないだろうか。

 

 それも、二勢力の対立ではなく三勢力の複雑に絡み合ったいさかいだ。影響力は非常に大きい。

 

 そして、その舞台となったのがこの駒王学園。そういう意味では場所としては非常に箔がついているといってもいいだろう。

 

「ソーナのところと同じように、あなたたちにも参加が命じられているのでしょう? どうするの?」

 

「うーん。実はすごい嫌なんだよね」

 

 本当に嫌そうな顔で、レヴィアは頭を抱える。

 

「そんな会談に出席したら、その結果が「真なる魔王レヴィアタン」の意向が入っていることになってしまう。それに民衆がつられたりしたらどうしたものかと」

 

「少し気にしすぎな気もするけれど、つまり不参加のつもりなの?」

 

 できないことはないだろう。レヴィアに与えられた影響力は非常に莫大であり、そして今回の件はリアスたちがいれば事足りるレベルだ。そしてレヴィアはふるうのを好まないだけで、莫大な権力を保有している。

 

「まあ、近くで待機するつもりではあるけどね。だけど参加することになるんだろうなぁ」

 

「貴方も相変わらずねぇ」

 

 そう困り顔で言われながら、レヴィアはプールの方を見る。

 

「・・・よし、そのまま足をしっかり動かして」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「よし! うまいじゃないかアーシア!」

 

「はい、ありがとうわぷっ!?」

 

 泳げない小猫とアーシアを、一夏とイッセーが指導していた。

 

「うんうん。ほほえましい光景だねぇ」

 

「まったくねえ」

 

 ほんわかしながら、二人はその光景を満喫していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてプールは鮮血に染まり始める。

 

「うぉおおおお! 許さんぞイッセー! お前だけリアス先輩にサンオイルぬるなんぞ!!」

 

「うるせえ元浜! 俺が塗るように言われたんだから問題ねえだろ!!」

 

「そうはいかねえ! 俺たちだって塗りたいんだよ!!」

 

 具体的には変態三人組によるサンオイル塗争奪戦が勃発していた。

 

「あの、私はイッセーに塗ってほしいの!!」

 

 と、リアスが怒ったことですぐに収束したが。

 

「じゃあ、松田君と元浜君でどちらが僕に塗るか勝負ってことだね?」

 

 そしてレヴィアがイランことを言ったことで再び返り血の舞う激闘が勃発した。

 

「・・・何やってるんですか、あの人は」

 

 その光景に、蘭はため息をついた。

 

 しかし、すぐに自分も失敗をしたことに気が付いた。

 

 プールに入る前にすでに蘭は日焼け止めを塗っていた。

 

 つまり、一夏に塗ってもらうことができないという事実だ。

 

(・・・何やってるのよ私のバカ!! って違う! こんなところでそんなことしたらほかの男の視線がいっぱいぶつかるから無理に決まってるし!!)

 

 ぶんぶん首を振りながら、蘭はすぐに正気を取り戻す。

 

 そうだ、そんなことになれば松田と元浜はもちろんイッセーまでもが熱視線を向けてくることだろう。

 

 そんな状況下でイッセーに塗らせようとするリアスは剛の者だ。レヴィア? 彼女は平常運転だから特に気にする必要はかけらもない。

 

「落ち着いて、蘭。ほら、水呑んで」

 

「あ、ありがとう小猫ちゃん。・・・んぐ」

 

 パニックを起こしていることを察した小猫からもらった水を飲んで、ようやく蘭は人心地ついた。

 

「あ、小猫ちゃん。アーシア先輩やゼノヴィア先輩は?」

 

「アーシア先輩は疲れて眠ってる。ゼノヴィア先輩は・・・まだ着替えてるみたい」

 

 その言葉に、蘭は小さく首を傾げた。

 

 水着自体はそう着にくいものでもないと思うのだが、なぜそんなに時間がかかっているのだろう?

 

 そんなことを思いながら視線をそらしてその姿を探すと―

 

「では一夏くん。私の背中にサンオイルを塗ってくださいません?」

 

「え!? いや、そういうのは女子に頼んだ方がいいと思うんですけど・・・」

 

「何やってるんですか朱乃さんに一夏さん」

 

 ある意味予想できた光景が出てきて、蘭はため息をついた。

 

「朱乃さん? ここでそんなことをすると、一夏さん以外にも見られますよ? あと松田先輩か元浜先輩が一夏さんに襲い掛かります」

 

「あらあら。少しぐらいなら構いませんわ。其れよりも、一夏くんにサンオイルを塗ってもらうということの方が大事ですわよ」

 

 一瞬痴女かと思ってしまった蘭は悪くない。

 

「・・・一夏さん。とりあえず塗ってあげてください。たぶんそうでもしないと話が進まないんで」

 

「蘭!?」

 

 まさかOKが出るとは思わず、一夏は信じられないようなものを見た。

 

 いつもなら速攻で説教が飛んできそうなのだが、いったいこれはどういうことか。

 

「・・・どうせ、いつかこんなことになると思ってました。悪魔の世界じゃそういうものらしいですし」

 

 不機嫌そうにしながらも、しかし蘭は特にきつくあたりはしない。

 

 しかし、その眼前に勢いよく指を突き付けた。

 

「でも! あとで一緒にお茶してください!! そうじゃないと許しませんからね!!」

 

「あらあら、それなら私も後でデートに・・・」

 

「いや、ちょっと待って!」

 

 どんどん勝手に予定が埋まっていくことに、一夏は何とか軌道を修正しようと試みる。

 

 こういう時こそ男がビシリと決めねばならない、それが男というものだろう。

 

 ・・・なんか全然決めれる気がしないが、しかしそれでも決めようとして―

 

「イッセー、これが終わったら私と子供を作らないか?」

 

 大きな声ですごいことが発生した。

 

 むろん、全員の視線が集まった。

 

 イッセーを真正面から見据えて、ゼノヴィアがまっすぐな目でそんなことを言っていた。

 

「・・・コドモヲツクルって外国語があるんだな。そういうことあるある」

 

「一夏さんぼけないでください。私たちは悪魔です」

 

 現実から逃避しようとする一夏に、蘭が残酷にも引き戻す。

 

「あらあら。ゼノヴィアちゃんもイッセーくん狙いですのね?」

 

「いや、だからってなんでここでそんなこと言うんですか!」

 

 朱乃はターゲットが一夏で無いせいか、非常に余裕だった。

 

「「「・・・イッセー?」」」

 

 そして、殺意が三つ。

 

 男の嫉妬二つと女の嫉妬が一つ。明確に恐怖を生み出す声色だった。

 

「す、ストップ! これ別にイッセー先輩の責任じゃないですから!!」

 

 蘭は慌てて割って入る。

 

 このままだとイッセーが死なない程度にひどい目にあってしまう。

 

「蘭ちゃん! 天使に見える!!」

 

「悪魔です! ゼノヴィア先輩、どういうことか説明してください!!」

 

「ん? ああ、日本では子供を作ることを子作りというのだろう? それをしてもらいたいと―」

 

「何がどうしてそうなったかを言ってるんですぅううううう!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れました。心の底から疲れました」

 

「な、なんかマジでごめん」

 

 プールも終了して帰り道、剣道場に寄って帰る予定の一夏と別れた蘭は、イッセーと一緒に帰り道を歩いていた。

 

「・・・女の幸せを知りたいから子供を作りたい、か」

 

 その気持ちはわからなくもないが、しかし一足飛びどころか十足ぐらい飛んでいる気がする。

 

「俺、受け入れた方がよかったんだろうか?」

 

「駄目だと思いますよ? あれ、子供を作りたいだけで恋愛感情とかないですし」

 

 さらりと靡きかけてるイッセーに、蘭はしっかり釘をさす。

 

「そんなことで本当に子どもができたら、リアス先輩は怒るしアーシア先輩は絶対泣きます。断言してもいいです」

 

「マジか! くっそう、可愛いおもちゃやお兄さんがそんなことになったら落ち込むか!」

 

 イッセーはそういって悔しがるが、蘭はそこに引っかかりを覚える。

 

 正直に言えば、リアスもアーシアも突飛な方向に行っているが(裸エプロンとか冷静に考えるとツッコミどころしかない。桐生は説教されるべきである)、しかし誰が見ても分かるぐらい好意を示している。

 

 これで気づかないのは一夏ぐらいだ。仮にも本気でハーレムを目指しているのなら、それに気づかないとさすがにまずい。

 

「あの、イッセー先輩ってハーレム作りたいんですよね?」

 

「そりゃもちろん! 美少女一杯夢いっぱい! そんなハーレムを作りたくてたまらないね!!」

 

 と、元気よくイッセーは言い切るが、すぐに少し暗い表情を浮かべる。

 

「だけど、レイナーレのことあったからさ? まあ、ちょっと時間かけてもいいかな―とは思ってるんだよ」

 

 その言葉に、蘭は納得した。

 

 確かにあんなことがあれば少しぐらい距離をおいてもおかしくないだろう。普通に女嫌いになってもおかしくないような出来事だった。

 

 これは、もしかしたら今の環境は逆に毒なのではないだろうか? そんな不安が脳裏をよぎる。

 

「あの、イッセー先輩―」

 

 自覚があるかどうか位は確かめた方がいいと思い、蘭は声を上げ―

 

「・・・やあ、いい学校だね」

 

 その言葉を遮るように、声が響いた。

 

 振り向いた二人の目には、銀の髪をもった、美形の少年がいた。

 

 だが、なぜか蘭は嫌な予感が収まらない。

 

「・・・イッセー先輩、下がってください」

 

 蘭はいつでも戦えるように腰を軽く落としながら、その少年をにらみつける。

 

 何かが違う。何かがおかしい。

 

 いったい、彼はなんだ?

 

「自己紹介がまだだったな。俺はヴァーリ、白龍皇だ」

 

 ・・・その言葉に、蘭はイッセーを引っ張って一気に二十メートルは後方に跳躍した。

 

「・・・アザゼル総督の時といい、堕天使側は悪魔に喧嘩売ってるの!?」

 

「ら、蘭ちゃん・・・首、しまってる・・・っ」

 

「そこまで警戒することないだろう? 俺もまだこんなところで戦闘する気はないさ」

 

 白龍皇ヴァーリはそういうが、だからといって警戒を無視していいようなことではない。

 

 とはいえ、蘭が本気で戦闘をすれば間違いなく派手なことになる。

 

 そういう意味ではどうしようもない状況下なのだが―

 

「そこまでだ」

 

「―何のつもりだ、白龍皇」

 

 ―そのヴァーリの首元に、聖魔剣とデュランダルが突き付けられた。

 

 普通なら確実に死を覚悟するその状況で、しかしヴァーリは動じない。

 

「辞めておくといい。手が震えてるぞ?」

 

 そう余裕を見せたまま告げると、しかしどこか評価するような表情を浮かべる。

 

「実力差がわかるのは優秀な証拠だ。生き延びることができれば、君たちはきっと強くなれるさ」

 

 そんな傲慢ともいえる強者の余裕を見せたヴァーリはしかし次の瞬間視線を別の方向へとむける。

 

「そういう悪戯をこういうデリケートな時期にするのはやめてもらえるかな?」

 

 そこには、鋭い視線を向けるレヴィアがいた。

 

「それ以上のいたずらは、堕天使側に公式に抗議させてもらう。・・・とっとと帰るといい」

 

「ふむ、なかなか言ってくれるねセーラ・レヴィアタン」

 

 ヴァーリは笑みすら浮かべると、真正面からその視線を受け止める。

 

 数秒間、沈黙が続いた。

 

「・・・やめておこう。俺も弱い者いじめは好きじゃない」

 

 そういうとともに、ヴァーリは踵を返す。

 

「過去、二天龍にかかわったものは碌な死に方をしなかったらしい。君たちはどうなるのかな?」

 

「決まってるじゃないか」

 

 レヴィアは即座に返答する。

 

「前代未聞の碌な死に方をした二天龍の関係者になるのさ」

 

「・・・面白いな、君は」

 

 その言葉とともに、ヴァーリは歩き去っていく。

 

 その後ろ姿を見ながら、レヴィアはけげんな顔をして考え込んでいた。

 

「あの髪、まさか・・・?」

 

レヴィアは一瞬だけ脳裏によぎる影があったが、すぐにそれを否定した。

 

 まさか、あの悪魔の家系が堕天使に与するとは思えなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・この判断が甘かったことを、レヴィアはのちに痛感することになる。

 



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停止教室のヴァンパイア 2

 

 授業参観という特大のイベントが終わった日のこと、レヴィアはある情報を耳にした。

 

「なんでも、リアスちゃんのとこのギャスパーくんが解禁されるらしいよ」

 

「え?」

 

 風紀委員としてのデスクワークを終わらせながら、蘭が聞き返す。

 

 ギャスパー・ウラディはリアス・グレモリーの眷属悪魔の一人だ。

 

 変異の駒(ミューテーション・ピース)で転生した吸血鬼で、吸血鬼としても特異なうえにハーフであることから神滅具に次ぐ神器を持った規格外の悪魔なのだが・・・。

 

「アイツ、確か対人恐怖症だったよな? 大丈夫なのか?」

 

 一夏がそういうのも仕方のないことだった。

 

 ギャスパー・ウラディは対人恐怖症の引きこもりである。加えて自分が好きだからおしゃれをするタイプの女装癖がある。

 

 イッセーやゼノヴィアをも上回る変人だ。そこに関してはレヴィアも否定はしない。

 

 正直そういうタイプは、男らしさを求める一夏とは合わない雰囲気があるが、意外にも一夏はギャスパーを否定したりはしない。

 

 これまたそれもグレモリー眷属の共通点が原因となっている。

 

「まあ、リアスちゃんのところはいろいろあるからね」

 

 レヴィアはそう言って苦笑する。

 

 はっきり言って、木場やアーシアのケースはめずらしくもなんともない。少なくともリアスの眷属からしてみれば。

 

 信仰の大本がすでに死んでいるという事実を教えられたゼノヴィアは軽い方だ。

 

 イッセーですら、悲劇の時間こそ短いもののかなりえげつない死に方をするところだった。それがすべてを物語っている。

 

 ・・・ギャスパー・ウラディの半生は、地獄といっても過言ではないだろう。

 

 吸血鬼最大の欠点ともいえる日光に対して強大な耐性をもつハイデイライトウォーカーのウラディ家という名門に生まれたギャスパーは、しかし生まれたときから愛されなかった。

 

 人間との間の混じり物として生まれたことは大した原因ではない。問題は、生まれ持った神器にある。

 

 停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)。視界に収めた相手の時間を止める神器。

 

 非常に強力な神器であるが、ギャスパーはこれを使いこなストができなかった。

 

 普通の精神でいつ時間が止められるかわからないなどという状況に追いやられれば、疑心暗鬼に陥るのは当然といえば当然だ。必然的に彼らもギャスパーを恐怖した。

 

 そして追放されたギャスパーは吸血鬼狩りに襲われて致命傷を負い、そのときリアスに救われたらしい。

 

 だが、追放された人間社会でも迫害を受けたギャスパーは対人恐怖症の引きこもりとなってしまった。

 

 加えて冥界でも彼をリアスが制御できないだろうと判断したことで封印措置が取られており、そういう意味でも状況の悪化に拍車をかけている。

 

 さすがにそんな過酷すぎる過去を持つギャスパーに、気合を入れろとは一夏も言いずらい。むしろ、そういうことをしたギャスパーの家族たちに殴り込みをかける方がたやすいだろう。

 

「だけどさ、そのまま引きこもってるわけにもいかないし、いい機会なんじゃないか?」

 

「ま、それはそうだろうしリアスちゃんもそういう方向で行くんだろうけどね」

 

 一夏にレヴィアも同意するが、しかしそれはそれとしてうまくいくかは別問題だ。

 

 さて、これからどうなることか不安になってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不安なのでいつものメンバーで来てみれば的中した。

 

「さあ、滅されたくなければ走れ! デイライトウォーカーなら大丈夫だろう!!」

 

「ひぃいいいいいいいいい!!!」

 

「何やってるのかなそこは!!」

 

 よりにもよってデュランダルを引き抜いてギャスパーを追いかけまわすゼノヴィアに、レヴィアは躊躇なく飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「痛いじゃないか! 今私はギャスパーの対人恐怖症を治そうとしているのだぞ?」

 

「トラウマ刻み込んでどうするのかな? ショック療法は素人が試しちゃいけないからね!!」

 

 心的外傷を持っている人物に、ショック療法は非常に危険だ。

 

 専門家ですらためらうような所業を素人が行えば、どうなるかなど非を見るより明らか。

 

 ゆえに、レヴィアとしては強引にでも止めに入らねばならない。

 

「第一、健全な精神は健全な肉体に宿るものだ。引きこもっていれば精神は腐る一方だろう?」

 

「それは誤用だからね」

 

 非常に残念なことに、健全な精神と健全な肉体は人が幸せになるために願うべきというのが正しい語源である。

 

「・・・ギャーくん、ニンニク」

 

「いやぁあああああ! 小猫ちゃんの意地悪ぅううううう!!!」

 

「小猫ちゃん! 追い打ちかけちゃだめだから!!」

 

 視界の端では小猫が吸血鬼(ギャスパー)にニンニクを与えようとしているが、これは蘭に任せることにする。

 

「ああもうこのスパルタ集団は! いいかい? 心と体が弱っている子に過酷な修練は専門的知識と適切な用法要領を把握したうえで行わなければ意味がないわけで、当然そんなの知らない君たちが行っていいことじゃ・・・」

 

 レヴィアは速攻で説教を始めるが、しかしこれで止まってくれるかどうかすごく不安である。

 

 そして、そんな光景を眺めながらイッセーと一夏はため息をついた。

 

「なあ、やっぱ女装って駄目だと思うんだよ。男らしくない」

 

「お前はいつも通りだけど同感。俺も精神的にきついって」

 

 思うところは別々だが、しかし一緒にため息をついた。

 

「よお兵藤に織斑。そこにいるのがリアス先輩の眷属か?」

 

「ああ、レヴィアと蘭にかばわれてるのがギャスパーだ」

 

 一夏がさらりと答えるが、なぜか匙の顔は赤くなっている。

 

 その理由がさっぱりわからないのが一夏の一夏たる理由だが、イッセーはその理由にすぐに思い当たった。

 

 思い当たったがゆえに、涙を流して肩に手を置き、そしてそのまま首を振る。

 

「あれは・・・女装男子だ」

 

 そして、匙はそのまま崩れ落ちた。

 

「引きこもりなのに女装男子って、意味わかんねぇ・・・! 俺の、俺の喜びを返せ!!」

 

「お前らそこまで落ち込むなよ。いや、俺も女装はどうかと思うけどさぁ」

 

 なんというか男らしくない。いや、心と体の性別が違うのならばわかるのだが、別にギャスパーはそういうわけでもないだろう。

 

 ミルたんもそれはそうなのだが、あれは男を通り越して(おとこ)なので気にしない方がいいと思う。

 

 まあ、そういうわけで男三人が多少かみ合ってないがギャスパーの女装に落ち込んでいた時、枝が折れる音が響いた。

 

「おうおう。こんなところで何喧嘩してんだ?」

 

 その声に一同の視線を向ければ、そこには見慣れない男がいた。

 

 人間でいうならば三十台ぐらいの風貌。いわゆるチョイ悪系の風貌をしているが、和服を着ているためなんというかやくざの親分をイメージさせる。

 

「あの、この学校関係者以外は立ち入り禁止なんですけど・・・」

 

 蘭がおずおずと声をかけるが、しかしレヴィアはその肩に手を置いて押しとどめる。

 

「気を付けた方がいい蘭ちゃん。その男は―」

 

「―アザゼルっ!!」

 

 イッセーが叫びながら、赤龍帝の籠手を展開する。

 

 その言葉に思わず全員が疑問符を浮かべた。

 

 この緊張状態に、堕天使の長がこんなところに来るなど信じられない。加えていえば、イメージと全然違う。

 

 だが、肝心の当人がそれに肯定するかのように片手をあげた。

 

「よ、赤龍帝。この前の夜以来だな」

 

 そしてその声に反応して、ゼノヴィアと一夏も剣を構えた。

 

「まさかこいつがアザゼルだというのか!?」

 

「堕天使の総督って・・・マジか!!」

 

 コカビエルと同格以上。堕天使を統率する組織の長。

 

 そんな男が本当に目の前にいる事実に、全員が緊張する。

 

「おい、マジかよ兵藤!」

 

「ああ、こいつとは何度もあってるから間違いねえ!」

 

 イッセーの真剣な表情に、匙もまた警戒心を強めて神器を呼び出す。

 

 子猫や蘭もすぐに戦闘態勢に入り、ギャスパーは慌てて木の陰に隠れる。

 

 そんな中、レヴィアは一歩前に踏み出し―

 

「・・・あの、面倒だから帰ってくれない?」

 

 すごく自然体で文句を言い放った。

 

「・・・レヴィアさぁあああああん!? 油断しすぎ!?」

 

 思わず絶叫するイッセーだが、しかしレヴィアはまったく気にしない。

 

「大丈夫だって。コカビエルを止めに白龍皇を送り込んだんなら、ここで騒ぎを起こすつもりはないって」

 

「まったくだ。俺は戦争なんて御免なんだよ。悪戯はするが限度はわきまえるさ」

 

 アザゼルはそういいながら周りを見渡すが、そしてすぐに肩を落とした。

 

「聖魔剣の坊主はいねえのかよ。あいつを見に来たってのに」

 

「そういうのは会談が終わってからにしてくれないかな? ・・・ああ、イッセーくんも勝てないから戦闘態勢取らない。一夏くんと蘭ちゃんも収めて納めて」

 

 手早く慌てている仲間をまとめながら、レヴィアは軽く視線を向ける。

 

「自分の強大さを自覚して自重してくれないかな? 下級悪魔の心臓に悪すぎるんだよ、貴方は」

 

「へいへいシェムハザみたいに小うるさいことで。別に下級悪魔にいじめやるほど落ちぶれちゃいねえってのに。・・・ん?」

 

 うんざりしながら肩を落とすアザゼルの視線が、しかしすぐにギャスパーに映る。

 

「おい、そこのヴァンパイア」

 

「ひぃっ!? な、なんですかぁあああああ!!!」

 

 絶叫しながら腰を落とすギャスパーをまじまじと見つめながら、アザゼルはその目に指を突き付ける。

 

「その邪眼、全く使いこなせてねえな? さっさと補助器具を用意しろって・・・ああ、悪魔は研究進んでなかったな。感覚で発動させるタイプは使い手のキャパがないと暴走するんだが・・・」

 

 そうペラペラしゃべりながら自分の世界に没頭するアザゼルに、レヴィアは迷惑そうな視線を向ける。

 

「だったら迷惑料に補助器具おいてってくれないかな?」

 

「あいにく持ってきてねえよ。まあ、代用品ならそこにあるぜ?」

 

 そういって匙に指を突き付けるアザゼルの表情は自信満々だった。

 

「な、ななななんだいきなり!?」

 

「お前の神器(それ)黒い龍脈(アブソーション・ライン)だろ? それをそのヴァンパイアにつないでパワーを吸い取ってやりゃぁ、暴走する頻度は少なくなるさ」

 

 さらりと言われたその言葉に、匙はおろかイッセー達も目を見開く。

 

 匙の神器がラインをつなげた相手の力を吸い取ることは知っていたが、そこまで器用なことができるとは思わなかった。

 

「へえ。そんな能力まであるんだ」

 

「そんなことも分からねえほど研究が進んでねえのかよ。悪魔の研究は遅れてんなぁ」

 

 心底あきれながら、アザゼルは神をぼりぼりとかく。

 

「いいか? 黒い龍脈は五大龍王の一角である黒蛇の龍王《プリズン・ドラゴン》ヴリトラの魂を分割封印した神器の一種だ。どんなものにもラインをつなげれば力の吸収と拡散が可能で、ラインを切り離すことで別々のものにつなげる者もできるっつー優れモノだ」

 

 そう自慢げに語るアザゼルの顔は、知識をしゃべりたがるマニアのそれだった。

 

「きいたのはレヴィアさんですけど、そんなにしゃべっていいんですか?」

 

 あまりのペラペラ具合に、思わず蘭が心配して尋ねるがアザゼルはまったく気にしていなかった。

 

「なに、どうせこの程度の情報は悪魔側にも知られるからな。先に一つ出しといても何の問題もないさ。ま、手っ取り早く強化するなら赤龍帝の血でも飲ませろ。力あるドラゴンの血をヴァンパイアに飲ませれば自然と力がつくさ」

 

 そういうなり、アザゼルは踵を返してその場を去ろうとする。

 

 しかし、その歩みを止めるとアザゼルはイッセーに振り返った。

 

「おお、ヴァーリが―白龍皇が迷惑かけたのは謝るぜ。あいつは根っからのバトルジャンキーだが、未熟な状態で赤白対決するタイプじゃねえから安心しとけ」

 

「正体隠して接触してきたあんたの方は謝らねえのかよ!」

 

 思わず突っ込みを入れるイッセーだが、その返答はからからとした笑い声だった。

 

「そりゃぁ俺の趣味だ。謝らねえよ」

 



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停止教室のヴァンパイア 3

 

 次の日、一夏とレヴィアは自主的にトレーニングを行っていてたまたま神社まで来たのでよってみた。

 

「いやぁ、あの大天使ミカエルがイッセーくんに何を渡すのかすごく気になるんだよねぇ」

 

「レヴィア、趣味が悪くないか?」

 

「近くまで行くだけだよ」

 

 そういい合いながら神社の階段を上る二人の目的地は、朱乃が住処にしている神社だ。

 

「でも、なんで朱乃さんは神社に住んでるんだ? なんていうか、悪魔にとって神職って敵だよな?」

 

 一夏は当然の疑問を口にするが、レヴィアはそれに対して口をつぐむ。

 

「プライベートだからあまり言えないかな」

 

「そうか。だったら仕方がないな」

 

 レヴィアが言わないということは、つまりはそれだけ重い話だということだろう。

 

 それぐらいは一夏も付き合いが長いのですぐにわかる。だから深くは詮索しない。

 

 そして石段を登りきると、そこにはちょうど帰ろうとしていたイッセーの姿があった。

 

「あ、織斑にレヴィアさん」

 

「やっほー、イッセーくん」

 

「よ、イッセー」

 

 挨拶をしあう中、見送りのためか朱乃も出てくると、満面の笑みを一夏に向けて送り出す。

 

「あらあら、一夏くんも来てくれたんですのね。・・・良ければお茶でもいかがかしら?」

 

「・・・え? あ、だったらイ―」

 

 イッセーも、と言おうとしたその瞬間、レヴィアからハンドサインが出てきた。

 

 フラグ発動

 

 馬鹿な真似はやめろ

 

 すぐに口をつぐんだ一夏の判断は間違っていない。もししなければ即座にレヴィアからサブミッションのお仕置きがされ、さらにベッドの上で搾り取られるという結末を受けるだろう。

 

 男として、本命以外の相手と結ばれるのはやめるべきだ。ああ、主の命令だと逆らい辛いが、しかしできるだけ減らしたいのは事実なのだ。

 

 そういうわけでお茶を飲むことになって、いま御呼ばれされている。

 

 ・・・ちなみに。

 

「さあ、イッセーくんもこっそり覗いてみよう。もしかしたら濡れ場が見られるかもしれないよ?」

 

「ま、まさか覗きを再開することになるなんて・・・っ」

 

 などとレヴィアとイッセーが覗いているが、一夏は気づいていない。

 

「はい、お茶ですわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 一夏はそういうとお茶を飲む。

 

「美味しいです! 茶葉もいいけど淹れ方がよくなきゃこの味は出ない」

 

「あらあら。そんなことを言われるとうれしいですわ」

 

 そういつも以上ににこにこしながら朱乃は言うが、やがて少し沈んだ顔をする。

 

「・・・そういえば、一夏くんには話していないことがありましたわね」

 

 そういうと朱乃は立ち上がると服をはだけさせた。

 

「うぉおおおおお・・・っ」

 

 小声であほ二人が興奮しているが、それは些細なこと。

 

 すぐに、朱乃から翼が生える。

 

 そしてそれは、悪魔の翼ではなかった。

 

「堕天使の、翼?」

 

「ええ、私の父はバラキエル。神の子を見張るもの(グリゴリ)の幹部ですわ」

 

 そう告げる朱乃の表情は、どこまでも暗かった。

 

「母はとある神社の娘でした、ある日、傷ついて倒れていたバラキエルを助けた縁で私を宿したと聞いています」

 

 その言葉とともに、黒い羽が舞う。

 

「穢れた翼でしょう? 悪魔に転生するとき、私はこの翼がなくなることを期待したけど、結局なくなることはなかった」

 

「・・・父親のこと、嫌いなんですか?」

 

 一夏はそう聞いた。

 

「どうなのでしょう? 少なくとも私は堕天使が嫌いですわ」

 

「そうですか。だったらそれでいいと思いますよ?」

 

 あっさりと、一夏はそう答えた。

 

 その言葉に朱乃は一夏をまじまじと見つめるが、一夏は特に気にせずあっさりと答える。

 

「俺と千冬姉、両親に捨てられてるんですよ」

 

「え・・・?」

 

 その言葉に、朱乃は表情をゆがめるが、一夏は特に気にしない。

 

「まあ、そんな奴らのことなんて知ったこっちゃないし、家族は千冬姉がいるし、蘭やレヴィアもいるからいいんです。・・・朱乃さんの家族のことも、それと同じです」

 

 はっきりと、一夏はそういった。

 

「バラキエルってやつが朱乃さんを無理に連れ戻そうとかするんだったら、その時は俺が相手になります。いや、今の俺じゃ勝ち目がないけど、その時は千冬姉やレヴィアにも頭を下げて助けてもらいます。・・・そうしないと俺が怒られるし」

 

 少し乾いた笑いを浮かべる一夏だが、しかしそれどころじゃないのが朱乃だった。

 

 ひとことでいうと、感涙だった。

 

「・・・一夏」

 

 そのまま感情のあまり、朱乃は一夏に抱き着いた。

 

「・・・カメラ、カメラはどこに?」

 

「許せねえ、俺たちのお姉さまを・・・許せねえっ!」

 

 レヴィアとイッセーはそれぞれ別の意味で興奮するが、しかしそれもすぐに終わる。

 

 具体的には、爆発とともに吹っ飛ばされた。

 

「「ぎゃぁあああああ!?」」

 

「な、ななななんだ!?」

 

「・・・あらあら。覗き見はお仕置きですわよ二人とも?」

 

 などという漫才をこなしながら、現れるのは二人の美少女。

 

「・・・何をやっているんですか、レヴィアさん?」

 

「朱乃、あなたやっぱり織斑くんを選んだのね?」

 

 阿呆二人にお仕置きをした蘭とリアスがそこにいた。

 

「・・・やっぱり一夏さんはそういうことになるんですね。悟りを開いて正解でした」

 

「いや、待ってくれ蘭! なんか俺がハーレムを作ることが確定なんけど!?」

 

「もうどうしようもありませんよ。レヴィアさんに迷惑をかけてばかりもいられないので、上級悪魔になってください」

 

 一夏の弁明を一切許さず、蘭は心底ため息をつきながら朱乃に振り返った。

 

「・・・トレードをするならそれでもかまいませんけど、ちゃんとリアス先輩を納得させてくださいね」

 

「そこまでしなくても大丈夫ですわ。・・・私は不倫狙いですから」

 

「いや、ハーレムと不倫は全く別物だと思うんですけど」

 

 そんなこんなをスルーしながら、リアスはイッセーの前に立った。

 

 かなり怒っているというか、割と本気で魔力が漏れ出している。

 

「イッセー! 人の女に横恋慕するなんてどういうつもり!? あなたは私のイッセーなのよ!?」

 

「は、はいすいません! 俺は部長の下僕悪魔です!! あと人の女を寝取る趣味もないです!!」

 

「待ってくれリアスちゃん! 三回に一回ぐらいでいいからたまに貸してくれると嬉しかったりするんだけれど!!」

 

「レヴィア!!」

 

 こちらもこちらで漫才が繰り広げられているが、しかしそれどころではなかったりする。

 

「・・・あ、燃えてる」

 

「誰か水もってきて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで日常が過ぎるが、しかし仕事も必ず来るものである。

 

 ついに、三大勢力の会談の日が訪れた。

 

「・・・フケたい。心の底からフケたい」

 

「駄目ですからね」

 

 ぼやくレヴィアの腰にロープを巻き付けながら、蘭がしっかりとくぎを刺した。

 

 政治的な公式行事に参加することを心から好まないレヴィアは、放っておくと確実に逃げ出しかねないのだ。

 

 そんな光景を見て、千冬は自分の目を疑った。

 

「一夏。レヴィアはあそこまで不真面目な女だったか? 私の記憶ではむしろ率先して責任ある立場についていた記憶があるんだが」

 

「いや、レヴィアはノブレスオブリージュとかいうのをしっかり守ってるんだけど、政治的な業務は逃げたがるんだよ」

 

 仮にも眷属であり、付き合いの長い一夏は大体理由もわかっている。

 

 当然、同時期から眷属をやっている蘭もまたわかっている。わかっているがそれでも参加しなければならないのも分かっているのだ。

 

「いや、レヴィアって先代四大魔王の末裔なんだけど、悪魔にとってすごく重い層なんだよ。だからレヴィアが意見を言うと右に倣えで動く悪魔が多いらしくって」

 

「なるほど。付和雷同で判断してほしくないということか」

 

 理由を聞いてむしろ納得した千冬だが、しかしそれはそれとして教職として未熟な少女を指導することも忘れない。

 

「とはいえお前が私を呼び戻して事態を解決に導いたのだから、最低限参加するべきだろう。なに、どっちつかずの意見を言ってうやむやにする政治家など腐るほどいるさ」

 

 あまり褒められたことではないがな、と付け加えながら、千冬は蘭から縄を受け取る。

 

「ほら、逝くぞレヴィア」

 

「いまニュアンスが違ってないかな!?」

 

 レヴィアのツッコミをスルーして、五人がかりでレヴィアを引っ張っていく。

 

 引っ張っていくが、それはそれとして非常に緊張感が漂う光景だろう。

 

 なにせ、彼女の意見だけで付和雷同する悪魔が多発するレベルの存在がレヴィアだ。

 

 現政権側の真なる魔王の末裔というのはそれだけ重い存在ではあるが、だからこそ危険だ。

 

 なにせ、外にはその現政権側の悪魔がゴロゴロといるのだ。

 

 もし見られたらブチギレて大暴れ・・・などということを真剣に心配する必要すらある。

 

 そういうわけで、いい加減レヴィアもあきらめて自分で前を進みだした。

 

「・・・とりあえず、四人はもちろん千冬さんも、極力話さないようにしてね。特に一夏君は無意味に喧嘩売る時あるから」

 

 レヴィアはそういいながら釘をさす。

 

「なにせ、下手したら三大勢力の戦争が再発・・・なんてオチもありかねない。僕や僕の眷属が原因でそんなことになったら末代までの恥・・・というか僕の代で悪魔が終わる」

 

「あの、なんで俺たち新米がそんな会談に参加しなきゃならないんですか!?」

 

 松田が速攻でツッコミを入れるが、レヴィアはジト目で返す。

 

「・・・こうなったら眷属も道連れだ。大丈夫。攻撃受けたら僕が守るから」

 

「ひでえ!! レヴィアさんこんなキャラだっけ!?」

 

「ソーナちゃんのところの眷属も全員巻き込んだから勘弁してよ。本来僕がこの会談に参加したなんて知られたら、僕が感想言っただけで事態が二転三転しかねないんだからストレスが溜まってるんだ」

 

 額に手を当てながら、元浜の悲鳴にも律儀にレヴィアは答える。

 

 実際、正当な魔王の正当な末裔というのはインパクトが大きいのだ。

 

 日本でいうなら天皇もしくは征夷大将軍。下手をすれば彼女が黒といえば白も黒になりかねない。

 

 それだけの状況を前にしながら、レヴィアは会議の場である部屋の前へと到着する。

 

 そして、ちょうどそこにはリアスたちもいた。

 

「・・・やあリアスちゃん。ギャスパーくんは欠席かい?」

 

「ええ。ギャスパーはあの戦いには参加してなかったし、何より神器の制御がまだできていないもの」

 

 リアスはそう告げながら、ドアの前に立つ。

 

 立って、しかし五秒ぐらい固まっていた。

 

「先、開けようか?」

 

「大丈夫よ。・・・イッセー、手を握って頂戴」

 

 緊張を紛らわすためとはいえ、それはそれとして役得をちゃっかり得ている様子を見て、レヴィアは少し苦笑する。

 

 とはいえ、ここから先は責任重大。

 

 下手をすれば三大勢力の戦争が即座に勃発しかねない危険地帯に、レヴィア達は踏み込んだ。

 



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停止教室のヴァンパイア 4

 

 そこには、すでに重鎮が集結していた。

 

「これはこれは。皆さんお揃いで」

 

「レヴィアちゃんお久しぶり」

 

「リアス、レヴィア。さあ、そこに座ってくれ」

 

「よ、赤龍帝。この間ぶりだな」

 

 首脳陣からそれぞれ声を掛けられながら、レヴィア達は席へとついた。

 

 そして、何より視線が集まるのは千冬だった。

 

 当然といえば当然だ。白龍皇ヴァーリが面白半分で様子見をしたからとはいえ、彼女がコカビエルを倒して事態を解決した最大の功労者だ。

 

 すでに彼女は、異形社会内においても大きな注目を集めている。

 

 表の人類最強など、裏の化け物たちに比べれば子供も同然。などという風潮すらあった異形社会において、彼女の存在は驚愕以外の何物でもない。

 

「いや、ヴァーリがマジで悪かったな。こいつ強い奴とバトルするのも強い奴のバトル見るのも大好きでよ」

 

「できればこれが終わったら午前試合でもしてくれると嬉しいものだ」

 

 堕天使側からツッコミどころのある発言が飛び出すが、千冬それをレヴィアの方を向いてスルーした。

 

「レヴィア。面倒ごとを私に押し付けるなよ。これでも忙しいんだ」

 

「了解千冬さん。・・・まあ、今回の会談次第では暇が作れるかもしれないから面倒なんだけどねぇ」

 

 レヴィアは苦笑しながらそう返しつつ、しかしヴァーリに視線を向ける。

 

「・・・」

 

「そんなにまじまじ見つめないでくれ。照れるじゃないか」

 

 かけらもそう思ってない口調でヴァーリが発言を求めるが、レヴィアは視線を逸らすことでそれをスルーした。

 

 そして、全員が席に着いたところでサーゼクスが口を開く。

 

「会談を始める前に一つ。レヴィア・・・否、セーラ・レヴィアタンの意向もあり、この場のものは大前提としての「聖書の神」の死をすでに知っている。これを前提として会議を始めたい」

 

 その言葉に大きく反応する者はいない。それこそが、今のことばの証明だった。

 

 そして、会議は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々天使の現状は、こんなところですね」

 

「なるほど。悪魔としては・・・」

 

「まあ、俺たちはどうでもいいんだがな、そういうのは」

 

 会談そのものは、アザゼルが茶々を入れる以外は特に問題もなく進んだ。

 

 正直な話、こうも穏便に進むとは思えなかった・・・というのがゲストとして呼ばれている若手たちの総意であるともいえる。

 

 なにせ、今回の件の前にレヴィアはかなり苦い顔をしていたからだ。

 

『問題なく終わる可能性は、低いと思った方がいいからね?』

 

 まず基本的なところといって悪魔側の現状。

 

 そもそも、現政権は別に戦争そのものを全否定した組織というわけではない。

 

 大きな内乱が起きてまで真なる魔王の末裔たちを追放したのは、あくまで即座の戦争続行が困難だという状況によるものだ。

 

 当然いずれ戦争を再開させることを前提としているものも上層部には少なからずいる。堕天使と天使を滅ぼすべきだと考える者たちは、おそらく旧魔王派と内通している可能性だってあった。

 

 現四大魔王は戦争そのものに反対しているが、彼らだけで政治を動かしているわけではない。むしろ悪魔の中では若手の急先鋒である彼らの発言力は、そこまで高くはないのだ。

 

 旧来の血筋を受け継いでいるバアル家たち大王派の発言力は根強く、彼らの意見を無視することは非常に困難。そしてその多くはフランス革命前の貴族たちといわんばかりに傲慢な者たちが多く、血統主義とそれを根幹とする合理的思考、そして何より下級を見下す思想ゆえに現魔王の政敵である。そんな者たちが上層部の多くを占めている状況では、サーゼクスたちも強権をふるうわけにはいかない。

 

 また、実はレヴィア以外にも旧魔王側の離反者は存在しているが、それに対しても現時点での戦争続行及び末裔たちに見切りをつけただけで、最終的な戦争再開を求める者たちは少なからず存在する。

 

 その弊害が転生悪魔の扱いの差の広さだ。傲慢な悪魔たちは転生悪魔を奴隷か何かのように扱い、それが原因で離反するはぐれ悪魔も少なからず存在する。まあ、力を得たことで暴走した愚か者も多いため、一概にそれが原因だと断言することもできないのだが。

 

 そして、天界および教会に対しても問題は多い。

 

 宗教とは、善悪を定義するものだ。

 

 世界各国において宗教の価値は莫大。一時期においては国際社会において教会の地位は王より上と認識されていたほど。現代においても、ローマ教皇がらみで緊張する国家上層部はごろごろいる。信仰の自由なんてものが認められている国家が多くなってきたのは、つい最近のことなのだ。

 

 それほどまでに、宗教とは己の存在価値にまでかかわるほどのものだと、レヴィアは日本人が多いゆえに宗教の重さをよくわかっていないメンバーに言い切った。

 

 そんな宗教の中でも、一神教というものは排他的な側面があるのだとも。

 

 一神教とはすなわち、真に神と呼べる存在はただ一つだとする考え方だ。

 

 それはすなわち、正義とは一つと断言する考え方であり、それ以外は悪だとする考え方につながりやすい。

 

 そんな宗教において明確に悪と定義されている悪魔や、悪に堕ちた存在とされている堕天使との和平など、行えば不満が噴出することは免れないだろう。

 

 そういう意味では堕天使が一番まともだ。戦争続行派がいるとはいえ、その筆頭であるコカビエルがついさっきただの人間に倒されるという事態を起こしたばかり。しかもその人間は現政権側の真なるレヴィアタンの関係者だ。

 

 つまりは堕天使は悪魔と戦争しても勝てないといわんばかり。さらに勢力の大きさでは一番少ない。

 

 この状態で戦争を行うなど不可能だろう。少なくとも、コカビエルが独断で動いたこともあって発言力は大幅に縮小しているはずだ。

 

 まあ、それはそれとして和平を起こす理由というのも普通に存在する。

 

 はっきり言えばどこも絶滅寸前もしくはその一歩手前なのだ。

 

 天使は神が死んだ以上数を増やせない。人間と交わることで数を増やすことはできるが、少しでも欲望を抱けば堕ちるという難易度の高さ。そんなことはそう簡単にはできない。

 

 また、イッセーがアスカロンをミカエルから託されるということがあった。

 

 その時ミカエル自身が言ったそうだ。和平を結ぶつもりだということを。

 

 悪魔側にしても、一応トップはサーゼクスであり、一応大王派も大勢は戦争継続は困難と考えている。これが主流ではあるのだ。

 

 ゆえに、和平を結ぶといわれて反対はしないだろう。それで反対派が動いたとしても、旧魔王の末裔たちのところに行くだけだ。

 

 問題は堕天使側だが、こちらに関しても危険度は少ない。

 

 堕天使側が戦争を望むなら、コカビエルを止めに行く必要は全くないのだ。つまり止めるために白龍皇という強大な戦力を送り込んだ時点で、堕天使側の意向も分かっている。

 

 わかっているが、だからこそ危険なのだ。

 

 千年以上にわたる怨恨。その遺恨は根強いだろう。少なくとも、戦争を経験した世代に反対する者は多いはずだ。

 

 若手に関しても、若いということは極端な方向に走りやすく、注意も必要だ。

 

 そんな側からしてみれば、この会談を台無しにしたいというものは多いだろう。

 

 実際、外では護衛の兵士たちがにらみ合いを続けていて、一歩間違えれば戦闘が勃発しかねない雰囲気だった。

 

 ゆえに、レヴィアは非常に緊張していた。

 

「・・・アザゼル。それでは今回の事件について、貴方の意見を聞きたいのだが」

 

 サーゼクスも緊張感をにじませながら、そこについて聞いた。

 

 それに対して、アザゼルはやれやれと言わんばかりの態度で首を振る。

 

「コカビエルを罰したことでわかりきってるだろうが。・・・神の子を見張るもの《グリゴリ》の幹部で戦争強硬派はコカビエルだけだよ。お前の妹の前であいつは俺のことこき下ろしてただろうが」

 

 いう間でもないだろうが、といわんばかりの態度にほとんどの顔がしかめるが、しかりアザゼルは気にしなかった。

 

 実際、イッセーの家の前に現れたコカビエルはアザゼルをこき下ろしていたことが判明している。

 

 戦争に興味がなく、神器(セイクリッド・ギア)の研究ばかりしていると。

 

「どこもかしこも一枚岩じゃないことぐらい、組織の長ならわかんだろ? 俺のところはコカビエルがそうだったってわけ。だからヴァーリ動かして止めたんだろうが」

 

 それが答えと暗に言い切ったアザゼルだが、しかし話はそれだけでは終わらない。

 

「なら、なぜ神器の使い手を集めている? 最初は戦争再開のための戦力確保だと疑ったものだ」

 

「全くです。白龍皇だけでなく、刃狗(スラッシュ・ドッグ)まで迎え入れたと聞いた以上、こちらも覚悟を決めていましたが・・・」

 

 サーゼクスとミカエルの疑念の言葉に、アザゼルは心底いやそうな顔を見せる。

 

「研究のためだよ。あと神滅具の二人は成り行きだがな。・・・鳶雄の方は五代宗家のはぐれ者にグリゴリ(うち)の情報が漏れたせいで、アイツがいた学校の連中が数百人ぐらい実験台になっちまってな・・・」

 

 嫌なことを思い出した顔でそう告げるアザゼルに、非難の視線が殺到した。

 

 表の人間を数百人も巻き込む大騒ぎを起こしていたなど、問題以外の何物でもない。

 

「何をやっているんだアザゼル」

 

「魔法少女がお仕置きしちゃうわよアザゼル♪」

 

「産まれる前から人生をやり直しなさいアザゼル」

 

「集中砲火で罵倒すんな! 責任取って何とかしたから安心しろ! 学生全員何とか救出したっつーの! そんなに俺の信用はないのかよ!?」

 

「「「その通り」」」

 

 非常に辛辣だった。

 

「ったく。戦争起こす気なら、グレモリーとこのヴァンパイアやらそこのヴリトラにアドバイスなんてしねえっつーの。手土産にまとめてごっそり教えてやろうって腹積もりなんだぜ、俺は」

 

 耳をかっぽじりながらそう返し、アザゼルはにやりと笑う。

 

「・・・つまりは和平のための餌ってやつだ。どうせ、お前らのそのつもりなんだろう?」

 

 その言葉に、各陣営は少しの間が驚きの表情を浮かべる。

 

 全く驚いていないのは、そもそも事情がよくわかっていないイッセー達三人組と、おそらくそのあたりのことを前もって言われていたヴァーリだけである。

 

 だが、その言葉によってことの趨勢は決定した。いや、誰もが欲していた足掛かりが遂に生まれたのだ。

 

「ええ。天界は和平を結ぶことで意見を一致しています。・・・ですがいいのですか?」

 

「いいに決まってんだろうが。すでに二度の大戦がおこり三度目が続いている今の世界で、俺たちが戦争なんてやってたら表も裏もどっちも滅びかねないだろう?」

 

 最後の確認をとるミカエルににやりと笑うアザゼル。

 

 それに対して、ミカエルの苦笑を浮かべてうなづいた。

 

「ええ、天使の長である我々がいうのもなんですが、すでに原因である主も魔王もいないのです。・・・神の子を導くという大義よりも戦争を優先するなど愚かでしょう」

 

「それはよかった。我々悪魔も先に進むためには戦争を終わらせなくてはならない。・・・次の戦争をすれば、悪魔は滅ぶ」

 

 真剣な表情でそう告げるサーゼクスに、アザゼルは静かにうなづいた。

 

「ああ。そんなことをすれば、三すくみは今度こそ共倒れ。そしてそれはほかの神話連中や人間界にも波紋を産む。俺らの喧嘩ごときのために、世界を一つダメにするなんてばからしいだろう?」

 

 そう告げるアザゼルは部屋中を見渡し、そして両手を広げる。

 

「神も魔王もすでにくたばったが、しかし世界は数百年も存続している。髪がいなくても世界が回るってことの証明だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数分間の間、静かに彼らはお茶を楽しんだ。

 

 グレイフィアの淹れる紅茶は茶葉も高級ならば腕も確か。茶の味そのものを嫌う人物でもなければ、うまいということに異存はなかった。

 

「ごちそうさまでした。まさに悪魔の誘惑とでも名付けるべきでしょうね」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

 ミカエルがそうほめながら紅茶を飲み干し、そして視線をイッセーに向ける。

 

「さて赤龍帝。話し合いも大体が終わりましたし、貴方のお話をお聞きするべきでしょう」

 

 その言葉に、全員の視線がイッセーに集まった。

 

「イッセー。お前何言ったんだ?」

 

「え、いや、言ったっていうか、聞きたかったっていうか・・・」

 

 思わぬ展開に問いただす松田にイッセーは戸惑うが、民変えるがすぐに助け船を出した。

 

「先日アスカロンを預けるときに、聞きたいことがあると仰ったのですよ。あの時は時間がなかったのでお断りしましたが、会談も大体終わりましたのでちょうどいい機会と思ったのです」

 

 その言葉に、イッセーは決意を決めたらしい。

 

 真剣な表情を浮かべると、視線をアーシアに向ける。

 

「アーシア。・・・アーシアのこと、聞いてもいいかな?」

 

「・・・イッセーさんがよろしいのでしたらかまいません」

 

 その言葉にうなづいて、イッセーは立ち上がるとミカエルと向き合った。

 

「・・・なんで、アーシアを追放したんですか?」

 

「そんなの言うまでもないことじゃないか」

 

 その言葉に、レヴィアは速攻で口をはさんだ。

 

「異形社会に赤十字なんて概念はない。敵を治療したなんてその時点で問題行動だよ?」

 

「ある意味間違ってはいませんね。悪魔を治した・・・その事実は、今の我々にとって破滅を生み出しかねないのです」

 

 ミカエルはさらに続ける。

 

 聖書の神は、信仰の力を借りて奇跡を起こすためにシステムを作り上げた。そして、それは聖書の神が死んだ後も奇跡を起こすシステムとして機能している。

 

 だが、熾天使たちが動かしている現状では、聖書の神が動かしていたころよりも大きく劣る機能しか持たない。それゆえに聖書で記されている時代に比べて奇跡の取りこぼしが生まれてしまうのだ。

 

 そんな状況下で信仰に揺らぎが起きれば、天界や教会は大きく被害を受ける。

 

 そう、主が作り出した力である神器が悪魔を治してしまうという事実は、非常に悪影響を与えてしまうのだ。

 

「・・・そんな彼女を教会においておくことはシステムに異常を発生してしまいます。そしてほかにも―」

 

「―主が死んでしまっていることを知っているものも、当然悪影響の元ってわけだ」

 

 ミカエルの言葉を遮って、アザゼルがそうまとめる。

 

「そこのデュランダル使いが悪魔になったのは、それが原因だということなんだろ?」

 

「さすがはアザゼル総督。お見通しというわけか」

 

 レヴィアが茶化すが、しかしその流れでもミカエルは苦渋の表情を崩さない。

 

「全ては我々セラフの失態。あなた方にはいくら詫びても足りないでしょう」

 

「・・・そうだよ、なんで真面目に信仰してるアーシアが―」

 

 言いつのろうとしたイッセーの手を、アーシアが握って止める。

 

「やめてくださいイッセーさん。私は、ミカエル様のことをうらんでなどおりません」

 

「ええ、私もアーシアと同じです」

 

 ゼノヴィアも立ち上がり、祈るように手を組みながらミカエルに視線を向ける。

 

 二人とも、許しを通り越して感謝すら覚えている表情だった。

 

「イッセーさんにリアス部長、そしてほかにも大切な人ができました。私は今の立場に不幸なんて感じていません」

 

「私もそうです。何より、事情を聴けば当然の判断。より多くの信徒のために不利益をあえてかぶるなど信徒の本懐です」

 

「・・・レヴィア、そういうもんなの?」

 

「まあ、殉教は尊ばれるね」

 

 納得できていないイッセーにレヴィアがフォローするようにそうまとめ、ミカエルは苦笑を浮かべながら頭を下げた。

 

「貴方方の寛大な心に、心からの感謝を」

 

「おいおいやめとけミカエル。逆に恐縮してるぜ?」

 

 くっくっくと笑いながらアザゼルはミカエルを止め、そして視線がアーシア達に向けられる。

 

「第一、そこの嬢ちゃんたちが悪魔になったのは俺ら堕天使のはねっかえりが原因だろうが」

 

「・・・ああ、アーシアは堕天使に殺されそうになったし、ゼノヴィアが追放されたのもコカビエルのせいだろうが!! 俺も殺されかけたしな!!」

 

 激昂するイッセーに対し、アザゼルはしかし揺るがない。

 

「レイナーレとかいうやつとコカビエルの件は悪かったが、お前の件については謝らん。当時のお前はあまりにも危険すぎたからな。第三次世界大戦のさなかに人間界で俺らのせいで大災害を起こすわけにはいかねえんだよ」

 

「おかげで俺は悪魔だよ」

 

「それが不満かい? ほかのところの転生悪魔はともかく、お前さんの待遇は抜群にいいと思うがねぇ?」

 

「そこ、おちょくらない」

 

 からかうように告げるアザゼルに、レヴィアは鋭し視線を向ける。

 

「・・・組織に属してるわけでもない奴のために、わざわざ手を貸してやる義理はないかもしれないけど、それでも危うく死ぬところだったんだ。気づかなかった僕が言うのもなんだけど、謝れとは言わないからもう少し態度を変えてくれないかな?」

 

「お気に入りを殺されかけてご不満か、セーラ・レヴィアタン。・・・まあ、そういうことなら考えはあるさ」

 

 レヴィアの軽く殺気が込められた忠告にもおどけながらかわし、アザゼルは一同を見渡した。

 

「そこのシスターも悪魔祓いも赤龍帝も、ついでにほかの連中もまとめて特大のプレゼントで返してやるから安心しな」

 

 その言葉に一同は首をかしげるが、しかしアザゼルは話を変えた。

 

「・・・さて、それではそろそろ本格的な問題について思慮するべきだろう。ちょうどいいところに関係者もいるしな」

 

 その視線が向かう先、織斑一夏と織斑千冬。

 

 なぜ視線が集まるのか不思議に思いながら警戒する二人に、アザゼルは一枚の写真を見せた。

 

 それはプリクラ写真だった。

 

 写っているのはアザゼルと一人の女性だった。

 

 すごく仲がよさそうだった。

 

 そして、それは信じられないことだった。

 

「・・・た、束!?」

 

「ど、どういうことだ!?」

 

 信じられない光景に二人は狼狽し、そしてアザゼルはにやりと笑った。

 

「ふっふっふ。何を隠そう、俺は束のマブダチだ!」

 




考えれば考えるほど、サーゼクスたちの難易度が高いことがよくわかる内容。ホントアンチ共はもう少し手加減をしてやれよ。

それはともかくISD×Dでは書けなかったことがようやく掛けました。


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停止教室のヴァンパイア 5

 

 篠ノ之束は人格破綻者である。ことコミュニケーションにおいては致命的といってもいい。

 

 一夏や千冬、そして実の妹である篠ノ之箒を除いて、彼女は他人とコミュニケーションをとりたがらない。

 

 他人など塵芥といわんばかりの態度をとることもいくつもある存在だったが、しかしこの写真からはそんな印象を感じない。

 

「・・・貴様、いくら束が問題児だからといって、洗脳するなど外道の所業だぞ!!」

 

「ひでえなおい! これでも仲良くなるのに時間かかったんだぞ!?」

 

 激昂する千冬に弁明しながら、アザゼルは過去を思い出すかのように天井を向く。

 

「そう、あれは別件でネットに情報が流れたときのことだ」

 

「いい加減にしてくださいアザゼル」

 

「本当にお仕置きしちゃうわよアザゼル♪」

 

 ミカエルとセラフォルーのツッコミをスルーしながら、アザゼルは続ける。

 

 ・・・かなり長いので要約するとこうなる。

 

 流れた情報は一分で抹消することに成功したが、その一分で束に勘付かれ潜入されそうになった。

 

 科学面において彼女をどうこうできるものなど世界にいないといっていい束だが、非常に残念なことに異形関係においてはそこまで優秀ではなかったらしい。

 

 人間としての能力は身体能力についても化け物だが、しかしそれを言うならアザゼルたちは正真正銘の化け物である。ISといえどアザゼルたち最上級堕天使なら撃破は可能だ。

 

 ゆえに、五回くらい返り討ちにしたらしい。

 

「最終的には無人ISやら世代でいうなら第四世代とかつきそうな最新技術やら使ってきやがったが、俺も興が乗ってロボット軍団を作ってぶっ飛ばしたんたもんだ」

 

 とんだスーパーロボット大戦もあったものである。

 

 そんなこんなの激戦は、束にとって新鮮だということだけは一夏にも分かった。

 

 桁違いの超人である束に並び立つものなど世界にはいない。それが、束の問題児っぷりに拍車をかけたことは想像にたやすい。

 

 そんな自分が本気を出しても返り討ちに合う存在は、彼女にとってある意味で救いなのだろう。

 

「特にサハリエルとは意気投合してな。二人してISを超える超兵器を、そう、デモン〇イン開発計画をスタートしようとしたときはさすがに戦争起きそうだから止めたもんだ」

 

「貴方が思ったより常識人で助かったよアザゼル」

 

 そんなことになったら異形社会は混とんとなっていただろう。

 

 サーゼクスの感謝の声をスルーしながら、アザゼルは続けた。

 

 束は異形の技術に興味津々であり、いろいろと試してみたがあまり素質がなかった。

 

 神器とは適合しない。魔法は全然使えない。本気で涙目になる彼女を見ると少しかわいそうに感じていた。

 

 人造神器関係においては才能を見せたが、それでもアザゼルには及ばない。使う方に至っては致命的だ。おそらく彼女が神器を持っても、使いこなせずに暴走して大惨事を起こすことが確定しただろう。

 

 そんな生活を続けていくに至り、束のコミュニケーション能力は大幅に向上した。

 

 他人を拒絶しているといってもよかった彼女が、下級堕天使相手に懇切丁寧技術を教えている光景を見たときは、アザゼルはかなり驚いたものだ。

 

 出会って一年もたつ頃には、研究所で彼女を嫌っていたり苦手意識を持っているようなものは誰一人としていなかった。そんなアイドルとなっていた。

 

 人は、挫折を知ることで成長する。

 

 それは人間なら当たり前のことで、だからこそ彼女は人になったのかもしれない。

 

 だが、第三次世界大戦がはじまる原因であるIS学園襲撃のひと月前に彼女は姿を消した。

 

「すぐにメールが一つだけ来た。「・・・ツケを払うことになったからもう会えない。ごめん、アザゼルにとって嫌な世界になる。・・・いっくんとちーちゃんをたすけて」・・・ってな」

 

 メールそのものも破損がひどく、非常に緊迫した状況で何とかそれだけが打てたのだということが分かった。

 

 そしてその直後に第三次世界大戦が勃発。

 

 ああ、これだけは断言できる。

 

 第三次世界大戦に、束は不本意なかかわり方をしたのだと。

 

「ISコアに関しての情報だけは、あいつは絶対しゃべらなかった。・・・いや、あの表情はしゃべれなかったってのが近いだろう」

 

「何か呪詛をかけられていたと?」

 

 つばを飲み込みながら千冬は聞くが、アザゼルはすぐに首を振る。

 

「いや、其の前に三大勢力のことを教えたら青い顔をしてたからな。たぶんそっちがかかわってるんじゃないかと思ってたんだが、そのすぐ後に姿を消しちまってなぁ。俺らも新兵器開発するのが楽しかったからそっちは全然ノータッチで」

 

 申し訳なさそうに頭をかくと、アザゼルは一夏と千冬に頭を下げた。

 

「悪かった。たぶんあいつはろくなことになってない。死んでる可能性だってある」

 

「そん、な・・・」

 

 一夏はそれに愕然とするが、しかし千冬は違った。

 

「まったく連絡が取れんと思っていたが、そういうことか」

 

 わずかに瞑目すると、しかしすぐにアザゼルの肩に手を置く。

 

「気にしないでくれ。あいつはだいぶ好き勝手にやりすぎて恨みも買っている。むしろアイツがそれを自覚するようになったのはあなたのおかげだろう。・・・感謝するほかない」

 

 千冬はそういうが、しかしその手はわずかに震えている。

 

 束にとって長い間たった一人の友であったのだ。思うところはきっとある。

 

 それでも、しかしぐっと耐えたのだ。

 

「・・・ああ、悪かったな」

 

 アザゼルはその言葉をしっかり受け止めた。

 

「それに、覚悟はしていたさ」

 

 千冬はそういうと、一夏の方を向いた。

 

「・・・その事件とほぼ同時に、ISコアが数個届けられた。それだけまともになったアイツがそんなことをするのだから、何かあったことはわかっていたとも」

 

「一夏くんが使えたのは驚きだったけどねぇ」

 

 レヴィアも思い出して乾いた笑いを浮かべる。

 

 コアの反応は間違いなく初期と同じタイプのISコアなのに、一夏が触れた途端に動き出したときは度肝を抜かれた。

 

 下手にこのコアを公表すればその事実すら公表することになりかねない。

 

 いかに男女両用のコアが生まれたとはいえ、影響力は大きすぎた。

 

 加えて一夏は転生悪魔なのだ。和平が結ばれる前にそんなことが知られれば、それこそ教会が襲い掛かるだろう。

 

「コアそのものについては束博士ですらわかってないところがあるらしいけど、うかつにこんなこと言うわけにもいかないから研究が進んでないんだよ。できれば協力してくれると嬉しいかな?」

 

「そういうことなら任せとけ! ああ、俺の手でISコアを徹底的に解析してやるぜ!!」

 

 と、アザゼルがガッツポーズをし、そして視線をイッセー達に向ける。

 

「さぁて、んじゃあそろそろ俺たち以外の強大な存在にも話を聞いてみるか」

 

 その視線はイッセーとヴァーリ、そしてレヴィアに向けられていた。

 

「先代魔王の末裔と二天龍。お前らはある意味三大勢力を俺たち以上に揺るがす存在だ。・・・なあ、お前らはどんな未来にしたい?」

 

「俺は強い奴と戦えればそれでいいさ」

 

 即答でヴァーリが答える中、レヴィアは無言で席に着くと、一口お茶を飲んだ。

 

「・・・ノーコメントで。できれば僕がここにいたこと自体内緒にしてくれると嬉しいね」

 

「なんだよ連れねえな。お前さんの意見は割と重要なんだから言ってくれないとこっちが困るぜ? 悪魔としても重要だろう」

 

 アザゼルは同意を求めるようにサーゼクスたちに振り返るが、しかし意外なことにサーゼクスもセラフォルーも平然としていた。

 

「いや、予想通りだよ」

 

「いつものことなのよねん」

 

「そう言われましても、現政権側の旧魔王の末裔ともなれば相当の重要人物です。彼女の意見は冥界を左右しかねません」

 

 あまりの平然っぷりにミカエルも異議を唱える。

 

 だが、だからこそレヴィアは答えるわけにはいかない。

 

「・・・もし僕がここで和平を唱えれば、開戦派の何割かは和平を選ぶだろうし逆もそうだろう。()()()()()()()()の末裔が()()()からね」

 

 レヴィアは苦い表情でそういう。

 

「それでは意味がない。戦争を望んで離反するにしても、平和を望んで受け入れるにしても、そんな理由で受け入れるなんてことは僕は望まない」

 

 そう告げると、こんどこそレヴィアは沈黙する。

 

 それをアザゼルは困ったような表情で見ていたが、しかしため息をつくとイッセーに視線を移した。

 

「んじゃ、お前はどうだよ赤龍帝」

 

「・・・んなこと言われても、俺ただの学生なんだけど?」

 

 そんなもの考えて生活してない。それが普通の男子高校生だ。

 

 だが、残念なことにイッセーは赤龍帝である。ある意味莫大すぎる影響力を保有しているのだ。

 

 しかしいきなり言われても答えられるわけがない。

 

 そこで、アザゼルから爆弾発言が飛び出した。

 

「簡単に考えろ。平和を望まなかったら戦争だ。平和を望んだら子作りだ」

 

「・・・っ!?」

 

 イッセーは驚愕に震えた。

 

 ついでに松田と元浜も驚愕に震えていたが、しかしそれはさておく。

 

「戦争になったらヤッてる暇なんてねえ。だが、平和になればあとは主の存続と繁栄だ。・・・そこのリアス・グレモリーなんかどうよ?」

 

「はぁっ!」

 

 いきなり話を振られたリアスの顔が赤くなる。

 

 しかしそれはそれとして、それ以上にイッセーの顔が赤かった。

 

 興奮しているだけではなく鼻血まで出ていて赤くなっていた。

 

「和平オンリー! 和平一択!! 部長とエッチしたいでぐわぁああああああああ!?」

 

「てめえどういうことだこの野郎が!!」

 

「死ね! 死んでしまえ裏切り者!!」

 

「お前どういうことだこの野郎! 俺なんて、俺なんてぇえええええ!!!」

 

「ずるいよ一夏くん! 僕だってリアスちゃんとあれとか其れとかなめたりこすったりしたいのに!!」

 

 いつもの二人組はもちろんのこと、匙とレヴィアまで一斉にイッセーをボコり始めた。一誠だけに。

 

 そして二秒後、千冬の出席簿が四人を鎮圧した。

 

「何をやっている馬鹿ども。ついでにレヴィアは本当に何をやっている」

 

「ふ、普段抑えてる欲望が駄々洩れしました・・・っ」

 

 阿呆四人を鎮圧した千冬は、ため息をつきながらイッセーに視線を送る。

 

「しかし、本当に阿呆か大物かわからん奴だな。普通、そんなことを言われてもこの状況下で欲望にのまれたりなんてしないぞ」

 

「いや、その、リアス部長のおっぱいは素晴らしいので欲望が暴走しまして・・・」

 

 思わず頭を下げるイッセーだが、しかし千冬はあきれ半分ながら少し笑っていた。

 

「いや、意外にお前みたいなのは伸びるときはどこまでも伸びるから油断できん。お前もうかうかしてるとおいてかれるぞ、一夏?」

 

「・・・それは、すごいいやだ」

 

 一度は完敗すら認めたが、しかしこれはさすがに思うところがある。

 

 仮にも兄の前で妹とSE〇したいとか言ったらだめだろう。というよりなんでサーゼクスは笑っているんだ。

 

「サーゼクスさま。以前貴方が言っていたこと、して見せます。俺は部長のおっぱいに譲渡をして見せる!」

 

「ああ、結果を楽しみにして痛い痛い痛いよグレイフィア」

 

「サーゼクス様。あなたは何をしているのですか何を」

 

「お兄様?」

 

 阿呆な魔王が従者と妹に説教されそうな中、イッセーはポリポリと頭を掻きながら、しかしはっきりと答える。

 

「いや。俺本当に馬鹿なんでよくわからないですけど、でも、これだけは断言できます」

 

 イッセーはこぶしを握り締めると、部屋中を見渡して断言した。

 

「俺のこの力は、リアスさまとレヴィアさん。そして仲間たちのために使います! それだけは絶対です!」

 

「・・・うう、イッセーくんがこんなかっこいいことをこんなところで堂々と言えるようになるなんて」

 

 レヴィアが感動のあまりに涙すら流すぐらい、今のイッセーは確かに格好良かった。

 

「これが、ハーレムを作れる男・・・っ」

 

「俺たちは、この領域にまで至らなければならないのか!!」

 

 松田と元浜は恐れおののくが、しかしまあ、それはともかく。

 

「なら、会議も大体終了だな」

 

 アザゼルが言う通り、この会談は最高の結末へと至り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―その瞬間、時が止まった。

 



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停止教室のヴァンパイア 6

ISを異形社会が脅威と認定していないのは、ひとえに火力と防御力の低さ。

それは裏を返せば―


 

「これは・・・っ!?」

 

 その在りえない光景に、千冬は目を疑った。

 

 人間―ではないものがほとんどだが―が凍ったわけでもないのに固まって動かないという光景は、おそらく人間界では目にすることはできないだろう。

 

「この感覚、時間停止か!」

 

「ゼノヴィア、デュランダルをこんなところで引き抜かないでくれないかい? 僕たちそばにいるんだけど」

 

 ゼノヴィアに注意する木場の表情も険しい。

 

 見れば、部屋にいる者たちの過半数が同じように固まっている。

 

 動けているのはサーゼクスを含む首脳陣、そしてレヴィアとリアス。グレイフィア及び木場とゼノヴィアに蘭も動けているが、それ以外は全滅していた。

 

「おいおい。来るとは思ったけどある意味すごいいいタイミングだな、オイ」

 

 どこか面白そうに、アザゼルは外の様子を見る。

 

 視線を向ければ、なぜか外にいる護衛達の動きは止まっていなかった。

 

「・・・これまでの戦争が急に終わるとなれば何か起きても不思議ではないが、予期していたのか?」

 

「当然といえば当然だ。三大勢力の戦争を望むものは何万人もいるからね」

 

 動揺を見せずに立ち上がりながら、サーゼクスは外を見る。

 

「知れば彼らは動くことが予想できていたが、これはまさか・・・」

 

「これってもしかしてギャスパーくんの停止かしら?」

 

 セラフォルーも真剣な表情を浮かべて旧校舎の方に視線を向ける。

 

「ギャスパーの神器が暴発したというのですか!?」

 

「それはどうだろう。現実問題、視界に映ってないのに」

 

 リアスとレヴィアは真っ向から反論をぶつけるが、しかしそれを否定するかのようにアザゼルが首を振った。

 

「・・・おそらく、何らかの形で禁手に近い状態になっているんだろうな。それならこの部屋の中をピンポイントで停止する程度のことはできるはずだ」

 

「だが、ギャスパーくんの意志によるものとは考えづらい。やはりこれは敵襲か」

 

 サーゼクスが険しい顔をしたその時、イッセーが動き出した。

 

「・・・うお!? え、これっていったい何!?」

 

「やれやれ。俺の宿敵は未熟すぎる」

 

 状況が飲めずに混乱するイッセーに、ヴァーリは嘲笑交じりの感想を漏らす。

 

 すぐにイッセーに状況が説明されるが、しかしこの状況は非常にまずい。

 

「だけど、なんでこの部屋だけ? 禁手クラスに強化したのなら、それこそ学園中を包むことぐらいわけないはず・・・」

 

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないでしょうレヴィアさん! そんな無茶な発動されたら・・・」

 

 考え込むレヴィアに蘭が大声を上げるほど、状況は危険だ。

 

 過剰な神器の暴走は所有者の命にもかかわる。

 

 もしこのまま発動が続けば、ギャスパーの命は本当に危うい。

 

「どちらにせよ、これは明らかな敵襲です。・・・すぐに外の護衛に連絡して―」

 

 ミカエルがそういって通信の魔法陣を展開しようとしたその時だった。

 

「・・・サーゼクス様、敵襲です。しかしこれは・・・っ!」

 

「誰が来たのかねグレイフィア? 旧魔王の末裔か、それともほかの神話体系か?」

 

 サーゼクスは真っ先に考えられる相手を述べたに過ぎなかったが、しかし事態はその斜め上を行く。

 

「南東より魔法使いが数百。そして、ISが40前後です」

 

 その言葉に、全員の目が驚きで見開いた。

 

 それだけの数のISを動かすには、どう考えても国家クラスの規模が必要となる。

 

 つまり、これは表の世界が動いているということにほかならない。

 

「・・・千冬さん! ISのレーダーで照合を!」

 

「わかっている」

 

 レヴィアにうなづきながら、千冬はすぐにISを展開するとレーダーで解析する。

 

 そして、その目が怒りに燃え上がった。

 

「レヴィア。どうやら私の目は曇っていなかったらしい」

 

「それってまさか・・・っ!」

 

 その言葉に、レヴィアは思わず外に視線を向ける。

 

 すでに視界に映ったその姿は確かにIS。

 

 しかも、灰色のカラーリングをした流線形の装甲を持つそのISは―

 

「種別はゴースト。人類統一同盟のISだ・・・っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ISがこれだけの数だと?」

 

 悪魔側の護衛部隊の指揮官は、しかしこの事態に対して冷静だった。

 

 人類統一同盟がどういうつもりかは知らないが、しかし自分たちの仕事は簡単だ。

 

 この会談に対する不穏分子を撃破すること。そこに何の問題もなければ失態もない。

 

「表の人間風情がなめてくれる! 全員、攻撃を拡散させて面制圧しろ!」

 

『『『『『『『『『『ハッ!!』』』』』』』』』』

 

 悪魔はもちろん、堕天使と天使も同じように広範囲の攻撃を一斉に放つ。

 

 いかにISの機動力が高くとも、しかし動かすのはただの人間。必然的に機動力に限界はある。そこをついての面制圧ならば攻撃を当てることは容易だった。

 

 そして、ISのシールドエネルギーは異形世界でいうのならば紙装甲といっても過言ではない。少なくとも中級クラスの悪魔なら簡単に貫けるようなものだ。

 

 ゆえにこの攻撃で確実に撃破できると確信し―

 

 その瞬間、その確信は簡単に砕かれた。

 

 前方に押し出た数機のISが大型のシールドを構え、そしてその後ろに一列になってすべてのISが並ぶ。

 

 そして攻撃が直撃し、そのまま防がれて弾き飛ばされた。

 

「あの装甲、こちら側の技術・・・!」

 

 天使の一人が歯噛みする。

 

 いかにISを撃破できる攻撃だろうと、しかし相手がこちら側の技術を使って装備を用意すれば話は変わる。

 

 見れば伝説の武具に比べれば劣るもののかなり優れた盾だ。

 

 ISを撃破できればそれでいいと攻撃力を下げてでも拡散させたのが裏目に出た。

 

 そして、その隙があまりにも致命的だった。

 

 ほんのわずかな時間で、ISは護衛達の内側にもぐりこむ。

 

 これでは範囲攻撃は使えない。下手に撃てば味方を巻き込んでしまうからだ。

 

 だが、しかしそれがどうしたという。

 

 いかにISが速いとはいえ、この乱戦ならばその機動性も本当の意味で発揮はできない。

 

 それなら十分に勝算がある。

 

「我らが未来を決める会談、邪魔した報いを受けるがいい!!」

 

 躊躇することなく悪魔の一人が迫り、そしてハンマーを振りかぶる。

 

 戦車の駒で強化された膂力は本物。あたれば一撃でシールドエネルギーを0にできる一撃だ。

 

「・・・は!」

 

 だが、その一撃はあっさりと空を切る。

 

 そして次の瞬間、ISの拳がめり込んで、そしてプラズマを放出した。

 

「ぐぅおっ!?」

 

 鳩尾にプラズマの奔流が直撃し、そしてそのまま腹を抱えてうずくまる悪魔に、さらに荷電粒子砲が直撃する。

 

 人類統一同盟のIS、ゴーストは人類統一同盟の行動に合致した性能を発揮するISだ。

 

 すなわち数の暴力。高い生産性と整備性をもつ、兵器としてのある種極点ともいえるポテンシャルにこそ根幹が凝縮されているといってもいい。『兵器』としての優秀さを最優先した質実剛健な設計こそが持ち味だった。

 

 そして何より、最大の効果を発揮するのが第三世代武装。

 

 第三世代武装ヴァルキリー・スレイヴ。

 

 研究禁止とされた、ヴァルキリーの技量を使用者に再現させるヴァルキリー・トレースシステムを劣化再現したもので、ある程度の技量反映しかできない代わりに短時間なら安全に運用できる。

 

 これにより、瞬間的に増えたIS操縦者の数ゆえに発生する搭乗者の訓練期間が大幅に低下。そのうえで数を生かした戦闘を行うことにより、緒戦を圧倒することが可能となった。

 

 そして、いくらISが弱い性能の機体とは言え、しかし特化型のパッケージを使用すれば特化した条件なら脅威となる。

 

 近接格闘型のパッケージと遠距離砲撃型のパッケージを搭載したISは、まさに悪魔相手にもISは戦えることを証明して見せた。

 

「・・・なめるなぁああああ!!!」

 

 激高した悪魔は組み付こうとするが、ゴーストはすぐに後退することでそれを回避する。

 

 そして次の瞬間、第二陣が襲い掛かった。

 

 12機で編成されたISは、躊躇することなくサブマシンガンを一斉にばらまく。

 

 密集に近いあつまり方をしていたことがあだとなり、その弾丸は大半が誰かの肌に当たる。

 

 だが、護衛達はそれを気にもしない。

 

 せいぜい18mm口径の鉛玉。この階段の護衛に選ばれるほどの実力者にとっては豆鉄砲に等しい。

 

 ゆえに気にせず反撃に移ろうとして―

 

「・・・ぐほっ」

 

 それは、連鎖する前兆だった。

 

 一人がおなかを抑えて血を吐くと、連鎖するかのように多くのものたちが血を吐いて落ちていく。

 

「な、なんだ!?」

 

「どうしたんだ皆!!」

 

 謎の減少に護衛達はさらに混乱する。

 

 ISの手持ち銃火器程度で血反吐を吐くような悪魔が、こんなところに出てこれるわけがない。

 

 しかし、現実問題数十人の兵士たちが戦闘不能なレベルでダメージを追っている。

 

「教えてやろうか、化け物」

 

 ISの一機がブレードをもって切りかかるのを、護衛隊長は魔法陣で防御する。

 

「・・・そうだ、それで正解だ。直接体の頑丈さで受けていたらそれで大ダメージを追っていただろう」

 

 ISを操縦する男のその言葉に、悪魔は疑念を浮かべる。

 

 見れば、そのISが持っているのはただの合金製のブレードだ。

 

 そんなものを喰らった程度で大ダメージをおうわけがない。あり得ない。

 

 だが、現実問題多くの護衛達が大ダメージをおって負傷している。

 

「俺たちのパッケージ、モデルガンマレイはお前たちを倒すための装備だ。・・・その能力は放射線の付与」

 

「なんだと!?」

 

 馬鹿な、あり得ない。

 

 放射線はあらゆる生物にとって猛毒だ。悪魔といえどもろに喰らえば確かに上級相当でも無視できないダメージを負うだろう。

 

 だが、そんなものに人間が耐えられるはずがない。

 

「何を驚く? ISはもともと宇宙開発用だ。耐えれて当然なんだよ!!」

 

 その瞬間、ゴーストの姿が掻き消える。

 

 後ろに回り込まれたのかと思い振り仰ぐが、しかし状況はそれどころではない。

 

 ・・・すでに、数百人もの魔法使いが一斉に魔法を放っていた。

 

「・・・悪夢だ」

 

 その言葉を辞世のことばとして、護衛部隊を滅ぼさんと魔法攻撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、まずいね」

 

 レヴィアは冷や汗を流しながら瞠目する。

 

 ISの機動力は最上級にも届く圧倒的な力を持つ。

 

 もし、そのISに上級悪魔と戦える剣や楯を与えれば、間違いなく神々にとっても脅威となる。

 

 その可能性は一夏のIS訓練の際に理解していたが、実際に敵に回るとこれほどとは。

 

「とっさに近くの千冬さんに魔力を流して停止から守っていてよかった。・・・すいません、ちょっとしばいてきてください」

 

「わかった。これは動いた方がよさそうだな」

 

 ISを展開する千冬が壁をけ破り、そして飛び立つ。

 

 そしてそこにヴァーリも鎧を展開して並び立った。

 

「なら俺も行こう。・・・いい加減暇なんだ」

 

「勝手にしろ。足を引っ張るようなら承知せんぞ」

 

「それは怖い・・・な!」

 

 次の瞬間、二つの白が戦場を一瞬で蹂躙する。

 

 ISはその機動力で何とか回避したが、魔法使いたちは一瞬でその数を半分以下にまで減らしていった。

 

「うっわぁ、千冬さん容赦ないな。・・・殺してはいないけど半身不随だよあれは」

 

「充分手を抜いてんだろ。この状況下で殺さない余裕があるとはな」

 

 アザゼルはあきれるが、別にこれは死人を出さない仏心でも何でもない。

 

 じっさい、死んでいない味方をフォローするべくさらに数がさかれ、一気に攻撃の密度が低下する。

 

「いまだ! 攻撃を放って数を減らせ!!」

 

「無理です! 増援が来ました!!」

 

 護衛達が反撃するより早く、さらに転移された魔法使いたちが攻撃を開始する。

 

 千冬たちも迎撃に回ろうとしたが、その前にゴーストが立ちはだかって妨害を開始した。

 

「・・・遅い!」

 

「ぬるいな」

 

 しかし、足止めできたのはほんの短時間。

 

 十機近く足止めに乱入したISは、数分もたたず全機地面にたたきつけられた。

 

「・・・ヴァーリはともかくブリュンヒルデ強すぎだろ。あいつ本当にただの人間か?」

 

「伊達に人類最強と呼ばれてはいないのさ。生半可な使用者では鎧袖一触だよ」

 

 今度はアザゼルが冷や汗を流し、レヴィアは自慢げにほほ笑んだ。

 

 だが、しかしそう簡単に事態は動かない。

 

 今度は転送魔法陣でISが召喚され、うかつに接近しないで牽制の射撃で足止めを開始した。

 

 しかし、その光景はあり得ない。

 

 ISの総数はもともと500にも届かない。人類統一同盟は新たに生産しているが、それだって400もなかったはずだ。

 

 それをこんなところに集中投入するなどナンセンスだ。

 

 それなら、いっそのこと投入しない方がまだましだろう。三大勢力を敵に回さなくて済む分、リスクは少ないのだから。

 

「・・・ISは数が多くないはずだが。人類統一同盟は何を考えている?」

 

 サーゼクスの疑問はほぼ全員の総意だが、しかしそれを考えている暇はない。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないですよ! 早くギャスパーくんを助けて、それに援護もしないと!!」

 

 その圧倒的戦闘能力で何とかしてくれと言わんばかりの蘭の大声だが、しかし状況はそれを許さない。

 

「それは難しいですね。我々が結界を解除すれば、それこそ私たちまで停止されてしまいます」

 

「それに、ギャスパーくんの救出も困難だろう。敵の戦術のかなめである以上、当然結界を別個に張って侵入を妨害しているはずだ」

 

 グレイフィアとサーゼクスの意見は、冷徹なようだが慎重なだけだ。

 

 みすみす敵の重要拠点に殴り込めば、それこそ無用な犠牲者を生むだけで終わる可能性がある。

 

「・・・安心してくださいルシファー様。旧校舎には未使用の戦車の駒(ルーク)があるので、キャスリングが使えますわ」

 

 リアスは一歩前に出てそう告げる。

 

 チェスの駒を参考にしている悪魔の駒には、必然的にチェスの能力を再現する特性が存在する。

 

 その一つがキャスリング。ルークとキングを入れ替える、チェスのルールの一つだった。

 

「それでいこう。グレイフィア、拡張はできるかね?」

 

「私たちが強化すれば、あと一人ぐらいは行けるはずです」

 

「俺が行きます!」

 

 すぐにイッセーが声を張り上げる。

 

「ギャスパーは俺の後輩です。俺が必ず助け出します!!」

 

「いうと思ったよ一夏くん。じゃ、僕たち(残り物)は千冬さんたちの援護をするとしますか」

 

 そううなづきながら、レヴィアは外に向かって一歩前に出る。

 

 この緊急事態を前に黙ってみているわけにはいかない。和平の成立のために動いたとなればレヴィアの意志が垣間見えてしまうが、まあ正当防衛でごまかせるだろうとレヴィアは判断した。

 

 その様子を満足げに見ながら、アザゼルは懐からリング状の物体を取り出してイッセーに投げ渡す。

 

「よし、じゃあヴァンパイアにはこれ渡せ赤龍帝。これをつければ少しの間は制御できるはずさ」

 

「え? ああ、わかった・・・って二つあるけど」

 

 アザゼルから渡されたものの数に首をかしげるが、アザゼルはにやりと笑うとイッセーを指さす。

 

「そいつはお前用だよ。万が一の時はそれ遣えば、短時間だが禁手になれるはずさ」

 

「・・・サンキュー」

 

 微妙に釈然としない顔でイッセーは礼を言うが、しかし文句を言うわけにもいかない。

 

「さて、ならば私たちは有象無象を切り捨てるとするか」

 

「そうだね。・・・部長、それでは僕たちはそろそろ行きます」

 

「ええ、お願いね二人とも―」

 

 リアスがゼノヴィアと祐斗の背中をおし、二人も千党体制を整える。

 

「しかし、人類統一同盟と魔法使いを結びつけたのは誰だ? ・・・いや、それどころかこれは彼女の言っていた「聖槍」の保有者がIS学園襲撃者であることの証明ではないか」

 

「異形の技術を流用している可能性は節々にありましたが、しかしどこから・・・?」

 

 転移術式の調整を進めながら、サーゼクスとミカエルは疑念を浮かべる。

 

 それにこたえるのはアザゼルだった。

 

「魔法使いと人類統一同盟を結び付けた連中には心当たりがある。・・・ウチのとこのシェムハザが、妙な組織の存在を発見してな」

 

 アザゼルがその名を告げようとしたその時だった。

 

『ええそうです。この襲撃事件は我々、禍の団(カオス・ブリゲート)が引き起こしました』

 

 その言葉とともに、魔法陣が展開される。

 

「・・・この魔法陣! あのバカ叔母、ここまでするか!!」

 

 魔法陣を目にしたレヴィアは舌打ちをし、そしてグレイフィアに大声をかける。

 

「速く転移を! 急いで!!」

 

「今できました。お嬢様、御武運を!!」

 

 そして転移が発動すると同時、莫大な魔力が放出された。

 




異形技術を応用すれば、いくらでも対抗できるということ。

プロトタイプともいえたISDDではできなかったことを、あえてここでぶちかまします。










それからここでネタバレ。

こっから先、三大勢力はおろか神話勢力もハードモードです。


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停止教室のヴァンパイア 7

 

 放出された魔力は、しかしレヴィアが張った結界に阻まれて即座に防がれる。

 

 しかしその余波はたやすく校舎を破壊し、上半分を跡形もなく吹き飛ばした。

 

「・・・やってくれるね、カテレア!!」

 

 レヴィアは吐き捨てるかのように吠えたて、そしてその声を受けた当事者は姿を現す。

 

「セーラ・・・! 我らレヴィアタンの面汚しが、よくもまあ」

 

 カテレアと呼ばれた女性と、レヴィアはお互いに怨敵を見る目でにらみ合う。

 

「・・・彼女は一体誰ですか?」

 

「魔法陣は旧魔王レヴィアタンの家系のものだった。レヴィアの関係者なのは間違いないが・・・」

 

 蘭とゼノヴィアは戦闘態勢を取りながら首をかしげる中、その答えをサーゼクスは告げる。

 

「彼女はカテレア・レヴィアタン。旧魔王レヴィアタンの末裔にして、レヴィアの親戚筋だ」

 

「ええ、不本意ながらその愚か者は私の親戚です」

 

 心底いやそうな顔をしながら、カテレアはそれを肯定する。

 

 そんなカテレアに、セラフォルーは声を投げかけた。

 

「カテレアちゃん! どうしてこんな・・・」

 

 その悲しげな声に対して、カテレアは憎悪すら籠った目でにらみつけるという返礼がなされる。

 

「よくもまあ、そんな口を! この私から魔王レヴィアタンの座を奪っておいて・・・!」

 

「ハッ! あなたが魔王の座につける器なものか! 寝言は寝ていうものだよ、カテレア!!」

 

 即座に嘲笑を込めた罵倒を返すレヴィアと、カテレアは再びにらみ合う。

 

「・・・行ってくれますね。レヴィアタンの誇りを捨てて偽りの魔王に頭を垂れた愚か者が」

 

「王族の基本理念すら忘れた者がよくほざく。そんなだから魔王になれないんだよ、あなたは」

 

 罵倒の応酬がなされ、そして再び魔力を垂れ流しながら両者はにらみ合った。

 

「レヴィアさん、肉親に敵意しかわかないとか言ってましたけどここまでとは」

 

「ま、セーラ・レヴィアタンのような王の器持ちからしてみれば、こんな小物が肉親だなんてことが腹立たしくてたまらないだろうがな」

 

 少し引いている蘭にアザゼルが茶々を入れながら、そして一歩前に出てきた。

 

「カテレア。シェムハザが言うには禍の団にはオーフィスがかかわっていると聞いたが、本当か?」

 

「・・・ええそうです。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。この世界における最強の存在こそ我々の頭首ですよ」

 

 その言葉に、その場にいる者たちが驚愕した。

 

 オーフィス。それは、この世界で最強の存在。

 

 ほかの存在に比べて頭一つ二つは優に超える強さを持つ圧倒的な力を持つ最強の存在が、テロ組織の首魁であるという事実に、全員が戦慄を隠せない。

 

 その事実に、レヴィアですら一筋の汗を流していた。

 

「カテレア。三大勢力のはぐれ者を含めた危険因子の集団の組織がこの会談を邪魔するということは、・・・そういうことだね?」

 

「その通りですセーラ。我々が至ったのはまさに真逆の決断。神と魔王がいないのならば、この世界を変革するのですよ」

 

 そう告げるカテレアは魔力を高めるが、しかしそれに対しての返答はおかしなものだった。

 

「・・・クックック」

 

「・・・何がおかしいのです、アザゼル」

 

 笑い出すアザゼルに殺意すら込めた視線をたたきつけるカテレアだが、しかしアザゼルは動じない。

 

「おいおい。真っ先にくたばる三流敵役のセリフだな。陳腐すぎるぜ、オイ」

 

 その言葉に、殺意の密度がさらに増幅される。

 

「この私を、魔王レヴィアタンの末裔を愚弄するか!」

 

「そういうところが三流なんだよ。・・・こいつは俺がやるが、いいか?」

 

「できれば僕がやりたいけど、そうなると本当に僕の意志が隠せないからね。譲るよアザゼル」

 

 レヴィアはそういいながら一歩を下がり、そしてそれを見たサーゼクスは最後の警告を告げる。

 

「カテレア。・・・下るつもりはないのだな?」

 

「ええ。あなたは良い魔王でしたが、最高の魔王ではない。私たちは新たなる魔王を作ります」

 

 その言葉とともに、戦闘が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その戦闘とともにレヴィア達の行動も開始された。

 

「それじゃあまあ、魔法使いたちは僕たちで倒すとしますか!!」

 

「千冬さん! ISに集中してください!!」

 

 レヴィアの言葉に反応して放たれる砲撃が、魔法使いたちを一斉に吹き飛ばす。

 

「フハハハハ! 蘭ちゃんの神器は砲撃型! 其の破壊力は並の上級悪魔の比じゃないからね!」

 

 そう堂々と戦場で高笑いをするレヴィアに攻撃が殺到するが、しかしレヴィアは涼しい顔でそれを受け止める。

 

 殺意のこもった攻撃を集中砲火で受けておきながら、レヴィアはそれを小雨に振られた程度にしか感じていない。そんな光景に、ほとんどのメンバーが呆気にとられた。

 

「さあ蘭ちゃん。ちょっと右側の敵をぶっ飛ばして」

 

「はいはい」

 

 唯一冷静なままだった蘭は、右側から一掃するように砲撃を放射。そのまま魔法使いたちを薙ぎ払っていく。

 

「先輩たち! ぼさっとしてないで前衛お願いします!!」

 

「は、はい!」

 

 蘭に叱咤されて、木場はすぐに我に返って前に出る。

 

 聖魔剣とデュランダルの威力はすさまじく、並の魔法使いでは文字通り相手にならない。

 

「ふむ、もう少しできるかと思ったが、これはさすがに弱すぎるな」

 

 

 豪快に十人ぐらい切り飛ばしながら、ゼノヴィアはあきれたかのように告げた。

 

 三大勢力の和平会談を中止にさせるための戦力なのだ。もっと強大であってもおかしくないと考えるのが普通だろう。

 

 だが、ふたを開けてみれば下級悪魔である木場とゼノヴィアだけでも無双できそうな難易度だ。これでは肩透かしもいいところだろう。

 

「言っておくけど、それは君たちが強すぎるだけだからね?」

 

 攻撃をものともせずに正確に一体一体撃ち抜きながら、レヴィアは答える。

 

 彼女も確実に撃破してはいるが、しかしその数は木場たちに大きく劣っていた。

 

「禁手やらデュランダルやら、ふつうお目にかかれない強大な領域に到達しているんだ。今の君たちは中級程度じゃ太刀打ちできないほどの実力者だよっと!」

 

 ISの一機がこちらに狙いを定めて切りかかるが、レヴィアはそれを結界を張って防ぎ切った。

 

「さすがに放射線はきついからね。あたってなんかやれないかな?」

 

「ならば機動性でかく乱する」

 

 いうが早いか、ゴーストは距離をとるとそのまま高速で周囲を移動し始める。

 

 ISの本領発揮ともいえる高速移動に、木場たちはどこに動けばいいのかすらわからない。

 

「さあ、この状態でどうやって俺をとらえて見せる? 言ってみろ!!」

 

 自信に満ちたその言葉を聴きながら、レヴィアは指を鳴らすと蘭に命令を告げる。

 

「蘭ちゃん。ちょっと捕まえてきなさい」

 

「了解しました」

 

 そして次の瞬間。

 

 一瞬で残像を残して消えた蘭が、ゴーストの脚部を確かにつかんでいた。

 

「・・・バカな!? ISのスピードについていくだと!? 転生悪魔といえどここまでの強化ができるわけ―」

 

「あいにく―」

 

 そのまま蘭はゴーストを振り回すと―

 

「神器もセットなんで!」

 

 地面に勢いよくたたきつけた。

 

 むろんそれだけでどうにかできるわけではないが、そこを見逃すほど彼女は甘くない。

 

 次の瞬間には、いくつもの魔剣がIS使いの全身に突き立ち、そして爆発した。

 

「ぐぁああああああああ!?」

 

「レヴィアさん! それで次はどうしますか!?」

 

「んーそうだねー・・・」

 

 レヴィアは少し考え込むが、しかしやることは変わらない。

 

 今やるべきは魔法使いたちの殲滅で十分だ。

 

「よし、それじゃあみんな、この調子で―」

 

「いや、もう終わりだよセーラ・レヴィアタン」

 

 素の真後ろに、白龍皇が立っていた。

 

 ・・・誰もが反応できないなか、ヴァーリはその拳をレヴィアに向けてたたきつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・そして、何も起こらなかった。

 

「・・・なんだと?」

 

 唖然とするヴァーリの手を、レヴィアはゆっくりしっかり確実につかむ。

 

「どういうつもりだい、白龍皇?」

 

 その流し目はこれまでにないほど冷たく、返答次第ではそのまま首をはねられると錯覚してしまうほどだった。

 

「簡単だ、俺も禍の団の一員なのさ」

 

「なるほど。会議に参加しないけど近くにいる時間停止能力者。ギャスパー君の情報を売ったのは君だね?」

 

 レヴィアは確信すら持ってそう聞き返す。

 

 これだけ手際の整ったテロ作戦だ。大方何らかの形でスパイが紛れ込んでいることは想定できていた。

 

 できていたが、まさか堕天使側最強戦力がそれだというのはとてもつらいことだ。

 

「・・・コカビエルを止めに来たあなたが、なんでコカビエルと似たようなことをするんですか!?」

 

 砲門を突き付けながら蘭が吼えるが、ヴァーリは未だに余裕の表情を浮かべていた。

 

 この状態で打てば間違いなくレヴィアも危険にさらされる。そんな状況では撃たれるはずがないという確信だった。

 

「いや、オファーを受けたのはコカビエルを持って帰る途中でね。魅力的なオファーだったので受けざるを得なかったのさ」

 

「どんな理由だ? それだけのものがあるんだろうな!?」

 

 デュランダルでいつでも切りかかる準備を整えながら、ゼノヴィアが吼える。

 

 世界に破滅と混乱を巻き起こしてまで得たいものが一体何か。さも大規模なものであるのだろう。

 

 もしそうでないのなら―

 

「アースガルズと戦ってみないか? ・・・そんなことを言われたら、強者と戦うことが生きがいの俺では断れないさ」

 

 ―もはや殺すほかないだろう。

 

「そんなことのために、三大勢力の和平を崩してまでこんなことをしたというのか!!」

 

「その通りだ。まあ、そのあたりは全部上の者の指示なので、俺が言われても分かることじゃないんだがな」

 

 木場にそう返しながら、ヴァーリは全身から魔力を放出する。

 

「ではまず小手調べだ。この白龍皇の力を受けきって見るがいい!!」

 

 そして次の瞬間、白龍皇の身にまとっていたオーラが、一斉に爆発した。

 




因みに、全線で戦闘しているレヴィア達(敵味方)での火力2トップは蘭とヴァーリ。

しかしある一点のステータスに限り、ヴァーリですら話にならないほどのぶっちぎりトップが存在しています。


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停止教室のヴァンパイア 8

 

 そのオーラは、小型の核爆発にも匹敵する莫大な威力だった。

 

 半径数百メートルの範囲の物体を粉々に粉砕することぐらいなら普通にできるだろう。

 

 上級悪魔でも直撃すればただでは済まない火力。出せるとするならば最上級クラスは必要な圧倒的な出力。

 

 それを、ヴァーリはぽんと物は試しとぶっ放した。

 

 敵味方入り乱れる乱戦でそんなことをすれば、間違いなく大被害が発生する。

 

 そう、発生する()()だった。

 

「・・・いや、だからね? 危ないからね?」

 

 やれやれと首を振りながら、レヴィアはそれを防ぎ切った。

 

 最上級悪魔クラスの一撃を、文字通り難なく防いだのだ。

 

「・・・面白い、面白いぞセーラ・レヴィアタン」

 

 そしてその隙を突いて腕を振り払ったヴァーリは、警戒のため後ろに下がりながらも興奮が隠せていなかった

 

「ああ、アザゼルや未成熟な赤龍帝にちょっかいをかけることもかんがえたが、しかしやめだ! もっとそそる相手がいるじゃないか!!」

 

 ヴァーリは距離をとると、両腕をレヴィアに向ける。

 

「さあ、ならばまず弱らせてみようか!!」

 

『DividDividDividDividDividDivid・・・!!!』

 

 恐ろしいほどの数の半減を起こす音が鳴り響き、レヴィアの体がわずかな輝きに包まれる。

 

 そしてそれがすべてなり終わると同時にヴァーリは魔力弾を発射するが―

 

「・・・甘い」

 

 レヴィアはそれをもってしてすら微動だにしていない。

 

 さすがにただ事ではないと思ったのか、ヴァーリは一瞬動きを詰める。

 

 その顔面に、蘭の砲撃が叩き込まれた。

 

「・・・貴様」

 

 鎧が砕け、わずかに血を流しながら、ヴァーリは鋭い視線でにらむ。

 

「誇りある白龍皇と魔王末裔の戦いを横から汚す気か?」

 

「弱体化だなんて姑息な手段を使っておきながら、なにを偉そうなことを言っているチンピラトカゲ」

 

 その言葉を想定しうる限り最も相手の神経を逆なでする罵倒の言葉をもって、レヴィアはたたき切った。

 

 ブリテンの白き龍。神や魔王すら殺しうるといわれる頂上存在を宿したものに対して、あまりにも嘲りすぎる言葉をあえてチョイスして叩き込む。

 

 むろん、結果は莫大だった。

 

『・・・ヴァーリ。遊びは無用だ』

 

「同感だ。少し手を抜きすぎたか」

 

 恐ろしく冷たい目でヴァーリはレヴィアをにらみ、そして莫大なオーラがレヴィアを包み込む。

 

「俺も本気を出してやろう。・・・そのまま半減されるがいい!!」

 

『Half Dimension!』

 

 殺意のこもった音が鳴り響き、そしてレヴィアの周囲が小さくなっていく。

 

「物体ごと半減させているというのか!?」

 

 木場はあまりの光景に驚愕する。

 

 同じ禁手だというのにこれだけの圧倒的性能差。これが神滅具の力だとでもいうのか。

 

「言っている場合か! このままではレヴィアが!」

 

 ゼノヴィアはすぐに冷静になると、ヴァーリを狙ってデュランダルを構える。

 

 先ほどまではすべての攻撃を難なくしのいできたレヴィアだが、これはさすがにまずい。

 

 それだけは何とかして阻止しようとゼノヴィアは玉砕特攻も覚悟のうえで突撃を仕掛けようとして―

 

「あの、ヴァーリ?」

 

 蘭が何というかおずおずと声をかけた。

 

「なんだ? 彼女の助命なら聞き入れない」

 

『あの小娘は我ら白龍皇を汚したのだ。相応の報いを受けてもらわねばならん』

 

 ヴァーリとアルビオンはよほど怒っているのかそう告げるが、蘭が聞きたいことはそこではなかった。

 

「・・・あんな攻撃で?」

 

 その言葉に、空気が凍り付いた。

 

 IS部隊も、魔法使いたちも、木場もゼノヴィア、ついでに最終決戦の真っ最中ともいえるアザゼルとカテレアも。

 

 全員が凍り付く中、レヴィアはポケットに手を入れるとチョコレートを取り出した。

 

「・・・あむ」

 

 そのまま自然体で包装をはがして口に入れると、五回ほど咀嚼。

 

 そして飲み込んで、ヴァーリに視線を向けた。

 

「・・・やめよう。僕らじゃ勝負にならない」

 

 その余裕の姿に、ヴァーリもアルビオンも愕然としていた。

 

『なんだ、その耐久力は! そんなもの、先代レヴィアタンが足下にすら届かぬほどのレベルだぞ!?』

 

「俺が、白龍皇が、傷一つ付けられないだと!?」

 

「あまり僕を舐めないでほしい。これは必要に伴って身に着けた物だ」

 

 レヴィアは腰に手を当てると、普段よく見せる態度をとる。

 

 すなわち、馬鹿な真似をした学友を然り導く説教の態勢だ。

 

「王とはすなわち太陽。民の心の闇を光で照らし慈しむ、癒しの星」

 

 王が健在でいてくれている。ただそれだけでも人の心は安心できる。

 

 階級主義にして血統主義が蔓延している悪魔の社会で、しかも真なる魔王レヴィアタンの末裔だというのならばなおさらだろう。

 

 其の影響力は莫大。ゆえに、もし彼女が斃れれば、その影響は混乱を産む。

 

「ゆえに死なない。ゆえに倒れない。ゆえに傷つかない。それこそが指導者の絶対責務。僕はそれを忠実に守っているに過ぎない。ぶっちゃけそれだけあれば十分だ」

 

 そういうと同時に、レヴィアは莫大な魔力を放出する。

 

 蛇の形をとったそれは、間違いなくレヴィアの全力だ。それらは一斉にヴァーリに襲い掛かり―

 

「・・・なんだ、それは?」

 

 しかし腕の一振りで粉砕された。

 

 ヴァーリが特別本気を出したわけではない。並の上級悪魔の攻撃なら簡単に弾き飛ばせるほど、ヴァーリの、白龍皇の鎧のスペックが高いだけだ。

 

 逆に言えば、並の上級悪魔ていどの力が彼女の全力だということになる。

 

「・・・レヴィアさん、訓練とか研究とかほとんど全部防御方面に割り振ってるんです。戦いになっても自分で勝つ気がなくって」

 

「それはそうだよ蘭ちゃん。戦の武功は眷属(武将)が上げればいい。戦場での王の役目はそこにいることで味方を鼓舞することで十分さ」

 

 だが、それでも流れ弾や強襲で殺される可能性は十分ある。

 

 本陣である以上増援は来るが、しかし間に合わない可能性は莫大だ。

 

 だから死なない。とにかく耐える。

 

 レヴィア・聖羅の、セーラ・レヴィアタンの在り方とはとにかくそれだ。

 

 ゆえに、少なくともあくまでその一点において負ける気は毛頭ない。

 

 最強ではないが無敵の悪魔。それこそがセーラ・レヴィアタンの戦いだった。

 

「おうおう、なんか面白いことになってんじゃねえか」

 

「無事なようだなレヴィア。とりあえず有象無象は撤退させたが」

 

 なぜか金色の鎧に包まれたアザゼルと、特に損傷することなくISを健在させている千冬が、そんなレヴィアをカバーするかのように並び立つ。

 

 そして、気づけば停止結界は解除され、イッセー達も近くに走ってきていた。

 

「お、おい! どうなってるんですかレヴィアさん! なんでヴァーリと戦ってるの!?」

 

「ややこしいから一言で言うよ。ヴァーリが裏切り者、以上」

 

 極限まで必要最低限のことだけを伝えながら、レヴィアはヴァーリをにらみつける。

 

「詰みだヴァーリ。・・・いや、ヴァーリ・ルシファー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 イッセーは、何がどういうことかわからず首を傾げた。

 

 ルシファーといえば、サーゼクスが担当している魔王の称号だ。

 

 それが何でヴァーリに対してつけられているのかがわからない。

 

 だが、イッセーはなんだかんだで馬鹿ではない。すぐに頭を回転させて状況を把握しようとする。

 

 そもそもルシファーというのは元の悪魔ルシファーがいたからある名前だ。

 

 つまり、もともとの悪魔ルシファーがいることになる。

 

 そして、悪魔は子供を作ることができる。

 

 つまり―

 

「そ、そいつは先代魔王様の子供か何かなのか!?」

 

「いい線ついてるな赤龍帝。ああ、そいつは初代ルシファーの曾孫だ。ルシファーの孫と人間の間に生まれた結果誕生した、魔王と神滅具のハイブリットさ」

 

 なぜかアザゼルが自慢げにそう答える。

 

「断言しよう。あいつは将来過去現代未来すべてにおいて最強の白龍皇になる」

 

「なら、そうなる前に倒さないと手が付けられなくなるね」

 

 レヴィアはパチンと指を鳴らすと、すぐ隣に眷属が並び立った。

 

「事情はサーゼクスさまから聞いたぜ、レヴィア」

 

「レヴィアさん! ぶっちゃけ怖いんでこれ終わったらご褒美お願いします!!」

 

「ああ、だが俺の眼鏡がうなる時だ!」

 

 状況をいまだ完全に飲み込めたわけではないが、しかし一夏も松田も元浜も戦闘準備だけは万全だった。

 

「面白い。・・・だが、このタイミングでは俺は赤龍帝とやりたいと思うんだが・・・」

 

「馬鹿馬鹿しい。・・・なんで和平会談を台無しに仕掛けたトカゲの要望を聞かなきゃいけないのさ。タコ殴りオンリーに決まってるじゃないか」

 

 再びトカゲ扱いしながら、レヴィアは鋭い視線をヴァーリに向ける。

 

「僕のかわいいイッセーくんに、そんなチート白龍皇ぶつけるわけないだろう? チンピラが正々堂々なんて百年早い」

 

「レヴィアさん。マジギレしてるんじゃないか?」

 

「っていうか白龍皇って確か超すごいよな? チンピラ扱いって・・・」

 

「先輩たち、いまは黙っててください」

 

 松田と元浜が後ろで少し引くほどのキレ具合だが、しかし蘭からしてみれば納得だった。

 

 自身の魔王としての影響力を常に考慮している生き方を選んだレヴィアからしてみれば、まったくそんなものを気にせずに思うがままに力をふるうヴァーリは好ましいものではないだろう。

 

 それが、お気に入りいの一人であるイッセーを狙っているとなれば相当に機嫌が悪くなるはずだ。

 

「・・・ふむ、しかしまあそれも仕方がない。あまりに残念だ」

 

「おい、お前ひどくない? 俺だって一生懸命生きてるんだよ!?」

 

 ものすごく哀れな視点で見られ思わずイッセーは大声を張り上げるが、しかしヴァーリは心底哀れんだ。

 

「先祖に何ら異能にかかわる者のいない、奇跡的に転生悪魔になっただけのただの高校生が赤龍帝。かくや、人の極致を併せ持つ魔王の末裔にして、堕天使総督の薫陶を受けた白龍皇。なんだ、この笑えるぐらいの圧倒的な差は」

 

 ヴァーリは心から嘆いていた。

 

 闘争を愛する存在として、運命の宿敵の存在は彼の心に大きな割合を示していた。

 

 それがふたを開けてみれば、あまりにも隔絶したさがありすぎる。

 

 少なくともいま戦えば決着がどうなるかなど自明の理だ。これではあまりにもドラマがない。

 

 そこで、ヴァーリは一つあることを思いついた。

 

「そうだ。ドラマチックな過去を一つ増やしてみるというのはどうだろうか?」

 

「・・・何のつもりだ、ヴァーリ」

 

 レヴィアはいつでも攻撃を放てるように準備しながら、しかし念のため聞いてみる。

 

 それが、よくなかった。

 

「・・・俺が彼の親を殺そう。俺のような頂上の存在に肉親を殺され復讐に走れば、少しは見所が増えそうに―」

 

 その言葉はそれ以上続かなかった。

 

 否、続ける余裕が全く存在しなかった。

 

 とっさに歯をかみ合わせて一撃を防ぐ。そうでなければのどから刃が突き通っていただろう。

 

「さっきから黙って聞いていれば、耳が腐るようなことばかりを言ってくれる。・・・もういい、貴様はここで死ね」

 

 刃物のごとき冷徹な敵意を秘め、織斑千冬が刃をふるう。

 

 それを見て、ヴァーリはにやりと笑うと距離をとる。

 

「面白い。怒りの感情はいい。強さに直結するからね。誰かのために戦える義憤なんてもう最高じゃないか!!」

 

 言うなり、ヴァーリは魔力弾を一斉に放つ。

 

 対IS戦術の基本に忠実な攻撃。それを魔王クラスが放てば、それこそ一瞬で勝負はつく。

 

 ・・・しかし、そんな常識など人類最強(ブリュンヒルデ)には通じない。

 

 外野ですら気づかないであろう一瞬のわずかな隙間を見つけ、その周りの魔力弾を破壊しながら、即座に間合いを詰め治す。

 

 だが、白龍皇の力の本質はそこではない。

 

「甘いぞ、織斑千冬」

 

 ヴァーリはためらうことなく腕をかざす。

 

 白龍皇を突破するというのであれば、この半減を乗り越えてからでは話にならない。

 

 セーラ・レヴィアタンがいなければ停止するほかなかった異能をろくに持たぬ身で、果たしてどうするというのか?

 

 そんな憐みと一抹の期待を胸に半減が発動し―

 

「どこを見ている?」

 

 声は、彼の右隣りで聞こえた。

 

 疑念を浮かべながら振り返るが、それは悪手。

 

 一瞬の閃光とともに、鎧が切り裂かれてヴァーリの胸から血が噴き出す。

 

 ダメージこそ軽症だが、しかしただの霊刀で神滅具の鎧を突破するなど、偉業以外の何物でもない。

 

 だが、ヴァーリに驚愕はそこにはなかった。

 

「・・・バカな、半減が発動していない!?」

 

「愚か者が、その手の手品で私を何度も止められると思うな」

 

 愚鈍な生徒を見るかのように、戦闘を繰り広げながら千冬は言葉を重ねる。

 

「どれだけ貴様の半減の力が強大であると、それはISの第三世代武装と大して変わらん。すなわち、相手を認識して初めて効果を発揮する」

 

 その会話の合間に半減を再び放とうとするが結果は同じ。

 

 一瞬で視界から消えた千冬が、再びまったく別の咆哮から攻撃を仕掛けてくる。

 

「未熟者のその手の能力の発動など、眼を見ればわかる。タイミングさえ分かればあとは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で回避して、そのまま攻撃を加えればいいだけのことだ」

 

「・・・ハハハハハ! やってくれるじゃないか織斑千冬! コカビエルを倒すだけのことはある!!」

 

 その圧倒的な戦闘センスに、ヴァーリは心から歓喜した。

 

 聞けば、織斑千冬は古流武術の経験があると聞く。その手の武術には光彩の色で相手の動きを推測する技法があると聞くが、つまりはそれなのだろう。

 

 白と白が高速で打ち合いながら、そして必殺の一撃を狙いすます。

 

 ああ、これはまた喜ばしい出来事だ。

 

 何ら異能とかかわっていないただの人間が、霊刀一つで自分と渡り合うことなど奇跡としか言いようがない。

 

 自分のような存在こそ奇跡と思ったことはあるが、しかし彼女の別の意味で奇跡のような存在だ。

 

「素晴らしいぞ織斑千冬! さあ、この勝負をもっと楽しもう!」

 

「下らん。貴様のような外道との殺し合いに歓喜するようでは、一夏に合わせる顔がない」

 

 歓喜を込めた心からのことばだったが、千冬は冷たい視線をもって切って捨てる。

 

「それに、レヴィアも行っただろう? 貴様はよってたかって集団でボコると」

 

「!?」

 

 気づけば、後ろから誰かに取りつかれていた。

 

「・・・なあ、俺の母さんも父さんも普通の人間なんだよ」

 

 怒りで声を震わせながら、赤い龍の鎧を身にまとってイッセーはヴァーリに告げる。

 

「それを、お前の勝手な都合で殺されてたまるか!!」

 

 そして、全力の左拳が叩き込まれた。




光り輝かんばかりの防御力特化型。それがレヴィア。

ホーリー編で出てきたステータスを使って例えると、王の素質とテクニックはともかくそれ以外は最下位争いをするのがレヴィアですが、しかしディフェンスのステータスがあれば他を比較にすることすらおこがましいほどの耐久力を発揮するのがレヴィア。とにかく耐久力だけは同年代で追いつけるものなどいません。普通に魔王クラスを超えています。

反面攻撃力などは間違いなく低い。とにかく武将としてではなく戦意向上のための象徴としての側面を追求したのがレヴィアの強さです。


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停止教室のヴァンパイア 9

 

 ヴァーリ・ルシファーはこの瞬間、想定以上に敵が強大であることを理解した。

 

 数か月前までただの学生でしかない兵藤一誠が、しかしここまで的確にこちらの隙を突くなどとは思いもしなかったのだから。

 

 しかも、倍加を翼にかけられた結果半減の機能が一時的にマヒするというおまけ付き。これは完全に想定外だ。

 

「しかも、これは龍殺し・・・!」

 

「ああ! ミカエルさんにもらったアスカロンだ!!」

 

 そのままさらに連続で打撃を叩き込まれ、ヴァーリの鎧は半壊する。

 

 そして、そのタイミングを逃す織斑千冬でもない。

 

「悪いが貴様は危険すぎる。・・・ここで終われ!」

 

 打撃を連続でくらい生まれた隙を容赦なく突き、千冬はヴァーリの眼前に到達した。

 

 そして何の躊躇もなく斬撃が走る。

 

 一瞬でヴァーリの両腕は切り裂かれ、そして鮮血が舞う。

 

 切り飛ばされはしなかったものの、しかしこれで当分の間腕を使うことは不可能だった。

 

 こうなればヴァーリはもはやどうすることもできず、そしてイッセーもそれを逃がさない。

 

「終わりだ、ヴァーリ!!」

 

 アスカロンの切っ先を伸ばし、そして全力で突き出す。

 

「まさか、この俺が・・・などというと思ったか?」

 

 その瞬間、莫大な魔力がカウンターで放たれる。

 

 一撃で上級悪魔すら殺しうるだけの破壊力が放たれ、しかしイッセーには届かない。

 

「・・・腕を切ったぐらいでは倒れてはくれんか」

 

「す、すいません、首が…首が」

 

 とっさにイッセーを引っ張って千冬が急速に移動することでそれは避けられた。

 

 ちなみにイッセーがGに耐えられず首を痛めているがそれはまた別の話。

 

「両腕を切りさいた程度で、魔王を倒せると思っては困るぞ、ブリュンヒルデ」

 

「これだから悪魔というのは面倒だ。腕が使えなくても戦闘が可能とか化け物だな」

 

 霊刀の切っ先を油断なく向けながら、千冬はしかし状況がややこしいことに気が付いた。

 

 すでにヴァーリはかなり距離をとっている。これでは瞬時加速を使ってもすぐに気づかれるだろう。

 

 そして半減を使われて弱体化して終わり。ISの機動力が大幅に低下すれば、千冬ではヴァーリに太刀打ちできない。

 

「両腕は使えないが十分なハンデだ。・・・さあ、こんどはどうする兵藤一誠?」

 

「んの野郎・・・っ!」

 

 イッセーは歯噛みしながら頭を回転させる。

 

 無効も相当の痛手を負ったが、しかしそれ以上に警戒心を強くしてしまった。

 

 千冬の対策は取られ、アスカロンも警戒されている。

 

 白龍皇の光翼がバグを起こしている今のうちに何とか状況を打開しなくては―

 

「・・・あ」

 

 その時、視界に白龍皇の宝玉が落ちていることに気が付いた。

 

 もし、これを取り込むことができればと考え―

 

「・・・駄目だな」

 

 レヴィアの言葉を思い出して、それを押しとどめる。

 

『ああそうだな。そんなことをすれば、間違いなくお前の寿命は縮まるぞ』

 

 ドライグの言う通りなら駄目だ。そんなことになればリアスが悲しむ。

 

 だが、ならどうするか?

 

 ・・・決まっている。

 

「誰か、助けて下さぁああああい!!」

 

 困ったときは誰かの助けを求めればいい。当たり前のことだ。

 

 そして―

 

「その言葉を待っていたよ、イッセーくん!」

 

 ―レヴィア・聖羅はそれに応えてくれる女神なのだ。悪魔だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レヴィアは最初からこの戦いを千冬とイッセーに任せるつもりなど毛頭なかった。

 

 当たり前だ。チンピラの好き勝手にさせるほど、レヴィア・聖羅は落ちぶれてはいない。

 

 だが、それにしても何らかの形で隙を突く必要があった。

 

 そして、それはつけた。

 

「一夏君まかせた!!」

 

「ああ、任せろ!!」

 

 千冬も一夏も使用しているISは同型機。

 

 日本政府試作実験機不知火は、現行技術で第一世代機を作ればどこまで行けるかをテーマに開発された技術試験機。

 

 ゆえに拡張性や多用途性では大きく劣るが、基本性能で太刀打ちできる機体は現時点で存在しない。

 

 ゆえに、その瞬時加速は超音速。

 

 そして警戒心を強めたとはいえヴァーリの意識は千冬とイッセーに向いている。

 

 その隙を突くには十分すぎた。

 

 コンマ1秒の時間すらかからず、一夏とその背中に張り付いたレヴィアはヴァーリに組み付く。

 

 直後、レヴィアは結界をヴァーリと自分を囲むように展開して拘束する。

 

「セーラ・レヴィアタン! お前はまた邪魔をするか!」

 

「チンピラの好きにさせるほど落ちぶれてはいない!!」

 

 至近距離から半減と魔力攻撃を叩き込まれるが、レヴィアは決して揺らがない。

 

『二天龍の対決を邪魔するとは無粋な!』

 

「三大勢力の戦争を邪魔したトカゲに言われたくないね」

 

 アルビオンの怒りすら適当に流し、そしてレヴィアは結界を一部だけ解除する。

 

「さあ蘭ちゃん! 思う存分ぶっ放しちゃいなさい!!」

 

「わかりました!!」

 

 すでにその方向に波乱が待機し、そして大砲を至近距離で構えている。

 

「無駄だ! その火力では俺は倒せない」

 

 すでに一度攻撃を受けているヴァーリだからこそ断言できる。

 

 五反田蘭の神器の火力は莫大だが、しかしそれにも限度がある。

 

 彼女の火力では白龍皇の鎧を貫けない。それは先ほど実証された。

 

「甘く見られたものだ。ならば覇龍(ジャガーノート・ドライブ)で結界ごと君を粉砕して―」

 

「させねえよ」

 

 ヴァーリの言葉を、イッセーの言葉が遮った。

 

 その位置は蘭の真後ろ。そしてすでにその左腕は蘭の神器へと触れていた。

 

 赤龍帝の力は倍加と譲渡。自らの力を倍加し続け、そしてその効果を他者へと譲渡する。

 

 ならば、この中でも莫大な火力の持ち主に譲渡すればどうなるか。

 

「・・・我、目覚めるは―」

 

「それは―」

 

「―遅い!!」

 

 ヴァーリの詠唱より早く、その一撃が結界ごと彼を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊の奔流の直撃をもろとも受ける形になったレヴィアだが、しかし彼女は傷だらけだが致命傷には程遠かった。

 

「さすがに、ちょっと痛いかな・・・?」

 

 激痛のあまり涙すら浮かべているが、しかしそんなもので済んでいることがどれだけ異常かなどわかりきっている。

 

 なにせ、同じく直撃を受けたヴァーリは動くことすらできずに、禁手を解除して倒れているのだから。

 

「・・・一夏くん、剣を貸してくれ」

 

「え? ・・・ああ」

 

 一夏から剣を借りたレヴィアは、ヴァーリのすぐ近くへと近づくとそのまま剣を振り上げる。

 

「悪いが君は危険すぎる。・・・これで終わりだ」

 

 そして躊躇することなく剣を振り下ろし―

 

「おぉっと。そうはいかねぇぜ?」

 

 ―その真上から現れた男の蹴りを喰らって吹き飛ばされた。

 

 何より驚愕するべきは、レヴィアにその攻撃が()()()()という事実。

 

 白龍皇の全力すら蚊に刺された程度で済ませたレヴィアの耐久力を突破した事実に、何よりレヴィアが驚愕した。

 

「・・・なんだって?」

 

「受け身ぐらいとれ!!」

 

 其のまま地面に激突しかけたレヴィアを、真っ先に我に返った千冬がかっさらうようにしてすくいあげる。

 

 そして千冬は切っ先を、新たな敵手に向けて突き付けた。

 

「・・・何者だ、貴様!」

 

 そこにいるのは、まるで中国の英雄譚からそのまま引っ張ってきたかのような姿の男。

 

 そんな冗談みたいな存在だが、しかしここは科学の粋持つ人界の戦いの場ではない。

 

 何より鉄壁のレヴィアにダメージを入れたという事実そのものが、或る意味でヴァーリを超えるほどの脅威であることを物語っていた。

 

「あ? 誰かと思えば美猴じゃねえか。お前さんも禍の団に入ったのかよ」

 

「よぉ総督殿! ま、俺っちは自由気ままに生きたいんでね」

 

「・・・あの、敵ですよね?」

 

 旧知の仲のごとく挨拶を交わすアザゼルと男に、蘭はツッコミを入れる。

 

「っていうかあいつ誰だ? レヴィアにダメージ入れるだなんてどんな化け物だよ」

 

 一夏は剣を構えながら警戒を続けるが、しかし男は千党体制をとらない。

 

 厳密にいえば警戒はしているが、積極的に戦闘を行う意志は見受けられなかった。

 

「そいつは美猴。闘戦勝仏の末裔だよ」

 

「「・・・とーせんしょーぶつ?」」

 

 きいたことがない名前に、一夏とイッセーは同時に首を傾げた。

 

「西遊記の孫悟空の仏としての名前だよ」

 

「この業界にいるなら、それ位は知っておけ一夏」

 

 レヴィアと千冬がため息をついて補足をする中、美猴はヴァーリに肩を貸して起き上がらせた。

 

「おいおいヴァーリ。お前さんがやられるとかすごいことだなぁ、オイ」

 

「まあな。赤龍帝も存外できるし、これは楽しめそうだ」

 

 ぼろぼろになりながらも、ヴァーリはとても楽しそうに笑みを浮かべる。

 

「そっか! 今度は俺っちとも戦ってくれよ赤龍帝! ま、いまは逃げるけどな」

 

 そういうなり、美候は棍を呼び出すと地面に突き立てる。

 

 次の瞬間、二人の足元に黒い闇が広がるとずぶずぶと沈んでいく。

 

「逃げる気か!」

 

「ああ、だがその前にやることがあるな」

 

 そういうと、ヴァーリは魔力を展開すると魔法陣を呼び出す。

 

「頼まれていたことを忘れていた。さあ、宣戦布告を受け取るといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まさかヴァーリを下すとは。やってくれるな、セーラ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法陣から現れるのは一人の男。

 

 オレンジ色の長い長髪を持った一人の美青年。

 

 そして、その姿を見たレヴィアは目を見開いて驚愕する。

 

「なぜ、なぜあなたがここにいる?」

 

「それは、私が人類統一同盟の一員だからだよ」

 

 驚愕するレヴィアにこともなげに答える男は、アザゼルを見ると優雅に一礼する。

 

「お初にお目にかかるアザゼル総督。私は人類統一同盟第一実験部隊ヒーローズ隊長にして技術顧問を務める、シャロッコ・ベルゼブブだ」

 

 …ここに、新たな戦いの幕開けが始まろうとしていた。

 




ヴァーリ、首の皮一枚で助かる。美候には当分頭が上がらないでしょう。

流石のレヴィアも仙術までは対応しきれなかった。レアスキルすぎるので対抗するための特訓相手にも困る類ですので仕方がないですが、其のため美候や黒歌は彼女の天敵です。









そして、ついに登場人類統一同盟の指揮官。

あと二話ぐらいで終わりますです、ハイ。


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停止教室のヴァンパイア 10

 

 そこにいる男の言葉は、全員が耳を疑うようなものだった。

 

 ベルゼブブの名を持つことはいい。今回の下手人は旧魔王派なのだから当然だ。

 

 人類統一同盟のメンバーであることはいい。そのISが襲撃してきたのだから当たり前だ。

 

 だが、それがふたつ合わさっていることは驚愕以外の何物でもない。

 

「やっぱりお前か。お前は昔から人間に興味を持っていたからな。旧魔王派の代表はお前か?」

 

「旧魔王派とは同盟を結んでいるが、しかし彼らと一緒にされるのは心外だ。私は人間とのハーフだし、何より悪魔である以前に人間だとも」

 

 シャロッコは不愉快そうにそう告げると、視線を校舎の方へとむける。

 

 そこにいるサーゼクスたちの視線が向けられていることを確認すると、彼は視線をアザゼルたちの方へと戻し、そして両手を広げた。

 

「さて、今回私がここに来たのは、貴方方にある程度事情を説明した方がいいかと判断したからだ。…聞きたいことがあるなら、私の権限の範囲内で答えよう」

 

「じゃあきこうか? …お前らどういうつもりだ?」

 

 アザゼルの質問は単刀直入だった。

 

 禍の団のメンバーとしての襲撃事件は、すなわち人類統一同盟が三大勢力に対して戦争を仕掛けてきたということと同義である。

 

 ただでさえ世界各国相手に戦争を仕掛けておきながら、これは明らかに悪手としか思えない。

 

 だが、シャロッコは何の躊躇のなく首肯した。

 

「ああ、そもそも我々の最大の敵は貴方方だ」

 

「三大勢力が敵だって? おいおい、俺たちは人間世界に深入りするつもりはないぜ?」

 

「否、そういう意味ではない」

 

 シャロッコは首を振ると、鋭い視線でアザゼルをにらみつける。

 

「我々人類統一同盟は人類の発展を妨げる物。すなわち、統一政府をつくろうともしない現国家及び、異能の力を人類に広めないあらゆる神話宗教勢力の打倒を目的としている」

 

 まっすぐな瞳でシャロッコは告げる。

 

「我々人類統一同盟は、今の人間世界を見限った者たちの集いだよ。・・・それは、地球という狭い世界で勢力争いを続ける愚かな者たちを排除し、あまねく銀河にはばたくものを目指すものだ」

 

 シャロッコは答える。

 

「宇宙開発用にISが開発されて約十年。にもかかわらずISは軍事及び競技用としてしか使用されていない。・・・実に嘆かわしいとは思わないかね」

 

「否定はしねえよ。いつの世も最先端の科学は軍事に転用されるもんだ」

 

 技術者としてアザゼルはその思想に一定の肯定を示し、しかし鋭い視線で敵意を向ける。

 

「だがな? だからこそうかつな技術公表はできない。傲慢かもしれないが、人間が本格的に異能を知れば、その欲望は大きな破壊を生み出す方向で使われる。・・・過剰な発展は急激な軋轢を生むぞ?」

 

「見解の相違だな。科学の発展に犠牲はつきものだし、生みの苦しみを否定しては進化はない。・・・我々は君たちの管理に対して反逆する」

 

 その言葉とともに、中が割れる。

 

 そこから姿を現すのは空を飛ぶ戦艦。そしてその子機と思わしき兵器の数々。

 

 戦艦は数こそ少ないが、子機と思われる兵器は百を超える数が浮かんでいる。

 

「まあ、今回はあくまで挨拶だ。だからこの祝砲をもって終わりとする。・・・生き延びて見せろ、三大勢力」

 

 シャロッコが指を鳴らすと同時、艦隊からの一斉砲撃が放たれた。

 

 それはいい。まさかそのまま帰るなどということはあり得ないのだから。

 

 だが、その破壊力が想定外すぎた。

 

 上級悪魔クラスの砲撃が少なく見積もっても百。それだけの砲撃が一斉に放たれたのだ。

 

「では、これにて失礼するよ。次は戦場で会おう」

 

 その言葉とともに、砲撃が着弾した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …緊急特別報道を開始します。

 

 本日深夜3時。日本○○、駒王町の駒王学園にて大規模な爆発事件が発生しました。

 

 その十分後に人類統一同盟が、敵対勢力の重要人物を狙った強襲作戦の一環だという犯行声明を発表。国際連合はISを使用した強襲作戦ではないかと判断して調査を進めています。

 

 しかし現時点において国家首脳陣や軍事関係者で駒王町の駒王学園にいた者はおらず、政府は御情報に惑わされたのではないかと見識を発しております。

 

 これに対して人類統一同盟は「作戦こそ失敗したが間違いなくターゲットはそこにいた。それを公表していないことこそ我々の敵が君たちであることの証明である」と発表し、あくまで成否はともかく作戦そのものに誤りはないというスタンスを崩しておりません…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってくれるな、オイ!」

 

 アザゼルは衝動的に地面をける。

 

 砲撃を受けた駒王学園は半分ほど消滅していた。

 

 敵対勢力のほとんどが撤退もしくは死亡していたタイミングであったため反応が遅れたが、しかし奇跡的に首脳陣はもちろん、若手悪魔たちは無事だった。

 

 それに対してはもはや感謝するほかなく、サーゼクスはレヴィアに対して頭を下げる。

 

「君は本当に礼を言うほかない。リアスたちをかばってくれてありがとう」

 

「お気になさらずサーゼクス様。僕にとってもリアスちゃんたちは大切な友達ですから」

 

 そう笑みを浮かべるレヴィアは、しかし全体的に力がない。

 

 攻撃がある程度ばらけていたからこそ何とかなっていたが、しかしそれでもこれだけの攻撃の防御はレヴィアにとっても大変だった。

 

 はっきり言って消耗が激しく、すぐに意識を失いそうになるが、しかし気合で耐える。

 

 なにせ、生き残っている悪魔たちの視線が集中しているのだ。せめて彼らの視界から消えてから気絶しなければ、後々不安に襲われてしまうだろう。

 

「悪い、本当に助かった」

 

「いいっていいって。眷属を助けるのも主の仕事だから」

 

 一夏にレヴィアは笑って答えるがしかしやはりぎこちない。

 

 確実に無理をしているのは誰が見ても明らかで、すぐに帰ることになった。

 

「んじゃ、皆は悪いけど後始末よろしくね。…ホントは僕も手伝いたいんだけど―」

 

「いいから休め。そんな疲労困憊で手伝われても迷惑だ」

 

 バッサリ千冬にたたき切られるが、しかし出席簿は飛んでこない。

 

 それだけ憔悴していることを見抜かれていることの証明だった。

 

「んじゃ、そろそろ帰るよ。あとはよろしくね」

 

 レヴィアはそういいながら、魔方陣を展開して転移する。

 

「…うん、こんどは守れてよかったよ」

 

 小さな、その言葉を残して。

 

「………」

 

 一夏はその言葉に少しの間とまるが、すぐに出席簿の直撃を喰らった。

 

「痛いって千冬姉! 俺にも少しぐらい休ませてくれよ」

 

「馬鹿者、レヴィアはともかく私やお前にそんな余裕はない。被害者も多いのだから急ぐぞ」

 

 そういうと、千冬は破壊された校舎の復旧に参加するべく歩き出した。

 

 それにとぼとぼとついていこうとする一夏に、最後の一言だけ残す。

 

「…まあ、最後の瞬時加速はなかなかだったな。お前も少しは成長したな」

 

 その言葉に、一夏は少しだけきょとんとすると、しかしこぶしを握り締める。

 

 ISの技量で千冬に評価されるなどそうはない。しかしブリュンヒルデにそういわれることが、どれだけ価値があるかぐらいは少しはわかる。

 

 とはいえ、それを心から喜ぶわけにもいかないのだが。

 

「あんな顔、しないでほしいんだけどな」

 

 レヴィアのあの顔は、昔のことを思い出してしまうので嫌な気分になる。

 

『ごめんなさい』

 

 あんな顔をレヴィアが浮かべるのは二度とごめんだ。

 

 守るために強くなろうとしてきた一夏にとって、もう一人の姉ともいえるレヴィアがあの顔を見せることは負け以外の何物でもない。

 

「………一夏さん」

 

 隣に並んだ蘭も、同じ思いなのか少し暗い顔をしていた。

 

「強く、なりましょう」

 

「ああ、本当にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「旧魔王の末裔に人類統一同盟。禍の団はすでに相当の戦力を保有しているようですね」

 

 一通りの処置が終わった後、ミカエルは苦い顔でそう告げる。

 

 人類統一同盟は人間世界の脅威だと今まで判断していた。

 

 うかつに人類の選んだ道に干渉するわけにはいかないとしてきたが、しかし向こうから仕掛けてきた以上話は別だ。

 

 ましてや彼らの発言が本当ならば、おそらく魔法技術などを率先して科学と組み合わせている可能性もある。

 

 そんなことになれば、ISはもちろんIS以外の兵器も中級悪魔では相手ができないような脅威になりかねない。少なくとも、技術がこれまで以上に急激に発展する。

 

 人間の欲望は力を発展させすぎる。それが異形世界の共通認識であり、それゆえに彼らは人類の裏側に存在することを基本としてきた。

 

 傲慢な考えといわれれば否定できないが、しかし不安定な世界のバランスを考慮すれば、うかつなまねができないのも事実。人類統一同盟を放っておくわけ位にはいかなかった。

 

 おそらく人類統一同盟も即座に公表するつもりはないだろうが、それでも本格的に複合運用してくることは間違いない。

 

 そのための対策をとる必要があった。

 

「カテレア・レヴィアタンにシャロッコ・ベルゼブブ。今回の首謀者は旧魔王の末裔だ。完膚なきまでにこちらの不手際だな。…すまなかったミカエル」

 

 サーゼクスは沈痛の表情で頭を下げる。

 

 その影響力から抹殺することが困難な旧魔王末裔であるが、しかしこれだけのことをしたのならば本格的に事を構えるほかない。残念だが、魔王末裔の大半には断絶してもらうことになるだろう。

 

 それらのことを考えて気が重くなっていることを察して、ミカエルは手を出して収めるようにする。

 

「いえ、バチカンの立場から人類統一同盟をけん制することはできたのです。我々にも責任はあります」

 

「だな。俺のところもヴァーリが迷惑かけて悪かった」

 

 アザゼルもまたそう告げるが、しかしその表情はわずかに暗い。

 

「アイツを抑えきれなかったことが今回の事件の根本のきっかけだ。それがなければもう少しましになったろう」

 

「仕方がないことでしょう。それに、我々が手を取り合うことができるということがどれだけ世界にとっていい影響を与えるかなど言うまでもありません」

 

 ミカエルはそう告げ、そして天使たちに顔を向ける。

 

「とはいえ、今後離反する者たちも多いでしょう。そんな彼らの受け皿となるのが禍の団ということですか」

 

「ま、それは仕方ねえだろ。長年いがみ合ってきたんだからな」

 

 アザゼルはそういうと、堕天使たちに顔を向けると声を張り上げた。

 

「俺は今後和平を選ぶ! それが納得できないなら、出ていくなり禍の団に入るなり好きにしろ。だが、敵になるなら俺は容赦なくお前らを殺すぞ! ついてきたいやつだけついてこい!!」

 

『『『『『『『『『『我らの命、アザゼルさまとともに!!』』』』』』』』』』

 

 堕天使たちが一斉に声を張り上げる中、サーゼクスもまた声を上げた。

 

「悪魔も同じだ。悪魔という種族のため、そして何よりこの世界のためにも戦争は不必要。これ以上のいがみ合いは無しにしようではないか」

 

 その声に、悪魔たちからも歓声が上がった。

 

 そんな歓声の中、イッセーはミカエルを見つけると駆け寄った。

 

「ミカエルさん! …あの、一つお願いがあるんですけど!」

 

「どうしました赤龍帝? 私にかなえられることでしたら何なりと」

 

「…悪魔が神様に祈るとダメージを受けるのは、聖書の神が作ったシステムのせいなんですよね?」

 

 イッセーはそう前置きしてから、意を決して切り出した。

 

「アーシアとゼノヴィアが祈る分だけでも、お目こぼしできないでしょうか?」

 

 その言葉に、多くの者たちが目を見開いた。

 

 むろん、アーシアとゼノヴィアも同じように驚いている。

 

「いつもアーシアとゼノヴィアはついお祈りしては頭を抱えるのがかわいそうで。…無理っすかね?」

 

「…そうですね。教会に近づかないという条件があれば、二人分ぐらいは何とかなるとは思います」

 

 そう考え込むと、ミカエルは二人に尋ねる。

 

「アーシア、ゼノヴィア。神は不在ですが、それでも祈りを捧げますか?」

 

 その問いに、二人はかしこまって姿勢を正しながらも、しかしまっすぐに答えた。

 

「はい。主がいなくても、祈りを捧げたいと思います」

 

「同じく、主への感謝とミカエル様への感謝を込めて」

 

 その言葉に、ミカエルは微笑を浮かべてうなづいた。

 

「わかりました。神に祈りをささげる悪魔が、二人ぐらいいても構わないでしょう」

 

「確かにな。これはまた面白い悪魔が出てきたもんだ」

 

「ああ、まさに和平の象徴ともいえるだろう」

 

 アザゼルとサーゼクスも笑みを浮かべ、そしてイッセーは二人に振り向くと親指を立てる。

 

「良かったな二人とも! これでこれからは祈り放題だ!!」

 

「「ああ、主よ!」」

 

 感極まり二人は両手を組むと天へと祈り―

 

「「あう!?」」

 

 …まだシステムを調整してはいないのである。

 

 

 

 



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停止教室のヴァンパイア 終

 

 

 

 

「さて、そういうわけで俺が顧問のアザゼル先生だ」

 

 と、旧校舎でアザゼルがふんぞり返っていた。

 

「…なんでいるの?」

 

 これまた遊びに来たレヴィアは、開口一番に総ツッコミを入れる。

 

「ソーナが私達を売ったのよ」

 

 リアスは額に手を当てながらため息をついた。

 

 どうやら、セラフォルーに相談するという荒業を使ってこの立場を獲得したらしい。

 

 なかなか強引な手段もあったものである。

 

「それで? いったい何が目的なんだい?」

 

 レヴィアはあきれ半分でそう尋ねる。

 

 仮にも堕天使の長がこんな勝手な行動をとるのだ。それ相応の理由というものがあるのだろう。

 

 …これまでの情報を精査する限り、そんな大した理由がなくても勝手な行動をとりかねないのが怖いところだが。

 

「簡単だよ。赤龍帝とその仲間たちの成長を促すこと。…お前ならわかるんじゃねえか? セーラ・レヴィアタン」

 

「レヴィアと呼んでくれないかな?」

 

 そう前置きしながらも、レヴィアは確かにその理由をわかっていた。

 

 人間の持つ強大な力である神滅具。

 

 今の時代において、そのうち二つが悪魔の手に渡り、しかもそれはかつて三大勢力をズタボロにした二天龍。

 

 それが、こんどは三大勢力と禍の団に分かれて存在している。

 

 そしてその仲間たちも異例の逸材ぞろい。特に木場と蘭は逸材といっていいだろう。

 

 そんな彼らを伸ばすのに、神器研究の第一人者であるアザゼルほどの適任は確かにいない。

 

「…頑張れ、蘭ちゃん」

 

「え!? 私ですか!?」

 

「待ってくれレヴィア! 蘭に手を出すっていうならただじゃ置かないからなアザゼル!」

 

 想定してなかったのか狼狽する蘭をかばう一夏に、アザゼルはやれやれといわんばかりにため息をつく。

 

「だからアザゼル先生と呼べって。…どっちにしたって、お前らは将来的な主力になるから、鍛えておくに越したことはねえだろうが」

 

 そう告げると、アザゼルは蘭を見て興味津々に目を輝かせる。

 

「神器移植は本来、莫大なリスクが伴うものだ。それなのに、複数の神器を持ちながら何のデメリットも持たない特異体質。…ある意味鳶雄以上の逸材だ。興味はでかいな

 

「い、一夏さん! 怖いんですけど!?」

 

「おい、本当に切るぞ?」

 

「アザゼル先生? からかわないでくれるかな?」

 

「いや、本気だったんだが…待て、わかったから剣をしまえ」

 

 本気で戦闘態勢をとった一夏とレヴィアにうんざりしながら、アザゼルはしかし両手を広げる。

 

「まあ、お前らは将来的な禍の団との戦いにおける抑止力という判断をされているってわけさ。だからこそ、その成長のためにはそれ相応の実力者が必要だってことだよ」

 

「すごいなこの人。自分のこと実力者って言いやがった」

 

「まあ、堕天使の総督なんてやるには実力なくちゃやってられないからねぇ」

 

 あきれる元浜にレヴィアは苦笑交じりに一応フォローを入れる。

 

 実際、それだけの素質がなければ異形社会で高位に立つのは困難なのだ。最高格ともなれば戦闘能力も相応になければやってられない。

 

「ま、俺が主にやるのは神器保有者の成長だがな。メインどころはグレモリー眷属の赤龍帝だが、神権簒奪(スナッチャー・セイクリッド)は当然指導対象だ。・・・よろしくな?」

 

「よ、よろしくお願いしますアザゼル総督」

 

 ニヤリと笑うアザゼルに嫌な予感を覚えて蘭は一夏の陰に隠れるが、アザゼルは一瞬で回り込むとその頭をくしゃりと撫でた。

 

「そんなにビビんなよ? 俺は上玉の女には優しいぜ? あとアザゼル先生な」

 

「アザゼル先生? 蘭ちゃんはすでに一夏くんのものだから手は出さないようにね?」

 

 レヴィアがしっかり牽制球を入れている間に、一夏は蘭を抱き寄せながら距離をとった。

 

 まだそういうことにはなってないとかツッコミを入れている余裕もない。というよりアザゼルの動きが全く読めなかった。

 

「アザゼル! お前なぁ」

 

「教師のことは先生と呼べ、一夏」

 

 和平前から悪魔なので警戒心強めの一夏の後頭部に、出席簿が突き立った。

 

 その音に視線を向ければ、そこにはスーツ姿の千冬がいた。

 

「…ブリュンヒルデ!? なんでここに!!」

 

「ん? まあ大したことではない」

 

 そう返した次の瞬間、千冬の背から翼が生える。

 

 ちょうどそのタイミングで外の様子を覗いたイッセーが、大きな声を上げた。

 

「……ええええええ!? 織斑千冬が、悪魔にぃいいいいい!?」

 

 その言葉に、オカ研部室からぞろぞろと出てきて視線が集まる。

 

「……いちいちじろじろ見るな。目的のためにこれが必要だと判断しただけのことだ」

 

「も、目的って?」

 

 じろりとにらまれて目力におびえながら、イッセーはとりあえずそれを訪ねる。

 

 その瞬間、千冬には絶対零度の殺意が宿った。

 

「……奴らに対する落とし前だ」

 

 その言葉に、全員があることを思い出した。

 

 織斑千冬はIS学園で教師を務めていた。そして、それはすなわちIS学園襲撃事件に彼女が巻き込まれたことを意味している。

 

 襲撃事件では少なくない数の死人が出た。それも、防衛のために出撃した教師や専用機持ちだけでなく一般生徒にもだ。

 

「だが、奴らが異形の力を使っているなら正攻法では打破できん。ゆえにレヴィアに頼んで協力してもらったのだが、奴らから宣戦布告してきたのなら好都合だ」

 

 まだ慣れていない悪魔の翼を動かしながら、千冬は真正面から尋ねたイッセーを見つめて断言する。

 

「表の方はともかく、裏の方の人類統一同盟は私が潰す。それが、IS学園教師であった私ができる最後の務めだ」

 

 その決意に、ほぼ全員が沈黙するしかなかった。

 

 この場にいるほとんどが、凄惨な争いをほぼ知らない。そんな自分たちが彼女の苦しみを理解できるとも思えなかった。

 

 だからこそ、それに対応できたのは経験者だけだ。

 

「……うん、まあなんだ」

 

 頭をぼりぼりと書きながら、アザゼルは少しの間考え込むと、千冬の頭に手をのせる。

 

「あんま、気負いすぎんなよ?」

 

「……アザゼル先生。弟が世話になるとはいえ、私はもう教職に就いたこともある大人なのですが」

 

 さすがに出席簿をたたきつけるわけにもいかず戸惑う千冬だが、アザゼルはあまり気にせずその頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「馬鹿だなお前。人間の大人なんぞ俺に比べりゃ子供も同じだ。気負いすぎてる子供見てたら、心配すんのがおとなだっつーの」

 

 そういいながらアザゼルはやれやれと手を放す。

 

 だが、その目は何というか父親のようなそれだった。

 

「もとをただせばこっちの監視が緩いのが原因なんだ。けじめはこっちでつける・・・って言っても聞かねえか」

 

「もちろんです。奴らには一矢報いねば死んでも死に切れません」

 

 その言葉に、アザゼルはやれやれといわんばかりに苦笑すると、視線をレヴィアに向ける。

 

「……ちょうどいい。実は三大勢力で自由に動ける若手の腕利き集めて攻撃型の対テロ部隊を作る予定なんだ。ミカエルのとこも俺のとこも神滅具持ちを含めて何人か送る予定なんだが……。セーラ・レヴィアタン、こいつかせよ?」

 

 それは、或る意味で至極当然のことだった。

 

 三大勢力の和平成立とほぼ同時に宣戦布告してきた人類統一同盟と禍の団。

 

 彼らに対抗するための専門部隊を作るというのは確かに理にかなっている。

 

「いや、でも神滅具持ちと肩を並べるってすごく大変じゃないんですか?」

 

 イッセーが戸惑うのも当然だが、アザゼルは何言ってんだお前とでも言いたげな顔をしてイッセーを見る。

 

「お前なぁ。神滅具持ちのヴァーリを一時は圧倒した人類最強だぜ? 戦力としちゃぁ充分だ。俺のとこが送るのも人間のチームだしな」

 

「まあ、僕が直接動くわけにもいかないからそれは良いけど…。どうです、千冬さん?」

 

「私はかまわないさ。あの化け物共を相手に、一夏や蘭を巻き込むには時期尚早だしな」

 

 千冬はそう告げると、アザゼルに対して頭を下げる。

 

「ご厚意、感謝します」

 

「おう! ま、さっきも言ったがこっちの不手際もあるしな、気にすんな!」

 

「ま、待ってくれよ千冬姉! 俺たちだって戦えないわけじゃ―」

 

 話が勝手に進んでいく中一夏は前に出るが、その顔にアザゼルの手がストップをかけた。

 

「いや。今のお前らじゃ聖槍が出てきたら勝ち目がねえ。何より、お前らが主力になるのはまだ先の話さ」

 

 アザゼルがそう告げるのも当然だ。

 

 ただでさえ莫大な寿命を持つ三大勢力側から、そう簡単に若手を出せるわけがない。

 

 どこもかしこも種の存続が危ぶまれている状態には変わりないのだから。

 

「それに本格的に戦争になるにしても、そいつはお前らが大学卒業してからになるだろうしな。ちゃんと青春してから参加しろ」

 

「同感だ。学生生活を送りたくても送れなかった者達も何人もいるんだ。好き好んで戦場に出てくるにはお前たちは未熟すぎる」

 

 教師二人にそう言われて、一夏は不満げだが一応下がった。

 

 そんな一夏の肩に、レヴィアはしなだれかかるようにしてくっついた。

 

「まあまあ一夏くん。そのフラストレーションは僕に性的にぶつけてくれれば痛い痛い痛い本気で痛い!?」

 

「レヴィア。貴様まさか一夏に手を出してないだろうな? あ?」

 

 千冬のアイアンクローがレヴィアに炸裂する中、同時に動いたのは二人。

 

「蘭、逃げるぞ!!」

 

「はい 一夏さん!!」

 

 顔を真っ赤にしながら、一夏と蘭は逃走した。

 

 沈黙が十秒間ぐらい続いてから、千冬の腕にさらに力がこもりそうになる。

 

「レヴィア、辞世の句ぐらいは聞いてやる」

 

「………夫婦丼は美味しかったけど、できれば姉弟丼も食べたかったですふぎゃぁああああああああっ!?」

 

 欲望に忠実すぎるレヴィアにとどめが刺された。

 

「こ、この女に一夏を託した私が愚かだった。アザゼル先生、監視をお願いします」

 

 心底一夏の身を案じて頭を下げる千冬だったが、アザゼルは面白そうに笑うだけだ。

 

「あ? 別にいいじゃねえか。一夏もいい年こいてんだから、女の一人や二人抱いて経験詰んだ方が将来いい思い出になるぜ?」

 

「あきらめなさい織斑千冬。神の子を見張るもの(グリゴリ)は色欲に駆られて堕ちた天使たちよ。色事に関してはどうしようもないわ」

 

 リアスが心底同情しながら千冬の肩に手を置いた。

 

 心からアザゼルたちに頭を痛めているが、しかしアザゼルとしては納得いかないのか不機嫌そうになる。

 

「眷属の男と同居してるやつに言われたくないぜ。…お、そうだった忘れてた」

 

 と、そこでアザゼルがポンと手を打つ。

 

「サーゼクスからの伝言だ。……オカルト研究部はぜひイッセーの家で共同生活を送れってよ」

 

 数秒後、大声が響き渡った。

 

「……これは、面白いことを聞いたよ」

 

 そして、レヴィアは実は止めを刺されてなどいなかった。

 



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冥界合宿のヘルキャット 1

 

「なんじゃこりゃああああああああ!?」

 

 イッセーは、朝っぱらから大声を張り上げた。

 

 それは事情を知るものからすれば当然といえば当然だが、しかしそれはそれとして近所迷惑である。

 

「朝っぱらから騒がしいよイッセーくん。もうちょっと静かにしないと」

 

 そんなイッセーに当然のごとく注意をするレヴィアだが、しかしそれが先ずおかしい。

 

「いや、なんでいるのレヴィアさん?」

 

 イッセーは心底首をかしげる。

 

 しかも、その隣には苦笑を浮かべた蘭と一夏までいるのだから不思議だ。

 

 ついでに言うと、荷物も大量におかれている。それも引っ越し業者のトラックに運ばれている。

 

「あの、リアスさんもしかして言ってないんですか?」

 

「アーシアの時もそうだったから、あり得そうだな」

 

「やっぱり直接挨拶するべきだったか。…うかつだった」

 

 三人そろって少し困った表情を浮かべるが、しかしイッセーはそれどころじゃなくしかしそれで冷静になれた。

 

「あの、俺の家が、なんかとんでもないことになってるんですけど?」

 

 視線を戻せば、そこにあるのは巨大なビル。

 

 少なく見積もっても十階建てはありそうなビルが、そこに誕生していた。

 

 そんな動揺しまくりのイッセーの両肩に、レヴィアは静かに手を置いた。

 

「落ち着いて聞いてくれ、イッセーくん」

 

「は、はい」

 

 イッセーは静かにうなづくと、レヴィアのことばをまった。

 

「一度リアスちゃんを張り倒してきなさい。人のこと言えないけどゴーイングマイウェイすぎる」

 

「いや、事情を説明してください!!」

 

 渾身のツッコミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアスちゃん。君は居候なんだからもう少しイッセーくんに説明しなさい。悪魔の常識人間の非常識!」

 

「だからって本当に殴ることないじゃない!」

 

 レヴィアの超硬度によるゲンコツで涙目になりながらのリアスの反論だが、こればっかりは仕方がない。

 

「というより、なんでイッセーくんのご両親は驚愕してないんだよ。あの人たち大物なの? それとも馬鹿なの?」

 

「あの、俺の両親ただの人間なんですけど?」

 

 あきれ果てるレヴィアにイッセーは弱弱しくツッコミを入れるが、しかし本当に弱弱しい。

 

 一夜にして普通の一軒家が巨大なビルに早変わりすればそうもなるだろう。

 

「っていうか、これ明らかに敷地面積がおかしいよな? ほかの家の人はどうなったんだ?」

 

「大丈夫ですわよ一夏君♪ ちゃんと同等以上の家を紹介しましたし、諸経費はこちらで持っておりますもの」

 

「朱乃先輩! 離れてください! そこは私の位置です!!」

 

 さらりと女の戦いまで勃発している。

 

「まあ、簡単に言うとね? …面白そうだから観戦しに来たよ!」

 

「レヴィアさんが一番ひどい!!」

 

 ものすごい本音が漏れてきた。

 

「だって! この家で同居すれば可愛い可愛いオカルト研究部の女の子たちのムフフな裸が見まくれるじゃないか!! イッセー君だけずるいよ!?」

 

「そっちが本音ですね!? た、確かに気持ちはよくわかりますけど!!」

 

 なるほど確かに、一緒に女子が住んでいればそういうことはできるかもしれない。

 

 こと風呂場はかなり大きく作られており、一人で使うようなサイズでないことは明白だ。おそらく高確率で女子たちは共同で使うことになるだろう。そうなれば当然裸も見放題だ。

 

「頼むイッセー。レヴィアの性欲を発散させてくれ! 俺はもう襲われたくない!!」

 

「お願いしますイッセー先輩! 私も一夏さんにだけ体を許したいんです!! …レヴィアさん上手だからつい流されて…っ」

 

 なんか一夏と蘭に涙ながらに懇願までされた。

 

「え? じゃあもしかして俺と織斑がレヴィアさんを挟んでサンドイッチとか蘭ちゃんとレヴィアさんの主従丼とか―」

 

「切るぞ?」

 

「撃ちますよ?」

 

「すいませんでした!!」

 

 欲望が漏れたことで速攻で土下座を行う羽目になったが、これはイッセーの自業自得である。

 

「そういえば、松田と元浜は?」

 

「ああ、あの二人は普通に実家で暮らしてるだろ? さすがに転校するわけでもないのにそれは無理があるって」

 

 いわれてみればそれもそうかと、イッセーはすぐに納得する。

 

「っていうか、そっちこそ木場とギャスパーはどうしたんだよ? あの二人は眷属なんだから一緒にいる方が当然なんじゃないか?」

 

「そうなんだよなぁ。なぜかサーゼクス様は女子眷属としか言わなかったし、なんでだろ?」

 

 イッセーは一夏と二人して首をひねるが、それを見て蘭は頭痛を抑えるのに苦労していた。

 

 おそらく、サーゼクスはこの流れを予期していたのだろう。

 

 レヴィアが面白半分欲望半分で参加し、それに一夏と蘭も入ることを想定していたのだ。

 

 つまり大絶賛現在進行形で二つのハーレムが生まれようとしている。むろん一夏とイッセーである。間違ってもレヴィアではない。

 

 しかもこの流れからして、おそらくサーゼクスは小猫すら巻き込もうとしている。

 

 どちらの男にくっつくかはわからないが、しかし少し下世話な気がしてきた。

 

「あの人、なんでトラブルメーカー何だろう?」

 

「根っこが軽いからだと思う、蘭」

 

 年少組は同時にため息をつくほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、そろそろ実家に帰る時だよね、リアスちゃん」

 

「ええ、一緒に行く?」

 

 と、レヴィアとリアスは会話を日常会話に戻して話を進めていた。

 

 すでに木場たち男子組も戻ってきたうえでのことだったが、それゆえに大騒ぎに発展する。

 

「う、うそだ! 部長とレヴィアさんが帰るだなんて!?」

 

「お、俺たちを置いていくんですか二人とも!?」

 

「落ち着け、イッセーに松田! たぶん夏休みの里帰りとかそんなのだ!! ですよね!?」

 

「え、そうだけど?」

 

 三馬鹿が暴走しているのに、さすがのレヴィアも戸惑ってしまうが仕方がない。

 

 魅惑のおっぱいをもつリアスと、皆のエッチなお姉さんであるレヴィアが同時に冥界に帰るなどと驚愕以外の何物でもなかった。

 

「いや、僕が夏休みに実家戻るのは、風紀委員関係者なら知ってるよね?」

 

「そんなの吹き飛ぶぐらいショックなんですよ!!」

 

 松田の叫びがまさにすべてを物語っている。

 

 そんなもん吹っ飛ばすぐらい、衝撃だったのだ。

 

「うぅ…っ。部長が、部長のおっぱいがもう触れないのかと思うと涙が出てきて止まらなかった……!」

 

「もう。私があなたと離れるわけないでしょう? これから千年単位で一生一緒にいるんだから」

 

 涙を流すイッセーを抱きしめながら、リアスがぽんぽんと慰める。

 

「一応言っとくけど、主が冥界に帰る以上眷属もついていくからね? と、言うわけで松田君と元浜君も一緒についていくこと」

 

「そういえば一年ぶりだな、冥界行くのは」

 

「そうですね。お兄たちにお土産買っておかないと」

 

 さすがに慣れているのか、レヴィア達はすでに予定を調整しているようだった。

 

「生きているのに冥界に行くなんて緊張します! し、死んだつもりで行きます!」

 

「アーシア先輩、落ち着いてください、意味が分かりません」

 

「冥界には興味があったけど、天国に行くために手に仕えていたはずなんだがな・・・。ふ、天罰を与えてきた者たちと同じところに行くとは皮肉だな。ふふふふ」

 

「ゼノヴィア先輩も落ち着いてください。意味不明ですから」

 

 教会コンビに即座にツッコミを入れていく蘭に、小猫がそっと羊羹を差し出した。

 

「…楽ができてうれしい。頑張って」

 

「いや手伝って、小猫」

 

 下級生は下級生でいろいろとあるようだ。

 

 と、そういうわけでそろそろ声をかけようとアザゼルは面白がった。

 

「ついでに言うと俺も行くぜ」

 

『え!?』

 

 全員が慌てて振り返ると、そこでようやくアザゼルの存在に気が付いたらしい。

 

「アザゼル? あなた、どこから入ってきたの?」

 

「ん? 普通に玄関からだぜ?」

 

 平然とアザゼルが答えるが、しかしその答えに全員が唖然とする。

 

「気配すら気づきませんでした」

 

「そりゃぁ修行不足だな。俺は普通に来ただけだぜ?」

 

「達人は状態ですら気配を消すというけど、やっぱりアザゼル先生も達人なんだな」

 

「この程度、ちゃんと修行してりゃ誰でも気づけるっての」

 

 木場と一夏の驚きにあきれながら、アザゼルはにやりと笑う。

 

「ま、俺も三大勢力の会議とかいろいろあるが、お前らが修行するってんなら当然それについていくぜ。なにせ俺は先生だからな」

 

 そういいながら、アザゼルはメモ帳を取り出した。

 

「冥界での予定はリアスとレヴィアの里帰りと、現当主に眷属悪魔の紹介。あと、若手悪魔同士で会合があるんだって?」

 

 メモ帳読み上げながらのアザゼルの言葉に、リアスはうなづいて肯定する。

 

「ええ。お兄様の提案で次世代の冥界を担い若手悪魔たちの間で会合が開かれることになったのよ。私とレヴィアも当然参加するし、上役の貴族たちも挨拶に来るのよ」

 

「ぶっちゃけめんどくさい。会いたくないのが一人いるけど、あいつも絶対参加するんだろうなぁ」

 

 うへぇと顔に書いてレヴィアがため息をつく。

 

「そんなに会いたくないんですか?」

 

「主義主張が僕の正反対なんだよ。アイツは絶対一波乱起こすのが目に見えてるから面倒なんだよなぁ」

 

 イッセーに答えながら、レヴィアは心底いやそうな表情を浮かべて答える。

 

「名前はネバン・アスモデウス。僕とは別件で亡命してきた正当な魔王末裔の一人だよ。…アイツ、権力遣いまくって土地開発とか教育事業とか進めてるから苦手なんだよなぁ」

 

「それって、別に悪いことじゃなくね?」

 

 松田が首をかしげるが、しかしレヴィアは首を振った。

 

「正当な魔王末裔の影響力をフルに生かして民を扇動しているようなものだよ。これじゃあ下級悪魔の盲目的な忠誠心はいつまでたっても治らない。だから僕は意見を出したりしないようにしているのに…」

 

「…ま、それはそれで問題あると思うけどな。お前は何もしなさすぎだろ」

 

 アザゼルは少し辛辣な感想を返すが、レヴィアの意見は揺るがない。

 

「いい加減魔王の呪縛から解き放たれるべきなんだよ冥界は。いずれ、襲名される四大魔王の名前もなくなるべきだとは思うんだけど…」

 

「そいつは難しいだろ。実際上級と下級の間には、戦闘能力で天と地ほどの差があることが多いしな」

 

 アザゼルの言うとおりだ。

 

 悪魔という種族は、血統による能力の差が大きい種族だ。

 

 そんな種族で血統主義をなくすことなど困難だろう。むしろ、完全になくせば逆に混乱を生み出しかねない。

 

 だが、戦闘能力の差は別に政治力とは何の関係もないのだ。

 

 程度はともかくある程度垣根を減らす必要はあるのに、冥界は戦闘能力が政治的ステータスに大きく影響している。

 

 いつか、それが何らかの形で致命傷にならなければいいのだが……。

 

 レヴィアは冥界の未来を憂いて、再びため息をついた。

 




活動報告に一つ付け加えました。

……割と重要なことなので、できればぜひ一言お願いします!









それから、オリジナル要素が少しずつ入ってきていますが、このヘルキャット編でもすっごいのが出てきます。

こっから三大勢力は、こと冥界はハードモードに突入することになるでしょう。少なくとも、そう簡単に決着がつくような事態にはならないとだけ言っておきます。

原作第五章のような展開にはならないといっておきます。ある意味俺たちの戦いはこれからだエンドに近い感覚になると思います。


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冥界合宿のヘルキャット 2

ついにオリジナルキャラクターもさらに増えます。

さあ、こっから三大勢力は、ひいてはあらゆる神話体系がハードモードだ!!


 

 そして、そんなこんなで冥界に戻ってきたレヴィア一行。

 

 湖でバカンスをしたりするなど、眷属はバカンスを満喫していたが、しかしそれだけでは済まないのが世の中だ。

 

「―ついに、この日が来てしまったか」

 

 心底いやそうな顔で、レヴィアはため息をついた。

 

「あの、レヴィアさん? そんなにいやなんですか?」

 

「そうなんですよ元浜先輩。レヴィアさん、自分の権力を誇示するのがすごく嫌らしくて」

 

 蘭が元浜に説明するぐらい、レヴィアは心底いやそうな顔をしていた。

 

「僕がレヴィアタンだからって理由だけで持ち上げてくる血統オンリー至高の貴族が何人いると思ってるんだい? そうでない人たちも持ち上げてくるし、割とめんどいとは思ってるよ」

 

「いや、レヴィアだって慈善事業をいくつもやってるんだから褒められたって当然だろ」

 

 一夏はそういうが、しかしレヴィアとしてはあまり喜べない。

 

「勝手に集まってくる金を処分するのも理由の一つだからね。何より古い貴族の当主にとって、下民なんて奴隷に毛が生えたようなもんだよ? 「レヴィア様は不思議なことにお金を使いますな」とか言われたら不機嫌にもなるさ」

 

「うっわぁ。なんかいろいろ腐ってんな。リアス先輩のお兄さんとかどうにかしてくれないのかよ」

 

 松田がそう感想を漏らすが、しかしそう簡単に行く話ではない。

 

「サーゼクスさまたちって、年齢だと若手だから発言力が思ったより高くないんです。・・・スキャンダルでも起きれば話は変わりますけど、そうなるとそれはそれで面倒ごとが起きるそうで」

 

「政治的空白期ってやつだな。人類統一同盟と戦争するかもって時にそんなことはできるわけないか」

 

 蘭の説明に元浜はうなづいた。

 

 じっさい、割といろんな神話体系と緊張状態である今の冥界にそんな余裕はないだろう。

 

 ましてやつい最近まで、三大勢力の戦争は続いていたのだ。そんな隙を見せている余裕はかけらもない。

 

「悪魔は寿命が長いし、入れ替わるのにあと数千年はかかるんだよねぇ。・・・かといって僕が大声を出して民衆を動かしたって、それは民衆の意見が反映されているとはいいがたいし」

 

 魔王レヴィアタンのお言葉に従って動いただけでは、それは結局今の状況と何ら変わりがない。

 

 民衆の意志なき民衆の革命など、何の意味もない笑い話。他神話勢力から失笑を買うだけだろう。

 

「ま、そういうわけだから上が何か言っても我慢してね? 特に一夏君はもめ事起こしたらお尻開発するから」

 

「・・・ひっ!?」

 

 思わず後ろをかばいながら後ずさる一夏に、いたずら小僧のような笑みを見せてから、レヴィアは扉を開け―

 

「・・・この下品な男が!」

 

「おっと! 処女くさい女は短気でいけねえな!」

 

 流れ魔力が顔面に直撃した。

 

「……なんでゼファードルがここにいるんだよ」

 

 攻撃とはまったく別の理由で頭が痛くなったレヴィアは、視線を隣に向ける。

 

 そこに、優雅なたたずまいでお茶を飲む少年がいた。

 

「これはこれはセーラさま。僕を覚えていますか?」

 

「たしかディオドラくんだっけ? ……この状況は一体なんなんだい?」

 

 レヴィアは最低限のあいさつをしながら状況を尋ねる。

 

 ディオドラと呼ばれた悪魔は、肩をすくめて二人の争いを見た。

 

「ゼファードルがシーグヴァイラに挑発したんですよ。処女臭いとか下品なことをね」

 

「……はあ。こういう小競り合いもまた良しとしてる上は度し難いよ」

 

 レヴィアは割って入るかどうか真剣に考えるが、しかしそれより早く動くものがいた。

 

「大公アガレスの娘、シーグヴァイラ。グラシャラボラスの凶児ゼファードル」

 

 そこにいたのは一人の筋骨隆々な男。

 

 紫の瞳を持った男が、二人を前に拳を鳴らしながら強い気を放っていた。

 

「いきなりだがこれは最後通告だ。……双方ともに矛を収めろ」

 

 その気配にシーグヴァイラは気圧されるが、逆にゼファードルは詰め寄った。

 

「ああ? バアル家の無能ごときが―」

 

 そして、その顔面に拳が叩き込まれた。

 

 其のまま吹っ飛ばされたゼファードルは、壁を突き破ってその向こうへと消える。

 

「最後通告だといったはずだぞ」

 

 とくに気合を入れたわけでもなくそう答えるサイラオーグに、一夏は目を見開いた。

 

「……強い」

 

「まあ、彼が若手悪魔のナンバーワンとすら言われてるしね。ヴァーリ・ルシファーが相手でもいい勝負するんじゃないかな?」

 

 レヴィアはそう答えながら、ゼファードルの眷属をけん制するサイラオーグに近づいた。

 

「やあサイラオーグくん。久しぶり!」

 

「レヴィアじゃないか。お前も元気そうだな」

 

 特にかしこまることなく軽く挨拶するサイラオーグに、レヴィアは笑みをより明るくする。

 

「君はそういうタイプでうれしいよ。……お、リアスちゃんもいるじゃないか」

 

「数日ぶりね、レヴィア」

 

 リアスも笑顔を浮かべながら二人に近づき、そしてあきれた顔で周りを見渡す。

 

「本当に、いきなりこれじゃあ波乱万丈じゃない」

 

 心底あきれた声だったが、その声に返答したのは、サイラオーグでもレヴィアでもなかった。

 

「……良いことではないか。若者たちの喧嘩など、いい青春だろうに」

 

 そんな古風な口調を放ったのは、一人の少女だった。

 

 仮面をつけた悪魔たちを従えるのは、黒髪の幼女とも思える少女だった。

 

 その姿を認めて、レヴィアは心底いやそうな顔をする。

 

「やあ、ネバン・アスモデウス。……相変わらず偉そうだね」

 

「久しいなセーラ・レヴィアタン。……相変わらず何もせん小娘だな」

 

 二人は火花を散らす中、しかし決して先に手を出そうとはしない。

 

「……あの、部長? あの人は一体誰なんですか?」

 

 イッセーが恐る恐る尋ねると、リアスはため息をつきながらそれにこたえる。

 

「あの方はネバン・アスモデウス様。レヴィアとは別口でこちらに鞍替えしたアスモデウスの末裔の1人よ」

 

 リアスもわずかに気圧される中、レヴィアとネバンは静かににらみ合った。

 

 ……非常に緊迫した空気の中、ついに会合が始まろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、仮にも上役たちが目の前にいるという状況下だったため、そこまで問題は起こっていない。

 

「今日はよく集まってくれた。次世代を担う若者たちの顔を改めて確認するために集まってもらったのだよ」

 

「まあ、早速やってくれたようですがね」

 

「かまわないでしょう。衝突の一つや二つもなしに関係を構築できるとは思いませんしな」

 

 貴族たちはそう告げ、そして話を進めていく。

 

 そして貴族たちの長い話が終わるころを見計らって、サーゼクスが笑みを浮かべた。

 

「……それはともかくとして、いま前に出た8人はいずれも家柄、実力ともに申し分ない次世代の代表だ。だからこそ、君たちには経験を積んで切磋琢磨してほしいと思っている」

 

「その経験というのは、いずれ我々も禍の団《カオス・ブリゲート》との戦に投入されると考えてよろしいでしょうか?」

 

 むしろそれを望んでいるかのごとき声色だったが、サーゼクスは静かに首を横に振った。

 

「それはわからない。だが、私個人としてはそれは避けたいというのが本音だ」

 

「なぜです? 若いとはいえ、我らは悪魔の上に立ち守る上級悪魔の一端を担っております。この年まで先人の方々からのご厚意を受けながら、何もしないというのは両親に反します」

 

「同感ですな」

 

 サイラオーグの不満の声に、ネバンもまた同意の声を上げる。

 

「我らは未熟とはいえ、それでも凡俗の悪魔をしのぐ実力をすでに持っております。その我らが先頭に立たずして、どうして民がついていくというのですか」

 

 二人の意見はある意味で正論だったが、しかしサーゼクスは諭すように言葉を続ける。

 

「サイラオーグ、そしてネバン。勇気は認めるがそれは無謀だ。何より、成長途中の君たちを戦場で失う未来を迎えさせたくないのだよ。君たちは、君たちが想像しているより尊い冥界の宝なのだ。ゆえに段階を踏んだ成長をしていってほしいのだよ」

 

「……わかりました」

 

「それが魔王様の御意向ならば、ここは引きましょう」

 

 二人はその言葉に引き下がるが、しかし納得できていないことは明白だった。

 

「何より、いまは和平によってできた繋がりを重要視するというのが冥界の方針だ。三大勢力の和平をきっかけとして、ほかの神話勢力とも和議を結ぶことで禍の団との戦いのための準備をしたい。……特に、ISコアに秘められた秘密を解き明かさねば人類統一同盟に対抗できないというのが我々の推論でもある」

 

「……お言葉ですが、ISはそれほどの脅威なのですか?」

 

 ディオドラがサーゼクスにそう尋ねる。

 

 当然といえば当然だ。ISはそこまで脅威になりえないというのが現異形世界の共通認識である。

 

 じっさい、ISの携行火器の火力で中級以上の悪魔を屠ることは困難だ。そして上級クラスの存在の数はISを歯牙にもかけないほどの数が存在する。そのうえそこから上の戦闘能力は天井知らずに上昇していくのだ。

 

 その前情報からすればその判断は当然であり、しかしそれはまた過去の話でもあった。

 

「否。優れた実力者が聖剣を保有するなどした場合、ISの戦闘能力は三大勢力の最上級すら妥当する。……皮肉にも、コカビエルの一件がそれを証明しているのだよ」

 

「さすがにあれは千冬さんが強すぎるだけですので。あの人条件がそろえば生身でIS足止めできる人ですので」

 

 ブリュンヒルデクラスの使い手は滅多にいないとレヴィアが一応言葉を告げるが、しかし理論上可能であることが証明されただけで十分すぎる。

 

 なにせ、人類統一同盟は幹部に魔王の末裔がいる。

 

 彼の協力があれば、相応の装備を集めることも可能だろう。そこを警戒すればこの警戒も当然である。

 

「あのようなロボットといえないものにそれほどの脅威になる可能性があるだなんて……」

 

 シーグヴァイラがなぜか嘆きながらそう漏らすが、しかしそれが現実だ。

 

 ましてや、アザゼルが知る束の反応から推測すれば、ISコアにはかなり特殊な秘密が秘められている可能性すらある。もしそうだとするならば、これまでとは人間社会とのかかわり方を変えることすら考えるべきなのだ。

 

「そのような非常に政治的に困難な状況で、その未来を担う君たちを消費させることは本意ではないのだ。どうかそれを理解してほしい」

 

 サーゼクスはそういって笑みを浮かべると、そして言葉をつづけた。

 

「では最後に、君たちの夢や目標を聞かせてもらえるかな?」

 

 その言葉に真っ先に答えたのはサイラオーグだった。

 

「魔王になることが、俺の夢です」

 

 ためらいなく答えるその姿に、上役たちも嘆息を漏らす。

 

「大王家から魔王が出るなど前代未聞だな」

 

「民が必要と感じれば、そうなるでしょう」

 

 若手悪魔ナンバーワンにして大王家の第一位継承者としての自負がこもったその言葉は、どことなく説得力を感じさせる。

 

「私の夢は、冥界をよりよくするための慈善事業を発展させることです」

 

 続けて放たれるレヴィアの言葉に、上役たちはどうにも微妙な表情を浮かべる。

 

 たかが下級悪魔にそこまでしてやる必要があるのか? という感想が見え見えだった。

 

 だが、レヴィアは全く意に介さない。

 

「民は王族の宝。その宝を手入れするのは魔王レヴィアタンの末裔として義務だとすら考えております。否、貴族のたしなみといってもいいでしょう」

 

 暗に今の上役たちを非難する言葉すら告げるが、上役たちはあえて反論はしない。

 

 その対応に失望すらしながら、レヴィアは後ろに下がった。

 

 ちらりと後ろに視線を向けながらレヴィアは苦笑を浮かべると、一夏と蘭は同情の視線を向けた。

 

「私は、グレモリー家の次期当主として、ゲームのタイトルを複数確保することを目指します」

 

 リアスの言葉には強い決心があり、そしてリアスの眷属たちはその決意に感化されてか気合を入れなおしているのがすぐにわかった。

 

 そして、リアスに続いてソーナもまた一歩前に踏み出した。

 

「……私の夢は、正しい意味で誰もが通えるレーティングゲームの学び舎を作ることです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場において大半のものが察知できていなかったことだった。

 

 この言葉ではなく、この言葉からくる波乱が冥界の混乱を助長する幕開けになってしまうということを。

 




ネバン・アスモデウスはシャロッコに並ぶ本作のキーキャラクターの一人になります。

……四大魔王の末裔って、設定としてすごいからすごい書きやすいんですよ。ルシファーだけヴァーリとリゼヴィムの二人が出るってずるいもんね!!


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冥界合宿のヘルキャット 3 -真なる悪魔は我らにあり

はい、ハードモードの理由が遂に登場します!!


「ソーナ・シトリー。それはさすがにどうかと思いますな」

 

 上役の1人がそう告げ、周りの上役たちの何割かが失笑を浮かべる。

 

 それが現実。ソーナ・シトリーの夢がいかに困難であるかの証明だった。

 

 身分に関係なく参加することができるというのが、レーティングゲームの大義名分の一つ。

 

 だが、実際は全く違う。

 

 参加できる下級悪魔や中級悪魔はあくまで上級悪魔の眷属となったもののみ。これは話が違うだろう。

 

 だからこそ、ソーナ・シトリーはそれを正したいと思い夢として掲げた。

 

 だが、それをそんな現実を作っている上役たちが認めるわけがないのだ。

 

 だが―

 

「……素晴らしい。その夢、我が真なるアスモデウスが認めよう」

 

 ―思わぬところから賛同の言葉が放たれた。

 

 ネバン・アスモデウスが拍手しながら肯定の言葉を継げたのだ。

 

「―ネバン様! お戯れはよしてください!!」

 

「―これは上級悪魔のたしなみを否定する暴挙ですぞ!?」

 

 上役たちの何人かは慌ててたしなめる声を上げるが、しかしそれをネバンはひと睨みで一蹴した。

 

「黙れ、落伍者ごときが」

 

「……なっ!?」

 

 非公式とはいえ上役たちが勢ぞろいしている状況下で、若手が放っていい言葉ではない。

 

 だが、上役たちは絶句して反論ができずにいた。

 

「良い機会だから余の夢も語ろう。……冥界に運ぶる腐敗の一層。上級悪魔の価値なき者たちの失墜こそが世の望みである」

 

 ネバンは堂々とその言葉を告げると、更に続けていく。

 

「その銘にふさわしい素質を持たぬ癖に、力を得るための貪欲さすら持たぬ悪魔の名にふさわしくない愚物が今の冥界には蔓延しすぎている。見限った旧魔王派と同様の失態を犯している屑は冥界の癌だ。いずれ我が眷属と同士の手によってうち滅ぼさんと決意している」

 

「……待ちたまえネバン。それはさすがに過激すぎるのではないか?」

 

 さすがに見かねたサーゼクスが言葉を継げるが、しかし返答として蔑みの視線が返される。

 

「そのような甘い対応をとっているからこそ、血統の腐敗がなされるのです。あなたほどの力があれば、塵屑どもをすべて滅ぼすなど造作もないことでしょう。……まあ、あれを増やさない腰抜けには無理ではあるのでしょうが」

 

 口調こそ丁寧だったが、その実内容は徹底的な罵倒だった。

 

 しかも恐るべきことにその言葉に賛同するものすら現れはじめる。

 

「確かに、実力と精神が釣り合ってないものが多すぎるのは今の冥界の欠点ですな」

 

「同意です。和平が結ばれたのであるならば、戦争が始まる前に改革を行うのも必要かもしれませんぞ?」

 

 明らかにネバンが動くのに合わせての支援砲撃だ。

 

 サーゼクスは内心で臍をかんだ。

 

 ……間違いない。ネバンは最初から自分の夢を語ると同時に、同士達をたきつけて宣戦布告をしに来たのだ。

 

「力を持たぬ人間たちが数の上で最大派閥になり核という脅威を手にしたのだって、教育という研磨を誰もができるようにしたという点に尽きる。……ソーナ・シトリーの夢の実現は、より強い冥界のために必要不可欠でしょう」

 

 そう断言すると、ネバンはソーナに視線を向けて微笑を浮かべる。

 

「ソーナ・シトリー。真なるアスモデウスの権力をすべて使ってでも、余は貴殿を支持しようではないか。新たなる冥界を担うものを見つけ出すための場、共に創りたいと願っている」

 

「……そ、それは―」

 

 自分の発言が思わぬ展開を生んだことに気づき、ソーナは思わずたじろいだ。

 

 そこに、とっさに匙が割って入る。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいネバン様! あのソーナ会長の夢はあくまで―」

 

 だが、匙の言葉は最後まで続かなかった。

 

「黙れ、まがい物」

 

 冷徹に、心から蔑みの視線を込めてネバンは一蹴する。

 

「な……っ!」

 

「いいか? 貴様ら他種族からの転生悪魔は、しょせん悪魔の力を手にしただけのまがい物にすぎん。例えていうなら勲功爵だ。……その程度で魔王の末裔に跪きもしないで声をかけようなど不敬の極みだ。……次は首をはねるぞ!」

 

「―ネバン! あなたさすがにいい加減にしなさい!!」

 

 さすがに黙っていられなくなったのか、リアスは声を荒げる。

 

「転生悪魔も私たちと同じ悪魔! それをまがい物だなんてどういうつもり!?」

 

「寝言は寝て言えリアス・グレモリー! そのような発想もまた腐敗の温床であることがなぜわからん!!」

 

 ネバンもまた声を荒げてそれを否定する。

 

「自らの種族の誇りも忘れ、特性を得ただけで悪魔になったなどと驕るまがい物などに未来を預けて、それが悪魔の未来を輝かせることになぜつながる!! これは種族差別ではない、民族自決の問題だ!!」

 

 履き捨てるように告げると、再びネバンの視線は上役たちに向けられる。

 

「まがい物に頼り、挙句の果てに上級を超える最上級のくらいすら与えてすり寄って、そんなことで悪魔の勢力が強くなったところで悪魔という種族が正しい意味で強くなるとは限らないだろうに! 真に必要なのは真なる悪魔の強化であろう!!」

 

「た、確かにそうですな」

 

「我々純血たる悪魔が悪魔の先頭に立つ価値を示さねば、意味がないでしょう」

 

「そ、その通りだ! 薄汚い寄生虫扱いされては、我々純血悪魔の名誉は地に堕ちるではないか!」

 

 サクラとしての意見もあるのだろうが、上役たちの間に波紋が広がっていく。

 

「……いい加減にしないかネバン!」

 

 サーゼクスは立ち上がると、怒りの表情すら浮かべてネバンを叱責する。

 

「転生悪魔もまた冥界の宝! 悪魔の未来を担う大事な者たちだ! それを愚弄することは私が許さん」

 

「……そのような発想を前提としている貴方もまた愚弄の対象だといっている!!」

 

 その言葉は、ネバンから放たれたものではなかった。

 

 上役たちの1人、まだ若い部類のものが立ち上がると、堂々と非難したのだ。

 

「……はあ。あくまで非難は私がするといったはずだが?」

 

「申し訳ありません、ネバン様。しかしいまだ己の愚かさに気が付いていないこの男に我慢の限界が来た次第で」

 

 ネバンに対して頭を下げるその上役に、サーゼクスは自分の予想が当たっていたことを察する。

 

「……すでに相当の人員が取り込まれているとみていいのだな、ネバン」

 

「ああ、まがい物を主要な立場につけようなどという、誇りを忘れた貴方にも、それに対抗するための力を身に着けることすらしない怠惰な大王派にも見切りをつけた者は多いのだよ」

 

 堂々と、ネバンはここにきて口にした。

 

「いわば我らは真悪魔派。真なる悪魔の権利を守るべく立ち上がった新たな派閥と覚えてもらおう」

 

 最早何一つ隠すことなく、ネバンははっきりと宣戦を布告した。

 

「幸い、三大勢力の同盟の件もある。開戦前の火中の栗は天界と堕天使どもに拾わせればいい。ああ、和平とは実にいいことをしてくれたなサーゼクス・ルシファー」

 

「……和平を結んだ盟友に、危ない橋を渡らせるつもりかね?」

 

 サーゼクスのその言葉に、ネバンは嘲笑すら浮かべる。

 

「まさか、本当に心から友好を結ぶ勢力が存在すると? 笑顔で握手をする裏で、ナイフを背に回した腕に握り締めるのが外交の基本だろう?」

 

 だからお前はダメなのだと、ネバンは暗に罵倒する。

 

「古今東西、友好的な勢力は存在しても本当の意味で友達の勢力など存在しない。利潤もなしにリスクを背負うなど馬鹿のすることだ」

 

「仕方がないでしょうネバン様。サーゼクス・ルシファーは甘い男です。天界の危機となればその身を削ってでも無報酬で助けに行くことでしょう」

 

「まったく困ったものです。お友達を助けるのに冥界そのものまで動かそうなどと国家首脳として失格ですな」

 

「貴様、魔王様の崇高たる志がわからないというのか……っ!」

 

「まて! 真なる大王の血統を無視して、さっきから勝手に話を進めるなよ!?」

 

 魔王派と大王派の上役もまた立ち上がり声を荒げる。

 

 一触即発。そんな状況に若手たちもまた戦闘態勢を取らざるを得ないが、そこに一つの声が響いた。

 

「……はいはい。全員クールダウンしなさい」

 

 ため息をつきながら、レヴィアは一歩前に出ると、ネバンを静かににらみつける。

 

「ネバン。君はつまりこういいたいんだね? ……耄碌したジジイや腑抜けた甘ちゃんなんかに悪魔は任せられないと」

 

「ああそうだ。ならば真なる魔王の血を引く余が動くほかあるまい? お前と違って王族として民を牽引する覚悟が余にはあるのだ」

 

「牽引? 扇動の間違いだろう?」

 

 お互いに敵意を全開にしながらにらみ合うが、しかしそこに割って入る人がいた。

 

「……マスターネバン。切れというなら切るが?」

 

「待てホグニ。さすがに派閥が違うとはいえ同じ勢力が殺し合うのはさすがにまだまずい」

 

 その眷属の姿に、サーゼクスは懐疑的な表情を浮かべる。

 

「君は、元人間だな?」

 

「いかにも。マスターネバンの騎士、ホグニというものだ」

 

 肯定の言葉に、場に疑念の空気が生まれる。

 

「あらん? でもネバンちゃんは転生悪魔の権威はく奪を謳ってるのよ? それでいいの?」

 

 セラフォルーの疑問が全員の代弁だ。

 

 ネバン・アスモデウスは他種族からの転生悪魔を徹底的にこき下ろしていた。

 

 自種族の誇りを捨てたまがい物。そんなものに貴族たち以上の権威を与えるなど馬鹿げていると。

 

 そんな彼女の元に他種族からの転生悪魔がいるというのは、いささか不思議な気がしたのだ。

 

 だが、ホグニはそれに対して鼻で笑う。

 

「馬鹿馬鹿しい。他国の民族に国籍を与えたからといって、政治の要職につける人間の国などほとんどない。むしろマスターの言うことは全面的に正しいだろうに」

 

 堂々とネバンの言葉を全肯定するホグニに、その場にいる者たちは押し黙る。

 

「お、オイ待てよ! お前、それでいいのかよ!?」

 

「む? 少なくとも日本人はそういう政治体制だろう? それとも貴様は、北朝鮮の人間が内閣の大臣に任命されたとして反感を抱かないか?」

 

 イッセーが思わず声を上げるが、しかしその返答に口をつぐむ。

 

 確かに言われてみればその通りだ。

 

 自国の内閣総理大臣を他国からの移民が務めるだなんて聞いたことがない。まず間違いなく誰も投票しない。

 

「マスターの言うことに賛同する転生悪魔も多いのさ。何より、勲功爵といっただろう? 権威をすべてなくすわけではない」

 

「有用なものを飼殺すのも力を確保するためには必要だからな。……転生悪魔はその時点で中級悪魔にするぐらいはしてもいいと思っている」

 

 ネバンからの思わぬ意見にどよめきが起こるが、しかしネバンはそれを鼻で笑う。

 

「自ら眷属に取り入れた者に権力の一つも与えぬようではそれこそ恥だろう? ……もっとも、悪魔の血を持たぬまがい物にそれ以上の権威を与える気はさらさらないがな」

 

 ある程度の線引きをしっかりとしてしたその言葉に、真悪魔派の者たちは言葉を続ける。

 

「正論ですな。こちらが引き入れた以上相応の待遇は与えるべきだが、まがい物を貴族にしてやる義理もありませぬ」

 

「全ては力だけで選ばれた愚か者に政治を任せたことが原因です。これからは真に政治の素質ある悪魔を育て上げて政をさせねばなりますまい」

 

「そのためにも、下民の中にある素質を発掘することは必要不可欠。ソーナ嬢、期待してますぞ」

 

「左様。真に力ある上級悪魔なら、同じ修練を積めば下級より優れた成果を出せるはずなのだから、気にすることはかけらもないでしょうに。頑張りなされソーナ殿」

 

 次々と投げかける言葉に、ソーナはしかし喜べない。

 

 ネバンたちの言うことは、真に力ある純血悪魔が悪魔を率いるべきという、或る意味では正論の一つだ。

 

 だが、その言葉の裏には一つの裏の意味がある。

 

 ……弱者は弱者らしく強者に従え。その裏の意味を察してしまえば、ソーナは素直にうなづけない。

 

 だが、ネバンは笑みを浮かべると堂々と言い切った。

 

「まあ、戦線布告としてはこれで十分。……では改めて、余の夢を本当の意味で告げるとしよう」

 

 その場を見渡して、ネバンは悠然と告げる。

 

 そこにいるのは紛れもなく魔王の末裔。真に力のある魔王の末裔がそこにいた。

 

「この悪魔の腐肉をすべてそぎ落とし、真に素晴らしき悪魔の社会を構築する。……そのための礎となることこそが、余の望みである」

 




前から思っていたことがあるのですよ。

……冥界の政治派閥、小物が多すぎね?

いや、敵は基本小物がD×Dの基本なのはわかるんですけど、毎回毎回小物かポット出ばかりだとちょっと飽きるというか……。

そういうわけで、大物化はともかく小物ではない敵を何とかして出そうというのが自分の基本理念です。ネバンにはその辺を担当してもらいたいと思っております。

とはいえこの作品はアンチ・ヘイトではないので、あくまで正義はレヴィア達側にあります。その辺を譲るつもりはかけらもありませんですよハイ。


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冥界合宿のヘルキャット 4 特訓開始、そして強くなれ

ハードモードである以上、当然強くならねばならないわけで―


 

「大変だな、お前ら」

 

 夜、グレモリーの城でアザゼルはそう感想を告げた。

 

「いや、そんな簡単に言わないでくださいよ!」

 

 もちろんイッセーはそう突っ込むしかない。

 

 なにせ、悪魔になって半年もたってないのに政争のど真ん中に放り込まれたのだ。

 

 しかも上級悪魔になってハーレム王になることが夢のイッセーにとって、転生悪魔の権利に改革を行うと言い切ったネバンの発言は寝耳に水だ。

 

 彼女の政策が実現すれば、少なくともイッセーがハーレムを築く可能性は大きく下がる。

 

 だからこそ、イッセーは声を張り上げた。

 

「どうにかなんないんですか、アザゼル先生!!」

 

「そうですよ先生!!」

 

「俺たちのハーレムが台無しに、台無しに!!」

 

 松田と元浜も大声を張り上げるが、しかしアザゼルはいやそうな顔をした。

 

「無茶言うなよ。他勢力の政治にそこまで首突っ込めるわけねえだろうが。……ま、俺たち堕天使の首脳陣はコカビエルが抜けて一枚岩だがな」

 

「「「クッソうらやましい!!」」」

 

 三人同時に大声を張り上げた。

 

 確かにそれはうらやましい。

 

「ま、俺らのところも中堅どころは怪しい輩が何人かいるからな。天界も、悪魔祓いの連中が不満を募らせてるっていうしいろいろ大変ではある」

 

「そうなんですか?」

 

 リアスのフォローのためにレヴィアが城までついてきたため当然ついてきている一夏もそう聞く。

 

「これから戦争が起きるかもしれないってのに、なんでそんなことしてるんだろうな」

 

「そんなもんだよ。ま、ネバンの奴は馬鹿じゃねえから最低限の足並みはそろえてくれるだろうさ」

 

 アザゼルはそういいながら酒を飲むが、しかしかなり気になる展開ではある。

 

 展開ではあるのだが―

 

「あら、蘭ちゃんは胸が大きくなったのかしら?」

 

「あ、朱乃さん!? つかまないでください!」

 

「あらあら、同じ男を愛する者同士仲良くしましょう? それに揉んだら大きくなるっていいますし、一夏くんも喜びますわよ」

 

「一夏さんは胸の大きさでひいきするような男じゃないで―ひゃうん!?」

 

 展開だが―

 

「アーシア。今私たちは良いことを聞いた。リアス部長に負けない大きさになるためにも揉み合おうではないか」

 

「ゼノヴィアさん? あの、できれば私はイッセーさんに・・・あん!」

 

「リアスちゃん! こうなれば僕たちも同じようにもみ合いたいと思わないへぶぁ!?」

 

「貴女は別の目的が見え見えなのよ!」

 

 ―いや、さいごは別にいい。

 

 とりあえず集中している余裕がないのである。

 

「「「「「………」」」」」

 

 木場と一夏は雑念を飛ばすように体を洗い始めるが、しかしイッセーたち三馬鹿は透視を会得せんといわんばかりの勢いで男湯と女湯を隔たる壁を見据えていた。

 

 そして、そこにアザゼルがニヤニヤしながら近づいていく。

 

「ところで三人とも、お前ら胸をもんだことはあるか?」

 

「はい! レヴィアさんとリアス部長やアーシアの胸をもみっと!!」

 

「お前なんで三人も!? お、俺だってレヴィアさんのちっぱいぐらいなら!!」

 

「お、俺もレヴィアさんだけですが……」

 

 イッセーに対して嫉妬の視線が集まるが、しかしそれはともかく話は進む。

 

 ちなみに一夏は蘭の胸も揉んだことはあるがそれは別の話。

 

「じゃあ、女の乳首をつついたことは?」

 

「……その発想はなかった!?」

 

 なぜかなどという必要は全くないが、レヴィアの愕然とした声が響いた。

 

「レヴィアの反応だとこりゃなさそうだな。お前ら乳首はポチっとつつくんじゃなくてズムっとつつくんだぞ? 胸が指に埋没していく様は圧巻だぜ?」

 

「……レヴィアさんの胸はそこまで沈みません」

 

「……リアス先輩の胸は沈むだろうな。見てみたいな、ホント」

 

 松田と元浜は沈み込むが、しかし論点はそこではない。

 

「ち、乳首は玄関のブザーじゃないですよ!」

 

「いや、あれはある意味ブザーだ。押すとなるんだよ、いやーんって」

 

「……蘭ちゃん、ぽグヘァ!?」

 

「押させませんよ!! 松田先輩と元浜先輩で満足してください!! それに千冬さんの方があるでしょう!?」

 

「すでに三十回挑んで全部切り捨てられたよ!!」

 

「じゃああきらめてください!!」

 

 女湯でどんどん漫才が繰り広げられているが、しかし誰も気にしない。

 

 そんなもん話をした時点で想定の範囲内なのがレヴィアクオリティなのである。

 

「っていうかイッセー。そもそも覗きをする時点でまだまだ二流だ」

 

「なんですって!? じゃあ一流だとどんな領域に!?」

 

 そんな言葉に愕然とするイッセーの肩を、アザゼルはつかんだ。

 

「こうだ。男なら混浴だぞイッセー!!」

 

 そしてイッセーはアザゼルに分投げられ―

 

「来ないでくださぁああああい!!!」

 

「ぎゃぁああああああああああ!!」

 

 壁を乗り越えるより先に、それごと撃ち抜いた蘭の砲撃で吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一夜明け、レヴィア達もまたアザゼルの指導を受けることになる。

 

「さて、それじゃあまずは誰からきく?」

 

「あ、じゃあ僕からは要望を一つ」

 

 真っ先にレヴィアは名乗りを上げる。

 

「防戦特化型でお願いします!!」

 

「お前、徹底してるなぁ」

 

 一周回って関心する類のあきれを見せたアザゼルだが、想定の範囲内なのかすぐに表情を改める。

 

「お前は確かに頑丈だ。根本的に戦闘での役目を鼓舞のための象徴として割り切っているがゆえにシンプルで隙が無い。生存能力ならすでに魔王どころか半端な神すら超えるだろう」

 

 割とべた褒めだが、しかしアザゼルは首を振る。

 

「だが、あそこまでヴァーリを怒らせた以上それだけでは無理だ。次戦うときは覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使ってくるだろうから、お前でもやばい」

 

「む、確かに主神クラスの力を出されたらさすがに厳しいね」

 

 レヴィアもさすがにそこまでおごり高ぶってはいないのか苦い顔をする。

 

「だから、俺が興味本位の実験用に作った過負荷空間に放り込んだうえで、和平で鬱憤がたまっている堕天使の集中攻撃を受けてもらう。やばそうになったら監視役に止めさせるが、少しずつ伸ばして頑丈さを伸ばしていけ」

 

 普通なら顔が青くなりそうな訓練内容だった。少なくとも、はたから聞いているイッセー達は顔が青くなっている。

 

 だがレヴィアは動じない。それどころか笑みすら浮かべていた。

 

 マゾなわけでは決してない。それを乗り越えられるという自信が生み出す笑みだった。

 

「了解。それで一夏くんたちは?」

 

「ああ、続けていくぞ」

 

 そして、アザゼルは視線を松田と元浜に向ける。

 

「お前らは手放しで絶賛してやる」

 

『え?』

 

 想定外の誉め言葉に、二人はもちろん全員驚いた。

 

 はっきり言ってこの場の中で一番戦術的価値の低い二人だが、しかしアザゼルは心の底から褒めていた。

 

「神器もなく、異能の関係者でもなく、しかも経験も浅いくせにここまで戦えれば褒めるしかねえよ。お前らはグレモリーの兵士たちに一から戦闘訓練を受ければいい。それだけできっと伸びるだろうさ」

 

 おざなりではなく心底本気でそう言ってから、続いてアザゼルは蘭に視線を向ける。

 

 その顔は少し上気しているが、しかしそれは性的興奮ではない。

 

「さあ、お前は実に興味の対象だ」

 

「え? は、はい・・・」

 

 変態を投入されかけた恨みもあるためいろいろと警戒してる蘭だが、しかしアザゼルは素直に評価する。

 

「普通そういうのにはデメリットがいくつもあるんだが、特に性質が近いわけでもない神器三つを適合させるとはやるじゃねえか。…よし、お前は始原の人間(アダム・ササピエンス)を徹底的に鍛えさせてやる。グリゴリの研究所行だ」

 

「……あの、調子が悪くなってきたんで帰っても」

 

「安心しろ。織斑にも来てもらう予定だからよ」

 

「頑張ります!」

 

 乙女心巧みに操る交渉センスは、下手な悪魔より悪魔らしかった。

 

 そして、一夏は一夏で警戒しながら話を聞く。

 

「単刀直入に言おう。レヴィアの眷属で一番普通なのはお前だ」

 

 ……その言葉に、一夏は黙って受け止めた。

 

「戦闘技術は年齢とは不釣り合いなぐらいに習得している。センスもいい。神器も強力な部類だ。……それだけだ」

 

 そう、それだけだ。

 

 幼少期から古流戦闘術を学び、そして相性のいい神器を保有している一夏は、間違いなく年齢不相応の強さを持っている。ライザーと渡り合える下級悪魔などそうはいないだろう。

 

 だが、裏を返せば特筆すべき強さを発揮しているわけではない。

 

 神器を移植して完全に適合する蘭や、ハーレム作りたさに急激に戦闘能力をのばしてきた松田や元浜に比べれは、その戦闘能力の成長速度は驚くに値するものではない。

 

「普通に強い。言葉にすれば誉め言葉だが、しかしそれだけだ。普通の強さの範疇内で、これからこいつらについていくのは困難だろう」

 

「わかってます。……だから、お願いします」

 

 一夏は真剣に頭を下げる。

 

 古い価値観だの時代錯誤だの言われているのは承知の上だ。

 

 それでも、一夏は男として女である蘭やレヴィアを守りたい。少なくとも守られるだけなのは死んでもごめんだ。

 

「俺を、強くしてください」

 

「ああ、だからとりあえず用意してある。……お前の場合は神器の強化だな」

 

「今のままでも織斑の神器は強力ですよね? ただの剣が木場の魔剣創造よりの頑丈になるってすごいことじゃ?」

 

 イッセーは素直にそうほめるが、アザゼルは静かに首を振った。

 

「それだけじゃあこれからの戦いにはついていけそうにない。……剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)は能力の拡張性が非常に大きい」

 

 そう告げると、アザゼルはにやりと笑った。

 

「だが、グリゴリの施設で研究しながら強化していくぞ。ついでに武闘派連中見繕ってやるから、そいつらのうっぷん晴らしにも付き合ってやってくれ」

 

 その後、アザゼルはグレモリー眷属の強化の方へお話を勧めた。

 

 中には朱乃や小猫に嫌っている力を使えなどというなかなかきつい話が出てきたが、しかし強くなるという観点においては間違ったことは何一つ言っていない。

 

 そして、最後にイッセーの番になった。

 

「さて、それではイッセーの番だが……来たな」

 

 そういいながらアザゼルが外に目を向けると、イッセーは目を見開いた。

 

 そこには、巨大なドラゴンが飛んできていた。

 

 ……五大龍王と呼ばれる存在がいる。

 

 これは、邪龍と二天龍を除いた強大なドラゴンのことだが、もともとは六大龍王だった。

 

 聖書にしるされしドラゴンが、転生悪魔となったことで除名されたからだ。

 

 それが目の前にいるドラゴン、タンニーンだった。

 

「まったく、堕天使の総督がグレモリーの領内で好き勝手とは、どんな時代だ」

 

「いい時代だろ? ……つーわけで、お前の師匠はこいつだぜ、イッセー」

 

「え、え、ええええええ!?」

 

 なんでも、ドラゴンの特訓とは常に実戦形式らしい。

 

 とにかく禁手に至るための体づくりを行い、そして可能ならば禁手に至ることがイッセーの命題だった。

 

「頑張れイッセー君。もし禁手になれたらご褒美を考え痛い痛い痛い痛いよリアスちゃん!」

 

「人の眷属の貞操を何だと思っているのかしら? これ以上、イッセーを貴方色に染め上げたりなんてしないんだからね!」

 

 途中で漫才が発生したが、結局イッセーは連れ去られていった。

 

 どなどなどーなどーなーという音楽が聞こえてきそうだったが、まあ死なないだろうとは思うので皆気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日、それぞれの人たちは努力を重ねてきた。

 

 あるものは、独自の発想でさらなる修練を重ね、或る者は愚直に言われたことを突き詰めようとし、またある者は受け入れることができずに独自に動いていた。

 

 

 そしてそんな中、レヴィアは山道を走っていた。

 

 飛んだ方が早いが、トレーニングを行う必要もあるので走って特訓もした方がいいと判断したのだ。

 

 息を切らして汗を流しながら走る中、レヴィアは目的地に到着する。

 

 そこは、端的に言って地獄だった。いや冥界は地獄の別称だが。

 

「ぎゃぁああああああああああ!?」

 

「どうした? その程度では白龍皇と戦ったら死ぬぞ?」

 

「いや、あんな奴と一人で戦うわけないからぁああああ!!」

 

 悲鳴を上げながら巨大なドラゴンに追いかけまわされるイッセーの姿に、レヴィアは軽くめまいがした。

 

 さすがのレヴィアもダメージを受ける、最上級悪魔タンニーンの火球。

 

 いくら手加減されているとはいえ、そんなものを連発されている状況下でよく生きていると感心すらしてくる。

 

 今時ハードトレーニングなど逆効果といわれているのに、ハード通り越してヘルといわんばかりの過酷さに、憐みを覚えて涙を浮かべ始めていた。

 

「うう、イッセーくん頑張れ」

 

「いや、助けてください!!」

 

 思わずイッセーはツッコミを入れた。

 

「む? 誰かと思えばレヴィア姫か」

 

「やあ、タンニーン。数日ぶりだね」

 

 そういうと、レヴィアは担いできた荷物を掲げた。

 

 魔力を最大限に生かしたとはいえ、ちょっとしたドラム缶ぐらいある荷物は、簡単だった。

 

「ご飯にしよう。差し入れだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまい! マジでうまい!!」

 

 涙を流しながらガツガツとサンドイッチをほおばるイッセーに、レヴィアはニコニコしながらお茶を飲む。

 

「うんうん。こう美味しく食べてくれると作った身としてもうれしいよ」

 

「レヴィア姫は料理もできたのか。人に創らせている印象があったのだが」

 

「まあ、駒王町ではあまり使用人を連れてきたくないしね。一夏くんも蘭ちゃんも料理できるから、自然と簡単な料理ぐらいは」

 

「ドラゴンサイズのサンドイッチを作るのは簡単とは言わんだろうに」

 

 そう世間話をしながら、タンニーンとレヴィアはイッセーを見る。

 

「それで、どんな感じなんだい?」

 

「特訓、という意味では順調だ。てっきり数日で逃げ出すかと思ったが存外に粘る」

 

「根性が取り柄なところがあるからねぇ」

 

 好きな弟分を褒められて、レヴィアはニコニコ笑顔になるが、すぐに真顔になる。

 

「でも、禁手の方はダメと?」

 

「ああ。まあ、禁手というものは難易度が高いものだ。アザゼルも今夏中はダメでもともとだと考えていただろう」

 

 その通りだ。

 

 神器に関して規格外の素質を持っている蘭ですら、禁手にはいまだ到達していない。

 

 それほどまでの高難易度技能が禁手。神器の究極系。

 

 それを対数か月前まで異形の存在も戦いも知らなかったイッセーに求めるのは、確かに問題だった。

 

「とはいえ、それができないことには白龍皇と戦うのは無理なんだよねぇ」

 

 千冬は初戦で圧倒したが、しかしそれもヴァーリがISの能力をなめてかかっていたことが大きい。

 

 単純な戦闘能力ならほぼ同等といっていいが、半減がネックになるため次の戦闘では苦戦は免れないだろう。

 

 それに対抗するためには味方の戦力を強化する必要があり、対存在である赤龍帝の強化は必要不可欠だった。

 

「なんかすいません。俺が弱っちいせいで」

 

「仕方がないよイッセーくん。年季が違いすぎるしね」

 

「確かにな。しかし覇龍を制御までできるというのは厄介だ。そもそも発動できるようになるのがどっちが先かで二天龍対決は決着してきたようなものだからな」

 

 三人そろって重苦しい溜息をついた。

 

「それで、レヴィアさんはどうしてこんなところに?」

 

「だから差し入れ。体力付けるついでに大事な君の様子を見に来たんだよ。まあ、あともう一つ用事があるんだけどね」

 

 そう苦笑すると、レヴィアは懐から一枚の手紙を取り出した。

 

「……イッセーくん。君は割と上流階級の方々に気に入られているようだ。礼儀作法のトレーニングもしろとお達しだよ」

 

 この地獄の訓練から逃れられることを喜ぶべきか、それとも戦闘とは別の意味で難しい訓練がやってきたと嘆くべきか。イッセーは心底悩んだ。

 

 



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冥界合宿のヘルキャット 5

 

「……なあ、レヴィア」

 

 トレーニングを終えてシャワーで汗を流しながら、一夏はレヴィアに聞きたいことがあった。

 

「なんだい、一夏くん」

 

「……自分の真の力って、そんなにこだわらなきゃいけないものなのか?」

 

 レヴィアの目に映る一夏の目は真剣で、レヴィアはいつもより少し真面目になることを決める。

 

「それは朱乃ちゃんのことかい? それとも―」

 

「小猫もだよ」

 

 一夏はそう告げる。

 

「そう。誰から聞いたんだい?」

 

「イッセーに相談された。アイツは俺が知ってるもんだと思ってたらしい」

 

 なるほど、とレヴィアは納得する。

 

 塔城小猫は妖猫である。

 

 元々は親を失い姉と一緒に過ごしていた妖怪だったが、優れた素質を持つ姉に価値を見出した悪魔の手によって、拾われることとなる。

 

 だが、姉はその後暴走した。

 

 ごく一部の妖怪などといった、一握りの存在だけが使える仙術。

 

 それを使えるものは非常に強大であるが、同時に周囲の気を取り込むため、使い方を誤ると悪性に堕ちる。

 

 小猫の姉は、まさにそのたぐいだった。

 

 彼女は主を殺して逃亡し、今やSS級のはぐれ悪魔だ。

 

「そういう意味だと、小猫ちゃんも立派にグレモリー眷属してるんだよね。……リアスちゃんに拾われるその時に、不幸じゃなかった子なんて一人もいない」

 

「確かに、イッセー先輩も結構ひどいですよね……」

 

 念願の彼女ができたと思ったら、それが暗殺のための刺客だったなどというのはかなり不幸だろう。

 

 そして、それがましな部類であるということにグレモリー眷属の業がある。

 

「とはいえアザゼル先生の言うことにも一理ある。この世で最も成功する確率があるのは勤勉な天才。努力だけでも才能だけでも簡単に成功を許すほど、世の中は甘くできていないしね」

 

 非常に優れた才があり、それが求める方向性と一致しているのなら、それを使わないのは愚行というほかない。

 

 今後の激戦を考慮するのであるならば、小猫は間違いなく妖怪としての特性を考慮するべきだ。

 

 そうしなけれな、高確率で天才ぞろいのグレモリー眷属で取り残されるだろう。

 

 だが、一夏の考えは違ったようだ。

 

「……俺は、今更剣の才能がないからほかの道を進めって言われても多分受け入れない」

 

 ぽつりと一夏はそういうと、自分の両手を見つめだす。

 

「だって俺は自分の道をもう決めてる。其れなのによそから違う道を強制されてそっちに進んだって、心が納得するわけない。そんな曇った力で勝てるわけがないだろう?」

 

「なるほど、一理あるね」

 

 レヴィアはそう告げるが、しかし静かに寂しげにほほ笑む。

 

「だけど、どちらにしても姉に関するわだかまりはどこかで解消するべきだ。そうしなければ、きっとこの先転げ落ちる」

 

 おそらく、自分たちは禍の団に目をつけられている。

 

 少なくともヴァーリはイッセーにもレヴィアにも千冬にも興味を持っている。そして彼は自分のチームを持っている。

 

 禍の団との戦いが本格的に始まれば、間違いなくヴァーリたちとはかかわることになるだろう。

 

 彼らに対抗するためにも、若手悪魔程度の戦闘能力でいるわけにはいかなかった。

 

「まあ、今はそんなことを忘れてパーティを楽しもうか。……僕はあいさつ回りで苦労しそうだけどねぇ」

 

 そういうと、レヴィアは軽くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 若手悪魔たちを祝うパーティというのは建前で、実際のところは大人たちが楽しむためのパーティだ。

 

 すでにメインゲストのはずのレヴィア達が来る前から出来上がっているのがその証拠。まあそれでも、レヴィアなどはあいさつ回りに忙殺されているわけだが。

 

「……すごいよなぁ、ここ」

 

「ですよねぇ」

 

 その非常に豪華な光景に、一夏も蘭も圧倒される。

 

 レヴィアは本来こういう世界で暮らすことが当たり前なのだと思うと、少し同情してしまうほどだ。

 

 割と庶民臭いレヴィアには、こういう光景はあまりに合わない。

 

「ふむ、一夏も蘭もこういうのは慣れてないのか。まあ私もだが」

 

 はむはむと食事を食べながらのゼノヴィアの言葉に、少し緊張が解けた。

 

しかしそれにしても大きなイベントであり、その高貴な姿にイッセーは少し気圧される。

 

「でもこれすごいよなぁ。俺たちも上級悪魔になったら積極的に参加しなきゃいけないのかぁ」

 

「ぼ、ぼぼぼ僕には縁のない話ですので安心ですぅ。……ああ、意識が遠く……」

 

「ギャスパーくん、しっかりして」

 

 対人恐怖症気味のギャスパーは意識を遠のかせ、木場に支えられる体たらくだ。

 

 そんな光景の中、一夏はふと視線を周りに向ける。

 

 ―そこに、走り出す小猫の姿が映った。

 

「……まずいな、あれは」

 

 なんとなく嫌な予感がして、一夏は立ち上がるとすぐに追いかける。

 

 そして、そこにイッセーが並んで走っていた。

 

「小猫ちゃんは俺たちの仲間だしな」

 

「いうと思ったよ」

 

 そういい合いながらすぐにエレベーターを確認すると、すでに小猫が乗ったと思われるエレベーターは一階に向けて降りていた。

 

 すぐに追いかけようとエレベーターを押せば、さらに近づいた影が一つ。

 

「どうしたの、イッセー?」

 

「部長? なんで、こんなところに?」

 

「貴方のことはいつでも見てるもの」

 

 へえ、眷属のことが心配なんだぁ、と一夏は納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一階まで下りた三人は、使い魔ですぐに小猫の場所を確認すると追いかける。

 

「でもなんで小猫ちゃんは急に降りたんだ?」

 

「そういえばそうだな。なんでだ?」

 

「………一つ、心当たりがあるわ」

 

 首をかしげる二人に対して、リアスは懸念の表情を浮かべると考え込む。

 

「小猫のことについては、二人とも知ってる?」

 

「ああ、すいません。織斑に言っちゃいました」

 

「そういうわけで知ってます」

 

 二人がうなづいたのを見て、リアスはすぐに話を続ける。

 

「小猫の姉である黒歌は、僧侶《ビショップ》として非常に優れていたわ。その中には、使い魔の扱いも含まれているわ」

 

 その言葉を聞いて、二人は嫌な予感がした。

 

 そして、リアスはその予感を形に変える。

 

「たぶん、あのパーティ会場にその使い魔がいたんだと思うわ」

 

「マジかよ!?」

 

 一夏はそれを聞いてペースを早くする。

 

 そうだとするならば、小猫はSSランク級のはぐれ悪魔の元に一人で向かったことになる。

 

 それを放っておけるわけがなかった。

 

 そして、幸か不幸か小猫の姿を発見した。

 

「待ちなさい織斑くん! まずは様子を―」

 

「小猫!!」

 

 リアスの静止を振り切って、一夏はすぐに飛びだした。

 

 考えなしといえば言うといい。それでも、仲間が危機かもしれない状況下でこっそり様子を覗き見るなんて男らしくない真似はごめんだった。

 

「……織斑先輩っ?」

 

「探したぞ! 何を見つけたのかはなんとなくわかってるけど、とにかく一人で動くなって」

 

 一夏は油断なく警戒しながら、周りを確認する。

 

 残念なことに気配は感じないが、しかしなんとなく嫌な予感はする。

 

「……へぇ~。姉と妹の感動の再会を邪魔するなんて、なかなか面倒なやつにゃん」

 

 そして、黒い女性が現れた。

 

 着物を着崩した女は、木の上で器用に寝ころびながら小猫を見据える。

 

「はぁい白音。元気だったようでお姉ちゃんはうれしいにゃん♪」

 

「姉様、なぜここに?」

 

 剣のある表情で尋ねる小猫に、黒歌は笑顔のまま軽く答える。

 

「簡単よ。暇してたら悪魔の会合が開かれるって聞いたから、ちょっと覗き見に来たの」

 

「そんな理由で来るだなんて、はぐれ悪魔ってのは暇なんだな」

 

 一夏は剣を構えながら、油断なく周囲を警戒しながら黒歌をにらむ。

 

 目の前の女の行動で小猫がひどい目にあっていることを知っているからこその警戒だが、しかし黒歌は平然としていた。

 

「ええ暇なの。だからついヴァーリに誘われて彼のチームに所属することになったにゃん」

 

 その言葉に、警戒心が一気に跳ね上がった。

 

 あのチンピラの顔を思い出すたびに、怒りがこみ上げる。

 

 ただ、自分がより強い敵と戦いたいという理由だけで、何の罪のない人間を二人も殺そうとする悪鬼外道。なんであんな男をなんだかんだで面倒見がいいアザゼルが見逃していたんかわからないほど敵意が沸く。

 

 レヴィアや現四大魔王はもちろんのこと、仮にも王になろうとしたカテレアの方がまだましではないだろうかとすら思うのだが、黒歌にしてみればヴァーリの方が好みということだろう。

 

「……そんなにあのチンピラがいいのかよ。男の趣味悪いな、アンタ」

 

「あら、ヴァーリはヴァーリで面白い奴よ。少なくとも、アンタみたいな朴念仁よりかは一緒にいて楽しいわね」

 

 静かに敵意をぶつけながら、二人は攻撃のタイミングを見計らう。

 

 そして、その状況がさらに変化した。

 

「おいおい黒歌。そんなところで何してるんだ?」

 

「……美猴!」

 

 これは面倒なことになったと、一夏は警戒心をさらに強める。

 

 そんな中、美猴と黒歌は自然体で、会話を始めた。

 

「どうしたのよ。もうそんな時間?」

 

「ああ、シャロッコがそろそろ動くっていうし、この辺で帰った方が面倒がなくていいぜい?」

 

「それなら白音は連れていくにゃん? 私の妹なら才能もあるし、オーフィスも納得するんじゃないかしら?」

 

「いやいや、さすがにグレモリーの眷属を連れて行くのは、シャルバあたりがうるさいんじゃねーの?」

 

「だったらそこにいる赤龍帝の首も持ってけばいいにゃん。それなら向こうも黙るでしょう?」

 

「……ふざけるなよ」

 

 何の問題もない、といわんばかりの言葉に、一夏は怒気すら込めてにらみつける。

 

「同感ね。さっきから黙ってみていれば、そんなことを許すと思ってるの?」

 

「……あら心外ね。私は姉なんだから当然の権利だと思うけれど?」

 

 リアスの怒気にも動じず、黒歌は余裕の表情すら浮かべてそう告げる。

 

 そして、その黒歌の顔に、一夏は剣の切っ先を突き付ける。

 

「黙ってろ。お前は小猫の家族でも何でもない」

 

「……は?」

 

 一夏は小猫をかばうように前に立ち、冷たい視線を黒歌へとむけた。

 

「血がつながっていれば家族だって? ふざけるな。お前は血はつながっているかもしれないけど、小猫の家族でも何でもない!」

 

「言ってくれるわね。だったらあんたが家族になるっていうの?」

 

「いうまでもないわね」

 

 そう言って、リアスは小猫を抱きしめる。

 

「この子は私の眷属、塔城小猫。あなたが与えなかった幸せは、私がこの子に与えてあげるわ。……貴方なんかには渡さない!!」

 

「ああ、なんだかわからないが俺も邪魔するぜ!!」

 

 イッセーもまた、赤龍帝の籠手を呼び出しながら黒歌をにらみつける。

 

「小猫ちゃんは俺たちの仲間だ! それを無理やり連れてこうってんなら、俺が、俺たちが許さない!!」

 

「一夏さん、リアス部長、イッセー先輩……っ」

 

 自分をかばう三人の姿を目に焼き付け、子猫は目に涙を浮かべる。

 

「私は、私は塔城小猫ですっ! 私は、リアス部長たちと一緒にいます!!」

 

「ああ、わかった!!」

 

 その言葉とともに、一夏は黒歌たちへと切りかかった。

 



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冥界合宿のヘルキャット 6

 

「あれ? 一夏君たちはどこ行ったの?」

 

 パーティ会場で、レヴィアは一夏を探していたが見つからなかった。

 

 そろそろイベントの一つとして、アースガルズの主神であるオーディンがゲストとして招かれる頃だ。

 

 レヴィアも魔王末裔の一人としてあいさつをする可能性があり、その時眷属がそろってなければ恰好がつかない。

 

 なので一夏たちと合流しようとしたのだが、一夏の姿を見つけることができず困り顔だった。

 

「それが目を離した隙にどこか行っちゃったんです。どこかで女性とフラグを立ててなければいいんですけど」

 

 蘭もため息をついて困り顔だったが、しかしこればかりはどうにもならない。

 

 もはや生理現象としてフラグを立てるあの男のフラグメーキングを止めるのは、二人にとっても難易度の高い所業だった。

 

「それで、どうするんですかレヴィアさん。千冬さんは任務中だから言い訳立ちますけど、織斑の方はやばくありませんか」

 

 元浜の懸念ももっともだが、しかしこれはどうしようもない。

 

「うーん。なぜか念話もつながらないし、これはこっそり抜け出して逃げるしかないかな?」

 

「いや、レヴィアさんそれはどうですか?」

 

 松田にツッコミを入れられるほどの発言をしているが、しかし時はすでに遅かった。

 

『皆様! 北欧の主神であるオーディン様が、やってまいりました!』

 

 その言葉に、多くの者たちの視線が一斉に集まった。

 

「うわっちゃぁ……」

 

 レヴィアは思わず額に手を当てる中、すぐにでも会場は熱気に包まれる。

 

 とにかくすぐにでも逃げなければと思いながら、レヴィアはこっそりと一歩一歩後ろに下がる中、サーゼクスがオーディンを迎える。

 

「御足労、ありがとうございますオーディン様」

 

「ふぉっふぉっふぉ。聖書の教えの餓鬼どもが、仲良しごっこをすると聞けば、少しは見てみたいと思うものでな」

 

 そんな挑発まがいのことをあっさりと告げるオーディンだが、少なくとも敵意はない。

 

 そして、レヴィアはなぜかオーディンとは仲良くできるような気がしていた。

 

「……まずい。あの神様レヴィアさんの同類な気がしてきた」

 

「ってことは俺たちも仲良くできそうだな」

 

「レヴィアさん、後であいさつしましょう」

 

 蘭が直感で危険性を考慮し、そして変態二人組は速攻で友情を結べるとすら感じ始める中、話はさらに進んでいく。

 

「ではオーディン殿。異議がなければ、条約の碑にご調印を」

 

「うむ」

 

 そしてオーディンが、和平の碑に触れようとした瞬間、それは起こった。

 

「……ふむ、これはさすがに介入するべきかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声とともに、黒い霧が発生する。

 

「三人とも、僕の近くに!!」

 

 「「「はい!」」」

 

 速攻でレヴィアが結界を生み出して霧から逃れる中、黒い霧から幾人もの影が現れる。

 

「……やはり来たか、シャロッコ・ベルゼブブ」

 

「シャロッコと呼んでくれ。私は半分は悪魔だが本質を人間としているんだ」

 

 その言葉とともに、黒い霧をかき分けてシャロッコが姿を現す。

 

 そして、その後ろには何人もの人間が連れられていた。

 

「ほう? お主が人類統一同盟ではしゃいでいる魔王の末裔か?」

 

「……ああ、そしてあなたが戦争を何度も起こしてきたアースガルズの主神だね」

 

 オーディンの皮肉を皮肉で返しながら、シャロッコは不敵な笑みを浮かべる。

 

「こいつが人類統一同盟の1人か!」

 

「賊を取り押さえろ!! 魔王様の御前で狼藉を働かせるな!!」

 

 即座に悪魔たちが反応する中、シャロッコはしかし動かない。

 

 代わりに動く者たちが何人もいた。

 

「ハハハハハ! 木っ端悪魔風情がほざいてんじゃねえぞ!!」

 

「まったくね。雑魚に用はないのよ?」

 

 一瞬で爆発と聖なるオーラが乱舞し、うかつにも接近していた悪魔たちが一瞬で惨殺される。

 

 中には上級悪魔すらいるにもかかわらず、たった二人によって十数人もの悪魔が一蹴された。

 

 その事実に、続こうとしていた者たちが足を止める中、オーディンは髭を撫でつけながらまじまじと見つめる。

 

「なるほど、いうだけのことはあってそこそこできる奴らを集め取るようじゃな。……昔なら英雄(エインヘリヤル)の一人としてスカウトしておったぞ」

 

「あったりまえだぜジジイ! なにせ俺たちは英雄の魂を継いでるからな!!」

 

「人類統一同盟を勝利に導く若き英雄。もっと褒めてくれて構わないわよ?」

 

 そう答えながら、シャロッコの護衛らしく二人の人間は悠然と構える。

 

 この状況下で余裕を見せるその姿は、一歩間違えれば侮蔑とすらとらえられただろう。

 

 だが、その実力を認めるのは当然のこと。

 

 誰もが警戒して反撃を躊躇する中、シャロッコは笑みを浮かべて一礼する。

 

「さて、今日は何をしに来たのかというとだ。……新兵器の実践試験もかねてここを襲撃させてもらおう」

 

 そういいながら指を鳴らすと同時、映像が浮かび上がる。

 

 そこには、巨大な物体があった。

 

 楕円のような形をしたその空飛ぶ物体には、中央部に巨大な砲門が展開されている。

 

 その横幅は推定50メートル。それが翼もローターもなしに空に浮かび、しかも静止している光景は明らかに異形の力があるとしか考えられない。

 

 だが、それは純然たる科学の産物だった。

 

「ISの技術を利用して開発した、最新鋭戦略ガンシップだ。これのテストもかねて、いまから三時間後にこのホテルを襲撃させてもらう」

 

「とんど余裕だなオイ。魔王四人に俺とミカエル、そしてオーディンのジジイがいるってのに勝てると思ってんのか?」

 

 茶化すようにアザゼルが挑発を仕掛けるが、しかしシャロッコは首を振った。

 

「まさか。君たちまで殺せるとはさすがに考えてないよ」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

「ああ、なるほどな」

 

 その言葉に、アジュカとアザゼルは不快そうな表情を浮かべる。

 

「どういうことだ、二人とも」

 

「簡単なことだ。文字通りこれは実践テスト。下級悪魔から神すらいるこの状況を利用して、文字通り新兵器がどこまで戦えるかの試験をおこなうのだよ」

 

「おそらく対異形戦術のテストも兼ねてんだろ? 超国家組織なら金も資源も有り余ってるし、余裕だな、オイ」

 

「技術者なら、作ったものの限界を知りたがるの当然のことだろう? ついでに無人兵器もいくらか用意したから、テストに付き合ってくれ」

 

 その言葉とともに、シャロッコの姿が再び霧に包まれる。

 

「因みに、白龍皇も今回のテストに参加するぞ。魔王相手にどこまで戦えるか見てみたいと言ったら真っ先に名乗り出てくれたからね」

 

「……そんな、真なるルシファーの末裔までもが」

 

 悪魔の一人が唖然とする中、シャロッコたちは完全に霧へと包まれる。

 

「そうだ、レヴィアの眷属とリアス姫だが、ついでに見物に来たヴァーリチームと接敵しているぞ。助けに行くなら早くした方がいい」

 

「なんだと!?」

 

「うそでしょ!?」

 

 サーゼクスとレヴィアを驚愕させる事実を付け加えながら、シャロッコたちは闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間が歪み、森中が特殊な変質を見せ始める。

 

「……これは、空間に干渉する術式!?」

 

 リアスが目を見開く中、黒歌は得意げに唇をゆがめると木から飛び降りる。

 

「流石に時間まで干渉はできないけどね? だけど、そろそろシャロッコも動くでしょうし邪魔は入らないにゃん♪」

 

「そいつぁいいや。俺もちょっとは体をうごかしたかったからねぃ」

 

 首をコキコキと鳴らしながら、さらに美侯までもが戦闘態勢をとる。

 

 それを警戒しながら、一夏は即座に不知火を展開する。

 

「それがあなたのIS? ちょっと試させてもらうにゃん」

 

 黒歌がさらに怪しげな笑みを浮かべると、一瞬で森の中が霧に包まれる。

 

 そして、変化はすぐに訪れた。

 

「な、これは……っ!」

 

「……うぅ」

 

 リアスと小猫が顔色を悪くさせてうずくまる中、しかしイッセーと一夏は何ともなかった。

 

「お前、いったい何をしたんだ!!」

 

「悪魔にとって有害な毒霧にゃん。赤龍帝は予想外だったけど、ISのスーツはやっぱり宇宙用なだけあって厄介ねぇ」

 

 想定外の緊急事態に、一夏は歯ぎしりをする。

 

 そしてさらに、事態はもっと悪い方向へと進んでいった。

 

「ま、まずい織斑!!」

 

「どうした、兵藤!!」

 

「赤龍帝の籠手が起動しない!! なんでも禁手にいたりかけてるせいらしいけど……」

 

「マジかよ!?」

 

 これはさらに状況がまずい。

 

 このままでは一夏一人で黒歌と美猴を同時に相手しなくてはいけなくなる。

 

 さすがにそれは苦戦すると思われたが……。

 

「リアス嬢たちが森に行ったと聞いて念のために来てみれば、これはまた面倒なことになっているな」

 

 空がさらに暗くなり、思わず振り仰いだ全員が目を大きくする。

 

 そこには、15メートルを超える人型のドラゴンがいた。

 

「タンニーンのオッサン!! 来てくれたのか!!」

 

 イッセーが歓喜の声を上げる中、同様に歓喜の表情を浮かべる者もいた。

 

「いよっし! 龍王の一体とかやりがいのある相手だぜぃ!! 黒歌、あいつは俺がもらうぜ!」

 

「いいわよ。私はIS使いの方を相手するわ」

 

 いうが早いか美猴は空を飛びタンニーンと激戦を繰り広げる。

 

 そして、一夏と黒歌はお互いににらみ合った。

 

「さぁて、先ずは小手調べにゃん♪」

 

 展開されるのは大量に生み出される魔力や妖力の弾丸。

 

 広範囲攻撃という対IS戦術の基本ともいえる戦法だが、しかし今の一夏には通用しない。

 

「甘いぜ!! 俺だってレヴィアの戦車(ルーク)だ!!」

 

 拡張領域(パススロット)から巨大な楯を呼び出すと、一夏は即座に展開してその攻撃をやすやすと防ぐ。

 

「アザゼル製の人造神器(セイクリッド・ギア)……でもなさそうね。異形の技術が使われてるけど普通の楯でもないみたいね」

 

「ああ、こいつは俺の神器で強化してあるからな!!」

 

 返答と同時に、一夏は即座に切りかかる。

 

 訓練の成果が如実に表れているその流れるような防御からの反撃は、しかし空を切った。

 

 気づけば、大量の黒歌が森中に現れている。

 

「残念にゃん♪ 私は直接戦闘よりこういった戦いの方が得意なの」

 

 そして、虚空から魔力弾が放たれる。

 

 ハイパーセンサーの全方位視界ゆえに防御することは難しくないが、しかしこれはなかなか厄介だった。

 

 なにせ、どういう術式か科学的なハイパーセンサーの探知すらかいくぐっている。

 

 これでは当てるのが難しいのは確実だ。

 

「さあ、どうするのかニャン? このままあきらめて白音を渡してくれるっていうなら、見逃しても構わないけど?」

 

「冗談きついな! つまらないんだよ」

 

 一夏はそれをバッサリと一蹴する。

 

「いいか! 家族ってのは一緒にいて、そしてお互いを助け合う生き物だ!! 勝手に振り回すような関係じゃねえ!!」

 

 どこにいるかわからない黒歌に対して、一夏はしかし一歩も引かずに吠える。

 

「お前の都合で勝手に奪い取れると思ってるなら、俺が許さねえ!!」

 

「言ってくれるニャン。それなら、アンタが白音の家族になるっていうの?」

 

 その挑発交じりの言葉に対して、一夏はかけらもためらわなかった。

 

「当たり前だ!!」

 

 一夏ははっきりと断言する。

 

 そういえばレヴィアと蘭が口を酸っぱくして言っていた。

 

 女の子を助けるときは覚悟しろ。一夏が助けると高確率でフラグが立つ。そんなことを何度も言われた気がする。

 

 だが、かまうものか。

 

 少なくとも今は言っていい。それだけは断言できる。

 

 だから、責任を取れというのならば覚悟しよう。

 

 そのうえで、しっかりと守り通して見せる。

 

「何度も死線を潜り抜けて、一緒に住んでる仲なんだ。家族にぐらいなってやるさ!!」

 

 そう、だからここで負けるわけにはいかないと気合を入れ―

 

「……そう」

 

 なぜか、ほっとしたような声を聴いた。

 

「美猴? なんか白けたから私帰るにゃん。早くしないとおいてくわよ?」

 

「うぇっ!? ちょっと待てよ、いまいいとこなんぜぃ?」

 

 美候からもちろん反対の声が聞こえるが、しかし黒歌はためらわない。

 

「だって暑苦しいんだもん。こういうのは白音向きだわ。私はちょっと面倒だからパス」

 

「……へいへい。だったら仕方がねえから帰るとするかぃ!!」

 

 その言葉に意見を変えるつもりがないとすぐにわかったのか、美猴は即座に黒歌を回収するとすぐ飛び去る。

 

「逃げる気か!!」

 

「きにすんなぃ! どうせ明日すぐに戦うんだからよ!!」

 

 追いすがろうとするタンニーンに美猴がそう告げる中、さらに黒歌がダメ押しといわんばかりに幻術を展開する。

 

 ……その言葉の通り、次の日から激戦が巻き起こる。

 

 そして、異形社会は人間の科学が脅威と呼べるレベルにまで高まっていることを痛感することとなる。

 



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冥界合宿のヘルキャット 7

 

 結界が解けたことで、すぐにでも一夏達は悪魔の増援に保護された。

 

 向こうでも戦闘が起こっていたため増援の数は少ないが、しかし粒よりの精鋭が送り込まれているあたり、サーゼクスの情がうかがえる状態だった。

 

「一夏さん!!」

 

 戻ってきて早々に、一夏は蘭に抱き着かれた。

 

「一夏さんが戦闘中だって聞いて、心臓止まるかと思ったんですからね!!」

 

「あ、ああ。俺もまさか戦闘になるなんて思わなくって……」

 

 困った顔で一夏はレヴィアに助けを求める表情を浮かべるが、しかしレヴィアは静かに首を振った。

 

「あきらめな、一夏くん。こういう時は男は問答無用で悪いと相場が決まってるんだよ」

 

 そういって突き放すが、実際レヴィアも余裕がない。

 

 なにせ、すでにホテルからある程度離れたところには、ホテルを襲撃するための人類統一同盟の部隊が接近しているのだ。

 

 いくら悪魔の数が少ないからといえど、あれだけの大部隊を魔王が大量にいて警備も厳しいはずのこのホテルの近くに準備するなど、並大抵の存在の所業ではない。否、数を考えれば一流の術者でも不可能に近いだろう。

 

 それだけのことをあっさりとやってのけるあたり、人類統一同盟はやはり兄弟であるというほかない。

 

「そういえば、イッセーくんたちは?」

 

「リアス先輩と小猫は、今医務室に運ばれてったよ。兵藤はその付き添いだ」

 

 どうやらリアスたちもただでは済まなかったようだ。

 

 しかし、それも仕方がないといえば仕方がないだろう。

 

 孫悟空の末裔である美猴に、SSランククラスのはぐれ悪魔である黒歌。この二人は間違いなく上級悪魔以上の使い手である。

 

 いかにタンニーンの援護があったとはいえ、それだけの相手と戦って生き残ったとなれば、もはや褒めるほかないだろう。

 

 しかし、ことはそう簡単にはいかないはずだ。

 

「一夏君、いまこのホテルには人類統一同盟を主力にした禍の団の手勢が大量に迫ってきているけど―」

 

「闘うにきまってるだろ」

 

 即答だった。

 

「サーゼクス様達は、できる限り若手を非難させようとしているみたいだよ?」

 

「何言ってんだ。どうせ、お前だって逃げる気はないんだろ?」

 

 その言葉に、レヴィアもまた不敵な笑みを浮かべる。

 

「まあね。前線で大暴れするつもりはないけど、前線に近いところで兵士を鼓舞することぐらいはやらせてもらうよ」

 

「だったらなおさらだな。俺はお前を守る戦車(ルーク)だからな」

 

 ああ、その言葉を待っていた。

 

「もちろん私も参加しますよ! レヴィアさんは私()が守るんですから!!」

 

 そう、一夏にひとりだけじゃないことを強調しながら、蘭もまた頷いた。

 

「しっかし松田君と元浜君には悪いことしたかな。もっとゆっくり慣らしていくつもりだったんだけど、本格的に戦闘に巻き込みすぎてるし……」

 

「こんど、女でも紹介してやったらいいんじゃないか?」

 

「そうですね。二人だったらそれだけで許してくれると思いますよ?」

 

 そんな軽口をたたき合いながら、レヴィア達は静かに敵のいる方へと向いた。

 

 そして、戦線が準備される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、レヴィア達は後方に配属された。

 

「うん、サーゼクス様たちならそうするって知ってた」

 

「なんか、肩透かし喰らった気分だなぁ」

 

 若手悪魔たちはほぼ全員が参戦を表明したが、しかし配属箇所は後方だった。

 

 あくまで全線で戦うのは今の大人の役目、とでも言わんばかりのサーゼクスの采配だが、しかし当然といえば当然である。

 

 なにせ、サーゼクスは若手を危険に巻き込みたくないというのが本心なのだ。言ったそばから前線に投入など避けるのが普通だろう。

 

「とはいえ、これもまた必要な役目よ。気合を入れていかないといけないわね」

 

 隣で同じく待機しているリアスは、そういって真剣な顔をする。

 

「いい! ここで私たちがだらけた表情を浮かべれば、当然周りの兵士たちにも伝染するわ。いつでも前線に駆け付けれるように覚悟を決めておきなさい!!」

 

「うふふ。部長もやる気に満ち溢れてますわね」

 

 そういう朱乃の表情も、口調とは裏腹に真剣だ。

 

 じっさい、すでに戦線は開かれており、被害者の報告も少なからず出てきている。

 

 そのほとんどは下級中級だが、上級悪魔からも戦線を離脱するほどの負傷者が生まれているのだ。当然警戒するべきだ。

 

 後方で待機しているものは、レーティングゲームや模擬戦を経験していないものも多い。必然的に心構えが足りていないものもいる。

 

 そういうおびえている者たちを勇気づけるのも、また若手の代表たちの役目なのだろう。

 

「さて、それじゃあ即興の演説とかでもして活を入れるとしますかね」

 

「それは良いわね。私もグレモリーの跡取りとして、そういう経験の一つも積んでおきたいと思っていたわ」

 

 そういいながら、レヴィアとリアスは席を立つと、兵士たちが集まっているところへと向かっていく。

 

 そんな姿を見ながら、イッセーは少し沈んだ表情を浮かべていた。

 

「どうしたんだい、イッセーくん」

 

 その様子を見かねて祐斗が声をかけると、イッセーは沈んだ表情のまま左腕を掲げる。

 

「俺は今回役に立ちそうにないんだよ。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)がまだ機能を停止してるからさ」

 

 そうため息をつくイッセーだが、しかし当然といえば当然だろう。

 

 これまで、イッセーは短期間に幾度となく危機に巻き込まれてきた。

 

 そして、そのほとんどにおいてイッセーは仲間に助けられたからこそここにいる。

 

 レヴィアたちがいなければ、アーシアは一度死んでいた。

 

 一夏が粘らなければ、レーティングゲームには負けていた。

 

 千冬が来てくれなければ、コカビエルは倒せなかった。

 

 そして、レヴィア眷属が全力を出さなければヴァーリを倒すことはできなかった。

 

 神や魔王すら圧倒するといわれている赤龍帝を宿すものとして、これは本心から情けないといえるだろう。

 

「結局俺、一人じゃ何もできないからさ。情けないだろ?」

 

 本当に心底からそう思ってしまい、イッセーはため息をつく。

 

 じっさい夏休みの特訓でもイッセーは禁手にいたれず、パーティ会場での戦いもまた、一夏が一人で奮戦したようなものだ。

 

 そんな駄目な結果が連続して出てきたことで、イッセーはすっかり自信がなくなってしまっていた。

 

「……イッセーくん」

 

 その姿に、祐斗はどういって励ましたらいいか思案する。

 

 僕が君を守るから……などといっても効果はないだろう。むしろ、そんなことになっていることこそをイッセーは気にしているのだから。

 

 どんな言葉を投げかければいいのかと祐斗は悩み、しかし―

 

「お前、そんな馬鹿なこと考えてんのか?」

 

「まったくだ。ふざけてるなこの野郎」

 

 と、松田と元浜が後頭部を遠慮なく度突き倒した。

 

 しかも勢いよく地面につんのめって、イッセーは前頭部を床にしこたま打ち付けた。

 

「痛ってぇええええええええ!! なにすんだお前ら!!」

 

 涙目になりながらイッセーは怒鳴るが、松田も元浜も逆に胸倉をつかもうかといわんばかりの勢いでイッセーをにらみつける。

 

「イッセー。それは俺たちに対する嫌味か、ああん?」

 

「そうだぞこの野郎! さんざん大活躍してるくせに、何ふざけたこと言ってんだ、あぁん?」

 

 言われてみればその通りである。

 

 なにせ、イッセーはなんだかんだでしっかりと活躍してるのだ。

 

 レイナーレにとどめを刺したのはイッセーだ。ライザーにとどめを刺したのもイッセーと一夏だ。コカビエルの時も何体もの堕天使にとどめを刺している。白龍皇ヴァーリにも一発叩き込んだ。

 

 なんだかんだで要所要所で重要な活躍をしていることを考えれば、撃墜数が少なく雑魚との戦いでも苦戦している松田や元浜にとっては腹も立つだろう。

 

 だが、二人はそこまで言うと二かっと笑った。

 

「だけど、俺たちはハーレム王あきらめないぜ?」

 

「もちろん強くなるのもな! お前はどうすんだ、イッセー」

 

 そんな二人の、決意にあふれた様子をみてイッセーは面食らった。

 

 確かに、二人とも自分よりも活躍していないが、しかしちゃんと結果を残してはいる。

 

 そして、イッセー自身と同じぐらい、ハーレムをあきらめてないのだ。

 

「まったく。悪いところだけ見て自分の結果を見ないとか馬鹿だな、お前」

 

 元浜は眼鏡をキランと輝かせると、イッセーをしっかり見つめて断言した。

 

「お前は俺たちよりもしっかり活躍してるんだ。そんな奴が、俺たちよりもハーレム建設が遅れるわけないだろ」

 

「まったくだぜイッセー」

 

 松田もまた、イッセーの背中をバンバンたたきながらにかっとわらった。

 

「お前の方が何倍もすごいんだから、こんなところでへこたれてんじゃねえよ。今がダメなら明日頑張ればいいだけだろ?」

 

「松田、元浜……」

 

 二人の励ましに、イッセーは涙すら浮かべながら立ち上がった。

 

「そうだな! 俺はハーレム王になる男なんだから、こんなところであきらめてられないよな!!」

 

「そうですよ、イッセー先輩」

 

 と、さらに蘭が現れると笑顔を浮かべる。

 

「実は私も禁手には目覚めてないんです。もう何年も前からそうなのにですよ?」

 

「え、そうなの?」

 

 意外に思いイッセーは聞き返すが、蘭は苦笑すると頷いた。

 

 本当にこれは意外だとイッセーは思っていた。

 

 なにせ、蘭はアザゼルが目をつけるほどの神器に対する奇才の才能の持ち主だ。それなら特訓で禁手に目覚めてもおかしくないだろう。

 

 だが、しかし蘭は静かに首を振った。

 

「禁手っていうのはそういうものなんです。だから、イッセー先輩が目覚めて一年もたってないくせに禁手にいたれないことを落ち込む資格なんてありませんからね!」

 

 そう厳しめのことを言う蘭だが、しかしその表情は笑顔だった。

 

「だけどまあ、一夏さんとは別ベクトルでいい男なのは認めます。だから頑張れば彼女の一人ぐらいはできますよ」

 

「‥‥‥‥‥‥‥マジか」

 

 心底信じたくても信じられないような顔で、イッセーが驚いた。

 

 そして、その瞬間に怒涛の物理攻撃が頻発した。

 

「この野郎!! ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!!」

 

「マジ殴る、マジで殴るぞ!!」

 

「ぎゃっぁあああああ! なんで!?」

 

 割と本気で物理攻撃が飛び交う中、蘭と祐斗は顔を見合わせると苦笑した。

 

「流石にこれは擁護できないね」

 

「一夏さんとそっくりです」

 

 かつての一夏を思い出してしまい苦笑する蘭だが、しかしその表情が少し曇る。

 

「まあ、一夏さんとは違う意味で厄介そうですけど」

 

 はぁ、と蘭はため息をついた。

 

 どうも、イッセーはレイナーレに殺されかけたことがトラウマになっているらしい。

 

 確かに、蘭も一夏に裏切られればトラウマになるのは断言できる。

 

 イッセーにとっては待ち望んでいた彼女ができたと思ったら、全てうそだったうえに殺されかけているという隙を生じぬ連続コンボだ。上げて落とされている。

 

 もしかすると、恋愛恐怖症になっている可能性だってある。

 

「あの、木場先輩―」

 

 それに気が付いたから、蘭はそれとなくフォローをお願いしようとして―。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小猫」

 

 戦闘の音が響く中、一夏は小猫のところに向かっていた。

 

「どうしましたか、一夏先輩」

 

 振り返る小猫の表情はここ最近の中でいえば、むしろかなり明るい方だった。

 

 戦場の近くにいるというストレスがあっても、姉と同様になりかねないというトラウマの方が重かったということだろう。

 

「小猫、あの、力の件なんだけど」

 

「……正直、まだ少し怖いです」

 

 小猫は、少しだけ肩を震わせた。

 

「あんな姉のようになるのが怖くてたまりません。ですが、それでも足を引っ張らないためには―」

 

「いや、必要ない」

 

 一夏は、小猫の言葉を遮った。

 

 これはたぶん、自分が言わないといけないことだと思ったからだ。

 

「一夏先輩?」

 

「小猫、望んでもいない力なんかで強くなる必要なんてない。そんなことは、きっとリアス先輩も望んでない」

 

 それ以上に、そんなものを見るのは自分の気がすまない。

 

「いやいや手にした力なんかで強くなる必要なんてない。もっとよく考えて、そのうえで強くなればいいさ」

 

 一夏は、それが言いたかった。

 

 守れる強さを持ちたいという感情から強さを求めている一夏にとって、強さとは誇れるものだ。

 

 だけど、小猫は大切なものを守るために誇れない力を手にするという。

 

 それはどうしても納得がいかなかった。

 

「小猫。これは古い考え方かもしれないけど、男ってのは守るものがあれば強くなれる」

 

「……本当に古いですね。今は男女同権ですよ?」

 

「ああ。だけど、俺はそんな男になりたいんだ」

 

 だから、これだけははっきり言おう。

 

 蘭には悪いが、黒歌を前にはっきり言ったのだ。男として責任はとる。

 

「お前を守る分だけ、俺はさらに強くなる。俺を強くしてくれることを、お前の力と思ってくれていい」

 

 だから、足手まといだなんて思わないでくれ。

 

「家を守るっていうのも立派な強さだ。だから、胸を張ってくれていい」

 

 守ると決意したから、それだけの強さを手にする。

 

 それで本当に強くなれたのなら、それはきっとその守大将がいるからこその強さだ。それはつまり、その対象の力といっていい。

 

「だから、無理して強くなろうだなんて思わなくてもいい! むしろ守られてくれ!!」

 

「………」

 

 真正面からの言葉に、小猫は顔を真っ赤にさせていた。

 

「あの、意味わかっていってます?」

 

「後で蘭と朱乃さんには土下座する!! ここまで言ったからには男として責任はきちんと取る!!」

 

 そう、だから―

 

「いやいや力を使うぐらいなら、俺に守られてくれ。 俺が小猫の分まで強くなって見せるからさ」

 

「……一夏先輩」

 

 その言葉に、小猫は一夏の胸に顔をうずめた。

 

「我儘、言ってもいいですか?」

 

「ああ、なんだ」

 

 答えは決まりきっているが、しかしあえて一夏は尋ねる。

 

 このあたり、レヴィアの教えがしっかりと根付いていた。

 

「私は、怖いまま力を使いたくないです。だけど、やっぱり足手まといは嫌です」

 

「ああ、それで?」

 

「だから、一夏さんを使わせてください」

 

 ああ、一度でいいからそんな言葉が聞きたかった。

 

 でもまあ、きっと小猫は強くなるだろう。

 

 弱いままでいられるような女ではないのだから。

 

 だけど、それでも―

 

「―ああ、それが男の本懐ってやつだ」

 

 しっかりと抱きしめて、一夏は約束した。

 

「俺の力になってくれ、小猫。それが必要なくなるまで、俺はずっとお前の力になってやるか」

 

「………にゃぁ」

 

 そんな、ほっとした声を小猫は聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………そして、戦闘は激化する

 




本格的に一夏がフラグを小猫に。









ずっと前から少し思ってたんですよ、忌々しい力を振り切って新しい力を手に入れるという物語もあるのに、使いたくない力を使ってまで強くなることに意味があるのか……というよりそれで本当に強くなれるのか。

自分は凡人以下ですので、やる気になれないことに本気を出すのが苦手なタイプです。そんなタイプからしてみれば、いやでいやで仕方がないことを無理やりやっても身にならないと思うんですよ。やるならせめてやってもいいやって思える程度のことにしておかないとと。

なので、この展開は一度でいいからやってみたいものでした。いい機会ですので一夏とイッセーのフラグ立ての区別を兼ねてやってみました。


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冥界合宿のヘルキャット 8

ガチの戦争やっている以上、レヴィア達以外の視点での戦闘もきちんと書きます。


 

 異形の力と科学の力が激突する中、その戦線は意外にも膠着状態に陥っていた。

 

 なにせ、科学の力の最大の利点は意図的な生産が可能という点だ。

 

 技術力と資源さえあれば、同様のものを大量生産することも理屈上では不可能ではない。

 

 その最大の利点は、超国家組織であることを踏まえて人類統一同盟を優位にしていた。

 

 純粋な科学力で作られたISもどきは、しかし揚力を使うことなく自在なVTOL性能を発揮する。

 

 放つ攻撃は核融合炉を使用したエネルギー兵装。中央部の大口径荷電粒子砲はもちろんのこと、拡散衝撃砲による弾幕は下級中級では接近することもかなわない。

 

 ならば上級で挑むのが得策か。

 

 確かに上級悪魔は火力でも防御力でもISを超えている。ISもどきが相手なら機動力でも相手ができるはずで、実際それは可能である。

 

 そう可能であると実証されている。今まさに戦うことで。

 

「さあ、かかって来い蝙蝠風情が!!」

 

「なめるなよ、翼も持たぬサルが!!」

 

 空中で、上級悪魔とISがぶつかり合う。

 

 機動力で優るとはいえ、火力と防御力で大きく劣るISに対し、上級悪魔は本気で迎撃をおこなうほかなかった。

 

 そんな奇跡を起こす最大の要因は、彼らの保有する装備にある。

 

「おのれ! 聖なる装備を大量に用意するなど、いったいどうやればできるというのだ!!」

 

 そう、彼らの装備はすべてが聖なるオーラを放っていた。

 

 保有する装備は聖剣で、楯もまた同等の強度を持つ聖なる装備。

 

 これでは上級悪魔といえど本気を出すレベルであり、またIS側がヒット&アウェイによる足止めに徹していることもあり、ガンシップの砲撃を邪魔できなかった。

 

 そしてその隙を突いてガンシップは下級悪魔と中級悪魔を確実に一体ずつ戦闘不能にしており、明確な戦闘が成立していた。

 

「これが人類統一同盟の力だ!! いまだ製造速度は一日二けた程度ではあるが、我々は聖剣の量産を可能としている!!」

 

 誇らしげにISを動かす戦士たちが笑う。

 

 そう、それは間違いなく聖剣だった。

 

 伝説の聖剣に比べれば質は低い。また、特殊能力の類などない切れ味を強化するだけの聖剣。

 

 だがしかし、聖剣であるというだけで上級悪魔にとっては脅威だった。

 

 むろん、聖剣である以上人を選ぶという欠点もまた解決していないが、しかしそれは別のアプローチで解決している。

 

「バルパー・ガリレイは貴様らと繋がっているということか! ふざけたことを!!」

 

 歯ぎしりをしながら、悪魔の一人が絡繰りに気づいて声を上げる。

 

 そう、バルパー・ガリレイは人口聖剣使いを生み出すことに成功した間違いなく天才。

 

 所業は外道ではあるが、しかし彼の能力は間違いなく優秀なのだ。

 

「安心しろ。こちらも犠牲者は出していない。民間人を守るのが軍の務めである以上、民間人を殺すような真似はせんよ」

 

「ええい! そういうことか!!」

 

 攻撃をしのぎながら、その悪魔は絡繰りを理解する。

 

 おそらく、民間人から献血か何かの名目で聖剣因子を抽出し、それを移植することで人口聖剣使いを量産しているのだ。

 

 摘出した後の人物を殺さないという判断をとっているのは人道的といえるだろうが、しかしそれを超国家組織でやられるとこうなるということだった。

 

 ましてや、和平の代償として教会は人工聖剣使いの生産を終えている。ついでに言えばその手の技術において最大の権威はバルパーだ。

 

 完全に後手に回っているとしか言いようがない。

 

「だが、ここには最上級悪魔タンニーン様をはじめとした実力者もそろっている。いかにISと聖剣の組み合わせといえど、勝てると思うなよ!!」

 

「確かに俺たちじゃ勝てないだろうな!!」

 

 攻撃をぶつけ合いながら、お互いに罵倒を兼ねた言葉が飛び交う。

 

 そんな中、IS乗りは不敵に笑った。

 

「だが、こっちにもすごい奴はいるんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぁあああああああ!?」

 

 最上級悪魔の一人が、腹部を刺し貫かれて絶叫を上げる。

 

 そしてその数秒後、圧倒的な聖なるオーラが彼を消滅させた。

 

「ぬぅうううう! ISがこれほどとはな!!」

 

 タンニーンは自らの体を焼くISの攻撃をしのぎながら、歯ぎしりする。

 

 これだけの兵器を軽視していた自分たち現政権の者たちを油断していたと自虐すらしていた。

 

 とはいえ、それでも驚愕はするべきだろう。

 

 何よりも、聖剣の量産と聖剣使いの量産がその凶悪性を底上げしている。

 

 完全にIS用に開発された量産聖剣の性能は、低くはあるが確かに聖剣。こと悪魔にとっては天敵といってもいい。

 

 ましてやドラゴンであるために図体のでかいタンニーンは、比較的攻撃を喰らいやすい。

 

 これが龍殺しの聖剣だったらと思うと、さすがにぞっとするほかなかった。

 

 そして何より―。

 

「ISはあくまでパワードスーツ。……つまりは鎧のようなものだと思ったのだがな」

 

『それは正解。だけど、何にだって例外はある』

 

 少女の声を響かせるのは、空を浮かぶ鉄の巨人。

 

 あろうことか、15メートルはあるであろう鉄の巨人がタンニーンを一人で足止めしていた。

 

「流石にISのシールドエネルギーも尽きるかと思ったが、図体がでかい分残量も大きいようだな」

 

『当然。これは核融合炉を外付けしてある専用機だもん。プログラミングもしっかり組んでるから、そんな簡単にはやられないから』

 

 少女はそう告げながら、その巨人を器用に操りタンニーンを足止めする。

 

 その巨人の手に持たれているのは、巨大なマクアフィテル。

 

 分厚い本体の側面には大量の聖剣が取り付けられており、まさに巨大な聖剣と化していた。

 

 さらに両腕には巨大なレールガンが取り付けられており、これまた弾丸状に加工された聖剣を放っている。

 

 当然それにかかるコストも時間も莫大であること考えれば、それほどまでにタンニーンを警戒していることがわかるというものだ。

 

「だが、新兵器のテストというのが気に食わんな!!」

 

 そんないい加減な気持ちで、元龍王が倒されると思っては腹立たしい。

 

 ゆえに、タンニーンは全力を出すことを誓う。

 

「いいだろう。ならばその兵器の限界というものを知るがいい!!」

 

『うん。もちろんそのつもりだよ』

 

 そして、少女もまた譲らない。

 

『この第五世代型ISの方向性テスト、必ず成功させて見せる!!』

 

 そう、彼女にも譲れない目的があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その戦闘は魔王たちですら苦戦を免れない状況だった。

 

「……話には、聞いていた」

 

 サーゼクスの躰には裂傷が刻まれ、しかし血はあまり流れていない。

 

 最初の出てくるであろう鮮血が、オーラによって消滅させられていたからだ。

 

 そして、それを行ったISは目の前にいる。

 

「流石に、今の俺ではかすり傷が限界か。神や魔王すら殺せる神滅具の、それも最強の持ち主がこれでは笑えないな」

 

「いや、ここまで負傷したのは久しぶりだよ。誇るといい、君の実力はすでに最上級悪魔にも届いている」

 

 そう心から賞賛し、そしてそれゆえに歯噛みするサーゼクスは、訪ねたいことを聞くことにする。

 

 なにせ、彼はすでにレヴィアから事のあらましを聴いている。

 

 ならば、それを確認するのはリアスを救ってくれた千冬に対する恩返しにもなるからだ。

 

「IS学園の襲撃部隊に、君もまた所属していたな?」

 

「ああ、俺は技術試験部隊に所属していたからね。ISと神器の連携運用テストのために参加していた」

 

 堂々と、胸すら張って青年は答える。

 

「この世界を発展させる英雄ともあろうものが、その幕開けに参加しないわけがないだろう?」

 

「なるほど、確かに君たちが第三次世界大戦に勝利すれば、君はおそらく英雄となるだろう」

 

 それはサーゼクスも認めるほかない。

 

 事実、旧魔王派との戦いに勝利したサーゼクスは英雄と称されることもある。

 

 しかし、もし負けていれば戦犯として蔑まれていただろう。

 

 ゆえに、勝利すれば彼が英雄となることに否はない。

 

「だが、IS学園の生徒たちはまだ非戦闘員だ。……それを意図的に殺しに行った君たちを英雄と認めるのは、本意ではない」

 

 その言葉とともに、サーゼクスは消滅の魔力を球状にして、大量に展開する。

 

 千冬には悪いが、彼はここで倒せるものなら倒しておきたい。それほどまでその存在は驚異すぎる。

 

「最後に聞いておこう。……君の名前は」

 

「まだまだ答えよう。……技術試験部隊ヒーローズ所属の、曹操と名乗っている」

 

 そして、最強の魔王と最強の神殺しは激突した。

 




すでに人類統一同盟は第五世代の模索中。

第五世代は現在試行錯誤中。とはいえ、今回の話で分かる通りこれまでのISとは異なるアプローチになる予定です。

そんでもってバルパーがやってくれました。

ぶっちゃけ聖剣使いの量産技術はこういう時破格。戦争なんて取れる手段をとるのが当たり前、とらないとか馬鹿なの死ぬの? というノリですね。人類統一同盟。

因みに人類統一同盟は本気で舐めプしてます。奴らの本気はこんなもんじゃありません


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冥界合宿のヘルキャット 9

はい、そういうわけでそろそろ視点を戻します。


 

 そして、戦闘は後方でも発生する。

 

 レヴィアたちが即興で演説を始めようとしたまさにその瞬間だった。

 

「おい、なんだあれ!!」

 

 悪魔の一人が空を指さし、それにつられた者たちが一斉に空を見上げる。

 

 その空は、黒い霧に包まれていた。

 

「なんだあれ、魔法か?」

 

「ありえないだろ! いくらなんでも規模がでかすぎる!!」

 

「だ、だけどそうとしか考えられないぞ!?」

 

 どよめく若手悪魔たちの中で、一人が何かに気付いたかのように一筋の汗を流す。

 

「そういえば、聞いたことがある……」

 

 その悪魔は、どんどん顔を青ざめさせていくと震える声でつぶやいた。

 

神滅具(ロンギヌス)の中には、黒い霧の姿をした結界系の神器があるって!!」

 

 その言葉に、多くの悪魔たちが悲鳴を上げる。

 

 当然と言えば当然だろう。彼らの多くは戦争を経験していないどころか、レーティングゲームもろくに経験していない若手が大半である。

 

 それが、人類最強の力の一つであるである神滅具を相手にしなければならないなどと、明らかに苛酷に過ぎる。

 

 その動揺は一瞬で伝染し、そして恐慌状態に陥りかけ―

 

「静まれ!!」

 

 大きな声で、レヴィアが一喝し、意識がそちらに向いた。

 

「神滅具の相手はこちらでする。君たちは支援に意識を向ければいい!!」

 

「そのとおりよ。忘れてはいけないことがあるわ」

 

 リアスもまた声を上げると、鋭い視線で皆を見渡す。

 

「敵は魔王様の命を奪おうとした者たち。そんな無礼な真似をした者たちを許すわけには消していかない。ましてや、後方にいる者たちを優先して倒そうだなんて言う卑怯者をのさばらせておくわけにはいかないわ!!」

 

 そして、さらに声をあげる者たちもいる。

 

「作戦指揮は私がとります。戦闘に不慣れなものもいるでしょうから、経験がある者たちがカバーをしてください」

 

「前線には俺たちが出る。だが、この大規模戦闘ではうち漏らしが出るだろうから、お前たちにはその相手をしてもらいたい」

 

 ソーナ・シトリーとサイラオーグ・バアルの落ち着いた姿に、動揺していた悪魔たちも冷静さを取り戻していく。

 

「そう、そのとおりです」

 

 そして、シーグヴァイラ・アガレスに至っては怒りの炎すら燃やしていた。

 

「あのようなロボットもどきなどに我々悪魔が何度もやられていては笑い話にもなりません。今こそ悪魔の力を見せつけるときです!!」

 

 戦闘が始まるときに、ベテランは慣れておらず緊張しているルーキーの精神をリラックスさせるため、ジョークを言って和ませる時がある。

 

 当人は真剣に言っていたが、しかし今回は奇跡的にその形になった。

 

「さあ、行きますよ!! 返り討ちにしてあげなさい!!」

 

「「「「「「「「「「ぉおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」」」

 

 近くで見ると目が血走っている節すらあるシーグヴァイラの声に、悪魔たちは歓声を上げて続いた。

 

「……シーちゃん、なんでISを目の敵にしてるんだろう?」

 

 レヴィアは首をかしげながらも、しかし空を飛んで霧へと向かう。

 

 すでに霧からは何体ものISが現れ、攻撃を開始していた。

 

「敵は攻撃に放射線を付属させている!! 攻撃は結界で防ぐんだ!!」

 

「戦うときは決して一人で戦わないで! 何人かでチームを組んで、さらに複数のチームで戦うの!!」

 

「ISは兵器である以上数には限度があります。人数で勝っている利点を生かしてください」

 

 人類統一同盟の戦いぶりを知っているレヴィアやリアスやソーナが的確に指揮をだし、そして大局の動きはシーグヴァイラがとっていた。

 

 そして、接近してくるISに対して、サイラオーグ・バアルが接近してこぶしを放つ。

 

「速度は速いが反応が遅い!!」

 

「ぐぁああああ!!!」

 

 一撃で絶対防御が発動し、ISが一機弾き飛ばされる。

 

 しかし、即座に二機のISがサポートに入り、片方がけん制している間にもう片方が撃破された見方を回収すると交代する。

 

「練度がたかいな。相応の実力者を連れてきているということか」

 

「当然です。あなたがいるのですから、サイラオーグ・バアル」

 

 その言葉に、即座にサイラオーグは振り返ると同時に蹴りを叩き込む。

 

 声の主はそれを持っていた剣で防ぐと、地面へと舞い降りる。

 

 そして、視界に移った相手の得物をみて警戒心を高める。

 

「その剣、聖剣か!!」

 

「ええ、わがペンドラゴン家に伝わる聖王剣エクスカリバーです」

 

 その言葉に、戦闘を行っている悪魔たちに動揺が広がる。

 

「聖王剣、だと!?」

 

「たしか、最強の聖剣とかいう……!」

 

 聖王剣コールブランド。また名をカリバーン。

 

 現状の聖剣の中で、最も最強である聖剣が、そこにあった。

 

「自己紹介がまだでしたね。私はヴァーリチームのアーサー・ペンドラゴンと申します」

 

「ペンドラゴン家。あのアーサー王の末裔までもが禍の団に所属しているとはな」

 

 サイラオーグは警戒心を強めながら、しかしいつも通りに構えをとる。

 

「だが、そう簡単には倒れるわけにはいかん。それに、俺にできることなど寄って殴るしかないのでな」

 

「それは恐ろしい。ですが、近づいてくるなら切って捨てるまでですね」

 

 そして一秒だけ沈黙が続き―

 

「に、逃げろおおおおおおおおお!!!」

 

 周囲の者たちが敵味方とわず距離をとるほどの、激戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがにこれはまずいね、僕の眷属全員集合!!」

 

 状況が動いたと判断し、レヴィアは即座に身内を集合させる。

 

「番号!」

 

「一夏だけに一番!!」

 

「つまらないです。二番、蘭!」

 

「松田くんと元浜君ははぐれてるか。そっちは?」

 

 レヴィアはリアスとソーナに確認をとる。

 

 そして、、そちらもそう簡単にはいかなかった。

 

「こっちはイッセーと小猫だけだわ。ソーナ、そっちは?」

 

「こちらも、すぐに合流できたのは匙だけです」

 

 そうお互いにため息をつくリアスとソーナだが、それはそれで仕方がない。

 

 何せ今は混戦状態である。まだまだ若手である自分たちでは、この混乱状態の中味方の位置を完全に把握することなどできないだろう。

 

「とにかくすぐに探さないとね。今は指揮をシーちゃんがとってくれてるからいいけど、だからって何もしないわけにはいかないし……」

 

 とにもかくにも合流しなければと動こうとして、しかしレヴィアは動きを止める。

 

「……またお前らか、チンピラ共」

 

 心底いやそうな顔をしながら振り向けば、そこには黒歌と美猴を引き連れて、ヴァーリ・ルシファーが空に浮かんで立っていた。

 

「やあ、上から君をできれば殺しておくようにと頼まれたんだよ。俺としても、白龍皇を愚弄した君はできるだけ早く滅ぼしておこうと思っていてね」

 

「チンピラとしてフルスロットルで名を穢しているのは君のほうじゃないか」

 

 あっさり一蹴しながらレヴィアは戦闘態勢をとるが、しかし警戒心は強い。

 

 三人の眷属が全員そろっていれば話は違うが、しかし今回敵は強大だ。

 

 千冬抜きでこの人数を相手に戦うのは、窮地というほかなかった。

 

「このチンピラ軍団が余計なタイミングで出てくるね……っ」

 

「レヴィア。さっきからチンピラ言い過ぎよ。品がないわ」

 

「あまり挑発するのもいかがなものかと思うのですが?」

 

 心底いやそうな顔をするレヴィアに、リアスとソーナからの指摘が入るがもう遅い。

 

 ヴァーリはすでに攻撃態勢に入り、そして黒歌と美猴もそれに続く。

 

「んじゃ、再戦といこうぜぃ!」

 

「やっぱり白音は返してもらおうかにゃん」

 

「さあ、そろそろ懺悔をするというセーラ・レヴィアタン!!」

 

 真っ先に放たれるのは、ヴァーリからの魔力攻撃。

 

 そして、それを制圧射撃として美猴が回り込む。

 

 狙いはもっとも倒しづらいレヴィア。ヴァーリとしてもさんざんチンピラ扱いされたことから真っ先に倒したい相手だった。

 

 だが、そんなものはレヴィアも想定内。

 

「チンピラの考えることはわかりやすくていいね!!」

 

 逆に、レヴィアは真正面から突撃を敢行する。

 

 自身の周囲に魔力結界を展開。そしてその頑丈差を利用して無理やり二人の攻撃を押し切り、距離を詰める。

 

「やはりこの程度ではやられてくれないか。俺を腹立たせるだけでなく昂らせもするとはね」

 

「それはどうも! だけど僕は王なんで―」

 

 不敵に笑ったレヴィアを飛び越え、レヴィアに隠れて接近した蘭と一夏が同時に攻撃をし変えた。

 

「―私たちが!」

 

「矛になるさ!!」

 

 蹴りと斬撃がヴァーリに襲い掛かり、しかしヴァーリもそれを魔力結界で防ぐ。

 

「甘いね。こんな神器だから必然的に体術も収めて―」

 

「甘い」

 

 ヴァーリの言葉を遮り、レヴィアはヴァーリを結界に封じ込めた。

 

「……足止めが狙いか!!」

 

「最強戦力は抑えておかないとね!!」

 

 レヴィアは即席の作戦が成功したことににやりと笑うとそのまま後ろを振り向く。

 

「さあ! 今のうちに反撃を―」

 

「レヴィア!!」

 

 リアスの声がとび、しかしそれは間に合わなかった。

 

 薄氷を割るかのような音とともに、結界があっさりと粉砕される。

 

「ふふん♪ 結界を割るのは力押し以外にもいろいろあるのよね」

 

 黒歌の得意げな声が響く中、ヴァーリの手がレヴィアをつかむ。

 

 だが、レヴィアもまた余裕の表情を崩さない。

 

 少なくとも、覇龍を使われなければヴァーリといえどレヴィアに有効だを与えることはできないのだ。ならば覇龍を発動しようという段階にならなければ、レヴィアもまた慌てる必要はない。

 

「それで? 僕をどうやって倒すって?」

 

「いや、どうやら君は後回しにした方がいいようだ」

 

 その言葉とともに、ヴァーリはレヴィアを投げ飛ばした。

 

 二天龍の膂力による投擲は、レヴィアを一瞬で数百メートル上空へと投げ飛ばす。

 

 そして、レヴィアが体勢を整えた瞬間に多重結界がレヴィアを包み込んだ。

 

「特性の封印結界にゃん♪ これを割るのは最上級悪魔でも苦労するわよ?」

 

「ご苦労だった黒歌。とりあえず、先ずは前菜からいただいた方がよさそうだ」

 

 黒歌に礼を言いながら、ヴァーリはその視線を一夏と蘭に向ける。

 

「さて、それではこの場に立つ資格のない者たちから倒すとしようか」

 

 そして、次の瞬間には匙の眼前にヴァーリは立っていた。

 

「……匙!」

 

 イッセーが慌てて動くが、しかし間に合わない。

 

「てめえ、俺が一番弱いってか!!」

 

「いや、近くにいる弱い奴を選んだだけだ。少なくとも最弱ではないだろうが―」

 

 しかし、躊躇せずヴァーリは拳を匙の顔面に叩き込んだ。

 

 全力はあえて出さない。そんなことをしなくても一撃で戦闘不能にはできるし、そそりもしない相手を殺すために全力を出すなど面倒以外の何物でもない。

 

 そして、一撃で匙は吹き飛ばされた。

 

 




倒せないのなら、そもそも闘わなければいい。レヴィアは象徴としての能力特化なので、そもそも戦闘における優先順位は直接的脅威度だけで見るなら低いのです。


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冥界合宿のヘルキャット 10

 

「サジ!!」

 

 ソーナが悲鳴をあげるなか、匙は肋骨が砕ける音を響かせながら数十メートルは吹っ飛びそして倒れた。

 

 それを想定内といわんばかりの冷静な表情で見ながら、ヴァーリは視線を腕に向ける。

 

 そこには、匙がギリギリで接続させたラインがついていた。

 

「なるほど、ただの雑魚ではないようだ。まあいいか」

 

 あえてそれを引きちぎらず、ヴァーリは残りの者たちへと視線を向ける。

 

「いいハンデができたようだ。これぐらいあればいい勝負になるだろうね」

 

 そして、あえて頭部の鎧を解除すると不敵な笑みを浮かべた。

 

「さて、仲間の1人を倒させてもらった。こういうのは怒りを覚えるだろう? それで強くなってくれると嬉しいな」

 

「てめえ!!」

 

 一夏はISを展開しながら真正面から切りかかる。

 

 瞬時加速(イグニッションブースト)の加速力を生かした一夏最速の一撃は、しかしヴァーリの両手で防がれた。

 

「こんなものか? だとしたらさすがに拍子抜けだが―」

 

「まだまだ!!」

 

 ヴァーリに対してそう答え、一夏もまた切り札を開放する。

 

 次の瞬間、ヴァーリが感じたのは怪力。

 

 今までの一夏では想像がつかないほどの馬力がうまれ、ヴァーリは出力に耐え兼ね膝をついた。

 

「なんだと? 君は兵士の転生悪魔ではなかったはずだが―」

 

「ええ、そうですね」

 

 疑問を覚えたその瞬間、後頭部に砲門が押し付けられる。

 

 一夏に気を取られたその瞬間、蘭はすでに行動を起こしていた。

 

 そして至近距離からの砲撃が放たれる瞬間、しかし美猴が砲身に蹴りを叩き込んで軌道をそらす。

 

「おぉっと! 嬢ちゃんの相手は俺っちがするぜ?」

 

「あ、邪魔です!!」

 

 砲身と展開した聖剣で防御しながら、蘭は美猴の攻撃を堅実にさばく。

 

 それは、今までの彼女の身体能力ではできないようなものだった。

 

 それをなすのは、ひとえに鍛えた神器の力。

 

 始原の人間(アダム・サピエンス)

 

 人間の人間としての機能を強化するその能力は、単純な身体能力強化にとどまらない。

 

 反射神経に五感、そして再生能力にいたるまで強化するそれは、戦車の特性と組み合わせることで基礎能力を大幅に強化する。

 

 そこに、多様性においてずば抜けている神器である聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)。さらに神滅具に次ぐ火力を発揮する龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)

 

 技量を含めた戦闘能力ならば千冬が大きく引き離すが、単純な性能でいうならば、蘭こそがセーラ・レヴィアタン眷属最強。

 

 そして、その能力はアザゼルの指導と調整により大幅に向上している。

 

「面白いねぃ!! こういうのがやりたかったんだよ、俺っちは!!」

 

「だからってテロに走らないで!!」

 

 正論を出しながら、蘭は至近距離から砲撃を敢行するが、美猴はそれを素早く避ける。

 

 そして、その間に一夏もまた戦闘を継続させていた。

 

「半減がうまく発動しないな。何をしたのか知らないが面白い!!」

 

「言ってろ! あと、さっさとレヴィアを解放してもらうぜ!!」

 

 ISの基準値を超えた加速力で弾幕をかいくぐりながら、一夏はヴァーリと攻撃をかわし合う。

 

 向こうが半ば遊び半分だということがわかっているが、史上最強の白龍皇を相手にここまで戦えるのは偉業というほかなかった。

 

 それをなすのが、剣豪の腕《アーム・ザ・リッパー》の能力を生かした戦法。

 

 アザゼルが発展させたのは、神器の能力の拡大解釈。

 

 保有する装備を強化するその能力は当然手に触れている武装ならなんにでも適用される。

 

 そして、ISは今のところ軍用兵器。

 

 その認識を強く持つことで、一夏はISを強化することに成功した。

 

 それは、まさに科学と神秘の融合。

 

 +ではなく×になったことで、一夏の戦闘能力は飛躍的に向上していた。

 

「ああ、そうでなくては面白くない!! これで少しは楽しめそうだ!!」

 

「こっちは殺し合いを楽しむ気はない!!」

 

 ヴァーリの言葉を切り捨てながら、一夏は反撃のタイミングを何とか計る。

 

 放たれる魔力弾を交わし、時には切り捨てながら一夏は勝機を図っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、敵はヴァーリたちだけではない。

 

 高速起動で遠距離から攻撃を放ってくるISの攻撃は、火力こそ低いが放射線で汚染されておりうかつに喰らえば致命的だ。

 

 それを魔力を使って受け止めながら、リアスもソーナも魔力による面制圧でISを迎撃する。

 

 むろん、敵も精鋭であるがゆえにそう簡単には当たらず接近を許す時もあるが―

 

「させない」

 

 吹っ切れた小猫の動きは格段に良くなっていたため何とか迎撃が間に合っている。

 

 そんな中、イッセーは攻撃を回避するので精一杯だった。

 

「クソ! せめて赤龍帝の籠手が使えてれば!」

 

 今の段階では、禁手になりかけていることがあだとなって使えない。

 

 通常のパワーアップを選ぶという手もあったが、しかしこのチャンスを逃したら一になるかわからないという。

 

 そんな中、それでも何とか勝機を手にしなくてはならない。

 

 そして、その最良はおそらく禁手になることだった。

 

(どうすればいい、どうすれば……っ)

 

 焦る中でも攻撃は激しさを増し、そして一夏たちも追い込まれていく。

 

 一夏はヴァーリ、蘭は美猴を相手にするので精いっぱいで、レヴィアはレヴィアで黒歌の作った結界に封じ込められて脱出が困難。

 

 このままでは押し切られるかもしれない状況だった。

 

「くそ! 俺はこんな時に……っ!」

 

「落ち着きなさい、イッセー」

 

 焦るイッセーに、リアスは静かに声をかける。

 

「これまでもあなたは何度も私達の窮地を救ってくれた。だから私たちもいざとなれば窮地を救うのは当たり前だわ」

 

 状況はこちら側に不利だが、しかしリアスは決して焦らない。

 

「貴方が大変な時は私たちがカバーする。あなたは貴方のやり方で強くなっていいの」

 

「その通りです、イッセー先輩」

 

 と、小猫もまたイッセーに声をかける。

 

「私は仙術には頼りません。あんな忌まわしい力がなくても、強くなれることを証明して見せます」

 

 小猫は、放射線という触れたらアウトといってもいい攻撃を冷静にかわして、的確に一撃をISに叩き込んでいく。

 

 その動きには迷いがない。そしてそれゆえに鋭く速い。

 

 仙術を使わないと心の底から決意したことが、小猫にとっても大きな精神的成長を遂げさせたのだ。

 

「だから、イッセー先輩はイッセー先輩のやり方で赤龍帝になってください。それを私も望みます」

 

「小猫ちゃん……」

 

 その言葉に、イッセーは吹っ切れた。

 

 そして、それでようやく自分に何が足りないのか理解できた。

 

「……部長! 俺、どうすれば禁手(バランス・ブレイカー)になれるかわかりました!! それには部長が必要です!!」

 

 心の底から断言できる。

 

 禁手にいたるには精神的な覚醒が必要とされている。

 

 すなわち、心に大きな衝撃が来ることが必要なのだ。

 

 だから、木場祐斗は復讐心から解き放たれることで禁手にいたれた。

 

 ならば、自分も心を解き放つことで禁手にいたれるはずなのだ。

 

「……いいわ。それで、何をすればいいの!!」

 

 リアスはそこに一抹の希望をみて、勝機を見出す。

 

 そして、その視線の先、イッセーは真剣な顔で願いを口にする。

 

「おっぱいを、つつかせてください!!」

 




所詮、イッセーはイッセーなのだった


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冥界合宿のヘルキャット 11

 

 

 沈黙が響いた。

 

 戦場が一瞬静寂に包まれる中、イッセーは真剣な表情を浮かべてリアスに懇願する。

 

「断言できます。今俺に足りないのは、リアス部長の乳首です!!」

 

「いや、なんでそうなるんですか?」

 

 近距離で気の狂った発言をきかされてなお、ソーナ・シトリーは冷静に突っ込みを入れる。

 

 あらゆる意味で非常識極まりない発言だ。

 

 だが、言い切ったイッセーの目は、むしろ曇りなく澄んでいた。

 

 アザゼルとの会話以降、イッセーの心の一部はそれに支配されていたといっても過言ではない。乳首というブザーを押すといういまだとどなく新境地に、イッセーは心を魅了されていた。

 

 この渇望をかなえたその時こそ、イッセーの心は新たなる境地へと飛翔すると彼は確信している。

 

 そして、その精神的成長こそが禁手にいたるのに必要不可欠だと断言できた。

 

 でもたぶん怒られるんだろうなぁとは思っている。自分でも非常識なことを言っている自覚はある。

 

「……わかったわ。それで、あなたの想いがかなうのなら」

 

 なのでこの返答は正直予想外だった。

 

 拒否でも叱責でもなく了承。それを聞いたその場にいるほとんど全員が、リアスの正気を疑ったのは言うまでもない。

 

「リアス、ちょっと落ち着いてください」

 

「何を言っているのソーナ。イッセーが至るかどうかの瀬戸際なのよ? この不利な状況で逆転の可能性にかけるのはそんなにおかしなことかしら?」

 

 ソーナに対する返答は、すなわちつつけばいたる可能性をリアス自身考慮しているということに他ならなかった。

 

 あまりといえばあまりの展開に、言ったイッセー自身が割と動揺している。

 

「お、俺は本気で言ってますよ!? 本当にやりますよ!?」

 

「ええ。そして本当にあなたは禁手にいたると信じてるわ」

 

「信じないでください!!」

 

 蘭渾身のツッコミが飛んできた。

 

「イッセー! お前、こんなところで女の人の胸をあらわにさせるとか最低だろ! 本当に切るぞ!!」

 

「させるか! それで禁手にいたってくれるなら俺としても止めさせるわけにはいかない!!」

 

 一夏にいたっては攻撃の矛先をイッセーに変えようとすらしているが、しかしライバルの覚醒をもくろんだヴァーリに本気の妨害を受けてしまう。

 

「ねえ美猴! こんなのが白音の同僚だとか本気でかわいそうになってきたんだけど!!」

 

「あきらめろ! 赤龍帝はきっと俺っちたちとはまったく違う思考回路で動いてんだ!!」

 

「僕のかわいいイッセーくんと君たちチンピラの思考回路が一緒なわけないじゃないか!!」

 

 黒歌と美猴の言葉に、レヴィアは懲りずに挑発を繰り返すがそれはともかく。

 

 とにかく許可をもらったので翻さ餌れたりしないうちにつつこうとして、イッセーはとんでもないことに気が付いてしまった。

 

「あ、あの、誰か!!」

 

「どうしたの、イッセー? さすがに恥ずかしいのだけれども」

 

 さすがに人としての一線は保持していたリアスに対して、イッセーは愕然とした表情で告げる。

 

「乳首は左右にあるの忘れてました! どっちをつつけばいいでしょうか!!」

 

「死ね!」

 

「死んでください!!」

 

「あの、本当に死んでくれませんか?」

 

 一夏と蘭と小猫から非常に辛辣な言葉が届いた。

 

「大体左右どっちつついたっていいだろ? そんなの変わらないって!!」

 

「何寝ぼけてんだ!! 右と左が同じなわけないだろ織斑!! 俺の初ブザーだぞ、人生かかってんだ!!」

 

「やり直せそんな人生!!」

 

「じゃあお前はどっちつついたかもわからないそんないい加減な人生でいいのかよ!!」

 

「俺の人生にそんなものどうでもいいよ!!」

 

 一夏とイッセーが渾身の言い合いをしている中もそろそろ戦闘が再開されかかっている。

 

「っていうか完璧にセクハラよね? 死ねばいいのに」

 

「受け入れるグレモリーもグレモリーだろ。痴女か?」

 

 むしろ外野としてディスられている。

 

 そしてそんな中、何とか少しだけ結界をこじ開けたレヴィアが渾身の想いを込めて叫んだ。

 

「そんなみみっちいこと言ってないで、両方つついたらいいじゃないか!! 手は二つあるんだよ!?」

 

 その言葉に、イッセーは天啓を受けたかのように体を震わせた。

 

「そ、その手があったか!!」

 

「……おい、誰かあの変態ぶち殺せよ」

 

「お前がやれよ俺は嫌だよ」

 

「男どもがやってよ、あんな変態触れたくない」

 

 いい加減IS乗り達からの白い眼が限界に達しかけている。

 

 このままでは攻撃が再開されるかもしれないと思い、イッセーは震える両手を突き出した。

 

 …………つん

 

「…………いやん」

 

 その感触と、その反応。

 

 イッセーは心の底から感銘を受けて、感想を漏らす。

 

「これが、真理」

 

「おめでとう、イッセーくん」

 

 心の底から慈愛に満ちた声で、レヴィアが祝福した。

 

 そしてその瞬間、莫大なオーラがイッセーの全身から放たれる。

 

『至った! 本当に至りやがったぞぉ!!』

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

 ドライグの叫びとともに放たれるそのオーラは、生半可な上級悪魔を凌駕するほどの出力が込められていた。

 

 少なくともリアスとソーナの二人では太刀打ちできないほどの圧倒的なオーラ。

 

 それを放出しながら、イッセーは全身に鎧を展開する。

 

 物質化したオーラでできた、赤い龍を模した鎧。これまでの不完全なモノとは違い、龍の翼すら背中から生えていた。

 

禁手(バランス・ブレイカー)! 赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!! 主のおっぱいつついて、ここに降臨!!」

 

『おめでとう、相棒。だが泣いていいか?』

 

「おめでとうイッセーくん! 僕は今、最高の至り方を目撃したよ!!」

 

「眷属やめるぞ馬鹿主!!」

 

「本当に辞めますよ馬鹿主!!」

 

 ショックで泣きそうなドライグと歓喜で泣きそうなレヴィアに対して、もういろいろとうんざりとした一夏と蘭の声がむなしく響く。

 

「「「「「「「「「「本当に至ったぁあああああああ!?」」」」」」」」」」

 

 そしてあまりにいやらしい至り方に、外野のIS達は一斉に叫んだ。

 

 まあ、それはそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ、ふふふふふふふ」

 

 兵藤一誠の禁手をみて、誰よりも何よりも歓喜している者がいた。

 

 そう、ヴァーリ・ルシファーである。

 

「ようやくだ! ようやく正しい意味で俺と戦う土俵に上ってくれたか、兵藤一誠!!」

 

 白龍皇である自分の宿敵である赤龍帝。

 

 それが遂に、自分と同じ領域へと一歩近づいたことに、ヴァーリは心の底から歓喜する。

 

 思えば、最初に存在を知ったときは心から落胆したものだ。

 

 魔王の血を引き白龍皇を宿す自分に対して、偉業どころか異能すらまったく関わってない血筋の者として生まれた赤龍帝。

 

 はっきり言ってスタート地点からあまりにも差がありすぎており、心の底から落胆した。

 

 だが、その評価は少しずつだが変わっていっている。

 

 なにせ、これまでの歴史において女の乳を生まれて初めてつついたことが原因で禁手にいたった赤龍帝など聞いたことがない。それどころは白龍皇でもない。そして知りうる限りのあらゆる禁手でそんな事態はない。

 

 こんな想定外の進化を遂げる赤龍帝ならば、下馬評を覆して自分を追い込んでくれるかもしれない。

 

 そんな期待を胸によぎらせながら、ヴァーリは戦闘を開始する。

 

「さあ、その力を俺に見せてくれ!!」

 

 あまりの光景に唖然として隙だらけだった一夏を引き離し、ヴァーリは躊躇なく殴りかかる。

 

 それに対して、イッセーもまた躊躇なく殴りつけた。

 

「ふん!」

 

「おらぁ!!」

 

 衝撃が二つ同時に響き、お互いの顔面に拳が叩き込まれる。

 

 そして鎧が砕け、二人の鋭い視線が交錯した。

 

「そうだ! それでいい! それでこそ俺の宿命のライバルだ!!」

 

「ふざけんなこの野郎! 俺の人生に野郎の宿敵なんて必要ないんだよ!!」

 

 そういい合いながら、二人は激突を繰り広げる。

 

 なりたての禁手にもかかわらず、イッセーの攻撃は確かにヴァーリに響いていた。

 

「強い、強いぞ赤龍帝!! 強くなったじゃないか兵藤一誠!!」

 

「あったりまえだ! 強くならないとハーレム王になんてなれないからな!!」

 

 ヴァーリが放つ無数の魔力弾を、大火力の砲撃でまとめて吹き飛ばしながらイッセーは突撃を敢行する。

 

 それをひらりとかわしたヴァーリだったが、しかしさっきを感じて身をひるがえす。

 

 そしてそのわずか一瞬先で、一夏の剣が空を切った。

 

「外したか!!」

 

「貴様! 二天龍の決闘を邪魔するか!!」

 

 かなりうれしい時間を邪魔されてヴァーリは激昂するが、その隙をついてイッセーの拳がヴァーリに叩き込まれる。

 

「馬鹿野郎! 最初から一対一何て考えてねえよ!!」

 

「ああ。レヴィアからも「見つけたら数でボコれ。遠慮はいらない僕が許す」って言われてるしな!!」

 

 もとより、和平を妨害する手合いを自らの楽しみのためだけに連れてくるような輩に遠慮など無用。

 

 あくまでただの障害として倒そうとするイッセーと一夏に、ヴァーリは残念に感じながらも昂らせた。

 

 決闘ではないのが残念だが、しかし素晴らしい戦いであることには違いない。

 

 この戦いを乗り越えることで、自分の夢にさらに近づけるのだと思うと歓喜の感情すら浮かんでくる。

 

 ああ、そうだもっと来い。

 

 より強い敵が、より聡い敵が、より硬い敵が、より早い敵がほしい。

 

 そしてそれを乗り越えて強くなる先に、真なる白龍神皇の道が―

 

「……ん?」

 

 そう思った瞬間、ヴァーリは全身を虚脱感が襲っていることに気が付いた。

 

 そして、気づいた瞬間に体に力が入らなくなる。

 

「なんだ? まだそこまでダメージは―」

 

「ようやく、効果が現れましたか」

 

 戸惑うヴァーリに、それまで迎撃を続けていたソーナが、静かに告げる。

 

「貴方は致命的な油断をしていた。それがあなたの敗因です」

 

「馬鹿な、確かに兵藤一誠も織斑一夏も強敵だが、致命打などもらっては―」

 

 そう言いかけて、ヴァーリは気づく。

 

 そういえば、自分はそれ以外にも一撃をもらっていた。

 

「まさか―っ」

 

 とっさに匙元士郎を叩きのめしたときにカウンターで接続されたラインを引きちぎる。

 

 そこから漏れたのは、魔力ではなかった。

 

 赤く、わずかに粘る液体。鉄の匂いを発する人間にとって最も重要な液体の一つ。

 

 すなわち、血液である。

 

「知っていますか? 人間は、血液の総量の半分を失うと生命活動に支障をきたす。半分は人間である貴方もその影響は大きいでしょう」

 

 眼鏡を持ち上げ、ソーナはポケットからラインにつながった袋を取り出す。

 

 それは、間違いなくリットル単位で給っていたヴァーリの血液だった。

 

「元々、イッセー君とレーティングゲームで戦うことになったときに行う予定だった戦法なのですが、匙はとっさによくやってくれました」

 

 あの時のカウンターは、本当にアドリブ以外の何物でもなかった。

 

 それほどまでに不意打ちに近かったし、何より匙が触れることすら奇跡に近い芸当だった。

 

 だが、それは確かに白龍皇という巨大な堤防に、アリの巣ほどの穴をあけていた。

 

 そして、今まさに白龍皇という堤防は決壊したのだ。

 

 その一撃を叩き込んだ眷属を誇りに思いながら、ソーナははっきりとヴァーリ・ルシファーに断言する。

 

「覚えておきなさい白龍皇。今日ここであなたを倒したのは、兵藤一誠でも織斑一夏でもない。匙元士郎という一人の転生悪魔です!!」

 

「……まさか、俺が、白龍皇が、禁手にも至っていない半端ものの神器ごときに…‥っ!」

 

 あまりの事態にヴァーリは平静を保てないが、しかしそれは狼狽ではない。

 

 それは歓喜。ジャイアントキリングを、驚愕の大番狂わせを達成された事実に対する、心からの驚喜であった。

 

「素晴らしい、素晴らしいぞ!! いるじゃないか、世界にはこんなすごい男が!!」

 

「言ってる場合じゃねいぜぃヴァーリ!!」

 

 と、美猴が黒歌を携えながら、即座にヴァーリをかっさらう

 

 

 見ればIS部隊もすでに後退を始めており、戦闘が終了したことを物語っていた。

 

「どうやら時間切れだ! 今日のところは負けを認めようや!!」

 

「白音は連れて帰りたかったけど、増援も来てるし仕方ないわね」

 

「そうか。ああ、俺はまた負けたのか」

 

 美猴と黒歌に支えられながら、ヴァーリは満面の笑みを浮かべてイッセー達を見る。

 

「禍の団にきて正解だった。こんな経験を何度もできるなど、うれしくてたまらない。ああ、これからどうやって勝ち越すのか考えるだけで気絶するほど歓喜に打ち震える……っ!」

 

「マジ勘弁してくれよ……」

 

 それに心底うんざりとした表情を浮かべるイッセーだが、ヴァーリの視線は彼には向けられない。

 

 代わりに向けられるのは、気絶している匙元士郎だった。

 

「起きたら彼に伝えてくれ。もし禁手にいたったときは、俺は全力をもってお前ともう一度戦いたいといっていたと」

 

 その言葉とともに、ヴァーリたちは霧に包まれて消えていった。

 



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冥界合宿のヘルキャット 終

自分はイッセーも好きですが、匙も結構好きです。

……恋愛的なそれじゃないですよ? 自分は女の裸で興奮します








追記、活動報告でオリジナルISを募集してます。よければどうぞ。


 

 戦闘が終了しても、悪魔たちはあわただしかった。

 

 なにせけが人はかなり大量に出ている。その治療を行うのは当然だった。

 

「放射能汚染の対策が必要不可欠だ! 魔法を使える奴らを呼んできてくれ!!」

 

「重傷者から治療しろ! 軽症の奴らは後回しにするんだ!!」

 

「おい! こっちに人を呼んできてくれ!!」

 

 怒号が飛び交う中、そこから少し離れたところで、レヴィア達は休息をとっていた。

 

「……ふう。とりあえず今回はしのげたね」

 

 流れた汗をぬぐいながら、レヴィアはそう漏らす。

 

 ISとそれらを基にした新兵器の群れによる襲撃は、どうやら本当に実戦試験でしかなかったらしい。

 

 まだかなり余裕があったはずなのに、人類統一同盟は早めに離脱していた。

 

 油断しているのか、それともそれほどまでの余裕があるのかわからないが、人類統一同盟はやはり脅威と認定するほかないだろう。

 

 今回の戦闘ではISを減らすことはできなかった。相当に余力のある編成で行動していたらしく、撃破してもすぐにカバーが入り離脱されたからだ。

 

「……よう、無事だったか」

 

 そこに、アザゼルが姿を現す。

 

 どうやら彼も戦闘に参加していたらしく、服が何か所か破れていた。

 

 裏を返せば、その程度の消耗で済んでいるということであり、やはり彼もまたかつての三大勢力の戦争を潜り抜けた猛者の一人だということか。

 

「やあアザゼル先生。堕天使側は大丈夫かな?」

 

「ま、損害は軽微ってやつだ。それに、悪魔もそこまでダメージはないんだろう?」

 

「貴族の護衛は精鋭だからね。もっとも、敵も安全重視で言っていたのかお互い大したダメージはないみたいだけど」

 

 レヴィアは努めて軽い口調で言うが、しかし状況は警戒に値するといっていい。

 

 なにせ、冥界は悪魔の本拠地だ。

 

 そこに対して戦闘を事前通告をしたうえで行った挙句、お互いにとはいえわずかな損害して済まして撤退することができるのだ。

 

「やっぱり、これは本腰入れた方がよさそうだね。コアの解析はよろしく頼むよ」

 

「ああ、早いうちにこっちでも量産できるようにしとかねえと、押し切られる可能性があるからな」

 

 お互いに、同じことを考えていたようだ。

 

 技術革新による装備の強化によって、ISと対異形戦の欠点は大きく軽減されている。

 

 すでにISは一機で平均的な上級悪魔クラスの脅威へと成長していた。

 

 このままいけば押し切られる可能性がある。そして、それは十分すぎるほどに脅威である。

 

 今後の展開を考えると、レヴィアもアザゼルも頭を抱えたくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「匙が意識を取り戻したって?」

 

「ああ、ついさっき目が覚めたって言ってたぜ?」

 

 イッセーと一夏は、二人で連れ立って治療用のテントへと向かっていた。

 

「にしても、ヴァーリの奴はホント強いな。……俺、勝てんのか?」

 

「そういう時は絶対勝つって言えよ」

 

 そういいながら匙のいるテントへと入ると、すでに匙は起き上がってすらいた。

 

「兵藤に織斑」

 

「よ、匙! 無事だったな」

 

 イッセーは元気よく挨拶するが、匙の調子はすぐれない。

 

 いな、肉体的な調子は全く持って問題がない。

 

 あるのは、精神的なものだ。

 

「結局、俺は一発でやられちまったな。……死んでないのがおかしいぐらいだ」

 

「匙?」

 

 一夏が訪ねる中、匙は肩を震わせてうつむいた。

 

「お前らは白龍皇相手に一歩も引かずに戦って、しかも兵藤は禁手にまで至ったってのに、情けねえ……」

 

「そんなことはない」

 

 自分の非力に悔やむ匙の言葉を遮ったのは、イッセーでも一夏でもなかった。

 

 そこに、赤い髪を持つ男性が入ってくる。

 

 その姿を見て、テントの中の者たちはいっせいに目を見開いて大慌てした。

 

「さ、サーゼクス様!?」

 

「ここここんなところになんで!?」

 

「お、お見苦しいところをあいたぁ!?」

 

 慌てて跪こうとしてベッドから転げ落ちる者もいる中、サーゼクスはそれを手で制すと、匙のところへと近づく。

 

 そして、軽く出張るが一礼した。

 

「今回は、君のおかげでリアスもソーナも死なないで済んだ。セラフォルーの分も含めて礼を言わせてくれ」

 

「え……?」

 

 思わぬ言葉に、匙は首を傾げた。

 

「でも、俺は一発殴られただけで意識を失ってしまいましたし、それは兵藤や織斑に言うべきです」

 

「いや、確かに彼ら二人の奮戦もほめたたえられるべきものだが、何より君の一撃があったからこそ白龍皇を退けることができたのだ。それを褒めるのは当然だろう」

 

 サーゼクスはそうはっきりといい、そして、それに同意する声が届いた。

 

「まったくじゃ。若いの、そうあんまり自分を卑下するな」

 

 美女を伴って現れるのは、長いひげを伸ばした。老人。

 

 そして、それはこの業界では当然知っておくべき有名人だった。

 

「ほ、北欧の主神オーディン!?」

 

「な、ななななんでこんなところに!?」

 

 あまりの人物に、さらにテント中が驚愕に包まれる。

 

 すでに驚愕のあまり気絶するものすら出てくるレベルで人が出ていた。

 

 そんな狼狽する者たちをあっさりとスルーして、オーディンはにやりと笑いながら匙を見る。

 

「まったく、覇龍すら使える白龍皇を、まさか禁手にも目覚めずに王手をかけるとは恐れ入ったわ。悪魔出なければ真っ先に英雄として迎え入れてたわい」

 

「え、え、え?」

 

 べた褒めといっても過言ではない言葉に、匙は呆気に取られて何も言えなかった。

 

 そんな匙を一瞥してから、オーディンはサーゼクスへと顔を向ける。

 

「おいサーゼクス。個奴にはないか褒美を取らせるべきだろう? 出なければわしがもらうぞ?」

 

「御心配には及びません。すでに略式ではありますが、勲章を授与するつもりでこちらに来させていただきましたから」

 

 そう答えると、サーゼクスは小箱を取り出すと匙の手に握らせる。

 

 その箱の中には、明らかに手の込んだ細工が施された、メダルがあった。

 

「これは、大規模な戦闘で大きな成果を上げた者に渡される勲章だ。私は、これを君に渡しに来たのだよ」

 

「ま、待ってください! 俺は、兵藤や織斑に比べれば全然―」

 

「何言ってんだよ、匙!」

 

 イッセーは、戸惑う匙の肩をバンバンとたたいた。

 

「お前がいなけれや俺も織斑も大変だったんだ。イイから素直にもらっとけ!」

 

「確かにそうだな」

 

 一夏も、それに素直に同意する。

 

「確かに俺たちは白龍皇と戦ったけど、膝をつかせたのはお前だよ。素直にもらっといたらどうだ」

 

「兵藤、織斑……」

 

 戸惑う匙の両手に勲章を握らせながら、サーゼクスはその目をまっすぐに見つめてほほ笑んだ。

 

「謙遜してはいけない。君もまた、この戦いの英雄の一人だ」

 

 それに対して、誰一人として異を唱える者はいなかった。

 

 二天龍の片割れを、それも禁手はおろか覇龍にすら目覚めている存在を、そして何よりも魔王の末裔を、彼は未熟な身で打倒したのだ。

 

 そして、それをすでにヴァーリ・ルシファー自身が認めている。

 

「上を目指すといい。私たちは、君のようなものを待っている」

 

「………お、俺、俺は―」

 

 テント中にいる全員が見守る中、匙は震える声で思いを漏らす。

 

「教師に、なりたいんです」

 

「ああ」

 

「俺の死んだ親も教育関係で、それに会長も学校を作ろうとしていて」

 

「私個人としては、ぜひ応援したい夢だね」

 

「俺、俺……なれますか?」

 

「もちろん。きっといい教師になれるとも」

 

 その言葉に、匙は大粒の涙を流した。

 

「だから、先ずはその第一歩を受け取ってくれるね?」

 

「はい、はい……っ」

 

「うんうん。見所のある若い芽を見るのは久しぶりじゃ。冥界の未来は明るいのぉ」

 

 その光景にうなづきながら、オーディンは髭を撫でつけてイッセーと一夏に視線を向ける。

 

「それに、おぬしらもなかなかいい」

 

「「え?」」

 

 思わず二人して首をかしげるが、オーディンは愉快そうに目を細めると美女を連れ立って外へと出る。

 

「二対一とはいえよく頑張った。このわしが認めるのじゃから自信を持て」

 

 そんな去り際の言葉に、一夏とイッセーは目を見合わせる。

 

 北欧神話の主神の誉め言葉に、どう対応していいのは一瞬迷ってしまう。

 

 だが、イッセーも一夏も目指すところはきちんとある。

 

 だから、これはきっといい傾向なのだろう。

 

「……なあイッセー」

 

「なんだよ織斑」

 

「……次は倒すぜ」

 

「………ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて! 帰ってきたよ駒王町!!」

 

 列車から降りるなり、レヴィアは背を伸ばしながらそう声を放つ。

 

 そしてそれに続いてリアスたちが下りるが、何人かの表情は暗かった。

 

「冥界では大変でしたね」

 

「全くですわ。それに何より」

 

 蘭と朱乃の視線は、一夏の背中に注がれる。

 

 そこには、小猫がしっかりと抱き着いていた。

 

「にゃん♪」

 

「こ、小猫? 猫だぞまるで」

 

「はい。猫ですから」

 

 普段とはまったく違う様子を見せる小猫に、一夏もさすがに戸惑うが小猫は全く意に介さない。

 

「守ってくださいね、一夏さん」

 

「ああ、それは約束……痛い!?」

 

「一夏さん? だからなんでフラグを立てるんですか!!」

 

「あらあら、小猫ちゃんばっかりずるいですわ」

 

 蘭と朱乃につねらえる一夏をとりあえずスルーしながら、レヴィアはとりあえず今夜のことを考えた。

 

 小猫を一夏が落とすとはちょっと驚いたが、これはこれで好都合だ。

 

 あとは手練手管を使用すればうまくすればネコミミクール系ロリを味わうことができるのではないかと、皮算用を始めている。

 

 そんなとき、どこからともなく青年が現れた。

 

「……やっぱり、君がアーシアだったんだね」

 

「え? あの、貴方は?」

 

 戸惑うアーシアにかまわず、青年はその手を取ろうとするがイッセーが割って入る。

 

「おい! アーシアに一体何の用だ!!」

 

 イッセーは警戒心を強めるが、しかし相手は一切構わずアーシアの前で服をはだけて見せる。

 

 一見すれば非常識極まりない光景だが、しかしそれを塗り替えるほどの姿がそこにあった。

 

 そこにあるのは大きな傷跡。一歩間違えれば致命傷といってもいいほどの怪我の跡がそこにあった。

 

 そして、それを見たアーシアは目を見開いた。

 

「その傷は、もしかして……?」

 

「そう、あの時は顔を見せられなかったけれど、僕はあの時の悪魔だ」

 

 その告白に、アーシアは言葉を失っている。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。傷跡を消してもらうことはできなかったけれど、僕は君の神器によって命を救われた」

 

 それは、上級悪魔アスタロト家の次期当主の名。

 

 彼は、すなわちアーシア・アルジェントが追放される原因となった、傷を治してしまった悪魔だった。

 

「会合の時はあいさつできなくすまなかった。君にお礼を言いたかったんだ。そして―」

 

 ディオドラはいつの間にかイッセーをすり抜けると、アーシアの手の甲に口づけをする。

 

 それに大なり小なり目を見開く中、ディオドラは照れくさそうに告げる。

 

「君と出会えたのはきっと運命だ。どうか、僕の妻になってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚愕の叫びが響き渡る。

 

 夏休みの最後は、波乱の幕開けとなっていた。

 




そういうわけで、戦闘に関してはオリジナル要素多めのヘルキャット編でした。

っていうかこの作品だとレーティングゲームはどうしたって原作まんまになるので、それを避けるためには変化をつけるしかありませんしね。

それに人類統一同盟は勢力としても非常にでかく強大です。

例えるならガンダムOO第一期で、ソレスタルビー〇ングがGNドライブ搭載機を三勢力ひとつ分のモビルスーツの数だけ擁しているようなものです。戦線を広げすぎても占領地の管轄ができないと判断しているからゆっくりと進めているだけで、やろうと思えば人類統一同盟はひと月立たずに人間世界を征服できます。

そんなわけで、戦争的な戦いをやってみました。レヴィア達は後方でしたが、弱い奴から狩るという戦術的に何ら間違ってない戦法をとったことで、苦戦しています。

ですがこの作品の真のハードモードは次の章でお披露目されます。三大勢力は大打撃を受けることになりますので、ハラハラしながらお楽しみください。


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体育館裏のホーリー 1

はい、真の意味でハードモードに入っていくホーリー編はいります!! 


 

 夏休み明け。それは、学生にとって特に憂鬱な日の一つ。

 

 だが、兵藤邸の住人たちにとってはあまり関係ない日であった。

 

 それは単純な理由だった。

 

「また来たの?」

 

「ええ、また来たわ」

 

 レヴィアとリアスがあきれ半分で見つめる先には、非常に豪華な家具や食べ物などの送迎品の山だった。

 

「ディオドラくんも攻めるねぇ。どうやらこれは本気らしいよ」

 

「かもしれないけどイッセーのご両親にも迷惑だわ。これ以上続くようなら苦情を言わないと」

 

 冥界から帰還したあの日以来、ディオドラはアーシアにいくつもの贈り物を捧げていた。

 

 愛をささやく手紙から、食事の招待状。さらには映画のチケットまで。

 

 それはもう、財力に有り余るものだからこそできる物量作戦だった。さすがはアスタロト家の次期当主であるというべきか。

 

 同じ金持ちとしてまあわからなくはないという感情を込めながらレヴィアは軽くため息をつく。

 

 そしてその直後。

 

「あ、アァアアアアシアァアアアアアアア!!!」

 

 そんなイッセーの絶叫が響き渡った。

 

「イッセー!? いったい何が―」

 

「大方アーシアちゃんがディオドラに嫁ぐ夢でも見たんじゃないの?」

 

 慌てるリアスを押しとどめながら、レヴィアは適当に食品を見繕うと食べ始めた。

 

「うんおいしい。腐らせるのもあれだし、今日の朝食はこれにしたら?」

 

「あなた、余裕ねぇ」

 

 レヴィアにリアスはあきれるが、しかしまあ気持ちはわかる。

 

 なにせアーシアはイッセーにぞっこんだ。そうでもなければそもそも敬虔な信者なのに男女同衾などするわけがない。

 

 そんなことは誰もが知っている。知らないのは当のイッセーだけである。はっきり言って杞憂にもほどがあるというほかない。

 

「イッセーくんも鈍いねぇ」

 

「本当だわ。私の気持ちにも少しぐらい気づいてくれてもいいのに……」

 

 二人は同時にため息をついて、とりあえず階段を上っていく。

 

 そしたら、一夏がドタバタしながら降りてきた。

 

「レヴィア! リアス先輩!! イッセーがいきなり絶叫を―」

 

「たぶん大丈夫だから落ち着こうか」

 

 慌てる一夏にそう返しながら、レヴィアは視線をその背中に向ける。

 

 そこには、寝ぼけた状態で小猫が抱き着いていた。

 

「……なつかれたねぇ?」

 

「あ、ああ。俺もちょっと驚いてる」

 

「にゃぁ……一夏さん……」

 

 すごく気持ちよさそうな表情で抱き着いている小猫を起こすのも忍びない。というかなぜその体勢を寝ぼけながら維持できる。

 

 そんなことを思いながら、レヴィアは苦笑する。

 

「どこもかしこもラブコメしてるねぇ。僕もちょっとしたくなってきたよ」

 

「レヴィアの場合、ラブコメっていうかメイクラブコメだけどな」

 

「5点」

 

「厳しい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、紫藤イリナちゃんのこと? そういえば言ってなかったね」

 

 風紀委員室で、レヴィアはそうあっさりと発言した。

 

 それに、駆け込んだ松田と元浜は白い目を向ける。

 

「いや、言ってくださいよレヴィアさん」

 

「全くですよ。おかげで俺たち驚いたじゃないですか」

 

 確かにちょっと悪いことをしたかもしれない。

 

「紫藤イリナさんって、教会の人でしたよね? こんなところにきていいんですか?」

 

 資料をまとめながら蘭がそういうが、レヴィアはあっさりとうなづいた。

 

「むしろ遅いぐらいだよ。魔王の妹二人と堕天使総督がいる三大勢力和平締結の地なんだから、教会からも一人ぐらい送った方がいいだろうしね」

 

「そういうもんか?」

 

 一夏としてはよくわからないが、それにレヴィアは苦笑する。

 

「そういうもんだよ。政治っていうのは難しいのさ」

 

 そう微妙に辟易した表情で告げるレヴィアは、実際政治の苦しみに振り回されてきたものだ。

 

 それはともかく、実際この地は三大勢力にとって重要な地だろう。

 

 先ほどレヴィアも行ったが、ここは三大勢力が和平を締結した土地だ。ある意味和平の象徴ともいえるこの地は、三大勢力の精神的に重要なはずだ。

 

 しかも、リアスとソーナといった魔王血族が管轄を行っている。そのうえ、その指導役といってもいい地位についているのは神の子を見張るものの総督だ。

 

 天界もしくは教会からも、人員を派遣するのは当然の流れだろう。むしろしなければ天界をよく思わないほかの勢力から非難が出かねない。

 

 そういう意味では、聖剣使いとはいえ一介の聖剣使いであるイリナが担当というのはむしろ問題がある部類だろう

 

「むしろ人員としては役者不足なぐらいだよ。出すなら位階の高い天使か、枢機卿クラスの聖職者を教師として送り込むぐらいじゃないとだめだと思うけど……」

 

「それについては心配はいりません」

 

 レヴィアの言葉を遮って、ソーナが風紀委員室に入ってきた。

 

「あ、ソーナちゃん」

 

「俺もいますよ、レヴィア先輩」

 

 匙もまた連れ立って入ってきた中、ソーナは眼鏡を持ち上げると苦笑を浮かべる。

 

「どうやら悪魔の駒の技術を使って転生天使なるものを天界は生み出したようです。ミカエル様直属だそうですよ」

 

「本当ですか?」

 

 蘭はその言葉に首を傾げた。

 

 割と問題発言をさらりとぶちかましたことは記憶に新しい。

 

 そんな人物が天界のトップの直属とは、ある意味で不安になる選抜だった。

 

「まあ、エクスカリバーの使い手ともなれば相応の立場になるでしょう。それに、兵藤君の幼馴染らしく問題児ですが悪人ではありませんし」

 

「さらりとひどいですね、生徒会長」

 

 元浜がその言い様にドン引きするが、しかしソーナの視線は鋭く元浜に突き刺さった。

 

「貴方もですよ。かつて覗きの常習犯だったことを忘れないように」

 

「それは大丈夫だよ」

 

 そんなソーナの警告を受け止めるのは、レヴィアだった。

 

 彼女はにっこりとほほ笑むと、悠然と手を組んで言い放つ。

 

「僕が吸い取ってるからね。大丈夫大丈夫!」

 

「それもまた問題ですけれど」

 

 辛辣なツッコミが飛んだ。

 

 そんな会話の中、松田はふと疑問に思って匙に声をかける。

 

「そういえば、転生悪魔ってチェスの駒をベースにしてるよな?」

 

「ああ、俺もお前も兵士だしな」

 

「だったら、転生天使もチェスの駒をモチーフにしてんのか?」

 

「いいえ?」

 

 松田の言葉に答えるのは、ソーナだった。

 

「転生天使はトランプをモチーフにしているようです。紫藤さんは(エース)だそうですよ」

 

「なるほど、一番槍担当なのか」

 

「たぶんそういう意味じゃないと思うぞ?」

 

 一夏が安直な想像をして、それに元浜が眼鏡を光らせてツッコミを入れる。

 

 そして、元浜はふと首を傾げた。

 

「そういや、意味といえばちょっと気になることが」

 

「ん?」

 

 レヴィアが首をかしげるが、そのまま元浜はレヴィアに質問をした。

 

「なんで織斑と蘭ちゃんは戦車なんですか? 蘭ちゃんはともかく、織斑は騎士のイメージがあるんですが」

 

 それは、何ともなしにかけられた言葉だった。

 

 だが、その言葉に風紀委員室は凍り付いた。

 

「………ん?」

 

「あれ? なんだ?」

 

 松田と元浜が慌てて周りを見る中、レヴィアが何か言うよりも早くソーナが眼鏡を持ち上げた。

 

「そういえば、もうすぐ体育祭ですね」

 

 かなり語気の強い口調だった。

 

 明らかに、話を変えるという強い意志が感じられている。

 

「風紀委員にもしっかり仕事をしてもらいますので、ちょっと別室で話しましょうか」

 

「え、いや、その」

 

「レヴィア」

 

 戸惑うレヴィアに、ソーナはより強い語気で言い放つ。

 

「……うん、じゃあ行こうか」

 

 それに、レヴィアは珍しく消沈した表情でうなづくとソーナについていった。

 

「俺、なんかまずいこと言っちゃったか?」

 

 そうとしか考えられないので、元浜は冷や汗を流す。

 

 それを見て、一夏と蘭はため息をついた。

 

 だがそれは、決して元浜を非難するものではない。

 

 むしろレヴィアにあきれているのが半分。そして自己嫌悪が半分だった。

 

「ちょっと、いろいろあってな」

 

「すいません。いつか話しますからもうちょっと待ってくれませんか?」

 

 二人して心底申し訳なさそうに言っているのを見せられたら、誰も何も言えなかった。

 

 そんな空気の中、一夏は天井を見上げると、どこか遠くを見る目つきで何かを思いつめる。

 

「……強く、なりたいよなぁ」

 

「ですよねぇ」

 

 はあ、と、一夏と蘭は同時にため息をついた。

 




一夏と蘭が悪魔になった理由は、まあ前作を読んでいただければすぐわかる内容です。あれとほぼ変わっておりません。

あと、ISキャラをいつ出すのかについての説明ですが、基本的にはゲストキャラとして出す方向にしようかと思っております。

著作転生生徒のケイオスワールドで、オリジナルキャラをどいつもこいつも何回も出番を出すようにして出そうとして、数が多すぎて書き切れなかったことを反省し、こちらではキャラの数を極力少なくするための努力と思ってください。それはともかく続編の方ではオリジナルキャラクター出まくってますが、それは作品の都合上仕方ない部分もありますのでご容赦を。


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体育館裏のホーリー 2

 

 

 そんな日常が続いたあくる日、レヴィア達はリアスたちの部屋に遊びに来た。

 

 いつものことではあるが、最近は体育祭の準備関係などであわただしかったため久しぶりではある。

 

「ヤッホーみんな! 遊びに来たよー!!」

 

「あら、ちょうどいいタイミングで来たわね、レヴィア」

 

 リアスはそう告げると、魔方陣を展開して映像を映し出す。

 

「何々? 映画でも見るの?」

 

「違うわよ。ほら、若手悪魔の次期当主たちでレーティングゲームをするっていう話があったじゃない?」

 

「ああ、そうだった」

 

 そう、あの会合に出席した若手悪魔たちで、レーティングゲームを行うという催しが出てきたのだ。

 

 人類統一同盟及び禍の団による襲撃の混乱を収めるためのレクリエーションのようなものだが、次期当主たちはみなやる気に満ち溢れていた。

 

 レヴィアもそのために千冬に予定を開けておくように言っておくほどの念の入れようだ。割と本気で勝ちに来ている。

 

「それで? 確か最初はサイラオーグくんとゼファードルの戦いだったそうだけど」

 

「なあ、それ勝負見えてないか?」

 

 一夏がひどいことを言うが、しかしそれはまた事実だ。

 

 下馬評いおける順位は、上から順にサイラオーグ・ネバン・シーグヴァイラ・セーラ・リアス・ディオドラ・ソーナ・ゼファードルである。

 

 一番上と一番下の戦いとか、ちょっと上もひどくないだろうかと少しだけ同情している。

 

「たぶんあれじゃないか? コテンパンに倒せばそのゼファードルってやつも懲りると考えたとか」

 

「公開処刑ですね」

 

 元浜の推測に同意しながら、小猫が椅子に座った一夏の膝の上に座る。

 

 あまりの自然な流れについ反応が遅れたが、しかしこれはまたストレートにデレている。

 

「し、自然すぎて反応が遅れた!?」

 

「あらあら、小猫ちゃんったら抜け目がないですわね」

 

 一人用の椅子に座られた関係上、まったくもってどうしようもない。

 

 これには蘭はもちろんさすがの朱乃も負けを認めるしかなかった。

 

「あら、その手があったわね。ならイッセー、膝の上に乗ってもいいかしら?」

 

「え、ええ? マジですか!?」

 

「だ、駄目です部長さん! イッセーさんの膝の上は一つしかないんですよ!!」

 

「ほう? なら私は肩の上に乗ろう」

 

「いや、待って待ってやめてやめてやめないで胸がぐふふ」

 

「「ぶっ殺す!!」」

 

 リアスたちが触発されて暴走を開始し、最終的に松田と元浜がブチギレるところまでワンセットな中、レヴィアは素直に映像を確認する。

 

 ……一言でいえば、ワンサイドゲームだった。

 

 どちらも上級悪魔の次期当主なだけあり、眷属も含めて優秀な者たちによる激戦だった。

 

 だが、それでもサイラオーグ・バアル眷属が圧倒的だった。

 

 一夏や蘭ならまともに戦えるし、千冬なら数人まとめて相手にすることもできるだろう。だが、数が圧倒的に足りていないというのが難点だった。

 

 さらに恐ろしいことに、サイラオーグはそのレーティングゲームで兵士を運用していない。

 

 仮面をつけたその兵士は何もせず、ほかの眷属たちだけでゼファードルの眷属を撃破していた。

 

 そして、追い詰められたゼファードルは一対一の血統をサイラオーグに申し込み、そしてそれをサイラオーグも素直に受け取る。

 

 ……そこからがまさに圧倒的だった。

 

 ゼファードルの魔力攻撃は、威力だけならリアスより上だった。

 

 にもかかわらず、サイラオーグはそれをあろうことか素手で弾き飛ばす。

 

「………小猫、あれできる?」

 

「無理。蘭は?」

 

「絶対無理」

 

 蘭と小猫が戦慄する中、サイラオーグが反撃に移る。

 

 ゼファードルは何重もの障壁を瞬時に展開するが、サイラオーグはそれを素手で破壊した。

 

 そしてそこからは、もはや一方的にもほどがある展開だった。

 

 放つ攻撃は素手ではじき、障壁もまた素手で破壊し殴りつける。

 

 その繰り返しにゼファードルはおびえた表情で降参を宣言し、そしてサイラオーグ眷属は圧倒的な勝利を見せた。

 

 下馬評で大きな差があったとはいえ、これは戦慄するほどだった。

 

「恐れ入ったよ。……とはいえ、ネバンが相手ならそう簡単にはいかないか」

 

「そうなんですか?」

 

 レヴィアの言葉を聞いて、イッセーが首をかしげる。

 

 正直あの戦闘能力はコカビエルが相手でも勝ってしまいかねないほどだったが、しかしレヴィアは静かにうなづく。

 

「ネバンは眷属のほとんどを秘匿している。下馬評はあくまで公開されているメンバーの戦闘能力からくる推測だから、下手をすればあいつが一番強い眷属を持っている可能性があるね」

 

「ええ。彼女は戦力を秘匿する傾向があるから、ほかの次期当主たちと違って戦力の計算が難しいの」

 

 リアスのことばに、その場のほとんどが息をのむ。

 

 それほどまでに真なるアスモデウスの血は強力ということか。

 

「それはそれとして、あれが歴代バアルで一番無能といわれながらも次期当主候補に収まった男だよ。松田君や元浜君は覚えておくといいよ」

 

「え、あれで一番無能!?」

 

 レヴィアの言葉に、松田は目を見開いた。

 

 当然だろう。あんな圧倒的な戦闘をおこなったものが、歴代で一番無能などとあり得ない。

 

 だが、それにアザゼルもリアスもうなづいた。

 

「そのとおりよ。サイラオーグは、バアル家の特性である消滅を受け継ぐことはおろか、魔力をかけらも持たずに生まれてきた」

 

「魔力を何より重視する悪魔からしてみりゃ無能以外の何物でもねえ。今のバアル当主は苦虫をかみつぶした気分だろうな」

 

「あれだけ強いのに? 俺が当主なら喜びそうなもんだけどな」

 

 一夏としては全く理解できなかったが、しかしレヴィアはそれに苦笑する。

 

「バアル家当主としては憤死ものだよ。彼は一時期サイラオーグを家の恥だの欠陥品だの言ってたぐらいだからね」

 

「だろうな。だが、それでも次期当主として認められるほどにサイラオーグは力を高めた」

 

 アザゼルはそういうと、ステータス表を展開する。

 

 そこに現れたステータスを見て、何人かは唖然となった。

 

 サイラオーグはサポートやウィザードなどの数値は非常に低いが、パワーの数値だけは天井にまで達している。

 

 二番手であるネバンですらギリギリ半分といったところ。明らかに圧倒的だった。

 

「因みに、ディフェンスをステータスにするとこうなる」

 

 そういてアザゼルが新たなステータスをつけると、こんどはレヴィアのステータスが天井をあっさり通過してのまま反対側の壁まで到達した。

 

「俺たちの主すげえ!!」

 

 松田の驚愕も当然だろう。

 

「しかし、彼ほどの存在ですら蔑視するとは、バアル家は魔力至上主義ですね」

 

「まあ、代々受け継ぐ才能を全く持ってないものともなれば思うところもあるだろうけどねぇ」

 

 祐斗のため息交じりの評価に、レヴィアは苦笑交じりでフォローを入れる。

 

「しかし血反吐を吐くほどの修行によって手にいれた格闘技で、サイラオーグくんは次期当主の座を手に入れた。……努力が必ず身を結ぶとは言わないけれど、努力っていうものは実に馬鹿にできないものさ」

 

「ああ、お前らもよく覚えとけよ」

 

 レヴィアを肯定しながら、アザゼルはそう皆に発破をかける。

 

「奴は、産まれたときから何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けた男だ。華やかに彩られた悪魔の純血種のなかで、泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでる野郎だよ」

 

「だけど、それを乗り越えた彼は間違いなく本物。……レーティングゲームで戦う時は覚悟しておかないと、ゼファードルみたいに終わるよ」

 

 アザゼルもレヴィアも心からサイラオーグを敬意と警戒の視線で見る。

 

 だが、その会話の中に気になる点があった。

 

「終わる? 私たちは、ディオドラと戦ったらゼファードルと戦うことになるものとばかり思ってたけど―」

 

「いや、無理ですよリアス先輩」

 

 一夏が、それに対して返答する。

 

「アイツは心が折れました。少なくとも当分は戦いの場になんて立てないでしょう。……下手したら一生」

 

「なるほど。教会の戦士の中にもそうなって脱落したものは何人もいた。それほどまでの恐怖を刻まれたということか」

 

 ゼノヴィアが一夏の言葉にうなづき、そして再び戦慄が走る。

 

「お前らも十分に気を付けておけ。あいつは対戦者の精神もたつほどの気迫で向かっている。あいつは本気で魔王になろうとしているから、そこに妥協も躊躇も一切ないぞ」

 

 アザゼルのその言葉に、全員がうなづいた。

 

「とりあえず、僕は千冬さんを呼び戻してネバン対策に充てるとして、リアスちゃんはディオドラ対策をどうするんだい?」

 

「そうね。対決前のランキングはデータによる予想に過ぎないし……」

 

 そういってリアスが考え込んだ次の瞬間だった。

 

 部屋の片隅で、人ひとり分の転移用魔方陣が展開される。

 

 その魔方陣の紋章を見て、レヴィアは嫌そうな表情を浮かべた。

 

「うわぁ、ついに業を煮やして直接乗り込んできちゃったのかぁ」

 

 そのいやそうな声とともに、さわやかな表情を浮かべた青年が姿を現す。

 

「ごきげんよう、リアスさん。アーシアに会いに来ました」

 

 ディオドラが、その姿を現したのだった。

 




レヴィアすごい。

非常にとがったステータス構成のレヴィア。普通こういうタイプは格上を打倒しやすい代わりに格下に足元をすくわれやすいのですが、レヴィアの場合は格上には勝ち目がほぼないけれど格下に倒されることもほぼないというぶっ飛んだステータスに。そもそも格上を一人で倒す気もないから望みどおりです。


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体育館裏のホーリー 3

 

 若手悪魔の次期当主たちに、眷属を含めてインタビューが行われるというイベントが起きた。

 

 前回の襲撃で落ち込んでいる冥界の雰囲気を盛り上げる一環ともなれば断るわけにはいかないので、レヴィアは眷属とともに素直に参加することにする。

 

 だが、その控室の空気は微妙に悪かった。

 

「あの野郎、マジで許せん! なあ元浜!!」

 

「ああ、まったくだ!! なあ織斑!!」

 

「同感だな! なんなんだあいつ! なあ蘭!」

 

「本当です! あれ絶対女の敵ですよ!! ねえ松田さん!!」

 

「……どうした、四人とも?」

 

 四者四様に怒りを見せている眷属仲間(同僚)を見て、千冬は何事かを首を傾げた。

 

「テレビでインタビューを受けるという時に、そんな調子ではレヴィアに恥をかかせるぞ? 愚痴なら聞いてやるから発散しろ」

 

「いやぁ、誠に申し訳ない千冬さん。……あのバカとっちめとけばよかったろうか」

 

 あまりの様子に普段より軟らかめに対応する千冬に謝りながらも、レヴィアもまた思い出すと機嫌が悪くなった。

 

 あのあと、ディオドラは眷属のトレードを申し出たのだ。

 

 狙いはもちろんアーシアだが、リアスは当然断った。

 

 そうしたら、こんどはディオドラは賭けを申し出たのだ。

 

 賭けの内容は次のレーティングゲームでの勝敗。もしディオドラが勝ったら、その時はアーシアを嫁にもらうという発言だった。

 

 この時点で女を者扱いしているような雰囲気が微妙にあり、その場にいた全員の機嫌が悪くなった。

 

「それで止めに入ったイッセー先輩になんていったと思います?」

 

「まあ大体予想がつくがな。下級悪魔ごときが無礼な……とかだろう」

 

 そう千冬もため息をつく。

 

「どうも悪魔はフランス革命前のフランス貴族のような傲慢さがあるようだな。レヴィアで慣れていると時々苦労するが、お前たちも大変だな」

 

「そうなんですよ申し訳ない。っていうかディオドラの奴どんだけアーシアちゃんにご執心なんだか」

 

 同じ上級悪魔として申し訳なく思い、レヴィアは一応頭を下げるがすぐに考えこむ。

 

「血統で個体差が大きく出てくるうえに、世代交代が長いからそういう感じでして」

 

「お前も苦労しているということか。今度何か奢ってやる」

 

「いや、千冬さんの給料、いまは僕が出してるんですけど」

 

 などと空気を緩い方向に弛緩させながら、レヴィアはと千冬はしかし懸念の表情を浮かべる。

 

 二人とも、少し気になることがあったのだ。

 

「ま、あまり気にしても意味ないし、リアス先輩たちなら勝てるだろ」

 

「まあ、赤龍帝の鎧を展開したイッセー先輩ならそう当たり負けしないとは思いますけど、ルール次第だと苦戦するかも……」

 

「ああ、レーティングゲームって最大火力とかに制限がかかるルールもいろいろあったからなぁ」

 

 と、会話が弾む中、レヴィアと千冬は少し距離を置くと小さな声で話し始めた。

 

「……少し気になるんだが、そのディオドラというのはそもそもなんで聖女がいるところで怪我をしていたんだ?」

 

「そこは気になりますね。普通、そんなことになったら冥界でも騒ぎになると思うんですが、調べても出てこなくて」

 

 常識的に考えて、上級悪魔の跡取りが管轄する土地と聖女が祭られている土地は距離が開けられているものだ。和平が結ばれてない状況ならなおさらだろう。

 

 そして、上級悪魔が聖女のいる土地で殺されかけたなどということになれば、それこそ開戦派が騒ぎ出してもおかしくない。

 

 にもかかわらずそれが起きてないということは、秘匿されたということである。

 

「……何かありそうだな。レヴィア、調べておいた方がいいと思うぞ?」

 

「了解しました。人を雇って調べてみますよ」

 

 二人はそう結論付けると、警戒心を一段上昇させる。

 

 なにせ、いまは準戦争状態といってもいい緊張状態である。

 

 少しぐらい警戒しすぎる程度でちょうどいい状態だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはともかくとして、世の中は特に面白くできているものである。

 

「ふ、ふふっははっははふぅ……っ!」

 

「レヴィアさん! レヴィアさんしっかりしてください!!」

 

 鼻血を出して倒れ伏すレヴィアを抱きかかえながら、蘭が狼狽する。

 

 どうしてこうなったのかと蘭は考えるが、しかしそんなものなど決まりきっている。

 

「ああもう! だからそんな恰好したらだめって言ったんです!!」

 

 ……リアスたちがコスプレでゲームをしていた。

 

「あらあら。やっぱり裸よりもこういうののほうが刺激が強い時があるのねぇ」

 

 そんなおっとりと告げながらも、朱乃の表情はどSだった。

 

 レヴィアを性的にいじめることに、何かしらの興奮を抱いていることは間違いない。彼女は女性相手でも結構からかう時はからかうのだ。

 

 因みに、そんな彼女の恰好は巫女服ではあるが、太もも全開で胸元も申し訳程度に隠しているだけだった。

 

「どうですか一夏くん? 私、似合います?」

 

「に、似合ってるけど隠してください!!」

 

 一夏は速攻で視線を逸らすが、そこには同じ格好をした小猫がいて意味がなかった。

 

「似合いますか? にゃん♪」

 

「に、似合ってるから着替えろ小猫!!」

 

 前門の朱乃後門の小猫という状況に、一夏割とどぎまぎしていた。

 

「だ、大体嫁入り前の女がそんな格好したらいけないですよ朱乃さん! 小猫もそんなキャラじゃないだろう!?」

 

「あらあら、観られても構わないと思ったからこうしているのですわ。ねえ、小猫ちゃん?」

 

「はい。一夏さんにならみられてかまいません」

 

 そういいながらすり寄ってくる二人を、蘭が強引に引きはがす。

 

「落ち着いてください二人とも!! イッセー先輩帰ってきますよ!!」

 

「あらあら、見られても減るものじゃありませんわよ」

 

「いや、女の尊厳が減りますよ」

 

 一夏はまじめな表情で発言するが、朱乃は答えず再び抱き着いてくる。

 

「一夏くんは男の基準でものを見すぎですわ。私の尊厳はそんなことじゃ減りませんわよ?」

 

「へーりーまーすー!!」

 

「あ、イッセー先輩がかえってきました」

 

 小猫はそういうなり即座に上着を羽織って服を隠す。

 

「あらあら、どうせならイッセーくんにも見せてあげたらどうですか? 喜びますわよ?」

 

「嫁入り前の女性が付き合ってもない男の前でそんなことしたらだめです!! ほら上着貸しますから来てください!!」

 

 動じない朱乃に一夏は強引に自分の上着を着せるが、それがよくなかった。

 

「ただいま戻りまし……た……」

 

 リビングに入ってきたイッセーの視界に、そんな五人の様子が映る。

 

 興奮のあまり鼻血を出して気絶したレヴィア。

 

 顔を真っ赤にして涙目にすらなっている蘭。

 

 そして、露出度の高い服を着ていたせいで、上着誤字だと裸に上着という印象を与えてしまう小猫と朱乃。

 

 とどめに自分の上着を脱いでいる一夏。

 

 数秒で誤解した。

 

「……畜生抜け駆けされたぁああああああああ!!!」

 

「違います! 違いますから落ち着いてくださいイッセー先輩!!」

 

 号泣しながら走り出すイッセーを蘭は追いかけるが、そしてイッセーが逃げ込んだ先ではさらにド級の事態が勃発していた。

 

「あ、イッセーさん」

 

「イッセー、帰ってきたのね? ……似合うかしら?」

 

 そこには、朱乃と同様の恰好をしたアーシアと、悪魔を模した露出度の高い恰好をしたリアスがいた。

 

 数秒後………

 

「ぐふぁ」

 

「イッセー先輩しっかりしてください!! 誰か、輸血してください!!」

 

 今日もまた、兵藤邸は賑やかである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてリアスとディオドラの決戦日、レヴィア達もまた、応援のためにオカルト研究部室に集まっていた。

 

「……気合入ってるな、皆」

 

「当然だろ織斑。……アーシアはあんな奴に渡さない!!」

 

 一夏に答えるイッセーの表情がすべてを物語っているだろう。

 

 それほどまでに、グレモリー眷属はディオドラに怒りを燃やしていた。

 

「私たちのアーシアに手を出そうという気が起きないように、徹底的に叩き潰さないとね」

 

「そうだねゼノヴィア。僕も全力を出すよ」

 

 やる気を出しているゼノヴィアと祐斗の隣で、蘭は朱乃や小猫と話していた。

 

「あんな人なんかに負けないでくださいよ! 応援してますから!!」

 

「うふふ。ディオドラ・アスタロトは私がびりびりとしてあげますわ」

 

「私の分も残してください、朱乃さん」

 

 そのやる気十分な光景を見ながら、レヴィアは苦笑する。

 

「なかなかやる気満々だね。ま、当然といえば当然か」

 

「ええそうよ。ディオドラには、私達を愚弄した罪深さをいやというほど味合わせてあげないといけないもの」

 

 茶化すレヴィアにリアスは真剣な表情で答える。

 

 それほどまでに、アーシアのトレードは腹立たしいものだということだった。

 

「うわぁ、殺す気と書いてやる気と読む感じだな、オイ」

 

「ディオドラにはちょっとだけ同情するな」

 

 松田と元浜も口ではそういうことを言っているが、しかし表情は気合が入っている。

 

 決してレーティングゲームに参加するわけではないが、しかし応援に気合を入れているのは明白だった。

 

「じゃあ、行ってくるわね」

 

 そんなリアスのことばとともに、グレモリー眷属は全員が転移する。

 

 それを見送りながら、蘭は不安げな表情を浮かべた。

 

「レーティングゲーム、大丈夫でしょうか? グレモリー眷属は力技主体で特訓してるから、火力を制限されるとカモになりそうなんですけど」

 

 その不安は確かに当然だった。

 

 グレモリー眷属の特訓は、基本的に強大な力を発動させることを重視している。

 

 レーティングゲームだけではなくのちの実践も考慮しているからこそであるが、ゆえに力を抑えて手加減することはあまり主眼に置かれていない。

 

 こと、イッセーの場合は圧倒的な出力を発揮する禁手を覚醒させることが主眼だった。必然的に手加減の修練など積んでいない。

 

 もし、そんなルール更生でゲームが行われたとするならば、万が一の可能性も考慮に入れないといけない。

 

 そんな不安げな表情を浮かべる蘭に、レヴィアは安心させるように手を置いた。

 

「大丈夫。一応僕が魔王様にこっそり相談しておいたから、そんな一方的に不利になるようなルールにはならないよ」

 

 レヴィアはそういうと、こんどは魔方陣を展開する。

 

「さあ、VIPルームに行くよ。そこで僕たちも応援しないとね」

 

「ああ、そうだな」

 

 その言葉に、一夏もうなづいてそれに続く。

 

 だが、魔方陣に入る一瞬前に、少しだけ立ち止まるとレヴィアに振り向いた。

 

「……なあ、レヴィア」

 

「なんだい?」

 

 言いたいことはわかっている。とでも言いたげにレヴィアは微笑み、それをみて一夏もまたほほ笑んだ。

 

「もしイッセー達が負けたら、俺はディオドラに決闘申し込むからな」

 

「OKOK。その時はレヴィアタンの末裔の名において了承するよ」

 

 本当に仲間思いだなぁと、レヴィアは苦笑しながらもうなづいた。

 



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体育館裏のホーリー 4

今回、イッセー達の出番は大幅カットです。

というより、原作とほぼ同じ展開です。




 

 VIPルームに転送されたレヴィア達は、その空気に違和感を覚えた。

 

 やけに警護が厳重になっているうえに、微妙な高揚と緊張感が併せ持った雰囲気になっている。

 

 明らかにそれは試合を観戦する者たちのそれではない。どちらかといえば戦闘に参加する前の武者震いみたいだった。

 

 そして、それに戸惑っている者たちもほとんどいない。

 

「なあ、レーティングゲームってそんな特殊ルールってあったけ?」

 

「いや、どんなルールだよ」

 

 レヴィアは一夏にツッコミを入れるが、しかしそれはそれとしてツッコミが飛ぶ。

 

「ああ、ほかの悪魔に襲わせて、両チームどっちが多く生き残るか……とかか?」

 

「……すごい戦略的な駆け引きが重視されそうですね」

 

 元浜の意見に蘭が息をのむが、しかしレヴィアは首を振った。

 

「いや、初心者にそんな複雑なルールは出てこないと思うけど?」

 

「でも、だったらなんでこんだけ戦闘準備万全になってるんですか?」

 

 松田の意見ももっともである。

 

 とはいえ、レーティングゲームでこんなにゲストが戦闘準備を行っている理由がわからない。

 

 そんな風に首をかしげていると、アザゼルがレヴィア達に気が付いて近づいてくる。

 

 だが、その表情はかなり真剣だった。

 

「ああ、お前らか。ちょうどよかった」

 

「アザゼル先生。いったいどうしたんだいこの雰囲気?」

 

 これ幸いとレヴィアは尋ねるが、真っ先にアザゼルがしたのは頭を下げることだった。

 

「……黙っていてすまん。今からここは戦場になる可能性がある」

 

「「「「「………え?」」」」」

 

 レヴィア達が一斉に首をひねる中、それは起こった。

 

 広大なVIPルームの周囲に、いくつもの転移魔方陣が展開される。

 

 それらはあまりにもいろいろな種類があって即座の判別はできなかったが、その多くには共通点があった。

 

 そして、レヴィアはそれに真っ先に気づく。そしてすぐに表情を鋭くした。

 

「敵襲だ! 敵は旧魔王派だから気を付けて!!」

 

 言うが早いか眷属全員を覆うように防御結界を展開しながら、レヴィアは鋭い視線をアザゼルたちに向ける。

 

「これはどういう失態だい! 警備を厳重にするべきVIPルームにこうもたやすく転移魔方陣を展開されるなんて―」

 

「HAHAHA! それは俺たちが頼んだんだよ」

 

 そう豪語するのは、坊主頭の軽薄そうな格好をした男。

 

 そして、その姿を見てレヴィアは目を見開く。

 

「須弥山の帝釈天!? ってちょっと待って、それは一体―」

 

「簡単に言えば誘い込みだ。……ここに旧魔王派がテロを仕掛けてくるのはすでに分かっていた」

 

 アザゼルがそういいながら、すぐにその顔を外野に向けた。

 

「悪いがリアスたちがヤバイ! 誰かあの結界を抜けて助けに行ける奴はいるか!?」

 

「ふぉっふぉっふぉ。なら儂が行かせてもらおうかのう」

 

 そう槍をまわしながら言うのは、北欧の主神オーディン。

 

 彼はそういいながらすぐに魔方陣を展開すると、すぐにその顔をレヴィア達に向ける。

 

「この老いぼれたちが勝手に動いて悪かったの。勝手なことを言うがおぬしらも死ぬなよ?」

 

「ああもう! あとでしっかり説明してもらうからね!!」

 

 レヴィアは髪をかきむしりながらそういい、そして戦闘体勢をとる。

 

 そして、戦闘が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、レヴィア達はアザゼルと協力しながら戦闘をおこなっていた。

 

 上級悪魔までいる旧魔王派の襲撃をしのぎながら十数分後、通信の魔方陣が展開されてリアスたちが連絡を取ってきた。

 

『アザゼル! ディオドラが旧魔王派と内通していたわ!!』

 

「ああ、知ってる。……というより、それは予測されてたんでな」

 

 と、少し言いづらそうにしながらもアザゼルは告げる。

 

 その言葉に、レヴィア達も何度目かわからないが驚愕の表情を浮かべた。

 

「どういうことだいアザゼル? 一体何が?」

 

「数日前にヴァーリがイッセーと接触して警告していたからな。その前から調べていた内容と照らし合わせて、ディオドラ・アスタロトは禍の団と内通しているとほぼ確定されてたんだよ」

 

 アザゼルの言うことに、レヴィアは事態を大体把握した。

 

「なるほど。それで逆にディオドラを利用して旧魔王派を誘い込んだってわけだね?」

 

「ああ、エサはVIPの神たちと現三大勢力のトップ。旧魔王派はこれを利用して自分たちの箔をつけるのが目的だ」

 

「んでもって、俺たちは逆に一網打尽にするのが狙いってわけですか……くらえビームぅううううう!!!」

 

 元浜が悲鳴交じりで納得しながら、下級悪魔にビームを放つ。

 

 そんな混戦状態の中、アザゼルは余裕をもって敵を返り討ちにしながら続ける。

 

「まあそういうことだ。サーゼクスは反対していたが、俺がごり押しさせてもらった。人類統一同盟だけでもやばいってのに、旧魔王派にウロチョロされてたらいつ寝首を掻かれるか分かったもんじゃないからな」

 

「だからって、なんで朱乃さんや小猫たちまで巻き込む必要があったんだよ!!」

 

 接近してくる悪魔を切り捨てながら、一夏はアザゼルに抗議する。

 

 当然といえば当然だろう。せめて前もって伝えてくれていれば、もう少し対応ができたはずだ。

 

 だが、実際は何も伝えられずに戦闘になり、オーディンを送り込まねば死人が出ていたかもしれない状況。文句に一つも言いたくなるだろう。

 

 それに対して、アザゼルも苦い顔になる。

 

「俺もそれは懸念だったが、旧魔王派を動かさせるためには情報の出どころは少なくする必要があった。特に織斑やイッセーは顔に出るからな」

 

「確かに、っていうか一夏君なら自ら打って出てきそうだしねぇ」

 

 それを言われると反論できないという顔でレヴィアはうなづき、しかしそれでも非難の視線をアザゼルに向ける。

 

「とはいえすこしおざなりじゃないのかい? 事前に乗り込む人員を用意してくれてもよかったと思うんだけど?」

 

「それについてはこっちのミスだ。ディオドラがここまで強引に動くとは思わなかったし、この結界の強度も想定以上だった」

 

 アザゼルはそういいながら、光の槍を黒い霧に対して放つ。そしてその槍はあっさりとはじかれた。

 

 実はレヴィア達もフィールドに移動しようとしていたが、しかしこれのせいで突入ができなかった。

 

「結界系神器最強、絶霧(ディメンション・ロスト)。保有者が禍の団についているはわかってたが、ここまで強いとは想定外だ」

 

「……これ、僕でも苦労するレベルの強度だよ。さすが神滅具」

 

 レヴィアもこれには感心するほかない。

 

 それほどまでの使い手が敵にいるという状況下は、さすがのレヴィアをもってしても頭を抱えたくなるレベルだった。

 

 そして、状況は思った以上に悪化している。

 

『アザゼル先生! じつは、アーシアがディオドラにさらわれたんです!!』

 

「なんだと!? あの野郎、まさかと思ったがそこまでアーシアにご執心だったのか」

 

「そんな! こんなことするような人に誘拐されたら、どんなことされるかわかったものじゃ―」

 

 蘭が息をのむ中、通信越しにイッセーははっきりと言い切った。

 

『―俺たちが助けに行きますからね』

 

「まてよイッセー! それ、どう考えても待ち伏せされてるだろ!?」

 

 思わず松田が声を荒げるが、しかしイッセーはひるまない。

 

『んなこたぁどうでもいい! ディオドラの奴にアーシアを好きにさせれるかよ!!』

 

『イッセーの言う通りだわ。第一、私たちは禍の団との戦闘許可があるはずよ? 仲間の救出にそれを行使するのは何か問題があるのかしら?』

 

「それを言われるときついなぁ」

 

 リアスの言い分にレヴィアはどうしたもんかと視線をアザゼルに向ける。

 

 ひと段落ついたこともあり、全員の視線がアザゼルに向く。

 

 そして、アザゼルはやれやれとため息をついた。

 

「黙って事を進めていた俺が何も言えるわけねえか。……わかった、その代り必ず生きて戻って来いよ!!」

 

「「「「「「はい、先生!!」」」」」」

 

 その声とともに通信が終了し、アザゼルはさらに続ける。

 

「そろそろこっちも結界の解析が完了する。俺は行くがお前らはっ!?」

 

 突如言葉を切り、アザゼルは大量に光の槍を面制圧で放つ。

 

 そして、それをかいくぐってISが数機乱入してきた。

 

 それを見て、レヴィアは即座の判断を下す。

 

 彼らを相手にしながらでは、逆にイッセー達を危険にさらす。ならば足止めをする者が必要不可欠。

 

 そして、現状最強戦力は総合的に見てアザゼルだ。

 

「みんな! ISの足止めに徹するよ!! アザゼル先生は先に行って!!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 レヴィアの言いたいことを皆が理解し、全員が真正面からIS数機と対峙する。

 

 そしてそれを理解して、アザゼルも即座に反転すると、結界の中に突入する。

 

「お前ら、死ぬんじゃねえぞ!!」

 

「「「「「はい先生!!」」」」」

 




今回に関してはレヴィア達はイッセー達とは別口で激戦を繰り広げます。

そして、インフィニット・ストラトスD×Dを見ていた方なら想定できているでしょうが、そろそろ彼女が出てきますよ?


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体育館裏のホーリー 5

はい、結構衝撃の展開です。









この作品は、インフィニット・ストラトスD×Dのリベンジだといいましたよね?


 接近してくるISは合計四機。

 

 数の上ではこちらの方が上だが、相手はISを纏っていることを考慮すれば不利なのはこちらの方だともいえる。

 

 ゆえに、こちらも遠慮はかけらもしない。

 

「まずはセオリー通りに!!」

 

 レヴィアが広範囲に拡散させながら魔力攻撃を一気に放つ。

 

 如何に防御一点特化とはいえ、レヴィアはすべてのステータスが上級悪魔相当の存在。その火力は生半可な軍事兵器を圧倒的に上回る。

 

 その魔力弾の雨あられは、生半可なIS搭乗者ではかわすことができずにハチの巣になっていただろう。

 

 だが、四機のISは流れるように動くと、それをすべて回避してのけた。

 

 そして、そのうち黒い一機が先行してライフルを放ちながらさらに接近。同時にオレンジ色の機体が背中からさらに腕を展開すると、四本の腕全てにマシンガンを装備して弾幕を張る。

 

 それは、人間なら即座にハチの巣になるような凶悪な弾丸。ISは間違いなく最強の戦術兵器なのである。

 

 だが、それは所詮人間の話。

 

「ははははは! 効かないねぇ」

 

 レヴィアが片手間に放った障壁が、弾丸をすべて弾き飛ばす。

 

 彼女の耐久力は、障壁の性能も含めてのもの。その強度は半端な核シェルターなど歯牙にもかけず、ISの携行火器程度では破壊することなど不可能。

 

 だが、そんなことはお互いにわかりきっている。

 

 ここまではお互いにただの様子見。その実力を確認するためのウォーミングアップに過ぎない。

 

「さて、それじゃあ一夏君よろしく!!」

 

「ああ、行ってくる!!」

 

「私も行きます!!」

 

 防御の合間を縫い、一夏と蘭が敵陣へと切り込む。

 

 さすがに、ISを相手にして主力戦闘をおこなえるほどには松田も元浜も強くなっていない。それを考慮すればこれは当然の選択だった。

 

「やはり来たか、織斑一夏!!」

 

 黒いISがブレードを転送して一夏に切りかかり、一夏もまた剣で切りかかる。

 

 まともに勝負をすれば、鍛え上げられた剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)による火力で上回る一夏が有利。

 

 だが、そんな想定は前提が間違っていれば意味がない。

 

 ブレードと剣がぶつかり合うちょうどその時、強烈な稲光が発生する。

 

 それは強化された一夏の剣を弾き飛ばし、敵手のISのブレードにまとって攻撃を強化した。

 

「……神器!」

 

「ああそうだ。まさかお前だけが神器を持っていると思ったか?」

 

 そういいながら、黒いISは手慣れた動きでブレードを操ると一夏に攻撃を仕掛ける。

 

 すでに一夏はISも強化しているが、しかしほかの機体が援護射撃をしていることもあり、なかなか突破できなかった。

 

 その動きを見て苛立たし気にしながら、黒いISはしかし攻撃の手を緩めない。

 

「なるほど。ただの足手まといかと思ったが、血を継いでいるだけはあるということか」

 

「……なに?」

 

 その言葉に、一夏は一瞬けげんな表情になる。

 

 血を継いでいる? いったい誰と?

 

 そういった疑念は確かにあるが、しかしすぐに切り替えると戦闘に意識を集中する。

 

 それは相手をとらえてから聞き出せばいいだけのことだ。少なくとも、戦闘中に考えているわけにはいかない。そしてさせてくれるほど相手は甘くない。

 

 ゆえに相手に集中しながらも周りの様子を確認して―

 

「……はぁっ!?」

 

 思わず全方位視界があるにもかかわらず、顔を向けてしまうほどの驚愕に包まれた。

 

 そこにあるのは、20メートル近い巨人。

 

 一つ目の巨大な鉄の巨人が、いつの間にかそこに立っていた。

 

「レヴィア! レヴィア、あれなんだ!?」

 

「僕に言われても困るかなぁ!! 蘭ちゃんとりあえず撃ってみて!!」

 

「あ、はい! わかりました!!」

 

 と、即座に蘭は砲撃を放つが、それを敵のISは盾で防御した。

 

 どうもエネルギーフィールド発生装置のようだが、しかしそれにしても出力が強大だ。

 

 さらに、その巨大なISは楯からクレイモアを引き抜くと、遠慮なく振り回してこちらを切り捨てにかかった。

 

「う、うぉおおおおおおお!!!」

 

「しぬしぬしぬしぬ!!」

 

 松田と元浜が一直線で逃げる中、レヴィアもまた念のために後退しながら砲撃を敢行する。

 

 それを器用によけ、そして楯を使って防ぎながら、敵大型ISはレヴィア達を追いかける。

 

「レヴィアさん! 先輩方!!」

 

 蘭は即座に狙いを大型ISに集中させる。

 

 とにかくあのISは危険だ。こちらとしても数を一機ぐらいは減らしておかないと難易度が高い。

 

 上に集中攻撃を叩き込もうとして、しかしそれをさせてくれるほど相手も甘くない。

 

「させないよ!!」

 

 四本腕のISがその全ての腕にロケットランチャーを構えて砲撃を開始する。

 

 人間を凌駕した運動能力で蘭はそれを回避するが、しかしロケット弾の連射は止まらない。

 

 使い捨てのロケットランチャーを放っては即座に新しいものに交換し、四本腕は遠慮のない弾幕を張り続ける。

 

「あの機体、拡張領域がいったいどれだけあるの!?」

 

 ロケット弾を時に撃ち落とし時にかわしながら、蘭は動きを警戒する。

 

 状況は、想像以上に緊迫していた。

 

 そして、そんな中一夏は特に追い詰められていた。

 

 敵の数は二機に減ったが、しかしその二機が非常に手ごわい。

 

 黒いISは雷撃を身にまとって攻撃するが、そしてそれ以上に厄介なのが赤いゴーストである。

 

 両手に持っているものは間違いなく神器。それも非常に強力な類だ。

 

 下手をすればイッセーが持つ赤龍帝の籠手にも匹敵するかもしれない高性能な神器。

 

 そして何より、それを振るう女の動きに違和感があった。

 

(……なんだ?)

 

 強化されたことによるISそのものの性能差によって相手を引き離しながら、一夏はその疑念を確実なものにしていく。

 

 間違いない。自分はこの相手を知っている。

 

 そう、その動きは優れた者であると同時に見慣れた者だった。

 

 そして、どこかが違っていた。

 

 そう、まるで動きが洗練されているかのように―

 

「………っ!?」

 

 そこまで思い至り、一課の動きは一瞬止まる。

 

「もらったぞ、織斑一夏!!」

 

 無論、そんな隙を逃すはずがなく黒いISが襲い掛かるが、しかしその一撃は一夏の眼前に生まれた結界によって防がれる。

 

「一夏君、どうした!!」

 

 巨大ISの一撃を腕で受け止めながらの器用な芸当に、敵のIS使いは虚を突かれていったん距離をとる。

 

「織斑、どうした!?」

 

「何やってんだよ織斑!!」

 

 地上近くだったことをいいことに、松田と元浜がカバーに入るが、一夏の目にそれは入らない。

 

 それ以上に、信じられないという気持ちでいっぱいで、何も考えたくなくなるほどだった。

 

「………おい」

 

「ああ、気が付いたのか?」

 

 赤いISの担い手が、当たり前のように答える。

 

「腕を上げたな、一夏。私と別れてからも鍛錬を続けていたようでうれしいぞ」

 

「そんなことはどうでもいいだろ。………なんで、お前がそんなところにいるんだ!!」

 

 一夏は絶叫じみた大声で、目の前にいる彼女を非難する。

 

 人類統一同盟に大義があるかどうかは関係ない。

 

 だが、あいつらは高確率で彼女に危害を加えている。

 

 なのに、なんでお前が人類統一同盟にいる―

 

「―答えろ、箒!!」

 

「―知れたことだ。……あの時、私の手を取ってくれたのはお前じゃなかった。ただ、それだけのことだ」

 

 赤いISの担い手―篠ノ之箒はマスクを外し、冷徹な視線を一夏に向ける。

 

 そこには、海よりも深い断絶が存在していた。

 




そういうわけで箒登場。彼女は人類統一同盟の一員です。

しかも割とエース級。持っている神器はさすがに前作の予定とは違いますが、それでも強力なのを用意しております。

まあ、こうなるとほかのメンバーもほぼ推測できてしまうのですが、その辺はあえて明言はしないでおきましょうか……


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体育館裏のホーリー 6

さて、以前この作品は三大勢力ハードモードだといいました。









はい、ついにいかにハードモードかが説明されます


 

 篠ノ之箒。ISを開発した篠ノ之束の実の妹。

 

 古流武術篠ノ之流を鍛錬しており、日常生活においては剣道部で鍛錬を積み、大会で優勝したこともある女傑でもある。

 

 そんな彼女が、第三次世界大戦とともに行方不明になっていたことを知るものは少ない。

 

 ましてや、彼女が人類統一同盟のれっぺいになっているなど想定でいた者はほぼ皆無だっただろう。

 

「自分でも因果な来歴だとは思っている。だが、私は今お前の敵だ、一夏」

 

 そう告げる彼女は、一夏のしる箒とは大きく異なっていた。

 

 もっと感情的だったはずの彼女の表情は非常に冷静であり、クールといっても過言ではない。

 

 その変貌が信じられず、一夏は呆然と首を横に振る。

 

 だが、彼に襲い掛かる衝撃はこの比ではなかった。

 

「これでも苦労したんだぞ? 手引きのためだけにIS学園に入学するのも、姉さんを誘い出すのもなかなかに骨が折れた」

 

「……は?」

 

 今、彼女は何と言った?

 

 IS学園に入学? 姉さんを誘い出す?

 

 そんな馬鹿なと思い、だがその表情は真剣で―

 

 そんな一夏を見かねたのか、レヴィアが一歩前に出て箒をにらみつける。

 

「つまり君はこういったわけだ。……IS学園の襲撃犯の1人だと、認めるんだね?」

 

「ああ。主犯といってもいいだろうな」

 

 レヴィアはそれに静かにうなづくと、躊躇することなく腕を振る。

 

 その動きに合わせて莫大な魔力が放出され、蛇の形をとって箒へと襲い掛かる。

 

 一夏と箒の関係はわからない。だが、少なくとも相当仲の良かった関係なのだけはわかる。

 

 なら、当然千冬の関係者でもあるはずで、そもそもIS学園には子供が多いのも分かっていたはずだ。

 

 それを躊躇なく強襲させる輩に、遠慮をする必要はかけらもなかった。

 

「おい、箒―」

 

「大丈夫だ」

 

 カバーに入ろうとする黒いISを手で制し、箒は放たれた魔力をそのまま受ける。

 

 ……そして、無傷で其の場に立っていた。

 

「ISの防御力じゃない、神器かい?」

 

「それを素直に答えるとでも?」

 

 さらりと流しながら、箒は再び戦闘を仕掛けようと神器を構え―

 

『た、大変ですレヴィア様!!』

 

 その時、通信から大声が響いた。

 

 そして、その漏れ聞こえた声ですべてを判断したのか、敵のISは全員が動きを止めていた。

 

「……どうやら本命は成功したようだ。引くぞ」

 

「ああ。これ以上の戦闘は必要ないな」

 

 そういい合いながら、ISは宙へと浮かんでいく。

 

「まて!! 本命とはどういうことだ!?」

 

「それならそいつに聞くといい。すべてはもう手遅れだがな」

 

 その言葉を最後に、箒たちはわき目も降らずに離脱していく。

 

 見れば、すでに旧魔王派との戦いも趨勢が決し、戦線はこちら側に傾いていた。

 

 ならば最低限の安全は獲得できたとし、レヴィアは護衛のために結界を展開しながら、すぐに通信に返答する。

 

『どうした! いったい何があったんだい!?』

 

 そして、その返答はあまりにも予想外の者だった。

 

『く、クーデターです! ネバン様がクーデターを起こし、アグレアスを乗っ取りました!!』

 

 その言葉に、全員が息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その映像は、全勢力に対して堂々と見せつけられた。

 

 いまだ黒煙が消えぬアグレアスを後ろに、ネバンは堂々とその姿を見せる。

 

「初めて見る者もいるだろうから、自己紹介をさせてもらう。余は、真なるアスモデウスの正統なる後継者であるネバン・アスモデウスだ」

 

 その幼い外見からは想定もできないオーラを纏い、ネバンは堂々と宣言する。

 

「余たちは、惰弱たる現魔王と大王から冥界を解き放つべく立ち上がった有志である!!」

 

 こぶしを握り、ネバンは声を荒げる。

 

「欲を持ち、人々を欲望の道へと進む我々が、欲を節制する天界及び教会との和平はあり得ない!! それはもはや惰弱だ」

 

 現政権を切って捨てるネバンは、そして静かに首を振る。

 

「現政権は、その弱体化をどうにかするすべをとうの昔に開発しながらも、それを余たちに秘匿し隠してきた。それがこれだ」

 

 そういって取り出すのは、悪魔の駒。

 

 だが、それは兵士でも騎士でも僧侶でも戦車でも女王でもない。

 

「諸君らもうわさには聞いていただろう、王の駒がこれだ。能力は、クイーンを数十倍以上上回るほどの全能力の強化である」

 

 その言葉に、映像を見ている者たちは驚愕する。

 

 それだけの強化があれば、誰もが上級悪魔クラスの戦闘能力を得ることができるだろう。少なくとも、今までとは比べ物にならない圧倒的な力が手に入る。

 

 そこからくる動揺を察したのか、ネバンは少しの間黙っていた。

 

 そして、その動揺が静まるのを見計らって口を開く。

 

「他種族に頼らずとも、この王の駒を量産していれば、悪魔は強大な力を手に入れて、三大勢力の戦争にも勝利したであろうことは想像に難しくない」

 

 そして、それゆえにネバンは許せない。

 

「にもかかわらず! 惰弱たる現政権はこれを製造することなく秘匿し、あまつさえ天界との和平という惰弱なことをしている! これは、まさしく我ら悪魔という存在に対する裏切りである!!」

 

 心からの怒りの表情を浮かべ、ネバンは現政権を弾劾する。

 

「余がこれを手にした以上、もはや諸君らを弱弱しいままにはせん。少しでも早く量産体制を確立し、真なる悪魔たちのすべてに行き渡らせることを約束しよう」

 

 そして、同時にネバンは転生悪魔たちにも意を示す。

 

「そして、世に与する転生悪魔たちはその時点で中級悪魔に立ち位置を固定する。そしてその立場に見合った待遇を約束しよう。少なくとも多くの愚者どもとは違い奴隷扱いは決してしない。奴隷は奴隷として別で集めることを約束しよう」

 

 そういい、そしてネバンはまっすぐな視線を通信機器へとむける。

 

「ゆえにその一環として、我々真悪魔派は禍の団へと所属する。そして、人類統一同盟とともに尊く輝くあの銀河へと羽ばたこう」

 

 ネバンはそういい流れ手を広げる。

 

「そして、人類統一同盟はあまねく銀河に植民地を増やし、我らは彼らを欲望の渦へと導く。それが悪魔の本懐と信じるがゆえに!!」

 

 そして、ネバンは隣に立つフードの男に手を差し伸べる。

 

「そして、その在り方は真なるルシファーに認められている。さあ、顔を見せるといい」

 

「OK! おじいちゃん久しぶりの顔見世に緊張してるよぉん」

 

 そんな、一切緊張を感じさせない声で、男はフードと仮面をとる。

 

 銀の髪と瞳をもつ初老の男。

 

 だが、その存在は冥界にとって極めて重大。存在そのものが畏敬の塊といってもいい。

 

「やっほーん! おじいちゃん知ってる人はどれぐらいいるかなぁん? 旧ルシファーの息子、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーだよん? 今はネバンちゃんの女王をやらせてもらてるぜい!!」

 

 そういってVサインを見せる男は、まさしく真なるルシファーの後継者。

 

 かつての再戦の時代から生きているもので、彼を知らないものなど一人としていない。

 

 そう、彼こそルシファーの実の息子。三人の超越者の最後の1人。

 

「俺ちゃん、ネバンちゃんの目的に賛同させてもらったよ。あまねく銀河に悪意を振りまいて堕落させるって、すっごいワクワクドキドキするねぇ」

 

 そんな子供のような表情を浮かべながら、リゼヴィムは大きく手を広げる。

 

「君たちも、一緒に楽しまねえかい? 今なら新型の駒ですぐに並の中級悪魔をボコれるほどにまでパワーアップできるぜ!!」

 

 にやりと、リゼヴィムは哂う。

 

「力がないせいでいろいろ鬱屈がたまってねえかい? 一度でいいから自分の弱い連中をボコりたいと思ったことはねえかい? 好き勝手に奪って暮らしたいと思ったことはねえかい?」

 

 それは、多くに人が一度は本能的に考えてしまうことだろう。

 

 そして、それは階級差ゆえに立場が大きく変わる冥界ではより強いはずだ。

 

「俺が、認めよう。ルシファーの正当たる末裔である俺が認めよう。……俺たちとともにくれば、いつの日かそれは必ず訪れると」

 

 そういうと、リゼヴィムは茶目っ気たっぷりにウインクすらしてのけた。

 

「さ、思う存分パワーアップして俺つえーしようぜ?」

 

「そういうことだ」

 

 そして、リゼヴィムに場を譲ってもらい、ネバンは再び映像越しに聴衆を見渡す。

 

「さて、つまりはそういうわけだが……」

 

 ネバンは、どこか夢をあきらめない子供のような表情を浮かべると、その手を差し伸べる。

 

「我々は、悪魔の駒の材料の生産設備を手に入れた。いずれ、悪魔の出生率を考慮すればすべての悪魔が強化される」

 

 その目に浮かぶのは、あくまで悪魔の発展と進化。

 

 それを誰もが信じさせる表情で、ネバンは心から告げる。

 

「さあ行こう、尊く輝く銀河に、悪魔を刻み込むために!!」

 

 

 

 




1 敵勢力増大

2 悪魔内部分裂

3 悪魔の駒生成不可能

4 リゼヴィムじいちゃん早くもフルスロットル

5 事実上の内部不正もろバレ。

……以上四つの理由により、三大勢力ハードモードです。

ネバンは正真正銘このために出したといっても過言ではありません。シャロッコにしてもよかったのですが、どうせならアスモデウスもだしてみようと思いまして。

これにより悪魔側はものすごい勢いで大打撃を受けました。勢力として大幅に弱小してしまったといっても過言ではありません。








ちなみにリゼヴィムですが、異世界ではなく異星に向けて悪意をフルスロットルに向けているとお思いください。まだ見ぬ宇宙へさあ行きたいのです。


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体育館裏のホーリー 終

この章は全体的にちょっと短め。


 

 

 

 

「ロマンチストにもほどがある!!」

 

 レヴィアは吐き捨てるように叫ぶと、遺跡の一部を魔力で吹き飛ばす。

 

 明らかに八つ当たりでしかない行動だが、しかしそうでもしなければ我慢できない。

 

「王の駒!? 全能力の圧倒的強化!? ああ確かにすごいだろう、すごいだろうけどねぇ!!」

 

 ギリッと歯ぎしりをしながら、レヴィアは今後の世界を憂う。

 

 強大な力。確かに手に入るなら普通に欲しがるものは数多いだろうし、それそのものがよりよくなるために必要なもののひとつであることは否はない。

 

 だが、精神の鍛練を前提としない強化は、同時に暴走を招きかねないのだ。

 

 その問題点を、ネバンは暴走する感情をぶつける相手を用意することで対処した。

 

 彼女は、中世ヨーロッパの植民地時代を宇宙に広げようとしているのだ。

 

 まさに悪魔の所業。現代の人間では本来あり得ない暴挙ともいえる。

 

「どうするレヴィア! 乗り込んで倒すか?」

 

 一夏はそう聞くが、しかしレヴィアは首を振る。

 

「無理だ。これだけのクーデター。真悪魔派の全戦力を投入している可能性がある。……一週間やそこらで奪還作戦を行うなんて不可能だ」

 

 そして、この展開は大きくこの戦況を動かしていた。

 

「リゼヴィムさまが、ついに立たれたぞ!!」

 

「みな、リゼヴィムさまのところに向かうんだ!!」

 

「そんな、真なるルシファーが……?」

 

「ああ、悪魔ってのは本来そうだったはずだ! 俺はいくぜ!!」

 

「まて!! ……だが、止めたところでどうすれば―」

 

 数多くの悪魔たちが、リゼヴィムとネバンの演説で心を動かしている。

 

 すでに現魔王側の戦線は瓦解しているといってよく、旧魔王派たちも自分たちも続かんと気勢を上げて帰還するために霧へと飛び込んでいた。

 

 この状況は明らかにまずい。

 

 悪魔側の勢力図が、ネバンとリゼヴィムにひっくり返されたといってもいい。

 

「……レヴィアさん。すでに、冥界の一部でも暴動じみた移動が発生しています。特に転生悪魔の四割が移動を開始していて、追撃する人材も不足しているといっていいと……」

 

 通信を受け継いだ蘭が告げる内容に、さらにレヴィア達は動揺する。

 

 多くの悪魔はその傲慢さゆえに転生悪魔を奴隷のようにこき使うものもいる。

 

 それにうっぷんがたまっていた者たちが、先ほどの宣言に惑わされて反乱を決意したのだ。

 

 不幸中の幸いは、かつて魔王の前ですら堂々とそうすると宣言したネバンが本当にそうすることだけは信じられるということか。

 

「いや、今はイッセー達の方が大変だって!」

 

 と、松田がふと我に返って声を出す。

 

 確かに、いまはディオドラと戦っているはずのイッセーたちの心配をするべきだった。

 

 どうせ、この事態は魔王ルシファーたちが直々に動くほどの非常事態だ。本来(まつりごと)に深入りすることを良しとしないレヴィアが、直接動いていいような事態ではない。

 

「それもそうだね。うん、そろそろつくから覚悟を決めた方がいいよ皆!」

 

 レヴィアはそう意識を切り替えると、そのまま遺跡へと突入しようとして―

 

―とある国の片隅に、おっぱいドラゴンすんでいた♪

 

 そんな歌が聞こえてきた。

 

「「「「「???」」」」」

 

 首をかしげて全員がそれでも走って向かうと、そこにはもうなんというかわけのわからない光景があった。

 

 なんか異形の姿になっているイッセーらしき赤い龍。

 

 そしてなぜかそこにいるヴァーリチーム。

 

 そしてグレモリー眷属の横にはイリナがおり、ラジカセをもってその音楽を流している。

 

 ??????????

 

 疑問符が、彼らの中で渦巻いていた。

 

「えっと、これどういうこと?」

 

 全員を代表してレヴィアが質問する。

 

 それに答えたのは、祐斗だった。

 

「ディオドラ達は何とか倒せたんですが、そのあと現れたシャルバ・ベルゼブブにアーシアさんが次元の狭間に転送されてしまったんです。それも、無に充てられて消えてしまったはずだという推測までつけられて」

 

 だが、視線をずらすとそこにはちゃんとアーシアがいる。

 

「俺がたまたま拾ったのさ。ちょうど次元の狭間で行動していたんでね」

 

 そっけなくヴァーリがそう告げる中、しかし変な歌が響いて集中できない。

 

「それで、イッセーくんは覇龍を衝動的に発動してしまったんです。シャルバはそれで倒せたのですが、いまだ覇龍が解けなくて」

 

「それで! イッセーくんを何とかするためにアザゼル先生からこの歌を届けられたの!」

 

 朱乃の説明を引き継いで、イリナがポーズをとってまで決めてくるが、しかし何が何だかわからない。

 

―おっぱいおっぱいおっぱいドラゴン、ばいーんぶるるんぼいんぼいん♪

 

「天使がこんな歌運んできていいんですか?」

 

 蘭が何とかひねり出すが、しかしそれはある意味問題ではないだろう。

 

 よく見ると、映し出されている映像には作詞:アザ☆ゼル・作曲:サーゼクス・ルシファー・ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたんというある意味壮絶たるメンツがそろっている。

 

「……こんなことで、冥界の重鎮たちが出てくるのかよ」

 

「俺、少しネバンの気持ちがわかった気がする。真面目なやつだとこのノリにはついていけないよな」

 

 唖然とする元浜に続いて、一夏も頭痛をこらえる表情をしていた。

 

 しかしそれはそれとして、効果は確かにあったようだ。

 

 いつの間にかイッセーの鎧は一部が変化して、指先が出てきていた。

 

「さあリアス! 今ならいけるわ、あなたの乳首を押させるのよ!!」

 

「ええ!?」

 

 と、こんどは朱乃が気が狂ったとしか思えない言葉をリアスに告げた。

 

「な、なにを言っているの、朱乃!!」

 

「それはこちらのセリフよ! 今ここで必要なのはあなたの乳首に決まっているじゃない!!」

 

「「「………」」」

 

 生乳首というキーワードに、変態三人が無言になって玩味するが、いろんな意味でそんな状況でいいのだろうか?

 

「うぅ……おっぱい、おっぱい……」

 

 因みにイッセーはイッセーでゾンビと化している。

 

「……蘭、私は一夏さんを好きになってよかった気がする。冷静に対処できるもん」

 

「うん。私はあまり冷静になれないかな」

 

 年少組が半目で事態を静観する中、朱乃とリアスの言い合いは続く。

 

 ちなみに、いつの間にかヴァーリがイッセーを羽交い絞めにもしているがそれは何というかどうでもいい。

 

「いい、リアス。イッセー君は貴方の乳首を押して禁手にいたった、なら逆のこともできるはずよ」

 

 一理あるが明らかに頭の痛い論理に、全員が何となく微妙な空気となっていた。BGMもあれなのでなおさらだろう。

 

「一夏くんは決してそんなことにならないししてくれそうにないもの。正直うらやましいわ」

 

「「それはまともな人の対応です」」

 

 心底残念そうにする朱乃に、小猫と蘭からのツッコミが静かに響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ちなみに、効果は絶大だったことをここに表記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、リゼヴィムは禍の団に与するとはな」

 

 心底いやそうな顔で、ヴァーリは宙をにらんでいやそうな顔をする。

 

「だったらぜひ投降してくれ。そして半永久的に封印されてくれ」

 

 レヴィアは辛辣な言葉をヴァーリにかけるが、しかしヴァーリもまた首を振る。

 

「そうもいかない。俺にも俺の夢があり、それをかなえるには禍の団は比較的都合がいい」

 

 ヴァーリは複雑な表情を浮かべるが、しかし静かに首を振る。

 

 そんなこんなをしているとき、うめき声がわずかに聞こえた。

 

「う~ん……なんだ、一体?」

 

 頭を抱えながら、イッセーがゆっくりと起き上がる。

 

 そのとたんに、リアスやアーシアやゼノヴィアが一斉にイッセーに抱き着いた。

 

「うん一斉に抱き着いたなイッセーだけに」

 

「……十点ぐらいで」

 

「あらあら。一点ですわ」

 

「二点で」

 

「三人とも辛口評価だねぇ」

 

 愛してくれる女性から辛辣な評価を下され、一夏は静かに肩を落とす。

 

 まあそれはともかくとして、何とかこちらは潜り抜けたということか。

 

「それでヴァーリ? ここで決着をつけるかい?」

 

 レヴィアとしてそれでもかまわないと思っての発言だが、ヴァーリは静かに首を振った。

 

「いや、そもそもこちらとしては別の目的があってね。ほら、そろそろ見えるぞ?」

 

 そういいながらヴァーリは空を見上げ、そしてつられて見上げた全員の視界のさき、空間が裂けた。

 

 そこから浮かぶのは巨大なドラゴン。少なく見積もっても百メートルはあるであろう、

 

 その姿を見て、レヴィアは感嘆の声を上げる。

 

「驚いた。こんなところにグレートレッドが出てくるだなんて……」

 

「ぐ、グレートレッド?」

 

 首をかしげるイッセーに、ヴァーリは苦笑の笑みを浮かべる。

 

「もう少し勉強した方がいい。あれが、この世界最強の存在だ」

 

「その名もグレートレッド! 真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)って言われてるんだぜぃ?」

 

 美猴がそういう中、一人の少女が其の場に現れた。

 

 黒と紫のドレスを身にまとった幼女ともいえる少女。

 

 だが、その場にいるだけで誰もがわかるほどに圧倒的な力を感じさせた。

 

「オーフィス。君も見に来たのか」

 

「我、久方ぶりに仇敵を見に来た」

 

 そう答える幼女―いな、オーフィスは、静かにグレートレッドを見ると指先を突き付ける。

 

「我、必ず静寂を手にする」

 

 それだけ言うと、オーフィスは音もなく姿を消した。

 

「……オーフィスの目的は、グレートレッドの抹殺かい?」

 

「ああ。次元の狭間に一人静寂を得たいといっていたよ」

 

 レヴィアの言葉に、ヴァーリはそういう。

 

「そして、俺もグレートレッドを倒したいという願いがある。それをなすことで『真なる白龍神皇』になることが俺の望みさ」

 

 そう告げると、ヴァーリの後ろにいた青年が剣を振り、次元に切り込みを作る。

 

「さて、それじゃあ俺たちも帰るとするか。……少し憂鬱だがな」

 

「おう! んじゃあな、おっぱいドラゴンにスイッチ姫!!」

 

「ちょっと猿! スイッチ姫って私のこと!?」

 

 美候の軽口にリアスは戦闘態勢をとるが、しかしヴァーリたちはかまわない。

 

 そしてそのままヴァーリ達が帰る中、レヴィアはやれやれと肩をすくめた。

 

「まあ、敵が一つ増えたうえにこっちは大問題だらけだけ……」

 

 それでも、一つだけいいことはある。

 

「この戦いは何とかしのげた。それは素直に喜ぼうか」

 

 戦いは続き、敵は強大になる。

 

 ましてやイッセーは覇龍の影響を心配するべきだろうし、一夏にとってもいいことではないだろう。

 

 だが、それでも生き残ることができた。

 

 今は、それを素直に喜ぼう。

 

 遅れながらも救援の部隊が駆けつける中、レヴィアはほっと一息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団の施設内で、ヴァーリはリゼヴィムと顔を合わせた。

 

「……まさか、貴様と同じ勢力につくことになるとはな」

 

「うっひょぉ敵意満々だぜヴァーリきゅん! アザゼルおじさんの指導は的確みたいだねぇ?」

 

 そう言っておちょくるリゼヴィムに、ヴァーリは心底憎悪にまみれた視線を送る。

 

 だが、さすがのヴァーリもうかつには戦闘をおこなわない。

 

 それは一応味方だからという配慮ではない。当然肉親の情でもない。

 

 単純に、いま挑んでも勝ち目がないことを理解しているからだ。それほどまでに自分とリゼヴィムの相性は最悪といってもいい。

 

 それでも仲間たちの力を借りれば勝算はあるが、それも難しい。

 

 リゼヴィムの周囲には鋭い視線を向けて警戒する戦士たちが何人もいたからだ。

 

 その代表ともいえる、ネバンが侮蔑の視線を向けながら平然と口を開いた

 

「さて、一応我々は同じ禍の団の勢力同士だ。仲よくしろとは言わんが、足並みはそろえてほしいところだな」

 

「ふん。目先の欲望だけで動いているような貴様に何ができる?」

 

 お前も旧魔王派と同じだろう、とでも言わんばかりの痛烈な言葉をヴァーリは返すが、ネバンはかけらも動じない。

 

 それどころか、むしろ哀れみを浮かべてすらいた。

 

「ふむ、逆に聞くが、それ以下の君は一体何をもってしてそれが通用すると思っているのかね?」

 

「……なんだと?」

 

 殺意が大幅に膨れ上がるが、しかしネバンは動じない。

 

 そして、その理由を察して、ヴァーリは警戒心を大幅に向上させた。

 

 それはリゼヴィムというカードを持っていることからくる余裕ではない。そして、この場でヴァーリが仕掛けてこないと高をくくっているわけでもない。

 

 単純にヴァーリと一対一で戦っても勝ち目があると理解しているからの余裕だった。

 

 それを油断ではなく事実だと理解していたからこそ、ヴァーリは心から警戒しているのである。

 

「……ふむ、白龍皇の力に溺れただけの愚か者ではないようだ」

 

 そうかえすと、ネバンは身をひるがえしてリゼヴィムを伴ってすれ違う。

 

「だが、恩人である堕天使アザゼルの悲願を妨害した貴様は、リゼヴィムと大差ないということを自覚するといい」

 

「……っ!!」

 

 最後に痛烈な皮肉を残して。

 

「ヴァーリ、いいのかよあのままで」

 

「落ち着きなさい美猴。まともに勝負すればこちらもただではすみませんよ」

 

 美猴をアーサーがたしなめる中、ヴァーリは血がにじむほどにまで拳を握り締める。

 

「俺が、リゼヴィムと同等以下だと………っ」

 

 自身の中でも最大級の侮辱。だが、ネバンは挑発のつもりで言ったのではない。

 

 心からネバンは今のヴァーリとリゼヴィムが同レベルだと思ったから、そういっているのだ。

 

 そして、その言葉を受けてヴァーリの脳裏にレヴィアの酷評がよみがえる。

 

 レヴィアは、ヴァーリをチンピラと断じた。

 

 そしてあの時の目は間違いなく自分をカテレア達よりも下として侮蔑している目だった。

 

 もし、彼女がリゼヴィムやネバンを見るとき、自分より下としてみるだろうかと疑問に思う。

 

 ……その答えを、想定しながらもヴァーリは意図的に遮断した。

 




実は、総合力でいうのならばオリキャラである魔王血縁三人衆で一番化け物なのはネバン。現四大魔王でいうならばアジュカに匹敵する化け物です。

たぶん説明する機会に恵まれないところからすごさを言うのならば、ネバンがリゼヴィムを眷属にできたのは悪魔の駒のリミッターを自力で解除したため。つまり彼女の眷属はほぼ全員が変異の駒で転生しています。

くわえて魔王の血縁というものを最大限に生かしたとはいえ、かなり重要な情報を獲得できる諜報力も含めれば、現四大魔王の戦闘能力以外のところを補うことも不可能ではないチートです。自分、敵をチートにする傾向が強いので。

ついでに言うとわかる人にわかる説明でいえば、ザムジオタイプです。たぶん自分の作品、このタイプが高確率でオリキャラで出てくるでしょう。持論に一理あるけど問題がありすぎるってすごいインパクトがでかくて書きやすいです。……しいて違いを上げるなら、ギャグ適性が低め?


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放課後のラグナロク

 

「はあ。なんかやる気になれない」

 

 資料を何とかまとめながら、レヴィアはそういってため息をついた。

 

 それをとがめる声も出てこないほど、彼らはこの事態に対して警戒心を強くしていたのだ。

 

「なあ、レヴィア。それで今のところどうなってるんだ?」

 

「見事に膠着状態だよ。旧魔王派と現政権の暴走した連中を取り込んだ真悪魔派は、勢力的にはかなり現政権と並んでいる」

 

 そういって最後の資料を投げるように置きながら、レヴィアは一夏に簡単に説明する。

 

 現状、冥界政府は多大な混乱になっているといってもいい。

 

 ネバンによって冥界最大級の秘匿事項である王の駒が暴露されたうえ、悪魔の駒の生産元であるアグレアスが占拠され、とどめに超越者リゼヴィム・リヴァン・ルシファーがネバンに与したのだ。

 

 三重の特大の衝撃に襲われた冥界は混乱状態であり、レヴィア達はとにかく人間界で待機するように言われている。

 

 王の駒の秘匿使用をばらされた悪魔たちは何とか鎮圧されたが、しかしそれを抜きにしても混乱は大きく、冥界は数日前まで機能停止状態にすら陥っていた。

 

 何とか立て直すことには成功したが、しかしこの影響は非常に大きいのだ。

 

 少なくとも、このままアグレアスをネバンたちに確保されるわけにはいかない。

 

 すでに冥界では各勢力に頭を下げてまで奪還作戦が進められており、遅くとも冬に入る前には行われることとなっている。

 

 だが、ネバンたちも馬鹿ではない。奪還作戦が行われることは間違いなく想定して、そのための準備をとっくの昔に始めていることだろう。

 

 間違いなくこれまでにない激戦になる。下手をすればかつての三大勢力の戦争にも匹敵する規模の激戦になるだろう。

 

 そんな冥界の窮状に、レヴィアとしては気が重くなるばかりだ。

 

「でもどうします? ここでレヴィアさんが出てくれば、少しは収まるかもしれませんけど……」

 

 蘭の言いたいことは最後まで聞かなくても分かる。

 

 確かに、ここで真なるレヴィアタンの血を継ぐレヴィアが声を上げれば、状況を鎮静化させることはできるかもしれない。

 

 だがそれは、レヴィアタンの血をもってして民衆を扇動することに他ならない。それこそレヴィアがいやがっていたことそのものだ。

 

 だから、一夏も蘭も何も言わない。というより何も言えない。

 

 それは、心からレヴィアが望まなかったことなのだから。

 

「とはいえ、頃合いなのかもしれないね……」

 

 そう、レヴィアはため息とともに肩をすくめる。

 

 表情は引くついた苦笑であり、心底ダメージが入っているのが見て取れた。

 

「レヴィア……」

 

「レヴィアさん……」

 

「みなまで言わないでよ二人とも。あくまでそれは最後の手段さ。魔王様()は僕を使うつもりもないようだしね」

 

 だが、最後の手段は使用を考えなければならない状況にも追い込まれ始めている。

 

 それを理解して、レヴィア達はため息をついた。

 

「冥界も大変ですよね。和平が結ばれたと思ったら今度は内紛ですし」

 

「まあ、急激すぎたっていえば急激すぎたしねぇ。反発する人もたくさん出てくるとは思ったけどね」

 

 蘭の言葉にレヴィアはそう告げる。

 

 じっさい、これまでいがみ合ってきた者たちが上の判断でいきなり仲よくしろと言われてもできるわけがない。

 

 サーゼクスもアザゼルもミカエルもそういう意味では非常によくできた大人だったが、逆に言えばそうであるからこそ和平が結べるようなものなのだ。

 

 そうでない、普通の者たちからしてみれば大きな負担となるのは間違いない。ネバンの演説はそこをついた側面もあるのだろう。

 

 そういう意味では冥界の未来は暗く、より険しくなっているといっても過言ではなかった。

 

「冥界も暗い話が多いですね。俺たちはもうちょっと明るい話題がほしいんですけど」

 

 そう元浜が愚痴を言うが、しかしこればかりは仕方がない。

 

 これまで長い間にらみ合いを続けてきた勢力がいきなり和解をすることになったのだ。必然的に反動も出てくるだろう。

 

 だが、明るい話題が全くないわけでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いくぞ、おっぱいドラゴン!!』

 

『冥界の未来をやらせはしない! とうっ!!』

 

 テレビ画面の向こう側で、赤龍帝の鎧が敵を相手に激闘を繰り広げる。

 

 冥界で作られた子供向け番組、乳龍帝おっぱいドラゴンは今日も盛況だった。

 

「あっはははははははは!!! やばい、おなか痛いぃ!!」

 

「レヴィア、ケンカを売っているのかしら?」

 

 爆笑するレヴィアににらみを利かせるリアスたちの前で、テレビでは追い込まれた乳龍帝が逆転の定番モードに突入する。

 

『おっぱいドラゴン! おっぱいよ!』

 

 そんなセリフとともに登場する、リアス・グレモリーそっくりのスイッチ姫。

 

 なんと、この乳龍帝おっぱいドラゴン、ピンチになるとリアスをモデルに創られたスイッチ姫の乳をつついてパワーアップするという設定なのだった。

 

「………俺、ヒーローものとか好きになれないけど、コレいろんな意味で間違ってるのはわかるぞ」

 

「冥界って、人間世界とはまったく異なる世界の流れで動いてますよね」

 

 一夏と蘭はもう遠い目をしてみるほかなくなっている。

 

 とはいえこのおっぱいドラゴン、現魔王側の悪魔はもちろん、堕天使側でも大人気である。既に和平を結んだ神話勢力でも放送される予定であり、かなり人気になっている。

 

 おそらく、神話の世界は科学の世界とはいろいろと違った認識で動いているのだろう。

 

『こんなふざけた文化の世界になどに、我々は負けない』

 

 と人類統一同盟はあえて声明を発表しているほどだった。

 

「ひーひーひー……。とはいえ、それさえ除けば結構いい出来だと思うけどね。昔の人間界のアニメでもこんなのあったらしいじゃないか」

 

「だからって子供向けアニメでこれはないと思います」

 

 いまだ笑いが覚めないレヴィアに、蘭はそう告げるとため息をついた。

 

 これからも冥界にかかわって生きていくのだが、果たしてこの調子で大丈夫なのだろうか?

 

 少し不安になる蘭たちだったが、意外とオカルト研究部では人気があった。

 

「結構面白いと思わない? 昔はイッセーくんと一緒にヒーローごっこしたのを思い出していい気分だわ」

 

 などといいながら、イリナは昔のヒーローの変身ポーズをとって見せる。

 

「いや、俺はヒーローものとかあんまり好きじゃないからわからないけど、これは何かが間違ってるだろ」

 

 一夏の意見は人間世界の出身なら当然出てきそうなものだった。

 

 異形社会と人間世界の神の共存の道は遠い。

 

「ま、まあ俺もこれはちょっと思うところあるけど。でも、昔は一緒んにヒーローごっこしていた男の子みたいなイリナが、いまじゃこんな美少女なんだから驚くよなぁ」

 

 と、イッセーはそんなことを言うが、それを聞いてイリナは顔を真っ赤にする。

 

「い、イッセーくん!? そんなこと自然に言わないでよ!! お、堕ちちゃうぅううううう!!!」

 

 と、イリナは翼を白黒に点滅させる。

 

「ほほう? これが天使が堕天するときの光景なのかい? 初めて見たよ」

 

 興味深そうにレヴィアがそういってからかうが、当人としては割と真剣らしく身もだえしている。

 

「ああ、ミカエル様お慈悲をぉおおおおお!!」

 

 そんな風にイリナが悲鳴を上げる中、リアスは顔を真っ赤にしてため息をついた。

 

「冥界を歩くの、もう無理かしらね……」

 

「あらあら、リアスは子供たちに大人気なのにひどいことを言いますわね。できれば私も出演してみたいですが……」

 

 そうからかう朱乃は視線を一夏に向けて―

 

「―どうですの一夏君? ここは持論を変えて参加してみるのはどうかしら?」

 

「か、勘弁してくださいよ朱乃さん! ヒーロー以前にこの番組はきついです!!」

 

 と、一夏としては真剣に断る。

 

「あらあら、つれないですわ。私、サーゼクス様に相談したこともありますのに」

 

「お願いだからやめてください。あの、何だったら何かしますから」

 

「お前ちょっとひどくないか?」

 

 と一夏はイッセーにツッコミを入れられるぐらい逃げに回るが、その言葉を聞いた瞬間に朱乃は笑みを深くした。

 

「あら、そうですか? でしたら一つお願いがあるのですが―」

 

「……はあ。はめられたね一夏君」

 

 レヴィアは軽くため息をついた。

 

 本命はおそらくこれということなのだろう。朱乃は見事に誘導してのけたのだ。

 

 そして、そこから何を行ってくるかもすぐにわかる。

 

 これは後で蘭ちゃんにフォローが必要かなぁと思いながら見る中、朱乃はにっこりと笑いながら一夏に顔を近付けた。

 

「でしたら、今度私とデートしてくださいな」

 




暗くとげとげしくなる冥界をいやすのはおっぱい。

………うん、何かが間違ってる気がする。


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放課後のラグナロク 2

 

「もう! 一夏さんったらどうしてああなんでしょう」

 

「……そうですね。できれば私達にもサービスしてほしいんですが」

 

「おやおや。二人ともやっぱりご機嫌斜めだね」

 

 顔を膨らませながらやけ食いする二人を見ながら、レヴィアはコーヒーを飲む。

 

 今頃、一夏と朱乃はデートを楽しんでいるころだろう。

 

 やはり朱乃は割とこういうのでは一枚上手か。年下である小猫や蘭としては思うところもあるはずだ。

 

 とはいえ、朱乃の初デートに余計な茶々を入れるのもかわいそうではある。

 

 というわけで、まさにデートが始まるタイミングでレヴィアは二人を連れ出してケーキバイキングに来たというわけだ。

 

「まあいいじゃないか。あとで僕からもフォローするように言っておくし、二人ともデートしていいんだよ?」

 

 それぐらいは当然の権利であり、一夏の義務だとすら思う。

 

 ハーレム上等の冥界でフラグを乱立しているのだ。手を貸してやるからしっかりと面倒を見るぐらいするがいいと、レヴィアは本気で考えていた。

 

 一夏は鈍感だが外道ではないし、何より男の沽券をしっかりと考慮する男だ。まとめて娶っても何とかしようと努力するぐらいの男は見せるだろう。

 

 あとは主としてしっかりフォローを入れればいいだけだ。できれば夜の営みに参加させてくれるとなおうれしい。

 

「ねえ小猫ちゃん。できれば僕に房中術をしてくれると嬉しいかな?」

 

「いやです」

 

 バッサリ切られた。

 

「っていうか、レヴィアさんは房中術できるでしょう? する側じゃないですか」

 

 と、蘭は軽くツッコミを入れるが、レヴィアはそれを肩をすくめる。

 

「僕のはちょっとした防護加護を与えるなんちゃって房中術。素質だけでいうなら小猫ちゃんの方がはるかに上だよ」

 

「とはいえするつもりはありません。少なくても、当分はしないです」

 

 小猫ははっきりとそう言った。

 

「それより、こんどは料理を覚えたいです。リアス部長にも教わっているのですが、いい先生に心当たりはありませんか、レヴィアさん」

 

「おや、食べる専門だった小猫ちゃんがどういった心変わりだい?」

 

 からかい半分でそう聞き返すレヴィアだったが、小猫の返答はストレートだった。

 

「一夏さんの家を守るのなら、家事ができないといけませんから」

 

「………蘭ちゃん、頑張らないと追い抜かれるよ」

 

「が、頑張ります!!」

 

 思わぬマジ返しに、レヴィアも蘭も戦慄した。

 

 小猫にここまで言わせるとは、織斑一夏恐るべし。

 

 そんなことをしながらケーキバイキングを食べていると、ふと何かに気づいた小猫が小首をかしげる。

 

「……そういえば、気になったことがあります」

 

「なに、小猫?」

 

 結構おなかが膨れてきた蘭が尋ねると、まだまだ食べる気の小猫は蘭に顔を向けた。

 

「なんで、一夏さんと蘭はレヴィアさんの眷属に?」

 

「「っ」」

 

 その質問に、レヴィアも蘭も息をのんだ。

 

 それに何かを感じながらも、あえて小猫はそれを踏み込む気になる。

 

 今後一夏と一緒にいるのならば、どうせいつかは知ることになることだろう。

 

「レヴィアさんは眷属を作りたがらないと聞きました。それなのに、なんで異形とかかわりがなかった二人を眷属に?」

 

 当時、レヴィアが眷属を作ったと知られたときはニュースにもなったものだ。

 

 冥界の名だたる実力者や貴族が名乗りを上げながらも、しかしレヴィアは下僕悪魔を作ろうとはしなかった。

 

 そんなレヴィアが、いきなり異形と特に関わり合いを持たなかった人間を二人も眷属悪魔にしたと聞いて、冥界は一時期割とニュースで取り上げたものだ。

 

「それに、一夏さんは戦闘スタイル的に騎士の方が向いていると思います」

 

 そう、それもそうだ。

 

 普通に考えれば、剣士は戦車ではなく騎士の駒で転生させるのがトレンドだ。別にそうしなければいけないというルールはないが、それがイメージとして固定されている。

 

 それに蘭も後天的に神器を移植しているだけで、もとは何の異能もたない只の少女。

 

 普通に考えれば兵士の駒一つで足りるはずだ。なぜそんなことをする必要があるのだろうか?

 

 そんな疑問がこもっている質問に、レヴィアも蘭も苦い顔をした。

 

 普通なら、それで小猫もすぐに聞くのをやめるはずだ。

 

 だが、小猫は真剣な瞳をレヴィアに向けた。

 

「ずっと一夏さんと一緒にいるなら、いつかは知るべきことだと思ってます。できれば、いつか答えてほしいです」

 

「ああ、そうだね」

 

 レヴィアはその言葉に素直にうなづいた。

 

 だが、その顔はわずかに青くなっている。

 

 その理由を嫌でも理解しているから、蘭は気づかわし気な視線を向けた。

 

「いいんですか、レヴィアさん?」

 

 それは、本当に言っていいのかという確認だった。

 

 蘭は自分のことなので、その詳細までよく理解している。

 

 そして、それがレヴィアにとって今でもトラウマなのもうすうす気づいている。

 

 だが、レヴィアはそんな蘭に笑みを浮かべた。

 

「むしろ僕が謝るところだよそれは。それに、いい加減区切りをつけないといけないしね」

 

 そうレヴィアは微笑むと、わずかに汗ばんだ手を握り締め―

 

「実は―」

 

 そう言おうとしたまさにその時―

 

「あ、すいません。携帯が」

 

「あ、私も」

 

「……僕もだね」

 

 三人の携帯電話が、一斉になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 連絡を受けてすぐに戻ってきたレヴィア達の前に、神がいた。

 

「ふぉっふぉっふぉ。実にかわいい子だらけでより取り見取りじゃのう」

 

「爺さん! 俺の部長におさわりしたら禁手使ってでも吹っ飛ばすからな!!」

 

 リアスたちの臀部に視線を向けているイッセーを本当にやらないか心配に見ながら、レヴィアはやれやれとため息をついた。

 

 北欧神話のアースガルズの主神オーディン。

 

 彼がこんなところに来たのは、観光旅行ではない。

 

 人類統一同盟及び禍の団に対抗するため、現在三大勢力は各神話勢力との和平を謳っている。

 

 それに真っ先に賛同した北欧の主神として、オーディンはほかの勢力との和議を進めていた。

 

 今回は日本神話などの和議が本命。ただしそれより早く来て観光も楽しもうという腹積もりだった。

 

「人類統一同盟は、中国やロシアなどの半分以上を征服。ドイツやフランスなどのヨーロッパ諸国なども併合して恐ろしいほど勢力を伸ばしているからのぅ。それがネバンの小娘と手を結んだともなれば、こちらも最低限の連携はとらんとさすがに危険じゃからな」

 

「全くですオーディンさま。それはそれとしてお近づきの記念にジャパニーズエロ本をどうぞ」

 

 そういって、レヴィアはニコニコとプレゼントを渡す。

 

 中身は厳選したエロ本各種。それを見て、オーディンは笑みを深くした。

 

「おお、いい趣味をしているではないか。わしからもあとで何か送るとしよう」

 

 そう意味もなく威厳たっぷりに言うオーディンの後頭部に、ハリセンが叩き込まれた。

 

「オーディンさま!! 学生相手に何を送ろうとしているんですか!! あなたも、高校生がそんなものをプレゼントにしない!!」

 

 そういって顔を真っ赤にして起こる女性に、オーディンは全く気にせず笑みを浮かべる。

 

「まったく潔癖じゃのう。そんなことだからお主は男の一つもできんのじゃ」

 

 その言葉に、女性は一瞬で崩れ落ちると涙を流した。

 

「男は関係ないじゃないぃいいいいいい!!! 私だって、好きで年齢イコール独身なんて人生送ってるわけじゃないのにぃいいいいい!!!」

 

 そのアップダウンの激しい反応に誰もが反応できない中、オーディンはやれやれと髭をなでながら苦笑する。

 

「スマンのうぅ。こ奴は儂のおつきのロスヴァイセというヴァルキリーなんじゃが、見ての通り男の一人もできん奴での。あまり気にせんでやってくれ」

 

「いや、思いっきりいじってたじゃないですか!」

 

 一夏渾身のツッコミが響いた。

 

「ひどいぜ爺さん! 俺だって彼女がいないからその苦しみはよくわかる!! 謝って爺さん!!」

 

 イッセーにいたっては涙を流して謝罪を要求するが、しかしそこに鋭い視線が一斉に突き刺さる。

 

 だがイッセーはそれに気づかない。その光景をみて、蘭は軽くため息をついた。

 

「あの、レヴィアさん。イッセーさんのことで後でご相談が―」

 

「―オーディン殿。そろそろ時間ですよ」

 

 と、そこで今まで黙っていた一人の男が声をかける。

 

「おお、忘れておったわバラキエル。今夜は寿司を予約しておったんじゃ」

 

 そうオーディンが答える中、朱乃が不機嫌な様子を見せた。

 

 彼の名はバラキエル。神の子を見張るものの幹部の一人で最強候補とまで呼ばれる実力者。

 

 そして、朱乃の実の父親でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな夜、レヴィアは一夏から相談を受けた。

 

「それでなんだい? 一夏君」

 

「ああ、あのバラキエルって人をどうにかできないか?」

 

 真剣な目でそんなことを言われてしまった。

 

「大方「娘は渡さん!」「邪魔しないで! あなたはお父さんなんかじゃない!!」 とかなったのかい?」

 

「なんでわかるんだよ!!」

 

「わかりやすすぎるぐらいわかるよ」

 

 即答で返せるほど想定しやすかった。

 

 なにせ、事実上の婿と舅だ。ひと悶着一つ起きる程度で驚く理由はかけらもない。

 

 それに、朱乃はいろいろと問題があるからだ。

 

「いろいろとあるけど、深い事情をきくかい?」

 

「………ああ、たのむ」

 

 少し考えてから、一夏はうなづいた。

 

 勝手に聞けば朱乃に怒られるかもしれないが、朱乃はなぜか深い事情を話したがらなかった。

 

 なら、一夏は知っている人に聞くしかない。

 

 それで怒られるなら素直に謝ろう。だが、今のままではバラキエルに文句も言えなかった。

 

「簡単に結論から言えば、朱乃ちゃんが子供なのさ」

 

「え?」

 

 なので、いきなり朱乃のほうに非があるといわれて、一夏は面食らった。

 

「な、なんでだ? てっきりバラキエルって人の方が何かしたんだとばっかり思ったけど―」

 

「まあ、あの人に過失がなかったかといえばうそになるけどねぇ」

 

 レヴィアはそういうと、また聞きだけどと前置きをしてから話し始めた。

 

 日本の退魔の一族の名家中の名家である五代宗家の一つ、姫島。

 

 そのうちの一人である姫島朱璃は、あるひ重傷をおったバラキエルを見つけて手当てをした。

 

 例えていうのならばロミオとジュリエット。二人は恋仲になったが、五大宗家はそれを認めず刺客を送るほどだったという。

 

 そんな中も二人は愛を確かめ合い、朱乃を産むほどにまで仲が良かったが、そんな彼らに悲劇が訪れる。

 

 堕天使であるバラキエルを倒しに来て返り討ちにされた刺客が、堕天使に恨みを持つ組織に情報を提供した。

 

 おりしも、その時はバラキエルがたまたま外出していて不在の時だった。

 

 ……バラキエルが気づいて戻ってくる前に、朱璃はその者たちに殺されたそうだ。

 

「当時でいえば当然といえば当然だ。異国の悪徳である堕天使は敵以外に何物でもない。妻に気を使ったとはいえ、五代宗家が手を出せる位置に家を作って住むべきじゃなかった」

 

 レヴィアはそういうが、しかし一夏はよくわからない。

 

「いや、それでも五代宗家のほうが悪いよな? なんで堕天使を執拗に嫌ってるんだ?」

 

「だから言っただろう、子供だって」

 

 レヴィアは苦笑しながら続ける。

 

 母を殺された朱乃の前で、その凶手はこういったのだ。

 

 お前の父親が堕天使だから、お前の母は死んだのだと。

 

「精神の弱い子供だった朱乃ちゃんは、それをうのみにすることで心を防いだ。そして、子供のころの経験はなかなか治らない」

 

「………そんな」

 

 一夏はそれが納得いかない。

 

 確かに敵意をもって迫られたが、それは娘を思う親心だ。

 

 両親に捨てられた一夏には親というものはわからないが、しかし比較的まともな親ではないだろうか?

 

 それなのに、敵視するのは何かが間違っているような気がするのだが……。

 

「ま、いい機会といえばいい機会だよ。この機に折り合いをつけるべきではあるだろうね」

 

 レヴィアはそういいながら、一夏の肩をたたいた。

 

「お義父さんの期限をうかがうためにも、娘との仲をよくさせてあげなさい、一夏くん♪」

 

「か、からかうなって!!」

 

 一夏に手を振り払われながら、レヴィアは哂いながら部屋のドアを閉める。

 

 そして、レヴィアは天井を無表情に見上げた。

 

「……僕も、少しは落ち着いた方がいいのかもね」

 

 そういいながら思い出すのは、数年前のこと。

 

 一夏と蘭を眷属にした、あの日のことを思い出す。

 

 それだけで、今でも強い後悔の炎が心を焼くが、しかしもう数年も前のことでもある。

 

「うん、皆に話してすっきりしようか」

 

 そう、レヴィアは一人口にした。

 



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放課後のラグナロク 3

はい、そろそろ来ますよ、奴が


 

 そんな夜の中、レヴィア達はリアスたちと同様にオーディンの護衛を行っていた。

 

 当人たちとしても、何かしらやることがあった方が気が紛れていいだろうというレヴィアの判断である。

 

 すでに真悪魔派のクーデターによる混乱も収束し始めている。少なくとも、民衆の流動は収まってきていた。

 

 王の駒の不正使用がばれることを恐れて暴走していた者たちも、その大半が捕縛されており、とりあえずの落ち着きを見せているといってもいいだろう。

 

「とはいえ、ここからが本番なんだけどねぇ」

 

 そういいながら、レヴィアはため息をつく。

 

 そう、これは前哨戦にすらなっていない。ただ身内のまとめ上げをしていただけだ。

 

 ネバンたちはこの間にも王の駒の本格的な解析を進め、そして量産するべく行動を開始しているだろう。

 

 少なくとも生産のめどはついているはずだ。そうでなければ、このタイミングで生産のために必要な遺跡を確保するような真似はしない。

 

 ゆえにできるだけ早く奪還作戦をとるべきである。それが遅れれば遅れるほど、王の駒の生産の時間を与えて苦戦を産んでしまう。

 

 幸い、開発者であるアジュカ・ベルゼブブ自ら王の駒は生産が難しいことが告げられている。少なくとも簡単に量産できるものではない。

 

 ならば、数か月は時間を稼げるというのが三大勢力及び和議を結んだ神話体系の想定だ。それまで最低限の足並みをそろえれば勝ち目はある。それほどまでに神々の力は強大なのだ。

 

 だが、人類統一同盟もそれを黙ってみているわけがない。禍の団もなおさらだろう。

 

 間違いなく、奪還作戦は激戦になるはずだ。

 

「レヴィア。奪還作戦には俺たちも参加するんだよな」

 

 一夏は、なんとなくその予感を感じていた。

 

 サーゼクスは望むまい。彼は若手を危険にさらすことを望まない。少なくとも本意ではないだろう。

 

 だが、それでも今の冥界には戦力が足りない。

 

 少なくとも、前回の人類統一同盟との戦闘と同様に後方支援はすることになるだろう。それほどまでに冥界のダメージは大きいのだ。

 

「ああ、覚悟はしておいてくれるかい? さすがに僕も呼ばれるだろうしね」

 

「やっぱり、戦意高揚のためですか?」

 

 蘭の疑念はもっともだ。

 

 レヴィアは本来できるだけ(まつりごと)にはかかわらないようにしていた。

 

 それが冥界のためだと信じている。一人一人の悪魔が自らの意志で進んでこそ冥界のためだ。王は、あくまでそれを守護するだけでいい。

 

 だが、もう状況はそれを許さない。

 

 真なる魔王ベルゼブブの末裔であるシャロッコ率いる人類統一同盟。そしてアスモデウスの末裔であるネバン・アスモデウスによる真悪魔派。さらにはそのネバンの女王(クイーン)はリゼヴィム・リヴァン・ルシファーという隙の生じない構えは強大だ。

 

 それにより、多くの悪魔が真悪魔派についた。

 

 すでにネバンの政策は目覚ましく、血統だけに頼らない真なる実力主義が行われている人類統一同盟では、おこぼれにあずかろうとした血統だけの者たちが何人も粛清されている。

 

 それにより実力がありながらも認められ無かった純血悪魔が新たに爵位を与えられて、政治体制は盤石になっていた。

 

 転生悪魔に対しても名誉爵位が自動的に与えられ、それにより彼らの待遇も改善された。

 

 離反した転生悪魔の多くは単一民族国家などの出身が多く、ネバンの理念に対して一定の理解を持っていたことも大きい。そのうえでこれまでよりもはるかにいい待遇を与えられたことで、その士気は強く小競り合いでは大戦果を挙げることも多かった。

 

 そんな状況では、もはやレヴィアも動かないわけにはいかない。

 

 ネバンを理念を危険視するものとして、何らかの形で抑止力となる必要があった。

 

「やるしかないよ。ああ、やるしかないんだよね……」

 

 そう、レヴィアは自分に言い聞かせるように告げる。

 

 当人としてもできればしたくないが、しかししないわけにはいかないほど状況は切迫しているのだ。

 

 その事実に、一夏も蘭も何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、芸者のお姉さんは眼福じゃったのぉ」

 

 空を飛ぶ馬車の中、オーディンはそういって髭を撫でつける。

 

 それを、血涙を流さんばかりににらみつけるのは三人。

 

 いつものごとく兵藤松田元浜の変態三人衆だった。

 

 理由は非常にわかりやすいことである。自分たちは外で待機されていて、芸者を見ることができなかったからだ。

 

「くそう! 酷いですよそこの神様!! 神様ならもっと俺たちに加護をください!!」

 

 松田が我慢できずに文句を言うが、しかしそこにロスヴァイセが鋭い視線を向けた。

 

「何を言っているんですか、貴方たちはまだ未成年でしょう! そういうのは大人になってからしなさい」

 

「そんな殺生な! 俺たちには彼女がいないんですからそれぐらい許してくださいよ!!」

 

 元浜がそう陳情を懇願するが、途端にロスヴァイセは涙目になってさらに目を吊り上げた。

 

「私だって彼氏いませんもん!! うう、それでも我慢してるんだからあなたたちも我慢しなさい!」

 

「そ、そんな理不尽な!?」

 

 イッセーはその言葉にショックを受ける。

 

 ああいう店はむしろ彼女がいない人が行くところなのにもかかわらず、彼女がいない自分たちに行くなという。

 

 イッセーは明らかに理不尽を感じ、崩れ落ちそうになった。

 

「そ、そんな……っ! 彼女のいない俺たちになんでそんなひどいことを痛い!?」

 

「お前グレモリー先輩と一緒にお風呂入ってるだろうが!!!」

 

「十分すぎるだろうがこの野郎!!」

 

 速攻で松田と元浜が殴りつけるが、しかしイッセーとしては譲れない。

 

「それはそれ、これはこれだ!!」

 

 そういって殴り合いになろうとしたとき、急に馬車が停止する。

 

「うぉ!? な、なんだ?」

 

 イッセーに関節技を決めようとした松田が慌てる中、オーディンはやれやれといわんばかりにため息をついた。

 

「……やっぱりきおったか。あの馬鹿者めが」

 

「オーディンさま、何かご存じなのですか?」

 

 そう言いながらリアスは前を確認すると、そこには若い男が浮遊していた。

 

 問題はその男が放つ気配だ。

 

 人間ではない。悪魔でもない。天使でもなければ堕天使でもない。

 

 その波動は、まさしくオーディンと同じく神の物だった。

 

「はっじめまして、諸君! 我こそは、北欧の悪神ロキだ!!」

 

 その言葉に、ほとんどのものが警戒心を強くする。

 

 北欧の悪神ロキ。北欧神話におけるネームバリューでは神話の中でも一二を争う有名どころ。

 

 だが、ロキは悪神とはいえオーディンと同じくアースガルズの者である。

 

 それがなぜここに、と多くの者が思うなか、アザゼルがロキを見据えて警告を行う。

 

「これはこれは、ロキ殿とは奇遇な出会いですな。ですがこの馬車には主神であるオーディン殿が乗られていますよ? それはご存知ですかな?」

 

 そう挑発交じりの言葉が飛んでくると、ロキもまた挑発目的に嫌味な笑みを浮かべる。

 

「なに。我らが主神殿が我ら以外の神話体系に接触するのが耐えがたい苦痛でね。我慢できずに邪魔しに来たのだ」

 

 一切隠すことなく、堂々と敵対宣言をロキは行う。

 

 それを受け止め、レヴィアは真正面から口を開いた。

 

「……過去に遺恨については聞いている。だが、それを今の子供たちにまで巻き込ませるつもりか、ロキ」

 

「レヴィアタンの末裔か。ならば、神話の何たるかも知らぬ若輩者のために、我らが神々の受けた仕打ちの報いを受けさせるなというのかね?」

 

 相いれない。そう即座に理解できる言葉が交わされ、全員が戦闘を覚悟する。

 

「堂々と言ってくれるじゃねえか、ロキ」

 

「まあな。ほかの神話体系を滅ぼすならともかく、和平をするなどと納得できるわけがない。我らの領地に土足に踏み込んで聖書を広げる貴殿らは特にあり得んな」

 

「んなこたぁミカエルか死んだ神に言えってんだ」

 

 うんざりとするアザゼルだが、ロキはまったく意に介さない。

 

「どちらにせよ、主神オーディン自らが極東の神々などと和議をするのは問題だ。これでは我らが至るべき神々の黄昏(ラグナロク)が成就できないではないか」

 

 そう言ってオーディンにらみつけるロキに、レヴィアは鋭い声を浴びせる。

 

「一つ聞こう! あなたは禍の団とつながっているのか!?」

 

「愚者たるテロリスト共とわが想いを一緒にするとは、万死に値する誤解と知るがいい」

 

「……あいつ等とは無関係なのか。つっても厄介な問題だがな。これが北の抱える問題かよ、オーディン」

 

 アザゼルの同情交じりの言葉に、オーディンはロスヴァイセを伴いながら馬車から出る。

 

「どうにも頭の固いものがまだいるのが現状でな。まさか自ら出向くものまで出てくるとは困ったものだ」

 

「ロキ様! これは明らかに越権行為です!! しかるべき場所で異を唱えてください!!」

 

 ロスヴァイセの非難の言葉に、しかしロキは不快な視線を向ける。

 

「一介の戦乙女ごときが口を挟まないでくれたまえ。私はオーディンに聞いているのだ」

 

「……だそうですが、和議をやめる気は?」

 

「ないわい。少なくともお主よりはサーゼクスたちと話していた方が万倍楽しいしの。日本の神道もユグドラシルに興味を持っていたし、いい機会だからお互いに大使でも招こうかのう」

 

 アザゼルが茶化すように答える中、オーディンは同じく茶化すような表情で答えを返す。

 

 その言葉に、ロキの表情は温度を失った。

 

「理解した。ここまでおろかならば容赦はせん」

 

 その言葉共に、何重もの魔方陣が一瞬で展開される。

 

「―ここで黄昏をおこなおうではないか!!」

 

 そういうが早いか一斉に魔法が放たれ―

 

「なめるな、悪神!!」

 

 その大半をレヴィアの結界が受け止める。

 

 何割かは結界を突破して襲い掛かるが、アザゼルとバラキエルの光力がそれを撃ち落とした。

 

「上等だこの野郎! だったらこっちも遠慮はいらねえな」

 

 その言葉が終わるより早く、莫大な密度の聖なるオーラがロキに直撃する。

 

 それを放ったのはゼノヴィア。デュランダルからは莫大なオーラの残滓が残り、煙のように残留する。

 

 並の上級悪魔なら塵ひとつ残らず吹き飛ぶ威力。最上級ですらまともに受ければ大打撃だろう。

 

「さて、先制攻撃を受けたしこれぐらいは問題ないと思ったが―」

 

 そういいながらゼノヴィアが歯噛みする中、オーラの残滓を振り払って、無傷のロキが姿を現す。

 

「デュランダルか。なかなかの威力だが、神を相手にしてはそよ風に等しい」

 

 そういいながら告げる中、ロキは指を鳴らすと魔方陣を展開する。

 

「魔王の直系と赤龍帝もいる以上、こちらも遠慮はせん」

 

 その言葉とともに、魔方陣から寒気を伴って獣が姿を現す。

 

 それは、莫大な力の具現だった。

 

「さあ、主神を食い殺すといい、フェンリル」

 



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放課後のラグナロク 4

 

 それは、間違いなくこの場で最強の存在だった。

 

 そう断言できるほどの寒気を覚えさせる狼が、そこにあった。

 

「あれが、神喰狼《フェンリル》……っ!!」

 

 その姿に、レヴィアは歯ぎしりをする。

 

 その威容に、レヴィアはおろかオーディンとアザゼルすら目を見開いた。

 

「フェンリルか。まさかそこまでするとはのぅ」

 

「言っただろう。ここで黄昏を執り行うと」

 

「全員! あの狼には決して触れるな!! 特に爪と牙にはな!!」

 

 オーディンに対してロキがそう答える中、アザゼルは全力の体勢をとりながら声を張り上げる。

 

「奴は全盛期の二天龍とだって渡り合える、最大最悪の魔物の一匹だ!! 神すら確実に殺せる牙を持った化け物、赤龍帝の鎧でも持たないぞ!!」

 

 その言葉に、状況を完全には把握できないイッセーたちも脅威度を理解する。

 

 神すら確実に殺せる牙。それは、この場で最大クラスの戦闘能力を持つオーディンですら倒しうるレベルの戦闘能力を持っていることの証明だった。

 

「その通りだ。こいつは我が開発した魔物の中でも最悪。たとえオーフィスとグレートレッドの次に強いシヴァ神であろうと殺せると自負している」

 

 そういいながらフェンリルをなでるロキは、その手を部長へとむけた。

 

「本来、北欧の者以外に使いたくはないが、ほかの者たちの血を覚えさせるのもいい経験だろう。……やれ」

 

 その瞬間、フェンリルは遠吠えとともに一瞬でリアスに迫りくる。

 

 その、誰もが間に合わない瞬息の一撃に、しかし反応できたものがいた。

 

「リアスちゃん!!」

 

 たまたま近くにいたレヴィアが、リアスをイッセーに向かって投げ飛ばす。

 

 そして、そのまま障壁を展開するとフェンリルの牙を()()()()()

 

 結界には牙が食い込んでいるが、しかしそれに勢いを殺されて肌を貫通することはない。

 

 それどころか、結界に牙を食い込ませてしまったことでフェンリルは次の攻撃を放つことができなかった。

 

「……なん、だと」

 

 ロキが絶句する中、レヴィアは全力で歯を食いしばりながら、しかし挑発の笑みを浮かべて見せた。

 

「終末の獣はこの程度かい? これなら終末どころか終末すら乗り切れないよ?」

 

「四大魔王すら凌ぐ耐久力を秘めたレヴィアタンの娘か。噂には聞いていたがこれほどとは……っ」

 

 その圧倒的な防御力に、ロキはおろか全員が唖然となる。

 

 夏季休暇の特訓でその防御力に磨きがかけられたと聞いていた。ヴァーリに覇龍を使わせるほどと彼女も自負していた。フェンリルは覇龍を使った二天龍と同格であった。

 

 まさに、彼女はそれを証明して見せた。

 

 そんな光景に、ほとんどのものが戦闘中であることも忘れて驚愕する。

 

 そして、意外にも最も早く冷静になったのは自慢の魔獣の一撃を防がれたロキだった。

 

「……見事! 防御結界を張っていたとはいえ、我が子の牙を受け止めて無事で済むなど神々でも困難だ。貴様は先代レヴィアタンをはるかに凌駕した防御力を持っている」

 

「もちろんだとも。それだけならどの悪魔にも負けないつもりだからね!!」

 

 そう自慢げにレヴィアが告げる中、しかしロキはにやりと笑った。

 

 最強の手札をいきなり防がれておきながら、だがロキは余裕を見せるという暴挙を行う。

 

 そして、それは決して慢心ではない。

 

「だが、その心までは頑丈かな?」

 

「へ?」

 

 その言葉とともに魔方陣が生まれ、そしてイッセーは唖然となる。

 

 常に余裕を持ち、歴代最強の二天龍を前にしても挑発すらできるレヴィアは、イッセーにとって余裕という言葉の具現化だ。

 

 そんなレヴィアはすなわち精神的にもタフなはずであり、そんな言葉が向けられるなどありえない。

 

 そんな疑問が浮かぶ中、イッセー達の周囲の光景は一瞬で切り替わった。

 

「これは、幻術?」

 

 リアスがつぶやく中、その光景が形となっていく。

 

 それは、破壊された工場だった。

 

 爆発による破壊は天井を壊し、そして炎が燃え盛る。

 

 そして、その足元には鮮血がまき散らされいていた。

 

 その血だまりを生み出しているのは、重なり合うようにして倒れる二人の子供。

 

 その子供は、まるでどこかで見たような―

 

「………お前ぇええええええええ!!!」

 

 その瞬間、大量の魔力砲撃がロキを襲う。

 

 それを放つのはセーラ・レヴィアタン。

 

 だが、その表情はいつものレヴィアではない。

 

 目は見開いて血走り、青筋すら浮かべているレヴィアは、持てるすべての魔力を放って攻撃を放っていた。

 

 だが、その砲撃をロキは片手を振るうだけであっさりとかき消した。

 

 もとよりレヴィアの攻撃力はこの場のメンツの中でも低い部類だ。それほどまでにレヴィアはその戦闘能力を象徴が斃れぬための防御力に割り振っていた。ましてや相手は北欧の神々の中でも高位に位置するロキである。

 

 当然、レヴィアごときの攻撃が通用するはずがない。

 

 そして、そんなレヴィアの攻撃は渾身の魔力を込めて放たれていた。

 

 フェンリルの牙を防ぐために魔力障壁を全力で展開している状態で、である。

 

 そんな状態で防御に割り振っている魔力を使えばどうなるかなど言うまでもない。

 

 肌がへこむ程度で済んでいたフェンリルの牙が、レヴィアの体に突き刺さった。

 

「……あ……ぐ」

 

 レヴィアの口から血が噴き出、鮮血は腹からも流れ出す。

 

「「レヴィアさん!?」」

 

 眷属である松田と元浜が叫ぶ中、しかし本来声を張り上げるべきもう二人は動けなかった。

 

 織斑一夏と五反田蘭は、顔を蒼白にさせて棒立ちしていた。

 

 仲間思いであり女を守る男であろうことに命を懸ける一夏ですら、絶句していた。

 

「な、なんで、お前がその光景を知ってる?」

 

 震えることで、一夏はロキを見据える。

 

「ふむ、大したことではない。今のは相手の深層心理に刻まれた心の傷を映像として周囲に見せる魔法だ。我が開発した精神攻撃用の新たな術だよ」

 

 そう平然と答えるロキは、面白そうに一夏と蘭を見た。

 

「しかしなるほど。悪魔の駒は死者すら条件次第でよみがえらすと聞いたが、そういうことか」

 

 そう面白そうに、ロキは言葉を紡ぐ。

 

「眷属を作らぬことで有名なセーラ・レヴィアタンが眷属を()()()()()()状況に追い込まれた。ゆえにこその防御力を引き上げる戦車の眷属悪魔……といったところか?」

 

「「っ!?」」

 

 ロキの推測の言葉に、一夏も蘭も狼狽の表情を浮かべる。

 

 それは、どこまでも完ぺきに事実であることを物語っていた。

 

 その狼狽に、多くの者たちが動揺する。

 

 そして、その瞬間にフェンリルは二人の後ろへと回り込んでいた。

 

「言っておくが、我が子の武器は牙だけでもなく爪もだぞ?」

 

 その言葉とともにフェンリルは牙を振り下ろし―

 

「さ……せるかぁああああ!!!」

 

 反応が遅れた二人を、魔力障壁が守り通す。

 

 口から大量の血を吐きながら、レヴィアは目を見開いて渾身の力で二人を守っていた。

 

 己が死にかけている状況下で、それでもレヴィアは二人を守り通した。

 

「二度も! 僕の目の前で、そんな真似は許さない!! 悪神ロキにフェンリル!! ぶち殺すよ!?」

 

「その状態でそこまで吠えるとは見事だが、果たして今の貴殿に何ができる!!」

 

 ロキの嘲笑はまさしく事実だった。

 

 だが、彼は失念していた。

 

 なぜなら、ここにいるのはレヴィア達だけではない。

 

「おい、そこのワン公……」

 

 何より、この場には―

 

「いつまでもレヴィアさんを加えてんじゃねえ!!」

 

 赤龍帝兵藤一誠の渾身の拳が、フェンリルの顔面に突き刺さって殴り飛ばす。

 

 その衝撃でフェンリルはレヴィアを放し、それを祐斗が拾い上げてアーシアのところまで運んでいった。

 

「アーシアさん、早く!!」

 

「はい! し、しっかりしてくださいレヴィアさん!!」

 

「わ、悪いね。ちょっと頭に血が上って」

 

「いいからしゃべるな!! あの状態で無茶しやがって……っ」

 

 弱弱しく微笑むレヴィアに、アザゼルが大声で黙らせる。

 

 それほどまでにレヴィアのダメージは大きく、それだけの威力をフェンリルは持っているということだった。

 

 あのヴァーリ・ルシファーの渾身の一撃すら余裕で受け流すレヴィア・聖羅を、長時間ダメージを与え続けていたといえどこれほどまでに追い込む牙。

 

 もはや危険を通り越して絶望ともいえる脅威だ。

 

 なにせレヴィアですらこのありさまなのだ。この場にいる他の誰でも、あの牙を喰らえば致命傷だろう。

 

 そして、それを見逃すロキでもない。

 

「我が子の牙を受けてなおあそこまで動けるとは。貴殿はここで消した方がよさそうだな」

 

 そういい、ロキは大量の魔方陣を展開してさらにはフェンリルも牙をむく。

 

 そして、脅威が襲い掛かろうとしたその時―

 

「いや、そこまでだよ」

 

 目の前に、白銀が舞い降りた。

 

「生きているようだな、兵藤一誠にセーラ・レヴィアタン」

 

「ヴァーリ・ルシファー!?」

 

 その存在に、リアスは唖然となる。

 

 ここにきて禍の団すら来襲するなど絶望以外に何物でもないが、しかしヴァーリの敵意はロキとフェンリルに向けられていた。

 

「悪神ロキ。兵藤一誠とセーラ・レヴィアタンは俺の獲物だ。……横から奪おうとするならば、滅びることになるぞ?」

 

 そう戦意をみなぎらせて告げるヴァーリに、ロキは面白そうに笑うと魔方陣を展開する。

 

「なるほど。二天龍の共演を見られて満足した。今日のところは引くとしよう」

 

 その言葉とともに、魔方陣がロキとフェンリルを包み込む。

 

「次会う時はこの国の神々との会談の日だ。その時こそ、その首を落とさせてもらうぞ、オーディン!!」

 

 そう言い残し、ロキたちは姿を消す。

 

 ……人類統一同盟と真悪魔派たちに率いられる禍の団。

 

 彼らとの戦いに忙しい中、神という強敵が立ちふさがろうとしていた。

 



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放課後のラグナロク 5

 

 兵藤邸では、いろいろな意味で沈黙が支配していた。

 

 まず一つは、ロキとの戦い。

 

 オーディンを狙って行われた神の襲来。さらにはおそらく世界でも指折りの脅威である神殺しの獣であるフェンリルの存在。

 

 明らかに若手でどうにかなるレベルを超えている脅威を前に、対策を練らねばならない。

 

 次は、ヴァーリ・ルシファーの存在。

 

 禍の団でも指折りの強者である、独立部隊ヴァーリチーム。

 

 それがよりにもよって魔王の妹やら末裔のいる場所に入っている。

 

 如何に恩人とはいえ警戒するほかない。なんというか微妙な空気に支配されそうだった。

 

 そして、セーラ・レヴィアタンの負傷。

 

 かろうじて一命をとりとめたレヴィアだが、いまも意識を失い自室に寝かされている。

 

 この場の中でも間違いなく最も頑丈であるレヴィアをここまで追い込むフェンリルは、もはや脅威というレベルすら超えて絶望すら生み出しかねなかった。

 

 そんなあらゆる意味で精神的に負担をかける状況の中、アザゼルが口を開いた。

 

「一応礼を言っとくぜ、ヴァーリ。おかげで何とかこの場はしのげた」

 

「そうね。あなたが来てくれなければ誰か死んでたかもしれないもの。アーシアを助けてくれたことといい、お礼は言っておくわ」

 

 リアスもとりあえずは礼を言い、そしてヴァーリはそれを静かに受け止める。

 

「なに、セーラ・レヴィアタンにはまだ白龍皇を愚弄した報いを与えていないからな。それまで死なれては俺が困る」

 

「言ってろ。そんなことはさせないからな」

 

 一夏は警戒しながらそういい返すが、ヴァーリは気にも留めない。

 

 もしこの場で戦いになっても、生きて帰ることができるという自信がそこにはあった。

 

「なんならもっと感謝してくれてもいいんだぜい? 俺っちや黒歌が気も送り込んだから、セーラ・レヴィアタンも傷の治りが速いんだからよ」

 

「そこ、調子に乗らないでください」

 

 ぬけぬけとそんなことをのたまう美猴に、蘭は青い顔で砲門を向ける。

 

「散々テロ行為を働いておいて、ぬけぬけと何を言ってるんですか? むしろ感謝してるからここで戦闘してないんですよ」

 

「同感です。図々しいにもほどがあります」

 

 そうぼりぼりとかりんとうを食べながら、小猫の冷たい視線が黒歌に突き刺さる。

 

「姉様たちは自分が犯罪者だという自覚が足りないです」

 

「あらひどいわ白音。お姉ちゃん悲しくて泣いちゃいそう」

 

「言ってろ、お前に姉を名乗る資格はない」

 

 泣きまねをする黒歌に、一夏はばっさりと冷たい正論をたたきつけた。

 

 そんな中、ため息をつきながらアザゼルは声をかける。

 

「で、話を戻すぞヴァーリ。なんでここに現れた?」

 

「心配するなアザゼル。別にお前たちと戦うわけじゃない」

 

「答えになってないね」

 

 聖魔剣を生み出しながらの祐斗の追及に、ヴァーリはやれやれと肩をすくめる。

 

 そして、ヴァーリは微笑みながら言った。

 

「そちらはオーディンの会談を成功させるために、ロキを撃退したいのだろう?」

 

「まあそうだな、だが、俺たちだけではロキとフェンリルのコンビは防ぎきれない、挙句どこの勢力も人類統一同盟と真悪魔派の動きで手一杯だ。少なくとも三大勢力にこれ以上動かせる余裕はない」

 

「だろうな」

 

 アザゼルの言葉は当然だ。

 

 人類統一同盟の、ISの脅威度が知れ渡った現状、あらゆる勢力は大規模な戦闘活動ができないでいる。

 

 優れたステルス性と機動性を併せ持つISが、絶霧の援護を受けて強襲を仕掛ければ、事前に察知して余裕をもって対応などどの勢力でも困難だ。必然的にどこの施設もかなりの警戒態勢を必要としている。

 

 三大勢力にいたってはなお悪い。真悪魔派のクーデターによる混乱状態からようやく抜け出たばかりの今の三大勢力に、そんな余裕はない。

 

 そんな状況の中、一体ヴァーリたちは何を考えているのか。

 

「まさか、お前がロキを倒してくれるのか?」

 

 イッセーはふとそんなことを思いついて聞いてみる。

 

 強者との死闘を心から望むヴァーリからしてみれば、ロキとフェンリルはどちらも願ったりかなったりの相手だろう。

 

 だが、ヴァーリは静かに首を振った。

 

「いや、さすがにあの二人を同時に相手をするのは俺でも無理だ。今はな」

 

「今は、か」

 

 ゼノヴィアがそうあきれるのも無理はない。

 

 つまり、いつかは相手ができるようになって見せるとこの男は言い切ったのだ。

 

 無謀といっても過言ではない宣言には、もはや感心するぐらいのレベルだろう。

 

 とはいえ、現状では無理だとあえて言っているのに疑問を浮かべる中、ヴァーリは続けて言葉を続ける。

 

「だが、二天龍が手を組めば不可能ではないだろう」

 

『『『『!?』』』』

 

 その言葉に、全員が驚愕する、

 

 つまり、ヴァーリが言いたいのは―

 

「今回の一戦。俺は兵藤一誠と共闘してもいいと思っている」

 

 その言葉に、全員が驚愕した。

 

「……そこまで驚くことでしょうか? 我々禍の団は、人類統一同盟の意向もあって神々を敵に回しているのです。敵の敵は味方とよく言うではないですか」

 

 と、アーサーが微笑みながらそんなことを言う。

 

 確かに、敵対している者同士が共闘するというのは古今東西珍しくない。

 

 珍しくないが―

 

「……いくらなんでも、テロリストと共闘って聞いたことがないんですけど?」

 

「いうな蘭ちゃん。こいつら敵味方の区別がついてないんだろ」

 

 あきれ眼の蘭に、元浜が静かに肩に手を置いた。

 

 確かに、普通協力するなら禍の団の誰かと組むのが当たり前だろう。というよりそれ以外にない。

 

 さんざんテロを内通したり襲撃を仕掛けたりしておきながら、この発言はもはや一周回って感心するレベルだ。

 

「お前、自分が和平会談でなにしたかわかっていってるのか?」

 

「そんなにおかしなことか? 俺は臨機応変に対応しているだけだが」

 

 松田のツッコミにもヴァーリは全く動じない。そしてヴァーリチームは全員当たり前といった顔をしていた。

 

 あまりに平然としたその態度に、思わず納得しそうになり―

 

「―寝言は寝ていってもらおうか。チンピラ」

 

 弱弱しくも、強い意志を感じさせる言葉が部屋に響いた。

 

 その言葉に多くの者が飛び跳ねるようにして顔を向ければ、そこにはレヴィアが壁にもたれかかりながら立っていた。

 

「レヴィア!? 馬鹿、お前寝てろって!!」

 

「そうもいかないよ。……そんな、魔王末裔の恥さらしの手を借りるかもしれないなんてと思うと居ても立っても居られない」

 

 一夏に肩を借りながら、レヴィアは心から嫌悪のこもった目でヴァーリを見据える。

 

 そしてヴァーリもまた、嫌悪の感情がこもった目でレヴィアを見据えた。

 

 空気の質が大きく変わり、いつ戦闘が起きてもおかしくない緊張感が支配する。

 

「やあチンピラ。チンピラなだけあって義理も何もあったもんじゃないね。魔王ルシファーの名はさぞうっとうしいだろう?」

 

「やあ売女(ばいた)。それは君の方だろう? しょせん防御力しか高めれなかった結果がそのざまだ」

 

 お互いに敵意を全く隠したりせず、心底本気でにらみつける。

 

 特にヴァーリの口から売女(ばいた)などという罵声が出てくるとは思わず、ヴァーリチームも多少驚いていた。

 

「あ、あの。ヴァーリさんもレヴィアさんのこと嫌いなんですか? 逆はわかるんですけど」

 

「まあそうですね。史上最強の白龍皇になるだろうと言われる自分が、人間の屑扱いされればさすがに激怒するとは思いますよ」

 

 震えるアーシアにさらりと答えながら、しかしアーサーも腰を落として少しだけ戦闘態勢に入る。

 

「ヴァーリ。ここであなたが勝手に暴れるなら、私はさすがに止めますよ?」

 

 思わぬ増援に、イッセー達は少し驚いた。

 

「我々としても今回の戦闘は重要でしょう? そちらのレヴィアタンも、我儘を状況が許すほど事態に余裕がないのはわかっているはずです」

 

「「…………………………」」

 

 二人は無言で心底にらみ合ったが、やがてレヴィアは肩を落とすと首を振った。

 

「確かに。対テロチームも今は冥界の方で忙しいしね。………鱗の楯(スケイルシールド)ぐらいにはなるかな? それとも鎧かな?」

 

「気にするな、赤龍帝と俺たちがいればロキもフェンリルも必ず倒せる。………お神輿がなければ戦えないわけでもないしな」

 

 お互い痛烈な嫌味を交えながらも、とりあえずここで戦争をすることだけは避けてくれた。

 

 その様子に、全員がわずかにほっと息をつく。

 

 もしこんなところでレヴィアとヴァーリが激戦を繰り広げれば、間違いなく余波で駒王町は消滅しているところだった。少なくとも、兵藤邸は崩れ去るだろう。

 

 なんだかんだで冷静なところがあって助かった。

 

 そんな風に緊張感が緩む中、黒歌が思い出したかのように手を打った。

 

「そういえば、やけに頭に血が上ってたけどどうしたにゃん? いつもならあんなミスしそうにないと聞いているけど?」

 

 それは、心底心からの疑問の声だった。

 

 イッセーからしてもそれは当然の質問だった。それほどまでにレヴィアは過剰に反応していたし、だからこそ致命的な事態にまで陥った。

 

 だから当然出てくる質問であり―

 

「ま、待ってください!!」

 

 だから、事情を知っている蘭は声を張り上げる。

 

「少なくとも、テロリストの前で話していいようなことじゃ―」

 

「―いや、いいよ」

 

 それをレヴィア自身が遮った。

 

「―彼らの前で堂々と演説するぐらいのノリで語れるようじゃなきゃ、克服したとは言えないしね」

 

 そういって、レヴィアはソファーに座ると悠然と足を汲む。

 

 その表情はまだ青く、そしてダメージとは別の意味で汗が一筋流れていた。

 

 それほどまでの話をするのだと、全員が理解できた。

 

「悪いね一夏君、蘭ちゃん。君たちにとってもいい話じゃない」

 

「いや、俺はかまわないさ」

 

 心からすまなく思ってのレヴィアの謝罪に、一夏は表情をこわばらせながら受け入れる。

 

「俺も、それぐらいできるような男になりたいしな」

 

 その言葉に、レヴィアは満足そうにうなづいた。

 

「さて、いまから三年か四年ぐらいことになるか―」

 

 その言葉とともに、事態は過去へと移り変わる。

 



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放課後のラグナロク 6

 

 今から数年前。まだセーラ・レヴィアタンがレヴィアという通り名を使ってなかったことである。

 

 セーラは、数人いた護衛を何とか引き離して、一人の時間を満喫していた。

 

「あ~もう! あんなにボディガードがいたら目立つのに!! 邪魔なんだから!!」

 

 そうぼやきながら、こっそりくすねた小銭でソフトクリームを舐めるレヴィアは、近くにあるモニターで一つに試合を見ていた。

 

 モンド・グロッソ。ISの国際大会だ。

 

 それを見ていたらふと気づき、セーラは携帯を操作する。

 

 出した画面はメール画面。そこには友達と一緒に笑顔を浮かべている少女の写真があった。

 

「……おかげでみんな一緒に観戦に行けました、か。うんうん、僕もチケットが無駄にならなくてよかったよ」

 

 それは、セーラの珍しい我儘。

 

 本当に興味があったのが数割。たまには人をからかって遊んでみたいと思ったのが数割。

 

 そして、セーラの無理難題に対して、怒るという反応を人が下すかどうかが約半分。

 

 それだけの比率をもって、セーラは冥界に無理を言った。

 

「……モンド・グロッソを生で観戦したい」

 

 ……結果として、チケットが四枚手に入ってしまった。

 

 いろいろなところで言ったせいで、別々に動かれてしまったのが原因だ。これはさすがにレヴィアも反省した。

 

 とりあえずチケットは仕方がなかったので、ネットで調べて友達四人組の内一人しかチケットが手に入らなかったという少女に匿名で送り付けた。

 

 その感謝のメールをみて、レヴィアは一回会ってみようかなどという感情を浮かべる。

 

 ……セーラ・レヴィアタンはうんざりしていた。

 

 家紋だけを見て、それに見合う能力があるかどうかを深く考えない今のレヴィアタン家はもう終わりだ。そしてそんな家がトップに立つことを喜んですらいる旧魔王派も見限った。

 

 ベルゼブブ家も同様だし、アスモデウス家とルシファー家にいたっては末裔が家を出るという事態にまで陥っている。

 

 若く自由な彼らは、旧魔王派が滅びの道を歩んでいることにすでに気づいているのだろう。

 

 だから、レヴィアもそうした。

 

 そんなことをすれば、落ちぶれた生活が来ることを理解して、もしかすれば体を売って生活するしかなくなるかもしれない。

 

 もし許されるなら象徴として人々の心を少しだけでも軽くしたい。それが事実上の幽閉であってもかまわない。

 

 そんなことすら覚悟して、レヴィアは一部の協力者とともに脱走した。

 

 そして、彼らの犠牲をもって魔王領へと逃げ込むことになったのだ。

 

 ……だが、レヴィアの生活は変わらないどころかよりよくなった。

 

 なにせ四大魔王はお人よしだ。慧眼を発揮して自分たちのところに逃げてきた彼女を手荒く扱うような真似は決してしない。

 

 血統主義の大王派ももちろんそうだ。むしろ彼らからしてみれば、貴重な血統が味方に付いてくれたようなものである。できる限り厚遇し、現政権のイメージアップに貢献させた方がいいと判断したのだ。

 

 だから、金も物も集まってくる。

 

 十代前半にして、レヴィアは人間世界を含めても、上位二けたに入る財力を持っている。

 

 何度も何度も懇願して、領地だけはこじんまりとしたものにしてもらったが、それでも有数の観光名所という非常に豪華な土地だ。

 

 ならば、取られたものは悔しがるか? 否、自分が管轄していた土地が真なるレヴィアタンに与えられるという事実を、ある種の栄誉として受け取っている。

 

 まだ、その少女はただの子供なのにもかかわらずだ。

 

「……一部はともかく、全体的には大差ないなぁ」

 

 これなら、人間界にでも逃げ込んだ方がまだましだったろうか?

 

 いつか婚姻する際の予行演習として、レヴィアは夜伽の訓練をきちんと受けている。そしてその際すごくはまっている。

 

 できることなら不特定多数の男子や少女と、そういうことをして楽しんだ生活を送れればいいと心から思っている。

 

 法律が許す年になってから決断していたら、間違いなくそういう業界にダイビングしていただろう。

 

 否、むしろ今からダイビングした方がいいのでは―

 

「―ん?」

 

 と、ふと気がついて窓から外を見てみると、奇妙な光景が映った。

 

 車に向かって、人を俵を抱えるようにして運んでいる男が数人いたのだ。

 

 しかも、その運ばれている少女はつい先ほど見た写真の少女だった。

 

 ……この時、レヴィアの中にいくつもの感情が浮かんだ。

 

 一つは、その子たちがかわいそうという人として当たり前の感情。それはレヴィアもきちんと持っており、何より平均値より上であった。

 

 一つは、明らかに誘拐という卑劣な手段をとっている犯罪者に対する怒り。人並み以上の正義感を持っているレヴィアは、当然のごとくそれに憤慨することができる。

 

 ………そして、最後の一つは少なくない量の歓喜。

 

 ここで自分が正体を隠して助ければ、あの子たちの中でセーラの存在は心に残る。

 

 それも、レヴィアタンの末裔という厄介なものがない状態でだ。

 

 ましてや何年間も実績なしの持ち上げに辟易していたこともある。セーラにとって、今の状況は楽しいおもちゃといっても過言ではなかった。

 

「ふふふ。待っててねお二人さん♪ すぐに助けてあげるから!!」

 

 そういうがは早いか、レヴィアは車に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然のことであるが、セーラの行動はあらゆる意味で間違っている。

 

 そんなものは素人がすることではないし、まず真っ先に警察に連絡することだ。

 

 しかも護衛をつけずに一人で行くなど、正義感の暴走としか取れないだろう。

 

 ………むろん、彼女はそのツケをしっかりと払うことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ! だせ! だせよ!!」

 

 倉庫の扉を何回もたたきながら、織斑一夏は無駄だとわかっていても脱出を試みていた。

 

 ここに自分がいるということが、どれほどまでに何人もの人間に迷惑をかけるのかがわかっていたからだ。

 

 第二回モンドグロッソ。世界最大のIS競技会。

 

 一夏は、姉である千冬が参加しているそれを応援するべく、観戦に来ていた。

 

 友達と一緒に参加できなかったのが残念だと思ったところに、しかしなんの奇跡かチケットを譲ってくれるという奇特な方に出会い、特に関係の深い友人四人で観戦しに来たのだ。

 

 とはいえ、こんな大量に人がいるところでは子供四人では迷子になってもおかしくない。

 

 そんなこんなで鳳鈴音と五反田弾の二人とはぐれてしまい。弾の妹である蘭と一緒にさまよっていたら、いきなりさるぐつわをかまされてこの始末だ。

 

 なんでこんなことをしたのかはわからない、だが、このままでは千冬に迷惑がかかるのだけは幼い頭でも理解できる。

 

 だから、いっそのこと舌を噛んで死んでしまうべきかとも考え―

 

「い、一夏さん……」

 

 ―すぐ後ろにいる蘭のことを思い出して、思いとどまる。

 

 目の前で友達が死んでしまえば、いくらなんでも心に大きな傷を負うだろう。

 

 織斑一夏は男らしい男になることが目的なのだ、こんなところでその誓いを破っていいはずがない。

 

「大丈夫だ、蘭。すぐに助けが来るはずだから」

 

 そんな根拠もないことを言いながら、一夏は情けなくなって泣きたくなる。

 

 男が女を守る、そんな本来当たり前の光景を、しかしできるどころか足を引っ張るこの始末。

 

 ああ、いっそのこと全て壊れて死んでしまった方が心が楽になるのではないのかとすら考える中、それは起こった。

 

「う、うわぁあああああ!! 化け物だぁ!!」

 

 そんな悲鳴が、扉の向こうから聞こえてきた。

 

 次の瞬間には大量の銃声が響き渡り、あっという間に騒がしくなる。

 

「弾が、弾が効かねえ!!」

 

「ISの反応もねえ、冗談だろ!」

 

「や、やめろ、来るなぁ!?」

 

 悲鳴を上げていく男たちの声は、どんどん少なくなっている。

 

 その事態に、一夏は警察が来たのかとすら思い、声を上げた。

 

「……ここだ!! 俺たちはここにいる!! 助けてくれ!!」

 

「だれかぁあああああああ!! お願い、早く!!」

 

 蘭も泣きながら声を張り上げる中、すでに声を出すものは自分たちしかいないということに二人は気づかない。

 

 それが何十秒か続いたと思った時、扉の奥から声が響いた。

 

「大丈夫大丈夫。扉壊すからちょっと離れてて?」

 

 その言葉に従って、二人は数メートルほど下がる。

 

 そして、その直後分厚い鉄の扉は蹴り破られた。

 

 部屋に光が差し込み、そしてそれが開けた者を照らし出す。

 

 まるでルビーのように赤く美しい髪を持った、自分達と歳のあまり変わらない少女がそこにいた。

 

 これが、一夏と蘭の来世の主であることを、まだ誰も知らない。



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放課後のラグナロク 7






セーラ・レヴィアタン人生最大の失敗が、いま明かされる



 

 目についた男たちを全員戦闘不能にしたうえで、レヴィアはすぐに少年たちを救出した。

 

「まあ、所詮は異能も知らない只の人間か。せめて対戦車兵器でもあれば話は違ってけど、建物の中でできるわけがないしねぇ」

 

 そう評しながら、レヴィアは手早く一夏と蘭の拘束を解除する。

 

 この場所は、モンド・グロッソの会場から少し離れたところにあるオフィス街だった。

 

 こんな場所で銃を使えば人に気づかれるかもしれないと思われがちだが、いまは休日でモンド・グロッソがすぐ近くで開催されている。

 

 そのためこのあたりはほぼ無人となっており、それゆえに隠れ家としてはうってつけなのだ。

 

 しかも、このビルはすでに企業が撤退して空きビルとなっている。多少こそこそしていても勘付かれたりはしない。隠れ家としては最高の環境だった。

 

 だが、レヴィアは子供とはいえど優れた悪魔であり、それを超える能力を持っている。

 

 上級悪魔相当の力を持ち、また、祭り上げられるのなら壊れないようにと頑丈さは特に鍛えている。

 

 耐久力だけならば、若手悪魔どころか武闘派の上級悪魔にも引けを取らない自信に満ち溢れていた。

 

「はい。もう大丈夫」

 

「あ、ああ。助かった!!」

 

「ありがとう、ありがとうございます!!」

 

 少年には丁寧に頭を下げられ、少女の方には抱き着かれるレヴィアは、とても楽しく思っていた。

 

 なにせ、こんな愉快痛快な正義のヒーローをやる機会など普通はやってこない。

 

 まだ子供であるレヴィアにとって、これほど楽しいこともなかった。

 

 そんな優越感に浸っていると、レヴィアは泣きついているこの顔を見て、ふと気づく。

 

「……あれ? きみ、もしかして僕がチケットを贈った子かい?」

 

「………へ?」

 

 急な言葉に涙を止めた蘭の前で、セーラはにやりと笑うと携帯を見せる。

 

 そこには、蘭が送ってきた友達の写真が映っていた。

 

「あ、ああああああ!? お、お姉さんがそうなんですか!?」

 

「そうなんだよ! ああ、なんていう偶然だろう!!」

 

 思わぬめぐり合わせに、セーラは敵である聖書の神の思惑すら感じてしまう。

 

 自分が二度も助けることになるとは、運命でもあるのかと思いたくなる。

 

 そして、それはセーラのテンションをいろんな意味で押し上げることになり―

 

「………てやる」

 

 震えながら立つ男の存在に、セーラは全く気づかず―

 

「……あ、あいつ!!」

 

 立ち位置から一夏が気づいた時に大きく反応してしまい―

 

「まっかせてよ!!」

 

 ゆえに、なんの対処もせずに二人を放置してレヴィアは駆け出し―

 

「……まとめて殺してやるぞぉあああああああああああ!!」

 

 誘拐犯は、スイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に調べて分かったことだが、この誘拐犯は相当のプロの大組織がかかわっていることが判明した。

 

 織斑千冬の二連覇による日本の政治的発言力の上昇を恐れた各国の暴走した者たちが共通で出資し、国際犯罪組織を雇って起こしたのが今回の事件の真相だ。

 

 そのため、万が一にでも正体が露見すれば国際社会は大きな混乱に見舞われる。

 

 ゆえに、組織は万が一のために証拠を残さないよう自爆装置をしっかりとしかけていた。

 

 その爆発は跡形も残さないようにするためにかなり強力なものを設置しており、また当時のセーラ・レヴィアタンではそこまで正確な防ぎこみもできず―

 

 ビルの各所で、大規模な爆発が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、一夏、さん」

 

 熱気に包まれた部屋の中、腹部に特に強い熱を感じて、蘭は目を開けて事情を把握した。

 

 そんな蘭をかばうように乗り掛かりながら、一夏はもうろうとしている意識の中蘭の方を見る。

 

「大丈夫か、蘭?」

 

 状況を理解できずにそう尋ねる一夏に、蘭は心からほっとする。

 

 ああ、自分が大好きな男の子は、本当にかっこいい男だったのだ。

 

 あんな突然の緊急事態に巻き込まれながら、子供ながら自分を気遣ってくれた、いまも大の大人で反応できないような非常事態に対して、自分の身よりも先に私をかばってくれていた。

 

 それが、とてもうれしくてだから悲しい。

 

「い、一夏、さん」

 

「あ、重かったか? ごめんすぐ起き上がるから―」

 

 そういって一夏は起き上がろうとするが、しかし何かに突っかかっているかのように起き上がれない。

 

 その理由を蘭は、文字通り痛いほど理解していた。

 

 だからよくわかる。

 

「一夏さん、……だめです、おなか」

 

 蘭はだからそう教え、そして腹を見た一夏は絶句する。

 

 直径十数センチはあるような鉄骨が、二人を串団子にでもするかのように腹部を仲良く貫通していた。

 

 古流武術の経験上、一夏は人がどういう時に死ぬのかを少しは理解している。そしてそんなものがなくても、蘭もこれがどういう状況下を理解している。

 

 これはもう、手遅れだ。

 

「蘭、ごめん……っ!」

 

 その事実を受け止めて、一夏は歯を食いしばって謝った。

 

「俺は男なのに、友達一人守ることもできないなんて―」

 

 蘭の目の前で、一夏は絶望の表情を浮かべていた。

 

 女尊男卑の今の世の中で、一夏はさらに数世代以上前の男の在り方を目指していた。

 

 すなわち、男が矢面になって女を守る。そんな時代遅れの理念を、一夏は体現して見せようと頑張っていた。

 

 だが現実はあまりにも非常。楯になって死ぬどころか、見事に道連れにしてしまった。

 

 その絶望を理解して、蘭はだけど認めなかった。

 

 自分が死ぬのは、なんとなく受け止められてしまった。

 

 家族も友達も悲しむだろうが、しかしもう手遅れだ。

 

 だけど、一夏が絶望するのだけは我慢できない。

 

 我慢できなくて―

 

「一夏さん」

 

 声をかけ、

 

「……なに……ん」

 

 その唇を奪い取った。

 

 無理に体を動かしたせいで、さらに激痛が走るが構うものか。

 

 今は、一夏の心の方が大切だ。

 

「私は、一夏さんのことが好きです、女として愛してます」

 

「え……ええ?」

 

 思わぬ展開に、一夏は唖然となる。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 織斑一夏の朴念仁は筋金入りだ。

 

 校舎裏で付き合ってくださいと言われて買い物に付き合ってほしいなどとしか考えることができない超弩級。最早常識知らずといっても過言ではないレベルだった。

 

 だが、こんなタイミングでド直球で攻めれば、さすがにわかる。

 

「愛してます。できれば大人になって結婚して、子供を何人も作ってしまいたいぐらい愛しています」

 

「ら、らん?」

 

 出血が大きいせいかろれつが微妙に回っていない一夏の前で、蘭ははっきり思いをつたえた。

 

「だからいいです。好きな人にかばわれて死ぬなら、怖いけど素敵な死に方です」

 

 死の恐怖にわずかに震えるが、しかしそれと同じぐらいスッキリした。

 

 心の底から思っていた想いを、まっすぐに言うことができたからだ。

 

「あ、鈴さんもそうなんですよ?」

 

 ついでに鈴のフォローも忘れない。

 

 こんな形で勝ち逃げされたら鈴もいろんな意味で立ち直れないと思ったからだ。

 

「だから、答えは言わなくていいです。だけど―」

 

蘭は、すでに自由に動かなくなっている両腕を何とか動かして、一夏の背中に手を回す。

 

「……ぎゅっと、してください」

 

「………ああ、わかった」

 

 一夏は、悔し涙を流しながらも、だけどしっかりと抱きしめる。

 

「ごめんな。俺、女を守れる男になりたいから、今のままだと答えられない」

 

「でも、天国で真剣に考えてくれますよね?」

 

 それは少なくとも断言できる。

 

 男らしい男を目指す一夏に限って、気づいてから不誠実な対応をするとも思えない。

 

 そう、だから、怖くても耐えられる。

 

 それを最後の慰めとして、蘭はそのまま目を閉じようとして―

 

「……まだ、早いよ」

 

 声が、聞こえた。

 

 目を開ければ、そこには自分たちを助けに来てくれた少女がいる。

 

「今の僕では、君たちを救うことはできない。だけど、選択する機会は与えてあげれる」

 

 震える声と震える体で、少女はチェスの駒のようなものを取り出した。

 

「人間として死ぬか、人間をやめて生き残るか。……二つに一つだ」

 

 その言葉は普通なら信じられないが、しかし納得できる。

 

 なにせ、彼女は人知を超えた力を発揮したのだ。なら、そういうこともできるのだろう。

 

 その言葉に、蘭も一夏も息をのんだ。

 

 そしてそれ以上に、今の少女の姿に息をのんだ。

 

「こんな選択肢しか与えられない僕を、うらんでくれていい」

 

 肩を何度も大きくふるわせて、少女は泣いていた。

 

「だけど、お願いだからせめて選択肢を見せてほしい」

 

 プルプルと震えながら、少女は泣いていた。

 

 心から後悔している表情だった。

 

 あまりにも油断して舐め切った行動をとった結果がこのざまだ。

 

 せめて護衛も一緒に連れてきていたら。うかつに仕掛けずに二人を守ることに集中していたら。結界を遠隔位に張る能力を獲得していたら。

 

 蘭にはわからずとも、少女はそんなことばかりが頭に浮かんでいる。

 

 そんな、泣きじゃくる小さな子供を思わせる少女をみて、蘭は思った。

 

 ………あ、この人泣かせちゃだめだ。

 

「あの、一夏さん」

 

 すでに視界が暗くなり始めている中、蘭は一夏を伺い見る。

 

 そして一夏も、また決意を決めた表情だった。

 

「……大丈夫さ。あいつ等なら、人間やめたぐらいで俺たちを嫌ったりなんてしない」

 

 それに、このまま泣かせちゃだめだろう?

 

 そんな心が通じ合い、二人は思わず苦笑した。

 

 そして、判決を待つ犯罪者のように恐怖に震える少女の、口そろえて答えを返す。

 

「「……生きたい」」

 

 その言葉に、少女は心から救われた表情を浮かべた。

 

 そして、同時に心から悔やむ表情も浮かべた。

 

 そんな複雑な表情を浮かべ、少女は駒を取り出した。

 

「……選ばせる、こと…しかできなくて、ごめんなさいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、彼女たちの始まりの日。

 

 この日、眷属を作りたがらないことで有名だったセーラ・レヴィアタンは初めて眷属悪魔を作った。

 

 それが、レヴィアの双璧であり最も近しい眷属、織斑一夏と五反田蘭である。

 




レヴィアも子供のころなら失敗の一つや二つは経験して当然。それは、子供ならよくあることで、むしろ一つや二つぐらいなら経験した方が人生の糧になるものです。

ですが、失敗の仕方が悪すぎた。


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放課後のラグナロク 8

 

 全てを語り終え、レヴィアは紅茶を一口飲むとため息をついた。

 

「思えば、間違いなく人生最大の失態だよ。当時は僕も幼かったとはいえ、うかつなミスで二人を死なせるところだったんだから」

 

 思い出すのも嫌だったのか、レヴィアはとても苦い顔をしている。

 

 それはそうだろう。自分のうかつな行動が原因で二人を死なせたのだ。

 

 悪魔の駒で蘇生させたとはいえ、一度死んだことには変わりない。そのショックは計り知れなかった。

 

「俺としては、レヴィアさんがそんな失敗したことがあるってのがびっくりだ」

 

「だろうね。僕もレヴィアさんは基本的に何事もそつなくこなすイメージがあったよ」

 

 元浜と祐斗が信じられないという顔でつぶやくが、しかしそれはほぼ全員の意見ではある。

 

 あのヴァーリですらぽかんとしているといえば、それがどれほどかわかるだろう。

 

「レヴィア、貴女それしゃべってよかったの?」

 

「別にいいさ。調べればすぐにわかること、いつかはテレビ番組で取り上げられるぐらいの覚悟をしないとね」

 

 気遣ってくれるリアスにそう答えると、レヴィアはもう一度紅茶を飲む。

 

「まあねえ。僕だって未熟な時代はあったんだよ。その失敗が取り返しが半分ぐらいつかないかっただけさ」

 

 確かに一夏と蘭は生き返ることで一命をとりとめたが、しかし一度は死んだのだ。

 

 その事実は決して覆らない。レヴィアの人生には、子供じみた我儘で死人を出したというあからさまな失点が刻まれた。

 

 そして、それをレヴィア自身が許すことは一生ないだろう。一夏と蘭との絆が生まれれば生まれるほど、それは消えようのない傷跡となる。

 

「なあ、レヴィア―」

 

「ストップだよ、一夏くん」

 

 何か言いだそうとする一夏を、レヴィアは手で制す。

 

「誰が何と言おうと、僕は致命的な失敗をしでかした。それは一生変わらないし変えちゃいけない」

 

 そう、それはレヴィアにとって致命的すぎる失敗。

 

 守る王が守ろうとしたものを己の不手際で失った。それは誰が何と言おうとレヴィアにとって取り返しようのない失態に他ならない。

 

 だからこそ、レヴィアはより執念をもって守りを固めた。

 

 その結果が、フェンリルの爪からすら他者を守る結界の使い方だった。

 

 それを誇りに、そして恥と思い、レヴィアは静かに全員を見据える。

 

「皆覚えておくといい。……取り返しのつく失敗は一度ぐらいした方がいいけど、取り返しのつかない失敗は一生心に残る。そんなものない方が人生得だよ?」

 

 そうわざと軽い口調でそういうと、レヴィアはヴァーリを人にらみする。

 

「特にチンピラは後の社会復帰が大変なんだから、少しはよく考えておくといい、チンピラ」

 

「………覚えておこう」

 

 普段ならチンピラ呼ばわりで速攻さっきを出すであろうヴァーリだが、なぜか今回は静かだった。

 

「ヴァーリの奴、なんか様子がおかしいな」

 

「そりゃ大絶賛育ての親裏切ってるからな。思うところあんだろ?」

 

「聞こえてるぜい?」

 

 松田とイッセーのボソボソ話に、美猴がさらりとツッコミを入れる。

 

 とはいえ、これで話はまとまった。

 

「チンピラなんかの力を借りるのは腹立たしいけど、人の恥部まで話してやったんだからせいぜい肉璧になってくれ」

 

「ふむ、興味深い話を聞いた代金位は支払うべきだな」

 

 ……普通に殺気が大量に放たれているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、その後の準備は急速に進んでいった。

 

 イッセー達は龍王ミドガルズオルムに相談に行き、対策を始めている。

 

 そして、その結果として切り札が到着した。

 

「これが、ミョルニルかい?」

 

「ああ。つってもレプリカだがな」

 

 レヴィアにそう答えながら、アザゼルはやれやれと苦笑する。

 

「にしてもオーディンの奴、そんなもの持ってるならもっと早くばらしてくれてもよかっただろうによ。まったくずるいぜ」

 

「だろうね。で? 誰が使うんだい?」

 

 そう。それが問題だ。

 

 なにせ、ミョルニルは純粋な心の持ち主でしか使えないといわれている。

 

 欲に生きる悪魔が本来使えるようなものではない。

 

「まあ、振るえるとしたらイッセーぐらいだろ。さすがにヴァーリに渡すわけにはいかねえしな」

 

「でもイッセー君の場合、間違いなく単純な鈍器としてしか使えないよね?」

 

 そう。純真ではなく色欲の塊でありイッセーが、ミョルニルを本来の形で使えるかといわれるとまったくもって微妙だった。

 

「と、とりあえず試してみましょう。誰かが使えることが判明すればそれでいいわけじゃない?」

 

 リアスがとりあえずそういって、話の方向性を決めてみる。

 

 と、いうことでヴァーリチームを除く全員が試してみたが、しかしイッセーぐらいしかまともに持ち上げられるものはいなかった。

 

 必然的にイッセーが使うことになるが、果たしてこれで勝てるのだろうか?

 

「千冬さんが間に合うかどうかは割とギリギリだし、これ、結構やばくないかなぁ」

 

「仕方がねえ。こうなったらお前にも来てもらうぞ、匙」

 

 と、レヴィアの不安を解消するためかアザゼルは匙の肩をつかんだ。

 

「え? お、俺ですか?」

 

 そんなことを言われて驚くのは匙だ。

 

 それはそうだろう。匙の戦闘能力はこの場でいうならば中堅だ。

 

 それがいきなり奥の手的扱いを受ければ混乱もする。

 

「なに。前からお前に関しては試してみたいことがあったんでな。ちょっとそれを試すために改造……もとい特訓を」

 

「改造って言った! 改造っていいきってから適当に言いつくろったよこの先生!!」

 

 あまりにも不吉な言葉に匙は涙すら浮かべるが、しかし状況はそれを許さない。

 

「匙、……がんばれ」

 

「……頑張ってください」

 

 その被害という名の実験を受けた記憶のあるイッセーと蘭がぽんと肩を置き、匙は絶望の表情を浮かべた。

 

「た、助けてくれぇえええええ!!! 誰か、か、会長ぅうううううう!!!」

 

 ………ドナドナドーナードーナーという歌が、聞こえてきそうだった。

 

 なんというか、もうかわいそうすぎて何も言えない。

 

 何がひどいかというと、本当に状況は危険であるため止めるのも気が引けるということだ。

 

「……そういえば、イッセー君のドッペルゲンガーを作ったときは学園が大惨事になったね」

 

「言わないでください。俺、その時は何も悪くないのにひどい目にっ!!」

 

「いや、俺たちもなぜか殴られたんだけど」

 

「完璧にまきぞえだよな」

 

 変態四人組がなんというか微妙な空気になる中、ふとイッセーは話を変えるべき思いついたことを告げる。

 

「そういえばドライグ、アルビオンとは話さないのか?」

 

 本当に何気ない言葉だったが、それにレヴィアは食いついた。

 

「それは興味深いね。二天龍同士の会話だなんて、録音したら高値で売れるぐらいの貴重なものだろう」

 

『いや、セーラ・レヴィアタンには悪いが特に話すことはないな。なあ、白いの?』

 

 と、ドライグは同意を求めるようにアルビオンへと問いかける。

 

『話しかけるな。私の宿敵に乳龍帝などいない』

 

 ものすごい冷ややかな返事が返ってきた。

 

 明らかに怒気が含まれている。それもレヴィアにチンピラ呼ばわりされたときに匹敵するレベルで。間違いなく激怒である。

 

『ま、待て! 誤解だ!! 乳龍帝と呼ばれているのはあくまで宿主の兵藤一誠だ!!』

 

 ドライグは真剣にそう弁明するが、しかしその返答は冷たいオーラだった。

 

 完全に聞く耳を持たないもののそれだ。

 

『乳をつついて覚醒し、乳をつついて覇龍から解除だと!? 何をふざけた進化を遂げているのだ、赤いの!!』

 

『俺だって泣いた! 涙が止まらんのだ!! うぉおおおん!!!』

 

『うぐっ。どうして、どうして我ら誇り高き二天龍がこんな目に……っ』

 

 号泣する二天龍に、その場にいた者たちは何かを言うことができなかった。

 

「……アルビオン、また泣いているのか? 兵藤一誠を模したテレビ番組を見ていた時も泣いていたな」

 

「っていうかなんで見てるんだよそんなの」

 

 ヴァーリの発言に一夏はついツッコミを入れる。

 

「姉様、暇なんですか?」

 

「失礼ね、これでもいろいろとしてるにゃん」

 

 姉妹が仲を復活させるかのように会話を始めるぐらい、なんというか緊張感が緩んでしまった。

 

「……兵藤一誠。すまないが、こういう時はどうやって慰めるべきだろうか?」

 

「知るか! 俺に聞かれても困るよ!?」

 

「まったくだよチンピラ。君のところのチンピラ猿が発端なんだから切腹させたらいいんじゃないかな?」

 

「どさくさに紛れて俺っちを始末しようとしてるんじゃねぃ!!」

 

 もはや戦闘前の会議とは名ばかりの漫才会場と化してしまっていた。

 



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放課後のラグナロク 9

 

 そんな日が続く夜、一夏は無心に剣を振るっていた。

 

 相手が神となれば、こちらにとっても死戦となるのは確実。少なくとも、ヴァーリすら超える敵として認識する必要がある。

 

 そんな状態で心身を最適な状態に保つため、一夏は素振りをすることにしたのだ。

 

 ただ無心に剣を振り下ろすことで、動きを磨いて気分を落ち着ける。

 

 なにせ相手は神格。それも北欧神話でも知名度の高さならオーディンやトールに次ぐネームドだ。

 

 そこにフェンリルまで加わっている。天龍に匹敵する戦闘能力を持つという、正真正銘の規格外の化け物が。

 

 しかも初戦ではレヴィアはフェンリルに重傷を負わされた。

 

 守ると誓った主をむざむざと―

 

「―くそっ!」

 

 嫌な想像をしてしまい、一夏は思わず雑に剣を振るう。

 

 そんな想像をしてしまうほど、今度の敵は強敵だった。

 

 初戦でいやというほど理解してしまっている。このままでは、負けたとしても何らおかしくない。それほどまでに強者のオーラを放っているのがロキとフェンリルなのだ。

 

 やはりこのままでは眠れそうにない。

 

 一度シャワーを浴びようと判断し、一夏は汗をぬぐいながら部屋を出ようとして―

 

「―良かった、いたのね、一夏」

 

 扉を開けた瞬間、朱乃の姿を見て一夏は動きを止めた。

 

「朱乃さん? どうしたんですか?」

 

 いつもの口調ではない朱乃の姿に、一夏は不穏なものを感じて声をかける。

 

 その瞬間、朱乃は一夏にその身を持たれかけさせた。

 

「……抱いて」

 

 言われて、一夏は朱乃を抱きしめた。

 

 言われたとおりにすることにはもう問題はない。

 

 あんなことを行ってしまいフラグを立ててしまった以上、責任はとるしかない。それぐらいの覚悟はいい加減できていた。

 

 まあ、あまり増やすと蘭を怒らせることになるのでできる限り抑える必要はあると思っているが。

 

 だが、その返答として雷光がバチバチなっていた。

 

「一夏? こんな時にふざけないで」

 

「え? でも抱いてって―」

 

 そこまで言ってから、一夏はふと気づいた。

 

 そういえば、S〇Xて暗喩で抱くっていうよなぁ。

 

 そこまで思い至って、一夏は顔を真っ赤にさせる。

 

 そして、すぐに落ち着いた。

 

「……朱乃さん。落ち着いてください」

 

 別の意味で汗をかく中、一夏はとにかく朱乃を落ち着かせようとする。

 

 どう考えても今の朱乃は冷静ではない。

 

 こんな状態で結ばれても、何かが致命的に掛け違ってしまうことぐらいは一夏にだってわかる。

 

 だが、朱乃は強引に押し倒すと、その豊満な胸を一夏に押し付ける。

 

「ええ、落ち着いたわ。だから、抱いてほしいのよ」

 

 振るえる躰を押し付けながら、朱乃は一夏に体を擦り付ける。

 

「お願い。こんな気持ちのままでは戦えないわ。今は、貴方の躰に縋りつきたいの」

 

 そんな風に震える声で懇願してくる朱乃に、しかし一夏はうなづかない。

 

「嫌です」

 

 はっきりと、そういった。

 

「どうして!? 私の躰は魅力的じゃないの?」

 

 そう狂乱寸前の表情で問いただす朱乃だが、しかしすぐに嫌な想像をしたのか息をのむ。

 

「あ、やっぱり小さい胸の方がいいのね? レヴィアも小猫ちゃんも蘭ちゃんも小さいし―」

 

「そうじゃないですよ! それに蘭は年相応はあります!!」

 

 素早くフォローを入れるが、しかしそれは別の意味で難易度が高い。

 

「それがわかるような経験はしてるのね?」

 

 別の意味で逃げ道がなくなった。

 

 だが、こんなやり方で女を抱く気は一夏にはない。

 

 だから、一夏は真剣に朱乃を引きはがす。

 

 こんな、相手の不安に付け込むような形で女性の純血を奪うような男は、男として最低だ。

 

 だから一夏はそんなことはしない。

 

 それよりも、男として言うべきことを言おう。

 

「朱乃さん。明日の戦いには出なくていいです」

 

「それはダメよ。私はグレモリー眷属の女王だもの」

 

 当然の義務感で、朱乃はその言葉を否定する。

 

 そう、朱乃はあくまでリアスの眷属であり、それを誇りにしている。

 

 ゆえに、戦場から離れるという選択肢は朱乃にはない。

 

「だけど、今のままではきっと足手まといになる。だからこの不安をどうにかして―」

 

「―朱乃」

 

 一夏は、語気を強くして朱乃の名を呼んだ。

 

 その態度に朱乃が言葉をのむ中、一夏はあえて言葉を選ばず告げる。

 

「朱乃。朱乃の分まで俺が戦う。だから、朱乃は家で料理を作って待っててくれ」

 

 男は女を守り、女はそんな男の家を守る。

 

 きわめて古い価値観といわれればそれまでだが、しかし一夏にとってはある意味それが理想形でもあった。

 

 そして、今の会話でとてもよく分かった。

 

 朱乃も小猫と同じ普通の女の子なのだ。

 

 自分を愛してくれるそんな女の子を戦場に立たせるのは、一夏にとって本意ではない。

 

 それも、自分の純潔をやけで捨てて、そんなことをしてまで戦場に立たせるなんて男として見ていられるわけがない。

 

「リアス先輩やレヴィアには俺から説明する。だから、朱乃は待っててくれ」

 

「一夏、でも―」

 

 なをも言い返そうとする朱乃に、一夏は最後の切り札を切る。

 

「朱乃。レヴィアから事情は聞いた」

 

 その言葉に、朱乃は固まる。

 

「……朱乃。俺は両親に捨てられたことは言ったよな」

 

「ええ」

 

「でも、バラキエルさんは朱乃のことを捨ててないだろ? ………はっきり言うけど、過失はあっても本当に恨まなきゃいけないのは五代宗家の方じゃないか」

 

 朱乃はそれに応えない。

 

 答えられるわけがない。

 

 ずっとそう思い込むことで心を守ってきたのに、今更それを捨てるなどということは―

 

「もう、そんなこと思って心を守らなくていい」

 

 だから、一夏は朱乃を抱き寄せた。

 

「俺が守ってやる。守れるぐらい強くなってやる。だから、無理して戦うな」

 

 そういって、痛くならない程度のギリギリまで力を込めて抱きしめる。

 

「無理しなきゃ戦えないなら、素直に俺に守られててくれ。俺はその方がうれしいから……さ?」

 

「………ずるいわ、一夏」

 

 そう漏らしながら、朱乃は涙を流しながら抱きしめ返す。

 

「そんなこと言われたら、もう私………っ」

 

 そういって泣き出す朱乃を抱きしめながら、一夏は呼吸を整えて決意する。

 

 もう悩むのは終わりだ。

 

 勝つ。何が何でも誰一人犠牲を出すことなくロキを倒す。

 

 そうでなければ、きっと朱乃はもう動けなくなるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日の深夜。会談の時刻。

 

 会談が行われるホテルの屋上で、レヴィア眷属とリアス眷属は集まっていた。

 

 そこにはタンニーンやバラキエル、そしてロスヴァイセの姿もあったが朱乃だけはいない。

 

「……一夏君、この状況下で朱乃ちゃんの心をある意味でおらなくていいだろうに」

 

「う、うるさいな。大体男がいるのに女が戦うのが本来間違ってるだろ?」

 

「いつの時代なんだか」

 

 などと言い合いながら、一夏とレヴィアは静かに空を見上げる。

 

「言い出したからにはもう負けれないからね。そのうえ誰一人死なせられないからね?」

 

「ああ、速攻でロキを倒して終わらせる」

 

 そう言い切る一夏に、レヴィアは軽く肩をすくめる。

 

「まったくもう、言い出したら聞かないんだから」

 

「本当です。一夏さんは頑固すぎます」

 

 そういって、蘭もまたため息をついた。

 

「守られてばかりなのもつらいんですからね? むしろ少しは守らせてください」

 

「いや、蘭ちゃんは今のところ一夏君より強いから守ってばかりだと思うよ?」

 

「「それは言わない」」

 

 レヴィアに茶化されて、シンクロでツッコミが飛んできた。

 

 そんな風に雑談する中、リアスが苦笑を浮かべながら三人のところへと飛んできた。

 

「まったくもう。こんな時に朱乃が脱落だなんて、ちょっと聞いてないわよ?」

 

 言葉の内容こそ非難だが、しかしリアスの口調は険がない。

 

「……でも、少しはスッキリしていたみたいね。そこはありがとうと言っておくわ」

 

「はい。もう、朱乃さんに無理をさせてまで戦わせたりなんてさせませんから」

 

 そう速攻で一夏はいい、軽くにらむぐらいの目力でリアスを見返した。

 

「小猫もそうです。俺は、女が無理してまで戦いに出ることを良しとしません」

 

「ごめんねリアスちゃん。一夏君頭が古いところがあって」

 

「まあ、守ってくれる男っていうのにあこがれる気持ちはわかるけどね」

 

 そういって苦笑し合う中、しかし時は無情にも進む。

 

「……そろそろ時間だ」

 

 バラキエルが、会話を中断させるように声をかける。

 

 ここから先は戦闘の時間。雑談をしている余裕などない。

 

 しかし、一夏はそんな中バラキエルに体を向ける。

 

「バラキエルさん。一つ言っておきたいことが」

 

「なんだね?」

 

 愛娘の懸想する男ということで、バラキエルは一夏にいい感情を持ってない。

 

 それをわかったうえで、一夏はあえてこの言葉を言った。

 

「朱乃さん、肉じゃが作って待ってます。……一緒に食べましょう」

 

 それは、つまり和解の第一歩。

 

 男に守られることを半ば受け入れた朱乃は、一歩だけ前進して見せたのだ。

 

 その事実にバラキエルは静かに一瞬だけ震え―

 

「そうか、ならば死ねないな」

 

 そういうと、一夏の胸に軽く拳を当てる。

 

「君も死ぬなよ。そんなことになれば朱乃は立ち直れないだろう」

 

「わかってます。必ず生きて朱乃を守ります」

 

 それが男の誓いだと、一夏は暗に言い切った。

 

「蘭も小猫も、全部まとめて守りきる。それが男の本懐です」

 

「あらあら、白音はいい男をひっかけちゃったにゃん」

 

「いやいや蘭ちゃんが正妻だからね?」

 

 黒歌とレヴィアはそういって蘭と小猫をからかう中、空間に少しずつ穴が開いていく。

 

 そして、そこからロキが姿を現した。

 

「……やはり邪魔をするか、愚か者が」

 

「もちろんだとも、愚神」

 

 レヴィアは不敵に笑いながら答える中、転移の光が発生した。



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放課後のラグナロク 10

ラグナロク編のエピローグが難産だった……っ

でもかけたよ!!


 

 転移に対して、ロキはさしたる抵抗すら見せなかった。

 

 むしろまったくもって当然といわんばかりに、堂々とそれを受け入れる。

 

「随分と余裕だな。想定の範囲内というわけか」

 

 バラキエルが代表して聞けば、ロキは当然といわんばかりに嘆息する。

 

「どちらにせよ貴殿らは邪魔をするのだから当然だ。それに、ここまで来たのならば会談をしようがしまいがオーディンには退場してもらうしな」

 

「貴殿は危険な考えに取りつかれているようだ」

 

「それはこちらのセリフだ」

 

 最早問答は無用とばかりに、ロキは会話を打ち切って魔方陣を展開しようとし―

 

「……なるほど、どうやらさらに面白いことになってきたぞ?」

 

 唐突に、視線を別の方向へとむける。

 

 その視線を見れば、そこにはいくつもの転移用魔方陣が展開されていた。

 

「……なるほど、どうやらあいつらはそうすることを選んだということか」

 

 ヴァーリがいやそうにつぶやく中、魔方陣からいくつものISが転移される。

 

 そのISの搭乗者の姿を見て、一夏は顔を苦痛にゆがめる。

 

「お前も来たのか、箒!」

 

「ああ。隊長からの指令で、彼を援護するように言われてな」

 

 そうさらりと返す箒の視線の先には、一人の男がいた。

 

 唯一ISをつけずに現れたその男には、イッセーたちも見覚えがあった。

 

「あんた、確かネバンの騎士だった転生悪魔!」

 

「覚えていたか。ホグニという」

 

 そう返すホグニは、冷たい視線を彼らに向けた。

 

「やはり本格的にアースガルズと組むか。……離反してくれたマスターネバンには感謝しないとな」

 

 そういうと、ホグニは二振りの剣を引き抜くと、それをロキへと突き付ける。

 

「アースガルズの悪神ロキ。アースガルズに報いを与える前哨戦として、貴殿の首をもらい受ける」

 

「神を相手に元人間風情がよく吠える。その愚行の罪、貴殿の首でもらい受けるとしようか」

 

 そう返答するロキは、何の躊躇もせずに魔法を放つ。

 

 一つ一つが並の上級悪魔の全力に匹敵する一撃。それが十を軽く超える数で一斉に放たれる。

 

 それに対して、IS部隊は即座に散開するが、ホグニは一歩も動かない。

 

 当然、そんなことになればすべてが彼へと直撃し―

 

「……なんだ。神といえどこの程度か」

 

 ホグニは、涼しい顔でそれを受け止めた。

 

 その光景に唖然とするのはイッセー達だ。

 

 今の一撃は赤龍帝の鎧といえど無傷では済まないだろう。少なくとも、あれを平然と耐えれるのはレヴィアぐらいだ。

 

 まさに神の力といっても過言ではない出力、だが、それをホグニは平然と耐えた。

 

「……その耐久力、貴殿は神器を持っているようだ。聖書の神も面倒なまねをする」

 

「聖書の神が与えし力を持つ人間が悪魔となるか。自分でいうのもなんだが、実に混とんとした世界だと思うがな」

 

 顔をしかめるロキに口元をゆがめながら、ホグニはそのまま視線をヴァーリにも向ける。

 

「そういえば、禍の団であるにも関わらず現政権と手を組んだ馬鹿がいたな。ついでに制裁を加えておくようにマスターネバンから言われていた」

 

「ふん。あの屑と共闘するなどという選択肢はない」

 

 心底いやそうにヴァーリが吐き捨てるが、それに対して禍の団側からは冷たい視線が返ってくる。

 

「何あの自分勝手なやつ。集団行動もできないの?」

 

「ほっとけよ、所詮はチンピラ魔王だろ」

 

「にしたってよぉ? よりにもよって裏切った身内と共闘とか面の皮が厚いよなぁ」

 

「恥知らずなだけだろ」

 

 堂々と罵倒してくるIS乗りに大して、ヴァーリは苛立たしげな表情を浮かべる。

 

「……ちょうどいい。白龍皇を愚弄するがらくた使いにお灸をすえるのもいいだろう」

 

 そういうと、ヴァーリは魔力を収束すると躊躇なくIS乗りへと放つ。

 

 対IS戦を考慮した、拡散性をもった一撃。それはISの絶対防御すら間に合わず搭乗者を抹殺するだけの破壊力を持っていた。

 

 だが、彼らは一切慌てない。

 

 それぞれが弾幕の薄いところに回り込むと、装備している剣や盾で残りの魔力弾を弾き飛ばして攻撃をしのぐ。

 

 その光景にヴァーリは興味深そうに見据える中、箒は冷たい視線をヴァーリへとむける。

 

「……この程度か。所詮力をふるまわすことしかないチンピラではこの程度か」

 

 その言葉とともに、箒はヴァーリへと切りかかる。

 

 その身にまとうISは、他のメンバーの物とは違っていた。

 

 まるで金属でできたウェットスーツのようなそれは、これまでのISとはまったく違う。

 

 そして、そのISを身にまとった箒は二振りの剣を呼び出すと、そのままヴァーリへと切りかかった。

 

「まったく、俺は俺の好きにやっているだけだというのに、どいつもこいつもいろいろと動いてくれて迷惑だな」

 

「迷惑なのはこちらの方だ。あの女と同じで、お前のようなものが周りを無意味に苦しめていく!!」

 

 その動きは、千冬に比べれば大したことはないだろう。

 

 だが、箒はヴァーリと互角に打ち合っていた。

 

 放たれる拳や魔力をその二刀で弾き飛ばし、そして半減に力すら弾き飛ばす。

 

「ヴァーリ!?」

 

「箒!!」

 

 イッセーと一夏が割って入るために動こうとするが、しかしそれより早くロキの魔法砲撃が放たれ、二人は回避に専念する。

 

「我を無視するとはいい度胸だ! だが、それをなすには実力がいるぞ!!」

 

「ああもう! 一夏くんもイッセーくんも、いまはロキたちに集中!!」

 

 レヴィアは牽制の砲撃を放ちながら、二人に命令する。

 

 幼馴染である箒のことが気になる一夏の気持ちはわかるが、しかしそんな余裕もない。

 

 ゆえに、あえて命令という形で一夏の意識を切り替えさせる。

 

「……くそ! あとで話があるから死ぬんじゃないぞ!!」

 

 一夏もそれを理解して、ロキに意識を定める。

 

 そして、それを見たロキもまた唇をゆがめた。

 

「なら我もそろそろ本腰を入れよう。……ゆけ、我が子達《●》よ!!」

 

 その言葉とともに、フェンリルの後ろの空間が歪む。

 

 そして、そこから現れるのは巨大な狼と巨大なドラゴン。

 

 それは、まさに化け物。フェンリルを一回り小さくしたような狼が二匹。蛇のようなドラゴン十数体。

 

 その姿を見て、その場にいた者たちが大なり小なり驚きを現す。

 

 それは、小さくなってこそいるがフェンリルとミドガルズオルムだった。

 

「量産型というものだ。実力は本家に劣るが、しかし並の上級悪魔では倒せんぞ?」

 

 その言葉とともに、一斉攻撃が放たれようとして―

 

「―その前にやることをやっとくニャン♪」

 

 次の瞬間、グレイプニルがフェンリルを拘束する。

 

 そして、その瞬間を人類統一同盟は逃さなかった。

 

「……一斉砲撃!!」

 

 そのとたん、放射能をまとった弾丸が、一斉にフェンリルに向かって放たれる。

 

 戦闘は、初手から大きく激戦となって始まった。

 




敵(レヴィア)からも味方(人類統一同盟)からも評価の低いヴァーリ。

ですが考えてもみてください。

養父の望みともいえる和平を台無しに仕掛ける行為に手を貸しておきながら、所属組織である禍の団ではなく敵対している三大勢力に共闘を持ちかける。










あれ? こいつ敵味方の区別ついてないんじゃね? 自由すぎね?


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放課後のラグナロク 11

 

 敵ISの動きは、これまでのゴーストをより強化したものだった。

 

 カスタム・ウイングが、脚部が、両腕が、時にスラスターとなり時にブレードとなり時に砲撃となって戦闘をおこなう。

 

 その火力は中級悪魔の下の方といった具合だったが、しかし一応下級悪魔がほとんどであるグレモリー眷属にとっては等しく脅威。

 

 ギャスパーが停止しようとしても、速度が速すぎて狙いきれず、逆に分散した蝙蝠を撃ち落とそうとされるためうかつに動けない。

 

 そのためギャスパーは量産型のミドガルズオルムを相手にすることを強いられるが、こちらも数が多いためなかなか対応ができなかった。

 

「うわぁあああん!! 役立たずでごめんなさい!!」

 

「そんなことはないよ。一体止めてくれるだけでもだいぶ助かる」

 

 泣きながらミドガルズオルムを停止させるギャスパーに、祐斗は笑顔で告げる。

 

 なにせ、量産型ミドガルズオルムが敵なのは人類統一同盟も同じなのだ。

 

 動きが完全に止まっているというその好機を逃すはずもなく、人類統一同盟は攻撃をそちらに向けるしかない。

 

 それにより敵は確実に少しは分散している。

 

 それがなければ、負けても全くおかしくないのだ。

 

 だが、人類統一同盟にとってはロキたちも祐斗たちも敵であることに変わりはない。

 

 ゆえに、敵は躊躇なく祐斗たちにも襲い掛かってきた。

 

 そのうち、一機が特に厄介だった。

 

「さあ、行くよ!!」

 

 素早く散弾砲とサブマシンガンで動きを止めたかと思うと、気づけばナイフを片手に接近戦を仕掛けてくる。

 

 かと思えばいつの間にかスナイパーライフルで狙撃を仕掛けるなど、その動きは臨機応変。

 

 加えて、両足や両腕、さらには背中のビーム兵器も臨機応変に使用するその機体は、間違いなく強敵だった。

 

「……やっぱり、実戦で展開装甲は使えすぎて使いにくいね。シャロッコさんが言ってた通り、これは理論が先行しすぎだよ。篠ノ乃束はやっぱり研究者なだけだね」

 

 そう漏らしながら戦闘を続ける相手に対し、祐斗は何とか一瞬のスキをついて距離を詰める。

 

 そして、聖魔剣の一撃が持っていたライフルをたたき切った。

 

「もらった」

 

「甘いよ!!」

 

 だが、その視界が巨大なシールドで埋まる。

 

 粘度を中心に構成されたらしいそのシールドは、途中まで聖魔剣に切られるが、逆にその動きを止める。

 

 祐斗はそれを引き抜かず手放して新たに聖魔剣を創造するが、その時間をついてその機体はすでに距離をとっていた。

 

「……やるね。少なくとも朱乃さんやリアス部長じゃ、悪いけど倒せそうにない」

 

 仮にも最上級クラスの血縁者である二人に対して無礼かもしれない。しかも祐斗はその部下ともいえる立場なのだから、不敬だろう。

 

 だが、それは紛れもない事実。

 

 グレモリー眷属において、赤龍帝兵藤一誠と並ぶ頭一つとびぬけたエースが木場祐斗。

 

 聖魔剣とはそれだけのイレギュラーであり、そして当人の技量もグレモリー眷属ではずば抜けている。

 

 その祐斗が、持ち味である速度をもってしても翻弄されている。

 

 ISの性能が高いだけではない。これは明確に使い手の技量が高いからこそできる芸当だ。

 

「僕の名前は木場祐斗。できれば、君の名前も聞いておきたいね」

 

 応えてくれるとは思わないが、これだけの実力者なら名前を憶えておきたいと思った。

 

 そして、それに対して、そのIS乗りは笑顔を浮かべた。

 

「シャルロット・デュノアだよ。……一応、もともとはフランスの代表候補生で、いまは技術試験部隊ヒーローズのテストパイロットだね」

 

「覚えておくよ。正直、応えてくれるとは思わなかった」

 

 祐斗は偽らざる本音でその誠意に堪える。

 

 人類統一同盟は、正真正銘の軍人だ。

 

 そこに、騎士のような誇りが介在するとは思えなかった。名乗りに対して隙と判断して攻撃を仕掛けてくることすら覚悟していた。

 

 だが、シャルロットは苦笑をもってしてそれにこたえる。

 

「そういうのが大好きな人が多いから、ちょっと移ったのかもね。それに、ISは数年前まで競技だったんだからそういうのもやらされてたから」

 

「そうか、それはよかったよ」

 

 その言葉とともに、祐斗は聖魔剣を構える。

 

 天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)を参考にした、速度強化型の聖魔剣。

 

 それは、すなわち今のままでは速度ですらかなわないと祐斗が認めたことに他ならない。

 

「君ほどの戦士に会えたことは僥倖だ。約束すると、死ぬその時まで君の名前は忘れない!」

 

「ありがとう。すぐにそうなると思おうけど敬意は感じるよ!」

 

 次の瞬間、超高速度での戦闘が再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミドガルズオルムは龍王である。

 

 すなわち、並の最上級悪魔すら上回るほどの力を秘めた強大な存在だ。

 

 その量産型ともなれば、並の上級悪魔に匹敵するほどの性能を持った正真正銘の怪物である。

 

 しかし、人類統一同盟はそれに対して一で優っているとはいえ互角に渡り合っていた。

 

 放たれる火炎を確実にかわし、そして放射性弾丸を叩き込む。

 

 そして懐にもぐりこんでヒット&アウェイで聖剣で敵を切り裂く。

 

 さらに、全身の装甲からビームの刃が飛び出て、その皮膚に傷をつけていた。

 

 それをなすのは、激戦の末に手に入れた最新技術。

 

 人類最高峰。それも、ごく一部を除いてほかを圧倒するだけの能力を持った存在。頭脳におけるグレートレッドやオーフィスとでもいうべき規格外の天才科学者篠ノ之束の開発した技術。

 

 第四世代技術、展開装甲。

 

 エネルギー発生装置を備えた装甲そのものが、ISの自己進化機能により変化して、様々な状況に対応する兵器となる最新技術。

 

 世界が第三世代機を実験している現時点において、それをガン無視するようなことを成し遂げるあまり、束は間違いなく超人だった。

 

 だが、それを動かす兵士たちの感想はかなり悪かった。

 

「おい! これやっぱり使いずらいぞ!!」

 

「ああ。どれを使えばいいのかわかりにくい!!」

 

 それは、研究者という立場ゆえに盲点か。

 

 それとも、超越した素質を持つが故の視点のずれか。

 

 展開装甲は万能()()()

 

 あまりに高い自由度に、使用者たちは逆に混乱寸前だった。

 

 それを成し遂げるこの機体、ゴースト2が少数しか生産されてないことも納得できる。

 

 これなら、武装をある程度選ぶことができるゴーストの方が使いやすい。

 

 所詮は人を人として見ることすらできていない狂人の兵器ということか。

 

 そう判断し、彼らはこの機体の感想をこう記すことにした。

 

 篠ノ之束は人間を見ていない。それの証明としか言いようがないISだった。

 

 この戦闘ののち、人類統一同盟は展開装甲をごく一部のみに限定した装備とすることを決断。そのごの開発系統を第五世代に一本化し研究を発展することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠及び織斑一夏と戦っていたロキだったが、背後から殺気を感じて防御魔法を展開する。

 

 そしてそれから一瞬遅れて、無名のはずの聖剣がその結界を突き破りかけた。

 

 それはあり得ないといっても過言ではない。

 

 ロキは北欧の神の中でも、間違いなく高位の存在だ。その戦闘能力はアースガルズの戦力の中でも有数。間違いなく上から数えて二桁には入る実力を秘めている。

 

 彼の魔法はまさに神の御業。最上級悪魔でも平均値では大きく引きはがし、一対一ならよほどのことがない限り後れを取ることはない。

 

 そんな自身の結界魔法は、デュランダルの一撃すら防ぎきってみせたのだ。

 

 それを、ただの量産型の聖剣で貫くなど異常以外の何物でもない。

 

「ふむ。これは驚いた。……だが、種はある程度見えてきたぞ?」

 

 いうが早いか、ロキは即座にカウンターで攻撃を放つ。

 

 それを剣の主であるホグニはかわしもせずに受け止めた。

 

 上級悪魔すらたやすく屠ることのできる魔法攻撃を幾重にも受け、しかし彼の体は軽傷しかない。

 

 その傷も、一瞬で治療されすぐに健在な体があらわになる。

 

 それを見て、ロキはなるほどといわんばかりに顎に手をやった。

 

「それが、準神滅具と呼ばれる神器(セイクリッド・ギア)聖騎士王の鞘(シース・キャメロット)か」

 

「その通り。所有者を死にくくすることなら何でもできる、神滅具に次ぐ神器の一つ」

 

 それは、神器の中でも極めて強大なもののひとつ。

 

 能力そのものは事実上の単一ながら、その出力ならば神滅具にすら次ぐといわれる究極の一。

 

 所有者を死ににくくするためなら、耐久力向上から再生能力強化までなんでも行う、最高クラスの神器だった。

 

 そして、その由来はアーサー王伝説に出てくるエクスカリバーの鞘。

 

 魔術師マーリンがエクスカリバーより価値があるといい、所有者を不死にするといわれた究極の守り。

 

 その担い手が、今ここに存在していた。

 

「ならばわかるだろう。これの禁手がどのようなものか」

 

「知っているとも。所有者の持つ剣をエクスカリバーへと変じさせる、聖騎士王の聖剣(ソード・オブ・エクスカリバー)だったな」

 

 そう、すでに彼の持つ剣はすべてがエクスカリバー。

 

 ゆえに、その性能は凡百の聖剣など歯牙にもかけない。

 

 本来のエクスカリバーの力を宿したその剣は、聖魔剣すら大きく引き離す最強格の聖剣だった。

 

「今の俺ならばアース神族(貴様たち)すら殺すことができる。そして、殺される理由はわかっているな?」

 

 当然貴様は知っているだろう。

 

 そう言外に込められた問いに、ロキは失笑を浮かべた。

 

「我らの栄光をうけ、英雄として選ばれた一族の末裔がそのような決断をするとは、実に残念だ」

 

「そうか。……ならば死ぬがいい!!」

 

 次の瞬間、激戦は再び再開された。

 



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放課後のラグナロク 12

 

 ロキとの戦闘がホグニが割って入ったことで一瞬中断した隙に、兵藤一誠も織斑一夏も、また別の戦闘を即座にすることになった。

 

 兵藤一誠と相対するのは、鋼鉄の巨人。

 

 全身にミサイルポッドを取り付けたその機体は、明らかに異様な圧迫感を与えていた。

 

『悪いけど、最上級悪魔クラスとの戦闘データを取らせてもらうから』

 

「……え? 俺、下級悪魔だけど?」

 

 思わぬ発言にイッセーは聞き返すが、その返答に巨人の担い手はため息をついた。

 

『自分の実力も分かってないんだ。……経験があるけど、そういうのは治した方がいいと思う』

 

「いやいやいやいや。俺、ヴァーリと比べたらかなり弱いからね? 最上級とか言いすぎだって」

 

『歴代最強の白龍皇確定の人と比べるとか馬鹿なの? 比較対象はきちんと選んで』

 

 なんか説教が入った。

 

 しかも、なんというか実感がこもっている説教にイッセーはどうしたものかと思う。

 

 とりあえず、よくわからないが自分の実力は評価されているということなのだろうか?

 

 そう聞こうとした瞬間、ものすごい速度でメイスが襲い掛かった。

 

 それをとっさに受け止めるが、加速がついたメイスは巨人の膂力も強大であるため押し切られて弾き飛ばされる。

 

 イッセーはその体勢をあえて整えずに、砲撃を敢行する。

 

 声からすれば少女のようだから洋服崩壊は有効かもしれないが、あれはパワードスーツというよりロボットなのでおそらく効かないだろう。

 

 なら、膂力の差もあるため近接戦闘は厳禁。ある程度距離をとって戦闘をおこなうべきだ。

 

 そう判断したイッセーの攻撃だが、しかし相手の機体はそれを軽やかにかわす。

 

 そして、反撃といわんばかりに両肩両足のミサイルポッドから大量のミサイルが放たれる。

 

 おそらくすべてが放射線付与。下手をすれば核弾頭の可能性すらある。

 

 そんなものの直撃は、赤龍帝の鎧といえど大打撃を受けるだろう。ならばかわすか迎撃するかの二択。

 

 イッセーは迎撃を選択して、ドラゴンショットを発射する。

 

 対IS戦術を考慮した拡散砲撃を、最短距離を突き進んで放たれるミサイルが裂けれるわけがない―

 

『……甘いから』

 

 ―はずだった。

 

 ミサイルは一斉に不規則に動き出すと、大きく方向を変換してドラゴンショットから身をかわす。

 

 そして、一斉にイッセーへと包囲してから襲い掛かった。

 

 そして、そんな包囲戦術に対抗できるほどイッセーは高速起動に卓越してはいない。

 

 必然的に、いくつものミサイルが着弾する。

 

「うわぁああああ!!」

 

 衝撃に体を揺さぶられ、イッセーは悲鳴を上げる。

 

 幸いダメージはそこまで大きくないが、これを何回も喰らえばさすがにきつい。

 

「くそ! いったい何なんだよ今のミサイル!! セシリアと同じビットか!?」

 

 ならば自由に動いてもおかしくないが、ビットはイギリスの実験段階の兵器のはずだ。

 

 今の段階で敵対している人類統一同盟が使えるわけがないし、何より大量すぎる。

 

 おそらく別の何かだが、それを考えている暇もない。

 

 ゆえに、イッセーは別の対策をとることにする。

 

「広がれ俺の夢空間!」

 

 乳語翻訳(パイリンガル)

 

 乳と対話するという、頭のねじが三つか四つは外れているといってもいいイッセーの新技。

 

 とはいえ、その能力は間違いなく脅威の一つでもある。

 

 心を読む能力の持ち主は、必然的に戦闘において有利である。確実に行動を知るということは、それほどまでに戦闘にアドバンテージを産むのだ。

 

 しかも、厳密には相手の乳と会話をするという気が狂っているとしか思えないアプローチによる把握であるため、通常の読心術対策が全く通用しないというメリットすら持つ。

 

 洋服崩壊と合わせて、兵藤一誠の対女性戦術の根幹なのだが―

 

『こないで、変態!』

 

 いうが早いが、敵はスラスターを全開にして距離をとった。

 

 そして素早くライフルを構えると、さらに背中のレールガンまで展開して狙撃を敢行する。

 

「あ、ちょっと待って! それ射程外!!」

 

『敵の能力の射程から外れるのは戦術の基本!!』

 

 正論である。

 

 そして、正論は正しい論であるため有効といえば有効なのだ。

 

 機体が大型化しているがゆえに、射程距離も相当に長いのか、乳語翻訳の射程の外から確実かつ正確に狙ってくる。

 

 それだけでも優れた性能を発揮していることの証明であり、間違いなくイッセーは苦戦していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、織斑一夏もまた、戦闘をおこなっていた。

 

 敵は黒いゴースト系列。それを前に、一夏は攻撃をおこなおうとし―

 

「いや、ここまでだ」

 

 その瞬間、一夏は動きが止められた。

 

 まるで空中に固定されたかのように動きが鈍い。

 

 パワーアシストもトルクも強化されているがゆえに動けるが、しかしそれは明らかに鈍い。

 

「なんだ、コレ……っ!」

 

「我が停止結界の前には何物も無力……といいたいが、さすがは教官の弟といっておこうか」

 

 抵抗を可能とするその姿を見ながら、黒いISを身にまとった少女は感心する。

 

 そして、その言葉に一夏は疑念を浮かべる。

 

 教官の弟という言葉に、どういうことかと一夏は疑念を浮かべた。

 

 だが、すぐにあっさりと事情を把握する。

 

 第二回モンドグロッソ。一夏にとって人生が大きく一変したその日。千冬はドイツの助けを借りて一夏の居場所を知ることができた。

 

 それはある意味で手遅れで無意味なものだったが、しかしすぐに発見できたのは事実である。

 

 ゆえに、借りは返さなければならない。千冬はその判断の元、教官としてドイツに一年間派遣されたことがある。

 

 つまり、目の前の彼女は―

 

「お前、ドイツの人間か!」

 

「そうだ。技術試験部隊ヒーローズ所属、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。かつては黒ウサギ隊という部隊の隊長をしていた時期もあったな」

 

 なんかすごい経歴が来た。

 

 ぱっとみ外見年齢は一夏とそう変わりない……どころか幼くすら見えるが、しかしそれでIS部隊のトップに就くなど異例というほかあるまい。

 

 そして、動きを大きく封じられている状態での戦闘は大きく苦戦を強いられる。

 

 真正面から性能を発揮することができれば、相手が半分遊んでいるとはいえ白龍皇とすら渡り合える不知火が、しかし大きく苦戦していた。

 

 それほどまでの束縛を受けながら、一夏はしかし戦闘を繰り広げる。

 

「千冬姉の教え子なら、なんで人類統一同盟に参加してる!! 千冬姉があいつらに何されたのかは知ってるだろう!!」

 

「冗談は口だけにしろ。私はドイツ軍人で、ドイツは人類統一同盟の一員だ。……軍人が命令に違反するものか!!」

 

 強化された剣と、雷撃をまとったブレードがぶつかり合い、火花を散らす。

 

 速度というIS最大の特性を大幅に殺されながらも、しかし一夏は善戦していた。

 

 それをなすのは、単純なパワーだ。

 

 神器によるISの強化は、パワーアシストにも作用する。

 

 その圧倒的な膂力が、近接戦闘ににおけるアドバンテージとなてラウラと渡り合っていた。

 

「技術試験機など欠陥品だらけと思っていたが、流石は教官の弟といっておこう!」

 

「そっちこそ、千冬姉の教え子なだけあってなかなかやるじゃねえか!!」

 

 とはいえ、このままだと千日手。

 

 何とかして、打開をする必要がある戦いの流れだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、箒とヴァーリの戦いもまた白熱していた。

 

「いいね! 俺の半減が効いていないとか最高だ!!」

 

「流石に、それの対策抜きに貴様とは戦えんからな」

 

 ヴァーリ相手に接近戦で攻撃を繰り返しながら、箒は冷静に相手を見極める。

 

 シャロッコからは「自分の欲求に素直な子供。その責任をあまり考慮しないあたりチンピラに近い」といわれていたが、しかしその戦闘能力はチンピラなどというレベルに収まらない。

 

 その圧倒的な力を、箒はたった一人で打ち合っていた。

 

 振るうのは二振りの刀。

 

 獅子を模した装飾の施された二つの刀は、ヴァーリの攻撃を弾き飛ばし、そして鎧を傷つける。

 

 さらにヴァーリが攻撃を放っても、謎の光が現れてその攻撃を受け止めるため効果を発揮しなかった。

 

「素晴らしい。やはり神器というのは侮れないな!!」

 

「だろうな! そして、勝つのは私だ!!」

 

 箒は裂帛の気合を入れ、双刀を振り下ろす。

 

 それを受け止めるヴァーリだが、次の瞬間にそれが起きる。

 

 箒の身にまとわれたISが、まるで意志を持っているかのように動き出す。

 

 それらはヴァーリを包み込むと、そのまま拘束して動きを止める。

 

 そして、その一瞬の時間をついて、ISスーツとカスタム・ウイングだけの姿となった箒は中途なく刀を突き出した。

 

 確実に殺すつもりの勢いで放たれた一撃。その威力も上級悪魔の領域を超える。最上級悪魔であったとしても、当たり所が悪ければ致命傷になるだろう。

 

 だが、その攻撃をヴァーリは鎧で受け止めた。

 

 否、鎧だけではない。

 

 極小に展開された魔方陣による結界が、その一撃を完全に受け止めていた。

 

「……面白いな」

 

 ギリギリのところで命をつなぎながら、ヴァーリはとても面白そうに自分を拘束しているものを見る。

 

 ヴァーリを拘束する液体は、ほんのわずかに箒のISと繋がっていた。

 

 そう、それが意味することは一つ。

 

「ナノマシンを含めた液状金属で構成され、それを操作する第三世代武装を搭載したISか。さすがは実験部隊だ」

 

「ああそうだ。これがアマルガム・レオーネの力」

 

 箒はそういいながら、さらに機体を変化させる。

 

 力押しで無理やり拘束を突破されるより早く変化させ、いくつもの鞭と変化させてヴァーリに連続で攻撃を叩き込んだ。

 

 それらのすべてを弾き飛ばすことはできず、ヴァーリは何度か攻撃を喰らう。

 

 面白い。ヴァーリは素直に称賛した。

 

 ダメージはほとんどないとはいえ、割と本気を出している自分を相手に、ここまで攻撃を充てれるものはそうはいない。

 

 これがIS。これが篠ノ之束。これがシャロッコ・ベルゼブブ。これが人間。

 

 単純に威力はあるが、剣の使い手との模擬戦には事欠かないため比較的対処ができる二刀よりも、はるかにこのISの方が楽しめる戦いだった。

 

「ああ、面白いぞ人類統一同盟! 君たちと敵対するのも選択肢としてはありだったかな?」

 

「……下衆が。敵と味方の判断基準すらあいまいか!!」

 

 心からの嫌悪感とともに振るわれる攻撃を、ヴァーリも渾身の力を持って受け止める。

 

 そして、力比べになるその時、箒は心からの侮蔑の視線をヴァーリに向けた。

 

「仮にも敵味方はしっかりと区別できる分、リゼヴィムの方がまだましだな。世代を重ねるごとに劣化していくにもほどがあるぞ、ルシファー!!」

 

「……俺を、この白龍皇をリゼヴィムごときより下に見るか?」

 

 高揚していたテンションが一気に下がる。

 

 この世で一番嫌いな相手より人として下といわれ、ヴァーリは本気で怒りを込めた一撃を放った。

 

 それをたやすく受け流し、箒は蔑みの視線を向ける。

 

「養父を裏切ってまでテロリストに入ったかと思えば仕事はろくにせず、しかもこのような戦いで我々ではなくグレモリー眷属に助力を要請するなど、恥知らずにもほどがある。厚顔無恥め、リゼヴィムですら協力する相手は選ぶぞ?」

 

 心底本気で箒は答え、そして二刀を構える。

 

「……来るがいい、獅子の一閃(レグルス・ネクロ)の禁手、獅子の双刀(レグルス・ネクロ・ツインセイバー)の餌食にしてくれる」

 

「いいだろう。ならばこの俺の、白龍皇の真の力を見せてやろう!!」

 

 最低の男より下扱いされて、ヴァーリは本心から怒りの感情を放つ。

 

 そしてそのまま空間ごと半減を試みようとして―

 

「―チィッ!!」

 

 とっさに、箒が後退する。

 

 それを逃げとみてヴァーリは追撃しようとし―

 

「―よし。でかしたぞ、我が子よ」

 

 真後ろから、フェンリルにかみつかれた。

 




まあ、大型機の使用者は大体予想できた方も多いでしょう。さて、彼女は誰とフラグを立てるのかはまだナイショです。


ヨーロッパの多くが人類統一同盟側ということで、予想している方も結構いたであろうラウラの敵対。実際、一夏と激突させるのにはうってつけの人物なので、何らかの形で敵対させたかった。

一夏にとっては越えるべき壁。果たしてどうなることかお楽しみに。


箒が持っているのは準神滅具です。能力的には文字通り獅子王の戦斧の劣化版になります。

とはいえ、其の破壊力は禁手にいたっていることもあって絶大。ヴァーリといえど楽には勝たせてくれません。

また、高性能の第三世代機を保有していることもあって強敵です。科学的な機能を持った平気で、かつ近接戦闘能力を大幅に向上させることを想定した結果生まれた機体でもあります。


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放課後のラグナロク 13

 

「……ヴァーリ!」

 

 イッセーの声が響く中、ヴァーリの鎧の隙間から血が零れ落ちた。

 

 見れば、フェンリルを捕縛していたグレイプニルが、戦闘の余波で破壊されている。

 

「ふはははは! まずは白龍皇から倒させてもらったぞ!!」

 

 ロキが戦場であざ笑う中、しかし状況は全くもって笑えない。

 

 明確な混戦状態で皆が苦労しているなか、最大の懸念材料であるフェンリルが解放された。

 

 しかも頼みの綱のミョルニルは、イッセーに邪念がありすぎてまったくもって使えないという体たらくだった。

 

 このままでは、全滅する可能性すら大きい。うまくいっても共倒れだ。

 

「さて、それではまずは本来の目的を優先させてもらおう」

 

 そういうと、その視線がレヴィアへとむけられる。

 

「……ラグナロクの成就を阻害するものは滅ぶべし。ゆけ、我が子よ。雪辱を果たすのだ!!」

 

 その言葉とともに、フェンリルがヴァーリをくわえたままレヴィアへと襲い掛かる。

 

 そして、レヴィアが反応するより早く爪の一撃がレヴィアにたたきつけられた。

 

「痛っ! この狼、やってくれるね!!」

 

 それを受け止めるレヴィアだが、しかしそのまま超高速で引きずり回されていく。

 

 割って入ろうとするタンニーンやイッセーもあっさりと弾き飛ばされ、人類統一同盟もまともに介入ができない。

 

 終末の獣。その能力に一切たがわない圧倒的な力がそこにあった。

 

 たった一体で戦局すら変えかねないその圧倒的な力。

 

 これが、天龍にも匹敵する獣、フェンリル。

 

 そして、この場にはその子供も存在したのだ。

 

「さあ、父に恥じぬ戦いをして見せよ! スコル、ハティ!!」

 

 ロキの掛け声とともに、スコルとハティもまた遠吠えを上げて人類統一同盟へと襲い掛かる。

 

 ……だが、次の瞬間二匹の動きが止まった。

 

「な、なんだ!?」

 

「僕は何もしてないですぅうううう!!!」

 

 一夏の驚きの声にギャスパーが勘違いして否定する中、しかしすぐに理由がわかる。

 

 スコルとハティの体に、小さな何かが突き刺さっている。

 

 それは絃のように長く伸びており、ホグニの持つ剣につながっていた。

 

 いぶかしんでいたロキだが、しかしすぐにその理由に気が付いて目を見開いた。

 

「貴様、まさか最初からフェンリルが目的か!!」

 

「ああ、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)の力で、フェンリルを支配し、戦力とすること、それが本来の我々の目的だ」

 

 ホグニはそう平然と告げ、ロキに対して笑顔を見せる。

 

「貴様ごとき前座にこだわるほど馬鹿じゃない。せいぜい赤龍帝たちに倒されるといい」

 

 心からの嘲笑だった。

 

 そして、その時にはすでに転移魔方陣が発動していた。

 

「では撤収だ。これ以上の戦闘は戦力が消耗するからな」

 

「わかった」

 

「引き際は見誤らん、帰るぞ」

 

「じゃ、このへんで。ごめんね?」

 

 思い思いに乗り手達も別れの言葉をかけ、そして空間が転移される。

 

「………悪魔ごときに我が子を戦力として利用されるとは、不愉快だ」

 

 ロキは激怒してオーラをまき散らすが、しかしすぐに動きを止めた。

 

 ………そして、すぐに表情をこわばらせる。

 

 あの支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)は、あくまでホグニの禁手の力によるものだった。

 

 そして、今この場にはオリジナルが存在する。

 

「フェンリル! すぐにコールブランドの使い手を始末するのだ!!」

 

「いや、そうはさせない」

 

 それより早く、莫大な魔力の奔流が放たれる。

 

「我、目覚めるは、覇の理にすべてを奪われし二天龍なり」

 

 それは、天龍の真の力。

 

「無限を妬み、夢幻を想う」

 

 それは、神滅具の真の覚醒。

 

「我、白き龍の覇道を極め―」

 

 それは、神すら殺す究極の龍。

 

「―汝を無垢の極限へといざなおう」

 

 その破壊の力が、一気に具現化する。

 

「これは、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)か!」

 

 奔流を間近で見ながら、レヴィアは瞠目する。

 

 さすがにこれは、レヴィアでも完全には防げない。

 

 速度ではさすがにフェンリルに劣るだろうが、半減もありパワーならしのぐといったところだろう。それほどまでに圧倒的な力を放っていた。

 

「黒歌! 俺を予定のフィールドへと転送しろ!!」

 

「はいはいにゃん」

 

 そして素早く魔方陣が展開される中、ヴァーリは渾身の力を込めてレヴィアをつかむ。

 

「へ?」

 

「悪いが、君がいると邪魔なんでね」

 

 そういうと、無理やり引っ張り出して放り投げた。

 

 そして、その瞬間レヴィアもヴァーリの狙いの一つに気が付いた。

 

「……このチンピラ! 最初からフェンリルを奪うことが―!!」

 

「まあね。だが安心しろ、この場においてフェンリルは抑えておくとも!!」

 

 レヴィアの文句を笑って流し、ヴァーリはフェンリルとともに転送される。

 

「……あのチンピラ軍団! やっぱりここでまとめて倒しておくべきだったか!!」

 

 レヴィアは一瞬本気で考えるが、しかし心から我慢して自身を律する。

 

 ここでうかつに暴走すれば、それこそロキに倒される可能性がある。

 

 まだミドガルズオルムの量産型が残っている以上、これ以上の負担はかけられなかった。

 

「ああもう! あとで覚えてろあのチンピラ!!」

 

 レヴィアは毒づきながら援護に徹しようと動き―

 

 そして、鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一連の光景をみて、一夏もまた歯噛みした。

 

「くそ! あいつ、それが狙いか!!」

 

 人類統一同盟にしろヴァーリにしろ。本命は戦力確保にあった。

 

 自分たちが防衛に精一杯な間、敵は着々と己の強化を続けているということか。

 

 確かに自分たちも強くなってはいるが、それは敵も同じこと。

 

 いたちごっこにしか思えない現状に、一瞬だが不安に体が支配される。

 

 そして、それはあまりにも致命的な隙だった。

 

「……すまんが、我も暇をしている余裕はないのだよ」

 

 気づけば、目の前にロキが姿を現していた。

 

 考え事はしていながらも、とっさの戦闘をとるだけの余力は残していた。少なくとも、生半可な相手ならば考えながら切る捨てることもできただろう。

 

 だが、ロキは北欧の神の中でも屈指の知名度を持つもの。生半可という言葉で説明をつけるのはあり得ないほどの相手だった。

 

 それが、致命的な隙だった。

 

 すでにロキの手には魔法でできた剣が握られている。

 

 完璧に、かわせない。

 

「……一夏君!?」

 

「一夏さん!?」

 

 レヴィアと蘭が守りに行こうとするが、しかしそれでも間に合わず―

 

「―やらせんぞ!!」

 

 しかし、鮮血は一夏から飛ばなかった。

 

「―その少年を、やらせるわけにはいかない……!」

 

「ほう? さすがは堕天使最強の男といったところか」

 

 切り裂かれながらも強い目でにらみつけるバラキエルに、ロキは敬意すら見える視線を向ける。

 

 そして、それゆえに何の遠慮もせずに魔法を叩き込んだ。

 

「この野郎がぁああああああああ!!!」

 

 イッセーが殴りつけようとするのを、ロキは素早くかわす。

 

 そして、その空いた時間をついてバラキエルは一夏を連れて距離をとった。

 

「まだまだ若いな。油断、大敵だぞ……っ!!」

 

「あ、あんた、なんで?」

 

「……君が死んだら、朱乃が、悲しむ」

 

「しゃべったらだめです! すぐに治しますから!!」

 

 アーシアが回復のオーラをかける中、一夏は内心で苦痛を感じていた。

 

 人を守れる男になりたかった。

 

 男が女を守る。そんな古風を通り越して時代遅れといってもいい考えを、しかし一夏は達成して見せたかった。

 

 だが、今まさに自分は守られる側だ。

 

 あまりに、あまりに情けない。

 

「……すまないバラキエル。僕の失態だ」

 

 そして、すぐに結界を張って守りながら、レヴィアもまた涙を流して苦痛に耐える。

 

「一夏くんは僕の眷属なのに。守れなかったから眷属にしてしまったのに、僕はまた……!」

 

 レヴィアにとっても、これほど苦痛なことはそうはない。

 

 一夏と蘭を守れなかったのは、レヴィアにとって最大の失態だ。

 

 その失態を二度と繰り返しはしないと思っていたのに、バラキエルがいなければそれもままならなかった。

 

 一夏もレヴィアも、この失態に心がきしみを上げていた。

 

 それはいつへし折れても全くおかしくないほどの重みで、実際に心が折れかけている。

 

 なんで自分は、いつまでたっても―

 

「……馬鹿者」

 

 そんな二人に、バラキエルは嘆息しながらそう言い切った。

 

 思わず目を開く二人に、バラキエルはあきれからくる笑みを浮かべる。

 

「子どもがいっちょ前に何を言っている。君たちはまだ、大人に守られる年齢なのを忘れるな」

 

 そういうと、バラキエルは回復もそこそこに立ち上がった。

 

「子どもを守るのは大人の役目。それをしたことで謝られる筋合いはない」

 

 そして、震える体で再びロキと対峙する。

 

「それに、娘が待っているのだ。……死ぬわけにはいかんさ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑! レヴィアさん!!」

 

 イッセーは、その姿をみて声を上げずにはいられなかった。

 

 一夏が、あの一件でレヴィアと同じように心にしこりを残しているのはなんとなく予想がついていた。

 

 さんざん守る守るといっている奴だ。レヴィアの心に傷をつけてしまったことに、自分が死んだ以上の痛みを負っているのは間違いなかった。

 

 そして、当然レヴィアも心から痛みを覚えている。

 

 なんとなくだが、レヴィアが大人の印象を持っている理由もわかってしまった。

 

 子供の心で大失態を犯して、それを許さないと誓ったのだ。子供のままではいられないだろう。

 

 だけど、だけど、だけど。

 

 そんなつらいのを、自分一人で背負い込むことはないだろう。

 

「あきらめんな! 背負い込むな!! 俺が、俺たちがついてる!!」

 

 レヴィアも一夏も、イッセーの仲間の一人だ。

 

 つらい時や苦しい時、一人で苦しんでるのを見るのなんて我慢ならない。

 

 そういう時こそ、仲間という存在の出番なのだから。

 

「だから、負けるな二人とも!! やばい時は、俺も蘭ちゃんも部長もみんなも手伝うから!!」

 

「………ああ、そうだな」

 

 一夏は、立ち上がった。

 

「ふっ。さすがは僕のかわいいイッセーくんだ」

 

 レヴィアも、持ちこたえた。

 

 そして、二人の復帰に全員の士気が上がる。

 

 攻撃は一気に火力が上がり、量産型ミドガルズオルム達が一気に押されだした。

 

「なるほど想いのこもったいい攻撃だ。だが神を相手にするには足りん!!」

 

 しかし、ロキの牙城を崩すには足りない。

 

 それほどまでにロキとは圧倒的強者であり、非常い厄介な存在なのだ。

 

 その牙城を崩すには、何かが足りなかった。

 

 しかし今の段階ですでに限界が近い。これ以上何かをプラスするのは余裕がない。

 

 だがしかし、その瞬間黒い炎を吹き上げた。

 

 

 

 



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放課後のラグナロク 14

 

 

 

 

「あ、あれ、匙先輩?」

 

 なんとなく見知ったオーラを感じて、蘭は唖然となった。

 

 そこにあるのは、黒い炎をまとったドラゴン。しかもオーラの出力はタンニーンにも匹敵する。

 

 そのドラゴンが出てきて炎をまき散らしたとたんに、量産型ミドガルズオルムはもちろん、ロキすら動きが悪くなっていく。

 

 とはいえ、それでもロキを倒すには決定打が足りない。

 

 せめて自分が禁手をつかえれば、などと線ないことすら考えてしまう。

 

 とにかくミドガルズオルムだけでも倒そうと意識を向けたその時、蘭に並ぶ二人がいた。

 

「仕方ねえ。こうなったら博打でもするか」

 

「そうだねぇ。ま、失敗してもフォローしてくれる大人はいるさ」

 

 どこか険の取れた一夏とレヴィアは、一歩一歩前へと歩き出す。

 

「い、一夏さん? どうしたんですか!?」

 

「ああ。ちょっとロキを叩きのめしてくる」

 

「でもって僕はそのサポート。いつものことだよ」

 

 そういう二人の表情は、むしろ晴れやかといってもいい。

 

 そして、そんな二人を見ていると、蘭もまたなぜか安心してしまう。

 

 ああ、そうだ。いつもの三人だ。

 

 これがセーラ・レヴィアタン眷属のいつもの姿だ。

 

「わかりました! 私にできることは?」

 

 だから、自分もしっかり混ぜてもらおう。

 

 なんだかんだで暴走しやすい二人のフォローは、五反田蘭のいつもの役目なのだから。

 

「ミドガルズオルムの足止めよろしく!!」

 

「任せたぜ、蘭!!」

 

 そういうと、二人は一気に駆け出す。

 

 そこら中から放たれる砲撃を、レヴィアが結界を張ってすべてはじく中、一夏がミョルニルへと向かう。

 

 それは、イッセーが結局使えなかったので放置されていたレプリカのミョルニル。

 

 それを、一夏は躊躇なくつかんだ。

 

「……さあ、ここからが本番だ!!」

 

 次の瞬間、一夏の右腕とともにミョルニルが輝きに包まれる。

 

 そしてミョルニルは少しずつだが確実に巨大化していった。

 

 さらに、わずかではあるが雷が発生し、周囲に雷撃は発生していく。

 

 その光景をみて、ロキは目を見開いた。

 

「……ばかな! ミョルニルを制御している……だと!?」

 

 圧倒的出力を発揮するほどではないが、しかし少しずつだが制御し始めている。

 

 それは、心が清らかなものにしか真の力を発揮することができないのだ。悪魔が使えるなどありえない。

 

「あり得ない、貴様ほどの若き男が、よこしまな心を持ってないというのか!?」

 

 それほどまでに枯れている青少年とかどうよという感情がこもったロキの発言だが、一夏は静かに首を振った。

 

 確かに人から良く枯れているとか言われているが、これでも性欲のせの字ぐらいはあるのである。

 

「いや、どっかの誰かさんのせいで俺にも少しはあるけどな!!」

 

「照れるね!」

 

「「褒めてない!!」」

 

 誉め言葉と勘違いしたレヴィアに蘭とともにツッコミを入れながら、一夏は神器に力を籠める。

 

 一夏のやっていることは、すなわちミョルニルの掌握。

 

 レプリカといえどミョルニルは神々の装備。本来ならそんなことができるわけがないし、何より認められずに弾き飛ばされるのがオチのはず。

 

 そもそも、剣豪の腕が可能とするのは武器の強化。所有者の認証は、その能力の範疇外。できるわけがないのだ。

 

 だが、そんな無茶を一夏は押し通しかけている。

 

 すなわちそれは、禁手の領域に到達していることに他ならない。

 

「ええい! させるものか!!」

 

 ロキは即座に魔法攻撃を放つが、しかしそれは通らない。

 

 なぜなら、その隣に立つのはこの場で最も硬い者。

 

 金剛すら凌駕するセーラ・レヴィアタンが楯となるからだ。

 

「ふはははは! そんなことで僕を止めれると思ったら大間違いだよ悪神!!」

 

 何かに吹っ切れた状態で、レヴィアは高笑いをしながらロキの攻撃を受け止める。

 

 間違いなくこの場で最強の実力者であるはずのロキの攻撃を、レヴィアは意にこそ介していてもそれだけですましていた。

 

 ロキがこの場で最強ならばレヴィアはこの場で最硬。最強に相対しうる無敵の存在がここにあった。

 

「おのれ、レヴィアタンの末裔め!! 我の全力をもってしても攻撃が通らないなど―」

 

「そこまでです」

 

 そして、それが致命的な隙だった。

 

 一瞬だが、確実にロキはレヴィアと一夏しか見ていなかった。

 

 この場には、無視してはいけない存在が何人もいるにもかかわらずだ。

 

 その一人、五反田蘭が、その好機を逃さず後ろから砲撃を乱れうちで叩き込む。

 

「ぬぉおおおおおお!?」

 

 砲撃を乱れ撃ちで喰らい、ロキは一気に弾き飛ばされる。

 

「レヴィアさん!!」

 

「OK、詰みだ」

 

 そして、弾き飛ばされたロキの周囲を結界が即座に囲む。

 

 この強度の結界に囲まれれば、ロキといえど容易には出られない。

 

 そして、その結界内部には一夏もまた包まれていた。

 

 この瞬間、戦いの趨勢は決した。

 

「覚悟はいいか、悪神ロキ」

 

「……っ!?」

 

 鋭い視線と必殺の一撃にさらされ、ロキは戦慄する。

 

 ミョルニルの一撃の破壊力は、アースガルズの神々であるロキがこの場で一番知っている。

 

 ゆえに、彼は理解した。

 

 この戦いは―

 

「俺の主に手を出して、ただで済むと思ってんじゃねえ!!」

 

 ―完膚なきまでに、自分の敗北だと。

 




一夏の禁手はミョルニルのレプリカの掌握ではありません。

禁手一歩手前の領域に到達したことによる奇跡であり、なおかつ純真なまでに勝とうという意志があったからこその軌跡です。


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放課後のラグナロク 終

レヴィアって意外と不人気なのだろうか?




魔王の字が付くなかでも、エロさえ除けばトップクラスにまともな人材として描写した本作の看板なんだけど……。


 戦いは、終わった。

 

 神々の中でも最高位に属する雷神の一撃を受け、ロキはもう動けない。

 

 この闘い、これ以上の進展はないだろう。

 

 気づけば、すでに量産型のミドガルズオルムもすべてが倒されている。

 

「勝った……のか?」

 

 力尽きて元の姿に戻った匙が、ぽつりとつぶやく。

 

 その姿に苦笑しながら、レヴィアは不敵な笑みを浮かべて一夏の肩をたたく。

 

「さあ、今回の功労者。そろそろやるべきことをやった方がいいんじゃないかい?」

 

 その言葉に、一夏は少しきょとんとするが、すぐに我に返る。

 

 確かに、大将首を取った以上、自分がこの戦いのMVPだ。

 

 なら、やることは一つ。

 

「……勝ったぜ、皆!!」

 

『『『『『ぉおおおおおおおお!!』』』』』

 

 一夏が腕を天に突き出すとともに、歓声が上がる。

 

 その時になって、彼らはみな勝利の喜びに打ち震えた。

 

「……ふ、ふふふふふ」

 

 そして、その笑い声でいきなり凍り付きかけた。

 

「ロキ!? まだ戦えるのかい!?」

 

 レヴィアは心底舌打ちする。

 

 すでに、一夏はミョルニルの制御を失っている。匙もまた、限界を超えている以上ヴリトラの制御はできないだろう。

 

 この状態での戦闘は、間違いなく死人を産む。

 

 だが、ロキは力なく笑うとよろよろと立ち上がった。

 

「安心するがいい。我に抵抗できるほどの力はない」

 

 ロキの言葉の言う通り、彼からは力を感じない。

 

 それほどまでにミョルニルの力は強大だった。ゆえに切り札としてアザゼルたちはそれを使用したのだ。

 

 だが、レヴィアはどこか嫌な予感を感じていた。

 

 なにか、もやもやとした不安の感情がレヴィアの中に渦巻いている。

 

「まさか、我が敗北するとはな。……さすがは()()を使っているだけのことはある」

 

 その言葉に、レヴィア達は一斉に疑念の感情を浮かべた。

 

 確かに、ISは強力な兵器である。

 

 その本領が異形社会に上級にとっても脅威であることは、人類統一同盟との戦いですでに実証されている。

 

 だが、それにしても数を用意せねば、神を殺すほどの切り札となりえるほどではない。少なくともロキがわざわざ褒めるほどのことではないはずだ。

 

 それゆえに全員が不思議な感情を浮かべる中、ロキはあからさまな嘲笑を浮かべた。

 

 まるで、何もわかっていない馬鹿なものをあざ笑うかのような嘲笑だった。

 

「……く、くくくくくっ。やはり貴様たちは何もわかっていない。自分たちがいったい何を使っているのか、篠ノ之束がどれだけ罪深いことをしたのか理解をかけらもしてないのだ。これは哂うほかないな。フハハハハハハハハ!!!」

 

 大声でそう笑いながら、ロキは魔方陣を展開する。

 

 そして、ロキの全身が凍り付き始める。

 

「……待て! お前、一体束さんの何を知って―」

 

「下がれ一夏君! これだけの封印術式、巻き込まれたら逃げられない!!」

 

 思わず問い詰める一夏をレヴィアは羽交い絞めにして遠ざかる。

 

 そんな一夏の視線を真っ向から受け止めて、ロキはしかし嘲笑の表情を崩さない。

 

「我を倒したところでもう遅い。貴様たちがISを使っている限り、真の意味での三大勢力の和平など決して訪れん!! それまで一時の平和を過ごすがいい!!」

 

 高笑いを続けながら、ロキはそのまま全身を氷に包まれる。

 

 イッセーは思わず詰め寄るとこぶしを氷にたたきつけるが、しかしその氷はびくともしなかった。

 

「待ちやがれ! お前、いったい何を知ってるんだ!!」

 

「さがれ、赤龍帝。アースガルズでも高位の神が放つ最大規模の封印術式だ。……解くには最低でも数十年はかかるぞ」

 

 バラキエルがイッセーの肩に手を置いてとどめる中、レヴィアは額に手を当てると深くため息をつく。

 

「……どうやら、篠ノ之束はとんでもないことをしているようだね」

 

 北欧の悪神ロキが、わざわざ名指しで告げるほどの愚かな高位。

 

 神すら恐れぬを地で言っていたはずの当時の篠ノ之束なら何をしても驚かないが、しかしそれゆえにその言葉は危険だ。

 

 三大勢力の和平すら揺るがすほどの何かが、ISには秘められている。

 

 戦いには勝利したが、その事実に素直に勝利を喜ぶことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが終わり、オーディンは北欧へと還っていった。

 

 謎は残ったが、しかし当面の危機は去ったともいえる。

 

 少なくとも、アース神族で随一の和平反対派だったロキを倒したことでアースガルズは三大勢力の同盟相手として一歩進んだのだ。これは間違いなく大きな戦果だろう。

 

 これにより後顧の憂いの一つは間違いなく消えた。一気にアグレアス奪還作戦は進むことになるだろう。

 

 なるのだが………。

 

「うわぁあああああん!! 酷い、ひどすぎます!!」

 

 泣き崩れるロスヴァイセを見て、一同は途方に暮れてしまった。

 

 非常に簡単に一言で言おう。

 

 置いていかれた。

 

「まったくもう。オーディン様も何をやっているんだか」

 

 レヴィアは額に手を当ててため息をついた。

 

 最早彼女はアースガルズには戻れまい。戻ったところで白眼視されるのは目に見えている。

 

「それでどうするのリアスちゃん?」

 

「幸い教師として働けるように働きかけておいたわ。彼女、教員免許を持ってたから」

 

「流石外国。飛び級OKなんだね」

 

 それなら人並みに生活は送ることが可能だろう。

 

 可能だろうが……彼女は異形側の出身である。それも主神の秘書というものすごい勝ち組。

 

 それが「うっかりわすれた」などという理由でリストラされるなどどう考えても負け組である。絶望的負け組である。

 

「……後で魔王末裔として主神に抗議しようか?」

 

 思わず魔王の権限をレヴィアに使わせるか迷わせるほどに、あまりに哀れだった。

 

 だが、リアスはむしろ笑顔を浮かべると、レヴィアに首を振る。

 

「流石にそこまでしなくていいわよ。彼女は私が面倒を見るわ」

 

「おや? もしかして……悪魔のささやき?」

 

「悪魔ですもの」

 

 二人は示し合わせてにやりと笑うと、ロスヴィアセに向き合った。

 

 これより、買収タイム。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

 一夏は、素振りを終えると汗をぬぐいながら息をついた。

 

 ロキとの戦いは奇跡の連続だったといってもいいだろう。

 

 決意はしていた。だが、本当に実行できるかとなれば別問題。それほどまでに死を覚悟しなければならない戦いだった。

 

 それは何とか奇跡的にも全員生き残ることができたが、しかしそれはそれとして問題が生まれてしまった。

 

「束さん、いったいなにしたんだよ……」

 

 あのロキが名指しで告げるほどの何かを、束はしている。

 

 それも、三大勢力の和平が崩れかねないほどのことを彼女はしているというのだ。

 

 あのタイミングでまさか嘘の情報を漏らすとも考えずらいが、しかしいったい何をしでかしたというのか。

 

 考えられるのはISコアだが、いったいこの科学の産物にどれだけやばいものを詰め込んだというのか。

 

「……箒が人類統一同盟にいるのも、それが理由なのか?」

 

 だとするなら、相当のことをしているのだけは想定できる。

 

 一説では、白騎士事件の根幹ともいえるミサイル発射は束の自作自演ではないかという話も存在する。

 

 さすがにそこまでしないだろうとは思うが、しかし可能不可能でいえば可能と思えてしまう天才だ。

 

 いったい何をしていたとしても、どこか納得できてしまう自分がいる。

 

 そういう人物なのだ、束という女性は。

 

「……束さん、箒……」

 

 自分は、あの二人と再会した時にどうすればいいのだろう。

 

 ふと、そんなことを考えてしまう。

 

 それではだめだと思い、一夏はもう一回素振りに集中しようとして―

 

「―一夏」

 

「あ、朱乃さん」

 

 朱乃が、トレーニングルームへと入ってきた。

 

「探しましたわ。今日もトレーニングしてたのね」

 

 そう言いながら一夏に近づく朱乃の手には、皿が一枚持たれていた。

 

 中に入っているのは肉じゃがだった。

 

「あ、これは美味しそうですね」

 

「ええ、実をいうと自信作ですわ。あまりものですけど、一夏に味見してもらおうと思って」

 

「ありがとうございます。じゃあ、一口」

 

 そういって一夏は肉じゃがを口に入れる。

 

 料理には自信のある一夏だが、その一夏から見てもこの肉じゃがはかなりおいしい。

 

 思わず黙々と食べまくってしまうが、しかしそれぐらい美味しかった。

 

「すごい美味しいですよコレ! 朱乃さん、本当に料理が得意なんですね」

 

「あらあら、本当に一夏君は女の子を喜ばせるのが得意ですのね」

 

 そういってくすくす笑う朱乃は、しかしすぐに一夏の口元に視線を向ける。

 

「あらあら、口元にジャガイモのがついてますわよ」

 

「え、ホントですか!?」

 

 慌てて袖でぬぐおうとするが、それより早く朱乃が動いた。

 

 ……具体的には、唇でそれを取ったのだ。

 

「あ、朱乃さん!?」

 

「うふふ。直接ではないですけど、ファーストキスですわ」

 

 顔を赤らめながら朱乃は笑顔を見せる。

 

 その笑顔が、今まで見た中で一番素直で自然で素敵だったせいで―

 

「―そうか、ありがとう」

 

 なんというか、素直にお礼を言いたくなってしまったのだ。

 

 その瞬間、朱乃の顔がものすごい勢いで赤く染まっていく。

 

「………バカ」

 

「ええ!?」

 

 褒めたのになぜ罵倒されねばならないのか。

 

 そんな感情を浮かべながら、しかし一夏は気が付いた。

 

 ……扉の向こうで、小猫と蘭が半目で一夏を見ている。

 

「一夏さんはあれだから困るのよ」

 

「同感。本当にどうにかしてほしい」

 

「なんでだぁあああああああああああああああ!!!」

 

 レヴィアの苦労によって、少しは女心を理解できる男、織斑一夏。

 

 だが、それは雀の涙に等しいごくわずかな量でしかないのであった。

 



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修学旅行のパンデモニウム

 

「……さて諸君。これより僕たちは修学旅行へと行くことになる」

 

「レヴィア。まだ三日あるぞ?」

 

 速攻で一夏からツッコミが飛んだが、レヴィアは無視した。

 

 こういうのはノリが大切なのである。

 

「修学旅行。それは学生が羽目を外す時期だ。僕としても、鉄板ともいえる露天風呂の覗きはOKを出したいけど、あいにく外である以上いつもより厳重にいかないといけない……っ!!」

 

「畜生!! 同じく定番であるエロ動画チャンネルも、今回のホテルには存在しねえ!!」

 

「せめて! せめて女子の部屋に行きたかった!!」

 

 松田と元浜も涙を流すが、それ以上にレヴィアが涙を流しているのは明らかに問題がある。

 

 仮にも女子の風紀委員長としてこれはどうだろうかとツッコミ必須の環境だった。

 

「一夏さん。……頑張ってください」

 

 蘭は静かに一夏の肩に手を置いた。

 

 レヴィアに松田に元浜を、一夏は修学旅行中一人で抑えねばならないのである。

 

 なにせ、蘭は一年生だ。修学旅行には参加できない。

 

 とはいえ、後輩の女の子にこの問題児の制御を頼っているのは、一夏としては思うところがありまくる。

 

 こんな朴念仁の自分を愛してくれているのだ、たまには楽をさせてあげたいと思っているのだ。

 

 そういう意味では、この修学旅行はいい機会だと一夏は思っていた。

 

「蘭にはいつも苦労かけてるからな。数日だけど、羽を伸ばしてくれ」

 

「はい。その分修学旅行が終わったらもっと頑張って首根っこをひっつかみます!!」

 

 と、気合を逆に入れられてしまってはちょっと苦笑してしまう。

 

「だけど、このいろいろあるご時世に修学旅行とか、まだまだ日本は平和だってことか」

 

 松田がふとそう漏らすのも当然だ。

 

 なにせ、日本こそ戦火に包まれていないが時は第三次世界大戦の真っただ中である。

 

 さらに異形社会も異形社会で禍の団との戦いが頻発しているし、そういう意味では二重の意味でそんなことをしている場合かという意見もあるだろう。

 

 だが、レヴィアはそんな中笑って見せた。

 

「まあね。それに、サーゼクス様達たっての希望なんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「うん」

 

 元浜に、レヴィアはうなづいて見せた。

 

「本来守るべき子供たちを何度も死地に送り込んでることに思うところがあるみたいでね。学校行事ぐらい、素直に楽しんでもらいたいって思ってるみたいだよ」

 

 そういうレヴィアは笑顔で、三人に告げた。

 

「そういうわけだから、修学旅行は変態行為をしない程度に楽しむこと。しっかり楽しまないと、サーゼクス様達が落ち込むからね?」

 

「「「はい!!」」」

 

 一斉に返事をする男子生徒三人を見て、レヴィアは笑顔を一層強くする。

 

「……さて、それじゃあ話は変わるけど、修学旅行が終わったらいろいろと忙しくなるよ」

 

 すぐさま、表情が真剣なモノへと変更された。

 

「修学旅行と同時期に、三大勢力は日本の妖怪勢力と会談を行う。その推移次第では、学園祭と前後してアグレアスの奪還作戦が行われるだろう」

 

「「「「……っ」」」」

 

 その言葉に、全員が息をのんだ。

 

 当然だ。アグレアスの奪還は三大勢力にとっての急務ともいえる。

 

 悪魔のあらゆる意味で重要な要素にして、天使にとっても希望の光ともいえる転生システム。

 

 これを再び行えるようにするには、アグレアスの遺跡の奪還が必要不可欠。

 

 さらに、王の駒を解析量産する準備が終われば、禍の団……こと真悪魔派は大幅に戦力を強大化させるだろう。

 

 あらゆる意味でアグレアスの奪還は急務。それは当然のことだった。

 

 そして、そのために必要な戦力はもうじき集まる。

 

 アースガルズとの和平はなった。そしてオリュンポスや日本神話体系ともある程度のつながりはできている。

 

 そこに妖怪との和平がなされれば、戦力が低下したからといって他の神話体系に襲われる可能性は大幅に低下する。

 

 ことアースガルズとの和平締結は渡りに船だった。

 

 反対派は元より数が少ないため、積極的に交流している。また、その数少ない反対派で唯一の神であるロキもすでに、その権威を失墜したうえで封印された。

 

 ヴァルキリーや彼女たちに迎えられた勇者たちの協力をもってして、アグレアスを奪還する。

 

 むろん、相当の死者が出るであろう状況なのでこちらの懐も痛くなるだろうが、それは必要経費だ。

 

「そういうわけだから、ある意味最後の息抜きになる。間違いなく、僕らも後詰で出ることになるだろうからね」

 

 レヴィアの言うことはもっともだ。

 

 サーゼクスたちは子供たちの参加を良しとしないだろうが、もはやそれは良しとされない。

 

 なにせ、グレモリー眷属とシトリー眷属とレヴィアタン眷属は、禍の団との大規模な戦闘を潜り抜けてきた実力者だ。

 

 アガレスやバアルの眷属と同様に、すでに並の上級悪魔とその眷属を超える戦力として認識されている。

 

 ただでさえネバンによって戦力が減っている現状で、之だけの実力者を遊ばせる選択肢など存在しない。

 

「だから、この修学旅行は徹底して遊び倒すよ!! 死んでもいいぐらいにこの世の快楽を謳歌するんだ!!」

 

 レヴィアは、気合すら入れてそう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんてことがあったんだよ」

 

「ああ、そんなことになってるんだったよな」

 

 新幹線の中で、一夏とイッセーはそういいながら緊張していた。

 

 レヴィアには遊べといわれたが、しかしそんなことを言われての難しい。

 

 一夏にしろイッセーにしろ、割と真面目な性分なのだ。真悪魔派との決戦を前にしては、どうしても緊張してしまう。

 

 それに―

 

「赤龍帝の籠手のブラックボックスが飛び出したって……俺の目が飛び出るぞ」

 

「………まさか、いまのはダジャレのつもりだったのか?」

 

 イッセーにすらドンビキされる一夏のジョークセンスはこの際置いておく。

 

 だが、状況はいろいろとややこしいことになっている。

 

 この前、イッセーは特例で悪魔の駒のブラックボックスを開放された。

 

 これにより赤龍帝の籠手の領域を拡張できるかもしれないという目論見で、魔王アジュカ・ベルセブブが特例で起こしたことだ。

 

 何が起こるかわからないこともあり、ほかのメンバーには施されていないが、もしこの実験で結果が出れば、リアスはともかくレヴィアは開放を要請するだろうという予感がある。

 

 そして、その実験はある意味で効果を発揮した。

 

 歴代赤龍帝の残留思念。そのうちの一部が接触を図ってきたのだ。

 

 それも、男女の歴代最強というから驚きである。

 

 そして、二人はイッセーに赤龍帝の籠手のブラックボックスを渡して、解放された悪魔の駒の力でそれを開いたのは良いのだが……。

 

 なぜか、赤龍帝の籠手から飛び出ていってしまったらしい。

 

「どうすんだよ。戻ってくるのか?」

 

『それは大丈夫だ。あれは結局は相棒の力。いずれ引き寄せ合うだろう』

 

 一夏の不安にドライグは安心させるように言うが、しかし問題はそこではない。

 

 ブラックボックスがどこかに行ったことで赤龍帝の籠手に不備が出ないとも限らない。さらに言えば、それがアグレアス奪還作戦にまで引きずると目も当てられない。

 

 すでに赤龍帝の籠手を使いこなし始めているイッセーは、悪魔全体で数えても戦闘職の上位百分の一ぐらいには入る戦力だ。大火力による殲滅戦ならば、千分の一を狙えるだろう。

 

 そんな大戦力が、いくら後詰になるだろうとはいえ使えないというのは足元をすくわれるようなものだ。

 

 とても不安だ。心から不安だ。

 

「どうすんだよイッセー。お前、このままでいいのか?」

 

「仕方ねえだろ織斑。オレだってどうしていいんかわからねえから」

 

 はあ。と二人は同時にため息をついた。

 

 しかも、それとタイミングを同じくして元浜が松田の胸にダイビングするという非常事態が発生した。

 

 空気が実に微妙である。

 

「最近、あいつ等落ち着てきたと思ったけど、やっぱり修学旅行でテンション上がった?」

 

「いや、レヴィアさんに吸い取られてるから大丈夫なだけだろ?」

 

「でもレヴィアさん胸ないし、それが不満なんじゃないかしら?」

 

「いや、元浜の奴はロリコンだぞ? 胸ない方がいいだろ」

 

「貧乳とロリはちげえよ。そういう意味じゃレヴィアさんは相性が悪い」

 

「だよねぇ。レヴィアさん背は高い方だし」

 

 外野がやんややんやと会議を始めているが、とうのレヴィアは意にも介さない。

 

「仕方ない。京都に行ったらデリヘルを頼もうか。僕の貧乳長身なのが原因だからね。責任取ってお金は出すよ。っていうか僕も混ぜろ」

 

「「「マジですか!?」」」

 

「いや、高校生がデリヘルとかないだろ!!」

 

 レヴィアから始まる暴走を止めながら、一夏は心から思った。

 

 蘭と小猫は頼もしかったなぁ。俺、くじけそうだ。

 

 その直後、自分の愛する年下に頼っている自分に気が付いてへこむまであと五秒。

 



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そういえば忘れていた設定集

大量に設定を書いていたけど完結させないことを決定したこの作品。それならそれなりにやることはあったのを忘れていました。

と、いうわけでめちゃくちゃ遅れましたが、すでに作っていた設定を放出します。これ使ってみたいと思った方はどうぞご自由に。IS作品はもう書かないつもりなので、むしろくようになるでしょう。


概要

 世界観改変型クロスオーバーもの。

 

 ◇人類統一同盟

 超国家組織。

 男女共用が可能な第二次ISコアによって人を集めており、すでにユーラシア大陸の六割を制圧。一部の国家も賛同して傘下に入っている。

 女尊男卑に疎んでいた男の多くが参加しているが、基本的には男女同権を徹底しているため、女性からの参加者も多い。

 目的は異形組織と人間社会の融合及びそれを利用した人々の宇宙開発を含めた新たな発展。それに賛同した者たちの多くが参加している。

 

 ◇ヒーローズ

 地球統一同盟軍の禍の団出向部隊の特殊部隊。

 英雄の末裔などといった若い人間が多いのが特徴。

 その本質は実験部隊であり、指揮官であるシャロッコ自身の権力もそこまで大きいわけではない。

 

 ◇真悪魔派

 冥界でクーデターを起こし、禍の団もとい地球統一同盟に鞍替えした組織。

 純粋な悪魔を強化することにより悪魔を復活させることを目的としており、多種族からの転生悪魔はまがい物なのだから名誉爵位にとどめるべしとの意見を持つ。以外にも人間からの転生悪魔には賛同者も多い。

 

◎技術

 ◆IS

 インフィニット・ストラトス。世界最強の兵器と名高い最新兵器。

 それに特化した最新鋭の航空機に匹敵する最高速度と、ヘリやVTOLを凌駕する運動性能。歩兵より大型化した火器を運用可能と、空戦において高い汎用性を発揮する化け物兵器。

 異形社会においては強度の問題もあり、範囲攻撃が使える上級クラスならてこずることはあっても苦戦はしないと判断されており、あまり警戒はされていなかった。

 が、開発者である篠ノ乃束ですら知りえなかったが高位の神器に匹敵する力を秘めており、シャロッコの研究により十分対抗可能な戦力となる。

 

 ◆第一次ISコア

 実は中枢核に最高峰の聖遺物の一つである聖釘を分割したものが使用されている。これによる聖書の神のシステムの疑似利用がその正体であり、つまりは一種の人造神器。

 生成中にある種の疑似人格が出来上がったのだが、コアの開発に束と千冬しかかかわっていないため、男を怖がっているのが男性が使用できない理由。そのためシスコン極まりない千冬の影響で一夏だけは使用できる。

 この特性ゆえに、真にその正体を理解できているIS操縦者は、高速起動特化型上級悪魔とで言える存在になるのである。

 

 

◇ 第二次ISコア

 シャロッコが、保管していた先代ベルゼブブの肉体を母胎として開発したISコア。

 開発研究に男女含めて複数名がかかわっていたこともあり、男女問わず使用できるのが最大の特徴。加えて聖釘とはサイズの違いもあり生産数は二万を超える。

 

◇DISシステム

 ISコアの解析及びシャロッコたちの開発した新技術によって開発が可能になった新兵器。

 その形態は未だ模索段階にあり、人型を大きく外れていないものから、明らかに人型ではないものまで数多い。

 大型化されているがゆえに火力だけならISを超えているものも数多く、それらを最大限に生かすことで戦闘を行っている。

 ☆蒼朱雀

 DISシステムで重武装を施された航空機。

 揚力の発生をPICに頼ることによって高いVTOL性能を発揮。同時に大型エネルギータンクにシールドエネルギーをため込むことで重装甲を実現。さらにウイング部分はほぼウェポンラックとして使用することで大火力を実現する。機首部には衝撃砲も搭載しており、ドッグファイトにも対応可能。

 中級以下の悪魔が相手ならば十分な脅威ともいえる装備。魔法強化兵によってタンクデザントも行っているため、ISですら一個小隊を相手にするとかなりの時間をかけられるほどにまで低下している。 

 ☆スペースウォーク級強襲揚陸艦

 人類統一同盟が開発した大型艦。大型航空機の形をしているが、その全長は500メートル前後という規格外の巨大兵器。

 その実態は移動要塞であり、80機近いISの母艦として運用可能。かつ、艦首のユニットを変えることにより空母・ガンシップ・ミサイル巡洋艦の三つの能力を発揮することができる。

 

 

 

 

 

禁手次奏(バランス・ブレイク・アタッカ)

 人類統一同盟が研究に至った、禁手の第二段階・・・というよりも亜種形態。

 悪魔の駒のリミッター解除に近しい応用で発動する特殊形態。すぐにアジュカもそれに思い至り、発動者は少しずつだが確実に存在している。

 

 

 

 

 ◎世代説明

 ◆第四世代IS

 篠ノ乃束が開発た新世代IS

 展開装甲を使用することにより、パッケージを換装することなくあらゆる環境に対応するが、それゆえに何でもできすぎて対応しきれないという欠点も存在する。また、展開装甲をフルに使えば中級悪魔とも渡り合うことができる火力と防御力を得ることができる者の消耗が激しく、人類統一同盟はほかの装備を併用することで補っている。

 そのため第四世代機の突き詰めは強化は早期の段階で打ち切られている。現在人類統一同盟はもとから研究していたアプローチに、サブウェポンとしての展開装甲を併用した方向へとアプローチを変更している。

 

 ◆第五世代IS

 人類統一同盟が研究中のアプローチ。

 もとより理論先行である第三世代機および第四世代機とは違い、第二世代機の理論を継承発展したモデル。その方向性はISの大型化。

 ISをコアユニットとすることでその特性を大型機にも付加。それにより大火力大出力を実現した機体の開発が目的。

 いまだ研究中の課題であり、本格的な大量生産機は開発されていない。主に大型のISとして設計するか、ISそのものをコアユニットして大型のパッケージを接続するかの二択となっている。

 

 

◎レヴィアタン眷属

 レヴィア・聖羅ことセーラ・レヴィアタンの眷属。

 もともとレヴィアは自信の影響力が高すぎることを考慮し、レーティングゲームにも参加せず眷属を作る気も毛頭なかった。

 しかし第二回モンド・グロッソの件があり、一夏と蘭を眷属に参加させることとなる。

 レヴィア本人は駒王学園に所属、健やかな生活を送るべく風紀委員会を組織して活動している。

 

 ◇レヴィア・聖羅(本名、セーラ・レヴィアタン)

〇来歴

 旧魔王レヴィアタンの末裔でありながら、現政権へと亡命した異色の来歴を持つ魔王血族。

 駒王学園風紀委員長。変態三人組を職務に忠実な生徒に変えたとして畏敬の念を抱かれているが、そこから解き放たれたレヴィアはもはや野獣である。

 元々レヴィアタンの家系に生まれた末裔だったが、教育を受けた結果「どう考えても旧魔王派には問題がある」と判断し、同士とともに逃走。追撃を潜り抜けて一人生き残る。

 その後は冥界政府の保護下におかれたが、旧レヴィアタンの影響力があまりにも大きいことを自覚し、付和雷同による民の盲目を避けるため、極力社会的な影響を起こすようなことは控えてきた。

 しかしその鬱憤がたまったことによる失態を反省し、微力とはいえいい方向に変えるべく行動をするようになって今に至る。

〇人物

 誇り高く責任感の強いエッチなお姉さん。

 高貴たるものの責務をこなすことを心から望み、魔王の血族として冥界の民の発展を目指す王の器を持つ女傑。「王は人々を照らす太陽であり、ゆえに不沈の存在であらねばならない」という王道を持ち、そのために常に尽力する。

 眷属に対しては姉のようにふるまっており、時にせっかんしながらも温かく見守る慈愛の主。ただし、下記の欠点によりちょっとアレな関係でもある。

 同時に冥界でも有数の好色家。とにかくエロいことが大好きで眷属悪魔は一度は必ず味見している。婚姻に関しては政略結婚オンリーと決めているが、下半身の緩さに関しては許容を求めているため全く話が進展しないという悩みがある。

 それでも若輩者であるがゆえに失敗もいくつも経験しており、特に一夏と蘭を転生させざるを得ない状況に追い込んだことはトラウマレベル。そのため爆発系の攻撃を喰らうと体調が崩れるという欠点を持つ。

〇能力

 魔王の末裔なだけあり、基礎ポテンシャルにおいては若手悪魔の中でも一二を争う。そこに王として全力を出すための努力を重ねており、そのスペックは若手悪魔最強候補。

 基本的なステータスそのものは若手悪魔の中でも高い部類でおさまっているが、自身の王としての矜持から防御力を特に鍛えており、肉体的耐久力・魔力障壁・各種弱体化耐性すべてにおいて最高水準。防御というジャンルだけなら、魔王ですら勝ち目がない規格外となっている。

 

 

 

◆織斑一夏

 セーラ・レヴィアタンの戦車。日本でもっとも有名な女性、織斑千冬の実の弟。

 第二回モンド・グロッソで誘拐されたとき、たまたま見かけたレヴィアの介入により救出されるが、誘拐犯の最後のあがきで致命傷を負い、レヴィアにより転生される。その後偶発的なトラブルで男性でありながら初期型のISコアに適合することが発覚する。

 駒王学園ではレヴィアに引きずられる形で風紀委員に所属。ついついやりすぎてけがをさせることもあるが、そうなるとそれ以上にレヴィアに折檻されるためバランスがとれており問題に放っていない。

 幼少期から姉に守られてきたことから、誰かを守れる強さを求めて鍛え上げている。悪に対して過激でやりたいことを優先する性分は欠点なものの、レヴィアが適宜手綱を握っていることもあり女子からの人気は抜群。・・・ただし、蘭が本命だと認識されいてるため告白はされていない。

 正義感が強く顔がよく家事万能と持てるようそだらけだが、非常に鈍感。レヴィアと蘭の苦心により客観的に見る癖はついたが、どうにも自覚に乏しい。

 

 ☆神器 剣豪の腕(アーム・ザ・リッパー)

 一夏の神器。所有する武器を強化する神器。

 剣豪とは書かれているが剣でなくても使用可能であり、所有者が武器と認識できるのならかなり幅広い汎用性を持つ。のちに不知火そのものを強化することにも成功する。

 ★禁手 雷神の腕(アーム・ザ・トール)

 剣豪の腕の亜種禁手。一時的に、武器にミョルニルの特性を付加する。

 破壊力もまたミョルニルと同等という、まさしく規格外の禁手だが、その分発動時間が非常に短く、覚醒時点で十数秒しか使用できないという、規格外のピーキーな禁手。

 

☆IS 不知火

 織斑一夏が使用するIS。レヴィアが取り寄せた日本の概念実証機。

 設計コンセプトは「あらゆる次世代要素を取り除いて、現行技術で一から最高の第一世代機を開発した場合、どれだけの性能が出せるか」であり、第三世代機が開発されている現代からは考えられない先祖返りの第一世代機。その特性上実戦も競技戦闘も想定しておらず、当然量産の予定もない機体。

 その設計思想上、拡張性においては現在使用されているISの中ではぶっちぎりで最下位。反面、基本性能においては現行最新鋭の機体でも最高峰であり、そこに目を付けたレヴィアが、一夏の護身用としてコア以外の機体をすべて買い上げたという逸話を持つ。ちなみに開発業者はすでに用済みなったこともあり、金持ちの道楽と判断している。

基本的な期待性能はISの基本ともいえる高機動性能に重点を置いている。シールドエネルギーの総量も拡張領域パススロットの総量もトップクラスであり、また特殊機能をすべて排除しているため整備性などの運用能力も非常に高い。

パッケージを運用できないため局地的な運用には不向きだが、裏を返せばそれ以外の状況のおいては非常に高い。

 

 

 

◆五反田蘭

 レヴィアの眷属悪魔、駒は戦車。

 いろいろあった事件ですっかり揉まれ、今では一番ツッコミポジションで一番常識人の苦労人に。そのストレスでレヴィアを断れなくてそのまま勢いで一夏も巻き込んでと、割と負のスパイラルにはまっている。

 一夏との関係はもはや夫婦。お互いにとってなくてはならない存在になっていることは自覚しており、そこには満足している。ただし、一夏は間違いなく出世してハーレム作ることになるんだろうなぁ・・・と諦観している。

 戦闘用に複数の神器を移植し、それらすべてに適合したきわめて特殊な性質を持つ特異体質。そのため、神権簒奪(スナッチャー・セイクリッド)の異名を持つ。

 ☆神器 龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)

 龍を模した大砲を形成する神器。極東の龍の中でも強大な部類である八面王を封印した神器。

 上級悪魔相当の破壊力の砲撃を放つことができる。シンプルで隙も大きいが、それゆえに扱いやすい。

 ★禁手 八面龍の咆哮(ドラグレイ・カノン・カーニバル)

 日本に伝わる高位の龍、八面王の特性を最大限に発揮した神器。砲門の数が八問に上昇する。

 一発一発の火力は低いが、その分弾幕を張ることができ制圧射撃としては有効。のちに魔剣創造の特性を付加することで能力に幅を持たせることに成功する。

 さらに展開することで大出力を放出することが可能。その状態の破壊力は最上級悪魔クラス。

 ★禁手次奏 八面の龍神祭(ドラグレイ・カーニバル・クライマックス)

 八面龍の咆哮のさらに上位形態。悪魔の駒のリミッター解除を行うことによって発動した。

 能力は砲門のビット化。これによってアーム部分があるゆえに発生した死角を殺すことに成功しており、より高度な戦闘能力を発動可能になった。

 魔剣創造と合わせることによって防御フィールドの遠隔生成や機動力にかける味方の支援を行うことも可能になっており、非常に高い。

 

 ☆魔剣創造(ソード・バース)

 木場の持つ神器と同種の神器。蘭は砲撃戦闘がメインのため、あくまでサブとして運用していた。

 のちに魔剣を弾丸にすることで砲撃に種類を持たせることができるようになる。加えて八面龍の時は龍に牙を与えて接近戦に対応できるようになった。

 ★

 

 ☆始原の人間(アダム・サピエンス)

 身体能力強化型神器。筋力とか移動速度などではなく、人間の持つ身体能力そのものを強化する。

 その広げられる幅は数広く、それこそ五感はもちろん内蔵の機能なども強化可能。極めた使い手の中には高い自己再生能力を発揮し、生態電流で相手を感電させることができた者もいる。

 ★

 

 

 

◆松田誠太

 イッセーのスケベ仲間。事態の変更によって歩兵の駒を担当することになる。

 駒価値が少ないのが悩みの種だが、イッセー先に進んでいるという事実に一念発起。一瞬だけなら木場より早く動けるなど、成長を遂げた。

 

◆元浜太一 

 イッセーのスケベ仲間。事態の変化によって歩兵の駒を担当することとなる。

 駒価値の小ささにもくじけず、自分だけの新たな領域を探した結果、目からビームという男のロマンに開眼する。

 

 

◆織斑千冬

 女王の駒で転生した人間。世界最強の女ブリュンヒルデ。

 IS学園襲撃事件で発生した犠牲者の分の落とし前をつけるためにレヴィアに頼み込んで悪魔化。その後、単独行動権利を確保した特化戦力として参加している。

 現在は、レヴィアの一存で連盟相手に調査中。元教師としての最後の責務として、連盟に対する落とし前をつけさせることが目的。

 ☆専用IS 不知火・桜花

 昏桜の技術を参考にして開発されたIS。レヴィアが大量に出資した結果徹底的に改造されており、ベース機の不知火を凌駕する性能を発揮する。

 拡張領域を極限まで減らすことで、昏桜に搭載されていた単一仕様能力すら再現することに成功。よって切るという点においてのみならば、このISに勝る期待は開発時点で存在しないが、一瞬の反応のずれで大事故を起こしかねないピーキーな機体。

 ★単一仕様能力 「零落白夜」

 エネルギーを消滅させる単一仕様技能。じつはISコアの特性上異形存在のエネルギーにも対応可能であり、悪魔や天使などに対して非常に凶悪な能力を発揮する。

 ブレードそのものの鍛造をそれらの影響を極限まで少なくしたため切れ味は低レベルだが、間違いなく規格外の達人である千冬が持てば十分すぎるほどの殺傷力を発揮する。

 

 

 

 

 

◆セシリア・オルコット

 英国教協会から派遣されたエージェント。表の顔はIS代表候補性だが、同時に英国教協会に所属する悪魔祓い。

 強い男に興味を持ち、彼らに対して接触を行う節がある。それについて答えを返したイッセーに好意を抱く。

 ☆神器 聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)

 聖剣を作り出す神器。

 セシリアは形状変更に特化しており、その製造範囲は剣どころか槍やピックにも変更可能。

 基本的にはISと併用してピック型の聖剣を展開して戦闘を行っている。

 ☆専用IS スターダスト・ティアーズ

 イギリス製の第三世代機。異形の存在をしる英国上層部の判断により、対異形戦闘を考慮した非常に実験的な側面を持つ。

 

原型機は、同じくイギリス製の第三世代機であるブルー・ティアーズ。当初は機動力で下手な上級すら圧倒するISを対異形戦闘でも運用できないかという実験目的だったが、BT兵器の火力では高位の異形には通用しないと判断されたため計画はとん挫されるかと思われ。しかし原型機のテストパイロットであるセシリア・オルコットが神器セイクリッド・ギアに覚醒したことを機に、それを併用することを設計に組み込んだ結果完成にこぎつける。

 

セシリアの神器である聖剣創造《ブレード・ブラックスミス》と彼女の運用方法である形状変化を最大限に応用し、弾丸として使用できる形状に変化した聖剣を、電磁投射砲で発射することで戦闘を行う。また、ブルー・ティアーズのもう一つの特性である第三世代武装ビットは健在であり、これによる多角的な運用も可能。

 

ブルー・ティアーズは実験機であったために近接戦闘に難がある機体だったが、こちらはセシリアが神器があるため十分に対応可能。むしろこれにより拡張領域の多くを削減できたため、シールドエネルギーや基本性能の向上に一役買っている。

 

 ★主要武装

 電磁投射式スナイパーライフル《スターダストMk-5》

 ★固有武装

 ガンポッドビット×6

 

 

 

 ◆鳳鈴音

 一夏たちの幼馴染で、レヴィアとのつながりで身体強化系の魔法を学んでいた。

 いろいろ気を使ってアイテムを渡して分かれた結果、須弥山に目をつけられるが闘戦勝仏のとりなしで、仙術を学ぶ機会すら得る。

 その後は同盟敵対派のメンバーとして闘戦勝仏の部下として活動。同時に表向きの活動のため、ISを提供されている。

 ☆専用機 王龍

 中国が開発した第三世代機。実験機としての特性を持っており、不知火シリーズと同じく、現時点において拡張領域やパッケージの類を装備していない。

 ISコアや演算装置を利用することにより、中国の術技を運用するという特殊な設計思想で開発された機体。これは中国政府と裏でつながっている須弥山……というより帝釈天の思惑があり、ISの超高速機動性能に異形世界の術を組み合わせることで異形戦闘を可能とすることを目的とした機体。

 第三世代武装は仙道仙人と衝撃砲。仙道仙人とは高性能の演算機能であり、これと術者を疑似的に生体接続することで使用者の術技を大幅に高め、誰でも仙術を使えるようにする能力。それを併用することによって蔓を自由に操るといった芸当を可能とし、さらに不可視の衝撃砲と組み合わせることでテクニックタイプとして破格の戦闘能力を発揮する。そのため現地の植物を武器にできることから拡張領域を装備していない。

 くわえて技術試験機としての特性が強いことから、パーツの一つ一つにいたるまで高位の仙人による調整が行われており、その基礎性能は規格外。ただしこれを使うためには高いIS適正だけでなく術の心得も必要であり、そのため双方に適合する鈴が、現国家代表を差し置いて試験搭乗者に選ばれたという事情を持つ。

 当然のごとく存在を知られれば異形社会から非難されなけない技術であるため秘匿されていたが、人類統一同盟が異形技術を使用していることから情報開示を決定。そして出撃することになる。

 ★固定武装

 仙道仙人

 衝撃砲

 

 

 

 

 

◎禍の団 ヒーローズ

 

☆IS ゴースト

 人類統一同盟が開発した、第三世代IS。

 各国の技術者の協力の元、数の暴力を基本として設計されており、量産機の名にふさわしい生産性と整備性、そして操縦性を誇る。

 第三世代武装ヴァルキリー・スレイブは、ヴァルキリートレースシステムの応用発展形。使用者に歴代ヴァルキリーの操縦経験を安全な範囲内でトレースすることにより、操縦能力を急激に引き上げる。これにより短期間の訓練で前線で戦闘可能な領域にまで戦闘能力を引き上げる。

 ★パッケージ モデルグラップル

 近接格闘戦を重視したモデル。両腕及び両膝にプラズマバンカー。背部に200mm散弾砲を装備したモデル。

 ★パッケージ モデルサポート

 遠距離砲撃戦を重視したモデル。背部にプラズマキャノンを装備し、両腕には射撃支援用のセンサーユニットを装備。脚部にも姿勢安定用のスタビライザーを装着したモデル

 ★パッケージ モデルガンマレイ

 対異形戦闘を重視したモデル。バックパックに専用の核動力システムを装備し、攻撃に放射線を付加することが可能。

 ISは宇宙開発用であるため本来意味がないが、生身で行動することの多い異形存在にとっては非常に有効。人類統一同盟は最初から異形社会との戦争を前提としており、これが本命。

 

☆ISゴースト2

 ゴーストを母体として開発された第四世代機。すでに十数機が清算されているが、これは軍事的連携のテストも兼ねているため、量産機というよりかは実験機に近い。

 第四世代機の基本装備である展開装甲を主要として装備されており、それによる高い万能性が特徴。異形技術の投入によりエネルギー総量も大きいため、ゴーストに比べれば継続戦闘能力は低いが、パッケージ分の余力があるため量産機の中では比較的短い程度に収まっている。

 しかし高すぎる万能性ゆえに優秀なテストパイロットをもってしてもなお本領を発揮できないものが続出。実戦テストを行ったが、カタログスペックを引き出せるものはろくにいなかった。万能を極めているがゆえに欠陥機となってしまった機体。

 これを機に人類統一同盟は展開装甲はサブウェポンとして切り替えて新たなるアプローチを開始。当時研究されていた方向性と組み合わせた、第五世代機の試作実験を本格的に開始する。

 

 

☆IS ミッドガル

 人類統一同盟が開発した第五世代IS。

 十数メートルの大型機で、イメージインターフェイスで起動させる。

 背部に大型の展開装甲を装備し、本体はシールドとバルディッシュを使用する。大型の魔獣と戦うための実験兵器としての側面を持つ。

 大質量の人工筋肉による莫大な出力が最大の持ち味。それによる圧倒的なパワーによって発生される攻撃は、上級悪魔ですら直撃を受ければ一撃で粉々になるほど。それを最大限に生かすために機体を大型化させている。

 

☆IS SAA

 セイクリッドギア所有者が乗り込むことを前提として開発された第三世代IS。対異形戦闘を視野に入れた機体であり、ゴーストのケラウノスよりスターダスト・ティアーズに設計思想が近い。

 拡張領域は装備しているが基本的にサブであり、根本思想として攻撃は神器で行うことを前提としている。さらに周囲の魔力を吸収してシールドエネルギーに変換するシステム「システム・マギウス」を装備。そのため拡張領域以外のISの機能は非常に高性能。

 搭乗者を選ぶその特性から開発国では量産を見送っていたが、シャロッコ達異形が確保してヒーローズの主力機として運用している。

 

 

◇シャロッコ・アスモデウス

 第二次ISコアを開発した科学者にして魔法使い。そして禍の団の折衝の1人にしてヒーローズの団長を務めている男。

 リバースエンジニアリング及び技術の応用に優れた才能を発揮する科学者。実際に自分で動かしてこそ見える者がるという持論と責任感から、自ら前線に出てくることもたびたびある。

 科学者として「神の奇跡を誰でも使える理屈に貶めるのが科学」「新たな未来へ進める者」という二つの持論を持ち、そのために活動している。

 人間のハーフであることから神器を保有している傑物。その特性を最大限に発揮して、莫大な戦闘能力を発揮する。

 ☆神器 魔性の敵対者《イーヴィル・イレイザー》

 準神滅具のカテゴリーに存在する神器。能力は魔力の無効化。

 その特性上悪魔にとって天敵ともいえる能力。出力も非常に高く、最上級悪魔クラスをもってしてでも完全な無効化は困難であり、フィールドを収束されれば魔王クラスでも魔力では軽症を与えるのがやっと。

 ★禁手

 ☆専用機 センコウ

 全長9メートルの第五世代機。

 ミッドガルを再設計した高級機であり、展開装甲を全身に搭載しているこのが特徴。基本的には推進機能と防御フィールド発生に重きを置いており、これにより機動力と防御力を両立させることに成功した。その最大出力状態では全身が閃光に包まれることと、技術的に人類統一同盟の先を行くものというダブルミーニング。

 主武装は予備を複数装備した単分子チェーンソーブレード

 

 

◆曹操

 ヒーローズの戦闘指揮官を務める男。三国志の英傑の一人である曹操の末裔。

 シャロッコの影響、そして箒との邂逅を経て「英雄とは、人類を未来へ進める者」「その事実の前に、あらゆる悪徳は意味をなさない」という持論を獲得。そのためより良き未来を求めてIS使用者として活躍することを目的として活動している。

 ☆専用IS 

 ★禁手次奏 |聖槍の加護受けよ聖騎士達《トゥルー・ロンギヌス・ディバイン・クルセイダーズ》

 曹操が発動する禁手次奏。能力は聖槍の力を微弱ながら味方に付与すること。

 これにより周囲の味方は簡易的な聖槍の保有者となる。また、応用としてISを含めた装備を強化するというよう方法も存在する。

 ★単一仕様能力 無情たる現世

 イカロス・カッシウスと曹操の単一仕様能力。能力はほかの単一仕様能力の封印。

 単一仕様能力に至ったIS使用者にとって天敵ともいえる能力だが、これを最大限に発揮するにはそれだけの領域にとうたつしたIS使用者を屠るだけの戦闘能力が必要不可欠というピーキーな能力。

 

 

◆篠ノ乃箒

 曹操の恋人。IS開発者篠ノ乃束の実妹。

 束の無軌道な行動によって振り回されていた時に曹操に出会い、彼に拾われたことで好意を持つ。

 ISという存在で強制的に塗り替えられた世界を塗り替えなおすという野望を持ち、そしてそれを達成させてくれたシャロッコにも忠誠を誓っている。

 ☆神器 獅子の一閃(レグルス・ネクロ)

 ネメアの獅子の死体から作られた準神滅具。優れた威力を持つ斧であると同時に、所有者に防護加護を与える。

 禁手は二刀流の刀の形になり、防護加護が遠距離以外にも発動できる獅子の双刀(レグルス・ネクロ・ツインセイバー)。さらに次奏として所有者の肉体を侵食して、ネメアの獅子の獣人化させる獣王剣士・獅子変性(レグルス・レオーネ・プロモーション)を保有している。

 箒は亜種で、二振り装備している。

 ☆専用ISアマルガム・レオーネ

 篠ノ乃箒が試験搭乗者を務める実験機で、種別は第三世代。本来は功績もあり第四世代機を授与される予定だったが、それを拒んだ箒の意向に合わせて提供された機体。

 その本質は液体金属でできたゴーレムであり、形状を自由に変更することで近距離戦闘において非常に高い汎用性を発揮する。液体金属に関してはナノマシンと各種術式の複合で行われており、人間と異形の技術を複合させている試験機でもある、

 液状金属を変化させることによって高い汎用性を発揮する。空気抵抗に対する干渉による高い運動性能や、第三世代ISでは破格の大質量攻撃などが可能。とはいえそれは理論上可能なだけであり、基本的には圧力をかけてカッターにするのが基本的な運用思想。その特性と箒の神器もあり、基本的には近接戦闘特化だが、液状金属を腕として使用することで、多重砲撃を行うなど理論上は砲撃戦でも応用可能。

 展開装甲とは別のアプローチで単騎による高い汎用性を目指した機体。事実、異形技術を使っているとはいえ近接戦闘の応用性では展開装甲をしのぐレベルに到達している。

 

 

◆ジャンヌ・ダルク

 ★禁手次奏 双極の魔聖剣(ブレード・オブ・ビトレイヤー)

 聖剣創造の禁手次奏。聖魔剣と同種の魔聖剣を想像する。

 これにより魔剣創造の特性すら発揮することが可能になり、さらに魔剣創造の禁手を発動させることも可能。加えて木場とは違い魔聖剣のほうは次奏であるためどちらでも発動可能という利点を持つ。

 

◆ヘラクレス

 ★禁手次奏 巨人の勧誘(バリアント・ブラックホール)

 巨人の悪戯の禁手次奏。能力は対象の吸引。

 ある意味で拡散といえる爆発の逆。吸収を発動させることにより、相手を急激に接近させる能力。一種の疑似ブラックホールかともいえる。

 流石に本当にブラックホールに匹敵する吸引力を発揮できるわけではないが、それでもかなりの吸引力を発揮するため、上級悪魔程度ではどうにかすることは不可能に近い。

 

◆ラウラ・ボーデヴィッヒ

 ドイツ軍が連盟に与したこともあり、そのまま活動する。同時に神器を宿していることも判明したため、禍の団に所属している。

 千冬が敵対している状況下で軍事的行動を行っていることに不満を抱いており、離反も考慮しているが軍人としての思考でそれもできない。そこに一夏の存在を確認したため、割と本気でブチギレている。

 ☆神器 紫電の双手(ライトニング・シェイク)

 雷撃攻撃神器。両腕から紫電を放出する。

 禁手は紫電の鎧(ライトニング・シェイク・フルアーマー)。全身に雷撃をまとうことで鎧とすることができる。

 ☆専用IS シュヴァルツイカロス

 イカロスのラウラ専用カスタム機。

 彼女が慣れ親しんでいたAISを搭載することを前提としており、脚部展開装甲を排除する代わりにワイヤーアンカーと共に装備。これにより相手を捕縛してからの雷撃攻撃による殲滅を基本としている。

 

 

◆シャルロット・デュノア

 デュノア社が禍の団に飲み込まれた際にシャロッコに才能を見込まれて拾われており、その際の感謝からシャロッコに敬服している。

 シャロッコ直属のテストパイロットであり腕は一流。直属エージェントとして活動している。

 ☆神器 異界の蔵(スぺイス・カーゴ)

 異空間を確保する神器。その容量は大型タンカーに匹敵する。

 異空間に放り込んだ物体は近くに召喚することができるのが特徴。シャルロットはこれを最大限に利用して輸送任務などを行うことが可能。

 ★禁手 異界の扉(ゲート・ディメンション)

 異空間に放り込んだ物体を、離れたところに召喚する禁手。

 これにより爆発物を召喚して撃ち抜き、敵を爆発に巻き込むのが戦術となる。

 ☆専用機 ヘカトーン

 シャルロット専用機。

 カスタム・ウイングがアームとなっており、これによって同時にいくつもの武装を運用することができるのが特徴の機体。主に砲撃戦における面制圧を主眼としているが、使用者の技量があればマルチロックオンなどといった行動も可能。

 さらに、脚部に隠し腕を内蔵していたり脚部そのものが簡易アームとして使用可能だったりと、とにもかくにも全身が腕となっているのが最大の特徴。それ以外の性能はゴースト2とさほど変わらないが、圧倒的武器貯蔵量を誇るシャルロットとの組み合わせにより、大火力兵器による面制圧を可能とする。

 

◆更敷簪

 ヒーローズに所属する戦士の1人。元日本の代表候補性。

 その姉に対するコンプレックスを見抜いた曹操に誘われ、英雄になるべく人類統一同盟に参加。

 しかしそれは姉の敵討ちのためであり、最終的に曹操の真後ろをとれたことで躊躇なく動くが失敗する。

 ☆専用機 ピグマリオン

 簪が使用する実験機。素体としては第五世代機に属する。

 それ単体はごくごく小規模化された両手両足の増加装甲に、カスタムウイングが設置されただけの小型な期待。イメージはEX-ギア。

 その本質は超大型のパッケージとの組み合わせで運用される、ISの垣根を外した超兵器開発のプロトタイプ

 ●パッケージ タテナシ

 18メートルの機動兵器。人型兵器を母胎としているが、バックパックと腰部に装備されたスラスターユニットとさらに装備された装備により異様な外見をしている。

 実は機体と物理接続されているのではなく遠隔接続されているため、性能が落ちることと引き換えに分離しての連携攻撃も可能。またその特性ゆえに騎乗物に認定されるため、洋服崩壊の影響を受けない。

 主武装は大型機の大出力とサイズを生かしたメイス及びライフル。さらに背中に自衛用としてレールガンを装備するが、それ以上に強力なのはミサイルランチャー。

 両足及び両肩に搭載された、マルチミサイルランチャーによる一斉砲撃が持ち味。しかもこれらは使用者である簪の高度な演算能力により、自由に操ることで攻撃を回避しながら敵を狙うという芸当を可能とする。

 

◎真悪魔派

 

 ☆臣下の駒

 王の駒のデータをもとに、ゲシオンが開発した新型の悪魔の駒。

 女王の駒の劣化版という性能を持っているが、反面非常に高い生産性を発揮し、その効率は兵士の駒より安価勝つ短期間で製造できる。

 

 ☆従僕の駒

 新型の悪魔の駒。

 強化能力を持たない代わりに、桁違いの生産性を持った悪魔の駒。加えてほかの悪魔の駒からの再生性も容易であり、兵士の駒一つで15は生産できる。

 ネバンたちはこの駒を利用して、世界各国のストリートチルドレンや難民を雇い入れている。最悪なのは人並みに生活を与えられたことで彼ら自身が満足しているため、むしろ積極的に協力していること。

 

 ◇ネバン・アスモデウス

 真悪魔派の一人である、若手悪魔。レヴィアと近い理由で袂を分かった旧魔王アスモデウスの末裔。

 しかしそれはあくまで最終的な勝利を得るためのものであり、それすら捨て去った現四大魔王に見切りをつけてクーデターを引き起こす。

 性格は種族を愛する実力主義者。ゆえに悪魔という種を発展させたいのならば悪魔という種族を強化する方向で行くべきとの持論を持ち、血統に溺れた貴族も嫌悪している。反面そのために手段を選ばないためドーピングなどの改造手術もいとわないという危険性を持つ。とどめにそれはすなわち弱者は従えという弱肉強食の持論である。

 また、悪魔は悪徳を司る存在であるべしとの持論を持ち、人類統一同盟をいずれ堕落させる契約相手としてみている。最終的には宇宙開発を行い銀河系に進出し、異星人すら悪徳に沈めることを理想といている。より良いところを目指す、生命の本能に忠実な生き物。

 其のため実力者には一定の経緯を示す性分であり、多種族からの転生悪魔の実力もきちんと考慮している。ただしそのうえでまがい物の意識だけは決して崩さないため、一定以上の権利を与えることには難色を示している。

 戦闘においては純粋な魔力の放出を中心とする戦闘を好む。これは、悪魔としてそれにふさわしい魔力の運用での戦闘こそがふさわしいと考えているため。また、サソリの尾の姿をした魔力の塊を運用することにもたけている。そして超越者としての神器支配能力を持ち、禁手までなら自由に神器を操ることができるという規格外の素質を持っている。

 実は魅了の力を保有している。発動すると髪の色が桃色に染まる上に自覚するととけやすくなるため大したことのない能力。

 己の目的達成のためにあらゆるものを行っており、不断の努力と天賦の才、さらに権力を生かして様々な技術をかき集めている。其れだけならまだしも、下手をすれば死んでもおかしくない様々な改造手術を受けており、骨格は聖剣と同等の材質に置き換え、神経系にも手を加えている。

 ☆専用機 双天龍

 ネバンの専用IS……というより体そのもの。

 ネバンは改造の過程でISコアを取り込み、自分の体そのものとしている。これにより、生身でありながら圧倒的な機動力を発揮する。ちなみに戦闘時にはカスタムウイングが展開する。

 カスタムウイングは四機の攻撃特化型と、二機の推進及び防御特化型に分かれており、これにより展開装甲の万能性を分割させることによって操作性を向上させている。また、攻撃特化型展開装甲は特殊ワイヤーによってつながっており、オールレンジ攻撃が可能。ワイヤーそのものも擬態の聖剣のデータをもってして改良されており、それ自体が一種の武器として運用できる。

 ★単一仕様能力

 ☆神器 魔剣創造(ソード・バース)

 ★禁手 魔性なりし魔剣の騎士団(スライサー・デビル・クルセイダー)

 魔剣創造の亜種禁手。魔剣でできた騎士を複数想像するという点では特に変化がないように見えるが、その実悪魔として騎士を想像する。

 これにより飛行が可能であり、機動力という点において通常の禁手を凌駕する点が持ち味。

 ☆神器 停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)

 ★禁手 加速世界の晴眼()

 ☆神器 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)

 ★禁手 聖母の笑みは凍り付く(トワイライト・ヒーリング・キャンセラー)

 聖母の微笑の亜種禁手。能力は、聖母の微笑の効果を停止させること。

 

◆リゼヴィム・リヴァン・ルシファー

 ネバンの女王。

 ネバンが脱走前に魅了の力をかけており、それによって魅了されている。魅了されていることはとっくの昔に自覚しているが、魅了される感覚そのものに魅了されており、解除する気は一切ない。

 

◆ユーグリッド・ルキフグス

 ネバンの僧侶(駒二つ)

 

◇ホグニ

 ネバンの騎士(駒二つ)。

 北欧神話において、神々に振り回されて百年を超える殺し合いを続けてきた英雄ホグニの魂を継ぐもの。そのためアースガルズを心底憎んでおり、彼らに対する復讐と引き換えにネバンと契約を結んでいる。

 立ち位置と傭兵と割り切っており、昇格するつもりはかけらもない。むしろ転生悪魔をまがい物とするネバンの考え方には同意しており、出世しようなどと考える転生悪魔こそを恥知らずとさげすんでいる。

 ☆神器 聖騎士王の鞘(シース・オブ・キャメロット)

 エクスカリバーの鞘をベースにして作られた準神滅具。

 能力は所有者を害されにくくすること。防御力の強化から自己再生能力の付加、加えて各種呪いなどに対する耐性などを大幅に向上させる。

 禁手は手に持つものをエクスカリバー級の聖剣へと変貌させる聖騎士王の聖剣(ソード・オブ・エクスカリバー)。最初の段階ではただの聖剣なだけだが、慣れていくごとにエクスカリバーの能力が追加される。

 

★禁手次奏 万象剣の鞘(シース・オブ・ソード)

 聖騎士王の鞘の禁手次奏。

 能力は、あらゆる剣の能力の封印。神器無効化能力の件バージョンであり、異能によってつくられた剣の力ならば問答無用でただの鉄剣と同等にまで貶める。

 

 



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