Armour IS Zone Re2 (アマゾンズ)
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人物設定

人物設定です。

途中で色々追加したり、消したりするかもしれません。


名前・雨宮鏡夜(本名・織斑鏡夜)

 

織斑家の養子となり織斑一夏とは義兄の関係である。平穏に暮らしていたが中学校の卒業式にとある研究所に拉致され、Armour(アーマー)細胞と呼ばれる細胞を移植されてしまう。

 

性格はどこか冷め切っているが静かに燃えているタイプ、鷹山仁の奔放さを真似ているような感じで口は悪いが仲間想いであり、束の前だと七羽に甘える仁のようになる。

 

移植された半年後に憤怒した篠ノ之束によって救出されたが家族へ帰る事は出来ないと束の下で鍛錬と勉強をする。

 

束の救出の目的は鏡夜に移植されたArmour細胞だったが、鏡夜自身が自らをサンプルとすることで引き換えに束に抑制する物の開発を依頼した。

 

束と鏡夜は親しい関係に戻っており、依頼を受けた束がArmour細胞を抑制するZone(ゾーン)細胞を開発。

 

それと同時に研究所にて奪取したアマゾンドライバーも改修した。更にそのデータを利用し改良型のネオアマゾンズドライバーも開発した。

 

Zone細胞によってArmour細胞の抑制は出来たが凶暴性は抑制できないままである。

 

家族であった織斑千冬、織斑一夏とは愛憎によって距離を置いている

 

特に一夏に対しては甘い思考が抜けておらず、自分は全てを守るという思考を「自分の都合で守りたい者を選別している」と否定している為、相容れない。

 

搭乗IS・天鎧

 

束が鏡夜の専用機として開発した第三世代と第四世代の中間に位置するISであり、ISとされているが鏡夜自身が変身したアマゾンに空中戦が出来るようにしている姿。空中戦を補うためにアマゾンドライバーを改修した際にISの特性を取り入れられている。

 

オメガになることで凶暴性が増してしまう為に普段は冷静さを保てるアルファへ変身することが多い。許せない時や本気を出すと決めた時のみオメガに変身する。

 

初期設定の姿はアマゾンアルファ

 

第一形態によってアマゾンオメガとなるがアルファにもなれる

 

第二形態はアルファの傷を持ったアマゾンオメガの姿となる。

 

 

また、ネオアマゾンズドライバーを使用する事でよりISとの親和性が上がるが負担が大きい為に滅多に使用しない。

 

ネオアマゾンズドライバー使用時はニューオメガの姿となる。

 

装備

小太刀、鎌、槍、鞭

 

必殺コード

 

バイオレントパニッシュ

腕についたレザーカッターを展開しエネルギーで覆い切り裂く必殺技

 

バイオレントブレイク

武器にエネルギーを纏わせ強化状態にしその武器で攻撃する。

 

バイオレントストライク

足にあるフットカッターを展開させ蹴り技で相手を破壊する必殺技

 

バイオレントスラッシュ

両腕のレザーカッターを展開し連続で斬りかかる必殺技

 

ISの待機状態は腕に身に付けるアマゾンレジスターのようなブレスレットとなる。

 

周りからはフルスキン(全身装甲)のISとして認知されており、その姿から恐怖の対象ともされている。



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過去編
Prologue1 The birth 誕生の時


喰らわれるな、喰いつくせ。

例えそれが大切であっても己の糧にする為に



ある場所に隠されているようにそびえ立つ研究所、そこでは実験を続ける科学者達がいた。

 

 

「やはり動物では限界が来たようだな」

 

 

一匹の動物が投与された物に適合できず崩壊していった。崩壊した姿はまるでコールタールのように粘り気のある物になっている。

 

「しかし所長、望んで人体実験に参加した者達も暴走してこのように崩壊したんですよ?」

 

「ふ、それならば適合しやすい肉体を手に入れれば良い。出来れば十代半ばの若い者をな」

 

所長と呼ばれる人物とその助手は話に熱が入っていた。目には実験を成功させようとする意志しか無い。

 

「このArmour(アーマー)細胞に適合した人間が現れた時にこそ、世界が変わる!」

 

今現在の世の中は工学に力が注がれており、生物学は見向きもされなくなっているが、この研究所では工学以上の何かを作り出そうとしている。

 

所長と呼ばれた人物は含み笑いを見せるとすぐに命令を出した。

 

「必要であれば拉致してきても構わん!実験体を大量に連れて来い!」

 

「了解しました」

 

「世界を変えるのは工学ではない、私の生物学の研究の結晶Armour(アーマー)細胞なのだ!」

 

 

大量に拉致された若人は実験体となったが、誰一人として適合できず難航していた。

 

誰もがArmour(アーマー)細胞を投与された瞬間にもがき苦しみ、融解してしまっていた。

 

「ぎゃあああああ!」

 

「クソッ!何故だ!?なぜ適合しない!?」

 

「所長、それならば適合率が高い者を選別して連れて来るべきでは?」

 

助手はコンピューターに実験記録を打ち込むとそう博士に意見した。能面もような顔からは実験体にされた人への慈悲などない。

 

「ふむ、それもそうだな」

 

「今も検索をかけていますが、なかなか適合する者はいませんね」

 

コンピューターのキーを叩き続け、送られてくるデータを見ているが一向に不適合の結果が送られてくるだけだった。

 

「ならば、しばらく時間を置くとしよう」

 

「は?」

 

「焦っても仕方ないだろう?時間を置けば新しい者達の中に適合者が生まれるやもしれん」

 

「なるほど、可能性は高いですね」

 

所長の意見に納得し、助手は頷いた。焦っても手に入らないのならば機会を待てばいい、それはまるで熟成を待つワインのように。

 

「目覚めの時を待つがいい、今は・・・な」

 

 

 

それとは別にある家庭では夫婦らしき男女が話し合いをしている。その隣ではその子供らしき少年が微睡みの中にいる。

 

男女は自宅にも関わらず白衣を着ており、子供を見ている。

 

 

「この・・・子・・養子・・・・」

 

「ああ・・・それ・・・一番」

 

両親が話しているんだろう、聞き取りにくいが声はしていた。

 

「織斑家に・・・」

 

「・・・・・」

 

どんな形になろうと生き抜いてやると彼はぼんやりと睡魔が襲ってくる思考の中で思っていた。

 

 

そして幼年期の6年に差し掛かったその日に歯車は動き出した。

 

 

「織斑鏡夜、今日からうちの養子になった子だ」

 

 

「ほらお姉ちゃんと弟だよ?」

 

「おねえちゃんと・・・おとうと?」

 

 

 

 

 

 

 

「おりむらちふゆだ」

 

「おりむらいちか」

 

 

 

「今日から鏡夜をたのむぞ?二人共」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくたのむぞ、きょうや!!」

 

「よろしく、きょうやにい」

 

 

 

 

 

 

「よろしくね、ちふゆ、いちか」

 

 

 

 

 

 

 

「む、わたしのほうがおねえさんだぞ?ちふゆねえとよべ!」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ・・・ちふゆねえ、これでいい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん!それでいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

「はは、すっかり仲良くなったようだな」

 

 

 

 

 

 

 

「ちふゆねえ、ずるい、ぼくもきょうやにいとおはなししたい!」

 

 

 

 

 

 

「これからはいっぱいはなせるよ、かぞくなんだから!」

 

 

「そうだな!」

 

「きょうやにい!ずっといっしょだよ!!」

 

これは鏡夜が初めて家族と出会った日であり、織斑家に養子となった鏡夜はISと呼ばれるものと出会うことになる。




Armour IS Zoneをリメイクしようと思い立った理由はシーズン2です。

Armour IS Zoneからほぼ写しになりますが、ネオアマゾンズドライバーは使う予定です。

人物設定も大幅に変わります。


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Prologue2 Beast 内なる獣

喰らわれるのは一瞬

喰らう者にとっては糧を得る瞬間

それこそが獣の生きる手段にほかならない。


織斑家の養子となり織斑鏡夜と名乗るようになって、9年の歳月が過ぎた。

 

義務教育である中学校を卒業する、彼にとっては長い年月ではあったが充実もしていた。

 

「とりあえず、俺達も卒業か」

 

「そうだな、鏡夜兄」

 

 

鏡夜と一夏は帰り道を一緒に歩いていた。その手には卒業証書が入っている筒を持っている。

 

「三年間を勉強しながらの学校の許可有りバイトするとはな?一夏」

 

「千冬姉に負担をかけないようにしたかったしな、鏡夜兄だってやってたじゃん」

 

「俺は最低限しかやってない上、休日は道場通いだったからな。でも、これからは学校の許可無しで働ける」

 

二人は明るく話しているが鏡夜が養子となって13歳になった日に両親が蒸発したのだ。

 

それにより、千冬一人の負担が大きくなると考え、強引に学校に頼み込んで特別許可をもらい、アルバイトをしていた。

 

「いいよなぁ、鏡夜兄は早生れでさ。すぐに年齢パス出来んだもん」

 

「早生れでもさほどお前と変わらんさ」

 

一夏は鏡夜を兄と呼んでいるが鏡夜自身は一夏と変わらない年代であり、早生れの影響で周りより早めに年齢が加算されてしまう。

 

ただそれだけの事だが、一夏にとっては少しだけ追い抜かれたような感じがしていたのだ。

 

アルバイトと同時に鏡夜の方は休日に空手の道場に通って、己を鍛えることを忘れないでいた。

 

義理の姉である千冬から剣道を勧められたが、初めて自分の意思を見せ空手をやると宣言し、千冬自身もそれを咎めることはしなかった。

 

「あ、俺、弾達と約束してたんだ!」

 

「行ってこい、俺は先に帰る」

 

「わかった!それじゃ!」

 

一夏と別れ、鏡夜は一足先に自宅へ帰ろうと狭い路地を一人歩いていた。人通りも無く、鏡夜は口笛を吹きながら歩き続ける。

 

「サンプルの逸材を見つけた」

 

「了解、採取する」

 

鏡夜の後ろで誰かが指示を受け、何者かが鏡夜の背後へと音も立てず近づいた。

 

「!誰だ!?アンタ!?ぐあああ!あ・・・が・・」

 

振り向いた瞬間に鏡夜は謎の人物にスタンガンを浴びせられ気絶してしまった。

 

「ターゲット確保しました、これより帰還します」

 

 

 

 

世間から隔離された場所にある研究所、それは名も無い生体兵器の研究、製造をする一種の研究所であった。

 

「この子供は使えるな」

 

「所長、この子供の適合率は他のサンプル以上にずば抜けております」

 

研究員は横たえられた鏡夜の生体データを見て歓喜していた。それもその筈、自分達の研究成果に適応できるサンプルが目の前にいるのだから。

 

「この研究成果であるArmour(アーマー)細胞を人間に投与出来る日が来るとは」

 

鏡夜の腕に投与装置が着けられ少しずつArmour(アーマー)細胞が投与されていく。

 

「が・・・ぐ・・・ア・・アが・・あ!」

 

鏡夜の身体はガクガクと痙攣を起こし、白目を剥きかけるが次第に落ち着き始めてきていた。

 

「投与率85%、90%、95%、100%、投与完了しました!」

 

鏡夜の声が呻く中、研究員の一人は歓喜の表情でディスプレイを見ている。

 

「しばらくは培養槽にて定着させろ」

 

「はい、分かりました」

 

投与から約半年が過ぎ、実験体は目を覚ました。その姿はまだ人間だが、何の抵抗も動きもない、ただ目を開いて目の前にいる人物を見つめている。

 

「成功だ!私達は最強の生体兵器を完成させたのだ!ハハハハッ!!」

 

「・・・・・グ」

 

実験体は身体を動かす事ができず、ただ目の前の相手を見続けている事しかできないままであった。

 

 

 

 

 

「きょうくんが居なくなって半年、ようやく見つけたよ」

 

 

兎の耳のようなカチューシャを身に付け、青いドレス、長く赤い髪を揺らしている一人の女性がコンピューターのキーを叩いている。

 

 

「場所は隠していてもコンピューターを使っているなら、この束さんにとって逆探知は簡単だよ」

 

そう、彼女こそが世界中が捜し求めているIS開発者、篠ノ之束である。彼女が行動している理由は二つある、一つは鏡夜の救出、そしてもう一つはこの研究所で研究されていた物のサンプルである。

 

 

「きょうくんは取り戻す、必ずね!それとこの生物研究所が何を作っていたのか見せてもらわないとね」

 

 

束の目は取られたものを取り返そうとする襲撃者の目であった。彼女は気に入ったものを横取りされるのが最も嫌いであり、必ず取り返す性分であった。

 

「お前らに地獄よりも苦しいものがあるというのを教えてやる」

 

逆探知した研究所に襲撃をかける為に束は手製のロケットに乗り、行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

束が襲撃をかけようと向かっている最中、研究所は大混乱に陥っていた。

 

「全ての計器が使えません!セキュリティシステムがダウンします!」

 

「ま、まずい!プロトタイプの実験体が!」

 

研究所の地下に拘束されていた実験体が鎖を引き千切り、地下から脱走した。

 

その動きは野生のジャガーやヒョウを思わせる程に素早く、研究所の一階にまでたどり着いていた。

 

「ウオアアアアアアア!!」

 

「実験体が!ここに向かっています!」

 

 

アマゾン実験体は走りながら、あらゆる装置を破壊しつつ本能に従い、出口を目指している。

 

「オレハ・・・ニンゲン・・・ダ、オレハ人間だぁ!」

 

実験体は研究員の全てを殴り、失神させた後に暴走して建物を破壊し続けていた。

 

爆音と共に外での大きな音もかき消されていたが、人参型のロケットが研究所の外に突き刺さっていた。

 

 

「建物がボロボロになってる・・・どうして?」

 

ロケットから飛び降りた束は内部から破壊されている研究所を見て拍子抜けしてしまっていた。

 

「この束さんが徹底的にやってやろうと思ったにな、とりあえず中に入ろうか」

 

研究所内部はまるで銃撃戦か何かがあったのかのように壁という壁に穴が空いており、そこらじゅうには亀裂が走っていた。

 

「ただの人間がここまで壊すには重機でも使わなきゃ無理だよね。何かいるのかな?」

 

ウオオオオオオオアアアア!

 

「!?何?今の・・・」

 

研究所内部から獣の様な咆哮が上がり、束は身震いしてしまった。どうやら近くにいるようで恐怖心と好奇心が同時に溢れ出てきた束は好奇心が上回り、咆哮のした方角へと向かっていく。

 

「カハァァァァァ・・・!」

 

そこには緑色と赤色をした異形、何かを狩ろうとする雰囲気、人の形をした獣がそこにいた。

 

「まさか、きょう・・・くん・・なの?」

 

束は直感的に緑の異形の中にある知り合いの姿が重なって見えていた。どんなに異形となっていてもどこか懐かしさを感じるものがあった為だ。

 

「タバネ・・・サン・・・・?ウウ・・アアァ!」

 

「きょうくん、ごめんね!!」

 

束は襲いかかってきそうな緑色と赤色の異形に対し、自分の開発した機械によって何かを撃ち込んだ。

 

「ガ!ウア・・あ・・・・」

 

弾丸のような物を受けた異形はそのまま倒れこみ、織斑鏡夜の姿へと元に戻った。

 

「きょうくん・・・ん?」

 

束は鏡夜の隣の部屋に入り、扉が空いている金庫らしき物からベルトのような何かを二本見つけ出し、拾い上げた。持っていこうとした人物は間に合わず、この場に放置したのだろう。

 

「ふーん、面白そうな物を作ってたんだね、これはもらっておこうっと。きょうくんに埋め込まれた何かにも興味あるしね。気絶したままだけど、私の隠れ家に案内するね」

 

束は鏡夜とベルトを回収すると自作ロケットに乗り込み、自らが住んでいる隠れ家へ飛んだ。

 

 

 

 

 

「うう・・・ここはどこだ?な!」

 

鏡夜は目を覚ますと拘束されていることに気がついた。かなり厳重で鎖が二重になっている。

 

「お久だねー、きょうくん。」

 

「束さん?これは一体どういう事ですか?」

 

鏡夜は束を睨むが束はどこ吹く風といった様子だ、異形の姿を見たとなれば警戒し拘束するのは当然の事だろう。

 

「きょうくんの中にある変わったものが欲しくてね?」

 

束は笑顔で平然と言ってくるが、科学者として自分の事を見ていることに鏡夜は気づいた。

 

「なら、拘束を少し緩めてください、全てをお話しますから」

 

「むー、仕方ないか」

 

拘束を緩められた鏡夜は拉致された事、拉致された研究所での事を包み隠さず束に話した。

 

「つまり、きょうくんの身体の中にはArmour(アーマー)細胞という細胞があるんだね?」

 

「ええ、完全に同化しているらしくて除去はできないみたいです。それに腹が減ると肉や卵(タンパク質)が欲しくて仕方なくなるんですよ」

 

鏡夜は自分の変化を話しながらも少しずつ空腹になっており、。食人衝動は微弱だがあるようで束自身を狙っているようだ。

 

「なら、少し待ってね?」

 

どこから取り出したのか、束は鏡夜にゆで卵を差し出した。最も簡単で手軽に肉と同様、タンパク質を取る事が可能な食べ物だ。

 

「!!」

 

それを見た鏡夜は起き上がって奪い取るように、差し出されたゆで卵を取ると殻を器用に剥き、貪り食った。

 

「はぁ・・はぁ」

 

「凄い勢いだねー、そんなにお腹空いてたんだ?」

 

「言ったでしょう?腹が減ると欲しくなるって」

 

束は笑顔のまま表情を崩さず、ゆで卵を食らった鏡夜を見ていた。人間では無くなっている事を目の前で見せられたのを隠すために笑顔のままなのだろう。

 

「束さん」

 

「なーに?」

 

鏡夜は顔を上げると束に頼み込むように頭を下げた。それは彼女にしか出来ない事であると言いたげな様子で。

 

「頼む、束さん!俺の中の獣を抑えてくれ!」

 

「君の中の獣?(あの姿のことかな?)」

 

束は少し思考すると研究所襲撃時に出会った異形(アマゾン)を思い出していた。あの姿が彼の獣としての姿なのだろう。それを抑えて欲しいと頼み込んできたお気に入りの相手だ。無下には出来なかった。

 

「他ならぬきょうくんの頼み事だもの、束さんにまっかせなさーい!」

 

「ありがとうございます、束さん」

 

「その代わり、君の中のArmour(アーマー)細胞のサンプルを採らせてね?」

 

鏡夜にとっては自らを差し出せと言わんばかりの条件を束は出してきた。抑制する物を作るとなればまずその抑制する物の原型を知らなければならない。

 

例えるなら蛇の毒の解毒薬を作るのなら、その蛇が持つ毒の特性を知らなければならない事と同じである為だ。

 

「構いませんよ、俺自身を使ってください」

 

「即決したね?」

 

「束さんの思考はちょっとだけわかるんですよ」

 

「生意気だぞー?きょうくん!ところで、ちーちゃんやいっくんの所へ帰るの?」

 

「いえ、もう帰れませんよ、今帰ったら二人を喰らいそうですから」

 

鏡夜は一瞬だけ目を伏せるとすぐに表情を引き締めた。

 

「そうだね、それならしばらく一緒にいよっか?2日もあれば抑制細胞できちゃうし」

 

「はい、そうします」

 

こうして鏡夜は束と共同生活する事となった。その間に鏡夜は出遅れてしまった学生としての勉学を束から教えてもらいつつ、更には束が開発した稽古用ロボットを使い、空手の稽古まで付けてくれていた。

 

空手の稽古には達人のデータや自分と同じレベルの実力者などのデータで難易度を変えて貰う事で稽古に変化を付ける事が出来た事で実力を上げていった。

 

そして宣言通り、わずか二日間でArmour(アーマー)細胞を抑制する人工細胞の開発にを成功させてしまったのだ。

 

そして、細胞の投与の日となった。

 

「さ、今日は抑制細胞の投与だよー!」

 

「お願いします、束さん」

 

「うんうん、Armour(アーマー)細胞のサンプルとデータから作ったこの束さん特性のZone(ゾーン)細胞を投与すれば大丈夫だよ」

 

束は鏡夜にZone(ゾーン)細胞を投与するための装置を着けた。身体の隅々にまで行き渡らせるために全身に装置が着けられている。

 

「投与はすぐだから楽にしててね?」

 

キーを叩くと投与が開始され、ほんの数秒で投与が完了した。鏡夜は立ち上がるが急激な視界の歪みに座り込んだ。

 

「う・・流石にクラクラしますね」

 

「それはそうだよ、活性化を抑制させてるんだもの」

 

鏡夜はゆっくり立ち上がるが、フラッと倒れ込んで何かに触れてしまった。

 

「え、嘘!!きょうくんがISを起動させた!?いっくんと同じように?」

 

「・・なんだよこれ?」

 

ISに触れた事に気づいていない鏡夜は驚愕し、それを目撃した束はその場で静止していた。

 

「きょうくん、IS学園へ行って」

 

「え?」

 

「政府を説得して入学できるようにするから、ここに居るよりも良いかもしれない」

 

「分かりました。いきなりで驚いてますけど、そうします」

 

束の表情から鏡夜は自分が此処にいるべきではないと悟り、束の提案に従った。

 

「それと、これを持って行って」

 

束が差し出したのは襲撃の際に回収したベルトだった。そのベルトは二本あり、一方は何かを注入しなければ起動しないタイプで、もう一本は左右にグリップが着いている。

 

「これは?」

 

「それを使えばArmour(アーマー)細胞を活性化させても、制御状態で姿を変えられるよ。薬物注入タイプは束さんがグリップを使うタイプのベルトを研究して、完成させたものだよ」

 

「なるほど、これを使えば」

 

「それと、ISの特性もそのベルトに組み込んでおいたからね、ISとして登録されるよ」

 

「さすが束さんですね」

 

「ただし、薬物注入タイプは身体への負担も大きくなるから気をつけてね?」

 

「はい」

 

「きょうくん、抑制は出来ても凶暴にならないわけじゃないからね?」

 

「ええ、俺は俺です。例え獣だとしても」

 

そう言って鏡夜は束からベルトを受け取り、自分の腰に装着した。そのベルトから鼓動のような待機音が響き渡る。

 

「きょうくん、私に見せて?きょうくんの内側に潜む進化した獣の姿を」

 

鏡夜は頷き、ドライバーの左グリップを捻った。その瞬間、ベルトの複眼の輝きが

強くなる。

 

ALPHAとベルトから姿を知らせる音声が響き渡る。その音を聞きながら鏡夜は獣の名を口にする。

 

「アマゾン…!!」

 

己自身の姿を変える言葉を言い放つと周りに衝撃波と炎が上がった。炎は消えており、衝撃波の威力の余波が束の髪を揺らしている。

 

「きゃっ!炎は大丈夫だけどすごい衝撃だよ」

 

 

BLOOD&WILD(ブラッド&ワイルド) WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WILD!(ワイルド!)

 

 

 

そこには赤い傷だらけの獣が立っていた。野生にとって傷とは畏怖するものであり、蔑む対象でもある。しかし、歴戦を刻んでいることに変わりはない。

 

「あれがきょうくんの中にいる獣の姿…すごいね」

 

「束さん、俺、行きますよ」

 

「うん、その前にZone(ゾーン)細胞と並行して完成させてたきょうくん専用のISを渡しておくね」

 

束はポケットからブレスレットを取り出すとそれを渡した。

 

「これはISだけどあくまでその姿のきょうくんを空中で戦えるようにしただけ、名前は天鎧!」

 

「なにからなにまで束さんにはお世話になりっぱなしですね」

 

「気にしないで!さ、早く行って!ここもバレちゃうから」

 

「はい!」

 

アルファの姿でISを展開すると機械の翼を身に付け、鏡夜は空へ飛び出した。

 

「きょうくん、君ならきっと」

 

これが鏡夜が力を得た追憶の記録である。

 

この出来事から2ヶ月後にIS学園へと入学し、家族と再会することとなる。

 

しかし、、それは新たな出会いと決別をも含めた現実に直面することになる。

 

異形(アマゾン)となった自分との戦いが始まる予兆として。




プロローグ終了です。

次回から本編です。


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学園編
第一話 入学への道~Admission~


獣は歩き続ける、ただひたすらに

獲物を求めて…己の糧を得るために


束さんと別れて三ヶ月後、俺は今IS学園の門の前にいる。入学手続きはすぐに済ませられてしまったようで。

 

束さん曰く…。

 

「政府の奴らにきょうくんを入学させなかったらI、Sコアを停止するように言って説得しておいたからだいじょうブイ!」

 

って事らしい、それは説得じゃなくて脅迫だろうというツッコミは止めよう、束さんだし。

 

「IS学園か…あの二人もいるんだろうな」

 

織斑千冬と織斑一夏、かつて俺の家族だった二人だ、街頭のモニター等のニュースで観た限りでは一夏は男性で初めてISを動かした人物って事らしい。

 

ISが世界的に影響している事が大きく、特に女性しか扱えない事を盾にIS委員会やら女性権利団体だのといった権力を振りかざしてる奴らもいる。

 

この女尊男卑の風潮の社会は壊してやりたくなるくらいだ。

 

「さて、そろそろ受付して職員室に行かないとな」

 

歩き出す前に鏡夜は鞄から水筒を取り出すと蓋を開け、中身を器に移した。

 

中身は生卵らしく二つほど黄身を流すとそれを鏡夜は飲み込んだ。

 

「生飲みはキッつい・・・」

 

愚痴をこぼしながらも卵を飲み終え、水筒を鞄に入れると受付へと歩いていく。

 

受付を済ませると職員室へと案内され、手続きを済ませていった。

 

「では、此処に名前の記入を」

 

「はい」

 

名前の記入欄に「雨宮鏡夜」と名を書き込んでいく。

 

この名前は束さんが名づけてくれた大切な名前だ。

 

感傷に浸っていると二人の女性教師が入って来た。

 

「やっぱり人気すごいですね、織斑先生は」

 

一人は眼鏡をかけ、年上で気弱そうだが、女性の象徴が、そう!おっゲフンゲフン!もとい女性にしては豊満なのだがウエストも細く、スタイルの良い先生だ。

 

「毎度毎度あの馬鹿さ加減には呆れるがな」

 

女性にしては少し低めでクールさを醸し出すツリ目、モデルといっても差し支えないスタイルをスーツで隠している。

 

そう、会いたくても憎くて仕方ない義理の姉だった女性。

 

「ん?…!!!!」

 

義理の姉は俺の顔を見ると同時に手に持っていた出席簿らしきものを落としていた。

 

「お、お前は・・・鏡・・・夜・・・なのか?」

 

その声は信じられないものを見ているかのように震えていた。

 

「初めまして・・・雨宮鏡夜と言います」

 

「あ・・・・ああ」

 

他人行儀で俺は目の前にいる姉に接する、俺にはもう関係ない場所であるからだ。

 

「転入生ですか?」

 

「そうです、今日からこのIS学園にお世話になります」

 

「そうなんですね!私、山田真耶といいます!よろしくお願いしますね!でも、驚きです、織斑君以外で男性のIS操縦者が居たなんて」

 

「織斑一夏君でしたっけ?あの人がISを動かしてから試験を受けさせられまして、そしたら動いてしまって」

 

真耶と会話している中で千冬は鏡夜が何故他人行儀で話しているかが理解できなかった、義理とは言え家族なのだ、何故と。

 

「えっと、クラスは私達が受け持つクラスですね!」

 

「なるほど、じゃあよろしくお願いします!」

 

「はい!ほら、織斑先生も」

 

「織斑千冬だ、織斑先生と呼ぶように」

 

「ええ、よろしくお願いしますね、織斑先生(・・・・)?」

 

ゾクッ!と千冬は背筋が凍った様な錯覚に陥っていた。

 

まるで目の前に肉食獣が現れ、動けなくなった草食獣のように。

 

「っ!と、とにかく教室へ行くぞ!」

 

「はい、雨宮君も着いてきてください」

 

「分かりました」

 

鏡夜は教師二人に着いて行き、教室へと向かった。

 

本来、学生というのは入学式に出るのが普通だが、俺は日程がズレて出る事は無かった。

 

おそらくは束さんの仕業だろう、なにせ束さんだし。

 

「クシュン!」

 

「風邪ですか?」

 

「噂かもね、私は人気者だから~」

 

束はクロエに笑顔で答えていたがクシャミの影響で少しだけ鼻水が垂れていた。

 

 

束の事をぼんやりと考えていながら歩いているといつの間にか教室へとたどり着いていた。

 

「ここからは私が呼んだら入ってこい」

 

「はい」

 

そう言って千冬さんは教室へ入っていく。

 

どうやら中ではホームルームが行われているらしく声が聞こえた。

 

「やれやれ、諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の指導をよく聞き、理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らっても構わんが私の言う事はきけ、いいな?」

 

 

織斑先生が自己紹介を終わらせちゃったな、でもなんだか嫌な予感が…

 

 

「キャーーーーーーーー!千冬様!!本物の千冬様よ!!

 

 

ビリビリビリビリと教室が一瞬揺れた。

 

 

「な、なんだ今の!?新手の音響兵器か!?」

 

 

廊下まで響いたその声の大きさに鏡夜は一瞬怯んでしまった。

 

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!」

 

「憧れの千冬様が担任だなんて感激!」

 

「私、お姉様の為なら死ねます!」

 

などの褒め称えるというか、危ない発言がこれでもかという程に出てきた。

 

「ハァ……毎年毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも私のクラスに集中させているのか?」

 

 

千冬は呆れたようにため息をつくと目を開いた。

 

 

「ああ…その冷たい目で私を蔑んで下さい!」

 

「キツく私を躾て下さい、むしろ奴隷にして下さい!」

 

 

「・・・・・・・」

 

俺は何も聞いてない、ここは廊下だ。うん、何も聞いてない。

 

「さて、織斑。自己紹介をしろ」

 

「え?ああ、えっと・・・お、織斑一夏です!」

 

「い、以上です」

 

おいおい、それだけかよと俺はツッコミを入れたくなったが堪えた、何故なら。

 

ものすごく小気味良い音で出席簿が一夏の頭に直撃したのだ。

 

「お前は挨拶すらもまともに出来んのか?」

 

「い、いや、千冬姉、俺は…」

 

口答えをする前に一瞬にして二連続で出席簿が更に頭に見舞われた。

 

「織斑先生と呼べ、ここは学校だ」

 

「はい、織斑先生」

 

一夏は頭を抱えて痛みに悶絶していた。公私を別けずに接したのにも問題があったのだろう。

 

「織斑くんってまさか・・・千冬様の弟?」

 

「苗字が一緒だし、ひょっとしたら」

 

「いいなー、変わって」

 

憧れの的である千冬の親戚ではないか、など教室は少しざわついていた。

 

「さて、SHRを終わりだ。…と言いたいがここで諸君に重大発表がある。そこに居る織斑一夏の他にもう一人、男性のIS操縦者が見つかっている」

 

「ええええええーーーー!!」

 

教室内の女生徒達は絶叫し驚きの声を上げた。二人目が自分達のクラスに入ってくる事に興奮したのだ。

 

「ち、千冬姉!それって本当か!」

 

またもや小気味よいと共に出席簿の一撃が一夏の頭上にヒットする。

 

「織斑先生だ」

 

興奮する一夏を静かにした後、千冬は教室の扉に視線を送った。

 

「扉の前で待たせている、入ってこい」

 

「はい」

 

どうやら呼ばれたらしく、俺は教室の扉を開けて教室内へと入った。

 

別にカッコつける必要もなく、普通にしてればいいそう思いつつ教卓の隣に立った。

 

「今から自己紹介させる、全員静かに!きょう・・んん、雨宮」

 

「はい。名前は雨宮鏡夜です。先ほど織斑先生の紹介にもあったようにISが動かせてしまった為にこのIS学園へと転入してきました。ISに関しては初心者ですが、よろしくお願いします。後、普通に接してくれると助かる」

 

俺は自己紹介を終えるとすぐに耳を塞いだ。廊下であれだけのハウリングだったのだ、間近で聞いたら大変なことになる。

 

「キ、キャーーーーーーーーーー!!男子!二人目の男子よ!!」

 

「礼儀正しいクール系?いや、野性的なタイプっぽい!」

 

「なんだか奔放的っていうか、ワイルド系なのかな?という事は強引に…キャーーー!」

 

「これは捗るわ!今年は雨宮×織斑で決まりよ!」

 

最後の方、よく聞こえなかったが腐ってる発言はやめろ。

 

「はぁ・・・」

 

ちょっと呆れ気味で騒いでる女子たちを俺は見ていた。そんな中、一夏がまるで信じられないものを見るかのような表情をしていた。

 

「鏡夜兄?鏡夜兄なのか!?」

 

俺が自己紹介を終えて呆れている中、一夏が俺に向かって歩いてきた。

 

「鏡夜兄なんだろ!?なんで苗字が違うんだよ!何処にいたんだよ!今まで」

 

「誰だ、お前は?」

 

鏡夜は一夏に対し、全くの他人のように接していた。その事にショックを受けたのか一夏は目を見開き、口を開けて放けている。

 

「俺は雨宮鏡夜だ、俺はお前の兄じゃない」

 

「そんな訳あるかよ!その目の近くの傷跡は・・・!」

 

「織斑、席に着け」

 

「でも!」

 

「いいから座れ!授業が始まる」

 

出席簿で殴らずに千冬は一夏を止め、席に座らせた。

 

彼女も彼女で織斑鏡夜(・・・・)が何故、雨宮鏡夜(・・・・)と名乗っているのかが知りたいのだろう。

 

そして授業後の休み時間に一夏は鏡夜へと話しかけていた。

 

「鏡夜兄」

 

「織斑か、しつこいな。それと、その呼び方をやめろ」

 

「俺は知りたいんだよ!あの日からどうして鏡夜兄が居なくなったのかが!」

 

「一夏、話がある」

 

一人の女生徒が二人の間を割って話しかけてきた。黒髪と強気な性格を示すつり目、女性としてはスタイルが良いが危うそうな思想を持っているようにも見える。

 

「確か・・・篠ノ之箒か?名前と姿はぼんやり覚えている。」

 

彼女の名は篠ノ之箒。一夏にとっては幼馴染に当たるが鏡夜自身は束の妹という認識しかなかった。

 

「それと鏡夜、久しぶりだな、と言った方がいいのか?」

 

「さぁ?織斑と話があるんだろう?俺は此処でのんびりしてるさ」

 

「なんでだよ?鏡夜兄も一緒に・・・!」

 

久々に出会ったのだから三人で話をしようと一夏は持ちかけるが鏡夜は拒否していた。

 

「俺は部外者になるだろう?それに、俺は静かにしていたいんだよ。それを邪魔するなら喰ラウぞ?」

 

「っ!?い、行くぞ!一夏!」

 

「なぁ!?ほ、箒!?」

 

箒は一夏を連れて教室を出て行った。一瞬だけ鏡夜の声が別の何かに変わっていたような気配を感じて逃げたのだ。

 

「(何なのだ?鏡夜の声が一瞬だけ別の何かに見えた、いや・・・喰われると思った)」

 

鏡夜は何か別のものに変わっている、箒は一夏と共に屋上へ向かいながら恐怖心を押さえようとしていた。

 

「大人気なかったなぁ、あの程度で怒るなんて」

 

鏡夜はそうつぶやくと水筒を取り出し、中に入っている生卵を飲んだ。

 

「食わなきゃ食欲は抑えられないけど・・これはこれで慣れると楽だ」

 

卵を摂取した後、椅子に座ったままのんびりと過ごしていた鏡夜だったが。

 

「ねぇ~?あまみ~?」

 

その穏やかな時間の中、のんびりとした口調で話しかけてくる女生徒がいた。

 

「?誰だ?それとあまみーってのはなんだい?」

 

「ん~?雨宮鏡夜だからあまみーだよ~」

 

どうやらマイペースな性格らしく、掴みどころがない。正直、少しだけ苦手だ。

 

「そうかい、ところで君は誰だ?自己紹介は一番最後だったから名前が分からなくてね?」

 

「ん~?私は布仏本音。のほほんさんでもい~よ~?」

 

「そっか、よろしく本音さん」

 

「うん、よろしくね~」

 

 

 

そして、しばらくした後に箒と一緒に戻ってきた織斑と雑談(無論、向こうの一方的だが)に興じていた時、突然話しかけられた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「え?ああ、なんだ?」

 

「ん?」

 

「まぁ、何ですのそのお返事は!?私が話しかけただけども光栄な事ですのにそれそ相応の態度があるのではなくて?」

 

金髪の彼女はどうやら女尊男卑の考えが強く、男は各下で自分に対し跪いて話すのが当然だと考えているような様子だ。

 

「悪いな、俺は君が誰だか知らないし、鏡夜兄は?」

 

「だから、その呼び方をやめろって言ってるだろ?それに、転入生の俺が知る訳がないだろうに」

 

「私を知らない!?イギリスの代表候補生にして入試トップである、この私、セシリア・オルコットを!?」

 

 

彼女の名はセシリアというらしい、名前を頭の中に入れると鏡夜はスマホの録音アプリをコッソリと起動させた。

 

「全員が全員知っている訳ないでしょ?、それに、入試トップといっても女生徒の中での話になるし、男子は俺達二人だけ、仮に俺達二人が教官を倒せば男子はどちらもトップにならないかな?」

 

「なぁ!?あなた!この私に向かってそのような口を」

 

「エリートなのは良いが【我も人、彼も人、ゆえ対等】という言葉も世の中にはある。自分の発言には気を付けた方がいいよ?」

 

 

 

鏡夜の言葉は飄々としているが、どこか本質を射抜いておりセシリアの心に重くのしかかっていた。反論しようとしたがチャイムが鳴り、セルシアは席に渋々戻っていった。

 

 

 

午前中の授業が終わり、鏡夜はのんびりと過ごしていたが突然、織斑千冬に呼ばれ職員室の内部にある応接室に来ている。

 

どうやら二人だけで話がしたかったらしく、防音も完璧だというのだ。

 

「話してもらうぞ、鏡夜?どこに行っていた?」

 

いきなり突っ込んでくる質問に俺は受け流すように答えた。

 

「どこから答えればいい?」

 

「中学の卒業式からだ」

 

「そっか、俺はあの日、拉致されたんだよ。誰かは分からないけど」

 

「何!?」

 

千冬は驚愕していた、何故なら行方が分からなくなっていた義弟が拉致されていたという事実を本人から告げられたのだ。

 

「機械だらけの部屋に入れられ、俺は実験体にされていたんだ。俺を拉致したのは何処かの研究所の職員だったのさ」

 

「・・・・っ」

 

「そして俺はArmour(アーマー)細胞と呼ばれる細胞を移植された」

 

Armour(アーマー)細胞?」

 

「簡単に言えばタンパク質を求める細胞で特に人間を好むのさ。腹が減れば襲ってしまうかもしれない」

 

「!!お前・・・人間を?」

 

「いや、タンパク質さえ取れれば問題ない。それに俺は抑制細胞を打たれている」

 

「そんな細胞を抑制させるとは、まさか、お前を匿っていたのは!」

 

「そう、あんたも知ってる束さんだよ。あの人のおかげで俺は此処に居るって訳さ千冬義姉(・・・・)

 

次々と驚きの連続で千冬は声が出せずにいた、そしてポツリと小さく言った。

 

「・・・ない」

 

「すまない、鏡夜!私はそのうち帰ってくるだろうとお前を放置してしまった!一夏を救うことばかり考えて!私は、私は…!」

 

千冬は無意識に土下座していた、必死に謝って許されるなら許して欲しいと懇願するように。

 

「もういいよ。元々、繋がりは薄かったし人を喰うかも知れない化物になった義理の弟なんて持ちたくないでしょ?」

 

千冬が顔を上げた先には愛憎が渦巻くような目をした鏡夜だった。愛しているから憎い、憎いから愛してしまうそんな矛盾した思いが鏡夜の中で交錯している。

 

「俺は雨宮鏡夜だ。もう、織斑に戻る気はないし束さんに協力してもらうさ」

 

「そ、そんな!?」

 

「良い女だったよ、千冬義姉。あんたは俺の初恋だったんだよ?」

 

そう言って鏡夜は千冬の真横を通り、部屋を出て行った。

 

「ま、待ってくれ鏡夜!鏡夜!!鏡夜ぁ・・・すまない・・・すまない・・・私は」

 

鏡夜の出て行った後のドアに引っ付くようにして千冬は泣き崩れた。どんなに後悔しても失ったもの、過去へも戻る事は出来無い。自分のした事が大きなしっぺ返しとなって来た事に千冬は改めて後悔を強め続けていた。

 

その後、午後の授業が始まり、目を赤く腫らした千冬の姿に真耶は心配していたが千冬に何でもないと言われて追求しなかった。

 

「それでは再来週の対抗戦に向けてクラス代表者を決めたい」

 

「はーい!織斑君がいいと思いまーす!」

 

「あ、私もそう思う!」

 

「私も!」

 

「(織斑がやれば話題性は高いからな、当然だよな)」

 

鏡夜は無関心を貫こうと発言を控えていた。基本的に面倒くさい事はやりたくない為だ。

 

「お、俺!?俺はそんなの」

 

「私は雨宮君がいいな!」

 

「は?」

 

「わ、私も!」

 

無関心を装うとしたが話題の中心に上げられ鏡夜は間の抜けた声を出していた。

 

「俺はそういったものは苦手で」

 

「推薦された以上、拒否は許さん」

 

鏡夜も拒否しようとしたが敢え無く撃沈、千冬の威圧に思わず黙ってしまった。

 

決まりそうな雰囲気の中で一人の女生徒が声を上げた。

 

「納得いきませんわ!」

 

そう、セシリア・オルコットだ。彼女は机から思い切り立ち上がり叫んでいた。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!!このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

いかにも自分が相応しいかをアピールしているようだが逆効果になっている事に気づいてないのだろう。しかし、鏡夜はその様子を楽しんでいるかのように笑みを浮かべている。

 

「このような後進的な国でしかも栄誉あるISの装者の代表が男だなんて耐えられませんわ!!このような猿に」

 

この言葉に一夏はキレて、セシリアに言い返そうとしたが意外にそれを止めたのは鏡夜だった。

 

「一夏、やめておけよ」

 

「なんでだよ!鏡夜兄!!あそこまで言われて悔しくないのかよ!」

 

「だからその呼び方をやめろって言ってるだろうに。悔しい、悔しくないじゃない。この女は既に墓穴を掘ってるし、言い返したところで無意味になる」

 

「わ、わたくしが墓穴ですって!?」

 

「そうだろう?イギリス代表候補生が日本国自体をバカにした発言をしたんだから、おまけに開発者の束さんの出身国も日本、どうなると思う?」

 

「どうって・・・どういうことだよ?」

 

「まだ、わからない?イギリスのIS代表候補生が日本という国を侮辱した時点で国際問題に発展する事になるんだぞ、この時点でセシリア・オルコットは代表候補生の資格を剥奪され、イギリスの刑務所にぶち込まれるという訳だ。さらには開発者の束さんがイギリスのISのみを停止させかねない」

 

「そ、そのようなこと!」

 

鏡夜は手にしていたスマホのICレコーダーアプリを再生し、セシリアの発言を一言一句全てを放送した。

 

それを見たセシリアは顔を青ざめさせて震え始めた。自分の発言が祖国に仇名しているというのを自覚してるのだろうか?

 

「脅迫する気はないよ、でーも、証拠は押さえるそれが普通」

 

セシリアは震えていたがキッ!と睨みをきかせて宣言した。

 

「け、決闘ですわ!あなた達二人を叩きのめしてさしあげますわ!!」

 

「いいぜ?四の五の言うより分かりやすいからな」

 

「いいだろう、オマエヲ…クッテヤル!」

 

 

 

(BGM Armour Zone♪)

 

 

 

 

鏡夜の発言に千冬、箒、一夏、セシリアはゾクリと冷や汗をかいた。その声はまるで獣が居るかのように

 

 

「(ま、まただ)」

 

箒は自分で自分を抱きしめていた、まるで自分自身を守るように。

 

 

「(鏡夜兄・・・一瞬だけ声が)」

 

一夏は鏡夜の後ろで青ざめていた。

 

 

「(あれが、Armour(アーマー)細胞の本性なのか?)」

 

千冬は自分の肘を掴み、必死にポーカーフェイスを保っていた。

 

 

「(一瞬何かが見えたように感じましたが、お、おそらくハッタリのはずですわ!)」

 

セシリアは足の震えが抑えられなかった。

 

 

「で、では、勝負は一週間後だ!放課後の第三アリーナで行う、いいな」

 

 

そう言ってクラス代表の取り決めを締めた。




今回はここまで。

次回は戦闘回、戦闘描写となります。



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第二話 Battle 戦いの傷

獲物を見つけた獣は決して取り逃さない。

傷つけられた獣は傷が癒えた時、再び狩りへと向かう



あれから一週間の猶予が出来た事もあり、鏡夜は朝の学園の小さな広場でランニングと筋肉トレーニング、そして空手の突きと蹴りを行っていた。

 

獣の姿になって鍛錬するのはエネルギーの効率が悪く、すぐに食事をしなければ、あの衝動がやってくるからだ。

 

「99・・・100!はぁ・・はぁ・・。ふぅ・・・身体動かしてないとウズウズして気持ち悪いな」

 

その気持ち悪さも内にいる獣が暴れたいと願う衝動の一つであった、束が投与した人工の抑制細胞の影響で身体の疼きだけで済んでいる。

 

 

「当日はどうなるかな・・・?当日にならなきゃ分からないけどよ」

 

そんな事を呟きながら鏡夜は汗を拭うと、持ってきていた水筒から卵を器に出して飲んだ後、予習復習の為に図書室へ向かった。

 

 

日数が経ち、クラス代表を決める戦いの当日となり、試合が始まる時刻にはまだ余裕がある時刻だが、試合の時は近づきつつあった。

 

そんな中、一夏と鏡夜、そして箒は朝食をとっていた。箒は和食、一夏は洋食をメインにしている。

 

「鏡夜兄、そんなに食うのか?」

 

「だ~か~ら、その呼び方はやめろって。このくらいは普通だろ?」

 

「そうは言うが、ほとんど肉ではないか!」

 

一夏と箒が見ている鏡夜の朝食は焼肉丼とチキン焼き、そしてハンバーグだ。とてもではないが、朝食のメニューにしてはかなり重たい物ばかりだ。

 

「見てるこっちが胸焼けするって・・」

 

一夏はゲッソリした様子で朝食を口に運んでいたが、鏡夜は箸を止めることなく丼をかきこみ、肉を食らい続けている。

 

「朝食は基本だって言いたいが、俺が大食いなだけだからな」

 

飲み物の麦茶を飲んで一息ついた後に大食いを笑い話に変えるように鏡夜は話している。

 

そうしていると誰かが三人に近づいてきていた。

 

「ねぇ」

 

「ん?」

 

「君達でしょ?噂の子達って」

 

「赤いリボン、三年生の方ですかね?」

 

「ええ、そうよ」

 

どうやら上級生の女生徒らしく、男性操縦者の二人に興味があるようだ。

 

「えっと、君」

 

「俺は鏡夜です、雨宮鏡夜」

 

「ああ、ごめんなさい。鏡夜君達はIS稼働時間はどのくらい?」

 

「そうですね、基礎訓練はしてましたから俺は2時間って所です」

 

「隣の君は?」

 

「俺は20分くらいですかね」

 

「代表候補生と戦うにしては足りなすぎるわね」

 

上級生の女生徒は鏡夜と一夏を見て言葉を紡いだ。ISというのは搭乗時間がそのまま経験となるため少ないと口にしたのだ。

 

鏡夜は束の元にいたが出遅れていた勉学と空手の鍛錬に費やしており、偶然ISを起動させたが、纏った時の感覚に慣れる為の事のみしかしていなかった。

 

「私が教えてあげようか?ISの事」

 

「一夏は私が教えますので結構です」

 

「え?」

 

一夏は呆気にとられた声を出して、固まっていた。鏡夜はあちゃあ、と言いたそうに苦笑している。

 

「あなたも一年生でしょ?私のほうが」

 

「私は、篠ノ之束の妹ですから」

 

箒はそう言うと上級生を睨んだ。その睨みは早く此処から立ち去れと怒気を含んでいる。

 

「そ、そう!それなら」

 

「あ~、先輩?」

 

鏡夜は去ろうとした上級生を呼び止めていた。どうしても頼みたい事があったためである。

 

「俺はISの知識がないので、時間がある時に勉強を教えてくれませんか?難しい事ばっかりで」

 

出遅れていた学力を取り戻したとはいえ、あくまでそれは自分が学べなかった範囲の事である。束に教わっていたとはいえ、天才的な頭脳と一般人の頭脳では理解力が違いすぎている。

 

学生として、勉強を覚えるために先輩に鏡夜はお願いしていた。

 

「え?ええ、それくらいなら構わないわよ」

 

「ありがとうございます、引き止めてすみません」

 

「大丈夫よ、それじゃ」

 

上級生は背を向けると去っていった。教わる人が出来てよかったと鏡夜は笑みを浮かべた。

 

「鏡夜兄、さっきの先輩に教わるのか?」

 

「ISに関する勉強だけだって。それと呼び方をやめろっての」

 

一夏は感心したように鏡夜を見ていた。箒はそれが気に食わないのか黙って食事を続けている。

 

「それとさ、箒?」

 

「なんだ?鏡夜」

 

「都合の良い時だけ束さんの名前出すの止めないか?いくら通用するからといってもやりすぎると危ないぞ?」

 

「っ!うるさい!お前には関係無いだろう!?あの人のせいで私は!」

 

箒は鏡夜に掴みかかり睨んだが、鏡夜はそれに構わず飄々とした態度を崩さずに続ける。

 

「ほら、今は束さんを悪く言うのに、なんでさっきは名前を出したのさ?一夏と一緒に居たいからかい?それなら鍛錬とかでも大丈夫だろうに、あんまり束さんの名前を出しすぎると篠ノ之束の妹の癖に何も出来無い奴(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)とか変な噂が立っちまうぞ?」

 

「っ!!!!貴様ッ!言わせておけば!」

 

ありえない事ではない可能性を口にされ、箒は怒りに任せて殴りかかり鏡夜はそれをあえて受けた。

 

「なっ!?あ・・・」

 

「殴って気が晴れたか?そうしてきたって事は俺が指摘しなくても自分で自覚があるって事だよな?それなら束さんが全て悪いって考えるんじゃなく、自分の今居る環境を冷静に見つめ直してみるのも良いんじゃないか?」

 

「う・・・そ、そんな事!」

 

 

殴られても飄々とした態度を崩さない鏡夜に対し、箒は僅かに恐怖を抱いた。否定する為にこちらは手を出したのに殴り返さず、逆に言葉だけで己の未熟さを的確に見抜かれてしまった為だ

 

「鏡夜兄!!言いすぎだろ!」

 

その様子を見ていた一夏は鏡夜に強く言葉を発した。鏡夜の言葉で箒が追い詰められていると感じたのだろう。

 

「流石に、これ以上は言わねえよ。それじゃあ俺は先に行くからな?あ、おばちゃん!ハンバーガー作って!二個、いや四個くらい!」

 

鏡夜は自分が食べていた食事の容器を片付け、食堂のおばちゃん達にハンバーガーを作って欲しいと頼み込みに行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後の時間帯に一年生は勿論の事、上級生である2,3年生までもが第三アリーナに詰め寄っていた。

 

「物珍しさで見に来たか、それとも無様な負けを期待しているのか、恐らくは後者かな?女尊男卑は少なからず影響しているはずだしな」

 

鏡夜はピットの外が見える場所で上級生の中に敵意を向けてくる視線を僅かに感じ取っていた。

 

「まぁ、関係ないし、俺は俺で試合でぶつかるだけ」

 

ピットの中へ戻ると、鏡夜は持っていたハンバーガーを食べ始めた。朝食時に頼んでおいた物を放課後に取りに行き、食べていた。

 

「鏡夜兄、これから試合なのにハンバーガーなんてよく食べられるな?」

 

一夏は胸の辺りを押さえつつ、鏡夜の隣に並んだ。隣で大きなハンバーガーを食っている様子を見せられれば胸焼けもするだろう。

 

「だから、まぁいいか…。俺は食わないと持たない身体だから喰ってんだよ」

 

鏡夜はすぐに食べ終えるとハンバーガーを包んでいた紙をゴミ箱に捨てた。

 

「で、だ。話は変わるけどよ一週間の猶予の間、何をしていたんだ?一夏」

 

「ああ、箒と剣道をしていたよ」

 

「ふーん、それでISに関する勉強は?」

 

「それは、その…」

 

鏡夜が質問すると一夏は気まずそうに視線を逸らした。その様子を見て鏡夜は確信を得ていた。何故なら一夏の隣には箒がいたからだ。

 

「箒さんや?鍛錬は分かるけど勉強は?」

 

「し、仕方ないだろう!こいつの腕が想像以上に落ちていて、カンを取り戻させるために鍛錬していたのだ!」

 

「そっか。でも、俺が聞いてるのは鍛錬じゃなくて勉強の方なんだけどな?」

 

「た、鍛錬に集中し過ぎて時間が取れなかったのだ!一夏のカンを取り戻すためにだ!」

 

「一夏と一緒に剣道が出来るから勉強の事を忘れてたんじゃなくて?」

 

「ぐっ!?」

 

どうやら図星のようで箒は顔を赤くしながらも、鏡夜の言葉に答えられなかった。

 

そんなやり取りをいると誰かが近づいてきていた。

 

「はぁ!はぁ!織斑君!来ました!織斑君の専用ISが!」

 

「え、ちょっと!?」

 

副担任の真耶先生だったようで息を切らしたまま、一夏を呼ぶとピットへと押して行った。

 

「鏡夜」

 

その後ろには担任の織斑千冬が居り、鏡夜に話しかけていた。今のところ教師としての接し方を望んでいるようだ。

 

「なんですか?織斑先生」

 

「お前の機体は用意出来ていないが、訓練機でも構わないか?」

 

専用機は一夏だけに来た為にものだと理解しており、鏡夜に気を遣っている様子で千冬は話していた。

 

「心配無用ですよ、俺の専用機ならちゃんとありますし」

 

「何!?」

 

「この腕についてるブレスレットがそうです、ただし起動するにはこのベルトのどちらかを使わないといけないんです」

 

左上腕部につけたブレスレットを見せつつ、鏡夜はアマゾンズドライバーとネオアマゾンズドライバーも千冬に見せた。

 

「二つもあって二重ロックとは随分厳重だな?お前の身体に関係あるのか?」

 

「まぁ、そんなところですよ。それより一夏の様子を見に行きましょうよ」

 

「あ、ああ…そうだな」

 

千冬は己の思考を振り払い、鏡夜と共にピットへと入った。一夏は届いた白いISを身に纏っている。

 

「白式・・それがお前のISか、真っ白とはね」

 

「ああ、箒、鏡夜兄、千冬姉・・・行ってくる」

 

「見せてもらうぞ、お前の戦いをな?」

 

他のメンバーと言葉を交わした後に一夏とセシリアの戦いは始まった。

 

一夏が追い込まれていたが一次移行(ファースト・シフト)を完了し順調に追い込んでいた、が。

 

エネルギー切れによる判定で一夏の負けとなってしまった。

 

「あれだけカッコつけて意気込んでいた割にはエネルギー切れって?どういうことだい?一夏」

 

「全くだ、大馬鹿者」

 

「うう・・・」

 

姉と元義兄から厳しい言葉をもらい、一夏はへこんでいた。機体特性を知らなかったのだからムリもないが、負けた事に変わりはない。

 

「ところで何故、愚弟は負けたと思う?雨宮」

 

厳しい言葉と共に弟を放置し、千冬は鏡夜に意見を求めた。それを受けてた一夏本人は更にへこんだ。

 

「おそらく、白式の機体特性か雪片と呼ばれた刀の特性が原因かと思いますよ?勘ですが」

 

「ほう?理由は」

 

鏡夜の洞察力に千冬は感心し、更なる根拠を求めた。白式に能力に肉薄している事に山田先生も千冬も内心では驚きを隠せない。

 

「恐らく、機体がエネルギーを過剰に吸っていたか、もしくは武器がエネルギーを強引に集中させていたのが原因じゃないんですかね。エネルギーを犠牲に攻撃力を上げているのではないかと思います」

 

「概ね当たっているな、白式は自分のシールドエネルギーを攻撃に転化する機体だ。攻撃力特化型ISと思えばいい。あの攻撃、零落白夜にはバリア無効効果がある。それによって圧倒的な攻撃力を持っているからな」

 

「・・・」

 

「なあに、お前はこれからだ、少しずつ学んでいけ」

 

「はい!」

 

一夏は一礼すると顔を上げ、やる気に満ちた顔をしていた。

 

 

 

 

そして、第二試合である鏡夜とセシリアの戦いが始まろうとしていた。一夏との試合は相手がエネルギー切れによる敗北であったためにエネルギーの補給のみで済んでいる。

 

「鏡夜兄、頑張れよ!」

 

「鏡夜、負けることは許さんぞ!!」

 

「行ってこい!」

 

「頑張ってくださいね」

 

「・・・ああ、行って来ますよ、っと!」

 

声援を受けた後に深呼吸し翼だけを展開し、鏡夜はアリーナへ飛び出した。

 

「あら、逃げずに来ましたのね?」

 

「逃げる理由なんてないじゃない」

 

「ふん、よく見ればあなたのISは飛行のみで武装が一切ありませんわね?なめられたものです。そんなものでわたくしに勝てるはずがありませんわ!今から泣いて許しを請えば許して差し上げますわよ?」

 

「慌てない慌てない、試合も始まっていないんだから」

 

「んなっ!?」

 

「俺はさ、喰いたい時が一番食事が美味い時だって考えてるんだよ」

 

そう言って鏡夜は隠し持っていたゆで卵をアマゾンズドライバーに軽く二、三回ぶつけ殻を剥いて食べると、アマゾンズドライバーを腰に巻いた。

 

「な、何ですの!?それは!?」

 

「今から見せてやる、これが俺の中にいる獣の姿だ」

 

宣言すると同時にドライバーの左グリップを捻った。その瞬間にドライバーの複眼が光り始める。

 

ALPHA(アルファ)とベルトから音声が響き渡る。始まりを意味する音声であり、それは何を意味しているのか?

 

「アルファ?」

 

セシリアは分からないといった様子で立ち止まっている。武装がない相手というのがより一層、不気味さを醸し出している。

 

「アマゾン…!」

 

鏡夜が内に潜む獣の名を呼ぶと同時に衝撃波と炎が上がり、周りを震撼させた。

 

「キャッ!」

 

その衝撃波にセシリアを含む全員が顔を守るように覆った。衝撃波が収まると同時に更なる音声が響く。

 

 

BLOOD&WILD(ブラッド&ワイルド) WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WILD!(ワイルド!)

 

 

「・・っ!な・・・!何ですの・・あれは?」

 

その視線の先には先ほどの雨宮鏡夜(・・・・)はおらず、全身に戦果とも言える傷を多数刻んだ野生の(アマゾン)が翼をまとって立っていた。

 

「ふ、全身装甲(フルスキン)のIS!?」

 

「試合は始まるぞ?」

 

【試合開始】

 

 

「っ!ですが中距離射撃型のわたくしに近距離型で挑もうなど笑止ですわ!」

 

そう言ってセシリアはライフルを撃ち、先制攻撃をしてくる。相手は射撃型のチューンをされているようでその正確さに脱帽する。

 

「(一次移行(ファースト・シフト)まで残り15分、回避し続けられるか?)」

 

鏡夜(アルファ)はセシリアの機体と今の自分が極端に相性が悪い事を武器から推測していた。

 

 

「わたくしの射撃を躱すとはやりますわね、でも!これで終わりですわ!」

 

「ぐっ!後ろから肩に攻撃を!?」

 

鏡夜(アルファ)の左肩に攻撃が当てられ、一瞬バランスを崩すがすぐに持ちこたえ構えを取った。

 

「わたくし、セシリア・オルコットの奏でる円舞曲(ワルツ)によって踊りながら果てなさい!」

 

 

ライフルとビットによる連続射撃によって鏡夜(アルファ)は回避に専念せざるを得ない状況になっており、それでも細かな反撃はしていたが決定打にはなっていない。

 

「ビットによる遠距離多重攻撃、まさにワルツって事か!そこだ!」

 

鏡夜(アルファ)の拳がセシリアに届きそうになったその時。

 

「お生憎様、ブルー・テイアーズは六機ありますのよ!!」

 

「ミサイル!?ブースターじゃなかっ!」

 

回避しきれなかった鏡夜の負け、アリーナにいる誰もがそのように考えていた。

 

「所詮は男、口だけでしたわね。あの鏡夜という男はわたくしの奴隷にでもして差し上げましょう」

 

勝利を確定事項とし、セシリアはピットに戻ろうとした。

 

「待て、何処に行こうとしているんだよ?」

 

「!!まさか!」

 

セシリアが振り返り、ミサイルの爆煙が晴れた中には変身が解けた鏡夜が立っていた。

 

「あ、あはは!驚かさないで下さい!ISが解除されているではありませんか!」

 

そう、今の鏡夜はISを展開していない無防備な姿に等しいのだ。そんな状態で試合など出来るはずもない。

 

「そんな姿でわたくしと戦おうというのですか!?潔く負けを認めて立ち去りなさい!」

 

そんなセシリアの言葉に聞く耳を持たず、鏡夜はどこに隠していたか再び卵を取り出し、今度は殻ごと貪り喰った。

 

一次移行(ファースト・シフト)完了したかな?野生を解放する瞬間だ、うおおおっ!アマゾン!!」

 

アルファの時と違い、咆哮を上げ再びドライバーの左グリップを捻った。

 

OMEGA(オメガ)ALPHA(アルファ)ではない音声がドライバーから流れる。

 

「ウガアアアアア!!」

 

EVOLU(エボリュー)-E-(・エ・)EVOLUTION(エボリューション)

 

「きゃっ!」

 

咆哮を上げ、緑色の衝撃波と共にそこにいたのは傷ついた赤い獣ではなく、純粋に育てられ、ただ喰らうだけの(アマゾン)だった。

 

「ウガアアア!喰ワレル前二!喰エッ!!」

 

自分の存在を知らしめるように緑の(アマゾン)は咆哮を上げる。

 

「な・・・何ですの?あれが・・あのISの一次移行(ファースト・シフト)?な、なんて凶暴で醜悪な」

 

セシリアは自分がとてつもない猛獣を目覚めさせてしまったのだという事に恐怖していた。

 

「ガアアアアア!!」

 

鏡夜(オメガ)は闘争本能に身を任せ、セシリアへとてつもない速さで迫った。

 

「ひっ!いやあああああ!」

 

恐怖心からライフルを撃ち続けるが、鏡夜(オメガ)は野生の獣の如く壁を利用して跳ね回るような動きで回避していくが、そのうちの一発が当たり、鏡夜(オメガ)は体勢を立て直す。

 

「ウウウウウ・・・ガアアア!」

 

鏡夜(オメガ)は一瞬だけ止まり咆哮を上げると、右のグリップを引き抜き一本の槍を出現させた。尖端には黒い粘液のようなものがこびり着いている。

 

「槍?」

 

セシリアが槍に気を取られたその瞬間、鏡夜(オメガ)の虚をついた行動に反応が遅れてしまった。

 

VIOLENT BREAK(バイオレント・ブレイク)

 

どこからか急に音声が聞こえ、それと同時にセシリアへ引き抜いた槍を投擲したのだ。

 

その投擲の速さはまるで弓から放たれた矢のようであった。

 

「!!きゃあああ!」

 

突然の事に回避が遅れたセシリアは槍が直撃してしまう、それでもセシリア自身はISの機能の一つである絶対防御によって守られたのだが、それ以上にセシリアが驚く事があった。

 

「うう、油断しましたわ!え・・・?エネルギーシールドが大幅に削られた!?」

 

その一撃はエネルギーシールドの約5割を削っていた。そのような威力があるなど聞いた事もない。しかし、現実的に相手は向かってくる。

 

「ウガアアアア!!」

 

一撃では喜ばずに鏡夜(オメガ)は追撃と言わんばかりにセシリアへ貫手や手刀を繰り出してくる。

 

「ひっ!来ないで!い、行きなさい!テイアーズ!」

 

全速力で距離を開き、セシリアはビットによる攻撃を再び展開し攻撃するが鏡夜(オメガ)はその攻撃を回避し、時には攻撃を受けてしまいながらも、再び右のグリップを引き抜き、武器を展開した。

 

「ウオアアアア!!」

 

今度は鞭のような武器らしく、それを振るってセシリアが展開していたビットを叩き落とした。

 

「そ、そんな!テイアーズが!」

 

自慢の武器が落とされた事にショックを受けたセシリアは動きが完全に止まってしまう。

 

その隙を逃さず、鏡夜(オメガ)は鞭でセシリアを引き寄せた。

 

「な!キャアアアア!!」

 

VIOLENT PUNISH(バイオレント・パニッシュ)

 

引き寄せられると同時に音声が響き、ほぼ同時にセシリアは腕についたブレードで切り裂かれた。

 

その一撃を受けてしまった同時に試合終了のブザーが鳴った。エネルギーが先程の一撃で無くなってしまった為だ。

 

 

「しょ、勝者!雨宮鏡夜!!」

 

 

勝者を教える放送が流れ、会場が一気に嵐のごとく沸いた。

 

「わ、わたくし生きてますわよね・・・!ちゃんと」

 

ISが解除されたセシリアは恐怖した目で鏡夜(オメガ)を見ていた。自分の胴体を切り離されたのではないかと錯覚してしまう程の一撃を受けたのだ。

 

変身が解け、元の鏡夜に戻ると鏡夜はセシリアの近くへと歩み寄った。

 

「ひっ!」

 

セシリアは絶対防御が無ければ身体を引き裂かれていたかもしれないという恐怖から後ずさった。

 

「怖がらなくても何もしないさ、ほれ」

 

鏡夜は手を差し出すと捕まれと言っているようにも見える。その手を掴んだセシリアを見ると立ち上がらせた。

 

「ま、これで男は弱くないってわかった?・・・見てきたものだけが全てじゃないって事さ。俺にだってそんな事たくさんあったし」

 

「は、はい」

 

「早く戻ったほうがいいぞ?次の試合もあるからな」

 

「分かりましたわ、その・・・ありがとうございました」

 

「別にいいさ、それじゃあな」

 

短い会話を済ませると互いにピットへと戻って行った。ピットで待っていたのは驚愕の表情の教師二人と箒、そして怒りに満ちた目をした一夏がだった。

 

「鏡夜兄!やりすぎだ!あれほどまでやる必要はなかっただろ!」

 

「あれくらいは試合なんだから当然だろうに、じゃあお前は無抵抗のまま負けろってそう言いたいのか?」

 

「違う!そうじゃない!あんな攻撃、女の子にやっていい事じゃない!」

 

一夏は鏡夜の胸ぐらを掴み、詰め寄った。しかし、鏡夜自身は表情を変えずに一夏の目を見ている。

 

「なら、次の試合は俺達だからそこでやろうか」

 

一夏の腕を丁寧に解くと向かい側のピットへと鏡夜は向かって行った。

 

 

 

30分の休憩の後、第三試合が開始されようとしていた。互いに向き合っているのは織斑一夏と雨宮鏡夜の二人である。

 

「俺が勝ったらセシリアに謝ってもらうからな?鏡夜兄」

 

「お前が勝てばな?俺も負けるつもりは全然ないけどよ」

 

ALPHA(アルファ)

 

腰に装着されたアマゾンズドライバーが鼓動のような待機音を発生し始める。

 

「アマゾン・・・!」

 

BLOOD&WILD(ブラッド&ワイルド) WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WI(ワイ・)-WILD!(ワイルド!)

 

「くうっ!」

 

炎と衝撃波に吹き飛びそうになるが、それをこらえ終わると同時に試合開始のブザーが鳴り響く。

 

「先手必勝だ!うおおおおお!」

 

一夏は雪片の特性を生かした戦法で瞬間加速(イグニッション・ブースト)を使い、突撃していく。

 

「武装はあれ一本だったな、たしか。ピーキー過ぎないか?」

 

鏡夜(アルファ)は真っ直ぐに突っ込んできた一夏を横へ躱し、足払いをするような下段キックを繰り出した。。

 

「うわ!?がァ!」

 

そのキックを受けた一夏は転ばされてしまい、更には腹部にスタンピングの一撃をもらってしまう。

 

「ぐ、があはっ!」

 

「まだお互いに一撃出しただけだろう?っと!」

 

振るわれた刀の一撃から逃れるように後方へジャンプすると、それと同時に落下し着地した。

 

「くっ!」

 

一夏は突撃と同時に間合いを詰めて斬りかかるが鏡夜(アルファ)は攻撃を避けてばかりで反撃しようとしない。

 

「なんで反撃しないんだよ!?」

 

「観察は大事だろう?反撃しようにも相手の隙を見つけるのは当然の行動じゃないか?」

 

鏡夜(アルファ)は一夏のリズムを見極めようとしていた。人にはそれぞれリズムというものがあり、それを見極める事で反撃可能な隙や相手の攻撃を回避する事が出来やすくなる。

 

最もその為には動体視力や冷静な観察眼などが必要になってくるのは言うまでもない。

 

「く、くそぉ!当たらない!?」

 

「大体、わかってきたぞ?お前のリズム」

 

「それならこれで、どうだあああ!」

 

「っ!?」

 

鏡夜(アルファ)は虚を突いて繰り出された一夏の一撃を左腕のレザーカッターで受け止めた。

 

しかし、押し込む力と押し返そうとする力とでは強さの差がハッキリと現れてしまい、徐々に一夏の刃が鏡夜(アルファ)の右の複眼に迫ってきている。

 

「ぐ・・・おおおおおお!」

 

「このまま、押し切る!零落白夜ァ!」

 

一夏の刀、雪片がエネルギー状の刃となり少しずつ複眼に迫っていく。押し返す事が出来ずに零落白夜が鏡夜(アルファ)の左目に触れてしまう。

 

「うあああああっ!?」

 

「うおおおおおおおっ!」

 

そのまま刃を振り下ろし、零落白夜の刃が鏡夜(アルファ)の左目を切り裂いた。

 

「ああああああ!!?」

 

「や、やった!鏡夜兄に一撃を・・・えっ!?」

 

「うあああああああああ!あっ!があああああああああああ!!」

 

傷だらけの赤い獣の姿が解けてしまい、鏡夜は尋常ではない様子でもがき苦しんでいる。

 

切り裂かれた左目を押さえながらアリーナの地を転がりまわり、苦しみ続けているままだ。

 

その様子を只事ではないとアリーナから見ていた生徒達はざわめき始めている。中には苦しんでいる様子を見て、良い気味だと笑っている者まで居るようだ。

 

「きょ・・鏡夜兄!?」

 

一夏は鏡夜が自分の目を押さえている手から何か赤い液体が流れ続けているのを見た。それは鏡夜自身の血で、押さえている手は完全に血で染まっており、苦しみの叫びを鏡夜は上げ続けている。

 

「あれ・・血・・なのか?お・・俺・・鏡夜兄の・・目を」

 

「あ、ああああ!っああああああ!束さああん・・うああああああああ!!」

 

一夏は血を見たショックからか雪片をその手から滑り落とし、異常事態に気づいた千冬は真耶にすぐ指示を出し、試合を中止させ救護班を呼びアリーナの中へと急いだ。

 

 

鏡夜はすぐに保健室に運ばれ手当を受ける事になり、一夏は状況説明の為に千冬に呼ばれていた。

 

「一夏、一体何をした?説明しろ。ただの怪我にしては鏡夜のあの苦しみ方は異常だ」

 

一夏は震えた声で千冬に対し、ゆっくりと答えた。

 

「鏡夜兄に・・・攻撃を止められて・・・零落白夜を発動してそのまま振り抜いたら・・鏡夜兄が・・血を流して苦しんでいて・・・お、俺・・鏡夜兄の目を・・」

 

「そうか、わかった。一夏、白式を渡せ」

 

「ど、どうしてだよ!?」

 

いきなり自分の機体を渡せと言われ、一夏は大声を上げた。

 

「零落白夜をしばらくの間、封印する」

 

「!そ、そんな!?」

 

「今回のような事が起こっては使わせるわけには行かん!私の説明不足でバリア無効の意味を言わなかった私の責任だ」

 

「で、でも!」

 

「拒否は許さん!しばらくは雪片のみで訓練しろ!」

 

千冬の声に押されたのか一夏は待機状態の白式を千冬に手渡し、それを預かった千冬はすぐに立ち去ってしまった。

 

「人を・・鏡夜兄に・・・大怪我を・・負わせ」

 

初めて人に対し大怪我を負わせてしまった一夏はその場で震える自分の掌を見つめたまま動けずに、固まっていた。




鏡夜は左目を失いました。シーズン2のアレですね。

まだ右目が残ってるだけマシでしょうか?

次回に続きます。


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第三話 Beasts full of scratches

獣は待つ、癒える時を

傷を負せた相手を探すために


試合中に起こったアクシデントによってクラス代表を決める戦いは流れてしまった。

 

クラス代表はクラス内で話し合った結果、セシリアが務める事になった。

 

セシリアは呆気に取られたが、担任である千冬から事情を説明され納得した。

 

一夏と鏡夜の試合を自分も観戦していた為に鏡夜は片目に重傷を負い、一夏は鏡夜に重傷を負わせたショックでクラス代表など出来る状態ではない。

 

教室内ではセシリアが改めてクラス代表の挨拶をしている。

 

「皆さん、この度クラス代表となったセシリア・オルコットです。クラス代表となりましたが織斑先生やクラスメイトの方々、一人はおりませんが男性操縦者のお二人にもこの場を借りて謝罪したいと思います。本当に申し訳ありませんでした!」

 

セシリアは教壇から降りてクラスメイト達や教師である千冬と真耶に深々と頭を下げた。

 

それを見た千冬が全員を代表して言葉を紡ぐ。

 

「反省し謝罪をしたのならば言う事はないが、あの時のような発言は控えるように。同じ事をしたのならば二度目は無いと思え」

 

「は、はい!」

 

許しを貰えたことでセシリアは安堵したが、もう一度あのような横暴な態度を取れば次はない、つまりそれは本国であるイギリスに報告するという意味であり、警告とも取れる言葉だ。

 

しかし、今のセシリアには女尊男卑の考えがどれだけ愚かな事か理解している。

 

今の時代は確かに女性が強いだろう、それはISに適応し動かす事が可能なのが女性であるという点を盾にしているに過ぎない。ISその物を持っていないのにも関わらず、適合し操縦できるという部分を女性の力であると勘違いして横暴な態度を取っている一般の女性も多い。

 

その女性の優位性を仮に失ってしまったらどうなるか?間違いなく男性からの報復が来るだろう。内部で活動している火山のように突然噴火し報復される。それを少しでも思考するのが出来るのであれば自分が染まっていた思想が愚かなのかと冷静に考える事が出来るはずだ。

 

セシリアは男性操縦者の二人と戦った事で己の染まっていた思想がどれだけ愚かであったのかを自分自身で気付く事ができたのだ。

 

「では、授業を始めるぞ?今日は山田先生の講義だ、しっかりと聞くように!」

 

 

 

 

授業を各教室が行っている最中、鏡夜は保健室で意識を取り戻していた。叫びと出血の影響で意識を失っていたのだ。

 

「・・・やっぱり斬られた方はぼんやりと形があるくらいしか認識できないか」

 

Armour(アーマー)細胞の驚異的な再生力によって傷自体は回復したが視力に関しては全くと言っていいほど回復していなかった。

 

左目の瞳は光を失いかけているかのように白っぽく濁りかけている。完全に回復するにしてもかなりの日数を必要とするだろう。

 

「あら、起きた?」

 

保健室の担当教諭が鏡夜に話しかける。その手にはお盆を持っており、食事が乗せられていた。好みを反映しているのかハンバーガーと肉料理が一品あるのみだ。

 

「これ・・」

 

「お腹空いてるのでしょう?食べていいわよ」

 

「ありがとうございます」

 

鏡夜は身体を起こすとハンバーガーと肉料理を貪るように食べ始めた。

 

「ごちそうさまです、教室に戻りますね」

 

右手を壁に着けながら鏡夜は保健室から自分のクラスへと戻っていった。

 

その様子を見届けた保健室の担当教諭は何かを呟いた。

 

「プロトアマゾン、成長を未だ止めておりません」

 

 

 

 

教室へ戻るとクラスメイト達が一斉に押しかけてきた。理由は恐らく、目を斬られ苦しみもがいている様を見ていた故の心配だろう。

 

「鏡夜くん!?」

 

「大丈夫なの!?」

 

などの声が上がるが、鏡夜はどうどうと落ち着かせるように手で押すような仕草を両手でした。

 

「俺は大丈夫だから落ち着いてくれ、怪我はしたが命があるだけ儲けもんなんだから。それと一夏を責めないでやってくれよ?」

 

クラスメイト達は納得いかなかったようだが、仕方ないといった様子でぞろぞろと教室内部に散らばっていく。

 

「鏡夜兄!お、俺・・・」

 

鏡夜の姿を見た一夏はクラスメイトの女生徒達が戻ったと同時にやってきた。その様子からして自分のしてしまった事を謝りたいと言いたげだ。

 

「なんだよ?一夏まさか、俺は償うからなんて言うんじゃないだろうな?」

 

「っ!?」

 

鏡夜の言葉は的を射っており、一夏は狼狽えた。自分が大怪我を負わせてしまったがゆえ、鏡夜に償う事で自分を罰したいと考えているのだろう。

 

「俺の怪我は気をつけていても起こらないとは限らない出来事の中で起こった事だ。どんなに言葉を言っても起こった事は戻らない、だから自分で整理しないといつまでも引き摺る事になるぞ?」

 

「う・・・」

 

鏡夜の言葉は優しくも今の一夏には厳しすぎる言葉だ。自らを罰したいのに責めるような事はされず、割り切られてしまっていたから。

 

「俺に償うなんて事を考える前に、これからどうするかだろ?俺の心配よりも自分の事を考えろよ。お互いにそこまで成長してないし未熟なんだから」

 

「わ、わかった」

 

「何も傷つけず、自分の手も汚さない。優しい生き方だけどな?何の役にも立たないんだなぁ・・・人間は聖人君子じゃないんだから」

 

「・・・・鏡夜兄」

 

鏡夜はほとんど見えない左側にぶつからないよう歩き出し、自分の席に着席する。

 

一夏も席に戻り、予定にある残りの授業を受ける事にした。

 

 

 

 

日本時間で鏡夜と一夏が授業を受けている最中、中国では一人の少女が培養液のような物が満たされた物から外へと出された。

 

移動の為のストレッチャーに寝かせられた少女は裸体のまま眠っているかのように目を閉じており、起きる気配はない。

 

その腕には改良された新しいアマゾンズレジスター、ネオアマゾンレジスターが装着されている。

 

「人間への移植体、これが唯一の本国での成功例だ」

 

「まさか、この危険な細胞の培養方法と制御方法を改善したデータが匿名で送られてくるとは」

 

「まぁ、良いではないか。これで我が国家の力となるだろう」

 

「そう、ですね」

 

軍人らしき男性と研究員のような格好をした男性二人が話している中、少女は意識を僅かに覚醒させていた。胸の中にあるのは再会したい二人の男性への思い。

 

「(鏡夜・・・一夏、会いたい。すぐにでも!)」

 

意識がゆっくりと覚醒していくと同時に彼女の中で何かが囁きかける。私はお前でお前は私。その名前を叫んで呼べと。

 

「・・・ア・・マ、ゾン・・・!」

 

獣の名を呼んだ彼女はその姿を異形に変えた。内にいる獣の姿を見せつけるように咆哮を上げる。

 

目覚めると同時に少女は飛び起きて出口へと向かっていく。

 

「わた・・・私は・・・会いに・・・イキタイ!」




さて、アマゾン側にISガールズのうち、2、3人入れようと考えていたら短めですがネタが湧き、書きました。

今回はアマゾン側の一人です。国の名前が出てるのでわかりやすいかと。

次は誰をアマゾン側にしようか検討中です。


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第四話 A desire not to reach

その味を覚えた獣は飽きるまでそれを求め続ける。

それが例え生き物だとしても





※少しだけ書き直しがあります、ご了承ください。


中国の研究所から何かが脱走した同時刻。軍と研究所は対策会議を開いていた。

 

「どうするのだ!?貴重な研究体が脱走したのだぞ!」

 

「お静かに。実験を施す前に彼女の口から希望を聞いていたでしょう?それを利用するとしましょう」

 

「まさか、IS学園に?」

 

「はい。書類作成や手続きは済んでいます、仮に彼女が向かっても転校生として編入出来るように交渉もしておきました」

 

軍の人間である男は研究員の女性に対し恐怖をわずかに抱いた。この女の手腕はどこまで優れているのだろうと。

 

女性であるから今の時代において、優位性を発揮出来ている事は自分にも理解がつく。

 

しかし、あらゆる手回しをこの女性研究員は一人でこなしてしまう。その行動、先天性、その全てが的を射ている。

 

味方のうちは頼もしく感じるが、逆に敵に回った時の恐ろしさを軍人の男は考えていた。

 

今のうちにこの女研究員を始末しておくべきではないかと。

 

「今は私達の娘の行動を見守りましょう、それが親というものです」

 

女性の深い笑みに軍人の男はただ黙って見つめている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

数日後、一人の少女がIS学園の前に来ていた。荷物は先に届いていると政府から伝えられており、IS学園の校舎を見上げている。

 

「ここにいるのね、アイツ等が!」

 

少女の左腕にはネオアマゾンズレジスターが装着されており、人間ではない。正確には人間であった事を示している。

 

「私は私、変わってないわよ!」

 

少女は受付に向かう為に学園の中へと向かった。敷地内が広く途中で迷いに迷ったのはご愛嬌である。

 

 

少女がIS学園への転校手続きを済ませた後、あるクラスは騒がしく、ガヤついていた。

 

「ねえねえ、聞いた?今日、転校生が来るんだって!」

 

「転校生か、ここって確かIS適性が高いか代表候補生にならないと無理じゃなかったか?」

 

「それがね、転校生は中国の代表候補生なんだって!」

 

女生徒の言葉に鏡夜と隣に座っていた一夏が一瞬だけ表情を変えた。

 

「中国か・・・」

 

「中国ねぇ、まさかアイツじゃ?」

 

「そうよ、相変わらずね?二人共!」

 

愚痴るように言葉を発すると同時に教室の扉が突然開いた。そこには髪をツインテールに結った少女が立っている。

 

明るさと元気さを強調するかのような高い声に視線が集中する。

 

視線は男性操縦者の二人に向けられており、男性側も驚きを隠せない。しかし、鏡夜だけは全く別の部分を見ていた。

 

彼女の左腕にある腕輪と彼女自身から発せられている同族としての気配と匂いを感じているのだ。

 

無論、隣にいる一夏は腕輪には気づいたが、気配までは気づかない。彼は人間として生きている故に。

 

「お前、鈴。鈴か!?」

 

「まさかの転校生が鈴だったとはなぁ、びっくりだ!」

 

「そう、中国代表候補生!凰鈴音よ!」

 

鈴の言葉に吹き出しそうになる二人だったが一夏は最も疑問だった部分を鈴に訪ねた。

 

「鈴、その腕輪一体なんだ?邪魔なら外せばいいのに」

 

「少し訳ありでね?これは外すことが出来ないのよ」

 

「(まさか鈴、俺と同じで?)」

 

鈴は僅かに自分の中から食人衝動が沸き起こりかけたが、レジスターのおかげで抑制されていた。

 

「あ、時間になるわね。挨拶したかっただけだから、それじゃあね!それと鏡夜!後で屋上に来てよ!?」

 

鈴はすぐに教室を出ていき、自分のクラスに戻っていった。

 

「今度、戦う相手ですのね。あの人が」

 

セシリアは鈴を自分の席から見ていた、クラス代表を務める自分としては対戦相手の事を知っておく必要がある。そんな思考を巡らせていた。

 

 

 

午後の授業が終わり、鈴に呼び出された鏡夜は約束通り屋上へと壁に手を着けながら向かい扉を開けた。

 

「来てくれたのね、鏡夜!最もアンタなら理由は解ってるわよね?」

 

「ああ、鈴。お前も俺と同じように?」

 

「そうよ、私もArmour(アーマー)細胞を移植されてアマゾンになっているわ。この腕輪が無かったら食事(・・)していたところよ」

 

「!もしも喰ってるなら・・・」

 

そう言って鏡夜は警戒の為に腰に巻いていたアマゾンズドライバーを見せグリップに手をかけるが、鈴は両手を慌てて振って戦闘の意志がない事を示す。

 

「わ、私はアンタと戦うつもりはないわよ!それに腕輪があるから人も食べていないから!」

 

「そう、か。早とちりだったかな?」

 

アマゾンズドライバーのグリップから鏡夜が手を離すと鈴は安心したようにため息を吐いた。

 

「それで、アマゾンの事だけを話に来たのか?」

 

鏡夜が質問すると同時に鈴は首を振って応え、口を開いた。

 

「違うわ、私は自分の気持ちをハッキリさせにきたの。居るんでしょ!?一夏!」

 

「っ!!な、なんで!?俺がいる事が分かったんだ!?」

 

扉の陰に隠れていた一夏は驚いたまま素直に姿を現した。姿を確認した鏡夜はおやおやといった様子で一夏に視線を向けている。

 

「教えてやる。Armour(アーマー)細胞から生まれた生き物や俺のように移植された奴は肉の匂いに敏感になるんだよ。Armour(アーマー)細胞は本来、人間が好物だからな」

 

平然と教えられるArmour(アーマー)細胞の好物に驚きを隠さないまま一夏は鈴に視線を向ける。

 

「なぁ、鈴・・・嘘だろ?鈴も鏡夜兄と同じになってるなんて?」

 

「嘘じゃないわよ?だから、ハッキリさせたいの。一夏、鏡夜・・・私は二人が好きなの。それが私の素直な気持ちなのよ、でもね?」

 

鈴はネオアマゾンズレジスターのスイッチを入れ、己の中のArmour(アーマー)細胞を活性化させる、自分の内側にいる獣としての姿を見せるためだ。

 

「アマゾン・・・!」

 

わずかな衝撃波と共に鈴の姿が一瞬で異形に変わってしまった。それはまるで鏡夜が自ら姿を変えたあの時みたいだと一夏は思った。

 

孔雀の羽根や爪のような物を持ち、異形であっても美しさは失っていないのが鈴の獣としての姿だ。

 

「コレデモ、ワタシノキモチニコタエテクレル?イチカ、キョウヤ」

 

曇りかけた鈴の声でクジャクアマゾンは一夏に訪ねてくる。異形の姿を晒したのは鈴自身の覚悟だろう。

 

「お・・俺は!」

 

一夏は迷っていた。自分の中に異形を鈴なのは変わらないと考える自分と化物として見ている自分の両方があり、揺らいでいる為だ。

 

探るように一瞬だけ鏡夜を見るが鏡夜は何もしていない。むしろ、答えは既に決まっているかのように何も言わないのだ。

 

口にするのを迷っている間に鏡夜は異形となった鈴に対し、言葉を紡いだ。

 

「鈴の気持ちは嬉しい。でも、正直俺はまだ鈴に対して恋慕を抱いているのかは解らない。だから俺はまだ答えを出せない」

 

鏡夜自身の答えは自分の気持ちがハッキリと鈴に向いているのかが分からないと答えを出した。普通に見れば振った様な言葉だが鏡夜自身、言葉選びが上手くなく口下手な故にこのような答えしか出せなかった。

 

「・・・・」

 

ネオアマゾンレジスターのスイッチを押し、抑制剤を再び注入したクジャクアマゾンは再び鈴の姿へと戻った。

 

「ありがとうね、これで私の気持ちもハッキリ出来たわ!」

 

「っ・・・」

 

「まぁ、俺も一夏も女性と付き合うってのがわからないってのが本音だからさ。悪く思わないでくれ」

 

「良いのよ。それじゃ改めてよろしくね?二人共!」

 

鈴の手を鏡夜はとって握手し、次に一夏も握手するがほんの僅かに震えていた。

 

第二の幼馴染で惚れ込みかけていた相手が異形(アマゾン)になっており、人間ではない。そんな考えが一夏の中に湧き上がっている。

 

「おい、何ボーッとしてんだ?夕飯に遅れるぞ?」

 

「え、あ!待ってくれよ!」

 

「全く、相変わらずね。って、鏡夜!?アンタ左目が?」

 

「事故ってな?気にしない気にしない!」

 

鏡夜の白く濁った左の瞳を見てしまった鈴は驚いたが、本人が気にしていない様子ゆえに深く追求はしなかった。

 

その後、三人は夕食を取った後にそれぞれの部屋に戻っていった。

 

 

 

深夜、一夏は眠ることが出来ずにずっと考え事を横になったまましていた。鏡夜や鈴が変身した姿、あれがArmour(アーマー)細胞の特性なのかと。

 

「鏡夜兄と同じようになれるのか?俺もArmour(アーマー)細胞を自分の中に」

 

一夏は危険な思考を巡らせていた。自分が兄と同じ境地に立てば全てを守る事が出来るのではないかと。

 

しかし、それは能力という力の側面しか見えていない思考である。一夏はArmour(アーマー)細胞が肉の匂いに敏感になるという部分を考慮していなかった。

 

肉の匂いに敏感だという事は肉を喰らう事でエネルギーを確保している事にほかならない。更には人間の肉を好んで喰らうという性質があるという事も危険である。

 

守るべき人間を自分の食料としてしか見れず、老若男女全て喰らってしまう存在に成れ果ててしまうのがArmour(アーマー)細胞の弊害だ。

 

力というものはただ力だけでしかないが危険であり、強力であればあるほどその魅力に引き込まれてしまう事が多い。

 

魅せられてその力を得ようとすれば、逆に力に使われる羽目になってしまう。

 

一夏はArmour(アーマー)細胞という強力な力に魅せられ、自分自身も手に入れたいと考え始めていた。




最近、更新出来る暇がほとんどありません。

時間を何とか確保したいです。


※クジャクアマゾンについて。

クジャクアマゾンはオリジナルです。何故に孔雀かというと羽根を武器にしたかった事と美しさを持たせたかった故です。

クジャクアマゾン

凰鈴音のアマゾン態。ネオアマゾンレジスターによって体内のArmour(アーマー)細胞を活性化させ、変身した姿。ISとしての登録もしてある[中国政府の裏取引によるもの]為に事実上、二機のISを持っている事になるが変身はさほど多くはない。戦闘力は高く、羽根を武器にする事でその素早さを生かしたかく乱戦法と羽根を使った接近戦が得意。


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第五話 The power to be fascinated

力を得るにはどうすべきか?

有無を言わさず手に入れてしまったら?

その答えを己で見つけねばならない。



鈴が転校してきてから数週間が経ち、クラス代表戦の話題で持ちきりになっていた。

 

一組のクラス代表はセシリアが勤めているが、他のクラスはまだ明確は分かっていない。

 

「クラス代表戦か、見に行ってみるかな」

 

「鏡夜兄もセシリアの応援に行くのか?」

 

「いや、俺は純粋にISの戦いってのを見たいだけだって」

 

「そっか。それとさ鏡夜兄、相談したい事があるから放課後に中庭に来てくれないか?」

 

「今じゃなくてか?」

 

「ああ、放課後にさ。頼むよ」

 

「わかった」

 

一夏との会話を終えると鏡夜はアリーナへと向かう、話題となっているクラス代表戦の当日であり、試合を観戦する為に向かって行く。

 

アリーナ内部ではクラス代表の戦いを観ようと最上級生である三年生から、新入生に当たる一年生まで集結している。

 

第一試合は一年生のクラス代表同士の戦いである。男性操縦者二人が所属する一組と鈴が所属する二組の対決だ。

 

戦場に出て対峙しているのは一組の代表であるセシリアと二組の代表となった鈴だ。

 

二人の目には紛れもない闘志が宿っているが鈴の目には戦えるという喜びが、セシリアの目には全力で戦うという決意がある。

 

「アンタが一組代表の?」

 

「はい、セシリア・オルコットと申します。以後、お見知りおきを」

 

「二組の代表、凰鈴音よ」

 

「存じていますわ、男性のお二人に挨拶していた時に名前を言っていたでしょう?」

 

「そういえばそうね」

 

セシリアは鈴から鏡夜と似た感覚を抱いていた。鏡夜とは違ってはいるものの根本的な物が同じだ。鈴の左腕のネオアマゾンレジスターもそれを示している。

 

「私は今、甲龍を展開してるけどもう一つ機体があるの、どちらと戦いたい?」

 

「!そのもう一つの機体というのは全身装甲の?」

 

「その通りよ!でも、どうして分かったの?」

 

「わたくしは鏡夜さんと一度戦った事がありますので、もしやと思っただけですわ」

 

セシリアの返答に鈴はなるほど、と口にし笑みを浮かべた。

 

「それで、どっちにする?」

 

「全身装甲の方と全力で戦いたいですわ!」

 

「わかったわ。でも、怪我しても文句は無しよ。いい?」

 

「当然ですわ」

 

二人の会話が進む度に試合時間は刻一刻と迫ってくる。鈴はピットからの出撃の為に展開していた甲龍を解除し、ネオアマゾンレジスターに手をかけスイッチを押した。

 

「アマゾン・・・!」

 

僅かな衝撃波が起こり、鈴はクジャクアマゾンへと姿を変える。その姿にセシリアも観客席の生徒達も驚くが、鏡夜という前例がある為に全身装甲へ変身するのは見慣れている様子だ。

 

「アマゾンという言葉は共通ですのね、詳しく知りたくなってきましたが今は試合に集中しませんと」

 

「ケアアアアアアア!!」

 

試合開始のブザーと共にクジャクアマゾンは素早い動きでセシリアのブルー・ティアーズに接近してくる。その速さは対峙している相手からすれば驚異的なものに映るだろう。

 

「鏡夜さんと同等のスピード、ですが今のわたくしには恐れるものではありませんわ!」

 

たった一度ではあったが鏡夜との戦い以降、セシリアは一人でひっそりと動体視力を鍛える訓練を行っていた。

 

コンピュータープログラムによるものだが、セシリアは訓練を続けており、その成果が現れているのかアマゾンの早さが今のセシリアには遅く見えている。

 

「そこですわ!」

 

得意とするライフル射撃をクジャクアマゾンに向けて放つ。その一撃は鏡夜と戦った時以上に正確さが増している。

 

「ガアアア!ヤル、ジャナイ!」

 

「まだまだ、こんなものではなくてよ!行きなさい!ティアーズ!」

 

ブルー・ティアーズ特有のビットを展開し空間攻撃を仕掛け、クジャクアマゾンを追い込んでいく。しかし、クジャクアマゾンは己の羽根をボウガンのように発射し、セシリアを直接狙ってきたのだ。

 

「!くっ!あの羽根、攻撃にも使えるんですの!?」

 

「ビットノコウゲキハ、ソウジュウシャヲネラッテ、シュウチュウリョクをミダセバイイノヨ!」

 

鈴の本来の声が濁っているかのような声でクジャクアマゾンはビットの対策を口にする。

 

アマゾン態になっていても中国の代表候補生である鈴は相手への対策を怠っていなかったのだ。

 

「流石は中国の代表候補生、ビットの弱点を読んでいますわね。それでも」

 

「アタシダッテ!ゼッタイニ!!」

 

「負けませんわ!」

 

「マケナイワヨ!」

 

試合が白熱しかけたその時、アリーナの天井とバリアの上部分が破壊され、そこから何かが飛来してきた。

 

一体は機械でISのような何かだが、もう一体、いや正確には三体だが女性のようで人間のようではあるようだが様子がおかしかった。

 

「クウウウアアアアア!!」

 

「食べたい・・・食べタイ、タベタイ!!

 

「キイアアア!」

 

三人は奇声や食欲に関することを口にしながら、水蒸気のようなものを全身から出しその姿を変えた。

 

「っ!アマゾン!」

 

「あれが?」

 

「セシリア、ニゲテ!喰ワレル前二!」

 

「ど、どういう事ですの!?鈴さん!」

 

クジャクアマゾンに逃げろと促され、セシリアは混乱していた。突然逃げろと言われても当然の事だろう。

 

「アノ三体ハ、人間ヲ好ンデ喰ウノヨ!今、一番狙ワレテイルノハ、セシリア!アンタナノ!」

 

「なっ!?」

 

「カアアア!!」

 

「!!」

 

セシリアを襲おうとした一体のアマゾンの動きをクジャクアマゾンが羽交い締めにして止めると再び口を開いた。

 

「速ク、逃ゲテ!!セシリア!」

 

「わ、わかりましたわ!」

 

セシリアは急いでピット内部へと離脱したが、突然の出来事に生徒達はパニックを起こしていた。

 

「ハッ!イヤァ!」

 

「カカカカ!」

 

「アグッ!?」

 

三体のアマゾン相手にクジャクアマゾンは苦戦していた。数で勝り、飢えている三体のアマゾンの攻撃に反撃の隙が見当たらない為だ。

 

その様子を一夏と鏡夜は見ていたが、一夏が突っ走りそうになっているのを鏡夜が押さえている。

 

「鏡夜兄!離してくれ!!俺は鈴を助けに行くんだ!!」

 

「少しは冷静になれ、今飛び出して行っても喰われるだけだぞ?前に言った事を覚えてないのかい?奴らは人間が好物なんだ、だから鈴はセシリアを真っ先に逃がしたんだぞ」

 

「それでもだ!いいから離してくれよ!じゃないと鈴が!!」

 

「いい加減にしろ、何度も同じ事を言わせる気か?一夏」

 

冷静でいて怒気を含んだ鏡夜の声に一夏は怯んで暴れるのを止めてしまった。感情に任せず冷静に怒りを見せられれば誰でも恐怖するだろう。

 

「人間を襲うピラニアの群れがいる水の中に自ら飛び込もうとはしないだろう?今アリーナの中に入るって事ははそれと同じなんだから」

 

「じゃあ、俺はどうすればいいんだよ!」

 

「アマゾンを俺と鈴が狩った後にあのISみたいな機械の相手を任せる。それならお前も戦えるだろう?っと、鈴がマズイな!先に行くぞ、アマゾンを狩った後にすぐに来い!一夏!」

 

「あ、鏡夜兄!」

 

鏡夜はISを展開すると破られたバリアの場所からアリーナ内部へと侵入し、鈴の傍へ着地した。

 

「きょ、鏡夜・・・」

 

クジャクアマゾンの姿から元の鈴の姿に戻ってしまっており、身体もふらついている様子を見た鏡夜は隠し持つのが常となっているゆで卵を取り出した。

 

「鈴、足りないだろうけど喰っとけよ。多少はマシになるだろ」

 

取り出したゆで卵を鈴に投げ渡し、自分の分のゆで卵も取り出すとアマゾンズドライバーも同時に取り出し殻を剥くために二、三回ゆで卵を軽くぶつける。

 

その間に鈴はキレイに殻を剥き終えて、ゆで卵をすぐに口の中へと入れて食べ始めた。

 

「んぐんぐ・・・んっ、ありがとう鏡夜」

 

「大した事じゃないって、さて・・・今回は大真面目に取り掛からないとな」

 

鏡夜自身もゆで卵を食べ終えるとアマゾンズドライバーを腰に巻き、待機状態にした。

 

鈴は再びネオアマゾンズレジスターに手をかけ、準備万端といった様子だ。

 

「行くか、鈴」

 

「ええ!」

 

「うおおおおっ!アマゾンッ!!」

 

「アマゾン・・・!」

 

緑色の衝撃波に追従するように弱めの衝撃波も発生し、三体のアマゾンは怯み、ISのような物は危険アラートを鳴らしている。

 

「ウアアアア!!」

 

EVOLU(エボリュー)-E-(・エ・)-E-(・エ・)EVOLUTION(エボリューション)

 

そこにいるのはとツリ目の複眼が特徴的な仮面ライダーアマゾンオメガと再び変身したクジャクアマゾンであった。だが、オメガの左側の複眼が白くなっている。

 

「鈴、左側のサポートを任せた。あんまり見えないからな」

 

「エエ、マカセテ!」

 

三体のうちの一体のアマゾンがオメガの顔を殴り、それを受けたオメガは腕を掴むと自分を殴ったアマゾンをそのままもう片方の拳で殴った。

 

「ウエアアアアアアア!」

 

「カカカカ!」

 

オメガは殴りかかったアマゾンを殴り続け、そのまま取り押さえるように押し倒し、腕を締め上げる。

 

実際は締め上げているのではなく、肘から下を上に向かせて引っ張り上げており、アマゾンの腕からは骨が軋みを上げ、肉が千切れる音がし始めている。

 

「ウオオオアアアアア!!」

 

叫び声をあげながらオメガは自分に殴りかかってきたアマゾンの腕を引きちぎる。その腕からは血の代わりに黒い粘液のようなものが吹き出し、そのまま形を崩していった。

 

「クアアア!」

 

クジャクアマゾンも自分の羽根を短刀のように扱い、別のアマゾンを追い込んでいる。素早さを活かした接近戦を仕掛け、関節部分に羽根を突き刺していく。

 

「ガグガアア!」

 

四肢の関節を貫かれたもう一体のアマゾンはそのままアリーナの地面に倒れかけるがそれを待っていたかのように背後へ回り込み、腹部を腕で貫き、引き抜いた。

 

腹部を貫かれたアマゾンも黒い粘液のへと姿を変えていき、赤く表示されているアマゾンレジスターだけが残った。

 

 

「ウオアアアアア!」

 

最後の一体もオメガに左胸を貫かれ、赤く光るアマゾンとしての心臓である核を引き抜かれていた。まるで鼓動しているかのように赤い光が点滅している。

 

「気持ち悪いな・・・ふんっ!」

 

引き抜いた核を握りつぶし、しばらくすると倒した二匹のアマゾンのように最後の一匹も黒い粘液となって消滅した。

 

「さて、残りは・・・!」

 

「アイツ、ダケネ!」

 

自律型のようなISは迎撃態勢になっているが、警戒しているのか自分から戦闘を仕掛けてこようとしていない。

 

それを見たオメガとクジャクアマゾンはゆっくりと構えを取ると、何かを待つようにその場で静止した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・・うぐええええ!げええっ!!」

 

観客席からオメガとクジャクアマゾンの戦いを見ていた一夏だったが、敵アマゾンに対して止めを刺す瞬間を見てしまい、その場で嘔吐した。

 

 

無理もないだろう、アマゾンとは言えども人の形をした物の腕が引きちぎられた瞬間や、腹部を貫かれた瞬間、更には心臓に値する部分を握りつぶす所を続けて見ていたのだから。

 

一般的な感覚を持ち合わせていれば嘔吐しないほうがおかしいのだ。

 

「はぁ・・はぁ・・俺も、行かな・・・きゃ」

 

嘔吐した口元を拭い、白式を展開すると、鏡夜と同じ方法でアリーナへと入る。それを待っていたのかのようにオメガとクジャクアマゾンは一夏に視線を向ける。

 

「遅いぞ一夏、まぁ・・その様子じゃ仕方ないか」

 

「うう・・・」

 

「ソンナ事ヨリモ、アレヨ」

 

一夏の様子を見ていた鏡夜を注意するようにクジャクアマゾンが声を掛ける。目の前にはまだ敵がいるのだ。

 

「一夏、俺と鈴で足止めをする。お前が倒せ」

 

「ああ、わかった!!」

 

「ウオオオオ!」

 

「!」

 

オメガとクジャクアマゾンは所属不明のISに向かって行く、しかし二人の攻撃を捌き逆に押し返し吹き飛ばした。

 

「ウガアアアアア!」

 

「ガハッ!?」

 

「鏡夜兄!鈴!!くそおおおお!」

 

一夏も向かっていくが相手は機械、正確さにおいては人間以上であるため一夏の一撃は先に向かった二人以上に簡単に捌かれてしまう。

 

「うあああ!ぐ、くっ!」

 

三人が苦戦している中、突如としてアリーナ全体に放送が響き渡る。

 

『一夏ァ!』

 

「!????」

 

『男なら・・・男ならそのくらいの敵に勝てなくてなんとする!!』

 

「!ナニヲシテルノ!?アイツハ!」

 

その放送を行った声の正体は箒であった。敵を倒せない一夏に対して激を飛ばしているつもりだろうが、敵からすれば狙って下さいと言っているようなものだ。

 

所属不明のISは標的を変えて放送室を狙うために移動してしまった。

 

「あ!行っちゃった!!」

 

「箒ィィィ!」

 

「ああ、もう!叫んでる暇があったら動けって!!」

 

鏡夜はアマゾンズドライバーのアクセラーグリップの左側を捻り、必殺コードを起動した。

 

VIOLENT STRIKE(バイオレント ストライク)

 

「ウオオオオアアア!!」

 

助走の勢いを利用した飛び蹴りを所属不明のISに打ち込み、放送室を襲うはずだった攻撃を機能が生きているバリア部分へ逸らすことに成功した。

 

視界を半分失っている状態で攻撃を逸らす事が出来ただけでも儲け物だろう。

 

そのままオメガはISの右腕に組み付き、押さえ込む。クジャクアマゾンも素早さを活かして左腕に飛びつき、押さえ込んだ。

 

「イチカ!イマヨ!!」

 

「お、おう!はあああああ!!」

 

一夏はクジャクアマゾンに催促され、正体不明のISに対し瞬時加速(イグニッション・ブースト)の勢いを利用し雪片を中心に突き立て、すぐに後退した。

 

オメガとクジャクアマゾンもすぐに離れ、両脇に待機する。火花が出ているが射撃をクジャクアマゾンに対し放ってくるが素早く動き回る為に当たる気配はない。

 

「こっちも構って欲しいな!一夏!斬ったら刀をすぐに回収しろ!」

 

「え?あ、あ・・わかった!」

 

オメガは再びアマゾンズドライバーのアクセラーグリップの左側を再び捻り、必殺コードを起動する。

 

VIOLENT PUNISH(バイオレント パニッシュ)

 

「ウアアアア!」

 

右腕のレザーカッターで正体不明のISを切り裂くが完全に真っ直ぐではなく右寄りになってしまっている。

 

それでも、強烈な一撃とコアに届いていた雪片が致命傷となり機能を停止した。

 

動かない事を確認したオメガはアマゾンズドライバーを腰から外し変身を解いて鏡夜の姿に戻り、クジャクアマゾンも本来の姿である鈴の姿に戻る。

 

「やったんだよな?俺達が」

 

「ああ、でも」

 

「忘れてるの?織斑先生への報告が残っているわよ」

 

鏡夜と鈴は少しだけ気を重くし、一夏は箒の身を案じており報告の事を聞いてようやく二人が気を重くしているのに気づいていた。

 

「報告の後に一夏、お前の話を聞いてやる」

 

「ああ、鈴も一緒に聞いて欲しいんだけどいいか?」

 

「構わないわよ、それじゃ織斑先生の所へ行きましょ」

 

三人はアリーナから出て行き、教師部隊に任せて千冬のもとへと向かった。




時間が、時間が欲しいです。

そろそろ、仮面ライダーアマゾンネオが出てきます。

ネオの変身者は意外な人物です。誰になるかは伏せますが。


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第六話 The words of the Shang

喰らうのなら残さず喰らい尽くせ。

喰らえない者は何も出来ず停滞するのみ。


戦いの終わったアリーナから教員が出入りするアリーナの一室に移動した三人を待っていたのは織斑千冬となぜか拘束状態にある箒であった。

 

しかも逃げ出せないように親指をバンドで止めてあり、千冬が監視している。

 

「さて、積もる話は色々あるがまずは報告を聞こう」

 

千冬の言葉に鏡夜が代表して答える、いつもの飄々とした態度は無くなり真剣そのものだ。

 

「アリーナの試合中に正体不明のISらしき機体が一体、それとISに捕まってきたのか学園内に潜んでいたのかは不明ですがアマゾン三体を確認。それを俺と鈴が狩り尽くし、残った正体不明のISも一夏の協力を得て破壊しました」

 

「ふむ、二人共、鏡夜の報告に間違いはないか?」

 

「鏡夜兄の言葉通りだよ」

 

「間違いありません、鏡夜の報告と私が報告しようとした内容も変わらないので」

 

一夏と鈴は鏡夜の報告に間違いはないと念押しして肯定した。

 

「雨宮、アマゾンと呼ばれた三体に関しては?」

 

「俺からは何とも、あくまで推測でしかありませんが世界中でArmour(アーマー)細胞に関する研究がされているのではないかと」

 

「現状では何も分からないということか」

 

「はい」

 

鏡夜の報告を聞いて千冬は改めてArmour(アーマー)細胞の危険性を噛み締めた。

 

今回はArmour(アーマー)細胞を体内に持っている二人のおかげで誰一人として被害に遭うことはなかった。

 

二人が居ないことを考えればその被害は想像以上であり、学園が血の海に沈む事を容易く想像出来ることに恐怖してしまう。

 

千冬は内心、この二人に対して感謝と警戒を同時に抱きながら次の話題へと移った。

 

「次にこの馬鹿者に関してだ」

 

「っ!」

 

千冬の視線が鏡夜達三人から拘束されている箒に向けられる。

 

「篠ノ之、お前は何故あの時に放送室にいた?無断で勝手に放送をした事も問題だ」

 

「わ、私はただ一夏に喝を入れようとしただけです!」

 

「バッカじゃないの?」

 

「何!?」

 

鈴が何気なく呟いた言葉に箒は過剰に反応し、射殺す勢いで睨んだ。己を馬鹿にされたのだから当然といえば当然の行動だが鈴はどこ吹く風の様子だ。

 

「あんな事をしたら真っ先に狙われるのは当たり前じゃないの、そんな事も分からないの?」

 

「わ、私は一夏の為に!」

 

「その一夏の為にっていうのが根本的におかしいの、あの時に逃げる事の方がよっぽど一夏の集中力に役立ったはずよ」

 

「なんだと!?」

 

「はいはい、口喧嘩は止める。これ以上続けてると織斑先生の鉄拳が飛んでくるぞ?」

 

「余計な事を言うな、雨宮」

 

鏡夜が手を鳴らしながら二人の口喧嘩を仲裁し、千冬が二人を殴ろうとしていたのも同時に止めていた。

 

「箒さんよ?勇気と無謀は紙一重だって聞いたことないかな?今回やった行動は無謀だよ?」

 

「っ」

 

「今回は運が良く助かっただけ、俺もあの時、偶然に逸らす事が出来ただけでも幸運だったんだよ」

 

「私は・・・助けて欲しいなどと!」

 

「ああ、そう。俺も助けるつもりじゃなかったって言えばいいのかな?」

 

「それは・・」

 

鏡夜は座ったままの箒に視線を合わせるように座り込んだ。

 

冷静でいて諭すような言葉で怒りを表に出されるのは威圧感が現れる。

 

それによって箒は鏡夜から顔を背けてしまった。

 

「鏡夜兄、箒は俺の事を思って!」

 

「黙っていろ、一夏」

 

「ち、千冬姉?」

 

感情的になって鏡夜を止めようとして一夏を引き止めたのは意外にも千冬であった。

 

千冬自身も運が良かっただけという鏡夜の言葉が的を射ている事に納得しているのだろう。

 

「お前が出しゃばったところで篠ノ之のしでかした事が軽くなる訳ではない。今、この場でお前は無力だ」

 

「くっ」

 

一夏を止めた後に千冬が箒に近づく、その目には教師として罰を与えると言わんばかりだ。

 

「篠ノ之、お前には自宅謹慎一週間とその間に反省文250枚だ。軽くするつもりはないからな?」

 

「っ、はい」

 

「今回の件は口外するな、特にアマゾンに関してはな」

 

三人は頷くと千冬も軽く笑みを見せた。

 

「三人は戻っていいぞ。篠ノ之は私が連れて行く」

 

三人は部屋から出ると鏡夜が思い出したように声をかけた。

 

「そういえば一夏、俺に何か相談したい事があるとか言ってなかった?」

 

「ああ」

 

「私も立ち会って欲しいとか言ってたわね」

 

「二人に相談したいから中庭に行こう」

 

一夏は先導するように歩き出し、二人もそれに付いていった。

 

中庭に到着し、鏡夜はいつもの飄々とした態度で、鈴は変わらない明るさのままで一夏を見ている。

 

「それで?相談ってのは?」

 

「ああ、俺も・・・俺も二人と同じようになりたい!」

 

「え?どういう事?」

 

「俺もArmour(アーマー)細胞を自分の中に入れたいんだ!束さんと一緒にいた鏡夜兄なら何とか出来るだろ!?」

 

一夏から余りにも衝撃的な言葉を聞き、二人は固まっている。

 

Armour(アーマー)細胞の力があればみんなを守れるんだ!だから!っぐはっ!?」

 

必死に頼み込んできた一夏に対し鏡夜は一夏の頬を殴り飛ばしていた。その顔には怒りが現れており、抑えきれていない。

 

「もう一度言ってみろ、お前・・・Armour(アーマー)細胞を自分の中に入れたいだと?みんなを守るために欲しいだと?矛盾した行動になってるんだよ、それは!」

 

鏡夜は一夏の髪を掴むと至近距離で睨みを利かせる。ただの怒りではなく、安易に危険があるものに手を出そうとする子供を叱りつけているようにも見える。

 

「っ!」

 

「俺は前に言ったよな?Armour(アーマー)細胞は人間を好物としてるって。この時点で無理なんだよ」

 

「な、なんで・・・?」

 

「俺は束さんが開発してくれた抑制細胞のおかげで、鈴は腕輪のおかげで人を食わずに済んでる。お前、守った人達を自分の食料にするつもりか?」

 

「そ、そんな事をするつもりは」

 

「無くてもなるんだよ。喰うために守るなら俺は止めやしないがな。だが」

 

「そうなると、私も鏡夜も一夏、アンタを狩らないといけなくなるわよ?」

 

鏡夜が一夏の髪から手を離すと同時に鈴が言葉を紡いだ。それを聞いた一夏は呆然としている。

 

「なんで、俺を?」

 

「一夏。俺はな、アマゾンでありながらアマゾンを狩るって考えてる。線引きは甘いが[人を喰ったか喰っていないか]でな」

 

「私もそうよ」

 

「っ・・・」

 

二人も矛盾した行動をしているだろうと言いたげな表情を一夏は見せているがそれを言葉にできない。

 

「仮にだ。お前がアマゾンになって俺や鈴が人を喰ったとしたら狩れるか?もう人間しか喰えなくなっている状態だぞ」

 

「そんな事、なってからじゃなきゃ分からないだろ!」

 

「なってからじゃ遅いのよ。そうなる前に止めなきゃアマゾンは人間を殺して喰らい続けるんだから」

 

「お前の関わった人達を守るという理想は良いかもしれないがな、俺からすれば自分の選り好みで戦うって考えてるようにしか見えないんだ」

 

「う・・・」

 

「だから一夏、お前はこちら側に来るな。人間のままでいた方がお前にとって一番良い事だと俺は思うぞ?」

 

「お、俺は関わった人も守りたいし鏡夜兄や鈴と一緒に!」

 

「いい加減にしなさいよ!一夏!!」

 

「り、鈴?」

 

一夏に対し大声で言葉を遮ったのは鈴であった。感情を制御できずに涙を流しているが溢れ出ている感情の表れだろう。

 

「アンタはまだ気づかないの!?鏡夜はね、アンタを狩らないようにしようとしてるのよ!」

 

「!!!」

 

「私と鏡夜は望んでArmour(アーマー)細胞を体内に入れた訳じゃないのよ。自ら望んで入れたとしても、Armour(アーマー)細胞を持っている限り狩られる対象である事に変わりはないんだから!」

 

「俺は束さんに、鈴は政府から守られているからこうして学園にも居られる。無かった今頃、研究所送りで実験体に逆戻りだしなぁ」

 

鈴の言葉に一夏はようやく鏡夜の配慮に気付く事が出来た。それでも、力が欲しいという考えは変わらないままだ。

 

「力が欲しいと考えるのはいけない事なのかよ!?」

 

「いや、力を得るなら他にも色々あるだろ?Armour(アーマー)細胞は危険すぎるんだよ。安易に求めちゃいけないってだけだ」

 

「人を食べたいのなら止めはしないけどね」

 

「ぐっ」

 

Armour(アーマー)細胞の弊害を強調され、一夏は再び押し黙った。人を守ろうとして人を食べてしまうという選択をするのは正に愚の骨頂だと言わざるを得なくなるだろう。

 

自分も狙われる存在になる。そんなのは嫌だ、それでも力は得たい。そんな思考が一夏の頭の中を回っている。

 

「俺が殴った理由は弊害を忘れていたからだ。もっと線引きや力に対して考えてからArmour(アーマー)細胞の事を口にしな」

 

「なるべくなら私もアンタを狩りたくはないから」

 

そう言い残し、鏡夜と鈴の二人は中庭から去っていった。その後ろ姿を見ながら一夏は地面を殴った。

 

「なんで、なんで二人はよくて俺はダメなんだよ!」

 

 

 

「ねぇ、鏡夜?」

 

「ん?」

 

隣りを歩いていた鈴が立ち止まって鏡夜を見ている。その様子から何かを伝えたい事があるのは明白だ。

 

「もし、もしね?腕輪が壊れて私が人を食べたら・・・その時は私を狩ってくれる?」

 

鈴の言葉に鏡夜は驚きながら表情を引き締めた。自分が完全なアマゾンになった時、自分を始末してくれと言ってきたのだから。

 

「ああ、その時が来たら容赦なく狩ってやるよ」

 

「ありがとう、その言葉が一番嬉しい。さ、暗い話は終わりにして何か食べに行きましょ!」

 

「何かって、お前はチャーシューメンがメインだろうに」

 

「あ、バレた?」

 

「そりゃあ、バレるだろ?」

 

鈴は舌を出しておどけるようにウインクした後、鏡夜と共に食堂へと向かっていった。

 




短いですがここまでで。

次は転校生二人組の話になると思います。



※追伸

作者、最近になってようやくゲーマドライバーが買えました。どこにも無かったので素直に嬉しいです。


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第七話 Worshippers who are stupid

獣が最も危険な時は何か?

怒っている時か?

邪魔された時か?



飢えている時だ。


クラス代表トーナメント襲撃事件から三週間が経過し、学園では普段通りの日常を取り戻しつつあった。

 

鏡夜は相変わらず水筒に入った生卵をアスリートのように飲み干し、後は本を読んで過ごしている。

 

「あまみーはいつも生で卵飲んでるよね~?気持ち悪くならないの?」

 

本音が生卵を飲んでいる鏡夜にゆったりとした口調で話しかけてくる。鏡夜自身、本音の事は嫌っている訳ではない為、応えた。

 

「頻繁って訳じゃなく、時間の間隔を置いて飲んでるから大丈夫なの」

 

「でも、生卵を飲む人なんて珍しいよ~?スポーツ選手みたい~」

 

「鍛えてるからって事で納得してくれないかな?のほほんさん」

 

「う~ん、分かった~」

 

そういって本音は自分の席へと戻っていく、鏡夜は悪い気はしないまでも軽くため息をつきながら本を自分のカバンへしまった。

 

それと同時に担任の千冬と副担任である真耶が教室へと入ってくる。

 

「諸君、おはよう。授業に入る前に皆に発表することがある。山田先生」

 

「はい、なんとですね。このクラスに転校生が来ます!それも二人です!」

 

転校生と聞いてクラスがざわめきだす。転校生が二人も来るとなれば驚くだろう。

 

「静かにしろ!廊下で待たせている入ってこい」

 

千冬の一括と同時に教室の扉が開き、二人の生徒が入ってくる。

 

一方は金髪の男性のようで、もう一方は銀髪と眼帯が特徴的な少女だ。

 

そんな二人を見た鏡夜は違和感を感じていた。一方は男性にしては体つきが柔らかく見え、男装した女性ではないかというほど違和感があった。

 

銀髪の少女からは自分と似ているような、同族に出会った時と同じ感覚を抱いた。

 

「シャルル・デュノアです。不慣れな事もありますがよろしくお願いします」

 

自己紹介を終えたシャルロットの後に何が起こるか予想していた鏡夜は素早く耳を塞いだ。

 

「キャアアアアアアア!」

 

「男子!三人目の男子よ!」

 

「しかも守ってあげたくなる系の!」

 

「お母さん、産んでくれてありがとう!」

 

「ここは一夏×デュノア?あえての鏡夜×デュノア!?」

 

「いやいや、三人まとめて!」

 

「鏡夜君だときっと『お前を喰うのは俺だ』とか言いそう!キャー!」

 

なんだか女子の妄想のネタにされているような気がするが、気のせいかな?

 

「静かにしろ!バカ者共!」

 

千冬の一声で騒いでいた生徒達は一瞬で静かになり、正面を向いた。

 

「では、次の生徒さんですね」

 

「・・・・」

 

「あの・・・?」

 

「ラウラ、挨拶しろ」

 

「はっ!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ、よろしく」

 

「それだけですか?」

 

「それだけだ・・・っ!?」

 

ラウラは自分と同じモノを誰かが体内に潜ませている感覚を味わった。視線を向けるとそこには鏡夜がラウラに視線を向け続けていた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・っ」

 

鏡夜の唇がラウラにだけわかるように動く。読唇術によって内容を知ったラウラは動こうとせずに指示を待った。

 

「(そのまま終わらせた方が良いぞ)」

 

敵意もなく善意でもなく、ただこの場は穏便に終わらせたほうが良いという内容だった。

 

「では、デュノアとボーデヴィッヒは空いている席に付け。授業を始める!」

 

 

 

 

 

授業終了後、僅かな休み時間の間に一夏は姉である千冬に呼び出されていた。

 

「一夏、白式を返すぞ。ロックが完了したからな」

 

「あ、ああ」

 

待機状態の白式を受け取るが一夏はどこか浮ついた返事をしていた。それを見抜いた千冬は一夏に言葉をかける。

 

「一夏、お前は力を望んでいるようだが、その前に己の弱さを自覚しているのか?」

 

「え?」

 

「私と同じ事をしても私にはなれん。これは今日転校してきたボーデヴィッヒや私に憧れる最上級生にも言っている事だが、お前はお前だ。私と同じ剣、私と同じ技を使おうともな」

 

「な・・・けど、俺は!」

 

「己の弱さを自覚できず、制御も出来ていない奴が力を求めようとするな。過ぎた力は麻薬のようなものだ。それにな」

 

千冬は言うべきか迷っていた事をあえて口にした。それは一夏にとってはその口から最も聞きたく無く、信じたくない事であった。

 

「私も一人の人間だ。いつまでも世界最強という看板は背負ってはいられん。私を超える者もいずれ出てくるだろう」

 

「そ、そんな事あるかよ!千冬姉を超える奴が出てくるなんて!」

 

一夏は必死になって否定するが、千冬の目は次世代が出てくるのは当たり前だと訴えかけているように見えた。

 

「一夏、私を超える奴は必ず出てくる。この世に永久に強い奴などいない、いずれは廃れる。お前はお前だけの強さを見つけねばならん」

 

「だけど!」

 

「いつまで私の陰を追いかければ気が済むんだ!お前は!?」

 

「っ!?」

 

それはハッキリとした千冬からの叱咤であった。今までこうした厳しい言葉はかけられていたが、今回は性質が違っている。

 

「お前に構っていられなかった事は事実だ。私がお前に強さを見せた事も認めよう!それでもだ!お前はお前の道を行かねばならない時が来る!」

 

「っ・・・!」

 

「お前の事だ、すぐにでも力が欲しくて雨宮と同じようになろうとしただろう?それは私が許さん!」

 

安易で危険な力を得る事は許さない、ましてやArmour細胞を使う事を。

 

「私も時間が取れるか分からんがお前を鍛えてやる。ただし、弱音をはくなよ?」

 

「!ああ!」

 

千冬に鍛えてもらえると聞いた瞬間、一夏は水を得た魚の如く明るさを取り戻した。

 

「そうだった。今更だが零落白夜に関して説明を忘れるところだったな」

 

「!」

 

「本当なら封印される前に教えるべきだったのだがな、私のミスが招いた事だ」

 

千冬の顔が僅かながらに曇る。最初に危険性を説明しておけば、鏡夜の左目が失明に近くならずに済んだのではないかと。

 

しかし、既に起こってしまった事は戻らない。それを承知の上で千冬は説明を始める。

 

「零落白夜は知っての通り、自分の機体のSEを犠牲にして発動する能力だ。その攻撃力の高さはお前がその身を持って経験しているな?」

 

「ああ・・・」

 

一夏は震えそうになりながら千冬の言葉に頷く。

 

「しばらくは使えんが、エネルギーを制御する特訓は出来るからな。制御をモノにしたらロックは解除してやる。それまでは訓練を続けろ、いいな?」

 

「はい・・・」

 

 

 

 

実技の授業が終わり、鏡夜は珍しく中庭を歩いていた。特に意味はなはい、ただ気分が乗った事と学園の校舎の外を歩いてみていたいと思っただけだ。

 

しばらく歩いていると千冬に対して何かを叫んでいるラウラを見つけた。距離を開けてその様子を伺う。

 

「やはり、戻ってきてはくれませんか」

 

「帰る時に言ったはずだ。お前はお前自身で立って歩けと」

 

「しかし、我がドイツにおいても貴女に鍛えて欲しいと願う者が多く!」

 

「いい加減にしておけ、私とて万能ではない。鍛えた時にそう言ったはずだが?」

 

「う・・・」

 

千冬の冷静な意見にラウラは反論できずに黙り込んでしまう。

 

「それにな、お前の身体もようやく抑え込めているのだろう?私を迎える前に自分自身の心配をしろ。話はそれだけだ」

 

「っ・・・」

 

ラウラは諦めたかのようにその場を歩いて去っていった。一瞬、振り返り鏡夜のいる方向へ視線を向けたが、何も見ていなかったかのように再び歩き出した。

 

「さて、居るのだろう?鏡夜」

 

「バレバレですか?」

 

「当然だろう」

 

バレていた事を感念した鏡夜は木の陰から出て、千冬の傍に立った。

 

「念の為、聞いておくけどあのラウラって子・・・」

 

「ああ、お前と同じようにArmour細胞を体内に持っている」

 

「やはりな・・・同類の感じがしたからもしやと思ってたが」

 

「アイツはドイツで実験体として生まれた。その過程でArmour細胞を試験的に組み込まれたらしい」

 

「遺伝子レベルでの投与か、俺とは全く方法が違ってるな」

 

Armour細胞と聞いて鏡夜は表情を顰めていた。もしも、ラウラが人を喰らっているのならば自分が狩らなければならないからだ。

 

「それにアイツは気に入らない物は壊してきた。自分が自分でない時があると言ってな」

 

「なるほど、次に何を壊そうとしているかなんとなくわかる」

 

「そうか」

 

「それじゃ」

 

鏡夜は千冬と別れ、ラウラに対する警戒を強めようと考えていた。

 

「(今、アマゾンズドライバーは不調だ。なら、使うとすればもう一本か)」

 

 

 

数日後、部屋で休んでいた鏡夜は鳴り響くインターフォンの音で少しイラついていた。

 

「何だ?一体」

 

「鏡夜兄!」

 

「一夏?それにシャルルか」

 

「鏡夜兄!入ってもいいか!?」

 

「ダメだといっても強引に入るんだろう?」

 

仕方ないといった様子で二人を招き入れる。鏡夜自身、こういった時は一夏が厄介事を持ってくる事が多いと自分の直感が告げている。

 

二人をテーブルに案内し、事情を聞こうと口を開く。

 

「それで?詳しくは?」

 

「ああ、実は」

 

一夏の口からシャルルが女性である事、自分の実家であるデュノア社から男性操縦者に近づき、そのデータを盗んでくるよう命令されていた事などを聞いた。

 

しかし、鏡夜は軽いため息をつくと同時に質問をした。

 

「で?一夏は何とかシャルルを助けたいと、肝心の本人の意志は聞いたのか?」

 

「え・・・?」

 

「え?じゃないだろう?本人の意思を確認しないまま、勝手に助けるとか行動してちゃ唯の独善行動だ」

 

「何だよ!鏡夜兄はシャルルがどうなってもいいって言うのかよ!」

 

「少しは冷静になれ、シャルルは助けてくれとお前に頼んだのか?よしんば助けてくれと頼まれたところでお前はどうするつもりだったんだよ、ん?」

 

「それは・・・」

 

鏡夜の質問に口ごもってしまい、一夏は口を閉ざしてしまった。何も対策を考えず、ただ助けるといった感情だけで動いてしまった事のツケだ。

 

「で、シャルル。お前は助けて欲しいのか?助けるとしたら俺は織斑先生に相談するけどな」

 

「!僕は・・・」

 

「鏡夜兄!なんで千冬姉に相談するんだよ!?」

 

「はぁ、あのな?俺達は権力も何もない、ただの男性操縦者っていう肩書きを持ってるだけの高校生だぞ?一国の代表候補生が性別を偽り、入学してスパイ活動をしてたなんて俺達の手に負えるか?」

 

「けど!方法は何かあるはずだろ!?」

 

「お前の言う方法ってのは、まさかと思うが特記事項じゃないよな?」

 

「!」

 

「その狼狽え方からして図星か。特記事項は確かに使えるかもしれない。けどな?国からの帰還命令と言われたら学園側はその人物を返さなきゃいけなくなる。何故だかわかるか?」

 

「な、なんで?」

 

「代表候補生は自分の機体や国への報告義務があるんだよ。データの更新や機体の改修も含まれるから」

 

「解説ありがとうな、シャルル。ちなみにこれは学園の干渉を簡単に跳ね除けられるぞ。強制ではなくさっきシャルルが言ったように、自国の代表候補生の機体に対し、データや改修をしたいと国側が申し入れれば正式な手続きになる」

 

「なっ!?」

 

特記事項によってやりすごそうと考えていた一夏にとって、正式な方法での抜け道の存在を明確にされ、助けることが出来ないという現実を見せつけられた。

 

「お前の方法は間違ってはいない。でもな?どんな事にも必ず抜け道はあるんだよ、正式か正式じゃないかの差はあるけどな」

 

「うう・・・」

 

一夏は自分の認識の甘さを恥じていた。特記事項があればシャルルを助けられると思ったが正式な方法や非合法な方法などで連れ戻すという可能性を視野に入れていなかった為だ。

 

それを元・義兄に指摘されたことで一夏は俯いてしまった。間違っていないと言われてもなんの慰めにもならない。

 

「で?シャルルはどうしたい?諦めないってんなら織斑先生に相談したほうがいいぞ?」

 

「僕は・・・此処にいたいよ!もう戻りたくないんだ!」

 

「なるほど、なら一度。織斑先生の所に行かないとな、そこで相談しないと」

 

「うん、わかったよ」

 

「一夏も来い、織斑先生に迷惑はかけられないとか考えるなよ。俺達が手に負えるレベルじゃないぞ?コイツは」

 

「く・・・わかったよ」

 

 

 

 

三人はすぐに寮長室にいる千冬の所へ向かい、シャルルの事を話した。

 

「ふむ、確かにそれは見過ごす訳には行かん」

 

「千冬姉!それなら」

 

「だが、私にそこまでの権限はない。だが、学園長には掛け合ってみよう」

 

「お願い・・・します」

 

「すまないが織斑とデュノアは部屋を出てくれ。雨宮と話さねばならない事があるからな」

 

「なんで、みんなと話した方が!」

 

「一夏、行こう。どうしても聞かれたくない密談みたいだから」

 

「あ、ああ。分かった」

 

「すまんな」

 

二人が部屋から出て行ったのを確認すると千冬は鏡夜に視線を向けた。

 

「で、だ・・・私の所に来た時点で切り札の事を相談しに来たんだろう?」

 

「ええ、あの人がやってくれるとは思いませんがね」

 

「お前の頼みならやってくれる可能性は高いだろう。気まぐれとは言えな」

 

「連絡手段はありますからね、やってみますよ」

 

「ああ」

 

鏡夜も千冬の部屋から出ていき、ある人物の元へ連絡する。気乗りしないが人助けの為だと割り切った。

 

「はいはーい、みんなのアイドル束さんだよー!おお、きょうくん!何の用かな?」

 

「ええ、束さんに頼みたい事が二つほどありまして」

 

「んー?何かな?」

 

「一つはアマゾンズドライバーのメンテナンス、もう一つはデュノア社の不正を暴いて欲しいだけです」

 

「前者は喜んで引き受けるけど、後者はめんどくさいなぁ」

 

電話越しでも分かり易いほど束はめんどくさいという様子が目に浮かぶ。

 

「そこをお願いしますよ、束さん」

 

「うーん、きょうくんの頼みだもんね。わかったよ!アマゾンズドライバーは今日は訓練で使うだろうから、終わったら部屋に置いといて。しばらくはネオアマゾンズドライバーになるから身体の負担を考えてね?」

 

「わかりました、お願いします」

 

「それじゃ、バイビー!」

 

電話が切られ、鏡夜は空を見上げていた。

 

「結局、頼らないとダメなんだもんなぁ」

 

自分の立場を改めて認識した鏡夜はスマホをしまい、自室に戻った。

 

 

数日後、クラス対抗トーナメントが発表され、タッグマッチ方式になったとクラスメイトから聞かされた。

 

俺達が織斑先生に相談している間にセシリアと鈴が訓練中にアリーナでラウラと戦い、ISが損傷し怪我をしたらしい。

 

鈴は保健室から飛び出して食堂へ向かい、肉まんなどを始めとする肉料理をたらふく食べて怪我を治したそうだ。Armour細胞の再生力はタンパク質さえあれば活性化させられるから大丈夫だろう。

 

出場は可能だそうで甲龍ではなく、ISとして登録されているアマゾンの姿で出るそうだ。

 

甲龍はラウラとの戦いで損傷し、修理のためにしばらく使えないらしい。と、本人から今現在説明を受けている。

 

「鏡夜、私と組んでくれる?」

 

「ああ、俺も鈴に頼もうと思っていたんだよ」

 

「じゃあ、当日まで訓練しましょ?負けたら肉系のご飯を奢るって形で!」

 

「負けられなくなるな、それは!」

 

二人はアリーナへ向かうと対アマゾンを想定した戦闘訓練を開始した。

 

鏡夜はアマゾンズアルファの姿で、鈴はクジャクアマゾンの姿となって戦闘訓練を始めたが、周りで訓練している生徒達がその戦闘に見入っていた。

 

「うおおおおおお!」

 

「クアアア!」

 

アルファの冷静な切り返しや攻めは見ているだけでも参考になり、クジャクアマゾンの速さを生かした攻めは羽根の飾りも相まって非常に美しい。

 

「ぐっ・・!」

 

「コアアアア、ワタシノ勝チネ?キョウヤ!」

 

アルファの正拳突きを躱したクジャクアマゾンはカウンターで腹部に一撃を入れていた。

 

「俺の負けか、今日は俺のおごりだな」

 

「ふふん、遠慮なくご馳走になるわよ!」

 

「ほどほどにしてくれよ?」

 

戦闘訓練を終えた二人は元の姿に戻り、アリーナから食堂へと向かい始める。向かう途中、アマゾンズドライバーを束の指定通りに部屋に置いた後、改めて向かった。

 

 

 

 

 

試合当日、トーナメント表を見るためにアリーナに赴くと組み合わせの表示に鏡夜と鈴は苦笑した。

 

「まさかこうなるとはなぁ・・・」

 

「意外って言えば意外だけど・・・」

 

対戦表にはこう書かれていた。

 

雨宮鏡夜・凰鈴音VSラウラ・ボーデヴィッヒ・篠ノ之箒と。

 

「行くか?」

 

「ええ」

 

二人は待機場所であるピットへと向かい、準備を始めた。

 

鏡夜は生卵を飲み、鈴はゆで卵の殻を剥いて食べると二人で揃ってアリーナへ飛び出した。

 

「来たか」

 

「ああ、少し準備に戸惑ってな」

 

「鈴、加減はせんぞ!?」

 

「反省したようね?いいわよ全力で相手してあげる」

 

鏡夜はいつものアマゾンズドライバーではなく、単眼でネオアマゾンズレジスターを大型化したのかのような物を腰に装着した。

 

これこそがもう一つのアマゾンズドライバー、ネオアマゾンズドライバーでありそれを見たラウラは驚愕している。

 

「アマゾン!」

 

「アマゾン・・!」

 

鏡夜は何かを注入するような形をしたアマゾンズインジェクターをネオアマゾンズドライバーに差し込み、セッティングするかのようにホルダーを持ち上げ、注入するための上部分を押し込む。

 

鈴はネオアマゾンズレジスターのスイッチを押して己の中の獣を解放する。

 

 

NEW OMEGA(ニューオメガ)

 

 

音声と同時に衝撃波と炎が上がり、二匹のアマゾンが姿を現す。クジャクアマゾンは構えを取り、もう一方はアマゾンオメガだが、左の複眼は白く所々が機械と融合しているような姿だった。

 

背中にはIS特有の翼が融合しており、それ以外に変わったところはない。

 

「(これは・・・確かに負担がデカイ。慣れるまで時間かかりそうだな)」

 

二人がアマゾンの姿を見せ、ラウラは内に潜む己自身が獣として戦えと訴えてくる。

 

「(まだだ、今はレーゲンで戦う!)」

 

葛藤している間に試合開始のブザーが鳴り、二匹のアマゾンは同時に走り出す。

 

クジャクアマゾンは箒に付き、ニューオメガはラウラに付いた。戦闘が開始され、射撃音と金属のぶつかり合う音が響き渡る。

 

「く、強い!」

 

「ワタシハ手加減ナンテシナイワヨ!クアアアア!!」

 

クジャクアマゾンは己の羽根を短刀代わりにし、箒を追い詰めていた。一刀流が二刀流に負けるという事は無いが、二刀流は守りに特化しているだけに攻め入る隙が少ないのだ。

 

一方、ラウラとニューオメガの戦いは拮抗していた。

 

「グアアアア!」

 

ワイヤーブレードによる連続攻撃を受け、地面を転がるがすぐに持ち直しパンチや貫手などで反撃する。

 

ラウラ自身もレーゲンの特殊兵装を使えば楽なはずだが、彼女は焦っていた。

 

目の前に現れたアマゾンに喰われるのか、殺されるのかという恐怖に対して。

 

「私は、私は!ガハッ!?」

 

迷いを隙として繰り出したニューオメガのパンチは絶対防御によって操縦者は守られたが、衝撃を逃がすまでにはいかなかった。

 

「ぐ・・う、ダメ・・か。レーゲン・・・すまな、い・・・休んでいて・・くれ」

 

ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンの拡張領域から何かを取り出し、機体を解除すると同時にピットに近い壁際に置いた。

 

「これを使う日が来るとは・・・な!」

 

「!それは!ネオアマゾンズドライバー!?」

 

ラウラが手にしているのは鏡夜が使っている物と同型のネオアマゾンズドライバーその物であった。

 

「私は・・・人間だ!人間なんだ・・・!姿が変わろうとも人間なんだァァァ!」

 

鏡夜がやったようにラウラはネオアマゾンズドライバーを腰に装着し、眼帯を取るとアマゾンズインジェクターをネオアマゾンズドライバーにあるホルダーに装着させ、持ち上げると同時にセッティングを終えた。

 

NEO(ネオ)

 

アマゾンズインジェクターの上部分を押し込み、その中にあった物質が乾いた喉を潤すかのように、ラウラの中にあるArmour細胞を活性化させていく。それに反応しているのか、ラウラの紅と金のオッドアイが金色に染まっていく。

 

「アマゾォォォン!!」

 

衝撃波と炎が上がり、中から現れたのはニューオメガと似た姿であり、機械化された一匹の青黒い(アマゾン)であった。




ようやく、かけた・・・。

夏風邪を引いたり、ストレス性胃炎になったりと散々な状態の作者です。

ようやくネオを出せました。おまけに長い・・・。

次回はアマゾン同士の戦闘です。暴走どうしよ・・。


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第八話 Catastrophic

獣は恐る、飢えを。

だが、野生は己が仕留めた獲物を喰らうのみ。Die Set Down


「クアアアアア・・・・!」

 

目の前に現れたは新たな仮面ライダーアマゾンズ、仮面ライダーアマゾンネオ。ニューオメガよりも機械的な装甲が目立ち、青い線が暗色で複眼が黄色く、まさに機械人形とも言える姿だ。

 

「フウウウウウ・・・!行くぞ!」

 

ニューオメガの姿のままである鏡夜はアマゾンネオへと変身したラウラへと向かってゆく為に走り出し、飛び上がるとそのまま落下速度を利用したキックを繰り出す。

 

それを後退して避けるが、予想していたのか左からのストレートパンチを続けざまに放つが、ネオはそれを受け流す為、手で弾き反撃のハイキックを繰り出す。

 

「グオオオ!?」

 

曲がりになりにも、ラウラはドイツの軍隊で軍事訓練を積んできた者であり、更には遺伝子段階で投与されたArmour細胞によって肉体を強化されている。

 

更にはネオアマゾンズドライバーによる活性化で運動能力、反応速度も早くなっている。人として成長した状態、つまりは後天的にArmour細胞を投与され、抑制細胞を打ち込んだ鏡夜と遺伝子段階、先天的に近い状態でArmour細胞を投与されたラウラとでは細胞の同調性に差が出てくる。

 

「クアアアア!!!ワタシハ・・・人間・・ダ!」

 

アマゾンネオはアマゾンズインジェクターの内部にある薬物を再び注入し、手首が覆われている装甲が展開する。

 

『Blade loading…』

 

「!」

 

それを見たニューオメガもアマゾンズインジェクターを押し込み、ネオとは違った薬物を注入する。だが、生成される武器は変わらない。

 

『Blade loading…』

 

「ガアアア!!」

 

「グオオオオ!!」

 

刃を生成した二匹の(アマゾン)は金属音を激しく鳴らしながらも、攻撃を止めようとはしない。刃を拮抗させる事で奇襲に備えているようにも見える。

 

拮抗がすぐに崩され、ネオは刃を振り下ろすが野生の勘を持ったかのように、ニューオメガは刃を素手の装甲で弾く。武器での戦いは意味がないとお互いに悟り、素手の戦闘に戻ってしまう。

 

装甲で覆われているアマゾン同士の戦い。恐ろしいはずが、その戦いに誰もが目を離せない。人間が生きる上で失った原始の野生、それを目の当たりにしていて男だから、女なのだからなどは関係なかった。

 

「ガアアア!」

 

今度はニューオメガが奇襲を仕掛け、その隙を狙っていたネオが再びアマゾンズインジェクターを押し込む。

 

『Blade loading…』

 

「カアアア!!」

 

「グオオオオオオ!?」

 

「キョウヤ!!」

 

ネオのブレードはニューオメガの腹部を完全に捉え、貫かれている。貫かれて拍子に溢れ出る鮮血がその傷の深さを物語っていた。

 

「余所見をしている場合か!」

 

箒の刀の唐竹割りをクジャクアマゾンと化している鈴は両手に持っている羽根で受け止めた。ニューオメガとなっている鏡夜の援護へと向かいたいが、この試合はタッグマッチ、一体一の状況になることがあるのだ。

 

「グウウウ!!」

 

「コレデ、オマエモ!」

 

『Blade loading…』

 

腹部を貫かれたはずのニューオメガは腹部の筋肉の収縮を利用して刃を止め、アマゾンズインジェクターを押し込み刃を腕の装甲から出現させ、首元近くに刃を振り下ろした。

 

「グギャアアアアアアアアーーー!?」

 

「ウオオオオ!!」

 

そのまま、鋸の刃を引くかのように刃で首元を切ると、ネオの首筋からも鮮血が流れ出る。あまりの生々しさに観客の生徒達は吐き気を覚え、中にはその場で嘔吐してしまう生徒も出てきている。

 

斬られた事で怯んだネオの胸元に足をかけ、蹴り飛ばしてネオの刃を引き抜くニューオメガだが、重傷に変わりはなく、手で腹部を押さえてはいるが止血になどなっておらず、鮮血の雫がまるで氷柱から落ちる雫のように地へと落ちている。

 

『操縦者、アマゾン化の傾向・・・89%。危険域と判断、これより排除プログラムを起動』

 

ラウラに解除されていたシュヴァルツェア・レーゲンの内部にある特殊プログラムが起動し、機体自身の意思が封じ込められていく。そのプログラムは操縦者諸共にVTSによって殲滅せよといものであった。

 

本来、待機状態では起動は不可能なはず。だが、いくら天才が設計し開発したものであろうとも、所詮は人間の作ったものである、自動で起動させる方法などいくらでもあったのだ。

 

『VTSシステム起動、全アマゾンを排除します。トレース開始』

 

シュヴァルツェア・レーゲン自身が融解に近い状態となり、とあるものをトレースする。

 

それは獣の姿、獣を狩る(アマゾン)を模した狩人の姿であった。だが、一方でとある女性の姿を模しているようにも見える。

 

「!」

 

「グウウ!?」

 

『対象・・・実験プロトアマゾン、実験体No009、アマゾンシグマ研究タイプを排除します』

 

ガトリングガンを三体のアマゾンへ向かって発泡する機械の獣。その姿は鏡夜が内に秘める野生の(アルファ)の姿と似ている。

 

「ガアアア!?」

 

「グオオオオ!?」

 

「クアアアア!?」

 

三体の(アマゾン)へ対して攻撃を仕掛けてくるVTSシステム。弾など制限が無いガトリングの嵐、人間である箒は狙われず、Armour細胞を持つ三人だけが狙われていた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

箒は突然、乱入してきた存在に驚きを隠せない。学園内のイベントとはいえこれは試合だ、乱入者など本来はありえない。

 

しかも自分は全く狙われず、アマゾンとなっている三人だけが集中して狙われている。怒りを覚える前に何故という状態だ。鏡夜と鈴が狙われるのは分かる、だが、所有者であるラウラまでもが狙われているのは何故なのかと。

 

「グアアアアア!!」

 

『Needle Loading…』

 

三人の中で先手を担ったのはネオに変身しているラウラだ。アマゾンズインジェクターを押し込み、腕の装甲から針の弾丸をVTSへ向けて放つが、VTSはそれをガトリングガンの下にあるチェーンソーで致命的になる部分以外を弾き、ネオへと向かっていく。

 

『標的を排除します』

 

チェーンソーが唸り声を上げ、ニューオメガが傷つけた場所と同じ首鈴へとチェーンソーを振り下ろし、そのまま喰い込ませていく。

 

「グアアアアアーーーッ!!う・・・ぐ」

 

そのまま振り抜くと同時にネオを蹴り飛ばし、ネオはアリーナの入り口付近まで転がっていき元のラウラの姿に戻ってしまう。身体は傷だらけで斬られた部分からは鮮血が滴り落ちている。

 

人間であれば確実に致命傷で命を失っているだろう。それでも生きているのは、一重にArmour細胞のおかげと言えるのは皮肉だ。

 

「フウウウ・・!ガアアアア!!」

 

『AMAZON Strike…』

 

ニューオメガはアマゾンズインジェクターを押し込むと同時に走り出し、高く飛び上がり縦に一回転すると、その落下速度を利用したキックを繰り出した。

 

「対空迎撃、開始します」

 

「グアアアアア!?」

 

だが、その一撃もガトリングガンの前では全くの無意味であった、ニューオメガは空中で蜂の巣にされ、落下すると同時にラウラと同様、元の鏡夜の姿に戻ってしまった。

 

「ぐ・・・く・・・コイ・・・ツ」

 

「!カアアアアア!!」

 

二人がやられたのを見て、今度はクジャクアマゾンである鈴が接近戦を仕掛ける。羽根をダガーとした接近戦で、回し蹴りや短刀術を駆使しするが、VTSはそれを知っているかのように捌き、回避する。

 

「アマゾンシグマ研究タイプ、排除開始」

 

チェーンソーを再び起動させ、今度はクジャクアマゾンの腹部を切り裂かんとするが、そう簡単には捉えさせない。

 

クジャクアマゾンの最大の武器は羽根でもアマゾンとしての強さでもない、鈴自身の冷静な判断力とスピードだ。

 

だが、代表候補生としてのデータが登録されているVTSには鈴の癖を完璧に見抜いており、チェーンソーの刃がクジャクアマゾンの腹部を捉えてしまった。

 

「ギャアアアアア!!?が・・はっ・・・!」

 

チェーンソーの唸り声が上がるたびにクジャクアマゾンから鮮血と黒い体液が噴水のように吹き出していく。それを避難途中で見ていた生徒達の大半は嘔吐を繰り返し続け、気の弱い生徒は気を失ってしまった。

 

チェーンソーを振り切られたと同時にクジャクアマゾンも鈴の姿に戻ってしまい、その場で倒れこんでしまう。

 

「排除率・・・75%」

 

VTSは止めを刺そうと三人へ近づいていく、誰一人として動くことができないArmour細胞を埋め込まれた三人、そんな中でVTSの前に立ち塞がったのは箒であった。

 

「こんな決着の付け方など・・・認めん!貴様は邪魔だ!!」

 

「標的外」

 

箒の足は震えている。それは目の前の相手に恐怖している事に他ならない。それでもという気持ちが彼女を後押ししているのだ。

 

「ぐ・・・・肉・・・卵でも・・・・いい・・・喰わせ・・・ろ」

 

「か・・・・あ」

 

「食べ・・・た・・い」

 

鏡夜は弱々しくタンパク質を求めていた。他の二人も同様で求めてはいるが目の前にいる人間、つまり箒を食おうとするのを抑え込んでいるのが、鈴とラウラだ。

 

鏡夜とは違って二人は食人衝動を抑える抑制細胞を打たれてはおらず、鈴はアマゾンレジスターによって抑制されており、ラウラ自身も同様だ。

 

「三人共!これを!!」

 

アリーナの入口から何かが投げ入れられた、それは紙袋に入ったハンバーガーでそれを投げ入れたのはシャルロットとセシリアの二人であった。

 

「急いでくださいませ!」

 

セシリアの叫びに三人のアマゾンは紙袋を一つずつ手にし、中に入っていた大きめのハンバーガーを手にしていた。

 

 

 

 

「背に腹はかえられないか・・・・」

 

「贅沢は言ってられないわね・・・」

 

「仕方・・・あるまい」

 

ハンバーガーを貪り食らいつくし、三人は己の中の獣を目覚めさせる装置に手をかける。鏡夜とラウラはネオアマゾンズドライバーを、鈴はネオアマゾンズレジスターに手をかけ作動させる。

 

ラウラと鏡夜はほぼ同時にアマゾンズインジェクターを装填し、注射器のような押し込み部分を押し込んで、内部の成分を注入する。

 

「アマゾン・・・!」

 

「アマゾンッ!!」

 

「アマゾン・・・・!!」

 

『NEW OMEGA』

 

『NEO』

 

獣を呼び覚ます掛け声と共に衝撃波と炎が上がり、装甲に覆われた二匹の(アマゾン)と孔雀の羽根を模した物を靡かせる(アマゾン)が再び現れ、VTSが戦闘態勢に入る。

 

これが、この戦いの第二幕であり、ラウラ自身とISであるレーゲンの意味を知る事になるとは思わなかった。




何ヶ月以上書いてないんだよ・・・アマゾンズ本編完結しちゃってるのに。

本当に申し訳ありません!

アマゾンズの見直し、イベントやリアル事情などもあって更新できませんでした。

少しずつ再開していきます。


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