ブラック鎮守府で我が世の春を (破図弄)
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第1章
第1話 鎮守府が我が手に


どうしても二次創作したくて書くことにしました。

ここは、慣れていないので、書き直しもあります。
キャラが違うかもしれませんが、ご了承ください。

また、過激な内容も含まれますので、お気を悪くされた場合、
お読みになるのをお止めいただきたいと思います。

では、ブラック鎮守府の日々をご覧下さい。


先任の提督が、横領がバレて行方をくらました鎮守府。

俗にいう「ブラック鎮守府」だ。

 

そのブラ鎮の提督の席が俺に回ってきた。

各方面に色々と融通したり根回ししてきたのがやっと実ったぜ。

 

俺がやることが大本営に報告されても先任のせいにできる。

こんな優良物件はそうそうないだろう。

 

食い散らかして楽しませてもらうとしよう。

 

 = = = = =

 

書類で確認できる艦娘たちは、そこそこ揃っている。

 

いわば選り取り見取りってやつだな。

 

駆逐艦が多いのは、まあどうでもいい。

未成熟なのには興味がないからな。

 

さて、我が城、鎮守府に向かうとしようか。

キクク、待ってろよ、せいぜい可愛がってやるからな。

 

 = = = = =

 

海軍の軍用車(ポンコツ)を転がして数時間。

海沿いに出ると潮の香りがしてきた。

「あーあ、この臭いのが毎日っていうのがヤダなんだよ」

 

ひとりごちりながら走らせていると景色から民家がなくなる。

 

普通なら地方に都落ちってところだな。

この辺りは、化物どもが興味を持つ場所じゃないらしい。

 

波の静かな入り江の先に、我が(・・)鎮守府が見えてきた。

 

「ほう、思っていたよりでかいな」

 

 = = = = =

 

鎮守府の鉄門まで来ると違和感に襲われた。

 

「なんか違う。なんだ?」

 

ガラにもなく警戒してしまったが、まあいいかとポンコツを敷地に乗り入れた。

堅牢な建物があり、車寄せを備えている。

 

クルマを降り、正面の玄関に歩み寄る。

 

そこで違和感の正体に気が付いた。

(人気がない。まるで、放棄されたみたいに)

 

「・・・おいおい、道間違えたか?

 門が開きっぱなしだったぞ。

 おーい、俺の財産(・・・・)が盗られていねえだろうな。

 くっそ、艦娘(あいつら)、何してんだぁ?」

頭に浮かぶ文句を口に出しながら、玄関のノブに手を掛けた。

 

「・・・、ここも開いてんじゃねえか!」

 

「くっそ、なんだよ」

 

とりあえず、ざっくりと覚えた間取りを思い出しながら、食堂に向かう。

 

「食堂なら何かあるだろ」

半分は諦めながら食堂を目指す。

 

廊下に何か落ちてる?

いや置いてあるのか?

 

浮かんだ疑問は、近寄ると解消した。

艦娘だった。

 

ちっこいから、駆逐艦だな。

 

「おい、生きてるか?」

艦娘はしぶといらしい。

現物を見たら納得した。

虫の息で動けないほどだが、バイタルは安定しているようだ。

冬眠みたいにエネルギーの消費を抑えてるってとこか。

確認してみたが、汚く汚れて臭い。

 

「くせぇ。廊下で寝てんじゃねぇ」

駆逐艦に蹴りを入れてそのまま食堂へ。

 

 = = = = =

 

食堂も酷かった。

 

デカいやらちっこいやら艦娘が、床に寝てたり卓に突っ伏したり。

 

臭い、汚い。

 

俺は考えた。

 

まずは「間宮」を探すことにしよう。




艦娘たちの運命はいかに

次話をお待ちください。


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第2話 間宮はどこだ

鎮守府は、荒れていました。

しかし、提督になるほどの男はめげません。

皆さん、彼を応援してください、


「おい!寝てんじゃねえよ」

厨房の奥で蹲って動かない艦娘を見つけ蹴りを入れてみた。

 

「ぎっ」

痛みに反応したのか、呻きやがった。

 

髪を掴んで顔を上げさせ確認すると<間宮>だった。

やつれて生気が失せているため、面影で判断するしかなかった。

 

「オラ、提督さまに面見せろって」

掴んだ髪を無理やり引っ張り上げる。

 

間宮の顔が歪み、濁り掛けた瞳がうっすらと潤むと滴が零れた。

 

「なんだぁ、艦娘が提督に逆らうのかぁ!あぁーー!」

間宮に向かって怒鳴ると彼女はビクりと身体を震わせた。

 

『・・・・ん』

唇がかすかに動き何かをつぶやいていた。

 

「オラ、さぼってんじゃねえ。飯作れってえ」

間宮の髪をひっ掴んだまま、シンクに目を向けて驚いた。

 

汚い、臭い。

 

「ああ、水道も止められてたか」

大本営で聞いていたのを思い出した。

先任(クソ)が光熱費さえもピンハネしていたらしい。

(クソが、もっとうまくやりゃいいのによぉ)

 

このままだと俺が飯を食えねえ。

間宮も動きそうもない。

 

考えた末、シンクに溜まった調理道具を洗うことにした。

 

「くっそ、くせぇ。なんだよ、こびりついて落ちねえじゃねえか」

 

 = = = = =

 

俺の尊い努力のおかげでシンクと調理器具が一応使えるようにできた。

 

「コイツに効くかな?」

 

こんなこともあろうかと<バケツ>はいくつか横流し品をクルマに積んできた。

この<間宮>に使って、飯を作らせることを考えたが、大丈夫か?

 

決めた。

「おい、これを飲んで、これを食え」

俺用に持ってきた濃厚流動食と羊羹を渡す。

 

間宮の反応は、鈍いままだった。

 

このままじゃ、埒が明かねえ。

彼女の鼻を摘まんで無理やり流動食を飲ませる。

「ゲェッヘ、うえっぷ」

咳込みながら、飲み込んだが暴れだした。

 

振り回す手を封じ、抑え込んで、包装紙を剥いた羊羹を口にねじ込んだ。

間宮をねじ伏せ馬乗りになった俺は、羊羹を食い終わるまで押し込み続けた。

バタバタと足をばたつかせるが、状況は変わらない。

 

「逆らうんじゃねえ。おらー、食いやがれ」

間宮がおとなしくなった。

 

「ふう、俺に逆らうな。次は、こんなもんじゃねえからな」

 

俺は立ち上がると制服を整える。

足元で泣きながら、モソモソと羊羹を食う間宮がいる。

 

「おい」

「・・・・」

「おい」

「・・・・」

「返事はっ!」

俺は、返事をしない間宮に蹴りを入れる。

『ぎゃっ』

間宮は小さく呻いただけだった。

 

俺は、再び間宮の髪を掴み上げると彼女は身体を小さく丸め抵抗する。

 

「いいか!これからお前は!め!し!を!つ!く!るんだ!」

耳元で叩きつけるように怒鳴りつける。

 

俺は、髪を掴んだ手を放し、姿勢をただし制服の埃を払う。

 

「そこに置いてある背嚢に米とカレーのルーが入っている。

 これから、お前は、10倍に薄めた粥とカレー汁を作って、

 食堂に居る全員に食わせろ。

 動けるものには手伝わせろ。

 提督としての俺様の命令だ。

 反抗は許さん。

 その時は、解体するから、覚えとけ!

 ボサっとしてんじゃねぇ!

 とっとと働け、グズ!」

言い放った俺は、丸まったままの間宮を踏みつけ食堂を後にした。

 

うっぷん晴らしにちょうどいい。

先任(クソ)め。




間宮さん、かわいそうですね。

まだまだ試練は続きます。


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第3話 鎮守府機能停止

ブラック鎮守府は機能しません。

彼はめげません。

野望に向かってまっしぐらです。

彼を応援してくださいね。



「はい、全艦出撃不能です。

 全く、ひどいものです」

 

≪報告書を提出せよ≫

 

「はい、了解しました。

 ただ、機能復帰を最優先としたいと愚考いたします」

 

≪やむを得まい≫

 

「ありがとうございます。

 重ねてお願いがあります。

 よろしいでしょうか?」

 

≪緊急事態だ。

 受け付けよう≫

 

「近隣の鎮守府に当鎮守府の索敵を肩代わりしていただきたい」

 

≪検討してみよう≫

 

「ありがとうございます」

 

≪あくまで検討だけである≫

 

「はっ!了解であります」

俺はマイクの前で敬礼をした。

 

通信機のスイッチを切った。

 

「クソが、電話料金までピンハネしてやがった」

先任は、受信のみの契約に切り替えてわずかな基本料までケチるクソだった。

 

まあ、それを逆手にとって、緊急無線で大本営に連絡した。

おかげで、大本営も事が重大だと勘違いしてくれただろう。

 

腹を減らした艦娘が、小汚く臭く転がってるだけだったし、一週間もしたら、選び放題やり放題。

 

キヒヒ、たまらねえなぁ

 

 = = = = =

 

間宮は、久しぶりに厨房に立って(・・・)いた。

 

残り少ない練炭と豆炭に火をつけ、あるだけの寸胴鍋に薄い粥とカレーの汁を作っていた。

具はない。

 

先任の提督が、食事を禁止して以来、弾薬、燃料までもが減らされた。

 

ガスが止まり、ボイラーの火が消え、水が止まったのはいつだったろうか。

記憶があいまいで覚えていない。

 

雨水で凌いだのも数日だけ。

 

【鎮守府から離れることを禁ず】

先任の最後の命令は、電気を止められたこの鎮守府への死刑宣告に近かった。

 

この時すでに歩いて助けを呼びに行ける者が居なかった。

辺鄙な鎮守府に来訪者もなく、静かに死を迎えるようだった。

 

そんな時、どうやら後任の提督らしい。

 

・・・・最悪だった。

わたしたちに【汚い】【臭い】と罵声を浴びせる。

 

艦娘にも心がある。

 

次の提督の方が、容赦がなかった。

 

間宮は俯いて立っていた。

床に滴が落ち続けていた。

 

 = = = = =

 

「おい!何してんだよ」

俺は、突っ立てる間宮に蹴りを入れる。

 

間宮は、一瞬ビクッと動いたあと、動かなかった。

 

「無視すんなよ。

 できたか?」

 

『はい』

 

「じゃあ、ちっこい奴らから食わせるぞ」

 

俺は、柄杓で椀に粥を入れ、その上にカレー汁をかけた。

そして、近くに転がってる駆逐艦を起こして飲ませた。

 

駆逐艦は、熱がりもせず一気にがっついて飲み干した。

(間宮は、こいつらが火傷しない程度に冷ましてやがったか)

 

「まだたくさんあるからね」

間宮が2杯目をよそおうとした。

 

「勝手なことしてんじゃねえよ」

俺は、駆逐艦からつかみ取った椀を間宮に投げつける。

 

椀は、間宮にヒットしていい音が鳴った。

「アハハ、いい音が鳴ったよな」

おっと、はしゃぎ過ぎた。

 

駆逐艦の髪を掴む。

駆逐艦は身体を縮め強張る。

 

「俺の命令なしに勝手に食うな。

 まず全員、食ってからに決まってるだろ。

 バカか!」

意地汚い駆逐艦を怒鳴りつけてやった。

うーん、いい感じ。

俺が、鎮守府の主だもんな。




間宮さん、駆逐艦ちゃん。

災厄はいつまで続くのでしょうか?


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第4話 大食いども

意地汚い艦娘たち。

彼の野望は達成できるでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「そこのお前」

俺は目についた駆逐艦を呼びつけた。

 

食堂に居る連中は、戦艦、空母を除いて一通り行き渡った。

そいつはどうにか歩けるようだ。

 

「ちょっとこい」

 

『なんでしょう?』

 

「食堂に居ないやつもいるだろ」

 

『はい』

 

「じゃあ、お前。・・お前とお前」

≪はい≫

 

「これ飲んで、そいつらを連れてこい」

俺は2杯目の粥カレー汁を駆逐艦に飲ませ残りを順次連れてこさせることにした。

 

「早く食って行ってこい。

 仲間じゃねえのかよ。

 グズめ」

駆逐艦たちがビクビクしながら、2杯目を啜り終わると仲間を迎えに行った。

あの廊下の奴も連れてこられるだろう。

 

「あの」

間宮が話し掛けてきた。

 

「なんだ?」

「長門さんたちのお食事はいつに」

「ねぇよ、そんなもん」

「え!」

「背嚢に入ってた分しかねえよ」

「じゃあ」

「なし。

 出撃もしなくていいってことで話はついてるからな」

「・・・・」

 

「今まで耐えたんだ。大丈夫だろ。キヒヒ」

 

思いつめたように駆逐艦が戦艦の方に駆け寄るのが見えた。

「おい、止まれ」

俺が静かに言うと駆逐艦がその場で凍り付いたように止まった。

「命令していないことをするな」

 

「わたしはいい。

 食べなさい」

「長門さん」

戦艦は優しく駆逐艦に言い聞かせた。

 

「そうそう。

 大食いどもは、我慢しとけよ」

 

食堂に居る艦娘全員が俺に殺意を向けてくる。

 

(おーおー、戦艦慕われてるねぇ

 でも、俺が提督だからな)

 

「逆らってもいいけど、解体ね、ウヒ」

俺はこみあげてくる笑いを抑えられなかった。

こいつらは、俺のモノ。

 

食堂の窓からクルマのエンジン音が聞こえてきた。

 

「お!来たな」

 

睨みつける艦娘たちを尻目に俺は音源を迎えに行く。

 

 = = = = =

 

「悪いね。

 こんな辺鄙なところまで来てもらって」

「いいですよ。

 提督になったのは本当だったんですね。

 おめでとうございます」

「ありがとさん。

 いやー、日頃の努力の結果だよ」

「ウチも物資を分けてもらったおかげで助かっております」

「いいって、いいって。

 このご時世、軍にしかないものがあるからね。

 困ったときは、また相談に乗るからさ」

 

 = = = = =

 

「間宮、食料がついたから、駆逐艦には3倍に薄めたカレー汁と粥な。

 大食いたちには10倍の粥を飽きるほど食わしとけ」

「・・・・はい」

 

「おい、お前とお前」

「「・・はい」」

「お前ら、宿舎が締め切ったままだろ。

 窓と扉、全部開けてこい」

「「・・・・はぃ」」

駆逐艦たちはトボトボと歩き始めた。

「ちょっと待て」

「なんでしょう」

ひとりが返事をして振り向いた。

「特配だ。好きな時に食え」

俺がキャラメルを2箱投げ渡すと駆逐艦たちは唖然としていた。

「いいかお前ら、おとなしく俺の言うこと聞けば、優遇してやる、クキキ」

 

食堂を見回すと間宮が何か言いたそうに見ていやがった。

これは見過ごすと調子に乗るかもしれない。

俺は、間宮が立っている厨房の中に入り、彼女の顔を壁に押し付けながら蹴りを入れる。

「なんか言いたいことがあるんなら言っていいぞ。

 俺の気に食わないことなら即解体だけどな、クキキ」

「何もありません」

 

間宮もおとなしくなった。

いい感じ、いい感じ。




戦艦と空母たちはようやく薄い粥にありつけそうです。



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第5話 鎮守府機能回復に向けて

彼は野望のために頑張ります。

彼を応援してくださいね。


「おい、巡洋艦」

「なんだよ」

(お、生意気なヤツ。解体するぞ)

 

「物資が届いてるから、運搬しろ」

「なんでだよ」

「なんでだとぉ。貴様ぁ、反抗的だな、解体してやろうか」

「へっ、できるもんなら、やってみろ。

 一発ぶち込んでやるぜ」

生意気な巡洋艦が艤装を展開して俺に砲身を向けやがった。

 

「ほー、そう来るか。

 じゃあ連帯責任でお前のところの駆逐艦を解体してやろう。

 同型艦を手配するから、お前の艦隊に影響は少ない。

 俺も気が済むし、Win-Winだな、キヒヒ」

「ゲス野郎」

「ありがとう。その言葉が聞きたかった、クヒヒ。

 で、手伝ってくれるよな。

 巡洋艦さんよー」

「チッ、わかったよ」

 

生巡(生意気巡洋艦)を連れて中庭に行くと横流し品と大本営の正規の物資が積まれている。

 

「コレ、頼むわ」

「こ、これをひとりでか!」

俺、生巡に蹴りを入れた。

(硬い、いってー)

 

「馬鹿か、誰がひとりでって言ったよ」

「はぁ?」

「お前なら、運び込む場所、作業の負荷とか目算できっだろ」

「お、おお、できる」

「じゃあ、細かいことは言わねえから、速やかに効率よく仲間を使え。

 命令だ。

 とっとと、始めろ。

 グズ!」

今度は、俺が痛くないように生巡の尻を蹴り上げる。

「ひゃん。

 な、何しやがる!」

生巡が顔を真っ赤にして殴りかかろうとするのをするりと躱す。

 

「ひゃんってか。

 どうした、俺のテクニックに感じたのか、このドМ

 さっさと行け、ビッチ」

「くっそー」

「おいおい、ビッチ、そういう時は、ウンコーって言うんだぞ、キヒヒ」

 

ドスドスと悔しがりながら去っていく生巡を俺はヒラヒラを手を振って見送る。

 

 = = = = =

 

「やっぱりか」

俺は、これでもかというくらい汚れた風呂場に立っていた。

 

おそらくこの汚れた風呂に浸かってかろうじて回復してきたんだろう。

「臭いな」

 

気が付いたら、掃除を始めていた。

 

艦娘(あいつら)が全裸で過ごす場所だからな」

奉仕させる情景を想う。

 

「艦娘同士っていうのを眺めるというのもおつかもな、キシシ」

妄想はどんどん広がっていく。

 

「生巡とこの駆逐艦を戦艦どもにイジメさせるとかいいかもな。

 ふふん、俺に逆らえないのを悔しがるのが目に浮かぶ。クヒヒ」

 

我ながら、ゲスな妄想だ。

提督の役得は、金じゃ買えないからな。

 

俺は、そこそこ清潔になった風呂場を眺めて満足していた。

 

 = = = = =

 

食堂では、間宮がせっせと戦艦と空母に粥を渡していた。

大食い選手権のごとく粥を飲んでいくので、お玉じゃ、よそう量が足りず、お代わりが間に合わない。

 

「間宮、何してんだ?」

俺は呆れて声を掛けた。

 

「え?」

間宮の間抜け面が俺に向く。

 

「馬鹿か、こいつらに構ってたら、仕事ができねえだろ。

 柄杓でも渡しとけ」

「え、でも」

俺の指示に間宮が戸惑う。

 

「さっさとしろ。

 命令だ」

 

間宮が厨房から柄杓を持ってくる。

 

「貸せ。

 お前ら、間宮の手を煩わすな」

間宮から柄杓を取り上げて、粥の入った寸胴に投げ込む。

「こいつらには、これで充分だ。

 間宮、食料が倉庫に搬入されているからチェックしてこい」

 

俺は反応の鈍い間宮に蹴りを入れ、倉庫に行かせた。

 

寸胴鍋を囲む大食いどもが睨みつけてくるのに気が付いたが無視した。

 

「おい、お前とお前。

 風呂に来い」

目についた駆逐艦ふたりに命令すると青ざめていた。

「身体の隅々まできれいになるんだ、うれしいだろ

 クヒヒ」

「あ、あのわたしたち、入渠の必要は」

 

「命令に従わないなら、解体ね」

そのときの俺は爽やかな笑顔だっただろう。




いよいよ最初の犠牲者か?


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第6話 風呂の復活

駆逐艦を風呂に連れてきた提督。

彼の欲望の始まりか?

彼を応援してください。


俺は、風呂場の脱衣場に駆逐艦といる。

 

「お前ら、腹は脹れたか」

「「・・・・」」

駆逐艦は、黙ったままだ。

 

「口がきけないのかよ!」

俺は、ふたりの髪を掴む。

 

「痛い」

「ふぇ」

情けない声を出す駆逐艦。

 

「まあいい。

 お前ら、服を脱げ」

 

「「!」」

 

駆逐艦は、顔面蒼白になり震えだした。

 

「ふん。

 さんざん、先任(クソ)にかわいがられたんだろ。

 今更、俺の前で服を脱ぐくらいどうということはねえさ」

 

「あ、あの。

 わたしだけにしてください。

 この子は許してあげて・・ください」

「だったら、わたしの方にしてください」

ふたりがいきなり饒舌になった。

 

「提督の俺に指図するのか。

 いい身分だな。

 お前らには、選択肢はねえよ、キヒヒ」

 

「「そんなぁ」」

その場に崩れこむ駆逐艦。

 

「早く脱げよ!」

蹴りを入れる。

 

のそのそと服を脱ぐ駆逐艦。

脱いだ服を畳み終わると涙目で俺を睨む。

 

「いい格好だな、クヒヒ」

駆逐艦を観察したが外傷はなく、回復が不要なのは本当のようだ。

 

うずくまったまま動こうとしない。

 

「じゃあ、お前ら、風呂の用意をしろ。

 先にお前らが入れ。

 終わったら、食堂に呼びに行け。

 全員、順番に入れよ。

 クセェから」

間抜け面になる駆逐艦。

 

「とっとと始めろ、ボケ」

蹴りを入れると駆逐艦は浴場に駆け込んでいった。

 

「耳の後ろも洗えよ」

「「ハーイ」」

元気な返事が返ってきた、なぜだ?

 

 = = = = =

 

「きたねえなぁ」

宿舎の廊下にモップを掛けながらひとりごちていた。

 

俺の部屋は、この先の渡り廊下を渡った先にある。

途中でこの廊下を通ったわけだが、しばらく掃除がされておらず、埃っぽい。

 

艦娘にさせるにしても、今、汚いのが気に入らない。

幸い廊下の掃除道具のロッカーでモップを見つけたし、こうしてモップ掛けをしている。

 

よしよし、このまま俺の部屋まで、モップ掛け♪

 

 = = = = =

 

「皆さーん」

「入渠できますよー」

 

提督(ゲス)に連れていかれた子らが、湯上がりでさっぱりして戻ってきた。

加えてお風呂に入れる。

≪≪なんだってー!≫≫

食堂で歓声が上がった。

 

あの(・・)お風呂の掃除は、大変だったろう」

戦艦が、駆逐艦を労った。

 

「「掃除は終わっていました」」

「え?」

駆逐艦の言葉が飲み込めなかった戦艦が、キョトンとした。

 

食堂の隅で、間宮は消化の良い料理をいろいろ考えていた。

献立は、豊富な食材のおかげで選び放題。

久々に料理の腕を揮えることとある(・・)ことで、頬が緩んでいた。

 

 = = = = =

 

「くっそー。先任(クソ)野郎、寝床が臭いって、何だよ」

俺は、文句を言いながら、湯を張ったタライに洗濯板でシーツを洗っていた。

 

洗濯機まで売っていやがったクソを思うと自然と力が入っていい感じに洗えた。

布団は窓に掛けて干してある。

 

今日はいい天気だし、夕方までには乾くだろう。

 

立ち上がり腰を伸ばす。

 

艦娘(あいつら)も洗濯させるとなったら、やっぱ洗濯機が要るなぁ」

俺は、タライを見ながら、どう工面するか考えていた。




提督は、幼児体型にあまり興味がありません。

いいことなのか悪いことなのか。


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第7話 割と好物

艦娘たちが身を清めています。

これから汚されるもの知っているのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


洗濯も濯ぎが終わった。

残り湯を排水溝に流して、逆さにして干しておく。

 

「「ていとくー!」」

駆逐艦が駆け寄ってくる。

 

確か、風呂の準備をさせたふたりだ。

「解体して欲しいか。キヒヒ」

「「ヒッ!」」

俺は、カウンターで駆逐艦をビビらせる。

 

「ほーらー、言ってみろぉよぉ」

「「ヒィーーー」」

駆逐艦は、竦みあがって声が出なくなった。

 

「用事がねえなら、向こういってろ。

 俺は忙しいんだよ」

「あ、あの。

 そのタライを使ってもいいですか?」

「わたしたちも洗濯したいんです」

よく見ると駆逐艦が汚れ物を抱えていた。

 

「ああ、いいぞ。

 洗濯板も使っていいからな」

特にどうでもいい。

「「あの、・・・・洗剤も使ってよろしいでしょうか!!」」

言い切った後、直立不動の姿勢を崩さない駆逐艦。

「無駄使いすんなよ」

「「ありがとうございます」」

腰を90度に曲げる駆逐艦。

 

俺、何か忘れてる?

まあ、作者も忘れているみたいだし、いいか。

 

 = = = = =

 

鎮守府の執務室。

 

堆く積まれた書類。

 

「うー」

 

「どうだ。

 と、なんだ、全然じゃねえか。

 これくらいとっとと片付けとけよ、グズ」

眼鏡は、書類の中に居るので、手前に積まれた書類を蹴りで崩す。

 

「きゃっ、・・・・あぁ」

崩れた書類を茫然と眺める眼鏡。

 

「こんな紙切れ、ちょいちょいと書いときゃいいんだよ

 どうせ、俺のハンコがなけりゃ、意味ねえから、キヒヒ。

 それより、そのスカートの中をそんなに見せたいのか。

 眼鏡ビッチ」

「な!これは、スケベスカートではありません!」

「クヒヒ、語るに落ちたな、眼鏡ビッチ」

「ううぅ」

俯いて動かなくなる眼鏡。

 

おっと、このまま仕事が滞ると俺の評価に影響が出る。

 

「これでも食って頑張れよ」

崩れた書類のあった場所に板チョコを置く。

「いただけません」

即、突き返された。

 

くっそー、ワイロが効かねえ。

ふと思いついた。

まあ、ダメもとで仕掛けてみるか。

 

「眼鏡ぇー」

「なんでしょうか」

明らかに警戒している。

 

「もうすぐ、お茶の時間だなぁ」

「そうですね」

「実はなぁ、お茶を淹れて、茶菓子まで準備したんだが、用事を思い出したんだわぁ」

警戒する眼鏡の前にほんのりと香る緑茶と羊羹を置いた。

「帰ってくる頃には、茶が冷めちまうしぃ、何なら、茶菓子と一緒にどうかなってな」

眼鏡がゴクリと喉を鳴らした。

(いける!キヒヒ)

「じゃあ、一服してくれ」

俺は、眼鏡を残して執務室を出た。

 

 = = = = =

 

俺は、あるアイテムを持って食堂に戻ってきた。

 

相変わらず寸胴鍋に群がっているのが大食いたち。

俺に気が付き、睨んでくる。

 

「間宮ぁ、熱湯くれ」

厨房に入って、間宮を呼ぶ。

「は、はい。

 これ、キャッ」

ヤカンを持って慌てる間宮がつまずいた。

 

俺は、咄嗟の事だったが、幸いヤカンの取っ手をつかみこぼさずに済んだ。

「あぶねえなぁ。

 それに重いわ! 気をつけろ、グズ」

俺に身体を預ける形になった間宮に蹴りを入れる。

「すみません」

謝る間宮を無視する。

 

そんなことはどうでもいい。

ヤカンの熱湯を有効利用するためにカップ麺のフタを開けて、熱湯を内側の線まで注ぐ。

 

食堂にカレーの香りに混じって、醤油とんこつの香りが広がる。

 

3分後、茫然とする大食いたちの目の前で、盛大に啜って、カップ麺を完食し、スープを飲み干す俺がいた。

「安いけど、時々食べたくなるんだよなぁ、キヒヒ

 あ、お前らには、ねえから」

残ったカップを湯で濯ぎ、ゴミ箱に捨てる。

実は、箸はマイ箸なので、軽く洗ってケースに入れた。

 

大食いたちが睨んでくるが、メシウマ状態の俺には、どうということはなかった。




戦艦、空母の艦娘たちは、まだ10倍粥です。

その目の前でラーメンを啜る提督。


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第8話 食べるって大切

チープなカップ麺も工夫1つで、勘に障るアイテムに。

いたずら好きな提督。

彼を応援してくださいね。


よしよし、日が落ちる前に乾きそうだ。

 

干した布団と洗いたてのシーツの気持ちよさと言えば。

 

そういや、昨日は、ワクワクして眠れなかったんだよな。

 

機嫌がいい俺は、屋上の物干し場を後にした。

 

 = = = = =

 

「長門さん、皆さん。

 少ないですが、これを召し上がってください」

間宮が大皿を差し出す。

上には、懐紙が敷かれ、一口に切り分けられた羊羹が置かれていた。

 

「これは・・・・」

長門がある意味的外れの質問をしてしまった。

 

「あは、これは・・・・あの、・・・・」

間宮は答えなかった。

 

「ふむ、いただこう」

貴重な甘味を楊枝で刺し、口に運ぶ。

ムクムクと味わい、久しぶりの甘さを堪能した。

頬を何かが伝う。

 

「長門さん、どうしたんですか!」

「うん? どうかし・・・・どうしたんだ?」

長門は、自分が涙を流していたことに気が付いた。

 

他の戦艦や空母たちも同様だった。

先任(クソ)の横領のため、ひっ迫していく鎮守府。

駆逐艦たちに自分たちの食事や物資を回す毎日。

そのうえ弾薬もギリギリで出撃させられた毎日。

回復も悪臭のするぬるま湯に浸かるだけの毎日。

 

艦娘だ、空母だ、戦艦だと言っても、女の子には、辛すぎた。

いっそ、ほかのブラ鎮のように壊れてしまえば、楽だった。

 

しかし、彼女たちは、耐えてしまった。

壊れずに踏みとどまった。

 

そんな苦労を労うさっぱりした優しい甘さだった。

 

間宮は、その艦娘たちを嬉しそうに眺めていた。

 

 = = = = =

 

「よう、ビッチ」

「提督、せめて眼鏡にしてください」

 

「おっ、お茶美味かったみたいだな、クヒヒ」

空になった湯のみを横目に<眼鏡>の顔を覗き込む。

 

巡洋艦は、目を逸らす。

 

「おやおや、羊羹はともかくチョッコレイツはどぉーしたのかなぁ」

ニヤニヤしながら、嘗め回すように<眼鏡>を見回す。

 

「クサッ!」

俺は思わず叫んだ!

 

「わたし!臭くなんかありません!」

顔を真っ赤にして反論する眼鏡巡洋艦。

 

「で、チョコは?」

「あわわわ」

俺が真顔で質問すると狼狽える眼鏡。

 

「まあいい、元々ワイロだしな、キヒヒ」

「うーーー」

 

「おー、ずいぶん片付いたじゃねえか、優秀、優秀」

「あ、あの、提督」

「何ィー?」

「わたし、臭いですか?」

「おー臭いぞぉ」

俺は、書類に目を通しながら、眼鏡に話しを合わせる。

「そうですか」

がっくりと机に手をつく眼鏡。

 

「お前くらいの年頃のヤツは、メスの匂いがプンプンするもんだ」

「え?・・・・それって?」

「メス臭い」

「な、何ですか、それぇ!」

「うるせえよぉ、これから俺は仕事だから、風呂でも入ってこい」

「は?」

「行け!グズ」

俺は眼鏡にキックした。

まともに入ったのか、正面から床に張り付くように倒れ込む眼鏡。

 

「ふぇーーーん」

泣きながら立ち上がる眼鏡。

「ああ、眼鏡、ヒトキュウマルマルに全員食堂に集合させろ。

 食事と風呂は、集合時間だけ外すように通達しとけよ」

「・・・・・」

「復唱しろ」

二発目のキック炸裂。

面白いように二発目も決まった。

「ふぇーーーーん、復唱、えっぐっ、ヒトキュウマルマルに全員食堂に集合」

 

いじめられっ子のように泣きながら去っていく眼鏡。

俺は、柄にもなく思った。

(いじめっ子に負けるなよ。てか、俺か、キヒヒ)

 

「チョコレートは、駆逐艦あたりに分けてやったんだろうな」

掃除していない執務室の床に残る複数の足跡から名探偵【俺】は推理した。




巡洋艦<眼鏡>の災難は続きます。

それは、眠るところまで。


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第9話 鎮守府支配宣言

羊羹に釣られた眼鏡。

早くも飴と鞭。

彼を応援してくださいね。


岬の向こうに傾いていく夕日。

 

シーツを取り込みに上がった屋上で見とれて、一服することにした。

眺めてながら、リトルシガーをゆっくり嗜む。

揺るがしているとのんびりした気分になれる。

タバコは、習慣にならないおかげで、健康のことは気にしなくてすんでいる。

艦娘(あいつ)らが命がけだし、健康もクソもない。

 

シーツも無事乾いて、布団もふっくら。

今日の安眠は約束された。

 

いい感じだ。

 

提督着任1日目としては、上出来だろう。

 

化物の襲撃がなくてよかった。

先任(クソ)のせいだが、お隣さんに哨戒以上の迷惑をかけるのは、心苦しい。

 

「・・・・柄じゃねえな」

 

 = = = = =

 

私室の寝床を整えて、柱時計に目をやると18時45分。

 

「・・・・」

 

隣りの執務室には眼鏡が居る。

 

≪カチャッ≫

「おい、そろそろ」

「キャッ!」

 

眼鏡のヤツ、何に驚いたんだ?

おまけに両手を手刀にして、身構えている。

「?、何してんだ?」

「・・・・」

 

「来い」

「・・・・」

 

「早くしろよ、グズ」

俺は眼鏡の後ろに回り込み、蹴りを入れて、突き飛ばす。

眼鏡は、痛みを我慢したのか、呻きもせず、よろめいた先で、また身構えた。

 

「ふざけてる暇はねえんだよ、解体するぞ」

眼鏡の顔に何かを諦めたような表情が見えた。

 

ようやく仕事になる。

「ほら、早くしろ」

俺は、眼鏡の細い華奢な手首を掴む。

 

「あう」

明らかに眼鏡が抗ってくる。

 

「怒るぞ」

いうと同時に蹴りを入れると眼鏡が従順になった。

 

「ほら、もたついてんじゃねえよ」

執務室から連れ出し食堂に向かうと眼鏡が何かを言ったみたいだが無視する。

「早くしろ。

 てか、お前。

 先に行って、全員の点呼済ましとけ」

眼鏡を突き飛ばし先に行かせた。

 

(眼鏡連れて遅刻って、舐められるだろうが)

 

 = = = = =

 

眼鏡:

提督が、提督の部屋でお布団の用意をしてる!

それって、まずいんじゃ。

誰になるんだろ。

みんなお風呂入らされてるって。

 

≪カチャッ≫

「おい、そろそろ」

「キャッ!」

 

(ウソ、わたしなの。お菓子で釣ったくらいで身体まで許すと思ったの?)

(そんな、安い女じゃないわ)

「?、何してんだ?」

(ふふん、わたしが身構えるって予想していなかったのね)

「・・・・」

(諦めて、お願い)

 

「来い」

(やっぱり、敵わないかも)

「・・・・」

(えーん、怖いよー)

 

「早くしろよ、グズ」

(どうしよ、どうしよ。痛い)

 

「ふざけてる暇はねえんだよ、解体するぞ」

(やっぱり、ダメなのね)

 

「ほら、早くしろ」

(あ、提督の手、大きい。お願い、気持ちを整理させて)

「あう」

 

「怒るぞ」

(怖く言わないで、痛い)

 

「ほら、もたついてんじゃねえよ」

『え、提督のお部屋は、そっちじゃ』

 

「早くしろ。

 てか、お前。

 先に言って、全員の点呼済ましとけ」

(・・・・そりゃ、助かったのかもしれないけどぉ・・・・)

 

 = = = = =

 

「全員居るな。

 今日から俺が提督だ。

 言っておくことは一つ。

 ここでは、俺が責任者だ。

 俺の許可しないことは禁止する。

 反抗は許さん。

 お前らは俺のモノだ。

 以上。

 眼鏡、解散させろ」

食堂の雰囲気が微妙になったが、俺は気にしなかった。

 

「全員、解散!」

 

視線を感じた。

「大食いは、相変わらずだな」

粥の入った寸胴鍋の周りに陣取った戦艦たちが俺を睨んでいた。

 

手に持った柄杓が笑わせる。

「柄杓の扱いが上手くなったみたいだな。

 今度出撃の時に艤装してみたらどうだ、キヒヒ」

 

 




提督、初日に結構働いています。

ちょっと疲れて、ブラック成分が薄まってます。

今のところは【俺のモノ】宣言までです。




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第10話 艦娘の気掛かり

鎮守府の掌握を宣言した提督

お前たちは俺のモノ(モノは考えるな)

お前は俺のモノ(誰にも渡さない)

アレ?


≪ボーン≫

執務室の柱時計が一回鳴った。

 

時計を見あげて背伸びをする。

 

「三日はかかるな」

溜まった書類の山を見て、めげそうになった。

 

執務机の方に目をやると眼鏡の姿が見えない。

 

立ち上がって確認すると執務机に突っ伏して眠っていた。

 

そう、執務机は眼鏡に使わせている。

俺の方は応接セットの方で書類の処理をしていた。

 

「食堂でつまみ食いとでも思ったんだが・・・・」

スヤスヤと寝息を立てている眼鏡を見ると起こすのは止めた。

 

眼鏡の横に立ち、あのスケベスカートのサイドから中に手を入れる。

温かい太ももを直に触ることができた。

やっぱりスケベスカートだ。

「おいおい、さっきはさっきだぞ。

 少しは警戒しろよ」

左腿をさすりながら、右の乳房を揉み上げる。

目は覚まさず、眠り続けている。

「弄りがいが、ねぇな。

 まあ、ふらふらになるまで、追い詰められてたしな」

このまま机で眠られても邪魔なので眼鏡をどかせることにする。

ソファに寝かすと邪魔だし、隣りの私室でいいか。

さっきまで書類が道をふさいでいたが無事開通しているのでドアを開け放つ。

 

「うーん、お姫様抱っこかぁー?」

仕方なく椅子から抱きかかえた。

 

眼鏡の素肌部分がさっきより汗ばんでるのは気のせいか?

風呂に入ったせいか、いい匂いが鼻腔をくすぐる。

「コイツ、眠っているとき、メスの匂いがきつくなるのか?」

色々疑問な点はあるが、布団に寝かせる。

「運び賃だ。

 胸くらい見せろよ」

ネクタイを緩め、ボタンを三つ外して胸元を開け、掛け布団を掛ける。

 

「服のしわは、面倒見ないからな」

相手が眠っているので、独り言を残して俺は執務室に引っ込んだ。

 

 = = = = =

 

「あのー、日が変わりましたけど」

「すまんな、あと一鍋頼む」

 

間宮は、調理の合間に粥を作り続けてきた。

提督の命令通り、戦艦や空母のために作り続けている。

 

そう、作り続けている間、提督は一度も来ない(・・・)

 

「もうすぐできますから」

飽きるまでと食べさせているが、それは苦にならなかった。

飢えて動けなくなる艦娘たちを見せられるより、むしろ楽しい。

戦艦たちは調味料で工夫をし、飽きが来ないように食べ続けている。

粥だが、気兼ねなく食べられるのが、彼女たちにとっても娯楽に近い行為になってきている。

 

そうだ、次の鍋を渡したら・・・・。

 

 = = = = =

 

執務机の左の引き出し3番目には、ひそかな楽しみが隠してある。

 

横流しの利益で手に入れたウイスキー。

 

使用期限ぎりぎり抗生物質を廃棄される寸前に回収して、闇市に横流し。

医薬品は民生向けが品薄なので、こちらの言い値で交換できる。

そこで軍部内の流通量が少ない嗜好品を重点的に集めておく。

 

必要な時に大本営や鎮守府にばら撒いてきた。

今では参謀本部から、嗜好品の問い合わせが暗号文で届くまでになった。

 

「ギリギリ綱渡りなんだよなぁ」

自分の権限外の取引をしているため、告発されたら逃げられない。

 

私室を与えられている士官は、執務室での飲酒は、道徳違反になる。

ショットグラスに少し注ぎ、ぐっとあおる。

 

同じ引き出しから、ナッツの袋を取り出し封を切る。

一つまみを口に放り込み、齧りながら2杯目を注ぐ。

 

≪コンコン≫

 

誰だ?

「入れ」

 

「失礼します」

「なんだ間宮か、献立表ができたのか?」

夜の来訪者は、間宮だった。




眼鏡、腿をまさぐられ、胸を触られました。

艦娘の気掛かりはこれからです。


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第11話 伝わらない想い

横流しで私腹を肥やす提督。

やることはやっています。

彼を応援してくださいね。


「まあいい、酌をしろ。

 そうだな、胸元は、はだけさせろよ。クヒヒ」

 

「・・・・」

「なんだぁ?

 命令が聞けんのかぁ?」

持っているグラスを投げつけようと振りかぶったが、グラスが勿体ないので止めた。

 

「すみません、よくわかりませんので」

間宮は、エプロンを脱ぎ、ブラウスのボタンをはずし、ブラが見えるように襟元を開いた。

 

「いいねぇ、これだよ、キヒヒ」

グラスに3杯目を注ぎ、間宮に差し向けた。

間宮は観念したのか、俺のところに寄って立ち尽くしていた。

 

「ぬうーん、どうした?

 ほらほらぁ。

 どうして、こんなやつに。

 いやだけど、逆らえない。

 こんな嫌な思いは、一生消えない。

 悔しい、死にたい。

 って、顔をみせてくれなくちゃあ、キシシ」

俺は、煽りながら、3杯目を呷った。

(駄洒落じゃないよ)

なぜか、心で説明をしておく必要性を感じた。

 

椅子を回して、正面を間宮の方に向ける。

(別に泣いて飛び出して行ってもいいんだけど)

次の瞬間、予想外のことに反応が遅れた。

 

「提督、当面の献立を立てました。

 今持って来ておりませんので、明朝、報告します」

間宮の報告は順当なものだった。

いきなり俺の膝に座って頭を胸に預けてきたことは、順当とは言えなかった。

 

間宮は、目の前にある俺の制服の金ボタンを手慰みにし、開いている方の手は、肘掛けに乗せた俺の手に重ねてきた。

 

「とんだビッチだな。クヒヒ」

俺は、表面的には平然を装いつつ、次の言葉を考えていた。

 

「嘘つき」

間宮、捨て台詞的な言葉を残して、いきなり立ち上がって部屋から飛び出していった。

 

やれやれ、艦娘も女だな。

何を考えているのか、さっぱりわからん。

「結局、何しに来たんだ?」

 

4杯目を呷ったところで、いい感じに眠くなってきた。

 

海軍ジャージに着替えて、制服をハンガーに吊るす。

(風呂に入り損ねたな)

 

ソファーに非常用に持ってきた寝袋を広げて、潜り込んだ。

 

灯りを落とした執務室の中で、クソが売り払った設備や什器の入手を考えてた。

リストを作って、業者が誰にするか、リサイクルショップに丸投げ・・・・Zzz

 

 = = = = =

 

食堂に二人分(・・・)の夜食を自棄(やけ)食いをしている艦娘影。

 

「もう! ふたりでしてるかもって思って、遠慮して入ったのに」

 

「ふたりで夜食って、ありじゃない」

 

「せっかくなのに」

 

「お酌しろって何よ」

 

「命令なんでしょ」

 

「飲ませて、酔わせればいいじゃない」

 

「覚悟して密着したのよ」

 

「心臓の音が聞こえましたぁー」

 

「嘘つき」

 

自棄食いは、勢いを失い、一口食べてはニヨニヨし、二口食べては身体をよじって、消化に良さそうな食べ方に変わっていた。

 

 = = = = =

 

≪ドックン!ドックン!ドックン!≫

(あー、心臓の音がうるさいー)

 

≪ガチャッ タトタトタトタト・・・・≫

 

(・・・・行っちゃった?)

 

(隣りが静かになった)

 

(何、ハンガーの音? 着替えてる!?)

 

(いよいよなの? わたし、モノになっちゃうのぉ)

 

(あーん、どうしよう。

 朝、噂になっちゃうよー)

 

(ど、どんなだろ)

 

(や、やっぱり、叩かれたりとか、言葉でいじめられたり?)

 

(・・・・?)

 

(・・・・さぁ、来い)

 

(・・・・アレ?)

 

(・・・・・)

 

(・・・・Zzz)

 

 




提督の一日が終わりました。

波乱の一日の終わりです。


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第12話 亀裂

眼鏡と間宮にお触り(?)した提督。

これから本領発揮かも。

彼を応援してくださいね。


≪ちゅんちゅん≫

小鳥のさえずりで目を覚ます。

 

鎮守府が機能を停止してから、起床時間の存在は無意味だった。

 

空腹で眠れない、空腹すぎて意識が混濁する、空腹で意識が保てないなど。

 

朝がこんなに清々しいと思えるものだったことを忘れていたこと知った。

昨日までの日々が夢だったと思えるほどに。

 

 = = = = =

 

「こ、こんなことって」

巡洋艦は、自分でもわからない苛立ちを覚えていた。

 

こやつは、この野郎は、このゲスは、この提督は!

どうしてソファで寝ている?

ご丁寧に寝袋まで用意して。

 

昨日スカートの中に手をつっこみ、胸まで揉んだくせに。

 

紳士ぶって、ソファで寝る?

 

無性に腹が立つ。

 

自分でも理由がわからない。

 

同じ寝かせるなら、眼鏡(わたし)のほうがソファじゃないのか?

 

朝、目を覚ますと久しぶりに清潔感のある寝床に驚いたくらいだった。

 

【お前は俺のモノ】

 

この提督の所有物、

生殺与奪は思いのまま、命令如何に依っては、死ぬよりつらいことに耐えなければならないと覚悟までした。

 

嫌がらせ、蹴り、罵声、セクハラ、ワイロと碌なものじゃない。

 

そんな男が、目の前で無防備に眠っている。

「ゲスてーとく、眉間に縦筋入ってますよ」

顔を覗き込んで眉間をツンツンしてやった。

わたしの復讐は、これでリセットとしてあげよう。

 

 = = = = =

 

「てーとく、朝ですが」

 

スカッと目が覚めた。

すると、目の前に若い美女がいた。

おっと、騙されるところだった。

コイツは眼鏡だ。

 

「おはよう、眼鏡。

 スケベスカートの調子はどうだ」

眼鏡は、跳ね上がりスカートのスソを押さえていた。

 

「昨日は(まさぐ)られて、喘ぎ声を上げてたじゃねえか」

眼鏡は俯いて反論してこなかった。

 

(なんか調子狂うな)

 

「俺は着替えるから、お前は朝飯食って来い」

「てーとくはどうされるのですか」

眼鏡のやつ、上目遣いで聞いてきやがる。

(何か企んでいるのか?)

 

「俺は、やることがあるんでな。

 空いた時間に食うわ。

 そうそう、洗濯機が手に入るまで、タライで洗濯しろと、全員に伝えとけ。

 風呂に入っても服が臭ェてな」

 

 = = = = =

 

間宮の朝は早かった。

 

大食いたちが腹の虫に管楽合奏をさせながら食堂に入ってきた。

 

「昨日と同じで良ければできていますよ」

テーブルにドンと寸胴鍋を置く。

昨日のように柄杓が差してあった。

 

「間宮さん、お手数を掛けますね」

「いただきます」

一航戦の空母が、申し訳なさそうにしながらも、柄杓に手を伸ばす。

一度目覚めた食欲を抑えるのは、難しかった。

 

「今日は、トッピングを作っておきましたよ」

梅干しや漬物のほかに、ありあわせの材料で作ったふりかけなど、手間を惜しまず文字通り作っておいた。

 

腕を揮える喜び。

みんなの期待に添いたい。

喜ぶ顔が見たい。

 

【お前は俺のモノ】

 

乱暴な言葉とゲスの笑いと形容できる顔が脳裏に浮かぶ。

何度も蹴られたりもした。

寝る前に見たら、痣になっていた。

 

あの艦娘は、ほぼ一日提督と過ごしている。

 

みんなの笑顔を見るとますますある感情が頭をもたげてくる。

 

気が付くと頬を一筋雫が伝った。

 

 = = = = =

 

俺は、買い物リスト完成させた。

「午後、街に行ってみるか」




提督の知らないところで

【お前らは俺のモノ】

が、

一人歩きを始めてしまっています。


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第13話 不用

間宮に痣まで残した提督

彼の暴力は留まるところを知りません。

彼を応援してくださいね。


「おい、眼鏡」

「・・・・」

 

「・・ビッチ」

「ビッチじゃありません!」

 

「眼鏡の自覚が出てきたな、結構、結構。

 ところでビッチ」

「てーとく、眼鏡でいいです」

 

「眼鏡、俺に指図するんじゃねぇ。

 解体すんぞ」

俺は、空手チョップを眼鏡にお見舞いする。

「へぅ」

眼鏡は頭をさすっている。

 

「スケベスカートで、話しが進まねえだろ」

「眼鏡でいいです」

「ヤレヤレ」

「うーーーーー」

揶揄い過ぎて眼鏡が唸りだした。

パワハラは愉快愉快。

 

「あのさー、お前も洗濯、行ってこい」

「でも、書類が」

俺は、中庭で洗濯大会が繰り広げられる予定は確認できている。

眼鏡が朝食を済ませて、執務室に戻った際に報告してきた。

 

「気象情報を信じれば、明日以降天気がくずれる。

 今のうちに洗濯してこい」

「書類の「部屋干し臭い女は、20m以内に近寄るのを禁止するぞ!」はい!行ってきます!」

眼鏡は執務室を飛び出していった。

 

「飯食って、早めに出発するか」

今日は、洗濯機をはじめ、物資調達に出かける予定がある。

交渉事が伴うし、時間に余裕を持つためにも繰り上げるのもありかと考えた。

 

 = = = = =

 

食堂は昨日と違って、大食いの人数が半分しかいなかった。

俺に気が付いた大食い(半艦隊)が睨んでくるが気にしない。

 

「間宮、熱湯くれ」

 

「提督、あの、すぐお食事の用意をしますね」

「はぁ?俺は、熱湯って言ったよな」

「あの、でも」

「逆らうの?解体して欲しい?」

 

「貴様! 間宮さんの好意を無下にするのか!」

俺と間宮のやり取りを見かねたのか、戦艦が語勢を強めてきた。

 

「戦艦さんよぉー、俺は熱湯を頼んだんだよ。

 それを聞き入れてくれないのに、好意って何よ。

 お前さぁ、人格者で慕われてるってわかるよ。

 でもよぉ、お前が必ず正しいって、押し付けて来るな」

「な!」

「長門さん、いいんです。

 提督、申し訳ありません。

 熱湯です」

間宮がヤカンを持っている。

 

「よしよし、じゃ、・・・・なんだ?」

俺は、間宮からヤカンを受けとり熱湯を注ごうとする。

ヤカンが動かない。

間宮が取っ手を掴んだまま放さない。

「間宮、蹴りでも入れてほしいの?

 ドMなの、Mビッチに目覚めたのか、キヒヒ」

意図が判らないので、軽口で探りを入れることにした。

食事をし、体力が戻った艦娘なら、生身の人間をひき肉にするのも容易(たやす)い。

 

「提督、せめて、お湯を注ぐくらいには、お役立てください。

 お願いします」

間宮は、半ば強引にカップに熱湯を注ぎ入れた。

 

俺は、間宮の真意を図りかねている。

艦娘たちに警戒しながら、カップ麺を食べ、食堂を後にした。

 

 = = = = =

 

提督が、カップ麺のスープまで飲み干し、カップをお湯で濯ぎ、箸を洗って食堂から出て行った。

無言のまま。

 

「間宮さん、申し訳ない」

「長門さんは、何も悪くありません」

 

「わたしは、もしかしたら、大きな勘違いをしているのかもしれない」

「・・・・長門さん」

「いや、忘れてくれ」

 

「・・・・お代わりのお鍋は、いりますよね?」

「ああ、消化が早くて、食べるのが追い付かないな」

長門は、苦笑いを間宮に投げた。

間宮は、少し悲しそうな笑顔だけで応えた。




なぜか複雑になる鎮守府


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第14話 報酬かワイロか災難か

間宮に加えて長門まで。

提督の野望は達成できるのか?

彼を応援してくださいね。


「おーい、巡洋艦」

 

「何ぃー、飲み行くのぉー」

 

「お前じゃねぇよ、お前、空母だろ」

 

「紛らわしい呼び方するなよぉー」

 

「うるせぇよ、薄いの破るぞ」

 

「・・・・ふふん、全力で抵抗するぜ、パーッとな。

 ヒャッハー!」

いきなり真っ赤になったかと思ったら意味不明のハイテンションになった軽空母。

 

俺は、無視して、生巡のところに。

 

「なんだよ」

生巡は警戒し、身体の向き変えて、尻をガードする。

「何、期待してんだよ、ドMビッチ」

「オレはドMでもビッチでもねえ!

 殴り込みに行くぞ、オラー!」

一歩踏み込んで拳を向けてくる巡洋艦。

俺はその拳を手のひらで包むように掴むと脚の間に蹴りを入れる。

「解体すんぞ」

「ひゃん、お、お、お、お前ぇーーーーー、どこを蹴りやがるーーーーー」

痛くはないはずでも、破壊力は抜群のようだ。

耳まで真っ赤にした巡洋艦だが、両拳は、すでに両掌で封じている。

ブンブン振り回そうとするが、俺が放さない限り、攻撃に繋がらない。

 

無駄にあがいて息が上がる巡洋艦を引き寄せて耳元に息を吹きかける。

「フッ」

「ウオッ!、な、な、何」

「ビッチぃ、期待してんじゃねぇ」

「ビッチじゃねえ・・・・よ」

萎れてしまった生巡。

 

「手を放すが、殴るんじゃねえぞ」

「ふん!」

手を放すと巡洋艦はふくれてソッポを向いてしまった。

 

俺は制服の内ポケットからこいつに渡す予定のワイロを取りだし、巡洋艦の手に握らせる。

 

「な、何これ?」

「硬くて長いのが好きだからって、あんまり強く握るなよ」

「・・・・あ!な、なんだよ、それ。

 あ、あ、あ、あんまり言い過ぎるとぶん殴るぞ!」

さんざん(もてあそ)んだ相手に凄まれても、かえってかわいく見えてしまう。

「くっそー、舐めてるだろ!オレのこと舐めてるだろーー!」

「おいおい、周りが引いてるぞ」

 

≪ヒソヒソ、ヒソヒソ≫

≪ねぇねぇ、舐めるって・・・・≫

≪それは、・・・・やっぱりかな?≫

 

「ちがーう、みんな、誤解だからー」

鎮守府の中庭には、羊羹を握った両手を天に突き上げる生意気な巡洋艦の姿があった。

 

渡すものは渡したので、俺はその場を後にする。

少し離れたところで言い忘れたことを思い出した。

「おーい、なまじゅーーーん!そのワイロはぁーー、荷物運びしたお前んとこで分けて食えよぉーーー」

 

≪ワイロ?≫

≪もしかして、みんなでやられちゃったとか≫

≪食べられちゃったから、今度は食べちゃえとか≫

 

「バカヤロー!コレ何とかしろよぉー、ゲス野郎ぉーー!」

 

 = = = = =

 

(てーとく・・・・)

≪バキッ!!≫

(・・・・)

スタスタスタ

 

「ねぇねぇ、ここ誰か使ってるー?」

「たぶん空いてるよぉー」

「じゃあ、洗おっと。

 ・・・・誰ですかぁー、洗濯板割っちゃったのぉーーー」

 

 = = = = =

 

町に向かって走る軍用車(ポンコツ)

夜中のうちに工作艦が整備しておいてくれたので調子がいい。

「ワイロってたこ焼きとかがいいかな」

 

工作艦は、絶対、味方にしなくては鎮守府を我が物にすることはできない。

抱きこむのに良い方法はないかと思案する。

 

とりあえず、必要と言われた要望を叶えてやって様子をみるか。

 

お気に入りの銘柄に火をつけて、息抜きに嗜好を重ねて道中を楽しむことにした。

 

 

 




攻略する対象が増えてきました。

生巡はもう落ちてるかも知れませんね。


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第15話 情報収集

町に来た提督。

慣れているみたいです。

彼を応援してくださいね。


施設の正門で身分照会を受けてから、軍用車を駐車場に乗り入れる。

 

担当下士官が、駆け寄ってくる。

 

「そちらは、将官用ですので」

「ああ、そうか。

 あっちでいいかな?」

俺は、建物から離れた第2駐車場の方を指さした。

「畏れ入ります」

下士官は敬礼を向けてきた。

軽く敬礼を返して、軍用車を移動させる。

 

ここは、海軍将校クラブ。

軍区統括鎮守府なら、鎮守府内に設置される。

 

軍区の端の方になると物理的に距離が離れているため、利用しづらい提督も居たりする。

簡単に言えば、鎮守府の場所で不公平が生じて不満が出てくる。

そういう不満を少しでも解消するための出張所みたいなものだ。

 

ラウンジ、レストラン、パブ、会議室、ジム、プール、公園などの施設を利用できる。

それも将校に限られる。

施設内にも格差があり、階級によって、使える設備が変わってくる。

特に高級軍人になると特権もついてくる。

何名か同行できるようになる。

要するに依怙贔屓して、派閥を形成したりも可能ということだ。

 

本人は、退官後は民間企業に天下り。

まあ、軍隊も上に行くほど、お役所みたいなところということだ。

 

所定の場所に軍用車を駐車し、運転中、脱いでいた第一種軍装に袖を通す。

いつもは、面倒なので提督の徽章である飾緒は外している。

今日は、知人とも会うので飾緒をつけてきた。

これでどこから見ても提督とわかるのだ。

 

 

クルマを後にして、クラブ入り口へ歩いていく。

 

さっきの下士官と目が合った。

軽く敬礼すると下士官の顔がどんどん青ざめていく。

雷(気象現象)に打たれたように身体が跳ねて敬礼をする。

 

実は、俺は提督なので、特別に将官用駐車場を使ってもいい身分なのだが、

軍用車に乗ってきたので遠慮した。

「か、か、か、か、閣下ぁー!失礼いたしましたぁーーーー!」

「貴様ぁー、官姓名はぁ」

「は!  じ、自分はー」

「冗談だよ。

 アメちゃん、食べるか?」

俺は、ポケットから【飴】を取り出し、下士官に渡しながら、聞いてみた。

「俺みたいな、提督は珍しいか?」

 

「はい! い、いえ! 失礼いたしました!」

「何をもって、判断した?」

「は!提督の方々は、ご自分で運転なさいませんし、もう少し年上のように感じております」

「しょぼい軍用車を自分で運転するような若造は、提督には見えないと」

「い、いえ、決してそのような。

 はっ!もしかして、閣下は【元帥の懐刀】と」

「はぁ?誰だよ、そんな恥ずかしぃヤツ」

「い、いえ。自分の勘違いでありましたぁー!」

「だよなぁー。

 俺は、たまたま、提督になれた佐官だよ。

 鎮守府も小さい」

俺はもう一つ下士官に【飴】を渡す。

「このアメちゃんは、ワイロじゃないからな。

 わかっているね」

「は、はい!任務、誠にお疲れさまです!」

どうも勘違いされている。

仕方ないか、ついこの間まで、ここで活動していたしな。

 

実は、先任(クソ)を追い詰めたのが、俺だったりした。

 

平謝りの下士官を後にして、将校クラブの扉をくぐる。

 

飾緒を見せびらかしにジムに行くか。

 

 = = = = =

 

ジムに入るとすぐに受付のカウンターがある。

見知った顔が居て、向こうもこっちに気が付いた。

 

「中佐、こんにちは。これからトレーニ・・・・提督?」

「よう。

 そうだよ、提督だよ」

彼は、ここのインストラクターをしている少尉。

俺は、彼の疑問形に答える。

 

「ご昇進おめでとうございます!」

「昇進はしてねえよ。代将扱いで提督さ」

自分のことのように喜ぶ少尉にくぎを刺す。

なかなかの好青年なので、俺は軍人にしておくのは勿体ないと思っている。

 

「中佐の声がしたようだけど?」

奥の事務所から、若い女性の声がする。

こっちの声も知っている。

「俺だ俺だ」

「中佐ぁ。お久しぶりじゃないですかぁ」

「1週間も経ってないはずだぞ。

 お前は、キャバ嬢か?」

「ひっどーい!

 中佐のことだから、艦娘ちゃんたちを好き放題しているんじゃないですかぁ?」

「よくわかったなぁ。

 もう全員、俺にメロメロだぜ」

「中佐、中身がオヤジ」

「なかなか、痛いところを突いてくるな」

俺が来たのが知れたら担当若手尉官(インストラクター)たちが集まってきた。




任職以前の様子を少し書こうと思います。


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第16話 将校クラブの活用方法

若手将校に囲まれる提督。

ブラックな彼はどうして来たのでしょうか。

彼を応援してくださいね。


「仕方ねえなぁ」

内ポケットから、IDカードを取り出す。

「誰か飲み物を頼む」

 

「自分が行ってきます!」

「じゃあ、外の連中にも差し入・・ワイロを頼む」

「はい! ワイロ頼まれました!」

「もう1人、手伝い頼むな」

「自分が行きます!」

若い将校が2人、ジムを飛び出していった。

 

「中佐、たまには自分たちに奢らせてください」

「ヤダ!」

少尉は、こういう風にいい奴だ。

 

「中佐、今度は子供」

「キャバ嬢はうるせえよ」

生意気な後輩はいつも身内のように接してくる。

「言ったなぁー」

女性士官は合気道よろしく関節を決めやがった。

「痛ててて!」

「ふふん。

 降参ですか、中佐どの?」

「降参 降参。

 かわいくいってもなぁ、痛ぇんだよ」

残念ながら、俺は勝ち誇る中尉に勝った試しがない。

 

「「買ってきました!!」」

2人の士官が帰ってきた。

ふたりに見覚えがなかった。

それもそのはず、俺がここを離れた直後に異動してきたそうだ。

息が合うのか、任務以外は、いつも一緒に行動しているらしい。

『中佐、中佐。

 どっちが【受け】だと思いますか?』

『そうよねぇ。

 ここまで、見せられちゃうとねぇ』

『お前らなぁ』

女性士官たちは、ほど良く腐っているみたいだ。

これも職場環境の弊害じゃないだろうか。

 

今日は俺以外の高級士官が居ないらしく、世間話をすることになった。

「なんか不満に思っているとか、不満を漏らしてる将校とかいないか?」

「そうですね。

 最近、新型戦艦一隻で艦隊が壊滅させられたって言ってましたね」

「一隻でか?」

「はい、一隻で何重にも攻撃を繰り出してくるとか」

嫌な噂を聞いてしまった。

俺の鎮守府からも出撃することになるだろうが、できれば、遠慮したい。

 

「中佐、中佐。

 何なら、詳細を確認しますけど?」

「気を使うなよ。

 お前らは、情報部じゃねえんだから」

そう、なぜか若手将校(こいつら)は、俺の耳となって噂を聞いてくる。

迷惑じゃないんだが、何かあったときに助けてやれないのが困る。

 

水分補給が終わったところで、お茶会をお開きにする。

「じゃあ、俺はトレーニングを始めるわ」

「中佐、お相手します」

「いや、いい」

「えぇ!」

「貴君の指導は、アスリート級じゃないとついていけんわ」

「中佐はいい線行っておられますよ」

「世辞は止せ」

少尉の申し出を速攻で断った。

若いインストラクターとは、根本的に体力が違うのだ。

 

「じゃあぁ、わたしと組手はどうですか?

 寝技OKですよ」

「お前の両手両脚を縛るハンデがあったら、考えてやるよ」

「中佐のエッチ」

「女性士官が、嬉しそうに言うな!」

 

 = = = = =

 

久しぶりにマシンでランニングをしている。

走るだけなら、屋外を走る方が好きなんだが。

 

「とうとう貴様のところにも現れたか?」

「ああ、哨戒で発見して、直後、姿を消した」

 

ジムに顔を出す士官たちは、概ね志が高かったりする。

その分、血の気が多い場合もある。

軍上層部が腐敗しだすとクーデターを企てる輩が居たりいなかったり。

こういうのは、直に聞くのが一番。

なぜか汗を流している風に見せていると話を聞いていないように思われるみたいだ。

 

会話の感じから、近隣の鎮守府の提督がどちらかなのだろう。

哨戒ありがとうね、感謝していますよ。

今度、砂糖を50kgほど送っておくから、艦娘たちに甘いものでも作ってあげてね。

 

この様子だとちょくちょく噂を聞きに来ないとダメそうだ。

大本営への報告だと【かもしれない】ところが、削られてしまっていたからだ。

 

大本営からの情報とふたりの会話の齟齬を確認しながら10kmほど走っていた。

あー、疲れる。




ああ、お色気がたりない。

ブラックがぶらっくになっていく。


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第17話 お買い物大作戦?

気になる情報を耳にした提督。

彼の野望への影響はあるのかないのか?

彼を応援してくださいね。


「ふー。

 風呂はいいなぁ」

 

走って、筋トレをして、ストレッチで仕上げて、風呂に至る。

 

その間、ご近所さんの事情を聞いていました。

イケメン提督さんたち、許嫁がいて、その上艦娘にモテモテのようだ。

本人たちに自覚がないようだが、艦娘がイベントごとにプレゼントを用意するって、鉄板でしょ。

真顔で不思議がる二人が、バカに見えて仕方がない。

 

ブラックの俺には、羨ましくもないが、他所の鎮守府の艦娘には同情する。

ウチのには、諦めろとしか言わないが、クヒヒ。

 

 = = = = =

 

鎮守府の風呂はどうしようか?

 

混浴でも構わないと言えば構わないはずだ。

が、真横で中破や大破で呻かれていては、のんびりできない。

当面の課題だと認識して一旦考えるのやめる。

 

風呂を上がって、身支度を整える。

髭も剃ったし、さっぱりした。

 

町へ繰り出すため、持ってきた私服に着替える。

 

IDと財布を持って、準備完了。

ロッカーは、このまま借りておく。

 

ジムの受付には、合気道の女性士官が居た。

「中佐、外出ですか?」

「おう、鎮守府の備品を買いに行くんでな」

軽い挨拶をして外に出ようとすると急に動けなくなった。

 

「中佐、連れて行ってください」

「何言ってんだ。

 お前、当番だろ」

「暇なんですよぉー」

「知らん、知らん」

「そうおっしゃらずにぃー」

ガッチリしがみついてくる女性士官。

 

「じゃあ、許可とって来い」

「はい!」

ひらりとカウンターを飛び越え事務室に飛び込んでいく。

「ネコかよ」

 

しばらくするとカウンターに手をついて、跳馬のように飛んで目の前に着地する。

「えへへー。お土産を買うということで許可が下りましたぁ」

 

「仕方ねえな、てか、いつの間に着替えてんの?」

「兵は神速を尊ぶって、言いますからね」

タンクトップにパーカーを羽織り、裾の広がったスカートを穿いていた。

 

「まあ、それで黒パンツは、あだるてぃだな」

「え!み、み、見たんですか?」

「あんだけ、脚を広げてりゃ、見えないわけがないだろ」

女性士官は、スカートを押さえるが、すでに手遅れだ。

 

「うーーーーーーー」

「唸ってもダメだぞ」

「もう、いいです。行きますよ!」

「何キレてんだよ」

 

 = = = = =

 

「中佐、ちゅーさー。

 何食べます?」

「ははぁ、それが狙いかぁ」

「にゃ、にゃんのことでしょう?」

「あんまり時間ねえから、行列のないところだぞ」

「やったぁー。

 こっちにあるジェラートがおすすめなんですよぉー」

 

業者に連絡を取ってみる。

6件に連絡を入れると2件が今からやってくると返事してきた。

 

オープンテラスでジェラートを頬張る娘と相席でオッサン3人。

 

「中佐、いえ、提督もいよいよ身を固めるご決心を」

「はつらつとして、ご健康そうでお似合いで」

勘違いから、愉しげに話すオッサン2人。

「そんなんじゃねえよ、コレは」

「ひっどーい!ウチの家系だったら、利用価値充分ですからね」

「そういうのは、本人が言うもんじゃねえよ」

否定する俺に、彼女はなぜか家系をアピールしてくる。

 

 = = = = =

 

「じゃあ、見積もり頼むわ」

「承知しました」

「物資の件、よろしくお願いいたします」

一応、商談が終わった。

「わたしも帰りまーす」

「お前は、ほんとに暇つぶしだったな」

「えへへー。

 みんなには中佐とデートしたって言っときますからね」

「止めろ、親父さんに銃殺されるわ」

俺は、おごらされだけだった。

仕事の手伝いもしてくれてきたから、損をした気はしなかった。

 

 = = = = =

 

3人と別れて、通りをプラプラ歩く。

 

一軒の店で視線が固定された。

 

<艦娘ショップ>

いかがわしい店の佇まいとは無関係に出入りする客は、男女を問わなかった。

 

店の入り口には<12歳未満ご入店できません>と書かれていただけだった。




とうとう出ました。

いかがわしい店。

<艦娘ショップ>


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第18話 艦娘ショップ

艦娘ショップ

いかがわさがプンプンしてきます。

彼を応援してくださいね。


●人のおもちゃの店のような、トレーディングカードの店のようだ。

最近の店らしく、店先が真新しい。

 

「何を売っているんだ?」

結構、出入りが多いので中に入ってみる。

 

中に入ると納得。

 

艦娘のほぼ等身大のパネル、立て看板的なモノから、小さいフィギュアまでがある。

アイドルグッズの類と考えて、差し支えないだろう。

 

まあ、あれだけ美形揃いの娘たちだし、こういうこともありだろう。

しかし、版権というか肖像権はどこが管理してる?

いや、艦娘の存在自体、同じ娘が重複している。

複雑な気がしてきた。

●MMの文字が見えそうで認識力にモヤがかかったような感じがする。

 

店の奥にその先を隠すようにカーテン暖簾がかかっている。

特に規制されているわけでもないので、暖簾をくぐると意味が解った。

 

 = = = = =

 

そこは、古着屋だった。

おそらく大破した時に着ていた服だろう。

ショーケースの中に陳列されており、その時の写真が並べて置かれている。

 

破壊されたものでもない服もあった。

そのまま着古されたユニホームまで需要があるのか?

「お客様、お目が高い。

 これは、艦娘が3年着古して、擦り切れる寸前まで着込んだものですよ」

「いや、すまん。

 こういう物の価値を知らないもので」

「これは、失礼しました。

 艦娘たちは出撃します。

 このユニホームを着ている期間を過ごして、無事生き延びた。

 素晴らしいことだと思いませんか?

 その幸運、彼女たちの思い出の詰まった持ち物は幸運のアイテム。

 それをご購入されるお客様がいらっしゃるのです」

俺は、唖然とした。

単に艦娘の肉体を包んでいた布に性的興奮を覚えているだけじゃないのか?

 

そして、その推測を裏付ける商品があった。

 

アレだ、アレが並んでる。

わかりやすい。

俺でもコレの意味は解る。

 

下着姿の艦娘の写真。

そして、同じ柄の下着がある。

これは、この艦娘が着ていましたよってことだろ。

 

5,000円。

ちょっと待て。

コレをこの値段で買うヤツがいるのか?

 

さっきのユニホームはいくらだ?

20,000円!

 

潜水艦の水着は?

15,000円!

 

なんだよ、鎮守府って、宝の山じゃねえか。

知らなかった。

こんな世界があったんだな。

 

「お店の人、例えば、適度に着古した感じがした方が高いのか?」

「そうですね。

 大体のお客様は、幸運の期間が長いほど価値があると思われているみたいです」

「ほー、で、洗濯なんかは?」

「なかなかお分かりですね。

 関取などはゲン担ぎで勝ち越している間は、まわし(・・・)を洗わないと言います」

「いや、色々勉強になったよ。

 例えば、知人がこの手のアイテムを持ってるとしたら、買い取ってくれたりするのかな?」

「はい。

 今や、人類の盾として、その身を奉げる彼女たちを支えるためにも」

「そうだな。

 資金は潤沢なほうがいいな。

 クヒヒ」

 

俺は、店を後にした。

やることは決まった。

あいつらの身の回り品を刷新してやろう。

これは、モチベーションを上げるためにも最優先事項だな。

 

先手を読むとしたら、柄や形にも気を配らないとな。

体型に不釣り合いなモノは、要注意だな。

 

写真は大丈夫。

眼鏡に言って、備品記録とか騙してとにかく画像データを残させる、キヒヒ。




艦娘たちの知らないところで、立案された計画。

いよいよ本領発揮かも。


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第19話 のり弁の出会い

臨時収入の糸口を見つけた提督。

先立つものは多ければ多いほど助かったりします。

彼を応援してくださいね。


艦娘ショップを後にして、通りを散策する。

 

海軍の城下町らしく水兵たちの姿が目立つ。

久しぶりの上陸許可なのだろうか、若者たちがふざけ合っていた。

 

(ハメ外し過ぎるなよ、憲兵が目を光らせてるぞ)

 

小腹が空いたので、テイクアウトの店でのり弁を買った。

ノンアルコールビールをコンビニで買って海の見えるベンチに陣取った。

「弁当持参でコンビニで買い物か、我ながら、段取りが悪かったな」

 

ともあれ、まずはビールをプルトップを開栓して一口飲む。

内臓にシュワシュワが広がる感じが心地良い。

 

ベンチに誰かが腰かけた。

 

ベンチはほかにもあったが、わざわざここに座ったので、知り合いかと思った。

知らない娘だった。

俺のことには構わず、海を見ている。

(この場所がお気に入りなのか?)

 

邪魔しちゃ悪いと思って、隣のベンチに移動して、白身魚のフライを一齧り。

揚げたての衣がサクサクとして美味かった。

ここでビールを一口。

「クゥーーーッ。

 大人になった醍醐味だな」

 

「ナニヲ シテイル?」

気が付くとさっきの娘が、真横で俺を見ていた。

「お嬢さん、何か用かな」

「ソレ、ナニ?」

娘は、外国人だった。

白い肌にボリュームのある胸が印象的だった。

「これは、白身魚のフライ、って、わかるか?」

「ワカル。

 クロイノハ?」

「これは、ノリ。

 剥がすとこんなヤツ」

「フヌ、ニホンノボウ ツカウノ ジョーズ」

娘は、箸を指さす。

「箸は、日本人が使う食用具。

 慣れたら便利だぞ」

 

彼女は、のり弁を覗き込み、興味津々の様子。

「何か食ってみるか?」

「イイノカ?」

「日本海軍の友好の証だぞ。

 よく味わって貰えばいい」

「ソノ アザヤカナ キイロ」

「卵焼きな、そら、あーん」

「アーン、カプっ。

 ムクムク、ウン ヤワラカイ」

「じゃあ、次は・・・・

 

 = = = = =

 

外国人娘の餌付けは初めての経験だった。

彼女は、ニコニコしていたので、のり弁に満足したようだ。

 

「フライ齧っただけか」

ビールを飲み干す。

 

「オマエノ ナイ」

「気にしてくれるのか?」

「オイシカッタ。

 ホッシテイタ キモチ ワカル」

「じゃあ、今度何かで返してくれたら、それでいい」

「ワカッタ コンドカエス」

「君は、話すのが片言でも、日本語はしっかり理解しているんだな」

「ワタシ アタマ イイ」

 

「確かにそうだ。

 立派立派」

思わず頭を撫でてしまった。

彼女は目を細めてされるがままだった。

 

「おっと、そろそろ帰らないと心配してるんじゃないか?」

「ソレハ タダシイ ハンダンダ」

 

「じゃあな」

「マタ アオウ」

 

彼女は、走って行った。

夕方の雑踏の中に消えていった。

 

「なんとなく、また会いそうな気がする・・・・

 艦娘か?」

 

 = = = = =

 

俺は将校クラブのラウンジで新聞を読んでいる。

海軍報道係のまとめた戦況速報のページを何回も見てしまう。

 

神出鬼没の深海棲艦が次々に艦娘艦隊を撃破していく。

俺はその状況に恐怖した。

 

ショップに売りに行く服が、燃えちまったら元も子もない!

 

この後、俺はその場で正座させられた。

合気道女性中尉にショップから出てくるところを見られてた。

壮大な計画は隠し通せた。

しかし、そっちの趣味は人としてどうとか、父親(中将)に報告するとか窮地に追い込まれてしまった。

 

 




ここで新キャラですが、敢えて伏せています。

バレてるかな?


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第20話 知人との約束

提督は、軍組織の中では頭の上がらない相手がいます。

野望を達成するために頑張ります。

彼を応援してくださいね。



「いいですね。

 いかがわしいところへの出入りは禁止ですよ」

「だから、誤解だって」

「嘘、艦娘ってかわいい子が多いもん」

「それは貴官には関係ないと思うのだが」

「関係ないことはないと思いますぅ」

やっぱり中尉は不機嫌だ。

 

彼女の周りには将来有望な将校が集められている。

それも親心だろう。

彼女の父君は中将、参謀本部次長を務めておられる。

と言っても、やはり人の親。

愛娘の将来を気にしているのは間違いなく、勤務も将校クラブになっている。

 

将校クラブなら、出会いがあっても、中将の目が届く。

婿入りすれば、出世はできるかもしれないが、頭が上がらないのは確実だろう。

 

「もう行かねえから、見逃してくれよぉ」

「どうしようかなぁ」

中尉の瞳が輝いたように見えた。

(マズい、何か企んでる。

 先手を打つか)

「鎮守府が落ち着いたら、手料理をごちそうするわ」

「中佐の手料理!」

「ああ、金でどうにかなるものだと、俺が用意できるものは、たかが知れてるからな」

「えへへへ。

 じゃあ、それで手を打ちましょう」

「助かる。

 じゃあ、お前の営「鎮守府でお願いします!」」

「まあ、別に構わんが。

 殺風景だぞ」

「いいんです。

 提督の鎮守府ですからね!」

 

「何か、リクエストはあるか?」

「肉じゃ・・・・、やっぱり、カレーでお願いします」

「海軍伝統か。

 まあ、手料理感は、微妙だが、リクエストだしな。

 OK、あの時以来か」

「そうですよ。

 薄情ですねぇ」

 

「そういうなよ、女子寮は、男子禁制だったんだからな。

 親父さんから直接指示があったから、なんとかは入れたけど」

「あの後、大変だったんですよ。

 青年将校が部屋まで入ったから、同期が【先に空母になるなんて羨ましい】とか」

「アハハ、女子も大変だな」

 

「営舎には、どうして来ないんですか?」

「先任順位で優先して入舎できる施設だからな、終了課程ギリギリの俺には、敷居が高いんだよ」

「今は、提督なんですよ。

 一番早いんじゃないですか?」

「一番じゃないが、早い方だな。

 でもな、兵学校の先任順位は変わらない。

 今の鎮守府だから、任命されただけだ」

 

「中佐、わたし、軍人には拘らないよ。

 中将は尊敬しているけど、軍人だけが偉い訳じゃないしぃ」

「残念だな。

 俺は、その軍人の下の方だ」

「中佐は、わたしより偉いじゃないですか」

「いやいや、貴官には、正直頭が上がらんよ」

 

「あーあ、なんで軍人なんだろうな」

「自分で選んだんだろ?」

「・・・・」

「どうした、何か変なこと言ったか?」

 

「あー、もう、腹が立つーーー!」

「いててて。

 ギブギブッギブーーーー!」

俺は、中尉に関節を決められ、床を叩いていた。

 

 = = = = =

 

「あー、生地が裂けちゃった」

「吹雪ちゃん、替え持ってる?」

「これが最後。

 ここは人が来ないから、我慢するしかないよね」

「でも、提督が変な気を起こしたら、大変っぽい」

「だ、大丈夫だよ。

 見つからなきゃ」

「そ、そうだよね。

 乾いたら、縫えばいいよね」

 

 = = = = =

 

「最近は、凝った図柄があるんだな。

 面白半分で買ったが、今度巾着でも作ってやるか」

 

一通り用事を済ませて、家路についた。

海沿いの道、我が鎮守府へ。




提督は、何かと面倒見てもらった中将に頭が上がりません。

そのおかげで、娘の中尉にも。
おまけに中尉は、合気道の技能教官だったりするので、勝ち目がありません。


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第21話 居場所

外での仕事を終えた提督。

苦労人です。
野望をもって頑張ります。

彼を応援してくださいね。



鎮守府に戻ってきたときには、すっかり日が落ちていた。

 

「表向きには、灯火管制って感じだな」

 

真っ暗な鎮守府の駐車場にクルマを停める。

玄関は施錠するように指示しておいたので、通用口に向かう。

 

通用口横の階段を上がるとすぐに執務室がある。

この間取りは、不用心でもあるんだが、ここで陸戦になるくらいだと終わりだしな。

 

「ただいま」

おっと、柄にもなく挨拶をしてしまったか。

 

部屋の灯りはついていなかった。

「勤務時間外か、書類が溜まっているだろうな」

灯りをつけて、書類の処理を始める。

 

(眼鏡、頑張ったな。

 よしよし、スケベスカートを新調してやろう)

 

一通り書類を処理する。

明日の午前中には、追い付くだろう。

 

不道徳な俺は、晩酌を始める。

町で買ってきた缶ビールを執務机の上に置く。

今日はツナ缶を買っておいた。

蓋を取り、多めのマヨネーズと醤油を一垂らし。

 

兵学校時代を思い出す。

兵学校で手当てのほとんどを仕送りをしていた俺は、支給直前に困窮を毎月繰り返していた。

そんな時、必須アイテムが缶詰だ。

保存が利くので、酒保の放出品を安く手に入れておく。

表示されている賞味期限から2年過ぎていても大丈夫だ。

 

突然、両親が亡くなり、天涯孤独になった今となっては、自分のために生きようと思うようになっている。

 

艦娘が居て、俺は、そいつらを化物にけしかける役目を引き受けている。

 

「誰も死なないのが一番なんだがなぁ」

 

両親が死んだことは、悲しくなかった。

物心ついた時から親孝行を心がけて育ったつもりだったが、両親はそうは感じていなかった。

仕送りが少ないだの、帰りもしない実家に食費を入れろだの、金しか見えていなかったようだ。

それが判った時点で、冷めてしまった。

 

運よく鎮守府(ここ)が支配できるようになった。

配置転換まで1年は時間がある。

 

 = = = = =

 

缶ビール(発泡酒)を3本開けたところで、眠くなってきた。

昼間のトレーニングが、心地よい疲労感をもたらしている。

 

私室に入って着替えるとふと何か香っているような確信のない錯覚をしている。

 

「おかしいな、部屋の匂いが違うような」

 

それより眠気の方を優先して、布団に入る。

昨日、眼鏡が寝ていたせいか、ほんのりメスの匂いがするようなしないような。

 

灯りを消して、眠りに落ちかけたその時、異変に気が付いた。

窓を背景に人影があった。

シルエットで単なる人間じゃない、艦娘だ。

 

一瞬で導き出された答えは「死」。

おそらく入り口横のクローゼットに隠れていたのだろう。

わざわざ気配を消して、今ここに立っているということ。

血の気が引くのを感じた。

 

その時、その影は、布団の上からのしかかってきた。

身動きが取れない。

次の瞬間、布団が剥ぎ取られ、腹に手がかかる。

腹を破かれ、はらわたを引きずり出されるところまで想像してしまった。

仰向けの俺にマウントポジションで見下ろす艦娘。

 

「どうした?

 ()るなら()れよ」

俺は、精一杯の強がりを言い放つ。

灯りがついていれば、はっきりわかっただろう。

たぶん、真っ青な泣きそうな顔だと自信があった。

 

「慣れていないのでな、痛かったら言ってくれ」

(ひと思いに殺せよ)

 

その影は、上から身体をずらし、横に寄り添うように寝ころぶと少し躊躇していた。

(いよいよか。

 あんまりいい人生ではなかったなぁ)

 

影がかぶさってきた。

「自覚はあまりないんだが、重かったら、柔らかさに免じて許してほしい」

「お、おい。

 何のつもりだ?」

「提督に逆らうつもりはない。

 しかし、皆が不本意にその身を弄ばれるのも見過ごすわけにもいかない。

 わたしが代表して、満足させるように奉仕する」

その時、彼女の攻撃に対抗すべく、俺の主砲が対空射撃の準備ができていた。




きましたわー。

とうとう、ここまできました。

R15でどこまでいけるか。


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第22話 パワーバランス

さぁ、いよいよでしょうか!

ここで提督の威厳を示せるか!

彼を応援してくださいね。


「あ、熱いな」

「無理にしなくていいぞ」

 

「む、無理はしていない」

「その割にぎこちないな」

 

「先任の時は、ただ終わるまで耐えていただけだったから」

「やっぱり、無理しているだろ」

 

「わたしじゃダメなのか」

「いや、どっちかというとねじ伏せて、好き放題してやりたいところだが・・・・」

 

「そ、そうか。

 貴様もそうなのだな。

 わ、わかった・・・・

 おい・・・・」

「・・・・Zzz」

 

「なんだ、好き放題とか言っておきながら・・・・」

≪ゴソッゴソッ≫

「むーーー。

 入渠で復旧できるにしても、好き放題されている間は、正気を保っていられるかどうか、わからんな」

戦艦は、目が覚めた提督がほかの艦娘に劣情(モノ)を無理強いするのを防ぐため、その場に留まった。

 

緊張に疲れた戦艦は、いつの間にか眠ってしまった。

 

 = = = = =

 

「いつの間にか眠ってしまったか」

(・・・・ぐっすり眠っていたということか)

 

戦艦は、横で眠っている提督の鼻を摘まむ。

「憎らしい人ですね。

 早く、その本性を現しなさい」

鼻を摘まむのを止めて、身を起こす。

「これでも食らいなさい」

<ふにゅー>

「ふふ、息がくすぐったい」

 

部屋はもう明るい。

戦艦は布団から離れ、昨晩脱ぎ捨てていた服を着る。

「今、目が覚めたら、危ないかもね」

戦艦は、ちらりと提督を見たが、起きる様子はなかった。

 

 = = = = =

 

「てーとく、起きてください」

「・・・・おお、眼鏡。今何時だ」

「マルロクサンマルです」

「そうか。

 今日、来客が2件ある。

 執務室に通してくれ」

「お時間は?」

「おそらく午後いちだ」

「了解しました・・・・」

「どうした?部屋を見回して。

 何か落としたか?」

「私以外、誰かいましたか?」

「お、おお。

 いたいた」

「だ、誰ですか!」

「誰でもいいだろ、どうせ、全員竿姉妹になるんだしよ、キヒヒ」

 

≪ガッコン!≫

「判った、判った。

 艤装を引っ込めろ。

 お前も可愛がってやるから」

 

≪ドッドドーン≫

「次は外しません!」

 

 = = = = =

 

「さっきの砲撃、誰だったんだろうね」

「巡洋艦の誰かっぽい」

「わたし、あれで目が覚めた」

 

朝の食堂は、鎮守府内での砲撃音の話題で持ちきりだった。

先任(クソ)の横領が顕著になってから、携行する弾薬も不足し、各自節約を強いられていた。

命がかかっているため、なおさらだった。

久々に聞いた音だった。

 

「全員、傾注。

 提督から通達があります」

≪ざわざわざわざわ・・・・≫

 

「諸君!おはよう。

 今日は、諸君らに朗報を知らせることができてうれしい」

≪ざわざわざわ≫

 

「近日中に諸君らに新しいユニホームを支給できることになった」

≪≪キャー!キャー!≫≫

 

「改めて、サイズの再申請をしてほしい。

 詳しくは、眼鏡に相談してくれ。

 では解散。

 眼鏡、後を頼む」

 

「良かったー」

「タイミング良かったっぽい」

「なんか夢みたいだね」

 

「そこの駆逐艦」

 

『お呼びですか、提督』

『っぽい?』

『どうしよう』

 

「お前だ、スカートが裂けてるのか?」

「えっ!あ、あの、これは、その、洗っていたら、すみません、すみません」

 

「悪くないっぽい!」

「古いのしかなくて、仕方がなかったんです!」

 

「そんなことはどうでもいい。

 脱げ!」

「え?」

「早く脱げ。

 俺は忙しいんだ」

「でも」

「どうせ、艦娘しかいねぇだろが。

 解体するぞ、グズ」

「・・・・はい。

 これでいいですか!」

「何してんだ?」

駆逐艦は、何を思ったか、スカートを脱いで、目の前に立った。

 

「え、何って、その・・・・」

「新しいユニホームが届くまでそのままじゃ困るんだよ。

 貸せ!」

俺は、駆逐艦からスカートを取り上げると私室に向かう。

 

こんなこともあろうかとアレが役に立つかも。

俺は、偶然、購入していたモノの使い道を思いついていた。




下半身、下着丸出しの駆逐艦。

戦艦さん、欲情してはいけませんよ。


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第23話 針仕事

駆逐艦をパンツ丸出しにした提督

色々考えているようです。

彼を応援してくださいね。


「うーん、柄はこの向きでいいか」

俺は、割と真剣に駆逐艦のスカートを眺めている。

裂け目に布地を当てて思案中。

 

この布地がアレなのだ。

 

淡い桜色の生地に濃い桜色で図柄がプリントされている。

その図柄が海軍の徽章<桜に錨>だから、買っておいた。

本来の用途は別にあるのだが、どうせハギレが残ることになる。

 

有効活用するのに都合がよかった。

 

ショップの人間がいうには、スカート類は使われて尻の部分がテカるくらいが高く売れるとか。

駆逐艦のスカートは、ちょうどいい具合じゃないかと思う。

知ってるわけではないが。

 

裂けた折りヒダの一か所だけ当て布で補修するとアクセントになって、いいんじゃないかと考えた。

艦娘の女の子っぽいところに食いつくやつがいるんじゃないか。

 

取らぬ狸のなんとやらで運針する。

軍隊生活では、支給品の補修は自分でする。

俺は割と器用な方なので、縫物は苦にならなかったのが幸いした。

 

30分ほどでできた。

縫い目は均等、ほぼ直線、布地も撚れず、図柄の位置も思った通り。

納得のいく仕上がりだった。

(後は、眼鏡に写真を撮らせたら、揃えて持ちこみゃ金になるってか、ククク)

いい副収入があったものだ。

副業ではないので、業務上問題ない。

艦娘も重複しているから、鎮守府がバレなければ、誰がやったかも知られない。

 

「てーとく」

「うん、何だ?」

「・・そのスカートがそんなにお気に入りなんですか?」

「いや。

 いや、そうじゃないな。

 お気に入りというより、貴重品だな、クヒヒ」

『わたしも破こうかな』

「なんか言ったか?」

「わたしのユニホームも新調できるんですよね?」

「ああ、ただ月次予算の関係で逐次になるがな、全員分新調だ。

 眼鏡、古いユニホームなんだが、着用した写真を撮っておくように」

「はぁ」

「なんだよ、その頭の悪そうな返事は」

「な! 着用したところの写真の必要性が判らなかっただけです!」

(ぐ、なかなか鋭いな)

「服だけだと同型艦の区別がつきにくいからだ」

「そうでしょうか?」

「ああ、そうだとも。

 少なくとも俺が識別できねえよ。

 悪いか! あー、ムカついてきた。

 眼鏡、お前だけ新調取りやめ!」

「そんなぁ」

 

 = = = = =

 

「吹雪さんはいる?」

 

「あ、はい。

 大淀さん、何でしょうか?」

「これを返しておくわね」

大淀は、畳まれたスカートを吹雪に見せる。

 

「これは?」

「あなたのよ」

スカートを受け取った吹雪は、スカートを念入りに観察する。

 

「変なことをしないか見張っておいたから、大丈夫よ」

「そうですか、良かったー」

駆逐艦の表情は明るくなった。

セーラー服にバスタオル姿だった駆逐艦は、さっそくスカートを穿いた。

 

気になった裂けたところに目をやる。

繕ってあった。

紺色のスカートに一本だけ桜色のプリーツ。

海軍の徽章が入っていて、一目で気に入った。

 

「わー、いいなぁ」

「かわいいっぽい」

食堂にいた駆逐艦たちは、盛り上がった。

 

「大淀さん、ありがとうございます」

「残念だけど、わたしじゃないのよ」

「え?」

「あのゲス野郎(てーとく)の仕業なの」

食堂の空気が一瞬で白けた。

 

「・・・・」

「どうする?破棄してもいいわよ」

「いえ。

 このまま使います」

「そう。

 わかったわ」

 

ひとりの駆逐艦の中で、提督の株が急騰していた。

(大事にします)




ゲス根性でやったことが、裏目(?)に出てしまったようです。

これを知ったら、ただでは済まないのが何人かいるのですが、
どうなることか?


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第24話 戻りつつある日常

駆逐艦のスカートの繕いはうまくいきました。

臨時収入の目途がつきそうです。

彼を応援してくださいね。


今日は朝から調子がいい。

 

昨日、身体を動かせたせいか、副収入の可能性が出てきたせいかわからない。

とにかく頭がよく回り判断が早い。

 

まあ、もともと事務仕事自体は、大したことはない。

溜めこんだ先任(クソ)の処理能力が低かったんだろう。

 

仮にも提督を務める人材は、低レベルではない。

しかし、能力とやる気、使命感のバランスが崩れると仕事をしない輩が居るのが現実なのだ。

 

俺がある意味、見本のような人間だ。

実際、働きたくない。

楽して給料が欲しい。

「嫌がる艦娘を手篭めにして、鳴かしてやるのも面白いな」

「ヒッ!」

≪ガタタッ≫

眼鏡が椅子から飛び退いた。

 

また、手を手刀にして構えている。

「冗談だ、早く仕事しろよ」

眼鏡が警戒しながら、椅子に腰かける。

まだ視線を俺から逸らしていない。

 

眼鏡は反応が面白い。

自意識過剰というか、俺の独り言をよく聞いている。

 

俺は、止めていた手を再び動かし始める。

もうすぐソファ周りの書類が片付く。

そうなると執務机の上の書類だけなので、俺がようやく椅子に座れる。

 

 = = = = =

 

「眼鏡、昼飯に行ってこい」

「てーとくは、どうされるんですか?」

「午後に来客があるからな。

 この辺の書類を片付ける」

「・・・・じゃあ、わたしも」

「共同作業じゃねえから、行ってこい。

 待機状態の鎮守府で、お前だけ働いてんだろ」

「・・・・仕事ですから」

「だったら、昼休みもきっちり(こな)せ」

「・・・・はい、わかりました」

 

 = = = = =

 

「間宮さん、お願いします」

「お疲れさまです。

 まだ、カレー粥ですが、召し上がれ」

「ありがとうございます。

 あ、具が入ったんですね」

「食材も確保できましたから、少しづつ普通のメニューに近づけますよ」

「てーとくのおかげなんですよね」

「・・・・そうですね。

 提督は?」

「まだ、お仕事です」

「そうですか」

 

「間宮さん、お代わりを」

「はーい、今、持っていきますね」

間宮が寸胴鍋に並々と作られた粥を大食いの待ち構えるテーブルに持っていく。

 

(まだ3日目なのに)

 

 = = = = =

 

「クフフ」

 

「どうしたっぽい?」

 

「ずっと嬉しそうだね」

「そ、そんなことないよ。

 あ、きっとご飯が食べられるからだよ」

「間宮さんが言ってたけど、提督のおかげっぽい」

 

「提督のおかげなんだねぇ」

「そ、そんなこと」

駆逐艦は顔を真っ赤にすると俯いた。

 

 = = = = =

 

「考えたんだが、ヤツを食い止める役目は、わたしが務めようと思う」

「長門・・・・、火遊びなら、わたしの方が適任じゃない?」

「艦載機を使うので、おまかせくださいませ」

「赤城さん、あなたばかりに負担をかけたくないわ」

 

「だから、ここはわたしが」

「長門、あなた、少しおかしくない?」

「そ、そんなことはない」

「「ここは一航戦の機動力で」」

 

話し合いをしながら、粥を喉に流し込むのは止めなかった。

間宮は、次の鍋を出す頃合いを計っていた。

 

 = = = = =

 

携帯が鳴る。

「もしもーし。

 どうもです。

 はい、・・・・はい。

 それは楽しみ。

 じゃあ昼一に、気を付けて」

 

間髪を容れずにまた携帯が鳴る。

「はい。

 どうもどうも。

 ・・・・わかりました。

 同席になりますが、いいですか?

 ・・ええ、ありがとうございます。

 じゃあ昼一ということで。

 万が一、化物が出てきたら、引き返していいですから。

 気を付けて」

 




鎮守府はまだ機能していません。

まだまだ、これからです。


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第25話 物資の調達

天候が下り坂です。

洗濯機その他は安く買えるのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「これでひと段落だな」

書類が片付き、ソファを含む応接セットが使えるようになった。

 

柱時計を見ると12時40分。

「急いで食えば、余裕だな」

 

俺は食堂に足を運んだ。

 

 = = = = =

 

「間宮、熱湯」

もう単語だけになってきた。

 

「・・・・どうぞ」

気のせいか、間宮が落ち込んでるように見えた。

 

「大食い以外の食事は、お前の判断で通常に戻していいぞ」

ヤカンを傾けつつ、間宮に指示を出す。

 

間宮の表情は、変わらなかった。

(調子でも悪いのか?)

 

「・・・・提督、お食事は・・・・」

「今から食うが、それがどうかしたか?」

「・・・・なんでもありません」

 

熱湯を注ぎこんだカップ麺を持って、食堂を出た。

今日のは、きつねうどん。

そろそろ備蓄が無くなる。

育ち盛りではないが、昼飯にカップ麺だけというのは、事務仕事とはいえ、やはり足りない。

「次の給料日まで、凌がないとな」

私室に入って、7分後にきつねうどんを食べ終えた。

 

 = = = = =

 

「間宮さん、知っている範囲で教えてください」

「何ですか?」

「てーとくは、食堂(ここ)で食事をしていないのですか?」

「ええ、朝食は召し上がっていません。

 お昼はカップ麺。

 お夕食は召し上がらず、おつまみとお酒だけみたいです。

 大淀さんは何かご存知ですか?」

「・・・・わたしの前で何かを口にすることはありません。

 今朝、ビールが数個、ゴミ箱にツナの空き缶1つがあっただけです」

「・・・・」

 

「・・・・倉庫と貯蔵庫にある物資が、私物ということはありますか?」

「・・・・鎮守府からの依頼書なしに補充があったのでおかしいと思っています」

「あれだけの量を個人で準備したんですね」

「それも鎮守府(ここ)の状況を確認してすぐに」

 

 = = = = =

 

海と空が灰色になってきた。

海の匂いが薄まり、水の匂いが漂って来たと思ったら雨が降りだした。

 

「社長たちが着く前に降り出したか」

俺は、海の匂いが好きじゃないが、眺めるのは結構好きだった。

この鎮守府は艦娘だけ配置されてるので海岸線の汚れが皆無なので、眺めはいい。

それを付き合いの長い社長たちに見せて少し自慢したかった。

 

遠景に光を見つけた。

雲が垂れ込め、少し暗くなったのでヘッドライトを点けたのだろう。

光が別々に動いたので、2台だと判った。

まもなく敷地に入ってきた。

 

 = = = = =

 

「やあ、いらっしゃい。

 屋根があるから、車寄せに置いておいていいよ。

 誰も来ないしな」

「じゃあ、ここに」

「お言葉に甘えて」

 

2人を執務室に案内する。

 

「提督自ら出迎えは、恐縮します」

「他所だとこうは、いきません」

「そう、じゃあ、大サービスを頼もうかな」

ブラックな俺は、早速、業者いじめをする。

 

「ええー、中佐の仕事は、儲け抜きですよ」

「ウチも管理費だけです」

「この鎮守府は、提督が出迎えないといけないくらい貧乏ですよ。

 社長、毎日食べてるステーキの厚みを5cmから4.5cmに減らしてくれたらいいんです」

「敵いませんなぁ、そのまま提督様にお返しします」

「「「アハハハ」」」

 

2人は、俺が大本営で使いっぱしりをしていたころからの付き合いで、色々世話になってきた。

調達品の見積もりは、ほぼ予想通りだったので、在庫を抱えても捌ける品目に振り分けて発注をした。

 

「食堂だけど、コーヒーでもどう?

 貧乏で水も出なかったって言いふらされても困るしな」

「高いコーヒーになりませんか?」

「それが心配」

「美人艦娘が出すから、テーブルチャージ400万でいいよ」

「「ぼったくりもびっくりや!!」」




提督、実は金策に苦労していました。

鎮守府の場所が辺鄙でなければ、水商売まで視野に置いた

多角経営を狙っていたのですが。


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第26話 中佐

どうにかやりくりをして、活動再開を目指す鎮守府。

彼を応援してくださいね。


社長たちを食堂に案内する。

 

廊下ですれ違う艦娘たちが敬礼をするので、軽い敬礼で返す。

 

「中佐の許でもここは海軍なんですね」

「いやぁ、しっくりこないというか不思議な感じですな」

 

「なんだよ、ふたりとも俺をなんだと思ってたんだよ?」

「本人には言えませんわ」

「僕も遠慮します」

「ひでぇな」

全く失礼な業者だ。

客の質が悪いんだろう。

あ、俺か。

 

「中佐だから聞きますけど、艦娘は怖くないですか?」

「こうポンと武器がでてくるんでしょ?」

「ああ、ひとたまりもない。

 外れたから生きてるが、撃たれたしな」

 

食堂の扉をくぐる。

 

「間宮、お客さんにコーヒー2つ」

 

入り口の脇のテーブルで眼鏡が寝ていた。

「午後、執務室に来ないと思ったら・・・・。

 後で揶揄(からか)っとくか」

 

眼鏡と反対側のテーブルが開いていたので、そこに座った。

大食いたちから離れていてちょうどいい。

 

社長たちを壁際に座らせ、食堂を見渡せるようにした。

「気に入った艦娘を持って帰るか?」

「お! ブラック」

「うんうん、ブラックですな」

「だろ。こういうのを狙ってたんだ、クヒヒ」

背中に大食いたちの視線が刺さるのが判った。

 

携帯が鳴る。

「ちょっと、失礼」

席を立ち、廊下に出る前に眼鏡の頭にチョップを入れてから出た。

 

間宮が、コーヒーを3つ(・・)テーブルのところに運んできた。

「お待たせしました」

「「ありがとう」」

≪コトッ、コトッ、コトッ≫

ソーサーの上には、フレッシュとスティックシュガーが置いてある。

「えーと、間宮さんでいいのかな?」

「・・はい」

「気を悪くしないで欲しい。

 僕たちは、ほかの鎮守府にも出入りしているんでね。

 他の間宮(・・)さんにも会っているんだよ」

 

「中佐、提督は悪い人だろ?」

「そうそう、極悪人くらいかな?」

「・・・・何をおっしゃりたいのか、わかりません」

「言葉そのままさ」

「困った人ってこと」

2人は、提督の悪口を嬉しそうに話していた。

 

「なんだよ、また(・・)俺の悪口かぁ?」

提督が電話が終わって戻ってきた。

「あ、まずいことを聞かれた」

「隠してたのに」

「間宮、コーヒー下げていいぞ」

3人は、楽しそうに会話をする。

間宮は丸トレーを抱えて、その様子を見ていた。

 

そのあと、俺は業者二人から、最近の鎮守府の情報を聞いた。

大本営に上がってくる着任直前までの情報は、数字だけ。

なので、戦術的な内容が含まれていなかった。

時々メモを取り、聞きかたを変えて質問する。

 

「強力な化物は、1匹だけかもしれないか」

「何体かがローテーションしているかもしれませんよ」

「遭遇した艦隊が壊滅してしまうんで、まだ、遭遇2回目の鎮守府はないですわ」

 

 = = = = =

 

「悪かったね、得にならないことまで」

「中佐の仕事でしたら、いつでも受けますよ」

「長い付き合いですからね。

 今後ともごひいきに」

 

「眼鏡、玄関で見送るぞ」

「・・・・」

「仕事さぼりやがって」

「ハヒィーーー」

 

「やっぱり中佐だ」

「提督になっても中佐だ」

 

 = = = = =

 

俺は、玄関で眼鏡と一緒に社長たちを見送る。

「雨も弱くなってきたから、一安心」

 

「提督、明後日には、すべて納品しますから」

「あんまり艦娘をイジメたらあきませんよ」

「逆らうのは、解体するからいいの、な、眼鏡」

『ヒィーーーー』

 

 = = = = =

 

間宮は思い出していた。

「他の間宮にも会っている・・・・か。

 【提督も】ってことよね」

その言葉の意味が、この時点ではまだ解らなかった。




シャッチョサンのお持ち帰りはありませんでした。


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第27話 雨

業者との癒着をする提督

彼の野望に向かって走り続けます。

彼を応援してくださいね。


≪カリカリカリ、カリカリカリ≫

雨音のに混じって、ペンを走らせる音しかしない執務室。

 

≪カリカリカリ、カリカリカリ≫

 

≪カリカリカリ、カリカリカリ≫

 

≪カリカリカリ、カリカリカリ≫

 

≪カリカリカリ、カリ≫

 

「ふー、一服するか」

≪ボーン、ボーン、ボーン≫

「お、ちょうど3時か」

 

執務机を占領していた書類もあと半分というところまで片付いた。

 

肩を回すとゴキゴキと音がする。

「あー、まじめに働くのは、いーやーだー」

駄々っ子のように机に突っ伏す。

 

「・・・・」

眼鏡が黙ったまま、ソファに座っている。

 

今座っている提督専用のひじ掛け椅子をくるりと回して、窓の外を眺める。

「雨は、大地を潤してくれるから嫌いじゃないんだよな」

この言葉に嘘はない。

俺は変わり者なのだろう。

 

雨は嫌いじゃない。

ただ、カッパを着るとか雨対策をしたうえでの話だ。

兵学校の訓練で、行軍野戦課程の天候がたまたま台風だった。

暴風雨の中、ポンチョに包まって、一晩明かした時、周りは落ち込んだり愚痴をこぼしたりしていた。

その中で、結構ノリノリだったのを思い出すと口元が緩む。

「変なヤツだな、俺は」

 

天候は一個人がどうにかできるものじゃない。

したがって、どう向き合うかが大事なのだ。

 

どうにもならない状況では【どう向き合うかが大事】だと、行動するようになったと思う。

 

「眼鏡、お前は雨は嫌いか?」

別に答えて欲しいわけではなく、何気なく口から出ていた。

 

「あの・・」

「答えなくていい。

 口から出ただけだ。

 何でもない、気にするな」

「・・・・雨は、きらいじゃないですけど、洗濯ものが乾かないので困ります!」

「ふふ、困るな。

 確かに俺も困る」

「クスッ」

 

「おっと。

 眼鏡、今、俺に惚れそうになっただろ」

 

「な! そんなことありません!」

「油断するんじゃないぞ。

 俺は時々、カッコいいからな。

 お前らが惚れてしまったら、大変だ」

 

眼鏡がどんな顔をしているか想像しなかった。

もう少しの間、雨降りの景色を楽しむことにした。

 

 = = = = =

 

「終わったー」

「終わりましたー」

執務机の机上から書類が消えた。

 

思ったより早く片付いた。

左の3段目から、ウイスキーの瓶を取り出した。

「てーとく、勤務中です。

 控えてください」

「今日だけだ。

 細かいこと言うな」

 

「範を垂れるお立場です」

「俺は不良なんだよ。

 ごちゃごちゃ言うなら、襲うぞ」

「ふん、凄んでも怖くありません。

 てーとくは、きっといい人で、変なことは、できません」

「ほほー。

 ほーほー。

 いいのかぁ、小娘ぇ。

 今朝、誰だったのか、気にならないかぁ」

 

「え、はっ!」

眼鏡は今朝の会話を思い出して固まった。

私室に自分以外の誰かの残り香に気がついた事実。

香りが残るほど濃い、残るほど長い時間、艦娘があの部屋で過ごした可能性。

 

眼鏡は半分後悔している。

目の前の男を信用していると言ってしまった。

少なからず好感を抱いているということの裏返し。

そして、挑発してしまった。

 

昼食の時、食堂はいつもと変わらなかった。

誰も犠牲者になった素振りはなかった。

もしかしたら、納得したうえで提督との関係を持ったかもしれない。

 

失敗だった。

状況を忘れて考え込んでしまった。

 

両肩に何かが被さったような錯覚の後、それが男の手だとわかった次の瞬間、頭が真っ白になった。




さあ、眼鏡巡洋艦の運命は。

スケベスカートは活躍するのか。

R15に収まるのか!


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第28話 試練と書いてじらしと読める?

逃げてー、眼鏡、逃げてー

ようやく最初の一人をゲットでしょうか。

彼を応援してくださいね。


途中を覚えていない。

 

気が付いたら、ソファに寝かせられ、泣いていた。

(こんなのイヤ)

 

服の上から、()の手が這いまわる。

 

(どうして、わたしの気持ちを聞いてくれなかったの?)

艦娘は悔しかった。

はっきりとわかった。

裏切られた気がする。

 

もう少し、ほんの一言でも話しかけてくれたら、墜ちたと自覚があった。

どういうバランスに成り立っているか自分でもわからなかった。

ただ、求められたら、拒絶しない程度に許している自分がいた。

 

目を固く瞑り、これから訪れる凌辱の時間に対する覚悟を決めていた。

 

= = = = =

 

「うーん、くたびれ具合が微妙だなぁ」

俺は、眼鏡のユニホームの見立てをしてみた。

 

端々が綻び、表地が擦り切れそうで、裏地に至っては、破けていた。

(スカートだけって、売り物になるかなぁ)

 

無意識の内に下着まで観察していた。

パンツのゴムが伸びかけていた。

眼鏡は尻がでかいのか、かろうじて引っかかっているのかもしれない。

ブラジャーは、大丈夫そうだ。

ホックを弾き飛ばすほど発育していないからだろう。

 

俺は、執務机に戻って、電卓をはじいてみた。

「うーんと、スカートは満額だろ。

 上着は、最悪おまけ扱いかもなぁ。

 パンツは・・・・無理だな。

 ブラは、単品扱いになると古着だな」

 

 = = = = =

 

裏切られた。

また(・・)裏切られた気がする。

 

どういうわけだが、意味が解らず腹が立つ。

 

こやつは、この野郎は、このゲスは、この提督は!

身体を弄ぶかと思ったら、何?

服の具合を見るって!

下着に手がかかったら、さすがに覚悟するでしょ!

それが何?ゴムを引っ張って何?それで終わり?

ブラもよ。

中身に全然触りもしないって、膨らみは充分よ。

形だって、悪くはないはずなんですからね!

 

 = = = = =

 

気が付いたら、眼鏡が鬼の形相で睨んできている。

今まで見た中で一番殺気立っていた。

 

生意気なヤツだ。

大した金にもならないくせに。

 

まあ、今回は先任(クソ)のせいだから、大目に見てやってもいいか。

 

「眼鏡、そんな顔するな。

 お前のせいじゃない。

 せっかくの美人が台無しだぞ」

慈悲深く微笑み(すさ)んだ眼鏡に声を掛ける。

 

「な、何ですか。

 お、お世辞は、わたしに通じませんからね。

 どうせ、わたしには魅力はないですよー」

「いじけるな。

 俺は、揶揄うことはあるが、褒め言葉で嘘はつかねえよ」

「もう、てーとくは、そうやって何人もあしらってきたんでしょ」

「そう見えるか?

 俺ほど女の扱いが下手なやつはいないと思うぞ。

 そう思うだろ?」

「ふん!どうですかね!」

「なんだよ。

 いわれのない批判は、やめて欲しいもんだな」

「扱いが下手だって、口で言ってても、わた・・・・」

「綿?」

 

眼鏡が黙って沈黙が生まれた。

夕方に差し掛かり、部屋が薄暗いせいか、細かい表情が判りにくい。

 

≪ガタッ!≫

「食堂でお夕飯を食べてきます!」

眼鏡が勢いよく立ち上がったと思ったら、飛び出すように執務室から出て行った。

 

俺はひとり残された執務室でショットグラスにウイスキーを注いだ。

「女はよくわからねえな」

 

 = = = = =

 

「オードブルっぽい料理なら、食べてくれるかな」

 

 = = = = =

 

「風呂をどうするかな。

 そろそろ、考えないとなあ」

 

 = = = = =

 

「わたしのことは、心配いらない」

「長門、その自信は少しおかしいわよ」




みんな元気になってきました。

ドタバタになるのでしょうか?


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第29話 3日目が多い

女心は解らない提督。

彼の野望と向きが同じはずですが。

彼を応援してくださいね。


スモークチーズを肴にウイスキーを嗜んでいた。

 

眼鏡が出て行ったあと、床にモップを掛けてすっきりした。

 

今から、土足禁止にする。

スリッパを入り口に置いておいた。

 

来客の頻度はどうなんだろう。

スリッパの数は足りるだろうか?

 

そんなどうでもいいことに気が向くのは、余裕ができたおかげだな。

 

≪コンコン≫

「入れ」

 

「失礼します」

駆逐艦が入ってきた。

 

「おう、どうした?」

「あ、お酒」

「なんだ、お前も飲むか?」

「え!・・・・」

「冗談だ。

 子供が飲むもんじゃない」

「わたし、そんなに子供じゃありません!」

「クヒヒ、ムキになるのが、子供なんだよ」

「むーーーー」

この駆逐艦は、俺の周りにいなかったタイプだ。

 

「で?文句があるんだったら、解体するぞ」

「ち、違います!」

「じゃあ、何だ」

「あ、あの。

 ・・・・あの、・・・・すー。

 スカート大事にします!失礼します!」

≪バタンッ≫

スカートを繕ってやった駆逐艦は、勢いよく飛び出していった。

「廊下を走るんじゃないぞぉ」

 

≪コンコン≫

(忘れものか?)

「入れ」

「失礼します」

「なんだ眼鏡か」

「お言葉ですが、扱いがぞんざいじゃないですか?」

「そうか。

 じゃあ、念入りに扱ってやるぞ、キヒヒ」

「ヒッ!」

胸の前で腕を交差させ、身をよじる眼鏡。

(コイツ、起きてるときは、ほんとに弄りがいがあるな)

 

≪コンコン≫

(誰?)

「入れ」

「失礼する」

戦艦だ。

「要件は?」

「特にない。

 貴様の気が向けば、好きにするといい」

「・・・・はい?」

 

≪コンコン≫

(なんなんだ、いったい)

「入れ」

「失礼します」

「「間宮さん」」

間宮だ。

 

「なんだ?」

「あ、あの・・」

間宮は、戦艦と眼鏡に意識を向けた。

 

「気にするな。

 別に俺が呼んだわけじゃない。

 で、お前の要件はなんだ?」

なぜか戦艦と眼鏡の視線が刺々しくなったような錯覚がする。

 

「あ、あの、おつまみを作ってみました。

 材料は、あ、あまりものです。

 けど、捨てるのも勿体ないし、わたしが(まかな)いで、食べる定番なんです。

 ちょっと多いなって、提督とご一緒させていただいたらなぁって思って。

 あ、自分の分のお酒はあるんですよ。

 ですから、その、良かったら」

間宮の説明は、言い訳そのものだった。

ツッコミどころが多々あるが、何を企んでいるのやら。

 

「そうか、じゃあ、貰おうか。

 そうだな、戦艦、眼鏡、お前たちもどうだ?」

「あ、あの」

間宮は戸惑いだした。

「どうした?仲間が一緒だと何か都合が悪いのか」

やっぱり何か企んでいるのか?

 

「提督、お時間ください。

 長門さんが加わるなら、量が足りませんから」

間宮の答えはいたって順当なものだった。

「な、わたしは、そんないやしんぼじゃないぞ」

「まあ、柄杓で飯を食うからな」

「アレは貴様の指示だろう」

戦艦が真っ赤になった。

 

今更恥ずかしがることもないだろ。

さんざん俺を睨んでいたくせに。

 

 = = = = =

 

間宮が追加のおつまみを作ってきた。

俺、間宮、戦艦、眼鏡の4人という妙な面子で酒盛りが始まった。

 

眼鏡がうるさいので、仕方なく狭い私室のほうに場所を移した。

 

野菜の皮のきんぴら、キャベツの芯の浅漬け、炒ったかぼちゃの種、俺の缶詰。

 

間宮の味付けは、絶品だった。

 

おまけに艦娘は燃料を摂取することもできるだけあって、たいして酔いもせず、ウイスキーの瓶が空になった。

 




さあ、酒盛りが始まってしまいました。

艦娘がどんな酔い方をするでしょうか?


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第30話 お酒は大人になってから

酒盛りが始まりました。

このまま、酔わせれば、提督の野望に一歩近づくかも。

彼を応援してくださいね。


「うん、うまい酒だ」

「とっておきなんですよ」

「どこにあったんですか」

戦艦は酒を褒め、間宮は自慢し、眼鏡は出所を尋ねた。

 

俺は、酔いつぶれる直前だった。

今、かろうじて意識があるが、明日の朝は、記憶が飛んでいると思う。

 

「てーとくは意地悪れす」

「そうだろ。

 俺はブラックだからな」

 

「貴様は艦娘をどょう思っているんだ」

「俺の欲望の捌け口だぞ、クヒヒ」

 

「どうして可愛がってくれないんでしゅ」

「うーん、ビッチは何をしてほしいんだー」

 

 = = = = =

 

息苦しさに目が覚めた。

意識が飛んで畳の上でそのまま寝ていた。

私室には、一段高く、下に収納スペースがある畳床がある。

 

外はまだ暗い。

窓から星が見える。

 

うん?

何やら弾力のあるものが、身体の上にのしかかってきている。

 

「うん、どうした、起きたのか?」

「せ、戦艦。

 お前がどうして俺の頭を抱えているんだ」

「仕方ないだろ。

 間宮と大淀が、お前の両脇に居るんだから」

「え゛」

 

その言葉はにわかに信じがたかったが、両腕が全く動かないことではっきりした。

 

酒臭い。

彼女らは、酒を飲むこと自体は、人間よりはるかに分解する能力が高い。

しかし、酔うことに関しては、人間と変わりなかった。

 

おまけに酒癖が悪いというか、このまま捻られでもしたら、骨ごと捻じ切られてしまうことさえありそうだ。

まずは、身体から引き離そう。

 

「戦艦、もう部屋に戻ったらどうだ?」

「ダーメ。

 わたしがいなくなったら、このふたりに手を出すつもりだろう。

 そうはいかない」

「そうだな、心配は解った。

 じゃあ、このふたりを部屋に連れて行ってもらえないか」

「イーヤ。

 可愛い子を起こすのは、不本意だから、拒否する」

「このままだと、風邪をひくかもしれないから」

「う、それは正論だな」

「じゃあ」

「うん、じゃあ布団をかぶろう」

戦艦は、掛け布団をまとって、覆いかぶさってきた。

 

「これなら寒くないだろう」

「いやいや、これは解決になっていないぞ」

「うるさい。

 知っているぞ。

 貴様、さっきから、ここに凶器を準備して、機会をうかがっているだろう」

戦艦は酔っている。

それもいい酔い方じゃないと心のどこかで警鐘が鳴っていた。

 

「提督、間宮さんのことをイジメないでくれ、カワイソーなのー」

戦艦は泣き出した。

おいおい泣き上戸かよ。

 

「提督、ありがとうございます」

「あ、間宮、起きたか。

 風邪を引く前に部屋に戻れ」

「・・・・はい」

間宮はモソモソと布団から出る。

「きゃぁぁ、こんなに寒いなんて、死んでしましますぅ」

わざとらしい小芝居のあと、布団に潜り込んでくる。

「提督、凍え死んでしまいます。

 温めてくださいね」

コイツも酔ってやがる。

腕に纏わりつく上に身体を擦りつけてくる。

 

「てーとく、何をしてやがりゅんです」

ダメだ、呂律も回っちゃいない。

「悪い手は、わたしの脚で挟んでメッってします」

眼鏡は手を太腿で挟みやがる。

 

「貴様、ふたりに何をしている。

 そんなヤツは折檻だ」

戦艦が頭から布団に潜り込んできた。

「「わたしも」」

 

「お、重い」

3人がのしかかってくるとさすがに重い。

 

「「「重くなーい!」」」

 

「あ、敵戦艦の主砲発見!」

戦艦が言ってはダメなこと口走った。

「・・・・」

「・・・・」

 

「「「提督?」」」

3人の重さで息が吸えなくなっていた俺は、その言葉が聞こえたあたりで意識を手放していた。




酔った勢いでしょうか、それとも酔わなくても?


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第31話 誤解を嫌がらない

3人の包囲網にはめられた提督。

ハメてはいませんが、不機嫌になる艦娘

彼を応援してくださいね。


「くっそー、記憶がねぇ」

 

「き、貴様ー、わたしに何をしたー!」

「何をしたのかもな」

「わ、わたしは覚えていないんだぞー。

 どうしてくれるー!」

 

「て、てーとく。

 せ、責任とってください!」

「なんだよ、奴隷としてこき使って欲しいのかぁ?」

 

「提督。

 あ、あの、きちんとできていましたでしょうか」

「全く記憶がない」

 

艦娘たちが朝食を終えた後に執務室に押しかけてきた。

 

記憶がないからどうしようもない。

 

艦娘たちも記憶がないようだ。

具体的に説明しろと言ってもはぐらかす。

 

 = = = = =

 

「なあ、眼鏡」

「何でしょうか?」

 

「お前は、かろうじて覚えているんじゃないのか?」

「・・・・だったら、責任とってくれるんですか?」

「何すればいいんだ?」

「そ、それは、その・・・・」

眼鏡は顔を逸らしたまま、動かなくなった。

 

「分かった。

 俺のできることなら、やってやろう。

 で、どうなったんだ?」

「あ、あの。

 ・・・・そ、それはですね」

「それは?」

「それは・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「・・・・」

「眼鏡、お前も覚えていないんだな」

「ギクッ、ヒュッヒュ、ヒュー」

眼鏡の奴、口笛が吹けていない。

 

「・・・・めーがーねー」

眼鏡は、事務用の机を執務室に持ち込んでいる。

その机は執務机に並べて置いている。

ちょっと手を伸ばすと眼鏡に手が届く。

で、俺はたぶん嘘を吐いた眼鏡の髪の毛を掴む。

 

これは悪手だと知っている。

しかし、俺みたいな心の狭い人間が艦娘たちの信頼を得られるわけがない。

そうなると権力、恐怖を植え付けるかで、抗う気持ちを削いでおかないと我が身が危ない。

我ながら、見苦しい限りだ。

 

「い、痛い。

 すみません、すみません。

 覚えていません。

 で、でも、そ、その、てーとく」

言葉少なに身体を縮こませたままだった。

 

「バーカ、嘘を吐くなら、もっとうまくやれ。

 まあ、艦娘(オマエ)らは俺みたいなブラックじゃねえからな。

 何をどうすればいいかわからんだろうな」

掴む手を放し、眼鏡の頭を小突く。

 

頭を押さえ、恨めしそうに睨んでくる眼鏡。

「そうそう、その眼だ。

 美人だと、様になるから、得だよな」

軽口を叩いてはみせたが、巡洋艦(コイツ)の主砲だと、俺は半身が裂け爆ぜるだろう。

 

「う、うーーー、そんなお世辞に誤魔化されませんから」

口角をヒクヒクさせる。

見方によっては、にやけているように見えた。

 

「・・・・眼鏡、お前はもうこの部屋で仕事しなくていいぞ」

「え!」

「ほら、アレだ。

 これから、俺は艦娘をとっかえひっかえ連れ込む。

 その時にお前が仕事してっと、邪魔なんだよ」

言ってしまった。

どうして、こんなことを言ったのだろう。

コイツと一緒にしてしまっても気を使う必要もないのに、悟られてはいけない。

悟られてはいけない。

 

「おっと、間違いだったな。

 お前も一緒にすればいいんだ」

そうだ、俺を憎め。

なれ合いじゃ無力な人間といつまでもやって行けない。

 

人間は、特に男は、概ね我儘だ、俺みたいに。

近隣のイケメンみたいなヤツはそうそういない。

提督の身辺調査をして、大本営には報告している。

度が過ぎると配置転換が起きる。

 

ただ、人格だけで務まらないのも事実。

だから、俺でも提督として着任できた。

元帥や中将は、ほんと甘ちゃんだ。

人を見る目がない。

 

 = = = = =

 

眼鏡は、昼飯を食いに行った。

俺は、私室で針仕事をしていた。

ここの艦娘(アイツ)らには秘密にしている。

知られたら、舐められるからな。

「ふふ、悪ガキどもめ。

 おっさんを舐めるんじゃねえぞ。

 うーん、中尉の分も作らないとな。

 あいつ、なんでか、俺が構わないと中将に言いつけるっていうもんな。

 年頃の女の子だったら、手製の手鏡入れとかはどうかな?」

せっせと運針する提督には、威厳もカッコよさもなかった。




執務室攻防戦は、停戦です。

鎮守府機能再開に向けて動き始めす。


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第32話 間宮の憂鬱

大淀に気を使ってしまった提督。

ブラックから脱落しそうです。

彼を応援してくださいね。


「間宮さん、定食をお願いします」

「畏まりました。

 ちょっと待ってくださいね」

 

巡洋艦までは、通常の食事が摂れるようになった。

戦艦や空母の皆さんはまだ粥だった。

物足りないと思われたが彼女たちの表情は明るかった。

談笑しながら、手が止まることもなく鍋を空にしていく。

 

厨房には駆逐艦たちが(はしゃ)ぎながら、間宮さんを手伝っていた。

 

うー、ゲス提督が着任したはずなのに。

みんなの表情が明るい。

きっと先任(クソ)とのギャップで錯覚しているはず。

はずなのに、別の可能性を否定しきれない。

わたしは、ほかの鎮守府と連絡が取れる。

先任(クソ)の時には、その機会は皆無だった。

通信が復旧してから、近隣の鎮守府に連絡を取った。

それとなく提督の噂を聞いた。

返事は共通して、そんな提督の話を聞いたことがないということだった。

あの提督は本物だろうか?

その疑問への返答は、まったく別の将校の話だった。

 

容姿は主観のため、あまりあてになりそうもないが、とりたてて褒めるでなく、可でもなく不可もなくといったところか。

ただし、人格に関しては、絶賛と言ってもよかった。

今の提督に出合っていなければ、転属したいと言った艦娘もいた。

 

「嘘、あんなゲスに。

 スカートの中に手を入れてくるのよ」

そうだ、そんなセクハラを重ねてくるヤツだ。

 

 = = = = =

 

大淀さんの顔が赤い。

 

女だから判る。

充実したその表情に焦りを感じる自分がいる。

 

提督は、優しい?

 

蹴られ、髪を掴まれ、言葉は私たちを罵った。

でも、提督は、あの人は、交換条件で、わたしたちを求めなかった。

何人かの提督に、わたしたちは、身体を明け渡してきた。

入渠することで身体は、元に戻る。

だから、我慢できた。

 

でも、この提督は違う気がする。

あれほどの傍若無人のはずなのに、それで泣いている艦娘がいない。

 

ただ単に気まぐれなのかもしれない。

でも、食堂(ここ)で食事をせず、わたしにそれを求めない提督(かれ)

 

わたしは、自惚れもあり、自分の肉体に多少自信がある。

今までの提督(おっさん)たちの反応が根拠だ。

 

間違いない。

提督は、わたしの肉体は好みのはず。

でなければ、膝に座ったとき。太腿に押し付けるような圧迫がありようもない。

 

だから、昨日のアレが判る。

 

気持ちが向かないと手を出してくれない。

 

はしたない自分に気が付いた。

ビッチなんだ。

 

提督は、ビッチが嫌いなんだろうか。

待っていれば・・・・

 

「間宮さん。

 次の鍋をお願いできるかな」

「あ、ハイハイ。

 もうすぐですよ。

 遠慮なく食べてくださいね」

 

「おかしなものだ。

 粥だと、いくらでも入る代わりに

 皆に食事が行き渡るだけ、気が楽だ」

 

「あーあ、長門ったら、それで提督に言いくるめられたのね」

「食べ物で釣られるのは仕方がありませんわ」

「わたしも彼女と同意見」

「一航戦は仲が良いですね」

 

間宮はこの時、戦艦と空母は条件が整えば、要注意艦娘に躍り出ると思った。




提督がいないところで、ややこしくなっています。


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第33話 弄られ放置

ようやく業務が追い付き一息つけた提督

まだまだ懸案事項はありますが、
野望に向かって突き進みます。

彼を応援してくださいね。


昼食を終え、眼鏡が執務室にやってきた。

 

「ただいま戻りました」

「午後は、仕事がないから、好きにしろ」

眼鏡の入室で昼休みが終わったことを知る。

と同時に眼鏡の仕事がないことを告げる。

応接セットのテーブルに広げられた裁縫道具を片付ける。

それを見ていた眼鏡が一言。

「てーとく、お食事は?」

 

定期補給品が届いていない今は、自主的に食事制限をしている。

 

大食いたちへの支給を制限している以上、責任者が補給品に手を出すのは妥当ではない。

 

町に行ったとき、買っておくのを忘れたので、もう缶詰しか残っていない。

 

「まあ、適当にな」

やせ我慢がバレないように平静を装い、受け流す。

眼鏡は何かを考えていた。

 

「あの・・わたし、てーとくのことが嫌いです」

「お! 言うねぇ。

 で、俺に何をさせたいんだ?」

「そうやって、すぐに考えていることが判るから嫌いです」

「うーん、それは、お前が単純だからだろ」

「うーーーーー」

唸る眼鏡。

コイツと言い、生巡といい、巡洋艦は、弄り甲斐のあるヤツがいて面白い。

 

「おい、眼鏡。

 パンツ脱いでこっちに来い」

「にゃっ!」

一瞬で耳まで真っ赤になる眼鏡。

単に揶揄っただけ。

表情は作っていないし、口調も普通。

のはずだった。

 

「あ、あの。

 誰かが来ると恥ずかしいので、てーとくのお部屋じゃダメですか」

俯いて震える眼鏡。

予想外の反応だった。

「ほー。

 えらく素直だな、何か企んでいるのか?」

「い、いえ!

 企むなんて、その、逆らったりしたら、解体されますから」

眼鏡の答えは、一応筋が通っていた。

丸2日は、眼鏡を弄ってきたから。教育ができているかもしれない。

 

「なかなかいい心がけだ。

 俺の部屋の布団に入って待っとけ」

「・・・・はい」

 

 = = = = =

 

「そろそろ、第一便が届く頃だな」

屋上でリトルシガーをふかしながら、鎮守府に繋がる道を眺めている。

 

私室で待っているだろう眼鏡は、放置している。

放置プレイもいいだろう。

まだ風呂に入れないから、うかつなことをすると(にお)う。

知っている人間には、すぐにバレるから、おいそれとはできないのが現実の話。

 

「そういえば、中尉が准尉になりたてで再会したとき、いきなり関節技を決められたっけ」

当時、同僚と大人の付き合いがあった時期で、彼女の部屋から出勤したときバレたんだな。

 

遠くて車種は判らないが、トラックが走っているのが見えた。

品物を載せたトラックだろう。

 

もう1本は吸えそうだな。

 

 = = = = =

 

「早いね、結構結構」

「ありがとうございます。

 仮納品書です」

運転手は、知っている人間だった。

若旦那だった。

次期社長になるため修行中。

 

「体育館に降ろしてくれるかな」

「はい。

 トラックを回します」

彼が働き始めた時から、俺と付き合いがある。

弟分と言えるかもしれない。

見どころがあると思ってたら、俺より早くに所帯持ちだ。

 

「中佐、おっと提督」

「変に気を使うなよ。

 どっちも間違っちゃいないからな」

「判りました。

 で、ハウスの子、みんな待ってますよ。

 最近、来ないのは、誰かが悪い子だからじゃないかって心配してましたよ」

「ありがとう。

 筋と桜の数が増えると面倒ごとも増えて、困るわ」

リストをチェックしながら、世間話に花が咲く。

 

 = = = = =

 

「Zzz、やめて、こんなのって、ウフ、Zzz」

 




伏線ではないのですが、提督のプライベートの話があります。


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第34話 コインランドリー?

眼鏡の放置プレイは続行中。

物資を降ろしてこれからです。

彼を応援してくださいね。


若旦那が請け負った分を粗方下して一服。

 

気が付いた駆逐艦たちが興味津々覗いている。

(隠れてるつもりか?)

 

「中佐、コレどうするんですか?」

「ああ、艦娘に運ばせるよ。

 俺もまだここに明るくないからな」

「良かったら手伝いますよ」

「いいって。

 配達までがそちらの仕事だからな」

そうこうしてるともう1台トラックが到着した。

 

「遅くなりましたー」

「おー、世話になるな」

「何をおっしゃいますやら」

「こんにちはー」

若旦那が社長に挨拶する。

2人に共通の知り合いがいる。

奥さん同士が少し年の離れた従姉妹同士だった。

地元で商売しているとそういう縁ができていく。

 

「降ろすの手伝いますよ」

「悪いねぇ」

「親戚ですから」

「じゃあ、俺休憩」

「「ブラックだ!」」

 

 = = = = =

 

降ろせる荷物は粗方下して、あとは洗濯機の設置だけ。

今回、これが目玉商品。

コインランドリーの洗濯機4槽分が中古で手に入った。

設置業者を待っているところで、我慢しきれなくなった駆逐艦たちが集まってきた。

 

「ていとくー、コレ、洗濯機ですよね」

「大きい、こんなの初めて見たー」

「業務用っぽい?」

「中に入って洗えるかも」

 

艦娘たちは町中で暮らしていないため、こういうものでも珍しいのだろう。

「俺に逆らうやつは、これで洗濯だな。

 あと電子レンジでチンだ」

≪≪ヒィー、死んじゃうよー≫≫

 

 = = = = =

 

洗濯機の設置が終わったころ、日が落ちて屋外は真っ暗だ。

この辺には、鎮守府以外は星明りしかない。

星空は、いい感じに美しかったりする。

「星がきれいですねぇ」

「いやー、久しぶりに感動しましたよ」

「何なら、家族を連れて来るか。

 前もって連絡があれば、宿営までは提督権限で許可出せるぞ」

「ぜひお願いします」

「家内が喜びます」

こういうことなら、元手がいらないので助かる。

 

社長、若旦那、設置業者を見送り、執務室に戻った。

 

今日も仕事が終わって、軽く一杯。

私室は静かなまま。

(眼鏡、やっぱり寝不足だったか。

 俺が眠いんだから、当たり前なんだよ)

ここしばらくの観察で判ったことは、眼鏡はいいわけがないと無理をする。

 

(晩飯を食い損ねられても困るからな)

脅かさないように私室に入る。

目に入ってきたのは、盛り上がった布団。

潜り込んでるか?

 

「眼鏡、起きろよ」

返事がない。

布団をめくってみた。

 

幸せそうな寝顔だった。

と同時にメス臭い。

布団に籠っていたので、蒸れてた。

涼しくなったのか、眼鏡は目を覚ます。

「うーん、眠ってしまったの? はっ!てーとく!」

逡巡せずにスケベスカートのサイドから手を突っ込む眼鏡。

(艦娘でもそんなことを人前でするんじゃない)

「アレ? ウッン、あ・・・・やっぱり」

なぜか睨んでくる眼鏡。

 

「飯食ってこい」

「てーとく、これはどういうことですか?」

眼鏡は、目に見えて不機嫌だった。

 

「何が?」

「だって、脱いで、布団の中で待たせたんですよ」

「で?」

「だから、何にもし・・・・」

言葉の途中で眼鏡は顔を真っ赤にする。

「放置プレイだ。

 お前が涙を流して懇願するように仕向けているんだぞ」

 

複雑な表情をする眼鏡。

 

「飯、食いに行け。

 消灯まで自由時間だ。

 好きに過ごせ」

 

俺は執務室に戻って、グラスに酒を注ぐ。

後から眼鏡がついてきて、傍らに立つ。

「なんだ?」

「今日は、絶対来てください!」

「何処へ」

「食堂です!」

「えー、めんどくさいぞー」

「嘘つき」

眼鏡に掴まれた腕は、痺れを感じるほど強く掴まれていた。




眼鏡、眼鏡。
パンツをはき忘れてるんじゃないぞ。

はぅ


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第35話 初めての食堂なるか?

腕がしびれる提督

早速反逆でしょうか。

彼を応援してくださいね。


「てーとくは、この鎮守府の支配者なんですよ」

「そうだ。

 で、お前が俺に指図してんだよ」

眼鏡の口調は、わかりやすかった。

俺がある状態だったとき、周りから叱咤されたときのそれ。

 

「ここに来てから、3食しか食べていないじゃないですか」

「晩飯はここで食ってるだろ」

「お食事の量が全然足りていないじゃないですか!

 このままじゃ、わたしたちより弱ってしまいます」

「いいじゃねぇか。

 お前らには好都合だろ」

「やっぱり、わたしはてーとくが嫌いです!

 失礼します!」

眼鏡は、執務室を飛び出していった。

 

「うーん、まずいなぁ。

 懐かれ始めたか?」

 

 = = = = =

 

「大淀さん、どうしたの?顔色が悪いですよ。

 お粥にしますか?」

「そ、そうですね。

 お粥がいいかも」

「じゃあ、作り「長門さんたちとご一緒します」・・・・はい」

 

「大淀、大丈夫か?」

「長門さん、ありがとうございます」

 

 = = = = =

 

「あらあら、若旦那。

 お久しぶりです」

とある施設の玄関先で、若旦那をご婦人が出迎えていた。

「すみません、零細企業は休みなしですから」

「奥様に来ていただいて、助かっておりますから」

若旦那は、寄り道をしていた。

「中佐がよろしくと」

「ありがとうございます。

 あの方には感謝しきれません。

 子供たちも待っていますから」

「はい、気にかけておいででした。

 ほんと、自分ではブラックと自称しているというのに」

「うふふ、お言葉を借りれば【騙されているんだ】ですってね」

2人の表情は、共通の知り合いの話題ということで穏やかだった。

 

 = = = = =

 

「風呂をどうするかなぁ」

思わずひとりごちていた。

普通は、時間割りにしておけば使える。

ただ、それをすると遠征やら、大破した連中の入渠の妨げになる。

 

「鎮守府の運用効率と損耗率を落とすわけにはいかんしなぁ」

そう、効率重視でなければ、評価が悪くなる。

裏ルートを確保すれば、評価を維持できるが、それを追い詰めるヤツが居た。

俺だ。

手塩にかけた弟子もいる。

自分の首を絞めている。

 

「間抜けだなぁ」

ショットグラスにウイスキーを注ぐ。

軽く呷る。

 

「せっかくブラックを自称しているのにな。

 第3者の評価が絡むと意外と難しいか。

 俺は、存外、知恵が回らない、はぁ、ダメだなぁ」

俺は、努力は惜しまない人間だと思う。

だが、思い通りにならないことがある。

たぶん基本的に頭が悪い。

だから、悪知恵が幼稚なレベルで限界を迎える。

 

俺が隠し事をすると必ず見破られてしまう。

中尉、眼鏡、たぶん間宮()、ガキども、元帥、中将・・・・

ああーーーー、接触のあった関係者全部じゃねえか。

駆逐艦も懐いてくるし、あの軍艦も気づいているかも。

 

「くっそー、俺はブラックなんだぞ。

 根っからの悪人なんだぞ。

 ・・・・そっか、見事に騙されているってわけだ、アハハハ、はぁー」

俺の笑いは、一瞬で勢いを失い、弱いものになった。

 

 = = = = =

 

「間宮さん、お代わりを」

赤城さんの当たり前のような言葉。

 

大食いさんたちと一緒にお粥を食べているつもりだった。

違う。

レベルが違う。

彼女たちの食事の様を見ていると食欲がなくなっていく。

見ているだけでおなか一杯。

 

なんとなくわかった。

てーとくがこの状況を設定したのは、補給の状況を考慮したからだ。

判っていなかった自分が情けなかった。

提督(かれ)の見せかけの言動に騙されていた。

感じていた違和感は、これだったんだ。

 

わたしはどうしたいんだろう。




種明かしでしょうか?


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第36話 鎮守府の回復

物資も補充された鎮守府

艦娘も体力が戻ってきました。

彼を応援してくださいね。



俺は今、間宮の私室にいる。

正確には、待ち伏せということかもしれない。

 

日付が変わったが間宮が戻ってこない。

大食いが、まだ食い終わらないからだろう。

 

執務室と私室は洋装だが、艦娘たちの部屋は和装になっている。

空調の差なんだろう。

執務室には、クーラーが残っていた。

先任(クソ)は、生活環境を維持したかったんだろう。

 

今思いついた。

自分だけの風呂があったんじゃないのか?

 

艦娘の部屋には、据え付けの空調はない。

ここは元々扇風機しかなかった。

引き戸を開けっぱなしにして、扇風機を回せば夏を凌げるらしい。

その扇風機も売り飛ばされて、去年の夏は、地獄だった。

調査して、殺意が湧くほどだった。

 

引き戸と床の隙間に光が漏れる。

間宮が帰ってきたのかもしれない。

 

その予想は、間違っていなかった。

引き戸が開かれると湯上りの間宮が立っていた。

「提督!・・何かご用ですか?」

「立ち話もなんだから、入ってこい」

「・・・・はい」

 

板間の隅に畳が置かれている。

俺が座っているところだ。

文机があり、ひじ掛け代わりにもたれている。

 

「いい部屋だな。

 俺が入って台無しだが、キヒヒ」

「・・・・」

 

「今日、もう昨日か。

 入荷した食料のリストだ。

 明日から大食いも通常メニューに戻せ」

間宮の顔は、ぱぁと明るくなった。

「給糧艦間宮!明日から通常運用を再開します!」

「人手は、非番のを使え。

 砂糖を100キロ俺が使うから、除外しとけ」

「・・わかりました」

リストを文机に置いて立ち上がる。

 

「あ、あの」

「なんだ?」

「提督のお食事を」

「そうだな。

 俺は、汚職は喜んでするが?」

「茶化さないでください。

 このままでは、お身体に障ります」

「俺を心配して、何か得することでもあるのか?」

間宮は黙ってしまった。

 

これが現実だ。

自分は安全な鎮守府に居て、艦娘(こいつ)らを死地に行かせる提督(ゲス)を心配する必要がどこにある。

 

いっそのこと、好き勝手、やりたい放題してみせれば、提督(ひきょうもの)の命令を絶対とせず、生き残る道を選ぶようになるだろう。

「大声出すな。

 邪魔されたら興を削がれる」

俺は、間宮に手を出す。

湯上りの石鹸とおそらくは間宮の匂いが鼻腔をくすぐる。

この間宮(・・)も同じ匂いがする。

 

「別に嫌がってもいいんだぞ。

 その方が、興奮するからな、クヒヒ」

間宮は、抵抗しなかった。

「【窮鳥懐に入れば猟師も殺さず】は、俺に通用しねえよ」

間宮を畳へ組み敷く。

「どうだ?

 お前が信じたお優しい提督なんかここにはいないぞ、クヒヒ」

「・・・・ぃ」

「どうしたぁ?

 泣いてもいいぞ。

 止めねえがな、キヒヒ」

間宮の頬を舐めあげる。

湧きだす嫌悪でいっぱいだろう。

 

(このままじゃ、ダメ!)

わたしは思い続けてきたことを行動に移した。

 

わたしを組み敷くこの男性を跳ねのけ、逆に抑え込んだ。

そして、この男性(ひと)の心臓の音を聞く。

「嘘つき」

「くっ!動かねぇ」

「人間は艦娘に勝てません。

 すべては艦娘の自制心に成り立つんです」

「ち、きっしょ」

非力なこの男性(ひと)は往生際が悪くもがいている。

 

「止めないのは、こっちの方です」

わたしは初めて(・・・)自分の想いで唇を重ねた。

たぶん、ほんの少しの間だったはずなのに、わたしの中では長い時間だった。

「ぷはぁ。

 さあ、どうですか?」

「ビッチが。

 大人を見くびるんじゃねえよ。

 これからどうするつもりだ?」

「え?」

間宮は固まった。

 

数分後、提督は間宮の私室から出てきた。




間宮は頑張りました!

でも、まだです。


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第37話 訪問の準備

頑張った間宮

せっかくの据え膳だったのに

彼を応援してくださいね。


「本日、マルナナマルマルを以って、鎮守府の通常任務を再開する。

 近日中に近隣鎮守府との演習を行う予定である。

 訓練を開始せよ。

 なお、昼食は、間宮が外出のため、行動糧食で賄うこと。

 眼鏡」

「以上、解散!」

 

 = = = = =

 

今、リトルシガーをふかしながら、軍用車を転がしている。

 

ルームミラーを覗くと後部座席では、眼鏡と間宮が気まずそうに座っているのが見えた。

 

今朝のアレが原因だろう。

 

 = = = = =

「眼鏡、今日索敵を代行してくれていた鎮守府に挨拶に行くから、同行しろ」

「・・・・はぃ」

「どうした?仕事でヘマでもしたのか?」

「いえ、その・・・・」

巡洋艦は、制服を弄り言葉にしなかった。

 

「伸びたゴムのパンツは嫌だろうな、キヒヒ」

「パンツは見られませんから!」

「パンツって言ってしまいやがった、このスケベスカート」

「な!」

「俺にも面子ってもんがあるから、途中で訪問着を買ってやるよ」

「え!でも、それは経費じゃ・・」

「俺のポケットマネーからだよ。

 これでお前は俺の命令のままに動く奴隷みたいなもんだな、キヒヒ」

眼鏡には、私費で服を購入する以外の内容は、聞こえていなかった。

 

 = = = = =

 

「間宮、他所で幸せに暮らす間宮(・・)を見せてやる」

「提督・・・・」

間宮は手を胸の前で握り、瞳を潤ませていた。

(どういう意味だ?)

幸せに暮らすというキーワードだけが独り歩きをしていた。

 

 = = = = =

 

「間宮さん、どうしたんですか?」

「大淀さんこそ」

「わたしは、てーとくのお供でほかの鎮守府にご挨拶に」

「わたしは、ほかの鎮守府の幸せな【間宮】に合わせてくれると」

((提督(てーとく)は、わたしをお披露目するために連れ出すんじゃないの?))

 

 = = = = =

 

町に来た。

おととい以来で特に何も変わっていない。

 

早速、服屋に行く。

中尉に聞いておいた店にする。

 

「いらっしゃいませー」

中に入ると居づらい空間だった。

洋装を中心に下着から小物まで揃えている店だった。

 

「あー、彼女らに訪問着として使える服を見繕ってくれないか?」

「特にご希望がございますか?」

「いや、彼女らの希望通りでいい」

「畏まりました」

「じゃあ、俺は外で待ってるから、早めに決めろよ」

 

そそくさと店を出る。

店の駐車場があってよかった。

(一時間は覚悟しないとな)

女の買い物は長い。

そのうえ、似合っているかどうかを聞いてくる。

そして、褒めながら、似合っていると言う。

そこから、また品定めが再開する。

 

ふいにドアが開き、誰かが乗り込んできた。

「ちゅーさ」

「中尉。

 また(・・)さぼりか?」

中尉だった。

「ひっどーい。

 わたしが推しのお店を教えたのにぃ」

「いやいや、軍務はどうした?」

「えへへー」

コイツ笑ってごまかしやがった。

「ねえねえ、わたしもついて行ってあげようか」

「それ、意味あるのか?」

「わたしは、ただの中尉だけどぉ、ね?」

「フィアンセでも何でもないのに意味あるか?」

中将の娘ではあるが、俺とは無関係だ。

「そ、そこは、なにかあるんじゃないかって、思わせるのよ!努力してよね」

「なんの努力だよ」

 

 = = = = =

 

「お優しい提督ですね」

「「はい!」」

 

「インナーはどうされますか?」

「あんまり甘えることはできませんから」

「わたしも・・・・」

 

「商売抜きっていうものできませんしぃ。

 着てみせてみませんか?

 お気に召したら、買っていただけるかもしれませんし」

 

数分後、店に呼ばれた中佐は、一緒に店に入った中尉に関節を決められ床を叩いていた。




眼鏡は半ケツのローライズ
間宮はレース柄の紐パンでした。


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第38話 なぜか同行する女性士官

よくよく考えると周りの娘に勝てない提督

野望がどんどん遠のいているんじゃないか

彼を応援してくださいね。


「買ってぇ、買ってぇ、服買ってぇ」

「ああ、うるさい。

 自分で好きに買えよ」

「中佐の財布にダメージがあるからいいんじゃないですか」

「貴官、いいたい放題だな」

中尉のおねだりを撥ねつける提督。

 

「ねぇー、ふたりもそう思うでしょ?」

「わ、わたしは、てーとくの鎮守府に所属している艦娘なだけで」

「わたしも任務ですから」

中尉の言葉にためらいで返す眼鏡と間宮。

 

「いいのかなぁ」

キシシと笑いながら艦娘に近寄る中尉。

二人だけに聞こえる小声で一言。

『彼、推しに弱いからね』

 

中尉は艦娘から離れると提督と腕を組んでみせる。

「中佐、おっと提督。

 ささ、鎮守府巡りに行きましょ!

 助手席はわたしが座るね」

「「な!」」

「ついてくるのかよ」

提督は、中将の娘の我儘に付き合うしかなかった。

 

 = = = = =

 

店を後にして軍用車に乗り込む4人。

 

「中佐、ささ、シフトレバーを出しなさい」

「貴官、口だけはいっぱしになってきたな」

「ええー、お口にいっぱい出すの?

 クルマが揺れたら、喉詰まっちゃうよ」

俺は、中尉の頭を鷲掴みにする。

小顔の彼女の頭はちょうどいい具合に掴める。

「痛い痛い、ごめんなさい、もう言いません」

「そういう会話は、中将が見込んだ男と夜中にしろ」

最初の鎮守府に向けて出発する。

 

「あの、てーとく。

 中尉さんとはどういうご関係なんですか?」

後部座席の眼鏡が我慢しきれず聞いてきた。

「別に「わたしが泣き寝入りする相手かな?」・・お前とんでもないことを言うな」

中尉はいつも以上にとんでもないことを口走る。

 

「何なら、これから、ラブホに行って試しますか?」

「お前、俺が銃殺になるのがそんなに見たいのか」

「もしかしたら、銃殺にならないかもよ」

「ハイリスクなことを敢えてしねえといけない理由が見つからねえよ」

 

最初の鎮守府についた。

飛行場もあるから、相当な規模だ。

ここの提督は、いうなればエリート。

フリーだったら、中尉の婿筆頭だったろう。

 

「小官が受付に行ってきます!」

軽く敬礼した中尉が外に飛び出していき、憲兵に話しかけている。

ゆるゆるとクルマを寄せていくと中尉が戻ってきた。

「入って右奥の建物だそうです」

鉄門が開き始めた。

憲兵が手招きするので、クルマを中に滑りこませる。

小銃を奉げ筒状態で不動の憲兵に対して、敬礼をし、前を通過する。

 

「苦手だな」

「小官も」

「貴官はこういうところが務まる士官に嫁ぐんじゃないのか?」

「うーん、それは、あんまり考えたくない」

女の考えていることはよくわからん。

クルマを指定された建物横の駐車場に停める。

 

ルームミラーに緊張する艦娘ふたりが映っていた。

「挨拶に来ただけだ。

 緊張するようなことじゃない」

何気なく声を掛けてしまった。

「中佐、優しいですねぇ」

中尉がすかさずツッコミを入れてくる。

 

 = = = = =

 

建物の受付に話しをすると部屋に通された。

応接室だった。

規模が大きいと応接室も一つじゃなかった。

執務室に応接セットを置いている我が鎮守府(ウチ)とは大違い。

 

しばらくするとコーヒーが運ばれてきた。

ここの間宮だ。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

「他の方は、ワゴンを置いていきますので」

ここの間宮は、小さく会釈すると部屋を出て行った。

 

今、ソファに座っているのは俺だけ。

他の3人は、後ろに立っていた。

この場合、ここの提督に促されるまで、座らない方が無難なのだ。

縦社会の堅苦しいところ。

 

コーヒーを半分ほど飲んだところでドアが開いた。

「お待たせした。

 わたしが、当鎮守府の司令を務める。

 あー、お噂はかねがね」

気さくな笑顔で右手を差し出してくるイケメン提督。

俺は、敬礼をした後、握手に応じた。

 

将校クラブでは、体操服上衣で階級正確にわからなかった。

准将は、中佐より2階級上。

俺が特進しないと届かない階級だ。

 

「あ、お嬢さま。

 気が付きませんでした。

 どうぞお掛けください」

中尉に気が付いた提督は、慌てて席を勧めるのだった。




さあ、一癖あるキャラになりました。

中尉はこれからです。


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第39話 ワイロの使い方

影響力のある中尉

他の間宮と初めて出合った間宮。

彼を応援してくださいね。


「本日のご用は何でしょうか?」

爽やかさが眩しいイケメン提督。

相対的に俺の黒さが目立ってくる。

 

「これまで哨戒を代行いただいて感謝しています。

 実はささやかですが、砂糖を40キロを持参しました」

「砂糖ですか、それは助かります。

 甘いものは、艦娘(かのじょ)たちへのご褒美ですからね」

さすがイケメン提督。

艦娘たちへの配慮に余裕があり過ぎる。

 

「准将のご配慮、小官も見習いたい。

 どうでしょうか、もう10キロ」

「この時期、どこも砂糖は貴重品。

 ウチにそんなに回してもらうわけには」

「たまたま物資がだぶついたので、所帯の大きいところで使っていただく方が良いでしょう」

嘘を言う時に俺の舌は、数枚になっているのだろう。

滞ることなくよく回る。

 

「提督、ちょっと早いが、昼食は、いかがですか。

 ウチの間宮の腕は、ちょっとしたものですよ。

 おっと、そちらの間宮さんと比べるつもりはありませんよ」

「お言葉に甘えます。

 准将、階級でお願いいたします。

 日が浅いので、提督と呼ばれるとむず痒いものです」

飯を勧めてくれたので、快諾する。

中尉が脇腹をつついてくる。

「中尉は、どうされます?」

お嬢さま(・・・・)は、何か言いたいらしい。

「中佐、隣の席は?」

「貴官の指定席ですよ」

第三者がいると中尉とのやり取りはやりづらい。

 

「ほー、噂も当てになりませんね」

「准将、それはどんな噂でしょう?」

イケメン提督の言葉に中尉が少しムッとする。

 

「失礼を承知で申しますと【男嫌い】と」

「フフフ、そうですよ。

 小官は男嫌いです」

鈍感な水兵がいても気づくだろうあからさまな腹の探り合い。

 

 = = = = =

 

食堂の隣にある瀟洒な部屋に通された。

元帥の鞄持ちをしていたころ、地区拠点の鎮守府で見かけた記憶があった。

要人をもてなす来賓席スペースだ。

俺が中佐だから、中尉が居るからだろう。

 

「准将、ウチの艦娘たちも食事をさせたいんですが」

「彼女たちは、食堂で好きなものを摂って(・・・)くれるといい」

イケメン提督の意外な言葉。

(こいつ、人間と艦娘を区別してやがる)

 

「ねえねえ、大淀、間宮、わたしと一緒に食事(・・)しようね」

男前だ。

この娘、昔からそうだ。

中将にまっすぐに育てられた。

ある出来事でなおさら、彼女はまっすぐに育った。

俺には眩しい存在。

 

「わたしは中尉ですから。

 中将と違いますので、特別扱いは無用です」

「・・お嬢さまが、そうおっしゃるなら」

 

 = = = = =

 

「A定食4つです」

にっこりとここの間宮がカウンターに並べてくれた。

「旨そうだ」

「こういうのって鎮守府ごとにおいしいですよねぇ」

中尉が相槌を打ってくる。

「「・・・・」」

ウチのふたりは、緊張していた。

 

イケメン提督の表情は微妙だった。

気のせいか、秘書艦が寂しそうにしている。

「提督、定食です」

「ありがとう。

 うん、旨そうだ」

トレーを受け取るイケメン提督。

 

≪≪いただきまーす≫≫

まだ混雑する前の食堂の一角で食事を始める。

提督の傍らに秘書艦が控えていた。

彼女は、後で食事を摂る(・・)ということだった。

 

「ここは設備が充実していて、維持管理が大変でしょうね」

つい社交辞令を口にしてしまう。

 

「いえいえ、みんなが手伝ってくれるおかげでなんとか維持できてます」

中尉が距離を置いている相手は、あちら側(・・・・)が多い。

その手の人種は、俺のそれ(・・・・)とも違う。

 

食事は普通に美味かったが、会話は盛り上がらなかった。

 

 = = = = =

 

「ごちそうさまでした」

「中佐、おいしかったね」

「ああ、間宮は、どこでも一流だからな」

中尉は、俺の気持ちを知っている。

情報部に居た頃が懐かしい。

あの時は人に気を使う必要がなかった。

それが懐かしい。

 

「准将、そのうち演習をお願いしたい」

「いいですよ。

 ウチの艦娘たちは手ごわいですよ」

「存じています。

 お手柔らかに」

 

交わした握手は、出合った時と微妙に異なっていた。




こっちの間宮は、面識がありませんでした。


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第40話 転がす先の・・・

イケメンと並ぶと見劣りする提督

実は、違っていたり。

彼を応援してくださいね


「イケメンの元で働くって、やりがいあるだろうな」

「「・・・・」」

 

「中佐、わざとらしい」

「そうか?俺にモノ扱いされるのとは格段の扱いだろ」

 

次の鎮守府に向かってクルマを転がしていく。

工作艦は拾いものだ。

軍用車(ポンコツ)の調子がいい。

「工作艦は、何で喜ぶかなぁ」

リトルシガーをふかしながら、つい独り言をこぼした、らしい。

 

「中佐、後ろのふたりが睨んでますよ」

「なんで?」

「知りません。

 知りませんけど、なんとなくわかります」

「なんだよ。

 貴官、時々意味ありげに意味不明なことをいうな」

 

中尉まで睨みだした。

 

「これがイケメンとの差だな、キヒヒ」

茶化すように笑ったのマズかったのか。

 

中尉がホルスターに手を掛けた。

眼鏡が艤装を展開する。

 

「ダメです!!」

間宮が何を思ったかシート越しに抱きついてきた。

ハンドルから手が引き離される。

目の前にガードレール、その奥に大海原。

 

 = = = = =

 

「気をつけろ、ボケ」

後ろで小さくなっている間宮をなじった。

「運転中だろ、海へダイブさせるつもりか!」

「・・・・」

縮こまった間宮は、何も言い返してこなかった。

 

「中佐、間宮は悪くないから」

「てーとく、わたしも反省してます」

中尉は間宮を庇い、眼鏡はやり過ぎを反省した。

 

「きっちり反省しろ。

 お前らが死んだら、周りが悲しむだろうが。

 そういうことを考えろ!」

「「「はぃ」」」

3人揃って反省しているようだ。

 

「判ればいい。

 ったく、躾しなおす必要があるな」

追い打ちの脅しをかける。

部下ではない中尉はともかく艦娘はビビっているだろう。

 

・・・・ルームミラーには、奇妙な行動をするふたりが映る。

頬を染め、俺と視線が合っては、目を伏せ身を捩るふたり。

助手席の中尉と言えば、首を傾げて覗き込んでくる。

3人の不可解な行動は、鎮守府に着くまで続いた。

 

 = = = = =

 

「こっちもデカいんだよな」

「大きいの?」

「元々の造船工廠があるからな。

 護衛艦と・・・・貴官、中将が悲しむぞ」

中尉は、てへぺろとあざとい仕草の後に、助手席を飛び出していった。

 

「中尉殿はかわいいですね」

「どなたかと結婚されるんですよね?」

中尉への興味が膨らんでいっているようだ。

「そうだなぁ。

 可愛いんだから、早くいい男を捕まえろって言ってるんだがな。

 中将に孫の顔を見せて安心させてやれとかも」

ハンドルに顎を載せて、警備員と話をしている中尉を眺めてながら、つぶやいた。

 

「中佐、入って右が鎮守府です。

 って、知ってましたよね」

「ああ、まだボケる歳じゃないからな」

「そうですか。

 すぐにおじいちゃんになっちゃいますよ」

「貴官、本当のことを言うな」

ふたりのやり取りを見ていた艦娘は、自分たちの知らないつながりがあることを痛感していた。

 

 = = = = =

 

造船所の一部を艦娘用に改装された鎮守府。

設備は若干古いものの作業者用の施設を増設、流用することで艦娘たちにも過ごしやすくなっていた。

司令部用の建物は、地上は資材倉庫を改造し、窓が少ない。

主要部分は地下に建設され深海棲艦の強襲に耐えるほど強化されていた。

強化基準は、バンカーバスターの初撃に耐えるようにと要求され、そして実施された。

 

鎮守府側に提督と憲兵以外の男性は入れないという不文律があるが、艦娘たちが工廠側に立ち入っても咎められない。

 

他の鎮守府に比べて、寿退艦の多い鎮守府かもしれない。

 

 = = = = =

 

「中佐」

食器を洗う手を止めて、つぶやく間宮がいた。




鎮守府巡り、二ヵ所目です。

ここは、元々民間企業の造船所で、鎮守府が併設された後も引き続き
造船所として、稼働しています。


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第41話 立つ鳥、後始末を放置

中佐とつぶやく間宮

何か因縁でもあるのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「オーライ、オーライ、ハーイ、ストップ!」

 

ちょうど駐車場に居合わせた駆逐艦の誘導で駐車場にクルマを停める。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。

 えーと、提督になられたんですね」

わざわざ運転席に寄ってくる駆逐艦。

艦娘は、基本的に人懐っこいのが多い。

中には生巡みたいのはいるが、人見知りの裏返しだったりする。

 

「おー、ご苦労、ご苦労。

 しかし、無防備すぎるのは、いただけないな」

俺は、軍用車から降りて、懐かしい顔に話しかける。

 

「はぁ?」

駆逐艦は、俺の言葉にきょとんとしていた。

 

「こういうことだよっ!」

俺は艦娘をひょいと肩に担ぎあげてみる。

 

「きゃーーー!」

叫び声をあげる駆逐艦。

セクハラ男に担がれたことに叫んだのでなく、スカートが捲れて丸出しになったからだった。

 

≪何!どうかしたの!≫

叫び声を聞いて、周りに鎮守府(ここ)の艦娘たちが集まってきた。

「あーーー! セクハラ少佐だ、中佐になったんだっけ?」

「誰か憲兵さんを呼んできて」

 

「撃っちゃえ撃っちゃえ」

「だめだよ!吹雪ちゃんに当たっちゃうよ!」

人数が増えた分だけ、騒ぎが大きくなってくる。

 

「ま、間宮さん、早く逃げないと」

「・・・・間宮さん、ですよ・・ね」

間宮がいるのに気が付いた艦娘たちは、途中から違和感を感じたようだ。

「わたしは、ここの給糧艦じゃないですよ」

穏やかに微笑みながら、間宮が言った。

 

「で、でも、早く逃げてください。

 コイツってば、酷い男なんだから!」

ここの眼鏡が言い切った。

「そ、そう思いますか!」

意外にもウチの眼鏡が同調した。

 

「中佐、誤解、解かなかったの?」

「貴官、俺がそんなめんどくさいことをすると思うか?

 それに誤解じゃねえから」

俺の言葉を聞いて、中尉は呆れ顔でこめかみに指をあてた。

 

「何の騒ぎだ?」

「提督!たらし野郎です!」

「たらし野郎?」

壮年らしい落ち着いた声にここの眼鏡が答えていた。

 

「小官ですよ、たぶん」

俺は、答えながら、駆逐艦を肩から降ろす。

「おぉー、貴様か!」

「お久しぶりです」

俺は軽く敬礼をした後に声の主に右手を差し出す。

 

≪パシッ≫

俺は、飛んできた拳を手のひらで受け止めた。

 

「貴様、よく顔が出せたな」

壮年男性がにやりと笑う。

「恩着せがましいのが、俺の性分ですからね」

 

「そうよ、そうよ、あんな思いをさせてくれたのに。

 この偽善者!わたしの心を返し・・・・」

言葉の途中で口を押えたここの眼鏡が走り去っていった。

 

「なかなか、状況は厳しいぞ。

 アハハハ」

「潜入している間は、先任提督の腰ぎんちゃくとして手あたり次第でしたからね、キヒヒ」

 

「被害艦たちを呼びに行かせる。

 貴様は、執務室の方に来い」

提督は駆逐艦に短く指示を出し、ついてこいと首をくいっとした。

「はい、お邪魔します」

俺たちは、提督に誘われて歩き出す。

 

「ところで、今日は何の用だ」

「哨戒のお礼に上がりました」

早速用件を聞かれたので、俺は正直に答えた。

 

「なんだ、気持ち悪いな」

「下心があるのは承知で受け取ってください」

提督の手厳しい言葉は慣れてるが、ここは押し通す。

 

「実際、ウチはまだ十全稼働できないんで感謝してるんですよ」

「貴官のそういうところは、律儀だな」

「人間にはね」

「中佐は嘘が下手過ぎだよ」

中尉が提督との会話に割り込んできた。

 

「嘘じゃねえよ。

 艦娘たちへの態度で判るだろ?

 後ろのふたりに聞いてみろよ」

「へぇー、いいのかなぁ?」

 

中尉は、ニヤニヤしながら、ついてきている間宮と眼鏡の方を見た。

目を合わせないようにするふたり。

「ほらね?」

「何が【ほらね】だよ。

 酷い目に遭うのを嫌がって、証言を拒否してるだろ」

「ふーん。

 そうなんだ、ニヒヒ」

中尉は、なんとなく嬉しそうに笑った。

 

執務室に招き入れられた。

質実剛健といった執務室。

先任の時とは、趣が変わっていた。

「思い切った模様替えをしたんですね」

世間話の延長で、内装の感想を言ってみた。

「まあな。

 前のままだと思い出す艦娘もいるだろう。

 聞いたところじゃ、概ね貴様がやらかしたことみたいだがな」

「キヒヒ、まあ、そうでしょうね」

「ったく。

 重罪人だな。

 立ち話もなんだ、座って寛げ。

 君たちも好きなところに掛けたまえ」

提督が全員座るように勧めてくれたので、座って被害艦(・・・)を待つことにした。




少佐時代にやらかしていたようです。

ブラックなことに間違いありません。


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第42話 消さなかった過去

被害者たちを執務室で待つ提督たち。

追及を免れることはできないかもしれません。

彼を応援してくださいね。




活動報告でお知らせしたのですが、
表示されていないので、ここで前説。

登場した艦娘が判別しにくいとのご指摘。

ごめんなさい。

以下、思惑(言い訳?)を書きます。

着任した鎮守府での艦娘との関係を混同させないため、
この時点では意図的に他の鎮守府に所属する艦名は伏せています。
話が進むと間宮や大淀みたいに同艦同士を会話をさせたり、
艦名をはっきりさせる予定です。

追加
自分で時系列を思い違いしてました。
こそっと訂正してます。


≪コンコン≫

「入れ」

 

≪カチャ≫

「お茶をお持ちしました」

 

声の主は、この鎮守府の間宮。

ワゴンを押して入ってきた。

 

「ああ、ご苦労さま。

 よろしく頼む」

「はい」

 

「少将は優しいかい?」

俺は、今もう一人の間宮に語り掛けた。

「はい。

 よくしてくれます」

「それは良かった」

 

「貴様に心配されるのは、心外だぞ」

「後任として、参謀本部で具申したのは俺ですからね、心配はしますよ」

先任の提督を失脚させ、当時参謀職だった少将を提督に具申したのは俺。

ふたりの会話の横で、微笑みながらお茶を淹れる間宮だった。

 

「あ、わたしもお手伝いします」

「今は、お客さまですから、ゆっくりしてくださいな」

ウチの間宮の申し出をここの間宮が退ける。

 

「中佐、にやけてない?」

「中尉、それを言うなら、少将に言ってくれ。

 間宮のせいで顔が緩みきってるから」

俺を揶揄おうとする中尉。

いつの間にか、やり取りが参謀本部に所属していた頃に戻っていた。

その横でふたりの間宮が頬を染めていた。

 

 = = = = =

 

≪大淀、他入ります!≫

「入れ」

 

≪≪失礼します!≫≫

入室の挨拶の後、数人の艦娘たちが執務室に入ってきた。

 

「おー、久しぶりだな、クヒヒ」

俺の軽口に艦娘たちは、様々な反応を返してきた。

 

「お前、良く(つら)出せたな。

 オレは・・・・忘れてねえぞ!」

「わたし、約束守ってます!」

「あ、あの、このあと時間はありますか?」

「撃ちます、撃っちゃいます」

「中佐、昇進おめでとうございます。

 それと提督就任も・・・・ここじゃないのですね」

「あ、後で決着つけるから。

 今度は、先に・・キャッ」

久々に顔を見た艦娘たちは血色が良すぎるのか、顔が少し赤いみたいだった。

 

「オイオイ、何してんだよ」

少将は事情を知っていても呆れていた。

「おっかしいなぁ。

 主に嫌がらせのはずなんですが」

 

俺は、理解の枠から外れた光景を見ていた。

艦娘たちの言葉は様々なのだが、誰からも怒気を感じない。

「中佐、どんな嫌がらせだったの?」

「セクハラ。

 先任には酒飲ませて泥酔させ、艦娘が安心したところを片っ端から」

「うわー、ドン引きだわ」

身を引く中尉。

 

「選り取り見取りだったぞ、クヒヒ。

 駆逐艦なんか、そりゃぁ嫌がってな、泣きながら痙攣まで、うぉ!イテテテ」

中尉が跳んだと思ったら、気が付くと、俺はテーブルに顔を押し付けられ関節を決められていた。

 

「みんな、コイツに文句があるなら、ぶん殴っていいよ。

 参謀本部次長(中将・父)に話は通してあげるから」

中尉の親父さんは、総長の定年退官を以って総長に昇進予定で多少のことは、もみ消しができる立場にある。

 

「お、おう。

 まあ、オレ的には、サシで勝負したいかな」

「わたしは、約束を守ってもらえれば・・・」

「この後、お話しできれば」

「撃っちゃダメ?≪≪ダメ≫≫じゃあ、撃って≪≪もっとダメ≫≫」

「鎮守府に提督がおふたりってダメなんでしょうか?」

「決着はふたりっきりじゃないと、はずかし・・・・キャッ」

中尉は、艦娘たちの様子を見て、想像以上の<何>があったと判った。

 

「中佐、今後セクハラは自重してください。

 『賑やかのは嫌いじゃないけど』」

中尉の言葉は、後半小声で聞き取れなかった。

「え?に、何だって? イテテテ」

俺が質問すると中尉は関節を捩じってきた。

(これって虐待だろ)

俺は思いはしたが、言葉にしなかった。

これ以上、痛いのは遠慮したいから。

 

「コホン、中尉。

 中佐を開放してやってくれ。

 手段を選ぶなと許可したのは、参謀本部なんでな」

「え? じゃあ、参謀総長まで知ってるの」

「まあ、細かい報告は知らないだろう。

 先任が戦闘艦にしでかしたと報告された内容のおおよそのところはな。

 ・・・・そういうことだ」

≪ゴリッ≫

「高級軍人って不潔よーーー!」

中尉は、中佐の肩を変な音で鳴らし、執務室から飛び出していった。

 

≪≪中佐!大丈夫ですか!≫≫

「中佐を医務室に運んでやってくれ」

少将はヤレヤレとばかりに中尉の飛び出していったドアを見ていた。




意外と初心(うぶ)だったのは、中尉でした。

被害艦たち、被害甚大でした。
その復讐は、物理的攻撃で体液を体外に流させるのが目的になっているようです。


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第43話 通じ合う同艦

医務室に担ぎ込まれた提督

肩は大丈夫でしょうか?

彼を応援してくださいね。


≪≪中佐ァー≫≫

 

「ああー、やかましいぃ。

 耳元で騒ぐんじゃねえよ。

 解体申請出すぞ」

俺は、縋りつく艦娘たちにベットに押さえつけられるままで文句を言う。

万全の艦娘たちは、人間が抗えるところではない。

彼女たちの自己抑制の上に、安全が担保されているに過ぎない。

 

「テメェ、かわいくねぇなぁ。

 だったら、オレと勝負しやがれ」

ここの生(意気)巡(洋艦)が腕まくりをして、肩を怒らせる。

「ほー、いいぞ。

 じゃあ、お前が上な」

「バ、バカ野郎! そんな勝負じゃねえよ!

 (それにみんな見てるじゃねえか)」

生巡が顔を赤くして後退(ずさ)りする。

 

「はいはい、じゃあ、わたしと交代。

 中佐、決着つけますからね。

 覚悟してください。」

ここの眼鏡が、チロリと舌を見せるとモソモソと掛けシーツの下に潜り込んでくる。

「な、何するのよ。

 ちょっとわたしの(・・・・)提督から離れなさいよ!」

ウチの眼鏡が、掛けシーツからつき出たスケベスカートの下半身に掴みかかり引きずり出した。

 

「ちょっと、邪魔しないで。

 こっちが先約なんだから!」

「先約も何も、わたしの提督なんですから!」

「な! 中佐! どういうことですか!」

ここの眼鏡が照準を俺に向けてきた。

「俺も鎮守府を預かる身だからな」

俺は、当たり前に答える。

 

「・・・・交代よ。

 あなたと私が交代すればいいの。

 同艦だから問題ないわ」

「勝手に決めないで。

 提督は【お前は俺のモノだ】って言ってくれたのよ。

 これは、命令だから逆らえないわ」

眼鏡同士が、言い争いが続くのだった。

 

 = = = = =

 

医務室の中、ベットから離れたところに立つふたりの間宮。

(ちゅう)、提督は意地悪でしょう?」

「ええ、もう何度も蹴られたり、なじられたりされています」

「それは、酷い。

 あの人ったら、相変わらずなのね」

「フフ、変わっていなくて、安心した?」

「何を言っているの?」

意味ありげに会話するふたりの間宮。

 

「・・・・わたしのことは、気にしないで」

「そうはいかないわ。

 むしろ、酷くされた分、遠慮しなくていいのよ」

「膝に座ったときに何も(・・)されなかったの」

「心臓の音を聞いたんでしょ?」

「どうしてそれを」

「同艦だからかな」

「フフ、変わっていないのね」

「そう、意地悪な(ヒト)

 

しばし微笑み合い、騒がしいベットに目を向ける。

 

 = = = = =

 

(ちゅう)、提督、肩は大丈夫なんですか?」

俺のセクハラで、泣いて痙攣までしていた駆逐艦は心配そうに聞いてくる。

「おー、大丈夫だ。

 音には俺も驚いたが、ずれてた関節が嵌ったようだ。

 違和感は古傷のせいだと思っていたのが、軽くなったからな」

俺は駆逐艦に肩を回して見せる。

「よかったー」

「そんなので喜ぶなよ。

 俺みたいな悪党を心配する暇があったら、訓練しろ。

 解体するぞ」

俺は、横でかがむ吹雪の頭をわしゃわしゃと撫でる。

駆逐艦は、目を細めてされるがままだった。

髪型を乱される精神的苦痛に耐えているのを承知で嫌がらせを続けてやった。

 

「中佐、もうダメです」

いつの間にか近くにいた中尉に腕を抱えられ、作業は中断した。

「あ、あの中尉どの、わたしはー」

「ダメよ」

「ヒッ」

駆逐艦は、中尉に何かを言おうとするも中尉の威圧に負けて短く悲鳴を上げてしまった。

 

「ヤレヤレ、お前らより深海棲艦の方が気楽に付き合えそうだ」

一部始終を見ていた少将は、呆れながらも笑って言った。

 

「中尉、少将が呆れてるから、自重し給え」

「中佐、冗談が過ぎるとグーで殴りますよ」

中尉の言葉で、艦娘たちが観艦式並みに見事なウンウンと頷いてみせた。




ウーム、ブラックで書いているのにピンク?


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第44話 ブラック提督、帰るカッコカリ

眼鏡がもめたのはなぜでしょう?

間宮はドMでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「吹雪、くすぐりには慣れたのか?」

「はい、もう泣いたりしません。

 中佐のは、すごかったんですよ」

「そうか、チッ、つまらんヤツだ」

「ヒドイです、中佐」

「セクハラの楽しみが減ったじゃねえか」

「じゃ、じゃあ、巡洋艦の皆さんみたいに胸・・痛い」

一人前のことを言いかけた駆逐艦のデコに容赦ない手刀を打ち込む。

 

「そういうことは、好きになったヤツに頼め。

 駆逐艦のくせに」

『だってぇー』

生意気になりつつある駆逐艦は、小声で口答えしてきたが、聞こえないふりをした。

 

 = = = = =

 

鎮守府に帰投の支度をして、駐車場で見送りを受けていた。

「少将、今度はこっちに来てください。

 上玉を用意しておきますから」

「おう、用意はいらんが、邪魔はしに行く」

少将と別れの挨拶を交わす。

 

≪≪中佐≫≫

居並ぶ被害艦らと見知った艦娘らの言葉が重なった。

「二度と来るなってんだろ。

 もう俺の鎮守府があるから心配するな。

 そっちを可愛がるからよ、キヒヒ」

 

生巡が一歩踏み出してきて拳を突き出してくる。

「何言いやがる、勝負がついてないから絶対来いよ。

 オレ待ってるか・・ら・・・・」

生巡がなぜか泣き出した。

「何、子供みたいに泣いてんだよ」

「泣いてなんかねぇよ。

 目にゴミが入ったんだよ」

 

≪≪中佐!≫≫

艦娘たちが一斉に襲い掛かってきた。

下敷きになった俺は、その重さ圧迫され気を失った。

 

 = = = = =

 

「ウッ、痛ってー」

「気が付いた?」

声の方にハンドルを握る中尉がいた。

俺はというと背もたれを倒した助手席に座らされていた。

シートベルトの締まりがやけに痛みとなって響く。

 

「肋骨にヒビが入ってるかも」

「くっそー、艦娘(あいつ)ら、こんな仕返しを用意してやがったのか!」

「中佐、そのうち殺されるよ」

「まあ、ブラックは自覚あるからな。

 覚悟はしてるさ」

「解ってないなぁ。

 タンクが空っぽになっちゃうって意味なのに」

「なんだソレ?」

中尉は時々意味不明なことを言うので深くは考えないでいいだろ。

 

「眼鏡、間宮、居るか?」

「「はい」」

後部座席から返事があった。

 

「なんだ、あのまま、あっちに転属を願えば、少将なら相談に乗ってくれただろうに」

「そうですね、でも、わたしは提督のモノですから」

「わたしは給糧艦として、提督の許にいないといけませんから」

「お前ら、本当にバカ艦だな」

「「はい、バカですよ」」

コイツら開き直りやがった。

 

 = = = = =

 

「中尉、鎮守府(ウチ)で飯でもどうだ?」

「あら、いいのですか?

 お邪魔じゃありませんこと?」

「お前、何か企んでるのか?」

「いいえー。

 ただ、馬に蹴られたくないと思っているだけですぅ」

「その例えはおかしくないか?」

「どうですかねぇ」

中尉の声は、楽しそうだった。

 

「中尉、ぜひ寄って行ってください。

 手によりをかけますから」

「中尉、この提督((ゲス))の過去をおしえてください」

「ありがと、間宮。

 大淀、任せてよ」

女性士官と艦娘、女どもが結託した瞬間だった。

 

(マズイ、これに鎮守府の艦娘たちが合流したら、クーデターも起きかねない)

背中にじっとりと汗をかいている自分に気が付いた。

 

「中尉、実は用事を思い出してな」

「じゃあ、急ぎましょうか」

「いや、途中で降ろしてくれたらいいから」

「中佐、水臭いこと言わないでくださいよぉ。

 今、シフトチェンジを繰り返してもいいと思っているくらいなんですから」

そういうと中尉は、俺の腹の上でシフトチェンジの仕草をしてみせた。

「言っている意味が解らん」

 

「フフ。

 ・・・・中佐って、まだまだ子供ですね」

「貴官に言われたくないであります」

俺はその時、子供というキーワードで致命的なことに気が付いた。

財布の中身がほとんどないことを思い出したのだ。

艦娘の服を買ったとき、クレジットカードを忘れていた。

現金で支払って子供の小遣い程度の所持金しか財布に残らなかった。

 

抗うすべを失っていた俺は、俺の鎮守府に戻るしかなかった。

俺の運命は誰も知らない。




提督、ブラックを自覚してから最大の危機です。

「悪が栄えた試し無し」かな?


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第45話 ブラック鎮守府

艦娘たちに気絶させられる提督。

わけのわからない中尉。

彼を応援してくださいね。


軍用車を降りた中尉の開口一番。

「中佐の鎮守府って、思ってたよりボロい」

中尉は俺に関わることは、歯に衣を着せない。

 

「本当のこと言うなよ。

 先任の横領が深刻だったんだからな。

 俺が厨房と風呂を掃除したくらいだ」

中尉の目つきがジトッとなった。

 

「どうしてお風呂優先なんですか?」

「ここの連中が汚くて臭かったんだぞ。

 洗濯機も売られて無くなってたから、俺が買う羽目になったし」

「なんだかんだ言って、艦娘ちゃんたちを大事にするのは変わってませんね」

中尉が、またわけのわからないことを言い出した。

 

「何言ってんだ、殴る蹴る、罵声を浴びせ放題だ。

 本番は、これからだ、これから。

 あんなことやこんなこと、色々楽しませて貰わねえとな、キヒヒ」

「少将の鎮守府と同じようなことなんでしょ?」

「よき理解者だな」

「はぁぁーーーー。

 まあね、わたしとしては、それくらいわからないとね」

中尉が大きなため息の後、自慢げにフンスと鼻を鳴らす。

 

「何なら中尉にもさせたり、してやろうか、クヒヒ」

「え、そんな」

脅しが効いたのか、中尉は怯えたように縮こまって、頬を染めている。

 

「中佐、ケガをするプレイだけは、やめてね」

「なんだ、プレイって。

 される側が同意した和姦みたいに言うな」

中尉とのこの手の話は、どこかズレて困る。

 

「早速食堂に案内するわ」

俺は先頭をを歩き出す。

 

「小官は、提督の私室を希望するであります」

中尉は姿勢を正し敬礼をしながら言い放った。

 

「あー、私室はなぁ。

 窓ガラスが割れてるし、まだ手付かずでな」

「ふーん。

 そんなに見られたくないんですね」

上目遣いと言えばかわいいが、中尉の場合、下から睨みつけてくる。

 

「なぜそうなる?

 まあいいか、今更何かが変わるわけじゃないしな。

 間宮、夕飯の用意をしてくれ」

「提督も召し上がるんですか?」

指示された間宮が、不安そうに聞いてくる。

 

「客人が来たのに俺が食わないで済ますわけねえだろ。

 ・・・・違うか、俺がいない方が団らんになイッテーーーーッ!!」

言い終わる前に中尉が足の甲を踏みつけてきた。

 

「何すんだ!

 お前、ローヒールでも痛いわ」

「今すぐ間宮に謝れ!

 鈍感にもほどがあるわ!」

これほど意味不明の言いがかりは、初めてだった。

 

大人げなくも流せなかった。

「お前に何が判るんだ。

 こいつらは、艦娘ってだけで命がけで戦わされるんだぞ。

 それをいとも簡単に命令するのが提督だ。

 今それが俺っていう最低のゲスがやってるんだ。

 顔を合わせず、声も聞かないなら、それに越したことはねえだろが!」

 

言ってしまった。

いつも心にしまっていたことを口にした。

 

 = = = = =

 

艦娘に慕われる提督は、彼女らの身を案じ、そして(いたわ)っている。

おそらく良心の呵責に押しつぶされそうになりながら、彼女らとともに戦っているだろう。

 

俺はそんなに立派じゃない。

たった一人の戦艦を庇いきれず、逆に彼女に助けられ、彼女は轟沈(死んだ)

あの時、俺は知った。

俺は、自分のことで手一杯の卑怯な無能者でしかなかったのだ。

 

背中の古傷が痛み出す。

 

頭から離れない最後の言葉。

「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの」

単艦で特攻していった彼女の爆炎が水平線に巻きあがるのが見えた。

ズタボロの俺は、気を失った。




艦娘に嫌われることが気にならない提督

戦艦を犠牲にして生き延びたようです。


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第46話 ブラックな思い出

思わず本音を漏らした提督

行き違いが何をもたらすか

彼を応援してくださいね。


「中尉殿、昔の提督をご存じなんですか?」

「よく知ってるっぽい?」

「他の鎮守府でも同じなんですか?」

珍客に興味津々提督の過去を質問する艦娘たち。

 

「はいはい、中佐のことは知ってること教えてあげるよぉ。

 まずはぁ、好みのタイプだけどぉ、見境ない」

≪≪えーーーーー!≫≫

「それから----」

中尉の言葉を聞き洩らさないように艦娘たちは集中する。

その中に耳を象のようにしている数隻の艦娘が混じっていた。

 

 = = = = =

 

世界は軍縮に向かっていた。

 

俺は、卒業すると大佐まで出世できると噂されていた海軍兵学校を卒業した。

そのまま海軍で過ごしていた。

たまたま御召艦への乗艦勤務がきっかけで、中将(現元帥)に目をつけられた。

そのころは、まだ初心だった俺は、陛下をお迎えする準備のとき、水兵たちを励ましながら、率先して甲板掃除をしていたのが気に入ったとされている。

 

そのまま何もなければ、中佐うまくいけば大佐で退役。

軍人恩給で余生が送れるはずだった。

 

ある日、生体兵器の開発と同時期に現れた深海棲艦で、戦争ではない情勢に世界は変化した。

 

従来の兵器では、海上交通路(シーレーン)の安全を維持できなくなった。

獲物に襲い掛かる狼の群のような攻撃になすすべもなく艦船が沈められる。

 

対艦ミサイルでは、深海棲艦は的には小さ過ぎ、艦砲では砲塔旋回が追い付かず、それ以上に回避され、通用しなかった。

航空兵力も侮れず、艦艇用近接防御火器システム(CIWS)(ゴールキーパー)の弾幕もすり抜けられてしまい役に立たなかった。

 

新たな軍事ドクトリンが構築され、投入されたのが生体兵器<艦娘>たちだった。

彼女たちは、同格の深海棲艦と渡り合うことができ、出没した敵兵力を押し返すことができた。

 

艦娘たちを運用できる思考の柔軟さが求められ、海軍組織に否応なしに変革がもたらされた。

 

海岸線に深海棲艦が来襲し、地上にも被害がもたらされるようになってくると各地に大小の鎮守府が建設され、提督が任命されるようになった。

艦娘と言っても、人の思考をすること、1体あたりのコストから、例外があるものの将官クラスが提督(鎮守府司令官)を務めていた。

 

俺が実家に帰っていた時、その町が深海棲艦の襲撃に曝された。

攻撃を防げるわけではなかったが、海に駆け付けできる限り海軍への状況報告を試みた。

 

目の前に海へ視線を向けて立つ少女がいた。

そこに深海棲艦の航空機が来襲する。

咄嗟に少女に飛びつき庇う。

 

背中に衝撃が走り、撃たれたことを自覚した。

艦娘開発の副産物で機銃程度は防ぎきる制服は開発されていて、頭部に被弾しなかったおかげで助かった。

しかし、次に聞こえてきたサイレンに似た音で、血が凍った。

急降下爆撃の咆哮は、正確に向かってきた。

一発の爆弾でも被弾すると制服は耐えきれず、生身の人間では肉が裂けるだろう。

 

運悪く、いや今では、感心してもいいくらい正確な爆撃で肉が裂けるだけで済んだ。

「こ、こは、危険、だ。

 早、く、逃げる・・んだ」

痛みを感じなかった代わりに、意識が混濁し、ひどく寒い。

彼女は自分の上から、俺を静かに横に降ろし俺の手を取り、自分の頬の当てた。

 

「ごめんなさい。

 わたしが、もう少し早く艤装を展開していれば、こんなことには」

そういうと俺の手を静かに置くと立ち上がって艤装を展開してみせた。

対空機銃で航空機を追い払う。

 

そして、彼女は海に目を向けた。

彼女は、俺を見ようとしなかった。

「行、く、な。

 きゅう、えんを、待とう。

 きゅう、え、ん」

俺は、身体の自由が利かなくなっていた。

彼女は、反応しなかった。

 

「い、くな」

「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの」

彼女の言葉に、迷いは無かった。

彼女は、颯爽と敵に立ち向かう。

 

単艦で特攻していった彼女の爆炎が水平線に巻きあがるのが見えた。




ブラックな思い出でした。

艦娘は、自分が囮になることを選びました。

「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの」


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第47話 前線ハ食堂ニ移動セリ

ちょっと自分勝手な世界観を設定しています。

中尉から艦娘たちは、情報を得ました。

彼を応援してくださいね。


俺は、食堂の入口の前で深呼吸している。

うっかり心にしまっていたことを口走ったため、いたたまれなくなって私室に逃げ込む。

しかし、覚悟を決め、転身してここに立つ。

 

何人かは、聞いていたはず。

 

顔を合わせず、声を聞かないのがマシだと言い切った俺が、ノコノコ食堂に顔を出す。

厚顔無恥というか、無神経というか、情けない話だ。

 

情けないのは自覚しているが、恥はかきたくないという我儘には自信がある。

 

もう一度深呼吸。

≪ガラッ≫

「きゃ、てーとく。

 あー、びっくりしたぁ。

 中尉がお待ちですよ」

(眼鏡よ、俺の方が、突然戸が開いたことで、心臓がバクバク鳴っているぞ)

 

「中佐、みんなに【待て】ってしておいたから」

「おう、そうか。

 よき理解者だな」

「フフン。

 それくらい気が利かないと、良き妻にはなれませんからね」

ふんすと鼻を鳴らす中尉。

 

覚悟を決めて食堂に入る。

見回すと満員で、机が一つ空席になっていた。

その机を指さす中尉が、手招きしている。

元はと言えば、俺が誘ったので、当たり前に中尉の隣に座る。

 

「中佐、ふたりきりで食べる?わたしは、誰か同席して欲しいな」

中尉は、コクンと首を傾げて覗き込んでくる。

 

「そうだな。

 大食いの4人、同席しろ」

この人選には、思惑があった。

間宮が料理を作るのには限界がある。

人数を絞り込んだうえで、皆がお預け状態で、先に食事をするという特別待遇。

依怙贔屓をして、艦娘を平等に扱わないと見えるだろう。

 

大食いたちは、駆逐艦たちを大事に思っている。

俺と同席するよりは、後で、駆逐艦たちと食事をする方が嬉しいはず。

(今までに勘違いしているヤツがいても【騙されるところだった】と思うだろう)

 

俺への信頼の目を摘んでおくのに好手と言える。

 

 = = = = =

 

『中尉殿の言ったとおりだ』

『提督、優しいっぽい』

『いくら間宮さんでも一度にたくさん作れないもんね』

艦娘たちは、中尉からの事前情報で状況を理解した。

 

≪くーーー≫

誰かの腹の虫が鳴った。

「おいおい、客の前でみっともないヤツがいるなぁー。

 解体してやろうか?」

「すまん、わたしだ。

 久しぶりにお粥以外を食べられるので、つい、な」

戦艦が、手を挙げて白状してきた。

「なんだよ、皆がお預け状態なのに待ち遠しいのかよ」

素直な態度が気になったので、嫌味を混ぜて言ってやった。

「提督が初めて食堂(ここ)で間宮さんの料理を食をするのだ。

 喜んで、鎮守府の艦娘を代表して同席させていただく」

(そう来たか。

 戦艦(あっち)もいろいろな提督の相手をしてきたんだ。

 やり返す方法を心得てるってことか)

 

「間宮、遅いぞ。

 俺は執務室に戻るからな」

「そうはいかない」

「だぞ」

隣りに座るサイドテールの正規空母に腕を掴まれ、中尉にも肘の関節を抑えられ痛い。

(俺は、この席に誘導されたのか!)

動けないところに間宮が人数分を料理を持ってきた。

 

「わー、美味しそう」

中尉が子供みたいに喜んでいた。

「中尉どのリクエストのハンバーグです。

 召し上がってくださいね」

その言葉は、なぜか俺に向けられているように聞こえた。

間宮は、微笑んでいた。

 

≪≪いただきます!≫≫

俺も腕を解放されて、おとなしく食事をすることにした。

目の前のハンバーグは、掛け値なしに美味そうだ。

 

「うん、美味い」

思わず言ってしまった。

 

厨房に戻って支度をしている間宮が泣いているのを数人の艦娘たちが目撃した。

 

 = = = = =

 

「ごちそうさまでした。

 間宮、また来るから、お願いしていいかな」

「はい、喜んで」

食事を終えた中尉は、間宮に次の約束を取り付けていた。

 

「仕事、さぼるなよ。

 次来たら、これがないと食わせないからな」

そういって、俺は中尉に食券を渡す。

「中佐、ナニコレ?」

「食券だよ。

 これを出さないヤツは、元帥でもダメだからな」

「えー、ケチー」

「今、財政立て直し中で、本当なら有償だが、特別に俺のおごりだ。

 ありがたく思え。

 間宮、食券の無い部外者には、飯出すなよ」

俺はブラックでケチだ。




中尉の提督への理解は、相当なものでした。


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第48話 送られ狼

提督は、ばれていないと思っています。

間抜けなのに提督やってます。

彼を応援してくださいね。


「そろそろ送って行こう」

「えー、今日泊って行くー。

 みんなとお話ししたいよぉ」

「中尉、外泊は、中将に迷惑がかかるぞ」

 

「それを言われると考えちゃうなぁ。

 中佐、わたしを誘拐したことにしない?」

(コイツ、とんでもないことを言いやがる)

「じゃあ、艦娘の誰かが拉致したことにするか。

 犯人役は、解体になるけどな」

見回すと駆逐艦は身を寄せ合って視線から逃れようとしている。

 

「仕方ないかぁ」

「仕方ないのかよ!」

 

 = = = = =

 

「中佐、これから予定ある?」

「どうした、寄り道か?」

夜の湾岸道路を走行(はし)らせていた時だった。

 

「うーん、小官、疲れたからどこかで休憩、痛い!」

俺は、助手席の中尉の側頭部に手刀を打ち込んでいた。

 

「もう、中将(パパ)に言いつけてやる!」

中尉が、プンプンとわざとらしくふくれてみせてくる。

 

「俺から中将に叱ってもらうように電話するわ!」

「それは勘弁」

年頃の娘の悪ふざけにしては度が過ぎる。

他に誰かが居たら、ここまでではないのだが。

 

「中佐、結婚しないの?」

「相手が居れば、結婚するんだがな。

 見てくれが大したことない上に、甲斐性もないしな。

 出会いにも事を欠くありさまだ。

 てか、貴官、抉るようなこと聞くなよ」

「そうか。

 相手、もういないのか。

 クフ」

 

どこか嬉しそうな中尉に大人げなくムカついた。

「なんだよ。

 嬉しそうに」

「仕方ないなー。

 わたしがもらってあげる」

「まるでイヌ・ネコ扱いだな」

(中将のところでは、そういう認識なのだろうか?)

 

「違うよ。

 継いで欲しいんだって」

「誰が?」

中将(パパ)

「何を」

「ウチの家系」

「貴官には、軍医の兄弟がいたと思うが?」

「軍人の息子が欲しいんだって。

 わたしもそろそろ寿退役(ケッコン)したいなって」

中尉は、キャッと照れながら顔を隠す。

その仕草は、容姿にふさわしく女らしい

 

「そうか。

 他所を当たってくれ」

「どうしてよぉ」

「もうすぐ到着だからだ。

 与太話もおしまい」

軍区統括鎮守府がもう目と鼻の先。

 

「与太話って」

「中将の話が出た時点で判るって、キヒヒ」

「・・・・バレてたのね。

 もうちょっと、乗り気になってくれてもいいじゃない。

 プンプン」

「現実味のない話に乗り気も何もないだろう」

 

鎮守府の通用門脇にクルマを停める。

「めんどくさいから、ここまでな」

「部屋まで送ってよぉ」

「入府手続きのハードルを上げてどうすんだよ。

 ほら、行け」

中尉を降車するように促す。

 

「はーい。

 じゃ、またね」

中尉は、クルマを降りると小さく手を振ってきた。

 

「おう。

 ジムに顔を出すわ」

俺は手のひらをヒラヒラさせて返した。

 

≪バンッ≫

中尉が軍用車のドアを閉める。

その音は、結構響いた。

その音を確認しようと通用門の詰め所から憲兵が覗いてきた。

 

サーチライトが軍用車を照らし出した。

 

詰め所の中で憲兵が電話で何かを話していた。

サーチライトが興味を失くしたように、周辺を探り始める。

 

中尉が入門するのを見届けて、クルマを出発させた。

 

 = = = = =

 

「中尉殿って、気さくな方でしたね」

「偉い人がパパっぽい」

「スタイルもよかった」

 

「てーとくのこと、良く知っていましたね」

「ふん、胸はオレの方が大きいけどな」

「胸が大きい方が好みかどうかは、わからないぞ」

戦艦の一言が、艦娘たちの心に少なからず動揺を与えた瞬間だった。




たびたび話に出てくる中将。

海軍は、主流の穏健派と過激派に分裂しかかっています。

元帥、中将は穏健派。

上級大将、大将は過激派。


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第2章
第1話 哨戒任務再開


ブラック鎮守府も通常任務に戻ります。

いよいよ提督が食い散らかします。

彼を応援してくださいね。


鎮守府の機能が回復すると視界の中にちっこいのが現れ始めた。

正確にいうと見え始めたというのが正しいか。

 

ちっこいのは身体が透けて、触っても、まだはっきりとした感触がない。

これから実体化するのだろう。

 

ブラックな鎮守府を除けば、鎮守府なら必ず見ることのできる妖精たち。

なぜ俺の鎮守府で見え始めたのか?

 

 = = = = =

 

「おい、正規空母」

俺の声で正規空母が振り返る。

「「はい」」

サイドテールの方に、じっと見られる。

(おっ、なかなか反抗的な目だな。

 解体してやろうか)

 

「あのちっこいのは、航空兵力もいるんだろ。

 お前らのところで、何チビ居る?」

その問いが意外だったのか、正規空母のふたりは、慌てて、お互いの状況を確認している。

 

答えが出たらしい。

人当たりの柔らかそうな方の正規空母が答えてきた。

「稼働率が低くて、60ほどです」

「そうか、それは低いな。

 まあいい、3機編成で6編隊、予備待機1編隊で哨戒開始しろ。

 おっと、飛ぶ連中は、発進前に俺の私室に持ってこい、クヒヒ」

 

「あの子たちに何を」

「知らない方がいいぜ、キヒヒ。

 日が暮れちまうぞ、さっさとしろ」

 

 = = = = =

 

航空兵力の妖精たちを正規空母が連れてきた。

私室に()れるように言って、正規空母は廊下で待たせておく。

 

「よく来た、チビども」

妖精たちは、一斉に俺を睨み、殺意を向けてくる。

正規空母が薄い粥しか食えなかった元凶の俺が偉そうにしているわけだから、そうなるのは当たり前。

 

「いいのかぁ。

 まだ充分な補給がないから、燃料節約してやろうか」

妖精たちが青ざめる。

 

燃料の備蓄は、事実少ない。

この鎮守府は、いびつなスペードのような境界線の海域哨戒を分担していた。

剣先部分は重要で、深海棲艦の侵入を許すと他の鎮守府の死角に回り込まれてしまう。

しかし、哨戒飛行となると、航続距離ギリギリでもある。

妖精たちは板挟みになった状況を理解しているようだった。

 

「フヒッ。

 俺は、お前らがどうなろうと気にしねえ。

 成果がすべてだ、効率的じゃねえと評価が下がって困っちまう。

 じゃあ、1列に並べ」

 

ちょこまかと妖精たちが並んだ。

畳床に据えてある文机に置いてあったレジ袋を手に取り、列の前にいく。

俺は、その先頭の前に胡坐をかいた。

そして、レジ袋の中からミニチュアの巾着を取り出す。

「お前らに巾着(コレ)を預ける。

 拒否してもいいぞ」

先頭の妖精に手渡す。

 

「拒否した場合、正規空母に責任を取ってもらう。

 持って帰れなかったり、失くした場合も、責任はあいつらにな、キヒヒ。

 正規空母は、どっちも好みのタイプだぜ。

 いい声で鳴きそうだ、クヒヒ・・・・」

言い聞かせるように話し掛けながら、巾着を渡す。

 

巾着を渡し終わって、立ち上がり、制服のしわを伸ばす。

 

「状況は厳しいが、もはや我らに退路はない。

 今は粒粒辛苦せよ!」

俺は、敬礼で締める。

 

一変した提督の言葉に妖精たちは釣られて敬礼を返した。

少し感動した妖精もいるように見える光景だった。

 

「おっと忘れるところだった。

 お前らに渡したソレは、空母には黙ってろ。

 もし知られたら、俺が楽しんだ後で、空母を解体処分するからな」

妖精たちが一斉に上着の内側に巾着を押し込んだ。

 

正規空母を呼び入れると妖精たちがわらわらと空母を囲む。

「なんだったの?」

<ア>の付いた正規空母が妖精に話しかけた。

 

妖精たちが一斉に俺を見る。

 

俺は笑顔で応えた。




妖精たちに精神的プレッシャーを与えました。


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第2話 あまりに当て外れ

脅迫された妖精さん。

艦娘たちの試練再び。

彼を応援してくださいね。


朝食の後、状況開始前、体育館兼講堂は賑やかだった。

艦娘たちのユニホームの更新が始まった。

 

先任(くそ)がピンハネしていた艦娘たちの給料を大本営に補償してもらうことができた。

おかげでユニホームを一気に更新することになった。

 

艦娘たちに臨時収入ができたので、出入り業者にインナーも見繕って持ってきてもらう。

 

「写真を撮った人から、ユニホームを着替えてください。

 着古した衣類は、ランドリーバッグに入れてください」

古着姿の撮影と古着の回収をする眼鏡。

妖精たちも手伝い作業は進んでいく。

 

 = = = = =

 

「眼鏡、これで全部か?」

数個の大型のランドリーバッグを前にして確認する。

 

「はい」

【ジーーーー】

 

くたびれた下着をゴミ袋に放り込んでいく。

「うーん、やっぱりめぼしいのはないな」

ほとんど売り物にならないボロ布ばかりだった。

先任(くそ)の視野の狭さに呆れてしまう。

もう少し小綺麗にしとけば、目の保養になるだろうに。

 

「てーとく、何をなさっているんです」

「選別」

「何のですか?」

雑巾(ウエス)

「?」

「眼鏡、工作艦か妖精に聞いてみろ。

 こういう布地は、機械整備で機械油を拭いたり、ねじ穴にねじ込んでオイル漏れを止めたりするんだよ」

【ジーーーー】

眼鏡が疑いの目を向けてくる。

嘘じゃない。

俺は、兵学校時代の実習で見てきた。

 

「眼鏡、ちょっとこい」

「何ですか?」

ノコノコと無防備に近寄ってくる眼鏡。

 

「キャーーーー」

スケベスカートを一気にめくってみると眼鏡が悲鳴を上げた。

「お、眼鏡、それ脱げ」

眼鏡は、この間、買う羽目になったインナーを穿いていた。

 

「うーーーーー」

唸る眼鏡。

「また買ってやるから」

「えっ!本当ですか」

「おう、次から1週間穿き続けたら、取り換えろ」

≪ガッコン!≫

眼鏡が艤装を展開して、こちらに主砲を向けてきた。

 

 = = = = =

 

眼鏡が飯を食いに行った。

眼鏡の居ぬ間に古いユニホームの選別に取り掛かる。

 

どれもこれもじっくり見るとボロ布だった。

ほつれはかろうじてクリアしていても、汗ジミみたいな汚れがあったりする。

「不味いな。

 これじゃ、売り物にならねえんじゃねえか?

 あの店の商品、着古してても小綺麗だったりしたもんな。

 えーと?

 繕ったスカートが見あたらないな」

 

 = = = = =

 

食堂では、艦娘たちが新しいユニホームで盛り上がっていた。

 

眼鏡は、ある駆逐艦が一部古いままのユニホームを着ていることに気が付いた。

「吹雪さん、そのスカート」

「あ、大淀さん。

 まだ穿けますし、大事にしたいなぁって」

 

「・・・・」

「大淀さん?」

「いいなあ、いいなあ。

 いいなあ、いいなあ」

何かのスイッチの入った眼鏡。

 

(いいなあ、いいなあ)

こっちでもしゃもじを持った艦娘に何かのスイッチが入っていた。

 

 = = = = =

 

「なあ、頼むよ。

 お前たちなら、かけつぎとかできるんだろ?」

提督は、妖精に手当たり次第に頼み込んでいた。

 

「じゃあ、シミ抜きとかはどうだ?」

執拗に縋りつく提督。

もう恥も外聞も関係なかった。

当てにしていた副収入のその「当て」が外れていた。

 

「くっそー、これじゃ営舎のリニューアルの資金が・・・・

 いやいや、俺の遊興費ができねえじゃねえか」

戦艦ふたりが、すぐそばに立っていたことに気が付いた。




私腹を肥やす機会が先延ばしになった提督。


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第3話 ブラックさん

心にもないことをつぶやいた提督

戦艦ふたりに聞かれてしまったかもしれません。

彼を応援してくださいね。


軍用車(ポンコツ)を走らせる。

工作艦を懐柔できたせいか調子がいい。

 

工作艦には、ちょくちょくたこ焼きをワイロとして送っているのが功を奏したか。

そういえば、妖精たちが補助に入るようになって、作業が捗るようになったとか言っていたな。

その妖精たちだろう、ツナギを着たのが両肩に2チビづつ計4チビ乗っている。

 

鎮守府機能復旧の報告で、大本営に行った時、情報局に顔を出した時、参謀本部でも肩の妖精が女性に人気だった。

『お前たちを売りに出したら、儲かりそうだな』

うっかり漏らしたら、耳にしがみついたチビが頬に蹴りを入れてきた。

 

「窓から捨てるぞ!」

そこまではしないが、言ってみたら効果てきめん、おとなしく座った。

(逃げたり降りたりしないのかよ!)

どこかガキどもと似た行動だな。

 

 = = = = =

 

とある建物の敷地に軍用車を乗り入れる。

見慣れた風景は、久しぶりだった。

 

「おらー、ガキどもー」

 

≪≪わーーーーーーーーーー≫≫

 

建物から子供が湧いてくる。

「なんで来たんだよー」

「んーー、寂しかったのか?」

 

「オレ、兵学校に入るために勉強してるぜ」

「やめとけ、やめとけ」

 

「ボク、ブラックさんみたいなオトナになるー」

「俺は、悪人だぞ」

 

「ブラックさん、お嫁さんにしてね」

「100人くらい順番待ちだぞ」

 

子供にもみくちゃにされ、制服がしわだらけになった。

 

「中佐、いえ提督とお呼びした方がよろしいですね」

「どちらでも。

 こいつら、どうでした?」

「病気もしないで、みんな元気ですよ」

「手がかかるときには言ってください。

 ぶん殴りに来ますから」

寮母さんはその言葉でクスクス笑った。

 

 = = = = =

 

寮の資料に目を通していると寮母さんがお茶を持ってきた。

「お茶どうぞ」

「ありがとう」

 

広間で子供に囲まれもしていた。

一番年下の子を胡坐の上に乗せていると背中に何人かがもたれてくる。

(お、重い)

 

「うーん、食費が増えてきていますね」

「はい、工夫はしているんですが。

 よく食べますから」

「まあ、なんとかしましょう。

 鎮守府を任されましたからね」

「ブラック鎮守府ですか?」

「はい、俺の鎮守府ですからブラックです。キヒヒ」

 

≪≪ブラックだ、ブラックだ≫≫

「そうだぞ、俺は悪い提督だからな、キヒヒ」

≪≪キヒヒ≫≫

「全員が声を揃えると気持ち悪いな」

≪≪きゃははは≫≫

 

「さあ、今日は土産があるかなら。

 年長から並べ」

俺は、持参した2個の風呂敷包みを自分の前に置いて(ほど)く。

 

「男は、巻物型ツールバッグ。

 女はポシェットだ、海軍マークがポイントだぞ」

童女の反応はまずまずだったが、童男の方はいまいちだった。

 

「ほら見てみろ。

 海軍マーク入りで、世界に一つしかないんだぞ」

自分用に作った桜色の巻かれたツールバッグを開いて見せた。

内側のポケットに小型のツールナイフやレンチ、小型ガスバーナーなどが収まっている。

 

童男たちは、形の違う道具類が、整然と収まっているを見て惹かれた。

 

「ど、どうして一つなんだよ、ここにたくさんあるじゃんか」

年長者が風呂敷を指さす。

 

「生意気な奴め、一つ一つ収納の形が違うんだよ。

 お前ら、使ってるペンや定規が違うだろ。

 まあ、合わないときは俺に言え。

 作ったのは俺だから」

 

≪≪・・・・≫≫

 

子供らは、宝探しよろしく自分専用選びを始め、盛り上がっていた。




第1章 第31話 でお土産をせっせと作っていました。


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第4話 私設の施設

子供たちは、お手製のお土産をゲットできました。

将来の進路に影響するかもしれません。

彼を応援してくださいね。


施設は私設で寮として運営している。

 

子供たちは、地元の学校へ寮から通っている。

 

深海棲艦の襲撃が原因で、孤独になった子が多い。

母子家庭で生活が厳しくなった子もいる。

 

軍の有志で始めたことだった。

国の補助を受けて運営できるだろうと踏んでいた。

結果を言えば、法の規定を満たせなかったため、補助が受けられなかった。

軍人とは、そういうところは疎い。

 

資金を出し合っても、子供全員には足りず、寮母さんも雇えなかった。

今更、子供を減らすのも忍びない。

 

道徳的でない俺は、前々から目をつけていた物資を横流しし、資金化を実行する。

他の有志に内緒で活動を始め、早い段階で軌道に乗った。

 

 = = = = =

 

「やーめーてー」

「べー」

取り戻せないようにポシェットを高く掲げて、ふざけるガキ。

 

≪ビリッ≫

童女がどうにか手が届いた肩紐を無理に引っ張り、布の破ける音がした。

 

「エーン、エーン」

悔しい悲しい結果に泣き出した。

 

「おれが悪いんじゃないもん、痛て」

俺はガキに蹴りを入れた。

 

子供を相手にしてきて、最近では一番効き目のある手加減(脚だが)を身に付けた。

結果、ゲンコツより蹴りの方が効果的だった。

子供の頭は、ゲンコツより撫でるためにある。

叱ることも必要で、もう少し小さかったら尻をひっぱたき、大きくなると蹴りを入れる。

現状、尻を蹴り上げることまではせずに済んでいる。

叱られていることさえ意識してくれれば、手間が省けて楽だ。

 

「もっと痛くないと、自分が悪かったとわからんか?」

「ごめんなさい」

「謝る相手が違うだろ」

「え゛、え゛、ごべんなざーい」

ガキも泣き出した。

(あー、うるさい)

 

「もう泣きやめ、大急ぎで作ってやるから」

童女を慰める。

「え゛、えっく。

 ほんとー?」

「提督だからな、簡単だ」

しゃがんで目線を合わしてやる。

「ブラックさんてーとくー」

彼女に勢いよく抱きつかれ、ふたりして転んでしまった。

 

 = = = = =

 

「じゃあ、また来るからな。

 そういや、チビはどうした?」

帰り支度も済ませたところで、気が付いたら、チビが居ない。

 

≪しー≫

部屋の隅にちびっこたちが車座で座っている。

「どうした?」

上から覗き込むと、着せ替え人形に混じってチビたちがオモチャのベットで眠っていた。

 

(ほんと売れそうだな)

「置いて行こうか」

≪≪いいのー!≫≫

ちびっこが一斉に歓喜の声を上げた。

 

周りの歓声にびっくりして目を覚ましたチビたちは、すぐに俺を見つけ、あっという間に肩まで登ってきた。

並んで座ってサムズアップをしてくる4チビ。

 

 = = = = =

 

哨戒任務の1編隊が、哨戒最遠海域で深海棲艦の戦艦級を発見した。

航空兵力妖精は、正規空母に<敵発見>を打電、鎮守府は直ちに警戒態勢に入り、近隣鎮守府に警告する。

 

≪総員戦闘準備、総員戦闘準備、これは演習ではない、繰り返す、これは演習ではない≫

 

「なんて間の悪い。

 てーとくの留守の時に」

大淀は、出撃させるかどうか迷った。

 

空母たちは、直掩機と攻撃機を伴って、抜錨の時を待っていた。

軽巡を旗艦に駆逐艦たちが強行偵察に出発する。

戦艦たちが、水平線をじっと見つめていた。

 

発見編隊と入れ替わりの編隊は、深海棲艦がゆっくりと離れていくのを確認した。

鎮守府は、【敵兵力後退行動を確認】の電信を受信し、偵察急行中の艦隊に転身を発令した。

 

「すみません、てーとく。

 越権して艦隊を動かしました」

執務室で眼鏡が腰を直角に曲げて頭を下げてくる。

 

「燃料が・・・・。

 よし、お前には、懲罰だ、キヒヒ」

眼鏡がビクッと身を震わせた。

 

<ガシガシガシガシ>

頭を鷲掴みにして、髪型をクシャクシャにする。

髪は女の命は、艦娘にも当てはまるだろう。

俺が得意とする精神攻撃(いやがらせ)だ。

 

ドアが荒く開けられ、艦娘たちが入ってきた。

「大淀だけ(・・)というのは、許せねえな。

 オレ達は、出撃したんだからな」

生巡と駆逐艦たちが詰め寄ってくる。

 

集団で反抗とはいい度胸だ。

「お前ら、連帯責任で懲罰だな、フヒッ」

生巡から順番にセクハラまがいの精神攻撃(いやがらせ)を始めてやった。

 

俺の懲罰は30分に及び、終わったときには、ハアハアと息も絶え絶えの艦娘たちが頬を染め、床に蹲っていた。




ようやく艦娘たちに災難が降りかかりました。

ブラックです。


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第5話 いやがらせ

艦娘たちへの懲罰は苛烈でした。

呼吸さえできなかったほどの苦痛。

彼を応援してくださいね。


てーとくの<懲罰>は、もどかしい。

 

頭を撫でられて照れくさいのは序の口でした。

爪を立てて首筋や太腿を引っ掻く。

と書けば、痛そうです。

実際は、爪で撫でるようにされるので、恥ずかしいけど、だんだんより強い刺激を求めてしまいました。

 

テクニックというものでしょうか?

思わず声が洩れそうになったり、悶えるのを我慢したり、みんなも同じみたい。

 

熱い吐息が零れてしまいました。

それをみんなに見られて、ますます恥ずかしくなって、息を止めたり。

 

このことは、お互い秘密にしておこうとなりました。

 

「俺みたいなゲスの弄られて悔しいだろ、クヒヒ。

 これから、どんどん罰をくれてやるからな、キヒヒ」

てーとくの言葉にドキッとしてしまいました。

 

 = = = = =

 

「とうとう、ここの担当海域にも出現したか」

 

今回、遭遇戦を回避できたのは幸いだった。

 

眼鏡の判断も悪くはない。

悪くはないが、もし偵察艦隊に取り返しのつかない被害が出た時は、彼女が一番苦しむことになる。

 

そのための<懲罰(いやがらせ)>だったわけだが、生巡と駆逐艦も乱入してくるとは、仲間思いな奴らだ。

先任(くそ)の隷下で苦労を分かちあったからだろう。

 

懲罰(いやがらせ)>は、効果がある。

回数が重なると立場を忘れて、俺を恨むようになる。

顔を合わせるだけで【勝負だ、夜戦だ】と殺気立って挑んでくる艦娘も珍しくない。

 

少将のところで集団に襲いかかられるとは油断した。

殺せると思ったのか、全員笑っていたのは、正直怖かった。

 

今までと違って潜入ではなく、提督として着任したからには、艦娘たちに反逆を抑え込んで支配しなければ。

 

 = = = = =

 

夕食後の食堂で自由時間を過ごしていた戦艦たちが、あることを気にしていた。

「なんだ、偵察に出た子や大淀の様子がおかしい。

 間宮さん、何か知りませんか?」

「その、執務室で懲罰を受けたとか」

「そうですか。

 ・・・・それにしては、肌の色つやが良いような」

「長門もそう思った?」

「陸奥さん、みなさん、食事中になんていうか心ここにあらずって感じでしたよ。

 あと、思い出したようにニヨニヨしてみたり」

 

「大変!海岸に艦娘が倒れてるクマー!」

結構重大な事件を軽巡が叫んで飛び込んできたが、語尾のおかげで緊迫感が薄かった。

 

 = = = = =

 

「どこの艦娘でしょうか?」

眼鏡が同類を心配している。

 

海岸で倒れている艦娘を観察する。

「目立った被害はないな。

 大和型2番艦か、この周辺の鎮守府には、いなかったはずなんだが」

情報部時代の記憶を思い出す。

戦艦に触れてみる。

バイタルは安定しているようだ。

意識がないので、蹴りを入れてみる。

 

≪≪ひどい≫≫

野次馬もとい、艦娘を案じて集まってきた艦娘たちは、俺の蹴りを見て声を揃えて言った。

 

「俺に逆らってみろ、これくらいじゃ済まないからな、クヒヒ」

「うーん」

眼鏡戦艦が意識を取り戻す。

 

艦娘は睡眠と異なる休眠状態に陥ると自力では覚醒できず、外部からの衝撃で覚醒する。

休眠状態から覚醒しても、条件が揃ったままだと休眠を再開する。

 

生体兵器として、保管を考慮しての仕様だった。

一般的には薬剤を投与で、休眠、覚醒と切り替えるが、休眠に至った経緯が判らない場合、覚醒での投与の量を間違うと脳を損傷する。

 

この鎮守府に来て、休眠状態の艦娘たちを見て、ガキたちと同じ手加減(脚だが)で蹴って、うまくいったのは幸いだった。

そうでなければ担当技官の派遣を要請して、鎮守府の再開が大幅に遅れるところだった。

 

「武蔵だな。

 所属はどこだ?」

「むさし?」




武蔵が漂着しました。


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第6話 迷子

漂着した戦艦「武蔵」

新型の深海棲艦と関係あるのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「おかわり!」

 

(よく食うなぁ)

目の前で、どんどん食料を胃袋に収納していく眼鏡戦艦。

気持ちのいいほどの食いっぷりだ。

 

彼女は、自分の艦名まで忘れていた。

所属を示す所持品もなかった。

 

「てーとく、彼女はどうなります?」

「キヒヒ、知りたいか?

 大本営の判断に委ねることになるが、概ね解体処分だよ」

眼鏡の顔から血の気が引いていく。

食堂の野次馬たちも同様だ。

 

「それは大本営といえども、横暴ではないか」

「戦艦、記憶もないような大食いを誰が飼うんだよ?

 解体でお国の役に立つんだよ、キヒヒ」

 

(その気もないのに、意地悪な(ひと)

 

「提督、お夕飯を召し上がってくださいね」

間宮は、提督の前に有無も言わせず焼肉定食(味噌汁、漬物付き)を置いた。

 

「間宮、俺は食券を出してないぞ。

 勝手なことをするんじゃねえ」

「じゃあ、あのお客さんのお食事はどういう扱いなんですか?」

間宮は、引き下がらず、言い訳のできないところを突いていく。

 

「口答えするんじゃねえよ。

 蹴りを入れるぞ」

「どうぞ、ご自由になさってください。

 体調が戻ったので、人の力くらいじゃ、痣どころか赤くもなりませんよ」

「生意気なヤツめ、こんな飯が食えるか。

 おい、眼鏡戦艦、お前が食え!」

提督は、定食を珍客に押し付けると食堂から出て行った。

 

「赤城さん、加賀さん、おむすびを作りましょうか?」

正規空母が、焼肉定食(味噌汁、漬物付き)を凝視していたのに気付いた間宮は、ささやかな提案をしたのだった。

 

 = = = = =

 

≪コンコン≫

「入れ」

夜の執務室に訪問者が来たようだ。

 

「失礼します」

眼鏡が入ってきた。

後ろの眼鏡戦艦がついて来ていた。

 

「そうか、指示していなかったな」

「どうしましょう?」

「眼鏡、もう下がっていいぞ、クヒヒ」

「え?」

「クヒヒ、察しろよ。

 彼女の歓迎するんだよ」

俺は、眼鏡を下がらせ、眼鏡戦艦とふたりきりになった。

 

「提督も同じだな」

「記憶が戻ったのか?」

「いや、この手の記憶は残っているみたいだな」

「そうか、じゃあ、ご期待に答えるとしようか、クヒヒ

 まずは脱げ、じっくり見てやる、キヒヒ」

「・・・・はい」

「素直なのは、いいことだ、キヒヒ」

「アッン!」

 

 = = = = =

 

私室の布団で目を覚ます。

「コホン、提督おはよう」

「おはようさん、よく眠れたか」

「あ、ああ。

 ・・・・色々見られてしまったな」

眼鏡戦艦が頬を染める。

 

「文字通り隅々までな、クヒヒ」

「ンフフ、ゲスな笑いだな」

 

俺が先に寝床を離れる。

「俺は偽善者だからな、クヒヒ

 服を着ろ、朝飯を食いに行くぞ」

「提督よ、もう少し一緒にまどろむというのはどうだ?」

身を起こした眼鏡戦艦は布団で前を隠してはいるが、胸が零れそうになって存在を主張していた。

 

「俺を懐柔しようと無理をするもんじゃねえよ。

 お前が役に立つなら、記憶が戻るまで、ここに置いてやってもいい」

(そういうつもりではないのだが)

 

眼鏡戦艦が服を着始める。

朝日の中、褐色の肌が映える。

 

「どうだ、押し倒してみるか?」

腰に手を当てポーズを決める眼鏡戦艦。

「近距離で主砲を食らう趣味はねえよ」

 

しばらくすると食堂に言い知れぬ空気が漂っていた。

 

提督(ゲス)が姿を現した。

それはそれで珍しいかもしれないが、もっと重大なことがあった。

武蔵が居た。

それも提督(ゲス)と腕を組むように。

いや、彼女の方から、一方的に腕に抱きつくように。

 

間宮は思い出したかのように包丁を研ぎ始めた。




私室で何があったのでしょう?


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第7話 豹変

どうしたわけか、態度がおかしい武蔵

何かがあったのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「よし、斉射!」

マイクで沖の武蔵に指示を出す。

数秒後、洋上に9本の水柱が上がる。

 

「魚雷くるぞ、回避行動、合わせて次弾準備」

≪了解だ、次は当ててみせる≫

 

「頼もしいな。

 訓練弾だ、直撃で構わんぞ」

≪直撃したら、褒めてくれ≫

 

 = = = = =

 

「よく耐えたな。

 さすがは、眼鏡戦艦」

ビショビショになった髪をガシガシ拭いてやる。

 

「それに比べて、お前ら、ダメ」

蹲る水雷戦隊を見下ろす。

 

「く、調子が出なかっただけだ」

生巡が悔しそうに言い返してくる。

俺は、生巡の髪を掴み睨む。

「それじゃ、調子が出るまで練兵場を走ってこい。

 20周行ってこい。

 駆逐艦もだ」

頭を投げ捨てるように突き飛ばす。

 

生巡は、悔しそうに顔をゆがめ、駆逐艦を連れて練兵場へ向かった。

 

「次、戦艦、正規空母 二手に分かれて訓練開始だ。

 負けた方が、練兵場20周。

 行ってこい」

 

訓練弾、爆弾、魚雷を使用する。

命中箇所によっては、中破まで引き起こす演習。

 

戦力が拮抗している組み合わせ、相性の悪い組み合わせで急編成の戦隊で訓練する。

負けた側に罰ゲームのおまけつき。

中破したままの罰ゲーム(ロードワーク)は、苦しそうだが、そんなことはどうでもいい。

 

「眼鏡戦艦、補給後出発、優勢な方に加勢しろ、クヒヒ」

「ンフフ、弱いものいじめみたいだな。

 じゃあ、行ってくる」

手をヒラヒラさせて出撃準備でドックに向かう眼鏡戦艦の後姿を見送る提督。

 

「てーとく、なぜいきなりこんな無茶を始めたんですか?」

「無茶?

 俺のモノをどう扱うかは、裁量の範囲だぜ、クヒヒ

 それより、どうだ、お前も眼鏡戦艦と一緒に」

「命令なら」

「じゃあ決まり、命令だ、演習に参加だ。

 航空兵力を重点的に叩いてこい」

眼鏡は渋々出撃準備に向かって行った。

 

 = = = = =

 

薄暮の中での締めの演習が始まった。

 

最後の組み合わせは、駆逐艦と潜水艦の対決となった。

 

朝からの演習で、無傷の艦娘は残っていなかった。

負けると罰ゲーム(ロードワーク)が待っている。

おのずと力が入る。

 

お互い攻撃されることでイラついてきていたところで、僅差で潜水艦チームが勝った。

 

水雷戦隊が罰ゲームをこなして練兵場からトボトボと歩いていた。

「クヒヒ、弱いからボロボロだな」

駆逐艦たちは黙って俺を睨んでくる。

「風呂に入ってこい。

 後で、今日の成績の発表だ。

 眼鏡戦艦ついてこい」

提督と武蔵の後姿を見ていた駆逐艦たちは扱いの違いに不満を感じた。

 

 = = = = =

 

食堂に艦娘が全員集められていた。

「全員、そのままで傾注。

 てーとくから今日の成績が発表されます」

眼鏡の声に艦娘たちが注目する。

 

「お前ら、よく頑張ったとは言わねえ。

 ダメ。

 話にならん。

 首位は、長門。

 最下位、磯風。

 後は、順位表を見ろ」

俺は、テーブルに順位表を放りだす。

 

艦娘たちは順位表を覗き込む。

最悪だと中破までした演習の結果は、気にならないわけがなかった。

 

最下位を知らされた駆逐艦は、がっくりを肩を落としていた。

「じゃあ、最下位には、ご褒美をあげような、キヒヒ」

<ガシガシガシガシ>

俺は、駆逐艦の頭を鷲掴みし、髪をクシャクシャにする。

「僚艦を庇うようなバカをやらかすから、こんな目に遭うんだぜ。

 実戦で轟沈なんかしやがったら承知しねえからな、その癖を直しとけ、ボケ」

俺は、軽く蹴りを入れた後、執務室に戻った。

 

 = = = = =

 

≪コンコン≫

「入れ」

 

「お食事をお持ちしました」

「間宮、何の真似だ」

間宮が料理をトレーに乗せて入ってきた。

 

「お前たちは地味に強引だな」

「誉め言葉と思っておきますね」

間宮は、料理を応接セットのテーブルに配膳する。

 

後ろに眼鏡戦艦。

「どうした、入れ」

「提督、これからどうする」

入ってくるなり、俺より先にソファーに座る眼鏡戦艦。

なぜか間宮も座る。

 

≪ぐーーーーー≫

腹の虫が武蔵の問いに答えていた。




妬み、嫉みが燻り始めました。


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第8話 不協和音の和音

演習での武蔵の扱い方は、艦娘たちにどう映ったのか?

ご褒美という名のいやがらせは磯風の心を蝕んだのか?

彼を応援してくださいね。


「磯風、良いご褒美でしたね」

「・・・・」

「磯風?」

「あ、ああ。

 なんの話だったかな?」

浜風は、上の空の磯風を羨んだ。

 

駆逐艦を見る長門。

「どうしたの?

 ご褒美が欲しくなったの?」

茶化すように陸奥が話し掛ける。

「いや、褒美でなくてもいいかな」

「あら、珍しいこともあるのね」

「わたしにも感情があるからな。

 でも、自分でも不思議だと思う」

長門は、今の気持ちを言い表せなかった。

 

「そういえば、何もしなかったのよね」

「そうだ。

 第一印象と全く違う。

 中尉殿の話が裏付けている」

長門は、何かを確信しつつあった。

 

「今、間宮さんと武蔵ちゃんが一緒のはずよ。

 どうする?

 先を越されるかもよ」

「ふっ、それは致し方ないかもな。

 しかし、なぜだかわからないが、それは気にならない」

深慮の末の言葉には重みが感じられた。

 

「信頼?」

「いや、実物を知っていると少し気後れするのだ」

「気後れ?」

「あの人は【ねじ伏せて好き放題してやる】と言ってくれた」

「ちょ、ちょっと長門。

 あなたおかしいわよ」

「いや、おかしくはないぞ。

 相性が・・・・その正気を保てない気がするんだ」

陸奥は、いろんな意味で手遅れのような気がした。

 

「加賀さん、知っていましたか、長門さんは提督のと邂逅したそうですよ」

「赤城さん、なぜその話題になるの」

「だって、気になりませんか?」

「・・・・赤城さんがそういうなら、話し相手をします」

正規空母は、漢字が違う話を始めた。

 

今までの提督が粗末だったのか、大型艦は戦意が充実しつつあった。

 

そんな中、いらだつ巡洋艦が居た。

「長門さんたちは解っていないんです。

 てーとくはゲス野郎なんですよ。

 ねえ、天龍さん」

「そうだぜ、あいつ、オレをいつもおちょくりやがって。

 オレだって、普通に話したり、晩酌で一緒に飲みたいのによ」

 

「ですよね。

 あ、でも、わたし一緒に飲んだことありました」

「・・・・なんだよ、オレも誘いやがれってんだ。

 酔って夜戦になって朝まで勝負し・・・・」

 

「天龍さん、やっぱりあなたたち・・」

「な、何だよ。

 あなたたちって?」

「他の鎮守府の天龍さんは、てーとくと会いたいって泣いていましたし」

「な、ななな、オレはそんなじゃねえよ」

 

「あ、てーとく」

「にゃ、お、おいゲス野郎、今からオレとショー、ブ」

大淀の言葉に天龍は、後ろに提督が居ると思い振り返りながら立ち上がった。

提督はいなかった。

ひとり顔を紅潮させる天龍が固まっていた。

 

「勝負禁止です。

 特に夜戦はダメです」

「いいじゃねえか。

 大淀はいつも一緒に居るんだし、オレだって、たまには」

「ダメダメ、ダメです。

 わたしだって、一緒にいるだけなんですよ。

 何にもないんですよ」

「それは、大淀の押しが弱ぇーからだろ」

 

「天龍さん、最近ネクタイの緩め方が大きいですよね」

「しょしょ、しょんなことはないぞ」

「その胸が武器になると思っていますね」

大淀の眼鏡が光った。

 

「ダメかな」

いきなり、しぼむ生巡。

「長門さんや間宮さんもまだですからね。

 ただ武蔵さんを重用(ちょうよう)していますから、眼鏡ですかね」

眼鏡は、ニヨニヨを隠せなかった。

「眼帯は、ダメなのか。

 そうだ、片眼鏡(モノクル)

 この胸とで、ふたつ合わせりゃ武蔵にも引けは取らねえぜ。

 よっしゃーーー!

 待ってろよ、ゲス野郎。

 腰が抜けるまで、勝負してやらー」

そう言い残して、生巡は食堂から飛び出していった。

 

後に残った眼鏡。

『色と形で勝負ですよ』




波紋が広がりました。

仲たがいの絶えないブラックな鎮守府になるのでしょうか?


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第9話 リンチという名の特訓

巡洋艦の攻撃は成功したのでしょうか?

眼鏡とふくよかな胸の組み合わせの威力はいかに

彼を応援してくださいね。


「ほらほら逃げねえと被弾すんぞ。キヒヒ」

 

俺は、泣きながら攻撃から逃げる駆逐艦1隻を眺めていた。

 

 = = = = =

 

急な朝礼での一言。

「本日より、強化演習を行う。

 全員、覚悟するように、クヒ」

 

この中身が過酷なモノだった。

 

 = = = = =

 

ひとりの艦娘に全員が攻撃する。

 

爆撃、雷撃、艦砲射撃、あらゆるアウトレンジ攻撃に曝され、ボロボロになってゆく駆逐艦。

 

「わたし、もう撃てません」

「こんなのって酷いっぽい」

「みんな、止めようよ」

同じ駆逐艦たちが泣きながら訴える。

 

「オラ、次行けよ、キヒヒ」

「提督、これって、やり過ぎじゃないかしら」

「なんだよ、ビッグ7と謳われたお前が、手抜きするつもりじゃねえだろうな、あぁ?」

陸奥は、納得していない。

その隣で長門と武蔵は、駆逐艦に至近弾を見舞う。

直撃したのか、小柄な駆逐艦が宙に舞った。

 

「ありゃ、だらしねえな。

 次行け。

 加賀、お前の妖精、なかなかやるなぁ」

「・・・・ありがとうございます」

「生巡、もう少し精度上げろ」

「やってるよ」

 

巡洋艦を始め、空母、戦艦までもが、提督の指示に従って、駆逐艦を(なぶ)り者にする。

強化演習は、永遠に続くかと思われた。

駆逐艦たちには、心が折れそうな演習となった。

 

 = = = = =

 

演習を終え、艦娘たちは、食堂で夕飯を食べていた。

小破でも逃げ回り過ぎた艦娘は、食欲がなかった。

提督の訓示は【残さず食え、残したヤツは、次はない】だった。

必死に胃袋に詰め込んでいた。

 

「お疲れさまです。

 毎日大変ですね」

「ああ、精神的に消耗するよ」

間宮の労いに答える長門。

 

「ねえ、長門。

 あなた、なぜそこまでこの演習に取り組むのかしら?」

 赤城ちゃんや加賀さんまで。

 天龍や大淀もあなたたちが不満の一つも言わないのはなぜ?」

陸奥は辛抱の限界に近かった。

この演習がどうしても必要だと思えなかった。

今や駆逐艦という小型船舶と軍艦の間に軋轢が生じていた。

 

「てーとくのお考えに納得したからです」

「その考えというのは」

眼鏡に提督の真意を確かめる陸奥だった。

 

 = = = = =

 

「おい、眼鏡。

 お前の想像で余計なこと言うなよ。

 俺が面白いから、やってんだからな」

最近、俺は、食堂に顔を出すようになった。

艦娘たちの俺への反感を確認するためだ。

 

あの演習を黙々と(こな)す戦艦たちの態度が気に入らない。

もしかしたら、いやいや、これほど悪意に満ちた人間だから、うわべだけ従っているだけだろう。

「次から、お前らも餌食になれよ。

 駆逐艦ども、今までの仕返しをしろよ、クヒ」

俺は、手をヒラヒラと振って、食堂から立ち去る。

 

 = = = = =

 

「てーとくは、あんなふうにおっしゃいましたが、全員のことを考えてのことだと思います」

大淀は、ツイッっと眼鏡を整える。

「みんな、聞いてください。

 これは、わたしの想像です。

 もし、深海棲艦の艦隊と遭遇、交戦したとき、手加減してくれますか?

 わたしたちが1隻だからといって、見逃してくれますか?」

 

「そんなの、大淀さんの想像じゃないですか!」

「有りえません!」

「提督は、いじわるなだけです!」

駆逐艦たちが一斉に反論する。

 

リンチのような演習を強いられた駆逐艦たちは到底納得のできることではなかった。

大淀にも彼女たちを納得させる言葉はなかった。

ただ自分の知る事実を組み立てるのみ。

 

少将の鎮守府の艦娘たちの、中尉の態度が、てーとくの本当の顔を知っているせいだと思うしかなかった。

 

 = = = = =

 

「お久しぶりです。

 提督、約束の模擬演習の件、いかがですか?」

俺は、イケメン提督の鎮守府との模擬戦の約束を取り付ける。

 

「あ、武蔵は野良艦娘だから使えねえか」

圧倒的火力の戦力が使えないことに気が付いた。




ブラック鎮守府で、駆逐艦たちは苦しみます。


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第10話 模擬戦

イケメン提督と模擬戦です。

病み上がりのような艦娘たちは、戦えるでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「こちら加賀。

 攻撃機、敵航空兵力と遭遇。

 第二攻撃隊増援。

 偵察機は、索敵を継続」

 

「こちら、赤城。

 敵空母発見、敵空母発見」

 

「電探に感あり。

 方位南南東、距離21,000、高度0。

 敵水雷戦隊と思われる」

 

「よっしゃー。

 カチコミだーーー」

天龍が駆逐艦を引き連れて突入する。

 

「戦隊見ゆ、1番3番斉射準備!目標三番」

「陸奥、目標四番!1番3番斉射準備」

長門と陸奥が敵戦隊に対して主砲の砲撃を準備する。

 

「敵機来襲!敵機来襲!対空防御。

 射撃開始」

「「1番3番斉射!」」

高射砲の砲撃音が戦艦の主砲8本の咆哮にかき消される。

「へぅ」

爆風で眼鏡がズレる。

 

対空防御は功をそうし、時間稼ぎに成功。

翔鶴、瑞鶴は、戦闘機を発進させた。

 

敵機は一瞬怯んだように見えた。

 

ちょうどそのころ、味方の攻撃に紛れて潜水艦たちが敵機動部隊の雷撃に成功し、空母1隻を行動不能判定に持ち込んでいた。

 

水雷戦隊として4艦隊が、単縦陣形で敵艦隊に突入する。

駆逐艦たちは、敵機の攻撃を僅差で躱しながら、最大戦速を維持していた。

 

敵艦隊が、複縦陣形で向かってくるのが見えた。

雨のように降り注ぐ砲弾を(くぐ)り肉薄するとひとり、またひとりと至近距離で魚雷を発射し、すれ違う。

敵戦隊も魚雷を応射してくるが、駆逐艦たちは造波抵抗を利用して一気に減速し魚雷を

躱す離れ業をやって見せた。

雷撃に成功するも、艦砲の直撃を受け、中破判定を受ける駆逐艦が続出する。

 

一方、長門と陸奥は、戦艦4姉妹と対峙していた。

4人の連携と高速を生かした攻撃に隙は無く、ふたりは射程の外に逃げると、高速で間合いを詰められる。

 

突然、4姉妹のひとりが雷撃を受けた。

 

「ヤレヤレ、ここまで引っ張ってくるのは苦労したぞ」

「あなた、艦娘辞めたら女優になれるんじゃない」

長門と陸奥は、敵戦艦を潜水艦の待ち伏せポイントまで誘導してきたのだった。

 

「オラオラ、天龍さまの雷撃だー!」

水雷戦隊が、混乱する4姉妹に一撃離脱戦法を仕掛ける。

水雷戦隊に気を取られた隙を見逃さなかった長門と陸奥は、主砲副砲の斉射を行った。

 

 = = = = =

 

模擬戦は終わった。

機動部隊がまだ整っていないので負けてしまった。

 

「参りました。

 さすが最年少の准将、艦娘たちの練度は素晴らしい」

「まさに勝負は、時の運と思いましたよ。

 あそこまで肉迫されるとは思いませんでした」

イケメン提督と握手を交わす。

 

「これから、将校クラブで戦術談義でも」

「ありがとうございます。

 これから、こいつらの反省会をするんで」

「厳しいですね」

「覚えているうちに叩きこんどくのが一番ですから」

准将の誘いは、丁寧に断った。

 

(これから、楽しい楽しい反省会だぜ、クヒヒ)

 

 = = = = =

 

体育館兼講堂に模擬戦に参加した艦娘たちを集合させた。

「よーし、一列に並べ」

俺の言葉で艦娘たちが並ぶ。

 

「模擬戦は、負けた。

 お前たちが俺の命令に逆らったということにする、キヒヒ」

≪≪そういうつもりではありません≫≫

一斉に反論してくる艦娘たち。

 

(そうだろう、そうだろう。

 表向きには、そういうしかないよな)

 

「戦果を挙げたやつもいるが、負けた以上、連帯責任だ」

≪≪えーーーーー≫≫

 

「お待ちかねの<懲罰(いやがらせ)>だ。

 ただし、戦果を挙げたやつは、選ばせてやる、クヒヒ」

「てーとく、どんな懲罰があるんでしょうか?」

眼鏡が艦娘を代表して質問してくる。

 

「そうだな。

 首筋を引っ掻く、髪型をクシャクシャにする、くすぐる、俺のウイスキーを飲ませる」

「あの、ウイスキーを飲むのが懲罰なんですか?」

「ああ、俺が口移しで飲ましてやる、クヒヒ

 お前らにとっては、最悪だろ。

 超えたい線はあるが、逆に喜ぶやつが出てくるのも困るしな、クヒヒ」

 

1時間後、ウイスキーのボトルが一本、(から)になった。

(こいつら、これほど酒が好きだとは思わなかった)




提督の残忍な懲罰を受けなければならなかった艦娘たち。

「提督、あなたの懲罰、この長門、甘んじて受けよう。
 ウ、ウ、ウイスキーのごほ、懲罰を頼む」


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第11話 お風呂場海戦の予感

なぜかウイスキーの瓶が1本空いてしまいました。

誰がそんなに飲んだのでしょうか。

彼を応援してくださいね。


「あーあ、負けちゃったね」

「もう少しだったっぽい」

「いじめられてると思ったけど、あの強化演習のおかげだよね」

 

艦娘たちは、大淀の想像が正しかったと納得した。

特に防御力の低い駆逐艦は、冷静な雷撃が必要になる。

袋叩きを経験し、身体で覚えた回避運動を始めて実感できたのは、模擬戦だった。

 

提督は、やっぱり優しい。

懲罰(いやがらせ)も艦娘が嫌がることだと思っているみたいだが、理解してしまうと逆にご褒美だ。

あの大人のテクニック、荒っぽいナデナデ、ちょっと恥ずかしいスキンシップ、口移し。

駆逐艦たちは、ナデナデが多かったが、一人前のレディーは、口移しを選んだ。

飲み干すと真っ赤になって倒れてしまったが、口元は緩み、鼻血を出していた。

 

天龍は、列に3回並びなおしていた。

気が付くと間宮が混じって、武蔵も並んだ。

いつの間にか鎮守府全体の連帯責任となり、加賀は反省が足りないからとフルコースを要求した。

赤城も自分がふがいなかったとフルコースを願い出ていた。

 

いつしか体育館兼講堂に甘い香りが充満していた。

 

 = = = = =

 

俺は、模擬戦の反省中だ。

空母の艦載機が不足している、練度が低い。

 

航空兵力が敵を押し返せずに空母は攻撃されてしまうだろう。

戦艦も対空兵装が不足気味だ。

このまま化物、中でも鬼、姫級の遭遇すると轟沈するに違いない。

 

もっと効率的に訓練しなければと考える。

 

≪ボーン≫

柱時計は、22時30分を指していた。

 

「そろそろ風呂に入るか」

結局、風呂は大浴場一カ所しかなかった。

仕方がないので、妖精に風呂場に仕切りを作らせた。

これで、大破した連中が居ても風呂に浸かれる。

何度も疑問が湧いてくるが、なぜにこのブラック鎮守府で妖精が実体化するのだ?

 

 = = = = =

 

男湯側に蛇口はない。

湯船から直接湯を掬い、掛け流す。

 

この風呂の仕切りには、不思議なものがある。

小窓だ。

それも男湯側に錠がある。

(作り間違えたんだろうが、間抜けな失敗だ)

 

男湯と言っても、湯船につかれるように仕切られている壁際の通路のようなスペースになっている。

幅が大人一人分しかない。

女湯をできるだけ広く取っておかないと入渠で順番待ちが発生して稼働率が落ちる。

ということで、男湯と女湯を間違えるはずはないのだが。

 

≪カラカラ≫

「提督、入っているか?」

声の主は武蔵だ。

「おー、いるぞ」

「オ、オレもいるぜ」

「なんだよ、生巡かよ」

「なんだとは、なんだよ!」

生巡は揶揄うと面白い。

「わたしも入ります」

「眼鏡、なぜ俺に報告する」

「わたしは、てーとくのモノですから」

「ビッグ7を忘れないでもらおう」

「もう長門ったら、あの量で酔っちゃうんだもの」

戦艦2隻も加わった。

 

「おいおい、湯が溢れるんじゃないか」

「みなさんで入るんですし、いいじゃないですか」

「間宮もか」

急に騒がしくなってきた。

(のんびり浸かりたかったんだが)

 

「提督、そっちに行っていいか?」

「武蔵、冗談としては面白いが、狭くて敵わんから、却下だ」

「じゃあ、提督がこっちに来ればいい」

「冗談としても面白くないな」

(武蔵が記憶がないことと関係あるのだろうか?)

 

「オ、オレは平気だぞ。

 むしろ、変なことしやがったら握りつぶしてやるからな」

「あのなあ、その前に見られるってことは、気にしねえのかよ」

「あっ。

 べ、別に恥ずかしくねえし、へ、減るもんじゃねえしな」

生巡の基準が解らなくなってきた。

「ドМビッチ」

「ドМでもビッチでもねぇー」

コイツは本当に揶揄うと面白い。

 

≪ボソボソボソ≫

(何かを相談しているのか?)

 

「あの、てーとく、ジロジロ見ないなら、女湯に入りませんか?提督は、鎮守府(ここ)の支配者ですし」

 

「眼鏡、女湯乱入を口実に俺の更迭を願い出るつもりなら、無駄だぞ」

がっかりする艦娘たちに提督は気付かなかった。

 

空母たちが、食事を終えて、入渠のために移動していた。




風呂問題解決していました。


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第12話 第一次お風呂海戦?

海戦は避けられないようです。

艦娘たちの運命は?

彼を応援してくださいね。


ドウシテコウナッター

 

俺は、固まっていた。

 

さっき、空母たちが風呂に来た。

そこまでは、覚えている。

 

気が付くと女風呂に居た。

普通に湯船に浸かっている。

この状況は、艦娘が騒いでいないので、ギリギリセーフなのだろう。

 

だが、俺にはいくつか問題がある。

まず、頭にこぶがある。

石鹸か何かですっころんだか?

そして、俺は湯船の隅で眼鏡戦艦を椅子に見立てれば、きっちり着座していた。

おまけに両腕は、ビッグ7に抱き着かれて動かせない。

 

状況が判ると【平常心】とお経のように繰り返していた。

最初は、このまま腕を引き抜かれるかと覚悟もしたが、戦艦が肩に頭を置いて寛いでいる。

危機的状況では、なさそうだが、そうなると話は変わる。

いい歳して小娘に翻弄されるのも癪だが、彼女ら特有の弾力が触覚に対して高威力を発揮してくる。

これ以上の刺激が無ければ、かろうじて保てるだろう。

 

時々、背中に柔らかいこんにゃくが押し当てられるような感覚と生きているグミが這いまわるような感覚がある。

「提督、ひどい傷痕だな」

「ああ、士官になりたての頃の古傷だ」

 

武蔵は、手のひらほどの傷痕をできるなら癒したいと思った。

「戦闘で?」

「逃げ損ねただけだ。

 全くドジを踏んだもんだ」

戦艦が轟沈(死んだ)時を思い出す。

じくじくと古傷が痛む。

 

「て、提督。

 どうだ」

生巡が真っ赤な顔して、目の前に移動してきた。

「何がだ?」

「眼鏡だよ」

片眼鏡(モノクル)を掛けていた。

「意外と似合ってるな」

「え、へへん。

 あ、後だな・・・・」

生巡は、顔を逸らし、腕は胸を隠すのを止めて、左右から挟み込む。

胸は圧迫されてムニュッと盛り上がりが増す。

 

「「見てはダメです」」

素早く戦艦が提督に目隠しをする。

 

「提督、それ以上は、セクハラです。

 大本営に報告しますよ」

眼鏡が不満を隠さない。

「俺かよ」

 

「な、長門、陸奥、オレのことは気にしなくていいから、な、な」

なぜか焦る生巡。

 

「この悪党は、巡洋艦には荷が重い」

眼鏡戦艦は後ろから、提督を抱きしめる。

 

「武蔵さん、顔が赤いですよ。

 のぼせたんじゃないですか?

 交替しますよ」

間宮が、待ちきれず言った。

「だ、大丈夫。

 提督にもたれているからな」

武蔵は、顔を隠すように抱き直す。

「俺は抱き枕か」

 

そのころ、空母たちは出遅れたことに未熟さを感じていた。

妖精さんに空襲してもらって、爆弾()落とした獲物だったのに。

 

ここにきて、空母たちも隙間を見つけて割り込んでくる。

「赤城、これはみんなの敵討ちみたいのものだ。

 この長門に任せてもらおう」

「長門さん、それなら、お手伝いします。

 わたしも提督に仕返ししたいのです」

とうとう艦娘たちの<復讐心(おかえし)>が牙を剥いた。

 

「お前ら、わざわざ広い湯船を窮屈にしやがって、湯温か体温か、わかんねえだろう。

 こら、どこ触ってんだ!

 てめえら、俺が提督だって、わかってんだ、ちょ、擦りよってくるんじゃねぇ。

 せ、狭、い、息が・・・・」

提督は、艦娘たちの圧迫のため、呼吸ができず、意識を飛ばした。

≪≪提督!≫≫

 

「やっぱり、こうなりましたね」

間宮は、ヤレヤレと両手を持ち上げる。

 

陸奥は、思い出したくない記憶の封を開けていた。

歴代の提督(おやじ)たちから、少なからず辱めを受けている。

「なんとなく悔しいわね」

露骨に性欲向けてこない、強要されないなら、彼と少々睦み合うのも悪くないと思い始めていた。

男色なのかと考えが過ったら、どさくさに紛れて触れていた。

提督の欲求は充分感じ取れた。

長門の言葉を思い出して納得した。

 

「陸奥、言った通りだろ?」

長門の瞳は、優しかった。

 

この場にいる艦娘たちは考えた。

過去の提督(おやじ)たちから受けた屈辱は、この提督に責任を取らせよう。

この提督の<懲罰(いやがらせ)>には、<反逆(エロス)>する。

ブラックの彼には遠慮は不用だろう。

きっとこの提督(ゲス)敵対的(ねんごろな)関係になれると確信していた。

 

「みなさん、いいですか。

 抜け駆けは禁止ですよ」

大淀は、天龍に向かって言った。




提督の預かり知らぬところで抵抗勢力が生まれました。


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第13話 来訪とタリホー

因果応報

艦娘たちに狙われた提督

彼を応援してくださいね。


俺は、基地の屋上で、リトルシガーをふかしている。

 

「大丈夫です。

 現在、帰投中。

 全員無事です」

加賀が、哨戒機からの電信を告げる。

 

「なんのことだ?

 俺は、天気がいいから、ヤニってるだけだが」

「そうですか。

 その双眼鏡は、覗きですか?」

加賀は、提督の首にかかる双眼鏡を指さした。

 

「バードウオッチングだよ。

 ちょうどいい、フェンスに手をつけ」

正規空母は、提督の指示通りフェンスに手をついた。

 

「騒ぐなよ、キヒヒ」

俺は後ろにまわりこみ正規空母の袴をめくる。

彼女は、一瞬ビクッとしたがそのまま動かなかった。

「ううーん、このままやっていいのか、ムッツリビッチ」

「・・・・」

加賀は、フェンスにしがみつくように姿勢を変える。

 

「嫌なら抵抗してもいいんだぞ、クヒヒ」

加賀の腰に手を当てる。

「・・・・」

 

≪ガチャ≫

「てーとく。

 そろそろ少将がお見えになりますよ・・・・」

眼鏡が出入りする塔屋のドアを開けた姿勢で固まった。

 

「もうそんな時間か。

 眼鏡もどうだ?キヒヒ」

どうにも気まずいので、正規空母に腰を押し付けながら、眼鏡を揶揄う。

 

「いいですよ。

 ついで扱いなら、容赦しませんよ」

眼鏡は、俺をビシッと指さし言い放った。

 

「おお怖いねぇ、クヒヒ。

 空母、興を削がれたな。

 気が向いたら、今晩私室に来い」

俺は正規空母の尻をポンポンと叩く。

 

スタスタ歩いて眼鏡とすれ違う瞬間に彼女の肩をポンと叩いて言い残す。

「眼鏡は、執務室で待機な」

 

「てーとくのゲスー!」

俺は、叫びに手をヒラヒラさせて応えた。

(お前は、どうして欲しいんだよ)

 

 = = = = =

 

「加賀さん、非常に残念そうにしていませんか?」

「・・・・戻りましょうか」

加賀は、大淀と視線を合わせないように階段を下りていく。

大淀は、その後ろ姿を注視していた。

(てーとくってば、お見えになる時間を確認してから屋上に上がったじゃないですか!)

 

 = = = = =

 

(そろそろパトロールも戻ってくる頃か)

俺は庁舎前で待っていた。

 

遠目に軍用車が見えた。

(お、来た来た)

 

しばらくして中型のコマンドカーが敷地内に乗り入れてきた。

 

敬礼をすると少将が敬礼をしながら降りてきた。

「邪魔をする」

「はっ、おくつろぎください!」

挨拶代わりの敬礼を交わして、確認するように握手をする。

 

「中佐、来ましたよー」

元気な声がした。

「中尉、またサボりか?」

「浮気をしていないか、見に来たんです」

「誰の浮気だよ」

相変わらず参謀本部次長の娘は面白いこと言う。

 

艦娘がふたり同行していた。

「お邪魔します、中佐」

「ああ、ゆっくりしていってくれ、クヒヒ」

この前と違って、落ち着いている眼鏡(ダッシュ)だった。

 

「しょ、勝負しろ!勝負だー」

生巡(ダッシュ)だ。

聞かなかったことにして、来客を案内する。

「執務室に案内しますよ、こっちです」

 

「てめぇー、無視すんじゃねー、オレと勝負しろー!」

生巡(ダッシュ)が拳を向けてくる。

 

俺は、無言で生巡(ダッシュ)近づく。

「な、何だよ、ひゃっ」

コイツが嫌がることは、良く知っている。

人間の娘のように手加減して抱きしめてやると、必ず嫌がる。

 

「バ、バカヤロー!」

彼女は、腕の中で力なく暴れる。

ゴキブリを嫌がるような感覚なのだろう。

 

腕を緩めるとペタンと座り込む生巡(ダッシュ)

彼女は、頬を紅潮させ、涙目だった。

 

追い打ちをかけるように、しゃがんで言葉で口撃する。

「相変わらず、表面は柔らかいな。

 今度は寝床で確かめてやろうか、クヒヒ」

『・・望むところだ、ぜ。

 ちょっとだけ、優しくしろよ』

小声で何か生巡(ダッシュ)はつぶやいていたが、俺は、眼鏡(ダッシュ)に腕を噛まれて余裕がなかった。

 

手加減(口だが)しているのか、あまり痛くない。

あまがみと見せかけて、油断したら肉を食いちぎられるかもしれない。

落ち着かせるために頭を撫でるようにした。

 

俺の腕は、まだつながったままだったが、制服の袖はベトベトになっていた。




着々と<敵>を増やす提督。

艦娘たちに災厄が降りかかる!


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第14話 交差しない航路

加賀が危なかったです。

一段とブラックさが濃くなります。

彼を応援してくださいね。


「眼鏡、ちょっと席を外すんでな、後を頼む」

「てーとく、そんな、わたし、何か失礼があっても」

慌てる眼鏡。

 

「あら、接客程度もこなせないのね。

 ほほほ、情けないこと」

間違いなく喧嘩を売っている眼鏡(ダッシュ)

 

「む!」

聞き捨てならないと睨む眼鏡。

もし、漫画的表現が目に見えたら、眼鏡ズの間には、バチバチと火花が散っていたことだろう。

 

俺は、一旦執務室を後にする。

 

 = = = = =

 

パトロールに出ていた連中が帰投した。

妖精(チビ)が教えてくれたのだ。

どういうわけか、常に何チビかまとわりついている。

 

加賀を犯そうとしたときは、いなかった。

俺がブラックな証拠だ。

妖精が邪悪な力で、実体化できなかったんだろう。

ブレかかっていた気持ちを立ち直らせることができた。

 

 = = = = =

 

「そう、みんな隠れたのね。

 気が向いたらだって、どう思う」

手に乗せた顔を真っ赤にする妖精に話しかける艦娘。

 

「身体が目当てなら、気が向いたらなんて」

抜け駆け未遂犯は、強制しない提督(おばかさん)に振り向いてもらう方法を考え始めていた。

 

 = = = = =

 

パトロール艦隊は、天龍と龍田、睦月、弥生、望月、卯月だった。

 

「ちぇっ、深海棲艦ども全然いねえじゃねえか」

「そうよね。

 わたしの魚雷、うずうずしてる♪」

殺る気満々の巡洋艦ふたり、かなり危なく見える。

 

「およ、提督にゃ」

「司令官、弥生帰投しました!」

「司令官、出迎えごくろー」

「うぅ~ちゃん~、感激~!」

先に提督を見つけたのは、駆逐艦たちだった。

 

「誰が出迎えだ。

 ナメてんじゃねえぞ。

 生意気言ってっと、誰か解体してやろうか?キヒヒ」

≪≪ヒーーーーー!≫≫

どこかふざけているような悲鳴を上げる駆逐艦たち。

 

「オレの目の黒いうちは、好き勝手させねえぞ」

生巡が駆逐艦を庇って割り込んでくる。

 

「ほほう、俺の権限に逆らえると思っているのかぁ?」

俺は、生巡の片腕を(ひね)り逃げなくして、胸を揉む。

 

「その手、落ちても知らないですよ♪」

病み巡の脅しは、俺には効かない。

こっちは、生巡が弄られるのが面白いでの、言葉に凄みがない。

 

「ちょおーーーーーーーーーとぉぉぉ、むぁったぁぁぁーーーーー。

 そんなヤツに手を出すなら、オレと勝負だぁーーーー」

生巡(ダッシュ)が抱きついてきた。

 

「なんだテメェは!

 オレの方が先だからなぁ。

 提督、そうだろ?」

 

「オレが来たからには、交代だ交替!

 中佐、提督に頼んで連れてきてもらったんだよー。

 もう、このままじゃ、帰りたくないんだよー」

 

生巡ズが俺に掴みかかって、口喧嘩を始めた。

(ああ、うるさい)

 

 = = = = =

 

執務室でゲストの少将がゲスに苦言をこぼす。

「貴官、ふたりともウチの艦娘なんだが」

「すみません、少将。

 やり方がエグ過ぎたんでしょうか。

 少将の着任で、俺のことは嫌な記憶と一緒に忘れると思っていたんですが」

 

「ニシシ、中佐は、酷いことをし過ぎるから、艦娘ちゃんたちが忘れたくなくなるんだよ」

中尉が楽しむように会話に加わってきた。

「そんなの記憶するものか?」

「そりゃね、ブラックなんでしょ」

満面の笑みで下から覗き込んでくる中尉。

 

「まあ、ブラックだから、セクハラも厭わないし、抵抗しなかったときは、痛てててて」

「小官を女だったって思い出してくれましたか?」

俺は中尉に肩関節を決められ、趣味ではないが額を床に擦りつけていた。

床の木目を堪能しながら、床を叩いていた。

 

「中佐、あまり待たせるのは良くないぞ」

ヤレヤレと半ばあきれる少将。

「えーと、懸案事項がありましたか?」

俺には、心当たりがなかった。イテテ

 

 = = = = =

 

訪問してきた艦娘のふたりは、執務室を追い出され、食堂にいた。

「てーとくは、この鎮守府の艦娘を自分のモノになさいました。

 あなたがたは、過去の艦娘です。

 そちらの提督は、お優しい方ですから、 てーとく(ゲス)のことは忘れて(あきらめて)ください」

 

「「勝手に決めてんじゃねぇ」」

生巡ズは、意気投合していた。

 

「あなた、中佐を知らないみたいだから交替しましょう」

眼鏡(ダッシュ)は、諦めていなかった。

 




龍田、睦月、弥生、望月、卯月が新たに登場ですが、セリフに特徴ないと出番少ないかな。


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第15話 知ってしまった

少将のところの艦娘は、何を考えているのでしょう。

きっと騙されているのでしょう。

彼を応援してくださいね。


提督(中佐)は、執務室を抜け、午後担当のパトロール艦隊を見送っていた。

「貴官はそういうところは、治した方がいいぞ」

後ろから声がした。

 

「トイレで用を足すことは治しようがありませんよ」

そう、ここは、男性用トイレだ。

よほどのことがない限り、艦娘たちには用のない施設。

 

「ずっと海を見ていたようだが?」

「ここからの眺めが結構気に入っているだけです」

「素直でないな」

「何のことでしょう」

俺は少将と連れションをする羽目になった。

変に焦って、出なかった。

 

 = = = = =

 

「そうですか。

 みなさんが見えなくなるまで、窓から見ていたのですね」

赤城は、哨戒編隊からの電信を受信していた。

 

「加賀さん、出撃するなら、一航戦としてですよ」

「赤城さん・・・・。

 手ごわいですよ」

「望むところです、うふふっ♪」

 

 = = = = =

 

「みんな、無事に帰ってきてね」

中尉は、執務室から艦隊を見送っていた。

 

≪コンコン≫

「どうぞ」

 

「お食事の用意ができました」

大淀がゲストを呼びにやってきた。

 

「ありがとう。

 でも、少将が戻ってこないんだ・」

「すまん、すまん」

中尉が言い終わる前に大淀の後ろに少将が立っていた。

 

「では、ご案内します」

大淀は、お辞儀をするとゲストふたりの前を歩きだす。

 

「少将、中佐は居ましたか?」

「ああ、居たぞ。

 海を眺めて、すっきりしていたな」

「奥様にセクハラされたって、電話しますよ」

中尉はスマホを取り出し、少将の自宅の番号を表示した。

 

「ちょ、ちょっと待て。

 娘同然の貴官にそんなことをするわけないだろ」

「反抗期です」

スマホを持ったままにじり寄る中尉。

「いやいや、ウチの娘でさえ、そこまででは、なかったぞ」

「おねえちゃんは、きっとファザコンなんです。

 世の中の娘は、父親の天敵といってもいいんです」

 

(先輩、苦労してたんだな)

少将は、末っ子が娘という家族構成の怖さを知った。

 

「クスッ、人間もなかなか大変ですね」

大淀は、少し緊張が和らいだ。

 

 = = = = =

 

食堂にはゲス()席が用意されていた。

規模の大きい鎮守府と違い、特別な部屋はない。

厨房から離れたテーブルに清潔なクロスがかけられているだけの質素なものだ。

 

「うん、中佐らしい」

「そうだな」

付き合いの長いものだけが解るもてなしの気持ち。

 

少将と中尉は席に着く。

中佐が食堂に入ってくるのが見えた。

真新しい第一種軍装を着ていた。

提督の証である飾緒は付けていなかった。

これも中佐の気持ちだ。

中尉が同席するので、士官の食事会に落としどころを持ってきた。

判っていたのか、少将は最初から飾緒は付けていなかった。

 

伊良湖と鳳翔がテーブルに料理を持ってくる。

 

前菜を鳳翔が、主菜を間宮が、伊良湖がデザートを担当した。

 

「食材は大したことはないし、俺が同席していますが、料理の腕は保証します」

 

気の置けない仲間の食事会は始まった。

 

 = = = = =

 

「敵艦隊発見、我敵艦二遭遇ス、我敵艦二遭遇ス」

 

鎮守府再稼働後、最初の悪夢が産み落とされる。

 

航空攻撃、初期雷撃で始まった戦闘は、一方的に敵戦力をそぎ落としていった。

 

 = = = = =

 

哨戒任務の1編隊が、哨戒最遠海域で深海棲艦の戦艦級を再び発見した。

刹那、戦いの幕が一方的に押し広げられる瞬間だった。

航空兵力妖精は、正規空母に<敵発見>を打電。

 

「提督!

 敵艦発見。

 戦闘に突入しました」

赤城が悲鳴に近い声で食堂に飛び込んできた。

 

「眼鏡、警報発令!

 総員戦闘配置、周辺鎮守府に情報伝達!

 直ちに航空支援出撃!

 急げ!」

恐れていたことが起きた。

間違いがないか、繰り返し考える。

 

 「了解!

 警報発令!

 総員戦闘配置、周辺鎮守府に情報伝達!

 直ちに航空支援出撃します」

眼鏡が復唱する。

思わず眼鏡を抱きしめる。

「大丈夫だ。

 今度は、誰も轟沈させない(死なせない)

眼鏡の微かな震えが止まった。

 

≪総員戦闘準備、総員戦闘準備、これは演習ではない、繰り返す、これは演習ではない≫

 

鎮守府は直ちに警戒態勢に入り、近隣鎮守府に警告する。

 

「提督、わたしが行こう」

武蔵が名乗り出る。

 

何もできない臆病な俺は、自らの震える手を噛む。

「いやダメだ。

 俺が行く。

 今のままじゃ、誰が行っても轟沈する(死ぬ)




単艦で艦隊並み戦力の深海棲艦です。


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第16話 試み

状況は深刻です。

提督が出て行って、何ができるでしょう。

彼を応援してくださいね。


(頼む、間に合ってくれ)

 

先行した、航空妖精がわずかに進路を変えて、離れて見えなくなった。

艦隊が移動しているとわかった。

(よし、逃げ回れ)

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ」

すぐに無線を飛ばす。

 

≪進路、南南西、会敵約10分後≫

「了解。

 発令、駆逐艦を護衛に空母前進、楔形陣形。

 戦艦、巡洋艦は盾として、被害担当。

 敵艦艇と遭遇した場合、鎮守府を放棄、少将の指示に従え、以上。

 ・・・・少将、もしもの時は、お願いします、オワリ」

 

俺は、後悔している。

パトロール艦たちに化物と遭遇しても【位置だけ把握したら逃げろ】と命令するべきだった。

 

これほど焦っている自分に驚いてもいる。

変われていなかった。

艦娘を彼女たち(・・・・)を自分の評価のために消費する覚悟ができていなかった。

 

道具を使い、手入れをし、やがて消耗する。

それは大事なことで、数ある正しい答のひとつだと思っている。

だから彼女たちと距離を置き、俺はただの使い手だと認識させておこうと考えてきた。

 

俺は彼女たちに生き延びる技量が備わるように思いつく限りを仕込んできた。

それでも艦娘が轟沈して(死んで)しまってたら、それは運が悪かったと思えるように。

 

しかし、実際には、脆い自信だった。

 

戦闘状態になったと聞いただけで、震えが止まらない。

小破さえも回避して欲しい、いや、回避しろ。

 

背中の鈍い疼きで、どっと冷や汗が噴き出す。

 

海上を60ノットで疾走していても遅く感じる。

(急げ、早く、早く、早く!)

 

 = = = = =

 

少し時間を遡る。

 

3人の将校が、ドックに向かっていた。

「中佐、貴様が出るというのは、アレか」

「はい、俺が行っても化物には勝てませんが、艦娘を連れて帰れますから」

少将は知っていた、中佐がかつて大本営に具申した計画を。

 

「・・・・」

中尉は、目を充血させて、無言でふたりについて来ている。

中佐はその様子に気が付いた。

「中尉、大丈夫。

 俺はブラック【憎まれっ子世に憚る】だ」

「・・・・」

中尉は、俺の軽口に反応しなかった。

 

「中尉、中佐は英雄願望を持っていない分、無茶はしない」

「嘘、うそ、ウソ、嘘よ!

 背中の傷は何!

 変な笑い方をしなくなっているのは、なぜですか!

 お願い、いかないで。

 聞いてくれないのは解っています。

 だけど、言わせて。

 いかないで、お願い、ウウウ・・」

「中尉」

心の内をぶちまけて俯いた中尉に掛ける言葉を俺は見つけられなかった。

 

ドックの隅に大型ボートが浮いている。

 

具申した計画、行方不明や著しい被害を被った艦娘を捜索、救難救助の専門の部隊の設立。

目の前のボートが、その実験船。

 

武装はない。

トリマラン(三胴船)でウォータージェット推進、船体の間の空間に空気を送り込み船体を浮上させる。

左右の空気を移動させると船体をバンクさせ高速のまま旋回できる。

海面が静かなら75ノット、深海棲艦の航空兵力以外からなら逃げ切れる。

 

これしかない。

 

そして実験船をこの場で操縦できるのは俺だけだ。

 

「行ってくる。

 情けない顔をするな。

 貴官らしくないぞ」

目に涙を溜めた中尉に笑いかける。

おそらく歪んだ笑顔だろう。

 

「・・・・」

中尉が目をつぶると、両頬を雫が伝う。

少し背伸びをして顎を上げてきた。

 

「おっさんを揶揄うんじゃない。

 そういうのは、好きになったイケメンとするもんだ」

俺は、中尉の頭をわしゃわしゃと撫でた後、振り向かずボートに乗り込む。

 

エンジンを始動させる。

低い唸るような排気音で、ある程度落ち着いた。

 

浮上用のエアポンプを起動させると喫水線が下がっていく。

魚雷の上を素通りできるかもしれない。

 

柄にもなく艦娘の無事を信じて、ドックから船を出港させた。

 

「いいのか、声を掛けなくて。

 あいつは言っても信じないかもしれないが」

「帰ってきたら、噛みついてやります」

少将は不器用な後輩たちが、幸せになるように祈りながら、制帽を振って中佐を見送る。




提督は、どのくらい間に合うでしょうか。


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第17話 再会と邂逅

救難救助に向かう提督。

彼の野望からどんどん逸れていきます。

彼を応援してくださいね。






静かな海だった。

風も吹いていない。

 

浮遊物がなければ、ここで海戦があったとは思わないだろう。

 

しかし、爪痕は残っていた。

 

妖精(チビ)たちが、何チビも浮いている。

たも網で掬い(救い?)上げる。

弱っているがボートのデッキに降りるとトコトコと自力で歩いた。

 

方向は、それほど間違っていないはずだが、艦隊も深海棲艦もいなかった。

 

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ」

返事がない。

 

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ・・・・」

 

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ」

 

繰り返し呼び出すも、返信がない。

(鎮守府を放棄したのか)

 

海流に流されているのに気が付いた。

水中のパラシュートアンカーのロープが張りつめている。

その先にチビたちじゃないチビが混じっていた。

 

深海棲艦艦載チビ、空中戦の末、海水浴をすることになったのだろう。

弱って沈んでいきそうなヤツを掬いあげる。

まだ元気の残っている個体が、離水できずに騒ぎ出す。

 

≪ヴボオオーーーンバシャシャーーン≫

海面に7.62x51mm NATO弾を叩きこむと水柱が上がる。

護身用の汎用機関銃で交渉を申し込む。

実際、効果があるかどうかわからなかった。

数百m先の標的に向ける銃弾を数m先に使用するのだから、弾き飛ばせる程度の効果はあるだろう。

 

「小官の権限で停戦を提案する。

 異存なければ、応じてもらいたい。

 応じない場合、貴君らの救助を中止する」

流線形やら丸っこいやら、異形のチビたちが静かになった。

 

「協力に感謝する」

俺はせっせとチビたちを掬う。

(次があれば、投網でも準備しておこうか?)

 

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ」

チビたちを掬いながら、鎮守府との連絡を試みる。

 

≪ザッ・・ち・・じゅ・応・・・います・ザリ≫

(通信状況が悪いな。

 電波が干渉しているのか?)

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ」

チビたちも空母と通信しているようだが、うまく行っていないようだった。

 

そのうち、深(海棲艦艦載)チビたちが一方向に向きだした。

「お前たちの母艦がそっちにいるのか?」

深()チビたちとの意思疎通は、どの程度できているかわからない。

チビたちが頷いてくる。

こっちは会話ができるわけではないが、表情で判るような気がする。

 

「行ってみるか」

ボートから見える水平線は、10kmも離れていない。

海流に徐々に流され、会敵予想位置から逸れた事も考えられる。

チビたちが元の場所から流れてきたなら、確かめるしかない。

 

「残存者がもういないか、飛べるものは上空から確認しろ。

 ここまでしたんだ、残すようなことはしない」

志願してきたチビと深チビの何機かを放り上げるとヨタヨタと滞空を始める。

 

「ビデオ持たせて、盗撮に使えそうだな」

空を見上げているとスネに激痛が走る。

チビたちが俺のスネをサンドバックのように殴る蹴るを繰り返していた。

 

「いい度胸だな」

汎用機関銃に手を伸ばすと妖精たちはデッキに張り付くように伏せた。

船体を破壊するわけにはいかない。

「お前ら、何やってんだよ」

 

チビたちと深チビたちをとにかく洗濯網に放り込んむ。

何やら抗議をしているようだ。

「フネから落ちても、引き返せねえぞ」

チビたちは黙った。

 

「どうだ、残存者はいたか?」

チビと深チビが指し示す。

最後の数深チビを掬い上げ、網に放り込むと確信したわけではないが、深チビたちの示す方角にボートを向ける。

 

数分後、海上でにらみ合う艦隊と深海棲艦戦艦級を見つけた。

 

「良かった。

 全員、まだ生きてるな」

 

汎用機関銃を構えて、威嚇射撃の準備をする。

 

ふいに深海棲艦が魚雷を放った。

咄嗟に引き金を引き、入水前の魚雷に1秒で約20発の銃弾を叩きこむ。

 

炸裂しなかったものの、舵部に命中弾があり、魚雷は入水後迷走していった。

 

続けて、最大船速で戦艦級に向かう。

給弾ベルトの続く限り、深海棲艦の足元の先の海面に銃弾を撃ち続けた。

巻き起こる水柱は戦艦級が着弾を認識するに充分だった。

 

深海棲艦の眼前を掠めるように通過したときには、撃ち尽くした後だった。

 

ボートの舵を切り、船体をバンクさせながら信地旋回ばりで向きを変え、深海棲艦と対峙する。

 

クラッチを切り、ボートはアイドリング状態で浮遊する。

汎用機関銃(まめてっぽう)に新しい給弾ベルトを噛ませて、初弾を薬室に送り込み腰の位置で構える。

操舵稈で深海棲艦の後ろに回り込むようにボートをスライドさせながら、目の前の敵を観察する。

 

ニカッと笑うそいつには、見覚えがあった。




嗤う深海棲艦


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第18話 戦艦級

対人兵器しか持たない提督

深チビたちをチビ質にするのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


ボートは、スライドする。

 

舵はなく、2系統のノズルで進む方向が変えられる。

今は船首を戦艦級に向けたまま回り込んでいる。

敵に曝す投影面積を減らすことと牽制しているつもりだが、あまり効果はないだろう。

 

目の前にいるのがこいつとは、正直驚きで思考がついてこない。

(いや、待てよ。

 他人の空似ってこともある)

武装した尻尾がある。

(やっぱり、似ているだけか)

 

戦艦級から目を離さないようにしながら、銃を置き、救命浮環に漁師網をかぶせる。

深チビたちの入った毛布用の洗濯網を救命浮環に乗せて静かに海面に浮かせる。

ゆっくりと、あくまでゆっくりした動作で注意深く。

 

ボートの両舷逆進モードに切り替え、クラッチを繋く。

浮環を転覆させないように静かに後進してその場を離れる。

 

「・・・・」

戦艦級は、何も言わず、深チビのところに近づいて洗濯網を拾い上げる。

 

いつの間にか、ボートのデッキには、チビたちが整列し敬礼していた。

 

戦艦級は、ニカッと嗤い、答礼してきたが、尻尾が頭(?)をもたげるのが見えた。

 

(ヤバい!!)

アクセルをふかし、一気に加速し舵を切り船体をバンクさせる。

船首を振り回すように操船したら、両舷前進モードに切り替え大きく舵を切りながら、最大加速でその場を離れる。

後ろで巨大な水柱が上がり、充分危険だったことを再認識した。

 

そのまま戦艦級を軸に時計廻りで旋回する。

離れ過ぎないようにして、予測射撃の旋回が追い付かない船速で戦艦級の右舷をすり抜ける。

 

「お前ら!撤収だ、てっしゅーー!!

 全速で逃げろ、逃げろ!」

俺は、艦娘たちを怒鳴りつけ、戦線離脱を命令する。

 

聞こえたのか艦娘たちが脱兎のごとく逃げ出した。

逃走を支援するために再び戦艦級へ進路を変える。

 

真正面に戦艦級の主砲が見えた。

進路を変えて躱す。

はずだった。

 

主砲は、艦娘たちに向けて発射されたものだった。

着弾位置を確認すると駆逐艦が一隻倒れている。

 

正確な艦砲射撃だった。

二射目は、直撃するかもしれない。

 

迷わず戦艦級に進路をとる。

「お前ら、道連れになったら、悪かったな、先に謝っとく」

汎用機関銃(まめでっぽう)を戦艦級の足下めがけて撃ち続ける。

 

当てることは可能だが、反撃されてすぐ終わるだろう。

今は、少しでもこちらの意図を測り知ろうとする時間を稼ぎにいく。

 

うまい具合に反撃はない。

そのまま間近をすり抜け、抜けた先で船体をバンクさせて超信地旋回で戦艦級の後ろを取る。

 

そう離れていない場所に銃を構えて俺が立つ。

戦艦級は、嗤いゆっくり振り向いてくる。

 

戦艦級越しに肩を借りながら逃げる駆逐艦が見えた。

 

(うまく逃げろよ。

 思えば、まだ何にもしてねえな。

 中尉怒るかな。

 こんなことなら、間宮の料理をもっと食ってやるんだった)

ここまできたら神妙だった。

 

俺は、最期のやせ我慢で戦艦級の目を見続けた。

「チビたちよ、俺は地獄に行くから、お別れだ」

辞世の句が思いつかなかった。

 

チビたちがズボンのすそにしがみついてきた。

(ダメだ。

 こいつらだけでも、助けないと)

 

そう思ったら、戦艦級の間近にゆっくりとボートを進めていた。

特に警戒もしない戦艦級。

そうだろう、人間一人どうということはない。

 

「頼む、今、こいつらだけは見逃してくれ。

 俺は提督の職に就いている。

 そちらにとって充分な戦果になるはずだ」

特に薄っぺらなプライドさえもないので土下座する。

 

船体に静かに波が当たり、ちゃぷちゃぷと音がする。

 

頬にひんやりとした感触がしたような気がした。

 

「マタ アオウ」

確かにそう聞こえた。

 

恐る恐る頭を上げると戦艦級の姿はなかった。

海原で見渡す範囲に艦影は、なかった。

 

しがみついてくるチビたちを指でくすぐってやった。

「艦娘たちには、内緒だぞ。

 俺はブラックだからな」

チビたちが敬礼をしてくる。

俺は胡坐のまま、返礼する。

 

「さて、俺の鎮守府に帰るか」




土下座のまま、主砲で撃たれるはずだったのですが、続けます。

どうか皆さま、お付き合いください。


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第19話 がんばったゲスの本分

命拾いをした提督。

敵戦艦の砲撃を受けた艦隊を追います。

彼を応援してくださいね。


羅針盤(ジャイロ)を見ながら、進路は鎮守府に設定はしたが、直帰はできない。

 

砲撃で倒れていた駆逐艦は大丈夫だろうか。

動ける妖精(チビ)を飛ばし、捜索する。

 

今、提案した救難部隊の実地検証をしていることになる。

現場に向かう速度において回転翼機ほど速くはないが、高速艇ならほぼ同時に数隻の艦娘を救助でき一隻づつピックアップするより短時間で収容できること、荒天下でも運用できることが優位性だと思っている。

漁船よりも全高の低いこのボートは、敵に視認されにくい事で生存率を上げるはずだ。

 

捜索に出したチビが、帰還中の艦隊を見つけた。

鎮守府に直行せず、迂回進路を取っていた。

おそらくは、追跡されたとき、時間を稼ぎ少しでも鎮守府の防御態勢が整うようにと考えたか、鎮守府に侵攻する深海棲艦の側面から仕掛けるための進路とも考えられた。

 

彼女たちは、俺が鎮守府に出した命令を知らない。

だから、鎮守府にいる仲間のため、捨て駒になる覚悟で移動しているのだろう。

 

俺のことはともかく、仲間のことを考えろと言いたい。

お前らが犠牲になったら、その悲しみは計り知れないということを。

俺の命令に拘束されることなく、自分たちで生き残る道を探すようにと仕向けてきた。

 

まだ不充分だったということか。

さらに努力することを心に誓った。

(まずいな、目的が変わってきている。

 俺は悪党としても、もっと努力しないと)

 

俺は、私腹を肥やす努力を重ね、評価を上げて出世したい。

評価を上げるために何時(なんどき)でも冷静に命令の出せる覚悟のできた提督にならなければ。

それでいて艦娘たちが命令を無視してでも生還することが大事なのだ。

損失は、評価を下げるから。

 

日頃、戦艦や空母の、特に生巡の渋々従っている態度を見、懲罰(いやがらせ)が上塗りされて、俺は嫌悪の対象として確定している。

命令無視に踏み切るために何を仕込むべきか。

 

 = = = = =

 

「吹雪ちゃん、大丈夫っぽい?」

「うん、掠っただけだから。

 でも、調子が悪くて最高速度が出せない」

「提督、来てくれたね」

「わたしたちだけ逃げてきたけど、大丈夫かな」

「信じよう。

 だって、自分で言うくらいぶらっくな提督だよ。

 ピュアぶらっくだよ。

 すぐに逃げてるって」

「ぽい、ぽい」

 

「ううー、夜戦だったらこんなことには」

「川内さん、夜戦でも敵わないと思います!」

「鬼怒さん、言葉に棘がある」

「ていとくが来なかったら、あそこで全滅でしたよ」

「やっぱり?」

「やっぱり!」

「「提督(ていとく)、大丈夫だよね?」」

 

艦娘たちは、なぜか提督も無事だと思っていた。

生きていて欲しいと思う気持ちの裏返しかもしれない。

 

誰ともなく猛スピードの何かが追いかけてくることに気が付いた。

警戒し、艦砲射撃の準備をしたが、すぐにやめた。

待ち人(きた)る。

 

 = = = = =

 

「こうも早く追い付いたか。

 駆逐艦の足が遅くなっているというところか」

海面の乱反射の中に人影を見つけた。

 

洋上で人影と言えば、人類の制海権を揺さぶる今では、艦娘か深海棲艦だけとなっている。

ただ、南方の帆走カヌーなどに被害が出ていないので、標的対象には条件があるのだろう。

自分が見逃されたことに重ねて思案してみたが、艦娘たちの無事な姿を見て、答えを探すのを先送りにした。

 

 = = = = =

 

「全員、無事か?」

≪≪はい!≫≫

俺の問いかけに張りのある声で答えてきた。

問題はなさそうだ。

 

「訓練のおかげです!」

「逃げ足が早くなったっぽい!」

吹雪と夕立が、興奮気味に特訓の成果と強調する。

 

「元気そうだな。

 じゃあ、誰も見ていないし、お前たちの味見といこうか、クヒヒ」

ここでブラックなところを見せておかないと真面目(いいひと)な提督と思われてしまう。

 

≪≪ええーーーー!≫≫

(((みんなに見られながらは、恥ずかしい、でも)))

俺は、困惑を隠せない艦娘たちの反応に手ごたえを感じた。

 

「ていとく、あの・・・・」

「なんだ、鬼怒。

 逆らうのか、ああぁ?」

「いえ、日差しが強いので、日焼けしちゃったら、みんなにバレちゃうかなって。

 一緒に汗かいちゃったりは、別にいいんですけど!」

(こいつ、頭打ったのか?)

提督(ていとく)!順番はどうしたらいいですか?≫

(こいつら、攻撃でおかしくなったのか?)

 

俺は、艦娘たちを早く工作艦に診せる必要性を感じ、急いで鎮守府に帰ることにした。

 

全員の乗ったボートが帰投中、なぜか艦娘たちは不機嫌で一言もしゃべらず、話し掛けても無視される提督の姿があった。




全員、無事生還。


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第20話 困ったもんだ

提督のゲスさに艦娘たちは腹を立てたのでしょうか。

それでも提督はめげません。

彼を応援してくださいね。


提督やパトロール艦隊、出撃している妖精さんたちからの通信が途絶した。

正確には、通信が混線しているのではないか。

 

大淀の脳裏には、最悪のシナリオが浮かんでは消えていた。

このまま提督(あの方)が帰らなかったと思うと膝が震えだす。

 

スケベスカートって言ってもいいです、手を入れてもいいですから、無事に帰ってきてください。

 

 = = = = =

 

いつの間にこんな気持ちになって居たのだろう。

見た目もパッとしない、気味の悪い笑い方をする。

遠慮なくセクハラをして、日常的に暴力を揮う。

酷い振る舞いを許せるわけがなかった。

 

しょっちゅう揶揄われて、度の過ぎたセクハラを受けている。

 

いつのまにか、気付いていた。

彼は、オレたちが耐えられず嫌がるところまでのセクハラをしたことがない。

好かれないように振舞ってみせているだけ。

暴力と言っても、艦娘にとっては、蚊が刺した程度(蚊に刺されることはないけれど)。

心が傷つくような言葉を吐きながら、顔を殴ったりはしたことはない。

 

きっとあの夜、寝付けなかったあの夜までで、誤解は終わった。

 

廊下から足音が聞こえてきた。

確認のために廊下を覗くと足音の犯人は提督(ゲス)だった。

そして、見てしまった。

夜、艦娘の部屋に忍び込むその瞬間を。

その部屋は、長門と陸奥の部屋だった。

一気に体温が上がったと感じた。

 

あの時は、ふたりは提督(ゲス)から辱めを受けるのだと気の毒に思った。

布団の中で、悔しい思いをしていた。

提督(おっさん)が変わるたびに、オレたちが我慢しないといけないのか。

 

まもなく提督(ゲス)がオレたちの部屋に入ってきた。

覚悟した。

涙が出そうでも、寝たふりをするしかなかった。

 

舌なんか入れてきたら、噛み切ってやる。

 

布団に手が掛かるのが解った。

布団が肩を隠すと提督(あの方)は部屋を出て行った。

 

それから確かめるため、毎晩起きて待っていた。

毎晩同じように布団を直してくれる。

 

そして、今の関係になったきっかけ。

わざとパジャマのボタンを4つ目まで外して寝たふり。

提督(あの方)は、ボタンに気が付いた。

「生巡、乳首が見えてるぞ」

そういうと胸を一揉みして、布団をかぶせて出ていった。

意外にも嫌な感じはしなかった。

提督から身近に感じてもらったような気になった。

 

それからは、勝負を挑むことにした。

オレがどこまで敵うかわからないが、勝負することに意義がある。

でも、オレ、感じやすい性質だから、きっと負けちゃうな、フフン。

 

ヤバいのは、間宮さんと大淀だ。

いや待て、長門と陸奥、赤城に加賀もきっと危険だ。

武蔵は、いきなりやりそうだ。

うーん、駆逐艦たちは最初から懐いていたし。

ちょっと待てよ、龍田も興味なさげにしながら、提督を目で追っていたりしていたな。

 

天龍は、提督たちの帰投を待ちながら、クネクネと不思議な踊りを踊っていた。

 

 = = = = =

 

みなさん、無事に帰ってきてください。

提督、生身の人間なのに、助けに行くなんて、無謀です。

 

わたしたちが総力戦を挑めば、きっと勝てるはずです。

少将がおっしゃるには、こちらも損害が出るとのことですが、みんな頑張りますから、信じてください。

 

中尉が悲しそうな表情のままです。

彼女はニコニコしているときが一番魅力的です。

提督、どうか彼女と艦娘(わたし)たちのために、どうかご無事で。

 

きっと、みなさんおなかを空かせていますよね。

間宮は、せっせと料理の仕込みをしている。




ゲスの出番はありませんでした。


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第21話 裏切られた事実

再び帰投中の艦隊に焦点が戻ります。

提督は、艦娘たちの状況が懸念事項です。

彼を応援してくださいね。


そろそろ鎮守府が見えてきた。

 

「おい、お前らしっかりしろ」

俺が声を掛けても、返事は帰ってこなかった。

 

艦娘たちは船べりにしがみつきキラキラと海に向かって餌を撒いていた。

 

「どうした。

 お前ら艦娘だろ。

 船酔いなんかしてんじゃねえよ」

「うー、揺れが、ウップッ、ぎもぢわ、く、エロエロエローーー」

「川内、情けねーぞ」

まあ、ここまで来れば大丈夫だろう。

両舷の出力を下げ、減速する。

 

ちょうど引き潮時に陸風の中で波が高めになったところを疾走してきた。

船体が半浮上するので、波を乗り越える上下動とウオータージェットの出力調整で前後に揺れる。

慣れない分船酔いも仕方がなかった。

 

「ゆっくり走るから、しっかりしろ」

≪≪はい≫≫

 

全員、小破程度のようだ。

(ユニホームは、繕わないといけないか)

「うん?吹雪。

 お前、そのスカートは、古い方じゃねえか」

『はい、まだ、使えますので』

俺の問いに答えるとまたぐったり横になる。

 

「おいおい、破けてるじゃねえか」

『?、あ、すみません。

 これじゃ、もう履けませんね』

船酔いの辛さで気が回らないせいか、スカートを捲り上げて確認していた。

(パンツ丸見えだろ)

 

吹雪のスカートは、裏地が切れて焦げていた。

繕ったところに被弾したのが原因だ。

繕い直しても裏地の切れたスカートは、きっと売り物にならねえ。

 

貴重な資金源が・・・・ふと【裏切られた】とダジャレを思いついた時には、チビたちが慰めるように肩に乗っていた。

(お前らを売った方が絶対に儲かるな)

建設的な思考の瞬間、耳にしがみついたチビズが頬に蹴りを入れてきた。

 

「お前ら、串にさしてタレ塗って焼くぞ」

言ってみただけだが効果はあった。

ただし、座り直しただけのこと。

(こいつら、心を読んでるな)

 

「あ、見て見て、鎮守府に帰ってきたー」

(吹雪、スカートを押さえろ。

 パンツが見えてんぞ)

「生きててよかったっぽいー」

「提督のおかげです。

 ありがとうございました」

駆逐艦たちは、改めて生還を喜んでいる。

 

「川内、鬼怒、よく頑張ったな」

「「提督」」

軽巡たちは、ねぎらいの言葉に少なからず、誇らしさを覚え、身体の痛みが薄まっていくような感じがした。

(しまった!褒めかたを間違った。

 もっと高圧的にしないとダメな方向で頑張りやがる)

 

「まあ、鎮守府に着いたら、工作艦に見てもらえ。

 で、その後、24時間待機を命じる。

 気が向いたら私室に来い、治ったかどうかじっくり調べてやる、キヒヒ」

(いつもの調子でいい。

 これでうまく収まるはずだ)

 

((どうしよう、これってお誘いなんだよね。

 いいのかな。

 大淀さんや天龍さんが怒りそう))

 

(((あーん、まだ、暁ちゃんみたいに慣れないよう【っぽい】)))

提督は、駆逐艦が揃って鼻血を出したため、ボートの速度を上げた。

 

 = = = = =

 

「おがえ゛りー」

「おいおい、娘がそんなことをするもんじゃない」

中尉は、中佐にしがみついた。

涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を大切な先輩に擦りつけていた。

 

中佐は中尉の頭を優しく撫でる。

「少将、ご迷惑をおかけしました。

 ありがとうございます」

「こうして無傷で帰還したんだ、気にするな。

 これから、大変になるかもな」

少将は顎をさすりながら、言葉を探していた。

 

「今回遭遇した深海棲艦が、おそらくはこの周辺海域で艦隊を刈り取ってる単艦だと思われる」

「はい、記録でも見たことのない艦種でした」

徐々に事の重大さが見えてくる。

 

「で、貴様の艦隊はほぼ無傷で生き残った」

「・・・・何をおっしゃりたいのですか?」

「艦隊をつぶされたのが、過激派の鎮守府だとしたら」

「艦隊の運用に問題があると」

「そういうことだ。

 穏健派としては、大々的に喧伝させてもらう、いいな」

少将は、にやりと笑う。

 

「どうせ、小官には断る権利はないのでしょ」

「グスン、参謀本部次長(パパ)に挨拶に来てね」

泣き止んだ中尉がまたわけのわからないことを言い出した。

 

「中尉、穏健派が小官を利用するのは了承するが、それと挨拶は何の関係がある?」

「いいの、挨拶しに来てくださいね、中佐どの」

中尉は、中佐に抱き着き直した。

 

「中佐、オレと勝負しろー。

 ちゃんと待ってたんだぞ」

「提督、そんなヤツはほっといて、オレと勝負だ。

 何なら負けてやってもいいぞ。

 せっかく生き残ったんだしな」

「おい、オレの方が先だろ」

「お前は、昔の艦娘だろ、でしゃばるなよ!」

『そ、そんなこと言うなよ。オレだって、中佐が・・・・』

『いきなり・・、じゃねえよ。

 オレの方までバレるじゃねえか』

いきなりヒソヒソ話を始める生巡ズ。

 

まだ先は長そうだった。




最初に用意した食事は冷めてしまったので、
間宮がせっせと料理作っています。
伊良湖がお手伝い。


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第22話 溢れようとする乾き

第21話 題名は、ダジャレです。

裏(地)切られ(商品価値のなくなっ)た事実 orz ←提督

彼を応援してくださいね。





庁舎前に俺以下、鎮守府総出で少将の見送りに集まっていた。

「邪魔したな、今度は大本営でな」

コマンドカーに乗り込む少将。

 

「はっ!お疲れさまでした」

俺は精一杯の敬礼で見送る。

運転席の少将は、さまになる敬礼を返す。

 

コマンドカーが野太い排気音を残して、鎮守府の門を出て行った。

 

俺は、庁舎の前で立っていた。

「少将ー、お疲れさまでしたー」

「提督ー、ありがとうございますー」

「提督ー、オレがんばるぜー」

中尉と眼鏡’、生巡’が手を振り見送る。

 

「お前ら、どうしてここにいる」

返答は想像できたが、敢えて口にした。

 

「だってぇ、中佐って、将校クラブに来ないんだもん」

身を捩って、上目遣いの中尉の態度は、あざとかった。

 

「貴官、退役したらキャバクラに行けるな、いふぇふぇふぇ」

「中佐のイケず。

 そんなこと言うのはこの口かぁ」

中尉は、中佐の両頬を強めにつねる。

 

「中尉殿、わたしもやりたい」

「オレもオレも」

少将ズ艦娘もつねり始めた。

 

(くっそー、おっさんを舐めるんじゃねー、こうだ)

中佐は、つねられるのよしとせず、艦娘たちの胸を鷲掴みする。

「「ひゃーー」」

驚きを隠せず思わず手を放す艦娘。

悲鳴に驚いた中尉は、そのまま固まった。

 

「・・・・」

「!、中尉、そのまま続けてください」

「おう!中尉、コイツの手はオレたちで封じてやる」

眼鏡’と生巡’は、胸に被さる中佐の手に自分の手を重ねて、そのまま胸に押し付けた。

 

中尉は、何か気に入らなかった。

中尉を支援(・・・・・)するため、胸に置かれた手を放そうとしない艦娘たち。

 

「こら、手を放せ。

 若い娘がそんなことをするんじゃねえよ」

中佐は、予想外の事態に対処が遅れた。

それ以上に思考停止中の中尉。

 

「いふぇふぇふぇ」

「もーーーー! 中佐のエッチ、早く手を放しなさいよ!」

つねる力が一層強くなる中尉、手を掴まれてどうしようもない中佐、セクハラに息の荒い艦娘。

まさに三つ巴。

精神的に気に入らない中尉、マジで痛い中佐、目を潤ませる艦娘。

負の三角形(トライアングル)

 

 = = = = =

 

提督の置かれた状況を見物する鎮守府の艦娘たち。

気が気ではないが、中尉が居るため、手が出せなかった。

 

艦娘の立場は、兵器扱い。

指揮系統上、すべてにおいて権限はない。

司令官代理として、一時的は権限を行使することができるが、士官が居る場合、その隷下に入る。

給与は戦果に応じて昇給し、撃破艦種、数によっては、提督を超えることもあり得る。

ただし入渠時に物資を消費量した場合の一部負担も課せられるため、あまり裕福ではない。

 

生巡は、(ダッシュ)のポジションを自分と重ねていた。

(くっそー、あの手は、オレの胸と勝負するはずじゃねえか)

 

眼鏡は、(ダッシュ)にもどかしさを感じていた。

(相手は提督なんですよ。

 胸なんか触らせないで、脚で挟んじゃえばいいんです)

 

「加賀さん、今夜提督のところに行くんですね」

「赤城さん、遊びに行くんじゃありません。

 わたしは提督から辱められるのです」

「加賀、それは本当か!

 ウーム、それは大変だ。

 よし、わたしが変わろう」

「長門さんに迷惑はかけられません」

「じゃあ、わたしが行きますね」

「陸奥さんも何を言っているんです」

「加賀さん、一航戦として見逃せませんよ」

4人は自己犠牲を厭わず、譲らなかった。

 

「皆の献身の決心に心打たれた。

 この武蔵、被害担当艦を買って出よう」

「武蔵は、この鎮守府の艦娘ではない、理不尽を負わせるにはいかない」

長門は、危機感から武蔵の申し出を断った。

 

「お気遣いはうれしいが、気にしなくていい。

 提督は、わたしの舌の裏、腋の下の毛穴の数、大事なところの色まで知っている」

とんでもないこと口にした武蔵。

武蔵の言葉が聞こえた艦娘は、その場で凍り付いた。

 

提督の長い夜が始まったかも?




第2章 第6話 迷子 の夜に何があったのでしょう。 


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第23話 ある迷子の証言

結局頬をつねられ続けた提督。

セクハラは、その間続きました。

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夕食も終わっているのに、食堂が混んでいた。

普通は、娯楽室に集まったり自室で趣味に浸ったり体育館で汗を流すものもいたはず。

 

居心地の悪さを感じつつ、厨房際に新設されたカウンター席にいる。

「痛ぇー」

「わたし、悪くないもん」

俺は、氷嚢で頬を冷やす。

中尉は、開き直ってる。

 

頬の腫れが引かないので、氷がある食堂(ここ)に居る。

「中佐が、ほかの娘には(・・)構うから、悪いんだよ」

拗ねると同時に肩に頭を乗せてくる。

「貴官、寂しいなら早く彼氏(おとこ)を見つけろよ」

レンジでチンした冷凍シュウマイを口に入れる。

「小官も欲しいであります」

「ハイハイ」

箸でつまんで口元にもっていくと中尉が、パクついた。

クムクムと咀嚼する筋肉の動きが肩を通して伝わってくる。

 

 = = = = =

 

「いいなぁ、アレ」

「羨ましいのかよ」

「ち、ち、ち、違うぜ。

 シューマイが美味そうなんだよ」

「へぇーーー、そうなんだぁ」

思わず言葉を漏らした生巡を(ダッシュ)が揶揄う。

 

「てーとくは、やっぱり艦娘じゃ相手にしてくれないのかな」

「そんなことない。

 前の仕事の時は、色々してくれたんだから」

「仕事だったからじゃない?」

「うう、そうじゃないかもしれないかも」

眼鏡が望み薄を実感しているのを否定するも自信がない(ダッシュ)だった。

 

「ねえねえ、中尉殿って提督の恋人さんなのかな?」

「なかよしなのは、間違いないっぽい」

「提督は意識していないように見えるよ」

駆逐艦たちは、提督と中尉を観察し、今夜、私室に行くかどうか思案していた。

 

「夜戦だー」

「ちょっと声大きいよ」

「夜戦だー」

「ちょっと?」

「夜戦だー」

「川内さん、鼻血」

「夜戦だー」

「入渠して穿き替えて来よ」

巡洋艦は心の準備ができつつあった。

 

 = = = = =

 

「話を聞かせてもらおう」

「長門、別に聞くことじゃないんじゃない」

「いや、敵の弱点を知っておくのは悪いことじゃない」

「ちょっと、弱点って」

「べ、別にいいじゃないか。

 いざという時に反撃ができないと【ごうちん】じゃない轟沈をしてしまう」

「長門、鼻を摘まんでいるのはなぜ?」

陸奥は、慌てて鼻を摘まんだ姉妹艦に質問した。

「陸奥、いつもよりしつこいぞ」

長門型一番艦は、圧迫止血を実践しながら、慌てていた。

 

「わたしは、どうしたらいいか?」

武蔵は、少し頬を染めていた。

どうやら、提督と過ごした晩を思い出していたようだ。

「そうだった。

 聞かせてもらおう」

「そうだな」

武蔵は長門の依頼に応えた。

 

「別に大したことはない。

 わたしは提督の前で全裸になった。

 

 提督はわたしの舌を摘まむと入念に調べた。

 次に座らされ、腕を頭の上で組まされた。

 うなじから腋の下まで入念に見られた。

 

 次は胸だと思ったとき、布団に四つん這いに成れと言われた。

 明るい部屋では、丸見えになる。

 こういうことかと覚悟決めたら、内ももや大事なところ、拡げられ見られた。

 恥ずかしさで顔から火が出そうになったころ、こういわれた。

 【所属が判る登録因子が無いな】

 

 そう、提督は手がかりを調べるためだけにわたしを診た。

 

 そして、服を着るように言われたが、断ってそのまま布団に潜り込んだ。

 どんなにやさしかった提督でも(オス)として行動する。

 ここまでしておいて、我慢する(おとこ)はいないと体験で知っていた。

 その時は、彼の配慮に感謝して、身体を提供してもいいと結論に至った。

 きっとお互い心地よい時間を過ごせると思えた。 

 

 彼は寝着(ねまき)に着替えると布団に入ってきた。

 いよいよだと思って、覚悟した。

 やはり、知り合ったばかりの(ひと)と肌を重ねるのは、緊張する。

 気を使って、わたしが落ち着くのを待っていると思った。

 うれしかった。

 しかし、待っていても触れようとしない。

 

 ただ、じらしているだけかと、こちらから掴んでみた。

 手ごたえは、充分以上だった。

 彼は言った。

 【記憶が戻るまで、追い出さねえから、安っぽいことは、しなくていいぞ】

 

 身体の芯に熱いものが流れ込んできた気がした。

 わたしが、彼を信頼した瞬間だったのだろう。

 

 彼の腕を掴んで無理やり腕枕にして眠った。

 そして、残念なことに何もなく朝を迎えた。

 

 いつか、彼がわたしを求めてくれたら、うれしい。

 それだけのことだ」

 

武蔵は語り終わると喉を潤すためにやや冷めたお茶を飲んだ。

自然体で叙述した武蔵の表情は、柔らかく【女】だった。

 

いつの間にか武蔵の周りに艦娘(ひと)だかりができていた。

話を聞いた全員が、微熱を帯びる病にかかってしまっていた。

 

長門の鼻血は、しばらく止まらなかった。




艦娘は開発時に生体データを身体のどこかに記録されるという設定です。

この話の武蔵は、専用の読み取り装置で読めます。


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第24話 夜戦、突入?

武蔵の激白。

提督は、なぜ鋼の意思を持つのか。

彼を応援してくださいね。


間宮と鳳翔に少将の手土産の酒を勧める。

「少将も喜んでくれたし、ご苦労だった。

 せっかくの差し入れだ、飲んどけ」

「どうしたんです。

 提督にお持ちになったのでしょ。

 わたしたちに優しいじゃないですか」

 

「優しい?ガラじゃねえよ」

「「そうですね」」

大人の艶っぽさ持つふたりがクツクツと笑う。

 

「何か言いたげだな」

俺は、2隻の含み笑いが気になった。

「よろしいんですか、食堂(ここ)でお酒を勧めたりして」

「私室に連れ込んでから、じっくり飲むというのもありますよ」

(こいつら、何を企んでる?)

 

「中佐、舐められてますよ。

 生意気だから、制裁を加えないと」

中尉が明らかに面白がっている。

(黒幕は中尉だ、間違いない)

「貴官、何か吹き込んだのか?」

 

「ほらほら、殴る蹴る制裁はしないんですか?

 それとも、泣き叫んでも容赦なく責め続けるとか。

 お手伝いしますよ。

 なんかゾクゾクしますよね、クフフ」

中尉の言葉に違和感を感じた。

彼女がここまでいう意図が判らない。

ふと、カウンターに置かれたコップに気が付いた。

 

「貴官、コップ酒で何杯飲んだ!」

日本酒の栓は抜いていないのに日本酒の匂いがしたのはこのせいだ。

中尉は酔っても顔に出ないのを思い出した。

 

「間宮、中尉は何杯飲んだ?」

一升瓶の中身は、約半分!

「本当に普通のお酒だったんですか?

 立て続けにごくごく飲んでいらしたので、度数が低いの(ローアルコール)と思いました」

 

「ちゅーさー、ねえ、やりましょうよぉ・・ぐー」

中尉が酔いつぶれた。

弱い方ではないが、少ないつまみで一気に飲んだせいだろう。

自室に氷嚢を取りに行っている間の出来事だったという。

 

俺は気付いてしまった。

何かを決心して、酒で勢いをつけようとしたのだろう。

 

中尉を誘って初めて飲みに行った時に似ている。

「あの時は、着任祝いで鎮守府の門前町に繰り出したな」

情報部に所属していると各地に潜入するので、通常、転地で同じ配置になることはない。

何かの手違いで、被ったと思われる。

お互い初対面のふりをしていたのを思い出す。

(中尉の演技は、お世辞にもうまくはなかったな)

 

一軒目は創作料理の店で飯を食い、二軒目が洋風居酒屋だった。

俺は、ここまでで帰る予定だった。

彼女は、ショットバーをご所望だった。

仕方なく連れて行くとウオッカを立て続けに注文して酔いつぶれた。

ショットバーへ向かう道すがら中尉は妙なこと口にしていた。

【大尉(当時)、父のこと、気になりますか?でも、遠慮はいりません】

 

「じゃあ、俺は寝る。

 酒は、伊良湖と3人で飲むもよし、飲みたい者に振舞ってもいいぞ。

 そうだ、俺もそろそろいい目を見させてもらおうか。

 夜、俺の相手をしたヤツは、贔屓してやるぜ。

 濃いのを飲むことになるがな、クヒヒ」

中尉を抱きかかえ、食堂を出た。

 

「ウム、伝説の【お持ちかえり】だな」

武蔵は提督が中尉をお姫様抱っこする姿を見送って言った。

 

「で、では、この後」

長門が食いついた。

「提督のことだ。

 中尉を介抱し、あの方からは手は出さないだろう。

 が、我々が支援すれば、ふたりは結ばれるのではないか」

武蔵が企みを提案する。

 

「それは余計なことでは?」

長門が疑義を唱える。

 

「この武蔵、中尉殿には、いろんな意味で貫徹して欲しい。

 うまく誘導すれば、ンフフ。

 最良の策だと自負する」

武蔵が胸を張る。

 

「うーむ」

「長門どうするの?」

陸奥はまだ少し躊躇の残る長門に尋ねた。

 

「よし、貴艦に協力しよう。

 ただし、あくまで中尉殿の貫徹を支援するわけであって、決して私欲からではない。

 不測の事態には、わたしが引き受けよう」

長門が、顔を赤くして宣言した。

「被害担当艦がこの武蔵だけで充分」

「話が違うではないか」

長門が抗議の弁を述べる。

 

「貴艦こそ、独り占めしようとしたぞ」

武蔵が言い返す。

 

2隻が低レベルで言い争いを始める。

 

『加賀さん、今のうちに一航戦出撃しましょ』

『赤城さん、鼻血出てますよ』

正規空母2隻は、忍び足で食堂を後にする。

 

「長門、先を越されるわよ」

「「何!」」

陸奥が食堂の出入り口を指さすと長門と武蔵が示す方向に視線を向けると空母の後姿があった。

 

「あ、ずるい。

 わたしも出撃するぞ」

武蔵が走り出す。

その後を数隻の艦娘が追いかけた。

 

厨房もなぜか誰もいなかった。




とうとう夜戦に突入?


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第25話 夜襲

お姫様抱っこで私室に戻った提督。

艦娘たちの蜂起なのか。

彼を応援してくださいね。


≪≪ダダダダダダダ≫≫

けたたましい複数の足音。

 

≪バタン!≫

乱暴に開かれるドア。

 

混成艦隊がなだれ込む。

艦隊の目標は、手に届くすぐそこ。

 

ベッドのように床と段差のある畳床、そして布団。

今まさにとある営みの最中。

 

前列の艦娘が暗闇の中、掛け布団内部に突入を敢行した。

 

「「「わたしたちも混ざりまーーす」」」

「ひゃあーーーーーーーーーーー」

人間の絶叫!

 

「あれ、柔らかい」

 

「こっちは中尉だ」

 

「ちょ、胸を掴まないで」

 

「あん、ついてないから、ついてないから、まさぐっちゃいやー」

暗闇の中、中尉を始め、艦娘たちは混乱した。

 

出遅れた眼鏡が私室の灯りを点ける。

「うん?提督がいない」

 

布団の上には、着衣のはだけた中尉と艦娘たちしかいなかった。

 

 = = = = =

 

「隣りが騒がしいな」

私室の大騒ぎで提督は執務室で目を覚ました。

「中尉!俺の身代わりに!」

ソファから跳ね起き、クッションの下から拳銃を取り出す。

スライドを引くと同時に私室に繋がるドアのノブに手をかける。

 

私室に飛び込み拳銃を構える。

「お前ら、動くな!」

 

銃を構える手がかすかに震える。

こんな豆鉄砲は、反逆者どもに無力だ。

 

「中尉、まだ生きてるか?」

「ちゅうさー。

 生きてるよぉ」

はっきりした声に安心した。

しかし、その姿はすでに乱暴され尊厳を失われたようでもあった。

 

反逆者の中に武蔵を見つけた。

「お前もか」

俺は、諦めた。

 

拳銃から弾倉を抜き、布団に放り投げた。

拳銃の薬室に装填された1発をスライドを引いて排莢して、拳銃も布団へ放る。

 

俺は手を挙げて、抵抗しないことを知らせる。

そして、最後の望みを訴える。

「中尉は、艦娘を信じている。

 彼女とは、きっといい関係になれるはずだ。

 解放してやってくれ、頼む」

 

「中佐?」

唖然とする中尉。

 

「中尉、後任には、信頼できる人材を中将に頼んでくれ。

 怖い思いをさせてすまなかった」

俺は、なるべく平静を保って、ゆっくりと話した。

自分に言い聞かせるように。

 

生き延びてほしいと思いがあったにしても艦娘たちにはひどい仕打ちをしてきた。

横流しという悪事に手も染めた。

どこかで恨みも買っていただろう。 

 

漠然と最期はこうなると理解していたかもしれない。

さっきから、膝の震えが止まらない。

基本、俺は臆病だ。

 

生巡ズ、眼鏡ズもいる。

俺は、どこかで彼女たちと上手くやれてたような錯覚をしていた。

 

間宮がいる。

勘違いに気が付いた。

彼女の演技に騙されていたんだ。

全く間抜けた話だ。

彼女は虎視眈々とこの機会を伺っていたということだ。

 

「提督!

 わたし提督を尊敬しています!

 だから、だから・・・・」

吹雪が前にいる艦娘かき分け前に出てきた。

 

「吹雪、お前が俺の処分係か。

 ユニホーム、俺の汚ぇ血で穢さねえようにな」

「提督」

吹雪が抱きついてきた。

可愛そうに、人を殺したくはないんだ。

娘がいれば、こんな感じかと頭を撫でてやる。

いつもみたいな髪型を乱すのでなく、ゆっくりと。

 

「さあ、落ち着いたら、できれば一思いに頼む」

俺は、できるだけ見苦しくないように目を閉じる。

しかし、恐れおののいている。

深海棲艦と相対したときよりずっと怯えている。

 

護るものがないというのがこれほど空虚なモノとは思いもしなかった。

俺は、最期の時を静かに待った。




いよいよブラックな提督は覚悟を決めました。

壮大な勘違いですが。


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第26話 艦娘の主張

勘違いが招いたこの事態。

罪を感じている提督が決して埋めない堀ができています。

彼を応援してくださいね。


「中佐、早とちりです、はぁー」

中尉が呆れ顔でため息を吐く。

 

「悲鳴が聞こえて、はだけててりゃ、心配するだろ」

微妙な空気が俺の勘違いを解きほぐしていく。

 

「いきなり拳銃は、物騒よ」

「おまえに何かあったら、みんな悲しむからな。

 その身を護る責務が俺にあるだろうな」

「一生?」

中尉のその無茶ぶりに呆れることがある。

他人を一生護るなんてことは、できることじゃない。

「そこまで面倒は見られん。

 その役は、貴官の旦那になる人物の役目だな」

俺は、あるべき姿を人生の後輩に言い聞かせた。

 

「ブーーーー」

甘やかされてきただろう中尉は、膨れて不満をあらわにした。

 

「提督、何か誤解があったようだ。

 どうだろうか、安眠を妨害した艦娘選び、制裁を加えるというのは?

 むろん言い出したわたしが引き受けよう」

いち早く名乗りを上げたのは、長門。

ちらりと武蔵を見た。

 

「居候のわたしが咎めなしというのも不自然だな」

武蔵も名乗り出る。

 

「「安眠の妨害なら、オレたちだろうな」」

生巡ズが負けずに名乗り出る。

「あらー、天龍ちゃんが、そういうなら、提督お手伝いしますね」

龍田がおまけだった。

 

「そういうことなら、わたしも入らないと」

そういうのは陸奥だった。

 

「提督、気が向いたから来た。

 赤城さんは援護です」

「加賀さんの援護です」

一航戦は仲がいい。

 

「「てーとく、わたしたちの至らない点を叱ってください」」

眼鏡ズが思い出したように入ってきた。

 

「パトロール艦隊は、今夜まとめて味見でしたよね?」

艦隊旗艦の川内が代表して参加を表明した。

川内、鬼怒、吹雪、夕立、睦月が、一大決心をし自分をその場に留めるために手をつないでいる。

 

「提督、スタミナ料理でご希望おありですか?」

間宮はさりげなく面倒見の良さをアピールした。

「提督、わたしたちはのちほど・・・・」

鳳翔の奥ゆかしく積極性がさく裂。

 

「提督ー、なぁ~?意外とイケてんだろォ~あたし」

「軽空母、酔っ払いは、部屋で寝ろ」

隼鷹の頭を撫でて、掴んで顔の向きを出口の方に向ける。

 

今回ばかりは、俺の早とちりだったようだ。

かといって、艦娘をこのまま信用するほどお人よしでもない。

 

臆病な俺は、一抹の不安さえ、警戒するのだ。

 

とりあえず、艦娘の神経を逆なでしないようにいつも通りの態度をとる。

激高しないだろうと甘い見通ししかないが、仕方がない。

 

「中佐、腕枕ー」

「貴官、寝ぼけているのか?」

独身女性がむやみにおっさんと同衾するなど不自然極まりない。

 

「ハイハイ、みんな解さーん。

 今からわたしと中佐の時間だから。

 痛い痛い」

とんでもない言葉を口にした中尉を父親代わりに頭を鷲掴みにする。

 

参謀本部次長(パパ)に言いつけるよ!」

「今から電話して叱っていただこうか?」

「それは勘弁」

いつものやり取りで、話が終わる。

 

 = = = = =

 

「肝をつぶすってああいう心境なんだ」

俺は、まだ心臓がバクバクと鳴り続けていた。

ソファーでウイスキーをチビチビ飲んでいた。

 

「中佐、横いい?」

申し訳なさそうにドアから覗いている中尉がいた。

 

「ああ、もう酔いは醒めたのか?」

「うーん、まだ、少し酔ってるよ」

「酔ってる自覚があるなら、大丈夫だな」

「えへへー」

ペタペタと歩いてきた。

来客用のスリッパに履き替えていた。

 

「貴官、それ、俺のシャツだろ」

「えーそうだったんだー、気が付かなかった」

中尉は、わざとらしくとぼけてポスンと隣に座る。

 

風呂に入ってきた彼女は、すっかり女性の香りに包まれていた。

 

「くーー」

「貴官、そのまま寝ると風邪ひくぞ」

「・・・・」

なぜか一瞬で眠った中尉。

「仕方ねえな」

肩にもたれる彼女を起こさないとように静かに酒を飲む。

「貴官、乳揉むぞ」

中尉が、ピクンと動く。

「やれやれ」




もうグッダグダです。


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第27話 パパ来たる

騒ぎは収まりまりました。

提督は自分のブラックさには自信があったようですが。

彼を応援してくださいね。


「しまった」

寝過ごしたことを後悔している俺が居る。

 

つい今しがた眼鏡が起こしに来た。

それはいい。

 

私室の布団の中だった。

それもいい。

 

中尉が横で眠っていた。

それはどうにかなる。

 

なぜか武蔵が増えている。

この辺から少し不味い。

 

中尉と武蔵がシャツしか着ていない。

いよいよピンチ。

 

中将が横に立っていた。

銃殺の危機がすぐそこにあった。

 

 = = = = =

 

0700

鎮守府に来客があった。

 

サイドカーが先導する黒のセダンが鎮守府の鉄門前で停車する。

群青地に金の桜のマークが4個記されたプレートがナンバープレート代わりについていた。

 

当直の艦娘が通用門から運転席のところに用件を確認しに駆け寄った。

当直が敬礼をし、屈むと運転席の窓が下がる。

「おはよう、急ですまん。

 み、中尉を迎えに来た」

白髪の混じり始めた男性は、シブいおじさまだった。

 

「おはようございます。

 鎮守府にようこそお越しくださいました。

 一応、身分証明をお願いいたします」

うさ耳リボンの駆逐艦は、しっかり当直していた。

 

前に止まっているサイドカー、舟側の兵士が、振り向いて艤装を展開した。

艦娘の連装砲3基が素早くその兵士に照準を合わせていた。

 

「ほう、なかなかいい動きだな」

おじさまは感心しながら、身分証を当直に渡す。

 

「訓練の成果でーす。

 はい、ありがとうございます。

 お返しします」

当直は、少し照れて答えた。

 

「護衛の艦娘たちも入府してもいいかね?」

「はい、どうぞ。

 駐車場は、軍用車の隣をお使いください」

 

サイドカーとセダンが敷地に入って行った。

 

 = = = = =

 

「ここの島風は、一段と速いですね」

「反応も早かったわ」

後部座席の航空戦艦2隻は感心していた。

 

「彼のことだから、当然と言えば当然だが、この短期間というのは、さすがだな」

中将(中尉パパ)は、機嫌が良かった。

 

 = = = = =

 

「参謀本部次長閣下が、お越しになったの?」

≪はい、今駐車場にクルマを停めました≫

「わかったわ、ありがとう」

眼鏡は、内線電話を切ると出迎えるために玄関へ向かう。

 

眼鏡は、いつもと変わらない態度だったが、内心驚いていた。

大本営の要人の場合、普通事前に連絡がある。

鎮守府とはいえ、昨日の深海棲艦との遭遇で、最前線になってしまった。

護衛が何人いても決して安全とは言えない。

 

玄関には、航空戦艦2隻、防空駆逐艦2隻を従えたシブいおじさまが待っていた。

 

「閣下、ようこそお越しくださいました。

 提督の執務室にご案内します」

「できれば先に中尉に会いたいのだが」

「承知しました。

 まだ提督の私室でお休み中と思いますので、そちらにご案内しますね」

「私室?」

中将の表情が明らかに変わった。

「大丈夫です。

 提督でしたら、執務室の方でお休みしておられますから」

眼鏡は、娘を心配する父親の心境を察して、フォローをした。

 

「いや、むしろ、約束を取り付けたかどうかが心配だね」

「はいー?」

中将の言葉は、眼鏡の想定外だった。

 

 = = = = =

 

「ここが、提督の私室です。

 わたしは、提督を起こしてきます」

眼鏡は、中将に一礼すると隣の執務室の扉の前にたった。

 

≪コンコン≫

「てーとく、起きてください。

 参謀本部次長閣下がお見えですよ。

 起きて、支度してください。

 入りますよ」

≪カチャ≫

 

眼鏡が見たのは、無人の部屋だった。




とんでもない状況で迎えた朝。


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第28話 パパと呼びます

とんでもない状況になりました。

提督がなぜ私室に移ったのか。

彼を応援してくださいね。


無人の執務室を見た大淀は、そのまま奥の扉に向かって駆けだし、私室に飛び込んだ。

 

すでに中将が畳床のそばに立っていたが、構わず提督(ゲス)を起こす。

 

「起きろ!このゲス野郎」

思わず叫んでしまった。

海軍上層部の人間(VIP)の目の前というのは非常にマズい。

気が付いたのは、叫んだ後だった。

 

しかし、叫ばずにはいられなかった。

 

昨日の晩、提督の本心が判ったから、おとなしく引き下がった。

以前のように律儀に紳士然と過ごしていると思っていた。

 

それが、中尉と武蔵と眠っている。

ふたり同時に愛したのだ。

自分でも咄嗟に叫んでしまったことが理解できない。

 

じわじわと感情が滲むような錯覚を感じた。

感情は入り混じっていたが、悲しみに傾いているのは意識した。

(誰かとするなら、一言言って欲しかった)

 

艦娘たちは、この鎮守府で誰が最初かと注目してきた。

 

それがふたりとも部外者という事態が、眼鏡の提督のモノ(おんな)になった自負を揺るがした。

提督に告白はしていないが、いずれは夜の相手を引き受けてもいいと思うようになっていたのに。

 

「あー、大淀。

 すまんが席を外してくれないか」

ささやかな依頼だった。

直ちに参謀本部次長の依頼は、実行された。

 

「あー、どうゆうことか、説明はできるんだろうな」

参謀本部次長(シブいおじさま)は、低く強い意志の籠った声で提督に尋ねた。

 

「ええ、話しましょう。

 ・・・・娘さんを俺にください」

提督は床に降りて、土下座して言った。

 

提督は考えた。

このままでは、銃殺される。

しかし、恋焦がれ、行為に及んだと思わせれば。

 

(中将は、俺を買いかぶり過ぎるところがある。

 順当に懲戒除隊か、提督を罷免される程度で済むかもしれない。

 しかし、中尉にしてしまうとは。

 中尉のことだ、抵抗しただろう。

 重い一撃を食らって記憶が飛んだかもな?

 じゃあ、武蔵はどうして居たんだ?)

提督の頭の中で、この事態の起承転結が浮かんでは消えていた。

 

「中佐」

布団の方から、声がした。

鼻と口を手で覆い、瞳を潤ませた中尉が座っていた。

 

「そうか。

 美鳳(みどり)(中尉)を」

中将(中尉パパ)は静かに言った。

 

「パパ、自分は幸せになるであります!」

布団の上で横座りの中尉が敬礼をする。

「ウム、しっかりな」

父は娘に答礼した。

 

「あれ?」

事態を飲み込めない提督は、固まっていた。

 

 = = = = =

 

「閣下、揶揄うのは勘弁してください」

執務室の応接椅子に座った提督は、コーヒーを飲みながらぼやく。

「どうだね、君も家庭を持っていいころだ。

 親バカを承知で、ウチの美鳳は優良物件だと思うが」

中将は、本気とも冗談ともとれる態度だった。

窓辺に立って海を見ているので表情は解らなかった。

 

中将は手に持ったカップを傾ける。

「お、なかなか美味いな」

「ありがとうございます」

「どこから仕入れたね?」

「えーっと・・・・、忘れました」

提督は答えられなかった。

余剰物資の横流し先から、送られたお中元とは口が裂けても言えない。

 

提督は知らなかった。

彼が横流しする医薬品が民間の病院に出回るおかげで、助かった命は数えきれない。

期限切れ寸前だとしても、軍用の医薬品は、生体兵器開発途上で生まれた新薬も多い。

中には、一部の患者にとっての特効薬が含まれる。

医師や患者、その家族が、感謝の気持ちを業者に託していた。

 

情報部は、提督(当時少佐)が怪しいと内偵したが、個人資産がほとんどなかった。

そのため、追及しないと決定し、大本営には報告していない。

 

≪カチャ≫

「おっはよー!」

「おはようございます」

上機嫌の中尉とどこか寂しそうな武蔵が着替えを済まして執務室に入ってきた。




武蔵はなぜか寂しそう。


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第29話 パパ帰る(娘と一緒)<前編>

心ならずも中尉と結婚したい言ってしまった提督。

機嫌のよい中尉。

彼を応援してくださいね。


「ムーーーーー」

セダンの後部座席で膨れる中尉の姿があった。

 

「まだまだか。

 早く孫の顔が見たいんだが」

横に座るのは、すっかり親の顔になっている中将。

 

「パパは、運転しててくれたら良かったのよ」

窓の外を眺める中尉。

表情は見えないが、明らかに不機嫌だとわかる。

 

「お嬢さま、それは元々護衛の仕事ですので」

伊勢が中尉を窘める。

 

「閣下が運転しておられたら、ゆっくりとお話しできませんでしょう」

日向は、ルームミラーに映る中尉を見ていった。

 

「日向、先にハンドルにしがみついたキミにそういわれると納得しづらいな」

おじさまはちょっとオコだった。

 

中将は、運転が好きだった。

休暇の日には、家族で出かけるように心がけていた。

彼にとってはかけがえのない大事な家族。

海軍でもその家族思いは有名だった。

 

海軍上層部は、艦娘の護衛が付く。

その任務の性格上、緊急時に対処できる運転技術を身につけている。

この日向は、中将の運転好きの影響を受けたためか、テクニックは大本営で1,2位の腕前だったりする。

 

前をサイドカーが走っていた。

彼女たちも護衛として訓練を受けている。

 

 = = = = =

 

時間は少し遡る。

 

ブラック鎮守府の朝は早い。

 

ゲス野郎(新しい提督)いやがらせ(ご褒美)精神的に追い詰められている(エネルギッシュな)艦娘たち。

ゲス提督(艦娘)の視点

 

体力づくりに励むもの、釣りで食料を確保するもの、図上演習(シミュレーション)で艦隊運用を研究するものと自分にできることに打ち込んでいた。

目的はほぼ共通していた。

 

ゲスな(大切な)提督に反逆する(ほめてもらう)ため。

何人か集まるとつい口から出てしまう建前(本音)

 

艦娘たちは、大淀のしらせで中将パパの入府を知る。

失礼があっては、鎮守府の不名誉。

 

食堂の混雑が収まり始めた頃、食堂の出入口から空気が変わった。

出入口近くの艦娘たちが、立ち上がり直立不動で敬礼し始めた。

 

「傾注!全員、閣下に敬礼!」

大淀は、号令をかけた。

食堂は緊張に包まれる。

 

「全員、楽にしたまえ」

声の主は、シブいおじさま。

艦娘たちは、提督と違った優しさを感じ取った。

 

生巡’と眼鏡’は、驚いた。

自分たちの提督の先輩であり、穏健派の実質トップが、深海棲艦と遭遇したばかりの翌朝に来訪した。

護衛はいるだろうが、提督の少将とくらべて海軍においての影響力は格段に大きく、もしもの時のリスクは想像がつかなかった。

 

「閣下、粗相があれば、すぐ解体しますから誰でも選んでください、キヒヒ」

「貴官、誰でもいいのかね」

提督の申し出に興味を示す中将。

 

((((ひぇーーーーー))))

会話の聞こえた艦娘たちは、少し不安になった。

提督のいつもの冗談だと思ったが、偉い人が一言言ったら、命令として実行されるのじゃないかと。

 

「こらこら、オッサンたちが艦娘を脅すんじゃない」

中尉が中将と中佐の後頭部にチョップを入れる。

ちょっと不機嫌だった。

 

「そんなことより、中佐!

 パパにわたしと結婚するって言ったでしょ。

 ちゃんと聞いてましたからね」

≪≪ザワザワザワ≫≫

中尉の声が食堂に響くとざわめきが始まった。

 

「中尉。

 あれは結婚じゃなくて、配属して欲しいってことだ。

 貴官は、艦娘たちと仲良くなれるからな」

提督の言葉が大淀には不自然に思えた。

(布団の中で一緒だったことの説明ができてないじゃない)

 

「そうだ、武蔵。

 どうして、提督と一緒に布団の中にいたの?」

中尉が口を滑らした。

 

((((中尉と武蔵が提督と一つの布団で!!))))

 

「提督ーーー、今の話は本当なのか。

 オレにはセクハラ止まりなんだぞ。

 なんてうら、破廉恥なことしやがってー」

「そうだ、そうだ。

 今からでもオレたちがもいでやるから、誘えよ!!」

生巡に生巡’が加勢する。

 

「わかった、わかった。

 ふたりまとめて相手してやる」

「「ぅ、ひゃん」」

提督は、生巡ズを腰に手を回し、続けて尻を鷲づかみにした。

生巡ズは、思わず小さい悲鳴あげたが、嫌がらなかった。

 

その様子は、中尉を始め、艦娘たちに見られていた。

 

厨房の奥で間宮が(にっご)りと微笑んでいた。




続いちゃいます。


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第30話 パパ帰る(娘と一緒)<中編>

勝負を挑まれた提督。

勝敗は決しているように思えます。

彼を応援してくださいね。


食堂は、緊張に包まれていた。

 

中尉と武蔵がわたしたちの(・・・・・・)提督と一夜を過ごした。

中尉はともかく野良艦娘の武蔵が贔屓されている。

そのことは、容易に受け入れがたかった。

 

確かに提督が着任したときの状況は受け入れがたかった。

しかし、その後は<懲罰>(ごほうび)を甘受して、恭順の姿勢を示した。

 

それなのに鎮守府の誰も提督から相手にされなかった。

自分たちのどこに非があったのか。

誘われたと思っても結果的に相手にされていない。

なぜだか腹立たしい。

 

 = = = = =

 

「中佐!何してるの!」

中尉が怒鳴った。

 

「何って、こうやってこいつらの希望を叶えてやってるだけだ、キヒヒ」

「グーを食らいなさい」

わざとらしい提督の顎に中尉の鉄拳が見舞われる。

 

脳を揺らされた提督は、その場で崩れた。

 

「美鳳、そんなことを続けてるとコイツは誘っても嘘だと思うぞ」

「だってぇー。

 艦娘ちゃんたちとは、スキンシップするのに、わたしはデートの誘いもなしなんだもん」

「早く孫の顔が見たいんだが」

「・・・・できちゃった婚でいい?」

「父親に聞くもんじゃない」

「痛い」

中尉は、中将のチョップを頭で受け止めていた。

 

 = = = = =

 

艦娘の何隻かは、自分でお尻を掴んでいた。

駆逐艦は首を(かし)げる。

 

2隻のバストの豊かな巡洋艦が頬を染め、なぜ心なしか何かを期待しているような表情をするのか今一理解できなかった。

 

間宮の方を見ると唇を尖らせ拗ねているように見えた。

 

 = = = = =

 

「提督、この際、はっきりしてください。

 わたしたちに何もする気はないんですか!」

大淀は、思わず言ってしまった。

 

失神から意識を戻した提督は、虚ろ、あるいは思いを巡らせている様子だった。

柔らかく温かだったが、彼は気付いていなかった。

息をのむ艦娘たち。

食堂は、提督の言葉を聞き洩らさないように静まりかえり、緊張さえ漂い始めた時だった。

 

「何もしねえわけねえだろ。

 お前らが泣き叫ぼうが、やりたい放題に決まってんだよ。

 せいぜい身体を洗って待ってるんだな、キヒヒ」

(どうよ、中将の前だから、何もしないと言い逃れると思ったんだろうが、当てが外れただろ)

 

「提督、早速だが、わたしが引き受けよう」

その言葉で完全に意識を取り戻した提督は固まった。

それまで、失神からうっすらと覚めた提督に膝枕を提供してきた長門が、温かみの籠った笑顔を向けていた。

「な、何言ってやがる。

 お前なんざ、100年早いんだよ」

 

「中佐ぁ」

呆れる中尉。

「貴官、相変わらず、この手の状況判断ができない男だな」

同じく呆れながらも父親の顔を見せる中将。

 

「しょ、小官は、ブラックでして、こんなことは日常茶飯事でして・・・・」

もうグダグダでブレまくった言葉を並べる中佐に、中尉が助け船を出す。

「ハイハイ、中将の前だから、みんな品行方正でお願いね。

 そろそろ、わたしたち帰るから」

「美鳳、まだ少しくらいなら、いいんだぞ」

中尉パパは、娘を想って、言葉をかけた。

 

「大丈夫、中佐が【僕がお嬢さんを幸せにします】って言ってたし」

「中尉、俺のセリフじゃないようだが」

明らかに記憶と違う言葉を聞いて、中佐はやんわりと否定した。

 

「中佐、ウチの娘がそれほど気に入らないのかね」

中将の表情は、誰が見ても不機嫌そうに見えた。

「閣下、おっしゃっていることが小官には理解できないのですが・・」

 

中将にオロオロと身振り手振りで言い訳をする提督。

それを見た艦娘たちは、少なくともその姿を情けないとは思っていなかった。

艦娘たちが敵わなかった戦艦級を退けた提督(・・)の胆力を知っている今では。

 

中将護衛の艦娘たちは、相変わらず中佐の身の回りで見られる光景をほほえましく眺めていた。

 

軽い溜息をついて、厨房で昼食の仕込みを始める間宮だったが、その口はもう尖っていなかった。




すべてはピュアでブラックな提督に告白させるための包囲網が分厚くなってきました。


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第31話 パパ帰る(娘と一緒)<中編その2>

ブラックな宣言をした提督。

長門を断ってしまって格好がつかない提督。

彼を応援してくださいね。


「さて、そろそろ帰るか」

シブいおじさま中将が、護衛艦娘たちに合図する。

 

「中佐、今、ホッとしたでしょ」

「そ、そんなことはないぞ」

ホッとした中佐の機微を見逃さなかった中尉。

長い付き合いで誤魔化しきれていなかった。

 

「もう、いじめてやるな」

娘の肩に手を置く中尉パパ。

「でもさ」

「銃殺か婿入りを選ばせるだけだ」

「それなら、・・まあ、仕方ないか」

「この父娘、とんでもないことをサラッと言いよった!」

思わず突っ込む提督。

 

「ブラックな提督の運命には、ちょうどいいよ」

中尉は、ニシシと楽しそうに笑った。

「銃殺はともかく、婿入りは、相手を選び放題の貴官にとってデメリットと思うが?」

ブラックを自称する提督(おっさん)には、何度も繰り返される疑問。

 

「な、何言ってるのよ。

 わたしのワガママに付き合うことになるのよ。

 もしかしたら、イケメンと浮気するかもしれないし』

急に語尾が萎むように弱弱しく小声になる中尉。

 

「?、またわからん事を。

 貴官、それなら、婿入りはおかしいと思うが」

全く、中将までがおかしなことを口にしたものだ。

 

「何?婿入りが不満なの!」

中尉の方が不満そうだ。

 

「いやいや、婿入りじゃない別の選択肢を閣下に、ウォっ、ぃててて」

中将と中尉の父娘のコンビネーションで肩を決められて、床の模様を間近で堪能する姿勢になっていた。

 

「何が不満かはっきり言いたまえ!」

「ちょっとは喜んだらどうなのよ!」

異口同音の詰問は、提督を追い詰める。

 

「不満はありませんよ、いてて」

「嘘ばっかり!

 どうせ生意気な女って思ってるんでしょ」

「そうなのかね」

「いててててて、推測は勘弁してください!

 俺が中尉と歳が近かったら、玉砕覚悟で告白してますって」

「「えっ!」」

≪≪え゛!≫≫

 

俺は解放された肩を回すことができた。

しかし、解放されたわけではなかった。

食堂のちょうど中央のテーブルに座らされていた。

窓が暗幕で覆われ、灯りは目の前のチープな電気スタンド(LED)がある。

 

「さあ、説明してもらおう。

 お嬢さまに告白するというのは、本心か!」

「生半可な気持ちだと、われわれが許さんぞ!」

伊勢と日向が口調も厳しく尋問をしてくる。

(こいつら、噂に聞く美鳳組(中尉のファンクラブ)だったのか)

 

「あー、言った通りだ」

嘘ではないので、そのまま答えた。

 

「けしからーーーん!!」

「お嬢さまは、嫁に行かせーーーん!!」

(ガチだ。

 美鳳組は、中尉が絡まない限り、動かない。

 ただし、中尉に言いよる者が現れるとその者に不幸が何重にも起きるとして、情報部でも調査したことがあった)

そのころ、一番の被害者は中尉だった。

=> 情報部の調査報告は大きなミスを含んでいた。

   この当時から、中尉(当時准尉~少尉時代)の気持ちは、すでに決まっていた。

   そのため、本人への精神的ダメージも皆無だった。

 

中将と中尉は、護衛の防空駆逐艦に執務室へと連れられて、ここにはいない。

その様子からいつものことなのだろう。

 

「こうなれば、覚悟してもらおう」

「われわれが貴官を篭絡させる!」

航空戦艦2隻が提督ににじり寄る。

 

「天龍、大淀、提督を安全なところへ!

 貴艦たちの相手は、ビッグセブンと武蔵がお相手しよう」

武蔵が2隻の前に立ちはだかる。

「武蔵、航空戦艦とあいまみえるのは別に構わないのだが・・・・」

あの(・・)4隻に任せたら、提督の危険になっちゃうんじゃない」

「・・・・」

武蔵は、言いづらそうな長門とズバリ指摘する陸奥の疑問を認識すると汗をダラダラと流していた。

 

 = = = = =

 

「こら、バカ、やめろ。

 お前ら、解体すんぞ

 コラ、手ぇ放せ」

「うえるせぇ、そっちの手、押さえろって。

 悔しかったら、オレたちと砲撃戦しやがれ。

 うっ・・・・少しだけ優しくしろよ・・」

主砲を掴んで確認した天龍’は固まってしまった。

 

「お前、何言ってんだ。

 せっかくの砲撃戦だぞ、手加減なんか・・・・あった方がいいかな」

「何、どうしたの。

 ほかの艦娘()が来ちゃ・・・・コレ」

「もう、みんな、せっかくのチャンスなの・・・・に、わたし慣れてないの」

 

鎮守府内裏庭芝生上砲撃戦は、圧倒的な攻撃力を目の当たりにした艦娘たちが戦意喪失したため、開始されることなく終了した。




先は長そうです。

もう少しお付き合いを。


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第32話 パパ帰る(娘と一緒)<中編その3>

無血終結を果たした提督。

その秘められた攻撃力とは。

彼を応援してくださいね。


「こらー、そんなところで変なことしないのー」

廊下の窓から叫ぶ中尉。

 

小用を済まして執務室に戻るときにたまたま目撃したのだったが、少しびっくりした。

(あの様子だと伊勢と日向から逃げ出したみたいだけど、どうしてあの(・・)4人なのかな)

 

 = = = = =

 

体育館兼講堂で艦娘たちは正座させられていた。

その中には、中将護衛の伊勢と日向の姿もあった。

そのころ、提督は執務室で中将とコーヒーを嗜んでいた。

 

体育館では中尉が腰に手を当てて、ご立腹だった。

「もう、艦娘なんだから恥じらいを忘れちゃダメよ。

 パパは直接見てなったから、あんまり怒っていなかったけど、ある意味反逆ですからね」

 

「伊勢、日向、美鳳会のことは知ってるわ。

 でも、やり過ぎだとみんなのことを嫌いになるからね」

「「はい」」

2隻の航空戦艦が、しょんぼりした。

「わたしの相手は、わたしが決めるから、余計なことをしないでね」

中尉は念を押すと2隻は小さくなった。

 

「中尉殿、質問いいですか?」

「吹雪、何?」

「中尉殿は、その、提督とお付き合いしているんですか?」

吹雪の核心を突く質問に中尉は真っ赤になって黙っていた。

 

「それはないぞ。

 何もなかったからな」

武蔵がはっきり言ってしまった。

 

そう、てっきり何かがあったと全員が思っていた渦中の艦娘の直球発言だった。

 

「ふむ、武蔵がそういうなら、間違いなさそうだな」

早速長門が納得した。

 

「長門、もうちょっと疑ってよ」

「申し訳ありません。

 しかし、中尉殿、昨夜はその、中尉殿の羨ま、いえ悩ましい声がしませんでしたので」

「え、あなたの部屋は、私室から離れて・・・・」

私室は艦娘の営舎とは別棟にある。

よほど大声でなければ、会話さえ聞こえるわけがない。

「ひぇ、いえ違うんです、ちょっと眠れなくてですね、皆の様子を・・・・」

長門は、執務室前の廊下で聞き耳を立てていたことを図らずも白状してしまった。

 

長門は昨晩私室に突入を敢行した艦娘たちから睨まれた。

「だって、中尉だけだったら、その、混ぜてもらおうかなって」

「長門、あなた、抜け駆けは酷いんじゃない」

「だって、陸奥はぐっすり眠っていたのよ」

姉妹艦の間に気まずい空気が漂った。

 

「もうこの話題はおしまい。

 あー、恥ずかしい」

中尉は、話題をぶち切った。

彼女は、まだまだ初心なのだった。

 

「はい、みんな解散。

 伊勢、日向、パパと帰るわよ」

パンパンと手を鳴らして、反省会をお開きにした中尉は、護衛2隻を連れて執務室に向かった。

「お嬢さま、わたしはおクルマを用意してきます」

日向は、1人と1隻から離れて、駐車場に向かった。

 

 = = = = =

 

「閣下、終わったようです」

ざわつきが、体育館から溢れてきたことに提督が気が付いた。

 

「じゃあ、今度こそ帰ることとしよう。

 騒がせてすまなかったな」

「ご心配なさらず。

 今度は、大本営でお会いすることになるかと」

「そうだな 過激派の牽制に利用させてもらう」

 

2人は、階下に降りていくと呼びに来た中尉達を見つけて、そのまま駐車場に向かった。

 

すでに日向がハンドル握って待っていた。

 

「あー、わたしが運転しよう」

「いいえ、お戻りの時は、わたくしの番です」

いうことを聞かない日向だった。

 

「仕方ないなぁ」

早々に諦めるニコニコしている中将。

 

「ちょうど良いではないですか。

 ごゆっくりお嬢さまとお話しください」

伊勢は親子水入らずを提案した。

 

「それもそうだな。

 そうだ、美鳳。

 中佐にお礼を言っておきなさい」

「・・・・急に、何よ?」

中尉パパの言葉に意図した何かを感じた中尉だった。

 

「成り行きはともかく、孫ができるなら、めでたいことだ。

 母さんには、お前から連絡するかい?」

中尉パパ、中尉のできちゃった婚を容認していた。

 

「な、な、なんてこと言うのよーーー!!」

恥じらう乙女(・・)の叫びがそこにあった。




中将、大人の対応でした。


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第33話 パパ帰る(娘と一緒)<後編>

中将の心境はどのようなモノでしょう。

中尉、思わず叫んでしまいました。

彼を応援してくださいね。


≪な、な、なんてこと言うのよーーー!!≫

 

悲鳴に近い中尉の叫び声だった。

中将に何か言われたようだが、中将の表情は穏やかだった。

 

父娘の間に入るのは、野暮というものだ。

 

「閣下、そろそろ日勤の時刻になりますので」

野暮かも知れないが、給料分の仕事の義務はある。

歩み寄り、中将に帰投して(追い出て)いただくことにした。

 

「ああ、そうだね」

「閣下、何か良い知らせがありましたか?」

機嫌の良い中将につい理由を聞いてみた。

 

「孫の名付け親になりたいんだが」

(孫?確かに孫と言った。

 軍医のところか?)

「名前の候補は多い方が良いと考えます」

 

昔、俺の名前の候補は3つ有った。

どれもパッとしない名前だったが、どれになっても名前負けしなくて良かったと大人になってから思った。

 

「美鳳、いいね。

 父さんも考えるよ」

(え?中尉のことですか)

 

「中尉、貴官おめでたなのか!」

まるで甥か姪が生まれてくるような感覚かもしれない。

「ほらーー、あーーー、もうーーーー」

中尉は、嫌気がさしたようにごちている。

 

「クヒヒ、恥ずかしがることじゃない。

 愛の結晶、子は宝だよ」

結婚式に呼ばれるかどうか怪しいので、祝辞を送っておく。

 

「日取りについては、おいおい決めたいと思う」

「そうですね。

 閣下の日程が最優先でしょう。

 中尉は、退官しても差しつかえありませんし」

中将は気が早いようとも思えたが、祝い事だし仕方がないと思った。

 

「むしろ、貴官の任務の方が重要になるんじゃないか」

中将は提督の肩に手を置いた。

 

なぜか閣下が肩に手をかけてきた。

俺は中尉の結婚と任務の関連性を見いだせないでいた。

「閣下、小官の任務とお嬢さんのご結婚に関連事項を見いだせないのですが・・」

正直に聞いてみた。

それしかない。

 

「ははは、貴官何とぼけておる。

 まずは式の日取り、次に住居、そして生まれてくる子、美鳳たちと家庭を育む。

 軍務に比べて難易度は多いぞ」

中将は終始ニコニコしていた。

 

「パパ!!わたしまだ妊娠なんかしてないよ!」

落ち着きのない中尉がようやく悲壮な叫びで存在感を示した。

 

「美鳳、中佐に遠慮はしなくていい。

 きちんと責任を取ってもらいなさい。

 中佐、娘を頼んだよ」

中将は娘に微笑みかけているが、提督の肩にある手は、ギリギリと握り潰さんとばかりに力が籠っていた。

 

「中尉、貴官、中将にそんなことを言ったのか?」

(痛い痛い、肩痛いです、閣下)

 

「違うのー、パパの勘違い、錯覚、誤解、空想、想像、もう何でもありなのー」

中尉は、自分が妊娠したと思い込んでいる父親の誤解を解く説明が思いつかなかった。

 

「だってお前、できちゃった婚の話をしてだな・・」

「だーかーらー、それが誤解なの。

 わたし、まだなんだか、ハッ!」

中将の誤解を解こうと出てきた言葉の途中で中尉はハッとなる。

中佐の前で自分がまだ未体験であると白状してしまった。

(えーん、ますますチャンスが減りそうだよ)

 

「そうか、いや、父さんが悪かった。

 許しておくれ」

中将の手は、ようやく獲物を解放した。

 

「閣下、中尉の身持ちの固さは、小官が太鼓判を押します。

 外出に同行する機会もありますので、悪い虫は追い払いましょう。

 お任せください」

俺はようやく状況が飲み込めたので、中将を安心させるため誓うことにした。

(恩人ともいえる閣下の娘だ。

 俺を倒してからにしろって)

自信満々で父娘の顔を見ると違和感があった。

 

「そうか、よろしくたのむ。

 貴官なら安心だ、ハハ」

(何?

 中将はしょんぼりしてる?

 孫がまだなのが、そこまで落胆するものなのか)

 

「わたし、先にクルマに乗ってるから」

中尉は踵を返してクルマに向かう。

叫んでいたときと打って変わってあまりにも無表情だった。

 

「わたしも帰ろう」

中将もクルマに向かい、伊勢の開いた座席に乗り込んだ。

航空戦艦がドアを閉じるとサイドカーが発車する。

クルマはその後を追いユルユルと動きだし、正門から出て行った。

 

その間、提督は、クルマが見えなくなるまで敬礼していたが、クルマのふたりから答礼はもらえなかった。




こうして<前編>の車内に続きました。


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第34話 課題

どうにもかみ合わない提督。

中尉の気持ちはどうなるのか。

彼女を応援してくださいね。


黒塗りのセダンを見送る。

 

何だろう。

あの父娘の落胆は。

俺が何かでしゃばるような真似をしたのか?

・・・・

これは、アレか、中将の娘をどうこう採点するようなことを言ったからか。

結婚のけの字も縁のない中年風情が。

 

確かに落ち込まない道理はないな。

中尉にメールを打っておくか。

 

<美鳳 様 

 先ほどは失礼した。

 貴官は魅力的で、小官には眩しすぎる>

=送信=

おっと、途中で送ってしまった。

<位で、良い相手と巡り合い、幸せになれると想う>

=送信=

 

 = = = = =

 

≪ピコンピコン≫

中佐からメール。

珍しいな。

<美鳳 様 

 先ほどは失礼した。

 貴官は魅力的で、小官には眩しすぎる>

え!何々!これって、気のせいじゃないよね。

 

≪ピコンピコン≫

また来た。

<位で、良い相手と巡り合い、幸せになれると想う>

位?階級のことかな?

この【想う】って、異性として考えるときの字だよね。

中佐ってば、わたしが中尉くらいでちょうどいいって想って(・・・)くれてるんだ。

 

わざわざ美鳳なんて、一度も呼んでくれないのに。

クフ、クフフ、もう、魅力的っていつもは言ってくれないのにぃ、あー、ダメダメ、照れ笑いが止まらないよぉ。

 

 = = = = =

 

 

「あー、女の扱いは、やっぱり苦手だ」

「提督がそのようにおっしゃるのは、滑稽ですね」

 

「なんだと、最近てめえ、生意気だな。

 解体すんぞ」

「フフ、いいですよ。

 提督がご希望なら、本望です。

 その前に、味見してはいかがですか?」

少し頬を染め、微笑む間宮だった。

 

「提督、その味見、先にこの武蔵によろしく頼む」

武蔵は、元から居場所がないので、訓練と食事以外は、執務室に(たむろ)している。

間宮は、最近、執務室に出前に来るようになっていた。

俺が飯を食い終わるまでテコでも動かない。

明石の胃袋を掴んでいる間宮は敵に回せない。

 

「くっそー、お前らは、どうしたいんだよ。

 ブラックなんだぞ」

「フフ、そうですね。

 このまま鎮守府の全員、贔屓してください。

 ご指名で提督のお相手するかもしれませんよ。

 わたしは、泣きながら嫌がって差し上げますし」

提督を呷る間宮。

その表情は、どこまでも柔らかだった。

 

「提督!この武蔵は・・・・優しくしてもらえないか。

 その、甘えながら果ててみたいのだ」

今までみせた態度の中で、一番照れていた。

 

「あー、女の扱いは、やっぱり苦手だ」

愚痴をこぼしながら、お代わりの茶碗を間宮に突き出す。

間宮は、その手を包み込むように受け取り、お代わりをよそって、提督に渡す。

 

≪くーーーーー≫

その横で武蔵の身体の一部は、緊急事態を報せ、彼女の眼は潤んでいた。

 

「お前、さっき飯食ってただろ」

「わたしは卑しい女だ。

 罵ってくれていい・・・・ごはんチョーダイ」

最近、武蔵は甘えることを覚えていた。

 

 = = = = =

 

「うーーーーー」

「どうした?」

「そろそろ戻らないと」

「そうだな、そろそろ戻らないとな【ニヤニヤ】」

 

「ふーーーーー」

「どうかした?」

「そろそろ戻らないと」

「そうですね、提督がお待ちですよ【ニヤニヤ】」

 

同艦で基本的に意気投合したものの、競合艦(ライバル)は少ない方がいい。

別れが近づく(ダッシュ)たちを快く送り出そうとする艦娘は、ついついにやけていた。

 

「わぁーーーーー。

 このまま、帰ってたまるかー。

 中佐ぁーーーー、オレの×××をいじめてくれーーーーー」

天龍’が、我慢しきれず執務室に突撃を敢行した。

「ちょっと天龍。

 ・・・・、わたしもーーーーーー」

大淀’は一思案しながらも、自分の気持ちに嘘がつけなかった。

天龍’に遅れはとるまいと最大船速で執務室を目指した。

 

2隻の巡洋艦は、突撃したが、想いを遂げられなかった。

しかし、畳床の上で上気する姿が確認された。




畳の上で何があったのでしょう?


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第35話 ミヤコワスレ

上気した2隻の巡洋艦

想いは、思い出は。

彼を応援してくださいね。


「今日は、ここまでだ」

制服を整える提督。

 

畳床には、ぐったりと重なり合う軽巡2隻。

 

「ったく。

 お前たちは、少将麾下の艦娘という自覚を持てよ」

片膝を畳床に預け、文机に肘をつく提督は呆れ顔だった。

 

「くっ、やっぱり、敵わねえ」

「ちゅーさ、・・・・相変わらゲスです。

 性的虐待です」

口では悪態をつきながら照れを隠しきれない2隻。

 

「いい声で鳴いてたよな、キヒヒ」

(久々に切れの良い虐待だったぜ)

「お前たちは、何度もおびき出されているのに、懲りねえな」

 

『ちゅうさは、相変わらずで・・、うるさいうるさい!次はぜってぇーオレが勝つからな!」

「そうです!次にはあなたの魔手に耐えて・・・・キ・して、ぉく・で、ぃか』

か細い小声から、大声で啖呵を切ってくる生巡’と鼻息が荒かったが萎んでいく眼鏡’。

眼鏡’に至っては、最後の方が聞こえないほど小声だった。

 

「わーった、わーった。

 てか、もうおねだりかぁ?

 クヒヒ、しつけーな。

 次は、口が閉まらず、涎をながすことになるかもな、キヒヒ」

俺は、おそらくは醜い顔で、嗤ってやった。

 

ブラックな提督には、2隻は怯え、俯いて動かないように見えていた。

 

((・・だめ、服がこすれても声が出そう))

 

 = = = = =

 

少将ズ艦娘2隻は、船台の斜面に立っていた。

パトロール艦隊以外の艦娘が見送りに集まっていた。

 

提督の鎮守府には、運転免許を持つ艦娘が居なかったため、自力で帰る運びとなった。

 

「まったく、ご苦労なこった。

 少将と一緒に帰ってりゃ、楽だったのによ」

「べ、別にいいだろ。

 たまには休みが欲しかったんだし、提督の見てる前じゃ、てめぇを痛めつけてやれねえからな」

なぜか耳まで赤くなっている生巡’。

 

「提督に送っていただくのは、ご迷惑をおかけすることになると思ったからです。

 それに天龍さんと一緒にあなたを懲らしめないと気が済みませんでしたから」

「そうか、それで返り討ちに遭ってりゃ世話ねえな、残念だったよな。

 メスの匂いが漂ってたぞ、クヒヒ」

「にゃにゃにゃ!そんなの想定内よ』

眼鏡の奥で目をグルグル回す眼鏡’、こっちも顔が真っ赤になっていた。

 

いつの間にか肩に座っていたチビたちが耳を引っ張る。

「おいおい、何だよ、いつの間に・・」

チビたちに促されて、後ろを振り向くと殺意をむき出しで俺を睨む艦娘たちだった。

(部外者いなくなるのを待っているってわけか)

 

少将ズ艦娘が出港の用意を整えた。

 

「空母、あいつらの直掩を出してやれ。

 少将から預かった以上、無事に帰投させねえとな。

 帰りは、パトロールに出ている連中に合わせて帰らせろ」

≪≪はい≫≫

 

空母たちが戦闘機のチビたちを出撃させた。

 

「じゃあな。

 少将の役に立て」

提督が軽く敬礼する。

 

「「中佐」」

少将ズ艦娘が何か言いたげだった。

 

「早く行け。

 チビたちの燃料がもったいねえだろ」

提督の言葉で萎れた艦娘2隻は、トボトボと歩くように出港する。

 

「もう持ち場を離れるんじゃねえぞ。

 懲りずにまた来やがったら、セクハラ程度じゃ済ませねえからな、クヒヒ」

追い討ちかけるような言葉。

提督はその言葉で彼女たちが不愉快になり、鎮守府に戻って愚痴をこぼすだろうと思った。

(お前らは俺を憎む分だけ、少将の株が上がるってもんだ)

 

「うるせー、お前に何をされてもオレは怯まねえからな。

 提督から許可もらったら、また来るから相手しろよ!」

「中佐の指図は受けませんから。

 次はこちらが手加減しませんかねら。

 女の子みたいに泣かせてあげますよーだ」

2隻は揃って、べーとばかりに舌を出してきた。

 

「ったく、懲りねぇヤツらだ。

 さっさと帰れ」

提督は、呆れていた。

わざわざ苦痛を感じにやってくるというその神経が判らなかった。

 

「「言われなくても」」

今度はそっぽを向く2隻。

 

「まあいい。

 気ぃ付けて帰れよ」

提督は、ヒラヒラと手を振り、踵を返して庁舎に戻っていく。

 

提督は見ていなかった。

口角を吊り上げ瞳を潤ませた2隻の顔を。

 

そして、2隻は鎮守府の艦娘たちに千切れんばかりに手を振り、スキップのように飛び跳ねるながら帰投していった。

 

鎮守府の艦娘たちは、提督のさりげない言葉の威力を知った。




鎮守府のお客さんは、皆帰っていきました。


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第36話 ついつい気になる

ミヤコワスレの花言葉は、しばしの別れ

しばしの憩い、強い意志、短い恋

彼を応援してくださいね。


≪コンコン≫

「入れ」

執務室で仕事中にノックの音、入室の許可を出す。

 

≪≪失礼します≫≫

艦娘たちがゾロゾロと入ってくる。

そう広くはない執務室に入りきれないかと思ったが、ドアが閉まる音がした。

どうにか入れたらしい。

 

「なんだ、俺は忙しいんだ」

俺は内心ビビッていた。

ついさっき殺意を向けられ、逃げ場がない。

艦娘たちは俺を睨んでいる。

 

「コホン、提督、正直に答えてもらいたい」

改まった態度の長門に、提督は身じろぎして姿勢を整えた。

 

(即砲撃()たれることはないだろうが、用心しないとな)

「軍機以外なら、答えよう」

「・・いや、そういうことではなくだな。

 そ、その、なんていうか」

戦艦の態度は、途中から平静を保ちきれなくなっていく。

「もう、長門ったら。

 わたしが換わるから」

姉艦の不甲斐なさに妹艦が仕切り直す。

 

「単刀直入にお聞きします」

陸奥が執務机に乗り出してくると胸部装甲が重力の影響を受け変形する。

「お、おう」

提督は、気圧され力のない返事をする。

 

「あ、あの、その、なんていうか」

陸奥もたいした差はなかった。

 

「仕方ない。

 提督、軽巡たちにしたことを詳しく説明してもらいたい。

 で、なければ、我々は反乱を起こす」

横から宣言したのは、机に座った武蔵だった。

我儘船体の太腿が主張してみせている。

 

「そんなことか」

(まあ、危険は無さそうだな)

俺は緊張を解くことができた。

 

「隠し立ては無しにしてもらいたい」

ズイっと念を押すように顔を近づけてくる武蔵。

 

「なるほど。

 そういうことが気になるお年頃というわけか、キヒヒ。

 だが、断る!」

俺は、全面的に拒絶した。

全員の前で手の内を明かしてしまっては、虐待の効果が薄められる。

個別に責め立てるからこそ、辱めを共有できず、俺への敵意が育つというものだ。

精神的ダメージは個体差があるからこそ有効なのだ。

 

少将の鎮守府、艦娘たちはうまい具合に俺を敵視している。

その分、少将への信頼度は高まっているだろう。

俺は少将のように強くない。

艦娘たちの結束を強めるために、敵に回ることで目的を果たす。

あの日、見殺しにしてしまった勇敢な艦娘への償いを。

 

 = = = = =

 

「なるほど。

 そういうことが気になるお年頃というわけか、キヒヒ。

 だが、断る!」

 

提督は、わたしたちには向き合ってくれない。

大淀は胸の奥にチクリと痛みを感じた気がした。

少将のところの大淀とは黙っていても通じ合っているように見えた。

彼女の去り際に身を案じる言葉をかけた。

彼自身は気付いていない優しさを見せつけられた。

 

彼女たちは訪問も淫奔などと違い、純粋に提督の傍で過ごしたかったのだろう。

同艦だからわかる、ここの天龍さんも見ていて理解できる。

 

わたしたちはどのくらい提督と過ごせば、彼女たちのような関係を築けるのだろうか。

 

≪イクー、だーめーなのーーー!≫

提督に胸部装甲を弄ばれる伊19の叫び声だった。

答をはぐらかすように悪ふざけを始めてみせたのだった。

 

「オラオラ、無駄に胸部装甲を発展させてんじゃねえぞ、キヒヒ」

「あーん、おしおきは、イクがする方なのにー」

「わっぷ」

「倍返しなのねー」

潜水艦は、反撃に転じて被さるように提督の頭を抱え込んた。

 

伊19は、提督の頭を包み込むように抱きしめていた。

その姿に艦娘たちが羨ましいやら妬ましいやらないまぜになった視線を投げていたことは、提督には見えなかった。

 

大淀は、潜水艦の反応を見てすぐに解った、そして思った。

(こやつは、この野郎は、このゲスは、この提督は!)

仕草が、ほぼ豊胸マッサージ!

大きくするなら、ほかの艦娘にしなさいよ。

敢えて言うならわたし!

まだ提督には心の叫びは届かなかった。

 




眼鏡、設定は水着Ver.に倣っています。


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第37話 艦娘たちの事情

伊19への虐待。

格差が広がるブラック鎮守府

彼を応援してくださいね。


(ちくしょう。

 イクにあんなことしやがって)

「天龍ちゃーん、イクちゃん、こんな事されてるわねー」

提督のセクハラを目の当たりにして、同型艦に後ろから鷲掴みで胸部装甲を弄ばれていてもそれどころではなかった生巡だった。

 

= = = = =

 

「長門、止めないの?」

「・・・・」

「ちょっと」

「どうかした?」

長門が陸奥の呼びかけで戻ってきた。

伊19の仕草が彼女の可愛い好きの琴線に触れたようだ。

困ったものである。

 

= = = = =

 

「加賀さん、わたしたちも準備しましょうか?」

「・・わたしは、・・・・別に何でもないわ」

正規空母は、なぜか胸部艤装を解除する。

 

= = = = =

 

ここ執務室に居た艦娘の3分の1は、言い知れぬ感情を抱くに至っていた。

 

提督の横暴を許していいものか?いやダメだ!

 

提督が鎮守府の艦娘たちを自分のモノと宣言してから数日が過ぎた。

一部の艦娘への行われる直視できないような仕打ち。

許されるものではないことは明らか。

しかし誰も止められない。

 

言い知れぬ感情は、ないまぜになっていく。

衆目の中、伊19は、支配者の手にその身を委ね、その身を捩る以外になかった。

 

(((こんなことが許されていいものか!)))

 

【いつまで我慢すればいいのか?】誰もが考えていた。

すでに反乱がいつ起きても不思議ではない状態だった。

 

(((分け隔てなく、平等に横暴しなさいよ!!)))

 

(((まだ、恥ずかしいからお願いできないだけなのに!

   艦娘の価値は決して胸部装甲の厚みだけじゃありません!)))

それなのに、それなのに。

 

ある特徴が共通する艦娘たちの心の叫びは、微かに艶の混じった伊19の悲鳴に隠れて、やはり提督には届かなかった。

 

= = = = =

 

海軍司令長官の専用休息室では、二人の高級将官が重大問題で考えあぐねていた。

 

この日、日勤の開始時刻早々に大本営から正式の依頼があったことに起因する。

【民間放送の取材に協力して欲しい】

正式の依頼というのは形式だけで、実質非公式の命令とみなされる。

 

非公式の命令ということは特に問題はない。

しがらみもあるのが社会だから、珍しくない。

犯罪、背徳行為でなければ、引き受けることも持ちつ持たれつというもの。

 

が、今回の内容は、微妙だった。

 

<深海棲艦を単身生身で退けた提督の密着取材>

穏健派が過激派を牽制し、艦娘運用について主導権を握るための画策が仇となった。

 

「あの鎮守府に着任すると決まったときから、目をつけられていたのかもな」

「かもしれません。

 情報部も一枚岩ではありませんから」

 

「しかし、ずいぶん早く広まったな。

 報告書が上がってきたのは、さっきだぞ。

 依頼の方が少し早いくらいだ」

「はあ、そのことですが、実は」

 

中将は、司令長官(元帥)に申し訳なさそうに話すことになる。

中尉(娘)が、中佐の帰還早々つぶやいてしまったため、将校クラブで話題になったのが発端だった。

勤務先の同僚が根掘り葉掘り聞いてくるのに事細かに解説したおかげで信憑性の高い情報として伝播した。

 

中尉が素直に褒め称えたため、中尉を狙っていた将校たちが悪だくみを巡らせる。

 

悪評やら風評やらであることないことで、ブラックな提督であると印象付けようとする。

それが本人を知る者たちの目に留まると輪をかけてブラックであることが書き込まれ、大炎上かと思われた。

 

<ほんと、ブラックだよねぇ ^^

 それでね・・・・>

中尉の楽しそうな書き込みが続き、悪だくみ空振りに終わってしまう。

この後、将校クラブのスタッフとのやり取りは、続いていたが途切れることになった。

 

この途切れたことは、スタッフたちは【大人の時間】だと大きな勘違いをし、気を使って書きこみを終わりにした。

 

悪口を書き込んでいた将校たちは、突きつけられた事実(勘違い)に挫折を覚え夜を明かすことになった。

 

原因は艦娘の襲撃だったことは、中尉しか知らない真実だった。




中尉、本当にうれしかったのでしょうが、それが波乱の元に。


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第38話 提督の黒さは透き通る

噂の渦中の提督

生き残ることはできるか?

彼を応援してくださいね。


「うーむ、俺って傍から軽そうに見えるのかぁ。

 声も高めだし」

 

大本営へ出頭し戦果報告ののち、そのままTV番組の取材が始まった。

ありきたりの日常、勤務風景を収録され番組ができた。

 

今、その番組を見終わった。

 

「チクショー、ちらっとしか映ってねえ」

「・・・・か、顔が引きつっていました」

≪≪ワイワイガヤガヤ≫≫

 

テレビが食堂にしか置いていないので、パトロール艦隊をのぞく鎮守府の艦娘たちも一緒に番組を見て各々思うことを思ったり会話したりひとりごちたりで賑やかだった。

 

「提督、私が映ってしまってよかったのか?」

野良眼鏡戦艦が不安そうに尋ねる。

 

「番組の終わった後で心配するな。

 お前は、この鎮守府預かりで保留中だ」

「うむ、ご配慮に感謝する。

 気持ちと言ってはなんだが、どうだろう、そろそろ私の被害担当艦として性能を寝床で確認するというのは?」

 

≪≪ブ、ブーーーッ!!≫≫

お茶を啜っていた何隻かが盛大に噴き出した。

 

 = = = = =

 

「ふーん、ブラック鎮守府の提督らしからぬ人間像か。

 次の獲物はこいつにするか」

とある鎮守府でTV番組を見ていた1隻の艦娘が山積みの食料を抱えて厨房から出ていった。

 

 = = = = =

 

≪おい!寝てんじゃねえよ≫

声が聞こえたら太腿に衝撃があった。

 

「ぎっ」

しゃべろうとして喉が渇いて声が出なかった。

 

髪が掴まれ顔を上げさせられる。

知らない顔だった。

姿勢を保っていられない。

 

≪オラ、提督さまに面見せろって≫

さらに髪が引っ張り上げられる。

 

(お願い、助けて)

誰でもいい、わたしたちを助けてください。

 

≪なんだぁ、艦娘が提督に逆らうのかぁ!あぁーー!≫

 

『動けません』

声にならない声しか出ない。

 

≪オラ、さぼってんじゃねえ。飯作れってえ≫

 

≪・・・・・・・・・きろって、おら、眠るんじゃねえ。

 襲われたいのか、クヒヒ」

(わたし、眠っていたんだ)

執務室でふたりっきり、晩酌していたのを思い出す。

 

目の前には、とても意地悪な(・・・・)(ひと)

「提督、ありがとうございました」

思わず抱きついていた。

 

初めて逢った時のことを時々夢に見る。

口汚く怒鳴り、蹴りつけ、手荒に扱う男だった。

最初の印象は最悪でした。

でも落ち着き精神的に余裕ができてくると徐々に分かり始めます。

 

最初にこの方は、シンクの掃除をしてくれた。

雨水を濾して煮沸した水は腐り、洗う落としべき汚れもこびりつき調理器具はまともに使えない状態でした。

下水のような悪臭が漂って触れることも躊躇する状態だったのに。

 

振る舞いが粗野なのはこの方の演技だ。

何かの事情があるのだろう。

食堂でみんなにお粥を作った時、こぼさないように丁寧に掬っている。

 

提督自ら弱り切った艦娘たちにお粥を食べさせる。

その隠れた優しさは気が付かないほど小さな仕草。

 

そのあとは、自分でも不思議なくらい見てしまう。

風に揺れる寝ぐせ、ヒゲの剃り残し、見つけてしまった若白髪。

ひとり暮らしみたいな状態で身ぎれいにしている。

 

少しだらしなかったら、身の回りの世話をしてあげられるのに。

スキがないのは考えものです。

 

それほど大柄ではない提督の胸は、思ったより大きい。

トクントクンと鼓動が聞こえ、そのリズムが心地よく身体が温かくなっていくような気がする。

いつまでも聞いていたいように思えるが、その思いを振り払う。

 

「提督・・・・」

抱きつくのを止め、身を起こす。

 

彼の手をとって、自分の胸に押し当てる。

その手に自分の手を重ね、顔を上げてじっと彼の目を見つめる。

 

彼はわたしの目を覗き込んでくる。

わたしは目をつぶり、顎を上げて彼を待つ。

 

≪・・・・・・・・・きろって、おら、眠るんじゃねえ。

 襲われたいのか、クヒヒ」

(えっ!えっ!今のも夢?)

わたしは提督の胡坐を枕にした状態で目が覚めた。

 

わたしは、すごく恥ずかしくなって、動かないまま狸寝入りに移行した。

(提督、間宮は無防備ですよ。

 いろんなことをしても起きませんよ。

 さあーーー来い!)

 

間宮の覚悟も空しく、提督に頭を撫でられ心地よいまま再び眠ってしまった。

次に目を覚ましたのは、畳床に敷かれた布団の中だった。

なぜか布団に潜り込む。

それから提督が起こしに来るまで、掛け布団がゆっくりと大きく上下していた。




そろそろ布団を干さないといけないかもしれません。


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第39話 戦力増強

提督のブラックさに翻弄される艦娘たち。

忍耐の限界に近づく状況。

彼を応援してくださいね。




「高雄以下8隻着任いたします♪」

「あ、ああ。

 遠路ご苦労だった。

 入渠と洗濯を済ませて待機してくれ」

(重巡と駆逐艦の配属なんか聞いていないぞ)

突然の来訪者に提督は、素が出てしまった。

 

「てーとく、なんか優しいお言葉ですね」

大淀のドスの効いた低い声だった。

 

提督ははっとする。

斜め後ろに控えていた大淀に目を向けた。

「なんだぁ?、眼鏡。

 嫉妬かぁ?

 いつからお前は俺の女になったんだぁ?」

慌ててブラックさを取り繕う。

併せて、眼鏡の細い首を鷲掴みにして、引き寄せ襟元の匂いを嗅いでみせた。

「相変わらずメス臭いヤツだ、クヒヒ」

 

ボディソープの微香が微かに混じって香る。

 

「ええ、そうですよ。

 わたしはメス臭いですぅ。

 お気に召さないなら、香水を支給してください」

大淀は、首を傾げ提督の頭に頬を任せる。

 

「うるせえよ、俺がお前の好みを知るわけねえだろうが。

 さっさと解散だ!」

提督は、捨て台詞を残し、あわただしく去って行った。

 

眼鏡は、提督を見送り、着任したばかりの艦娘たちへと振り返る。

「ようこそ、ブラック鎮守府へ」

言葉の意味と裏腹に表情は、嬉々としていた。

 

 = = = = =

 

「あ゛ーー、さっきのは失敗だったなぁ」

俺は、執務室で唸るような声を上げていた。

椅子に浅く座り、だらしなく背中を預け天井を見ている。

 

第一印象を悪くして、ダメ押しで反感を買うというのが基本戦略だ。

そうすれば、艦娘たちは俺を憎み、命令を無視して生き残ろうとする。

今までそれでうまくいっている。

 

再会した艦娘たちは、俺を狙っているのがよくわかる。

鋭い視線は、獲物を仕留めようとやる気満々いうことだ。

それでいい。

ゲスな俺を憎む分、ともに戦おうとする提督たちの戦力になる。

 

戦力の底上げをし、深海棲艦の戦力をはるかに上回ることで到達できる条件。

一日も早く達成すれば、犠牲は少なくて済む。

 

≪コンコン≫

「入れ」

不意にノックの音がする。

躊躇わず入室を許可する。

 

≪カチャ≫

「高雄、入ります」

着任したての重巡だった。

 

「どうした?」

「あ、あの・・、改めて着任のご挨拶をと考えまして」

「そうか。

 適当に座れ。

 あと、ドアを閉めろ」

「はい」

≪カチャ≫

 

重巡はスタスタと歩いてくる。

「失礼します」

提督のすぐわきで立ち止まり、提督の向きを自分に向けると膝に座る。

 

「あ、あの。

 これからお付き合いすることになるので、優しくしてくださいね」

視線は逸らしたまま上着を脱ぎ始める重巡は、どこか手馴れているようだった。

 

「なかなかいい心がけだ。

 かわいがってやろうか、キヒヒ」

提督は重巡を抱えて席から立ち上がる。

腰に回された腕に抱えられ、胸を押し付ける形になった重巡は、片手を口元に当て俯いた。

 

ボタンがはじき飛びそうなシャツの中には、豊満な二つの柔肉が詰まっている。

男女ともに、魅惑的に見える輪郭を形成する。

 

提督は重巡の手を引き、私室へのドアを開く。

 

「お前ら、そこで何をしている?」

俺の目の前には、そろそろ見慣れ始めた部屋が見えたはずだが、そうではなかった。

寝床、正確には布団が異様に盛り上がっている。

 

「えーと、これはだな。

 万が一、先を越されたりするとだな」

潜んでいた艦娘たちが仲良く布団から顔だけ出した。

「この武蔵が被害担当艦としてだな」

「ふたりともいい加減本音を言った方がいいんじゃない?」

「てめぇに戦艦の相手は早ぇーてんだ。

 先にオレの腰を砕いてからだぜ」

ビッグ7、眼鏡戦艦、生巡だった。

 

≪ダダダダ!バタンッ!≫

「いないと思ったら、やっぱり。

 もうみんな部屋から出てください!」

私室のドアを蹴破るがごとく開け放ったのは、肩で息をする眼鏡だった。

 

「アラ、高雄サント手ヲオ繋ギニナッテイルノハ提督ジャアリマセンカ?」

壊れかかった自動人形のように歩いてくる大淀。

 

「お、大淀さん、わたし、わたしぃー」

ビビる提督の手を振り払い大淀に駆け寄る高雄。

 

自分より少し大柄な高雄を包み込むように抱きしめる大淀。

「大丈夫ですよ。

 さあ、みなさんのいるところに行きましょうか。

 みんなもですよ!」

 

提督をひとり残して、ぞろぞろと私室から出ていく艦娘たち。

 

最後に出る大淀が立ち止まり、振り向かずに言った。

「赤城さん、加賀さん」

 

≪カタン≫

クローゼットの戸がひとりでに開く。

中から2隻がトボトボと出てきて、大淀のわきを通って廊下に出る。

 

「てーとく・・・・、メッ!ですからね」




もう提督にとって安全なところが無くなったかもしれません。


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第40話 深海棲艦強襲<前編>

ほのぼのした日常もつかの間。

提督に襲い掛からんとする戦闘マシーン群

彼を応援してくださいね。




始まりは、イケメン鎮守府への敵艦隊来襲だった。

 

圧倒的な航空兵力により、迎撃に出た航空機が無力化され、爆雷撃により艦娘たちに損害が出た。

暗号通信では、鎮守府が防御に徹することでかろうじて持ちこたえたが、敵艦隊を見失ったとのことだった。

 

出港したばかりのパトロール艦隊を呼び戻す。

「眼鏡、平文で構わん、パトロールを呼び戻せ。

 彩雲(偵察機)、全機発艦、イケメン鎮守府方面に扇展開。

 なお、敵艦隊哨戒は、潜水戦隊にも留意し、厳とせよ!」

 

嫌な予感がした。

夜明けとともに敵航空部隊が飛来したという事実。

 

裏返せば、夜間に偵察された可能性がある。

夜間哨戒のパトロール艦隊をやり過ごし、未明に空母から発進させたとなると味方の位置を把握されていたと考えた方が納得できる。

 

ここはまだ航空戦力が不足気味だ。

そのために偵察機を優先して、攻撃を集中できるように準備をしてきた。

ここの艦娘たちでは、戦力が分散してでの対空戦はまだ無理だ。

 

「発令、駆逐艦を護衛に空母前進、楔形陣形。

 陣外縁に戦艦、巡洋艦。

 盾として、被害担当。

 なお対空防御の薄い艦は後方へ、戦艦、巡洋艦は三式弾、対空砲弾をあるだけ積み込め」

俺自身は、嫌な予感が外れてほしいと祈るしかすることがなかった。

 

 = = = = =

 

「イケメンのところがやられたらしい」

「どうするね?」

「まだ戦闘になるとは決まってないよ」

「いいじゃねえか、お手並み拝見だ。

 お前たち、怪我すんじゃないよ」

≪≪はい!≫≫

 

 = = = = =

 

「てーとく!彩雲から入電。

 【ワレ、潜水ソ級ヲ発見セリ。

  位置ヲ送ル】」

「暗号文か?」

「平文でブラックな方です」

 

「眼鏡、全艦に連絡。

 敵機動部隊は、潜水艦を先行させている。

 対空対潜戦闘準備!」

「復唱します。

 全艦に連絡。

 敵機動部隊は、潜水艦を先行させている。

 対空対潜戦闘準備!」

敵発見の報で空気が張りつめる。

 

欺瞞通信なら良かったが、ブラックな暗号は危機的状況においてのみ使用すると決めていた。

この鎮守府で決めた符丁を使って、そのまま平文で発信させる。

敵に海軍の暗号が解読されていないとも限らない。

敵に読まれても意味不明であれば、何でもいい。

 

「眼鏡、戦闘機、艦爆、艦攻を順次発艦。

 敵潜水艦を燻りだす。

 攻撃終了後、全艦帰投」

「え!?

 帰投ですか?」

大淀は提督の命令に戸惑った。

おそらくは潜水艦を仕留めて、有利に戦闘を進められると感じていたからだ。

彩雲からの情報を元に作戦を立てれば、決して負けはしないと。

 

「眼鏡、復唱は!」

「・・はい、復唱。

 戦闘機、艦爆、艦攻を順次発艦。

 敵潜水艦へ攻撃。

 攻撃終了後、全艦帰投」

大淀は、納得いかないさまを隠さなかった。

 

「てーとく、伺ってもいいですか?」

「許す」

「なぜ、全艦帰投なんですか?」

「先手をこっちが打てたからな。

 敵は、ここの総力を知らないままだ。

 おそらく、威力偵察を繰り返すことになる。

 その間に他の鎮守府に増援要請をすれば、挟撃できるだろ。

 大勢が決められたら、降伏勧告してみる」

「深海棲艦に降伏勧告ですか!?

 応じるなんてありえません!」

眼鏡の言うことはもっともだ。

俺もそう簡単に事が運ぶとは思っちゃいない。

 

 = = = = =

 

潜水ソ級は、4隻が先行していたが、その悉くを探知され、対潜攻撃にさらされ後方に下がった。

代わりにイケメン鎮守府に飛来した航空兵力が進出してくる。

帰投中の艦隊に今襲い掛かろうとしていた。

しかし、その目論見はとん挫した。

準備していた三式弾の斉射で散らされる。

 

「クスクス、ワカッタカナ?」

「クッ、アノコタチガ、ユダンシタダケヨ」

 

 = = = = =

 

「報告。

 敵航空兵力の撃退に成功、味方の損害無し。

 目下、全速で帰投中。

 ・・よかったですね、てーとく」

ほっとする眼鏡。

模擬戦で負かされた鎮守府の艦娘たちがてこずった相手に損害が出なかった。 

「よしよし、入渠の必要がねえなら資材が減らずに済むってもんだ、キヒヒ」

腕を組み、顎を擦るブラックな提督。

 

大淀は気付いていた。

このゲスは、ほっとしたとき、この仕草をすることに。




初手は、提督の勝ちとしましょう。


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第41話 深海棲艦強襲<中編>

先手を打てた提督

無傷で帰る艦娘たち

彼を応援してくださいね。


「おいおい、せっかく勝ってるのに転身ってか?」

「なーんだ、ただのヘタレじゃないの?」

「なあなあ、姉御。

 オレたちだけでぶっ叩きにいこうよぉ」

「だな」

 

 = = = = =

 

「てーとく!艦娘が離脱しました!」

「・・どいつだ?」

「高雄以下8隻、新着のメンバーです」

「・・・・そうか」

「ご存じだったのですか、特命か何かでしたか?」

提督の態度に納得を見て取った大淀はあまり驚かなった。

 

「眼鏡、あいつらの転属辞令は確認できたか?」

「いいえ」

「そういうことだ。

 意図は判らんが、連中がここに来たのは公式じゃない」

「では、脱走艦として追跡しますか?」

「放っておけ。

 今は深海棲艦への対処が最優先だ。

 損害を抑えれば、俺の評価になるからな、クフフ」

顔を歪めて下卑た笑みを浮かべる提督が居た。

 

「提督、おむすび召し上がってくださいね。

 大淀さんも」

ここは食堂。

指令室はあったが、なぜか妖精(チビ)たちが、設備一式を食堂の一角に移設していた。

食事、軽食に不自由がないので、作戦に専念できた。

間宮は、提督たちの様子を見ながら、戦況を聞きながら、仕込みをしているのだった。

 

いつもと違って自前の食事を準備できない提督は、おむすびに手を伸ばす。

「間宮、何笑ってやがる」

「そうですね。

 提督がほっぺにお弁当をつけると思ったら、楽しくなってきました」

「ガキじゃねえんだ。

 つけるわけねえだろ」

提督は、悪態をつくと一気に一つ目を胃袋に納めてしまった。

二つ目に手を伸ばした時に通信が入る。

 

「この周波数は、現在海軍で使用中です。

 直ちに送信を中止しなさい」

大淀が、コールサインの無い通信に対応する。

片手におむすびを持ったまま、大真面目に話す姿は少し滑稽だった。

 

「テイトクニ、ツゲル。

 キカンノカンムスヲ、ホウイシテイル。

 キカントノ、コウショウヲコウ」

「眼鏡、代われ」

提督は、固まりかけた大淀からマイクを取り上げた。

間宮は嫌な予感を感じていた。

 

「交渉とは?」

「トリヒキガ、シタイ」

「ほう、面白そうだな」

「アリガタイ。

 ゴソクロウネガウ」

「場所は判ってるだろってことか」

「フフフ、ハナシガ、ハヤイ」

「俺が行けば、包囲を止めるんだな」

「シンカイセイカンノ、メイヨニカケテ」

「了解した、しばらく待ってろ」

サイカイ(・・・・)ガ、タノシミダ」

 

提督は、マイクのスイッチを切ると逡巡しているかに見えた。

 

「間宮、大急ぎで握り飯一つ、塩の濃いヤツ。

 大淀(・・)、鎮守府の指揮を任せる。

 味方の呼応があるまで立てこもれ、持久戦だ」

「てーとく!

 無茶です、無茶苦茶です!」

大淀は、思わず叫んだ。

 

「まあ、こういうのもおもしろじゃねえか。

 一度同じ釜の飯を食った連中だしな、何もせずに見捨てるのは性に合わねえよ」

「そんなぁ・・・・」

 

「提督、あの、お夕飯までには帰ってくて下さいね。

 わたし、当てつけに朝までだって待ってますか・ら・・ね・・・・」

間宮は握ったばかりのおむすびを提督に渡しつつ、送り出す言葉を絞り出す。

息が詰まって、最後まで言い切るのに苦労した。

 

「生意気なやつめ。

 帰ってきたら、いたぶってやるからな。

 お、眼鏡、お前もドジってたら覚悟しとけ」

 

 = = = = =

 

十数分後、一艘の大型ボートが鎮守府を出港した。

 

「提督が出て行った。

 わたしは後を追いかける」

武蔵は、ためらいなく進路を提督の追跡コースへ舵を切った。

 

「武蔵!

 勝手な行動は・・・・」

「長門、彼女を連れ戻しに行くのは、命令違反にはならないんじゃない?」

「だな、空母群は、鎮守府の防衛を願う」

長門は、空母たちに視線を送る。

 

「仕方ないですね。

 鎮守府はみなさんが帰ってくるのを待ってますよ」

「一航戦の出番ですね。

 五航戦の出番は知りませんけど」

赤城、加賀を始め、空母たちは鎮守府に帰着した。

 

対空防御に自信のある艦娘たちは、戦艦たちに先行して、提督の後を追った。




また、生身で出張する提督。


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第42話 深海棲艦強襲<後編>

単身、深海棲艦の呼び出しに応じる提督。

後を追う武蔵。

彼を応援してくださいね。




「なんだよ、こいつら。

 全然やる気がねえじゃねえか」

「姉御、そろそろ弾がなくなっちまいまさぁ」

「ダメ、こっちに合わせて包囲を変えてくる」

「どちくしょー、一思いにやりやがれー」

重巡4隻、駆逐艦4隻は、深海棲艦の圧倒的航空兵力に押されていた。

何機かの深()チビは、叩き落とせたが、艦娘たちは小破のまま消耗している。

 

 = = = = =

 

「コノカンムスタチハ、カレノカンムスジャナイ」

「ナゼ、ワカル?」

「ウゴキガニブイ。

 カレノハ、ニゲアシガ、ハヤイ」

「ソウ、ダッタラ、シトメル?」

「ソウスルト、カレト、ハナシガ、デキナクナル」

「・・・・モウスコシ、アソンデオク」

戦艦級と飛行場姫は、短い会話を交わした後、じり貧になっていく艦娘たちを眺めていた。

 

 = = = = =

 

「おー、まだ生きてたかってか、損傷少ねぇな」

 

外洋に出てチビたちが乗り込んでいることに気が付いた。

チビたちと握り飯を分けて、チビたちが食い終わるころ、包囲網が見えてきた。

 

深海棲艦と艦娘の間にボートを割り込ませる。

 

「やっぱり、お前だったか」

「ヒサシブリ、マタ、アエタ」

深海棲艦戦艦級は、微笑んだ。

前回は、恐怖が先に立っていたので見間違いかと思ったが、冷静に観察すると見覚えがあった。

「あいにく、今日は弁当を持ってきてねえんだ」

「ソレハ、ザンネンダ」

そう、戦艦級とは将校クラブのある街で逢った少女だった。

あの時は尻尾の頭は無かった。

アレが艤装なのだろう。

 

「ネェ、レキュウ。

 ワタシニ、ショウカイシテクレナイノ?」

もう一人の深海棲艦が会話に加わった。

「お前たちは、美人が多いな」

「フフフ、ニンゲン、コノヒコウジョウキガ、オダテニノルト、オモウカ」

そう言って見せたが、顔が引きつっていた。

 

(素直にうれしいのか?

 まあ感情はあるようだから、わからなくもない)

 

「ちょっと待てよ!

 お前ら、グルだったのか!?」

高雄が後ろで叫んだ。

 

提督が振り返る。

「そんなわけねぇよ。

 こいつらが酔狂で俺を揶揄ってんだよ」

「ほー、その割に、ずいぶん親しそうだな」

高雄は提督の言葉を信じなかった。

 

「信じなくていいさ。

 俺が身代わりだから、お前らは鎮守府に帰れ。

 後のことは大淀に任せた」

提督は、深海棲艦の方に向きかえる。

 

「ヤクソクダ。

 ダガ、アノ、カンタイハ、ゲイゲキスル」

飛行場姫の視線先には、駆逐艦たちが居た。

 

「あー、ちょっと待ってくれ。

 あいつらは、俺の迎えに来ただけだから、手は出さないように命令する」

「コノジョウキョウデ、シンジロト?」

 

「提督、うふふふふっ。

 あはははっ!

 このまま勝っちゃえばいいじゃない」

荒潮がボートの縁で海面に浮かぶ深()チビに照準を合わせる。

 

「やめろ、戦意の無いヤツを撃つんじゃない!」

「何をきれいごとを言っていらっしゃるのかしら。

 オレたちが命がけで戦ってきたんだよ。

 お前たち軍人の指図は受けねぇーの」

≪パーン≫

 

 = = = = =

 

深海棲艦の航空兵力を威嚇しながら、最初に駆け付けたのは初月だった。

 

しかし、それは彼女にとって不幸なことだった。

 

ほんの10m先で駆逐艦が発砲した。

その先に海面に浮かぶ深海棲艦の艦載機(たこやき)を撃ったのだ。

 

そして撃ち抜かれたのは、提督。

 

初月には艦載機(たこやき)を庇ったように見えた。

 

ボートに突っ込むように駆ける初月。

ボートの縁でぐったりする提督を抱き起す。

「提督、提督しっかり」

彼の顔を見て絶望した。

右のこめかみから右目にかけて顔がなかった。

 

「あううあうあうあう」

荒潮が気を失いそうになる。

 

「キサマラーーーーー!!」

レ級の尻尾の砲身が包囲している8隻に向けられる。

「コレハ、ユルセナイ」

飛行場姫が、滞空中の艦載機に合図を送ろうとしたその時だった。

 

「やめてくれ。

 お前たちが無駄に争うのは、み・・た・・く・・な・・ぃ」

一瞬意識の戻った提督は、手で深海棲艦に制止を促し、一言残して、またぐったりした。

 

血まみれの初月を見て、遅れて駆け付けた駆逐艦たちは立ちすくんでいた。

艦娘は、溢れるような出血はしない。

その見慣れない光景に未知への恐れを抱いてしまった。

 

「初月!提督はどうなった?」

「武蔵さーん、提督の、提督の顔が、顔が半分なくなってるー、僕、僕ーー」

武蔵が提督と狂わんばかりに叫ぶ初月ごと抱きかかえる。

初月の言わんとしたことは、すぐに理解できた。

俯いた提督の顔は見えないが、ドロドロと血糊が垂れてあっという間に血だらけになった。

 

武蔵は、ふたりを寝かせ、さらしを解いた。

提督の顔にさらしを巻く。

見る見るうちに赤黒く滲んでくる。




どうなる!提督!


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第43話 失ったモノ得たモノ<前編>

艦娘の機銃が火を噴いた。

血しぶきが散り、眼球が爆ぜる。

彼を応援してくださいね。


「・」

 

「・・」

 

「・・・・」

 

シミのない清潔そうな天井(?)

 

ここは?

記憶を総動員しても心当たりがない。

 

周囲を探索でもしようかと思ったら、身体が重い。

それ以前に皮膚の感覚がない。

 

正面以外何かで視野を遮られている。

 

フワフワとした感覚がしだすと意識が遠のいていく。

眠い。

 

 = = = = =

 

何度目かの目覚め。

俺は、生き延びたみたいだ。

 

頭にかなり強い衝撃があったことは記憶している。

色々思い出してみると艦載機(たこやき)を庇ったことまで記憶に残っているから記憶障害は無さそうだ。

 

あれから何日たったのだろう。

実は、意識が戻らず何十年とかだったら、いやだな。

 

相変わらず体が重い。

指が少し動くくらいで寝返りもできない。

 

下の世話を誰かにされていると思うと気の毒やら情けないやらで落ち込んでしまった。

鼻と口にはチューブっぽい何かが差し込まれているようで、固定のテープだろうか、痒い。

 

相変わらず、正面以外何かで視野を遮られている。

少しずつ視野が広がっているような気がするから、包帯だろう。

 

ふと気が付いた。

右目側の感覚がない。

麻痺とは少し違うような気がする。

そして、音があることにようやく気が付いた。

ピ、ピ、ピと規則正しい電子音。

ドラマとかのアレが傍にあるんだろう。

右耳には籠ったような音として聞こえる。

鼓膜が破けてるみたいだが、元に戻ると助かるんだが、どうだろうか。

 

≪ココココ≫

病室の引き戸が開いたようだ。

人の気配がする。

 

その気配を間近に感じ、知っている香りがしたその刹那、見知った顔が覗き込んできた。

「中佐、おはよう。

 お寝坊さん。

 ヒッグッ、エッ、エッ、ゥエーーーン」

中尉が俺の顔の上にボロボロと雨を降らせる。

記憶と変わらない中尉の顔は、俺を安心させた。

 

何か言ってやりたいが、口に突っ込まれた器具のおかげでそれは叶わなかった。

 

 = = = = =

 

「中佐、包帯を取ります。

 骨と皮膚は時間は掛かりますが、再生します。

 ただ・・・・」

「眼球と瞼は、失くなっているんですね。

 戦時の負傷ですから、こういうことも起きて仕方がありません」

軍医の申し訳なさそうな言葉は、提督よりも付き添っている中尉に向けられたものだろう。

その意を汲んで問題ではないことと告げる。

 

「兄様、わたしなら大丈夫。

 これくらいで折れないもん」

中尉の言ったことは提督にとって、どこかズレているような内容だった。

軍医は、中尉の実の兄、中将の息子で階級は大佐。

 

包帯を取ると看護兵が手鏡を提督に渡す。

提督が覗き込むと目からこめかみにかけてチタンのカバーが付けられていた。

一通り観察した提督は、鏡を伏せて軍医の方を見て一言。

「目からビームを出せるようにできませんか?」

 

 = = = = =

 

軍用車が鎮守府に到着する。

運転手の提督を最初に見かけたのは、日直の陽炎だった。

「司令だ。

 もー、やっと帰ってきたぁ。

 みんなを食堂に集合させるね!

 みんなぁー、司令が帰ってきたよーーー!」

嬉しさを隠しきれずに走って行った。

 

提督が、軍用車を降りて一言感嘆を漏らす。

「おー、久しぶりに帰ってきたな。

 これから、またブラック鎮守府の再開だぜ、クヒヒ」

提督は、戻ってきた。

 

顔の右側を覆うような眼帯を着けていた。

酔狂でつけているわけじゃなく、きちんとした理由があった。

むき出しのままだとチタンのカバーが冷えると顔が冷たくなるからだ。

 

提督の性格を知る者にしてみれば、ただの酔狂だと思うに違いなかった。

 

「中佐、みんな待ってるから。

 早く行こ」

治療中は、中尉が臨時で付き添いになっていた。

主治医が兄であることをいいことに無理やりねじ込んだ結果だった。

 

ごく自然に手を繋いで引っ張る中尉。

提督からは顔が見えなかった。




帰ってきたぜ。


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第44話 失ったモノ得たモノ<中編>

わたしは帰ってきたー!

提督が帰ってキターーーー!

彼を応援してくださいね。


執務室に荷物を置いて、食堂に向かう。

 

「中尉、あの荷物はなんだ?」

「えーっと、着替えとかですけど?」

「大型のキャリーバッグが4個って、多くないか?」

「中佐は、男だからわからないんです」

「そうか?」

「そうです!」

自信に満ちた中尉のさまを見て、首を傾げながらも納得する提督だった。

 

 = = = = =

 

食堂に入ると艦娘たちが立ったままでいた。

 

「俺が生きていて残念だったな、キヒヒ。

 気楽な日々は今日終わるぜ」

復活の第一声で、艦娘たちを脅しておく。

 

「てーとく、お戻りになるのをお待ちしておりました」

「ほう、眼鏡。

 早速ゴマすりか。

 いいぜ、今晩可愛がって、ヒーヒー泣かしてやる」

「え!あ、あの、傷に障りませんか?」

「目ん玉が吹っ飛んだだけだ。

 お前を泣かすのに支障はねえよ」

眼鏡は、俺の顔を見ようとしなかった。

(そうだろう、そうだろう。

 とうとう俺の餌食になるんだ。

 死にたくなるくらい苦痛だろうよ)

 

「提督、それは軽巡には荷が重い。

 我ら、戦艦と空母の連合艦隊で、いかがだろうか?」

「ちょ、長門さん!犠牲になるのはわたし【だけ】で充分ですから」

「おいおい、大淀、そういうことなら、オレが引き受けてやる。

 提督とおそろいだからな」

そう言って艦娘をかき分け前に出てきて、親指で眼帯を指し示す生き生きした生巡だった。

「いいえ、あなた方には譲れません」

加賀が口を挟むと食堂内が険悪なムードになる。

 

「中佐、全員面倒見ちゃう?」

「無茶を言うな。

 変な気を起こされたら、生き延びたのに八つ裂きにされるわ。

 あー、気が削がれたから、今の話は、なしだ」

小心者の提督は、結局ビビってしまった。

 

「ワレワレガ、アイテヲシヨウカ?」

「キガイヲクワエナイト、ヤクソクシテアゲル」

 

 = = = = =

 

陽炎ちゃんの知らせを聞いて、もう何も手につかなかった。

「マミヤ、ウレシイカ?」

「はい、レ級さんも嬉しいのでしょう?」

「ウレシイ。

 シンジテイテモ、オチツカナカッタ」

レ級は、二パ二パと笑う。

「レキュウニ ツラレテキタガ、カレハ、キョウミブカイ」

飛行場姫も微笑む。

(提督は、わたしたちの敵にも・・・・)

 

廊下から足音がしたのか、艦娘たちが立ち上がる。

傷の具合は、中尉さんから教えてもらっていた。

陽炎ちゃんの態度を窺うと思ったよりも酷くないみたいで安心していられる。

 

間宮は、ちらりと傍らにいる武蔵を見た。

彼女は提督の傷の深さを知っている。

提督が医局に収容されてから、ほとんど食べていない。

願掛けの【断ち物】で食事を断ってきた。

今日から食事ができるだろう。

間宮は、しばらく武蔵の好物を拵えようと思った。

 

 = = = = =

 

「ちょっと待て。

 深海棲艦が、なぜ俺の鎮守府の食堂で飯食っているんだ?」

その言葉で飛行場姫の頬のケチャップをレ級が拭い取った。

 

「カンサイキヲ カバッテクレタカラネ」

レ級は、二パ二パと笑った。

「ゼイジャクナ ニンゲンニ シテオクニハ、オシイ」

飛行場姫は、その白い肌が赤くなったように見えた。

ケチャップのせいかもしれない。

 

「で、ウチの備蓄を減らしてんじゃねえよ」

 

「それが、食料は定期的に持込みされてまして」

眼鏡が言いづらそうに説明をする。

「それで駐留を許してるのかぁ?」

「はい。

 今もパトロール艦隊に同行している戦闘艦もおりまして・・・・」

「センカンセイキ、タキュウ、ヲキュウ タチダ」

レ級は当然のように教えた。

 

「誰かわかるように説明してくれ。

 現状が想像の範囲を超えている」

 

肩に深()チビとチビたちを乗せた提督がひとり唸っていた。

 

「中佐、モテモテだね、アハハハ」

中尉の笑い声が、食堂の険悪な雰囲気を霧散させた。




もうカオスな鎮守府、高雄一家はどこに。


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第45話 失ったモノ得たモノ<後編>

鎮守府に居座る深海棲艦たち。

自給自足で間宮達の調理請負。

彼を応援してくださいね。




俺は食堂で取り囲まれていた。

それも深海棲艦たちにだ。

 

隣に中尉が当然のように座っている。

 

「あー、休戦というわけでもないんだな」

「ソウ、ソチラガ シカケテクレバ ムカエウツ」

レ級がにこやかに恐ろしいことを言ってくる。

 

「眼鏡、成り行きをかいつまんで説明しろ」

深海棲艦側の言い分があるだろうが、この状況は身内に説明させて、反論を聞く方が手っ取り早いと判断した。

 

「てーとくが負傷なさったのを目の当たりにした彼女たちが、憤っている姿を見て、なんとなくです。

 てーとくのご指示もありましたし」

大淀の言葉だと肝心なことがわからないままだ。

深海棲艦側から手を出さない理由が見当たらない。

(そもそも俺が負傷したことに腹を立てるか?)

 

「レ級だっけ?

 どうして俺がケガをして、腹を立てたんだ?」

「あなたガ、カンサイキタチヲ、スクッテクレタノガ、ニドメダッタカラ」

「なんだ、その程度のことでか?」

俺は、深海棲艦の返答に拍子抜けしたものを感じた。

 

「ワレラニ テキヲ スクウキハ オキナイガ、スクワレタコトニハ トクベツノナニカ・・」

「感情があるのか?」

「カンジョウ?」

「物事を理論的じゃなく主観的に肯定したり否定したりすることと言えばわかるか?」

「ナルホド。

 マミヤガ、カコウシタモノヲ タベルト サラニ タベタクナルコトモ フクマレルナ」

「まあな。

 その場合は、食いもんの好き嫌いだな」

 

深海棲艦たちの大部分は自覚していないが、感情を持っているとわかった。

攻撃にさらされると恐怖を感じているとの報告が入っていたが、疑似的なものだと思われていた。

昆虫などが身の危険を慌てて回避行動をとる程度ではなかった。

 

複雑な【感情】を持つ可能性があるということだ。

 

肩のチビと深()チビを交互に見て、イメージが重なった。

 

レ級と飛行場姫に目をやる。

きょとんと俺を見る瞳には確かに感情らしいものが見てとれた。

 

突然、右のわき腹に激痛が走る。

視界の効かない方には中尉に座っているはずだが、何が起きた?

「ちゅーさー、見境ないのはダメだぞー」

可愛く聞こえるのは声だけで、わき腹の激痛は半端じゃなかった。

 

「いててて、俺は傷痍軍人だぞ。

 いててて、すげー握力で掴むんじゃねぇよ、千切れるだろ」

「フンだ!」

中尉の顔を見ようと振り向くと顔は逸らされ見えなかった。

視線を落とすと中尉の鷲掴みが痛み通りの場所を攻めていた。

真面目に痛い。

 

「そういや、8隻はどうした?」

重巡と駆逐艦が見当たらない。

 

「お気になりますか」

ドスの効いた低い声が後ろからしたので、思わず振り返る。

見えない右側に余計に振り向いたためにバランスを崩してしまう。

「イヤン」

身体を支えようと繰り出した手は、何か柔らかいものを掴んだ。

声がしたのは、その瞬間だった。

「いきなり掴んじゃ痛いよ。

 もっと優しくして」

声の主は中尉だったと気が付いた瞬間、嫌な汗が噴き出す。

「あー、中尉。

 今のは不可抗力だ、すまなかった」

「・・・・わかってますよ。

 あーあ、もう!」

中尉は、俺の謝罪が気に入らなったらしい。

 

後で改めて謝っておこう。

後ろに控えていた眼鏡に確認する。

 

「あいつらはどうした?」

「・・・・謹慎中です。

 反省を促すことで鎮守府全体が賛成しました。

 解体するなら、直ちに準備いたします」

眼鏡の返事は無表情だった。

 

そら恐ろしいものを感じたが、それが何かなのか判らなかった。

「反省してりゃ謹慎を解いていいぞ」

俺にとっては大した問題じゃない。

むしろ鎮守府に深海棲艦が出入りしている方が重大だ。

 

「謹慎を解くなら、てーとくご自身が直に彼女らに下命なさるのがよろしいと思います」

「そうか?

 眼鏡、なんか不機嫌か?

 スケベスカートの分際で、俺に対する反抗だったら、恥ずかしい目にあわせるぞ、キヒヒ」

俺の軽口に反応しない眼鏡は、あくまで無表情だった。




謹慎中の8隻、どうなっているでしょうか?


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第46話 流離の艦娘艦隊

提督が眼球を失う原因になった8隻。

彼女たちの正体は。

彼を応援してくださいね。


「謹慎って、人間だったら死んでんじゃねえか?」

 

鎮守府の裏手に鉄骨が置かれていた。

 

「大丈夫です」

眼鏡をツイっとする眼鏡。

 

「お前たちもだんだん俺が判ってきたな、キヒヒ・・・・

 尋問するから全員出せ。

 汚れてそうだから、風呂にも入れろ」

「そのような処置は必要ないかと」

「臭かったら俺が嫌なんだよ」

どうも横にいる中尉が俺の顔を見ている気配がするが、右からなので見えていない。

死角ができていることに慣れないと不便だな。

 

高雄たちは、あの場に居合わせた艦娘と深海棲艦に袋叩きにあったらしい。

轟沈はしないように手加減されたとのことだったが、穴が掘られ鉄骨が蓋代わりに置かれ、閉じ込められてきた。

 

明石がクレーンで鉄骨を退()けていく。

 

「艦娘の力でもどうしようもないってことか」

1隻づつ仰向けに寝かされ、鉄骨の重みで身動きのできないだろう。

手首の動く範囲は、土が削られていた。

(最初は抗ってみたわけか)

鉄骨がすべて退けられると8隻がぐったりと横たわっていた。

「懐かしい眺めだな、キヒヒ」

『てーとく、状況は違いますよ』

眼鏡から意味不明のつぶやきが聞こえた。

 

襟元を掴まれズルズルと引きずり出されてきたボロボロの8隻。

同じ艦娘扱いは、されていない。

 

「意識がないんじゃ話にならん。

 このまま入渠させろ」

「はい」

眼鏡が手短に返事をすると艦娘たちが意識のない8隻を風呂場まで引きずっていく。

 

 = = = = =

 

「こらこら、貴官は入ってんじゃない」

「えー、わたしもおフロー」

「だったら、水着か何か着なさい」

「そんなの、持ってきてないよー」

入渠のため、風呂場に向かおうとしたら、全力疾走の中尉の後姿が見えた。

その後、今のやり取りとなった。

 

「中佐、小官は気にしないから」

「俺が気にするんだよ」

「えー、中佐のエッチー」

「ああ、俺の性欲は危険だから、早く出なさい」

どうも中尉は俺に対する警戒心が希薄だ。

 

「提督、こいつら先にぶち込んでいいか?」

生巡が痺れを切らして聞いてきた。

持ち上げたその腕には、荒潮がぶら下がっていた。

 

「ああ、そうだな。

 中尉、艦娘を放り込むからな」

提督は、艦娘たちに道を開けた。

 

 = = = = =

 

ボロボロの8隻は、デッキブラシで洗われている。

俺はそれを眺めている。

 

原因は中尉の暴走だ。

艦娘たちに俺を湯船に連れ込むように命令した。

 

もう何が何だかわからない状況になっている。

 

制服は水を吸って重くなり、シャツは肌に張り付き気持ちわるい。

やむを得ず脱いだ。

 

諦めて湯船で中尉と並んで湯につかっている。

「えへへー、裸の付き合いだね、中佐」

「ああそうだな」

極力視線を動かさないように返事をする。

 

「もう、人と話すときは相手を見ないとだめだよ」

中尉が顔を掴んで、自分の方に向ける。

油断していてされるがままになった。

 

思ったよりボリュームのあるものが浮いていた。

「どうですか、ご感想を」

中尉が照れ気味に聞いてくる。

「貴官の夫は、幸せ者だな」

こうなれば、大人の対応をするしかない。

「イシシ、誰だろうね、その幸せ者さんは?」

「俺が知ってるヤツか?」

何人か心当たりがあるから、聞いてみた。

中尉は、のぼせたのだろう。

真っ赤な顔で風呂から出て行った。

「ヤレヤレ、アレじゃ告白を待つ側だな」

俺は、さっきより汚れが落ちてきた8隻を眺め直した。

 

 = = = = =

 

「オレたちをどうするつもりだ!」

「姉御たちは何もしてねえよ、アタイだけ解体して収めてくれ。

 気が済むまで犯した後でいいから!」

湯船に放り込まれた8隻は、お湯を飲んでしまったせいか、意識が戻ってまくし立ててくる。

 

重巡たちが前に出て駆逐艦たちを庇うように喚いてくる。

それを乗り越え荒潮が自分だけの責任だと言い張って引き下がらない。

 

「お前らはもう家族だ。

 お前が解体されたら、少なくともオレも同じだ」

「姉御が・・、ダメだよ。

 みんなが、みんなが・・・・」

かばい合う艦娘。

鎮守府の艦娘たちは、あきれ顔で眺めていた。

 

「おーおー、お涙頂戴だな。

 お前らに選ばせてやる。

 一つ、荒潮だけ解体する。

 二つ、全艦解体する、キヒヒ。

 最後のご奉公だ」

「チキショー、お前ら人間に命を弄ばれて、轟沈していく艦娘の恨みがお前らを許さねえからな」

高雄はその整った顔を酷く歪め罵ってくる。

 

「おもしれー、やってみろ。

 だがな、お前らはそんな生温いことで終わらせねえよ、クヒヒ」

湯船の縁に拡げた腕を掛けどっかり座るブラックな提督。

その顔は、艦娘たちに異質な不快感を与える。

 

「ど、どうしようってんだよ」

虚勢を張って言い返す高雄。

 

「三つ、お前ら俺の直属艦隊に身を(やつ)す。

 お前らに選択権はねえ、俺が死ねといえば、死ぬまで戦う艦隊になるんだよ、キヒヒ、イーヒヒ」

提督の下卑た笑いが風呂場に響く。

 

≪バギョッ≫

艦娘たちが手に持ったデッキブラシを握りつぶす音がした。




デスボランティア(特攻)艦隊の誕生です。


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第47話 ブラックの名のもとに<前編>

直属艦隊に任命された高雄たち。

果たして、甘んじて受け入れるのか。

彼を応援してくださいね。


「うわー、軍艦のおねえちゃんたちがいっぱいいるー」

童女たちは、艦娘たちを見て大はしゃぎ。

 

それに比べて、童子たちの中には、前かがみになっている子が混じっていた。

そういうお年頃なのだ。

 

「提督、今日はお招きいただいてありがとうございます」

寮母さんがお辞儀をする。

 

「俺がこのザマじゃ無かったら、そっちに顔が出せたんですがね」

提督は、自分の顔を指さした。

 

施設の帳簿確認に外出する必要性があったが、傷が癒えていないので外出許可が下りなかった。

許可を出さないのは中尉。

彼女は、兄の軍医から任されているからと事あるごとに強権を発動するのだった。

本当に権限があるわけではないが、提督は従っていた。

 

「今はダメです。

 鎮守府から出ないという条件だから、退院できたんですからね」

「判っている。

 入院が長引いたら、配置転換されちまうからな。

 せっかく手に入れた鎮守府がもったいねえ」

提督には、中尉が身を案じているのが汲み取れた。

まだ鎮痛剤を手放せない状態で、チタンカバーの縁に血がにじむこともある。

 

「ねえねえ、ブラックさん。

 後ろのおねえちゃんたちは?」

寮母さんの後ろから、顔を出している童女。

「おお、こいつらは、俺の子分だ」

高雄たちは片時も俺から離れない。

他の艦娘は、鎮守府所属だ。

しかし、員数外の高雄たちは俺個人に従わせることで、生かされることになった。

「クキキ、俺が助けてやったんだぜ」

高雄たちを見回し、皮肉を言ってやる。

案の定、殺意に満ちた視線を射かけてくる。

 

「へぇー、じゃあ、あたしと同じだぁ」

「おいおい、俺がそんな善行をするわけねえだろ」

「えへへー、寮母さんに聞いちゃったもん。

 ブラックさんは、命の恩人だよ」

制帽を脱いで、頭を掻いた。

「バレてたのか」

「すみません。

 どうしてって聞くもので」

申し訳なさそうにする寮母さんだった。

 

 = = = = =

 

「火事だー!!」

施設でボヤが起きたことがある。

 

施設の子供らで倉庫を掃除していた時だった。

隅に溜まった埃を掃きだそうと荷物を動かしたとき、灯油のポリタンクを倒してしまった。

子供の力で閉められていた蓋は密閉されていなかった。

そこから灯油が漏れ出してしまった。

 

慌てて一人が駆け寄ろうとしたとき、工具箱をひっくり返す。

工具同士がぶつかった拍子に火花が散った。

運悪く溜まった埃に火花が乗ってごく小さな火種ができた。

床の埃を伝って灯油が滲み、火種にたどりついてしまった瞬間、這うように炎が拡がった。

 

子供らはパニックになってしまった。

慌てて炎を踏んづけ消そうとする。

灯油を踏んだことに気が付かなかった子たちの靴底へ火が燃え移る。

 

慌てて外に逃げ出す子供たち。

 

中佐が施設に来ていて、褒めてもらおうとしたことが招いてしまった惨事。

 

1人女の子が倉庫の奥に逃げ込んでしまっていた。

外に出るには炎を跳び越すしかなかった彼女は、本能的に火を避けた。

火は拡がり、ポリタンクを溶かし暖められ気化した灯油のガスと灯油に一気に引火してボンと爆発した。

 

年長の男の子が寮母さんを呼びに行く。

倉庫の外では、子供たちが泣き叫ぶしかできなかった。

 

「どうした!!」

中佐が、ただならぬ様子に気付き駆け付けた。

寮母さんは男の子の知らせで消防署に連絡を入れている。

 

「あついよー、あついよー。

 たすけてぇー、あついよー」

女の子の助けを求める悲鳴が倉庫から聞こえてくる。

 

中佐は倉庫に飛び込み女の子を探した。

屋内を仕切るように火が立ち上る。

火の勢いが弱ったところを見つけて反対側に突っ込む。

 

女の子が恐怖で蹲っていた。

彼女は過去に味わった火の恐怖に包まれ気を失う寸前だった。

もう周りを見る気力がなくなっていた。

 

中佐は上着で女の子を(くる)み、抱えて外に出た。

 

消防車と救急車が到着する。

火事はすぐに消し止められ、女の子は救急車で病院に搬送された。

 

 = = = = =

 

「おねえちゃんたち、ブラックさんは口は悪いけど、優しいからね。

 あたし、大きくなったらブラックさんのお嫁さんになるの」

屈託のない笑顔で宣言する女の子。

「何言ってんだよ。

 俺は悪党だといつも言ってるだろ」

提督はバツが悪そうに女の子に言い聞かせる。

 

「お嬢ちゃん、それは人間同士だからよ」

高雄は、しゃがんで女の子に目線を合わせ悲しそうに言った。

 

「違うもん、ブラックさんは、軍艦のおねえちゃんたちにいーっぱい優しいから、いーっぱいお嫁さんがいるもん」

まだ平らな胸を張り、自分のことのように言い切った。




まとめようと思ったら、まとまりませんでした。


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第48話 ブラックの名のもとに<後編>

女の子の言葉を聞いた高雄たち。

簡単には受け入れられません。

彼を応援してくださいね。


「フッ。

 いーっぱいお嫁さんか」

高雄は失笑する。

 

「提督、あんたも他の連中と同じだな。

 はいはい、やさしいやさしい」

「うるせーよ、俺は優しくなんかねえって、言ってんだろ」

高雄の言葉にイラっとする。

(俺がいつ、お前らにやさしくしたってんだよ)

 

「えっ!

 いや、今、お嬢ちゃんがあんたは優しいから艦娘に慕われてるって」

高雄は戸惑った。

自分の目の前にいる提督は、自分を肯定する評価を否定してくる。

 

「だから、そいつらは慕ってんじゃねえよ。

 俺に仕返しするために虎視眈々狙ってんだよ。

 立場を利用して、セクハラや嫌がらせを重ねるヤツが好かれるわけがねえだろ」

「いや、だって」

「だってもクソもねえよ。

 ちょっと用事があるから、お前ら、ここで子供の相手しとけ」

提督は、寮母さんと一緒に庁舎へ向かった。

中尉は提督の右腕に抱きついていた。

 

「どうした、納得いかないようだな」

高雄たちに武蔵が話し掛ける。

女の子を抱き上げ肩に乗せた。

 

「この程度で人間を信じられるわけないだろ。

 お前たちは、抱かれていいように使われているだけなんだよ」

高雄は不機嫌を隠さなかった。

 

「やっぱり、そう考えるのが普通だな」

武蔵は否定しなかった。

 

「で、どれだけ可愛がられ、どれだけ甘い言葉を囁いてもらったんだ。

 しかしな、それは全部嘘だ。

 あいつらは、オレたちのことなんか、ただのモノとしか見ていねえよ」

高雄は、どこかわかった風な態度の武蔵に突っかかる。

 

「貴艦、どうしてそこまで毛嫌いするか聞かせてくれんか」

武蔵は、高雄の態度の根底にある何かを確かめておきたかった。

 

「ああ、いいぜ」

 

高雄は思い出したくないのか訥々と話し始めた。

 

昔は普通に鎮守府に配属されていた。

提督は優しく頼りになり、人柄も良かった。

この提督のためなら、全力で深海棲艦と戦える。

轟沈することも厭わなかった。

 

しかし知ってしまった。

 

ある作戦で駆逐艦が轟沈された。

鎮守府は悲しみに包まれた。

艦娘の犠牲を悼み、涙を流す提督。

 

ちょうど秘書艦の当番だったその日、執務室の前で書類が風で飛ばされた。

拾おうとしゃがんだとき、窓からの風音が止んで代わりに執務室の話し声が聞こえた。

 

≪今回は、貴官の勝ちだ。

 ・・・・わかってる、2万だったな。

 替えの利く駆逐艦は、大した性能じゃないからな。

 煽てておくと戦果を挙げるか轟沈だから賭け(・・)にもってこいだ。

 次は、勝たせてもらうぞ、アハハハ≫

 

「あいつらは駆逐艦の成果で賭けをしていた。

 艦娘はだたのモノだったんだ。

 悔しいのは、態度に騙され、嘘の涙を信じていたことだった。

 その次の出撃で、鎮守府に帰らなかった。

 そうこうして、この8隻になったわけさ」

高雄は思い出した悲しみに唇を噛んでいた。

 

「そうか、酷い提督もいるものだな。

 では貴艦の目で確かめるといい。

 あの方は、ブラックな提督だからな」

どこか愉しげ話す武蔵だった。

 

「どういう意味?」

高雄の混乱は続く。

 

「あの方は、物資の横流しはしているし、ブラックさを隠そうとはしない。

 あの通り態度もよくないし、罵り、殴る蹴るも躊躇しないな。

 そういうことだ」

ますます信頼に値しない人物像が出来上がってくる。

 

「何が言いたいの?」

高雄は混乱する。

 

「貴艦は、肩に妖精と深海棲艦の艦載機を乗せた提督を知っているか?

 深海棲艦が出入りする鎮守府は?

 ・・・・もう一つ言っておこう。

 我らは、誰一人まだ一度も抱いてもらったことはない。

 そういうことだ」

そういうと女の子を肩に乗せたまま、立ち去っていった。

 

残された8隻。

 

 = = = = =

 

「おいおい、どうした、何突っ立てんだ?

 中尉、貴官は嫁入り前なんだぞ。

 おっさん相手にじゃれつくんじゃない」

提督が戻ってきた。

相変わらず右側に中尉。

 

「提督、あんたこの鎮守府の艦娘に手を出していないって本当か?」

高雄はことの真相を確かめようとした。

 

「何言ってんだ、俺がそんな道徳的な人間に見えるのかよ、キヒヒ」

提督の言葉に高雄の表情が柔らかくなった。

提督から見えない角度で中尉が手を振って否定するゼスチャーが見えたからだ。

 

実は高雄たちは元、いや今でも美鳳会の会員だった。

 

「おう、お前らの艦隊名を決めたぜ。

 よく聞けよ」

「艦隊名?」

「おうよ、俺の直属艦隊にふさわしい名前」

ペットに名前を付けて楽しげにする子供という喩えが合いそうな表情だった。

 

「艦隊名は【独立愚連艦隊】だ」




独立愚連艦隊、高雄たちを登場させた時から決まっていました。


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第3章
第1話 真・ブラック鎮守府


新章突入

ブラックで統一されきれない鎮守府。

彼を応援してくださいね。


「おい、いい加減芝居はやめろ」

「な、なんだよ」

俺の言葉に高雄たちが動転している。

 

「似合わねんだよ。

 艦娘は、性格も設定されているのは知っているんだよ。

 情報部上がりは、伊達じゃねえ」

 

≪≪ザワザワ≫≫

ここは食堂。

提督はわざと直属艦隊と昼食を共にしている。

6人掛けのテーブルを二つ繋げて10人で囲む。

提督の右に中尉が陣取り、残りの席に8隻の艦娘が腰掛けている。

 

「わたしも素のみんなの方がいいと思うな」

「美鳳さま」

「うーん、中尉でいいよ。

 名まえで呼んでいいのは、この場は中佐だけ」

中尉の言葉で8隻が一斉に提督を睨みつつも驚愕を隠せなかった。

 

「そう言えば、名前で呼ぶのは中将だけだな。

 どうしてだ?」

「だってぇ、名前を呼ばれるのって照れくさいもん」

「そうなのか?」

「そうですぅ」

「そうか。

 俺みたいなおっさんなら照れもないか。

 納得納得」

中尉は階級で呼ばれる以外は、中将の娘という立場から【お嬢さま】とも呼ばれる。

ある出来事から美鳳(みどり)と名前で呼ばれることを拒むようになっていた。

 

「じゃあ、美鳳(みどり)・」

≪ガシャーン、カラカラ≫

中尉がいきなり立ち上がった。

そのはずみで金属製の食器が床にぶちまけられた。

「お、おい、大丈夫か?

 どうした、Gでも居たか?」

見えない側の突然の出来事に提督は確認するしかなかった。

「そ、な、・・うん、びっくりしたけど見間違い」

 

「そうか、貴官、ケガはないか?」

「大丈夫・・です。

 それより、何か言うことがあったんじゃ?」

「ああ、そうだった。

 今日、晩飯作ってやろうか?」

「え゛!」

 

 = = = = =

 

≪チャチャチャチャ≫

「中佐、アーン」

「おいおい、子供じゃねぇんだぞ」

「アーン」

「仕方ねえな、ほら」

「パクっ、クムクム」

中尉はたまごにまみれた豚肉を頬張っていた。

 

「ごくん、おいしー」

実にいい笑顔だった。

「そうか?

 仕込みはしたが、安い肉だぞ」

「いいの。

 みんなで食べてるから、おいしいんだよ。

 ねえ間宮」

「はい、提督もご一緒なので」

食材を配って回る間宮が答えた。

 

食堂のテーブルを片付け、床にシートを敷き数個のカセットコンロが並んでいる。

 

コンロの上では、茶色の液体の中で肉と野菜が煮込まれ香ばしい匂いとグツグツと食欲をそそる音がしていた。

 

急きょ執り行われることになったすき焼きパーティ。

 

「もうちょっと待ってくださいね」

鳳翔が具を具合を見る。

「ホウショウ、ハヤク、ハヤク」

戦艦棲姫が椀を差し出しお代わりをねだる。

同じ釜の飯ならぬ鍋を喰っていた。

 

提督は食堂を見回し、席を立つ。

「中佐、どうかした?」

中尉は、何事かあったのかと声を掛けた。

 

「便所だよ、クソこいてくる」

「もう、言葉を選んでよ!」

中尉は中佐の腰をぽかりと叩く。

 

「俺はそんなことは気にしねえんだよ」

グラスの水を飲み干すと艦娘たちの間をぬって食堂を出て行った。

中尉は、それを見送ることはせずにすぐに席を立った。

 

車座に残っていた高雄たちに声を掛ける。

「今から二人っきりになってくるけど、見に来る?

 ニシシ」

いたずらっぽく言った言葉は、高雄たちは看過できなかった。

 

 = = = = =

 

提督は、波の打ち寄せる斜路を一望できる堤防でリトルシガーをふかしていた。

 

今吸っているのは2本目。

じっと海を眺めていた。

 

「中佐、こんなところでウンチしてるの?」

「貴官、小官の前だと発言が豹変するな。

 俺じゃなったら、ドン引きだぞ。

 クヒヒ」

「うん、中佐だから」

そっと提督に抱きつく中尉。

甘くけむい提督の匂いを嗅覚に感じていた。

 

「寒いなら早く戻っとけよ。

 風邪をひかれちゃ、銃殺ものだからな」

「あったかいから大丈夫」

抱きつく力が少し強くなる。

 

しばらく二人は動かなかった。

 

 = = = = =

 

パトロール艦隊が帰ってきた。

岸壁の斜路を登っていくと後ろから4隻の潜水カ級も続く。

「今日はね、すき焼きってご飯なんだって、わたし、今日初めて食べるよ」

「ソレハ ドンナショクリョウナノダ?」

「わかんない、でもね、みんなで食べるからきっとおいしいよ」

「ソウカ、ソレハ【オイシイ】ダロウ」

「さあ、先にお風呂だ、入渠だ」

≪≪おー(オー)≫≫

 

全員浴場に向かって歩き出した。

何隻かは手を繋いでいた。

 

 = = = = =

 

「そろそろ、ビールでも飲むか。

 ったく、のろまどもめ」

「そうだね、心配しちゃうよね、キシシ」

「何言ってんだ。

 俺がモノの心配なんかするわけねえだろ。

 さあて、飲み直しだ」

「水しか飲んでなかったよ」

「言い間違えたんだよ」

提督は一人で歩き出す。

中尉は提督の右腕に絡みつく。

その仕草は慣れていた。

 

 = = = = =

 

堤防が見える倉庫の陰の中に艦娘たちが居た。

身体を寄せ合うように見えた黒いシルエットからは

押しつぶしたような嗚咽のような音がしていた。




ブラックな提督のおかげで艦娘たちは翻弄されます。


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第2話 苦い涙

寒空の下、なぜか堤防までタバコを吸いに。

中尉はそれに合わせます。

彼を応援しくださいね。


やにわに提督が立ち上がる。

 

中尉が何事かと尋ねていたが、短いやり取りのあと、中尉が提督の腰を叩く。

そのしぐさは傍目に親愛の所作に見えた。

 

そして、提督は食堂から出て行った。

途中艦娘たちの頭を雑に撫でていく。

 

中尉は、それを見送ることはせず、すぐに席を立ち、振り返える。

「今から二人っきりになってくるけど、見に来る?

 ニシシ」

言い残して提督について行った。

いたずらっぽく言った言葉は、男女の関係をほのめかすように聞こえた。

何より中尉の表情に艶が見てとれたからだ。

 

「そろそろだったな」

またも武蔵が高雄たちに話しかける。

 

「今度は、何?」

高雄は、まだ納得していない。

仲間もしかり。

 

「提督の日課だ。

 皆が食堂に集まる時間帯と重なるから、わたししか知らない」

 

「だから何?」

高雄はイラつきを覚えていた。

そのため、語気が強くなる。

 

「フフフ、その目で確かめてくるといい。

 中尉も誘ってくれたじゃないか。

 もし提督と中尉が逢引きしていたら邪魔しない方が良いがな。

 倉庫の陰から見えるだろう」

武蔵もその場を離れようとした。

 

「ちょっと待て。

 お前はどうして知っている?

 提督がお前を使って、オレたちを騙しているかも知れねえ」

高雄は疑っていることを隠さなかった。

武蔵はその言葉に込められた気持ちを汲んで言葉を返す。

 

「信じろとは言わない。

 自分で見て、考えてくれればいいと思っているだけだ。

 見に行ってもいいし、ここに居てもいい。

 今日この様子だと、あの方は何事もなかったように戻ってくる」

武蔵は手をヒラヒラさせて、カウンター席に歩いて行った。

カウンターにはゴロゴロと和洋問わず酒瓶が転がっていた。

 

「姉御、酔っ払いの言うことなんか気にしないでさ、食べましょうよ」

「高雄、私美鳳さまがしんぱーい」

提督(アイツ)はどうでもいい、美鳳さまを護らないとな」

言い終わるか終わらないかで8隻が食堂から飛び出していった。

 

 = = = = =

 

「ぱんぱかぱーん♪」

『しぃー、気付かれるだろ』

『ごっめーん』

愛宕が堤防のふたりを見つけた。

夜陰に紛れて向こうからは見えないが、静かに越したことはない。

 

海風にのってふたりの会話が聞こえる。

 

『中佐、こんなところでウンチしてるの?』

『貴官、小官の前だと発言が豹変するな。

 俺じゃなったら、ドン引きだぞ。

 クヒヒ』

『うん、中佐だから』

小さいが聞き取れなくはなかった。

存外、中尉の色気のない言葉だった。

 

やがて、中尉と提督の陰がひとつになる。

高雄たちは、今度は確実にあの(オス)を殺したくなっていた。

 

『寒いなら早く戻っとけよ。

 風邪をひかれちゃ、銃殺ものだからな』

『あったかいから大丈夫』

 

ひとつになった陰は動かなかった。

何も起きていないことで、8隻の殺意は薄れていった。

 

 = = = = =

 

沖にパトロール艦隊が見えた。

そのまま鎮守府に戻ってくる。

やがて上陸してくると後ろに深海棲艦もいた。

 

(一体何なんだよ。

 敵同士、一緒に帰ってくんなよ。

 それも潜水艦だぞ)

高雄たちは、口には出さないが考えることは同じだった。

それこそ死闘を繰り広げ、殺し合うのが当たり前。

手ごわい潜水艦、それも4隻。

ここの艦娘と手をつないでいる。

 

『今までは、何だったんでしょう。

 ここには、戦争がないなんて』

『もしかしたら、アイツが裏で何かしてきたのかも』

『姉御、きっとそうだよ』

信じきれない光景にどうにか理由をつけようのするも納得できる答にたどり着けない。

 

『そろそろ、ビールでも飲むか。

 ったく、のろまどもめ』

『そうだね、心配しちゃうよね、キシシ』

『何言ってんだ。

 俺がモノの心配なんかするわけねえだろ。

 さあて、飲み直しだ』

『水しか飲んでなかったよ』

『言い間違えたんだよ』

8隻の耳にふたりの会話が聞こえ、武蔵の言葉と結びついた。

提督の日課。

時間帯と重なる。

今日この様子だと、あの方は何事もなかったように戻ってくる。

のろま。

心配しちゃうよね。

 

高雄は提督が立ち上がる前に食堂を見回したのを思い出した。

(あの時、艦隊が予定通りに帰ってくるのを確認したんだ)

 

高雄を中心に仲間が集まっていた。

 

人当たりの良い提督たちは、帰りを待っていた。

【おかえり】と出迎えていた。

それは素直にうれしかった。

 

今、目の前では、何も言わず帰りを待っている人がいた。

無事に帰ってくるのが判っているのに待っていた。

誰にも言わず、知られず、無事を祈って見守ってくれているとわかってしまった。

 

高雄は、眼が熱くなりいつの間にか大粒の雫が溢れこぼれるのを抑えられなくなってきた。

妹たちも同様に雫をこぼす。

駆逐艦たちは鼻水まで垂れていた。

同じように涙を流してきた彼女たち。

その涙はいつまでも苦く、心の傷をジュクジュクと爛れさせてきた。

 

誰からともなく抱きしめ合い、しばらく泣いていた。

 

星の降る空の下、もう一度だけある人(・・・)を信じてみようと思う艦娘たち。

彼女たちの涙はもう苦くなかった。

 




チョロイ、きっとブラックな提督に騙されています。


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第3話 わだかまり(拒み)

高雄たちは過去と折り合いをつけられるでしょうか?

まだ鎮守府の仲間入りをしていません。

彼を応援してくださいね。


「ほーしょー、熱燗ヒトツー」

「はーい、ちょっと待ってくださいね」

中尉は食堂に戻ってきた。

 

機嫌がいい。

武蔵はその様子を見て、何があったかすぐに判った。

 

しばらくすると直属艦隊8隻が戻ってきた。

武蔵はその様子を見て、何を見たのかすぐに判った。

 

「おやー、どうしたのかなぁー。

 なんかしんみりしちゃってー」

その声は食堂に通った。

中尉が直属艦隊を茶化すように顔を覗き込む。

 

食堂にいた艦娘や深海棲艦たちが一斉に中尉の声に振り返る。

そして、一塊の艦娘集団を注視する。

 

 = = = = =

 

高雄は、自分に突き刺さる視線に腹を射抜かれる錯覚に襲われていた。

軽い痛みに留まらず震えが始まってしまった。

それ以上に一つの恐怖がゆっくりとその口を開いていく気がした。

自分には向けられないが、確実に近寄ってくる。

今、【恐怖】が開いた口は、駆逐艦を敵と認識して捉え、喰み摺り削っていく。

舎妹の駆逐艦の心の芯はゴリゴリと削れ細っていく。

 

これほど心細い思いは、初めてだった。

ある人を信じようと思った矢先、その先に道がなかったことを思い知らされた。

 

このまま荒潮が抵抗しても、その船体を引きちぎられ、肉を剥がされる轟沈するかもしれない。

砲撃や雷撃の情けは期待できない。

食堂の誰もが艤装を展開する素振りも見せない。

もし荒潮が轟沈したら、私たち、少なくとも私は冷静でいられないだろう。

一人でも多く道連れにして、この命を終わらせよう。

「最後に信じようと思ったところで終わりか・・・・」

 

 = = = = =

 

「あーあ、言っちゃった」

残念そうな中尉。

 

「・・・・なぁんてね。

 高雄たちも判ったら、明日、中佐に謝ったらそれでいいよ」

ニシシと笑う中尉だった。

 

「え、でも、私たちは提督の、その、償えない・・」

高雄は言い淀んでしまった。

罪を認めると荒潮が償わないといけない。

 

「姉・・高雄さん、荒潮が償います。

 けじめをつければ、きっとわかってくれますよ」

≪≪荒潮・・・・≫≫

高雄と6艦は、言葉が出なかった。

 

<お前らに選択権はねえ、俺が死ねといえば、死ぬまで戦う艦隊になるんだよ、キヒヒ、イーヒヒ>

提督の言葉がよみがえる。

他の艦娘たちに向けられる感情が私たちも同じになるだろうか?

(もしかして、本当にこのまま決死艦隊として扱われ・・・・)

さっきまでの昂っていた気持ちが氷水を浴びせられたように醒めて冷えていく。

 

「だいじょぶ、だいじょぶ。

 中佐はね・・・・、アハハ。

 自分のことは、どうなってもね・・・・ひとの気持ちも知らないで」

中尉は明るかった表情を徐々に萎れさせ俯いてしまった。

 

 = = = = =

 

「カンムスハ イロイロアルノダナ」

「ソウ ナカナカ リカイデキナイ」

「・・モグモグ」

≪≪レキュウ、サッキカラ ニクバッカリ!≫≫

レ級は、飛行場姫、戦艦棲姫の作ったわずかな隙を突き奇襲を成功させていた。

 

「ヤサイクエ!」

「モウ ニクハ ワタサン!」

この日、飛行場姫と戦艦棲姫の波状攻撃がレ級を瞬殺した。

「モウ、オナカイッパイ、レ」

 

「みなさん、まだ、お肉有りますよ」

≪≪≪ホーショー、ナカマニ ナレ≫≫≫

 

鳳翔が深海棲艦になる日も近いかも。

 

 = = = = =

 

「どう思う?」

「どうとは?」

戦艦は問い、眼鏡戦艦は問いの意図を確かめる。

「高雄たちを受け入れるのか?」

戦艦は、素直に受け入れられなかった。

謹慎という拘束しただけでは、気が収まらなかった。

「同意を求めるなら、筋違いだ。

 この武蔵もここの艦娘ではない。

 クスッ、提督について行くことになりそうだ」

「なっ!」

武蔵は不敵な微笑みを長門に向けた。

 

ふと、武蔵の顔から微笑みが消えた。

「どうかした?」

「軽巡たちがいない」

長門の問いに武蔵が答えると長門も食堂を見回した。

 

「しまった!

 空母たちは釘付けだが、軽巡や駆逐艦は、食欲の次に移行してもおかしくない!」

武蔵は、酒で判断を誤ったと思い込もうとしたが、後悔しながらお酒が美味しかった。

 

「お腹減ったねぇ。

 すき焼きって、どんなだろう」

パトロール艦隊とカ級が食堂に入ろうとしたその時、数隻の全力出撃に吹き飛ばされた。

 

提督のいるであろう私室で夜戦が始まろうとしていた。

鎮守府に風雲急を告げる。




後半戦へ続く。


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第4話 帰るところの条件

男として生きている提督。

決して正義など背負わない。

彼を応援してくださいね。


「つつッ、冷やすと疼きやがる」

まだチタン製の眼窩カバーが馴染んでいないことを自覚する提督だった。

 

彼は罪のない艦娘に無駄な殺生をさせたくなかった。

思わず飛び出した自分を笑ってしまう。

 

何もできなかったときと変わらない。

むしろ流れ弾で負傷するなど、もはや減退しているのではないか。

見殺しにしてしまった艦娘を思い出す。

眼球を失ったくらいでは贖罪にならないと思えて苛立ちさえ覚えていた。

 

「今日もどうにか生き延びた。

 感謝すべきだろうが・・・・、死に損ないだな」

ふと食堂を見回した時、艦娘たちに混じって深海棲艦たちも鍋をつついているのが見えた。

自分の負傷以降、この鎮守府に当たり前のように入り浸っているらしい。

ふと、このまま彼女たちを説得して、講和できないか。

せめて、正式な休戦あるいは非戦闘海路(シーレーン)の確保はできないものか。

 

おそらく深海棲艦()も一枚岩ではないだろう。

ここに来ている深海棲艦たちとは別の派閥が、戦闘を継続しては意味がない。

そう考えると次の手が思いつかなかった。

 

提督は、ブツブツと独り言を繰り返しながら、私室に入った。

外から戻ると中尉と別れて、食堂には向かわなかった。

一応、支配者として艦娘たちに睨みを効かせることができたので、もう必要はない。

きっと艦娘たちは、不快な緊張から解き放たれ、せいせいしていることだろう。

「これでいい。

 理不尽な命令には従わず、生き残ってくれれば海軍のためになる

 そして・・・・」

 

提督は、ふと独り言を止めた。

まだ灯りを点けていない私室に気配を感じた。

(間違いなく誰かいる)

よく気配というが、狭い部屋では、体温のような匂いのようなモノを常人でも感じ取ることはできる。

 

提督は、誰何する。

「誰だ、何の用だ?」

「「「・・・・」」」

返事はなかった。

窓から断続的に注がれる灯台の射光で、畳床に敷かれた布団がもぞもぞ動くのが観察できた。

 

「高雄、お前か?」

提督は、普通の艦娘は私室に用事はないと思っていた。

 

「このヤロー、何が高雄だよ!」

「てーとく!どういうことですか!」

「あ、あの、もう高雄さんとそういう関係なんですか!」

ガバッと布団が跳ね上げられ中から3隻が現れ、目の前に立っていた。

 

「生巡、眼鏡、ブキ(吹雪)、お前たち何してんだ。

 それもパンツ一丁で」

3隻はどういうわけか下しかつけていなかった。

正確には靴下は履いたままというマニアックな姿だった。

仄明るい部屋で艦影と声から、艦娘が誰なのか認識できた。

 

「うっ、そ、それはだな・・・・」

天龍は俯いてしまった。

「ちょ、ちょっと様子を見に来ただけです」

大淀は軽く握った手を口元に当てて黙ってしまった。

「お、お布団をあっためておきました!」

吹雪はへんな踊りを踊るように両手で何かを表そうとした。

 

次の瞬間、私室のドアが力強く開かれた。

そのドアを背にしていた提督は、カタパルトから放たれるように吹っ飛んだ。

「ウオッ!」

「にゃ!」

「ヒャッ!」

「キャッ!」

 

突然飛んできた提督に抱き着かれるよう形になった3隻。

 

「て、て、て、提督ゥ?」

「ほほー。

 先を越されたな」

ドアを開けたのは、長門だった。

彼女は今、若干の後悔をしていた。

眼前には、3隻を同時に蹂躙している提督の姿があった。

 

「ウー、ウー。

 小型艦艇が好みだったの?

 戦艦じゃダメなの?」

意外にも長門が取り乱していた。

 

「ちょっと待て。

 長門、お前の勘違いだ。

 俺は、今吹っ飛ばされたんだぞ」

提督の言葉には説得力がなかった。

左手は生巡に抱きしめられ、顔は振り向くまで眼鏡に抱え込まれ、右手は駆逐艦の股間に挟み込まれていた。

 

「まあ、落ち着け」

武蔵は、長門を宥めるようにその肩に手を置いた。

 

「武蔵、お前は判っているようだ。

 長門、旗艦経験が泣くぞ、冷静になれ」

提督は、武蔵の落ち着きを見て、このまま場が収まると思ってホッとした。

 

「何、3隻程度すぐに撃沈される。

 我々が殿(しんがり)を務めれば済むことだ。

 焦ることはない、夜はこれからだ」

フフフンと微笑んだ武蔵の目はハートマークだった。

 

「ちょっと待てー」

提督の叫びが営舎まで届くのだった。

 

 = = = = =

 

「ニヒヒ、ブラックな提督も大変だね、中佐」

「ったく。

 俺としたことが」

畳床に座り、中尉と差し向えで酒を飲む提督。

 

ついさっき、中尉が私室にやってきて艦娘たちを諭して追い出した。

 

「中佐、もう艦娘ちゃんたちを食べちゃったら?」

「貴官、とんでもないこと言うな。

 提督が備品に手を出すのは、風紀違反だぞ。

 それに艦娘が無抵抗なわけないだろ。

 溜まりに溜まった怒りで、はらわたを引きずり出されるまであるな、クヒヒ」

提督は、殺されることに自信があった。

そうなるように仕向けてきたことを疑わなかった。

 

「まあ主砲で内臓が・・・・なっちゃうかもね」

「だろう?

 そこいらにぶちまけて、一巻の終わりだ」

「ぶちまけられて、1かん(・・)逝っちゃうよね」

提督は、中尉の言葉が何かズレているような気がした。

 

彼女の表情が気になった。

「貴官、急にニヨニヨし始めて、どうした?」

「小官の情報だと深海ちゃんたちからも狙われてるよ」

「司令官だからな、当然だろう」

「困ったもんだね、ニシシ」

「ああ、そうだな、キヒヒ」

ふたりはくいっと呷って、盃を空にするとお互い注ぎ合った。




中尉が大接近?


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第5話 ある駆逐艦の覚悟

夜はまだまだこれから。

中尉とふたりっきりです。

彼を応援してくださいね。


荒潮は、あることを覚悟して執務室の前に立っていた。

静かに深呼吸をするとドアをノックした。

 

中には提督がいるのは間違いなかった。

だが返事はなかった。

短く訝しんだ後もう一度ノックしようとした刹那。

 

『入れ』

 

執務室のドア越しに籠った声で返事があった。

 

「失礼します!」

荒潮は姿勢を正して返すとドアノブを回す。

 

ドアを開け執務室に入ってドアを閉めて振り返った。

荒潮は目の前の光景を目の当たりしたことを少なからず後悔した。

 

その後悔は大きい。

美鳳様がブラックな提督のひざに座っていた。

 

かなり酔っているのはすぐにわかった。

しかし、提督に絡みつく姿は他人には見せられない類のものだった。

 

 = = = = =

 

「中尉、荒潮が見ているぞ。

 後で続きをしてやるから早く離れるんだ、クヒヒ」

「ブーーー」

中尉は不満たらたらだったが膝から降りて俺の右側に回った。

 

「荒潮、どうしたこんな時間に。

 ・・・・クヒヒ、お前の用事はどうでもいいか。

 こっちにこい。

 かわいがってやる」

艦娘の表情には緊張と覚悟が見てとれた。

俺に犯されに来たのかもしれない。

反抗心を引き上げるにはちょうどいい機会だ。

 

 = = = = =

 

『はい』

荒潮は蚊の鳴くような声で返事をした。

目の前に座る提督に歩み寄った。

 

彼女の中には後悔があった。

このゲスも結局は他の提督たちと変わらなかった。

武蔵の言ったことが先入観になって帰りを待つ姿に感動したのは間違いだった。

 

いきなり肉体を求めてきた。

今までの行動は他の艦娘たちが居たから演技だったのだ。

 

気持ちの悪い下卑た笑みを浮かべる提督を憎く思えてきた。

わざわざ犯される姿を美鳳様に見られてしまう屈辱。

こうなったら恨まれるのを覚悟で美鳳様のために提督(ゲス)を始末してやろう。

 

手の届くところまで近づいた。

艤装を展開しようとしたその刹那。

中尉が抱き着きついでに提督(カレ)の顔まで覆っていた眼帯をずらした。

 

 = = = = =

 

いい感じに反抗心を燃やしているようだ。

殺気も混じり始めたからこのまま撃たれるかもしれない。

 

突然中尉が抱き着いてきた。

特に滑り止めがないので眼帯がずれてしまった。

 

「貴官、離れろ。

 俺はこれからコイツをかわいがるんだからな、キヒヒ」

今の距離だと荒潮が外すことはないだろう。

しかし、骨の破片が中尉に当たらないとも限らない。

 

「イーヤ。

 ワタシも混ざるぅ」

中尉は頑なに離れようとはしなかった。

 

「仕方ねえな。

 駆逐艦、自室に戻れ」

俺は荒潮に命令した。

しかし、荒潮は執務室から出てい行かないどころか何も言わずに膝に座ってきた。

 

 = = = = =

 

「司令官、荒潮をかわいがって」

荒潮は泣きながら懇願した。

 

提督の金属製眼窩カバーを見たら自分を罪を思い出していた。

自分はこの件で本人から恨みごとを言われていない。

 

荒潮は気づいてしまった。

提督はこんな自分を許していたんだと。

身体が芯が熱くなってあふれる涙を止められなかった。

 

この方には一度抱いていただこう。

この気持ちの昂りは一時的なものかもしれない。

今は身をゆだねることに抵抗がなかった。

 

このまま美鳳様と3人で早く甘美なひとときを過ごしたくなっていた。

 

荒潮が提督がブラウスの胸元のボタンを外すのを静かに待っていた。

ドキドキしてきた。

 

胸元に彼の手が滑りこんできた。

同時にスカートの中に手が潜り込んでくる。

恥ずかしいような照れくさいような気分で不快ではなかった。

 

提督の手は高尾達と違ってガッチリしている。

そして潜り込んできた鎮守府のどの提督よりも頼もしく感じた。

 

「どうだ、悔しくなってきただろ、クヒヒ」

ぎこちない愛撫と無理な下卑た笑みから躊躇していると判った。

 

「提督、荒潮はもう・・」

荒潮は自分を抑えきれなくなってきた。

自分から提督に奉仕したら淫らな艦娘だと軽蔑されるかもしれない。

荒潮は提督の前戯を期待して思いとどまった。

 

ふと提督の手が止まった。

「そうか、そうか。

 このまま撃たれるのも困るからな。

 今日はこのくらいにしておいてやる。

 自室に戻っていいぞ」

 

荒潮は信じられなかった。

どこかに落ち度があったのか思い返してみた。

特に思いつかない。

 

美鳳様が自分を助けるために合図をした結果なのか?

彼女は熱心に提督の耳を噛んだり、首筋を嗅いだりしていた。

関係ないのが見てとれた。

 

「俺の嫌がらせは苦痛だったろ、キヒヒ」

提督が満足げに薄ら笑いを浮かべていた。

 

次の瞬間、提督の顔を美鳳様の頭が覆った。

 

「モガモガモガモガ~~~!!」

提督は美鳳様の腕を掴んだ。

 

「プッハ。

 貴官、娘からそんなことをするんじゃない!」

まだ、あきらめていない美鳳様を制止する提督。

 

「ぷッ、荒潮、自室に戻ります。

 失礼します」

荒潮はまだ攻防を続けるふたりに敬礼して執務室を出た。

 

自室に戻る荒潮の表情は何かを手に入れた喜びに満ちていた。

 

 = = = = =

 

「ちゅーさー、チューぅ」

「こらこら、やめろ。

 あんまり揶揄うなら、泣かすぞ」

「やったー、いい声で鳴くから、前戯はやさしくしてね」




中尉が最接近。

どうなる?


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第6話 女性士官の過去

強行?凶行?中尉の運命は!

ブラック提督は、据え膳をどうする!

彼を応援してくださいね。


時間は少し遡る。

 

畳床で飲み交わしていた中尉の様子がおかしい。

 

ペースが速くなってきた上に何やらブツブツとつぶやいていた。

 

「貴官、どうした?

 気分が悪くなってきたか?」

 

「え?

 う、ううん、大丈夫。

 ねぇ中佐、初めて会った時のこと覚えてる?」

中尉が何の前触れもなくしんみりとなった。

 

「?・・・・覚えてるぞ。

 任官でいきなり情報部に配属されたのは驚きだったからな」

「やっぱりかぁ」

怪訝に包まれた俺をほったらかしにして、中尉は落胆を隠さなかった。

 

「わたしが兵学校の3号生だった時だよ」

「うーん、そのくらいの時には江田島には行ったことはなかったはずだが・・」

「パパの名代で親戚のところに行った時なんだよ」

「なるほど、それならあるか。

 てか、そういわれても記憶がない」

俺が頭を傾げている姿を見て、中尉はクツクツと笑う。

 

「中佐、直後の大怪我でやっぱり記憶がなかったんだね」

中尉は予想していた口ぶりだった。

 

「あの日、突然の襲撃で路上にへたり込んでたのを助けてくれたんだよ。

 あと護衛の戦艦を庇ってくれたし」

中尉の言葉は、深海棲艦襲撃と庇いきれなかった戦艦を思い出させた。

「庇いきれてねえ。

 無様に俺のほうが助けられたんだ」

戦艦の最後の言葉を思い出す。

「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの・・か」

「それ、彼女とのお別れの・・」

無意識に口にしていた艦娘の言葉。

 

「そうか、覚悟の上での出撃だったんだね」

中尉は何か汲み取るように頷いた。

「アレを覚悟というものか?

 仕方がないって、諦めてるじゃないか」

「彼女は諦めていないよ。

 陸に留まって迎撃することだってできたんだから」

彼女たちは一緒に過ごして心を通わせていたのかもしれない。

 

「わたしは、あの時初めて人が肉片になるところを見て、竦んじゃったけどね。

 彼女をかばいに行った中佐は、勇敢だなって思った」

彼女はタハハと笑った後、上目遣いで身を乗り出してきた。

 

「おっと、申請漏れがあったな。

 貴官、ちょっと席を外すぞ」

「はーい」

中尉はえらく素直に返事をした。

 

 = = = = =

 

「貴官、なぜそこに座る?」

「えー、だってー、寂しくて死んじゃうよぉ」

「だから、なぜそこに座る?」

「ここは小官の専用エリアであります。

 それから中佐は小官を抱き枕に使っても問題ありません」

横向きに膝に座る中尉、腕を俺の首に巻き付けてくる。

 

「ささ、右手の邪魔にならぬよう留意しておりますので申請書をどうぞ」

言葉とは裏腹に上半身を捩って上目遣いで覗き込んでくる中尉。

追いかけて執務室に入ってきたときには、制服と中の襦袢(シャツ)を鳩尾辺りまで開いていた。

中尉を見下ろすと胸元が露わになっていた。

 

≪コンコン≫

ドアがノックされた。

 

『貴官、早く離れなさい』

『艦娘ちゃんたちにブラックなところをアピールできるよ』

『仕方ねぇな』

どうも言いくるめられた。

「入れ」

 

入室を許すと荒潮が入ってきた。

 

 = = = = =

 

荒潮が退出すると中尉の積極性が加速する。

 

「ちゅーさー、チューぅ」

「こらこら、やめろ。

 あんまり揶揄うなら、泣かすぞ」

「やったー、いい声で鳴くから、前戯はやさしくしてね」

 

すかさず中尉の頭に手刀を打ち込む。

「いったーい。

 もう、そういうプレイはイヤですってばぁ」

頭を摩りながら抗議の視線を向けてくる中尉に諫める視線で返す。

 

「中佐、わたしの気持ちわかってますよね」

「いーや、わからん。

 そもそもだ、貴官は選り取り見取りなんだぞ。

 それこそ将来有望な士官がいるだろ」

 

中尉の言葉に少しぎくりとさせられた。

酔っているから勢いで言っているのは判っているつもりだ。

このまま流されては退役後の生活設計に絶対響く。

 

「貴官、一時の快楽に身を任せるとヤケドするぞ」

「その時は責任取ってくれたらいいですよ。

 パパに挨拶してもらえばオッケーだよ」

小首をかしげてニッコリ微笑む中尉。

 

たぶん冗談だ。

冗談だと思いたい自分がいることに俺は薄々気づかされていた。

 




ブラック提督(自称)は殊の外奥手でした


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第7話 艦娘と荒潮と深海棲艦と

いよいよ中尉の大攻勢が開始されるかもしれません。

提督は持ち前のブラックさで押し戻せるのでしょうか?

彼を応援してくださいね。


「まずまずの天候だな」

俺は清々しい気持ちで朝を迎えていた。

 

畳床に敷いた布団で中尉がスヤスヤと寝息を立てていた。

時々寝返りを打つと胸元が(はだ)ける。

若手将校の目を釘付けにすることだろう。

 

≪コンコン≫

「入れ」

ノックに許可を与えると龍田(輪っか)が入ってきた。

 

「おう、当番はお前か。

 今日一日俺の嘗め回すような視線に耐えるんだな、クヒヒ」

「やぁんっ♪後ろから眺めてもいいですけど。

 おさわりは禁止されています~。

 その手、落ちても知らないですよ?」

「俺の手と引き換えに解体されたいなら、かまわねえぜ、キヒヒ」

病(み)巡(洋艦)とは、眼鏡と違ったテンポの会話になる。

 

「輪っか、飯は食ったのか?」

「まだですよ~、んふふふ~」

「そうか、隣の私室に中尉がいるから食堂へ同行しろ」

「いいですよ~、失礼しま~す」

俺が私室につながったドアを指し示すと病巡(龍田)が入っていく。

 

「提督、天龍ちゃんに言っちゃいますよ~。

 あの子も拗ねちゃうわね~」

私室のドア越しに俺を睨む龍田。

 

「?・・輪っか、何言ってんだ?」

 

 = = = = =

 

≪≪ドドドドドドドドド≫≫

≪ガチャッン!!≫

 

≪≪提督!!(ゲス野郎)どういうことか説明して(ドウイウコトカセツメイシテ)!≫≫

「ちょ、お前ら、狭いわーー!」

執務室は突入してきた艦娘・深海棲艦連合艦隊で埋め尽くされた。

入りきれない連中は廊下に溢れている。

「何のことか知らんが、いいだろう講堂で話を聞こう」

 

ゾロゾロと執務室から体育館兼講堂に向かう提督と艦娘たち。

 

「司令官、おはようございます」

「おう、荒潮。

 どうした?」

「うふふふっ!

 いい天気ですね、任務頑張りますよー!

 うふふふっ♪」

俺に並んで歩く荒潮はどういうわけか張り切っていた。

 

講堂では、俺は壁を背にして囲まれた。

 

「今度ばかりは言い逃れはできませんよ」

「言い訳は聞いてあげる」

長門と陸奥が鎮守府の代表として歩み出た。

前回と違って毅然とした口調だった。

なぜか耳まで真っ赤なのはなぜだろうか?

 

「日ごろの行いの結果だろ。

 逃げも隠れもしねえさ。

 何が聞きたいんだ?」

「昨夜、不埒なことをしたことに対してどう責任を取るか教えてもらおうか」

「提督、鎮守府で火遊びって良くないと思わない?」

「なんだぁ、火遊びって。

 不埒っていうか?

 煙草をふかしたくらいで」

戦艦たちの言うことが見えてこなかった。

俺は鎮守府(ここ)に着任以来リトルシガーを嗜んでいることは艦娘たちは知っている。

煙たがるヤツはいるものの鎮守府全体が文句を言ってくるような不評ではなかった。

 

「とぼけるのは止めてもらおうか」

「あら、あらあら。

 素直じゃないんですね」

戦艦たちは聞く耳を持たなかった。

 

彼女らの瞳にうすら寒い殺気が灯った瞬間だった。

「やらせません!

 うふふふふっ!

 司令官は荒潮がお護りします!」

駆逐艦が割って入った。

その両腕は左右に広げられ戦艦の前で盾となって立ちはだかった。

 

≪≪荒潮!≫≫

何隻かがその姿に驚愕の声を上げた。

「私達も荒潮と一緒に提督をお護りするわよ!!」

「わたしたちが護ってあげるわ♪」

残りの独立愚連艦隊艦が荒潮に加勢した。

 

「ちょ・・・・いいだろう、ビック7の力、侮るなよ」

「いいわ、やってあげる。

 仕方ないわね」

戦艦たちは引き下がらなかった。

鎮守府が分裂の危機を迎えていた。

 

「私はこちら側だな」

武蔵が独立愚連艦隊に加勢する。

 

「コホン、てーとく私も頑張りますね」

さりげなく大淀も提督側に回った。

 

「あ、大淀、抜け駆けしやがって。

 龍田、オレたちも加勢するぜ。

 倒すのはオレだ」

天龍と龍田も釣られてきた。

 

≪≪ワレワレヲ ワスレテモラッテハ コマル≫≫

深海棲艦が艦隊ごと提督側に回ってしまった。

 

鎮守府壊滅の危機、その時。

「みんなー、おはよう」

入口から中尉が入ってきた。

講堂全体の視線が集中する。

 

「どしたの?」

何事かと中尉は首をかしげる。

 

 = = = = =

 

「はいはい、中佐は出て行って」

「なんだよ、貴官」

「いいから」

俺は講堂から追い出されてしまった。

「・・・・執務室に戻るか」

 

 = = = = =

 

「何もなかったから、解散!」

「中尉殿、いささか胸元が大胆なようなのだが」

「そうなんだよねー、これでも何もなかったよ」

≪≪うーむ(ウーム)≫≫

講堂内に声ならぬ声で埋まった。

 

しばらくして、全艦が講堂からゾロゾロ出てきた。

それぞれは新たな決意を秘めて任務に臨むのだった。




今回は早いもの順でした。

独立愚連艦隊の存在感を示した一件だったかもしれません。


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第8話 できる女、間宮

なぜかグダグダの鎮守府。

艦娘たちと深海棲艦たちの思惑。

彼を応援してくださいね。


執務室に戻ると間宮が居た。

いつものように応接セットのテーブルに出前が置いてあった。

 

「またか、全くご苦労なこった。

 何なら女体盛りでも用意しておけよ、クヒヒ」

間宮の男好きする船体を嘗め回すように眺める。

これは欠かせない有用なセクハラだ。

 

「あ、あの・・召し上がって(・・・・・・)ください」

間宮が伏し目がちに朝食を勧めてきた。

 

「・・おい!

 俺の目の前で気を抜くとは偉くなったもんだな」

「え!・・あの提督、何を」

俺は餌付けに成功したと思っている間宮に身の程を教えることにした。

 

 = = = = =

 

提督が戻られました。

ご無事なのでホッとしてしまいます。

 

「またか、全くご苦労なこった。

 何なら女体盛りでも用意しておけよ、クヒヒ」

まさか鎮守府全員を相手にしても、まだ足りないのでしょうか?

わたしに投げられる情熱的な視線。

 

今ならきっと邪魔は入りません。

「あ、あの・・召し上がって(・・・・・・)ください」

わたしのほうから抱いてだなんてはしたないことを言ってしまいました。

 

「・・おい!

 俺の目の前で気を抜くとは偉くなったもんだな」

「え!・・あの提督、何を」

服を脱ぎ始めたわたしになぜか提督は不機嫌です。

 

 = = = = =

 

「日勤中に服を着崩して寛ぐのを俺が見逃すと思っているのかよ」

「・・・・」

間宮の顔が真っ赤になっていく。

怒り心頭ってところか。

ブラックな俺が風紀に甘いと思っていたなら残念だったな。

「俺はな自分には甘いが艦娘たち(お前ら)には厳しいんだよ。

 とっとと持ち場に戻れ。

 艦娘や深海の連中が腹空かしてんだろ。

 鳳翔や伊良湖だけじゃ回せねえだろ、グズ」

俺は間宮に蹴りを入れる。

これでダメ押しは完璧だ。

 

顔が真っ赤なまま俯く間宮は無言で執務室のドアを開け放ったまま出て行った。

 

「頭に血が上りやがったな。

 俺にかかればこんなもんさ」

間宮がパタパタと去っていくのを見届けてドアを閉めた。

 

改めて間宮の用意した朝食を食べることにした。

ソファに座り朝食を覆っているフードカバーをどける。

「今日のメニューはずいぶん精のつくメニューだな

 魚介類の煮込みと豚の生姜焼き、納豆とヤッコ、山芋に海苔か」

とにかく朝食しては、おかずが多かった。

「うな丼がついてりゃ100点だったな」

大盛りの丼を手にして、今日最初の任務を朝食を胃に納めることに定めた。

 

 = = = = =

 

(提督のイジワル♪

 本当にブラックです♪)

間宮はニヨニヨが止まらなかった。

<俺はな自分には甘いが艦娘たち(お前ら)には厳しいんだよ。

 とっとと持ち場に戻れ。

 艦娘や深海の連中が腹空かしてんだろ。

 鳳翔や伊良湖だけじゃ回せねえだろ、グズ>

 

自覚がないのかもしれません。

情熱的な視線だったのに自制していただくなんて。

そのうえ艦娘たちの空腹や鳳翔さんたちが忙しいことを気にしていただいて。

「・・・・照れ隠しのキックも最近はかわいいと思えますね」

 

間宮は脱ぎ掛けた服を着直しもせず食堂に入っていく。

「おはようございます!」

 

 = = = = =

 

間宮が食堂に姿を見せた瞬間、彼女を中心に同心円状にどよめきが伝播していった。

 

「ま、ま、間宮さん」

「ふ、服が!」

「やっぱり司令官のところで!」

「ゲス野郎、オレのほうがちょろいんだぞ!」

 

「加賀さん、今からでも遅くありません。

 間宮さんの敵討ちに参りましょう」

「赤城さん、胸当てを外すのは露骨です」

正規空母2隻はなぜが競うようにただの袴姿になっていた。

 

「翔鶴姉ぇ!五航戦も出撃よ!」

「五航戦の子にはまだ早いわ」

加賀が瑞鶴を切り捨てるように言った。

 

「はいはい、中佐に限ってはこんな短時間じゃ終わらせないから。

 みんな落ち着いて」

中尉は頬張ってた生姜焼きを飲み込むと浮足立ってきた艦娘たちをなだめた。

 

 = = = = =

 

「間宮、説明して」

「あ、はい」

「その前に服直して、こぼれそうだから」

「へ?

 ・・キャーキャー」

中尉の指摘に間宮は自分の胸元を見て慌ててブラウスのボタンを留めた。




抜けられなかった間宮でした。


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第9話 大時化

口ほどでもないブラックな提督。

逆凌辱に苦しみ始めた艦娘たちと深海棲艦たち。

彼を応援してくださいね。


「ふー、朝から炭水化物は腹に付きそうだな」

俺は最近の食事について考えてしまった。

 

「美味いからつい完食してしまうが、俺の食費を鎮守府の維持費にま・・・・」

ソファーに深く凭れてひとりごとを言って何気にドアのほうを見た瞬間、失敗に気が付いた。

 

ドアの向こう側から2隻が半分顔を出してこっちを見ていた。

間宮と間宮の胸を輪っかに乗せた龍田だった。

 

こちらを観察する様子は無表情だがその片目が笑っているようにも見えた。

 

2隻は扉に隠れた。

「食器をお下げいたします、クスッ」

「本日は深海ちゃんたちと模擬演習です。

 参加者は準備できています、んふふふ~」

2隻の声は弾み気味だった。

おまけに忍び笑いが混じっているように聞こえなくもない。

 

 = = = = =

 

「龍田さん、知っていて広めましたね」

「間宮さんは深読みしすぎですよ、んふふふ~」

(とぼける龍田さんは絶対確信犯です。

 提督は今日も完食してくださいましたでしょうか?)

 

(食器を下げに来ましたが、先ほどの大胆だったことに恥ずかしさがこみ上げてきます。

 今度は龍田さんもいらっしゃるので迂闊なことはできませんね、いろんな意味で)

 

そうこう考えつつ2隻は執務室の前に来た。 

「あら、ドアが閉まっていませんね」

「みんなで押し掛けた時に閉まらなくなったかもしれませんね~」

 

≪ふー、朝から炭水化物は腹に付きそうだな≫

執務室の提督の声が廊下からも聞こえた。

(提督は少しは痩せ気味ですから、しっかり食べていただかないと)

 

『間宮さん、ちょっとだけ様子を見ませんか?』

『え・・・・(たまには油断している提督を観察しましょうか)ですね』

2隻はドアの裏に張り付いた。

 

「美味いからつい完食してしまうが、俺の食費を鎮守府の維持費にま・・・・」

提督の言葉を聞き易くするため2隻は覗き込んでしまった。

 

何気ない提督と2隻の目が合った。

提督が何を言おうとしたのか理解した瞬間、見られちゃいけないと思った2隻はドアに隠れた。

「食器をお下げいたします、クスッ」

(見ていないところで褒められるとにやけるのが止まりません)

「本日は深海ちゃんたちと模擬演習です。

 参加者は準備できています、んふふふ~」

(提督、そんなところが天龍ちゃんと同じくお気に入りなんですよ~)

2隻は声が弾むのを抑えられなかった。

つい笑みがこぼれてしまっていた。

 

 = = = = =

 

「うふふふっ!

 いい天気ですね、任務頑張りますよー!

 うふふふっ♪」

 

「荒潮、張り切っちゃって」

ブラック鎮守府(ここ)に来てよかったね、高雄」

 

「いい意味で見込み違いだったな、なぁ鳥海」

「本当にヒドい司令官さんですよねぇ。

 ケーキ作ったら、食べてくれるかな」

「なぁなぁ、大人の提督には、酒のつまみがアリだな。

 わたし味見すっから、あ痛っ」

 

重巡たちは演習前の適度な緊張の中で今の状況を楽しむ余裕があった。

すさんだ心はブラックな鎮守府にあって、癒されてきた。

提督はきっとブラックさを前面に押し出し嫌がらせをしてくるだろう。

艦娘たちにその行為はどう映っているかも知らずに。

 

「大潮もアゲアゲで行きまっすよぉ~」

「司令官、朝潮はお会いできたことに感謝します!」

「みんな司令官に甘いわよ。

 な、何よ、私は別に褒めて欲しいわけじゃないし!」

満潮は自分に向けられる他の艦娘の視線に居心地の悪さを感じてしまった。

 

「満潮も早く素直になってくださいね」

高雄は駆逐艦たちもブラック鎮守府(ここ)に来れたことに満足していることが嬉しかった。

 

 = = = = =

 

「提督!

 電探に感あり。

 演習の行動信号をまだ一度も出していない機影多数!」

鎮守府に緊張が走る。

 

「輪っか、発令!

 平文でかまわん、無線封鎖解除!

 直ちに戦闘機の迎撃発艦!

 全艦防戦行動開始!

 迎撃しつつ帰投せよ。

 空母群は全力で敵航空兵力を迎撃せよ」

「復唱します。

 無線封鎖解除!

 直ちに戦闘機の迎撃発艦!

 全艦防戦行動開始!

 迎撃しつつ帰投せよ。

 空母群は全力で敵航空兵力を迎撃せよ」

提督の命令を龍田が全艦に伝える。

鎮守府に警戒のサイレンが鳴り響く。

 

「提督、演習艦隊から入電。

 【我が艦隊に損害あり、救援を請う】ブラックな平文です」

「どの艦隊だ?」

「独立愚連艦隊、被害艦は荒潮!

 ・・魚雷による直撃です!」

「・・・・秋月、照月、涼月、初月を救援に向かわせろ」

「復唱します。

 秋月、照月、涼月、初月の4艦を救援に向かわせます」

 

「龍田、このまま全艦帰投命令に変更はない。

 命令を遂行させろ。

 俺はちょっと出かけてくる」

「提督、どちらへ」

「美人たちに会いに行ってるのさ、クヒヒ」

 

提督が指令所を出ると中尉と出くわした。

「もう止めませんから、必ず帰ってきてください」

中尉の頬には何筋もの涙の跡がついていた。




海が荒れ始めました。


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第10話 新たな遭遇

また無茶をやらかすブラックな提督。

中尉の涙を顧みず、所有物の回収に向かいます。


彼を応援してくださいね。


デッキに4隻の駆逐艦を搭載し、高速艇が海上を疾走していた。

その上空を戦闘機が通過していく。

数機は高速艇に合わせるように旋回しながら待機している。

提督は戦闘機に無線機で呼びかける。

「お前ら、ヤバくなったらさっさと帰れよ。

 俺はお前らを見捨てるからな、キヒヒ」

 

(直掩を先に返したら、提督自身が最も危険じゃないですか。

 どうしようもないお方ですね)

駆逐艦たちは思った。

 

「秋月、照月、涼月、初月。

 お前ら、俺を護れ。

 うまくやったヤツは、贔屓してやるぞ、キヒヒ」

 

「司令、お任せください♪」

「提督よ、僕は<懲罰(ごほうび)>でもいいのだが・・・すまない、忘れてくれ」

秋月の明解な回答は解り易いが、初月の回答は意味不明だった。

 

(初月のやつ、緊張のし過ぎで混乱しているのか?)

提督はまあいいかと思考を止めた。

些末なことに気をまわしている場合ではない。

もしかすると色々な意味で鎮守府最大の危機になる可能性があったからだ。

 

 = = = = =

 

≪鎮守府、こちら第一艦隊、帰投中。

 敵航空兵力は後退の模様、オクレ≫

「全艦、帰投。

 命令に変更はない」

 

≪気を付けますから、高雄さんたちの救援に行かせてください、オクレ≫

「全艦帰投です」

≪提督、お願いします、オクレ≫

「全艦帰投してください」

 

≪一航戦に任せてください、オクレ≫

「全艦帰投してください」

≪・・・・通信終了≫

 

 = = = = =

 

龍田は秘書艦の当番であることが不愉快だった。

提督に艦娘(わたし)たちが信頼されていない気がする。

 

「龍田、違うよ」

「そうでしょうか?」

海軍士官が龍田の気持ちを見通したように否定すると龍田は尋ねた。

 

「中佐は自分の留守を艦娘たち(みんな)に任せたんだよ」

「であれば、提督が出なくてもよろしいかと・・・・」

艦娘なら深海棲艦に対抗できる。

提督は鎮守府から的確に指示を出せるのだからそのほうが合理的なのだ。

 

「逆、中佐は自分の代わりを誰かに任せられても、みんなの代わりはいないと思ってるから」

「そんな・・」

龍田は中尉の言葉が入ってこなかった。

鎮守府各地に同艦がいる。

代わりどころか同じ艦を何だと考えているのか判らない。

戦力を考えれば、より充実した艦隊構成が可能でもある。

 

「中佐って、寂しがりやでさ、艦娘ちゃんたち以外にみんなとの思い出も減らしたくないんだよ。アホね」

貶す言葉を口にしていても逆に褒めているように見えた。

「んふふふ~、アホですね~♪

 帰ってきたら、揶揄ってあげますね~」

 

 = = = = =

 

「そろそろだ、お前ら、へばりつけ。

 なぁに訓練通りしてりゃ、瞬きの間に片付くぜ、クヒヒ」

提督の言葉をきっかけに駆逐艦たちは船縁にへばりつくように姿勢を低くした。

 

特殊部隊の侵入作戦に倣って提督が考案した高速侵攻戦術だ。

艦娘の艦隊運動には個体の速力の差が全体に影響する。

艦隊ごと高速艇に乗せてしまえばその差はなくなり、移動速度も格段に速くなる。

一見、誰でも思いつきそうな発想だが、従来の艦艇では喫水が深く雷撃で撃沈されるため、採用されなかった。

 

「戦闘機から報告、左舷、雷跡あり、数4」

左舷の前に位置する秋月の報告と同時に高速艇のコンプレッサーが唸りを上げた。

 

海面すれすれまで深度を上げてきた魚雷が高速艇に襲いかかる。

 

「跳べ!」

高速艇は水しぶきを上げながらわずかだが海面から離れた。

 

提督は右後方に離れていく雷跡を見送った。

「先を急ぐぞ」

 

「司令、潜水棲艦はこのまま放置するのですか?」

「秋月、お前はこの高速艇(こいつ)に対潜能力があると思うのか?」

「は、いえ」

「こいつの健脚なら空の連中以外は追い付けねえよ。

 バカなこと言ったお前、戻ったら懲罰(イヤガラセ)な」

「は、はい!

 秋月、謹んで懲罰(ごほうび)をお受けします!」

 

提督は気づかなかった。

秋月以外の駆逐艦が周囲の監視を怠らず戦術を思考し始めたことに。

 




救助用の高速艇が対空駆逐艦4隻分の火力を備えた高機動高速戦闘艦になりました。

独立愚連艦隊の運命は。



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第11話 鎮守府の艦娘たち

ブラックな提督。

いよいよ年貢の納め時か。

彼を応援してくださいね。


指令所のドアが勢いよく開かれる。

「提督!どうして救援を認めていただけないのか!」

「いろいろありましたが、鎮守府の仲間なんですよ」

長門と陸奥は帰投命令が納得できなかった。

 

提督(ゲス野郎)、俺に任せろって」

「夜戦じゃないけど、私たちの出番だと思うのね」

天龍と川内は救援に向かう気満々だった。

 

返事が返ってこなかった。

嘗め回すような纏わりつく視線もなかった。

 

艦娘たちは指令所の中を見回した。

あの方がいない。

 

「あれ?提督は?」

「おトイレ?」

2戦艦は当番秘書艦龍田以外が指令所にいないことに気がついた。

 

「あの方は、救援のため出撃されました」

龍田の声は弱々しく今にも泣きそうな声を辛うじて絞り出しているようだ。

 

「お、おい、龍田。

 あの人だけで行っちまったのかよ」

 

生巡はその場にへたり込んだ。

夜戦バカは言葉もなく立ち尽くしていた。 

 

「そ、そんな」

「艦娘は秋月ちゃんたちだけ?」

 

2戦艦はにわかに信じられなかった。

信じたくなかった。

 

これまで提督のデタラメな人徳で深海棲艦たちが鎮守府(ここ)に入り浸ることになっている。

しかし、今攻撃を仕掛けてきているのは彼女らではない。

 

戦力差を考えるとほぼ間違いなく提督は死ぬ。

それを考えた艦娘たちは鎮守府で緩やかに機能停止を待つ日々よりもドス黒い絶望を感じた。

 

ゲス野郎(愛しい方)に会えなくなる。

それが艦娘たちを突き動かした。

 

「長門、陸奥、今こそ提督に思い知らせる時だと思うが?」

武蔵が指令所に現れるととんでもない提案をした。

 

 = = = = =

 

「よう、荒潮。

 良いざまだな」

提督は深海棲艦の大艦隊を前に独立愚連艦隊と合流した。

そして半包囲されている。

どういうわけか深海棲艦たちは動かなかった。

 

「うふふふ♪

 荒潮のことなんか放っておいてもよかったのに、ぐすっ」

荒潮はまた涙を堪えきれなかった。

 

この提督はまた裏切った。

何度目かも覚えていない。

 

今度ばかりは轟沈を覚悟した。

 

 = = = = = 

 

演習の航空部隊が爆雷撃を仕掛けてきたと思った。

ところが艦砲の挟叉、魚雷の雷撃とほぼ飽和攻撃が始まった。

 

荒潮は回避しきれず被雷した。

油断が招いた危機。

 

深海棲艦の来襲。

予想できる事象だったが、ブラックな鎮守府の誰もが予想だにしなかった。

艦娘にとって深海棲艦たちはお隣さん的な存在になっていたのだ。

 

圧倒的な敵を前に僚艦たちはとどまってくれた。

それを嬉しく感じた荒潮の我儘とも言えた。

 

絶望的な状況でも独立愚連艦隊に悔いはなかった。

最後に本当の提督に出会えたことが艦娘たちの行動を決めていた。

 

 = = = = =

 

「秋月、照月、涼月、初月、お前ら降りろ」

「司令、私…私はずっと、お守りします」

提督の命令に涼月は何かを感じとった。

 

「涼月ぃ。

 口答えかぁ?」

「はい、そう取っていただいてもかまいません。

 私、提督のためなら・・・・」

「涼月ぃ、お前らは鎮守府に帰れ。

 邪魔なんだよ。

 少し黙ってろ」

 

「高雄、お前ら独立愚連艦隊は解任だ。

 さっさと帰れ。

 荒潮を忘れんなよ」

「提督、嫌です。

 最期までお供します」

提督の命令に高雄が食い下がった。

 

「俺はこれから美人たちと組んず解れずを始めるんだよ。

 お前ら、ジャマ、キキキ」

提督は艦娘たちの深海棲艦艦隊の間に高速艇を滑り込ませる。

 

「おー、美人さんたち。

 俺はこの辺を仕切ってる提督だ。

 艦娘の艦隊並みに価値のある人間だ」

「ホウ ニンゲンハ オモシロイコトヲ イウ」

提督の言葉に泊地水鬼が返す。

 

「だろう。

 そこで提案だ。

 この場に俺が残る。

 艦娘たちは戦線の離脱をさせてくれ」

「ワレワニハ カンケイナイコトダ」

提督と泊地水鬼の交渉が始まった。

 

「そうかぁ、お買い得だと思うがな」

「オカイドク?」

「そう、深海棲艦といえど補給が必要なんだろ?

 だったら、ここで無駄弾を使わなければ効率いいだろ?」

「ソレハ ソウダナ」

「俺なら、お前らが素手で殺せるだろ?」

「ウフフフ、イタイ、キット イタイヨ」

「まあ、それも給料の内だ」

「フフフ キイタトオリ オモシロイオトコ ダナ」

「キヒヒ、ブラックでゲスなんだよ、俺は」




判り切った状況の提督。

柄にもなく艦娘たちを離脱させようとするヘタレ。


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第12話 絆と言えるかどうか

絶体絶命の日本海軍。

このまま殲滅戦に突入か。

彼を応援してくださいね。


「提督、後方より新たな航空兵力です」

対空監視をしていた駆逐艦たちは機影を確認した。

「挟撃かよ、あちらさんもバカじゃないだろうしな」

提督は泊地水鬼に向き変える。

 

「どうだい?

 ここまで差がついたんだ。

 ここの艦娘が鎮守府に戻っても構わんだろ」

「ソレガ ナニノ イミガ アル」

「いやな、あの鎮守府じゃ、お前さんたちに勝てねえのは判ってんだ。

 だから、轟沈するにしても仲間と一緒にさせてやりてぇんだよ」

提督は覚悟を決めていた。

もし敵わないなら、せめて艦娘たちと散ろうと。

 

「秋月、照月、涼月、初月、貧乏くじを引かせちまったな。

 あの世で毎日俺を射撃の的にして遊んでくれや」

提督はとうとう涙が堪えられなくなった。

自分の判断で艦娘たちが轟沈する。

その船体は引き裂かれ苦しみの中で轟沈する。

あの時、むざむざ轟沈させてしまった艦娘にあの世で会えないだろうか。

自分は地獄に行くだろうが、連絡手段があればいいなと考えていた。

 

 = = = = =

 

深海棲艦艦隊が突如防空態勢に移行した。

「おいおい、どうしたんだ?」

提督は状況がつかめないでいた。

 

「フフフ ヤハリ オモシロイ オトコダナ」

泊地水鬼は楽しそうに微笑んだ。

 

 = = = = =

 

時系列は少し遡る。

 

提督が単身出撃した直後。

 

「レキュウ、ヲキュウタチヲ ミンナツレテイッテ」

「カンシャスル。

 ワレラノチンジュフニ アンソクヲ」

短い言葉を交わした後、レ級がヲ級6隻を率いて鎮守府を出港していった。

 

レ級たちを見送る深海棲艦たち。

「カンムスタチガ モドッテクルマデ ココニテダシハ サセナイ」

「イコクノチ イコクノウミ シッテイタキガスル」

飛行場姫と港湾水鬼はいつの間にかブラック鎮守府の一員だと自覚を持っていた。

 

鎮守府のすぐ隣の入り江に仮の停泊地が作られている。

鎮守府から電気、水道が引かれ、水洗トイレも標準装備で、秘密の通路を通れば、鎮守府で入渠までできた。

 

飛行場姫は間宮のハンバーグと入渠さえあれば海軍に寝返るのもありだと考えたりなかったり。

 

食事は面倒だが鎮守府の食堂を利用していた。

 

洋上パトロールには、鳳翔たちの手作りオムスビを希望する深海棲艦も少なくなかった。

 

もうグズグズのガバガバだった。

 

地上で艤装を納めた駆逐ニ級たちが鎮守府防衛のため待機している。

鎮守府の艦娘たちを待つのが当たり前になっていた。

海軍穏健派のブラックな提督は人類の裏切り者に落ちぶれていると言ってもいい状況だ。

 

 = = = = =

 

≪テイトク マダ イキテルカ≫

提督の通信機に直接語り掛けてきた。

「レ級、お前だったのか?」

提督はここに来て少しだけ心細さが和らいだ。

彼自身、艦娘を道連れに死ぬのは怖かった。

レ級が来てくれたら、せめて艦娘たちは鹵獲されても轟沈はない。

なぜだかそう思えた。

確信もなくそう思えた。

 

≪わたしたちしか戦えないから、仕方がないの≫

「お、おい。

 レ級、何言ってんだよ」

≪アナタガ、アナタノママ ダッタカラ スグニ ワカリマシタ≫

「俺は、何もできないグズなんだぞ」

≪カモ シレマセンネ。

 デモ ワタシハ タヨリニ シテ イマスヨ≫

 

「レキュウ テキタイ スルノ」

≪ワレラノ シハイカイイキニ テダシヲ スルナ≫

泊地水鬼とレ級が交渉を始めた。

 

「イッセン マジエテモ カマワナイケド」

≪イイヨ≫

一触即発になったその時だった。

 

一航戦の戦闘機が飛来した。

 

≪ブラック鎮守府の所属は全機撤退せよ。

 これより鎮守府所属が突入する、繰り返す我突入す≫

意味の判らない電文だった。

 

しかし、ヲ級から発艦した航空兵力はその場から離脱し始めた。

 

 = = = = =

 

今、洋上を深海棲艦艦隊が鎮守府に向かって航行していた。

並走するのは艦娘たち。

 

「ウワサドオリ ブラックナ テイトク ダナ」

「うるせえよ。

 なんだよ、噂って」

「ワレラノ センリョウヲ ウケイレテイル ブラックナ テイトク ダト」

クツクツと泊地水鬼が笑う。

 

「お前ら、間宮たちの飯を食ってみろ。

 お前らが鹵獲されたってわかるからよ」




なぜか、中尉警護の艦娘と同じ言葉を口にしたレ級。


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第13話 つかの間の安息

とうとう2艦隊に蹂躙される鎮守府。

彼を応援してくださいね。


「皆さん、飲み物は行きわたりましたか?

 では、とんでもないゲス野郎から乾杯の言葉です」

眼鏡の反抗的な仕切りで艦娘と深海棲艦が飲み物の準備をしている。

 

「あー、この鎮守府ももう終わりだと思う。

 さすがに深海棲艦たちをヒーヒー言わせるだけの体力は俺にない。

 鹵獲された連中も俺の命令を聞け、以上、乾杯!」

≪≪かんぱーーーい(カンパーーーイ)!≫≫

 

「新入りども、間宮たちの飯で轟沈しとけ、キヒヒ」

「ソウ カンタンニハ イカナイサ」

提督の言葉に自信満々の泊地水鬼。

 

数分後、鳳翔の焼き鳥の虜になっていた泊地水鬼が発見された。

 

 = = = = =

 

「中佐、デタラメなブラックだよ」

「中尉、それこそ、俺なんだよ」

 

食堂から抜け出し、屋上に人間がふたりきり。

 

「あー、中尉。

 心配かけてすまなかったな」

「な!あなた、本当の中佐なの?」

中尉は腰のホルスターから回転式拳銃を抜いた。

「こらこら、物騒だろ。

 ・・・・いやな、今回ばかりはダメだと思ったよ」

シガーに火をつけ、フェンスに身体を預けるとふかし始めた提督。

 

「らしくないよ」

「でもないさ。

 艦隊を前にするのが、あれほど心細いとは、想像できていなかった」

提督の背中に縋り付くように中尉は寄り添った。

 

「あの状況で、彼女は踏ん張ったんだな」

「彼女?」

「ああ、懐かしい彼女さ」

提督はキョトンとする中尉に目線で見る方向を教えた。

 

「オジョウサマ オヒサシブリデ ゴザイマス」

声の主はレ級だった。

 

「レ級よね」

中尉には何のことかわからなかった。

「なりは小さくなったが、彼女だよ」

「え、え、え。

 ・・もしかして、信貴お姉ちゃん?」

中尉に微笑みを向けるレ級。

 

 = = = = =

 

「テイトクー、モット カマッテクレナイト ハンラン スルゾー」

「深艦達より、俺たちへのイヤガラセ(いいこと)のほうが先だろうが」

酔った飛行場姫と生巡は提督に絡んでいた。

 

ついさっきまで屋上にいたのに妖精さんたちが探索、発見し食堂に連れ戻されてきた。

 

「そんなこと言っていいのか。

 お前ら、俺に構うと恥ずかしい姿を敵味方にさらすことになるんだぞ、クヒヒ」

 

「て、提督。

 あ、荒潮は、おへその下がキュンキュンしています。

 ちょ、懲罰ください!! もう我慢できません」

「そ、ダメよ。

 それは独立愚連艦隊の連帯責任なんだから」

高雄の言葉に愛宕が相槌を打つ。

 

「ちょっと待ちなさい。

 懲罰と言ったら、帰還命令を守らなかった我々が受けるべきだろう」

長門の言葉に提督の救援に向かった艦娘たちが一斉に頷いた。

 

「だめよー、みんな一度は帰還したから、命令違反はしていませんよー。

 テイトクー、私にご褒美くださいね、もう我慢できない、ハァハァ」

「おい、龍田、お前変だぞ」

座っている提督の許の艦娘や深海棲艦たちを押し退け、目が据わっている龍田が提督の前に跪く。

 

「んふふふ~、逞しいご褒美♪」

「ちょ、離せ、話せばわかる」

「提督、どうぞ、お話しください。

 私は離しませんけど~。

 あん、引っかかって見せてくれませんね」

龍田がいよいよ吶喊するその瞬間。

 

≪ゴキッ≫

鈍い打撃音とともに龍田は動きを止めた。

 

「はあ、はあ。

 は、はしたないことをするんじゃねぇ」

龍田の薙刀を構える天龍が肩で息をしていた。

 

「生巡、よくやった。

 今夜、かわいがってやろうか、キキキ」

「オ、オレなんかでいいのかよ」

顔を真っ赤にし、照れている天龍は、提督に顔を向けられなかった。

 

「らしくねえな。

 こんなことをしたら、ぶっ倒れそうだな」

提督は、この生巡めとばかりに頭をガシガシ撫でた。

 

その直後、のぼせたように気を失った天龍が姉妹艦と並んで寝かされていた。

 

 = = = = =

 

情報部の一室。

 

「この報告の確度は?」

「噂の域を出ておりません。

 しかしながら、近隣水域に対して、頻度は低いようですし、水の消費量が不自然に多いようです」

「フム」

その士官は一考すると部屋の中を数回往復する。

 

「よし、査察の準備だ。

 状況次第では戦闘になるだろう。

 その時はわたくしが前に出ましょう」

「そんな、閣下自らでなくとも」

「貴様らで敵う相手だと思わぬことだ」




とうとう情報部に情報が。

ブラック鎮守府の運命はいかに。


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第14話 遠雷

動き出した情報部。

彼を応援してくださいね。


0700

鎮守府に来客があった。

 

サイドカーが先導する他とは違った黒の装輪兵員輸送車が鉄門前で停車する。

 

群青地にナンバーの記されたプレートがナンバープレート代わりについていた。

 

当直の艦娘が通用門から運転席のところに用件を確認しに駆け寄った。

当直が敬礼をし、運転席の窓の下で背伸びする。

 

「おはよう、査察だ。

 これよりこの鎮守府は情報部の監視下に置かれる」

そう言ったのは濃いゴークルの若い女性だった。

 

「お、おはようございます。

 お役目お疲れさまです。

 ち、鎮守府にようこそお越しくださいました。

 あの、その、身分証明をお願いいたします!」

うさ耳リボンの駆逐艦は、狼狽えながらも。しっかり当直していた。

 

前に止まっているサイドカー、舟側の兵士が、振り向いて艤装を展開した。

艦娘の連装砲3基が素早くその兵士に照準を合わせていた。

 

「ほう、我々に砲身を向けるのか」

女性は感心しながら、身分証を当直に渡す。

 

「に、任務ですから。

 確認しました、ありがとうございます。

 お返しします」

 

当直は、反射的に動いてしまったことを後悔していた。

 

「同行の艦娘たちも入府してもいいかね?」

「はい、どうぞ。

 駐車場は、軍用車の隣をお使いください」 

 

サイドカーと兵員輸送車が敷地に入って行った。

 

 = = = = =

 

「ここの島風は、一段と速いですね」

「反応も早かったわ」

兵員室から覗いていた戦艦たちが感心していた。

 

「彼のことだから、当然よ。

 変わらないわね、全員、気は抜かないこと」

≪イエッス!マム!≫

 

 = = = = =

 

「査察官が来た?」

≪はい、今駐車場にクルマを停めました≫

 

「・・・・わかったわ、ありがとう」

眼鏡は、内線電話を切ると出迎えるために玄関へ向かう。

 

眼鏡は、いつもと変わらない態度だったが、嫌な予感しかしなかった。

情報部の査察と言えば、いわば身内の私刑。

提督のような悪人だと処断されるしかない。

 

鎮守府はすでに深海棲艦が常駐する「最前線」になっている。

万が一、そこを目撃されてしまえば、艦娘と深海棲艦(みんな)無事ではいられない。

眼鏡は執務室に急いだ。

 

しまった。

執務室の前には見慣れない艦娘たちが歩いていた。

 

 = = = = =

 

執務室のドアが断りもなく開かれた。

 

「少佐閣下、ようこそ我が鎮守府に。

 小官がこの鎮守府の責任者であります、クヒヒ」

「それは知っている。

 できれば先に仕事の話をしたいのだが?

 よろしいかな中佐」

女性将校は乗馬用の短鞭を弄りながら提督に確認をする。

 

「おっと、大佐にご昇進でしたか。

 これはご無礼を」

提督は、女性将校が階級章を短鞭で軽く打つのを見て気がついた。

 

「んふふ、そろそろ座ってもいいかな、て、い、と、く」

「これは気がつきませんでした、どうぞそちらに」

大佐の要望にソファを指し示す提督だった。

 

「いや、椅子は持参したのでな≪パチンッ≫」

大佐は指を鳴らすと彼女に同行してきた艦娘が数隻、動いた。

 

「大和、お前にするわ、長門、陸奥、お前たちは傍に、後ろは誰?」

「私、やりマース」

「いいわ、金剛、お前に任せるわ」

大佐の周りに艦娘たちは配置についた。

 

「やれやれ、相変わらずのご趣味だな、大佐どの」

提督はいつもは見せない表情で呆れてみせた。

 

「あら、貴官にだけは言われたくないわ」

「俺はブラックだからな。

 お前とは違うんだよ」

ふたりの会話は砕けたものになっていた。

 

「陸奥、少し前に出なさい」

「はい」

陸奥が一歩前に出る。

≪ピゥシッ!≫

「ハウン」

陸奥の臀部が鞭打たれた。

「誰が声を出していいと言ったの≪ピシィ!≫」

「ヒャン!」

「あら、気持ちよくなりたくてわざと声を出しているのかしら≪パシィ!≫」

「あ、そ、そんなことは」

「誰がしゃべっていいと言ったの?

 このメスブタ≪ヒュシィ!≫」

「わ、わたしはメスブタですぅ。

 大佐、もっと、もっと罵ってぇ」

鞭打たれる陸奥を他の艦娘たちはある感情を抱いて見ていた。

 

「お姉ちゃん、相変わらずだなぁ」

提督の隣にいた中尉も呆れていた




女は男で変わることがあります。
続きは次話で。


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第15話 情報部のカミソリ

ドSの査察官のようです。

彼を応援してくださいね。


査察にやってきた将校はともかく、艦娘たちも変わっていた。

 

眼鏡はそれがどういったものかはよく知らなかったが町で見かけるものではないのはすぐにわかった。

以前、提督に連れられた町ではそのような服装をした人間を見かけたことがなかったからだ。

服飾関係のカタログでは同じようなデザインを見たことはあった。

そのカタログでは下着扱いで、それらの形に近いものだった。

そして素地の大部分は黒の皮革になっている。

ウエストは必要以上に引き絞られ、お尻は剥き出しになっていた。

胸部装甲の厚い艦娘だと零れそうで、薄い艦娘はカップ以外がシースルーだったり網で素肌が透けて見える。

ベルトとバックルが多用され、肌の露出は極端に少ないが共通して股間近くと脇近くは剥き出しで海戦を想定していないのか、全員ハイヒールの膝上ロングブーツを着用していた。

 

(こ、これが情報部のユニホーム!?)

提督にとっては、鎮守府の艦娘たちの姿は、刺激不足だとの結論に至った。

 

ここで、眼鏡は大きな勘違いをしてしまった。

 

 = = = = =

 

「オーホホホホッ、お前をM奴隷にしてやろうかぁ」

オホホと高笑いする大佐。

四つん這いの大和に腰掛け、長門と陸奥がひじ掛け役として大佐の腕を支えていた。

椅子役の艦娘たちは革製の目隠しを着用し、馬のようにくつわをつけていた。

 

「おいおい、俺はお前に合わせる気はねえよ」

「え、だめなの?」

軽くあしらう提督に気弱に尋ねる大佐。

 

「当たり前だろ、俺の趣味じゃねえよ」

「ちょ、ちょっとだけでもだめですか?」

拒絶する提督に懇願する大佐。

 

「お姉ちゃん、中佐のブラックなのは違う方向だよ」

「美鳳ちゃんまで・・・・、いいもん、もう頼まないから!」

中尉の言葉にヘソを曲げる大佐。

 

「そりゃ、重畳、重畳」

「中佐のイジワル、お父様に言いつけるからね!」

「ちょ、そりゃ反則だろ」

「イーッ、ちょっと付き合ったからって何でも言うことを聞くって思わないでよね」

「お姉ちゃん、そんなことしたら少将(おじさま)を困らせない?」

我儘な子供のようになっている大佐。

 

 = = = = =

 

「ブガイシャガ オオキナカオヲ シナイデ モラオウ」

「ムカシノ オンナガ ハイリコム ヨチハ ナイ」

レ級と飛行場姫が私室側のドアから入ってきていきなり言い放つ。

 

「ちょ、お前ら出てくることはねえだろ」

提督は焦った。

大佐は品行はこれでも、情報部での働きは優秀なので大佐の任についている。

 

「中佐、噂は本当だったのかしら?」

「噂?」

大佐は流し目で提督を見る。

 

「この鎮守府がすでに深海棲艦の支配下に置かれているという、う、わ、さ」

「あー、こいつらは鹵獲した」

「あらあら、この期に及んで?」

「う、嘘じゃねえよ、たぶん」

大佐の問い詰めに対して勢いのない提督だった。

 

 = = = = =

 

「まあいいわ。

 しばらく、監視させていただくから。

 部屋は・・、そ、そうね、提督の私室を使うわ」

「おお、いいぞ。

 艦娘たちは、各部屋に分かれて使ってくれ」

大佐に滞在許可を出す提督。

 

「あ、あの、あのね。

 よ、夜は美鳳ちゃんと3人だったりするのかな?」

モジモジとする大佐。

 

「何言ってんだ、ふたりだよ。

 3人だったら狭いだろ」

「そ、そうなの?

 ひ、久しぶりだね。

 美鳳ちゃん、そ、その、ごめん」

提督の言葉で、中尉に謝る大佐。

 

瑠海(りゅみ)お姉ちゃん、たぶん勘違いだよ」

 

 = = = = =

 

時系列は少し遡る。

 

「深海棲艦ごときがこのわたくしに意見するというのかしら」

大佐は飛行場姫の前に立つ。

「ゼイジャクナ ニンゲンニ ナニガデキル?」

飛行場姫は大佐の言葉で一笑した。

 

「フフン、それじゃこれならどうかしら≪ピシィッ!≫」

「キャウン(ゾクゾクゾク)」

乳房を鞭打たれた飛行場姫、様子がおかしい。

「あーら、どうしたの?」

「ソノテイド ナニカ?」

「そうよ、この程度、どうということはないわ≪ピシィッ!≫」

「アウ(ゾクゾク)」

(イッタイ ナニ?

 ナゼ コノテイドノ コトデ)

今度は内腿を打たれた。

 

「あなたはわたくしに勝てなくてよ。

 だって、あなたはM奴隷ですもの≪ピシィッ!、パッシィ!ピシィッ!≫」

「アア、ワタシハ イヤラシイ ヒコウジョウキ デス。

 モット モット カイグンダマシイ ヲ。

 ヒャフィィーーーーーーーー」

 

決戦は終わった。

本日の海戦、大佐の勝利。




りゅみお姉ちゃん、ある方面では無敵です。


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