社畜冒険者の異世界変態記 (ぐうたら怪人Z)
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人物紹介

 基本的に物語の中で描写した内容を纏めているだけですので、お読みにならずとも問題ありません。

 

 

 

■黒田誠一

 年齢:26歳

 身長:179cm 体重:75kg

 職業:<魔法使い>

 

 主人公にして語り手。

 黒髪黒目で、実に日本人らしい容貌の持ち主。

 

 元々は東京で社畜生活を送っていたが、物語開始の1年程前にひょんなことからウィンガストの町へやってくることになる。

 今は冒険者として生計を立てているが、挑戦心無し・開発者精神希薄・不意の事態大苦手という、お世辞にも冒険者には向いていない気質の持ち主。

 おかげで冒険者ランクは最低のEである。

 ただ、誠実な性格で誰に対しても礼儀正しく振る舞い、コミュ能力も割と高いため、友人関係は広い。

 さらに、ちゃんとした指導を受ければ大抵のことをこなすことができる器用さを持っている上、顔も平均以上には整っているという、実は高スペックな男。

 

 そして何より――これまでの人生で警察のお世話になっていない、という事実が嘘としか思えない程の変態である。

 大凡の性癖は網羅し、気になった女の子がいれば手を出さずにはいられないどころか、何なら男にだって手を出す。

 ウィンガストでは、習得した魔法も十二分に活用して本能の赴くまま性活を満喫している。

 

 

■リア・ヴィーナ

 年齢:18歳

 身長:157cm スリーサイズ:B84・W56・H83

 職業:ウェイトレス

 

 一か月ほど前から、酒場兼レストランの『黒の焔亭』でウェイトレスをしている女の子。

 うなじが隠れるまで伸ばしたセミショートの茶髪をなびかせる、快活な笑みの似合う美少女。

 均整の取れたスタイルを誇り、誰にでも笑顔を振りまく仕事ぶりから、客からの人気も高い。

 彼女目当てで店に来るリピーターも多くいる程。

 

 活発で気さくな性格で、服もスパッツやTシャツなど飾らなくて動きやすいものを好む。

 しかし、結構勝ち気で怒りっぽく面も持ち、口より先に手を出しがち。

 繰り出される鉄拳は、容姿の印象と180°異なり、冒険者すら一撃で倒す威力を誇る。

 彼女に手を出そうとして、血の海に沈んだ男は数知れず。

 

 主人公が『黒の焔亭』の常連である縁から、よくよく顔を合わせている。

 冒険者のことや東京のことを興味があるのか、暇を見つけては主人公に話しかけてくることが多い。

 

 

■ローラ・リヴェリ

 年齢:25歳

 身長:159cm スリーサイズ:B90・W58・H87

 職業:薬師

 

 ウィンガストでマジックアイテムのお店を経営している女性。

 美しい黒髪を長く伸ばしている、清楚な雰囲気を纏った美女。

 抜群の巨乳・巨尻の持ち主でもある。

 困っている人を見過ごせない優しい性格から、ご近所でも評判の美人さんであるが、2年ほど前に夫を亡くしている。

 

 当然、そんな未亡人を男が放っておくはずもなく、何度もプロポーズをされたことがあるが、その悉くを断ってきた。

『夫のことをまだ愛しているのだろう』、というのが彼女を知る人達の推測。

 彼女が常に黒いドレスを纏っていることも、その推測に拍車をかけている。

 

 店で扱っている商品に<魔法使い>向けの物が多いことから、主人公とは彼がウィンガストに来てからの付き合い。

 彼の変態癖に困らされながらも、色々面倒を見ている。

 

 

■エレナ・グランディ

 年齢:20歳

 身長:150cm スリーサイズ:B81・W52・H81

 職業:<魔法使い>

 

 駆け出しの女冒険者で、ジャン、コナーとパーティーを組み迷宮探索に挑んでいる。

 肩下まであるセミロングの黒い髪を後ろで束ねている、小悪魔的な雰囲気を漂わせた少女。

 トランジスタグラマーなスタイルで、ハリの良い巨乳という一見矛盾した二つの要素を両立した魅惑的肢体の持ち主。

 

 人をからかうのが好きで、少し負けず嫌い。

 さらには、かなりのエッチ好きでもある。

 気に入った相手には、自慢の身体で積極的にモーションをかけていく。

 冒険者という激しく動き回ることの多い職に就きながら、ミニスカート等の露出の多い格好をしているのも、そんな性格のため。

 

 主人公とは迷宮内で出会うことになるが、お互いの変態性に惹かれ、あっという間に意気投合してしまう。

 

 

■室坂陽葵

 年齢:??歳

 身長:164cm スリーサイズ:B72・W51・H85

 職業:<勇者>

 

 最近、東京からウィンガストへと転移してきた男の子。

 ショートカットのサラサラなブロンドヘアー、まるで人形のような碧い瞳、愛嬌の良い理想的に整った顔つき。

 道を歩けばすれ違った男10人中18人が振り返る(全員が一回は必ず振り返り、その内8人はもう一度振り返る、の意)、凄まじい美貌の持ち主である。

 胸が小さいことを除けばプロポーションも完璧。

 

 ――なのに性別は男。

 普通に女の子のことが気になるお年頃な少年で、初対面のリアに一目惚れしてしまうような一面もある。

 ついでに言うと、自分が超絶美少女な外見であることに対して自覚が無い。

 現代社会出身のくせに、登場人物の誰よりもファンタジーな存在と言える。

 

 性格は結構やんちゃで、少しお調子者なところもあり、誰彼構わず親し気に接していく。

 ……周りの男はもう大変である。

 ただ、本人はそんな男達の視線には一切気づいていない。

 主人公は、ウィンガストに来たばかりの彼の、教育係を命じられることになる。

 

 

■アンナ・セレンソン

 年齢:28歳

 身長:146cm スリーサイズ:B75・W54・H80

 職業:<商人>

 

 ウィンガストで最大手の商店である、セレンソン商会の代表を務めている獣人(猫)の女性。

 燃えるような赤い髪をした、幼い少女のような愛くるい面立ちをしている。

 スレンダーな体型もその愛嬌を補強しており、年齢とは反して可愛い美少女然とした外見。

 ――ただし、黙ってさえいれば。

 

 基本的に他人の悪口を言わない主人公をして、頭がわいていると表現されるような性格の持ち主。

 虚言妄言織り交ぜて一度喋り出したら止まらないその言動には、彼女と関わる人ほぼ全てが辟易している。

 ただ、ゼロからセレンソン商会を立ち上げた手腕は確かであり、何気に世話好きでもあることから、従業員やお客からの信頼は高い。

 

 主人公は探索で手に入れたアイテムをセレンソン商会に卸したり、逆に普通の店では手に入らない高級装備を紹介から購入したりしている。

 そのため、商会からは上客として扱われ、その縁もあって彼女は主人公を何かと目にかけていたりする。

 

 

■ボーレンクイロン・ヴァキャ・アンラマウェンスタ・ヴィーマゲウォン

 年齢:31歳

 身長:345cm 体重:204kg

 職業:武器屋の主人

 

 通称、“ボーさん”

 ウィンガストで武器屋を営む巨人族の男性。

 店では、武器の売買だけでなく、鍛冶も請け負っており、店に並ぶ武器の半分以上は彼が鍛えた物。

 腕の良い鍛冶師として知られており、別の街から彼の武器を求めて店を訪ねる人もいる程。

 ただ、武器屋を経営する商才には欠けるようで、店は余り儲かっていない。

 

 主人公も彼の店はよく利用しており、武器防具の購入や修理をしたい場合はまず彼のもとを訪れる。

 ボーさんも生来人に頼られるのが好きな性質であるため、主人公から相談があればなんだかんだで乗ってくれる。

 

 

■ゲルマン・デュナン

 年齢:42歳

 身長:186cm 体重:95kg

 職業:店長兼料理人

 

 黒の焔亭の店長とコックを兼任している男性。

 元傭兵で、筋肉ムキムキのマッチョマンである。

 頭は禿げているが、これは料理に髪の毛が入らないよう剃っているんだ――とは本人の弁。

 強面ながらも面倒見が良い性格のため、店の従業員や友人達からは頼られている。

 料理の腕も高く評価されており、ウィンガストの美味いお店と言えば黒の焔亭を挙げる人も多くいる。

 

 主人公とは妙に気が合って、付き合いは1年程度ながら互いに親友と認め合う程仲が良い。

 その余りの仲の良さから、一部のウェイトレスからは、主人公とホモホモしい間柄なのではないかと期待されている。

 勿論本人達は否定しているが。

 

 ちなみにその外見に似合わず繊細な料理も得意とするが、それを指摘すると怒る。

 

 

■セドリック・ジェラード

 年齢:56歳

 身長:168cm 体重:85kg

 職業:資産家

 

 元々は別の街で大きな商会を運営していた、やや恰幅の良い壮年の男。

 今では商会の経営を後任に譲り、ウィンガストで隠居生活をしている。

 ウィンガストでも一二を争う大金持ちなのだが、それを鼻にかけることはしない、出来た人物。

 

 ローラのお店と黒の焔亭の常連であり、主人公とも顔を合わせることが多い。

 主人公の誠実な人柄を気に入っていて、ゲルマンも含めた3人でよく飲んでいる。

 また、主人公とローラの仲を応援していたりも。

 

 

■ジャン・フェルグソン

 年齢:21歳

 身長:176cm 体重:65kg

 職業:<盗賊>

 

 エレナとパーティーを組む駆け出し男冒険者で、彼女とは幼馴染。

 仲間想いで兄貴肌の人物で、何故か主人公のことを冒険者として尊敬している。

 エレナからは一人の男性としても想われていたりするのだが、それを知ってか知らずか、彼女からのお誘いをスルーし続けている。

 

■コナー・エアトン

 年齢:20歳

 身長:180cm 体重:79kg

 職業:<聖騎士>

 

 エレナとパーティーを組む、駆け出し冒険者で、やはり彼女とは幼馴染。

 ジャンとは昔から一緒に行動していた腐れ縁。

 ジャンが主人公の信者であることから、主人公のことは話でよく聞かされている。

 彼もまたエレナから好意を持たれているのだが、ジャンとの三角関係になることを恐れているのか、彼女の想いに応えるような行動を起こしていない。

 

 

■柿村浩太

 年齢:24歳

 身長:178cm 体重:75kg

 職業:<魔剣士>

 

 東京からウィンガストへと来た男性で、主人公の学生時代の後輩。

 軽い言動とチャラい外見から誤解されがちだが、なかなか芯の通った好青年。

 学生時代にも、ウィンガストの冒険者としても先輩である主人公の事は大いにリスペクトしている。

 彼も黒の焔亭の常連であり、リアに恋心を抱く。

 

 

■ジェラルド・ヘノヴェス

 年齢:??歳

 身長:153cm 体重:44kg

 職業:冒険者ギルド長

 

 冒険者ギルドのギルド長を務める老人。

 責任感の強い真面目な性格で、それ故に主人公の変態行動には頭を悩ませている。

 一方で、主人公の人柄には一定の評価をしており、人を多角的に評価できる公正さも持つ。

 主人公も色々と世話になっている彼には頭が上がらない。

 



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第一話 ある社畜冒険者の一日 アフターファイブ編
① 異世界の街『ウィンガスト』※


 東京。

 かつて私が住んでいた街。

 科学によって栄える文明の都。

 ウィンガスト。

 今、私が住んでいる街。

 剣と魔法によって栄える、冒険者達のフロンティア。

 

 

 かつて、私はつまらない男だった。

 毎日、同じように職場に向かい、同じように仕事をし、同じように家に帰り、同じように飯を食い、同じように寝る。

 それをただひたすら繰り返し。

 

 勘違いしないで欲しいのだが、私自身そのような暮らしが嫌いだったわけではない。

 何の代り映えの無い日常にも愛着はあったし、社会の歯車として動くことに誇りすら感じていた。

 私のような生き方を嘲笑う人は多いだろうが、しかし私はその生活に充足していたのだ。

 

 ある日、転機が訪れた。

 それは冬の最中、雪の降る日だった。

 いつものように会社に向かい、いつものように信号を待っていた時。

 

 本を片手に開いた女性が一人、横断歩道を渡っていった。

 信号は赤なのに。

 トラックが高速で走ってくるのが見えた。

 信号は青だから。

 トラックが女性に気付き、ブレーキを踏んだが、スピードが緩まない。

 雪が積もっていたから?

 女性はトラックに気付かない。

 本を読むのに没頭していたから?

 私は、咄嗟に飛び出し、女性を突き飛ばした。

 ……これは未だに理由が分からない。

 

 それが東京における私の最後の記憶。

 私の行為が意味を成したのかどうかは、残念ながらこの目で確認することは叶わなかった。

 気づけば私は、ウィンガスト(ここ)に来ていたから。

 昔、漫画や小説で読んだような、ファンタジーの世界に。

 

 

 …これからの展開は端折ろう。

 それ程目新しいお話という訳でも無い。

 異世界の街「ウィンガスト」に来て、勧められるがまま冒険者になって、冒険者として生活基盤を築いている、とそんな感じだ。

 東京に居たとき私も何度か読んだことのある、その手の物語の大体定番の流れである。

 いずれ、必要があれば語ることもある、かもしれないが。

 とはいっても―――

 

 

「おい、クロダ!」

 

「は?」

 

 

 唐突な呼びかけに、思わず間の抜けた返事をしてしまう。

 見れば、私の目の前には身の丈3m以上はある大男が立っている。

 

「どうしたんだ、ぼーっとして。

 おら、頼まれてた防具の修理が終わったぞ」

 

「ああ、もうそんな時間でしたか。

 毎度のことながらありがとうございます、ボーさん」

 

 男から金属製のクロークを受け取りながら、私はそう答えた。

 ボーさんは、その巨体から分かるように、勿論人間ではない。

 巨人族の一人である彼は、私がよく世話になっている武器屋の主人である。

 本名はボーレンクイロン・ヴァキャ・アンラマウェンスタ・ヴィーマゲウォンという方なのだが、それでは余りに長いので、ボーさんと呼んでいる。

 ―――如何に理由があるとはいえ自分よりも明らかに年長である人をそのような愛称で呼ぶのは抵抗があり、最初は本名で呼んでいたのだが、ボーさん自身がその名前で呼ばれたくないようなのだ。

 人の里に降りて長いボーさんは、巨人族独特の名前センスに嫌気がさしているとかなんとか。

 私は、いい名前だと思うのだが。

 

「しかし何だな。

 お前ももうこんな防具を着るようなランクになったんだな」

 

 遠い目をして、ボーさんが言う。

 

「初めてお前に会ったときは、こんなぬぼーっとした兄ちゃんが冒険者なんて大丈夫なのかと心配になったもんだが」

 

「余り持ち上げないで下さい。

 私はまだまだ駆け出しですよ」

 

「馬鹿を言うな。

 お前、このクロークはミスリル製だろう?」

 

 私の持つクローク……ミスリルクロークをじゃりっと触りながら、彼は続ける。

 

「ウィンガストで出回ってる防具では、最高品の一つだ。

 これを身に付けて『ぼく、駆け出しです〜』なんて、他の冒険者から怒られるぞ」

 

「いや、まあ……」

 

 確かに、このクロークを手に入れるのには苦労をした。

 およそ3か月の冒険で手に入れた金を全て使ってようやく購入した代物だ。

魔法使い(ウィザード)>である私にとって、これ以上の防具はもう望むべくもない。

 少なくとも、通常の市場には出回っていないだろう。

 

「感慨深いもんだね……」

 

「一年も冒険者を続けていれば、こうもなります」

 

「そうか、一年か。

 もう一年になるか」

 

 ボーさんは息を深く吐いた。

 そう、私がウィンガストに来て、既に一年が経過している。

 都会暮らしに慣れた大人が、腕っぷしが全ての世界に来て、既に一年。

 

「一年……はっ、中途半端な奴には、続けられない長さだぜ?」

 

「そう、ですね」

 

 今日までに、何人もの冒険者(なかま)が志半ばで挫折するのを見てきた。

 いや、挫折するだけならばまだマシだ、大分マシだ。

 命を落とす者とて、少なくないのだから。

 

 と、突然何かに気付いたようにボーさんが聞いてきた。

 

「そういえば、お前、冒険者ランクはいくつになったんだ?」

 

 冒険者ランク。

 ウィンガストにおいて冒険者とは、単に冒険をする者の称号では無い。

 この町の中心部に入口を構える巨大なダンジョン――<次元迷宮>を探索し、湧き出る魔物を駆除する任を負う、公的に認められた職業なのである。

 その冒険者というシステムの一つに、冒険者ランクというものがある。

 冒険者を統括する冒険者ギルドという組織が、各自が成し遂げた業績等を評価して、冒険者をA〜Eの5段階に振り分けているのだ。

 Aが最も高く、Eは駆け出し。

 ランクが高い程、より高い難易度の迷宮区域に潜る許可や、より多くの報酬が出る依頼の割り当てがギルドからなされるようになる。

 また、高ランクの冒険者は国に仕える騎士へスカウトされる等、様々な恩恵を受けることができる。

 

「こんな防具着てんだ、C……ということは無いよな。

 Bランクか? まさかAに上がってるなんてことは―――」

 

「Eです」

 

「そうかEか!

 流石だな、もうそんなランクになってるなんて………は?」

 

 へんてこな顔をして、彼が聞き返してくる。

 

「Eです」

 

 大事なこと(でもないか)なので、2回言った。

 

「E?」

 

「Eです」

 

 3回目。

 

「な、なんでEだよ!

 それは、冒険者なりたての奴に割り振られるランクだろう!?

 ……俺が知らない内に、冒険者ランクはAとE逆になったのか!?

 それとも区分けが5つから10に増えた!?」

 

 何故か取り乱すボーさん。

 

「落ち着いて下さい。

 ボーさんの認識は間違っていません。

 Eは冒険者ランクの最低値です」

 

「だったらなおさらわからないだろう!?

 どうして1年も冒険者やってEのままなんだよ!

 Eでどうやってミスリルクローク買ったんだよ!

 Eじゃ碌な区域に行けないだろうが!!」

 

「はい、ですから」

 

 興奮するボーさんを諌めるためにも、少し語気を強めて告げる。

 

「毎日、次元迷宮の初心者用区域にだけひたすら潜り続けてちまちまお金を貯めたのです」

 

 ボーさんは言葉を失った。

 

 

 

 冒頭で、私はつまらない男『だった』と言ったな。アレは嘘だ。

 私は、今でもつまらない男なのである。

 つまり、毎日、同じように職場(初心者用区域)に向かい、同じように仕事(魔物退治)をし、同じように家に帰り、同じように飯を食い、同じように寝る。

 東京にいた頃と変わらぬ生活を送っている、送ってしまっている。

 異世界に来るなんていう前代未聞の事件に巻き込まれておきながらこの体たらくとは、私のつまらなさはもう筋金入りと言えよう。

 これから始まるのは、そんなつまらない男のお話だ。

 

 

 ――ああ、重要なことを伝え忘れていた。

 この物語の語り部であり、恐れ多くも主人公である、この私。

 名を、黒田誠一(くろだせいいち)という。

 

 

 

 

 

 

 さておき。

 茫然自失となったボーさんに別れを告げ、帰路につく。

 

 このウィンガストという町は、先ほど言った次元迷宮を中心に据えて作られている。

(次元迷宮の説明は、実際に探索へ出かけるときにするので、今は省略させて貰う。)

 中心の迷宮を最低地として、外周に向けて上り坂となった構造をしている。

 でかいクレーターの中心部に迷宮があり、その周りに町が築かれている、と言えば多少は分かりやすいだろうか?

 実は比喩ではなく、本当にクレーターだったらしいのだが、それはまた別の話で。

 

 現代に生きた人間である私がこの町を一目見た感想は、『整然としている』、だった。

 そう、整然とした町並だ。

 学校の歴史の授業で中世の町並みを習った人ならば、少なからず同じ感想を抱くと思う。

 単純な技術レベルは地球における中世程度であるにも関わらず、この町は非常に整った区画を擁し、通りも綺麗に清掃されている。

 それこそ、世界で一番綺麗好きな国民と言われる日本人である私が、この町での生活に嫌悪感を抱かなかった程に。

 住民の衣装も華やかだし、食事もしっかり調理されたものが出る。

 魔法等の特殊なスキルの存在が一般化し、それを用いて生活の基礎が作られているからなのだと思う。

 

 つまるところ、ライトノベルでよくあるファンタジー世界のような町、と言いたい。

 

「大分遅くなった」

 

 一人呟く。

 

 日は完全に暮れている。

 街灯(『街灯』があるのだ、この町には!)のおかげで道を歩くのに苦は無いのだが、店はどこも終業しているようだ。

 

 当初の予定では、この後ローラさんの魔法店に寄って今日の迷宮探索で消耗した備品を補充したかったのだが…

 

「明日にするか」

 

 仕方がない。

 防具の修理を待つ間に時間が経ち過ぎた。

 断っておくが、これはボーさんの腕が悪いから想定外に時間がかかったのではない。

 逆だ。

 ボーさんの腕が良いから、本来修理に数日かかるのを覚悟していたところを、迷宮帰りから夜の間までに終わったのである。

 

「しかしこのまま家に帰るのも侘しい」

 

 自宅に帰っても、碌な飯が無い。

 確か保存用の干し肉とか安い葡萄酒があったはずだが、一日の終わりをそんな食事と共に迎えるのは不本意である。

 

「あそこ、まだやっているだろうか」

 

 もうこの町も長い。

 この時間でもやっていそうな店にもちゃんと心当たりがある。

 

 私は帰路を少し外れ、その店へと向かった。

 

 

 

 

 道すがら、見知った顔を見つけては挨拶を交わしつつ、目的地へと到着する。

 

「……良かった」

 

 私は胸をなでおろした。

 店から光が漏れている。

 まだ営業中のようだ。

 

 ここは黒い焔亭という酒場である。

 この町に来た当初から利用している、行きつけのお店だ。

 店構えはそれ程大きくないが、店主一人と少数のお手伝いで営業している店であることを考えれば広いとも言える。

 

 道すがら、空腹がきつくなってきた。

 私は早速、酒場の扉をくぐる。

 

「ごめんください」

 

「もう今日は終わったよ……ってなんだクロダか」

 

 入ると同時に声がかかる。

 若い女性の声だ。

 

「すみません、今日はもうダメですかね?」

 

 声をかけてきた女性を見ながら、尋ねる。

 もう営業は終わりとのことだが、ここで食事がとれなければ、今日の夕飯は干し肉に決定だ。

 そんな私の心配を察したのか分からないが、女性はニコっと愛嬌のある笑顔を浮かべてこう答えた。

 

「本当はもう終わるつもりだったんだけどね。

 ま、アンタならいいでしょ。

 常連だからね、特別サービス」

 

「それはお気遣いありがとうございます、リアさん」

 

 どうやらちゃんとした食事にありつけそうだ。

 私はその女性―――リアさんにお礼を言った。

 

「いいってこと、よ。

 ほら、適当な席についといて。

 今店長呼んでくるから」

 

 クルっと軽いステップで身を翻すと、リアさんは店の奥へ向かう。

 それを見送りつつ、私は近場のカウンター席に座った。

 

「あ、食事でいいんだよね?

 それとも今から飲む?」

 

「食事です。

 簡単で構いませんので、適当にご用意頂ければ」

 

「オッケー♪」

 

 リアさん。

 本名はリア・ヴィーナさん。

 先ほどの台詞からも分かるように、この店のお手伝い……要するにウェイトレスである。

 1か月前からこの店で働きだした、新人さんだ。

 

「………」

 

 リアさんの後ろ姿をじっと眺める。

 

 年のころは、私よりも下。

 確か18だったはずだ。

 この辺りに住む同じ年頃の女性の中では平均的な背丈で、大体155位だろうか。

 先程の会話からも垣間見られたが、非常に活発な性格のお方で、ともすればガサツな印象を持つ人もいるかもしれない。

 

「………ふむ」

 

 店の奥で誰か、おそらくは店長と話しているリアさんを眺める。

 

 しかし、仮に彼女にそんな悪印象を抱いた人でも、女としての魅力まで否定はしないだろう。

 肩に触れる程度まで伸ばされた――セミショート、という髪型でいいのだろうか――リアさんの茶色い髪は、女性特有のきめ細かさを持っている。

 顔も可愛らしく整っており、美少女と呼ぶに申し分ない。

 快活な笑顔を浮かべながら元気よく動き回り、それに合わせて髪がサラサラと流れる――その様は、世の男の大部分を魅了するだろう。

 

 そして、肢体。

 この店のウェイトレスには制服が用意されている。

 エプロンとスカートが一体となったような、青を基調とした服だ。

 

 制服のエプロンは、へその上辺りに幅の広い帯を巻く構造なのだが、その帯の巻き付きによってエプロンが身体にフィットしている。

 要するに着用者の胸を強調させているのだ。

 そこから分かる彼女の胸は豊満と形容するにはやや足りないものの、綺麗なお椀型の形をしたいわゆる美乳であり、自分が女であることを強く主張している。

 カップは、目算だがD程だろうか。

 

 一方でスカートの丈は短く、膝30cmを超えている。

 当然、そこからスラリと伸びた健康的な脚は、太ももの大部分まで露出することになる。

 程よく細く、張りがあり、それでいて女性の柔らかさを十分に感じさせる肉付きをした、魅惑的な脚。

 余程特殊な性癖の持ち主で無い限り、あれに惹かれない男はいないと断言できる。

 

 スカートに隠されたお尻も同様だ。

 形の良い曲線で表された2つの双丘が、男の視線を捕らえてやまない色気を放っている。

 飾り気の無い白い木綿生地の下着も、彼女の美尻をより際立たせていると言って良い。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ……今、私の言葉に疑問を持った人はいるだろうか。

 他はともかく、何故スカートの中まで把握できるのか、と。

 

 少し長くなるが、解説させて頂こう。

 

 これは、私のウィザードとしての<魔法(マジック)>の一つ、<屈折視(デフレクトヴィジョン)>のなせる業である。

 効果は読んで字の如く、視界を屈折させて視線の通らない場所を見通す、知覚系魔法の下級スキルだ。

 本来ならば、ダンジョンにおいて岩陰や曲がり角の先等に潜む魔物へ射撃系魔法をあてるための魔法なのだが、こういう使い方もできる。

 ………いや、本来の使い方でもちゃんと使っているんですよ?

 

 ちなみに、知覚系魔法の上級にはそのものずばり<透視(シースルー)>という何でも透けて見えてしまう魔法もある。

 私は使えない。

 Eランクの冒険者である私では、上級スキルの習得許可を貰えないからだ。

 とはいえ、仮に習得できたとしても、こういう用件ではまず使用できない。

 何故なら、上級スキルは発動に様々な準備(身振り手振りや呪文等々)が必要となるからである。

 ついでに発動時に変な発光エフェクトが出てきたりもする。

 そのため、こういう場で使おうものなら一発でばれてしまうわけだ。

 

 一方、<屈折視>は下級スキルであるため、Eランクの私でも習得できるし、必要な準備は最小限、エフェクトも地味。

 そして、スキルの熟練度(レベル)を上げることで、唯でさえ少ない準備やエフェクトを完全に省略することも可能なのである。

 つまり、どこで使おうが、まずばれる心配が無い、ということ。

 同じ理屈で<透視>も熟練度を上げ続ければ、手間の省略ができるわけなのだが、上級スキルは熟練度が上がりにくい上に、準備を完全に省略するのに必要な熟練度は下級スキルを大幅に上回る。

 <透視>を<屈折視>と同様に扱えるようになるには、一体何年…何十年の修練が必要になることやら。

 

 …さらにどうでも良い補足をするならば、離れた場所にいるリアさんの肢体をじっくり鑑賞するために<感覚強化(エンハンスセンス)>を、暗いスカートの中を覗き見るために<闇視(ダークヴィジョン)>という魔法を使っている。

 効果はこちらも読んで字の如く、視力を含めた五感を強化する魔法と、暗闇を見通す魔法である。

 自分が習得できていることからも分かる通り、どちらも下級スキル。

 当然、どちらも熟練度を上げて準備無しに発動できるようにしてある。

 

 …スキルをこのような使い方をすることに対して、不快感を持つ人もいるかと思う。

 でもね、これは世の男の子共通の願望だと思うんですよ。

 誰だって、こういう魔法を覚えたらこういう使い方をするでしょう、するはずだ、するだろう?

 

 無論、私だって、最初からこれを狙って魔法を覚えたのではない。

 ダンジョン探索に役立つ魔法を覚えていったら、こういう使い方もできるということにある日気づいてしまっただけなのだ。

 実際今挙げた魔法は、どれも毎日の迷宮探索に欠かせない必須のものでもあるのです、はい。

 

 以上、解説と釈明終わり。

 

「では改めて」

 

 リアさんの鑑賞を続けよう。

 リアさんはどうやら店長を待っているのか、こちらに背を向けつつ壁に片手をつきフリフリしている。

 腰をフリフリしている。

 私を誘惑している……わけが無いので、おそらくこれは彼女の癖なんだろう。

 

 実に素晴らしい癖だ。

 腰が揺れている、太ももが揺れている、スカートの中に見える魅惑の曲線も、テンポ良く左右に揺れている。

 ずっとこれを見ていたい欲求にかられる。

 というか、彼女がそれを辞めるまでずっと見ている所存である。

 店長はなかなかこちらに来ないが、既に料理の準備でも始めているのか。

 いいぞ、このまましばらく来ないで頂きたい。

 

「………ねぇ」

 

 不意にリアさんがこちらを振り向いた。

 

「なんだかさっきから、あたしの方をジロジロ見る変な視線を感じるんだけど。

 すっげぇ気持ち悪い感じの」

 

 !!?

 一瞬、心臓の鼓動がドクンっと跳ね上がる。

 いや、ばれない、ばれるはずが無い。

 私は極めて平静を装い、怪訝な顔をこちらに向けるリアさんに返事をした。

 

「そうなのですか?

 周りに変な人影は無いようですが」

 

「あんたがあたしを見ていたわけじゃないのね?」

 

 こんな返答で疑念が晴れるわけもなく、重ねて問われる。

 だが私の方も、先程のことがリアさんにばれるのは非常にまずいので、それを断固否定する。

 

「勿論、私なわけがないじゃないですか」

 

「……そう?

 気のせいだったかな…」

 

 疑いは薄れてきたようだ。

 まあ、元々何か根拠があるわけでも無いのだから、しっかりと否定すればこうなるのは自明である。

 完全に嫌疑を無くすべく、私はさらに畳みかけた。

 

「変な疑いは心外です。

 私はリアさんの魅惑的な太ももをずっと眺めていただけなのですから」

 

「………」

 

 沈黙。

 

「………」

 

「………」

 

 さらに沈黙。

 

「………」

 

「………ほう?」

 

 ニッコリと、リアさんは笑った。

 

 本来、笑顔とは攻撃的な表情である。

 そんなことを言ったのは誰だったか。

 

 まずい。

 やってしまった。

 冷静になっていたつもりだったが、動揺を抑えきれなかった模様。

 私は、彼女の地雷を思い切り踏み抜いた。

 

「いや、ははは、今のは、ほら、言葉の綾ってやつですよ?」

 

「ふーん? へー?」

 

 取り繕う私の言葉に、全く私のことを信じていない返答。

 

 ……私は、昔からいつもこうなんだ。

 想定外のことが起こるとちゃんと対応できなくなる。

 これで仕事を失敗したことも一度や二度では無い。

 

「はっはっは、クロダってば面白い奴だなー」

 

「いえいえ、私など何の取り柄も無い、つまらない男ですよ」

 

「そんなことは聞いてない」

 

 愛想笑いをする私に、すげない一言。

 顔は笑いながら、目は一片も笑っていない。

 

 ここまで彼女が怒りを露わにするのには理由がある。

 このお店の制服は、先程言ったようにとても女性の魅力を引き立てる代物だ。

 当然、それを目当てにやってくる客も多い。

 そしてそんな客の中には、見るだけでは飽き足らず実際に手を出すものもおり、リアさんを含めウェイトレスの皆さんはほとほと困っていたらしい。

 

 困って、困って、そして爆発した。

 ある日、リアさんにセクハラをしたどこぞのおっさん(記憶が確かならば、尻を鷲掴みにした)に対し、リアさんは「制裁」を決行したのだ。

 制裁とは即ち鉄拳制裁である。

 その日、店は赤く染まった。

 

 それからである。

 リアさんは、セクハラに対して、我慢するのを辞めた。

 セクハラには、制裁あるのみ。

 何らかの才能があったのか、制裁時の彼女はすさまじく強さを発揮し、屈強な男連中すらボコボコにしてしまう。

 その姿から、「黒焔の鬼」という字まで付けられた。

 嘘か本当か、制裁を受けた者の中には高ランクの冒険者もいたとか。

 

 何故そんな危険人物にあんなセクハラ行為を働いたのか、疑問に思われるかもしれない。

 それに対する私の答えはただ一つ―――そこに女体があるからだ。

 

 すみません、ちょっとした好奇心だったんです、魔法ならばれないだろうとか思ってたんです。

 それに、今回私がしたのはリアさんをジロジロ見た程度ですよ?

 触ったりとか全然していないし、それ位なら、許されるかなって思っちゃうじゃないですか。

 

 そんな私の心境を余所に、リアさんはこちらへ向かってくる。

 拳を握りしめ、一歩一歩近づいてくるリアさんの姿には威圧感すら―――

 

「!?」

 

 いやちょっと待った待った。

 本気で皮膚がピリピリする程プレッシャー感じたんですけど!

 その場から後ずさりしちゃう位の圧力受けてるんですけど!

 これは、高ランク冒険者が倒されたというのも本当の話やも…

 

「思ってもなかなかあたしにそんなこと言える人はいないよ?」

 

 身体は強張って動けないが、リアさんの声は妙に鮮明に聞こえる。

 もう脂汗がダラダラである。

 

 気づけば、彼女の周囲の風景が揺らいでいる。

 私の<屈折視>によるものでは無い。

 彼女の放つ気とかオーラとかプラーナとかそういう力が周りの空間を歪ませているのだろう。

 この世界に気というものが存在するのか私は知らないし、自分でも何を言ってるのか分からない。

 

「あたし相手にそーゆーことするの、この店では禁止なんだよねー?

 知ってた? 常連のアンタが知らないわけないか。

 まあどっちでももう構わないんだけど」

 

 はい、終わった。

 私、終わったよ。

 

 ゆっくりと拳を振り上げる彼女を見て、私は目を閉じた。

 まあいくらなんでも本当に殺されはしないだろうけれど――しないですよね?――骨の1、2本程度で済むといいな、と願いながら。

 

 ―――しかし、運命は私を見捨ててはいなかった。

 

「お前ら、何やってんだ?」

 

 店長の登場である。

 

 

 

 第一話②へ続く



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② 黒の焔亭

 

 

「だっははは、いや災難だったなぁ、クロダ!」

 

 笑いながら私の肩を叩いてくる、スキンヘッドな壮年の男。

 この店の店長であり、名前はゲルマン・デュナンさん。

 リアさんはというと、店長の登場で毒気を抜かれたのか、私への制裁を諦めてくれた。

 今は私達から少し離れたところで深呼吸し、心を落ち着かせている模様。

 

「ふしゅーーーー、ふしゅーーーー」

 

 物騒な息遣いが、ここにまで届いてくる。

 息と一緒に煙まで吐いているように見えるのは、私の目の錯覚だと信じたい。

 ……彼女は一体何者なのだろうか?

 

「まあ、何事も無く何よりでした」

 

 心の底からそう思う。

 今日一日の疲れを癒すために訪れたというのに、今日一日で一番疲労してしまった。

 店長から出された食事を丹念に味わうことで、せめてこの疲労に報いたいと思う。

 

「悪いなぁ、今日はちぃっとばかし性質の悪い男共が来てよぉ。

 リアの奴、かなりピリピリしてたんだわ」

 

 納得すると同時に、一つ不思議に思ったことがある。

 店内を一通り眺めてから一言。

 

「それにしては、店に破壊箇所がありませんね」

 

「ちょっ―――何言ってんのクロダ!」

 

 疑問をそのまま口にした。

 向こうでリアさんが不満そうな声を漏らしたが、しかし不思議なものは不思議なのだ。

 彼女の制裁は、店の壁やら扉やら机やらも犠牲にしてしまうのが、今までの常だったのだから。

 

「毎回毎回制裁の度に店壊されちゃたまんねぇからなぁ。

 リアが爆発する前に、俺が連中をつまみ出したわけよ」

 

 成程。

 それで爆発できずに火種は燻り、先ほどの大爆発一歩手前に繋がったと。

 

 なお、このゲルマンさん、筋骨隆々の大男であり(ボーさんに比べれば小さいが)、昔は傭兵をやっていたというお方。

 その気になれば困った客の一人や二人、軽く吹っ飛ばせる人なのである。

 

「リアよぉ、もうちっと沸点高くできないもんかねぇ?

 危うく貴重な常連がいなくなっちまうところだったぜ?」

 

 食事に忙しい私から、リアさんへの話相手を変える店長。

 

「やらなかったんだからいいじゃない」

 

 呼吸を整え終わったリアさんが応じる。

 

「それに、クロダなら大丈夫でしょ。

 一応冒険者なんだし」

 

「冒険者ったってお前、ちょっと前にブッ飛ばしてたじゃねぇか、その冒険者を」

 

「あいつはランクDの冒険者だったじゃない。

 クロダはもっと上よね?

 私がこの町に来るより前から冒険者やってたみたいだし」

 

 私に向かって質問をするリアさん。

 

 どうやら、高ランク冒険者を倒したという噂は、流石に尾ひれが付いたものだったようだ。

 いや、ランクDであっても一般人ではそうそう手は出せないはずなんだけれども。

 

 その質問に答えるより先に、店長が口を挟んだ。

 

「いや、こいつランクE冒険者だぜ」

 

「へ?」

 

 ボーさんと同じような、素っ頓狂な声を出すリアさん。

 

「Eって、嘘でしょ?

 長く冒険者やっててランクが一個も上がらないなんて話、あたし聞いたことも…」

 

「俺もクロダ以外には知らねぇなぁ」

 

「別にあたしは詳しくないけどさ、Dまでなら放っといても上がるもんなんじゃないの?」

 

「だなぁ、ちぃっと次元迷宮を探索すりゃあ、ランクDにはすぐ上がるはずだ」

 

「だったらどうして…?」

 

 ここで店長が一度会話を区切り、私の肩に手をのせてから、深くため息を吐く。

 

「こいつ、ひよっこ冒険者が使う、次元迷宮の白色区域――初心者用区域っつった方が分かりやすいか?――そこ以外行ったことねぇんだと」

 

「うっそぉ!?」

 

 再び素っ頓狂な声をあげるリアさん。

 

 今店長の言う白色区域とは、初心者用区域の正式名称。

 次元迷宮の内部は、そこの危険度に応じて白色・緑色・黄色・赤色に区分けされた名前が付けられている。

 勿論、本当に白色や緑色のダンジョンが広がっているわけではなく、単に冒険者ギルドがそう名付けているだけなのだが。

 そして一番安全な白色区域は、分かりやすさから(加えて、そこしか探索できない冒険者へのからかいの意味も込めて)初心者用区域と呼ばれることが多い。

 

 

 心の中でそのような解説をしている私に向き直って、リアさんが問いかけてくる。

 

「マジで?」

 

「はい、その通りです。

 私は初心者用区域にしか潜ったことがありません」

 

「マジで……」

 

 リアさんは、愕然とした表情を浮かべた。

 

「あんた、何で冒険者やってんの…?

 そんなんだったら、普通に生活しててもいいんじゃない?」

 

 疲れたような声で質問を重ねてくる。

 

「私が冒険者をしている理由ですか。

 一つは、私が<来訪者(ストレンジャー)>であるということ」

 

「うん、トーキョーってとこから来たんだよね」

 

 このウィンガストには、私以外にも現代世界から来た者がおり、それはこの町の住民にも認知されている。

 そんな異世界から来た者達を、<来訪者>と呼ぶのがこの町の習わしだ。

 そして、その来訪者達は、理由は分からないが、冒険者としての適性が高い傾向にある。

 私もその例外では無く、この世界の住人に比べて高い適性を持っていた。

 それ故に、この世界において基本的に根無し草である訪問者達は、生きる糧を得るためにほぼ全員が冒険者となっている。

 

 そして。

 

「もう一つは……意外と儲かるんですよ、冒険者って」

 

「ランクEで初心者用区域しか潜ってないのに?」

 

「ランクEで初心者用区域しか潜っていないのに、です。

 例えば今私が持っているミスリルクロークというこの防具。

 これを買うのに私は3か月かかりましたが、一般的な職で同じ金額を稼ごうとするなら、果たして何年、いや、何十年かかることか…」

 

 そう告げるとリアさんの顔色が変わった。

 

「そ、そんなに儲かるならあたしもやってみようかな…」

 

「おいおい、変なことをうちのウェイトレスに吹き込むな」

 

 店長が割って入ってきた。

 

「リア、真に受けんなよ、冒険者はそんな美味しい職業じゃあねぇぞ」

 

「だって、ランクEでミスリルクリーク買えるって…」

 

「無理だ。買えねぇよそんなの」

 

 リアさんの言葉を、ズバっと切って捨てる店長。

 

「でもクロダは……」

 

「こいつは、ちっとばっかし特殊なんだよ。

 誰でも彼でも真似できるわけじゃねぇ」

 

「……特殊って何?

 実は超強いの?

 ランクEだけどランクAだとかそんなん?」

 

 何を言っているのだこの人は。

 

「そんなことはありえません。

 私など、ただ誠実に生きることだけを心掛けている、つまらぬ男です」

 

「クロダお前ちょっと喋るな。

 話がこんがらがる」

 

 少し怒ったような口調で、店長。

 

「いいか、ちょっと考えてみろ。

 毎日毎日、同じ場所をぐるぐる回って、大して変わり映えの無い魔物をちまちまちまちま延々と倒し続けるんだぞ。

 普通の奴なら頭おかしくなっちまうわ」

 

 店長が解説するが、その話には少々反論したい。

 

「慣れれば結構楽ですよ?」

 

「だっからお前は喋んなっつったろぉ!?」

 

 話の腰を折られて、先程よりさらに強い口調で私を叱る店長。

 いやでも実際、同じことを延々と繰り返すなんて、凄い簡単な作業だと思うのだが。

 変にあれこれ考える必要もないし、想定外の事態もまず起きないし。

 

「ほらほら、クロダはこう言ってる!」

 

「だから真に受けるなっつってんだろが!!」

 

 私の言葉を受けて勢いを増したリアさんに、とうとう店長が怒鳴る。

 

「あーもう面倒くせぇ!

 そんなに金が欲しいってんなら、バイト代上げてやるよ!」

 

「え、マジで?」

 

 思わぬ言葉に、リアさんの目が輝いた。

 

「応ともよぉ! 但し!!」

 

 店長はリアさんのスカートをがばっと捲る。

 ……て、え?

 

「もうちっと女のサービスってのができるようになれば、だがな!

 まったく、なんだぁこのパンツは。

 こんな幼稚な白パンツなんざぁ履きやがって……男共が知ったらガッカリするぞぉ?」

 

 飾り気の無い白い下着だからこそ興奮するという男もいるんですよ、店長。

 ……いやいやだからそうじゃなくて。

 

「…………」

 

 リアさんは、余りの展開に硬直している。

 それを知ってか知らずか、店長は続けた。

 

「お前はよぉ、身体はいいもん持ってんだから、あとは男心ってもんを学んでだなぁ」

 

 いいながら、リアさんの形の良いお尻を揉みだす店長。

 おいおい、やばい、やばいよ……

 

「………お」

 

「お?」

 

 不意に漏らしたリアさんの一言に、聞き返す店長。

 

「往生せいやぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

「うぼっぁあぁげはぁあああああああああ!?!?!?!!?」

 

 鬼、再臨。

 ノーモーションで繰り出された、大気を切り裂くようなリアさんの正拳中段突き。

 無防備にそれを受けた店長は、そのまま吹き飛び、壁に激突する。

 ずしん、と店が震えた。

 

 ……今、100kgを超える店長の身体が、キャリーで10m近く飛んだんですが。

 生きてるのか、店長。

 

「ふーっ、ふーっ」

 

 聞こえるのはリアさんの荒い息。

 私はと言えば、ただ自分が次の標的とならないことを祈るのみだったわけで……

 

 

 

 

 ――幸い、店長の命に別条は無く、私が標的にされることも無かった。

 

「戸締り完了!

 さってと、帰りますか」

 

「店長が倒れたままですが」

 

 帰り支度を終えたリアさんが、店の奥から私に声をかけてきた。

 私も食事は済んでいるので、お互いもうお店に用は無いのだが……店長は未だに昏倒している。

 ついでに言うと、掃除こそはしたものの、店長がぶつかった壁は壊れたままである。

 

「それに関して何かしらの責任があたしにあるとでも言うの?」

 

「あるわけがありませんね、帰りましょう」

 

「よろしい」

 

 これ以上彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。

 店長を心配していないわけではないが、下手を打てば床に転がる男が二人になってしまう。

 せめて風邪が引くことは無いように、店長の体に毛布をかける。

 

「おっまたせー♪

 なんだかんだで後片付け手伝わせちゃって悪いね」

 

「お気遣いなく。

 そのようなことは気にして……!?」

 

 台詞の途中で、私は息を飲んだ。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、あの……リアさん、その服装は…?」

 

「服? 

 ああ、そりゃ制服なんて着て帰るわけないでしょ?」

 

 そう言って、自分の服装を確認させるようにくるりと回るリアさん。

 

「ふふーん、残念だったねー?

 クロダのだーい好きな太ももも見・え・な・く・て」

 

「あー、はい……はは、残念です」

 

 意地悪に笑うリアさんに、一応形だけは残念がっている風を装う私。

 

 しかし、心の中ではガッツポーズを決めていた。

 

「じゃ、帰りましょ?

 近くまで送ってくれるのよね?」

 

「ええ。流石にこの時間帯で女性に一人歩きさせるわけにはいきませんからね」

 

「ありがと♪」

 

 そう言うと、リアさんは店の出口に向かって歩き出す。

 私もそれを追いながら……再び、彼女の姿をじっと凝視する。

 

 今のリアさんの格好は、大雑把に言えばTシャツとスパッツで、そこにカーディガンを羽織っている。

 どれも意匠は地味で、動きやすくはあるだろうが実に飾り気の無い装いである。

 

 だが、Tシャツはサイズが少し小さめなのか、お腹辺りが隠れていない。

 要するにへそ出しルック。

 他の部分と同様、やはり無駄な贅肉の無いお腹を、存分に見せつけてくれる。

 さらには、これもサイズの問題か、Tシャツはリアさんの胸にぐぐいっと密着している。

 つまり、酒場の制服同様、おっぱいの形が分かってしまうわけだ。

 制服より生地が薄く、着こんでる服の数も少ないせいか、今の方がより鮮明に形を映し出す。

 その魅惑のお山は、リアさんが歩くたびにぷるぷると揺れている。

 カーディガンは前を開けているので、それらは何に遮られることも無く、見放題である。

 

「……ふむふむ」

 

 これは、堪らない。

 ただ、これだけ胸がくっきり分かる状態でも乳首の突起は見られないことから、ブラは付けているものと思われる。

 ……まあ、当たり前か。

 

 ずっと揺れる胸を見ていたいが――その欲求を振り切り、今度は視線を下半身に向ける。

 

 スパッツの色は定番の黒。

 長めの丈で、膝下位までを覆っている。

 先程のリアさんの言葉通り、太ももは露出していない。

 していない、のだが。

 このスパッツ、かなり伸縮性の良い生地でできているようで、リアさんの下半身にピッチリとフィットしている。

 確かに肌はほとんど見えないものの、脚のラインからお尻の曲線まで、全てくっきり分かってしまう。

 小時間前に店長が見せてくれた(それ以前にも覗いていたけれど)ぷりっぷりのお尻が、何の労も無く堪能できる。

 

「………楽ができるに越したことはないか」

 

「何が?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 ついつい溢してしまった言葉にリアさんが反応するが、咄嗟に誤魔化す。

 今度こそ失敗は許されない。

 彼女に怪しまれないよう、細心の注意を払う。

 

 重ね重ね言うが、このスパッツはこれ以上ない程リアさんの身体に密着している。

 となると当然、あるモノも見えてくる。

 そう、パンツラインだ。

 ピチピチのスパッツは、彼女の履く下着の形状さえ明らかにしているのである。

 

 制服姿の時に散々堪能したパンツも、こうしてスパッツ越しにそれを見るとまた趣が変わってくる。

 それに、制服の時はスカートの下から覗く形でしか見えなかったわけだが、今はどのアングルからでも見放題だ。

 さらにさらに、<屈折視><感覚強化><闇視>を全開で活用し、彼女の股間をよくよく見れば、うっすらと筋も確認できる。

 流石に下着をつけているためそれ程くっきり分かるわけではないが、それでも確実にそれはそこに存在した。

 

 最高だね。

 

 リアさんは今の服装を、男が喜ぶ類のものではない、と考えているようだが…

 いやいや、制服の時以上に扇情的な装いだ。

 彼女にそれを指摘する気にはなれないが。

 

「あ、次の道、左だよ」

 

「はい」

 

 彼女の肢体をねっとりと鑑賞している間にも、他愛無い会話のやり取りは続けている。

 不自然さを少しでも出せば、まず間違いなく彼女は気づくだろうから。

 失敗からの反省は、次へ確実に活かす。

 それが私のモットーである。

 

 彼女の家まであと10分程。

 その間、存分に楽しむとしよう。

 

 

 

 

 

 楽しい時間は短いもの。

 あっと言う間にリアさんの家に到着した。

 家と言っても一軒家ではなく、アパートのような集合住宅である。

 ここで彼女は一人暮らししているらしい。

 

「とおちゃ〜く♪

 それじゃまたね、クロダ」

 

「はい。ではまた、黒の焔亭で」

 

 軽く挨拶を交わすと、リアさんはアパートの階段を上がっていった。

 その後ろ姿を―――階段を上がる毎に左右へ揺れるお尻をじっと見つめ、最後まできっちり彼女の肢体を堪能してから、私はアパートを後にした。

 

 ……だが。

 自宅へ帰る途中、問題が発生した。

 そう、私の愚息がギンギンになって治まらないのである。

 実のところリアさんと一緒の時からずっと勃起していたのだが(隠すのには随分と労力を要した)、彼女と別れてなおそれは衰える様子を見せない。

 

「私もまだまだ若い、ということか…」

 

 渋く呟いてみたものの、問題は解決しない。

 自宅に帰って自家発電……が妥当な選択な気がするが、最も寂しい選択でもある。

 ウィンガストには風俗もあるが(こういうお店は万国共通のようだ)、どうにも私はそういう、女性を金で買う、という行為に苦手意識を持っていて、できれば行きたくない。

 別に風俗店もそこに行く人も否定したいわけではないのだ。

 単に私の、本当にちょっとした拘りである。

 となると結局、自家発電に落ち着くか…?

 

 私がこれ程悩んでいるのは、明日が休日だから、ということもある。

 これが仕事(迷宮探索)の日であれば、無理せず家に戻って休養をとるのだが。

 

 なお、別に冒険者という職業に休日が設定されているわけではない。

 私が勝手に週休1日制で動いているだけだ。

 6日働いたら1日休む――現代社会で馴染んだこの生活習慣は、異世界に来ても変えられるものではなかった。

 

 悶々としている私に、救いの手が差し伸べられたのは、その時だ。

 

「あら、クロダさんじゃないですか」

 

「はい?」

 

 唐突に声をかけられる。

 声のした方向へ振り向いた私の目に入ったのは、黒い薄手のドレスを身に纏った妙齢の女性だった。

 

「ローラさん。

 どうしたのですか、こんな時間に」

 

「ええ、セレンソン商会へ材料を買いに行ったんですが、アンナさんと話し込んでしまいまして。

 気づけばこんな時間に…」

 

 そう言って彼女は両手に持った袋を私に見せる。

 中には、マジックアイテムの調合に必要な材料が大量に入っていた。

 

 彼女の名前は、ローラ・リヴェリさん。

 ウィンガストの町で魔法店を営んでいる。

 彼女のお店は、ポーションを始めとした治療アイテムから、特殊な効果を持つアクセサリまで取り揃えており、冒険者ご用達のお店だ。

 かく言う私も駆け出しの頃からローラさんには大変お世話になっている。

 

 この場では余り関係の無い話だが、セレンソン商会も私がよく利用するお店で、アンナさんとはそこの店長だ。

 

「そうだったのですか。

 奇遇ですね、こんなところでお会いするとは」

 

「そうですね。

 クロダさんは迷宮からのお帰りですか?」

 

「いえ、今日は所用があって食事が遅くなってしまいましてね。

 その帰りです」

 

「あら、そうでしたか」

 

 リアさんの制裁を回避できたことといい、今日の私はかなり幸運に恵まれているようだ。

 こんなところで、ローラさんに出会えるとは。

 これを使わない手は無い。

 

「さて、ここで会ったのも何かのご縁。

 店までお送りますよ」

 

「え、そんな、悪いですよ。

 クロダさんも一日お仕事でお疲れでしょう?

 店に寄って頂いては、さらにお帰りが遅くなってしまいます」

 

 同行を渋るローラさん。

 しかし、ウィンガストの治安は決して悪くないが、女性の一人歩きに心配が無い程ではない。

 それにローラさんの持つ荷物も、その量を見るに女手では持ち歩きに苦労しそうだ。

 

「こんな夜遅くに女性を一人歩きさせてしまう方が余程気疲れしてしまいますよ。

 荷物だって軽くは無いでしょう?」

 

「いえ、でも……」

 

 私は彼女へさらに畳みかける。

 

「私に気がひけるようでしたら、ローラさんのお店で少し買い物をさせて頂けませんか?

 本当は今日、そちらで備品を買う予定だったのですが、先程言った通り遅くなってしまって寄れなかったのですよ。

 それを私への報酬として頂ければ」

 

「そ、そうなんですか?

 ……じゃあ、お願いしてもいいでしょうか?」

 

 折れてくれた。

 少し嬉しそうな表情が見え隠れするところを見るに、やはり一人歩きには心配があったようだ。

 

「では、荷物をお持ちしましょう」

 

「ありがとうございます……あ、半分でいいですよ」

 

「そんなこと仰らず。

 女性に荷物を持たせていたなど知られては、いい笑いものです」

 

 私は少し強引にローラさんの手から荷物を受け取る。

 

「………!」

 

 持った途端、両腕にずっしりとかかる重量感。

 ローラさんの荷物は予想以上に重かった。

 

「あ、やっぱり重いですよね!?」

 

「ははは、何を仰いますか、急に重いものを持って驚いただけで、何も問題ありません」

 

 努めて困憊を表情に出さないようにする。

 隠しきれていないかもしれないが。

 いやまさかこれ程の重さだったとは。

 私の申し出を受けたのも、荷物が重かったからという理由が大きかったのかもしれない。

 

「そ、それでは早速お店に向かいましょう。

 可及的速やかに。

 さぁ。さぁ。急いで。レッツゴー」

 

「え、あ、はい」

 

 若干戸惑うローラさんを急き立て、私達はお店へと歩を進めた。

 

 

 

 第一話③へ続く



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③ ローラさんの魔法店※

 

 お店に着いた時には両腕の感覚が無くなっていた。

 

「あの、大丈夫ですか?

 先程から息が大分荒いですけれど…」

 

「ハァ……ハァ……お気遣いなく……ハァ…

 こ、この荷物は……ハァ……どちらへ置けば…?……ハァ…」

 

 私は<魔法使い>なので、確かに他の冒険者に比べて腕力は無いのだが。

 それでも女性が運んでいた荷物を持ってこれ程息が上がるとは……情けない。

 

「あ、はい、そちらのカウンターへ置いておいてください」

 

「…わ、分かりました」

 

 最後の力を振り絞って荷物をカウンターへ運ぶ。

 

「……ふぅー」

 

 荷物を置いて、息をつく。

 

「すみません、ここまで運んで頂いて。

 そちらのテーブルで少し休んでいて下さい。

 何か飲み物を持ってきましょうか?」

 

「……では、お茶をお願いします」

 

 お気遣いなく、と言いたいところだったが、疲労がそれを許さなかった。

 情けなさと申し訳なさでいっぱいになりながらも、椅子に腰を下ろし、一息入れながら店内を見渡す。

 

 ローラさんの魔法店は個人経営のお店で、余り良い言い方ではないがこじんまりとした店舗だ。

 その小さめな店内には多くの棚が設置されており、様々なポーションやアクセサリ等のマジックアイテムが所狭しと置かれている。

 また、このお店はローラさんの自宅も兼ねており、店の奥の扉がローラさんの私室に繋がる。

 

「………ん?」

 

 私は気づいてしまった。

 ローラさんは今、お茶を沸かしながら、カウンターの向こうで持ってきた荷物をひょいひょいと持ち上げて棚に仕舞っている。

 …今思えば、先程の私は左右のバランスを考えず、不安定な姿勢で荷物を持ってはいなかっただろうか。

 しっかりとした持ち方だったなら、こんなに疲労しなくて済んだのでは?

 

「…私の悪癖だ…」

 

 ちょっとしたことであっても、想定していない事態が起こるとすぐ取り乱し、適切な対処ができなくなる。

 ついさっきやらかしてしまった、リアさんの件でもそう。

 何とか治したいと思ってはいるのだが、どうにも生来の性分のようで、まるで改善の兆しが無い。

 

「…まあ、今後の課題ということで」

 

 とりあえず今はそれを考えるのを止めよう。

 そんなことより、重要なことがある。

 

「…………」

 

 私は、カウンターの向こうでお茶の用意をしている、ローラさんの後ろ姿をじっと見る。

 

 ローラ・リヴェリさん。

 年の頃は私より少し下で、25歳。

 リアさんに比べると背は少し高く、大体160にギリギリ届いていない位かと思われる。

 物腰丁寧で、いつも柔和な表情を浮かべている、ご近所でも評判の美人さんだ。

 髪は鮮やかな黒色で、それを腰にまで伸ばしたストレートロングヘア。

 髪質には艶があり、最早それだけで芸術品といっても良い。

 さらに、彼女が着るシックなデザインのロングスカートドレスは、彼女の淑女としての雰囲気をより補強する。

 また、スカートからチラリと見える彼女の脚は、グレイのタイツに覆われており、それもまた大人の色気を醸し出す。

 

 そんなローラさんを目当てにこの店へ通う冒険者も多いと聞く。

 中にはプロポーズをした者もいるそうだが、彼女はそれを全て断ってきた。

 ……彼女には愛する夫がいたからだ。

 

 夫が『いた』。

 そう、彼女は未亡人である。

 仲睦まじい夫婦だったと聞いているが、私がウィンガストへ来る1年前――今から2年程前に旦那さんは病気でお亡くなりになったらしい。

 

 本人は否定しているが、ローラさんがいつも黒いドレスを着ているのは、喪服の意味も込めているのだと思う。

 2年経った今でも、彼女は亡き夫を愛しているのだろう。

 

「あ、お茶は冷たい方がいいですよね?」

 

「はい、助かります」

 

 ローラさんが呪文を呟くと、彼女の身体が淡く光を帯びた。

 恐らくは物を冷却する魔法を使用し、お茶を冷やしているのだろう。

 魔法店を経営していることから分かるとは思うが、彼女は魔法のスキルが使える。

 <魔法使い>の冒険者が扱うような強力な魔法は無理らしいが。

 

 ローラさんの魅力は、その肢体にもある。

 とにもかくにも、彼女の身体を表現するならば、豊満の一言に尽きる。

 Fカップを超えかねない(目算)その胸は、その巨大さだけで一つの武器。

 そして、胸が大きければ、当然お尻も大きい。

 男が彼女と道ですれ違えば、そのどちらかに――或いは両方に目をやってしまうに違いない。

 それだけ大きければ、垂れ等の形崩れが心配になってくるところだが、彼女の肢体にはそれが無い。

 恐ろしいことに、そして男にとっては理想的なことに、大きさと美しさを両立しているのだ。

 さらには、お腹等のへっこむべきところはしっかりへっこみ、美麗なくびれまでも形成している。

 ドレス越しですら、彼女の豊満な肉体はその存在をしっかりアピールしてくる。

 いや、薄いドレスを纏うことで、さらに淫猥さを増しているとも言える。

 

 そんなことを考えていると、ローラさんがお茶を持ってきてくれた。

 

「はい、どうぞ」

 

「ご厚意痛み入ります」

 

 受け取って、一気に飲む。

 

「ふー」

 

 美味い。

 程よい冷たさで喉越しも良い。

 荷物持ちの疲れが取れていく気すらした。

 

 ……ん?

 

「あのローラさん。

 このお茶、ひょっとして体力回復のポーションが入っていますか?」

 

 疲れが取れた気になったのではなく、実際に疲れが取れている。

 まだ少し残っていた腕の痺れが、みるみる無くなるのを感じる。

 

「分かりました?

 隠し味に少し入れてみたんです」

 

 微笑みながら、ローラさん。

 

「ありがとうございます、大分身体が楽になりました」

 

「いえいえ。今日のお礼です。

 ……あ、お礼と言えば、クロダさんはアイテムを買いたいのでしたね」

 

「おっと、そうでした。では……」

 

 必要な備品とその数量をローラさんに伝える。

 

「分かりました。

 今、持ってきますね」

 

 今回ローラさんに頼んだのは、ポーション各種と護符の類、それから…

 

「鉄製と銀製の矢……えっと、何処だったでしょうか…」

 

「在庫、ありませんか?」

 

「いえ、あるにはあるんです。

 でも余り注文されることが少ない商品ですから…」

 

 ローラさんのお店は、置いている商品の関係から<魔法使い>の客が多い。

 魔法の発動を手助けてしてくれる杖や魔法の効果を上昇させる護符、筋力の低い者でも装備できるローブ系防具等、多様な<魔法使い>向けのアイテムが販売されている。

 冒険者全般が使うポーション等のアイテムも置いてあるが、この辺りのアイテムは別にローラさんのお店でなくても売っているところは多いのだ。

 となれば必然的にお客からの需要も<魔法使い>が使用するアイテムに偏ることになり、それ以外のアイテムを取り扱う頻度は少なくなる。

 私が頼んだ矢など、その最たるものだ。

 

 私は<魔法使い>のくせに矢を主武装としている。

 矢を使う<魔法使い>が居ないわけでも無いのだが、かなり少数派だ。

 矢を武装とする冒険者は<弓兵(アーチャー)>と<盗賊(シーフ)>がほとんどで、矢が欲しければその職業向けのお店へ行くのが普通だ。

 …普通なのだが、私は買い物の度にあちらこちらのお店へ行くのが面倒なため、少々無理を言ってローラさんに矢の発注もしている。

 

「んっ…と、確かこの辺りの箱に……」

 

 そう言いながらローラさんは、腰位の高さにある棚を調べ始めた。

 余程棚の奥に置いてあるのか、彼女は上半身を棚に突っ込んでいる。

 

 すると、どうなるか。

 

「……ほぅ」

 

 思わず声を出してしまう。

 

 彼女は今、前屈みになってお尻を突き出したような姿勢をしている。

 彼女の大きなお尻が、薄いドレスに包まれた美しいお尻が、これでもかという程強調される。

 

「……ふーむ」

 

 何気ない足取りで、私は彼女の真後ろに近寄った。

 

「見つかりませんか?」

 

「ごめんなさい……でもここにあるのは間違いないんです。

 もう少しお時間を頂けますか?」

 

 私の質問に、前かがみな姿勢のまま律儀に答えを返すローラさん。

 

「いえいえ、別段急いでいるわけでもありませんから。

 ゆっくりお探し下さい」

 

 そう言いながら、私は目の前の巨尻を眺める。

 でかい。

 スカートに包まれたそれは、圧倒的な存在感を示している。

 彼女が棚の奥をアレコレ調べるたびに、フリフリと左右に揺れるおまけ付き。

 

 ここまで来れば、中身がどうなっているのか気になるところだ。

 私は早速<屈折視>を―――使わない。

 その代わりに、彼女のスカートをゆっくりと捲りあげる。

 

「……えーと、……んーと」

 

 作業に夢中になっているのか、彼女は気づいた素振りを見せない。

 私は露わになった彼女のお尻を改めて凝視する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 灰色のタイツ越しに見える下着は、黒のショーツ。

 華美な装飾の無いシンプルな下着だが、生地には絹が用いられており、高級な代物であることは一目でわかる。

 直接に至近からよく観察しても、彼女の大きなお尻に形崩れは見られず、美しさを維持していた。

 

「………」

 

 彼女の股間に顔を近づけ、匂いを嗅ぐ。

 一日身に着けていたからだろう、そこからは汗と尿と、そして何より男を引寄せる雌の香が、確かに溢れ出ていた。

 このまま押し倒したくなる気をぐっと抑え、一旦顔を話す。

 

「………では」

 

 そして、両手でローラさんのお尻を触る。

 

「………え?」

 

 何かに気付いたように、ローラさんが声を上げた。

 

 しかし、そんな些末事はお構いなしに、私は彼女の尻を触り続けた。

 タイツの質感と、お尻の柔らかさのコラボレーションが非常に心地よい。

 ただ触っているだけで、無上の喜びを男に与えてくれる。

 良い。実に良い尻である。

 

「……あ、あの、クロダさん…?」

 

「どうしました。

 ああ、矢の入った箱は見つかりましたか?」

 

「い、いえ、それはまだなんですけれど……でも、その……」

 

「おっと、まだでしたか。

 では、そのまま続けて下さい。

 なに、私のことはお気になさらず」

 

 目的の箱はまだ見つけられていないようだ。

 余りお仕事の邪魔をするのも悪いだろう。

 

 しかしそれはそれとして、私はローラさんの柔らかさをより堪能するために、お尻を揉みしだき始めた。

 

「やっ! ちょっ……クロダ、さん…!」

 

 ローラさんからの抗議が聞こえる。

 ただ、彼女はその姿勢を変えなかった。

 ならば、私が手を止める必要はないだろう。

 

 強く揉むことで、お尻の柔らかさと弾力をより楽しめるようになった。

 お尻の形がぐにぐにと、私の望むように変わる様も心地良く、男の征服感を刺激する。

 そのまましばし、この感触を味わうことにした。

 

「……も、もう……いい加減、にっ……んっ……しないと……

 お、怒り…ますよ……あっ…」

 

 なおも抗議らしきものを口にするローラさんだが、声に艶が混じってきた。

 そして、姿勢は相変わらず前かがみで、私にお尻を突き出したまま。

 

 だが、確かにもうそろそろいいだろう。

 私は彼女のお尻から手を放す。

 

「……はぁぁ……」

 

 彼女は軽く――安堵したようにも、残念なようにも感じられる――息を吐いた。

 

 それを確認した後に、私は手を彼女の脚の付け根に潜り込ませ、中指でクリトリスの辺りを擦る。

 

「……はぁあっ!?…んんっ…!」

 

 途端に、彼女が嬌声を上げた。

 

「…あっ……く、クロダさん…んっ…そ、こは……あんっ……」

 

「どうしました?

 そこ、とはどこのことですか?」

 

 下着の上から陰核を擦り続けながら、ローラさんの質問に聞き返す。

 

「……そ、こは……はぁんっ……だめ、ぇ……んぅぅ……」

 

「駄目?

 一体、何が駄目なんでしょう?」

 

 彼女の答えは要領を得ない。

 

 そして私は空いている方の手で、ショーツが食い込んでいる彼女の割れ目をなぞる。

 

「はぁあん…!」

 

 甘い声を響かせるローラさん。

 今までの行為で十分に昂っていたようで、下着とタイツを介してなお、彼女の膣が濡れているのが分かった。

 そのまま、彼女の性器に刺激を与え続ける。

 

「あぁ……ん、はぁああ……」

 

 もうローラさんから抗議は無かった。

 彼女は足を小刻みに震わせながら、私の責めに身を委ねている。

 

「ああぁ、あんっ…ああんっ…はぁああぁ…!」

 

 私の手が彼女の股間を往復する度に、喘ぎ声がどんどん強くなっていく。

 性器から溢れた愛液は、私の指を濡らす程になった。

 気を良くした私は、さらに激しく彼女を責めたてる。

 

「ああぁぁああんぅ!…あんっあっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ!」

 

 くちゃくちゃと音を立てて、私の指が彼女を弄る。

 彼女の脚は快感でがくがくと揺れ、今にも倒れこみそうだが――手で棚にしがみ付き、必死で姿勢を維持しようとしている。

 

「……そろそろか」

 

 私は一旦擦るのを止める。

 最初こそ当てずっぽうでクリトリスの場所を探っていたが、今や彼女の陰核は膨れ上がっている。

 下着の上から触っても、その場所はしっかりと把握できた。

 そのクリトリスを、私は思い切り抓る。

 

「……っ!?」

 

 彼女の動きが一瞬止まった。

 その直後。

 

「あああぁぁぁぁああああああああああ!!?」

 

 一際甲高い声が上がる。

 不安定に揺れていた脚をピンと伸ばし、太ももで私の手をぎゅうぎゅうと挟みながら、彼女は絶頂した。

 

「っっっっ!!……っっっっ!!」

 

 声も無くしばし痙攣した後、ふっとローラさんの身体から力が抜ける。

 

「おっと?」

 

 私は慌てて支えようとしたが、元々上半身を棚に乗せていたため、床に倒れるようなことは無かった。

 

「はーっ…はーっ…はーっ…はーっ…」

 

 荒く息をつくローラさん。

 私と話ができるほどの余裕は無いようだ。

 

「……さて、と」

 

 ローラさんの方はひと段落ついた。

 ただ、私の方はまだまだである。

 むしろ始まってすらいない。

 

 ベルトを外してズボンのチャックを開け、愚息を取り出す。

 リアさんへの覗き行為からこちら、私の興奮は高まり続け、イチモツは自分でも驚く程ギンギンに勃起していた。

 

「では失礼して」

 

 私はローラさんのタイツを破り、ショーツを無理やり降ろした。

 直接彼女の性器が現れるやいなや、蒸れて濃くなった雌の香が私の鼻を刺激する。

 

「…クロダさん、何を……」

 

 私の行為に反応するローラさん。

 とはいえ、今更何をもクソもあったものではない。

 

「これから何をされるのか…ですか?

 もう、貴方自身十分想像できているでしょう。

 今度は、私も楽しませてもらいます」

 

 私は少しの間、露わになった彼女の性器を凝視する。

 今までの責めにより彼女の股間はびちょびちょに濡れているのが、見るだけで分かった。

 濡れそぼった彼女の性器は、男の侵入を今か今かと待ちわびているようですらある。

 

「ま、待ってください…私、今、イッたばかりで…」

 

 ローラさんが何やら言ってくるが、こんな状況で我慢などできるわけがない。

 

 私は彼女の膣へ――鮮やかなピンク色をした花弁の中心へ、自らの男性器を一気に挿入した。

 

「んひあぁあああああ!?」

 

 再び、ローラさんは喘ぎ声を上げる。

 

 彼女の膣は程よい柔らかさで私の性器を迎え入れた。

 そして周囲のヒダが適度に私を締め付ける。

 ようやく訪れた自身への快楽に、私の男性器はさらに硬さを増した。

 

「相も変わらず、いい身体だ」

 

 思わず声に出してしまう。

 さらに快感を貪るため、ピストン運動を始める。

 

「ああっ!…あっ!…あひっ!…い、イッたばかりだから…あっ!…お願い、優しくして…あんっ!…下さい…あぁんっ!」

 

 私の動きに合わせてローラさんの嬌声が響く。

 そして声が響くたびに、彼女の膣は私の男根を締めてくる。

 

 私はさらに激しく、腰をローラさんに叩きつけた。

 

「あぁああっ!…あぁあ!…は、激しっ…んぁああ!…ああぁぁあああ!」

 

「いいですよ、よく締まってきます」

 

 激しく扱えば扱う程、彼女の身体は私へ快感を提供してくれた。

 

 私は彼女の尻をパァンと叩く。

 

「んひぃぃいいい!?」

 

 痛みを感じたのか、快感を感じたのか分からないが、それに合わせて今まで以上の叫び声を上げるローラさん。

 私への締め付けも叩いた瞬間さらに強くなった。

 

 味を占めたので、さらに2,3度引っ叩いた。

 

「あひぃっ!?…あぁっ!?…んぁああっ!?」

 

 叩くたびに叫びが艶を帯びてくる。

 どうやら、感じてくれているようだ。

 ぎゅっ、ぎゅっ、と締め付けてくる刺激も堪らない。

 

 ピストンを早める。

 

「ああぁっ!…ああんっ!…ああぁっ!…ああぁっ!」

 

「気持ちいいですよ。

 ローラさんももっと感じて下さい」

 

 ローラさんの腰をさらに強く掴み、ガンガンと突き立てる。

 

「あんっ!…あんっ!…すご、いぃっ!…んああっ!…あぁんっ!」

 

 自分もかなり高まってきた。

 そろそろ一度目の射精を…とも考えたが、その前に一つ思いついたことがある。

 

 私は一旦、腰を止めた。

 

「はぁぁ…ん…………?

 クロダさん…?」

 

 何故止めたのか。

 そう言いたげな彼女に、私は告げる。

 

「少し疲れましたので、ローラさんの方で動いて下さい」

 

「……え…?」

 

 茫然とした声で聞き返してくる彼女。

 しかし、逡巡は僅かだった。

 

「……はぁあ……んぅ、こう…です、か……あぁあ……」

 

 先程の私の動きに比べればゆっくりだが、彼女の腰が前後に動き始める。

 

 勿論、流石にこの程度で疲れる程、私は貧弱ではない。

 女性側が快楽の貪るよう動く様を眺めてみたいと思ったから、提案したまでである。

 

「…ああぁあん…はぁあっ、ああぁああ…あぁぁああ…」

 

 次第にローラさんは、前後だけでなく、上下左右にも尻を艶めかしく動かしてきた。

 少しでも私の性器を味わいたがるその姿は、思った通り良い趣向であった。

 

「…はぁあん…んぁああ…あ、あぁぁあん」

 

 少しでも多くの快感を貪ろうと、ローラさんは尻を振り続ける。

 ……そろそろいいか。

 

「良くできました。

 ご褒美です」

 

 私は再びピストン運動を始めた。

 

「ああぁっ!…はぁあっ!…こ、これぇえ…!…これぇ、いいぃい!」

 

 悦びの声を上げるローラさん。

 

「あっ!…はぁっ!…んぁっ!…あんっ!」

 

 私の腰の動きに合わせて、彼女も自分の尻を私にぶつけてくる。

 先程よりさらに大きな快感が私に流れ込む。

 

「あっ!…あっ!…あっ!…あっ!!」

 

 ローラさんの動きはより激しくなる。

 私も負けじと、腰を強くローラさんへぶつけていく。

 

「あぁっ!…んっ!…い、イくっ!…あっ!…イきますっ!…あぁあっ!」

 

「いいですよ。

 存分にイって下さい」

 

 私の方も、そろそろ射精が我慢できなくなってきた。

 共に絶頂への階段を上がっていく。

 

「………ん?」

 

 そんなところで、私はあることに気付く。

 そういえば、ずっと目の前にあったにも関わらず、まだそこを責めていなかった。

 

「はぁんっ!…んんんぁあっ!…ああっ!…ああっ!!」

 

 ローラさんの嬌声を聞きながら、私は人差し指を口にくわえ、唾液で十分に濡らす。

 早くしないと、このまま彼女は絶頂してしまいそうだ。

 

 私は濡れた人差し指を彼女の尻穴へ、ぐいっと全部挿し込んだ。

 

「んぃいいいいいっ!?」

 

 別種の刺激から、それまでとは異なる声を出すローラさん。

 

「んぉおっ!? 何か入っ、てっ!? い、イく!? イくぅぅぅぅううううううう!!?」

 

 膣からの快感と、尻穴からの刺激とが相まって、一気に果てるローラさん。

 同時に膣がぎゅうぎゅうと私の性器を締め付ける。

 

「私もイきますよ、ローラさん!」

 

 その締め付けに従って、私も絶頂に達した。

 今まで溜まっていた分、びゅるびゅると精液が迸り、それは余すことなく彼女の膣に、子宮に注ぎ込まれていく。

 ついでに、彼女の肛門に挿した指もぐりぐりと中をかき乱すように動かす。

 

「おぉぉおおっ!? 熱いぃっ!? お尻ぃっ!? ぐりぐりってぇっ!? んぁああああああぁあああ!」

 

 自分自身理解していないであろう単語を口走りつつ、ローラさんは絶頂を味わっていた。

 がくがくと全身が痙攣している。

 膣は未だに私のイチモツを締め付け続け、精液を最後の一滴まで搾り取っていく。

 さらに彼女の括約筋によって、尻穴に入っている指もまた、痛い程の強い刺激を受けていた。

 

 そんな絶頂が十数秒続いた後。

 

「はぁあぁあああ……はーっ…ふーっ…はーっ…はーっ…」

 

 1度目の絶頂を迎えた時と同様、ローラさんの全身からは力が抜けていた。

 私は性器を膣から抜き、彼女が倒れこまないように注意しながら、棚から彼女を抱き起こす。

 彼女は棚へ上半身を突っ込んでいたので、棚から引き抜く、という表現の方が近いかもしれない。

 

「んんぅ……クロダ、さん…」

 

 未だ夢見心地といった体の彼女と、目を合わせる。

 今気づいたが、行為中は全くローラさんの顔を見れていなかった。

 体勢的に見ようと思っても無理だったわけなのだけれども。

 

 その潤んだ瞳は美しく、そして淫猥さを感じさせた。

 私は彼女を抱き寄せ、唇にキスをする。

 

「ふぅ、ん……ふぁ……」

 

 彼女の息が私の唇を包む。

 そのまま舌をローラさんの口の中に潜り込ませ、彼女の口内を味わう。

 

「…ん……んん……」

 

 ローラさんもまた、自分の舌を私の舌に絡めてきた。

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、私とローラさんの接吻は続く。

 彼女の幸せそうな顔が私の視界いっぱいに映る。

 

「……ん……ふぅ……?」

 

 数十秒、或いは数分のキスの後、私はローラさんから口を離した。

 彼女の顔をもっと見ていたくもあったが…

 

「……終わり、ですか…?」

 

「そう、ですね」

 

 少し残念そうに言うローラさんに、頷く私。

 そして私は彼女をカウンターの上に押し倒した。

 

「……え?……え、え…?」

 

 何故か、不思議そうな声を出すローラさん。

 彼女がそんな反応をしている間に、上着を脱がしにかかる。

 

「あ、あの、クロダさん、終わったのでは…?」

 

「ええ、終わりましたよ。キスの時間は」

 

 これからはまたセックスの時間だ。

 

「だって、さっきイって…」

 

「まだまだ足りません」

 

 私の股間はまだまだ萎えていない。

 今もなおいきり立ったままなのだ。

 

 そうこう会話している内に、ローラさんの上着を肌蹴させることに成功。

 彼女の大きな胸と、それを包む黒いブラジャーが姿を現した。

 ショーツと同じく、シンプルだが高級さを感じさせる代物だ。

 

「あ、あのですね。

 クロダさん、明日もお仕事でしょう?

 夜も遅いですし、そろそろお休みに…」

 

「明日は休日なんです」

 

 私の返答に、ローラさんは少し言葉が詰まったようだ。

 

 ブラのホックを外し、おっぱいを露わにさせる。

 大きな胸がブラを外したことでタプンと揺れる。

 その先端にはピンク色の乳首が鎮座している。

 

「あー、でも、私は明日お仕事ありますので、できれば…」

 

「明日はお客が少ない日でしょう。

 常連ではハーヴィーさんやケリーさん、セドリックさんが来る位ですか。

 その方々も、来店は迷宮探索が終わった帰り――夕方以降ですし。

 ご新規さんが来ることもあるでしょうが、午前中は臨時休業の張り紙を出しておけば問題ありませんよ」

 

「…何でうちの客入りをきっちり把握できているんでしょう?」

 

「お付き合いを始めて長いですからね」

 

 そう言いながら、ローラさんの胸を鷲掴みにする。

 

「ひゃんっ」

 

 ローラさんの可愛らしい声を聞きながら、おっぱいをこねくり回す。

 

 柔かい。

 物凄く柔らかい感触。

 さっきまでは尻を撫で尽していたが、柔らかさの観点ならおっぱいの勝利である。

 だがローラさんのおっぱいは柔らかいだけではない。

 その柔らかさの中にも張りがあり、揉む度にプルンプルンと動くその様は、見るだけで私を興奮させる。

 

「は、あぁ…で、でも…んん…急にお休みするのは…」

 

 そんなことを言いつつも、ローラさんの乳首はぷっくりと立っている。

 身体は正直なものだ。

 

 胸を揉んでいた手を乳首に移動させ、そのままその突起を掴む。

 

「はぁんっ」

 

 ローラさんの口から甘い声が漏れる。

 私は、彼女の乳首を手のひらでコロコロと転がしたり、指先でコリコリと引っかいたりと、弄んでいく。

 

「あ、あぁっ……あんっ……そこ触られる、とっ……あぁあんっ…」

 

 快感に堪えかねて、もじもじと全身を動かすローラさん。

 それをしり目に、散々手で弄った彼女の乳首を、今度は口でしゃぶり出す。

 舌で丹念に舐め、乳をねだる様にちゅうちゅうと吸う。

 

「はっ、ん…あ、あ、あ、あ、あっ…やめ、ぇ……はあぁぁ…」

 

 ローラさんの手が、私の頭を抱きしめてきた。

 まるで、私から離れたくないかのように。

 

 私は歯で乳首を挟み、カリっと噛んだ。

 

「んぅぅうっ!?」

 

 ビクっとローラさんの全身が揺れる。

 

 私は乳首から口を離し、恍惚とした彼女の顔を見つめながら、言う。

 

「止めますか?」

 

 ローラさんはふいっと私から顔を背けながら、

 

「……あの…あと、一回だけなら、いいです…」

 

 私の提案を受け入れるのだった。

 

 さて、ここまで来れば、彼女のことが大体お分かり頂けたと思う。

 ローラさんは、自分から誘うことこそ無いものの、いざ男から求められればそれを拒否できない女性なのだ。

 この世界に来てから1年、本当に私は公私共に彼女のお世話になり続けている。

 全く持って彼女には足を向けて眠れない。

 

 私は彼女を抱きかかえ、愛液で濡れ濡れになった彼女の膣に、自らの男性器をぶち込んだ。

 

「ああああぁあんっ!」

 

 ローラさんの嬉しそうな嬌声を聞きながら、私は腰を動かし続けるのであった。

 

 

 

 

 結局この日は。

 

 

 「ああぁっ! イくイくイくイくイくイっちゃうぅぅうううっ!」

 

 

 さらに場所を寝室に変えつつ。

 

 

 「ま、たぁ……イく、のおっ!……イ、くぅううんっ!!」

 

 

 回数をこなしていき。

 

 

 「…もぅ……ああぁっ……ゆる、し、て…くだ……あぁああんっ!」

 

 

 明け方が近づき。

 

 

 「……だ、めぇ……ん、あぁあっ……コワ、れ、ちゃう……お、おぉおおっ!」

 

 

 彼女が動かなくなるまで。

 

 

 「…お、おぉ……はひぃ……お、お……んおおっ!……」

 

 

 私はローラさんの身体を堪能し続けたのだった。

 

 

 第一話 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 というか、次の日の話。

 

「………おはようございます」

 

「おはようございます、ローラさん」

 

 まだ寝不足といった表情で挨拶してくるローラさんに、私も同じ挨拶を返す。

 昨日の疲れがまだ取れていないようだ。

 それでも身なりはしっかり整えてから顔を出すあたり、彼女の几帳面さが分かる。

 

「…すみません、もう夕方…ですね」

 

「大分お疲れのようでしたからね、仕方ありませんよ」

 

 さらに言えば疲れさせた張本人は私である。

 

「それでその…クロダさんは、何故店のカウンターに…?」

 

「いえ、昨日は臨時休業にすれば…等と言ってしまいましたが、確かに急な休業は良いことではありませんからね。

 及ばずながら、お手伝いさせて頂きました」

 

 疲労困憊で動けなくなっていたローラさんに代わり、店番をやらせて頂いた、ということだ。

 もうここに通い詰めて長い。

 店のどこに何があるかは、ほぼ把握できている。

 

 それに、実を言えば今回が初めてというわけでも無い。

 セックスした次の日、ローラさんは決まって動けなくなるので、その度に店番を代らせて貰っている。

 

「またそんなことやって頂いたんですか!

 ごめんなさい、私が起きられなかったばっかりに」

 

「謝るのはこちらの方です。

 店主であるローラさんの許可も得ず、差し出がましい真似をしてしまい…

 ああ、売買の記録はしっかり付けておきましたので、後でご確認下さい」

 

 言って、記録簿をローラさんに渡す。

 無断でこんな真似をしてしまった以上、仕事のミスや不正な拝領等が無かったことを彼女に証明せねばならない。

 ――ちなみに、こういうやり取りも毎度の如く行っている。

 

「ああ、はい…………謝るのは、昨日のことに関してでは無いんですね…」

 

 最後にぼそっと付け加えるローラさん。

 はて、私は昨日ローラさんに何か失礼を働いたのだろうか?

 心当たりは無いのだが、自分では気づかないところで彼女に不快な思いをさせてしまったのかもしれない。

 

「申し訳ありません、どうにも私は気が利かず…

 お気に障ったことがあったのなら、ご指摘頂けませんでしょうか」

 

「ほ、本気で言ってるんですか…?」

 

「…? はい、すみません」

 

「………いえ、いいです、もう」

 

 疲れたような口調で話を終わらせたローラさん。

 疲労はまだまだ色濃いようである。

 

「そうだ、起きてからまだ何も口に入れていないのでしょう?

 軽い軽食を用意しておきましたので、如何ですか」

 

 私はローラさんを連れ、お店のリビングに移動した。

 

 

 

 

「…これ、クロダさんが作ったんですか?」

 

「はい、簡単なものばかりで恐縮ですが…」

 

 置いてあった有り合わせの物で、サンドイッチやベーコンエッグ、サラダ等を作ってみた。

 一人暮らしが長いので、この程度の食事ならどうにか作れる。

 

「今、飲み物を用意しますね」

 

「…何から何までありがとうございます」

 

 飲み物を取りに行くため、台所へ向かう。

 そんな私の背後から、ローラさんが何事か呟いた。

 

「昨日みたいなことをしなければ、素敵な人なのに…」

 

「……?

 何か言いました?」

 

「い、いえ、何でも…」

 

 

 

 

 ローラさんに飲み物を出してから、また店番に戻る。

 

「こんにちは……と、なんだ、今日はクロダ君が店番かい?」

 

「こんにちは、セドリックさん……ローラさんではなくて申し訳ありません」

 

 扉を開いて入ってきたのはセドリック・ジェラードさん。

 ややお年を召した男性で、ローラさんの旦那さんが存命の時からこの店を利用していたという、古株の常連さんだ。

 

「何、今更君らのことについてアレコレ言う程、私は野暮じゃないよ」

 

「……? そうですか」

 

 何かニュアンスの違いを感じるが、セドリックさんは特に気にする様子も無い。

 

「で、いつもの欲しいんだが、あるかな?」

 

「少々お待ち下さい」

 

 お店の棚を探して、セドリックさんがいつも購入しているポーションを数本取り出す。

 このポーション、怪我を治す類のものではなく、滋養強壮用。

 現代世界的に言えば、強力なドリンク剤といったところだ。

 

「こちらでよろしかったでしょうか」

 

「ああ、そうそうこれこれ」

 

 間違っていなかったようだ。

 商品を渡して代金を頂く。

 

「はは、もう慣れたもんだね、君も。

 いつもの、で通じちゃうんだもんな」

 

「セドリックさんのお相手は何度かしましたからね、流石に覚えていますよ」

 

「いやいや、意外と出来ない奴が多いんだよ、世の中」

 

 セドリックさんと世間話に興じていると、パタパタとこちらへ来る足音が聞こえる。

 おそらく、ローラさんだ。

 

「クロダさん、お客さんですか……っあ、セドリックさん」

 

 予想通り、奥からローラさんが顔を出した。

 食事が済んだからか、顔の色が良くなっている。

 

「すみません、今いつものポーションを用意しますね」

 

 慌てて、先程の私と同じように棚を探り出すローラさん。

 私が言うより先に、セドリックさんが制止した。

 

「ああ、結構結構。

 クロダ君にやってもらったよ」

 

「え? クロダさん、場所分かったんですか?」

 

 セドリックさん用のポーションは他のポーションを纏めている場所とは別の所に保管している。

 ローラさんは、私がその場所を把握していないと思ったのだろう。

 

「ははは、ローラさんがやるより手際が良かったんじゃないか?」

 

「セドリックさん、そのようなことは止めて下さい。

 ローラさんが気を悪くしてしまいます」

 

「おっとそうか、失敬失敬。

 奥さんにへそ曲げられると辛いわな」

 

 ………ん?

 何か今、致命的な勘違いを聞いた気がする。

 

「あの、セドリックさん、私とクロダさんはまだそういう関係では…」

 

「おおっと、これはまた失敬。

 まだ、だったんだね」

 

 ローラさんがとっさに訂正するものの、勘違いを続行されている様子のセドリックさん。

 

「じゃ、年寄りはさっさと退散しよう。

 お二人共、お幸せに」

 

 朗らかに微笑みながら――まるで二人の門出を祝福するかのような笑みを浮かべ、セドリックさんは帰って行った。

 残された私達の間に、気まずい空気が流れる。

 

「ど、どうしましょう。

 絶対、絶対セドリックさん誤解していました…」

 

 ……確かに。

 セドリックさんは、私とローラさんが恋人同士か何かなんだと思い込んでしまったようだ。

 こんな勘違いをされては、ローラさんも迷惑だろう。

 

「大丈夫です。

 セドリックさんには私が後できっちり、私とローラさんの間にそういう関係は微塵も無いのだということを説明しておきますから」

 

「………」

 

 おや。

 何だろうか、私が誤解解消を請け負った途端に、空気が冷たくなったような…?

 

「エエ、ソウデスネ。ソウシテクダサイ」

 

 片言の台詞を喋ってくる。

 一体何が彼女をそうさせるのか。

 

「えー……と、そうだ、ローラさん。

 昨日頼んだ矢の方は結局どこにあるのでしょう?」

 

 空気に耐え切れず、咄嗟に話題転換を試みる。

 実際問題としても、昨日は色々あって手に入らなかったので、今日中に矢を仕入れておかねば明日からの仕事に差しさわりがある。

 

「あ、そうでしたね。

 今持ってきます」

 

 そう言うとローラさんは、昨日と同じ棚を昨日と同じ様に探し始める。

 となれば当然、姿勢も昨日と同じになる。

 

 こちらに尻を突き出した、前屈み。

 

「………ふむ」

 

 近寄って、尻をよく観察する。

 昨日も堪能したが、何度見てもいいものだ。

 ロングスカートを履いていても、淫猥さがよく出ている。

 

「………」

 

 私の股間がむくむくと膨れ上がる。

 またローラさんに欲情してしまったらしい。

 

「んーと……確かこの箱で良かったはず」

 

 どうやら目的物が見つかったようだ。

 ならば、我慢する必要も無いだろう。

 

 私はローラさんの尻をがしっと掴む。

 

「ひゃんっ!?

 ちょ、クロダさん…!?」

 

「すみません、また劣情を催してしまいまして」

 

「劣情って……昨日、散々やりましたよね?」

 

「それはそうなんですが、私の股間はもうこんななのですよ」

 

 言いながら、ズボンを下げて性器を取り出し、ローラさんの尻に擦り付ける。

 

「ふあっ!?……何でもうこんなに大きく…?」

 

「ローラさんがいやらしい身体をしているのが悪いのですよ。

 それに…」

 

 ローラさんの尻穴を――服を着ているので、大体の目星だが――親指でぐりぐりと弄る。

 

「んぅっ……そこ、はぁ……」

 

 私の指に、敏感に反応するローラさん。

 

「昨日はこちらの穴を余り使いませんでしたからね。

 今日はこちらをメインにしようかと」

 

「そ、そんな……んっ……まだ、お店が……あっんっ……」

 

「今日はもうお客は来ませんよ。

 そうでしょう?」

 

 まあ、もし来客があったならば、少し中断して対応すればいいだけのこと。

 

 私が親指にぐいっと力を入れると、スカート越しにも関わらず、尻穴へ指が少し押し入る。

 

「んんっ、あぁぁあああ!?」

 

 ローラさんの嬌声を聞きながら、私はにこりと笑った。

 

「さて、今日も存分に楽しみましょう」

 

 

 

 内容を割愛して結果だけ述べると、日が変わる前にはちゃんと帰宅した。

 

 

 

 後日談 完



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第二話 ある社畜冒険者の一日 仕事編
① 仕事風景の紹介


 

 

 唐突だが、今私は<次元迷宮>の中に居る。

 つまり、絶賛お仕事中である。

 

 今回は、いつも私がどのように生計を立てているのかをお話させて貰う。

 私の仕事風景等を説明しても何ら面白くは無いだろうが、一つ堪えて頂きたい。

 本当に申し訳ない。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 さて、まずは私達冒険者が日々潜っている<次元迷宮>について、軽く説明をしたい。

 <次元迷宮>はウィンガストの町の中心部にその入口を開けている迷宮だ。

 内部は無数の階層(フロア)に分かれており、それら階層がゲートによって繋がれている。

 

 ゲートとは、空間の歪みが固定化されたもので――ワープホールだとか、旅の扉だとか言った方がニュアンスは伝わるだろうか。

 つまり、迷宮の階層は『物理的に繋がっておらず』、ゲートを使用した転移(テレポート)によってのみ行き来が可能ということだ。

 <次元迷宮>の名前の由来はここにある。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 階層の内容は多様で、レンガ造りの古い建造物、岩肌が剥き出しの洞窟、水晶で構成された部屋、木の蔓や幹で囲われた空間、等々バラエティに富んでいる。

 ――ちなみに今私がいるのは、下水道のような構造の階層だ。

 

 <次元迷宮>について、その全容を把握している者はおらず、はっきりしていることは2つだけ。

 1つ、<次元迷宮>は7年前に起きた勇者達と魔王の闘いによって生み出された。

 1つ、<次元迷宮>からは無限に魔物が湧き出てくる。

 

 2つ目の問題を解決するために、冒険者は日々<次元迷宮>に潜り、魔物を排除している。

 そして、この2つ以外の情報を得るために、冒険者は<次元迷宮>の探索を続けている。

 

 恥ずかしながら、私は魔物の排除だけしかやっていないのだが。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 ……そろそろ、時折入るこの音が何なのかを解説しよう。

 これは、私が荒く息を吐いている音である。

 何でそんなことをしているかと言えば、まあ、走っているからだ。

 

 魔物から逃げている?

 残念ながら、そして私にとっては幸いなことに、違う。

 正解は、走った方が効率が良いから、だ。

 

 <次元迷宮>の魔物の生息域は、当然迷宮の全域に散らばっている。

 そして<次元迷宮>は、私の行動範囲である白色区域――初心者用区域に限定してもかなり広い。

 さらに初心者用区域の魔物は、倒しても1体毎の実入りが少ない。

 

 そういうわけで、私は日銭を稼ぐため、初心者区域をあちこち移動して少しでも多くの魔物を倒さなければならないのだ。

 当然、移動速度が速ければ速い程、一日で狩れる魔物の数は増える。

 故に私は迷宮内の移動は全て走ることにしているわけだ。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 そうこうしている内に、前方に魔物を発見した。

 全長1m程のネズミ――大ネズミと呼ばれる魔物である。

 幸い相手はまだこちらに気付いていない。

 

 私は走りながら腰に付けた矢筒から矢を取り出すと、<射出(ウエポンシュート)>の魔法で矢を飛ばす。

 狙いは過たず大ネズミの眉間に矢は刺さり、大ネズミは倒れる。

 少しして、倒れた大ネズミの姿は消えていき、その跡には小さな黒い石――<魔晶石>が残る。

 私は体勢を調整し、走りながらその<魔晶石>を拾う。

 

 基本的にはこの<魔晶石>を売ることで、冒険者は生計を立てていると言っていい。

 詳しくは知らないが、<魔晶石>は様々なアイテムの原料の一つなのだとか。

 運が良ければ、<魔晶石>の他にも素材等のアイテムを落とす場合があり、それも冒険者にとって重要な収入源だ。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 また魔物を見つける。

 今度は大コウモリ――その名の通り、大きなコウモリだ。

 それが、2匹。

 

 矢筒から矢を2本取り出し、<射出>。

 矢が命中した大コウモリは、姿を消して<魔晶石>を残す。

 走りながら私はそれを拾う。

 そして次の魔物を探す。

 

 この繰り返しが、私の仕事である。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 無論の事だが、迷宮内を走る等、通常は御法度だ。

 走ることが難しい地形の階層も多いし、罠だって仕掛けられているかもしれない。

 そもそも、目立つ行動は魔物を引寄せ、不意を打たれたり、周りを囲われる危険性もある。

 

 そこで私は次のような方法でそれらに対処している。

 

 まず地形と罠の問題は、長い期間をかけ、初心者区域内を完璧に把握することで解決した。

 今や初心者区域を私の庭――いや、私の部屋と呼んでもいい。

 どこをどう進めば走りやすいのか、全ての階層においてそのルートを割り出している。

 そして、普段の地形を覚えているからこそ、罠が仕掛けられているような不自然な状態は、一目見れば看破できる。

 

 次に、魔物に関する問題は、2つの魔法によって緩和させている。

 

 一つは<闇視>。

 通常、冒険者は松明やランタン、<(ライト)>の魔法などで光源を確保して行動する。

 この光は行く手や魔物を照らし出す手助けとなると同時に、魔物から発見されるリスクでもある。

 私は<闇視>を使うことで光源を必要とせず行動できるため、光を感知する魔物から発見されるリスクが軽減される。

 ――但し、<闇視>は対象一人にしか効果が出ないため、パーティーで行動する冒険者にとって効率の悪い手段であることも付け加えておく。

 

 もう一つは<静寂(サイレント)>。

 対象が出す音をかき消す魔法である。

 これを自身に使うことで、移動する際の音を消し去ることができる。

 これによって、音を感知する魔物から見つけられるリスクを軽減される。

 ――但し、<静寂>は魔法を使用する際の呪文もかき消してしまうため、<静寂>をかけられることは<魔法使い>にとって致命的な状態であることも付け加えておく。

 高い熟練度により魔法の使用に呪文が必要なくなってから、初めて使用できる手段なのである。

 

 …また魔物発見。

 矢を<射出>、魔物倒れる、<魔晶石>拾う、先に進む。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 それと、先程から魔物を倒すのに使用している<射出>についても説明をしておこう。

 <射出>は、矢等の武器を飛ばして敵を攻撃する魔法だ。

 

 通常、<魔法使い>は<火炎(ファイア)>や<冷気(アイス)>等の属性魔法によって攻撃を行う。

 しかしこの属性魔法、魔物によって効果が著しく変わるのだ。

 ある魔物に効果的な属性魔法が、別の魔物には全く効果が無いこと等ざらにある。

 

 一方で、<射出>は武器を飛ばすだけの魔法なので、扱いは物理攻撃となる。

 物理攻撃を無効にする魔物というのは、少なくとも初心者用区域には出没しない。

 

 そこで私は、多彩な属性魔法を習得して魔物に応じて使い分けるより、<射出>だけで戦った方が効率的、と判断した。

 多くの魔法を使うより、一つの魔法に特化した方が熟練度が上がりやすからだ。

 

 ただ、<射出>にも問題点は当然ある。

 属性攻撃ができない、というのもあるのだが、何より矢の出費が痛い。

 私の場合は質より量で魔物を狩っているので、なおさらだ。

 

 そこで―――

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ」

 

 またまた魔物発見、『そこら辺で拾った石』を<射出>、魔物は死ぬ、<魔晶石>拾う、走り去る。

 

 ――と、こんな具合だ。

 

 <射出>は基本的には武器を飛ばす魔法なのだが、慣れれば――つまり熟練度が上がれば、他の物も飛ばせる。

 なので、石等のコストのかからない物体を飛ばして攻撃することも多い。

 というか、いつもは拾った石を矢の代用としている。

 

 先程、矢を使って攻撃したのは、魔物との距離が離れていたから。

 魔法で飛ばすとはいえ、『飛ばしやすい形状の物』の方が射程は長くなるのだ。

 

 「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ……む」

 

 次の階層へ進むゲートへ到着した。

 時間は大凡いつも通り。

 今日の調子も悪くなさそうだ。

 

 走る速度は緩めず、そのままゲートへ突っ込む。

 一瞬視界が暗転した後、地面がごつごつとした岩肌になっている階層に出た。

 予定通り。何の問題も無い。

 

 私は予め設定したルート通りに、岩から岩へと飛び移りながら、この階層を駆け抜けていく。

 あと2つ階層を抜ければ、昼休憩だ。

 

 

 

 

 

 

「…ふぅぅううううう」

 

 私は大きく息を吐いた。

 休憩場所に到着し、身体を休めている最中である。

 

 ここは、岩でできた段が幾つも連なった構造の階層だ。

 岩の段は一つ一つがなかなか大きさで、初心者用区域の中ではトップクラスに広い階層でもある。

 段はそれぞれ高さが異なり、最も上の段と最も下の段では高低差が200m以上にも達する。

 

 岩の段と言っても、平らなものは少なく、傾斜があったり、ごつごつしてたりする。

 また、あちこちに亀裂が走っている段も多い。

 足を滑らせて段から落ちて、又は大きな亀裂にはまって、命を落とす冒険者もいるとか。

 

 ちょうど私が休憩している段には10m程高い段が隣接しているのだが、その段にも人が一人嵌まれそうな程大きな亀裂が入っている。

 

 何故、私がこんな休憩場所として活用しているかと言えば、ここには飲用に使える水があるからだ。

 この階層は、最上段から最下段に向かって水が流れ落ち、川ができている。

 その水は非常に澄んでおり、何の処理も無しに飲みことができるのだ。

 迷宮内で水の補給ができる場所は限られており、水源があると言うだけでこの階層の価値は高い。

 

 加えて、この階層では滅多に魔物が出現しない。

 水源があるのに生き物がいないというのもおかしな話だが、この迷宮や魔物にそういう常識は通用しないのかもしれない。

 

 そういうわけで、ここは足場にさえ気を付ければ非常に使い勝手のいい階層であり、私に限らず、ここを骨休めの場としている冒険者は多い。

 

「さて、と」

 

 荷物入れからポーションを何個か取り出し、一気に飲み干す。

 体力回復ポーションと、精神力回復ポーションだ。

 

 魔物から攻撃を受けたわけでは無いが、今まで走り通しでは流石に疲労が溜まる。

 さらに、高い熟練度で軽減していると言っても、魔法を使えば少しずつ精神力が削られていく。

 

「………よし」

 

 ローラさんお手製のポーションは効果が高く、見る見るうちに私の体力・精神力が回復していく。

 この後は、保存食を食べて栄養補給、水を飲んで水分補給、だ。

 

「……んむっ」

 

 寂しい食事だが、迷宮内で贅沢は言えない。

 美味しいとはとても言えない保存食を、水で胃袋へ流し込む。

 

「…休憩終わり」

 

 誰とは無しに呟く。

 いざ、午後の仕事へ向かおうとした、その矢先。

 

 

 「キャァァアアアアアアッ!!」

 

 

 空気を切り裂くような、甲高い悲鳴が聞こえる。

 反射的に声のした方へ視線をやると――

 

 隣の段から。

 ここより10mは高い段から。

 女性が、滑り落ちようとしていた。

 

「―――あ」

 

 速く動かなければ。

 彼女の落下地点へ行けば。

 彼女の身体を受け止めれば。

 彼女の命を助けられるはず。

 

 しかし、予想をしていなかった出来事に、私の身体が反応できるはずもなく。

 

 彼女は、そのまま下の岩肌へ激突――しなかった。

 

「アアァアアア―――せ、セーフッ」

 

 彼女の、安堵した声が聞こえる。

 

 段の側壁に走っていた亀裂に上手いこと身体が嵌まり、段の中腹で落下が止まったようだ。

 私もまた、ほっと胸をなでおろす。

 

「エレナッ!

 エレナーー!!

 無事かっ!?」

 

 上から男性の――おそらくは彼女の仲間の――声が響く。

 

「な、なんとかねー。

 亀裂に挟まって助かったよ。

 いやー、ボクの日頃の行いがいいせいかな?」

 

 男の声に、彼女は返した。

 ………どうやらあの女性、ボクっ娘のようだ。

 

「そ…そうか。

 お前、不注意もいい加減にしろよ。

 寿命が1年は縮んだぞ」

 

「え、何ー?

 ジャン君ってばボクが死にそうな目にあったってゆーのに1年しか寿命縮まないのー?」

 

「馬鹿、こんな時に何言ってんだ!

 ……自力で登ってこれるか?」

 

「んんー……無理かなー。

 結構きつく嵌まっちゃってるし、登れそうなとっかかりも無いし」

 

「分かった、今ロープ持ってくる」

 

「あんがとー」

 

 どうやら、救助活動は滞りなく行われる模様。

 私も手伝いを――とも思ったが、いきなり暗闇から声をかけて不審がられても困るし、声に驚いて彼女が再度落下したらもっと困る。

 …休憩中位、<闇視>ではなく<光>を使っておけば良かったか。

 

「ロープ行ったぞ。

 掴めるか?」

 

「んーー、もうちょっと右にー」

 

 ――もう私がどうこうする必要も無さそうだ。

 しかし、万に一つ彼らの救助が失敗してしまった時のことを考えて、彼女の近くへ寄っておくべきか?

 そんな感がもしながら、特に主だった理由も無く女性の姿を再度見てみる。

 

「………!」

 

 予め決めていた通り、声は上げなかった。

 

 彼女は――エレナさんと呼ばれていたが――段の側壁に走った亀裂に挟まり、どうにかバランスを保って今の姿勢を維持している。

 

 エレナさんは小柄な女性だった。

 背丈は150㎝にギリギリ届くか届いていないかといったところ。

 肩よりも下まで伸びたセミロングの黒髪を、後ろで結わえている。

 <屈折視>で確認したところ、顔はなかなか整っており、小悪魔的というか、コケティッシュな魅力のある美少女だ。

 この状態でも上に居る男性――おそらくジャンという名前――にからかいの言葉を投げかけているが、その表情が凄く蠱惑的。

 背格好からなかなか判別しにくいが、歳はリアさんと同じくらい…か?

 

 濃紺色のクロークを羽織っているところを見るに、<魔法使い>だと思われる。

 やはり<屈折視>でクロークの中を見ると、ブラウス姿でフレアのミニスカートを履いている。

 ミニスカートを履いている。

 ここ、大事なところね。

 

 そのミニスカートからは、黒いタイツに覆われた脚がスラッと伸びている。

 脚は色気のある肉の付き方をしており、それはタイツによってさらに補強されていた。

 

 洋服の上からの推定だが、胸も大きい。

 いや、単純なバストの大きさであれば、ローラさんはおろかリアさんよりも小さいだろう。

 しかし、彼女の背丈がここで効いてくる。

 いわば、トランジスタグラマー。

 小さな身体が、肉体的魅力を数値以上に引き立てているのだ。

 バストサイズは80程度だろうが、Eカップはくだらないと見た。

 

 今スカートで隠れているお尻も、きっと堪らないエロさを持っていることだろう。

 ――だがしかし、それを見ることは叶わなかった。

 

「………くっ」

 

 エレナさんの真下に移動する。

 断っておくが、これは彼女が落ちてしまった際の保険としての行動であり、邪な考えからのものでは無い。

 大丈夫だ。

 私は変わらず<闇視>で状況を確認しているから、相手は私の存在に気づいていない。

 大丈夫だ!

 

 ……それでも、ダメなものはダメだった。

 まずエレナさんの身体は上手い具合に亀裂に挟み込まれ、次に丈の長いクロークで身体全体が覆われ、そしてスカートは絶妙な角度で彼女のお尻を包み込み――

 <屈折視>で中身を見る余地を無くしていたのだ。

 幾ら視線を歪めようと、ここまに完全に覆い隠されては、覗けない…!

 なんということだ。

 

 こんなときに……こんなときに<透視>が使えれば…!!

 

 私は、自分がEランク冒険者でいることをこれ程後悔したことは無かった。

 何が、『<屈折視>は下級スキルだから使いやすい』だ。

 何が、『<透視>は上級スキルだから使い勝手が悪い』だ。

 

 実際に、<透視>を使えなければどうにもならない事態に陥っているではないか…!

 

 <透視>は熟練度が上げにくい、なんて自分への言い訳以外の何物でも無かったのではないか…!?

 

「………っ!」

 

 思わず歯切りをする。

 瞳から、何か熱いものがこみ上げてきた。

 これは……涙か。

 大人になってからは泣いたことなどほとんど覚えが無い……

 

「………こんな、ところで、か…」

 

 自嘲気味に呟く。

 

 或いは……或いは、何かの拍子でパンツが見えるようになる可能性を信じ、じっと彼女のお尻を凝視した。

 だが―――

 

「……はーい、おっけー。

 ロープ、掴まえたよー」

 

「よし、しっかり握ってろよ!

 今から引き上げるからな!」

 

 救援活動は順調に進み、そろそろ終わりが見えてきている。

 いや、救援が上手く行くことは祝福すべきことで、そこにハプニングが起こることを願う等罰当たりにも程があることなのだが――

 ことなのだが、しかし何か、何かが起きてはくれまいか!

 エレナさんの下着が見えるようになる何かが!

 

 目が血走っているのが自分でも分かる程、必死になって何とか<屈折視>で見える角度が無いかを探す。

 お尻付近だけでなく、彼女の全身くまなく見やって―――

 

「………」

 

「………」

 

 視線をエレナさんの顔付近に移したとき、目が合った。

 彼女も、こちらを見ている。

 

 いや、そんなはずはない。

 私は明かりになるものを持っていない。

 私の周辺は真っ暗であり、如何に冒険者であってもそこから私の存在を見つけ出すことは容易ではないはず。

 だが……彼女も<闇視>を使っていたら?

 

「………」

 

「………」

 

 数秒、見つめ合っていた……ような気がする。

 もし向こうが私の存在に気付いていたとして――どうしよう、ずっとジロジロ見ていたのもばれていたら。

 

『冒険者クロダ、迷宮内にて他冒険者の危機に特に何もせず、じっと尻を見ていた』

 

 そんな話が、冒険者の間で広まってしまったら(事実だが)。

 いかん、私の(元々大して無い)信頼が地の底にまで落ちる…!?

 

「それじゃ引っ張るぞー!

 一二の三、で始めるから、準備しとけよ!」

 

「あ、うん……ちょっと待ってー」

 

 上からの声に、エレナさんはそちらへ向き直りつつ、待ったをかける。

 

「無理に引っ張られると壁にぶつかったりして痛いかも?

 そのままロープ持っててよ。

 ボクの方で登っていくからさ」

 

「あー、言われてみればそれもそうか?

 でもさっき自力じゃきついって…」

 

「ロープがあれば大丈夫だよ」

 

 そんなやり取りを上の仲間とするエレナさん。

 そして一通り会話が終わった後に――

 

「………」

 

「………」

 

 また、目が合った。

 明らかに私の方へ振り返り、私を見た。

 

 ……気のせいか、ニヤッと笑ったようにも……?

 

「ちゃーんと持っててよねー?」

 

「大丈夫だって、心配すんな!」

 

 そう言いながら、エレナさんは亀裂を登るために姿勢を調整し――

 羽織っているクロークの裾をばさっと捲った。

 

「………!?」

 

 それまで<屈折視>を駆使してようやく見えていたクロークの中が、彼女のスカート姿が、直接目の前に現れる。

 驚く私をしり目に彼女はさらに――

 

「……よっしょっと」

 

 スカートまで捲った。

 それはもう、パンツが、お尻が全部露わになるほど、思いっきり。

 

「……ふぉお…!?」

 

 思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 

 想像していた通り、エレナさんの尻はエロかった。

 黒タイツに覆われた下着は、青と白のストライプが入った縞パン…!

 ともすれば白ショーツ以上に幼さを感じさせる下着だが、小柄な彼女にはベストマッチしている。

 

 しかし、一番に目についたのは、お尻の均整の良さ。

 

 胸と同様、彼女のヒップサイズは、数値的にはやはり小さい。

 しかし、全体として小柄であるが故に、数値のように小さくは見えない……いやむしろ大きく見える。

 女性の身体で重要なのは、単純な大きさではなく、全体の均整、バランスなのだとよく分からせてくれる肢体だ。

 

 完全に捲りあげられたスカートの下からは、腰のくびれまで確認できる。

 やはりこのエレナさんという女性、スタイルが良い。

 あの小さい胸・お尻・身体で、ボンッ・キュッ・ボンッと形容しても良い体型を見事に表現している。

 

 健康的な脚の形から見るに、張りの方にも期待ができそうだ。

 思い切りむしゃぶりついてやりたい尻である。

 

「それじゃ、登るよー」

 

 そう言って彼女はロープを登り――ぬぉおお!?

 

 なんだその登り方は!?

 

 彼女は、まるで尺取虫のように、腰を曲げ、身体をUの字に曲げてから伸ばす、という屈曲運動でロープを登っている。

 流石に尺取虫の表現は過剰ではあるものの、それに似た動きをしていると考えて貰えればいい。

 

 そんな動きをすれば当然、お尻を思い切り突き出すことになる。

 それも私の方へ向かって、だ。

 

 お尻を突き出して、戻して、突きだして、戻して。

 何という光景。

 お尻を突き出した際には黒タイツがパンパンに張って、縞パンの模様がよりくっきり見える。

 ストライプの屈曲が、形の良いお尻をさらに顕著に浮き出させている。

 

 もうどうなっちゃってるんだ?

 

 冗談としか思えない――仮に男友達がこんな動きしているのを見たら確実に他人のふりをする――登り方だが、良し!

 可愛い女の子がやる分には、当方に一切の文句無し。

 寧ろこのやり方を女性冒険者の基本登攀方法として広めたい程である。

 

 しかも、時折お尻をフリフリと振っている。

 ロープを登るのにはまるで関係が無いであろう動き。

 ――誘っているようにしか思えないんですが、これは。

 

 私はその姿を目に焼き付けるように、瞬きも惜しんで見つめ続けた。

 

「んしょ、んしょ」

 

 だが、彼女が登る高さはせいぜい10mにも満たない。

 落ちれば危険な高さだが、登るのに長い時間がかかる程のものではない。

 

 特に危なげなくエレナさんは登り切ったようだ。

 

「到着ー、と」

 

「おう、お疲れ……ってお前なんだその格好!?」

 

「ああ、これ?

 登るのに邪魔だったからさー」

 

「邪魔だったってそんな…!

 は、早く直せよ!」

 

「んんー、どうしたのかなー?

 ボクの格好はそんなに刺激的?」

 

「ば、馬鹿、ち、違うわ!!?」

 

 彼女とお仲間とのやり取りが聞こえる。

 

「…………さて」

 

 いつも通りであれば、もうこの休憩場所を出発して、午後の仕事に入る頃合いだ。

 頃合い――なのだが。

 

「………偶には、他の冒険者と交流を持つのもいいかもしれない」

 

 何となく独り言をしてみる。

 私は基本的に一人で迷宮に潜っているので、他の冒険者との接触は少ない。

 有用な情報が手に入るかもしれないし、迷宮探索についてアドバイスも聞けるかもしれないし。

 ――彼女が登っている最中にどこか怪我したりしていないか、気になるところでもあるし!

 

 そんなわけで、私は彼らと合流すべく、上の段へ進路を取ったのであった。

 

 

 

 第二話②へ続く



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② 駆け出し冒険者達との遭遇

 

 

 目的のパーティーは、存外に早く見つかった。

 どうやら彼らもこの階層を休憩用に使っているようで、松明で明かりを取り、簡単な野営の準備をしていた。

 シートの上で休んでいるのは3人で、その内の一人は間違いなくエレナさんだ。

 他の2人は、中肉中背位の青年――装備を見るにおそらくは<盗賊(シーフ)>――と、かなり大柄な青年――装備を見るに<戦士(ファイター)>…いや<聖騎士(パラディン)>か?――だった。

 このどちらかがジャンさんなのだろう。

 

「………何者だ!?」

 

 私が近づく足音に気付いたのか(相手に不信感を与えかねないので<静寂>は解いてある)、<盗賊>の青年が素早く立ち上がり、こちらへ武器を構えてきた。

 すぐに私は両手を上げて、敵意が無いことをアピールする。

 

「すいません、ご同業の者です。

 先程悲鳴が聞こえてきましたので、何かあったのか、と」

 

「……ああ、そうだったのか。

 そりゃ、悪かったな」

 

 私が武器を持っていないことを確認すると、彼は武器を下げた。

 ちなみに、武器を使わずに攻撃できるスキルは結構多いため、彼の対応は余り賢明では無い。

 今の私にとっては大助かりだが。

 

「いえいえ、いきなり近寄ってきた相手を警戒するのは当然ですよ。

 お気になさらず」

 

「助かる。

 で、その悲鳴のことなんだけど、仲間が一人滑り落ちちゃってな」

 

 そう言われるのは想定していた。

 

「ほ、本当ですか!?

 そのお仲間はどちらに!?

 ―――まさか」

 

 黒田誠一、一世一代の大芝居である。

 出来る限り自然な驚きを表現してみたのだが、どんなものだろうか。

 

「はは、大丈夫大丈夫、もう解決済みさ。

 落ちたけど運よく途中で止まってくれてね。

 今引っ張り上げたとこ」

 

「おおっと、そうでしたか。

 いえ、取り乱してしまい申し訳ない」

 

「いいって。心配してくれてありがとうな」

 

 チラッと彼の後ろを見てみる。

 大柄の青年は、我関せずという感じでこちらへ反応を見せていない。

 ただぼーっと中空を眺めている。

 エレナさんの方は……こちらを見てニヤニヤと笑っていた。

 ――ああ、ばれているな、これは。

 

「この階層は魔物がいない分、地形がどうにも危険ですからね。

 よろしければ、もっと安全に休憩できる場所をご案内しましょうか?」

 

「いやぁ、見ず知らずの人にそこまでしてもらうわけには……?」

 

 私の提案を彼が断ろうとしたところで言葉が止まった。

 はて、どうしたのだろうか?

 

「……どうされました?」

 

「…………」

 

 彼は、じっと私の顔を見てくる。

 

「…………あの?」

 

「…………」

 

 まだ見てくる。

 私の顔に、何かあるのだろうか?

 なんだか不安になりかけて来たところで、

 

「……ひょっとして、クロダ・セイイチさん?」

 

 彼は、私の名前を口にした。

 

「え? あ、はい……そう、ですけれども」

 

 いきなり名前を呼ばれたことに動揺を隠せず、しどろもどろに返事をする。

 

「やっぱりクロダさんだったか!」

 

「……え、クロダ!?」

 

「………おお!?」

 

 後ろの2人からも声が上がる。

 大柄の青年に至っては、これが初リアクションだ。

 

 ど、どういうことなんでしょう…?

 

「ひょっとして、前にお会いしたことがありましたか?」

 

 だとしたら失礼なことをしてしまった。

 向こうは顔を覚えてくれているというのに、こちらは忘れていたということになる。

 

「あ、いいや、違うんだ。

 俺が一方的に知ってるだけというか…」

 

 一方的に知っている?

 何故に?

 

 疑問符が頭いっぱいに浮かび上がり戸惑っている私に、彼が声をかける。

 

「とにかく、立ち話もなんだしこっち座らないか?」

 

 と、彼らが野営している場所へ誘われる。

 ……ここへ来るまでに、どうやって彼らと取り入られようかと色々思案していたのだが、何だかよく分からない展開でそれは解決したようだ。

 

「それではお言葉に甘えまして」

 

 野営場所に一角に座らせてもらう。

 

「そういや自己紹介がまだだったな。

 俺はジャン・フェルグソン。そっちのでっかいのがコナー・エアトンで、ちっちゃいのがエレナ・グランディだ」

 

「……どうも」

 

「よろしくー」

 

 態々フルネームで紹介をしてくれるジャンさん。

 そこに続けて、コナーさん、エレナさんが挨拶してくれた。

 

「これはこれはご丁寧に。

 私は黒田誠一です……もうご存知の様ですが」

 

 形ばかりの返答を返す私。

 そこへ、エレナさんがずいと詰め寄ってくる。

 

「んー、本当の本当にクロダ・セイイチなの?」

 

「おい、エレナ、失礼だろ!」

 

「いえいえ、疑問、尤もだと思います」

 

 一番の疑問は、ジャンさんが私の正体を当てられたことではあるのだが。

 ともあれ、身分を証明するため、私は腕輪に埋め込んである<冒険証>を見せる。

 

 ――<冒険証>とは、全ての冒険者に冒険者ギルドから配布される蒼い宝石のことだ。

 その名の通り冒険者としての身分を証明する宝石であり、現代社会での運転免許証を想像してもらえればありがたい。

 ただ、そこはファンタジー世界。

 この<冒険証>、ただ身分証明用の宝石というわけではなく、様々な機能がある。

 全ての紹介はここでは伏せるが、その内の一つは――

 

「……本当だ。本当にクロダ・セイイチなんだ…」

 

 <冒険証>から空中へ投影された私のプロフィール画像を見て、エレナさんが呟く。

 その横から、コナーさんもその画像を覗いている。

 彼は彼で気になっていたようだ。

 

 これが<冒険証>の機能の一つ。

 持ち主である冒険者の名前や年齢から能力値、習得スキルに至るまで、個人情報を纏めた表を空中に映し出すことができるのだ。

 『ステータス画面』が見ることができる、と言えば、現代社会でゲームを愛好する方々には理解しやすいだろうか。

 ――この機能があるため、<冒険証>は身分証明の品としてウィンガストでは抜群の効果があったりする。

 

 ちなみに、プライバシーを余り明け透けにするのも如何かと思うので、今映し出しているのは私の名前・年齢・性別が示されただけの簡易プロフィールだ。

 

「それで、どうして私のことを知っていたのでしょうか?」

 

 改めて、最初の疑問を口にする。

 

「どうしてっていうか……そもそも、クロダさんは有名人だろ?」

 

「へ?」

 

「『掃除屋』クロダって言ったら、白色区域を利用してる冒険者なら知らない奴はいないよ」

 

「そ、『掃除屋』ですか?」

 

 知らない人はいないと言われても、当の本人が知らない呼び名なんだけれどそれは。

 

「そう、『掃除屋』……ひょっとして、知らなかったのか?」

 

「恥ずかしながら存じ上げませんでした…」

 

 まあ、掃除屋なんてパッとしない名前を付けられる辺り、私らしいと言えば私らしい、のか?

 

「確認しますが、本当に有名なんですか、私?」

 

「有名だよ。……なぁ?」

 

 前半は私、後半は仲間2人への言葉。

 

「………まぁ」

 

「ボクも知ってるよー」

 

 コナーさんもエレナさんも、首を縦に振る。

 

 しかし先程からコナーさん、言葉数が少ないこと。

 余り無駄なことを言わないタイプのようだ。

 

 ともあれ、私が有名なのだというのはどうやら本当のことらしい。

 

「…そ、そうですか。

 えー、質問を重ねてしまうんですが、何で『掃除屋』なんて呼ばれているのでしょう?」

 

「え、そりゃ、クロダさんが毎日毎日白色区域の魔物を片付けてくれるからだよ。

 おかげで白色区域じゃ、危険な魔物に遭遇することも、大量の魔物に囲われることも無くなった、て話だぜ」

 

 ああ、掃除屋ってそういう。

 言われてみれば、私の仕事をそういう風に見ることもできるかもしれない。

 しかし、

 

「皆さんの飯の種を根こそぎ奪ってしまっているとも言えますが…」

 

 <次元迷宮>は無限に魔物が湧いてくるとはいっても、一度に出てくる数にはある程度限界がある。

 私が魔物を倒せば倒すほど、他の冒険者は魔物を倒す機会を失くしているのだ。

 正直なところ、私は初心者冒険者の人達には恨まれてるんじゃないかとばかり思っていた。

 

「そういう考えもあるかもしれないけどさ。

 でも、クロダさんは白色区域以外じゃ活動してないんだから、きっちり稼ぎたいなら緑色区域より先に行けばいいわけじゃないか。

 白色区域で探索してるのは冒険者としての腕を磨いてる最中の奴らばっかだから――いや、俺達もそうなんだけど。

 稼ぎが良くなることよりも、安全に訓練できることの方が重要なんだよ」

 

「……なるほど」

 

 私が初心者用区域の魔物の数を減らし、比較的危険な魔物(その分実入りは良い)を狩り尽しているが故に、利益を被っている人もいる、というわけか。

 私の仕事をそう受け取ってもらえているというのは、まあ悪くない気分である。

 

 いや、偶には他の冒険者と交流を持ってみるものだ。

 

「説明ありがとうございます。よく分かりました。

 それで、ジャンさんは私の正体をすぐ見抜けたわけですね」

 

「んー、そういうわけじゃ無いんだよねー、ジャン君?」

 

「ば、お前、急に話に入ってくんなよ!」

 

 割って入ってきたエレナさんの言葉に、ジャンさんは取り乱す。

 ……あれ? 私が有名だから分かったということでは無かったのか?

 

「別の理由があるのですか?」

 

「あ、いや、有名だから知ってるってのも間違いじゃないんだ。

 間違いじゃないんだけどそれに付け加えて、その…」

 

 ジャンさんはそこで一旦言葉を止めてから、続ける。

 

「俺、クロダさんのこと尊敬しててさ」

 

「……は?」

 

 尊敬?

 私を?

 それは、ちょっと止めておいた方がいいのではなかろうか。

 

「いやだってさ、クロダさん、毎日一人で迷宮潜って、一人で魔物をガンガン倒してさ。

 しかも、凄いスピードで。

 これ、滅茶苦茶凄いことだよ」

 

「……あー、それは、白色区域だけでのお話ですし」

 

 そんなに持ち上げられると、意味も無く不安になってしまう。

 

 それと、先程から聞いているとジャンさんは白色区域を初心者用区域と言いたがらない様子。

 まあ探索している方は白色区域であろうと命懸けであるのだし、それを初心者用とか言われて気分がいいはずもないか。

 そんなわけで、私も単語をジャンさんに合わせてみた。

 

「それでも、だよ。

 クロダさんと同じことなんて、他に誰もやれていないじゃないか」

 

『やれない』のではなくて、『やらない』のだと思う。

 主に稼ぎとか、フロンティアスピリッツとかそんなものの関係で。

 熱弁して頂いているところ水を差すのも失礼なので、あえて言いはしないが。

 

「だから、俺はクロダさんを尊敬して……目標にしてるんだ」

 

「目標、ですか…」

 

 もっと目標とするのに適した冒険者は幾らでもいるんじゃないですかね…

 

「ああ。いつか、クロダさんみたいな<盗賊>になるってな!」

 

「…………ん?」

 

 今、おかしな単語が聞こえた。

 

「……<盗賊>?」

 

「そうだよ?

 俺の格好、<盗賊>にしか見えないだろ?」

 

 確かにジャンさんの装いは<盗賊>として定番のもので、だから私も一目でジャンさんが<盗賊>だと分かったわけだけれど。

 焦点はそこでは無くて。

 

「私、<魔法使い>ですよ」

 

「……へ?」

 

 今度はジャンさんが言葉を詰まらせた。

 

「…う、嘘…?」

 

「嘘じゃないです。

 それこそ、私の装備は<魔法使い>のものじゃないですか」

 

 私の装いもまた、<魔法使い>定番……のはず。

 主武装が矢な関係で、杖は持っていないが。

 

「<魔法使い>用の防具は軽いし、<盗賊>が着ることもあるじゃないか」

 

 食い下がるジャンさん。

 

 確かにそういうケースが無いわけでは無い。

 <魔法使い>の防具は、<盗賊>のものより少し動きにくい代わりに、色々特殊効果が付与されていることが多いのだ。

 それを目当てに<魔法使い>の防具を着る<盗賊>がいないわけでも無い。

 ………<魔法使い>の防具を着る<戦士>や<僧侶(プリースト)>程度にはいるだろう。

 

「そ、それに、俺が聞いた話じゃ迷宮の移動は<忍び足(ステルスステップ)>の暗技(シャドウアーツ)で音も無く動いてて――」

 

「<静寂(サイレント)>の魔法ですね」

 

 ちなみに<盗賊>が使うスキルのことを総じて暗技と呼ぶ。

<魔法使い>の魔法に対応する言葉だ。

 

「<夜目(ナイトウォッチ)>の暗技を使って明かりも無しに行動できて――」

 

「<闇視(ダークヴィジョン)>の魔法ですね」

 

「魔物は、<武器投げ(ウェポンスロー)>の暗技で弓を使わずに矢で倒すって――」

 

「<射出(ウェポンシュート)>の魔法ですね」

 

 とりあえず、言われたことには悉く反論してみた。

 

「………」

 

「………」

 

 気まずい沈黙。

 

 指摘されてみれば、確かに私は暗技に近い効果の魔法ばかり習得している。

 効率を重視した結果ではあるのだが、自分の趣味趣向は案外<盗賊>に向いていたのかもしれない。

 

 説明しておくと、<魔法使い>のスキルは他の職業(クラス)のスキルに比べて多様性が高く、他職業でやれることを魔法でも実行できてしまうケースがある。

 ただ効果は似ていても、効果量が少ない・コストが大きい等の理由で、魔法の方が使いにくい場合がほとんど。

 <魔法使い>で別職業のサポートはできても、完全互換はできないのだ。

 

「うっそだぁぁああああ!!」

 

 絶望の声と共にがっくりと、四つん這いに倒れ伏すジャンさん。

 勘違いを正しただけとはいえ、罪悪感が湧いてくる。

 と、そこへ――

 

「ぷふっ」

 

 それまで後ろから我々を傍観していたエレナさんが、もう堪えきれない、といった様子で笑った。

 

「『尊敬している』とか言っといて、相手の職業も知らなかったんだねー」

 

 大量のからかいと若干の侮蔑を込めた口調。

 現代社会のネットスラングで言えば、『草を大量に生やしている』。

 ……この表現、既に古いだろうか。

 

「う、うるせーよ」

 

「ちなみに、ボクはクロダさんの職業知ってたよ」

 

「し、知ってて黙ってたのか!?」

 

「いつ気づくかなぁって思ってたんだけどね。

 まさか本人の目の前でやらかすとは思わなかったよー」

 

「……この……悪魔め…」

 

 再びがっくりと頭を垂れるジャンさん。

 まあ、本当に本人に会うとは思っていなかったのだろうし、エレナさんを責めるのはお門違いな気もする。

 

 私は彼女の方を向いて―――

 

「………っ!?」

 

「あれ、どうかした?」

 

 …ど、どうかしたも何も。

 

 エレナさんは岩に腰かけながら、私の方に向けてスカートを捲っていた。

 立ち位置の関係で、ジャンさんもコナーさんも今エレナさんの姿を見ていない。

 (ジャンさんは四つん這い姿勢だし、コナーさんは明後日の方をずっと見てるし)

 私だけが彼女を見ていて、そして彼女は私だけが見えるようにスカートを捲っていたのだ。

 

 スカートの中身は先刻と同じ。

 黒いタイツ越しに青と白の縞パンが透けて見える。

 先刻と違うのは、後ろからお尻を見ているか、正面から股間を見ているか。

 

 お尻のアングルも良かったが、正面からのアングルも、良い。

 太ももの間にある恥丘の、何たる絶景かな…!

 

「あ、いえ……エレナさんは、<魔法使い>なんですか?」

 

「うん、ボクは<魔法使い>。

 ついでに、コナー君は<聖騎士>ね」

 

 完璧に平常心を失った私が無理やり出した話題を、幸いなことにエレナさんは拾ってくれた。

 

 私が見ていることを分かっているのだろう、彼女は捲ったスカートをヒラヒラと上下に振る。

 <屈折視>を使うまでも無く、スカートの中から、腰のあたりまでチラチラと確認できてしまう。

 

「<盗賊>と<魔法使い>、<聖騎士>のパーティーだったのですか。

 それですと、コナーさんはなかなか大変そうですね」

 

「………いや、それ程でも無い」

 

 <聖騎士>は回復スキルが使える前衛職だ。

 戦闘時には仲間や自分の治癒と前線の維持という、2つの要となる仕事をしなければならない。

 コナーさんは否定したが、そう簡単に役割を務められる職業ではない。

 

「それ程でもあるあるよ。

 うちのパーティーはコナー君におんぶにだっこでさー」

 

 言いながら、腰をくいっくいっと動かし、股間を座っている岩に擦り付けるエレナさん。

 岩の凸部分が彼女の股間に少し食い込んでいるようにも見える。

 

「んっ……んふふふ。

 リーダーが頼りにならないからねー。

 しっかりしてよ、ジャン君」

 

 最初の吐息、他とは声色が違った。

 まさか、こんな所で感じているのか…?

 

「が、頑張ってるだろ、俺だって…」

 

「んんー…んっ…そうかなー?

 尊敬している人の職業も…んっ…知らない位だからなー…あっ…」

 

 力なく返事を返すジャンさんを、さらにからかうエレナさん。

 

 言葉の節々に、艶のある声が混ざる。

 他の二人は気づいていないのだろうか?

 それとも、これは彼らにとって『いつものこと』なのだろうか…!?

 

「……ま、まあ、言われてみれば私の行動って<盗賊>っぽくはありますから。

 誤解されても仕方ない部分はあったかと」

 

 悶々とエレナさんを凝視しながら、ジャンさんをフォローする。

 彼女は変わらず、岩に股間を擦り続けている。

 

「……そういや、罠とか鍵とかはどうやってたんだ?

 罠探したり鍵開けたりする魔法なんて――」

 

「…んー…んっ…あるよ?」

 

「あるんだ……」

 

 ジャンさんの質問に、自慰(にしか見えない)をしながら答えるエレナさん。

 岩をよく見れば、彼女が座る下にある突起は、先端が丸みを帯びたており、女性がオナニーするのに程良さそうではある。

 

「確かに<鍵開け(アンロック)>の魔法等ありますが、私は使えませんよ」

 

 <鍵開け>は中級スキルなので、Eランクの私では習得許可が下りない。

 

「…それじゃあ、どうしてるんだ?」

 

「罠とかはスキルが無くとも見れば大体分かりますし…

 鍵は、<念動(キネティック)>の魔法で、こう、カチャッと」

 

「そんなやり方!?」

 

「クロダさんは本当に凄い男だな!?」

 

「………ふおお!?」

 

 三者三様に驚きの声を上げる。

 エレナさんなど、それまでの自慰を止めてまで驚いていた。

 

 ここで挙げた<念動>とは<魔法使い>の最下級スキル。

 手を触れずに物を動かせるという、超能力でおなじみの奴だ。

 この文面だけでは非常に便利な魔法に思えるかもしれないが、効果の届く範囲は自分の周囲数十㎝で、動かせる物の重さは自分の手で動かせる程度に限られる。

 <念動>を使う位なら手で動かした方が早いという、最下級の名に恥じない弱スキルっぷりだ。

 

 ただ、手を入れられない場所の物を動かしたいときや、手で触れられない物を動かしたいとき等、使用場面が無いわけでもない。

 先述したような、鍵穴の奥に作用させて鍵を開けたり、とか。

 

「あくまで、白色区域にある罠や鍵に限った話ですからね?」

 

 一応、念を押しておく。

 見知った場所だからこそ一目で罠が分かるのだし、<緑色区域>以降にある複雑な鍵は私の技量では開けられない。

 

「そうは言ってもねー。

 <念動>をそんな風に使う冒険者なんて、ボク聞いたことないよ」

 

「<念動>を習得している冒険者自体少ないですからね。

 慣れれば存外簡単に―――! あ、開けられます」

 

 最後、言葉が止まりそうになった。

 

 私が説明のためにエレナさんから少しだけ目を離した隙に、彼女は新たなトラップを仕掛けていたのだ!

 今度はスカートではない。

 その上――ブラウスの方。

 ブラウスのボタンが、上半分全て外されている。

 そして開放したブラウスの隙間から、彼女が着けているブラとおっぱいが惜しげもなく披露されていた。

 

 ブラはパンツと同じく青と白のストライプ模様が入った物。

 こちらも彼女自身の可愛らしさとよくマッチして、似合っている。

 だがやはり目を引くのは――おっぱい。

 服の上から予想していた通り、形の良い胸だ。

 トランジスタグラマーの理想形、と呼んでもいい。

 お尻と同様、数値上のバストの小ささを身体の小柄さが補い、結果として巨乳と呼べる在り様へと昇華させている。

 小さい巨乳とはこれ如何に?

 

「慣れれば、ねぇー?

 んー、そうなのかなぁ」

 

 私へ返事をしながら、二の腕でおっぱいを挟んで強調させてくるエレナさん。

 うわぁ……今すぐ吸い付きたい。

 

 この期に及んでまだ、他の二人は彼女の様子に気付いていない。

 お二人が少し鈍い……というのもあるのかもしれないが、エレナさんが二人の死角を上手くついた絶妙な立ち位置にいることが何よりも大きい。

 

「俺は魔法とか詳しくないから分かんないけどさ。

 そもそも、クロダさんの習得してるスキルを聞く限り、<盗賊>になった方が良かったんじゃないかと思うんだけど」

 

「ご尤もなご指摘です。

 ただ、私は<魔法使い>への適性の方が高かったんですよ」

 

「あー、適性の問題か。

 それじゃ、仕方ないのかもな」

 

 冒険者の職業には個人個人で異なる適性というものがある。

 誰でも好きな職業になれるわけでは無いのだ。

 

 そんなことを私とジャンさんが話している間中、エレナさんは両手でおっぱいを揺らしている。

 私に見せつけるように。

 ただでさえ色っぽい胸がプルプルと揺れる様は、私の目を捕らえて離さなかった。

 しかもその弾みっぷりを見るに、弾力もかなりのものがありそうだ。

 張りがある巨乳とか最高じゃないですか。

 

「はい。そんなわけで、ジャンさんは私なんて碌でも無い人間を目標にせず、もっと立派な冒険者をですね…」

 

「――いや」

 

 私の語りをジャンさんが止める。

 

 エレナさんはブラの中に自分の手を入れて動かし始めた。

 これは、乳首を弄っているのか…?

 

「いや、いいんだ!

 <魔法使い>といったって、やってることは<盗賊>みたいなもんだし!

 目標であることは変わらないし、それは何にもおかしくない!」

 

「ふぅーん…んっ……そんな風、にっ、自分を納得させたんだ…あっ…」

 

「……ジャンさんがそれでいいなら止めはしませんが」

 

 何やら開き直った様子のジャンさん。

 エレナさんの声にはまた艶が混じり始めた。

 

 さっきから私の愚息がいきり立って仕方がない。

 ジャンさんやコナーさんが居なければ、この場で襲い掛かっていたかもしれない。

 そう考えながら、より一層彼女を凝視していたところで――

 

「…まー、話もひと段落したところで」

 

 言って、ブラウスのボタンをササッと留めるエレナさん。

 ……あ、あれ、もう終わり?

 

「ボク、そろそろ水浴びに行ってくるね」

 

 そう告げながらクロークを外して、エレナさんは立ち上がる。

 

「おいおい、せっかくクロダさんと話せる機会だってのに…」

 

「そんなこと言ったって、何時までも休憩してるわけにはいかないでしょー?

 昨日から全然身体洗えて無いんだし。

 それに、クロダ君だってそろそろ先に進みたいんじゃない?」

 

「クロダ『君』ってお前……まあいいや、確かにそんな長く引き留めるわけにもいかないか」

 

「…………そうだね」

 

 3人の中で、意見が固まったようだ。

 この辺りでお開きということだろう。

 

 余談だが、この場所から少し上がったところに、階層の最上段から流れてくる水が溜まった小さな池がある。

 エレナさんが水浴びに行こうとしているのは、十中八九そこだろう。

 いや本当にただの余談なのだが。

 

「それでは、私も仕事に戻ります。

 お話に付き合って頂きまして、ありがとうございました」

 

「こっちこそ、何の得にもならない話を長々としちゃって悪かったな」

 

「いえいえ、知らないお話等も聞けて、タメになりましたよ」

 

 自分の意外な知名度とか。

 知って何かの役に立つのかと問われると怪しいところではあるが。

 

「それじゃ、またな、クロダさん」

 

「…………うん」

 

「またねー、クロダ君」

 

「はい、またお会いしましょう」

 

 エレナさんは、この後すぐにでも。

 そんな私の期待を裏付けるかのように、水浴びに向かう彼女は私の方を一度振り返り、小悪魔の笑みを浮かべるのだった。

 その後ろ姿を見届けてから、私も――

 

「あ、ちょっと待ったクロダさん、一つお願いがあるんだけどさ」

 

 その前に、ジャンさんから水を差されてしまう。

 逸る気持ちを抑えて彼からの『頼み事』を聞き、私はそれを了承した。

 

 

 

 第二話③へ続く



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③ エレナさんと意気投合

 ジャンさんとのやり取りの後、ささっと移動してやって参りました水浴び場――だと思われる池。

 上から流れてくる水がここにある岩の窪みに溜まってできたもので、下に流れ落ちる流路もあったりするから若干の注意が必要。

 まだエレナさんはいない。

 最短ルートを駆け抜けてしまえば、彼女からは出遅れつつも池に先回りすることなど容易いのだ。

 

 ………先回りしたのだ、と思いたい。

 実は違う場所だったとしたら、恥ずかしすぎる。というか、残念過ぎる!

 

 そんな私の疑念を打ち払うかのように、人影がこちらに近付いてきた。

 ――エレナさんだ。

 

「……!」

 

 <闇視>を使っているのだろう、向こうもこちらに気付いたようで、まっすぐ向かってくる。

 話しかけようとする私を手で制し、人差し指を唇に当てて『静かに』のポーズをとる。

 

 どうしたのだろうか?

 そう思う私をよそにエレナさんは呪文を唱え始め――

 

「<遮音(サウンドインシュレイション)>」

 

 魔法を発動させる。

 

 <遮音>とは、一定の空間にかける魔法で、その空間内で発生した音を外に漏らさなくする効果がある。

 <静寂>の範囲拡大版といっても良いが、<静寂>は対象が一切音が立てられなくなるのに対し、<遮音>は効果空間内で音を出すことは可能と、少々使い勝手が異なる。

 

 おそらくだが、少し離れた休憩場所にいるジャンさん達への配慮なのだろう。

 

「んんー、また会っちゃったね、クロダ君」

 

「ええ、またお会いしましたね、エレナさん」

 

 軽く挨拶を交わす。

 

「あー、でも、困っちゃったなぁ。

 ボクこれから水浴びしなくちゃいけないのに、男の人がいるとなー?」

 

 誘惑する目付きで私を見つめながら、エレナさんは言った。

 その目の誘いに一切抗わず、私は彼女へ近づく。

 

「いえいえ、私の事など気にせず水浴びして下さい。

 何でしたら、身体を綺麗にするお手伝いも致しますよ」

 

「えー、クロダ君ってば、結構いやらしーんだー?」

 

「いやらしいだなんてそんな。

 私の目の前でお尻を丸出しにしていた人には言われたくないですね」

 

「涙ぐむまでボクのお尻を見つめてた人の言うセリフじゃないよねー?」

 

 お互い、すぐ触れ合える距離にまで近づいた。

 何かを期待するように私を見るエレナさんに対し、私はぐっと顔を近づけてそのままキスをする。

 

「……んっ……んむっ……」

 

 舌を彼女の口内に入れると、彼女の舌が絡んでくる。

 女性特有の、小さくて柔らかい舌。

 

「んっ……んぅっ……」

 

 私の舌を舐めまわるエレナさん。

 私は彼女の腰に手を回し、ぎゅっと抱き寄せる。

 

「……んんっ…あっ……はぁぁ……」

 

 今度は彼女の舌が私の口に入ってきた。

 彼女にされたように、私は侵入してきた舌を舐めまわし、堪能する。

 

「…はぁぁ……あぁ……んぁぁ……」

 

 彼女の吐息が私の顔にかかる。

 女の甘い息が心地よい。

 

「……んぅっ……あぁ……んちゅっ……んんんっ……」

 

 しばしの間、互いに口を貪り合う私達。

 どちらともなく、一旦口を離す。

 

「……クロダ君、キス、上手いね」

 

「褒めて頂けて光栄です」

 

 そう言いながら、私は腰に回していた手を下げ、彼女のお尻を触る。

 スカート越しに触っても、お尻の形の良さと、その弾力が分かった。

 柔らかさではローラさんに及ばないが、張りの良さではエレナさんに軍配が上がるだろう。

 

「やだー、クロダ君、手つきがエッチー」

 

「これくらい……みんなの前でオナニーに耽っていたエレナさんには負けますよ。

 あれ、ばれたらどうするつもりだったんですか?」

 

 手をスカートの中に潜り込ませる。

 タイツの触り心地を堪能しつつ、お尻を揉んでいく。

 揉んだ私の手を押し戻さんとばかりに働く尻の弾力。

 素晴らしい。

 

 それに対してエレナさんは、腕を私の首に巻き付け、耳元に軽くキスをしてくる。

 キスの後、私の耳をチロチロと舐めながら、エレナさんが語る。

 

「聞こえてない聞こえてない。

 むしろ、ボクを見たクロダさんの反応でバレちゃわないか心配だった位だよ」

 

「む、そうでしたか。

 それは失礼を」

 

「ボクの身体に興味津々なのは分かるけどさー。

 少しは周りに注意してよね」

 

 話し終わると同時に、ふーっと私の耳に息を吹きかけるエレナさん。

 ……うぉおおお、今凄いぞくぞくっと来たぁああ!!

 

「びくってなったねー?

 クロダ君、耳弱い?」

 

「……えー、そのようです」

 

 負けっぱなしは癪なので、私も彼女の耳に口を近づけた。

 そして、彼女の耳をその穴の中まで舐め回す。

 

「ふぁあああ!!」

 

 途端に嬌声が上がる。

 

「エレナさんも弱いじゃないですか、耳」

 

「んんー、そう、みたい…んっ」

 

 再び、キスをする。

 

「んぅっ……ねぇ、服、邪魔じゃない?」

 

「そう、ですね」

 

 キスをしながら、お互いの舌の感触を味わいながら、互いに服を脱がしていく。

 私はエレナさんのブラウスのボタンを外し、露わにしたおっぱいからブラを外す。

 エレナさんは私の服を脱がしてくれるが……体格の差があるせいか、上手くいかないようだ。

 

「あ、あれ…?」

 

「大丈夫です、自分で脱ぎますよ」

 

 そう言いながら私はエレナさんの胸にむしゃぶりついた。

 

「ひゃぅっ……んぁっ……もぅ、がっつきすぎだよ……あんっ…」

 

 口でエレナさんのおっぱいを味わいながら、両手で自分の服を脱いでいく。

 舌で舐めただけでも分かる、ハリと弾力のあるエレナさんのおっぱい。

 形をほとんど崩さずに、プルンプルンと弾んでいる。

 

 両方のおっぱいを一通り舐めきってから、乳首へと吸い付いた。

 

「はぁぁっ……んんっ……乳首、いいっ……」

 

 上の服を脱ぎ終わって上半身裸になる私。

 今度はエレナさんのスカートを脱がしにかかる。

 

「やだもぅ……恥ずかしいよー?……あんっ…」

 

 くねくねと腰を曲げながら、まるで恥ずかしいとは思っていない口調でエレナさん。

 

 スカートを脱がし、タイツとパンツを下ろす。

 現れたエレナさんの女性器は、既に愛液で濡れ濡れだった。

 

 そして私は自分でズボンを――

 

「待って……んっ……ズボンは、ボクが脱がしたいよ……んんっ…」

 

 エレナさんがそう言うので、私は乳首から口を離し、彼女にズボンを任せてみる。

 カチャカチャと、やや不慣れな手つきでベルトを外し、ズボンを下ろして私のイチモツを露わにさせた。

 

「うわぁ……おっきぃ……」

 

 女性に自分の性器をそう評価してもらえるのは、男にとって幸せなものだ。

 嬉しさがこみ上げてくる。

 

「………はむっ」

 

 うっとりした顔で勃起した私の陰茎を見ていた彼女は、ぱくっとそれを口に含んだ。

 そのままじゅるじゅると音を立てて、フェラを始める彼女。

 彼女の口では私の愚息全てを咥えることはできないので、舐められているのは先端部だけだが、それでも十分な快楽が私に流れてきた。

 

「……んんっ……れろっ……あむっ……」

 

 しばし快感に身を任せるが……それだけでは満足できないのが男のサガ。

 私は自分のイチモツを彼女の口から抜いた。

 

「………あー…」

 

 少し不満そうな声を出すエレナさんだが、私が言わんとしていることはすぐ理解したようだ。

 私の腹や胸に舌を這わせながら、自ら脱ぎかけのタイツとパンツを外す。

 私もまた、足に引っかかっていたズボンと下着を完全に脱いだ。

 これで二人とも一糸纏わぬ姿になったわけだ。

 

 私は適当な岩へ自分の上着を敷いて、その上へエレナさんを寝かせる。

 

「では、いきますよ」

 

「いいよ……来て、クロダ君…」

 

 私は臨戦態勢が完璧に整っているイチモツを、彼女の女性器に添え、一気に押し挿れた。

 

 ……ん?

 これは、なかなか、きつい……?

 

「……いっ……つ……」

 

 エレナさんが苦し気な声を出す。

 まさかまさか。

 

「エレナさん、初めて、でしたか?」

 

「ち、違うよ……違うんだけど、凄く久しぶりだったから……

 最初は、ゆっくりしてくれると嬉しいかな…」

 

 言われたように、私はゆっくりとピストン運動を始める。

 

「んっ……うん、それ位で……あぁ……」

 

「驚きました。

 エレナさんは経験豊富そうでしたので」

 

「…あんっ……相手がいなくってね……んっ……最近溜まっちゃってて……それでクロダ君を誘ったわけ……はんっ…」

 

「お相手なら、ジャンさんやコナーさんがいるじゃないですか」

 

「あの二人ー?……んっ……あの二人はねー……」

 

 正直、少なくともどちらかとはそういう仲なのだと思っていたのだが、違うようだ。

 

「二人ともボクの幼馴染でさ……あんっ……両方がボクに好意を持ってるみたいで……んっ……

 別に抱かれてもいいかなとは思ってるんだけど……あっ……手を出してくれないんだよね……んぅっ……」

 

「…ちょっと信じられないですね」

 

 こんな女性が近くに居て手を出さずにいられるなど、私にはできない所業だ。

 

「あんっ……ジャン君はへたれでねー、なかなか一線を越えようとしないし……んっ……

 コナー君はジャン君に遠慮しちゃって、やっぱりボクに手出ししないんだ……あぁぁ……」

 

「そうなんですか?」

 

「そうなんだよ……あんっ……ほら、アレを見れば分かるでしょ」

 

 彼女が指さした方を見る。

 

「……あ」

 

 そこには、岩に隠れながらからこちらを見ている、ジャンさんとコナーさんが居た。

 

「んっ……ボクが水浴びする度にああやって覗いてるくせに……んんっ……

 あそこから一歩も近寄って来ないんだから……あっ……」

 

 エレナさんが水浴びに行くと言ったら、ジャンさんがあっさり話を打ち切ったのはこのためか。

 しかしせっかく覗いているというのに――

 

「エレナさんが私とセックスしているのを見ても動かないとは…」

 

「え?……ああ、あの二人はこっちのことなんて分かってないよ…あんっ…

 暗闇を見通すスキルなんてジャン君もコナー君も持ってないし……んっ……

 ボク達の音は消してるしねー……は、んっ…」

 

 確かに、休憩場所に設置してある光だけでこの場所を覗き見ることはできないだろう。

 

「何も見えてないのに、覗くんですね」

 

「健気――って言っていいのかな?……んぅっ……そんなことせずに、ボクを直接触ればいいのに……あんっ…」

 

 全く持って同意する。

 こんなに色気を振りまく女性を放っておくなど、いっそ尊敬の念すら抱いてしまう。

 

「しかし、あのお二人に限らずともエレナさんが誘えば乗り気になる男は多いのでは?」

 

「はんっ……いつもあの二人が一緒だから、他の男を見つける機会が案外少なくって……んぅっ……

 それに、ボクだって別に誰とでもやりたいって思ってるわけじゃないよ……あっ……

 ある程度は信頼できる相手じゃないと」

 

「私は信頼に足りた、と?」

 

「あの『クロダ・セイイチ』だから、ね」

 

 有名人扱いされると本当に気恥ずかしい。

 未だに、何かの間違いじゃないかと思ってしまう。

 

 ―――ん?

 と、いうことは。

 

「………ひょっとして、最初から分かってました?」

 

「うん……あっ……ジャン君がよく喋ってたから、一目でねー……あんっ……

 んふふ、クロダ・セイイチがボクのお尻をガン見してるのを見たときは……んぅっ……驚いたよ」

 

「それは、お恥ずかしい…」

 

「んんー……んっ……会って数時間の女の子に手を出すのは、恥ずかしいことじゃないのかな?……はんっ」

 

「いえ、それは男の本能なので仕方がないのです」

 

「んふふふ、さっすがー……あんっ」

 

 ここで、エレナさんが私の腕を握ってきた。

 

「ねぇ…そろそろいいよ、激しくしても」

 

「…分かりました」

 

 エレナさんからの許可を貰った私は、今まで我慢していた分をぶつけるように―――全力で腰を振り始める。

 

「ああぁぁああっ!!? ちょ、いきなりぃ、んんんぅぅうううう!!」

 

 今までに無い嬌声を張り上げるエレナさん。

 それに呼応するように膣がぎゅうっと私の男根を締め付け、快感が私の中を迸った。

 

「あっあっあっあっあっ…激し…あんんっ…あぁあぁああ!?」

 

「気持ちいいですか、気持ちいいですか、エレナさん!」

 

「うんっ…あんっあんっあん…きも、ち、いい!…ああんっ! いいぃいいいいっ!!」

 

「思い切り、感じて下さい…!」

 

「感じてるっ!! あっあっあっあっ! クロダ君のちんぽボク感じてるっ! あんっあんっあんっ! すっごいよぉっ! あぁああん!」

 

 さっきまで痛がっていたとは思えない乱れっぷり。

 イチモツへの締め付けも強く、私もまた高まってくる。

 さらに力を込めてピストン運動する。

 

「あああぁあああああっ! いいよぉぉおおお!! んぁああああ!!」

 

 彼女の動きに合わせてプルンプルンと揺れるおっぱいを手で鷲掴みにする。

 弾力のあるそれを揉みしだきながらも、腰の動きは緩めない。

 

「んぅぅうう! おっぱい! おっぱいもいぃい! おっぱいもっとしてぇぇええ!!」

 

 言われた通り、おっぱいをぐにぐにと強く揉む。

 手への反発が凄い。

 この弾力、流石だ!

 

「はぁぁあああんっ! ああっああんっああんっ! 気持ちいぃいい!!」

 

 エレナさんは、胸への感度が人一倍良いようだ。

 おっぱいを弄り出してから感じ方が凄まじい。

 

 気を良くした私は、おっぱいの先端の突起―――乳首へと片手をやり、それを思い切り抓んでやった。

 

「んぃいいいいいっ!? 乳首、ダメェエエエッ!! 乳首ダメだよぉおおッ!」

 

「ダメ? どうしてダメなんですか?」

 

「だってぇぇええっ! 乳首、されるとぉっ! んんんぁああ!! イッちゃうぅぅうう!!」

 

 なるほど。

 ではもう一つの手も乳首へ動かし、両方の乳首を同時に抓ってやった。

 

「ああぁあああああああ!!!!?」

 

 喘ぎ声がさらに大きくなる。

 同時に、膣の締め付けが最大に!

 

 これは、私ももう限界が…!

 

「ダメって言ったのにぃっ! ダメって言ったのにぃっ! イッちゃうぅう! イッちゃうぅうう!!」

 

「いいんですよ、イッっちゃって!

 私も、イきますから…!」

 

「あんっ! イくからねっ! イクっ! イクっ! イッくぅぅううううう!!!」

 

「……くっ!」

 

 弓のように身体をそらせながら絶頂するエレナさん。

 私もまた、エレナさんの膣圧に快楽が臨界点を超え、たっぷりと精液を吐き出すのだった。

 

「……あ、あぁあ……はっ……あんっ……」

 

 身体をガクガクと震わせて、エレナさんは余韻に浸っている。

 私もまた、一度彼女から性器を抜き出し、軽く息を整えた。

 

「あ、ハハハ……すごかったー……」

 

「大丈夫ですか、エレナさん」

 

「ボクを大丈夫じゃなくした人がそれを言うのー?

 もう、乳首にクロダ君の爪痕がついちゃったよ」

 

「それはすみません……あの、治しましょうか?」

 

 ポーションは使えば、何とか傷跡を消せないだろうか。

 

「いいよ、別にー。

 記念に残しとく」

 

「記念、ですか?」

 

「うん……クロダ君とは、これっきりにしときたいから」

 

「―――え?」

 

 完全に予想外の台詞を聞いて、私は思いっきりショックを受ける。

 

「…あ、あの、良くなかったですか、私は。

 ちょ、調子に乗り過ぎましたか?

 実は、痛かっただけですか?」

 

 震える声で彼女に尋ねた。

 エレナさんは笑いながら手をぱたぱたと横に振って、

 

「違う違う。

 凄く良かったよー?

 ……ただ、良すぎちゃってさ。

 何度もやったら、ド嵌まりしそうで」

 

 彼女は岩陰に隠れる二人の方を見る。

 

「ボクも、あの二人に想うところが無いわけでも無いしねー。

 二人を放って、君にばっかかまけてちゃ悪いから」

 

「な、なるほど…」

 

 3人の仲は、私が想像していた程深くは無かったが――私が思った以上に強くはあったらしい。

 

「それでは、仕方ないですね」

 

「うん、クロダ君とは、今日で終わり。

 ………ごめんね?」

 

「いえいえお気になさらず」

 

 元より、偶々袖が触れ合っただけの関係。

 これ位で終わった方が、エレナさんのためだろう。

 

 私は彼女の手を取って立ち上がらせる。

 

「ん……ありがと」

 

「どういたしまして」

 

 エレナさんからの軽い感謝に、こちらも軽く返す。

 そして私は彼女の後ろに回り込んで―――お尻を揉み始めた。

 

「あんっ………ってあれ?」

 

「どうしました?」

 

「どうしましたって……んぅっ……さっきの聞いてなかったの?

 ……はんっ……今日で終わりって、言ったでしょ!……やっ……」

 

「はい、聞きました、ですから――」

 

 お尻をさらに揉む。

 おっぱい同様、いや、それ以上の弾力。

 ブルブルっと揺らしても、まるで形が崩れないお尻。

 しかし、固いわけでは勿論ない。

 女性としての柔らかさを持ちながらも、ハリの良さを楽しませてくれるのだ。

 

「――『今は』楽しみましょう」

 

「……ほへ?」

 

 エレナさんが面白い声を出した。

 

「いや、あのさ。

『今』って言ったって、大体、キミさっき射精したばっかりで――」

 

 私はギンギンに勃起している男根を彼女の尻に擦り付けた。

 

「ひゃんっ!?

 う、うっそー……もう元気になってる?」

 

「元気になるも何も、私は一度だって萎えてはいませんが」

 

 一度射精をした程度で萎れるほど、私のイチモツは弱くない。

 

「ど、どういう体力してるのクロダ君…」

 

「体力でしたら少しは自信があります」

 

 まだ東京で会社勤めしていた頃、3徹で仕事をこなしたこともある。

 

「まあ、そんなわけでして」

 

 尻揉みを止めて、彼女の腰を掴む。

 そのまま立ちバックの体勢で、彼女の膣へ再び愚息を突き挿れた。

 

「んあぁぁあああっ!」

 

 前の行為から時間が経っていないからか、彼女の性器は愛液で濡れていた。

 そのため、スムーズに挿入が完了する。

 そして、ピストン運動。

 

「も、もうっ…んっ…あんっあんっあんっ…クロダ君ってば強引すぎ、あっあっあっあっ!」

 

 そうは言いつつ、エレナさんも十分感じているようだ。

 腰を掴んでいた手を胸に回し、再びおっぱいの感触を味わってみる。

 ……うん、何度揉んでもいいものだ。

 

「はぁんっ…またおっぱい、ダメっあぁあんっ!」

 

 おっぱいの弾力を楽しみながら、顔を彼女の耳元に近づけ、耳をぺろぺろ舐める。

 

「んんんんぅぅううっ! 耳、だめぇぇええっ!」

 

「ダメダメ尽くしですね、エレナさんは。

 どこならいいんですか?」

 

 舌・手・腰の動きを激しくして、彼女を責め立てていく。

 

「どこ、も……あぁんっ……だめぇええっ! ボク、感じすぎちゃってぇっ」

 

 舌を彼女の顔に向けて這わせていく。

 それを察して彼女も私に向かって顔を振り返らせてきた。

 ……そして、口付け。

 

「…んんんっ…ふぅっ…はぁあんっ…あむっ…んんぅっ…」

 

 私と舌を絡ませながら、断続的に喘ぐエレナさん。

 喘ぎ声と一緒に彼女の甘い息が顔にかかるのが、心地よい。

 

「…んぅっ…あぁんっ…あっ…れろっ…んぁあっ……あんっ!」

 

 私はキスと胸揉みを止め、手を彼女の脚の方へ回す。

 

「…あんっあんっんぅっ………んんっ?」

 

 疑問符を浮かべる彼女を無視して、彼女の膝の裏辺りを持ち、そのまま彼女を抱え上げた。

 そして手を左右に広げ、彼女の脚を開かせる。

 ――おしっこポーズと言って、伝わるだろうか。

 

「……んぁっ……なに、これ……あんっ!」

 

 今の私達を正面から見る人がいれば、彼女の性器に私の男根が出し入れされる様がよく分かるだろう。

 他人に痴態を見せるための体勢と呼んでもいい。

 

 その姿勢のまま、私は『あの二人』の方へ歩を進めた。

 

「あんっあぁんっはんっ……なぁにー?…んんぅっ…二人に見せつけちゃうの?…あぁああっ」

 

 からかうような口調でエレナさん。

 彼女はまだ、『あの二人がこちらの状況を把握していない』と思っているらしい。

 その誤解を解くため、私は口を開いた。

 

「エレナさんが水浴びに向かった後、ジャンさんから一つお願いをされたのですよ」

 

「……?……あっあっああん…何を?…んっ…」

 

「……<闇視>を、自分達にかけてくれないか、と」

 

「―――――え?」

 

 水をかけられたように、エレナさんの表情が変わった。

 

<闇視>の魔法は<夜目>の暗技と違い、使用者にしか効果がでないわけでは無い。

 他人を対象にすることもできる。

 

「その時は『松明の明かりだと暗くて周囲を警戒しにくいから』と言われたのですが……覗きのためだったようですね」

 

「――ちょ、待って――うそっ」

 

 そこで彼女は気づいたようだ。

 彼ら二人の視線が、真っ直ぐにこちらを向いていることを。

 本来であれば、この暗闇の中、どこに私達がいるかも分からないはずだというのに。

 

「だから信じられなかったんですよ、こんな状況になってまで、お二人が手を出さないことが。

 ……そういう趣向なんですかね?」

 

「―――やっやめ――んぁぁあああああ!!!?」

 

 腰を激しく動かし始める。

 その事実を告げてから、膣はギリギリと私の愚息を締め付け、愛液も溢れてきた。

 やめろと言いかけておきながら、彼女はこの状況に興奮しているようだ。

 男として、それに答えねばなるまい。

 

「んんぁっ! ち、違うっ! あぅっ! 違うのっ! ああぁっ! これはぁっ!」

 

「違う?

 何も違いませんよ。

 エレナさんは、ジャンさんとコナーさんに見られながら私にハメられている」

 

「ああんっ! そんなぁっ! あんっ! つもりじゃっ! はぁあんっ!」

 

「そんなつもりじゃなかった?

 私を散々誘っておいて、何を言ってるんですか」

 

 強く、強く、男性器を彼女に突き立てる。

 強い締め付けと激しいピストンによる刺激は、私の快感を見る見るうちに上げていった。

 

「ああぁあああっ!? んぅっ! あっあっあっあっあっ!!」

 

「何より、エレナさんが一番楽しんでいるでしょう。

 さっきから私をぐいぐいと締め付けて……痛いくらいですよ」

 

 そして、痛さをはるかに上回る気持ち良さを与えてくれている。

 彼女をさらなる快楽へ誘うため、私は二人の方へもっと近づいた。

 

「!!? んぁああっ! これ以上ダメっ! はぁあああんっ! これ以上はぁあっ!!」

 

「何を今更。

 ここまで来たんです。

 もう少し近寄ったところで何も変わりはしませんよ」

 

「あひぃいいっ!! あぅっあんっあんっあんっ! 見ないでっ! んんんぁああっ! 見ないでぇっ!」

 

 私はぐいっとエレナさんの股間を前に突きださせる。

 目の前にいる二人にもっと良く見せられるような姿勢に。

 

「あぁああああっ! ご、ごめっ…あうぅうっ! ごめんんっ! んぁああっ!」

 

「そんなこと言わずに、もっと見せつけてあげましょう」

 

 股間の締め付けは最高潮、愛液も流れ出て腰をふるごとにじゅぽじゅぽと音が鳴る。

 そろそろ、私も彼女も限界か。

 

「んぁあっあっあっあっあっ! ジャン君んんっ! あぁああんっ! コナー君んっ! あああぁああっ! ボクぅ、もうぅうううっ!!」

 

「ほら、イキなさい!

 二人の前で!

 二人に絶頂を見せつけるんです!」

 

「んひぃいいいいいっ! イクぅっ! イクぅっ! んぁぁあああああああああああっ!!!」

 

 ぷしゃぁあっと、エレナさんの股間から潮が吹き出た。

 同時に私も、彼女の中へ精液を注ぎ込む。

 

 まさか潮吹きまでするとは。

 余程、気持ちが良かったということなのだろう。

 私は彼女の膣からイチモツを引き抜く。

 

「んっ、おっ、お、おおぉおおおお……」

 

 彼女の膣から流し込んだザーメンがゴポゴポと流れ出てくる。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

 中空を見ながら、荒く息を吐くエレナさん。

 彼女は放心していた。

 完全に目の焦点が定まっていない。

 

 私は彼女をそっと下ろすと、岩の上に寝そべらせた。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

 全身から力が抜けている。

 ……これは、しばらく正気に戻りそうにない。

 このまま気が付くまで待っていてもいいが…

 

「いや、それは感傷というものか」

 

 彼女とはこれっきりと約束した。

 これ以上一緒に居ると、未練が強くなってしまう。

 後ろ髪引かれるが、このまま立ち去ることにしよう。

 

「それでは……さようなら、エレナさん」

 

 一応、最低限彼女の身体を布で拭いて綺麗にしてから、私はそっと呟いた。

 もうこれで二度とエレナさんに会うことは無いだろう。

 お互い同じ町に住む以上、顔を会わせることはあるかもしれないが――それは今日私が抱いた彼女ではないのだ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、『彼らにバレないよう』足早に、私はその場所を後にしたのだった。

 

 

 

 第二話 完

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 あれから3日後の夜。

 

 私はいつものように仕事を終わらせ、いつものように黒の焔亭で食事していた。

 

「はーい、B定食お待たせ♪」

 

「ありがとうございます」

 

 ウェイトレス姿のリアさんが、頼んでいた食事を運んでくれる。

 

「今日もゆっくりしていきなよ、クロダ」

 

「そうさせて貰います」

 

 定番の社交辞令を交わしてから、私は食事を頂く。

 

 ちなみに、今日のリアさんのパンツは薄い青。

 相変わらず、いい胸とお尻をしている。

 ローラさんの身体の柔らかさ、エレナさんの身体の弾力の良さ、どちらも素晴らしいものだが。

 身体のメリハリこそグラマー&トランジスタグラマーな二人に劣っているものの、リアさんの肢体は柔らかさと弾力を高いレベルで両立させている。

 その身体のメリハリにしても、形の美しさを論点にすれば、勝るとも劣らないモノを持つ。

 

 そんなことをリアさんを眺めて考えていると、横から声がかけられた。

 

「隣の席、いいかな?」

 

「ああ、どうぞ」

 

 反射的に返事をしてしまったが、今の声、聞き覚えがある。

 話しかけてきた人へ顔を向けると、

 

「……エレナさん?」

 

「うん。こんばんはだねー、クロダ君」

 

 あの日別れて以来会っていなかった(といっても数日程度しか経ってないが)、エレナさんがそこに居た。

 今日はクロークは付けておらず、ブラウスにミニスカートの軽装だ。

 まあ、探索中はともかく、日常着でマントなんて付ける人はいないか。

 

「これは奇遇ですね。

 3日ぶり位ですか」

 

「うん、そうだねー」

 

「迷宮探索は順調ですか?

 何か困りごとがあるなら、相談に乗りますよ。

 私ごときでどの程度お力になれるか、保証しかねますが」

 

「うん、大丈夫だよー」

 

 ……何だか、反応が凄く淡白なような。

 

「……えー、と……」

 

「………」

 

 話のとっかかりが作れず、二人に沈黙が訪れる。

 

「…………」

 

「…………」

 

 ど、どうしようこの空気。

 私が焦りを覚え始めたところで、エレナさんが口を開いた。

 

「で、それだけ?」

 

「それだけ、とは?」

 

 私の返答に、少し怒ったような表情になるエレナさん。

 

「……この前のことに何か申し開きはないのかな?」

 

「この前……あぁ!」

 

 そこで私は思い至る。

 

「すいませんでした、『嘘』をついてしまって」

 

「あの後、大変だったんだからね!

 ボクはてっきり『キミとのことが二人にバレた』と思ってたんだから!」

 

「いやー、はっはっはっは」

 

「笑って誤魔化さないでよー」

 

 そう、あの時ジャンさんとコナーさんには<闇視>などかかっていなかったのだ。

 あれは、ジャンさん達の視線がこちらへ向いたのを見計らって、私がついた嘘。

 一度こういうプレイをやってみたかったので、エレナさん達のことを知ってからやれるタイミングを伺っていたのである。

 

 本当のジャンさんからの頼まれごとは『今度一緒に飲みませんか』ということだった。

 その約束の通り、つい昨日、私はジャンさんとコナーさんとで卓を囲んだ。

 男だけの飲み会というのも、変に気を使わなくていいし、楽しいものである。

 夜遅くまで、お互いの身の上話や、よく使っている酒場の情報など、色々話し合った。

 ………その時に何も触れられなかったので、この前のことは特に問題になっていないと思っていたのだが。

 

「でも、まあ、気持ち良かったでしょう?」

 

 バレたと思った瞬間からの、エレナさんの感じ方は尋常じゃなかった。

 気を失う程の絶頂など、そうそうあるものではない。

 

「そりゃ、気持ち良かったよ?

 でもそれとこれとは話は別。

 話の食い違いにボクがすぐ気づいたから良かったものの……

 下手したらパーティー解散の危機だったんだよ?」

 

「それは……申し訳ありません」

 

 私が考えていた以上に危ないところだったようだ。

 これは反省せねば。

 

「反省してるならさー、言葉じゃなくて物でお詫びが欲しいんだよねー」

 

「そうですか……幾らほど包めばよろしいでしょうか」

 

 手持ちで足りる金額ならばいいのだが…

 財布を取り出そうとする私を制して、エレナさんが話を続ける。

 

「お金でもいいんだけど」

 

 エレナさんの手が私の股間に伸び、イチモツを掴む。

 

「ボクとしてはこっちのモノが欲しいなぁ?」

 

 彼女が、ゆっくりと私の男根を扱きだした。

 その刺激で、愚息は勃起を始める。

 

「………あの日で終わりにしたのでは?」

 

「終わりだよ、でもね…」

 

 エレナさんの扱きが止まり、代わりに彼女は両手で私の首に抱き付いてきた。

 耳元で、そっと囁く。

 

「あのさ、ボク、お酒に弱いの」

 

「……?」

 

「でも、ジャン君から聞いたんだけど、このお店ってお酒美味しいんでしょ。

 飲んでみたいなー。

 飲んだらすぐ酔っぱらって歩けなくなっちゃうんだけど、それでも飲んでみたいなー」

 

 そこで一旦言葉を止めてから、

 

「……誰か、酔っぱらっちゃったボクを介抱して、部屋まで送り届けてくれる人がいたらなー?」

 

 何かを期待している目で私を見つめる。

 

「そんなことしたら、色々とされてしまいますよ?」

 

「んんー、そうかも。

 だけど、酔っぱらっちゃってるから仕方ないよね?」

 

「仕方、無いですか」

 

「うん、仕方無い」

 

 ―――そのとき、私の頭にジャンさんとコナーさんの顔がよぎった。

 ダメだ、ここで流されては…!

 

「いえ、まだ何度も会っていない女性の部屋に、男が一人で入るわけにはいきませんよ」

 

「――え?」

 

 予想外の返答だったのか、一瞬彼女の顔が強張る。

 それに構わず私は続けて――

 

「ですから……私の家で介抱させて頂きます」

 

 手を彼女の太ももに伸ばし、すべすべの肌を触りながら、言った。

 私の家なら、ナニがあってもジャンさん達にバレる心配は無い。

 

 私の言いたいことを理解したエレナさんは、小悪魔のような笑顔を浮かべた。

 

「……んふふふ、やらしーんだー、クロダ君。

 じゃあ、最初はキミの家でいいよ」

 

「はい、しっかり面倒看ます」

 

「ありがと。

 …ボクの部屋に来るのは、もっと深い仲になってからってことで、ね―――チュッ」

 

 私の頬に軽くキスをしてから、エレナさんは離れた。

 

「それじゃ、再会を祝って、乾杯しようか。

 このお店で一番強いお酒、頼んでもらえるかな?」

 

 そして、エレナさんとの飲み会が始まった。

 この後のことは―――語るまでもない。

 

 

『エレナ・グランディが仲間(セックスフレンド)に加わった』

 

 

 ……なにか今、変なナレーションが頭に響いたような?

 

 

 後日談 完



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第三話 ある社畜冒険者の一日 再びアフターファイブ編
① 黒の焔亭で夕食を


 

 

 今日も今日とていつも通りに迷宮掃除の仕事をこなし、帰り道でいつも通りのお店で売買をし。

 そしていつも通り黒の焔亭へ食事に来た私である。

 

 ジャンさんに『掃除屋』と呼ばれていることを教えられてから、私は自分の仕事を掃除と表現することが多くなった。

 私は<次元迷宮>を『探索』などしていないし、『魔物退治』という言葉よりも『迷宮掃除』の方がしっくりくるからだ。

 人からの評価というのは、なるほど、言いえて妙である。

 

 閑話休題。

 

 黒の焔亭の入口の扉をくぐると、早速ウェイトレスさんが――リアさんが声をかけてくれた。

 

「ああ、いらっしゃい、クロダ。

 今、客少ないから好きなとこ座っといて」

 

「こんばんは。

 はい、そうさせて頂きます」

 

「ぐぇぇええええええ………」

 

 客入りがピークになる時間帯よりも早いせいだろう、リアさんの言う通り、店内は大分空いている。

 ウェイトレスの数とお客の数が大して変わらない位だ。

 

 私は目についたテーブル席に座った。

 席につくなり、リアさんが水の入ったコップを出してくれる。

 

 彼女の動きに合わせてサラサラと流れるセミショートの茶髪が、なんとも美しい。

 制服によって強調された、形の綺麗なおっぱいも最高だ。

 ミニスカートから伸びる素足は、男の目を惹きつけてやまない。

 

「はい、お水」

 

「ありがとうございます」

 

「ぐぇぇええええええ………」

 

 コップを受け取りつつ、軽くメニューを眺める。

 それと同時に、リアさんのスカートの中も<屈折視>で確認する。

 今日は、白のショーツ。

 清潔感のあるいい下着だ。

 ただ、少しサイズが小さいようで、お尻の割れ目に食い込み気味。

 リアさんの美しいお尻をより堪能できるので、見る分にはそちらの方が好都合なのだが。

 

 そんなことを私が思考していると、彼女が再び声をかけてくる。

 

「今日は、何にする?」

 

「そうですね。A定食でお願いします」

 

「オッケー♪」

 

「ぐぇぇええええええ………」

 

「…………」

 

 ………いい加減、スルーするのも辛くなってきた。

 正直余り触れたくは無いのだが、私はリアさんに尋ねる。

 

「あの、リアさん?」

 

「何?」

 

「そのですね、今手に持っていらっしゃるソレは…」

 

「ああ、コレ?」

 

 言いながらリアさんは、持っているソレを高く持ち上げた。

 

「ぐぇぇぇえええええええええ………」

 

『ソレ』が、さらに大きな呻き声を上げる。

 

「コレはねぇ、鏡を使ってあたしのスカートの中を覗こうとした、バカよ」

 

「ぐぇぇえええええええ………」

 

 リアさんに片手でネック・ハンギング・ツリーを極められているソレ……壮年の男性は、さらに苦しそうに呻く。

 顔色が青を通り越した、土気色になっている。

 かなりやばい。

 

「……余計なお世話であることは重々承知しているのですが、その人、そろそろ死んじゃいませんか…?」

 

「そうねー」

 

 私の進言に、少し悩む素振りを見せるリアさん。

 

「そろそろ、お放しになっては如何かと愚考いたします」

 

「――ま、いいか。

 このお店で死人が出るのも物騒だし」

 

 そう言って、掴んでいる人物を下に落した。

 ……死人が出る、というか、リアさんが犯人なわけですが。

 無論、私は死にたくないのでそれを突っ込む気はさらさらない。

 

「おうぅぇえ、ごほっ! ごほっ! ごほっ!」

 

 盛大に咳き込む男性。

 私はその人の背中をさすりながら、話しかける。

 

「だ、大丈夫ですか、セドリックさん」

 

「ごほっ! ごほっ! あ、ああ、クロダ君か……助かったよ」

 

 さっきまでリアさんに吊るされていたその男性は、セドリックさん―――ローラさんのお店の常連さんだった。

 何度もお会いしたことがある、顔馴染なおじさんだ(老人とは呼んで欲しくないそうだ)。

 

「セドリックさん……いい歳をして、何をしておられるのですか」

 

「止めてくれクロダ君。

 その言葉は私に効く」

 

 つい口に出てしまった言葉に、深く傷ついた様子のセドリックさん。

 ――自分も覗きをしていたことについては、横に置いておく。

 

「……お孫さんの誕生日、そろそろでしたよね」

 

「止めてくれクロダ君。

 ちょっと涙が出てきた」

 

 近々誕生パーティを開くそうで、私も誘われている。

 

「……別居していたご家族と久々に会えると、喜んでいたではないですか」

 

「よし分かったクロダ君。

 殺してくれ」

 

 奥さんには10年程前逃げられたらしい。

 ――そんな事情があって寂しいのは分かるが…

 

「どうでもいいけど、そろそろ金払って出て行ってくれない?

 他に客はいないけどさ、正直邪魔」

 

 私達の寸劇に、凍えつくような声色で口を挟むリアさん。

 制裁の対象に入っていない私でさえ、恐怖に慄いてしまう迫力がある。

 

「ち、血も涙も無い言葉だね、リアちゃん!?」

 

「文句あんの?」

 

「ははは、あるわけがないじゃないか。

 お金、ここに置いておくね」

 

「はーい、毎度」

 

 リアさんのマジな目に本気で怯えながら、セドリックさんは逃げるように帰り支度をする。

 

「それじゃあね、クロダ君。

 今度、落ち着いたところで一緒に飲もうじゃないか」

 

「お疲れ様でした、セドリックさん。

 そうですね、いつでも声をかけて下さい」

 

 私と挨拶を交わした後、彼は店を後にした。

 席に座りなおして、一息つく。

 そんな私に、リアさんが話しかけてきた。

 

「………あんたってさ、今の奴と言い、妙に色んな人と仲いいよね?」

 

「そうでしょうか?

 私は極々一般的な交友範囲しか持っていませんよ」

 

 リアさんが変な質問をしてきた。

 一所で長く暮らしていれば、それなりの人と交流を持つのは自然なことだと思う。

 

「この店の客とは大体顔見知りだし」

 

「それはまあ、常連ですから」

 

 黒の焔亭に関しては、リアさんが働きに来るよりも昔から通っているのだ。

 この店に通う人への顔の広さに関しては、まだリアさんより上だと自負している。

 

「店長もあんたにやたら馴れ馴れしいし」

 

「そこもまあ、常連ですから」

 

 店長――ゲルマンさんとはウィンガストに来た日からの付き合いになる。

 私にとって、この町で最も親しい人物と言ってもいい。

 

「――最近、可愛い子と一緒に食事してること、多いし」

 

「ああ、その人は………?」

 

 何だろう、この一言だけ、他とニュアンスが違うような?

 リアさんの目が、少し鋭くなった?

 気のせいだろうか。

 

「……その人は、何?」

 

「え、ああ、はい。

 その人はエレナさんと言って、最近お付き合いのある新人冒険者パーティーの一人なんですよ。

 冒険者をやっている期間が長いだけの私を不思議と慕ってくれて、色々話を聞いてくるのです」

 

「ふーん、そうなんだ。

 まああたしには関係ないけどさ。

 ……で、なんでそのエレナって子だけうちの店に来るの?

 他にも人いるんでしょ、そのパーティ」

 

 関係ないと言いつつ、興味ありげに尋ねてくるリアさん。

 

「エレナさんが<魔法使い>だからですよ。

 同じ<魔法使い>同士でアドバイスがしやすいというか」

 

「へー、そうなんだ。

 ……あんまり興味があるわけでも無いんだけど、そのエレナのパーティーって他はどういう人たちなの?

 全員女の子とかじゃ……」

 

 興味が無いと言いつつ、深く突っ込んで聞いてくるリアさん。

 そういえば以前、冒険者という職に興味があるというような発言をしていた。

 その時は店長によって有耶無耶にされたが、彼女の中にはまだ冒険者になりたい欲求があるのだろうか。

 

「エレナさんのパーティーで、女性はエレナさんだけですよ。

 他は幼馴染の男性で――」

 

「幼馴染の男?」

 

 リアさんが、私の言葉が終わるより先に反応を返す。

 

「幼馴染の男とパーティー組んでるわけね、その子は」

 

「え、ええ、そうです」

 

 彼女の勢いに少し押される私。

 どうしたというのだろうか。

 

「なんだなんだ、幼馴染同士のパーティーか、そうかそうか。

 うん、もうこの話はいいや」

 

 何やら、リアさんの中で決着がついた様子。

 私には何が何やら分からないが…

 

「納得頂けたようなら何よりです」

 

「うんうん。

 それじゃ、注文伝えてくるからちょっと待っててね」

 

 そう言うと、彼女は店の奥へ――店長がいる厨房へと歩いて行った。

 お尻をフリフリっと揺らしながら。

 ミニスカート姿でもその仕草は堪らないというのに、<屈折視>で中を覗いた日にはもう…!

 繰り返してしまうが、本当に良い形の尻をしている。

 セドリックさんが覗きたくなる気持ちも分かるというものだ。

 

 

 

 

 

 程無くして、

 

「お待たせー」

 

 リアさんが、頼んだ料理を運んできてくれた。

 

「おや、早いですね」

 

 彼女が厨房に向かってから、まだ然程時間は経っていないというのに。

 

「なんか店長、クロダが来店したのが分かった時点で料理作り出してたみたいよ。

 あんたの注文は大体予想がつくって。

 気持ち悪い位ツーカーよね、あんた達」

 

 「気持ち悪いたぁなんだ、気持ち悪いたぁ!

 男同士の熱い友情だっつぅの!」

 

 厨房の方から声が店長の声が響いた。

 リアさんの言葉は、店の奥まで届いていたらしい。

 

 熱い友情は否定しないが、実際のところ、私が毎日頼んでいるパターンを覚えているのだろう。

 

「うわぁ、聞こえてたんだ店長」

 

「今は客も少ないですからね。

 その分、声もよく響いたのでは?」

 

「あー、そうかもね。

 店長の悪口言うときは気を付けないと」

 

 ……悪口を言わない方向で気を付けられないものだろうか。

 まあ、私がとやかく言うことでも無いので、早速定食を頂くことにする。

 せっかく店長が気を利かせてくれたのだから、冷めない内に堪能しよう。

 

 

 

 

「あっるぇ、先輩じゃないっスか!

 チワーッス!」

 

 私が食事を味わっている(流石、美味い)ところへ、声をかけてくる男が居た。

 

「おや、柿村さん」

 

「ウッスウッス。

 お久しぶりッス」

 

 男は私の前に来ると、丁寧に頭を下げて挨拶してきた。

 彼の名前は、柿村浩太(かきむらこうた)

 歳は私よりも2つ下で、確か24歳だったはず。

 名前から分かる通り、私同様に現代社会から来た<訪問者>だ。

 やはり私同様に、冒険者をしている。

 言葉振りや外見はちょっと軽い感じだが、これでなかなか芯の通った好漢である。

 

「ええ、お久しぶりです。

 迷宮探索から戻られたのですね」

 

「いっやぁ、今回はチョッチ長く潜っちゃいまして。

 すぐ美味い飯食いたかったから、走ってここまで来たんスよぉ。

 ……あ、相席いいスか?」

 

 言うや否や、私が返事をする前に隣の席に座る柿村さん。

 私としても特に拒否する理由は無いが。

 

「それは大変でしたね。

 どうでした、探索の成果は?」

 

「へっへっへ、聞いて下さいよ先輩。

 自分、今回の探索でCランクに昇格したんス!」

 

 柿村さんはそう言いながら、冒険証をかざして自分のプロフィールを見せてくる。

 そこには、確かにCランク冒険者であることが表記されていた。

 

「おお、おめでとうございます。

 これでもう、冒険者としては一人前ですね」

 

「いやー、どうもどうも。

 これも先輩の指導のおかげッスよ」

 

「私は別に大したことをしていないじゃないですか。

 ランク昇格は柿村さんの努力の賜物です」

 

 柿村さんがウィンガストに来てから2週間ばかり世話をしただけだ。

 彼は未だに義理堅くそのことを感謝してくれる。

 

「いやいや、先輩あってこそ自分スよ。

 ……あ、先輩の方こそ最近どうッスか?

 迷宮、行ってます?」

 

「いつも通りですよ。

 初心者用区域で小銭を稼いでいます」

 

「うっはっ!

 まだあんなの続けられてるんスか!

 やっぱ先輩パネェッ!」

 

 彼が私へ尊敬のまなざしを向ける。

 Cランクへ昇格した彼に比べれば、全く持ってしょうもない冒険者生活を送っているのだが…

 こんな風に無条件で自分が持ちあげられると、むず痒さを感じてしまう。

 

「柿村さん、私をおだてても何も出てきませんよ?」

 

「何言ってんスか!

 先輩がやってることなんて、他の奴らじゃできないッしょ?」

 

「初心者用区域で魔物掃除をしているだけなんですが」

 

「先輩の場合はスピードがパナイんですよ。

 先輩が一日で回ってるルート、結構上の方のパーティーでも2、3日はかかるッスよ、回りきるのに」

 

「まあ、そうかもしれませんが…」

 

 それはあくまでも私が初心者用区域だけを延々と潜り続けて、探索の動きを最適化した結果である。

 他の冒険者も、私と同じようにやれば同じ結果が得られると思う。

 新しい場所を行く、新しい物を発見する、という冒険者の本懐から盛大に外れた行為なので、誰もやらないだけで。

 

 そんな風に談笑していると、リアさんが注文を取りに来た。

 

「いらっしゃーい。

 ご注文は何ですか?

 ………てなんだ、あんたか」

 

 後半、露骨に嫌な顔をするリアさん。

 

「おおっとー?

 マイエンジェル・リアちゃんじゃないッスか!

 今日もお美しいっ!」

 

 逆に、テンション上げ上げになる柿村さんである。

 

「はいはい。

 で、注文は?」

 

「C定食で!

 ……でもね、一番注文したいのは、リアちゃん、キミなんですよ?」

 

 言って、リアさんの腰に手を回そうとする柿村さん。

 彼女はその手をバキッと肘打ちで叩き落としてから、

 

「はい、C定食ね。

 ちょっと待ってて」

 

 すげなく、注文を店長へ伝えに行った。

 残された柿村さんは、殴られた(払われた、というほど可愛い代物ではなかった)手を摩りつつ、

 

「あいつつつ……相変わらずリアちゃん、激マブッスね!」

 

 文句を言うでもなく、彼女の後姿を目で追っている。

 

 ……あの手、赤く腫れ出してるけれど、折れてたりしないだろうか?

 

「柿村さん、今もリアさんにお熱なんですか」

 

「勿論じゃないッスか!

 あの美しい立ち姿に綺麗な声、可愛らしい笑顔、もう、最高ッスよぉ!」

 

 さっきのやり取りで、リアさんは一度も彼に笑顔を見せていなかったが。

 

 どうも柿村さん、リアさんに一目惚れしてしまったらしく、この店に来てはモーションをかけている。

 最初のうちは客だからということで丁寧にあしらっていたリアさんなのだが……

 最近は見ての通り、そっけない扱いだ。

 

「めげないですね、貴方も」

 

「当然ッスよ!

 別に拒否されたわけじゃないッスからね。

 押して押して押し切ってやるッス!」

 

 あの対応をされて『拒否されてない』と思っているのか…!

 しかし彼の真っ直ぐな瞳を見て、その想いを否定する気にはなれない。

 ――このポジティブシンキング、私も見習いたいものだ。

 

「そうだ、自分なんかのことより、先輩どうなんですか?

 上手く行ってます?」

 

「……上手く?」

 

 急に何のことだろう?

 

「とぼけっちゃって、もー!

 ローラさんですよ、ローラさん!」

 

「何故ここでローラさんの名前が?」

 

 柿村さんの話の展開についていけない。

 

「何故って……付き合ってるんでしょ、先輩とローラさん」

 

「………は?」

 

 何を勘違いしているのだろう。

 

「いえいえいえいえ、私と彼女はそういう関係ではありませんよ」

 

「そんなこと言っちゃってー。

 あんだけ親しくしてて、何も無いなんてこと無いでしょー?」

 

 柿村さんの勘違いは続く。

 

「本当に何も無いんです。

 余りそういう話をしないで下さい、変な噂が立ったらローラさんに迷惑がかかってしまいます」

 

「ローラさんに迷惑なんてぜっっったい無いッスよ!

 彼女こそ先輩にべた惚れしてるじゃないッスか!」

 

「またそういうことを…」

 

「本気で気づいてないんスか!?

 傍から見たらバレバレですよ?」

 

 自らのの見解を力強く述べる柿村さん。

 

 全く、的外れにも程がある。

 大体、相手が惚れてるだのなんだのは、男側からの一方的な思い込みなのだ。

 

「ローラさん、先輩からの一言を待ってるんですよ!

『自分と一緒になろう』って言葉を!」

 

「あんまり私をからかわないで下さい…」

 

 確かに私はローラさんをよく抱くが。

 それは彼女が『迫られたら断れない』性格だからだ。

 彼女からしてみたら私など、彼女の身体に群がる幾多の男の一人に過ぎない。

 

「………先輩、結構ガチに鈍いんすね…」

 

 そんな私の思いを知ってか知らずか、がっくりと肩を落とす柿村さん。

 まだまだ誤解をしているようなので、それを解くために私が口を開こうとしたところで、

 

「はい、お待たせ、C定食」

 

 リアさんが料理を運んできた。

 

「おお、早いっすね、リアちゃん。

 ……はっ、これはもしかしてリアちゃんの愛の力…!?」

 

「んなわけないでしょ。

 店長、あんたが店入ったらすぐ料理始めてたのよ。

 注文は大体予想できるって。

 なんかもう……気持ち悪いわ、あんたら」

 

 「気持ち悪いたぁなんだ、気持ち悪いたぁ!

 男同士の熱い友情だっつってんだろ!」

 

「おお、店長!

 久しぶりに来た自分のことをそこまで想っててくれたんスね!」

 

 奥から聞こえてくる店長の言葉に、感激している柿村さん。

 

 ……どこかで聞いたやり取りである。

 ひょっとして店長、常連の皆に同じこと言ってるのか?

 この男たらしさんめ。

 

「それじゃごゆっくりー」

 

 手をひらひらしながらその場から去ろうとするリアさんに、柿村さんが追いすがった。

 

「待った待ったリアちゃん。

 今自分ら以外に客いないじゃないッスか!

 ちょっとお話していきましょうよぉ!」

 

「はぁ?

 なんであたしがそんなことを…」

 

 必死な柿村さんに対して、リアさんは冷たい。

 

「せ、先輩、先輩、ヘルププリーズ!」

 

「……そうですね、私も偶にはゆっくりリアさんとお話ししてみたいです」

 

 柿村さんからの要請に、とりあえず私からもお願いしてみる。

 こんな言葉でリアさんの考えが変わるとは思えないが。

 すると、リアさんは深くため息をついて、

 

「はぁ……まあ、クロダがそういうなら」

 

 意外にも、柿村さんの提案に乗ってくれるらしい。

 言ってみるものだ。

 

 リアさんは私達のテーブルにある席に座った。

 

「……で。

 話するって言っても何を話すの?」

 

 いきなり絡みづらい台詞をぶっ放してくるリアさん。

 もう少し歩み寄りの姿勢は期待できないものか。

 

「そッスね、じゃあ自分が今からリアちゃんへの愛の言葉を――」

 

「さ、お仕事お仕事」

 

「待ってぇぇえええ!!

 じゃ、東京!

 東京の話しましょ!」

 

「トーキョー、かぁ。

 それなら、聞いてみてもいいかな」

 

 柿村さんの方へ向き直るリアさん。

 一応、彼女の興味を引くことには成功した模様。

 

「二人とも、そこに住んでたんでしょ?」

 

「そッスよ」

 

「鉄でできた馬……ジドウシャが走ってて、別の所の風景が映るテレビっていうのがあって」

 

「そッスね」

 

「魔物とか強盗とか居なくて治安は凄くいいんだよね。

 ユウエンチとかスイゾクカンとかドウブツエンとか、遊ぶところもいっぱいあって」

 

「…えっと、あ、ハイ…」

 

「すっごい高い建物も多いんだってね。

 最近じゃ、スカイツリーっていうのが一番高い建物なんだっけ?」

 

「……仰る通りで」

 

 おいおい、この人尽く話題を潰しにかかってきているぞ。

 

 ウィンガストの町には東京から来た<来訪者>がそれなりの人数いるので、この町の住人は結構東京について詳しかったりする。

 ファンタジー世界の住人と思って舐めてかかってはいけない。

 

「あの、逆にですね。

 リアさんが何か知りたいことは無いですか?」

 

 あんまりな流れに、助け舟(になるか分からないが)を出す私。

 

「知りたいことねぇ。

 ………そういや、あんた達って向こうでも知り合いだったんだっけ?」

 

「そ、そうッス!

 自分と先輩は学生時代からの仲で!」

 

 喋りやすい話題になって、俄然やる気が出る柿村さん。

 今彼らが言った通り、私と柿村さんは同じ高校の出身で、部活も同じだった。

 彼が私の事を『先輩』と呼ぶのは、これが理由である。

 

 高校を卒業してからも彼との付き合いは続いたのだが……まさか異世界に来てまで縁があるとは思わなかった。

 

「へー、どうだったの、学生の頃のクロダって」

 

「そりゃ先輩は学生の頃からパネェッスよ。

 喧嘩ふっかけてきた他の学校の奴らに自分らを率いて殴り込みかけに行ったり、女の子にセクハラする嫌味な教師をボコボコに追い詰めて辞めさせたり。

 他にも、近所迷惑な暴走族を鉄パイプで――」

 

「あの、柿村さん?」

 

 私の黒歴史を暴くのは止めてもらいたい。

 何か、他に無かったのだろうか、人様に教えても問題ないような話は…!

 

「……クロダ、前にあんた、自分がつまらない奴だって言ってた気がするけど」

 

 ジト目で私を見つめながら、リアさんが告げる。

 

「いや……ウィンガストでならともかく、東京ではこれ位日常茶飯事ですよ?」

 

「そうなんだ――あたし、トーキョーってもっと平和な町だと思ってたわ」

 

 私の(苦し紛れの)説明に、リアさんは納得してくれたようだ。

 

「ああ、勿論先輩の武勇伝は学生時代だけじゃ無いッスからね。

 何年か前にも、トラックに轢かれそうになった女性を助けたり――」

 

 ……………

 

「あー、柿村さん?

 さっきから私のことばかり話してますよ?」

 

 リアさんに自分をアピールしたいのではなかったのか。

 

「ああっ!?

 しまったつい先輩の話ばっかりを!

 チョッチ待ってリアちゃん、今から自分のスゲェ話を――」

 

 柿村さんが話題の修正を行おうとした矢先。

 

「おーいリア!

 話し込んでるとこ悪ぃけど、仕込み手伝ってくんねぇか!?」

 

「あ、はーい」

 

 店長からお呼びがかかり、あっさりリアさんは行ってしまった。

 

「………あぁぁぁぁ……」

 

 がっくり肩を落とす柿村さん。

 

「元気出して下さい、次がありますよ次が」

 

「……そッスよね!

 よっしゃ、戻ってきたら何の話題で…!」

 

 私の励ましであっさり回復する柿村さん。

 本当に彼のポジティブ思考は羨ましい。

 

 とはいえ、周りを見ると少しずつ客の入りが増え始めた様子。

 リアさんが戻ってきても、お喋りをする余裕は無いかもしれない。

 

 さて、私の方は食事も済ませたので、そろそろ帰る準備を―――と思ったが。

 

「あ、すいません、ちょっとお手洗い行ってきますね」

 

「ションベンッスか?

 どうぞどうぞ、行ってきて下さい」

 

 突然尿意が襲ってきたため、私は帰る前にトイレへ向かうことにした。

 

 

 

 第三話②へ続く



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②! お店の奥で※

「―――ん?」

 

 ささっとトイレを済ませて席に帰ろうとした私の耳に何かの音が、聞こえてきた。

 酒場の雑音にほぼかき消されているが、しかし私の直感がこの音を聞き逃すなと訴えてくる。

 

「――ならば」

 

 <感覚強化>を使用し、全神経を傾けてその『音』を拾う。

 すると―――

 

  「……んっ……あぁっ……あぅっ……」

 

 これは……喘ぎ声!

 間違いない。

 この声の感じを、私が聞き間違えるはずが無い!

 女性の喘ぎ声が、店の奥から聞こえてくる。

 まさかひょっとして……

 

「確認しなければ…!」

 

 下半身から湧いてきた使命感を胸に、私は声が聞こえた方へ向かう。

 念のため、音を立てないよう自分に<静寂>をかける。

 私の存在がバレて色々誤魔化されたらつまらない。

 ――いや、ナニが起きてるか分からないから、つまらないも何も無いけどもね。

 

 周りから見つからないように注意しながら店の奥へと進む私。

 

 「……はぁんっ……んんぅっ……ん、くぅっ……」

 

 声がだんだんと大きくなる。

 どうやら、向こうの扉の先――確か更衣室だ――から聞こえてくるようだ。

 

 細心の注意を払って扉の前に来ると、ゆっくりと静かに扉を開ける。

 中に居る人に気付かれぬよう、開けるのは少しだけ。

 

 その開けた僅かな隙間から、<屈折視>を駆使して中を覗き込んだ。

 そこには―――

 

 

 

「んっ…あんっ…あっ…はぁっ…くぅうっ…」

 

 制服を肌蹴て綺麗なおっぱいを露出させ、悶えるリアさんの姿があった。

 

 

 

「へへ、大分感じるようになったじゃねぇか、なぁ?」

 

 ……そして、そんなリアさんに後ろから抱き付き、彼女の胸をごつい手で揉む、店長の姿も。

 

 

「………!」

 

 思わず声を上げようとする私だが、<静寂>のおかげで事なきを得る。

 一体二人は何を…!?

 

「ん、くっ……こんなことして……んんっ……ただで済むと……あんっ」

 

「あぁ? こんなに乳首ビンビンにおっ立てておいて、何言ってんやがんだ」

 

 店長は胸を揉んでいた手をリアさんの乳首へ――綺麗な桜色をした乳首へと移し、そこを弄り始める。

 

「んぁぁああ、あぅ…くぅっ……」

 

「いい反応だぜぇ、リア。

 お前もようやく男の悦ばせ方ってやつが分かってきたか」

 

「な、何勝手なこと言って……はぅっ…」

 

 片方の手で乳首を弄り、もう片方でおっぱいを揉みしだく店長。

 

「あああっ…んぁあああっ…はぁあああんっ」

 

 嬌声を上げるリアさん。

 店長はなおも彼女の胸を責め続ける。

 

「へへ、いい声で鳴きやがって…」

 

「んぅうっ…あぁあんっ……だ、誰のせいよっ……あ、んっ」

 

「俺のせいだよ、何か悪ぃか?」

 

 言いながら店長は、おっぱいを揉んでいた手を離し、リアさんのスカートの中へ突っ込んだ。

 

「あぁぁあああああっ!」

 

 彼に股間を弄られているのだろう、リアさんの喘ぎが激しくなる。

 

「おおう、何だこりゃ。

 リアお前もう、まんこがべちゃべちゃじゃねぇか。

 節操のねぇ女だなぁ」

 

「ん、くぅううううっ……好き、放題、言ってぇ…!」

 

 くちゅくちゅとわざとらしく音を立てながらスカートの中に入れた手を動かす店長。

 

「本当のことじゃねぇか。

 もう下は洪水だぜぇ?」

 

「ふ、んんぅうううっ……後で、絶対……あぁぁあああっ……ボコボコにしてやるから……はぁぁぁあああんっ」

 

 店長の顔がリアさんの顔に近づいた。

 

「へぇ、ボコボコにする、ねぇ……

 いいぜぇ、後でいくらでも俺を殴ればいいさ。

 その代わり……今は楽しんじまえよ」

 

 店長は舌でリアさんの耳を舐めまわした。

 

「ふぁぁああああああああっ!?」

 

 その刺激に堪えられなかったのか、リアさんが再び大きな嬌声を上げた。

 

「いいぞいいぞぉ……もっと気持ち良くなっちまえ……んむっ」

 

「んぁ、あああああああっ……あぁあああああっ…耳、止めな、さい、よぉ、んぅううっ」

 

「……なんだ、ここはそんなにダメかぁ?

 それならよぉ…」

 

 舌を耳から離した店長は、顔を彼女の正面に移し、そのまま口付けした。

 

「…ん!? ……んむぅっ……んんっ…や、やめ……んーっ……」

 

 ぺちゃぺちゃと音を鳴らしながら、二人の口付けは続く。

 

「……んんんぅっ……んぁっ……れろっ……んむっ……れろっ……」

 

 しばらくの後、店長はようやく彼女の口を開放した。

 それと同時に手も彼女から離し、一歩下がって距離を置く。

 

「おら、壁に手ぇついて、尻をこっちに突きだしな」

 

「………くっ」

 

 悔しそうに顔を歪めながらも、店長の指示通り、おずおずと前屈みになって尻を差し出すリアさん。

 スカートから純白のパンツと、それに包まれるお尻がはみ出している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「へへ、文句言いながらも、俺の言うことには逆らえねぇってか?」

 

 店長がスカートを捲った。

 リアさんの綺麗なお尻が露わになる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「おうおう、こいつはひでぇ。

 バケツの水でも被ったみてぇにびっちょびちょじゃねぇかよ、お前のパンツ」

 

「……何、文句でもあんの…!」

 

「別に何も?

 ただ、これを履いたまま仕事すんのは大変だなぁと思っただけよ」

 

 言いながら、パンツを下ろす。

 これで彼女の下半身を覆う物が全て無くなった。

 

「いいなぁ……相変わらずいいまんこだぁ」

 

 リアさんの女性器をじろじろと眺めながら、店長。

 そして、くんくんと匂いも嗅ぐ。

 

「へへへ、雌の匂いがぷんぷんするぜ。

 欲しくて欲しくてたまんねぇんだろぉ?」

 

「………下品な奴…!」

 

「その下品な奴に散々身体弄られてヨガってたのはどこのどいつだぁ、あぁ?」

 

 そういうと店長は顔をリアさんの股に近づける。

 そして、彼女の陰部を、陰核を、舐めまわした。

 

「あぁぁぁあああああああっ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 チュパチュパという音がこちらまで聞こえてくる。

 激しく、執拗に、店長の舌は彼女を責め立てた。

 

「んぅううううっ! あぅうううううっ!」

 

 リアさんにはもう、憎まれ口をたたく余裕も無いようだ。

 

「はぁぁあああああんっ! あん、あぁぁぁあああああっ!」

 

 店長の舌が鳴らす音が、大きくなっていく。

 さらに強く責めているということか。

 

「んぁぁあっ! あぅっあぅっあぅっあぅっ!」

 

 リアさんの喘ぎも、叫び声かと思う程に高まっていく。

 快感が全身に渡っているのか、彼女の身体がガクガクと揺れ始めた。

 

「んんぅぅうっ! ダメっ…あっあっあっあっあっ! もうダメっ……あぅっ! あたしイクっ!」

 

 リアさんが根を上げる。

 それは店長への敗北宣言に等しい。

 

「くぅうううっ! イクっ! んんぅっ! イクっ! あぁぁああああっ! イ――――」

 

 そこで、店長が止まった。

 

「……く、ん……?」

 

 絶頂に到達する直前で止められたリアさんは、何事かと店長を振り返る。

 彼は、いやらしい笑みを浮かべながら、

 

「今回はここまでだ」

 

「………え?」

 

 リアさんが、茫然とした声を出す。

 

「なんだぁ? 問題でもあんのか?」

 

「……だ、だってあたし、イって…」

 

「おいおい、なんだよスケベな女だなぁ、イカせて欲しかったかぁ?」

 

「そ、そんなこと言ってないでしょ!?」

 

「だったら問題ねぇよなぁ?」

 

 店長の言葉に言い返せず、リアさんは下を向く。

 

「じゃ、仕事に戻ってくれや。

 客も増えてきただろうからな」

 

「は? こ、こんなので仕事なんてできるわけ――」

 

 今のリアさん、顔は上気して仄かに赤く染まり、激しい責めによって身体はうっすら汗をかき、そして何より股間からは愛液が垂れている。

 ……人前に出たい、と思える状態ではないだろう。

 

「そんなだからいいんじゃねぇか」

 

 おもむろに店長はリアさんの尻を揉んだ。

 

「んぁぁああっ……な、何すんのよっ!」

 

 尻を触られただけでリアさんの口から嬌声が漏れる。

 気丈に振る舞っている物の、彼女の昂りは相当のようだ。

 

「お前の接客には色気がねぇんだよ。

 身体はこんなにエロいってのになぁ。

 ……へへ、雌になった今のお前なら、男共もさぞかし喜ぶだろうぜ」

 

「――あ、あんたっ!」

 

「ほらほら、もたもたしてんじゃねぇよ!

 客は待ってくれねぇぜ!」

 

 店長は自分で脱がしたパンツを、もう一度リアさんに履かせる。

 自らの愛液によってびしょびしょに濡れているパンツを。

 

「…ああぅうっ……せ、せめて下着は変えさせて…」

 

「ダメだね。

 そのまま仕事しな」

 

 リアさんの懇願をあっさり切って捨てる店長。

 

「じゃ、俺は厨房に戻るぜ。

 さっさとホールに出ろよ!」

 

 ……む、店長が部屋を出そうだ。

 私は彼らがこちらを振り返る前に扉をそっと閉める。

 そして、来るとき同様、音もなくその場を去るのだった。

 

 

 

 

「遅かったッスね、先輩。

 ションベンじゃなくて、大の方っスか?」

 

 戻った私を出迎えたのは、いきなりの下トークであった。

 同じ下半身でも、先程のアレとは偉い差である。

 

「いやぁ、なかなかしぶといヤツでして」

 

「お、分かります分かります。

 キツイッスよね、そういうのが出てくると」

 

 苦笑いしながら返答。

 ……食事のお店でする話題としては不適切だったか。

 

「お、ちょうどリアちゃんも戻ってきたみたいッスよ」

 

 言われてそちらを振り返れば、確かにリアさんの姿。

 店長の命令通り、すぐにこちらへ向かったようだ。

 

「あー、うー、でもチョッチ声かけにくいっスね…」

 

「……そうですね」

 

 私がトイレに行く前と異なり、お店には客が多く入っている。

 リアさん意外にも数人ウェイトレスはいるが、皆さんかなり忙しく動き回っていた。

 とてもではないが、私達との雑談をお願いできる状況では無い。

 

「……で、でも、何か、アレッスね。

 リアちゃん、妙に色っぽくないスか?」

 

 リアさんの姿をじっと見ていた柿村さんが呟く。

 

 彼の指摘の通り、今のリアさんはかなり色っぽい雰囲気を纏っている。

 顔はまだ上気しており、瞳は潤んで、やや視線が定まらない。

 制服の一部が汗で彼女の身体に張り付き、一層その肢体を強調している。

 脚を内股気味にして歩き、足取りも覚束ない。

 彼女の全身が、そんな淫猥さと危うさ――店長の言葉を借りれば、雌としての色気に満ちていた。

 

 周囲を見渡せば、彼女の姿に見惚れているような男性客がちらほらと居る。

 

「う、うぉぉお、すげぇエッチだ……

 どうしちゃったんスか、彼女は……」

 

「……体調を崩されているのではないでしょうか」

 

「お、おお! その考えは無かったッス。

 さっすが先輩、気配りのできる男ッスね!」

 

 なんとなく呟いた出まかせを信じる柿村さん。

 彼は少々私の言葉を信頼しすぎではなかろうか。

 

 しかし、今は興奮冷めやらぬといった状態のリアさんだが、時間が経てばその内治まってくるだろう。

 つまりこの淫らな姿を見られるのはそう長くないということ。

 しっかり目に焼き付けておかねば。

 柿村さんの話に適当に相槌を打ちながら、横目でリアさんの姿を凝視する。

 

 そうこうしている内に、リアさんが私達のテーブルの近くを通りがかった。

 

「あ、すいません、リアさん。

 食べ終わった食器を片付けて頂けますか?」

 

 私は彼女を呼び止める。

 実際、そろそろ帰ろうと思っていたので、不自然な呼びかけではない。

 

「………へ?

 あ、うん……分かった」

 

 言葉にいつものキレが無いリアさん。

 上の空といった様子で、少しもたつきながらも、食器を片付け始める。

 

 ―――この瞬間を待っていた!

 

 リアさんは今、すぐ触れられる程近くに居る。

 私の食器を片付けているのだから当然だが。

 そしてこの距離ならば、あのスキルが使用できる…!

 

 そう、<念動>である。

 

 <念動>の発動条件は2つ。

 1.対象が自分の周囲数十cm以内に在ること。

 2.対象を自分が知覚できていること。

 

 1つ目は前述の通り何の問題も無い。

 2つ目は少し厳しいが、<屈折視>の活用と、リアさんのパンツが濡れて股間に張り付いていることによって、達成できた。

 

 ―――即ち、<念動>によるクリトリスへの直接刺激である。

 <念動>を使えば、本人に一切触らず、周囲に気付かれることも無く、女性を責め立てることができるのだ。

 このスキルの効果は自分の腕力と同程度という制限も、この使用方法においては何の問題にもならない。

 

 私は全身全霊を持って<念動>を制御し、彼女の陰核を抓り上げた!

 

「―――――あ」

 

 リアさんの動きが止まる。

 

「…あふっ!?…ふっ!!?…んんっ!!?…んぐっ!!!」

 

 一瞬間を置いた後に、絶頂の快楽からか痙攣しだすリアさん。

 咄嗟に手を口に当て、声を出すことだけは防いだ様子。

 

「どうしましたリアさん!?」

 

「――!? くっ!」

 

 リアさんの身体を支えようと私は手を伸ばすが、それは振り払われる。

 彼女は私の食器を引っ手繰るように取ると、足早に店の奥へと去っていった。

 

「………ど、どうしちゃったんスかね、リアちゃん!?

 フツーじゃない反応でしたよ、今!」

 

「分かりません。

 ………本当に、体調を崩しているのかも」

 

 そんな彼女の反応を見て柿村さんは動揺を隠せないようだ。

 ただ、私の方も悠長に彼と付き合っているわけにもいかない。

 

「――と、すみません。

 こんな時で恐縮ですが、私はそろそろ帰らないと」

 

「おっ、もうそんな時間ッスか?」

 

「はい……もし彼女に何があったのか分かったら、後で教えて頂いても?」

 

「オッケーッス。

 リアちゃんは、この自分に任せておいて下さい!」

 

 私は手近に居た他のウェイトレスさんに食事の代金を渡して、店を出ることにした。

 ――まあ、ナニが起きているかはしっかり把握しているわけではあるのだが。

 

「さてと」

 

 黒の焔亭を出た私は、怪しまれないように気を配りながら店の玄関とは反対側へ回る。

 目的は、店の裏口。

 

 <静寂>を駆使して誰にも気づかれずそこへ到着した私は、裏口の扉を開けようとするが……

 

「……鍵がかかっているか」

 

 しかしそんなことは想定済み。

 <屈折視><闇視>を使って鍵穴を覗き、その構造を把握。

 しかる後に――<念動>。

 カチャリと音を立て、鍵は開いた。

 

「…他愛も無い」

 

 悦に浸ってみる。

 やってることは犯罪以外の何物でもないけれども。

 

 静かに仲へ入り込み、内側から改めて裏口の鍵を閉める。

 そして<感覚強化>を使用し、周囲の音を掻き集める。

 

  「……んっ……あっ……んんっ……」

 

 聞こえる……リアさんの喘ぎ声だ!

 場所は、先程と同じ更衣室か。

 

 比喩抜きに音も無くそちらへ移動する。

 

 「……あんっ……くぅっ……んぁっ……」

 

 喘ぎ声がより鮮明に聞こえてくる。

 場所は間違いないようだ。

 

 更衣室の扉を開けようとするも、再び鍵。

 

「……無駄なことを」

 

 裏口の時と同様の手順で更衣室の鍵も開ける。

 当然これも犯罪です、良い子は真似しないように。

 

 素早く扉を開け、中に滑り込む。

 

「……あっ……あぁっ……あんっ……んんっ……」

 

 部屋の中では、リアさんがオナニーの真っ最中だった。

 店長との行為中と同様、制服を肌蹴け、おっぱいを曝け出している。

 スカートも捲り上げており、パンツ丸出しだ。

 彼女は片方の手で乳首を弄り、そしてもう片方は下着の中へ入れて、股間を擦っていた。

 

「…は、んっ……あぅっ……あぁっ……んっ―――え?」

 

 ここで、彼女が私に気付いた。

 

「………え?……え?

 ちょ、ちょっと、何であんたここに居るのよ…?」

 

「いえ、リアさんの様子がおかしかったので、何かあったのかと見に来たのです」

 

 混乱するリアさんの言葉に返事をしながら、私は更衣室の鍵を閉めた。

 

「……なんで鍵閉めたの…?」

 

「今のリアさん、他の人に見られると不都合でしょう?」

 

 リアさんの方へ近づいていく。

 

「……な、何するつもりよ」

 

 今更ながら露出した胸を両手で隠し、私を警戒するリアさん。

 

「大分苦し気でしたので、私も鎮めるお手伝いをしようかと」

 

「……べ、別にそんなのいいから、出ていっ――――んんっ!?」

 

 彼女を無理やり抱き寄せ、キスをする。

 出て行ってと言われて出ていけるのならば、そもそもこんな所に来ていない。

 散々リアさんの痴態を見せられ、私の方も昂っているのだ。

 

「……んんっ……んむっ……んんんっ……んんーっ……」

 

 私の身体を押しのけようとするのを無理やり抑え込みながら、口付けを続ける。

 そして、両手で彼女の身体を味わっていく。

 今までの覗きで想像していた通り、彼女の肢体は素晴らしかった。

 

 胸は程よい大きさで美しい半球を描いており、弾力・柔らかさ共に申し分ない。

 巨乳と呼ぶには小ぶりであるものの、触り心地の良さは筆舌に尽くしがたい。

 乳輪の色合いも鮮やかな桜色で、鑑賞するだけでも価値がある。

 お尻にも同じことが言えた。

 決して大きいわけでは無いが、揉んだ時の柔らかさ・ハリの良さが堪らない。

 

 贅肉が全くと言っていい程存在しない、引き締まった身体をしていながら、この柔らかさは何事か。

 奇跡的なバランスで成り立った肢体と言える。

 

「……んぅっ……あんっ……れろっ……はむっ……」

 

 キスと愛撫を続けるうちに、リアさんの声にも熱が帯びてくる。

 最初は私の舌を拒んでいた唇が開き、互いの舌が絡まっていく。

 

「……あ、ふっ……れろっ……んむぅっ……はぁ、んっ……」

 

 私を拒否していた力が完全になくなる。

 リアさんの方からも舌を絡ませてくるようになり、身体は私の為すがままだ。

 

 この程度の責めでこうも従順になるとは、大した淫乱っぷりである。

 店長の手腕のなせる業か。

 

 彼女の口を離し、私は告げた。

 

「壁に手をついて、尻をこちらへ突きだして下さい」

 

「………!」

 

 店長が言ったのと同じ言葉。

 それに何かを感じったのか、リアさんの身体が硬直した。

 

「……み、見てたの?」

 

 先程の、店長とのやり取りについて聞いているのか。

 すっとぼけてもいいが、ここは素直に答えよう。

 

「ええ、拝見させて頂きました。

 ――とても気持ち良さそうでしたね?」

 

「………この、変態…!」

 

 悪態をつきながらも、しかし身体は私の言う通りに動かすリアさん。

 おずおずと私へ向けて尻を差し出してくる。

 私が覗いたのと、同じ姿勢。

 

 早速、スカートを捲る。

 先程見た以上に、パンツは愛液で濡れ濡れだった。

 下着で押し留められなかった愛液が、幾筋か太ももにまで垂れている。

 濡れたパンツはリアさんの股間にピッチリと張り付いて、下着越しでも性器や陰核の形が分かる程だ。

 

「………雌の匂い」

 

 思わず呟く。

 男を惹きつけてやまない香りが、彼女のそこから湧き出てくる。

 

「変なこと言わないでよ!」

 

「褒めているんですよ、リアさん」

 

 彼女は私を睨み付けるが、私はそれに意を介さない。

 

 何もせずにここまで男を誘える雌もそうはいないだろう。

 最早言葉に力を入れられない彼女を、私は素直に称賛した。

 

 そして、パンツをずり下ろす。

 現れる、彼女の女性器。

 

 こちらも綺麗なピンク色をしている。

 早く男が欲しいと訴えるかのように、ひくついていた。

 

「………では」

 

 私は自分のイチモツを取り出す。

 当たり前だが、もう十二分に勃起していた。

 

 後背位の姿勢をとって、私はソレを彼女の性器へと――

 

「……ま、待ってよクロダ!

 あたし、まだ……んひぃいいいいいいいっ!!」

 

 リアさんの言葉が途中だったが、待つことなどできるはずが無かった。

 一気に彼女の膣を貫く。

 

「………おや?」

 

 違和感があった。

 男根を挿れた際に、何かを破るような感触が。

 

「まさか」

 

 私と彼女の結合部を確認すると、そこからは血が流れ出ている。

 

「リアさん、処女だったのですか」

 

 店長からあれだけのことをされていたのだ、とうに経験済みだと思っていた。

 いや、あんな光景を見せられて、処女だったなどと誰が予想できるものか。

 

「んっ、んぉおっ…だ、だから待ってって…あ、ぐっ…言った、のにぃっ!」

 

「これは、申し訳ありません」

 

 想定外の出来事に、思わず謝罪してしまう。

 ……だが、ここからの展開は、私をさらに驚かせた。

 

「……ん、くぅっ……謝ればいいってもんじゃ……はぁっんっ……無いでしょっ!……あぁあんっ……」

 

「………!?」

 

 口で私をなじりながら、リアさんは自分から腰を動かし始めたのだ。

 たった今処女を失くしたはずの、彼女が。

 普通、処女膜が破られればその痛みでセックスどころではなくなるというのに。

 

「んぁあああっ…店長も、あんたもっ…あ、ぁぁぁあああっ…最低よっ……んんんんんっ……」

 

 なおも腰を動かし続ける彼女。

 女性器からは、血と愛液が混じった液体が流れ落ちる。

 初めて男を受け入れたはずの膣は、私から精液を絞りたくて仕方がないというようにイチモツを締め上げる。

 ただ力任せの締め付けではない、私が欲しいと思った箇所を的確に刺激してくれる。

 ―――名器。それも極上の名器だ。

 

「はぁぁあああんっ…あぁああああっ…んんんぅうううっ」

 

 次第に私への罵りは影を潜め、ただただ嬌声を上げるだけになる。

 

 ――店長の調教によるもの、だけではないだろう。

 元々、彼女には才能があったのだ。

 男を悦ばせる、雌としての才能が。

 

「………さて」

 

 いつまでも呆けている場合ではない。

 女性にリードを任せっぱなしでは男が廃る。

 私は彼女の腰の動きに合わせ、腰を打ち付けた。

 

「んぉおおおおっ!? ちょっ! 激しっ! いいぃいいいっ!?」

 

 リアさんの喘ぎが一際大きくなった。

 同時に、私の男根を刺激する膣の動きも激しくなる。

 

「お、おぉおおっ!…んあっあぁっああっあっ!…んくっあんっあぅっあぁあっ!」

 

 強くイチモツを叩き込めば叩き込むほど、彼女の膣は私に快楽を提供してくれた。

 彼女の中のうねりは、私を射精の高みへと連れていこうとする。

 

「あひぃいいっ! あぅっあんんんっ! んぅううううっ!」

 

 リアさんもまた、私の動きに合わせて腰を動かす。

 もっと快楽を貪りたいという、彼女の想いが伝わってくるようだ。

 

 私は彼女に覆いかぶさり、おっぱいを揉んだ。

 手から感じる彼女の柔らかさと弾力が、さらに私を興奮させる。

 

「は、ひぃ、んぁああああっ! ああっあっあんっあぅっあああぁあっ!」

 

 そろそろ、彼女も私も限界が近い。

 ラストスパートのピストン運動…!

 

「あぁあっあっあっあっあっ! も、ダメっ! イクっ! んあっあっあぅっあぅっあっ!!」

 

「いいですよ、思いっきり、イキなさい!」

 

「イッく、んぅうっ! ああああぁあああぁああああああっ!!」

 

「……くぅっ!」

 

 リアさんの身体が弓なりにのけ反った。

 同時に私も彼女の中へ精を吐き出す。

 

「あっあっあっ、あああっ、あぁああっ……ん、ふぅっ……はぁあああぁあ……」

 

 何度かガクガクと震えるリアさんの身体。

 盛大に絶頂したようだ。

 

「はぁあああああああっ……あ、あぁあああああ……」

 

 絶頂の後も、リアさんは余韻を味わうように腰をくねらせる。

 その動きに合わせて、彼女の膣は私のイチモツを絞り、最後の一滴まで精液を奪っていった。

 これはまた……気持ちいい。

 

「ああぁああ……はぁああんっ………はっ……はっ……はっ……はっ……」

 

 ひとしきり私の男根を味わうと、彼女はぐったりとして、荒く息をつき始めた。

 

「……良かったですよ、リアさん。

 初めてとはとても思えませんでした」

 

 リアさんの頭を撫でながら、私はそう告げる。

 しかしその直後、まだ私は彼女を甘く見ていたことに気付かされた。

 

「……はっ……はっ……んっ…あっ…はぁんっ…あぁあっ…」

 

 リアさんが、また腰を振り出したのだ。

 当然、彼女の膣も再び動き、私を締め付けてくる。

 

「………ははは」

 

 思わず苦笑いしてしまった。

 一度絶頂した程度では満足できないらしい。

 ついさっき処女を失った生娘だというのに。

 

「いいでしょう」

 

 とはいえ、それは私も望むところ。

 こちらも負けじとピストン運動を始める。

 

「んんぅうううっ! ああぅううっ! んぁあああっ!」

 

 嬌声がまた響く。

 彼女が求めるのならば、何度だって応える覚悟である。

 

 

 

 

 

 それから幾ばくかの時間が過ぎ―――

 

「……ふぅ。

 良かったですよ、リアさん」

 

 額に流れる汗を拭きながら、私は目の前に横たわるリアさんに声をかけた。

 

「………お、おおっ……あひっ……んお、おっ……んっんぅっ……おっ……」

 

 私の精液にまみれた彼女は、意味のない呻き声を上げながら、びくびくと痙攣を繰り返していた。

 私の声など、届いてはいないだろう。

 

「…しかし、どうしましょうかね、これは」

 

 更衣室は、私とリアさんの体液でかなり汚れている。

 店長になんと言い訳すれば…

 

「どうしようもクソもねぇだろうが、この馬鹿」

 

「うおわっ!?」

 

 いきなり後ろから声をかけられる。

 急いで振り向くと―――何時からそこにいたのか、店長が立っていた。

 

「て、店長、何故こんなところに!?

 お店はどうしたんですか!?」

 

「あんだけアンアンアンアン喚いてりゃ嫌でも気づくわ!

 あと店はとっくに閉店だっつうの!

 …ったく、何時間ヤリ続けりゃ気が済むんだおめぇは!」

 

 そんなに時間が経っていたのか。

 一度セックスを始めると時を忘れてしまう、私の悪癖が発動してしまったらしい。

 

「あーあ、ひでぇもんだなこりゃ」

 

 店長は、リアさんの方に近づいた。

 

「……あふっ……おぉおっ……んひっ……ふひっ……」

 

「………こいつ、もうコワレちまったんじゃねぇか?」

 

 リアさんの様子を眺めながら、店長。

 彼女は変わらず、痙攣を続けている。

 

「大丈夫、リアさんは強い人です。

 この程度でへこたれるようなことはありませんよ」

 

 たぶん。

 

「……だと良いがな。

 おうおう、大事に取っといた処女もきっちり破られちまってまぁ…」

 

 リアさんの股を開き、彼女の性器を確認しながら店長は言った。

 その言葉に私は、先程から抱いていた疑問をぶつけてみる。

 

「そういえば、何故店長はリアさんの処女を奪わなかったんですか?

 別に抵抗したわけでは無いでしょう、彼女」

 

「いやなに、カキムラにくれてやろうと思っててな」

 

「…柿村さんに、ですか?」

 

 意外な答えが返ってきた。

 

「カキムラの奴、結構いい男だっつぅのに、どうも女運が無ぇじゃねぇか。

 そこでまぁ、リアをしっかり仕込んで宛がってやるつもりだったのよ。

 カキムラも、リアには満更じゃねぇ感じだったしな」

 

「なるほど、そういうことでしたか。

 ……彼には、悪いことをしましたね」

 

「全くだぜ。

 今度、一杯奢ってやんな」

 

「そうします」

 

 疑問は解消された。

 あとは……

 

「この部屋の掃除ですね」

 

「今日の内にしっかり綺麗にしろよ。

 このままじゃ更衣室が使えねぇからな」

 

 ん、ということは?

 

「―――ここを使ってた他のウェイトレスさん達はどうしたんですか?」

 

「上手いこと言って今日はそのまま帰したよ!

 感謝しろよてめぇ」

 

 店長が気を利かせてくれたらしい。

 その優しさが、何とも嬉しい。

 

「じゃ、俺は店の片付けしてくるからな。

 終わったら呼べよ」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

「あー、しっかし、これでリアもお前の餌食になっちまったかー」

 

「餌食だなんてそんな、人聞きの悪い」

 

 掃除も終わり、今は店のカウンターで一息ついているところだ。

 客は当然だれもおらず、店長と二人で酒を飲んでいる。

 

「なぁにが『人聞きが悪い』だ。

 他に言いようなんざねぇだろうが」

 

「……手を出したのは、店長が先でしょう?」

 

「ほぅ、吠えやがるな。

 流石、うちのウェイトレスをみんな喰っちまった男は言うことが違うねぇ?」

 

「それを貴方が言いますか…」

 

 いや、確かに黒の焔亭で働いているウェイトレスとは全員と関係を結んだが。

 しかし、それは店長が彼女らを手込めにした後の話である。

 

 このゲルマンという男、お店で働く女性には例外なく裏で手を出している。

 私などの一部の例外を除き、ほとんどの客には知られていないが。

 とはいえ、昔は大分女遊びの激しい人だったようで、これでも大人しくなった方なのだとか。

 

「そっくりその台詞お返しするぜぇ。

 ……お前のランクアップ祝い用に仕込んどいた女も、いつの間にか喰っちまってるしよぉ」

 

「そういえばそんなこともありましたね」

 

 店長の言うランクとは、冒険者ランクのことだ。

 ただ結局のところ、私は冒険者ランクが上がったことは一度も無いので、先にその女性をつまみ食いしたのはむしろ正解と言えるのではなかろうか。

 

「ああ、そういやランクアップで思い出した」

 

 ふと、店長が話題を切り替えた。

 

「前々から気にはなってたんだがな。

 お前、何でランクEに留まっていられるんだ?」

 

「はい?

 それは、私が初心者用区域から一歩も出ないからで…」

 

「つってもよぉ、お前だって魔物の落とす魔晶石やら素材やらを売って生活してるわけだろ?」

 

「ええ、それは勿論」

 

「おかしいじゃねぇか。

 確か、ギルドに売り払った額がある程度行きゃぁ、それだけでもランクDにはなれるはずだろう?」

 

 ああ、そのことか。

 

「店長、知らないんですか?」

 

「何をだ?」

 

「魔晶石や素材は、ギルドに渡すよりも直接商店に流した方が、換金効率が良いのですよ」

 

「…………」

 

 店長が沈黙した。

 

「……お前、いつだったか自分の事を誠実だとかなんとか抜かしてなかったか?」

 

「いや……ウィンガストでならともかく、東京ではこれ位日常茶飯事ですよ?」

 

「そうなのか――俺ぁ、トーキョーってやつはもっと平穏な所だと思ってたぜ」

 

 納得してもらえたようで何より。

 ―――と、そこへ。

 

「……………まだ居たの、あんたら」

 

 憮然とした表情の、リアさんがやってきた。

 服装は制服から私服(前と同じく、Tシャツとカーディガン、それとスパッツだ)へ着替えている。

 

「おぅ、リア、無事だったか。

 どうよ、疲れ飛ばしに一杯やってくか?」

 

「……………帰る」

 

 店長からの誘いを無視し、力のない足取りで出口に向かう彼女。

 それを見ながら、店長が私に語りかけて来た。

 

「なあ、クロダよぉ」

 

「どうしました?」

 

「『誠実な男』ってのは、あんな状態の女を一人で帰しちまうもんなのか?」

 

 言って、ニヤっと笑う。

 ―――なるほど。

 

「いいのですか?」

 

「何がだ?

 俺は、自分とこの店員を心配してるだけだぜぇ?」

 

「……ありがとうございます」

 

「へへ、いいってことよ」

 

 店長へ礼を言うと、私は足早にリアさんへ近づく。

 

「…………何よ」

 

「いえ、こんな夜遅くに女性を一人歩きさせるわけにはいきませんから。

 私がリアさんの家まで、送って差し上げますよ」

 

「……!?

 そ、それって…!」

 

 私からの申し出に、何を思ったのか彼女は慌て出した。

 

「い、いらない!

 そんな必要、無いから――――んむっ!?」

 

 拒もうとする彼女の口を、私の唇で塞ぐ。

 同時に両手で彼女の身体を抱き寄せる。

 

「……ん、んんーっ……んんっ……んぅっ……」

 

 片手をスパッツの中へ入れ、彼女の下半身を弄る。

 秘部をなぞってやると、既に濡れだしていた。

 

「……んっ……あっ……あんっ……んぁっ……」

 

 リアさんから、急速に力が抜けていく。

 それを確認して、私は彼女を離した。

 

「さ、行きましょう、リアさん。

 大丈夫、しっかりエスコートしますから。

 私に身を委ねて下さい」

 

 彼女の腰に手を回す。

 

「……待って……お願い……

 こ、これ以上されたら……あたし、本当にコワレちゃう……」

 

 怯えるような瞳で私を見つめるリアさん。

 何だろう、凄く嗜虐心を刺激する表情だ。

 

「大丈夫ですよ。

 人間、そう簡単に壊れたりしないものです」

 

「ヒッ……」

 

 私の言葉に、何故か恐怖で引き攣ったかのような表情を浮かべる。

 まあ、手を振り解いたりしないところを見るに、彼女も本心では嫌がっていないのだろう。

 

 さて、夜はまだまだこれからだ。

 私は意気揚々と、黒の焔亭を後にするのだった。

 

 

 

 第三話 完

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 次の日の話。

 

 やっぱり今日も黒の焔亭に食事をしに来る私であった。

 昨日はほとんど寝ていないので、かなり疲労が溜まっている。

 こういう時は、美味しい食事をするに限るのである。

 

「ごめんください」

 

「ああ、いらっしゃい、クロダ」

 

 入口の扉をくぐると、早速ウェイトレスが挨拶を返してくれる。

 この声は、リアさんか。

 昨日の今日で心配だったが、ちゃんと仕事ができるまでに体力は回復した様子。

 

「――――おや?」

 

 そこで、気がついた。

 店内が妙に暗い。

 明かりが故障でもしたのだろうか?

 

 私は<闇視>を使って辺りを見渡して―――

 

「…………!!!?」

 

 ―――後悔した。

 

 何故気付けなかったのか。

 ……他に客が一人もいないことに。

 

 何故気付けなかったのか。

 ……店内に漂う、血の臭いに。

 

 何故気付けなかったのか。

 ……今日お休みのはずのリアさんが、いる意味を。

 

 暗い店の中央には――店長が、縄で逆さ吊りにされていた。

 

「……あ、あぁ……!?」

 

 身体中に打撲痕がある。

 腕や足が、全て変な方向へ曲がっている。

 意識は無いのだろう、白目を剥いている。

 無事な箇所を探す方が難しい―――いや、無事な箇所などあるのか。

 

「……!?」

 

 背後で、扉の閉まる音がした。

 カチャリと、鍵の閉まる音も。

 

 私は、おそるおそる後ろを振り返る。

 

「―――り、リアさん」

 

 そこには、予想通りリアさんが立っていた。

 

「……な、何故、鍵を閉めたのでしょうか?」

 

 何とか声を絞り出して、答えの分かり切っている質問をした。

 彼女はそれに取り合わず、

 

「あたしね、昨日と今日でよーく分かったの」

 

 そんな言葉を口にした。

 

「……何が、分かったのでしょう?」

 

 聞き返してしまう。

 別に質問の答えが欲しかったわけではない。

 単に、何かを喋らないと、この空気に耐えられないだけだ。

 

 リアさんは、今回の質問には答えてくれた。

 

「―――『人間って、そう簡単に壊れない』のね」

 

 ………彼女が、嗤う。

 

「……ヒッ、ヒィィイイイイイイイイイイ!!!?」

 

 店内に、私の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 この日。

 私は『人間がそう簡単に壊れない』ことを、身をもって実感できたのだった。

 

 

 後日談 完



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第四話 ある社畜冒険者の新人教育 初日
① ギルド長からお説教


 

 

 

「失礼します」

 

 私は扉をノックし、少し緊張した面持でその部屋に入っていった。

 部屋の中には立派な机が一つ、大きな本棚が壁に敷き詰められている。

 そして、その机に座る部屋の主へと一礼する。

 

「うむ、よく来てくれたの」

 

 その主―――かなり年配のご老人が、私に話しかけてきた。

 彼は、ジェラルド・ヘノヴェスさん。

 冒険者ギルドのギルド長で、要するにとても偉いお方である。

 ここまで言えば分かると思うが、私が今いるこの部屋はギルド長の執務室だ。

 

「まあ、まずは座れ。

 突っ立ったままでする話でも無い」

 

「分かりました」

 

 言われたように、ジェラルドさんの正面に置かれた椅子に座る。

 

「さて、何故今日呼ばれたか、分かっとるか?」

 

「いえ、申し訳ありませんが、存じておりません」

 

 ギルド長から直々にお呼びがかかったからこそ私はここに居るわけなのだが。

 何故呼ばれたのかまるで見当が付かない。

 心当たりがまるで無い……すみません、嘘をつきました、心当たり多すぎるのです。

 一番、あり得そうなのは――

 

「――やはり、女性関連ですか?」

 

「違う。いや、それに関しても言いたいことは山ほどあるのじゃが、今回は違う。

 というか、今までも山ほど言ってきたじゃろ、その話。

 だというのにお主、全然改善せんし。

 本当、お主の女性への節操無さ、どうしたらなんとかなるの?」

 

 違うと言っておきながら、突っかかってくるご老人である。

 余程、私の女性遍歴――つまりはセクハラ行為に言いたいことがあるらしい。

 

「それ程、問題ですか」

 

「問題じゃよ?

 女性側から一件でも苦情が来たら即お縄じゃよ?

 奇跡的にもまだ女性から文句が出てないから、放置しとるけど」

 

「細心の注意を払っておりますので」

 

「納得いかんのぉ……世の中はどうなっとるんかのぉ……」

 

 遠い目をするジェラルドさん。

 これでも手を出す女性には気を付けているのだ。

 誰でも彼でも節操なくヤッてるわけでは無いのです。

 ――――――本当だよ?

 

「……うむ、そのことについてはいいんじゃ。

 最初に言った通り、今日は別件よ」

 

「はい」

 

 返事を返す。

 

「最近な、階層食い(フロアイーター)の出現跡が報告されたんじゃ」

 

「それはまた、剣呑な」

 

 階層食いとは、<次元迷宮>に蔓延る魔物の中では――ギルドが現在把握できている魔物の中では、上位に位置づけられる危険モンスターだ。

 巨大な体躯の蛇といった外見をしており、その体に見合った戦闘力も備えている。

 歴戦のパーティーでも後れを取ることがある程だ。

 しかし、この魔物が厄介な点はそこでは無い。

 階層食いは、その名の通り、<次元迷宮>の階層そのものを破壊してしまうのだ。

 その階層に居る冒険者が全滅の危機に瀕するのは勿論の事、階層同士の繋がりも乱れてしまう。

 要するに、今まで苦労して蓄積してきた<次元迷宮>の地図が、一部とはいえ役に立たなくなるわけだ。

 全冒険者にとっての仇敵と言える。

 

「報告には続きがあっての、どうもその階層食い、既に倒された後だったようなんじゃよ」

 

「それは良かった。

 討伐してくれた冒険者達に感謝ですね」

 

「うむ、そうじゃの。

 ところで、その階層食いが出た場所なんじゃが――」

 

 ここでギルド長、意味ありげに言葉を切って、

 

「――なんでも、白色区域だそうなんじゃよ」

 

 私をジロリと睨みながら、続けた。

 

 階層食いの厄介な点、その二。

 この魔物は、区域に関係なく出没する。

 非常に低い確率ではあるのだが、本来危険な魔物が出現しないはずの白色区域にも階層食いは現れるのだ。

 

「……………運が良かったですね。

 白色区域(そんなところ)に実力のある冒険者パーティーがいたとは」

 

「本当にのぅ、偶然って凄いのぅ」

 

 私の言葉にジェラルドさんはうんうんと頷く。

 

「話変わるがクロダ君。

 お主、ミスリルクロークを手に入れたそうじゃな」

 

「ああ、はい。

 前々から欲しかったので、少し奮発して購入しました」

 

「いやいや、大したもんじゃ、そう簡単に買える代物ではないというに」

 

 褒められて、そう悪い気はしない。

 

「おかげで貯金をかなり崩してしまいましたが。

 しかし、その価値はある装備です」

 

「そうじゃろうそうじゃろう。

 ところでそのミスリルクローク、少し前に修理に出したそうじゃな?」

 

「ええ、ボーレンクイロン・ヴァキャ・アンラマウェンスタ・ヴィーマゲウォンさんの店で直して貰いました」

 

「………よく噛まずに言えるのぅ、その名前。

 で、一つ質問なんじゃがな?」

 

「なんでしょう」

 

「――白色区域に、ミスリルクロークを壊せる魔物なんておるんか?」

 

「……………」

 

 言葉に詰まる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 じっと見つめ合う二人。

 恋に落ちてしまったらどうしよう……等と考える余裕は無い。

 私の背中を、冷汗が流れ落ちた。

 

「いやその……それは、そう、転んで――」

 

「分かり切った嘘をつくな!」

 

 怒鳴られて、それ以上言えなくなる私。

 ジェラルドさんは深くため息をついてから、

 

「なぁ、クロダ君」

 

「……なんでしょうか、ギルド長」

 

「そろそろ、冒険者ランク、上げようか」

 

 そう宣告した。

 ………いやいやいや、それは困る。

 

「お言葉ですが、私はランクDに上がる資格を有していませんよ」

 

「階層食いを単独で仕留められる冒険者をランクEに留めておく理由が無いじゃろが」

 

「いえいえ、それはギルド長のご想像でしょう?

 証拠は何も――」

 

「噂が!」

 

 私の言葉を遮って、ジェラルドさんが声を張り上げた。

 

「……噂が、流れとるんじゃ。

 クロダ・セイイチがとうとう階層食いを倒した、とな」

 

「根も葉も無い、噂ですよ」

 

「本当か?

 本当に根も葉も残してないか?」

 

「無い……はずです」

 

 改めて確認を取られると、少々自信が無い。

 

「なぁクロダ君、ただでさえお主の『実力』は冒険者の間で――特に新人冒険者の間で話題になっとる」

 

「それは、まぁ……」

 

 この前、ジャンさん達との話で思い知らされたことだった。

 

「お主程の冒険者をランクEのままにするとは、ギルドの目は節穴か、と非難されることもある」

 

「そうだったのですか」

 

 それは初耳だった。

 

「そんなわけで、あんまり目立った真似はしないで欲しいのぉ」

 

「……し、しかし……放っておくわけにも」

 

 白色区域は初心者用区域。

 そこに居るのはほとんどが駆け出しの冒険者だ。

 当然、階層食いになど太刀打ちできるわけも無い。

 

「対処してくれたことには感謝しとる。

 犠牲が出ずに済んだからの。

 じゃがまあ……せめて、報告はすぐに欲しかったのぅ」

 

「……反省します」

 

 確かに、連絡を怠ったのは私のミスだ。

 

「うむ。

 ……ま、流石に階層食い討伐は眉唾に過ぎる、面白がって吹聴しとるだけじゃろう――という噂を新たに流しとる最中じゃ。

 しばらくすればこの噂は収まろう」

 

 その間は変な騒ぎを起こすなよ、と言外に言われているようである。

 

「大丈夫です、早々おかしなことは起こりませんよ」

 

 今回は不幸が重なっただけなのだ。

 

「お主が好奇心ゼロ、開拓者精神ゼロ、功名心ゼロの、なんで冒険者やっとんのかよくわからん奴じゃというのはよく心得ておる」

 

 面と向かって言われると少し傷つく。

 事実だが。

 

「これだけ釘を刺しておけば大丈夫じゃと信じておるよ、この件に関してはな」

 

 信じていない件があるということだろうか。

 ……女性についての話なのだろうなぁ。

 

「そんなわけで、お主に頼みたいことがある」

 

 いきなりジェラルドさんが話を突っ込んできた。

 

「前後の脈絡がまるでないのですが」

 

「なんじゃい、お主のためにアレコレと手を尽くしてやった儂の頼みが聞けんということか?」

 

 手を尽くしたといっても、ご老人のやったことは新たに噂を流したことと、自分への誹謗中傷を我慢することだけでは?

 などとは口が裂けても言えない。

 今回の件に限らず、この人には何かとお世話になっているのだ。

 

「……分かりました」

 

「おお、引き受けてくれるか!」

 

「とりあえず、話を聞くだけです」

 

 私の返事に、ギルド長はワザとらしく肩をすくめた。

 

「ツレないのぅ、まあいい。

 頼み事はの、新しく来た<訪問者>についてのことなんじゃ」

 

「また東京から人が来たのですか。

 ……ああ、つまり頼み事とは」

 

「そう、新人の教育係じゃの」

 

 そういうと、ジェラルドさんは二カッと笑った。

 

 

 

 

 

「ほれ、この先の会議室に新人を待たせとる」

 

「……分かりました」

 

 ギルドの廊下をジェラルドさんにに連れられながら、私はこの話をどうやって断ろうか、思案に暮れていた。

 

 教育係。

 冒険者ギルドでは通例として、新しくこの世界に来た<訪問者>には最初の一時期、教育係を付けて冒険のいろはを教えることにしている。

 あくまで<訪問者>に対してのみである。

 この世界の住人が冒険者になった際には、そういう制度は無い。

 

 理由は2つ。

 一つ目は<訪問者>にとってウィンガストは異世界であり、何の勝手も分からない場所である、ということ。

 元々この世界に住んでいた人達よりも、冒険者になるハードルが高いのだ。

 二つ目は、前にも話したが、<訪問者>がほぼ例外なく優れた冒険者適性を持っている、ということ。

 冒険者ギルドにとって<訪問者>は有望株であり、大切に育てたい人材なのである。

 

 その教育係だが、同郷だから話しやすいだろうとの理由で、同じ<訪問者>が任せられることが多い。

 かくいう私も一度、柿村さんの教育係を務めたことがある。

 

 務めたことはあるのだが―――どうにも私はこの教育係が苦手で仕方がない。

 まず、教育係をしている間、通常の業務は行えない。

 当然、業務――魔物掃除によって得られる賃金も手に入らないときている。

 一応、ギルドから手当金は貰えるのだが、魔物掃除で得られるお金に比べれば雀の涙だ。

 次に、教育係の仕事は当然新人を中心に据えた仕事であって、自分のペースで仕事ができない。

 さらに言えば、新人の言動に対して、臨機応変に対応する必要もある。

 ――――他人に合わせて臨機応変など、私には無理難題な言葉だ。

 

 柿村さんの時は、お互いに知己であったことや、柿村さん側からも色々とフォローが貰えたため、どうにか教育は成功したが。

 ………いや、あれを成功したなどと言っていいものか。

 教育中は色々と失敗をやらかして、散々彼に迷惑をかけてしまった。

 つまり、柿村さんが私の教育を成功に導いてくれた、が正しいと思う。

 

 そんな風に私が悶々としていると、

 

「何をそんなに不安そうな顔をしておる」

 

 私の様子を察したのか、ジェラルドさんが話しかけてきた。

 

「大丈夫じゃ。

 お主は初めてやることはまず間違いなく失敗するヘッポコじゃが、2回目以降はきっちり軌道修正できるじゃろ」

 

 褒めているのか貶しているのかどちらだ。

 

 とはいえ事実であるから否定できない。

 私は初めてやること、想定外のことに大して非常に弱く、それに遭遇すればまずミスを犯す。

 今までのお話の中ですら、色々やらかしているので、納得頂けるはずだ。

 ………なんで私、そんな性質だというのに冒険者をやってるんだろう?

 

「ほれ着いたぞ、早速ご対面といこう」

 

 悩んでいる内に目的の会議室に到着してしまったようだ。

 結局、断る理由をまとめ切れていない。

 とにかく駄々をこねまくれば、ご老人も折れてくれるだろうか。

 

「…………!!!!!!!!?!?????」

 

 ―――そんな考えは、扉があいた瞬間、全て吹き飛んだ。

 目の前に、天使が居た。

 

 会議室の中には、大きなテーブルが一つ。

 そこに一人の美少女が座っている。

 

「………お、おお……!?」

 

 つい、呻き声を出してしまった。

 

 その少女の容貌が、もう凄まじいのだ。

 まず、金髪碧眼。

 短く揃えられたショートカットの金髪は、彼女が少し動いただけでさらさらとなびいている。

 見るからに触り心地が良さそうだ。

 自らの美しさを強調させるやや切れ長な瞳は、しかし可愛らしさや愛嬌も損なっていない絶妙さ加減。

 唇は瑞々しく、女性の色気を醸し出してさえいる。

 一つ一つのパーツだけ見ても極上の一品であり、それらが全て完璧に調和して彼女の顔を形成している。

 平たく言えば、絶世の美少女。

 

 街を歩けば、すれ違う男10人中18人は振り返るだろう。

(※一度は全員が振り返り、その内8人はもう一度振り返る、の意)

 顔を見ただけだというのに、私の愚息がもう興奮し始めている…!

 

 この美貌、100点満点で言えば……

 

「……1000点だ」

 

 どこかで聞いたことのあるフレーズを思わず口にしてしまった。

 

 こんな子の、教育係…!?

 つまりほぼ四六時中一緒にいられるわけで―――

 

「ギルド長…」

 

「なんじゃい?」

 

「私は、貴方の事を誤解していたようです」

 

 あの流れからして、絶対面倒な人の教育を押し付けられるのだとばかり思っていた。

 それがこんな……こんな……!!

 

「お主が何を言わんとしてるのかよく分からんが、引き受けるということでいいんじゃな」

 

「引き受けまくりますですよ」

 

 興奮したせいか言葉遣いがおかしい。

 

「そ、そうか。

 それなら話が早く済むのぅ」

 

 ジェラルドさんが私の態度に少し引いているようだが、そんなことすら気にならない。

 そんな私たちに、少女が声をかけてきた。

 

『――なぁ、そいつがオレの教育係ってヤツなのか?』

 

 お、おれおれオレおれオレっ娘だとぅ!?

 口調はどうも荒々しい感じだが、声自体は外見通り可愛らしい。

 このギャップが却って彼女の魅力に新鮮さを伴わせている。

 

『うむ、待たせてすまなかったのぅ』

 

 ギルド長は、彼女と同じく『日本語で』そう返した。

 

 今まで特に必要が無かったため説明していなかったが、ウィンガストの住人たちは別に日本語で会話しているわけでは無い。

 こちらでは、『グラドオクス大陸共通語』という言語で会話をしている。

 私もまた、その言語を喋っていたのである。

 ウィンガストへ来た<来訪者>はまずこの言語を習得することになるのだが――

 どうやって習得するかは、この後解説することになるだろう。

 

『こちら、お主の教育係を担当する――』

 

『初めまして、黒田誠一と申します』

 

 紹介を受け、自己紹介する。

 

『黒田誠一……黒田でいいか?』

 

 いきなり呼び捨て。

 今日初めて会った、明らかに年下の美少女に呼び捨てとは―――親し気でいいじゃないか。

 誠一と名前で呼ばれたい位だ。

 

『はい、構いませんよ』

 

『サンキュー。

 オレは室坂陽葵(むろさか ひなた)だ。

 よろしくな!』

 

 大分日本人離れした外見なのだが、名前は日本人名――ハーフだろうか?

 

『室坂さん、ですね』

 

『陽葵でいいよ』

 

 いきなり名前呼びしてもいいのですか…!

 

『では、陽葵さん、と。

 こちらこそよろしくお願いします』

 

『おう!』

 

 にっこりと笑いながら、陽葵さん。

 やばい、笑うともう可愛すぎる。

 今すぐ結婚を申し込みたい。

 もしくは養子にしたい。

 何らかの深い関係を築きたい。

 

『さて、お互い挨拶も済んだようじゃし、後は任せてええか?』

 

『ええ、大丈夫です』

 

 後は若い人たちに任せて、ご老人はご退去下さい。

 そんな失礼なことを考えながら、部屋を後にするジェラルドさんを見送る。

 

 私は陽葵さんの向かい側の席に座ると、早速新人教育の第一歩をスタートする。

 

『えー、それでは色々と説明を始めたいと思います。

 ちなみに、ギルド長からはどの程度話を聞いておられますか?』

 

『ここが地球とは違う世界で、この町はウィンガストってところで、そこにオレは召喚された……ってところまでかな』

 

『そこまでで何か腑に落ちない点はありませんかね?』

 

『特には……いやさ、最初は異世界とか何言ってんだって感じだけど、あの爺さんいきなり魔法使いだしたし。

 明らかに人間じゃない人達まで連れてきてくれたからさ。

 納得せざるを得ないというか…』

 

 ふむ、そこまでしっかり教えてくれていたか。

 ならば、話は早いかもしれない。

 

 ここで私は、陽葵さんの全体像を確認する。

 女性にしては背が高く、165cm前後といったところだろうか。

 衣服は、上がタンクトップにジャケット、そして下がショートパンツ。

 タンクトップからちらりと見える鎖骨が色っぽい。

 パンツから覗かせる太ももの色気がもう堪りません。

 腰つきもいい形にくびれており、まだ見ぬお尻への期待感が高まる。

 ただ、服の上から確認できる胸は小さく……というか、割と平坦な感じ。

 

 とはいえ、そこまで完璧だと私は彼女を崇拝し始めかねないので、却って丁度よいのかもしれない。

 私の理性を留めるのには。

 

『ああ、そういや、オレが召喚された理由とかってあんの?

 やっぱアレか、魔王を倒す勇者とかそういうの?』

 

 まずそこから来るか。

 

『端的に言ってしまいますが、<訪問者>――ああ、ここでは東京から来た人間を<訪問者>と呼んでいます――が、この世界に来た理由は分かっていません』

 

『そうなの?』

 

『はい。

 陽葵さんがこの世界に来た時、最初に居た部屋を覚えていますか?

 そこに大きな水晶があったでしょう』

 

『ああ、なんかあったな、そんなの』

 

『あれが私達を呼んだ召喚機です。

 あの召喚機が東京に居る人間――特に、生命に危険が及んでいる人間をこの世界に召喚しているのです』

 

『あー……そうなのか』

 

 何か思い当たる節があるのだろう、視線を斜め上に上げて思案しながら(可愛い)、陽葵さんが返事をした。

 彼女に何があってここに来たのか、気になるところではあるが、それをここで聞くのは余りにデリカシーに欠ける。

 

『しかし、理由も無しにいきなり呼び付けるなんて、随分と無茶苦茶だな』

 

『それに関してはご容赦下さい。

 別にこのウィンガストの住人もそれを望んで行っているわけでは無いのです』

 

『え?』

 

『召喚機を造ったのは、ウィンガストの住人ではなく――魔王なのですよ』

 

 魔王。

 どのような人物だったのか詳細は分からない。

 ただ、突如この世界に現れ、超常の力を振るって世界中に災厄を撒いた存在であることは、広く世に知れ渡っている。

 

 召喚機はその魔王自身が造ったものであり、当然魔王の思惑など余人が知る由も無く、ましてや制御などできるはずもない。

 しかし、壊すのも気が引ける。

 壊して何が起きるか分からないし、しかも定期的に冒険者として有能な人材を提供してもくれる。

 そういう理由でウィンガストの住人達は、召喚機には下手に手を出さす、召喚機と『上手く付き合っていく』ことを選択したのだ。

 

『そんなわけで、召喚された人達がスムーズにこの世界に馴染んで貰うべく、教育係を始めとした色々な制度も作られたわけです』

 

 この点、ウィンガストの人々の倫理観の高さも垣間見える。

 異世界から来た――つまり、この世界においては何の関わりも、何の権利も無い人間。

 やろうと思えば、非人道的な扱いをすることも容易であったはずだ。

 しかし、この世界の住人はそれを良しとしなかった。

 

『へー、いいねいいね。

 なんか雰囲気出てきた!

 魔王の作った召喚機で呼ばれた人間が魔王を倒すとか、カッコいいじゃん!』

 

『ええ、仰る通り今から7年前、この世界へ最初に現れた<訪問者>を含めた5人の勇者によって、魔王は討伐されたわけですが――』

 

『ちょっと待て』

 

 陽葵さんが待ったをかける。

 

『なんですか?』

 

『魔王、倒されちゃってるの?』

 

『倒されてますよ、7年前に』

 

『誰に?』

 

『いやですから、5人の勇者の手によって』

 

『―――じゃあ、何でオレ呼ばれたのさ!?』

 

『魔王が造った召喚機がそのまま残ってしまっているからですってば』

 

 彼女の頭の中では、別の物語が進行していた模様。

 人の話はちゃんと聞きましょう。

 

『えー……じゃあオレ、何やればいいのー?』

 

 可愛らしく眉をひそめ、不満顔をする陽葵さん。

 

『はい、それをこれから説明します』

 

 魔王は勇者達の手により倒れた。

 しかし、それで何もかも解決したわけでは無かったのだ。

 魔王が齎した災厄は今もなおこの世界に残っており……

 その最たるものの一つが、ウィンガストにある<次元迷宮>である。

 

 ウィンガストの町は元々、魔王の居城であった。

 勇者と魔王の激突により城は吹き飛んだそうなのだが、爆発の中心地に<次元迷宮>への入口が現れた。

 ―――前に、この町の地形をクレーターに例えたことがあったが、それはここに所以する。

 

<次元迷宮>は、放っておけば中から無限の魔物が這い出てくる。

 元々ウィンガストは、<次元迷宮>の監視をするために造られた町なのだ。

 そして冒険者ギルドも最初は、魔物討伐を目的とした組織だった。

 

 しかし時が経つにつれ、<次元迷宮>から希少な鉱物や薬草等が採取できること、魔物からも魔晶石や素材という有用な資源が手に入ることが分かってきた。

 そうなると、それを求めて様々な人々がウィンガストに集まるようになる。

 僅か数年で、ウィンガストはこの世界でも有数の都市に発展した。

 

 町は<次元迷宮>で手に入る物資の交易によって多大な利益を得るようになる。

 冒険者ギルドも、魔物討伐から迷宮探索へとその目的を変えていった。

 

 ただ、町が発展し、取引する物資の量が増えていくにつれ、一つの問題が出てきた。

 ――冒険者の人手不足だ。

 物資への需要は高まるばかりだが、それを供給する冒険者の数が圧倒的に足りていない。

 

『そこで陽葵さんに提案です』

 

 彼女の美しい眼を見つめながら、告げる。

 

『冒険者をやってみませんか?』

 

 この世界に来た<訪問者>の選択は、大まかに分けて2つ。

 冒険者となって<次元迷宮>を探索するか、一般人となり普通に暮らすか、である。

 

 冒険者を選ぶのであれば、冒険者ギルドからのバックアップを受けることができる。

 一般人を選んでも、無一文で放り出されるというわけではないが、援助は最低限に留まる。

 

『ですので、私としては一先ず冒険者になる道をお勧めします』

 

 私のように、冒険に出ずに暮らす冒険者もいるわけで。

 冒険者となっても、割と自由に生活できるのだ。

 

『うーん、なんか思ってたのと大分違うんだけど…』

 

 おそらく、魔王討伐の冒険やら世界を救う旅やらを思い描いていたのだろう。

 その気持ちは分かる。

 私も最初はそういう展開になるのかなと思っていた。

 

『ま、いいか。

 なるよ、冒険者』

 

『その選択に感謝します』

 

 一般人を選択されたら、私はお役御免になってしまう。

 こんな美少女とこれっきりと言うのは、寂しすぎる。

 

『あ、そういやさ、元の世界に戻るってのはできないのか?』

 

『……今のところは、現代社会に帰る方法は見つかっていません。

 或いは、<次元迷宮>の奥にその手段があるのかもしれませんが』

 

 それを目指して探索を続けている<訪問者>もいる。

 

『なるほどねー。

 それで、冒険者ってのにはどうやってなるの?』

 

『それはこれから案内いたしますよ』

 

 私は彼女を連れて、会議室を後にした。

 

 

 

 第四話②へ続く



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② こんな可愛い子が…!?

 

 

『ここが冒険者の登録所となります』

 

 立派なカウンターが設置された受付へと、陽葵さんを案内する。

 

『ここで登録しちゃえば冒険者になれるわけか』

 

『はい』

 

『……ちょっと簡単すぎね?』

 

『まあ、手続きを複雑にすればいいというわけでもありませんし…』

 

 実際、この世界の住人が冒険者になる場合は、色々と試験やら検査があるらしい。

<訪問者>は、それらを全てパスできるのだ。

 ズルをしている気分にもなるが、ここはありがたく享受しておくべきかと思う。

 

「こんにちは、久しぶりですね、クロダさん。

 今日は、そちらのお嬢さんの付き添いですか?」

 

「どうもご無沙汰しています。

 ええ、こちらの<訪問者>――室坂陽葵さんの教育係をやらせて貰っています。

 早速ですが、手続きをして頂いても?」

 

「おやおや、こんな可愛らしい女の子の教育係とは羨ましい限り。

 はい、すぐに準備しますよ」

 

 受付の人とそんな会話をする。

 そんな私達を、陽葵さんは驚いた表情で見つめ、

 

『お、おい、黒田、黒田!』

 

『どうしました?』

 

『お前今、何語で喋ったの!?』

 

 ――あ。

 そういえば、説明をし忘れていた。

 

『グラドオクス大陸共通語という、この世界の言語ですね』

 

『………ひょっとして、日本語、通じないのか?』

 

『はい、ギルド長等の一部の人を除いて、日本語を使える人はいません』

 

『うぇ、まさか、まずは会話の勉強からやるっていうんじゃ…』

 

『それは大丈夫です、陽葵さんもすぐ使えるようになりますから』

 

『……?』

 

 怪訝な顔(可愛い)をして私を見る陽葵さん。

 そうこうしている内に、登録の準備が整ったようだ。

 

『さ、陽葵さん、これを頭に被って下さい』

 

『なにこの、でっかい帽子……鉄でできてんのか?』

 

『説明は後でしますので』

 

 彼女は不思議そうに登録用装置を眺めているが、話を早く進めるため少々無理言って装着してもらう。

 

「こちらは整いましたので、お願いします」

 

「分かりました」

 

 そう告げると、受付の人はカウンターの向こう側で何かしらの操作を行う。

 

『お、おおおお…!?』

 

 装置が輝きだす。

 

『なんだこれ、大丈夫なのか!?』

 

『安心して下さい、特に害はありませんから』

 

 装置はその後も数分に渡って輝き続ける。

 そして点灯が終わると、

 

「はい、登録完了です。

 お疲れ様でした」

 

「ありがとうございます」

 

 作業が完了したようだ。

 私は陽葵さんに被せている装置を取り外した。

 

「……気分は如何ですか?」

 

『いかがって、別に何も……!?』

 

 はっとして表情を変える陽葵さん。

 

『……今、お前日本語で喋らなかったよな?』

 

「はい」

 

 私は、グラドオクス大陸共通語で彼女に語り掛けたのだ。

 

『なんでオレ、お前の言葉が分かるんだ!?』

 

 そう。

 これが、<訪問者>が何の問題も無くこの世界の言葉を喋れる絡繰りだ。

 詳しい仕組みは分からないが、頭に直接この世界の言語を刷り込む、らしい。

 ―――それは本当に安全なのか、と疑問もあるかもしれないが、一応今のところ失敗例は無い。

 実績はあるのである。

 

 そんな説明を(安全性については触れずに)彼女へ話す。

 

「はー、すっげぇな、流石ファンタジー世界」

 

 陽葵さんもあっさり納得したようだ。

 言葉もこちらの言語に切り替えている。

 ファンタジーという言葉の説得力は侮れない。

 

「はい、<冒険証>も発行できましたよ」

 

 受付の人が<冒険証>――蒼い宝石を渡してくれた。

 

「なんだこれ?」

 

「<冒険証>です。

 その名の通り、陽葵さんが冒険者であることを証明する証となります。

 決して無くさないようにして下さいね」

 

 彼女にその宝石を渡しながら、説明する。

 

「おう、『大事なもの』扱いにしろってことだな。

 それを売るなんてとんでもない、とか」

 

「まあ、そんな感じです」

 

 RPGをやったことのある人ならば、分かるであろう会話である。

 

「それとこの冒険証、幾つかの機能があります」

 

 前にも話したことがある、冒険証の機能。

 端的に言うならば、以下の4つの機能を持っている。

 1つ、持ち主である冒険者のステータス確認。

 2つ、<次元迷宮>にある『ゲート』の起動。

 3つ、<次元迷宮>で自分の居る階層の区域確認(白・緑・黄・赤)。

 4つ、<次元迷宮>からギルドへの転送(白色区域限定)

 

 今回は、ステータス確認について陽葵さんに説明する。

 他の機能については、実際に<次元迷宮>へ潜ってから説明した方が分かりやすいだろう。

 

「おー、この宝石にそんな機能があるのか。

 自分のステータスを見るのって、何かドキドキするな」

 

 そう言いながら、私に教えられた操作で冒険証を弄る陽葵さん。

 操作が終わると、冒険証が輝き空中に彼女のステータス表が映し出される。

 

「うわ、すっげ、すっげー!!

 なあなあ黒田、これどう見んの!?」

 

 興奮した様子で(可愛い)、私に解説を求めてくる。

 

「はい、ステータスはまず基本能力として『筋力・体力・敏捷・知力・幸運・魔力』があります」

 

 該当部分を指さしながら、説明を続ける。

 

「一般人の平均を10として数値化されていますので……陽葵さんは敏捷・幸運・魔力が高いようですね。

 逆に筋力と体力は低めですか」

 

「オレ、結構身体は鍛えてるつもりだったんだけどなー」

 

 平均値は『ウィンガストに住む人々』を基準としている。

 そのため、現代社会に生きてきた<訪問者>は筋力・体力・敏捷が低めに出がちなのだ。

 一方で知力は高くなる傾向にある。

 義務教育の成果がこんなところで発揮されているなど、文部省は夢にも思っていないだろう。

 

 そんな事情なので、敏捷が平均より高いというのは、現代人として十分誇っていいことだ。

 もっとも、ここに魅力という項目があれば、彼女ならカンストしていてもおかしくないのだが。

 

「これが陽葵さんのLvですね。

 今は1と表示されていますが、探索を続けていれば上がっていきます。

 こちらは職業が表示されるところです。

 まだ陽葵さんは冒険者として職業についていないので、空欄ですが」

 

「ふむふむ」

 

 ステータス画面の解説を続けていく。

 どうも彼女、東京に居た頃その手のゲームをやった経験があるらしく、順調に飲み込んでいった。

 

「そしてここが職業適性なんですが―――

 おお! <僧侶(プリースト)>と<盗賊(シーフ)>がA適性じゃないですか!」

 

「え、なになに、それって凄ぇの!?」

 

 驚いて大声を出してしまった。

 

 職業適性とは、基本職である<戦士(ファイター)><僧侶><盗賊><魔法使い(ウィザード)>にどれだけ自分が向いているかを示す指標で、上からA・B・C・D・Eの5段階評価だ。

 この職業適性、その職業に就いた際のステータス補正、レベルアップによるステータス向上、スキルの効果量、スキルの熟練度上げ等、様々なところへ影響を及ぼす、最重要項目である。

 <訪問者>は冒険者への適性が高いと前に語ったが、それはこの職業適性が高いことを意味する。

 しかし、A適性が2つあるというのは、<訪問者>でも非常に稀なことだ。

 

 参考までに、ウィンガストの住人はC適性が一つあればかなり高い部類で、E適性のみという人も少なくない。

 一方、<訪問者>はB適性を一つは持っている場合がほとんどで、偶にA適性を持つ人もいる、といった具合。

 陽葵さんのA適性2つがどれほど破格か、少しは伝えられただろうか?

 

 ………まあ、余り適性が低い人はそもそも冒険者にならないので、ウィンガストの住人に限っても冒険者になる人は大体C適性位持ってるのだが。

 ちなみに私は<魔法使い>がB適性、他はCとかDという有様である。

 

「しかも迷宮探索に重要な<僧侶>と<盗賊>がAというのが大きいですよ」

 

「おお、来てるか!

 オレにビッグウェーブ来てるか!」

 

「来てます来てます!」

 

 ともすれば、上位の冒険者パーティーが青田刈りに来てもおかしくない。

 それ程、冒険者適性とは重大なパラメータなのだ。

 

 そうそう、今ここでは関係のない話なのだが、職業について。

 先程、基本職として4つを紹介したが、これ以外にもそれぞれの基本職に対して派生職というものが存在する。

 例えばコナーさんが就いている<聖騎士(パラディン)>は<僧侶>の派生職である。

 派生職の適性は、それぞれの元となる基本職に準拠するのだが――細かい説明はまた今度。

 

「後は、これと言って説明すべき項目は無いですね。

 名前や年齢、性別が記載されているだけ―――」

 

 ――んん?

 何か今、変な表記を見たような。

 

「えーーっと」

 

 もう一度見る。

 

「うーーん?」

 

 目を擦ってみる。

 

「おやー?」

 

 何をやってもその表記が変わらない。

 

「どうもこのステータス、誤表記があるみたいですね」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。ほら、陽葵さんの性別が男になってる」

 

 冒険証にもエラーというのは存在するのか。

 まあ、人が作ったものなのだから偶の間違いは仕方がないというものだろう。

 

「いや、間違ってないぞ」

 

 早く受付に言って直して貰わなくては。

 

「だから、間違ってないって!」

 

 しかし間違いをするにしても、よりによってこんな美少女を男と表示するなんて、失礼にも程が――

 

「間違ってないっつってんだろ、おい!!」

 

 ――陽葵さんに思い切り肩を揺さぶられた。

 

「…………本当ですか?」

 

「本当だよ。

 つか、女の格好なんてしてないだろ、オレ」

 

 言われてみれば。

 着ているお召し物は全て――タンクトップもジャケットも、ショートパンツに至るまで、全て男物だった。

 ショートパンツは男物にしては丈が少し短くは無いかと思わないでもないが、死ぬ程似合っているので文句のつけようがない。

 

 …………いや、だとしても。

 男物を着る女性だって世に多くいるし、何より陽葵さんから脚線美や肩、うなじから発せられる色気は男が持ってちゃいけないものだろう。

 

「確かによく女に間違えられるんだよな。

 ま、オレって結構美形だし?

 仕方無いのかもしれないけど」

 

 得意げに語る陽葵さん。

 

 確かに陽葵さんが美人であることは100人に聞けば100人が肯定するだろう。

 『結構美形』という言葉が謙遜に感じてしまう位の超美人なのだから。

 陽葵さんを男だなんて言う人が居たら、正気を疑ってしまう程に。

 

「………ほ、本当に?」

 

「なんだよ、まだ信じられないのか?

 ほら、触ってみれば分かるだろ」

 

 言われたまま、私は陽葵さんの股間を触った。

 そのまま、にぎにぎと揉んでみる。

 

 …………ある。

 少々小ぶりだが、そこには確かに男性器が存在していた。

 

「………そんな、馬鹿な」

 

「馬鹿はお前だぁあああああああ!!!?」

 

 いきなり叫ぶ陽葵さん。

 

「なんで!?

 なんでお前股間触ったの!?」

 

「……ご自分で、触ってみれば、と言ったではないですか」

 

「普通胸触るだろ!?

 どう考えたら股間の方に手を出すんだよ!!」

 

「……貧乳な女性の場合、胸だけでは判断できませんし」

 

「だからって! だからって!!!」

 

 彼(もうそう呼ぶしかあるまい)は激高を続ける。

 

「……別にいいじゃないですか。

 男同士なんですから。

 そう、男同士………はぁ……」

 

「……いやお前、その落ち込み様はどうなのさ」

 

 私のローテンション振りに、陽葵さんの激高がなりを潜めたようだ。

 

 だって、満点越えの美少女だと思っていたんだもの。

 これからの教育期間、ワンダフルな生活が待っていると信じていたんだもの!

 

「………はぁぁぁ…」

 

 もう一度、ため息を吐く。

 

 いや、切り替えるんだ。

 男とはいえ、これ程の美貌と毎日向き合えるのだと、そう考えるんだ。

 

 私はじっと陽葵さんの顔を見つめる。

 

「………な、なんだよ?」

 

 怪訝な顔をする彼(やっぱり可愛い)。

 ……今ここでキスしたい。

 

 うん、大丈夫だ。

 この顔と一緒なら、私はこれからも頑張っていける。

 

「……よし、持ち直しました。

 もうご安心下さい」

 

「いや、オレはお前が教育係だってことに、大分不安を覚え始めたんだが……」

 

 嫌そうな顔をする陽葵さんをしり目に、私は気合を入れなおした。

 

「何はともあれ、おめでとうございます。

 これで陽葵さんは晴れて冒険者です」

 

「む、無理やり話を変えやがったな」

 

 陽葵さんのジト目で睨んでくるが、気にしないことにする。

 

「まだ手続きは色々ありますが、まず一言、言わせて下さい」

 

「ん?」

 

 私は忘れない内に、教育係をやる際に必ず口にする言葉を伝えた。

 

「冒険者は、助け合いです」

 

 陽葵さんの目を見て、そう告げる。

 

「例えその場で自分に利が無くとも、困っている人を見かけたら、助けてあげて下さい。

 それ巡り巡って、いつか陽葵さんが困ったとき、誰かが手を差し伸べてくれることもあるでしょう」

 

 冒険者は――例え自分のような初心者用区域から外に出ないような者であっても――常に死と隣り合わせの職業だ。

 だからこそ、冒険者同士は助け合って、支え合っていくことが肝要である。

 私がこの1年、冒険者稼業を続けて得られた、数少ない教訓のようなものだ。

 

「それって、冒険者のルールなのか?」

 

「ああ、いえ……これは規則ではなく、私の個人的な拘りというか…

 だから、陽葵さんが従う必要は無いわけですが――できれば心に留めておいて欲しいかな、と」

 

 別に他の冒険者を見捨てたところで何の罰則も無い。

 ただ、せっかくの教育係なのだし、こういうことを伝えても――まあ、許されるのではないかと思っている。

 

「…………」

 

 陽葵さんが神妙な顔をしていた。

 

「………どうしました?」

 

「いや、急にまともなこと言いだしたから、驚いてる」

 

「失敬な」

 

 かなり真面目な話だったというのに。

 

「ははは、悪い悪い。

 ま、なるべく覚えとくよ」

 

「そう言って頂けるとありがたいです」

 

 陽葵さんの返事に満足して、私は次の手続きへと進んだ。

 

 

 

 

 

 ――とはいえ、もう今日はこれ以上冒険者ギルドですることが無かったりする。

 

「なぁ、まだ決まんねぇの?」

 

「う、うーむ……」

 

 今、私は彼を町中に連れ出している。

 目的は、今日の――そしてこれからしばらくの間、陽葵さんが寝泊まりする宿を探すためだ。

 

 しかし、思いのほか宿探しは難航していた。

 時刻はもう夕方になろうとしている。

 そろそろ当たりをつけたいところなのだが…

 

「もう適当なとこでいいじゃん」

 

「いえ、そういうわけにも…」

 

 私が何に悩んでいるのかと言えば、宿の安全性(セキュリティ)についてだ。

 普通、駆け出しの冒険者――お金をまだ余り持っていない冒険者は、安宿に泊まる。

 人によっては馬小屋に泊まることすらある。

 私も最初はそうだった。

 

 しかしそういう宿は、大勢で一つの部屋を使ったり、部屋に鍵が無い…そもそも扉すら無かったりと、安全面でかなり不安のある場所でもある。

 男なら、そんなところでもまあ然程問題はないのだが。

 ――陽葵さんを、こういうケースで男として扱っていいものかどうか。

 

 私は彼の顔を眺めた。

 

「? なんだよ、人の顔をジロジロと」

 

 やっぱり可愛い。

 

 顔だけでなく全身を見ても――

 

 男とは到底思えない華奢な身体。

 ただ線が細いだけでなく、柔らかそうな肉付もしている。

 タンクトップから覗かせる、健康な肢体が眩しい。

 許されるならこのまま抱き締めたいくらいだ。

 

 視線を下に持ってきて。

 くびれのある腰つきから、ショートパンツに包まれたふっくらとした綺麗な尻。

 想像でしかないが、ハリがあって触り心地も良さそうだ。

 そして、太ももから始まる、染み一つない脚線美。

 ムダ毛もまるで無い。

 無駄な肉もまたついておらず、だというのに筋肉質という訳でも無い。

 その柔らかさ、弾力の良さが、見ただけでも分かってしまう。

 

 胸が無い以外、限りなくパーフェクトな肢体と言える。

 様々な女体を見てきた私が言うのだから、間違いない。

 

「おい、今度はなんでオレの体ずっと見てんだ?」

 

 何か言ってくる陽葵さんはスルー。

 

 では、こんな陽葵さんをそういう安宿に泊めさせて、身の安全は保証されるのか。

 ―――いくらウィンガストが治安のいい町だからといって、その問に肯定を返せない。

 陽葵さんが男だと分かっている私ですら、彼を見ているとイチモツが反応してしまう程なのだから。

 

 私が実はそういう特殊性癖の持ち主だった、というわけでは無いと願いたい。

 

 そんなわけで、なるべく安く、かつ安全面もしっかりとした宿を探し回っているのだ。

 しかし、そんな宿そうそうある訳が無い。

 それでも数件見つけはしたのだが、部屋に空きが無かった。

 予約も当分先まで埋まっていた。

 そんな好条件の宿、人気があって当然だ。

 

「……こうなったら」

 

 ギルドが女性の冒険者――特に女性の<訪問者>向けに運営している宿舎がある。

 そこも既に打診済みなのだが、陽葵さんの性別を理由に却下されてしまった。

 だがそうは言っても背に腹は代えられない。

 無理を押してそこに入居させて貰えないか、もう一度掛け合ってみるか。

 

 などと考えていると、

 

「もう面倒臭いしさ、今日はお前んとこで良くない?」

 

 陽葵さんが提案してくる。

 

「私の家、ですか?」

 

「ああ。もうすぐ日が暮れそうだしさ。

 宿探しはまた明日ってことで。

 あと、さっきから妙に体がだるいっていうか…」

 

「体がだるいのは、冒険者登録の影響ですね」

 

 一つの言語体系を頭に刷り込むのだ。

 身体、特に脳への負担はそれなりにある。

 私が冒険者ギルドでの手続きを一旦止めたのは、これが理由だ。

 

「へー、やっぱ副作用みたいなのはあるわけね。

 ……だったらなおさら早く休みたいなぁ」

 

「……それは、良く分かるのですが」

 

「クロダの部屋、二人じゃ使えないのか?」

 

「いえ、広さは問題ないと思います。

 4,5人で寝泊まりしたこともある家ですから」

 

「じゃ、問題ないじゃん」

 

 問題ありまくりである。

 陽葵さんの身の安全を考えて宿を模索しているというのに、私の家などに泊まらせるのは如何なものだろう。

 陽葵さんの寝姿を目の当たりにして、私は手を出さずにいられるかどうか。

 

 いやいや、手を出すも何も、彼は男である。

 男同士とかありえないし。

 だとすれば、何の問題も無いはずだ。

 ……たぶん、きっと、おそらく。

 

 私は改めて陽葵さんの顔を見た。

 かなり疲労が溜まっているのだろう、眠そうな目を手の甲で擦っている。

 目の端に涙を貯めたその表情は……超絶に可愛かった。

 それを見て、私は覚悟を決める。

 

「――そうですね、では私の家で一緒に寝ましょうか」

 

 「何言ってんのあんたはぁぁああああ!!!」

 

「ひでぶっ!?」

 

 側頭部に強い衝撃。

 もんどりうって倒れる。

 どうやら、後ろからどつかれたらしい。

 

「い、いきなり何を――ってリアさん?」

 

「あんたこそこんな往来の真っただ中で何言いだしてんのよ!」

 

 そこにはセミショートの茶髪をした美少女――リアさんが立っていた。

 どうにもかなりお怒りのご様子だった。

 

「こ、こんな可愛い子を、い、家に連れ去ろうだなんて…!」

 

 興奮して何かを呟いている。

 どうやら、リアさんは誤解をしているようだ。

 私は立ち上がりながら彼女に弁解する。

 

「落ち着いてくださいリアさん。

 確かに私は彼を家に連れて行こうとしていますが、あくまでそれは善意からのものであって――」

 

「この子の身体を舐めるように見てた男が言っても説得力ないわ!」

 

 ……どうやら、大分前から私達のことを見ていたらしい。

 

「その辺りから見ていたのであれば、もっと前に声をかけて頂いても良かったのでは?」

 

 湧いてきた疑問を、つい口に出してしまう。

 

「……!

 あ、あんなことがあって、そう簡単に話しかけられるわけないでしょ!?」

 

 あんなこと?

 ……ああ、私と店長を半殺し(店長は未だに入院中)にしたことか。

 

「そのことなら、私はもう気にしていませんよ?」

 

「あんたは気にしなくてもあたしは気にするの!!」

 

 まったく、そんなに気遣いをしなくてもいいというのに。

 意外に優しい人なのかもしれない。

 

「なぁなぁ、黒田」

 

 リアさんの新たな一面を見つけた私に、陽葵さんが話しかけてきた。

 

「この、めっちゃ可愛い子、誰?」

 

 可愛いのは貴方ですよ?

 そう言いたくなるのをぐっとこらえ、彼の質問に答える。

 

「彼女は、リアさんと言います。

 私の行きつけの酒場で、ウェイトレスをやっている女性で」

 

「へー、そうなんだ。

 あ、オレ、室坂陽葵っていうんだ、よろしくな」

 

 前半は私への返事、後半はリアさんへの挨拶だ。

 

「え? あ、うん、よろしく。

 ムロサカヒナタ……って、あんたもトーキョーから来たの?」

 

「そうそう……って分かるのか!?」

 

「この町には東京出身の人が多いですからね」

 

 陽葵さんに、ウィンガストにおいては<訪問者>がそこまで珍しい存在ではないことを説明する。

 ついでに、陽葵さんが<訪問者>であることと、冒険者に登録したばかりであること、私が今教育係をしていること等をリアさんに話した。

 

「ふーん、新人冒険者なわけね。

 ……大丈夫なの、クロダが教育係で。

 変なこととかされてない?」

 

「……え?

 あ、ああ、ちゃんと色々教えて貰えてるよ」

 

 リアさんの言葉に、少し反応が遅れる陽葵さん。

 それもそのはず、彼はずっとリアさんの肢体を見ていた。

 

 今のリアさんは、Tシャツにカーディガン、そしてスパッツといういつもの私服姿。

 相も変わらず、シャツには彼女のおっぱいの形が浮き出ており、スパッツは下半身に張り付いてお尻の割れ目までしっかり分かる。

 陽葵さんは、そんな彼女の姿に夢中の様子。

 見た目は美少女でも、ちゃんと男の子しているようだ。

 

「本当に?

 気を付けなさいよ、こいつってかなりろくでもないヤツなんだから」

 

「……ん、うん。

 気を、つけるよ」

 

 チラチラとリアさんの肢体を覗き見る陽葵さん。

 初々しい反応である。

 

 そこで、私は周囲がもう暗くなりかけていることに気付いた。

 

「結構な時間になってしまいましたね。

 陽葵さん、お話はそれ位で」

 

「えー、まだリアと話したいのに…」

 

「ヒナタはこの町に住むんでしょ?

 ならまたすぐ会えるわよ」

 

「……それもそっか」

 

 陽葵さんは名残惜しそうに、リアさんの身体を上から下まで眺める。

 ふむ、なかなかの助平心の持ち主。

 話が合うかもしれない。

 

「じゃあねー、ヒナタにクロダ」

 

「おうっ、またな、リア!」

 

「お疲れ様です、リアさん。

 ―――さて、私の家に向かいましょうか」

 

「ちょっと待て」

 

 陽葵さんを促そうとした私に、リアさんが割り込んできた。

 

「結局ヒナタを連れ込もうとするわけ!?」

 

「……いや、それは先程説明したじゃないですか」

 

 リアさんと話しているうちに日も落ちてしまった。

 今から宿を探すのは絶望的だろう。

 

「……そうね。

 分かった、私の部屋を貸してあげる」

 

「はい?」

 

「おおっ!?」

 

 私が疑問の、陽葵さんが感嘆の声を出した。

 

「お言葉はありがたいのですが、こう見えて陽葵さんはお――ぐふっ!?」

 

「うわ、本当か!?

 嬉しいなぁ、ありがとう、リア!」

 

 陽葵さんに肘で脇腹を小突かれ、台詞を止められる。

 そんな私を無視して、リアさんとの話を纏めようとする陽葵さん。

 

 ―――心なしか、少し声のトーンを高めにしている。

 なかなかやりおるわ。

 

「どういたしまして。

 ま、少し散らかってるから片付けなくちゃだけど……

 クロダのとこに行くよりはマシでしょ」

 

「うんうん」

 

 リアさんの言葉に、上機嫌に頷く陽葵さん。

 色々言いたいこともあるが、彼の気持ちは同じ男としてよく分かるので、野暮なことは言わないことにする。

 

「分かりました。

 では、陽葵さんをよろしくお願いします。

 明日の朝、迎えに上がりますので」

 

「ありがとう!

 ありがとう黒田!!」

 

「……なんでクロダにお礼言ってるの?」

 

 私の腕を握って感極まっている陽葵さんの姿(超可愛い)を、訝しむリアさん。

 これ以上変な勘繰りをされるのもまずいので、私は早々に退散することにした。

 

「では、私はこれで……」

 

「あ、ちょっと待って」

 

 帰ろうとする私を、リアさんがまた引き留めた。

 

「何でしょうか?」

 

「や、少し散らかってるって言ったじゃない?

 クロダにも、片付けを手伝って欲しいなーって」

 

「はぁ、それは構いませんが…?」

 

 こちらは部屋を貸してもらう身であるし(貸してもらうのは私で無いにせよ)、片付けの手伝い位なんの問題も無い。

 

 

 

 

 

 ―――そう思っていた時期が、私にもありました。

 

「………」

 

「………」

 

「元々はさ、私ともう一人とでルームシェアしてたんだよね。

 でもその子、ちょっと前に別のとこ引っ越しちゃって。

 で、使わない部屋がまるまる一つできちゃったわけで――まあ、それがここなわけね」

 

 沈黙する私と陽葵さん。

 そんな私達の姿に気付く素振りを見せず、リアさんは続けた。

 

「最初は特に何にも使わなかったんだけど、その内いらない物をこの部屋に仕舞うようになってさ。

 いつか片付けよう、いつか片付けようって思いながら、必要ない物をどんどんこの部屋に入れていって――」

 

「……そして、こうなったという訳ですか」

 

「えーっと……うん」

 

 私の言葉に、頷くリアさん。

 

 今、私達がいるのはリアさんが借りているアパートの一室。

 2DKの間取りになっており、なかなか広い。

 そして、3つある部屋の一つ――今日陽葵さんが止まる予定の部屋の前に、私達は立っていた。

 

「あのですね、リアさん」

 

 その部屋の惨状を見ながら、私は告げる。

 

「これは、『少し散らかってる』というレベルの代物じゃありませんよ?」

 

 部屋の中は、混沌という表現がぴったりの有様だった。

 どこで買ったのか……或いは拾ったのか分からない代物が所狭しに積まれている。

 本、棒、剣のような物、石、置物?、ゴミにしか見えない何か――等々。

 

 前にリアさんの家に来た時はこの部屋に入らなかったのだが、まさか扉の向こうにこんな酷い有様が広がっていたとは……!

 

「これ、今日中に片付くのか…?」

 

「さ、3人で頑張れば、なんとか?」

 

 茫然と呟く陽葵さんに、苦笑いしながら返事するリアさん。

 ……普通にやっていたら、片付けが終わるころには深夜になっているだろう。

 

 ―――仕方があるまい。

 

「リアさん。

 この中に、私に見られて困るものはありませんか?」

 

「え? いや、無いと思うけど」

 

「ここにあるのは全て、捨てて構わない物なのですよね?」

 

「う、うん、そうだよ?」

 

 私の質問の意図が分からないのか、彼女は疑問符を浮かべながら返答する。

 だが、私にとってはその答えで十分。

 次に私は、陽葵さんへ声をかける。

 

「陽葵さん」

 

「うん?」

 

「もう大分お疲れでしょう。

 先に夕食を取って、お休みになる準備をして下さい」

 

「え?」

 

 さらに、もう一度リアさんへ。

 

「リアさん」

 

「な、何?」

 

「すみませんが、陽葵さんに食事をご用意願えませんでしょうか」

 

「わ、分かった、けど……クロダはどうするの?」

 

「私は今から、この部屋を片付けます」

 

 きっぱりと、二人に告げた。

 

「いや、あんただけじゃ無理でしょ」

 

「そうだよ、三人でやった方が早いって」

 

 私の言葉に異を唱えるリアさんと陽葵さん。

 そんな二人に対して、私は不敵な笑みを浮かべた。

 

「失礼ですが、貴方がたでは足手まといです」

 

「「なっ!?」」

 

 絶句する二人。

 そんな彼らを意に介さず、私は腕まくりをする。

 

「かつてバイト仲間から、『片付けの貴公子』とまで呼ばれた私の腕、お見せしましょう」

 

 懐から三角巾を取り出し、頭に巻いた。

 

「2時間です。

 2時間でこの部屋を新品同様にしてみせる…!」

 

 私は一人、部屋に住まう混沌へと勝負を挑んだ。

 

 

 

 第四話③へ続く



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③ リアさんと同居――するのは陽葵さん

 

 

 部屋に入ってくるなり、リアさんは驚きの声を上げた。

 

「うわ、本当に片付いてる!?」

 

「はい、粗方片付け終わりました。

 如何なものでしょうか?」

 

「いかがも何も……嘘でしょ、あんな滅茶苦茶だった部屋が……」

 

 リアさんが驚くのも無理は無い。

 最初にあった混沌は、全てゴミ袋に入れて処理した。

 ついでにベッドメイキングまでしておいた。

 今やこの部屋は、かつての面影はまるで残さず、立派な寝室へと変貌を遂げたのだ。

 

「クロダがこんな特技を持ってたなんて…」

 

「昔取った杵柄です」

 

 学生時代の夏休み、ハウスキーパーのバイトを散々やった甲斐があったというもの。

 

「そういえば、陽葵さんは?」

 

「夕飯食べて、今はシャワー浴びてるよ。

 ………覗いちゃダメだからね?」

 

「そんなことはしませんよ」

 

「どうだか。

 あ、悪いんだけど、もう少しこの部屋で待ってなさいよね。

 今からあの子に、替えの下着持ってくから」

 

「了解しました」

 

 少し睨み付けてくるリアさんに、軽く両手を上げて逆らう気は無いことをアピールする。

 それを見て一つ頷き、彼女は部屋を出て行った。

 

 さて、もう少し時間があるようなので、気になる箇所を清掃しておこうか。

 ――そう思った矢先である。

 

「きゃぁぁああああああ!!?」

 

 リアさんの悲鳴が聞こえてきた。

 ………ひょっとしなくても、脱衣所でばったり鉢合わせてしまったアレだろうか。

 

 向こうから、ドタドタと走る音が聞こえる。

 

「クロダー!!?」

 

 リアさんが部屋に飛び込んできた。

 

「クロダクロダクロダクロダクロダ!?」

 

「落ち着いてください。

 何があったのですか?」

 

 既に予想ができていることだが、聞いておく。

 

「おと、おと、おと、男!!

 ヒナタってば男!?

 なんか付いてた、なんか付いてた、なんか付いてたぁあああ!!?」

 

 完全にパニックになっている。

 気持ちはよく分かる。

 あの成りで男とか、詐欺を通り越してもうファンタジーの領域である。

 しかし、現実は現実。

 私は何とか彼女を宥め……落ち着きを取り戻させた頃には、そこそこの時間が経っていた。

 

 

 

 

 

「まさか、男だっただなんて……」

 

 パニックが収まったはいいものの、リアさんは未だ茫然としている。

 

「説明が遅れてしまい、申し訳ありません。

 それでリアさん、宿泊の件なんですが…」

 

「そ、そうね。

 やっぱり男の人と一緒の部屋でっていうのは――」

 

 彼女の言葉が止まった。

 部屋に、泣き顔の陽葵さんが入ってきたからだ。

 

「ひ、ヒナタ…?」

 

「ごめん、ごめんな、リア。

 オレ、騙すつもりじゃなかったんだ……」

 

 潤んだ瞳でリアさんを見る陽葵さん。

 うわなんだこの天使。

 今すぐ捕獲して飼育したい。

 

「うっ」

 

 その表情の威力は、リアさんにも通じたらしい。

 陽葵さんに対して、何も言いだせなくなる。

 そんな彼女に、彼はさらに言葉を重ねた。

 

「異世界に来て、一人で、心細くって。

 リアが手を差し伸べてくれたのが、とにかく嬉しかったんだ。

 でも……やっぱダメだよな、男のオレがリアと一緒の家に、なんて…」

 

 陽葵さんは少し屈んで、上目遣いでリアさんを見つめる。

 超絶美少女の涙目+上目遣い。

 ……このコンボは、リアさんをも撃沈させた。

 

「べ、別にあんたを泊めないなんて一言も言ってないでしょ!

 こんな時間に放り出すなんて寝覚め悪いし!

 但し、あたしの部屋には入らないでよね!」

 

「ありがとう、リア!」

 

 満面の笑みを浮かべる陽葵さん(可愛い)。

 その手に目薬らしきものを握っていたのは、見なかったことにしておく。

 

 こうして陽葵さんは、リアさんの家での宿泊をその手につかみ取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

「ご馳走様でした」

 

「はい、お粗末様」

 

 私はリアさんの家で夕食を頂いていた。

 陽葵さんはあの後すぐに就寝した。

 異世界に来た事、冒険者になった事、色々ありすぎて、疲れは相当に溜まっていたことだろう。

 

「ありがとうございました、リアさん。

 私にまで食事を用意して頂いて」

 

「結局クロダ一人に掃除押し付けちゃったからね。

 これ位はしてあげないと」

 

 リアさんは、片付けのお礼、ということで私にも料理を作ってくれた。

 黒の焔亭の料理に比べると流石に劣ってしまうが、なかなか美味しい料理だった。

 

「お礼ついでに、陽葵さんのことも」

 

「うん?

 ああ、別に気にしなくていいよ。

 結局は私から言いだしたことなんだから」

 

「助かります。

 明日には宿を見つけますので」

 

「別にしばらくはうちに泊めても大丈夫よ?」

 

「――は?」

 

 思わぬリアさんの発言に、一瞬理解が追い付かなかった。

 

「だから、私の家を宿代わりに使っても良いってこと」

 

「いや、それは流石に…」

 

 リアさんに迷惑をかけすぎなのでは。

 

「でも、ヒナタが安心して泊まれる宿なんて、早々無いでしょう?

 そりゃ、高いところなら別だけど、駆け出し冒険者にそんなお金は無いし」

 

 こちらの事情はよく理解して頂いている様子。

 

「別に私の家に泊めるでも構わな――」

 

「それはそれで危険でしょうが」

 

 言葉が終わる前に否定された。

 それ程信頼が無いだろうか。

 

「しかし、リアさんはいいのですか、それで?」

 

「あたし?

 まあ、なんとかなるって」

 

 軽く言ってのけるリアさん。

 男と同居等、年頃の女の子はもっと嫌がるものかと思っていたが…

 

 ―――はっ!?

 

 そこで私一つの事に気付いた。

 

「ひょっとして、陽葵さんみたいな人が好みだったんですか?」

 

「なんでよっ!!?」

 

 全力で否定される。

 ……違ったのか?

 

「普通に人情とか、親切心とか、そういうヤツよ!」

 

「………まさかリアさんからそんな言葉が聞けるとは」

 

「あんた、あたしを何だと思ってたの?」

 

 つい先日、半殺しにされた身としては、その言葉に正直な答えは返しづらい。

 私が答えを濁していると、彼女はふーっと息をついてから、語り出した。

 

「あのね、あたしが黒の焔亭で働きだすよりも大分前の話なんだけど――」

 

「どうしました、突然?」

 

 前後の話の繋がりが見えない。

 

「黙って聞きなさい。

 で、その大分前の話なんだけど、あたし、町の外で魔物に襲われたことあったのよね」

 

「ほう?」

 

 初耳である。

 

「完全に囲われちゃって、『あ、あたしここで死ぬんだな』って諦めまで浮かんできちゃって。

 ――そんなところをね、通りすがりの冒険者に助けられたの」

 

「それはそれは」

 

 さらっと話しているがかなり危なかったのではないだろうか。

 ちなみに、魔物は<次元迷宮>の中にだけ生息するわけでは無い。

 流石に町中に出現することはそう無いが、郊外に出ると稀に遭遇することもある。

 

「で、その冒険者が凄いお人好しでさ。

 こっちがお礼を渡そうとするのを『困ったときはお互い様』とか言って断って。

 それじゃあたしの気が済まないって引き留めたら、『それなら、今度貴女が困った人を見かけた時、助けてあげて下さい』とか言っちゃうわけよ。

 ……そんなことがあったから、誰かが困ってたら、あんまし見捨てたくないの――なんてね」

 

 最後は軽く茶化して、リアさんは語った。

 

 しかしそれはまた……度を越した善人なのか、気障屋さんだったのか。

 失礼ながら、聞いててちょっと恥ずかしくなってしまうお方である。

 

「いや、ほんと、馬鹿なヤツだったんだと思う。

 でも、助けに来てくれて本当に嬉しかったし……あたしを助けてくれた時の、そいつは――」

 

 ここで少し躊躇いがちに言葉を切る彼女。

 

「――すごく、格好良かった」

 

 言いながら、私を熱い目で見つめてきた。

 

 …………いやいやいや、何故に?

 

 まるで『助けてくれたのは貴方です』とでも言いたげな雰囲気。

 しかし残念ながら、頭をどうひっくり返しても、私の方にはそんな記憶欠片も無いわけでして。

 リアさんのような美少女と会った記憶を、私が忘れるわけもないし。

 

 そう慌てている私に、彼女はさらに語った。

 

「――そんな、風に、思ってた、あたしの――」

 

 おや、リアさんの目つきがおかしく……?

 

「――あたしの、乙女心を――」

 

 あれ、何だろう、やばい気がする。

 普段は大して働かない私の危険察知センサーが、けたたましく警報を鳴らしているような?

 

「――粉々に砕いてくれたわけだ、あんたが!!!」

 

 突如、私の胸倉をつかみ上げてきた。

 ああああ! この前色々ヤッちゃったこと、まだ気にしていたんですね!?

 店長共々半殺しにされて、色々水に流れたかと思っていたのに!!

 

「どーしてくれんのよ、あたしのこの気持ち!」

 

 胸倉をつかんだまま詰め寄るリアさん。

 ああ、顔が近い近い。

 

 どーしてくれるも何も、私にはどうしようも無いので、

 

「……んむっ!?」

 

 彼女に、キスをした。

 

「………ちょ、今、どうしてキスしたの?」

 

「顔が近かったもので」

 

「ち、近かったからって…!」

 

 不意を突かれてたじろぐリアさん。

 私はその隙を逃さず、彼女を抱きしめた。

 

「――へ? ちょっと…!?」

 

 そしてもう一度、今度は念入りに口づけをする。

 

「……んんっ……やめっ……ふぁっ……んぅっ……」

 

 リアさんの口の中に舌を入れ、彼女の口内を丁寧に舐め上げる。

 

「……んむぅっ……れろ……あむっ……んぁ……」

 

 彼女の身体から力が抜けてきたところで、口を離す。

 リアさんを落ち着かせるにはこれが一番だと、最近気づいた。

 

「あ、んたね…いきなり…」

 

「すみません。

 でもあのまま行くと、また殴られそうだったので」

 

 半殺しにされるのは仕方がないにしても、今は教育係実行中。

 私が動けなくなると、陽葵さんの面倒をみる人がいなくなってしまう。

 

「大体、私のせいと言いましても……貴女に手を出したのは、店長の方が先でしょう?」

 

「それは…! そう、なんだけど……」

 

 リアさんを抱きしめた手を動かして、彼女の身体を撫でまわる。

 

「ひゃんっ……や、やめてよ…」

 

 やめてあげない。

 手を動かし続けたまま、私は彼女に語り掛けた。

 

「ねぇ、リアさん、教えて貰えませんか」

 

「…え?」

 

「店長と、貴方の行為について」

 

「そ、そんなの――ひぁっ!?」

 

 拒否しそうだったので、今度は彼女の耳を舐めまわした。

 

「ふぁぁああああ……」

 

 びくびくと震えるリアさん。

 しばらく舐めた後に舌を離し、私は質問を続けた。

 

「初めて、店長が手を出してきたのは、いつなんでしょう?」

 

「……あたしが、黒の焔亭で働き出してから、3日目くらい…」

 

 ぽつぽつと、私の質問に答えだす。

 

「まずは何をされたのですか?」

 

「……最初は、通り過ぎるときに、胸やお尻にちょっと触れるくらいで…」

 

「こんな風に?」

 

 手を下に回し、スパッツに包まれたお尻を軽く触る。

 

「ひゃぅっ……うん、そう…」

 

「その時は抵抗しなかったんですか?」

 

「…わざとだと思わなかったから…」

 

「そうですか……次は、どうされました?」

 

 さらに彼女へ話を促す。

 

「…次は、だんだんと露骨に、身体を触る様に…」

 

「こうですか?」

 

 スパッツ越しにリアさんのお尻を揉む。

 さらに、もう片方の手でシャツごと彼女のおっぱいを掴んだ。

 

「んぁあっ!?……そんな、感じ……」

 

「まだ、抵抗しなかった?」

 

「…んっ……した、けど……あっ……怒鳴ったり、軽く引っ叩いたり……んっ……」

 

「でも、店長は止めなかったんですね」

 

 胸とお尻を揉み続ける。

 

「そ、う……あんっ……それ、どころか……んんっ……もっと、触る、ように……」

 

「もっと?

 こういうところをですかね」

 

 お尻を揉んでいた手を彼女の女性器に移した。

 そのまま、スパッツの上から指で彼女の陰唇をなぞる。

 

「あぁああっ!……そこ、そこやられた、のっ……あんっ……」

 

 意識してなのか、無意識なのか、リアさんの方から私に抱き付いてきた。

 

「それから、どうされました?」

 

「はぁああぁっ……それから、は……下着の中、に……手を入れられ、たり……んんんっ……」

 

「ほうほう」

 

 言われたように、私はスパッツの中に手を突っ込んだ。

 胸の方も、シャツに手を入れてブラを捲り、直接おっぱいに触る。

 

「ひゃぅっ! んぁあああっ!!」

 

 私の責めに悶えるリアさん。

 だが私の問いかけは終わらない。

 

「もう抵抗はしなかったんですか?」

 

「あぅっ……した、したよっ!……もう、手加減せず…あんっ……思いっきりぶん殴ったり、したのに……あああっ!」

 

 その程度であの店長が手を緩めるはずが無い。

 

「そうですか……それでは、店長に初めてイかされたのは、どれ程で?」

 

「んんんぅっ! 初めて、イッちゃったのは……あぅっ!……1週間前、で……あんっ!」

 

 では3週間近く店長の責めを耐えたのか。

 かなり頑張った方だ。

 

「それからは、もう、言いなりに?」

 

「ち、違……あぅううっ!…ヤられるたびに、殴ってやった、のに…んんっ!…あいつ、全然、止めない…んぁああっ!」

 

 女性器からは愛液が溢れ出て、弄るたびにくちゅくちゅと音が鳴った。

 おっぱいも乳首が勃って、彼女が興奮していることを分かりやすく主張してくる。

 

「私が覗いたときも、そうだったんですね」

 

「あぁんっ!…そう、なの……あぅうっ!…最近は、あいつ……はぁんっ!……どんどん、調子にのって……」

 

「店長に舌で女性器を舐められていましたよね……どうでした、店長の責めは」

 

「あい、つ……んんんっ……舌、ざらざらして……ああんっ……あたしの、気持ちいいとこ……あぅっ!……どんどん、舐め、てぇっ!」

 

「気持ちいいところ……リアさんは、こちらの方がお好みですかね」

 

 指を女性器からクリトリスに移動させる。

 そして、今度は陰核を擦っていく。

 

「ひゃぅうっ!…そ、こ、ダメっ!…あんっ!…いいっ!…はぁんっ!…気持ち、いいっからぁっ!…ああんっ!!」

 

「気持ちいいなら、イっちゃえばいいんですよ。

 ほら、存分に絶頂なさい」

 

 さらに強くクリトリスを弄ってやる。

 

「んぁあああああっ!! イくっ! イっちゃう!! あああぁあぁああ!! イっ―――くぅうううううううっ!!!」

 

 ぎゅうっと私を抱きしめるリアさん。

 ガクガクと腰を揺らして、盛大に絶頂する。

 

「ん、ぁあ、あ、あぁあ……はっ…はっ…はっ…はっ…」

 

 余韻冷めやらぬ様子の彼女から、カーディガンとシャツを剥ぎ取る。

 

「んっ……あっ……」

 

 特に抵抗なく、上着を脱がせることに成功した。

 半分取れかかっていたブラも外して、彼女の綺麗なおっぱいが露わになる。

 両手で彼女の胸をつかみ、柔らかさとハリの良さの絶妙な両立を堪能する。

 

「―――セドリックさん」

 

 胸を揉みながら、さらに問いかけた。

 

「セドリックさん、覚えていますか。

 私とした日、貴女にシめられていましたね?」

 

「あふっ……ん、覚えてる、けど……ああぁあ…」

 

「あの時、リアさんは彼にお尻を見られそうになったと言っていましたが……あれ、嘘でしょう?」

 

 いくらリアさんとて、覗き未遂であの制裁は考えにくい。

 おっぱいを激しく弄りながら、彼女の答えを待つ。

 

「……う、そ……あんんっ……うん、あれ…嘘……ひゃんっ……あいつ、本当は……」

 

「本当は?」

 

「……んんんっ……あいつ、あたしの、お尻を……あぅんっ……揉んできて……あんっ」

 

「おやおや」

 

 おっぱいを揉まれてまた感じ出したのか、再び私に抱き付いてくるリアさん。

 そんな彼女の身体を上手く動かして、今度はスパッツとパンツを脱がしていく。

 

「こんな風に、こんな風に揉んできたんですね」

 

 ぷりんっとした美しいお尻が私の前に現れる。

 片方の手をそのお尻に伸ばして、つい先刻と同じように揉みしだく。

 

「……そう、なのっ……あぁんっ……あいつも、前から……はぁんっ……触って、きた、けど……うぅんっ……遠慮が、無くなって……んんぅっ!」

 

「そして、気持ち良くなった?」

 

「……あぁああっ……気持ち、良く……んんんっ……なっちゃったっ!……あぁんっ!……あんな、おっさんに揉まれて……はぁあんっ!……気持ち、良かったのっ!」

 

 一糸纏わぬ姿になりながら、リアさんは私に絡んでくる。

 私もまた、おっぱいとお尻への刺激で彼女に応える。

 

「気持ち良かったなら、そのままさせてあげれば良かったのに」

 

「……や、やだっ……あぅっ……だって、あそこ……ううぅんっ……他にも、人、いたし……ああぁあんっ!」

 

「他に人がいなかったら、身を任せていた?」

 

「……そんな、ことっ……あぁんっ……無い、よっ……んぁああっ……無い、からぁ……あぁぁあああ…」

 

 誰が聞いても嘘と分かる台詞を吐きながら、気持ち良さそうに体をくねらせる彼女。

 そこで、私は彼女への責めを止めた。

 

「……あっ……あ?」

 

 不思議そうに、欲求不満そうにするリアさんへ、私は告げる。

 

「ねえ、リアさん。

 今、ここには他に人いないですよ?」

 

「―――え?」

 

「私に身を任せても、いいんじゃないですか?」

 

「―――あ」

 

 リアさんは、少しだけ逡巡してから、

 

「………うん、もっと、気持ち良く、して…」

 

 私を求めてきた。

 ……どうやら、彼女の頭から陽葵さんのことは忘れ去られているらしい。

 

 ズボンを下ろし、そんな彼女に私の男性器を見せつけてやる。

 

「ほら、リアさんが欲しがってたモノですよ」

 

「あっ……クロダの、ちんぽ……すご、おっきぃ……」

 

 物欲し気に私の男根へ擦り寄ろうとする彼女を手で止める。

 

「……?」

 

 再び不思議そうな顔をするリアさん。

 

「リアさん、これが欲しいんでしょう」

 

「う、うん……欲しいの……」

 

「人のモノが欲しいのなら、ちゃんとお願いしなくちゃダメじゃないですか」

 

 彼女を床に押し倒し、自分のイチモツを彼女の股間に擦り付けながら、催促した。

 

「ほら、しっかりおねだりして下さいよ」

 

「はぁああんっ…わ、分かったっ……あぁあっ…分かった、からぁっ!」

 

 言いながら、彼女は自分から脚を開け、女性器を指で広げる。

 そして――

 

「あたしの、おまんこに……クロダのちんぽ、挿れて、下さい…」

 

 そう、懇願した。

 

 満足した私は、彼女の膣へ、ギンギンに勃起した愚息を突き刺した。

 

「あぁあああああああああんっ!!」

 

 リアさんが、嬌声を響かせる。

 

 ―――その日、この声は深夜を超えても途絶えることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 昨晩あんなことがありながら、一番最初に起きて、後片付けや朝食の用意をしたのは私だった。

 ちょっと、褒めて欲しい。

 

 

 第四話 完



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第五話 ある社畜冒険者の新人教育 二日目
① 陽葵さんのお尻※


 私の目の前には、尻があった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……すぅー……すぅー……」

 

 安らかに寝息を立てる陽葵さん。

 

 時刻は朝。

 私は彼を起こすために、寝室へ入っている。

 

「……すぅー……すぅー……」

 

 陽葵さんは寝息までが可愛らしい。

 

 彼は今、お尻を上に突きだすようなうつ伏せの姿勢で寝ている。

 寝相は余りよろしくないようだ。

 寝る時かけていたであろう毛布も、ベッドの下に落ちている。

 

「………ふむふむ」

 

 私は陽葵さんを起こすためにこの部屋に来たわけであるからして、すぐにでも彼に声をかけるべきなのだが――別に時間が切迫しているわけでもない。

 少々彼を観察してもいいのではないだろうか。

 1、2週間程度とはいえ、教育係としてこれから付き合っていくわけではあるし、できるだけ陽葵さんの事を知っておいて困ることは無い。

 

「というわけで、さっそく」

 

 観察を始める。

 

 まず手始めに、顔。

 気持ち良さそうに寝ている。

 異世界に来て初めての夜だったはずだが、不安やストレスは余り抱えていないように見えた。

 性別男というのが悪質な詐欺に聞こえる程、完璧に整った可愛らしい美貌は、目を閉じていても一向に衰える気配は無い。

 また、ショートカットの金髪は、一晩寝た後だというのに大して寝癖がついていなかった。

 

 彼の髪を撫でてみる。

 

「……なるほど、素晴らしい」

 

 短く切られているにも関わらず、柔らかさがよく手に伝わってくる。

 さらにはこのサラサラとして艶のある質感。。

 髪を撫でているだけなのに、まるで飽きが来ない。

 

「……さて、次は」

 

 やはり、先程から存在を主張しているお尻だろう。

 

 着の身着のままでウィンガストに来た陽葵さんは、寝間着など当然持ってきていない。

 そのため彼は今、下着姿である。

 上はタンクトップ、下は灰色のボクサーパンツだ。

 昨日の服装から、ジャケットとショートパンツを脱いだだけ、とも言う。

 

「……一応、男物なのか」

 

 ボクサーパンツをじっくり見ながら、言う。

 男なのだから当たり前ではあるのだが、やはり違和感はある。

 

 しかし、それで陽葵さんの魅力が損なわれているのかと言えば、答えは否だ。

 お尻にピッタリとフィットしているパンツは、陽葵さんの至高の曲線をまるで隠していない。

 男性とはまるで思えない、いや、女性として考えてみてもその形は余りに理想的すぎる。

 腰のくびれ、お尻の丸み、太もものハリ、脚の長さやすべすべ感、今私の目に見える全てが女として完璧な領域で整っている。

 

 何故彼は男として生まれてしまったのか。

 呪いか何かで性別を変えられてしまっている、と言われれば、私はあっさり信じてしまうだろう。

 

「……とりあえず触ってみるか」

 

 男同士でもスキンシップ等で肌を触ることはある。

 これ位なら色々な意味で問題ないはずだ。

 そんな感じに自分を納得させる。

 

 ――と、余り時間をかけすぎると、起きてしまうかもしれない。

 両手を伸ばして陽葵さんのお尻を掴む。

 

「……! これは…!?」

 

 思わず息を飲んだ。

 

 陽葵さんのお尻の感触。

 それは、男の筋肉質な硬さと大きくかけ離れていた。

 しかし、女性のような柔らかさかと言われると、それとも質が異なる。

 

 なんと表現すればいいのか。

 女性のお尻よりも筋肉質であるのだが、その筋肉が男のように硬くないのだ。

 高い柔軟さを備えた筋肉、という言い方で少しは伝えられるだろうか。

 

「……なんだこれは……なんなんだこれは……!」

 

 一心不乱に陽葵さんの尻を揉む。

 

 モハメド・アリの筋肉はマリリンモンローの身体と同じ柔らかさだったとどこかで聞いたことがあるが、だとすれば陽葵さんはモハメド・アリをある意味超えていた。

 揉んでいる手に反発を感じるほど弾力があるのに、しかしそんな中で柔らかさもしっかりと維持している。

 固さと柔らかさの絶妙なハーモニー。

 こんな感触を味わえる肢体があったとは、今まで考えもしなかった。

 しかもそれを持っていたのは、女ではなく男なのだ。

 

 ファンタジー世界にあって一番のファンタジー的存在が現代社会から来た人間であったとは…!

 コロンブスの卵、或いは蒼い鳥はすぐ隣に居た!?

 何を言ってるか分からないと思うが、大丈夫、私も分からない。

 

 ……と、そんな滅茶苦茶なことを私が考えていると。

 

「……んっ……あっ……んんっ……」

 

 陽葵さんの口から、色っぽい声が漏れ出した。

 ……私の聞き間違えか?

 疑問に思いながらも、尻揉みを継続。

 

「……はっ……あ、んっ……あっ……」

 

 聞き間違いでは無かった。

 陽葵さんが、嬌声を出している。

 

 ……いやちょっと待った。

 なんでこの人、男なのにこんなエロい喘ぎ声なのか。

 まだ寝ているのに。

 尻を揉まれただけなのに。

 

 ひょっとして既に起きていて、私をからかっているとか?

 

 そう考えて、尻をもう少し強く揉んでみる。

 ……この尻の感触、もう病みつきになりそうだ。

 

「……あんっ……んぅっ……あぁんっ……」

 

 陽葵さんは起きる様子無く、喘ぎがやや強くなった。

 

 ……男の反応じゃないって。

 しかもその声のエロいことエロいこと。

 元々女の子らしい高い声質なので、もはや『美少女がお尻を揉まれて喘いでいる』図でしかない。

 

「もう、脱がすしかない…!」

 

 パンツを脱がす。

 脱がして、直接この目で全てを確認するのだ!

 

 ボクサーパンツをぐいっとずり下ろす。

 これで陽葵さんの目が覚めたら、その時はその時である。

 

「……んん……すぅー……すぅー……」

 

 幸い、まだ寝ているようだ。

 陽葵さん、少々鈍感すぎやしないか。

 

 下半身を生まれたままの姿にし、私は股間を覗き込んだ。

 そこには……

 

「やはり、ある……?」

 

 当然、そこには小さ目ではあるものの男のシンボルが生えていた。

 しかし……毛が無い。

 股間回りから、お尻にかけて、綺麗につるっつるであった。

 手入れをしているわけも無いだろうから、この状態が陽葵さんの普通なのだろう。

 

 ………本当に、どういう身体をしているのだ、この人。

 

「……ここまで来たからには、上も確認しておくか」

 

 謎の使命感に動かされ、私は陽葵さんを仰向けにした。

 ちょっとやそっとでは起きないことが分かったので、行動が大胆になってきている。

 そして間をおかず、タンクトップを捲し上げた。

 

「……綺麗だ」

 

 そこには、当然膨らみは無かった。

 だが、男らしい胸板もまた無かった。

 

 華奢で、しかし柔らかい胸肉がそこにはあった。

 そして綺麗なピンク色の乳首も。

 

 ……貧乳な女性の胸、で十分通せる。

 流石に完璧な造形を誇る下半身程ではないが、この胸でも男は誘えるのではないだろうか。

 それ位、綺麗な胸だった。

 

 現在陽葵さんはほぼ全裸だが……こんな状況であっても、股間のモノさえ見なければ彼が男だと分からない。

 それほどまでに陽葵さんの肢体は女として完成されている。

 

 そんなわけで、乳首を舐めてみる。

 

「……あぁんっ」

 

 またしても嬌声が上がった。

 私は、女のおっぱいにむしゃぶりつくが如く、陽葵さんの乳首に吸い付いた。

 

「……んんっ……あっ……あんっ……」

 

 女のように喘ぐ、陽葵さん。

 彼が男である事実を忘れさせる乱れっぷりだ。

 

「……んぅっ……んんっ……あぅっ……」

 

 艶のある声を聞いて、私の股間が勃起してくる。

 陽葵さんの乳首もまた、彼の昂りに応えるように勃ってきた。

 

 ……しかし、ここで困ったことが発覚する。

 挿れるべき穴が、無い。

 

「…………いや」

 

 ――ある。

 陽葵さんにも、穴はある。

 その天啓に従い、私は彼の姿勢を再びうつ伏せに変えた。

 

「……んんん……んぅ……すぅー……すぅー……」

 

 こんなにやっても陽葵さんに目覚める気配が無い。

 これは、OKサインと受け取っても良いように思えた。

 

 私は両手で尻の割れ目を拡げ、目的の箇所を見つける。

 陽葵さんの尻穴だ。

 

 やはりと言うべきか、そこもまた美しい色合い・形状をしていた。

 ここまで来れば、そのことはもう驚きに値しない。

 

 私はまず人差し指で、肛門を触る。

 

「……固いな」

 

 まだ誰も受け入れたことがないのであろう(当たり前か)、陽葵さんの尻穴は固く閉ざされている。

 無理やり入れるのはまだ無理――か。

 

 仕方なく、陽葵さんの肛門を指で弄り、少しずつほぐしていく。

 

「……んおっ……おっ……んんぅっ……あっ……」

 

 三度、陽葵さんが艶混じりの声を出し始める。

 それをBGMに、私は彼の穴を弄り続ける。

 

「……あっ……あっ……おぉっ……おぅっ……」

 

 少しずつ、固さが取れていく。

 

「……あぅっ……あっあっ……おっ……んぉっ……」

 

 丹念に丹念にほぐす。

 

「……おっおおっ……おぅっ……んぁあっ……あぅっ……」

 

 そろそろいいだろうか。

 私は人差し指に力を入れ、陽葵さんの尻穴へ挿し込んだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その瞬間である。

 

「……んぉおおっ!?」

 

 陽葵さんが一際大きく喘いだ。

 挿れた人差し指が、痛いほど締め付けられる。

 

「おっおっおっおっ……んぁああっ……あっあぁあああ!」

 

 びくびくと身体を痙攣させて、股間のモノから白濁した液を迸らせる陽葵さん。

 指を一本挿れただけで、絶頂に達してしまったようだ。

 未経験だからなのか、それとも素質があるのか、感度は非常に良好らしい。

 

「は、あぁあああああ……おぉお…んっ……」

 

 ひとしきり射精が終わると、ぐったりと倒れ伏す。

 その時の動きで、人差し指は抜けてしまった。

 

「……はっ……んっんっ……はっ……はっ……」

 

 荒い呼吸を繰り返す。

 ――今回はここまでにした方が良いだろう。

 

 陽葵さんの身なりを軽く整え、ベッドのシーツに付いた精液を拭き取ってから、私は寝室を後にした。

 

 

 

「……あ、あれ、クロダ? ヒナタ、起こしに行ったんじゃないの?」

 

 リビング戻ると、私に少し遅れて起きたリアさんが居た。

 シャワーを浴びた後なのか、セミショートの髪が少し濡れている。

 朝食の用意は済ませているのだが、律儀に陽葵さんが起きるのを待ってくれているようで、まだ手を付けていない。

 

「……ええ、余程ぐっすり眠っているようで。

 今日の用事はそれ程時間のかかるものではありませんし、もう少し寝かせて上げてもいいかな、と」

 

 リアさんに近づきながら、私はそう告げた。

 

「ふ、ふぅん……まあ、昨日こっちに来たばっか、だもんね。

 じゃ、ちょ、朝食はどうしよっか。

 あ、あたし達だけで、先に食べちゃう?」

 

 何故か言葉遣いが少したどたどしいリアさん。

 私を直視せず、斜めを向いて話してくる。

 顔も少し赤いような気がする。

 昨晩の事が尾を引いているのだろうか?

 

「朝食もいいのですが――」

 

 今の私には、食事よりも先に喰わなければいけないモノがあった。

 十分にリアさんへと接近した私は、彼女を押し倒す。

 

「――え?

 な、何すんのよ!?」

 

 面食らう彼女だが、事情を説明するのももどかしい。

 私は陽葵さんの痴態によってギンギンに勃起したイチモツを取り出す。

 そしてリアさんが履いているスパッツとパンツを無理やり脱がし――

 

「――ちょっ、ま、待ちなさいって……んぁあああああああっ!?」

 

 リアさんの中へと、男根を突き入れた。

 この昂りは、リアさんの身体を使って治めることにする。

 

 

 

 結局、陽葵さんが起きたのは、私が二度程リアさんの膣に精を注いだ後であった。

 

 

 

 ――そんなこんなで少々慌ただしく朝を過ごしたわけだが。

 

 朝食も済ませ、現在は冒険者ギルドへの向かう道中である。

 同行者は勿論、陽葵さん。

 リアさんは昨日からの疲れがあったのか、朝の食事が終わると二度寝してしまった。

 

 ……一瞬、次に会う時どのような制裁が待っているのか考え、身体が強張る。

 殺されないと、いいな。

 

「リア、大丈夫かなぁ?」

 

 そんな私の悩みを一切知らない陽葵さんは、リアさんの調子を心配している様子。

 朝の件については、覚えていないようだ。

 

「色々と気を遣ってくださいましたからね。

 私達には言わないだけで、気苦労もさせてしまったのでしょう」

 

 適当に言葉を合わせる。

 

「部屋を貸してくれただけじゃなくて、食事まで厄介になっちゃったからなー。

 ……あと、オレの性別のこととか」

 

「帰ったら、改めて感謝を伝えた方が良いかと」

 

「うん、そうするよ」

 

 正確には、朝食は私が用意したのだが、そこは指摘しないことにする。

 私は話題を変えて、

 

「さて、今日は、陽葵さんの職業を決めます」

 

 歩きながら、本日の予定を確認をする。

 昨日は冒険者の登録まで済ませているので、今日は職業を決める。

 その後、職業に応じた装備を揃えるところまでは終わらせたいところだ。

 

「とうとう来たか、この時が!」

 

 陽葵さんはワクワク顔をしている(可愛い)。

 

「職業に就けば、かなり今までと感覚が変わってきますよ。

 冒険者登録の段階では大して変わらなかったでしょうけれど」

 

「そうなの?」

 

「はい。

 ステータス的な話をしますと、職業を決めた段階で筋力や体力などの基本能力に職業による補正がかかりだすんです。

 例えば<戦士>になったとすると、自分の力が強くなっていることにすぐ気が付くでしょう」

 

「へー、いいなぁ、それ。

 黒田も、やっぱ地球に居たときと違う?」

 

「私は<魔法使い>なので力はそれ程変わっていませんが、思考速度などは前よりも格段に速くなっていますね」

 

「ほうほう」

 

 うんうんと頷く陽葵さん。

 

「それで、陽葵さんがどの職業になるか、ですが」

 

「そうそう、それが話したかった」

 

「朝に説明しましたが、覚えていますか?」

 

「うーん、まあ、一応」

 

 自信なさげな顔をする陽葵さんだが、これはそれ程難しい話ではない。

 

 最初に就く職業は特殊な事情が無い限り、<戦士><僧侶><盗賊><魔法使い>の4種類の基本職の内、最も適性が高いものが推奨されている。

 前にも話したが、冒険者にとって最も重要なパラメータは職業適性であり、これに従うのが最も確実なのだ。

 複数の職業が最高適性だった場合のみ、基本ステータスの高低等も吟味する、位で問題ない。

 

 陽葵さんの場合は最高値であるA適性が<僧侶>と<盗賊>で出ているので、その二者択一が悩みどころではある。

 

「私は<僧侶>になることをお勧めしますね。

 回復担当というパーティーの要を担い、その関係で比較的安全な位置に置かれることが多い職業ですから」

 

 危険と隣り合わせな冒険者稼業だが、職業によって危険度は多少上下する。

 先程言った通り、<僧侶>は後ろに置かれ他の仲間によって守ってもらえることが多く、逆に<戦士>は前に立って仲間をかばう役割を担う。

 どちらの方が身の危険が大きいか、一目瞭然であろう。

 

 もっとも、その分<戦士>は体力への補正が高いので、<僧侶>なら死にかねない傷を負ってもピンピンしていることがあったりするが。

 

「でも、<僧侶>より<盗賊>の方が、基本能力への補正は大きいんだったよな?」

 

「はい、その通りです」

 

 職業に就くことで補正が得られると言ったが、当然就いた職業によって得られる補正は異なる。

<戦士>なら筋力・体力・敏捷に大きく補正がかかり、一方<魔法使い>は知力や魔力に補正がかかる。

 また、得られる補正の総量も職業によって違う。

 具体的には、<戦士>→<盗賊>→<僧侶>→<魔法使い>の順で補正の総量は小さくなっていく。

 さらにこの補正の大小は、レベルアップした際に上がる基本能力の数値にも影響を及ぼす。

 

 つまり、補正の少ない職業は成長を実感しにくいとも言えるわけで、陽葵さんはそこを気にしているのだろうか?

 

「しかし、補正の少ない職業程、スキルポイントが多く手に入りますから。

 一概に劣っているわけではありませんよ」

 

 スキルポイント。

 はい、また新しい単語が出てきました。

 

 冒険者の扱うスキルは、レベルアップ時に手に入るスキルポイントを消費することで獲得する、或いは成長させることができる。

 このスキルポイントの入手量も職業によって異なっており、基本的に基本能力補正の小さい職業程スキルポイントは手に入りやすい。

 

 つまり、様々なスキルを駆使して冒険をしたいなら、能力補正の少ない職業になる方が有利、というわけだ。

 

「それも、分かってるんだけどさ…」

 

 煮え切らない返事。

 ……どうも、陽葵さんの心は<盗賊>の方は傾ている様子。

 

「まあ<僧侶>押しの発言ばかりしてしまいましたが、<盗賊>もまた良い職業ですよ。

 迷宮探索の中心になる職業ですから、募集しているパーティーも多いですしね」

 

 A適性<盗賊>ともなれば、冒険者ランクCやBのパーティーに声をかけられることもある。

 そういう強いパーティーに最初から所属できれば、安全にレベリングさせて貰えるので、今後に有利だ。

 

 ……そういえばさっきから安全面の話しかしていないな。

 とはいえ、私が最も重要視しているのが正にそこなので、こればかりは致し方ない。

 私が教育係についた段階で、ある程度諦めて頂くしか。

 

「いやー、そういうことでも無くて」

 

「はい?」

 

<盗賊>になろうとしていたわけでも無い?

 では、何に引っかかっていたのだろうか。

 

「その、職業ってさ、基本職じゃなくて、派生職に最初からなることもできるんだよな?」

 

 ……そこを考えていたのか。

 

「なることはできますが。

 お勧めはできませんね」

 

 前にも触れたが、職業には基本職にそれぞれ対応した派生職というものがある。

 派生職は基本職に比べ、特定の役割に特化したものとなっている場合が多い。

 例えば、<僧侶>の中でも前衛に立つことを目的とした<聖騎士>、<魔法使い>の中でも補助・強化魔法に特化した<付与術士(エンチャンター)>などだ。

 

 派生職はその役割に合わせて、基本職とは異なる補正を持っている。

 勿論スキルポイントの獲得量も違うし、スキル毎の習得し易さや効果量なども変わってくる。

 

「派生職は経験をある程度積んで、パーティー内での自分の立ち位置や自分の特性を把握し、それを考慮して就くものです。

 パーティー構成上どうしても、というケースを覗いて、最初からなるものではありません」

 

 パーティーで行動を続けていれば、その中での自分の役割が明確になってくる。

 その役割により適した派生職を選択する、というのが派生職へ転職する主な流れである。

 例えば、後衛につくことが多い<盗賊>が弓をより上手く扱えるように<狩人(ハンター)>に転職する、とかだ。

 

 ただ、ジャンさんのパーティーのように、パーティー編成時に問題が発生する場合もある。

 ジャンさんのところは、<戦士>の適性が高いメンバーを用意できなかったため、<僧侶>適性の高かったコナーさんが戦士の代わりもできる<聖騎士>になっている。

 こういった事情が無い限り、基本職の方が探索をする上でバランスの良い能力に設定されているので、最初から派生職を選ぶメリットは無いだろう。

 

 自分の特性、というものも軽視できない。

 職業による補正や、スキルの効果量・習得難易度等には、個人差があるのである。

 体力の基本能力が上がりやすいとか、剣より槍を使った方がスキルの効果が高いとか、火の魔法が他の魔法よりも習得しやすいとか。

 そういった特性は人によって千差万別であり、冒険証のステータス画面には表示されない。

 何度も冒険を重ね、実戦の中で把握していくしか無いのだ。

 そうやって自分の持つ特性を理解してから、それに見合った派生職を選ぶことで、より効率的に自分の力を発揮できるようになる。

 

「最初に基本職を選んだとしても、冒険者ランクがCになれば転職が可能になります。

 その時派生職になるのが、最も適切です」

 

「そうなんだけどさ、そうなんだけどね。

 やっぱり、皆がなっていない特殊な職業に就くっていうのは魅力的なわけじゃん?」

 

 そうだろうか?

 皆がそれを選んでいることは、それが最適な選択であることの証明だと思うのだが。

 いきなり派生職を選ぶなど、博打にも程がある。

 

「素人考えで派生職を選ぶと、痛い目を見ますよ?」

 

「でも、黒田は素人じゃないだろ?」

 

 素人では無い私の意見としては、基本職を強く強くお勧めしているのですよ?

 とはいえ、このままでは埒が明かないようにも思える。

 

「分かりました。

 とりあえず話は聞きましょう」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

 満面の笑みを浮かべる陽葵さん。

 凄く可愛い。

 なんなんだ、この生物。

 

「説明した通り、派生職とは基本職より特定の分野に特化した職業です。

 そういう訳で、陽葵さんに何かやりたいことがあるならば、選びやすいですね」

 

「前に出て戦いたい!」

 

 即答であった。

 

「……いいんですか?

 前衛に出るということは、その分危険が増えるということで――」

 

「危険を怖がってたら冒険者なんてできないだろ?

 それにほら、やっぱりこういうのの華は前に立って戦う戦士だしさ!」

 

 冒険者は臆病な位が調度いいのだが。

 私程の臆病っぷりでは流石に支障が出るけれど。

 

 まあ、そこは追々しっかりと説明していこう。

 この流れで頭ごなしに否定しては、話が進まなくなる。

 

「<僧侶>や<盗賊>の派生職で前衛に出るのに適したものとしては、やはり<聖騎士>ですね」

 

 トニーさんが就いていて、度々話題にもしている<聖騎士>。

 派生職の中ではかなりポピュラーな職業で、回復ができる前衛ということで人気・需要共に高い。

 その実、敵と直接交戦しながら仲間の支援もしなければならないので、職業の性能を十全に発揮させようと思えば本人に高い戦術眼が要求される。

 使いこなすには難易度の高い職業だが、使いこなせたならば誰よりも重宝される。

 

「<聖騎士>かぁ、それはそれで良さそうなんだけどさぁ」

 

 陽葵さんはそこまで乗り気では無いらしい。

 

「ちょっと煌びやか過ぎるというか…

 もっとダークで格好良い感じの職業、無い?」

 

 職業選びを何だと思っているのだ。

 そう指摘したい気持ちをぐっと抑え、その条件に合いそうな派生職を考えてみる。

 

「……そうですね。

 <暗殺士(アサシン)>は如何ですか?

 <盗賊>の派生職の中では最も前衛向けで、習得するスキルの選択によっては<戦士>に勝るとも劣らない火力を発揮できます」

 

 その分、<盗賊>本来の役割である罠の探知や解除は不得手である。

 また、前衛向けとはいえ体力への補正は<戦士>に比べると少なく、高い敏捷を活かして敵の攻撃を避ける立ち回りが重要になってくる。

 尖った性能の職業なので、正直なところ私の好みでは無い。

 

 しかしものは考えよう。

 偵察が得意で、罠を解除することもできる<戦士>と考えれば、重宝される存在でもある。

 <戦士><盗賊><僧侶><魔法使い>が既に揃っているパーティーに+αの存在として所属すると活躍しやすいだろう。

 

「<暗殺士>か……うん、響きは悪くないないかな。

 よし、それにしよう!」

 

 響きで職業を選ばないで欲しい。

 しかし職業を決めてくれたのはありがたい。

 

 まあ極論を言ってしまうと、陽葵さんはA適性の持ち主なので、どの派生職を選んでも問題なく活躍はできる。

 <暗殺士>は罠関連の作業が苦手と説明したが、C適性の<盗賊>と比べればA適性の<暗殺士>の方が罠探索・解除は上手い。

 適性の壁というのは、斯様に厚いものなのである。

 

 一応、その辺りも補足として陽葵さんに説明しておく。

 

「冒険者としての行動や成長ほぼ全てに適性による修正が入ってきますからね」

 

「なんだ、それじゃそんなに悩む必要無かったじゃん」

 

 あっけらかんと答える陽葵さん。

 まあそうかもしれないが、その中でも最適解というものはあるわけで……

 その辺を彼に教え込むのは、なかなかしんどい作業になりそうだ。

 

 

 

 第五話②へ続く



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② 職業選択は慎重に※

 

 そんな会話をしつつギルドに向かっていると、前から見知った顔が歩いてくるのに気づく。

 

「おや、ローラさん、こんにちは。

 今から買い物ですか?」

 

「あら、クロダさんじゃないですか、こんにちは。

 はい、少し足りない材料がありまして、今からセレンソン商会の方へ」

 

 ローラさんだった。

 相変わらず、黒いロングドレス越しに分かるボディラインが艶めかしい。

 黒いロングヘアが彼女の動きに合わせて流れる様は、それだけで男心をくすぐってくる。

 

「クロダさんは今日はどちらに――」

 

 ローラさんの言葉が途中で止まる。

 どうも、陽葵さんの方を見て動きが固まっているようで…?

 

「――あの、クロダさん、その隣に居る人は?」

 

「ああ、紹介が遅れました、こちら最近ウィンガストへ来た<訪問者>で――」

 

「室坂陽葵だ、よろしく!」

 

 私の台詞を受けて、陽葵さんが挨拶する。

 しかし、ローラさんの表所は曇ったままだ。

 

「そうですか、ムロサカさん…」

 

「陽葵でいいよ」

 

「では、ヒナタさん……ヒナタさんも、冒険者なんですか?」

 

「うん、つい昨日登録したばっかだけどな。

 で、黒田がオレの教育係なんで今は色々教えて貰ってるとこ」

 

「きょ、教育係…!」

 

 何故かローラさんはショックを受けた様子。

 

「ほ、本当ですか…?」

 

 私の方を向いて、確認を取ってくる。

 

「そうですよ。

 これからしばらくの間、私が面倒みます」

 

「そんな…!」

 

 ローラさんの顔が、さらにどんよりと暗くなっていく。

 そして彼女は、陽葵さんの姿を上から下までじっと眺めた後、ぶつぶつと独り言を呟きだした。

 

「……教育係なんて……一日中一緒で……こんな可愛い人……クロダさんが間違いを犯さないわけが……」

 

 なんだろう、凄く失礼なことを呟かれている気がする。

 しばらくそうした後、意を決したようにローラさんが私に話しかけてきた。

 

「く、クロダさん!」

 

「は、はい、なんでしょうか?」

 

 その剣幕に、少し気圧されてしまう私。

 

「あの、私の方が、ヒナタさんより胸は大きいと思うんです!」

 

 いきなり何を言いだしているのだ、彼女は。

 

「……まあ、陽葵さんは男性ですし、胸があったらおかしいですよね」

 

「……へ?」

 

 間の抜けた声を出すローラさん。

 

「男の人?」

 

「そうですよ」

 

 彼女の質問に、肯定を返す。

 

「…男性なんです?」

 

「そうだよ」

 

 今度は質問を陽葵さんに投げるが、答えは同じ。

 

「……本当ですか?」

 

 なおも疑り深く質問を繰り返す。

 気持ちは分かる。

 陽葵さんが男だとか、この世の女性は全て男だと言っているも同じだからだ。

 

「本当だってば。

 ほら、これ見てよ」

 

 陽葵さんは冒険証を操作し、自分のステータス画面をローラさんに見せた。

 

「……そんな……冒険証のステータスに表記ミスが!?」

 

「それは昨日の私と同じ反応ですよ」

 

「そ、そうなんですか…?」

 

 おや、ローラさんはそこはかとなく嬉しそうだ。

 何故に?

 

「……男の人、なんですね。

 こんなに可愛いのに」

 

 どうやらローラさん、現実を受け入れたらしい。

 

「……男の人なら……いくらクロダさんでも……」

 

 またぶつぶつと独り言を言いだした。

 なんだか彼女、今日は情緒不安定である。

 

「……あの、ヒナタさん?」

 

 心の整理がついたのか、陽葵さんの方へ向いて、にこりと笑う。

 

「挨拶を忘れていました。

 私はローラ・リヴェリといいます。

 この町で魔法店などを開いていまして。

 これからよろしくお願いしますね」

 

「ええっと……ああ、うん、よろしく」

 

 陽葵さんは彼女の表情の変わりように、若干戸惑っているようだ。

 

「…………分かりやすいなー、この人」

 

 そしてぼそりと一言。

 ローラさんの何かを彼は理解したらしい。

 

「それでクロダさん、今日はヒナタさんと一緒に<次元迷宮>へ?」

 

「いえ、まだヒナタさんの職業を決めていないのですよ。

 今日はこれからギルドに行って職業を決めてから、ボーさんのお店で装備を揃える予定です」

 

「なるほど……あ、それならその後に、私のお店に来られては如何ですか?

 ヒナタさんに色々と冒険者用のアイテムを紹介できますし……それと、いい茶葉が手に入ったので、その後ご一緒にお茶でも……」

 

 ローラさんのお誘い。

 いつもなら是が非でも応じるのだが…

 

「せっかくの申し出で心苦しいのですが、陽葵さんは<暗殺士>になる予定でして。

 今日は、<盗賊>の冒険者がよく利用するお店を幾つか回ってみようかと――」

 

「黒田黒田!」

 

 丁重に断ろうとしたところで、陽葵さんが割って入ってきた。

 

「せっかくこうして知り合えたんだし、オレ、ローラのお店に行ってみたいな!」

 

「よろしいのですか?

 ローラさんのお店は、どちらかと言えば<魔法使い>向けで――」

 

「いいの!

 ……あー、ほら、こういう綺麗な人とはちゃんとお知り合いになっておきたいだろ」

 

 後半は小声で、私だけに聞こえるよう言ってきた。

 ……ふむ、そこまで言うなら、陽葵さんの希望(と助平心)に応えることにしよう。

 

「分かりました、それでは装備を購入した後に、ローラさんのお店に寄りましょう」

 

「そ、そうですか!

 ご来店をお待ちしていますね」

 

 喜色満面という顔で、ローラさん。

 こんなところでも新規顧客の開拓を目論むとは、なかなか商魂逞しい。

 

「それでは、名残惜しいですがこの辺りで失礼いたします」

 

「またな、ローラ!」

 

「はい、それではまた後で……うふふ、私、ヒナタさんとは凄く仲良くなれそうな気がします」

 

 別れ際にそんなことも言ってくる。

 歩きながら、私は陽葵さんの背中を軽くたたく。

 

「……良かったですね、陽葵さん。

 希望が叶いそうですよ?」

 

 彼は喜ぶかと思いきや。

 

「……黒田、お前、すんげぇ鈍いのな」

 

 何故か、疲れたようにため息を吐いたのだった。

 

 

 

 色々省略して、場面はボーさんの武器屋に移る。

 職業に就くところなど、大して面白くも何とも無く、描写しても詰まらないだけで――

 

「――で、クロダよ」

 

 部屋に巨大な男の――巨人族であるボーさんの声が響く。

 私は今、彼の前で正座していた。

 

「………なんでしょうか」

 

「弁明は、あるか」

 

「………ありません」

 

 正直に答えた。

 まさかこんなことになってしまうとは、完全に想定外であった。

 

「お前がついておきながら、何で、何で――!」

 

「本当に申し訳ありません!」

 

 語気が強くなるボーさんに、私は土下座する勢いで謝る。

 

「何で、こいつは<勇者(ヒーロー)>なんかになっちまってるんだ!?」

 

 横で突っ立っている陽葵さんを指さして、ボーさんは言った。

 

 ――そう。

 職業に就く作業など、大した問題も起きずに滞りなく終わるはず、だったのだ。

 陽葵さんが、土壇場で職業を<勇者>に変更したりしなければ!

 

「あのー……」

 

 私達のやり取りを見ていた陽葵さんが声をかけてきた。

 

「<勇者>になったのって、そんなにまずかったのか?」

 

「まずい」

 

「最悪ですね」

 

 彼の質問に、私とボーさんが同時に答える。

 

「……どんくらい、やばい?」

 

「そうだな。

 これからのお前さんの境遇を考えると叱るに叱れず……教育係であるこいつを怒鳴りつけるしかない、って位にはやばいぞ」

 

「……そ、そっかー」

 

 ボーさんの返事に冷汗を流す陽葵さん。

 その例えが上手いのかどうかは分からないが、実際問題本気でまずい事態になったのは確かだ。

 

 <勇者>。

 数ある職業の中でも、最も、そしてぶっちぎりで、『ハズレ』と名高い職業だ。

 基本能力への補正は全職業中最低。

 補正が小さいわけだから当然、能力の成長に関しても低水準。

 にも拘わらず、スキルポイントの入手量は<戦士>とそう変わらない。

 つまりスキルの獲得や成長は遅い。

 ――軽く説明しただけでも、どれほど酷い職業なのか理解して頂けただろう。

 

「つーかな、なんでお前さん、<勇者>なんて選んじまったんだよ」

 

 なお、ボーさんにはこの時点で陽葵さんについて粗方説明を終えている。

 彼が男だと知って驚く一幕も当然あったのだが、今それどころではないので詳細は省く。

 

「いやー、職業を選択するときにさ、リストを眺めてたら勇者って単語見つけちゃって。

 それ見た瞬間、これだー!って閃いちゃったんだよね」

 

 たったそれだけの理由で、色々相談して決めたことを翻さないで欲しい。

 

「…選ぶ時もその職業について簡単な説明があったはずだが」

 

 渋い顔をして、ボーさんが再び尋ねる。

 

 そう、その職業を選択する際にも、簡単な説明の記載が見れる。

 つまり、<勇者>がどれだけ酷い職業なのか、そこで分かるはずなのだが…

 

「アハハハ、気分が舞い上がっちゃってて、細かいとこ見てなかったんだ…」

 

 乾いた笑いを浮かべながら、陽葵さん。

 大事なところだったのだから、もっと冷静に判断して頂きたかった。

 

「で、でもほら、オレ適性高いし!?

 適性があれば、割と何とかなるんだろ!?」

 

「陽葵さん……<勇者>は、<戦士>の派生職ですよ」

 

 陽葵さんの<戦士>適性はC。

 <訪問者>としては、低い値といえる。

 ……希望は無かった。

 

「……だ、大体、なんで<勇者>がここまで酷い職業になってんだよ!

 まずそこからしておかしいだろ!」

 

 陽葵さんが、とうとう逆ギレをしだす。

 

「そりゃあれだ。

 冒険者なんて慎重さや注意深さが大事な稼業だってのに、『勇者』なんて選んだら酷い目見るぜって教訓を教えようとしてるんじゃないか?」

 

「もしくは、ほいほい簡単に勇者を名乗ろうとする人への当てつけですかね」

 

「おいおい、流石にそれはないだろう、クロダ。

 勇者達に失礼だぞ」

 

 いや、どうだろうか。

 私達以外が勇者を名乗るのは気分が悪い、とか言ってたからなぁ。

 

「……んん?」

 

「どうしました?」

 

 気付けば、陽葵さんが不思議そうな顔(可愛いなぁ、もう)をしていた。

 

「その言い方だと、なんだか冒険者って勇者が作ったみたいに聞こえるんだけど」

 

「そうだぞ」

 

「えっ!?」

 

 ボーさんがあっさり認めた。

 

「元々は、勇者達が魔王を倒すために編み出した技術だそうですよ。

 それを多くの人にも扱えるよう再編したものが、冒険者というシステムだとか」

 

 私が補足説明をする。

 

「そ、そうだったのか…」

 

「ま、そんなことはどうでもいいんだ。

 今話し合うべきは、<勇者>なんてハズレを選んだこいつをどうするか、だろ?」

 

 脱線しだした話を、ボーさんが元に戻す。

 

 しかし考えてみれば、陽葵さんがどうなろうとボーさんには関係の無い話。

 ここまで話に乗る必要は無いというのに……根本的にこの人はお人好しなのだ。

 

「そうですね。

 長期的な展望としては、まずランクCを目指して<勇者>以外の<戦士>職になり、その後ランクBになって<盗賊>か<僧侶>へ転職、ですかね」

 

「……なあ、転職ってランクCで出来るようになるんじゃなかったか?」

 

「ランクCで出来るのは、大本の基本職か、基本職が同じ派生職への転職だけなんですよ。

 他の基本職、或いはその派生職へ転職するためにはランクBになる必要があります」

 

 陽葵さんの疑問に対して説明をする。

 つまりランクBに上がるまで、陽葵さんは適性が最も低い<戦士>系の職業を続けなければならないわけだ。

 

「……ランクBか、遠いな。

 最低でも半年くらいはかかるか?

 その間に死ななければだが」

 

「私の知る限りですと、2か月でランクBまで登った方ならいますが…」

 

「ちなみにそいつの適性は?」

 

「Aでした。

 そのうえで、四六時中<次元迷宮>に潜っていましたね」

 

「……そんな特例の話を今されてもなぁ」

 

「…………」

 

 私達の話を聞いている陽葵さんの顔が、どんどん曇っていく。

 

「……気分が滅入ってきた」

 

「この際、普通の職に就いて一般人として過ごすことも考慮しませんか?」

 

「……じょ、冗談だよな?」

 

「半分くらいは冗談です」

 

「…半分なんだ」

 

 C適性の<勇者>は、半ば本気で冒険者の引退もお勧めしたい。

 まあ、本人にやる気があるのであれば、教育係として協力することに吝かではないが。

 

「とりあえずこの場でやれることをやろうか」

 

「と、申しますと?」

 

「うちの店で揃えられるだけの装備を揃えておこうって話だよ」

 

「「……えぇ!?」」

 

 ボーさんの提案に、私と陽葵さんの声が重なる。

 

「そこまでしてもらうのは流石に悪いって!」

 

「変なとこで遠慮すんな。

 言っとくが、うちで最高級のを装備したって、ランクBを目指すのはそう容易じゃないんだからな。

 ……それに、金はクロダが払うんだし」

 

「……え?」

 

 そんな話聞いてない、聞いてないですよ?

 

「ケチケチすんなよ。

 教育係ついときながらこんなヘマやらかせちまったんだ。

 お前にだって責任はあるだろ?」

 

「……それは、まぁ…」

 

 そこを突かれると私も弱い。

 実際、教育係失格物の失態ではある。

 

 ――覚悟を決めるか。

 

「……分かりました。

 支払いは私が持ちますので、一番良い装備を見繕って貰えませんか」

 

「マジで!?」

 

「そうこなくっちゃな!

 よし、ちょっと待ってろ、今倉庫漁ってくるから」

 

 そう言って、ボーさんは店の奥に駆けていく。

 

「……ごめん、黒田」

 

 私に悪いと思っているようで、しょんぼりとした表情の陽葵さん。

 

「ボーさんも仰っていましたが、私にも責任はありますし。

 気になるようでしたら、これからの冒険者生活、頑張って臨んで頂ければ、と」

 

「……へへ、ありがと♪」

 

「………!?」

 

 私への感謝と一緒に浮かべた陽葵さんの笑顔が!

 なんかもう凄い勢いで天使の微笑みなんですが!?

 あまりに可愛らしすぎて思わず声が出そうになってしまったよ私は!

 

 この笑顔を見るためなら、装備に金を出す位安いものだ、と本気で考えてしまった。

 

 

 

「さ、着心地はどんなもんだ、ヒナタ?」

 

「……ど、どうって」

 

 倉庫から戻ってきたボーさんから装備を渡され、早速着替えた陽葵さん。

 

「その防具は優れものだぞ。

 柔らかくて伸縮もする素材だから動きはほとんど妨げない。

 それでいて、物理的な攻撃は勿論、魔法攻撃にも耐性がある」

 

「……そ、そうなんだ」

 

 ボーさんの防具解説が続く。

 

「全身を覆っちゃいるが、セパレート形式だから着脱も簡単だ。

 迷宮で寝泊まりすることもある冒険者にとって、割と重要なことなんだぞ」

 

「……分かる、けどさ」

 

 ボーさんの台詞に、もごもごと言い返す陽葵さん。

 だが、次の瞬間。

 

「これは、流石にどうよ!?」

 

 陽葵さんが叫んだ。

 

 ボーさんに渡された陽葵さんの装備。

 それは、特殊素材で出来た黒い全身スーツだった。

 もっと見た目を分かりやすく表現するならば、極薄のラバースーツ。

 さらにぶっちゃければ、俗にぴっちりスーツと呼ばれるもの。

 

 薄い生地が陽葵さんの肢体にこれでもかという程密着しているため、彼のボディラインがくっきりと分かる。

 いや、ボディラインが分かるという言葉すら生ぬるい。

 これは――

 

「裸じゃねぇか、こんなの!」

 

 私が言いたいことを、陽葵さん自身が代弁してくれた。

 

 うん、裸だね。

 肌の色こそ違うものの、スーツの余りのフィットっぷりに、スーツを着てはいるものの裸と同義であった。

 どれ位裸なのかと言うと、お尻の割れ目が見えるのは当たり前。

 へその形や乳首の突起なんていう小さい凹凸まで確認できてしまうくらいだ。

 

「ちゃんと大事なとこは隠してるじゃないか、ほれ」

 

 ボーさんが陽葵さんの股間を指さす。

 ファウルカップ的なものが仕込んであるのか、その部分は陽葵さんの男性器を露わにしていない。

 

 逆に言うと、股間のイチモツが見えないので、今の陽葵さんは貧乳な女性以外の何物でも無かった。

 膨らみこそ無いが、どこか柔らかさを感じさせる胸。

 キュッと締まった腰つき。

 プリッとした綺麗なお尻。

 程よい肉付の太ももにスラリとした脚。

 

 さっきから私は、陽葵さんの肢体から目が離せない。

 

「それとも、見せつけたいのか、お前さんのちんこ」

 

「見せたいわけないだろ!?」

 

 いっそ見せてしまってもいいかもしれないが。

 

 朝に全て確認済みとはいえ、こういう形で眺めるのはまた違った趣がある。

 私はボーさんの方へ向き直り、微笑んだ。

 

「……完璧ですよ、ボーさん」

 

「ありがとよ、クロダ」

 

 自然と、二人はハイタッチを交わす。

 

「訳わかんねぇよ!

 何分かり合ってる雰囲気出してるんだよ!!」

 

 なおも抗議する陽葵さんに、ボーさんは面倒くさそうに応じる。

 

「仕方ねえな。

 分かった分かった、それ以外の防具も用意してやるよ」

 

 

 

 少しして。

 

「これでどうよ?」

 

「……ま、まあ、これくらいなら」

 

 いいんだ!?

 と、思わず突っ込みを入れそうになるが、必死で声を抑える。

 

 陽葵さんは、ボーさんが再び持ってきた防具を着用している。

 どの装備も全身スーツの上から着るタイプのものだった。

 

 どんなものかと言えば、上半身はタンクトップにジャケット、下半身はホットパンツ。

 いつも陽葵さんが来ている服と似た装いだ。

 それが、陽葵さんの警戒心を薄れさせたのかもしれない。

 

 ジャケットは置いておくにしても、まずタンクトップ。

 へそ出し……と言うより、胸を隠す程度の丈しかない。

 陽葵さんのお腹も腰つきも見放題だ。

 

 そして、何よりやばいホットパンツ。

 いつも陽葵さんが履いているショートパンツよりさらに丈が短い……というか、太ももをほぼ覆っていない。

 だがそんなものは、そのホットパンツのローライズっぷりに比べれば些細なことだ。

 なんというか、男が履いたら……いや、女性が履いても色々とはみ出しかねないローライズ具合。

 前から見てもやばいのだが後ろから見てもやばい。

 お尻をちゃんと隠せていない。

 尻の割れ目が上半分、パンツからはみ出してしまっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 見ようによっては、裸よりも恥ずかしい格好だ。

 ……というか、これは本当に防具なのか?

 

 一応は全身をスーツで覆って、その上にこれらの防具(?)を着ているので、陽葵さんの体感としてはそれ程露出している印象は無いのかもしれない。

 

 私はボーさんの方へ向き直り、再び微笑んだ。

 

「……パーフェクトです、ボーさん」

 

「ありがとよ、クロダ」

 

 ハイタッチを交わす私達。

 

「お前らあれか、何かことある毎にハイタッチする癖でもあるのか?」

 

 陽葵さんが私達の魂の交流に口出ししてくるが、今はそんなもの気にならない。

 これから毎日、陽葵さんのこの姿を間近で見れるというのだから、もう天にも昇る気分だ。

 

「……ああ、そうそう。

 これ、今回の装備の代金な」

 

 ボーさんから装備の明細書を渡された。

 

「はい、分かりまし――――!!?!?!??」

 

 その金額を見て、別の意味で(本来の意味で)昇天しそうになった。

 

「ちょ、あの、ボーさん?

 このお値段は…?」

 

「最新素材のスーツに、ミスリルで出来た糸を織り込んだジャケットやパンツ、ついでに防刃繊維製のシャツ。

 これでも値引きしたんだぜ?」

 

 そんな豪華仕様の装備だったのか!?

 誰だ、これが本当に防具なのか疑わしいなどと考えたやつは!

 

「何なら、分割払いも受け付けるぞ」

 

「すみません、それでお願いします…」

 

 先程までの興奮は全て吹き飛んでしまった。

 ついでに、私の貯蓄も吹き飛んでしまいましたとさ…

 

 

 

 第五話③へ続く



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③! この世界のことを説明しましょう

 

 

 ボーさんの店で買い物を終わらせた後、私と陽葵さんは約束通りローラさんの魔法店へ向かった。

 

「ここがそのお店です」

 

「へー、思ってたより普通のお店だな」

 

 どんなお店を想像していたというのか。

 まあ、魔法のアイテムを扱っているお店と聞けば、ファンシーな装飾のお店を連想しても仕方ない部分はあるが。

 

 そんなやり取りをしつつ、店の中へ入る。

 

「お邪魔します」

 

「こんにちはー」

 

 私にとってはいつも通りの風景なお店の中。

 しかし、店内にはローラさんの姿が無かった。

 

「……留守なのかな?」

 

「いえ、入口に鍵はかかっていませんでしたし、それは無いと思いますが…」

 

 出かけているなら、最低限鍵位はかけていくだろう。

 そう考えて、店内を再度見渡していると、店の奥からローラさんの声が響いてきた。

 

 「……すいません、今、お客さんの対応で取り込んでいまして!

 少しだけ、待っていて貰えませんか!」

 

 なるほど、お客の相手をしていたのか。

 

「仕方ありませんね。

 店内で待たせてもらいましょう」

 

「そうするか。

 ……少し、商品見ててもいいかな?」

 

「間違って壊したりしないよう、気を付けて下さいね」

 

「大丈夫だって!」

 

 好奇心が抑えられなかったのか、陽葵さんは店の棚に並べてあるアイテムを片端から見ていった。

 魔法のアイテム等という、現代社会ではお目にかかれない商品が並んでいるのだから、無理も無いだろう。

 

「………さて」

 

 私は、<屈折視>と<感覚強化>を使って、店の奥――ちょうど、ローラさんの声が聞こえてきた方を覗く。

 果たして、奥の角を曲がった通路の先に、ローラさんは居た。

 その正面には、お客なのであろう、青年の姿もある。

 

 ――もっとも、普通の客であれば、ローラさんのスカートの中に手を入れてたりはしないだろうが。

 

 「へへへ、よく言えたね、ローラさん」

 

 青年は言う。

 <感覚強化>で増幅された私の聴力は、彼らの言葉を鮮明に拾い上げることができた。

 

 「……あの、止めて下さい……これ以上は……」

 

 「嫌だって言うなら、抵抗すればいいんじゃないの?

 ……ほら、ほらほら!」

 

 ローラさんが青年の行動を抑えようとするも、彼はどこ吹く風。

 逆に、スカートの中に入れている手を激しく動かしだした。

 

 「あっ…ああっ…あぁんっ」

 

 途端に、ローラさんは悶え始める。

 

 「こんだけ感じておいて、止めろなんてよく言えたね。

 ほらほら、もっとして欲しいんだろ!」

 

 「んんんっ…あぅっ…んぅっ…んぁあっ」

 

 青年の為すがままに、ローラさんは嬌声を上げ続ける。

 

 「…最初聞いたときは嘘だと思ってたけど、本当だったんだね、あの噂」

 

 「…あんっ…あ、あの噂って…んんぅっ…何のことで…」

 

 責めに喘ぎ声を上げながら、ローラさんが問い返した。

 

 「ローラさんが、誰にでも股を開くヤリマン女だって!」

 

 「…!! ち、違いますっ…んんぅうっ…私、そんな女じゃ…あぅうっ…」

 

 精一杯言い返すも、今の淫れたローラさんでは説得力皆無だ。

 

 「何が違うってのさ。

 その通りじゃないか。

 僕の手でこんなにここを濡らしてる癖に!」

 

 青年の手がさらに激しくローラさんの股間を責める。

 

 「ああぁあっ!…は、激しっ…あぅっ!…あんっ!…ひぅっ!」

 

 ローラさんの嬌声が、青年の手の動きに合わせてより一層強くなった。

 その様子に、青年は満足げな笑みを浮かべると、

 

 「じゃあ、こっちも見させて貰おうかな…」

 

 「…え?……あっ、いやぁ…!」

 

 空いている方の手でローラさんのドレスを無理やりずり下ろし、胸元を肌蹴させた。

 彼女の大きなおっぱいが、青年の前に晒される。

 

 「へへへへ、夢にまで見たローラさんのおっぱいだぁ…」

 

 「…見、見ないで…あぅっ…見ないで、下さい…あんっ…」

 

 恥ずかし気に顔を赤らめてそんなことを言いつつも、ローラさんは自分の胸を隠さない。

 …下半身への責めは未だに続行中なので、単にそうする余裕が無いだけかもしれないが。

 

 青年は、手でローラさんのおっぱいを鷲掴みにする。

 

 「おっきいなぁ、柔らかいなぁ……」

 

 「…あぁあっ…んんっ…はぁああんっ…」

 

 ぐにぐにと彼女のおっぱいを揉んで、その柔らかさを堪能する青年。

 ローラさんはと言えば、もう抵抗を口にする気すらないのか、ただ与えられる快楽に酔っていた。

 朱に染まり、悦楽に喘ぐ彼女の顔は、実に色気がある。

 

 「…どんな味がするのかな」

 

 言うが早いか、青年はローラさんのおっぱいにむしゃぶり付いた。

 

 「ひゃぅっ…んぁあっ…おっぱい、吸っちゃ…あぁあっ…ダメぇ…はぁんっ」

 

 悶えるローラさんをしり目に、青年は彼女の乳首を吸い続ける。

 

 「んんぁああっ…あぁあんっ…ああっ…はぁあああっ」 

 

 ひとしきり彼女を喘がせると、青年はようやく胸から顔を離した。

 

 「へへへ、流石に母乳は出ないんだね」

 

 「んんっ…そんなの…あんっ…出るわけ…」

 

 笑いながらそんな言葉をかける青年に、息も絶え絶えに反論するローラさん。

 そんな彼女の姿に、彼はますます笑みを深くし、

 

 「そろそろ、イカせてあげるよ、ローラさん…!」

 

 そう、宣言した。

 

 「? な、なにを……あぁああんっ!…いきなり、いっ…あぁああああっ!…そんなっ…はあぁああっ!」

 

 同時に、ローラさんが今まで以上に強く喘ぎだす。

 青年の手はそれ程動いていないにも関わらず、この淫れっぷり…

 さては彼女のクリトリスを責めだしたか。

 

 「んんんぅうううっ! イクっ! あ、ああぁあっ! イッちゃいますっ! んひぃいいいっ!」

 

 「ほら! イケ、イケ、イケ、イケっ!

 僕の手で、絶頂するんだよぉっ!」

 

 青年が、さらに手に力を込める。

 その途端に、ローラさんは身体を大きくのけ反らした。

 

 「んぉおおおおおおおっ! イ、クぅっ!! あぁぁああああああっ!!」

 

 びくびくと震えながら、絶頂するローラさん。

 それを十分に見届けてから、青年は彼女のスカートから手を抜いた。

 

 「あ、あぁ……ん、はぁ……んんん……」

 

 ローラさんは肩で息をしながら、絶頂の余韻に浸っている。

 

 「やった……僕が、ローラさんを、イカせたんだ…!」

 

 一方で青年は、自分がやった行為に悦に入っている模様。

 彼女を絶頂させた自分の手をじっと見てから、

 

 「へへへ、ローラさん、凄かったね。

 見てよ、僕の手……ローラさんの愛液でびしょびしょだよ?」

 

 「……言わ、ないで、下さい…」

 

 実際に濡れている手を彼女に見せつけて、青年は続ける。

 

 「さてと、余りお客を待たせちゃまずいよね。

 そろそろ向こうにいこうか」

 

 「……む、無理です……こんな、状態、で……」

 

 「大丈夫大丈夫、ささっと相手しちゃえばいいんだって」

 

 嫌がるローラさんを軽くあしらう青年。

 彼女をぐいっと抱き寄せ、お尻を撫でながら、言う。

 

 「……お客の相手をし終わったらさあ、また続き、しようね」

 

 「…あぁああん……は、はい……」

 

 曖昧な口調ながらも、ローラさんは確かに首肯したのだった。

 

 

 

「遅くなっちゃって申し訳ありません」

 

 店の奥からあの青年が出てくる。

 後ろから、少し衣服が乱れたローラさんも着いてきた。

 あの後すぐにドレスを着直したのだが、流石に短時間では無理があったか。

 足取りもおぼつかず、少しふらふらしている。

 

「お、ようやく終わったのか」

 

 商品の鑑賞をしていた陽葵さんが、こちらに気付いた。

 

「結構待たせちゃいました?」

 

「いえいえ、それ程でも無いですよ。

 お気になさらず」

 

 謝っている風を装う青年に、私はそう返事した。

 実際、彼らの痴態を見ていたおかげで待たされた気は全然していないため、嘘ではない。

 

「そう言って貰えると助かります。

 ……ほら、ローラさん、お客さんだよ」

 

「……あ、はい…」

 

 先程の行為が尾を引いているのか、心ここにあらずといった様子のローラさん。

 青年は彼女の背中を押して、私達の方へ移動させる。

 

「………あ」

 

 私と目が合った瞬間、ローラさんの口から一言零れた。

 

「……クロダ、さぁん…♪」

 

 そして、私の名前を呼びながら、私に抱き付いてくる。

 

「……はぁ、ん……んちゅ……」

 

 その上、口付けまでしてきた。

 特に拒否する理由が無いので、私も応じたが。

 

「……へ?」

 

「……は?」

 

 横に居る二人の目が点になる。

 いきなりこんな展開を見せつけられたのだから、無理も無い。

 

「……はぁぁ……クロダさん……んっ……れろっ……はむっ…」

 

 ローラさんと私の舌が絡み合い、お互いを堪能する。

 柔らかくて、繊細な舐め触りの舌だ。

 

 このまま押し倒してしまいたかったが――

 

「ローラさん、気持ちは嬉しいのですが、人がいますよ?」

 

 口を彼女から離し、そう告げた。

 ローラさんもまた、周りの状況を理解したようだ。

 彼女の顔が真っ赤になる。

 

「……や、やだ、私ったら、はしたない…」

 

 そう言いながらも、私に抱き付いた手は離さない彼女。

 

 さて、この状況、どうしたものか。

 私が困っていると…

 

「す、すすすすすすみません!

 なんか僕、お邪魔だったみたいで!?」

 

 慌てた口調で青年が叫んだ。

 

「ご、ごゆっくりーーーー!!」

 

 そのまま、走り去っていく。

 

 ……彼からしてみれば、私の方が邪魔者だったはずだが。

 なかなか殊勝な人物だ。

 残された我々は、さらに動きがたい雰囲気になってしまったが…

 

「えーーっと……そう、お茶、お茶にしましょう!」

 

「……そうですね」

 

「……うん」

 

 我に返ったローラさんの提案に、私と陽葵さんは頷くのだった。

 

 

 

 勧めるだけあって、確かにお茶は美味しかった。

 

 

「本当、お前らさ、いきなりあんなこと始めるなよな!」

 

 ここは店の居住部分にあるリビング。

 私たちはお茶で一服し、今は適当に談話している。

 

「お恥ずかしい限りです…」

 

 陽葵さんに先刻のことを蒸し返されて、また顔を赤らめるローラさん。

 まあ、私はキスだけでなくあのまま本当に始めても良かったのだけれども。

 

「まあまあ、余りいじめないでやって下さいよ」

 

「オレはお前にも言ってるんだぞ」

 

「……据え膳食わねば、とも言いますし」

 

「――お前、意外と肉食系なのな。

 てっきり草食系だとばかり思ってたぜ」

 

 そうだろうか。

 そうかもしれない。

 

「まあ、いいけどさ。

 次は時と場所を弁えてくれよ。

 本気で慌てちゃったんだから」

 

「……気を付けます」

 

 ローラさんが、しゅんとして頷いた。

 確かに、色々な意味でタイミングが悪かったのは確かだ。

 

「あ、そうだ、そういえば聞きたいことが――あ」

 

 陽葵さんの言葉が途中で詰まった。

 

「何か質問があるのですか?」

 

「うん、あるんだけど、その前に……トイレ、どこ?」

 

 尿意を催してしまったらしい。

 美味しいからといって陽葵さんはお茶を結構な量飲んでいたので、当然の帰結と言える。

 

「お手洗いでしたら、この部屋を出て右の突き当りにありますよ」

 

「サンキュー!」

 

 ローラさんの説明を聞くと、すぐに陽葵さんは飛び出していった。

 結構我慢していたのか。

 

 ……ああ、そうだ。

 陽葵さんではないが、私もローラさんにちょっとした提案があったのだった。

 

「ローラさん、少しお願いがあるのですが…」

 

「はい?」

 

 

 

 それから少しして、陽葵さんが帰ってきた。

 

「ただいまー、と。

 あれ、ローラは?」

 

 部屋にローラさんの姿が無いことに気付く陽葵さん。

 

「ああ、ちょっと片付けなければいけない仕事ができたので、席を外しました」

 

「へえ、そうなんだ」

 

 元の席につく陽葵さん。

 

 ……どうやら気付いていないようだ。

 今、私達はダイニングテーブルの椅子に座っている。

 テーブルの上にはお洒落なテーブルクロスが敷いてあるのだが、このテーブルクロス、結構長い。

 どれ位長いかと言えば――テーブルの下で一心不乱に私のイチモツを舐めているローラさんの姿が、完全に覆い隠せる程である。

 

「思うんだけどさ」

 

「何ですか?」

 

「リアと言いローラと言い、お前の知り合いって美人多くないか?」

 

「そう、ですかね?」

 

 股間への程よい刺激で気分良くなりながら、陽葵さんとの会話を続ける。

 

「そうだよ。

 まだこっち来て2日しか経ってないってのに、立て続けに紹介されたじゃないか」

 

 私がこの2日で会った一番の美人は、貴方なんですけどね。

 

「1年もウィンガストに住んでいますから。

 どうしたって、いろんな人と知り合いになりますよ」

 

「そんなもんかなぁ」

 

「大体それを言ったら、陽葵さんはその美人さんの家で寝泊まりしてるわけじゃないですか」

 

「……ま、まあ、確かに」

 

 少し恥ずかしそうに、陽葵さん(可愛い)。

 陽葵さんの可愛らしさとローラさんのフェラで、私の股間は興奮しっ放しである。

 そんな私の心境を知ってか知らずか、ローラさんの舌は私の男根を舐め続けている。

 

「オレもいつか、リアともっといい仲に…」

 

「おや、陽葵さんはリアさんがタイプですか?」

 

「え? いや、まあその……可愛いし」

 

 可愛いのは貴方ですよ?

 

 それはともかく、確かにリアさんも間違いなく美少女。

 男である陽葵さんが惹かれるのも無理は無い。

 こちらの来て最初に会った女性が美少女で、しかもその子の家に宿泊することになる――だなんて、なかなかラブコメの定番な展開もしているわけだし。

 

「しかし、リアさん狙いなら頑張った方がいいですよ

 彼女に想いを寄せている男性、多いですから」

 

 私の後輩である柿村さんをはじめ、黒の焔亭の常連で彼女に色目を使っている男性は結構いる。

 

「や、やっぱりか!

 ……まさか黒田も?」

 

 陽葵さんがそう言った途端、ローラさんの動きが止まる。

 どうしたのだろうか?

 

「いや、私は違いますよ」

 

 リアさんと恋仲になれば、それはそれで楽しそうだが、向こうがそれをまず望むまい。

 叶うはずもない希望は、持つものでは無いと思う。

 

「そ、そうだよな。

 お前にはローラがいるんだし」

 

「まあ…そうですね」

 

 ローラさんと私の仲は陽葵さんが想像しているようなものでは無いのだが、敢えて否定することも無いだろう。

 説明も難しいし。

 

 ……む?

 ローラさんがまた私のイチモツをしゃぶりだした。

 しかも、じゅぽじゅぽと音を立てそうな勢いで私を責め立ててくる。

 うーん、気持ち良い。

 

「そういえば、先程私に何か質問がある様子でしたが」

 

「あ、そうだった」

 

 ローラさんのフェラで、大分限界が近づいてくる。

 そろそろ射精が近い。

 

「いや、魔王を倒した勇者について聞きたかったんだよ」

 

「勇者ですか?

 ――と、失礼」

 

 私は座る位置を直すふりをしてローラさんの頭を掴み、そのままイマラチオに移行する。

 フェラよりもさらに強い刺激を求めて、彼女の頭を激しく前後させる。

 

 ……既に限界直前だった私はすぐに絶頂に達し、彼女の喉奥へ精液を注ぎ込んだ。

 

「どうしてまた勇者の話を?」

 

「ほら、冒険者を作ったのが勇者だって言っただろ?

 オレも<勇者>選んじゃったしさ、どんな奴らだったのか、気になっちゃって」

 

「なるほど」

 

 精液を十分に注ぎ終わったところで、ローラさんの頭を離した。

 伝わってくる気配から、彼女はどうもむせ返っているようだ。

 音は何も聞こえないのだが。

 

 ――そう、音は聞こえない。

 私だけでなく、陽葵さんにも、誰にも。

 何故なら、ローラさんには<静寂>をかけているからだ。

 今のローラさんは、音を立てたくても立てられないのである。

 

 これで他人に気付かれることも無く、プレイが楽しめる。

 

「勇者のことは、話すと少々長くなりますがよろしいですか?」

 

「いいよ。

 今日はこの後とくにやること無いんだし」

 

「では――」

 

 私は居住まいを正す――ように見せかけて、ローラさんの姿勢を変えさせた。

 今まではフェラの体勢だったが、今度は尻をこちらに向けさせる。

 後背位に似た格好だ。

 

 フェラチオによって、彼女も興奮していたのか、女性器は既に濡れていた。

 私は心置きなく、ローラさんの膣に自分の愚息を挿入した。

 いつもならここで彼女の喘ぎ声が聞こえるはずなのだが、<静寂>のためそれを確認することはできない。

 

「勇者の話をする前に、まずこの世界の話をしましょうか」

 

 ローラさんの腰を掴み、イマラチオと同じ要領で前後に動かす。

 彼女の膣を抜き挿しする感触が、私のイチモツを刺激してくる。

 息遣いが聞こえてこないのは少し寂しいが、十分な快楽である。

 

 そんなことをテーブルの下でやりながら、私は陽葵さんに説明を始めた。

 

 ――――――

 

 この世界では、6体の龍を崇拝している。

 世界の根幹をなすと伝えられた六龍。

 

 赤龍ゲブラー。

 青龍ケセド。

 黄龍ティファレト。

 緑龍ネツァク。

 白龍ケテル。

 黒龍ビナー。

 

 この世界の宗教は、この龍達をご神体としてしている。

 

「……なんか、勇者と関係なくないか、それ」

 

「これから関係ができるのです」

 

 ローラさんの腰を動かすのに慣れてきたため、段々と動作を早くした。

 さらなる刺激が、私の愚息に提供される。

 

 ――――――

 

 ある時、魔王と呼ばれる存在が現れた。

 それがいつから魔王と呼称されていたのかは定かではないが。

 

 恐るべき魔王は、6体の龍をその支配下においてしまったのだ。

 六龍の力を使い、自分に従う魔族・魔物を引き連れて、魔王は世界を蹂躙した。

 圧倒的な――いや、絶対的な力を振るう魔王に、対抗できるものなどおらず、人々は恐怖に震える日々を送ることとなる。

 

 魔王が、異世界からある若者を召喚するまでは。

 

「それが、勇者か」

 

「正確には勇者の一人、ですけれどね。

 名前を、ミサキ・キョウヤ」

 

「ミサキ・キョウヤ!?」

 

「ど、どうしました、急に驚かれて。

 まさか、お知り合いとか?」

 

「いや……なんか、すげぇラノベの主人公っぽい名前だなって思っただけ」

 

「………ああ、そういう」

 

 陽葵さんの言いたいことは分からないでもない。

 

 イチモツへの刺激が大分蓄積されてきた。

 そろそろ射精をしようと、ローラさんのお尻をさらに強く私へとぶつけさせる。

 快感は一気に頂点へと達し、そのまま、彼女の中へと精を解き放った。

 

 ――――――

 

 魔王が何のためにミサキ・キョウヤを喚んだのかは今でも分かっていない。

 分かっているのは、ミサキ・キョウヤが自分を召喚した魔王に反旗を翻したこと。

 次に、自らに賛同する4人の若者を引き連れ、五勇者と名乗って魔王と戦ったこと。

 そして――ミサキ・キョウヤが魔王に比肩しかねない力を持っていたことだ。

 

「なにそれずるい」

 

「まあ、異世界から来た勇者なんて、チート能力の一つや二つ、お約束でしょう」

 

「オレにも欲しかったなぁ…」

 

「陽葵さんだってA適性を2つも持ってたんですから、一般人からしてみれば十分チートだったんですよ」

 

「……昨日に戻りたい」

 

 時間遡航は、勇者でもできないそうだから、無理ではなかろうか。

 

 またローラさんの腰を動かし始める。

 さっきの射精に気を良くして、今回は最初から全速力だ。

 彼女の膣もぎゅうぎゅうと締めつけてくるし、これはすぐ射精できそうかも。

 

 ―――――

 

 五勇者と魔王の戦いは熾烈を極めた。

 如何に勇者達が強くても、魔王は六龍を支配している。

 その龍から齎させた力の差は、容易に崩せるものでは無かった。

 

 しかし、それでも勇者達は諦めずに戦い続け、とうとう魔王から4体の龍――赤龍・黄龍・緑龍・白龍を開放することに成功する。

 流石に六龍全てを開放することはできなかったものの、これで勇者達と魔王の力関係が僅かに逆転した。

 

 残り2体の龍を使役する魔王に対し、4体の龍から加護を得た勇者達は最終決戦に臨む。

 

「――その場所がここ、ウィンガストなわけですね」

 

「なるほどなー」

 

 再び、彼女の中へ射精。

 意外と癖になりそうなプレイである。

 

 間をおかず、三度ローラさんの腰を前後に振ろうとしたが――動かない。

 どうも、彼女が手と足を踏ん張って、身体を動かないようにしているようだ。

 何があったというのだろう?

 

 しかしそうは言っても性的欲求がそう簡単に収まるはずも無く、私は力づくで彼女の腰を動かした。

 彼女の膣が痛いほどに私の愚息を締めてくる。

 ローラさんの手が、私の足を強く叩いてくるが、まあ気にすることもあるまい。

 私は思い切り、イチモツを彼女に突き挿す。

 

 ――――――

 

 死闘の末、とうとう魔王を倒した勇者達。

 しかしその余波は大きく、最終決戦の場であったウィンガストには<次元迷宮>が現出してしまう。

 さらに、ミサキ・キョウヤは最後の戦いで魔王と相討ち、消息不明となる。

 

「死んじゃったのか、キョウヤ」

 

「どうでしょう?

 元の世界に帰還したとか、<次元迷宮>の奥で今もなお魔王を封じ続けているとか、色々言われていますが――?」

 

 私の股間が、暖かい感触に包まれる。

 見れば、ローラさんが失禁していた。

 彼女の尿が私のズボンに染み込んで、先程の感触に繋がったらしい。

 

 ローラさんもお茶を飲んでいたから、こうなるのも仕方がないだろう。

 ズボンは後で洗えばよい。

 今は、彼女から与えられる快楽を貪ろう。

 

「それで、他の4人の勇者はどうしたんだ?」

 

「今では皆さん国の要職に就いているそうですよ」

 

「へぇ……キョウヤだけ報われてないのな」

 

「まあ、余人に知られていないだけで、ミサキ・キョウヤも幸せに暮らしているのかもしれませんし――おや?」

 

「どうした?」

 

「いえ……なんでもありません」

 

 ローラさんの身体から力が抜けてしまっている。

 膣圧も緩くなってしまった。

 これはどうしたころだろう。

 

 悩んだ私は、ローラさんの尻穴に指を突っ込んでみることにした。

 まず1本……挿れた瞬間ぴくりと動いたが、それだけで状況変わらず。

 仕方ないので2本、3本と挿れていき、4本挿入したところで、ローラさんの身体がびくんと跳ね上がった。

 

「――ん?

 今、テーブル動かなかったか?」

 

「そ、そうですか?

 私は何も感じませんでしたが」

 

 慌てて、少しどもってしまう。

 

 ローラさんが動いた時にテーブルにあたってしまったようだ。

 音がしなくとも、物が動いてしまえば存在を気づかれかねない。

 

 それはともかく、ローラさんは復活してくれたようだ。

 さっきまでの脱力が嘘のように、膣は強く強く私のイチモツを締めあげてくれる。

 ローラさん自身も余程感じてくれているのか、テーブルの下で身体をガクガクと揺らしていた。

 

「――あ、もう日が暮れかけてる」

 

「おや、もうそんな時間ですか。

 そろそろお暇しないといけませんね」

 

 ならば最後にもう一発出しておこう。

 痙攣しているようにも感じるローラさんの身体を力づくで押さえつけ、一気にラストスパートをかける。

 彼女が身体を動かそうとする力も大分強くなってくるが、これが最後なので我慢して貰おう。

 膣へ強烈にイチモツを打ちつけ……思い切り彼女の中へ精を解き放った。

 びくんびくんと、ローラさんの身体が大きく揺れている。

 相当に気持ち良かったのだろう。

 

「……いいよ、黒田はここに残ってな」

 

「はい?

 いえ、そういうわけにも」

 

「ローラさんが帰ってくるのを待ってろって言ってんだよ。

 リアの家への道は覚えてるから、お前が居なくっても帰れるからさ」

 

 ローラさんは今ここに居るわけだけれども。

 まあ、後片付けもしなければならないし、ここに残してくれるのはありがたい。

 

「……分かりました。

 お言葉に甘えさせて頂きましょう」

 

「そうしとけそうしとけ。

 じゃあ、また明日な」

 

「ええ、また明日。

 リアさんの家に迎えに上がりますよ」

 

 そんな挨拶を交わしてから、陽葵さんはリアさんの家に帰っていった。

 

 残された私は、一先ず<静寂>の効果を切り、テーブルの下を覗く。

 

「…………おや?」

 

 そこには、涙とよだれを垂れ流し、私の精液と自分の愛液、そして尿に塗れたローラさんの姿があった。

 

「はひっ…ふひっ…止めて…はひっ…クロダ、さ…あひっ…許しっ…はひっ…んひっ…」

 

 痙攣しながら、壊れたスピーカーのようにそんな言葉を繰り返している。

 

 ……そんな彼女を見て、不覚にも、また勃起してしまったのだった。

 

「……ま、まあ、これ以上壊れることは無いでしょう」

 

 そう言って、自分を納得させる。

 私は彼女の両足を掴んで股を開かせると――膣は十分楽しんだので――尻穴へと男性器を挿入した。

 

「……!!? んっぉおおぉおおおおおおっ!!!?」

 

 ケダモノのような嬌声が周囲に響く。

 まだまだ、楽しめそうである。

 

 

 

 その後、3発程したところで、本格的にローラさんが動かなくなってしまった。

 とりあえず最低限のお店の戸締りと部屋の片付けをした後、看病のためその日はローラさんの家に泊まることにする。

 

 ……一応、次の日には元気な姿が見れたことを報告しておく。

 

 

 

 第五話 完



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第六話 ある社畜冒険者の新人教育 三日目
① 陽葵さん、初めての探索


 

 

 

 前回から明けて、次の日。

 

「おはようございます、ローラさん。

 今日もいい天気ですね」

 

「…………」

 

 リビングで朝食を用意していたところに、ローラさんがやって来た。

 挨拶をしたのだが、どうにもご機嫌斜めな様子。

 

 ちなみに、今起きたばかりの彼女は、既にいつもの黒いロングドレス姿へ着替え済み。

 髪もしっかり梳かしており、サラサラな黒のロングヘアを披露している。

 ……昨日散々味わったばかりとはいえ、やはり彼女の豊満な肢体は男の欲情をそそってしまう。

 

「……あの、ローラさん?」

 

「………昨日」

 

 ローラさんが喋りだした。

 

「昨日、あんなに止めてって言ったのに…!」

 

 涙目であった。

 

「こ、今度こそ、今度こそ本当におかしくなっちゃうかと…!」

 

「あー……いえ、すみません…」

 

 素直に頭を下げる。

 実際問題として、昨日は私も焦った。

 本気で焦った。

 微動だにしなくなったローラさんを見て、治療所への緊急搬送、並びに官憲への出頭を覚悟したほどだ。

 お店にあった知る限りの治療薬を施したところで意識が回復したので、最悪の結末には至らなかったが。

 

 ……無論のこと、使用した薬の代金は払っている。

 

「……いーえ、許しません。

 今回は、本当に許しませんから!」

 

「………分かりました」

 

 ローラさんが怒るのも当然だろう。

 さすがに今回は私も悪乗りがし過ぎた。

 もう一度彼女へ首を垂れてから、告げる。

 

「大丈夫です、もうローラさんに手をだすような真似は決してしません」

 

「…え?」

 

 拒否されたのであれば、是非もない。

 いくら私でも、それ位の分別はある。

 

「ローラさんが望むのであれば、二度と目の前に現れ――」

 

「や、違っ、違うんです、そういうのじゃなくて!」

 

 ローラさんが慌てて否定してきた。

 はて…?

 

「昨日のはちょっとやり過ぎかなって思っただけで、クロダさんに、その……抱かれ…るのは、嫌いじゃ…無いですし」

 

 後半かなり口籠っており、上手く聞き取れなかったが、どうやら私を拒絶したいわけでは無いようだ。

 ほっと胸を撫で下ろす。

 

「昨日みたいのも、あの、週に一回くらいなら…」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「ちゃ、ちゃんと心構えしておけば、たぶん…」

 

 私が言ってはいけない言葉なんだろうが、ローラさん、それは自分を安売りしすぎではなかろうか。

 

「ともかく!

 私が言いたいのは、クロダさんに罰を受けてほしいってことなんです!」

 

「罰……と申しますと?」

 

 彼女は少し思案顔になって、

 

「……とりあえず、今日の朝は私を抱いちゃダメです!」

 

「そんなのでいいんですか?」

 

 流石に私も、あんなことがあってすぐにローラさんとセックスしようとは思わ――いや、思うけれど我慢しようと心がけるつもりであった。

 ……なるほど、確かに私にとっては重い罰かもしれない。

 

「ち、違いますよ、これは罰のうちの一つで……

 他にもいっぱい、罰はあるんですから!」

 

「そ、そうですか」

 

 彼女の剣幕に、少したじろいでしまう。

 それ程沢山の罰を考えてくるとは、余程腹に据えかねたのだろう。

 

「……罰の前に、一先ず朝食にしませんか。

 せっかくの食事が冷めてしまいます」

 

「――そうですね、そうしましょう」

 

 ローラさんの承諾を得たので、私は席に座った。

 そしてそんな私の上に彼女が座る。

 

「………あの」

 

「…な、なんですか…!」

 

「そこは、私の脚の上なんですが」

 

「…そ、それに何か問題でも!?」

 

「いえ……なんでもないです」

 

 ローラさんがそれでいいというのであれば。

 顔を真っ赤にしているあたり、かなり無理をしている気がしないでもないのだけれども。

 

 それとも、これはローラさんの言う罰の一環であろうか。

 ローラさんのお尻の柔らかさを脚で思い切り堪能できているので、罰というよりご褒美なのだが。

 

「―――ん、美味しいですね、これ」

 

「お口に合ったのなら、何よりです」

 

 その状態で、食事を始めるローラさん。

 ただしまだ顔は赤かった。

 

 これだと私は朝食を食べられないのだが、文句を言える筋合いでも無いので我慢する。

 

「……あの、クロダさん」

 

「はい」

 

「このままだと、食べにくい…ですよね?」

 

「……まあ、そうですね」

 

「口、開けてください」

 

「はい?」

 

 不思議な指令がローラさんより下される。

 訳が分からないまま、とりあえず口を開けてみた。

 

「……はい、あーん」

 

「――!!」

 

 ローラさんが、私の口元に料理を持ってきてくれた。

 こ、これは、恋人同士がやるとかいう伝説の…!?

 

「く、クロダさん?

 ……食べて、貰えないでしょうか…?」

 

「た、食べます。

 すぐ食べます」

 

 差し出してくれた料理を口に含む。

 自分で作った料理なのに、なんだかいつも美味しく感じるのは気のせいなのか。

 

「……そ、それでは、次はこれを……あーん」

 

「い、頂きます」

 

 何だろう、ローラさんとはアレやコレまでした仲だというのに、妙に気恥ずかしい。

 それは彼女も同じのようで、ちょっと手が震えていたりする。

 

 そんな、不思議なやりとりを幾度か繰り返した後、ローラさんはさらに私へ話しかける。

 

「……く、クロダさん、この体勢だと少しバランスが悪いので……だ、抱いて…く、くれませんか?」

 

「……ああ、はい――――は?」

 

 思いがけない提案に、頭がついていけなかった。

 

「か、勘違いしないでください!?

 ただ、抱き締めるだけなんですからね!

 へ、変なことは無しで…!」

 

 さらに顔が赤くなっているけれど、大丈夫なんだろうかローラさん。

 いや、抱くこと自体は単純に嬉しいので、いくらでもやるのだが!

 

「で、では――」

 

「……んんっ」

 

 抱きつかれてくすぐったかったのか、ローラさんが小さく声を上げる。

 

 私はといえば、彼女に密着したことにより全身でローラさんの肢体を味わうことができ、内心歓喜の声を上げていたのであった。

 鼻腔は、ローラさんから漂う女性特有のいい匂いで充満している。

 ――こういうのも、悪くない。

 

「…………」

 

「…………」

 

 どちらとも何をするでもない、無言の時間が流れる。

 ただ、ローラさんは嬉しそうな表情をしている。

 気まずい空気が流れているわけでもなく、私もこの心地よさに身を任せていた。

 

「……クロダさん」

 

 不意に、ローラさんが話しかけてくる。

 

「……私と……その……ずっと、ずっと……一緒、に……」

 

 少しずつ声が小さくなって、またしても後半が上手く聞こえなかった。

 しかし、ローラさんの表情が先程までと異なり、凄く辛そうな顔になっている。

 

 ……こんなことをして何になるのか分からないが、私は彼女を抱き締める力を強める。

 気のせいかもしれないが、ローラさんの表情が和らいだように見えた。

 

「……ローラさん?」

 

「な、何でもないです!

 その……今日も、お店に来て頂けませんか?」

 

「それはまあ、いいですけれど。

 ……手を出してはいけないのは、朝だけでしたよね?」

 

「――!」

 

 言って気づいたが、凄く無粋なことを口にしてしまった気がする。

 しかしそんな私の言葉にもローラさんは気を悪くした様子は無く。

 

「……そ、そうですね。

 で、でも昨日みたいのじゃなくて……今夜は、もっと優しく抱いて下さい…」

 

「分かりました。大丈夫です、任せて下さい」

 

 私のそんな返事に、彼女は恥ずかし気に頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 ――そんなやり取りをしたのが、大体2時間前。

 今、私は<次元迷宮>の中にいた。

 

「と、いうわけで、今日はいよいよ実戦です」

 

「おうっ!」

 

 威勢よく返事をするのは陽葵さん。

 朝食後、リアさんの家まで迎えに行って彼と合流し、今に至るというわけだ。

 

「魔物と戦う前に最後の確認を。

 冒険証はしっかりと付けていますね」

 

「ああ、ボーさんに腕輪へ取り付けてもらったからな。

 ちゃんと装備してるぜ」

 

「結構です。

 これを無くすと<次元迷宮>では色々と『詰み』ますからね。

 何かの拍子で落としたりしないよう、十分注意して下さい」

 

「はいよー」

 

 何せ、冒険証が無ければ階層間の移動すらできない。

 ゲートの起動は、冒険証によって行っているのだから。

 

「……お、ちゃんと白色に光ってんな」

 

「問題なく作動しているようですね」

 

 陽葵さんは冒険証で、この階層の区域を確認しているようだ。

 

「白い区域なら、冒険証使ってすぐ帰還できる…んだよな?」

 

「はい、その通りです」

 

 白色区域――初心者区域に限り、仮に危険に陥ったとしても冒険証を起動させる時間さえあれば、帰ることができる。

 ある意味一番重要な機能だ。

 

 ――先程からずっと実に説明チックなやり取りをしている私達だが、実際に事前説明を振り返ってるところなので大目に見て頂きたい。

 

「でも、白・緑・黄・赤か…」

 

 陽葵さんが思案顔になっている。

 どんな表情をしても可愛いなこの人。

 

「どうしました?」

 

「ひょっとしてこれ、六龍から取ってたりするのかな?」

 

「おお、よく気づきましたね。

 なんでも、六龍の内、最後の決戦で勇者に力を貸した4体から付けているそうです」

 

 そんな由来なものだから、<次元迷宮>にはさらに青色区域・黒色区域が存在する、という噂も実しやかに流れている。

 その区域に、行方不明になった勇者ミサキ・キョウヤや魔王が封じられているのだ、とも。

 

 ―――まあ、当たらずとも遠からずといったところか。

 

「おや、さっそく魔物が現れたようですよ」

 

 前方から、一体の魔物がこちらへ向かってくる。

 白色迷宮でも最も弱い魔物として有名な、溝色ねずみだ。

 

「うっしゃ、腕が鳴るぜ!」

 

「一先ず私は後ろで見守っていますので、存分に戦ってみてください」

 

「応よ!」

 

 陽葵さんが剣を抜き、魔物に向かっていく。

 この剣も、ボーさんが見繕ってくれた高級品。

 初心者でも扱いやすいショートソードで、鋼を丹念に研ぎあげた名剣だそうである。

 作った本人が名剣とか言ってしまうのは如何なものかと思うが、実際素晴らしい切れ味を誇る。

 

「食らえ、<強撃(バッシュ)>!」

 

 力を溜めるような構えから、陽葵さんがスキルを発動した。

<強撃>は<戦士>のスキル――武技(バトルアーツ)の中で基本中の基本と呼ばれている。

 効果もそのものずばり、敵に通常よりも強い一撃を叩き込む、というもの。

 

「――あ、あれ?」

 

 しかし、結果は空振り。

 

「いくら弱い魔物といっても、いきなり大技を出したら早々当たりませんよ」

 

「分かってるよ! くそっ…!」

 

 悪態をつきつつ、改めて魔物との交戦を開始する陽葵さん。

 溝色ねずみも体当たりや噛付きで攻撃してくるが――すべて、彼の装備する防具によって阻まれる。

 私の貯金が崩れる程の高級防具は、伊達ではないのっだ。

 陽葵さんはボーさんと私にちゃんと感謝して欲しい。

 とはいったものの、陽葵さんの攻撃も魔物はひょいひょいと躱してしまう。

 

「……でやっ!……おりゃっ!」

 

 魔物の攻撃は陽葵さんにダメージを与えられず、陽葵さんに攻撃は魔物に当たらず。

 ある意味、一進一退の攻防が繰り広げられる。

 

 この間に、少し解説を。

 スキルは職業毎に呼ばれ方が違う。

 <戦士(ファイター)>なら武技(バトルアーツ)、<盗賊(シーフ)>なら暗技(シャドウアーツ)、<僧侶(プリースト)>なら加護(テウルギア)、<魔法使い(ウィザード)>なら魔法(ウィザードリィ)といった具合に。

 これは冒険者というシステムが構築される前の呼び名が未だ定着しているため、らしい。

 つまり、武技・暗技・加護・魔法が昔からの呼び方であり、勇者達によってそれらが取り纏められ、総称として『スキル』と名付けられたとのことである。

 

 ――と、そうこうしている内に、

 

「……うおりゃっ! と、当たった!」

 

 陽葵さんの攻撃がとうとう魔物を捉えた。

 当たってしまえば、高級装備がものをいう。

 魔物は一撃で深手を負ったようだ。

 

 そして、ダメージで動きが鈍くなった魔物に対し、

 

「トドメだ、<強撃>!」

 

 もう一度、武技を繰り出す陽葵さん。

 今度こそ狙い過たず、強力な一撃が魔物を一刀両断する。

 

「勝ったぁっ!」

 

 勝利の叫びをあげる陽葵さん。

 

「おめでとうございます!」

 

 そんな彼を拍手で称える。

 

 正直なところ、初戦はもっと手こずると思っていた。

 戦いなんて経験したことがない現代社会の人間は、弱い魔物相手でも気後れしたりだとか動きについていけなかったりだとかで、なかなか攻撃が当てられないことが多い。

 そんな中、陽葵さんは最初こそ翻弄されたものの、比較的あっさりと敵を捉えた。

 戦闘センスはなかなか良いものを持っているようだ。

 

 ……A適性のある<僧侶>や<盗賊>を選んでいれば、もっと楽だったろうに。

 

「へへ、この調子でドンドン行くぜ!」

 

 やる気に満ち溢れている陽葵さん。

 そんな彼に応えて――というわけでも無いのだろうが、魔物が現れる。

 

「お、新手が来ましたね………5体」

 

「5体!?」

 

 <次元迷宮>の入り口付近で、こんな数の魔物に遭遇するのは珍しい。

 陽葵さん、遭遇運も結構なものを持っているのではなかろうか。

 

「あ、あいつらって今のやつより弱かったりする?」

 

「さっき戦った魔物がこの<次元迷宮>で一番弱い奴です」

 

「………無理だ!!」

 

 どうだろう、普通の新人冒険者ならまず無理だが、今の陽葵さんには新人にはまず手が出せない高級装備がある。

 あの程度の魔物達ならなんとかなるように思える。

 とはいえ、最初からスパルタは良くないか?

 

「では、初回サービスということで」

 

 私はそこらに転がっていた小石を手に取り、<射出>で魔物に対して撃ち出す。

 都合4つの石が、過たず4体の魔物を貫いた。

 残りの魔物は1体。

 

「さあ、1対1です。

 先程と同じ要領で戦って下さい」

 

「…………」

 

 むむ?

 陽葵さんが、私を呆然と見ている。

 

「どうしました?

 魔物が来ますよ、早く構えた方がよろしいかと」

 

「……い、いや、お前、やっぱ凄いのな」

 

 魔物を4体同時に倒したことに驚いているようだ。

 ……とはいえ、初心者用区域の中でも最弱クラスの魔物を倒したことに驚かれるのは、かなり気恥ずかしい。

 自慢のようにも聞こえてしまうかもしれないので、口には出さないが。

 

「あの程度であれば、すぐに陽葵さんにもできるようになりますよ。

 今は鍛錬あるのみです。

 さ、頑張ってください」

 

「お、おう!」

 

 気を取り直した陽葵さんは魔物へと駆けていく。

 

 

 ――そんなことを繰り返しながら、時は過ぎ。

 

 

 時刻はそろそろお昼。

 私達は次の階層へと到達した。

 人工的な構造材で作られた無機質な回廊が続く場所だ。

 

「……ぜぇー……ぜぇー……ぜぇー……」

 

 陽葵さんが肩で息をしている。

 まだレベルが低い時にこれだけ連戦すれば仕方がない。

 

「……ぜぇー……ぜぇー……あ、あれだけ戦ったのに、まだ1レベルしか上がってない……」

 

 冒険証のステータス画面を見て嘆く陽葵さん。

 

「まだ慣れていませんからね。

 まずは戦闘を含め、この<次元迷宮>の探索に慣れることです。

 そうすれば、もっと楽にレベル上げができます」

 

「……そ、そっか。

 まあ、初めてなんだからこんなもんだよな」

 

 私のフォローに笑顔を見せる。

 こういう頭の切り替えが早いのは、彼の長所だ。

 

 ……1日に1レベル上がるのは最初の内だけで、これから先どんどんレベルは上げ難くなる、という事実はまだ伏せておこう。

 ウィンガストにおけるレベル上げは、一昔前のMMO並みに厳しいのだ。

 ついでに、<勇者>以外の<戦士>職ならば――さらに言えば<盗賊>や<僧侶>ならば、1レベル上がるだけでステータスが結構上がっていたであろう事実も。

 

「とりあえず切りのいいところまで来ましたので、そろそろ休憩にしましょうか。

 この階層は魔物も出現しませんし」

 

「あ、そうなの?」

 

 魔物の種類やその出現率は階層によって異なる。

 なので、魔物がほとんど出現しない場所もあるのだ。

 そういうところは、大抵冒険者達の良い休憩場所となっている。

 前に話した、私がいつも休憩に使っている階層もその一つだ。

 

「もっとも、この階層は入り口に近すぎるので、休憩に使う冒険者はあまりいないんですけどね」

 

「悪かったな、こんな所で休憩が必要で」

 

 これは失言をしてしまった。

 

「すみません、そういうつもりで言ったわけでは…」

 

「いいよ別に。

 すぐこんなとこすっ飛ばせるようになってやるから、見てろよ…!」

 

 頼もしいことだ。

 私達は休憩に適した場所を求めて移動を始める。

 

「ところで、ここってどういう階層なんだ?」

 

「基本的に魔物は出現せず、その代わり――というわけでもないのでしょうが、トラップの多い階層です」

 

 少し歩くと、直方体状のそこそこ広い部屋に出る。

 この階層における最初の部屋であり、休憩場所に最適な所だ。

 

「そのトラップに関しても致命的なものはないので、駆け出しの冒険者がトラップへの対処を練習するのによく使われていますね」

 

「へー………あ、こんなのか?」

 

 陽葵さんは部屋の壁に設置してあるレバーを引いた―――って、え!?

 

「――ちょっと、何してるんですか!?」

 

「……そこに、レバーがあったから」

 

「『そこに山があったから』みたいな言い方しないで下さい!」

 

「はっはっは、いやごめんごめん――ってうわ!?」

 

 レバー近くにある穴から、陽葵さんに向けてガスが吹き付けられる。

 当然ながら、レバーに仕掛けられたトラップ(こんな露骨なモノをトラップと形容していいのだろうか?)である。

 

「げほっ…げほっ…げほっ…何だこれ!?」

 

「確かそれは……麻痺を引き起こすガスだったはずです」

 

 巻き添えを食らわないように少し離れたところから解説をする。

 薄情者などと言わないで欲しい。

 いくら致死性のものではないとはいえ、二人とも動けなくなっては流石にまずいのだ。

 

「お、おお、体が、動かなく…?」

 

「麻痺ガスですからね。

 それはそうでしょう」

 

 ガスが十分霧散し、危険性が無くなったところで陽葵さんに近づく。

 手足が痺れて倒れる前に、彼を支える。

 

「ご、ごめん…」

 

「謝るのであれば、次からはこういう軽率な行動は取らないで下さいね」

 

 陽葵さんを抱き上げて部屋の端へと移し、床に布を敷いてその上に寝転ばせる。

 

「症状は手足が動かなくなる程度と軽いものですけど、治るのには1,2時間程度かかります」

 

「……軽いのか、それ?」

 

 勿論軽い。

 この部屋には他の危険な魔物やらトラップやらは無く、ここで数時間動けなくなっても死ぬことはおろか怪我をすることもない。

 総合的に見て危険度の低いトラップと言えよう。

 

「魔法で治したりできねえの?」

 

「できますよ。

 私は覚えてないだけで」

 

「……そうなのか」

 

 まあ、麻痺の治療薬は持っているのだが。

 反省させる意味もあるので、その事実を明かす気はない。

 

「まあ、麻痺している間しっかり休憩して下さい」

 

「こんな状態じゃゆっくり休めないって…」

 

「そこは自業自得ですので。

 自省して下さい」

 

「うう……はぁい」

 

 私も陽葵さんの隣に座り、休憩に入る。

 

 ――ところで詳細説明をしていなかったが、あのガスは麻痺は麻痺でも運動麻痺を引き起こす類のもの。

 手足の筋肉が麻痺するだけで神経には影響が出ないため、感覚は残る。

 つまりどういうことかと言うと。

 

「……んんっ!?」

 

 陽葵さんの口から艶っぽい声が出る。

 <念動>を使って、陽葵さんの乳首を刺激してあげたからだ。

 

 さて、改めて今の陽葵さんの様子を見てみよう。

 いつも通り美しく整い過ぎている顔に、それに相応しいきめ細かさを持ったショートカットの金髪。

 現在その顔には、突如訪れた刺激に戸惑いの表情が浮かべられている。

 

「急にどうしました、陽葵さん」

 

「……へ、いや、何でもない」

 

 不自然にならない仕草で、私の手の位置を陽葵さんに見せる。

 私は身体に触れていないということを彼に分からせるためだ。

 

 陽葵さんの格好は、ボーさんの店で購入したものそのまま。

 ピッチピチの極薄ボディスーツの上に、胸だけ隠せる丈のタンクトップと際どいローライズのホットパンツ、そこへ薄手のジャケットを羽織っている。

 とんでもない価格の装備だけあって、午前中魔物と戦い続けても傷らしい傷は一切見られない。

 

 今度は両方の乳首を刺激してみる。

 

「……あうぅっ!?」

 

 再び艶声が聞こえる。

 私はさも心配している風を装って陽葵さんに質問する。

 

「一体どうしたんですか?」

 

「……いや本当になんでもないから……あんっ!」

 

 話している最中も刺激は続けている。

 陽葵さんが敏感な身体をしていることは先日の朝確認済み。

 これはなかなか耐え辛かろう。

 

「陽葵さん、私は貴方の教育係であり、パーティーの仲間なんです。

 不調はしっかりと伝えて下さい」

 

「……なんか、さっきから体が変で……んぅっ」

 

 私の説得に、やや躊躇いながらも応えてくれる陽葵さん。

 

「変? どのように体がおかしいのですか?」

 

「あぅっ…胸に、何かが触ってるみたいな……あんっ」

 

「胸……胸のどの部分ですか?」

 

 <念動>の強さをさらに大きくする。

 

「はぅううっ!…胸の、乳首が何かに挟まれているみたいで…んんんっ」

 

「…ふむ」

 

「……お、おい!?」

 

 私は陽葵さんのタンクトップを捲る。

 ボディスーツ越しに、彼の乳首が勃っていることが容易に見て取れた。

 

「乳首、大きくなってますね」

 

「なんでそういうこと言うかな!?…はんっ…

 しょうがないだろ、ずっと触られてるみたいな感じで!…んくぅっ!」

 

 話している最中にも、陽葵さんは顔を色っぽく歪ませる。

 

「これはひょっとしてあれですかね、ガスに催淫効果が含まれていたとか?」

 

「…んんっ…そんなのあるのかよ…あんんっ!」

 

 陽葵さんの顔は上気して少し赤く染まり、なんともエロい。

 そんな表情でこうも喘がれては、私の方まで興奮してきてしまう。

 

「<次元迷宮>は分からないことばかりですからね。

 いつもとは違うトラップ効果が発生してもおかしくはありません」

 

 実際そういう事例はある。

 今回は100%私のせいだが。

 

「…あぅうっ……そ、そんなのって……あぁあっ……」

 

 悶え続ける陽葵さん。

 彼が男であることを忘れてしまいそうだ。

 

 ……そろそろお尻の方もいってみようか。

 

「……んおっ!」

 

 陽葵さんが今までと異なる反応を示す。

 

「今度はどうしました?」

 

「……んあっ!……尻が、いきなり……おっおぉっ!」

 

 陽葵さんの履いているホットパンツは、お尻の上半分がほぼ露出するようなローライズっぷりなので、彼の尻穴の位置を探るのはそう難しいことではなかった。

 私の位置から直接は見えないので<屈折視>を活用しているが、いや、やはり陽葵さんのお尻はいい。

 女性でもここまで美しい曲線を描いてはいないであろうと思える程、綺麗な形をしている。

 その肉付きの良さ、感触の類稀さは先日堪能した通りである。

 

「…おっ…あ、あぁっ…んおぉおっ!」

 

「お尻というと、どの辺りでしょう?」

 

「…おぉっ…どこって、その…んぉおっ…あ、そこだよっほらっ…あぅうっ」

 

 その部分の名前を言うのが恥ずかしいのだろうか、陽葵さんは言葉を濁す。

 

「あそこ……ああ、肛門ですか」

 

「ストレートに言うな!……んぅううっ」

 

「別に男同士なんですから、恥ずかしがる必要は無いのでは?」

 

「うぅうっ……そうかも、しれないけど……んぁあっ」

 

 陽葵さんの顔は押し寄せる快感の波にどんどんだらしなくなっている。

 手足が麻痺しているから、身じろぎして刺激を分散することもできないため、彼の味わう快楽は相当なものなのだろう。

 今すぐ襲いたくなる位に色っぽい顔だ。

 

「んぉおおっ…あっやば、い…おおぉおっ…これ、やばいって」

 

「何がやばいと?」

 

「お、おぉおおっ…い、く…あ、あぁぁあっ…イク、かも…んおっ!」

 

 そろそろ射精しそうらしい。

 見れば、ボディスーツの股間部分が不自然に盛り上がっている。

 陽葵さんの男根が勃起し、ホットパンツからはみ出ているのだろう。

 

 私は<念動>の出力を上げ、乳首と肛門を激しく責め立てた。

 

「お、おぉおおおっ!? やっばい…おっおっおっおっ…我慢、できなっ……」

 

「いいんじゃないですか。

 ここには私達以外いませんし。

 一度出してしまえば楽になるかもしれませんよ」

 

 私の言葉は陽葵さんに届いているのかどうか。

 もう彼に余裕は無いように見える。

 

「ああぁぁあああっ!!…出る、出ちゃう!…んぉお、お、おぉおおっ!…出るぅっ!…んあぁぁあああああっ!!!」

 

 身体を反らしながら、陽葵さんは絶頂した。

 

「お、おぉおお……んぉ……は、ぁぁあああ……」

 

「思い切りいきましたね。

 すっきりしましたか?」

 

 余韻に浸る陽葵さんに声をかける。

 だが、彼からの返事は無く。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

「……陽葵さん?」

 

 彼の体を揺さぶってみるが、反応無し。

 中空をぼんやり見つめながら、荒く息を吐くだけだ。

 完全に気をやってしまった模様。

 

 ……やりすぎたかもしれない。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ……んむっ」

 

 その表情が余りに淫猥だったので、思わず口づけしてしまった。

 陽葵さんの唇は瑞々しく、舐めるとプルプルと震える。

 

「んむぅっ…れろっ…んんぅっ…あむっ…れろ…」

 

 そのまま、口内を舐め回った。

 舌は女性のように繊細な感触ながら、男性のような力強さも感じる。

 女としての魅力を持ちつつも、男であることの主張もある。

 女性では到底味わえない感触。

 ……これはこれで良いものだ。

 

 しばしの間、陽葵さんの口の中を堪能した。

 

「…はむっ…んんっ…れろれろ…んぅっ…ぷはっ」

 

 十分舐め尽くしたところで、陽葵さんの口から離れる。

 

「…ご馳走様でした」

 

 意識のない彼に礼を言っておく。

 

「…これからどうしようか」

 

 休憩の時間といっても、実のところ私は全然疲れていない。

 寧ろ陽葵さんの痴態を見せつけられて、私の愚息は元気いっぱいだ。

 

 私は陽葵さんのお尻をじっと見た。

 まだまだきついだろうが、無理にでも挿れてしまおうか?

 

 そんな考えを巡らしていると突如、天井の中央部がぱかっと開く。

 そして――

 

 「キャァァアアアアアアッ!!」

 

 甲高い悲鳴とともに、開いた穴から人が落ちてくる。

 

「むっ!!」

 

 咄嗟に身を投げ出し、落下地点へ体を滑り込ませた。

 

「アアアアア―――あれ?」

 

 そして落ちてきた人をできるだけ優しく受け止める。

 

 この階層を進んだ先にある落とし穴が、この部屋に繋がっていることは把握済み。

 前にエレナさんが落ちてきた件では何の役にも立たなかったので、ちゃんと注意するようにしていたのだ。

 同じ過ちは二度犯さない男、黒田誠一です。

 

「大丈夫ですか?

 災難でしたね」

 

 抱きかかえた人物に問いかけながら、姿を確認すると――

 

「く、クロダ君?」

 

「え、エレナさん?」

 

 その人は、以前に迷宮で出会ったコケティッシュな美少女――エレナさんであった。

 

 

 第六話②へ続く



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② 迷宮内でのセックスは危険なんですけれどね

 

 

「いやー、ありがとね、クロダ君」

 

「いえいえ、ご無事で何よりです」

 

 その後、軽く互いの事情の説明しあった。

 エレナさんは、やはり不注意で落とし穴のトラップに引っかかり、ジャンさん達と分断されてしまったらしい。

 

 なお、今日のエレナさんの装いは前に会った時とほぼ同じ。

 肩下まで伸びたセミロングの黒髪は、動きの邪魔にならないようにか、後ろで結えてある。

 服はブラウスとフレアのミニスカートで、その上にクロークを纏った姿。

 脚には黒タイツを履いている。

 

「……それで、クロダ君が今教育してるのがこの子なわけだね」

 

「そうですよ。

 室坂陽葵さんと言います」

 

「んんー、ムロサカ君?

 ムロサカちゃんって感じだけど」

 

「男性なんですよ、間違いなく」

 

 私も未だに信じられなくなることがあるが。

 

「………あ、本当に男の子だ」

 

 ホットパンツの中に手を突っ込んで、股間をにぎにぎと握るエレナさん。

 

「あの、寝てるからっていきなり凄いことしますね」

 

「いいじゃん別にー、減るもんでも無いし」

 

 私も似たようなことはしたけれども。

 しかしあれは、男同士だから問題ないのだ、きっと。

 

 エレナさんはホットパンツから手を抜き出し、私の方を向いてから、

 

「……ところでさ、なーんでムロサカ君は、こんなエッチな顔して倒れてるのかなー?」

 

 エレナさんの目が悪戯っぽく輝く。

 確かに今の陽葵さんは、顔が上気していて凄く色っぽい。

 

「……そういうトラップに引っかかったのですよ」

 

「へー? クロダ君が手を出したわけじゃないんだね?」

 

「……無論です」

 

「ほー?」

 

 一応、弁解を試みたわけだが。

 

「クロダ君って、男の子もOKだったんだ?」

 

「いえいえいえ、決してそのような…!」

 

「取り繕わなくったっていいでしょー?

 こんな可愛い子がこんなエッチな格好してたら、手も出したくなるよねー」

 

 彼女の中では私が手を出したことで確定してしまったらしい。

 全くもって正解なのでぐうの音も出ない。

 

 押し黙る私を他所に、エレナさんはジロジロと陽葵さんの肢体を眺めていた。

 時折、ちょんちょんと彼の身体を突いてもいる。

 

「うわー、本当に女の子みたい。

 この身体で男の子とか、世の女の子に喧嘩売ってるよね」

 

「そんなものでしょうか」

 

 美少女な容姿の男性というのは、女性にとってかなり複雑な気持ちを抱いてしまう対象なのかもしれない。

 

「このお尻とかさー。

 すっごいもちもち感」

 

 エレナさんは陽葵さんのお尻を揉みだす。

 アグレッシブだなこの人…!

 

「……んんっ……あぅっ……」

 

「おわ、喘ぎだしたよこの子!?」

 

 陽葵さんの艶声に驚くエレナさん。

 まあ、その気持ちはよくわかる。

 男の反応じゃない。

 

「……んぁああ……はぁあん……」

 

 驚きながらも彼女は尻揉みを止めない。

 

「んんー、このお尻でクロダ君を誘惑しちゃったわけだね」

 

「……まあ、そうですね」

 

 観念して、正直に話す。

 もっとも陽葵さんはお尻だけでなく、容姿全体が素晴らしいわけだが。

 

「……ん、おぉお……おっ……おっおっおっ…」

 

「んふふふふ、ここの穴にクロダ君のモノを受け入れちゃったわけですなぁ、ムロサカ君」

 

 陽葵さんの尻穴辺りを擦りながら、エレナさんが怪しく笑う。

 私は咄嗟に彼女の言葉を否定する。

 

「いや、まだ挿れてないですよ、本当に」

 

「……『まだ』ってことは、その内ヤッちゃうつもりなんだ?」

 

「あ、いや、それは……」

 

 余計な単語を口走ってしまった…!

 咄嗟の判断の甘さをこんなところでも露呈してしまうとは。

 

「どうなのー?」

 

「……その、近いうちにはやろうかと」

 

「んふふふふ、やっぱりー」

 

 エレナさんは面白そうにひとしきり笑った後、

 

「不潔、最低」

 

 真顔で言った。

 

「ここでそんなこと言いますか!?」

 

「ジョーダンだよー、ジョーダン」

 

 再び笑顔に戻るエレナさん。

 心臓に悪いので勘弁して欲しい。

 一瞬、本気で心が抉られた。

 

「……ねークロダ君」

 

「はい?」

 

 改まった様子でエレナさんが私に問いかけてくる。

 

「この子のお尻とボクのお尻、どっちが魅力的かなぁ?」

 

 彼女はミニスカートを自ら捲り、黒タイツに包まれたお尻を私に突き出してきた。

 小ぶりながらも綺麗な曲線を誇る、エレナさんのお尻がこれでもかという程強調される。

 

 今日の彼女の下着は黒と白のストライプが入った縞パン。

 前にも言ったが、パンツに縞模様が走ることでお尻の形がよりくっきりと分かるようになる。

 エレナさんのようにお尻の形の良い女性には、非常にマッチした下着と言えよう。

 また、黒タイツに包まれた白黒の下着といのも、趣があって良い。

 

「それは……エレナさんですよ」

 

 すぐさま私は返答した。

 こういう選択で言った本人以外を答える選択肢などない。

 今までの人生経験で、そこら辺はよく分かっている。

 

「んんー、なんか答えるまで間があったなぁ?

 本当にボクの方が魅力的だと思ってるー?」

 

 ……よく分かっているつもりだったのだが、どうやらまだ甘かったようだ。

 私はエレナさんに後ろから近付いて、

 

「本当ですよ、ほら」

 

 彼女のお尻に、先程から勃起している股間を擦り付けた。

 

「やぁん♪

 もう興奮してるの?」

 

「なんでしたらここで始めてもいいですよ」

 

「ムロサカ君の前で?」

 

 首をかしげながら、小悪魔チックな笑いを浮かべてエレナさん。

 

「嫌ですか?」

 

「嫌じゃないけどねー。

 でもほら、ジャン君達と合流しなくちゃいけないからさ」

 

 ここでエレナさん、私の方へ向き直る。

 

「ジャンさん達がこちらに戻るのではないのですか?」

 

「ううん、この階層で離れ離れになったらここで合流しようってポイントを予め決めておいたんだ」

 

「ほほう」

 

 彼女が腕を私の身体に絡ませてきた。

 

「だからさ……そこまでボクをエスコートして欲しいかなぁ、なんて」

 

「……エスコート、ですか」

 

 おもむろに私はエレナさんの胸を揉む。

 相変わらず、いい弾力のおっぱいだ。

 

「あ、んっ……だめかな?」

 

「いいですよ、行きましょう」

 

 私の手をまるで拒もうとしないエレナさんへ、快諾の返事をした。

 

 勘違いして欲しくないが、これはあくまで女性一人で迷宮を動くのが危険だからである。

 ここが安全な階層とはいえ、<次元迷宮>では何が起こるか分からないのだ。

 断じて、陽葵さんの喘ぎやエレナさんのお尻で、もう愚息はギンギンだから、という理由ではない。

 

「んふふふ、ありがと。

 ……あ、ムロサカ君どうしよっか?」

 

「こんな浅い階層で悪事を働こうとする冒険者もそういないでしょうし、貴重品を私が持っておけば大丈夫でしょう」

 

 彼が目を覚ました時のために、メモも残しておく。

 それ程長い時間留守にするわけでもなし、これで大丈夫のはず。

 

「それでは行きましょうか」

 

「うん、お願いね……んっ」

 

 エレナさんのお尻を揉みながら、私達は合流地点へと移動を開始した。

 

 

 

 少しの後。

 

「おーい、ジャンくーん!」

 

「お、エレナか?」

 

 無事ジャンさんのところへ辿り着けたようだ。

 

 ここまで特にエレナさんとはナニもしていない。

 私だってそれ位の自制はできる。

 

「何だよ、結構早かったな」

 

「まあねー、急いで来たし」

 

 得意げにエレナさん。

 まあ、私が合流地点へ向かうのに一番短い経路を教えたからなのだが、そこは言わないでおこう。

 

「別にそのまま外に出てても良かったんだぞ」

 

「ボクだってもう冒険者になって長いんだから、これ位の所なら一人でも動けるよ」

 

 私と一緒だったんだけれども。

 

「……そんな所で落とし穴に引っかかったのはどこのどいつだ?」

 

「んんー?

 誰だったかなー?」

 

 エレナさんである。

 <次元迷宮>でそういう不注意は命取りになるので、今後は是非とも気を付けてほしい。

 

「ま、何はともあれ良かっ……おい」

 

 ここで、ジャンさんが不審げな声を上げる。

 エレナさんの状態に気づいたのか。

 

「……何?」

 

「お前、何やってんの?」

 

 今のエレナさんを説明すると、壁に空いた小さい横穴から上半身を出した状態……のはず。

 断定できないのが何故かと言えば、私にはジャンさんのいる側が見えていないから。

 つまり、私とジャンさんは壁を隔てて向こう側とこちら側に居るわけなのだ。

 エレナさんはその壁にある穴をくぐっている途中ということである。

 

「んんー、近道?」

 

「近道……そうか。

 それじゃ、早くこっちに来いよ」

 

 近道なのは間違いないのだ。

 ……エレナさんなら行けるかと思ったのだが。

 

「んー、行きたいのは山々なんだけどねー」

 

「ひょっとして…」

 

「つっかえてちゃってこれ以上進めない、みたいな?」

 

「馬鹿か!?」

 

 穴とエレナさんのサイズを私が読み違えていた――ということにしておいて欲しい。

 

 さて、私の側から見えるエレナさんは、上半身を横穴につっこみ、お尻から下だけこちらに出ている。

 よく言うところの、壁尻というやつだ。

 小さいけれど形のいいお尻がこれ以上なく堪能できる体勢だ。

 黒のタイツがお尻のエロさをさらに補強していた。

 

 ……スカート?

 とっくの昔に捲っている。

 

 ――決して狙ってやったわけではないのだ、本当に(棒読み)

 

「つーかお前、よくこんな小っさい穴通る気になれたな!?」

 

「んー、行けると思ったんだけどねー……んんっ」

 

 じっくりとお尻を鑑賞した後、改めて揉む。

 揉んだ手を押し戻してくるこのハリの良さが堪らない。

 調子に乗ってさらに揉みしだく。

 

「確かにお前ちっこいもんな」

 

「ん、あっ……人が密かに気にしていることを!?……んうぅ」

 

 ところどころエレナさんの口から喘ぎが漏れるが、ジャンさんは気づいていない模様。

 冒険者としては少々洞察力が足らないと言わざるを得ない。

 

 尻肉を味わった後は、彼女の女性器を擦りあげる。

 

「んん、うぅぅう……」

 

 びくっとエレナさんの下半身が震えたが、声は小さく抑えたようだ。

 

「あ、気にしてたのか」

 

「気にしてたんだよ…あぅっ…<次元迷宮>に潜る日の…んぅう…天気、程度には」

 

「それ全然気にしてないってことじゃないか」

 

 当たり前の話だが、<次元迷宮>に潜っているときは外の天気は関係ない。

 天気を知ることすらできないのだから。

 

 タイツの上から、クリトリスの辺りを抓ってみた。

 

「んんんっ!……ん、んんー、そういうこと、言っちゃうの?

 ジャン君は相変わらず女心が分かってないな、ぁ……あ、ああぁあ、ん…」

 

 ジャンさんにばれないよう、何とか誤魔化そうとしているエレナさん。

 そんな彼女の想いが通じたのか、

 

「馬鹿にすんな!

 俺だって多少は分かるっつーの!」

 

 ジャンさんは全然気づいていない。

 結構な艶声を出したように思うのだが、案外分からないものなんだろうか。

 

 調子に乗って、さらに彼女の陰核を弄る。

 

「んっ! あっんんぅうううっ!!」

 

「ど、どうした急に!?」

 

 エレナさんは耐えきれず、大きな喘ぎ声を出してしまう。

 むむ、これはバレたか?

 

「んん、別に何でも……あんっ……ちょっと頑張ってここから出ようとしただけだよ」

 

「そ、そうなのか、変な気合の入れ方するなよ」

 

 それで誤魔化せてしまうのか、ジャンさん。

 少しは疑う気持ちを持とう。

 

 私はエレナさんのタイツとパンツを降ろし、彼女の生尻を拝む。

 見るからに弾力のありそうな肌は、私の責めによるものか、少し汗ばんでいた。

 股間は既に濡れ濡れで、太ももには一筋の愛液が垂れている。

 

「そ、それで、女心の分かるジャン君?

 今ボクがどんなこと考えてるのか当ててみなよ」

 

 そんなことを言いながら、股を開いてお尻を左右に振るエレナさん。

 正解は『今すぐ肉棒が欲しい』といったところだろうか?

 彼女のリクエストに応えるべく、ズボンから勃起したイチモツを取り出して彼女の膣口へと擦り付けた。

 

「あ、すまん、お前の頭の中は分かんねーわ」

 

「即答!?…ぅんっ…ひっど!…あんっ…少しは考えてよ、んっ…」

 

 私の男根を下の口に挿れるべく、腰をくねらせるエレナさん。

 まだ少し焦らしたいので、亀頭が彼女の膣に入りそうになる度に腰を引き、中へ挿れてやらない。

 

「んっ…くぅう…んんんっ…」

 

 早く快楽を貪りたいのか、さらに腰を動かして私の肉棒を求めてくる。

 

「……あぅっ……んんぅ……んんっ……」

 

「何だよ、さっきから変なうめき声出して」

 

「…んん…早く穴を抜けようと頑張ってるんだってばー!

 は、早く……早くぅ……んぁぁっ……」

 

 そんなにも早く欲しいのか。

 余り虐めるのも可哀想なので、そろそろ挿入してあげることにしよう。

 私は彼女の尻を掴み、彼女の膣へ自分のイチモツを突き挿れた。

 

「あ、ぁぁああああ…!」

 

 ようやく貰えた快感に歓喜の声を上げるエレナさん。

 彼女の中もぎゅうぎゅうと私を締め付けてくる。

 

「お、おい、大丈夫か。

 今の、普通じゃなかったぞ?」

 

「……あんっ……だ、大丈夫……んんんっ……大丈夫だから……あぅうっ……」

 

 エレナさんは息も絶え絶えにジャンさんに返事している。

 不審な彼女の様子にジャンさんは大きくため息をついてから、

 

「はー、お前とはもう10年以上の付き合いになるっつーのに未だに何考えてんのか見当つかねー。

 つーか、お前の頭は何かを考えてることがあるのか?」

 

「失礼な!……んんぅっ……ボクくらい色々考えてる人も…あっ…そうはいないというのに…あぁっ…」

 

「ふーん、例えば?」

 

「…あっああっ…きょ、今日はナニをおかずにしようか、とか…ふ、ぅううっ…」

 

 さしずめ、今味わっている私の肉棒、ですかね?

 私が腰を動かし始めると、より深く男棒が挿さるよう、エレナさんも私に合わせて腰を振り出した。

 

「ほっとんど何も考えて無いじゃないか」

 

「…あぅうっ……所詮ジャン君程度じゃ…あっ…ボクの考えは理解できないって…んんっ…ことだね?」

 

「言ってろ言ってろ。

 ……で、その色んなことを考えていらっしゃるエレナさんは、この状況をどう打開しようとお考えで?」

 

「……ん、んんっ……一回引き返して…あんっ…別の道でそっちに行こうかな?…んぅっ…」

 

「ああ、それがいい」

 

 ジャンさんとエレナさんの話が纏まりそうだ。

 だがそちらよりも、腰を前後させる度にひくつく彼女の尻穴に私の注意は注がれていた。

 ……欲求を抑えられず、私は親指をエレナさんの後ろの穴へと押し挿れた。

 

「んぉおっあっあぁあああああっ!!?」

 

 これまでとは別種の刺激に、今までどうにか抑えてきた声が、堰を切ったように彼女の口から漏れ出した。

 その声と同期するように彼女の下半身、そして彼女の膣がびくびくと波打つように震えた。

 今ので絶頂してしまったらしい。

 

「あああああああー!?」

 

 しかし彼女の同時に、それをかき消すような大声が、ジャンさんから上がった。

 

「思い出したぞ!

 そっち側からこっちに来るのってかなり大回りしなくちゃだろ!?」

 

「…お、おおっおっ…そ、そーだったっけ?…んふぅぅっ…」

 

「そうなんだよ。

 途中の道も迷路みたいになってるし」

 

 ジャンさんは自分の出した大声で、エレナさんのイキっぷりを見逃したようだ。

 ……本当だろうか。

 ここまで来ると、気づいてないふりをしてるだけとかじゃないかと疑ってしまう。

 

「どうする?

 まだ浅いとこだし、今回は出直すか?」

 

「…はっあぁああ…えー、いいよ、今度は、ちゃんとイクって…ああぁ…」

 

 ついさっき絶頂を迎えたばかりだというのに、エレナさんはまた腰を振り始めた。

 どうやら、またイキたいらしい。

 

 その心意気に答えなければ男じゃない。

 私もまた、ピストン運動を再開する。

 

「でもなぁ、<盗賊>無しじゃ、ここまで来れるにしたって相当時間かかっちまうぞ」

 

「…あっあっあっ…だ、大丈夫だよー…んん、んっんんっ…すぐイクよー…んぉおっ…」

 

 すぐイケる位に彼女は昂っているようだ。

 今度は私も一緒に絶頂できるよう、動きを速めていく。

 

「本当かぁ?」

 

「…んんっんんんっ…うん、今すぐイクよ…あっあっあああっ…イ、イクからね…あぅうっ…」

 

 絶頂が近いようだ。

 ラストスパートをかけて、強く強く彼女へ腰をぶつけていく。

 

「…おっおっおおっ…イ、イクっ!…あっああっあっあっ!…イっちゃうっ!」

 

「そう何度も強調しなくったって聞こえてるって!」

 

「イクぅっ!…んぁあああっ!…あっああぁあっ!…イクぅぅううううっ!!!」

 

 エレナさんと私は同時に絶頂した。

 愚息からはどぴゅどぴゅと精液が迸り、彼女の膣はそれを一滴残らず搾り取っていく。

 気づけば、足元にエレナさん垂れ流した愛液で小さな水たまりができていた。

 

「わかったわかった、そこまで言うならここで待ってるよ。

 ただ、あんまし遅くなるようなら脱出するからな」

 

「…あ、ぁぁあああ……う、うん、お願い……はぁああ……」

 

 イッた後なので、エレナさんの返答がどうにも覚束ない。

 しかしジャンさん、それを気にも留めず。

 

「お前も無理すんなよ。厳しそうならさっさと冒険証使うんだぞ」

 

「…んんっ……そう、するよ……あぁああんっ…」

 

 そんな会話の後、ジャンさんの気配が遠ざかっていく。

 ……凄いな、ジャンさんは。

 ちょっと彼に対しての認識を改めなければならない。

 

「よっ、と…」

 

 私はエレナさんを引っ張り、穴から出した。

 蕩けきった彼女の顔を対面する。

 

「どうですか、気分は?」

 

「……ん、んんっ……んふふ、さいっこー♪」

 

 にっこりと笑顔を浮かべる。

 十二分に楽しんだ模様。

 

「……酷い人だ貴女は。

 自分を想ってくれている男性の前でそんな痴態を晒すなんて」

 

「えー、晒させたのはクロダ君でしょー」

 

「反省もしないのですか。

 これはお仕置きの必要がありますね」

 

「んふふふ、どんなお仕置きー?」

 

 からかうように私を見つめる。

 或いは、期待しているのか。

 ……いいだろう、しっかりお仕置きしてやろうではないか。

 

 私は彼女の頭を掴み、口の中へとイチモツを突き立てた。

 

「ごぼっ!?」

 

 エレナさんの口内に私の男根が収まりきるはずがなく、イチモツの先は彼女の喉奥にまで届く。

 

「んがっ…んぐっ…んおっ…」

 

 苦悶の表情を浮かべるエレナさんだが、それを気にせず私は彼女の頭を前後に動かしイマラチオさせた。

 

「んぐぅっ!…んおおっ!…待っんんっ!…うごぉっ!」

 

 本気で苦しいのだろう、手で私を押しのけようとしてくるが、エレナさんの力では私に抵抗できない。

 私はさらに激しく彼女を動かす。

 

「ごぼぉっ!…んぐぐっ!…ごほっ!…おぼっ!」

 

 膣への挿入とはまた違った快感のおかげで、すぐに気分が高まってきた。

 この調子なら、射精まで時間はかからないだろう。

 

「おごぉっ!…んんんっ!…かはっ!…おおっ!」

 

 そろそろ出すか。

 まだ物足りない気もするが、これ以上やって昨日のローラさんみたいなことになるとまずい。

 

「ほら、イきますよエレナさん!

 たっぷり飲んで下さいね!」

 

 私はエレナさんの喉奥で射精した。

 口を介さず、食道へ直接精液を注ぎ込む。

 

「んぐぅうううううっ!?」

 

 たっぷりと射精してから、彼女の口から愚息を抜く。

 

「げほっげほっ…おぇええ…ごほっごほっ」

 

 エレナさんはせき込むと同時に、私の精液を吐き出す。

 逆流してしまったのか、彼女の鼻からも精液が垂れていた。

 

「がはっごほっげほっ……はーっ……はーっ……はーっ…」

 

 ひとしきりむせた後、肩で息をしだすエレナさん。

 へたり込んでしまって、動こうとしない。

 相当きつかったようだ。

 

「お仕置きも終わりましたし、少し休憩したら改めてジャンさん達のところへ向かいましょう」

 

 気を取り直して、この後の事を提案してみる。

 しかし――

 

「………クロダ、君」

 

 エレナさんは私をじろっと見て、こう告げてきた。

 

「……こんなお仕置きじゃ、足りないよぉ……もっと、してぇ?」

 

 私の下半身へ抱きつき、肉棒にむしゃぶりついてくる。

 ……ううむ、とは言ったものの。

 

「ジャンさん達をこれ以上待たせるのは流石に不味いのでは?」

 

「んんー、いつまでもボクが来なかったら、ジャン君達は先に外へ出てるよ。

 逆の立場ならボクもそうするし、今までも何度かそういうことあったから」

 

 立ち上がり、耳元を舐めるエレナさん。

 確かに、白色区域はすぐに脱出ができるので、仲間とはぐれた場合は一旦外に出てしまうのが定石の一つである。

 特にここのような浅い階層なら、再び来るのにもそう労力はかからないので、なおさらその傾向は強い。

 

「ま、予めそういう約束してるからね。

 だ・か・ら」

 

 エレナさんは私の耳に息を吹きかけながら、声をかけてきた。

 

「もっと、いっぱいしよ♪」

 

 残念ながら、その誘いを断れるほど強固な精神力を私は持っていなかったのである。

 

 

 第六話③へ続く



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③ ある魔族との再会?

 

 

 

 そんなこんなで陽葵さんの元へ戻るのが予定より大分遅くなってしまった。

 安全な場所とはいえ、長時間放置してしまうと色々心配になってしまう。

 何事もなければ良いのだが…

 

「――陽葵さん、ただ今戻りまし」

 

「遅い!!」

 

 私が挨拶を言い終わる前に、叱咤が飛んできた。

 それを聞いて、私は矢筒から矢を取り出し、すぐさま臨戦態勢に入る。

 ――何故か。

 声をかけてきたのが陽葵さんではなかったから、というのが一つ。

 もう一つは、その声の主が――

 

「……魔族」

 

 その単語が口から零れる。

 

 魔族。

 かつて魔王に付き従い、この世界を席捲した種族。

 他の種族と比較し強力な力を持ち、多くのスキルを操ることができる。

 容姿は人とそう変わらないが、特徴的なのはその肌の色だ。

 魔族は総じて青白い肌を持ち、これが彼らの最も有名な特徴とされる。

 魔王が倒されたことでほとんどの魔族は姿を消したとそうだが、逆に言えば少数は未だ残っているということでもある。

 

 例えば、目の前の女性のように。

 

 そう、女性。

 目の前に立つ魔族は女だった。

 和服にも似た不思議な衣装を着ている。

 

 そして肝心の陽葵さんは、彼女の足元に倒れていた。

 見たところ、外傷はないようだが…

 

「魔族がこんなところに居てはおかしいか?」

 

「……特におかしくは無い、ですかね」

 

 現在の魔族が具体的にどんな動きをしているのかは判明していない。

 ただ、魔王の復活を目的に行動している、というのが一般的な見解だ。

 そしてこの<次元迷宮>は最奥に魔王が封じられているともされる場所。

 魔族がここに居ても不思議はないし、実際に数は少ないものの目撃情報もあがっている。

 

 しかし今回問題なのは、そういった種族としての行動目的では無い。

 彼女が、何の目的で陽葵さんに近づいたのか、だ。

 私はダメで元々、魔族に質問を試みる。

 

「いったい、何をされていたのでしょう?」

 

「ふんっ……ここに転がっている少年を、悪辣な冒険者達の手から守ってやった――と言ってお前は信じるのか」

 

 こちらを小馬鹿にしたような声色で、そんな答えが返ってきた。

 それに対し私は、

 

「ああ、そうだったんですか、これは失礼しました」

 

 矢を筒に仕舞い、丁寧にお辞儀をする。

 親切をして頂いた人に、随分と無礼な対応をしてしまった。

 

「あ、あれー?」

 

「どうかしましたか?」

 

 魔族の女性が拍子抜けしたような顔をした。

 

「あの、いいの、信じて?」

 

「先程のお答えは嘘だったと?」

 

「いや、本当だけど」

 

「ならば問題ないではないですか」

 

 彼女の口調が大分砕けたものに変わる。

 こちらの方が素のように見受けるが、どうだろう。

 

「もう少し、人を疑うとかしないと」

 

「誰かを騙そうとする人は、そういう反応をしませんよ」

 

「それはそうかもしれないけどさ」

 

 それと、私は基本的に綺麗な女性の言うことは信じることにしている。

 初対面の人にこんなことを言うといきなり不審な目で見られるので、ここでは隠しておくけれども。

 

「ちなみに、その冒険者は陽葵さんにどんなことをしようとしていたのですか?」

 

「うん、詳しいことは分からないんだけど、ヒナタ……この子に、襲い掛かろうとしてて」

 

「むむ、それは問題行為ですね」

 

 正当な理由なく冒険者が冒険者を襲うのは、ギルドで厳しく禁止されている。

 特に白色区域はギルドがしっかり監視しているので、悪事等そうそう働けないはずなのだが。

 そういう危険性を度外視して動く輩もいる、ということだろう。

 目的は装備の強奪か、或いは陽葵さんに性的暴行を働こうとしていたか、それともその両方か。

 

「その冒険者達はどんな風貌でしたか?」

 

「えっと、一人は結構背が大きくて―――」

 

 そこで魔族の人、はたと何かに

 

「ふ、ふん、人間風情に何故私がそんなことを教えねばならない」

 

 ……今更取り繕われても反応に困るのだが。

 

「そうですか、では詳しい話は後で陽葵さんに聞いておきます」

 

「そうしといて……じゃなくて、そうするがよろしかろう」

 

 もう少し口調を統一する努力をしてくれまいか。

 

「陽葵さんが気を失っているのも、その冒険者達の仕業ですか」

 

「いや、少年は私が眠らせた。

 私の姿を見られるのは都合が悪いので――っと、ごめん今の無し」

 

 今の無しとか言われても……

 

「それは一体どういうこと――――ん!?」

 

 私はそこで彼女に対して既視感があることに思い至った。

 この女性の容貌、どこかで見たことがあるような。

 素に戻った時の口調も、聞き覚えが…?

 

「まさか、貴女は――」

 

「!! あー、しまったなぁ……まあどっちみちこんだけ話し込んでちゃバレちゃうよね。

 そう、『あたし』はさ――」

 

「リズィーさんさんじゃないですか!」

 

「え、そっち!?」

 

 魔族の女性は、またしても盛大に肩透かしを食らったような顔をする。

 

「おや、人違いでしたか?」

 

「いや、あってるんだけどね、あってるんだけど……覚えててくれたんだ」

 

「おお、やはりリズィーさんだったんですね。

 いやー、お久しぶりです。

 あの後、無事に帰れたようですね」

 

「う、うん、お陰様で」

 

 リズィーさんは私がウィンガストに来たばかりの時に<次元迷宮>で出会った魔族の女性だ。

 どうも彼女は迷宮に不慣れだったようで、魔物に囲まれて困っていたところを私が手助けした次第。

 その時は少々会話をしただけで別れてしまったのだが、まさかこんなところで再開するとは。

 

「……確かに肌の色とか背格好は多少変わってるし、変装もしてるわけだけど、基本的なとこは同じはずなのに……

 何でリズィーのことは覚えててあたしのことは分からないのよ、こいつ……」

 

 リズィーさんが何やら小声でぶつぶつ呟いている。

 何のことだろうか?

 

 今のうちに、リズィさんの容姿説明をしてしまおう。

 背は大体160cm程で、一見すると怜悧な印象を抱かせてしまう美貌の持ち主。

 しかし今の会話で分かるように、実際にはなかなか愛嬌があり、顔も可愛らしく整っている。

 髪はうなじが隠れる程度の長さで伸びた銀髪で、光を浴びてキラキラと輝く様は人には持ちえない美しさだ。

 青白い肌にもよく似合っている。

 

 服は先程も触れたが、和服を改造したような独特のもの。

 基本的には露出の少ない装いながら、太ももや脇などがチラチラと見える構造だ。

 その手のマニアには堪らない代物だろう。

 この衣装を開発した人に心から称賛を送りたい。

 

 そんな服からは、引き締まりながらも程よく肉が付き、ハリも柔らかさも良さそうな彼女の肢体を垣間見ることができる。、

 全貌はまだ把握できていないが、エロい身体をしていることはまず間違いない。

 

「あ、ところでリズィーさん、前にした約束の事覚えていますか?」

 

「約束? 何かしたっけ?」

 

 ついさっき思い出したことなのだが、前にあった時に私はリズィーさんと約束事をしていたのだ。

 

「ええ、お手伝いのお礼にリズィーさんの処女を頂くという」

 

「そんな約束した覚え一片も!」

 

「無いですか?」

 

「――あった、気がする」

 

 愕然とした表情でリズィーさん。

 コロコロと表情の変わる人である。

 

「……で、でも、あれって冗談半分とか言ってなかったっけ?」

 

 確かに、その場ではそんなことを言って流した気がする。

 私は真剣な顔をしてリズィーさんに告げた。

 

「リズィーさん……冗談半分ということは、本気も半分含まれているということですよ?」

 

「真顔で変なこと言わないでよ!」

 

 大声で私に怒鳴りつけてから、がっくりと肩を落とすリズィーさん。

 

「ううう、綺麗な思い出が壊れていく……」

 

「それは申し訳ありません」

 

 どうも私との出会い、彼女の中ではかなり美化されていたようだ。

 

「……で、駄目ですかね?」

 

「ま、まだその話を続けるわけね」

 

 この機会を逃したら次にいつ会えるのか、そもそも会うことがあるのかどうかすら分からない。

 しつこいと思われても、僅かな可能性があるなら挑戦していきたい。

 

「だ、ダメっていうかね、あたし、もう処女じゃないし…」

 

「なんと!?」

 

 その可能性は考えていなかった!

 まあしかし、こんな綺麗な女性なら仕方がないか…

 

「や、でもあげた相手は――なわけだし、約束は果たしたと言えるんじゃないかなとも……」

 

 リズィーさんは小さい声で独り言をまた呟く。

 私は気を取り直し、

 

「無いものは仕方ありません。

 では、リズィーさんを抱かせて下さい」

 

「何が、『では』なの!?」

 

 再び声を荒げるリズィーさん。

 これは……どうも厳しいそうだ。

 

「そ、そもそもあたしをどうこうしなくったって、あんたの側にはそういうのを受け入れてくれる女性がいるでしょう!?」

 

「まるで私の身辺を知っているような口振りですが」

 

「知らないけどね!?

 あたしは全然知らないけど、あんたにはそういう女性に心当たりがあるんじゃないの?」

 

「……そうですね」

 

 私の頭に浮かんだのはローラさん。

 彼女とその身体にはいつも世話になっている。

 

「うん、あたしよりもその女性に色々と頼んだ方がいいと思うわけよ。

 ちゃんとお願いすれば、彼女も断らないだろうし」

 

「なるほど。

 ……実は今夜、その人の所へ行く予定だったのですよ」

 

「きょ、今日来るの!?」

 

 彼女が驚いた声を出す。

 私の言葉に何か思うところでもあったのだろうか。

 そういえば心なしか、顔が赤く染まっているような気がする。

 

「リズィーさんに何か不都合でも?」

 

「別に何もない、何もないよ!

 ……あ、今日行くのはいいんだけど、あんまり乱暴にしちゃダメだからね!

 酷いことしなければ、彼女も喜ぶんだから!」

 

「大丈夫です、今夜は元より優しく抱くつもりでしたから」

 

 今朝、ローラさんから昨日の罰として命じられたので。

 こういう決まり事はしっかり守らないと気が済まない。

 

「ふ、ふーん、今日は優しくしてくれるんだ……」

 

 リズィーさん、何故か嬉しそうだ。

 私とローラさんの関係に、彼女は何か関連があるのか?

 

「そ、それじゃあ、あたしはそろそろ帰るから」

 

「え? ああ、はい。

 今回はどうもありがとうございました」

 

 言うが早いか、リズィーさんの身体が光に包まれていく。

 空間転移を行うスキルを使用したのだろう。

 

「困った時はお互い様、でしょ。

 そんな気にしないで」

 

 どこかで聞いたような台詞を吐くリズィーさん。

 

「そう言って頂けると助かります」

 

「うん、じゃあ、またね」

 

 そんな言葉を最後に、彼女の姿は消え去った。

 ……また、会えるのだろうか?

 リズィーさんのように綺麗な女性にならば、何度でも会いたいものだが。

 

 そんなことを考えながら、私は陽葵さんを抱き起す。

 今日はもう迷宮探索は無理だろう。

 ギルドに報告するためにも、襲ってきた冒険者について聞く必要もある。

 やや早い時間ながら、私は冒険証を使用し、<次元迷宮>を脱出した。

 

 

 

 その後。

 リズィーさんはかなり強力な眠りを陽葵さんにかけたようで、彼の目覚めは次の日を待つ必要があった。

 ギルド直営の治療院での診断なので、間違いないだろう。

 陽葵さんの身柄はその治療院に預け、私は帰路につくことにした。

 

 そして、

 

「こんばんは、ローラさん」

 

「いらっしゃい、クロダさん」

 

 私はローラさんのお店に訪れていた。

 今夜のローラさん、いつもと同じような装いながらいつもより煌びやかに見える。

 化粧やアクセサリーに気合が入っているというか。

 かといって、派手という印象を与えない辺り、ローラさんのセンスが光っている。

 

「……あの、クロダさん?」

 

「はい、何でしょうか」

 

 おずおずといった感じでローラさんが話しかけてきた。

 

「今日だけでもいいので……『ただいま』って言って貰えませんか?」

 

「……は?」

 

 彼女の言うことが一瞬理解できなかった。

 

「……ダメ、ですかね?」

 

「い、いえ、大丈夫です。

 それ位お安い御用で」

 

 この心に湧いてくるザワメキは何だろうか。

 そんな場面でも無いというのに、妙に緊張してしまう。

 

「……ただいま、ローラさん」

 

「うふふ、おかえりなさい、クロダさん」

 

 ローラさんは、今まで見たことが無い程の満面の笑みを浮かべた。

 今は亡き彼女の旦那さんは、毎日この笑顔を見ていたのだろうか。

 少し……ほんの少しだが、嫉妬してしまった。

 

 この後のことは、多く語るまい。

 普通に食事をして、普通に風呂に入り、普通に抱き合った。

 特筆するべきことは無かったのだが、今までにない満足感を得られた気がする。

 こういうのも、偶にはいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 後日談、という程でも無い、次の日の小話。

 目を覚ました陽葵さんを送りがてらリアさんの家に行ったら、リアさんにドロップキックを食らった。

 理不尽だ。

 

 

 第六話 完



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第七話 ある社畜冒険者の新人教育 四日目
① ギルド長へ報告を


 

 

 

 今日、私と陽葵さんはまた冒険者ギルド長の部屋を訪れていた。

 先日起きた、冒険者が陽葵さんを襲った件についての事情聴取のためである。

 とはいえ、専ら話を聞かれるのは陽葵さんで、私はその付き添いという形だが。

 

「うむ、事態は大よそ把握できた。

 ご足労じゃったのぅ」

 

 そんなジェラルドさんの――ギルド長の言葉で、事情聴取は終了した。

 

「しかし未だに白色区域なんぞで悪事働こうとする馬鹿がおるとはの。

 災難じゃったな、ムロサカ君」

 

「まったくだぜ。

 どっかの誰かさんは安全だからとか言ってどっか行っちまうし」

 

「申し訳ありません」

 

 ジト目で私を睨む陽葵さん(こんな顔もまた可愛いなこの人)。

 この件については100%私の責任なので、謝罪以外の反応はできない。

 陽葵さんが目を覚めてからも、散々詰られた。

 

 ……もっとも、陽葵さん怒った理由のほとんどは、彼の絶頂姿をじっくり鑑賞したことについてだったのだが。

 いや、あれは実に良いものだった、また是非やろう。

 

「せっかく教育係に任命したのにのぉ。

 ちゃんと責任持ってもらんと困るぞ?」

 

「……返す言葉もありません」

 

 神妙な顔で首を垂れる。

 鑑賞についてはともかく、放置に関しては本当に反省している。

 ……実は女性と情事に耽っていたという事実がバレたら、反省しただけでは済まないだろう。

 

「しっかし襲ってきた連中も酷い奴らだったよ。

 話しかけたらいきなり有無を言わさず押し倒してくるんだからさ。

 いったい何をしようとしてたんだか」

 

「………」

 

「………」

 

 ギルド長と私が押し黙る。

 きっと、ナニをするつもりだったんだろう。

 ……前々から思っていたが陽葵さん、自分の美貌への自覚が少なすぎる。

 

「ま、まあムロサカ君も今回のことで冒険者が遭遇する危険の一旦を垣間見えたじゃろう。

 今後、一層気を引き締めて探索を行ってほしい」

 

「はいよー」

 

 軽く返事をする陽葵さん。

 おそらくは自分の貞操の危機だったというのに気楽なものである。

 本人がそれに気づいていないだけだとは思うが。

 

 繰り返すがこの件は私が引き起こしたようなものなので、彼の危機感の薄さについて批難する気は毛頭ない。

 

「でも良かったよ。

 ちょうど親切な冒険者が来てくれてさ」

 

 陽葵さんにはリズィーさんのことは伝えていない。

 偶々通りすがった冒険者が助けてくれた、とだけ説明した。

 あの時の口振り的に彼女もそれをして欲しく無さそうだったし、魔族のあれこれについて今説明して良いものかどうか判断できなかったからだ。

 

「お礼を言いたいんだけどなー。

 黒田も見てないんだっけ?」

 

「ええ、私が戻った時、ちょうどその冒険者が立ち去るところでしたからね」

 

 そういう風に説明している。

 いっそすべて洗いざらい話してしまってもいい気がするのだが……どうにも決心がつかない。

 自分の決断力のなさが恨めしい。

 

「ムロサカ君を助けた冒険者についても、調査はしておる。

 分かったら連絡をしよう」

 

「うん、ありがと」

 

「お手数をおかけします」

 

 陽葵さんがギルド長へ微笑みかけた(超可愛い)。

 彼の笑顔は人を幸せにするね。

 

「クロダ君もしっかり感謝するんじゃぞ」

 

「ホントにな」

 

「ははは、勿論ですよ」

 

 ギルド長と陽葵さん二人から睨まれ、乾いた笑いをあげる私。

 

 ……勿論のこと、ギルド長には今回の件をしっかりと報告してある。

 なのでこのやり取りは茶番劇だったりする。

 決して陽葵さんを軽んじているわけではないので、大目に見て頂きたい。

 

「では、もう下がって良いぞ。

 進展があったら都度連絡を入れよう」

 

「おう、そうしてくれ」

 

「よろしくお願いします」

 

 私達は一礼をし、部屋から出ようとする。

 

「ああ、クロダ君は少し残ってくれんかのぅ」

 

「これから陽葵さんへの指導を予定していたのですが……陽葵さん、如何でしょう?」

 

「別にいいんじゃね、少しくらい。

 こっちは急いでるわけでも無いんだからさ」

 

「ありがとうございます。

 では、ギルドのホールで待っていて下さい」

 

「ん、了解」

 

 そう言うと、陽葵さんは部屋から出て行った。

 これでギルド長と私、二人きりになったわけだが……

 

「……何故呼び止めたのか、分かるかの?」

 

「魔族に遭遇した件についてですか」

 

「その通りじゃ。

 ……あのな、クロダ君、目立つ行動はするなとこの前言ったばかりじゃなかったかのぅ?」

 

「そうは言われましても。

 今度のことは本当に不可抗力ですよ」

 

 あの場合、どのように行動しろと言うのか。

 

「出会ってしまったものは仕方ないにしても、じゃ。

 馬鹿正直にそのことを報告書へ書かんでもいいじゃろうに」

 

「いえ、報告書は正確に書きませんと」

 

 虚偽の記録は後々大事になりかねない。

 

「臨機応変という言葉を知らんのか? 嘘も方便、でもいいがな。

 儂が一番に確認したからいいものを……

 魔族と出会って談笑してから別れました、なんて報告、大問題に発展しかねん」

 

 臨機応変……情けないことに私の最も苦手とする言葉である。

 マニュアル通りの対処だったら得意なんだが。

 

「ウィンガストの法やギルドのルールには魔族に対する特別な対応など特に無かったはずですが」

 

「それはそれ、これはこれじゃよ」

 

 そこでギルド長は大きくため息をついた。

 

「魔王が倒れたのは7年前――たったの7年前じゃ。

 未だ魔族に恨みや恐怖を持つ者は多くおる。

 そんな中で、『魔族と会って話をした』などと知れ渡ったら、あらぬ疑いもかけられるぞ」

 

 ……そんなものなのか。

 どうも、私と町の人とで魔族に対する認識に隔たりがあったようだ。

 私の中で、魔族の印象は最初に出会ったリズィーさんが基準になっていることが原因かもしれない。

 

「承知しました。

 以後、気を付けます」

 

「うむ、すまん。

 ……勘違いして欲しくないのじゃが、誰に対しても偏見無く対応するお主の態度自体は、素晴らしいものだと思っとる。

 これからもその姿勢を大事にして欲しい」

 

「ありがとうございます」

 

 珍しく褒められたようだ。

 ……何だろう、こう、いきなり持ち上げられるとなんだか落ち着かない気分になる。

 

「ところで少し質問なんじゃが、今回出会ったリズィーというこの魔族、お主の知己らしいな?」

 

「知己という程でも無いのですが。

 まだ冒険者になりたての頃、次元迷宮で出会いまして」

 

 この辺りはその時の報告書にも書いたはずだ。

 

「うむうむ、何でもその魔族が魔物に取り囲まれているところへ出くわして、魔族を助けたとか」

 

「……それを報告した覚えはありませんね」

 

「儂の情報網を甘く見られては困るのぅ。

 これでもギルド長じゃよ?」

 

「…………そうですか」

 

 あの場所は『ギルドの管轄外』だったはずだが。

 ジェラルドさん、今日はかなり踏み込んで話をしてくる。

 

「そうなると気になってしまうことがあっての。

 お主はまだウィンガストに来たばかりだったというのに、魔族を助けられるほどの実力があった、と」

 

 …………。

 

「……運が良かっただけですよ」

 

「ちなみに魔族はどれほど下級の者でも一般的な兵士5人程度の戦力は持っとる」

 

 わざわざ解説までしてくれる。

 一応その辺りは私も知ってはいるのだが…

 

「…偶々、例外的に凄く弱い魔族だった、というのはどうでしょう」

 

「まさかそれで儂を納得させられるとは思っとらんよな?」

 

「……はい」

 

 誤魔化されてはくれないようだ。

 これは困った。

 

「――結局、何をお聞きしたいのですか?」

 

 追い詰められた私は、逆に質問をしてみる。

 勝算があるわけでもない、苦し紛れの行動だ。

 

「そろそろ、お主が何者なのか教えてくれてもええんじゃないか、ということじゃよ」

 

 ……なるほど。

 逆に言えば、まだギルド長は私が何者なのか掴めていない――と考えても良いのか?

 

「私のことでしたら、アンナさんに尋ねてみれば良いではないですか」

 

「あの女、自分が言いたくないことはのらりくらり上手くかわしよるからのぅ」

 

 全くもって同感である。

 彼女から情報を聞き出すのは至難を極めるだろう。

 

「私の方が与しやすいと?」

 

「そういうことじゃ。

 ……で、教えてくれるのか?」

 

 ――どうしたものか。

 ここですべてを話し、ギルド長に協力を仰ぐ、という判断は確かにある。

 

 だが、それでもし彼が私の敵側であったらどうする?

 今はそうでないにしても、人の立ち位置など状況次第でいくらでも変わるものだ。

 話すべきか、否か。

 

「………」

 

「………」

 

 互いに沈黙が続く。

 胸中に様々な考えが沸き上がり、どうにも答えが出せなくなっていた。

 いったい、どれが正解なのか。

 

 ――そんな私の迷いを否定と受け取ったのか、ギルド長が先に口を開いた。

 

「……分かった。

 無理強いはせん、今はまだな」

 

「……感謝します」

 

 何の解も出せないまま、この案件は終わったようだ。

 ただの保留に過ぎないが、とりあえずはこれで良しとしておくべきか。

 ……後々になって後悔の種にならないことを祈るばかりだ。

 

「ただ、せめて儂の邪魔はしないで欲しいのぅ」

 

 付け加えるように、ギルド長が告げる。

 

「……それは、確約いたしかねます」

 

「ほう、と言うと?」

 

 ギルド長の目つきが鋭くなる。

 私の返事に何か勘ぐっているのだろうが、それは誤解である。

 何故そんな返事をしたのかと言えば、答えは単純。

 

「ギルド長が何を目的に動いているのか、私は知りませんので」

 

 真っ正直に話してみた。

 

「――ってお主、儂がどういう立場なのかも知らずにおったんかい!?」

 

「教えられませんでしたから」

 

 誰も教えてくれなかったのだから仕方ない。

 ……子供の言い訳みたいだと自分でも思う。

 

「教えられなかったっておい、自分で調べるとかはせんかったのか」

 

「はい……まあ、必要になれば教えてくれるのではないか、と考えまして」

 

 というか、ギルド長がどういう立場なのか、等という情報を一介の低ランク冒険者である私にどう調べろと?

 それこそアンナさんに聞く位しか私に手は無く、しかし彼女がそう簡単に情報を漏らすわけがない。

 ギルド長、私の評価を高く見積もり過ぎていないだろうか。

 

「……なんつー他人任せな。

 本当に探究心が無いというかなんというか。

 冒険者には向かん気質をしとるのぅ」

 

 深ーく、ため息を吐いた。

 何を今更という話ではある。

 私が冒険者向きの性質ではないこと位、とっくに承知していると思ったが。

 

 ――胸を張って言えることではないけれども。

 

「まあいい、それなら仕方ない」

 

「教えてくれるのですか?」

 

「教えるかい!!」

 

 教えてくれないのか…

 

「ではどう判断せよと」

 

「……とことん他人任せじゃのぅ、お主は。

 そうじゃなぁ、儂がどういう立場なのかは教えられんが、目下の目的は明かしてやろう」

 

 おお、そんなことを話して貰えるのか。

 

「と言いますと?」

 

「儂の目的はな……ヒナタ様の身柄をお守りすることじゃよ」

 

 ……ヒナタ様、と来たか。

 随分とサービス精神旺盛なことだ。

 今の言葉で、ギルド長の立場が大凡把握できた。

 

「……それならば、私はギルド長の邪魔にはなりませんよ。

 陽葵さんを守ることは、私の目的に沿いますから」

 

 彼の言葉が真実だとするなら、そうなるはずだ。

 勿論、嘘をつかれている可能性もあるので、安心はできないが。

 

「ふむ………それは勇者の考えと捉えても良いのか?」

 

「………」

 

 ………。

 随分と核心をついた質問を飛ばしてくれる。

 すぐに返事ができず、押し黙ってしまう。

 

「……私は勇者では無いので何とも言えませんね」

 

 何とか声を絞り出せた。

 

「………」

 

「………」

 

 再び、沈黙。

 ギルド長は今の私の返答をどう解釈したのか。

 

「……そうか。あいわかった。

 呼び止めてすまんかったの。

 もう行って良いぞ」

 

「……そうですか」

 

 明確な解は得られないまま、話し合いは終わった。

 まあ、私の方こそそもそもギルド長に何も具体的な情報を話していないのだから、不満は持つべきで無いだろう。

 

「近いうちに、しっかり説明をしてほしいのぅ」

 

「……善処します」

 

 立ち去ろうとする私に、言葉を投げかけてくる。

 確かに、いい加減自分の態度をはっきりさせるべきだろう。

 

「……余り時間は無いぞ」

 

「ご忠告痛み入ります」

 

 覚悟を決めねばなるまい。

 ただの冒険者でいられる時間は、そろそろ終わろうとしている。

 

 

 

 そんなやりとりをしたのが半日前。

 陽葵さんへの教育を終えた私は一路、黒の焔亭に向けて歩いていた。

 つい先日ようやく店長が退院し、今日は久しぶりにお店が営業しているのだ。

 常連としてお祝いをしにいくのが筋というものだろう。

 実は何度も店長のお見舞いに行っていたので、店長と顔を合わせること自体は久しぶりという程では無かったりするが。

 

 ちなみに陽葵さんはお留守番。

 迷宮の探索とかその他諸々に疲れ果ててしまったのか、家に帰るとすぐ寝てしまった。

 何事もヤリ過ぎは良くないという話。

 ……別に変なことはしてないですよ?

 リアさんも今日はウェイトレスとして黒の焔亭で働いているため、家には陽葵さん一人きりなのだが、一応夜食は作っておいたので大丈夫なはず。

 

 そんな風に夜道を歩いていると、

 

 「キャァァアアアアアアッ!!」

 

 路地裏から女性の悲鳴が聞こえてきた。

 ……何故だろう、確認は一切できていないのだけれど、エレナさんのような気がしてしまった。

 2度あることは3度あると言うし。

 

 そんな思いとは裏腹に、悲鳴が聞こえた方へと急行する。

 いや、エレナさんであろうとなかろうと悲鳴は緊急の証。

 急ぐのは当たり前である。

 

 裏路地を駆け抜けた先にあった光景は――

 

「ちょっと止めてよ! キミ達、何するつもりさ!!」

 

「何って、ナニするんだよぉ」

 

「静かにしていろ、痛い目には会いたくないだろう?」

 

 二人の男に囲われる、黒いセミロングの髪を後ろで束ねた美少女――エレナさんの姿であった。

 格好からして、男達も冒険者であろうか。

 

 ほら、やっぱりエレナさんだった――などと悠長なことを言ってる場合ではない。

 いつもとは違う、彼女の嫌がる表情を見れば、ここが犯罪現場なのは一目瞭然!

 早急な対応が求められる場面である。

 

「へっへっへぇ、大体そんな格好しておいてやめても何もないもんだぜぇ。

 なんだぁ、このおっぱい強調しまくりなぴっちぴちの服はよぉ?」

 

「別にキミ達に見せたくて着てるわけじゃ…」

 

 エレナさんはいつもと同じような服装ではあるのだが、確かに今日のブラウスは胸の形が丸わかりな程に体へフィットしている。

 スカートも丈が短く、彼女の綺麗な太ももが露わになっていた。

 男にそういう目で見られたとしても文句は言えない気はする。

 だからってレイプは犯罪だけどね。

 

「反抗しなければそれ程時間はとらせん。まずは――」

 

「きっはぁあああ!! 聞いたかよ兄貴ぃ!?

 この女こんな服着といてあっしらに見せてたわけじゃねぇとかほざきやがるぜぇえ!?」

 

 一人の男の言葉に被せるように、もう一人の男が喋りだした。

 どうやらこの二人、兄弟……には見えないので、親分と子分的な間柄のチンピラなのだろう。

 とりあえず、静かな方を兄貴、煩い方を三下と呼称する。

 

「おいおい冗談はよし子さんだぜぇえ!?

 そんな格好して外歩いてりゃあおめぇ、どうぞ襲って下さいっつってるようなもんよぉ!!」

 

「……そうだな。だからまずは――」

 

「いっはぁああああ!!

 それとも何かぁ!?

 私の姿は彼氏だけに見せたいのってかぁ!?

 おぅおぅ妬けるね妬けるねぇ!!」

 

「そ、そうだな、だから手始めに――」

 

「かはぁああっ!!

 いいぜいいぜぇ!

 好きなだけその愛しの彼氏に助けを求めろよぉ!!

 どうせそいつはここに来れやしないがなぁ!?」

 

 おい三下、喋りすぎだろう。

 兄貴が全然話せてないじゃないか。

 

「あんまり好き勝手言わな――」

 

「ああ、しかし来たら来たで面白そうかぁ!?

 彼氏の前でおめぇをぐっちょぐっちょに犯しまくるのもまたオツなもんだぜぇ!!

 なあ、兄貴!!」

 

「あ、ああ。そうだ――」

 

「おおっとぉ!?

 ここでまさか彼氏が負けるわけないとか思っちゃってるかぁ!?

 ざ~んねんだったなぁ!!

 兄貴はBランクの冒険者だぁ!!

 そんじょそこらの男どもが相手できるお方ではねぇんだよぉ!!」

 

 どうやら兄貴はBランク冒険者らしい。

 自分の腕力を笠に着ての犯行か。

 相手に十分な戦力があると分かった以上、ここは慎重に――

 

「おめぇはEランク冒険者だろぉ!?

 彼氏のランクも知れたもんだぜぇ!!」

 

「う、うむ。だからな――」

 

「EがBに勝てるわきゃねぇだろ!?

 兄貴はなぁ、赤色区域にすら足を踏み入れた男よぉ!!

 その強さは――ぐはっ!!?」

 

 三下が兄貴にぶっ飛ばされた。

 

「ぶ、ぶぶぶぶぶぶぶった!?

 兄貴、あっしをぶちましたね!?

 しかもぐーで!!」

 

「いい加減にしろ!

 お前は五月蠅すぎる!」

 

 三下を叱咤する兄貴。

 さもありなん。

 横から聞いててもあいつは五月蠅い。

 というか、さっきから三下しか喋ってない。

 

「と、とにかく、だ。

 まずは服を脱いで貰おうか。

 抵抗はしない方がいいぞ。

 その身体に要らん傷をつけたくはなかろう?」

 

 三下の介入を危惧してか、やや早口で捲し立てるように、兄貴。

 むむむ、これはいかん。

 再び緊迫した事態になろうとしてきた。

 

「ぼ、ボクの身体はお前らなんかに――」

 

「ぼぼぼぼぼぼぼぼボクっ子だとぉ!!?」

 

 兄貴の努力空しく、三下、口を開く。

 30秒程度の閉口であった。

 

「ボクっ子て! ボクっ子て!

 兄貴こいつこんな歳して自分のことボクなんて呼んでますぜ!?」

 

「いや、別にそれ位は――」

 

「畜生! ボクなんて一人称使う言う奴ぁ、大抵自分のこと可愛いと思ってやがるんだ!

 可愛いからちょっと変わった一人称使っても問題ないでしょ、とか考えてるんだろうおめぇ!」

 

「え、そんなこと――」

 

「その通りだよこの野郎!!

 可愛いよ、おめぇ可愛いよ!!

 ちょっともう一回ボクって言ってくれます?」

 

「えっ、と、ぼ、ボク――?」

 

「んぁぁああああああ!!

 ボクっ子ぉおおおおお!!?」

 

 ボクっ子に何かトラウマでも抱えてるのかこの三下。

 

「あれはあっしがまだガキの頃だったぁ!!

 近所に自分のことボクって言う女の子がいたんだよぉ!!」

 

 あ、自分語り始めたぞ。

 

「まだまだ子供だったあっしらは、性別のことなんざ気にせずに一緒に遊んで!

 でも何時からだったか、あっしは彼女のことを女として見たいた――」

 

「な、なぁ、その話長くなりそうか?」

 

 兄貴の質問にも答えず、三下の語りは続く。

 

「しかし! しかぁしぃ!!

 彼女はあっしのことはあくまで仲の良い友達としか思ってくれていなかったぁ!

 いや、そもそも自分のことを女だとちゃんと認識していたのかすら分からず!

 あっしもガキゆえの気恥ずかしさで素直になれず、告白ができぬ日々が続いたあの頃!」

 

「……ねぇ、ボクもう帰っていいかな」

 

「いや、もう少し付き合って貰えないだろうか」

 

 だんだんと横にいる二人は冷めてきた様子。

 

「昼は広場や河原で遊び、夜は一緒のベッドで寝ることもあって――自分の想いこそ告げられないものの、こんな生活が続くならそれはそれで幸せなんだと思っていた。

 それがただの逃げなんだとガキのあっしは気づかず、漫然と過ごし、幾度もの告白の機会を逃し続け――!」

 

 私はどうすればいいのだろう。

 出る機会を完全に逸してしまった。

 というより、もうこの事態に私は必要ないのでは?

 

「そんなある日!

 思いもしなかった別れが二人を襲った!

 ……いや嘘だ、思いもしなかったわけじゃない、いずれ別れが来るだろうことは薄々と感づいていた!

 前々から不仲だった彼女の両親が離婚し、彼女は母親に引き取られ、母の実家のある町へと引っ越していったのだ……」

 

 それにしてもいつまで続くんだこれ。

 

「あっしは自分を責めた!

 意気地なしと、根性無しと自分を責め続けた!

 悔しさで眠れぬ日すらあった!

 そして、もしもう一度彼女に会える日が来たなら自分の気持ちを必ず伝えようと心に誓ったのだ!」

 

「へぇ」

 

「ほう」

 

 気のない返事を返す二人。

 気持ちはよくわかる。

 

「それから幾年が過ぎ去り、あっしも大人になり、生まれ育った町を出た。

 そして何の運命の悪戯か、彼女と再会する機会が訪れたのだ!

 だが! だがぁ!! もうその時彼女はぁ!!!」

 

 盛り上がり敵にそろそろ話の終わりが近そうか?

 

「――彼女はもう、ボクっ子では無くなっていた」

 

「「そういうオチかよ」」

 

 二人が同時に同じ感想を述べた。

 私も同感である。

 

「自分のことを『私』と呼ぶ彼女を見て、あっしは自分の気持ちが急速に冷めていくのを感じた……

 ああ、あっしは彼女のことが好きだったんじゃない、ボクっ子が好きなだけだったんだと、その時初めて気が付いた」

 

「なんていうか、サイテーだね、キミ」

 

「男としてどうかと思う」

 

 真っ当な感想だと思うが兄貴さん、貴方がしようとしていたことは男としては勿論、人としてもかなり最低ですからね?

 

「しかぁし!!

 今日この日、新たなボクっ子、しかも可愛い美少女なボクっ子に出会えたわけだぁ!!

 ひゃっはぁあああ!! こんな嬉しいことは無いぜぇ!?

 さぁ兄貴、こいつをあっしらの肉棒でヒィヒィ言わしちまいましょうぜぇ!

 今日があっしのボクっ子記念日だぁ!!」

 

「……いや、もういいよ」

 

「―――へ?」

 

 思わぬ兄貴の言葉に、素っ頓狂な声をあげる三下。

 

「ど、どうしちまったんですか兄貴!

 こいつのちっこいのにエロエロなボデーを散々味わってやろうって盛り上がったじゃないですかぁ!!

 あの時のリビドーをどうして無くしちまったんですかぁあ!!?」

 

「「「お前が五月蠅いからだよ」」」

 

 3人の言葉が一つになった。

 

 

 

 第七話②へ続く



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② レイプ犯(未遂)と危うく仲良くなりかけて

 

 ……いかん、耐えきれず、つい私も突っ込んでしまった。

 

「あ、クロダ君!」

 

「どうもこんばんは、エレナさん」

 

 案の定、すぐ発見される私。

 今更な気もするが、とりあえず彼らに近寄る。

 

「すみません、かなり前に到着はしていたんですが、どこで出ればいいか分からなくて…」

 

「謝らなくていいよ、気持ちはなんとなく分かるから」

 

 ともすれば怯えて出てこれなかったと思われても仕方ない態度であったが、幸いにもエレナさんは理解を示してくれた。

 

「あ、兄貴! 出ましたぜ、きっとこいつがこの女の彼氏に違いありゃあせん!

 さささ、兄貴自慢の刀でズバッとやって力の差ってもんを――ぐはぁっ!?」

 

 兄貴が三下を再び殴り飛ばした。

 

「ぶったぁ!! またぐーでぶったぁ!!」

 

「やかましい!!

 ……お前がこの女の恋人なのか?」

 

「いえ、私は――」

 

「うん、この人がボクの彼氏だよ」

 

 兄貴の質問に私が答えようとする前に、エレナさんが返答する。

 彼女は腕を私に絡ませ、身体も密着させてきた。

 おっぱいの感触が心地よい。

 

「あの、エレナさん?」

 

「――これ以上事態をややこしくさせないでよ」

 

 小声でエレナさんとやり取りする。

 まあ確かに、ただでさえよく分からない状況を無駄に混乱させる必要は無いか。

 

「そうか……夜は物騒だからな。

 しっかり送り届けてやりな」

 

「――分かりました」

 

 正しく貴方が物騒な人そのものであることは指摘しないでおく。

 話はまとまったのだから、拗れさせても利益は無い。

 

「では、失礼します」

 

「じゃあねー」

 

 襲ってきた相手にする必要があるかは分からないが、一応別れの挨拶をして、その場を後にする――と。

 

「ちょっと待て」

 

 兄貴が待ったをかけてきた。

 

「――クロダ、と言ったな。

 ひょっとしてお前、クロダ・セイイチか?」

 

「はい、そうですけれども」

 

 何も考えず、馬鹿正直に答えを返す私。

 もう少し考えて行動をすべきだったと思う。

 

「そうか……はは、お前がクロダ・セイイチか!」

 

 楽しそうに表情を歪める兄貴。

 笑顔とは、本来攻撃的な表情である――嫌な言葉を思い浮かべてしまった。

 

「聞いているぞ、Eランクにも関わらず、豪く腕の立つ男だとな」

 

「…えー、恐縮です。

 それでは、急ぐ用事もありますので私達はこれで」

 

 悪い予感がビンビンにするので、足早に立ち去ろうとするのだが――身を翻したその先に、つまりは私達の後ろ側に、いつの間にやら兄貴の姿があった。

 移動系のスキルを使った、のか?

 

「待て、気が変わった。

 お前、少し俺と死合っていけ」

 

 仕合じゃなくて、死合なんですね。

 文字で書かれなくても分かってしまう程の殺気が、彼から伝わってくる。

 

「あー、いえ、付き合ってもいいのですが、何と申しますか、余り意味がないのではないかな、と」

 

「意味ならある。俺が楽しい」

 

 私は楽しくない。

 冷や汗が背中に垂れるのを感じながら、何とか兄貴を説得しようと試みる。

 

「いやー、私などと仕合いをするより、綺麗なお姉さんと一杯やった方がきっと楽しいですよ」

 

「馬鹿を言うな。

 この世の享楽は強者との殺し合いにこそある。

 女を抱くのはその合間の暇つぶしに過ぎんだろうが」

 

 説得失敗。

 やばい、三下がキャラ濃いなと思っていたら、兄貴も十分濃い人だった。

 強い人を見たら戦わずにはいられないとか、どこの戦闘モノ作品の登場人物だ。

 私は野菜に関連した宇宙人でも無ければ、柳生某でも無いというのに。

 

「ちなみに、断ったら?」

 

「その女を抱えて俺から逃げ切れると思うなら、そうすればいい」

 

「もし私が負けたら?」

 

「安心しろ、そうなっても女には手を出さん」

 

 ……そういう条件なら、戦ってもいいか。

 負けても私が死ぬだけで済むようであるし。

 

「……分かりました。

 今の言葉、決して違わぬよう」

 

「そうこなくてはな」

 

 兄貴の表情は、喜色満面といった様子。

 本当に嬉しそうである。

 

「ちょ、ちょっとクロダ君、何こんなところで戦おうとしてるの!?」

 

「そうはおっしゃいましても、一戦交えないと帰してくれそうにありませんよ」

 

「逃げるとか、無理?」

 

「先程の動きを見るに、かなり厳しそうです」

 

 或いは私一人なら逃げられるかもしれないが、エレナさんの無事が保証されない以上それに意味は無い。

 

「まあ、どちらにせよエレナさんは無事帰れますから、ご安心を」

 

「全然安心できないよ!

 クロダ君、勝てるんだよね?」

 

「……何とも言えませんね」

 

「そんな……」

 

 絶句するエレナさん。

 万に一つでも巻き込むことが無いよう、私は彼女から離れた。

 

 ――本当に兄貴がBランク冒険者だとして、装備から見て職業は<戦士>系で間違いないだろう。

 <魔法使い>が<戦士>に接近戦を挑むなど、正気の沙汰では無い。

 つまり私は、彼の接近を許す前に仕留める必要があるわけだ。

 おそらくは移動系のスキルを高い熟練度で習得しているであろう彼に、それが可能かどうか。

 

「さて、始めましょうか」

 

「……いいのか?

 最後の別れになるかもしれん会話だ、少しくらいなら待ってやってもいいんだぞ」

 

「あまり話過ぎても未練が増えますからね」

 

「なるほど、そういう考えもあるか」

 

 そう言いながら、兄貴は上段に武器を構える。

 長い刀身を持つ曲剣――日本刀に酷似した刃物だ。

 街灯の明かりに照らされた刃は、美しく光る。

 なかなかの業物と見た。

 

「おおっとぉ、兄貴が刀を抜いちまったぁ……

 けへへへへ、あんたもうダメだぜぇ、死んじまうぜぇ!!

 血の雨が降っちまうぜぇ!!?」

 

「「「五月蠅い黙れ」」」

 

「あ、はい」

 

 懲りずに喋り出す三下を3人が同時に黙らせる。

 意外にも素直に聞いてくれた。

 

「お前も構えろ、クロダ」

 

「……ええ」

 

 携帯していた矢筒より矢を取り出し、鏃を兄貴の方へ向ける。

 同時に少し腰を落とし、即座に移動できるような体勢へ。

 

「変わった構えだな。

 <射出>を用いた専用の戦闘スタイルということか」

 

「……まあ、そんなところです」

 

 私程<射出>スキルの熟練度を上げ、それをメインに戦闘をしている冒険者は他にいないのだから、珍しいのは間違いない。

 ただ、相手に私が使うスキルがバレているのは頂けない。

 私は相手の手口がまるで分からないというのに。

 

 ――まあ、不平不満を言っても何も解決しない。

 今は、相手の一挙一動に全神経を向けねば。

 

「―――いくぞ」

 

「―――!!」

 

 敢えて開始を教えてくれるとは、意外と親切なお方だ。

 兄貴の身体が一瞬ぶれた――ような気がした。

 次の瞬間、彼の姿が私の前から消えた。

 

 

  「―――――ぐぁっ!!?」

 

 

 ……勝負は一瞬だった。

 

 <射出>によって放たれた矢は兄貴の肩に命中し、そのまま彼を後方の壁にまで吹き飛ばす。

 そして、矢は彼の身体を貫通し、壁に縫いとめた。

 

「な、んだ、この威力…!?」

 

 兄貴は刺さった矢を抜こうともがくが、上手くいかないようだ。

 矢の半分近くが石壁に埋まっているのだから、そう簡単なことでは無いだろう。

 そういう風になるように放ったのだから。

 

「勝負有りということでよろしいでしょうか?」

 

「ぬ、う……」

 

 矢筒から新たな矢を抜き出し、兄貴に突きつける。

 もしまだ勝負がついていない等と言われたら、これを彼に撃ち込むつもりだ。

 

「……二つ、確認したいことがある」

 

「何でしょう?」

 

「お前、俺の動きが見えていたのか?」

 

「まあ、目はいい方なので」

 

 これは別にはったりではなく、本当のことだ。

 彼の動きは確かに早く、それに体を反応させるのはかなり難しい。

 しかし、ただ彼の動きを目で追うだけならば、そこまで困難な作業ではなかった。

 <感覚強化>で視覚を強化していたのも大きな勝因だ。

 おそらく高い熟練度によってスキルの準備時間を最短にしていたのだろうが、それでもよく観察すれば発動の前兆を見て取ることができた。

 それと、彼が始まりを態々してくれたのも有り難かった。

 

「もう一つ、これは本当に<射出>なのか?

 石壁を貫く程の勢いで矢を撃ち出す<射出>なんぞ、聞いたこともないぞ」

 

「<射出>を使う人自体、ほとんどいないですからね。

 熟練度を上げていけば、これ位にはなるということですよ」

 

 これも嘘偽りない事実である。

 尤も、ここまでにするには相当の熟練度が必要になるのだが。

 

「そうか……ありがとう、納得できた。

 俺の負けだ、手間をかけさせてすまなかったな」

 

 負けを認めてくれたようだ。

 潔い人で助かった。

 

「……う、嘘だ、兄貴の<神速(オーバークロック)>が負けるなんて」

 

 少し離れたところで三下が呆然と呟いている。

<神速>とは、自分の動作・思考を高速化する<戦士>の上級スキルだ。

 そんなものを高い熟練度で覚えているあたり、兄貴は本当に凄腕なのだろう。

 もっと近い位置から始められたら、この結果は逆になっていたように思う。

 

「さ、方は付きましたので、帰りましょう」

 

「………」

 

 エレナさんに話しかけたのだが、返事がない。

 

「……エレナさん? 終わりましたよ?」

 

「………」

 

 エレナさんは、私の方をじっと見つめるだけで、言葉を発しようとしなかった。

 

「あの、エレナさん?」

 

「………クロダ君」

 

 ぼそりとエレナさんが口を開く。

 

「……キミ、滅茶苦茶強いじゃん」

 

「いや、それ程ではありませんよ」

 

「今さらそんなこと言われてもさ。

 なんなの今の。ボク、何にも見えなかったんだけど」

 

 どうやら先程の展開に驚いていたらしい。

 

「こんなに強いんだったら、不安なこと言わないでよー」

 

「戦いは水物ですから、どう転ぶかは分かりませんよ」

 

「んんー、そうかもしれないけどー。

 ボク、本当に心配してたんだよ?」

 

 大分心労をかけてしまったようだ。

 

「それはすみませんでした」

 

「クロダ君が謝ることじゃないけどね。

 元はと言えば、悪いのこいつらなんだから」

 

「返す言葉もない」

 

 兄貴が返事する。

 見れば、三下の手も借りてどうにか矢を引き抜いたようだ。

 

「敗者の務めだ、有り金程度なら置いていくが?

 ―――ただ、この刀だけは勘弁して貰いたい」

 

「では、お金を貰っておきます」

 

「分かった」

 

 兄貴が懐から革袋を取り出すと、こちらへ投げてくる。

 受け取ると、かなり重い。

 中を見れば結構な金額が入っていた。

 

「ちょ、兄貴、いいんですか!?」

 

「何がだ?」

 

「……あー、いえ、兄貴が気にしないって言うならいいです」

 

 三下は一瞬不満げな顔をしたが、兄貴の判断に異を唱えることは無いようだ。

 

「んん、意外とちゃっかりしてるね。

 てっきり、そんなものはいらないとか言っちゃうと思ったよ」

 

「貰えるものは貰っておきますよ。

 命を懸けていたのは間違いないのですから」

 

 兄貴が提案してこなかったら、特に請求しないつもりだったのだが。

 この手のタイプの人間と色々拗らせたくないので。

 

「ではな、クロダ。

 もう二度と会わないことを願っておくことだ」

 

「……ひょっとして再戦とか考えてます?」

 

「当たり前だろう」

 

「……全力で貴方との再会を回避しようと思います」

 

 今回かなりあっさり相手の誘いに乗ったので誤解されてしまうかもしれないが、私は基本的に無益な争い事は嫌いなのだ。

 自分の命がかかるとなれば、なおさらである。

 

「なるほどな。

 クロダ・セイイチ―――女が関わらんと無関心を貫く男と聞いている」

 

「ちょっと待って下さい。

 なんですかその評価は」

 

「違うのか?

 お前は、ほら、あれだろう。

 男が困っていても別に気にしないタイプの人間だろう?」

 

「そんなことありませんよ!」

 

 酷い言いがかりだ。

 私はそんな人によって態度を変える薄情な人間ではない。

 エレナさんも私を弁護するように兄貴へ突っかかっていく。

 

「そうだよ、クロダ君は別に男相手だって構わず手を出すんだよ!」

 

「エレナさん、その言い方だと大分ニュアンスが違いませんかね!?」

 

 まるで私が男女構わず手を出しているみたいではないか。

 私だって最低限の節操は弁えている。

 

「なんだ、それでは金よりも俺の尻の方が――」

 

「違います」

 

「それでしたらあっしが」

 

「違うっつってんだろ」

 

 あんまりしつこいと本気で掘るぞお前ら。

 

 

 

 

 ――その後しばらくしてからあの連中とは別れた。

 案外に面白い人たちで色々と話が弾んでしまったが、別にお互い話し合う必然性が無かったことに気づいたのだ。

 いや、なんであんなに仲良く話をしてしまったのだろう?

 

 そして今私が何をしているかと言うと。

 

「……それにしても本当にいいんですか。

 夕食を奢って頂くなんて」

 

「いいのいいの。

 クロダ君に助けられたんだから」

 

 エレナさんと一緒に黒の焔亭に向かっていた。

 しかも彼女持ちで夕飯を頂く約束までしている。

 

 ――男としては女性に奢ってもらうことに抵抗はあるものの、最近は陽葵さんの装備代で台所事情が厳しいので、有り難くお言葉に甘えることにした。

 

「とうちゃーく!

 さささ、入ろ入ろ!」

 

 彼女に手を引かれてお店に入る。

 久々の開店だというのに、或いは久々の開店だからか、いつものこの時間帯よりもお客は多いようだった。

 

「あっ、クロダ、来たの?」

 

「おや、リアさん、こんばんは。

 早速店長の料理を味わいに来ました」

 

「そう。ごめん、手があんま空いてないから、適当なとこ座ってて」

 

「はい、わかりました」

 

 ウェイトレスのリアさんがちょうど近くを通ったので、軽く挨拶。

 彼女はセミショートの茶髪を靡かせながら、忙しなくホールを動いている。

 言われた通り、私達は店の奥にある丁度よさげな席に座った。

 

「……ねーねー、クロダ君」

 

「何でしょうか」

 

 席につくなり、エレナさんが私に話しかけてきた。

 

「さっきの娘、誰?

 結構親し気だったよね?」

 

「リアさんのことですか。

 1か月前からここのお店でウェイトレスをやってる人ですね。

 まあ、私は常連ですから、その縁で知り合ったわけです」

 

「ふーん?」

 

 なんだか納得いっていないようだったが、それ以上の追求はしてこなかった。

 今のエレナさんの目、何かを測っているような、そんな感じだ。

 

 その後、適当に料理を注文しつつ、エレナさんとの談笑を楽しむ。

 

「へー、それじゃあ、あんまりスキルを色々覚えるのって意味ないんだ?」

 

「意味がない……ということは無いのですが、それよりも熟練度を上げる方が有効だと思いますよ。

 熟練度の高い下級スキルを上手く扱えば、上級スキルと同等かそれ以上の効果を発揮できることもありますから」

 

「んんー、じゃあスキルの取得はよく考えなくちゃだねー」

 

 今日はかなり真面目な冒険者としての講義である。

 どうもエレナさん、先程の仕合で何か触発されてしまったらしい。

 

「そうですね。

 それと、熟練度を上げるスキルはできるだけ汎用性の高いものを選択すると良いかと」

 

「ん、クロダ君の<射出>もそうなの?」

 

「はい、矢以外にも色々と撃てますので、汎用性は高いと思います。

 とはいえ、やや特殊な使い勝手のスキルですのでお勧めは致しかねますね。

 他にも使いやすい下級スキルは多いですから」

 

「んんん、改めて考えてみると下級スキルって応用性の高い奴が揃ってるね」

 

「ええ、その通りです」

 

 全てに当てはまることではないが、中級・上級のスキルは『下級スキルを応用した動作・組み合わせた動作』であることが多い。

 本来であれば多くの修練を積んで覚える『スキルの特殊な使用方法』を、別のスキルとして習得することにより短時間で身に着けるわけだ。

 ―――まあ、スキルというのは下級も含めて全てそういうものなのだが。

 

 であるからして、スキルの熟練度を徹底して高くすることは、そのスキルを基礎とした他のスキルを周到するに等しい行為なわけである。

 例えば、爆発によって一定範囲内の敵を攻撃する<炎爆(ブラスト)>という中級スキルは、<火炎(ファイア)>の熟練度を上げて炎を広範囲に展開できるようになれば全く同じ効果が得られる――等々。

 

「はーい、定食お待ち」

 

 そうこうしている内に、リアさんが料理を運んできてくれた。

 テーブルに料理を置くと、隣にいるエレナさんに少し目をやる。

 

「ねえクロダ、この子が前に言ってた――」

 

「はい、エレナさんです」

 

 私が簡単に紹介をすると、リアさんは微笑みながらエレナさんに話しかけた。

 

「へー、あんたがクロダの“ただの冒険者仲間”なエレナね?」

 

「うん、そうだよ。

 よろしくね、クロダ君の“ただの知り合い”なリアちゃん」

 

 お互い笑顔で挨拶を交わしている――のだが。

 なんだろう、気のせいかこの二人、仲がよろしく無いように見える。

 

「じゃ、ヒナタも待ってるんだし今日はさっさと食事済ませて帰りなさいよ」

 

「んー、ごめんねーリアちゃん。

 クロダ君は今夜“ボクとゆっくりお話する”予定なんだ」

 

「……ふーん、それならゆっくりしていけば?

 あっそうだクロダ、明日の朝、“あたしの朝食”用意しておいてよ。

 今日は遅くなるから、明日の朝しんどそうなのよね」

 

「え、ああ、はい、お安い御用です」

 

 ヒナタさんを迎えにいくついでに作っておけばいいだろう。

 

「……ん、クロダ君、料理作ることあるんだね。

 今度ボクも食べてみたいなー」

 

 エレナさんが私の腕に抱きつきながら、そう言ってきた。

 

「……あれ、エレナはまだクロダの料理食べたこと無いんだ?

 結構美味しいわよ。

 まあ、ただの冒険者仲間じゃ、そういう機会が少ないのかもしれないけど」

 

 私がエレナさんに答えるより先に、リアさんが発言する。

 

「………」

 

「………」

 

 笑顔で互いに見つめあうエレナさんとリアさん。

 

 ――く、空気が重い!?

 なんなんだこの二人!

 

 「おーいリア!

 3番席の注文行ってくれるか!」

 

 そんな所に、救いの声――店長の声が届く。

 リアさんはそれを聞くと踵を返しながら、エレナさんに声をかける。

 

「それじゃあ、ゆっくりしていってね、エレナ」

 

「うん、リアちゃんもお仕事頑張ってね」

 

 最後まで笑顔のまま二人は別れた。

 ……色々と聞きたいことはあるが、私の本能がそこに触れるなと警報を鳴らしている。

 さらっと流しておいた方がいいだろう、私の身のためには。

 

 

 第七話③へ続く

 



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③! エレナさんとイチャイチャ※

 

 さて、その後はつつがなく食事も終わり。

 

「ねーねー、クロダ君、そろそろさー」

 

「そろそろ……なんですか?」

 

 聞き返す私に、エレナさんはすり寄りながら続ける。

 

「んんー、分かってるくせにー。

 こういうことしたいから、こんな奥まった席についたんでしょ?」

 

 言いながら、私の股間を擦ってくるエレナさん。

 私もお返しに彼女の胸を揉みながら、

 

「そんなにしたいんですか?」

 

「んぅっ…もう、クロダ君だってやりたいくせにー」

 

 お互いに座る椅子をすぐ隣にまで寄せて、密着しあう私達。

 服の上から彼女の身体を弄って、ハリの良い肢体の感触を味わう。

 

「んふふふふ、くすぐったいよー、もう……んん?」

 

「どうしました?」

 

 エレナさんの視点が明後日の方向に固まる。

 つられて私もそちらを向くと、そこにはリアさんが居た。

 

「……彼女が何か?」

 

「ん、ほら、よく見てよあの子」

 

「………?」

 

 今、リアさんはちょうど接客中だった。

 相手は私の見知った壮年の男性、セドリックさん。

 特に変わった様子は――いや。

 

「むむ」

 

 立ち位置で上手く隠しているが、セドリックさんの左手がリアさんのスカートの中に入り込んでいる。

 私達の席以外からでは、死角になって見えないだろう。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ここってお触り有りのお店なんだっけ?」

 

「いえ、そんなことは無かったはずですが…」

 

 私は<屈折視>を使ってリアさんのスカートの中を覗いてみる。

 純白の下着に包まれた程よい肉付きのお尻を、男の手が鷲掴みにしている様子が見て取れた。

 

 「…ちょっと、あんた…客だからってこんなこと……」

 

 「まあまあ、固いこと言いっこなしだよ、リアちゃん」

 

 <感覚強化>で彼らの会話を盗み聞きする。

 リアさんは睨みつけているようだが、セドリックさんはどこ吹く風。

 彼女のお尻を揉み続けている。

 

「これ、止めてあげた方がいいのかな?」

 

「うーむ、どうでしょうかね?」

 

 リアさんが本気で嫌がっているのであれば止めに入ることに異論はないが、そういうプレイである可能性も捨てきれない。

 事実、彼女がその気になれば手を跳ね除けたり助けを呼んだりくらいできそうなものだが、そうはせずにセドリックさんの弄りを受け入れている。

 

 「リアちゃんも気持ちいい、私だっていい気分、ほら、Win-Winの関係ってやつじゃないか」

 

 「なによその勝手な解釈…!」

 

 セドリックさんは腕を動かし、今度はリアさんの股間を弄りだした。

 

 「……んっ……ふぅっ……やめなさいよ……気持ち、悪い…」

 

 「そう言われてもねぇ。

 下の口は随分と気持ちよさそうだよ?」

 

 言葉通り、リアさんのパンツには染みができ始めている。

 セドリックさんの指で感じ始めたということか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「ほぅら、もっと気持ちよくなりなさい」

 

 「んんっ……いやぁ……あぅっ……ダメって言ってるでしょ……」

 

 口ではまだ否定しているが、リアさんは身体をくねらせながら快楽に耐えている。

 傍から見て、セドリックさんの責めに感じてしまっているのは明白だった。

 

「んー、あの子、普通に受け入れちゃってるんだけど…

 あのおじさんの愛人か何かだったりするの?」

 

「いえ、そういう関係ではなかったと記憶しています」

 

「じゃあ気持ち良ければ誰でもいいのかなぁ?

 んんー、なんかイメージじゃないけど」

 

 エレナさんは眉をひそめながら、リアさんの様子を見ている。

 私は彼女の胸を揉みながら、質問してみる。

 

「エレナさんは違うんですか?」

 

「あんっ……んー、ボクはクロダ君一筋だよ?」

 

「……ジャンさんやコナーさんはどうしたんですか」

 

「んっ……じゃあ三筋ってことで」

 

 いたずらっぽく笑うエレナさん。

 なかなかの小悪魔っぷりである。

 ジャンさんとコナーさんは苦労しそうだ。

 

 私はエレナさんのスカートを捲り、尻と太ももを揉む。

 下半身のハリも素晴らしい。

 いつもながら、手に返ってくる弾力が癖になってくる。

 

 ちなみに今日の彼女は青白ストライプの縞パンツだ。

 

「んんっ……なぁに?

 クロダ君もお尻触りたいんだ?」

 

「リアさん達を見ていたらむらむらと来まして」

 

「んふふふ、いいよー、いっぱい触ってね……あんっ」

 

 エレナさんは自分からお尻を動かして、私に擦り付けてくる。

 こそばゆい感覚が実に良い。

 

 「あぅうっ……ちょっ、と……こんなとこで……」

 

 「ふふふ、こんなところで――なんなのかな?」

 

 向こうは向こうで楽しんでいるようだ。

 いつの間にやらリアさんの制服が肌蹴て、おっぱいが丸出しになっていた。

 セドリックさんはその美しい曲線を持つ胸に吸い付いている。

 

 「は、あ、あぁあっ……ダメ……ほんと、ダメ……」

 

 嫌がりつつも、抵抗する素振りは見せないリアさん。

 顔も赤く染めて、快楽を味わっている様子。

 

「んんー、なんかクロダ君、リアちゃんの方ばっか見てなーい?

 ボクの方もちゃんと見てよー」

 

 エレナさんが口をとがらせて不満を言ってきた。

 むむ、これは失礼なことをしてしまった。

 

「すみません、他の人の痴態というのもそそられまして」

 

「もー、変態なんだからー」

 

 エレナさんはブラウスのボタンを外し、胸元を開いておっぱいを露わにした。

 

「じゃじゃーん!

 ねーねー、ボクのおっぱいだってあの子に負けてないでしょ?」

 

「勿論ですよ」

 

 エレナさんの胸は単純な大きさこそ小さいものの、カップ数ではリアさんを超えるトランジスタグラマー。

 形・ハリ共に文句のつけようがない美乳である。

 彼女の背が低いことが主な理由なのだが――低身長であることを結構気にしているようなので決して口にはしない。

 

 私はエレナさんの乳首をコロコロと擦ってやる。

 

「あぅうっ……んふふー、あの子みたいにしゃぶりついてもいいんだよー?」

 

 そう言うと、エレナさんはおっぱいを私の顔に向けてせり出してきた。

 近くで見れば、これまた絶景。

 私は彼女の言葉に素直に従い、胸を舐めていく。

 

「んんっ……あっあっあっあっ……気持ち、良い…」

 

 幸せそうに喘ぐエレナさん。

 その声を聴くだけで、イチモツが勃ってくる。

 

 「あぁああ……んんぅうう……だめぇ……ああっ……だめぇえ……」

 

 リアさん達も盛り上がっているようだ。

 未だ拒絶の言葉を口にはしているものの、完全に形だけ――惰性で呟いているだけといった様子。

 寧ろ自分のおっぱいをセドリックさんに押し付けているようにすら見える。

 

「んぁあ……あぅっ……クロダくぅん……ああんっ……」

 

 「はぅううっ……だめぇ……あっあっあっあんっ……だめだからぁ……」

 

 二人の嬌声が耳を楽しませる。

 口の中ではエレナさんのおっぱいがプルンプルンと弾んでいた。

 

 一応念を押しておくが、リアさん達の会話が聞こえるのは私が<感覚強化>を使っているからだ。

 他のお客に彼女の喘ぎ声は聞こえていないだろう。

 エレナさんの方も、大きな声を出さないように配慮している。

 まあ、私は他の客に聞かせても全然構わないのだが。

 

 「んぁあっ……ああっ…………んんっ!?」

 

 リアさんの声色が変わる。

 見れば、セドリックさんはおっぱいに吸い付くのを止め、彼女の頭を掴んで自分の股間近くへ持って行った。

 リアさんの顔の前には、そそり立ったセドリックさんのイチモツがある。

 

 「さ、リアちゃん、今度は私を気持ちよくしてね」

 

 「……また、勝手なこと言って……んぐぅっ!?」

 

 セドリックさんは、リアさんの口の中に無理やり自分の愚息を突き挿れた。

 

 「私のちんこの味をしっかり味わうんだよ」

 

 「んんんっ……うぐっ……んむぅっ……んんーっ……」

 

 イマラチオを始めるセドリックさん。

 リアさんは苦しそうな声を漏らす――が。

 

 「んぅっ……んぐっ……れろっ……ふぅうっ……ちゅぱっ……れろれろっ……」

 

 「はは、リアちゃんもその気になってきたみたいだね。

 なかなかいい舌遣いじゃないか」

 

 苦悶の声を出したのは最初だけ。

 すぐに自分からセドリックさんの肉棒を舐め始めた。

 

「すごいねー、あの子。

 あんな美味しそうにおじさんのちんぽしゃぶっちゃって」

 

 その様子を見て、エレナさんが感想を漏らす。

 私も同感だ。

 

 「ぺろぺろっ……れろっ……んんっ……ちゅぱっ……はぅうっ……ぺろっ……」

 

 「いいよいいよ、リアちゃんも積極的だな。

 そんなに吸い付いてくるなんて、私も嬉しいよ」

 

 セドリックさんの言う通り、リアさんのフェラは激しさを増していく。

 始めは彼女の頭を押さえつけていたセドリックさんの手も、既に離れていた。

 彼に強制されるまでもなく、リアさんはフェラを続ける。

 

「ねぇねぇ、クロダ君もしゃぶって欲しい?」

 

 そんなリアさんを見て、エレナさんが私の耳に息を吹きかけながら提案してきた。

 

「そんなこと言って、エレナさんの方こそフェラしたいんじゃないんですか?」

 

「んふふふ、そうなのー。

 早くクロダ君のちんぽ味わいたいのー」

 

 エレナさんは私をからかうように笑った。

 

「ふふ、仕方がないですね」

 

 つられて私も微笑む。

 そしてズボンから自分のイチモツを取り出した。

 無論のこと、既にギンギンに勃起している。

 

「んんー、クロダ君のちんぽ好きー」

 

 すぐにエレナさんは私の股間へと屈みこみ、息子を口に含んできた。

 こそばゆい感覚が背筋を走る。

 

「好きなのは私の棒だけですか?」

 

「れろれろっ……はむっ……んんー?

 んふふふ、クロダ君も好きだよー。

 クロダ君の全部が好き」

 

 嬉しいことを言ってくれる。

 例え建前だとしても、女性に好きと言われて良い気がしない男などいないだろう。

 

「……んんむっ……れろれろっ……ちゅぱちゅぱっ……んふぅっ……」

 

 エレナさんは私の亀頭を口に含むと、口全体を使って扱いてくれる。

 膣とは違う感触から得られる快楽に、私は昂っていく。

 

 「んむ、んむぅっ……ちゅぱっ……んんっ……れろっ……」

 

 「うんうん、リアちゃんその調子だよ。

 もう今にもイってしまいそうだ」

 

 セドリックさんの方はもうそろそろ射精しそうだ。

 それを知ってか知らずか、リアさんは一心不乱に彼のイチモツに吸い付いている。

 

 「はむぅっ……んふっ……れろれろっ……ぺろっ……」

 

 「よし、そろそろイクよ!

 リアちゃん、全部飲んでね!」

 

 セドリックさんはリアさんの頭を再度掴み、肉棒を彼女の口の奥まで突き込んだ。

 

 「お、おおっ! 出るっ!!」

 

 「ん、んぐっ!? ん、んんんんんんんっ!!」

 

 ぐいっぐいっと腰を押し付け、リアさんの喉に精液を注ぎ込んでいるセドリックさん。

 顔を歪める彼女だが、しっかりと飲み込んでいるようだ。

 

「……エレナさん、私も出しますよ」

 

「ん、んんっ……いいよ、クロダ君……れろれろっ……たくさんちょうだいっ……ちゅぱっ……」

 

 エレナさんの口が一層強く私のモノを扱いてくる。

 私の射精感は一気に高まり、絶頂へと導かれた。

 

「イきます、エレナさん!」

 

「ん、んんっ……んぅうううっ!」

 

 私もまた、彼女の喉奥へと精液を解き放った。

 結構な勢いで射精しているのだが、エレナさんは懸命に精液を飲み込んでいる。

 

「んんっ……んっんっんっんっ……んんん……ん、ごちそうさま」

 

「お粗末様でした」

 

 …この返答はやや場違いだろうか。

 

「んふふふふ、濃いザーメンたくさん出すよねー、クロダ君って。

 んんんっ……喉に粘ついちゃってるよ?」

 

「それはすみませんでした。

 大丈夫ですか?」

 

「んん、大丈夫だよー。

 もっと飲みたいくらい」

 

「では、もう一度しましょうか?」

 

「ん、口で飲んでもいいんだけどさー」

 

 エレナさんは、私の太ももに向かい合うような形で座る。

 ちょうど対面座位のような姿勢だ。

 

「ボク、下の口でキミのザーメンが飲みたいんだよね」

 

 すりすりと、私のイチモツに自分の股間を擦り付けるエレナさん。

 下着の感触に、私の肉棒がむくむくと再び勃起しだす。

 

「なるほど、では――」

 

 本番を始めようとする私達に、リアさん達の会話が聞こえてきた。

 

 「どうだったかな、リアちゃん。

  私のザーメンの味は」

 

 「……どうも、こうも、苦いし粘っこいし……もう、最悪…!」

 

 セドリックさんを睨みつけるリアさん。

 そうは言いつつも、リアさんはセドリックさんの精液を一滴残らず飲み干している。

 

 「ははは、手厳しいなリアちゃんは。

  こいつは次で名誉挽回してやらないと」

 

 「……つ、次って何よ?」

 

 「何って、ナニだよ。

  リアちゃんだってまだ満足しちゃいないだろう?」

 

 セドリックさんは手をリアさんのスカートの中に滑り込ませる。

 途端にリアさんが嬌声を上げた。

 

 「あ、あぁぁあああっ!」

 

 「ほら、リアちゃんのここは洪水だ。

  欲しいんだろう?

  ちんこをここに突っ込んで欲しいんだろう?」

 

 「んんぅっ……そ、そんなわけ……ああぅっ」

 

 セドリックさんは立ち上がり、空いている方の腕でリアさんの腰に手をまわす。

 

 「さて、ちょっとトイレを借りようか。

  催してきてしまってね。

  リアちゃんも一緒に来てくれるだろう?」

 

 「ちょ、ちょっと……あんっ……引っ張らないで……あぅうっ……」

 

 彼に連れられるような形で、二人は店のトイレに入っていった。

 

「……エレナさん」

 

 その様子を見て、私はエレナさんに声をかけた。

 

「んー?

 なーに、クロダ君、二人がしてるところ見たいの?」

 

「はい、かなり興味がそそられます」

 

 エレナさんはすぐに私の意を汲んでくれたようだ。

 なんともありがたい。

 

「……もー、クロダ君はほんとーにスケベなんだから。

 仕方ないなぁ、付き合ったげるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「うんうん、感謝するように」

 

 エレナさんの了解を得て、私達は二人の痴態を見物するために一旦店の外に出た。

 

 

 

 というわけで、ここは人通りの少ない路地にある黒の焔亭の裏側。

 絶好の覗き見スポットである。

 

「んー、ここからならトイレの中を見れるわけ?」

 

「はい、ばっちりですよ」

 

 トイレの窓が中を見るのに丁度良い場所にあるのだ。

 ただ、ここは男用トイレなので、基本的には一部の特殊な方以外には何のメリットも無い。

 今回は事情が少し異なるが。

 

「……なんでこんな場所知ってるのか聞いていい?」

 

「そこはまあ、この店の常連ですから」

 

「……やっぱりここって怪しい店なんじゃないかなぁ」

 

「そんなことはありませんよ」

 

 店長はウェイトレスに手を出しているが、お客とウェイトレスがあれこれすることはそう多くない。

 ……たぶん。

 

「さてと、では早速」

 

「躊躇なくいくねー」

 

 私は<屈折視>も駆使して窓からトイレの中を覗き見た。

 そこには――

 

 「あっあっあっあっあっ! んんぅうううっ!」

 

 「ははは、いいぞー。

  リアちゃんのまんこが私のちんこをグングン締め付けてくる!」

 

 セドリックさんがリアさんを抱きかかえるような姿勢――俗に駅弁と言われる体勢で、二人はセックスしていた。

 あれ程渋る仕草をしていたリアさんだったが、いざセックスが始まってしまえばノリノリのようだ。

 セドリックさんの腕から落ちないように、しっかりと彼の身体に抱きついている。

 

「んー、真っ最中だねー」

 

「そうですね、いいタイミングで来れました」

 

 リアさんは制服の上を再び脱いでおり、おっぱいは丸出し。

 その露わになった胸を、セドリックさんは時には揉み、時には舐めて、味わい尽くしている模様。

 

「んん、クロダ君、ボクもあんな風にして欲しいな」

 

「いいですよ」

 

 上目遣いに私を見つめながら、エレナさんが懇願してきた。

 断る理由などどこにもない。

 私がエレナさんを抱きかかえると、挿入しやすいようにパンツをずらす。

 

「あんっ♪」

 

 エレナさんの膣はもう十分に濡れていた。

 私は愚息を取り出すと、彼女の中へと挿入していく。

 

「あ、あぁああああああ……すっごい深い……」

 

「エレナさんの中も、暖かくて気持ちいいですよ」

 

「んふふふふ……んぅっ……嬉しいな……あんっ……」

 

 さらに悦楽に浸るため、私は腰を振り始める。

 私が動きやすくなるよう、エレナさんは私の体に脚を絡めてきた。

 

 彼女の膣から伝わる刺激が、実に良い、素晴らしい。

 身長と同様にエレナさんの膣は小さめなのだが、それが強い膣圧を生み出してる。

 

「んっんっんっんんんっ! あんっあんっあんっあんっ!」

 

 窮屈さを感じる程の膣内が、私の肉棒がぎゅうぎゅうと締めつけてくる。

 私はいっそう深く、強く、彼女の中を抉るように腰を突き動かした。

 

「んぅうっあっあっあっあっ! はげし、いっ…ああぁんっあっあっああっあっ! もっとぉ! ああぁあんっ!」

 

 彼女の欲求に応えるよう、ピストンを激しくしていく。

 私のイチモツが受ける快感も、比例して上がっていった。

 

 一方でトイレの中にいる二人の行為も続いている。

 

 「あひっんんっあぅっあぅっあぅっあぅ! あ、ああぁぁああっ!」

 

 「気持ちいいだろう、リアちゃん!

  ここ突かれるの、気持ちいいんだろう!?

  ほら、どうなんだい!?」

 

 「あっあっあっあっあっあっ! 気持ちよくなんかっ!

  あっああっああっあっああっあぅうっ! 無いぃ……あぁんっ!」

 

 「素直じゃないなぁ、君は!

  こんなに愛液を垂れ流して、気持ち良くないなんて嘘つくなんてね!」

 

 確かに、リアさんの膣口がびしょびしょに濡れているのは見るだけでも分かることだ。

 顔だって気持ちよさそうに蕩けている。

 セドリックさんによって快感を受けている事実をどうしても受け入れたくないらしい。

 しかしセドリックさんの方はそれを認めさせたいようで、腰振りをより大きくしだした。

 

 「んぁぁあああっ! あっあっあっあっあっあっ! 激し、過ぎっ!

  ああぅっあうっあうっあうっあうっあうっ! 止めてぇっ!」

 

 「そう簡単に腰は止められんよ!

  ……くぅうう、いいねぇ、どんどん締めてくるじゃないか。

  もう、イキそうだよ!」

 

 おっと、セドリックさんはもう絶頂してしまうのか。

 こちらもタイミングを合わせるため、少し早いが動きにスパートをかける。

 

「あんっあんっあんっあんっあん! ちょっと、クロダ君!?

 あうっああんっんんうっあうっあんっ! どうしたの急に……んんぅっ!」

 

「いえ、中の二人と一緒に絶頂しようかと思いましてね」

 

「そんなの気に……あっあっあっあっあっ! しなく、たって…あぅうっんっんっんんっんっ!」

 

「申し訳ありません、やってみたくなったのです」

 

 エレナさんはもっとじっくり楽しみたかったのだろう。

 まあ、一度の絶頂で終わるわけでも無いので、もう少しだけ私の我儘に付き合って貰いたい。

 

「ほんと…あぅっくぅっううっあんっ…エッチなんだから、クロダ君は…あんっあんっあんっ!」

 

 彼女は私に強くしがみ付くと、自らも腰を振り始めた。

 二人のピストンによる相乗効果で、一気に絶頂へと駆けのぼっていく。

 エレナさんの協力には、頭が下がるばかりだ。

 

 「ぬぅう、そろそろだ!

  イクよ、リアちゃん!」

 

 「んぅっんっあっあっあんっ! は、早く…あっあっあっ…終わらせ、なさいよ!

  んんぅっあっおっおおっああぁあんっ!」

 

 「うん、出すぞ!

  リアちゃんの中に全部出す!」

 

 「――え?」

 

 一瞬だけ、リアさんが正気を取り戻す。

 

 「ちょ、ちょっと…あんっあっあんっ! 待って…あぅぅうううっ!

  中とか、あっあっ…冗談でしょっ!? んんぅっ!」

 

 「冗談なものか。

  きっちり君の膣に吐き出してあげるからね!」

 

 「ああぅうっ! う、嘘…あんっああぁっあぅうっ!

  子供ができちゃったら……んんんっんぁあっあぅっああっあっ! ど、どうすんのっ…あぅうっ!」

 

 「はっはっは、いいじゃないか。

  元気な子を産みなさい」

 

 快楽の波に流されつつも抗議するリアさんだが、セドリックさんはどこ吹く風。

 まあ、彼は律儀な人なので、子供ができてもしっかり面倒みてくれるだろう。

 

 「や、やだぁっ! あっあっあっあっ! あんたの、子供なんて…んぁあっあぅっおうっおっおぅっ!

  産みたくないぃいいいっ! ああ、あぁあああっ!」

 

 「そうは言っても、今更止められないよ。

  うーん、リアちゃんと私の子か……どんな風に育つか今からわくわくするね」

 

 リアさんは、セドリックさんの手から逃れようと身体をばたつかせる。

 しかし、セドリックさんは彼女の身体をしっかりホールドして逃がさない。

 彼の腰のグラインドが最高潮に達する。

 そろそろ射精する頃合いだろう。

 

「エレナさん、私ももう…!」

 

「んっんっんっんっ! うん、来てっ!

 あっあっあぁあっあんっ! ボクの中に全部出してっ! んぁあっあぅうっあんっあぅっ!」

 

 エレナさんの腕と脚が、よりいっそう強く私に絡みついてくる。

 私もまた、改めて彼女をがっしり抱き抱えた。

 これなら万一にもイチモツが彼女の膣から外れることは無い。

 

「いいんですかエレナさん、全部中に出してしまいますよ!

 子供、孕んでしまうかもしれないんですよっ!」

 

 少し、セドリックさんの言動を真似てみる。

 

「うん、産むからぁっ! あっあっあっ! ボク、元気な赤ちゃん産むからぁっ! あぅうっあうっあぅっああぅっ!

 クロダ君の精子、ボクに注ぎ込んでぇっ! あっああぁあっあぁあんっ!」

 

 そう言ってくれるのならば遠慮はいるまい。

 ……普段から遠慮何て微塵もしていないだろうという突っ込みはご容赦願いたい。

 

 エレナさんから与えられる快楽で私は最高潮に達し、その勢いのまま彼女の一番深い部分へ己の精を放出した。

 

「イキますよっ! 受け止めて下さい!」

 

「んぁああっ! ああぁぁあああああああああっ!!」

 

 「ほぅら、リアちゃんの子宮に流し込むよっ!」

 

 「いや、いやぁああああああああっ!!?」

 

 二組が同時に絶頂する。

 びくんびくんと、二人の女性は身体を震わせた。

 

「ああ、あぁぁああ……はーっ…はーっ…はーっ…

 んふふふふ、熱いのがいっぱぁい……」

 

 うっとりとした表情で自分のお腹をさするエレナさん。

 

 「……う、あ、はぁぁあああ……はぁっ…はぁっ…はぁっ…

  んぐっ…本当に出したぁ……子供、できちゃうぅ……はぁっ…はぁっ…」

 

 リアさんは涙目になる、恨みがましくセドリックさんを見ている。

 随分と対照的な二人である。

 

 「いやぁ、良かったよ、リアちゃん。

  君の身体は最高だ」

 

 「………はぁっ…はぁっ…あっそ、じゃ、終わりにしましょ…はぁっ…」

 

 セドリックさんから解放されたリアさんは、便器にしなだれかかり、肩で息をしている。

 

 「ははは、厳しいなぁリアちゃんは。

  私達はこんなに深い仲になったんだから、もっと素直になってもいいんだよ?」

 

 「あ、あんたが無理やりしてきたんでしょ!?

  あんたなんて店の客以外の何者でも無いっての!!」

 

 「むう、リアちゃんは強情だなぁ」

 

 言いながら、セドリックさんは懐からポーションを取り出して一気に飲み干す。

 ローラさんのお店で定期的に購入しているものだ。

 

 「……何飲んでんの?」

 

 「これかい? これは特製の滋養強壮剤――ぶっちゃけると精力剤でね。

  いやぁ、若い頃はこの程度じゃ萎えなかったんだが、最近はこれが無いと全然やれなくなっちゃって」

 

 ポーションは効果覿面のようで、萎んでいたセドリックさんの肉棒があっという間に勃起してきた。

 彼はリアさんに向き直り、晴れ渡った笑顔で告げる。

 

 「さ、それじゃ二回戦目行ってみようか」

 

 「なっ!? ふざけないでよっ! なんでこれ以上あんたとなんか…!」

 

 「……うーん、まだリアちゃんには自覚が足りてないみたいだね」

 

 セドリックさんは残念そうに少し肩をすくませる。

 

 「はぁっ? 自覚って何のことよ?」

 

 「そりゃ勿論、“肉便器”としての自覚だよ」

 

 「―――え?」

 

 彼の言葉に虚を突かれたのか、リアさんがきょとんと返事をした。

 

 「君はねぇ、肉便器として素晴らしい素質の持ち主なんだ。

  男を誘惑するその身体に、男を求めてしまうその本能……世の男の悦ばせるために産まれた、と言ってもいい」

 

 「――え、え?」

 

 まだセドリックさんの言葉を理解できない様子のリアさん。

 

 「だというのに、君自身にまだその自覚が無いんだね。

  自分が精液専用の便器に過ぎないという自覚が」

 

 「――け、喧嘩売ってんの、あんた……あぁあああっ!?」

 

 セドリックさんに殴りかかろうとしたリアさんだが、彼に股間を弄られて身体を仰け反らした。

 

 「クリトリスをちょっと擦ってやっただけでこの有様だ。

  身体の方は肉便器としてほとんど完成しているんだがね」

 

 「あっあっあっあっ……やめっ……あぅっあぅっああっ……」

 

 「うーむ、これは私がしっかり教育してやらなくちゃならないな」

 

 リアさんの股間から手を離すと、セドリックさんは彼女の尻を掴んだ。

 二人は今、後背位のような姿勢になっている。

 

 「な、何するつもりよ…」

 

 「言っただろう、リアちゃんが正しい肉便器になれるよう教育するんだよ。

  なぁに、まだまだ夜は長い。

  たっぷりじっくり教えてあげるから、大船に乗ったつもりでいなさい」

 

 「……!?

 や、お願い、許し――」

 

 リアさんの言葉が終わるより早く。

 セドリックさんはイチモツを彼女に突き立てたのだった。

 

 「あひぃいいいいいいっ!!?」

 

 再び彼女の口から嬌声が上がりだした。

 ふむ、このままセドリックさんの教育を見物するのもいいか――?

 

「ねぇねぇ、クロダ君」

 

 悩む私にエレナさんが話しかけてきた。

 

「こんなとこじゃなくてさ、ちゃんとしてベッドの上で続き、しよ?」

 

 エレナさんとしては、路地でのセックスだけだと味気ないようだ。

 もっとあの二人を見ていたい気持ちもあるが、ここまで付き合ってくれた彼女の要望を飲むことにしよう。

 

「分かりました。

 では、私の家に行きましょうか」

 

「んー……偶にはボクのとこに来ない?」

 

「は? いえ、それは…」

 

 ジャンさんやコナーさんに私達のことがばれてしまうかもしれない。

 

「んん、ボク達、もう十分深い仲になったでしょ? だめかなぁ…?」

 

 どうもエレナさん、初めて会った頃に私が『何度も会っていない女性の部屋に、男が一人で入るわけにはいかない』と言ったことを気にしている模様?

 その言葉はそのままの意味で言ったわけではないのだが……これだけ長く付き合ってきたのだから、彼女の部屋へ行くのも礼儀というものか。

 

「そうですね、お言葉に甘えさせて頂きます」

 

「んふふ、やったー♪」

 

 エレナさんは顔を綻ばせて、私の腕にしがみついてきた。

 腕に彼女の胸の感触が広がる。

 ……悪い気はしない。

 

「それでは、参りましょうか」

 

「うん……んふふふふ、ねぇクロダ君、ボク達って身体の相性ぴったりだと思わない?」

 

 歩き出す前に、エレナさんが質問を投げかけてくる。

 

「……まあ、そうですね」

 

 彼女のハリのある身体は実に気持ちが良い。

 この弾力の良さ、他の女性では早々味わえない。

 彼女も、私の責めで気持ち良くなってくれているようではある。

 

「うんうん、キミの変態っぷりにちゃんとついていけるのもボクくらいだろうし」

 

「……否定はできません」

 

 ローラさんを始めとして、なんだかんだとついてきてくれる女性はいるが、ここまで積極的に動いてくれるのは彼女くらいだ。

 

「ん、今日チンピラに絡まれたときにそういうフリをしたけどさ……

 ねぇ、ボク達、本当に恋人同士になっちゃわない?」

 

「――え。あ、いや、それは」

 

 二の句が継げなくなる。

 彼女の顔から、いつもの小悪魔チックな笑みが消えていたからだ。

 代わりに、真摯な輝きを瞳に宿している――ように見えた。

 

「………」

 

「………」

 

 じっと見つめあう、私とエレナさん。

 彼女の目から、視線を外せない。

 

 その均衡を崩したのは、エレナさんの方だった。

 

「……アハハハ、冗談だよ、冗談!

 まさかクロダ君、本気にしちゃった?」

 

「あ、ああ、そうでしたか」

 

 彼女の笑い方がいつもと違うことに、私は気が付いてあげた方がいいのだろうか。

 

 …………駄目だな。

 私はここぞというところで決断できない。

 ギルド長との話し合いでもそうだった。

 保留してばかりでは結果は出ないというのに。

 

「うん、それじゃ行こうよ」

 

「はい、しっかりエスコートしますよ」

 

 先程の話には二人とも触れず、私達はその場を後にした。

 

 「も、もうやだぁぁああああああっ!!

  誰かぁああああっ!!」

 

 背後にリアさんの喘ぎ声を聞きながら。

 

 

 第七話 完

 

 

 

 

 後日談。

 というか次の日の朝。

 ……そう言えばこの始まり方も久しぶりである。

 

 私はいつものように陽葵さんを迎えに、リアさんの家を訪ねていた。

 約束通りリアさんの朝食も作るため、少々いつもより早い時間だ。

 

 ……今日のリアさんは、もう昨日までのリアさんでは無いのではないかという淡い期待感も胸に。

 

「ふんっ! ふんっ! ふんっ! ふんっ!」

 

 ――胸に、していたのだが。

 私を出迎えたのは、家の前でサンドバックに拳を打ち込んでいるリアさんだった。

 いつも通り……いや、いつもに増して好戦的な姿である。

 

「……おはようございます」

 

「ふんっ! ふんっ!……あ、クロダ、おはよ。

 どうしたのこんな早くに?」

 

「いえ、リアさんの朝食をご用意しようとですね」

 

「ああ、そんなこと言ったっけね」

 

 私の挨拶に気づくとリアさんはサンドバック叩きをやめ、こちらを振り向く。

 

 今の彼女は、動きやすさを重視したタンクトップにスパッツ姿。

 タンクトップが汗に濡れて身体に張り付き、おっぱいの形が丸見えである。

 いや、眼福眼福。

 

「……どこ見てんの?」

 

「いえいえ、何でもありません」

 

 咄嗟に明後日の方向を向く私。

 いかん、今日の彼女は攻撃性が高い。

 

「……まあいいや。

 あ、そうだ。

 ちょっとあたしシャワー浴びてくるからさ、悪いんだけどこのサンドバック片づけておいてくれない?」

 

「はい、それ位でしたらお安い御用です」

 

「ありがと、お願いね」

 

 そう言うとリアさんは身を翻して家の中に入っていった。

 ……スパッツが食い込んで、彼女のお尻が描く美しい曲線を露わにしている。

 これを見れた代金と思えば、サンドバックの後片付けなど造作もない。

 

「さて、と……」

 

 私は家の軒先に吊るしてあるサンドバックに手をやり――

 

「……ん?」

 

 ――違和感に気づいた。

 このサンドバック、一般的なものに比べるとどうも重さがおかしい?

 感触もなんだか違う……そう、まるで肉のような。

 

「……肉」

 

 そこで私はあることに気づいた。

 気づいてしまった。

 まさか、いくらリアさんでもそんな……いや、リアさんだからこそ。

 

「――てりゃあっ!!」

 

 手刀一閃。

 予感を確かめるために、サンドバックの布地を手で切り裂く。

 これが妄想であったならば、リアさんに土下座で謝れば済むこと。

 

「―――!!」

 

 しかして、サンドバックの中から現れたのは……

 

「……せ、セドリックさーーーーん!!!!?」

 

 手足が比喩でなく“折り畳まれ”、体中に打痕が入り、顔が2倍近く腫れ上がった、セドリックさんの姿だった……

 

 

 ―――不思議なことに、命に別状はなかったことを付け加えておく。

 

 

 

 後日談 完



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第八話 ある社畜冒険者の新人教育 五日目
① ここ最近の朝の日課※


 

 

「おっおっおっおっおっ! んぉおおおっ!」

 

 のっけからで恐縮だが、今私は陽葵さんの尻穴に指を突っ込んでいる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「んおっおお、おぉおっおぅっおっおっ!」

 

 連日に渡る私の弄りが実を結び、彼の穴は大分柔らかくなってきていた。

 もうそろそろ、私の息子の世話もイケるかもしれない。

 

「んんぅううっおっおおおっおぅっおぅっおうっ!」

 

 今私が居るのは陽葵さんに寝室。

 サンドバックを片づけてから朝食を準備していたのだが、いつまで経っても陽葵さんが起きてこないので様子を見に来たのだ。

 ……普通に寝坊しているだけだったわけだけれども。

 彼のこのルーズさは直していかねばなるまい。

 まあ、おかげで毎朝こうやって陽葵さんの尻穴を弄れているので、もう少しこのままでもいいかもしれない。

 

 ちなみに余り気にしている人はいないと思うが、セドリックさんは両手両足をはめ込んでからポーションをがぶ飲みさせたら目を覚まし、そのまま治療院に歩いて行った。

 冒険者というわけでもないのに、タフな人である。

 

「んぉおお、おっおおっ! おっおっおっおっおぅうっ!」

 

 うつ伏せに眠ったまま、私の指で感じてしまっている陽葵さん。

 最初は指を少し挿れただけで絶頂していたが、今はしっかり尻穴への弄りで快楽を貪れるようになっている。

 彼の成長に、私も笑みを隠せない。

 彼と会ってからというもの毎日毎日、朝彼が起きる前と冒険の休憩中にイカせ続けた甲斐があったというものだ。

 

「おおぉっおっおっ! んんぅう、んんっ! あっあぅっあっあっ!」

 

 しかしなんだ、もう何度も陽葵さんの身体を見ているが、未だに彼の性別には疑問を抱いてしまう。

 顔はこれ以上なく美少女然として整っており、髪もサラサラの金髪ショートヘア。

 身体の肉付きも実に柔らかく、腰からお尻、太ももにかけた曲線は芸術品と言ってもいい程に美しい。

 胸は流石に無いが、乳首の色合いは鮮やかで、男心をくすぐってくる。

 彼が発する喘ぎ声も女性の声と聞き違える程に艶があり、聴いているだけで勃起を促す。

 

 結構身体のラインが出やすい服装を好んでいるのだが、そんな服を着ているのに陽葵さんが男だと分かる人物はまず存在しないだろう。

 毎日のように裸を見ている――彼の男性器を見ている私ですら、気を抜くと彼が女性だと思ってしまうのだから。

 というか、Tシャツにショートパンツルックとか、陽葵さんの女性的魅力を強調するだけなんですが!

 

「あぁっ! あっあっあっあっあっ! あぅうっ! お、おぉおおっ!」

 

 さて、名残惜しいがそろそろ終わらそうか。

 私は尻穴にねじ込んだ指で陽葵さんの中を思い切りかき混ぜてやった。

 

「んぉおおおおおっ!? おお、おおぉおおおおっ!!」

 

 絶叫にも近い嬌声を上げ、陽葵さんは身をのけ反らしながら射精した。

 

「お、おぉお……ああぁあぁ……んんぅう……お、おぉ……」

 

 全身を震わせて余韻を味わった後、陽葵さんは気を失ってしまった。

 余程、絶頂によって得られる快感が凄まじいのだろう。

 統計をとったわけでは無いが、一般的な男性が感じるそれをはるかに上回っているのではないだろうか。

 この点に関しては、彼を羨ましくも思う。

 

「……朝食の準備を終わらせようか」

 

 失神してしまっては仕方ない。

 朝食を用意して、陽葵さんが起きるのを待つことにしよう。

 

 

 

 

「あれ、ヒナタまだ起きてこないの?」

 

 リビングに戻った私を待っていたのは、リアさんのそんな言葉だった。

 

「ええ。ぐっすり寝ていますね」

 

「起こしに行っても目が覚めないとか相当ね。

 ちょっとぐうたらが過ぎるんじゃない?」

 

 少し眉をひそめてリアさん。

 そんな彼女に私は弁解する。

 

「彼がこちらに来てまだ5日しか経っていませんからね。

 新しい生活に慣れないのでしょう」

 

「ふーん、そんなもの?」

 

「ウィンガストと東京では生活様式が大分変りますから。

 一人だけでこの世界に来たという心細さもあるでしょうし」

 

「そっか…」

 

 一般的に想像できるファンタジー世界よりも大分現代人に優しいウィンガストだが、それでも勝手は大分違う。

 親しい友人達と会えなくなったというのも大きいだろう。

 ……私が毎朝陽葵さんを絶頂させているというのも、多少は理由にあるかもしれないけれども。

 

「あんまりそういう顔は見せないんだけどなぁ」

 

「会ってすぐの人に自分の弱さは見せたくないものですよ。

 男の子ならなおさらです」

 

 逆に言えば、私達に心を開ききっていないということでもある。

 少し寂しくもあるが、しかし当然のことともいえる。

 ……単に私がイカせ過ぎているだけ、という可能性も僅か乍らにあるとはいえ。

 

「……もっと色々、ヒナタの話聞いてあげないとかな」

 

「そうですね、そうして頂けると助かります。

 勿論、私も努力しますが」

 

 少し深刻そうな顔をして俯くリアさんの言葉に、私も頷く。

 

 ところで今のリアさん、シャワーを浴びたばかりなので自慢のセミショートの茶髪はしっとり濡れ、顔も上気している。

 服はTシャツとハーフパンツに着替えているが、相変わらず胸やお尻の形が分かるフィット感を持った装いだ。

 この身体を昨夜セドリックさんは弄っていたわけか。

 

「……変なとこ見てない?」

 

「はい?」

 

「………う~ん、気のせいか」

 

 リアさんが私の視線に感づいたようだが、きっちりすっ呆ける。

 彼女の疑惑をかわすのも、大分慣れてきた。

 

 ――疑惑と言えば、実は私も彼女に対して一つ、疑念を抱いている。

 こうしてリアさんと話していても、その疑問は深まるばかり。

 

「どうしたの?

 難しい顔しちゃってるけど」

 

「今日行う陽葵さんへの教育内容について思案中なのです」

 

「へぇ……教育係も大変ね」

 

「まあ、そうですね」

 

 実のところ、微塵も考えていない。

 誤解しないで頂きたいが、教育に関しては事前にしっかり内容を考えてあるのである。

 

 では何を考えているかと言えばつまり――セドリックさんは本当に『無駄死に』だったのかということだ(死んでない)。

 変態度数で言えば黒の焔亭店長に勝るとも劣らない彼が一晩を費やした調教に、リアさんは何も感じ入ることは無かったというのか。

 

「……よし」

 

「ヒナタへ教えること、決まった?」

 

「……えぇ、そんなところです」

 

 すみません、全然違うことを考えています。

『覚悟を決めた』という意味では当たらずとも遠からずではあるが。

 

「っと、失礼します」

 

 私は大股を開いて椅子に座る。

 私の股間が――先程の陽葵さんの痴態で、ギンギンに勃起した股間が、リアさんによく見えるように。

 

 こんなことをしてリアさんの機嫌を損ねたら、ただでは済むまい。

 だとしても、私は試さずにはいられなかった。

 彼女に何の変化も起きていないのかどうか―――

 

「……!?」

 

 ――はたして。

 リアさんは私のイチモツに気づいたようだが、特に何の反応も示さない……ような振りをしている。

 よく観察するまでも無く、彼女はチラチラと私の股間に視線を向けている。

 気になって仕方がない、という様子で。

 

「あ、あの、クロダ?」

 

「何か?」

 

「……何でもない」

 

 ぷいっと横を向くリアさん。

 しかし、瞳は私の下半身を見続けている。

 

 ……どうやら、セドリックさんの死は無駄でなかったようだ(だから死んでないって)。

 彼が施した調教は、間違いなく彼女の心に痕を残している。

 

「……これが気になりますか」

 

 ぼそっと、彼女に聞こえるような大きさで呟く。

 

「なっなんのこと!?」

 

「いえいえ、何でもありませんよ?」

 

 一つ前の会話を真似る形で、リアさんの言葉をはぐらかした。

 露骨に慌てる姿が可愛らしい。

 

 私は彼女にもよく見えるように、腰を上下に動かしてやった。

 

「―――!」

 

 ごくり、とリアさんが唾を飲む。

 そこまで私のモノが気になるか。

 素直に求めてくればいいのに――と思わないでもないが、そこで強情になってしまうのがリアさんらしさなのだろう。

 ここは一つ、私の方から歩み寄らねば。

 

「ねぇ、リアさん」

 

「………ん、うん!? な、何か用!?」

 

「私だけ座っているのも心苦しいので……私の上に座りませんか?」

 

「――――え」

 

 私からの提案に唖然とするリアさん。

 すぐに私を睨みつけてくる――が、期待にそわそわする様子をまるで隠せていない。

 

「い、いきなり変なこと言い出して! な、殴られたいの!?」

 

「……座って下さらないんですか?」

 

 私は露骨に肩を落とす。

 同時に、隆起した股間をリアさんの方へ突き出した。

 

「――あ、いや」

 

「座ってほしいんですけどねぇ。どうしても駄目でしょうか?」

 

 腰をグラインドしながら動かす。

 セクハラで訴えられても文句の言えない状況だが――リアさんは、私の勃起から目が離せないようだ。

 

 とうとう耐えきれなくなったか、こう告げてくる。

 

「……そ、そこまで言うなら……す、座ってあげる」

 

 私はにっこりと笑った。

 リアさんは私に近寄ってくると、

 

「そ、それじゃ……座るからね」

 

 私に背を向けて――特に指定したわけでも無いが、私の股間の上に、勃起したイチモツの上に腰を下ろした。

 背面座位の姿勢と言えば伝わりやすいであろうか。

 

「……ん、んんっ」

 

 小さく喘ぎを漏らす。

 当然、聞き逃す私ではない。

 

「……お、重くない?」

 

「まさか。軽いですよ、リアさん」

 

 緊張をほぐそうとしているのか、軽口を言ってくるリアさん。

 まあ、実際彼女はそう重くはないのだけれども。

 

 さて、割とすんなりここまでことを運ぶことができた。

 次はどう責めようか……そう考えていた矢先。

 

「……んんん……あぁ……うぅん……」

 

 リアさんが自分の股を私の股間に擦り付けてきた。

 まるで、私の突起を使って自慰をするかのように。

 決して私が強制させたわけではない。

 彼女自身の意思で、この行為を始めたのだ。

 

「……どうですか、リアさん。

 私の座り心地は」

 

「……はぁぁあ……う、ん…まあ、悪くない、かな……んぅう……あぁん……」

 

 気持ち良さそうに私に脚の付け根を押し付けてくる。

 だがその返事には、少々不満があった。

 

「……悪くないだけですかね。

 結構、自信があったのですが」

 

 リアさんの女性器と思われるハーフパンツの箇所に、ズボンの隆起を突き上げた。

 

「あ、あぁぁあああ…」

 

 嬉しそうに喘ぎ声を漏らすリアさん。

 

「どうです、まだ『悪くない』程度ですかね?」

 

「はぁぁあん……き、気持ち、いい……んんぅうう……」

 

「それは良かったです」

 

 満足のいく返答が得られた私はにっこりと微笑む。

 彼女の動きに合わせて腰を動かしていく。

 

「あぁああ……クロダ……あぅうう……気持ちいいよ……あんん……」

 

「もっと、動いてあげましょうか?」

 

「んぅぅう……うん……あんっ……もっと大きく動いて……あああぁ……」

 

 リアさんのリクエスト通り、股間を大きくグラインドしてやる。

 

「ああぁぁあああ……うん、そんな、感じ……はぁああぁぁ……」

 

 布越しに、互いの性器が強く触れ合っていく。

 こんな刺激もまたいいものだ。

 

 ――しばらく楽しんでから、私はリアさんに告げる。

 

「……大した肉便器っぷりですね、リアさん」

 

「―――へ?」

 

 リアさんの動きが止まった。

 ゆっくりと私へ振り返ってくる。

 

「……く、クロダ、今、なんて…?」

 

「リアさんは素晴らしい肉便器だと言ったんですよ」

 

 リアさんに沈黙が訪れた。

 思いもよらない言葉だったのであろう。

 

 少しして、ようやく彼女が口を開く。

 

「……み、見てたの?」

 

「ええ。リアさんがセドリックさんのモノを、上の口でも下の口でも堪能していた様子をずっと眺めていました」

 

 語った内容に、再び絶句する彼女。

 覗かれていたというのは、やはりショックだったようだ。

 

「見てたのに、どうして…?」

 

「どうしても何も……あんなに楽しんでいるところへ口出し何てできませんよ」

 

 リアさんは本当に美味しそうに肉棒をしゃぶり、肉棒に喘いでいた。

 止めに入るなど、失礼というものだ。

 

「ち、違っ! あたしはあんなの――」

 

「望んでいなかったと?」

 

 彼女の台詞を先読みして、割り込む。

 

「――そうよ。あたしはあいつに無理やり……」

 

「リアさんなら、いつだって力づくで抜け出せたんじゃないんですかね?」

 

「そ、それは――」

 

 三度、言葉に詰まる。

 

 実際問題、リアさんは冒険者すら殴り飛ばせる豪腕の持ち主。

 対してセドリックさんは、言っては何だがただの中年オヤジである。

 本気で嫌がっていたなら、簡単に抵抗できたはずなのだ。

 

 セドリックさんだけではない。

 店長だってそうだ。

 黒の焔亭で散々セクハラを受けてきたというのに、彼女はそこで働き続けた。

 ウェイトレスを辞めるという選択肢があったはずなのに。

 

 それをしない、してこなかったということはつまり――

 

「――とはいえ、結局はリアさんの心持次第ですからね。

 貴女がどうしても肉便器になりたくないというのであれば、私が何とかしましょう」

 

「え?」

 

 リアさんにとって思いがけない提案だったのか、彼女の表情が変わった。

 

「はい、私が店長達を説得しますよ。

 二度とリアさんに手を出さないように、とね」

 

「……え、あ、うん」

 

 リアからの返答はどうも歯切れが悪い。

 ――彼女の言葉が真実だったとすれば、迷うことなど無いはずなのに。

 

 私は彼女の迷いを払拭するため、次のような言葉をかける。

 

「……でも、いいのでしょうか?

 そうしたならば、リアさんはもう二度と男を味わえないことに」

 

 言って、私はリアさんを後ろから抱き締め、彼女の股の間へ股間を強く擦り付ける。

 

「あ、あぅぅっ…」

 

 ズボンとパンツを間に挟んでいるとはいえ、互いの性器が強く触れ合うその刺激に、リアさんはまた甘い声を漏らした。

 

「昨日のセドリックさんの肉棒も、店長のモノも――二度と」

 

「あ、あぁあっ…んんんぅうっ…」

 

 腰を動かすと同時に、彼女の身体も上下に動かしてやる。

 二重の刺激が重なり、リアさんの喘ぎはだんだんと大きくなっていった。

 

「その二人だけじゃありません。

 黒の焔亭に通っている男性客全てが、リアさんの膣に自分のモノを突き入れたいと思っているのですよ」

 

「あっあぁぁああっ……あぅぅっ……あぁんっ……」

 

 リアさんは腰をくねらせて私から与えられる快楽を貪っている。

 よほど興奮してきているようで、彼女のハーフパンツには愛液で染みができ始めた。

 

 ――果たして私の言葉は彼女の耳に届いているのか?

 そんな不安もよぎったが、彼女はしっかり返事をしてくれた。

 

「……みんな……思ってるの?……あぁああっ……私を……犯したいって……はぁああんっ……思って、るの…?」

 

「ええ、皆そう思っています。

 リアさんを孕ませてやりたいと。

 肉便器にしてやりたいと」

 

 これはお店の客に限った話ですらない。

 リアさん程の美少女を見れば、男なら誰しも関係を持ちたいという欲求を抱くはずだ。

 

 服越しの性器の触れ合いによって、ぴちょぴちょと音が立ち始めた。

 腰を動かすたびに、話をするたびに、リアさんの膣から液体が流れ出ているようだ。

 

「リアさんはどうなんですか。

 欲しくないんですか、味わいたくないんですか?」

 

「あぁあああっ……あたし……あぅうっ……あたし、は……」

 

 艶声をあげながら、私の言葉を否定できないでいるリアさん。

 

「どうしたいんです?

 これが欲しいんでしょう?

 今すぐ挿れられたいんでしょう?」

 

「あっあぁあっあぁああああ……あたし……あぁあああぁぁ……あたしぃ……」

 

 リアさんの股間を責め続けながら、彼女からの答えを求める。

 自分の気持ちを受け入れてしまえば、お互い楽しめるようになると思うのだが…

 

「……あぅぅう……クロダは……あたしが他の男に、その……抱かれて、も……あっあっ……

 あたしのこと……あぁああ……嫌いに、ならないの…?」

 

 ……ふむ。

 私のことを気遣ってくれているのか。

 

「あぁああっ……あたしの中に他の男のちんこが突っ込まれても……あぅうっ……あたしが他の男の子供妊娠しちゃっても……あんんっ」

 

「……嫌いになるわけないじゃないですか。

 肉便器になったリアさんは、きっと凄く魅力的ですよ」

 

「―――!!」

 

 聞くや否や、びくんっとリアさんの身体がのけ反った。

 

「あっ…あっあっあっあっあっあっ! あぁああああっ!!」

 

 そのまま身体を震わせながら絶頂するリアさん。

 ハーフパンツにできた愛液の染みがみるみる広がっていく。

 

 ――今の一言で、イってしまったようだ。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…」

 

 荒く息をつきながら放心している。

 言葉責めでここまで感じてくれると、なかなかいい気分である。

 

「……っと、そろそろ朝食を用意しなくては」

 

 リアさんと話し始めてから、結構長い時間が経過してしまった。

 陽葵さんも起きてくる頃合いだろう。

 

 彼女を私の上から降ろし、キッチンへ向かおうとしたのだが…

 

「……おや?」

 

 リアさんが私の腕を掴んでいる。

 その目は、未だに勃起している私の股間を見つめていた。

 

「クロダ……あんた、まだイってないよね?」

 

「……ええ、そうですね」

 

 瞳を潤ませて、彼女はこう言った。

 

「あ、あのさ……ここに便器があるんだけど。

 つ、使っていかない?」

 

「………」

 

 断る理由など、あるはずも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、魔族って他の種族と子供作らないんだな」

 

「はい、その通りです」

 

 陽葵さんの言葉に、私が頷き返す。

 

 所変わってここは<次元迷宮>。

 あの後、陽葵さんと朝食をとり(リアさんは疲れてしまったようなので、寝かせておいた)、早速今日の教育を始めた次第だ。

 

「正確には全く子供ができないというわけでは無いようですが。

 魔族同士ですら出生率は低く、他種族との混血はそれをさらに下回ると」

 

「そうなのかー」

 

 今は迷宮を歩きながら、魔族についての講義。

 ……講義というより雑談が正しいか。

 ちょうど魔物が少ない階層なので、雑談ができる程度の余裕があるのだ。

 

 ちなみにこの混血の話、当の魔族自身よく知らなかったりすることもあるらしい。

 

「……あれ、なんでオレ達こんな話してるんだっけ?」

 

「どうして人は魔族と戦ってこれたのか、という話からですよ」

 

「ああ、そうだったそうだった」

 

 前に話した通り、魔族は人に対して圧倒的といってもいい戦力を有している。

 であるにも関わらず、魔族は人を完全に制圧下に収めることはできなかった。

 人と魔族が戦いだしてから勇者が現れるまで、かなり年月があったにも関わらず、だ。

 これは一体どういうことなのか。

 

 この疑問に対して、人によって様々な理由が挙げられるだろう。

 ただ、私は繁殖力の違いこそが最も有力な解答だと考えている。

 

 一般的に、魔族一人に対して最低でも兵士5人で挑まなければ勝ち目がないとされている。

 単純に考えれば、この時点で人に勝ち目はないのだが――魔族は繁殖力が低いという弱点を抱えているわけだ。

 繁殖力の低さは魔族の数の少なさに繋がり、さらには補充も難しいということになる。

 簡単に言えば、いくら魔族1人で兵士5人を相手取れるといっても、魔族と人の人口比が1:5であるならば総合的な戦力は余り変わらないということ。

 

 人が皆兵士になるわけでは無いし、人にしろ魔族にしろ戦力の個人差はかなりばらつきがあるので、そう一概に言えたものではないけれども。

 

「しっかし、こういうのの定番とはいえ、どうして魔族は人に喧嘩売ってきたんだ?」

 

「一応、魔族ではなく魔王が仕掛けてきた、とされています。

 魔族達はあくまで魔王の命令に従っただけだと」

 

「あ、そうなんだ」

 

 実情はともかくとして建前上、魔王に全ての責任を押し付ける形で人と魔族の間には和平が現在は結ばれている。

 ギルド長の話から考えるに、戦いのシコリは今なお根深く残っているようだが。

 ……その辺り、地球でも似たようなものか。

 

「じゃあ、魔王はどうして人を襲いだしたんだろうな?」

 

「………さて。

 まあ、人同士でもちょっとしたきっかけで戦争を起こすのですよ。

 種族が違えばさらに軋轢が産まれやすいでしょう。

 しかも個人で見れば、魔族は明らかに人よりも強いのですから」

 

「そういうもんか」

 

「そういうものです。

 陽葵さんも、自分では思いもよらぬところから悪意を抱かれたことはあったでしょう?」

 

 私の問いに陽葵さんはうーんと唸ってから(うわ可愛いな)、

 

「……あんまりそういうことは無かったかな」

 

「陽葵さんは周囲の方々に恵まれていたのですね」

 

「改めて言われると、そうだったかも」

 

 こんな美貌を持ちながら、どこかガードが弱いのもそういうところに関係しているのかもしれない。

 

「……こちらに1人で来て、寂しくはないですか」

 

 良い仲間が多かったというのならば、尚のことウィンガストの生活に寂しさを募らせてしまっているかもしれない。

 今朝のリアさんとの会話もあって、私生活を探るような真似は失礼かとも思いながらも、私はその辺りを尋ねてみた。

 

「……寂しくないと言えば嘘になるけど。

 まあ、実際のとこそんなでも無いよ。

 ……ここだけの話、そこまで親しい友達もいなかったからさ」

 

「そうなのですか?」

 

 先程の話しぶりからして、友人は多そうだったが。

 

「いやいや、もちろん仲良い連中もいるよ?

 ただそういう奴らでも、一緒に遊びに行こうとすると、なんか引かれちゃうことあるんだよなぁ。

 泊まりの旅行とかだともうムリ。

 『絶対ダメだ』とか言われちゃってさ…」

 

 寂しそうに俯く陽葵さん。

 ……まあ、そのご友人方の気持ちも分からなくもない。

 間違いを犯してしまうのが怖かったのだろう。

 

 私としては、陽葵さんとなら幾らでも間違いを犯せるが。

 寧ろ犯したいが。

 

「部活の合宿でも他の部員、オレと一緒に風呂入ろうとしねぇし」

 

「……それはそれは」

 

 そのご友人達は本当に自制心の強い、良い人達だったのだろう。

 陽葵さんとの友情を守るべく、一線を超えないように必死で努力していたに違いない。

 

 私にはまずそんなことはできない。

 陽葵さんはそのご友人達のことを誇りに思うべきだ。

 

 とはいえこの話、彼にとっては余り楽しい内容ではない模様。

 私は少し強引に話題の方向修正を図る。

 

「……まあ、それでもご家族のことは心配になってしまいますかね?」

 

「いやぁ、オレ家族いないんだわ。

 孤児院で育ったから」

 

「…………すみません」

 

 方向転換した先はさらなる地雷であった。

 陽葵さんの“事情”を鑑みれば容易に想像つくものだったろうに。

 私の頭の巡りの悪さを露呈してしまった。

 

「別に気にすんなよ、オレは気にしてないから。

 孤児院は孤児院で住み心地良かったからな。

 先生も優しかったし」

 

「……そうでしたか」

 

 そうは言ってくれるものの、流石に少し意気消沈してしまう私。

 そんな私に気づいたのか、今度は陽葵さんの方から話を振ってきてくれた。

 

「黒田の方はどうなんだ?」

 

「……私の方、とおっしゃいますと?」

 

「ほら、お前だって家族とか友達とかいんだろ」

 

「私の場合はそれ程でも無いですね。

 仕事ばかりの生活を送っていたので、余り私生活で人と関わっていなかったんですよ」

 

「………それはそれでどうなんだ」

 

 ジト目で私を見つめる陽葵さん。

 その眼差しがお美しい。

 

「会社生活はかなり充実していましたよ?」

 

「……自分でそう言うんだったらオレがどうこう言うこた無いけどさ」

 

 一つため息をついてから、

 

「――と、それじゃ会社の方が心配だったりするのか?

 急に居なくなっちゃったから、仕事がちゃんとできてるのかなぁ、とか」

 

「ああ、会社ならちゃんと辞めてから来たから大丈夫ですよ」

 

「――――へ?」

 

 …………あ。

 

「いやいやいやいや、私はそんな大した仕事はしていませんでしたから!

 居なくなったところでそんな影響は無いかなとかそういう感じなんですよ!?」

 

「……そ、そうなのか?」

 

「そうなんです!

 もう私なんていなくても社会は回っていくというか私なんてただの社会の歯車の一つに過ぎないというか!」

 

「……わ、分かった!

 分かったから!

 顔が近い! 顔が!」

 

 思い切り詰め寄ってからの勢いで無理やり納得頂いた――はず。

 いつもと違うノリに引かれただけとも言う。

 

 うーむ、陽葵さんに変なこと聞いてしまった焦りがまだ抜け切れていなかった模様。

 油断も、あったかもしれない。

 今後はこんなことが無いように気を付けなければ。

 

 ……近づいて見ると、本当に可憐な顔立ちだな、陽葵さん。

 私の色んな意味で熱い視線に耐えきれなくなったか、彼がまた喋り出す。

 

「え、えーと、そうだ、恋人!

 黒田、恋人とか向こうにいなかったのか?」

 

「………恋人?」

 

「そう、恋人」

 

 突然の別方向からの質問に、思考が停止する。

 

「…………………………………………………………………………………………………………………いませんよ?」

 

「ほう、いるのか」

 

 陽葵さんがニヤリと悪い笑みを浮かべた。

 

「お前、東京に恋人いるのにローラさんに手出してたんだなぁ?」

 

「な、ななななななな何を!?」

 

 話題に頭がついていけない。

 これ以上無い程どもってしまった。

 

「……いませんから。私に東京の恋人なんていませんから」

 

「よし分かった。

 東京に帰れた暁には、お前の恋人にしっかりその台詞とこっちでのことを報告してやる」

 

「止めて下さい!!

 いや、私に恋人はいないんですけどね!?

 いないんですけれども、もし万に一つ陽葵さんがそういう人と出会ったとしてもそういうことはやってほしくないわけですよ!」

 

「はいはい……まあ、いくら恋人がいるっつってもローラさんみたいな美人に会ったら口説きたくもなっちゃうよなー。

 今はその恋人に会えないわけだし。

 お前の気持ちも分かるよ」

 

「ご理解頂けて何よりです」

 

 良かった。

 身体はほとんど女性でも、陽葵さんの心は男で本当に良かった。

 

「さぁて、じゃあ地球に戻る手段を早いとこ見つけないと!」

 

「……ん? 今のその返し、何か含みがありませんか?」

 

 ただ元の世界に戻りたいという以上の意思をその言葉から感じ取ってしまう。

 ナニかに怯える私に対し、陽葵さんは小首をかしげて(いちいち仕草が可愛いんだけど何なんだこの生物)、

 

「えー? オレは地球に帰る手段を探そうって言っただけだろー?」

 

「そ、そうですか……そうですよね?」

 

 本当にそれだけなのですか?

 

「うんうん……帰ったら恋人紹介しろよ」

 

「………だからいませんって。

 ――約束、破らないで下さいよ?」

 

「はっはっはっは」

 

 何だろう、その朗らかな笑いが私を不安にする。

 しかしその一方、陽葵さんの笑顔を見れて元気になる私もいた。

 なんか、もう、可愛いなぁこの子。

 

 まあ、今現在地球への帰還方法は判明していないのだが、ウィンガストにいる訪問者達のほとんどがその手段を模索している。

 そう遠くない内に、東京へ戻れるようになるのではないだろうか。

 ………他力本願とか言わないでほしい。

 

 

 第八話②へ続く



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②! 陽葵さんの新技?※

 

 

 ――と、そんな風に私達が談笑していたところへ。

 

「む、魔物がやって来たようですね」

 

「ようやくかー。

 へへ、腕がなるぜ」

 

 通路の向こうから、溝色ねずみの集団が駆けてくる。

 この階層に入ってから最初の遭遇だ。

 

「ひーふーみー……8匹ですね。

 かなり頭数が多いようですが、大丈夫ですか?」

 

「ふっふっふ。案ずるな、問題ない」

 

「分かりました。お気をつけて」

 

 私は陽葵さんを送り出す。

 最弱レベルの魔物とはいえ数が数だ、少々手こずることになるだろう。

 ――昨日までの陽葵さんならば。

 

 そう、今日の陽葵さんは一味違う。

 昨日までの探索でLvが幾つか上がり、手に入れたスキルポイントで新たなスキルを習得したのだ。

 既に覚えている<強撃>の熟練度を上昇させるという選択肢もあったのだが、最初は使い勝手のいいスキルの習得を優先した方がいいだろうという判断である。

 

 今回覚えたのは<薙ぎ払い(マウダウン)>という、その名の通り自分の周囲にいる敵をまとめて攻撃する武技だ。

 上手く扱えば今回のような複数の敵に対して効率的に戦うことができる。

 

「行っくぜ!」

 

 陽葵さんは自ら魔物の集団の中へと躍り出るや、早速<薙ぎ払い>を――

 

「……あれ?」

 

 スキル発動に伴い彼の身体を淡い光が包むのだが、それは<薙ぎ払い>のものではなく……<強撃>?

 

「ちょっと、陽葵さん!?」

 

 単体攻撃である<強撃>はこの場面に相応しいと言い難い。

 陽葵さん、焦って使用する武技を間違えたか…?

 

「<強撃>!」

 

 私の心配をよそに、陽葵さんは<強撃>の動作に入り――

 

「――と、<薙ぎ払い>!」

 

 その直後に、<薙ぎ払い>を使用した。

 

「………え?」

 

 思わず、驚きの声が漏れてしまった。

 

 <強撃>と<薙ぎ払い>による二色の光を纏いながら、陽葵さんは群がる敵を文字通り薙ぎ払った。

 <強撃>の斬撃を、<薙ぎ払い>の効果範囲へ。

 ――彼の周囲に旋風が巻き起こる…!

 

「………馬鹿な」

 

 驚きの声その2。

 

 魔物達は一掃されていた。

 倒れた魔物は、片端から魔晶石へとその姿を変えていく。

 

「へへ、いっちょあがりっと!」

 

 陽葵さんが満面の笑みを浮かべ(超可愛い)、私の方へ戻ってきた。

 

「どうよどうよ!

 オレが考えた必殺技!

 いやぁ、スキルのこと聞いたときから一緒に使えないかなって思ってたんだよねー。

 以降、このコンボを『クサナギ』と呼ぶ!――なんちゃって」

 

 クサナギとはまた御大層な名前を……いや、そうじゃなくて。

 

「あの、陽葵さん?」

 

「なに?」

 

「今、何を…?」

 

「何って、言っただろ。

 スキルを組み合わせて発動したんだよ」

 

 簡単に言わないで欲しい。

 

 スキルとは、特定の効果を発揮させる一連の行動を自動で実行する――いわばプログラムのようなもの。

 別種のスキルを同時に使えば、プログラム同士がかち合って、まともに発動することは無い。

 ……あるスキルの効果が持続中に別のスキルを使うことならばできるのだが。

 (例えば<屈折視>の効果を受けながら<射出>を使用する、とかだ)

 今の陽葵さんは、明らかに2つのスキルを同時に、しかも効果を掛け合わせて使っている。

 これは尋常なことではない。

 

「……ひょっとして結構凄いことなのか?」

 

「かなり凄いことです。

 少なくとも私は2種類のスキル効果を重ねて発動させられる人を見たことはありません」

 

 或いは、勇者クラスの人間であれば可能な芸当なのかもしれないが。

 流石は――の息子といったところか。

 

「おおおっ!

 うすうす気づいちゃいたが、やっぱオレってすげぇ!?

 へへへ、こりゃ最強の冒険者になる日も遠くねぇな!」

 

「ええ、おそらくは陽葵さんの特性によるものとは思いますが。

 さしづめ、<多重発動(コンボ)>といったところでしょうか」

 

 冒険者としての能力には、個人個人で異なる特性が発現することがある。

 陽葵さんの場合、複数のスキルを同時に発動できる特性を持っているということなのだろう。

 

 陽葵さんは嬉し気にニコニコ笑いながら、

 

「うんうん、いいね、その名前、気に入った。

 よし、この『クサナギ』で一気に迷宮攻略を――」

 

「ああ、いえ、その『クサナギ』の効果自体は<旋風斬り(トルネードバッシュ)>と同程度なので、それだけで迷宮攻略は厳しいですよ?」

 

「―――へ?」

 

 今度は陽葵さんの目が点になった。

 この、表情がコロコロ変わるところも彼の可愛らしい点である。

 

「………<旋風斬り>?」

 

「はい。

 今、陽葵さんが使った<強撃>と<薙ぎ払い>の組み合わせは、<戦士>の中級スキルである<旋風斬り>と大凡同じものです」

 

「………そうなんだ」

 

 がっくりと肩を落とす陽葵さん。

 

「凄い必殺技が手に入ったと思ったのに…」

 

「いやいやいや!

 <旋風斬り>を習得できるようになるのは大分先ですし!

 冒険者始めて数日で手に入るようなスキルじゃないんですよ!?」

 

 はっきり言って落胆するようなことでは全く無い。

 

「そ、そうか?」

 

「そうですよ!

 それに、今後もっと凄い効果の組み合わせが見つかるでしょうし!」

 

 さらに言えば、それぞれのスキルの熟練度を上げることで、組み合わせた際の効果も上がる可能性が高い。

 <多重発動>の特性には無限の可能性があると言っても過言ではない。

 

 ………本当、<勇者>なんて職業選ばなければ、あっという間にトップランクの冒険者になれたかもしれない。

 

「そうか……そうだな!

 見つけてやるぜ、最強のコンボを!」

 

 一瞬で気を取り直した陽葵さん。

 うん、実にお得な性格をしている。

 

「んじゃ、この調子でどんどん行こう!」

 

「その意気です」

 

 

 

 

 その数時間後。

 

「へへ、絶好調!」

 

 陽葵さんは順調に魔物を倒し、次の階層へと歩を進めていた。

 まあ、この辺りは<旋風斬り>(『クサナギ』)――を覚えた冒険者が苦戦するような階層では無いので、当然の結果ではある。

 ……そもそも陽葵さんの最高品質装備をもってすれば、手こずることすらあれ、負けることなどまずないわけだが。

 

「次が来ましたよ」

 

「おっしゃ!」

 

 私はと言えば、完全に傍観者と化していた。

 昨日までは大勢の魔物が来たときは手を貸していたのだが、今日はその必要すら無い。

 

 そんなわけで、今は後ろから陽葵さんの様子を――ピチピチのボディスーツにローライズなホットパンツを履いた陽葵さんの様子をじっくり鑑賞しているわけだ。

 <屈折視>と<感覚強化>を使えば、好きな角度から陽葵さんの肢体を見放題である。

 

 ホットパンツから半分露出したお尻や、丈の短いタンクトップでは隠せない腰のくびれが躍る様はどれだけ見ても飽きることは無い。

 陽葵さんが動くたびに弾ける汗も素晴らしい。

 きっとあのボディスーツの下は、汗で蒸れ蒸れになっていることだろう。

 是非中身を確認したいところだ。

 

「お、今度のはなんだか可愛いな」

 

「角兎の群れですね」

 

 角兎――体長30~40cm位の魔物で、兎と名がついているが実際はリスと兎の相の子のような非常に愛くるしい外見をしている。

 ペットにしたい魔物第一位に君臨していると専らの噂。

 

 しかし油断してはいけない。

 名前にあるように、角兎の額には鋭く長いツノが生えている。

 兎のようにぴょんぴょんと跳ねながらの突撃攻撃によって深手を負った初心者冒険者は数多い。

 

 とはいえ、今日の陽葵さんにとっては大した相手ではあるまい。

 鋭いツノも、陽葵さんの防具を貫くほどのものでは無いし。

 

「この外見、ちょっと気が引けちゃうなぁ……」

 

「魔物に容赦は無用ですよ」

 

 この愛くるしさも、角兎の武器といえる。

 初めて応対した冒険者には、外見に戸惑ってしまう人も多いと聞く。

 

「それもそうだな。

 じゃあ行くぜ!」

 

 陽葵さんはこれまで同様、角兎達に突貫していく。

 そして――

 

「『クサナギ』!」

 

 気合一閃。

 陽葵さんの剣によって巻き起こる旋風に、次々と角兎達は吹き飛んでいく。

 

「ふふーん、余裕余裕」

 

 ドヤ顔を決める陽葵さん。

 だが油断はよくない。

 目測が甘かったのか、『クサナギ』の効果範囲を逃れた角兎が一匹いた。

 

「陽葵さん、後ろです!」

 

「んん?」

 

 私の警告は間に合わず。

 陽葵さんの後ろに回り込んだ角兎は、彼へとツノを向け突進した。

 

 と、少し緊迫してみたものの、先述の通り角兎の攻撃程度では擦り傷かちょっとした打ち身がせいぜいなわけだけれど。

 ………せいぜいな、はずだったのに。

 

「あぁあああっ!!?」

 

 陽葵さんの悲鳴が迷宮に木霊した。

 

「―――陽葵さん!?」

 

 見れば、陽葵さんの身体に角兎のツノが突き刺さっている!?

 そんな馬鹿な!

 あの装備を貫けるような攻撃力を持っている魔物なんて、この階層にはいないはず。

 それともあの角兎、通常よりも強力な攻撃力を持った特殊な個体だったか!?

 

「あっ……あっ……あっ……」

 

 歯をガクガクと震わせながら、苦悶の声を漏らす陽葵さん。

 その顔は上気して―――妙に色っぽい?

 

「あっ……うそ、こんな……おっ……おっ……」

 

「………??」

 

 陽葵さんの言動に疑問を持った私は改めて彼をよく見てみた。

 すると――

 

「………えぇえええ」

 

 驚愕の事態に思わず声を出してしまった。

 角兎のツノは陽葵さんの身体に突き刺さっているわけでは無かった。

 いや、突き刺さっているには突き刺さっているのだけれど、場所がちょっと問題というかなんというか…

 

「おっ……おぉおおお……」

 

 “異物の侵入”に、陽葵さんは喘ぎにも似た息を吐く。

 

 ……そう、ツノは陽葵さんのお尻に――尻穴にぶち込まれていたのだった。

 た、確かに陽葵さんのボディスーツはかなり伸縮性に富んだ代物なので、ホットパンツの隙間からツノが入って的確な箇所に当たればこうなることもありえる――?

 

 

【挿絵表示】

 

 

 いやそんな無茶な。

 どんな天文学的確率だ。

 人に言ったら十人中十人に馬鹿にされるぞ。

 

 ……しかし、目の前でそれが起きた現場がある以上、いくら確率論的に否定しても意味がない。

 この事態をなんとかしなければ……

 

「―――キュィ、キュィイイイイ!」

 

 角兎の鳴き声だ。

 私があたふたしている間に、角兎は陽葵さんに致命傷を与えたものと勘違いし――いや、勘違いでは無いか?

 ともかく、陽葵さんの“内部をツノで抉るように”ように、角兎は身を捩ったのだった。

 

「んおおおっ!? やめ、やめろ、お、おぉおおおおおおおっ!!?」

 

 その“刺激”に、身体をのけ反らしながら嬌声を吐き出す陽葵さん。

 ――イってしまったのだろうか。

 

「―――キュイ、キュイ!」

 

 その様を、陽葵さんが苦しんでいるものと誤解した――誤解じゃないかも――角兎は、さらに激しく身体を動かした。

 そんなことをすれば当然、陽葵さんに挿さったツノは凄い勢いで彼の中をかき回すわけで。

 

「んぐぅうううっ!?

 あぁああ、あぁあああああああっ!!!」

 

 さらなる刺激によって、びくびくと震えながら再度わめき声を――いや、イキ声を晒す陽葵さん。

 

「あ…あ…あ…」

 

 陽葵さんの瞳の焦点が合っていない。

 口もだらしなく開けている。

 おそらく気をやってしまったのだ。

 

「あ―――」

 

 陽葵さんの身体から力が抜け、後ろに倒れる。

 角兎が居る、後ろへ。

 すると、どうなるか。

 

「んぉぉおおおおおおおおっ!!?」

 

 三度、陽葵さんの叫びが迷宮に響き渡った。

 

 尻もちをつくような姿勢で倒れた陽葵さん。

 だが、彼のお尻には角兎が挿さっている。

 結果として角兎は床と陽葵さんに挟まれるような形となり――その衝撃で、ツノはより深く陽葵さんに突き刺さった。

 

「お、おぉおっ、おっ、おおっ、んぉおおっ!!」

 

 己の奥深くに到達したツノに、陽葵さんは悶える。

 ――身をよじってよがるその姿は、苦しみながらも蕩けたその表情は、恐ろしい程にエロティックだった。

 

 ……だが、辛いのは角兎も同様であったらしい。

 

「―――キュイ、キュイィィ! キュィ!」

 

 陽葵さんのお尻にのしかかられた角兎は、そこから抜け出そうと必死でもがきだす。

 角兎の身体が動くたびに、ツノもまた大きく揺れた。

 

「んぃぃいいいいいいっ!!?」

 

 本日最大級の悲鳴――或いは喘ぎが陽葵さんの口から吐き出された。

 

 陽葵さんの目は見開かれ、涙が流れ落ちている。

 口から涎が垂れて、身体は細かく痙攣していた。

 

 しかし彼がそんな状態にあろうとも、角兎には関係のない話で。

 

「―――キュィキュイ! キュイーー!」

 

 陽葵さんの身体を押しのけようと、身をくねらせ、さらには無理やりにジャンプまで繰り出す。

 図らずもそれは、強烈なピストンを彼のお尻にかけることになり――

 

「ぐぎぃいいいいいいいっ!!?

 んぉっ! あ、あぁぁあああああああああああああっ!!!」

 

 あらん限りの声を張り上げ、陽葵さんは絶叫し、絶頂した。

 

「あぁぁあああああああ―――――」

 

 そして叫び声が消えると同時に彼の身体はだらりと垂れ――そのままぴくりとも動かなくなる。

 

「―――キュィ!」

 

 その姿を見て、角兎は陽葵さんを仕留めたと思ったのだろう――まあ間違ってはいない。

 陽葵さんの下から抜け出して満足そうに一声鳴くと、迷宮の奥へと駆け去って行った。

 

「……………はっ!?」

 

 そこで私はようやく我に返った。

 あんまりと言えばあんまりな出来事に、完全に頭の回転が止まっていたのだ。

 ――断じて、陽葵さんの艶姿を堪能したかったから放っておいたわけでは無い。

 

「陽葵さん、陽葵さん!

 しっかりして下さい」

 

 すぐさま走り寄って彼の身体を揺さぶるが、返事はおろか反応すらしない。

 というかこれはもう、誰が見ても色々と“手遅れ”な状態だった。

 幾度もの絶頂によって蕩けきったアヘ顔は、まず男の子がしてはいけない表情である。

 命に別状こそないだろうが…

 

 確認のため、陽葵さんのボディスーツを下半身部分だけ脱がしてみる。

 ――こんな時に抱く感想では無いが、セパレート式のスーツなので脱がすのは予想以上に簡単だった。

 

「…………うわぁ」

 

 スーツの中は、汗と精液でぐちょぐちょになっている。

 陽葵さんの強い匂いが、私の鼻を突いた。

 

 そして肝心のお尻だが――

 

「…………こんなに」

 

 スーツは思った以上に尻穴の深くまでねじ込まれていた。

 穴からスーツを抜き取る際に陽葵さんの身体がびくんと跳ねたが、彼の応答らしい動きはそれだけだ。

 

 丸裸になった彼の下半身に――汗まみれでより艶めかしくなったお尻に欲情を催しもしたが……

 

「………幾らなんでも今はまずいか」

 

 現在私達がいる階層は、出現する魔物は弱いものの、決して安全な場所ではない。

 それ以前の問題として、今の状態でヤったら流石に陽葵さんはもう戻ってこれなくなるのではないかという心配もあった。

 これより激しいプレイは、もっと陽葵さんの身体を開発してからだ。

 

「帰るしかなさそうですね」

 

 今日はもう陽葵さんに迷宮探索は無理だろう。

 私は彼を抱きかかえると、唇を舐め回し、乳首に吸い付き、お尻を揉みしだいてから、冒険証で<次元迷宮>を脱出した。

 

 

 

 さて、そんなこんなで夕飯時である。

 戻って陽葵さんを介抱していたら、もう結構な時間になってしまったのだ。

 ……ちなみに、あのだらしない顔つきをリアさんに晒すのは陽葵さん的にかなりきつかろうと思い、彼は今、私の自宅で眠りについている。

 

 それはそれとして、毎度おなじみ黒の焔亭である。

 私は入り口の扉をくぐろうとして――

 

「あれ、今日は早いじゃない?」

 

 リアさんと鉢合わせた。

 

「こんばんは、リアさん。

 ええ、少々早めに探索を切り上げまして。

 ……そちらはもうお帰りですか?」

 

 リアさんの格好は、Tシャツにカーディガン、スパッツという私服姿。

 仕事をしているようには見えない。

 

「うん、まあ色々あってね。

 今日のお仕事は終わり」

 

「そうでしたか」

 

 シフトの変更でもあったのだろう。

 私があれこれ詮索する話でも無い。

 

「ああそうだ。

 陽葵さんなんですが、今、私の家の方で寝ていましてね」

 

「へ? そりゃまたどうして――――まさかあんた…!」

 

 リアさんの目に剣呑な光が宿る。

 ……いったいナニを想像したのか分からないが、私は慌てて言い訳した。

 

「いえいえ、今日の迷宮探索で陽葵さん大分お疲れになっちゃいまして!

 すぐ休みたいようだったのですが、あいにくリアさんは家におりませんでしたから、私の家を提供したまでですよ」

 

「………ふーん、ならいいけど。

 ヒナタに怪我とかは無いわけね?」

 

 一転、今度は心配そうに聞いてきた。

 彼女の不安を拭うべく、私は説明を続ける。

 

「ええ、心配には及びません。

 激しい戦闘で、疲れ果ててしまったのです。

 特に怪我らしい怪我はありませんよ。

 彼が目を覚ましましたら、リアさんの家へ送り届けますので」

 

 ……戦闘が原因で激しく突かれて果てたのだから、嘘は言っていない。

 怪我については、彼の身体を隅から隅までじっくりと丹念に鑑賞――もとい、堪能――じゃなくて調査してもかすり傷一つ無いことを確認済みだ。

 

 リアさんも納得してくれたようで、

 

「え? まあクロダがあたしの家に来てくれるなら嬉しいけど……えと、無理してくれなくてもいいからね。

 今日はあんたの家でゆっくりさせてあげても」

 

 そのようなお達しを頂いた。

 

「分かりました。

 ではそのように」

 

 リアさんの許可を貰った以上、今夜はしっかりと陽葵さんを看病せねば。

 夜の楽しみが増えた瞬間である。

 

「じゃ、あたしは帰るから」

 

「はい、お疲れ様でした、リアさん」

 

「うん、またねー」

 

 手を振りながら帰路につくリアさん。

 その後ろ姿を少し見送りつつ、私は黒の焔亭の扉に手をかけ――

 

「いやー、やっぱり慣れないことはするもんじゃないってねー。

 あっはっはっはっは」

 

「……?」

 

 扉を開ける前に、背後からリアさんの独り言が聞こえた。

 その意味は測りかねたが、扉をくぐった瞬間、リアさんが何をやらかしたのかは理解できた。

 

「………店長―――!!?」

 

 店のフロアの真ん中で、店長が血だまりの中に倒れていた。

 つい先日退院したばかりだというのに、またやっちゃったのかこの人!?

 

 私は他のお客や従業員の目も気にせず、店長に駆け寄るとその身を抱き起す。

 

「店長! 店長!! いったいどうしたというのですか!?」

 

「……あ、ああ、クロダ、か…?

 ……あ、あ、駄目だ、もう目が見えねぇ……」

 

 かろうじて意識はあるらしく、私の言葉に弱弱しく返事をする。

 しかし、自身が言うように、視力を失っているようで、目が虚ろに泳いでいた。

 

「店長、どうしてこんな…!」

 

「……わ、分からねぇ……

 ……きょ、今日はリアのやつ、妙にしおらしくてよう……何かあったのか、不思議なくらいにな……」

 

 そこで一旦、辛そうに息を吐く店長。

 呼吸を整えてから、続けた。

 

「……これ幸いと、あれこれイタズラしてみたんだが……今日は全然抵抗しねぇでやんの……ゲハッ」

 

 吐血する店長。

 

「店長、ご無理はなさらない方が…」

 

「い、いいんだ……言わせてくれ……

 ……それで、調子に乗って色々ヤってたらよ……突然、特大の鉄拳が飛んできたのさ……それで、このざまよ……」

 

 ふむ。

 ということは――

 

「…………それは自業自得なのでは?」

 

「……へへ、そうとも言うな……」

 

 しかしリアさん、今日は何の心変わりか。

 最終的にいつも通りになったとはいえ、そこまでの過程に今までと大きな隔たりがある。

 朝、私が焚き付けたのが効いているのだろうか?

 

「……なぁ、クロダよ……リアを責めないで、恨まないでやってくれ……」

 

「――まあ、官憲沙汰になったらお縄になるのは店長の方ですしね」

 

「……違いねぇ……ゴホッゴホッ」

 

 殊勝な顔をしつつ、再びむせながら血を吐き出す。

 

「て、店長……」

 

「……はは、俺はもう、ここまでみてぇだ……」

 

 安らかな表情になる店長。

 ……まるで死を覚悟したかのように。

 

「そんなこと、仰らないで下さい…」

 

「……しけた面すんなよぉ、クロダ……

 ……へへ、俺ぁ碌な死に方しねぇだろうと思ってたが……ダチに看取られて逝くなんざ、なかなか上等なもん、じゃ、ねぇ、か……」

 

 店長の目が閉ざされる。

 同時に、彼の身体から力が失われていった。

 

「店長!? 店長―――! ゲルマンさーーーん!!!」

 

 慟哭。

 私は、あらん限りの声を張り上げて店長の名を呼んだ。

 こんな、こんなところでこの世界に来て初めてできた友人を――親友を失ってしまうとは。

 

 その次の瞬間。

 

「すいません、そろそろ掃除したいんで、三文芝居は止めてもらえません?」

 

「あ、はい」

 

 掃除道具を持ってきたウェイトレスさんに窘められ、私は邪魔にならないようにホールの端へと移動したのだった。

 

 ――ちなみに、同じくウェイトレスさんによって運ばれた大量の回復用ポーションをぶっかけることにより、店長はあっさり目を覚ました。

 いや、手慣れたものである。

 

 

 第八話③へ続く



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③ 尻穴って、本当に良いものですね※

 

 その後は滞りなく食事を終え、私は自宅への帰路についていた。

 陽葵さんが目を覚ましていた時のため、店長特製弁当も買ってある。

 

 ……なんだろう、そんなことは無いはずなのに、自宅へまっすぐ帰るのはなんだか新鮮な気がする。

 最近、夜に色々やることが多かったからだろうか?

 

「………ただいま戻りました」

 

 自宅のドアを開けながら、眠っているかもしれない陽葵さんを配慮して、小声で挨拶をする。

 誰も聞いてなかったとしても、家に帰ってきたときは『ただいま』と言いたくなってしまう私だった。

 

「陽葵さんの具合はどんなものでしょうか」

 

 そう独りごちると、私は陽葵さんを寝かしつけている部屋へと向かった。

 外傷はないのだから、連続絶頂による疲労の回復を待つだけのはずだが。

 と、そんなことを考えていると。

 

 「んぁ……あっ……あぅうっ……」

 

 なんとも艶のある声が部屋の方から聞こえてきた。

 ……これは間違いなく陽葵さんの声。

 もっと言うなら陽葵さんの喘ぎ声。

 

「……元気になられたようですね」

 

 目を覚まして早速自慰をするとは、陽葵さんもなかなかお盛んである。

 ――是非見物させて貰おう!

 

 私は自分に<静寂>をかけ、静かに陽葵さんの居る部屋へと向かった。

 

「……あぁっ……おっ……んぅうっ……」

 

 ………ほほぅ。

 

 そこには予想通り、ベッドの上で絶賛オナニー中に陽葵さんが居た。

 しかし、私が予想していなかったことが一つ。

 彼は、イチモツを扱いていなかったのだ。

 代わりに、自分の尻穴を指で弄っていた。

 

「……ん、うっうぅ……おおぉ……おっおっ……」

 

 うつ伏せになり、丸出しになったお尻を少し突き上げて肛門を擦る様は、女性の自慰風景に近い。

 ……こんなところまで女らしいのか、陽葵さんは。

 

 その光景に居ても立ってもいられず、私は部屋の中に侵入した。

 

「……んっんっ……あんっ……んぁっ……」

 

 私のことには一切気が付かず、自慰に夢中になっている陽葵さん。

 まあ、<静寂>をかけているのだから無理もないか。

 

 良く見れば、尻穴に添えた指はただ付近をなぞるだけ。

 内部へ挿れてはいなかった。

 ……これでは快感も半減してしまうだろうに。

 これは、彼を導く者の務めとして、正しいやり方を教えてやらねばなるまい。

 

 私は<静寂>を解き、陽葵さんに話しかける。

 

「そんなやり方ではダメですよ」

 

「ぬぁあああっ!!?」

 

 大声を出しながら、陽葵さんが起き上がりこちらを振り向いた。

 露わにしていた下半身も、布団で咄嗟に隠している。

 

「な、ななな、なんで黒田がここに!?」

 

「なんでも何も、ここは私の家ですよ?」

 

「り、リアの家じゃなかったのか?」

 

 陽葵さん的に、リアさんの家だったらオナニーしていてもいいのだろうか?

 ……ああ、夜はリアさんが居ないから、好き放題自慰できると考えたとか?

 

「リアさんはお仕事で家におりませんでしたので、私の家に運びました。

 ……正直、余り彼女に見せられるような状態でも無かったですしね」

 

「うぐっ」

 

 思い当たる節があるのか、言葉に詰まる陽葵さん。

 構わず、私は続ける。

 

「……見事なまでにぶっ刺さってましたね、ツノ」

 

「ワザワザ説明しなくったっていいだろう!?」

 

 顔を真っ赤にして抗議してくる陽葵さん。

 

「いっそ芸術的ですらありました。

 一体どんな確率を掻い潜ったらあんなことが起きるというんですか。

 ――これは凄いことですよ、陽葵さん」

 

「全然嬉しかねーよっ!!」

 

 陽葵さんはうっすら涙目なる。

 そんな表情もまた可愛いわけだが。

 

「そんなこと言って、実は気持ち良かったんでしょう?」

 

「……え?」

 

 私の一言に陽葵さんが不思議そうに返事をした。

 

「先程まで、お尻で自慰をしていたじゃないですか」

 

「―――なっ!?」

 

 陽葵さんの口がパクパクと動く。

 驚きすぎて、言いたいことが口から出てこないといったところか?

 

「ああ、それとも尻穴を使った自慰は昔からやってました?

 だとしたらすいません、私はてっきりツノが挿さったことをきっかけに始めたのだとばかり思ってしまいまして」

 

 陽葵さんが言葉を発しないので、私の方で話を続ける。

 といっても、彼の様子を見るに私の声が聞こえているのか怪しいところだが。

 

 ひとしきり口をパクつかせてから、ようやく陽葵さんが言葉を発した。

 

「―――み、見てたのか?」

 

「見てましたよ?

 ここは私の家ですし」

 

 あっさりと返事をする。

 

「――いや、あの、あれは、違くて」

 

 陽葵さんはしどろもどろになって否定しようとしているが、

 

「そんな恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか。

 別にやましいことをやっていたわけじゃありませんし。

 ……実のところ、私も昔ちょっとやってしまったことがありましてね」

 

「――え。そ、そうなの?」

 

 私もやったことがある、というところに親近感を覚えたのか、陽葵さんの緊張が少し解ける。

 実際これは嘘ではない。

 学生の頃、試しにやってしまったことがある。

 いまいち馴染めなかったのでそれ以来ご無沙汰しているが。

 

「はは、好奇心に抗えませんでした。

 まあ、男性ならそういうことの一度や二度あるでしょう」

 

「そ、そうか。そうだよな!」

 

 私が陽葵さんの行為を受け入れる態度でいるためか、彼も大分安心したようだ。

 ややぎこちないものの、笑顔も見せている。

 

「しかしやり方は感心できませんね。

 あれでは余り気持ち良くなれませんよ」

 

「……あー、黒田?

 そんなレクチャーされると流石にちょっと引いちゃうぞ?」

 

 苦笑いへと表情を変える陽葵さん。

 私が冗談を言っているように思っているのか、返しに真剣味が無い。

 だが私は構わずに話をする。

 

「本当に快感を得たいのならばですね、あのようにちょっと触っている程度じゃ駄目なのです。

 もっとぐいっと突っ込んでやらねば。

 ――ほら、このように」

 

 言うが早いか、私は素早く陽葵さんの尻に手をまわし、彼の穴に人差し指を挿し込んだ。

 さっきまで自分でほぐしていたせいか、存外簡単に指が入っていく。

 

「んぁぁああああああっ!!?」

 

 陽葵さんの口から嬌声が放たれる。

 そのことに満足を覚えながら、さらに彼へ話しかけた。

 

「先程のオナニーよりもずっと気持ちいいでしょう?

 せっかくの行為なんですから、しっかりとやっておいた方がお得ですよ」

 

 得意げに語ってみるが、陽葵さんに聞く余裕はなさそうだ。

 途切れ途切れの声で言葉を紡いでくる。

 

「……あっあっ……く、黒田……んぐぅっ……お前、何を……おっおっ……」

 

「何と申されましても、まあ、正しい尻穴自慰のやり方ですかね?

 ここをこうすれば、さらに気持ち良くなれますよ」

 

 私は突っ込んでいる指を中でかき回す。

 ――すると、

 

「んぉおおおっ!!? おっおぉおおおおおっ!!」

 

 けたたましい叫びをあげながら陽葵さんの身体はのけ反り、勃起した彼の性器から精液が迸った。

 ただこれだけのことでイってしまったようだ。

 相も変らぬ感度の良さである。

 自分で弄っていた直後だったこともあるかもしれない。

 

「あっあっあっ………ああぁぁ……」

 

 そのままゆっくりとベッドに倒れていく。

 私は肛門から指を抜くと、荒く息をつく陽葵さんに語り掛ける。

 

「どうです、いい気分になれたでしょう」

 

「……あっあっ……ば、バカ野郎……んくっ……何しやがんだ、変態……」

 

 文句を言っているようだが、とろんと垂れ下がった瞳ではいまいち迫力が無い。

 私は遠い目をしながら、

 

「ふふ、男なんて皆何かしらの変態なのですよ」

 

「利いた風なこと言うな!……って、何すんだ?」

 

 言葉の最後に私への質問をする陽葵さん。

 私が彼の身体をうつ伏せになるように転がしていることについて聞いているのだろうか?

 身体に力が入らないのか、陽葵さんはなすがままだ。

 

 私はすっ呆けた体を装って答える。

 

「いえ、陽葵さんにもっと気持ち良くなって頂こうかと」

 

「い、いらねぇよ! そんなのいいからもう出てけ……っておい!!?」

 

 急に陽葵さんが大声を出した。

 何があったというのか。

 

「どうかしましたか?」

 

「どうかしましたかじゃないだろう!

 な、なんでお前ちんこ出してんだよ!!」

 

 ああ、私がズボンから肉棒を取り出したことに驚いたのか。

 ベッドの近くに備えてあるローションを愚息に垂らしながら、私は返答する。

 

「これですか?

 大したことではないのですが、私のイチモツを陽葵さんの中に挿れようかと」

 

「―――はぁ!?」

 

 陽葵さんは素っ頓狂な声を上げる。

 

「ば、バカかお前!? 何言ってんだ!!

 ちんこ挿れるってオレ男だぞ!?

 そんな気色悪いこと――」

 

 私は暴れようとする陽葵さんを押さえつけながら、

 

「はは、大丈夫ですよ、私は気にしません。

 男同士なんですから、陽葵さんも変な遠慮はいりませんよ」

 

「――アホ! そんなこと言ってんじゃねぇよ!

 黒田、お前頭イカレてんのか!!?」

 

 馬鹿だの阿保だの酷い酷い言われ様である。

 そんなことは気にせず、私は己の棒を陽葵さんの穴へ添えると、

 

「さ、行きますよ。

 力を抜いていて下さい」

 

 腰を彼にむかって突き出した。

 

「ちょ、止め――――!!!」

 

 ローションのおかげか、それとも今までの調教の成果か。

 多少の抵抗はあるものの、イチモツはゆっくりと陽葵さんの中に沈んでいった。

 

「お、お、これはなかなかきついですね」

 

「あっ…あっ…あっ…あ―――!!」

 

 両手で陽葵さんの身体を掴み、腰を彼のお尻へと押し付けていく。

 ――ややって、私の肉棒は完全に陽葵さんへと埋没した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……あっ……は、入っちゃった……んんっ……う、うそだ……おぅっ……」

 

 陽葵さんは呆然としている。

 

「ふふ、どうですか陽葵さん」

 

「……ん、おっおっおっ……や、やだ……おおおっ……こ、んな……ああぁんっ……」

 

 息も絶え絶えで喘ぐ陽葵さん。

 十分気持ち良くなって貰えているようだ。

 

 ――しかし、いざ挿入してみると陽葵さんの尻穴、凄まじい名器である。

 普通、後ろの穴はただ排泄物を出すだけのものであり、男性器を受け入れる機能など無い。

 だというのに陽葵さんの中は、女性器もかくやという程に私のイチモツを満遍なく締め付けてきた。

 俗に“けつまんこ”という単語があるが、それはまさに陽葵さんの穴を指す言葉と言えよう。

 

「では、動きますよ」

 

 その言葉を合図に、私は腰を振り始める。

 

「だ、だめ…ん、んぁぁあああああっ!……お、おおお、おっおっおっおっおお!」

 

 拒む素振りを一瞬見せた陽葵さんだったが、すぐ嬌声にかき消される。

 私の愚息を十分に堪能頂いているようだ。

 

「さぁ、どんどん感じて――」

 

「あ、ああぁぁあああああっ!! んぁぁああああああああっ!!」

 

「―――おや?」

 

 陽葵さんが全身を硬直させてぶるぶると震える。

 同時に、私の愚息がぎゅうっと締め付けられた。

 

 見れば、陽葵さんの少し小ぶりな性器からは精液が垂れ落ちている。

 またもや絶頂してしまったらしい。

 知ってはいたが、感度が良すぎる。

 

「もうイってしまったんですか、陽葵さん。

 そんなに私のモノが良かったのですかね」

 

「おっ……おおっ……おっおっおっ……」

 

 語り掛けるも、陽葵さんは余韻に浸って聞こえていない様子。

 彼のお尻がぷるぷると動くと、私の肉棒が締められる。

 ……本当に女性の膣と見紛うような尻穴だ。

 いや、女性器でもここまでの動きをするものは珍しい。

 

 陽葵さんの身体の神秘に感嘆しながら、私はピストンを開始した。

 

「あっ!? あっああぁあっ! んぉおおっ!!」

 

 私の腰の動きに合わせて、陽葵さんが喘ぎ始める。

 身体も素晴らしいが、彼は声もいい。

 女性的な色気を帯びるその声は、思わず聞き入ってしまう響きを奏でていた。

 

「おっおおっ……ま、待った……んぐぅうっ!……オレ、今イったから!……んぁあああっ……イったからぁっ!……おぉおおっ!」

 

「いいですよ、またイって下さい」

 

 彼が絶頂へ辿り着けるよう、さらに腰を激しく動かす。

 陽葵さんの快感が高まるにつれ、彼の穴から与えられる刺激も強くなっていった。

 これならいくらでも腰を振れそうだ。

 

「んぃいいいいいっ!?……も、ムリっ……おぉぉおおおおっ! イク、イっちゃうぅうううっ!!」

 

 陽葵さんの身体が強張る。

 私の男性器が彼の穴に強く締められた。

 こんな短い間にまたオーガズムを迎えたようだ。

 

 しかし、彼の性器に射精した様子は無かった。

 精液を出さずにイクとは…

 

「女の子のようなイキ方をしましたね、陽葵さん」

 

「あーっ……あぁ、あっ……あーっ……あーっ……」

 

 当の陽葵さんは上の空。

 瞳の焦点は定まらず、口からは涎が垂れ流されていた。

 

 陽葵さん的にはいっぱいいっぱいなのかもしれないが、あいにく私はまだ一度も射精していない。

 もう少しお付き合い頂こうか。

 

「よいしょっと」

 

 呆然としている陽葵さんの身体を今度は仰向けにし、足を持ち上げてまんぐり返しの姿勢をとる。

 シャツを捲り上げ乳首を露出させると、彼の全てが一望できるようになった。

 

「あ、う……あーっ……あぁ……あーっ……」

 

 陽葵さんはまだ自分の状態を把握していない模様。

 しかし彼が正気に戻るのを待ってやれる程、私も我慢強くない。

 

「さぁ、ここからは一気にやりますからね。

 しっかり耐えて下さいよ」

 

 そう告げてから陽葵さんに覆いかぶさり、私自身が絶頂すべく腰を激しく往復しだす。

 

「んぉおおおおっ!? ま、またぁああっ!? あぁあああああっ!!」

 

 後ろの穴への刺激で、陽葵さんは少し正気を取り戻したらしい。

 とはいえ、私がやることは変わらない。

 自分が昂りきるまで陽葵さんへイチモツをぶつけ続けるのみ。

 

「おおぉぉおおおおっ! んぁぁあああっ! おっおおっおっおっおっおっ!」

 

 陽葵さんの嬌声をBGMに、私は身体を振り続ける。

 

「んっんんんっおぉおおおおっ!! あっあっあぁぁああああっ!!」

 

 愚息への圧が強まったことから察するに、再度陽葵さんは無射精の絶頂をしたのだろう。

 素晴らしい快感だが、イクにはまだ少々足りない。

 おかまいなしに、私は動き続ける。

 

「あぅううっ!? イったっ! あぁぁああんっ! イってる!! オレ、今、イってるからぁああっ!!」

 

 それは私も分かっている。

 しかし私はイっていないのである。

 少しでも早く絶頂できるよう、腰の動きを早める。

 

「んぉおおおおっ!! やめろ、やめろぉぉおおおおっ! んぃいいいいっ!!」

 

 私から逃れようと暴れ出す陽葵さんを、両手でがっちりと抑えつける。

 冒険者の中では力は弱い部類の私だが、それでも冒険者になってばかりの彼よりかは腕力がある。

 陽葵さんは必死に身体を動かすが、逃しはしない。

 

「あっああぁああっ! またイくぅうううううううっ!!」

 

 陽葵さん、絶頂。

 彼の性器は痛々しい程に勃起しているのだが、今回も精液は出ない。

 不思議なものだ。

 

 ……実はそろそろ私もイケそうなのだが、もう少し陽葵さんのこの姿が見たいため、我慢することにした。

 

「んがぁあああっ!! お願い、やめてぇえええっ! んぎぃいいいっ!」

 

 陽葵さんが懇願しだした。

 そう言われても、腰は止められそうに無い。

 それ程、尻穴から得られる快楽は凄かった。

 

 代わりと言っては何だが、彼の乳首に吸い付き、歯でカリカリと噛んでやる。

 

「あぃいいいいいっ!?」

 

 陽葵さんの艶声のトーンがさらに上がった。

 こっちでもきちんと感じてくれているようだ。

 

「おお、おっおっおっおおおっ! も、ダメっ…コワれるっ! コワれるぅうううっ!!」

 

 陽葵さんの身体が仰け反って、びくんと跳ねる。

 またまたイッたか。

 そして射精もせず。

 いつになったらザーメンを出すのだろう?

 

 彼は自分の身体を心配しているようだが……大丈夫、これ位で人は壊れたりしない。

 そろそろ私も絶頂できる。

 ラストスパートで腰を振った。

 

「あがぁあああっ! あっおぉおおおおっおおっおおおおおっ!!」

 

 陽葵さんもそれに応えてけたたましく喘ぐ。

 それを聞いて私の昂りも階段を駆け上がっていった。

 

「おお、おぉおおっ!! ごめ、ごめんなさいっ! ごめんなさいぃいいいいっ! もうゆるしてぇええっ!!」

 

 陽葵さんは何を謝っているのか。

 何も悪いことはしていないというのに。

 寧ろ彼に感謝したいくらいだ。

 

 私はトドメとばかりに全身全霊をもってイチモツを陽葵さんへと叩き込んだ。

 

「いぎぁあああああああっ!!! んぉおおっおおおおっおおおぉぉおおおおっ!!!!」

 

「くっ、私もイきますよ!!」

 

 私達は同時に絶頂を迎えた。

 陽葵さんの肛門の中へ精液を注ぎ込むと同時に、彼の中がうねり、私のモノを搾り取っていく。

 そして。

 

「おおっおっおぅっお、おおおおおおっ!!!」

 

 陽葵さんの男性器から、透明な液体が噴出した。

 精液とも尿とも違う、これは――

 

「潮吹きですか。

 男でもするものなんですね」

 

 随分と珍しいものが見れた。

 流石は陽葵さんである。

 

「あひっ……はふっ……んっんんっんっ……あひゃっ……おふっ……」

 

 陽葵さんはというと、痙攣しながら放心していた。

 目は光を失い、口は半開き、涙と涎が垂れ流しになって、顔全体がだらしなく弛緩している。

 その表情は実に淫猥で、自身の潮によって濡れた肢体の艶めかしさと合わせて、見る者の情欲を刺激した。

 

「……おっと」

 

 また私の肉棒が勃起してしまった。

 こんなエロい光景をみさせられてしまってはやむなしといったところだろうか。

 

「陽葵さん、もう一発大丈夫ですか?」

 

「……ん、おぉっ……おぅっ……はっはひっ……おっおっ……」

 

 問いかけてみるも、全く反応を示さず。

 …………まあ、陽葵さんは強い子だ、大丈夫だろう。

 

 そう考えて、私はそそり立った愚息を再び陽葵さんの菊門へと突き立てたのだった。

 

「はひゃぁああああああっ!!!?」

 

 部屋に、陽葵さんは歓喜の声――だろう、多分――が響く。

 

 

 数時間後。

 

「……あ……あ、あ……あ……ああ……」

 

 私の目の前には、全身精液塗れになった陽葵さんの姿があった。

 途中から趣向を変えて、彼の身体へ精液をかけることにしたのだ。

 ……興が乗ってしまって、予定より少々多く回数をこなしてしまった。

 

 今陽葵さんは、目は開けているものの、どこを見ているのか分からない。

 或いは気絶しているのかもしれなかった。

 

「………これが最後ですよ――っと!」

 

 私は彼の顔に向けて、本日最後(にしようと思っている)の射精を放つ。

 ついでに口の中にも男棒を突っ込み、精液を塗ったくってやる。

 

 全身余すところなく私の精液に包まれた陽葵さんを、私は満足げに見やった。

 なんとなく、彼を自分のモノにできた感覚を味わえ、非常に楽しい。

 

「……あー……あ……あぁ……あー……」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 陽葵さんから何のリアクションも無いのが寂しいところだったが。

 ……流石に、今日はこれで終わりか。

 

 私は彼の身体を粗方拭いてから、就寝したのだった。

 

 

 

 第八話 完

 

 

 

 

 後日談……はっきり言えば翌朝のこと。

 

「おはようございます、陽葵さん。

 朝食は用意してありますので、適当に食べて下さい」

 

「って普通かよ!?」

 

 リビングにて朝食を配膳していたところに、陽葵さんが起きてきた。

 ――昨日の片付けが少々甘かったらしく、髪や顔などに少し私の精液が残っている。

 本人は気づいていないのか、気にしていないのか。

 

「もっと凝った食事の方がよかったですか?

 すみません、余り時間がありませんで…」

 

「そんなこた言ってねぇっつーの!

 お前、お前、昨日あんなことやっといて…!!」

 

 食事のことを無視して、私に詰め寄る陽葵さん。

 なお、今の彼はタンクトップにボクサーパンツという下着姿だったりする。

 余程急いでリビングに来たのだろうか?

 とにかく、その姿のエロさったらなかった。

 

「あんなこと……ああ、角兎の件は本当にご愁傷様でした」

 

「そっちのことじゃねぇよ! いや、そっちも辛かったけども!!」

 

 喚き立てた後に、頭を抱えて蹲る陽葵さん。

 

「ああああああ……オレ、男とヤっちまったぁ……」

 

「まあまあ、気を落とさずに」

 

 落ち込む陽葵さんの肩を叩き、慰める。

 すると彼はすぐに立ち上がって、

 

「気を落とすわぁ!! お、オレ、初めてだったんだぞ!?

 それを……それを……!!」

 

「なぁに、男同士ならノーカンですよ、ノーカン。

 家族とキスしてもファーストキスにはならないでしょう?

 あれと同じで」

 

 陽葵さん、少し涙目になっている。

 それ程までにインパクトの強い出来事だったのか。

 一応宥めてみたものも、彼の勢いは止まらなかった。

 

「同じなわけ無いだろう!?

 っていうかなんでそんな平気な面してんだよ!

 お前、男のケツに突っ込んでたんだぞ!」

 

「いえ、私は陽葵さんとヤれて嬉しかったですよ?」

 

「――ん、ぐっ」

 

 私の台詞に面食らったようで陽葵さんが一瞬言葉に詰まった。

 

「……いき、なり、何言い出すんだバカ!!

 お前にゃローラさんがいるだろうが!……ってそうじゃなくて!」

 

 少し顔を赤らめている辺りが愛らしい。

 何気に私を気遣ってくれているのも男心をくすぐってくれる。

 

「……くそっ、お前とんでも無い変態だな!

 もっと真面目な奴だと思ってたのに…!」

 

「昨日言ったじゃないですか、男は誰しも変態なんですよ。

 陽葵さんだって…」

 

「オレのどこが変態だ!?」

 

 どこが変態と言われれば。

 

「イチモツを尻の穴に挿れられて、喘いでしまうのは変態と言えるのではないでしょうか?」

 

 思ったことを真っ正直に答えてみる。

 はっきり言って、あんなことは私でもできない。

 

「――うぐっ、そ、それを言うなよ!

 大体、あれはお前が無理やり……」

 

「確かにやや強引ではありましたが……」

 

 ここで私は陽葵さんの尻をなでる。

 しっかりとした弾力があるにも関わらず柔軟な手触りの、実に良いお尻。

 

「気持ち、良かったでしょう?」

 

「んぁっ……ちょ、いきなり尻撫でる、なっ」

 

 いきなりの愛撫でもちゃんと反応してくれるのが、陽葵さんのいいところだ。

 

「これは失礼。で、どうなんです?」

 

「…………ま、まあ、少しは気持ち良かった…かも」

 

 陽葵さんはそっぽを向いて、ぼそっと呟いた。

 正直でよろしい。

 

 私は彼の頭を撫でて、こう告げる。

 

「これからは毎日してあげますからね」

 

「――は、はぁっ!? 何言っちゃってんのお前!?」

 

 びっくりした顔で、陽葵さん。

 私の申し出はそんなに驚くことだったのか?

 

「むむ。では、どれ位の頻度でなら良いのですか?」

 

「ヤること前提で話するんじゃねぇよ!

 お前となんてもう……ひゃぅっ!?」

 

 私は陽葵さんのお尻に手を当て、彼の菊門の辺りを指で弄ってやった。

 

「んあっ……あっあっあっあっ……」

 

「私となんてもう?

 もう……何なんですかね?」

 

 ボクサーパンツの上から、くいっくいっと穴を刺激してやる。

 

「………ん、んんっ……もう、その、週に一回くらいなら……」

 

 身体をくねらせながら、陽葵さんは答えた。

 ……週に一回きりか。

 

「うーん、一回だけですか?

 もっと、やりましょうよ」

 

 下着ごと、指を穴の中に突っ込む。

 

「んおっ、おっおぉおっ!?――や、だ……だって、オレ、リアが……リアがぁ……あぁあぅっ」

 

「言ったでしょう、男同士なんて勘定に入りません、て。

 それに、私とシタところで、リアさんに会えなくなるわけじゃないんですから」

 

 ぐりぐりと穴の中を混ぜてやる。

 

「あぁぁああああっ……ふ、二日っ! 二日お前に付き合うからっ! おおっおっおっ! そ、それでいいだろっ!?」

 

 二日――即ち48時間、陽葵さんを好きにできるのか。

 まあそれも素敵な条件ではあるが、もう一声欲しいところだ。

 

「――仕方ありませんね。

 これは使いたくなかったのですが……」

 

 こうなったら奥義を出そう。

 <念動>を使った、前立腺への直接マッサージである。

 

「っっっっっっ!!!?

 おぉおおおおおおおっ!!? なにこれっ!? なにこれぇえっ!!? んぃいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 他人の体内への干渉は難しいのだが、上手くいったようだ。

 散々彼の身体を弄り倒し、隅から隅まで肢体を把握したからこそできる芸当である。

 

 陽葵さんは、突然の強烈な、未体験の刺激に訳も分からず暴れ出そうとする。

 だが、私は彼を抱き締めて動けないようにした。

 

「どうですか、陽葵さん。

 毎日、しませんか?」

 

「あああぅううううっ! 分かった! 分かったからっ! んぁっあぁあああっ! 毎日するっ! 毎日する、からぁっ!」

 

「よく言えました」

 

 ご褒美に、突っ込んだ指を中で思い切り暴れさせてやる。

 <念動>と指による同時攻撃だ。

 

「んごぁあああっ! おおおっぉぉおおおおおおっ!」

 

 びくっびくっと痙攣する陽葵さん。

 彼のパンツに精液の染みが広がっていく。

 本日一回目の絶頂というわけだ。

 ……一晩中責め続けた成果なのか、陽葵さんの快楽の許容量が大分増えた気がする。

 

 そのまま気をやって倒れそうになるのを支え、近くの椅子に座らせた。

 そしてアヘ顔を晒す陽葵さんを見ながら、呟く。

 

「まあ、こう言って頂けたのはありがたいですが……」

 

 実際に毎日ヤってしまったら、陽葵さんの日常に支障が出てしまう。

 特に私は、他の人よりも少しだけ――ほんの少しだけ、セックスにかかる時間が長いようだし。

 適度な頻度を心がけることにしよう。

 

 

『室坂陽葵が正式に仲間(セックスフレンド)へ加わった!』

 

 

 ……久しぶりに聞いたな、これ。

 あの一回だけのネタじゃなかったのか。

 

 ともあれ、これで毎日の彩がさらに増すというもの。

 上機嫌になった私は、一先ず用意した朝食に手を付けるのだった。

 

 

 後日談 完



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第九話 ある社畜冒険者の新人教育 六日目
① 陽葵さんと朝から


 

 

 

「今日はまず商店に行きましょう」

 

「―――え?」

 

 私は今日の予定を陽葵さんに告げる。

 

「ローラさんとボーさんのお店は紹介しましたが、どちらも専門店ですからね。

 冒険者に必要なアイテムを全般的に扱う商店も教えておこうかと思いまして」

 

「―――いや、ちょっと」

 

 陽葵さんはなんだか戸惑い気味。

 確かに、彼からしてみればいきなり予定を変更されたのだから、無理もないか。

 

「急な話で申し訳ありません。

 元々は<次元迷宮>に行ってからその商店へ立ち寄るつもりだったのですが、今日は少し朝が遅くなってしまいましたから」

 

「朝遅かったのはお前が色々やってきたせいだろ!……って、そうじゃくてな」

 

 一拍間を置いてから、陽葵さんは口を開く。

 

「――お前、なんでいきなり風呂に入ってきたの?」

 

 私を睨みながら(相も変わらず可愛い表情だ)、そんな疑問を呈してきた。

 そう、ここはお風呂であり、陽葵さんは現在入浴中であった。

 昨日やったプレイの名残がところどころ落ちきっておらず、朝風呂に入ることになったのである。

 とはいえ――

 

「ここは私の家ですが」

 

 私の家の風呂に私が入ることに対し、いったい何の不都合があろう。

 そんな自明の理に、陽葵さんは異を唱えてくる。

 

「自分の家だったら人が入ってても風呂に来るのかよお前は!!」

 

「何か問題でも?」

 

 あっさりと答えた私に、陽葵さんは頭を抱えて蹲ってしまった。

 

「ああああああ……こいつ変態すぎるぅ……」

 

 そんな、今更。

 悩める陽葵さんは一先ず置いておき、私はここに来た目的――つまりは入浴をするため、湯船に足を入れた。

 

 朗らかに笑いながら、陽葵さんに話しかける。

 

「まぁまぁ、男同士、裸の付き合いも偶にはいいものでしょう」

 

「………お前、昨日あんなことになったからって調子に乗ってねぇか?」

 

 そんなことは無いですよ?

 ジト目な陽葵さんを適当に受け流しつつ、私はお湯に浸かる。

 

 私の家の風呂はかなり大きく造ってあるため、二人同時に入ってもそう不自由しないのだ。

 

「――はい、失礼します」

 

「何の躊躇もなく入ってきやがったな……うわっ!?」

 

 陽葵さんが急に大きな声を上げた。

 

「どうしました?」

 

「……あ、と、その……お前、すげぇ身体してんのな」

 

 目を大きくして私の身体を見る陽葵さん。

 そういえば、陽葵さんの前で全裸になったのは今が初めてだったか。

 

 とはいえ、そんなにジロジロ見られると少しその―――興奮してしまう。

 

「そうですか? これ位普通だと思いますけど」

 

 それ程多くの男の身体を見てきたわけではないが、私の体格はまあ平均程ではなかろうか。

 

「普通、腹は割れねぇよ……腹筋が6つに割れてるやつなんて初めて見たぜ。

 腕や足もがっしりしてるし――お前、本当に<魔法使い>か?」

 

「冒険者をやっていればこれ位になるんじゃないですかね」

 

 確かに、陽葵さんに比べれば筋肉質かもしれない。

 

 無駄な肉などどこにもついていないのに柔らかい肢体、きめ細かい肌。

 女性と見紛う――いや、女性以上に艶めかしい。

 

 正直なところ、陽葵さんに比べればどんな男でも筋肉質と言っていいのではないだろうか。

 

「……オレもその内そんな風になれるのかな?」

 

「陽葵さんは無理でしょう」

 

「なんでだよ!?」

 

 何となく。

 陽葵さんはどうやっても今の女性らしさを失わない気がする。

 失って欲しくないという願望もある。

 

「そもそも、陽葵さんはマッチョな男性になりたいのですか?」

 

「そういうわけでも無いんだけどさ……なんつうか、男として筋肉への憧れはあるわけで――っておい」

 

 話の途中でつっこみを交えてきた。

 今度は一体なんだというのか。

 

「どうしました?」

 

「白々しい返事すんな!

 お前、何おっ勃ててんの!?」

 

 これはまた変な質問である。

 

「陽葵さんとお風呂に入ったのだから興奮するのは当たり前でしょう?」

 

 こんなお色気まみれの裸を見て、勃起しない男などまずいないと断言できる。

 

「不思議そうな顔すんじゃねぇよ、このホモ野郎!」

 

「いえいえ、私はホモじゃありません」

 

 寧ろホモな人は陽葵さんを見ても欲情しないのではないだろうか。

 実質、女の子みたいなものだし。

 

「まあ、ちょうど陽葵さんは私の身体に興味を持ったわけですし、そう邪険にせずにゆっくり観察して下さいよ」

 

 見せつけるかのように股間を動かしてやる。

 すると、

 

「変なもんこっちに向けんなって!…………うぐっ、で、でけぇ……」

 

 突き出した私の股間を、なんだかんだ凝視してしまう陽葵さん。

 ごくりと喉を鳴らしてから、

 

「よ、よく入ったなこんなの……」

 

「お褒め頂いて恐縮です。

 こんな私のモノをしっかりと咥え込んでくれた、陽葵さんの穴も絶品ですよ?」

 

「んなこと言われても全然嬉しくねぇよ!」

 

 でも顔は赤らめてしまう陽葵さん。

 まったく、素直でない人だ。

 

「さて――っと」

 

 私は湯船の中を動き、陽葵さんのすぐ横に座った。

 

「……何故オレに近寄る?」

 

「お気になさらず――よっと」

 

 横にいる陽葵さんの腰に手をまわし、そのままぐいっと持ち上げた。

 

「―――――あ」

 

 ナニをしたいのか勘付いたのだろう。

 ……私が風呂場に来た時点で覚悟はしていたのかもしれない。

 

 陽葵さんは一瞬身体を強張らせる……が、特にこれといって抵抗はしてこない。

 これはもうOKサインとして受け取っていいだろう。

 

 私の体の前に、陽葵さんを座らせる。

 ちょうど、私が彼の身体を後ろから抱え込むような体勢だ。

 

「お、お前な……昨日やったばっかだろ」

 

「昨日したからと言って、今日してはいけない理由にはならないでしょう」

 

 陽葵さんの身体を後ろへぐいっと引っ張って、私へもたれかからせる。

 私と彼の身体が密着し、すべすべのお肌を体全体で感じられるようになった。

 

 湿ったブロンドの髪が私の顔にかかり、陽葵さんの放つ雌の匂いが鼻腔をくすぐる。

 腰に回した手には、華奢だが柔らかい陽葵さんの肉感がよく伝わってくる。

 股間に当たる陽葵さんのお尻は、モチモチの弾力で私を楽しませた。

 このまま彼の尻肉に私の愚息を挟んで、尻コキするのもいいかもしれない。

 

 これぞまさに裸の付き合いである。

 

「おい、変なもん擦り付けんなっ」

 

 恥ずかしそうな顔で私に抗議してくる陽葵さん。

 どうやら無意識のうちに実際やってしまっていたらしい。

 

「すみません、陽葵さんのお尻を見ていたらつい…」

 

「ついじゃねぇよっ―――だからやめろって、気持ち悪いんだから」

 

 むむ、このプレイは陽葵さん的にお気に召さない様子。

 では――

 

「やはりこっちの方が良いですか」

 

「……うっ、あっ――」

 

 肉棒の先で陽葵さんの肛門をつついてやると、途端に彼の身体が反応しだす。

 

「コレがそんなに欲しかったんですね」

 

「あっあっ……変な言い回しするなっ……うっあぁ……さっさと済ませちまえよ」

 

「―――欲しいことは否定しないんですね」

 

「っっ!?……ば、バカ野郎!!」

 

 怒鳴りはするが拒否はせず。

 見れば、陽葵さんの股間も勃起している。

 身体は正直なものだ。

 

「ではいきますよ。

 さ、力を抜いて下さい」

 

「……んおっおっ……おっおおっおっ……あぁああっ!」

 

 陽葵さんの穴をこじ開けると、嬌声が風呂場に響いた。

 慣れたせいか、昨日よりも幾分か楽に私のイチモツは陽葵さんに埋まっていく。

 

「……よし、全部入りました。

 どうですか陽葵さん、私のモノの感想は」

 

「……う、あっあっ……デカいし、太いし……あぁぁ……熱いっ……くぅうっ……」

 

 うっとりとした口調で私のイチモツについて語ってくれた。

 お世辞も入っているのだろうが、嬉しさがこみ上げてくる。

 

「そこまで褒められては流石に照れますね。

 お礼に、思い切り感じさせてあげますよ」

 

 私は陽葵さんの細い腰を掴み、彼の身体を上下に動かしていく。

 等身大のオナホで自慰をするかのように……これは例えが悪いだろうか?

 もっとも、陽葵さんの尻穴による締め付けは、オナホではとても太刀打ちできないが。

 

「んぉおおおおおっ!?……い、いきなり激しいってのっ……あっあぁああっあああああっ!」

 

 表現の不適切さは横に置いて、陽葵さんも気持ち良くなってくれているようだ。

 彼の動きで浴槽の水もばちゃばちゃと跳ねている。

 

「おっおっおっおっおっ!……これ、やばいって……おぉおっおおっおっおおおおっ!」

 

 さらなる刺激を与えるため、そしてさらなる快楽を得るために、私は自分の腰も動かしだした。

 二人が動くことによって、それまで届かなかった場所にまで愚息が行き着く。

 

「あぁああああっ!? やばいってホントっ……あぁああっお、おおぉおおおっ! ……も、イク……」

 

 もう陽葵さんは絶頂してしまうようだ。

 私の方はと言えば、陽葵さんの尻の締りは素晴らしいものの、流石にまだオーガズムには至らない。

 もっと一緒に楽しみたいのだが―――そうだ!

 

「おぉおおおっ!?……ちょっお前、何を……んぉおおおおっ!!」

 

 私は<念動>を発動させ、陽葵さんの男性器の根元部分へと力を加える。

 神経を集中し、的確な位置をぎゅうっと締め付けていった。

 すると、何が起こるか。

 

「んぁあああああっ!……もぅ、イク、ぞ……おっおっおっおっおぉぉおおおっ!」

 

 陽葵さんは絶頂するため、身体を弓のようにしならせる。

 だが――

 

「おっおおっおおぉお……っ!?……な、なんでっ……んくっうあぁあああっ!……い、イケな、いっ!?」

 

 悶えながらも、疑問を口にする陽葵さん。

 絶頂するには十分な快感を得ているというのに、イクことができないのが不思議なのだろう。

 

「それはそうでしょう。

 今の陽葵さんは射精できませんからね」

 

「おっおっおっおぉおっおおっ!……な、なんだよそれっ……んぉぉおおっおおっおおおおっ!」

 

 答えは単純。

 <念動>で精液の通り道を圧迫されていることで、今の陽葵さんは精液を出したくても出せない。

 イキたくても、物理的に射精できないのだ。

 

「あぁああっあっあっあっ!……なんで、お前そんなことできんだよっ!……ああああああぁぁああっ!!」

 

「昔とった杵塚ですよ」

 

 何でも覚えておくものである。

 こんなスキルの使い方、絶対役に立たないと思っていたのに。

 

「おおおっおっおっおおおっ!!……んぐっ、イケないっ……あぁああああっあっああっ!……イキ、たいの、にっ」

 

「そうでしょうそうでしょう。

 この技の効果は抜群です。

 ほら、こうしたって―――」

 

 私は陽葵さんの男性器を握り、扱きだした。

 

「んがぁああああっ!?……お前、何をっ!……おおおぉおっ!?」

 

 陽葵さんの喘ぎがさらに甲高くなる。

 前と後ろから同時に刺激を与えられているのだから、当然と言えば当然。

 

 副次的な効果だが、彼の尻から齎される締付もまた大きくなる。

 私の射精を促すように、イチモツの根元から先端までをぎゅうぎゅうと刺激してきた。

 

「不思議な感覚でしょう?

 こんなこと、そうそう味わえるものではありませんよ」

 

 こんなことを言っている私だが、不思議な感覚というのは何も陽葵さんに限った話でも無い。

 後ろの穴からここまでの快感を得られるというのは、私にとっても過去を振り返ってそう前例のない体験だった。

 

「あぁぁああああっ!……イクッイクッ!……あっあっあっあっあっ!……イクイクッ!……んんんぅうううううっ!」

 

 陽葵さんは射精しようと何度も身をよじるが、その程度のことではこの呪縛から逃れることなどできない。

 私は手でのシゴキを速め、腰を大きく動かす。

 

「んぐぅううっ!?……イク、う、あぁああああっ!……イケないっイケないぃいいいっ!」

 

 度を越えた快楽に、涙を流しながら身体をばたつかせる陽葵さん。

 だがまだ駄目だ。

 彼にはもっとこの快感を味わって頂きたい。

 私は空いている方の手で彼を押さえつける。

 

「おっおおっおっおぉおおっおっ!! イカせてっイカせてぇえっ!!……おぁあああぁぁああ!……んぐっ!?」

 

 陽葵さんがなおも暴れようとするのを防ぐべく、私は彼の身体をがっしりと抱き締め―――ついでに彼の口も自分の口で塞いでおく。

 最後のは、単に私がキスをしたかったからというだけだけれど。

 

 ここまで整った顔立ちが私のすぐ側で喘ぎ続けているのだ。

 放っておけるほどの忍耐を私は持ち合わせていなかったのである。

 

「んむぅううううううっ!! んんっんっんんんんっ!! んんんぅううううううっ!!」

 

 私は股間で陽葵さんを尻を堪能しながら、舌で彼の口内を味わっていた。

 意図したものではないだろうが、私の舌に陽葵さんの舌が絡まってくる。

 彼の尻穴も私自身を今までに無い程握りしめ、私を絶頂へと導く。

 

「んんっんんんんぅっんんんぉっ!! んんんぅぅううっ!! むぅううううっ!!?」

 

 そろそろいいだろう。

 私もまた射精感が十分に高まった。

 腰と手の動きをさらに加速させる。

 

「んんむぅぅうううううっ!!? んっんんっんっんぁっ!? んんんんぉおおっ!!」

 

 そして、<念動>を解いた。

 

「っっっっっっっっっっっっっ!!!!!」

 

 声にならない悲鳴を上げる陽葵さん。

 身体がピンっと伸び、硬直する。

 

「んっんっ!!! んっおっおっ!! おっおおっおぉっ!!」

 

 陽葵さんの性器から白濁した液体が流れ出てくる。

 私もまた絶頂に達し、彼の中に精液を流し込んでいる最中だ。

 彼が痙攣をおこす度に中が脈動してくるのだが、それがまた精液を搾り取ってくる良いスパイスだった。

 

「ふぅ……最高でしたよ陽葵さん。

 貴方の方も楽しんで貰えましたか?」

 

 彼の唇から口を離し、話しかける。

 ……だが、陽葵さんから返事がない。

 

「………陽葵さん?」

 

 どうしたものかと思い、よくよく彼の顔を見てみれば。

 

「……はひゃぁ……あへぇ……」

 

 顔をだらしなく弛緩させながら、陽葵さんは失神していた。

 

 

 

「………最悪だ」

 

 横で歩く陽葵さんがぼそっと呟いた。

 

「そうですね。

 もっと早い時間に商店へ出向く予定だったのですが、昼近くになってしまいました」

 

 私もそれに同意する。

 当初の予定が狂うのは、余り気分の良いものではない。

 

 今、私達は朝予定していた商店訪問のため、ウィンガストの町を進んでいた。

 

「ちっげぇよっ!

 そっちの話じゃなくって……ていうか、そっちの話にしたって全部お前のせいなんだかんな!?」

 

 私を睨みつけながら、陽葵さん。

 ……まあ、朝から少々楽しみが過ぎた感は否めない。

 

「では、角兎に刺されたところがまだ痛むとか?」

 

 あえて具体的に刺された場所は口に出さない。

 流石に往来の真ん中でそんなことを言いふらされては、彼の名誉に関わってしまう。

 

「それも違うっ!

 や、確かにそこはちょっとじんじんするけど……これだってお前のせいだろ!」

 

 少し顔を赤くするところが実に可愛い。

 ……うん、やりすぎたことは反省しているのだ、本当に。

 

「それでも無いとすればいったい…?」

 

「…………」

 

 陽葵さんが押し黙った。

 顔を俯かせてから、小さい声で――

 

「………ふぁ、ファーストキスだったのに……」

 

 ――そう、答えてくれた。

 

「ああ、そんなことですか」

 

「そ、そんなこととか言うか!?

 ショックだったんだぞ!

 初めてが――あ、あんなだとか!!」

 

 ところどころ考え方が女性的な人だ。

 違和感は全くないが。

 

 私は彼を安心させるよう、説明する。

 

「前も似たようなことを説明しましたよね。

 男同士でそういうものはカウントしません、と」

 

 そういうことにしておかないと、ファーストはおろかフォースやフィフスくらいまで全て私が奪ったことになる。

 それでは流石にあんまりだろう。

 

「……そんなあっさり割り切れるかよ」

 

「ならば人口呼吸か何かだと思ってみては。

 私が言うのもなんですが、それ程深く考えることでもありませんよ」

 

「………むぅうう」

 

 難しそうな顔をして考え込んでしまう陽葵さん。

 こういうのは開き直ったもの勝ちだというのに。

 ――私とキスをしたという事実を否定しない辺り、本当に男心にぐっとくることをしてくれるお方だ。

 

 そんなやり取りをしていると、向こうから見知った顔が歩いてきた。

 

「おや、ローラさん?」

 

「うぇっ!?」

 

 私の言葉に、何故か陽葵さんが反応する。

 ローラさんの方も私に気づいたようだ。

 

「あら、クロダさんにヒナタさん。

 こんにちは……こんなところで、珍しいですね」

 

「こんにちは、ローラさん」

 

「……こ、こんにちは」

 

 挨拶をかわす私達。

 どうしたことか、陽葵さんはおどおどとした態度。

 ローラさんと目を合わそうとしていない。

 

 そんな彼を不思議に思いつつも、私はローラさんと話を続ける。

 

「今日は商店に――セレンソン商店に陽葵さんを連れて行こうと思いましてね。

 ここに居るのはそんな理由です」

 

「そうだったんですか。

 ……では、今日は早めに探索を切り上げたんですね」

 

 ローラさんは今日もまた黒いドレス姿だ。

 普段着としてはやや豪奢と言えなくもないが、ローラさんの落ち着いた雰囲気や長く美しい黒髪と合わさって、違和感を感じさせない。

 身体の凹凸を余り隠せていないその服装に、道行く男性の目が集まっているのを彼女は気づいているのだろうか。

 

 ………男の視線を集めるという点では、陽葵さんのショートパンツ姿も負けていないが。

 本人にとっては甚だ不名誉とはいえ。

 

「いえ、探索には行っていないのです。

 今日は午前中、所用が発生してしまいまして」

 

「所用、ですか?」

 

 ローラさんの発した疑問に答えたのは私では無かった。

 

「あ、ああ、今日はちょっと勉強会というかね?

 黒田にこの町のこととか冒険者のこととか改めて色々聞いてて!」

 

 ちょっと早口に捲くし経てる陽葵さん。

 

「……いえ、別にそういうことは――っと」

 

 陽葵さんの言ったことを訂正しようとしたところで、彼に背中を叩かれた。

 

「………いいから、話を合わせろっ」

 

「………はあ?」

 

 ローラさんに聞こえないような声で、陽葵さんが私に告げる。

 そんなやり取りに気づかず、ローラさんは喋りかけてきた。

 

「そうだったんですね。

 ヒナタさんもまだ来てからそう日が経っていませんから、色々不都合も多いんじゃないですか?」

 

「う、うん、慣れないこと多いけど、なんとかやれてるよ。

 クロダとかリアとかに助けられてるけどさ」

 

「それは良かったです。

 困ったことがあれば、私にも相談して下さいね。

 どれ位役に立てるかは分かりませんけど…」

 

「はは、ありがと、ローラ。

 頼りにさせてもらうよ」

 

 陽葵さんの言動からぎこちなさが消えてきた。

 私が把握できていない何かしらの問題が解決したのだろうか。

 

「これからお会いになるアンナさんもきっとヒナタさんを助けてくれると思います。

 凄く優しい人ですから」

 

「え?」

 

 思わぬ言葉に私はつい声を上げてしまった。

 

「どうしました、クロダさん?」

 

「すみません、その……アンナさんは商人として高い手腕を持つ方ですし、まあ悪い人というわけでも無いですが……

 親切な人、というのは……」

 

「あら、そうですか?

 私にはいつもよくしてくれますけど」

 

「それは初耳ですね。

 私にはよくよく値をふっかけてくるし、物を売ろうとすれば値切ってくるし、頭おかしい発言はするし」

 

 実のところ、あまり彼女にいい思い出は無い。

 

「えっと、それはその……アンナさんに気に入られている、とか?」

 

「気になる相手に意地悪を、というのは子供の発想ではないかと思います」

 

 アンナさんの精神年齢が幼児レベルではないとも言い切れないが。

 寧ろローラさんが彼女に気に入られていると考えた方が自然だろう。

 

「あのな黒田、話聞く限り、なんでお前はそういう人をオレに紹介しようとしているんだ?」

 

 訝し気な顔で私に尋ねる陽葵さん。

 これから会う人に対して悪い印象を持たせてしまったか。

 私は弁解を試みた。

 

「商人としての腕は確かな人なのですよ。

 お金さえ払えば大抵のものは手に入りますから」

 

 ちなみに、私が装備しているミスリルクロークも彼女に頼んで購入したものだ。

 

「いい人だと思うんですけど…」

 

 遠慮がちにローラさんが付け足してくる。

 

「むむぅ、とりあえず、会ってから考えるかな」

 

「それがいいでしょう」

 

 コネを持っていて損は無い人なのだ。

 

「きっとヒナタさんも仲良くなれますよ―――あら?」

 

 そこでローラさん、何かに気づいたように、

 

「ちょっとごめんなさい」

 

 陽葵さんの方へ思い切り顔を近づける。

 

「え、え、何、何だ?」

 

 急に近寄られてどぎまぎする陽葵さん。

 彼をしばし観察(?)してから、ローラさんは言った。

 

「………ヒナタさんからクロダさんの匂いがする?」

 

「あーーっ! そうだ黒田、お前この後暇だったよな!

 ローラさんのお店に行って買い物とかしたらどうだ!?」

 

 何やら緊張した面持ちで急に話を変えてくる陽葵さん。

 ……そんな風に対応したら、ナニかがあったことを公言するようなものだろうに。

 

 そんな彼をとりあえず置いておいて、ローラさんの呟きに解答してみる。

 

「ああ、昨日は陽葵さん、私の家に泊まったんですよ」

 

「…………そうでしたか」

 

 おや? おかしいな、ローラさんの瞳からハイライトが消えたような。

 きっと太陽との位置関係で光の反射がこう――あれやこれしてしまったのが原因だろう。

 

「………ヒナタさんとはいいおトモダチなれると思ったのに」

 

「行け黒田! いいからローラさんのお店に行け! 絶対に行け!

 オレのことは気にするな!

 むしろオレのことを気にするなら行け!」

 

 再び発せられたローラさんの言葉に、冷や汗でも流していそうな様子で慌てる陽葵さん。

 彼の迫力に気おされるような形で、私は頷く。

 

「わ、分かりました。

 今日はこの後、ローラさんのお店にお邪魔させて頂くことにしましょう」

 

「あら、そうですか?

 では、お待ちしていますね、クロダさん」

 

 一転、満面の笑みを浮かべるローラさんである。

 まあ、少なくなってきた備品もあるので、彼女のお店に行くこと自体には何の問題も無いのだが。

 

「――と、道の真ん中で流石に長話が過ぎましたね。

 私達は一旦失礼します」

 

「はい、クロダさん、また後で。

 ヒナタさんも、また今度、ちゃんとお話ししましょう」

 

「お、おう……そ、それじゃあな、ローラ」

 

 ローラさんから陽葵さんへの言葉に何か含みがあったような――いや、気のせいか。

 そんな別れの挨拶をしてから、私達は一路、セレンソン商会へと向かったのだった。

 

 

 

 第九話②へ続く



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②! アンナさん、語る

 

 

 

 そして、場面飛んで今はそのセレンソン商会。

 もっと詳細に説明するなら、商会の――

 

「―――っておっせぇんだにゃ、このボケが!!」

 

 部屋に女性の大きな声が響き渡る。

 説明の腰を折られてしまったが、今私と陽葵さんが居るのは商会の応接室。

 セレンソン商会はウィンガストにおいて一、二を争う程大きな商店なのだが、その店の規模に恥じることなく、この応接室もかなり豪華な仕様だ。

 部屋の中央に鎮座するテーブルは荘厳な意匠で、椅子もそれに見合ったデザイン。

 それでいて派手過ぎることは無く、落ち着きすら感じさせてくれる。

 

 ここで私達は――

 

「聞いてんのかおい!?

 おいおいおいおい、クロダちゃんよぉ、今いつだと思ってるんだにゃ?」

 

 ことごとく腰を折ってくるなこの女。

 えー、説明を続けさせて頂くと、応接室で私たちはセレンソン商会の代表、アンナ・セレンソンと面会しているのであった。

『している』などと現在進行形を使ってしまったが、アンナさんは顔を会わせた直後に上の台詞を吐いている。

 陽葵さんなど、まだ自己紹介すらしていない。

 

「……確かにもうお昼ですが、それ程遅い時間ではないですよね」

 

 一応、遅いと言われたことに対して返事をする。

 約束していた時間にはしっかりと間に合ったはず。

 ……朝色々あったので、当初約束していた時間を遅らせてもらった事実こそあるが。

 

「ちっがーうにゃ!!

 そういうこと言ってんじゃねぇっつーの!!」

 

 違うらしい。

 

 ちなみにアンナさん、語尾に「にゃ」などと付けているが、これは彼女の頭がわいているせいではない。

 いや、彼女の頭がおかしいこと自体は否定しないのだが、語尾の原因については他にある。

 彼女は猫の獣人なのだ。

 一応その証拠として、アンナさんの頭には猫耳が付いてる。

 

「では一体何を?

 ああ、直前でお会いする時間を変更したことにが気に入らないのですか?」

 

「ちっ! わかってねー!! わかってねーにゃ、こいつ!!」

 

 分かりやすく舌打ちをしてから、こちらを思い切り見下してきた。

 

「ちょっとね、ちょっと上見てみて?」

 

「……は?」

 

 言われた上を向いてみる。

 天井からはシャンデリアが吊られており、窓がないこの部屋を煌々と照らしている。

 なかなか品の良い飾りつけがなされているが――別段、不自然なものではない。

 

「あのシャンデリアが、何か?」

 

「そっち上じゃないにゃ。

 ウインドウの上部分っつーか、この話のタイトルっつーかを見て欲しい」

 

 は?

 

「今ね、今ね――――第九話じゃろがい!!!

 なに!? なんでアチシこんなに登場が遅いの!!?

 この物語のメインヒロインたるこのアチシが!!!」

 

「何言ってんだお前」

 

 おっと、つい心の声が出てしまった。

 

「おっかしいだろぉお!!?

 もっと早く登場させろよぉお!!

 アチシ、ヒロインやぞ!! キーパーソンやぞ!!

 どーーっでもいい話ばっか描写しやがってよぉ!!」

 

「黙れよ猫女」

 

 彼女が何を言ってるのか私にちっとも一片たりとて理解できないが、これ以上喋らせてはいけないという直感が私の心を荒ぶらせた。

 

「というか、仮に私の人生が一つの物語だったとして、貴女がヒロインとかありえませんから」

 

「えーっ!?

 この超☆豊満なバデーを持つ超絶可愛い美少女がヒロインでないとか物語的におかしにゃ。

 アチシがヒロインじゃないというならそれはもうむしろ世界の方が間違ってる」

 

 超☆豊満(笑)

 いや、流石に陽葵さんよりかは胸が大きいが、それを豊満と称していいものか。

 

 ―――これでは公平に欠けるので、きっちりと彼女の容姿も説明しておこう。

 髪は燃えるような鮮やかさを持つ赤色のミディアムヘアーで、顔はあどけなさや幼さを残しつつも愛らしく整っている。

 身長は145cmを少し上回る程度――女性としてもかなり小柄だ。

 スタイルは先に述べた通り、胸もお尻も大きいとは言い難く……Bカップ位だろうか。

 スレンダーという単語がしっくりくる。

 ただ、童顔と小柄な体格が相まって非常に愛くるしい魅力を誇っている。

 獣人としての猫耳もその魅力を補強していた。

 

 黙ってさえいれば、非常に可愛らしい女の子と言える。

 黙ってさえいれば。

 

「いやいや、仮に私の人生が一つの物語だとして、ヒロインは寧ろ陽葵さんなんで。

 貴女はお呼びじゃないです」

 

「そこで何故オレの名前を言う!?」

 

 突然名前を出された困惑する陽葵さん。

 一緒に居るのに話の輪に入れないのは寂しいだろうという、気遣いである。

 

「かーっ!!

 ヒナタちゃんヒナタちゃん、いいにゃー、男の娘ってのはそれだけで人気が出るからよぉ。

 ―――あ、アチシ、アンナね。

 セレンソン商会代表の。

 これからよろしくにゃ」

 

「――この流れでいきなり自己紹介!?」

 

 陽葵さんが驚愕で目を見開く。

 そりゃこの話の展開に着いてこいというのが無理な話だろう。

 

「あ、ダイジョブダイジョブ、アチシ、君のことは大体分かってるから。

 キミの説明は要らないから。

 だからその耳障りな声をアチシの前でこれ以上披露すんじゃねーぞ」

 

「何だその敵意に溢れた台詞は!?」

 

 陽葵さんを睨みつけながらアンナさん。

 ちょっと調子に乗りすぎているような気がする。

 余り陽葵さんに不敬を働くようなら、彼奴をここで滅殺することも視野に入れねばならないか。

 

「ほほう、聞きたいかにゃ?

 アチシが君を嫌う理由を知りたいと!?」

 

「いえ、別にいいです」

 

「あんまし興味ないな」

 

 そんな返答をしたにも関わらず。

 

「そこまで言うなら聞かせてやるにゃ!!」

 

 聞きたくないのに。

 

「そう、それはアチシがまだ生まれ故郷に居た頃――」

 

「あ、これ長くなるやつだ」

 

「簡潔に済ませて欲しいのですが」

 

 そんな私達のぼやきもどこ吹く風。

 アンナさんは語り始める。

 

「アチシがまだ若かったあの時――いやいまでも若いんだけどにゃ?

 ヒナタちゃんは知らないかもしれないけど獣人の寿命って人間より長いから。

 だから“若い期間”も長いんにゃ。

 あの時も若いけど今でも若いの、オーケー?」

 

「いいから話進めろよ」

 

「ヒナタちゃんはせっかちさんだにゃあ。

 そんなに生き急いだら大事なものをどっかに置き忘れちまうZE。

 じっくりと確実に過ごし、而して必要な時は駆け足できるように準備しておくのがコツ―――にゃあっ!?」

 

 アンナさんがいきなり飛びのいた。

 

「クロダちゃん!? クロダちゃん!!? いきなり矢を撃ってくるってどういうことにゃ!!?」

 

「矢? 気のせいじゃないですか?」

 

「気のせいなわけあるかいっ!

 鉄板仕込んだ椅子に矢が貫通してるじゃにゃいかっ!?

 ガチで<射出>使いやがって!!」

 

「え? 元からありましたよその矢。

 ……しかしアンナさんが話をさっさと終わらせなかったら、新しい矢の存在にまた気づいてしまうかもしれませんね」

 

「にゃ、にゃあっ!?」

 

 アンナさんの顔を青くなる。

 不思議なこともあったものだ。

 

「………容赦なく矢を放った黒田が恐ろしいのか、それをかわしてのけたアンナが凄いのか」

 

 陽葵さんが小声でぶつぶつ言ってる。

 客観的に見て、どっちもどっちだとは思う。

 

 そんな彼を気にする様子もなく、アンナさんの語りが再開される。

 

「あー、えー、アチシがまだ獣人の里に住んでた頃――アチシを想う二人の男がいたにゃ」

 

「ほう、そんな物好きが二人も」

 

「いや、普通にアンナって可愛いし、居てもおかしくは無いんじゃね?」

 

 陽葵さんはまだアンナさんの本性を見極められていない模様。

 

「二人に言い寄られていたアチシは迷ったにゃ。

 一人は男らしくてワイルドなマッチョマン、快活な性格でぐいぐい引っ張ってくる俺様系。ついでに言っとくと長老の一人息子。

 もう一人は柔和で温和で美形な二枚目、優しい性格でアチシの全てを包んでくれる穏和系。ついでに言うと里一番の金持ちの一人息子。

 二人とも幼馴染だったこともあったし、どっちの想いに応えるべきか、アチシには答えを出せなかった。

 ………権力と金、どっちがいいのか」

 

「最後のが本音か」

 

「でしょうね」

 

 アンナさんは続ける。

 というか、簡潔にまとめるんじゃなかったのか。

 そろそろ第二の矢を用意しておこう。

 

「アチシは本当に悩んだにゃ。

 悩んで、悩んで――好感度が下がらないように時折こっちからもモーションをかけて――悩んだにゃ。

 でもそんな蜜月の日々は長く続かないにゃ。

 楽しい日々もいつかは終わる。

 アチシは……アチシ達が出した結論は……!」

 

 ここで一旦溜めてから。

 

「……いつの間にか男同士でデキちまっててにゃあ」

 

「うわぁ」

 

「悲惨ですね」

 

 男同士でくっつくとか流石にどうかしてると思う。

 

「だからアチシは許せないんにゃ!

 ヒナタちゃんみたいな、男のくせに男を惑わすような男が!!」

 

 びしっと陽葵さんを指さしてアンナさん。

 

 ……そういえばこの人の話を一切聞かずに突っ走っていくノリは最近どこか別のところで体験したような。

 ……ああ、三下さんか。

 

「いやいや、オレはそんなんじゃないって。

 普通に女の子好きだし」

 

 すぐさま反論する陽葵さん。

 一見して美少女にしか見えない、よくよく観察しても美少女でしかない彼だが、一応趣向は男なのである。

 アンナさんの言葉は受け入れられないだろう。

 

「そんなこと言っちゃってっ!

 実はもうクロダちゃんと関係もっちゃったりするんじゃにゃいのっ!?」

 

「……………」

 

「……………」

 

 沈黙。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……………あるぇ?」

 

 沈黙した私達に驚くアンナさん。

 

「え、え、嘘、え、マジで?

 ヒナタちゃん、クロダちゃんと会ってまだ1週間も経ってないにゃん?

 女の子が好きって言ったよね?

 男同士の恋愛を否定してたよね?」

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙を続ける私達。

 

「ちょっと、ヒナタちゃん!

 ここで顔を赤くしちゃダメだにゃ!!

 あとクロダちゃん、お前なにニヤニヤ笑ってんだ!!」

 

 おっと、つい顔を綻ばせてしまったか。

 

「………いや、ほら、あれだよ。

 男同士は、ノーカンってーかなんというか」

 

「何言ってんだにゃヒナタちゃん」

 

 先程私が言った言葉を使われてしまう陽葵さん。

 

「まあまあアンナさん、そうヒナタさんを責めないでやって下さい。

 彼はあくまで普通の男の子なんです。

 ただ、気持ちのいいことを追求しただけなんですよ」

 

「追求させた張本人が堂々と胸張ってほざくんじゃないにゃっ!!

 あとさりげなくヒナタちゃんの腰に手を回すな!

 ヒナタちゃんも何なすがままになってんだにゃっ!」

 

 アンナさんが目聡く私に動きを指摘してくる。

 慌てた陽葵さんが、私の脇腹を小突きながら、

 

「お、おいっ

 あんま、くっついてくんなっつーのっ」

 

「ちっがーうにゃっ!!

 そんな嫌よ嫌よも好きの内、みたいな断り方じゃなくてっ!

 もっときっちり嫌なことをアピールしないとっ!!」

 

 アンナさん的にはこのヒナタさんの態度は気に入らない様子。

 いや、でも少しは痛いんですよ、脇腹。

 

「いいじゃないですか別に。

 減るもんでもなし」

 

「うぉおおおっ!? この野郎開き直りやがった!!

 つーか減るだろう、減ってるだろう、ヒナタちゃんの雄度的なものが!!」

 

「代わりに雌度が増えているからプラスマイナス0ですよ」

 

「なんなんにゃその理屈!?

 どうせ屁理屈こねるならもっと真っ当な屁理屈こねろって!!

 ちょっと、ヒナタちゃん、こっち!!

 そんな男の腕の中に納まってないでアチシの方に来るんにゃ!!

 アチシの胸にカマーン!!」

 

 両手を広げて陽葵さんを受け入れようとするアンナさん。

 しかし当の陽葵さんはと言うと。

 

「え? あ、えーと……」

 

「悩むなよ!!?

 むさくるしい野郎と見目麗しい美少女にゃ!?

 悩む必要なんてひとっかけらも無いにゃあ!!

 そう、君が正常な男の子ならね!!」

 

 普通の美少女であれば悩むことなど一切無いと私も思うが……アンナさんだからなぁ。

 陽葵さんが悩んでしまう気持ちも理解できる。

 

「そういえば、アンナさんは陽葵さんのことを嫌っていたはずでは?」

 

「そのわだかまりは解消したにゃ!

 だって――だって――ヒナタちゃんは、アチシのことを可愛いって言ってくれたから……」

 

「えー、あんなのでー?」

 

 陽葵さんが私に代わって突っ込みを入れてくれた。

 

 長話への合いの手程度の言葉で消え去ってしまうわだかまりか。

 元々どうでもいいような理由による嫌悪していたわけだから、そんなものなのかもしれない。

 

「そんなわけでほらっ!

 こっちに来るんだにゃあ!!

 あとクロダちゃんっ! どさくさに紛れてヒナタちゃんに抱きついてるんじゃないにゃあ!!!」

 

「………いや、なんていうか、オレこの展開についていけてないんだけど。

 オレ、なんでここに来てたんだっけ?」

 

 混乱する陽葵さん。

 それも仕方あるまい。

 アンナさんのノリに耐えるには、相当な訓練を要する。

 

「えーいまどろっこしい!!

 お前はラノベの主人公かっつーのっ!!

 こうなったら実力行使にゃっ!!」

 

 何がこうなったらなのか分からないが、ともかくアンナさんは陽葵さんに飛びかかっていく。

 他人のことのように語っているが、私は今彼を抱き締めているような恰好なので、実質的には私の方は向かって飛んできた形に近い。

 

「おわぁああああっ!!?―――って、おい、どこ触ってるんだ!?」

 

 アンナさんは陽葵さんのショートパンツの中に手を突っ込んでいだ。

 

「ほほぅ、ちと小ぶりだにゃあ?

 これからの成長に期待っちゅうことで」

 

 陽葵さんのパンツの中で、手をにぎにぎと動かすアンナさん。

 

「うっ…あっ…いき、なりなにすんだお前!?」

 

「早速喘ぎ声とか上げちゃってるし…

 そんな感じやすくてどうすんだにゃ、ヒナタちゃん。

 このままじゃ遠からず身も心もクロダちゃんの餌食になってしまうにゃあ」

 

 失礼な。

 私はそんなことを目的に陽葵さんと付き合っているわけでは無い。

 ……無いのだけれど、一緒に探索をする関係上、仲良くなっておくに越したことは無いと考えているだけである。

 

「悪い顔してるにゃあクロダちゃん、こいつぁマジで秒読み段階にゃ。

 手遅れになる前に、アチシが女の子とする悦びをヒナタちゃんに教え込んでやらなくちゃにゃあっ!!」

 

 言うが早いか、陽葵さんのショートパンツをずり下そうとしだすアンナさん。

 

「お、おいっ! やめろっ!」

 

 間一髪、陽葵さんはパンツの淵を掴み、パンツが落ちるのを防ぐ。

 

「往生際が悪いにゃあっ!

 こんな可愛い女の子が誘ってるんだからほいほい従えっちゅうにっ!」

 

「こんなっ…こんな訳わかんねぇ流れでヤれるかぁっ!!

 初めてなんだぞ、オレっ!?」

 

「初めてだってアチシが優しく手解きしてやるにゃっ!

 さっさと諦めてチェリーを手放すんにゃっ!」

 

 攻防は続く。

 ……やはり陽葵さん、童貞であったか。

 

 第3者的にその光景を俯瞰していた私に、アンナさんが突如声をかける。

 

「クロダちゃん、ちょっとヒナタちゃんを抑えてるにゃあっ!!」

 

「分かりました」

 

 私は陽葵さんを後ろから羽交い絞めにした。

 

「えーっ!? ちょっ、えーっ!?

 なんでお前ここでアンナに従うわけ!?」

 

「うだうだ言ってんじゃねーにゃっ!!

 おら、ちんぽをアチシに見せるんだよぉっ!!!」

 

 抵抗が無くなったため、アンナさんは悠々と陽葵さんのパンツに手をかけ、そのまま―――

 

「あーーーーーーーっ!!!!?」

 

 陽葵さんの悲鳴が木霊した。

 

 

 

 少しして。

 

「ふぅ、ごちそうさまにゃ」

 

 満足そうに舌なめずりするアンナさん。

 

「なかなかいい感じでしたね」

 

「欲を言うにゃらもっと濃いのが欲しかったけどにゃー」

 

「昨夜から朝まで散々イカせましたからねぇ。

 流石にもうそれ程残っていなかったのでしょう」

 

「おめぇ本気でなにやってるんにゃ……」

 

 呆れた顔で私を見つめるアンナさん。

 そんな目で見ないでほしい、私も少しは反省しているのだ。

 

「お前ら……お前ら……」

 

 少し離れたところで荒い息を吐きながら陽葵さんがこちらを睨んでいる。

 ……童貞はギリギリなところで無事だったのだから、セーフということにして欲しい。

 

「さ、改めて自己紹介しましょうか。

 陽葵さん、こちらセレンソン商会のアンナ・セレンソンさんです」

 

「よろしくにゃ、ヒナタちゃんっ!

 欲しいものがあったら何でも言ってね♪」

 

「とっくにご存じだよバカ共がっ!!!」

 

 バンっと机を叩く陽葵さん。

 相当頭にきているようである。

 

「うーん、まだ大分気がたってるにゃあ」

 

「もう2,3発イッときますか」

 

「えっ!?」

 

 陽葵さんが私の言葉に身を竦ませる。

 

「いやー、もうあんま出なさそうだし、今日はもういいにゃ。

 とはいえ、ヒナタちゃんにも色々頑張ってもらったことだし、お礼は必要かにゃあ」

 

「お、お礼って、なんだよ…」

 

 陽葵さんは完全に腰が引けてる。

 そんなに怯えなくとも。

 そして何故その怯えた視線を私にも向けてくるのか。

 

「怖がらなくても大丈夫にゃ!

 これは100%善意からのプレゼント!

 ヒナタちゃんの冒険者特性を鑑定してあげようっ! 無料(タダ)で!」

 

「―――へ?」

 

「ほう」

 

 アンナさんが無料でそんなことをしてくれるとは。

 案外、陽葵さんを気に入っているのかもしれない。

 

「特性の鑑定って、そんなんできるの?」

 

「ま、パンピーにゃあできないだろうにゃあ。

 でもでも、アチシは別。

 選ばれた者のみが使用できる、超☆レアスキルにより、相手の特性を見極めることができるのにゃっ!」

 

 ちゃんと説明すると、スキルには習得に様々な条件を必要とするものがある。

 それは単純に適性の問題であったり、そのスキルの危険性から法で定められた資格が必要だったりだ。

 アンナさんが習得している<鑑定(アプレイズ)>は、その両方を必要とするため、レアスキルという呼称に間違いはない。

 

 <鑑定>はその名の通り、対象者が持つ様々な情報――ステータスやらスキルやら、特性、身体情報に至るまで――を立ちどころに明らかにするスキルだ。

 プライバシー保護の観点からは勿論、悪事への利用や、果ては軍事応用にまで効果が及ぶため、習得には様々な法的規制がなされている。

 また、それらを満たしたとしても、一定以上の適性やある種の特性が必須と、とにかく習得までの関門が多いスキルである。

 

 アンナさんはその様々な条件を潜り抜け――いや待て、誰だこのちゃらんぽらんにこんなスキルの習得を許可した奴は!?

 

「さっさっ、楽にするにゃん。

 今アチシがヒナタちゃんに隠された真の力を見抜いてくれよう」

 

「お、おう、分かった」

 

 両腕をだらんと降ろし、リラックスした体勢をとる陽葵さん。

 そんな彼の前でアンナさんは意識を集中させる。

 

「ふふふ、これでヒナタちゃんのありとあらゆるすべての情報が白日の下に――」

 

「ん? 今なんつった?」

 

 怪しげなアンナさんの言葉を訝しがる陽葵さん。

 しかし彼女はそれを無視して集中を続ける。

 だんだんと淡い光が彼女の身体を覆っていって――

 

「<鑑☆定>!」

 

 スキルが発動した。

 なんだか変な掛け声だったような気もするが。

 発動と同時に、対象となった陽葵さんもまた光に包まれる。

 

「ほほぅ……へぇー……ふーん……なるほどにゃあ……」

 

 少し時間が経って、二人に纏わりついた発光エフェクトが消える。

 ひとしきり頷いた後、アンナさんはこう言った。

 

「うっわぁ……本気でクロダちゃんにヤられまくってるんじゃにゃいか、ヒナタちゃん……」

 

「おいっ、オレの何を調べた!?」

 

 陽葵さんが悲鳴をあげる。

 

「<鑑定>は特性だけでなく、その人のあらゆる情報が見られてしまいますからね」

 

「そういう大事なことは先に言えよ黒田ぁっ!!」

 

 先に言ったらアンナさんの申し出を断る可能性があったので。

 教育係としても、陽葵さんの特性が把握できるというのは有り難いのだ。

 

「なんか……もう、ダメかもしれないにゃあ……」

 

「ダメって何が!?」

 

「ナニでしょうね?」

 

 今後に期待して貰いたい。

 

「……まあいいにゃ、そっちはもうアチシの手に負える話じゃなさそうだし」

 

「なんだよその不吉な宣言っ!?」

 

 陽葵さんの不平を無視し、アンナさんは言葉を続けた。

 

「それじゃお待ちかね、ヒナタちゃんの冒険者特性を発表といこうかにゃ」

 

「おおっ!!」

 

 先程までの不安はどこへやら。

 期待に目を輝かせる陽葵さんだ。

 

「ふっふっふ、聞いて驚くがいい……

 なんとヒナタちゃんはにゃあ、スキルを組み合わせて使うことができるんにゃっ!!

 これは凄い特性にゃっ! アチシも今まで見たこと無いにゃ」

 

 うん、知ってた。

 

「この特性、<組技(セットスキル)>とでも名付けようかにゃあ」

 

「……………そうか」

 

「……………まあ、便利な特性ですよね」

 

「……………にゃ?」

 

 私達の反応に、アンナさんが首を傾げる。

 

「ひょ、ひょっとして、知ってたかにゃ?」

 

「つい昨日判明しました」

 

「にゃあっ!!」

 

 両手を上げて驚くアンナさん。

 陽葵さんはそんな彼女へ追撃するように、

 

「名前も黒田が付けた<多重発動(コンボ)>の方が好きかなぁ」

 

「あ、アチシのネーミングセンスまで否定するかにゃっ!?」

 

 アンナさんのネーミングセンスのせいというより、彼女と陽葵さんの趣向がかみ合っていないことが原因だと思う。

 

「他になんかねぇの、オレの特性?」

 

「ぬおおおお、凄い特性を発見したというのにあっさり流しやがったにゃ……」

 

「タイミングが悪かったですね」

 

 昨日以前に聞いていたら、私など腰が抜ける程驚いたいただろうが。

 

「他の特性にゃあ……あんまり一人に幾つも特性ってあるもんじゃないんだけどにゃ。

 ヒナタちゃんは一応もう一つ持ってるけど」

 

「お、オレってやっぱスゲェっ!?」

 

 再び目を輝かせる陽葵さん。

 表情がコロコロと変わる様が実に可愛らしい。

 

「<魅了(チャーム)>とでも付けようかにゃ。

 男性を惹き付けて、交渉だのなんだのがやり易くなる特性にゃ。

 魔力への冒険者補正が適用される感じ」

 

「ほほぅ、オレの美形さがより強調されるってわけか………ん?」

 

 納得しかけたところで、陽葵さんは何かに気づく。

 

「……男?」

 

「そ、対象は男限定にゃ」

 

「……なんで男?」

 

「なんでとか言うか、この雌ガキが。

 自分の外見みれば一目瞭然にゃろが」

 

 さもありなん。

 私が陽葵さんに惹かれたのも、その特性が影響されたのかもしれない。

 

 少し説明させて頂くが、冒険者特性はこの<魅了>のように直接探索と関係ないものもある。

 冒険者の補正やスキルに影響がある、あるいは影響を受ける要因を、特性とくくっているのだ。

 

「外見って……そりゃ、普通の奴よりかは整ってるとは思うけどさ」

 

「………え?」

 

 陽葵さんの言葉に、アンナさんが絶句する。

 

「ちょ、ちょいちょい、クロダちゃん」

 

「なんでしょうか」

 

「ヒナタちゃん、自分が超絶美少女な姿をしていることに―――」

 

「はい、自覚が無いようですね」

 

「そんな馬鹿にゃ……」

 

 私もそう思う。

 陽葵さんの美的感覚がずれているのかと考えたこともあるが、普通に可愛い女の子(リアさんとかローラさんとか)を可愛いと感じる感性は持っているようで。

 なぜ自分の容姿の女性的魅力に気づいていないのか、疑問がつきないところだ。

 

「ま、いいか。

 要は、男との交渉がうまく纏まりやすくなるってことだろ。

 使い道はありそうだ」

 

「……今のヒナタちゃんにとっては諸刃の剣になりそうだがにゃ」

 

 ぼそっと呟くアンナさん。

 確かに、自分の容姿に自覚無い陽葵さんでは、交渉をするつもりが性交渉するはめになりかねない。

 ………それはそれで、素晴らしい未来予想図だけれど。

 

「うっわ、クロダちゃんまた悪い顔しだしてるにゃ。

 ヒナタちゃんの未来は真っ暗だにゃ……」

 

 おっと、また考えていることが顔に出てしまったか。

 いやいや、あんまり酷い目には遭わないよう、気を配る所存ではあるよ?

 

 そんなこんなで、私達は陽葵さんの特性を出汁に話を弾ませたのだった。

 

 

 第九話③へ続く



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③! 私のことを知りたいのですか?

 

 

 

 ひとしきり、陽葵さんの話題で盛り上がった後。

 

「あ、そういえばさ、黒田ってどんな特性持ってるんだ?」

 

「はい?」

 

 思いついたように、陽葵さんから話が振られる。

 

「黒田もアンナと付き合い長いんだから、特性見てもらってたりするんじゃないのか?」

 

「ええ……まあ、一応」

 

 冒険者になった直後、見てもらってはいるが。

 

「せっかくだから教えてくれよ、それ」

 

「え、いや、それは……」

 

「いいだろー。

 オレの特性はお前にばれちゃったんだからさー。

 お前のも教えてくれって」

 

「私の特性はそう大したものではありませんよ?」

 

 あと、人に言うには少々――こう、恥ずかしいというか。

 

「ケチケチすんにゃ、クロダちゃん。

 教えてあげればいいじゃにゃいか。

 なんなら、アチシが言ったげようか?」

 

「ちょ、ちょっと、アンナさん!?」

 

 慌てる私をアンナさんは手で制し、

 

「クロダちゃんはあんまり自分のことを言おうとしないからにゃあ。

 こういうのはちゃんと開示しておくべきだにゃ」

 

「そうだそうだー。

 ささ、アンナ、語っちゃってくれよ」

 

 陽葵さんがアンナさんを煽る。

 ……仕方がないか。

 

「まず一つ、<カリスマ>にゃ」

 

「お、なんか凄そう」

 

「……そうでもないですよ?」

 

 名前は大それているんだけれど。

 

「男女や人種を問わず、人を惹きつけやすくなる特性にゃ。

 魔力への補正分、人が好意的な対応をしてくれやすくなるにゃ」

 

「うわ、やっぱりスゲェ特性じゃんっ!

 っていうか、オレの<魅了>の上位版?」

 

 そこまでの説明であれば、確かにかなり便利なスキルだが。

 

「……但し、効果はクロダちゃんと同じ趣向の持ち主に限られる」

 

「――つまり、変態限定ってことか?」

 

「その通りだにゃ」

 

 あっさり首肯するアンナさん。

 

「……私の趣向=変態という認識は如何なものでしょうか?」

 

「間違ってないだろ」

 

「間違っていないにゃ」

 

 はい、その通り。

 ぐうの音も出ない。

 

「……変態にやたらと気に入られるようになる特性か」

 

「男を惹き寄せるヒナタちゃんと、変態から気に入られるクロダちゃん。

 こう考えると、クロダちゃんとヒナタちゃんが愛しあうのも当然な流れなのかにゃあ」

 

「愛し合ってねぇよっ!?

 あと人を変態扱いすんなっ!」

 

 ………まあ、今はまだそういう認識なのだろう。

 今はね。

 

「尻の穴であんあん喘ぐ男なんざ、変態以外の何物でもねぇっつーのっ!

 さて、そんじゃ次の特性……<絶倫>にゃ」

 

「さらっと人を貶しやがってこの女……んでもって随分とそのものずばりな特性だな」

 

「体力への補正分、精力も増える特性で――ヒナタちゃんはもう経験済みだから、いちいち説明は必要なかったかにゃ?」

 

「うるせぇよっ!!

 ……でも、男としては結構憧れる特性かも」

 

 小さく付け加える陽葵さん。

 

 そう、私が一日に何度も何度もヤれるのは、この特性によるものだったのだ。

 東京にいた時でも精力は多い方であったが、冒険者になってからはそれが加速した。

 

 ただ、それが良いことなのかというとそうでもなく。

 ――実は、この特性のおかげで一度や二度出した程度では満足できなくなってしまったのだ。

 必然、女性にかける負担がかなり増大し、少々迷惑をかける事態になることも少なくない。

 相手を本気で壊しかけてしまったことも何回かある。

 

「そして、クロダちゃんの最後の特性は――」

 

「まだあんの?」

 

「数だけは多いんですよ。

 どれも胸を張って言えるものではないのが辛いところですが」

 

 通常、冒険者が持つ特性は一つか、多くて二つ。

 三つ持っている私は、数の面では恵まれている。

 これで、もう少し探索の役に立つ特性があれば良かったのだが。

 

「――クロダちゃんの最後の特性は、<社畜>にゃ」

 

「名前からして既にひでぇっ!?」

 

「本当に」

 

 この名前を付けた人に文句を言いたい。

 

「効果は、繰り返し作業(ルーチン)の成功率が飛躍的に上昇する、というものにゃ」

 

「それは………凄いのか?」

 

 眉をひそめて、ヒナタさん。

 

「初めてやる作業や想定していなかった行為の成功率が大幅に減少するっていうデメリットもあるにゃ」

 

「デメリット付きかよ。

 つーか、初めてやることは失敗しやすくて慣れてきたら成功しやすくなるって、当たり前のことじゃね?」

 

「クロダちゃんの場合、それがすっごく極端なのにゃ」

 

 説明を加えるアンナさん。

 

「……どっちにせよ、なんかパッとしない特性だなー」

 

「所詮は私が持っているような特性ですからね」

 

 私は肩をすくめる。

 最初は私も自分の特性に少し期待していたのだが、世の中なんてこんなものだ。

 

「…………」

 

「………アンナ?」

 

 ここで、アンナさんが私をじっと見つめながら黙りだす。

 

「………ここでちゃんと説明をしないところが、クロダちゃんの悪いところにゃ」

 

「へ?」

 

 ……………。

 

「ヒナタちゃん、この<社畜>は、クロダちゃんを化物たらしめている――アチシが知る限り最強クラスの特性にゃ」

 

「は?」

 

 ……………。

 思ってもみなかった言葉に、陽葵さんが驚きの声をあげる。

 

「この特性のやばいところは、効果の内容じゃなくて、効果の量にゃ。

 端的に言ってしまえば――クロダちゃんは繰り返し作業を、“何度も繰り返した行動”を、“絶対に”失敗しない」

 

「………うん?」

 

 説明を受けても、陽葵さんはピンと来ないようだ。

 

「さらに恐ろしいのは、クロダちゃんが繰り返し作業と認識できる行為の“範囲”と、それを繰り返し作業と認識するまでに必要な“試行回数”にゃんだけど……」

 

 ここで一旦言葉を切って、

 

「……ま、いいかにゃ。

 クロダちゃんがどんだけなのかは、一緒に行動してればすぐ分かることだしにゃー。

 今のヒナタちゃんが覚えておかなくちゃいけないのは、クロダちゃんが不意の事態や想定外の事態に滅法弱いってことだけだからにゃ」

 

 軽い調子で続けてきた。

 

「そ、そうか。

 ……ん? 不意や想定外に弱いって、それ冒険者にとって致命的なんじゃ」

 

 気づいてしまったか。

 

「ええ、致命的です。

 だからこそ、私は慣れ親しんだ白色区域より先に足を踏み込めないのですよ」

 

「…………マジか」

 

 マジなのです。

 

「…………本当に白色区域より先に行ったこと無いのかにゃあ?」

 

 ……………。

 陽葵さんに聞こえないような声で、アンナさんが呟いた。

 

「にゃ、もう大分時間が経っちゃったにゃあ。

 自己紹介しただけだったのに」

 

「自己紹介以外の部分のせいじゃねぇかな」

 

「無駄話が多かったですからねぇ」

 

 前半部分とか丸々カットして問題無いのでなかろうか。

 

「アチシも仕事あるし、今日はここまでかにゃ」

 

「そうですね。

 まあ、また何か入用になったら訪ねますよ」

 

「それがいいにゃ。

 ヒナタちゃんも、気軽に来てくれると嬉しいにゃあ」

 

「ああ、ありがと」

 

「ふっふっふ、別にこれといった用事が無くても、溜まっちまったらここに来るといいにゃ。

 ちんこが枯れちゃうまでヒナタちゃんのザーメンを吸い取ってやるにゃあ」

 

 右手でモノを扱くような仕草をするアンナさん。

 

「い、いらねぇよそんなのっ!」

 

「……結構マジで言ってんだにゃ。

 このままだとヒナタちゃんもう女の子相手にちんこ勃たない身体になっちまうにゃ?」

 

「そんな風になるわけねぇだろ!?」

 

 全くだ、そんな身体に陽葵さんがなるわけがない。

 ……しかし未来は誰にも分からないものだから。

 

 そんな言葉をかわしてから、応接室を出ようとすると、

 

「あ、そうだヒナタちゃん、最後に一つ言っておかなきゃいけないにゃ」

 

「ん?」

 

 アンナさんの呼びかけに陽葵さんが振り返る。

 私もつられて振り返る――そこには真剣な顔をしたアンナさんがいた。

 

「あのね、実のところ、キミ、もう大分“詰んでる”」

 

「………え?」

 

 ……………。

 

「二日目の選択が致命的だったにゃ……<勇者>じゃなくて、<盗賊>や<僧侶>なら――<暗殺士>でも良かったのに。

 これでもう、キミは自分だけの力でこれからの事態を切り抜けることができなくなってしまった」

 

「………な、何言ってんだよ?」

 

 アンナさんの真剣な口調に、陽葵さんは大分戸惑っている。

 

「キミが悪いってわけでもないんだけどにゃ。

 こんな最初のところでデストラップが仕掛けられているなんて思いもしないだろうし、クロダちゃんも説明が全然足りてなかった。

 戦犯は寧ろクロダちゃんといってもいい」

 

「………あの、アンナ?」

 

 陽葵さんがアンナさんへ問いかけるが、アンナさんはそれに応えない。

 

「ムロサカ・ヒナタ」

 

 代わりに、より真剣味を増した眼差しで陽葵さんを見据えた。

 

「あ、え?……はい」

 

「クロダちゃんを信じてあげて欲しい。

 こいつは説明責任をまるで果たさないし、いざという時てんで役に立たなかったりするけど。

 それでも、ヒナタちゃんを守る意思と、ヒナタちゃんを守る力を両方持っているのは、この町でクロダちゃんしかいないから」

 

 アンナさんはずっと陽葵さんの目を見つめ続けていた。

 そして話が終えるや、すっと視線を外し、またいつもの明るい口調で、

 

「……話はこれだけだにゃっ!

 そんじゃにゃー♪」

 

 言うだけ言って、アンナさんは応接室から去って行った。

 

「………なんだったんだ、今の」

 

 呆然としている陽葵さん。

 私は、咄嗟にかける言葉を思いつかなかった。

 

 …………アンナさんは一つ勘違いをしている。

 私も、実際のところいつまで陽葵さんの味方をしていられるか分かったものではない。

 それとも――あの台詞は私への警告も含まれていたのか。

 

 神妙な心持のまま、私はセレンソン商会を後にした。

 

 

 

 

 

 さて、そんなことがあった後、私は陽葵さんと別れ――ちなみに彼はリアさんに会いに行った――先の約束通り、ローラさんのお店へ向かった。

 

 「あっあっあっあっあっあっあっ!」

 

 早速ではあるが、店の寝室にはローラさんの喘ぎ声が響いている。

 展開が早いというなかれ。

 

 「あっああっ! いいっいいっいい、ですっ! あぁあああっ!」

 

 ベッドの上で全裸になり、四つん這いでバックから突かれて嬌声をあげるローラさん。

 

 「おらおらっ! もっとけつを振るんだよっ! この淫乱女がっ!」

 

 そしてこちらは、ローラさんに覆いかぶさって腰を振っている筋肉隆々の大男。

 歳は4,50代程だろうか。

 ………はて、どちら様?

 

 「はひぃいいっ! あっあっあっああああっ! んんんぅうううっ!」

 

 「はは、本当に振りだしやがった! どうしようもねぇな、この女!」

 

 ローラさんは男の命令通り、自ら腰を動かしだす。

 豊満なおっぱいとお尻がぷるぷると揺れている。

 

 ……あの男、身体つきからして、<魔法使い>ではあるまい。

 十中八九、<戦士>系の職業で間違いないはず。

 

 「はっ! 澄ました面しておいて、ちょっと誘えばすぐこれかっ!

  よっぽどの好きもんだなお前はっ!」

 

 「んっはっああっ! ち、ちがっ、違い、ますっ!

  私はそんなんじゃっ……あぁああああっ!」

 

 とすると、お店の客ではなく、ローラさん狙い来訪してきたといったところだろうか。

 まあ、あの身体を好きにできるとあれば、足の一つや二つ運ぶ気にもなるというものだ。

 

 「まったく、こんないい肉してりゃあ男だって食い放題だろ?

  くくく、恵まれた女だなぁっ!」

 

 「はぁああああんっ! あっあぁああっあっあっあああっ!」

 

 ちなみに私は今、私室にある窓の外側に立っている。

 お店の入り口が開いていなかったので裏手に回ったのだが、そうしたらこの場面に遭遇したというわけだ。

 

 「お前のまんこも男を食いたくて食いたくて仕方無いみたじゃねぇかっ!

  さっきからぎゅうぎゅうと締め付けて、俺のちんこを離そうともしないぜっ!?」

 

 「あぁぁぁああああっ! お、おぉおおおおおおっ!!」

 

 この二人、さも派手にヤり合っているように見えるかもしれないが、そうではない。

 ローラさんの部屋は防音がかなりしっかりしているので<感覚強化>が無ければ彼らの会話を聞き取ることは難しいし、カーテンも閉められているので<屈折視>が無ければ彼らの姿は外から見えない。

 

 「おっと、そろそろイケそうだな。

  へへ、お前のまんこに精液を注ぎ込んでやるぜっ!

  どうだ、嬉しいだろうっ!?」

 

 「あひぃいいいっ! はんっあんっあぁああんっ! んんんぅうううっ!!」

 

 男が問いかけるも、ローラさんは喘ぐばかり。

 それが気に入らないのか、男はローラさんのお尻をパァンと叩く。

 

 「あぁあああああんっ!?」

 

 「おいこらっ!

  人が嬉しいかどうか聞いてるってのに何のんきに喘いでやがるんだっ!?

  嬉しいのかっ! 嬉しくないのかっ! どっちなんだ、おいっ!!」

 

 そのままパンパンとローラさんの尻を叩き、さらに激しく腰を振り出す男。

 

 「はっあぁああっあぁあああああっ!

  う、嬉しい、ですっ! んんぁあああああっ! 嬉しい、ですぅっ! あぁぁあああああっ!」

 

 「嬉しいかっ! だったらお礼を言え!

  まんこに精液を流し込んでありがとうございます、となぁっ!!」

 

 手でローラさんの胸を揉みしだきながら、男は言う。

 彼女は喘ぎをどうにか抑えながら、

 

 「あっあっあぁああっ! あ、あり、がとうございます……あぁあああっ!

  私の、まんこに、精液を下さって……はぁああああんっ! ありがとうございますっ! んんぅううううっ!」

 

 「はんっ! たく、人から言われてねぇと満足に礼もできないとはなっ!

  ろくな躾もされてこなかったみてぇだなぁっ!?」

 

 男は腰をローラさんのお尻に打ち付けていく。

 

 「ああああっあっあぁあああっ! んぃいいいいいっ!!」

 

 「まあいいっ! これからは俺がきっちり躾けてやるっ!

  男を悦ばせる雌犬にきっちる躾けてやるからなぁ!」

 

 腰の動きがどんどん早くなる。

 そろそろ絶頂だろう。

 

 「よし、まずは一発目だっ!

  ありがたく味わえっ!!」

 

 男が自分のイチモツをローラさんの奥深くへ叩き込んだ。

 そのままがっちりと彼女の腰を固定して、膣へ精液を注ぎ込んでいく。

 

 「あぁあああああああああっ! あ、あぁあああ、あぁあああああああっ!」

 

 喘ぎながら、がくがくと身体を揺らすローラさん。

 彼女もまた、今のでイってしまったのだろう。

 

 「……ふぅ、まあ、まずまずってところか」

 

 そう言いながらも、男の顔には満足そうな笑みを浮かべている。

 あんな台詞を吐きつつ、実のところ相当気持ち良かったに相違ない。

 ツンデレという奴か。

 

 「あっ……ああっ……はぁああっ……あぁぁ……」

 

 荒く息をつくローラさん。

 しかし彼女が休みをとる間も無く、男は動き出した。

 

 「さて、第2ラウンドといこうかっ!」

 

 「ま、待って下さ……あぁぁあああああああっ!!」

 

 ローラさんは男を静止しようとするが、その言葉は彼女自身の喘ぎ声でかき消された。

 

 「へへへ、あんだけやってもまだまだ締めてくるな。

  こりゃ長く楽しめそうだっ!」

 

 「ああぁああっあっあああっああっ! あぁあああんっ!」

 

 腰を動かしながら、男は部屋を見渡した。

 

 「しっかし、女一人で寝るにゃ、ちと広いなここは。

  ……ああ、そういやお前、昔は旦那がいたんだったか。

  へへ、そいつが生きてた頃は、ここでヤリまくってたわけだなっ!?」

 

 「ああっんんっんっおぉおおおっ!」

 

 男の言葉に、しかしローラさんは嬌声しか返せない。

 彼はいらいらした様子で、

 

 「人のっ! 質問にはっ! ちゃんと答えろっつっただろうが!?

  ここで旦那とヤったんだろうっ!?

  朝から晩まで人目も気にせず、ヤリまくってたんだろうっ!!?」

 

 言って、ローラさんの乳首を思い切り摘まむ。

 

 「はひぃいいいいっ!? は、はいっ! んぁああああっ! ヤりましたっ!

  あっあっあっあっ! あの人とっ! おぉおおっおっおおおっおっ! ヤリまくってましたぁっ!」

 

 ローラさんは何とか答える。

 もう目の焦点が合っていない。

 意識も朦朧としているはずだ。

 

 「最初からそう言えっ! たく、世話がかかる女だっ!

  ……で、旦那と俺、比べてどっちがいい?

  どっちがちんこの方が気持ちいい!?」 

 

 「あ、あぁあ、あああっ! そ、それは……んぉおお、おっおぉおおおっ!!」

 

 応えたくないのか、口を渋るローラさん。

 しかし男がそれを許すはずも無く。

 

 「どっちがいいんだっ!? 言えっ!!」

 

 再び乳首を摘ままれる。

 あのガタイの男があれだけ力を入れて摘まめば、ローラさんには相当の激痛が走っているはずだ。

 ……彼女にとっては、その痛みも全て快楽に変わってしまうのかもしれないが。

 

 「い、いぃぃいいいいいいっ!?

  あ、ああ、あなた、ですっ……おおっおっおぉおっおおっ! あなたのちんぽの方が、気持ちいいですっ!」

 

 「はんっ! 愛した旦那より今日初めて会った俺の方がいいってか!?

  最低の女だなお前っ!!」

 

 男はローラさんを責めるが、ニヤニヤ笑いながら言っても説得力は無い。

 まあ、あんなことを言われれば大抵の男は気分良くなってしまうだろう。

 

 「へへ、じゃあ、今までやった男の中で、俺が一番いいんだなっ!?

  旦那よりいいんだもんなぁっ!?

  俺の、ちんこが、一番なんだろうっ!!」

 

 一言放つたびに、自らの肉棒を深く突き挿す男。

 ローラさんは彼の動きに合わせて艶声を出しながら、

 

 「おっおっおっおっ! 一、番はっ……おぉおおおおっ! ち、違い、ますっ! おぉおお、おっおぉおおおっ!

  気持ち、いい、のはっ……あぁあああっ! 一番、気持ち、いいのはぁっ! はぁあああんっ!

  クロダ、さんっ……クロダさんですっ! あぁああああああっ!!」

 

 そう、答えた。

 

 「―――は?」

 

 自分の想像と異なる答えに、男の動きが止まる。

 だがそれも一瞬のこと。

 より一層激しく腰を動かしながら、彼はローラさんを問い詰めた。

 

 「クロダ、だぁっ!?

  そいつが俺よりもイイってのかっ!?

  俺よりも、旦那よりも、クロダって奴のちんこが欲しいってのかっ!?」

 

 「あっあぁあっあっあっあっ……激、し……あぁぁぁああああっ!?

  んんぅうううっ! そう、ですっ……私、は……んぃいいいいっ!!

  クロダさん、のがっ……クロダさんのが欲しいんですっ! あぅううううっ!」

 

 その言葉に、男は動揺しだしたようだ。

 ローラさんの乳首を捏ね繰りまわしながら、再度彼女に問いかける。

 

 「そんなに、そいつがいいのかっ!?

  そんなにそいつとヤリたいのかっ!!?」

 

 「あぃいいいいいっ!!? は、いっ……んんぉおおおおっ!? だ、だって、クロダさんっ……あぁぁああああっ!

  クロダさん、大きいしっ……あっあっあっあっ! クロダさん、優しいしぃっ! あぁぁああああっ!」

 

 男は口調を荒げ、さらに詰問する。

 

 「だったら……だったらなんでお前は俺なんかの誘いに乗った!

  クロダが好きなんだろう!?

  なんで俺なんかに股を開いたぁっ!!?」

 

 「あっあっあっあっあっ!? クロダ、さんっ……んぁぁあああああっ! クロダ、さぁんっ……あぁああぁあぁああっ!」

 

 しかし彼女は明瞭な答えを返さず。

 ただ、私の名前を何度も繰り返す。

 ……これまでの男の責めで、もうまともな思考ができなくなっているのだろう。

 

 「くそっ、都合よく気をやりやがって!!

  ……お前が、ちゃんと拒めば、俺だってこんな……!!」

 

 男の動きが目に見えて鈍ってきた。

 彼女の反応に気を悪くしたのか、それとも……

 

 「…………おらっ! こっち向けアバズレがっ!」

 

 男はしばし思い詰めてから、ローラさんを無理やり振り返らせる。

 

 「あっあっああっ…………んぐぅっ!?」

 

 そして膣から男性器を抜き、今度はそれをローラさんの口に突き入れた。

 

 「また俺の精液をくれてやるからなっ!!

  しっかりと飲み込めっ!!」

 

 「んぉおっんぐっんんんっんぶぅっごぼっ!?」

 

 宣言の通り、ローラさんの口内へ大量の精液を流しいれる。

 

 「……んんんっ! んっんっんっ! んむぅうっ!……ごほっごほっごほっ」

 

 盛大にせき込むローラさん。

 息を詰まらせながらも、彼女は精液を全て飲み込んだようだ。

 

 「…………ふんっ」

 

 男はそれを見てからつまらなそうに鼻を鳴らすと、ローラさんをベッドに投げ捨て、

 

 「お前みたいな股ゆる女、二度と抱くかっ!!」

 

 そう言って、部屋を後にした。

 

 ………っと、まずい、ここに居ては店から出る男と鉢合わせてしまう。

 私は急いで通りの方へと取って返す。

 

 

 

 少しの後。

 店の裏手から、服を着た例の男が出てきた。

 私はそれを適当にやり過ごし――

 

「…………なぁ、兄ちゃん」

 

「はい?」

 

 ――やり過ごそうとしたのだが、向こうから声をかけられてしまった。

 

 ――な、なんだろう?

 まさかさっきまでの覗きがバレていたとか…!?

 

 慌てる私をよそに、男は言葉を続ける。

 

「人違いだったらすまないんだが……ひょっとしてあんた、クロダさんかい?」

 

「あ、はい、そうですが…」

 

 焦っていた私は、馬鹿正直に返事してしまった。

 男は私の返答に少し顔をしかめた後に、

 

「……今、店の奥でローラさんがあんたを待っているんだ。

 行ってやっちゃあ、くれないか」

 

 そんな言葉を告げてきた。

 

「? は、はい、わかりました」

 

 発現の意図を読み取れず、ほぼ反射的に肯定を返してしまう私。

 

「ああ、それを伝えたかっただけなんだ……じゃあな」

 

 私の対応に満足したのか、男は歩き去って行く。

 

「……悪かったな、兄ちゃん」

 

 人ごみに消える前、男は一度振り返り、そんな言葉を投げかけてきた。

 その顔には、深い悔恨が刻まれていて――

 

 ………なんだろう。

 おそらくだが、あの人はもう二度とローラさんの前に姿を現さない気がする。

 あの男――私などより余程まともな人間であったか。

 

 

 

「あわわわわわ、く、クロダさんっ!?」

 

 部屋に入ると、先程の行為を隠すためか、ローラさんは寝室整理の真っ最中だった。

 服も急いで着たようで、いつもの黒ドレスはよく見ればところどころ着崩れしている。

 なので、ところどころ肌を覗かせていたりして、実に色っぽい格好になっている。

 

「こんにちは、ローラさん。

 お約束通り、お邪魔させて頂きました」

 

「すみません、みっともないところを見せて……

 一声かけて下されば良かったのに」

 

「それは申し訳ありませんでした」

 

 一応、挨拶はしたのだけれども。

 ローラさんがそれどころでは無かったようだ。

 

「あの、今、お茶の用意しますね。

 リビングの方で待っていて下さい」

 

「分かりました」

 

 そう返事をして、私はローラさんの胸を触った。

 

「へ?」

 

 いきなりの行動に、彼女は凍り付いてしまった。

 そんなことにはお構いなく、私はローラさんの胸を揉む。

 ……やはりこの感触、私が考えていた通り、

 

「――下着、つけていませんね?」

 

「あぅっ……な、ちょっと、クロダさん?」

 

 なおもローラさんのおっぱいを堪能する。

 うむ、この柔らかさと手に返ってくる反発感、いいね。

 

「あ、ん、んんんっ……あの、あのですね、クロダさん」

 

 私に声はかけてくるが、胸を揉むこと自体は一切拒まない。

 これがローラさんのいいところだ。

 

 そんな風におっぱいを楽しんでいた私に、ローラさんが改めて問いを投げかけてくる。

 

「……クロダさん、さっきの、見てました、か?」

 

 ―――むむ?

 

「気づいていたのですか?」

 

「いえ、そういうわけじゃないんです。

 そういうわけじゃないんですけど……なんとなく、クロダさんは近くに居たんじゃないかなって……

 ……やっぱり、見てたんですね」

 

 うーむ、だとすれば、お楽しみのところに水を差してしまったかもしれない。

 

「気を悪くさせてしまいましたかね――むおっ!?」

 

 私が言い終わるよりも先に、ローラさんが抱きついてきた。

 彼女の顔が、私の胸に押し付けられる。

 こ、これはどうしたことだろうか。

 

「……ご、ごめっ……ごめん、なさい……私、あんな、あんなはしたないこと……!」

 

「……ローラさん?」

 

 彼女は、泣いていた。

 泣いて、私に謝罪してきたのだ。

 

 ――彼女が謝ることなど、何一つ無いというのに。

 

「……あんな、こと、しちゃ駄目だって分かってるのに……

 いつも、止めようって思ってるのに……

 なのに、私、は……」

 

「……ローラさん」

 

 私から、ローラさんの顔は見えない。

 <屈折視>……バカバカしい。

 

 ただ、それでも、彼女が悲しんでいることは痛い程伝わってきた。

 

「……こんなこと、私に言う資格無いですけど……無いことは知ってるんですけどっ……」

 

 そこで一旦途切れる。

 少しして、苦しそうな口調でローラさんは続けた。

 

「クロダさん……私を嫌いになってもいいですから……私の前から、いなくならないで下さい。

 ……私、いくらでもクロダさんの都合のいい女になりますから、だから――」

 

「――ローラさん!」

 

 言葉を遮る。

 ローラさんの顔を無理やり上げ、彼女の目を――涙に潤んだ彼女の目を見つめながら、告げる。

 

「あれは、別にローラさんが悪いわけでは無いでしょう」

 

 強いて言うなら、ローラさんをそんな身体にした人が悪い。

 いや、その人ですら今となっては――

 

「……でも、でも、私……」

 

「ローラさん、前にも言ったはずですよね。

 私はそんなことを気にしません。

 幾ら貴女が他の男に抱かれようと、貴女を嫌いになることなんてありえないです」

 

 今更な話ですらある。

 これまでに何度、彼女が他の男に喘がされているところを見てきたことか。

 

 ……というか、むしろそういうプレイもまた興奮する。

 

「私が貴女の前からいなくなるとしたら、それは貴女がそれを望んだ時だけですよ」

 

「――そ、そんなこと!

 そんなことこそ、絶対に無いですっ!

 私がクロダさんを嫌いになるなんて――」

 

 ……そうだろうか。

 割かし、愛想尽かされそうな気もするのだが。

 ともあれ……

 

「なら、私はいなくなったりしませんよ。

 大丈夫です」

 

「……クロダさん」

 

 ローラさんは、少々ぎこちないものの、笑顔を浮かべる。

 そして、

 

「……だったら、これからは、あの……クロダさんが好きなように私を抱いて下さい」

 

 そんなお願いをされた。

 

「構いませんが……そんなことしたら、ローラさん、壊れてしまうかもしれませよ」

 

「……いいです」

 

 冗談半分で言った台詞に、ローラさんは頷いた。

 

「……私、クロダさんに壊されるのなら、それでいいです」

 

 ローラさんの言葉に、私は返事をしなかった。

 その代わりに、彼女をベッドに押し倒す。

 そして――彼女の望むままに、彼女の身体を味わい尽くしたのだった。

 

 その日、ローラさんの店の前を通りかかった人は、途絶えることのない女性の叫び声を聞いたことだろう。

 

 

 

 第9話 完――後日談へ



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④ 『全能』のエゼルミア

 

 

 

 後日談――次の日の話を後日談扱いするのはいい加減如何なものか?

 

「……言いましたけど!

 壊れてもいいって言いましたけど!」

 

 ローラさんはとてもご立腹だった。

 私と彼女は今、お店のカウンターにいる。

 

「もう、夕方ですよっ!?

 あれから、一日中、ずっとっ!!」

 

 彼女の勢いは止まらない。

 

 前述したとおり、現在は日が変わっている。

 始めたのは昨日の昼過ぎだったわけで、都合24時間以上経っているわけだ。

 

 ……誤解して欲しくないのだが、ずっと彼女を貪り続けていたわけでは無い。

 明け方過ぎ位にローラさんが何の反応も示さなくなって……えー、そこから1時間位……いや、2時間?……3……まあ、4時間程度ヤッたらすぐに彼女を解放したのだ。

 その甲斐あって、日が暮れる前に彼女は目を覚ましたわけで。

 

「本当に、本当に壊そうとしましたよねっ!?

 一切、私の身体のこと気遣ってくれなかったですよねっ!?」

 

 涙目になって、ローラさん。

 ……怒っている顔、意外と可愛らしいな、彼女は。

 

 ちなみに今日、迷宮探索はお休みである。

 別段ローラさんとのプレイが理由では無く、最初から今日はお休みの予定だったのだ。

 その旨、陽葵さんにもちゃんと伝えてある。

 

 ともあれ、私はなんとか弁解を試みる。

 

「いや、ほら、なんだかんだ言ってローラさんは壊れなかったじゃないですか。

 だから、結果オーライということで」

 

「な、何の悪意も無い笑顔でそんなことを……!?」

 

 ローラさんが驚愕に目を見開く。

 そんな驚かれるようなことを言っただろうか?

 

 彼女は大きくため息をついてから、

 

「……あんなこと言った手前、クロダさんにどんなことされてももう文句は言いませんけど……官憲の方への言い訳はちゃんと考えておいて下さいね?」

 

 大分物騒なことを口にした。

 

「そ、そんなまさか。

 本当に壊れるまでヤるわけが無いじゃないですか」

 

 いくら私だってそこまでは――たぶん。

 

「嘘、嘘です。

 私、走馬燈を見ました。

 死んだお父さんやお母さん……と、あの人、も一緒に、川の向こうで手を振ってました」

 

 臨死体験とは、随分とレアな体験をしたものである。

 ……笑いごとでは無いか。

 

「……私、もうすぐあの人達のところへ逝くんですね。

 クロダさん、私が壊れたとしても、私のこと忘れないでいてくれますか…?」

 

 悲しそうに私を見るローラさん。

 

「だ、大丈夫ですって!

 人間、そう簡単に壊れたりしないものですよっ!」

 

 ……似たような台詞を前にも言ったな。

 その時とは状況が大分異なるが。

 

「………でも、これからも昨日みたいなことするんでしょう?」

 

「それは……まぁ」

 

 存分に楽しもうと思ったら、あれ位はヤッておきたいところである。

 あれだけやっても、ローラさんは大丈夫(?)だということも分かったわけだし。

 

「うふふふふ……クロダさん、壊れた私の相手も、偶にはしてくれると嬉しいです」

 

「ちょっ、ローラさん!

 笑顔が、笑顔が壊れてますよ!?」

 

 本気で肝が冷えるからそういうことは止めて下さい。

 ……うん、少しは女性のことも考えてプレイした方がいいのかも。

 

 「ごめん下さいませ」

 

 そんな会話をしていると、店の入り口の方から声が聞こえる。

 どうやら、お客が来たようだ。

 

 挨拶と共に入ってきたのは――

 

「あら、初めての方ですか?」

 

「ええ、そうですわ。

 こちらのお店が良い品を揃えていると聞きまして」

 

 ―――――――あ?

 

「っっっっっっ!!?」

 

 私は、叫び声を上げようとするのを必死に抑える。

 

 いや、待て、待て待て待て待て、おかしい、おかしい。

 なんで、なんで今、この女がここに居る?

 

「――え!?」

 

「どうかなさいました?」

 

「ご、ごめんなさい、私、エルフの方を間近で見るのは初めてだったもので」

 

「あら、そうでしたの。

 ふふふ、ウィンガストでもエルフは珍しいのかしら?」

 

「はい、ほとんどいらっしゃらないと思います」

 

 私の内心をよそに、ローラさんと女性が会話している。

 

 今、彼女が述べたように、女性はエルフであった。

 その証拠に、女性の耳は尖り、肌はシルクよりも白く、背は私と同程度に高い――何より、容貌が恐ろしい程整っている。

 スーパーロングヘアのプラチナブロンドと相まって、神秘的な雰囲気すら纏っていた。

 

 だが、そんなことは問題ではない。

 そんなこと、何の問題でもないのだ。

 

「…………?」

 

「今度はどうされました?」

 

「いえ……あの、すみません。

 失礼を承知で教えて欲しいのですが、私、前に貴女にお会いしたことがありましたか?

 ……なんだか、初めて会った気がしないのですが」

 

「あら、そうでしたの?

 それでしたら――」

 

 その女性は、私の方をちらりと見てから、

 

「そちらの殿方に聞いてみればよろしいのでは?」

 

 私の方に話を振ってきた。

 

 ……ひょっとしたら。

 ひょっとしたら、この女性は偶然ローラさんの店に来ただけかもしれない、という淡い希望を持っていたのだが。

 そんな希望は儚くも崩れ去った。

 

「――はい?

 クロダさん、この方がどなたか知っているんですか?」

 

 女性につられて、ローラさんも私の方を見る――すると。

 

「えっ!? ちょっと、どうしたんですか、その顔――!?」

 

「――え?

 ああ、これは、すみません」

 

 言われてから気づいた。

 私はかなり強張った顔をしていたらしい。

 

「ふふ、ふふふふふ。

 そんなに緊張なさらないで?

 ほら、ワタクシのことを、このご婦人に説明してあげて下さいな」

 

 面白そうに笑いながら、その女性は言う。

 

「やっぱり、クロダさんこの方をご存じなんですか。

 …………どちらで知り合ったんでしょう」

 

 ローラさんの台詞は後半、少し剣呑な響きを持っていたが。

 残念ながら、それに対して冷や汗を流す余裕は、今の私には無かった。

 

「……ローラさん、この女性は――」

 

 唇が震えてしまうのを何とか押し留める。

 だが、声がかすれるのまでは隠せなかった。

 

「――この、女性は……五勇者の一人、『全能』のエゼルミアさん……です」

 

「はい?

 ……あの、クロダさん、そういう冗談は――」

 

 この世界の住人にとってみれば、あんまりな内容の返答に、顔をしかめるローラさん。

 しかしその直後、

 

「ピンポンピンポーン。

 ふふふ、ふふ、正解ですわ」

 

 当の本人から、それを肯定されたのだった。

 

「―――え」

 

 ローラさんが硬直する。

 こんな状況で無ければ、珍しい反応をする彼女を楽しめたのだが。

 

「はい、ご紹介を受けた通り、エゼルミアと申しますわ。

 この町には何度か訪れたことがありましたから、その時に見かけたのではないかしら」

 

 彼女は――エゼルミアさんは金色に輝く金属製のカードを見せながら、自己紹介をした。

 このカードこそ、彼女が五勇者であることを示す証拠。

 世界で5つしかない、五勇者の身分を証明するアイテムだ。

 

「―――えぇぇえええええええっ!!?」

 

 遅れて、ローラさんが大声を上げる。

 今日の彼女は、今まで見たことのない表情を色々と出してくれる。

 

「す、すす、すみません、こんなお店にご足労頂くだなんてっ!

 あの、ご連絡下さればすぐにアイテムをお届けしますから――」

 

「ふふふ、畏まらないで下さいな。

 ワタクシ、そういうのは趣味じゃありませんの。

 ……ああ、そうですわ、今度は貴女のことを教えて頂けないかしら?」

 

「は、はい。

 ローラ・リヴェリと申します。

 この魔法店で店主を務めておりまして――」

 

「ふふ、ふふふ、お若いのに立派ですわ。

 一人でお店を経営するのは、何かと大変でしょう?」

 

「いえ、そ、そんなことは――」

 

「ご謙遜なさらなくても。

 お店の様子を見れば、しっかりと手入れが行き届いているのが分かりますわ」

 

「こ、光栄ですっ!」

 

「それで――」

 

 エゼルミアさんは、再び私の方を見る。

 

「今度は貴方のことを教えて頂けませんかしら」

 

「……それは、必要なことですか?」

 

 エゼルミアさんに私のことを言いたくないというよりも――

 彼女は既に私のことなど知っているのではないか、という疑念が私を支配していた。

 

「勿論ですわ。

 教えて下さらないと、ワタクシ、貴方のことを何とお呼びすればいいかも分かりませんもの」

 

 エゼルミアさんが念を押してきた。

 ローラさんも、説明を躊躇う私を訝しんでいるようだ。

 

 ――確かに、こんなことで悩んでも詮無きことか。

 

「…………黒田です。

 黒田、誠一と申します」

 

「クロダ・セイイチさんですか」

 

 エゼルミアさんは私の名前を繰り返した後、

 

 

「――キョウヤさんとお呼びしてもよろしいかしら?」

 

 

 ……………。

 

「え、え?」

 

 いきなりなエゼルミアさんの発言に、ローラさんが戸惑いの声をもらす。

 

「黒田誠一だと申し上げたはずですが?」

 

「ふふふ、ふふ、そうでしたわね」

 

 何が面白いのか、エゼルミアさんは笑みを深めた。

 

「でも困りましたわね、貴方がキョウヤさんで無いとしたら――」

 

「……無いとしたら?」

 

 私は彼女の言葉を聞き返す。

 エゼルミアさんはなおも笑いながら、

 

「貴方、死んでしまうかも」

 

 次の瞬間、エゼルミアさんの手から光が溢れだし―――

 

 

 

 ――私の目の前で、ローラさんのお店が燃えていた。

 

「――――え。え、え……?」

 

 私の腕の中で、事態について来れていないローラさんがただひたすら当惑している。

 いきなり五勇者が現れて、突然自分の家を破壊されたのだ。

 この状況を理解しろというのが、まず無理な話だろう。

 

「ふふ、ふふふふ、お見事ですわ」

 

 私の目の前には、エゼルミアさんが立っている。

 他人の家を壊しておきながら、その顔には一片のやましさも無い。

 

「あの一瞬で、ここまで移動しますとは。

瞬間移動(テレポート)>も<神速(オーバークロック)>も使わずに、一体どういうカラクリなのかしら?」

 

 ……私達は今、店の前の通りに居る。

 エゼルミアさんが何らかのスキルを発動したと同時に、ローラさんを抱えて店を飛び出したのだ。

 

「ワタクシとしては、そちらの女性を助けたことも、高ポイントですわよ。

 勇者たるもの、無辜の民を放ってはおけませんものね」

 

 その無辜の民の財産をたった今破壊した人が、どの口で言うか。

 

「……私は勇者などではありませんがね」

 

「ふふ、ふふふ、そうなのかしら?

 まあ、そういうことにしておいて差し上げます」

 

 私の軽口を適当に流すエゼルミアさん。

 こちらにとってもどうでもいい話なので、流されたことに異論はない。

 

 次いで私は、流されては困る話題を口にした。

 

「――それで」

 

「それで?」

 

 息を深く吸ってから、告げる。

 

「それで、この惨事を如何様に治めるおつもりで?」

 

「そうですわね……ふふふ、当事者の抹消、なんていかがかしら?」

 

「…………そうですか」

 

 冗談であったとしても、そのような台詞を口に出すか。

 ならば、相応の態度をとって臨まねばならないだろう。

 

「ローラさん、少し離れていて下さい。

 危ないですから」

 

「――え、クロダさん?

 私、これ、どういうことなのか……?」

 

 未だに頭が追いつかないのだろう……疑問符を浮かべるばかりで、ローラさんは動いてくれない。

 仕方なく、私は軽く“跳んで”、彼女から10m程の所に着地する。

 そして自然体に構え、

 

「……ふぅぅううううううう――」

 

『息吹』を行い、精神を集中させていく。

 

「クロダさん、何を……?」

 

 見たことがない私の仕草に、目を白黒するローラさん。

 まあ、こんな私の姿を知っているのは、ウィンガストでもアンナさん位しか居ないわけだが。

 

「………風、が?」

 

 周辺の変化に、ローラさんが呟いた。

 今、私を中心にして、風が巻き起こっている。

 

 その風は段々と強さを増し、そして――

 

「ふふふ、ふふふふ、お待ちになって、クロダさん」

 

 エゼルミアさんの言葉によって、待ったがかけられた。

 彼女は両手を上にあげて、

 

「参りました、降参ですわ」

 

 自らの負けを宣言する。

 ……その口調にも表情にも、余裕がありありと伺えるが。

 

「キョウヤさんとまともに戦って、ワタクシが勝てるとは思えませんからね?」

 

 ――言ってくれる。

 だが、彼女に戦う意思が無いのは、確かなようだ。

 

 私は周囲に吹かせていた風を止め、エゼルミアさんに問いかける。

 

「では、この件に関してどうケジメをつけて頂けるのでしょう?」

 

「そうですわね――こんなのは如何かしら?」

 

 エゼルミアさんが右腕を軽く上げる。

 すると――

 

「……なっ!?」

 

「……嘘っ!?」

 

 ローラさんだけでなく、私まで目を見張ってしまった。

 壊れ、燃え上がっていたローラさんのお店が、時間を逆回ししたように直っていく。

 ――ものの数秒で、お店は元の姿を取り戻した。

 

「ふふ、ふふふふ、ごめんなさいね。悪戯が過ぎました」

 

「……あ、え、悪戯、ですか?」

 

 おかしそうに笑うエゼルミアさんに、呆然としたまま反応するローラさん。

 

「ちょっとした幻術ですわ。

 その証拠に――ほら、周りの人達はまるで騒いでいませんでしょう?」

 

「そ、そういえば…」

 

 なるほど、確かに誰も騒いでいない。

 お店の事が幻だったとしても――私がローラさんを抱えて店を飛び出したのは事実であるはずなのに。

 通行人は誰も気に留めていない。

 

「……た、性質が悪い冗談ですよ、エゼルミア様。

 寿命が縮むかと思いました…」

 

 私は現在進行形で寿命が縮む思いだ。

 

 ――つまり、エゼルミアさんはローラさんのお店を一瞬で壊した上で、やはりものの数瞬で元に戻したということ、なのだろう。

 しかも、周辺の人々に私達のことを不可知にさせたうえで。

 ……何のスキルを、どのように使用したのか、見当もつかない。

 

「本当にごめんなさい、ローラさん。

 今手持ちが無いのですけれど、後で迷惑料を届けさせますわ」

 

「いえ、そんな――」

 

「要らない、なんて言わないで下さいな。

 迷惑をかけてしまったのは事実なのですから」

 

 そこでエゼルミアさんは私に向き直る。

 

「クロダさん」

 

「……なんでしょうか」

 

 警戒しながら、私は答えた。

 

「近々、魔族達が動き出します。

 努々、油断なさらぬように」

 

「……何故そのようなことを私に?」

 

「勇者は魔族と戦うものでございましょう?」

 

 まだ言うか、この人は。

 改めて否定しようと口を開く。

 

「私は――」

 

「勇者では無い、と。

 そうですわね、でも、似たようなものじゃないかしら?」

 

 ――先手を打たれた。

 私が何も言えないでいると、エゼルミアさんはさらに畳みかけてくる。

 

「それでは、ワタクシはお暇させて頂きますわね。

 信じてもらえないかもしれませんが、こう見えて忙しい身ですのよ?

 ……ふふ、ふふふふ、クロダさん、次は同志として相見える――といいですわね」

 

 エゼルミアさんは優雅にお辞儀をする。

 

「それでは、お二人とも、御機嫌よう」

 

 そう言い残し、姿を消した。

 おそらく、<瞬間移動>のスキルを使用したのだろう。

 

「…………」

 

 彼女が消えた虚空を、私はしらばく見つめ続ける。

 ――とうとう、知られてしまった。

 これから私はどう動くべきか。

 

「……クロダさん」

 

 ローラさんが声をかけてくる。

 気づけば、彼女は私のすぐ側にまで近寄っていた。

 

「……今のって、何だったんですか。

 エゼルミア様と、どういう関係なんですか」

 

 不安そうな口調で、矢継ぎ早に質問してくる。

 

「……クロダさん、貴方は一体何者なんですか?」

 

 ――どう、応えるべきか。

 

「ローラさん、いずれ、必ず説明します。

 今は、その疑問を胸に収めておいては頂けませんか」

 

 悩んだ私は、結局、現状維持の選択をしてしまった。

 こんなのばかりだな、私は。

 このような返答で、ローラさんが納得するわけもないのに。

 

 ……だが彼女は私の予想とは違い、こう言ってきた。

 

「……あの、クロダさん。

 私の前からいなくならないって約束してくれましたよね?」

 

「――はい」

 

「約束、守ってもらえますか」

 

「勿論です。

 その約束を違えるつもりはありません」

 

 ローラさんは表情を和らげ、

 

「……なら、いいです、我慢します。

 いつか、必ず教えて下さいね、クロダさんのこと」

 

 納得して貰えたわけでは無いだろうが、私の考えを尊重してくれるようだ。

 ……その判断に、感謝を。

 

「……ありがとうございます。

 時が来れば、必ず真っ先に説明いたしますので」

 

 ローラさんに頭を下げる。

 そして、彼女のお尻に手を伸ばし、そのまま揉んでみた。

 

「………はれ?」

 

 ローラさんが変な声を出した。

 

 実はローラさん、私に抱きかかえられたり、私が起こした風に吹かれたりで、ドレスが捲り上がって実にセクシーな格好になっている。

 あと、いちいち描写しなかったがエゼルミアさんも大胆なスリットが入った、身体のラインがかなり浮き出る服装をしており、まるでモデルのような彼女のスタイルを私はずっと見続けていたのだ。

 もうさっきから私の股間は興奮しっぱなしである。

 

 今回の件では私もまだ頭が混乱しているんで、ここはひとつ、彼女を抱いて心を平静にしようと思う。

 

「あんっ……ちょっと、クロダさんっ!?……あぅう……急に何を!?」

 

「いえ、心を落ち着かせるためにローラさんを抱こうと思いましてね」

 

「こ、この流れでですかっ!?……あ、ああっ……」

 

 片方の手で彼女のお尻を揉み、もう片方で彼女の胸を弄る。

 服越しに伝わってくる肢体の柔らかさが実に良い。

 

「さ、さっきまで格好良かったのにっ!……ん、んんんっ……

 凄く格好良かったのにっ!……あぁあっあぁぁああんっ」

 

 私は彼女のうなじに舌を這わせながら聞いてみる。

 

「……では、今は駄目ですか?」

 

 その質問に、彼女は顔を赤くしながらふいっとそっぽ向いて。

 

「……私の身体はクロダさんの好きなようにしていいって、言ったばかりじゃないですか」

 

 小さな声で、そう答えてくれた。

 ……どうやら、OKということらしい。

 

 私は再び彼女を抱え、店の奥へと運んだのだった。

 

 

 こうして、今日もまた彼女のお店には、絶えず女性の喘ぎ声が響く。

 

 

 後日談 完



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第十話 店長の新メニュー
① 毎度お馴染み黒の焔亭


 

 

「……………むむぅ」

 

 冒頭から辛気臭い顔を見せて申し訳ない。

 机に肘をつき片手を額に当てながら、私は悩んでいた。

 

 五勇者の一人、エゼルミアさんと出会って既に数日経過した。

 今のところ、何も起きていない。

 

「……………むぅ」

 

 「ちょっと」

 

 経過したものの、何も起きてはいない。

 ……不謹慎な話だが、何かが起きてくれればそれに専念し、悩む余裕がなくなるというのに。

 

「……………ぬぅう」

 

 「あのさぁ」

 

 こうなると、私はエゼルミアさんに出会ってしまったことについて考え込まねばならない。

 彼女はどうやって私を知ったのか、彼女は何故私に会いに来たのか、彼女はこれからどう動くのか。

 

『全能』たるエゼルミアさんがどのように情報を得たのかなど、考えても無駄。

 私に会いに来た理由は、実のところある程度察しがつく。

 つまり私は、彼女の行動を予測し対処せねばならないわけで――私にそんなことができるのか?

 

「……………ぬぬぬぬぬ」

 

 「ねえっ!!」

 

 横から強く声をかけられる。

 思わず振り向くと、そこにはウェイトレス姿のリアさんが居た。

 

 今は既に夜。

 私はいつものように、黒の焔亭にて食事をしていたのだった。

 

「どうかされましたか、リアさん?」

 

 聞き返しついでに、リアさんの姿を観察する。

 

 相変わらず制服のスカート丈は短く、彼女の健康的な太ももをほとんど露わにしている。

 下着は見えることが無いというところに、匠の技を感じる。

 少し上を見れば胸を上手い具合に強調した意匠で、リアさんの綺麗なおっぱいの形が簡単に見て取れた。

 ……うん、今日の彼女もまた実に艶がある。

 

 もっとも、その顔に浮かぶ表情は、はっきりと不快感を主張していたが。

 

「……あのさ、クロダ。

 もう客の入りも落ち着いたから、長居することに文句は無い。

 珍しく真剣な顔して悩んでるのも私がどうこう言う話じゃない」

 

 とうとうと語るリアさん。

 ……ふむ、では一体なんだと言うのだろうか。

 

「ただね……人のスカートの中に手を突っ込んで、尻を触るの止めてくんない?」

 

「……おや?」

 

 そういえば先程から右手に随分と触り心地の良い手触りと柔らかくて暖かい感触があった。

 これはリアさんのお尻だったのか。

 

「これは失礼しました。

 自分でも気づかない内に手が動いていたようですね」

 

「見え透いた嘘をつくなっ!?

 こんなん無意識でやれるわけないでしょ!」

 

「いやぁ、ちょうどいい位置にあったのでつい」

 

 謝りながら、私は手をリアさんの股間へと移し、彼女のクリトリスを擦る。

 

「うぁっ!?」

 

 すぐさまリアさんは反応してくれた。

 実にいい感度だ。

 私は指でさらに彼女の敏感なところを弄っていく。

 

「あぅっ!? あっ……なんでこんな……あんっ……いきなりっ……あっあっあっあっ」

 

 こちらを批判するような言葉を吐きはするものの、リアさんの顔はだんだんと蕩けていく。

 

「はぅううう……止めてっ……あ、あぁぁああっ……止めな、さいよっ……あぅうう……」

 

 リアさんは堪えきれない様子で、私の腕にしがみついてきた。

 彼女の茶色くサラサラな髪が、少し顔にかかってきた。

 

 ――幸いなことに、私は一人思い悩むため店の端に席をとっていたため、私と彼女のやり取りは他の客に気づかれていないようだ。

 

「あぁあんっ……はぁっはぁっはぁっ……ん、んんんんっ……や、止めてってば……」

 

 瞼を閉じ、うっとりとした顔でそんなことを言う。

 いくら私でも、そんな彼女の言葉を額面通り受け取るようなことはしなかった。

 引き続き、指で彼女の陰核に刺激を与えていく。

 

「んぁ、あっあっあぅっ……はぁああんっ……あ、あ、ああぁぁぁ……」

 

 くいっくいっと腰を動かして、私の手に股を擦り付けてくるリアさん。

 下着の布越しにも、彼女の膣が濡れているのが分かった。

 

「は、ああぁぁぁ……クロダ……あぁああっ……お願いだから……んんぅううっ……」

 

「……お願いですか。

 リアさんは私にどうして欲しいと?」

 

 コリコリと股間にある豆を摘まみながら、私はリアさんの要望を聞いてみた。

 

「あっあっあっあっ……お願いだから……んっんぅっあぅうっ……あんたの、アレを……お、おぉおっ……あたしに、い、挿れて……はぁんっ……」

 

「アレ? アレとは何でしょうかね。

 私の何をリアさんのどこに挿れればいいのですか?」

 

 少し意地悪な返しをしてやる。

 

「……そ、それは……はぁっはぁっはぁっ……あぁっああぁぁ……」

 

 言い淀むリアさんだが、すぐに観念して口を開いた。

 

「……あんたの、ちんぽ……あんっ……あたしの、まんこに挿れて欲しいの……ああぁあああっ……」

 

「そこまで言われては仕方ありませんね」

 

「……あっ」

 

 私はリアさんの手を引いて、私の股間の上に座らせる。

 ちょうど対面座位のような姿勢と言えば、分かりやすいだろうか。

 

 手早くズボンのチャックを下ろし、自分のイチモツを取り出す。

 

「では挿れますからね」

 

「……うん……来て……」

 

 リアさんが頷いたのを見てから、私は彼女のパンツをずらし、膣へと肉棒を差し込む。

 股間が暖かい感覚に包まれた。

 

「はぁぁああああんっ」

 

 彼女が嬌声を上げた。

 ただ、周りを気遣ってか、いつもより大分音量を抑えている。

 それに少々不満を覚えないでも無かったが、流石にここは店内、TPOは弁えねばならないだろう。

 

「あっあっあっあっ……これ、これぇ……んんっあぅっああっああっ……これが、欲しかったの……」

 

 私が何かするよりも早く、彼女は腰を振り出した。

 腕を私の背中に回し、抱きついてくる。

 

 ――しかし、大きな声を出してはならないという制約がかえってリアさんを触発したのか。

 彼女の膣からの締付は、いつもより強い程だった。

 

「おぅっおっおっおっおお……んんぅううっ……クロダの、気持ちいい……」

 

 とはいえ、何度も言うがここは店内。

 周りにはディナーを楽しむお客がまだ居るのだ。

 刺激的な行為であり、長く楽しみたい欲も湧くが、なるべく早めに終わらせる必要はある。

 

 私は大きな音を立てないように注意しつつ、腰を彼女へ打ち付ける。

 

「はうっ……あっあっあっ……すごっ……んんっあうっああっあんっ……」

 

 リアさんの声がさらに高くなる。

 

 ……まあ、<静寂>を使えば音の心配はなくなるのだが、お互いの息遣いが聞こえるからこその興奮というものもある。

 それに、バレてしまうかもしれないというスリルもまた、リアさんにはいいスパイスになっているようだ。

 私にしても、それを楽しんでいることを否定できない。

 

「んんっあんっあんっあぅっ……あ、あぁあっ……あぅううっ……んちゅっ」

 

 感極まったリアさんは、私にキスしてきた。

 声を出してはいけないこの状況、互いの口を口で塞ぎあうこの姿勢は都合が良い。

 

「んっんんっ……んむっんっ……ちゅっれろっ……あむっ……んんんっ」

 

 舌と舌を絡ませながら、私とリアさんは腰を振り続ける。

 

「はぁっ……あんっ……んんむっ……ちゅっちゅっ……んぁっんっあんっ……」

 

 動きのペースが上がってきた。

 彼女の中も大きくうねり、私のイチモツを締めあげてくる。

 

 そろそろイク頃合いか。

 リアさんが絶頂するタイミングに合わせるべく、私も腰のストライドを激しくする。

 

「……あぅうっ……んむっんんふっ……れろれろっ……くぅうっ……あんっあぁあああっ」

 

 口づけしているにも関わらず、リアさんから喘ぎ声が漏れ出した。

 彼女は今すぐにもイキそうだ。

 

 ……人のことを言ってもいられない。

 私ももうすぐだ。

 

「……出しますよ、リアさん」

 

「うん、出して……あぁ、あぁぁあああっ……あたしの中に、全部出してっ……あっあっあっあっ……あっっっっ!」

 

 私が射精すると同時。

 可能な限り声を抑えて、リアさんはイッた。

 

「あっ…あっ…あっ…あっ…」

 

 びくっびくっと震えながら、リアさんは私から精液を搾りとってくる。

 私も腰を彼女へ押し付け、少しでも奥へ精液を届けようとした。

 

「あっ…あっ…………はぁっはぁっはぁっはぁっ」

 

 ひとしきり痙攣が終わると、彼女は肩で息をしだす。

 私はリアさんの頭を撫でて。

 

「……良い具合でしたよ、リアさん」

 

「はぁっはぁっ……あたし、も。

 クロダの……はぁっ……凄い、良かった……」

 

 潤んだ瞳で私を見つめるリアさん。

 そんな目で見られたら――またヤりたくなってしまうではないか。

 

「……んんっ……あんたの、まだ固いままだね……」

 

 リアさんは、私が萎えてなどいないことを膣で察したようだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに見つめあうと、リアさんは小さく頷く。

 彼女の手が私をぎゅっと掴んでくる。

 ――なるほど。

 

 では、二回戦開始といこうか。

 

 

「そこまでにしておけよお前ら」

 

「おうふっ!?」

 

 腰を動かしだそうとしたところでいきなり後ろから話しかけられ、変な声を出してしまった。

 慌てて声の方へ顔を向ければ、そこにはゲルマンさん――店長が仁王立ちしていた。

 

「……て、店長」

 

「――見てたの、あんた」

 

「おう見てたとも。

 別に見たくて見たわけでもねぇがな。

 ……厨房の位置からだと丸見えだったぞ」

 

 そ、そうだったのか。

 確かにこの位置、ちょうど厨房の扉からは射線が通っている。

 

「あのなぁ、一応は他の客もいるっつう時に、店ん中でまぐわってんじゃねぇよ」

 

「……すみません」

 

「あんたに言われたくもないけどね」

 

 頭を下げる私と、睨みつけるリアさん。

 性行している場所を見られたというのに堂々としたものだ。

 彼女の場合、店長からはちょくちょく手を出されているので、店長にアレコレ見られても今更というところか。

 そしてよく手を出されているからこそ、彼の言葉に納得いかないところもあるのだろう。

 

「別にヤるなとは言わねぇよ?

 ちったぁ時と場所を弁えろっつう話だよ。

 ……お前らがヤってるのに気づいて何組か客帰ったんだからな?」

 

「おや」

 

 それは申し訳のないことをした。

 十分周りに気を遣っていたつもりだったのだが、私の認識不足だったようだ。

 

「トイレに行くなり裏手に回るなり色々やりようってもんがあんだろ。

 俺にしたって、その辺は一応気にしてんだぞ?

 ……言ってくれりゃ個室とか貸してやるからよ」

 

「……そこまでして頂くのは流石に悪い気がしますが……」

 

 そういうお店であるならばともかく、黒の焔亭はあくまで食堂兼酒場な所。

 部屋を借りてまでして女の子とセックスするのは、いくら何でも店長の善意に頼りすぎだ。

 

 私は店長の言葉に返事してからリアさんに向き直り。

 

「……では、リアさん、トイレに行きましょうか」

 

「え? あ、あんた、こんな流れでまだしようっての?」

 

「いけませんか?」

 

 流れと言われても、私の男根はまだリアさんの中に入ったままなわけで。

 当然、ギンギンに勃起している。

 できればあと数発は出しておきたいところだ。

 

「……いや、ま、まあ、いいけど」

 

 消極的な賛成をしてくれるリアさん。

 だが、そこに割り込んできたのは店長だ。

 

「ダメだっつぅの!

 リア、仕事の割り振り表忘れてんじゃねぇだろうな?

 お前これから料理の仕込み番だろが」

 

「……そういえばそうだったような」

 

「忘れんなよっ!?

 お前が行ってやんねぇと今やってる奴が休めねぇだろ!」

 

 むむむむ。

 店長のわりに、実に真っ当なことを指摘してくる。

 仕事を引き合いに出されてはこちらも引き下がるしかあるまい。

 

「仕方ありませんね。

 私から誘っておいて申し訳ありませんが、リアさん、仕事へお戻り下さい」

 

「うん、ごめんね……あれ、あたしが謝るのって何かおかしいような」

 

「仕事さぼってたんだから謝ること自体はおかしくはねぇんじゃねぇか?」

 

 自分の発言に疑問を持つリアさんに、若干ずれた突っ込みを入れる店長。

 私はと言うと、藪蛇にならないように黙っていた。

 

「……そうかな?

 ……そうか?」

 

「ほれほれ、首をひねってねぇでさっさと行けって!」

 

「わ、わかったってば!」

 

 店長がリアさんの肩を叩いてせかす。

 リアさんはそれに応じて腰を上げ――

 

「……あんっ!」

 

 ――私のイチモツが彼女の膣から抜け出る感触に、思わず嬌声を上げてしまったようだ。

 リアさんは恥ずかしそうに――今更なにを恥ずかしがることがあるのかといった感もあるが――顔を赤らめてから、

 

「じゃ、じゃあクロダ、またね」

 

 早口でそう言って厨房の方へ歩いて行った。

 その後ろ姿を眺めながら、店長が口をこぼした。

 

「しっかしリアも最近は丸くなってきたなぁ。

 お前に対してデレッデレじゃねぇか」

 

「……そうですね」

 

 なんとなく、遠い目をしてみる。

 最初の頃にリアさんへイチモツを突っ込んだ時は、終わった後大分痛めつけられたものだが。

 ここまで来たのかと思えば、感慨深い。

 

「ま、お前だけに限った話でもないがな。

 俺に対しても大分股が――もとい、態度が柔らかくなった」

 

「おや、そうでしたか?」

 

 その割には、つい最近もボロボロにされていた気がするが。

 

「おうよ。

 前は無事な箇所を探すのが難しい位ボコボコにされたがな。

 最近は骨の1,2本と軽い全身打撲程度で済んでる」

 

 ……それは、柔らかくなったと言えるのだろうか。

 まあ、緊急入院を繰り返していたことを考えると、確かに制裁は軽くなったとも言える。

 

「へへっ、完全に堕ちるのも時間の問題かねぇ」

 

「ええ、その時が楽しみですね」

 

 一つの仕事をやり遂げようとしている男達――という雰囲気で笑いあう。

 実際、ここに来るまでの苦難を思えば、達成感も湧いてくるというものだ。

 

「さて、そんじゃもうひと踏ん張り仕事してくっか――っと、そうだ!」

 

 そこで店長、何かを思い出した様子。

 

「忘れてたぜ……クロダ、今日閉店後まで残れたりするか?」

 

「はい、構いませんが」

 

「そいつぁ良かった。

 実はな、今考案中の試作メニューがあるんだ。

 それの味見を頼みてぇんだよ」

 

 ほほう、新メニューとな。

 店長はいかつい容姿をしてはいるが、にも拘わらず料理の腕はかなりのもの。

 黒の焔亭は、何もウェイトレス目当ての客だけで成り立っているわけでは無いのだ。

 そんな店長の新メニューを一足早く堪能できるというのならば、拒む理由などない。

 

「そういうことでしたら、是非やらせて下さい」

 

「おお、ありがてぇ!

 お前、意外と味覚が鋭いからな。

 店のメニューに並べる前に意見を聞いておきたかったんだよ」

 

「恐縮です」

 

 味覚が鋭いと店長は言うが、私は特別グルメというわけでは無い。

 個人差はあるものの、<訪問者>――つまり東京からウィンガストに来た人は、この世界の住人に比べて味覚が発達しているのだ。

 この世界の料理を悪く言うわけでは決してないが、平均的な調理技術を単純に比べると、やはり現代社会に軍配が上がる。

 そして美味い料理を食べていた分、舌も肥えているというわけだ。

 

「閉店までまだ時間はあるが――どうする、何か食うか?」

 

「いえ、余り小腹は空いていないので」

 

 先程まで悩みながらドリンクをちょびちょび飲んでいたので、喉も乾いていない。

 

「そうか……じゃあ、適当に暇してるウェイトレスに相手してもらいながら待っててくれや。

 ま、食事を追加してくれる分には全然構わねぇけどな!」

 

「はは、そうさせて貰います」

 

 店長は私の肩を軽くたたいてから、リアさんの後を追って厨房に入った。

 

 ……さて、では何をして時間を潰すか。

 冒頭でやっていた悩みを続行するのは、流石に不毛だろう。

 と、なると――

 

「……ふーむ」

 

 私は店内を見渡す。

 

「……む」

 

 ちょうど手すきのウェイトレスさんを発見。

 黒髪をボブカットにしている可愛らしい女の子で、いつも礼儀正しく接客をしている。

 私はその子に近寄って声をかける。

 

「すみません」

 

「はい、なんでしょうか、お客様――あ」

 

 笑顔で返事をしてくれるウェイトレスさんだが、最後に表情が固まる。

 はて、何故だろうか。

 ……ひょっとしたら、私の股間がギンギンに勃起していることと関係があるのかもしれない。

 

「お忙しいところ恐縮ですが……トイレに案内して貰えませんか?」

 

「と、トイレ、に――?」

 

 膨らんだ股間に目が釘付けになるウェイトレスさん。

 気のせいか、声をかける前よりも顔が赤くなっている。

 

 なお、トイレに行きたいというのは嘘ではない。

 色々催してしまっているのは確かなのだから。

 もっとも、このお店の常連である私がトイレの場所を知らないわけが無く、それはこのウェイトレスさんも分かっているはずなのだが。

 

「……いけませんか?」

 

「い、いえ、そんなことは!

 ……ご、ご案内します、お客様」

 

 拒否されるかも、と思ったのだが、ウェイトレスさんは快諾してくれた。

 彼女は私の手を引いて、トイレへ案内してくれた。

 

 

 

 それから少し時が経ち。

 

「……もう閉店の時間ですかね」

 

 そろそろホールに戻っておいた方がいいだろう。

 まだ時間はあるだろうが、私がもう帰ってしまったと店長に勘違いさせてしまう可能性もある。

 

「……これ、孕んじゃってる……絶対、孕んじゃってるよぉ……」

 

 股から白く濁った液体を垂らし、恍惚とした表情で何か言葉を繰り返しているウェイトレスさんを残して、私はトイレを出た。

 ……まあ、意識はしっかりしているようだし、放っておいても大丈夫だろう。

 

 

 

 第十話②へ続く



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②! 新メニューのお披露目

 

 

 

 ホールに行くと、お客はもうほとんど居ないようだった。

 店の片付けも大凡終わっている。

 

「お、クロダ君じゃないか」

 

 適当な席に座っていようと思っていた私に、声をかけてくる人がいた。

 黒の焔亭でも、そしてローラさんのお店でも馴染みの顔――セドリックさんだ。

 

「おや、セドリックさんではないですか。

 そちらも店長の新メニューを?」

 

「うむ、店長に誘われてね。

 ここの料理はちょっとしたレストランよりも美味しいからなぁ……ふふふ、楽しみだよ」

 

「ええ、そうですね」

 

 セドリックさん、実はなかなかのお金持ちなお方だったりする。

 舌の肥え方は現代日本人に勝るとも劣らないし、ウィンガストにある高級料理店にも大体行ったことがあるという話だ。

 そんな彼が太鼓判を押すのだから、店長の料理の腕はこの町の料理人の中でも上位に入るということだろう。

 

 店長を待つ間、私はセドリックさんと雑談を楽しんだ。

 色々と近況やら何やらを話していると、彼からこんな話題が飛び出す。

 

「そういえばクロダ君、最近ローラさんとはどうかね?

 式の日付とかは……」

 

「いやいや、私とローラさんはそういう関係ではありませんよ!?

 あの、余りそのような話を広められると彼女に迷惑が……」

 

「何が迷惑なものか。

 男女の仲を他人である私がとやかく言うのは無粋だと分っちゃいるがね、君とローラさん、傍から見ればこの上なく理想的なカップルだよ?」

 

「いえ、ですから……」

 

 セドリックさんは、ことあるごとに私とローラさんをくっつけようとしてくる。

 彼がローラさんにしてきたことを考えれば、気持ちも分からなくもないが……

 

 しかし、セドリックさんがどう言おうと、私とローラさんはただの――――むむ?

 ……私とローラさんは今、どういう関係にあると言えばいいのだろう?

 

 身体だけの関係――違う。

 それは、流石に違う。

 違うはずだ。

 そんな風に、言ってはいけないと思う。

 

 だったら――

 

「お、待たせちまったな二人とも!」

 

 考えがまとめられず悩んでいたところへ、店長がやってきた。

 ――とりあえず、この案件を考えるのは今日は止めておこうか。

 

「おお、店長!

 待っていたよ!」

 

「お待ちしていました」

 

「いやあ、すまんすまん。

 思いのほか時間かかっちまってなぁ」

 

 店長はそう言うが、実際のところそれ程待たされたわけでは無い。

 彼なりに、急いで試作料理を作ってくれたのだろう。

 

「そんじゃ、早速試食してもらおうじゃねぇか。

 こいつが今回の新作メニューだ」

 

「ほう」

 

「おお」

 

 店長が持ってきたくれたのは、なんと意外なことにスイーツだった。

 フルーツやシャーベット、アイスやクリームで盛り付けられた、パンケーキである。

 

 ……こんなことを思ってしまうのは非常に心苦しいのだが、正直なところ、店長のイメージに全くもって釣り合わない。

 

「こ、これはまた、意外な料理ですね」

 

「全くだ」

 

 セドリックさんも私に同意してくれた。

 

「女体盛り位出してくれるかと期待していたんだが…」

 

 訂正。

 私とは違うことを予想していたらしい。

 

 店長はセドリックさんを睨んで。

 

「……てめぇ、俺の店をなんだと思ってやがんだ?」

 

「ウェイトレスの女の子といいことができるお店」

 

 即答するセドリックさん。

 一切の迷いが無い。

 

「よしわかった、セドリックお前もう二度とウチに来るんじゃねぇぞ。

 町で声をかけてくるのも禁止だ、もちろん、うちの従業員に対してもな」

 

「じょじょじょ冗談だよ!?

 イッツァジョーク!

 雰囲気を盛り上げようとした大人のコミュニケーションってやつさ!!」

 

 慌てて言い訳するセドリックさん。

 ……まあ、流石に本気でそう答えたわけでは無いと思うけれども。

 

「ったく、俺がそういう話が好きじゃねぇことは知ってんだろうが。

 何年の付き合いだ、おい?」

 

「いやいや、長い付き合いだからこそだね、新たな話題をふっかけてみただけなんだよ。

 クロダ君なら分かってくれるだろ?」

 

 私に助け舟を要求するセドリックさん。

 それに対して私は。

 

「いえ、今の冗談は頂けませんね。

 真面目に料理に励む店長に対して失礼かと」

 

「クロダ君までっ!?」

 

 ズバっと切り捨てた。

 とはいえ、店長がここまで忌避するとは実のところ意外だった。

 この人の事だから、少しくらいそういうエロ方面にも料理を使っているのかと思っていたのだが。

 

「いいかセドリック、女体盛りってのはな……料理を中途半端に温めちまうんだよ!」

 

 ……ああ、そっち?

 

「出来立ての熱い料理を盛るわけにはいかねぇし、かといって冷えた料理を乗っけたら温くなっちまう。

 要は人肌の温度が適した料理にしか使えねぇ皿なわけだ。

 使いにくいったらありゃしねぇ!」

 

 店長がセドリックさんに言い放つ。

 

 やはり店長は店長だった。

 ここまで語るからには過去に色々試行錯誤したこともあるのだろう。

 

「……では、体温の低い氷精族の女性ならば?」

 

 ふと思いついたことを私は提案してみた。

 

「ん? ああ、そうだなぁ、確かに氷精族なら皿に使えるかもな。

 だがあいつらエルフ並みに数が少ない種族だぜ?

 お前の知り合いに居たりするか?」

 

「いえ、残念ながら。

 氷精族が冒険者をしているという話も聞いたことはありませんね」

 

 私達が今語っている氷精族というのは、氷や冷気を扱うスキルに長けた種族のこと。

 巨人や獣人、エルフに並ぶ、人によく似た亜人種族である。

 その肌は雪のように白く、体温も氷のように冷たいと聞く。

 ただ、店長の言うように非常に希少な種族で、普通に生活していればまず会うことが無い方々でもある。

 

 そんな会話へセドリックさんが割って入り、

 

「それなら今度氷精族の女を入荷する予定があるかどうか調べておこう。

 いい子がいたら落札しておくよ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 私と店長は、セドリックさんから一歩離れた。

 お互いに顔を近づけて、

 

「……聞きましたか。

 喜々として人身売買の話しだしましたよこの人」

 

「……ああ。

 前々からやべぇとこに手を出してるとは思ってたが、ここまでとはな」

 

「イッツァジョォォォオオオオオオオック!!!!!」

 

 どでかい声で先の発言が冗談であることを主張するセドリックさん。

 いや、冗談であんなことをすらすらとは言えないだろう。

 

 ……まあ、それはそれとして。

 

「一先ず試食の方に入りませんか。

 余り遅い時間になってもいけませんし」

 

「それもそうだな。

 じゃあ二人とも、食ってくんな!」

 

「さらっと流してくれるねぇ……

 そんな君達が大好きだけど、私の心は結構ズタボロだよ?」

 

 少し涙目でセドリックさん。

 しかし心が傷ついた理由の大半は自身の失言にあるので、残念ながら同情はできない。

 

 そんなセドリックさんはさておき、私はデザートを食してみた。

 

「…………おおっ」

 

「…………ふむっ」

 

 私とセドリックさんが同時に感嘆の声を上げる。

 これは――美味い。

 

 焼きたての暖かいパンケーキはふわふわで、それ単体でもどこか濃厚な味わいを出していた。

 そこへ冷たいアイスや舌触りの良いクリームを添えることで、実よい甘味が加えられている。

 ともすれば甘すぎる感もあるところへ、フルーツの酸味が程よいアクセントとなっており……

 総合して様々な味や触感が楽しめる、非常にバランスの良いスイーツが完成されていた。

 

「いけますね、これは。

 私は甘党というわけでは無いのですが、これなら何枚でも食べられそうです」

 

「甘さが適度に抑えられているのがいいね。

 男性にも受けは良さそうだ。

 盛り付けも綺麗だから、女性受けも十分狙えるだろう」

 

 試食した二人とも、大絶賛である。

 このいかつい店長が、ここまでのスイーツを作り上げるとは。

 人は見かけによらないものだ。

 

「しかし……なんだろうね、このデザート、今まで私が食べてきたものとはどうも違う気がする。

 具体的にどこが違うと言えないのがもどかしいのだが、味に深みがあるというか」

 

「セドリックさんも気づきましたか。

 このケーキ、どうにも普通のケーキとは違う、不思議な味わいがあるんですよね。

 しかし決して不快になるような違和感ではなく、それによって旨味が増しているように感じます」

 

 私とセドリックさんが、同じことを言及した。

 おそらくそれこそが、このメニューの肝。

 店長があえて試食をする機会を設けた理由なのだろう。

 

「へっ、やっぱ気づきやがったか。

 大した舌してるぜ、お二人さんよぉ。

 このメニューにはな、新しい食材を使ってるんだ」

 

「……新しい食材ですか」

 

「何かね、それは」

 

 二人の視線が店長に集まる。

 店長は少しもったいぶってから、口を開いた。

 

「本当は企業秘密ってことにしときたいんだがな。

 常連であるお前らには特別に教えてやらぁ。

 ……こっちに来な、その食材を見せてやる」

 

 店長は私達を手招きし、そのまま厨房の方へ向かっていった。

 

「……クロダ君、何だと思う?」

 

「……分かりません。

 せっかく店長が教えてくれると言うのですし、それに甘えさせてもらいましょう」

 

 私とセドリックさんは互いに顔を見合わせたあと、店長を追ったのだった。

 

 

 ――そして、厨房の奥で私たちが見たものとは!!

 

 

 「あっあっああっあっああぁあっあっあぁあぁああっ!!!」

 

 上半身を裸にされ後ろ手に縛られ、胸には搾乳機のようなものが付けられたリアさんの姿だった。

 ――それで、私達は合点がいく。

 

「なるほど、違和感の正体はこれだったか!」

 

「通常のミルクではなく、人から搾った乳を使ったからこその、あの味わいだったのですね!」

 

 店長は私達の言葉に満足そうに頷き、

 

「ああ、その通りよぉ。

 俺もな、最初は人のミルクなんざどんな味がするか分かったもんじゃねぇと思っていたんだが……

 いざ料理に使ってみれば、これが美味いの何の。

 先入観ってぇのは良くねぇなぁ」

 

 そこでふと、声のトーンを変えて。

 

「――この光景見てつっこみ入れる奴は誰もいねぇのな」

 

「は? この状況にどこかつっこみどころがあるのかね?」

 

「それを期待しているのなら、明らかに人選が間違ってますよ」

 

「……それもそうか」

 

 だって、ここに居る3人は全員変態だもの。

 常識的なつっこみなどするわけが無いんだもの。

 

 「んぁぁあああっ! おっあっおおっおおおっあっあぁぁあっ!!」

 

 この搾乳機、形状は人用よりも牛用のものに近い。

 牛用のものほど大きくは無いが。

 おっぱいに付ける部分は透明な素材でできており、リアさんの乳首から時折ぴゅっぴゅっと乳が出るところを確認できる。

 出てきたミルクはチューブでタンクまで運ばれ、そこで貯蔵される仕組みのようだ。

 ミルクの勢いや、乳首の引っ張られ具合を見るに、結構な強さで胸を搾っているらしい。

 

「……しかしこれどういう仕組みなんですか?

 リアさん、まだお子さんはいませんでしたよね」

 

 赤ちゃんがいなくてもミルクを出せるという体質でも無かったはず。

 今まで彼女の乳首から乳が出るところは一度も見たことが無い。

 

 そんな私の疑問を店長が解決する。

 

「ああ、これは魔法の搾乳機でな。

 おっぱいが出ない女でも、これを使えば搾乳できるようになるっつぅ代物だ」

 

「………魔法の搾乳機、ですか」

 

 何とも胡散臭いネーミングの装置なのだが。

 そんなものを使って、リアさんは大丈夫なのだろうか?

 

「乳を搾る女には、予め二種類の薬品を飲ませておくんだがなぁ。

 片方の薬でその女の脳に、自分には子供がいるんだと錯覚させるらしいんだわ。

 そうすることで、女がミルクの作れる身体になるんだと。

 で、もう片方の薬でミルク作るのを促進させるらしい。

 最後に専用の搾乳機を使えば、乳をビュービュー出す雌牛の完成ってぇわけだ」

 

「ほほう」

 

 何となく、理屈は通っているように思える。

 細かいところの科学的な整合性は測りかねるが、たとえ取れていなかったとしても、それこそ魔法の力ということだろう。

 

 「あ、あぁああっあっあっあっあっあっ!」

 

 ちなみに先程から喘いでいるリアさんだが、目の焦点が完全に合っていない。

 おそらく、長い時間ミルクを絞られていたため、その刺激によって既に意識が朦朧としているのだろう。

 その証拠に、部屋に来た私達の存在を、彼女は未だ認識できていないでいる。

 ――いったい幾度絶頂をしたことやら。

 

「……薬の副作用が気になるところではありますね」

 

「一応、臨床実験も何度か行ったって話だぜ?

 セレンソン商会を通して買ったもんだし、変なもん掴まされちゃあいねぇだろ」

 

 アンナさんのところから仕入れたのか。

 それならば、怪しいものではあっても不良品ということはあるまい。

 その辺りの信用はしっかりとしている人だ。

 

「しかし、実にけしからん装置だね。

 女性から乳を搾ることを目的に作られたとは」

 

 セドリックさんが珍しく真っ当な意見を言う。

 ただ、顔はいやらしく笑っているので、別に本気で批判しているわけではなさそうだ。

 

「同感です。

 開発者は余程の変態性を持つ方なのでしょう」

 

「さぞかし心の汚れた奴なのだろうね、全く!」

 

 私もセドリックさんに便乗していく。

 素晴らしい発明だとは思うが、それはそれとして開発者の変態っぷりや推して知るべし。

 私達と同類な方なのだろう。

 

 そんな私とセドリックさんへ、店長が装置の解説を付け加えてきた。

 

「いや、先天的にせよ後天的にせよ、いろんな事情でおっぱいが出なくなった女っているじゃねぇか。

 そういう女を治療するために作った、医療機器だそうだぜ」

 

 ………なんと。

 

「…………心が汚れていたのは私達の方だったようですね」

 

「…………そのようだね」

 

 偶にまともなことを言えばすぐこれだ。

 見たことも無い開発者を、勝手な正義感でけなした罰というものか。

 

 「あっあぁあっあっあっあっあっあぁああっ!!!…………あ――――」

 

 一際大きく声を上げると、リアさんは仰向けに倒れた。

 絶え間ない乳首への快感に、とうとう意識を手放してしまったようだ。

 

「……倒れてしまいましたね、リアさん」

 

「あー、結構頑張ったんだけどなぁ。

 リアの奴ももうダメかぁ」

 

 私のつぶやきに、店長が応える。

 

「リアさん“も”――ということは、他のウェイトレスさんもこれを?」

 

「ああ。

 ほれ、そこに一人倒れてるじゃねぇか」

 

 言われて部屋の隅を見ると、ウェイトレスさんが一人、上半身裸の状態で倒れていた。

 ウェーブのかかった長い金髪が特徴的な女性で、この店の従業員の中では一番の年上。

 ついでに言うと、ウェイトレスの中で一番おっぱいが大きい人でもある。

 そんな彼女が、時折びくっと痙攣する姿は実に艶めかしい。

 

「なかなか乳牛のように搾るわけにはいかないのですかね」

 

「そうさなぁ。

 やっぱり人にとっちゃ刺激がでかすぎるのかもな」

 

 そう言うと、店長は搾乳機のスイッチを押して動作を止めた。

 ――せっかくなので、私は装置の方もまじまじと眺めてみる。

 

「……よくよく見ても、既存の搾乳機とそう作りは変わらないですね」

 

「機能としては搾乳機から全く逸脱しちゃあいねぇからなぁ。

 人間用だからって、敢えて斬新なデザインにする必要もなかろうよ」

 

「それもそうですか」

 

 ……これと薬があれば、色々な女性のミルクを味わえるわけか。

 私の脳裏には、ローラさんやエレナさん、その他諸々の女性の顔が浮かんできた。

 ついでに陽葵さんも……いや、いくら彼でもこれは無理か?

 

 そうやって魔法の搾乳機をじっと見る私に、店長が聞いてきた。

 

「……クロダよ、それが気になるか?」

 

「ええ、まあ。

 少し、使ってみたくはあります」

 

 私の言葉を聞くと、店長はにやっと笑う。

 

「へっへっへ、お前ならそう言うと思ったぜ。

 実はこの機械、何個かまとめて買っちまっててなぁ。

 その内の一つをお前にやるよ。

 勿論、薬も一緒にな」

 

「はい?」

 

 突然の申し出に私は驚いた。

 そう簡単に人にあげられる程、お手軽なお値段の装置には見えないのだが。

 

「悪いですよ、そんな!」

 

「いいっていいって。

 遠慮すんな!」

 

「しかし……」

 

 渋る私だが、店長はなおも畳みかけてくる。

 

「お前にゃ色々世話になってんだからよ。

 まあなんだ、日ごろの感謝のしるしみたいなもんだと思って受け取ってくれって」

 

「……せめて代金を払うわけには」

 

「変なとこ律儀だなお前も!

 タダでやるっつってんだから喜んで受け取れよ!」

 

 拒み続ける私に、とうとう店長が怒鳴りだす。

 そうは言っても、高価なものをそうほいほい簡単には受け取れない。

 

「クロダ君、人の厚意は素直に受け取るべきだぞ。

 君のそういう、ある種の誠実さは美徳ではあるが、だからといってそれに拘り相手の厚意を固辞しては失礼にあたる」

 

 やや意固地になっていた私に、セドリックさんが助言を飛ばしてくれた。

 ――確かに、そういう考えもあるか。

 

「……分かりました、店長。

 ありがたく受け取らせて頂きます」

 

「へ、最初からそう言えってんだ。

 店の倉庫に積んであるからよ、適当に一つ持って帰んな」

 

「はい」

 

 ……思ってもみなかった貰いものをしてしまった。

 店長はああ言うものの、今度何かでお返しをしなければいけないだろう。

 

 私と店長の会話に決着がつくと、今度はセドリックさんが装置を触りだした。

 

「ふむふむ……ここのチューブを通ってミルクがこっちに溜まって……このダイヤルはなんだい、店長?」

 

「ああ、そりゃあ乳を搾る力加減を調整する目盛りだな」

 

 ふむ、人に合わせて吸引力を調整することができるのか。

 セドリックさんは店長の説明を受けると視線をそのダイヤルに戻し、

 

「ほうほう……ん? まだ最大にはなっていないようだね」

 

 そう言って、ダイヤルを弄って出力を最大にしてから、装置のスイッチを入れた。

 

 「んぉおおおおおおおおおおっ!!!!? おっおおおっおおっおぉぉおおおおおおおおおっ!!!」

 

 次の瞬間、けたたましい叫び声が、リアさんの口から吐き出される。

 

「おおおいっ!!?

 セドリック、お前なにしてくれてんのっ!!?」

 

「……こ、効果覿面だね、こりゃあ」

 

「効果覿面、じゃねぇだろぉっ!!

 お前、うちの従業員ぶっ壊すつもりかよぉっ!!」

 

 店長の慌て様を見るに、最大出力での稼働は相当な負担を女性に与えるようだ。

 直前まで気絶していたリアさんがいきなり覚醒し、おたけびを上げ続けているのだから、その刺激の強さが分かろうというものだ。

 

「で、でもほら、またリアちゃんからミルクが出ているよっ」

 

「んん?

 ……お、本当だ」

 

 セドリックさんの指摘でリアさんのおっぱいを見てみれば。

 

 「おおおっおぉっおぉおおっおっおっおっおおおっ! おおおおおっ!!」

 

 気絶する前以上の勢いでミルクを出していた。

 想像を絶する刺激によるものか、口は半開きで目は白目をむきかけていたが。

 

「……もう限界だとばかり思ってたんだが、俺の一方的な思い込みに過ぎなかったわけか。

 へへ、リアのやつ、なかなかやるじゃねぇか。

 これからはウェイトレスじゃなくて、乳牛として使ってやってもいいかもしれねぇな」

 

「そ、それは困るよ店長!

 彼女は私達お客のアイドルなんだから!

 リアちゃんのまんこの良さは店長だってよく知っているだろう!?」

 

「いや、しかしな。

 実際問題、うちのウェイトレスの中じゃあいつの乳が一番うめぇんだよ。

 胸は特別でけぇってわけでもねぇのに、ミルクは人一倍濃厚なのを出しやがるからなぁ」

 

「でもねぇ、店長――」

 

 二人がリアさんを雌牛にするか、肉便器にするかで熱い議論を交わす。

 あることに気づいた私は、そこへ口をはさむことにした。

 

「白熱しているところ水を差す形で恐縮ですが――リアさん、暴れ出してますよ?」

 

「お?」

 

「へ?」

 

 私が指さした方向を二人が見る。

 そこには――

 

 「んがぁあああああああああっ!! おっ! おっ! おおっ!! あぎぃいいいいいいいいいいっ!!!」

 

 ――涙と涎を垂らしながら、身体をばたつかせるリアさんがいた。

 乳首にかかる刺激から逃れようとしているが、今のところ縄で手を縛られているためそれは叶っていない。

 しかし……

 

「……縄、千切れていってますね」

 

「あ、荒縄で縛ったはずなんがなぁ……」

 

「な、なんという怪力…!」

 

 リアさんの腕力に一同驚愕。

 人間の力で無理やり切れるものなのか、あれ。

 

「おおっ! おおおっ! おっ! おぉおおっ!! んぐぅううううううっ!!」

 

 ミルクを絞られながらもさらに暴れるリアさん。

 ――最初に我に返ったのは店長だった。

 

「や、やべぇっ! このまんまじゃ装置壊されちまうっ!」

 

 リアさんを取り押さえるべく、彼女の元へ駆ける――が。

 

 「ああっ! あぁあぁあああああっ!! ああぁあああ―――!!!」

 

「ぬぉおおおっ!?」

 

 体格のいい店長が上から抑えつけようとしているのに、なおリアさんの動きは止まらない。

 

「な、なんつう馬鹿力だ……

 セドリックっ!!」

 

「心得たっ!!」

 

 呼ばれたセドリックさんもまた、リアさんを抑えるべく動く。

 店長が上半身、セドリックさんが下半身を押さえ付けている形だ。

 

「ぐっ……なんとか、二人でなら」

 

「ああ、動きを止められるみてぇだな……ぬっ」

 

 どうにかリアさんが暴れるのを阻止する店長とセドリックさん。

 ……大の大人二人が、胸に搾乳機をつけた女の子を取り押さえている姿は、犯罪以外の何物でも無いが。

 

「あ―――――――っ!! ああ――――――――っ!!!」

 

「……うおっ!?

 こいつ小便漏らしやがった!

 ここ厨房だぞっ!?」

 

「任せたまえっ!

 私が全て飲み切ってあげようっ!!」

 

「おお、でかしたっ!!」

 

 意識が完全に飛んだのか、失禁しだすリアさん。

 そして漏れた尿を飲むべく、彼女の股間に吸い付くセドリックさん。

 

「……これまた凄い絵面ですね」

 

 第三者にこの光景を見られたら、私達は確実にお縄になるだろう。

 

「店長、私も何か手伝いましょうか?」

 

「いや、こっちは俺達だけで十分だ。

 ……代わりに、そっちを頼まぁ」

 

 店長は、部屋の隅で倒れているウェイトレスさんをあごで指し示す。

 

「あんな状態じゃ、家まで帰れやしねぇだろう。

 送って行っちゃぁ貰えねぇか?」

 

 ウェイトレスさんはまだ意識を取り戻していない。

 確かに、一人で帰れるような容態では無い。

 

「分かりました。

 責任をもって送り届けましょう。

 ……店長達はこれからどうします?」

 

「俺達はリアから搾れるだけ搾ってみらぁ」

 

「ああ、彼女のことは私達に任せて欲しい」

 

 どことなく充実した笑顔を二人は浮かべた。

 リアさんは、彼らに任せて良さそうである。

 

「承知しました。ご武運を」

 

 そう言い残して、私はウェイトレスさんを担いでその場を後にした。

 

「あっあぁあっ! あっ! あっ! ああっ! あーーーーーーっ!!!」

 

「げげぇっ!?

 縄が切れやがったぁ――げふっ!?」

 

「店長っ!?

 大丈夫かいっ……ごほぉっ!!?」

 

 三者三様の悲鳴をその場に残して。

 

 

 

「……と、そうだそうだ」

 

 店を出る前に、魔法の搾乳機と、未だトイレで恍惚としていたもう一人のウェイトレスさんも回収する。

 せっかくだから、この子の面倒も見てしまおう。

 背中に搾乳機を背負い、片手にそれぞれウェイトレスさんを抱え、私は店を後にした。

 

 

 ――残念なことに、ウェイトレスさんをその日の内に家へ送り届けることはできず。

 代わりに、私の家にお泊りして頂くことにはなった。

 ……まあ、気持ちの良い思いができたので、結果オーライとも言える。

 

 

 さてこの後、私はこの搾乳機を使って様々な女性のミルクを味わうわけなのだけれども。

 それはまた次の機会にてお話しよう。

 

 

 

 ……余談だが、次の日。

 店では股間に搾乳機をつけられ「ふぉおおおっ!」と気持ち悪いうめき声をあげている店長とセドリックさんが見つかった。

 しかし、余りに見苦しい情景であるため、詳細な描写はご容赦願いたい。

 

 

 第十話 完



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第十一話 搾乳のススメ
① ローラさん・エレナさんの場合


 

 

 

■基礎編

 

「と、いうわけで母乳ですよ、ローラさん」

 

「何が“と、いうわけ”なんでしょうか…?」

 

 私の言葉に、ローラさんは苦笑いを浮かべた。

 

 ここはローラさんの魔法店の私室。

 陽が落ちてから大分経ち、もうお店は閉店している。

 その日の迷宮探索(という名前の陽葵さんの教育)を終えた私は、ローラさんに会いに来たのだった。

 

「まあまあ、とりあえずこの薬を飲んでは頂けませんか?」

 

 まずは母乳を搾るための下準備。

 女性を乳が出る身体に変える、母乳薬(勝手に命名)をローラさんに渡す。

 

「……この薬を飲めと…?」

 

「はい、ぐいっと言って下さい」

 

 私の言葉に、ローラさんは神妙な顔つきになり、

 

「……分かりました」

 

 目を閉じて頷いた。

 そのまま、何か祈るような姿勢をとる。

 

「……ローラさん、何を?」

 

「……いえ、今までお世話になった方々に感謝の祈りを」

 

「何故に!?」

 

 どうしてそんな、これから死ぬかのような行動を!?

 

「え、だってこの薬、人を心を壊す類のものなんでしょう?

 女性を人形に変えるみたいな」

 

「違いますよっ!?」

 

 物騒なことを言い出すローラさんに、全力で突っ込みを入れる。

 どうして私がそんな危険物を彼女に渡すなんて考えるのか。

 

「あのですね、この薬はローラさんから母乳が出るようにするための薬でして」

 

「母乳、ですか?」

 

 ローラさんが聞き返してくる。

 

「はい、それでその、ローラさんから出たミルクを飲んでみたいというか、味わってみたいというか」

 

 自分でこれからするプレイの内容を説明するのは思いのほか間抜けな気がした。

 それはさておき、ローラさんは私の台詞を一通り耳にしてから、改めて口を開く。

 

「……クロダさん」

 

「はい」

 

「――言い繕わなくても、大丈夫ですよ?」

 

「だから変な薬じゃないんですっ!!」

 

 母乳が出るようになる薬は変じゃないというわけでも無かろうが。

 ローラさんの疑念は、私が考えている以上に根深いようだ。

 

「私、クロダさんが言うなら、別に――」

 

「ローラさんネガティブ!?

 ちょっと、今日ローラさんネガティブすぎやしませんか!?

 何がローラさんを変えたんですか!!」

 

 仮にもし私がローラさんにそんな危ない薬を飲もうとさせても、そこは毅然と拒んで頂きたい!

 いや、万に一つもそんなことしないけれども!

 

「……最近、私が壊れるようなことばかり要求してくる人がいるんです」

 

「…………申し訳ありません」

 

 とりあえず、謝り倒してどうにか納得して頂いた。

 

 

 

「……なんだか、気分が落ち着いてきますね」

 

「そうなのですか?」

 

 今、ローラさんは私室の椅子に座り、ゆっくりと休んでいる。

 彼女に母乳薬を飲んで貰ってからかれこれ1時間。

 説明書によれば、そろそろ薬の効果がでてくる頃合いだ。

 

「ええ、リラックス効果もある薬みたいです。

 そういう用途にも使えるかもしれないですね」

 

「ほほう」

 

 母乳薬にそんな副効果が。

 対象の気を鎮め、よりミルクの出やすい精神状態にしているのだろうか。

 

「これは何の効果でしょう……ライル草? それともペイクハーブでしょうか?」

 

 ローラさんが首を傾げながら、聞いたことも無い薬草の名を挙げていく。

 彼女自身、マジックアイテムを作っているため、この薬の成分が気になるのか。

 職業病というやつだろう。

 

「……ん、なんだか胸が張ってきた気がします」

 

「本来の効果も出てきたようですね」

 

「はい……なんだか、むず痒い感じです」

 

「なるほどなるほど」

 

 私はローラさんの黒ドレスをずり下げて上半身を露わにした後、ブラジャーを外しておっぱいを露出させた。

 たわわに実った美しい二つの果実が、私の目の前に現れる。

 

「……確かに、いつもより張っているように見えますね」

 

「ま、まじまじと見られてそう言われるのはちょっと恥ずかしいんですけど……」

 

 頬を赤く染めて恥ずかしがるローラさん。

 彼女の胸を見るのはそう珍しいことではないのだが、女性としてそう簡単に割り切れはしないのだろう。

 

 私はローラさんのおっぱい全体を捏ね繰りながら、先端にある桃色の突起も指先でコリコリと擦る。

 

「んっ、あっ……ちょ、ちょっと、クロダさん……」

 

「どうでしょうかね、ローラさん。

 母乳、出そうですか?」

 

 胸を揉みながら、彼女へ尋ねる。

 

「……あっ……んんっ、はい、胸がきゅうっとしてきて……

 おっぱい、出そうです……」

 

 ローラさんは頷いた。

 ならば、と私は準備しておいた魔法の搾乳機を彼女の胸に取り付ける。

 

「あぅっ……ちょっと冷たいですね、これ」

 

「おっとすみません。

 辛いですか?」

 

「いえ、少し驚いただけです。

 ……続けて下さい」

 

「分かりました。

 では、スイッチを……と」

 

 私は搾乳機の動力を入れる。

 装置は問題なく動き出し、それに併せてローラさんの乳首が引っ張られるようにピクピクと震える。

 乳搾りが始まったのだろう。

 

「んんっ……は、うぅっ……」

 

「どんな調子です?」

 

「あ、んっ……乳首が、摘ままれてるみたいで……は、あぁぁ……で、出そう……んっ!」

 

 びくっとローラさんが身体を震わせたと同時に、彼女の胸の先端から白い液体が迸った。

 どうやら上手く搾乳できたようだ。

 

「ん、んんっ……なんか、変な気分です。

 母乳を搾られるなんて……あんっ」

 

「気分が悪かったりしますかね?」

 

「い、いえ……思ったより、気持ち良いです……ん、ん……

 そんなに、悪くない、かも……」

 

「それは良かった」

 

 このまま乳搾りしても大丈夫そうだ。

 

「ん、ん……でもクロダさん、こんなもの、どこから手に入れたんですか?」

 

「ああ、店長――黒の焔亭のゲルマンさんから譲ってもらったんです」

 

「……あの人、まだそういうことやってるんですね」

 

 ローラさんが深くため息をついた。

 

「お店のウェイトレスさん達が心配です……何をされていることやら」

 

「大丈夫ですよ、皆さん、なんだかんだで楽しくやっているようですし」

 

 店長のセクハラが嫌なら、とっくにあのお店を辞めているだろう。

 特段、給料が高いわけでも無し。

 それでも残っているのだから、あそこの従業員は皆ああいうことが好きな方々なのだと考えられる。

 

「……ナニかされていることは否定しないんですね」

 

「はっはっは……まあ、ゲルマンさんもそこまで酷いことはしませんから。

 心配ありませんよ」

 

「……そうだといいんですけど……ん、うぅっ……」

 

 搾乳の刺激で時折プルンとおっぱいを揺らすローラさん。

 なかなか淫猥な姿だ。

 

 

 

 そんな彼女と(搾乳は続けながら)しばし歓談していると、こんな提案を受けた。

 

「……クロダさん、直接、私のミルクを飲んでみませんか?」

 

「直接、ですか?」

 

 ――つまり、搾乳機無しで、ということか。

 

「はい……あっんっ……この、搾乳機を外して、クロダさんの口で、こう……

 ……だ、ダメですかね…?」

 

「いえ、素晴らしいことだと思います。

 是非やりましょう」

 

 私は即答した。

 当然だ、こんな申し出を受けて断る男なんてこの世に存在しない。

 

「では、失礼して」

 

 片方の搾乳機を外すと、ピンク色の乳頭が顔を出す。

 今まで母乳を搾られていたせいで、おっぱいの先端はミルクで濡れていた。

 私はなんの躊躇もせず、乳首へと吸い付く。

 

「あぁんっ!」

 

 搾乳機とは異なる刺激に、ローラさんが大きな嬌声を上げた。

 それと同時に、私の口の中には甘い液体が広がっていく。

 

「…………美味い」

 

 思わず口に出してしまった。

 そんな私の呟きを聞くと、ローラさんは顔を明るくして、

 

「ほ、本当ですか?

 ……んんっ……良かったです……は、あっんんっ……」

 

 自分のミルクを褒められたのが、それ程嬉しかったのだろうか。

 ともあれ、喜んでくれるのであればなおのこと、私の彼女から出てくる美味しいミルクを堪能するのだった。

 

「あ、あぁあっ……クロダさん……んんんっ……もっと、もっと、吸って下さい……」

 

 言われるまでもなく、私はローラさんのおっぱいにむしゃぶりついている。

 濃厚で味わい深い乳が彼女からとめどなく流れ出てくるのだ。

 その味に、私はどっぷり嵌まってしまっていた。

 

「はぁあんっ……ふふふ、クロダさん……あ、うっ……私の母乳、いっぱい味わって下さいね」

 

 ローラさんが片手で私の頭を抱き締め、もう片方の手で頭を撫でてくる。

 その優しい手つきは心地良いのだが……この体勢はちょっと、その……

 

「あ、あの、ローラさん?」

 

「……どうしました、クロダさん?」

 

「えー、なんと申し上げましょうか。

 この姿勢はですね、少し恥ずかしい気分が……」

 

「え、そうですか?

 可愛いですよ、赤ちゃんみたいで」

 

 あ、この人確信犯だ。

 

「あ、んっ……うふふふ、よしよし、いい子ですねー、クロダさん」

 

 ローラさんはなおも、赤ん坊を抱くような手つきで私の頭を撫で続ける。

 うーむ、新しいプレイだ。

 恥ずかしいながらも、どこか気持ち良さを感じている自分もいる。

 幼少の時分を思い出しているのだろうか……

 

「あぅうっ!? クロダさん、ちょっと……つ、強いっ……あんっ!」

 

 私の己の欲求に従って、ローラさんからおっぱいを思い切り吸い上げた。

 吸えば吸う程、濃厚なミルクが私の舌を楽しませてくれる。

 

「ああぁぁあっ! はぅううっ! ダメ、私、感じちゃって……んんんぅうっ!」

 

 私はまるで、母乳中毒にでもなったかのようにひたすらローラさんの乳首をしゃぶり続ける。

 彼女は悶えながらも、私を強く抱きしめてきた。

 まるで、もっと吸って欲しいと言わんばかりに。

 

「あっあっあっあっ! すご、いっ……んんっあっあぅっあぁぁっ!」

 

 ただ吸い付くだけでなく、舌で舐めたり歯で甘噛みしたりと刺激に緩急をつける。

 ローラさんの喘ぎは段々と高くなり、彼女の昂りを私に伝える。

 

「あ、ああああああっ! おっぱいでイクっ! あああっ!! 私、おっぱいでイっちゃいますっ!! あああああっ!!」

 

 ローラさんの身体がのけ反る。

 彼女が言うように、絶頂が近いのだろう。

 

 ――私は乳首にカリっと強く噛付いた。

 

「あっ、あぁぁぁああああああああっ!!!?」

 

 身体を震わせながら、ローラさんは絶頂した。

 同時に、私の口の中にびゅくびゅくと彼女のミルクが注がれたのであった。

 

 

 

「さて、十分楽しみましたし、搾乳を続けましょうか」

 

 ローラさんが絶頂から立ち直ったのを見計らって、私はそう言った。

 

「……あの、ずっと母乳を出してたからなのか、少し身体がだるいんですが……

 今日はもう終わりにしませんか?」

 

「おや、そうだったのですか」

 

 身体に不調が出たとなれば、このまま続行することはリスクが大きい。

 とはいえ、中途半端なところで搾乳を終わらせることにも問題があり――

 

「……しかし困りましたね。

 薬を飲んだ分きっちり搾っておかないと――」

 

「おかないと?」

 

 私の言葉にローラさんが反応する。

 少し溜めてから、私は言葉を続けた。

 

「――薬の副作用で太るそうです」

 

「全部搾って下さい」

 

 即答だった。

 

 やる気になってくれたのであれば話は早い。

 私はローラさんを縄で椅子に縛り付け、搾乳の準備を改めて整えた。

 

「……あ、あれ?

 なんで私を縛るんですか?」

 

「いえ、こうしておかないと装置やローラさんの身に危険がありそうですので」

 

 不思議な顔をして疑問を呈すローラさんに、簡単な説明をする。

 だが彼女はそれで納得いかなかったようで。

 

「すいません、何をするつもりなのか具体的に教えて下さい」

 

「ゆっくり搾乳していると時間がかかりすぎますから、最大出力で搾って短時間で終わらせようかと」

 

 もっと具体的にこれから何をするのか説明した。

 それでもローラさんは、縛られた意味が分からなかったらしい。

 

「……そ、そうなんですか。

 でもそれとこれと何の関係が……?」

 

 どうも上手く伝わらない。

 ……まあ、上手く伝わってしまうと本気で抵抗されるかもしれないので、態とぼかしているわけだが。

 しかし、このまま何も分からない状態というのは少々申し訳ない。

 

「ヒントその1。

 これまでの搾乳の強さは最弱設定です」

 

「―――え?」

 

 私の言葉に、ローラさんは絶句した。

 彼女があれこれ言い出す前に、私は装置のスイッチに手をかけ、

 

「では行きますよ、しっかり心を保って下さいね」

 

「ちょ――待って! 待って下さいクロダさんっ!

 ていうか、この薬やっぱり私を壊すための代物ってことで間違ってな――」

 

「出力全開!」

 

 ――部屋にローラさんの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 それから小一時間。

 ローラさんは今、寝室で眠っている。

 

「……恐ろしい装置だ」

 

 先程の光景を思い出して、私は独りごちる。

 

 ローラさんは、装置による強烈――という言葉でもまだ足りないような搾乳を受け、失禁しながら失神した。

 口からは泡も吹いて、長い黒髪を振り乱しながら気を失うまで散々に暴れ続け……それはもう凄い有様であった。

 縄こそ解けなかったものの、縛り付けた椅子ごと転げ回ったため、余り意味は無く。

 彼女の尿や愛液、涎、その他諸々、様々な体液が部屋のあちこちに飛び散る羽目になった。

 

 私は部屋の掃除と彼女の看護を終え、今に至るわけである。

 ――おかげで、母乳はきっちり搾りきれたようだが。

 

「………く、クロダさん」

 

 ふと、ローラさんの口から言葉が漏れた。

 私は慌てて彼女に駆け寄る。

 

「お、おお、ローラさん、目が覚めたんですね!?」

 

 彼女はゆっくりと目を開き、私をじっと見つめながら――

 

「……こんな、生殺しにするくらいなら……一思いにやって下さい……」

 

「いや、あの、本当に申し訳ありません……」

 

 私は全力で謝り倒したのだった。

 

 

 

 

■応用編

 

 

「かんぱ~い!」

 

 私達はその掛け声とともにコップを掲げ、中の飲み物を飲み干した。

 

 所変わって日も変わり。

 ここは私の自宅のリビング。

 そして今部屋に集まっているのは、

 

「ぷは~、美味い!

 いや、すんませんね、クロダさん。

 こんなご馳走用意して貰っちゃって!」

 

 ジャンさん。

 

「……顔見せするだけだと思ってたのに……ここまでしてくれるとは」

 

 コナーさん。

 

「んんー、何よりもまずクロダ君がこの料理を作ったという事実がまず信じられないんだけどねー」

 

 エレナさん。

 今日は半袖のブラウスにミニスカートという出で立ち。

 セミロングの黒髪は、ポニーテールのように結えてある。

 

「お前って、割と色々こなすよなぁ」

 

 陽葵さん。

 いつも通り、Tシャツにショートパンツの格好。

 ちなみに、最近の彼の普段着は、東京から着てきたものではなくウィンガストで購入したものだ。

 だんだんとこちらの生活に慣れてきたのが伺える。

 

「お褒めいただいて何よりです。

 さあ、遠慮せず頂いて下さい」

 

 そして私の5人だ。

 

 何故私達が一堂に会しているのかと言えば。

 

「うん、お前が一緒にパーティー組む人を紹介するって言ってきたときはどんな凄いのが来るか心配だったけど……良い人達だな」

 

「……私にどんな印象を持ってるんですか。

 私はともかく私の知人は真っ当な方々ばかりですよ」

 

「はっはっは、悪い悪い」

 

 そう、私と陽葵さんは一時的にジャンさん達のパーティーに入らせて貰うことになったのだ。

 

 ここ数日、陽葵さんとのワンツーマンの授業を行ってきたわけだが、将来のことを考えればパーティー行動についても学ぶ必要がある。

 まさかずっと私と二人きりで探索を続けるわけにもいかないだろう――それはそれで嬉しい未来像ではあるが。

 そこで一緒に探索させて貰えないかジャンさんにお願いしたわけだ。

 

 このちょっとした宴会は、顔合わせのため企画したものだったりする。

 

「しかし感激だなぁ。

 短い期間とはいえ、クロダさんとパーティーを組めるなんてさ。

 しかも、こんな可愛い子とまで」

 

「……男の子だけどね」

 

 ジャンさんから私へのリスペクトは相変わらずだった。

 そこまで尊敬する要素は私に無いのだけれども。

 

 それとコナーさんからのつっこみで分かるように、陽葵さんの性別については既に説明済みである。

 

「んんー、何ー?

 ジャン君ってば、そういう趣味の人だったのー?」

 

「そ、そんなわけがないだろう!?

 エレナ、お前変なこと言うなよ!」

 

「……最初、鼻の下を伸ばしてたけど」

 

「コナーっ!?

 エレナに乗っかるな!!」

 

 確かに陽葵さんを最初に見た時のジャンさんの食いつきは凄かった。

 男だと分かったときの落ち込みようも。

 

「え、ジャンってホモなのか?」

 

「ヒナタ!

 こいつらの言うことを真に受けるな!!

 俺は至ってノーマルだ! ノーマルなんだ!!」

 

 二度繰り返したところにジャンさんの葛藤が見え隠れしている気がしないでもない。

 しかし前にも言ったが、寧ろホモな人は陽葵さんはストライクゾーンの外にいる気がする。

 

「……まあ、ヒナタが男ってことに驚いたのは僕もだけど」

 

「はぁ? オレが女って?

 お前らどういう目しているんだよ」

 

 コナーさんの呟きに陽葵さんは苦笑い。

 

「言いたくないけど、極めて正常な目ではあるよね。

 ヒナタ君を一発で男って分かる人なんて、いないんじゃない?」

 

「えー、そうかー?

 東京じゃそんなことも無かったんだけどなぁ……ウィンガストだと少し人の見方が変わってるのかな?」

 

 エレナさんの突っ込みもどこ吹く風。

 

「……陽葵さんの周りの方々は、最大限に陽葵さんを気遣ってくれたのですね」

 

「すげぇな、トーキョーの連中」

 

「……うん」

 

「それがヒナタ君のためになってるかどうかは別としてねー」

 

 私の発言に、3人は3人なりに同意を返してくれる。

 

「……??」

 

 そんな私達を見て、首を傾げるばかりの陽葵さん(可愛い)。

 彼に私達の想いは伝わっていないようだ。

 

 一瞬訪れた間を破るように、ジャンさんはコップのお酒を一気に飲み干してから、

 

「……ふー、でも今更なんだけどさ、俺らでいいのか?

 いくら駆け出しとはいえ、<訪問者>の冒険者なんて、もっと上の方の連中から声かかったりするだろ?

 ――あ、おかわり貰えるか?」

 

 話題を変えてくる。

 確かに、もっともな疑問ではあるだろう。

 

 エレナさんが少し震える手でジャンさんにアルコールを注ぐのを見ながら、私は答える。

 

「……あー、それはですね。

 陽葵さんの職業がちょっと問題と申しますか…」

 

「は?」

 

 ジャンさんが怪訝な顔をする。

 そこへ陽葵さんが言い難そうに。

 

「……オレ、<勇者>なんだ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 今度こそ、場を静寂が支配した。

 <勇者>が如何に“外れ”な職業なのか、3人共知っているようだ。

 

「え、えーと……で、でもヒナタは<訪問者>だろ?

 適性が高ければ<勇者>でも何とか……」

 

「……<訪問者>なら、冒険者適性高いは高いよね」

 

 ジャンさんとコナーさんが何とかフォローを入れるけれど。

 

「ははは、オレ、<戦士>の適性はCでさ……」

 

「「――え」」

 

 二人は声を詰まらせる。

 Cという適性はウィンガストの住人基準であれば低くないが、<訪問者>の平均を下回る値。

 ジャンさんとコナーさんが驚くのも無理はない。

 

 絶句する二人を押しのけ、今度はエレナさんが疑問を呈す。

 

「んー、ヒナタ君はさ、何で<勇者>なんて選んじゃったの?」

 

「……<勇者>という言葉の響きに憧れちゃって」

 

「……ほ、ほう」

 

 エレナさんのこめかみがピクピクっと動いた。

 それでも彼女は陽葵さんへの質問を続け、

 

「……ちなみに、他の職業の適性は?」

 

「……<盗賊>と<僧侶>がAだったかな」

 

「…………」

 

 エレナさん、沈黙。

 その後、大きく深呼吸をしてから。

 

「<盗賊>や<僧侶>がAって、黙ってても上位パーティーから声かけられるレベルじゃん」

 

「うぐっ!?」

 

 呆れたようなエレナさんの台詞に、陽葵さんはショックを受けたようだ。

 ――まあ、命がけで探索をしている人達にとって、これは許されざる失敗ではあるだろう。

 

 とは言ったものの。

 

「すみません、この件に関して責任は私にあります。

 説明を失念しておりまして……」

 

 3人に頭を下げる。

 それを見て、ジャンさんが慌てたように声を上げた。

 

「いやいや、別にクロダさんが謝るような話じゃないだろうっ!

 それにほら、冒険者ランクがCになれば転職できるんだし!」

 

「んん? 基本職を変える転職はBからだよ?」

 

「……Bになればできるんだからっ!!

 問題なしっ!

 Bなんてすぐさ、すぐっ!!」

 

「ボク達まだEだけどねー」

 

「なんでお前はいちいち揚げ足とってくんのっ!?」

 

 ジャンさんとエレナさんの夫婦漫才が繰り広げられる。

 陽葵さんもそのやりとりで大分気が楽になった様子。

 

「あはは、ありがと。

 オレも頑張るよ」

 

 そう言って、陽葵さんは3人ににっこりと微笑みかけた。

 

「………お、おう」

 

「………ま、任せといて」

 

 ジャンさんとコナーさんが少しどもりながら返事する。

 陽葵さんの笑顔は、二人にとって余りに破壊力が大きすぎたようだ。

 

「んんー?

 ジャン君? コナー君?

 なんで顔が赤くなってるのかなー?」

 

 エレナさんが笑顔でジャンさんとコナーさんに問いかける。

 但し、目は全く笑っていない。

 

「あ、あれぇ!? 俺赤くなってるか!?

 あー、ちょっと飲みすぎちゃったかな!

 なぁ、コナー!?」

 

「……このお酒、美味しいしね。

 ……ブランデーを、牛乳で割ったカクテル?」

 

 少々無理やりな感も出しながら話題転換し、二人はお酒を一気に飲み干す。

 

「……!!」

 

 その光景を見て、エレナさんが一瞬身震いするのを私は見逃さなかった。

 もっとも、気づいたのは私だけだったようだが。

 

「く~、やっぱ美味いねぇ!

 ……でも牛乳のお酒とかあんま聞かないよな。

 これってクロダさんの趣味なのか?」

 

「はい、ちょうど良いミルクを手に入れましたので、皆さんの振る舞おうかと」

 

 ジャンさんの質問に答える私。

 彼はそれに納得したようで、

 

「へー、言われてみれば確かに普通の牛乳に比べて味違うような。

 濃厚というか、味が深いというか…」

 

「……うん。

 ……どこの牧場から仕入れたの?」

 

「牛乳じゃないような気もするんだよなー。

 ヤギのミルクとか?

 オレ飲んだことねーからヤギのミルクがこんなに美味しいのか分からんけど」

 

 ジャンさんとコナーさん、そして陽葵さん――3人共このミルクが気に入ったようだ。

 私も準備した甲斐があったというものである。

 

「ん、んん、ジャン君、そんなにそれ美味しい?」

 

「そりゃ美味しいさ……ひょっとしてお前、そんなでも無いのか?」

 

「ううん、ボクも美味しいと思う、よ?」

 

 エレナさんの唇が少し震えている。

 これも気づいたのは私だけ――かと思いきや、陽葵さんも感づいたようで。

 

「どうしたんだ、エレナ。

 調子でも悪いのか?」

 

「ん!?

 んん、いやー、全然平気だよ?

 もう調子良すぎて困っちゃうくらい!」

 

 白々しい程の作り笑顔で陽葵さんに対応するエレナさん。

 本人も誤魔化しが過ぎると思ったのか、続けざまに口を開く。

 

「いやー、でもヒナタ君は優しいねぇ。

 どっかの誰かさん達にも見習わせたいくらいだよー。

 んー、じゃあお姉さんがご褒美を挙げちゃおう」

 

 言って悪戯っぽく微笑むと、エレナさんはミニスカートの裾をひらりと捲る。

 黒タイツに包まれた彼女の太ももが露わになり――

 

「のわぁっ!?」

 

 ――咄嗟に陽葵さんは目を逸らしてしまった。

 実にもったいない。

 とはいえ、陽葵さんの位置からだとギリギリパンツが見えるか見えないか際どいところ。

 存外に計算されたスカート捲りである。

 

 ちなみに私は<屈折視>を使っているので丸見えだった――エレナさんの、びちょびちょに濡れた下着が。

 

「――お、おい、エレナ!!」

 

「なーにー?

 もう、せっかくだからちゃんと見れば良かったのにー。

 こんなサービスそうそう無いよ?」

 

 ジャンさんが注意をするが、それを素直に聞き入れるエレナさんでは無かった。

 彼は肩を竦めて、

 

「お前な、ヒナタをあんまりからかうなよ」

 

「んふふふふ、ごめんごめん」

 

 謝ってはいるが、エレナさんが反省していないのは誰が見ても明らかだった。

 もっとも、それを咎める人もまたいなかったが。

 ……まあ、可愛い女の子が扇情的な姿を見るのが嫌いな男などそうそういるわけが無いのだから、当然と言えば当然である。

 

 

 

 第十一話②へ続く



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②! 続・エレナさんの場合

■応用編、続き

 

 

 

 その後も談笑を続ける私達であったが、ふと、私の太もも辺りを誰かが触ってきた。

 ――エレナさんだ。

 

 彼女は飲み会の最中少しずつ移動して、いつの間にやら私のすぐ隣に座っていた。

 

「………ねぇ」

 

 ぞくっとするような流し目で私を見つめながら、彼女は小声で私に話しかけてきた。

 

「……もう、我慢できない……待ってるからね?」

 

 エレナさんは私の太ももから股間までをすぅっと撫で、最後にイチモツを軽く握る。

 そこまでされれば、如何に察しが悪いと評判の私であっても彼女の意図には気づく。

 ……実のところ、そろそろ私の方から誘おうかとも考えていたところだ。

 

 私が軽く頷いたのを見ると、エレナさんは席を立って。

 

「ごめん、ちょっと席外すねー」

 

「お、何だエレナ、小便か?――――いってえ!!?」

 

 少々デリカシーの無い発言をしたジャンさんを殴ってから、彼女は部屋を出て行った。

 

「え、エレナの奴いきなりぶん殴りやがって……しかもグーで」

 

「いや、今のはジャンが悪いだろ」

 

「……うん、流石に酷い」

 

 愚痴るジャンさんを、陽葵さんとコナーさんが嗜める。

 二人から責められたからか、ジャンさんはしゅんとなって頭を下げる。

 

「うっ……わ、悪かったよ……酒が入って調子に乗りすぎた」

 

「ははは、ジャンさんは結構飲んでますからね。

 一応、彼女が帰ってきたらちゃんと謝っておいた方がいいでしょう」

 

「ああ、そうする」

 

 私の言葉にジャンさんは首肯した。

 

 ――さて、余りエレナさんを待たせるといけない。

 私は軽くテーブルを見渡してから、

 

「料理が大分減ってきましたね。

 まだ作り置きがありますから、持ってきますよ」

 

 そう言って席を立つ。

 

「クロダさん、俺も運ぶの手伝おうか?」

 

「いえいえ、お気遣いなく。

 少し倉庫の方へ食料を取りに行くだけですから。

 ジャンさん達は陽葵さんと親睦を深めていて下さい」

 

「……そっか。

 すいません、このお返しは後で絶対しますんで」

 

「はは、大丈夫ですよ、これ位。

 では、少々失礼します」

 

 手伝いを申し出るジャンさんへやんわりと断りを入れてから、私は部屋を後にした。

 

 

 

 その少し後、私は目的地へと到着する。

 ここは倉庫――ではなく、私の寝室。

 まあ、倉庫の方へはまた後で行くのだが、まずはこっちだ。

 

 私が寝室のドアを開けると――

 

「……クロダ、君っ!」

 

 ――部屋の中に居たエレナさんが、いきなり抱きついてきた。

 彼女はそのまま私に口づけをしてくる。

 

「……んむっ……んんっ……れろ、れろっ……あむっ……」

 

 後ろ手でドアを閉めながら私もエレナさんを抱き締め、互いに舌を絡ませあう。

 彼女の黒髪が私の顔にかかり、少しくすぐったい。

 

「……ん、んんんっ……ぺろっ……ちゅっ……んぅうっ……」

 

 エレナさんは大分溜まっていたようで、なかなか私を離してくれなかった。

 

「……あぅっ……んっんっんっ……はむっ……はぁああ……」

 

 数分程キスを続けただろうか。

 ようやく落ち着いたのか、エレナさんは私から口を離した。

 

「も、もう、これ、ダメ……ボク、感じ過ぎちゃって……」

 

 瞳を潤わせながら、エレナさんが語り掛けてくる。

 

「そんなに気持ち良かったのですか?」

 

「だ、だってぇ……ジャン君やコナー君、ずっとボクのミルク美味しそうに飲んでるんだもんっ」

 

「だから、感じてしまったと?」

 

「うん、うんっ……あの部屋でボク、何回かイッちゃったんだよ…?」

 

「そうでしたか、それは気づきませんでした。

 ……確かに、絶頂していてもおかしく無い程に濡れていますね」

 

「あ、あぁあっ……」

 

 私は片手で彼女の股間を弄ってやる。

 そこは愛液が滴り落ちる程に濡れていたのだった。

 

 ――既に気づいている方も多いと思うが、今日の飲み会でカクテルに使っていたミルクは、牛乳ではない。

 例の搾乳機でエレナさんから搾った代物なのだ。

 ジャンさん達は、本人の目の前で母乳を飲み続けていたということである。

 

「皆さん喜んで下さいましたね。

 振る舞った甲斐があったというものです」

 

「んん、皆、ごくごく飲み過ぎだよー。

 ボクのミルク、あんなに……あんなにっ……!」

 

 思い返してまた感じ入ってしまったのか、エレナさんは身をよじって甘い息を吐く。

 彼女は一旦深呼吸してから、私へと問いかけてくる。

 

「クロダ君は、どう?

 んん、クロダ君は、ボクのミルク楽しんでくれたっ!?」

 

「勿論ですよ。

 エレナさんから搾った乳は、極上の味でした」

 

 私の答えに満足したのか、エレナさんは微笑んで、

 

「んー、じゃあね、ボクもミルク飲みたいなー」

 

「? あのミルクなら、一緒に飲んだでいたではないですか」

 

 彼女だけ別のドリンクを用意していたというわけではない。

 エレナさんもまた、私達と同じカクテルを飲んでいたのだ。

 

 ……考えてもみれば、エレナさんは自分の母乳を平然と飲んでいたわけで。

 今更ながらだが、彼女の兵っぷりを認識できる。

 

「んんー、違うよー。

 ボクが飲みたいミルクは――」

 

 エレナさんは私の股間に手を当てて、

 

「クロダ君の、チンポミルクだよ?」

 

 愚息を摩りながら、からかうような笑顔で私に告げた。

 ……そういうことであれば仕方ない。

 

「なるほど、コレが欲しい、というわけですね」

 

 私はズボンのチャックを下げ、勃起した肉棒を取り出す。

 すぐさまエレナさんはそれに飛びついて、

 

「んん、これが欲しかったの!

 クロダ君のチンポっ!」

 

 喜々とした表情で私の男根にしゃぶりついた。

 股間が彼女の暖かさに包まれていく。

 

「んんっ……ぺろぺろっ……んんぅっ……れろっ……」

 

 そして、丹念に棒を舐めていくエレナさん。

 一心不乱に精液を欲しがる姿を見ていると、私の気持ちも昂っていく。

 

「んちゅっ……ん、んぁっ……はむっ……んんんーっ……」

 

 少しでも早く私をイかせたいのか、エレナさんは舌だけでなく手も使ってきた。

 亀頭を舐められ、竿を扱かれている状態だ。

 膣とはまた別の快感が私に広がる。

 

「いいですよ、エレナさん。

 これならすぐにイけそうです」

 

「ん、んぅう……そう?

 それなら、良かったよー……はむっ……ちゅっ……」

 

 一層激しく私を責め立てるエレナさん。

 快楽の波が私に打ち寄せてくる。

 ――私のザーメンを飲みたいと彼女も言っていることだし、ここは早めに一発出しておくべきか。

 

「そろそろ出しますよ……たっぷり味わってくださいね」

 

「れろれろっ……うん、いっぱい出してねっ……ちゅぱっ……んんっ!!」

 

 そこで私は絶頂を迎える。

 宣言の通り、彼女の口内へ私の精液を注ぎ込んだ。

 

「んっ! んんんっ! んんーっ!

 ……んふふふ、ホントにいっぱい出たねー……んむっ……ぺろっ……」

 

 エレナさんは口に出されたザーメンを全て飲み込んでから、さらに私のイチモツを舐める。

 一滴残らず私の精液を搾り取るつもりのようだ。

 

「どうですか、エレナさん。

 私のミルクの味は?」

 

「粘っこくて濃くて……んん、凄い、男の匂い……」

 

 ごくり、と最後の精液を飲み込みながら、エレナさんが応える。

 どうやら満足頂けたようだ。

 

 さて、次はどうするか――と、私が何かを言い出すより先に。

 エレナさんはベッドへ移動すると、その上で四つん這いになる。

 そして、

 

「ねーねー、ボク、今度は下の口でクロダ君のミルクを飲みたいんだけどー?」

 

 丈の短いスカートを捲り上げ、お尻を私に向けて振りながら、そう誘ってきた。

 

 黒タイツに包まれた、小ぶりながらも形の良いお尻。

 それは私を再度興奮させるに十分な魅力を持っていた。

 

「いいですよ、今度はそちらにもミルクを注いでやりましょう。

 ……ですが、その前に――」

 

「――んん?」

 

 私はエレナさんに近寄り、素早く彼女のブラウスを肌蹴けさせておっぱいを露出させる。

 実にハリのある綺麗な胸に、今すぐむしゃぶりつきたい欲求が湧くものの、なんとかそれを我慢。

 今回彼女の胸に吸い付くのは私ではない。

 

「……クロダ君、コレ、気に入っちゃったの?」

 

「はい、割と」

 

 私は、ベッドの下に置いておいた魔法の搾乳機をエレナさんのおっぱいに取り付けたのだった。

 

「んん、今日ボク薬飲んでないから、たぶんおっぱい出ないよ?」

 

「そうかもしれませんね。

 しかし――」

 

 私は搾乳機のスイッチを入れた。

 出力は中程度で装置を稼働させる。

 

「んっあっ……ああんっ……」

 

 搾乳機が動き出すのと同時に、エレナさんから艶声が漏れる。

 

「どうです、ミルクは出なくとも……なかなかいいものでしょう?」

 

「う、ん……んんっ……気持ち、いいねっ……あうっ……」

 

 四つん這いのまま身をくねらせるエレナさん。

 その姿に私は満足すると、今度は彼女の下半身に回り込んで、タイツとパンツを脱がす。

 蒸れて濃厚な雌の匂いを放つエレナさんの女性器が露わになった。

 

「あぁあんっ……このまま、するの?」

 

「ええ。

 エレナさんの下のお口にもたっぷり私のミルクを味わわせてあげませんと」

 

 後背位の姿勢で膣口に肉茎を添えると、私はそのまま腰を突き出した。

 散々愛液を垂らしたエレナさんの入り口は、スムーズに私のイチモツを咥え込む。

 ただ、挿入が簡単とはいえ、いざ中に入れば彼女はきつく私自身を締め付けてくる。

 

「はぁぁあああっ……ふ、深い……んんんぅううっ」

 

 エレナさんが嬉しそうに喘ぎ出す。

 その声に私の気分も高揚し、自然とピストン運動を始めてしまう。

 

「あっあっあっあっ! おっぱいと、おまんこで……んんっんっんぅうっんんっ! ボク、感じちゃってるっ……あぅううっ!」

 

 彼女もまた、自ら腰を振り私を楽しませる。

 膣によるシゴキは、先程までの手や口からのものとは違う快感を私に与えてくれた。

 

「くうっ……凄い締め付けですね。

 そんなに私のミルクが欲しいのですか?」

 

「ああっあっあああっ! んん、そんなの……んくぅううっ! 欲しいに、決まってるでしょっ……あん、んんっ!」

 

 ぎゅうっと私を締めあげながら、エレナさんが答える。

 私は腰を振りながら、

 

「そうですよね。

 では、少しでも早くミルクを出してあげなくては」

 

「うんっ……はぅうっ! クロダ君のチンポミルク……あんっ……早くちょうだいっ」

 

 エレナさんの言葉に、私はさらに激しく己自身を出し入れさせる。

 ――ついでに、搾乳機のダイヤルを回し、出力を最大に設定した。

 

「んあああああああああああああああっ!!!?」

 

 エレナさんが突然絶叫を上げる。

 ……やはり最大出力の搾乳は、エレナさんでも辛いのか。

 

「んおっ!! おぉおおおおおおおおっ!! ああぁあああぁああああっ!!」

 

 狂ったように叫びながら、激しく身を捩りだすエレナさん。

 同時に彼女の膣圧も高まり、私の愚息が痛い程に絞られる。

 

「あああっ! あっ! あああああっ!! イク、イクゥウウウウウウウウッ!!」

 

 エレナさんの身体がびくびくと痙攣する。

 痙攣に合わせて彼女の中もまた強くうねり、私の男根を締めあげた。

 搾乳機によって、一気にオーガズムを迎えてしまったようだ。

 

「おおおっ!! んがぁああああああああっ!! イッたのっ!! イッたってばぁああああああああああっ!!!?」

 

 だが装置は止まらない。

 余り過剰な刺激を与えられ、暴れ出そうとするエレナさんだが――

 

「――それはご容赦下さい」

 

 私は彼女に覆いかぶさることで、それを防いだ。

 無茶な動きをされると、装置が壊れる可能性もあるし、そもそも彼女自身危険だ。

 ローラさんの件で、私はそれをよく理解していた。

 

「んぎぃいいいいいっ!!! おおっあぁああああああああっ!!!」

 

 乳首から強制的に流れ込む快感によって、悶え苦しむエレナさん。

 一刻も早く彼女をそこから救い出すべく、私も腰の動きにラストスパートをかける。

 

「あぁあああああっ!! イクイクっ!! またイクゥウウウウウウウウウウウッ!!!!」

 

 そうこうしている内にエレナさんは再び絶頂。

 今度は女性器から潮がふき出る。

 搾乳機の刺激はかくも凄まじいものか。

 

「あっあっあっあっ!! あっ!! うそっまた、イクっ!!? あぁああああああっ!!」

 

 彼女はまたしてもアクメを迎えたようだ。

 ガクガクと身体を揺らしながら、なおもエレナさんは叫び続けた。

 

「イクッ!!!? あっああっ!! んぉおおっ!! イクッ!! おおぉおおっ!! イクの、止まんないぃいいっ!!」

 

 搾乳によって連続絶頂するエレナさん。

 最初は断続的だった痙攣が、今はもうまるで治まる気配が無い。

 彼女の膣は愛液と潮が混じり合った液体が、次から次へと滴っていった。

 

 イって、イって、イキ続けているのだろう。

 

 そして彼女がオーガズムに達する度に、私の愚息が刺激され極上の快感が走る。

 

「あーーーっ!! あーーーーーーっ!!! あーーーーーーーーっ!!!」

 

 白目を剥きかけながら、最早意味のある言葉を発することもできないエレナさん。

 身を捩り、暴れようとする力も強くなっていく。

 ――さて、私もイクか。

 

「……さぁ、エレナさん!

 お待ちかねの、ミルクですよっ!!」

 

「おおぉぉおおおおおおおおっ!! んぁあああああああああっ!! あーーーーーーーーっ!!!」

 

 渾身の力で彼女の最奥へと肉棒を突き挿し、たっぷりと精液を子宮に吐き出す。

 十二分にエレナさんへザーメンを注ぎ込むと、私は搾乳機のスイッチを切った。

 

「―――――あっ」

 

 そこで糸が切れたように、エレナさんから力が抜け、身体が崩れ落ちる。

 

「あっあっあっあっあっ……あーーーーー……」

 

 びくんっびくんっと大きく震えてから、彼女はベッドへ倒れ伏した。

 

「……おや」

 

 一拍置いて、エレナさんの股間から黄金色の液体が漏れてきた。

 気を失うことで、膀胱が緩くなってしまったのだろう。

 

「……帰るのが余り遅いと、流石に怪しまれますかね」

 

 そう独りごちると、私は部屋の片づけを始めるのだった。

 

 

 ――幸いなことに、エレナさんが正気を取り戻すのに、そう長い時間はかからなかった。

 

 

 それから少しして。

 私はリビングに戻るために廊下を歩いていた。

 

「……ん?」

 

 扉の前にエレナさんの姿を確認し、私は足を止める。

 念のため、違うタイミングで戻ろうということで、彼女は先に部屋へ向かったはずなのだが。

 

「どうしました、エレナさん?」

 

「……しーっ」

 

 話しかけると、エレナさんは人差し指を唇にあて、静かにするように私へ伝えてきた。

 いつになく真剣な顔をしている彼女。

 どうも、ドアを少し開けて部屋の中を覗いていたようだ。

 

「……ん」

 

 今度は彼女、部屋の中を指さす。

 私にも中を覗けということだろうか。

 私は彼女の指示に従い、<屈折視>を駆使してリビングの中を見てみる。

 するとそこには――

 

 「お、ヒナタ、もうグラスがほとんど空じゃないか!

  ほら、注いでやるよ」

 

 「……ん、そ、そうか?

  じゃあ、貰おうか、な…?」

 

 「……うんうん、じゃんじゃん飲もう。

  ……ジャンだけに」

 

 3人が仲睦まじく宴会を続けていた。

 私とエレナさんが長い時間席を外していることに、何の疑問も抱いていないようであった。

 ただ――

 

「……ちょっと、仲睦まじすぎますかね?」

 

「……あの2人、さっきからずっとヒナタ君にぴったりくっついてるんだよねー」

 

 私の疑問にエレナさんが答える。

 

 ジャンさんとコナーさんは、ヒナタさんの両隣に移動していた。

 そして、比喩でなく肌と肌が触れ合う距離まで彼に詰め寄って、談笑していたのだった。

 陽葵さんにとってはなかなか暑苦しそうな状況なのだが、初めて会った人を強く拒めないでいるようだった。

 ……いや、というより寧ろあれは――

 

 「……んっ……ちょっと、お前ら、近くない、か?……あっ……」

 

 ――彼の口から、時折甘い吐息が漏れる。

 ひょっとして陽葵さん、感じてしまっていないだろうか。

 

 「そうか?

  こんなもんだろ、飲み会なんて。

  俺ら、男同士なんだし」

 

 陽葵さんの腰に手を回し、脇腹の辺りを撫でているジャンさん。

 さらには顔を陽葵さんの金色の髪に近づけ、匂いまで嗅いでいる様子。

 

 「んんっ……そ、そうかな……くぅっ……」

 

 ジャンさんの手の動きに対し、陽葵さんは敏感に反応している。

 

 「……そう、僕らは男同士なんだから。

  ……これ位、普通」 

 

 そう言っているコナーさんは、陽葵さんの太ももに手をやり、揉んでいた。

 

 「そ、そっか……んっ……男同士、だもんな……あっ!」

 

 ぴくっと身体を震わせる陽葵さん。

 ジャンさんの指が脇腹から上がり、陽葵さんの胸――ちょうど乳首の辺りを擦りだしたのだ。

 

 「ん? どうしたヒナタ。

  体の調子でも悪いのか?」

 

 「い、いや……なんでも、無い……」

 

 明らかに何でもなくはないだろうが、陽葵さんはそう返事する。

 “普通のこと”で感じてしまっている自分を認めたく無いのだろう。

 

「……あの野郎」

 

「!?」

 

 横からぼそっと聞こえてきた呟き。

 そのドスの利いた響きに、思わずそちらを振り向く。

 

 ……そこには、完全に目が座ったエレナさんの顔があった。

 

「……ボクがあれだけモーションかけても全然手を出してこなかったくせに。

 ……ヒナタ君には、自分から攻めていくってか」

 

 知らない!

 私、こんなエレナさん知らない!

 

 機嫌が悪くなったとか、そういう可愛い言葉では言い表せない、もっと危険で剣呑な感情に今のエレナさんは支配されていた。

 ――女である自分を差し置いて、男である陽葵さんに手を出されては、プライドも傷つけられようというものか。

 

 「でもヒナタも災難だったよなぁ。

  聞いた話だけど、東京の暮らしってここよりずっと便利なんだろう?」

 

 「……急にこっちに来て、大変じゃなかった?」

 

 「あっうっ……そんなこと、無いさ……んんんっ……親切な人、多いし……あんっ……」

 

 ジャンさんは陽葵さんの乳首を弄り、コナーさんはお尻を揉む。

 エレナさんがかなり危険な状態にあることは露知らず、彼らは変わらず陽葵さんへの愛撫を続けていた。

 

「…………」

 

 エレナさんの瞳が怒りと憎悪に染まっていく。

 

 ――いや、だがしかし待ってほしい。

 意中の相手以外と関係を持っているという意味ではエレナさんとて一緒。

 寧ろ彼らよりもずっと進んでしまっている。

 ジャンさん達を責めるのであれば、エレナさんも――そして私も――責められるべきなのだ。

 ……とかまあ、そういう方向でどうにか矛を収めては貰えないだろうか?

 

 私は彼女を説得すべく、口を開く。

 

「あのですね、エレナさん」

 

「あ”?」

 

「なんでもありません」

 

 説得終了。

 

 無理、無理無理無理無理。

 やばい、今のエレナさん超やばいよ。

 怒りモードに入ったリアさん以上の殺気を彼女は放っていた。

 

 ジャンさん達には非常に申し訳ないが、もう私がどうこうできる状況にない。

 私にできることは、これ以上彼らが行き過ぎた行為をしないよう祈ることのみ。

 

 「おおっと、すまん。

  酒をこぼしちまった」

 

 かなりわざとらしく、ジャンさんはお酒を陽葵さんのシャツにこぼした。

 ……私の祈りは、届かなかったらしい。

 

 「悪いな、ヒナタ。

  今、拭くからさ」

 

 「い、いいよ……自分で、やるから……」

 

 「まあまあ、遠慮すんなって」

 

 陽葵さんの意見を半ば無視し、ジャンさんは零れたカクテルを拭くべく(?)、陽葵さんのTシャツを捲りあげた。

 彼らの目の前に、陽葵さんの綺麗な桃色をした乳首が姿を現す。

 

 「うお、なんだこの胸!?……んん、ごほんごほん」

 

 男のものとは到底思えない、陽葵さんの胸の色気に、一瞬本音を漏らしてしまうジャンさん。

 コナーさんもまた、陽葵さんの乳首を目を丸くして見つめている。

 

 「結構濡らしちゃったな。

  今拭くから、じっとしてろよ」

 

 ジャンさんはそう言うと、タオルで陽葵さんの胸を拭きだす。

 “拭く”というより、“揉む”手つきではあるが。

 

 「……あっ……んんっ……やっぱ待った……あぅうっ……自分で、やる……あぁんっ……自分で、やるよっ……ああっ……」

 

 「慌てんなって。

  もう少しできっちり拭きとれるからさ」

 

 言ってから、ジャンさんは陽葵さんの乳首をタオル越しに弄りだした。

 

 「あ、あっあっ……あああっ……ジャン、やめろって……あぁぁああっ……」

 

 もう隠しようもなく喘ぐ陽葵さん。

 身体に十分力が入らないのか、ジャンさんの為すがままである。

 

 そんな二人を見て、今度はコナーさんが動く。

 

 「……あ、コップ倒しちゃった」

 

 コナーさんは自分のグラスを態と倒し、中身のアルコールを陽葵さんのショートパンツへとかけた。

 完全な二番煎じである。

 

 「……次から次にごめんね。

  ……こっちも、ちゃんと拭くから」

 

 「んっんっんんっ……だ、だから……んぅうっ……いらないって……あぅうっ……」

 

 コナーさんもまた陽葵さんの言うこと等聞かず、ショートパンツをずり下げる。

 陽葵さんのボクサーパンツが露わになるが、

 

 「……パンツも濡れちゃってるね」

 

 そう言うと、コナーさんはそのボクサーパンツも脱がす。

 これには陽葵さんも慌て、

 

 「待てっいくらなんでもそれは――あぁああんっ!?」

 

 何とかコナーさんの暴挙を止めようとする陽葵さんだが、そのタイミングでジャンさんが乳首を摘まんできた。

 その刺激に陽葵さんは動きを止めてしまい、哀れ、彼の男性器は衆目に晒されることとなる。

 ――今までの二人の愛撫によって、勃起してしまっている性器が。

 

 「……じゃあ、綺麗にするよ」

 

 そんな陽葵さんの棒をまじまじと見てから、コナーさんは迷うことなくそれを咥えた。

 

 「お前…!?」

 

 その行為に、ジャンさんが驚く。

 彼だけでなく、私も驚愕の目で見つめていた。

 

 いくら陽葵さんのものとはいえ、男の愚息を何のためらいもなく口に入れるとは!

 コナーさん、私が思っていた以上に豪の者だったようである。

 

 彼はそのまま、陽葵さんの肉棒をしゃぶりだす。

 

 「あっあああっんぁああああっ!?

 あぅっあっあっあっあっあっ! ああぁぁああああああっ!!!」

 

 十分に昂っていたからなのか、はたまたコナーさんのテクニックが凄かったからなのか。

 あっけなく陽葵さんはイってしまったようだ。

 

 「…………ふぅ、ご馳走様」

 

 陽葵さんの精液を全て飲み込むと、コナーさんは満足げに呟いた。

 ――凄いな、この人。

 

 これにはエレナさんも毒気を抜かれ――

 

「………フケツ」

 

 ――抜かれてなどいなかった。

 彼女はまるでゴミクズでも見るかのような目つきで、コナーさんを眺めている。

 

 エレナさんの怒りメーターは順調に上昇中の様子。

 そろそろ止まってくれないと本気でやばい。

 だがそんな私の心配を彼らに届ける術は無く。

 

 「コナー、お前――」

 

 友人の、あんまりと言えばあんまりな行為に、開いた口が塞がらないジャンさん。

 そんな彼を諭すように、コナーさんは語り掛けた。

 

 「……ジャン。

  ……こんな機会、二度とないよ?」

 

 「!!」

 

 ジャンさんの背筋に電流が走る――ように見えた。

 コナーさんの言葉に感銘を受けたらしいジャンさんは、ゆっくりと頷くと、

 

 「そっか、そうだよな。

  こんなこと、二度も三度もありゃしないよな…!」

 

 覚悟を決めた男の顔で、ジャンさんは自分のズボンを下ろし、イチモツを取り出す。

 

「……ふーん」

 

 そしてそれを見て、目をさらに険しくするエレナさん。

 

 駄目だジャンさん!!

 こういうことができる機会なんて幾らでも作ってあげるから!!

 今は抑えて!

 これ以上いってしまうと、貴方達の生命を保証できないっ!!

 

 「さてと、じゃあ、ヒナタ……」

 

 「……はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

 ジャンさんは陽葵さんを抱きかかえた。

 一方で陽葵さんは、絶頂によって気をやってしまい、ただただ荒く息をつくのみ。

 

 それを良いことに、ジャンさんは陽葵さんのショートパンツと下着をずりおろすと、

 

 「うぉおおっ……尻もすげぇ!!」

 

 ハリも、形も、大きさも、完璧に整った陽葵さんのお尻を見て、感嘆の声を上げる。

 そして彼は自分の男根を陽葵さんの尻に当てて――

 

「――何やってんの?」

 

 エレナさんの言葉によって、動きを停止させた。

 

「あ? え? うぇ?」

 

「…………おおう」

 

 突然現れたエレナさん(と、ついでに私)に、戸惑いを隠せない二人。

 

「んー、ボクの質問が聞こえなかった?

 ねえ、二人とも何やってんの?」

 

 静かな、冷たい口調でエレナさんは再度問いかけた。

 

「え? え? え? え?」

 

 ジャンさんはなお戸惑うばかり。

 

「…………クロダさん」

 

 一方、コナーさんは私へと視線を投げてくる。

 それに対して私はただ首を横に振った。

 ……それしかできなかった。

 

「……そうか」

 

 私の態度に、彼は全てを悟ったらしい。

 何もかもを諦めたように、静かに目を閉じる。

 

「あ、ああ、こ、これはだな!

 深い、深い訳が――!!?」

 

 ジャンさんは何とか言い訳しようと試みているが――

 

「深い訳? ふーん、深い訳ね?

 そうなんだ、そんなもの――」

 

 エレナさんは大きく息を吸ってから、

 

「――そんなもの、あるわけあるかぁあああああああっ!!!!!」

 

「ぎゃぁあああああああああっ!!!!?」

 

 爆発した。

 比喩表現ではなく、本当に。

 まあ、爆発したのはエレナさんではなくジャンさんなわけだが。

 ……<火爆(ファイアブラスト)>の魔法でも使ったのだろうか。

 

 

 その後。

 散々魔法によっていたぶられた挙句、三日三晩、エレナさんの部屋の前で土下座する二人の姿があった。

 とりあえず、どうにかパーティー解散の危機だけは凌げたようである。

 もっとも、その日から彼らに対するエレナさんの態度は相当冷たくなったのだが。

 

 “そういうこと”をするのは、時と場所を弁えましょう、という教訓。

 

 

 

 第十一話③へ続く



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③! 陽葵さん・リアさんの場合

■挑戦編

 

 

 ここまで搾乳を続け、私の中にはある疑念が渦巻いていた。

 ――通常、まずありえない話。

 どう考えても勝算など無い。

 

 しかし、しかしそれでも彼なら!

 彼ならできるのでは!?

 

 居ても立っても居られなくなった私は、とうとう『それ』を実行に移したのだが――

 

「――やっぱり無理みたいですね」

 

「当たり前だボケェエエエエエ!!!」

 

 陽葵さんが私に向けて怒鳴り声を出す。

 

 今、私の目の前には上半身裸になり、搾乳機を胸に取り付けた陽葵さんがいた。

 僅かな可能性に懸け、彼からミルクを搾れないのかやってみたのだが――

 

「陽葵さんなら母乳を出せると思ったんですが」

 

「出る訳ないだろ! 出る訳ないだろ!!

 男が乳なんて出せるか!?」

 

 結果は彼の言う通り。

 陽葵さんの乳首からは、一滴もミルクは搾れなかった。

 

「前々から思ってたけどな!

 お前、頭おかしいぞ!?

 何でオレから母乳が出るなんて思えるんだ!?」

 

 そりゃあ、陽葵さんの見かけが超絶美少女だからなわけだが。

 容姿だけでなく、陽葵さんは下手な女性より余程感度がいいし。

 ひょっとしたら母乳も出るかもしれないと思った私を、誰が責められようか。

 

 一先ず、彼の口上に反論を試みてみる。

 

「陽葵さんも、私が乳を搾ることに抵抗しなかったじゃないですか」

 

「アホか! お前がいきなり人を縛り付けて抵抗できなくしたんだろっ!?」

 

 ……そう言えばそうだったか。

 陽葵さんからミルクが搾れるかどうか気になりすぎていて、彼を縄で縛り付けていたことをすっかり忘れていた。

 

「つーかさ、こんな訳の分からん装置どうやって用意したんだよ?」

 

「ああ、それは知人に譲って頂きまして」

 

「やっぱ碌な奴がいねぇな、お前の関係者! 特に男連中!!」

 

「いえ、そんなことは――」

 

 無いと言いたいが、ジャンさんとコナーさんがあの有様だったので、何を言っても陽葵さんにとって説得力はないだろう。

 私が口籠っていると、陽葵さんは何かに気づいたように、

 

「ん? ちょっと待て。

 ひょっとしてこの前の飲み会で飲んだあの牛乳……」

 

 この前の宴会とこの搾乳機との関係に気づいたようだ。

 私は陽葵さんの言葉に頷いて。

 

「――ええ、ご想像の通りです」

 

「うぇええええっ!!?

 オレら、ローラの母乳飲んでたのか!?」

 

 ――ああ、そっちを連想するのか。

 まあ私とエレナさんの関係を陽葵さんが知らない以上、そう考えても仕方あるまい。

 私としても、現在エレナさん関連の話は非常にデリケートな問題となっているため、あえて訂正はしない。

 ローラさんからも搾乳したこと自体は事実であるし。

 

「うああああ……今度、どんな顔してローラに会えば……?」

 

「まあ、普通にしていれば大丈夫ですよ。

 言わなければバレないですし」

 

「あっさり言うな、バカ野郎!!」

 

 怒号を響かせてから、陽葵さんは大きくため息をついて、

 

「……まあいいや。

 もう気が済んだだろ、この縄外せよ」

 

「そうですね、分かりました」

 

 私は装置の出力を最低から中程度にまで上げる。

 

「んぁあっ!!? ちょ、待てお前……あんっ……言ってることとやってることが違うっ……はぅううっ」

 

「せっかくですので、やれるだけはやっておこうと思いまして」

 

 より強く搾ってやれば、或いは。

 

 ただ、最大出力にはしない。

 陽葵さんは私の周りにいる女性の中でも、群を抜いて感度が高い。

 その辺に一番耐性のあるエレナさんであってもあの乱れ様。

 彼相手にそれをやったら、真面目に後遺症が残りかねないと考えたのだ。

 

「あっあっあっ……やば、い……んんっんっんんっ……で、出る、かも……あぁあんっ」

 

「え!? 本当に!?」

 

 思わず聞き返してしまった。

 自分でやっといて何だけれど、陽葵さん、母乳出ちゃうのですか?

 

「違、うっ……んぉおっおっおぉおおっ……そっちじゃなくって……あ、あぁあぁああっ!」

 

 違う?

 では、何のことだろう。

 

「ああっあ、あぁぁあああああっ! 出、るっ! あぁあああああああああああっ!!」

 

 びくっびくっと肢体を震わせる陽葵さん。

 しかし残念ながら、彼から母乳は出ていない。

 つまるところ――

 

「――乳首でイってしまったんですね」

 

 装置にスイッチを切りながら、私はそう呟いた。

 

「……はっ……はっ……だから、男から乳なんて出ないって……はっ……はっ……言ってんだろうが……はっ……」

 

「そのようですね。

 しかし――」

 

 私は陽葵さんのショートパンツの中に手を突っ込んだ。

 

「うぁっ!?

 何すんだよっ!!」

 

 陽葵さんが抗議の声を出すが、あえてそれを無視。

 私は手をさらに彼の下着の中に入れ、中の感触を確かめる。

 

「う、あぅうっ……そこ、弄る、な……はぅうう……」

 

 私の手で悶える陽葵さん。

 案の定、彼のそこは精液でぐちょぐちょになっていた。

 

 私は陽葵さんの目を見つめて、

 

「母乳は出なかったようですが――」

 

 そこで手を陽葵さんのパンツから引き抜く。

 

「――この通り、ミルクは出たようですね」

 

 陽葵さんに、精液塗れになって手を見せつけながら、私はそう言った。

 

「……あ、アホか……」

 

 顔を赤らめつつも、呆れるように陽葵さんは呟いた。

 ……確かにそうかもしれない。

 

「まあ、これで検証は終了ですね。

 お疲れ様でした」

 

「おう、今度こそちゃんと縄外してくれよな」

 

「はい、ですがその前に――」

 

 陽葵さんの精液に塗れた手を、彼の顔に近づける。

 

「これ、舐めとって頂けませんか?」

 

「――は?」

 

 何言ってんだこいつ、というような顔をする陽葵さん。

 だが私も引くわけにはいかない。

 

「陽葵さんのせいでこうなったわけですから、陽葵さんに処理して頂くのが道理ではないかと」

 

「何から何まで全部お前のせいだろうがっ!?

 ――っておいこら、汚い手で触ろうとすんな!」

 

「汚いなんて言わないで下さい。

 貴方の精液ですよ?」

 

 私は陽葵さんの口に無理やり手を突っ込もうとする。

 その内に陽葵さんも根負けしたようで。

 

「分かった!

 舐める! 舐めるから!

 だからいったん手引っ込めろ!!」

 

 ザーメンを舐めとってくれることを了承してくれた。

 私は、陽葵さんが舐めとるのにちょうどいい場所に手を出した。

 

「陽葵さんならやって頂けると信じていました」

 

「都合のいいこと言いやがって。

 ……うう、何でオレこんなことやってんだろ……」

 

 文句を言いつつも、陽葵さんは私の手を舐め始める。

 舌の感触がなんともこそばゆい。

 

「……んんっ……ぴちゃぴちゃっ……れろれろっ……うぐっ苦い……」

 

「このミルクは美味しくないのですか?」

 

「美味いわけあるかっ!

 うぅう……ぺろぺろっ……あむっ……んんんっ……」

 

 なんだかんだと言いつつ、精液の舐めとりを止めない陽葵さん。

 ――着実に雌犬としての階段を上がっているように思う。

 

「……れろ、れろっ……ほ、ほら、全部舐めとったぞ!

 これでいいんだろっ!」

 

「おお、綺麗になりましたね」

 

 私の手から精液が綺麗さっぱり無くなっていた。

 隅から隅まで、丁寧に舐めてくれたようだ。

 

「それでは、次はこっちを舐めて下さい」

 

「――へ」

 

 私は自分のイチモツを取り出し、陽葵さんに見せつける。

 

「お、お前、いきなりなんでっ」

 

「いえ、今度は私のミルクをご馳走しようかと思いましてね」

 

 戸惑う陽葵さんに、軽く説明する。

 彼は私の愚息を凝視しながら、

 

「ば、バカかっ! 男にちんこ舐めさせようとかっ!

 ……そ、それに何でこんなにおっ勃ててるんだよっ!?」

 

「勿論、陽葵さんに舐めてもらうためですよ。

 それにほら、貴方だって前、コナーさんに舐めて貰ったでしょう?」

 

 先日の宴会を引き合いに出してみる。

 

「!! あ、あれはその、これとは関係ないだろ!」

 

「でも、気持ち良かったんでしょう。

 コナーさんにしゃぶって貰って」

 

「ち、違っ! オレは別に…!」

 

「気持ち良くなかったら、射精なんてしませんよね?」

 

「あ、うぅ……」

 

 言葉に詰まる陽葵さん。

 正常な思考であれば、私の台詞にまるで筋が通っていないことに気づくのだろうが――幸い、今の彼にそこまでの思考能力は無くなっているようだ。

 搾乳されて絶頂した挙句、自分の精液を飲ませられれば、真っ当な思考ができなくなるのも仕方のないことだろう。

 

「く、黒田は、男にちんこ舐められて気持ちいいのかよ…?」

 

「男性全員に対してそうとは断言できませんが、陽葵さんには舐めて貰いたいですよ」

 

「…………わ、分かった。

 ……舐める」

 

「ありがとうございます」

 

 とうとうフェラすることを承諾してくれた。

 私はお礼を言ってから、肉棒を陽葵さんの目の前に突き出す。

 

「あ、あぁぁ……相変わらず、でけぇ……」

 

 その迫力に一瞬呆然とする陽葵さんだが――

 

「……あ、む」

 

 ――おずおずと愚息を咥えてくれる。

 そのままたどたどしく舌を動かしだすのだが――

 

「……ぺろっ……んんっ……ぺろぺろっ……んんんぅっ……」

 

「――ほぅ」

 

 無意識に、感嘆の息を漏らしてしまう。

 おそらくはこれが初めてのフェラであるにも関わらず、陽葵さんは的確に気持ちのいい部分を舐めている。

 彼が男だからこそ、同じ男の性感帯がよく分かるのかもしれない。

 

「……はむ、んっんんっ……れろれろっ……ちゅぱっ……ぺろっ……」

 

「……凄いですよ陽葵さん。

 素晴らしいフェラチオです。

 才能があるのではないですか」

 

「……褒められても、嬉しくねぇっつーの……はむっ……んんぅっ……」

 

 陽葵さんのフェラチオの良さは、的確な箇所を責めてくるだけでない。

 彼の舌は女性よりも力強く、それが女性からのフェラでは得られない快感に繋がっているのだ。

 

 しかし、陽葵さんは本当に男を悦ばせる才能に満ち溢れた人だな。

 

「どうですか陽葵さん、私のイチモツの味は?」

 

「……あむっ……ど、どうも、こうもねぇよっ……ぺろ、ぺろぺろっ……お前のちんこなんて……れろっ……

 ……臭いし、最悪だっつーのっ……ちゅぱ、ちゅぱちゅぱっ……んん、んっ……」

 

 言う割に、一心不乱に私の愚息をしゃぶる陽葵さん。

 臭いだの最悪だの文句をつけつつも、うっとりとした嬉しそうな表情をしている。

 

「……んんんぅっ……れろれろっ……はむ、んんっ……はぁああ……」

 

 私がそんな考え事をしている最中も、陽葵さんのフェラは続く。

 正直なところ、もうすぐにでも射精できそうである。

 それ程彼のフェラチオは気持ちの良いものだった。

 

「……そろそろ、射精しますよ。

 私のミルク、しっかり堪能して下さいね」

 

「……ぺろ、ちゅぱっ……御託はいいから……ん、うぅううっ……さっさと、出せよっ……ちゅっんんんんっ……」

 

 陽葵さんの舌遣いが激しくなる。

 私を射精させようと、必死なのだろう。

 

「……くぅっ!」

 

 彼の努力はすぐに実る。

 私は絶頂し、ザーメンをたっぷりと吐き出した。

 

「……んんっ! あ、あぁああああ……」

 

 口を大きく開けて、私の精液を残さず口に入れる陽葵さん。

 

「ん、んっんっ……んんっ……うぐぐ、に、苦い……」

 

 顔をしかめる陽葵さんだが、それでも全部飲み込んでくれたようだ。

 その徹底して男を悦ばせていく姿勢に、感動すら覚えてしまう。

 ……まあ、陽葵さん自身はそんなこと意図してはいないのだろうけれども。

 

「さて、陽葵さん。

 私のミルクも振る舞えたことですし、ここで終わりにしてもいいのですが……どうしますか?」

 

 思わせぶりな口調で陽葵さんに話を振る私。

 

「……勿体ぶった言い方すんなよっ……お前の、好きにすればいいだろ」

 

 陽葵さんは顔を私から目を背けながらも、お尻をもじもじと動かす。

 見れば、彼の股間もいつの間にやら膨らんでいる。

 私の陰茎をしゃぶりながら興奮したのか、これからの展開に期待をしているのか――それともその両方か。

 

 ともあれ、私の意図は十分に理解頂けたようだ。

 

「なるほど、では……」

 

 私は陽葵さんのパンツを脱がせて彼の下半身を露出させると――まだまだ萎えていない私の愚息を、陽葵さんのアナルへとぶち込む。

 

「んお、おぉおおおおおおっ!!」

 

 けたたましい喘ぎが、陽葵さんの口から漏れる。

 

 

 ――結局この後、私は陽葵さんの尻穴に3発程精液を注ぎ込むのであった。

 

 

 

■正しい乳の搾り方

 

 それからまた少々の日が経ち。

 ここは黒の焔亭。

 時刻は既に閉店間際。

 

 私は今、カウンターで店長と話をしていた。

 

「――って、もう薬全部使っちまったってのか!?」

 

「いやはや、お恥ずかしい……」

 

 話の内容は、搾乳機について。

 実は結構な頻度で搾乳してしまったため、もう母乳薬を切らしてしまったのだ。

 

「それで店長、もしよければ、薬を少々譲って頂けませんかね。

 勿論、その分のお代はお支払いします」

 

 特殊な薬であるため、一般的なお店で購入することもできず。

 こうして店長に薬を分けて貰えないか直談判している最中というわけだ。

 

 しかし店長は難しい顔をして、

 

「譲ってやりてぇのは山々なんだがな……

 あの薬、俺ももう持ってねぇんだよ」

 

 そんな台詞を口にした。

 

「……店長の方も、もう使い切ってしまっていましたか」

 

 考えてもみれば、ただ搾乳を楽しんでいただけの私でも薬を切らしたのだ。

 店長のように商売を目的としているのであれば、私より多くの量を使用していることは自明の理であった。

 であれば、私より多くの薬を所有していても、それを使い切るのにそう多くの時間はかかるまい。

 

 ……そのように私は考えたのだが、店長は私の考えを否定してきた。

 

「いや、違うんだよクロダ。

 薬を使っちまったわけじゃあなくてだな――」

 

 「――全部飲ませたのよ。

 こいつと、セドリックにね」

 

 突如後ろから声がかかる。

 ちょうど店の清掃をしていた、ウェイトレスのリアさんだ。

 

「……飲ませたのですか」

 

「ええ、飲ませたの」

 

 私の問いにそっけなく返すリアさん。

 

 何故、とは聞かない。

 装置を譲り受けた次の日の、店長とセドリックさんの惨状を見れば、自ずと分かろうというものだ。

 下手につついて、リアさんの逆鱗に触れるのもよろしくない。

 

「……あー、つまりそういうわけでな。

 お前に薬を渡すことはできないってぇわけだ」

 

「よく分かりました。

 ……試食させて頂いたデザートも、もう食べられないのですね」

 

 今後、搾乳はできないできないという事実も合わさり、大分気が落ち込んでしまう。

 だが店長はそんな私の肩を叩き、笑いながら言った。

 

「いやぁ、そんなことは無いぜ。

 今すぐには無理だが、あのデザートはその内また作ってやらぁ!」

 

「おや?

 薬を入手できる算段があるのですか?」

 

 アンナさんの店でも、入荷予定は無いと言われたのに。

 私の言葉に対し、店長は首を横に振って否定してから、

 

「よく考えてみろよ、クロダ。

 別に薬に頼らなくても、女から乳を搾る方法はあるだろうが」

 

「―――ああっ!」

 

 彼の台詞に、私もあることを思いつく。

 

「なるほど、“普通に乳を搾って”しまえばいいわけですね」

 

「その通りよぉ!

 薬が無くたって、孕ませてやりゃあ自然と乳も出るってぇ寸法よ!」

 

 考えてもみれば、子供を産めば女性は母乳が出るようになるのだ。

 母乳薬は、子供を産まなくてもミルクが搾れるようにするものでしかない。

 子供を作ってしまえば、乳を手に入れるのに何ら問題は無いのだ。

 

「へへ、まあ、待っててくんな。

 近いうちにリアの奴を孕ませて、ミルクを出せる身体にしてやるからよっ!」

 

「―――は?」

 

 店の掃除を再開していたリアさんが、店長の台詞を聞きとがめた。

 

「あんた、何言ってんの?

 なんであたしがあんたの子供なんか産まなくちゃなんないのよっ!」

 

「なんでって……お前から母乳を搾るためだぜ?」

 

「だから!

 なんであたしがそんなことの協力をしなくちゃいけないのかって聞いてんの!!」

 

「そうは言ってもなぁ……薬が無くなっちまった原因はお前にもあんだぜ、リア?

 ちったぁ手伝ってくれたって罰は当たんねぇだろ?」

 

「ふ・ざ・け・る・なっ!!」

 

 リアさんの怒号が店に響く。

 店長の言い分が、余程腹に据えかねたらしい。

 

 ……しかし、少し前までの彼女ならここらで鉄拳を飛ばしてもおかしくないはずだが。

 

「ああ、ひょっとしてガキの心配してんのか?

 そこは安心しろよ、その辺の責任はきっちり取ってやっから」

 

「があああああっ!!

 あんた、さっきからわざとあたしの話をはぐらかしてるでしょっ!!」

 

 リアさんが雄叫びをあげる――が、それでも店長に手を出すことはしない。

 そんな彼女を見て、店長はニヤニヤと笑っている。

 

「いや、だってなぁ……」

 

 店長はリアさんに近寄ると、無造作に彼女のスカートの中へ手を突っ込んだ。

 

「うっ……あ、あぁっ……」

 

「お前のここ、びしょびしょに濡れてんじゃねぇか。

 本当は、ガキを孕みてぇんだろ、な?」

 

 股間を弄られて悶えるリアさんを、いやらしい目で見ながら笑う店長。

 ――ふと、疑問が浮かんできたので私は口に出してみる。

 

「しかし、孕ませると言ってもどうするのですか?

 別に、中出しなんて今までもしてきたでしょう?」

 

 直接その現場を見たことはないが、他のウェイトレスの膣に精液を注いでいるところは何度も目にしている。

 リアさんだけ例外というわけもないだろう。

 ということは、子供を作るといっても、やることは今までと変わらないのではなかろうか。

 

 店長は私の言葉に、少しバツが悪そうにしてから、

 

「実は、俺も確実にガキを孕ませる方法があるってわけじゃあねぇんだ。

 ただよ、俺は今までは危険日とかにゃあ中に出さないようにはしてたんだがな?」

 

「――ああ、その辺り配慮はしていたのですね」

 

 それは初耳だった。

 この人はいつでも構わずヤリまくってるとばかり。

 

「当たり前だろう。

 ガキ出来ちまったら、店の働き手が減っちまうんだぞ?

 親としての責任も果たさなきゃならねぇしな……基本的に、孕ませたら面倒なんだよ」

 

 そうだったのか。

 女性関連においても、最低限の責任感は持っていた模様である。

 

「ただまあ、母乳が必要ってんならそうも言ってらんねぇ。

 これからは危険日だろうと何だろうと、毎日こいつに精を注いでやろう、と。

 まあ、そういうことだ」

 

「―――な。

 そんな、こと…!」

 

「あんだよ。

 お前だって嬉しいだろ?

 毎日、俺に抱かれるんだからよ」

 

「う、嬉しいわけないでしょ!

 あんたなんか――あっあぁああああっ!?」

 

 店長はスカートの中に挿れた手を激しく動かして、怒鳴りだすリアさんを黙らせた。

 

「かーっ! いつになっても素直になんねぇ女だな!

 お前の身体は俺のちんこが欲しいってこんなに愛液垂れ流してるっつうのによぉっ!

 ……おいクロダ、お前もなんか言ってやれよ」

 

 話を私に振る店長。

 リアさんも私を振り向き。

 

「……く、クロダ」

 

 何かを期待するような目で私を見つめる。

 私は少し考えてから、

 

「――ふむ。

 またリアさんの母乳デザートが食べれるのを、楽しみにしてますよ」

 

「っっっ!!!」

 

 私の言葉を聞くと、リアさんは身体を大きく震わせた。

 それを見て、店長が笑い出す。

 

「はっはっは、おいおいクロダ、こいつ見ろよ。

 今のお前のセリフだけで、派手にイキやがったぜぇ!?」

 

 私にもリアさんの股間が見えるように、スカートをめくる店長。

 そこからは、確かに大量の愛液が滴り落ちていた。

 本当に、私の言葉だけで絶頂してしまったらしい。

 

「さて、と。

 思い立ったが吉日ってなぁ。

 早速だが、俺ぁ今からこいつと子作りしてくるぜ」

 

 絶頂のせいで呆然としているリアさんを抱き抱える店長。

 店にある私室かどこかで、性交するつもりなのだろう。

 そんな彼に、私は一つ提案をしてみる。

 

「何でしたら、私も手伝いましょうか、子供作り」

 

 途端に、リアさんの目に輝きが戻った。

 

「!! そう、それ…!

 それなら、あたし…!」

 

 だがそんなリアさんの言葉を遮り、店長が言葉を放つ。

 

「ああ、そりゃダメだクロダ。

 目的はあくまでこいつの母乳だからな。

 ガキができても、そいつにゃ母親の乳をあげられねぇっつうことになる。

 自分のガキならともかく、お前の子供にそんな境遇を味わわせるわけにゃいかねぇ」

 

「……そうですか。

 それは残念です」

 

 本当に変なところで律儀な人である。

 

「――そ、んな」

 

 そしてリアさんの顔は、絶望した表情へと変わる。

 そんな彼女に気づいているのかいないのか、店長がさらに私へ声をかけてきた。

 

「ああ、つってもこいつと遊ぶなって言ってるわけじゃねぇぜ?

 これからもこいつで楽しんでくんな」

 

「ええ、それは勿論」

 

 例え禁止されたとしても、隠れてヤってしまうだろう。

 それで子供ができたら――その時はその時だ。

 

「そんじゃ、俺はそろそろ行くわ。

 お前はどうする?

 まだ他の従業員は残ってるし、しばらくここで飲んでてもいいが」

 

「いえ、今日はこれから人との約束がありまして。

 私もお暇しようかと」

 

 今夜はローラさんのところに泊まる約束をしているのである。

 余り遅くなるのはよろしくない。

 

「そうか、それじゃ引き留めるわけにゃいかねぇな。

 気を付けて帰れよ。

 ――おら、リア、お前はこっちに来るんだよ!」

 

「……や、だ。

 あたし、こんな……本当に、孕まされるなんて――あっあっあぁっあああっ!」

 

 再び、店長がリアさんの股間を責めだした。

 

「はっ! ちょっと弄りゃあすぐヨガってアヘアヘ言い出す肉便器の分際で、何言ってやがる!

 早く歩け! 俺はもう待ちきれねぇんだっ!!」

 

「んぁあっあっあっあっあっ! おぉお、おおっおっおっおっ!!」

 

 そのまま喘がされ続けながら、リアさんは店の奥へと連れられて行くのだった。

 

 

 

 ――その夜、彼らがどうなったのかを私は知らないが。

 リアさんは、その後も黒の焔亭で仕事を続けている。

 

 

 

 第十一話 完

 

 

 

 

 

 

■おまけ

 

 

 ――後日談ではなく、陽葵さんの搾乳を終えた次の日の話。

 私と陽葵さんは、いつものように迷宮へ探索に向かっていた。

 ただ、この日は少々所用があったので、まずギルドに行って雑務をこなしていたのだが――

 

「……うーん」

 

 ギルド内を歩いていると、陽葵さんがどうも浮かない顔。

 体調でも悪いのだろうか?

 気になった私は、彼に尋ねてみる。

 

「どうされました、陽葵さん?」

 

「……いや、朝起きてから、妙に身体がだるくってさ」

 

「そうだったのですか!

 風邪にかかりでもしましたかね?

 何か心当たりはありますか?」

 

 だが陽葵さんは、心配する私を冷ややかな瞳で見つめ、怒鳴りつける。

 

「十中八九、お前が飲ませた薬が原因だろーが!?」

 

「……その可能性もありますね」

 

 女性向けの薬を男性である陽葵さんに飲ませたのは流石に不味かったか。

 

「あー、くそ。

 踏んだり蹴ったりだ」

 

「母乳も出ませんでしたしね」

 

「そこは心底どうでもいい」

 

「なんと!?」

 

 そう話し合っていると、陽葵さんの身体が急にふらついた。

 

「陽葵さん!?」

 

「……あ、う。

 なんか、本格的にやばそう……」

 

「ホールにあるソファーで少し休ませてもらいましょうか」

 

「……うん、そうする」

 

 私は陽葵さんを抱きかかえると、ホールへと向かう。

 すると歩き出してすぐに、

 

「お、おい、黒田」

 

 陽葵さんが戸惑ったような声を出してくる。

 

「どうしました?

 体調に変化でも?」

 

「どうしたってゆうか――なんでこんな抱え方すんの、お前?」

 

 私は今、陽葵さんの膝の近くと肩の近くを持って抱えている。

 お姫様抱っこ、と言った方が分かりやすいだろうか。

 

「何か問題が?」

 

「いや、この抱かれ方は、流石にちょっと……」

 

「まあまあ、少しの間なんですから我慢して下さいよ」

 

「むぅ……」

 

 渋る陽葵さんを説き伏せ、廊下を進んでいく。

 すると――

 

 「おいおい、見ろよアレ」

 

 「お、クロダとムロサカか。

 ……見せつけてくれるねぇ」

 

 「あの二人、付き合ってるのかな?」

 

 ――すれ違う人達の話声が聞こえてきた。

 

「やっぱ下ろせぇ!!」

 

「暴れないで下さい、陽葵さん!」

 

 じたばたする陽葵さんを押さえながら、私はホールへと進むのであった。

 

 

 

 無事にホールへ到着した私は、陽葵さんをソファーに寝かす。

 

「どうです?

 少しは楽になりましたか?」

 

「……うう、なんだかさっきより酷くなってるかも」

 

 私に運ばれている際、叫んでいたことが原因なのではないかと思うが、口には出さない。

 

「具体的に、どんな症状が出ていますか?」

 

「全身がなんだか火照ってる感じ。

 あとは――うぁっ」

 

 突如、陽葵さんが苦しみだす。

 症状が悪化しているのか?

 ……今日の探索は中止し、医者に診せた方がいいかもしれない。

 

「大丈夫ですか、陽葵さん!」

 

「なんか、胸、が、苦しい……」

 

「――胸?」

 

 そこで、私の中である一つの事柄が閃いた。

 

「ちょっと失礼します」

 

「あ、おい、こらっ!?」

 

 私は手早く陽葵さんのシャツを捲り、彼の胸を観察する。

 染み一つないきめ細かな肌に、形の整った桃色の乳首……いつ見ても、男のものとは思えない扇情的な美しさだ。

 このままずっと鑑賞していたくもあるが、私はその欲求を抑え、陽葵さんの胸を触ってみる。

 

「んっ……って、いきなりなにすんだ、お前!」

 

「触診みたいなものです。

 少々静かにしていて下さい」

 

「えー?

 そんなんできるのかよ」

 

 適当にでっち上げた理由に、疑いながらも不承不承納得してくれた陽葵さん。

 

 彼の胸はいつもより張っているような感触で、ほんの僅かにだが膨らんでいるようにも見える。

 まるで、何かが詰まっているような――

 

「もしやこれは…!」

 

 その感触に確信を得た私は、陽葵さんの胸をゆっくりと揉みだす。

 

「……あぅっ……黒田、お前何して――あんっ」

 

 彼の抗議を無視し、なおも胸を揉み、乳首もこりこりと摘まんでやる。

 

「はっ……あっ…あっあっあっ……止め、周りに人、いるだろっ……はぅうっ……」

 

 呼吸が荒くなっていく陽葵さん。

 彼は周囲に人が居ることを懸念しているようだが、幸いなことに今ホールには僅かな人影しかない。

 騒がなければ、気づかれることも無いだろう。

 

「……んんっ…あ、うぅぅ……黒田、何か変っ……あ、んんっ……胸が、変な感じ、にっ……」

 

 陽葵さんが感覚の変化を訴えてくる。

 そろそろ――なのだろうか?

 私は彼の胸を揉む力を強くする。

 

「うぁっ……なんだ、これっ……あんっ……何か、来るっ……んんんぅっ……黒田、オレ、何か来ちゃうっ!」

 

「いいんですよ、陽葵さん。

 その感覚に身を任せて下さい」

 

 彼を安心するように声をかける。

 陽葵さんの身体は、しっとりと汗ばんできた。

 

「あ、あぁあっ……何なんだよっ……んぁああっ……う、あっ……ああっ…来るっ!」

 

 びくっと陽葵さんの身体が震える。

 すると――彼の乳首から、白い液体が噴出した!

 

「出た!

 出ましたよ陽葵さん!!」

 

 ついつい私は大声を出してしまう。

 一方、陽葵さんはまだ状況を把握していない様子。

 

「あ、あぁ……な、何…?」

 

「母乳ですよ!

 陽葵さんも出せたんですっ!」

 

「は?

 …………え?」

 

「薬の効果はあったんです!

 陽葵さんが男性だからなのか、単に体質のせいなのか――効果が出るのが遅かったようですね」

 

 言いつつも、私は胸を揉み続けた。

 陽葵さんの乳首からは、次から次へとミルクが流れ出てくる。

 試しに、私は陽葵さんのミルクを舐めてみた。

 

「ふむ……ローラさん程の濃厚さはありませんが――すっきりとして飲みやすいですね。

 それでいて味もしっかりしており、いくら飲んでも飽きは来ないというか」

 

「な、何冷静に解説してんだ!」

 

 顔を赤くして怒鳴る陽葵さん。

 しかし私は感動に浸り、それどころではない。

 

「――――あんっ!」

 

 陽葵の乳首に吸い付くと、その刺激で彼は喘ぎを漏らす。

 私の口内には陽葵さんのミルクが注がれ――ううむ、美味しい!

 

 そんな風に楽しんでいる私の元へ、周囲からの2,3人程の声が聞こえてきた。

 

 「お、おい、あそこで女の子のおっぱい揉んでる奴がいるぞ!?」

 

 「マジかよっ!!

 ……うわホントだ! しかも乳吸ってやがんぜ!?」

 

 「こんなとこで何やってんだ!!

 衛兵呼ぶか!?」

 

 …………あ。

 まずい、調子に乗って騒ぎ過ぎた!

 

「しまった!

 私は陽葵さんから搾乳しているだけだというのに――このままでは官憲につき出されてしまうっ!?」

 

「いや、男相手だろうと、これ普通に犯罪だろ。

 ……んんっ……ていうかお前、いい加減胸から顔離せよっ!」

 

 私が陽葵さんの乳首をぺろぺろ舐めながら戸惑っていると、周囲からさらに声が聞こえてくる。

 

 「ん? おい、男の方はクロダじゃないか?」

 

 「あ、本当だクロダさんだ。

 しかも女の方は……連れのムロサカか」

 

 「なんだよ、じゃあいつものクロダの病気か」

 

 「あいつも好きだなぁ…」

 

 それで納得したのか、その方々は立ち去って行った。

 ――私達への関心を無くしたらしい。

 

「……何でしょう、この展開」

 

「……オレが聞きてぇよ」

 

 残された私達は、呆然と言葉を交わす。

 

 ちょっと待ってちょっと待って。

 彼らにとって、私がこういう行為をするのは普通だと思われているということ?

 

「お前、他の冒険者からどんな目で見られてんだ?」

 

「…………どんな目で、見られているのでしょうね」

 

 ジト目で睨む陽葵さんから投げかけられた言葉に、私は返す言葉が無かった。

 

 変態行為のヤリ過ぎは、控えた方がいいのかもしれない――特に人前では。

 あんまりな周囲からの反応に、私の胸にそんな思いが去来したのだった。

 

 

 

 おまけ 完



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第十二話 ある社畜冒険者の長い一日
① ジャンさん達と一緒に探索


 

 

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…」

 

 突然だが、私は<次元迷宮>のとある白色区域を走っていた。

 

「はっ…はっ…はっ…はっ…」

 

 最近は陽葵さんの教育係としての仕事があったため、こんな風に疾走しながら階層の探索を行うことは(陽葵さんがまず追いついて来れないため)休止していたのだが。

 今、私は存分にそれを行っている。

 では陽葵さんはどうしているのかと言うと、彼は今日探索をお休んでいて、そもそも迷宮の探索に来ていない。

 ならば、私は独りで探索をしているのか――と言えば、それも違う。

 

「はっ…はっ…はっ…………ふぅ――」

 

 その階層にいた最後の魔物を倒した私は、一息入れてから“仲間”の居る場所に戻る。

 

「……どうでしょう、少しは参考になりましたでしょうか?」

 

 そして、そこで私を待っていた仲間――ジャンさん達に話しかけた。

 

 

 

 少々説明に文面を割くことをご容赦願いたい。

 本来、今日はジャンさん達と共にパーティーとしての行動を陽葵さんに学ばせる予定だったのだ。

 しかし、直前になって陽葵さんは体調を崩してしまい――かといってこちらから共同探索をお願いしていたというのに無碍に辞退するという不義理を犯すわけにもいかず。

 結局、私一人でジャンさん達と一緒に迷宮を探索する形に落ち着いた。

 お互いの迷宮探索に関するノウハウを教えあう、勉強会のようなものだ。

 

 

 ……正直な話をさせて貰うならば。

 体調を崩したわりに、陽葵さんは妙にそわそわしていたり、今日が来るのを楽しみにしていたり。

 一方で今日の朝、陽葵さんの調子を見に行った際に出会ったリアさんが、化粧を施した上でスカート姿という妙に小奇麗な格好をしていたり。

 

 ――これらの事象を目の当たりにして、ピンと来ない程、私はにぶく無い。

 陽葵さん、私の知らないところでリアさんと色々上手くやっていたらしい。

 

 デートを予定していたのであれば素直にそれを伝えてくれれば良かったのに――とも思うが、年頃の男の子が気になる女の子とのデートを他人に伝えるのはそう容易なことでは無いだろう。

 なので、私は彼らの変化に気づかない振りをすることにしたのだ。

 ただ、陽葵さんの想いが成就することを祈るのみである。

 ……まあ、人との約束を土壇場で反故にしたことへの罰は、後日(陽葵さんの身体に)教え込むことにしよう。

 

 

 閑話休題。

 

 

 ともあれ、私が先程まで走っていたのもその勉強会の一環。

 私達が現在いる階層は、高台のような場所があり、そこからなら階層全体が見渡せる構造となっている。

 そこで、ジャンさん達にはその高台で待機して貰い、私がいつもやっている探索の様子を見せていたわけなのだが――

 

「――ど、どうと言われても」

 

 ジャンさんは困り顔。

 

「……えーと、何だろう。

 ……よく分からない」

 

 コナーさんも、困惑していた。

 

「んー、なんていうの、クロダ君がやってる一つ一つの行動は凄く“普通”なのに、その行動の結果は“普通から逸脱”してる……って感じ?」

 

 エレナさんからは一応感想を貰えたのだが――どうにも要領の得ないもののように感じる。

 しかし、他の二人は違ったようだ。

 

「そうかそれだ!

 行動の普通さと結果の凄さが釣り合わないから、違和感が半端ねぇんだ!!」

 

「……クロダさんの探索風景を見て感じた気持ち悪さの原因はそこだね」

 

 合点いったようにエレナさんへ賛同する、ジャンさんとコナーさん。

 今度は私の方が戸惑ってしまう。

 

「そ、そんなに変ですか、私の探索は?」

 

 私の投げかけた問いに、3人は次々に意見をぶつけてくる。

 

「だってクロダさん、ロープの上でも断崖絶壁でも、平らな場所でするのと同じ姿勢で走るんだもんなぁ」

 

「足を踏むのに適切な地点さえ把握してしまえばそう難しいものでも無いですよ」

 

 一見不安定な場所に見えても、的確な場所を足の着地点に選ぶことで、安定した移動が実現するのである。

 

「……ただ走ってるだけなのに、魔物に全然気づかれないしね。

 ……魔物の後ろを簡単にとったり、平気な顔で横をすり抜けたり」

 

「各魔物の知覚範囲と行動の癖を覚えてしまえば、誰でもできることですよ」

 

 魔物がこちらに気づくギリギリの距離を見切って移動したり、<射出>で石を飛ばしてそちらに注意を向かせたりすれば、魔物達に気づかれず移動することも容易である。

 

「んー、スライムみたいな物理ダメージが通じない魔物も矢で倒してたよね。

 マジックアイテムでも何でもないやつで」

 

「ああ、スライムを代表とするゲル状の魔物には、大抵の場合、核が存在するのです。

 視認はしにくいので、場所の特定は難しいですけれども」

 

 それを射抜いてしまえば、通常の矢で問題なく倒せる。

 

 どの場合にしも、行動実行に必要な情報を収集するのに時間はかかるが、一度やり方が分かってしまえばあとはそれを繰り返すだけだ。

 ――と、一応それぞれに対して私なりの回答を行ったのだが……

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「……あの、皆さん?」

 

 沈黙が訪れてしまった。

 三人は顔を見合わせ、一つこくりと頷くと、

 

「「「結論。

 クロダさん(君)の行動は参考にならない」」」

 

「なんと!?」

 

 異口同音に同じことを言ってきたのであった。

 

 

 

 ――その少し後。

 

「……そんなに役に立ちませんかね、私」

 

「んー、まだ引きずってるの、クロダ君?」

 

 3人からのダメ出しを受け、気落ちしている私にエレナさんが話しかけてきた。

 

「気にする必要ねぇってクロダさん。

 要はクロダさんの技術がハイレベル過ぎて、俺らじゃ真似できないってだけなんだから」

 

「……寧ろ、リスペクトは高まった」

 

 ジャンさんとコナーさんもフォローをしてくれた。

 ……人の気遣いが心に沁みる。

 

 ジャンさんはなおも続けてくれた。

 

「ホントホント、ヒナタが羨ましい位だよ」

 

「……あ、バカっ」

 

 コナーさんが嗜めるも時既に遅く。

 ……ジャンさんは“地雷”を踏んでしまった。

 

「……ふーん?

 残念だったねー、ヒナタ君が来れなくって?」

 

 途端に目が座り、ドスのある声へと変貌するエレナさん。

 この前の宴会の後から、エレナさんの前で彼ら二人がヒナタさんの話題を出すと、すこぶる機嫌が悪くなるのだ。

 ……まあ、気になっている男性が、男相手に組んず解れずしようとしてる場面に出くわせば、心も荒もうというものか。

 

「ちょっと待て!?

 言ってないぞ!

 俺、今そんなこと言ってないよな!?」

 

 ジャンさんが必死の言い訳を試みるも、

 

「――はんっ」

 

 それを鼻で嗤うエレナさん。

 彼らの間に出来た溝は、深く、暗い。

 

「あ、あーっ!!

 ほら見ろ、この階層のゲートに到着だ!

 さ、次の階層に行こうぜ、なっ!?」

 

 ちょうど見えてきたゲートをダシにして、何とか場を繕うとするジャンさん。

 エレナさんも、余りやり過ぎると探索自体に支障が生じてしまうと考えたからか、少し態度を軟化させた。

 

「んー、そうだねー。

 ここの階層には何度も来てるんだから、別に取り立てて騒ぐ程でも無いよねー」

 

「……ぐっ」

 

 しかしそれでも言葉に棘がある。

 ジャンさんはその棘の痛みを何とか堪えつつ、

 

「じゃ、じゃあ、次の階層行くぞ!

 ほら、遅れんなよ皆!」

 

 宣言してから、ゲートに入ろうとする……が。

 

「んん?

 なんか調子おかしくない?」

 

 エレナさんからそんな指摘が入った。

 それを聞いて、ゲートを確認すると――

 

「………これは!?」

 

 ゲートが――空間の歪が、いつになく脈動している。

 ……この現象、私には心当たりがあった。

 

「――いけないっ!!」

 

 慌ててジャンさんの腕を掴む私。

 

「おっと、どうしたんだ、クロダさん」

 

 しかし時すでに遅く、ジャンさんはゲートの中へ片腕を突っ込んでいた。

 ――いや、彼が入ったタイミングでゲートが暴走しだした、と考えた方がいいのか。

 

「ジャンさん、ゲートから腕を抜くんです!

 このゲート、“暴走”してます!!」

 

「はぁっ!?」

 

 ――ゲートの“暴走”。

 次元迷宮の階層間を繋ぐゲートは通常、ある特定の地点間を転移させる機能を持つ。

 しかし稀に、いつもとは異なる行先に飛ばされることがある。

 それが、“暴走”である。

 転移先は完全にランダムであり、深い階層や危険な階層に飛ばされようものなら――生きて帰ることはまずできない。

 

 だがこの現象は、<次元迷宮>の奥――黄色区域や赤色区域でこそ報告例はあるものの、白色区域のような浅い場所で起きた前例は無かったはず。

 何故こんなところで――!?

 

「――だ、ダメだ、クロダさん!

 全然引き抜けねぇ――っていうか、引き込まれてる!?」

 

「引き込まれている!?」

 

 私の警告にジャンさんはゲートから脱出しようとするが――それは叶わない様子。

 寧ろ、彼の意に反して少しずつゲートへと身体が沈んでいく。

 

 ……そんな馬鹿な!?

 ゲートに引きずり込まれるなど、聞いたことも――!

 

「ジャン君!!」

 

「……ジャンっ!!」

 

 事態を理解したエレナさんとコナーさんが悲鳴を上げる。

 ゲートの暴走に遭遇する冒険者は少ないものの、その危険性についてはギルドから十分にレクチャーされているのだ。

 

 ――どどど、どうする!?

 どうすればいいっ!!?

 このままではジャンさんが――!!

 

「――クロダ君、<射出>!!」

 

「……は? 

 ……!! そ、そうか!!」

 

 エレナさんの言葉に、私はまだ手があることを思い出した。

 ジャンさんの腕をもう一度しっかり握り、

 

「ジャンさん! 少し痛いですよっ!!」

 

「へ? って、うぉおおお―――!?」

 

<射出>を使用して、私はジャンさんの身体を投げ飛ばた。

 

<射出>の魔法は基本的に矢を飛ばして攻撃を行うものなのだが、熟練度を高めると武器や石等、矢以外の物も飛ばすことができる。

 これは、以前にも説明したことと思う。

 そして、<射出>の熟練度をさらに極めることにで、このスキルで『人を飛ばす』ことすら可能となるのだ。

 もっとも、生物に<射出>をかけるのは相手に抵抗される可能性も高く、なかなか難しい使用方法なのだが――今回の場合、ジャンさんの冒険者レベルが低かったため、上手く成功したようだ。

 

 ……はて。

 だがこの使い方をエレナさんはいつ知ったのだろう?

 彼女にこのことを話したことがあっただろうか。

 

「ぐはぁっっ!!」

 

 そんな私の考えは、ジャンさんの叫びでかき消された。

 <射出>によって飛ばされた彼は、ゲートとは反対側の壁に激突したのだ。

 

「ぐ、があぁぁ……せ、背中が……びたーんって……」

 

 痛さにのたうち回るジャンさん。

 だが、とにかくゲートの暴走からは脱出できた。

 

 実のところ、<射出>を使っても抜け出せるかどうかは五分であった。

 ゲートに捕らわれた腕が千切れる恐れもあったのだが……幸い、今のジャンさんは五体満足である。

 

「……ふぅ、何とかなりましたね」

 

 私は安堵の息を吐く。

 <射出>によって身体を強打されたジャンさんの怪我が気になるが、それもコナーさんの加護で治療できるだろう。

 この現象が起きた原因についても気になるが、それはギルドに報告してあちらで究明してもらえば――

 

「――クロダ君っ!!」

 

 エレナさんの、悲鳴が響いた。

 彼女の方を見れば……私の方の足元を指さしている?

 

「何が…っっ!?」

 

 ……私の足が、ゲートに取り込まれていた。

 

「何だ、これはっ!?」

 

 私とゲートの間には十分な距離があったはず。

 そう考えている間にも、私の足はゲートに沈んでいき――

 

「ゲートが、広がっている!?」

 

 そこでようやく私は気づいた。

 今の私はゲートに引き込まれているのではなく、拡大するゲートに飲み込まれようとしているのだと。

 

 ――想定外な出来事が多すぎる!

 ゲートが大きくなる等、それこそ聞いたことが無い!

 

「……クロダさんっ!」

 

 コナーさんが、慌てて私に近づいてくる。

 私も気が動転しそうになるのを何とか抑え、それを手で制する。

 

「いけません、コナーさん!

 近寄れば、貴方もゲートに取り込まれることになる!」

 

「……で、でもっ…!」

 

「ギルドに、報告して下さい!

 ゲートの暴走に巻き込まれたとしてもすぐ死ぬわけではありませんし、上手くすれば救助隊を派遣してくれるかも…」

 

 ……浅い階層でゲートが暴走してしまった理由は調査されるだろうが、一介の冒険者に過ぎない私に対して救助隊は、まず派遣等されないだろう。

 とはいえ、そうでも言わないと、彼はこちらへ飛び込んでくる勢いだったのだ。

 

 ――そしてそんなやり取りの間に私の体の大半はゲートの中に入ってしまった。

 転移も、じき始まるだろう。

 

 一体どこへ飛ばされるのか。

 危険な階層で無いことを祈るばかりだ。

 

 ――と、そこへ。

 

「クロダ君っ!!」

 

「え?」

 

 エレナさんが、ゲートに入ってきた。

 いや、ちょっと待って、それはまずいっ!!

 

「……エレナっ!?」

 

「え、エレナ!!」

 

 コナーさんと、遅れて状況を把握したジャンさんが悲鳴を上げる。

 

「何を考えているのですか!」

 

「報告ならジャン君とコナー君で十分でしょ!

 ボクはクロダ君についてくよっ!」

 

「そんなっ!!」

 

 身体のほとんどがゲートに取り込まれてしまった私に、この状況を解決する手段等持っていない。

 彼女を叱る時間すら無く、私とエレナさんは転移されていった。

 

 

 

 そして私達が辿り着いたのは――

 

「――なんか気持ち悪い所だねー」

 

 周囲を見渡して、エレナさんが呟く。

 そこは、内臓のように生々しくてかり、生物のように蠢く『壁』や『天井』で構成された階層であった。

 ……いや、本当に生物なのかもしれないが。

 

 ともあれ私は、突如見知らぬ場所へと来てしまったエレナさんを安心させるべく、言葉をかける。

 

「あわ、あわ、あわ、慌てててはいかません!

 ウィンガスト冒険者は慌てない!!」

 

「いや、クロダ君がまず落ち着こうよ」

 

 逆に彼女からつっこみを貰ってしまった。

 私の方がエレナさんより慌てているらしい。

 

 そう、深呼吸。

 深呼吸をして落ち着かなければ!

 

「ひっひっふー……ひっひっふー……」

 

「いやなんでラマーズ法してんの。

 大丈夫、キミ?」

 

 若干呆れたような口調でエレナさん。

 こんな事態になったというのに、案外動じない人である。

 

「ず、随分と落ち着いていますね、エレナさん」

 

「いや、慌てようとしたんだけどね?

 ボクよりずっと気が動転してる人が隣にいるから、かえって冷静になっちゃったというか」

 

「うっ!

 ……そ、そうでしたか」

 

 そう言われると申し訳なさでいっぱいになる。

 首を垂れる私に、エレナさんが続けて話しかけてきた。

 

「んんー、話には聞いてたけど、クロダ君、本当にこういう想定外な事態に弱いんだねー。

 ここまで動揺してるキミを見るの、初めてだよ」

 

「お、お恥ずかしいところを…」

 

「んー、まあいいんだけどね。

 誰にだって苦手なモノはあるんだし」

 

 エレナさんはここで一旦言葉を区切ってから。

 

「……で、これからどうしよっか。

 ここでじっとして、救助を待つっていうのは……」

 

「……厳しいでしょうね。

 暴走したゲートで転移した人を見つけるなど、一流どころの冒険者でも容易では無いでしょうから」

 

「だよねー」

 

 コナーさんにはああ言ったが、先述した通り救助は様々な理由で期待できない。

 つまり。

 

「んー、自力で脱出するしかない?」

 

「……はい」

 

 エレナさんの言葉に、首肯で返した。

 非常に厳しい現実を説明したわけだが、彼女もそれは納得していたのか、慌てる様子は無い。

 本当に大した方だ。

 私は彼女の爪の垢でも飲んだ方がいいかもしれない。

 ……まあ、今までの彼女とのアレやコレやで、垢の一つや二つ既に飲み込んでいるだろうけれども。

 

 そんなお馬鹿な考えは置いといて。

 

 私達は、脱出方法について検討しだす。

 とはいえそれ程話し合える内容があるわけでも無く。

 結局、歩いてこの階層のゲートを見つけるしかない、という結論に落ち着いた。

 

 そこでエレナさんは難しい顔をして、一度うーんと唸ってから、

 

「でも、ボクもキミも<魔法使い>なんだよねー。

 移動するにしても、トラップとかどうしよう?

 クロダ君、なんかそういうのに役立つスキル持ってたりする?」

 

「スキルは持っていませんが……罠に対処するアテならあります」

 

「え、ホント!?

 なになにっ!?」

 

「……漢探知(おとこたんち)です」

 

 不安要素を口にするエレナさんに、私は精一杯力強く告げた。

 

 

 

 

「ぬぉおおおおおおおおっ!!?」

 

「ぎゃぁあああああああっ!!?」

 

「ほげぇえええええええっ!!?」

 

「ふぼぉおおおおおおおっ!!?」

 

 迷宮に、私の悲鳴が木霊する。

 

 ――漢探知。

 自ら率先して罠に引っかかることで仲間の安全を確保するという、耐久力の高い冒険者が持つ迷宮探索の最終手段だ。

 脳筋プレイとも言う。

 良い子は――いや、良い子でなくとも命が惜しければ決して真似をしてはならない、禁断の探知術である。

 

「げほっ、ごほっ、がはっ」

 

「だ、大丈夫?

 ほら、ポーション飲んで」

 

「す、すみません」

 

 エレナさんから受け取ったポーションをがぶ飲みする。

 落とし穴、水責め、棘飛び出し、毒ガス、金ダライと、幾つもの罠で私はズタボロになっていた。

 当然の話であるが、こんな頭の悪い行軍をすれば身体へのダメージは相当なものになる。

 一応、罠にかかるたびにアイテムで治療しているのだが……

 今のところ即死する罠は無かったのが不幸中の幸いと言ったところか。

 

「……比較的安全な階層だったようで、少し安心しました」

 

「あ、安全、かなぁ?

 クロダ君の身体、ボロボロだけど…」

 

「こんなふざけた罠の探り方をしているのに、きちんと進めているのですから、安全な部類の場所でしょう。

 今のところ魔物もほとんど見かけませんし」

 

「んー、まあ、そうなのかも」

 

 思案しながらも、私の言葉に同意するエレナさん。

 

「油断は禁物ですけどね。

 ただ運が良かっただけの可能性も高いですから」

 

 言って、私はポーションをもう一本飲み干す。

 ……うむ、傷はほとんど治ってきたようだ。

 

「んー、でもクロダ君、頑丈だよねー。

 ひょっとして、コナー君より固いんじゃない?」

 

「はは、前にも言いましたが、体力なら少しは自信がありますので」

 

「んん、凄いのは精力だけじゃ無かったわけだ」

 

 エレナさんが私の方に身を乗り出してきた。

 私の股間を手でさわさわと触って、

 

「んふふ、こっちもコナー君より固いかなー?」

 

 悪戯っぽい口調でそう呟く。

 そして、扇情的な瞳で私を見つめてから、私の耳元でそっと囁いてくる。

 

「ね、ここは安全そうだし、さ。

 ――少し発散していこうよー」

 

 彼女は自ら胸元を開き、胸の谷間を強調してくる。

 小柄なエレナさんのおっぱいは、数値的なバストサイズは小さいものの、豊満と呼んでも差し支えない綺麗な形。

 そしてそのハリの良さが目で見て分かる程にプルンプルンと弾むように揺らされていた。

 

「んふふふふ、ポーションで体力回復させるとさー、結構溜まってもきちゃうよねー?」

 

 さらにはスカートも捲って、おねだりをするようにお尻を振り出す。

 黒色のタイツと、青白のストライプが走った縞パンに覆われたエレナさんのお尻は、これまた美しい曲線を描いている。

 

 ――ちなみに体力回復の副作用とでもいうのか、確かにポーションには若干の精力促進効果もある。

 

 トランジスタグラマーなエレナさんの肢体の色気に、私の視線は釘付けになってしまう。

 互いに距離が近いため、彼女の女性特有の甘い匂いも私の鼻腔をつく。

 いつもの私であれば、何の躊躇も無く彼女にむしゃぶりつくのだが――

 

「あー、エレナさん。

 今回はそういうの無しで」

 

「え?」

 

 私は彼女の肩を手で押して、身体を離した。

 

「周囲にどんな危険が潜んでいるか分かりませんからね。

 無防備な状態になるのは余りに無謀過ぎます」

 

 私の言葉に、エレナさんは目を見開いて驚愕する。

 

「く、クロダ君がまともなことを言ってる!?」

 

「そりゃ言いますよ、私だって」

 

 エレナさんとは何度も迷宮内でセックスしているが、それはその場所が安全であることを私が熟知していたからだ。

 こんな見知らぬ階層で性交するなど、自殺行為もいいところである。

 私が危険に晒されるだけならそれでも手を出していただろうが、エレナさんにも危害が及ぶとあれば看過できない。

 

「……さっきの毒ガストラップでおかしくなっちゃったわけじゃないよね?」

 

「エレナさん、私を何だと思ってるんですか」

 

「何で未だに衛兵のお世話になっていないのか分からない、生粋の変態」

 

「……否定しませんけれども」

 

 その辺り気を使ってはいるつもりだが、まだお縄についたことが無いことについては自身の幸運に感謝せねばなるまい。

 

「んんー、じゃあさぁ、休憩がてら少しお話ししようよー。

 それ位ならいいでしょ?」

 

「それは勿論」

 

 セックスは論外だが、休憩は取れるところで十分取っておかねばならない。

 未知なる場所の探索は、自分で思っている以上に疲労を蓄積し、神経をすり減らすものだからだ。

 私は念のため、もう一本ポーションを取り出して口を付ける。

 

「良かったー。

 うん、実はさ、ボク前々からキミに聞いてみたいことがあったんだよねー」

 

「おや、そうだったのですか。

 私に答えられることであれば、何でも聞いて下さい」

 

「そう?

 それじゃあねー……」

 

 エレナさんは、そこで少し間を置いた。

 悩んでいる、或いは躊躇っているような表情をしばし見せた後、私に質問を投げかけてくる。

 

「……クロダ君ってさぁ。

 ――好きな人、いるんでしょ?」

 

「ぶっほっ!?」

 

 飲んでいたポーションを吹き出してしまった。

 

「な、な、な、な、な、何を!?」

 

「んー、やっぱりかー。

 クロダ君、色恋沙汰の話題、あからさまに避けてるもんね?

 いくらモーションかけても、全然乗ってくれないし。

『好き』とか『愛してる』って言葉も、使ってくれないしねー」

 

 私の反応に、何やら納得した様子のエレナさん。

 

 ――ちょ、ちょっと待って欲しい。

 これ、どう返したらいいのか……?

 

「あー、いや、えー、それはですね」

 

 悩んでもまるで言葉が出てこない。

 そんな私を、エレナさんは上目遣いに見つめながら、

 

「いけないんだぁ、クロダ君。

 好きな人がいるのに、ボクなんかに手出しちゃったりしてー」

 

 私の頬を彼女の手が撫でる。

 手つきがなんとも艶めかしい。

 こんな時だというのに、心拍が上がってしまう。

 

「――ねぇ、その子のこと忘れてさぁ、ボクに乗り換えちゃったりしない?」

 

「あ、それは、その……」

 

 ――それは、できない。

 そう言葉に出せれば良かったのに。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに見つめあいながら、黙り込んでしまう私達。

 ……先に口を割ったのはエレナさんだった。

 

「ふーん、意外に一途なんだねー?

 女の子と見れば次から次へと手を出してるのに」

 

「……お恥ずかしい」

 

 そう絞り出すのがやっとだった。

 軽蔑されておかしくない私の態度だったが、何故かエレナさんはニヤリと人の悪い笑みを浮かべると、

 

「んふふふふ、そんなクロダ君にボクが魔法の言葉を囁いてあげよう」

 

 そう言うと、私の耳元に口を近づけてさらに言葉を続ける。

 

「……ボクね、2号さんでもOKだよ?」

 

「うぇっ!?」

 

 彼女の台詞に、素っ頓狂な声を上げてしまう私。

 

「に、2号って……」

 

「んー、つまりは愛人さん?」

 

「い、言い換えなくても大丈夫ですけれども……あの、いいんですか?」

 

 私なんかの愛人になりたいだなんて、それは何というか――自分を安売りしすぎてないだろうか?

 そんな疑問を挟む私に、エレナさんはあっけらかんと答える。

 

「んー、そりゃ、ボクだって本妻を狙ってるよー。

 でも、いきなりそこに踏み出すのは無理そうだからさ。

 まずは愛人からってことで。

 まあ、クロダ君が、認めてくれるなら、なんだけど…?」

 

 最後は、少し弱々しい口調に変わる。

 そうか、彼女も私が受け入れるかどうか、不安なのか…

 

 私は、どうか。

 今更、彼女の気持ちに気づいていない――“振り”などできないだろう。

 私はこの想いに、答えられるのか?

 

 エレナさんは、私のあらゆるプレイに平然とついてきてくれる……寧ろ、悦んでいる。

 彼女とは気軽に付き合えるし、一緒に話をしていても楽しい。

 ――なんだ、悩む必要も無いか。

 

「……エレナさんがそう望んでくれるのであれば、私も、愛人になって欲しい、ですけれども」

 

「ホント!?」

 

 途端に、顔が喜色に染まるエレナさん。

 私の愛人になれることを、本気で喜んでいるようだ。

 

「でも、繰り返しますけれど、私でいいのですか?

 いったい、私のどこをそんなに好いてくれているのでしょう」

 

 言っては何だが、人の好意を集めるほど自分が魅力的な人物とは思えない。

 そんな疑問に、エレナさんはズバッと答えた。

 

「んんー、ちんぽが大きくてお金持ってるところ?

 あ、あと顔も結構整ってるよねー」

 

「……いきなりどストレートな理由ですね」

 

 エレナさん的にはその辺り、魅力的な条件なのかもしれない。

 まあ、それはそれで良いか。

 

「ま、他にもぼちぼちあるけど」

 

「ほう、それはどんな?」

 

 好奇心から、聞いてみた。

 すると――

 

「んー?

 礼儀正しくて優しいところとか、ボクの話をいつも真剣に聞いてくれるところとか。

 無茶なこと言っても全然怒らないし、真摯に受け止めてくれるし。

 一緒に歩いてるとボクが人とかにぶつからないように気遣ってくれてるし、ドアもクロダ君が先に開けてボクを通してくれるよねー。

 あと、どうしようも無い程女好きなくせして、男友達のこともちゃんと大事に思ってるところとか――誰かが困ってたら必ず相談に乗ってるよね、解決できるかどうかは別として。

 まあ、根本的にクロダ君鈍いから、人が困ってることに気づかないこともあるんだけどさ。

 律儀なところも好きかなー……でも人への借りは絶対忘れないのに、貸しはよく忘れちゃってるよね。

 それとそれと……」

 

 一気に語りだすエレナさん。

 聞いていて居た堪れない気分になってきたので、私は彼女を止める。

 

「あ、あの、エレナさん?」

 

「ん?」

 

「よ、よく分かりましたから……それ位にして頂けると」

 

「そーう?

 まだ言い足りないんだけど」

 

 私が考えていた以上に、彼女は、その、私のことを想っていてくれたようである。

 恥ずかしいやら嬉しいやら。

 

 そこで、ふとあることが私の頭をよぎった。

 ……しかしこれを聞いていいものかどうか。

 いや、これから愛人関係になるのだから、気になることは聞いておいた方がいいだろう。

 

「……あの、ジャンさんのことは、いいんですか」

 

「……ああ、それね」

 

 エレナさんの目が剣呑なものに変わった。

 

「あの後のことなんだけどねー。

 ある日、道端で3人が話してるの見かけたんだけどさ。

 ……あいつら、ヒナタ君を公衆浴場に誘ってやがんの。

 しかもすっごい必死な顔で。

 結局、断られたみたいだけど」

 

 吐き捨てるように、エレナさん。

 遠い目をして、私に語り掛ける。

 

「ねぇ、これでもまだ、ボクはジャン君達に想いを募らせていなくちゃいけないのかなぁ?」

 

「あー、それはちょっと……きついですね」

 

 あんなことがあった後だというのに、何をやってるんだあの二人は。

 私は軽く頭を抱えてしまった。

 

「んー、それでさ、クロダ君。

 ボクを愛人にしたからには、愛人らしいことをして欲しいなー」

 

「と、申しますと」

 

 先程言った通り、ここで性交は幾らなんでも無理である。

 ……かなり話し込んでいるように見えるが、これでも時折周囲は確認しているのだ。

 まあ、こんなところで何

 

 疑問符を浮かべる私に、エレナさんは要望を突きつけてくる。

 

「ボクのこと、愛してるって言ってみて?」

 

「え?」

 

 思わず聞き返してしまった。

 

「愛人になら、言えるでしょ?」

 

「……そ、そうですね」

 

 念を押す彼女に、戸惑いながらも私は頷く。

 確かに、彼女を愛しているからこそ愛人なわけで、それの宣言は至極当然の要求と言える。

 

 私は口を開いて、

 

「え、エレナさん」

 

「うん」

 

「……あ、あい、し、て……と、あー……あいし、ですね……」

 

「なんで急にどもり出すの、キミ?」

 

 エレナさんがジト目で私を睨んできた。

 

「いや、ちょっと気恥ずかしくて……」

 

「今まであれだけ色々ヤっといて、何言ってるのさ!

 ほらほら、観念して愛の言葉をプリーズ!」

 

「わ、わかりました」

 

 私は大きく深呼吸。

 心を落ち着けてから、改めて言葉を紡ぎ出す。

 

「……エレナさん、あ、愛してます…?」

 

「……なんか語尾が変だったけど。

 まあ、いっか。

 ボクも、クロダ君のこと愛してるよ。

 “まだ”2号なんだろうけどね」

 

 敢えて“まだ”を強調するエレナさん。

 これからのことに少々不安を感じないでもない。

 

「じゃあ、次はキスしよう」

 

「キスしますか」

 

 こちらの提案には特に躊躇は無かった。

 いつもしていることである。

 

「…………ちゅっ」

 

 いつもしていることであったはず――なのだが。

 

「…………」

 

「…………」

 

 唇だけ触れる、軽い口づけを交わした後、私とエレナさんは何故か顔を赤くしてしまっていた。

 

「な、なんだろ、いつもしてるのに――

 妙に恥ずかしいね」

 

「……そうですね」

 

 考えてみれば、いつもするのはもっと激しいディープキスで、こんなノーマルなキスは初めてだったかもしれない。

 

「……んふふふふ」

 

「……はは、ははは」

 

 気恥ずかしさを隠すためか、私達は同時に笑い出した。

 場所が、<次元迷宮>の中であることが残念でならない。

 

 と、そんなところへ。

 

「おうおう、お熱いねぇ、お二人さん!」

 

「……いちゃついていることすまんな。

 少し話があるのだが、いいか」

 

 二つの声が聞こえてきた。

 

「……!!」

 

 私はすぐさま矢筒から矢を取り出し、<射出>の構えをとる。

 ずっと警戒していたのだ、私でもこれ位の対応はできる。

 

「……うげぇ、キミ達は」

 

 “二人”を見たエレナさんが、凄く嫌そうな顔をする。

 現われたのは、私も見知った人物であった。

 

「警戒するのは分かるが、安心しろ。

 こちらにお前達へ危害を加える気はない」

 

「へっへっへ、何なら続きをしちゃっててもいいんだぜぇ?

 あっしと兄貴で見張っててやるからよぉ!」

 

 ――兄貴と三下のコンビだ。

 

 

 

 第十二話②へ続く



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② まさかのパーティー結成

 

「――要するにキミ達、ボクらを尾行してたの?」

 

「人聞きの悪いことを言うな。

 探索を行っていたら偶々お前達のパーティーを見かけたので、襲いかかるタイミングを伺っていただけだ」

 

「……そちらの方が余程人聞きが悪いって自覚、あります?」

 

 一先ず二人と合流した私達は、彼らから事情の説明を受けていた。

 

 要するに兄貴と三下は、偶然<次元迷宮>探索中の私やジャンさん達を見つけ、私との再戦を目論んで後をつけていたらしい。

 そしてゲートの暴走を目撃、私が暴走に巻き込まれたのを見ると、それを追ってゲートに飛び込んできた、と。

 その後はどうも私達と違う場所に転移したらしく、彼らは彼らでこの階層の探索を続けていたところ、私達を目撃したそうだ。

 

「……言っては何ですけれど、馬鹿ですか貴方達は」

 

 暴走したゲートに飛び込むなど、自殺行為もいいところ。

 

「これはなかなか手厳しい意見だな」

 

「まあまあ、クロダの旦那。

 ここはあっしの顔を立てて、一つ勘弁しちゃあ貰えやせんかね」

 

「何で貴方の顔を立てなくちゃならないのですか」

 

 あと、三下が妙に私に馴れ馴れしいのは何故か。

 

「そんなつれないこと言うなよぉ。

 一緒に夢を語り合った仲じゃあないか」

 

「そんなことありましたっけ?」

 

 彼とはエレナさんを襲ってきた事件以来、あった覚えは無いのだが。

 

「へへ、忘れちまったかい?

 あれは星が綺麗な夜だった。

 あっしと旦那は二人で杯を傾けながら、一緒にボクっ子の明日について話しただろう?

 今でも鮮明に思い出せるぜ、旦那がボクっ子のなんたるかについて熱く語る姿をよ。

 それを見て、あっしのボクっ子好きなんてまだまだ未熟だったと思い知らされたもんさ。

 でも、でもよ、旦那。

 それからあっしは修行を重ねた。

 来る日も来る日も、ボクっ子への想いを、萌えを、募らせてきたんだ。

 今じゃあ、あんたに勝るとも劣らないボクっ子好きになったつもりだぜ?

 近く、新しいあっしを旦那に見せてやるつもりだったんだが、な」

 

「ほう、お前とクロダの間にそんなことがあったのか」

 

「クロダ君、そんなことしてたの?」

 

「いや、ちょっと待って下さい。

 記憶にありませんよ、そんなの」

 

 エレナさんが少し軽蔑の入った目で私を見るが、いくら思い出そうとしてもそんな光景は私の頭の中に無い。

 

「そりゃそうでしょう。

 全部あっしの妄想ですから」

 

「「「お前ほんとふざけるなよ」」」

 

 3人の思いが一つになった。

 

 

 

「……う、うう、酷い。

 なんだか雰囲気が悪かったのをあっしなり改善しようとしていたのにっ」

 

 とりあえず三下を3人でボコり、改めて兄貴との話を始める。

 

「とにかく。

 こちらからの提案は、ここから脱出するまで協力をしないか、ということだ」

 

「それは……願ってもいないことですが」

 

 兄貴と三下は、共に高いランクの冒険者。

 三下は<盗賊>のようであるし、兄貴の方はBランクにも達する<戦士>という話だ。

 そんな2人の協力は、私達にとってこの上ない助けとなる。

 

「んんー、でもなー。

 何か下心あるんじゃないのー?」

 

 エレナさんが私の心を代弁してくれた。

 そもそも、いきなりエレナさんをレイプしようとしてきた相手だ。

 信用など早々できるものではない。

 

「信じろ、というのも無理かもしれないが。

 こんなところでいがみ合いをする程、俺も常識を知らない訳では無い。

 共に行動した方が生存確率が上がることは、互いに承知しているはずだ」

 

「そう、ですね」

 

 というより、それしか手は無いとも思う。

 どれほど彼らを嫌悪しようと、私とエレナさんだけでここを脱出するのは、余りに難易度が高い。

 

「まあ、こちらの下心が無い、というわけでも無い」

 

「ほほう、何かの見返りを求めていると?」

 

 私との再戦を要求してきたらどうしよう。

 ……エレナさんの安全を考えれば、それ位は飲まねばならないか。

 

 そんな私の心配を、兄貴はすぐに否定してきた。

 

「そういう訳でもないのだ。

 実を言えば、この階層に来てから、一人の仲間とはぐれてしまっていてな」

 

 おっと、そうだったのか。

 確かに、<戦士>と<盗賊>だけでの探索は厳しい。

 バランスを考えれば、最低でもあと<僧侶>は欲しいところだ。

 

「そのお仲間を探すのを手伝って欲しい、というわけですか」

 

「その通りだ。

 お前達は脱出するための戦力を得て、俺達は人探しのための人手を得る。

 ……なんなら、手間賃も払おう。

 悪い話ではないだろう?」

 

「……どう思う、クロダ君?」

 

「嘘は言っていないように見えますね」

 

「うん、ボクもそう思う」

 

 私はエレナさんと短く言葉を交わす。

 

「分かりました。

 こちらも協力をいたしましょう」

 

「そうか、有り難い!」

 

 兄貴は私達へ頭を下げてきた。

 しかしまだエレナさんは信じ切っていないのか、そんな彼へ辛辣な言葉をかける。

 

「んー、でもキミも仲間を助けるとかするんだねー?

 もっと冷酷なやつかと思ってた」

 

「俺にどういう感想を持とうとお前の勝手だ。

 ……まあ、町の法に従う気はないが、冒険者の掟を破る気もさらさらない、ということだ」

 

「いや、町の法にもちゃんと従って下さいよ」

 

 私の指摘にも、兄貴はどこ吹く風。

 

「……あれ、でもクロダの旦那も女に対してギリギリアウトなことしてるって噂がぁあああああっ!!?」

 

 三下がまた変なことを言い出したので、黙らせる。

 

「撃ったぁっ!?

 この人、いきなりあっしに向けて<射出>撃ちましたよっ!!?」

 

 真剣な話をしてるところへ茶化してくるからである。

 当てなかったことを感謝して貰いたい。

 

 そこまで話をしたところで、私はふと気づく。

 

「……そういえば、貴方達のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?

 まだ、聞いていませんでしたよね」

 

 少しの間とはいえ、これから仲間として行動する間柄。

 いつまでも兄貴・三下と呼ぶわけにもいくまい。

 私の問いに、兄貴はそういえばそうだったと前置きをしてから。

 

「俺の名前は、アーニー・キーンだ。

 そして、そっちのが――」

 

「あっしはサン・シータだぜ。

 クロダの旦那、よろしくな!」

 

「………」

 

 ――兄貴と三下で問題なかった。

 

 

 さて、いざ出発……の前に。

 

「なるほど、兄貴さんは<(カタナ)>でしたか」

 

「で、三下君が<暗殺士(アサシン)>ね。

 なんかイメージと違うー」

 

 まずは互いの戦力を把握しておこうということで、兄貴と三下の冒険証を見させてもらっている。

 

「へっへっへ、言うだろう?

 人は見かけによらねぇってよぉ。

 ……ところで兄貴はともかく、あっしの三下ってなに?」

 

「貴方の呼び名ですが――いけませんか?」

 

「いけねぇだろうがよ!

 三下って完璧に蔑称じゃねぇか!

 兄貴からも何か言ってやって下さいよ!」

 

「なるほど、一理ある」

 

「兄貴っ!?」

 

 そんな一幕を挟みつつ、私は彼らのステータスを確認した。

 

 まず兄貴。

 本当にBランク冒険者の<侍>だった。

 <侍>とは<戦士>の派生職であり、1対1の戦いを得意とし、<盗賊>に勝るとも劣らない敏捷を誇る職業だ。

 対多数の戦闘を不得手とし、防御力がやや低いものの、それを補って余りある機動力・火力を持つ。

 特に<訪問者>の間で人気のある職業である。

 兄貴の能力値はその職業に相応しく、筋力と敏捷に非常に高い数値が表示されていた。

 

 あと三下。

 驚いたことに、こちらもBランク冒険者。

 さらにいえば、<暗殺士>。

 実にイメージ合わない。

 前にも説明したことがあるが、<暗殺士>は<戦士>に匹敵する白兵能力を持つ<盗賊>の派生職だ。

 そのため、三下は三下の癖に筋力・体力・敏捷がバランス良く高くなっており、これだけだと実に優秀な冒険者に見える。

 

 しかし、<侍>と<暗殺士>とは――えらく前のめりなコンビだ。

 

「では、今度はそちらを見せて貰おうか」

 

「……やはり、教えねばなりませんか」

 

「ボクも、なんだか気が進まないなー」

 

 相手から先に見せて貰っておいて酷い話だが、どうも私達はともに気乗りしていなかった。

 

「そこまで都合が悪いというのであれば無理強いはせんが」

 

「えー、そりゃねぇぜ兄貴!

 こっちはきっちりステータスを確認させてやったんだ。

 一緒に戦うからにゃ、そっちだって相応の誠意ってもんを見せてくれても罰はあたんねぇだろ?」

 

「……それもそうですね」

 

 そうなのだが、三下に正論を吐かれるとなんだか腹が立つ。

 

「うう、ジャン君達にも見せたこと無いのにー」

 

「まあ、仕方ありませんよ」

 

 私とエレナさんは、彼らに自分のステータスを見せた。

 

「……お、なんだ嬢ちゃん、結構優秀な<魔法使い>なんじゃねぇか、Eランクの割には」

 

「そうだな、なかなかのステータスだ……Eランクの割に」

 

 私達の能力値を見た第一声がそれだった。

 何か含みのある言い方である。

 

「知力・魔力・幸運だけ見りゃCランクにも片足突っ込んでんじゃね?

 おお、立派立派!」

 

「しかも適性はB。

 他の能力値はEランク相当に低いな……一点特化型か。

 前衛に出ることの少ない<魔法使い>向けのステータスだ」

 

 私もエレナさんのステータスを覗き込んでみる。

 すると2人の言う通り、Cランクの<魔法使い>にも匹敵する知力・魔力の数字がそこにあった。

 だというのに、レベルはまだ10と低い。

 彼女が<魔法使い>として高い才能を持っていることが、ここから伺える。

 

 ……まあ、Bランク冒険者の二人からすれば、取るに足りない数値なのかもしれないが。

 

「いちいち人をバカにするような言い方するね?」

 

 兄貴と三下を睨みつけながら、エレナさん。

 彼女の言い分も分かる。

 

「いや、すまん。

 お前に対して他意があるわけでは無いんだ」

 

「すぐ横に完っ璧なランク詐欺師がいたからよぉ。

 ついつい変な言い回しをしちまったわけよ」

 

 二人の視線が私に集中する。

 

「……ランク詐欺師とは、私の事でしょうか」

 

「お前以外の誰が居る」

 

「なんだよ、このステータスはよぉっ!!」

 

 三下が、私のステータス画面を指さしながら怒鳴り声をあげる。

 それ程のことだろうか?

 

「Eランク冒険者が出していい能力値がねぇぞ、これ!

 Bランクの<魔法使い>にも負けてねぇじゃねぇか!

 旦那、ランク詐欺にも程があんぞこれぇ!」

 

「俺としては驚き半分、納得半分だがな。

 仮にも俺に勝ったのだ、これ位の能力値はしていてくれないと困る」

 

 次々と私のステータスについて文句にも近い批評をしてくる兄貴と三下。

 

「つかね、いっそ知力と魔力が高いのはいいんですよ。

 何で体力までこんな高いの?

 あっしらの中で一番高いってどういうこと、これ?」

 

「……コナー君より頑丈とかそんなレベルじゃなかったね。

 このメンバーの中でも普通に前衛立てるんじゃない?」

 

 三下の台詞に、エレナさんが乗っかる。

 

 まあ、確かに体力の値だけみれば私は<侍>である兄貴よりも高いのだが、実際のところ防具の差で耐久力は向こうが上だと思う。

 <魔法使い>の防具は<戦士>の防具に比べて防御性能は低いのだから。

 

「あー、体力に関しては、どうも素質があったみたいです」

 

 私は体力についての解説を入れる。

 

 能力値の成長は、冒険者になる前の能力値の高低からも影響を受ける。

 私どうやら元々体力が人並み外れて高かったらしく、そのため<魔法使い>にしてはありえない数値の体力にまで成長してしまったのだ。

 ――この高い体力と『絶倫』の特性が合わさり、一般的なモノからかけ離れた精力まで獲得してしまったのだが。

 

「そ、素質でどうにかなるもんなのかよ。

 なんかあっし、自信が失われてきたんだけど…

 ま、まあ、ステータスの体力とあっちの力は別物だからな!

 へっへっへ、夜のモンスター具合なら、旦那にゃ負けねぇぜ!」

 

「……んー、たぶんボロ負けしてると思う」

 

 三下さんの台詞に、エレナさんが小声でぼそっとつっこんだ。

 

 すまない、私の場合、体力と精力は同義なのだ。

 敢えて指摘はしないが。

 

「……何はともあれ、お前達の戦力がこちらの想定以上だったというのは嬉しい誤算だ。

 そっちの女も、このステータスであれば足手まといにはならないだろう。

 これなら、探索も大分容易だ」

 

「――それはどうですかね?」

 

 兄貴の楽観的な分析に私は異を唱えた。

 

「言っておきますが、こういう何が起こるか分からない初めての場所において――私は物の役にも立ちませんよ?」

 

「胸を張って言うことじゃないよねー」

 

 呆れ顔のエレナさんにつっこみを入れられてしまった。

 

 

 

 その後、改めて出発した私達は、兄貴さんと三下さんというBランク冒険者も加わったことで順調に――

 

 

 

「うぁああああああっ!?」

 

「あー、クロダ君が爆発で吹っ飛ばされたー!!」

 

「だからちゃんと離れてろって言っただろ旦那!」

 

「何ふらふらしているんだ貴様っ!」

 

 

 

「ぬぁあああああああっ!?」

 

「あー、クロダ君が魔物に頭から食われた!」

 

「なんで前に出てきちゃったんだ旦那!」

 

「その程度の攻撃、かわせ貴様っ!」

 

 

 

「あああぁぁぁぁぁぁ……」

 

「あー、クロダ君が足滑らせて崖から落ちた…」

 

「足元注意って言ったでしょ旦那…」

 

「やる気あるのかお前…」

 

 

 

 ――順調(?)に階層を進んで行ったのであった。

 

 

 

 そして。

 

「……むっ」

 

 私は突如床から飛び出してきた棘を、ステップで軽くかわす。

 

「――てりゃっ!」

 

 後ろから襲ってきた、蟹のような甲羅を持つ魔物に<射出>で矢を放ち、上手く甲羅の隙間に矢を刺して仕留める。

 

「――これでっ!」

 

 目の前に降ってきた群れた触手のような魔物に矢を10本まとめて撃ち、全ての触手を射抜くことで止めを刺した。

 ……これでこの辺りの障害は全て排除したことになる。

 

「こちらは終わりました!

 そちらは如何ですか!?」

 

 私は少し離れたところで魔物と戦っていた兄貴さんと三下さん(一応、さん付けはしておくことにした)に声をかける。

 見れば、二人の戦いも終わっていたようだ。

 流石はBランク冒険者、危なげなく魔物を倒している。

 

 ちなみにエレナさんは、私や兄貴さん達の中間位に立ち、双方への支援(攻撃スキルやら強化スキルやら)を行っていた。

 

「……なぁ、クロダよ。

 一つ言いたいことがある」

 

 こちらの近づいてきた兄貴さんが、そんな言葉を放った。

 

「はい、何ですか?」

 

「……最初と今とで、動きが違いすぎやしないか?」

 

 ああ、そのことか。

 確かに、この階層で戦い始めたときは場所にも敵にもなれず、私は彼らの足を引っ張り続けていた。

 だがこれだけ長く居続ければ、いい加減階層や出現する魔物の情報も把握できてくる。

 そうなってくれば、私もそこまでの無様は晒さない。

 

「慣れてくれば、こんなものでしょう」

 

「うっそこけぇ!?

 ヨタヨタの爺さんみたいで『なんだこいつ、つっかえねぇな、どっかで捨てるか。独りになっちまった嬢ちゃんはあっしがよろしく……ぐっへっへっへ』とか企んでたのに、何でちょっと戦闘経験した位でキレッキレの動きに変わっちまうんだ!?

 もう今じゃ『なにこの人、すごぉいっ!? あぁん、もう、抱いて!?』とか思っちゃってるんだぜ!?

 あっしの股間はもう濡れ濡れよ!!

 こんなん、慣れ不慣れだけで片付けられるか!」

 

 私の返答に、三下さんは納得できない様子。

 ……あとこいつは近々事故に見せかけて抹殺しておいた方がいいかもしれない。色々な意味で。

 

「そうは言われましても……私、いつもこんな感じですよ?」

 

 よく言われることではあるのだが、本当に慣れたかどうか――繰り返し作業と自分が認識できる(社畜の効果が適用できる)かどうかの問題なので、これ以上の回答をもっていないのである。

 兄貴さんは質問相手をエレナさんに変えて、

 

「……本当か?」

 

「んー、ここまでとは思わなかったけどねー。

 一応、話では聞いていたよ」

 

 話を振ってみたが、エレナさんからも私を肯定する内容が語られるのみ。

 そんな私達に対して二人は、

 

「えー……マジか。マジなのか」

 

「お前に手の内を見せるのは、控えた方が良さそうだな…」

 

 不承不承ながらも、納得してくれたようだ。

 兄貴さんの方からは物騒な本音が漏れていたが。

 

 ……嫌な風向きになる前に、話題を変えよう。

 

「さ、さぁ、先に進みましょう。

 大分調子も出てきましたし!」

 

 幾つかある分岐の内一つを適当に指し示し、私は歩を進める。

 そこへ、三下さんが声をかけてきた。

 

「と、ちょっと待ってくんなっ!」

 

 先に進もうとした私を制し、彼は目を閉じて神経を集中する。

 今、三下さんは聴覚強化の<盗賊>スキルを自ら使用した上で、私の<感覚強化>の魔法もかかっている。

 通常であればまず聞こえない音も、今の彼ならば聞き取ることができるのだ。

 

「……聞こえる、聞こえるぜ!

 あいつの声だ!」

 

「……例のお仲間さんですか?」

 

「ああ。

 へへ、忘れもしねぇぜ。

 初めてあいつの声を聴いたのはあっしがまだガキの頃――近所のガキ共を束ねて大将気取ってた頃さ。

 あいつは周りに馴染めず、いつも一人で遊んでたっけな。

 でもよ、でもよ、独りで遊びながらも、時折あっしらの方を羨ましそうな眼で見やがるんだよ。

 いつの頃からかあっしはそれに気づいて、こっちから声を――いったーいっ!?」

 

 語りだした三下さんを、兄貴がぶん殴った。

 

「――その昔馴染みな仲間の危機と、お前の語りと、どっちが重要だ?」

 

「す、すいやせん兄貴!

 あっしとしたことが!!

 こ、こっちだ、ついて来てくれ!」

 

 正気に戻った三下さんの主導で、私達は通路を進んで行った。

 

 

 

 到着したのは、大きな部屋だった。

 入り口から、そっと中を伺っている私達。

 

「……ミーシャ」

 

 三下さんが呆然と呟いた。

 おそらく、部屋の中にいる冒険者の名前だろう。

 てっきりお仲間は男性かと思っていたのだが、女性だったようだ。

 ……まあ、本人を見れば一目瞭然なのだが。

 

 ミーシャさんは、かなり小柄な女性だった。

 身長はエレナさんと同じ位だろう。

 ただ、彼女に比べれば凹凸はかなり少ないか。

 髪は銀髪で、短く揃えているのも相まって、少年的な印象を受ける。

 もっとも、見ただけで分かる肢体の柔らかさが、彼女が女であることを主張していた。

 

 ――何故、私がここまで詳しく彼女のことを描写できるか、疑問に思った人もいるだろう。

 理由は至極簡単、彼女は今、裸だからだ。

 裸、なのだが……今の彼女に興奮するのは、余りに不謹慎というものだろう。

 

「……酷い」

 

 今度は、エレナさんが呟く。

 ――そう、酷い。

 部屋の中は――ミーシャさんの状態は、余りに酷い有様であった。

 

 私達の目の間にある大部屋の中は、テンタクルスと呼ばれる触手型の魔物が蠢いていた。

 その数、数百、或いは千にも届いているか?

 この階層としては珍しく、この部屋は岩肌で構成されているのだが……それがほとんど見えなくなる程、床にも壁にも天井にも魔物が這っている。

 部屋の中に魔物がいるというより、魔物によって部屋が構成されているといった表現の方が近いか。

 その真っ只中に、ミーシャさんの姿があったのだ。

 彼女は装備を全て剥ぎ取られており、その身体には無数のテンタクルスが集って――

 

「……うげぇっ……おごっ……あがぁっ……」

 

 ――触手の動きに合わせて、ミーシャさんが呻く。

 

 触手は彼女の身体に巻き付き、穴という穴に入り込んでいる。

 そして、ミーシャさんの腹は、臨月を迎えた女性のように膨らんでいた。

 

「……おぐっ……あ、んがっ……うぇえっ……」

 

 時折聞こえる呻き声。

 それは彼女がまだ生きてはいることを私達に伝えてくる。

 

 ――整っていたのであろう彼女の顔は、苦痛と快感によって見るも無残に歪められていた。

 瞳の輝きはとうの昔に失われ、ひたすら魔物に嬲られるだけのモノと化している。

 こんな状態を、生きていると表現できるのであれば、だが。

 

「……あ、あっあっあっあっあっ!」

 

 突然、彼女の身体がびくびくと震えだす。

 それと同時に、女性器から触手が抜け出る。

 

「あっあっあっあっあっ……んがぁああああっ!!」

 

 ミーシャさんが一際大きな悲鳴をあげる。

 ――少しして、ミーシャさんの膣口から、小さな触手が這い出して来た。

 テンタクルス達の子供、だろう。

 彼女は――魔物の苗床にされているのだ。

 

 魔物の中には、交配を行って子を作る種もある。

 そしてその一部には、他種族の雌の身体を使って子孫を増やすものもいるのだ。

 テンタクルスもその1種である。

 

「はーっ…はーっ……う、ぐっ……ぐぅうっ……」

 

 触手を産み落として一息入れた彼女の膣に、再び触手が侵入していく。

 また、産卵するつもりか。

 

「……うう、ぐぅっ……おごっ……あがっ……んおっ! おっおっおっおっおっ!!」

 

 呻きの声質が、今までと変わってきた。

 ……今度はなんだというのか。

 

「……おげぇぇえええ! ごぼぉっ!!」

 

 ミーシャさんの口から、触手が生えてくる。

 大きさからして、子供というわけでは無いようだ。

 ……尻穴から入ったテンタクルスが、彼女の身体を貫通した、ということなのだろう。

 

 私達が到着するまで、ミーシャさんはずっとこんなことを繰り返されていたわけか。

 

「ね、ねぇ、これ、もう……」

 

 震え声で、エレナさんが話を切り出した。

 

「……ああ。

 あいつの救出は、もう無理だな」

 

 彼女の言葉を、兄貴さんが継ぐ。

 

「……数が、多すぎるよなぁ」

 

 そして三下さんが、兄貴の台詞を補足した。

 

 ――敵の数が多い。

 ミーシャさんを救うための問題点は、まさにその一点に尽きる。

 テンタクルス一体一体は、決して強い魔物では無い。

 しかし、今部屋の中には無数という言葉が誇張でない程のテンタクルスがいる。

 如何に弱い魔物とはいえ、この数は脅威と言う他あるまい。

 

 加えて、このパーティーにおける火力担当である私と兄貴さんは、多数への攻撃が苦手であるという事実。

 <射出>はあくまで対個人への攻撃であるし、<侍>も前述通り1対1の状況にて性能を発揮する職業なのだ。

 

 そして今までの戦闘を見えるに、三下さんも範囲攻撃スキルを決して得意とはしていなかった。

 エレナさんは広範囲への攻撃魔法を習得しているものの、彼女の場合、単純に攻撃力が足りない。

 テンタクルスは弱いと言ったが、それはBランク冒険者である兄貴さんや三下さんを基準とした場合の話である。

 彼女のスキルでは、テンタクルスを仕留めるには至らない。

 

「そういうわけだ。

 今まで協力すまなかったな。

 お前達は先に進んでくれ」

 

 大きくため息をついて、兄貴さんはそんなことを喋り出した。

 

「……ん?

 それってどういうこと?」

 

「あっしらは、あいつを助けに行くってことよっ!」

 

 エレナさんの疑問に、三下さんが答える。

 

「な、何言ってるのキミ達!

 助けるのは無理だって言ったじゃん!」

 

「無理だとは言ったが、助けないとは言ってない」

 

「ミーシャを冒険者に誘ったのはあっしらだからなぁ。

 責任は取ってやらにゃならねぇだろ?」

 

 喚くエレナさんを諭すように、二人は言葉を連ねた。

 それでも彼女は言葉を止めず、

 

「だ、だけど、なんとか助けられたとして、あの子、もう……」

 

 俯いて、そう続ける。

 

 ……エレナさんの言う通り。

 仮に救出できたとしても、あそこまでの責め苦を受け続けたミーシャさんの身体は深刻なダメージを受けているはずだ。

 いや、身体の傷はスキルで治癒できるからまだいい。

 彼女の心は――触手に身体の隅から隅まで蹂躙され続けた彼女の心は、既に壊れてしまっていることだろう。

 

「だとしても、だ」

 

 エレナさんの心配を振り払うように、兄貴さんは口を開いた。

 

「言っただろう、俺は冒険者の掟には従う、と。

 ――仲間を見捨てることはしない」

 

「さっすが兄貴だぜ!

 ……ま、そういうことなんだ、旦那。

 後は二人で頑張ってくんな。

 無事脱出できることを祈ってるぜ!」

 

「……何故ですか?」

 

 三下さんの台詞に、私はきょとんと聞き返す。

 

「はぁ?

 いや、話聞いて無かったのかよ、あんた。

 あっしらはミーシャを――」

 

「いや、私も協力するに決まってるじゃないですか」

 

 何を言ってるんだろう、この人は。

 これだから三下は困る。

 

「彼女が死んでいるのであればともかく。

 生きているのであれば、できる限りのことはしませんと」

 

「だ、旦那」

 

「クロダ、お前……」

 

 信じられない、とでも言いたげな口調で、三下さんと兄貴さん。

 

 私とて冒険者の端くれ。

 目の前で危機に陥っている冒険者がいれば、救助へ最大限助力することに何の異論もない。

 

 彼らはさらに私へと言葉を続け……

 

「あんな状態の女にも欲情するのか」

 

「ちょっと引くわぁ…」

 

「喧嘩売ってるんですか?

 売ってるんですよね?」

 

 どうして女性が絡まないと私が協力的にならないとか思ってるんですかね、この人達は。

 

「んー、盛り上がってるとこ悪いんだけどさ。

 助けるにしたって何か手はあるの?

 まさかこのまま突っ込む気じゃないよね?」

 

「いや、割とそのつもりだったのだが」

 

「ぱあっと男を散らしてやるぜ?」

 

 散らしちゃ駄目だろう。

 というか、テンタクルス相手だと違う意味で男を散らすはめにもなりかねない。

 

「……ねぇ、クロダ君。

 こいつら置いてさっさと先行こうよ」

 

「いえいえ、大丈夫です、エレナさん。

 私に考えがあります」

 

 玉砕覚悟の二人に呆れたエレナさんを励ますべく、私は力強くそう宣言した。

 

 

 

「……ねぇ、これ強行突破と大して変わらない気がするんだけど」

 

「俺に異論はない。

 他に策も思いつかんしな」

 

「あっしはどっちかというと、本当にそんなことできるのかってーのが心配なんですが。

 大丈夫なんでしょうね、旦那」

 

 三者三様に私の作戦への感想を言い合う。

 不安になる気持ちは分かるが……

 

「大丈夫です、テンタクルスとはこの階層に来てから何度も戦いましたから。

 私は失敗しません」

 

 社畜の特性のおかげで、あの魔物相手に攻撃を外す気は全くしない。

 これから行う動きについても、先程から何度も頭の中でシミュレートしているので、社畜のデメリット(初めての、又は不意の行動にペナルティが入る)もそんなには出てこないだろう。

 ……突然変異したテンタクルスがあの中に混じっていないことを祈るばかりだ。

 

「んー、まあ、クロダ君がそう言うなら……」

 

「信じてますぜ、旦那」

 

「是非もない。

 やるぞ」

 

 3人共、覚悟は決まったようだ。

 

「では、行きますよ!」

 

 私の号令と共に、3人がスキルの発動を始めた。

 

「んー、<火炎(ファイア)>!」

 

 身体の前方に魔法による火を生み出すエレナさん。

 私はそれを、

 

「<射出(ウェポンシュート)>」

 

 <射出>によって、周囲の空気諸共にエレナさんの“火”をテンタクルスの群れに向かって撃ち放つ。

 

 ――熟練度の高い<射出>ならば、気体のように形のない物も飛ばすことができるのだ。

 もっとも、ただ空気を<射出>するだけでは大したダメージを与えられないだろうが――

 

 私のスキルによって勢いが付いた“火”は、巻き込んだ空気にも燃え広がり、“炎の奔流”となって魔物を襲う!

 

「おお、魔物が!」

 

「吹き散らされていくな」

 

 三下さんと兄貴が言う通り、今の攻撃の衝撃によってテンタクルスが吹き飛ばされている。

 

「この調子です、どんどん行きましょう」

 

「うん!」

 

 同じ要領で次々に火流を部屋の中へ放つ。

 順調に魔物達を散らしていく私とエレナさん。

 

 しかし、この攻撃ではあのテンタクルスの群れは倒せない。

 派手に爆炎をあげているものの、これで倒せている魔物は吹っ飛んだ内の数匹程度だろう。

 これでは殲滅に遠く及ばない。

 

「兄貴さん!」

 

「任せろ」

 

 私の合図で、兄貴さんが部屋に飛び込む。

 武技<神速(オーバークロック)>によって極限まで加速された彼は、押し寄せる触手を刀で切り倒しながら群れの中を突っ切っていく。

 そして、炎によって魔物を吹き飛ばすことによって露出した“岩肌”へと到達した。

 

 ――そもそもあの攻撃は、テンタクルスを倒すための行動ではないのだ。

 兄貴さんが安全に『作業』を行うための“場”を作ったに過ぎない。

 

「うぉおおおおっ!!」

 

 凄まじいスピードで刀を振るい、岩を斬り取っていく兄貴さん。

 

「受け取れ、三下!」

 

 ブロック状に斬り出した岩を、まとめて三下さんに投げて寄越す。

 

「なんで兄貴まであっしのことを三下呼び!?」

 

 不満を漏らしつつそれを受け取る三下さん。

 そして、

 

「<矢作成(クリエイトアロー)>――の簡易版!

 行くぜ、だっしゃおりゃぁあああああっ!!!」

 

 材料さえあれば瞬時に矢を生み出せるスキル――盗賊の暗技<矢作成>を使って、その岩から矢を作り出していく。

 但し、本人が簡易版と叫んだように、完全な矢を作成するわけではない。

 今回作ってもらったのは鏃の部分だけ。

 時間短縮・コスト削減のためでもあるし、私の<射出>であれば鏃だけで十分テンタクルスを殺傷できるからでもある。

 

「頼むぜ、旦那!」

 

 三下さんが、1個の岩から生み出された数十個の鏃を私へと放り投げる。

 放られた鏃は、全て私の周辺の空間に“固定”されていく。

 

「うわ、凄っ!」

 

「ほ、本当にやれるのかっ!」

 

 エレナさんと三下さんが驚きの声を上げた。

 

 私が、<射出>によって一度に複数の物を飛ばすことができるのはご存知の通り。

 スキルの中には、熟練度に応じて使用対象を増やすこと可能なものがあるのだが、<射出>もその内の一つなのだ。

 そして、私程の高熟練度となれば、一度に<射出>できる数は、百近くに上る。

 

「……一斉掃射!」

 

 その言葉と引き金として、それぞれの鏃を魔物に向けて狙いをつけ、撃ち出していく。

 鏃は過たずテンタクルスを貫き、次から次へと仕留めていく。

 その様は、弓矢のそれから大きく乖離し――機関銃を連想させる。

 

「う、あ、あ――」

 

「お、おお――」

 

 数十の鏃が飛んでいく迫力に、言葉を失くすエレナさんと三下さん。

 彼女はともかく、三下さんに惚けられては困る。

 

「三下さん、次の鏃を下さい!」

 

「――お?」

 

「お?…じゃなくて! 早く!!」

 

 今の掃射で数十匹は倒せたが、しかし所詮は数十匹。

 相手はまだまだ無数にいるのだ。

 

「よ、よっしゃ、任せろ!!」

 

 素早く次の鏃を作り出す三下さん。

 

「こっちも出来たぞ!

 早く矢を作れ!!」

 

 兄貴さんは岩をさらに斬り出しており、こちらへ投げつけてくる。

 

「また行きますよ……一斉斉射!!」

 

 魔物達はようやく我々を脅威と認識したのか、ミーシャさんを置き捨ててこちらへと襲い掛かってくるが――もう手遅れだ。

 我々の必勝パターンは形成された。

 テンタクルスの知能では、これを打ち崩すこと等できまい。

 

 

 

 この作業を何度か繰り返した後。

 

「ふんっ!

 ――これで最後か」

 

 部屋に巣食っていたテンタクルスの大半は私の<射出>によって討伐された。

 今、兄貴さんが討ち漏らした魔物の掃討を終えたところだ。

 

「――熟練度が500を超えてるなんて聞いた時にゃ、この人とうとう気が狂ったかと思っちまったけど」

 

「この光景を見せられては、信じざるを得まい」

 

 綺麗になった部屋をぐるりと眺めてから、三下さんと兄貴さんが呟いた。

 

「……熟練度って100が限界じゃなかったんだねー」

 

 エレナさんもそれに続く。

 

 一般に、スキルの熟練度は100が最大と言われているのは確かだが。

 それは、全てのスキルを開発し、全てのスキルを扱える人物――五勇者の一人、エゼルミアさんの効果量を100として熟練度を設定した、という説明が正しい。

 つまり、エゼルミアさんの能力を超えたならば、熟練度100を超えることもあり得る、というわけだ。

 

「熟練度100に到達したスキルを持つ冒険者など、俺は数人しか知らんぞ。

 500など、飲みの席で話しても馬鹿にされる数字だ。

 ――三下の言う通り、気が狂ってるな、お前」

 

「酷い言い草ですね」

 

「褒めているんだ。

 よくもまあ、ここまでの力を持っておいてEランクなどと嘯けたものだ」

 

 いや、それ褒めてないだろう、絶対。

 

「ほ、ほら、そんなことよりも、お仲間さんですよ!

 早く手当てをしないと!」

 

「そ、そうだった! ミーシャ!」

 

 私が話題転換すると、三下さんがミーシャさんに駆け寄った。

 懐からポーションや薬を取り出して、応急処置に乗り出す。

 エレナさんがその横に立ち、ミーシャさんを覗き込みながら三下さんに問いかける。

 

「……どう?

 この子、助かりそう?」

 

「――分からねぇ。

 身体の傷だけなら、死ぬことは無さそうだけどよ。

 ……心の方は、なんとも言えねぇ」

 

 私も彼らに近づいて、話しかけた。

 

「腕のいい薬師を知っています。

 精神治療にも詳しい方ですから、その人なら或いは」

 

「ほ、本当かい、旦那!?」

 

 目を輝かせる三下さん。

 本当にお仲間のことを大事に思っているのだろう。

 

「……ん? それって、ローラさんのこと?」

 

「おや、ご存知でしたか」

 

「そりゃ、ボクも<魔法使い>だしね、結構お世話になってるよー。

 あの人、心の治療も出来たんだ?」

 

「ええ、それは――」

 

 私とエレナさんが話を始めたところで――

 

 「エクセレント!!

  素晴らしい!!」

 

 大きな拍手と共に、そんな声が聞こえてきた。

 

 

 

 第十二話③へ続く



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③ 魔族との闘い

 

 

 

「……何者だ!」

 

 兄貴さんが素早く刀を構える。

 遅れて、私も声の方を向く。

 

 そこには、青白い肌をした壮年の男――つまりは、魔族が立っていた。

 

「いやいや、繰り返すが実に素晴らしい。実にグッド!

 人のモノとは思えぬパワーだ!

 余りに感銘を受けて、この私、もっと奥で待ち構えるつもりがついついここまで来てしまったよ!!」

 

 感極まった様子で、魔族は語り掛けてくる。

 一見、我々への敵意は無いようにも見えるが、安心はできない。

 というより、このタイミングで現れたということは、ゲートの暴走はこいつが――

 

「……てめぇが、ゲートの暴走を仕組んだのか!?」

 

 私と同じことを考えたのだろう、三下さんが魔族の男に食ってかかる。

 それに、飄々と魔族は答えた。

 

「うん? まあ、ゲートに仕掛けをしてここに誘い込んだのは確かに私だが。

 しかしそのことについて君からブレイムを――謗りを受ける謂れは無いな。

 クロダ・セイイチはともかく、君は自分で暴走したゲートに入ったんじゃないか」

 

 魔族は肩を竦めて、続ける。

 

「その結果、仲間にアンラックが起こったとして、それを私に擦り付けるのはちと的外れではないかね?

 君達が自分の意思でここに入り、自分の意思で彼女を見捨て、自分の意思で再度助け出したのだろう?」

 

「……ぐっ!」

 

 魔族の台詞に、三下さんは言葉が詰まる。

 一見して筋が通っているように見えるが、そもそもゲートの暴走が無ければこんなこと起きていないのだから、全ての原因が目の前の魔族にあると言っても過言ではないはず。

 

 しかし、私の関心は魔族の別の発言にあった。

 

「……私の名前を知っているようですね。

 貴方の目的は、私ということですか?」

 

「イグザクトリィ! その通り!」

 

 大仰なポーズで肯定する魔族。

 

「しかし何故私が君を狙ったのかを聞くのはノー・ウェイ――無しにしてくれよ?

 流石にそれを君に伝える義理は無いからね!」

 

「では、貴方が私達の目の前に現れた理由は?」

 

「ああ、そっちなら教えよう。

 率直に言えば君をキル――抹殺するためなわけだがね」

 

「……ほう」

 

 まあ、そんなところだろうとは思っていた。

 実際、兄貴さんと三下さんに出会えなければ、彼の目的は既に達成していたかもしれない。

 私は矢を取り出し、魔族に向ける。

 

「おおっと、ちょっとウェイトウェイト――待ってくれたまえ。

 私が“上”から貰った使命は君の抹殺なのだが、私としては別の道を提示したいわけなのだよ」

 

「別、ですか?」

 

 警戒は解かないまま、魔族に話を促す。

 

「――どうかな、私の部下になる気はないかい?

 今なら、そっちの4人の命も助かるおまけつきだ!」

 

「……私だけでなく、ここに居る全員を殺すと?」

 

「まあ、君がリフューズ――首を横に振ればそうなるだろうね。

 さあ、どうする?」

 

 無茶苦茶な提案にまるで悪びれるでなく、魔族が問いかけてきた。

 

「……貴方の上司からは、私を殺せと命じられているのでしょう。

 独断で命令を変えられるのですか?」

 

 そんな私の質問に、魔族はチッチッチっと舌を鳴らしてから、

 

「君程の力の持ち主をただ殺すだけというのはミステイク――少々惜しい気がしてね。

 提案を飲むのであれば、私が“上”を説得してあげるとも」

 

 ニヤリと笑って、そう返答した。

 

 ……ところでさっきからちょくちょく英文を混ぜるのは何故だろう。

 しかも、微妙に使い方を外してるのもある。

 

「しかし、私が仮に承知したとして、それで貴方は私を信用できるのですかね?」

 

「そりゃあ、それだけじゃ足りない。

 <制約(ギアス)>をかけて行動は縛らせてもらうさ。

 だが、死ぬよりは増しだろう?」

 

 <制約>とは、その言葉の通り、予め設定した条件で人の行動を縛るスキルのこと。

 条件の設定も、それを破った際の罰則も、かなり幅広く設定することができる。

 人の社会では、重犯罪者に使われることもあるスキルだ。

 

 ……要は、“死ぬよりは増し”程度の制約を受けねばならないわけか。

 

「……では交渉決裂ですね。

 いきなり襲い掛かられたうえに、そこまでされてやる気は流石の私にもありませんよ」

 

「おおっと、そいつはリグレット――残念だ」

 

 全く残念に感じていない声色で、魔族の男は言う。

 そして、話に区切りがついたところで、兄貴さんと三下さんが割り込んできた。

 

「お喋りは終わったか。

 全く、無駄話を長々と」

 

「へっへっへ、旦那がどう答えようとよぉ、あっしらはお前を生かして帰す気なんざねぇぜ?」

 

 兄貴さんは刀を、三下さんはナイフを構え、既に臨戦態勢である。

 三下さんなど目に見えて怒りに顔を歪ませていた。

 

「エレナさん、ミーシャさんと一緒に下がって頂けますか」

 

「――うん。

 気を付けてね、クロダ君!」

 

 エレナさんはそう言うと、ミーシャさんを抱えて我々から遠ざかる。

 

「ふぅむ、では戦う前に言っておこう!

 私の名はアーク!

 君達を殺す者の名だ、しっかり覚えていてくれたまえ!」

 

 大きく手を広げると、魔族の男――アークはそう叫び。

 

 ――戦闘が始まった。

 

 

 

「……ふんっ」

 

 初めに動いたのは兄貴さん。

 既に<神速>を使用していたのだろう、凄まじい速度でアークに切迫する。

 

「ほっほう、なかなかのスピード……んんっ!?」

 

 余裕綽々で待ち構える魔族だったが、その表情に戸惑いが生まれる。

 兄貴の姿が、アークの目前で消えたのだ。

 

 ――いや、消えたように奴には見えた、が正しい。

 これは、兄貴さんが以前私と戦った際にも使った技。

 動きの緩急とフェイントを織り交ぜることで、相手の視界から自分を消す『歩法』である。

 

 離れた位置から俯瞰している私ですら、兄貴さんの動きは追うのがやっと。

 至近距離から繰り出されれば、察することすら難しかろう。

 

「――数秒しか使わん名を覚えてやるつもりは無い」

 

「うぉおっ!?」

 

 アークが驚愕する。

 見事、兄貴さんはアークの後ろに回り込んでいたのだ。

 魔族がそちらを振り向くよりも早く刀を振るい――

 

 

 ピキンッと。

 金属の割れる音がした。

 

 

「……なっ!?」

 

 今度は、兄貴さんが驚く。

 いや、彼だけでは無い、私と三下さんも、一瞬言葉を失う。

 無防備な相手に、完璧な速度・角度で振りぬいたはずの刀が、中ほどから折れていた。

 

「ん馬鹿なっ!?

 兄貴の名刀・輝正が折れるなんてぇえええっ!!?

 折れず曲がらずと謳われた、あの名刀がぁあああっ!!!?」

 

 横からやかましく三下さんが吠える。

 確かにあの刀、その筋に詳しくない私から見ても、かなりの業物であったことが伺えた。

 それが、こんなにもあっさりと――

 

「ふっふっふ、驚いているな? 驚いているだろう。

 ――ああ、君の刀を貶めるつもりはないよ。

 ま、そこそこ良い代物だったのだろう。

 ……ただ、私を傷つけるには役者不足だっただけさ」

 

 驚く私達の顔を見て満足そうに笑ってから、アークが喋る。

 

「……結界を張っているのですか」

 

「うーん、惜しい!

 非常に惜しいがミステイクだ、クロダ・セイイチ!

 ま、勿体ぶるようなものでも無いので種明かししてしまうが――<硬化(ハードスキン)>だよ」

 

「はぁっ!?

 <硬化>だぁ!!?

 兄貴の刀をそんなちゃちぃスキルで防げるわきゃねぇだろうが!」

 

 三下さんがアークの言葉に食って掛かる。

 

 <硬化>とは、<戦士>の中級武技にあたるスキル。

 その名の通り、身体を固くして敵の攻撃を軽減するものだ。

 ……確かに、通常ならば三下さんの言う通り、あの兄貴さんの斬撃を弾き返すような代物ではないのだが。

 

「おいおい、君がそれを言うか?

 すぐ近くでクロダ・セイイチの<射出>を見ておいてその感想とは余りにフール――頭が足りないんじゃないかね。

 私が使っているのは、確かに<硬化>さ――高熟練度のね」

 

 言いながら、折れた刀の先端をアークは拾う。

 そして、その刃を自分の腹へと突き刺すが――やはり、折れたのは刀の方だった。

 

「クロダ・セイイチの<射出>と似たようなものさ。

 未熟者が使えば大した効果も無い<硬化>だが……私程の男が使えばこの通り。

 どんな武器も弾き返す、無敵の身体が出来上がる――とおおぉおおおおっ!?」

 

「敵の目の前でごちゃごちゃ喋るな」

 

 アークの身体が突然吹き飛んだ。

 兄貴さんが、拳で殴りつけたのだ。

 

 ……あの人はあの人で結構無茶苦茶だな。

 

「決まったぁああ!!

 兄貴の<浸透撃(ペネトレイトブロウ)>だぁっ!!

 こいつを食らって立てる奴なんざいねぇぜ!!」

 

「それは少々言い過ぎだな」

 

 アークはあっさりと立ち上がる。

 

「うぇえええっ!?

 うっそー!?」

 

「……防御無効のスキルも効かんか」

 

 三下さんが叫び、兄貴さんは呟く。

 

 <浸透撃>とは、打撃による衝撃を相手の内部で炸裂させる武技。

 本来であれば、如何に高い装甲を持っていても防げぬ攻撃のはずなのだが。

 

「無敵の身体と言っただろう。

 衝撃にだって対策済みさ。

 そうイージーに攻略はできんよ。

 ……伝説に聞くオリハルコンの武器でも持っていれば話は別だがね」

 

 冗談めかせて笑いながら、アーク。

 ――こちらは余り笑える状況でもないが。

 

「……行けっ!」

 

 駄目で元々。

 私は<射出>で矢を射ってみるが――

 

「それはトゥーバッド――駄目だなクロダ・セイイチ。

 自分でも意味がないと思っている攻撃を仕掛けるのは」

 

 ――アークの身体に弾かれる。

 兄貴さんの斬撃が通じない時点でこうなることは想定できていたが、それでも実際確認できてしまうと辛い現実である。

 

「では今度はこちらから行こうか!」

 

 魔族が手を振り上げると、中空から炎の矢が一本出現する。

 三下さんはふふんっと笑うと、

 

「はんっ! <炎矢(ファイアアロー)>かい!?

 んなもん通じるあっしらじゃ――」

 

 台詞の途中で矢が放たれた。

 三下さんの頬をかすめ、後ろの岩壁に激突する。

 

「……岩、溶けてますね」

 

 炎が当たった箇所が、マグマに変わっていた。

 ……はて、岩がマグマになるには、何度の熱が必要だったであろうか?

 

 アークは楽しそうに笑いながら、三下さんに声をかける。

 

「……通じないかね?」

 

「あ、当たらなけりゃどうってことないわい!!」

 

 やけくそ気味に叫ぶ三下さん。

 彼に同調するわけでもないが、あれ位なら、まあ対処できない程でもない。

 

「ほほぅ、では次に行こうか」

 

 再び手を振り上げると、炎の矢を出現させるアーク。

 

「馬鹿の一つ覚えみてーに!」

 

 その矢が、2つに分裂した。

 

「へんっ2本に増えたからなんだってんだ!」

 

 2つの矢がそれぞれ分裂し、4本になる。

 

「よ、4つがどうしたよ」

 

 4本の矢が8本に、8が16に、16が32に――

 

「あ、あのー?」

 

 三下さんの声が震える。

 私達の目の前には、計128本の燃え盛る矢がずらっと並んでいた。

 

「クロダ・セイイチの神業を見た後にこんなことを言うのは恥ずかしいのだがね。

 ――私も、“(アロー)”は得意なのだよ」

 

 アークが腕を振り下ろすと、100を超える炎の矢が、一斉に私達へ飛来する。

 ――とはいえ。

 

「それは、予想できていました」

 

 私は三下さんの前に立つと、空気を<射出>して烈風を巻き起こし、炎の矢を吹き散らしていく。

 

「ぬぉおおっ!

 旦那、すげぇっ!!」

 

 後ろで感激している三下さん。

 

 私が先程対処できると言ったのは、炎の矢が一本だけだったから、ではない。

 あの程度の勢いであれば、私の風で対抗し得ると判断したからだ。

 

 ちなみにだが、兄貴さんは<神速>を使って涼しい顔で避けていた。

 この人、本当に大概である。

 

「ふぅむ、グレイト…!

 これでは駄目か」

 

「相性の差ですかね。

 <炎矢>は、私に効きませんよ」

 

「では、こういうのはどうか」

 

 私の台詞にかぶせるようにして、アークは再度矢を作り出す。

 但し今度は、バチバチと稲妻を迸らせる雷の矢。

 しかも数はさっきの倍。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 私達3人は――兄貴さんでさえも――数秒、沈黙した。

 

「…………いや、風で吹き飛ばせない類の矢は、ちょっと――」

 

「なぁに、遠慮するな!

 存分に味わってくれたまえっ!!」

 

 雷電が降り注ぐ。

 

 

「――うぉおおおおおおっ!!!?」

 

 雨のような矢を、私は必死こいて避けていた。

 <炎矢>の威力を見るに、一発でも当たれば致命傷になりかねない!

 

「あべべべべべべべっ!!」

 

 何だか三下さんの悲鳴が聞こえてきたが、そちらに気を配る余裕はない!

 どうにか対処してくれることを祈る!

 

「ぬぅう……ぐっ、くそっ!」

 

 兄貴さんの苦悶の声まで聞こえる。

 これは、やばいかもしれない。

 

 だが私に人の心配はできないのだ。

 次々に迫ってくる雷を上下左右に“跳び”ながらギリギリで躱していく。

 

「……おう、アメイジーング!!

 自分の身体を<射出>して、高速移動しているのか!!」

 

 アークが、私の使っている絡繰りをすぐさま看破してきた。

 彼の言う通り、私は自身に<射出>をかけ、高速で空を駆け抜けてどうにか稲妻を回避しているのだ。

 

「<射出>一つでここまで多彩な技を見せるとはね。

 クロダ・セイイチ、君はこれから<射術師(シューティングマジシャン)>とでも名乗った方がいいのではないか!」

 

「生きて帰れたら考えます!!」

 

 彼の皮肉に――或いは本気で称賛しているのかもしれないが――私は怒鳴り声で返す。

 こちらには魔族の方を見る余力すらない。

 

 しかし、もうかなりの数の矢を避けている。

 矢が有限である以上、そろそろ終わりが――

 

「っっ!!?」

 

 そこで、視界の端の捉えてしまった。

 一本の雷が、エレナさんの方へ飛ぼうとしているのを。

 

 風でエレナさんを吹き飛ばす!?

 ――無理だ、距離が遠い。

 兄貴さんと三下さんに助けてもらう!?

 ――無理だ、二人共こちらの状況に気づいてすらいない。

 というか、あの黒焦げの物体は三下さんなのか!?

 

「……こうなれば」

 

 私は覚悟を決め、エレナさんを狙う矢の射線に身体を滑り込ませた。

 気休めにしかならないが、せめて急所は庇うような姿勢を取って――

 

「――がっ!!!!」

 

 衝撃が、痛みが、全身を駆け巡る。

 一気に身体から力が抜けていき、堪らずその場に倒れた。

 遅れて、痺れもやってくる。

 

「ぐ、あっがっ」

 

 苦悶の声が、自然と漏れる。

 致命傷とは言い難いが……これは、なかなかきつい。

 

「クロダ君っ!」

 

 近くで、エレナさんの声が聞こえる。

 私に駆け寄ってきてくれたのか。

 

「うむ、我ながらパーフェクトゥっ!

 君達を一網打尽にできたようだね」

 

 アークが勝ち誇る。

 痺れる身体を無理やり動かして周囲を見ると、三下さんは焦げ付いた身体で倒れ伏し(生きているのだろうか?)、兄貴さんも片膝ついている。

 

「少々物足りない気もするが……ああ、すまないすまない。

 あんまり言うと君達を侮辱することになってしまうな。

 頑張ったよ、君達は。

 この後は、せめて苦しまないエンディングを――止めを刺してあげよう」

 

 そう言って魔族の男は、まず兄貴さんの方へ歩を進める。

 

「……ん?」

 

 次の瞬間、彼の歩みが止まった。

 アークの足元に……彼の『影』に、ナイフが突き刺さっている。

 ――三下さんだ。

 

「<影縫い(シャドウスナッチ)>!!

 はんっ! 余裕ぶっこいてるからこうなるんだよ!

 これでてめぇは動けねぇ!!」

 

 <影縫い>は相手の影に武器を突き立てることで、動きを束縛する暗技。

 三下さん、死んだふりをしてこの機会を伺っていたか!

 

「……ふぅ。

 君、もっと頭を使いたまえ。

 魔族である私に、こんな物が通用するとでも?」

 

 呆れたようにため息をつくアーク。

 彼の影に刺さったナイフは、見る見るうちに地面から抜けていく。

 

 魔族は、他の種族に比べて高い抵抗力も持つ。

 生半可なスキルは、抵抗(レジスト)できてしまうのだ。

 

 ――しかし。

 

「十分通用していますよ、それ」

 

 私はアークにそう言った。

 三下さんが、笑みを浮かべている。

 

 <射出>で懐から矢を飛ばす。

 <影縫い>を解除している最中のアークは、その矢に対処できない。

 矢は魔族の胸へ――心臓へと一直線に向かい、

 

「――ぐはっ!?」

 

 彼の身体を、“貫通”した。

 

 ……これこそ、私の奥の手。

 <硬化>によって無類の防御性能を持ったアークにも通じる、最強の矢だ。

 何せ、本人もそう太鼓判を押している。

 

「へっへぇ!!

 やったぜ旦那ぁ!!」

 

「『オリハルコンの武器でも持っていれば』、か。

 ふん、自分で弱点を言っていれば世話ないな」

 

「いえ、私が言うのもなんですが、普通持ってませんからね、こんなの」

 

 今放ったのは、そのものずばり、『オリハルコンの矢』だった。

 超々希少金属、オリハルコンを鏃に使った、市場になどまず出回らない、伝説の一品。

 私は大分前にこれを偶然入手し、そのままお守り代わりにずっと持っていたのだ。

 

 事前の戦力確認の際、私はこのことを皆に伝えていた。

 私達は、この矢を確実に当てられる機会を、或いはその機会を生み出すチャンスを、ずっと狙っていたわけだ。

 

 矢に貫かれたアークは、悶え苦しみながらその場に倒れ――

 

「……ぬ、う、エクセレント……実に、エクセレント……!!」

 

 ――倒れなかった。

 彼は、その場に踏みとどまったのだ。

 

「……馬鹿な!」

 

 兄貴さんの口から、そんな言葉が漏れた。

 ――私も同意見だ。

 

「はぁっはぁっはぁっ……

 本当に、オリハルコンの武器を持っているとは…!」

 

 肩で息をしながら、魔族はこちらを睨みつける。

 

「……どうだね、クロダ・セイイチ。

 今、同じ攻撃をもう一度仕掛ければ、私は死ぬぞ」

 

 ……無理を言わないで欲しい。

 オリハルコンの矢など、2本も3本もあるものではない。

 

 何も出来ない私を見て、アークは安堵の息を吐く。

 

「無い、か。

 ならば――」

 

 胸に刺さった矢を引き抜くアーク。

 一瞬、胸の傷から血が噴き出すが、程なくしてそれも癒える。

 

「――ならば、私の勝ちだ」

 

 魔族は、自らの勝利を宣言した。

 

 ……いや、本当にどうしよう、これ。

 真面目に手が無くなってきたな。

 

 絶賛思案中の私に、アークは語り掛けてくる。

 

「さて、クロダ・セイイチ。

 この矢は君にとって非常に価値のあるものだろう。

 いつまでも私の手の中に置いておくわけにはいかないな」

 

「あ、いいえ、お気遣いなく。

 何でしたら記念品にして頂いても構いませんよ?」

 

 台詞の中に剣呑な響きを感じ、慌てて取り繕う私。

 だが彼は、私の意を汲んでくれなかった。

 

「ああ、この矢はこの戦いのメモリーに――記念にするとも。

 君の遺体から、回収してね!!」

 

 言うや否や、アークは<射出>を使ってオリハルコンの矢を投げつけてくる。

 ま、まずい――!

 

「ダメっ!!」

 

 私の視界に影が飛び込んだ。

 女性の形をしたそれに、矢は突き刺さる。

 胸に、突き刺さる。

 

 影が倒れる。

 当たり前だ、オリハルコンの矢なのだから。

 人が受けて、無事で済むはずがない。

 ましてや、まだレベルの低い、<魔法使い>の、彼女では――

 

「――エレナさん?」

 

 私はその影の名前を呼んだ。

 彼女は答えない。

 動かない。

 微動だにしない。

 ――血が、彼女の胸からじわじわとにじみ出る。

 

「……おっと、順番が変わってしまったか。

 まあ、安心したまえ、すぐに後を追わせてあげよう」

 

 ……こいつは何を言ってる?

 何を安心しろと?

 

 おい。

 待て。

 私は今日、彼女に告白されたんだぞ。

 彼女、私の愛人になれたとかそんなことで凄く喜んでたんだぞ。

 なのに私は、彼女にまともな愛の言葉も贈ってないんだぞ。

 

 おい。

 おい。

 ――おい!!

 

「貴様ぁ!!!!!!!」

 

「うぉっ!!?」

 

 怒号と共に、烈風でアークを吹き飛ばす。

 身体の痺れは消えていた。

 

 ――違う。

 責任転嫁をするな。

 

 私のせいだ。

 私の責任だ。

 全て、自分の都合を優先させ――

 こんな“雑魚”に、手間取ってしまった、私の責任だ!

 

「おぉぉおおおおおおおっ!!!」

 

 周辺数十箇所の空間に――私を取り巻く空気に<射出>をかけた。

 角度・タイミング・力加減を絶妙に調整し、<射出>で捕えた大気を前方一点へ撃ち出す。

 その作業を間断なく、次から次へと繰り返していく。

 

 ……程なく、私の目の前に強烈な風の渦――超高圧の空気塊が形成されていく。

 

「――はは、グレイト!!

 まだそんな隠し玉があったか!

 だがその“風”で私の<硬化>を貫けるかな!?」

 

 嬉しそうにそう叫ぶアーク。

 

 ――何を勘違いしているのか。

 “これ”は、ただの檻だ。

 これから行う業の、準備段階に過ぎない。

 

「ぬ、うぅうううう……!!」

 

 目を見開き、歯を食いしばった。

 これから行う精密作業のために、集中力を極限まで高める。

 

 ――ここで、<射出>の話をしよう。

 これは、矢等の武器を敵に撃ち出して攻撃するスキル……ではない。

 生物・無生物、固体・非固体問わず、物体を飛ばすスキル……これでも説明が足りない。

 

 <射出>の効果を正確に述べるならば――ある対象に対して、『任意の方向に向かったベクトルを発生させる』スキルだ。

 そして、ベクトルのスカラー量は術者の力量にのみ依存し、対象からの影響は受けない。

 つまり――対象が軽ければ軽い程、飛ぶスピードが速くなるということ。

 

 ――で、あるならば。

 質量が限りなく0に近い、一つの『空気分子』に対して<射出>をかけたらどうなるか?

 当然、限りなく無限に近い速度で『空気分子』は撃ち出されることになる。

 

 これで攻撃を行う?

 そんな訳が無い。

 いくら超高速といっても、『分子』が人に当たったところで痛手など与えられない。

 当たったという感触すら無いだろう。

 

 ではどうするのか。

 ――こうする。

 無限加速させた分子と分子を、“衝突”させるのだ。

 

「おおっ!?」

 

「んなっ!?」

 

「何がっ!?」

 

 その場にいた3人が、同時に驚愕の叫びの上げた。

 烈風の渦から、眩い雷光が漏れ出したからだ。

 

 ――『分子の衝突』によって、途方もない『エネルギー』が発生したのである。

 最初に作った圧縮空気の塊は、この『エネルギー』を一時的に留め置くためのもの――まさに『檻』というわけだ。

 とはいえ、全ての『エネルギー』を閉じ込めることができるわけも無く。

『檻』から溢れ出た光は、チリチリと私の肌を焦がす。

 

「あ、あ、ああ、あああああああっ!?」

 

 アークの顔が恐怖に引き攣った。

 どうやら、一目でこの技がどういう“モノ”か分かったようだ。

 ――勢いで“雑魚”と呼んでしまったことは、詫びねばなるまい。

 

 震える声で、魔族が言葉を紡ぐ。

 

「そ、それ……それ、は……ミサキ・キョウヤの――!!?」

 

 

 ――五勇者筆頭、“殺戮”のキョウヤが奥義之壱。

 

 

「受けろ。

 『爆縮雷光(アトミック・プラズマ)』」

 

 封じていた『雷光』を奴に向けて<射出>する。

 『檻』から解き放たれた『エネルギー』は、光の奔流となってアークに押し寄せていく。

 

「ひっ……あ、あああっ!!」

 

 慌てて、回避しようとする魔族だが――

 

「――あ」

 

 その時になってようやく、自分の身体が動かないことに気づいたようだ。

 

「はっはぁっ!!

 2度も同じ手に引っかかるたぁな!!

 お前、頭足りてねぇんじゃねぇの!!?」

 

 三下さんが吠えた。

 アークの影には、再び彼のナイフが突き刺さっている。

 

「は、はっはっは――」

 

 観念したように、笑い出す魔族。

 迫る輝きを正面に見据え――

 

「――美しい(ビューティフル)

 

 ……それが、魔族・アークが残した最期の言葉だった。

 

 

 

 

「――たくっ。

 旦那も人が悪いぜ!

 あんな大技残してんだもんなぁ!」

 

 私の肩を叩きながら、三下さんが茶化してくる。

 

 今私達が居るのはギルド直営の治療院――その一室。

 部屋のベッドにはエレナさんとミーシャさんが眠りについている。

 もう時刻は深夜になっている。

 

 アークを倒した後、私達は無事階層を脱出し、彼女達をここに運びこんだのだ。

 

「最初っからアレぶっ放して、あんな魔族野郎パパッと倒してくれりゃあ良かったのに」

 

「……申し訳ありません」

 

 私は頭を下げる。

 本当に、三下さんの言う通りだ。

 

「馬鹿を言うな。

 あんなものホイホイ使われては、バックファイアで俺達の方が死にかねん。

 大技であるが故に、使いどころを見極めていたのだろう」

 

 兄貴さんが私を庇った。

 ――なんという、私に都合のよい解釈。

 そいうことは止めて欲しい。

 本気で居た堪れなくなってしまう。

 

「まあ、階層に大穴が開いてたもんな。

 階層食い(フロアイーター)でも、あんなんやれねぇってくらいの」

 

 三下さんも同意する。

 そんな二人に私は堪えきれず、

 

「あの、お二方!

 この度は誠に――」

 

「申し訳ありません、とで言うつもりか?」

 

 機先を制して、兄貴さんが私を遮った。

 

「ふん、魔族も言っていたことだろう。

 今回の事は俺達が勝手に首を突っ込んだに過ぎん。

 それに関して、お前からの謝罪を貰っても仕方ない」

 

「そうそう。

 ミーシャも旦那に助けてもらったようなものだしな。

 ……まさか、霊薬(エリクサー)を分けてくれるとは思わなかったぜ」

 

 三下さんはまたも兄貴さんに乗っかる。

 

 霊薬とは、飲めばあらゆる怪我や病気が治ると言われる、これもまた伝説級のアイテムだ。

 私は、“偶然”持っていたそれを、エレナさんとミーシャさんに使ったのである。

 

「……オリハルコンの矢に、あの絶技、霊薬。

 そして魔族の言葉。

 クロダ、お前は――」

 

 兄貴さんが、神妙な顔でそう呟く。

 ……ここまで見せたのだ、彼らには説明をしておくべきか。

 

「兄貴さん、三下さん、私は――」

 

「――お前は、俺の予想以上に戦い甲斐のある男だったわけだな」

 

 そう言って、凄みのある笑みを見せる兄貴さん。

 ……またもや私の台詞は途中で阻まれた。

 

「クロダ、俺はお前と慣れ合いをするつもりは無い。

 事情の説明など要らん」

 

「……兄貴さん」

 

 彼は、ふんっと鼻を鳴らしてから、

 

「だがこの件を有耶無耶にするつもりもない」

 

 人差し指を一本立てる。

 

「クロダ、借り一つだ。

 ……いずれ返す」

 

 言うだけ言って、兄貴さんは私に背を向けて病室を出て行った。

 

「へへ、じゃ、あっしも今日はここらへんで。

 兄貴はああ言ってるけどよ、あっしは旦那と一緒の探索、楽しかったぜ!

 縁があったらまたパーティー組もうや!」

 

 三下さんも、兄貴を追って部屋を出た。

 ……随分と、爽やかに立ち去るものである。

 

「…………ふぅ」

 

 彼らが居なくなってから、私は一つ息を吐いた。

 

「……長い一日だった」

 

 今日は色々な出来事が起き過ぎた。

 これ程一日を長く感じたことは、ウィンガストに来て初めてだったように思う。

 

 私はベッドに寝るエレナさんの顔を見た。

 

「……すぅー……すぅー……すぅー……」

 

 彼女は安らかに寝息をたてていた。

 

 オリハルコンの矢に、霊薬に、そして『爆縮雷光』。

 様々な切り札を切ってしまい、それ以上に不手際も多く目立ってしまったが――ともかく、彼女を守れたのだから良しとしよう。

 

「…………ふむ」

 

 ところで。

 この治療院で与えられるベッドのシーツは随分と薄い。

 この辺り、少しでもコストを抑えようとする貧乏根性が見え隠れするがそれはともかく。

 その薄いシーツは、エレナさんの凸凹を随分とはっきり見せてくれていた。

 

「……愛人に、なりましたもんね?」

 

 さらに言えば、霊薬で彼女の身体は完全に健康体へと戻っているはず。

 私がエレナさんにアレやコレやをしたとして、何の問題があろう。

 

「……それに」

 

 隣のベッドに眠るミーシャさんを見た。

<次元迷宮>で会った時は、状況も状況だけに、そういう目で見ることは極力抑えていたが。

 こうして寝顔を見ると、中性的な顔つきの美少女である。

 身体のメリハリは少ないものの、テンタクルスとの痴態を見た後ということもあり、実にそそられてしまう。

 

「……霊薬の効果も確かめねばなりませんし」

 

 一見、全て傷が治癒されているミーシャさんであるが。

 あれだけ触手に嬲られていたのだ、魔物の入り込んだ『中』がきちんと治っているか、確認の必要があるだろう。

 

「……胸が躍ってしまいますね」

 

 さて、どちらから先に頂こう?

 私がそんな葛藤を抱えていると――

 

「クロダちゃぁああああんっ!!!」

 

「ぬわっ!?」

 

 突然、部屋の扉が開け放たれ、女性が一人駆けこんできた。

 ……アンナさんだ。

 

「な、何ですかアンナさん!

 ここは病室ですよ。

 静かにして下さい!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないんだにゃあ!

 ていうか、今までどこに行ってたんだにゃあ!!」

 

 諫めるも、興奮が収まらない彼女。

 一体どうしたというのか。

 

「落ち着いて下さい。

 何があったのですか?」

 

「う、うん――あのにゃ、あのにゃ」

 

 アンナさんは大きく深呼吸をして息を整えてから、告げた。

 

 

 「ヒナタちゃん、攫われちった」

 

 

 ――ふと、嫌な考えが頭をよぎる。

 

 魔族アークの使命が、私の抹殺などでは無く、私の足止めだったとしたら。

 そして、私達の前に現れたのは、私を直接殺すためではなく、既に足止めする必要が無くなったからだとしたら。

 

「まさか…」

 

 自分の能天気さに腹が立つ。

 

 

 ――私の長い一日は、まだ終わりそうになかった。

 

 

 

 第十二話 完



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第十三話 ウィンガスト騒乱
① 少女の独白


※今回のお話では、主人公の一人称ではなく、三人称にて物語が進みます。


 

 

 

 「お怪我はありませんか?」

 

 それが、『彼』から貰った最初の言葉だった。

 

 

 

 ――はっきり言えば、“少女”は自分の力を過信していた。

 

 名家の子として生まれ、家の名に恥じぬだけの魔力を生まれつき持っていた。

 成長するにつれ、彼女の力はさらに増していき――

 気づけば、同世代で彼女に勝てる者は……比肩する者すら、いなくなっていた。

 

 周囲の大人も彼女の才能を褒め称える。

 そんな環境が、彼女を増長させ続けた。

 自分は誰よりも強い、特別な存在なのだと少女が思い込み始めるのに、そう時間はかからなかった。

 ……大人達が彼女を褒めたのは、彼女が名家の子女であったから、そして、“子供にしては強いから”、だったというのに。

 

 だが少女も次第に、周囲の言葉が自分をあやしているだけだということにうっすらと気づいていく。

 

 ――だから。

 <次元迷宮>の話を聞いて、そこへ潜って“自分の強さ”を見せつけてやろうと考えた。

 迷宮が危険な場所であることは再三耳にしたが……所詮は『人間にも踏み込める』程度の場所だと高を括っていたのだ。

 そして、周囲が止めるのにも耳を貸さず。

 数人の仲間を伴ってそこへ向かったのだった。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

 肩で息をしながら負傷した身体を引きずって、少女は独り、迷宮を歩いていた。

 ――意気揚々と迷宮へ侵入した少女だが、その余裕が続いたのは最初の内だけだった。

 

 階層を進むごとに、強力になっていく魔物、凶悪になっていくトラップ。

 迷宮に潜む数々の脅威は、少女を少しずつ消耗させていった。

 

 ――もっと早く引き返しておけば良かった。

 

 薄々と感じてはいたのだ。

 このダンジョンは、自分の手に余る代物だと。

 なのに、少女は前に進んでしまった。

 大見得を切って出てきた手前、逃げ帰ってきたという醜聞を彼女のプライドが許さなかった。

 

 ……そのプライドが実につまらない、取るに足りないものであったことも、すぐに思い知らされることになるのだが。

 

「……はーっ……はーっ……はーっ――――う、うぅぅ……」

 

 今の“状況”を思い返して、少女は嗚咽を漏らした。

 

 ここは<次元迷宮>の奥深く――人間達が『赤色区域』などと呼んでいる場所。

 持ってきた武器は幾度もの魔物との戦いにより全て使い物にならなくなった。

 探索による疲労の蓄積で、体力も僅か。

 度重なるスキルの使用により、魔力は欠片も残っていない。

 休憩しようにも、食料もまた底を尽いている。

 

 そして緊急用にと持たせて貰った脱出用のアイテムも――仲間の裏切りにより、失った。

 ……彼女の強情さに、『もうついていけない』と愛想尽かされたことを裏切りと呼ぶのは、少々酷かもしれないが。

 

 ――つまるところ、もう少女の“終わり”は確定していた。

 

「…………うぐっ、う、あぁあぁぁぁ……」

 

 叩きつけられる絶望に吐き気すら催すが……幸いなことに、吐ける物が今彼女の腹に入っていなかった。

 ――もう丸2日、何も食べていない。

 

「……うぅ……ひ、くっ……うぅぅ……」

 

 そして、泣いているにも関わらず、涙が流れていないことに気づく。

 水も飲めていないのだから、涙が出るわけが無いな、と自分の中の冷静な部分が分析した。

 

「……帰、り、たいよっ……」

 

 かさかさの唇を震わせて、弱音を吐く。

 言ってどうにもならないことは理解しているが、言わずにいられない。

 

 帰ろうにも、帰る方向すら分からない。

 助けを求めようにも周囲に魔物以外はおらず、帰った仲間はもう自分のことなど見捨てているだろう。

 

「……………や、だ」

 

 それでも少女を足を止めなかった。

 最悪の未来を――そう遠くない将来確実に訪れるであろう結末を想像しては、かぶりを振って打ち払い、彼女は何のアテも無く迷宮を彷徨う。

 

 ……疲労と緊張で混濁する意識の中、益体も無い考えが、浮かんでは消えていく。

 

 ――魔物がこんなに強いなんて思わなかった。

 仕方ないと思っていても、後悔の想いがとめどなく溢れてくる。

 

 ――魔物なんて、魔族(あたしたち)に使役されるだけの存在だと思っていた。

 そうでないことを、今は身をもって知っている。

 <次元迷宮>の奥に棲む“奴ら”は、少女を容易く蹂躙した。

 同じ『魔王』から生み出された存在といっても、そこに手心など無く。

 ……そもそも、意思疎通すらまともに出来ない間柄なわけだが。

 

 ――人間にも、入ってこれる場所だったはずなのに。

 もっとも、当の人間達にとってもここは地獄のような場所だったようだ。

 ここに来るまで、幾つもの人間の死体が転がっていた。

 いや、死んでいたのならまだ増しだった。

 時には、魔物の苗床になった女の姿も――

 

「…………やだ、やだやだ!」

 

 あんな風にはなりたくない。

 生きて帰りたい。

 また、父や母の顔が見たい!

 

 そんな恐怖をカンフル剤にして、少女はさらに進もうとする、が。

 

「―――――あ」

 

 そこで、気づく。

 いったい何時からだったのだろう――周囲を、魔物に囲まれていた。

 体力の消耗で、周囲への警戒が散漫になっていたのだ。

 

「…………あーあ」

 

 ため息を一つ。

 どうしようもない結末を突きつけられると、人はかえって冷静になる。

 少女の胸には、諦観が去来していた。

 

 取り囲む魔物達が、じりじりと自分との距離を詰めてくる。

 もう、彼らを倒す力はおろか、彼らから逃げる力も、気力すら持っていない。

 それでも、それでも――

 

(……死にたく、ないなぁ)

 

 少女はそう思った。

 それは生物として当然の欲求であったわけだが、しかし、その欲求を満たすことはもうできそうにない。

 だからせめて――それが全く意味の無い行為だとしても――最期にその気持ちを言葉にする。

 

「…………誰か、助けて」

 

 ――そう、呟いた瞬間だった。

 魔物の内の一体が、音もなく崩れ落ちた。

 

(……?)

 

 倒れた魔物は、ピクリとも動かなくなる。

 うめき声一つ立てない。

 

(……死んで、る?)

 

 他の魔物もそれに気づき出したのか、途端に周りが騒がしくなる。

 自分達の『敵』を警戒し始めたのだ。

 だが――

 

「……ギッ!?」

 

「……ガッ!?」

 

 にもかかわらず、さらに数体の魔物が倒れ伏す。

 少女を散々苦しめてきた魔物が、いともたやすく。

 

(…………誰?)

 

 暗闇の中、目を凝らす少女。

 すると――

 

(……人間?)

 

 人間が――たった一人の人間の男が、魔物を屠っていた。

 ひょっとしたら仲間もいるのかもしれないが、少女から見えるのはその青年一人だけ。

 的確な動きで魔物の攻撃を躱し、精密な攻撃で魔物を一匹、また一匹と倒していく。

 

(……凄い)

 

 その人間の見せる強さに、少女は感嘆した。

 万全の自分でも、彼には勝てないかもしれない。

 それ程、その男の戦いぶりは圧倒的だった。

 

 少女はただ、青年の戦闘を見ているだけだったが――

 

「――あ」

 

 不意に、声を上げる。

 魔物が一匹、少女に向かって突進してきたのだ。

 彼女の方を先に襲おうと考えたのか、それともあの人間から逃げる先に偶々彼女が居ただけか。

 

 少女には、その魔物を避ける余力は既に無い。

 しかし、彼女が焦りの感情を抱くよりも先に。

 

「……ギャッ!?」

 

 魔物がつんのめる様にして倒れた。

 見れば、背中に矢が刺さっている。

 撃たれた向きからして、あの青年が放ったようだ。

 

(……助けてくれたの?)

 

 あの人間は、偶々遭遇した魔物を掃討しようとしているのではなく――明確に自分を助けようとしている。

 今の行動を見て、少女はそんな確信を持った。

 

(なんで、人間が、あたしを?)

 

 人間にとって、少女は倒すべき“敵”のはずなのに。

 目の前の青年は、どうしてそんな自分を助けようとしているのだろうか?

 

 

 ……少女がそんな疑問に頭を悩ましている間にも、男は魔物を倒し続け――

 気づけば、辺りから魔物の気配は消えていた。

 

 

(……本当に、倒しちゃった)

 

 ――つまり、少女は助かった。

 ほんの数分前まで、死を覚悟していたというのに。

 

 張りつめていた緊張が解け、身体から力が抜ける。

 そのまま、その場にへたり込んで、尻もちをついてしまう。

 

「……はぁぁああ……」

 

 肺から思い切り空気を吐く。

 生き残ったという実感がじわじわと少女の心に湧いてきた。

 

 一方、魔物を一掃した当の本人は用心深く周囲に注意を払い、他に敵がいないか確認しているようだった。

 ひとしきり確認を終えると、青年は少女の方へ歩み寄ってくる。

 

 ……彼女に、その男から逃げるという選択は思いつかなかった。

 自分を殺すつもりなら、とうに殺せているだろう。

 それだけの力を、目の前の人間は持っている。

 まあ、そもそも体力的な問題で身体を動かせなかったわけだが。

 

 青年は少女の近くにまで来ると、ゆっくり手を差し伸べてきた。

 ……そして、すっと微笑みながら、冒頭の台詞。

 

 

 「お怪我はありませんか?」

 

 

 ――そんな彼に。

 ――“魔族”である自分に、何の隔ても無く手を差し伸べてくれた彼の姿に。

 

 

 少女は、一瞬で恋に落ちた。

 

 

 

 

「――――ん」

 

 朝。

 少女――リア・ヴィーナは目を覚ます。

 

「……また、懐かしい夢を」

 

 懐かしいと言っても、夢の出来事からまだ1年程度しか経っていない。

 

「ん、んんん……!」

 

 身体を思い切り伸ばす。

 窓から差し込む朝日が眩しい。

 リアは眠そうに目を擦った。

 

「ふわぁ……」

 

 あくびを一つ。

 朝の日差しの光は、眠気を完全に覚ますには少々足りなかったようだ。

 

「昨日、遅かったからね…」

 

 とは言っても、いつまでも寝ているわけにもいかない。

 今日は彼女にとって、大事な日なのだ。

 まだ眠っていたいと訴える身体を、無理やり起こす。

 

「―――あ」

 

 立ち上がろうとしたところで、あることに気づく。

 リアは右手を自分のパンツの中に挿れた。

 

「うあ、零れてきちゃってる」

 

 下着に挿れた手には、ドロっとした白い液体がついている。

 昨日、抱かれた際に中出しされた精液が、女性器から漏れてきてしまったらしい。

 

「……流石にここは片づけていけなかったわけね」

 

 昨晩は深夜まで黒田とセックスをしていた。

 相当に乱れてしまい、部屋のあちこちを汚してしまったはずだが――朝起きてみれば、いつもの様に彼が掃除していってくれたようだ。

 そんな黒田でも、リアの膣の中までは手を出さなかったらしい。

 

「ま、いいけどさ」

 

 手についた白濁液を、舌で舐めとる。

 口の中に、精液の味と匂いが染み渡っていく。

 

「んっ…はぁ……クロダの味……」

 

 うっとりと、リアは呟く。

 昨晩の激しいプレイを思い出し、子宮が少し疼いてしまう。

 彼女は、蜂蜜でも舐めるかのように、丹念に手のザーメンを舐めとっていった。

 

「……はぁぁ」

 

 手が綺麗になったところで、満足そうに息を漏らす。

 

 リアは今、あの日、迷宮の中で会った青年――黒田誠一と、身体をかさねる仲となっていた。

 初めて目にした日から、ずっと想い続けてきた相手と。

 嬉しくないわけが無い――のだが。

 

(……想像してたのとは全然違う形なのよね)

 

 リアと黒田の関係は、彼女の考える恋人同士のそれとは違うものであった。

 毎日のように顔を合わせるし、働き先にまでエスコートをしてくれることもある。

 ただ、彼からの愛情を向けられているのかというと、少し違うような気がする。

 

(――嫌われてるってわけじゃないみたいだけど)

 

 セックスだって頻繁にしているけれど、それも性欲のはけ口として自分を使われているような――

 リアが失神するまでヤり続けるのが殆ど。

 時には、前戯もなしに突き挿れてくることもあれば、人の目がある場所で手を出してくることもある。

 

 “人間同士”の恋愛に詳しくないとはいえ――彼女が幼い頃から思い描いていた、恋人の有り方とはあまりに乖離していた。

 

(……こんなのじゃなくて。

 もっと、もっと――)

 

 黒田への不満が心に湧き出てくる。

 同時に、片方の手を股間に、もう片方を胸に当てる。

 自らの乳首とクリトリスを弄り始めながら、リアは黒田への欲求を吐露した。

 

「――――もっと、乱暴に扱ってくれればいいのに」

 

 人を『肉便器』などと呼んでおきながら、黒田は自分のことを優しく扱い過ぎていた。

 性交をした後はしっかりと掃除や片付けをしてくれるし、食事だって代わりに用意してくれる。

 とてもではないが、『便器』に対する扱いとは思えない。

 

「……あっ……はんっ……あ、あっあっあっ……」

 

 指を激しく動かす。

 頭に痺れる快感が流れ込んでくる。

 

 ――乱雑に扱って欲しい。

 ――ヤり捨てて欲しい。

 ――モノのように見られたい。

 

「……ああっ……ああんっ……んぁあっ……ああああっ……」

 

 感覚が蕩けていく。

 恥部を弄る手はもう止められそうにない。

 

(そうよ、クロダもあいつらみたいに――ゲルマンやセドリックみたいに、あたしを扱ってくれれば…!)

 

 ゲルマンは、リアが働いている店の店長で、セドリックはその店の常連だった。

 毎日のようにリアにセクハラ――スカートをめくるだの、胸を触るだの、尻を揉むだの――してくる性根の腐った連中。

 そのままレイプ紛いのセックスを強要してくることも少なくない。

 こちらの都合など一切お構いなく、だ。

 

「あっ! あんっ! あぁあっ! あっ!」

 

 あの男達のようなことを、黒田がしてくれたら。

 

 ――嫌がる彼女を無理やり組み伏せたり。

 ――事後、精液に塗れた彼女をそのまま放置したり。

 ――あの青年にだったら、小便をかけられたって…!

 

(クロダに、そんなことされたら、あたし……あたし……!)

 

 心が昂るまま、ガムシャラに胸を、陰核を弄り、快楽を貪る。

 彼に『そんなこと』をされている妄想に浸りながら――

 

「あ、あぁぁぁああああっ!!」

 

 ――リアは、絶頂した。

 

「…はーっ…はーっ…はーっ…はーっ…」

 

 胸を大きく上下させながら、余韻を味わう。

 ……本当に、黒田とそういうことをしだしたら、きっと自分はどうにかなってしまう。

 そう、正真正銘の『肉便器』へと――

 

「――って何考えてんのあたしっ!?」

 

 両手でパンっと頬を叩く。

 

「落ち着け……落ち着け。

 なんか凄くやばい妄想に憑りつかれてた気がする」

 

 深呼吸して、気を落ち着かせる。

 

 ――いくらなんでもアレは無い。

 今だってリアは、黒田に抱かれることに色々と我慢しているのだ。

 

「あんなことされたら、どうにかなるのは向こうの方だってーの」

 

 主に暴力的な意味で。

 彼が再起不能になるまで、ギッタギタにすることだろう……たぶん。

 

(……しかも、黒田ならまだしもあいつらのことまで想像しちゃうなんて)

 

 店長やセドリックとのプレイを悦んでいるなんて、なおさら絶対に無い。

 今度やってきたら、確実に息の根を止めてやろう。

 

 今までそれをしないでやったのは――

 

(まあ、店長には私が路頭に迷いかけてたとき助けて貰ったし、

 セドリックにも家買う時に色々援助して貰ったし)

 

 リアが初めて人間の街――ウィンガストにやってきて、右も左も分からず右往左往していた時、手を貸してくれたのが彼らだったのだ。

 当時は、困った時に手助けをしてくれる、人の『暖かさ』に感激したりもした。

 だからこそ、“ちょっとやそっと”のことには目を瞑ってやったのに。

 

(……今思えば、あたしの身体目当てだったんだろうけどさ)

 

 あのゲス野郎共め。

 リアは、怒りに拳を震わせた。

 

 ともあれ、その温情もここまでだ。

 次に手を出してこようものなら、この世に産まれてきたことを後悔させた上で、その生涯を終わらせてやる。

 

「……ま、もう会うことも無いんだけどね」

 

 ひとしきり憤慨してから、彼女はふっと力を抜いて自嘲気味に笑う。

 

 ……そう。

 ゲルマンにも、セドリックにも、ひょっとしたら黒田にも、もう彼女は会わない。

 ――今日、リア・ヴィーナはウィンガストを去る。

 

 

 

 

 ……時刻はそれから少し経ち。

 太陽が高く上り、今は昼間。

 

「えへへへへへ」

 

「ちょっとヒナタ、さっきから何で笑ってんの?」

 

 人で賑わうウィンガストの大通りを、一組の男女が歩いていた。

 ……もっとも、男の方の性別をしっかり識別できる者が、通行人の中にいるかどうかは怪しいが。

 

 片方はリア・ヴィーナ。

 もう片方は、リアの同居人である室坂陽葵だ。

 

「え、だって、リアとデートだぜ、デート!

 へへ、オレ、嬉しくってさ」

 

「……あ、ああ、そう?」

 

 屈託なく笑う陽葵に、答えに窮してしまうリア。

 そこまで純粋に無く喜ばれると、少し罪悪感が湧いてしまう。

 ……このデートは、彼女が“打算的に”仕組んだものだからだ。

 

(いや、そもそもあんまりデートしてる気もしないんだけどね)

 

 正直なところ、女の子同士で一緒に出かけているという意識しかない。

 それは同居している時から抱いている思いだったが。

 

(一応、男の子――なのよね?)

 

 裸を見たこともあるので、それは間違いない。

 陽葵の股間には男のシンボルがある。

 性格や言動だって男の子っぽいし、リアに好意を抱いているところからして、性的欲求も男性のものなのだろう。

 

(……あたしへの好意を利用しちゃって悪いんだけど)

 

 先程の罪悪感がまた首をもたげてくる。

 そんな彼女へ、陽葵が話しかけてきた。

 

「ん? どうした、リア。

 なんか、暗い顔してるぞ。

 ――ひょ、ひょっとして、オレと居て楽しくない!?」

 

「そんなわけないでしょ!

 ちょっと考え事してただけ。

 あんたの方こそ、こんなんで心配顔なんてしないしない!」

 

「そ、そっか。

 それならいいんだけどさ」

 

 不安げにこちらを覗き込んでくる陽葵に、慌ててフォローを入れる。

 実際問題、リアとしても別に陽葵のことを嫌っているわけではない。

 寧ろ好いていると言っていい。

 彼の裏表の少ない性格は彼女の好みだし、気が合うのか話も弾むし、一緒に暮らして不快になったことだって無い。

 

 ……ただ、彼の“容姿”のせいで、異性としての好意をちょっと抱き辛いというのもある。

 

(男でこの顔って、反則だよね…)

 

 リアは陽葵の顔をじっと見てみる。

 彼との付き合いはもう数週間程になるが、それでもなお男だとは思えない容貌だ。

 風に吹かれてサラサラと靡く金髪、パッチリとした瞳、形の良い鼻、潤いのある唇――それらが奇跡的なバランスで組み合わさっている。

 この顔を見て彼を男だと見抜ける奴は、むしろ目が腐ってるとすら思う。

 

「……あの、リア。

 そんなにじっと見られると、流石に恥ずかしいかも」

 

「ご、ごめん!

 あんたの顔に、ちょっと見とれちゃってて…」

 

 陽葵からの指摘に、ついつい本音で返してしまった。

 まあ、デートであることを考えればそうおかしな返しでは無いだろう。

 ……『見とれる』の方向性が、美しい同性に対するソレであることを秘密にすれば。

 

「そ、そっか?

 えへへ、なんか、嬉しいな」

 

 褒められたのが嬉しいのか、はにかむように笑う陽葵。

 リアの心臓がドクンっと高鳴る。

 

 ――やばい。

 ――マジで可愛い。

 

(あたし、そういう趣味は無いはずなのに…)

 

 いや、陽葵は男で、男相手にドキドキしているのだから、一周回って特に問題ないのか?

 ……そして彼のおかしい箇所は、何も顔だけではないのだ。

 

(この子、あたしより腰回り細くない?)

 

 陽葵は、身体も実に女らしかった。

 身体の肉のつき方が、男のものでは無い。

 程よく柔らかい上にハリもあり、その肌には染み一つ存在しない。

 前にマッサージと称して彼の身体を揉ませて貰ったのだが、その触り心地の良さは、癖になりそうな程だった。

 

(……ま、まあ、胸は勝ってるんだけどね!)

 

 男相手に胸の大きさに勝機を見出している時点で、惨敗もいいところだという事実には目を瞑る。

 そんな彼女の葛藤を知ってか知らずか、陽葵が口を開く。

 

「しっかし、良い天気だよなぁ、今日。

 黒田に無理言って、予定変更して貰って良かったぜ」

 

 陽葵には今日、黒田との探索の予定が入っていた。

 デートのために体調不良と嘘をついて、その予定をキャンセルしたのだが――

 

「ああ、そのことなんだけどさ、ヒナタ」

 

「ん、なに?」

 

「たぶん今日の事、黒田にはバレてるよ?」

 

「うぇええっ!?」

 

 オーバーアクション気味に驚く陽葵。

 まあ、これだけ血色の良い顔で体調が悪いとか言っても、説得力に欠けるだろう。

 無理強いしても仕方ないということで、納得してくれたのかもしれない。

 

(変なとこ気の利く奴ではあるし)

 

 リアはそう解釈した。

 

「……ま、マジで?」

 

「うん。

 かなり思わせぶりな口調で、あたしにあんたのこと頼んできたもん」

 

「……デートのことも、バレてんのかな?」

 

「それは――分からないけど」

 

 ひょっとしたら、そこも気づかれていたかもしれない。

 ただ、だとすると。

 

(あたしが他の男とデートするのをスルーされたってことだし――)

 

 気づいていなかった……ということにした方が、精神衛生上良さそうだ。

 黒田にとって陽葵が、男としてカウントされていない可能性も捨てきれないが。

 

「……うう、帰ってきたら怒られそう」

 

 一方で、顔を赤くして身体をもじもじとさせる陽葵。

 黒田に怒られるのを怖がっている、のだろうか。

 怖がる反応にしては、なんだか大分おかしい気もするのだが。

 

(……あの、凄く色っぽいんですけど、その仕草)

 

 肢体をくねらせる陽葵の動きは、実に扇情的だった。

 道行く男達が何人も振り返ってしまう程に。

 

「ちゃんと謝れば大丈夫でしょ」

 

「……う、うん、そうする」

 

 リアの言葉に頷くものの、それでも顔が少し赤いままな陽葵。

 そんな彼に、男たちの視線は釘づけである。

 

(……格好も悪いと思うのよ、格好も)

 

 陽葵の服装は、Tシャツに薄手の上着、そしてショートパンツ。

 気に入っているのか、彼は大体この格好をしている。

 

(間違いなく似合ってはいるんだけど――ちょっと、露出がねー)

 

 健康な男子達に、陽葵の太ももは眩し過ぎるだろう。

 お腹もチラチラと見えているし。

 

 ……実のところ、男共の視線はリアにも――今日のために気合を入れた、ミニスカート姿のリアにも注がれていることに、彼女は気づいていない。

 ある意味、似た者同士のカップルと言える。

 

(そもそもな話、ヒナタの容姿にあたしが勝てるわけないのよ、うん)

 

 最終的に、そんな形に結論付けるリア。

 彼の『出自』を考えればこの美貌も納得いくし、それと自分を比較することは、“不遜”とも捉えられかねない。

 

「ほらほら、そんな顔してないで。

 さっさとお店に行きましょ!」

 

「お、おうっ」

 

 心の整理をつけたリアは、陽葵の腕を引っ張って目的の場所へと急ぐのだった。

 

 

 

 第十三話②へ続く



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② 少年の真実

 

 

「へー、このお店かー」

 

 陽葵が呟く。

 大通りを歩き、横道に入って裏通りをてくてく進み……

 リア達は目的のお店に到着したのだった。

 

「……雰囲気のある喫茶店だな」

 

「素直にぼろっちぃって言っていいのよ?」

 

「そ、そんなこと思ってないぞ!?

 リアが選んでくれたお店なんだし!」

 

 目の前にある喫茶店は、壁が少し剥げていたり、窓ガラスに少々ヒビが入っていたりと……お世辞にも綺麗な建物とは言いづらく。

 なんというか、急遽の工事でどうにかお店としての体裁を整えましたと言わんばかりの風体だった。

 

(言わんばかりも何も、その通りなんだけど)

 

 心の中で苦笑するリア。

 まあ、あまり綺麗に整備し過ぎて、客がたくさん来てしまうと困るので、これ位が丁度いいのかもしれない。

 

「……本当はオレがいい店を紹介できれば良かったんだけど」

 

「ヒナタはこっち来てまだ日が浅いでしょ。

 こういうことはあたしに任せときなさいよ――ま、その内エスコートもして欲しいけど」

 

 ぼやく陽葵に、笑いながらつっこみを入れるリア。

 

 そんなことを言いつつも、実はリアもウィンガストについてそこまで詳しいわけでは無い。

 何せ、陽葵が来る約一か月前に来たばかりなのだ。

 “人間社会で暮らした”長さであれば、陽葵の方が長いくらいだろう。

 

 ――このお店に来たのは、“上”からの指示によるものだった。

 

(とりあえず連れてくればいい、みたいなこと言われたけど。

 ……大丈夫なんでしょうね)

 

 陽葵には事情を全く話していない――これもそういう指示があったからだが。

 いきなりアレコレ説明して、信じて貰えるのだろうか?

 

「ささ、外で突っ立ってるわけにもいかないし。

 中、入りましょ」

 

 陽葵の肩を押して、喫茶店のドアをくぐる。

 すると――

 

「いらっしゃいマセ~!」

 

 こちらが何か言うよりも先に、声がかけられた。

 店に入った二人の目の前では、店員らしき人がにこやかに手を振っている。

 その姿を見て、

 

(――――え)

 

 リアの頭がフリーズした。

 

 その店員は、ウェーブのかかった長髪をした、長身の美青年。

 だが彼女は、彼の容姿に驚いたわけではない。

 マスターが彼女の顔見知りだったから……でも無い。

 というか、顔見知りが店員をしているであろうことは織り込み済みである。

 

 リアが思考停止に陥った理由――それは、彼が“上”の人物、つまるところ、リアの『上司』だったからだ。

 

(――ここに連れてくれば後は大丈夫とか言ってたけど、いきなりこの人が出てくるなんて聞いてないっつーの!)

 

 リアは必死で内心の動揺を押し隠す。

 せいぜい、適当な下っ端が宛がわれているのかと思いきや。

 

(そもそも、そう簡単に人前に出てきていい立場の人だっけ!?)

 

 上司と一口に言っても千差万別あるが、この男の立場はリアよりかなり上。

 顔を合わせたことだって、数回しかない。

 現代社会の会社で例えるなら、一般社員と支社長くらいの差があるのだ。

 ……社長とは言えないあたりが、微妙なところだが。

 

 ともあれ、そんな人物が急に登場すれば、リアならずとも混乱しようというものだ。

 しかしここで取り乱すわけにもいかない。

 

「こ、こんにちはー。

 えっと、予約していた者なんですけど――」

 

 自制心をフル回転させ、どうにか言葉を絞り出すリア。

 陽葵に自分の混乱を気取らせてはいけない――と、思ったのだが。

 

(――――あれ?)

 

 隣を見ると、肝心の陽葵はこちらをまるで見ていなかった。

 ただ、前を――店員の方をずっと凝視していた。

 

 そして、唇を震わせて声を発した。

 

「―――――れ、煉先生?」

 

「はい。

 お久しぶりデス、陽葵クン」

 

(――――は?)

 

 そんな二人のやり取りを聞いて。

 リアの思考は、再び止まった。

 

 

 

「……あんた達、知り合いだったのね」

 

 リアの頭がようやく動き出したのは、テーブルに座って二人が昔話に花を咲かせだしてからだった。

 

「うん、そうそう。

 リアには話してたっけ?

 オレ、孤児院で育ってたんだけどさ。

 そこでお世話してくれたのが、煉先生だったんだよ」

 

「ハハハ、そうなんデスヨ」

 

(……そうなんデスヨ、じゃなくて)

 

 いけしゃあしゃあと同意してくる店員――煉先生とやらに、心の中でつっこみを入れる。

 そういう“仕込み”をしていたのであれば、事前に説明しておいてほしい。

 

「でも驚いたなぁ、先生もウィンガストに来てたなんて。

 いつこっちに来てたのさ?

 あっちの、東京の方はどうなってる?

 オレがこっち来てからなんか起きた?」

 

「陽葵クン、質問は一つずつネ。

 あと主語をちゃんと入れるようにしまショウ」

 

「あっと、ごめんなさい」

 

 先生に叱られたからなのか、素直に謝る陽葵。

 

「ウンウン、そういうところは直していきまショウネ。

 それで、質問の答えなんですが――まず、陽葵クンの認識を改めなければなりませんネ」

 

「え?」

 

「ワタシはそもそも、こちらの世界の住人なんですヨ」

 

「えええ!!?」

 

 体を仰け反らせて驚く陽葵。

 自分の恩師が異世界人だと言われれば、心境穏やかではいられないだろう。

 

(まあ、これからもっと驚くはめになるんだけどね)

 

 心の声で合いの手を入れるリア。

 二人の会話を邪魔しないようにとの配慮である。

 

「ハハハハハ、驚きまシタ? 驚きましたヨネ?」

 

「そ、そりゃ驚くって!

 え、何、じゃあ先生、ウィンガストで生まれてから地球に来て、またウィンガストに戻ってきたってこと?」

 

「ハイ、その通りです」

 

「そんなことできんの!?

 なんでそんなことやったのさ!?」

 

 さっき先生に質問は一つずつと言われたにも拘らず、連続して質問を飛ばす陽葵。

 彼の心理状況を鑑みれば、無理もないことかもしれない。

 煉先生も今度はそれを窘めず、返答をした。

 

「ハイ、ワタシにはできます――簡単なことではありませんケドネ。

 そしてなぜやったのかと言えば、陽葵クンのためデス」

 

「……お、オレ?」

 

「また陽葵クンには驚いてもらうことにしまショウカ。

 アナタはね、こちらの世界で生まれたんデス」

 

「にぇぇえええ!?」

 

 驚愕し過ぎて、よく分からない叫び声が陽葵の口から漏れる。

 だが煉先生はそれを意に介さず、畳み込むように話を続ける。

 

「フッフッフッ、まだ終わりまセンヨ?

 陽葵クン、なんとアナタはね……魔王の、息子なのデース!」

 

「どぇえええええ!!?」

 

 意味不明な叫び再び。

 

「な、なななな、何言ってんだよ先生!

 オレが魔王の息子とかちょっと!

 いや確かにそういうのに憧れてはいたけど、話を盛りすぎっていうか!

 な、なぁ、リア!?」

 

 今までの日常を覆す情報を一度に与えられたため、大分動揺しているようだ。

 それを抑えるため、というわけでもないのだが、リアは極めて冷静に返事をした。

 

「うん、そうよ」

 

「――はれ?

 り、リア?」

 

 彼女から思っていたのと違う返しを受け――混乱が頂点に達したせいなのか――それまで張り上げていた陽葵の声が小さくなる。

 続けざまに、リアは言葉を紡ぐ。

 

「ヒナタはね、魔王様のご子息なの」

 

 

 

 ――そこからは、意外に話は早かった。

 陽葵は、リアが思っていたよりずっとすんなり、現状を受け入れたのだ。

 信頼する煉先生と、ウィンガストに来てからずっと一緒だったリアが共に肯定したからであろうか。

 

「いやー、オレが魔王の息子だったとはなー!

 自分が只者じゃないって予感はしてたけど、まさかねー!」

 

 そしてご覧の有様である。

 ……単に、そういうの(中二病的な展開)に憧れるお年頃だったからかもしれない。

 

「……ここまで単純だったなんて」

 

「ん、何か言った?」

 

「ううん、なんでも」

 

 リアはついついぼやいてしまうが、本人が納得してくれるというなら特に異論はない。

 『魔王の息子である』なんていうトンデモナイ事実をどう説明しようか、悩んでいたほどなのだから。

 

「聞き分けのいい子に育ってくれて、先生感激デスヨ」

 

 煉先生はニコニコと笑っている。

 

「さて、説明を続けまショウカ。

 魔王様の息子であることを受け入れて頂いたとしても、まだまだ疑問は尽きないでショウ?」

 

「え? あ、ああ、うん。

 そうそう、まだ聞きたいことがあったあった」

 

(……完全に浮かれきってたわけね)

 

 まだリア達が何者なのかも説明していないのに、この浮かれ様。

 ちょっとこの先心配になった。

 

「まずご安心頂くために、ワタシ達のことをお話ししまショウ。

 まあ、魔王の息子であるアナタを保護していたことからある程度お気づきかもしれまセンガ。

 ワタシと、こちらのリアは、魔族なのデス」

 

 さらっと、自分達が陽葵を保護していたことも台詞に織り込んでくる煉先生。

 

「えぇえええっ!?

 ま、魔族っ!?」

 

「いや、そこ驚くところじゃないでしょ。

 魔族じゃなかったら何だと思ってたのよ」

 

「……それもそうか」

 

 この世界に住む普通の人間にとって、魔王とは最大の敵対者であり、その子供とて当然同じような目で見られるだろう。

 ……そうでない人間もいるかもしれないが、ここでそういう例外的な話を始めても仕方ない。

 魔王の息子に危害を加える意思が無い時点で、リア達の正体に察してくれていてもいいくらいだった。

 

「でも、二人共普通の人間っぽいけど」

 

「これは変装デスヨ。

 魔族の姿で人間の社会に入り込むのはなかなか難しいノデ。

 変装を解けば――ほら、この通り」

 

 言うや否や、煉先生の姿が変わっていく。

 といっても、基本的な容姿はそのままで、大きな変化としては肌や髪、目の色が変わる程度であるが。

 

(――細かいところでは身長とかも少し変わってるんだけどね)

 

 パッと見ただけでは、そこまで細かい変化は分からないだろう。

 

「お、おお、すげぇ!

 リアも、ああいう風になれるのか?」

 

「まあねー」

 

 リアも、人間への変装を解く。

 煉と同じく身体の色が変わっていき――銀色の髪と青白い肌を持った、魔族としての姿に変化した。

 黒田に対して、『リズィー』と名乗った姿だ。

 

「お、おおお――」

 

 陽葵が感嘆の声を上げる。

 それほど、彼の目から見て魔族の姿は魅力的に見えたのだろうか?

 

「――おっぱいが大きくなってる!!」

 

「って、そっちかい!!」

 

 思わずペシっと陽葵の頭をはたくリア。

 ……やってから、魔王様の息子にこんな真似しちゃって大丈夫かという不安がよぎった。

 目の前には“上”の魔族がいることだし。

 

 ――しかし彼女の心配はまるで不要だったようで。

 煉先生はそんなこと気にもせずに微笑んでいた。

 

「陽葵クンも立派に男の子してマスネ。

 ただね、リア、今は人間の姿をとっていた方がいいデスヨ。

 胸のボタン、外れかけてマス」

 

「……え。うぁあっ!?」

 

 慌てて人の姿に戻るリア。

 

 彼女の場合、魔族の姿の方が人間の姿よりも身長が高くなり、スタイルも豊満になる。

 ……今日の服は、リアのスリーサイズの変化に耐えられなかったらしい。

 

「……ちぇ、もう戻っちゃうのか」

 

「なんか言った?」

 

「う、ううん、何にも言ってないぞ!?」

 

 残念そうにする陽葵に、くぎを刺すリア。

 バールは微笑ましくそのやり取りを見た後に、話を切り出す。

 

「ああ、それと、私の本当の名前はバール・レンシュタットと言いマス。

 まあ、別に今まで通り、煉先生と呼んで頂いて構いませんケドネ」

 

「バール・レンシュタット……うん、やっぱり煉先生の方が呼びやすいわ」

 

「では、そのように。

 それでね、陽葵クン、説明の続きに入りマスガ――」

 

 魔族の姿のまま、煉先生――バール・レンシュタットが説明を再開した。

 

「順を追っていきまショウ。

 陽葵さん、アナタはこの世界――グラドオクス大陸にて生を受けました。

 そんなアナタが何故異世界である東京で生活することになったのかと言えば……危険から遠ざけるためデス」

 

「危険?」

 

 おうむ返しに陽葵が尋ねる。

 

「ハイ。

 アナタが生まれた当時から、魔族と人との間では戦争が起きていましたからネ。

 魔族側が優勢ではありましたが、万に一つの可能性を魔王様は配慮なされたのデショウ。

 そして、付き人として選ばれたのが、ワタシでしタ」

 

「なるほど、それで孤児院に預けられてたのか。

 ……あれ、そういえばオレ、姿かたち完全に人間なんだけどさ。

 これも仮初の姿だったりするの?

 先生みたいに変身できる?」

 

「はい、そうですヨ。

 ただ、すぐには無理デス。

 早々正体が露見しないように、陽葵クンの体には封印――まあ、魔族の姿や力がバレないようなセキュリティが施されていますカラ」

 

「へー、まずそのセキュリティを取っ払う必要があるのか」

 

「その通りデス」

 

 こくこくと頷くバール。

 

「頃合いを見計らって、地球からこちらへと呼び戻す手配だったのですが……魔王様は、7年前の勇者との戦いで消息不明になってしまわれたノデ。

 転移する経緯が煩雑になってしまったことをお許し下サイ」

 

「いや、いいよ、それ位。

 こっちきてから、大きなトラブルに遭ったわけでもないからさ」

 

「ありがとうございマス。

 ……それで、陽葵クンをこの世界に呼んだ理由なのですがネ」

 

 その話題になって、陽葵が身を乗り出す。

 

「そう、それ、聞きたかった。

 まさか、オレに人間と戦えとか言わないよな、先生?」

 

「ハハ、まさかデスヨ。

 幾つか理由があるのですが、まず一つとして――陽葵クンには、旗印になって頂きたいのです」

 

「旗印?」

 

 バールの言葉を陽葵が繰り返す。

 

「ハイ。

 魔王様がいなくなった今、魔族達は散り散りになってイマス。

 統率は乱れ、中には魔王様というタガが外れ、好き放題暴れだす者まで出る始末。

 今、ワタシ達には、上に立つ者の存在が必要なのデス」

 

「ふーん。

 でもオレ、人の上に立つとかそういうの全然やったことないけど大丈夫か?

 部活の部長すらやったこと無いんだけど」

 

 いきなり大それたことを言われたからか、心なし不安げな表情になる陽葵。

 

(……意外と責任感あるんだ)

 

 リアの中で少し評価が上がる。

 王様になってと言われたら、後先考えずに喜んで引き受けてしまうかと思ったのだ。

 バールもまた、そんな陽葵の反応に満足したようで、

 

「細かいサポートはワタシ達がいたしまス。

 陽葵クンは、なんとなくふんぞり返ってるだけでも大丈夫デスヨ?」

 

 最後は冗談めかした風に喋る。

 彼なりに、陽葵を安心させようとしているのだろう。

 

 ――と、ここでバールは表情を引き締める。

 

「……そして、もう一つの理由。

 こちらの方が重要なのですが――」

 

「うんうん」

 

「――勇者達の存在デス」

 

 バールの口調が苦々しいものに変わる。

 魔族にとって、勇者の話題は面白いものではない。

 

「勇者達もまた、魔王様の子供の存在――陽葵クンの存在に気づかれたのデス。

 そして彼らは、魔王様の子供を放置することを、良しとは考えていまセン」

 

 勇者からしてみれば、魔王の子供など危険分子以外の何物でもない。

 なんらかの処置を施したいと思うのが自然だろう。

 

「放っておけば、勇者達がアナタを召喚していたでショウ。

 そんなことになれば、ワタシ達は陽葵クンへ接触することすら困難を極めてしまいマス」

 

「だから、急いでオレを呼んだ?」

 

「そうなのデス。

 急ぎであったため、受け入れの準備が整っておらず……

 取り急ぎ、こちらのリアに陽葵クンの保護へ向かってもらった次第デ」

 

「へー……ってことはリア、オレが魔王の息子だったから親切にしてくれた、のか…?」

 

 陽葵が、おそるおそるリアの方をのぞき込みながら、そう聞いてくる。

 

「まあ、陽葵が魔王様の子供だっていうのを意識してなかったわけじゃないけど。

 あんたが例え魔王様となんの関係がなくても、ちゃんと助けたってば」

 

「そ、そっか。

 へへへ、ありがと」

 

 にっこり笑う陽葵。

 

「……ふ、ふぉおおお……相変わらず、お美シイ……」

 

 リアの耳に、隣からバールの不穏な呟きが聞こえた。

 咎めるような真似はしないが、とりあえず冷たい視線は送っておく。

 

「……ゴホンゴホン、それでですね、陽葵クン。

 早急にこの街を出て、ワタシ達の本拠地に来て頂きたいのデス。

 ウィンガストでは、いつ勇者が来るとも限らナイノデ」

 

 リアの視線に気付いたのか咳払いで誤魔化してから、陽葵へと提案するバール。

 

「うーん、まあ、先生がそう言うなら。

 荷物もまだそんな多くないから、移動するのもそんな大変じゃないかなぁ。

 ……黒田にはなんて説明しよう?

 あ、でもこの流れだと黒田も魔族だったりするのか?」

 

「…………」

 

 バールが押し黙った。

 それに気づき、陽葵が不思議そうな顔をする。

 

「……先生?」

 

「……陽葵クン、言い難いのですが――黒田誠一は、勇者側の人間デス」

 

「へ?」

 

「なので彼とは、二度と接触してはなりまセン」

 

「……ちょ、ちょっとちょっと!」

 

 黒田の話題になって、リアは思わず話に割り込んでしまった。

 

「クロダが勇者の関係者だなんて話、あたし全然聞いてないんだけど!?」

 

「おや、そうだったのデスカ?

 しかし、これは確かな情報なのデスヨ」

 

 バールはそう説明するが、リアにとってそれはまるで納得いくものではなかった。

 動揺を一切隠さず、彼女は叫んだ。

 

「そ、そんな!

 クロダが、あいつが、あんな、あんな変態が勇者の関係者だとか嘘でしょ!?」

 

「そ、そうだよ! 

 黒田みたいな変態野郎が勇者と関わり合いがあるなんて、そんなバカげたこと――!!」

 

 リアの言葉に、陽葵が続く。

 

「……アナタ方にとって黒田誠一とはどういう人物なのデスカ?」

 

 二人の意見の一致ぶりに、少し汗を垂らすバール。

 それ位、黒田と勇者という単語がかみ合わない代物なのだろう。

 

 

 「――いや、しかし本当のことなんじゃよ」

 

 

 場が騒がしくなってきたところで、3人の誰でもない声が聞こえてきた。

 

 

 

 第十三話③へ続く



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③ 鬼ごっこの始まり

 

 

「ジェラルドさん!」

「ギルド長?」

 

 リアと陽葵の声が重なる。

 そこには冒険者ギルドのギルド長、ジェラルド・ヘノヴェスが立っていた。

 

「ジェラルド……困りますヨ、こんな重要なことを部下に話していないトハ」

 

「いや、すまなんだ、バール殿」

 

 ジェラルドの姿を認めて、肩を竦めるバールと、彼へと頭を下げるジェラルド。

 

「えー、ギルド長も魔族だったのか?」

 

「ええ、その通りですじゃ。

 いや、魔王様の御子息と知りながら、今までの非礼――お詫びいたします」

 

 ジェラルドは、陽葵の方に向けても深々とお辞儀する。

 

「……ひょっとして、別にウィンガストからでなくってもオレって安全なんじゃ?」

 

 ギルドの長などという要職に魔族が入り込んでいる以上、ウィンガストも十分魔族の勢力下なのではないか……と陽葵は考えたのだろう。

 残念ながら、すぐにバールが否定してくる。

 

「そんなことはありまセンヨ?

 ギルド長の権限ではこの街の官憲にまで及びませんシ、冒険者を自由に動かせるわけでもないですカラ」

 

「世知辛い管理職といったところですのぅ」

 

 陽葵の抱いた素朴な疑問を否定するバールとジェラルド。

 ジェラルドの方は、ため息もついている。

 どうやらギルド長の立場とはそういうものらしい。

 

「もっと魔族を送り込もうにも、人間に変化できる魔族は数少ないデスカラネ」

 

 さらにバールが補足してきた。

 

「そ、そんなことよりジェラルドさん!

 今の話、本当に本当なの!?」

 

「うむ、連絡をしておらず、すまなかったのぅ、リア」

 

「ほ、本当の本当の本当に!?」

 

「疑り深いの、お主。

 本当に本当に本当なんじゃって。

 ……いや、儂もクロダ程の変態が勇者と通じているなどという話、何度も疑問を持ったが」

 

「……何者なんデスカ、黒田誠一とは……」

 

 リアとジェラルドのやり取りで、バールの疑問はさらに深まったらしい。

 

(……ジェラルドさんが言うなら間違いないか)

 

 ジェラルドの言質によって、リアはようやく話を信じることにした。

 

 彼は、リアの直属の上司にあたる。

 彼女が子供の頃から付き合いがあり、正直なところバールよりもずっと信頼できる人物だ。

 立場上はバールの方が上なので、表立っては言えないが。

 

「で、でも、クロダがそうだっとしても、そんなに警戒する必要もないんじゃない?

 あいつ、前にあたしを――」

 

「――魔族であるアナタを助けてくれたのでショウ?

 ええ、その話はワタシも聞き及んでいマス。

 だからこそ、今まで泳がせていたのデスガ……」

 

「つい先日な、クロダとエゼルミアが接触したという報告を受けたんじゃ」

 

「エゼルミアと!?」

 

 バンっとリアはテーブルをたたく。

 エゼルミアの名を聞けば、心境穏やかでいられない。

 

「……何者なんだ?

 その、エゼルミアって人」

 

 突然のリアの激高に驚きながらも、陽葵が質問する。

 まず口を開いたのはジェラルドだった。

 

「……うむ。

 一口に勇者といっても、魔族に対するスタンスは各々異なっておってな。

 もしクロダが、魔族にも穏健に対応しておるガルムあたりの使いであれば、手を組めるかとも思っとったんじゃが――」

 

「エゼルミアは筋金入りの魔族殲滅主義者。

 魔族であれば、たとえ無害な者であっても殺す、危険人物デス」

 

「あたしも、友達を何人も殺されてる。

 ……人間と関わってすらいない子も居たのに」

 

 3人が次々と話を繰り出す。

 陽葵はうーんと唸ってから、

 

「でも、黒田がそういう人と知り合いだってのはあんまりイメージ湧かないなぁ。

 そんな酷い奴じゃないと思うぜ? ……変態だけど」

 

「接触をしたというだけでエゼルミアの部下だと決めつけるのは短絡だとは儂も思うんじゃがのぅ」

 

「しかし、無視するには余りにもエゼルミアの名は危険すぎマス」

 

 黒田を弁護しようとするが、反応は芳しくない。

 それほど、エゼルミアは危険視されているのだ。

 

「リアはどう思う?

 本当に黒田はそのエゼルミアって勇者の命令で動いてたのかな?」

 

「……正直、あたしも半信半疑――というより、一割も信じられないけどね。

 でも、警戒を払うのはその一割でも十分な相手だと思う、エゼルミアは」

 

 リアとしても、黒田がそうだとはまず思えない。

 思えないが、万に一つの可能性も考慮せねばならないのだ。

 

「純粋な戦闘力で考えても、エゼルミアはキョウヤに次ぐと目されていマス。

 つまりは五勇者のナンバー2ですネ」

 

「冒険者が使用する全てのスキルを習得しているらしいからのぉ。

 滅茶苦茶な人物じゃの、改めて考えると」

 

 遠い目をして訥々と語る、ジェラルドとバール。

 彼らは、五勇者と直接戦ったこともあるはず。

 思うところがいろいろとあるのだろう。

 

「ぜ、全部のスキルってマジか。

 ……ていうか、そんな奴よりも強いキョウヤって何者なんだよ」

 

「化け物じゃ」

 

 陽葵の疑問にジェラルドが即答した。

 

「ワタシは実在すら疑っていますケドネ。

 誰も彼の顔を見たことがないのでショウ?」

 

「あれ、そうなの?」

 

 きょとんとした顔で、陽葵。

 

「うむ、戦場では顔まで覆う赫い甲冑を身に着けておってな。

 魔族の内で、奴の素顔を拝めた者はおらんのじゃよ」

 

「なので、入れ代わり立ち代わりで誰かが演じていたんじゃないかと思うんデスヨ。

 絶対的な強者を演出するために、盛った話を喧伝したとかネ」

 

「いやいや、バール殿。

 貴方は一度もキョウヤと会っていないからそう言えるんじゃよ

 ……まあ、その可能性もあることを否定はしませんが」

 

「ワタシからすれば、魔王様とすらたった独りで戦えてしまう人間の存在の方が信じられませんヨ。

 地球への滞在は長かったですガ、そんな素質を持つ人間、一度も見たことありませんデシタシ」

 

 バールとジェラルドは、そのままキョウヤが実在するかどうかを議論しだしてしまう。

 

(――ああ、そっか。

 バールはトーキョーに行ってたから、五勇者全員と戦ったことは無いんだ)

 

 二人の会話を聞きつつ、リアは割とどうでもいいことを得心した。

 さておき、陽葵を放って議論を展開する彼らに、水を差すことにする。

 

「あのさ、二人とも。

 結局のところ、これからどうするの?」

 

「お、おおっと、スイマセン、ワタシとしたことが。

 そういうわけですので、陽葵クンには急いでこの街から脱出して欲しいのデス。

 黒田誠一は置いておくにしても、ウィンガストにエゼルミアが姿を現したのは事実ですからネ」

 

「儂からもお願いしたく。

 黒田の背後関係はこれから洗い出すつもりじゃからの。

 何か判明したら、すぐにご報告しましょう」

 

 二人の魔族は、慌てて話を戻した。

 陽葵は腕を組んで悩みだす。

 

「……リアはどうするんだ?

 このまま、ウィンガストに残るの?」

 

「あたしはヒナタについていくよ。

 あんたがどうしてもウィンガストに残りたいっていうなら残るし、この街を出るっていうならあたしも出るから」

 

「……そっか」

 

 それで、決心ついたようだ。

 

「分かった、オレ、先生達のとこに行くよ」

 

 陽葵は、そう宣言した。

 

 

 

 

 時が経過して、夜。

 話し合いが終わったところで、すでに夕暮れ時だったため、今日はリアの家ではなくこの喫茶店(偽装)で宿泊することとなった。

 ジェラルドは、ギルド長の仕事があるとのことで、その日は帰ったが。

 

(――さて、と)

 

 無事に事が運び、リアは肩の荷が下りた気分――には、まだ遠かった。

 むしろ、彼女の仕事はこれからと言える。

 

(ウィンガストから離れるとジェラルドさんを頼れないし。

 早めに確認できるといいんだけど)

 

 自分の姿を隠す魔業(イービル・スキル)――魔族におけるスキルである――を使用しながら、喫茶店の中を独り散策するリア。

 なお、やはり衝撃的は話を聞かされ気疲れしていたのか、陽葵は既に就寝している。

 

 彼女に与えられた任務は、陽葵の保護以外にもう一つある。

 ……バールの真意を確認すること、だ。

 

(……昼間語ったことが、あの人の本心であればいいんだけど)

 

 そう考えながら、リアはジェラルドが別れ際に語った内容を思い出す。

 

 『良いか、リア。

  バール殿の行動から目を離すな。

  あの男は元々、人との戦争に積極的な御仁じゃったからの』

 

 魔族は現在、大きく分けて2つの勢力に分けられている。

 もう人との戦いを止めようと考えている停戦派と、戦いを続けようと画策している継戦派だ。

 無論、リアもジェラルドも停戦派に属する。

 バールは停戦派としての立場を表明しているものの、昔の彼を考えると不自然な態度だという。

 

 『トーキョーで長く暮らしたせいで気が変わった……と言っておったが、どうもきな臭いのじゃ。

  今日、バール殿が連れてきた部下を見てものぅ』

 

 ジェラルドの言うところによると、バールは30人近くの魔族を引き連れてきたらしい。

 この建物の中にも、実は10人を超える魔族が待機していたとのこと。

 魔王がいない今、それだけの魔族を統率できること、ウィンガストへそんな大人数の魔族が入れるよう手引きしたことは、素直に素晴らしい手腕だと思う。

 ただ、その部下達が揃いも揃って過去に問題行動――他の種族に対する戦闘行動――を起こしてきた奴らばかりだそうだ。

 精鋭を揃えたかったから、とバールは言っていたが、胡散臭さは拭えない。

 

 『儂個人の考えとしては、ヒナタ様には人と魔族とのイザコザなどとは関係ない、平穏に暮らしをして欲しいと思っとる。

  まあ、勇者のことを考えれば難しいことであるじゃろうがの。

  ただ、せめて彼の考えは最大限尊重したい。

  もしバール殿がヒナタ様の意見を蔑ろにするようなことがあれば――』

 

(――連れ出して、ジェラルドさんの元に届ける、と)

 

 最も危惧されるのは、陽葵を利用して魔族を統率し、人との戦争を再度立ち上げることだ。

 そんなことが起きないよう、バールには常に注意を払わねばならない。

 

(そんなわけで、あたしは早速調査をしているわけね)

 

 調査と言っても情報源に何か宛てがあるわけでもない。

 なので、一先ず隠れながら他の魔族達の会話を盗聴することにした。

 

(こそこそ動くのは性に合わないんだけどなぁ)

 

 とはいえ、真正面から聞いたところではぐらかされるのがオチだろう。

 まずは地道に足で情報を稼ぐしかないのだ。

 

(……それにしても、結構広いのね、ここ)

 

 外見はただのボロい喫茶店だったというのに、思いのほか大きい建物だった模様。

 時折魔族を見つけても、雑談ばかりで大した話はしていなかった。

 

(……まあ、いきなり“当たり”を引けるわけないか)

 

 情報集めには忍耐が必要なのだ。

 ――リアにその適性があるかどうかは別として。

 

(クロダは得意かもね、こういうの)

 

 なんとなく、あの青年のことを想ってみる。

 もう、二度と会えないかもしれない、彼女の想い人。

 

(本当にあいつが勇者に関わりがある人間だとしたら、また会うかもしれないけど)

 

 そうなった場合、今と同じ関係で付き合うことはできないだろう。

 ……考えて、少し気分が落ち込んでしまう。

 

(ええいっ! 我ながら女々しいってば!

 過ぎたこと考えても仕方ないでしょ!)

 

 逆に考えれば、もしバールの叛意が露見し、陽葵がジェラルドの保護下へ入ることになれば、もう少し今のままでいられる可能性もある。

 ――少しだけ、やる気が漲ってきた。

 

 しばし進むと、また話声が聞こえる。

 

(……これって、バールの声?)

 

 慎重に、声が聞こえた方へと忍び寄る。

 

(――この壁の向こうにある部屋、みたいね)

 

 覗き込むのに適した窓は無いか周囲を確認するが、その部屋にはドアが一つあるだけのようだ。

 仕方なく、魔業と聴覚を強化することで、壁越しに盗み聞きすることにする。

 なるべく見つかりにくそうな廊下の角に移動しつつ、部屋の中へ神経を集中した。

 

 「納得いきません、バール様」

 

 まず聞こえたのは、そんな声だった。

 バールのものではない。

 口調からして、彼の部下の一人だろう。

 

 「陽葵クンのことについてデスカ?」

 

 「ええ。

  あの魔王の息子には、大した力も見受けられません。

  性格も、どうにも覇気がありませんし。

  ――まあ、外見は完璧ですが」

 

 どうやら部下の魔族は、陽葵が気にくわないらしい。

 魔族は基本的に能力主義。

 強い者が偉く、弱いものは見下される。

 まだ力の弱い陽葵に従えと言われても、反発する者がでるのも道理だろう。

 ――何やら変な一言が最後についていたが。

 

 「ふむ。

  これから彼が我々を纏め上げることができるか、心配ということデスネ」

 

 「それもですし、あんな奴を王として仰がなければならないのかという不満もあります。

  そう思う魔族は多いことでしょう。

  ――いや、魔王様に瓜二つな外見はもう本当に完璧なんですけど」

 

 やはり最後に変な一言を付け加えながら、部下は話を続ける。

 

 「……では聞きまショウ。

  パーフェクトな容姿を持つものの、能力が足りていない者と、能力は十全に備える醜男と。

  アナタはどちらの仕えたいでデスカ?」

 

 「考えるまでもありません、ヒナタ様です。

  もうあのお姿だけでご飯10杯はいけます」

 

(考えるまでもないのかい!)

 

 リアは内心で思い切りつっこむ。

 

 「ならば特に問題はナイ、そうではありまセンカ?」

 

 「確かに自分はヒナタ様のあの姿を毎日見れるだけで幸せになれます。

  しかし、そう考える魔族ばかりではないでしょう、ということです。

  ――そもそもヒナタ様がどれほど美しかろうと、自分とナニかあるわけでもないですし」

 

 「フゥム。

  陽葵クンは男の子ですヨ?」

 

 「そこは別に関係ないでしょう」

 

(関係ないの!?)

 

 何の迷いもなく断言した言葉に、リアは驚愕した。

 部下魔族、実に節操のない輩のようだ。

 

 「では、こういうのはどうでス?」

 

 「……こ、これは!?」

 

 「地球の技術で、『写真』と呼ばれるものデス」

 

 「お、おお、まるで生きているかのようなヒナタ様の姿が!!」

 

 「陽葵クンとの生活で、撮りためていたものデス。

  彼に従う者には皆、これが配られるとしタラ?」

 

(……東京で何やってきたのよ、あの人)

 

 バール、思った以上にダメな奴なのかもしれない。

 

 「うぉおおおっ!!

  い、いやしかしこれだけでもまだ――!!」

 

 「フッフッフ。

  貢献が多かった者にはこちらの写真も贈呈しまスヨ?」

 

 「それは――!!

  ヒナタ様の、あられもない姿が――!!?」

 

(―――こ、声でかーっ!?

 耳がーー!!?)

 

 部下の絶叫に、リアの耳にキーンとした痛みが走った。

 魔業で聴覚を強化していたのが裏目に出る。

 いやまさかこんな会話をしだすとは思いもしなかったわけで。

 

 「おっと、こちらはまだアナタにあげることはできまセン。

  言ったでショウ、貢献した者だけの特典だと」

 

 「精神誠意お仕えいたします!!」

 

 部下が感極まった声でそう宣誓した。

 ……いったい、どんな写真を見せられたのか。

 

 それはともかく。

 

(……バールは、本心からヒナタを大切に思ってるってことかしら?

 いや、これはこれで危ない気もするけど)

 

 主に陽葵の貞操的な意味合いにおいて。

 しかし、貞操の危機を考慮しないことにすれば、陽葵の身柄をバールに任せるのはそう悪い選択ではないのかもしれない。

 

 ――そう思った矢先だった。

 

 「まあ、そもそもアナタの心配自体が杞憂となるデショウ。

  陽葵クンが魔王様の後継者として目覚めれば、ネ」

 

 「……ヒナタ様に仕掛けられた封印の件ですか」

 

 彼らが話を続ける。

 

(――むむ)

 

 いきなり革新に近い話題へと移行したため、リアは心を引き締めなおす。

 

 「しかし、魔王様の力を抑え込むほどの封印。

  いったいどういった代物なのですか?」

 

 「ええ、陽葵クンに仕掛けられた封印とはネ――陽葵クン自身なのですヨ」

 

 「――は?」

 

(……どういうこと?)

 

 部下とリアが同時に疑問符を浮かべる。

 幸いなことに、バールは説明を続けた。

 

 「魔王様の後継者としての力を抑制している仕掛けとは、陽葵クンの人格そのものだということデス」

 

 「な、なんですと!

  ということは、ヒナタ様の封印を解くには――」

 

 「ええ、陽葵クンの人格を消去する必要がありマス」

 

(――え?)

 

 唐突な話の展開に、理解が一瞬遅れた。

 

 「そ、それは確かなことなのでしょうか?」

 

 「ええ――魔王様から直接賜ったお話デス。

  間違いはありまセン。

  彼が消えることで、魔王様の息子に相応しい力と気風を備えた人格が目覚める――そういうことデス」

 

 「……よろしいのですか?」

 

 「仕方のないことでショウ。

  ワタシとしても陽葵クンの人格に愛着が無いわけでもありまセンガ――来る勇者との戦いを考えれば、大事の前の小事といったところデスヨ」

 

(……こ、こいつ)

 

 結局のところ、バールが欲しいのは魔王の力を継いだ存在である、ということか。

 そのためには、陽葵がどうなろうとも問題にはならない、と。

 

 「ところデ――」

 

 突如、バールの声色が変わった。

 少しの間を置いてから、

 

 「――そこにいるのは、誰でスカ?」

 

 “部屋の外”に対して、そう呼びかけたのだ。

 

(―――しまった!!)

 

 リアの存在に気付かれていたのか。

 

(……ど、どうしよう?

 逃げる? それとも――)

 

 まだバールにリアの本心は知られていない。

 今なら、彼に同調するフリをすれば見逃されるのではないだろうか。

 

 そうこう考えているうちに、足音がドアに近づいていく。

 そしてドアが開かれて――

 

「……先生」

 

「――陽葵クン」

 

(―――ええ!?)

 

 ……いつからそこに居たのか。

 ドアの前には、リアが気づかぬ内に、陽葵が立っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人の間に沈黙が降りる。

 

(――な、なんでヒナタがここに!?)

 

 ――幸いなことに、バールや陽葵の位置からリアの居る場所は死角になっていた。

 おかげで、彼らには気づかれていない。

 

「もうお休みになっていると思ったのデスガネ。

 ……いつから聞いていたのデスカ?」

 

「オレの封印のこと、先生が話しだしてから、だよ」

 

「そうでしタカ」

 

 つまり陽葵の容姿をネタに盛り上がっていたところは聞いていなかったことになる。

 ……そんなことを気にしている場合でも無いが。

 

「……は、ははは、先生、冗談、だよな?

 オレを消すとかそんな……なぁ?」

 

「……いえ。

 冗談ではないのデスヨ、陽葵クン」

 

 笑って――無理やりに笑って、先程聞いた話を流そうとする陽葵。

 しかし、バールは何故かそれを否定した。

 

「陽葵クン、ワタシはアナタになるべく誠実にお仕えしようと考えてきマシタ。

 これまでも、そしてこれからもネ。

 だから、ここで嘘は言いまセン。

 ――陽葵クン、アナタは封印を解くための犠牲になって貰いマス」

 

「――え、あ」

 

 バールの迫力に圧されて、陽葵は二の句を継げなくなる。

 

「でもネ、安心して下さい。

 ワタシは陽葵クンを決して蔑ろになどしまセン。

 アナタの人格を消去する準備が整うまで、まだ時間がかかりマス。

 それまでの間、アナタに最高の暮らしを保証しまショウ」

 

「……先生」

 

 呆然と陽葵が呟いた。

 気にせず、バールは続ける。

 

「世にある全ての贅を、快楽を味わって頂きマス。

 陽葵クンの望むものをすべて取り揃えてみせまショウ。

 あのリアもお気に入りのようでしタネ?

 彼女のことも好きになさって構わないのデスヨ。

 もちろん、他にも綺麗どころをご用意いたしまショウ」

 

「……先生!」

 

 堪えきれず、陽葵が叫んだ。

 

「ふざけんなよ!!

 オレは、そんなこと望んじゃいねぇ!!」

 

「……そうデスカ」

 

 バールは残念そうに肩を竦める。

 だがそれは勿論、彼が陽葵を諦めたことを意味するわけではない。

 

「どちらにせよ、アナタの処遇は変わりまセン。

 ワタシとしては最期に少しでも幸せな生活を送って頂きたいのデスガ――拒むというのであれば、それもいいデショウ。

 ……陽葵クンを拘束しなさい」

 

 最期の台詞は、部下に命じたのだろう。

 部屋にいる部下の魔族が、陽葵へと近づく。

 ……正直に事情を話したのは、陽葵が抵抗しても簡単に捻じ伏せられるという算段もあったのだろう。

 

「せ、先生!」

 

「――心変わりしたのであれば、いつでも言って下さいネ」

 

 陽葵の声へ、バールは非情に答えた。

 ……部下が陽葵の腕を掴む。

 

 リアは――

 

(――あー、もう!!)

 

 魔族の姿に戻りつつ、その現場に飛び出していった。

 そして飛び出す勢いそのままに、部下の魔族を全力で殴り飛ばす。

 

「り、リア!!?」

 

「――アナタも聞いていましたカ」

 

 二人の声が重なる。

 ……幸い、部下は今の一撃で気絶してくれたようだ。

 

 リアは陽葵の体を抱きかかえ、

 

「――逃げるよ、ヒナタ!」

 

「リア――助けて、くれるのか?」

 

「当たり前でしょ!!」

 

 そこから離脱しようとするものの、そうは問屋が卸さなかった。

 バールの声が響く。

 

「逃がしまセンヨ? <刃網(ブレードネット)>!」

 

 バールの手から魔力で編まれた網が放たれる。

 

「うわっ!?」

「くっ!!」

 

 “網”は、リアと陽葵の身体に絡みつく。

 その場に拘束される二人。

 

「……動かない方がいいデスヨ?

 動けば体がズタズタされますカラネ」

 

 バールからの警告。

 

 彼の言う通り、<刃網>の魔業で作られた網は、凄まじい切れ味を誇る。

 鋼鉄の鎧すらもやすやすと切断する程だ。

 下手に動こうとすれば――いや、身じろぎするだけでも、“網”は絡め取らった対象を切り刻む。

 ……だが。

 

「――舐めんなっての!!」

 

 リアは力づくで網を剥ぎ取った。

 今の彼女の身体は魔力によって強化されているものの――それでも“網”によってあちこちが刻まれ、血が流れ出ていく。

 激痛が全身を駆け巡るが、それを無視してリアは身体を動かした。

 

「り、リア、無茶だって!」

 

「うっさい!!」

 

 心配する陽葵を一喝する。

 完全に“網”を取り払った彼女は、改めて陽葵を抱えて走り出す。

 

「――止めておいた方がいいデスヨ?

 お互いのためにならナイ」

 

 後ろからバールの声が聞こえるが、振り返らない。

 目の前に迫る壁を、魔力を込めた拳で破壊し――リアは、『喫茶店』から脱出したのだった。

 

(あー、やっちゃった……)

 

 心には若干の後悔。

 バールは、すぐにでも追手を仕掛けてくるだろう。

 捕まればどうなるか――想像したくもない。

 

(――もう少し機を見るべきだったかなぁ。

 でも陽葵の身柄を押さえられたら、接触するのも難しくなったかもしれないし……)

 

 頭の中を様々な思考が巡る。

 しかし、何はともあれ。

 

(……とにかく、ジェラルドさんのところに)

 

 彼のもとに辿り着くことができれば、陽葵を保護してくれるはずだ。

 ……体中にできた切り傷の痛みを堪えながら、リアは夜のウィンガストを駆け出した。

 

 

 ――こうして、ウィンガストを舞台に命懸けの『鬼ごっこ』が始まったのだった。

 

 

 

 第十三話④へ続く



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④ 2人の協力者

 

 

 夜の街を2つの影が走る。

 『喫茶店』を抜け出たリアと陽葵だ。

 

「はぁっ…はぁっ…ぜぇっ…ぜぇっ…はぁっ…」

 

 しかし、影の一つは足元がおぼつかない。

 時折、ふらふらと体が揺れる。

 

「だ、大丈夫か、リア…?」

 

「な、なんとか……はぁっ…はぁっ…」

 

 ――見かねた陽葵が足を止め、リアを気遣う。

 

 バールの<刃網>を突破したリアだったが、その代償は大きかった。

 全身にできた傷自体は魔業(イービル・スキル)で治療したものの――体力の消耗は激しい。

 正直なところ、立っているのもやっとな状態である。

 

(――泣き言、言ってられる状況じゃないんだけど)

 

 かといって無いものねだりも難しい。

 立ち止まって息を整えながら、リアは今後の方策を考える。

 

 ……だが、考えもまとまらないうちに、彼女はある気配に気づいた。

 

「……隠れてっ」

 

「――!」

 

 陽葵とともに、路地裏へ逃げ込む。

 そして、魔力を振り絞り、気配隠しの<結界>を張った。

 

 ……程なくして、近くを2人の魔族が通る。

 バールの放った追手だろう。

 

「…………」

 

「…………」

 

 息を潜めるリアと陽葵。

 結界の中であるため、その行為に大した意味はないのだが――ここで物音を立てられる度胸も余裕も、彼らには無かった。

 

 追手の魔族達は周囲を丹念に見回しながら――おそらく、探知強化系のスキルも使用しているのだろう――通りを歩いている。

 リア達が隠れる路地の近くも通り……そのまま、通り過ぎていった。

 

 彼女は大きく息を吐く。

 

「……行ったみたいね」

 

 魔族の姿が遠くへ消えるのを見届けてから、結界を解く。

 一先ずの危機は去ったようだ。

 

 陽葵が、小さな声でリアに尋ねてくる。

 

「……なぁ、一応聞いとくけど、あいつらを倒したりとかは――」

 

「――できないから諦めなさい。

 あたしが万全の状態なら何人かは相手できるだろうけど……全員なんて無謀もいいとこよ。

 ……30人は来てるらしいし」

 

「さ、30って……

 ハハハ、序盤のイベントのはずなのにハードルが高すぎる…」

 

 自分を追う魔族の人数を知り、空笑いする陽葵。

 ……最後に何かよくわからないことをぶつぶつ言っていたが。

 

「そんだけ、ヒナタが重要だってこと。

 ……気合い入れてかないと、逃げ切れないよ」

 

「――おうっ」

 

 リアの言葉に陽葵は力強く頷いた。

 彼女もまた、陽葵を安心させるように微笑んだ。

 

(――とは言ったものの、辛いなぁ……)

 

 顔には出さないように、彼女は心の中で弱音を吐く。

 

 状況はどう贔屓目に見ても芳しくない。

 追手達から身を隠すため、既に数回<結界>張っている。

<刃網>によりただでさえ消耗していた体力は、その度に消費されていった。

 この調子では、ジェラルドのもとへ辿り着く前に力尽きてしまう。

 ……それより先に、バールの配下に捕えられるだろうが。

 

(――なんとかして回復しないと)

 

 それで事態が打開できるわけでもないが、このままでは逃げ回ることすらままならない。

 ポーションでもなんでも、回復アイテムを使うのが一番手っ取り早いのだが……

 

(この辺りで、そういうのがありそうな場所かぁ)

 

 実は、心当たりがある。

 “あそこ”は確か、安物とはいえポーションを大量に備蓄していたはずだ。

 ただ、その場所へ陽葵と行くのは、リアの中で若干以上の躊躇があった。

 しかし――

 

(――贅沢言える立場じゃない、よね)

 

 心の中の不安は拭えないが、彼女はそこへ――『黒の焔亭』へと歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 ……残念なことに、黒の焔亭はまだ営業中だった。

 

(誰もいなければ、適当に侵入しちゃえたのに)

 

 犯罪ではあるが、この場合背に腹は変えられない――と思っていたのだが。

 人が残っている以上、その手は使えない。

 これ以上厄介事を増やすのは余りに無謀だ。

 

 そんなわけで、リアは正面から黒の焔亭へ入ることにした。

 

「ここで休憩するのか?

 想像してたよりこじんまりしたお店だなぁ。

 確か、リアが働いてるお店だったよね?」

 

 お店の外観を見て、陽葵が感想を言う。

 

「……まあね」

 

 対してリアは歯切れの悪い返事。

 自分の働く店をこじんまりとか言われたことに腹が立ったわけではなく、単純にこれから会う人物に対しての危惧が心を占めているからだ。

 

 正直、ゲルマンに陽葵を見せるのはかなり心配である。

 奴の魔の手が陽葵にも伸びかねない。

 ましてや、もしセドリックまで居ようものなら……最悪ともいえる。

 

(……でも、もしクロダが居てくれたら)

 

『彼が今どうなっているのか』、を大雑把にではあるがリアは知らされていた。

 だから、黒田がここにいるはずはないと理解している。

 理解しているが――それでもなお期待してしまうのだ。

 この扉の先で、いつものように彼が食事をしていてくれれば――と。

 

 ……しかして、彼女の望みは叶えられなかった。

 

(――仕方ないか。

 うん、仕方ない)

 

 予想通り、黒田の姿はここに無い。

 店内にはホールの片付けをしている馴染みのウェイトレスの姿だけ。

 店長は料理場の掃除でもしているのだろう。

 

 僅かな落胆を覚えながら、リアと、少し遅れて陽葵は黒の焔亭へと足を踏み入れる。

 

「あ、あの、こんばん――」

 

 リアが挨拶をするよりも早く。

 ウェイトレスが彼女の姿を見て悲鳴を上げた。

 

「て、店長ーー!!

 魔族、魔族が!!?」

 

(あ、やっば、やっちゃった!!)

 

 ここに来て、リアは自分がまだ魔族の姿のままであったことに気付く。

 ウィンガストは魔族を取り締まる法こそ無いものの、別に魔族を快く受け入れているわけでもない。

 だからこそ、いつもは波風立たぬように人の姿をとっていたのだが……逃げることに注力しすぎて、そのことを忘れてしまっていた。

 

「ち、違うのシエラ、あたしはね――」

 

「ひ、ひぃいっ!?」

 

 シエラ――黒髪のボブカットがよく似合う同僚の名前を呼んでみるも、かえって彼女を怯えさせる結果となる。

 

(――ま、まずい、あんまり騒がれると!)

 

 バールの部下達に気付かれてしまうかもしれない。

 力づくで黙らせるか――とリアが考えた矢先、厨房からどたどたと足音が聞こえてきた。

 

「どうしたぁ!

 何があったぁ!?」

 

 筋肉隆々の大男――ゲルマン店長の登場である。

 シエラの悲鳴を聞いたためか、手には一振りの長剣が握られていた。

 

(あああああ、事態がどんどん悪化してるー!?)

 

 ちなみに陽葵は、ウェイトレスの反応に面食らったのか、或いは状況が理解できていないのか、横で不思議そうにきょろきょろ視線を泳がしていた。。

 まあ、今彼にしゃしゃり出られても状況がさらに混乱しそうなので、放っておくことにする。

 

「店長!

 あの人、あの人です!!」

 

「おおっ!

 てめぇ、うちの従業員に手ぇ出すとはいい度胸じゃねぇか――」

 

(いや別に手なんか出してないんだけど!?)

 

 ウェイトレスはびしっとリアを指さし、店長は今にも彼女に斬りかからんばかりだった。

 

(こうなったらもうこの二人をまとめてぶっ飛ばすしか――!)

 

 リアが危険な覚悟を決める。

 ……しかし、店長はリアの顔をじっと眺めるばかりで、一向に動こうとしなかった。

 そのまま、ぽつりと呟く。

 

「……お前、ひょっとして、リアか?」

 

「――え?」

 

 まさかの正体バレに、リアの方が拍子抜けしてしまった。

 

「わ、分かるの、あんた」

 

「分からいでか。

 うちで働く奴の顔を見間違えるほど、俺ぁ耄碌しちゃいねぇっつーの」

 

 店長がにやりと笑う。

 

「……まあ、魔族になっても顔とかそんな変わんないし、ぶっちゃけ仮装レベルではあるよな」

 

 ぼそっと陽葵がつっこみを入れてくるが、取り扱ってやらない。

 ……あくまで人間の格好になるのが主目的であって、変装するためにやってるわけではないのだ。

 だいたい、こんな変化でもまるで正体に気付かない奴(・・・・・・・・・)もいたわけだし。

 

「んで、どうしたってんだリア。

 こんな夜遅くに、そんななりで、しかも男まで連れてよ?

 駆け落ちか?」

 

「そんなわけないでしょ!」

 

 と、怒鳴ってから、ふと気づく。

 

「……あれ?

 店長、ヒナタのこと、今、男って?」

 

「ん? 男じゃねぇのか、こいつ?」

 

「いや、男なんだけどさ。

 見ただけで、どうして…?」

 

「どうしても何も、性別ぐらいすぐ分かるだろ」

 

 なに言ってるんだこいつ、という目でリアを見るゲルマン。

 彼は、本気で一目見て陽葵の性別が分かったらしい。

 

(……へ、変な特技持ってるなぁ、こいつ)

 

 何の役に立つのか見当もつかないし、本人も自覚がないようだが。

 

「――ん? ちょっと待て。

 ヒナタ……ヒナタ?

 お前、クロダが教育係になったっつう、あのヒナタか!」

 

 店長が陽葵に詰め寄る。

 その勢いにたじろいでしまう陽葵。

 

「お、おう、たぶんその陽葵だけど。

 なに、おっさん、オレのこと知ってんの?」

 

「クロダの奴からいろいろ聞いてるぜぇ?

 なかなか苦労してるみてぇだな!

 <勇者>になっちまったりとか!」

 

「うっ!?」

 

 痛いところを突かれたらしく、陽葵はうめき声を出す。

 その様子を見て店長は豪快に笑い――そして表情を引き締めた。

 

「……さて、冗談はこのくらいにして、だ」

 

 真剣な顔をリアに向けるゲルマン店長。

 いつもはまず見せることのない表情だった。

 

「リア、そろそろ本題に入んな。

 俺に何か頼み事があって来たんだろう?」

 

「……!

 あんた、こっちの事情を…?」

 

 突然切り出された話題に、心臓が跳ねる。

 だが店長は肩を竦め、

 

「まさか。

 俺は何も知らねぇ。

 ただまあ、そいつがどの程度切羽詰まってんのかは見りゃあ分かるさ。

 そん位の修羅場はくぐってきたからな」

 

 どこか遠いところを見るような眼で語る。

 ――そういえば、店長は元々傭兵をしていたことをリアは思い出した。

 

「……追われてんだな?」

 

「――うん」

 

 ずばり、こちらの状況を言い当ててくるゲルマン。

 どう答えたものか少し悩んだものの、リアは正直に頷いた。

 

「誰に?」

 

「それは……ごめん、言えない」

 

 流石にそのことを口にすると、ゲルマンにも――下手すれば黒の焔亭の関係者にも危害が及びかねない。

 リアにそれを許容することはできなかった。

 

 店長は気にせず話を続ける。

 

「そうか。

 いや、別に無理して説明する必要はねぇさ。

 ……で、どうにかできる算段はついてんのか?」

 

「……ギルド長に匿ってもらおうと思ってる」

 

「……ツテはあるんだろうな?」

 

「うん」

 

 細かいことは聞いてこず、ただ端的に質問をしてくれる店長。

 正直、ありがたかった。

 

「それなら大丈夫か。

 で、俺は何をすりゃいい?」

 

「い、いいの?

 事情、全然説明してないのに」

 

 余りにスムーズに話が進むので、逆に心配になってしまう。

 リアの心境をくみ取ったのか、窘めるような口調で店長が話す。

 

「馬鹿野郎。

 お前、今はそんなこと言ってられる状況じゃねぇんだろ?

 自分じゃわからねぇかもしれないがな、大分余裕ねぇ顔してるぜ。

 ……せっかく人が親切にしてやろうってんだ、素直に受け取りな。

 “困ったときはお互い様”ってな」

 

 いつか、誰か(クロダ)から贈られたのと同じ台詞で締める店長。

 それを聞いて、リアの心からもやもやが晴れていく。

 

(……ああ、そっか。

 だからあたし、ヒナタを見捨てられなかったんだ)

 

『困ったときはお互い様です』

 

『それなら今度貴女が困った人を見かけた時、助けてあげて下さい』

 

 “彼”の言葉は、自分で思っていた以上に彼女の心へ刻まれていたようだ。

 リアはそんな自分の有り様に苦笑しながら、店長へと答えた。

 

「……この店のポーションが欲しいの。

 できれば、ありったけ」

 

「そうか、分かった」

 

 ゲルマン店長からの返事は、たった一言。

 ただ、彼女の頼みを了承するだけだった。

 

「シエラ、倉庫にあるやつ、取ってきちゃあくれねぇか」

 

 隣にいるウェイトレスに指示する店長だった――が。

 

「……できません」

 

 彼女は、困ったように眉をひそめた。

 その言葉に店長も怪訝な顔をする。

 

「あ?

 どういうことだ?

 まさかお前、リアのことを信用できねぇってんじゃ……」

 

「いえ、そうではなくてですね。

 ポーションは今、在庫を切らしているんです。

 この前、店長がリアさんにのされたときに全部使っちゃったじゃないですか」

 

「……あー」

 

 頭に手をやり、呆然と声を出す店長。

 リアへと振り返り、頭を下げてきた。

 

「……すまん」

 

「いや、こっちも、なんかごめん」

 

 こんなところで普段の行いのしっぺ返し(?)がくるとは――

 いや、やったことに一切の後悔はないが。

 

「でもどうすんだ、リア。

 他にアイテムが補給できそうなとこ、あるかな?」

 

 陽葵の言う通り、何とかしてリアを回復させなければ、ニッチもサッチも行かなくなる。

 何か手はないかとリアが悩みだしたところで――

 

「一応、私が携帯している分なら渡せるよ?」

 

 ――救いの手が差し伸べられた。

 

「セドリック!?

 なんだ、まだ帰ってなかったのか、おめぇ」

 

「いや、ちょっとトイレにね?

 ……話は聞こえていたんだが、出るに出れなくてねぇ」

 

 そこには壮年の男――セドリックが立っていた。

 今まで姿を見せていなかったが、彼もまた店内にいたらしい。

 

「……そういえば、ジェーンの姿も見かけねぇな?」

 

「んん?

 疲れて休憩してるんじゃないかね、はっはっは」

 

 店長の言葉へ、実にわざとらしい笑みを受けべるセドリック。

 

(……こ、こいつ)

 

 どうやらこの男、他のウェイトレスとよろしくやってる最中だったようだ。。

 ……こんな奴を頼って大丈夫なのかとかなり不安を感じるのだが。

 

「……ま、まあいいや。

 ポーション、出してよ」

 

 四の五の言ってる場合ではないことは再三確認しているため、セドリックの言葉に甘えることにした。

 リアの台詞を聞いて、セドリックは懐からポーションを取り出す。

 それは――

 

「――ってあんた、これ!」

 

「いやほら、体力が回復するのは間違いないから!」

 

 いつぞや、セドリックが自分の精力を回復するのに使っていたポーションだった。

 

(こ、これを飲めと……)

 

 リアにとって嫌な思い出しかないアイテムなのだが……まあ逆に言えば、効果は折り紙付きということでもあるか。

 どうにか思考をポジティブに持ち直し、渡されたポーションを一気に飲み干す。

 

「どうかね?

 流石に一本では完全な治癒にならんかもしれないが」

 

「……うん。

 多少はマシになったかな。

 全快には程遠いけど」

 

 そもそも、今のリアを万全にするためには、かなり効果の高い代物でない限り、大量のポーションが必要となる。

 単純に、魔族であるリアの体力が、普通の人間に比べて莫大な量であるからだ。

 黒の焔亭に本来保管してあるポーションの在庫をすべて使い切って、ようやく全回復するかどうか、といったところ。

 

 ただ、セドリックのポーションはかなり質の良いものだったようで、店売りしている安いポーションよりかは余程体力が戻った。

 

「……走りまわるだけならなんとかなる、かも」

 

「それは良かった」

 

 ほっと胸を撫で下ろすセドリック。

 彼は彼で、一応リアのことを心配してくれているらしい。

 奴にも色々と思うところはあるが、今は感謝をすべきだろう。

 

「セドリック、ありが――」

 

「ところで君がヒナタ君かい?

 いや、クロダ君から話は伺っていたがすごい美少年だね。

 どうかね、今度私のところでちょっとしたアルバイトを――ぐはぁっ!?」

 

 リアのお礼そっちのけで、陽葵へと顔をぐいぐい近づけるセドリックを、とりあえず鉄拳制裁しておいた。

 

「な、なんなんだ、このおっさん?」

 

「基本的に悪いおっさんだからあんまし近づかねぇ方がいいぜぇ、ヒナタ。

 ……たくっ、男に粉かけようとか本気で何考えてんだか」

 

 突如セドリックに距離を詰められて驚く陽葵と、そんな彼を庇うようにして立つ店長。

 ゲルマン店長の言うことは全くの正論なのだが、彼に言われるとそれはそれで複雑である。

 

「あー、ところでよぉ、リア。

 お前を追ってる連中ってのは――」

 

 何の気なしに喋りかけてくる店長。

 

「――あちらさんかい?」

 

「!!」

 

 言葉と同時に、リアは入り口へ振り返った。

 

(……見つけられちゃったか)

 

 ギリッと奥歯を噛みしめるリア。

 ――扉の前には、一人の魔族がいた。

 

「気配は消していたつもりだったのだがな。

 気付かれたか」

 

 魔族が答える。

 

「ひっ!?」

 

 これはシエラの悲鳴。

 一般人が魔族を立て続けに目にすれば、怯えもする。

 横を見れば、陽葵もまた緊張に体が固まってしまっていた。

 

「悪いなぁ、お客さん。

 もう店じまいなんだ。

 また明日来ちゃくれねぇか?」

 

 そんな中、一切物おじせずに魔族達に話しかける店長。

 言葉とは裏腹に、表情は厳しいものへと変わっていたが。

 

「この店に用はない。

 用があるのは、そこの2人だけだ」

 

「おお、そうかい。

 だがよ、こいつらはうちの従業員でなぁ。

 これから店の片付けをしなくちゃなんねぇんだ。

 しばらく表で待っててくんな」

 

「――人間の男」

 

 ギラリとした眼差しで魔族が店長を睨み付ける。

 

「あまり減らず口を叩くな。

 我々も無用な殺しはするなと命じられている。

 助かる命を溝に捨てたくはあるまい」

 

「はっ、おっかないねぇ。

 それで俺が怖気づくとでも思ってんのかよ?」

 

 かなりの殺気が叩きつけられているにも関わらず、店長は飄々と言葉を返した。

 ……この男はこの男で、ただものではない。

 

 魔族とゲルマンが睨み合いを続けていると、店の扉が開く。

 

「おいおい!

 いつまで人間なんぞと話し合いしてんだぁ!?」

 

 ――そう怒鳴りながら入ってきたのは、やはり魔族。

 人目がつかぬよう、表を見張っていたのだろう。

 

「……ちっ。

 もう一匹いやがったか」

 

 店長の顔がさらに険しくなる。

 流石に彼も、二人の魔族を向こうに回してやり合える自信は無いようだ。

 

 リア達の間に流れる緊張感がどんどん張りつめていく。

 

「殺しちまえばいいだろう、こんな連中なんぞ」

 

「待て。命令を忘れるな」

 

 後から来た魔族がいきり立つが、最初に来ていた魔族がそれを静止する。

 

「……お前達に勝ち目がないことは分かるな?

 抵抗するのであれば容赦せん。

 だが、先に言った通り、無暗に殺すなとのお達しも我々は受けている。

 故に、リア・ヴィーナとムロサカ・ヒナタを――」

 

「渡せば見逃してやるってかい?

 無茶な注文だぜ」

 

 魔族の提案を無碍に断ろうとするゲルマン。

 しかし、魔族はそんな彼へ首を横に振ると――

 

「――いや、二人が店の外に出るのを邪魔しなければいい」

 

「……あ?」

 

「お前達は何もしないだけでいいと言っているのだ。

 リア・ヴィーナとムロサカ・ヒナタはすぐに外へ出るのだろう?

 ……彼らの目的地はここで無いのだからな。

 そして彼らがこの店を出た後のことを、お前達は何も感知しない」

 

 ――つまり。

 魔族は店長達に手を出さない。

 逆に店長達も魔族への妨害を行わない。

 リア達を拘束するのは、彼らが店を出てから。

 と、いうことだ。

 

 下手な小細工をせずとも、正面からリア達を叩き伏せられる自信の表れか。

 

(……でも、あたし達にとっても悪い条件じゃない)

 

 相手は二人だけ。

 追手仲間を呼んでいるかどうかは分からないが、すぐに来る気配はない。

 つまり、この魔族をどうにか撒いてしまえばいいわけで。

 

(こいつらを倒す――のは無理よね、いくらなんでも)

 

 パッと見ただけでも、特に最初に来た魔族の方は腕利きだと分かる。

 ポーションで持ち直したとはいえ、依然消耗した状態のリアでは手に余るだろう。

 だが、焦点を逃げられるかどうかだけに絞れば、決して不可能ではないはず。

 

「……店長。

 あたし達なら、大丈夫だから」

 

 そう考えをまとめ、魔族の提案を飲むよう、ゲルマン店長へ伝える。

 

「………わりぃな、リア」

 

「いいの。

 気にしないで」

 

 不承不承、頷く店長。

 あとは、リアがどこまで踏ん張れるか、だ。

 ……と、考えたところで。

 

「おりゃあああっ!!!!」

 

 突然、店長が一方の魔族に長剣で斬りかかる。

 

「ぐあっ!?」

 

 魔族も咄嗟に剣を構えて受け止めた――が。

 店長は力任せに剣を振り抜き、魔族を吹き飛ばした。

 

 返す刀で、もう片方の魔族にも剣を振り下ろす。

 ……こちらは避けられてしまった。

 

「ちょ、ちょっと、あんた!?」

 

「できれば目的地までエスコートしてやりてぇところだったんだがな!!

 そいつはちと無理そうだぜぇ!!」

 

 いきなりのことに慌てるリア。

 店長は魔族達をけん制しながら、声を張り上げる。

 

「セドリック!!」

 

「分かっているとも!

 ――リアちゃん、ヒナタ君、こっちだ!」

 

 ゲルマンの言葉にセドリックは素早く反応した。

 二人の手を引いて、店の裏口へと走る。

 

「て、店長――!」

 

「おっさん!?」

 

「俺のこたぁ気にすんな!

 きっちり足止めしといてやらぁ!!」

 

 リアと陽葵の叫びに、店長は一瞬だけこちらを振り向いて、力強く笑う。

 

「ど、どうせ戦うっていうなら、あたしも――!」

 

「ダメだ、リアちゃん!」

 

 反転し、店長の下へ行こうとするリアを、セドリックが押し留める。

 

「ゲルマン君は歴戦の戦士!

 勝てない戦いなんて挑みはしない!

 彼を信じるんだ!!」

 

「で、でも――」

 

「彼は君達を逃がそうと身体を張ったんだぞ!

 今は走りなさい!!」

 

 見たことが無いほどに懸命なセドリックの台詞に、リアの心は動かされた。

 

(……ごめん、店長!)

 

 心の中で、ゲルマン店長に深く頭を下げながら。

 ホールから聞こえる激しい剣戟を背に、リア達は黒の焔亭を後にした。

 

 

 

 第十三話⑤へ続く



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⑤! 逃亡の再開

 

 

 再び、逃走劇を繰り広げるリア一行。

 しかし、その行程は順調と行かず――

 

「――気のせいかな。

 道歩いてる魔族の数、多くなってきてないか?」

 

「残念ながら。

 気のせいじゃないのよね、それ」

 

 リアがジェラルドを頼るであろうことは、バールも想像つくはず。

 であれば、冒険者ギルドに近づけば近づくほど警戒が強くなるのも当然と言えた。

 これから先、さらに厳しい警戒網を突破しなければならないだろう。

 

 それはそれとして。

 

「――そんで、あんた、いつまでついてくんの?」

 

 リアは何故か同行してきているセドリックに話を向けた。

 セドリックは胸を張って答える。

 

「そりゃ、君達が安全な場所に辿り着くまでに決まっているじゃないか。

 店長に頼まれてしまったからね」

 

 自信満々に言い放つ彼を、リアはジト目で見ながら、

 

「あのね。

 ぶっちゃけて言うけど――足手まとい」

 

「ほ、本当にぶっちゃけたなリア……」

 

 陽葵が若干引いた。

 

 とはいえ、本当のことだ。

 陽葵とセドリック二人を守りながら、魔族が警邏する中を進むのは困難極まる。

 セドリックに感謝していないわけではないが――いや、感謝しているからこそ、彼まで危険に曝すわけにはいかない。

 

「ふ、ふっふっふ。

 私にそんなことを言っていいのかい?」

 

 しかしセドリックは不敵に笑う。

 陽葵は首を傾げて、彼に尋ねた。

 

「んん?

 実はセドリックのおっさんもあの店長みたいに強かったりすんのか?」

 

「いやいや、私に彼のような強さはないさ。

 強さは無いが――」

 

 笑みを深めながら一拍間をおいて、

 

「――金なら有る!」

 

「いやその台詞はどうなのよ?」

 

 リアの指摘をものともせず、セドリックは不敵な笑いを維持し続けた。

 そして、懐から薬包のようなものを取り出す。

 

「ここに取り出しましたるは、その名も高き『透明薬』!」

 

「『透明薬』って――え? それ、『ワインドの秘薬』じゃないの!?」

 

 瞳を大きく見開くリア。

 

 ワインドの秘薬――通称、透明薬。

 通称の通り、身体に振りかけることで一定時間姿を消し去ることができる、マジックアイテムだ。

 

「そ、それって、一個で軽く一財産になるんじゃ…?」

 

「えええ!!?」

 

 そもそもからして作製が難しく、希少な原料を使う上に、効果が効果なだけに法的にも規制されている。

 それ故に、非常に希少な薬としても知られ、そしてその価格も目が飛び出るほど高い。

 こんなものを持っていたとは……

 

(……犯罪の臭いしかしない)

 

 絶対悪用している。

 間違いない。

 

 そう思うと急速に心が冷えていったが、裏事情を知らない陽葵は素直に感動しているようだ。

 

「いいのかよ、そんな高価なものオレ達にくれちゃって!?」

 

「当然だろう。

 ま、気にせず使ってくれたまえ。

 私が持っていてもろくなことには使わんだろうからね」

 

(……さもありなん)

 

 最後の言葉に、声には出さずつっこみを入れる。

 実際にしなかったのは、そんな貴重なものを提供してくれることへのせめてもの感謝だった。

 

「さ、さ、2人共、受け取ってくれ。

 今から使い方を教えるよ」

 

 薬をリア達に配り、使用方法のレクチャーを始めるセドリック。

 

 これがあれば、格段に進みやすくなるのは確かだ。

 ……むしろこんなのがあるならさっさと出せとも言いたくなるが、向こうの好意で提供してもらった以上、文句は言えない。

 

(……薬の効果も無制限じゃないしね。

 使うタイミングを伺ってたのかも)

 

 一応、プラスの方向で考えてみる。

 そんな彼女に、セドリックはふふんっと鼻をならして話しかけてきた。

 

「どうかね。

 これでも私は足手まといと?」

 

「――前言は撤回するけど。

 でも分かってんの?

 足手まといとかは置いておいても、凄く危険なのよ?」

 

「なぁに、店長ほどではないが私とて修羅場は何度も経験している。

 これくらいどうってことないさ。

 それに、マジックアイテムならまだ持っているしね。

 なに、邪魔になったら置いて行ってくれればいい」

 

 そういうことなら大丈夫、だろうか?

 悩みどころでもあるが、リアは彼の同行を了承したのだった。

 

 

 

 

 

 

 リア達が街を進んでいる頃。

 黒の焔亭での騒動も、収まろうとしていた。

 

(……我々の負けか)

 

 室坂陽葵の追手として差し向けられた魔族――カマルは、心の中でそう認めた。

 たった一人の人間が、自分達を相手にここまでやるとは。

 

(或いは、1対1ならば遅れを取ったかもしれんな)

 

 “血塗れになって倒れた”この店の店長を名乗る男へと、魔族はそんな称賛を心中にて送る。

 

 この男を倒すのに時間がかかり過ぎた。

 今から陽葵を追うのは、もう無理だろう。

 つまり、目の前で倒れ伏している人間は、目的を達したわけだ。

 

(彼らがバール様の追手を振り切れるとも思えんが……

 (それがし)はもうお役目御免か)

 

 拠点へ戻るため、踵を返すカマル。

 だが――

 

「ざっけんなこらぁあああっ!!!」

 

 そんな叫びが聞こえ、足を止める。

 声の出どころを見れば、カマルと共に行動していた魔族――ジンバだった。

 

「ちくしょうが!!

 人間風情が!!

 手こずらせやがってよぉおおっ!!!」

 

 目を血走らせて怒号を飛ばすジンバ。

 

(ふん、いつもの癇癪か)

 

 カマルはそんな彼に冷たい目線を送った。

 奴はよくよくこんな状態に陥る。

 精神が未熟な証拠だ。

 

「雑魚のくせにっ!!

 雑魚のくせにっ!!

 魔族様に立てつくんじゃねぇっ!!」

 

(……自分を苦しめた相手を雑魚と罵るのか)

 

 それは己の力量をも貶める行為だと、ジンバは気付かない。

 

(短慮――実に短慮)

 

 呆れてかぶりを振るカマル。

 まあ、それをいちいち指摘してやる義理もない。

 奴とことを構えても、ただ面倒なだけだ。

 

 そう考えて無視を決め込んだのだが――ジンバの行動はさらにエスカレートした。

 最早意識も無い人間の男に蹴りを入れ始めたのだ。

 

「おいっ!

 なんとか言ったらどうだっ!?

 ああっ!?

 なんとか言ってみろやぁっ!!」

 

 これにはカマルも見咎めた。

 ジンバへと警告する。

 

「おい、その男死ぬぞ」

 

「死んだらどうなるってんだ!?」

 

「お前が処罰を受ける。

 某がお前を庇うとでも思っているのか?」

 

 カマルが仕える魔族――バールからは無用な殺しはするなと言い渡されている。

 ここで、人間の男を殺すことに意味があるとは思えない。

 

「……ちっ」

 

 頭が冷えたのか、ジンバが動きを止める。

 最後に一度、人間を蹴ってから、苦々しい表情で出口へと向かった。

 

「――て、店長!」

 

 カマル達が扉をくぐろうとしたところで、背後から声が聞こえる。

 この店で働くウェイトレスだった。

 この騒動の中、どうやら逃げずに隠れていたらしい。

 倒れている男へ駆け寄り、手当を施そうとしている――が。

 

「……へへっ」

 

 隣から、ジンバの下卑た笑いが聞こえた。

 奴は取って返し、人間の女へと近寄る。

 

「おい、そこの女ぁっ!」

 

「――え?

 ……ひっ!?」

 

 魔族が戻ってくると思わなかったのか、男に包帯を巻く手を止め、怯えだす女。

 

「この人間はな、魔族である俺に散々歯向かいやがったんだ。

 お前、こいつの部下なんだろう?

 ……責任とってもらおうじゃねぇかっ」

 

 言うや否や、ウェイトレスを床に押し倒すジンバ。

 そして力任せにびりびりと服を破く。

 

「い、いやぁぁあああああっ!!?」

 

 女は悲鳴を上げるが、ジンバに抑えつけられて身体を動かせないでいる。

 奴は女の裸を上から下までじろじろと眺め、

 

「へっ、まあ悪くない身体だ。

 光栄に思えよ?

 今から俺がお前に魔族の胤を注いでやる」

 

「い、いや、いやっ!

 止めて下さい、止めて下さいっ!!」

 

 涙を流しながら、必死に許しを請うウェイトレスの女。

 だがジンバはその声を鬱陶しく感じたのか、

 

「……うるせぇよ」

 

「あぐっ!?」

 

 女の顔を殴りつけた。

 十分加減した一撃ではあったが、女を恐怖に駆り立てるには十分だったようだ。

 

「ひっ……ああっ……」

 

「いいぞぉ、そそる顔するじゃねぇか。

 人間ってのはこうじゃなきゃな」

 

 見かねてカマルは声をかける。

 

「おい、ジンバ」

 

「あっ!?

 なんだよ、別にいいだろうが、これ位!

 殺したりはしねぇよっ!!」

 

 ジンバは女の頭を掴み上げる。

 顔色が蒼白になった女に対し、荒げた声をかける。

 

「お前だって嬉しいだろうっ!?

 魔族様に犯して貰えるんだ!

 嬉しくてたまらねぇだろう!?」

 

「あ、あ……ううぅ……」

 

 ウェイトレスはただ顔を引きつらせるばかり。

 見れば、股間からちょろちょろと液体が零れていた。

 余りの恐怖に失禁したらしい。

 

「嬉しいだろうっ!!

 まさか嬉しくないとでも言うのかっ!!?」

 

「ひぃっ!?……う、うう、嬉しい、です……」

 

 無理やり女に言葉を強制する。

 だが、ジンバはまだ不満のようで。

 

「ああっ!?

 よく聞こえねぇよっ!!」

 

「う、うれしい、ですっ」

 

「嬉しいなら感謝しろこらぁっ!!

 礼もまっとうにできねぇのかてめぇっ!!」

 

「あっ、ひっ……うれしい、ですっ……私を、犯して、くださる、なんて……あ、ありがとう、ございますぅっ!」

 

 涙を流しながら、女はそう言い切った。

 そこまでさせて、ようやくジンバは満足そうに頷いた。

 

「聞いたか、カマル?

 こいつは俺に犯されたくて仕方ねぇってよ!

 はっ、浅ましい女だぜっ!

 まるで盛りのついた雌犬だな!」

 

(……浅ましいのはどっちだか)

 

 まあ、殺すつもりが無いというのであれば、止める云われは無い。

 彼女を助けてやる義理も当然ながら無い。

 

 カマルが無反応でいるのを、無言の肯定ととったのか、ジンバはズボンを脱いで自分の性器を取り出した。

 

「――え?

 あ、ああぁぁ……」

 

 ジンバの肉棒を見て、顔を歪ませて絶句するウェイトレス。

 

 それもそのはず、ジンバの“それ”は、尋常でなく『巨大』なのだ。

 太さは成人男性の二の腕ほども有り、長さはそれを超える。

 巨人族の女でもなければ、これを受け入れることなどできないだろう。

 

「嬉しくて声もでねぇか。

 へっへっへ、運がいいなぁ、お前。

 こいつに貫かれて、堕ちなかった女はいないんだぜ?」

 

「……壊れなかった女はいない、の間違いだろう」

 

「へ、似たようなもんだろ?」

 

 カマルの指摘など気にもせず、ジンバは己の男棒をウェイトレスの女性器に添えた。

 

「あ、あ……む、り……そんな、の……はいら、ない……」

 

 女は震える声で拒むが、そんなものをジンバが聞き入れるわけがなかった。

 

「あ? やる前から無理とか言ってんじゃねぇよっ!

 自分の可能性を信じろって――なぁっ!!!」

 

 ジンバはウェイトレスの身体をがっしりと掴み、渾身の力を込めて彼女の膣内へ愚息を突き挿れた。

 

「ぎぃやぁぁああああああああっ!!?」

 

 まるで腹を貫かれたような――比喩になっていないかもしれないが――絶叫が女の口から迸った。

 どれ程の力をかけたのか……ジンバの巨大な男根は、根本まで女の性器に埋まっている。

 その代わり――と言っていいのか、女の腹は奴の肉棒の形が分かるほど歪に膨らんでいた。

 

「へへ、ほら、どうだ。

 ちゃんと入るだろう?」

 

 そう言うと、腰を振り出すジンバ。

 ウェイトレスの股間から、びちゃびちゃと血が滴り落ちる。

 ……膣内が裂けたか、或いは子宮が破裂でもしてるのだろうか。

 

「ぐぇっ…げぇっ…がっ…おごぉっ…」

 

 とても性交しているとは思えない声で女がうめく。

 まあ、彼女からしてみれば拷問を受けているのと大差ないのだろうが。

 ……従順にしていれば止まる拷問の方が、まだマシかもしれない。

 

「よく締め付けてくるなぁ?

 そんなに俺のは気持ちいいかっ!」

 

「…おげぇっ…あがっ…げっ…げぇえっ」

 

 ジンバはご満悦にピストンを続ける。

 奴のイチモツの太さなら、どんな女の膣であってもきつきつになるだろう。

 

「へっへっへ、褒めてやるぜ、人間の女!

 お前はなかなかいい具合だっ!

 もう射精しちまいそうだぜ!!」

 

「あ、がぁっ!…ぐげっ!…がぁっ!…がぁあっ!」

 

 激しく腰を振り出すジンバ。

 女から漏れる苦悶も、より大きくなる。

 奴は自分の男根をさらに奥へと押し込むと、

 

「おらっ、イクぞっ!

 有り難く受け取れっ!!」

 

「あぎゃあああああああああああああっ!!!!」

 

 絶頂の声――というより、断末魔の悲鳴をあげる人間の女。

 瞳は白目をむき、口からはごぽごぽ泡を噴き出し、膣口からは収まりきらなかったジンバの精液が流れ出ている。

 びくびくと痙攣を起こしているので、死んではいないようであったが。

 

「さぁて、そんじゃ、二回戦行ってみるか!」

 

 そんな女の状態が見えていないのか――見えていても配慮する気が無いのか。

 ジンバはまた腰を振り出した。

 ……女はもう苦しむ余力すらないようで、ぐったりとしたまま奴に身を任せている。

 

「おい、ジンバ」

 

「あんだよ、カマル!

 お前も混ざりてぇのかっ!?」

 

「……願い下げだ」

 

「だったら黙ってやがれっ!」

 

 こちらは振り向きもせず、ジンバは行為に勤しんでいる。

 そして――

 

「――げはっ!?」

 

 首に、剣が突き立てられた。

 やったのは、ジンバの背後に立つ――先程まで倒れていた、人間の男だ。

 

「うちの、従業員に……なんてことしやがんだ、こらぁっ!!」

 

「げっ!…うごっ!…あぎっ!…がぁああっ!!?」

 

 喉元にまで貫通した長剣をぐりぐりと捻り上げる男。

 今度は、ジンバが断末魔の悲鳴を上げる番だった。

 

 ……しばし呻き声を立ててから、ジンバはその場に倒れ伏せた。

 

(――死んだか)

 

 いかに魔族といえど、これだけの傷を負えば生命の維持はできまい。

 

「……お前の後ろに人間が立っている、と伝えたかったのだがな」

 

 カマルはそう独り言をこぼす。

 その報告をジンバ自身が拒んだのだ、自業自得だろう。

 短慮で浅はかな魔族は、最後まで短絡な様を見せつけ、その生涯を終えた。

 

「……相棒は倒れたぜぇ?

 次はお前が相手すんのかい?」

 

 ふらふらになって足元が覚束ない人間の男が、剣をこちらに突き付けながらそう言う。

 今、この男を殺すのは容易い……が、カマルはそれをせず、ただ首を横に振った。

 

「そのつもりはない。

 お前の勝ちだ、人間」

 

「へ、そうかよ。

 こっちはまだまだ……やれるってのに、な……」

 

 その言葉を最後に、人間の男――確か、ゲルマンとか言ったか――は崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 一方、リア達はあともう一息で冒険者ギルドに辿り着くところにまで迫っていた。

 目的地まであと一歩ではあるのだが……

 

「なんなのよ、もう……」

 

 リアは愚痴を零す。

 ギルドへの道にはどこもかしこも魔族が張り込んでいた。

 しかも常に二人一組で行動し、さらにご丁寧なことに魔業で知覚を徹底的に高めて周囲を警戒している。

 これでは『ワインドの秘薬』で姿を消しても、気付かれてしまう可能性が高い。

 

「ど、どうすっか……」

 

「むむぅ……」

 

 陽葵とセドリックも途方に暮れるばかり。

 見張りの魔族に気付かれないギリギリのところで物陰に身を潜めながら、3人は頭を悩ませていた。

 

 そうこうしてる内に、リアはあることに気付いた。

 

「……ん、あれって煙?」

 

「火事でもあったのかね?」

 

 彼女の言葉に、セドリックが反応する。

 

 今リア達がいる場所からはかなり離れた場所から、確かに煙が上がっていた。

 セドリックが言う通り、火事でも起きたのかもしれない。

 

(……まあ、今のあたし達はそれどころじゃないんだけどね)

 

 そう考え、頭から煙の件を離すリアであったが、今度は陽葵がそれに食いついた。

 

「……あそこって、ボーさんのお店だ!」

 

 ボーさん――黒田がよく使っているという武器屋の店主のことだろうか。

 

「……もしかして」

 

 何かに気付いたように、陽葵が独りごちる。

 そして、焦った口調でリアに話しかけてきた。

 

「……な、なぁリア。

 他に煙が上がってる場所ってあるかな?」

 

 それを聞いて、リアは改めて周囲をよく見渡す。

 

「……言われてみれば――幾つか煙が上がってるみたい」

 

「ど、どこから出てる!?」

 

「えっと、あそこと――」

 

 煙のある場所を指し示すリア。

 聞く度に、陽葵の顔色が悪くなっていく。

 

「そこは――ジャン達の宿だし、あっちは――アンナの店、か?

 それとあそこも――」

 

 どうやら、煙の立っている場所は、全て陽葵の知り合いに関連する場所のようだ。

 

「まさかあいつら、オレが行ったことある場所全部に追手を仕向けたんじゃ……」

 

「……かもしれないわね」

 

 リアは苦々しい顔で頷く。

 バールは、それ位やってもおかしくない。

 

 そわそわとし出した陽葵に、セドリックが釘を刺した。

 

「――まさかと思うが、助けに行こうなんて考えちゃいないだろうね?」

 

「で、でも!」

 

「彼らの目的はあくまで君達なのだろう?

 なら、君達が無事に逃げおおせれば、彼らが暴れる理由はなくなるはずだ。

 ……ウィンガストには多くの冒険者がいる。

 いくら魔族でも、ここで無用な騒動を起こす気はないだろう」

 

「……あ、ああ。

 分かったよ、おっさん」

 

 セドリックの説教に、陽葵は落ち着きを取り戻していった。

 その様子を見て、セドリックはふうっと息を吐く。

 

「さて、そうとなればここを早く突破しなくてはね」

 

「早く突破と言ったって……何か策でも思いついたの?」

 

「策という程いいものでもないがね。

 私が彼らの注意を引き付けるから、その間に通ってくれないか」

 

「――え」

 

 平然と言い放つセドリック。

 リアは一瞬言葉に詰まってしまった。

 

「しょ、正気なの!

 そんなことしたらあんた――」

 

「他に方法があるかね?

 こうしている間にも、魔族はこの街で暴れているようでもあるし。

 なぁに、黒の焔亭に来た魔族が言っていただろう?

 『無用な殺しはしない』ってね」

 

 セドリックは、本気のようだった。

 覚悟を決めている。

 

 ……それでも、リアは迷った。

 殺されない保証などどこにもない。

 仮に殺されなかったにしても、“悲惨”な仕打ちを受けるのは目に見えている。

 

「優先順位を間違えてはいけないよ、リアちゃん。

 君の目的はヒナタ君をギルド長の下へ届けることだろう?」

 

 迷うリアへ念を押してくるセドリック。

 ……彼女は、観念した。

 

「――分かった。

 お願い、セドリック」

 

「心得た。

 魔族が注意を逸らしたら、姿を消して先へ進んでくれたまえ」

 

 言うと、物陰から出ていくセドリック。

 その後ろ姿に、陽葵が声をかけた。

 

「お、おっさん!」

 

「なんだい、ヒナタ君」

 

「……ありがとう」

 

 頭を下げる陽葵。

 セドリックはそんな彼に何も言わず、ただ親指を一本立てて答える。

 ――その姿は、分不相応な程に、決まっていた。

 

 そして、見張りをする二人の魔族へと、セドリックが向かっていく。

 リアの耳に、彼らの会話が聞こえた。

 

 「おい、君達!!」

 

 「……ん?」

 

 「……なんだ?」

 

 「なんだはこちらの台詞だよっ!

  ここはウィンガスト――人間達の街だよ!?

  君達みたいな薄汚い魔族にうろつかれちゃ気分が悪くなるだろう。

  早々に消え失せてくれないかね!」

 

 「……喧嘩を売ってるのか?」

 

 「魔族に売るようなものがあるものかね!

  人間様に聞く口ってのを分かっていないようだな、君は!

  ああ、すまん、低俗な魔族に人間様の言葉は高尚過ぎて理解できないかな?」

 

 「――貴様」

 

 「死にたいようだな」

 

 露骨な挑発に、あっさりひっかかる魔族達。

 たちまちセドリックへの袋叩きが始まる。

 情けない悲鳴を上げつつも魔族への罵声を途絶えないセドリック。

 次第に魔族達はヒートアップしていった。

 

 ……そろそろ、頃合いだ。

 

「行くよ、ヒナタ」

 

「おうっ」

 

 『透明薬』を身に振りかけて姿を消し、リアと陽葵は魔族達の横を通り過ぎていった。

 魔族は、小生意気な人間を嬲るのに集中し、こちらに気付かない。

 ……作戦通りだ。

 

(――!)

 

 ちらりとセドリックを見れば、彼は魔族によって見るも無残な姿に成り果てていた。

 顔は腫れ上がり、歯は折られ、腕や足は変な向きに曲げられている。

 ……だが彼は、それでも魔族への挑発を止めなかった。

 

(ああ、もう!

 店長といいセドリックといい――こいつら、いつもはクズな癖に、なんでいざという時に格好つけんのよ!!)

 

 そんな怒りを胸中に抱きつつ。

 リアは冒険者ギルドへの道を急ぐのだった。

 

 

 

 第十三話⑥へ続く



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⑥! 鬼ごっこの結末

 

 

 

 ウィンガストのあちこちで魔族による騒ぎが起き始めた頃。

 ここでは場違いな程明るい声が響いていた。

 

「はーい、毎度ありー!」

 

「またのご来店をお待ちしてまーす!」

 

 お客に対し、にこやかに応じる二人の魔族。

 名前をベルゼとボルゼという。

 ちなみにこの二人、兄弟である。

 ベルゼが兄で、ボルゼが弟だ。

 

「は、はい……あの、本当にいいんですか、お代は?」

 

「いいっていいって!」

 

「今日は特別サービスさ!

 商品が気に入ったんならまた来てよ!

 あ、今度はちゃんとお金貰うからね?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 深々とお辞儀をして去っていく客。

 それを見て満足げに頷くベルゼ。

 

「いやー、なんかいいもんだね、人に感謝されるってのは」

 

「全くだぜ、兄貴。

 人間の街に潜入とかいうから緊張しちゃったけど、案外馴染めるのな、俺ら」

 

 笑い合う兄弟。

 ふと、ベルゼは外を見る。

 

「おいおい見ろよボルゼ。

 俺達以外の奴ら、あっちこっちで暴れてるみたいだぜ?」

 

「本当だな。

 暴力的な奴らばっかで嫌になっちまうよ」

 

 街から立ち上る煙を確認し、兄弟は揃ってため息を吐く。

 どうして問題を起こすのか――少しは自分達を見習ってほしいものだ。

 

「バール様からもあんま暴れるなって言われてるのになぁ」

 

「その点、俺達は完璧だよな。

 何せ、ただ店番してるだけなんだからさ」

 

「ああ。

 店主は俺達という労働力を得る。

 俺達はこの店にヒナタ様が来ないか見張れる。

 Win-Winの関係とはこのことだ」

 

 そう。

 彼らは、陽葵達を探すのに、無闇に歩き回るでもなく、人間を脅しつけるでもなく――人間と協力するという手法を取った。

 具体的には、陽葵と親交のある店の店主に交渉し、臨時の従業員として雇ってもらったのだ。

 こうすることで、波風立てずに見張りをすることができる。

 

「……でもよ、兄貴。

 さすがに無料ってのはまずくないのか?

 店の売り上げ、全然でないぜ?」

 

「ボルゼ、お前、考えが足りないぞ。

 こういうのはまず客に商品の良さを知ってもらわなくちゃダメなんだ。

 まずは無料のお試しで客の心を掴み、その後有料で商品を買ってもらう。

 ――この店の商品は高品質だからな、自然とリピーターは増えるだろうよ」

 

「なるほど、さっすが兄貴だぜ!」

 

 無論、商品の値段を勝手に変更したわけではない。

 きちんと事情を説明し、店主の了解を得て行っている。

 

「さて、じゃあ次の客が来る前に商品を整備しておくか」

 

「お、兄貴、気遣いが行き届いてるな!」

 

「商売人として当たり前のことだろう?」

 

 得意げに鼻をならすと、ベルゼは席を立つ。

 遅れて、ボルゼがその後に続いた。

 

 

 

 彼らが向かったその先には“商品”の置かれたテーブルがある。

 商品――“兼”、店主であるローラ・リヴェリがその肢体を横たえている、テーブルが。

 彼女の衣服は全て剥ぎ取られ、体のあちこちには『本日無料』の文字が書き込まれていた。

 

 ――つまり、ローラの身体こそが彼らの売り出している“商品”なのだ。

 

「おーっす、店主。

 調子はどうよ?」

 

「あっ……ひっ……も、もう……やめて、下さい……」

 

 息も絶え絶えに、ローラは返事をしてくる。

 今日は昼から展示されているためか、大分疲れがたまっているようだ。

 

 ――ベルゼとボルゼの兄弟は、陽葵の逃亡が起きるよりも前に、この店へ押しかけていた。

 この街へ来たときから、この女に目をつけていたのだ。

 

「うーん、大分疲れてるみたいだな。

 どうするよ、兄貴?

 そろそろ休ませてやるか?」

 

「いやいやボルゼよ、仕事ってのは疲れるものなんだ。

 今日は特価セールだからな、踏ん張りどころさ。

 それに店主だって――」

 

 ベルゼは無造作に、ローラの股間に手を伸ばす。

 そして彼女のクリトリスを弄りだした。

 途端に、嬌声がローラの口から溢れ出す。

 

「あっ!? あっあっあっあっ!!

 あぁあぁあああああっ! あんんっ!!」

 

「ほうら、まだまだ元気だ。

 ……もっとちんこ欲しいだろ?

 まだまだヤれるよな!?」

 

 指で激しく陰核を擦りあげる。

 ローラは艶声を大きくし、身体を弓なりに反らした。

 

「あぁあああっ! は、いっ…やれ、ますっ! あぁあんっ!

 おちんぽ、もっともっと欲しいですっ!」

 

「本当だな、兄貴!

 はは、店主は仕事熱心だ!

 俺、彼女のこと尊敬するよ!」

 

 ――最初こそ抵抗する素振りも多少は見せていたローラだったが……幾度となく犯され続けた結果、今やこの魔族の兄弟の言いなりだった。

 

 ボルゼも、ローラの豊満な胸へと手をやり、彼女のおっぱいをこねくり回した。

 時折、乳首も摘まんでやる。

 

「あぁああっ!! あぅうっ! あんっあんっ!!」

 

「――でもこの商品、大分汚れちまったな」

 

「さっきの客、涼しい顔して結構な回数こなしてたからなぁ。

 前の穴も後ろの穴もザーメンでいっぱいだ」

 

 ベルゼの言う通り、ローラの肢体はあちこちが精液塗れであった。

 これでは商品としての価値も落ちてしまう。

 すぐに『整備』して綺麗しなければならない。

 

 ……会話の最中もローラの身体を弄び続ける兄弟。

 

「あっあっあっあっ!

 ああっあんっあんっあんっ!」

 

「これを掃除するのは結構な骨だよ、兄貴」

 

「馬鹿野郎、臨時とはいえ俺達は今この店の従業員なんだぞ?

 これ位の事で弱音を吐くんじゃない。

 店主にも失礼だろう!」

 

「そ、そっか!

 ごめんよ、兄貴、店主!」

 

 ボルゼは乳首を、ベルゼはクリトリスを、同時に思い切り抓った。

 

「あぁぁああああああああっ!!!」

 

 一際大きよがり、ローラは絶頂する。

 いったんびくびくと震えた後に力が抜け、ぐったりとテーブルの上に肢体を転がせた。

 

 そんな彼女の肢体を、雑巾を使って拭いていく兄弟。

 特に精液のこびりつきが多い、下にある2つの穴は入念にほじってやった。

 

「あ、あひぃっ!? ま、たぁっ!?

 んおおっお、おぉおおおっ! イった、ばっかりなのにぃっ!! ああぁあああああっ!!」

 

「おお、アクメした後だってのに、いい反応を返すなぁ」

 

「商品が高品質である証拠だな。

 おいボルゼ、そこ、もっとしっかり拭き取れよ」

 

 ボルゼの担当は尻穴である。

 いくら拭きとっても、穴からはザーメンが垂れてくるのだ。

 前の客、かなりのアナルマニアだったのだろう。

 

「分かってるよ兄貴。

 でも結構奥まで入っちまっててさぁ。

 ……よっと!」

 

 手の先を雑巾ごと尻穴にねじ込むボルゼ。

 これで精液が入り込んだ直腸の奥にまで手が届く。

 

「んぉおおおおおお!!? おおっおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 ローラの絶叫が店内に響いた。

 そんなものにはお構いなく、魔族の兄弟は掃除を続ける。

 

「……うむ、綺麗になったな。

 これでいつ客が来ても安心だ」

 

 全ての穴からザーメンを取り除いたベルゼ達は、やりきった男の顔で満足そうな笑みを浮かべる。

 そんな彼らのもとへ、店のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「お、言った傍からだぜ、兄貴」

 

「ああ、出迎えよう」

 

 兄弟は素早く店の玄関へと移動する。

 

「おや、こんな時間にも開いてるとは珍しいな。

 おーい、ローラさん、ちょっと物入りがあるんだがー」

 

 扉からは、中年の男が顔を覗かせていた。

 格好からすると冒険者ではなく、近所のおじさんという風体である。

 

「いらっしゃーい!」

 

「夜遅くにご来店ありがとうございまーす!」

 

 魔族達はにこやかに微笑みながら、客を迎え入れた。

 しかし、客の男は顔を引きつらせる。

 

「――ま、魔族っ!?」

 

 彼の口から吐き出されるあからさまな嫌悪の言葉。

 だが、兄弟は気を悪くしたりしない。

 こういう反応をされるのは、想定していたことだ。

 

「いやいや、俺達は悪い魔族じゃないんだよ?」

 

「そうそう、ここの店主に頼まれて、店番をやっているんだ!」

 

「ローラさんに頼まれて…?

 いや、まさか、そんなはずが――」

 

 客は未だ疑わし気な視線を送ってくる。

 それを半ば意図的に無視して、魔族達は親し気に彼へ話しかけた。

 

「まあまあ、細かいことは気にしないで下さいよ。

 今日はオススメの新商品があるんだ!」

 

「そうそう。

 しかも本日限りのサービス価格――なんと無料で商品を使えるんだぜ!」

 

「……し、新商品?」

 

 こちらの態度に毒気を抜かれたのか、多少客の表情が和らぐ。

 魔族の兄弟はそんな彼の肩を押して、商品のところへ案内した。

 ――すると。

 

「――ろ、ローラさんっ!!?」

 

 全裸のローラを見て、客が驚愕の声を出す。

 すぐさま、魔族達へと詰め寄り、糾弾し始めた。

 

「お、お前達、こんなことをしていいと思ってるのか!?

 何が悪い魔族じゃない、だ! ふざけるな!

 今すぐ衛兵を呼んで――」

 

 ――そこで、魔族達の雰囲気が変わる。

 

「――あ?

 俺達の好意が気に入らないってのか?」

 

「お前、こっちが下手に出てるからって調子に乗ってんじゃねーぞ?」

 

 殺気を放ち始める兄弟。

 客は変貌した彼らの態度に、面白いほど顔を恐怖に歪ませて、

 

「ひっ!?

 あ、あああ……そ、そういうつもりで言ったのでは――」

 

 弱弱しい口調で、前言撤回した。

 

「おっと、兄貴、お客が滅茶苦茶びびってるぞ?」

 

「んん? ああ、すまんすまん、ちょっと気が立っちゃっただけなんだ。

 でもあんたも悪いんだぞ?

 いきなり喧嘩腰で話しかけてくるからさ」

 

「は、はい、すみません……」

 

 一転、魔族達は最初の馴れ馴れしい振舞に戻る。

 

「そう恐縮すんなって!

 ほら、仲直り仲直り、な?」

 

 ベルゼは半ば強引に、客と握手する。

 ぎこちないながら、客の男も手を握り返してくれた。

 

「そんじゃ、早速うちの商品を試していってくれよ。

 いい塩梅なのは保証するぜ!」

 

「……わ、わかりました」

 

 

 

 ――客の男が商品を試した結果。

 

「くそっ、くそっ、この淫乱女が!

 今まで憧れてたんだぞ!

 高嶺の花だと思ってたのに!」

 

「あっあっあっ! あんんっ! あんっあんっあああんっ!」

 

 後背位でローラと交わる男。

 

 彼は、商品にドはまりしていた。

 これでもかという程、ローラの膣に己の男根を叩きつけている。

 

「ちんこならなんでもいいのか!

 そんなにちんこが欲しかったのか!

 どうなんだ、ローラ!?」

 

「あぅうっ! はい、ちんぽっ……あっあっあっ!

 ちんぽ、欲しかったですっ!

 ああっあああっああんっ! ずっと、ちんぽが欲しかったんですぅっ!

 あぁああっあっああ!」

 

 ローラの胸を乱暴に揉みしだき、男は彼女に罵声を浴びせた。

 もっとも、彼女は彼女で嬉しそうそれを受け止めているが。

 

「こんな、まんこにモノぶっ挿したらすぐよがる淫猥だったなんてな!

 ローラ! 俺のちんこは美味いか!?

 俺のちんこをもっと味わいたいのか!?」

 

「はいぃっ! あうっああっあんんっ! ちんぽ美味しいですっ! あっあっあっあっあっ!

 ちんぽ、もっともっと、私にハメて下さいっ! あ、あ、あ、あ、あぁああっ!!」

 

「よぉし、ならもっとくれてやる!

 おら、おらおらおら!!」

 

 パンパンと音を鳴らして、ローラへと腰を打ち付ける客。

 商品のお試しは、まだまだ終わりそうになかった。

 

 

 

 そんな二人を遠目で眺めつつ、ボルゼは兄へと話を振る。

 

「しかしさ、兄貴。

 人は見かけによらないもんだなぁ。

 最初店主を見たときは、もっと清楚な女だと思ってたんだけど」

 

「なんだ、ボルゼ、お前知らなかったのか?

 ちゃんとヒナタ様の身辺調査書にも記載してあったじゃないか」

 

 弟の不勉強を咎めるベルゼ。

 

「この女、もう散々調教され尽くしてるんだよ、肉便器として。

 見かけこそ淑女然としちゃいるが、中身はどんな男にも股を開く雌犬ってことだ」

 

「へー、そうだったのか。

 でも誰がそんなことやったんだ?

 店主の夫か?」

 

 その質問の答えはすぐに思い出せなかった。

 ベルゼは少し視線を宙に彷徨わせてから、

 

「えーっと、確か……そう、セドリックって男だ。

 そいつが何年もかけて調教したんだと」

 

「旦那がいる女に手を出すとはなぁ。

 悪い奴もいたもんだ。

 ……あれ、でも店主は今一人で暮らしてるんだよな?

 そのセドリックって奴どうしちゃったの?」

 

「ああ、なんでも手放したらしい。

 今から2年と少し前だったはずだ」

 

「ほー、勿体ないなぁ。

 店主、こんな美人なのに」

 

 残念そうに肩を竦ませるボルゼ。

 確かに、これ程の女を捨てるなんて、なかなか考えづらいことではあるが……

 

「……ま、飽きたんだろ。

 いくら綺麗だって言っても、何度も抱いてりゃだんだん興味が無くなるものさ。

 肉便器なんざ、ちんこを受け入れるしか能がない人形みたいなもんだからな」

 

「ふーん、そんなもんなのか」

 

 ――客が行為を終えるまで。

 兄弟はそんな他愛無い世間話を続けるのだった。

 

 

 

「おらっ!

 出すぞ、また出すぞ!」

 

「あ、あぁぁああああっ!!」

 

 客が放つ何度目かの射精を、大きな喘ぎをもって受け入れるローラ。

 流石に疲弊したのか、男は彼女にもたれかかり、肩で息をする。

 

「…ぜぇっ…ぜぇっ…

 嬉しいか! 嬉しいんだろう!

 俺に種付けされて、嬉しいんだろう、ローラ!?」

 

「…はぁ…はぁ……嬉しい、です……私のまんこ、使って頂けて……はぁ…はぁ……嬉しいです……」

 

 本当に嬉しそうに、ローラは答えた。

 いつもの思考は今の彼女に最早存在せず、ただ雄を悦ばせるよう躾られた雌犬がそこには居た。

 

「明日から毎日種付けしてやるからな!

 俺の子供を何人も孕ませてやる!

 ――いや、俺だけじゃ勿体ないな……近所の男連中皆に知らせてやるか!

 お前はこれから街の精液便所だ!」

 

「はい……はぁ…はぁ…はぁ……私、便器になります……はぁ…はぁ……皆さんの、肉便器です……」

 

 自ら、公衆便女となることを宣言するローラ。

 明日からの彼女の生活は、実に彩られたものになることだろう。

 

 一仕事を終えた客にベルゼは声をかける。

 

「はーい、お疲れさん。

 どうだった、商品は?」

 

「……最高だったよ。

 明日からが楽しみだ」

 

 堂々とした物言いで返事をする客。

 商品を使う前に見せたおどおどとした素振りは、今の彼には無かった。

 肉便器(ローラ)と交わることで、自信も回復させたのだろうか。

 

「そうか、そいつは良かった!」

 

「……君達には、失礼なことを言ってすまなかった」

 

 男は丁寧にお辞儀する。

 ベルゼは慌てて手を振って、

 

「いやいや、そいつはもう水に流しただろう?

 気にすんなって!」

 

「……ありがとう。

 では、また」

 

 そう言って、男は店を去っていった。

 彼の後ろ姿を見送りながら、ベルゼは呟く。

 

「『また』、か。

 ……まあ、俺達はすぐこの街を離れてしまうわけだが」

 

「せっかく仲良くなったのに、寂しいなぁ、兄貴」

 

「仕方ないさ。

 生きていれば、また会える日もくるだろう」

 

「おう、そうだな!」

 

 しんみりするものの、また調子を取り戻す兄弟。

 少しして、また店の扉がノックされた。

 

「おっと、またお客か!」

 

「いらっしゃいま――せっ!!?」

 

 ボルゼが言葉を詰まらせる。

 入り口から姿を現したのは一人の女エルフ――

 

「ば、馬鹿な、お前は、お前は――!?」

 

 

「「え、エゼルミア!!!」」

 

 

 兄弟の声が重なる。

 

 ――五勇者の一人、『全能』のエゼルミア。

 店を訪れたのは、魔族から最も恐れられる人物であった。

 

「ふふ、ふふふふ。

 夜分、恐れ入りますわ」

 

 にこりと笑い、店の中に入ってくるエルフ。

 信じられない人物の来訪に絶句する兄弟だが、ボルゼが何とか口を開く。

 

「い、いったい何の用――」

 

「――ねぇ、貴方」

 

 弟の台詞を遮って、エゼルミアが声を発した。

 

「体臭が、酷いですわよ?」

 

「――あ?

 あ、ああっ!?

 ぎゃぁあああああああああっ!!」

 

 ボルゼが絶叫を上げる。

 エゼルミアの言葉が終わった瞬間、彼の身体を炎が包んだのだ。

 

「あがあああああっ!! 熱いぃいいっ!! 熱いぃいいいいいっ!!!!

 兄貴ぃいいいいいいいいいっ!!!」

 

 ばたばたと暴れまわるボルゼ。

 だがそれも長くは保たない。

 

「……あっ……あ――」

 

 ――数十秒の後、そこにはボルゼはただの黒炭に成り下がっていた。

 

「……ぼ、ボルゼーーっ!!

 貴様ぁ!!」

 

 余りのことに硬直していたベルゼだったが、正気に戻るとエゼルミアへ飛びかかる。

 しかし彼女に手が届くよりも先に、エゼルミアが鬱陶しそうに『命令』を下した。

 

「五月蠅いですわ。

 少し、静かにして下さらない?」

 

「あ―――!?

 ――!? ―――!!」

 

 ベルゼから声が消えた。

 いくら叫ぼうとしても、喉から音が出ないのだ。

 

 ――いや、それだけではない。

 呼吸すら、できなくなった。

 

「――!? ―――!!!

 ――――――!!!!!」

 

 喉を掻き毟ってみるも、何の効果もなく。

 

「――!! ――――!!!

 ――――!!!」

 

 苦しさに転げまわる。

 彼には、目の前の人物に許しを請うことすら叶わなかった。

 

 そして、数分。

 ……ベルゼは、体のありとあらゆる穴から体液を流し――窒息死した。

 

「……貴方も臭いですわね」

 

 汚いものを見てしまったエゼルミアは顔を少ししかめ、ベルゼの方も焼却する。

 彼女は店の奥にいるローザの姿を見ると

 

「――遅くなってしまってごめんなさいね、ローラさん。

 以前お話した迷惑料、持ってきましたわよ」

 

 そう言うと、店のカウンターに金貨が詰まった袋をローラの近くに置くエゼルミア。

 ついでに、彼女に付着した精液もスキルで取り除いてやる。

 

 エゼルミアはゆったりとした歩調で店の窓に近寄ると、そこからウィンガストの街を見渡した。

 

「……ふふ、ふふふ、もう、騒々しい夜ですこと。

 “彼”はどこで何をしていますことやら」

 

 何がおかしいのか、笑みを浮かべるエゼルミア。

 誰とはなしに、独り呟く。

 

「せっかく、ぐっすり眠っていた魔王の息子(おまぬけさん)を叩き起こして騒ぎを作って差し上げたのですから。

 ――ちゃんと解決してみせて下さいね、クロダさん?」

 

 

 

 

 

 

 夜の冒険者ギルド。

 明かりこそまだ消えていないものの、人はほとんどいない。

 最低限の職員と警備員がいるだけだ。

 

 そんなギルドの中を、リアと陽葵は駆けていた。

 目指すは、ジェラルドの居る執務室。

 ――『透明薬』の効果は既に切れている。

 

「……もうちょっとだから!

 急いで、ヒナタ!!」

 

「……はっ…はっ…はっ……う、うん!」

 

 大分息が上がっている陽葵。

 セドリックと別れてから、ずっと走り続けているのだから、仕方ない。

 

 ――ギルド内であればまず追手はいないはずだが、しかし油断もできない。

 少しでも早くギルド長と会うため、ギルドの廊下を走る。

 

 そして。

 

「……見えた。

 あそこが――」

 

 とうとう彼らは、執務室へとたどり着いたのだった。

 

「ジェラルドさん!」

 

 万感の想いを込めて、リアは部屋の扉を開ける。

 ジェラルドは、執務机に座り、今日の業務をしている最中だった。

 

「大変なの、ジェラルドさん!

 やっぱり、バールの奴、ヒナタに危害を加えようとしてたみたいで――」

 

 ギルド長からの返事も待たずに、言葉を続ける。

 

「だからね、ジェラルドさんのところでヒナタを保護して貰いたいんだけど――?」

 

 ……そこまで話してから、リアは違和感に気付いた。

 ジェラルドから、何の反応も無い。

 

「……ジェラルドさん?」

 

 改めて話かけるも、彼からの返事は無く。

 不審に思ったリアはジェラルドに近づくも――

 

「――!?」

 

 彼女が一歩足を踏み出したところで、ジェラルドは椅子から転げ落ちた。

 そのまま、ぴくりとも動かない。

 ……よく観察すれば、彼の頭から一筋の血が垂れていた。

 

「じぇ、ジェラルド、さん?」

 

「ぎ、ギルド長……ちょっと、待てよ……これ……」

 

 呆然と倒れたジェラルドを見る二人の背後から、拍手が聞こえる。

 慌てて後ろを振り返るリア。

 

 そこには――

 

「ハイ、お疲れ様でシタ。

 よくぞ、ワタシの追手を掻い潜ってここまで来れましたネ」

 

 微笑みを浮かべた、バールが立っていたのだった。

 

「……あ、あ」

 

 愕然として、言葉にならない声を漏らすリア。

 

 目の前には、バール。

 後ろには、倒れたジェラルド。

 この状況が何を指すのか、分からないリアでは無かった。

 

 バールは言葉を続ける。

 

「――だから言ったでショウ?

 お互いのタメにならない、と。

 リア、アナタがこの状況で誰を頼ろうとするのかなんて、自明でしたからネェ。

 アナタ達はしなくてもいい苦労を負い、ワタシはやらなくてもいい命令を下し。

 ああそうそう、ウィンガストの住人にも意味なく迷惑をかけてしまいマシタ」

 

 結局のところこの男にとって、ジェラルドであっても大した障害にはなり得なかった、ということだ。

 ――今までリアのしたことは、全て意味のない徒労だった。

 

 ……もう彼女に打つ手は無い。

 リアは、力なく床にへたり込む。

 

「……り、リア!」

 

 陽葵の声が聞こえるが、それに返事する気力もない。

 

「さ、帰りまショウカ、お二人とも」

 

 バールがこちらに歩いてくる。

 逃げられない。

 もう、逃げられない。

 

 目の前の魔族がスキルを発動する姿を、リアはただ呆然と眺める。

 

(――みんな、ごめん)

 

 惜しみなく協力の手を貸してくれた人々の顔を思い出しながら。

 ……彼女の意識は、闇に落ちた。

 

 

 

 第十三話⑦へ続く



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⑦! 悪夢の宴

 

 

 

 室坂陽葵が運ばれたのは、例の『喫茶店』だった。

 ただ、最初に来たときに通された部屋ではなく、もっと殺風景なところだったが。

 壁も扉も頑丈そうで――人を閉じ込めておくには適したところなのだろう。

 

「……くそっ」

 

 悔しさに、呻く。

 壁を叩いてみるも、びくともしない。

 一度、<強撃>を試してみたが、結果は同じだった。

 見た限り木造の部屋のようだったが、スキルか何かで強化しているのだろう。

 

「――リア」

 

 最後まで自分を助けようとしてくれた女性の名前を呟く。

 

 今、彼は一人でこの部屋に閉じ込められていた。

 リアは別の部屋に連れていかれたのだ。

 

「……ちくしょう」

 

 もう一度、呻く。

 

 時刻は既に深夜。

 だが、とても寝られるような心境では無かった。

 

 ――自分はこれからどうなるのか。

 ――彼女(リア)は今、どうなっているのか。

 

 考えれば考える程、不安で心が押し潰される。

 

 ――だが、現状は最早陽葵にどうこうできるものではなく。

 彼は口惜しさを噛みしめながら、この部屋で時が経つのをただ眺めていたのだった。

 

 

 ……どれ程時間が流れただろう。

 数時間か、ひょっとしたら数分程度かもしれない。

 焦りと不安と――様々な感情が入り乱れ、陽葵から時間の感覚を失わせていた。

 

 ふと、扉をノックする音が聞こえた。

 陽葵はすぐにそちらを向き、身構える。

 ……程なくして、ドアが開いて外から人が顔を現した。

 

「……先生」

 

「お待たせしまシタ、陽葵クン」

 

 いつものように――陽葵が子供の頃からずっと見てきた微笑みを携えながら、煉先生(バール・レンシュタット)が現れる。

 思わず子供の頃のように先生へ縋りつきたくなるが……残念ながら、彼は敵なのだった。

 陽葵はバールをきっと睨み付け、言う。

 

「……待ってなんかいねぇよっ」

 

「ハハ、嫌われたものですネ。

 先生、寂しいですヨ」

 

「……だったら!」

 

 本当に寂しそうな仕草をするバールに、陽葵は詰め寄った。

 聞き入れられるわけがないと知って、なお懇願する。

 

「――だったら、せめてリアを解放してくれよ……」

 

「それはできまセン。

 彼女は魔王様の息子を拉致するという重大な罪を犯シタのですからネ」

 

 返答は予想通りのもの。

 

(……拉致したのはあんたの方だろうが!)

 

 彼の勝手な物言いに臍を噛むが、それでどうなるものでもない。

 陽葵はとつとつと、バールに問いかけた。

 

「……それで、オレをどうするんだ」

 

「どうもこうも。

 陽葵クンは魔王様の後継者。

 危害を加えることは致しませんヨ」

 

 ただし、と言葉を挟んでバールは続ける。

 

「こういうことを何度もやられるとワタシも困ってしまいますからネ。

 教育の意味で、お仕置きは必要でショウ」

 

「……お仕置き?」

 

 ――いったい、何をされるというのか。

 訝しむ陽葵だが、バールがその問いに答える様子は無い。

 

「フフフフフ、まぁまぁ。

 始まってみてのお楽しみですヨ。

 さ、陽葵クン、ワタシについてきて下さい」

 

 そう言うと、部屋を出ていくバール。

 ……彼の後を追わない、という選択肢は、今の陽葵に許されていない。

 それ位のことは、彼にだって分かっていた。

 

 

 ――陽葵は重い足取りで、バールの後ろを歩いていく。

 廊下の雰囲気は、最初に来たときと一変していた。

 つい数時間前には、突如言い渡された自分の出自と周囲からの特別扱いに、期待感とときめきで心を躍らせながら通ったというのに。

 今や、重い空気が蔓延り、陽葵の未来を暗示するかのように薄暗い不気味さをもった空間に見える。

 

 ……いや、廊下自体には何の変化も無い。

 単に、陽葵の心情が短い間にそれほど変わったということなのだろう。

 

 そんな通路を渡っていくと、一つの部屋の前でバールは立ち止まる。

 陽葵は、彼の指し示す通りに部屋のドアを開け、中へと入った。

 

「――――え」

 

 その瞬間、陽葵は絶句する。

 そこには――

 

 

 

「んむっ! んぐっ!?

 んんんんんんっ!! んぁあああっ!!」

 

 

 裸に剥かれ、何人もの魔族に囲まれたリアの姿があった。

 形の良いお椀型の胸が、引き締まった腰が、ハリのあるお尻が――均整のとれた、魅力的な彼女の肢体が多くの男の目に曝されている。

 魔族特有の青白い肌と、銀色に輝くセミショートに伸びた髪は、この光景に非現実感もたらすが……それ故に幻想的な美しさも醸し出していた。

 

 だが陽葵に、それを楽しむ余裕は無い。

 

「んぐぅうっ! あぅ、んふぅうううっ!!

 んんっんっんっんっんんんっ!!」

 

 彼女が今、自分を囲む大勢の男たちによって輪姦されていたからだ。

 

 リアの口には魔族の肉棒が挿し込まれ、まともに口が利けないでいる。

 そして、口だけではなく、女性器にも、尻穴にも、魔族達は男根を挿入していた。

 

「ハハ、良家のお嬢様もこうなったら形無しだな!」

 

「うひょお、こいつのまんこ、気っ持ちいいー!

 すっげぇ締め付けてくるぜ!?」

 

「アナルもだ!

 気の強そうな顔して、身体はエロエロじゃないか!」

 

「んぶっ! んむぅうううっ! んくぅっ!

 んぐっんむっあぅっんああっ!!」

 

 男達はそれぞれ勝手に腰を動かしている。

 彼らの動きに合わせ、口をイチモツでふさがれたリアはくぐもった喘ぎを洩らす。

 身体は揺さぶられ、彼女の胸は大きく跳ねた。

 彼女の青白い乳房が淫らにぷるんぷるんと弾む。

 

「おっ!

 俺、これ貰い!」

 

「んんぅうううううっ!?」

 

 別の魔族がその乳首を加えこむ。

 ちゅうちゅうとおっぱいの先端を吸い上げていく。

 

「んあっあぅうっんむうぅううっ! ふむぅうううううっ!!」

 

 肢体に流れ込む快感に身を捩らせようとしても、男達がそれを許さない。

 嬌声すらまともに上げられないまま、彼女は魔族に身体を弄ばれる。

 

「……おいおい、休むなよ!

 俺のちんこの相手もしろよな!」

 

「こっちもだ!

 怠けてんじゃねぇぞ!!」

 

 そんな状況でなお、リアへと文句を垂れる男達。

 ……今のリアは、手だって休ませてはくれない。

 彼女の穴にありつけなかった魔族達が、自らのイチモツを彼女に握らせ、無理やり扱かせている。

 

「おい、なにぼけっとしてやがる!

 ……たくっ! これだからお嬢様はいやなんだ。

 黙ってりゃあそのうち許してもらえると思ってんだろ、ああっ!?」

 

「こっちはボランティアでお前を孕ませてやろうとしてるんだぞ!?

 俺達への感謝をもっと態度に現せよな!!」

 

 口々に勝手なことをのたまう魔族の男達。

 リアが反応しないでいると――

 

「お前も動けっつってんだよ!!

 分かんねぇのか、おらぁ!!」

 

 バシンバシンと彼女のけつを叩きだした。

 相当の力を込めたのだろう、リアの身体がびくっと震える。

 

「んぐぅううううっ!!

 んむっんむぅっんっんっんんんっ!!!」

 

 目に涙を浮かべながら、必死に手を動かし、腰を動かし、口を動かすリア。

 

「へっ! やりゃあできるんじゃないか。

 ほらほら、こっちも頼むぜ!!」

 

 その様子を見て、自分の愚息も扱かせる魔族。

 そんな中、

 

「……お、お、お、いいぞ、俺そろそろイケそうだ!」

 

 彼女の膣を占有していた男が、急に動きを速めた。

 そして。

 

「よしっ! イクぞ! 精液イクぞ!

 孕めよ、リアぁあっ!!」

 

「んっ! んんんんんんっ!!!」

 

 リアの中へ、盛大に精液を吐き出す。

 彼女の膣内にザーメンを塗りたくるかのように腰をグラインドさせる魔族の男。

 

「んっ! んんっ! んっ! んっ、んんーっ!!」

 

「お、なんだこいつ。

 ひょっとして今のでイッたのか?」

 

「中に出されてイクなんてなぁ。

 とんだ淫乱だ!!」

 

 リアもまた、子宮が精液で満たされたことで絶頂してしまったらしい。

 ……しかし、他の男達が彼女をその余韻に浸らせない。

 

「おいおい、終わったんならぼうっとしてんなよっ!

 交代しろ、交代!」

 

「わ、分かったよ!

 今代わるから!

 せっつくな!!」

 

 さらには、また新しい男がリアを犯す輪に加わり――

 

「じゃ、いただきまーす!」

 

 彼女の女性器を自分の肉棒で貫いた。

 

「んんぅううううううううっ!!!」

 

 男の性器をしゃぶりながら、リアは新たな刺激に肢体を震わせた。

 

 ――乱交が終わる気配は、まるで無い。

 

 

 

 そんな、あまりにも衝撃的な光景を、陽葵は呆然と眺めていた。

 

「り、リアぁあああああっ!!!!」

 

 突如我に返り、彼女への暴行を止めようと走り出す陽葵。

 だがその行動は、バールによって止められた。

 彼は陽葵の肩を万力のような力で掴みながら、

 

「駄目ですよ、陽葵クン。

 リアは今、贖罪の最中なのです」

 

 いったいどんな仕組みなのか。

 ただ肩を強く掴まれているだけだというのに、陽葵の全身が動かなくなった。

 唯一動く、口を開いてバールに詰問する。

 

「……贖罪って、何だよそれ!?」

 

「簡易的に決めたものなのですガネ。

 陽葵クンを勝手に連れ出した罰として、この街に連れてきた私の配下、全員の子を産んでもらうことにしまシタ。

 部下達も、それで納得したようデ。

 ……魔族は人よりも寿命が長いですからネ。

 まあ、やってやれないこともないでショウ」

 

「ふ、ふざけんな!

 そんなの――あぐっ!?」

 

 無理やり暴れようとする陽葵を、バールは手に力を込めるだけで押し留めた。

 

「落ち着いて下サイ。

 本来ならば極刑であるところをこの程度の罰で許しているのデスヨ?

 ――それにほら、彼女も積極的に、自分の罪を償おうとしているでショウ?」

 

「そ、そんなわけ――!?」

 

 そう言いかけた陽葵の目に入ったのは、魔族の男達が一斉にリアへ射精する姿。

 

 

 

「――――はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ」

 

 一時的にせよ男達の手から解放され、倒れこんだリアは肩で息をした。

 そんな彼女に、周囲から次々と声がかけられる。

 

「もうへばったのかよ、だらしねぇな」

 

「本当に名門の出なのか、こいつ?」

 

「根性がねぇぞ、根性が」

 

 言いがかりに近い勝手な言葉を浴びせられる彼女。

 その中の一人が、リアに一歩近寄って喋りかける。

 

「……おい、リア嬢ちゃん。

 なんか俺らに言うことあるんじゃないのか?」

 

 ――その台詞に促され、息を整える間もなしに彼女は口を開く。

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ……あ、あたしに種を下さり、ありがとう、ございました……」

 

 自分を囲む魔族達に向けておずおずと頭を下げ……土下座するリア。

 その姿勢のまま尻をくいっと上に突き出し、ふりふりと揺らしだす。、

 

「……はぁっ…はぁっ……ま、またあたしに、貴方達のおちんぽを、挿し込んで、下さい……

 はぁっ……子種、あたしに注いで下さい……

 はぁっ…はぁっ…よ、よろしく、お願いします……」

 

 それを聞いた周囲の魔族が、一斉に笑い出した。

 

「ぶぁははははっ! 聞いたかよ、今の!?」

 

「マジで言いやがったぜ、この女!

 プライドの欠片もねぇのな!!」

 

「親も悲しむだろうなぁ、娘がこんな情けない女に育っただなんて!」

 

「場末の商売女でも、こんな恥ずかしい真似できねぇぞっ!!」

 

 ひとしきり腹をかかえて爆笑した後。

 ある魔族がリアの後ろに立ち、彼女のサーモンピンク色の膣口へ自分のイチモツを添える。

 

「そこまで言うなら仕方ない、付き合ってやるかぁ!

 優しい俺達にきっちり感謝しろよっ!!」

 

 言い終えるのと同時に、彼はリアの女性器へと己の肉棒を突き挿した。

 

「ああ、あぁぁあああああんっ!!!」

 

 再び味わう快楽を、リアは一際高い艶声をもって迎え入れた。

 そして堰を切ったかのように、淫らな声を辺りに響かせる。

 

「あ、あぁああっ! これ、これぇえええっ!!

 あっあっあっあっ! お願い、もっと、もっとあたしにちんぽを……あぅうっ! ああ、あぁああっ!

 ちんぽぉ! あっあっあっあっあぁああっ!!」

 

 リアは自ら腰をくねらせ、膣で男根を扱いていく。

 その顔には、悦楽の表情を浮かばせていた。

 

 ……魔族の男達は、また我先にと彼女へ腕を伸ばしていく。

 

 

 

「……うそだ……リア……」

 

 信じられないモノを見たかのように、声を震わせる陽葵。

 普段のリアとはあまりにかけ離れた姿に動悸が激しくなる。

 そんな彼へ、バールは優しく声をかけた。

 

「――ほらネ?

 最初こそ抵抗していましタガ、今や自分から腰を振っているでショウ?

 ……まあ、あそこまで悦ばれてしまうと、罰になってないのではないかと不安になりますが。

 まあ、いいデスヨ、許しマス。

 お互い嫌な気持ちにならず、相手を許し合う……理想的な在り方ですよネ」

 

「うそだっ……うそだぁっ!!

 お前が! お前らが何かやったんだろ!!

 リアがあんな――あんな風になるわけねぇっ!!」

 

 かぶりを振って、目の前で起きたことを否定する陽葵。

 バールは困り顔になって、彼に答えた。

 

「そう言われましテモネ。

 そもそも仮にワタシ達が彼女の心を乱すような手段をとったとして、陽葵クンはそれでどうするというのですカ?」

 

「――う、ぐっ」

 

 何も、できない。

 今の陽葵に、何かできるわけがない。

 

「それにネ。

 陽葵クンは、他人のことを気にしている場合でもありませんヨ?」

 

 そう言うやいなや、バールは陽葵を床へ仰向けに押し倒してきた。

 突然のことに陽葵は慌てる。

 

「あうっ……な、何すんだよ!?」

 

「分かりませんカ?」

 

 バールはするすると陽葵のジャケットを脱がしてきた。

 次はシャツに手をかけ、ぐいっと上に引っ張って彼の身体から剥ぎ取っていく。

 

「……あ、あああ……ちょ、ちょっと……先生……?」

 

「陽葵クンにお仕置きをすると言ったじゃないデスカ。

 ……まさか彼女の姿を見せることがそれだと思ったのではないでショウネ?」

 

 気が動転したのか、『先生』呼びに戻る陽葵。

 それを気にも留めず、バールは彼の上半身を裸にした。

 

 ――きめ細かい素肌と、薄い桜の色をした陽葵の乳首、きゅっとくびれた腰つきが露わになる。

 男の目を引き付けて止まないその肢体の美しさを前に、バールは思わず息を飲んだ。

 

「や、止めろ!

 な、何考えてんだ、お前はっ!!」

 

「言われなくては分かりまセンカ?

 ……今カラネ、陽葵クンを犯そうと思っているですヨ」

 

 今度はショートパンツに手をかけてきたバール。

 脱がすのをもどかしく思ったのか、ショートパンツを下着ごと無理やり引き裂いてくる。

 

「……冗談だろ?

 ……じょ、冗談だよ、なぁ?」

 

 とうとう、生まれたままの姿になった陽葵。

 プリンッとしたお尻に、健康的でハリのある太もも――股間にある男のシンボルが無ければ、誰も彼を女だと思うことだろう。

 

「冗談?

 ハハハ、冗談でこうはなりまセンヨ」

 

 そんな陽葵に対し、バールもまたズボンを下ろして自分の男性器を見せつけてきた。

 

「う、ああ、あああっ……なに、それ……」

 

「分かりますカ?

 陽葵クンを想って、ワタシのムスコはこんなになってしまったのですヨ」

 

 バールの男根は勃起していた。

 陽葵の裸を見て、彼は興奮しているのだ。

 

 しかし、陽葵が言葉を失くしたのは、反り返ったバールの肉棒が――自分のモノよりはるかに大きいソレが理由ではない。

 “形”が問題なのだ。

 

「……い、や……うあ、うあああ……」

 

「……ああ、ワタシのコレが気になってしまいマスカ?

 実はね、東京にいるとき、真珠を入れてもらいまシテ。

 いつか、こういう日が来ることを夢見てネ」

 

 真珠を埋め込んだことで無数の“こぶ”ができた愚息を誇らしげに握り、事も無げに言ってくるバール。

 彼は、陽葵と“する”ためだけに、自分のイチモツを改造したというのか。

 

(……うああ……ああああ……)

 

 リアの痴態から始まり次々と起こる衝撃に、陽葵の頭は停止しかけていた。

 そんな彼の肌を、バールは愛おしそうに撫でてくる。

 

「……フフフ、シミ一つ無いすべすべの肌ですネ。

 お顔も魔王様にそっくりで――実に華麗ダ。

 子供の頃からあった愛らしさを一切損なわないまま、より美しく成長してくれマシタ……」

 

「やだっ……先生、オレ、男……」

 

 どうにか思考を取り戻し、バールを拒もうとする陽葵。

 しかし、当の魔族は気にした様子もなく、陽葵の男性器の先端を指先でぐりぐりと押しながら、

 

「それがどうかしたんですカ?

 陽葵クンの魅力は、性別がどうしたところで陰ったりはしまセンヨ」

 

「あ……あ、あっ……あうっ……」

 

 自分の股間に走る刺激で、陽葵は思わず声を漏らしてしまう。

 バールはそんな彼の胸を、尻を、太ももを揉みだす。

 

「……この肉の柔らかさ。

 そしてワタシの手を押し返してくる弾力。

 女性でもここまでの触感を持つ人はいまセン」

 

「ああっ……あぅっ……あっうぅっ……」

 

 身体への愛撫に、自分の意図に反して艶声が出てしまう。

 

(……嘘、だろ。

 こんな奴に、こんなことされて、何でオレ、気持ち良くなっちまうんだよっ)

 

 心で毒突くも、身体は快感に逆らえなかった。

 だんだんと、陽葵の棒も勃起を始める。

 

「初めて見たときからワタシはある想いを抱いていまシタ。

 アナタと暮らしていく中で、それは日に日に強くなっタ。

 ――陽葵クンを、ワタシのモノにしたい、とネ」

 

 自らの感情を吐露し、バールは陽葵の唇を奪う。

 

「んむっ……んんっ……んんんぅ……れろれろ……はぅぅ……」

 

 にちゃにちゃと舌を絡ませてくる。

 拒みたくともバールの力は強く、力づくで唇の隙間へ滑り込ませてきた。

 バールは、サラサラと流れる陽葵の金髪を手で櫛ながら、彼の口内を蹂躙する。

 

「ん、んんんっ……んっ……ぷはっ」

 

 十分に堪能したのか、バールが口を離した。

 魔族は顔を下の方へ移動させ、今度は陽葵の乳首を舌で舐め上げてきた。

 

「あぅ、あぁぁああっ!」

 

 胸へから来る快感に、びくっと身体を震わせる陽葵。

 バールはなおも彼の胸から顔を離さず、乳首をしゃぶり、吸い上げ、甘噛みした。

 

「あぁぁっ……あぅうっ……あっあっあっあっ……んぁああっ!!」

 

 断続的に襲い掛かってくる快楽の波に、陽葵は喘ぎを堪えられない。

 

「んんんっ! あんっあぅうっ! ああっあんっあぁあんっ!」

 

 ――しばらく陽葵の胸を堪能すると。

 バールはようやく口を胸から離した。

 既に陽葵の股間も、ギンギンに勃起している。

 

「……しかし。

 凄い感度ですネェ、陽葵クン。

 先程アナタの性別について云々言った直後ですが――とても、男の子とは思えまセンヨ」

 

 陽葵をうつ伏せになるよう転がすと、バールはその背中にのしかかってくる。

 どこから取り出したのか、彼は自分のイチモツにローションのような液体をかけ出した。

 

「――ではそろそろ、コッチの方で陽葵クンを味わうことにしまショウカ」

 

 陽葵の尻穴に、ぬるぬるとしたバールの男根が触れる。

 彼の言葉の意味を悟り、陽葵は顔から血の気が引いた。

 

「……あっあぁぁ……待て、待ってっ!!」

 

「力、抜いた方がいいデスヨ?

 裂けてしまうかもしれませんカラネ」

 

 何とかバールの手から逃れようとするも、背後からがっしりと抑え込まれた身体は捩ることすらままならない。

 陽葵が覚悟する暇などなく――バールの肉棒がバックから陽葵の中に埋め込まれていく。

 

「おっおっおっおっおっおぉおおっ!!」

 

 陽葵の口から自然と、雄叫びにも似た嬌声が上がる。

 体内に侵入してくる“棒”が直腸を圧迫し、その“コブ”が腸壁をゴリゴリと抉る。

 その刺激が、痛みが、陽葵の脳をぐわんぐわんと激しく揺さぶった。

 

「……もう少しで、全部、入ります、ヨ!」

 

「おっおっおおおっおおっおっ……おぉぉおおおおおっ!!!」

 

 バールは最後のひと押しで、一気に男性器を陽葵の菊門の中へねじ込んだ。

 

「おお、お、おぉおお――――」

 

 脳天にまで駆け上がる電撃のような衝撃で、陽葵は意識を失い――

 

「感じやすい身体なんですネ、陽葵クンは。

 ――<覚醒(アウェイク)>」

 

 バールのその言葉で再び覚醒する。

 スキルによって、陽葵の意識を呼び戻したのだ。

 

「……あ?

 あ、ああっ! ああぁぁああああっ!!?」

 

 途端に尻から伝わる刺激が再度脳を焼き、絶叫する陽葵。

 

「ふふふ、陽葵クン。

 言ったでショウ、これはお仕置きだト。

 ――そう簡単にお休みはさせてあげませんヨ?」

 

 宣言して、腰を振り出すバール。

 腰と尻がぶつかり、パンッ、パンッと音が鳴り響く。

 

「あっあっあっあっあっ!

 あぅうっ! おぅうっ! おっおおっおっおおおっ!」

 

 バールが動けば、陽葵の中は“コブ”によってゴリゴリと刺激される。

 過剰な程の激痛と快感が身体を駆け巡っていった。

 

(――分かんないっ!

 ――もう、分っかんないよぉっ!!)

 

 快楽の波に揉まれ、陽葵はもう状況の把握ができなくなっていった。

 自分がどうしてここに居るのか、自分が誰に組み伏されているのか……自分のすぐ近くで犯され、淫らな声を上げている女の子が、誰なのか。

 

「あぁあっ! あぁぁああああああっ!!」

 

 そして、絶頂。

 陽葵の股間から、白い液体が迸る。

 その余韻も味わわぬまま、彼は今度こそ意識を手放し――

 

「またイキましたか。

 ここまでの敏感体質は見たことがありまセン。

 ……ああ、でも安心して下サイ、陽葵クンだけ気持ち良くなってる訳じゃありまセンヨ?

 アナタの尻穴、女の性器のようにワタシに絡んできてますカラネ。

 実に気持ち良い代物デス。

 ――さて、<覚醒>」

 

 やはりスキルによって、目を醒まさせられる。

 絶頂を迎えたことと、スキルの効果により、さらに鮮明に後ろの穴から伝わる刺激を感じる羽目になる。

 

「あぁぁああぅうっ! あぅっあぅっあぅっあぅっ!」

 

 悶える陽葵を見てバールは満足げに笑うと、独り呟く。

 

「……感慨深いですね、とうとう陽葵クンとこうすることがでキタだなんて」

 

「あ、あああっ! あっあっあっあっ!

 せ、せんせっ……ああっあぅうっ! せんせい、もう、やだっ! あぅうっあっあぁあっあああっ!」

 

 呟く間も、責め続けるバール。

 陽葵はなんとか拒む声を出してみるものの、聞き届かれはしない。

 

 後背位の姿勢のままバールは陽葵の胸へと手を回し、乳首も弄り始める。

 

「陽葵クンにはね、ずっとハラハラさせられていたのデスヨ。

 ……いつ、他の男にアナタを奪われないかとネ」

 

「あぅう……な、なに言って……んぉおっ!?

 おぅっおおっおぉおっおおおっ!!」

 

 なおも、語るバールに、陽葵は聞き返す。

 それに触発されたわけでもないだろうが、バールの腰の動きが激しくなる。

 

「覚えていますか、同級生の鈴原クン。

 彼ね、ずっと陽葵クンのことを狙っていたんですヨ。

 アナタの肢体に手をだそうと」

 

「くぅうっ! おっおぉっおおおっ!

 ……す、鈴原……?

 あ、あっあっあああっ!

 あぁぁあああああああああああっ!!」

 

 話の途中で、陽葵はまたイってしまった。

 勿論、すぐにバールの<覚醒>によって意識を取り戻してしまうのだが。

 

 ――鈴原。

 いつも親切にしてくれた、大切な友人。

 彼が親身に接してきたのは、そんな下心があったからなのか。

 

「担任だった滝川先生も、アナタをずっと見張っていまシタ。

 彼の脂ぎった視線に覚えはないデスカ?

 機会があれば、アナタを手籠めにしようとしていたんデス」

 

「……滝、がわ、せんせ、いが……?

 おお、お、おおぉおおおっ!!

 んぁああ、あぅううううっ!!!」

 

 スキルをかけられる度に、身体が敏感になっていく気がする。

 アナルを穿られ、乳首を摘ままれ、陽葵はまたすぐに絶頂へと昂らされていく。

 

 ――滝川先生。

 やんちゃだった陽葵を何かと面倒みてくれた、恩師の一人。

 あの先生が陽葵を見守る視線は、そんなドロドロとしたものだったのか。

 

「夏休みにご友人達と行った旅行、あるでショウ?

 彼らはね、休みの間中、アナタを監禁してやろうと目論んでいまシタ」

 

「おぅっおぅっおおっ!……監禁、なん、て……そんな……

 おおっお、おぉおっあうっああっああああああっ!!!」

 

 またイって、びくびくと肢体を痙攣させる陽葵。

 だが今回の絶頂では精液が出ておらず。

 ……女がするような、雌の絶頂だ。

 

 ――相島、佐脇、矢澤。

 一緒に遊んだ、掛け替えのない仲間達。

 互いに笑いあった、あの顔の裏にはそんなどす黒い感情を潜ませていたのか。

 

「どれもこれも、ワタシが事前に防いであげましたケドネ。

 ……ワタシがどれだけ肝を冷やしていたか、陽葵クンは分からないデショウ?」

 

「…………あ。

 あ、ああっ! あっああっああっ!

 おおぉ、お、おおおぉっ!」

 

 気を失いかけるも、またしても<覚醒>スキルを使用される。

 おかげで、涙を流し、涎を垂らし――自分が如何に無様なメスイキ顔を晒しているのか自覚してしまう。

 だが、陽葵は自分のよがり声を止めることはできなかった。

 

 それでも――

 

(――うそだ。

 ――うそ、だっ!!)

 

 まだまともに動いている、極僅かな思考を使って、陽葵はバールの言葉を否定する。

 

 ……しかし、思い返す。

 彼らが陽葵を見る目は、陽葵を触る手つきは――欲情した、雄のそれではなかっただろうか。

 それこそ、今のバールと同じような。

 

 そんな過去の記憶が頭を過ぎったとき。

 バールが陽葵の腰をがっしりと掴んできた。

 

「……陽葵クン、もう私もそろそろ限界が近いようデス。

 射精しますヨっ!」

 

 言うや否や、より強く、より速く、陽葵へ腰を打ち付けてきた。

 

「おっ! おっ! おおっ! おっ!

 んぉおっ! あっ! あぅうっ! あああっ!!」

 

 肛門が捲り上がりそうになる程の激しさに、陽葵は絶叫を上げた。

 ショートカットの髪を振り乱し、痺れる程の快感に身を悶えさせる。

 

(あああああああああ!

 もう無理! もう無理! もう無理ぃいいいっ!!)

 

 目がチカチカし、顎がガクガクと震える。

 決定的な“ナニカ”が、陽葵に訪れようとしていた。

 

「イキますよっ!

 ワタシのザーメン、尻穴でたっぷり味わいナサイっ!!」

 

「んぉああああああっ!!!

 あぁぁぁああああああああああああっ!!!!」

 

 バールのザーメンが、尻穴へと注ぎ込まれた。

 その熱さを感じると同時に、陽葵の性器から透明な液体が噴出する。

 ――それが精液ではなく『潮』なのだと、そう考えられる頭は陽葵から吹き込んでいた。

 

「あっ!! ああああっ!!

 ……あ――――」

 

『潮吹き』を終えると、今度こそ陽葵はすべての感覚を手放し――思考を停止させる。

 

「フッフッフ、びくびくと蠢動してワタシのザーメンを搾ってきますネ。

 流石は陽葵クンです。

 ……おかげで、また勃起してきましたヨ」

 

 陽葵が、男とは到底思えない、淫らな、淫猥な雌の姿を見せても。

 バールはまだまだ、続ける気だった。

 ――いや、寧ろそんな彼を見てしまったからこそ、さらに狂わせてやりたい欲求が湧いたのかもしれない。

 

「<覚醒>」

 

「――――あ」

 

 無慈悲にスキルを使用し、陽葵を目覚めさせるバール。

 陽葵は、まだまだ“行為”が終わってないのだということを認識すると――

 

「……も、やだ……許して、先生……

 ごめんなさい……ごめん、なさい……

 言うこと、聞くから……いい子に、するから……」

 

 ――涙を流して謝った。

 陽葵の心は、完全に折れていた。

 バールへの憎しみも、男としての矜持も、いぼ付きの巨根に屈服したのだ。

 

 だが返ってきたのは。

 

「……これからずっと、犯し続けてあげますカラネ、陽葵クン」

 

 処刑宣告に近い、そんな言葉であった。

 

 

 

 それから――

 

「ああんっ! あああっ! イクっイクっイクっイクっイクゥっ!

 ちんぽっ! ザーメンっ! もっとぉっ!

 あぅっあうっあぅうんんぅうっ! んぁあああああっ!!」

 

「んぉおおっ! 許してっ! 許してっ!

 おお、おぉおおっ! おおっおっおっおっ!

 先生、もう許してぇえっ! おぉぉおおおぉおおっ!!」

 

 ――部屋の中に、リアと陽葵の喘ぎが、嬌声が、よがりが、延々と木霊し続ける。

 

 

 

 ……そして数時間後。

 

「あ……ああ……ちんぽ……ちんぽ、しゅごいの……ああ……ちんぽぉ……」

 

「……おお、お……お……せんせ……お、おお……せんせ、い……」

 

 部屋には、訳のわからない言葉を呟き続ける“モノ”が2体、転がっていた。

 

 

 

 第十三話⑧へ続く



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⑧ 社畜、怒る…!

 

 

 ――室坂陽葵は、ヒーローに憧れていた。

 別にそれ自体珍しいことではない。

 男の子なら誰だって、そういう時期はあっただろう。

 

 ただ、彼は他の子よりも少しだけ、『そういうもの』への想いが強かった。

 

 “突然、不思議な力が使えるようになる”

 “実は、自分は特別な存在だった”

 

 少し口の悪い言い方をすれば『中二病』とも呼ばれる、そんな展開に焦がれる気持ちをずっと心に燻らせていたのだ。

 

 そして、それは実現する。

 

 ――ある日、ウィンガストという異世界の街に飛ばされ。

 ――スキルという、地球では誰も使えなかった力を覚え。

 ――自分が魔王の息子であるという事実が明らかになる。

 

 陽葵が常日頃抱いていた願いは、全て叶ったのだ。

 

(……叶わなけりゃ良かった)

 

 陽葵は、心の中で毒づく。

 

 確かに不思議な力を使えるようになったが、それはこの世界においては“当たり前”の力であり――寧ろ陽葵は『か弱い存在』だった。

 確かに特別な存在ではあったが、必要なのは陽葵の肉体だけであり――『室坂陽葵』という人格は不要だった。

 

 挙句の果てには、この世界に来て初めてあった女の子――好意を抱いていた女の子は目の前で凌辱され。

 自分自身も、尊敬していた恩師に犯された。

 

(……なんで……なんでこんなことに……!)

 

 悔しさで涙が零れてくる。

 それを慰めてくれる人間は、彼の周りにいなかったが。

 いっそ全て夢であればと願うも、延々と穿り返された尻穴の痛みがこれは現実であると思い知らしてくる。

 

 陽葵は現在、馬車の中にいる。

 外はまだ薄暗く、夜明けの少し前ほどだろうか。

 散々弄ばれた陽葵とリアは、休む暇も与えられず裸のままこの中へ放り込まれたのだ。

 ただでさえ消耗の激しかったリアは、数時間にわたる蹂躙によって完全に体力が尽きたのか――未だ意識が戻っていない。

 

 今、馬車はガタゴトと進んでいる。

 ……おそらく、このままウィンガストから出るつもりなのだろう。

 

『クロダちゃんを信じてあげて欲しい』

 

 ふと、いつだったかアンナに――大きな商店の代表をしていた女の子に言われた台詞を思い出す。

 

『こいつは説明責任をまるで果たさないし、いざという時てんで役に立たなかったりするけど。

 それでも、ヒナタちゃんを守る意思と、ヒナタちゃんを守る力を両方持っているのは、この町でクロダちゃんしかいないから』

 

 黒田。

 陽葵の教育係として、こちらへ来てから最も長く付き合っている男。

 礼儀正しいように見えて実は変態で、最低ランクのベテラン冒険者。

 そして――勇者の関係者でもあるという。

 

(……もし、黒田をもっと頼ってたら)

 

 彼を騙してリアとデートなんてしたりしなければ。

 バールについていく前に、彼と相談しようとしていれば。

 この状況は、変わっていたのだろうか?

 

「――う、あ」

 

 隣から呻き声が聞こえた。

 はっとして、陽葵は声のした方を向く。

 

「……リア!

 大丈夫か!?」

 

 リアが目を覚ましたようだ。

 事態が改善したわけでは決して無いが、ただそれだけでも陽葵の心に少しだけ活力が湧く。

 だが――

 

「……ん、んん……ち、ちんぽぉ」

 

「――へ?」

 

 目覚めた彼女が最初に口にした言葉を、陽葵は一瞬理解できなかった。

 

「ん、ちんぽぉ……ちんぽ、ちょうだい……

 ねぇ……ちんぽ、あたしにはめはめしてぇ……」

 

 とろんと蕩けた表情をして周囲を見渡し、腰をくねらせるリア。

 その様は、雄を求めて欲情する雌犬そのものだった。

 

「……リ、ア?」

 

 陽葵の目の前が真っ暗になる。

 

 ――大丈夫では無かった。

 既にリアの心は、壊れていたのだ。

 

「おいおい、ちんこちんこ煩いぞ」

 

 こちらの騒ぎを聞きつけたのか、馬車の外にいた見張りの男が中に入ってくる。

 彼はリアの惨状を見ると、

 

「あーあ、もう頭おかしくなっちまったのか。

 味気ないなぁ、どうにも」

 

 つまらなさそうに、肩を竦めた。

 

(……お、お前!

 お前が! お前らがっ!!)

 

 その対応に、頭が沸騰しそうになる陽葵。

 彼らにってはリアがどうなろうと、玩具が壊れたかどうか程度の関心しかないらしい。

 

 しかしリアは、そんな男へとにじり寄って行く。

 

「……ねぇ、ちんぽぉ……あんたのちんぽ、ちょうだいよぉ……

 いいでしょう……ちんぽ、しゃぶりたいのぉ……」

 

 艶めかしく肢体を動かし、瞳を潤ませて、見張りの魔族へ懇願する。

 男は、リアへ蔑んだ視線を向けながら、下卑た笑みを浮かべた。

 

「へ、仕方ねぇ。

 お嬢様からのリクエストに答えてやるとするか」

 

 いそいそとズボンから肉棒を取り出す魔族。

 そんな彼へ、外から声がかかる。

 

「おい、任務中だぞ?」

 

「別にいいだろう、そんな時間かけたりしないさ。

 ちょっと盛りのついた雌犬の相手をしてやるだけでな」

 

 おそらくは別の見張りが窘めるのも聞かず、その魔族はイチモツをリアの眼前に突き出した。

 

「……さあ、お待ちかねのちんこだぞ。

 きっちり舐めるんだ」

 

「あぁああ……ちんぽぉ……」

 

 嬉しそうにソレへしゃぶりつくリア。

 じゅぽじゅぽと、彼女のフェラ音が大きく響きだし――

 

「ぎゃあああああああああっ!!!!?」

 

 魔族が絶叫した。

 

「――え?」

 

 見るに堪えず、情景から目を逸らしていた陽葵は、改めてリアの方を見る。

 男は股間を押さえて蹲り、リアはそんな魔族を見下ろしながら口から物体を吐き出す。

 ――男性器だった。

 

「……ふん、単純な奴」

 

 一言、魔族の男を侮蔑してから、リアは陽葵の方を振り向いた。

 そして――

 

「逃げるよ、ヒナタ!」

 

 ――力強く、そう言ってくれた。

 

 彼女は、壊れてなどいなかった。

 虎視眈々と、隙を伺っていただけだったのだ。

 無防備に股間を曝した魔族は、哀れ、自分の愚息を噛み切られることとなる。

 

「――リア!!

 お、オレ、リアがおかしくなっちゃったのかと……」

 

「こんなんでおかしくなってたまるかっての!!」

 

 いつものような快活な笑みを浮かべるリア。

 陽葵へ駆け寄り、彼の身体を抱きかかえると、

 

「……こなくそっ!!」

 

 馬車の壁を体当たりで突き破り、外へと飛び出した。

 突然のことに周囲を囲む魔族は反応できない。

 陽葵はリアの抱えられ、そんな彼らの頭上を飛び越えていった。

 

 ……その時に。

 

「――ま、無駄な足掻きなんだけどね」

 

 そう、自嘲気味に小さく呟いた言葉は、幸い陽葵に届かない。

 

 

 ――そして残念なことに、その懸念は正しかった。

 

 

 走る。

 2人は、力の限り走る。

 ここがどこだか分からない。

 どこを目指せばいいかも分からない。

 でも走る。

 まだ暗い、人気の無い路地をただ走る。

 誰かに会えれば。

 騒ぎに気付いて貰えれば。

 何か、が起きるのではないかと信じて。

 

 ――走った、のだが。

 

「……いっつっ!!?」

 

「うぁあっ!!」

 

 バランスを崩して、地面に転がった。

 巻き込まれる形で、陽葵もまた倒れる。

 

「り、リア!」

 

 何事が起きたのか。

 陽葵は彼女の様子を見やる。

 

 ――リアの右足が焼けていた。

 おそらく、炎系のスキルによる射撃を受けたのだろう。

 酷く爛れたその足は、もう歩けるようにすら見えなかった。

 

「……あ、あぁぁ」

 

 がっくりと肩を落とす陽葵。

 リアを見捨てるという選択肢は思い浮かびすらしなかった。

 もっとも、陽葵だけで逃げたとして到底逃げ切れるものではなかったろうが。

 

 ゆっくりと、魔族達が歩いてくるのが見える。

 独りの魔族の手から、煙が燻っていた。

 おそらく奴が炎を放ったのだろう。

 

 ――彼らとの距離は、思ったよりずっと近い。

 2人の最期の逃避行は、たった数十mで終わりを告げた。

 

「……いや、驚きましたヨ。

 大したものデス、リア。

 アナタのしぶとさには、いっそ敬意すら抱いてしまいマス」

 

 魔族の一人――バールが、パチパチと拍手をしながら語りかけてきた。

 陽葵にはもう、奴を睨み付ける気力すら残っていない。

 

「残念ですヨ。

 こうなってはもう、アナタは死ぬ他無イ。

 今のご時世、優秀な魔族は一人でも残しておきたいのですガネ」

 

 バールが手を上げると、数人の魔族がスキルを発動し出す。

 炎が、氷が、雷が、彼らの手から生み出されていった。

 ――標的は、リア。

 

「……終わりデス」

 

 

 「そちらがな」

 

 

 バールが手を振り下ろす直前、そんな声が辺りに響いた。

 

「がっ!?」

「ぐぁっ!!」

「ぎっ!?」

 

 次の瞬間、スキルを使おうとしていた魔族が悲鳴を上げる。

 見れば、彼らの腕に『矢』が突き刺さっていた。

 

(……あれって)

 

 陽葵はその矢に見覚えがあった。

 ウィンガストに来てから何度も目にした、『矢』。

 

 「――魔族、バール・レンシュタット、並びにその配下」

 

 声が続く。

 その場に居た誰もが、聞こえてくる方向へと視線を集中させた。

 ――路地の奥から、一人の男が歩いてくる。

 

 「ウィンガストへの不法侵入、身分詐称、各地での器物損壊。

 何よりも、私の友人達を傷つけた罪で――お前達を(ミナゴロシ)にする」

 

 現れたのは、黒髪の男。

 顔を厳しく引き締めた、ウィンガストに住む<訪問者(日本人)>の冒険者。

 

「……黒田!」

 

「来て、くれたんだ…」

 

 陽葵とリアの声が重なる。

 

 ――その男は、黒田誠一であった。

 

 

 

(……あれ?)

 

 黒田の登場を喜んだ直後、陽葵は首を傾げた。

 彼の装いが、いつもとは異なったからだ。

 

 今の黒田は、如何にも魔法使い然としたローブ姿ではなく。

 黒を基調とした、軍服ような服を着込み。

 両手と両足には、赫く輝く籠手と脚鎧を装着していた。

 

 その姿は、<魔法使い>と言うよりも――

 

「……ぷっ!

 なんだぁ、その格好!」

 

 魔族の一人が突如、噴き出した。

 その魔族はケラケラと笑い、

 

「<魔法使い(ウィザード)>が<格闘士(グラップラー)>の真似事かよ?

 さっきの口上といいよぉ、お前、おもっきし滑ってんぞ?

 分かってる?」

 

 舐め切った態度で、黒田へと近寄る魔族。

 そんな男へ、バールが緊迫した声で警告を発した。

 

「不用意に奴へ近づくナ!」

 

 魔族がそれに反応するよりも早く――

 

 炸裂音がした。

 魔族が吹き飛ぶ。

 後ろの壁に激突。

 

 ……魔族はピクリとも動かない。

 首があり得ない方向へ曲がっている。

 

 ――軽口を叩いていた魔族は、死んだ。

 

(……え?

 え、え、何?)

 

 最初の炸裂音が――まるで銃声のようなその音が、黒田が魔族を殴った打撃音だと陽葵が気づくまで、かなりの間を要した。

 

 何故か。

 見えなかったからだ。

 黒田が魔族を殴りつける挙動はおろか――彼が、魔族のもとへ移動する動作すら。

 魔族と黒田の間には、10m以上の距離があったにも関わらず。

 

 『殴った』というのは。

 吹き飛んだ魔族が元々立っていたところに黒田が居ることと、彼が拳を前に突き出す姿勢であったことから予想しただけに過ぎない。

 

 だが、今の動きに驚愕したのは陽葵に限った話ではないらしい。

 魔族達にも、騒めきと緊張感が広がっている。

 

「陽葵さん、リアさん」

 

「おわっ!?」

 

 突然、すぐ近くから声をかけられ、驚く陽葵。

 いつの間にやら、黒田がすぐ傍に立っていた。

 先程と同じく、まるで瞬間移動でもしたかのような速さ。

 

 普段通りの丁寧な口調で、黒田が陽葵達に語り掛けてくる。

 

「お怪我は、ありませんか?」

 

「――あんたね」

 

 その質問に、リアが苦笑しながら答えた。

 

「これが怪我無いように見えるの?

 あたしもヒナタも、ボロボロだっての」

 

「……そうですね」

 

 文句を言いながらも、リアの表情は和らいでいた。

 黒田が来てくれたことで緊張感が解けたのか、或いは――

 

(――あれ?

 リア、頬が赤くなってるんだけど?

 あの、これって、ひょっとして――)

 

 それ以上、陽葵は考えないことにした。

 なんだか悲しい事実を目の当たりにしそうで。

 

「……ところであんた、あたしがリアだって分かってたのね?

 前会ったときはすっ呆けてたわけだ」

 

「あ、ああ、いや、それは……申し訳ありません。

 一応変装していたようでしたので、気づかない方がいいのかな、と」

 

「変なとこ気を使わないでよね。

 ……分かって貰えてないと思って、結構ショックだったんだし」

 

 リアと黒田の話は続いている。

 こんな時に不謹慎かもしれないが、少し疎外感を感じてしまう陽葵。

 

「――あの時と、同じ格好だね」

 

「ええ。

 隠し事をしている場合では無いようでしたから」

 

 ここで、黒田は表情を引き締めた。

 

「安心して下さい。

 今すぐ奴らを排除します」

 

「――うん」

 

 こちらに背を向けようとする黒田に、陽葵は慌てて声をかける。

 

「く、黒田!」

 

 陽葵の声に反応して、黒田が足を止めた。

 彼の背中に話しかける。

 

「あいつらに勝てるのか……?」

 

「――ええ。

 あの程度、何の問題もありません」

 

 事も無げに断言する黒田。

 すると、それを聞きつけた魔族が怒声を上げた。

 

「問題無い、だと!」

 

「言ってくれるな!

 勇者の飼い犬風情が!!」

 

「我々に挑むこと自体が無謀だと分からせてくれるわ!!」

 

 次々と怒りを露わにする魔族達。

 だがバールが、そんな彼らを一喝する。

 

「黒田誠一を甘く見るナ!

 ヤツはアークを倒してイル」

 

 その言葉で、冷や水をかけたように魔族達は静まった。

 

「……え」

「……なっ」

「……アークを!?」

 

 再び、彼らの緊張感が高まっていく。

 陽葵にはその理由が分からなかったが――隣に居たリアがぽつりと呟いた。

 

「……アークを足止めに使ってたんだ」

 

「リア、知ってんのか?」

 

「直接会ったことはないけどね。

 あいつらの中では、バールに次ぐNo.2だって話よ」

 

 ――そんな奴を黒田は倒したというのか。

 ならば、バールが警戒するも納得できる。

 

「……恐れることはありまセン。

 アークを倒したと言っても、それは仲間の助力を得た上でのコト。

 今、ヤツは独り。

 我々が負ける道理は無イ」

 

 バールが、冷静な口調で配下達を鼓舞する。

 目に見えて、魔族達の緊張が解れてきた。

 あの男の統率力がなせる業か。

 

「――行ケ!」

 

 その号令の下。

 バールの配下は、一斉に黒田への攻撃態勢に入る。

 

 

 ――黒田と魔族達との戦いが始まった。

 

 

 もっとも。

 これから行われることを戦いと称して良いのか、判断に迷うところではある。

 

 

 魔族が斬りかかる。

 黒田は片手で刃を受け流し。

 もう片方で魔族を打つ。

 吹き飛ぶ魔族。

 

 別の魔族が槍で突撃してくる。

 黒田の姿が消え、槍は宙を突いた。

 次の瞬間、魔族の腹に手刀が突き刺さる。

 

 背後から飛びかかる魔族が居た。

 黒田はそちらを一顧だにせず、後ろ蹴りで撃墜する。

 

 炎が襲う。

 黒田が腕を振ると、突如烈風が起こり、火をかき消す。

 

 無数の氷が降り注ぐ。

 黒田は両拳で氷塊全てを打ち壊す。

 壊れた氷は彼の周囲に一瞬留まり、逆に術者へと射ち放たれた。

 魔族が氷漬けになる。

 

 雷が放たれる――前に。

 術を使おうとした魔族は、超高速で跳んだ黒田に蹴り殺された。

 

 複数の魔族が同時に仕掛ける。

 黒田は、かわす、受ける、止める、流す――そして反撃(カウンター)

 周囲の魔族を薙ぎ倒した。

 

 

 ――黒田が動く度に、魔族は斃れていく。

 その一挙一投足、全てが一撃必殺。

 

 

 威力が違う。

 精度が違う。

 速度が違う。

 技術が違う。

 総じて言えば、次元が違う。

 

 

 これは最早、『殺戮』と呼んでもいい所業だった。

 

 

 そんな彼を、陽葵はじっと見続ける。

 

(……すげぇ。

 黒田、すげぇ…!)

 

 彼の動きに合わせ、籠手と脚鎧の赫い煌きが光の軌跡を描いている。

 

 ――陽葵の目の前には今、子供の頃夢見ていたヒーローが居た。

 誰かの危機に颯爽と現れ、弱気を助け悪を倒して去っていく。

 そんな陽葵の憧れを、黒田が体現していたのだ。

 

「……黒田」

 

 陽葵は彼が戦う姿を、目に焼き付けていた。

 陽葵達を助け、魔族を圧倒していく

 

 そんな陽葵の姿は、余人から見れば恋焦がれる相手に熱い視線を送るようでもあったが。

 彼はそんな自分を、まだ自覚していない。

 

 

 黒田の魔族達との戦い――否、殺戮が続く中で、ある魔族が呟いた。

 

 「――ミサキ・キョウヤ」

 

 五勇者の一人、ミサキ・キョウヤ。

 5人の中で最強を誇ったという勇者。

 

 その『単語』は、魔族達の間に伝播していった。

 

「――ミサキ・キョウヤ?」

「まさか、あいつが――」

「だがこの強さは――」

 

 今なお、魔族達から畏怖を集めるその名。

 動揺を鎮めるように、バールが黒田へと疑問をぶつける。

 

「……黒田、誠一。

 オマエは――オマエは、ミサキ・キョウヤだったノカ?」

 

「私に、お前への説明義務があるとは思えないが」

 

「……そうデスカ」

 

 肯定も、否定も、せず。

 だが、この状況におけるその対応は、肯定と同義であった。

 

「黒田が、キョウヤ?」

 

 そのやり取りを見ていた陽葵も、はっと気づく。

 

 7年前に魔王と戦った、ミサキ・キョウヤ

 誰も素顔を見たことが無い勇者。

 赫い甲冑。

 圧倒的な強さ。

 

 今の黒田と符合する点が、余りに多かった。

 ……何故、偽名を使っていたのか等、疑問も多いのだが。

 

「……あの変態が勇者だったなんて、俄かに信じられないけどね」

 

 隣でリアも呟いている。

 彼女の方を振り返り、陽葵は尋ねた。

 

「違う、のかな?」

 

「ううん。

 信じたくはないけど、でもそうなんだと思う。

 ……あんなのが、2人も3人もいるだなんて考えたくないし」

 

 かぶりを振ってから、陽葵の考えに頷くリア。

 その答えに納得すると、陽葵はまた黒田の活躍に目を輝かせ始めるのだった。

 

 

 

 熱心に黒田の姿へ齧り付きになる陽葵を見ながら、リアは内心疑問を持った。

 

(――勇者、だとしてもさ)

 

 黒田を見る。

 またしても一人の魔族の魔族を蹴りで吹き飛ばしていた。

 魔族達は、彼に対して成す術も無い。

 

(強い、強すぎる)

 

 認めてやりたくもないが、今この場にいる魔族達は誰もが一級品の実力を持っている。

 そんな連中を、黒田は何故こうも手玉にとれるのか。

 黒田の強さを以前目の当たりにしたリアでさえ、そこに疑問を浮かべてしまう。

 それほど、彼の戦いぶりは常識を超えていたのだ。

 

(……初速?)

 

 彼が戦う姿を見続け、リアはようやく理解した。

 黒田の挙動に対する違和感の正体を。

 

 普通、人の行う動作には『加速』が必要だ。

 殴る、蹴る、走る、跳ぶ――あらゆる行動は、開始時点で最大速になることなど無い。

 動き始めてからさらに力を加え、加速させているのである。

 技術や訓練により、初速を高めたり、加速を増したりすることはできるが――その基本原則を覆すことはできない。

 

 いや、できないはずだった。

 

 黒田の挙動は、初速から最大速に達しているのである。

 拳を撃ち出す動作も、脚を蹴り出す動作も、地を駆ける動作も。

 全て、動き始めから最高速度なのだ。

 

 故に、彼の行動へ対応ができない。

 戦い慣れている者ほど、人の動きを熟知している者ほど、彼の動きは捕えられないだろう。

 今までの経験から組み立てた予想を、遥かに超えて動いてくるのだから。

 

(これが黒田の――勇者キョウヤの強さの理由、なのかな)

 

 いったい、どんなスキル、或いはどんな訓練の賜物なのか検討もつかないが。

 黒田は、絶対不可能な領域に易々と足を踏み入れていたのだ。

 

 

 

 同じことを、この男――バールもまた勘付いていた。

 

(初速のカラクリに加え、破壊力・速度・技術も一流とくれば――これは手の付けようが無かったのも頷ケル)

 

 ただの人間が、自分達魔族を超える力を身に着けていることを、彼は渋々ながらも認めた。

 これ程の力を隠しながら、あの黒田という男はアークを相手取っていたというのか。

 

 そう考えている間にも、バールの配下は屠られている。

 黒田が高く跳び、すぐさま急降下、そのまま踵落としで一人を倒す。

 直後に右へステップ―――したかと思えば左方向へ突進し、不意を突いてもう一人を撃破した。

 

(……重力も慣性も、あったものじゃないですネ)

 

 初速の件も含め、おそらく幾つものスキルの効果を重ね合わせることであれだけの所業を成しているのだろうが。

 

(<射出>だけでも厄介だというのに、まさかこんな隠し球まで持っていたとは――――んん?)

 

 そこで、バールの頭に一つの閃きが到来した。

 

「……<射出>?」

 

 思わず口に出す。

 彼は己の頭脳を最大限に駆使し、一つの結論に達した。

 

「そ、そうカ、<射出>!!」

 

 自分が導き出した“答え”に身震いしつつ、バールは黒田へ向かって叫んだ。

 

「黒田、誠一!

 オマエは、<射出>を自らの手足にかけ――拳や蹴りを弾丸のように飛ばしているのか!?」

 

 配下のアークから、黒田誠一が<射出>を移動手段として使用していたという報告を受けた。

 ならば――己の四肢にかけ、格闘能力を増大させる手段として使用することも可能かもしれない。

 

 ……そうであれば、納得ができるのだ。

 

 あの格闘術の威力も、異常な初速の速さも、高速での移動も、物理法則を無視した機動も。

 全て、<射出>を身体に作用させることによって成し遂げたものであるなら。

 

 ――もっとも、それを実行する難易度を度外視する必要はあるが。

 普通、<射出>を手にかけようものなら、腕が引きちぎれるだろう。

 移動に利用するにしても、通常ならすぐにバランスを崩してしまい、緊急脱出としての使用以外できないはずだ。

 あれだけの戦闘行動を可能とするためには、どれ程精密なスキル操作が必要とされるのか。

 

(それが故に、尋常でない<射出>の熟練度だったわけデスネ)

 

 黒田の<射出>熟練度は、525。

 その常識外れの熟練度をもって、常人には到底真似できぬ神業を実現しているということか。

 

「――その通り」

 

 意外なことに、黒田はバールの考えをあっさり肯定してきた。

 

射式格闘術(シュート・アーツ)と私は呼んでいる」

 

「……良いのデスカ。

 そう簡単に話しテ」

 

「知ったところで、お前達は何もできないだろう」

 

「……グッ」

 

 言葉が詰まるバール。

 ――ちょうどこの時、黒田が最後に残った部下の頭を叩き潰したところだった。

 

「残りはお前だけだ」

 

「――そのようデスネ」

 

 あれだけ居た、三十人もの魔族がたった一人の人間に蹴散らされた。

 その事実にバールは暗雲たる思いを抱いたが……決して諦めてはいない。

 ここに至って、まだ黒田に勝てる等という自信があるわけではないが――勝てないなら勝てないで、やりようはあるのだ。

 

 黒田がこちらに向かって一歩踏み出したところで、バールは叫ぶ。

 

「<影の檻(シェイド・プリズン)>!」

 

「――!?」

 

 周囲の影が姿を変え、黒田を取り囲んで檻となす。

 バールが切り札として――“戦闘が始まった時点から”準備していた魔業(イービル・スキル)だ。

 

「ワタシがただ何もせず、黙って戦いを見守っていたとでも思いましタカ?

 オマエの強さの秘密は既に解明していル」

 

 黒田が『影』に拳を打ち込む――が、弾かれた。

 当然だ、このバール・レンシュタットの奥の手がそう簡単に破られては堪らない。

 

「オマエの戦闘能力は、常に“速さ”へ依存してイル。

 攻撃の速さ、移動の速さ、動作開始時に速さ、そして――スキル起動の速さ」

 

 最後の台詞に対し、黒田の眉がぴくりと動いたのをバールは見逃さなかった。

 

「中でも危険なのが、スキルの発動に全くタイムラグが存在しないことデス。

 ……525などと言う頭のおかしい熟練度によって可能にしているのでしょうけどネ。

 これのせいで、オマエの攻撃に対してスキルで防御することができナイ」

 

 異常な起動速度と攻撃速度が合さり、黒田の行動に対応する形でスキルを発動させることが至難となっている。

 防御しようと思っても、スキルが発動する前に攻撃される。

 攻撃しようと思っても、スキルが発動する前に攻撃される、もしくは避けられる。

 ……どうしようもない。

 

 これが原因で、部下の魔族達は大した抵抗もできないまま彼に負けたのだ。

 対抗するためには、強力な装備か常時発動型のスキルで身を強化するか――彼の動きを先読みして“予めスキルを発動させておく”しかない。

 

 黒田が<影の檻>を避けられなかったことが、バールのこの推論の正しさを証明していた。

<影の檻>は、使用しておけば敵の動きをトリガーにして効果を発現する、(トラップ)型のスキル――その中でも最硬の強度を誇る代物なのだ。

 

「――成程。

 既に発動していた、唱える必要もないスキルの名を、お前は態々叫んだというわけか」

 

「フフフ、負け惜しみと受け取っておきますヨ」

 

 黒田の言葉に、バールは余裕の笑みを浮かべた。

 

「その檻は、如何にオマエでも突破でき無イ。

 強度だけならば、アークの<硬化>を上回りマスからネ。

 あの『爆宿雷光(アトミック・プラズマ)』とやらを使えば話は別デスガ――街中で、使用できマスカ?

 ここら一帯が全て吹き飛びまスヨ?」

 

 ここで、少し肩を竦め、

 

「もっとも、コチラからオマエを攻撃することもできないのデスガ。

 まあ、オマエを殺すのは諦めますトモ。

 ――陽葵クンを連れて逃げることさえできれば、それで良しとシマス」

 

 ちらりと陽葵の方を見ると、彼はびくっと身を震えた。

 バールは笑みを嗜虐的なものに変える。

 

 ……とはいえ、そうゆっくりともしていられない。

 <影の檻>の効果時間はそこまで長くないのだ。

 黒田を閉じ込めている間にリアへ止めを刺し、陽葵の身柄を確保しなくては。

 

 ――と。

 

「……ふぅぅううううううう――」

 

 黒田が、ある格闘の流派において『息吹』と呼ばれる呼吸をとった。

 彼を中心として旋風が巻き起こる。

 

「こ、これは……?」

 

 予想していなかった出来事に、バールは戸惑う。

 風の中心で、黒田が口を開く。

 

「――拳による突きを行う際、稼働する人体の部位はおよそ十五」

 

「……何を、言ってイル?」

 

 訝しむバール。

 構わず黒田は先を続ける。

 

「その全ての部位に“<射出>を作用させたら”どうなるか」

 

 ――風が止んだ。

 ゆっくりと、黒田は中段の構えをとる。

 バールがそれを認識した直後。

 

 

 ――大気を切り裂く『爆音』が轟いた。

 

 

「……こうなる」

 

 バールの“すぐ傍”で、黒田が呟いた。

 

「――ゲァハっ!?」

 

 対して、バールは意味のある言葉を返せなかった。

 黒田の拳によって、胸を、肺を、背を、貫かれていたからだ。

 

 身体の稼働個所全てに<射出>を作用させることで繰り出す、超々高速の一撃。

 黒田の放った正拳突きは、<影の檻>を破り、さらにはバールの身体までも打ち砕いた。

 

「――奥義之弐・風迅(ブラスト・オーバー)

 

 その黒田の声が。

 バール・レンシュタットが耳にした、最期の言葉となった。

 

 

 ウィンガストの街に日が昇る。

 太陽の光は、路地に転がる夥しい数の魔族の死体と、その中で悠然と立つ黒田誠一の姿を、眩しく照らし出していた。

 

 

 

 第十三話⑨へ続く



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⑨! 序章の終わり

 

 

 

 後日談。

 その日の昼下がりのお話を後日談とするのは、流石に詐称に当たるのではなかろうか?

 

 皆さん、お久しぶりの黒田誠一です。

 しばらく登場しないと思ったら、いきなり“らしくない”姿を見せてしまい、お恥ずかしい限り。

 

 私は今、治療院の一室に居る。

 陽葵さんとリアさんの見舞いをするためだ。

 

 リアさんの足の火傷以外に彼らに目立った外傷はなく、その火傷にしてもスキルと薬による治療で完全に消え去っている。

 ――いつも思うが、本当に便利だな、スキル。

 しかし、傷は無くとも二人の体力は衰弱しきっていた。

 そういうわけで、リアさんと陽葵さんはそのまま治療院へ入院する運びとなったのである。

 

「――代理!?」

 

 陽葵さんがいきなり大声を上げた。

 体力が落ちているところでそんなことして、大丈夫だろうか?

 

 そんな危惧を抱きつつも、私は陽葵さんに返事する。

 

「ええ、そうです。

 私は、『ミサキ・キョウヤの代理』として、この世界に来たのですよ」

 

 何やら、陽葵さん達が『私がミサキ・キョウヤである』などというとんでもない勘違いをしていたので、訂正していたところなのだ。

 

「じゃ、じゃあ、あの時着てた鎧は」

 

「一部分だけご本人からお借りしてるんですよ」

 

 流石に全身鎧全てを貰うわけにもいかず、最低限必要な籠手と脚鎧だけ拝借しているのである。

 

「キョウヤって呼ばれても、否定してなかったじゃないかっ!」

 

「肯定もしてないですよ?」

 

 否定しなければ肯定――という文化は、余りよろしくないと思うのだ。

 ……嫌よ嫌よも好きの内という言葉は私も大好きだけれど。

 

「じゃあ、黒田は本当にキョウヤの――」

 

「はい、代理です」

 

 協調のため、もう一度繰り返す。

 それで陽葵さんも納得してくれたようである。

 しかし――

 

「で、でもだったら、お前は何が目的でウィンガストに来たんだ!?

 っていうか、当のミサキ・キョウヤは何してんのさ!?

 あと、代理の癖になんであんなに強いの!?」

 

 矢継ぎ早に質問を投げつける陽葵さん。

 だからそんなに興奮したら身体に悪いですってば。

 

「まあまあ、落ち着いて。

 こうなった以上、きっちり説明いたしますよ。

 ただ、時は改めさせて下さい。

 ……陽葵さんにも関わってくる話ですからね。

 体調が万全な状態で聞いた方がいい」

 

「……そ、そうか」

 

 真剣な口調で話したのが効いたのか、陽葵さんはそれ以上何も言ってこなかった。

 

「ところでクロダ。

 ゲルマンとセドリックはどうしてる?」

 

 今度はリアさんから話しかけられる。

 

「はい、二人もこちらで治療を受けているそうです。

 入院は必要だそうですが、命に別状は無いとか。

 ですから安心して下さい、リアさん――あ、リズィーさんの方がいいのですか?」

 

「リアの方で呼んで。

 リズィーって、偽名だから」

 

「そうだったのですか」

 

 てっきり『リア』の方が人の街に入るための偽名なのかと思っていた。

 本名で潜入任務をするとはなかなか豪胆である。

 まあ、自分の名前は知られていないだろうと考えてのことなのかもしれないが。

 

 リアさんは少ししみじみとした顔で話を続ける。

 

「あたしが言うのもなんだけどさ。

 よく生きてたね、あの2人も」

 

「店長の方はかなりの重傷だったそうですけどね。

 まあお世話して下さる付添人もいますし、大丈夫でしょう」

 

「へぇ、シエラとジェーンがやってあげてんの?」

 

「いえ、カマルさんという魔族の方が」

 

「それは敵だ!!!!」

 

 突如、リアさんが怒鳴った。

 

「そいつ確か、黒の焔亭で襲ってきた奴でしょ!?

 何考えてんの!?」

 

「い、いえ、しかし、店長を治療院に運んで下さったのはその魔族との話でしたし。

 店長自身そんなに気にしてない風でしたから、いいんじゃないですかね?」

 

「……う、器が大きいのか、物事に頓着しないのか」

 

 私の弁解に、リアさんは愕然とした。

 確かに、敵対した相手がすぐ近くにいるというのは、気分がいいものではないかもしれない。

 まあ、カマルさんの方に敵意は無さそうだったので、危険は無いと思うのだが。

 

「……まあ、それに綺麗な方でもありましたし」

 

「何か言った?」

 

「いいえ、何も」

 

 慌てて誤魔化す。

 結構な重装備だったので分かりにくかったが、カマルさんはなかなかの美人さんだった。

 あの重厚な鎧の下には、魅力的な肢体も持っていることだろう。

 

 ……この辺りの事情は、いちいち説明する必要は無いはず。

 

「しかし、カマルもよく引き受けたもんね、付添なんて」

 

「上司が死んでしまったので行く宛てが無いようでしてね。

 しばらくこの街で世話してもらうことを条件に、引き受けたそうです」

 

「……ああ、そう。

 もういいや、なんでも」

 

 がっくり肩を落として、リアさんはそう締めくくる。

 会話がひと段落したところで、私も席を立った。

 

 あまり長居をしては、二人が休まらないだろう。

 私は挨拶をして、部屋を後にした。

 

 

 

「あ、ちょっと、クロダ!」

 

 廊下を歩く私に、リアさんが追い付いてきた。

 ……何用だろうか?

 

「どうしました、リアさん?」

 

「いや、大したことじゃないんだけどさ。

 ……あたし、あんたに言いたいことがあって」

 

「言いたいこと?」

 

「うん……ちょっと、こっち来て」

 

 リアさんに腕を引かれ、人気の無い、廊下の突き当りの方まで連れていかれた。

 

「……人に聞かれてはまずいお話でしょうか?」

 

「う、うん……あのさ」

 

 リアさんは俯きながら、躊躇いがちに話し始める。

 

「もう、あんたは知ってるかもしれないんだけど。

 ……あたしね、あいつらに監禁されて、一晩中ずっと……犯されたの。

 身体を押さえられて、無理やり、代わる代わる何人も。

 何度も何度も中出しされて、口にも尻にも出されて――」

 

 リアさんの身体が震える。

 ……私も思わず沈痛な表情になってしまう。

 

 私が遅れてしまったばかりに、彼女や陽葵さんには辛い思いをさせてしまった。

 バール・レンシュタットの企みが分かっていれば。

 いや、そもそも私があんな魔族(アーク)に手こずったりしなければ。

 最初から、本気で事に当たっていれば、こんなことには――

 

「それでね、あたし、あたし――」

 

 リアさんが感極まったような声を出す。

 顔を上げ、まっすぐ私を見ながら、彼女は続けた。

 

 

「――あたしの身体、おかしくなっちゃった…♪」

 

 

 そう言うと、寝間着の下を肌蹴て、私に自分の股間を見せつけてくる。

 リアさんのそこは、既にびちょびちょに濡れ、愛液が太ももに滴り落ちていた。

 ……辺りに淫猥な香りが漂う。

 

「リアさん?」

 

「――ずっと、あそこが疼いて仕方ないの。

 とろとろになっちゃって、どんどんえっちな汁が垂れてきちゃって…!」

 

 彼女の表情が、とろんと緩む。

 それは、発情した雌の顔だ。

 先程まで震えていたのは、辛い感情を押し隠していたのではなく、欲情を我慢していたわけか。

 

「――だからさ、クロダのちんぽで、あたしを鎮めてくれない…?」

 

「……仕方ない人ですね。

 陽葵さんが貴女のことをどう思っているか、知っているのでしょう?

 そんな彼が隣に居るのに、ずっと私に対して股を濡らしていたとは」

 

 キツメの口調で指摘してやると、リアさんは少し申し訳なさそうに表情を陰らせ、謝罪の言葉を口にする。

 

「ごめん、ごめんね。

 だけどあたし、クロダのちんぽがいいのっ!

 あんたのが欲しくて欲しくて、もう我慢できないっ!」

 

 しかし、その口調に罪悪感は感じられなかった。

 とにもかくにも、私のイチモツが欲しくてしょうがないらしい。

 

「そこまで言うのであれば、リクエストにお答えしましょうか」

 

 私はズボンを開け、性器を取り出した。

 既に男根は反り返る程に勃起している。

 それを見て、リアさんは歓喜の声を上げた。

 

「うん、クロダのちんぽでまんこはめはめしてっ!

 お願いクロダ、あたしを、あたしを――」

 

 リアさんが私に抱き着いてくる。

 そして、耳元で艶めかしく囁く。

 

「――あたしを、あんた専用の精液便所にして」

 

「……いいでしょう」

 

 私は彼女を壁に押し付ける。

 寝間着の中に片手を突っ込み、リアさんの胸を揉んだ。

 程よい柔らかさを堪能しながら、彼女の股間に私のイチモツを擦り付ける。

 

「――こ、ここでしてくれるの?

 黒の焔亭じゃないんだよ――誰に見られちゃうか分からないのに。

 陽葵にだって気づかれちゃうかもしれないのに…!」

 

「おやおや、便器が口答えするのですか?

 いいじゃないですか、人が通りかかったら、リアさんの雌犬っぷりを見せつけてあげれば」

 

「……!!」

 

 私の台詞に、リアさんは言葉を詰まらせた。

 一瞬間を置いて、

 

「――さ、最低…♪」

 

 とても、とても嬉しそうに顔を悦楽に染めながら、そう言った。

 私が腰を突き上げると、ぬるぬるになった彼女の膣はあっさりと愚息を迎え入れる。

 

「あ、あぁぁああああんっ!」

 

 瞳を閉じ、身体をくねらせて、リアさんは嬌声を口にした。

 

 ……この一日で、疲労だけでなく性欲も大分溜まっている。

 私はそれを、彼女の身体へ思う存分吐き出すのだった。

 

 

 

 

『黒田は肉便器を一個手に入れた!』

 

 ――流石にこのナレーションは如何なものか。

 もう少し、リアさんの人権とかそういうものに配慮した方がいいのでは?

 

 

 

 ……時刻はもう夕暮れ。

 肉便器とのプレイを楽しんだ私は、治療院の廊下を歩いている。

 ちなみに当の肉便器(リアさん)は、疲れ果てて眠ってしまった。

 

「うーむっ」

 

 一つ、背伸びをする。

 流石の私も今回は疲れた。

 昨日から碌に休憩を取っていないし――切り札も色々と切ってしまったし。

 

 そろそろ家に帰ろうと、治療院の廊下を歩いていると、エレナさんの姿が目に入った。

 もう動けるようになったのか。

 私は彼女と話をしようと、近寄っていく。

 

「エレナさん、ご加減は如何ですか?」

 

 そう話しかけると、エレナさんは“怜悧に”目を細め、睨むように私を見ながら口を開く。

 

「――随分と不甲斐ない結果に終わったな、誠一」

 

「……え」

 

 “薄く笑う”エレナさん。

 そんな彼女からは、どことなく圧迫感すら感じた。

 

 ……いや、エレナさんではない。

 彼女との付き合いも長い。

 エレナさんがこんな表情をする人では、こんな雰囲気を纏う人ではないことを、私はよく分かっている。

 

 ――では、目の前に居る『この人』は誰だ?

 

「……貴方は――」

 

 疑問を口に仕掛けてから、気づく。

 

 私は、この人――いや、『この方』を知っている。

 見る人を突き刺す、冷たい視線。

 周りを圧倒する存在感。

 

 この方は――

 まさか、この方は――

 

「……きょ、キョウヤ、さん?」

 

「そう、私だ」

 

 私の呟きを、エレナさんは――いや、エレナさんの姿をした『キョウヤさん』はあっさりと肯定した。

 私は驚きを隠せず、声を震わせながら訪ねる。

 

「きょ、キョウヤさん、いつ此方へ……いや、そもそもどうしてエレナさんの身体を…?」

 

「一度の複数の質問をするな。

 それに答えるより先に――」

 

 キョウヤさんは、目をさらに細め、やや怒気も交えながら。

 

「――誠一、いつからお前は、私のことを『キョウヤ』などと呼べる身分になった?」

 

「!!」

 

 ……私としたことが、失念していた。

 この方を『キョウヤ』などと呼んでしまうとは。

 

「も、申し訳ありません、“ミサキ”さん」

 

「――まあ、いい。

 以後、気を付けろ」

 

 つまらなそうに私を一瞥してから、ミサキさんは先程の質問に答える。

 

「別にウィンガストに――この世界に転移してきたわけではない。

 私自身はまだ東京に居る。

 ただ――少々特殊な交信方法を開発してな。

 この世界に住む人間の精神に干渉し、私の意識をそいつに反映させる――そんな技術だ」

 

「――なっ」

 

 軽く言ってくれる。

 それがどれだけ途方もない技術であるのか。

 私の想像できる範疇を超えている。

 

「そ、それをエレナさんに使ったと」

 

「――ああ、そうだ」

 

 淡々と頷くミサキさん。

 私は頭に浮かんだ疑問をそのまま投げかけてみる。

 

「……何故、エレナさんの身体を。

 か、彼女を使って、何をしようと言うのです…?」

 

 ミサキさんは、不敵に笑いながら、

 

「――この女は一度死にかけた。

 それを――助けてやったわけだ。

 ――その身体を私がどう扱おうと――文句を言われる筋合いはない。

 それに――なかなか私好みの女でもある――」

 

 そう言って、ミサキさんは『エレナさんの身体』を、『エレナさんの顔』を、撫で上げた。

 その動きで、彼女の胸がたゆんと揺れる。

 ……今の私に、それを楽しむことはできなかったが。

 

「ま、待って下さい。

 それでは――それでは、エレナさんは――」

 

「ああ――しばらくは――身体を馴染ませる必要がある。

 ――私が『出てくる』のは、控えておいた方がいいだろう。

 まあ、もっともその後は――私が使わせて貰うことになるが」

 

 ニヤリと、顔を歪ませた。

 ……今の私の表情を誰かが見れば、さぞかし情けない顔つきをしていることだろう。

 

「そういうわけだ、さっさと用件を済ませるぞ。

 誠一、今回の件、随分と後手後手に回ったな」

 

「……弁解しようもありません」

 

 表情を厳しくしたミサキさんの詰問に、私はただ頭を下げる。

 

「判断が甘い、甘すぎる。

 ゲートの暴走に巻き込まれた時点で、魔族が関わってきたと何故気付けない。

 せめて何者かの策謀を疑って然るべきだろう」

 

「は、はい……」

 

「その後の対応も酷い。

『爆縮雷光』や『射式格闘術』などという“玩具”を後生大事に抱えるとはな。

 さっさと使えば解決も早かっただろうに」

 

「……こ、この段階でそれらを使うのは、計画にありませんでしたので」

 

 私の答えが不満だったようで、あからさまに嫌な顔をするミサキさん。

 

「計画に無いことは何もできんのか、馬鹿が。

 知ってはいたが、つくづく臨機応変な行動ができない男だな。

 ――この騒動、“魔族と手を組む”選択肢もあったんだぞ」

 

「それでは、陽葵さんの身が――」

 

「――ふん、あの魔王の息子が余程気に入ったのか?」

 

「あ、いえ……」

 

 ミサキさんは、不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 実際、機嫌を損ねたのだろうが。

 

「――まあ、いい。

 いいか、誠一、これから状況は厳しくなる。

 選択を間違うんじゃない。

 ――私を失望させるな」

 

「……肝に、命じておきます」

 

 私は、さらに深くお辞儀をする。

 ミサキさんは、そんなものに興味は無いと言いたげに、もう一度私を睨み付けてから、

 

「さて、話は終わりだ。

 また用が出来たら“来る”」

 

 そんな言葉を最後に、ミサキ・キョウヤの気配が『消えた』。

 後に残ったのは、エレナさんの身体のみ。

 

 

 「……あれ、クロダ君?」

 

 

 ミサキさんが去ってそう間も置かず、エレナさんが『目覚める』。

 

「どしたの、何か変な顔してるよ、キミ?

 ……ん? ていうか、ボクなんでこんなところに居るんだっけ?」

 

「……エレナさん」

 

 私は彼女を直視できなかった。

 エレナさんがこうなった原因は、全て私にある。

 

「あ、聞いたよー、あの後魔族倒しちゃったんだって?

 いやー、流石はボクが見初めた男だね!

 んん、愛人として、鼻が高い高いっ!」

 

 エレナさんはころころと笑う。

 先程、ミサキさんが『出ていた』ときと、真逆の表情。

 

「んふふふふ、それでね、聞いてよ、クロダ君。

 超ビッグニュースだよっ!

 キミ、ボクの治療に霊薬なんてとんでも無いモノ使ってくれたんでしょ?

 ん、なんとね、その効果で――ボクの処女膜、再生しちゃったみたいっ!」

 

「……エレナさん」

 

 喜々として彼女は語る。

 その様子に、私の視界は歪んできた。

 

「んんー、これも見越してクロダ君は霊薬を使ったのかな?

 いやいや、お主も悪よのぅ」

 

 ニヤニヤと、今度は意地悪く笑いながら、私の胸を小突いてくる。

 そして今度は、嬉しそうに――本当に嬉しそうに笑顔を見せて、

 

「でもまさか、大好きな人にボクの初めてをあげられるなんてねー。

 んふふふふ、ボク、自分のことあんまりそういうの気にしない女だと思ってたんだけど。

 ――なんか、凄く幸せな気分」

 

「……エレナさん!」

 

 もう、堪えきれなかった。

 私は彼女に抱きつく。

 

「え、え?

 どうしたの、クロダ君?」

 

 戸惑う彼女に縋り、

 

「……すみま、せん。

 ……すみません!」

 

 私はただ、謝罪する。

 自然と、目から涙が零れてきた。

 

 

 『ボクのこと、愛してるって言ってみて?』

 

 『ほらほら、観念して愛の言葉をプリーズ!』

 

 『ボクも、クロダ君のこと愛してるよ』

 

 

 あの迷宮での、彼女とのやり取りが胸中に蘇ってくる。

 ――だが、もう、手遅れだ。

 

 私は、エレナさんを。

 こんな自分のことを、愛していると言ってくれた女性を。

 

 ――永遠に、失った。

 

 

 

 後日談 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ちょっと待て」

 

 突然、エレナさんの口調がミサキさんに戻る。

 私は涙を拭き拭きと消して、話しかけた。

 

「あれ、帰ったんじゃなかったんですか、ミサキさん」

 

「気になることがあってな。

 ――お前、なんかこう、エレナとのやり取りがおかしくないか?」

 

「そうですか?

 愛人との永遠の別れを宣告されたら、こんなもんなんじゃないかと思うんですけど」

 

「何が永遠の別れだ!?」

 

 ミサキさんが怒鳴り出した。

 その迫力に、身を竦ませてしまう。

 

「いいか?

 ちゃんと私は彼女に承諾を得て、この身体を使わせて貰っている。

 あくまで借り受けているだけだ。

 ――そう説明しただろう?」

 

「……あれ、そうでしたっけ?」

 

 そう言えばそんなことも言っていた気がする。

 ちょっと記憶を振り返り、直前にしたミサキさんの発言を訂正してみよう。

 

 

 ×訂正前

「――この女は一度死にかけた。

 それを――助けてやったわけだ。

 ――その身体を私がどう扱おうと――文句を言われる筋合いはない。

 それに――なかなか私好みの女でもある――」

 

 ○訂正後

「今から半年ほど前にこの女は一度死にかけた。

 それを、この世界への交信を試していた私が偶然見かけ、助けてやったわけだ。

 いい機会だからと、その後に交渉してな。

 彼女の身体を一時的に私が借りることを了承してもらったんだ。

 だから、その身体を私がどう扱おうと、お前から文句を言われる筋合いはない。

 それに、身体の賃貸契約を結んでもう長く経っているからな。

 彼女の身体でどこまでやれるか、大よそ把握はできている。

 面白い性格をしたなかなか私好みの女でもあるし、そう無茶はしないから安心しろ」

 

 

 ×訂正前

「ああ――しばらくは――身体を馴染ませる必要がある。

 ――私が『出てくる』のは、最小限にした方がいいだろう。

 まあ、もっともその後は――私が使わせて貰うことになるが」

 

 ○訂正後

「ああ、オリハルコンの矢を受けたからな、心臓も含めて内臓の損傷が激しかった。

 霊薬で治したとはいえ、しばらくは急激な再生が起きた身体を馴染ませる必要がある。

 要するにリハビリだな。

 再生した箇所と元々の身体が拒否反応を起こした例も僅かとはあるので、大事を取るに越したことはない。

 負担をかけないよう、私が『出てくる』のは、最小限にした方がいいだろう。

 まあ、もっともその後は、緊急時など必要に応じて私が使わせて貰うことになるが」

 

 

「……おおっ!

 しっかり説明していましたね!」

 

「おおっ――じゃないっ!」

 

 ミサキさんはお冠だ。

 私は笑って誤魔化しながら、

 

「いやー、日本語って難しいですね(棒)」

 

「随分と都合のいい耳をしているな、お前!

 悪意が籠ってるとしか思えん!

 ……あと今私達が喋ってるのは日本語ではなくてグラドオクス大陸共通語だぞ」

 

「こ、細かいところ指摘しないで下さいよ。

 だいたい、ミサキさんの台詞が長すぎるのが悪いんです!

 私、4行以上の文章は覚えられないんですよね」

 

「嘘をつけ!

 日常生活に支障を来すだろう、それ!」

 

 見破られてしまった。

 流石はミサキさんである。

 ……誰でも分かるか。

 

「……まったく。

 変な予感はしたんだ。

 妙によそよそしい態度で接してきたしな、お前」

 

「“不意に”“予想外な”ところでミサキさんに会ったので、上手く対応できなかったのですよ。

 『社畜』って不便な特性ですね」

 

「自分の特性を都合のいい理由にするんじゃない!」

 

 ミサキさんは怒鳴りつけつつ、言葉を続ける。

 

「エレナもエレナだ。

 なんであいつ、私のことなんて何も知らない、みたいな態度で話し出したんだ?

 口裏合わせでもしてたんじゃないだろうな、お前達!」

 

「ぐ、偶然ですよ、偶然」

 

 強いて言うなら、喋り出す前にエレナさんの口がにまぁっと笑ったことに原因があるのかもしれない。

 

「私はお前等の悲劇のカップルごっこに協力する気なんぞ一切合切無いからな…!」

 

「そ、そんなこと考えてもいませんでしたよ?」

 

 本当である。

 こんな早くネタ晴らしになってしまって残念――などと、欠片も思っていない。

 

 ……と、そこで私はあることに思い至った。

 

「ん? ミサキさんがエレナさんと会ったのが半年前?

 ということは、出会った時点で既にエレナさん、私のことを事情も含めて知っていたんですね」

 

「ああ、そうだ。

 そもそも、よく知りもしない相手をいきなり誘惑し出す女なんているわけないだろう。

 しかも<次元迷宮>なんて危険なところで。

 論理的・倫理的にありえん」

 

「え、それじゃシフォンさんやマリーさんもミサキさんと接触を?」

 

「――え?」

 

「――え?」

 

 あ、やばい、藪蛇を突いたような気がする。

 

「おい誠一、いい加減にしろよ。

 お前、私の代理なんだぞ?

 常習的に変態行為をする勇者代理ってどうなんだ?」

 

「いや、いやいやいや、ちゃんと分別わきまえてますよ。

 ミサキさんが危惧するようなことは断じてやっていませんから!」

 

 私の弁解を聞いて、ミサキさんは目を鋭くした。

 

「ほう?

 ……お前、まだ気づいていないのか?」

 

「な、何をですか?」

 

 その視線に、私は嫌な予感を覚えた。

 何だ――何かを私は失念しているような。

 

「半年前に私とエレナは出会っていた、と言っただろう。

 つまり――お前が任務対象(室坂陽葵)を放って、エレナといちゃついていたことも、私は知っている」

 

「――あ」

 

 ……そのことを把握しておられましたか。

 背中を、冷たい汗が伝った。

 

 ミサキさんは、凄みの有る笑みを浮かべて私を見つめてきた。

 

「自分のことを社畜だなんだと言っておきながら――平然と私の命令を破ってくれたな?」

 

「ち、ちが、違うんですよ、ミサキさん!

 あれは近くにリアさんがいたからちょっと安心しちゃってですね!?」

 

「それが仕事を放棄していい理由になると思うか!」

 

「いや、根本的な理由はエレナさんとエッチなことしたかったからなんです!」

 

「なお悪いわ!!」

 

 そこでミサキさん、ふっと無表情になり、

 

「本当は後日に改めようと思っていたのだがな。

 いい機会だ、これから私がお前を本当の社畜に矯正してやる」

 

 そう宣言すると、私の首根っこを掴んでくる。

 まずい、目が本気だこの人。

 

「い、いやだぁあああっ!!?

 いえ、この際ミサキさんの下僕になることに反抗はしませんけれども、私の性的趣向まで矯正するつもりでしょう!?」

 

 身を捩って逃げようとするも、がっしり掴まれて身動き取れない。

 エレナさんの体だというのに、その力はやたらめったらに強かった。

 どうなってるんだ!?

 

「当たり前だ!

 自分の代理が性犯罪者だなんて、いい面汚しだろうが!」

 

「だ、駄目ですよ!

 タイトルに偽り有になってしまう!!」

 

 変態記じゃなくなってしまう!

 冒険記とかそんなんになってしまう!!

 R18にさよならを言わなきゃいけなくなってしまう!!!

 

「ええい、喧しい!

 訳が分からんことをぶつぶつと!!」

 

「あーーーーー……」

 

 ずんずんと、私を引き摺りながらミサキさんは歩いていく。

 

 ……私はどうなってしまうのだろう?

 ……次、皆さんにお会いする時、私はちゃんと変態でいるのだろうか?

 

 そんな不安を抱えていると、ミサキさんが足を止めた。

 真剣な顔で私を覗き込み、口を開く。

 

 

 

「分かっているんだろうな、誠一。

 お遊びの時間はもう終わりだ。

 ――始めるぞ、“勇者退治”を」

 

 

 

 ……顔を引き締める。

 ミサキさんのその言葉に、私は強く頷いた。

 

 

 

 

 第十三話 完



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第十四話 説明会開催
① ミサキさん、大いに語る


 

 

 

「では状況説明を始める」

 

 そんな言葉と共に、陽葵さんへの説明会が開催された。

 

 ここは、セレンソン商会の一室。

 建物内に数ある部屋の中でも、最も奥に位置し、最も厳重に警備されている場所。

 この部屋での会話は一切外に漏れることは無い。

 商会の将来が揺るぎかねない程の重要な商談をする時のみに使われる部屋である。

 

 今、この部屋では6人がテーブルを囲んでいる。

 一人はこの私、黒田誠一。

 それと、この説明会の当事者である陽葵さん、その付き添いでリアさんとジェラルドさん、ついでにこの商会の代表であるアンナさん。

 そして――

 

「――あの、ちょっと待って」

 

 リアさんが割り込んできた。

 私に顔を向けて、

 

「なんで、こいつがここに居んの?」

 

 そんなことを言ってくる。

 ふむ、リアさんとしては彼がここに居ることに疑問があるようだ。

 かくいう私も、驚きを感じていないわけではない。

 

「――ギルド長、生きてたんですね」

 

「人を勝手に殺さんで欲しいのぅ!

 あれ位の傷じゃ、致命傷には程遠いわい!」

 

「単にまだジェラルド・ヘノヴェスに生かす価値があったということだろう。

 ウィンガストのギルド長という立場は、無くすには余りに大きな椅子だ。

 今の魔族はもう碌な連中が残っていないからな。

 こんな老いぼれでも、奴らにとっても数少ない切り札なんだよ」

 

「……なるほど」

 

 納得した。

 バールは魔族の将来を考え、ジェラルドさんに止めを刺さずにおいたわけか。

 

「……いやいや、そうじゃなくてね」

 

 リアさんが再度私に声をかけてきた。

 どうやらジェラルドさんのことを言っていたわけでは無いようだ。

 

「――ふむ。

 と、申しますと?」

 

 私が首を傾げると、焦れたように声を荒げるリアさん。

 

「だから!

 なんで、エレナがここにいるのってこと!」

 

「私がミサキ・キョウヤだからだよ、リア・ヴィーナ」

 

 エレナさん――現在はミサキ・キョウヤさんが、代わりにそう答えるのだった。

 リアさんは、たっぷりと間を置いてから。

 

「……え、本気(マジ)?」

 

 呆然とそう呟いた。

 

「エレナがミサキ・キョウヤだったのか!?」

 

 続いて陽葵さんが叫ぶ。

 ミサキさんは煩そうにしながら、

 

「違う、こんな小娘が私な訳無いだろう。

 単にエレナの身体を借りてこちらの世界へ干渉しているだけだ」

 

 さくっと説明を入れた。

 それだけではあまりにアレなので、私が補足する。

 

「ええとですね。

 ミサキさんは現在、東京におりまして。

 特殊なスキルを使って、エレナさんの身体に自分の意識を投影しているそうで。

 ですから今、エレナさんはミサキさんなわけです」

 

「無茶苦茶な話にゃんだけど、クロダちゃんの言う通りなんだにゃあ。

 まあ、キョウヤちゃんは色々とぶっ壊れ性能してるから、納得して欲しい感じ」

 

「次元の壁を越えて人の心へ干渉してくるとは埒の外ではあるんじゃがのぅ……」

 

 私の発言へ、アンナさんとジェラルドさんが同意する。

 

 ――なお、いちいち説明しなかったが、ミサキさんが使っているこの『交信』――<思考転送(テレパシー)>の発展形とのことだが――誰に対しても使えるものではないらしい。

 なんでも、ミサキさんの精神と波長が合う人間にしか適用できないとか。

 エレナさんとミサキさんの波長が合うというのは聊か信じられないところだが……

 ともあれ、ミサキさんはエレナさん以外へと意識を飛ばすことはできないとのこと。

 

 と、そんな説明を受けてもリアさんや陽葵さんは納得がいかないようだ。

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

「そうそう、いきなり『私がキョウヤ』って言われたって、ピンと来ねぇよ」

 

「ふむ、まあそうだろうな。

 ――必要とあらば、証拠として山の一つや二つ吹き飛ばしてやってもいいが」

 

「止めて下さい」

 

 慌てて止めに入る私。

 流石にエレナさんの体を使っている以上、そんなご無体なことはできないと思うが――できないよね?

 

 そこへジェラルドさんが助け船を出してくれた。

 

「信じられん気持ちも分かるが、確かなことなんじゃよ、リア。

 幾つかミサキ・キョウヤ本人しか知らないはずの質問をして確認した。

 それに、クロダやアンナも太鼓判を押しとるからのぅ」

 

「……まあ、ジェラルドさんがそこまで言うなら」

 

 リアさんが渋々と承諾した。

 陽葵さんもそれに追随するように、幾分か不信感を和らげたようで。

 

「……本当のことなんだよな、黒田?」

 

「ええ、そうです。

 全てをお話すると言ったでしょう?

 今更嘘なんて言いませんよ」

 

「――分かった。

 信じるよ」

 

 陽葵さんもまた、ミサキさんのことを信じてくれたようだ。

 

「……なぁんか、ヒナタちゃんの信用を得るプロセスに違和感を感じるにゃあ。

 ……しばらく見ねぇ内に、さらにクロダちゃんに懐いてる感じ」

 

 私達の方をジト目で見るアンナさん。

 いやいや、信頼のなせる技なんですよ。

 

「さて、話が纏まったところで改めて自己紹介しておこう。

 私が五勇者の一人にしてこの世界で最も偉大な存在、ミサキ・キョウヤだ」

 

「…………」

「…………」

 

 リアさんと陽葵さんが揃って疑わし気な顔になる。

 ミサキさんの自己紹介に、せっかく芽生え始めた2人からの信用が早くも崩れそうだ。

 

「黒田、もう一回聞くけど、この人がキョウヤなんだよな?」

 

「ええ、本当に、この人がミサキ・キョウヤさんなんです」

 

「人違いなんじゃないの、ジェラルドさん?」

 

「いや、7年前でもこんな言動の人物じゃったよ。

 ……恐ろしいことに」

 

 私とギルド長がもう一度念を押す。

 どうにか、2人の信用は持ち直してくれた模様。

 

 ミサキさんは、私達のやり取りなど無かったかのように話を続ける。

 

「それと、私の部下として誠一とアンナがいる。

 誠一の方は既に知っているだろう」

 

「……それで黒田とアンナは知り合いだったわけか」

 

「はい、その通りです」

 

 私は陽葵さんの呟きを肯定した。

 そういう伝手でも無ければ、ただ一介の新人冒険者が街でも有数な商会の運営者とコネを結ぶことなどありえない。

 割とぞんざいな扱いを受けているが、アンナさんはウィンガストでも一、二を争う重要人物なのだ。

 それこそ、街の運営方針にすら口を挟めるという。

 

「アチシ達はさしずめ、キョウヤちゃんの右腕と左腕ってところかにゃ」

 

「私の腕はここにあるが?」

 

「そのネタ使うの早すぎにゃい!?」

 

 そんなアンナさんとミサキさんの軽い寸劇を挟みつつ。

 

「さて、私が何を目的に動いているか――は後にしよう。

 少し事情が入り組んでいるのでな。

 先に、室坂陽葵――君の正体について語っておこうか」

 

「オレの正体?

 魔王の息子じゃなかったのか?」

 

「そこは間違っていない。

 正体の説明というより、君がしている勘違いの是正と言った方が正しいか」

 

 ミサキさんが陽葵さんの方へ顔を向けた。

 ただそれだけで、陽葵さんは気圧されるようにたじろぐ。

 

「室坂陽葵、君は確かに魔王の息子だが、魔王の力なんぞ宿っていない。

 君は、魔王の代替品(スペア)として作り出されたんだ」

 

「……へ?」

 

 陽葵さんが、キョトンとした表情へと変わる。

 

「何らかの理由で魔王が体の生命活動を維持できなくなった場合、その新しい身体として用意されたのが君の身体なんだよ。

 魔王が入るための器に過ぎないから、君自身には何の力も無い。

 室坂陽葵の人格が魔王の力を封印しているなんて嘘っぱちさ。

 地球へ転移させたのも、より安全な場所で『保管』するためだ。

 ――バール・レンシュタットですらそのことを知らなかったようだがな」

 

 とはいえ、ある意味において、魔王の力を発揮するには陽葵さんが消える必要があるというのは真実である。

 本来の使い方がなされた場合、陽葵さんの人格は魔王に取って代わられるのだから。

 

 ミサキさんのそんな台詞を聞いて、リアさんが激昂した。

 

「な、何それ!?

 あんたの言うことが本当なら、あたし達がしたことって――」

 

 ――気持ちは理解できる。

 魔族達は、ありもしない力を求めて騒乱を起こし、あまつさえリアさんと陽葵さんは徹底的な凌辱にまで遭ったのだから。

 

 ただ、ミサキさんにとってはそんなこと些事ですらないようだ。

 涼しい顔をしてリアさんに対応する。

 

「ただの茶番だな?

 ああ、別に信じなくてもいいぞ。

 真実を確かめてみたければやってみればいい。

 自意識を失くした人形が一体転がることになるだけだがな」

 

「……ぐっ」

 

 ミサキさんの言葉に、リアさんは言い返せなかった。

 代わりに、陽葵さんが口を開く。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 ひょっとしてオレ、人間じゃなかったりするのか?

 作り出されたとか、人形とか……」

 

「ん? ああ、それは単に語弊だ、気にしないでくれ。

 君は間違いなく人間だよ――魔王が腹を痛めて産んだ、な」

 

「そ、そうか……あれ?

 魔王が産んだ?」

 

「そうだ。

 何か問題があるか?」

 

「……魔王って、女だったのか!?」

 

「なんだ、知らなかったのか。

 別に隠匿されている情報では無かったはずだが」

 

「そうなの!?」

 

 陽葵さんは周囲を見渡し、視線で同様の疑問を投げかけてくる。

 私達は、一斉に頷いた。

 

「……え、えー……知らなかったのオレだけかよ」

 

「説明してなかったっけ?」

 

 リアさんが軽い感じで、悪びれる風もなく陽葵さんに話しかけた。

 

「されてないよ!?

 もう完璧に魔王のこと男だと思ってたぞ!

 オレ、魔王にそっくりとか言われてたし!」

 

「あんたにそっくりなら、女性でしょ?」

 

「――え?」

 

「――うん?」

 

 二人の間に何かすれ違いがある模様。

 ……陽葵さん、バールに犯されたというのに、まだ自分の美貌を自覚していないのか?

 

「ともあれ、君という人格が壊れたとしても魔王が蘇るようなことは無いことと、君は魔王を受け入れる器なのだということを理解してくれればそれでいい」

 

 さくっとまとめるミサキさん。

 陽葵さんはこくりと頷いてから、ふと何かに気付いて寂しげに笑った。

 

「そうか……オレ、魔王()にとっては代わりの体に過ぎなかったのか……」

 

「それは違う」

 

 誰かがフォローを入れるよりも早く。

 ミサキさんがそう断言した。

 

「魔王に親としての感情が無かったわけでは無い。

 無かったわけでは無いのだが――」

 

 そこでミサキさんは少し考え込んで。

 

「――悪いがその話も後に回させてもらう。

 先に昔話をしてやった方が、理解しやすいだろう」

 

「昔話?」

 

 おうむ返しに陽葵さんが尋ねる。

 ミサキさんはそれに対して鷹揚に頷き、

 

「ああ。

 まずは、“魔王の生い立ち”から話を始めようか」

 

「え?」

 

「何?」

 

 ミサキさんの発言にリアさんとジェラルドさんが反応するも――

 彼らを一切気にすることなく、昔話は幕を開いた。

 

「『魔素』という存在を知っているか?

 ――別に知らなくてもいい、これから説明する。

 魔素とはこの世界――『六龍界』のあまねく場所に存在するエネルギー体のことで――

 分かりやすいところで言えば、魔物を倒した際に現れる魔晶石は魔素が凝縮した結晶だ。

 この魔素によって、人はスキルという特殊能力が使用できるようになった。

 マジックアイテムの作製にもこの魔素を利用している」

 

 つまり、この世界の住人にとって無くてはならない重要な物質ということである。

 もっとも、『魔素』の存在を認識している者は、一部の限られて人間のみ、とのことだが。

 

「この魔素がもたらす利益は大きい。

 しかしメリットがあれば当然デメリットもある。

 魔物の出現がその一つだ。

 そして、人が魔素を大量に浴びると、ほとんどの場合精神に変調を来してしまう」

 

 ちなみにちょっとした補足だが。

 私達は、“魔素を使って”スキルを発動しているわけでは無い。

 魔素に触れることで、人体がその“異物”に対抗するため、スキルを行使する能力を発現させるのだ。

 ――このことからも、魔素が『劇薬』であることが伺えるだろう。

 

「そもそもからしてこの『魔素』、『六龍界』に元から存在する物質ではない。

 この世界の裏――『魔界』と呼ばれる場所から噴き出してきているのだ。

 ――便宜上『魔界』と呼称しているが、本当にそういう世界があるかは定かでないぞ。

 そして、ここで神として崇められている六龍は、魔素の流入を抑える役割も担っている」

 

 聞いての通り、魔素は便利ではあるが取り扱いには注意が必要なエネルギー。

 だからこそ、神様が大量に魔素が流れ込む事態を防いでいた、ということだ。

 

「へぇ、そうだったのか。

 ……で、肝心の魔王は?」

 

「これから出てくる。

 ――かつて、その六龍と意思を疎通し、彼らを祀る巫女がいた。

 彼女によって、人々は六龍の力の恩恵を大いに受けたそうだ。

 しかし、六龍と身近に接するということは、彼らの役割上、魔素にも頻繁に触れ続けるということでもある。

 次第に彼女の精神は魔素に蝕まれ、本来の人格とは別の『邪悪な人格』が形成されていった。

 いつしか巫女の心はその『邪悪な人格』にとって代わられ――『魔王』が誕生した」

 

 魔王は六龍を支配し、その力を扱えるようになった、と流布されているが。

 実際のところは、『六龍の力を使える人間』が魔王となったというわけだ。

 

「……そ、そうなの、ジェラルドさん?」

 

「……そういう説を耳にしたことはあるのぅ。

 しかし、魔王様について詮索されることは禁忌とされておる。

 魔王様が何者なのか知っている者は、儂が知る限り一人もおらんかったはず。

 キョウヤ殿はどこでこれを知ったんじゃ……?」

 

 ミサキさんの語りを邪魔しないよう、こそこそとお喋りしているリアさんとジェラルドさん。

 彼らもこの事実は把握できていなかったらしい。

 

「……スキルは魔素の影響で使えるように……

 ってことは、オレが冒険者になったときにも?」

 

「そうだ、魔素を浴びている。

 もっとも、十分安全性を考慮して濃度を薄められた魔素だ。

 不安になる必要はない。

 そもそも、魔素で心が狂うということ自体、一般には出回っていない情報だが」

 

 陽葵さんの浮かべた疑問にミサキさんが答えた。

 実際、冒険者になる前後で性格が変わったという話も聞かないので、おそらく危険性はほとんど無いと考えられる。

 全く無い、とまでは言えないのだが。

 

「大丈夫だと分かっても、心がおかしくなるってのはぞっとしないなぁ……んっ?」

 

 陽葵さんがはっとした様子になる。

 何かに気付いたようだ。

 そのまま私の方をじっと見つめる。

 

「……あっ」

 

「……そうか」

 

「……にゃあ」

 

 続いて、リアさん、ジェラルドさん、アンナさんが私の方を向く。

 なんだと言うのだ?

 

「どうしたんですか、皆さん。

 まるで私が魔素の影響で変態的な行動をとるようになったのではないかと言いたげな顔をして」

 

「分かってんじゃねーか」

 

「魔素の影響っていうなら、あんたの変態っぷりも納得できるしね」

 

「冒険者になったことで障害が出た稀有な例かのぅ」

 

「今後のために調査しといた方がいいかもにゃ」

 

 勝手な憶測の下、言いたい放題言ってくれる4人。

 それを否定しようと私が口を開くよりも早くミサキさんが、

 

「いや、こいつは生まれついて生粋の変態だぞ」

 

 そう言って冷静に訂正してくれた。

 流石ミサキさん、状況に流されることが無い。

 

 ――と思っていたら。

 

「――魔素のせいでこうなったというならどれ程良かったか……

 天性の変態じゃ矯正のしようもないじゃないか」

 

 がっくりと肩を落としながら、ため息を吐いた。

 あれ、大分落ち込んでいらっしゃいます?

 

 だが次の瞬間には気を持ち直し、ミサキさんは説明の続きを語りだした。

 

「話の腰が折れたな。

 その後、巫女は『魔王』として暴虐の限りを尽くした――がその詳細は省略する。

 本題と大きく外れるからだ。

 ここで重要なのは、ある日戯れに『魔王』が“保険”として自分の子供を作り――

『巫女』がその子供を愛してしまったということだ」

 

「……『巫女』が?

 え、でも『巫女』は消えたんじゃ?」

 

 陽葵さんの言葉にミサキさんはかぶりを振る。

 

「『魔王』に乗っ取られはしたが、『巫女』の人格も完全に消え去ったわけでは無かったのさ。

 ジェラルド・ヘノヴェス、君なら心当たりがあるんじゃないのか?」

 

「――う、む。

 確かに、魔王様はお優しい処遇をお命じになることもあれば、人が変わったかのように冷酷な判断を下すこともありなすった。

 魔王様の深遠なご判断の結果と思っておったが……」

 

「それが『魔王』の人格と『巫女』の人格、2つの意思を持つことによる産物だったというわけだ。

 時が経つにつれ『魔王』はさらに力を増し、『巫女』は抵抗できなくなっていったそうだが。

 ――しかし、室坂陽葵、君が産まれたことで『巫女』は奮い立った。

 自らの子を守るため最後の力を振り絞り、『魔王』への反逆を試みたのさ」

 

 ミサキさんが陽葵さんをじっと見つめる。

 その視線を今度は受け止めて、陽葵さんは言葉を発した。

 

「お、オレのために…?」

 

「そうだ。

 手始めに、君を地球へと――君にとって最大の敵である魔王(自分自身)から最も離れた場所へと送った。

 魔王には、“六龍界(ここ)よりも安全な場所で保管した方がいいだろう”と騙ってな。

 そして六龍界と地球、2つの世界をくまなく渡り、探し求めたのだ。

 ――『魔王(自分)を殺しうる存在』を」

 

「……それってまさか」

 

「……なるほど、そういうことじゃったか」

 

 リアさんとジェラルドさんが息を飲む。

 彼らの反応に、ミサキさんは軽く頷いて、

 

「――そうだ。

『魔王』を殺すに足る者として、魔王自身が召喚した人間こそ、私なのさ」

 

 

 

 

 

 ……そこで、一旦小休止を取ることになった。

 多くの情報が与えられ、その衝撃と混乱で陽葵さんは大分疲労してしまったからだ。

 

「しかし、なかなか大変そうなお話ですね」

 

「他人事のように言わないでよ!?」

 

 今のうちにトイレに行っておこうと、商会の廊下を進む私。

 そんな私の呟きに、隣を歩くリアさんがつっこみを入れた。

 

「ヒナタ程じゃないけどあたしだって混乱してるんだからね!

 魔王様が何者かなんて全然知らなかったし、しかもご自分を止めるために勇者を喚んでただなんて…!」

 

 しかしそのせいで自分が支配していた魔族は大混乱に陥ってしまったわけで。

 上に立つ者として少々責任感が足りないように見えなくもない。

 リアさんには口が裂けても言えないが。

 

「いえ、大変心苦しいのですが……当時のことを私は伝聞でしか聞いておりませんので」

 

「え? クロダって魔王様と勇者との戦いには――」

 

「はい、参加していません。

 というか、私がミサキさんに出会ったのは、魔王との戦いが終わってからなんです」

 

「そ、そうだったの?

 じゃあ、なんであんた、あんなに強いの?

 あたしてっきり、7年前の戦争に参加してたからだとばっかり……」

 

「それについては、ミサキさんがこれから説明してくれますよ」

 

「そ、そう。

 まだ、色々事情があるわけね」

 

「はい」

 

 話をしていると、目的の場所に到着した。

 目の前にある扉を開けると、中はまるで会議室のようになっている。

 ――まるでも何も、ただの会議室なのだけれど。

 

「んん?

 ここ、トイレじゃないよ?

 もっと向こうの方なんじゃない?」

 

 そういうリアさんを無理やり部屋の中に引っ張り込む。

 勢いで尻もちをついたリアさんに、扉を閉めてから私は告げる。

 

「いえいえ。

 『便器』があるのだから、ここがトイレで間違いありませんよ」

 

「――あ」

 

 彼女は、“察した”ようだ。

 顔を赤く染めながら、口を開く。

 

「す、するの?

 こんな時に、こんな場所で……」

 

「“便器”が口答えするんですか?」

 

「や、そんなつもりじゃ…!」

 

 慌てて否定するものの、私はそんなことでは納得しない。

 いや、納得していない“フリ”をする。

 

「それでは、態度で示して貰えませんかね?」

 

「――う、うん」

 

 彼女は弱々しく……それでいて“何か”に期待しながら、私の言葉に頷いたのだった。

 

 

 

 第十四話②へ続く



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② 便器は正しく使いましょう

 

 

 

 おずおずとリアさんは立ち上がる。

 壁に手を突くと、お尻を私の方へ突き出した。

 

 今日のリアさんは、パーカーにスパッツという、いつも通りラフな出で立ち。

 重要な『会議』には似合わない格好だが、部外秘であることも考えれば、いつもと違う姿をして却って怪しまれることを危惧したのかもしれない。

 ただ、頭髪はいつもより念入りに梳かされており、セミショートの茶色い髪が一段と美しく映えていた。

 

 そんな、スパッツに包まれた健康的で形の良い臀部が私の前に曝される。

 生地が薄いからか、パンツラインまでくっきり分かった。

 

 試しに私は彼女の尻肉を鷲掴みにしてみる。

 

「――んっ」

 

 リアさんが小さく喘ぐ。

 

 私の手のひらが、ハリのある彼女の尻に押し返される。

 流石はリアさんのけつ、いい弾力である。

 

「はっ……あっ…あっ…あっ…」

 

 ぐにぐにと揉んでやると、彼女は気持ち良さそうに息を漏らした。

 快感に腰をくねらせている。

 

「…あっ…あっ…あっ…あんっ…」

 

 リアさんの尻肉を堪能しながら、彼女に尋ねる。

 

「ところでリアさん、貴女は私に尻を揉まれるためにここに居るのですかね?」

 

「…あっ…あっ……ん、違う……あっ…あんっ……今、用意するから……あっ…」

 

 悶えながら、リアさんはスパッツを、ショーツを自分でずり下げていく。

 邪魔しないよう、私は一旦手をけつから離した。

 

「――ん、んんっ」

 

 そして現れるリアさんの局部。

 そこは既に蒸れ蒸れに濡れていた。

 

「……クロダ。

 あたしのまんこ、いっぱい使ってちょうだい……」

 

 言って、自らの指で割れ目を開き、(なか)を私に見せつける彼女。

 膣口の準備は既に完了しているようで、私のモノを欲しがってひくひくと震えている。

 

「今さっき濡れたようには見えませんね。

 リアさん、貴女会議中から既に愛液を漏らしていたんですか?」

 

「あ、あんたが近くにいたし……

 ――いつ求められても、大丈夫なように」

 

 いつ挿入されてもいいように、調子を整えていたわけか。

 健気なものだ。

 

「陽葵さんの身の上や、魔王の出生についてミサキさんが話していた時も、そんなのお構いなく私のイチモツのことばかり考えていた、と」

 

「……そ、そんなことは――あぁんっ!?」

 

 反論を口にするよりも早く、私はリアさんの膣内に指を突っ込んだ。

 ぬるぬるになっているそこを、ぐちょぐちょとかき混ぜてやる。

 

「嘘をつくのは止めて頂きたいものです。

 リアさん、肉便器の自覚が無いのですか?」

 

「あっ!…あっ!…あっ!……ごめ、んなさいっ……んんっ!

 あたしっ……あっ!…ああっ!……ずっと、あんたのちんぽのこと考えてたの……あんっ!」

 

 私は肩を竦める。

 

「まったく、人のことを変態扱いしておいて。

 貴女の方が、ずっと変態ではないですか」

 

「あっ!…あぅっ!……だ、だって、あたし、肉便器だもんっ!……あっ!…あっ!

 肉便器なんだから……あっ!…あ、ああっ!……仕方ないじゃないっ……あっ!…あっ!…あっ!」

 

 リアさんの女性器からは止めどなく女の汁が流れ出てくる。

 私の手はもう彼女の液でずぶ濡れだ。

 床にもぽたぽたと愛液が落ち、周囲には雌の匂いが充満している。

 

 ――そろそろ股間でも味わうか。

 

 私はズボンのチャックを下ろし、自分の肉棒を取り出す。

 それを一気にリアさんの膣へと突っ込んだ。

 ……彼女への確認など、当然取らない。

 

「あっあぁあぁああああっ!?

 いき、なり、そんなっ……あぁぁああぁあああっ!!」

 

 突然の刺激に戸惑いを見せるものの、リアさんは喜びの声を上げた。

 私の愚息を今か今かと待ち構えていた彼女の膣は、挿し込まれた棒にすぐさま食らいついてくる。

 ぎゅうぎゅうと締め付けてイチモツに快楽を与えるリアさんの女性器。

 相変わらず、良い雌っぷりだ。

 

 私はより快感を味わうため、腰を振り出した。

 

「あっあっあっあっあっ!

 あぅううっ! ああっ! あっあっあっあっあっ!」

 

 瞳を閉じ、私の男根から得られる快楽に身をゆだねるリアさん。

 私のピストンに合わせて、自分からも腰を動かし始めている。

 

「これ程して欲しかったのなら、あの場でさっさと犯してあげればよかったですね」

 

「あっあっあっ! そ、そんな……あっ! あっ! ああっ!

 ヒナタも、ジェラルドさんも、居る場所でなんてっ……あっあっあっああっあっ!」

 

「まさか拒むのですか?」

 

 ぐいっと腰を突き入れ、亀頭でリアさんの子宮口をトントンと突いてやる。

 

「あひぃいいいいっ!?

 ……ご、ごめんなさっ……あぅうっ! あっあっああっあっ!

 見せるっ! あっあっあんっあっ! 今すぐ、戻って……あぁぁあああっ!

 あの二人に、あたしの姿、見せるぅっ! あっあぅっあぅっああっ!」

 

 前言を訂正するリアさん。

 肉便器になっても、なかなか素直になれない人である。

 

「まあ、今すぐで無くともいいでしょう。

 こんな時に貴女の痴態を見せられては、陽葵さんにもいい迷惑でしょうからね。

 とはいえ、近いうちにお披露目しなければ」

 

「う、うんっ……あっあっあっ! あたしが、あんたの肉便器だってことっ……あぁあぁああっ!

 みんなに、教えてあげるのっ! あっあっあっあっあっあっ! あぅうううっ!!」

 

 私が言葉で責めれば責める程、リアさんはより強い快感を味わっているようだった。

 膣内はさらに強く私のイチモツに巻き付き、腰の動きなど、彼女の方が私より激しいくらいだ。

 

 彼女のその貪りっぷりに、私は早々に昂ってきた。

 ――なので、さっさと射精することにする。

 

「――!?

 あっああっ! で、出てる!? あぁああっあっあっ!

 あたしの中で、出してるのっ!? あぁああぁああっ!!!」

 

「ええ、気持ち良かったので。

 なかなかよい具合ですよ」

 

 精液を迸らせながらも、私は腰を前後に振り続けた。

 小休止の時間はそう長くないので、やれるだけやっておかねばならない。

 

「んぁああああっ!? 精液が、あたしの子宮叩いてるぅっ!!

 おおっおっおぉおおおっ!?  な、のに、なんであんた、止まんないのっ!? おっおっおおっおおおっ!

 あっ! イクっ! イっちゃぅうううっ!!」

 

 がくがくと身体を震わせるリアさん。

 絶頂を迎えたらしい。

 

 しかし勿論、私はそんなことを考慮してやるつもりはない。

 依然変わらず、ピストンを続ける。

 

「おぉおああああっ!! イった! イったの!!

 ああっ! あっ! あっ! あっ! 今イったから、敏感なのっ!!

 あっ! あっ! おっ! あっ! おおっ! お願い、止めてぇっ!!」

 

「……五月蠅い便器ですね」

 

 私は肉便器(リアさん)の腰を両手でがっしり掴むと、全力で彼女の尻に股間を打ちつけてやる。

 

「んぉおおおおおおっ!!? あぁあああっ! ダメェっ!?

 またイっちゃぅううううっ!!!」

 

 ガクン、ガクン、と先程より大きく肢体を揺らして、再度リアさんは絶頂した。

 同時に、彼女の中も大きくうねり、私のイチモツを強く締めてくる。

 ……これだけの刺激があれば、私もすぐにイケそうだ。

 

 あらん限りに腰を振った。

 ペニスがじゅぼじゅぼと音を立てながら、リアさんの中を行き来する。

 

「あぅぅうううううっ!! おぉぉおおおおおっ!

 んおおっ! おおっ! おおぉおおおおおおっ!!」

 

 獣のような雄叫びを上げるリアさん。

 彼女の股間からは、お漏らしでもしたように淫液が流れ出ていた。

 

「ああぁぁぁぁあああっ! クロダのちんぽしゅごいぃいいっ!

 あ、あ、あっ! あぁっおっおおおおっ! もうダメなのっ! もう何も分かんないのぉおっ!

 おぉおぉおおっ!! イってるぅっ! あぁぁああぁぁぁああっ!!! あたし、ずっとイってるぅうっ!!」

 

 口から涎を垂らし、白目を剥きかけながら、リアさんは叫び続けた。

 身体にはまともの力が入らないようで、私が腰を掴んでいてやらなければ今にも倒れるだろう。

 

 そうこうしているうちに、私にも二度目の射精感が襲う。

 それを堪える必要も無いので、高揚に身を任せて、私は再度彼女へ精を注いだ。

 

「んぁあああぁぁぁああああっ!!? またザーメンんんんっ!!

 あ、あ、あぁぁぁあぁぁあっ!! もう、いっぱいっ! あたしの子宮、いっぱいぃいっ!!

 あぁぁぁあああぁぁああああっ!!!!」

 

 抑えつけるのも大変な程に大きく、リアさんの身体は痙攣した。

 それと同時に彼女お尿道から、透明な液体が噴出する。

 潮を吹いたのだ。

 

「……ふぅ。

 少しはすっきりできましたね」

 

 軽く運動して、額に汗が浮かんでしまった。

 私は手でそれを拭いながら、リアさんから手を離す。

 

「――あ、ううぅぅ……」

 

 支えを失った彼女は、床にごろんと転がる。

 私達が立っているところはリアさんの愛液で水たまりができており、彼女はちょうどその上に倒れこむ形となった。

 膣口からは、ドロドロとした私の精液が垂れてきている。

 

「あーっ…あーっ…あーっ…あーっ…」

 

 うわ言を呟くような調子で、なお喘ぐリアさん。

 完全に気をやっているようで、自分の衣服が淫液で汚れるのをまるで気にしていない。

 

 そんな彼女の頬を、私はぺちぺちと叩く。

 

「ほら、リアさん、起きて下さい!

 そろそろ休憩が終わってしまいますよ!」

 

 余りだらだらと休むわけにはいかないのだ。

 私達は、ミサキさんから説明を受けている最中なのだから。

 

「あーっ…あーっ…………ん、んんっ……く、クロダ……?」

 

 気付けが功を奏したのか、リアさんは割とすぐに正気を取り戻した。

 私は彼女の状態を確認すると、

 

「……ふむ、大丈夫そうですね。

 戻りますよ、リアさん」

 

「……う、うん。

 ありがと……」

 

 私はリアさんの手を引っ張り、彼女を立たせる。

 部屋の片付けは後でやるとして、今は最初の部屋に戻らなければ。

 

 ――と、思っていた私に、ある感覚が浮かび上がった。

 

「……どうしたの、クロダ?」

 

 私の変化に気付いたのか、リアさんが声をかけてくる。

 

「あー、申し訳ありません。

 リアさん、もう少しお付き合い頂けますか?」

 

「な、何?

 ……また、するの?」

 

 困ったように眉をひそめ――口元は嬉しそうに笑みを浮かべるリアさん。

 なかなか器用な表情をするものだ。

 しかし、私の申し出は彼女の期待に応えるものではなく。

 

「ちょっと、本当に催してきてしまいましてね。

 もう一度使わせて下さい」

 

「……え、え?」

 

 射精した後に小便を出したくなるとき、無いだろうか?

 今の私は、ちょうどそんな感じになっていた。

 

「つ、使うって、あたしを、何に…?」

 

「何って、リアさんは便器でしょう?

 本来の使い方をするだけじゃないですか」

 

 今一つ状況を理解していない彼女へ、説明をする私。

 問答している時間も惜しいので、リアさんの頭を掴み、私の股間へと運ぶ。

 

「――あぅうっ!

 待って……あたしに、飲ませる気なの?

 あんたの、その、おしっこを?」

 

「そうですよ?」

 

 当然と言わんばかりに返事をする私。

 

 普通、便器と言ったら排泄物を処理するために使う物だろう。

 寧ろ、精液を出すのに使う方が特殊だと思う。

 

「や、やだ、嫌よ、あたし。

 そんなの、本当にただの便器じゃ――んぐっ!?」

 

 あだぶつぶつ言ってくるリアさんの口に、イチモツを突っ込む。

 万一にも小便が溢れないように、できるだけ奥へ――喉の方にまで挿入してやる。

 

「……おごぉっ……うぐ、ぐぅう……」

 

「便器は便器でしょう?

 ほら、いきますよ」

 

 苦しそうに息をする彼女へと、私は尿を注いてやった。

 

「んごぉおおお……がふっげぼっ……んぐ、ぐっ……ご、おぉおおお……」

 

 苦悶しながらも、リアさんは私の小便を飲み込んでいく。

 流石は肉便器である。

 

「げほっ……お、おぉおおお……がふっ……んご、あぁぁあああ……」

 

 ……少し長いな。

 余り気にならなかったのだが、尿の方も結構溜まってしまっていたらしい。

 それから数秒程、彼女に飲ませ続け、

 

「――ふぅ。

 いや、やはり便器が近くにあると助かりますね」

 

 清々しい気持ちで、私は排尿を終えた。

 リアさんの口から愚息を取り出してから、

 

「それでは、改めて戻りましょう、リアさん。

 ――――リアさん?」

 

 彼女から返事がなかった。

 というより、こちらに対して何の反応も示さない。

 

「……リアさん?」

 

 訝しんだ私は、もう一度彼女の名を呼びつつ、肩を叩く。

 ――するとリアさんは、恍惚の笑みを浮かべながら力なく床に倒れ伏してしまった。

 

「……リアさん、リアさーん!」

 

 肩を揺さぶっても、頬を叩いても効果なし。

 瞳孔は開いているものの、焦点が定まっていない。

 ……完全に、失神してしまったようだ。

 

「……仕方ありませんね」

 

 私は少し悩んでから、居住まいを正す。

 そして、目を醒ます気配がまるで無い彼女へと声をかける。

 

「すみません、私は先に行っていますね。

 適当に言い訳しておきますので、リアさんは後から来て下さい」

 

 ――まあ、気を失っている彼女にそんなことを言っても仕方ないかもしれないのだが。

 皆さんを待たせるわけにもいかないので、リアさんを残し、私は部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんな出来事があった少し後。

 

「さて、では始めようか」

 

 そんなミサキさんの号令の下、説明会は再開した。

 幸いなことにリアさんも間に合い、部屋のテーブルには最初と同じメンバーが席についている。

 

「……なあ、その前に少しいいか?」

 

「なんだ、室坂陽葵」

 

 陽葵さんが手を上げて、ミサキさんに質問する。

 彼は私を指さして、言った。

 

「……なんで黒田は逆さ吊りになってるんだ?」

 

「それはな、この男が馬鹿だからだ」

 

 ――はい、馬鹿です。

 今、私は部屋の隅の方で逆さ吊りにされていた。

 やったのは勿論ミサキさんである。

 

 ……なんというか、色々と“バレて”いたらしい。

 はっはっは、失敗失敗。

 

「そっか、馬鹿じゃ仕方ないな」

 

「ああ、仕方ないんだ。

 ――もっと利口になって欲しいものだが」

 

 あっさりと納得する陽葵さん。

 もう少し粘ってもいいのではないだろうか。

 彼だけでなく、他の面子も――リアさんも含めて――私の処遇に異論はないようだ。

 

 ……実のところ、私もそれほど文句はない。

 いや、頭に血が上って――この場合、下って、がいいのだろうか――大分意識はくらくらしてくるが。

 それほど天井が高くない部屋で無理やり吊らされているので、視点がかなり低くなっているのだ。

 そこから見える世界はなかなかワンダフル。

 皆さんの腰から下の肢体が、凄くよく見える。

 

 特に、ちょうど視界の真ん中に位置するミサキさん――いや、エレナさんの場合、ミニスカートを履いているものだから下着だってチラチラと視界に入る。

 今日は、アダルティな黒いショーツだ。

 小柄な彼女が着ると少しアンバランスさも醸し出すが、いやしかしそれが良い。

 しっかりとしたハリを持つ魅惑の太ももと併せて、少女と大人、両方の色気を放っていた。

 

 視線を横に移せば、リアさんや陽葵さんの美脚がある。

 残念ながら二人ともパンツルックなので、下着は見えないが……しかし、スパッツとショートパンツは、彼らのお尻の美しい曲線をくっきりと映し出していた。

 

 ……しかもリアさん、“何故か”ノーパンになっているようで、スパッツの上から彼女の『すじ』も確認できてしまう。

 先程のプレイによるものか、彼女の股間はまだ濡れているようだ。

 

 陽葵さんは陽葵さんで、柔らかくてむっちりとした、それでいて弾力もちゃんとある、見る者を魅了する下半身を曝している。

 男のモノとはとても思えない、理想的な雌の肉付きだ。

 そりゃバールだって、コレを自分の物にしようとやっきになるだろう。

 

「おい、誠一」

 

「はい?」

 

 パラダイスを鑑賞していた私に、ミサキさんから冷たい声がかかった。

 

「――お前、目を潰されたいか?」

 

「の、ノー、サー!!」

 

 慌てて私は視線を逸らす。

 どれだけ目敏く見ておられるのか、この人は。

 

「では改めて始めるぞ。

 魔王と室坂陽葵、そして私の関係については理解できたな?

 その後の話は世間に伝聞されているものと大差ない。

 私は4人の勇者を率いて、魔王と戦った」

 

 『共に』ではなく『率いて』という言葉を使うあたり、ミサキさんの精神性を現していると思う。

 

「最終的に、六龍の内4体を魔王から解放し、私以外の4人がその六龍の力をそれぞれ借り受けることで魔王を討伐したわけだ。

 めでたしめでたし、となるところだった。

 ――4人の勇者が、六龍の力に魅入られなければ」

 

「――は?」

 

「――え、何?

 ちょっと待って、え、何それ?」

 

 陽葵さんとリアさんが驚きの声を上げる。

 ジェラルドさんもまた、声こそ出さないものの目を見開いていた。

 

「驚く気持ちもわかるが、情けないことに事実だ。

 4人の勇者は龍の力に魅了され――自らが新たな“魔王”となり、己の野心を満たそうと画策し始めた。

 まず手始めに、私を裏切りこの世界から追放した。

 私がこの世界に戻ってこれないよう、『呪縛』をかけた上で」

 

 …………。

 苦々しい顔で語るミサキさん。

 それは、信じていた仲間に裏切られたことが理由なのか、それとも――

 

「だが、彼らには六龍全ての力を扱うことができなかった。

 如何に勇者といえど、魔王と同じ所業をするのはそう容易いことではなかったのさ。

 ――そこで目をつけられたのが、君だ」

 

「……オレか」

 

 ミサキさんに指さされた陽葵さん。

 もう今日一日で驚き慣れたのか、それとも予想していたのか、彼は驚いた様子を見せなかった。

 

「かつて魔王は、六龍を己の身体に宿すことでその力を自在に操っていた。

 室坂陽葵自身に何の力も無いとはいえ、君の身体が魔王の『代替品』である以上、同じことは可能だと考えられる。

 ――それを知った勇者達は、君の身体へ六龍の力を収納し、君を操ることで間接的に六龍の力を扱うことを企てた。

 そのために利用されたのがバール・レンシュタットだ。

 いくら勇者と言えど、異世界にまで手は伸ばせないからからな――私を除いて」

 

 最後のところは、少し胸を張って誇らしげに言っている。

 実際問題、次元を超えて交信するなんてこと、『全能』のエゼルミアとて不可能だろう。

 

「勇者達は適度に魔族を追い詰めて危機感を煽り、適度に泳がせることで機会を伺った。

 新たな魔王として、連中が『室坂陽葵』をこちらの世界へ召喚する機会を」

 

「……う」

 

「……むぅ」

 

『全ては勇者達の掌の上だった』と宣言され、リアさんとジェラルドさんが呻いた。

 私としては、どうしようも無かったことだと思う。

 彼らと勇者達とでは、持っている情報量からして根本的に違ったからだ。

 魔族は、今日ミサキさんが語ったことのほとんどを把握していなかった。

 

「――そこからは単純な話だ。

 バール・レンシュタットは思惑通り君をこの世界へと転移させた。

 後は、君の意思を奪ったうえで、六龍の力を君へと注ぎ込めばいい。

 どうだ、室坂陽葵。

 君の置かれた状況が、少しは分かったか?」

 

「……勇者全員が、オレを殺そうとしてんのか」

 

「殺すのは君の人格だけで、君の身体はなるべく無事な状態で手に入れようとはしているだろうがな」

 

 細かいところの訂正をするミサキさん。

 そんなことは分かっているとばかりに陽葵さんは声を荒げた。

 

「オレにとっては似たようなもんだろ!

 ……確認したいんだけどさ、今、この世界で勇者達ってどんだけ力を持ってるんだ?」

 

 周囲を見渡して、陽葵さんが問いかける。

 その質問に対して答えたのはジェラルドさんだ。

 

「……勇者達は、各国で非常に強い発言力を持っておる。

 それこそ、国王ですら勇者の意見に異を唱えることは難しい有様じゃ。

 つまり、やろうと思えばヒナタ様を捕えるために国を動かすことも可能、じゃろう」

 

「ま、マジかよ!

 ……あのさ、魔族の手を借りたり、できないかな?」

 

 リアさんとジェラルドさん――魔族である二人の様子を伺いながら、陽葵さんはそう尋ねた。

 しかし、二人が答えるよりも先にミサキさんが口を開く。

 

「無理に決まっているだろう。

 魔族は、このままでは勇者に滅ぼされるからと、君を頼って来たんだぞ。

 君を勇者から守ることなぞ不可能だ」

 

 無慈悲な現実を突きつける。

 たじろぐ陽葵さんへ、さらにミサキさんは畳みかけた。

 

「さらに言うなら、勇者達は国を動かさずとも今の魔族程度ならば蹴散らせるぞ。

 ――精鋭を集めたとかいう、バール・レンシュタットの部下があの有様ではな。

 残っている連中もたかが知れている」

 

「……クロダが居なかったら本気でやばかったんだけど」

 

 あんまりなミサキさんの言い分に、リアさんが弱々しく抗議した。

 

「誠一にまとめて殺される程度の連中を、どうやって驚異とみなせと言うんだ?

 ――まさかお前達、勇者が誠一より弱いと思っているんじゃないだろうな?」

 

「……つ、強いのかよ、黒田より」

 

 いや、それは当たり前だろう。

 幾ら私がミサキさんにみっちり鍛えられたといえ、世界を救った勇者より強くなれるわけがない。

 陽葵さんはここ数日の騒動か、或いは今日の事実暴露の混乱で、そんな当然のことも失念してしまったようだ。

 

「当たり前だ。

 ――流石に、エレナの身体を借りている今の私よりかは強いだろうが、単純な強さで誠一は勇者に遥か及ばない」

 

「う、嘘だろ……」

 

 愕然とする陽葵さん。

 その横で、リアさんも同じような表情をしている。

 それほど驚くべき事実だろうか?

 

 ……ちなみに私は別のところで驚いていた。

 今のミサキさん、私よりも弱いのか?

 その割に、私はボコボコにされていた気がするのだが。

 

「じゃ、じゃあ、どうしようもねぇじゃん……」

 

「そう結論を急ぐな。

 ――それを阻止するために、私は誠一をこの世界へ送り込んだんだ」

 

 陽葵さんの力ない呟きを、ミサキさんが即否定した。

 

「で、でもさっき、黒田じゃ勇者に勝てないって」

 

「そう、誠一では勝てない。

 魔族でも勝てない。

 ――だが、私にならできる」

 

 言いよどむことなく、ミサキさんは断言した。

 

「私は今、六龍界にほとんど干渉できない状態だが、この呪縛を解く方法がある。

 一つは、呪縛をかけた当人――つまり勇者を倒すこと。

 もう一つは、呪縛の力と同等、或いはそれ以上の力をもって強制的に呪縛を破壊すること。

 前者は不可能だが、後者であれば可能だ」

 

「……勇者より力がある奴なんているのかよ?」

 

「いるだろう、六龍が」

 

「――あ」

 

 陽葵さんがはっとする。

 ミサキさんはニヤリと笑って、続ける。

 

「今、4体の龍は各勇者の手の内にあるが、2体は手中に無い。

 こいつらの力を使う」

 

「……龍の力で呪縛を解けば、キョウヤはこっちの世界に来れようになるってことか!

 でも、残りの龍はどこに居るんだよ?」

 

 彼の顔に僅かに希望が灯った。

 そしてこの疑問に対しても、ミサキさんは流暢に答えを返す。

 

「場所も分かっている。

 1体は<次元迷宮>の中を彷徨い、そしてもう1体は――今もなお、魔王と共に居る」

 

「ちょっとタンマぁっ!!」

 

 そこで、リアさんが大声を上げる。

 

「今、魔王様と龍が一緒にいるって言った!?」

 

「言ったよ」

 

「じゃあ何、魔王様、生きてるの!?

 あんたさっき討伐したって!!」

 

「討伐したとは言ったが、殺したとは言ってない。

 彼女はまだ生きている――<次元迷宮>の最奥でな。

 生きているというか、封印に近い形か。

 龍の力を借りてもなお、止めを刺すには至らなかったのでね」

 

「そういう洒落じゃ済まされない事実をさらっと流さないでよ!!」

 

「厳かに宣言しようと軽く話そうと、大した差ではないだろう。

 そんなに気を昂らせるな。

 まだまだ話は終わっていないのだから」

 

「……ご、ごめんなさい」

 

 自分が話の腰を折ってしまったことに気付き、リアさんは謝罪した。

 ミサキさんはふうっとため息を一つついて、

 

「つまり、室坂陽葵、君がやるべきことは、この龍――青龍ケセドと黒龍ビナーの少なくともどちらかに会い、彼らの協力を取り付けることだ。

 君の身体が龍の力に耐えられる以上、同意さえ得てしまえば、君は六龍の力を扱えるようになる」

 

「それで、キョウヤを召喚すればいいんだな!

 おお、なんだかやれそうな気がしてきた!」

 

「そうだろうそうだろう。

 ――まあ、今の君が龍の力を扱おうものなら、心は壊れるだろうが」

 

「―――!?」

 

 その一言に、陽葵さんの動きが止まる。

 ……ああ、そのこと、今教えてしまうのですか。

 

「勇者をして1体が精一杯の六龍だ。

 君がその力を使おうとすれば、ほぼ確実に精神が消し飛ぶ。

 室坂陽葵の『身体』は龍に耐えられても、心はただの一般人なのだから。

 ――絶対不可能とまでは言わないが」

 

「……あの。

 それ、オレもうどうしようも無いんじゃ……」

 

 おずおずと、事実確認をする陽葵さん。

 先程、示された希望に明るくなった顔が、一瞬にして曇ってしまった。

 

「こんなことでそこまでショックを受けるな。

 “今の君では”と言っただろう。

 今は無理でも、耐えられるまで強くなればいい。

 『冒険者』という丁度いいシステムもあるのだから」

 

「そ、そっか!」

 

 再び陽葵さんの顔に喜色が現れる。

 冒険者としてレベルを上げることで、龍の力を受け入られるまで強くなることができる、とミサキさんは言っているのだ。

 

「だから室坂陽葵、これから先は誠一の力は借りるな。

 君には青龍ケセドとの接触を試みてもらうことになるが、それは君が単独でやり遂げるんだ。

 誰かに頼っていては、龍の力に耐えられる程の心身強化は望めない」

 

「うっ!?」

 

 また表情が陰った。

 ころころと顔色が変わる人である。

 でもそこが可愛い。

 どの表情も、陽葵さんの別の魅力を映し出してくれる。

 

「……クロダちゃんと一緒だと成長が捗らないのは、“別の理由”もあると思うんだがにゃあ」

 

 それまで沈黙を保っていたアンナさんがぼそっと呟いた。

 ……そこら辺は触れないで頂きたい。

 私だって、探索のたびにアレコレ“ちょっかい”を出しているわけでは無いのである――偶には、彼の身体を弄らない日もあったはず。

 

 私の内面は置いておいて、ミサキさんのお話に戻ろう。

 

「――といっても、“さあ龍に会ってこい”では無理難題にも程がある。

 こちらもそれが実行できるよう、サポートはしてやろう。

 アンナ、室坂陽葵にアレを渡してやれ」

 

「分かったにゃあ」

 

 ミサキさんの指示で、アンナさんは一つの小箱――かなり厳重に封が施された小箱を机の上に置く。

 彼女はその封を一つずつ丁寧に開錠していくと、陽葵さんの前で蓋を開いた。

 中には、蒼い輝きを放つ宝石――冒険証に似ているが、形状が異なる――と、一枚の呪符が入っている。

 

 アンナさんが、そのアイテムの説明を始めた。

 

「この宝石は、冒険証と同じ機能を持ったアイテムだにゃ。

 というかまあぶっちゃけちゃうと、冒険証はこれをコピーして作られたモノだったりするんにゃけど。

 でも、冒険証とは違う機能が4つあるんだにゃあ。

 一つ目は“<次元迷宮>全域からの帰還機能”。

 冒険証と違って、これはそれ以外の場所からでも帰還ができるんだにゃあ。

 二つ目は“『ゲート』へのワープ機能”。

 最後に自分が使用した『ゲート』に、転移することができるにゃあ。

 三つ目は“案内機能”。

<次元迷宮>にいる龍――青龍ケセドの場所を指し示してくれるにゃ。

 四つ目は、“緊急脱出機能”。

 これを持ってる人が意識を失うと、このアイテムが勝手に<次元迷宮>の外へ戻してくれるんにゃ」

 

「何それ、超便利!?

 要するに途中セーブ機能+全滅してもゲームオーバーにならないってことか!

 ――あれ、でもそう考えると割と普通なことのようにも」

 

 説明を聞いて、陽葵さんが驚く。

 最後にちょっとクールダウンしたが。

 

 まあ、<次元迷宮>を現代社会のゲームに例えるなら『帰還アイテムは序盤だけしか使えない、再度潜る時は最初から、全滅したらそこで終わり』というなかなかのシビアっぷり。

 このアイテムを使うことで、ようやく今風の難易度に落ち着く、といったところか。

 ……現実とゲームを一緒くたにすることの是非は置いておいて。

 

「うーん、大体合っているけど、少し違うにゃあ。

 脱出機能が働くのは、あくまで意識を失ったときだけ。

 その前に致命傷を負っちゃった場合、助からないにゃ」

 

「……それもそうか」

 

「そこで、こっちの呪符の登場にゃ!」

 

 高らかにそう宣言し、アンナさんはもう一つのアイテムを手に取った。

 

「これは、所有者に『魔物を発情させる呪い』をかけるお札!

 その呪いによって、所有者は魔物に命まで取られることは無くなるんだにゃ!

 ……代わりに、もし負けたら容赦なく種付けされちゃうわけなんにゃけど。

 男でも女でもお構いなく」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 場が静まり返った。

 誰もが無表情になる。

 

「アンナさん、それ流石に酷くないですか」

 

 私が代表して口を開いた。

 ――陽葵さんが魔物にボロボロになるまで犯される未来が目に見えるんですが。

 

「よりにもよってクロダちゃんが言う!?

 仕方ないにゃ、目的に合致するアイテムがこれ位しかなかったんだから!!

 魔物が近寄ってこなくなるアイテムとかならあるけど、それじゃヒナタちゃんのレベルアップができなくなるでしょ!?」

 

 魔物とちゃんと戦闘を行えつつ、かつ負けても魔物に殺されないようにするアイテム。

 指摘されてみれば確かに、かなり条件が厳しい。

 

「酷な話だが、コレを持っていかないというのであれば、私は君が龍の下へ行くことを許可できない。

 君の生存は、我々の生命線でもある」

 

「で、でも、オレが龍に会わないとキョウヤがこっち来れないんじゃ?」

 

「そうだ。

 だから君がこのアイテムを拒否する場合は、誠一に龍のもとへ君を運んでもらい、君の人格が壊れること承知で龍の力を行使してもらう。

 ――君は死ぬが、勇者が新たな魔王となるという最悪の事態は避けられるからな」

 

「そ、そうか……そうだよな……」

 

 俯く陽葵さん。

 彼はしばし葛藤すると、

 

「――悩んだところで、やるしかないんだよな。

 要は、魔物に負けなければいいんだろ!

 やるよ!

 やってやる!!」

 

 やけくそ気味にそう宣言した。

 

 ――まあ、彼に選択肢が無いのは間違いない。

 逃げ出したところで他の勇者に捕まってしまう。

 ならば、多少危険でも前に進むしかない。

 

「その意気だ。

 それと誤解しないよう補足しておくが、一人で成し遂げろというのは、単独で<次元迷宮>に潜れというわけでは無いからな。

 迷宮探索にはしっかりとパーティーを組んで臨め。

 余りに自分と実力がかけ離れた相手はまずいが――例えばそう、リア・ヴィーナ位なら構わない」

 

「え、いいの?

 あたしがついていっても」

 

「いいよ、別に。

 君程度なら」

 

「……なんかムカつく言い方ね」

 

 ミサキさんを睨み付けるリアさんだが、ヒナタさんに協力すること自体に異論はなさそうだ。

 陽葵さんとリアさんの間には相当の実力差があるのだが、それでも比較対象が私であればそう大きな違いではない、ということか?

 勿論、私が射式格闘術(シュート・アーツ)を使っていること前提だと思うが。

 

 しかし、彼女がOKとなると、Bランク位の冒険者には助力してもらっても構わないということになる。

 存外、そう難しい課題というわけでは無く感じるが――それで本当に陽葵さんは十分な成長を遂げられるのか、疑問はある。

 ミサキさんのことだから、そのあたりも考慮してあるのだろうけれど。

 

「うっしゃ!!

 目標も定まったことだし、明日からバリバリ探索すっぞ!!

 レベルをガンガン上げて、龍の力なんざあっさり使いこなしてやる!!」

 

 そんな意気込みを陽葵さんが叫んだところで。

 この『説明会』はお開きとなった。

 

 

 

 第十四話③へ続く



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③ 大人達だけの密談

 

 

 

 これからの準備のため、陽葵さんとリアさんが部屋を去った後。

 残った人物は、神妙な顔をして互いに見合わせた。

 そんな中、私が一番に口を開く。

 

「……大丈夫なんですかね、陽葵さん」

 

「大丈夫なわけが無いだろう、十中八九死ぬよ、彼は。

 そう説明しただろう」

 

 ミサキさんが冷酷にそう断言する。

 それを聞いて、私は心臓が締め付けられた。

 ……分かっていたことだが、再度確認すると、かなり辛い。

 

「ケセドのところに辿りつく前に心が折れるかもしれない。

 辿り着けたとしても碌な目に合わないだろう。

 何せ、“自分の息子”に『あんな物』を渡す奴だ」

 

『あんな物』――ミサキさんが言っているのは、“魔物を発情させる”とかいうふざけた効果の呪符だろう。

 

「そう思うのであれば、何故渡したのですか」

 

「そういう『契約』だ。

 ケセドの施した『契約』は、私でも逆らえない」

 

『契約』を司る青龍ケセド。

 かの龍が結んだ契約は、絶対順守を強制されるという。

 ミサキさんであっても――最強の勇者であっても、そこからは逃れられない。

 

「そしてケセドの力を手に入れたとしても、勇者がいる。

 我々が勇者に負ければ、そこで御仕舞。

 傀儡人形となる未来が彼を待っている。

 まあ、負けるつもりなぞ欠片も無いが」

 

 ミサキさんはそこで少し間を置いた。

 

「順当に我々が勝ったとしても。

 今度は“私の目的”のために使い潰されることになる」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ミサキさん以外の3人が押し黙った。

 

 そうなのだ。

 陽葵さんがどれだけ頑張って、どれ程順調に事が運んだとしても。

 彼には、破滅の未来しかない。

 ――以前、アンナさんが陽葵さんに『詰んでいる』と言ったのは、この事だ。

 

「はっきり言ってやるが――彼にとっては、バール・レンシュタットのもとで短い期間とはいえ蜜月を過ごすことが最も幸せな結末だったろう。

 少なくとも、これから彼の身に降り注ぐであろう苦難を思えば、遥かにマシな最期だ」

 

 ……だから、なのだろうか。

 ミサキさんが、バール・レンシュタットの行動を見過ごしていたのは。

 

「……キョウヤ殿、今一度確認したいじゃがの」

 

 今度はジェラルドさんが話し出した。

 

「貴方の目的は“魔王様をお救いすること”――それで相違ないんじゃな?」

 

「ああ、そうだ。

 魔王といっても『巫女』の方だがな。

 ――そういう『約束』をした。

 最後まで面倒をみてやるとも」

 

「……であるならば。

 儂ら魔族は貴方に力添えしましょう」

 

 ……これもまた、陽葵さんを取り巻く悲運の一つ。

 ミサキさんの目的は、自分を召喚した『巫女』を救うことなのだ。

 ジェラルドさんにはそれをこの『説明会』の前に話してある。

 そしてその目的にジェラルドさんが同調を示した以上――魔族ですら、陽葵さんの完全な味方ではなくなった。

 

 彼を助けようと考えている者が、どこにもいないのである。

 

「――まあ、悲観するのはまだ早い。

 私は別に、室坂陽葵を殺そうとしているわけでは無いからな。

 彼が生き残ってくれる分には、それはそれで構わない」

 

「青龍ケセドのもとに辿り着き、勇者の魔の手から逃れ――“魔王を救うため六龍全ての力を行使”して。

 それで陽葵さんが、彼の人格が生き残れる可能性はいか程でしょう?」

 

「0では無い。

 0で無い以上、諦める必要は無い」

 

 私の問いに、ミサキさんは何のこともないように答えた。

 流石は世界を一度救った勇者である。

 ミサキさんが陽葵さんのレベルアップを推し進めようとしているのは、それを見越した部分もあるのだろう。

 

「――<勇者>なんて職業になってなければ、もう少しは可能性が高かったんだがな」

 

「ぬぐっ!?」

 

 そしてミサキさんの追撃に、私は呻きを漏らした。

 確かに、陽葵さんを“短期間で”強化させることを考える場合、<勇者>という外れ職業に就いてしまったことはマイナスでしかない。

 

 ――ジェラルドさんに無理を言って、ランクの条件を無視して転職させてやればいい、とお思いの方もいるかもしれないが。

 実は転職の際、かなり大きい負荷を身体と精神双方にかけることになるのだ。

 その負荷に耐えられるまでレベルを上げていれば、大体ギルドで定めた冒険者ランクに到達している、という寸法である。

 なのでギルド長に許可を得たとしても、結局はそのランク相当になるまで陽葵さんは強くならねばならない、というわけだ。

 

「そ、それを言ったら、何故ミサキさんはこんな職業作ったんですか!?」

 

「<勇者>なんて職を選ぶ“かっこつけ”を叩きのめしてやろうと思って設定したんだがな。

 まさか室坂陽葵がその“かっこつけ”だったとは思いもしなかった」

 

 悪びれもせず、ミサキさん。

 根本的に、陽葵さんが<勇者>を選ぶことを止められなかった私が悪いのは間違いないのだが、何かこう、釈然としない。

 

「結局のところ、後はヒナタちゃん次第にゃ。

 あちしらもできるだけバックアップするけど。

 ギルド長も、ヒナタちゃんが生きていた方が嬉しいにゃ?」

 

「無論じゃ!

 順位をつけるなら、確かに儂はヒナタ様よりも魔王様を上にしてしまうが――

 決して、ヒナタ様を蔑ろにしたいわけではないわい!」

 

「私達は私達でやれるだけのことをやる。

 上手くいったら全員で宴会でも開いてやればいい。

 それだけのことだ」

 

「……前向きですね、皆さん」

 

 そのポジティブさは見習いたいところだ。

 私も心機一転、仕事に取り組まねばなるまい。

 

 そんな私へ、ミサキさんが声をかけてくる。

 

「取り急ぎ、誠一、お前には任務がある」

 

「はい、なんでしょうか」

 

 勇者の動向に関することだろうか?

 前に、エゼルミア以外の勇者もそう遠くなくウィンガストに来ると言っていたが……

 

 しかしそんな私の予想を裏切り、

 

「室坂陽葵の脱出装置係だ」

 

 ミサキさんはそう言って、私に蒼い宝石――陽葵さんが渡された物とほぼ同じ――を渡してきた。

 

 ……ん?

 状況が理解できないぞ。

 

「脱出装置係ってなんですか?」

 

「実は室坂陽葵に渡したアイテムに、緊急脱出機能なんて無い。

 だからお前が代わりにやるんだ」

 

 ……何をもってして、『だから』なのだろうか?

 

「分からないのか?

 室坂陽葵の後をついていき、いざ彼が倒れた際にはお前が彼を脱出させるんだ。

 今渡した宝石は先程の宝石を私が複製した一品でな。

 アレとほぼ同じ機能がついている」

 

「……あの、陽葵さんは一人で青龍のもとへ行かねばならないのでは?」

 

「本音と建て前というものを理解しろ。

 万に一つ、室坂陽葵が死んでしまったら元も子もないだろう。

 第一、魔物についてはあの胸糞悪い呪符があるからいいとして、罠の方はどうするんだ」

 

 えー、纏めますと。

 

「私は陽葵さんに気付かれないよう後をついていき、魔物との戦いで彼が気を失ったら救助する。

 また、致命的な罠にかかりそうになった際にも彼を助ける。

 ――と、こういうことなんでしょうか」

 

「正しくその通りだ。

 勿論、勇者が来たらそっちの対応もして貰うが。

 頑張れよ」

 

 いや頑張れよって。

 到底無理そうな感じなんですけど!?

 

「大丈夫だ、お前ならできる。

 ――それとも何か?

 私の言うことを拒否するとでも?」

 

「ミサキさんの命令を私が拒むわけないでしょう。

 まあ、全力で取り組んでみますが――そこまでの期待はしないで下さいよ」

 

「うむ、お前ならそう言ってくれると信じていた」

 

 満面の笑みを浮かべるミサキさん。

 信じてくれるのは嬉しいが、ちょっと難易度が尋常じゃない気がする。

 陽葵さんが探索に向かうまでの間に、入念な計画を練っておく必要があるだろう。

 

 私が頭の中で今後のプランを考えているところへ、ジェラルドさんが話しかけてくる。

 

「大変じゃのぅ。

 ――と、そういえばクロダよ。

 お主、ランクは今のままでいいのかの?

 今までは身分を隠すためにEランクにしていたのじゃろうが、もうそんな必要はあるまい。

 ギルドの体裁も悪いし、さっさと高ランクに登録させて貰えるとありがたいんじゃが」

 

「ああ、それは無理です。

 私、『冒険者』じゃありませんから」

 

「何?」

 

 ここで言う『冒険者ではない』とは、広義的な意味のそれではなく、もっと狭義の、ウィンガストで運用されている『冒険者システム』に登録された人間ではない、ということだ。

 

「私はミサキさんによって『冒険者』と“同等の”能力を持っただけで、厳密に『冒険者』になったわけでは無いんですよ。

 ここでの活動を円滑にするためギルドへ『登録』しましたが、それもアンナさんに色々“手配”して頂いたおかげというか。

 ですので、再登録が必要なランクアップの手続きなどは行えません」

 

「――おい。

 公的証書偽装じゃろ、それ」

 

「まあまあ。

 こうして事情も説明したわけですし、見逃して下さいよ」

 

「ぬぬぅ……」

 

 やや納得しかねるようだったが、ジェラルドさんはそれ以上追及してこなかった。

 

 

 

 ……その後、話す内容も無くなってきたため、私達は解散する流れとなった。

 3人が去り、誰も居なくなった部屋で、私は独り呟く。

 

「――ところで、私はいつまで吊られているのでしょう?」

 

 それに対する返答は、どこからも聞こえてこなかった。

 

 

 

 第十四話 完

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 どころかその日の夜。

 話し合いは夕方まで行っていたので、下手したら数時間も経っていないというのに後日談とはこれ如何に。

 

 どうにか足を縛っていた縄を自力で解いた私は自宅に帰り、明日から行われる陽葵さん尾行計画についてあれこれ考えを巡らせていた。

 その時、玄関の扉をノックする音が聞こえた。

 私は玄関へ向かい、ドアを開ける。

 

「どちら様ですか――おや、陽葵さん」

 

「おっす。

 黒田、少しいいかな」

 

 ドアの前には陽葵さんが立っていた。

 

「どうしました、こんな夜分に。

 ……ああ、とにかく中に入ってください。

 立ち話もなんですから」

 

「うん、ありがと」

 

 私は陽葵さんをリビングに通した。

 彼に椅子を勧めると、適当に茶を用意する。

 

「それで、お話とは?」

 

 自分も席について、陽葵さんに話を切り出した。

 

「いや、大したことないんだ。

 ほら、明日からはもう、黒田とパーティー組めないわけだろ?

 ひょっとしたらしばらく会えなくなるかもしれないし、挨拶しておこうかなって」

 

「……そうでしたか」

 

 陽葵さんは私との別れを惜しんでくれているようだ。

 これは実に嬉しい。

 世話係冥利に尽きるというものだ。

 

 ……実のところ、これからも一緒に探索を進める(陽葵さんには気づかれないように)わけなのだが。

 

「黒田には色々よくして貰ったからな。

 迷宮探索のイロハ教えてくれたり、装備を揃えてくれたり、オレの特性についても調べてくれたり」

 

「教育係として当然ですよ。

 いや、装備品については結構な出費でしたけれども」

 

 それと最後のは私ではなくアンナさんのおかげである。

 

「……それに、先生――バールから、助けてくれたり」

 

「それは――」

 

 余り、感謝されたくはない。

 私がもっとしっかり行動していれば、陽葵さんが辛い思いをしなくとも済んだのだから。

 言い淀む私に、陽葵さんは明るい笑顔で、

 

「あの時の黒田、かっこ良かったよな!

 射式格闘術(シュート・アーツ)だっけ?

 あれ、どうやんの?

 オレにもできたりする?」

 

「あの技はミサキさんに叩き込まれたものでして。

 高熟練度の<射出>を必要とする技能ですから、<勇者>である陽葵さんが覚えるのはちょっと難しいですね」

 

 <戦士>系の職業である陽葵さんは、態々<射出>を覚えずとも、もっとてっとり早く強くなる方法もあるだろう。

 職業のことを言い出すと、なるべく早く<盗賊>か<僧侶>に転職した方がいいだろうとも思うが。

 

 私の言葉に陽葵さんは落ち込む風もなく、話を続ける。

 

「そっかー。

 そういや、クロダっていつ頃キョウヤに出会ったんだ?

 魔王との戦いの後って言ってたけど」

 

「今から2年と少し前ですね。

 私がウィンガストに来る一年前にお会いしましたから」

 

「……じゃあ、黒田ってキョウヤと会ってから一年でそんだけ強くなったってことか!?」

 

「まあ、そうなります」

 

 自分の場合、少々条件が特殊なので、他の人に当てはめられるかは分からないが。

 ミサキさんが、私の特性である『社畜』を十二分に生かした訓練を施してくれたことが大きい。

 一度繰り返し作業(ルーチン)として認識した行動を私が二度と失敗しないという特性を利用し、射式格闘術のあらゆる動作を全て『型』として教え込まれたのだ。

 射式格闘術は<射出>を絶妙な出力で調整しなければならない高難易度技術であるそうだが、『型』――つまりは繰り返し作業(ルーチン)としてそれを認識した私にとって、習得はそれ程難しいものでもなかった。

 それでもなんやかんやで1年を要してしまったあたり、私の凡才っぷりが伺える。

 

「じゃあ、オレも強くなれるかな。

 龍の力に耐えられる位に」

 

「ええ、大丈夫です。

 陽葵さんならできますよ、きっと」

 

「おう、やってやるぜ!」

 

 何の根拠もない鼓舞であるが、陽葵さんは喜んでくれた。

 無責任な発言かもしれないが、彼を落ち込ませるよりずっといいだろう。

 

 

 

 ――しばしの時間談笑した後。

 

「……ところでさ、黒田」

 

「なんです?」

 

 陽葵さんが話題を切り替えてきた。

 気のせいか、少し目が泳いでいるように見える。

 

「せんせ――バールにさ、言われたんだよ。

 オレ、男から見て……なんだ、結構魅力的なんだって?」

 

 恥ずかし気にそういう陽葵さん。

 私は力強く頷く。

 

「ええ、そうですよ。

 陽葵さんは、凄く魅力的な容姿をしています」

 

 きめ細かなショートカットのブロンズヘア、ぱっちりとした碧い瞳、潤んだ唇――顔だけ見ても、これ以上なく美しく整っている。

 身体はどうかと言えば、こちらも最高峰。

 染み一つない綺麗な肌、女性のような柔らかさの中に男のように力強い弾力まである肢体、お尻や太ももの曲線の描き方も神懸っている。

 この美貌をして、彼を男性とみなせる人がいたならば、それはもうその人の目が腐っているとすら言えるだろう。

 そんな至高の肢体を、今の陽葵さんは少しサイズが大きめのTシャツとショートパンツで包んでいた。

 

 私の反応を受けて陽葵さんは、

 

「……じゃあ、こんなことしても、気味悪かったりしない、かな」

 

 私に抱き着いてきた。

 私の上半身に、陽葵さんの感触が押し付けられる。

 

「……ええ、気味悪がったりなどしませんとも。

 最高の気分です」

 

「そ、そっか――そこまで言うのはちょっとどうなんだと思うけど」

 

 若干引き気味になる陽葵さんだが、腕を離すことは無く。

 逆に、私の胸に顔を埋めてくる。

 

「へへ、改めて触ると凄いな、お前の身体。

 服の上からでも筋肉ついてるの分かるぞ」

 

「そうですかね。

 前にも言った気がしますが、これ位普通でしょう」

 

「普通じゃねぇよ。

 こんな肉体……」

 

 言ってから、陽葵さんは顔を上げ、私の顔へと近づいてくる。

 私はそれから逃げることなどせず――

 

「――ん、ちゅっ」

 

 私達は口づけした。

 陽葵さんの唇は見た目通りに柔らかく、そのプルプルとして触感が私の官能を刺激する。

 

「……んっ……んんっ?」

 

 私は彼の口の中に舌を滑り込ませた。

 そして、口内を蹂躙していく。

 

「んちゅっ……んむうっ……んんっ……ふむぅっ……んぁっ……れろっ……あぅっ……」

 

 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、私と陽葵さんは舌を絡ませ合った。

 彼は最初こそ戸惑っていたようだが、すぐにノリノリで私に付き合っている。

 

「……はぅっ……んんんっ……んむっ……んーっ……んぁああっ!?」

 

 キスをしながら陽葵さんの尻を撫で上げると、その途端に彼は嬌声を上げた。

 陽葵さんは感度も抜群だ。

 尻を触っただけでこんな反応をするなど、男でも女でもそういないだろう。

 

 私は彼の尻を揉み続ける。

 非常に柔軟な筋肉とでも表現したら良いか――陽葵さんの尻肉は、そんな独特の感触で私を楽しませる。

 

「あっ……あんっ……んぅうっ……はぅ、うぅっ……」

 

 悶える彼を見ながら、私は彼のショートパンツを脱がそうとする。

 ……が、そんな私の手を陽葵さんが抑えた。

 

「……ま、待った、黒田」

 

「駄目ですか?」

 

「そ、そうじゃなくて……あの、その、べ、ベッドで、しようよ」

 

 その発言に、私はにっこりと笑い。

 

「分かりました」

 

 そう答えると、陽葵さんを抱え、寝室へと運ぶのだった。

 

 

 

 そして、寝室。

 

「へへ、これが黒田のベッドか」

 

 陽葵さんは私のベッドの上にのり、軽く飛び跳ねてその感触を楽しんでいるようだ。

 彼は今ショートパンツを脱ぎ去り、ボクサーパンツとTシャツという格好になっている。

 お尻の形が今まで以上にくっきり分かるその姿は、私の股間を興奮させて止まない。

 

「……な、なぁ。

 早く、やろうぜ」

 

 私を誘う陽葵さん。

 ただ、その視線は私から外している。

 まだ恥ずかしいのだろう。

 

「そうですね、始めましょう」

 

 陽葵さんの言葉を受けて、私は彼を仰向けに押し倒した。

 

「うあ……んんっ!」

 

 Tシャツを捲りあげ、陽葵さんの胸を露わにさせる。

 膨らみこそないものの、その乳首は綺麗な桜色をしており、男を欲情させるに十分な魅力を持っていた。

 

 そんな陽葵さんの乳首へ、私はむしゃぶりつく。

 

「あっ…あぅっ…はぅうっ…あっ…ああっ…あっ…」

 

 胸の快感に、喘ぎだす陽葵さん。

 私は手でもう片方の乳首をコリコリと弄ってやった。

 

「あ、ううぅっ…あぅっあっあっ…あんっあんっああぅっ…」

 

 身を軽くもじりながら、悶える陽葵さん。

 下の方を見やると、彼の股間は小さく盛り上がっていた。

 与えられた刺激で勃起しだしたのだろう。

 

 空いている手で、陽葵さんの男性器を擦ってやる。

 

「あっあっあっあっ…あぅうっあぅっあんんっ……はぅうう……」

 

 やや小さめながらも、彼の“オトコ”は固く反り返っていた。

 私の責めに、気持ちよくなって貰えているようだ。

 

 股間を撫でるのを止め、その手で陽葵さんのボクサーパンツをずり下げていく。

 下着の束縛から解放された彼のペニスがピンと跳ねた。

 

 露出した陽葵さんの下半身。

 そこに雄のシンボルがあるに関わらず、それでも彼の股間は、太ももは、足先は、麗しい美しさを誇っていた。

 前にコナーさんが陽葵さんのイチモツを口に飲み込んでいたが、私でも彼のソレならばそう抵抗なくできそうな気すらしてくる。

 

 手を陽葵さんのお尻の方へ潜り込ませ――指で彼の菊門を突いてやった。

 

「んっあっ…あっあっうあっ…お、おぉおっおっ…おっおっおおっおっ!」

 

 陽葵さんの反応が変わる。

 やはり彼にとって、一番の性感帯はココらしい。

 

「おっおおおっお、おっ…んぉおっあぅうっおっおおぅっ…おぅっおっおっおおっ!」

 

 丁寧に肛門をなぞり、擦り、弄ってやる。

 すると、だんだんと穴の入り口がほぐれていった。

 ……頃合いを見計らうと、指を一本、中へと突っ込む。

 

「おおっ! おおぅっおっおおおっ! おぉおおっ!」

 

 嬌声が大きくなった。

 陽葵さんの棒の先端部からは、先走り汁が垂れだしている。

 

 私は乳首の弄りを継続しつつ、尻穴の中も搔き乱してやった。

 

「おぅうっ! おっおおっおっおっ! んぁ、ああぅっ! あうっあうっあうっあうっ!」

 

 びくびくと、陽葵さんの身体が揺れる。

 ……そろそろ、絶頂間近か?

 そう考えた私は、穴へ挿れる指を一本追加し、二本の指でさらに激しく責め立てた。

 

「お、おおぉおっ!? おぅっ! おっおっおっおっ!

 んぉおおっ! お、おぉぉおおおおおおっ!!!」

 

 陽葵さんは弓のように身体を反らせた。

 同時に、彼の股間から白い液体が噴き出る。

 ……イったようだ。

 

「気持ち良かったですか、陽葵さん?」

 

「お、おぉ、お……あ、あ……ん、う、う……あ、ああ、気持ち、良かったぁ……」

 

 息を乱しつつも、私の問いに答える陽葵さん。

 うっとりとしたその表情は、男とはとても思えないほどに淫猥だった。

 

「それは良かった。

 今度は、私も気持ちよくさせて下さいね」

 

 そう言ってから、私は陽葵さんの両足を手で持ち上げ、そのまま頭の方に持って行く。

 ちょうど、まんぐり返しの姿勢だ。

 私の眼下には、陽葵さんの可愛らしい男根と、イったばかりでまだひくついている淫らな穴があった。

 

 ギンギンに勃起したイチモツを取り出すと、陽葵さんの後ろの穴へと狙いを定める。

 そして両手で陽葵さんの身体を掴み、ゆっくりと彼の尻に向かって腰を突き出した。

 

「おっ! おっおっおっおっ! おぉおおっ!!」

 

 ずぶずぶと陽葵さんの中へ沈んでいく私の肉棒。

 熱い感触が、私の股間を包んでいく。

 

「…おっ…おっ…おっ!……おおっ!」

 

 ……少しして、私の愚息は完全に陽葵さんへ収まった。

 陽葵さんの直腸は、女性器なのかと勘違いを起こしてしまうほどに、挿入された棒を締め付けてくる。

 いや、膣だとしても、ここまで『男』を気持ち良く絞りあげることなど早々無いだろう。

 

 私はさらに快楽を得るべく、腰を前後に振り出す。

 

「おっ! おおっ! おっ! おっ! おっ! おおおっ!!」

 

 そんな動きに合わせて、陽葵さんから喘ぎが漏れ出る。

 この声もまた、雄の劣情を掻き立てる、卑猥な響きであった。

 

「おぅうっ! おぅっおぅっおおっ! おおぉおっ! んぉ、おおっおおぅっ!!」

 

 腰の動きを保ちながら、私は陽葵さんに覆いかぶさった。

 私の目前に、陽葵さんの顔が――いかがわしく歪んだ顔が近づく。

 

「――あ」

 

 喘ぎ続ける陽葵さんと、目が合った。

 一瞬、彼の嬌声が止まる。

 

「――あ、や、やだっ……あぅう、おっおっおおっ!

 待って、黒田っ! あっああっあぅっ!

 この姿勢、やだっ! だ、ダメ、これっ!!」

 

 何故か急に拒み始める陽葵さん。

 私は彼の顔をぺろぺろと舐めながら、尋ねる。

 

「おや、この体勢はお嫌いでしたか?」

 

「あぅううっ……ち、違うっ!

 嫌いじゃないっ! 嫌いじゃないけどっ!

 あっあっあっ! おぉおおっ! おおっおっおおっ!

 近いからっ! お前の顔が近いからっ!!」

 

 陽葵さんの言うことは要領を得ない。

 彼の唇に一度吸い付いてから、再度質問した。

 

「顔が近い?

 近いと、どうなるのですか?」

 

「こんなっ気持ち、いいときにっ! あぉっあっあっああっ!

 お前の顔が、近くあったらっ! 近くで見ちゃったらっ!

 んぉおっおっおおっおおおっ!!

 オレ、好きになっちゃうっ!

 お前のこと、好きになっちゃうぅっ!!」

 

 おやおや。

 何を言いたいのかと思えば、そういうことだったのか。

 

「いいじゃないですか。

 私のことを好きになっても」

 

 私は腰の動きをさらに激しくした。

 

「あっああっあっあああっ!

 ――え、えっ!?

 いいのかよっ! おおっおおっおおおおっ!

 好きになるぞっ! オレ、男なのにっ!

 あぅうっあっあっあっ!

 お前のこと、好きになっちゃうんだぞっ!」

 

「いいですよ、思う存分好きになって下さい」

 

 会話の最中、陽葵さんが私を締め上げる力が強くなっていく。

 どんどん昂っていっているようだ。

 

「い、言ったなっ! あうっあうっあぅうっ!

 好きになるぞっ! オレ、お前のこと好きになるからなっ!

 責任とれよっ! おお、おおぉおっ! おぉおおおおっ!」

 

「ええ、いいんですよ。

 陽葵さんは、私を好きになっていいんです」

 

 念を押すように、私は繰り返した。

 

「あ、ああ、あぁあっ! く、黒田っ!

 好き、好き好き好きっ! 好きぃっ!

 おっおっおおっおおおっ!

 黒田、好き、好き、好きだからぁっ!」

 

 腰の動きにスパートをかける。

 そろそろ、私も絶頂が近い。

 

「好き、好き、好きぃっ!!

 黒田、黒田黒田クロダくろだぁっ!!

 おおぉおおっ! おぉぉおおおおおおっ!

 好き好き好きっ! 好き好きすきすきぃいいいいいいっ!!」

 

 陽葵さんの性器から、透明な潮が噴出した。

 同じくして、私もまた彼の中へと精液を注ぎ込む。

 

「おっ……おっ……おっ……おおっ……

 くろだ……好きぃ……おっ……おっ……すきぃ……」

 

 絶頂の余韻でびくびくと痙攣しながらも、私への好意を口にする陽葵さん。

 その想いに応えるべく、私はピストン運動を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 ――行為の後。

 幾度もイキ、射精し、乱れ続けた陽葵さんは今、私の腕の中で息を整えていた。

 ……実のところもう少しヤリたいのだが、彼には明日からの厳しい迷宮探索が待っている。

 ほどほどにしておいた方がいいだろう。

 

「……お、おい、黒田」

 

 私の胸に頭を預けながら、陽葵さんが話しかけてくる。

 

「さっきの、好きってやつだけどな。

 か、勘違いするなよっ」

 

「――勘違いですか?」

 

 陽葵さんは、私にすりすりと顔を擦りつけながら、言葉を続ける。

 

「す、好きっていうのは、お前に対してじゃなくて……

 その、お前の“ちんこ”のことなんだからなっ」

 

「…………私の、ちんこを?」

 

「あ、当たり前だろ!

 オレ、男なんだぞっ!?

 同じ男のお前を、好きになんかなるわけないだろがっ!!」

 

 ……男性器を好きになるのはいいのだろうか。

 そっちの方が余程重症のような気がするのだが。

 

「ま、まあ、私はそれで構いませんが」

 

「おう、そういうことなんだ。

 ……あと、話変わっちゃうんだけど」

 

 私の身体に手を回して、抱きしめてくる陽葵さん。

 

「これからも、黒田に会いに来ていいかな…?」

 

 少し不安そうに、彼は尋ねてきた。

 どこに心配になる要素があると言うのか。

 

「全く問題ありません。

 ……陽葵さんは、私のイチモツが、大好きなんですものね」

 

「……そ、そうか……良かった。

 いや、お前の、ちんこのためなんだけど」

 

 顔を赤くして照れる陽葵さん。

 私はそんな彼を抱きしめ返すと、

 

「……陽葵さん」

 

 耳元で、囁く。

 

「頑張って下さい、明日から」

 

「……うん、頑張る」

 

 そう答えると、陽葵さんは私にキスをしてきた。

 

 

 

 ――幸せそうに、私の腕を枕にして眠る陽葵さんを見て、思う。

 彼は、生き残ることができるのだろうか。

 私は、この子のために何ができるのだろうか。

 

 

 

 後日談 完



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第十五話 ある社畜冒険者のドキドキ・デート
①! 出掛ける前に軽く運動


 

 

 

 前回から明けて、朝。

 私は陽葵さんと一緒にリビングでテーブルを囲み、朝食を取っていた。

 

「うん、やっぱり、お前の飯、結構美味いよな」

 

 陽葵さんが食事をしながらそんな感想を言ってくれる。

 

「ありがとうございます。

 飲食系のバイトも幾つかしていましたので、そのおかげですかね」

 

「へー、幾つかやってたのか、バイト?」

 

「ええ、他にも何種類か掛け持ちで。

 学生の頃は時間が有り余っていましたしね」

 

「そんなもんかー」

 

 感心したような、割とどうでも良さそうな、そんなニュアンスで返事する陽葵さん。

 まあ、特に意味もない雑談なのだから、そんなものだろう。

 

 なので、私もそれ程重要ではない話を彼に振る。

 

「ところで陽葵さん」

 

「ん、なんだ?」

 

 私は、陽葵さんをじっと見つめ――私の腕に、自分の腕を絡ませながら朝食を食べる陽葵さんを見つめて、話しかける。

 

「――近くないですかね?」

 

「そ、そうか?

 別に普通だろ、その、男同士なんだし」

 

 普通のことだと思うのならどうして陽葵さんは顔を赤くしているのですかね?

 まあそれをつっこむのは野暮というものだろう。

 これが彼の普通であるなら、それに私も付き合うだけだ。

 

「そうですね、普通ですね。

 男同士ですから」

 

 そう言って、私は彼の肩に手を回す。

 

「――あ」

 

 陽葵さんがびくっと震えた。

 彼の反応を楽しみつつ、回した手をさらに伸ばして、彼の胸を触る。

 

「――んっ……お、おい黒田っ!」

 

「なんですか?

 普通でしょう、これ位」

 

「……あっ……そ、そうだけどさ……ん、んっ……」

 

 乳首を擦ってやる度に、陽葵さんの口からは小さな喘ぎが漏れる。

 ちょっと触っただけというのに、もう感じてしまったようだ。

 

 ちなみに今の陽葵さん、昨日の夜と同じく少し大き目のTシャツに、ボクサーパンツという下着姿。

 Tシャツの隙間からは、チラチラと彼の乳首が見え隠れているし、ボクサーパンツは色気香り立つお尻にぴっちり張り付いてそれを強調している。

 私の家へ来る時に履いていたショートパンツは脱いだままだ。

 ……つまり、何時ヤられても大丈夫な格好ということ。

 

「そういえば陽葵さん、もう食事はいいんですか?」

 

 先程から――私が触り出してから、彼は箸が進んでいない。

 

「……あ、うっ……こ、こんなことされたら、食べられるもんも……んぅっ……食べられなくなるだろっ……あんっ……」

 

「なるほど。

 では、さっさと済ませてしまいましょうか」

 

 言うと、私は彼のお尻にも手を伸ばす。

 そしてボクサーパンツの上から、陽葵さんの後ろの門を弄ってやった。

 

「あっ!……お、おい、いきなりかよっ!

 ……おっおおっ……あっあっあっ!」

 

 突然のことに戸惑っているようだが、身体の方は敏感に反応しているようだ。

 嬌声を発していることもあるし、股間を見れば既に勃起も始まっている。

 この辺、男の身体は女性に比べて分かりやすくていい。

 

「今日は探索の準備をしなければなりませんしね。

 手早くいきましょうか」

 

「おっおっおぉっおっ……て、手早くって何を……あっああっ!」

 

 陽葵さんの身体を両手で抱え、私の太ももの上に乗せる。

 その後、彼のボクサーパンツをするするとずり下げていった。

 

「ほ、本当にもうするのかよっ!」

 

「駄目ですか?」

 

「ダメじゃ、無いけどさ……なんか、もっとこう、色々やんないのか……?」

 

 もっと私と触れ合いたいということか……ふむ。

 

「色々、というと、こんなことですかね?」

 

 私は自分のイチモツを取り出すと、陽葵さんの尻肉で挟んだ。

 そのまま、彼の身体を前後に動かす。

 すると、私の男根が陽葵さんの尻に扱かれる形となる。

 いわゆる尻コキというヤツだ。

 

「うあっ……ちょっ……んっんっ……けつに、熱いのが……あっ……」

 

 陽葵さんの尻肉が私の愚息をむっちりと挟み付ける。

 すべすべの肌にイチモツが擦られ――これはこれで味がある。

 

「んんっ……なぁ、黒田、気持ちいいのか、コレ?……うぅっ……」

 

「いい気持ちですよ。

 陽葵さんの身体は、どこも一級品ですからね」

 

「そ、そんなもんか……あぅっ……オレにはよく分かんねぇけど……ん、んんっ!」

 

 尻コキのついでに、彼の首筋に舌を這わせる。

 薄い汗の味が舌に残り、陽葵さんの匂いが鼻孔につく。

 女の子のような、甘い、いい匂いだ。

 

「あ、あぁっ……く、黒田……これ、ちょっと……んぅっ……切ないよ……あっ……」

 

「――そろそろ、穴に欲しいわけですね?」

 

「……うぅっ……い、言わせんなよ、そんなの……あぅっ……

 こんなの続けられたら……あっああっ……欲しくなっちゃうに決まってんだろっ!……あんっ……」

 

「いいでしょう」

 

 くいっと陽葵さんの尻の割れ目を開き、境目から姿を見せた彼の菊門へと自分の亀頭を添える。

 その状態で彼の腰を掴み、私の股間に向けて彼のお尻を降ろした。

 

「うっ……あぁぁぁあああああっ!!」

 

 一気に陽葵さんの奥底にまで達する、私のイチモツ。

 暖かく、ぎゅっと締まる感触が堪らない。

 

「あ、あ、あぁぁ……でっかい……こんな、の……はあぁぁぁ……も、凄すぎて……」

 

 パクパクと口を開く陽葵さん。

 彼は彼で私の男根を感じてくれているようだ。

 

 私は陽葵さんの太ももを後ろから持ち上げ、そのまま椅子から立ち上がる。

 ちょうど立ちバックに近い姿勢――背面駅弁とでも言うのか?――をとって、彼を抱えながら腰を振り始めた。

 

「お、おおっおっおっおっおっ!?

 く、黒田、この格好……おっおおおっおおっおっ!……は、恥ずかし……おぉおおっ!!」

 

 陽葵さん、この体勢がお気に召さないらしい。

 確かに、今の彼は私によって股を開かされているので、前方から私達を見れば陽葵さんの局部が丸見えの状態。

 この場には私と陽葵さん以外誰もいないとはいえ、気恥ずかしく思ってしまうのは仕方ないだろう。

 とはいえ口ではそう言いながらも彼の尻穴は、腸壁は、私の愚息を強く締めあげている。

 なんだかんだでこのプレイを楽しんでいるようだ。

 

 腰のグラインドと一緒に、彼の身体も上下に動かしてやる。

 

「おっおっおっおっおっ! んぁあっあっああっあっああっ!

 おぉぉぉおおおおっ! おっおぉおおっおおおおっ!!」

 

 声高に喘ぐ陽葵さん。

 私の方も、彼の尻穴の快感を深く味わっていた。

 

 さて、さらに責め立ててやろうと考えた、その時。

 

 「おはよー!

  クロダ―、ヒナタ居るー!?」

 

 玄関の方から大声が響く。

 この声、リアさんか。

 

 彼女は今日、陽葵さんと共に迷宮探索用備品の買い出しを行う予定だったはず。

 まだ少し時間は早いと思うのだが、彼女なりに気を遣って迎えに来てくれたようだ。

 

「……り、リアっ!?

 ……あ、あぅっ!……く、黒田、コレ、どうにかしないとっ……お、おぉおっ!?」

 

 突然の来訪に、陽葵さんは悶えながらも慌てだす。

 私はと言うと、慌てず騒がず。

 

「どうぞ、リアさん。

 鍵は開いているので、入ってきてください」

 

 そう、彼女へ伝えた。

 

「――え、な、何言ってんだ黒田っ!?

 ……あ、あぁあっ! あっ! あっ! おぉおっ! おおぉぉっ!」

 

 陽葵さんが一瞬きょとんとする顔をする。

 すぐにまた私のピストンによってヨガリ出してしまうのだが。

 

 そうこうしている間に、リアさんが家に入ってくる。

 

「お邪魔しまーす、と」

 

 そんな声と共に、彼女はリビングに顔を出す。

 今朝のリアさんは、半袖シャツに薄手のジャケット、そして黒スパッツという、いつも通り動きやすい装い。

 

 だがその直後に彼女は――

 

「―――――え?」

 

 私と陽葵さんの姿を見て表情が固まった。

 それ程、私達のまぐわいはショッキングだったのだろうか。

 

「――あっあっあっ! り、リア、違うんだっ! お、おおっおおおっ!

 こ、これは、そんなんじゃなくてっ! ああっあっあっあぁぁああっ!!」

 

 陽葵さんが弁解らしきものをしようとしているが――顔を蕩けさせ、喘ぎ声をあげながらでは様にならない。

 私はただマイペースに腰を振り、股間への刺激を堪能する。

 

 ――しばらくして。

 硬直していたリアが、唇を震わせながら口を開いた。

 

「……あ、あんたら、何、してんの……?」

 

「見て分かりませんかね?

 セックスですよ、アナルセックスです」

 

 彼女の質問に、陽葵さんへ腰を打ち付けながら答えた。

 

「お、おおっおっおっおっおおっ!!」

 

 陽葵さんは快楽に抗いきれず、リアさんをさて置いてヨガり続けている。

 

「セックスって!?

 男同士で、そんな……!

 ヒナタになんてことを!!」

 

「そうは言いましてもね……」

 

 私は身体の向きを変え、陽葵さんの顔がリアさんによく見えるようにする。

 

「あっあっあっあっあっ!

 り、リア――ああぅっおぅっおおぅっおっおっおっおおっ!!」

 

「どうですか、リアさん。

 陽葵さんも喜んでいるでしょう?

 これが嫌がる人間の顔に見えますでしょうか」

 

 リアさんは陽葵さんを――いや、陽葵さんと私の結合部を凝視して、ごくりと喉を鳴らす。

 

「う、噓でしょ……ヒナタ……」

 

 呆然としながら、口を零した。

 

 ……おお、そうだ。

 呆然と立ち尽くす彼女を見て、私はあることを思いつく。

 

「リアさん、そんなところで立ってないで、こっちに来てくれませんか?」

 

「……え?

 ……う、うん」

 

 心ここにあらずというリアさんだが――いや、心ここにあらずという状態だからこそ、か?――私の呼びかけに応じて近くに歩いてくる。

 私は陽葵さんの股間を彼女に向けて突き出してやると、

 

「さ、リアさん。

 陽葵さんにフェラしてあげて下さい」

 

「……は?」

 

 彼女が目を丸くした。

 

「おっおぉっおっおおっおっ!

 く、黒田っ! ああっあっああっ! リアに、そんなこと――あああっあぅっあぁぁあっ!!」

 

 陽葵さんが私の言葉に反応する。

 ……反応をしたというだけで、今、彼には何もできないわけだけれども。

 

「リアさん。

 まさか、私の言うことを拒むんですか?」

 

「――え。

 あ、ご、ごめん、そんなこと、ないから――」

 

 私の命令にうんともすんとも言わないリアさんへ、確認をする。

 彼女は、自分が肉便器であることを思い出したようだ。

 

「……あ、あぁ……ヒナタの、ちんぽ……」

 

 陽葵さんの前で屈んで、彼のペニスをじっと見つめるリアさん。

 

「お、おっおっおっおっおぉおおっ……り、リア……待って、そんな――おぉぉおおおぅっ!?」

 

 私の抉るような腰の動きに、陽葵さんの言葉が途中で遮られる。

 一方でリアさんは、目を閉じ口を大きく開けて、彼の性器を頬張った。

 

「あ、あぁぁあああ……り、リア……ああぁあっあっあぁぁぁあああっ!」

 

 陽葵さんは、想い人にフェラチオして貰える快感――と、私による後ろの穴への快楽――で、より一層、高く艶めかしい嬌声を漏らした。

 

「んっんんっ……んむっ……れろれろっ……あむ、んん……んちゅっ……」

 

 リアさんはそんな陽葵さんの性器を、一心不乱にしゃぶっている。

 彼女の立てるちゅぱちゅぱというフェラ音が、私の耳にまで届く程だ。

 

「んぁっ……は、んむぅっ……ぺろ、れろ……んん、んぅ……は、あぁぁ……」

 

「あぅっ! あっ! あぁあぁぁぁ……んぅうっ!! おっ! おっ! おぉおぉぉお―――んぁああっ!!」

 

 リアさんの口から零れる淫猥な水音と、陽葵さんの淫らな喘ぎ声が部屋に響き渡る。

 特に陽葵さんは、前と後ろからの責めに、息も絶え絶えと言った様子である。

 

 ――と。

 

「あっダメっ出るっ!!

 あぁああっ! おぉおぉぉおおっ! ダメ、リアっ! あぁぁぁぁああああっ!!」

 

「―――んむっ!!?」

 

 陽葵さんの身体がガクガクと震える。

 同時に、彼の穴がさらに強い力で私を絞ってきた。

 リアさんの方を見れば、彼女の口から白い液体が一筋。

 

 ……絶頂を迎えたようだ。

 

「……あっ……あーっ……はっ…はっ…はーっ……ん、んん……」

 

 快楽の余韻に浸っている陽葵さん。

 そんな彼をしり目に、私はリアさんに――精液を咀嚼している彼女に声をかける。

 

「リアさん、今度は貴女の膣で陽葵さんを悦ばせて下さい」

 

「――――!!

 ……う、うん、わかった」

 

 驚く顔を見せたのも一瞬のこと。

 彼女は陽葵さんのペニスから口を離し、一度彼に背を向ける。

 その後、陽葵さんの方へ――つまりは私の方に対して――お尻を差し出すと、その体勢のままスパッツを脱ぐ。

 

「……おや、下着を履いていなかったんですね。

 陽葵さんを迎えに来たと言っていたのに――リアさん、いったいナニを期待していたんですか?」

 

「…………!」

 

 私の言葉に彼女は身体を震えさせた。

 質問には答えていないが――まあ、いいだろう。

 

「……あ、ああ……リ、ア……」

 

 陽葵さんが感嘆の息を吐く。

 リアさんの女性器が――彼の恋した女性の膣口が、目前に開かれていた。

 その入り口は既に愛液で濡れており、雄を欲しがるようにピクピクとひくついている。

 

 とはいえ、陽葵さんの性器は射精したばかりで少し元気がない。

 そこで私は、腰のグラインドを再開する。

 

「――お、おぉおおっ!?

 おっ! おっ! おっ! おっ! おっ! おぉおおっ!!」

 

 陽葵さんの敏感な肢体は、再び注入される快感に対してすぐに反応を示した。

 それは彼のペニスにもおよび――萎びていたソレは、ぐんぐんと固さを取り戻していく。

 

「……これだけ勃起すれば大丈夫でしょう。

 さ、行きますよ、陽葵さん。

 念願の女性を相手に、脱童貞です」

 

 そう言うと、私は陽葵さんを抱えたまま――彼の尻穴にイチモツを挿入したまま――尻をこちらに向けたリアさんに後ろから迫る。

 上手いこと位置を調整して、陽葵さんの棒とリアさんの膣口の高さを合わせた。

 ちょうど、私の股間とリアさんの尻で、陽葵さんの下半身をサンドイッチするような格好だ。

 

 ……そして。

 自分の腰を突き出すことにより、彼のモノをリアさんのナカへと一気に挿入させた。

 

「んぉおおっ!? あぁぁああああああっ!!!」

 

「あ、あぁぁああっ! あぁぁぁ、ああぁっ――」

 

 2人の喘ぎが、同時に響く。

 この上なく艶めかしい共鳴が、部屋を支配した。

 

「良かったですね、陽葵さん。

 想いが遂げられましたよ。

 ……このまま、リアさんの中で思う存分果てて下さいね」

 

 果たして彼に聞こえているのかどうかは分からないが、私は陽葵さんの耳元でそう呟くと、腰を前後に動かしだした。

 私の動きによって陽葵さんも動き――それに伴い、彼のペニスがリアさんの膣内を抜き差ししだす。

 

「おっ! おっ! おあっ!! ああっ! あぁぁああっ!!」

 

「あ、うっ!……あ、あ、あっ……ああっ!……あんっ!……」

 

 陽葵さんとリアさん、2人の喘ぎ声が私の動きに合わせて奏でられる。

 とりわけ陽葵さんの方は、念願叶ったせいか、乱れっぷりが凄い。

 

「どうです、陽葵さん!

 リアさんの中は気持ち良いですか!?」

 

「おっ! おおっ! おっ! あ、あああっ!

 き、気持ちいいっ! ああっ! あっ! あっ!

 ちんこ、締まるぅっ! おっおっおっ! あああっ!

 前も、後ろ、も――気持ち、いいぃいっ!」

 

 彼は満足してくれているようだ。

 私もこれを“セッティング”した甲斐がある。

 

 気をよくした私は強く腰をピストン運動させて、今度はリアさんへ問いかけた。

 

「貴女はどうなんです!?

 陽葵さんのペニスですよ!

 ちゃんと下の口で味わってますか!?」

 

「あ、あうっ!……あ、ああ、あっ……うん、ヒナタのちんぽ、来てるっ……

 あん、あん、あん、あっ……あたしの、中に……ヒナタのちんぽ、感じてるっ……あぁぁぁああ……」

 

 腰をくねらせて陽葵さんの性器を堪能しているリアさん。

 なんだかんだで楽しんでいる模様。

 

「おっ! おおっ! おっ! おおぅっ! んぁあああっ!」

 

「あんっ……あっあっあっあっ……あぁんっ……あ、あ、あああ……」

 

 趣の異なる二人の淫らな声が、私の耳も楽しませる。

 この旋律をいつまでも聞いていたい欲求に駆られるが――そういうわけにもいくまい。

 

 私は激しく股間を陽葵さんの尻にぶつけだす。

 すると玉突きのように、陽葵さんの男性器もまたリアさんを激しく搔き乱した。

 

「お、おお、おおぉおおっ!!? は、激しっ!?

 おぅうっあっあっあっあっあっ!! こんな、ムリっ!!

 イっちゃうっ! オレ、イっちゃうっ!! あぁぁぁあああっ!!」

 

「あ、あ、あ、あ、あっ……い、いいよ、ヒナタ……

 あたしの中に、精子出しちゃって……あぅっあんっあんっあんっあんっ……いいよっ……」

 

 再度絶頂を迎えようとする陽葵さん。

 彼が昂っていくつれ、私のイチモツへの締め付けも強さを増していく。

 私もまた、もう射精を我慢できない。

 

「――イきますよ、陽葵さんっ!」

 

 腰を強く押し込み、男根を彼の一番深いところへと捻じ込んで――私は精液を放った。

 

「おぉぉおおおおおっ!! あ、熱いの来たぁっ!!

 お、おおっ! おおっ! おぉおおっ! 黒田のっ! 黒田のぉおおおっ!!

 イクっ! イっちゃうっ! オレもイクぅううううっ!!!」

 

「――あっ! ああっ! 流れてきてるっ!

 ヒナタの精子、あたしのまんこに流れてきてるっ!

 あっあっああっ! あぁぁぁあああああぁぁぁぁ……」

 

 ガクガクと身体を大きく痙攣させながら、陽葵さんは絶頂した。

 きちんとリアさんの膣に精液を注ぐこともできたご様子。

 

「あっ!――あ、あっ!――あっあっあっあっあ!」

 

 陽葵さんの身体は、さらに何度か大きく跳ねる。

 その度に私から精子を絞り、おそらくリアさんへと自分の精液を注入しているのだろう。

 

「あ―――――」

 

 そして、彼の身体から力が抜けた。

 首ががくりと垂れ下がり、手足もだらりと下へ落ちる。

 

「おっと!」

 

 陽葵さん落としそうになり、私は慌てて支える。

 脱力した彼を丁寧に床に寝かせる。

 

 ――初めての快感は、あっという間に陽葵さんの意識を刈り取ってしまったようだ。

 

 陽葵さんのペニスは彼の精液とリアさんの愛液が混じった液体でぬめぬめとテカっており。

 彼の尻穴からは私の精液がドロドロと流れ落ちていた。

 

 ……実に淫猥な光景である。

 

「……ね、ねぇ、クロダ」

 

 陽葵さんの姿に見惚れている私へ、リアさんが声をかけてくる。

 私は彼女の方を向いて、返事をした。

 

「どうしました?」

 

「……あ、あのね……あたし、まだ、イケてないの……

 お願い、あたしも、イかせて……」

 

 陽葵さんの精液が垂れる尻を私に向けて振りながら、私を見つめるリアさん。

 その眼には、物足りなさそうな感情が浮かんでいた。

 

 私はため息をつく。

 

「……せっかく陽葵さんが精を注いでくれたというのに。

 リアさん、絶頂できなかったのですか」

 

「……ご、ごめんなさいっ……で、でもあたし、満足できなくてっ……」

 

「仕方のない人だ」

 

『便器』が人の選り好みをするとは――彼女もまだまだ、ということか。

 とはいえ、私もまだ一度射精しただけ。

 実のところまだまだヤリ足りない同じだったりする。

 

 そんなわけで、私はリアさんへと背後から近寄ると。

 ――お望み通り、彼女の膣口に肉棒をぶち込んでやった。

 

「あぁぁぁああああああっ!!!」

 

 彼女の口から嬌声が――先程よりも大きな嬌声が漏れ出る。

 リアさんの女性器は、私が来るのを待ち構えていたかのように、イチモツへ絡みついてくる。

 陽葵さんのモノとは異なる、正真正銘、雄を受け入れるためだけに存在する専用の穴。

 当然、触感も締め付け方も違ってくる。

 

 別種の快感を味わいつつも、私はリアさんの身体を掴み、腰を動かしだした。

 

「ああぁあっ! あっあっあっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!

 す、凄いぃっ! あっあっあっあっ! おっきいしっ! ふ、深いのっ!!

 ああっ! あ、あぅっ! ああぁぁぁああっ!!」

 

 自らも尻を振って私の男根を扱きながら、リアさんが悶える。

 その表情は恍惚としており、余程私のモノが欲しかったことを伺わせる。

 

 私はピストンを続け――ついでに人差し指で彼女の菊門を穿ってやる。

 

「んぁああああっ!? そっちもっ!? そっちもぉっ!!?

 ああっ! あぅううっ! んぉおおっ! おっおっおっおっおおっ!!」

 

 両方の穴を弄られて、嬉しそうにリアさんは喘いだ。

 彼女が私を締め付ける力を大きくなっていく。

 

 気をよくした私は、さらに中指と薬指も加え、3本の指で彼女の尻穴を搔き乱す。

 後ろの穴も十分に使い込まれており、侵入を容易に迎え入れた。

 

「おおっおぉおおっ! いっぱいっ! いっぱい入ってきたぁっ!!

 ああっああっああああっ! あぅうううっ!!!」

 

 セミショートの髪を振り乱しながらヨガる彼女。

 私は責める手は休まさず、リアさんの身体に力を加えてある方向へじわじわと移動させる。

 彼女は『そのこと』にまだ気づいていないようだが――

 

「あうっ! あうっ! ああぅっ! んぁあああっ! あっ! あっ――――!?

 あっ……クロダ、ここっ! ここ、ダメよっ!

 あんっ! あんっ! あんっ! あんっ!

 『ここ』でしちゃ、ダメぇっ!!

 あっ! ああっ! ああっ! あぁぁぁぁっ!!」

 

 悶えつつも自分が“何処に立っているのか”気付いたリアさん。

 私達は今、“仰向けに倒れている陽葵さんの顔を跨ぐ様に”して、セックスをしているのだ。

 

 リアさんは仮にも魔族。

 自分が王と仰ぐ魔王の、その息子に対してこの仕打ち――許容しかねるのかもしれない。

 

「あっああっあっ! ダメっ!

 んぉおおっおっおおおっ! ダメェっ!

 まんこ突かないでぇっ!! お尻、ぐりぐりしないでぇっ!!」

 

 リアさんの膣口から垂れる愛液が、ぽつぽつと陽葵さんの顔に降りかかる。

 ダメと言う割に、随分と感じてしまっているようだが。

 顔も変わらず蕩けたままだし、もう少し説得力というものが欲しい。

 

「いいじゃないですか、陽葵さんに見せつけてあげなさい。

 貴女の、浅ましい姿を」

 

「やだぁ、そんなのっ!! おおっおおおっおぉおおっ!!

 やだ、やだぁっ!! ああっあっあっあっあっあっあああっ!!」

 

 かぶりを振るリアさん。

 しかし彼女の愛液はまるで留まらず、陽葵さんの顔を濡らしていく。

 私は尻の責めを止めると、空いた手で彼女の上半身を引き寄せ、無理やり私の方を振り向かせる。

 

「あっああっ!? く、クロダ……?

 あぅっあっあっああっ――――んむぅっ!?」

 

 そして自分の口で彼女の口を塞ぐ。

 口内へと舌を滑り込ませると、彼女の舌へと絡めた。

 

「んぐぅっ! ふむぅっ!! んんっ! んんんんんっ!!!」

 

 声が出せない状態でも、リアさんは喘ぐ。

 と、同時に彼女の方も舌で私の口内を舐めてきた。

 

「んむぅっ! れろ、れろれろっ……んぁあっ! あっあぅっ! ふぁぁああっ!!」

 

 幸せそうな顔で私とキスを続けるリアさん。

 彼女の頭の中からは、下にいる陽葵さんは消えてしまったようだ。

 

 腰を彼女へと叩きつけ、ラストスパートに入る。

 

「んっんっんんっんんっんんんっ!!!

 んんぅううっ!! あぁ、あぁぁあああっ!!

 クロダ、あたしもう、イク、イクよっ!!」

 

「いいですよ、存分に絶頂して下さい」

 

 会話のため一瞬唇を離すが、今度はリアさんの方から私に口づけをしてきた。

 

「んんっ! んんっ! んんんぅっ!!!

 んんんんっはぁぁああああああああっ!!!!」

 

 口と口を繋げたまま、絶頂に身体を震わせるリアさん。

 遅れて、私も彼女の性器へと精液を迸らせる。

 

「んっ! んっ! んんっ!

 ――んむぅっ! …………んんんん……」

 

 舌と舌を絡ませながら、リアさんの膣は最後の一滴まで精子を搾り取ってきた。

 

 ふと、足元を見れば――

 陽葵さんの顔は、リアさんから零れ落ちた私の精液と彼女の愛液に塗れている。

 それは、実に背徳的な美しさを醸し出していた。

 

 私はリアさんに告げる。

 

「――まだ終わりじゃありませんよ?

 陽葵さんが目を覚ますまで、続けますからね」

 

「……はぁっ……はぁっ……う、うん……

 ……クロダが、満足するまで……あたしを使って……」

 

 リアさんは身体の向きを変えて、正面から私に抱き着いてくる。

 私も彼女を抱きしめ返し、“続き”が始まった。

 

「あっあぁあああっ! あぁぁぁぁああああああっ!!」

 

 

 

 ――結局。

 陽葵さんが起きるよりも、リアさんが気を失う方が先であった。

 

 まあ、結果はどうあれ、これだけのことをしたのだ。

 陽葵さんとリアさんは、今後なんの気負いも無しにイチャつくことができるようになっただろう。

 ……非常にささやかではあるが、私から陽葵さんへの『プレゼント』である。

 

 肢体を重ねて倒れている2人を見ながら、私は満足して頷くのだった。

 

 

 

 第十五話②へ続く



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②! アクセサリーショップでお買い物

 

 

 

 ――そんな朝の一幕がありつつ、私は今、外へ出かけている。

 これからの任務に必要な備品を揃えるため、というの一つ。

 なにせ迷宮内で相手に気付かれないよう尾行し続けなければならないのだ、入用な物も今まではとは変わってくる。

 

 だがしかし実際のところそれはあくまで“ついで”。

 この買い物の主目的とは――

 

「んー、クロダ君とデートする日が来るとはねー」

 

 私に腕を絡ませながら、にこにこと笑うエレナさん。

 ――そう、今日は彼女とデートを約束していたのだ。

 

 歩く度に、彼女の黒髪のポニーテールがふりふりと揺れる。

 いつもの似た服装――上は少し胸元が開いたキャミソールにカーディガン、下はミニスカートで脚には黒タイツ――なのだが、今日は随分と御洒落にまとめている。

 そういうことに詳しくない私でも、一品一品が上質で、肌触りが良さそうな物に見えた。

 要するに、とても気合いを入れている。

 

 エレナさんは笑みを小悪魔チックなものへと変えると、

 

「んー、でも正直クロダ君とは、身体だけの関係で終わると思ってたよ」

 

 そんなことを言ってくる。

 ここ数日ミサキさんの影響で、『真面目で冷静なエレナさん』ばかり見ていたので、こういう表情が凄く懐かしく感じる。

 いや、普段まず見せない、ああいう真剣な顔というのもなかなか良いものではあったのだが。

 

 それはそれとして、私はエレナさんに応える。

 

「……それ、もう少し進んだ関係になってから言うもんじゃないですかね?」

 

「んん?

 なになに、もっと進んだ関係?

 愛人より先に進んじゃうの?

 ボクをお嫁さんにしてくれる?」

 

 意地悪そうに目元を歪めながら、上目遣いに私を見つめるエレナさん。

 ……その台詞と表情に、私は色んな意味で言葉を詰まらせてしまった。

 

「あー、えー、その……申し訳ありません」

 

「えー、謝っちゃうのー?

 ひどーい、許せなーい」

 

 エレナさんは口を尖らせて、不満を垂れる。

 目は笑ったままだったが。

 

「す、すみません。

 ……ど、どうすればいいのでしょう?」

 

 情けなさ、ここに極まれり。

 私は頭を下げてエレナさんに答えを請う。

 

「んんー?

 そうだなぁ、愛の言葉を囁いてみよっか。

 キュンキュンして、ボク、キミのこと許しちゃうかも?」

 

「……好きですよ、エレナさん。

 愛しています」

 

 彼女の目を見て、真摯な口調で囁く。

 たったそれだけのことなのだが、エレナさんの機嫌は一気に回復したようだ。

 

「――んっ♪

 前よりずっとスムーズに言えたねー。

 ひょっとして、練習した?」

 

 はい、しました。

 ……などとは言えず。

 

「……いえ、そんなことは。

 あー、ところでエレナさん、一つ質問してもいいでしょうか」

 

「んー、なーに?」

 

「……デートって、どんなことすればいいんですかね?」

 

「――――え?」

 

 エレナさんの笑顔が固まった。

 

「…………」

「…………」

 

 2人の間に、沈黙が降りる。

 恐る恐るといった感じで、エレナさんが口を開けた。

 

「……ひょっとしてクロダ君――恋愛童貞?」

 

「ど、ど、ど、童貞違いますよ!?

 止めて下さいよ、そういうこと言うの!?」

 

「じゃあさー。

 キミ――デートしたこと、何回あるの?」

 

「…………………恥ずかしながら」

 

 いや、違うんですよ。

 恋人が全くいなかったわけでは無いんですよ。

 居たには居たんですが、ちょっとそういう普通の、一般的なデートというものをしたことが無いというだけで…!

 

 心の中でそう自己擁護するものの、エレナさんに伝わるわけもなく。

 彼女は憐れんだ目で私を見てくる。

 

「あんだけ手当たり次第に女の子食い散らしてるのに、デートの経験が無いんだ……」

 

「……す、すいません、割と本気でへこむんで、それ位にして頂けると」

 

 へこへこと頭を何度も下げる私。

 ……もう許して下さい。

 

「仕方ないなぁ、クロダ君は。

 今日はボクの指示通り動くこと、いいね?」

 

 ふんすっと胸を張って、そう言ってのけるエレナさん。

 おお、なんと頼もしい。

 

「流石はエレナさんです。

 ちなみに、今までどれくらいデートしてきたんですか?」

 

「―――――」

 

 私の一言に、エレナさんの動きが止まってしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 再び訪れる、沈黙。

 

「…………あの、エレナさん?」

 

「――そ、そんなの、いっぱいだよ、いっぱい!

 数え切れるわけないでしょ!?

 だ、だいたいね、クロダ君!

 そういうこと女性に聞くの、デリカシーが無いんだからね!?」

 

「そ、そうですよね!」

 

 男を誘惑しまくりなエレナさんに対して、実に愚かな問いであった。

 不自然に間が空いたのは、余りに失礼な私の発言にエレナさんの思考がストップしてしまったからだろう。

 改めて考えてみれば、女性にするには酷すぎる質問だ。

 

 少し怒った様子の――何故か慌てているようにも見える――エレナさんに連れられ、私は街へと街を歩いていく。

 

 

 

 まず訪れたのは、アクセサリショップ。

 オシャレのための服飾品だけでなく、冒険者向けに特殊効果が付与された装飾品も揃えてあるお店だ。

 

「んー、こっちがいいかなー?

 それともこっちかなー?」

 

 そんな場所で、さっきからずっとうんうん唸っているエレナさん。

 2つのアクセサリを見比べて、どちらがいいか品定めをしているのだ。

 私が、せっかくだからエレナさんにプレゼントを、と言ってから、ずっとこの調子である。

 

「あのー、エレナさん?」

 

「んー、ごめんね、クロダ君。

 もうちょっと見させて?」

 

「いえ……どちらも気に入っているのであれば、両方ともプレゼントしますよ?」

 

 私の懐事情的に、2つ買ってもそう問題のある価格ではない。

 それに、これだけ悩んでいるということは、エレナさんにとってどちらも捨てがたい意匠だということ。

 彼女に満足してもらえるなら、多少の出費など痛くも痒くもない。

 

「んー……惹かれる提案だけど、遠慮しとくよ」

 

「そうですか?

 別に私へ遠慮する必要なんてないですよ?」

 

「んん、まあ多少はそういうのもあるけどねー。

 でも、こういうのってやっぱり想いを込めた一品が欲しくない?

 ……できるなら、クロダ君が選んだやつが欲しいわけなんだけどー」

 

 ちらりと流し目でこちらを見るエレナさん。

 

「うっ!?

 ……申し訳ないです、こういうことには本当に疎くて……」

 

 実は、エレナさんは悩みだす前、私にどちらのアクセサリがいいか聞いてきたのである。

 そこでズバっと私が選んでいたならこうはならなかったのだろうが……

 どちらの装飾品もエレナさんに似合いそうに見えて、決められなかったのだ。

 

 片や可愛らしいデザインのイアリング。

 こちらは純粋にエレナさんの容姿によく似合っている。

 もう片方は、シックな意匠の耳飾り。

 ともすれば幼くも見える外見のエレナさんに、落ち着いた、大人らしい印象を与えてくれる。

 どちらを着けても、彼女の魅力は際立つだろう。

 

 今から、『こちらが良い』と提言するのはまるでただ急かしたいだけのようであるし――

 実際問題、私もどちらが良いとは判断できない。

 

「ん、そんなわけで、もう少しだけ考えさせてよ。

 あとちょっと……うん、もうちょっとで決めるから」

 

 ……まだまだ大分時間がかかりそうだ。

 

「――ん?」

 

 なんとはなしに店の外を眺めた私は、見知った姿を発見した。

 ロングの黒髪に、黒いドレスを身にまとった女性――ローラさんだ。

 どうやら、向かいのお店で買い物をしている模様。

 今はそのお店の店員さんと談笑中――或いは商談中なのかもしれないが。

 

「…………むむ?」

 

 そこで私は、彼女にある違和感を発見した。

 ただ話をしているだけだというのに、ローラさんの顔がやや赤くなっている。

 これは――

 

「確認しなければ」

 

 そう呟いて、<感覚強化(エンハンスセンス)>と<屈折視(デフレクトヴィジョン)>、ついでに<闇視(ダークヴィジョン)>を発動。

 彼らの様子を伺う。

 

 すると――

 

 「どうですか、ローラさん。

  いい商品、揃えてるでしょう?」

 

 「――え、ええ、そうですね、ログスさん。

  あ、あの、それで――あ、うぅぅ……」

 

 「特にコレ!

  この薬草なんてそうそう手に入らない代物ですよ」

 

 「――あっあっ!

  メドナ草なんて、珍し……あぁ、あぁぁああっ!?」

 

 ローラさんは机に並べられた商品の紹介を受けているようだが、ところどころで色っぽい喘ぎを挟む。

 それもそのはず、店員さんは商品の説明をしながら、ローラさんのお尻を――大きくて柔らかい、あの美尻を揉んでいるのだ。

 

 「またとない機会ですよ。

  どうです、買っていきません?」

 

 「――で、も、私、持ち合わせが……あっあっあっあっ!

  ログスさん、これ以上駄目ですっ!

  私、もう――あっあっあっあぁああっ!」

 

 店員さんはドレスの上から、的確にローラさんの弱い部分を弄っているようだった。

 

 「すごい乱れっぷりだ。

  いや、話を聞いたときは驚きましたが、本当だったんですね。

  ……貴女が、ド淫乱な雌犬だと」

 

 「……あっ!?

  そこ、駄目ですっ! そこ擦っちゃ嫌っ!!

  あっあっあっあっあっあっ!

  あぅぅうううううっ!!」

 

 店には他に人がおらず、2人は安心して事に及んでいるようだった。

 店員さんはドレスのスカートをめくり、直接ローラさんの下半身を触り出す。

 

 「もうこんなに濡れている……ちょっと触っただけで、ですよ?

  幾らなんだって感じすぎじゃないですかね」

 

 「あ、うぅっ! そ、それは、貴方がずっと触ってくるから――ああっ!!」

 

 「ローラさん、全然抵抗しないだもん。

  すぐに股濡らしちゃうしさぁ。

  そりゃ自分だって責めまくりますって!」

 

 店員さんは手をスカートの奥へと突っ込む。

 ――その途端に、ローラさんの身体がびくんっと跳ねた。

 

 「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!

  そこ、摘まんじゃっ……あぁぁああっ!!」

 

 「分かりやすくぷっくりと膨らんでますねぇ、ローラさんのクリトリス。

  自分からココ弄ってくれって言ってるようなもんじゃないですか。

  抓むだけでこれなら、弾いたりしたらどうなっちゃうんです?」

 

 そんなことを言うと、店員さんはごそごそとスカートの中で手を動かしだす。

 そして――

 

 「――あっ!? ああぁぁああああああああっ!!!!」

 

 ローラさんが絶叫した。

 身体もがくがくと震え、商談机に倒れ込んでしまう。

 

 「あーらら、イっちゃったんですか。

  それで、どうです。

  うちの商品、買って頂けませんかね?」

 

 「はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……

  で、でも、私のお店では――――ひゃうんっ!?」

 

 ローラさんが返事を濁すと、また店員さんの手が動き出す。

 

 「あっ! あっ! あっ! あっ!!

  い、イったばかりなんですっ!

  あぅっ! あっ! あんっ! ああっ!

  や、止めて下さいっ!」

 

 机の上に伏せていたローラさんが、またヨガりだした。

 

 「えー、止めてほしいんですかぁ?

  じゃあ、この商品購入して下さいよー。

  サービスしますから――ねっ?」

 

 「あうっ! あうっ! あうっ! あうっ!!

  んぁああああっ! あぁうああああああっ!!

  か、買いますっ! 買いますからっ!

  ああっ! ああっ! あぁああっ!

  買いますから、止めて下さいっ!!」

 

 「毎度ありがとうございます♪

  ――これ、サービスですよっ……とっ!!」

 

 店員さんの手が、一気に激しく動く。

 

 「ああぁあああっ!!? あぁぁああああああああああっ!!!!」

 

 その責めによって、ローラさんは再度絶頂してしまったようだ。

 

 「ああ、あ、あ……あ、あ、あ、あ……ああぁぁぁ……」

 

 ぐったりとするローラさん。

 そんな彼女を後目に、店員さんは商品を包んでゆく。

 ――まあ、値札を確認する限り相場より大分安く売っているようなので、やり方はどうあれお買い得な品であることには間違いないだろう。

 

 「ああ、そうだ。

  コレ、おまけです」

 

 「……え」

 

 店員さんが棚からやや太い木の棒を取り出した。

 確か、あの木材も薬品の材料のはず。

 

 「私からの気持ちなので、遠慮なさらず。

  気に入って頂けましたら、また当店をご利用下さい」

 

 そう言いながら、店員は木の棒をローラさんのスカートの中へと――彼女の股へと挿し込んだ。

 

 「―――っ!!?

  あっああぁぁあああああっ!!!!」

 

 三度、絶叫を上げるローラさん。

 店員さんはそんなローラさんに笑いかける。

 

 「“落とさないように”注意して帰って下さいね。

  では、本日はご来店ありがとうございました」

 

 丁寧にお辞儀をすると、息も絶え絶えなローラさんを店外へと送り出す店員さん。

 ふらふらしながら、彼女は通りを歩いていく。

 

 ……どうしたものか。

 本当ならここでローラさんに声をかけたいのだが。

 しかし、私はエレナさんとのデート中。

 デートの最中に他の女性と会話しに行くというのは、いくら何でもマナーに反するだろう。

 それ位の知識は、私にだってある。

 

「………ふむ」

 

 横を見ると、エレナさんはまだ「んむむむむっ」とアクセサリを見比べていた。

 私は後ろから彼女に近づき、

 

「んー……やっぱりこっちが……でもなぁ、こっちはこっちで捨てがたいし……あんっ!?」

 

 エレナさんの口から色っぽい声が漏れ出た。

 私が彼女の胸を鷲掴みにしたからである。

 

「ちょっと、クロダ君?

 いきなりナニするのー?」

 

 突然の行動にも、エレナさんは余裕の対応。

 このあたり、他の女性達とは一線を画す。

 

「いえ、ちょっとムラムラ来てしまいまして」

 

「んんー。

 今お店の中だよ?

 我慢……できないよねぇ、キミは」

 

「よくご存じで」

 

「そりゃボクはキミの愛人だもの♪」

 

 エレナさんは店内を見渡すと、

 

「……あっち。

 あの端っこの方ならバレないんじゃない?」

 

「――悪くなさそうですね」

 

 小声で密談をかわすと、いそいそとそちらへ移動する私達。

 目的地へ到着すると、周囲からの目が無いことを確認してから、

 

「――<遮音(サウンドインシュレイション)>」

 

 エレナさんが、音を『外』へ漏らさなくする魔法を唱える。

 発動エフェクトとして彼女の身体から淡い光が放たれたのだが――幸い、気づいた人もいないようだ。

 これで、何の気兼ねもなく声を出せる。

 

「予め言っとくけど、今は前の方ダメなんだからね」

 

「何故です?」

 

「んー? だって今ボク処女だもん。

 ……もうちょっとロマンチックな場所でキミに捧げたいなー、なんて」

 

「なるほど」

 

 そんな気配りをしていたのか。

 霊薬で偶然にも再生した処女膜(必ず再生するわけでは無いらしい)。

 大事にしたいというのが、乙女心というものだろう。

 そういう訳であるなら、女性器を使うのは諦めるか。

 

 私はミニスカートの中に手を突っ込み、プルンプルンとした非常にハリのあるエレナさんのお尻を触る。

 タイツに包まれた尻の肌触りは、素肌とはまた違う感触で、私を魅了する。

 

「代わりに――こっちの穴ですね」

 

「おっあっ!……う、うん、そう。

 そっちならオッケー……うっあっお、おおお……」

 

 尻穴あたりを指で突いてやると、エレナさんは喘ぎを漏らした。

 空いているもう片方の手で、彼女のおっぱいも揉んでやる。

 

「あっあっあぅう……んふふふ、ココ、もうギンギンだねー……ん、んぅううっ」

 

 小さく喘ぎ続けながら、私の股間を擦ってくるエレナさん。

 彼女の指摘通り、ローラさんのあられもない姿を見ていた私は、既に勃起していた。

 勿論、イチモツが反り返った要因は、弾力のあるエレナさんの柔肌にもあるわけだが。

 

 ――さて。

 音を消しているとはいえ、ここはれっきとした一般店。

 普通に私達の周囲を店員やお客が歩いている。

 “行為”が衆目に曝されてしまうこと自体、私は忌避していないが――それでこのお店に迷惑をかけてしまうのは頂けない。

 時間をかけるのは得策でないだろう。

 

「……ではちょっと失礼して」

 

 私はエレナさんの後ろに回り、彼女を壁に押し付ける。

 ……これで、エレナさんの姿は周りから見えにくくなったはず。

 

「ん、クロダ君の、固ーい」

 

 彼女がお尻を私に擦り付けてくる。

 密着することでエレナさんの甘い香りも感じられ、股間への柔らかい感覚と併せて私を昂らせる。

 

 私は手早く、彼女のタイツと下着――黒白ストライプの縞パンを脱がした。

 小ぶりだが形の良いエレナさんの尻が現れる。

 それをじっくり鑑賞したい欲求を抑え、私はエレナさんの肛門へイチモツを一気に突っ込んだ。

 

「んおっ!? お、おぉおおおおっ!!

 いき、なり、挿れてくる、なんてっ……あ、ああぁぁぁ……」

 

 驚きながらも甘い息を漏らすエレナさん。

 異物の侵入に対し、彼女の菊穴はギリギリと強く私の棒を締め上げる。

 膣による圧迫とは感覚が異なる、侵入物を排除しようとする動き。

 ソレが、女性器とは別種の刺激を股間に齎してくれる。

 

 そんな快感を味わいつつ、私は勢いよく腰を動かしだした。

 

「ん、お、おぉおおっ!

 激しいっ……お、おお、おぉおおっ! 激しいってば! あ、お、おおっ!

 おおっ! おっ! おぉおおおおっ!!」

 

「今回は時間をかけられませんからね。

 ほら、向こうのお客とか、私達を訝しんでいますよ?」

 

「あ、あっ! あっ! あぅっ! ん、んんっ!

 う、うそっ……見られ、ちゃってるっ!? あっあっあっあっあっあっ!!」

 

「バレてはいないと思いますけどね。

 なので、早めにイっおこうと思う訳なのですよ。

 エレナさんも協力して下さい」

 

「んんっ! んぅっ! んっ!! う、うん――あぅっ!

 あ、あっあっあっあっあっあっあああっ!

 んんぅうぅうううううっ!!」

 

 私の言葉を受けて、エレナさんが自分でも腰を振り出す。

 私の股間と彼女の尻が強くぶつかり、パンパンと大きな音が鳴り出した。

 

「んぁあっ! あぅっ! あっ! ああっ! ああっ!

 あぅうぅううううっ! んん、ああぁぁぁああああっ!!」

 

 エレナさんの直腸で扱かれる私の男根。

 激しいピストンに、射精感がどんどん高まっていく。

 

「んぅっ! あうっ! く、クロダ君っ! ボク、も、もう、イキそうっ!!

 おっおっおっおっおっ! おぉぉおおおっ!!」

 

「……私もですっ!

 出しますよっ!

 エレナさんのお尻に、全部出しますよっ!!」

 

「あ、くぅうううっ!! 出してっ! キミのおちんちん汁、いっぱい出してっ!!

 んんっ! んっ! んっ! んっ! んんっ! イクっ!! イっちゃうっ!!」

 

 互いに絶頂を迎えようとしている私達は、さらに腰を、尻を、激しく振っていく。

 昂りは最高潮に達し――

 

「ぐっ、出ますよ、エレナさんっ!」

 

「うう、あぁあああっ!! イクぅっ!!

 あぁぁぁあああああああああっ!!!」

 

 同時にオーガズムへ達する私とエレナさん。

 どくっどくっと彼女の後ろ穴へと精液を注いでいく。

 エレナさんもまた、ビクビクと尻穴を震わせていた。

 

「く、クロダ君……キス、キスして」

 

「……分かりました」

 

 エレナさんは後ろに振り向くと私に口づけを迫る。

 それに答えて、私は彼女の唇を奪った。

 

「――ん、ちゅっ」

 

 互いに互いの口内を舌で舐めまわし、キスを堪能する私達。

 数十秒か、数分か――私達は満足するまで、唇を重ね続けるのであった。

 

 

 ――幸い、この“行為”が誰かに露見することは無かった。

 

 

 

 アクセサリーショップでの買い物が終わった私達は(最終的に、エレナさんは耳飾りの方を購入した)、新たな目的地に向けて通りを歩いていた。

 次は服屋へ赴く予定――だったのだが。

 

「あの、エレナさん。

 道間違ってませんか?

 教えて頂いた服屋さんからは離れている気がするんですけれど」

 

「んっふっふっふっふ。

 ようやく気付いたようだね、クロダ君。

 そう、ボク達は今、そっちに向かっていないんだよ」

 

 不敵な笑みを浮かべて、エレナさん。

 どういうことなのだろう?

 

「――と、申しますと」

 

「ボクが目的にしているのは――あそこだっ!」

 

 ビシっと彼女はある建物を指さす。

 そこは、私も知っている場所だった。

 

「エレナさん達の宿じゃないですか」

 

 ジャンさん、コナーさん、エレナさんの3人が拠点として使っている宿屋だった。

 

「ここに何のご用事が?」

 

「――勝利宣言だよ」

 

 ゴゴゴゴゴ……という効果音が聞こえてきそうなほどの迫力をエレナさんが纏う。

 しかし発現の意味が私には分からず、聞き返してしまった。

 

「勝利宣言?」

 

「うん。

 ボクがあれこれモーションかけてやったというのに、全然手を出してこなかったあいつらに、クロダ君の愛人になったことを宣言してやるんだっ!

 んふふふふ、逃した魚がどれほど大きいか、後悔させてあげないとね」

 

「……それはまた――ちょっと、悪趣味じゃないですかね?」

 

「いいのっ!

 それ位、ボクの女のとしてのプライドはあいつらに傷つけられたんだから!」

 

 女として譲れない部分があるらしい。

 私の説得むなしく、彼女は力強い足取りで宿の方へ向かった。

 

「んー、ジャン君とコナー君は……っと。

 ――あ、居たっ!」

 

 宿の扉を開けたエレナさんは、首尾よく2人を発見したらしい。

 遅れて宿屋に入った私が見たのは、テーブルを囲む椅子に座って談笑する、ジャンさんとコナーさんの姿だった。

 

「おーい、ジャン君、コナー君――」

 

 エレナさんが彼らへと声をかけたまさにその時。

 

 「あ、コナーさーん。

  こちらにいらっしゃったんですねー」

 

 「あんた何昼間っから男同士でくっちゃべってるわけ?」

 

 2人の女性が彼らに――というか、コナーさんに話しかけてきた。

 

「――――」

 

 出鼻を挫かれ、エレナさんは2人を呼びかける姿勢で止まっている。

 彼女がそうしている間に、彼らと女性達との会話が進んでいた。

 

 「お、おい、コナー!

  どうしたんだ、このお嬢さん方!?」

 

 「……うん、そういえば説明したなかったね。

  ……こちら、マリーさんとシフォンさん。

  ……えーと、なんて言ったらいいかな」

 

 ジャンさんにせっつかれるものの、口を濁すコナーさん。

 そんな2人へ、女性の内の一人――マリーさんが口を挟んだ。

 

 「コナーの引き抜きに来たのよ」

 

 「な、なんだとー!?」

 

 ずばっと言い切った彼女の言葉に、ジャンさんが驚く。

 

 「コナーみたいな<聖騎士>って貴重だからね。

  未だにEランクも抜け出てないパーティーにいるより、あたしらと組んだ方がこいつも得ってもんでしょ」

 

 「――なっなっ!?」

 

 「ちょ、ちょっと、マリー。

  言いすぎですよぉ……」

 

 歯に衣着せぬ物言いにジャンさんは口をパクパクさせ、一緒にいるもう一人の女性――シフォンさんは慌てて彼女を抑える。

 

 ちなみに、マリーさんは長身で腰まで届く長髪の持ち主。

 スレンダーで無駄のない体つきをしている。

 職業は<戦士>。

 一方、シフォンさんはマリーさんに比べると背が低く、髪は肩に届く程度のセミショート。

 胸もお尻も大きく、男好きしそうな肢体だ。

 こちらは<魔法使い>だったはず。

 

 「……だ、大丈夫だよ、ジャン。

  ……そんなすぐにどうこうって話でもないから」

 

 「そ、そう、なのか」

 

 コナーさんの台詞に胸を撫で下ろすジャンさん。

 しかし。

 

 「ふーん、あんた、こんな美女に誘われてるってのに断るわけ?

  一緒に冒険するんだもの、あんなことやこんなことだってしてあげるつもりなんだけどなー?」

 

 「あのその……わたしも、コナーさんと一緒に居られれば安心できますー」

 

 マリーさんはコナーさんの身体へ肢体を絡ませる。

 シフォンさんはコナーさんを上目遣いに見やる。

 当のコナーさんは、割と満更でもなさそうな表情をしている。

 

 「――!?」

 

 そんなコナーさんの姿に、ジャンさんは目を見開いた。

 彼の視線には、多分に羨ましさが含まれているものと予想できる。

 

 「……あの、2人とも?

  ……これ以上ここで話しても、ジャンを困らせちゃうから。

  ……後は、“3人”で話そうよ」

 

 「――え?」

 

 コナーさんの提案に、真っ先に反応したのはジャンさんだった。

 

 「……大丈夫だよ、ジャン。

  ……本当、大丈夫だから」

 

 何か言いたげにするジャンさんをコナーさんは宥めてから、女性達に振り返る。

 

 「……じゃあ、上に行こうか、2人とも」

 

 「そうね、あんたがこっちに来てくれるよう、しっかり“お話”しとかないとね」

 

 「……が、頑張りますー」

 

 マリーさんとシフォンさんを連れて、宿の2階に上がっていくコナーさん。

 ……なんだろう、はた目から見ても“全然大丈夫じゃない”気がする。

 

 「――え、あ、う」

 

 3人が階段に消えていくのを、ただ呆然と見続けるジャンさん。

 余りにも突然の出来事に、彼はしばしの時間硬直し続けていた。

 

「…………」

「…………」

 

 もっとも、動けなかったのは私達も一緒なのだが。

 私もエレナさんも、予想外の事態に一言も発せられないでいた。

 

「……コナーさん、おもてになられたんですね」

 

 やっとの思いで、私はそう発言する。

 それを聞いていたのかどうか分からないが、エレナさんが呟く。

 

「……行こうか、クロダ君」

 

「もう、いいんですか?」

 

「んん、こんな状況で、どう話しかけろっていうのさ……」

 

 確かに。

 ジャンさんにしろ、コナーさんにしろ、この展開の後に私達の関係を告げるというのは、気まずい。

 特にジャンさんに対しては、追い打ちをかけることになりかねないだろう。

 

 ……ジャンさんとコナーさん、いったいどこで差がついたのか。

 慢心、環境の違い――まあ、厳しいことを言ってしまえば実力の差だろうか?

 

 私達は、立ち尽くすジャンさんに気付かれぬよう、静かに宿を後にするのだった。

 

 

 

 第十五話③へ続く



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③! 服屋の試着室にて

 

 

 

 

 そんなこんなで、ようやく本来の目的地である服屋である。

 

「んー、大分遠回りしちゃったねー」

 

「……そうですね」

 

 おかげで色々と危険な現場を見てしまった。

 ――あの二人、今後も仲良くやっていけるといいのだけれど。

 

 それはそれとして、私はお店を見やる。

 

「――結構大きなお店だったんですね」

 

「あれ、来た事ないの?」

 

「はい、先程申しました通りお洒落というものには本当に疎くて」

 

 服は、もっと小さい、雑貨屋さんのようなところで今まで購入していた。

 こんな大きなお店で買うのは初めてだ。

 

 物珍しさも手伝い、なんとなく<屈折視>や<感覚強化>を使って店の周囲をぐるっと見渡してみる。

 ――広い、本当に広い。

 まあ、流石にウィンガストで最大手であるセレンソン紹介程の大きさは無いが、扱っている商品が衣類だけであることを考えると、その規模は凄いの一言。

 <来訪者(日本人)>が多い分、この街では衣服への需要が多いのだろうか?

 

 そんなことを私が考えていると――

 

 「あっあっあっあっあっ!!

  いやっ! いやですっ!

  あぅっ! んんっ! あうっ! あうっ!!

  あぁぁあああああっ!!」

 

 服屋近くの路地裏から、そんな声が聞こえてきた。

 改めて、そちらの方を覗いてみる。

 

 「なに嫌がってる“フリ”してんだっ!

  『あんなもん』まんこにぶっ挿しながら外歩いといてよぉっ!!

  このド変態女がっ!!」

 

 「んぁああああっ!!

  違う、違うんですっ! アレは私の意思じゃっ……あぁぁあああああっ!!!」

 

 中年の男に押し倒されている、ローラさんの姿がそこにあった。

 ……どうやらローラさん、前のお店で“挿れられた”棒を、あの男の前で“落として”しまったらしい。

 ローラさんのような美女の股からいきなり棒が落ちてきたとあっては、男が欲情してしまったのも無理はない。

 

 「阿保かっ!

  真っ当な奴ならあんなことやるわけ無いだろうがっ!!

  だいたいお前、さっきからずっと自分で腰振ってんぞ!?」

 

 「んぅうううっ!! 

  あっあっあっあっあっ! 言わ、ないで……あっぁぁあぁああっ!

  んぅうっんっんっんんっ! んぁぁあああああっ!!」

 

 中年の男根を膣に挿入され、悶えるローラさん。

 拒む口調に反して、その表情はうっとりとしており、身体も男を受け入れている。

 その証拠に彼女の股間から愛液がぴちゃぴちゃと垂れているし、男の動きに合わせて自らも動いているのだ。

 

 「おらおらっ! 一発目イクぞっ!!」

 

 「いやっ! あっ! あぁぁああああああっ!!」

 

 男がローラさんに腰を思い切り押し込む。

 射精したのであろう。

 

 「へへ、いいまんこだぜ、変態女にはもったいない名器だ。

  まだまだ使ってやるからな! ほらっ、腰上げろお前っ!!」

 

 「あっ!? だ、ダメです、こんなすぐ、続きなんてっ……

  私、今イって――あぁぁあああああっ!!!」

 

 抵抗しようとする彼女を軽く組み伏せ、男はまた腰を振り出す。

 イチモツからの刺激で、ローラさんはすぐに嬌声を上げ始めるのだった。

 

「……ちょっと! クロダ君っ!?」

 

 そんな光景に見入っていた私を、エレナさんの声が呼び戻す。

 おっといけない、今は彼女とのデートの最中。

 他の女性の痴態に心奪われてしまうとは――反省反省。

 

「んー、急にぼうっとしだしたけど、どうしたの?」

 

「いえいえ、このお店の大きさに圧倒されただけですよ。

 さ、早速中へ入りましょう」

 

 私はエレナさんの手を引いて、店の中へと入っていった。

 

 

 

 私達が店に入った数十分が経過。

 今、私の目の前では――

 

「ねぇねぇ、クロダ君!

 この服どう!? どうかなっ!?」

 

 ――エレナさんによる、ファッションショーが繰り広げられていた。

 『試着は何度でもOK』というお店のルールを知ったエレナさんが、片っ端から服を着ては私にその姿を見せてくるのだ。

 

 ちなみに今は、ロングスカートに長袖のニットを合わせた服装。

 いつものコケティッシュな色気に満ちたミニスカート姿と異なり、清楚で大人らしい印象を与える装いだ。

 

「いいですね、ぐっと大人っぽく見えますよ。

 アダルティな魅力満載と言いますか……

 ……こちらにします?」

 

「んー。

 まだまだ候補はあるし、もう少し考えようかな。

 ちょっと待っててね」

 

 言って、再び試着室に籠るエレナさん。

 ……ちらっと中が見えたが、数十着の服が積まれていた。

 いくら店が許可しているとはいえ、これはちょっとやりすぎじゃないのだろうか?

 

「……さて」

 

 額に冷や汗をかきつつ、私は店の外へと視線を向ける。

 私が今立つ場所から<屈折視>を使うことで、ちょうどローラさんの様子が見れるのだ。

 まあ、そういう所に私が陣取っているとも言える。

 

 彼女は今――

 

 「んむうっ!! んんんっ! んっんっんっんんぅうっ!!

  んんんんんーーーー!!!!」

 

 ――口に、膣に、肛門に、男の棒を突っ込まれ、凌辱されていた。

 

 最初に彼女を犯していた男が、途中から別の男を呼び出したのだ。

 呼ばれた男も喜び勇んでプレイに参加し――さらに、別の男を呼び出した。

 そんな風に人が増え続け、彼女の周りには10人近い男が群がっていた。

 

 「んんっ!! んぐぅっ! んぅうううっ!!

  んんぁあっ! んむっんむぅううっ! あぁあああああっ!!」

 

 ローラさんは3つの穴だけでなく、手も使って男の相手をしていた。

 ドレスも下着も破り捨てられ、彼女の豊満で美しい肢体が男たちによって揉みくちゃにされている。

 苦しそうな体勢だが――彼女の顔には喜悦の表情が浮かんでいた。

 

 「しかし、あのうわさが本当だったとはねぇ。

  あのローラさんが、こんな……」

 

 「まったくだな。

  見ろよ、この顔……こんなことされても喜んでいるぞ」

 

 「近所のアイドルだったんだがねぇ……ここまでド淫乱な雌豚だったとは思わなかったよ」

 

 「……ん、おいっ!

  手を休めるなっ!

  後がつっかえてるんだぞ、きっちり扱けっ!!」

 

 男達は勝手な言葉をローラさんに投げつける。

 しかし彼女はそれに反論するでもなく、ただ肉棒を全身で味わい尽くしていた。

 

 「ん、ん、んんんっ! あぅっ! あっあっあっあっあっ!

  んぅううううっ! お、おおっおぉぉおおおおっ!!」

 

 恍惚としたローラさんの顔は、彼女がこの行為を楽しんでしまっていることを周囲にアピールしている。

 

 「お、お、おっ……と。

  へ、いい具合だな、この女。

  もうイっちまったぜ」

 

 「おいおい、射精したんなら交代しろよ。

  こっちはずっと待ってるんだぞ」

 

 「わりぃわりぃ、すぐ代わるわ」

 

 ローラさんへ顔射した男が、別の男と位置を交代する。

 新たな男がイチモツを彼女の顔へ擦りつけると、ローラさんは自らそれに食いついていった。

 

 「んむぅっ! んんっんっんんぁあああっ!

  あっあっあぅっあっああっ! んぐぅっ!! んぅううううっ!!」

 

 「……自分からちんこにむしゃぶりつくとはなぁ。

  娼婦でもここまでの奴見たことねぇや」

 

 「だが身体はそんじょそこらの商売女じゃ太刀打ちできないぜ。

  でっけぇおっぱいにむちむちの尻――高級娼婦にだってそうそういねぇ」

 

 ローラさんの尻を、胸を揉みながら、ある男がそう言った。

 

 「違いないっ!

  このレベルの女を買おうとしたら、あっという間に破産しちまうわぁ!」

 

 「そんな女とこれからは無料でヤれるってんだからな!

  長生きはするもんだぁっ!!」

 

 男達は笑い合う。

 

 「んぁあああっ!! あぁぁあああぁああああああっ!!!!」

 

 そんな会話が耳に入っているのかいないのか。

 ローラさんは身体中を男達に弄り尽くされながら、絶叫を上げる。

 ――路地裏に、彼女の声が響き渡った。

 

 と、そんなところへ。

 

「じゃじゃーんっ!

 ね、クロダ君、こんなのはどう!?」

 

 エレナさんの声が私の耳に入る。

 慌てて彼女の方を見ると、

 

「――おおっ!?」

 

 思わず声を出してしまう。

 

「んふふふ、どうだね、クロダ君。

 こういうの、エッチで好きなんじゃなーい?」

 

 くるりと回転して、全身を私に見せつけるエレナさん。

 彼女が来ているのは、白いレオタードだった。

 ただのレオタードではない、エレナさんの身体にぴったりとフィットした生地は、彼女の肢体をくっきりと映し出す。

 しかも女性のおっぱいを強調するかのような模様が胸の部分に描かれている。

 下の方も結構なハイレグで、エレナさんのお尻は半分くらいはみ出していた。

 

 ……なんでこんなもの置いてあるんだろう、この店。

 “そういう用途の服”にしか見えないのだが。

 

「んんー、どうしたの?

 ボク、キミの感想を聞きたいなー?」

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべて、エレナさんが私に問いかける。

 私はそれに答える代わりに、試着室へと足を踏み入れた。

 

「あ、あれ、クロダ君?」

 

 私の行動に戸惑うエレナさんをしり目に、私は後ろ手で試着室のドアを閉めた。

 片手でエレナさんの身体を正面から抱きしめ、もう片方で彼女の胸やお尻を撫でまわす。

 

「ん、ん、あっ……し、したくなっちゃったの、キミ?

 ボクはいいけど――これ、お店の商品だよ?」

 

「購入して差し上げますよ」

 

 短く答えると、今度は両手でエレナさんの肢体を揉みしだいていく。

 掌に、プルンとしたハリの良い肉の感触が伝わってくる。

 

 ローラさんの艶姿を延々と見せられてからの、犯してくださいと言わんばかりのエレナさんの姿。

 性欲を抑えられるわけが無かった。

 

「あぅっ……あ、あ、あ、あ……クロダ君、まだ、スキル使ってないから……あんっ……

 こ、声、聞こえちゃうっ……ああぁぁぁ……」

 

「別にいいじゃないですか。

 エレナさんの艶声を周りの客に聞かせてあげましょう」

 

「んんっ! ん、ん、んぅ……そ、そんな……あぅっ!」

 

 今更スキルの発動など待っていられない。

 聞きたい人には聞かせてあげればいいのだ。

 

 私はレオタードの上からエレナさんの乳首を抓んだ。

 

「あああっ! つ、強すぎっ……そこ、敏感だから、もっと……あぅううっ!!」

 

「――もっと?

 もっと強くして欲しいんですね」

 

「ち、ちがっ……あっ! うっ! んんんっ!!」

 

 彼女の要望に応えて乳首を抓む指に力を入れてやると、エレナさんは大きな嬌声を漏らした。

 私の責めに感じてくれているようだ。

 

 彼女の首筋を舌で舐めながら、空いている手をエレナさんの股間に移し、彼女のクリトリスを爪で擦ってやる。

 

「あっ! あっ! ああっ!!

 な、なんでいきなりっ……こんな激しくっ……んぁああああっ!!」

 

 これ以上なく私の愚息がイキリ立っているからである。

 乳首と陰核を弄り続け、私はエレナさんの耳へと舌を這わせた。

 

「んっ! んっ! あっ! ああっ!!

 も、ダメ、イクっ……あぁぁぁあああああっ!!!」

 

 ガクガクと身体を揺らし、エレナさんは絶頂した。

 倒れないように彼女を抱きながら、私は勃起した男根をズボンから顔を覗かせる。

 

 ソレを、レオタードの生地越しに彼女の膣口へと擦り付ける。

 

「……エレナさん。

 挿れますからね」

 

「――え」

 

 一度絶頂を迎えて少し惚けていたエレナさんが、私の言葉で覚醒する。

 

「だ、ダメ、ダメだよっ!

 言ったでしょ、もっとちゃんとした場所で――」

 

「――エレナさんが悪いんですよ。

 そんな格好したら、犯されてしまうのは目に見えていたでしょう?」

 

「ん、だ、だけど、だけど――!」

 

 なおも言いすがる彼女を無視して、私はレオタードをずらしてエレナさんの局部を露わにする。

 既に濡れそぼった女性器へ、私は自分のイチモツをゆっくりと沈めていった。

 

 ――少し進んだところで、私の股間がある『行き止まり』を感じた。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ!

 破れちゃうっ! ボクの処女膜、破れちゃうよっ!!」

 

「破くんですよ!

 これからエレナさんは、処女を失うんですっ!」

 

「こんなところで――やだっ! やだっ!!

 ボク、キミにきちんと『初めて』をあげたいのにっ!

 あっ! あっ! あっ!……あーーーーーーっ!!!!」

 

 両手で彼女の肢体を固定し、腰を思い切り突き上げて。

 ――私のイチモツは、『行き止まり』を突破し、彼女の最奥へと到達した。

 

「――い、つぅ……ん、んんっ……

 あ、ああ、ボクの処女――無くなっちゃったぁ……」

 

 瞳に涙の粒をためて、エレナさんがそう零す。

 その表情に罪悪感を覚えないでもなかったが――私の欲求を止めるには至らなかった。

 

 私は血の垂れるエレナさんの膣に向かって、ピストン運動を始める。

 

「うあっ! あっあっああっあああっ!!

 く、クロダ君、がっつきすぎだってばっ!

 んぁああっあっああっあっああっ!」

 

 ……思っていたより、エレナさんは感じてくれている。

 痛がったのも最初だけのようだし。

 

 普通の『処女』と違い、エレナさんは既に膣内を開発されていたからかもしれない。

 彼女が痛がってセックスが続行できなくなったらどうしようか不安だったので、私は少しほっとした。

 

「あっあっあっあっあっ!

 うっあっあっ! あぅっおっおっおっおぉおっ!!」

 

 安心したところで、彼女の膣を叩く動きを早める。

 エレナさんの中もまた、なんだかんだと言いながらも私のイチモツを締め付けてくれた。

 

「あぅっ! おぅっ! おっおっおっ!

 んんぅうっ! あっあっあっあっあっ!!」

 

 私の動きによってエレナさんはヨガリ続ける。

 行為の前から既に興奮していた私もまた、あっという間に絶頂へと導かれていく。

 

「……出しますよ、エレナさん。

 貴女の中に、私の精子をっ!」

 

「うぁっあっあっああっあっ!

 うん、出していいよっ! ボクのまんこに、クロダ君のあかちゃんの種、全部出しちゃってぇっ!

 んっんっんっんっんっんっ!!」

 

 私の確認に、悶えつつ首を縦に振るエレナさん。

 それを見届けた後、私は腰に力を籠め、全力で男根を彼女の奥底へ叩きつけていく。

 

「あっ! あっ! ああっ! うぁああっ!」

 

「……ぐっ! 出るっ!!」

 

 膣の最奥、子宮へと亀頭が届いた瞬間、私は精を放った。

 

「ああっ! 出てるっ! クロダ君の精液、ボクの子宮にびゅるびゅる出てるっ!

 あっ! あっ! あっ! あっ! あぁぁぁあああああああっ!!!」

 

 エレナさんも、私の射精を感じながら絶頂を迎えた。

 イったことで力が抜けてしまったのか、彼女はその場で尻もちをついてしまう。

 

「……はぁっ…はぁっ……もう、前の方は後でって言ったのに」

 

 荒く息をつきながら、恨みがましい目で私を見つめるエレナさん。

 一度射精したことで少し冷静さを取り戻した私は、彼女に頭を下げた。

 

「……すみません、我慢できなかったんです」

 

「まあ、いいけどさ。

 んー、クロダ君相手にあんな挑発しちゃったボクも悪かったかもしれないし。

 ――形はどうあれ、キミにボクの『初めて』、あげられたし、ね」

 

 にっこりと、幸せそうにほほ笑むエレナさん。

 私に処女を捧げられたことが、彼女にとって本当に嬉しかったようだ。

 ……男冥利に尽きる。

 

「――試着室、結構散らかしちゃいましたね。

 とりあえず、片付けますか」

 

 行為の最中に試着室のあちらこちらに服が飛び、私の精液とエレナさんの愛液による染みがところどころにできている。

 出る前に、まずこれを何とかせねばと思ったのだが。

 

「それはボクがやるからいいよ。

 クロダ君は――外を確認してきて」

 

 部屋の扉を指すエレナさん。

 

 今回、<遮音>を使っていないので、セックス中のアレコレは全て漏れている。

 ……試着室の外が、いったいどうなっているのか――想像したくない。

 

「……分かりました」

 

 とはいえ、外に出ないわけにもいかない。

 幾ばくかの後悔と共に、私は試着室を出るのであった。

 

 

 

 結果だけを伝えると――

 

「すみません。

 申し訳ありません。

 二度といたしません。

 何卒、ご容赦を!」

 

 ――店の人から、滅茶苦茶に怒られた。

 

 

 

 とりあえず、二度としない旨の念書を書き、エレナさんが試着室に持ち込んだ衣服は全て買い取ることで放免となった。

 

「この年齢になって、衆目の前で土下座する羽目になるとは思いませんでした」

 

「……自業自得だよね?」

 

「はい、その通りです……」

 

 エレナさんにつっこまれ、がっくり肩を落とす。

 

 現在、購入した衣類を店員さんに包装して貰っているところだ。

 私とエレナさんははそのままでいいと遠慮したのだが、店員さん曰く、過程が過程とはいえ購入品を粗末な形で渡せば店の信用に関わるとのこと。

 なかなかの数だったので、時間がかかってしまっている。

 

 時間を潰すため、私はまた店の外を見やった。

 例の路地裏では――

 

 「……あーーっ……あーーっ……あーーっ……あーーっ……」

 

 ――ローラさんが、白濁液に塗れて虚ろな目をしながら、うわ言のように意味のない声を漏らしている。

 そんな、倒れた彼女を見下ろす男達。

 

 「いやー、良かった良かった。

  また頼むよ、ローラさん!」

 

 「なんだか若返った気がしてきましたなぁ!」

 

 「じゃ、今日はこの辺りで解散しますか」

 

 満足げな笑みを浮かべて談笑している。

 向こうは向こうで終わったらしく、ぼちぼち解散の流れなようだ。

 

 しかし、一人の男がそれに待ったをかける。

 

 「……なぁ、一つ提案があるんだが」

 

 「ん、どしたい?」

 

 「この女、囲っちまわねぇか?」

 

 その言葉に、男達がざわつく。

 

 「か、囲むってお前!」

 

 「いや、人の寄り付かない、いい小屋を持ってるんだ。

  そこでこいつを飼わないかっつー話さ」

 

 「おいおい、そんなことしたら問題に――」

 

 「――いや、そうでも無いかもしれませんぞ。

  ある日突然行方不明になるなんて、そこまで珍しい話でもありません。

  ちょっとローラさんに一筆『探さないで下さい』とでも書いてもらえば――」

 

 「儂ら専用の公衆便女が出来上がるってわけか」

 

 彼らの顔が、醜悪に歪んでいく。

 

 「悪くねぇな。

  ローラさんの店をヤリ部屋にしちまおうと思ってたが――考えてみりゃ、あそこは事情を知らねぇ客も来る」

 

 「雌犬小屋に閉じ込めちまえば、何時でもヤリタイ放題にできる。

  ま、最低限世話はしなくちゃなんねぇが」

 

 「牛や馬の世話と似たようなもんだろ。

  適当に餌やってりゃなんとかなるさ」

 

 男達の中で、話が纏まろうとしている。

 ……むう、流石にそれは少々困るが、どうするべきか。

 

 思案していると、別の男が手を上げた。

 

 「ちょっと待ってくれ。

  そういやコイツ、セドリックさんと懇意にしてなかったか。

  あの人に睨まれたら、この街で商売やってけねぇぞ」

 

 「うっ!

  ……それはちっと、怖いな」

 

 セドリックさんの名前がでて、幾人かが怯んだ。

 この調子で、話が流れてくれる、か?

 

 ――しかし、私の期待は淡くも消え去る。

 

 「はっ! セドリックがなんぼのもんじゃっ!」

 

 「とうの昔に引退したロートルに、何ができるってんだ!

  だいたい、文句つけてきたらあいつも引きずり込んじまえばいいのさ!」

 

 「あの男も大層な女好きと聞きますからね。

  ローラさんの肉体を味わえるというなら、悪いようにはしないでしょうよ」

 

 セドリックさんも、防波堤にはならなかった模様。

 これは、止めに行かなくちゃまずいか。

 ……ローラさんのお店が使えなくなるのは困るし、それに――

 

 「あ、待った!

  クロダさんだ!」

 

 唐突に、男から私の名前が出た。

 

「――んんっ!?」

 

「ん、どしたの?

 急に大声出して?」

 

「ああ、いえ、支払いのお金が足りるかなと計算していただけです。

 十分買えそうなので、ご心配なく」

 

「そう?」

 

 不思議がるエレナさんをどうにか誤魔化し、私は男たちの雑談に耳を傾ける。

 彼らの様子を見るに、別に私の存在に気付いたとかそういうことでは無さそうだが……?

 

 「あー、クロダさんか。

  確かにあの人、ローラさんを気に入ってたよなぁ」

 

 「そうか、クロダか……」

 

 「クロダさんか……」

 

 次々と考え込む男達。

 ……貴方達にとって、私って何なんですか?

 

 「すまない、この話、無かったことにはできないだろうか。

  うちの倅、今冒険者やってんだが――ちょっと前にクロダさんに命を助けられてな」

 

 「俺のとこのもだ。

  他の奴ならともかく、クロダを裏切りたくはねぇ」

 

 ――言われてみれば。

 今発言した二人の男、以前<次元迷宮>で助けた若い冒険者に面影が似ている。

 

 「以前、店の経営に赤が出て潰れそうになったことがあるんじゃが……

  クロダ君に、物資を調達して貰ってな」

 

 「貴方もですか!

  私もなんです。

  こっちは、少し融資して頂いた形ですが」

 

 ――そういえばあの人達。

 困っていたのでアンナさんに話を通して色々融通してもらったことがあった気がする。

 

 「人手が足りねぇところに、手伝いを申し出てくれたことがあったな。

  最初はてんで役に立たなかったが――」

 

 「――すぐに手慣れて十馬力で動くようになった、そうだろ?」

 

 「おお、なんだ、お前のとこにも顔出してたのか!

  あいつはいい職人になれるぜ」

 

 「まったくだ」

 

 ――そんなこともあったような。

 

 「うちは家族がクロダさんのこと気に入っててなー。

  あの人が来ると、妻の機嫌が凄くよくなるんだ」

 

 「あー、あるな、それ。

  俺のとこは娘だ。

  いつもは反抗期のくせに、クロダが来るとコロッと態度を変えやがる」

 

 「うちの場合は妹っすね。

  ……彼の人柄のおかげなのか」

 

 ――ごめんなさい、食べちゃったせいです。

 

 「……ま、なんだ。

  こうなっちまうと、さっきの話、無理みたいだな。

  少なくとも、一旦クロダさんに話通しておかねぇと」

 

 「そうだな、それがいい」

 

 「あの人、かなり変態だから、あっさり了承しそうですけどね」

 

 「はっはっは、違いない!」

 

 一気に和やかなムードになり、男達はそれ以上ローラさんに手を出さず、帰っていった。

 後に残ったのは、未だ惚けたままの彼女のみ。

 

 ……彼らの私に対する好感度の高さは何事なのだろう。

 ひょっとして、私の特性『カリスマ(効果対象:変態)』のおかげだったりするのか?

 

 あれこれ考えていると、エレナさんが私を呼ぶ。

 

「クロダ君、包装終わったってよー」

 

「はい、分かりました」

 

 彼女に促され、私は購入した服を受け取りに行くのであった。

 

 

 

「毎度ありがとうございました。

 もう二度としないで下さいね♪」

 

 にこやかな顔で皮肉を言う店員さん。

 100%こちらが悪いので、何も言い返せないのが辛いところだ。

 

「ごめんねー、こんなに服買ってもらっちゃって。

 ……んー、まあ、クロダ君に全部の責任があるわけだけど」

 

「……返す言葉もございません。

 本当に申し訳ありませでした」

 

 半ば無理やり処女を奪ってしまったことも併せ、再度謝罪する私。

 

「ん、“そっち”についてはもういいけどね。

 一応、当初の目的は達成できたわけだから。

 ……自分でした時より、痛くは無かったし」

 

「ん? 最後になんと?」

 

「ん、んんっ!

 なんでもないよ、こっちの話!」

 

 エレナさんは私の腕を掴むと、店の入り口に急がせる。

 何か誤魔化されたような気がしたのだが――大したことではないのだろう。

 

「しかし、図らずも大量に服を購入してしまいましたね。

 エレナさん、使い道ありますか?」

 

 店を出てから、エレナさんに問いかける。

 彼女はニヤリと悪い笑みを浮かべると、

 

「んー、無くもないかな。

 ……ねえ、クロダ君って『コスプレ』に興味ある?」

 

「あります」

 

 即答した。

 コスチュームプレイに何の興味もないという男など居ないと、私は断言する。

 ――そうか、つまり!

 

「この服使ってさ、いっぱい楽しんじゃおうよ♪」

 

「おお、素晴らしい!」

 

 エレナさんの提案に、ついつい叫んでしまった。

 今日買った服は数十枚にもなる。

 それら全ての衣装が楽しめるとあれば、意気も上がろうというものだ。

 

「それじゃ、早速クロダ君の家に行こっか」

 

「ああ、いえ。

 実は、ちょっとお高いホテルを予約していたりします」

 

「……そういうとこだけ、きっちりしてるんだね、キミ。

 デートコースは全然考えてなかったくせに」

 

「も、申し訳ないです」

 

 ジト目で私を睨むエレナさんに、私は恐縮する。

 もっと『デート』というモノについて、勉強する必要があるな。

 

「ん、クロダ君らしいといえばクロダ君らしいけど。

 ――で、そのホテルにはちゃんとエスコートしてくれるんだよね?」

 

「勿論ですよ」

 

 私はエレナさんと腕を絡ませた。

 いつの間にか、辺りは大分暗くなってしまっている。

 一路、ホテルに向かって、私達は夜道を歩きだした。

 

 ――ふと。

 

 「な、なんだこれっ!

 裸の女が倒れてるぞ!?」

 

 「本当だっ!

 痴女ってやつか!?」

 

 「うわ、めっちゃエロい身体してんな、この女!」

 

 路地裏の方から男達の声が聞こえてきた気もしたが――

 たぶん、気のせいだろう。

 

 

 

 第十五話 完

 

 

 

 

 

 

 後日談。

 半日後とか数時間後とかに比べれば、次の日の話というのは十分後日談なのではないかと考えだした昨今、皆様はどうお過ごしでしょうか?

 つまり、明けて次の日の朝なのである。

 

 一晩中エレナさんとのコスチュームプレイを堪能した私は、意気揚々と帰宅した。

 

「――ん?」

 

 玄関を開けると、何か違和感。

 ……人の気配がある。

 誰もいないはず、なのだが。

 

 忍び足で動きつつ、リビングのドアをそっと開けると――

 

「来たか」

 

「そうみたいね」

 

 ――そこには、ちょっと目が座っている陽葵さんとリアさんの姿が。

 

「おや、どうしたんです?

 今日は迷宮探索のための調達をするご予定だったのでは?

 ……ああ、私に何か助言が欲しい、とかですかね?」

 

「昨日あんなことしといて、よくいけしゃあしゃあとそんなこと言えるな!?」

 

 私の言葉に、陽葵さんが激高した。

 何を怒っているのか――と考えて。

 

「ああ、昨日の朝の3Pですか。

 どうです、いいものでしょう?」

 

「へ、平然とした顔で言うなぁ!!」

 

 私に詰め寄ってくる陽葵さん。

 怒った顔も可愛らしい。

 

「そんなこと言って――陽葵さん、あの後リアさんといたしたんでしょう?」

 

「――!!

 す、するわけないだろ、そんなこと!!」

 

 顔を真っ赤にして否定する陽葵さん。

 私はリアさんの方へ顔を向けると、短く問う。

 

「――リアさん?」

 

「――え? あ、その……さ、3回くらい」

 

「なんで答えんの!?」

 

 リアさんの返答に驚愕する陽葵さん。

 ふむ、しかし、3回か。

 

「3回ですか……陽葵さんくらいの年頃ならもっとヤってていいと思うんですけどね。

 体調が悪いとかそういうことは無いですか?」

 

「いらねぇよ、そんな気遣い!!」

 

 がーっ!、と喚きたてる陽葵さん。

 その勢いのまま、喋り続ける。

 

「そ、そんなことより!

 リアに聞いたぞ!

 黒田、お前リアのこと――あの、その、べ、便器みたいに扱ってるんだってな!!」

 

「――あー、聞きましたか」

 

 私は再度リアさんへと視線をやる。

 

「あはは、ごめん、つい」

 

 苦笑いをするリアさん。

 まあ、いつかバラす気でいたので、それほど問題でもないのだが。

 

「お前な!

 女の子をそんな風に扱うなんて、何考えて――」

 

 言い終わる前に、私は陽葵さんへと顔を近づける。

 至近に迫る私に対し、彼は戸惑った様子で、

 

「――な、なんで顔近づけるんだよ。

 そ、そんなことで誤魔化せると――」

 

「つまり、陽葵さん」

 

 彼の目をじっと見て、私は告げる。

 

「貴方も、便器になりたい、と?」

 

「――な、なっ!?

 バカかっ! そんなわけないだろうっ!!」

 

「そうですか、残念です」

 

 私は彼のお尻に手を回し、そっと撫でまわす。

 

「んんっ! ちょっと、黒田、こんな時に――んむっ!?」

 

 なおも何かを言おうとする陽葵さんの口を、口づけによって無理やり閉ざす。

 彼の唇の間に舌を挿し込み、口の中を舐めまわしていく。

 同時に、尻を撫でていた手で陽葵さんの尻穴を突いてやる。

 

「……んちゅっ……んむぅっ……ま、待って黒田……んぐっ……

 ……あ、はぁっ……んん……れろっ……んんんぅ……」

 

 次第に顔が蕩け、甘い声を出し始める陽葵さん。

 このまま一気に責め落そうとした矢先、

 

「待ちなさいよクロダ!

 あんたなんでいきなりそんなことし出す訳!?

 ヒナタも! 少しは抵抗しなさいっ!!」

 

 今度はリアさんが文句を言いだす。

 確かに、陽葵さんは男なのに敏感過ぎると私も思う。

 

 ただ――

 

「んっ……れろれろっ……ちゅっ……あ、ああぁ……あむっ……」

 

 私は構わず陽葵さんとキスを続けた。

 勿論、後ろの穴もずっと穿っている。

 

「――ええ、無視!?

 あたしのこと、無視なの!?」

 

 自分に対して私が無反応なことに驚くリアさん。

 

「あっ……んっんっ……あぅっああんっ……んぅ、んんんんっ……は、あぁぁ……」

 

 対して、陽葵さんはだんだんと喘ぎ声を出すようになる。

 つい先程まで怒っていた顔も、恍惚とした表情に変わっている。

 

 ……そんな彼の姿をみて、リアさんももじもじと身体をくねらせ始めた。

 

「ね、ねえ、クロダってば!

 ……あたし……あたし、も――」

 

 彼女がそう発言したところで、私は陽葵さんを離す。

 

「――あ」

 

 名残惜しそうな声を出す彼をいったん横に置き、リアさんへと抱き着く。

 陽葵さんにしたようにキスをして、彼女の場合は股間に手をやって陰核を刺激してやる。

 

「……んんっ……んむぅ……はんっ……あ、あぁあ……ぺろっ……ん、んぁああ……」

 

 あっという間に声に艶が帯びだすリアさん。

 私は彼女から唇を離すと、尋ねる。

 

「――それで、リアさん。

 貴女は私に何が言いたかったのですか?」

 

「ん、あ、あ……な、何でもない、何でもない、の……あっ……あ、あ、あんっ……」

 

「何でもないわけが無いでしょう。

 ……私に抱かれたいのではないのですか?」

 

「……んんっ……そ、それっ……あたし、あんたに抱かれ、たいの……あっあっあっ……」

 

 うっとりとした口調で私の言葉に頷くリアさん。

 それを確認してから、改めて陽葵さんへ向き直る。

 

「陽葵さんはどうします?」

 

「ど、どうしますって……お前は、リアに、ひどいことを……」

 

「リアさんはこんなに気持ち良さそうじゃないですか?」

 

 私は彼女の乳首を抓ってやる。

 

「あ、ああぁぁああああ……」

 

 嬉しそうに嬌声を上げるリアさん。

 そんな彼女を見て陽葵さんは目を伏せた。

 

「そんな……リア……んっ! あぅっ!?」

 

 再度、彼を抱きしめてお尻を揉みしだいてやる。

 

「――それで、私はこれからリアさんを抱くつもりですが。

 陽葵さん、どうするんですか?」

 

 もう一度、同じ質問をする私。

 内容は変わっていないが、陽葵さんからの返事は違った。

 

「……お、オレを好きにしていいから――その、リアには手を出さないで欲しい――」

 

「――ま、待ってヒナタ!

 クロダ、こいつにそんなことしないでよっ!

 あたしになら、どんなことしてもいいから――」

 

 彼の言葉を遮って、リアさん。

 互いが互いの身を案じているようだ。

 

「――あ、いや、オレは大丈夫だからさ、リア」

 

「――ううん、あたしの方こそ平気だよ、ヒナタ」

 

 2人がお互いに目を合わせて、言葉を交わす。

 

「……リア?」

 

「……ヒナタ?」

 

 視線は外さず、もう一度名前を呼び合った。

 ……互いが互いの身を案じて――案じているのか?

 

「…………」

 

「…………」

 

 ――2人の間に、気まずい沈黙が降りた。

 このまま見守っていると泥沼に嵌りそうなので、助け船を出すとしよう。

 

「――また昨日のように、3人でしませんか?」

 

 その台詞に、2人がピクっと反応する。

 ゆっくりと私の方へ振り返ると、

 

「――し、仕方ない、かな。

 リアが、心配だし」

 

「――そ、そうね。

 ヒナタに変なことしないか、見張っとかないと」

 

 ぎこちない口調で、提案を了承する2人。

 ……少し言い訳がましい感じもするが、指摘するのは野暮だろう。

 

「では、やりましょうか。

 今度は、ベッドの上で」

 

「……お、おう」

 

「……うん」

 

 2人の肩を抱き寄せ、3人一緒に寝室へ向かう。

 

 

 

 

 後日談 完



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第十六話 キョウヤ VS ローラ
①! ミサキさんの詰問


 

 

 

 

 朝、陽葵さんとリアさんの3人一緒に楽しんでから――今はお昼。

 

「――と、まあ、こういうような計画となっております」

 

 私はウィンガストの通りを歩きながら、隣にいるエレナさんに話しかけた。

 

「……ふん、まあいいだろう。

 思ったよりは穴が少ない」

 

 エレナさんは低い声で答える。

 ……まあ、エレナさんというより『ミサキさんinエレナさん』なわけだけれども。

 

 ちなみにミサキさんの装いは、黒を基調としたジャケットを羽織ったパンツルック。

 エレナさんがいつも着ている服装とは大分異なる、格好良い組み合わせだが……なぜミサキさんはこの姿を?

 

「……どうした、誠一?」

 

 私が疑問に思っていると、それを察したようにエレナさんが尋ねてきた。

 

「いえ、今日の装いはいつもと違うなと思いまして」

 

「“どっかの誰かさん”が大量の服をエレナに買ってやったらしくてな。

 その中から私好みの服を選んだまでだ」

 

「……あー、そうでしたか」

 

 何か含みを持った口調のミサキさんに、私は少し気圧されてしまう。

 

「ま、まあともかく。

 この形で実行するという方向でよろしいでしょうか?」

 

 なんだか話題を切り替えた方がいい気がしたので、私は強引に話の流れを元に戻す。

 

「…………ふむ」

 

 ミサキさんが考え込んでいる。

 私の提案を吟味しているのだろう。

 

 話の内容とは、陽葵さんの緊急脱出を如何に行うか、その手段について。

 私の考えだけでは不安だったので、ミサキさんに照査頂いているのである。

 

「…………」

 

 ミサキさんが沈黙を続ける。

 私の中で、緊張感が高まってくる。

 会社の重役にプロジェクトの内容を説明している平社員の気分だ。

 いや、気分も何も、ほとんどその通りなのだが。

 

「……気に入らないことがある」

 

「不備がありましたか?」

 

 やはり私が立てた案では不十分であったか。

 恐縮しつつも、私はミサキさんの次の言葉を待った。

 

「……何故、ローラ・リヴェリを使う」

 

 ぶっきらぼうな声で、ミサキさんはそんな台詞を放った。

 確かに私は、陽葵さんの身に何かあった際の治療係としてローラさんの手を借りることを提案している。

 

「……ローラさんに手伝ってもらうのは、まずいですかね?

 彼女は人柄も薬品作製の技術も信頼できます。

 救助要員として適切かと思ったのですが――

 ……無関係な人を巻き込むべきではない、と?」

 

 無論、冒険者ではないローラさんを<次元迷宮>に連れて行くことには大きな危険性がある。

 ただ、私の見る限りで彼女の冒険者適性はなかなかのモノだ。

 冒険者ではない現状であってもマジックアイテム製作に必要な各種スキルをしっかり使いこなしているのだから。

 

 それに――自惚れになるかもしれないが――『射式格闘術(シュート・アーツ)』を解禁した私であれば大抵の危険は打ち払える自信がある。

 ……迷宮の最奥に居る魔王の所までだと厳しいが、青龍ケセドが居る場所までなら何とか。

 

 加えてどこからでも帰還が可能な『青の証』があるのだから、無茶な行軍さえしなければ大丈夫のはず。

 本当に危険な場所へ行く際は、流石に私だけで向かうことになるだろうけれども。

 

 そう頭の中を整理していると、ミサキさんから意外な言葉が返ってきた。

 

「私が、ローラ・リヴェリを嫌っているからだ」

 

「――――は?」

 

 好き嫌いの話だったのか?

 

「私が、ローラ・リヴェリを嫌っているからだ」

 

 二回言った。

 大事なことなのか?

 

「あ、あの、お言葉ですが、ミサキさん。

 ちょっと私情を混ぜ過ぎでは?」

 

「混ぜてはいけないのか?」

 

「えー!?」

 

 そこで開き直るんですか!?

 

「――虫唾が走るんだよ、あの女を見ると。

 自分というモノを持っていないというか、周囲に流されてるだけというか」

 

 ぶつぶつと文句を言ってくる。

 まあ、確かにミサキさんの好みからするとローラさんは少々――いやかなり外れているかもしれない。

 この人はこう、しっかりした人というか、気の強い人というか、そういうのが好みなもので。

 

「大体からして、迫られたら誰にでも抱かれるとか最悪だろう。

 女っていうのはもっと、こう、一人の男に尽くすべきなんだ。

 それを、次から次へと別の男に――」

 

「そうですかね?

 私は別に――」

 

「――なんだ、誠一。

 私に文句があるのか?」

 

「ああ、いえ、そんなことは決して。

 ただですね、ローラさんに関しては事情がありまして……」

 

 私がローラさんの“過去”を説明しようとするが、ミサキさんはそれを手で制す。

 

「知っている。

 昔どこぞの馬鹿に調教を受けていたのだろう。

 だが過去がどうであれ、それは現在の状況を良しとする理由にはならない。

 そもそも、その調教はもう終わっているし、調教を施した本人も彼女の更生を願っているそうじゃないか」

 

「……いや、そうなのですけれども」

 

 ぴしゃりと言い放たれ、私は二の句を継げなくなってしまう。

 しかしミサキさん――

 

「――嫌っているわりには詳しいですね、ローラさんのこと」

 

「当たり前だ。

 私は何かを批判する際、その対象を徹底的に調べることをモットーとしている。

 何も知らないまま語れば、思わぬ揚げ足を取られるからな」

 

 ……なるほど。

 

「そうでしたか。

 いえ、私はてっきり“ローラさんが魔王に似ているから”気になっているのかと――ぎゃぶぅううううっ!?」

 

 私の右頬にミサキさんの左ストレートが炸裂した。

 

 

 

「さて、到着したわけだが」

 

 ローラさんの店の前に立って、ミサキさんがそう呟いた。

 

「あー、その前に、ちょっと顔の位置治すの手伝って貰えませんかね?

 まだ微妙に傾いたまま戻らないんですが」

 

 さっきのパンチでひん曲がった首が、未だに戻せていない。

 両手で頭を掴み、真っ直ぐにしようとぐいぐい押し込んでいるのだが、これが難しい。

 

「――まあ、一応はこちらがモノを頼む側だからな。

 その格好では流石に失礼か」

 

 ミサキさんが私の顔に手を伸ばす。

 手が私の顔に触れると――

 

「――あ、治りましたね」

 

「この程度造作もない」

 

 スキルを使った様子もないから、絶妙な加減で力をかけただけで元に戻したのか。

 色々と多芸な方だ。

 ……まあ、そもそもの原因はミサキさんにあるわけなのだけれども。

 

「さて、では早速中へ……鍵、閉まってますね」

 

「そのようだな」

 

 店の扉を開けようとしたが、鍵がかけられている。

 今日は営業日のはずなのだが――

 

「…………いらいらする」

 

 そしてミサキさんの不機嫌指数がさらに上がっていく。

 こめかみが微妙にぴくぴく動いているようにも見えるし。

 ちょっとカルシウムが足りていないかもしれない――まあ、それは俗説のようだけれども。

 

 私は慌てて弁明した。

 

「こ、こういうこともありますよ。

 少し時間を置いてから、また来ましょうか」

 

「違う」

 

 しかし、ミサキさんは不機嫌なままそう答えた。

 要領を得なかった私は、聞き返す。

 

「はい?

 どういうことですか?」

 

「ローラ・リヴェリが居ないから腹が立っているわけでは無い。

 あの女が今、この中で“お盛ん”だから気分が悪くなったんだ」

 

「――え」

 

 ミサキさんの言葉に、私は近場の窓から<屈折視>を使って店の中を覗いた。

 するとそこには――

 

 「あっあっあっあっあっ!

  んんっ! あぅっ! あっ! あんっ! ああっ! あぁああっ!」

 

 「いやー、やっぱりローラさんの身体はたまんねぇなぁ」

 

 「年甲斐も無く今日もヤリにきちゃいましたよ。

  昨日散々ヤったっていうのに」

 

 男達に囲まれて喘ぐ、ローラさんの姿があった。

 彼女の周りに居る人達は、誰も彼も昨日見た顔である。

 どうやら、この店をヤリ部屋にしようとする企みは実行されていたようだ。

 

「……ふんっ」

 

 ミサキさんは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、

 

「……くだらない。

 実にくだらない。

 誠一、私は適当に時間を潰している。

 終わったら呼べ」

 

「あ――は、はい」

 

 そう言って、その場から立ち去ってしまった。

 

 むう、こうなっては仕方ない。

 様子を伺いながら、機を見て仲間に入る――もとい、中に入って一旦中断して貰おうか。

 

 そんなことを考えながら、私は中の様子を観察しだした。

 

 「んん、んんぅううううううっ!!

  んぉっおっおおっおおぅっ! んぐぅっ! んっんっんっんっんっ!!」

 

 「舌使いも上手いもんだ。

  そんなに俺の精子が飲みたいのかよ」

 

 「飲みたいんだろうさ。

  くれてやれくれてやれ、ローラさんは喉が渇いて仕方ないとさ」

 

 「乳を欲しがる赤ん坊だな、まるで」

 

 男達はローラさんの口にもイチモツを突っ込み出した。

 これで彼女は、前と後ろ、そして口の3穴で男の相手をしていることになる。

 

 「んっんぉっ! んむっん、んんっ! んむぅうっ!」

 

 恍惚としつつ、頬張った男根をぺろぺろとしゃぶり続けるローラさん。

 手の空いている男達も、彼女の豊満な胸を揉んだり、むっちりとした美尻を叩いたりと、肢体を思う存分楽しんでいるようだった。

 

 「……お、そろそろイキそう」

 

 そうこうしているうちに、ローラさんの膣穴に性器を出し入れしている中年が動きを速めだす。

 

 「おや、そちらもですか。

  私もそろそろ出そうかと思ってたんですよ」

 

 尻穴に挿入している青年が返答する。

 そこへフェラをさせている男も同調し始めた。

 

 「せっかくだから3つの穴へ同時に精子注いでやらないか?

  ちょい待っててくれ、今気持ち良くなるから」

 

 言うや否や、男はローラさんの頭を掴み、無理やり前後に動して――イマラチオし出した。

 

 「――んごぉっ!? うぐぅっ!! んむぅうっ!! んんっ!! あがぁあっ!!」

 

 男根に喉奥まで貫かれ、彼女は苦しみだす。

 もっとも、男達はそんなこと気にもせず、各々腰を振り続ける。

 

 「げぇっ!! んぐぅっ!! おっおっおぉおっおぐっ!? んんんっ! んぉおおおっ!!」

 

 「いい感じだぁ! こっちもイケるぜっ!」

 

 「それでは、ヤリますか!」

 

 「3,2,1で行くぞ!

  きっちり合わせろよ!」

 

 ローラさんの前の穴を責める男が、掛け声をかける。

 

 「3――2――1――おら、イケっ!!」

 

 「うっしゃっ!」

 

 「出る、出るっ!!」

 

 「んぉおおおっ!! おっ! おぉおおおぉおおおおおおっ!!!」

 

 穴という穴から精液を注ぎ込まれ、彼女は獣のような雄叫びをあげる。

 

 「――あっ!――あっ!――あっ!――ああっ!」

 

 そしてビクンッビクンッと痙攣しながら、男達から精子を搾り取っていった。

 しばししてから男達が彼女から離れると、ローラさんの穴からは大量の白濁液が零れ落ちていく。

 

 「あー、すっきりした!

  たっぷり出してやったぜ!」

 

 「しかしここまでヤルと、そろそろ誰か孕ませてないですかね?」

 

 「子供がデキちまったんならそれはそれでいいじゃないか。

  女の子が産まれりゃめっけもんだぜ、次世代の肉便器誕生だ!」

 

 「はっはっは、そりゃいいっ!」

 

 互いに笑い合う男達。

 一運動終わった彼らと入れ替わるように、また別の男達がローラさんに群がっていく。

 

 「さ、次は俺らの番だ」

 

 「たっぷり楽しませてくれよ」

 

 「いっそ、誰がこの女を孕ませるか競争するのも楽しいのぅ」

 

 男達は口々に彼女へと言葉をかける。

 そんな彼らに対しローラさんは、

 

 「……も、ダメ、です……

  ……や、止めて、下さい……」

 

 淫猥な笑みを浮かべて股をひろげ、形ばかりの拒絶を口にする。

 ――すると。

 

「――止めてくれと言っているんだ。

 助けにいかないか、馬鹿者」

 

 そんな言葉と共に、私は後ろから思いっきり蹴り飛ばされた。

 顔面に迫るは窓のガラス。

 抗う術も無く、私は頭から窓へと突っ込んでいった。

 

 ガラスの割れる音が部屋中に響き渡る。

 

「うぉおおおおっ!! なんじゃああああっ!!?」

 

「人がっ! 人が窓から入ってきた!?」

 

「ってこの人クロダさんじゃないかっ!!?」

 

 私の方を見た男達が色々と口走っているが、それに構う余裕はない。

 

「ああああああっ!? あああああああああっ!!!」

 

 ガラスがっ!

 ガラスの破片がっ!!

 顔とか手とか首とか、もう色んなところにっ!!

 

「ガラスがあっちゃこっちゃに刺さってるぞこの人!?」

 

「ダメだクロダさん、転げまわっちゃあっ!!?」

 

「傷口が広がっちまう!!」

 

「誰かぁっ!! ポーション持ってこい、ポーションっ!!」

 

 ローラさんのことは捨て置いて、私の救助に動く男達。

 とりあえず彼らの“プレイ”を中断させることには成功したらしい。

 成功したのはいいのだが――ああ、痛い! 痛い! 痛いって! 本当に痛いっ!!

 

 ……苦しむ私の耳に、遠くからため息交じりの声が聞こえてきる。

 

 「――何やってるんだか」

 

 それは、どこか自嘲も含んだ響きであった。

 

 

 

 なんやかんやあって。

 私とミサキさんは、お店の客間でローラさんとの話し合っていた。

 

 男衆は私の手当が終わった後、“そういう空気じゃなくなったから”ということで帰っていった。

 まことに申し訳ないことをしたと思う。

 

 今、ローラさんはいつものドレス姿に着替えていた。

 一度お風呂で身体を洗ったため、いい香りが彼女から漂う。

 

 ……私が一通りの説明を終えると、ローラさんは口を開いた。

 

「――あの、クロダさん。

 本当の、お話なんですか?

 ちょっと、話が大きすぎてついていけないんですけど」

 

 未だ半信半疑といった様子。

 いや、話した内容が内容だけに、半分でも信じてくれただけ上出来ともいえるか。

 

「お気持ちお察しします。

 ただ、これは事実なのです。

 ……信じて頂けませんでしょうか?」

 

 「――別に信じなくてもいいぞ?」

 

「正直、信じられない気持ちが大きいです。

 先日、エゼルミア様とお話する機会がありましたけれど、そんな方にはとても――」

 

 「――節穴だな、その眼は」

 

 以前、彼女は五勇者の一人、エゼルミアと対面している。

 そうでなくとも、彼女は真っ当なこの世界の住人だ。

 “五勇者が私利私欲で動いている”など、そう簡単に信じることはできないだろう。

 

「ローラさん……それでは――」

 

「――い、いえ、違います!

 私は、クロダさんを信じてます!

 確かに信じられないことですけれど、貴方が言うなら――」

 

 「――安い女だ」

 

 私が抱える不安を吹き飛ばすように、ローラさんは笑いかけてくれた。

 

「――では?」

 

「はい、クロダさんに協力します。

 私がどの程度お力になれるか分かりませんけれど……」

 

「いえいえ、ローラさんの薬師としての腕があれば百人力ですよ」

 

 「――えー、そうだろうか?」

 

 ……私はローラさんの協力を取り付けることに成功したの、だが。

 

「…………」

 

「…………」

 

 私と彼女は黙り込んでしまった。

 そろそろ限界である。

 

「――どうした、お前達。

 ああ、話すことが無くなったのか?

 じゃあ丁度いい、帰ろう」

 

「……あのですね、ミサキさん」

 

 私達が話すすぐ隣で、文句やらつっこみやらを呟き続けていたミサキさんに声をかけた。

 

「なんというか、もう少し自重しては頂けませんでしょうか?」

 

「なんだ、お前が私に口出し無用と言ってきたのだろう。

 だから私はお前達の話に口を挟まずにいたというのに」

 

 ローラさんの店に入ってからミサキさんは不機嫌指数を加速度的に上げていたので、彼女に変なことを言わないよう釘を刺しておいたのだ――が。

 

「いや、挟みまくってましたよ!

 明後日の方に向けてぶつぶつぶつぶつと!

 どうしちゃったんですか、ミサキさん!

 なんか今日変じゃないですか!?」

 

「ん、そうか?」

 

 私が声を荒げても、ミサキさんは涼し気な顔。

 いったい、何があったというのか?

 

 ローラさんも同じように感じたのか、おずおずとミサキさんに話しかける。

 

「……あの、ミサキ・キョウヤ様――なんですよね。

 外見はエレナさんですけれど」

 

「そうだ」

 

 対してミサキさんの返事は――私の気のせいでなければ――大分そっけない。

 だがローラさんはめげず、

 

「……キョウヤ様、私は何かお気に障るようなことをしましたでしょうか?」

 

「そうだ」

 

 やはりミサキさんの返事はそっけない――って!

 

「気に障ってたんですか、ミサキさん!?」

 

「そうだよ。

 ここに来る前に言っただろう。

 私はローラ・リヴェリが気にくわないと」

 

 私の質問に、ド直球を返してくる。

 本人が目の前にいるというのに。

 とうか、その話題はミサキさんの中でまだ燻っていたんですね。

 

「きょ、キョウヤ様?

 私に至らない点があれば仰って下さい。

 直すように努め――」

 

「お前がド淫乱女だからだよ」

 

「――ド!?」

 

 ローラさんが絶句した。

 

 ミサキさん!

 オブラートに包んで!

 オブラートに!!

 

「男と見れば誰相手でも股を開きやがって。

 つい先刻まで、ここで『何』をしていたか私が知らないとでも思っているのか?

 精液の臭いがまだ残ってるぞ」

 

「――な、なっ」

 

 彼女は口をパクパクと開け閉めする。

 一方でミサキさんは、堰を切ったかのように喋り出した。

 

「なんなんだお前は。

 慎み深さとか清楚さを親の腹の中にでも忘れたか?

 脳ミソが子宮の中にでも入ってるのか?」

 

「――え、いえ、あの」

 

「しかも、だ。

 お前、『事』が終わったあと後悔しているんだってな。

 “はしたないことをしてごめんなさい”?

 “いつも止めようと思ってる”?

 ――阿保か」

 

「――あ、あう」

 

 ミサキさんの発言で、ローラさんの顔が陰っていく。

 これは、いけない。

 

「ミサキさん。

 ローラさんは――」

 

「誠一、何度も言わせるな。

 私は把握している。

 この女がセドリック・ジェラードに調教を受けていたことも、自意識が崩壊して人形同然になっていたこともな」

 

 またしてもストレート、無遠慮に、彼女の過去へと触れるミサキさん。

 

「――で、それが?

 現状の免罪符になるとでもいうのか。

 ああ、可哀そうな身の上だな。

 私だってそれについては同情位してやろう。

 ――だから、セドリック・ジェラードから解放された今でも誰彼構わず男に抱かれるのは仕方ない?

 ――どんなことでも男の要求なら受けれてしまうのは、全て悲惨な過去のせい?

 そんな馬鹿な話があるか」

 

「…………」

 

 ローラさんは視線を俯かせ――何かに耐えるように、手で自分のドレスをぎゅっと掴む。

 ……正直な感想を言わせて頂くと、ローラさんが昔体験した過酷さは、現在の状況を許されて余りあるものだと私は思うのだが。

 とはいえ、それを口に出せる雰囲気ではないので、黙って状況を見守る。

 

 ミサキさんは黙っているローラさんへとさらに言葉を投げる。

 

「本当に後悔しているというのなら、それに相応しい行動をしろ。

 対策なんていくらでも取れるだろう。

 包丁でも振り回して拒めば、大半の男は抱くのを諦める。

 男の言葉を拒否できないなら、何か言われる前に逃げてしまえばいい。

 それでダメなら、“終わった”後に衛兵へ通報してやれば次が起こるのを抑えられるだろう。

 ローラ・リヴェリ、お前は何か自分へ群がる男達への対策を講じたことはあるのか?」

 

「……ありま、せん」

 

「それは何故だ。

 こんなこと、子供でも考えられる。

 どうしてお前は、嫌だ嫌だと考えながらもただ甘んじて受け入れている」

 

「……そ、それは」

 

 そこでローラさんは二の句を継げなくなる。

 もっとも、彼女がどうなろうともミサキさんが口をつぐむことは無いのだが。

 

「ふん、代わりに言ってやろうか?

 お前はな、受け入れているんだ。

 楽しんでいるんだ。

 男達のいい様に弄ばれることを、喜んでいるんだ」

 

「……あ、あ、あ」

 

「誰でもいいのさ、自分を気持ちよくさえしてくれれば。

 近所の人間でも、そこらの浮浪者でも――自分を責めてさえくれるのであれば、相手が畜生であっても構わないんだろう?

 ……別に、誠一じゃなくともな」

 

「――!!」

 

 ミサキさんの最後の台詞に、ローラさんの身体がびくっと震える。

 

「――違います!

 私、そんなことは――」

 

「“何もしていない”人間が戯言を言うな!

 お前は誠一と親しくしているようだがな――それは、単にこいつがお前のことを許してくれる人間だからに他ならない!

 どれだけ他の男に抱かれても、どれだけ不誠実な行為に身をやつしても、“誠一は許してくれる”――だから、お前は誠一に近寄るんだ!

 そりゃそうだ、こいつ程お前にとって『都合のいい男』はいないんだからな!」

 

「――違う!!」

 

 とうとう叫び出すローラさん。

 ……彼女のこんな姿は、初めて見る。

 

「――どうした、誠一。

 私は今、ローラ・リヴェリと話をしているんだ。

 “そこに立たれては”邪魔だろうが」

 

 ミサキさんは私に――ミサキさんとローラさんの間に割って入った私に、声をかけてきた。

 

「……ミサキさん、やり過ぎです。

 いくら貴方でも、そこまで言う権利は無いでしょう」

 

「……ふん」

 

 ミサキさんは鼻を一つ鳴らすと、

 

「――良かったな、ローラ・リヴェリ。

 『都合の良い男』がお前を助けてくれるそうだ。

 ……そうやって、男共に媚び売って擦り寄って、流されに流されて生きていくのがお前なのだろう」

 

 顔をしかめて、ミサキさんは語る。

 

「ローラ・リヴェリ。

 お前を嫌う理由を淫乱であることと言ったが、それは半分だ。

 淫乱なだけなら、ここまで毛嫌いはしないさ。

 ――私はな、お前のその“弱さ”が徹底的に気にくわない」

 

 ローラさんを睨みつけながら、さらに続ける。

 

「お前を直に見て確信したよ。

 幾ら誠一の推薦といえど、お前は私と共に戦う者として相応しくない。

 ――今日の話は忘れろ」

 

 ……話は終わったとばかりに、ミサキさんは踵を返す。

 そのまま店を出ようとする――が。

 

「――ま、待って下さい!」

 

 ミサキさんを、ローラさんが呼び止める。

 彼女は真正面からミサキさんを見据え、

 

「……もう、しません」

 

「――ん?」

 

「私は、もう、男の人に身体を許しません!」

 

 ミサキさんに向かって、高らかにそう宣言した。

 

 

 

 第十六話②へ続く



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② ローラさんの反撃

 

 

 

「――ほう?

 口では何とでも言えるな」

 

 ローラさんの台詞を聞いて、ミサキさんはニヤリと挑発的な笑みを浮かべる。

 

「やります!

 先程キョウヤ様が仰ったように、全力で拒んで、それでも駄目なら逃げます!」

 

「――できるのか、君に?」

 

「できます!

 できるようになります!」

 

「力づくで来られたらどうする?

 誘拐、拉致、監禁。

 女を囲む術は幾らでもある」

 

「……そ、それは」

 

「君の身体の味を多くの男が覚えてしまった。

 もう一度それを味わおうと、なりふり構わず襲ってくるかもしれんぞ」

 

「……うぅ」

 

 ローラさんの勢いが削がれた。

 ミサキさんの指摘に、何も言えなくなってしまう。

 ――しかし。

 

「……ふん、そういう時は助けを呼べばいいのさ。

 世間には、存外お人好しが多いものだ。

 君が考えている以上に、他人は君を助けようとしてくれる。

 女限定でやたらとお人好しな奴だっているしな。

 それに――“勇者”もだ」

 

「――え」

 

 ミサキさんから出た不意の言葉に、ローラさんが思わず呟く。

 

 ……ところで私が女性限定で親切という風評は止めて頂きたい。

 別に男性の手伝いだってしているんですよ!?

 

 そんな私の心情は横にぽいっと放っておいて、ローラさんとミサキさんの会話。

 

「キョウヤ様、それは――」

 

「当然のことだろう。

 誠一と共に働く以上、君もまた私の仲間なのだから」

 

「――あ、ありがとうございます!」

 

 深々と頭を下げるローラさん。

 ミサキさんはそれを見て――まだ少し不機嫌そうではあるが――どこか満足げな表情を浮かべていた。

 

 頭を上げたローラさんは、私の方をじっと見る。

 

「……クロダさん。

 私、これから貴方へ一途に尽くしますから」

 

「――は、はい、分かりました」

 

 やや的外れな返答をしてしまう私。

 

 気の利いた台詞が出てこなかったことを許してほしい。

 ……真摯な瞳でそう言われてしまうと、なんともむず痒いのだ。

 無論、悪い気など欠片もしないが。

 

「………………………………………いや、それは駄目だ」

 

「え?」

 

 長い“間”の後、唐突にミサキさんがそう言った。

 ローラさんもその反応は予想外だったのか、再び声が漏れた。

 先程の呟きとはニュアンスが大分異なっていたが。

 

 ミサキさんが続ける――しかし、その眼は何故だかローラさんの顔を見れていない。

 

「いや、別に男は誠一だけじゃないんだから、他の奴でいいだろう。

 こいつよりも相性のいい相手なんていくらでもいるはずだ」

 

 ……何だろう、今までの話と比べてやや無理やり感があるような?

 

「…………」

 

「…………」

 

 2人が沈黙し出す。

 

「…………キョウヤ様?」

 

「…………」

 

 ローラさんが話しかけるが、ミサキさんは無反応。

 対してローラさんはミサキさんの顔をジロジロと確認している。

 

「…………」

 

「…………」

 

 再度、沈黙。

 とはいえ、2人の様子は対照的であったが。

 視線を反らしているミサキさんに、そんなミサキさんを念入りに観察しているローラさん。

 

「…………あー、そうですか。

 そういうことでしたか」

 

 何か得心がいったように、ローラさんが独りごちる。

 居住まいを正してから、喋り出した。

 

「……キョウヤ様、これからクロダさんは大変厳しい任に就かれるわけですよね。

 なら、それを慰労する役目が必要なはずです。

 僭越ながら、私にそれを務めさせて頂けないかと」

 

 他人行儀な口調でミサキさんに詰めるローラさん。

 

「――あ、いや、そういうのいらないから。

 こいつ、基本的に労働を至上の喜びにしている社畜人間なんで。

 それにもし必要になったとしてもエレナに頼んであるし」

 

「へえ、エレナさんに?」

 

「――あ、ああ」

 

 直前までと攻守が逆転している。

 というか、ローラさんの目が座っていた。

 

「……へぇえ、エレナさんに、ねぇ」

 

「――う、うん」

 

 ミサキさんは彼女の迫力に若干押され気味。

 実に珍しい光景である。

 ――この人もこういうことになるんだなぁ。

 

「――エレナさんだけでは、心もとなくは無いですか?

 クロダさんはほら、精力の塊のようなお方ですから。

 

 それにエレナさんも“キョウヤ様に身体を貸している”関係上、いつでもクロダさんの相手をできるわけでもないでしょう?」

 

「――う、ぐっ」

 

「その点、私でしたらクロダさんがどんな要求をしてきても応えられる自信があります。

 今までもずっと“そうして”来ましたからね。

 ――クロダさんはどう思います?

 私の身体では、ご満足貰えないでしょうか?

 もう私の身体は飽きてしまいましたか?」

 

 私にその話題を振るのか……

 いや、答えは決まっているのだけれども。

 

「いえ、そんなことは。

 ローラさんの身体でしたら、幾ら抱いても飽きるなんてありえません」

 

「――!!」

 

 ミサキさんが私を睨んできた。

 その殺気はかなり怖いが、男は本能に逆らえない生き物なのだ。

 

「……クロダさんもこう言っておりますし?

 私がクロダさんに尽くしても何ら問題ないようですね。

 安心下さい、任務に支障が出ることなど無いよう“毎日”“たっぷり”と私の身体でクロダさんを慰めますので」

 

 毎日。

 たっぷり。

 なんともそそるワードである。

 

「……如何ですか、キョウヤ様」

 

「――随分と、“良い”顔ができるんじゃないか、ローラ。

 さっきまでのおどおどした態度よりずっと魅力的だぞ…!」

 

 いつからか、ミサキさんとローラさんは互いに互いの顔を見つめていた。

 バチバチという音が聞こえそうな程、視線がぶつかり合っている。

 笑顔こそ浮かべているものの、2人とも目が全く笑っていない。

 

「――いいだろう、認めてやる。

 ローラ、お前を私の“仲間()”としてな。

 ……光栄に思えよ、私の感情をここまで昂らせた女はお前で3人目だ」

 

「ありがとうございます。

 でもキョウヤ様の仲間()だなんて――私には役不足です」

 

「――言っておくが、役不足の使い方を間違っているからな?」

 

「あら、そうでしたか?

 浅学なので勘違いしていたようですね」

 

 ……何だろう、背筋が寒くなってきた。

 

「く、くくくく――

 ……誠一以外の男と関係持ったら、すぐ引導渡してやる」

 

「うふ、ふふふふ――

 決してそうならないよう努めます。

 “何もできない”キョウヤ様を、最大限支援できますように」

 

「く、く、くくく――」

 

「うふ、うふふふふ――」

 

 やばいよやばいよ。

 何故か冷や汗が止まらないよ。

 2人から何かドス黒いオーラが滲み出ているよ。

 

 こ、ここは一つ、私が小粋なトークでこの緊張感を解かなければ!

 

「……えー、話もまとまったことですし。

 どうでしょう、親睦を深めるためにこの後3Pでも――」

 

「するかぁっ!!!」

 

 ミサキさん渾身の右フックが、私のコメカミを撃ち貫いた。

 

 

 

「――はっ!?」

 

 私はベッドの上で目が覚めた。

 ここは、ローラさんのお店の寝室のようだ。

 どうやらミサキさんの一撃で昏倒していたらしい。

 

「あ、気が付きましたか?」

 

 傍らにはローラさんが居た。

 私を看病してくれていたようだ。

 

「ミサキさんはどうしました?」

 

「怒って帰られました」

 

「――そうですか」

 

 後でまた説教されるかもしれない。

 まあ何はともあれ。

 

「上手く話が進んでよかったです。

 明日からよろしくお願いします、ローラさん」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 笑顔で私に応えてくれるローラさん。

 その後、寝ている私にすっと近寄り、

 

「そ、それで――今日はもう遅いですし、うちに泊まっていきませんか?」

 

「おや、いいのですか?」

 

「はい、もちろんです!」

 

 外を見ると、確かにもう暗くなってしまっている。

 ……私はいったい何時間気絶していたんだろうか?

 深く考えると怖くなるので、私はそこで思考を止めた。

 ミサキさんのことだから、後遺症とかそういうのは出ないように殴ってくれたはずだ、きっと。

 

「では、私は夕食の用意をして――」

 

 そこで、店のドアをノックする音が聞こえた。

 

「お客さんのようですね」

 

「そうですね。

 すいません、応対してきますので、もう少し待っていて下さい」

 

 言って、ローラさんはお店の方へ歩いていこうとする。

 

「…………」

 

「……クロダさん?」

 

 私が黙っているのを見て、ローラさんが不思議そうに話しかけてきた。

 

「……ローラさんは、これから私にしか抱かれないわけですよね?」

 

「え? あ、はい、それはまあ……」

 

「ならば、それをしっかりと周知しておく必要があるかと思うんです」

 

「――え?」

 

 私の意図を未だ把握できていない彼女を、私は抱き寄せた。

 

 

 

 店内に行くと、冒険者らしき若者が一人、ポーションの棚を眺めていた。

 ローラさんが彼に声をかける。

 

「こ、こんばんは……んっ」

 

「ああ、こんばんは、ローラさん。

 今日はポーションを――ってぇ!?」

 

 私達の姿を見た若者は、驚きの声を出した。

 ……それはそうだろう。

 私とローラさんは――

 

「ろ、ローラさん、どうしたんですか!?

 なんで、なんでそんなことを!?」

 

「そ、それは……あっ!?

 く、クロダさん、激しい、ですっ!

 ――あっ! あっあっあっあっ!」

 

 ――私とローラさんは、現在進行形で“繋がって”いるのである。

 

「クロダ、さ――あっあっあっ!

 お客さんが、いるんです――あっあっ!

 これでは、何も――あうっ! あっ! ああっ!」

 

 何とかお客と話をしようとするも、悶えてしまって言葉にならないローラさん。

 

 彼女は今、いつもの黒ドレスを着ているのだが。

 ドレスのスカートは捲りあげられ、黒タイツと下着をずり降ろされている。

 そして丸出しになった女性器に向けて、私は彼女の後ろから――後背位のような姿勢で男根を挿入しているのだ。

 

「あっあっあっあっあああっ!

 お願い、ですっ……あぅっ! ああっ! あっ! ああんっ!

 少し、ゆっくり――ああぁあっ! あっ! ああっ! ああああっ!!」

 

 彼女の腰を掴んで、自分の腰をパンパンと彼女の尻へぶつけていく。

 既に愛液で濡れたローラさんの入り口は、私の愚息をスムーズに受け入れた。

 膣内はイチモツに絡みつき、私自身を締め付けてくる。

 

 股間に伝わる極上の快楽を前に、動きを緩めるなど無理な相談である。

 私はさらに腰のグラインドを速める。

 

「あっあぁぁああっ!

 ダメっ! ああっ! あぁああっ! ダメですっ! あああっ! あぁあああんっ!!」

 

 ローラさんの嬌声が大きくなる。

 それに比例して、彼女の下の口もまた私を激しく責め立ててくる。

 

「――ちょ、ちょっと! あんたっ!?

 ローラさんになんてことしてるんだっ!!」

 

 ここまで呆然と私達の行為を見ていた若者が、私に詰め寄ってくる。

 その表情には、怒りが見て取れた。

 

「……見て分かりませんか?

 セックスをしているんですよ」

 

「いやそりゃ見て分かるよ!?

 なんでこんなこと彼女にやってんのかって聞いてんだ!!」

 

「どうしてと言われれば、私がしたかったから、と言う他ありませんが……」

 

「し、“したかったから”って……ふざけんなよ、お前!?

 無理やり女性を――その、犯す、とか――犯罪だぞっ!!

 くそっ! 今衛兵を――」

 

 ……そういう単語をどもってしまう辺り、純情な若者なのだろう。

 

「まあまあ、待って下さい」

 

 憤懣やる方ないといった様子の青年に対し、私は手で待ったをかける。

 その後、彼が良く見える位置にローラさんの顔を移動させた。

 

「彼女の顔を見て下さいよ。

 どうです、淫らな表情をしているでしょう。

 ――これが嫌がっている顔ですか?」

 

「んああっ! ああっ! あんっ!

 あぁあぁああっ! ああっ! あぁあああんっ!」

 

 私はローラさんの子宮口を亀頭でつつき、彼女のヨガリっぷりを青年に見せつける。

 

「……ろ、ローラさん……そんな……」

 

 若者はローラさんの姿にショックを受け、狼狽えている。

 そんな彼をよそに、私は彼女の胸元を開ける。

 ローラさんのプルンっとした大きなおっぱいが露出した。

 

 そんな巨乳を両手で鷲掴みにしてやる。

 

「あ、あぁああっ!

 む、胸、まで――あぁぁああっ!

 ああ、あぁぁああっ! んぅううううっ!!」

 

 彼女のおっぱいを掌でこねくり回し、先端の突起を指でコリコリと弄る。

 ――ローラさんの肢体が持つ柔らかさを、手全体で感じとれた。

 上下同時の責めに、彼女は身をくねらせて快楽に悶える。

 

「どうです、ローラさん。

 気持ちいいですか?」

 

「はぁぁあああっ! あ、あああぁあああっ!!

 お、おっぱいも、おまんこも……ああっあぁああああっ!

 凄く、気持ちいいですっ――あああぁぁああああっ!!」

 

 恍惚とした表情で、私の質問に頷くローラさん。

 その一部始終を見ていた若者は、信じられないといった面持ちで言葉を零した。

 

「……ろ、ローラさん、どうして……?

 どうして、そんな男と……?」

 

 我が意を射た質問に、私はニヤリと笑いながら口を開く。

 

「――どうして、ですか。

 ローラさん、彼に教えてあげて下さいよ」

 

 つつっとローラさんの首筋を舐めながら、彼女に返答を促す。

 

「ああっ!? んんっ! あぅぅ――あっああっ!

 私、が――あっああっ! く、クロダさん、のっ――ああんっあっあぁぁああっ!」

 

 溢れ出る喘ぎに妨げられ、彼女は上手く言葉を紡げない。

 私は彼女の膣をガンガン突き上げながら、再度促した。

 

「ちゃんと言ってあげないと、彼が理解できませんよ。

 ローラさん、しっかりして下さい」

 

「ああっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 んんぅううううっ! イクっ!

 あっあっあぅっ! イキますっ!

 クロダさん、私――あっあっあっあっ!――イっちゃいますっ!」

 

 ビクビクと、ローラさんの身体が細かく震えだす。

 彼女の言う通り、絶頂が近いらしい。

 

「駄目ですよ、ローラさん。

 イク前に、答えて下さい。

 応えるまで、イってはいけませんよ」

 

「あっ! あっ!

 ――そ、そんな――あっあっあっあっ!」

 

 私の言葉に従い、ローラさんは歯を食いしばって絶頂を我慢しだす。

 そんな彼女の態度に私はつい興奮してしまい、ピストンの速度を上げてしまう。

 

「んんんぅううううっ!!

 んんっ! んっんっんっんんんっ!!」

 

 それでもローラさんはイカなかった。

 大した精神力である。

 

 そして快楽の波が収まる一瞬の隙をついて、彼女は答えを吐き出した。

 

「んっうっううっ!

 ――わ、私は、クロダさんの、モノだから、ですっ!

 んんっ! んっ! んんっ! んっ!!

 クロダさんの、おちんちんなら――んんぅっ!――いつでも、挿れて欲しいんですっ!」

 

 そう一気に言い切るローラさん。

 彼女の言葉を聞き、青年は呆然と呟く。

 

「……ろ、ローラさん……

 そんな……この男と、そんな関係だったなんて……」

 

 焦点が合っていない目で私達を見る若者。

 十分に私とローラさんの関係を理解してくれたようだ。

 

 ――つまるところ、私の狙いはこれなのである。

 ローラさんが私のモノであることを周囲に知らせることで、彼女の身体を狙う輩の手を少しでも鈍らせようという作戦だ。

 

 私はこの結果に満足の笑みを浮かべると、ローラさんの耳元でそっと囁いた。

 

「よく言えましたね。

 ……もう、イっていいですよ」

 

 そう言うと同時に、下半身の動きにスパートをかけた。

 彼女のおっぱいを揉む手にも力を入れ、乳首を抓りあげる。

 

「あ、あぁぁああああああっ!!

 凄いっ! 凄いですっ!

 あっ! あっ! あっ! あっ!

 イキますっ! イクっ! イクっ!

 クロダさんっ! クロダさんっ! クロダさんっ!!

 あぁぁぁぁあああああああああっ!!!」

 

 肢体を弓なりにしならせ、ガクガクと震えながらローラさんは絶頂を迎えた。

 彼女がイクと、膣内もビクビクと痙攣をおこしたように私の愚息を絞っていく。

 

「――ぐっ!

 私も、イキますよっ!」

 

 たまらず、私もまた射精した。

 彼女の最奥に、自分の子種を注いでいく。

 

「――あっ!――あっ!――あっ!

 クロダさんの精子がっ――私の、中に――!」

 

 子宮内を精液が満たしていく快感に、ローラさんは再度身を震わせた。

 彼女の膣は私のイチモツを締めつけ続け、最後の一滴まで精液を吐き出させる。

 

「――あっ!――あっ!――あっ!

 ……ああ、ああぁぁぁ……」

 

 ひとしきり私の精液を堪能したローラさんの身体から力が抜けていく。

 私は彼女が倒れないよう、肢体を支える。

 

 ふと青年の方を見やると、彼は顔を青ざめさせて私とローラさんを見ていた。

 私はそんな彼に話しかける。

 

「……ご理解頂けたでしょうか?

 申し訳ありませんが、彼女はもう私だけのモノになったのです」

 

「――あ、あ、うぅ……」

 

 私の台詞に、低く呻く青年。

 私とローラさんの顔を交互に眺めてから、

 

「――うう、うぁああああああっ!!」

 

 そんな叫び声を上げて、店から飛び出て行った。

 私は彼の姿が消えるまで、その後ろ姿を見ていた。

 

「…………あ、あの、クロダさん?」

 

 意識が回復し出したのか、ローラさんが声をかけてくる。

 ……うん、彼女が何を言いたいのか、私は大よそ理解していた。

 

「……今の、普通のお客さんでした、よね?」

 

「――どうやらそうだったようです」

 

 てっきりローラさんの“噂”を聞いてやってきた男なのかと思ったのだが。

 あの様子を見る限りにおいて、彼はただこのお店で買い物をしたかっただけの一般人だったようだ。

 

「……彼には酷いことをしてしまいましたね」

 

「本当にそう思ってます?

 途中で気付いてましたよね?

 気付いていて、それでも止めませんでしたよね?」

 

「まあ、最初が最初でしたからねぇ。

 途中で止めたとしても、心象は変わらなかったのでないかと」

 

 誤魔化し笑いを浮かべて、私はローラさんに答えた。

 実際問題、彼女の身体を味わっている最中に行為を中止するなど、私には無理な話だ。

 

「ど、どうしましょう。

 もうあの人、お店に二度来てもらえないかも――」

 

「……そうですね。

 今度会うことがあったら、謝罪しておきます」

 

「それでどうにかなるんでしょうか?」

 

「どうにもならないかもしれませんね。

 でも――」

 

 私はローラさんの肢体を弄り始める。

 

「んぅっ!? あっああっ!

 ――く、クロダさん!?」

 

 彼女は敏感にまた喘ぎだした。

 

「いけませんかね?

 こんなことをしては――?」

 

「あっあっあっ……ず、ずるいです、そんなこと聞くなんて。

 んん、んっあっあぅ……あっあっああっ……

 わ、私がクロダさんの言うことを拒むわけないじゃないですか」

 

 嬌声を口から零しながら、ローラさんは私の言葉を受け入れた。

 

「では、これからもこういうことをしても――?」

 

「ん、んっんっんっ……は、はい。

 で、でも、ほどほどにして下さいね……?」

 

「――分かりました。

 ありがとうございます」

 

 私は舌で首筋を舐めまわす。

 ローラさんの汗の味が口内に広がり、彼女の匂いが鼻孔を満たす。

 

「んんっ……あっあっ……あぅうっ……」

 

 ローラさんの方も、私の責めにまた昂ってきたようだ。

 いざこのまま第2ラウンドを――というところで、再び店のドアがノックされた。

 

「……む、またお客のようですね。

 それでは――」

 

 私は再度彼女と繋がった姿を客に見せつけようとする――が。

 

「ま、ままま、待って下さい!

 流石に二度目は駄目です!

 まず相手を確認してからでないと!」

 

「えー?」

 

「不満そうな声を出しても流されませんからね!?

 お店のことなんですから、許して下さい!」

 

「……仕方ありませんね」

 

 仕事の話を出されると私も辛い。

 確かに仕事を阻害するのはまずかろう。

 ……まあ、相手次第ではまたヤれるということなのだから、今この瞬間だけは我慢するべきか。

 

「そ、それでは――んっ――行ってきます」

 

 まだ彼女の中に挿入中であった私の男根を抜き取ると、ローラさんは手早く服装を整えだす。

 そして服の着崩れを無くすと、店の入り口へと小走りで向かって行った。

 

「はい、何の御用でしょうか?」

 

 営業スマイルで訪れた客に挨拶をする。

 ――その、次の瞬間。

 

「きゃぁあああああああっ!!?」

 

 彼女の悲鳴が木霊した。

 

「ローラさん!?」

 

 私は瞬時に頭を切り替える。

 なんだ、いったい何が起こった!?

 

 いきなり彼女のを襲うような暴漢が現れたのか。

 それともまさか――“勇者”がもう姿を見せたか!?

 

 私は<射出>を使った高速移動でローラさんの下へと向かう。

 するとそこには。

 

「…………へ?」

 

 思わず変な声を出してしまった。

 店の玄関先には、何人もの男達が土下座していたのだ。

 

「……ど、どうしたんですか、皆さん?」

 

 私と同じくその光景に驚愕していたローラさんが、どうにか声を絞り出す。

 よくよく見ると、彼らは昼間――そして昨日も――彼女を輪姦していた男連中だった。

 何故すぐ分からなかったかと言えば、男達は皆、揃いも揃って人相がよく分からなくなる程パンパンに顔を腫らしていたからだ。

 

「……あ、あの、ローラさん?」

 

「な、なんでしょうか?」

 

 土下座する男の内一人が、声を出す。

 彼は手に持った袋をそっとローラさんに差し出すと、

 

「ど、どうか……これを、受け取って頂けませんでしょうか」

 

「は、はい……?」

 

 相手の意図が分からず、ローラさんは恐る恐るその袋を受け取る。

 

「こ、これって――!?」

 

 その場で袋の中を確認した彼女は、絶句した。

 袋には、大量の金貨が詰められていたからだ。

 

「ど、どうしたんですか、こんな金貨!?

 受け取ってって、無理ですよ、こんなもの!!」

 

 ローラさんは取り乱して袋を男へ返そうとする。

 

 それはそうだろう――横からざっと見ただけだが、袋の中には数百枚の金貨が入っていた。

 この世界の中流階級に属する人間が、軽く一生暮らしていける金額だ。

 こんな大金をいきなりほいと渡されて、素直に受け取れる人間などそうそういない。

 

 ……だが、男の方も譲らなかった。

 

「お、お願いします、受け取って下さい!

 ローラさんに手を出してしまった――無理やり貴女を犯してしまった詫びの金なんです!

 どうか、どうかお納めください!!」

 

「そ、そうは言われましても!?」

 

 示談金にしても、額がでかすぎる。

 何か裏があるのではないかと躊躇してしまうのは仕方が無いだろう。

 

「本当に、本当にただの詫びなんです!

 受け取って下さい!

 それを受け取って貰えなかったら、俺達は――俺達は――!!」

 

「ど、どうなるんですか?」

 

 強張った口調で問うローラさん。

 

「俺達は……殺さ――」

 

「ば、バカ!

 それは言うなって言われただろう!!」

 

「ああっ! そ、そうだった!!」

 

 男の返事を、別の男のが途中で遮る。

 

「――き、聞かなかったことにして下さい、お願いします」

 

「え、えーと、はい」

 

 ローラさんは額から冷や汗を流しながら頷く。

 ……聞かなかったことにも何も、そこまで言われたら彼らがどういう状況にあるのか、何となく察しはついてしまうのだが。

 

「と、とにかく!

 お願いします、何も言わずにその金を受け取って下さい!

 別に変な金じゃありません!

 ローラさんのお好きなようにお使いいただいて結構です!!」

 

 必死の形相で拝み込む男。

 そんな彼に他の男達も追従して、

 

「お願いします!」

 

「お願いします!」

 

「お願いします!」

 

 額を摩り下ろさんばかりに地面へ擦りつけ、全力の土下座が展開された。

 ……周囲に彼らの懇願の声が響く。

 そろそろ、怪しく思った近所の人が顔を覗かせそうである。

 

 ローラさんもそれを危惧したのか、

 

「わ、分かりました!

 受け取ります、受け取りますから!!

 だから、そういうのは止めて下さい!!」

 

 金貨が入った袋を受け取ることに決めたようだ。

 彼女が袋を手に取ると、男達は露骨に顔を綻ばせる。

 

「ありがとうございます!

 これで、これで俺達は――うう、良かったぁ、良かったぁ……」

 

 涙をとうとうと流す男。

 一人だけではなく、土下座している全員が同じように泣いていた。

 本気で彼らにいったい何があったというのか。

 ――実のところ、心当たりはあるのだが。

 

 そのままの姿勢で、さらに深々と頭を下げた。

 ……まあ、地面という限界がある以上、そう大きく姿勢は変わらなかったのだが。

 

「ローラさん、俺達は、もう二度と貴方に手出しをいたしません。

 この度は、本当に申し訳ありませんでした」

 

「「「申し訳ありませんでした!」」」

 

 一人の男に続いて、全員が謝罪の言葉を口にする。

 

「は、はぁ……」

 

 男の言葉に、ローラさんは呆けた返事をする。

 そんな彼女の言葉を着てから、男達は次々に立ち上がった。

 

「……で、では、俺達はこれで失礼します」

 

「……は、はい」

 

 状況についていけないローラさんは、ただ無難な返事を返すのみ。

 気持ちはよく分かる。

 

 男達は私とローラさんに背を向けて帰っていった。

 私は<感覚強化>を使い、道すがら零れた彼らの言葉を何となく拾ってみた。

 

 「うぅ、虎の子のへそくりが――」

 

 「お前はいいだろ、俺なんか店の経営資金に手を出したんだぞ」

 

 「俺はかかぁに知られちまった。

  明日から地獄の始まりだな……」

 

 「言うなよ、命あっての物種だろうが!」

 

 「……ローラさんの友人に、あんな怖い“女性”がいたなんてなぁ」

 

 「悪いことはできないもんですなぁ……」

 

 …………。

 やはり、そういうことか。

 

「ど、どうしたんでしょう……?

 本当にこのお金、大丈夫なんですかね?」

 

 ローラさんはまだ今のやり取りが信じられないらしい。

 私は彼女を安心させるため、声をかける。

 

「――大丈夫でしょう。

 ローラさんが危惧しているような、危険なお金ではないですよ。

 ……あの人が、そういう配慮をしないとは思えませんし」

 

「……クロダさん、心当たりがあるんですか?」

 

 彼女が私へと不思議そうな顔を向ける。

 さて、どうしようか。

 きちんと答えていいものかどうか?

 

 ……まあ、いいか。

 別に口止めされているわけでもなし。

 

「なんだかんだで面倒見がいいんですよ、ミサキさんは」

 

 

 

 第十六話 完



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第十七話 新たな仕事の始まり
① ミサキさんVSローラさん 再び


 

 

 

 ついにこの日が来た。

 何かといえば、陽葵さんが私と同行せずに<次元迷宮>へ挑む日である。

 

 ミサキさんの指示があったため、今日のための準備に私は関われなかったのだが……

 陽葵さんはリアさんの協力の下、様々な備品の買い出しを昨日まで行っていたのだ。

 ――個人的にはまだ少し装備が物足りない気もするのだが、それは追々買い足していくだろう。

 

 そんなわけで、意気揚々と<次元迷宮>へ潜っていった陽葵さんを送り出すと、私は少し間を置いてから後を追跡し出す。

 言うまでもなく、脱出装置(人力)の任務を全うするためである。

 

 彼がピンチに陥ったら――つまり陽葵さんが魔物に犯され尽くして気を失ってしまったら――すぐに駆け付ける所存。

 そんなことを期待……もとい、そんなことにならないよう心配しながら、私は陽葵さんの動向を見守り続けた。

 

 ――のだが。

 

「……順調ですね」

 

 ここは岩肌で構築された、<次元迷宮>でもまだまだ浅い階層。

 先を進む陽葵さんに見つからないよう岩陰に隠れながら、ぼそっと呟く。

 

 陽葵さんの探索初日は順調そのものであった。

 出てくる魔物はサクっと倒し、罠は軽々と解除していく。

 

 まあ、まだ白色区域――別名初心者用区域とも呼ばれる場所なので、魔物も弱いし罠も軽いモノがほとんど。

 それでも、ここまで順調なのには別の理由があり。

 

「リアさん、凄いですね。

 こんなにお強い方だったなんて」

 

 救助係として一緒に来ているローラさんが、私の言葉の後に続いた。

 彼女には今回、<冒険者>登録を行ったうえで同行頂いている。

 <来訪者>は除いて、通常冒険者に登録するためには色々とパスしなければならない試験があるのだが、そこはギルド長にお願いして省かせてもらった。

 

 まあそれはともかく。

 この探索が山も谷も無く軽々と進んでいるのは、リアさんが陽葵さんとパーティーを組んでいることが原因なのだ。

 

 もう既に明らかになっているように(ローラさんにも説明済み)、彼女は魔族である。

 しかも実力的には十分上位に属するエリートと言っていい。

 以前、魔族バールが襲撃してきた時は成す術無く捕らえられてしまったリアさんだが、あれはあくまで多勢に無勢だったからである。

 

 しかもリアさん、迷宮へ入って早々に魔族の姿に戻り、全力で探索に臨んでいるのだ。

 そんな彼女が居ては、白色区域などで手こずるわけが無い。

 というか、魔物も罠もほとんど彼女が処理してしまっている。

 

「……少々リアさんがやり過ぎな気もしますが」

 

 陽葵さんはさっきからほとんど何もやってない。

 リアさんが撃ち漏らした雑魚に止めを刺す機会が偶にある位だ。

 

 「……なぁ、リア。

 もう少しオレも戦いたいんだけど――」

 

 「いいのいいの、ヒナタは後ろに下がってて!

 これ位の相手ならあたしが何とでもできちゃうから!」

 

 2人の会話が聞こえてくる。

 

 ……いやいや、それでは陽葵さんが成長できないのですが。

 一応、魔物を倒す際に近くに居れば、魔物から放出される魔素を浴びてレベル自体は上がるのだけれども。

 おそらく、リアさんもそれを狙っているのだろうけれども。

 

 それでも、実際に戦った方が強くなりやすいのは間違いないわけで。

 魔素の量という意味でも、実戦経験という意味でも、だ。

 まだ白色区域だからリアさんだけで余裕なのだが、先に進むにつれ――それこそ、赤色区域などに入れば彼女だけでは戦力として十分といえない。

 そのとき少しでも陽葵さんが戦えるようにするため、今から経験を積むのが肝要だと思うのだが。

 

 ――まあ、陽葵さんには『青の証』があるし『緊急脱出装置(私)』もいるので、いざ魔物が強くなってきても生命の安全だけは確保されている。

 もっともその場合、彼はそりゃもうとんでもない目に遭ってしまうのだろうけれども!

 ……それはそれで楽しみではある。

 

 ともかく、出だしが良いのは素直に喜んでおくべきところか。

 何か問題が発生したとしても、それは陽葵さんが成長する糧となるはず。

 当面のところ、あちらは大丈夫だろう。

 

 今の問題は――

 

「ところで気になっているんですけれど。

 ……なんでエレナさんがいらっしゃるんでしょう」

 

「――ローラ。

 今、私は今エレナではなくミサキ・キョウヤだ。

 迷宮へ入る前にそう説明したはずだが?

 その歳でもう耄碌したのか?」

 

「あれ、そうでしたっけ?

 なんだか存在感が無いので忘れていました。

 そもそもキョウヤ様、<次元迷宮>に潜る予定は無かったのでは?」

 

「最初位は手を貸してやろうと思ってな。

 誠一だけならそう心配は無いのだが、今回は何の役にも立たない“足手まとい”がいるわけだし」

 

 ――今の問題は、この2人の一触即発な雰囲気だろうか。

 先程から、私の後ろで延々と小声のやり取りをしている。

 ちょっと――いや、かなり怖い。

 

 ……先程本人からの説明もあった通り、今日の探索にはミサキさんもついてきてくれている。

 本来は私とローラさんの2人で迷宮に潜る予定なのだけれど。

 

 ローラさんとミサキさんの舌戦は続く。

 

「それは申し訳ありません。

 少しでも早く探索に慣れて、“クロダさんの隣に立つに相応しい女性”になりたいと思います。

 キョウヤ様は今、“何もできない”わけですからね」

 

「……本当にそうなることを願っているよ。

 頼むから魔物に欲情して腰を振り出したりしないでくれ。

 いくら誠一でもそんなことをすればドン引きだぞ」

 

 いや、それはむしろ興奮するけれど。

 

「そ、そんなわけないじゃないですか。

 私はクロダさんに尽くすって決めたんです!」

 

「ん? 今、声が震えたな?

 ひょっとして自分でも心配なのか?

 この変態女」

 

「ち、違います!

 いきなりそんなはしたないことを言われたから驚いただけですっ!」

 

「どうだか?

 だいたい、はしたないのはお前の方だろう。

 なんだ、そのふざけた格好は」

 

 ミサキさんがローラさんの身体を指さす。

 ご指摘の通り、彼女の格好はかなり煽情的だった。

 

 言ってしまえば、グレイを基調としたピッチピチのボディスーツ。

 流石にTPOを弁えてか、乳首や割れ目は出ないように工夫されているものの――身体にピッチリ密着したスーツは、ローラさんの豊満な肢体がこれでもかというほどくっきり映し出している。

 彼女のたわわに実ったおっぱいも、美しい曲線を描くお尻も、可愛らしいおへその窪みも、全てだ。

 胸や尻がローラさんの動きに合わせてプルプルと揺れる様は、見ているだけでイチモツがいきり立ってくる。

 

 ちなみに、基本的には陽葵さんがアンダースーツとして使っているのもとこれと同じ系統の防具である。

 

「これがウィンガストで買える一番高価な防具だったんです!

 性能はそこらの市販品とは比べ物になりません!――って店員さんも言ってました」

 

「そんな○魔忍みたいな恰好がか?」

 

 ミサキさん、その例え方は危ない。

 

「そもそも、それを言うならキョウヤ様のその格好もなんなんですか!

 こんな場所にミニスカートだなんて、非常識です!

 色々見えちゃいますよね!?」

 

 今度はローラさんがミサキさんの――というより、エレナさんの服装へ言及する。

 今日のミサキさんは、はいつもエレナさんが好んで着ている格好なのだ。

 ちょっとサイズ小さめなブラウスは、エレナさんの胸にフィットしてその形を強調していた。

 ミニスカートは下着が見えないギリギリを攻めており、ハイソックスとの間に見える絶対領域が眩しい。

 全体的に可愛らしい雰囲気の服装で、エレナさんのトランジスタグラマーな肢体によく映えている。

 

「こ、これはエレナの趣味だ。

 私が“こちら”に来た時にはもうこれに着替えていたんだよ。

 着替えなおす時間も無かったからな」

 

「本当ですかぁ?」

 

「嘘をつく理由などないだろう」

 

「その割には、キョウヤ様も一瞬声が震えましたよね?」

 

「――ぐっ。

 ふん、根本的な話としてだな、私はこんな低級のダンジョンを進む程度のことで服が乱れたりしない。

 “どっかの誰か”は無様に転げまわるかもしれないがな」

 

「――うぅぅ。

 そ、そうですね! 気を付けないといけませんよね!

 “クロダさんにたくさん助けて貰わないと”!!」

 

 …………いや、辛いです。

 背中に冷や汗が垂れて仕方ない。

 2人は何故ここまで酷く言い争っているのだろう?

 

 おかしい、本来は<次元迷宮>を探索しながらローラさんとエレナさんの肢体観察を楽しむという素敵イベントになるはずだったのに。

 

 ――気を紛らわせるために、陽葵さんとリアさんの方へ視線を移そうか。

 

 「えい、やっ!――と、ほらっ!」

 

 軽やかに舞を舞うように、魔物を屠っていくリアさん。

 手には大きな(サイズ)を持ち、それを軽々と振るっている。

 これが彼女の得物なのだ。

 

 服装は、日本の着物に似た形状の格好。

 独特な衣装であるものの、魔族であるリアさんの青白い肌や銀色の髪に不思議とマッチしている。

 着物との違いは、肩やら脇やら腰やら太ももやら、妙に露出が多いことだろうか。

 よく見れば脇から少し横乳が見えたりもして――実に結構なことである。

 今度、あの姿のリアさんともヤっておこう。

 

 ……そういえばあの服、てっきり魔族に伝わる伝統衣装か何かかと思っていたのだが、先日現れた魔族達にアレと同じ服を着ている者はいなかった。

 リアさんの家に伝わる服なのだろうか……それとも、単に彼女の趣味?

 

 なお、白色区域では他の冒険者とすれ違うことも多いため、リアさんは冒険者の気配に気づくと人間の姿へと変身している。

 なかなか器用なものだ。

 ウィンガストへと潜入する際、練習していたのかもしれない。

 

 「だ、だからっ!

 リア、飛ばし過ぎだって!!

 オレの分も残してっ!!」

 

 そして、現状ただリアさんを追っかけてるだけの陽葵さん。

 リアさんの配慮が足りてないのは明らかなので、陽葵さんは責められまい。

 敢えて言うとすれば、人選ミスとでも言おうか。

 ……目的が目的なだけに、他の冒険者を誘いたくても誘えないという事情もあるのだが。

 

 彼の衣服は、最初に私が揃えてあげた物と変わっていない。

 私の貯金を叩いて最高級の武器防具を揃えたのだから、そうそう変える必要もないだろう。

 胸部分だけを隠すような丈の短いタンクトップに薄いジャケットを羽織った上半身。

 お尻が上半分出てしまう程のローライズっぷりを誇るホットパンツを履いた下半身。

 そしてそれらの下にはピッチリとした黒いボディスーツを纏っている。

 本人の意識としては、ボディスーツがあるから多少服の面積が少なくとも問題ないと考えているようなのだが――

 見ている分には、エロエロな姿である。

 なまじっか素肌がほとんど見えない分、より色気を醸し出しているといってもよい。

 

「…………ふぅ」

 

 たっぷりと2人を観察し、私は軽く息を吐く。

 もしここが迷宮内であるなら、隣にいる綺麗どころへ溜まりに溜まった欲情を吐き出すのだが――

 

「うふふふふふ――」

 

「くっくくくく――」

 

 ――迷宮だとか何だとかそれ以前のお話として、今のローラさんとミサキさんに話しかけることは、私にはできない……!

 

 

 

 その後も、ヒナタさん達は順調に迷宮を進んでいった。

 

 

「ここはどうも音が響くな。

 室坂陽葵に気付かれないよう<遮音(サウンドインシュレイション)>をかけてやろう」

 

「あ、『沈黙の粉』を使っておいたから平気ですよ?」

 

「…………」

 

 

 順調に――

 

 

「この辺りの階層は魔物が多いですね。

 魔物避けの『聖水』を――」

 

「<聖域(サンクチュアリ)>!

 これで当分魔物は寄ってこないな」

 

「…………」

 

 

 “陽葵さん達”は、順調なんだけれども――

 

 

「罠は<罠探知(ディテクト・トラップ)>で」

 

「いえ、罠発見用ゴーグル『見えるんDeath』で」

 

 

 あのその――

 

 

「おい、何故『温調符』を使った。

 私の<大気調整(エア・アジャスト)>と効果が被るだろうが」

 

「いえ、『温調符』の方が<大気調整>よりも暖房効果が高いじゃないですか。

 効率的な方を使いませんと」

 

「<大気調整>は空気中の粉塵除去や毒ガスの排除にも使えるんだ!

 一山幾らのマジックアイテムと同じに論ずるな!」

 

「この階層にはそんな罠ないじゃないですか!

 ちょっと肌寒いってだけで必要ありませんよ、そんなスキル!」

 

 

 ――こんなところで、張り合わないで頂きたいんですけど。

 

 

 

「――室坂陽葵達は休憩に入ったようだな」

 

「……そのようですね」

 

 ミサキさんの言葉に、私は疲れた口調で返す。

 

 ここは魔物が存在しない階層。

 より具体的に言えば、私とエレナさんが最初に出会った場所だ。

 昼までにここへ到着する辺り、リアさん本気で飛ばしている。

 陽葵さんを連れながら、ソロ行動時の私と同じペースで<次元迷宮>進むとは。

 

 「ゼェッ――ゼェッ――ゼェッ――ゼェッ――」

 

 「だ、大丈夫、ヒナタ?」

 

 「ゼェッ――ゼェッ――だ、大丈夫じゃない、かも――ゼェッ――ゼェッ――」

 

 おかげで、陽葵さんはスタミナ切れを起こしているが。

 彼の体力回復のため、2人はここで長めの休憩をとるようだ。

 

 彼らに合わせて、私達も現在休憩中だ。

 携帯食料を食べる私に、ローラさんが話しかけてくる。

 

「大丈夫ですか、クロダさん。

 大分お疲れのようですけれど」

 

「ショートカットのために“誰かさん”を背負って飛び回ったからじゃないのか?

 ダイエットしろよ、お前」

 

「――なっ!?」

 

 ミサキさんの言葉に絶句するローラさん。

 ……今日だけでこのやり取り(立場が逆の場合も含めて)を何度見たことか。

 

 いや確かに先行する陽葵さんに追いつくため、<射出>を使った高速移動を多用したし、体力の少ないローラさんを背負いもしたが。

 私が疲れているのは、別にそういう理由では無く。

 

「あのですね、お二人とも。

 もう少し、こう、仲良くはできないものでしょうか?」

 

 バチバチと火花を飛ばす2人と延々一緒に居れば気疲れもする。

 

「――え?」

 

「――仲良く?」

 

「…………すいません、何でもありません。

 今の発言は忘れて下さい」

 

 ミサキさんとローラさんから同時に剣呑な視線を送られ、私は前言撤回した。

 身の安全のためにも、この話題には触れない方がよさそうだ。

 ……2人にいったい何があったというのか?

 

「あー……しかし、ここへ来るまで盛大にスキルやマジックアイテムを使ってしまいましたけれど、大丈夫なんですか?」

 

 なんとか無難そうな話題を考え、尋ねてみる。

 

「あの程度のスキル行使で私の精神力が削られるとでも?」

 

 きょとんとした顔で、まずミサキさん。

 あー、確かにミサキさんのレベルなら、あれ位スキルを使ったところで蚊に刺された程度の痛痒すら感じないだろう。

 

「大量に仕入れておきましたから大丈夫です。

 それにある程度でしたら補充もできますし」

 

 次にローラさん。

 そういえば彼女、この前大金を手に入れていたのだった。

 このお仕事のために、マジックアイテムを大量購入してくれたらしい。

 ……彼女だけに出費させるのは心苦しいので、後でそれとなくお金を渡しておこう。

 

 加えて、ローラさんの職業は<錬金術師(アルケミスト)>。

 <魔法使い>の派生職であり、マジックアイテムを製作するスキルやマジックアイテムの効果を拡大させるスキルに特化した職業だ。

 流石に本格的なアイテム製作は専用の施設が必要だが、ポーションを初めとする簡単なアイテムであれば迷宮内でも作製できる。

 元々その手のスキルを使用していたこともあって、ローラさんは<錬金術師>のスキルを早々に使いこなせるようになっていた。

 

 つまるところ、2人にとってこれまでの道中で使用してきたスキルやアイテムな、何の痛手にもならないということである。

 頼もしい限りだ。

 これで互いの仲も良好ならもっと良かったのに。

 

 ……まあ、初めて会ったばかりの人間関係がぎくしゃくするのはよくあることかもしれない。

 ミサキさんとローラさんも、これからより良い関係を築きあげていくことだろう。

 2人とも、もういい大人であるわけだし。

 

 私は頭を切り替え、とにかく今は休憩に努めることにした。

 

「よいしょっと」

 

 隣に座っているローラさんの腰を掴み、彼女を私の股間の上に移動させる。

 下半身に、ローラさんのお尻の柔らかい感触がのっかかる。

 

「え?」

「え?」

 

 ローラさんとミサキさんが同時に疑問符を浮かべた。

 構わず私は後ろから彼女の胸を揉みだす。

 ボディスーツのすべすべした質感と、おっぱいのむっちりとした味わいが合さって、今までにない斬新な触感が手に伝わってくる。

 

「あ、う……あの、クロダさん、したいんですか……?」

 

「はい。

 その格好を見ているとどうしてもムラムラきてしまいまして。

 午後の仕事に響いてもいけませんし、今のうちにこの欲情を解消しておこうかと」

 

 ローラさん、エレナさん、リアさん、陽葵さん、それぞれがそれぞれに煽情的な格好をしている。

 何時間もそれを眼前で見せつけられていた私は、もう我慢の限界なわけだ。

 

 ローラさんは私の顔を見つめると、小さく頷く。

 

「――分かりました、私の身体をたっぷり味わって下さいね……あんっ」

 

「分かるかぁっ!!?」

 

 ミサキさんが怒鳴り出した。

 

「何考えてるんだお前!?

 ここは<次元迷宮>で、お前は仕事中だぞ!!

 そんなこと許されるとでも思ってるのか!?」

 

「先程申しました通り、これは休憩の一環です。

 午後の任務をしっかりこなすために、必要なことなのですよ。

 それにローラさんは、私の慰労もして下さると仰っていたではないですか」

 

「それを了承した覚えはない!!」

 

 私の返答が気に入らなかったのか、ミサキさんの声はさらに大きくなった。

 

「んぁっ……あ、あ……クロダさん、おっぱい、気持ちいいです……あっ……」

 

 私の腰の上で、ローラさんは喘ぎ始める。

 彼女をさらに感じさせるため、私は彼女の乳首を摘まんだ。

 

「んんっ!……そ、そこ、イイっ……ああんっ……」

 

 快感に身をくねらせるローラさん。

 彼女が身体を動かせば、必然的に彼女に乗られている私へと肢体が押し付けられることになり――女性の柔らかさを全身で感じられることになる。

 私の愚息はもうバキバキに勃起していた。

 

「私を無視してヤりだすな!?」

 

 私がローラさんのボディスーツを脱がしだしたところで、再度ミサキさんが声を張り上げた。

 

「では、この前やれなかった3Pをしましょう。

 それなら文句は――」

 

「ありまくりだわぁっ!!」

 

 そうは言いつつ、前のように鉄拳制裁をしてこないミサキさん。

 ……まあ、ここで私が倒れたら、それこそ任務の続きを誰がこなすのかという話ではある。

 そもそも、余り派手なことをすると初日から私の存在が陽葵さんにバレてしまうかもしれない。

 

 ――そうこうしてるうちに、上半身を覆うスーツの前部分を開けさせた。

 ボディスーツに抑えられていたローラさんの美巨乳がプルンと零れ落ちる。

 

「クロダさん、もっと、もっとして下さい……あっああっ」

 

 ご要望にお応えして、彼女の大きくて形も良いおっぱいを、私はさらに揉みしだく。

 むにむにと形を変える胸の様子が、実にいやらしい。

 

「お、お前達っ!

 お前達――!!」

 

 事情が事情、場所が場所なだけに、手出しできないミサキさん。

 眺めていないで、混ざってくれればいいのに。

 

「―――――え?」

 

 突然、ミサキさんがきょとんとした声を出した。

 ……いや、これはまさか。

 

「……えー、このタイミングでボクに戻るのー?」

 

 実に意外そうな顔で、“エレナさん”がそう呟いた。

 

 

 

 第十七話②へ続く



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② 仁義なき戦い

 

 

 

 どうもミサキさん、エレナさんにバトンタッチした模様。

 

「あっ……あ、ああっ……え、エレナさん?」

 

 胸を揉まれる快感に感じ入っていたローラさんも、事態を把握したようだ。

 

「うん、エレナだよ。

 ……これまた凄い場面での登場になっちゃったけど」

 

「恥ずかしいところを見せてしまい、申し訳ありません」

 

「クロダ君、心にもないこというのやめてよね。

 手の動き全然止めてないじゃん」

 

「はっはっは」

 

 笑って誤魔化す。

 プルプルとした感覚が気持ち良すぎて、つい動かしてしまうのだ。

 

「あぁっ……あっあっ……と、ところで、エレナさん?」

 

「ん、なぁに、ローラさん」

 

 悶えながら、ローラさんがエレナさんに質問する。

 

「――エレナさんって、クロダさんの何なんですか?」

 

 真顔であった。

 直前まで気持ち良さそうな声を漏らしていたというのに、真顔であった。

 

「……あ、愛人、だよ?」

 

「……愛人」

 

 エレナさんの言葉を反芻するローラさん。

 

「…………」

 

「…………」

 

 急に重苦しい沈黙が降りてきた。

 雰囲気に飲まれ、私も手を止めてしまう。

 

「…………通しで」

 

「ありがとうございます」

 

 たっぷり時間をかけてからのローラさんの返答に、エレナさんは深々とお辞儀をした。

 ――なんなんだこのやり取り。

 

 

 

 

 ローラさんは私の方へ振り向くと、こう告げてくる。

 

「後顧の憂いは無くなったので、再開しましょう、クロダさん」

 

「――き、切り替え早いですね」

 

 見習いたいものだ。

 私は舌で彼女の首筋を舐めながら、片手をゆっくりとローラさんの股間へと動かしていく。

 

「……んんっ……は、あぁぁああ……」

 

 ローラさんの口から甘い吐息が漏れる。

 そんな声を耳で楽しみながら、彼女の股間を指先でぐりぐりと押してやる。

 

「ん、んん……クロダさん……あぁ……じ、焦らさないで……

 はぁぁああ……直接、触って下さい……んん、あぁぁああ……」

 

 うっとりとした口調で私にさらなる責めを要求してくるローラさん。

 それに応えようとボディスーツの下半身部分を脱がしにかかる。

 

「んんー、それ、ボクがやるよー」

 

 突然、エレナさんが割って入ってきた。

 

「ちょ、ちょっと、エレナさんっ!?」

 

「んー、ローラさんのおっぱい、やわらかーい」

 

 エレナさんはローラさんに正面からしなだれかかると、彼女の胸に顔を埋めながら股間へ手を伸ばす。

 そのまま私に代ってボディスーツを脱がしていく。

 

「んふふふふ、ご開帳ーってね」

 

 スーツの股間部分が開かれ、ローラさんの局部が露出する。

 今の彼女は、胸と股間部分が開いたピッチリボディスーツを装着しているという、男が見れば興奮必至の姿となっていた。

 

「んんー、実にけしからん格好だねー」

 

「あ、あの、エレナさん……?」

 

 エレナさんはニヤニヤと笑いながら、ローラさんの膣口を見つめている。

 流石にローラさんも引いているようだ。

 

「じゃ、いくよー」

 

「い、いくって何を――あぁぁああああっ!!」

 

 エレナさんはローラさんの股間に顔を寄せると、彼女の恥部を舐めだした。

 

「あっ…あっあっ……エレナさん、ま、待って……あぁああっ!」

 

「んー、待ってあげなーい」

 

 ぺろぺろとローラさんの膣口を舐めまわすエレナさん。

 ローラさんはその快感に身を震わせている。

 

「おや、ローラさん。

 エレナさんの舌が大分気に入っているようですね?」

 

「んんっ!…あ、あぁぁああ……クロダさん、そんなこと言わないで……あぁぁああっ!」

 

 びくっびくっと肢体を揺らすローラさん。

 

「ローラさん、エレナさんの舌はどんな塩梅ですか?

 やはり、私のとは大分違いますかね?」

 

「あっあっあっあっ……それ、は……あぅうううっ」

 

 悶えるだけで、ローラさんはなかなか応えようとしない。

 そこへ、エレナさんから援護射撃が入る。

 

「んー、ボクも聞きたいなぁ。

 ねぇ、ボクが舐めるの、どんな感じ?」

 

「教えて下さいよ、ローラさん」

 

 私とエレナさんの2人に詰められ、ローラさんはとうとう口を開いた。

 

「あ、ううぅぅ……エレナさんの舌、柔らかくて、繊細で……あ、ああぁああっ……

 男の人とは……クロダさんとは、全然違うっ……んぅうううっ」

 

「へー、そうなんだ。

 なんだか自信がついちゃうなぁ、ボク」

 

 ニコニコ笑って、エレナさんはクンニを続けた。

 ローラさんは大分感じてしまっているようで、彼女の股からはぴちゃぴちゃと愛液の音が聞こえる。

 

 無論私も、ローラさんのおっぱいをおっぱいを揉み続けているわけだが。

 

「あっ……ああっ……あっ! あああっ!」

 

「んー、大分気持ち良くなっちゃってるみたいだねー。

 そろそろ、一回イっとく?」

 

 そう言うとエレナさんは、ローラさんの陰核を集中的に舐めだした。

 途端にローラさんの喘ぎ声が大きくなる。

 

「あああぁあああああっ! あっ! あぁあああっ!

 エレナさん、そこはっ! あんっ! そこダメですっ! あぁあぁぁああっ!!」

 

「んー、ここかー、ここがええのんかー」

 

 親父臭い台詞を吐きつつ、エレナさんはクリトリスを責め続ける。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 ダメっ! あっ! ああっ! イクっ! イっちゃいますっ!」

 

「んー、イっちゃえ♪」

 

 その言葉と共に、エレナさんは陰核へ“嚙みついた”。

 ――ローラさんの身体が、一瞬大きく震える。

 

「あっ!!! あぁあああああああっ!!!!」

 

 そして、絶頂。

 大きな嬌声を出しながら、ローラさんはイった。

 

「……手慣れていますね、エレナさん。

 何度がご経験が?」

 

「んん? いや、ボクも初めてだったんだけどね。

 こんな上手くイっちゃうなんて……意外と、素質あったりして」

 

 想像以上の成果に、エレナさん自身驚いていた。

 

「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 一方ローラさんは、絶頂の余韻で荒い息をついている。

 息をするごとに、彼女の大きな胸が上下に動いた。

 これはこれで私を欲情させる光景だ。

 

「んー、ローラさん、大丈夫ー?」

 

 心配そうにローラさんの顔をのぞき込むエレナさん。

 息も絶え絶え、ローラさんは答える。

 

「……はぁっ……はぁっ……な、なんとか、大丈夫です……はぁっ……」

 

「んー、そっか。

 じゃ、もう一回イってみようっ!」

 

「――え?」

 

 ローラさんがその台詞を理解するよりも早く。

 

「あ、あぁぁあああああっ!!」

 

 艶声があたりに響く(スキルのおかげで陽葵さんのところまでは届かないはずだが)。

 

 再度、エレナさんがローラさんの股間を舐めだしたのだ。

 しかも今度は、最初からクリトリス狙い。

 

「あっ! ああっ! あぅっ!

 え、エレナさんっ! ダメっ! あぁああっ!

 私、またイっちゃいますっ! あっあっあっあっ!」

 

「ん、イっちゃいなよ、ローラさん」

 

 カリカリと歯で陰核を噛みだすエレナさん。

 堪らずローラさんは身体を仰け反らす。

 

「あっ! ヤダっ! ああっ! また、またイクっ!

 またイっちゃいますっ! イクぅううううっ!!」

 

 先程よりも大きく身体をくねらせて、ローラさんは二度目の絶頂を迎えた――が。

 エレナさんは、イった直後に肢体を硬直させた彼女を、なおも責め続ける。

 

「あっ! あっ!! ああっ!! ああっ!!

 エレナさんっ! 私イキましたっ!

 あっあっあっあっああっ!

 私、今、イったんですっ!!

 あぁあああああっ!!!」

 

「んー、知ってるよー」

 

 ローラさんに返事しつつも、エレナさんはクリトリスを舐め、噛み、刺激し続けている。

 

「あっ!!! ダメっ!!!

 おかしくなるっ!!! 私、おかしくなりますっ!!!

 やだっ! こんなのっ!! こんなのぉおおっ!!」

 

 快感から逃れるべく、ローラさんはジタバタと身体を動かす。

 

「おっと、動かないで下さいよ、ローラさん」

 

 そこで私ががっちりと太ももをホールドする。

 これでどう足掻いても、ローラさんはエレナさんの責めから逃げられない。

 

「ナイス、クロダ君っ!」

 

 エレナさんは私へサムズアップを決めると、止めとばかりに一気にローラさんを責め立てる。

 指を膣へ挿入して中をかき混ぜつつ、陰核を吸い上げたのだ。

 

「ああああっ!! あぁああああああっ!!

 あぁああああああああっ!!!!!」

 

 一際大きい――悲鳴と勘違いしてしまう程の――絶叫をあげて。

 三度、ローラさんは絶頂した。

 

「んわっ!?

 な、なにこれっ!」

 

 エレナさんが驚きの声をあげる。

 ローラさんの股間から放出した“液体”が、彼女の顔にかかったのだ。

 

「ああ、それは潮ですよ。

 ローラさん、潮を吹いてしまったんですね」

 

「んー、コレが潮なんだ。

 人が出すのは初めてみたよ」

 

 エレナさんは自分の顔に付いた“潮”をぺろっと舐める。

 

「んんー……変な味。

 愛液とも違うんだねー」

 

「私は結構好きですけどね」

 

「んー、そうなの?」

 

 そんな会話をしている横で、

 

「あー……あー……あー……あー……」

 

 ローラさんはただ単調に声を出すばかり。

 完全に気をやってしまったようだ。

 

「……んしょっと」

 

 そんな彼女の身体をエレナさんは掴み、地面に横たえた。

 ローラさんがどくことで出来たスペースへ、今度はエレナさんが滑り込んでくる。

 

「ん。邪魔者もいなくなったとこで、セックスしよっか!」

 

「――邪魔者って貴女」

 

「言葉の綾だよー。

 あんまり気にしないで」

 

 苦笑しながら、エレナさんは私に抱き着いてくる。

 私の腰を脚で包み、座位のような体勢となった。

 

「それじゃ、ちゅーしよ、ちゅー」

 

「いいですよ」

 

 互いに顔を近づけ、口づけする。

 

「んんっ……んちゅっ……ん、んん……」

 

 舌を絡ませながら、キスを続ける。

 

「ん、んん……れろれろっ……ん、あ……ふぁあ……」

 

 たっぷりと味わってから唇を離す。

 エレナさんは潤んだ瞳で私を見つめながら、ブラウスのボタンを外し始めた。

 

 ……ほどなくして、私の目の前にはエレナさんのおっぱいが現れる。

 

「どう?

 大きさは無理だけど、形だったらローラさんに負けてないよ?」

 

 私に向かって胸を突き出しながら、エレナさんは告げる。

 

 確かに、彼女のおっぱいは綺麗な円錐形を描いている。

 全体的に小柄な体型のエレナさんの胸は、単純なサイズこそ小さいものの形は巨乳そのもの。

 トランジスタグラマーという言葉がこれ以上よく当てはまる女性もいないだろう。

 近くで見たその迫力は、ローラさんの巨乳に勝るとも劣らない。

 

 私はエレナさんのおっぱいを口に含む。

 

「んんっ……あんっ♪」

 

 くすぐったそうにエレナさんが喘ぐ。

 私の口の中で、ハリの良い彼女の胸がプルプルと弾んだ。

 

「ん、んんっ……クロダ君ばっかりずるーい。

 ボクだって、早く食べたいんだからね。

 クロダ君のおちんぽ」

 

 彼女はそう言って、座位を維持したままショーツを脱ぎだした。

 

「はぁぁ……ん、んんぅうう……」

 

 裸になった股間を、服の上から私のイチモツへと擦り付けてくる。

 肉棒が、一刻も早くこの膣へ入りたいと、ビクビク疼きだす。

 

 私もズボンのチャックを開け、男根を取り出す。

 

「んん、待ってました!

 クロダ君の特大ちんぽっ!」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせるエレナさん。

 そこまで悦んでくれると、男冥利に尽きるというものだ。

 

「それじゃ、いきますよ」

 

「うん、早くちょうだいっ♪」

 

 私はエレナさんの腰を掴むと、私の愚息めがけて彼女の股間を降ろしていく。

 

「うっあっあっあっあっ!

 く、クロダ君のちんぽ、入ってくるっ!

 あぁああああっ!」

 

 私の股間が、エレナさんの体温で包まれていった。

 程よい暖かさと強い締め付けは、私の快感を昂らせる。

 

 だが快感を得ているのはエレナさんも同じだったようで、私が動き出すよりも早く、彼女の方が腰を振り出した。

 

「あっあっあっあっあっ!

 いいっ! 気持ちいいっ!

 ああっあっあああっああっあああっ!!

 んん、硬いし、太いしっ! んっ!! もう、最高っ!」

 

 嬌声を上げながら、エレナさんは顔を蕩けさせた。

 彼女の動きに負けじと、私も腰を動かす。

 

「あうっ! 激しっ……あっあっあっあっあっ!

 あぁあああんっ! すご、いっ! クロダ君、もっとぉっ!

 あぁああ、あっああっあっあああんっ!!」

 

 エレナさんの喘ぎが激しくなると同時に、彼女の膣による強烈な扱きが私を襲う。

 気持ち良さは鰻登りである。

 

 ……と、そんな私達に近づく一つの影が。

 

「……随分と楽しそうですね」

 

「あっあっあっ!……って、ローラさんっ!?」

 

 絶頂の余韻から回復したローラさんだ。

 彼女はエレナさんの背後に回り込むと――先程やられたことの意趣返しか――後ろからエレナさんに抱き着いた。

 

「んんっ! あっああっあっあっ!

 ローラさん、何を――あぅっ! あっあっあっあっ!

 ね、ねぇ、クロダ君、こんな状況でも腰止めないのっ!?」

 

 勿論止めるわけが無い。

 何故ならすごく気持ちよいからだ。

 

 一方でローラさんは、エレナさんのおっぱいを揉み始めた。

 

「凄く弾力があってプルプルしてます。

 何を食べたらこんなハリの良い肢体になるんですか?」

 

「んぁああっ! 待って! ローラさん待って!

 ああ、あぁあああっ! あぁあああんっ!!」

 

 エレナさんは私のイチモツに悶えつつ、ローラさんに話しかける。

 

「待つ?

 いったい何を待って欲しいのでしょう?」

 

「あ、ああっ! あぅううっ!

 だ、だってローラさん、絶対やろうとしてるっ!

 あん、あぁああっあっあぁああんっ!

 さっきボクがしたこと、やろうとしてるでしょっ!?」

 

 エレナさんの言葉に、ローラさんは不思議そうな顔をして返事をする。

 

「どんな不都合があるんですか?」

 

「あっあっあっあっあっ!

 ぼ、ボク、今凄く気持ちよくなっちゃってるからっ!

 あんなことされたら、一瞬で飛んじゃうっ!!

 んんっんぁああっ! あぅ、あぁああっ!

 だから、今は許してっ!!」

 

「うーん、そうですねぇ」

 

 首を傾げて、悩む仕草をするローラさん。

 数秒ほどそんなポーズをしてから、にっこり笑ってエレナさんに告げた。

 

「ダメですっ♪」

 

 ローラさんは自分の指をエレナさんの後ろの穴へ一気に突き入れた。

 

「おおっ!!?

 おお、おおぉぉおおおおおおっ!!」

 

 今までとは調子の異なる艶声が、エレナさんの口から吐き出される。

 時を同じくして、彼女の膣圧が急に強まり、私の肉棒をぎゅうぎゅうと搾りあげる。

 

「――おっ!!

 あ、あぁぁあああぁぁぁぁ――」

 

 一瞬の硬直の後、エレナさんの肢体から力が抜けていく。

 突然行われた尻穴へと刺激によって、彼女は一気に昇天してしまったようだ。

 

「……あ、あっあっあっ……言ったのに……あ、うぅ……許してって言ったのに……」

 

「ごめんで済めば衛兵はいりませんよ」

 

 軽い喘ぎを合間に挟んだエレナさんの言葉を、ばっさり切り捨てるローラさん。

 満足そうにエレナさんを見たローラさんは、彼女の肛門から指を抜く――と、見せかけて。

 今度は指を後ろの穴に抜き挿ししだした。

 

「おっ!? おぉおおおおっ!!」

 

 エレナさんが再び、けたたましい嬌声を上げだす。

 

「おっおっおっおっ!

 ローラさん、イった!!

 おお、おっおおおっ! おぉぉおおおおっ!

 ボク、イったんだってばっ!!」

 

「私もさっきそうでしたよ?」

 

 にこやかな笑みを浮かべながらも、ローラさんはエレナさんの後ろを責め続ける。

 

「さぁ、クロダさんもご一緒に」

 

「そうですね」

 

 ローラさんに促され、私もピストンを再開した。

 絶頂したばかりで固くなっていた膣内を無理やりかき分け、男根がエレナさんの奥を叩く。

 

「あぁああああああっ!!!

 ストップっ!! 2人ともストップっ!!

 あぁあああっ!! お、おぉおおおっ!!

 前と後ろからとか、無理っ!!

 無理なんだってっ!! あぁああああああっ!!」

 

 前後から襲う快楽に、身を震わせるエレナさん。

 暴れる彼女が私の上から落ちないよう、身体はがっちり掴んでおく。

 

「さ、エレナさん。

 たっぷりイって下さいね」

 

 ローラさんの手の動きが早くなった。

 彼女の指が高速で尻穴に出し入れされる。

 

「お、おおおっ! 指っ! ローラさんの指っ!

 おっおっおっおっおっ! 強すぎだよっ!! おぉおおおおおおっ!!」

 

 ローラさんに負けないよう、私も精一杯腰をグラインドさせる。

 エレナさんの膣から大量の愛液が流れ出て、愚息を突き入れる度にピチャピチャと音が鳴る。

 

「あっあっあっあっあっ!! クロダ君もっ! こんなんで対抗心出さないでっ!!

 あぅっあっああっあああっ!! 飛ぶっ!! あああっ!!!

 ボク、本当に頭飛んじゃうっ!!!!」

 

 涙を流し、涎を垂らし、エレナさんはヨガり狂った。

 そんな彼女を楽にしてやるべく、私とローラさんの動きはより一層激しさを増していく。

 

「あーーーーーっ!!! イクっ!!

 イクっ!! トブっ!! トんじゃうっ!!!

 あーーーーーっ!!! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ!!!

 イクぅううううううううっ!!!!!」

 

 思い切り身体を弓なりに反らして、エレナさんは盛大に絶頂した。

 膣は痛みすら覚える程に強く、私の肉棒を締め付ける。

 その強烈な刺激は私を射精へと誘い――彼女の子宮へと精液を注ぎ込んだ。

 

「……あーーーーーー」

 

 びくんっびくんっと肢体を痙攣させながら、エレナさんは私の方へ倒れ込んでくる。

 瞳は白目を剥きかけ、口はだらしなく開けっ放し。

 彼女の股からは、ジョロジョロと小便と潮、そして私の精液が混じった液体が流れ落ちていた。

 

「――ふぅ。

 悪は滅び去りました」

 

 やり切った顔でローラさんが呟く。

 

「……悪って貴女」

 

「いえいえ、言葉の綾ですよ。

 気にしないで下さい」

 

「……そう言われましても」

 

 どうして互いに悪く言い合うのだろうか。

 まあ、ローラさんとエレナさんの間には、ミサキさんが居る時のような剣呑な空気は流れていないのだが。

 口で言う程、お互い嫌っているわけでは無い――と信じたい。

 

「あ、ところでローラさん」

 

「はい、なんですか?」

 

「これを見て下さい」

 

 私は自分の股間をローラさんに見せつける。

 そこには、ギンギンにそそり立った剛直が鎮座していた。

 

「……あ、あの、クロダさん、それは――」

 

「まだ“一度しか”射精できていませんからね。

 鎮めるにはまだまだ足りません」

 

 私の愚息を見て目を丸くするローラさんへにじり寄ると、そのまま彼女を押し倒した。

 

「ま、待って下さい。

 エレナさんに何度もイカされちゃったせいで、まだ私のアソコ、敏感になってて――」

 

「私を慰労してくれるのではなかったのですか?」

 

 渋るローラさんの股を広げ、その中心部へとイチモツを添えた。

 

「あのですね、別に嫌なわけじゃないです。

 寧ろ私だってクロダさんとしたいんですが――その、少し時間を置いて欲しいというか」

 

「さ、いきますよ」

 

 未だ納得のいっていないローラさんを無視し、私は彼女の膣に肉棒を咥えさせた。

 

「ああっ!! あぁああああああああっ!!!」

 

 辺りに、もう何度目か分からない女性の喘ぎ声が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 ――2時間程経過しただろうか。

 

 「ほらヒナタ、そろそろ行かないと!

 日が暮れちゃうよ!?」

 

 「え、もうそんななのか!?

 迷宮の中だと時間間隔が狂うなぁ」

 

 たっぷりと休みを取ったリアさんと陽葵さんが、出発しようとしていた。

 私の方も出る準備をしようと、ローラさんとエレナさんに声をかける――が。

 

「お2人共、陽葵さん達はそろそろ動くようなのですが……」

 

「……あ、う、うぅ……無理、です……」

 

「ん、んん……こ、腰が……ガクガクになっちゃって……た、立てない……」

 

 白濁液に塗れて地面に倒れ伏した2人は、まだ起き上がれそうになかった。

 ……流石にやりすぎたか。

 

 ローラさんとヤってる最中にエレナさんが目を醒ましたので、それ以後はエレナさんともがっつりヤってしまい――

 気付けば、御覧の有様である。

 

 現在、深く反省している。

 幾ら気持ちが良いからといって、仕事に支障が出るようなことをしてはならない。

 

 ……とはいえ、反省よりも先にまずこの状況を何とかせねばならないのだが。

 

「――――どうしましょう」

 

 動ける気配の無い2人を前に、私は自らの馬鹿さ加減に頭を抱えるのであった。

 

 

 

 ――結局。

 ローラさんとエレナさんを抱えながら移動するという強硬手段をとることにより、事なきを得た。

 ここがまだ白色区域だったからこそ仕えた荒業である。

 2度とこんなことはするまいと、固く心に誓う。

 

 ちなみに陽葵さん達は、もう少しで白色区域を抜けるという階層まで進んだところで帰還していた。

 初日の進捗としてはなかなかの成果と言える。

 ……陽葵さん、最後まで何もしていなかったけれど。

 

 

 

 第十七話③へ続く



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③! リアさんのお披露目※

 

 

 その日の夜。

 私はいつものように黒の焔亭にて夕飯を頂いていた。

 

 しかし今夜は、普段と店の様相が変わっている。

 何故ならば――

 

「……お前、今、某の尻を触ったな?」

 

「ち、違っ!?

 今のは本当に偶然手が当たっただけでっ!!」

 

「問答無用だ」

 

「ひでぶしっ!?」

 

 客の一人が新人のウェイトレスに蹴り飛ばされて店の壁に激突する。

 そのまま、客はぴくりとも動かなくなった。

 ……おそらく気絶しただけであろう、きっと。

 

「うわあああっ!!

 カマルちゃんがまた猛っておられるぞっ!!」

 

「某をちゃん付で呼ぶな」

 

「のぉおおおおおおっ!?」

 

 余計な茶々入れをした他の客も同じ末路を辿る。

 店内には、同様の経緯で倒れ伏した男達が、何人も転がっていた。

 

 ――現在、黒の焔亭には新人ウェイトレス・カマルさんによる暴風が吹き荒れているのだ。

 

 もうお気づきの方もいるとは思うが、このウェイトレスさん、以前に黒の焔亭を襲撃してきた魔族である。

 バールが死んで身の置く先がなくなった彼女を、店長がウェイトレスとして雇ったのだ。

 

 他人事のように語ってしまったが、バールを殺したのは私であるため、こうなった一因は私にもあるかもしれない。

 ……一因があったとして、私にやれることなどもう何もないのだが。

 

「……そうか、命が惜しくは無いか」

 

「ぎゃぁああああっすっ!!?」

 

 ――また一人、犠牲者が出た。

 

 こんな暴虐行為を行っている(客の自業自得の場合がほとんどだが)カマルさんだが、彼女が来てから店は連日大賑わいである。

 理由の一つは、彼女が美人だから――しかも、ウィンガストではまず見られない、魔族の美女だからである。

 

 魔族特有の銀髪を長く伸ばし、ポニーテールに束ねた姿は、カマルさんが長身であることも相まって実に凛々しい。

 釣り目な瞳を持つ美貌は見る者に冷たい印象も与えるが、一部のM男からは逆にそれがいいと好評だったりもする。

 それでいてスタイルは実に女性的。

 胸とお尻の大きさは、ローラさんにだって負けていない。

 ウェイトレスの制服が、女の色気をより引き出している。

 物珍しさも手伝って、そんなカマルさんを一目見ようと黒の焔亭に来る男は後を絶たなかった。

 

 それと理由はもう一つあり――

 

「……ふん」

 

「ぬわぁああああああっ!!」

 

 また吹き飛ばされる男性客。

 その様子を、他の客がじっくりと鑑賞している。

 

 ――これこそがもう一つの理由。

 カマルさんは気付いていないようだが――或いは気にしていないだけかもしれないが――客を蹴るたびに制服のスカートが思い切り捲れており……

 彼女の下着が、そしてその下着に覆われている青白い肌のお尻が、丸見えになっているのだ。

 

 ……今日は黒のレースか。

 彼女の言動に反して、結構派手な下着だ。

 ただ、初日は褌を履いていたことを鑑みると、この下着は店長の趣味なのかもしれない。

 

 

 

 但し、そんな喧噪に溢れているのは店の半分。

 もう半分は――私が座っている側は、いつもと同じ様子を維持していた。

 ……とはいえ、こちらも別の原因でいつもと雰囲気は異なっているのだが。

 

「リアちゃーん、注文したいんだけどー?」

 

「はいはい。

 すぐ行くから待っててね」

 

 客に呼ばれてリアさんが注文を取りに行った。

 律儀なことに――そしてタフなことに、昼間迷宮探索をしていたにも関わらず、リアさんは黒の焔亭でのウェイトレスのバイトを行っている。

 そして彼女の存在こそが、店内の空気を変えている原因なのだ。

 

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 

 幾人もの男が、リアさんの姿を熱の籠った視線で見つめている。

 

「ご注文は?」

 

「え、えーと、A定食と……あー、それからー……」

 

「ちょっと、決まってないのに呼んだの?」

 

「い、いや、そんなわけじゃっ!

 えー、び、ビール! ビールを1本でっ!!」

 

「はーい、A定食とビールね!」

 

「あー……う、うん」

 

 客は不自然な程どもりながらリアさんへ注文をした。

 彼の顔が真っ赤であることに、リアさんは気付いているのだろうか?

 ……気付いていないわけがないか。

 

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 

 厨房へとオーダーを届けに行く彼女を後姿を、再び多くの男が見つめる。

 リアさんが奥へと消えると、男性客達は互いに視線を交わし合わせた。

 

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 

 ……次は誰が注文をするか、牽制し合っているのだ。

 

 何故、リアさんがここまで注目されているのか。

 彼女は元からこの店の看板娘であったので、客からの人気は高かったのだが、それを鑑みてもこの状況は異常である。

 リアさんが男達の視線を集めている理由、それは――

 

「り、リアちゃんっ!

 次はこっちでっ!!」

 

「はーいっ!」

 

 静かなる牽制戦を制し、別の客がリアさんに声をかけた。

 彼の方に向かい、彼女は小走りで駆けていく。

 ……ちらちらと、白いショーツをちらつかせながら。

 

 「…………!」

 「…………!」

 「…………!」

 「…………!」

 

 男達は、チラリと見えるリアさんのショーツを、食い入るように見る。

 

 ――ただ、このチラリズムは一因に過ぎない。

 根本的な原因は、簡単にパンチラが起きてしまうリアさんの格好なのだ。

 

「……俺はね、C定食と、サラダと、あと――」

 

「うんうん」

 

 リアさんは注文をメモしていく。

 注文している当の客自身は上の空なのだが。

 ……彼女の格好を見るのに忙しくて。

 

 今日のリアさんは、今までと制服が変わっているのである。

 従来のエプロンとスカートが一体となったような作りは同じだが、細かい意匠が変更されている。

 

 まず制服の上側。

 大きな違いは、胸元が大きく開いていることだ。

 その開き方はかなり大胆で――乳首こそ見えないが、おっぱいの北半球がほとんど見えてしまっている。

 また、それに比べると細かい変更点だが、エプロンがより胸にフィッティングし、全体的な形もはっきりと把握できてしまう。

 後ろ側も服面積も激しく減少しており、リアさんの綺麗な背中がじっくりと鑑賞できる。

 角度によっては、まるで裸エプロンを着ているかのようにも見えるだろう。

 

 そして制服の下側。

 こちらの変更点はただ一つ――スカートの丈だ。

 これまでの制服も下着が見えないギリギリの短さを追求した代物であったが、今は制服はそのラインすら突破している。

 じっと突っ立っている状態ならば、どうにか下着は隠れている、というレベル。

 動いたりして少しでもスカートが翻ると、すぐにショーツとご対面だ。

 見る側が屈んで視点を低くすれば、簡単に中を覗けてしまう。

 ……実際、落とした物を拾うフリをしてスカートの中を覗いている輩もチラホラいる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 こんな制服を着て、リアさんはいつも通り働いているのである。

 そりゃ注目も集めようというものだ。

 

 単純に助平な男がリアさんエリア、Mっ気のある男がカマルさんエリアにいると考えれば分かりやすいかもしれない。

 

 「あー、リアちゃん、ちょっといいだろうか?」

 

 今度は壮年の男がリアさんに話しかけた。

 ――セドリックさんだ。

 

 「――何? 注文?」

 

 「すまないが注文じゃないんだ。

 スプーンを落としてしまってね、拾ってはくれないだろうか?」

 

 セドリックさんは床を指さす。

 確かに、彼のすぐ傍にスプーンが落ちていた。

 

 「……いや、それ位自分で拾いなさいよ」

 

 「最近腰が悪くてねぇ。

 頼むよ、リアちゃん」

 

 ジト目で睨むリアさんだが、セドリックさんはどこ吹く風。

 彼女は大きくため息をついた後、

 

 「はいはい、分かりました」

 

 スプーンを拾うことにしたようだ。

 リアさんはセドリックさんの近くによると、彼に背を向け――

 

 「「――おおっ」」

 

 ――周囲の男がどよめいた。

 リアさんはよりにもよって尻をセドリックさんへ突き出すような姿勢で、床のスプーンを手に取ったのだ。

 そんな体勢になれば、当然彼女のお尻は丸見えになる。

 

 「うーん、いいお尻だねぇ」

 

 セドリックさんはまるで隠す素振りも見せずにリアさんの尻を見物していた。

 

 「…………んっと」

 

 リアさんはリアさんで、随分と時間をかけてスプーンを拾っている。

 しかも時折腰を左右に振りながら。

 プリプリの健康的なけつが揺れる様は――もう、誘っているとしか思えない。

 

 「「――ごくりっ」」

 

 周りでその光景を見守っている男達が、唾をのむ。

 まさかここまでやってくれるとは思っていなかったのだろう。

 ……実際のところ、リアさんはセドリックさんからもっと凄いことをされていたわけなのだが。

 

 「……はい、これでいいんでしょ?」

 

 「ああ、ありがとう、リアちゃん。

  ……もう随分と濡らしているようだねぇ」

 

 セドリックさんの後半の台詞は、リアさんにしか聞こえないよう小声で呟いている。

 彼の言う通り、彼女のショーツは愛液によって膣の辺りがびちょびちょになっていた。

 

 「……だ、だったら何よ」

 

 「……ふふふ、今日もちゃんと可愛がってあげるからね。

  ……いい子にして待ってるんだよ」

 

 「――!

 ば、バカじゃないのっ!?」

 

 顔を赤くして、リアさんはセドリックさんから離れた。

 ……セクハラを受けたというのに、抵抗はおろか嫌がる素振りすらしない。

 いや、あの行為をセクハラと言っていいのか疑問は残るけれども。

 

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 「…………」

 

 男性客達がギラギラとした視線をリアさんに浴びせる。

 “あんなこと”をしても許されるのだと、分かってしまったからだ。

 次は誰がやるか――男達の静かなる戦いが水面下で勃発する。

 

「あ、すいません、リアさん」

 

 そして私はそんなものを一切無視し、リアさんを呼びつけた。

 

「どうしたの、クロダ?

 追加の注文?」

 

「すいません、私も注文じゃないんです」

 

 言って、私は自分の股間を彼女に見せた。

 ズボンのチャックは既に降ろされ、ギンギンに勃起したイチモツが顔を覗かせている。

 

「どうして欲しいか……言わなくても、分かりますよね?」

 

「え、あ、あの、クロダ……?」

 

 リアさんはさらに顔を赤くして戸惑いだす。

 しかしその視線は私の愚息からまるで外れていない。

 

「こ、ここ、で?

 も、もっと隅の席に……」

 

 どうもリアさんは、店のど真ん中に位置するこの席がお気に召さない模様。

 確かに、ここでヤり始めたら、全ての客にバレてしまうだろうけれど。

 

「いけませんか?

 ……大丈夫ですよ、半分位はカマルさんの方を向いていますし」

 

 逆に言えば、半分はリアさんを見ているということでもある。

 しかし彼女を説得する効果はあったようで、

 

「……う、うん、分かった」

 

 リアさんは観念したように首を縦に振った。

 ――単に、何かしらの“言い訳”が欲しいだけだったのかもしれない。

 

 「「――!?」」

 

 男達の驚く気配が伝わってくる。

 いきなりリアさんが私の上に跨ってきたのだ、驚きもしよう。

 

「じゃ、じゃあ、ヤるからね」

 

「ええ、どうぞ」

 

 リアさんは自分の手でショーツをずらし、膣口を剥き出しにする。

 そのまま腰を落とし、膣内へ私の肉棒を招き入れていく。

 

「あっ…あっ…あっ…あっ…あっ…」

 

 男根が沈んでいくにつれ、リアさんの顔はだんだん蕩けだし、喘ぎを漏らす。

 私の方も、彼女の膣による快感が股間を走り出した。

 

 「……ま、マジかよ」

 

 「……あれ、絶対セックスしてるよな?」

 

 「……リアちゃんが、あんな男と……?」

 

 どよめきが大きくなる。

 店の真ん中で堂々と性交しだしたのだから、この反応も仕方ない。

 

「あっ…あっ…あっ……ぜ、全部、入ったぁ……」

 

「いい締め付けですよ、リアさん」

 

「……あ、ありがと……んんっ」

 

 私が頭を撫でてあげると、リアさんは嬉しそうにほほ笑んだ。

 ほどなくして、彼女は腰を上下に動かしだす。

 

「あっあっあっあっあっ……んんっ……あぅっああっあっああっあああっ……」

 

 次第に大きくなっていく彼女の嬌声が、私の耳を楽しませる。

 同時にイチモツがリアさんの膣に扱かれ、股間が彼女の暖かさと締め付けを堪能する。

 

「もっと早く動いて下さい」

 

「う、うん……あっあっあっあっあっ……あんっ!

 ああっあっあっあっ! あぁあああっ!」

 

 私の命令で、リアさんは腰の動きを速めた。

 最早、彼女は周囲の目も気にせず喘ぎ始めている。

 カマルさんに釘付けになっている男達以外は、全員がリアさんの行為に魅入っている。

 

「ああっ! あっ! あああっ!

 あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!」

 

 男達の視線を気にも留めずに、リアさんは腰を振り続ける。

 相当気持ち良いのだろう、彼女の膣からは愛液が垂れ流れていた。

 

 私は、ただでさえ開けた制服をずり降ろし、リアさんの胸も露わにしてやる。

 ローラさんやエレナさんに比べるとやや控えめではあるが、ツンとした乳房は健康的な色気を十二分に放っていた。

 

 「……う、うわぁ」

 

 「……そんなことまでしちゃうのか」

 

 リアさんのあられもない姿に、見物人は一人また一人と席を立ち、私達に近寄ってくる。

 

 それはさておいて、私は彼女のおっぱいを手で包み込み、そのまま揉みしだく。

 両手に、リアさんの弾力ある胸の感触が拡がっていった。

 

「あっあっああっあっ! 

 く、クロダっ! あっあっあっああっあっ!

 クロダぁっ!! ああっあっああっああああっ!!」

 

 感極まったリアさんが、私に抱き着いてきた。

 彼女の胸が私の顔へと押し付けられる。

 これはこれで悪くない。

 

 と、そんなところへ。

 

「お、おいおいおいおいっ!

 何やってんだ、お前等っ!?」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、厨房からゲルマン店長が駆けてきた。

 私はリアさんの子宮を責め続けながら、店長に答える。

 

「何って――ナニですが」

 

「そんなもん見りゃわかるっ!!

 どうしてこんな店のど真ん中で開けっ広げにヤっちまってんのかって聞いてんだよっ!!?」

 

 店長が私を怒鳴りつける。

 

「おいクロダっ!

 そういうのはもっと時と場所弁えてヤれって言ったよな!?

 弁えるどころかさらに悪化してんじゃねぇか、お前っ!!」

 

「まあまあ、落ち着いて下さい、店長」

 

 怒って頭を真っ赤にしている店長を、私は宥める。

 ――思い切り営業妨害してるわけなのだから、彼の怒りはもっともではある。

 

「今日は、報告したいことがあるのですよ」

 

「……報告だぁ?」

 

 胡乱な視線を私に浴びせる店長。

 私はそれを正面から受け止めて、こう告げた。

 

「リアさんは、私専用の肉便器になったのです」

 

「……なに?」

 

 ゲルマンさんがはっとした顔になる。

 顔をリアさんの方へ向けて、今度は彼女へ尋ねてきた。

 

「おい、リア。

 クロダの話、本当なのか?」

 

「あひっあっああっあっあっ!!

 う、うん、本当っ!!

 あんっあっあっあっあっあっ!

 あたし、クロダの便器になったのっ!!

 あっあっあっあっあっあっあっあっあっ!!」

 

「……そうだったのか」

 

 彼女が肯定することで、ゲルマンさんは納得したようだ。

 落ち着いた口調で私に話しかけてくる。

 

「肉便器の相手をしてたってんなら、そうやかましいことは言わねぇなぁ」

 

 「……言えないんだ」

 

 店長の言葉に、周りを取り囲む客の一人が呆然とした口調で呟いた。

 それを黙殺しつつ、ゲルマンさんは続ける。

 

「五月蠅くは言わねぇが……ある程度はうちの店のこと考えてくれよな。

 流石に真昼間にヤられちまったら、衛兵が飛んできちまう」

 

「それは安心して下さい。

 今回は皆さんへの公開という意味もありましたので、こんな真似をしましたが――

 流石にこんな明け透けなことを毎回ヤったりはしませんよ」

 

「そうか。

 まあ、お前ことを信頼してねぇわけじゃねぇが――」

 

「――ちょ、ちょっと待ってくれ給え!!」

 

 私と店長の会話に、割り込んでくる男が居た。

 ――セドリックさんだ。

 彼は見物客をかき分けて私の方へ近づくと、

 

「こ、困るよ、クロダ君、勝手にそんなことされちゃあっ!!」

 

 怒ったような口調で私をそう咎めだす。

 ……そういえば、彼もリアさんを肉便器にしようとアレコレ調教していたのだった。

 

「すみません、セドリックさんに先んずる形でこういうことをしてしまいまして」

 

「いや、それについてはどうでもいいんだけどね」

 

 謝ろうとする私だが、セドリックさんはそれを軽く流した。

 どうやら論点がずれていたようだ。

 彼は語気を強めて説明し出した。

 

「だからね、そういうことはもっと早く言ってくれないとさ!

 私、危うく今日リアちゃんに手を出しちゃうところだったんだよ!?」

 

「……それに何か問題が?」

 

 首を傾げる私に、セドリックさんは強い口調で続ける。

 

「大ありだよっ!!

 私は他人の女性(モノ)には手を出さないことにしているんだ!

 クロダ君には前に言ったじゃないかっ!!」

 

 ……そう言えば、そんなことを以前聞かされた気がする。

 “昔の教訓”から、誰かのモノになった女性には決して唾を着けない、と。

 

「ああっ! あっ! ああっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 ちなみにこの状況でも私は腰を振るのを忘れていない。

 リアさんはずっと私の上でヨガっているのだが――話の本題からずれるので、今は気にしないでおく。

 

「……しかし、セドリックさんは店長の女性(モノ)に手をだしていませんでした?」

 

 私はふと思いついた疑問を口にした。

 

 黒の焔亭で働く他のウェイトレス――シエラさんやジェーンさんは店長の手で肉便器に仕上げられている。

 しかしそんな彼女達とも、セドリックさんは関係を結んでいたはず。

 

「ああ、アレはいいんだよ。

 彼女らは肉便器は肉便器でも、誰にだって股を開く公衆便女なんだから。

 でもリアちゃんは、クロダ君専用の肉便器なんだろ?

 だったら、私は手を出せないなぁ」

 

「そんなものですか?

 私は別に気にしないのですが――」

 

「――いや、そこは気にしろよ、お前」

 

 今度は店長が私達の会話に入ってきた。

 

「クロダよぉ、お前はリアを専用肉便器にしたんだろ?

 今、リアはお前の所有物なわけだ。

 所有物に対して、持ち主は責任を負わなきゃなんねぇだろが」

 

「……なるほど」

 

 確かに一理ある。

 リアさんを公衆便女ではなく専用肉便器にした以上、私には彼女の行為に対する責任が発生するわけか……

 

 「……なんか、すげぇ超理論展開してんぞ、あの人達」

 

 「……つ、ついていけねぇ」

 

 外野が何か言っているが、気にせず店長との話を続行。

 

「とすると、リアさんを好き勝手ヤらせてはいけないということですね。

 具体的にはどうすればいいでしょう?」

 

 こういうことに不慣れな私は、熟練者である店長へ素直にアドバイスを求めた。

 彼は腕組みをして少し悩んでから、

 

「そうさなぁ。

 ……とりあえず、中出しは禁止ってことにしとけばいいんじゃねぇか?

 それ以外の行為なら許容するっつう感じで」

 

「おお、名案ですね」

 

「――どこがっ!?」

 

 それまで喘ぎ続けていたリアさんが、ここで突っ込みを入れてくる。

 

「どうしました、リアさん?」

 

「ああっ! う、あっあっあっ!

 あ、あたしは、クロダの便器なんだからっ!

 ああっ! あっあっあっあっあっ!

 他の男と、するなんて――ああぁぁあああっ!!」

 

 嬌声を上げながらも、自らの意見を主張するリアさん。

 私以外の男と関係を持ちたくない、という台詞は男として嬉しくはあるのだが――

 

「でもリアさん、私の指示もなくこんな破廉恥な制服を着ましたよね」

 

「ああっあっあぁああっ! そ、それは――」

 

 店長から渡されたのだろうが――こんな代物を着れば周りの男からどう見られるか、分からないはずが無い。

 

「先程、セドリックさんを明らかに誘惑していましたよね?」

 

「あっあっあっあっ! く、クロダ、アレは――」

 

 あのままセドリックさんに押し倒されていたら、果たしてリアさんは抵抗していただろうか。

 

「……そろそろ認めたらどうですか?

 リアさん、貴女はどうしようもない被虐趣向の変態女なんですよ」

 

「―――っ!!」

 

 私の言葉を受けて、リアさんは身体を仰け反らし、ピンと身体を硬直させる。

 彼女の膣は私のイチモツを一際強く締め付け――どうやら、今のでイってしまったらしい。

 

「――あっ――ああっ――あっ――」

 

 絶頂の余韻からか、口をパクパクと開けるリアさん。

 そんな彼女に私はさらに喋りかける。

 

「自分に正直になって下さい。

 街中の男に犯されたいんでしょう?

 酷い目に遭わされたいんでしょう?

 ただの性欲処理の道具のように、扱われたいんでしょう?」

 

「――あっ!――あっ!――あああっ!!!」

 

 私が言葉をかける度に、彼女の身体は大きく痙攣した。

 同時にリアさんの膣からは愛液が迸る。

 言葉責めによる快感で、幾度も絶頂を重ねているのだ。

 

 ……結局のところ、これが彼女の本性。

 余人には手が付けられない程の被虐趣向持ちなのである。

 

 これは決して店長やセドリックさんの調教によって植えつけられたものではない。

 リアさんが、最初から持っていた『素質』――或いは『歪み』だ。

 

 ――その証拠に、私が初めて彼女と会った時。

 <次元迷宮>を彷徨い歩き、魔物に取り囲まれ、自分の命が消えるその寸前に。

 彼女は――“とても嬉しそうな”顔をしていた。

 リアさんに自覚は無いようだが、彼女は自分が殺される瞬間を“楽しんで”いたのだ。

 私は自分が変態であることを胸を張って宣言できるが――その私をもってしても、彼女の感覚を理解するには及ばなかった。

 

 ……勘違いしないで欲しいのだが、普段の彼女が自分を偽っているわけでは決してない。

 快活で、強気で、何かとお節介焼きなリアさんも、間違いなく本当の彼女ではあるのだ。

 そういう“普通の女の子”なリアさんが、“普通とは余りにかけ離れた性癖”を持っていただけ。

 

 実のところ――私には、どうして彼女がこうなったのか、大よそ察しはついている。

 リアさんが、魔族だからだ。

 

 以前、魔素という物質について説明があったかと思う。

 スキルやマジックアイテムという恩恵を与える一方で、精神を狂わせる性質を持つ、劇薬のような物質だ。

 魔族とは、魔素の扱いに長けた種族である。

 だからこそ、スキルを他のどの種族よりも上手く操り、他の種族では真似できない程の強力なマジックアイテムを創ることができる。

 その一方で、魔素によるデメリットも他の種族より大きく受けているのだ。

 

 具体的に言えば、魔族は例外なく、心に大きな『歪み』を持つ。

 どういう『歪み』なのかは、魔族によって様々。

 例えばギルド長であるジェラルドさんは魔王への“絶対的な忠誠心”という『歪み』を、バールは陽葵さんへの”狂的な偏愛”という『歪み』を発現させていた。

 リアさんの場合、それが“異常な被虐趣向”であったと、ただそれだけのことだ。

 この『歪み』は種族的な特徴であり、それが故に自分で制御することなどできないし、矯正もまず不可能。

 上手く付き合っていくしかないのである。

 

 ――まあ、この辺りのことは私もミサキさんから聞いただけなので、詳しくは分かっていないのだけれども。

 

 と、そういう訳なので、彼女は肉便器として生きていくしかないのである(断言)。

 ……被虐が過ぎて、自分の命を危険に曝すより、ずっとマシだろう。

 

「――決まりだな」

 

 考え事に没頭していた私を、店長の言葉が現実に引き戻す。

 彼はリアさんの身体を撫でながら、ニヤリと笑って周囲に宣言した。

 

「これからリアには、ナニやってもいいことにする。

 肉便器なんだからな、好きに扱ってやれ。

 但し、中出しだけは駄目だ。

 こいつを孕ませるのは所有者だけの権利だからな。

 ――それでいいか、クロダ?」

 

「――ええ。

 過不足無い、最良の設定と言えましょう」

 

 店長の確認に、私は大きく頷いた。

 周囲が俄然騒めき出す。

 

 「うわ、マジか」

 

 「これからリアちゃんと、あんなことやこんなことが!?」

 

 「通うっ!

  毎日この店に通うぞ、オレっ!」

 

 「うーん、この流れに乗りたい気持ちも無いわけじゃないんだけどね。

  やはり私には無理かな」

 

 セドリックさんだけは、他の男達から一歩引いているようだが。

 男達の願望は留まるところを知らない。

 

 「毎日犯してあげるからね、リアちゃん!」

 

 「あのおっぱいもけつも――げへへ、自由にできるわけかぁ」

 

 「まんこは駄目でも、けつなら構わないんだよな。

  くくく、滾ってきたぁっ!」

 

 そんな男達の欲望の塗れた視線を一身に浴びたリアさんは――

 

「――あっ!――ああっ!――あっ!――あぁああああっ!!」

 

 ――これからの自分の行く末を思っているのだろう。

 彼女は、私の上で幾度も絶頂を繰り返していた。

 

 

 

 第十七話 完



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第十八話 ジャン・フェルグソンの幸運な一日
①! 午前中のお話


■前日の夜

 

 

(――ああ、もう。

 なんなんだよ、畜生)

 

 ジャンは心の仲で毒づいた。

 

 今彼が居るは『蒼い鱗亭』という名の宿屋。

 ウィンガストでは珍しくない、宿と酒場が一体となって経営している店だ。

 ジャンのパーティー、つまりジャン・コナー・エレナの3人が拠点としている宿でもある。

 

 その蒼い鱗亭の食堂で、彼は3人の冒険者と共にテーブルを囲っていた。

 一人は彼の仲間であるコナー。

 もう2人は、別パーティーの女性冒険者――コナーの引き抜きを狙っている――マリーとシフォンである。

 マリーは髪を長く伸ばした気が強そうな女性で、シフォンは肩程に切り揃えた髪を持つおっとりとした女の子だ。

 

「なに、あんた?

 辛気臭い顔してさ。

 ごはんがまずくなっちゃうんだけど」

 

「……どうしたの、ジャン?

 ……さっきからずっと変だよ」

 

 マリーとコナーが話しかけてくる。

 彼らの言う通り、食事が始まってからジャンはずっと不機嫌だった。

 その原因は――

 

「この状況で不機嫌になるなって無理だってのっ!

 分かって言ってんだろ、お前等っ!!」

 

 ジャンは3人を順に指さしながら、叫ぶ。

 指された彼らは顔を見合わせている。

 

 ジャンの機嫌が悪い原因、それは席の並びにあった。

 4人で丸いテーブルを囲っているのだが……自分以外の3人が、あからさまに席を近づけている。

 コナーの両隣に、肩が触れる程接近してマリーとシフォンが座っているのだ。

 対して、ジャンはコナーの対面……つまり、彼らから一番遠い場所に位置している。

 ――これ程の屈辱があろうか?

 

(……器小せえなぁ、俺)

 

 何故こうなっているのかの理由もわかっている。

 彼女らはコナーを勧誘しにきたのであって、ジャンには興味が無いのだ。

 そういう諸々の事情を知っているからこそ、今まで不満を言い出さなかったわけだが――ぼちぼち我慢の限界であった。

 

 だが、そんな彼の不平をぶつけられた当事者達は、実にあっけらかんとしていた。

 

「なに?

 あんた、あたし達に隣に座って欲しいって?

 なーんだ、興味無さそうなふりして、むっつりだねぇ」

 

「すみません、気が利きませんでしたぁ」

 

 そう言って、マリーとシフォンの2人は、ジャンのすぐ近くに席を移動させた。

 彼女達から漂う女性特有の甘い匂いが、ジャンの鼻をつく。

 

「これで文句ないんでしょ?」

 

「ご満足頂けましたかぁ?」

 

「ち、近いっ!

 今度は近いって!!」

 

「なによ、遠いと文句言って、近づいてあげたらそれはそれで嫌なわけ?

 だいたい、女の子が近づいたのならまずは喜びなさい!

 ひょっとしてあんた、童貞?」

 

「ど、童貞違うわっ!!」

 

 まあ、ジャンは童貞なわけだけれども。

 そして童貞な彼には、マリーとシフォンの格好は刺激的に過ぎた。

 

 長身でスレンダーなマリーは、タイトなパンツルックで格好良く衣装を纏めている。

 服の上からでも身体の“形”が分かってしまうフィット感だ。

 胸も尻も控えめだが形は良く、男の欲情を誘ってくる。

 

 背は低いものの豊満な肢体を持つシフォンは、可愛らしいドレス姿。

 可愛らしい意匠にも関わらず、胸元は大きく開いていた。

 ちょっと覗き込めば、彼女の北半球が簡単にみえてしまう程に。

 

「……そう言いながらも、ジャンの目は彼女達の身体に釘付けなのだった」

 

「変なナレーションを入れるな、コナー!」

 

 だがコナーの言う通り、ジャンはマリーとシフォンの肢体をついつい目で追ってしまっていた。

 

(仕方ないだろ、男の本能なんだからっ!!)

 

 心で言い訳するジャンに、突如マリーがしなだれかかってくる。

 

「な、何すんだぁっ!?」

 

「ちょっと抱き着いただけでしょ?

 あんたこそ何驚いてるの」

 

「いきなり抱き着かれたら驚くわぁっ!!」

 

「驚いてるわりに、あたしの胸元をジロジロ見てんのねぇ?

 何? 見たいの? 見せてあげよっか?」

 

「う、うっさいっ!!

 早く離れろっ!!」

 

「はいはい」

 

 言われた通り、マリーはジャンから身体を離す。

 

(……そんな正直に離れなくても)

 

 自分がそう言ったにもかかわらず、ジャンは一抹の寂しさを感じた。

 なかなか正直になれない男である。

 

「……ジャンはいつもそうだよね。

 ……エレナにやられた時も、同じ反応だったし」

 

 コナーがつっこみを入れる。

 

「エレナさんって、ジャンさんやコナーさんと同じパーティーの女性ですよねぇ。

 今は他に男作ってデート中なんでしたっけ?」

 

「そういう言い方はやめろよ……」

 

 この場に同じパーティーのエレナが居ないのはそういう理由だ。

 今日は、恋人と一緒に食事をするとかで、今夜は宿に居ない。

 

(まさかエレナがクロダさんとくっつくとはなぁ)

 

 そう独りごちる。

 エレナが同じ冒険者のクロダと恋人同士になったと聞いたのは、つい最近のことだ。

 前々からちょくちょく一緒に行動している様子はあったのだが、ジャンにとっては晴天の霹靂であった。

 

(まあ、クロダさんならエレナを泣かすような真似はしないだろう)

 

 “妹”が盗られたような気分にもなったが、クロダは自分も認める冒険者である。

 エレナを悲しませるような不誠実な男では決してない。

 彼なら安心して“妹”を任せられる――ジャンはそう信じていた。

 

 エレナのことに思いを馳せるジャンに、マリーが再び話しかけてきた。

 

「ていうかさ、そのエレナって子、あんたのパーティーから抜けるんでしょ?

 だったらなおさらあたしらと組んじゃった方がいいんじゃない?」

 

「ま、まだ抜けると決まったわけじゃねぇよ!」

 

「幼馴染と恋人なら恋人の方を取るに決まってんでしょ?」

 

「……うっ」

 

 ジャンとてその危惧を抱いていないわけでもなかった。

 エレナが、これを契機に自分たちのパーティーから出て行くのではないかと。

 クロダとて、自分の恋人が他の男と一緒にいるのを、快くは思わないだろう。

 

「もう、あんた達とあたし達でパーティー結成でいいんじゃないの?

 ちょうど基本職業全部揃ってんだし」

 

「そ、それはそうだが……」

 

 ジャンは<盗賊>、コナーは<僧侶>の派生職である<聖騎士>、マリーは<戦士>で、シフォンは<魔法使い>だ。

 確かにバランスは取れている。

 

 そもそも今日の“食事会”はそのことを話し合うために開かれてもいるのだ。

 もっとも、ジャンがそれを承諾したわけでなく、マリーが勝手に押しかけて来たのだけれど。

 

 ジャンも、マリーからの申し出を拒みたいわけではない。

 ただ、まだエレナから正式に離脱の話を聞いていないと言うのに、そういう話を進めてしまうのは、彼女に対して悪い気がするのだ。

 今まで姉弟同然に育ってきた幼馴染なのだ。

 その辺のけじめはしっかりとつけておきたいと考えている。

 

 だが、マリーは納得せず。

 

「煮え切らない男ねぇっ!

 あたしは頼りないあんたでも我慢してあげるって言ってんのよ!?」

 

「た、頼りないとはなんだっ!」

 

「頼りないでしょうが!

 あんた、コナーと比べて、ステータス全然低いじゃないの!」

 

「こ、これから伸びるんだよっ!!」

 

「どうだか?

 レベルだってコナーの方が上だし!」

 

「――うぐっ」

 

 痛いところを突かれて、ジャンは言葉に詰まる。

 そこへ、

 

「……マリーさん、ストップ」

 

「言い過ぎですよぉ」

 

 コナーとシフォンが、ヒートアップしてきたマリーを抑えた。

 

「別にすぐ結論を出さなくてもいいんじゃないですかぁ?

 ジャンさんは、エレナさんとちゃんとお話してから、改めてパーティーの相談をしたいんですよねぇ?」

 

「……ジャンだって、マリーさんやシフォンさんと組むのが嫌なわけじゃないんだろう?」

 

「――ああ」

 

 シフォンとコナーの言葉に、渋々と言った形で頷く。

 

「だったら、今は食事を楽しみましょうよぉ」

 

「……うん、せっかくの機会なんだからさ」

 

「そ、そうだな。

 ……すまん、大人げなかった」

 

 2人の説得を受け、ジャンは頭を下げた。

 

「煽てられないと機嫌が直らないとか、子供か」

 

「なんだとコラァっ!!」

 

 ……すぐにマリーとの喧嘩が再発したりもしたが。

 ともあれ、4人の夜はこうして更けていくのだった。

 

 

 

 

 

 

■朝

 

 

 

「起きなさぁい!!」

 

 ジャンは、甲高い声で目を醒ました。

 

「なんなんだよっ!

 耳元ででかい声出すなって!」

 

「なんなんだはこっちの台詞です!

 なんであなた、こんなところで寝てるんですか!?」

 

「こんなところって――あれ」

 

 ふと周りを見れば、ここは昨日囲っていたテーブル。

 つまりここは自分の部屋でなく、店の食堂であった。

 

(……そういえば)

 

 昨日はあのままアルコールを入れてしまい、夜更けまでのどんちゃん騒ぎに発展したのだ。

 

(俺はそのままここで寝ちまってたわけか)

 

 状況を認識する。

 そりゃ怒鳴られるのも無理はない。

 

「いや、悪かったよ、イルマ」

 

 目の前の女の子――やかましい声で自分を起こした女の子に軽く謝った。

 

 彼女はイルマ。

 この蒼の鱗亭を営む夫婦の一人娘で、この店の看板娘でもある。

 ジャン達がこの街に来てから、何かと世話になっていた。

 

 イルマは、栗色の髪をストレートのおさげにした、かなり童顔な女の子だ。

 実際年齢はジャンより下なので、なおさら幼く見える。

 外見だけなら少女と呼んでも違和感がなかった。

 

(……まあ、でも出るとこは出てるけどな)

 

 ジャンはチラっとイルマの身体へ目をやった。

 

 少し野暮ったい感じの長いスカートにエプロンを纏った姿は、お世辞にもお洒落とはいい難いが。

 胸部分の膨らみは、彼女が十分成長した女性なのだということを主張していた。

 

 そんな不躾なジャンの視線に気付いているのかいないのか、イルマはジャンをジト目で睨みながら告げてくる。

 

「本当に反省してますー?

 まあいいです、ともかくこれから掃除しますんで、そこをどいてください」

 

「はいはい……っとそういえば、会計は?」

 

「とっくにお仲間さんが払いおえてますよ!」

 

「ああ、そうだったのか。

 あとでコナーに渡しておかないとな」

 

 言いながら席を立ち、テーブルの片付けを始める。

 

「……なんです?

 別にあたしがやりますから、ジャンは部屋帰ってていいんですよ?」

 

「流石にここまで散らかしたままじゃ悪いだろうが。

 ほら、ここは俺がやっておくから、他の掃除しとけよ」

 

「――む、むむう、露骨な点数稼ぎときましたか。

 ま、まあ、あたしを落とすにはまだまだポイントが足りませんけどね!」

 

「そんなんじゃねぇってば」

 

 確かに外見は可愛いが、ちょっと顔が幼過ぎる。

 ジャンの好みからは若干外れているような気がした。

 ……ここでイルマの顔が少し赤くなっていることにまるで気付かない辺りが、ジャンの童貞たる所以と言える。

 

(エレナといい、変わってる女が多いよなぁ、俺の周りって)

 

 女の機微を察せない自分を棚に置いて、心でため息を吐く。

 

 その後も何か言ってくるイルマを適当にいなし、ジャンはテーブルの片付けを終えた。

 余力が残っていたので、他のテーブルの掃除もついでにしてしまったが。

 

「うん、完了だな」

 

「なんだかんだと手伝わせてしまいましたね」

 

「イルマには色々迷惑かけてるからな、別に気にすんな」

 

「――言われてみれば確かにそうです。

 これくらいやって貰って当然ですか」

 

「……やっぱり少しは有難がれ」

 

 すました顔の少女に一言吐き捨ててから、ジャンは部屋に戻った。

 

 

 

 ――いや、戻ろうとした。

 

(……今の、色っぽい声が聞こえたような)

 

 宿の廊下を歩いていたジャンの耳に、女性の声――しかも喘ぎ声が聞こえてきたのである。

 

 「…………あっ…………ああっ…………」

 

(確かに聞こえるっ!)

 

 再度耳に入ってくる声に、ジャンは確信を深める。

 

(……急いでいるわけでも無いし)

 

 きょろきょろ周りを見回し、挙動不審になりながらも声が聞こえてきた方向へ歩き出す。

 いかに童貞とはいえ……いや、童貞だからこそ、ジャンは自分の欲望に逆らえなかった。

 

(確かこっちの方から――って!?)

 

 かすかに聞こえてくる音を頼りに部屋を探すと、

 

「……コナーの部屋じゃん」

 

 自分の相棒である、コナーが借りている部屋へと辿り着いてしまった。

 

(か、確認しねぇと)

 

 ジャンは静かに扉へ忍び寄ると、耳を傾ける。

 中からは――

 

 「あっあっあっあっあっ!

  あ、あぁぁあああああああっ!!」

 

 ――確かに、女性の声が聞こえた。

 

(マジかよ。

 コナーのやつこんな朝から女を連れ込んで――)

 

 ……いや。

 朝から、では無いのかもしれない。

 ひょっとしたら、昨日の夜から。

 自分がテーブルで寝込んでしまってから、こうしているのでは――

 

(……この声、マリーに似てる?)

 

 事実を確認せねばなるまい。

 ジャンは改めて周囲に人の気配がないことを確認すると、扉の鍵穴からそっと中を覗き込んだ。

 

(く、穴が小さくて見えづれぇ!)

 

 それでもどうにか部屋の中を確認することができた。

 中では裸になった男と女がベットの上で交わっている。

 女が上になり、騎上位の姿勢となっていて――

 

(確かに、マリーだ……)

 

 ――その体勢故に、女性の確認は容易であった。

 あの気の強いマリーが――昨夜はジャンを散々からかって遊んでいたマリーが、男の上であられもない姿を晒していた。

 

(き、綺麗な身体してやがんな……)

 

 鍵穴からは、彼女の上半身もよく見えた。

 服の上からでも想像できた通りマリーの胸は控えめで、しかし形の良いおっぱいをしていた。

 

 「あっ! あっ! あっ! すごっ!

  あ、あ、あ、あ、あああっ!! 激しいっ!!」

 

 下から突き上げられる度にマリーは淫猥な喘ぎを漏らし、その胸を揺らしている。

 顔はいやらしく蕩けており、この“行為”を彼女が心底悦んでいることが分かる。

 

(そうなんじゃないかと薄々思っちゃいたが……いざ現場を見ちまうとなんだか複雑な気分だ)

 

 女性の裸を見れて嬉しさを感じる一方、見知った人物同士の濡れ場に対してどう反応すればいいか分からないという感情もある。

 マリーは前々からコナーにモーションをかけていたのは知っていたので、受けた衝撃はそれ程でもないのだが。

 

(……ちょっと置いてけぼりにされた感もある)

 

 この様子を見るに、これが初めての逢瀬というわけでもあるまい。

 自分は未体験のお子様だというのに、コナーは何度もマリーと何度もセックスを重ね、大人の階段を駆け上がっていたわけか。

 

 「あっ! あっ! ああっ! ほんと、凄いっ!

  あんた、Eランクの癖に――あぁああっ!

  ちんこは、こんなにおっきいなんてっ! あっあっあっあっああっ!

  もっと! もっと突いてぇっ! あぁぁああああっ!!」

 

 マリーが淫らに腰を動かし、さらなる責めを懇願している。

 それに男の方が応えたのか、彼女の肢体が上下に大きく動かされ始めた。

 

 「ああ、あぁぁああああっ!!

  最高っ! あんた、最高よっ! ああっ! ああっ! あぁあああああんっ!!」

 

 長い髪を振り乱し、快楽に耽っているマリー。

 

(……こ、コナーのちんこ、そんなにでかいのか!

 あいつ、こんなに手慣れてやがんのか!)

 

 マリーをいい様に弄んでいるコナーを見て、彼への劣等感を味わうジャン。

 だというのに股間はこの痴情を見て反応してしまっている。

 それがまた、さらに惨めな気分にさせた。

 

(……エレナとクロダさんもこういうことやってんのかな)

 

 ふと、自分の妹分について考えてみる。

 恋人同士なのだから、当然そういうこともしているかもしれないが――

 

(エレナは“耳年増”だし、クロダさんはなんか奥手っぽいからな。

 案外、まだキスもしてなかったりして)

 

 彼らについて、ちょっと失礼な想像をしてみたりもする。

 そんな時、ジャンの耳がまた新たな音を察した。

 

(――足音!?)

 

 廊下の向こうから誰かが歩いてくる。

 ジャンは素早く、かつ静かに身を動かし、適当な物陰に身を隠す。

 <盗賊>としての経験が、こんなところで活きてきた。

 

(あれは……シフォンか!)

 

 寝間着姿のシフォンが――若干着崩れた衣服が実に艶めかしかった――そこに居た。

 彼女はにこにこと笑いながら、コナーの部屋の前に立つ。

 

(おおいっ! まさか彼女もコナー狙いかよっ!)

 

 一瞬、ジャンの胸の内で葛藤が起こる。

 先程まで見ていた通り、今部屋の中では情事の真っ最中。

 そこへ別の女性が入っていけば――どんなことが起こるか、想像できない程ジャンは初心ではなかった。

 

(友人としてフォローに回るか――?)

 

 コナーを助けるのは簡単だ。

 ここでシフォンに話しかけ、食堂にでも連れて行ってしばらく時間を稼いでやればいい。

 しかし――

 

(……そこまでやってやるのも癪だな)

 

 現在進行形で“いい思い”をしているコナーへの嫉妬が、友情に勝った。

 ジャンは静かに事の進展を見守ることにする。

 

 シフォンは軽くドアをノックすると、

 

「コナーさん、入りますよぉ」

 

 扉をくぐっていった。

 

(って鍵かけてなかったのかよ、あいつ!!)

 

 別のところに驚愕するジャン。

 いくら何でも警戒心が足りなすぎるのではないだろうか。

 

(これは痛い目にあっても仕方ねぇよなぁ)

 

 コナーの不備を責め、自分の行為を正当化する。

 彼が胸中でそんなことを考えているうちにも、変化はあったようで。

 

 「――ひっ!?」

 

 中からシフォンの叫びが聞こえる。

 続いて部屋が騒々しくなっていった。

 

(――ふっ。

 コナー……グッドラック!)

 

 心で軽くコナーへの祈りを捧げながら、これから起きるであろう修羅場に期待する。

 ……だが、事態はジャンの斜め上へと発展していった。

 

 「ああっ! あっ! あああっ!

  気持ち、いいですぅっ! あぁぁぁああああっ!!」

 

 部屋から、シフォンの喘ぎ声まで聞こえてきたのだ。

 

(うそぉっ!?

 3P!? 3Pなのか!?)

 

 女の同士の戦いとか、2人になじられるコナーとかの図を予想していたジャンは、心底度肝を抜かれた。

 

(コナー……お前は、そこまで……)

 

 親友の兵っぷりに、ジャンはがっくりと項垂れる。

 彼の完敗だった。

 

 拭いようもない敗北感を胸に、ジャンはとぼとぼとその場を後にした。

 

 

 

 部屋に帰って一人で悶々とするのにも耐えられず、ジャンは結局食堂へと取って返していた。

 

「おや、どうしました、ジャン。

 ずいぶんと暇そうですね」

 

「ほっとけ」

 

 テーブルに座ってなんとなく時間を過ごしていると、イルマが話しかけてきた。

 

「そんなに暇なら、少しあたしの仕事を手伝ってくれませんか」

 

「さっき手伝ったじゃないか」

 

「またやってくれても罰はあたらないでしょう。

 お礼に、昼をごちそうしてあげますから」

 

「……まあ、それなら」

 

 今日は特に予定が入っていないので、手伝いをするのに吝かではなかった。

 ――正確には午後から冒険者ギルドでちょっとした雑用を命じられているのだが、ともかく、今は暇だった。

 それに、宿で引きこもっているよりは外を出歩いた方が気晴らしにもなるだろう。

 

「良かったです。

 それじゃあ、市場へ買い物してきてください。

 勝って欲しい品はここにメモしてあります」

 

「わかったよ」

 

 イルマから購入品リストが記入された紙を渡され、ジャンは宿を出発した。

 

 

 

 

 

 

■午前中

 

 

 

「相変わらず混んでんな、ここ」

 

 愚痴を零しながら、ジャンは人並みをかき分けて行った。

 ここはウィンガストの街唯一の市場。

 街の内外から集まる様々な商品を求めて、毎日多くの人が集まる場所である。

 

(……にしたって集まりすぎだろ)

 

 毒づくものの、それで混雑が解消されるわけでもない。

 ほうほうの体で店を巡り、イルマに頼まれた材料を購入していく。

 

(昼を奢られるだけで引き受けたのは失敗だったかも)

 

 後悔するが、それこそ後の祭りだ。

 

「あと1つ、頑張るかぁ……」

 

 ぼやいてから、目的の店に向けて足を進める――のだが。

 

(多い!

 人、多いぞ、ここ!!)

 

 前に行きたくてもなかなか進めない。

 どうも、市場でも特に混雑したエリアを抜けねばならないらしい。

 

(なんだってんだぁ!

 つか、本当にこんなとこで商売とかできてんの!?)

 

 気になって周囲を見渡す。

 すると恐ろしいことにこんな人ごみの中、商品のやり取りをしているのが目に入った。

 商売人の商魂逞しさを見せつけられた気分だ。

 

(――んん?)

 

 それともう一つ、ジャンの目に飛び込んできたモノがあった。

 

(ひょっとしてアレ、尻触られてないか?)

 

 人が密集する中でチラリと見えたのは、ある女性がどこぞから伸びた手に尻を触られている光景。

 つまり、痴漢現場である。

 

(……確かに触られているように見える)

 

 ジャンはどうにか行きかう人の流れに逆らいつつ、その“現場”に近づいていった。

 

(――やっぱり!

 痴漢だ!!)

 

 中年の男が、ちょうど彼の前にいる黒いドレスを着た女性の肢体を触っているのを、しっかりと捉えることができた。

 しかもこの女性、凄い美人で――

 

(え、この人確か……ローラさん?)

 

 ジャンも何度か面識のある人物だったのだ。

 今痴漢されている女性は、マジックアイテムを専門で取り扱っている店の店主である、ローラという女性。

 エレナの買い物に付き合わされて、ジャンも何度か店に足を運んだことがある。

 

 いつも着ている特徴的な黒いドレス、柔らかく流れる長い黒髪、そして何よりあの美貌。

 間違いようが無かった。

 

(マジか。

 ローラさんが痴漢されてるとこに出くわすなんて)

 

 すぐ助けるべきだが、人が多くてうまく身動き取れない。

 それはローラも同じようで、この人の流れの中、痴漢を振りほどけないでいるようだ。

 そうこうしている内にも、彼女の後ろに立つ中年の男は、ローラの肢体を好き放題触っていき――

 

「……んっ……あんっ……」

 

 ――彼女の口から、僅かに喘ぎが漏れた。

 

(うぉおおおお、色っぺぇええっ!!)

 

 思わず目を見開いてしまう。

 よく見れば、ローラの顔はほのかに上気していた。

 男の手が動く度に小さく身を捩る様は、このうえなくエロチックで。

 ジャンはローラの痴態から目が離せなくなった。

 

「……んんっ……ん、ふっ……あっ……」

 

 聞こえてくるローラの嬌声。

 彼女が抵抗しないのをいいことに、痴漢男はさらに大胆に肢体を弄り出した。

 

(こ、これ、ローラさんも感じてるってことだよな)

 

 ローラの顔は嫌がっているというより、快感をなんとか我慢している――という風に見える。

 ジャンがそう思い込んでいるだけかもしれないが。

 

「……ふぁっ……あぅっ……あ、あぁ……」

 

 男の手がローラの胸にも伸びる。

 おっぱいを触られだすと、彼女の全身がびくっと震えた。

 

「――ん、んんんっ――んんぅっ――んぁ、あぅぅ――」

 

 人差し指を口で咥えて、ローラは身悶えしだした。

 声が出てしまうのを、必死で堪えているようだ。

 

(感じてる!

 彼女、感じてるぞ!?)

 

 ローラに釘付けになるジャン。

 彼の頭からは、もう痴漢からローラを助けるという選択肢はなくなっていた。

 

 痴漢はさらに気を良くしたのか、今度はローラのスカートを捲りだした。

 ジャンの目に、彼女の下着と、それに包まれた大きな尻が映し出される。

 

(うぉおおおっ!!

 黒っ!! 黒の下着!! 尻っ! でかいっ! エロいっ!!)

 

 ジャンの頭はパニックを起こしていた。

 一方で男は無造作にローラの尻を鷲掴みにすると、下着の上から彼女の恥部を擦りだす。

 

「――あっ!――ん、んんっ!――あんっ!――」

 

 ローラの喘ぎが大きくなる。

 これまでは周りの雑音にかき消され気味であったが、今は明確に彼女の声が聞こえた。

 

(ば、バレるだろ、これ)

 

 そんなジャンの心配をよそに、痴漢男はローラを責め続ける。

 右手で彼女の胸を揉み、左手で股の間を弄り。

 

「――あ、あっ!――は、あぁぁ――んん、ああぁっ!――」

 

 ローラの表情も変わっていった。

 目を閉じ、口元を蕩けさせている。

 男に触られるのを我慢しているというより、男の責めによる快楽を味わっている顔だ。

 

「――ああっ!――あぁあんっ!――あっあっ!――」

 

 痴漢が手を激しく動かすと、ローラの嬌声はより顕著になる。

 もう、いつ周囲に気付かれてもおかしくない程、彼女は喘いでいた。

 

(あわわわ……すげぇ、これすげぇ!)

 

 ジャンは瞬きせず、ローラの肢体を――露わになったお尻や、揉み解されているおっぱいを目に焼き付けようとしていた。

 痴漢男はというと、ラストスパートとばかりに、腕を、手を、指を、我武者羅に動かし彼女を責め立てる。

 

「――あっあっあっ!――ああっあああっ!――あ、あぁぁああああああっ!!」

 

 一際大きい喘ぎ声をあげた後、ローラは力が抜けたように呆然とそこへ立ち尽くす。

 彼女に痴漢していた中年男が後ろから支えてやらなければ、その場に倒れていたかもしれない。

 

(い、イっちゃったのか!

 イっちゃったんだな!?)

 

 彼女の痴態に、ジャンは色々なところを興奮させていた。

 

(で、でも、イっちゃったってことはここで終わりかな)

 

 少し残念にも感じる。

 ところが――それが、自分の浅はかな考えだったと気づくのにそう大した時間はかからなかった。

 痴漢男がズボンを脱ぎ、自分の性器を取り出したからだ。

 同時に、ローラの下着をずらしだしていた。

 

(うぇえええっ!?

 おい、まさかまさか、ここでヤっちゃうのか!?

 ダメだろうっ! いくらなんでもそれはダメだろうっ!!)

 

 そう思いつつも、ジャンの身体は動かない。

 一人の女性が犯されるのを阻止しなければ、という義憤より、その光景を見てみたいという欲望が彼を支配していたからだ。

 

「……あっ……ああっ……」

 

 ローラの方も、男がナニをしようとしているのか気付いたのだろう。

 身体を強張らせるが……しかし、彼女もまた動こうとしない。

 

(あ、ああ、ヤられる……ローラさんが、あんなおっさんに犯されちまう!)

 

 痴漢のイチモツが、ローラの太ももに擦り付けられた。

 男根はそのまま太ももを這いあがり、彼女の一番大切な場所へと近づいていく。

 

「……ひっ……あ、あぅ……」

 

 もうすぐそこにまで男の剛直が来ているというのに。

 それでも、ローラは何もできないでいた。

 

「……あ、ああ……ああ……」

 

 とうとう、男性器がローラの膣口に到着した。

 痴漢男はニヤリと顔を歪ませると、彼女の中に自身を埋めようとする。

 ……しかし。

 

「……や、止めて下さい!!」

 

 ローラの大きな声が、その行動を遮った。

 

「――え?」

 

 痴漢が、なんとも間抜けな顔をする。

 まるで、“ローラがそうすることをまるで予測していなかった”ような顔だ。

 

 「急にでかい声聞こえたぞ?」

 「なんだなんだ?」

 「どうした、何かあったのか?」

 

 途端に周囲が騒めき出す。

 そんな彼らに向かって、

 

「こ、この人、痴漢ですっ!

 私を触ってきました!!」

 

 ローラは自分を弄ってきた男を指さしながら、そう言い放った。

 

 「「なにぃっ!?」」

 

 途端にいきり立つ周囲の人々(特に男性)

 次々と痴漢男へ殺到すると、あっという間に彼を取り囲んだ。

 

「ま、待て! 待ってくれ!

 こんな、こんなはずじゃ――」

 

 意味の分からない痴漢の弁解を聞き入れる者など存在せず。

 

「こんなべっぴんさんに手をだすたぁ、ふてぇ野郎だっ!」

「すぐ衛兵に突き出してやるからな、覚悟しろよ!」

「俺らが味わった苦しみをお前にも味合わせてやる!!!」

「二度と日の目が見れると思うんじゃねぇぞっ!!!」

 

「ひ、ひぃいいいいっ!!」

 

 情けない声を上げながら、痴漢男は引っ立てられていった。

 

(バカな奴だなぁ。

 あんなことすりゃ、こうなるのは目に見えていただろうに。

 まさかローラさんが最後まで抵抗しないとでも考えてたのか?)

 

 いくら何でもそれは世の中を甘く見過ぎである。

 自分とて見ていただけだったことを横に置いて、ジャンは男達に引きずられていく中年へと憐れみの眼差しを向けた。

 

(……あとで、ローラさんとこで何か買っておくか。

 せめてもの詫びに)

 

 そう心に決めたところで、ジャンは買い物を完了させるべく、その場所を後にした。

 

 

 

 第十八話②へ続く



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②! 夕方までのお話

■お昼

 

 

 

「んん、美味いっ!」

 

 買い物が終わり、蒼の鱗亭へと戻ってきたジャンは、早速昼飯を食べていた。

 イルマの作った特製料理である。

 

「お前、なんだかんだで料理上手だよなぁ」

 

 素直にイルマの腕を褒める。

 

 普段、この店の料理はイルマの両親が作っており、イルマが調理を担当することは稀である。

 ただ、贔屓目が入っているかもしれないが、彼女の料理は両親のそれと比べてもなお美味しいように感じた。

 

「…………」

 

 だが、言われた彼女は上の空。

 同じテーブルに居るというのにジャンの方を見ず、ただぼうっとしている。

 

「どうした、イルマ?」

 

「……え?

 なんです?」

 

「いや、ずっと上の空だったから何かあったのかと思ってさ」

 

「い、いえいえいえ、何でもないですよ、何でもないです。

 それよりジャン、私の料理はどうです? 美味しいでしょう?」

 

「いや、ついさっきお前の料理美味しいって褒めてたんだが」

 

「……そ、そうでしたか」

 

 バツが悪そうに、しゅんとなるイルマ。

 その姿を見て何故か罪悪感を感じたジャンは、再度料理への感想を述べた。

 

「まあ、お世辞抜きで本気に美味いよ。

 これなら毎日でも食べたいくらいだ」

 

「うぇっ!?

 ま、毎日ってそんな!?

 いきなり口説き出さないでくれます!?」

 

「く、口説いてねぇよ!!」

 

 指摘されてみれば、今のはそう受け取られても仕方ない台詞だった。

 そのことに気付き、ジャンはしどろもどろになる。

 

 ……しどろもどろになってしまったので、イルマが満更でもなさそうな顔をしていることに彼は気付かない。

 

「あーもう、いい加減にして欲しいですね」

 

「わ、悪かったって」

 

 自分が責められることに釈然としないものの、とりあえず頭を下げるジャン。

 そんな彼を見たイルマは溜飲が下がったのか一度落ち着き、

 

「……あー、ところでジャン、今日ってこの後空いてますか?」

 

 急に話題を変えてきた。

 

「ん? えーと、昼過ぎにちょっとギルド行く用事があるけど、そんだけだな」

 

「そ、それでは、夕飯の手伝いもして下さいよ!

 また、私の料理ごちそうしますから!」

 

 身を乗り出すほどの勢いで、ジャンにまた宿の手伝いを要請してくる。

 

「えー?」

 

「なんですか、その不満そうな顔は!

 私の料理が食べたくないって言うんですか!?」

 

 顔をしかめるジャンだが、イルマは意に介さない。

 

(そんなに忙しいのか、この宿?)

 

 いつもと客数はそう変わらないし、敢えて自分が手伝わなければならないほど繁忙しているようにも見えない。

 断るのは簡単だが――ジャンが暇であることは、揺るがしようが無い事実でもあった。

 

「食べたいか食べたくないかで言えば、まあ、食べたいけどさ。

 ……分かった分かった、手伝うよ」

 

 渋々と手伝うことを承諾する。

 イルマはぱぁっと顔を輝かせ、

 

「素直に最初からそう言えばいいんです!

 じゃ、夕方待ってますよ!

 約束、守って下さいね!」

 

 喜色満面という笑顔で、そう告げてきた。

 

(うっ! か、可愛いな、おい)

 

 そんな彼女の笑みに一瞬ドキっと心が揺さぶられたジャンだが。

 

「分かったっていっただろ!

 いちいちそんな念押しすんなよ!」

 

 その動揺を気取られないように、敢えてぶっきらぼうな口調で返事をするのだった。

 ……とことん、素直になれない男である。

 

 

 

 

 

 

 ■お昼過ぎ

 

 

 

 ここは冒険者ギルド。

 雑用(ちょっとした荷物の運搬だった)をこなしたジャンは今……

 

「おいおい、聞いてんのかぁ、ジャン君よぉ?」

 

 ……面倒な奴に絡まれているのだった。

 

「あー、はいはい、聞いてますよ、三下さん」

 

「……あれ、今お前、あっしのことを三下とか呼んだ?

 呼んじゃったのか、おい!?」

 

「そんなこと無いですよ、三下さん」

 

「ほら呼んだぁっ!?

 確かに呼んだよねっ!

 今、あっしのことを、尊敬すべき冒険者の先達たるあっしのことを、三下とか言ったよね!?」

 

「うっせぇよ、三下」

 

「“さん”付すら抜けたぁっ!!!」

 

 目の前で喧しく吠えているのは、サンという冒険者。

 チンピラめいた外見に、小物臭い言動をする、<盗賊>の男である。

 こんなんでも、ジャンより遥か格上であるBランク冒険者なのだ。

 

(納得いかねぇけどな)

 

 相手に気取られないよう、心で吐き捨てる。

 こんなふざけた男が自分よりも実力のあるとは、俄かに信じられないのだ。

 

「だぁかぁらぁよぉ!

 お前はたらたらし過ぎなだっつーの!

 <盗賊>やってるくせに注意力がねぇっつーか!

 あっしら<盗賊>はパーティーで一番クールじゃなくちゃいけないんだぜ、くぅ~~るに!!

 これは親切で言ってやってるんですよ?」

 

「余計なお世話って単語知らないんですかね」

 

「やだこの子!

 口調は丁寧でも言葉が辛辣!!

 どういう風に育てられたらこんな子になっちゃうのかしら!?」

 

 ショックを受けて泣き崩れるような“フリ”をする三下。

 うざい。

 本気でうざい。

 

(こっちは敬語で接してやってんだから、文句言うなよ、ったく!)

 

 抑えきれないイライラがジャンから湧き出てくる。

 

「お前はほんと、冒険者になった頃から変わってないなぁっ!?

 あっし、懐かしさで涙がこみ上げてきちまうぜ!

 でも変わらな過ぎて成長もしてないってーのはどうなのよ!?」

 

「……レベルアップはしてるっすよ、これでも」

 

「上がってるのレベルだけジャーン!

 探索への姿勢とか心構えとか、初心者のままジャーン!!

 だから未だにDランクにも上がれて無いんジャン?」

 

「あー、はいはい、すいませんすいません」

 

 適当に頭を下げて聞き流す。

 

 三下との邂逅は、まだジャンが冒険者になったばかりの頃に遡る。

 ちょっとした失敗から迷宮探索中に仲間からはぐれ四苦八苦していた彼を、偶々そこへ通りすがったこの三下っぽい冒険者が助けてくれたのだ。

 その時は心から感謝もしたものだが……それから顔を合わすたびに付き纏われ、いい加減嫌気がさしてきていた。

 

 ……もっとも。

 冷静に聞けばこの三下の指摘は核心を突いてもいるのだが。

 そのことをジャンが理解するには、まだ時間がかかりそうだ。

 

「そんなんだから今日もあっしにあっさり財布すられるんだよぉ?

 あっしは親切だから返してあげるけど、普通はこのままパクられちゃうんだよぉ?」

 

「親切な人なら、そもそも財布すったりしませんけどね。

 衛兵呼びましょうか?」

 

「か、かかかか、返したんだから泥棒じゃないもん!!

 あっしはお前を諭すために敢えて泥を被ったっていうのに、もうジャン君ったら!!

 感謝の印に女の一人や二人紹介してくれてもいいってもんだぜぇ?

 聞いたところによると、お前のパーティーに結構可愛い子いるって話じゃねぇか!!」

 

「絶対いやっす」

 

 この三下、これ程小物臭い言動のくせして女癖は悪いと聞く。

 婦女暴行で衛兵に捕まったこともあるという噂だ。

 そんな奴に、エレナを紹介することなどできるわけが無かった。

 

「あぁあん!? 嫌だぁっ!?

 あっしの提案をさくっと拒否しやがったかてめぇ!!

 いいじゃねぇかよぉ、ちょっとお互い気持ち良くなるだけなんだからさぁ!

 減るもんじゃねぇし、ちゃんと避妊もするからぁ!」

 

 「――サン」

 

「……あん?」

 

 突然、後ろから声をかけられて三下の動きが止まった。

 

「あ、ミーシャさん、ちわっす」

 

「うん、こんにちは、ジャン君」

 

 三下の後ろにいる人物へ、ジャンは挨拶する。

 そこには、ミーシャという名の女冒険者が立っていた。

 

「……み、ミーシャさん、いつからそちらに?」

 

「君が、女を紹介しろって言ってたところからだよ?」

 

「あ、ああ、そうでしたかー」

 

 三下の顔を一瞬で強張る。

 

「あの、違うんでやんすよ?

 あっしはあくまでお礼の一例としてそういうのを挙げただけでして」

 

「ふぅん?」

 

「ホント、マジで。

 あっしはミーシャさん一筋だから!

 ちょっと他の子に手を出したりすることもあるけど、最終的にはミーシャさんにとこに帰ってくるから!!」

 

(手を出すことは否定しないんかいっ!)

 

 心の声で突っ込みを入れた。

 

 ジャンは改めて女冒険者ミーシャの姿をちらりと見る。

 歳の頃は知らないが、女性としても大分小柄。

 身体の凹凸は少ないものの、整った容貌をした美少女だ。

 銀色の髪を短く揃えていることもあって、中性的な魅力がある。

 

(なんでこんな子があんな三下とパーティー組んでるんだか)

 

 このミーシャ、三下とパーティーを組んでいるらしい。

 先に述べた通り、三下はこれでも凄腕の<盗賊>なので、それが理由なのだとは思うが。

 

 ミーシャは三下の台詞を聞いて、長くため息を吐く。

 

「はぁ……どうでもいいから早く用事を済ませようよ。

 僕は夕方から予定が入ってるって言ったよね?」

 

「え、そうでしたっけ!?

 じゃあ、あっしと一緒にディナーに行く約束は!?」

 

「それはまた今度だね」

 

 ばっさりと切り捨てるミーシャ。

 しかし三下は一切へこたれる素振りを見せず。

 

「今度!? 今度って言ったね、今!!

 じゃあ、次の休みにはあっしに付き合ってくれると!?」

 

「はいはい、わかったわかった。

 だから早く用事を片付けようね」

 

「うぉおおおおっ! よっしゃああっ!!

 言質取ったかんな!!

 もう絶対忘れないかんな!?」

 

「恥ずかしいから大声を出さないで。

 ほら、行くよ」

 

「あいあいさー!

 じゃあな、あばよぉ、ジャン!!」

 

 最後に自分の方へ手を振ると、三下はミーシャと共に去っていった。

 その後姿を呆然と見送るジャン。

 彼が気になったのは、三下ではなんくミーシャの方だ。

 

(……ミーシャさん、最後の方少し照れてた、よな)

 

 ディナーの下りで、ミーシャは少し顔を赤らめ――嬉しそうな表情をしていた。

 それはジャンの勘違いであるかもしれないが、しかし少なくとも“迷惑そうな顔”“嫌そうな顔”はしていなかった。

 

(ま、マジか……)

 

 ひょっとしてあの2人、付き合っているのかもしれない。

 そうでなくとも遠くないうちに恋人同士になってしまいそうな雰囲気が漂っていた。

 

(うあぁぁぁ……)

 

 今朝のコナーの件といい、ジャンは男としての自信を喪失しかけていた。

 何故彼らには相手ができて、自分にはできないのか。

 

(俺に何が足りないってんだよ……)

 

 がっくりと肩を下げるジャン。

 だがまさにその時、彼に声をかけてくる人影が現れた。

 

「あれ、ジャンじゃないか。

 どうしたんだよ、こんなとこで」

 

「ん? お、おおっ!」

 

 ――声をかけてきた人物。

 それは、以前にクロダから紹介された<訪問者>室坂陽葵だった。

 

 

 

 

 

 

 ■夕方の手前

 

 

 

 場所は変わって、再び“蒼の鱗亭”。

 

「ええっ!!

 手伝い、できなくなっちゃったんですか!?」

 

「すまん!

 どうしても外せない用事が入っちまったんだ!」

 

 驚くイルマへ、ジャンは平謝りした。

 夕飯を手伝うという彼女との約束が、果たせなくなってしまったからだ。

 

「……どうしても外せない用事なんです?」

 

「お、おう。

 こればっかりは、ちょっとな。

 本当にすまん」

 

 上目遣いで悲しそうにこちらを見るイルマに心がズキズキと痛むが、それでもジャンは意思を変えなかった。

 とはいえ――

 

「……うぅぅ」

 

 ――どんどん陰っていくイルマの表情を見ると、その決心も揺らいでいくのだが。

 

(た、たかが夕飯の手伝いで、そこまで哀しまなくたっていいだろ……)

 

 チクチクと罪悪感が刺激されていく。

 ジャンはそれに耐えきれず、

 

「そ、そんなわけなんで、俺はもう行くぞ!

 今度は――いや、明日は絶対手伝うからさ!

 じゃあ、そういうことで!」

 

 話を適当に切り上げると、ジャンは宿を飛び出して行ってしまった。

 ……あとに残されたイルマは、小さな声でそっと呟く。

 

 「……これが最後かもしれないのに。

 ジャンのバカ」

 

 そんな彼女の声は、もう彼には届かない。

 

 

 

 

 

 

 ■夕方

 

 

 

 勢いで宿を出てしまったものの、待ち合わせの時間にはまだ大分早かった。

 本当なら宿でもう少し時間を潰すつもりだったのだが。

 

(イルマのあんな姿見ちまったら、宿にはいられねぇっつうの)

 

 彼女が明日まで引きずらなければいいのだが。

 

 それはそれとして、ジャンは余った時間を使って少し早い夕飯を取ることにした。

 待ち合わせ場所の近くで目に入った飲食店――“黒の焔亭”という名の店へ入る。

 

(ふぅん、そんなに大きくは無いけど、結構綺麗にしてる店だな。

 夕飯時からは外れた時間帯なのに人がぼちぼちいるし……有名なところだったのか?)

 

 そういえば、どこかで名前を聞いたような気もする。

 

 まあ何はともあれ適当に空いてる席へ座り、メニューを広げた。

 そこには、幾つかの料理が掲載されているのだが……

 はっきり言って、他の料理店に比べると大分数が少ない。

 

(あー、でもこういう料理の種類が少ない店って美味い場合が多いんだよな)

 

 人の多さを鑑みるに、味には期待できるかもしれない。

 ジャンは注文するメニューを見繕うと、店内を見渡して店員さんを探す。

 

(――――ええっ!!?)

 

 そこで、驚愕の光景を目にした。

 寧ろ店に入ってから今まで、どうしてコレに気付かなかったのか数分前の自分を殴りたいくらいだ。

 そこまでのドリームワールドがそこにあった。

 

(制服っ!

 この店の制服がっ!

 やべぇっ!!!)

 

 ジャンが驚いたのは、この店の店員――ウェイトレスの格好だった。

 おっぱいが上半分見えてしまう程開いた胸元に、まるで隠れていない背中。

 これだけでも生唾モノだというのに、スカートの丈も短い短い。

 彼女がただ歩いているだけで、チラチラと下着が見え隠れしてしまう短さ。

 

(白だ!

 間違いない、白のショーツだ!)

 

 声に出さず喝采を上げるジョン。

 

 しかもその制服を着ているウェイトレスがまた可愛いこと!

 うなじが隠れる程に伸ばした茶髪はさらさらと靡き、顔には快活な笑みを浮かべている。

 とてもではないが、こんなエロい格好をしている女の子とは思えない美少女っぷりだ。

 それにスタイルも良い。

 午前中に見かけたローラさん程ではないが、程よい大きさで全体的に均整の取れたプロポーションはジャンの目を引き付けて止まなかった。

 

(……イルマよりも大きそうだ。

 マリーとは比べ物にならないな)

 

 本人達に聞かれたらボコボコに殴られても文句言えないような比較をしてしまう。

 ついついそんなことを思い浮かべてしまう程、衝撃的な姿だったのだ。

 

 だが、直後にこれはまだ序の口であったことを、ジャンは思い知らされる。

 

(え、えぇぇええええっ!!!)

 

 声にならない絶叫を上げた。

 そのウェイトレスの近くに居た客が、彼女の尻を揉みだしたのだ。

 おかげで、丸くて綺麗な尻がジャンの目にも入ってきた。

 

 そしてウェイトレスの方は、それを拒む様子がまるで無い。

 

(ちょ、ちょっと待って!

 ここ、“そういう店”なのか!?)

 

 しかし、メニューに載っている金額はごく一般的なもの。

 そういう店にありがちな、いやらしいムードもまるでない。

 まさか外に出ると怖いお兄さんが――とも思ったが、それにしては普通に客が出入りしている。

 

 考えているうちに、ウェイトレスの状況が変化していた。

 

(――って、今度は胸っ!!?

 胸揉んじゃってるぞ、おいっ!!)

 

 しかも制服の上から、ではない。

 開けた胸元をさらにずり下げ、完全におっぱいを露出させた上で、それを揉んでいるのだ。

 

 「んんっ!……あ、あぁぁっ!……」

 

 女の子は、嫌がるどころが気持ち良さそうに喘ぎ声を漏らしている。

 

(な、なんなんだここは……!?

 俺はよく分からない異世界にでも飛ばされたのか!?

 貞操観念が逆転した世界っ!?)

 

 混乱のあまり、意味不明な単語が頭に浮かんできたりもしたが。

 何はともあれ、ここは料理店であり、自分は飯を食べにきた以上、注文をしなければならない。

 ウェイトレスが客の責めから解放されたところを見計らい、意を決してジャンは声をかけた。

 

「ちゅ、注文お願いします」

 

「はーい」

 

 拍子抜けする程あっさり、彼女はジャンへと近づいてきた。

 

「注文は何にするの?」

 

「え、えーと」

 

 かなりフランクに話しかけてくる。

 露出過多な制服以外は、まるで普通のウェイトレスのようだ。

 ……その制服が、余りに異質なのだが。

 

「何、まだ迷ってるわけ?」

 

「い、いや、すぐ決める。

 ちょっと待ってくれ!」

 

 頭がパニックになって、頼もうとした料理を本気で度忘れしてしまう。

 何せ、すぐそこにおっぱいがあるのだ。

 ちょっと身を屈めば、下着が見えちゃうのだ。

 その上、ウェイトレスは美人なのだ。

 これで動じるなという方が難しい。

 

(…………ちょっとだけなら、やれる、かな)

 

 同時に、ジャンの胸に助平心も湧き上がってきた。

 他の客が全然問題なく触っていたのだ、自分だって触っていいはず。

 彼はそう考え――メニュー表を見るふりをしながら、そっと手をウェイトレスの尻へと伸ばした。

 

(――や、柔らけぇ!)

 

 ジャンの掌に、なんとも柔らかい感触が伝わってくる。

 

「……んっ」

 

 女の子の口から小さく息が漏れた。

 ……ただ、それだけだ。

 手を振り払われることも、怒られることも、睨まれることすらない。

 

(い、いいのか!

 このまま触ってていいのか!)

 

 ジャンは手を動かし、今度は尻を揉んでみた。

 尻に食い込んだジャンの手を、尻肉が押し返してくる。

 柔らかいだけでなくハリもある媚肉だった。

 

「……あっ……んんっ」

 

 ウェイトレスの息に、甘い色が混じる。

 

(感じてんのか?

 俺の手で、気持ち良くなってきてんのか、この子!?)

 

 調子に乗って、ジャンは彼女の尻を揉み続けた。

 今まで味わったことのない感覚が彼を楽しませる。

 

(これか!

 これが女の身体なのか!

 すげぇっ! すげぇっ!!)

 

 世の男が金を払って女を抱く気持ちがよく分かった。

 これは、金を払うに値する感触だ。

 

「はぁぁ……あ、んん……あっ……」

 

 女の子はジャンをまるで妨げない。

 ただ、その責めに喘いでいた。

 

(……こ、こっちもいいってことだよな)

 

 もう片方の手を使い、ウェイトレスの胸元をさらに開けさせる。

 ジャンの目の前で彼女のおっぱいが露わになった。

 

(うぁあ……綺麗だ)

 

 ウェイトレスの胸が描く曲線に、ジャンは感動すら覚えた。

 その先端にある突起も、綺麗な桜色。

 理想的な形状を誇る彼女の乳房は、この上ない色気もまた発している。

 

 鑑賞もそこそこに、ジャンはそれを揉み始めた。

 

(柔らかいっ!

 こっちはもっと柔らかいっ!

 柔らかくて、プルプル震えて、うああ、なんだこれっ!!)

 

 歓喜の感情がジャンの身体を震わせる。

 プニプニと形を変える彼女のおっぱいは、視覚と触覚で彼を昂らせていった。

 

「は、あっ……あぅっ……ん、んんぅっ……あ、あぁっ」

 

 ウェイトレスもまた、目を閉じてジャンの動きを受け入れている。

 上気したその顔は、それだけで男の欲情を掻き立てる。

 

(つ、次は……次は、ここだ!)

 

 尻を揉む手を離し、それをウェイトレスの股の間へ差し入れていく。

 

「……あっ!」

 

 びくっと彼女の肢体が揺れた。

 今までとは違う反応だ。

 

(……濡れてる。

 びちょびちょに濡れてるぞ)

 

 女の子の股間を触った最初の感想はそれだった。

 彼女のアソコは既に蕩けきっていたのだ。

 

(愛液なんだよな、これ)

 

 他の客にも散々弄られていたのだから、こうなっているのも当たり前と言える。

 

「……ごくり」

 

 思わず唾を飲む。

 昂っているせいか、自分が立てたその音はやけに大きく聞こえた。

 ジャンは、股間に当てた手を動かし始める。

 

「あっ!……あっあっ!……んぁああっ!……あぁんっ!」

 

 ウェイトレスの嬌声が大きくなった。

 

(気持ちいいんだ!

 俺の手が、この人を気持ちよくさせてるんだ!)

 

 女を支配する悦びとでもいうのか。

 ジャンは女の子が喘ぐ度に、自分が高揚していくのを感じていた。

 さらに強く、強く、彼女の股間を擦っていく。

 

 ……女を知らない彼は、酷く乱暴にウェイトレスの性器を弄っていた。

 指を無理やり割れ目の中へ押し込んだり、膣口のあちこちに爪を立ててしまったり。

 彼女の陰核を爪で引搔いたりもしてしまった。

 普通の女性であれば、快感よりも痛みを感じてしまったことだろう。

 

「あ、あああっ! あぅっ! あっ! あっ! ああっ! んぁあっ!」

 

 ただ彼にとって幸いだったのは、このウェイトレスが“乱暴にされる”ことを好む性癖を持っていたことだった。

 真っ当な感覚を持っている女にとっては激痛が走るようなジャンの無茶な責めも、この女の子にとっては極上の快楽だったのである。

 

「あっ! あっ! あんっ! あぅっ! あっ! あぁあっ!!」

 

 指で股を擦りあげる度に、ビクンっと痙攣を繰り返すウェイトレス。

 くちゅくちゅと愛液が音を鳴らし、雌の匂いがむんむんと辺りに漂いだす。

 

(どうだっ! どうだっ!

 気持ちいいんだろ!

 もっと気持ち良くなっちまえ!!

 ……へへ、俺もなかなかやるじゃないか!!)

 

 ジャンの責め方が上手いのではなく、単に彼女が淫乱なだけなのだが。

 そのことを彼は最後まで察せないでいた。

 

 そしてついに――

 

「ああっ! ああぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

 

 ――ウェイトレスは大きな嬌声と共に、身体を硬直させる。

 絶頂したのだ。

 

「――あっ――う、あっ――あ、あぁっ――あっ――」

 

 ジャンの座るテーブルへと倒れ込み、女の子は身体を小刻みに震えさせた。

 

(い、イった?

 俺が、彼女をイかせたのか?)

 

 その様子を見ていると、ジャンの中に満足感とでもいうべき感情が溢れてくる。

 一人の雌を屈服させた、雄としての充足。

 

(……別に、コナーや三下が特別なわけじゃねぇ。

 俺だってヤればできるんだ!)

 

 客観的に見れば勘違いであるのだが、それを指摘する人間は誰もいない。

 ジャンはぐったりしているウェイトレスに手を伸ばす。

 

(――まだ、ヤれるよな)

 

 テーブルの上に上半身を横たえている彼女に対し、“責め”を再開した。

 

「う、ああっ……あぅっ!……あ、ああ……あぁぁあああっ!」

 

 女の子が、再び喘ぎ始める。

 周囲の目を気にもせず、ジャンはそのまま彼女を揉み、擦り、弄り続けた。

 

 ……結局ジャンが料理の注文をしたのは、さらに10分程彼女の肢体を味わった後であった。

 

 

 

 三十分ほど時間が経ち。

 

「ほい、勘定」

 

「……うん、きっかりちょうどね」

 

 食事を終えたジャンは、ウェイトレスに支払いをしていた。

 どうやらこの店、キャッシャーは無く各テーブルで会計を行うシステムのようだ。

 

「いやぁ、美味しかったよ!」

 

「そりゃ良かったわ。

 一応うちの店長、腕はいいからね」

 

 ウェイトレス云々関係なく、この店の料理は美味しかった。

 掛け値なしの称賛である。

 それに対してウェイトレスも笑顔で応じてくれる。

 さっきまであんな淫猥な顔をしていたとは思えない、元気で可愛らしい笑みだった。

 

(“当たり”だな、“大当たり”だ、この店!

 料理も美味いし、ウェイトレスさんは可愛いしエロいし!!)

 

 変な割り増し料金を取られないか心配もあったのだが、それも無し。

 つまり“アレ”は、ウェイトレスの無料サービスということか。

 ――もしくは、彼女の趣味なのかもしれない。

 

 ジャンは店を去る前にもう一度ウェイトレスの尻を弄った。

 

「……ん、あぁっ」

 

 彼女が身を小さく捩るのを確認してから、顔を近づけて耳元で囁く。

 

「また、来るからな」

 

「……そ、そう」

 

 ウェイトレスの女の子は、顔をほんのり赤くして頷いてくれた。

 その反応は、ジャンの雄を刺激するものであり。

 

(絶対、絶対来るぞ!

 もう毎日通ってやる!!)

 

 そう意気込んで、彼は店を後にするのだった。

 ……結局、ウェイトレスの名前すら聞けていないわけだけれども。

 

 

 

 第十八話③へ続く



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③! 夜のお話※

■夜

 

 

 日は既に落ち、辺りはもう暗く。

 ウィンガストの街は、街灯に照らされている。

 

 そんな時刻に、細い裏道を歩く二つの影。

 

「……よし、こっちだ」

 

 1人は、ジャン。

 そしてもう1人は――

 

「……おいジャン、本当にあってるんだろうな。

 どんどん灯りから遠ざかってくけど」

 

「大丈夫だって」

 

 “同行者”からの問いかけに、ジャンは軽く手を振りながら答える。

 ――もう1人は、昼にギルドで出遭った少年、室坂陽葵だ。

 

(……少年?)

 

 一瞬、頭に疑問符を浮かべてしまう。

 それもそのはず、陽葵の外見は完璧に美少女なのだから。

 しかも、ただの美少女ではなく――絶世の美少女だ。

 

 ショートカットに切られたブロンズヘアーはサラサラで、彼が動くと流れるように靡く。

 少し切れ長な碧い瞳は美しさと可愛らしさを両立しており、潤った瑞々しい唇は男ならだれでも口づけをしたくなるだろう。

 そしてそんな極上のパーツが完璧な調和をもって彼の顔を形成している。

 

 ……某国の姫だとでも言われれば、誰もが納得するはずだ。

 女神が転生した姿だったとしても、ジャンは信じる。

 

(しかも顔だけじゃねぇんだよな)

 

 陽葵はその肢体も素晴らしかった。

 Tシャツから出る腕――その肌は染み一つなく、きめ細やか。

 ショートパンツからスラリと伸びる脚はすべすべとした柔肌で、女性特有の色気をむんむんと放っている。

 そして何より、きゅっと引き締まった腰のくびれから続く、お尻だ。

 今はパンツに包まれているその尻は、完璧な丸みを描き出し、見る者を魅了してやまない。

 

(無駄肉ついてるって感じは全然ないのに、なんでこんな柔らかそうな身体してんだ?)

 

 ついつい疑問が湧いて出てしまう。

 理想的な筋肉は極上の柔軟さを持つというが、陽葵はまさにそれだ。

 もっとも、彼の身体に男のように筋肉がついた場所など一つも無いのだけれども。

 それ程、陽葵の肢体は女として完璧だった。

 

 ――まあ流石に胸は無いのだが。

 

(……でも、綺麗な乳首だった)

 

 以前の飲み会で見た、陽葵の胸を思い出す。

 膨らみこそ無いものの、彼の胸にある突起は薄い桜色をした実に美しいモノであった。

 美貧乳とでもいうか――あれはあれで、男の欲情を誘ってくれる。

 

(たまんねぇよな、こいつ)

 

 ねっとりとした視線で陽葵を見る。

 ただ見ているだけだというのに、ジャンの股間は既に滾っていた。

 

「……お、ここだぜ、陽葵」

 

「ついたか」

 

 ジャンが目の保養を行いながら歩いていると、程なく目的地に到着した。

 ここは路地の行き止まり。

 前方と左右を壁に囲まれた、正真正銘の袋小路である。

 

 どうして彼らはここに来たのか?

 

「えーと、目の前のこの建物が公衆浴場なんだな?」

 

「ああ、そうだ」

 

 陽葵の確認に、ジャンは頷く。

 そう、目の前にある建物は公衆浴場。

 水道が備えられているウィンガストといえど、自宅に風呂を持つ住人はそう多くない。

 そういう人達のほとんどが、この公衆浴場を利用している。

 この時間帯、この施設は多くの人で賑わっていることだろう。

 

「それで――あるんだろうな、本当に?」

 

「焦るなよ、すぐ見せるさ」

 

 そわそわする陽葵を手で制し、ジャンはその袋小路に無造作に置かれている大量の箱をどかし始めた。

 幾つか動かしたところで、彼の顔が光に照らし出される。

 壁から光が漏れているのだ。

 

「こ、これが――」

 

「ああ。

 女湯の覗き穴だ」

 

 鷹揚に頷きながら、ジャンは告げた。

 ……いや、そんな御大層な代物では決してないのだが。

 

 この“穴”は、ジャンを含めた何人かの馬鹿――もとい“同志”達が共有している、秘密の覗きスポットである。

 いちいち説明の必要すら無いような気もするが、つまりこの壁の向こう側は公衆浴場の女湯であり、この穴からそこが一望できる、とそういうことだ。

 

「こ、これで、女の子の身体が見放題――!?」

 

「そういうことさ」

 

 ジャンはニヒルに笑う。

 格好をつける場面では断じて無い。

 

 中をチラリと覗いてみれば――

 

(おお、いるいる!)

 

 ――至近に見ることはできないものの、そこからは様々な女性の裸が確認できた。

 大きい人、小さい人、ツンとした円錐型、丸いお椀型、様々だ。

 ……まあ、中にはお年寄りもいるが。

 

「み、見てもいいのか」

 

「ああ、いいぞ。

 俺とヒナタの仲じゃないか。

 たんまり見ろ」

 

「――じゃ、じゃあ、遠慮なく」

 

 音を立てないようにジャンに近づくと、そっと穴をのぞき込む陽葵。

 

「うわぁぁ……ほ、本当だ……!」

 

 声が少し震えていた。

 中の光景に、感動を覚えているようだ。

 

 結局のところ、この2人はこの覗きを目的としてこの場に来たのである。

 より正確には、覗きをダシにしてジャンが陽葵を連れ出したのだ。

 ……最初にあった時、ジャンとコナーにアレやコレやされてしまった陽葵は、ジャンに対して距離をとっていたのである。

 それでもほいほい着いてきてしまった辺り――

 

(――こいつも男ってことなんだなぁ)

 

 超絶美少女な外見だというのに、こういう助平心を持っていることに違和感を感じてしまう。

 はっきり言って、浴場に居る女性の誰よりも陽葵は可愛い。

 比べること自体がおこがましいとすら思ってしまう。

 

(こんなのより、鏡の自分の裸見た方がよっぽど興奮するんじゃないか?)

 

 そんなことすら考えてしまう。

 

(まあ、毎日見てると慣れちまうもんなのかね?

 ヒナタの身体なんて、俺はどんだけ見ても飽きる気しねぇけど)

 

 ――などと、十分に“美少女”へカテゴライズされる幼馴染(エレナ)を、“妹分”だからという理由で“そういう対象”として見れていなかった男が独りごちる。

 

「おおー……すげぇっ! すげぇっ!」

 

 一方で陽葵は食い入るように穴の中を見続けていた。

 

(……凄いのはお前だよ)

 

 ジャンは陽葵を――彼の下半身を見つめながらそう思った。

 

 “穴”は中腰ほどの高さにある。

 そんな“穴”を、陽葵は前のめりに屈んで覗き込んでいる。

 すると、陽葵の尻は彼の後ろに立つジャンの方へ突き出される形になるわけで。

 

「うぉおおおー……おぉぉおおおー……」

 

 興奮しているのか、陽葵は無意識に身体を動かしている。

 ショートパンツに覆われた尻が――淫猥さをまるで隠せないでいる尻が、ジャンの目の前でふりふりと揺れていた。

 むちっとした太ももも、その色気をより際立たせている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(た、たまんねぇ)

 

 今すぐこのエロい尻にむしゃぶりつきたい、この尻に自分の剛直を突き入れたい、そんな衝動がジャンを襲う。

 

(ダメだ! まだダメだ!

 もっと逃げられない状況にしてからじゃねぇと!!)

 

 歯を強く噛みしめて、何とかそれを振り払うジャン。

 いや、より確実に実行するために我慢しているだけなので、振り払っているわけでは無いか。

 

「あー、あの人おっぱいおっきいなぁ。

 こっちの人はお尻が……むふふふ」

 

(お前の尻よりエッチな尻なんて、有りはしないだろうけどな!)

 

 左右に動く陽葵の丸い尻を見ながら、つっこみを入れるジャン。

 

(……そろそろ行くか)

 

 そう決心すると、ジャンは後ろから陽葵へと覆いかぶさった。

 陽葵の肢体のしなやかな感触が、ジャンの全身に伝わってきた。

 

「な、何すんだよ!?」

 

「静かにしろって。

 俺だって女湯見たいんだよ。

 いいじゃないか、一緒に鑑賞会と洒落こもうぜ」

 

 驚いて叫び声をあげる陽葵を静め、それっぽい理由を口にする。

 “穴”はそれなりの大きさがあるため、頑張れば2人で覗けなくもない。

 ……ジャンに女湯を見るつもりなど、毛頭なかったが。

 

「で、でもなぁ」

 

「いいだろ、ここを教えたのは俺だぜ?

 男子トークといこうじゃないか」

 

「……む、むぅ。

 まあ、別にいいけどさ」

 

 不満そうではあるものの、一緒に覗くことを陽葵は了承した。

 

(よっしゃ!!)

 

 心の中で喝采を上げるジャン。

 

「……で、どうよ。

 陽葵はどの子が好みなんだ?」

 

「そ、そうだな。

 あの右奥で身体を洗ってる子とか」

 

「ああ、あの茶髪の子?

 確かに、いい身体してるよなぁ」

 

 どことなく、夕方に遭ったウェイトレスに似ている。

 

(陽葵はああいう女が好みなわけか――

 いや、俺も嫌いじゃないけどさ)

 

 今度、黒の焔亭につれていってあのウェイトレスに会わせてあげるのもいいかもしれない。

 勿論、見返りは頂くつもりだが。

 

 そんな未来予想図を思い描きながら、ジャンは股間を陽葵の尻に擦りつけた。

 

「おわっ!?

 お、おいジャン、変なの当たってんぞ!」

 

(当ててんだよ)

 

 胸中で本音を吐露しつつ、ジャンは弁解する。

 

「仕方ないだろ、自然現象だ、自然現象!

 こんな状況で男がおっ勃たないわけがないだろうが」

 

「ま、まあ、そうだけどさ」

 

 陽葵は一応納得したらしい。

 それを確認したジャンは、再び股間で――己のイチモツで陽葵を擦り出す。

 

(うぉおお!

 ヒナタの尻!!

 ヒナタの尻、なんじゃこりゃあ!

 俺のちんこを押し返してくるじゃねぇか!!)

 

 互いに服を着ているのがもどかしいものの、ジャンの肉棒は陽葵の尻の弾力を確かに感じていた。

 固いわけでは無い。

 押せばモノが沈み込む程柔らかいのに、程よい反発も起こるという――柔軟さとハリの良さが同居した感触。

 ただでさえ経験のないジャンには、この心地良さをどう表現すればいいか分からなかった。

 

 そして。

 

「んっ……ふぅっ……」

 

 陽葵の口から、甘い吐息が漏れた。

 

(やっぱりな、思った通りだ)

 

 陽葵が敏感体質であることは、最初の日に確認済みである。

 こうして尻を突いてやれば、感じ始めると思ったのだ。

 

 ジャンはもっと露骨に腰を突き出し始めた。

 

「……んっ……あふっ……ん、くっ……んぅっ……」

 

 陽葵は声を噛み殺しているが、これだけの至近距離では無駄なこと。

 性別を超越した可愛らしい声が醸し出す色気に、ジャンの股間はかつてない程固くなっていった。

 

(挿れてぇ。

 こいつのけつに、俺のちんこをぶち込みてぇ)

 

 ムラムラとした気持ちが止めどなく溢れ出る。

 もう挿入してしまおうか、と考えたところで、

 

「はぁっ……はぁっ……お、おい、ジャン。

 そんなに、我慢できないっつうのなら……はぁっ……向こうで勝手に処理してろよ……ん、んん……」

 

 呼吸を乱しながらも陽葵が抗議してきた。

 

(まだ流されねぇか)

 

 反抗する力があるかどうかは別として、少なくともこのまま流されまいとする意志は残っているようだ。

 ならば――と、ジャンは陽葵に話しかける。

 

「いやあ、悪い悪い。

 女の身体なんて久しぶりに見たから興奮しちまってさ。

 でもよ――」

 

 ここでジャンは陽葵の股間に手を伸ばした。

 ショートパンツの中に滑り込ませ――そこにある男の象徴を握りしめる。

 

「――ヒナタだってこんなにちんこ勃ててるじゃないか」

 

「んなっ――!

 お、お前、何を急にっ!……んっ」

 

 ジャンの手の中には、勃起した陽葵のペニスがあった。

 自分のモノよりも一回りは小さいソレをジャンは扱き始める。

 

「うあっ!……ま、待てよっ! 何いきなり弄ってやがんだ――ああっ!?」

 

 陽葵の喘ぎが隠し切れなくなってきた。

 明確に、ジャンの扱きで感じている。

 

(しかし、女みたいに悶えるよな、ヒナタ)

 

 普通、男はいくら気持ち良くてもこんな声は出さない。

 彼は性感の部分でも雌なのだろう。

 

 そう納得すると、ジャンは陽葵の言葉に返事をする。

 

「手伝いだよ、手伝い。

 覗く姿勢のままじゃちんこ扱きにくいだろ?」

 

「い、いらねぇよ、そんなの――あっ!

 ん、んんっ! あ、あぁぁああっ!」

 

 陽葵が身を捩り出す。

 ジャンの手から逃れようとするが、空いている手で抱き着き、それを妨げた。

 

「遠慮すんなよ!

 めっちゃ気持ち良さそうにヨガってるじゃないか、お前!」

 

「そんなこと――んぅううっ! あっああっあっあっああっ!

 ジャン! 止めろって! あっあっあっあっあっあぁああっ!」

 

 手の中で、男性器がピクピクと震えるのが分かる。

 陽葵のモノだと思えば、この男性器すら愛おしく感じられた。

 

 ジャンは扱く動きを速める。

 

「んぅううううっ! ま、待って! ほんと、待てよっ!!

 あ、ああぁぁあああっ! あっあああっ! そんなに激しくされると――」

 

「激しくされると!?

 されると、どうなるんだ、ヒナタ!?」

 

「――される、と……あああっ!?

 あ、あぁぁあああああっ!!」

 

 あらん限りの力で陽葵の性器を扱く。

 彼の肢体がどんどん強張っていくのが感じ取れた。

 

(そろそろイクんだな?

 イキそうなんだな、ヒナタ!)

 

 陽葵を絶頂させるべく、ジャンは手を動かし続ける。

 

「だ、め――あ、あぁあああっ!

 やばい、い、イっちゃう……ああっ! あっあっあっあっ!」

 

 もう陽葵は、女風呂を覗いていない。

 そんな余裕、もう彼には無いのだ。

 

「イケっ! イっちまえ、ヒナタ!

 俺の手で思いっきり射精するんだよぉっ!!」

 

「あ、あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!

 あぁぁああああああっ!!!!」

 

 次の瞬間、陽葵が身体を弓なりに反らした。

 そのまま、何度もビクビクと痙攣する。

 

 少しおいてから、陽葵のパンツの中に突っ込んだジャンの手に温かい感触が広がっていく。

 

(……ヒナタの精子か)

 

 ショートパンツから手を取り出すと、それは陽葵の精液に塗れていた。

 紛れもなく、室坂陽葵は絶頂を迎えたのだ。

 

「……はぁっはぁっ……はぁっはぁっ……」

 

 陽葵の荒い息が聞こえる。

 呼吸に合わせて身体が揺れているが、それ以外の動きをまるで見せない。

 射精の快感で意識が飛びかけているのか。

 

(……それじゃ、やるか)

 

 本願を果たすべく、ジャンは自分のイチモツをズボンから取り出した。

 イルマとの約束を断ってまで時間を割いたのだ、この機会に何としてでも最後まで行きたい。

 

(ヒナタのパンツも脱がしてっと。

 ――おおっ!

 生で見るとまたすげぇ迫力だな、こいつのけつ!!)

 

 産まれたままの状態になっている陽葵の下半身に、ジャンは感動すら覚えていた。

 美しい。

 とにかく美しい。

 見ただけでむしゃぶりつきたくなる、柔軟で丸い尻。

 理想の雌尻がそこにあった。

 ……股間に変なモノもついているが、この美しさの前では些末事である。

 いや寧ろ、ソレを含めて完成された美観とすら言える。

 

(おお、そそる穴してんな、おい)

 

 尻の割れ目を開くと、やはり綺麗な尻穴が姿を現す。

 色付きといい、形といい、まるでまんこのような卑猥さがある。

 

(へへへ、この穴ひくついてやがる。

 早く欲しいんだな、俺のちんこが!)

 

 自分の都合のいいように解釈するジャン。

 だが確かに陽葵の穴は、“棒”を欲しがっているかのようにヒクヒクと動いていた。

 

「今すぐくれてやるぜ、ヒナタ」

 

 彼の後ろの穴へと狙いを定め、腰を推し進めた。

 陽葵のアナルへ、ジャンの肉棒が一気に突き挿れられる。

 

「んぉっ!? お、おぉぉおおぉぉおおっ!!!?」

 

 それまで息も絶え絶えだった陽葵の口から、大きな嬌声が発せられた。

 と、同時に。

 

「うぉおおおっ!?」

 

 ジャンもまた、その感触に驚きの声をあげてしまった。

 

(あったけぇし、すげぇぐにぐに締め付けてきやがる!

 これがヒナタのケツ穴か!!)

 

 陽葵の腸壁は、膣と見紛うばかりにジャンの息子を締めだしたのだ。

 初めて感じる快感に、ぶるっと震える。

 

(こんな、こんな気持ちいいものなのかよ、アナルってのは!?)

 

 本来、尻の穴はただの排泄器官に過ぎない。

 男を気持ちよくさせる機能など持ち合わせているわけがない――はずなのだが。

 陽葵は、“ココ”もまた特製品だったのだ。

 

 その余りの気持ち良さに、ジャンの腰は勝手に動き出していた。

 

「おっおっおっおっおっ!

 おお、おぉおおっ! お、おっおっおっおっおっ!!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 腰を前後にピストンする度に、陽葵の口からは艶声が零れていく。

 そして陽葵の声に合わせて、ジャンの男根は刺激を受けて行った。

 

(気持ちいい! 気持ちいい!! 気持ちいい!!!

 こんなん、もう腰止めらんねぇよっ!!!)

 

 もっと強い快感を、もっと大きな快楽を。

 ジャンの動きは勢いを増していく。

 

「おぉおおおおっ!!

 ああっああっああっああっ!! んぁぁああああっ!!」

 

「ヒナタっ! ヒナタぁっ!!

 最高だぞ、お前の穴っ!!」

 

 喘ぐ陽葵へ、思わず声をかけるジャン。

 それ程に彼とのセックスは最高だった。

 

(これで、俺も童貞卒業だ!)

 

 いや流石にそれは違うだろうけれど。

 

 ジャンが陽葵のアナルを味わっていると、多少意識を取り戻したのか、陽葵が意味のある言葉を紡ぎ出した。

 

「おおっ! おぉおっ!?

 ジャン、お前、こんな――んぁあああっ!!

 ああ、こんな、お前、何やってんだよっ!

 あ、あぁあああっ!!」

 

「ナニって、お前のアナルにちんこをぶち込んでんだよ!!

 ヒナタばっか気持ちよくなってずるいだろ!

 俺だって気持ち良くなりてぇよ!!」

 

「おっ! おっ! おっ! おぉおっ!

 だ、だったら、オレも手でやってやるから――あぁあああっ!!?

 待って! ジャン! 一回! 止まって! うぁあああああっ!!」

 

「いいだろ別に!

 減るもんでもねぇし!!

 それにヒナタだって随分気持ち良さそうにヨガってるじゃないか!!

 滅茶苦茶締め付けてくるぞ、お前の尻穴!!」

 

「そ、そんな、の――あっあっあっあっあっあっ!

 んぉおおっ! お、おぉおおおおっ!!!」

 

 抗おうとする陽葵を、イチモツで黙らせるジャン。

 

「どうだよ! 男のちんこには勝てねぇだろ!?

 お前は女なんだからなぁ!!」

 

「あぅ、あぁああっ! ち、違う――んぅううううっ!!

 オレは、男だって……おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!」

 

「男がちんこ突っ込まれて喘ぐわけねぇだろ!!

 お前は女なんだ! 雌なんだよ!

 雌なら雌らしく、男を気持ちよくさせやがれ!!」

 

「そん、な――あぁあああああっ!

 あっ! あっ! あっ! あっ! ああああっ!!」

 

 ジャンはもう、自分でも何を言っているのか分からないでいた。

 イチモツから伝わってくる快楽が思考を歪ませてくるのだ。

 もっとも、それは陽葵も同様であったが。

 

「あ、うぅぅ!? わ、分かった――んぁあっ! あああああっ!

 オレ、女でいいからっ! あっ! あぁあっ!

 女でいいから、止めてぇえええっ!!」

 

「うるせぇ! 女だったら愚図愚図言わずに男を楽しませろ!!

 おら、イケっ! メスイキしろ、ヒナタ!!」

 

 トドメとばかりに、ジャンは腰を激しく陽葵の尻に打ち付けた。

 ジャン自身、陽葵の直腸による締め付けで、もう射精する寸前であった。

 

 そして――

 

「……っ!!

 イクぞっ! 俺もイクぞっ!!

 俺の精液をたっぷり味わいやがれ!!」

 

「ひ、あ――――あ、あぁぁぁああああああああっ!!!!」

 

 ――2人は同時に絶頂するのだった。

 

「――あっ――か、はっ――あ、あっ――」

 

 目を見開き、口をパクパクとさせる陽葵。

 イった快感に、その身をガクガクと痙攣させていた。

 

「おおお、搾られる……!

 ヒナタのけつ穴が、俺の精子を搾ってきやがる……!!」

 

 ジャンもまた、射精の快楽を味わっていた。

 陽葵の腸壁がうねり、彼の精液を最後の一滴まで吸い上げているのだ。

 

「――あ、あ、あ――あっうっ――――――あ」

 

 ひとしきり精液を陽葵の中へ放った直後。

 陽葵の肢体からは力が抜け、そのまま前へ倒れ伏せる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……」

 

 うつ伏せになった陽葵は、大きく呼吸を繰り返す。

 その瞳からは光が消え――完全に気をやっているようだ。

 

 ジャンはそんな陽葵の頭を軽く撫でながら、

 

「……最高だったぜ、ヒナタ。

 またヤろうな」

 

 清々しい気分で、そう告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

■深夜

 

 

 

 もう夜も大分更けた。

 

「あーー、気持ち良かったーー」

 

 宿の自室に戻ってきたジャンは、ベッドに飛び込んで一息つく。

 あれから意識が朦朧としている陽葵をどうにかこうにか彼の住む家へと運び、こうして帰ってきたわけである。

 

「今日はついてたな。

 俺の幸運の日(ラッキーデイ)って感じだ」

 

 エロくて美人なウェイトレスさんのいる店を開拓でき、その上とうとう念願だった陽葵とのセックスが叶ったのだ。

 罪悪感をおして、イルマとの約束を破った甲斐があったというものである。

 

(……どさくさでヒナタの家の場所も分かったしな。

 これからいつでもあいつに会えるわけだ)

 

 そんなことを考えて、いやらしく顔を歪ませるジャン。

 

(今日の感触だと、多少抵抗されても穴ほじってやれば大人しくなるみたいだし。

 ふっふっふっふっふ、楽しくなって来たぜ!)

 

 これからの明るい未来予想図を頭に描きながら、ジャンは布団の中へと潜り込む。

 なんだかんだで疲れたのだろう、あっという間に眠気が彼を襲った。

 

 ――と。

 

 「――あんっあんっああっあぁああんっ!――あっ!――ああぁぁあああっ!」

 

 隣の部屋から、女の喘ぎ声が聞こえてきた。

 

(なんだよ、こんな真夜中によろしくやってんのか)

 

 どうやら隣の部屋の住人はお楽しみの真っ最中らしい。

 しかしそれを聞いても、今朝コナーの部屋を覗き見た時のような感情は湧いてこなかった。

 

(俺も大人になったってことか)

 

 寧ろ優越感すら感じる。

 彼は極上の美少女(♂)を抱いたばかりなのだから。

 

 隣の部屋の声はなおも終わらない。

 

 「――あっああっ――あんな奴――もうどうでもいいですっ――あぁああっ!

 ――あなたの、あなたのちんぽの方が――あぁぁあああっ!」

 

(あーあー、なんだ、不倫か何かか?)

 

 どうも隣のカップル、ちょっと訳アリの様だ。

 察するに、今まで付き合っていたのとは別の男に抱かれている、といったところか。

 

(振られちゃった女の元カレさん、ご愁傷様!)

 

 顔も知らない哀れな男に、心の中で軽く手を合わせる。

 そうこうしている内に――

 

「――あー、眠……」

 

 ジャンは微睡みに落ちて行ったのだった。

 

 

 

 

 彼が、もう少し注意深く聞けば分かったはずだ。

 

 

 「――あっあっあっあっあっあっ!――すごい、深いぃっ!」

 

 

 この喘ぎ声が、自分の良く知っている少女――今日、夕飯の約束をしていた少女(イルマ)の声と酷似していることに。

 

 

 「――はい――気持ちいいですっ――あっあっあっあっあぁあんっ!

  ―――もっと、もっとして下さいっ!―――――“クロダ”っ!!」

 

 

 或いは。

 この日、裏でナニが行われたのか気付かずにすんだことこそ。

 ジャンの最大の幸運なのかもしれない。

 

 

 

 

 第十八話 完



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第十八話裏 その頃イルマは……
①! 昼間のお話


■午前

 

 

 ここは蒼の鱗亭。

 時刻はジャンが市場へ買い物に出かけた少し後。

 宿の廊下を一人の少女が歩いていた。

 栗毛色の二つのおさげを下げた、まだあどけない顔の女の子だ。

 だが幼い容貌と裏腹にその胸は大きく膨らみ、アンバランスな色気を醸し出している。

 ともすれば地味にも見えるロングスカート姿も、不思議と彼女にマッチしていた。

 

「さてと、お掃除頑張りますか!」

 

 少女――店長夫婦の一人娘であり、この宿屋の従業員でもあるイルマはそんな言葉で自らに気合いを入れる。

 彼女に任された仕事の一つである、宿泊部屋のベッドメイクの時間なのだ。

 

(――ジャンへの昼食を作るのもあるし、早めに終わらせましょう)

 

 そう決意して、イルマは各部屋の掃除を始めた。

 

 

 

「さてっと……次は、コナーのところですね」

 

 ここ最近この宿を拠点に迷宮の探索を行っている青年だ。

 ジャンとは幼馴染だそうで、もう一人の幼馴染であるエレナという少女と共に一緒にパーティーを組んでいる。

 

(最近、波風立っているようですけれど)

 

 コナーが他パーティーから引き抜きを受け、エレナは別の冒険者と恋仲になったという。

 つまりパーティー解散の危機だ。

 

(……エレナは、ジャンとくっつくと思ったんですけど)

 

 傍から見て、あの少女はジャンに気が合ったのは明らかだ。

 幼馴染同士だという2人は、まあ、お似合いのように見えた。

 だからこそ、“自分も我慢してきた”というのに。

 

(いやいや、何を考えていますか私)

 

 ぶんぶんと頭を振って今の考えを打ち消す。

 

(まあでも、エレナが『あいつ』とくっついたおかげで、コナー引き抜きの危機は去ったわけですが)

 

 引き抜きの危機が去ったというより、ジャンも一緒に引き抜かれる形になったというのが正しいのだが。

 コナーを引き抜こうとしたパーティーが、抵抗される位ならジャンも一緒に誘ってしまおうと考えたらしい。

 

(……そのお相手のパーティーが、女性2人というのはちょっと気に入らないですけど)

 

 もっとも、その女性達のお目当てはコナーのようだから、心配する必要は無さそうだ。

 

(いやいや、心配ってなんですか私)

 

 ぶんぶんと頭を振って今の考えを打ち消す。

 別にジャンのことを気になっているわけではないのだ。

 ちょっと顔が好みだったり、ああ見えて意外と優しかったり、色々手伝いをしてくれたり、話していて楽しかったりするけれど。

 

(好きだとか、そういう感情じゃないのです……ええ、違いますとも)

 

 そう自分に言い聞かせ、少しばくばくし出した心音を落ち着かせる。

 深呼吸を3回して、きっちり体勢を整えてから、イルマは部屋の扉に手をかけた。

 

「はーい、入りますよー」

 

 ノックもせずに扉を開ける。

 気の知れた相手の部屋には、ぞんざいに入っていくイルマだった。

 だが――

 

 

(――――え)

 

 

 ドアを開けてすぐ、イルマの身体は硬直してしまう。

 

 まず感じたのは、臭い。

 男の精の臭いが、その部屋の中に充満していたのだ。

 

 それを裏付けるかのように、部屋のあちこちに白濁した液体が飛び散っていた。

 床にも、壁にも、テーブルにも、シーツにも。

 ねっとりとした男の体液が、部屋中にこびりついていた。

 

 そんな部屋の真ん中には――

 

「あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ!

 おおっ! あっ! あぁぁあああっ!!」

 

 ――小柄ながらも豊満な肢体を持つセミショートの女性の裸姿と、

 

「締め付けが弱くなってますよ、シフォンさん!

 ほら、頑張って下さい!」

 

 ――喘ぐ彼女を立ったままバックから腰を打ち付けている、黒髪の青年の裸姿があった。

 

 女性の方は、シフォンだ。

 コナーを引き抜こうとした女性2人パーティーの片割れ。

 何度か食堂で彼らが話をしているのを見たことがある。

 

 そしてイルマは男の方にも見覚えがあった。

 

(な、なんで『こいつ』がここにいるんですか!?)

 

 驚愕に目を見開くイルマ。

 今日、『こいつ』はいるはずがないのに。

 エレナとデートをしているのではなかったのか?

 

 頭の中がぐるぐると混乱しながらも、イルマは男へと声をかける。

 

「何を、やってるんですか、“クロダ”!」

 

「おや、イルマさん。

 すいません、気づきませんで」

 

 いけしゃあしゃあと男が――ジャンと親しくしている冒険者、黒田誠一が答えてくる。

 顔はこちらを向きながらも、身体はシフォンを責め続けていた。

 

「あぅっ! ああぅっ! あっ! あぁああっ!」

 

 シフォンの方はイルマを無視し――或いは対応する余裕が無いのかもしれないが――ひたすら嬌声を漏らしている。

 焦点の合っていない彼女の目を見るに、後者が正解か。

 

 イルマはシフォンのことを横に置いて、クロダに話しかけることにした。

 疑問が多すぎて、何から聞けばいいのか判断つかなかったが。

 

「ここは、コナーの部屋ですよ!?

 何故アナタがいるのですか!」

 

「ああ、そのことですか。

 コナーさんはですね――」

 

「――コナーならあたしの部屋だよ、イルマ」

 

 いきなり、ベッドの方から声が聞こえる。

 イルマはそちらを振り向いて、声の主を確認した。

 

「ま、マリー!?

 アナタまでここに居たんですか!」

 

 そこにはシフォンとパーティーを組んでいる長髪の女冒険者、マリーの姿があった。

 こちらも素っ裸で、精子に塗れたベッドの上に横たわっている。

 シフォンに比べると凹凸の少ないスレンダーな肢体だが、その分無駄な肉が無く、綺麗なスタイルを誇っていた。

 

 マリーはイルマへと説明を続ける。

 

「ていうか、あたしが最初にここ来てたんだけどね。

 いやぁ、昨日の夜コナーをあたしの部屋に誘ったんだけどさ、酔ってたせいかあいつってばすぐ寝ちゃって。

 身体が疼いて引っ込みつかなくなってたところで、恋人を送り届けに来たこいつに会ってね?」

 

「そのままご相伴にあずかった、というわけです」

 

 淀みなく説明してくる2人。

 

「お、お2人はお知り合いだったので?」

 

「ええ。

 ちょくちょくこうして一緒に遊んでいます」

 

「最初は、あたしから手ぇ出したのよ。

 冒険者の間で凄い有名人だったから、こりゃ唾着けとけって思ってね。

 ……有名だったのは“1年近く冒険者やってるのに未だEランクだから”なんてお粗末な理由だったわけだけど」

 

「いや、お恥ずかしい限りで」

 

 黒田が照れたように頭を掻く。

 そうしているときにも、きっちり彼は腰を動かしているわけだが。

 

「おぅっ! おぉっ! お、おおぉっ! んぉおっ!!」

 

 シフォンは話に入ってくるでもなく、けたたましく喘いでいた。

 口からは涎が垂れ、白目を剥きかけているその様子は、正直かなり“やばい”ように思えた。

 

「でもこいつさ、万年Eランクのへなちょこ冒険者の癖に、ちんこはもう凄いのなんのって。

 あたちもシフォンも一発で虜になっちゃってさぁ」

 

 楽しそうに笑いながら、マリー。

 黒田もそれへ相槌を打つ。

 

「<次元迷宮>の中で致すのは私もアレが初めてでしたね。

 いつ魔物が襲ってくるかドキドキしてしまいました」

 

「その割にはあたしたちを犯し抜いてくれたけどね。

 あたしの方こそ、セックスで気を失ったのなんてアレが初めてよ」

 

「おや、そうでしたか」

 

 笑い合う2人。

 イルマは彼らの話に色んな意味でついていけなかった。

 同じ言語を使っているのに、理解がまるで追いつかない。

 

(ま、まあ、理解する必要もないですけどね!)

 

 頭を無理やり整理してから、再度イルマは黒田に問い質す。

 

「だ、だいたいクロダ!

 アナタ、エレナの恋人になったはずでは!?」

 

 イルマが黒田と面識があるのは、これが理由だ。

 エレナと彼が一緒にこの宿に泊まるのを、ここ最近何度も目撃していたのである。

 黒田が泊る度に、夜中までエレナの嬌声が絶えないので、よく覚えていた。

 時によっては、今日のように掃除の時間まで延々とセックスしていたことすらある。

 ……それがきっかけで、黒田と話をするようにもなってしまったのだが。

 

 だからこそ。

 イルマは、この一見すれば礼儀正しく奥ゆかしそうな外見をしている青年が、バリバリの肉食系男子であるということも分かっていた。

 とはいえ、それでも恋人以外に手を出すとは――

 

「ああ、エレナさん公認ですよ、コレ」

 

 ――そんなイルマの思いとは裏腹に、黒田はあっさりと答えた。

 

「公認!?」

 

「はい」

 

「他の女性と関係を持っても良いと!?」

 

「そうですよ」

 

「そんなバカな……」

 

 完全にイルマの理解の外であった。

 恋人が他の女と寝るのを許すなんて、彼女にはとても考えられない。

 

「話の分かる恋人さんで良かったわー。

 こいつのちんこを独り占めされたら溜まったもんじゃないしね」

 

「……下半身でしかモノを考えられないんですか、アナタは」

 

 ケラケラ笑うマリーを、イルマはジト目で睨む。

 

「別にいいじゃない、減るもんでもなし。

 なんならイルマもやってみれば?

 あいつのちんこ、ほんと病みつきになっちゃうから」

 

 言いながら、マリーは黒田の股間を指さす。

 イルマはつられて、ついついその方を向いてしまった。

 

(……うわ、おっきい)

 

 何度か見たことのある(エレナとセックスしながら対応されたこともあるので)黒田の性器は、改めて見てもやはり巨大であった。

 荒くれ者の多い冒険者向けの宿で働いている身として、酔っぱらって裸になった奴のモノを見たり、部屋で性交している場面に出くわしたりすることが日常茶飯事なイルマであったが――

 黒田の男根は、彼よりも図体のでかい男のソレと比べても、一回り以上大きい様に思えた。

 

「…………ごくんっ」

 

 自分でも知らぬうちに、イルマは唾を飲む。

 セックスの経験が無い彼女をして、黒田の肉棒は注目せざるを得ない代物だったのだ。

 ましてやそんなイチモツを膣で咥え込み、ひたすら悶えるシフォンの姿には、羨望にも似た視線を送り――

 

(って何を考えていますか!

 落ち着け、私!!)

 

 頭を振って、平常心を取り戻すイルマ。

 マリーや黒田に向かって言い放つ。

 

「け、結構です!

 そんなことより、今はベッドメイクの時間なんですよ!

 変なことしてないで、どいて下さい!!」

 

「あらら、結構お堅いのね、イルマってば」

 

 肩を竦めるマリー。

 一方で黒田はそんな彼女の手を引いて、ベッドから引っ張り出した。

 

「何すんのよ、クロダ?」

 

「掃除の邪魔になってはいけませんからね。

 マリーさん、こちらでもう一回戦行きましょうか」

 

「え?

 あんた、シフォンはどうしたの?」

 

「ああ、シフォンさんなら、あちらに――」

 

 黒田が視線を向ける先には。

 

「……あへっ……ひ、はひっ……あひっ……えへぇ……」

 

 完全に気をやって倒れ伏した、シフォンの姿があった。

 彼女の股間からは、大量の精液が零れ落ちている。

 大きなおっぱいが、シフォン自身の身体によって押し潰されていた。

 

「あー、ありゃ当分目を醒ましそうにないわね」

 

「ちょっとやり過ぎてしまったようです。

 そんなわけで、マリーさん」

 

「……仕方ないわねぇ。

 ちょっとは加減ってもん覚えなさいよ」

 

 文句を言いつつも黒田にしなだれかかり、自分の股を彼の股間に擦りつけるマリー。

 黒田は黒田で彼女を抱きかかえ――

 

「あぁああっ! あぁあぁあああああっ!!

 すっご! あんたのちんこ、固いぃっ!!」

 

 ――対面立位の体勢で、マリーの膣へ男根をぶち込んでいた。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 ひ、一晩中ヤってるってのに!

 あぅっ! あっ! あんっ! あぅっ! あぁあっ!

 どんな精力してんのよっ! あんっ! あっ! ああっ!!」

 

「これでも体力には少し自信があるのですよ。

 ……あ、イルマさん、私達は気にせず掃除の方をどうぞ」

 

「あ、え?

 ……は、はい」

 

 こんな状況で平然と話を振ってくる黒田に唖然としながらも、イルマは部屋の掃除を始める。

 

(掃除するんですから、止めてくれればいいのに)

 

 そう胸の内で愚痴を零すが、黒田が身体を止める気配はない。

 マリーの言葉によれば、下手すると10時間近くヤっていることになるというのに、そして部屋の様子を見るに何度も射精をしただろうに。

 彼のストライドには、一切の疲れが見えなかった。

 

(体力があるにも程がありますよ)

 

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら繋がり合う2人を、イルマはついつい見てしまう。

 

(……結構、筋肉ついているんですね、あいつ)

 

 黒田は確か<魔法使い>のはずだが、その身体に贅肉は無く、がっしりとした筋肉を纏っていた。

 とはいえマッチョというわけではなく、平均的な体型ながら筋肉質という、いわゆる細マッチョというやつだ。

 

(腹筋、割れてる……)

 

 その筋肉は飾りというわけでも無いようで、彼の腰の動きは実に力強いものであった。

 黒田が肉棒を突き上げる度に、マリーの身体が軽々と上下に揺れる程だ。

 

「あっ! あぅっ! 強いっ!!

 はぁっ! あぁあんっ! あたしの(なか)、抉れるぅっ!!」

 

 マリーは黒田の背中に手を回し、うっとりとした顔で彼の強烈なピストンを受け入れていた。

 恍惚とした表情は、彼女が本当に感じ入っていることが見て分かる。

 控えめなおっぱいを黒田に押し付けながら、マリーは快楽を貪っていた。

 

 その様子をイルマは羨ましそうにじっくりと眺め――

 

(――って、だから掃除しなくっちゃなんですよ!!)

 

 自分に喝を入れてベッドの掃除に手を付ける。

 シーツを外し、新しいシーツに取り換えようとするのだが、

 

「――うぁ」

 

 手に生暖かい感触。

 シーツに付着した精液を触ってしまったらしい。

 彼女の手には、黒田の精子がべっとり付いてしまっていた。

 

(……す、すごい、におい)

 

 精液からは、雄の臭いをぷんぷんと発せられていた。

 その薫りは否応なしにイルマの雌部分を刺激してくる。

 そしてイルマは好奇心から、つい白濁液に塗れた手を嗅いでしまった。

 

(う、あぁぁ……これが、男の人の……)

 

 鼻の奥まで黒田の匂いが充満する。

 イルマの口から、知らぬ間に声が漏れる。

 

「……あ、あ……うぁ……」

 

 身体の奥底が、疼くのを感じた。

 まだ何者の侵入も許したことのないイルマの子宮が、キュンキュンと蠢動する。

 

(ダメ、ダメ……こんなの、ただ汚いだけです……)

 

 シーツで拭うが、黒田の精はなかなか取れない。

 ねっとりとイルマの手にこびりついていた。

 

 イルマは、その手をじっくり眺め……

 

(……ちょ、ちょっと位なら)

 

 その“液”をぺろりと舐めた。

 

「……ん、うぅ……」

 

 またしても声が勝手に零れた。

 

(苦い……まずい……なのに、どうして……)

 

 イルマはもう一度手を舐める。

 口の中に精液の味が広がっていく。

 

「……は、あぁぁ……」

 

 三度漏れ出た声には、甘い響きが含まれていた。

 さらに精子の味を堪能しようとしたところで、

 

(な、何してるんですか、私は!

 こんな、こんなの、ただの変態で!!)

 

 なけなしの自制心を振り絞り、それを阻止する。

 

(掃除するんですよ、お仕事なんですよ!

 さっさとやって、こんな変なとこからはさっさと――)

 

 イルマがベッドに手を伸ばした、その時。

 

「あひっ!! あんっ! あうっ! んひぃいいいっ!!」

 

「―――!?」

 

 すぐ傍から聞こえた嬌声に、彼女は叫び声を上げそうになる。

 

(な、何――!?)

 

 振り返ると、黒田とマリーがイルマの近くにまで寄って来ていた。

 彼女の目と鼻の先で、セックスを続けていたのだ。

 

「あうっ! お、おおぉっ! んぅううっ!! あぁああっ!!」

 

 至近距離から、マリーの艶声を浴びせられる。

 手を少し伸ばせば届く距離には、膣を出入りする黒田の巨大なイチモツがあった。

 

(――あ)

 

 イルマの身体が、再び疼き出す。

 マリーの女性器に黒田のイチモツが突き刺さる度に、イルマの奥底にも衝撃が走るようだった。

 

(なんで、なんでこんな場所に――!)

 

 意図的に自分に近づいてきたのか、それとも“行為”をしていく中で偶然こうなったのか。

 どちらなのか、イルマに知る由も無い。

 

(に、逃げなきゃ……!)

 

 何から逃げるのか、どうして逃げるのか、彼女には分からなかったが。

 ともかく、このまま“ここ”に居ては取り返しのつかないことになるだろう確信がイルマにはあった。

 だが――

 

「――あっ!?

 ん、んんっ!? あ、あぁんっ!?」

 

 イルマの口から、喘ぎが零れた。

 彼女の胸の先端に、股間にある突起に、刺激が走ったのだ。

 これまでの疼きではなく、もっと直接的な感触。

 

(何が――!?)

 

 自分の身体を見渡すが、特にこれと言った異変は無い。

 黒田が触ってきたのかとも思ったが、彼はマリーを責めるのに夢中で“こちらを見ても居なかった”。

 そもそも彼はイルマの背後にいるのだ、体勢的に彼女の胸を触れるわけが無い。

 

 そうこうしている間にも、

 

「あ、ああっ!? ど、どうなって――ああぁあんっ!?

 あっ!…ああっ!…あんんっ!?」

 

 イルマの肢体は刺激され続けた。

 

(私の身体、どうしちゃったんですか……!?)

 

 状況がまるで理解できない。

 理解できないが、しかし身体は反応してしまう。

 

「んひぃいいっ!?」

 

 突如かけめぐる快感に、甲高い声を上げてしまう。

 イルマの両乳首が、抓られたのだ。

 いや、抓られたような感触があった――が正しいのか。

 

 ――種明かしをしてしまえば、黒田が<屈折視>と<念動>を駆使してイルマを弄っているのだが。

 冒険者ならぬ彼女にそれが分かるはずが無かった。

 

(あ……あ……何これ……何、これ……)

 

 乳首から、陰核から注入される快楽に、イルマの頭が朦朧としてくる。

 さらには――

 

「あぁああんっ!! 凄いのっ! あんたのちんこ、凄いのぉおっ!!

 もっとじゅぼじゅぼ突っ込んでぇっ!! ああっ! ああぁあっ! あぁぁあああっ!!!」

 

 ――マリーの叫ぶような嬌声が、耳の奥まで責め立ててくる。

 

「うぁあ、あぁああっ!…んぁあ、あぅううっ!…あっ! あぁああっ!」

 

 イルマはもう訳が分からなくなってきた。

 身体に走る刺激に、耳に響く艶声に、理性が掻き消えていく。

 

「……ああっ! あっ! あっ! あっ! ああぁぁぁ――」

 

 襲い来る快感に抗えず、イルマはとうとう膝をついてしまった。

 これまでに自慰をしただってあるが、今感じている肢体の悦びはそれとは比べ物にならない程のモノだったのだ。

 

(も、ダメ――我慢できないっ!)

 

 そして――イルマは自らの手を胸に、股間に伸ばし。

 自分で自分を責め始めた。

 

「あ、あぁああっ! あんっ! あんっ! あんっ! あんっ!

 あぅ、あ、あああっ! あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!」

 

 謎の刺激と、自分の手による愛撫により、彼女は一気に昂っていく。

 黒田の目の前だというのに、何の躊躇もなく快楽を貪った。

 

「あぅっ! あっ! あぁあっ! あぅぅっ! あっ! ああっ! あぁあああっ!!」

 

 絶頂への階段を駆け上がるイルマ。

 さらなる快感を得ようと、自分を弄る手を激しく動かす。

 ショーツの上からまんこに指を押し込み、乳房全体を揉みしだく。

 

「あっあっあっあっあっあっ! んぅううっ! あ、あぅうぅうううっ!!」

 

 イルマは顔を恍惚とし、無心で自分を慰め続けた。

 

 あどけない少女が自慰に耽るその様は。

 不相応に大きな胸を持つ、幼い顔つきの少女が喘ぐその様は。

 見る者になんとも背徳的な色気を振りまいているのだが……本人にまだその自覚は無かった。

 

 直後――

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!

 ああ、ああぁぁぁぁああああああっ!!!」

 

 一際大きな嬌声を上げて、イルマは絶頂した。

 

(あ、あ――すご、い――これ、すごい――)

 

 オナニーでは得られなかった絶頂感。

 頭が真っ白になり、身体が自分の意思と無関係に痙攣する。

 

「あ、あ、あ――――」

 

 しばし余韻を味わったあと、イルマは力なくその場に倒れ伏した。

 心地良い浮遊感に、このまま意識を手放してしまおうかと考えたところで。

 

「イルマさん」

 

 彼女は、黒田に声をかけられた。

 

「――あ、あ……?」

 

 気だるい身体をどうにか動かして、背後を見るイルマ。

 そこには、シフォンと同様に股から精液を垂れ流し、イキ顔を晒しながら気を失っているマリーと。

 

「どうしました?

 調子が悪いようですね?」

 

 心配そうにイルマを見る、黒田が居た。

 

(あ、あ、あ――)

 

 だが彼女の視線は、黒田の“一部分”に集中してしまう。

 

(勃ってる……まだ、勃起してる――!!)

 

 短時間にシフォンとマリーへ精を注いだにも関わらず、黒田の男性器は硬くそそり立っていた。

 

(――私、ヤられちゃう。

 こいつに、初めて奪われちゃう……!)

 

 彼の逞しい男根が自分を狙っているということは、今のイルマでも理解できた。

 自慰をしている最中に捲り上がってしまったスカートの中身を――ショーツに包まれた、まだ小さなお尻を、黒田がじっと見つめているからだ。

 だが、彼女にはソレから逃げる気力は無く。

 

「イルマさん」

 

 黒田がイルマに近づいてくる。

 そして何の躊躇もなく、彼女の股間を下着越しに指でなぞった。

 

「……あっ」

 

 思わず喘いでしまうイルマ。

 その反応に黒田はにこりと微笑み、

 

「随分と濡れてしまっていますね」

 

「あっ……んんっ……あ、んっ……」

 

 まだ誰にも――自分の父親にでさえ――触られたことのない部分を弄られ、イルマは甘い息を漏らす。

 黒田の指は、さらに彼女を責める。

 

「あぅっ……あ、ああっ……んぅっ……はぁ、んっ……」

 

 貞操の危機だというのに、それに対する恐怖感は無かった。

 イルマが抱えているのは、“あんなモノ”に貫かれたら自分はどうなってしまうのか、という未知への恐怖だ。

 

「……よっと」

 

 黒田がイルマに後ろから覆いかぶさってくる。

 尻に、彼の男根が当たる感触があった。

 

(……硬いし、熱い……こんなの、私の中に入っちゃうんですか……)

 

 期待と心配が、イルマの中で入り乱れる。

 

「ああっ! あ、あぁぁああっ!」

 

 突然、大きな嬌声を上げてしまう。

 

 黒田がイルマのおっぱいを揉んできたのだ。

 他と違って、十分に育った彼女の乳房。

 その感度もまた、他の部分以上に発達している。

 

「……行きますよ、イルマさん」

 

 黒田が呟く。

 彼の肉棒が、イルマの入り口を叩いた。

 

 ――挿れられる。

 

 そう覚悟した瞬間。

 

(……ジャン?)

 

 イルマの頭の中に、ある青年の姿が浮かんできた。

 

(……ダメです……私、ジャンに……ジャンに……)

 

 彼女に湧いた、ほんの僅かな抵抗の気持ち。

 しかしそんな物で蕩けきったイルマの身体は動かない。

 だから、イルマはほとんど諦観しつつ、口を開いた。

 

「……待って……わ、私、仕事の、途中で」

 

 こんなことを言ったところで、彼が止まるはずが無かろうが――

 

「おっと、それもそうでしたね。

 これは失礼しました」

 

 ――と思ったら、黒田はあっさり手を引っ込める。

 

「――え?」

 

 イルマは思わず、間の抜けた声を出してしまった。

 

 

 

「はい、部屋の掃除終了です。

 イルマさん、お疲れ様でした」

 

「……ほとんどアナタがやりましたけどね」

 

 疲れた口調で黒田へつっこむイルマ。

 あの後、黒田の手伝いもあってあっという間に部屋の掃除は終わってしまった。

 ちなみにシフォンとマリーはまだ気を失ったままだ。

 

(やたらと手際良かったですね、こいつ)

 

 昔取った杵柄とか言っていたが、冒険者となる前は宿屋の従業員でもしていたのだろうか?

 釈然としないものを感じつつ、イルマは部屋の出口へ向かう。

 

「では、私はこれで。

 他の部屋も掃除しなければなりませんので」

 

「はい、頑張ってきてください。

 ……あ、ちょっといいですか?」

 

 後ろから黒田に肩を掴まれる。

 

(――あ)

 

 あんなことがあった後だからか。

 それだけのことで、イルマの心音は跳ね上がってしまう。

 

 黒田は、イルマの耳元に顔を近づけ、囁いてきた。

 

「実は今晩もこの宿を利用する予定なのですが――

 イルマさん、私の部屋に“夜食を持ってきて貰えませんか?”」

 

「――え、え?」

 

 彼の言葉に、イルマは混乱した。

 

(それって、それってつまり――)

 

 夜にこの男がいる部屋を訪ねる。

 そうした時、自分がどうなるか――考えるまでも無い。

 

 ……だというのに。

 

「わ、分かりました」

 

 何故かイルマは、頷いてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

■お昼

 

 

 

「んん、美味いっ!」

 

 買い物が終わり、戻ってきたジャンが、イルマの作った特製料理を食べている。

 

「お前、なんだかんだで料理上手だよなぁ」

 

 珍しく、彼は彼女の料理を褒めてきた。

 その表情から、ジャンが本気で美味しいと感じていることが分かる。

 

 しかし――

 

「…………」

 

 ――イルマは、上の空だった。

 

(ど、どうしましょう……?

 夜になったら、私、私絶対クロダに――)

 

 同じテーブルにジャンが座っているというのに、彼の方を見ずぼうっと宙を見つめる。

 そんな彼女を見て、ジャンが話しかけてきた。

 

「どうした、イルマ?」

 

「……え?

 なんです?」

 

「いや、ずっと上の空だったから何かあったのかと思ってさ」

 

「い、いえいえいえ、何でもないですよ、何でもないです。

 それよりジャン、私の料理はどうです? 美味しいでしょう?」

 

「いや、ついさっきお前の料理美味しいって褒めてたんだが」

 

「……そ、そうでしたか」

 

 バツが悪くなって、しゅんとするイルマ。

 そんな彼女を見て、ジャンは少し慌てたように料理の感想を言ってきた。

 

「まあ、お世辞抜きで本気に美味いよ。

 これなら毎日でも食べたいくらいだ」

 

(――なっ!?)

 

 その言葉を聞いて、イルマの頭が一気に沸騰する。

 顔もあっという間に赤くなってしまう。

 

「ま、毎日ってそんな!?

 いきなり口説き出さないでくれます!?」

 

「く、口説いてねぇよ!!」

 

 しどろもどろになっているジャンを見て、イルマはなんとか心を落ち着かせた。

 どうも、本気で“そういうこと”を目的に発言したわけではないようだ。

 それに気づいて、少し残念に思う彼女。

 

(――だから、どうして私がジャンに対してこんな気持ちにならなくちゃならないんですか!!)

 

 そんな心持を悟られないよう、敢えて彼女は呆れたようにため息をついた。

 

「あーもう、いい加減にして欲しいですね」

 

「わ、悪かったって」

 

 とりあえず、といった形で頭を下げてくるジャン。

 ――そんな彼を見て、イルマはふと思いついた。

 

「……あー、ところでジャン、今日ってこの後空いてますか?」

 

 改まって、彼へと話題を振る。

 

「ん? えーと、昼過ぎにちょっとギルド行く用事があるけど、そんだけだな」

 

「そ、それでは、夕飯の手伝いもして下さいよ!

 また、私の料理ごちそうしますから!」

 

 思わず過剰な勢いで言葉を発してしまい、自分でも驚く。

 だが後には引かない。

 ここが自分の分水嶺なのだから。

 

「えー?」

 

「なんですか、その不満そうな顔は!

 私の料理が食べたくないって言うんですか!?」

 

 顔をしかめるジャンだが、イルマはなおも押した。

 

(どうせ最終的に了承するんですから、とっとと首を縦に振りなさいよ、この男は!)

 

 理不尽な考えすら抱きながら、彼女はジャンへと詰め寄った。

 

「食べたいか食べたくないかで言えば、まあ、食べたいけどさ。

 ……分かった分かった、手伝うよ」

 

 彼は、渋々とだが手伝うことを承諾した。

 イルマはぱぁっと顔を輝かせ、

 

「素直に最初からそう言えばいいんです!

 じゃ、夕方待ってますよ!

 約束、守って下さいね!」

 

 喜色満面という笑顔で、そう告げる。

 そんなイルマを見て、一瞬ジャンは言葉に詰まるような素振りをしてから、

 

「分かったっていっただろ!

 いちいちそんな念押しすんなよ!」

 

 ぶっきら棒にそう返事をしてきた。

 

 

 

 ジャンが用事を片付けに宿を出た後、イルマはにんまりとほほ笑んだ。

 

(これで、クロダの部屋に行かなくて済みますね。

 なんせ、ジャンに夕飯を御馳走するって約束したんですから)

 

 そんな理由付けをしなくても、他の従業員に黒田への夜食を頼めば済む話なのだが――彼女はそれに気づかなかった。

 それ程、イルマは黒田との“行為”に惹かれてしまっていたのだ。

 

(一時はどうなるかと思いましたが。

 ジャンも、偶には役に立つじゃないですか)

 

 顔を少し赤らめて、うんうんと頷くイルマ。

 

 そんな黒田との行為よりも、ジャンとの約束を優先したいと思えることは――ジャンへと自分の気持ちが大きく傾いていることの証拠でもある。

 しかし残念ながら、イルマはそのことも自覚できていないかった。

 ……もしそれを分かっていれば、この先の展開も変わったはずなのに。

 

(さて、私も午後の仕事に取り掛かりましょう。

 夕飯のこともあるし、早めに片付けないと!)

 

 様々なことをとりあえず棚に置いて。

 イルマは夕飯の献立を考えながら、軽やかな足取りで仕事に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

■夕方の手前

 

 

「ええっ!!

 手伝い、できなくなっちゃったんですか!?」

 

 蒼の鱗亭に、イルマの声が響いた。

 ギルドでの雑務を終えて帰ってきたジャンから、夕飯の手伝いはできないと告げられたからだ。

 

「すまん!

 どうしても外せない用事が入っちまったんだ!」

 

 ジャンは平謝りしているが、イルマの心が穏やかでなかった。

 彼との約束が無ければ、自分は黒田に会いに行かねばならないからだ。

 

「……どうしても外せない用事なんです?」

 

「お、おう。

 こればっかりは、ちょっとな。

 本当にすまん」

 

 精一杯の想いを込めてジャンを見つめるものの、彼には届かない。

 居心地悪げに頭を下げるのみだった。

 

「……うぅぅ」

 

 イルマは思わず呻いてしまった。

 

(このままじゃ……クロダの部屋へ行くハメに……)

 

 そうなれば、自分はきっと――

 心が重くなるのと同時に、身体の奥が熱くなるのを、彼女は感じた。

 

 顔を伏せるイルマに対して、ジャンが焦ったように告げてくる。

 

「そ、そんなわけなんで、俺はもう行くぞ!

 今度は――いや、明日は絶対手伝うからさ!

 じゃあ、そういうことで!」

 

 話を適当に切り上げ、ジャンは宿を飛び出して行った。

 ……あとに残されたイルマは、小さな声でそっと呟く。

 

「……これが最後かもしれないのに。

 ジャンのバカ」

 

 そんな彼女の声は、もう彼には届かない。

 

 

 

 第十八話裏②へ続く



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②! 夜中のお話

 

 

 

■夜

 

 

 辺りはもう暗くなっている。

 イルマは黒田への夜食を持って、廊下を歩く。

 

(……冷静に考えてみれば、渡す位どってことないんですよね!

 パッと渡してサッと帰ってくればいいんですから!)

 

 そう自分に言い聞かすイルマ。

 本当に冷静になっているのであれば、彼女が黒田へ夜食を持っていく必要すらないことに気付くはずなのだが。

 

(大丈夫、あいつが何かしてくる前に部屋を出ればいいんです!

 食事を押し付けて、すぐ逃げてしまえば!)

 

 胸中でそんなことを何度も繰り返しながら、不安に――或いは期待に――震える足を進めていく。

 

「……もう、着いちゃいましたね」

 

 ぼそっと呟く。

 イルマは既に黒田が借りている部屋の前に居た。

 まあ、そう大きな宿では無いのだから、移動に長い時間がかかるわけがない。

 

「渡したらすぐ後ろへ走る……渡したらすぐ後ろへ走る……」

 

 呪文のように繰り返す。

 イルマ的には、イメージトレーニングは完璧だった。

 他者から見れば滑稽極まりない姿ではあるものの、彼女は真剣である。

 

「よし、それじゃっ」

 

 イルマはドアノブに手をかけた。

 軽くノックをしてから、ドアを開ける。

 

「クロダ、夜食を届けに来ま――」

 

 言葉は最後まで言えなかった。

 部屋の中の様子が、イルマの想像と大きく乖離していたからだ。

 

「おぅっ! おぅっ! おぅっ! おぅっ! おぅっ!

 んぉおおっ!! あ、あひぁああああっ!!!」

 

 そこでは、何も身に着けていない見知らぬ少女が悲鳴に近い嬌声をあげて悶えていた。

 

「――あ、え?」

 

 思考がついてこず、変な声を漏らしてしまう。

 ……正直、予想してしかるべき展開であったろうが――黒田に抱かれることで頭がいっぱいだったイルマとしては予想外だったのだ。

 

「おっおっおおっおっおぉおおっ!!

 やっ! もうっ! やめっ! んぅううううううっ!!」

 

「いいですよ、ミーシャさん。

 きつきつの膣が実に気持ち良いです」

 

 少女を喘がせている張本人であり、かつこの部屋を使用している人物でもある、黒田誠一が呟いた。

 どうやらあの少女は、ミーシャという名前らしい。

 

 ミーシャは、銀髪の髪を短く切り揃えられた、どことなく中性的な顔立ちをした美少女だった。

 小柄な体と凹凸の少ない肢体から、ともすれば美少年にも見えてしまう。

 裸ではなく少年のような服装をしていたら、イルマも勘違いしてしまったかもしれない。

 

(あんな、私より幼そうな子を相手に――)

 

 イルマは、黒田の節操無さに驚愕した。

 ――実のところ、ミーシャはイルマより年上だったりするのだが、容貌からそれを知る術はない。

 

「んぉお、お、お、おお、お、おおおっ!!

 あ、あぁああっ! あっあっああぁぁああて!!」

 

 部屋には延々とミーシャの艶声が響いていた。

 

 黒田は器用に少女の太ももを持って後ろから抱き上げ、股を広げさせた姿勢で男根を膣に嵌めている。

 俗に、背面駅弁とも呼ばれる体位だ。

 

(……す、凄い)

 

 イルマは思わず2人を――2人の結合部を凝視してしまう。

 あの姿勢だと、黒田の陰茎がミーシャという少女の膣内に出入りする様子がよく見えた。

 太く長い男根がぐちょぐちょと音を立てて小さな女性器を責め立てている。

 

 あれ程大きな肉棒が収まっているのが不思議な程、小柄な体型のミーシャ。

 少し目を凝らすと、剛直が入る度に彼女の腹がぷくっと膨れていた。

 ……男性器に、腹を内側から押し出されているのか。

 

「あっ! あっ! あぅっ! あっ! ああっ!

 ん、いぃいいいいっ!! イクっ! イクっ! イクっ! イクぅっ!」

 

「いいですよ、ミーシャさん。

 またイッて下さい」

 

 柔らかな口調のまま、黒田はえげつない速度で腰を振り始めた。

 ミーシャの小さな身体が、大きく上下に揺さぶられる。

 

「あっ! あっ!! あっ!! あっ!!

 イクっ! ああっ!! またイクっ!! んぁあああああぁぁぁあああああっ!!!」

 

 少女は身を仰け反らし、痙攣し始めた。

 

(ぜ、絶頂したんですね……?)

 

 恍惚としたミーシャの顔を見ると、イルマは身体をぶるっと震わせた。

 自分の肢体が熱くなっているのが、嫌でも分かってしまう。

 

「あっ……あっ……あっ……あっ……」

 

 黒田に抱きかかえられたまま、ミーシャは荒く息をついていた。

 ――ところが、まだ余韻を味わっている最中に、彼女の身体は再び動き始める。

 

「――おっ!? あっ! あっ!! あっ!!!

 僕、もうイったぁぁっ!! イったのぉぉっ!! ああぁぁああああっ!!」

 

 またしても悶え始めるミーシャ。

 言うまでも無く、黒田がイチモツで突き上げ始めたのだ。

 

 彼女はヨガりながらも黒田に抗議し出す。

 

「うっあっあっあっあっあっ!!! 一回だけって言ったのに!

 “あの時”のお礼に、一回だけって言ったのにぃいいっ!!

 あっあっあっあっあっあっあああああっ!!」

 

「ええ、確かに。

 霊薬(エリクサー)のお礼替わりとして一回だけ抱かせて頂くというお話でしたね」

 

「な、なのにっ!

 なんで、こんなにするのさぁっ!!

 んんっ! んっ! あぅっ! あぅっ! あぁあっ! あぁぁっ!!

 も、もう、一回どころじゃっ!! んぁあああああっ!!!」

 

「と、申されましても。

 まだ私は一度も射精をしていないわけでして」

 

 困った表情で黒田は答えた。

 会話をしている最中でも、彼は責めをまるで緩めない。

 

「なんでっ!? なんでっ!? なんで、なんでっ!!?

 もう、ずっとしてるじゃないっ!! あぅっ! あぅっ! ああっ! あぅうううっ!!

 夕方から、もうずっとぉおおおっ!!!」

 

(ゆ、夕方からされているんですか……!?)

 

 もう日が沈んでから数時間経過している。

 その間、ずっとミーシャはこうやって責め立てられていたというのか。

 だとすれば、彼女の嬌声が悲鳴のようになっていることにも頷ける。

 

(……まあ、一晩中ヤってたりしてましたからね、あいつ)

 

 今朝、マリーやシフォンとしたいた時も、エレナとしていた時も、黒田はかなりの長時間セックスをし続けていた。

 このミーシャという少女は、そんな黒田の底なしの体力を知らなかったらしい。

 

 黒田は余裕たっぷりに返事をする。

 

「まあ、たった一度だけの行為ですからね。

 たくさん楽しまなければいけないと、気合いを入れております」

 

「気合いってそんなっ!! あっあっあっあっああああっ!!

 そんな、のでっ!? あっ! んぉおおっ! おっ! おっ! おっ!!」

 

 ミーシャの瞳孔が大きく開かれる。

 快感に耐え難くなったのだろう。

 

 彼女は大きく身を捩り、黒田の手から逃れようとする。

 だがミーシャの肢体はがっちりと抱えられており、その程度では抜け出すことは叶わなかった。

 

「も、もうイヤ、イヤぁあっ!!

 ああっ! あっ! あっ! あっ! あぁああっ!!

 忘れられなくなるっ!! 君のちんぽ、忘れられなくなるぅうっ!!」

 

 涙を流し、涎を垂らしながらミーシャは悶えた。

 彼女がそんな状態になっても、なお黒田は変わらず責め立てる。

 

(あ、あ、あ……あんなに……あんなになっても、ヤられちゃうんですか……?)

 

 ミーシャの有様を見て、イルマの肢体はさらに熱くなっていく。

 夜食を乗せたトレイは、いつの間にか床に落としていたが――今の彼女には、もうどうでもいいことだった。

 

(私も――私も、あんな風に――)

 

 イルマの手が、自然と胸と股に伸びてしまう。

 自分の意思とは無関係に、乳首を捏ね、陰核を擦り出した。

 

(あ、もう、こんなに濡れて……?)

 

 秘所がもうびちょびちょになっていることに、自分自身が驚いてしまう。

 イルマが考えていた以上に、彼女の身体は興奮しているのだ。

 

「イクっ! イグっ!! イグゥっ!!! またイグぅううううううっ!!!!!」

 

 一方でミーシャの方は、再度絶頂に達したようだ。

 次の瞬間、彼女の股間から透明な液体が噴き出る。

 快感のあまり、潮を吹いたのだ。

 

 ……だというのに、黒田の腰の動きは一向に止まらない。

 絶頂したミーシャへの責めを続行していた。

 

「――おっ!?――おぉおおっ!!?――おっ!! おっ!! おぉおおっ!!

 ダメェぇぇぇっ!!!――ヤメテぇぇぇっ!!――んぁああっ! ああっ! あぁぁああっ!!

 僕、おかしくなるぅううっ!! おかしくなっちゃうぅううっ!!!」

 

 ミーシャは白目を剥きかけながら絶叫している。

 

「いいじゃないですか、おかしくなっちゃいましょう。

 大丈夫、どれだけ乱れても問題ありませんよ」

 

 そんな、今にも壊れそうな彼女を、黒田は気にも留めない。

 いや、寧ろ――

 

(――ほ、本気で彼女を壊そうとしてる?)

 

 そうとして思えなかった。

 黒田は、あの少女の理性を、心を、破壊しにかかっているのだ。

 

「あぁああああああっ!!!! あぁああああああああっ!!!!」

 

 自分の末路を想像してしまったのか、大声を出して必死にもがくミーシャ。

 相当暴れているのだが、黒田の身体は揺らぎもしなかった。

 淡々とミーシャを壊す作業を続けている。

 

「あぁぁあああっ!! イクっ!! あぁああああああっ!!!!」

 

 その言葉の通り、ミーシャはまたしてもアクメを迎える。

 しかし、やはり黒田は責めを緩めない。

 

(――あ、逃げなきゃ。

 逃げなきゃ、私もああやって――)

 

 きっと、黒田に“壊される”。

 そんな確信を抱くものの、イルマの身体は動こうとしなかった。

 ただ、自分を慰める手の動きが激しくなるだけ。

 

「は、あぁぁ……ん、んぅうう……」

 

 甘い声が漏れる。

 

 イルマの大きなおっぱいがゆさゆさと揺れた。

 クリトリスは痛い程刺激され、快感が湧き上がってくる。

 なのに。

 

(イケ、ない……?

 なんで、私、イケないんですか……?)

 

 いつもであれば絶頂してもおかしくない程の快楽を、このオナニーでイルマは味わっていた。

 なのに、イケない。

 彼女の身体は、さらに大きな快感を欲しがっている。

 

(見ちゃったから?

 もっと、凄い快感があるのを知っちゃったから?)

 

 黒田に身を委ねれば、あれ程の快楽を――自我が崩壊する程の快楽を味わえる。

 それを知ったが故に、それを欲するが故に、イルマの身体は絶頂できないのだ。

 

(ほ、欲しい――欲しい、欲しい!

 あいつのでっかいちんぽを、私のまんこに突っ込んで欲しいっ!)

 

 イルマはまだ処女である。

 だから、膣や子宮への刺激による快楽を知らない。

 ――知らないからこそ、期待が大きく膨らんでしまった。

 まんこを抉られる快感を妄想し、早くそれが欲しいと願ってしまった。

 

「あ、あぁぁ……欲し、い……ん、あぁぁ……欲しい……」

 

 知らず知らずのうちに、イルマの口からも願望が垂れ流しになる。

 黒田とミーシャの痴態を見つめながら、彼女はオナニーに耽っていく。

 

「んぉおおおっ! おっ! おぉおっ! おぉおおおっ!!!

 あああああっ!! イクぅううっ!! もうずっとイってるぅうううっ!!!」

 

 イルマを置いてきぼりにして、2人のセックスは続いていた。

 何度ミーシャが絶頂しても、黒田の動きは変わらない。

 大きくそそり立ったイチモツで、ミーシャを嬲っている。

 ……驚異的なことに、彼はこれだけして一度も射精していなかった。

 

 

 そして、とうとう――

 

「あぁあああっ!!!! ごめん、ごめん、サン、ごめんっ!!

 もうダメぇっ!! 僕、もうダメぇぇええっ!!!!

 まんこ、こいつの形になっちゃったぁっ!!

 こいつのちんぽじゃなきゃダメになっちゃったぁっ!!」

 

 ――涙を流しながら、ここには居ない“誰か”へと謝罪するミーシャ。

 彼女の身体が、黒田に屈したのだ。

 

「それ程感じて頂けたのであれば嬉しいですね。

 ただ――今日一度きりしかミーシャさんを抱けないのが残念ですが」

 

「そんな、の、もう、関係ないぃっ!!

 抱いてぇぇっ! いっぱい抱いてぇぇええっ!!

 僕に、精子注ぎ込んでぇぇぇえええっ!!!」

 

「おや、そうですか?

 では――」

 

 言うや否や、黒田は自分の男根を膣の奥底へ深く深く突き入れた。

 ミーシャの声が、動きが、一瞬停止する。

 

「――あっ――あっ――あっ――は、入ってくる――!!

 君の、精子が――僕の子宮、叩いてる――!!」

 

 蕩けきった表情のミーシャ。

 黒田の射精によって、ひときわ大きなアクメを迎えたのだ。

 

 彼女の股からは、膣内に収まりきらなかった精液がドロドロと流れ出てきていた。

 

「は――あ――あ――あぁぁぁぁ――」

 

 ミーシャの瞳は閉ざされ、全身がだらりと垂れる。

 完全に意識が飛んでしまったようだ。

 

(お、終わった――?)

 

 そう、終わった。

 ミーシャという少女は、終わってしまった。

 もう黒田でなければ、彼女は満足できないだろう。

 

「さてと、イルマさん」

 

 ミーシャをベッドに横たえさせた黒田が、イルマに話しかけてくる。

 

「夜食、床に落としてしまったようですが――代わりに、貴女の身体を頂いても?」

 

 股間を隠そうともせず。

 射精したばかりだというのに大きく反り返ったイチモツを見せつけながら、黒田はイルマに近寄ってくる。

 

 それに対し、イルマは。

 

「――は、はい。

 お願い、します」

 

 自らスカートを捲りあげ、愛液でびっしょりと濡れた恥部を露わにする。

 今は、一刻も早く彼のイチモツを味わいたかったのだ。

 

 

 

 ……しばしの後。

 

 

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 部屋の中には、先程までとは違う声色の喘ぎが響いていた。

 声の主は勿論、イルマだ。

 

「凄いっ! これっ! 凄い、ですっ!

 あっ! ああっ! あぅっ! あんっ! あぁああっ!」

 

 彼女は今、産まれたままの姿になって黒田に正面から抱きかかえられ、そのまま彼と繋がっていた。

 

 たわわに実った大きなおっぱいがプルンプルンと揺れる様は、男に欲情を抱かせるに十分な色気を放つ。

 胸に比べるとまだ未成熟な小さいお尻も、その不釣り合いさが逆に淫猥な雰囲気を醸し出している。

 そして、初めて異物を迎え入れるイルマの女性器は、数刻前まで処女であったとは思えない程に黒田のイチモツに馴染んでいた。

 

「はぁあああああんっ!! あっ! あっ! もっとっ! あぁああんっ!!」

 

 さらに気持ち良くして欲しいと、黒田にねだる。

 彼はそれに応えて、より強く腰をぶつけてきた。

 

「あ、あぁあああああっ!!」

 

 望み通りに大きな快感を与えられ、イルマは悦びに打ち震えた。

 

 お返しとばかりに黒田を強く抱きしめる。

 イルマの大きな胸が彼の胸板に押し付けられ、押し潰されるように形を変える。

 

(気持ち、いいっ!!

 まんこが貫かれて――こんなの、オナニーじゃ味わえないっ!!)

 

 うっとりとしながら、肉棒に貫かれる快感を味わうイルマ。

 彼女の身体はあっという間に黒田のちんこの虜になっていた。

 

 彼に一つ突かれる毎に、頭のてっぺんにまで快感が駆け上がるのだ。

 これを知ってしまったら、通常の自慰行為ではもう満足に絶頂できないだろう。

 

(……まあ、最初に挿れられた時は痛かったですけどね)

 

 流石に処女膜が破られた時は激しい痛みに襲われた。

 しかしそれもすぐ消え、イルマはただ純粋に雌としての悦びを堪能している。

 ――黒田によると、ローション替わりに治癒用ポーションを用いることで破瓜の痛みが薄れるのだとか。

 

(そんなテクニックがあったとは)

 

 よくそんなことを知っていたなと、単純に感心してしまったイルマである。

 

「はっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

(そうだと知っていれば、いちいち怖気づいたりしなかったのに)

 

 掃除の際に、黒田の申し出を断ってしまったことを心底公開する。

 

(そうすれば、もっと、早く、この快感を味わえたのに!)

 

 いや、その時と言わず、エレナと黒田が交わっていた時に自分も混ぜて貰えばよかったのだ。

 

(クロダのことですから、どうせ拒むわけありませんし)

 

「あひっ! あっ! あひぃっ! んっ! んぁあっ!」

 

 そうなっていれば、毎日のようにこの快楽に耽っていられたかもしれない。

 ……もしもの話をしても仕方のないことだけれど。

 

(でも、これからはこのちんぽを貰えるんですよね!

 いつでも私に突き挿してくれるんですよね!!)

 

 そう考えると、期待が膨らんでさらに肢体が熱くなる。

 少しでも黒田のちんこを堪能しようと、膣が蠢動してしまっているのが自分で分かった。

 

(私、なんてバカだったんでしょう!

 こんな気持ちいいこと、我慢しちゃってただなんて!

 あー、私のバカバカ――――あれ?)

 

 その時、イルマの胸に疑問が去来した。

 自分が黒田との性交を拒否したのは、ただ怖かったからだけだっただろうか?

 処女を失うという未知の痛みに、恐怖してしまっただけだっただろうか?

 

(――何か、他に、あったような。

 大切な、理由が、あったような――?)

 

 一度気になってしまうと、なかなかソレは頭から離れなかった。

 そのせいで、黒田とのセックスにいまいち集中できなくなってしまう。

 

「……どうしました、イルマさん?」

 

 そんな彼女に気付いたのか、黒田が心配げにイルマの顔をのぞき込んできた。

 肉棒のピストンは止めないあたり、実にかれらしかったが。

 

「あっああっあっああっあ!

 べ、別になんでも無い、です――あっああぁああっ!」

 

 返答するが、心は晴れない。

 自分は何かを忘れている――そんな気持ちになってしまったのだ。

 

(私は、何を――――あっ!)

 

 その時、イルマの頭にある情景が浮かび上がってくる。

 それは、ある青年の姿。

 蒼の鱗亭の常連である、なんのかんの言いつつも優しく接してくれた、若い冒険者。

 

「――ジャン」

 

 心の中で考えていたことが、ついつい口に出てしまった。

 

「……ジャンさん?

 彼と何かあったのですか?」

 

 黒田もイルマの呟きが聞こえたらしく、尋ねてくる。

 どう返したものかと悩みつつ、彼女はほっとしていた。

 

(――――なんだ、そんなことでしたか)

 

 イルマの中に渦巻いていたモヤモヤは消え去った。

 分かってみれば、実につまらないことだった。

 “自分がジャンに想いを寄せていた”などと、そんな『どうでもいいこと』を気にしていたらしい。

 

 なので、イルマはそのことを正直に口に出す。

 

「あっああっ! あんな奴――あぁあんっ!――もう、どうでもいいですっ! あぁああっ!

 あなたの、あなたのちんぽの方が――あぁぁあああっ!」

 

「おやおや」

 

 しかし、黒田はそこで眉を顰めた。

 

「どうでもいい、というのは感心しませんね」

 

 言いながら、彼はイチモツをイルマの膣の奥に――子宮口にねじ込んでくる。

 

「あっあっあっあっあっあっ!? すごい、深いぃっ!!!」

 

 腹の奥を起点に全身へ快感が走る――その新しい感覚に、イルマは歓喜の嬌声を上げた。

 そのまま黒田は子宮の壁を亀頭で叩きながら、彼女に話しかけてくる。

 

「察するに、イルマさん。

 貴女はジャンさんのことが好きなんですね?」

 

「あっあぅっああっ! ま、まあ、そう、でしたけどっ!

 ああっ! あっ! んぁぁああああっ!!」

 

 快楽に頭がぼやけているせいか、普段ならとても肯定できないことに頷くイルマ。

 黒田はそれを確認したうえで、さらに続ける。

 

「好きな相手を、“どうでもいい”などと言ってはいけませんよ。

 そうでなくとも、彼は私から見ても好青年ですしね、知り合いが誹謗中傷されるのは気分のいいものじゃありません」

 

「あ、え――? あっ! あんっ! ああっ! あぁああっ!!

 で、でも、私――あ、あぅうっ!――クロダとのセックスが、気持ち、良くて――あっ! あああっ! んぅううううっ!!」

 

「それに何か問題が?

 私に抱かれるのは気持ち良い、でもジャンさんのことは好き。

 別にそれでいいじゃないですか」

 

「え、え、い、いいんですか?――あ、あんっ!!」

 

「勿論ですよ。

 快感を得るのは身体の問題で、好きなのは心の問題でしょう?

 そこは切り離して考えませんと」

 

 黒田はそう断言してきた。

 

(そ、そんなものなんでしょうか……?)

 

 まあ、彼が言うからにはそういうことなのだろう。

 

(ジャンのことが好きで、でもクロダに抱かれて。

 ……それで、いい?)

 

 それは、なんとも甘美な誘惑に聞こえた。

 

「今度、ジャンさんともセックスしてみて下さい。

 好きな人との交わりは、充足感もまた格別でしょう」

 

「あ、あんっ! そ、そうなんです、か――?」

 

「ええ、勿論です」

 

 やはり断言する黒田。

 それで話は終わったとばかりに、彼はピストンを速めてくる。

 

「あぁああああっ!! あっあっあっああっ!!」

 

 堪らず、イルマは悶えた。

 今日一番の快感が彼女を捉えたのだ。

 

「さて、そろそろ私も射精したいですし、一気にいきますよ、イルマさん。

 さらに激しくヤりますからね!」

 

「は、はいっ! あっ! あっ! あぁあっ! ああんっ! き、気持ちいいですっ! あっあっあっあっあぁあんっ!

 もっと、もっとして下さいっ! クロダっ!! あぁぁああああっ!!!!」

 

 振り落とされそうになる程、強く強く腰を動かすクロダ。

 イルマは彼の身体にしがみ付きながら、力強いストロークに自分の女性器が抉られる悦楽に身を蕩けさせた。

 

「あっ!! イクっ!! イキますっ!! 私、イキますっ!!」

 

「いいですよ、イって下さい。

 私も、出しますからね」

 

「ああっ!! イクっ! イクぅっ!! イクイクイクイクっ!!

 あぁぁああああああああっ!!!!」

 

 イルマが絶頂するのと、黒田が射精するのは同時であった。

 今までの人生で一度として味わったことの無かった、とてつもないエクスタシーに、彼女の意識は一瞬飛びそうになる。

 

「あっ!…あっ!…あっ!…あっ!…あっ!」

 

 ビクビクと痙攣する子宮に、大量の精液が注がれていく。

 それがなんとも言えず、心地よい。

 自然と、恍惚の笑みを浮かべてしまう。

 

(ああ言われたことですし、今度ジャンともしてみますか)

 

 絶頂の余韻で朦朧とする意識の中、頭のどこかでそんな思考を巡らせる。

 こう言っては何だが、ちょっと誘惑してやればジャンはすぐに応じるようにも思えた。

 彼と性交するのは、とても容易だろう。

 とはいえ――

 

(絶対、クロダとの方が気持ち良いでしょうけど)

 

 ――黒田以上のセックスをジャンがしくれるとは、とても思えないイルマだった。

 

 

 

 第十八話裏 完



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第十九話 ある社畜冒険者の転機
①! いつものように黒の焔亭※


 

 夜。

 一仕事終えた私は、毎度のごとく黒の焔亭で食事をしていた。

 

 今のところ陽葵さんの迷宮攻略は順調そのもの。

 もう少しで黄色区域に到達できる見込みだ。

 私も安心して尾行ができるというものだ。

 ――そろそろリアさんだけでは陽葵さんのカバーを仕切れなくなる強さの魔物が出始める階層になるので、ここからが正念場と言える。

 

 「ひっ……あっ!……あっ……あぅっ!」

 

 美味しい定食を食べている私の耳に、リアさんの声が聞こえてきた。

 

 「あっ……ん、んんっ……あ、うっ!」

 

 彼女もまたいつもの通り、ウェイトレスの仕事をしている。

 ――いつもの通り、乳首がギリギリ隠れる程度に胸元が開き、少し動けば下着が見える程スカートの短い、煽情的なウェイトレス制服を着ながら。

 

 ちょうど今は、ある男性客から注文を受けている最中であり――その客からスカートに手を突っ込まれ、股を弄られている最中でもある。

 男の注文を聞き逃さないよう、彼女は健気に股間への愛撫に耐えている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「うぅ……んあっ……あっ!……あぁっ!」

 

 ――いや、あれは注文をちゃんと取れているのか?

 喘ぎ声はどうにか抑えようとしているようだが、ほのかに赤くなった顔は快楽に蕩けかけている。

 時折、セミショートの茶色髪を振り乱しながら快感に身を捩る様は、実に妖艶。

 とてもではないが、客が話している内容が聞こえているようには見えなかった。

 

 「あ、あぁっ!……くぅぅ……んぁっ!……あぁぁ」

 

 もっとも、男の方もそれは承知しているように見える。

 注文よりも、リアさんを責めることの方を優先しているようだ。

 彼女が淫らに悶える様子を、いやらしい顔で見つめていた。

 

 この光景もだんだんと見慣れたモノになっている。

 彼女が肉便器であることは、この店の常連達には既に公然の秘密となったのだ。

 

 なので、客達は気軽にリアさんへ手を出していた。

 

 「ん、んんん……あ、うぅぅ――――そ、それで、全部、ね?」

 

 声を乱しながらも、客の注文に返事をするリアさん。

 とりあえず注文は完了したようだ。

 ふらつく足取りで厨房へ伝えにいこうとしたところで、

 

 「リアちゃーん! ちょっとこっち来てー!」

 

 別の客が彼女を呼んだ。

 

 「はいはい、何の用?」

 

 あんなことをされた直後だというのに、リアさんはすぐ客の方へ向かった。

 彼女を呼んだ男性客は、床を指さしながら話しかける。

 

 「いや、ビールを床にこぼしちゃってね。

  これ、片付けてくんない?」

 

 「……何してくれてんのよ。

  ちょっと待ってなさい、今拭くから」

 

 だが、布巾を取りに行こうとするリアさんの腕を客の男が掴む。

 

 「ダメだよ、リアちゃん」

 

 「は? 何がダメだってのよ」

 

 「布巾なんて使わずにさ、舌で舐めとればいいだろう?」

 

 「!? あ、あんた何言って――」

 

 流石にその言葉に面食らったのか、リアさんは抗議した。

 男の手を振りほどこうとするが、

 

 「んんぅっ!? あ、あぁぁあっ!」

 

 その前に、客の手が無造作に彼女の胸元へ伸び、乳首を捻りあげた。

 

 「あっ! やっ! 痛っ!!

  乳首、ちぎれるっ!! あぁあああっ!!」

 

 綺麗なピンク色の乳首を爪が食い込む程の力で抓まれ、リアさんが悲鳴を上げる。

 いや、正確には悲鳴を上げたつもりだったのだろう、彼女は。

 しかしその声色は艶を帯び、顔は気持ち良さそうな緩い笑みを浮かべていた。

 とても、“痛がっている”ようには見えない。

 

 男性客は乳首を引っ張って彼女を自分の近くに寄せると、耳元でがなり立てる。

 

 「おい、肉便器風情が人間様に反論しようとすんじゃねぇよ!

  俺が舐めろっつったんだから、便器はただ床を舐めりゃいいんだっ!!」

 

 「あ、あ、あっ!―――う、うぅぅ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その言葉にリアさんは涙目になりながら頷く。

 反応に満足した男が乳首を離すと、彼女はゆっくりと四つん這いになり、自分の舌で床にこぼれた液体を舐めだした。

 

 「ははっ! やっぱ肉便器は人間とは違うんだな!

  普通、どんだけ金積まれたってやれねぇぜ、こんなこと!

  プライドってもんがねぇよっ!」

 

 自ら命じたというのに、客の男はリアさんの無様な姿を見てせせら笑った。

 他のテーブルに居る客も、床に舌を這わせる彼女をにやにやとした笑みを浮かべて鑑賞している。

 

 「……んっ……んんっ……ぺろ……れろ……んっ……」

 

 そんな視線に耐えながら、リアさんは床を舐め続けた。

 なお、ただでさえ丈の短い彼女のスカートは四つん這いになることで完全に捲り上がっている。

 つまるところ、白いショーツに覆われたお尻丸出し。

 リアさんの程よく肉のついたプリプリの尻が衆目に曝されていた。

 男達の目は、そこにも集中している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「あんだけあっちこっち露出した過激な服着てるくせに、下着は地味だなぁ」

 

 「もっと派手なヤツ履けよ」

 

 「いやいや、アレがいいんだよ、お子様っぽくて」

 

 観衆達が好き勝手台詞を吐く。

 一方、リアさんに床を舐めさせるよう命じた当人は、突き出された彼女の尻をまさぐりだしていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 「あぅっ!……んんっ……は、あぁぁ……」

 

 「おいおいリアちゃん、まんこから愛液が溢れ出てるぜ!?

  こんだけ屈辱的なことされて、感じてるのかよ!!

  なぁっ! 気持ちいいのか、リアちゃんよぉっ!!?」

 

 「んぅぅうううっ!……あぁ、あぁぁああっ……

  う、うん、あたし、気持ちいい……あ、あ、あ、あ、あっ!

  気持ち良く、なっちゃってるっ!……はあぁぁぁぁぁ」

 

 男の言葉に、喜びの声を返す。

 床を舐めながら股を弄られ――そんな行為でリアさんは感じていた。

 

 周囲がどっと笑いだす。

 

 「やっばいな、なんだこの子っ!」

 

 「変態だ変態だとは思ってたけど、まさかここまでとはねぇ」

 

 「人の皮被った雌犬だなっ!」

 

 「そりゃ雌犬に対して失礼だろう!

  犬にだってもう少し理性がある!」

 

 口々にリアさんの醜態を嘲笑する男達。

 彼女の尻を揉む男性客は、さらに続けた。

 

 「愛液のせいでショーツがべったりまんこに張り付いちゃってるな。

  おかげでリアちゃんのまんこの形がくっきり分かるぜ。

  はは、色んな男のちんこ突っ込まれたってのに、まだ綺麗な形してるじゃないか!」

 

 「んんっ!! あっあっあっあっあっあっ!!」

 

 股にある2つの穴を同時に穿られ、リアさんは淫らな声を吐き出した。

 

 「これ、下着を履く意味あるのかね?

  ここ最近、リアちゃんの股が渇いた試しがないし。

  よし決定、明日からリアちゃんはパンツを履かないこと!

  その方が洗濯の手間も省けるからね!」

 

 「お、そいつはいいな!」

 

 「いや待て!

  あのショーツはいいモノだろう!

  なくしちゃダメだっ!」

 

 「ああ、あの地味なパンツも揃ってのリアちゃんだよ!!」

 

 リアさんの尻を弄っている男性の言葉に、観衆が賛否両論をあげる。

 喧々囂々とした議論の中、手にビール瓶を持った一人の客がリアさんに近寄っていった。

 

 「……おっと、手が滑った」

 

 そしておもむろに、手に持った瓶を逆さまにし、中身(ビール)をリアさんの頭に、背中に、尻に、足に、浴びせかける。

 

 「――ぷはっ!? な、何すんのよっ!!」

 

 頭からビールをかけられ、男を睨み付けるリアさん。

 

 「いやぁ、すまんかったすまんかった。

  面白い出し物につい見惚れちまってねぇ。

  ……しかしまあ、大分“汚れ”ちまったなぁ、リアちゃん。

  こりゃ、しっかり“綺麗にして”やらねぇと」

 

 ビールをかけた男が下卑た笑みを浮かべる。

 その意図に気付いた他の客達が、次々にリアさんへ詰め寄っていった。

 

 「おお、そうだそうだ。

  アルコールで全身濡れちまったからな」

 

 「ええ、これは“お掃除”してあげませんと」

 

 「身体の隅から隅まで、ぜーんぶ綺麗にしてやらんとのぅ」

 

 男達はリアさんの肢体に手を伸ばし、彼女を担ぎ上げる。

 

 「ちょ、ちょっと、あんた達――!?」

 

 リアさんは叫び声を上げるものの、男達の動作は止まらない。

 

 「確か、この店倉庫の一つ空いてたよな」

 

 「ああ、あそこは当分使う予定がないって店長言ってたぜ」

 

 「じゃあ、そこでリアちゃんを“綺麗に”してやろうか。

  俺達が責任持って」

 

 「それがいい。

  あそこならナニやっても店には迷惑かからないだろうからな」

 

 男性客の集団は、リアさんを抱えながら店の奥へと動き出した。

 そこで一体何をするつもりなのか――想像に難くない。

 

 「へ、やだ、ちょっと!?

  いや、いやぁあああああっ!!!!」

 

 リアさんの絶叫は、店の奥へと消えていく。

 

 

 

 ……さて、私はどうしようか。

 股間は既に勃起している。

 当然だ、リアさんの痴態をずっと眺めていたのだから。

 

 倉庫の方へ向かった一団に混ぜて貰い、一緒にリアさんを責めようか?

 多人数プレイというのはそこまで好きではないのだが、しかしあれはあれで絶妙な味がある。

 

 或いは、同じウェイトレスであるシエラさんやジェーンさんに付き合って貰う?

 彼女らも今のリアさんの様子は見ていたようで、平然と仕事をこなすフリをしているものの、顔を赤らめていたり股をもじもじとしていたり――つまりは、発情している。

 互いの欲情を発散させるのもいいだろう。

 

 それとも、まだ誰も手を付けていないカマルさんへ行ってみようか?

 店長が目をかけている以上、彼女も相当淫乱な素質を持っているはずだ。

 

 そんな風に私が悩んでいると、

 

「相席、いいかね?」

 

 横から声をかけられる。

 この声は――

 

「――セドリックさん。

 どうされました?」

 

「いや、ちょっと君と話がしたくてね」

 

 私に話しかけてきたのは、壮年の男性、セドリックさんだった。

 彼は私のすぐ隣の席に座ると、口を開いた。

 

「クロダ君、何か飲みたいものはあるかな?」

 

「いえ、先程食事を終えたばかりですので」

 

「遠慮しないで欲しい。

 今日はちょっと――しっかりと話をしたいのでね」

 

 セドリックさんは真剣な眼差しで私を見つめた。

 いつもと違うその表情に、私も襟元を正す。

 

「そうですか、分かりました。

 ……では、エールを一杯」

 

「うん、奢らせてもらおう」

 

 程なくして、黒髪ボブカットのウェイトレス――シエラさんが2人分の飲み物が運んでくる。

 私達はそれを受け取り、乾杯してから話を始めた。

 

「……単刀直入に聞かせて貰うんだが――ローラさんと付き合い始めたというのは本当かい?」

 

「はっ!?」

 

 いきなりセドリックさんはぶっ込んできた。

 あやうく飲んでいたエールを噴き出しそうになる。

 

「な、何を言い出すんですか、いきなり!?」

 

「ふむ、その反応を見るに、どうやら本当のようだね」

 

 したり顔でセドリックさんは頷く。

 いや、私とローラさんが付き合っているという事実は無い――いや、無い、はず。

 

「ローラさんがね、もう君以外の男には抱かれないと宣言したって耳にしてね。

 ああ、これはとうとうクロダ君も覚悟を決めたのかと――」

 

「い、いや、あのですね」

 

 弁解しようとするが、予想だにしていなかった展開に舌が上手く回らない。

 ……セドリックさんの、本当に嬉しそうな笑顔も、それを加速させた。

 

「良かった――夢のようだよ。

 あのローラさんが、とうとう普通の――といっては失礼かもしれないが――ともかく世間一般的な女性の幸せを追い求めだしてくれたとは。

 うんうん、これでローラさんに手を出す不埒な輩を何の遠慮も無く制裁できるな」

 

「え、制裁?」

 

 いきなり凄い単語が飛び出してきた。

 制裁ってなんだ。

 

「そりゃ勿論、ローラさんに手を出した奴らを叩き潰してやるのさ、社会的に。

 今までは彼女がそういう連中を“受け入れて”しまっていたからね、余り大手を振ってやることはできなかったが。

 ま、実を言えばそれでも“特に性質の悪い男共”は秘密裏に始末してきたんだけどね」

 

「そ、そうだったんですか」

 

 そんなことしてたのか、この人。

 言われてみれば、ローラさんを抱いた後すぐに街を去った人が何人かいたような気がする。

 ……よく私、それで制裁されなかったな。

 

「ん、ああ、クロダ君にそんなことはしないよ?

 するわけがないだろう。

 君はローラさんを、一度としてぞんざいに扱わなかったじゃないか」

 

「それは、勿論そうですけれど」

 

 ……多分。

 

「私が葬ったのは、ローラさんの日常生活すらぶち壊そうとしてきた馬鹿共さ。

 奴隷として売り飛ばそうとしたり、薬漬けにして娼婦に仕立てようとしたり、監禁して性処理道具にしようとしたり。

 そういうヤツが結構いるのさ」

 

「……な、なるほど」

 

 最後のは最近聞いたことがある気がする。

 そうか、ローラさんを監禁しようとしていたあの方々はつまるところ、ミサキさんに助けられたとも言えるわけか。

 相当ボコボコに絞られたようだが、抹殺されるよりかは遥かに上等であろう。

 ……セドリックさんが、嘘を言っているようにはとても見えない。

 

「ははは、しかしそれも今日までだ。

 ローラさんが君に対して一途になろうとしている以上――近寄る奴らは皆殺しにしてやる」

 

 彼の目は真剣(マジ)だった。

 

「ほ、程ほどにして下さいね?」

 

「ああ、大丈夫だよ。

 クロダ君やローラさんに迷惑はかけないさ」

 

 微妙に答えがずれている。

 だがそれを指摘する気にはなれなかった。

 

 セドリックさんは空になったコップをシエラさんに渡し、また同じ酒を注文した。

 なみなみと注がれたお酒をぐいっと飲んで。

 

「――――ああそうだ、クロダ君?」

 

「は、はい、なんでしょう?」

 

 セドリックさんの改まった口調に、私は少し返答がどもってしまった。

 

「式はいつ挙げるんだい?」

 

「ぶっほっ!?」

 

 再度、噴き出す。

 次から次へと凄い質問を突っ込んでくるセドリックさんの言動に、私はろくに返事すらできない。

 

「式って、式ってそんな――」

 

「おや、トーキョーでも結婚の際に式を挙げると聞いたが――クロダ君のところは違ったかな?」

 

「いえ、私のところでも結婚式はありますが……」

 

「ああそうか、それなら良かった。

 是非盛大な式を挙げてくれないか。

 資金が足りないというのなら、私が幾らでも出そう。

 そうだ、いっそこの街じゃなくて聖都の教会はどうだい?

 あそこはいいぞ、この街の教会が馬小屋に見える程の荘厳さだ。

 なんなら今から予約をしておこうか」

 

「い、いや、そこまでして頂くわけには――」

 

 セドリックさんのマシンガントークに、私が返せたのはその程度の言葉だった。

 よく見れば、彼の顔は大分赤くなっている。

 アルコールがかなり回っているのだろう。

 

「遠慮なんてしないでくれ――本当に、しないでくれ。

 私は、ローラさんのためなら全財産を費やしても惜しくは無いんだ。

 ……前にローラさんへそう言ったら、きっぱり“いらない”と突っ返されてしまったがね」

 

 彼は急に神妙な顔つきになる。

 酔っているせいか、今日のセドリックさんは何時に増して饒舌だった。

 

「これは私の贖罪なんだ――いや、ローラさんが私を許す訳がないのだから、ただの我が儘か。

 クロダ君には前にも話しただろう、馬鹿で愚かな男の話を」

 

「……ローラさんを調教したことですか」

 

 私の言葉に、セドリックさんは首肯する。

 

「そうだ。

 当時の私はどうしようもない屑でね――まあ、今の私が屑じゃないというわけでもないのだが。

 世の恋人同士だとか、夫婦だとか、そういう存在が憎くて憎くて仕方なかった。

 幸せな男女を見ると、その仲をあらゆる手段を使って引き裂いやってたんだ」

 

「奥方に裏切られたから、でしたね

 ある日、別の男と一緒に失踪されたとか」

 

「まあね、今更言い訳にもならないが、それがきっかけではあった。

 そして馬鹿な私は当時幸せな結婚生活を送っていたローラさんに目をつけてしまったわけだ」

 

 そう言うと、彼はコップの中身を飲み干す。

 またシエラさんに頼んで酒を注いで貰うと、

 

「どれだけ私が金や宝石をチラつかせても、ローラさんは相手にもしなかった。

 彼女が愛していたのは、夫であるウィリス君だけだったからね。

 そこで諦めればよかったんだが――私は無理やり彼女の身体を奪ってしまった」

 

 今も当時も、セドリックさんはこの街で最大規模の資産家だ。

 彼がその気になって、手に入らないものなどこの街に無かっただろう。

 勿論、ローラさんの身体であっても。

 

「私は何度もローラさんを犯した。

 彼女の家でも、私の家でも、路地裏でも、この街の至るところで。

 時にはウィリス君の前でさえも。

 何度も何度も何度も――ね」

 

 ここで、セドリックさんは酒に口をつける。

 

「それでもローラさんは夫への愛を貫き通した。

 私が手に入れられたのは身体だけで、彼女の心を微塵も揺るがせなかったんだ。

 ……ここで終われば、まだ良かった」

 

 そうだ。

 セドリックさんは、ここまでしてまだ彼女を諦められなかった。

 より正確には、ローラさんと旦那さんの愛を否定することを諦められなかった。

 

「馬鹿で屑な私は、とうとう最終手段にでた――薬だ。

 人を従順にさせる、つまるところ奴隷にする薬を――いやもういっそ毒と言った方がいいか――私は彼女に打ち込んだ。

 ローラさんが私に愛を囁くようになるまで、幾度となく打ってやった。

 ……そして、彼女は壊れた」

 

「…………」

 

 私は黙って彼の話を聞く。

 下手な合いの手は、野暮になる。

 

「だがねクロダ君、ローラさんは心が壊れても、それでも夫への愛を口にしたんだ。

 身体はもうウィリス君とのセックスでは我慢できないようになり、心もまた私に服従したというのに。

 それでも、夫を愛していると言ってのけたんだ。

 ……今度は、私が壊れる番だった」

 

 酒を飲み干し、また注ぐ。

 

「それまで縋っていた価値観が全て崩壊する気分だった。

 馬鹿で屑だった私は、そこでようやく自分が馬鹿で屑だったことに気付いたのさ。

 ……すぐにローラさんからは手を引いた。

 彼女が普通の生活ができるよう、四方八方手を尽くして薬から立ち直る手段を模索した。

 そして少しずつだが彼女の心と体が快方に向かいだした頃に……ウィリス君がこの世から去った」

 

 空になったコップを、力なくテーブルに置くセドリックさん。

 

「これだけは誓わせてもらいたいのだが、私はその件に関して決して手を出していない。

 誓って――誓ってだ!

 彼が死んでしまったのは、私にとっても青天の霹靂だった。

 そして、それまで順調に治療が進んでいたローラさんは――完全に気力を無くしてしまった。

 酷いモノだったよ、毎日毎日、朝から晩まで幾人もの男性と関係を結び、快楽に耽り。

 見かねた私が止めても聞く耳持たなかった――まあ、全ての元凶である私がどの口でほざくのかという話だ、当然の反応だな」

 

 セドリックさんは視線を私に向けた。

 真摯な瞳で見つめてくる。

 

「そんな時に現れたのが、君なんだ。

 君と会ってから、ローラさんは変わった。

 日々の生活に活力が湧き出し、しっかりと生活を送るようになった。

 男に求められれば拒めないという体質は治っていないが――しかし君はそんな彼女も受け入れてくれた」

 

 ……そう言われるとなんともこそばゆい。

 私がそこまでのことを彼女にしたとは思えないのだが。

 

「クロダ君。

 頼む、彼女を幸せにしてやってはくれないだろうか。

 そのためなら私は何でもしよう。

 金も、地位も、命だって投げ出したっていい」

 

 セドリックさんが両手で私の手を握ってくる。

 彼は涙まで流しながら、私に懇願してきた。

 

「君ならできるはずだ。

 それだけの男だと、私は見込んでいる。

 私は地獄に落ちるべき人間だが、彼女は違う。

 ローラさんは、幸せにならなければいけない人なんだ。

 どうか、どうか、私の我が儘を聞いてはくれないか」

 

 見ているこちらが恐縮してしまう勢いで、頭を下げてくる。

 

「頭を上げて下さい、セドリックさん。

 私にどれだけのことができるか分かりませんが、決してローラさんの悪いようにはしません」

 

「……そうか。

 ありがとう、クロダ君」

 

 私の言葉に、彼が顔を上げる。

 

「大分、話し込んでしまったな。

 すまないね」

 

「いえ、そんなことは」

 

「そう言ってくれると有難いよ。

 さて、私はそろそろ帰るとしよう。

 ――シエラちゃん、行くよ」

 

 セドリックさんはシエラさんを呼ぶと、彼女の肩に手を回した。

 そのまま席を立ち、シエラさんと一緒に出口へ向かおうとする。

 

「おや、今日はシエラさんとご一緒なんですか?」

 

「ああ、ちょっと前に魔族の騒ぎがあっただろう。

 その時に彼女、かなり酷い傷を負ってしまってね。

 私がその治療に必要なお金の手助けをしたんだが――その代わり、彼女に私の子を孕んでもらうことになったんだ。

 子宮が潰れちゃってたから、それがちゃんと治っているかどうかの確認も兼ねて」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

 それでシエラさんに種付けするため、家に連れ帰るわけか。

 確かに店にいるときだけの行為では、確実に孕ますことができるかどうか怪しい。

 

「……あのー」

 

 私の疑問が解けたところで、シエラさんが私達に話しかけてくる。

 

「ああいうお話の後で、私に“こういうこと”をするのに対して、お二人は何か思うところないのでしょうか……?」

 

「? いえ、別に何も?」

 

「何かおかしいところでもあったかね?

 ……まあ、私は別に改心したわけでも何でもないからね。

 言っただろう、今でも私は屑だって」

 

 私達の反応に、シエラさんは大きくため息を吐くと、

 

「分かりました……クロダさんの方が重症だったんですね」

 

 なんだろう、そこはかとなく批判されているような。

 でも反論できる気もしない。

 

「では、失礼するよ、クロダ君」

 

「はい、お疲れ様です。

 セドリックさん、シエラさん」

 

 私達は短く挨拶をする。

 

「それじゃ、今夜も頑張ろう、シエラちゃん。

 元気な赤ちゃんを産めるように」

 

 そういうと、セドリックさんはシエラさんの胸を揉みだす。

 

「んんっ! あ、あぁぁ……は、はい、しっかり孕めるよう、努力します」

 

 2人は密着したまま、黒の焔亭から去っていった。

 時折、シエラさんの口から艶めかしい喘ぎが漏れるのがなんとも色っぽかった。

 

「――と、そういえば。

 リアさんはどうなったでしょうか?」

 

 気付けば、辺りから自分以外の客の姿が消えている。

 そろそろ店じまいの時間のようだ。

 股間の疼きを解消するため、私はリアさんを探すことにした。

 確か、倉庫の方へと連れられて行ったはずだが――

 

 

 

「……うわ」

 

 思わずそんな声を出してしまう。

 リアさんは、予想通り倉庫に居た。

 部屋の真ん中で、うつ伏せになって倒れている。

 ただ、その姿は――

 

「あへぇ――あー、あー――えへ、えへへ――はひぃ――」

 

 壊れたように笑っているリアさん。

 その身体には、くまなく白く濁った液体が塗られていた。

 茶色の髪にも、可愛い顔にも、形の良いおっぱいにも、きめ細やかな背中にも、綺麗な曲線のお尻にも、健康的な太ももにも、全てだ。

 

 いや、それだけでなく――

 

「――この臭い。

 尿もかけられてますか」

 

 部屋にはアンモニア臭も漂っている。

 どうやら彼女、小便もかけられていたようだ。

 

 その上。

 

「……見事に刺さってますねぇ」

 

 リアさんの尻穴にはビール瓶が口の方から突き刺さっていた。

 彼女が身体を揺らすと、ビール瓶もゆらゆら揺れる。

 

 とりあえず、私は瓶を抜いてやることにする。

 

「――あひぃっ!?」

 

 きゅぽんと音を立て、瓶が抜けた。

 その衝撃で、リアさんは苦悶とも喘ぎともつかないなんともヘンテコな声を出した。

 

「……って中身入ってるじゃないですか!」

 

 瓶の中にはまだアルコールが入っていた。

 リアさんは、後ろの穴から直接酒を注がれていたらしい。

 

 これは危険である。

 良い子は決して真似してはいけない。

 直腸から直接アルコールを摂取すると、死に至ることすらあるのだ。

 まあ、リアさんは魔族なんでその辺大丈夫だとは思うが。

 

 ……今度私もやってみよう。

 

「ちょっと叱る必要がありますね」

 

 何せここは食事の店である。

 幾らリアさんが肉便器だからと言って、本当に小便をかけるのは衛生上よろしくない。

 ちゃんと便所に持って行った上でやるように注意してやらねば。

 

「店長も怒るでしょうし――っと、おや?」

 

 そこで私は気付いた。

 汚れていない場所などないといった様子のリアさんだが、一か所だけ綺麗なところがあった。

 ――女性器である。

 

「律儀な方々だ」

 

 思わず感心してしまう。

 最初に店長によって取り決めた、“リアさんに中出ししない”というルールを、彼らはしっかりと守っていたらしい。

 多少弄られた形跡はあるものの、精液は膣の中に一滴も入っていないようだ。

 

「それでは、ヤらせて貰いますか」

 

 せっかく皆が残しておいてくれたのだ。

 有り難く頂いておこう。

 ……正直なところ、私のイチモツはもうガチガチに勃起している。

 

 私は色々な液体で汚れたリアさんの身体を躊躇いなく掴むと、彼女の膣口へと肉棒をぶち込んだ。

 

「あひぁあああああああああっ!!!!」

 

 まるで断末魔のような嬌声がリアさんの口から飛び出す。

 意識も定かではないという状態にも拘らず、彼女の膣は私の男根を強く締め付けてきた。

 

「流石はリアさん、相変わらずの名器です」

 

 彼女への称賛を口にしてから、私は股間の滾りを鎮めるべく腰を動かしだした。

 

「おほぉおっ!! おほぉおおっ!! おほぉおおおおおおおっ!!!」

 

 狂ったようなリアさんの叫びが、倉庫の中に木霊した。

 

 

 

 第十九話②へ続く



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② “光迅”デュストとの遭遇

 

 

 

「……うー」

 

 黒の焔亭からの帰り道。

 私の隣で、リアさんが呻き声を上げていた。

 

「どうしました?」

 

「どうしたもこうしたも無いでしょっ!!」

 

 心配した私が声をかけると、彼女からは怒号が飛び出した。

 

 ちなみに今の彼女は魔族の状態。

 なんでも、人間状態を維持できない程消耗してしまったかららしい。

 魔族に戻ったおかげで、動けなくなった身体も、発狂寸前だった精神も、大よそ回復したというのだから魔族というのは頑強だ。

 

「あーもう、まさかあそこまでされちゃうだなんて……」

 

 俯きながら、リアさん。

 何やら自己嫌悪しているような表情だ。

 

「落ち込む程のものでしたか?」

 

「十分過ぎるっつーのっ!!

 どんだけヤられたと思ってんのよ!

 瓶突っ込まれたとこ、まだヒリヒリしてるんだから!!」

 

 叫んでから、リアさんは頭を抱える。

 

「……ううぅ、来るところまで来たというか、堕ちるとこまで堕ちたというか」

 

「何を言ってるんですか、リアさん」

 

 私は彼女の勘違いを指摘する。

 

「まだまだ始まりに過ぎませんよ?

 これからさらに堕ちて貰いますから」

 

「……へ、平然と言う台詞じゃないでしょ、それ」

 

 リアさんは冷や汗を垂らしながら誤魔化し笑いをしている。

 どうも、私の発言を真面目に受け取っていないようだ――或いは、真面目に受け取るのを拒否しているのか。

 彼女に理解させるため、私は具体的なプレイ内容を提示する。

 

「そうですねぇ、次は街を裸で歩き回ってもらいましょうか。

 裸のリアさんに首輪をして散歩するのは、とても気持ち良さそうです。

 街中の男性が貴女を放っておかないでしょう。

 黒の焔亭ではなく、ウィンガストの公衆便女になれますね」

 

「冗談言わないでよ!!

 ……え、冗談よね?」

 

「冗談じゃありませんよ?

 近い内にやってもらいますから」

 

「――――!!」

 

 リアさんは言葉を失う。

 怒りで我を忘れた――のではない。

 彼女が、股をもじもじと擦らせ始めたからだ。

 

「ひょっとして。

 今ので、濡れてしまいました?」

 

「……ちょ、ちょっとだけ」

 

 顔を赤くしてそっぽ向きながら、リアさんは頷いた。

 その反応を見るに“少しだけ”とはとても思えない。

 ――こんな簡単に感じてしまうとは。

 

「随分と素直になりましたね」

 

 以前の彼女なら、ここは強気な態度で誤魔化しただろうに。

 

「な、なによ、悪いのっ!?」

 

「いえいえ、まさか。

 素敵ですよ、リアさん」

 

「――――っ!!」

 

 私が微笑みかけると、リアさんはさらに顔を赤くしてしまった。

 そこまで恥ずかしがらなくてもいいのに。

 

「――あ、あのさ、クロダ」

 

「はい?」

 

「きょ、今日、あんたの家に行って、いい?」

 

「え?」

 

 彼女の質問に、私はつい聞き返してしまった。

 

「……だ、ダメかな、急に」

 

 ぼそぼそと消え去りそうな声で呟く彼女。

 どうもまた勘違いをしているようだ。

 

「何を言ってるんですか、リアさん。

 いいですか、貴女は私の便器なんですよ?

 便器が自分の家に無いなんて、不便でしょう?」

 

「もう少し言葉を選びなさいよっ!

 ……と、ともかく、泊ってもいいわけね!?」

 

「当たり前じゃないですか」

 

 私の言葉に、リアさんは顔を明るくした。

 そして一瞬の躊躇の後、私の腕に抱き着いてくる。

 

「今度は何です?」

 

「い、いいでしょ、これくらい!

 それとも、便器に抱き着かれるのは嫌なの?」

 

 ジト目で私を睨むリアさん。

 身長差から自然と上目遣いになるのだが、その表情は可愛らしいものだった。

 

「まさか。

 非常に良い心地です。

 リアさんの胸の感触も味わえますし。

 ……さては、今日ブラ着けていませんね?」

 

「一言多いっ!!」

 

 またしたも彼女は怒鳴る――が。

 言葉に反してリアさんはさらに強く私の腕を抱きしめてきた。

 

 二の腕に当たるこのふくよかで弾力のある感覚。

 魔族の状態のリアさんは、プロポーションが良くなっている。

 彼女の大きな胸が私の腕に押し付けられて潰れていた。

 いつものハリの良さをそのままに、より大きさを増したおっぱいの感触は実に心地良いもので。

 私は確信をもって、彼女がブラジャーを外していると断言する。

 

「ほ、ほら、早く行きましょ。

 今日はもう遅いんだし。

 また明日ヒナタと一緒に迷宮行かなくちゃなんだから!」

 

「そうですね。

 参りましょうか」

 

 私はリアさんと腕を組んだまま、一路自宅に向かって歩いていく。

 

 

 多く言葉を交わさない道中。

 ただ、リアさんの身体の暖かさが私の心を潤わせ――時折、彼女が私の肩に頭を擦りつけてくる仕草に、なんとなく気恥ずかしさを覚える。

 時折思い出したように彼女の胸や尻を弄ってやると、リアさんは気持ち良さそうに悶えた。

 そんな夜道の2人歩き。

 

 

 ――そこへ。

 私はふと、足を止める。

 

「リアさん」

 

 素早い動作で、彼女の身体を抱きしめる。

 

「な、何、クロダ?

 ひょっとして、ここでするの!?」

 

「……下がっていて下さい」

 

「――え?」

 

 少し強引に、リアさんを私の後ろへと押しやる。

 不思議そうにする彼女だったが――

 

「あっ!?」

 

 ――すぐに理由を察したようだ。

 進む道の先に、一人の男が立っている。

 

 背は私より高い――190を越えているか。

 髪は銀色。

 顔立ちは美しく整っており、身体はスリム――しかし、剥き出しになった二の腕から、十分すぎる程の筋肉がついていることが見て取れた。

 軽鎧を纏った身軽な装いだが、その装備品は一見して業物だと分かる。

 

 だがその男の特徴で最も際立っているのは、佇まい。

 

 ――強い。

 

 ただそこに居るだけなのに、彼の『強さ』がビリビリと肌に伝わってくる。

 立っているだけで、ここまで自分の強さを誇示できる人間などそういないだろう。

 

 そんな男が、真っ直ぐに私達――いや、私へと視線を送っていた。

 

「……嘘、あいつ、まさか――」

 

 彼の正体を理解したリアさんが、露骨に狼狽えだす。

 無理もないことだ。

 私もまた動悸が早まっている。

 

 唇が震えるのを必死に抑え、私はぼそりと呟く。

 

「……デュスト」

 

「――その通りだ。

 知っていて貰えたとは光栄だよ。

 初めまして、クロダ・セイイチ」

 

 まだ距離があると言うのに、相手は私の言葉を拾ったようだ。

 そして呟きを肯定されてしまったことで、彼が何者であるか確定した――確定してしまった。

 

 ――夜道で出遭ったその男の正体は、五勇者の一人『光迅』のデュストだった。

 

「……五勇者ともあろうお方が、こんな夜更けにどうしたのですか?」

 

「勿論、君を待っていたのさ。

 是非、実物を見てみたくてね」

 

「まさか直々に出向かれるとは。

 言伝を頂ければこちらから赴きましたのに」

 

「そう謙遜しなくていい」

 

 ……?

 気のせいか、デュストの姿が先程より近くに見える。

 彼は動く仕草など何もしていないというのに。

 

 デュストは両手を広げ――まるで私を歓迎しているかのような仕草をして、私に話しかけてくる。

 

「何せキョウヤ様がご自分の代理として選んだ男だ。

 いったいどれ程の人物なのか――気になったら居ても立っても居られなくなったのさ」

 

「それはまた随分と過大な評価を――!?」

 

 私は驚愕に叫び声を出すのを必死に抑えた。

 いつの間にか、デュストは私のすぐ目の前にまで移動してきた。

 

 スキルを使ったのか、或いは私が気づけない程の微小な動作で動いたのか。

 なんにしてもこの状況、芳しいとは言い難い。

 

「……えー、それで貴方の前に私は居るわけですが。

 どうでしょう、ご満足頂けましたでしょうか?」

 

「それなんだけれどね、どうにも僕の目には――失礼だけれど、君が大したことのない男のように見えてしまうんだ。

 キョウヤ様が選んだ男がそんなわけ無いというのに、おかしい話だね?」

 

 首を傾げるデュスト。

 

「いえいえ、おかしくありませんよ。

 私は間違いなく大したことのない男なんです。

 ですから――」

 

「――やはり、実際手合わせしてみないと分からないな、これは」

 

 私の言葉には一切耳を傾けず、目の前の男はそう結論付ける。

 デュストは腰に備え付けていた長剣を鞘から抜くと、

 

「さ、ヤろうか」

 

 軽くそう告げてきた。

 ……“犯ろうか”ならばこちらとしても応じるのは吝かではないが、“殺ろうか”はちょっとご勘弁願いたい。

 

「えっとですね、こういうのはもう少し互いのことを分かり合った後がいいと思うんですよ。

 ほら、まだ会って数分も経っていないことですしね?」

 

 若干混乱して訳の分からないことを口走る私。

 何を言いたいのか、自分でも分からない。

 ただ、デュストは私の言葉に思いがけず反応してくれた。

 

「ふむ、もう僕のことは十分知っているものかと思ったんだが、そうでも無いのかな?

 ではまず自己紹介しておこう、五勇者の一人、“光迅”のデュストだ。

 今はグラドオクス大陸の小国『センストン』の王を務めている。

 君や他の勇者を倒した暁には、このセンストンを大陸統一国家にしようと考えているところだ。

 こんなところでどうだろう?」

 

 さらさらと話し始めるデュスト。

 大陸支配とかなんだか凄いことまで言及してしまっているのだが――この人、意外とノリがいいのか?

 

「ご丁寧な紹介痛み入ります。

 ついでと言ってはなんですが、苦手な物や弱みなども教えて頂いて構いませんでしょうか?」

 

「そこまでサービスはできないな。

 これ以上の情報は自分で調べてみたまえ」

 

 彼は笑いながら肩を竦める。

 

「といっても、既に君はもっと色々と調べてあるんだろう?

 ここ数か月、僕の国でセレンソン商会が妙に活発に動いていたみたいだからね」

 

「さて、どうでしょうか」

 

 今度は私が肩を竦める番だった。

 ご指摘の通り、アンナさんからデュストについては――いや、他の勇者についても――逐一、情報を教えて貰っていた。

 にもかかわらず、エゼルミアにしてもデュストにしても、私の不意をついて姿を現しているわけなのだが。

 情けないことこの上ない。

 

「今度は君の番だぞ、クロダ・セイイチ。

 まさか僕にやらせておいて、自分はやらないということは無いだろうね?」

 

「あー、はい。

 やらせて頂きます」

 

 正直あまり自分の情報を出したくは無いのだが、流れ的に言わないと流石に失礼か。

 怒りを買って暴れられたら堪らない。

 

 私は一つ呼吸を入れてから、口を開いた。

 

「黒田誠一と申します。

 東京出身で、向こうではミサキさんが立ち上げた会社でしがないサラリーマンをしていました」

 

「キョウヤ様の会社に“引き抜かれた”のは2年前だと聞いたが、違うのかな?」

 

「……いえ、それであっています」

 

 いきなり腰を折られた。

 気を取り直して、話を再開する。

 

「ミサキさんの指示でウィンガストに来たのは1年前です。

 それからは、貴方達との戦いのため、色々準備してきたわけですが――」

 

「――その準備の内容は教えてくれないのかい?」

 

「私の口からは何とも。

 そちらの方で調査頂ければと思います」

 

「ふむ。

 “ガルムの奴と一緒に<次元迷宮>に潜っていた”件は、それと関係あるのかな?」

 

「……十分知ってるんじゃないですか」

 

「そうでもないさ」

 

 そこまで知っているなら、説明など要求しないで欲しい。

 いや、もともと(主に自分の心を落ち着かせることを目的とした)時間稼ぎのために私から話を振ったのだから、文句を言うのは筋違いか。

 寧ろ、感謝しなくてはならない。

 デュストはこれが茶番であることを理解したうえで、付き合ってくれたのだから。

 

「ちょっと、クロダ」

 

 と、後ろからリアさんが話しかけてきた。

 

「ガルムとパーティー組んでたって、マジ?

 あんた一体何やってたの?」

 

「あー、すいません、リアさん。

 そのお話はまた後で説明ということでいいでしょうか」

 

 かなり機密な内容なので、立ち話でいきなりしていいお話では無い。

 リアさんには悪いが、ここでの説明は勘弁願いたい。

 

「そうだね、そちらの女性との話はまた後でしてもらおうか。

 さあ、互いについて知り合ったわけだし――約束通り、手合わせといこう。

 安心したまえ、まだ命のやり取りをするつもりはないよ。

 いや、それともここで“開戦”してしまうかい?」

 

「む、むう……」

 

 デュストは戦いをここで始める気はないということか。

 私としても、ミサキさんの命令も無いのに戦うというのは乗り気がしない。

 

「分かりました。

 お相手いたします」

 

「そうこなくては」

 

 デュストが美しい刀身の長剣を構えた。

 対して私は――

 

「ふっ!」

 

 デュストに向かって羽織っていたクロークを投げつける。

 彼は簡単にそれを斬って捨てるが、

 

「おや」

 

 小さく眉を上げた。

 私の姿がそれまでの<魔法使い>然とした格好から、朱い籠手と脚鎧を装着したものへと変わったからだろう。

 以前、バール達と戦った際と同じ装備だ。

 こんなこともあろうかと、予めクロークの中に仕込んでおいたのである。

 

「なんだ、装備を変えたかったのなら言ってくれれば。

 それくらい待ってあげたのに」

 

「え、そうだったんですか?」

 

 そういうことは先に言って欲しかった。

 待って欲しかったよ、切実に。

 私はデュストに真っ二つに斬られて地面に落ちたミスリルクロークを思わず凝視してしまった。

 ……凄く高かったのになぁ、この防具。

 

「まあいいや。

 それじゃ、行くよ」

 

 またしても軽い口調で、戦いの始まりを宣言するデュスト。

 私の方も呼吸を整えてそれを受ける。

 

 ――射式格闘術(シュート・アーツ)、開始。

 

 

 上方からデュストの斬撃。

 手甲で受ける。

 軽く振ったとは思えない、重い衝撃に手が痺れかけるが、無視。

 次の一撃に備える。

 

 返す刀で左から。

 もう片方の手で剣の腹を叩き払う。

 力を流し切れず、腕が吹き飛びそうになる。

 

「ぐっ」

 

 どうにかその場に踏みとどまった。

 

 次いで三撃目。

 下からの斬り上げ。

 両手を使って抑え込む。

 

「がっ!?」

 

 抑え込めず、今度は身体ごと上へ吹き飛ばされた。

 <射出>によるバランス制御により空中で体勢を整え、着地。

 

 一呼吸する間も無く、デュストが迫る。

 周囲に落ちている石を<射出>で一斉掃射。

 

「おっとっと」

 

 必要最小限の斬撃による全て撃墜されるが、僅かに時間が稼げた。

 

 今度はこちらから。

 身を低く構え、<射出>による高速移動でデュストの懐へ潜り込む。

 鳩尾に一撃を入れようとするが、当たる直前に拳が止まる。

 

「うん、悪くない動きだ。

 でも少し非力過ぎないか?」

 

 デュストは<射出>した打撃を素手で掴み止めていた。

 どういう反射神経と握力をしていればこんな芸当ができるのか不明だが、これは大変まずい。

 私は不自由な姿勢で固定され、一方で彼は次の攻撃を仕掛けてくる。

 

「せいっ!」

 

 無理な体勢のまま、蹴りで剣を弾く。

 凄まじい金属音に鼓膜が震え、脚から伝わる衝撃に内臓が揺らさせる。

 

「ふっ!」

 

 “掴まれている手”を<射出>で強引に振りほどき、逆手での打突。

 その一撃をデュストはバックステップで軽くかわした。

 

「なるほど。

 射式格闘術――これは、存外にやりにくいな」

 

 少し距離を置いて、彼は呟く。

 

「力の起点がスキルに依存しているから、どんな無茶な姿勢からでも攻撃を繰り出せる。

 ふむ、人形かスライムでも相手にしている気分だよ」

 

「恐縮です」

 

 応えつつ、簡単に相手の戦力分析。

 

 デュストは、異常な程の重さの斬撃を、軽々と振った剣によって発生させてくる。

 例えるなら、軽戦士のような軽やかな動きで重装歩兵をも上回る威力を叩きだしているわけだ。

 彼の剣を受けた手足の痺れは、まだ取れていない。

 今装備しているこの籠手と脚鎧、トラックがぶつかる衝撃程度なら吸収してくれる程の耐衝撃性を持っているはずなのだが。

 

 動きにこれと言った癖はなく、動作は自然体でスムーズかつ必要最小限。

 私の突きを素手で受け止めたところを見るに、剣が無くとも十分な戦力を発揮できるものと考えられる。

 

 ――結論。

 普通に強いだけだから、これといった対策が思い浮かばず。

 一先ずは真っ向から戦うしか無さそうだ。

 

「さぁ、まだまだ続けるよ」

 

 そんな言葉と共に、デュストが突っ込んでくる。

 おそらく、不意を突かないように敢えて“声をかけてくれている”のだろう。

 その気遣いに涙が出そうだ――もちろん、悪い意味で。

 

 右方からの一撃を両手で受ける。

 相手の顔めがけて足刀を放つも軽くかわされた。

 

 袈裟懸けに振るわれた剣を渾身の右打ちで撃ち落とす。

 衝撃で身体が後ろに飛ばされるが、<射出>による調整ですぐ立て直した。

 

 真正面からの突きが眼前に迫る。

 身体を傾けて避け、逆にカウンターを狙う――が、こちらの攻撃も回避された。

 

「――ふぅ」

 

 斬撃の間隙に、どうにか呼吸を入れる。

 デュストの連撃は止む気配が無い。

 

 高速の唐竹斬りを、どうにかかわす。

 逆袈裟の一撃は左拳で剣の腹を叩き軌道を変えた。

 返す袈裟懸けを右腕で受け流し、蹴りを入れるも当たらない。

 横薙ぎ――はフェイント、本命は刺突だが、身体を倒れ込ませて間一髪で避け成功。

 

 斬撃。

 脛で受ける。

 

 突き刺し。

 両手で捌く。

 

 右拳での打ち込み。

 剣で止められる。

 

 左拳での下段突き。

 手で払われた。

 

 

 「すごい――クロダ、あのデュストと互角に打ち合ってる?」

 

 

 遠くからリアさんの呟きが聞こえるが、とんでもない。

 これはただの試し合いであり、私は遊ばれているだけなのだ。

 証拠に、デュストはただの一度も“スキルを使っていない”。

 上位冒険者がスキルを使ってようやく到達できるような強力な一撃を、ただ身体能力のみで成し遂げているのである。

 

 いや、その攻撃にしても、どの程度本気なのか怪しいところだ。

 あの涼し気な顔を見るに、相当手を抜いているようにも感じる。

 もっとも、そうでなければ私がデュストと――近接戦闘に限定すれば、ミサキさんをも上回るとされる彼と戦うなど、無理にも程があるわけだが。

 

「うん、戦闘力はなかなかなものだ。

 的確に僕の攻撃を読んで、対処できている。

 戦法が手堅すぎる気もするが、これは個人の趣向だろう。

 “7年前”の僕となら、いい勝負ができただろうね」

 

 デュストが攻撃の手をようやく止め、私の寸評をしてくる。

 

「ふっ――ふっ――ふっ――それは、どうも。

 満足、頂けましたでしょうか?」

 

 これ幸いと、私は呼吸を落ち着かせた。

 過剰な運動量に、先程から心臓が悲鳴を上げていたのだ。

 

「そうだなぁ……根本的な弱さはこの際仕方がないこととして、それでもやはり物足りないことがある」

 

 私の顔を凝視しながら、デュストが告げる。

 

「君、少々淡泊過ぎやしないか?

 こうして手合わせしてみても、まるで感情が動いていない。

 この戦いを、キョウヤ様に命じられたから行っている仕事の一つ程度にしか捉えていないだろう?」

 

「まあ、そうですね」

 

 実際問題、私にとってこれはミサキさんからの仕事なのだから、そこは仕方ない。

 仕事に対して感情的になるのは、かえって効率が落ちるのだ。

 個人差はあるだろうけれど。

 

「それは僕の好みではない。

 君はもっと、感情を昂らせるべきだ。

 淡々と戦われては、まるで高揚感が湧かない」

 

「そう申されましても。

 この戦法が私のやり方ですので」

 

 私の答えに、デュストは思案顔になった。

 そして数秒の後。

 

「……そうだな。

 こういうのはどうだろう」

 

 ニヤリと笑いながらそう言い放った。

 私の全身が総毛立ち、“嫌な予感”が脳内を駆け巡る。

 まさか、こいつは――!

 

 

 

 ――奥義之弐・風迅(ブラスト・オーバー)

 

 

 

「……なんのつもりだ」

 

 デュストの刃を握りしめながら、私は口を開く。

 

「え? え? クロダ?

 な、なんでいきなり?」

 

 私の“すぐ後ろ”には、リアさんの姿。

 何が起こったのか分からず、突然目の前に現れた私とデュストの姿にきょとんとしている。

 

 デュストは、私ではなく彼女を斬ろうとしたのである。

 先程の戦闘時とは比べ物にならない速度の斬撃によって。

 全身の稼働箇所へ<射出>を適用させる高速機動(風迅)で、どうにか阻止できたが――

 

「なんだ、やればできるじゃないか、クロダ・セイイチ。

 そういう顔が欲しかった」

 

 楽しそうに笑うデュスト。

 何がそんなに面白いというのか。

 

「とぼけるな!

 無関係な女性を襲おうとするとは!!」

 

「無関係というのは彼女に対して失礼になるんじゃないのか?

 彼女とて自分の意思で僕達の戦いに関わろうとしているわけだろう。

 それに――今回は君と命のやり取りをするつもりは無いと言ったが、“他の人間を殺さない”とは一言も言っていないぞ」

 

 確かに言ってない。

 言ってないが、やらないだろう、普通!!

 

 しかも今の一撃は速度だけでなく鋭さも一段と高まっていた。

 私が間に合わなければ、リアさんは比喩でなく真っ二つにされていたことだろう。

 

「まあ、ほっとしたよ。

 これでも平然とされていては手の打ちようが無かった。

 流石に親しい人を斬られるのは堪えるか」

 

「当たり前だ!」

 

「ははは、結構結構。

 いいぞ、その調子で怒りを昂らせろ。

 やはり、互いの戦力・感情の全てをぶつけ合うのが戦いの醍醐味というものだ」

 

 好き勝手宣ってくれる。

 

「それに、今の技も見事だった。

 キョウヤ様と同じ技も使えるんだな。

 あの方と見紛うばかりの動きだ。

 ただ――」

 

 突然、デュストから笑みが消えた。

 

「――まだまだ遅いな」

 

「何?」

 

 その言葉の真意を確認するよりも早く。

 

「――あれ?」

 

 後ろからリアさんの声が聞こえる。

 振り返ってすぐ――私は、呟きの意味を知った。

 

「リアさん!?」

 

 叫んだ。

 彼女に起きたことを瞬時に理解したからだ。

 理解せざるを得なかったからだ。

 

 ……リアさんの身体が、“ずれていた”。

 

「な、なに、これ――クロダ、あたし――」

 

 自分の身に何が起きたかを、まだ彼女は分かっていないようだった。

 しかし戸惑っている間にも、彼女の身体は“分かれて”いく。

 

「あ――――」

 

 “2つになった”リアさんの身体が、地面に落ちる。

 

「単純な速度は良いんだが、反応速度が悪かったな。

 君が追いつくまでに、彼女を斬る時間はたっぷりあったんだよ」

 

 耳にデュストの解説が聞こえてくる。

 しかしそれに頷くような余裕は、私に無かった。

 

 ――まだだ。

 まだ、大丈夫だ。

 魔族の身体は頑丈だ。

 人間なら即死しているような状態でも、魔族のリアさんであれば猶予があるはず。

 すぐに霊薬(エリクサー)を使えば治療できる。

 

「霊薬、霊薬は――」

 

 懐を探るが、無い。

 そうだ、アレはこの前エレナさんとミーシャさんに使ったのだった。

 

「……セレンソン商会。

 アンナさんのところになら――」

 

 あそこには、まだ霊薬のストックがあったはず。

 もう店は閉まっているが、アンナさんを叩き起こして霊薬を出してもらおう。

 手持ちの金はまるで足りないが、そこはツケでなんとか。

 

「早く、リアさんを――」

 

 そうと決まればぐずぐずしていられない。

 彼女の身を急いでセレンソン紹介へ運ばねば。

 

 私は血だまりの中に沈むリアさんに駆け寄ろうとし、

 

「がっ!?」

 

 突如、腹部に灼熱感。

 見れば、腹から剣が生えていた。

 

 いや違う。

 背中から、デュストによって串刺しにされたのだ。

 

「困るな、クロダ・セイイチ。

 君はまだ僕との手合わせの最中だぞ?」

 

 後ろからデュストの声。

 五月蠅い。

 耳障りだ。

 

「――がぁああああっ!!!」

 

 渾身の力で背後へ肘打を放つ。

 狙いも定めず我武者羅に打ったのだが、幸いにして手応えがあった。

 

「へえ。

 この剣を折るのか。

 折れず曲がらずを標榜した魔剣だったんだけどね」

 

 どうも奴の剣を折ることに成功したようだ。

 私は折れた剣を腹から引き抜き、リアさんのもとへ向かう。

 ――向かうおうとした、のに。

 

「あ――」

 

 膝が崩れ落ちた。

 身体が言うことを聞かない。

 どうしたというんだ。

 この肝心な時に!!

 

「血、が――」

 

 私の足元にも血だまりができていた。

 リアさんの物ではない、私から出た血だ。

 

 どうも、かなり“いいところ”を刺されたらしい。

 腹から血が滝のように流れ出ている。

 見えないが、背中も同じようなものだろう。

 

「う、あ」

 

 身体から力が抜け、その場に倒れ伏す。

 

 何をやっているんだ、私は。

 こんなことしている場合じゃないのだ。

 早くリアさんを治さなければ、彼女が死んでしまう。

 

 私は力を振り絞り、這ってリアさんに近づいていく。

 身を捩る度に刺された箇所に激痛が走るのだが、歯を食いしばって耐える。

 

「自分の身を顧みずそこまで動けるのか。

 うん、合格だよ。

 仮にも勇者(キョウヤ様)の代理として勇者()達と戦うんだ、単純に強いだけではなく、心も伴っていなくてはな」

 

 ごちゃごちゃと何を言っているんだ、この男。

 悪いが、こちらにはもう付き合っている暇はない。

 事態は一刻を争う。

 

「リアさん。

 今、すぐに――」

 

 だというのに。

 意識が朦朧としてきた。

 血を出し過ぎたのか。

 

「リアさん――リア、さん――」

 

 身体の動きも鈍くなっていく。

 ほんの1、2m先にいる彼女の場所へ到達できない。

 そうこうしてる内に、私からもリアさんからも、血がさらに流出していく。

 

「――リ、ア――――」

 

 そして。

 私は彼女に辿り着けないまま。

 意識を、落とした。

 

 

 

 第十九話③へ続く



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③ “封域”イネスの勧誘

 

 

 

「あぁああああっ!!?」

 

 大声と共にベッドから跳ね起き、リアは目を醒ました。

 

「あ、アレ?

 あたし、生きてる?」

 

 ぺたぺたと身体のあちこちを触る。

 勇者デュストに身体を斬られたはずなのだが、その傷は――傷跡すらも――どこにも無かった。

 

「ゆ、夢だったの?」

 

「夢なんかじゃありませんよー?

 確かに貴女は死ぬ寸前でした」

 

「!?」

 

 いきなり声をかけられた。

 咄嗟に聞こえた方向へと振り向く。

 そこには、一人の女性が立っていた。

 

「おはようございます。

 ようやく起きましたねー」

 

「あ、あんたは――!?」

 

 肩下まで伸びた金髪を三つ編みにした美しい女性。

 どこか幼さも残るその容貌には、にこにこした愛嬌ある笑顔が浮かべられていた。

 

 ――リアは、その女性を知っている。

 面識があるわけではない。

 魔族であるならば、誰でも彼女を知っているのだ。

 彼女は自分達の天敵なのだから。

 

「イネス・シピトリア!?」

 

「はーい、正解でーす。

 よくできましたー」

 

 女性がパチパチと拍手をする。

 その後、『勇者の証』である黄金色のカードをこちらに見せてくる。

 

 五勇者の一人、“封域”のイネス。

 リアの前に現れたのは、勇者その人であった。

 

「な、なんで、なんでこんなところに!?」

 

「なんでとは失礼ですねー。

 貴女を助けたのは誰だと思ってるんです?」

 

「え、それってまさか――」

 

「はい、デュストに斬られて死ぬ一歩手前だった貴女を治療したのは、何を隠そうこのアタシなんですよー?」

 

 あっけらかんとした様子でイネスは告げた。

 

(な、なんだか緊張感が無い……)

 

 胸中でそう呟くリア。

 敵である勇者を前にしているというのに、どうにも空気が弛んでいる。

 

「そ、それはどうも、ありがとう?」

 

 とりあえずという形で、一応礼を言っておく。

 実際問題として、あんな重傷から一切の傷を残さずに回復させるなど、相当高レベルの治癒スキルでも不可能だろう。

 それこそ、この世界で最高峰の加護(テウルギア)の使い手である、イネス・シピトリアでもなければ。

 

「いえいえ、礼には及びません。

 目の前で傷ついている人を見捨てるような真似、勇者はしませんよー」

 

「その勇者にあたしは斬り殺されそうになったんだけど……

 って、そうだ、クロダは!?」

 

 意識が不確かな状況ではあったが、黒田もまたデュストから酷い傷を負わされていたはずだった。

 

「大丈夫です、黒田誠一も無事ですよ。

 まったく、デュストって奴は酷い男ですねー?」

 

「適当っ!?

 返事が凄い適当っ!!?」

 

 やる気の感じられないイネスの返答に、つい叫んでしまう。

 とはいえ、この返答を鑑みるに黒田の方も事なきを得たと考えてよさそうだ。

 リアをほっと胸を撫で下ろす。

 

(それにしても――)

 

 イネスの姿をもう一度よく見た。

 

(――なんか、エロい感じよね、この人)

 

 もし心の声を誰かに聞かれていたら、つっこみを入れられること必須な感想を抱く。

 

 イネスは白を基調とした煌びやかなローブを羽織った装いだった。

 煌びやかと言っても派手過ぎるようなことは無く、着ている人物の趣味の良さを反映しているのだろう。

 これ自体、<僧侶>のスタンダートから大きく外れるようなものでは無い。

 

 リアが注目してしまったのは、そのローブの中だった。

 こちらも白色がメインの、美しい刺繍の入った上下ではあるのだが。

 トップスは胸や腰回りが妙に身体にフィットしており、乳房やくびれの形が割とはっきり見て取れる。

 ボトムはパンツルックで、いわゆるレギンスに近い代物だ。

 生地がぴったりと下半身に――お尻や太ももに密着している。

 いや、リアの場所からではイネスのお尻は見えないのだが、多分そうなっているであろう。

 

 つまるところ、確かにイネスは色っぽい服装をしていた。

 

(ま、まあ、スタイルはあたしとどっこいどっこいってところかしら)

 

 人間形態ならともかく、魔族に戻っている今、彼女に負けるつもりは無かった。

 ただ、サイズ的には同じくらいでも、イネスのそれは妙に肉感的で――はっきり言えば、男好きしそうな肢体だ。

 

(……何考えてんだろ。

 なんかクロダに中てられたのかも。

 しっかりしなさいって、リア!!)

 

 自分が本気でどうでもいいことを思考していることに気付き、慌てて頭を切り替える。

 イネスの顔を見て、口を開く。

 

「――それで、あんたの目的は何なわけ?」

 

 満足いく回答が得られるとも思っていないが、まず尋ねてみた。

 

「親切心で助けただけ……と言って、納得したりします?」

 

「するわけないでしょ」

 

 到底信じられない。

 リアは魔族で、しかも勇者達と敵対する立場なのだから。

 

「まあ、納得されちゃったらアタシも困っちゃうんですけどねー。

 勿論、打算がありますよ?」

 

「でしょうね」

 

 ころころと笑うイネスに対して油断なく構えるリア。

 もっとも、油断しなかったところでこの勇者に対して何か対抗できるのかと言われるとかなり心もとなかったりするのだが。

 

「単刀直入に言ってしまうとですね。

 リア・ヴィーナ、アタシの側につきません?」

 

「は?」

 

 いきなりな提案に思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 別に名前を言い当てられたことに驚いたわけではない。

 それ位、調べられていて当然だ。

 リアが不意を突かれたのは、最後の文面で。

 

「あんたの味方がになれってこと?

 そんなの無理に――」

 

「何で無理なんです?」

 

「いや、だって」

 

「ひょっとして境谷――ううん、キョウヤの言っていることを鵜吞みにしてるとか?」

 

「え?」

 

 またしても変な声を出してしまう。

 

「ダメですよー、人の言うことを簡単に信用しちゃ」

 

「べ、別にあいつのことを信用してるわけじゃない!

 他に大した情報源も無かったし、一先ずあいつの言葉に従ってるだけで――」

 

「じゃあ、アタシが新しい情報源になってあげますね」

 

 絶妙なタイミングでイネスが切り返してきた。

 

「……信用、しろっての?」

 

「するかどうかの判断は貴女に任せますよー。

 ……それ位、できますよねぇ?」

 

 挑発的な目で見つめてくるイネス。

 リアは彼女を一睨みすると、

 

「……聞かせて貰おうじゃないの」

 

 居住まいを正して、イネスの話を聞くことに決めた。

 言われるまでも無く、リアにとってキョウヤの言葉とてそのままでは信用に足る代物ではない。

 クロダやジェラルドからの口添えがあるため、ある程度は信じているが。

 

 そんなわけで、同じ五勇者であるイネスが情報提供をしてくれるというのなら、乗らない手は無い。

 例えそれが嘘だったとしても、何かしら掴めるものはあるはずだ。

 

「はいはい、聞かせてあげますよー。

 とはいえ、実際のところキョウヤの言っていることは大体真実なんですよね。

 幾つか言っていないことと嘘が織り交ぜてあるだけで」

 

「言っていないこと?」

 

「はいー。

 まずですね、キョウヤが目的を達成すると、高確率で室坂陽葵は死にます」

 

 指を一つ立てながら、さらっとイネスは言ってのけた。

 

「ヒナタが、死ぬ?」

 

「はい。

 キョウヤはこう言ったんじゃないですか?

 陽葵に六龍を宿らせた上で、彼を使って勇者達は自分の願いをかなえようとしている。

 そして、そうなったら陽葵の人格は消しとぶって」

 

「…………」

 

 大よそ、キョウヤが言った通りのことを口にするイネス。

 

「ここで言い足りなかったのは、キョウヤもまた陽葵を六龍の器として使おうとしていることですね。

 まあ、そんなわけなんであいつが勝ったとしても陽葵は死にます。

 そして――」

 

 一瞬の間の後。

 

「――アタシは、陽葵を使おうとはしていません」

 

「それが、キョウヤがついている嘘?」

 

「そうです。

 そもそもリア、貴女は勇者が六龍の力を使って何をしようとしているか、知っていますか?」

 

「……知らない、けど」

 

「でしょうねー。

 キョウヤがその辺り、きっちり説明するとも思えませんし。

 ま、簡単に言っちゃうとですね。

 デュストは大陸支配です。

 ま、ありがちと言えばありがちですよねー。

 これは、さっき貴女の前でも彼が口にしたんじゃないですか?」

 

「……うん」

 

 確かに、そんなことを口にしていた気がする。

 

「それで、エゼルミアは魔素の除去、です。

 この世界から魔素に関わるもの全てを取り除こうとしています。

 勿論、その中には魔素に最も縁深い種族である魔族も含まれています」

 

「また無茶苦茶な願いね。

 なんでそんなことを――って聞いて、答えてくれるの?」

 

「これ位なら教えてあげますよー。

 ま、彼女は魔族がらみで昔いろいろと“酷い目”に遭ってますからね。

 徹底的に、自分が悲惨なことになった『原因』を排除したいんでしょう」

 

「仮に魔素を無くしたとしたら、魔族以外の種族も困るんじゃない?」

 

「滅茶苦茶困るでしょうねー。

 なんだかんだで魔素の効果を活用して生活してますから。

 無くなったら、ほとんどの人達の生活が立ちいかなくなるでしょう。

 でもリア、あの“魔族根絶主義”のエゼルミアにそんな理屈通ると思います?」

 

 言われてリアも改めて思い出す。

 魔族とあれば、いかなる人物であっても――それこそ、魔族を裏切り、他の種族のために動いていた人物であっても、殺してきたエゼルミア。

 ふざけた願望でもあるが、彼女が抱くというには納得いく願望でもあった。

 

「次、ガルムの願いは――世界中の女に自分の子を産ませたいんですって。

 うわー、最低ですね、人間の屑ですよ、こいつ」

 

「勇者の中では話の分かる人物って聞いてたけど……」

 

「親切な態度の裏にはそういう下衆い妄念を膨らませていたわけです。

 もし会っても一人でついていっちゃダメですからね、次の日には妊娠しちゃってますよ?」

 

 うんうんと頷きながら、イネス。

 

(……妊娠、させられちゃうんだ。

 しかも無理やり)

 

 一方でリアは、一瞬だけ身体が熱くなるのを感じた。

 

(いやいや)

 

 軽く頭を振ってすぐに雑念を振り払い、イネスに尋ねる。

 

「――で、あんたとキョウヤは何をしようっての?」

 

「焦らない焦らない。

 今からお話しますよー。

 まずキョウヤの目的なんですが、六龍の抹殺です」

 

「はぁっ!!!?」

 

 今日一番の声だった。

 

「六龍を殺すって、あんた何言ってんのよ!?」

 

「いえ、アタシじゃなくてキョウヤがやろうしてるんですってば」

 

「何のために!?」

 

「さぁ?

 思いますに、自分より上位の存在がいることを許せないとか、そんな理由じゃないですかね?」

 

「そんな阿保な理由があってたまるかっての!!」

 

 六龍というのは、この世界における神である。

 多くの人々の信仰の対象であり、それは魔族であっても例外でない。

 それを殺そうとしているなどと――もし本当であれば全く持って意味不明な行いだ。

 

 逆に、キョウヤが本当にそれを目的としているならば、それを語らなかったのも頷ける。

 熱心な信者相手にそんなことを言えば、殺されることもありうるだろう。

 そうでなくとも、反感・嫌悪感を持たれるのは必至である。

 

「まあ、訳わからないほど強いですからね、あいつ。

 頭の中も訳わからない構造してるんじゃないかと」

 

「その理屈がわけわからないんだけど。

 というか、あたしはキョウヤの目的って魔王様を助けることだと――」

 

「ああ、それはそれであいつの目的ではありますねー。

 ほら、六龍がいなくなれば、それを司る巫女――魔王もお役御免でしょう?

 “結果として”、魔王は助かるんですよ。

 もっとも、そうなれば“彼女”はもう『魔王』と呼べない存在になっているでしょうけどね」

 

「ふぅん?」

 

 意味ありげな視線を送ってくるイネスだが、リアはさらりと受け流した。

 

「おや、魔王が居なくなっちゃうんですよ?

 よろしいんですか?」

 

「別に、いいんじゃない?

 あたしは魔王様を尊敬してはいるけれど、依存したいわけじゃないからね。

 あの方の生い立ちを聞いちゃったら、尚更。

 例え魔王でなくなったのだとしても、ご健在であられるならそれでいい」

 

 それは、リアの上司であるジェラルドも同じ意見だろう。

 魔王が魔素によって歪められた巫女の成れの果てだというなら、その立場から解放してあげたいという気持ちもある。

 

「なるほど、思ったよりも随分と人道的な判断をされるんですねー。

 ……あ、勘違いしないで下さい、貴女を褒めてるんですよ?

 ま、とりあえず、キョウヤについてはこれ位で。

 もっと細かく説明してもいいんですが、それはアタシ達がもう少し仲良くなってからってことで、ね?」

 

「釈然としないんだけど。

 まあいいや、それで、あんたはどうなの?」

 

 どうもこれ以上キョウヤの話は聞けそうにないと感じ、話題を変える。

 

「はい、アタシは“在りし日のグラドオクス大陸に戻すこと”です。

 魔王が倒される前――“五勇者が現れる前の状態”に世界を戻したいんですよ」

 

「……どうしてよ?

 あんた達にとって、今のこの状況は悪くないんじゃないの?」

 

 魔王は倒れ、魔族の勢力は衰え、人間達は大いに発展している。

 勇者であるイネスが、現在の状況に不満を持つ理由を、リアは想像できなかった。

 

「それが一概にそうとも言い切れないんですよねー。

 魔王が今<次元迷宮>の奥にいるってことは聞いてると思うんですけど、その理由までは聞かされてないですよね?」

 

「あんた達に封印されたんじゃないの?」

 

「いえいえ、そういうわけじゃないんです。

 勇者(アタシ)達と魔王が戦った際、その影響で世界にちょっとばかし大きな穴が開いちゃいましてね」

 

「穴?」

 

「はい、穴。

 しかもただの穴ではなく――魔界に繋がる穴です」

 

「魔界に!?」

 

「そうなんですよー。

 そこから魔素が出るわ出るわ。

 このままじゃ世界がやばいっていうんで、魔王がその身を犠牲にして穴に蓋をしてるんですよねー」

 

「ですよねーって、それあっさりバラしていいこと!?」

 

 第三者であるリアから見ても、それは重要機密にあたる情報なのではないかと思うのだが。

 

「その辺はどうにかなるんじゃないですかね?

 穴の問題を解決することに関しては、五勇者全員が同意していますし。

 誰が勝ったとしても、六龍の力を総動員して塞ぎますよ。

 アタシ以外の人に関しては確約できかねますけど。

 ただ――」

 

「ただ?」

 

「やはりですね、“魔王”という存在は――まあ“六龍の巫女”でもいいんですけど――世界に必要なんじゃないかってアタシは考えたんです。

 六龍を制御し、魔素のバランスをとるためにね。

 それが崩れたから、魔界への穴が開き、<次元迷宮>なんて存在を作る必要ができてしまったわけでして」

 

 何気なく、<次元迷宮>についてもイネスは触れてきた。

 この口振りからして――

 

(――<次元迷宮>は勇者達が作ったってこと?)

 

 或いは魔王が作ったのかもしれないが。

 その疑問を口にする間も無く、イネスは話を続けていく。

 

「結局のところ、魔王が居た時代が一番世界にとって最も均衡がとれた状況なわけです。

 なんだかんだで、あの時代がこの世界のあるべき姿なんですよー。

 六龍を消そうとしているキョウヤとかもう論外な感じです」

 

「……まあ、あたしは否定しないけどね」

 

 魔族であるリアにとって、魔王の必要性など論ずる意味がない。

 余りにも答えが分かり切っている。

 

「でもさ、それじゃあんただってヒナタが必要なんじゃないの。

 その“穴”を塞ぐのに、六龍の力が必要なんでしょ?

 他の勇者達は“それ以外”にも六龍を使うってだけで」

 

 五勇者は、世界に開いた“穴”を塞ぐ以外に――

 

 デュストは大陸統一。

 エゼルミアは魔素排除。

 ガルムは全女性征服。

 キョウヤは六龍抹殺と、魔王の解放。

 

 ――という願望を六龍を使って達成しようとしている。

 

(デュストが真っ当に思える程ぶっ飛んだ内容ね、他の勇者は)

 

 そしてこれまでの話が真実とするなら、イネスには個人的に叶える願いが無いわけだ。

 とはいえ、やはり穴を塞ぐのに六龍が必要となる以上、彼女もまた陽葵を利用する立場のはず。

 

「いえいえ、実は抜け道があるんですよ。

 それもちゃんとお話します。

 お話しますがその前に、もっと大事なことを」

 

「大事なこと?」

 

「ええ、貴女にとって大事なこと。

 貴女がキョウヤ側になれない理由です」

 

 イネスがリアに近づく。

 互いの顔が触れそうになるまで迫ってきたので、リアは少したじろぐ。

 そんな体勢で、イネスはそっと囁いた。

 

「リアの一番大切な人。

 黒田誠一のお話ですよー」

 

 

 

 

 その名前を紡がれて、リアの心臓が跳ね上がる。

 

「な、なんで、そこでクロダの名前が出るのよ!?」

 

「なんで、という程ではないでしょう?

 黒田誠一はキョウヤの代理であり、つい先ほどもデュストと一戦交えたわけですから。

 いえ、アレを戦ったと形容するのは、流石にデュストに失礼かもしれませんけどねー」

 

 おかしそうに微笑みながら、イネスは続ける。

 

「さて、その黒田誠一ですが――もし仮にキョウヤがこの戦いに勝利し、黒田誠一が最後まで生き残ったとしても。

 彼はこの世界に残りません」

 

「え?」

 

「理由は簡単、黒田誠一はキョウヤお気に入りの駒だから。

 自分のモノをそう簡単に手放したりしませんよ、あいつは。

 優秀な相手であれば、なおさらです」

 

 イネスは笑みを消した。

 真剣な眼差しをリアに向けて、告げる。

 

「共に長く旅を続けてきたアタシが断言します。

 ミサキ・キョウヤは自分の認めた相手に対して、酷く執着する。

 一度、東京に戻れたというのに、魔王のために再度この世界へ干渉を始める程にね。

 そして事が終われば、彼らは一緒に『東京』へ帰ることでしょう。

 つまり――リアの蜜月は終わりを告げるわけですね」

 

「うっ」

 

 その危惧を全くしていなかったわけでは無い。

 黒田が東京へ戻ってしまうということを。

 

(あいつ、ここでの生活を大分楽しんでるみたいだし、まずありえないと思ってたんだけど)

 

 そもそも東京へ帰る手段だって見つかっていないのだ。

 黒田が帰ってしまうかもしれないなど、考えても仕方なかったとも言える。

 しかし――

 

(キョウヤが連れ戻すって?)

 

 ――確かに、キョウヤは黒田に対して妙に信頼しているというか、他とは異なる対応をしていたように思う。

 優秀な部下を手元に置いておきたいと考える可能性は否定できない。

 

 もしキョウヤが黒田が東京に戻って欲しいと考えていて、もしキョウヤが黒田に“東京へ帰れ”と命令したら。

 

(帰っちゃう、かも)

 

 黒田は黒田で、キョウヤの言葉にはやたらと忠実だ。

 元々黒田という男は人からの頼みをそう易々と断るタイプでは無いのだが、キョウヤに対してはそれが一層際立っている。

 

「帰って欲しく無いですよね?」

 

「!」

 

 イネスの顔がすぐ目の前にあった。

 顔と顔が触れ合いそうな距離で、彼女は言葉を紡ぐ。

 

「黒田誠一に、この世界に残って欲しいですよね、リア?

 初恋の人と、ようやくここまで親しくなれたんですからね?」

 

「んなっ!!?

 なんでそれを――じゃなくてっ!!

 あたしは別にあんな奴のこと――」

 

「“あんなこと”までしておいて、なんとも思ってないなんて無理がありますって」

 

 あきれ顔で、イネス。

 その表情でリアは思い至る。

 

「…………ぜ、全部知ってたり?」

 

 おそるおそる尋ねてみると、イネスはにっこりと笑いながら返してくる。

 

「まあ、大よそのところは。

 ……凄いですよ、貴女の肉便器っぷり。

 いくら好きだからってあそこまでやりますか?」

 

「ああああああああ!!!?」

 

 頭を抱えて絶叫するリア。

 

(うぁああああああっ!!!

 あたしがクロダとやってたこと全部ばれてるわけぇ!!?)

 

 自分の痴態を相手に知られていることを悟り、顔から火が出そうになる。

 ……もっとも、あれだけ盛大にヤっていたのだから、そりゃ露呈もしようというものだ。

 

「まあまあ、安心して下さい。

 アタシもそういうことには理解がある方ですから。

 若い内はちょっと刺激的なプレイをしたくなっちゃいますよねー。

 いや、アレの刺激はちょっとどころじゃないですけど」

 

「変なフォローの入れ方しないでぇっ!!」

 

 リアは余りのことに上を仰ぎ見る。

 そこにはよく見慣れた天井が――

 

「――て、あれ、そういえばここってクロダの家?」

 

 よくよく周囲を見てみると、ここは勝手知ったる黒田の自宅、その一室であった。

 いつもの風景を目にして、一気にテンションが落ち着く。

 

「ず、随分と急激に立ち直りましたね。

 ええ、そうですよー。

 ここは黒田誠一の家です」

 

 イネスはいきなりの変化に若干戸惑いながらも、そう返答してきた。

 ここが黒田の家だというのならば――湧いてきた疑問を、リアは率直にイネスへ投げかける。

 

「え、なんであたしここに運ばれてるの?」

 

「そりゃ、貴女が真っ二つになった現場からほど近かったからですが」

 

「クロダとあんたって知り合いだったってこと?」

 

「……いいえ。

 違いますよ?」

 

「じゃ、鍵とかどうしたのよ」

 

「この家にかけてある程度の鍵を、勇者であるアタシが開けられないとでも?」

 

 リアの質問に、イネスは悪びれも無く断言してくる。

 

「……犯罪じゃない」

 

「いやですねぇ。

 勇者は他人の家の鍵を開けたりタンスやツボの中調べたりしても一切問題ないんですよー。

 こんなの常識じゃないですか。

 リア、知らなかったんですか?」

 

「知るわけないでしょ、そんな非常識!!」

 

 リアとて人間社会の常識を隅から隅まで把握しているわけではないが、いくら何でもそんな決まりは無いはずだ。

 

(……無い、よね?

 でも勇者だしなぁ)

 

 万一の可能性を考慮し、勢いを止める。

 仮に犯罪だったとして、世界を救った英雄である彼女を咎められる人間が果たして居るのかどうかも定かではないし。

 

「それはそれとして、黒田誠一のお話ですよ。

 ね、離れたくないでしょう、彼と?」

 

「そ、そりゃ――」

 

 残って欲しい。

 自分とずっと一緒に居て欲しい。

 そう心で思っても、口には出せなかった。

 

 しかしイネスはそんなリアの気持ちを見透かしたように笑う。

 さらに追い打ちをかけるように、耳元でそっと囁いてくる。

 

「言っておきますが、キョウヤを頼っても無駄ですよ。

 あいつ、貴女のことをまるで評価しちゃいませんから。

 デュストに殺されそうになっても、助ける気配も無かったでしょう?」

 

「――う」

 

 “キョウヤに嘆願すれば或いは――”

 リアが思いついた可能性も潰されてしまう。

 

「で、でもそれ、どうにもならないんじゃ……」

 

 キョウヤが勝てば黒田は帰り、キョウヤが負ければ黒田も他の勇者に殺されていることだろう。

 後は黒田に帰らないよう縋りつく位しか手が思いつかない。

 だが彼がそれに答えてくれるかどうかは――

 

 悶々とするリアに、不敵に笑いながらイネスが語り掛ける。

 

「ふっふっふーん、ところがそうでも無いんですねー。

 奇跡の一手があるんですよ、問題を一気に解決できる逆転の妙手が!!」

 

「……ど、どんな方法よ」

 

 疑わし気な瞳をイネスに投げかけるリア。

 彼女はまたしても顔を近づけ、宣言した。

 

 

「黒田誠一を、魔王にする」

 

 

「―――――――はえ?」

 

 たっぷり時間を置いた後、かなり間抜けな声を出してしまった。

 

「クロダを、魔王に?」

 

「ええ、そうです。

 彼にはその適性があります」

 

「はは、ちょっと、冗談が過ぎるって――」

 

「冗談なんかじゃありませんよ」

 

 苦笑いを浮かべるリアに対し、イネスの顔は真剣そのもの。

 言い聞かせるように彼女は言葉を紡いだ。

 

「黒田誠一が魔王になれば、“世界の穴”を塞ぐのに室坂陽葵を犠牲にする必要はありません。

 そして、魔王になった以上、彼がこの世界から離れることも無い。

 理想的な結末でしょう?」

 

「……そんなの、無理でしょ。

 だいたい、あいつに魔王の適性があるだなんて都合のいい話があるわけ――」

 

「ところがどっこい、あるんですよー。

 まあ、リアが知らないのも無理はありません。

 魔王の適性なんて、誰もそんなものを調べてなんていないんですから。

 いえ、調べる方法すら知られていませんしね。

 あのキョウヤですら、魔王への適性――正確に言えば六龍の力への適性を把握することはできていないんです。

 なにせ、あいつ自身にその適性が皆無なんですもの。

 自分に無いもの、自分に知覚できないものは調べられない、当然ですよねー」

 

 すらすらと語るイネス。

 

「だから、キョウヤは見落としている。

 黒田誠一が魔王に適合する人材であるという事実に、未だ気付いていない」

 

「あんたは、どうして知ってるのよ……?」

 

「それはまあ一日の長と申しますか。

 アタシはあいつよりもずっと長く“勇者”をやってきましたからね、その辺りの下調べもばっちりなわけですよ」

 

「仮に、仮にそれが本当だったとして。

 クロダを魔王にしても、今の魔王様と同じく、魔素によって人格が歪まされていっちゃうんじゃ――?」

 

「そこも御心配なく。

 黒田誠一が魔素によって性格変わるようなことはありませんよ。

 ……まあ、彼は元々これ以上なく歪んでるような人ですし」

 

(それは――確かに)

 

 心の中で同意する。

 寧ろ魔素の影響が既に出ていると言われても納得する変態っぷりだ。

 ……最近のリアは、余り人のことを言えないが。

 

「ね、リア。

 黒田誠一を魔王にする、協力をして貰えませんか?」

 

「そ、そんなことを――」

 

 否定しようとする。

 黒田が魔王になることを望むとは思えなかったからだ。

 ……リアの本心はどうあれ。

 

 だが、イネスは言葉を言い終えるよりも前に畳みかけてきた。

 

「ずっと黒田誠一と一緒に居られるんですよ?

 魔王に魔族が仕えるのは当然のことなんですからね。

 それに――忘れてはいませんよね、寿命のこと」

 

「……あ」

 

 はっとする。

 それこそ、今までまるで考えてこなかった。

 人間と魔族の寿命の差。

 

「人間である黒田誠一と、魔族である貴女とでは、生きる時間が違う。

 人の寿命はせいぜい50~60年くらい――地球ではもう少し長くて70~80年くらいですか。

 どのみち、リアがまだまだ若い内に、黒田誠一は年老いて死んでしまう」

 

「う、う」

 

「でも黒田誠一が魔王になったら?

 あれあれ、この問題まで解決しちゃいますよ?

 八方全て丸く収まっちゃいますねぇ?」

 

「そ、それ、は――」

 

 心臓がばくばくする。

 黒田と、ずっと一緒に居られる。

 種族の差も、寿命の差も気にすることなく。

 それは、リアにとってとても甘い誘惑だった。

 

「…………」

 

 イネスはじっとリアの顔を見てくる。

 判断を促すかのように。

 

(どうしよう、どうしようどうしよう――!?)

 

 リアの胸中は混乱の極みにあった。

 理性は、これはきっと罠だと警告している。

 こんな美味い話、あるわけがない。

 きっと、イネスには裏がある。

 それは分かっているのに。

 

(クロダと、ずっと一緒に――)

 

 感情が騒めく。

 今や自分(肉便器)の所有者である、全てを捧げているといっても過言ではない黒田。

 そんな彼と別れることへの忌避感は、理性からの警報を覆しかねない程のものであった。

 

「……あたしは……あたし、は……」

 

 イエスとも、ノーとも、リアは言えなかった。

 ただ戸惑うだけの時間が過ぎる。

 そして。

 

「はい、そこまで。

 なかなか難しいことを聞いてしまいましたねー。

 ふふ、返事はまた今度で構いませんよ」

 

 突如、イネスがそう宣言した。

 

「え?」

 

「いや、アタシとしてはもう少し待っていても良かったんですけどねー。

 肝心の黒田誠一が目を覚ましたみたいでして」

 

「黒田が?」

 

 何故そんなことが分かるのか――を聞くのは愚問か。

 おそらく黒田の治療もイネスが行ったのだ。

 だとすれば、彼がどういう状況なのかを把握するのも、彼女にとっては容易なのだろう。

 

「はい。

 もうすぐこの部屋に来ますよー」

 

「く、来るって――あんた、あいつに会ってもいいの?」

 

「ええ。

 黒田誠一はアタシにとってキーマンになる人ですからね。

 一言挨拶しておこうかと」

 

「あ、そうなんだ」

 

 てっきりリアとの邂逅は秘密にしておくのかと思ったが、そうでも無い様だ。

 そんな会話がなされた直後、廊下から誰かの走る音が聞こえる。

 おそらく、黒田の足音なのだろう。

 

 

「リアさんっ!!」

 

 

 部屋のドアが大きな音を立てて開かれた。

 その向こうには、リアが今まで見たことが無いほどに必死な形相をした黒田が居た。

 彼は部屋を見るなり、自分の姿を見つけたようで、

 

「よ、良かった――!

 無事だったんですね!!」

 

 リアを見て、心底安心したように息を吐いた。

 

(……本気で心配してくれてたんだ)

 

 その様子を見て、少々不謹慎ながら嬉しくなってしまうリア。

 自然と笑みが零れてしまう。

 

 すると黒田はリアから視線を外し、

 

「あの、リアさん。

 こちらの方は?」

 

 イネスを見ながら問いかけてくる。

 その驚いた顔を見るに、彼女の存在に今気づいたようだ。

 

「ああ、この人があたし達を助けてくれたみたいで――」

 

「――お初にお目にかかります、黒田誠一。

 アタシはイネス。

 “封域”のイネス・シピトリアと申します。

 以後、お見知りおきを」

 

 リアの話をイネスが横切る。

 華麗な一礼と共に、自己紹介を行った。

 

「――――」

 

 対して、黒田は沈黙。

 突然の来訪者を注視するばかり。

 

(まあ、いきなり勇者が出てきちゃね。

 今日はこれで二人目だし)

 

 思考がフリーズしてしまうのも仕方があるまい。

 ただでさえ、彼は想定外の出来事に弱いタイプなのだから。

 

 数十秒に渡る時間の後、黒田はようやく口を開いた。

 

「…………葵さん?」

 

「はへ?」

 

 だが、彼から飛び出したのは別の人名であった。

 その頓珍漢な反応に、イネスからは意味不明な声が聞こえた。

 

「違うって。

 五勇者のイネス・シピトリアよ。

 クロダも知ってるんでしょ?」

 

 リアが訂正を入れる。

 それを聞いて黒田が頭を下げた。

 

「し、失礼しました。

 ……葵さんじゃ、ないんですね?」

 

「だから別人よ。

 他人の空似なんじゃない?

 ねぇ?」

 

 最後はイネスへの呼びかけ。

 彼女の方を見ると――

 

「あわ、あわわ、あわわわ。

 な、なんで分かって――じゃなくてあのその」

 

 ――盛大に取り乱してた。

 

(………え?)

 

 今度はリアが硬直する番だった。

 この反応、まさか――

 

「――葵さんでは、無いのですよね?」

 

「ち、違うんです!

 いえ、アタシが葵だってことが違うわけじゃないんですけど!

 いやいや、アタシはイネスなんですけどね!?

 覚えていてくれて嬉しいんだけど何で今のアタシを見て分かってくれたのかとか!!

 正直忘れられてるかとか思ってたのに!!」

 

「?

 私が葵さんのことを忘れるわけないじゃないですか?」

 

「にゃぁああああああっ!!!!?」

 

 イネスが叫んだ。

 いやむしろ鳴いた。

 意味不明な声で。

 

「そ、そんあ、そんにゃこといきなり言われても――

 あ、アタシ、結婚の準備とかまだできてなくて、じゃなくて、そう、アタシは勇者で貴方は魔王で、でもなくて!!

 そう、アタシと貴方は敵同士なんだけどなんだか運命感じちゃいますよね!!

 ああぁあああっ!! 違う!!

 子供! 子供は3人は欲しいんですっ!!

 そういう話でもないっ!?」

 

 彼女はとてつもなくパニクっているようだ。

 意味が分かるようで分からない文を羅列している。

 

「ど、どうしようっ!?

 ねえ、どうしたらいいと思う、リア!?」

 

「いや、知らんがな」

 

 いきなりこちらへ話を振られても、対処に困る。

 はっきり言って、まるでついていけてない。

 

「あう、あうあうあうあうあうあう。

 こんなのダメ、ダメですよ、まるで想定してなくて……

 無理無理無理無理、嬉しくて涙が出そうで……

 あーもうっ! あーもうっ!!」

 

 放って置いたら地団駄を踏みそうなテンションのイネス。

 しばらく唸った後に、

 

「あぁああああああ――――瞬間移動(テレポート)!!」

 

 スキルで姿を消した。

 

「…………」

 

「…………」

 

 事態がまるで飲み込めぬまま、残された二人。

 

「……結局、なんだったんでしょうか?」

 

「……さぁ?」

 

 黒田の質問に、投げやりに応える。

 

 突如リアの前に現れた五勇者イネス・シピトリアは。

 訳の分からない内に、突如リアの前から姿を消したのだった。

 

 

 

 第十九話 完



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④! 勇者の爪痕、深く

 

 

 

 さて、後日談。

 といっても、次の日の夜のお話。

 語り手は再び私、黒田誠一がお送りします。

 

「……ふぅ」

 

 らしくなく、ため息を吐く。

 ここはまたしても黒の焔亭。

 私は端の席に座り、額に手を当てて思い悩んでいた。

 

「……ふぅぅ」

 

 また、ため息。

 どうも、ダメだ。

 イネスさん――葵さん?――のことは置いておくにしても、デュストの件が頭から離れない。

 

 私には、覚悟が足りなかった。

 無論、自分が殺される覚悟はしていた。

 無残に死ぬ結末もあるだろうと、考えていた。

 しかし――親しい人を殺される覚悟をしていなかった。

 “そういうこと”もあるかもしれないと考えてはいたが、まるで実感できていなかった。

 

 エレナさんが殺されそうになった時とは、また事情が異なる。

 あれは、私の不注意が原因だ。

 しっかり配慮していれば避けられた事故。

 

 だが、今回は――勇者との戦いは、違う。

 “彼ら”がもし私の知人を殺そうとすれば、私がどれだけ死力を尽くしても、それに抵抗することはほぼ不可能だろう。

 

 こんなはずではなかった。

 勇者達が私を殺そうとした場合、人質だのなんだのを使う必要などまずないのだ。

 それ程、私と彼らの力はかけ離れている。

 まさか――“私を怒らせるため”だけに人を殺そうとするとは。

 

「――う、ぐ」

 

 胸が、心臓が締め付けられる。

 このままでは殺されてしまう。

 リアさんも、ローラさんも、エレナさんも、店長も、セドリックさんも、誰も彼も。

 

 どうすればいい?

 どうすれば、この事態を打開できる?

 

「それ、に」

 

 心配事はそれだけでは無かった。

 

 リアさん。

 今回のことで改めて分かった。

 “彼女は危うい”。

 

 リアさんがデュストに斬られた時。

 自分が死ぬと悟ったであろうあの瞬間。

 彼女は、“笑った”。

 喜悦の笑みを浮かべたのだ。

 

 危険だ。

 被虐趣味が行き過ぎている。

 まだリアさん自身に自覚は無い様だが――このまま行けば、自ら敢えて死地に飛び込むような真似をやりかねない。

 

 本人に伝えた方がいいのか。

 いや、自覚することでさらに症状が、歪みが悪化するかもしれない。

 

「……どうすればいい」

 

 様々な問題をひっくるめて、私は三度ため息を吐いた。

 いかん、考え事があり過ぎて頭が上手く機能していない。

 

 こういう時は――そうだ、リアさんを見よう。

 彼女の痴態を見て、心を落ち着かせるのだ。

 

「善は急げ、ということで」

 

 私はリアさんを、今夜もまた黒の焔亭でウェイトレスをしている彼女の姿を見た。

 

 最近はだんだんと見慣れ始めている制服を着て、リアさんは給仕をしている。

 程よく大きい、綺麗な艶のおっぱいが上半球ほとんど丸出しになっている胸元。

 少し動けばショーツと一緒に丸々としたお尻までも見えてしまうミニスカート。

 ストリップ劇場のダンサーもかくやという格好で、彼女は働いていた。

 

 瑞々しい肢体を求めて、彼女の周りには男性客が群がっている。

 ある客が注文を取るついでにリアさんの胸を触り、ある客はドリンクのお替りを頼みながらリアさんの股間に手を伸ばす。

 そしてある客は――

 

 「んぉおおっ!?」

 

 リアさんの口から突然喘ぎ声が飛び出す。

 見れば、ある男性が彼女の尻に手を伸ばし――

 

 「ん、お、お、おぉお、おおおおっ!」

 

 「ははは、すげぇや、リアちゃん。

 一気に根元まで入っちゃったよ」

 

 ――ショーツの生地ごと、リアさんの尻穴に人差し指を捻じ込んでいた。

 

 「んぉおっ!

 おっおっおおっおっおおぉおっ!!」

 

 「いいヨガりっぷりだなぁ。

 けつ肉もいい感じに指に絡みついてくるし。

 まるでまんこみたいだっ!」

 

 「おいおい、調子にのって弄りすぎんなよ。

 ここでうんこ漏らされちゃたまらないからなっ!」

 

 リアさんの淫らな姿に、周囲からもヤジが飛ぶ。

 後ろの穴に指を突っ込んでいる男は笑いながら指をぐりぐりを動かし、

 

 「はは、心配は要らないみたいだぜ。

 リアちゃんの中は綺麗なもんだ!

 いつ挿れられてもいいように、ちゃんと掃除してるんだな!」

 

 「お、おぉおお、あ、あああっ!

 あぁぁあああっ!!」

 

 男の手の動きに合わせ、身をくねらせるリアさん。

 後ろから来る快感に、気持ち良さそうに顔を蕩けさせている。

 

 「ん、お、おぉおおっ!

 おぉおおお――――あ」

 

 一瞬、私とリアさんの目があった。

 その時。

 

「え?」

 

 思わず声を出してしまう。

 彼女は、笑った。

 あの時と同じように、笑った。

 

 『な、なに、これ――クロダ、あたし――』

 

 昨夜の光景が頭の中にフラッシュバックする。

 そんなわけが無いのに、リアさんの身体から血が噴き出る姿を幻視した。

 

「――あの、すいません」

 

 私は。

 気付いた時には、私はリアさんを弄る男達に声をかけていた。

 

「もう、それ位にして頂けませんか?」

 

 自分でも何故こんなことを口にしているのか分からない。

 分からないが、私はプレイの中止を要請していた。

 

「おいおい、そりゃねぇぜ。

 確かにあんたはこの子の所有者らしいけどよ、俺達は決められた“ルール”の範囲内で楽しんでるんだ。

 とやかく言われる筋合いはないね!」

 

 男の一人からそんな指摘を受ける。

 確かに全く持って御尤も。

 彼らが正しく、私が間違っている。

 だが、今日の私は本気でおかしいようだ。

 なおも彼らに嘆願しようとし――

 

「申し訳ありませんが、そこをなんとか――」

 

「ぎゃぁああああああああああっ!!!!!!?」

 

 ――しかし私が言葉を終える前。

 私の前に居た、私に反論してきた男が、急に叫び出した。

 

「ち、違っ、違うっ!!

 俺は、何もそんなつもりで言ったんじゃねぇ! いや、言ったんじゃないんですっ!

 止めますっ!!

 彼女に手を出すのはすぐ止めますからっ!!」

 

 男が、涙を流しながら私に許しを請うてきた。

 いったいどうしたと言うのだろう。

 

「おいおい、自分が気に食わないからって力づくはないだろう、クロダさんよ。

 ここで暴力沙汰はご法度だぜ」

 

 見かねたのか、別の客が私の背中を叩いてきた。

 いや、私もどうしてこうなったのか分からないのだ。

 

「いえ、私は何も――」

 

「ひぃいいいいいいいいいっ!!?」

 

 弁解のために振り返ると、そちらの男性客も悲鳴をあげた。

 彼はその場で尻もちをつくと、必死の形相で私に頭を下げてくる。

 

「すみませんっ! すみませんっ!

 生意気言いましたっ!!

 殺さないでっ!! 殺さないでっ!!!」

 

 まるで、今にも“私に殺される”と言わんばかりである。

 状況がまるで飲めない。

 何が起きているんだ?

 

「クロダぁっ!!」

 

 突如、後ろからがしっと肩を掴まれる。

 店長だ。

 彼もまた、懸命な表情で私を見つめ、

 

「来いっ!

 ちょっとこっちに来いっ!」

 

 私に店の裏手へ来るように促してきた。

 

「いえ、私には何がなんだか――」

 

「いいからっ!!

 何も言わずにこっちに来るんだっ!!」

 

 あらん限りに声を張り上げて――そうでもしなければ恐怖に打ち負けそう、という風にも見える仕草で――私を店の奥に引っ張っていく。

 

「おい、リアっ!!」

 

「え?

 な、何?」

 

「お前も、今日はもう上がりだ!!

 早く着替えてこい!!」

 

「あ、あ、うん」

 

 途中、リアさんにも声をかけてから。

 店長は私を連行していった。

 

 

 

「……落ち着いたか」

 

「……えーと、はい。

 おそらくは」

 

 店長に連れてこられたのは、店員用の小部屋だった。

 そこで温かいお茶を勧められ、私はそれをゆっくりと飲み干した。

 

 店長に尋ねてみる。

 

「私、どうなってました?」

 

「やべぇ面してたぜ。

 あの客共を皆殺しにしかねねぇほど、とんでもねぇ殺気放ってやがった。

 ……あいつら、もううちには来ねぇだろうなぁ」

 

 店長が遠い目をしている。

 それ程、酷い表情をしていたのか。

 

「……申し訳ありませんでした」

 

「謝るのはこっちの方だ。

 すまねぇ、クロダ。

 お前は、こういうプレイが好きだと思ってあんな提案したんだが……

 はは、セドリックを笑えねぇな。

 今度は俺が馬鹿やっちまったか」

 

「いえ、そんなことは」

 

 女性の痴態を見るのが好きだし、リアさんが色んな男に弄られるのも楽しく見てきた。

 自分が手を出すのも、誰かが手を出しているのを鑑賞するのも大好きな、変態なのだ、私は。

 その、はずだったのに。

 

「とにかく、だ。

 もう、リアには金輪際手を出さねぇし、手を出させねぇ。

 少なくとも、この店に居る間はな。

 なんなら、もうここを辞めさせたって構わねぇ」

 

「そこまでして頂かなくとも」

 

「……別に今全部決める必要はねぇさ。

 きっちり休んで、落ち着いてから考えりゃいい。

 今日はもう帰んな。

 リアにも帰り支度をさせてあるからよ」

 

 一方的にそう言い切ると、店長は私に帰宅を促すのだった。

 

 

 

 そして、そのまま帰路についたわけであるが。

 

「……どうしちゃったの、今日のあんた?」

 

 隣で、不思議そうに私を見つめるリアさん。

 店長の計らいで、私と一緒に店を出たのだ。

 

「……自分でも分かりません」

 

 私はそう返すしかなかった。

 先程、どうしてあんな行動をとったのか。

 自分で自分の行動理由が把握できない。

 

 ――或いは、デュストとの邂逅で、何かの“タガ”が外れてしまったのかもしれない。

 

「……あの、リアさん。

 ちょっと良いですか?」

 

 言いながら、私は彼女の身体を引き寄せる。

 

「うぇっ!?

 ちょ、ちょっと、クロダ、こんなとこでするの!?

 周り、結構人がいるんだけど!」

 

「いえ、そうではなく」

 

 引き寄せたリアさんの身体を、私はぎゅっと抱き締める。

 

「え、え――?

 く、クロダ――?」

 

 リアさんは戸惑っているが、私はお構いなしに抱き締め続けた。

 彼女の温もりが、息遣いが、心臓の鼓動が、私に伝わってくる。

 “リアさんが今生きていること”を、全身で実感できた。

 

「あ、あの、クロダ?

 これはこれで割と恥ずかしい――」

 

「――もう少しだけ、このままでいさせて下さい」

 

「え? う、うん。

 ……別に少しと言わず、ずっとしててもいいんだけど」

 

 私のお願いに、恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながら頷いてくれるリアさん。

 彼女の方からも、私に手を回してきた。

 

 そのまま、2人で抱きしめ合う。

 

「――――」

 

「――――」

 

 どれだけ時間が経っただろうか。

 何となくだが、気持ちが楽になった。

 

「――ありがとうございます。

 もう、大丈夫です」

 

「――そう?

 それなら良かった」

 

 言って、ほほ笑む彼女。

 それを見ると、心が暖かくなってくるように感じる。

 

「昨日から色々と迷惑をかけてすみません。

 ……リアさん、今日は夕飯まだでしたよね?」

 

 私のせいで早く仕事を切り上げたため、リアさんはまだ黒の焔亭でのまかないを食べていないはずだった。

 

「うん。

 帰ったら適当に作ろうかなって思ってたとこ」

 

「それでしたら、せめて私に御馳走させて下さい。

 ……といっても、余り洒落た店を多く知っているわけではないのですが」

 

「え! あたしと!? ディナーに!?」

 

「ええ。

 ご迷惑ですかね?」

 

「全然! うん、OK! 行く!

 美味しいところ、紹介してよね!」

 

「任せて下さい。

 では、こちらへ」

 

 私が手を引くと、リアさんは満面の笑みでついてきてくれた。

 その様子を嬉しく思いながら、私は頭の中でどこのお店が一番リアさんにお勧めできるか、あれこれ考え始める。

 

 ……だから、気づかなかったのだ。

 

「――クロダと――こいつと、ずっと、一緒にいられる――」

 

 そんな彼女の呟きを。

 

 

 

 後日談 完



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第二十話 室坂陽葵の冒険
① 朝に一運動


 

「おはようございます、誠ちゃんっ!」

 

 朝。

 いつもの通学路。

 いつも通りの時間にそこを歩く私に、後ろから声がかけられた。

 

「おはようございます、葵さん。

 今日も元気ですね」

 

 振り向いて私も挨拶を返す。

 そこに居たのは、短く揃えた茶髪をなびかせた、笑顔の眩しい美少女だった。

 

「勿論ですよー。

 元気なだけがアタシの取柄ですから!

 それに、朝から誠ちゃんにも会えましたしねー」

 

 彼女は、駒村葵さん。

 1年の時に席が隣同士だったのが縁で、今でも仲良くさせて貰っている。

 

「私とは毎日会ってるじゃないですか」

 

「ええ。

 だから、アタシは毎日元気なんです」

 

「そんなに面白い顔をしていますかね、私は?」

 

 そう問い返す私に、彼女はわざとらしく難しい顔をする。

 

「いいえ、全然。

 偶には面白い顔としてしてみてもいいんじゃないですか?」

 

「これはまた難しいことを……」

 

 腕組みをして頭を傾げる。

 いきなりそんなことを言われても困る。

 面白いことをしろと命じられた上で面白いことをやってのけるのは、相当に困難な――

 

「あはは、見事アタシを笑わせてくれたら、お願いを一つ聞いてみてもいいですよー」

 

「ふんっ!!」

 

「ぶっは!?」

 

 気合い一発。

 渾身の変顔を葵さんに見せつけると、彼女はいきなり噴き出した。

 

「あは、あはははははっ!

 なんでいきなりそんな凄い顔できるんですか!

 練習っ!? ひょっとして練習してました!?」

 

 実はこんなこともあろうかと、ここ最近鏡の前で。

 と、そんな舞台裏は微塵も態度に出さず、私は彼女に語り掛ける。

 

「いえいえ、そんなことは。

 ……さて、笑いましたね?」

 

「えーっと、はい、笑ってしまいました」

 

 困り顔をしつつも、認める葵さん。

 

「正直でよろしい。

 それでは、私のお願いを聞いてもらいますよ?」

 

「……まあ、自分から言っちゃった手前、やりますよ、やりますけどね。

 あんまり無茶なのは駄目ですよー?」

 

 どうも葵さん、私が変なことを言うのではないかと心配の様だ。

 まったくもって取り越し苦労である。

 親しい女の子を困らせるようなことを言う程、この黒田誠一、性根は捻じれていない。

 

「大丈夫ですよ、そんな無理なことは言いません」

 

「そ、そうですよねー。

 じゃ、お願いを言ってみるがいいですよ。

 大抵のことは叶えてしんぜましょー」

 

 意味も無く胸を張る彼女に、私は単刀直入にズバっと切り込む。

 

「ええ――下着を見せて下さい」

 

「はぇ!?」

 

 

 

 

 

 

 ……眩しい光が目に差し込む。

 

「――――む」

 

 朝日を浴びて、私は目を覚ました。

 なんだ、夢か。

 

「……葵さんが、イネスさん――?」

 

 夢の出来事を反芻し、口に出して呟く。

 

 昨日出遭った女性――五勇者の一人、イネス・シピトリア。

 余りにも学生時代の友人に酷似しており、聞いてみれば案の定本人だった。

 いや、明確にそうだと断言されたわけでもないのだが、あの反応を見る限り十中八九間違いないだろう。

 一体全体、どういうわけなのか。

 

「彼女を見間違えるわけもなし」

 

 長い期間一緒に居たわけでもないが、大分親しく接して貰えていた女性だ。

 そうそう忘れるわけが無い。

 

 なにより、大きすぎず小さすぎず、あのなんとも男を誘うバランスで均整の取れたプロポーション。

 あれを忘れるわけにはいかない。

 会わなくなってから何年も経つが、未だにあの肢体を維持していることは嬉しいばかり。

 服装も、一見すれば普通の(いやかなり豪奢ではあったが)神官服に見えなくもないが、よく見れば胸やお尻を妙に浮かび上がらせており、実にエロい代物だった。

 

 ――正直に白状してしまえば、むしゃぶりつきたい。

 

「……まあ、こちらも負けてはいませんけれど」

 

 そう言いつつ、私は自分の隣で寝息を立てているリアさんに目をやる。

 昨夜は夕飯を一緒した後、そのまま私の家に泊まったのである。

 いや、リアさんは私の肉便器なので、ここは彼女の家とも言えるわけだが。

 

 ちょうど今、リアさんは魔族状態。

 人間の時よりも胸や尻のボリュームが少し増えており、イネスさんに負けず劣らず淫猥な身体を披露している。

 青白い肌に銀色の髪という、地球ではまず見れない組み合わせも新鮮で堪らない。

 無論、若干メリハリが少なくなるとはいえ、健康的な色気を放つ人間時の肢体を否定するものではないので、ご注意を。

 どちらも良いところがあって、両方共に素晴らしい、それでいいじゃないか。

 

「ん……すぅ……すぅ……」

 

 静かに息を吐くリアさん。

 呼吸に合わせて、彼女のお腹が上下に動く。

 

 当然のことながら、リアさんは裸である。

 こんな状態で何もしていない訳がない。

 昨晩は彼女が失神する――もとい、寝入るまで何発も決めた。

 

「すぅ……すぅ……んっ……あっ……」

 

 せっかく目の前にあるので、おっぱいを揉んでみる。

 大きさの割に、なかなかの弾力。

 魔族と人間との肉感の違いだろうか。

 

「んっ……んっんっ……あっ……」

 

 なおも揉む。

 リアさんの寝息が少しずつ色を帯びてきた。

 

 調子を上げた私は、おっぱいの先端を抓んでやる。

 ちなみに乳首は綺麗な桜色で、青白い肌と絶妙なコントラストを形成しており、実に艶めかしい。

 

「ん、あっ……あっあっ……あっうっ……

 ……ん、んんっ……ん、あ――く、クロダ……?」

 

 彼女の目を覚ましてしまったようだ。

 まあ、これだけ刺激を与えれば当然か。

 

「あ、う、あっ……ああ、んぅっ……

 朝から、何してんのよ……あんっ……」

 

「ご迷惑ですか?」

 

「そ、そんなこと無いけど……んっふぅっ……」

 

 リアさんは少し息を荒げながら、私に抱き着いてくる。

 

「あ、ああぁ……クロダぁ……ん、ちゅっ」

 

 そのまま、私と唇を重ねてきた。

 リアさんの美貌が私の視界全てを占める。

 そして彼女は私の口内に舌を挿し込んできた。

 

「ん、んんんっ……れろれろっ……ふぁ……んむぅ……ぺろ、れろ……」

 

 私もまたリアさんの舌に自分の舌を絡ませる。

 柔らかく繊細な感触がべろを伝ってきた。

 

「あふ……ん……れろっ……んぅっ……んん、ん……」

 

 互いに口の中を舐め合い、唾液を混ぜ合わせる。

 リアさんの匂いが、私の鼻孔をつく。

 どこか甘い、女性の、雌の匂いだ。

 

 キスを交わしながら、彼女は手で私の股間を触ってきた。

 

「はっ……んふぅっ……ん、あ、はっ……

 はぁっ……クロダのここ、もうこんなに硬い……」

 

「まあ、朝ですからね」

 

 いわゆる朝勃ちである。

 そうでなくとも、リアさんとこんなことをして興奮しない男がいるわけがない。

 

 リアさんは、なおも私の唇や頬、首筋をぺろぺろと舐めまわしながら、上目遣いで嘆願してくる。

 

「ねぇ、クロダ。

 あんたのちんぽも、舐めて、いい?」

 

「構いませんよ。

 ……リアさんも、朝からお盛んですね?」

 

「だ、だって、こんなおっきいの見せつけられたら……我慢、できるわけないでしょっ」

 

 別に見せつけたわけではないのだが、その辺りの指摘は野暮というものだろう。

 リアさんは私の股間へと頭を近づけていく。

 

「ああ、リアさん、私の顔に跨ってフェラしてくれますか?」

 

「へ?

 それって――」

 

「ええ、私もリアさんのを舐めてあげます」

 

 俗にいう69体勢というヤツだ。

 私の提案にリアさんはおずおずと頷き、ゆっくり私の顔に自分の股間を近づけてくる。

 

「ほう……絶景ですね」

 

「変なこと言わないでってば」

 

 リアさんの膣口が、陰核が私の眼前にある。

 肌は青白いというのに、ここは鮮やかなピンク色をしていた。

 男の劣情を誘う色合いだ。

 

 ぺろりと女性器の入り口に舌を這わせる。

 

「んんっ――あっあぅっ」

 

 リアさんは敏感に反応した。

 

「あっ――あっああっあっ――あ、んんっ――

 あ、あたしも……はむ、ん……」

 

 悶えつつも彼女は私の男根を頬張る。

 頭を前後に動かして、口で剛直を扱き出した。

 

「んっ……んっんふっ……はぁ、んん……んん……

 んっんっんっんっ……はっ……あ、あぁああっ!?」

 

 突如、リアさんが大きな嬌声を上げる。

 私がクリトリスを噛んだからだ。

 

「く、クロダ――いき、なり、強い――あぁあああああんっ!!」

 

 カリカリと甘噛みしてやる。

 彼女の陰核は、ぷっくりと膨らんでいた。

 男の勃起に近い現象か。

 

「んぁあああっ!――あ、あぅっ!

 ……ん、んん……ぺろ、れろれろ……んむぅ……はぅっ!」

 

 喘ぎ声を出しつつ、リアさんは肉棒を舐める行為を止めなかった。

 股間が暖かく柔らかい感触に包まれ、愚息が優しく扱かれていく。

 

 ただ、相当感じているのか、膣からは愛液がとろとろと溢れている。

 当然、膣口から流れ落ちた液体は私の口内にも入ってきて――リアさんの、雌の味が口いっぱいに広がっていく。

 

「――美味い」

 

 思わず口に出す。

 幾らでも味わっていたくなる、魅惑の味だ。

 

「だ、だから、変なこと言わないでって――んあ、あぁああっ!」

 

 もっと堪能するため、私は彼女の股間に吸い付いた。

 膣に舌を挿し込んで穿り返し、クリトリスを噛んで刺激してやる。

 

「あっあっあっあぁあっ!

 ま、待ってよっ!!

 これじゃ、あんたの舐められな――あぁああああっ!!」

 

 確かに。

 せっかくの69だというのに、私が責めすぎている気がする。

 さっきからリアさんは喘いでばかりで一向に肉棒を舐められていない。

 しかしここで止めるのも違う気がするので、彼女の頑張りに期待しよう。

 

「あっあぅっ!

 ん、んん――す、少しは加減して――あ、あぁああっ!

 あっあっあっあっ――も、もぅ!……あむぅっ!!」

 

 気力を振り絞ってリアさんはもう一度私の男根を頬張った。

 

「んんん――ん、んふぅ――!

 んん――! ん、んんんん――!!!」

 

 ジュポジュポと大きな音を立てて、フェラをするリアさん。

 私から与えられる快感を、勢いだけで抑えているようだ。

 再び私のイチモツが彼女の口で扱かれだし、程よい快楽が股間から伝わってくる。

 

「んんんん――!!

 ん、んはっ! あ、あぁああっ! あっあっあっあぁあんっ!

 ――んむぅっ! んっんっんっんんっん――!!」

 

 喘いでは舐め、舐めては喘ぎ。

 私の責めを根性で耐え、私を少しでも気持ち良くしようとフェラをするリアさん。

 そのいじらしさには感動すら覚えてしまう。

 

 しかし身体が反応してしまうのはどうしようもないようで、膣口から流れる愛液は止まる気配がない。

 今や、彼女の股間だけでなく、私の顔も淫猥な汁で濡れ濡れになっている。

 口も鼻も淫汁まみれで、濃厚な(リアさん)の匂いと味が私の感覚を支配していた。

 

 こんな風になってしまっては、私の方も止まれない。

 もっと淫液を噴き出させてやろうと、陰核に嚙みついた。

 

「っっっっ!!?

 ふぁっ!! あぁあああああっ!!!」

 

 堪らず、大きな嬌声を漏らすリアさん。

 背を仰け反らせ、せっかく加えていた肉棒も口から外れてしまう。

 

 だが私はお構いなしに、彼女のクリトリスを責め抜いた。

 

「いっ!! くっ!!

 クロダっ!! ダメっ!! それっ!! ダメぇっ!!

 あたしっイクっ!!

 イクっ!! イクイクっ!! イっちゃうぅうううっ!!!」

 

 ガクガクと身体を震わせながら、リアさんは絶頂に達した。

 それと同時に、彼女の股間から透明な液体が文字通り噴出してくる。

 愛液とは違う――潮だ。

 

「あっ! あっっ!! ああっっ!!

 あっ――あっ――あっ――!!」

 

 ビクッビクッと痙攣しながら、断続的に潮を吹き続けるリアさん。

 その度に、私の顔は液体でびしょびしょに濡れて行った。

 

「あっ――! あっ――! あっ――!

 ……んくっ……はぁー……はぁー……はぁー……はぁー……」

 

 ようやく絶頂から解放されたのか、リアさんが大きく肩で息をする。

 その様子をしばし眺めてから、私は彼女に語り掛けた。

 

「イってしまったようですね、リアさん」

 

「はぁー……はぁー……う、うん。

 ごめんね、クロダはまだイケてないのに――」

 

 リアさんは申し訳なさそうに返事をしてくる。

 自分から責め始めたというのに先にイカされてしまい、心苦しく感じているのだろう。

 ここでフォローを入れてもいいのだが――私はあえて彼女をいじめることにした。

 

「全くです。

 主人より先に便器が果ててしまうとは」

 

「!! ごめん!

 本当に、ごめんなさい!」

 

 いつもと違う私の反応に、彼女ははっとして頭を下げてくる。

 その姿に、嗜虐心が刺激されてしまう。

 私はさらに畳み込むように、彼女を責めた。

 

「それに……随分と、私の顔を汚してくれたものですね」

 

「あっ――!!

 す、すぐに綺麗にするからっ!」

 

 慌てふためいて、私の顔を拭こうとするリアさん。

 そんな彼女を私は手で制し、

 

「いえいえ、構いませんよ。

 ですが――罰は必要ですね」

 

「――え?」

 

 きょとんとするリアさんに向かって、私はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 若干の時が経過し。

 

「ねぇ、クロダ。

 これが罰なの?」

 

 そこにはロープで亀甲縛りされ、部屋の真ん中に吊るされるリアさんの姿があった。

 無論、私の仕業である。

 

 なお、今のリアさんは馴染みのある人間状態。

 私が命令して、そちらに変わって貰ったのだ。

 

「色々つっこみどころがあるんだけど――なんであんたこんな縛り方できるのよ?」

 

「はっはっは、昔取った杵柄というヤツですよ」

 

「まあ、こういう方面で今更あんたが何しようが、驚きはしないけどさ」

 

 ため息をつくリアさん。

 随分と余裕を感じる。

 

 ただ一方で、健康的な肌にロープが食い込む様は、非常に淫猥である。

 

「で、これでおしまいなの?」

 

「おや、物足りませんか」

 

「今更あんたにこの程度の姿見せたところで、どうってことないし。

 まあ、ロープが食い込んであちこち痛いけど、我慢できない程じゃないから」

 

 拍子抜けした様子のリアさんだった。

 どうも、もっと“凄いお仕置き”を期待していたらしい。

 

 一応補足しておくが、別に私は手加減していない。

 精一杯の力でリアさんの肢体を縛ったのだ。

 実際、本来綺麗な曲線を描いている彼女のおっぱいはロープの締め付けで形を歪められているし、股間の割れ目にもロープは食い込んでいる。

 普通の人が見れば、かなり『痛そう』で『恥ずかしく』見える姿であることは間違いない。

 ただ、死にかける程の戦闘経験があり、かつ様々なプレイに興じてきたリアさんにとっては、『この程度』と形容できる程度のもののようだ。

 

「それで、このままあたしを犯すの?」

 

「ええ、そうですよ。

 ただその前に、もう一度魔族に戻って頂けますか?」

 

「ん? 魔族に?」

 

 不思議そうな顔をするリアさん。

 私は重ねてお願いする。

 

「はい。

 できませんか?」

 

「いや、普通にできるけど。

 どうしてそんなこと」

 

「まあまあ。

 そういう趣向なのですよ」

 

「ふぅん。

 まあ別にいいけど――よっと」

 

 掛け声と共にリアさんの身体が光に包まれる。

 私の目の前で、彼女の身体が魔族のソレへと変貌していく。

 

 ――まんまと罠に引っかかってしまったわけだ。

 

「――っ!?

 あ、ひぎぃいいいいいいいっっ!!?」

 

 魔族の身体に変わっていく最中に、突然リアさんが悲鳴を上げた。

 ……当然だろう。

 

 ロープは、人間時の身体へ食い込む程、ギリギリにまで縛り上げている。

 そしてリアさんは魔族へ戻る際、身体のあちこちのボリュームがアップするのだ。

 そうなればロープは限界以上に彼女の身体へ食い込むのは自明であり――

 

「あっ! ぎっ! がっ!?

 ――ぐ、苦じっ! ぐ、グロダっゴレっ苦じ、いっ――!?」

 

 苦しさと痛みで目を見開きながら、リアさんが苦悶の声を漏らす。

 ギチギチとロープの方も悲鳴を上げた。

 

 リアさんの身体は痛々しい程に亀甲状のロープが食い込んでいた。

 胸は歪に締め上げられ、お腹や腕は縛られた箇所以外の柔肉が盛り上がっている。

 股間には股が裂けんばかりにロープが侵入し、もはや全身がボンレスハムのような――いや、今のリアさんに比べればボンレスハムの方がまだ緩く縛られていると言っていいだろう。

 

 ロープの方が千切れてもおかしくない状態だが、実はこのロープ、強度が向上されたマジックアイテムなのだ。

 こんなこともあろうかと事前に用意していたのである。

 

「がっ! ひっ! はっ!

 あっ! あっ! あっ! あっ! ああっ!!」

 

 口をパクパクとするリアさん。

 目は焦点が合っておらず、完全に泳いでいる。

 

 そんな彼女へ私は話しかける。

 

「どんな気分ですか、リアさん?」

 

「はっ! ひっ! はっ!

 ――あ、あ――と、解いて――!

 お願い、これ、解いて――!!」

 

「罰だと言ったはずですよ?」

 

 吊るされているリアさんの身体を掴み、ぐいっと揺らしてみる。

 

「ぐひぃいいいいいいいいっ!!!?」

 

 その衝撃でさらにロープが食い込んだのだろう。

 リアさんの口から凄まじい悲鳴が飛び出る。

 

「あっ――がっ――がっ――はっ――」

 

 息も絶え絶えといった呼吸をするリアさん。

 口からは涎が垂れ、目から涙が流れている。

 

 ……だというのに。

 

「“嬉しそう”ですね、リアさん」

 

 私はそう言った。

 

 こんな酷い状況に置かれているというのに、リアさんの顔は悦楽に歪んでいた。

 股からはポトポトと愛液が滴り落ちている。

 

 ――彼女は、悦んでいるのだ。

 

「こんなことをされて感じているだなんて――とんだ変態だ、貴女は」

 

「あっ! ひっ! あぁあっ!

 そんなっ! あた、し――あたし、は――!」

 

 リアさんの声が戸惑いの色を帯びる。

 彼女も分かり始めてきたようだ。

 自分が、楽しんでいることを。

 

 私はさらに彼女の身体を揺らす。

 

「んぎぁあああああああっ!!!?

 あっ!!! あっ!!! あぁあぁああああああんっ!!!」

 

 悲鳴が上がる――が。

 最後のソレは、苦悶の声というより、喘ぎ声に近かった。

 

 身体だけでなく、心も快感を覚え始めたか。

 

「どうです、リアさん?

 気持ち良いのでしょう?」

 

「あぅっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!

 ん、んんぅううううっ!!!」

 

 リアさんを揺さぶりながら、問いかける。

 揺れる度にロープはギシギシと軋み、彼女は淫らに悶えた。

 流石はリアさん、もうこの締め付けに慣れ始めているようだ。

 とんでもない被虐趣味である。

 

「どうされたいですか?

 ここから、どんなことをされたいのですか、貴女は?」

 

「あっあぁぁあああああっ!!?

 ――お、犯してっ!!

 あたしのまんこに、あんたのちんぽ、じゅぶじゅぶ挿れてぇっ!!」

 

「はい、分かりました」

 

 そこまで嘆願されては男として答えないわけにいかない。

 私は既に勃起しているイチモツを彼女の股間へ添えると、股に食い込んだロープを渾身の力で“ずらす”。

 

「んごぉおおおっ!?

 あ、がぁああああああっ!!!」

 

 途端にリアさんが獣のような雄叫びを上げた。

 限界を超えて身体に食い込んでいるロープを動かしたのだ。

 “動かした分”だけ、他の箇所がさらに肢体を締め付けたのだろう。

 

 しかし、この痛みもリアさんなら快楽に変えられるはず。

 そう信じて、私は肉棒を彼女の女性器へと挿入する。

 

「おごっ!?

 んぐ、あぁああああああああああっ!!!」

 

 悲鳴と聞き違えるような声。

 一方で、縛られた快感によってリアさんの入り口は十分過ぎる程に濡れており、すんなり愚息を受け入れる。

 だが彼女の『中』は、侵入してきた男根にねっとりと絡みつき、絞ってくる。

 流石はリアさん、大した名器っぷりだ。

 

「あぅううっ!!

 うぁっ!! ああっ!! ああっ!! あがああっ!!」

 

 ピストンに合わせてリアさんが喘ぐ。

 肉棒を出し入れする度に、彼女の股からは洪水のように愛液が流れ出てくる。

 床に水たまりができていることから、その量は推して知るべし。

 

「う、ぐ、あぁああああっ!!

 おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぉおおおおっ!!!」

 

 口から泡まで吐き出すリアさん。

 そんな状態でも、彼女の膣は愚息を掴んで離さない。

 意識も朦朧としているだろうに、私の股間に快感を伝えることを忘れないのだ。

 

「いいですよ、リアさん。

 実に気持ちがいい!」

 

「あうっ!! あうっ!! あうっ!! あうっ!! おうっ!!

 おっ!! おっ!! おっ!! おっ!! おっ!!」

 

 腰のグラインドで彼女を揺らせば、ロープが軋みさらにきつく絞めつける。

 身体中に食い込んでいるロープと、股に突き挿さっているイチモツで、リアさんは白目を剥く寸前だ。

 ほぼ私の成すがままとなっていた。

 

「そろそろ、私もイキそうです!

 どうです、リアさん!

 欲しいですか!?

 私の精子が、欲しいですか!?」

 

 射精のため、さらに腰を激しく彼女へ打ち付けながら、そんな問いかけを投げる。

 私としては答えなど期待していなかったのだが――

 

「んおっ!! おおっ!! おうっ!! おおおっ!!――欲しいぃっ!!

 あんたの精子、欲しいぃっ!!

 おがっ!! いぎっ!! あっ!!! あっ!! あっ!!

 あたしの中に、全部出してぇっ!!」

 

 ――なんとリアさん、意識を半ば失いかけているというのに、返事をしてきた。

 それ程までに、精液を子宮へ注いで欲しいのか。

 

「いいですよ!

 全部、中に出してあげます!!」

 

「あひっ!! あっっ!!! あっっ!!! あっっっ!!!

 出して、出して、出ひて出ひてぇっ!!!

 あたしを孕ませてぇぇぇぇえええっ!!!」

 

 涙を流し、涎を垂らし、白目を剥き。

 それでもリアさんはそう嘆願してきた。

 実に素晴らしい便器っぷりだ。

 

「出し、ますよっ!!!」

 

 腰を一際強く突き込み、愚息で彼女の最奥(子宮)を抉る。

 その勢いに任せ、私は精液を迸らせた。

 

「あひぁっ!!!

 んはぁああああああああああああああっ!!!!」

 

 ガクガクと身体を痙攣させ、身体を反らすリアさん。

 彼女は彼女で、絶頂を迎えたらしい。

 

「あぎっ!!? がっ!! あっっ!!! ああぁあっっっっ!!!」

 

 苦悶の悲鳴と快楽の嬌声が交互にあがる。

 無理に動いたせいで、ロープがさらに肢体へ食い込んだようだ。

 

「あっっ!! ぎっっっ!! んぁああっ!!! ああぁああああっ!!!!

 ――あっ――――…………」

 

 一しきり悶えてから、リアさんは動きを止めた。

 彼女の身体から完全に力が抜ける。

 ……失神したようだ。

 

「……おや?」

 

 じょろじょろと、水が流れる音に気付く。

 見れば、リアさんの股間から黄金色の液体が噴き出ている。

 

「失禁しましたか」

 

 意識が飛んでいるのだ、無理もない。

 とはいえ――

 

「――私を汚した罰という体で始めたというのに、かえって汚されてしまいましたね」

 

 仕方がないだろう。

 リアさんには今回かなり無理をさせてしまったのだ。

 これ位は、自分への罰として受け入れよう。

 

 ……まあしかし、掃除は後できっちりやるとして。

 

「孕ませて欲しいと言っていましたよね」

 

 確かに彼女は最後にそう叫んだはずだ。

 だとすれば――

 

「――もっと、注いでおかねばなりません」

 

 魔族の妊娠確率は非常に低い。

 この程度の子種を入れたところで、受精などまずしないだろう。

 彼女を孕ませるのであれば、もっと徹底的に精液を注ぐ必要がある。

 

「では、ヤりますか」

 

 改めて彼女の腰を掴み、自らの剛直を思い切り膣内へと叩き込んだ。

 

「――んぎぃいいいいいいいいっっっ!!!!?」

 

 その衝撃で、リアさんが目を覚ました。

 顔を歪ませて、あらん限りの声を出すことを、目を覚ますと形容して良ければ、だが。

 

 とはいえ、私がやることは変わらない。

 深く、強く、彼女の中を穿っていく。

 

「あっっ!!! んぎぃっっっ!!! がぁっっっ!! おあっっっ!!!」

 

 リアさんを孕ますため、心を鬼にして腰を撃ち続ける。

 部屋には、肉と肉がぶつかる音と、リアさんの叫び声がただ響いていった。

 

 

 

 結局この行為は、リアさんに会うため、陽葵さんが私の家を訪ねてくるまで続いた。

 私達の姿を見た彼は大層驚いていたが、一先ず本日の探索(仕事)に影響は無さそうだった。

 

 

 

 第二十話②へ続く



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②! 陽葵さんの奮闘

 

 

 

「魔族の受精率は非常に低く、同族同士かつ危険日であっても、1回の性交による妊娠確率は10%を下回ると言われています。

 違う種族との混血も可能ですが、その場合は確率はさらに低下し、0.1%未満であると主張する文献もありますが、何分魔族の生態に関する研究は相手が相手だけに余り行われておらず、信憑性については怪しいですね」

 

「……ローラさん?」

 

 ここは<次元迷宮>内。

 私の隣で突然語り出したローラさんを、私は呆然と見つめる。

 

「きゅ、急にどうされたのですか?」

 

「いえ、なんと言いますか、説明しなくてはいけない気がしたんです。

 ほら、私は治療係として勧誘されたわけですけれど、これまでその役割を務める機会が無かったじゃないですか。

 ですので、偶には治療に関する学術的知識も披露しておこうかと思いまして」

 

「そ、そうですか……」

 

 そういう考えならば仕方ない。

 魔族の妊娠に関する知識が今この場で必要かどうかは置いておいて。

 ローラさんも、自分本来の仕事がやれず、不安だったのだろう。

 

 自分の仕事が無い、自分の仕事が全うできないという状況は、本当に辛いのだ。

 ――本当に辛いのだ!(熱弁)

 

 とはいえ、そう遠くない内にローラさんには活躍して貰うことになりそうなのだが。

 私は遠くで戦闘を繰り広げている『2人』を見ながら、内心でそう呟く。

 

「……お2人とも、かなり厳しそうですね」

 

 ローラさんもまた、同じような感想を抱いたようだ。

 

 ここは、高い草木が茂る森のような階層だ。

 どういう理由か、上からは陽光まで差している。

 太陽が出ているわけではないのに、不思議なものだ。

 

 この階層には食べることのできる植物も自生している上、出現する魔物は食用に調理可能な『素材』を落とすため、冒険者にとっては非常に貴重な場所となっている。

 魔物が比較的多い階層であるにも関わらず、ここを探索の拠点にする冒険者もいる程だ。

 

 もっとも、陽葵さんとリアさんは『青の証』によるワープ機能があるおかげで、食料を気にする必要が無い。

 つまり彼らにとって、この階層はただ魔物が多いだけの厄介な場所というわけで。

 

「流石のリアさんでも、黄色区域の魔物はそう簡単には倒せませんからね」

 

 ローラさんの呟きに返事をする。

 

 そう、ここは既に黄色区域。

 初心者用の白色区域、場慣れした冒険者用の緑色区域、それよりもさらに奥深く。

 出てくる魔物も、仕掛けられた罠も、これまでの区域より格段に危険なモノになっている。

 

 それでも、リアさん一人であればなんとでもなったのだろう。

 何せ彼女は昔、赤色区域にまで足を運んでいたのだから。

 

 だが、陽葵さんのフォローもこなしながらとなれば、話は別だ。

 彼もこれまでの探索でレベルアップしてはいるが、如何せんまだ黄色区域での戦闘をこなせる程ではない。

 となると、リアさんの負担は激増し――

 

 「――あー、もう!

  面倒くさいったらっ!!」

 

 リアさんの愚痴がここまで聞こえる。

 彼女は自分の周りに群がる巨大な羽虫のような魔物に対し、武器である巨大な鎌(サイズ)を振るっている。

 だが羽虫は素早く飛び回り、なかなか攻撃が当たらない。

 

「クロダさん、今リアさんの周りにいる魔物は?」

 

「あれはキラーインセクトですね。

 耐久力は大したことないのですが、とにかく回避能力が高い魔物です。

 熟練の冒険者であっても、攻撃を当てるのは至難の業かと」

 

 だがそこはリアさん、2,3回に1回はしっかり攻撃を当て、キラーインセクトを撃墜している。

 巨大鎌(サイズ)という如何にも命中が低そうな武器を使ってこれなのだから、大したものだ。

 

「――おっと」

 

 気付けば、羽虫が何匹か私達の方にも向かってきた。

 私は矢を<射出>で飛ばし、その全てを一斉に撃破する。

 

「……なるほど、まるで説得力がありません」

 

「そうですかね?」

 

 私の説明に、ローラさんは納得いかないようだ。

 まあ、実際に戦わなければ、その辺りの実感は湧かないだろう。

 

「あ、リアさんがまた別の魔物と戦いだしましたよ」

 

「そのようですね」

 

 ローラさんの言葉に、私は再度注意をリアさんの方へ向ける。

 今度は多足甲虫のような魔物に取り囲まれていた。

 

 「んがーっ!!

  か・た・いっ!!

  さっさと落ちなさいっつーの!!!」

 

 文句を言いながら、ザクザクと鎌で甲虫を削っていく。

 だが魔物達はお構いなしに彼女を襲う。

 動きの遅い甲虫の攻撃など、リアさんは華麗にかわしているのだが――ともかく、なかなか倒れないことに苛立っているようだ。

 

「あちらの魔物は何と言うんですか?」

 

「はい、グレイブビートルです。

 キラーインセクトとは逆に耐久力に特化した魔物ですね。

 硬い甲殻に加え、生命力自体も高く、倒すのには相当時間がかかります」

 

 魔族であるリアさんの巨大武器による攻撃でもなかなか倒れないのだ。

 そのしぶとさは推して知るべし、である。

 

「――む」

 

 話している最中、数匹の甲虫が私達を襲ってくる。

 私は赫い脚鎧を装着した足で群がる甲虫を蹴り潰していった。

 

 ――説明を省いていたが、私は<魔法使い>用装備ではなく、金属製の籠手と脚鎧を纏った射式格闘術専用装備へと装いを変えている。

 私としても、黄色区域(ここ)では射式格闘術を使わないとローラさんを守るのに不安があるのだ。

 

「……ひょっとしてクロダさん、自慢してたりします?」

 

「はい?

 何をですか?」

 

「――い、いえ、そんなわけないですよね!

 忘れて下さい!」

 

「は、はぁ……?」

 

 どうにも要領を得ない。

 ローラさんも<次元迷宮>探索による心労が溜まっているのかもしれない。

 陽葵さんやリアさんだけでなく、彼女の体調にも気を配らなければ。

 

「……それで、クロダさん。

 ヒナタさんなんですけれど――」

 

「彼は彼で大変なことになってますね」

 

「――あの、アレは助けに入らなくていいんですか?」

 

「まだ大丈夫ですよ。

『欲情の呪符』がありますから、命の危険だけは無いですし」

 

「何度聞いても酷い名称のアイテムですね……

 まあ、クロダさんがそう言うのであれば大丈夫なんだと――思い込むことにします」

 

 なかなか正直な意見が、少し心に刺さる。

 実際問題、私も『欲情の呪符』の存在が無ければ今すぐにでも助けに飛んでいくところではある。

 

 要するに今、陽葵さんがどうなってるのかと言うと。

 

 「くそっ! くそっ! くそっ!

  あっち行けよっ! このっ!!」

 

 自分に集ってくる羽虫(キラーインセクト)へ、愛くるしい美貌を必死の形相に歪ませ、ブンブンと剣を振るっていた。

 リアさんが“意図的に”多くの魔物を引き付けているものの、全てが彼女へ向かっているわけではなく。

 そしてリアさんは自分の周囲に群がる魔物の対処に追われる関係上、残った魔物は必然的に陽葵さんが何とかしなければならないわけだ。

 

 ショートカットのブロンズヘアを振り乱し、へそ出しタンクトップと尻出しホットパンツの姿(ついでにジャケットも羽織っているが)で踊る陽葵さんの様子は、ちょっと――いや、かなり艶めかしい。

 肢体は黒のボディースーツで覆われているのだが、肌とは違う質感のソレが、これまたマニアックな淫猥さを漂わせていた。

 それもこれも、陽葵さんが男とは思えぬ肢体を――というより、女として見てもほぼ完璧な肢体をしていることが原因だ。

 まあ、おっぱいこそ無いものの、あの身体の柔らかさや華奢さ、腰から尻、太ももにかけてのラインの美しさはそれを補って余りある。

 これで顔は超絶美少女だというのだから、彼を見て男だと思えというのが難しい。

 

 それはそれとして。

 

 「ぜ、全然当たらないっ!?

  どうなってんだよ、こいつら!!」

 

 何度やっても、陽葵さんの攻撃はまるで当たる気配がなかった。

 魔物は余裕で陽葵さんの攻撃を掻い潜ると、彼の身体へ攻撃を仕掛ける。

 ただ、その『攻撃』はリアさんに対するものとは少し異なり……

 

 「だからっ! 寄ってくるなって!!

  てやっ! たぁっ!

  う、くっ―――――んぁっ!」

 

 陽葵さんの声が色を帯びる。

 

 「や、め――んんぅっ!

  あ、う、あっ!――離、れろっ!!

  ――あんっ!」

 

 嬌声が混じり出す。

 ……彼に張り付いた羽虫が、肢体を弄りだしたのだ。

 

 「んっやっあっ――!

  変なとこ、触るなっ!!

  あっ! んぁああっ!!」

 

 羽虫の脚が、陽葵さんのタンクトップの中に入り込み、ショートパンツの中に挿し込まれる。

 そして、執拗に彼を嬲りだした。

 

 「はぁっ――んんっ――あっ――!

  やめろっ――やめろぉっ!!

  んぁっ! あっ――あぅっ!!」

 

 これが『欲情の呪符』の呪い――もとい、効果である。

 魔物達は陽葵さんに種付けをしようと、彼の肢体を責めているのだ。

 

 「ああぁ……あ、あんっ!

  胸、いじるなぁっ……あぅっ!!

  あっあっあっあっ――――んんっ!?

  ダメっ! そこはっ!!」

 

 身を捩って羽虫を振り落とそうとするも、その程度では魔物はまるで動じない。

 虫達は無感情に、淡々と陽葵さんを孕ませようと『作業』を行う。

 

 「は、ひっ――ああ、うっ――!

  っ!? な、なんだよ、それっ!?」

 

 陽葵さんが驚愕する。

 彼のお尻にくっついている一匹の羽虫が、自分の体から産卵管を生やしたからだ。

 これで陽葵さんの“中”に卵を産み付ける気だろう。

 

 「――!!

  やだっやだっやだっやだっ!!

  離れろっ! 離れてよっ!!

  このっ! このっ!――――あぁああっ!?」

 

 なんとかその羽虫を取ろうとするも、他の羽虫に乳首を――ボディスーツの上からでもはっきりと見える胸の突起を責められ悶えてしまう陽葵さん。

 そうしている間にも、産卵管は彼の尻穴に迫り――

 

 「――?」

 

 ――ここで、羽虫が戸惑いだす。

 陽葵さんの穴に産卵管が入らないからだ。

 

 それもそのはず、彼の身体はボディスーツでぴっちりと包まれている。

 しかもそのボディスーツは市場販売されている装備の中では最上級の代物。

 産卵管で少し突いた程度では、破けはしない。

 

 「んんっ! ん、おっ! お、おぉおおっ!

  ――は、入んないっ! そんなの、入んないっ!!

  諦め、ろよっ! おっ! おおっ! おおっ!!」

 

 入らないまでも、“入り口”を小突かれるのはかなり堪えるのか、喘ぎが激しくなる。

 

 「――! ――! ――!」

 

 羽虫はやっきになって、陽葵さんの後ろの穴へ『管』を刺し入れようとしていた。

 それを見た他の羽虫達も、それをサポートしようと一斉に彼の下半身に集まる。

 ――それが、隙になった。

 

 「――んんっ――お、おぉっ――あ、うっ――

  い、今だっ!! 『クサナギ』!!!!」

 

 羽虫達が動き、身体が自由になった一瞬を見計らって、陽葵さんは『クサナギ』――<強撃(バッシュ)>と<薙ぎ払い(マウダウン)>を組み合わせたオリジナル技を使用した。

 彼を中心とした渦状の衝撃が周囲に放たれる。

 

 「「「―――!!」」」

 

 彼の身体に密着していたキラーインセクト達は、逃れる暇なくその衝撃波に巻き込まれる。

 高い回避能力の代わりに強度の低い羽虫は、次々と斃れていった。

 陽葵さんの大金星である。

 

 「……やった。

  へへ、やったぜ!!」

 

 自分の成果に、満面の笑みを浮かべて悦ぶ陽葵さん。

 やばい、今すぐ抱きしめたいほど可愛い。

 <次元迷宮>から帰ったら、徹底的に相手をして貰おう。

 

 ちなみに補足しておくと、陽葵さんは私との新人教育終了以降、ほとんどスキルを増やしていない。

 スキルの多様性を<多重発動(コンボ)>である程度補えるからだ。

 故に、得られたスキルポイントはスキルのレベル上げに使用している。

 幾らキラーインセクトの装甲が弱いからとはいえ、黄色区域の魔物を一撃で倒せたのにはそういうカラクリもあるのだ。

 

 ――だが。

 今度は陽葵さんが隙を見せる番だった。

 陽葵さんは、勝利の喜びで目を曇らせてしまったのだ。

 油断なく周囲を警戒していれば、自分の背後に忍び寄る甲虫(グレイブビートル)の存在に気付けたはずなのに。

 

 「――ひゃあっ!?」

 

 彼が大声を上げる。

 突然、背後から甲虫に伸し掛かられたのだ。

 

 「今度は、こいつかよっ!!

  あー、油断したっ!!」

 

 甲虫を剣で突き刺そうとするが、硬い甲殻に弾かれてしまう。

 そんな陽葵さんの攻撃を意に介さず、甲虫は陽葵さんの身体を這って移動し――彼の『股』部分に張り付いた。

 

 「う、あっ!?

  あ、あぁぁああああああっ!!」

 

 途端に、陽葵さんの口から艶のある声が飛び出す。

 完全にぴったりと彼の股間から尻にかけて密着しているため、甲虫が“何”をしているのか視認できないが――あの魔物もまた、陽葵さんに自分の子種を植えようとしているのだろう。

 

 「あひっ!? あっあっあっあっあっ!!

  や、止めろぉっ!! そ、そこ、いじるなぁっ!!

  ――んおぉおおおおっ!!?」

 

 悶える陽葵さん。

 グレイブビートルはただ彼の股でわしゃわしゃと動くのみ。

 いったい、何処をどう弄っているのか。

 

 「おお、おっおっおっおっおっ!!

  んぅぅうううううっ!!」

 

 陽葵さんの表情が見る見る蕩けていった。

 甲虫の責めで感じてしまっているのだ。

 羽虫によって、事前にある程度“出来上がっていた”ことも原因だろうか。

 

 「あ、くぅ――あ、あぁああっ!!

  く、そっ! 離れろ! 離れろよ!!」

 

 快感で足元が覚束なくなっているが、それでも甲虫目掛けて剣を突き立てる陽葵さん。

 先程と同じく弾かれるが、何度も何度も繰り返す。

 傍からでは自分の股間に剣を刺そうとしているようにも見えるため、ちょっとアレな絵面ではあるが、しかし。

 

 ――ある一撃が甲殻の隙間に上手いこと滑り込んだ。

 

 「よ、よしっ――――うあっ!!?

  あぁあああっ!! あぅっあぅっあぅっあぅっ!?」

 

 その直後、陽葵さんの艶声が激しくなる。

 

 剣を自分の身に刺さり、甲虫も焦ったのだろう。

 遠目で見ても魔物の動きは早くなり、今まで以上の責め苦を陽葵さんの下半身に課していった。

 

 「ん、お、おぉおおおおおっ!!?

  お、おっおっおっおっおっおっおっ!!

  やだ、やだやだっ!! ちんこ扱くのやめてぇっ!!」

 

 絶叫するも、それで甲虫の動きが止まるわけがない。

 

 「――あっ!!?」

 

 一際大きい叫びを上げると、陽葵さんの身体が硬直した。

 そしてビクッビクッと震えだす。

 

 「あっ! あっ! あっ! あっ!

  は、入って、くる!? 入ってきちゃう!!

  ん、ぐぅうううううっ!!」

 

 “異物”の侵入を堪えるように、歯を噛み締める陽葵さん。

 甲虫が彼の尻穴に“何か”を挿入しようとしているのだろうか。

 魔物の動きを止めようと、陽葵さんは刺さった剣を我武者羅に動かす。

 

 「う、あっ!!? あっ! ああっ! あぁあああっ!!!」

 

 だがそれは、魔物の責めを加速させるだけだった。

 

 「あぁああああああっ!!

  はひぃいいいいいいいっ!!」

 

 甲虫による猛烈な股間への刺激に――いや、虫が“ナニ”をしているのか分からないので、あくまで想像だが――陽葵さんはただただ喘ぐのみ。

 瞳からは涙が流れ、口からは涎が垂れている。

 

 「おおっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!!

  ほじられてるっ!! けつ穴、ほじられてるっ!!?

  おおぉおおおっ!! おぉぉおおおおおおおおおっ!!!

  い、イっちゃうっ!! オレ、イっちゃうぅっ!!

  んお、んいぃいいいいいいいいいっ!!!?」

 

 そろそろ絶頂を迎える様だ。

 それを知ってか知らずか、甲虫はただ機械的に股間を弄っていく。

 

 「やだ、やだやだっ!!

  こんなのにイカされたくないっ!!

  イカされたくない、のにぃっ!!

  ああ、あぁぁあああああああっ!!!!」

 

 最後の抵抗に、剣を甲虫へと深く差し込む。

 ――しかし、その行為はただ“それだけ”で終わった。

 魔物には何の変化も無い。

 

 「うぁああっ!! あっ!! あっ!!

  出るっ!! 出るぅっ!!

  あっあっあっあっ――――あぁぁあああああああああああっ!!!」

 

 身体を小刻みに震わせながら、陽葵さんは身を弓なりに反らす。

 魔物に――虫による責めで絶頂させられたのだ。

 

  「はっ――はひっ――はっはっはっ――」

 

 肢体を硬直させて、小刻みに息を吐く陽葵さん。

 強制的にイカされたことで、白目を剥きかけている。

 

 「あっ――あっ――あっ――――――――」

 

 ふらふらと2,3歩歩いた後、仰向けに倒れる。

 そのままゆっくりと目を閉じ、動かなくなった。

 気を失ったようだ。

 

 ――しかし。

 

 「おぉおおおおおおっ!!?

  おっ!! おぉおっ!? おぉおおおおっ!!!」

 

 突如、彼は目を見開きけたたましく叫んだ。

 いったい何が起きたというのか。

 ……理由は明白だった。

 

 甲虫が激しく蠢きだした。

 同時に陽葵さんのお腹がぼこぼこと膨らみだす。

 つまり――産卵が始まったのだ。

 彼は今、虫の卵を産みつけられている。

 

 「おごぉおおおおっ!!!?

  うぐっ!! んぐぅっ!! お、ご、あ、あぁああああああっ!!!」

 

 “下”から卵が入ってくる苦しみに、悶える陽葵さん。

 手で甲虫の殻を掻き毟り、口からは泡を吐きだした。

 

 「おっ!!――おおおっ!!!――おぉぉおおおおおおおっ!!!!!」

 

 喉が張り裂けるのではないかという程の雄叫び。

 肢体はまるで壊れたロボットのようにビクンッビクンッと大きく痙攣している。

 

 ……そして。

 その叫びが消えた頃――陽葵さんの腹は大きく膨らんでいた。

 

 「ヒナタぁっ!!!」

 

 ここに来て、ようやくリアさんが駆けつける。

 彼女の周りに転がる大量の魔物の死骸を見るに、これでも素早く片付けた方だろう。

 

 「こんのっ!!」

 

 鎌を大きく振りかぶり、未だ陽葵さんの股に張り付く甲虫へ振り下ろす。

 ……断末魔をあげることもなく、魔物は絶命した。

 

 「ヒナタっ!! ヒナタっ!!

  しっかりしてっ!!」

 

 「――――あ、あう。

  ――――あ、ああ」

 

 彼を抱きかかえ、揺さぶるリアさん。

 しかし、彼からの返事は無い。

 完全に気をやってしまっているようだ。

 

 死んだ甲虫は陽葵さんから剥がれ落ちている。

 張り付いていた“跡地”は――彼の下半身は、ホットパンツとボディスーツが股の部分だけ綺麗に引き裂かれていた。

 そこからは、精液と謎の液体(虫の体液か?)でトロトロになった小柄なペニスと、今なお引くついている淫靡な菊穴が顔を覗かせている。

 

 そろそろ出番か。

 私はローラさんを抱くと、<射出>で宙を飛び彼らの近くへと降り立った。

 

「うわっ!? クロダ!!?」

 

 私達の出現に、リアさんが素っ頓狂な声を出す。

 驚きすぎて、陽葵さんを心配するのも中断させてしまったようだ。

 

「どうも。

 脱出装置が参りました」

 

「……いや、話は聞いてたけど。

 本当に後ろからついてきてたのね」

 

「ええ」

 

 実のところ、リアさんには私が尾行していることを伝えてあった。

 私達の存在が陽葵さんにバレそうになった時には、彼女にフォローを入れて貰う手筈だったのだ。

 

「さて、早速ですがローラさん、陽葵さんを診て頂けますか?」

 

「は、はい。

 任せて下さい」

 

 抱えたローラさんを地面に降ろす。

 彼女はすぐさま陽葵さんに駆け寄り、彼の身体を診察しだす――その前に。

 

「――――」

 

「――――」

 

 リアさんとローラさんが互いに見つめ合う。

 しばししてから、

 

「初めまして、ローラ・リヴェリと申します」

 

「え、あ、こちらこそ、初めまして。

 リア・ヴィーナ、です」

 

 挨拶をかわしだした。

 ……あれ?

 

「――お2人は面識がないのでしたっけ?」

 

「ええ。

 買い出しの時に行き会ったことはあるんですけど。

 魔族なんだと聞いて、凄く驚きました」

 

「あたしも。

 あんたや陽葵から名前は何度か聞いたことあるなー、ってくらい。

 あのキョウヤが認める程、腕のいい薬師だったなんて知らなかったわ」

 

「そ、そうでしたか」

 

 当然のように互いに知っているものと思ってしまっていた。

 考えてみれば、ローラさんとリアさん、2人一緒に会ったことは無かったかもしれない。

 

 なんということだろう!

 この物語が始まって大分経つが、メインどころの2人がこれまで出会っていなかったとは!

 ……ちゃんと顔合わせの機会を作っておくべきだったか。

 

「えーと、自己紹介しておいた方がいいでしょうか?」

 

「え、いや、今はいいんじゃない?

 ある程度はクロダから説明されてるし。

 もうちょっと落ち着いた機会にやりましょ。

 今は、ヒナタの治療を優先しないと」

 

「それもそうですね。

 でも、その前に一つだけいいですか?」

 

「うん、なに?」

 

「――リアさんて、クロダさんの何なんですか?」

 

 氷点下の声であった。

 一瞬流れた和やかな雰囲気を吹き飛ばし、ローラさんは真剣そのものな顔。

 

「え? あの、それ、どういう――?」

 

「クロダさんの何なんですか?」

 

 戸惑うリアさんへ、ローラさんは再度問いかける。

 リアさんは言い難そうにしながらも、根負けするような形で口を開く。

 

「………………あの、その。

 に、肉便器」

 

「――へ?」

 

 ぼそっと呟かれた答えに、今度はローラさんが戸惑った。

 

「肉……え?

 肉便器?」

 

「そ、そうよ、肉便器よ」

 

 聞き返すローラさんに、もう一度(若干ヤケクソになって)言うリアさん。

 

「……………ご、ごめんなさい」

 

 ローラさんは深々と頭を下げた。

 

「なんで謝るの!?」

 

「そ、そんな深刻な事情があるなんて露知らず。

 あの、気を悪くしないで下さい」

 

「どうしてそんな憐れんだ目で見るの!?」

 

「だ、だって!

 肉便器だなんて、そんなの――クロダさんに、弱みを握られているんですか?」

 

 おやおや。

 どうしてそうなるんですかね、ローラさん?

 

「そんなの握られてないって!!」

 

「じゃ、じゃあ、クロダさんから大金を借りているとか?」

 

「違うっ!

 あたしはこいつに何の負い目もないの!!」

 

「そ、それでは――リアさんは、特にこれといった理由もなく、クロダさんの肉便器になったと?」

 

「え――いや、まあ、そういうことになる、かな?」

 

 ローラさんの言葉のニュアンスに少し首を傾げながら、リアさんは肯定する。

 それに対してローラさんは、

 

「………………ごめんなさい」

 

 また頭を下げた。

 

「だから何で謝る!?」

 

「い、いえ、何でも……世の中には、色んな人がいますからね」

 

 こくこくと頷いて、彼女は自己完結したようだ。

 リアさんも納得いかないものの、これ以上話をしても泥沼になると感じたのだろう、それ以上何も言わなかった。

 

「あ、あのー、ローラさん?

 早めに陽葵さんを診療して頂けると助かるのですが……」

 

 おずおずと手を上げながら、私はローラさんを催促した。

 気のせいか、陽葵さんの腹がもぞもぞと動いているような気がする。

 素人考えだが、急いで処置した方がいいのではなかろうか。

 

「あっ、そ、そうですね!

 すいません、ぐずぐずしてしまって!

 今すぐ診ますから!」

 

 私の言葉に、慌てて彼女は陽葵さんの診察を開始するのだった。

 

 

 

 第二十話③へ続く



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③! 産卵、そして

 

 

 

「あ、あぁっ! ああ、あっ!!

 おおっ!! おおおっ!! お、おおっ! おっ!!!!」 

 

 迷宮内に、陽葵さんの喘ぎ声が響いていた。

 彼は今、地面に敷いたマットの上に仰向けに寝かされた状態で――卵を産んでいる。

 

「おっ! おおっ! おっ!

 おおおぉおおおおっ! んおっ! おぅっ!!」

 

 さらさらと流れる繊細な髪を振り乱し、人形のように整った美貌を歪ませて、陽葵さんは悶え喘いでいた。

 

 “卵を産む”とは語弊のある言い方だっただろうか?

 つまるところ、先程産み付けられた魔物の卵を排出しているわけだ。

 私達3人が見ている前で、彼の尻穴から卵がぽこぽこと出ている。

 ローラさんが処方した『下剤』の効果である。

 

「んおっ!! あ、あぁあああああっ!! あっ! あっ!」

 

 陽葵さんの身体がビクッと震えると、男性器から精液が流れ出る。

 今の彼は、まんぐり返しに近い姿勢で股を開かされているため、美しい丸みを帯びたお尻も、小さめな性器も、綺麗な桜色をした菊門も、全部丸見えなのだ。

 ちなみに、陽葵さんがその体勢から崩れないように手と脚を固定しているのは、私とリアさんである。

 

 どうもこの『産卵』、結構な快感を伴う行為のようで、卵を出し始めてから既に何度も陽葵さんは絶頂している。

 イった後はしばし、ぐったりと倒れるのだが――

 

「…………んっ! おっ! おっ! おっ!」

 

 ――御覧のように、またすぐ嬌声を上げながら『産卵』を始める。

 艶めかしくテカる彼の“穴”から、ぬめぬめとした卵がぬるっと滑り出てくる。

 度重なる射精により陽葵さんのペニスはもう萎えているのだが、それでも――

 

「おっ! おっ! おっ! おっ! おぉおおおっ!!!」

 

 ――萎れたまま、精液を吐きだしている。

 いや、もう出すべき精子も底をついたのか、精液には見えないほど透明な液体となっているが。

 

「あぁあああっ!! あっっ!! あぁああああああああっ!!!」

 

 体中の穴という穴から液体を垂れ流し、だらしなく顔を蕩けさせ、陽葵さんは産卵を続ける。

 女性であっても、こんな『出産』をした人などそういないだろう。

 それを男の身で体験しているのだから――彼がどれ程に快楽中枢を刺激されているのか、余人には想像もできない。

 

「あぁああああああっ!!! いぃいいいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 また、陽葵さんの性器から“液”が出てきた。

 

 美少女に見紛う程に――いや、絶世の美少女そのものである少年が、虫の卵を尻の穴から『出産』していくその姿は。

 どうしようも無く非現実的な光景であり、それが故に見る者の欲情を掻き立てた。

 

「あっ!! あっ!! あっ!! あぁああああっ!!!」

 

 ――それにしても、随分と大量の卵を入れられたものである。

 ちょっとした山になる程の量を、彼は既に尻から排出していた。

 

 こうなると身体への負担が心配になるところだが、そこはローラさんがしっかりと看ているので安心である。

 真剣な顔で陽葵さんの症状を観察しているローラさんには、たのもしさすら感じられる。

 また、<次元迷宮>内で卵を除去することも彼女の提案だ。

 魔物の卵は孵化までの時間が非常に短く、余り時間をおくと陽葵さんの体内で魔物が孵ってしまう危険がある、との判断である。

 

 ローラさんを勧誘して正解であった。

 私など、あられもない姿でイキ狂いながら卵を産む陽葵さんの姿に、今すぐ犯したい欲求を抑えるのに必死だというのに。

 

 そんな私の内心はさておき、ローラさんがふと呟いた。

 

「……ヒナタさん、本当に男の子だったんですね」

 

「今更!?

 今更ですか、ローラさん!?」

 

 真面目な顔してナニ考えてたんだこの人!

 私のつっこみに、ローラさんは手をぶんぶんと横に振りながら、

 

「い、いえ、彼が男性であることはちゃんと知ってたんですよ!?

 でも――そう言われたところで簡単に納得できるものじゃないじゃないですか!

 女の子にしか見えない顔とか、このもちもちとした綺麗な肌とか、エッチな感じがする丸いお尻とか!

 どうなっちゃってるんです、この子!?」

 

「あー、確かにねー。

 ヒナタが男である要素って、おちんちんだけよね、はっきり言って。

 いくら魔王様の子供っていっても、ここまでそっくりな姿にならなくてもいいのに」

 

 ローラさんの台詞に、うんうんと頷くリアさん。

 まあ、それに関しては私も全面的に同意なのだが。

 

 私達がそんな会話をしている内に、

 

「あっ! あっ! あっっ!!!!

 …………はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 卵をひり出した陽葵さんが、荒く肩で呼吸しだす。

 それを見たローラさんは陽葵さんの肢体を擦って、

 

「無事に全部出し終わったようですね」

 

 そう宣言した。

 確かに、卵はもう出る気配がないし、彼のお腹も膨れていない。

 

 ローラさんは荷物袋から薬瓶を取り出すと、中の液体を自分の手に垂らした。

 そして――その手を陽葵さんの穴に突っ込む。

 

「んおっ!?

 おおっ! おお、おぉおおおおっ!!」

 

 堪らず声を漏らす陽葵さん。

 私は驚きてローラさんの顔を見た。

 

「ちょ、ローラさん!?

 いったいナニを!?」

 

「はい?

 直腸の消毒をしているだけですよ。

 魔物の産卵管を挿入されたわけですからね、雑菌が入っている可能性が高いので」

 

「そ、そうでしたか」

 

 医療的な理由だったようだ。

 変態的な妄想をしてしまった自分が恥ずかしい。

 

 ローラさんは説明しながら、陽葵さんの中に挿入した指をぐりぐりと動かしていく。

 薬を『中』に塗っているのだろう。

 

「ああっあぁあああっ!!

 う、あ、あ、あ、あ、ああぁああっ!!」

 

 いくら治療行為とはいえ、直腸を刺激している以上、陽葵さんは思い切り感じてしまっているようだ。

 しかし、そんな彼を見てもまるで動じることなくローラさんは施術を進める。

 

 リアさんがほうっと感嘆の息を漏らした。

 

「凄いテキパキと処置するのね。

 疑ってたわけじゃないんだけど、本当に凄腕の薬師だったんだ。

 ――でもこういう事態ってそうそう出くわすこと無いと思うんだけど、どこでこんな処置方法覚えたの?」

 

「……知りたいですか?」

 

「え?」

 

 リアさんが固まった。

 ローラさんが真顔で見つめ返してきたからだ。

 

「知りたいですか?」

 

「えっ?」

 

 どうしたわけか。

 同じやり取りを2人は繰り返した。

 ――気のせいか、ローラさんの瞳から光が消えているように見える。

 

「……ご、ごめんなさい、何でもないです」

 

 “何か”を感じ取ったリアさんは、頭を下げて会話を打ち切った。

 

 ……それに対して一切反応せず、ローラさんは黙々と陽葵さんの治療を続ける。

 新しい薬瓶を手に取ると、今度はその薬を彼に飲ませ始めた。

 

「ローラさん、それはなんですか?」

 

「これは特殊なハーブから作った精神安定効果のある飲み薬です。

 卵を産み付けられたことで、身体へはもちろん、心にも大きな負担をかけられたことでしょう。

 不本意に自分の体内へ別の命を宿し、それを強制的に外へ出されるといのは、相当に辛いものです。

 それまでずっと大切にしてきた宝物を失った時の喪失感、或いは穢された時の屈辱感。

 そんな感情が、止めどなく溢れてきます。

 下手をすれば、心が壊れてしまうこともあるでしょう」

 

 ローラさんは持っている薬瓶を私に見せるよう軽く振ってから、

 

「この薬は、陽葵さんの精神にかかるそういうストレスを和らげてくれます。

 記憶を消すわけでは無いので多少のしこりは残るでしょうけれど、深刻な事態は避けられるはずです」

 

 そう説明を締めくくった。

 聞いていたリアさんが感心した様子で口を開く。

 

「へぇー、詳しいのね。

 まるで体験したことがあるみたい」

 

「――――」

 

 ローラさんの動きが止まった。

 振り返り、感情の無い目でリアさんを見つめる。

 

「――――」

 

「………え」

 

 彼女の変化に、リアさんは思わず口をつぐんだ。

 

「――――」

 

「………あの」

 

 ローラさん、無感情に無言でリアさんを凝視。

 プレッシャーに耐えられなくなったリアさんは、

 

「すみません、ホント、ごめんなさい。

 本気で謝るんで、その目止めて下さい……」

 

 またしても頭を下げるのであった。

 ……ちょっと今日のローラさん、地雷原が広すぎやしませんかね?

 

 

 

 その後。

 

「はい、終わりました。

 後はベッドでゆっくり休養を取れば快復するでしょう」

 

 治療が完了したことを、ローラさんが告げた。

 先程まで狂ったように嬌声を上げていた陽葵さんだが、今はすぅすぅと寝息を立ててぐっすり眠っている。

 

「お疲れ様でした、ローラさん。

 では早速迷宮を脱出しましょう」

 

「そうね、そうしましょ」

 

 私の提案に、高速でこくこくと頷くリアさん。

 ローラさんからのプレッシャーが結構堪えているようだ。

 

 私は『青の証』(これはミサキさんが作ったレプリカだが)を取り出すと、早速それを起動させ――

 

 

 「おやおや、もう帰るでござるか?」

 

 

 ――声が聞こえた。

 これは、まさか……!

 

「さあ、『青の証』を使いますよ。

 リアさん、陽葵さんをしっかり抱えていて下さい」

 

 『青の証』による脱出はアイテムから一定範囲内の人物を転送させるというもの。

 大丈夫だとは思うが、効果範囲外に出ないよう注意を飛ばす。

 

 

 「えっ!? ちょっと!? スルー!?」

 

 

 ――声はするが姿は見えず。

 まあ見えないモノをいちいち気にしても仕方が無いだろう。

 私は『青の証』のワープ機能を使用――

 

「あの、クロダさん?

 あちらに、人がいるんですけれども――」

 

 ――使用する前に、ローラさんがきちんと指摘してしまった。

 まったく彼女は人が良い。

 そう言われると私もそちらの方を見ないわけにもいかず。

 

 私達の背後にある人影をちらっと見てから、ローラさんに告げる。

 

「ああ、いますね。

 しかし今は陽葵さんを休ませるのが先決ですし、無視しましょう」

 

 

「無視すんなでござるぁっ!!」

 

 

 大分近くから怒鳴り声が響いた。

 耳が少しキーンとする。

 しょうがないので、ちゃんとそちらを向いて話をしてやった。

 

「五月蠅いですね。

 なんなんですか、ガルムさん」

 

「反応が軽い!?

 他の連中(勇者)と対応が違い過ぎやせんか!?」

 

 目の前にいるのは、白髪を逆立たせた見るからに野蛮そうな――もとい、精悍な顔つきの筋肉質(マッチョ)な男が立っていた。

 さっきから叫んでいたのはこいつである。

 

「クロダっ!

 こ、この人って――!」

 

 リアさんが目を見開く。

 彼女であれば、この男が何者なのか知っていてもおかしくはないか。

 

「ええ。

 この男は五勇者の一人――」

 

 一拍間をおいて。

 

 

 「――“気苦労”のガルムです」

 

 「“鉤狼”のガルムでござるっ!!」

 

 

 私の紹介に、リアさん、そしてローラさんがたじろいだ。

 

「“気苦労”のガルム――こいつが!?」

 

「他の勇者達の無茶ぶりをいつもフォローしていたという、あの!?」

 

「あれ、おかしいでござるな?

 “気苦労”の方で通じちゃってるの?

 “鉤狼”でござるよ?

 拙者、“鉤狼”のガルムでござるよ?」

 

 私達がせっかく驚いてあげているというのに、当の本人は首を傾げていた。

 いったい何が不満だというのか。

 

「で、ガルムさん。

 何しに来たんですか、貴方」

 

「うわ、この流れから普通に会話に入るでござるか!?

 なんかもっとこう――あるでござろう!?

 拙者の登場に戦慄したり、恐怖に顔を歪めたり!!」

 

 何言ってるんだこの人。

 

「そ、そうですよ、クロダさん!

 勇者ということは、この方は私達の敵ってことですよね!?

 これって、かなり危機的な状況なのでは!?」

 

「ほらっ!! ほらっ!!

 こちらの女史もそう言ってるでござる!!」

 

「――確かになんだか緊張感湧きませんけど」

 

「っ!?」

 

 ローラさんは律儀に付き合ってあげている。

 しかし私としては、”今更”ガルム相手に怖がってやる義理も無い。

 

「というかですね、ガルムさん。

 なんで貴方このタイミングで出てくるんですか。

 他の勇者とはもうとっくに出会っているんですよ?

 “五勇者のお笑い枠”兼”『奴は五勇者の中で最も格下!』と言われる役”である貴方が満を持して最後に登場とかおかしいでしょう」

 

「何故そこまで扱き下ろされねばならぬ!?」

 

「じゃ、貴方勝てるんですか?

 デュストやエゼルミアに勝てるんですか?」

 

「そ、そういう具体的な話を出すのは止めて貰おうか!!」

 

 都合が悪くなったからか、無理やり話題を終わらせるガルム。

 こいつは“いつも”こうだ。

 

「……なんだか、仲良さそうですね、クロダさんとガルムさん」

 

「はんっ! 何を言うかと思えば――

 拙者がこのような愚鈍な男と友誼など結ぶとでも思ったでござるか!?」

 

 ローラさんの発言をガルムが全力で否定してくる。

 やれやれ。

 

「こういうこと言ってますけどね。

 きついこと言った後は、少ししてから謝ってくるんですよ。

 “あんなこと言ってごめんね”って」

 

「……そ、そういうこと言っちゃダメでござる」

 

 おい、顔を赤らめて照れるな。

 気持ち悪い。

 

「まあ、私はこいつのことが嫌いですが。

 なんか獣臭いですし」

 

「セイイチ殿っ!!?」

 

 ガルクが何やらショックを受けている。

 しかし残念、こいつと私とでは絶対に相容れないのである。

 

 そこへ、はっと思いついたような顔でリアさんが割り込んできた。

 

「そういやあんたって、ガルムとパーティー組んでたんだっけ?」

 

「ええ、そうですよ。

 まあ、数か月程度ですけれど」

 

「それでこんなに親し気というか空気が緩いというか……

 あの時は聞けなかったけど、結局あんたって何やってたわけ?」

 

「まあ、冒険者としてちょっとしたレクチャーを受けていたのですよ。

 こちらの来て右も左も分からなかったですからね」

 

「へー。

 でも、ガルムはどうして協力してくれたの?

 敵同士でしょ?」

 

 リアさんの疑問に、ガルムが一つ頷いてから説明しようとする。

 

「ああ、それは拙者がミサキ殿に頼まれたからで――」

 

「彼が勇者の中で一番弱いからですよ」

 

「――へ?」

 

 それをすぐさま遮る私。

 

「どういうこと、クロダ?」

 

「この戦いにおいて、勇者達の目的は“自分が全ての龍を総取りすること”なわけです。

 ミサキさんの代理である私との戦いなんて、彼らにとってみれば通過点もいいところ。

 最終的には、自分以外の全ての勇者を倒さなければならない。

 とすると、勇者の中で一番弱いガルムさんとしては、なるべく他の勇者達が戦いあって消耗してくれた方が都合がいい。

 そこで私を鍛え、ある程度は他の勇者と戦えるように仕向けることで、つぶし合いを加速させようと、そういうことです」

 

「――え、え?」

 

 戸惑うガルムは放っておく。

 リアさんはガルムを見る目を険しくして、

 

「なるほどねー。

 こすっからいこと考えてるんだ」

 

「ええ、器が小さい奴なんですよ」

 

 彼女の言葉を肯定する私。

 そんな私達を見て、ガルムは何かを諦めたような表情をして、ぼつりと呟いた。

 

「――本人の目の前でよくそこまで言えるでござるなとかそういう前に、そんな説明なぜすらすらと喋れるでござるか」

 

 ちゃんと考えておいたので。

 ただ、この説明にいまいち納得いかない様子の方もいた。

 ローラさんだ。

 

「でもクロダさん。

 正直なところ、ガルム様は余り悪い人に見えないのですけれど」

 

「見た目に騙されちゃダメよ、ローラ。

 こいつ、“世界中の女を自分のモノにする”とかいう願いを叶えようとしてる奴なんだから」

 

 どう返そうか悩む前に、リアさんが返事をした。

 

「――ええぇぇえええ」

 

 ガルムが大きく口を開けているのは放置だ。

 

「おや?

 リアさん、いつガルムさんの願望を知っていたのですか?」

 

「へ?

 あ、うん、この前イネスに会った時聞いたんだけど。

 違うの?」

 

 なるほど、イネスさんから聞いたのか。

 私はリアさんの投げかけに頷き、

 

「いえ、その通りです。

 ですよね、ガルムさん?」

 

「――あ、え?

 ま、まあ、はい、そうなんでござるけれども」

 

 急に話を振られたガルムは、ぎこちなく首を縦に振る。

 もっと自然に振る舞えないものか。

 

「そ、そんな!!

 六龍様の力を使ってまでして、そんな低俗な願いを叶えようと!?」

 

「人が良さそうに振る舞っておいて、とんだ変態野郎ってわけね」

 

 女性2人が軽蔑しきった視線をガルムに浴びせる。

 それに対してガルムは、瞳に小さな涙粒を溜めながら、

 

「ふ、ふっふっふ。

 会って数分でものの見事に拙者の評価は地に落ちたようでござるなぁ。

 覚悟してはおったが、これ割と辛いわ……」

 

 そんな呟きを零していた。

 女々しい男である。

 

「それで、結局何の用だったんですか。

 早く要件を言って下さいよ」

 

「散々弄っておいてその言いよう!?」

 

 かっと目を見開くガルムだが、すぐに居住まいを正してから、おほんっと咳を一つ。

 改まった様子で語り始めた。

 

「一つ、忠告をしようと思ってな」

 

「忠告、ですか?」

 

「うむ。

 もう“時間がない”ことは十分承知しているでござろう?

 イネス殿やエゼルミア殿はともかく、デュスト殿はすぐにでも“開戦”しようとしている。

 となれば、一刻も早くヒナタ殿をケセドと面会させねばならぬはず。

 だというのに未だこんなところで愚図愚図しているとは……

 甘いとしか言えぬでござる」

 

「――む」

 

 それを言われると、辛い。

 こればかりはガルムの言う通りだった。

 今の調子では、ケセドと会う前に勇者との戦いが始まってしまう。

 ミサキさんの『召喚』が間に合わない。

 

「しかし、陽葵さんはもうこれ以上戦えません。

 今日はここで撤退せざるを得ないかと」

 

「それが甘いというのでござる!

 たかが一度魔物に倒された程度で弱音を吐くとは!

 スキルやアイテムで治療を施せばまだ戦えるであろう――――ん?」

 

 そこでガルム、何かに気付いたようで。

 傍らに山盛りになっている、魔物の卵を指さしながら、聞いてくる。

 

「何でござるか、このけったいな代物は?」

 

「分かりませんか?

 グレイブビートルの卵ですよ」

 

「何故そのような物が――しかも山のように大量に?」

 

「陽葵さんに産み付けられたんです。

 これはそれを排出したものでして」

 

「何故こんなになるまで放っておいたっ!!?」

 

 思い切り私に詰め寄るガルム。

 ちょっと、顔が近い、近い。

 筋肉が暑苦しい。

 

「『欲情の呪符』の効果で命の危険はありませんから」

 

「命の危険だけでなく人としての尊厳にも気を配るべきだと思うがどうか!!

 前々から思っておったが、お主そういうところアバウト過ぎでは!?

 そもそも拙者は、あのアイテムの使用自体に反対であったのだ!!」

 

「でもミサキさんも同じ意見でしたよ。

 死ななければ問題ないだろうと」

 

「厳しいっ!!!

 相変わらずミサキ殿は厳しいっ!!

 死ななくともトラウマとかできちゃうでござろう!?

 まだ汚れなき無き少年の心に消えない傷が残ってしまうでござろう!!?」

 

 甘いと言ったり厳しいと言ったり、意見がコロコロ変わる男である。

 

「しっかり治療したので、その辺りは問題ありませんよ」

 

「ほ、本当に大丈夫なんでござるか、ヒナタ殿は!?

 ちょっと様子を見させて――――誰この超絶美少女!!?」

 

 陽葵さんの顔を見て、ガルムがまた大声を出した。

 はっきり言って、五月蠅い。

 

「誰って、陽葵さんですよ」

 

「えっ!!? だってヒナタ殿はあの魔王殿の息子って―――――えっ!?

 本気でこの少女がヒナタ殿なのでござるか!?

 息子というのは虚偽であったか!!」

 

「いえ、男の子ですよ、陽葵さんは」

 

「これで少年なのぉっ!!?

 魔王殿本人よりも美しくなかろうか!?

 拙者が今まで出会った女性の中で、2番目に来るであろう美貌でござる!!」

 

 2人の女性を前にしてその発言は失礼に当たるのでは。

 まあ、陽葵さんがちょっと洒落では済まないレベルの美少女なのは肯定するところである。

 私はこいつのように女性の美しさを順位付けするなんていう無粋な真似はしないけれど。

 

 と、ガルムが突然冷静になった。

 

「――ひょっとして。

 魔物に卵を産み付けられるまで手を出さなかったのは、セイイチ殿の性的願望を満たすためでは?」

 

「何を言ってるのかまるで理解できませんね」

 

 自分の性癖を満足させるために陽葵さんを放置していただなんて、そんな酷いこと私がするわけないじゃないですか(建前)。

 すぐにでも陽葵さんを助けたい気持ちを必死抑えて、見守っていたんですよ(建前)。

 いずれ、ああいうプレイもしたいものだ(本音)。

 

「と、ともあれ。

 そういうことであれば、すぐに帰ってヒナタ殿を休ませるがよろしかろう」

 

「言われずともそのつもりです。

 まあ、助言は有難く受け取っておきます」

 

「うむ、心に留めておいて欲しいでござる」

 

 中断していたワープ機能の行使を、再開しようとする私。

 そこへ。

 

「あー。

 ところで、セイイチ殿?」

 

「なんです?」

 

「……ミサキ殿は、壮健でござろうか?」

 

 ――――あ”?

 

「い、いや、これといって深い意味はないのでござるがな?

 もうしばらく拙者も会っておらぬし、どう過ごしておるのか、お身体に障りはないか、気になってしまってな。

 あとほら、拙者について何か言っておったりしないかとか?」

 

 顔を赤くするな、お前。

 殺すぞ。

 

「それを貴方に言う必要があるとは思えませんね。

 そもそもミサキさんと貴方、敵対関係でしょう」

 

「いやいやいや、それはそうなのでござるがな、セイイチ殿。

 やはり長く旅をしてきた仲間同士、気にかかってしまうというかなんというか」

 

「……ミサキさんは元気ですよ。

 何も問題は無いです。

 ではそういうことで」

 

「つれない反応!?

 い、いや、お主とミサキ殿の関係を理解してはいるが、拙者の気持ちも少しは汲んでくれてもいいのでは!?

 一緒に<次元迷宮>へ挑んだ仲でござろう!?」

 

 理解しているのなら、アレコレ干渉して欲しくないんですがねぇ?

 睨み付けるが、その程度では怯まないガルム。

 実に面倒臭い。

 

「………………これはまさか」

 

 私の耳に、ローラさんの声が聞こえる。

 彼女は何か得心がいったような表情で、ガルムへ語り掛ける。

 

「大丈夫ですよ、ガルム様!

 キョウヤ様はすこぶる健康でいらっしゃいます!

 ガルム様のことを耳にしたことはまだありませんが――今度お会いした時、尋ねてみます!」

 

「おお、本当でござるか!?」

 

「ろ、ローラさん!?」

 

 いきなりな彼女の豹変に、度肝を抜かれる私。

 どうしたんだ!?

 いったい彼女の心境に何の変化が!?

 

 ローラさんは私を無視して、ガルムとの話を続ける。

 

「はい、お任せ下さい!

 ガルム様がキョウヤ様への“協力”をしっかり成し遂げていたことも報告しますとも!」

 

「おおっ! おおっ!

 恩に着るでござる!!

 ローラ殿――で、よろしいか?」

 

「あ、私の名前は覚えて頂かなくて結構です」

 

「いきなり氷点下な反応!?

 し、しかしそれはそれとして、よろしくお願いするでござる」

 

 土下座せんばかりに頭を下げるガルム。

 くっ、何故ローラさんはこんな奴に慈しみ深い対応を。

 まさかこいつに絆されてしまっているのか……?

 

「…………ちょっと頼りない気もしますが、ひょっとしたら何かの手札になるかもしれません」

 

 小声で何かを呟いているローラさん。

 うーむ、彼女の行動理由が謎過ぎる。

 

「あのー、そろそろヒナタをちゃんとしたところで休ませたいんだけど。

 まだ帰らないの?」

 

 困った顔でリアさんが発言した。

 言われてみればその通り。

 脱出しようとしてから、大分時間が経ってしまった。

 全部ガルムのせいだ。

 

「失礼しました。

 すぐに準備します」

 

 慌てて私は『青の証』のワープ機能を実行する。

 程なくして、私達の目の前に外へと繋がる『ゲート』が現れた。

 

「さ、皆さん。

 お入り下さい」

 

「うん。

 よいしょっと」

 

 私が促すと、まずリアさんが陽葵さんを抱えてゲートへ入っていった。

 

「失礼します」

 

 ローラさんがガルムへ一礼してからワープしていく。

 

「さて、私も行くとしましょう。

 ガルムさん、ではまた」

 

「うむ――ああ、しばし待たれよ」

 

「はい?」

 

 ゲートを潜る直前、ガルムが呼び止めてきた。

 

「セイイチ殿」

 

「何でしょうか」

 

 彼は難しい顔をして、語る。

 

「――ヒナタ殿を、諦めよ」

 

「…………」

 

 その真剣な響きに、私は押し黙る。

 

「“当初の計画”に、かの少年の保護は組み込まれていなかったはず。

 今やっていることは――言ってしまえば、セイイチ殿の我が儘に過ぎん」

 

「それは――」

 

「お主がその気になれば、すぐにでもケセドのもとへ少年を連れていけるでござろう。

 さすればミサキ殿がこの世界に干渉できるようになり、デュストを始めとする他の勇者との戦いも遥かに容易になる」

 

 ……成程。

 つまるところ、この男はこれが言いたかったわけか。

 

「陽葵さん“が”諦めるのであれば、私もそうしますよ」

 

「それでは遅い。

 余りに、遅すぎるでござる。

 そもそも、このままヒナタ殿を成長(レベルアップ)させたとして、龍の力に耐えられる保証はない」

 

 それは、そうだ。

 仮に陽葵さんが自力でケセドへ辿り着いても、あっけなく“壊れてしまう”かもしれない。

 だが――

 

「龍の力に耐えられないと決まったわけでも無いでしょう」

 

「……殺されるぞ、デュストに」

 

 ガルムの表情が渋くなる。

 私は強い口調で彼へと言葉を告げる。

 

「ただで殺されてやるつもりはありません」

 

「何か考えがあるのでござるか?」

 

「……どうでしょうね」

 

 肩を竦める私。

 

 ガルムが大きく息を吐いた。

 そして、私を真摯な眼差しで見つめてくる。

 

「――分かったでござる。

 そうまでいうなら、信用することにしよう」

 

「ありがとうございます」

 

「ゆめ、忘れるな。

 “世界を救う”のはミサキ殿であってはならない。

 “お主がやらねばならぬ”のだ」

 

「――肝に銘じておきます」

 

「うむ」

 

 右腕を差し出してくるガルム。

 私はその手をがっしりと握る。

 

「死ぬなよ、友よ」

 

「貴方も。

 これが最後の会話になる、なんてことがありませんように」

 

 そう言葉を交わして。

 私は、<次元迷宮>を後にした。

 

 

 

 第二十話 完



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第二十一話 嵐の前
①! 男3人寄れば――


 

 

 

 前の話から、明けて昼。

 私と陽葵さんは、揃って巨人族のボーさんが店主を務める武器屋を訪れていた。

 グレイブビートルに破られてしまった陽葵さんの防具を直すためだ。

 

「……あー、こいつは」

 

 装備品をしげしげと見つめながら、ボーさんは渋い顔をする。

 手に持つホットパンツと薄手のボディスーツは、股間の部分が大きく裂けてしまっていた。

 陽葵さんはそんな彼を不安げに見守る。

 

「……どう安く見積もっても、こん位はかかるな」

 

 顔を上げて、そう告げるボーさん。

 提示された金額は――

 

「うげぇっ」

 

 ――陽葵さんが思わず呻き声をだしてしまったあたりから、その莫大さを察して頂きたい。

 最近の陽葵さんは黄色区域を探索しており、リアさんは魔物が落とす魔晶石や素材を全て彼へ譲っているため、小金持ちな状態ではあるのだが……

 それでも、ボディスーツやホットパンツの修繕費にはまるで足りなかった。

 

「あの、ボーさん?

 もうちょーっとだけでも安くなんないか?」

 

「これでも友人価格ってことで相当勉強してるんだぞ。

 なあ、クロダ?」

 

「……そうですね。

 他の店で修理をお願いすれば、下手するとこれの倍近く取られることもあるでしょう」

 

「ま、マジか……」

 

 絶句する陽葵さん。

 

 だが、こればかりはどうしようもない。

 ボディスーツは最新素材製で、ホットパンツはミスリル繊維が編み込まれている。

 駆け出し冒険者どころか、熟練の冒険者ですら早々手が出ない、超豪華品なのだ。

 

「まあ、元々クロダの懐叩いて買わせた成金装備だ。

 これを機に身の丈に合った装備にするってのも手だと思うぜ。

 儲けてないわけでもなさそうだしな」

 

「う、うーん」

 

 言われて、腕を組んで悩む陽葵さん。

 一般的な冒険者として順当に考えれば、それがいいだろう。

 無理をせず、自分が維持できる範囲の装備で固めるのが鉄則だ。

 

 ただ、彼の場合は事情が大分異なる。

 これから陽葵さんは、黄色区域を越え、赤色区域へ踏み込まなければならない。

 少しでも良い装備を整えておきたいというのが本音だろう。

 

 答えを出せない陽葵さんを見て、ボーさんは私に問いかけてくる。

 

「――どうするよ、クロダ。

 またお前の方から出すか?

 買った時に比べりゃ大したことない額だが」

 

「そうしてあげたいのは山々なんですけどね。

 余り助けてしまうと陽葵さんが成長できませんから」

 

 ミサキさんからも強く言いつけられている。

 それに、もし仮に今回は私が払ったとして、探索している場所が場所だ。

 またすぐ修理が必要になる事態にならないとも限らない。

 

「ほう、見直したぜ。

 お前のことだからまた何のかんの言いつつ援助するんじゃないかと思ってたが。

 うん、偶には突き放すのも教育ってもんだ」

 

 私の答えを聞いて、ボーさんは感心したようにうんうん頷く。

 ……私はそれ程甘い男だと思われていたのだろうか?

 

「……やっぱ、この防具じゃないと不安だなぁ。

 ずっとこれで通してきたから愛着もあるし。

 なんとかお金を用意できれば――」

 

「何かあてでもあるのか?」

 

「うっ――いや、あてはあんまり。

 あ、そうだ、アンナのとこに借りるとかは?」

 

 若干期待を込めた眼差しで私を見る陽葵さん。

 だが私は首を横に振る。

 ボーさんに聞こえないよう、小声でこそこそと話す。

 

「それは駄目です。

 ……アンナさんにも、必要以上の援助はするなと釘を刺してました」

 

「そ、そうなのか。

 色々手を回してるんだな、キョウヤも」

 

 アンナさんはふざけた人ではあるが、案外情深いところもある。

 陽葵さんが頼み込めば資金提供するのも吝かでは無いだろう。

 ――だからこそ、ミサキさんが予め止めておいたのだろうけれど。

 

 内緒話をしている横で、ボーさんがふぅぅっと大きくため息を吐いた。

 

「ふむ。

 修理はして欲しい、だが金は無い、と」

 

「い、いや、何とかするよ!

 頑張ってみるから、ちょっと待っててくれ!」

 

 慌てて弁解する陽葵さん。

 それを見たボーさんは大きく笑った。

 

「いや、非難してるわけじゃないから気にしないでくれ。

 ところで、そういうことであれば俺からも提案があるんだが――」

 

「お、なになに?」

 

「――身体で払わないか?」

 

「んなっ!?」

 

 ボーさんの言葉に口を大きく開ける陽葵さん。

 だがすぐに落ち着いて、

 

「――って、つい驚いちまったけど、要するに何か手伝いをしろってことだろ?

 魔物の素材が必要とか、そんなやつか?

 はは、一瞬、変な意味で考えちゃって、焦っちまったぜ」

 

「いや、普通にお前の身体を抱かせろってことなんだが」

 

「お前バカだろ!?

 オレは男だぞ!!?」

 

 説明するボーさんを怒鳴りつける。

 だが、ボーさんは落ち着いた態度を崩さなかった。

 

「ああ、そうだな。男だな。

 だが見てくれは完全に金髪美少女だし、ずっとそそられてたんだ。

 ボーイッシュな女は好みだからな。

 なんで、俺は別に構わん」

 

「こっちが構うんだよっ!!

 今までそういう目でオレを見てやがったのか、この変態野郎っ!!!」

 

 陽葵さんの叫びが続く。

 まあ、いきなりこんなこと言われては抵抗もあるだろう。

 

「陽葵さん。

 戸惑うのは分かりますけれども、これは考慮に値するお話では?」

 

「黒田までそんなこと言うか!?

 オレは嫌だぞ!

 か、身体を、売る、ような真似!!」

 

 後半、恥じらいが出てしまい上手く舌が回らない様子。

 照れる顔がとても愛らしいが、それはそれとして私は口を開く。

 

「しかしですね。

 性行為でこれ程の金額を稼ぐとなると、高級娼婦でも難しいんですよ?」

 

「金額の話なんてしてねぇよ!!

 そ、そんなんできるわけねぇだろ!?」

 

「でもこの前ジャンさんに抱かれたって言ってたじゃないですか」

 

「うぉいっ!?

 お前、そんなこと、ここで言うなよ!!?」

 

 少し前、かなり深刻な顔をして陽葵さんが私に告白してきたのだ。

 ジャンさんに抱かれてしまった、ということを。

 

 いったいどんなトラブルが発生してしまったのか――と身構えていたので、少々肩透かしをくらったように覚えている。

 陽葵さんの魅力あふれる美貌を、蠱惑的な身体を、男が放っておくわけがないからだ。

 ただ、その時の陽葵さんは相当辛そうではあったので、その辺りちゃんとケアをしてくれなかったジャンさんには少々仕置きが必要かもしれない。

 

「なんだ、もう経験済みなのか?

 だったら話が早いわな。

 どうだ、そう悪くない話だと思うんだが」

 

「悪いわぁっ!?」

 

 平然としているボーさんを怒鳴りつける陽葵さん。

 彼が落ち着くよう、肩を掴んで説得を試みる。

 

「いやいや、陽葵さん。

 もうこの際ですからはっきり言ってしまいますが、貴方の身体は立派な武器なんですよ。

 それを交渉材料に持ち掛ければ、大抵の男は堕ちます。

 <魅了《チャーム》>なんて特性も持っていますしね。

 今が四の五の言っていられる状況でないことはよく分かっているでしょう?

 使えるモノは、全て使う位の気概で臨みませんと」

 

 これは助平心からくる言葉ではない。

 昨日、ガルムからも指摘を受けた通り、陽葵さんには本気で時間が無いのだ。

 現在のところ、各勇者は色々探りを入れている段階のようなので、余り緊迫感は無い。

 だが、一度勇者が動き出せば、もう誰にも止められない。

 その時になってから焦ったのでは到底間に合わないのである。

 

「うっ――それは、分かっちゃいる、けど」

 

 私の眼差しにいつもの違うものを感じたのか、陽葵さんの勢いが止まる。

 ただそれでも踏ん切りがつかないようで、

 

「で、でもその……さ、サイズが、違い過ぎるだろ。

 ぼ、ボーさん、巨人族だろ。

 入んねぇって、あんなの――」

 

 横目でボーさんの股間をチラリと見ながら、そう言ってきた。

 確かに指摘の通り、巨人族であるボーさんは身長が3mを優に超える。

 当然あそこの大きさも相応のものと考えられ、とても人間を相手にできるとは思えないのだが――

 

「安心しろ、俺は短小だ」

 

「え」

 

「ええっ!?」

 

 いきなりな告白に、私と陽葵さんが同時に声を上げた。

 

「俺が人の街に来たのも、巨人族の村ではあっちのサイズが小さいと馬鹿にされてきたからだしな」

 

 さらに(聞いてもいないのに)追加情報まで吐露する。

 

「…………」

「…………」

 

 私達に沈黙が降り立った。

 いや、その辺りは男としてかなりデリケートな話題なのだ。

 おいそれと発言できない。

 

「まあまあ、そんな深刻な顔すんなよ、お前等。

 短小な俺だが、おかげで他の種族を相手にすることができたんだ。

 今は自分の小ささに感謝してるくらいさ」

 

 あっけらかんと、ボーさん。

 本人がそれで納得しているというのであれば、特に問題は無いか。

 

「ま、そういうわけだ。

 ヒナタ、ヤらせてくれ」

 

「ぬ、ぐっ」

 

 陽葵さんが苦虫を噛み潰したような顔になる。

 問題は解決したはずなのに、まだ踏ん切りがつかないようだ。

 

「ほら、陽葵さん。

 後は決心するさだけですよ」

 

「うぅっ……で、でもさ」

 

 私が促すと、彼はチラチラと私の顔を見ながら、

 

「お前、オレが他の奴に、だ、抱かれても、気にならないのかよ」

 

「そんなわけ無いじゃないですか!」

 

 私は声を荒げる。

 陽葵さんの痴態が気にならないわけが無い。

 是非とも、何が何でもそれは鑑賞したい。

 

 そんな私の態度に、何故か陽葵さんは嬉し気に顔を綻ばせる。

 

「そ、そうか?

 そんなに強く言われると、まあ、その……えへへ」

 

 なんなんだその可愛らしい笑顔。

 やはりここは私が陽葵さんを抱いて、その代わりに修理代を受け持つか?

 ……いや駄目だ、そんなことをすればきっと間違いなくミサキさんに殺される。

 

 私が一瞬の葛藤をしていると、陽葵さんがパンッと自分の顔を叩いた。

 

「よっし!!

 こうなりゃヤケだっ!!

 なんだってやってやる!!」

 

「お、覚悟を決めたか!

 いいぜ、そういう割きりは嫌いじゃない!」

 

 陽葵さんの決断に、ボーさんが親指を立てて応じる。

 

「勢いで言ってるだけだけどな!!

 絶対、後で後悔するけどな!!!

 修理代、きっちりタダにしろよ!?」

 

「分かってる分かってる。

 じゃ、ここでも何だし奥の部屋でヤろうか」

 

 交渉が成立したようだ。

 私達はボーさんの手招きで、店の奥へと向かった。

 

 

 

「…………お、おい。

 このポーズ、死ぬほど恥ずかしいぞ……」

 

 顔を真っ赤にして、消え去りそうな声で陽葵さんが愚痴る。

 彼は今、壁に手をついて前に屈み、尻をこちらに向けて突き出しているような格好だ。

 男の欲情をそそる尻肉がこれ以上なく鑑賞できる。

 無論、下に履いていた物は全て脱がされていた。

 

「想像以上だな。

 股間のモノを目の当たりにしてるってのに、犯したくて仕方なくなるケツだ。

 肉の付き方とか芸術的だろ。

 男なのにくびれができてることにも驚いている」

 

「素晴らしいでしょう、彼の肢体は」

 

「ああ、今までも装備の試着でよく見ていたが、生で見ると格別だな。

 男を誘うために産まれたような身体してやがる。

 呪いか何かで男にされているだけなんじゃないかと疑ってしまうくらいだ」

 

「何冷静に語ってんだ、お前ら!?」

 

 私とボーさんの会話に、陽葵さんがつっこんできた。

 叫んでも姿勢は崩さないあたりに、彼の律儀さを感じる。

 

「だいたいっ!

 なんで黒田までついてきてるんだよ!!

 お前関係ねぇだろ!?」

 

 そんなことを言われるとは心外である。

 私も混ざりたいもとい陽葵さんが心配で来ているというのに。

 

「居ては駄目ですかね?」

 

「いや、俺は別に気にせんぞ。

 ヒナタはどうなんだ?」

 

 尋ねると、ボーさんは鷹揚に許してくれた。

 一方、陽葵さんは――

 

「そりゃあ、もちろん!

 ……………あの、居て、欲しい」

 

 かなり間を置いてから、頷いてくれる。

 ならば、何の問題もあるまい。

 

「許可頂きありがとうございます。

 どうぞ、私のことは気にせず楽しんで下さい」

 

「おう、そうさせてもらおう!」

 

 力強い言葉と共に、ボーさんはのしのしと陽葵さんへ歩いていく。

 巨人族のボーさんと、男としては大分小柄な陽葵さんが並ぶと、その違いは大人と子供なんてレベルのものではなかった。

 正しく巨人と小人である――いや、比喩になっていないが。

 

 ボーさんは十分に近づくと、今度は陽葵さんの尻に顔を近づけ――そのまま、クンクンと匂いを嗅ぎだした。

 

「…………綺麗なもんだなぁ。

 尻の割れ目の奥までツルツルの肌だ。

 球袋も小さく膨れて可愛いもんだし、肝心の穴もまるで臭くない」

 

「い、いきなり変なことすんなよっ!?

 あと解説もやめろ!!」

 

「いや、だって気になるだろう。

 うんこがこびり付いてやしないかとか」

 

「付いてねぇっつーの!」

 

 それは陽葵さんに失礼というものだ。

 彼の肢体は綺麗なものである。

 何せ今日の朝、私と“した”後に、きっちり全部洗ったのだから。

 

「じゃ、まずは味わってみるか」

 

「な、何を――――うひぃっ!?」

 

 ボーさんはさらに尻へ顔を寄せると何の躊躇もなく菊門をぺろぺろと舐めだす。

 

「うひゃあっ!? うあっわっなぁっ!?

 く、くすぐったいっ! くすぐったいって!!」

 

 肛門への優しい刺激に、陽葵さんが笑い出す。

 

「ひっ! くっあっあひゃっ! ちょっと、もうやめろっ!

 んぬっ! うあっあはっあはっはははっ!」

 

 だがボーさんは陽葵さんの野次をものともせず、アナル舐めを続けていた。

 でかい舌が、菊門の皺一本一本まで丁寧にほぐしている。

 

「う、うぅぅうううっ!

 ほ、ホントにくすぐったいんだって!!

 わ、笑いが、堪えきれな―――あは、うひゃははははっ!」

 

 ボーさん、まるで動じず。

 その大きさに反して非常に繊細な動きで、陽葵さんの穴を舐めまわす。

 

「あひひひひひっ!?

 ひ、人の話を聞け――――おっっ!?」

 

 陽葵さんの声色が変わった。

 見れば、ボーさんの舌が肛門の中へと挿し込まれている。

 

「う、あ――あ、ああ、ああああ――」

 

 先程までと打って変わって、卑猥な声を出す陽葵さん。

 ボーさんのべろはさらに陽葵さんの奥へと侵入していく。

 

「あっ――くっ――んんっ――

 お、おお、お――おっおっ――」

 

 そして、舌が奥へ進めば進む程、陽葵さんの声が艶を帯びてきた。

 

「はあっ――はあっ――はあっ――

 あっ――くぅっ――うぅぅううううう――あ、あぅっ!?」

 

 今度はボーさん、陽葵さんの“中”で舌を動かし始める。

 

「んっ――お、おおっ――あっ――

 おっ――おっ――おっ!――おっ!――おうっ!」

 

 もう、誤魔化しようのない喘ぎ声である。

 ボーさんの責めによって、陽葵さんは間違いなく感じている。

 彼のペニスが反り返るように勃起しているのがその証拠だ。

 

「あっ! あっ! あぅっ! あっ!

 や、やばいっ――あ、ああっ!――ストップ、ボーさん、ストップっ!!

 お、オレ、イっちゃうっ! イっちゃうからっ!!」

 

 よほどボーさんは上手いのか、もう陽葵さんは絶頂を迎えそうらしい。

 流石は鍛冶をやっているだけある。

 動きが実に細やかだ。

 

「あっ! あっ! イ、クっ!

 あ、くっ――出るっ――ああっ――出るっ!!」

 

 陽葵さんは瞳を閉じて“その時”を待った。

 肢体が強張っていき、反して顔は気持ち良さそうに蕩けていく。

 

「イクっ! イクっ!! イクっ!!!―――――――あ、あれ?」

 

 彼が射精する寸前。

 ボーさんの舌が抜き出された。

 

「な、なんで――」

 

「おいおい、そんな顔すんなよ。

 まだ前戯なんだぞ?

 ちんこをこんだけおっ勃たせて勝手に一人でイカれちゃ困る。

 俺も気持ち良くさせて貰わないとな」

 

 不満げな視線をボーさんに送る陽葵さんだが、ボーさんはそれを軽くいなす。

 

「さて、と。

 穴は十分解れたみたいだし、本番に行くとするか!」

 

 言いながら、ズボンを降ろすボーさん。

 彼の勃起した男根が、その中から姿を現した。

 

「なぁっ!!?」

 

『ソレ』を見て、陽葵さんが驚愕に目を見開いた。

 

「う、嘘つきっ!! 嘘つきっ!!!

 短小って言ったじゃんっ!! 小さいって言ったじゃんっ!!」

 

 陽葵さんの言う通りだった。

 ボーさんの肉棒は、“細めの丸太”と形容できる程の代物で。

 どう控えめに見ても『短小』という単語から連想できるモノからはかけ離れている。

 

「小さいぞ?

 巨人族の女を一度も満足させたことが無い一品だ。

 まあしかし、人間相手になら丁度いい大きさだろ?」

 

 ……比較対象の問題だったか。

 私はそれで納得できたが、陽葵さんにとってはとても許容できるものではなかったらしく、

 

「ちょうどいいわけあるかぁっ!!

 無理だよっ!! 常識で考えろ!!

 どう考えても入る大きさじゃないだろ!!」

 

 全力で拒みだす。

 

「いや、いけるいける。

 実際、何度か人の女を抱いた事があるが、皆なんだかんだ言いつつ最後には受け入れてたぞ。

 ……まあ、血が出てしまった子はいたけど」

 

「ほらぁっ!! ダメじゃんっ! それダメなヤツじゃんっ!!

 むーりーでーすー! はーいーりーまーせーんー!!」

 

 いやいやと駄々をこねる陽葵さんを、ボーさんが叱責する。

 

「やる前から諦めてどうするんだ!!

 こう……ローションをたっぷりかけりゃ何とかなる!!」

 

 言いつつ、どこから取り出したのか大きな瓶に入ったドロドロの液体を自らのイチモツへとかけるボーさん。

 全体にくまなく塗ったところで、逃れようと暴れる陽葵さんの肩を掴み、無理やり抱え上げた。

 

「おわぁあああっ!!?

 やめろぉおおおっ!!

 やめろぉおおおおおっ!!!」

 

「あんましがなりたてるなよ。

 表に聞こえるかもしれないだろ。

 ほれ、覚悟を決めろ。

 男は度胸、決めたことはきっちり完遂しないとな。

 クロダ、お前も何か言ってやってくれ」

 

 唐突に話を振られる私。

 いったい何を言ったものかと頭を捻った挙句。

 

「……あー、今後、もっと大きなサイズのモノを相手にすることもあるかもしれませんし?

 その予行練習だと思えば――」

 

「何の気休めにもなんねぇ!?

 せめてもっと安心できることを言えよぉっ!!」

 

 アドバイスはあっさり振り払われた。

 現実問題として、これからの探索でオーガやサイクロプスなどというビックサイズなアレを挿入されてしまう機会があるかもしれないというのに。

 

「まったく、聞き分けの悪い――――よいしょっと」

 

 やれやれと首を振ってから、ボーさんは陽葵さんを自分の肉棒の先端へ“乗せた”。

 流石丸太並みの剛直、人が上に座ってもびくともしない。

 

「う、うわっ!? ぬめぬめする! すっげぇぬめぬめするっ!?」

 

「ローションを大量に使ったからな。

 これで……なんとか……入る、はず……」

 

「ぬわぁああああっ!!?」

 

 “棒”の角度を変えてみたり、陽葵さんの位置を調整してみたりと、ボーさんはなんとか“丸太”を穴へねじ込もうと試行しだした。

 対して陽葵さんは身体を捩じって、ソレを阻止しようとしている。

 

「止めろ! ホント、入んないから!!

 入るわけない! 入るわけないだろ!!」

 

「そんなに暴れるなっ!!

 いや、いけるはずなんだ!

 前はここをこう……こうだったか?」

 

 2人の攻防は続く。

 傍から見ていると、ボーさんの方が有利に見える。

 過去の経験があるおかげか、陽葵さんよりも的確に動いているようだ。

 

「無理! 無理! 無理だぁっ!!

 諦めろよっ!! このっこのっ!!」

 

「入る! 入る! 入るんだ!!

 俺は諦めんぞ、決してなっ!!」

 

 ぐちゃぐちゃとローションの滑る音を立てながら、方や“棒”を挿れまいとあがき、方や“棒”を突っ込むべくもがく。

 実に見事な戦いである。

 

 ……しかし、下半身裸になって巨大性器に座らされ、必死に抵抗している姿も、なかなかそそられるものだ。

 こればかりは私では真似できな――いや待てよ、実際に丸太を使ったプレイをしてみればいいのか?

 

 と、考え事している間に勝負が動いたようだ。

 

「もういい加減にしろよ! あ、くそ、ぬるぬるするっ!

 ぬるぬる、し、て――――――――あ?」

 

「お、入った」

 

 ぐちゅっと音を立てて、ボーさんのイチモツが陽葵さんのけつ穴に滑り込んだ。

 

「あっ――――あぁああああああああああっ!!!!?」

 

 まだほんの先っぽが入っただけなのだが、陽葵さんの口からは絶叫が漏れ出る。

 肢体は仰け反り、脚がピンと伸びきった。

 

「ほら見ろ! ちゃんと入ったじゃないか!!

 よし、後はコレを奥まで突き、差し、てっ――!」

 

「おっ!? おおっ!? おっ!! おっ!! おっ!! おっ!! おっ!!」

 

 ぐりぐりと、力任せに陽葵さんの身体を“沈めていく”ボーさん。

 巨大な男根を突き入れられた衝撃で頭がろくに動かないのか、陽葵さんはろくな抵抗もできず少しずつ身体の位置が下がっていく。

 

「よっ! よっ! よっ!

 よい、っしゃぁああああっ!!!」

 

 ボーさんの気合いが炸裂。

 それを合図に、一気に陽葵さんの身体が落ちる。

 彼の腹が、ぼこっとボーさんの肉棒の形に膨れた。

 

「おおぉおおっ!!!――――おぉおぁああああああああああっ!!!!!」

 

 部屋に響き渡る陽葵さんの声。

 小ぶりなペニスからは、白く濁った液体がぴゅっと噴き出る。

 今の一突きで、一気に達してしまったらしい。

 

「ああっ!!――――あっ!!――――あっ!!――――あっ!!――――あっ!!」

 

 白目を剥きかけながら、ビクッビクッと痙攣を繰り返す陽葵さん。

 意識も保っていないようだ。

 

「おいおい、早漏だな。

 早いと女に嫌われるぞ――この俺のようにな」

 

 今日は、自虐ネタが多くないですかね、ボーさん。

 しかもつっこみ辛いネタばかり。

 彼の中での流行りなんだろうか?

 

「それじゃ、俺も気持ちよくならせて貰おうかね。

 それ――ほい、ほい」

 

 ボーさんは陽葵さんの腰を掴み、上下に動かしだした。

 ちょうど、彼の肢体をオナホに見立てているような形だ。

 かなり大きいストライドを刻んでいるため、ピストンの度に陽葵さんのお腹が膨れたり縮んだりしている。

 

「――んおっ!!?

 おおっ!? おおっ!! おほぅうっ!!?」

 

 その刺激に、陽葵さんは堪らず喘ぎだす。

 ……嬌声と苦悶、半々くらいの声色だが。

 

「ぬ、ぬううっ!?」

 

 すると突然、ボーさんが呻き声をあげた。

 

「どうしました?」

 

「ど、どうしたもこうしたも……

 どうなってるんだ、ヒナタの身体は!?

 こいつの大腸、俺のちんこを締め付けだしたぞ!?」

 

 なるほど。

 ボーさんは初体験なのだから驚くのも無理はない。

 

「それが人体の神秘ですよ、ボーさん。

 陽葵さんのアナルは、女性器のように男を抱きしめてくるのです」

 

「いや、これはまんこ以上だぞ!?

 くそっ! 俺は生命の偉大さを前に余りに無知だったということか!

 腸の蠢動でここまで気持ち良くさせられてしまうとはな!!

 ……ぐっ、もう、出しちまいそうだ!」

 

 さもありなん。

 陽葵さんの尻穴は、そんじょそこらの女性では太刀打ちできない程の名器なのだ。

 ところで早漏というのは本当のことだったんですね、ボーさん。

 

「おおぉおおおおっ!!!

 おああっ!! あっ!! ああっ!! あっ!! あぁあああっ!!」

 

 一方で陽葵さんは変わらず艶声を響かせていた。

 ボーさんの手でゆさゆさと揺らされ、喉が裂けんばかりに声を張り上げている。

 

「うおおっ! 突けば突く程絞ってきやがる!?

 ヒナタ、お前、精子を欲しがり過ぎだろ!!」

 

 興奮気味に喋るボーさん。

 彼も限界がすぐそこなのか、陽葵さんの身体で扱くスピードがどんどん上がっていく。

 

「あっっ!! あっっ!! あっっ!!! あっっ!!!」

 

「よし! よし! 出すぞ!!

 お前の中に全部出すぞ、ヒナタ!!」

 

 ラストスパートに入った。

 ボーさんは額に汗を浮かべながら、陽葵さんの身体を上下へピストンさせる。

 

「出すぞっ!!!

 うぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 渾身の力を持って、ボーさんは自身の剛直を陽葵さんの奥へと押し込んだ。

 陽葵さんの腹が、突き破られるのではと心配になってしまう程に盛り上がった。

 

「おっ!! おっ!! おぉおおおおおおおおおおっっ!!!!」

 

 泡を吐きながら、一際甲高い嬌声を陽葵さんが上げる。

 彼の性器から、再び白濁液が流れ出た。

 

「うぉおおおおおっ!!

 ヒナタの奴、イったっていうのに俺のちんこに絡みついて離そうとしない!!

 出るっ!! まだ出るっ!! まだ出るぞっ!?」

 

「おおおっ!! おおおっ!! おおおおおっ!!!」

 

 ボーさんは、まだ射精が終わっていないらしい。

 巨人族特有のものなのだろうか、かなり長い。

 

「くぅううううっ!!

 なんだっていうんだ、こいつの肢体は!!

 止まらん! 精子が止まらん!!!」

 

「おうっ!! おおっ!! ぐ、う、おぉおおおっ!!?」

 

 まだ出している。

 凄いな、巨人族は。

 心なしか、陽葵さんの腹が膨らみだしたような気も……

 

「なんてこった!! まだ締め付けるのか!?

 俺の金玉が空になってしまうぞ!!」

 

「ぐっ! あっ!? がっ!! あぁあああっ!!」

 

 ……ま、まだ出るのか?

 陽葵さんの声が苦し気なものに変わってきている。

 腹の膨らみも、はっきりと分かるまでになった。

 

「参った!! くそ、俺の負けだ!!!

 俺のちんこはお前のけつ穴に負けてしまった!!

 全部だ!! 全部搾られる!!

 ぬぐぅうううっ!!!」

 

「がっ!? げっ!? げっ!! ぐ、ぎぃいっ!!?」

 

 陽葵さんのお腹がぱんぱんに膨らんでいく。

 彼の口から漏れるのは、喘ぎではなく苦悶の声。

 

 ちょっと、ボーさん、いくらなんだって精液を出し過ぎだろう!

 いろんな意味で、2人共、大丈夫なのか!?

 

「あっ!? がっ!? うげっ!!?――――うぷっ」

 

 陽葵さんがえずいた、次の瞬間。

 

「――おぇええええええええええええ……」

 

 吐いた。

 陽葵さんは、吐いた。

 腹に溜まっているモノを――すなわち、精液を。

 

 ボーさんの精液は、陽葵さんの尻から侵入し、彼の口にまで到達したのである。

 ……どんだけの量なんだ。

 

「おええっ――おえっ―――うぇええええええええ――」

 

 一度だけでは吐ききれず、その後も2度、3度と嘔吐する陽葵さん。

 目からは光が消え、手足は弛緩してだらりと落ちている。

 

「ふぅうううう。

 あー、すっきりしたぁ!!」

 

 それに対して、ボーさんは晴れやかな笑顔。

 満足そうな表情で、陽葵さんの菊門からイチモツを抜き取った。

 

「……あ―――――――」

 

 肉棒が去った後、今度は後ろの穴から精液が垂れ流れる。

 “栓”が無くなったからだろう。

 

「いやぁ、最高だな、ヒナタは!

 正直、一度抱いただけで修理代タダってのはかなりサービスのつもりだったんだが――とんでもない!

 こいつの身体にはそれ位の値打ちがある!」

 

「おや、ということは今後も?」

 

「ああ!

 ヒナタの身体が抱けるってんなら何度だって修理代をチャラにしてやるよ!」

 

「おお! ありがとうございます!

 きっと陽葵さんも喜ぶでしょう!」

 

 なにせ、冒険者を悩ませる厄介事の一つである、装備品の修理に関する問題が全て解決したのだ。

 これは大きな利益といえる。

 

「さて、俺はこれから作業に取り掛かるが……ヒナタはどうするか?」

 

 ボーさんがちらりと陽葵さんを見る。

 彼は未だに気を失ったまま、精液の海に沈んでいた。

 時折、痙攣を起こしているところを見るに、当分起きることは無いだろう。

 

「ああ、彼は私が家に送り届けますよ」

 

「お、悪いな。

 多少疲れただろうし、ゆっくり休ませてやってくれ。

 修理は明日までには終わらせておく」

 

「よろしくお願いします」

 

 私は一度頭を下げてから、陽葵さんの“洗浄”に取り掛かるのだった。

 彼が家に到着できたのは、それから小一時間程経ってのことだ。

 

 

 

 第二十一話②へ続く



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② エレナさんと買い出しを

 

 

 

 時刻はそろそろ夕方。

 陽葵さんを家へと送った後、探索に必要な備品の補充をしていたら、いつの間にかこんな時間になってしまった。

 さて、今日の夕飯はどうしようか。

 いつものように黒の焔亭にするか、最近少々縁のある蒼い鱗亭で食事してもいいかもしれない。

 或いは、多少手間だが自分で用意するか、だが……

 

 そんな他愛もないことで悩んでいると、後ろから人が近寄る気配が。

 

「クーローダ君っ!」

 

 突如、私の身体に誰かが抱き着いてきた。

 私はその人の方を向いて、

 

「どうしました、エレナさん?」

 

「んー?

 いや、どうもしてないよ。

 歩いてたらクロダ君を見かけたんで、飛びついてみただけ♪」

 

 そこに居たのは、黒髪を後ろで束ねた小柄な女性、エレナさん。

 ブラウスにミニのフレアスカートという出で立ちが、彼女の小ささと相まって実に可愛らしい。

 もっとも、背は小さいとはいえ、胸もお尻もなかなかのモノをお持ちな方なのだが。

 

「……なるほど、緊急時に備えた訓練ですか」

 

「何言ってんの?

 求愛行動だってばー。

 んー、好きな人を見つけたらつい抱き着いちゃう乙女心、分かってくれない?」

 

「そういうものですか?」

 

「そういうものなのー」

 

 ならばそうなのだろう。

 

「それにキミ、最近はあんまりボクのこと構ってくれないしー?

 んん、ヒナタ君にばっかりかまけちゃってさ」

 

「いやいや、ちょっと待って下さい」

 

 私はエレナさんの言い分に異を唱える。

 

「仕方ないじゃないですか。

 あれは仕事なわけですから」

 

「ふーん?

 ヒナタ君とはビジネスな関係でしかないと?」

 

「………………もちろんですよ?」

 

「んー、嘘が下手だなぁ、クロダ君は。

 あと、ボクのために言ってくれたのは分かるけど、今の台詞ヒナタ君に言っちゃダメだよ?」

 

 エレナさんはため息一つついてから、

 

「そんな甲斐性の無いキミのために、ボクの方からモーションをかけてあげてるわけだよ。

 んん、感謝して欲しいね、ボクのこと心遣い!」

 

 形の良い胸をくいっと張る。

 至近で見ると、かなり魅惑的だ。

 

「ありがとうございます。

 今日は、エレナさんの方で用事は特にないのですか?」

 

「ん? あるよ?」

 

 きょとんとした顔で、エレナさん。

 む、予定が入っていたのか。

 空いているのであれば、この後一緒に――と思ったのだが。

 

「おや、そうでしたか。

 差し支えなければ、どんなご予定が聞いても?」

 

「んんー、そんなの決まってるじゃん」

 

 どうして分からないんだ、とばかりに、エレナさんは呆れた顔をする。

 その後、私の腕にしがみ付いて、

 

「クロダ君の、愛人としての用事、だよ?

 んー、察しが悪いねー」

 

 私の二の腕に、おっぱいを押し付けてくる。

 小ぶりながらも綺麗に実った二つの果実が、ぽよんっぽよんっと良い弾力で当たってきた。

 

「おやおや、それは申し訳ありません。

 お詫びといってはなんですが、この後食事でも如何ですか?」

 

「ん、それはとても心惹かれる響き。

 でも今日はちょっとやりたいことがあるんだよねー」

 

「ほう、と言うと?」

 

「ボクの手料理をクロダ君に振る舞うのだ!」

 

 どどんっと宣言する。

 そういえば、エレナさんの手料理というのは食べたことがない。

 というか――

 

「エレナさん、料理できたんですか?」

 

「ん? 今ボクをバカにしたね?

 ボクなんかに料理ができるわけないって?」

 

「いや、決してそんなことは。

 ただ、付き合い始めてからまだそういう風景を見たことが無かったので……」

 

「そう、そこなんだよ!」

 

 ビシッとワタシを指さすエレナさん。

 

「ボクは気付いてしまった!

 いつも食事するときは、どこかのお店で食べるかクロダ君が料理するか、その2択だったということに!」

 

「あー、言われてみれば、そうでしたかねぇ」

 

 料理が得意とまでは言わないが、料理をするのは嫌いでないため、大抵私が料理番をしていたのだ。

 

「恋人に料理を振る舞ったことが無いって、ちょっと女の子としてどうかな、って思ったわけだよー」

 

「なるほど」

 

 さっきは不躾な指摘をしてしまったものの、私とて女性の作った手料理を頂くというシチュエーションへの憧れは当然ある。

 まあ、リアさんやローラさんに食事を用意して貰うことが時折あるので、そんな状況が皆無というわけでもないのだが。

 

「ん、そういうわけなんで、今日はクロダ君の家でお料理するよ」

 

「ふむふむ。

 断る理由はありませんね」

 

 さてはて、エレナさんはどのような料理を作るのか。

 もっとも、冒険者は迷宮内で自炊することもある。

 そのため冒険者をやっていて料理下手、という人はかなり少なかったりする。

 

「んじゃ、まずは買い物だねー。

 美味しい食材を求めて市場へゴー!」

 

「お供しましょう」

 

 エレナさんに手を引かれ、私は道を進んでいく。

 

 

 

 

「うーん、やっぱり人が多いねー、ここ」

 

 市場について早々、エレナさんの口からそんな言葉が呟かれた。

 

「ちょうど混む時間帯ですからね。

 皆さん、夕飯の具材を求めているのでしょう」

 

 証拠に、辺りには主婦らしき方々が多い。

 このウィンガストの市場、料理店などの“プロ”は午前、一般の人は午後に利用することになっている。

 ただ、そこまできっちりと取り決めされているわけではなく、一般客が午前中に出向いても立ち入りを禁止されるわけではない。

 暗黙のルール、というやつだ。

 

 余りゆっくりしていると、食材は次々に売り切れてしまう。

 私達は早速店を回り、物色していく。

 

「んんー、こっちの果物と、そっちの野菜ちょうだいっ!」

 

 お店(といっても『簡易な小屋』や『大き目のテント』と呼称できる程度のモノだが)の軒先で、エレナさんが声を張り上げる。

 ここはかなりの人気店らしく、周りには同じく商品を求めるお客さんでごった返しになっている。

 全員が全員、自分の注文を叫んでいるため、店員さんは対処に大忙しだ。

 

「だからー! この果物とその野菜だってば!」

 

 エレナさんが再度注文を飛ばすものの、なかなか店員さんは手を回してくれない。

 彼女は女性としても小柄な方なので、余り目立っていないせいもあるのかもしれない。

 

「ちょっとー! 聞こえてる!?」

 

 業を煮やして商品を並べている台へと身を乗り出すエレナさん。

 そこまでしてようやく、

 

「あー、すまんね、嬢ちゃん!

 今袋詰めすっからちょっとだけ待ってくれ!」

 

 店員さんに声が届いたようだ。

 

「ふぅぅ……」

 

 無事に注文でき、エレナさんはほっと溜息を吐く。

 ただその時、私は買い物ではなく、別のことに注意が向いていた。

 

 ……彼女のお尻である。

 

 台に上半身の乗せ、思い切り前かがみになったエレナさんは、後ろにいる私へと尻を突き出す姿勢となっていた。

 ミニスカートに包まれた、小さいけれど十分以上の色気を放つお尻が、私のすぐ目の前に。

 

 家につくまで我慢しようと思っていたのだが、もう限界だった。

 そもそも、陽葵さんとボーさんのセックスを間近で見て、最初から私のムラムラは限界寸前だったのだ。

 よくここまで保ったと、褒めてもらいたい。

 

 私は、人の波に押されたフリをして、エレナさんのお尻に股間を密着させた。

 

「ちょ、ちょっとクロダ君、どうしたの―――――んんっ?」

 

 怪訝な顔をするエレナさんだが、

 

「……ん。

 クロダ君、こんなところで……?」

 

 上目遣いに私の方を見る。

 どうやら、私の意図に気付いたようだ。

 

「ええ。

 いけませんか?」

 

「こ、ここじゃダメだって。

 いくらなんでもバレちゃうよ……!」

 

「大丈夫です、客の皆さんは買い物に集中して、周りを見ていません。

 店員さんも注文に忙しく、客を一人一人確認できていないようですし」

 

「そ、そうは言っても――」

 

 流石にこんな大勢の中では気が引けてしまうのか。

 エレナさんにしては珍しく、ちょっと渋っているようだ。

 ――だが。

 

「っ!――――あ、んっ」

 

 股間を股に擦り付けてやると、彼女は敏感に反応した。

 こんな状況だというのに、大したものだ。

 

「んんっ……あのさ、ホントにするの?」

 

「勿論、本気ですよ。

 分かるでしょう、エレナさん?」

 

 小声で言ってから、さらに強く股間を擦ってやる。

 

「んっ――は、あぁ――

 おっきくなってる、ね……」

 

「ええ。

 これ以上なく勃起しています」

 

「そっか――なら、仕方ない、かな。

 上手く――んんっ――やって、よね?」

 

「お任せください」

 

 エレナさんは、私が“やりやすい”ように、突き出した尻をさらにくいっと上へ向けた。

 無理な体勢になったせいで、スカートからショーツがちらりと見える。

 青白のストライプが入った縞パンだ。

 

 まず私は、周りからバレないようにそっとスカートの中へ手を挿し込み、エレナさんのお尻を触る。

 そしてフェザータッチで優しくお尻を撫でまわした。

 

「――んっ――ん、んぅっ――んっ――」

 

 くすぐったいのか、感じているのか、小さく声を漏らすエレナさん。

 

 ハリのある、いい触感だった。

 指先でつつけば、尻肉が指を押し返してくる。

 今度は、触るのではなく強く揉んでみる。

 

「っ!!――ん、くっ――はぁ、んんっ――ん、うっ――」

 

 強くなった刺激に、エレナさんの息が荒くなった。

 揉んでいる掌に、艶肉の強い弾力を感じられる。

 もっとこの感触を楽しみたいが、時間はそう長くとれない。

 

 尻から手を離し、今度は股を下着の上から弄ってやる。

 

「――ん、んんっ――あっ――ああっ――んんっ――

 そ、そこ、いいっ――あんっ――」

 

 尻を揉まれたからか、それともこのシチュエーションによるものか、エレナさんの女性器は既に濡れているようだ。

 ショーツにじわじわと愛液の染みが浮き出てくる。

 

 私は、膣口だけでなく“豆”の方も触ってやった。

 

「――んっ!」

 

 途端に、エレナさんの身体がびくっと震え、強めの声が漏れた。

 心なしか、“染み”の面積も増えたように見える。

 

「――あっ!――ん、んっ!――あっ!――あぅっ!」

 

 クリトリスを重点的に責めると、彼女の艶声はさらに大きくなっていった。

 一応、場所が場所だけにいつもに比べればかなり抑えられてはいるのだが。

 ……私が<静寂(サイレント)>の魔法を使えば彼女の負担は軽減されるのだが、それでは面白くな――もとい、エレナさんが店員と会話できなくなってしまう。

 

 ショーツはさらに淫らな液体に塗れ、指を動かせばぐちゅぐちゅと音を立てる程に。

 十分すぎる程、エレナさんは感じているということだろう。

 

「――んっ!――あんっ!――クロダ君、は、早く、来て――」

 

 小声で私にそう伝えてくるエレナさん。

 彼女も彼女で、もう我慢ができないようだ。

 

 望みを叶えるべく、彼女のショーツを股間部分だけそっとずらして膣口を露出させ。

 ズボンから取り出した、そそり立つイチモツを“そこ”へ突き入れる。

 

「――くぅぅぅっ!」

 

 エレナさんが長く息を吐く。

 なんとか、嬌声をあげることを防いだ模様。

 

 そんな彼女だが、膣の方は貪欲に男を求め出した。

 挿入された私の男根を、きゅうきゅうと締め付けてきたのである。

 熱さを感じる程の暖かさに包まれながら、周囲の肉壁から握られる、この快感。

 周囲の喧噪を一瞬忘れ、私のその気持ち良さに酔いしれた。

 

「――は、あっ!――あ、んんっ!――ん、んんっ!――」

 

 腰を動かすと、エレナさんが悶えだした。

 イチモツが彼女の膣に扱かれて、さらなる快楽がもたらされる。

 

 とはいえ、周りの人達に事が露見しないよう、必要最小限にしか動けていない。

 大きなピストンは行わず、股間をエレナさんの尻に密着させたまま小刻みな動作で子宮口を叩く。

 これならスカートに上手く隠され、“行為”は周りから見えないはず。

 

「――くふぅっ!――ん、ふぅ、んっ!――あ、あふっ!――ん、んくぅっ!」

 

 だがそんないつもと違う動きがかえって新鮮な刺激を与えられたのか。

 エレナさんは手を口に当て、必死に食いしばって喘ぎを押し込めていた。

 “下の口”からは愛液がとろとろ流れでていたが。

 

 と、そこへ――

 

「嬢ちゃんっ!!」

 

「っっ!!?」

 

 エレナさんの身体が強張る。

 店員さんが急に話しかけてきたのだ。

 これは――バレたか?

 

「注文してた果物、店頭の分切らしちまった!

 すぐ裏から取ってくるから、もちっと待っててくんな!」

 

 言うだけ言うと、店の裏手へ走る店員さん。

 

「――はぁぁぁぁ」

 

 エレナさんが安堵のため息を吐く。

 私も、小さく胸を撫で下ろす。

 どうにか気付かれずに済んだようだ。

 

 周囲の喧しさは変わらず。

 これは、最後までいけそうだ。

 

 ――いや。

 

 「――――」

 

 一人、居た。

 すぐ隣から、私とエレナさんをじっと凝視している女性が、一人。

 

 歳は三十前後だろうか?

 ウェーブのかかった綺麗な長い髪が目立つ、ゆったりとした品の良いロングスカート姿の美女だ。

 その女性は、特に騒ぎ立てるでもなく、顔を私達の方へ向けていた。

 

「――ん、ふぅっ!――あ、あぅっ!――ふぅ、はぁぁっ――」

 

 それに気づいていながら、私は腰を止めない。

 エレナさんの方も、店員がいなくなって安心したのか、再び甘い息を漏らし始める。

 

 「――――」

 

 隣の女性は、ずっと私達を――いや、“私の腰”と“エレナさんの尻”を見続けている。

 私とエレナさんが繋がっているところを、スカート越しに見ているかのように。

 

 ……私は思い切って、その女の人へ話しかける。

 

「あの、何か?」

 

「あっ! いえ」

 

 言葉少なに返事すると、女性は明後日の方を向く。

 私に興味などないように振る舞ってきた。

 

 しかし、特に買い物をするでもなくその場に留まっており。

 さらに言うならば、顔こそ背けたものの、その目は私達から視線を外していないことを私は見逃さなかった。

 

 これらを総合するに――

 

「―――っ!?」

 

 女性が息を飲んだ。

 私が、エレナさんのスカートを少しだけ捲ったからだ。

 その女性の位置から、私達の“結合部”が見えるように。

 

 「――ほ、本当に、してるなんて」

 

 小声の呟きが私の耳に届く。

 普通、これだけ周囲が煩ければかき消されそうなものだが、私には<感覚強化(エンハンスセンス)>がある。

 いくら小さくとも、この距離ならば鮮明に声を拾うことができた。

 

「――んんっ!――あふ、くぅ、んっ!――あ、あっ!」

 

 「――――っ」

 

 私がエレナさんを突く姿を、エレナさんが喘ぐ姿を、その女性は静かに鑑賞していた。

 

 「――――はぁ、んっ」

 

 いや、艶めかしい吐息をついてはいるか。

 顔も少しだけ赤く染まっている。

 

 私はあることを思いついて、エレナさんの片足を抱えた。

 

「え、え、えっ――」

 

 エレナさんの戸惑いが聞こえる。

 抱えた足をぐいっと上げて、股を開かせたからだ。

 例の女性が、エレナさんの股間をよく見えるように。

 

「ダメ、それダメっ!

 見えちゃうよっ! 全部、見えちゃうっ!」

 

「安心して下さい。

 誰も私達なんて見ていませんよ」

 

「そ、そんな――――あっ!

 あ、あぅっ!――くぅぅっ!――ん、ん、んっ!」

 

 抗議するエレナさんだが、子宮からの快楽にそれはすぐ霧散する。

 

 「――こ、こんな大胆な!

  バレたら、どうするつもり――?」

 

 目を大きく開く女性。

 もはや言い訳が効かない位、私とエレナさんの行為を覗き込んでいた。

 

 私は、あえて彼女に見やすいように、腰のストロークを大きくする。

 

「――やっ!――あ、あっ!――な、なんで急に、激し――んぅぅぅっ!」

 

 突然変わった動きに、エレナさんは堪えられずに喘ぎ声を大きくする。

 女性の方はと言えば――

 

 「――あ、あんなに大きいのを――?

  強く、出し入れされて――」

 

 ――私の股間の方へ、視線を固定させていた。

 そんなに物欲しそうに見つめられると、興奮してしまう。

 

「あっあっあっあっあっ!――や、すご、いっ!

 ボク、イっちゃうっ――もう、イっちゃ、うっ!」

 

「いいですよ、エレナさん。

 私の貴女の中へ出しますからね」

 

「うん、うんっ!――あ、くぅっ!

 出して、ボクの中に全部注いでっ!――あ、あぁぁ!」

 

 誰かに見られてしまうかもしれない、という危機感がいつも以上にエレナさんを敏感にさせていた。

 彼女の股間からは愛液がぽたぽたと滴り、地面にはちょっとした水たまりができている。

 

「あっ! ああっ! あっ! あっ!!」

 

 絶頂が近いためか、だんだんと周囲を気にせず声を張り上げるエレナさん。

 自分から腰を振り出し、快楽を貪り出す。

 

 その動きに連動するかのように、彼女の膣はイチモツへと強く絡みついてくる。

 ぬるぬるとした、しかし大きな締め付けに、私は一気に昂り――

 

「出しますよ、エレナさんっ――!」

 

「来てっ! クロダ君、来てっ!

 ボク、一緒にイクからっ!

 イクっ! あっ! イク――――っ!!」

 

 私が射精したのと同時に、エレナさんの身体が硬直する。

 絶頂は2人同時だった。

 

「はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 ぐったりとして、肩で息をするエレナさん。

 ずっと声を殺しながら性交していたため、いつもより消耗が激しかったようだ。

 

 「……はぁ……ん、ぅ……はぁ……」

 

 エレナさん程ではないものの、隣の女性も呼吸を乱していた。

 よく見れば、股をもじもじとさせている。

 ――流石にこんなところで自慰をする気にはなれないのか。

 

「はぁっ――はぁっ――はぁっ――ん、あぅ!」

 

 男根を引き抜くと、エレナさんの身体がビクっと動く。

 膣口からは白い粘液がどろりと垂れて行った。

 事が終わったので、私は手早く彼女の服装を整える。

 

「悪い悪い!

 大分時間かかっちまったな!

 ほら、注文の品、まとめといたぜ!!」

 

 丁度良いタイミングで店員さんが戻ってきた。

 彼はエレナさんの様子を見て驚き、

 

「うん、どうしたんだ、嬢ちゃん!?

 気分でも悪いのか!?」

 

「ああ、すいません、彼女は周りの熱気にやられてしまったようで。

 代わりに私がお支払いしましょう」

 

 行為の余韻でまで動けないエレナさんに変わり、私が会計することにした。

 お金を手渡すと、店員さんは頭を下げてくる。

 

「そうだったか!

 すまんなぁ、長いこと待たせちまって!

 あっちに休憩所があるから、休ませてやんな、兄ちゃん!」

 

「ええ、そうさせて頂きます」

 

 商品を受け取ると、私はエレナさんを支えながらその場を後にした。

 そして彼女の体調を気遣い、ゆっくりとした足取りで店員さんに教えられた休憩所を目指す。

 

 

 

 休憩所といっても、椅子が数個置いてあるだけの場所だった。

 その内の一つにエレナさんを座らせ、後の買い物は私が引き継ぐことにする。

 

「ごめんね、クロダ君。

 一緒に買い物するはずだったのに、押し付けることになっちゃって。

 うん、全部キミのせいなんだけど、一応ボクの方が謝ってあげるよ」

 

「――心遣い、感謝いたします」

 

 ジト目の視線がチクチクと私を刺す。

 まったくもってエレナさんの言う通りなので、反論の余地など一切ない。

 私はエレナさんの指示が書かれたメモを片手に、急ぎ足で市場に戻った。

 

 ――と。

 

「……あの」

 

 小声で話しかけられた。

 振り向けば、先程私達をずっと覗いていた例の女性だ。

 何故か顔を紅潮させ、吐息がどこか艶めかしかった。

 

「何の御用ですか?」

 

「…………」

 

 私の質問には何も答えず。

 女性は私に近寄ると、そっと私の股間へ手を逃してくる。

 

「…………」

 

 そして、私の愚息をそっと撫でながら。

 切なげに潤んだ瞳で、じっと見つめてくる。

 私は――

 

 

 

 

 

 

「ぐちゃぐちゃに濡れているじゃないですか!

 見ていただけでこんなに感じていたんですか!?」

 

「あっ! あっ! あっ! あっ!

 だ、だってあんなところであんなに――あぁあんっ!

 凄いっ! 凄いわっ! ああっ! あっ! ああぁあっ!」

 

「ご結婚されているんでしょう!?

 旦那さんを放って、こんなことをしていて良いのですかね!?」

 

「しゅ、主人は最近相手してくれなくてっ!

 あっあっあっあっあっあっ!

 セックスなんて、ずっとご無沙汰でっ!!

 あぁぁあああああっ!!!」

 

「だから私に声をかけたんですね!

 どうですか、念願のイチモツを突き込まれた感想は!?」

 

「はあぁぁぁぁっ――固くて――逞しいのっ!

 あぅっ! あぅっ! おっ! おっ! あぁああっ!!

 そこっ! 奥、もっと抉ってぇ!!」

 

「いいですよっ!

 思い切り気持ち良くさせてあげます!!」

 

「ああああ、そこっ そこなのぉっ!!

 そこ、主人のじゃ届かないのぉ――!!」

 

 

 

 

 

 

 帰り道。

 すっかり暗くなってしまった。

 

「んんー、なんか随分と時間がかかったね?」

 

 横を歩くエレナさんから、棘のある言葉が投げかけられる。

 

「い、いえ。

 目当てのお店がまた混んでまして――ははは」

 

 乾いた誤魔化し笑いをしてみる。

 市場で会った女性を抱いていたので遅れました――とは私も言い出せなかった。

 

「ふーん、そうなのー?」

 

「そ、そうです、よ?」

 

「んー、じゃあそういうことにしといてあげる」

 

「どうもありがとうございます」

 

 エレナさんが温情を下さった。

 私は全身全霊を込めて頭を下げる。

 

「ん。でも、クロダ君もずるいよねー」

 

「はい?

 ずるい、とは?」

 

「ほら、あの『特性』。

 <変態のカリスマ>だっけ?

 変態的な人が寄って来たり、そういう人達から好かれたりするっていう」

 

「せめて正式名称の<混沌のカリスマ>と呼んで下さいよ……」

 

 “命名者”ですらその名前で呼んでくれないのだが。

 

「それ持ってるおかげで入れ食い状態なんでしょー?

 世の男共が聞いたら怒り狂いそうだよね――って、そういう人達ともカリスマのおかげで仲良くなれちゃうのか」

 

「……えー、まあ、そういう見方もあるかもしれませんね」

 

 よくよく考えると、酷い特性のようにも聞こえる。

 とはいえ、私のレベルではそこまで凄い効力は発揮していない――はず。

 

「その特性を使って、これからも色んな女の子を食べていっちゃうんだねー。

 んん、それを黙って見ていることしかできないボク――なんて健気な」

 

「そ、そんなことはない、と思う、のです、が」

 

 しくしくと泣く仕草をするエレナさんに、たじたじになってしまう。

 ただの“フリ”とはいえ、それでも男を戸惑わせるには十分すぎる程の威力。

 

「あー、そ、そうだ!

 特性といえば、エレナさんはどんなを持っているのですか?

 ミサキさんから聞いていません?」

 

「これまた露骨な話題転換だねー。

 もう少し自然な感じにやってよ」

 

 呆れた口調でエレナさん。

 でも、話には乗ってくれるようで、

 

「んんー、ボクの特性は<秩序のカリスマ>だってミサキが言ってたよ」

 

「え?」

 

 一瞬、言葉が詰まった。

 

「ほら、クロダ君とは反対に、紳士的で誠実な人に好かれるっていう効果の。

 キミも知ってるんじゃなかったっけ?」

 

「ああ、はい、知ってはいます。

 しかしそれ、ミサキさんの特性じゃなかったでしたっけ?」

 

「うん、ミサキもボクと同じ特性持ってるらしいねー。

 ん、そういう共通点があるからボクと『交信』ができたんじゃないかって」

 

「な、なるほど」

 

 色々と納得いった。

 ミサキさんとの『交信』についてもだが、今までエレナさんに対して内心抱いていた疑問――“あれだけ周囲に色気を振り撒いているのに、何故周りの男は彼女に欲情しないのか”という疑問が解消されたのだ。

 <秩序のカリスマ>によって、色気に惑わされない、紳士的な人物が彼女の周りに集まっていたからなのだろう。

 そういえば、エレナさんを襲おうとした兄貴と三下も、最終的にはレイプを諦めていた。

 これがカリスマによるものなのかどうかは判断に迷うところでもあるけれど。

 

「んー、まあ、ボクとミサキじゃ同じ特性でも効果が全然違うらしいけどねー」

 

「あの人のは、ちょっと凄すぎますからね」

 

 私にしてもエレナさんにしても、カリスマの効果は基本的に特定の人達から好意を得やすくなるだけ。

 対してミサキさんの場合、周囲の人達に強制的な心理変化まで引き起こす。

 要するに、相対する人間が持つ変態性とか淫乱さとか、そういう“歪み”を問答無用で矯正してしまうのだ。

 その上でさらに自分への好意――忠誠心と言い換えてもいい――を植え付ける。

 まったくもって無茶苦茶な効果だ。

 

「ん、そんなどうでもいいことはもう置いておいて」

 

「ど、どうでもいいですか?

 結構重要なことだった気がするのですが――」

 

「どうでもいいの!

 重要なことは――」

 

 エレナさんは私の後ろに回り込むと、背中から抱き着いてきた。

 そのままおっぱいを私に押し付けてくる。

 

「んふふふふ、ボクを放置してくれた分、今夜はたっぷり可愛がってよね?」

 

「――ええ。

 それはもちろん」

 

 それに異を唱えるわけがない。

 私は力強く頷く。

 

「んんー、楽しみにしてるよ♪

 ――て、あれ、もうクロダ君の家だ」

 

「おや」

 

 話に夢中になって、家がすぐそこまで来ていることに気付かなかった。

 今日はエレナさんと一晩一緒に過ごすのだし、自宅に到着したところでなんら不都合はないわけだが。

 

「とうとう来たようだね。

 ボクの華麗な料理テクニックを披露するときが!」

 

「楽しみにしてますよ。

 さて――」

 

 玄関に着いたので、鍵を外してからドアを開ける。

 すると、誰も居ないはずの家の中には光があり――

 

 

 「誠ちゃーん、おかえりなさい♪

  ご飯にする? お風呂にする? それとも、ア・タ――」

 

 

 私はドアを閉めた。

 

 

 

 第二十一話③へ続く



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③ 助平3人寄れば――(前)

 

 

「なんで閉めたんですか!? なんで閉めたんですかー!?」

 

「す、すいません。

 状況に理解が追いつけそうになかったので、つい――」

 

 涙目で詰め寄るイネスさんに、私は頭を掻いて弁解する。

 

 ここは私の自宅、そのリビング。

 私とエレナさん、そして先の侵入者――勇者の一人であるイネスさんの3人は今、同じテーブルを囲んでいた。

 

「んー、なんで閉めたとかそんなことより何より、ここに“封域”のイネスがいるのが問題だったりしないのかなー?」

 

「まあ、問題ですね――っと、エレナさん、イネスさんを知っているんですか?」

 

「ん、一応ね。

 ミサキから話だけ聞いてたんだよ」

 

「なるほど」

 

 小声でエレナさんとやり取りした後、改めてイネスさんに向き直る。

 

 イネス・シピトリアという人物は、実に煽情的な女性だ。

 特別露出の多い格好をしているわけではない。

 なんというか、身体を構成しているパーツ全体がエロいのだ。

 

 金色の髪を三つ編みにした、清楚な面持ち。

 だが――瞳の垂れ具合、唇の瑞々しさや柔らかさ、ぞくっとさせる柔和な笑み。

 それらが男の欲情を絶え間なく掻き立ててくる。

 

 格好は、豪奢なローブこそ羽織っていないものの、前に会った際とほぼ同じだった。

 白を基色としたトップとレギンスなのだが、上下ともに身体への密着感が凄い。

 特にレギンスは下半身にぴっちりとフィットしており、肉感の良い彼女のお尻や太ももがはっきりと分かる。

 トップはトップで、胸の形が浮き出るような形になっており、蠱惑的なおっぱいがよく確認できた。

 

 彼女の肢体もまた、男を欲情させることに特化したような、淫猥なものだ。

 スタイルが良いのは間違いないのだが、綺麗さ、美しさよりもまず色っぽさが目につく、といえばいいのか。

 

 ……そんな感想はさておいて。

 私は彼女に話しかけた。

 

「えー、それでですね、イネスさん?」

 

「やだ、誠ちゃんってば!

 イネスなんて、他人行儀に呼ばないで下さい。

 昔みたいに、葵って呼んで♡」

 

 顔を赤らめて、くねくねするイネスさん。

 ……えーと。

 とりあえず、彼女が駒村葵さん――私の学生時代の友人であることは、もう確定させてしまってよいようだ。

 髪や目の色、髪型は違うものの、確かに昔の面影が色濃く残っている。

 

「……アオイ?

 どういうこと、クロダ君?」

 

「いや、私もまるで把握できていないんですが……

 どうもイネスさんは私の昔の友人に――」

 

「幼馴染です」

 

 突然、イネスさん――いや、ここは彼女の望み通り、葵さんと呼ぶか――葵さんが割り込んできた。

 

「幼馴染です。

 アタシは誠ちゃん――黒田誠一の幼馴染なんですよー」

 

 さらっと二度繰り返してから、葵さんは笑顔で宣言した。

 

「んんっ!? 幼馴染!?

 ってことは、イネスさんって――」

 

「ふっふっふ。

 そう、アタシは地球人。

 キョウヤよりも前にこの世界に来た、最初の<来訪者>!」

 

「――そんなに歳いってなかったんだ?

 正直、三十路くらいにはなってるものかと」

 

「はっ倒しますよアナタ!?」

 

 ドヤ顔で決めポーズした葵さんだが、エレナさんからのあさってのつっこみで面食らう。

 だがすぐに体勢を立て直し、しかし口調は強いままで、

 

「とにかく!

 アタシは六龍界(こっち)に来るまで東京で過ごしてたんですよ、誠ちゃんと一緒に!!

 ドゥユウアンダスタンッ!?」

 

「うんうん、分かった分かった、オーケーオーケー」

 

「よろしい。

 では、私の用件をお話し――」

 

「いやー、でもボクはてっきり、ヒナタ君を監視するために派遣されたものだとばかり――」

 

「全部分かってんなら最初からそう言えやぁっ!!」

 

 ドンっとテーブルを叩く葵さん。

 口調が変わってますよ、大丈夫ですか!?

 

「ん? 全然分かってなかったよ?

 でも、そう言うってことは、さっきので間違いないんだよね?」

 

「アハハハ、どうしましょう。

 アタシ、この子のことガチで嫌いになっちゃいそうですー♪」

 

 あっけらかんとした物言いのエレナさんに対し、こめかみに青筋が浮き出る葵さん。

 なにやら不穏な空気である。

 

「ま、まあまあ。

 彼女も悪気があったわけではないんですよ(多分)。

 葵さん、抑えて抑えて」

 

「……誠ちゃんがそう言うなら」

 

 私が仲裁に入ると、葵さんはしぶしぶながら納得してくれた。

 こほん、と一つ咳を入れてから、

 

「ごめんなさい、誠ちゃん。

 アナタを騙すつもりなんて無かったんです。

 でも――今の誠ちゃんなら、“アタシの事情”分かってくれますよね?」

 

「……そうですね。

 まあ、大よそのところは」

 

 先程のエレナさんの言葉で、大体分かった。

 私に“それ”を隠していた理由も察せられる。

 ――当時の彼女ではどうしようもないことだったのだろう、責める気など毛頭ない。

 

「んー、ところでさ、イネスさん――あれ、アオイさんの方がいい?」

 

「ああ、葵と呼んで下さい。

 ……これは誠ちゃんを混乱させないようにとの配慮であって、アナタに親愛の情があるとかそういうわけではないので念のため」

 

「――ん、まあ、いいけど。

 アオイさん、何か話があるっていうなら、ボク、ミサキと替わろうか?

 いや、必ずしもすぐに替われるわけじゃないんだけど」

 

「……それには及びません。

 いえ、寧ろまだ気づいていないのですか、エレナ?

 キョウヤと『交信』できないことに」

 

「え?」

「なっ!?」

 

 エレナさんと私が同時に声をあげた。

 

「ふっふっふ。

 あたしは“封域”のイネス。

 異世界からの干渉を無効化する結界を張るなんて、造作もないことです」

 

「そんなっ!?

 それってつまり――」

 

 エレナさんが緊張した声色に変わる。

 それはそうだろう。

 ここで何があろうと、ミサキさんに助けを呼ぶことはできない、ということなのだから。

 

 強張った面持ちで、エレナさんが言葉を続けた。

 

「――つまり、今ならナニをやってもミサキにはバレないってことだね!?」

 

「その通りです!

 察しがいいですね、アナタ!」

 

「……えー」

 

 そんなお気楽な状況じゃないと思うのですが。

 そしてこの機会を利用しなくていいんですか、葵さん。

 

「というかですね、ミサキさんに何か遠慮していたことがあったんですか、エレナさん?」

 

 そんな気配は微塵も感じさせない立ち振る舞いだが。

 

「えー、遠慮してるよー。

 “こんなことしたらミサキに悪いかなー”っていつも思いながら、クロダ君と遊んでるんだから!」

 

「……そうですか」

 

 思っているだけなんですね。

 

「そ、想像以上にゲスいですね……

 いやでも、その割り切りの良さはどこかキョウヤを彷彿させるような……」

 

 エレナさんの態度には葵さんすら戦慄している。

 だが、次の瞬間にはテンションを持ち直し、

 

「まあとにかくそういうわけで、小うるさいヤツはこの場に現れないのです!

 レッツパーリィですよ、誠ちゃん!

 レッツパーリィ!」

 

「この人が何言ってるか微妙にわかんないけど、これはチャンスだよ、クロダ君!

 今日は何の気兼ねも無くめちゃくちゃイチャイチャしちゃおう!」

 

 2人がぐぐいっと私に迫ってくる。

 柔らかな2つの双丘が、私の二の腕にぐにぐにと当たる。

 とても嬉しいことなのだが、いやしかし、いいのか、これ?

 

「あ、あの、葵さんは何か用事があったのでは?」

 

「そんなことは後回しですよ、後回し!

 会えなかった長い月日分のアレコレを、今日、ここで!

 ぐちょぐちょになっちゃいましょう、ぐちょぐちょに!!」

 

「それをするのは全く持って吝かではないのですが、この流れ、ちょっとおかしくないですかね!?」

 

「ん、言われてみればそうかもね。

 今日はボクが料理するはずだったのに、全然準備を進めてないし」

 

「エレナさん、それは違う!

 微妙に間違ってますよ!?

 もっと色々、葵さんに聞くべきこととかあるんじゃないかと!!」

 

 おかしい。

 私がつっこみ役に回っている!?

 しかしそうでもしないと、この場がよく分からない方向へ発散していく気しかしないのだ!

 

「んんー、聞くべきこと?

 そうだなぁ……あ、幼馴染って言ってたけど、結局どこまで行ってるのさ、2人の関係って?」

 

 あー、エレナさんにとって聞きたいことはそれなのか。

 だが、葵さんはその質問を待っていたようで、嬉しそうに顔を綻ばせながら、

 

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。

 真っ先に宣言したかったんですが、ちょっとタイミングを見失っちゃいましてね!

 アタシこそ、誠ちゃんの初めての相手!!

 誠ちゃんに性の手解きをしたのが、何を隠そうこのアタシ!!」

 

 普通の女性なら気恥ずかしさを感じるようなことを、何の臆面もなく言ってのける。

 うん、今言われた通り、色々と縁があって私は彼女に筆卸をしてもらったのだ。

 雌の肢体を味わう初めての快感は、今でも鮮明に記憶している。

 

 私が過去を思い出していると、エレナさんがおもむろに葵さんへ質問した。

 

「んー、じゃあ、クロダ君がここまで変態になっちゃった元凶ってこと?」

 

「そ、そういう言い方されるとちょっと。

 責任は感じてますけど……」

 

 若干テンションが下げる葵さん。

 あれ、葵さんが責任を感じてしまう程、私って駄目な変態なんですかね?

 

「あとクロダ君の“初めて”ってことだけど、アオイさんの“初めて”は――あ、ごめん、今の発言はなしで」

 

「おやおや、意外と気配りができる子ですねー。

 アタシからの好感度が1ポイントアップしましたよ?」

 

 葵さんの顔色から“何か”を感じ取ったようで、エレナさんは途中で言葉を止めた。

 実に懸命な判断だ。

 

「んんー、ほかに気になることと言えば、クロダ君の学生時代かなー?」

 

「あらあらあらあら、それ、聞いちゃいます?

 アタシにそれを聞いちゃいますかー。

 ……長くなりますよ、アタシにそれを語らせると」

 

「ん? 結構いろんなエピソードがあったりするの?」

 

「もちろんですよー!

 ふっふっふ、誠ちゃんのことなら、何月何日にどこでどんな会話をしたかまで、きっちり覚えてますから!」

 

 すいません、それはかなり怖い気がするのですが。

 

 しかしまずい、なにやら女子2人はガールズトークに移行しだした。

 こうなると、男である私には彼女達を止める術はなくなる!

 

「あや、どうしました、誠ちゃん?」

 

「……いえ、今のうちに夕飯の支度をしようかと」

 

 席を立とうとしたのを見咎められた。

 葵さんに続いて、エレナさんも口を尖らせて文句を言い出す。

 

「ちょっとちょっとー、それはボクがやるって言ったじゃん」

 

「あー、その、私相手ならともかく、葵さんもいると気後れしてしまうのではないかと思いまして」

 

「えー、そんなこと無いよー?」

 

 いや、エレナさんの方に問題は無いのかもしれないけれど、私が頭を整理するため一旦この場を離れたいのである。

 この混沌とした場で臨機応変に対応するなぞ、私には無理な話なのだ。

 

「エレナには悪いですけど、アタシも久々に誠ちゃんの料理が食べたいかなーって」

 

「えー」

 

 葵さんからの援護射撃。

 2人から言われて、エレナさんも少し意気消沈する。

 それでもなお、不満は消えないようで、

 

「ぶーぶー、ボクが作るはずだったのにー!」

 

「わ、分かりました。

 では、盛り付けなどのちょっとしたお手伝いをして下さい。

 それでは如何でしょう?」

 

 仕方ないので私は妥協案を提示した。

 エレナさんはうーんと唸った後に、

 

「……んー、まあ、いっか。

 今回は特別だからね?」

 

「ストーップ! ストップです!!

 それは聞き捨てなりませんよ!?」

 

 今度は葵さんが待ったをかけてきた。

 

「誠ちゃんと一緒に料理とか、そんな新婚さんイベントをアタシの前でやると!?

 許されざることですよこれは!!」

 

「んー、でもなあ、アオイさん、今日はお客様なわけだし?

 客として訪れた家のキッチンにいきなり上がり込む程礼儀知らずなの?

 あの勇者イネスさんは?」

 

「ぬ、ぬぬぬぅ!?」

 

 意表を突かれたように、葵さんが苦悶の声を出す。

 彼女は悔しそうに歯嚙みして、

 

「くぅっ!

 礼儀を盾にされては品行方正を謡うアタシは異議を言い出せない……!」

 

 他人の家に無断で侵入するのはいいのですかね?

 キッチンに入るのは駄目なのに?

 

「人の家に勝手に上がるのは勇者特権でなんら問題はないのですが、しかし人様のキッチンに無断で入るのは女としての良識が許さない……!」

 

 まるで私の心の声を盗み聞いたかのような台詞。

 勇者としての常識と女性としての常識は別物ということなのか、葵さん的には。

 

「致し方なし、今回は諦めましょう。

 でも、なるべく早く用意してきて下さいよ?

 キッチンから喘ぎ声とか聞こえてきたら、急いで混ざりに行きますからね!?」

 

「はいはーい。

 じゃあ、行こっか、クロダ君」

 

 適当な返事を葵さんに返し、エレナさんは私の手を取ってキッチンへと向かった。

 ――いかん、結局頭の整理ができないまま、流されてしまいそうだ……!

 

 

 

 

 

「さ、できましたよ」

 

「…………」

 

 料理をテーブルに並べ、葵さんに食事を促す。

 しかし、不思議なことに彼女は沈黙していた。

 

「――どうしました、葵さん?

 食べないのですか?」

 

「…………いえ、あの」

 

 疑問に思った私が尋ねてみても、どうも要領を得ない。

 

 用意した料理は、時間が無いこともあって出来合いのものがほとんど。

 “皿”には、野菜や肉を挟んだサンドウィッチや揚げ物などが盛りつけられている。

 2つある“盛り上がった箇所”は、フルーツとクリームで飾りつけ。

 “割れ目”には、メープルのかかった甘いスティックドーナツが何本か挿入されている。

 

「ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ……」

 

 “皿”が荒い息遣いをする。

 動くと色々こぼれてしまうので、じっとしていて欲しいところだ。

 

 葵さんは私の料理をじぃっと見つめた後、ようやく口を開いた。

 

「え、えっとその、ツッコミどころが山ほどあるんですが、とりあえず。

 ――ボールギャグと目隠しは必要なんですかねー?」

 

「そちらの方が楽しそうなので」

 

「……アハハハハ、そ、そうですかー」

 

 力なく笑う葵さん。

 その額には、汗が一筋流れていた。

 

「ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ……」

 

 “皿”――実のところボールギャグを噛ませて喋れなくしたエレナさん(全裸)――は、変わらず息が荒い。

 “割れ目”がしっとりと濡れているところを見ると、既に感じ始めているようだ。

 目隠しを着けられているので、周りの状況が把握できないのも、興奮を高める要因かもしれない。

 

「なんと言いますか――いきなりこんなものが出てくるとは思いませんでしたよ……」

 

「ええ、料理をしているうちに少しずつ調子を取り戻しまして。

 ようやく本来の私が出せた気がします」

 

 これまで、エレナさんと葵さんに押されっ放しだった。

 どうにか、面目躍如といったところだろうか。

 

「……一緒に居た頃より明らかに悪化してますねー。

 アタシと別れた後、どんな生活してたんですか、誠ちゃん?」

 

「ごく普通に、品行方正かつ真面目に暮らしておりましたとも」

 

「……う、嘘臭ぇ」

 

 眉を顰める葵さんだが、私はそれを取り合わず。

 

「それはともかく。

 早速食事といきましょう。

 どれから食べますか?」

 

「で、では、お腹に乗っている唐揚げから。

 ……これ、熱くないんですか?」

 

「火傷しないよう、適温に冷ましてありますからご心配なく」

 

「変なとこ気配りしてますねぇ、ホント」

 

 ぶつぶつと言いつつも、流石は葵さん。

 すぐさまこの“料理”に順応し、食事を楽しみだした。

 彼女は昔と変わっていないのだと、少しほっとする。

 

「ふーっ……んっ!?………ふーっ……ふーっ……んぅっ!……ふーっ……」

 

 一方、お皿なエレナさんはじっとしたまま。

 時折、フォークやナイフでつついてやるとピクッと反応するところが可愛らしい。

 ちなみに彼女には私が調理している最中食事をとらせておいたので、料理が食べられないことに関して問題は無い。

 

「……むむっ!?

 こんなふざけた料理だというのに、味は結構美味しいですね……」

 

「独り暮らしが長いですからね。

 自然と料理の腕も上がります」

 

「ぬ、ぬぅぅ……アタシもうかうかしていられません。

 ……ちゃんと料理できるようにしないと」

 

 葵さんは、食べながらぶつぶつと呟いている。

 まあ、美味しく頂いて貰えているなら何よりだ。

 

 

 

 食事は進み。

 

「――あとは、デザートを残すだけですね」

 

「ええ、あっという間でした」

 

 お皿(エレナさん)の上に乗った料理はほとんどが食べられ。

 残るは、おっぱいを飾り立てている果物と、女性器に突っ込まれているスティックドーナツだけとなった。

 個人的に、あのプリンのようにぷるんっとした胸をホイップクリームと各種フルーツで盛り付けた一品は自信作だったりする。

 

「では、おっぱい――もとい、果物の方から頂きますねー」

 

 言うが早いか、葵さんはフォークでフルーツを一つずつ取り、頬張っていく。

 

「んっ! んんっ! んっ! んーっ!!」

 

「うーん、上手く取れませんねー?」

 

 時々、ワザとらしく果物を刺しそこね、エレナさんのおっぱいをつんつんと突く。

 その度にエレナさんは悶え、喘いでいた。

 

「クリームも美味しいですー。

 ふふふ、直接舐めちゃいましょうか」

 

「んー! んんっ!! んぅーっ! んっんっんっんっ!」

 

 ぺろぺろとおっぱい、もとい、クリームを舐める葵さん。

 エレナさんはその刺激を敏感に感じ取っているようだった。

 

「――おやおや、おかしいですねー?

 天辺にあるこの“さくらんぼ”、取れませんよー?」

 

 最後に残った“さくらんぼ”――エレナさんの乳首を、葵さんはフォークの先でころころと弄る。

 

「んっ! んんっ!! んっ!!!」

 

 フォークが胸の先端へ当たる度に、身を捩るエレナさん。

 私は葵さんへ向けアドバイスを飛ばした。

 

「ああ、それはですね、しゃぶりついて頂くといいのですよ」

 

「んぅっ!!?」

 

 そのアドバイスを偶然耳にしたのだろう、エレナさんの身体がびくっと震えた。

 

「あー、なるほどー。

 そうすればよかったんですねー」

 

 葵さんはにこやかにそう言うと、何の躊躇もなくエレナさんの乳首に吸い付く。

 そしてちゅぱちゅぱとしゃぶり始めた。

 

「んーっ!! んっんっんっんっんんっ!! んんぅううっ!!」

 

 おそらく嬌声を上げているのだろうが、ボールギャグのせいで上手く声が出せていない。

 これはこれで非常に味わい深い響きである。

 

「では、私も頂きましょう」

 

 葵さんが吸っていない方の胸に、私も口をつけた。

 まだ少しクリームが残っていて、口の中に甘い味が広がる。

 それを味わうと同時に、葵さんに負けないよう、全力で彼女の乳首を吸い上げた。

 

「んんんんっ!!! んんっ!! んぅぅうううううっ!! ううぁあああっ!!!」

 

 2つの乳首を同時に責められ、喘ぐエレナさん。

 じたばたと身体を動かそうとするが、しかし私と葵さんにがっちりホールドされている。

 

「んっ!! んんっ!! ああっ!! あぁああああああっ!!!」

 

 一瞬、大きく震えるエレナさんの身体。

 ……胸からの快感で一度イったのだろう。

 

「……ふぅ。

 フルーツはこれ位ですかねー」

 

 おっぱいから顔を離し、笑顔で葵さんがそう告げた。

 胸への責めはこれで終わりのようだ。

 

「ふーっ…ふーっ…ふーっ…ふーっ…」

 

 肩を揺らして呼吸しているエレナさん。

 顔が心なしか緊張しているように見える。

 これから、ナニをされるか予想がついているのだろう。

 

「では最後に、この“スティック”を頂いちゃいましょう!」

 

「っ!!」

 

 葵さんの言葉にエレナさんが身体を硬直させる。

 これから来る快感に備えようとしているのか。

 

「さーて、これから食べましょうか――ねっ!」

 

「んっっ!!? んぁあああああっ!!!」

 

 一本のスティックドーナツを掴んだ葵さんは、それを引き抜くのではなく、中へ“押し込んだ”。

 そのまま、エレナさんの中でスティックを掻きまわし、さらには膣への出し入れまでする葵さん。

 

「んんっ!! んんっ!! んんんっ!!!」

 

「んー? これはどうしたことでしょう?

 お皿から蜜が出始めましたよ?」

 

 エレナさんの膣口から流れる愛液を見ながら、葵さんは面白そうに呟いた。

 

「はい、中を刺激してやれば、次から次へと蜜が出てくるんです」

 

「さっすが誠ちゃん! 高性能な『お皿』を持ってますねー」

 

 私の台詞に一つ頷くと、葵さんはさらにエレナさんを責め立てる。

 

「んっ!! んんっ!! んーっ!! んんぅうっ!!!」

 

 おっぱいを弄られた時以上にエレナさんは感じてしまっている。

 そして感じれば感じる程、下の口からは淫らな液体で溢れ、スティックを濡れしていった。

 

「……これ位でいいですかねー?」

 

 散々責め抜いた後、葵さんはスティックドーナツをエレナさんから抜く。

 彼女の愛液でふやけてしまったソレを、美味しそうに頬張る。

 

「ふふふふふ、美味しいですよー、エレナ?」

 

 くちゃくちゃと、愛液の音を立てながら葵さんはドーナツを食べていく。

 

「……んっ!……んんっ!……んんっ!!」

 

 その音を聞いて、エレナさんはさらに昂っているようだ。

 顔は紅潮し、乳首もピンっと勃っていた。

 

「ごちそうさまです♪

 ――さぁて、じゃあ次のイってみましょう!」

 

 言うと、葵さんはまだエレナさんに挿さっているスティックを握り――

 

「ふっふふふ。ふふふのふ。

 油断しましたね、エレナ?」

 

「んぅ?」

 

 ――突然、不敵な顔をしだした。

 

「アタシが、誠ちゃんとイチャイチャするのに邪魔なアナタを、何もせず放置するとでも思ってたんですか?

 この体勢になった時から、アナタの負けは決まっていたんですよ!!」

 

 まあ、“皿”になった時点でエレナさんは何の抵抗もできなくなったわけだがそれはともかく。

 葵さんは大きな宣言と共に、一気に顔をエレナさんの股間に寄せて、彼女のクリトリスへと口を付けた。

 

「んっ!!? んんんんぅうううううううううううっ!!!!!」

 

 絶叫。

 凄まじい声が部屋に響く。

 無論、エレナさんのモノだ。

 

「んぅっ!!! んんっ!!! んんんぅぅうぅううああああああああっ!!!!」

 

 息の続く限り叫び続けるエレナさん。

 それもそのはず――葵さんは、凄まじい勢いでエレナさんの陰核を舐めているのだ。

 

 いや、これを“舐める”と表現するのは余りに大人しい。

 エレナさんの小さな『豆』を、舌でこねくり、唇で吸い上げ、歯で噛み――それら全てを高速で、同時に行っている!

 神業と表現してもいいほどのクンニリングス!

 葵さんがこれ程の使い手だったとは!!

 

「んんぅうっ!! んんぁあああっ!! あっ!!! ああぁぁああああっ!!!」

 

 しかもクンニだけに留まらず、葵さんは膣に挿さったスティックを猛烈にピストンしだした。

 クリトリスと膣内を同時に責め立てたのである。

 

「あああっ!! ああっ!!! あぁぁああああああっ!!!!」

 

 これにはエレナさんもあっという間に白旗を上げた。

 女性器から潮を吹きながら、盛大に絶頂したのだ。

 だが――

 

「――あああっ!!? んんんっぅうううっ!!! ああっ!! んんぅああああああっ!!!!」

 

 葵さんは、その程度で止めはしなかった。

 イった後も、それまでと変わらぬ調子で弄り続けたのだ。

 

「あっっ!!! あっっ!!!! あぁぁああああっっ!!!」

 

 再度、潮吹き。

 短時間で、またエレナさんはイカされてしまったのである。

 これで葵さんの手は止まる――わけがなかった。

 

「あぅうううっ!! あぅっ!!! あっあっあっあぁああああっっ!!!」

 

 またしてもエレナさんは透明な液体を噴いた。

 絶頂に次ぐ、絶頂。

 

「ふふふふふ、終わりませんよー、止まりませんよー?

 気が狂うまでイカせてあげますからね、エレナ。

 誠ちゃんの性技の師であるアタシの絶技に酔いしれ、後悔し、果てるがいい!」

 

 私はこんな技、一度も見せて貰ったことないけれども。

 

「あ―――っ!!! あ――――っ!!! あ――――っ!!!!」

 

 喘ぎというより、もはや悲鳴となったエレナさんの声。

 彼女は彼女で、あらん限りの力を持って足掻き、暴れているのだが――仮にも勇者である葵さんに、力で勝てるわけが無かった。

 

 

 

 第二十一話④へ続く



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④ 助平3人寄れば――(後)

 

 

 

「……あ……あ、う……あ、あ……」

 

 葵さんの舌が止まったのは、エレナさんが完全に動かなくなってからだった。

 全力で抵抗し身体を動かした結果、エレナさんの目隠しとボールギャグは外れかかっている。

 もっとも、そこまでしてもその抵抗には何の意味もなかったのだが。

 口は大きく開かれ、目隠しの下からは白目を剥きかけた瞳が顔を覗かせていた。

 

「ふぅ、こんなもんでしょう。

 これ以上は、脳内麻薬出すぎて本気で頭おかしくなっちゃうんで。

 アタシの慈悲に感謝して下さいねー」

 

「……あー……あー……あー……」

 

 いや、もうかなりダメな状態だと思うのだが、葵さんの見立てではまだ大丈夫ということなのだろうか?

 

「さ、誠ちゃん♪

 エレナは休ませておいて、今度はアタシ達が楽しみましょー♡」

 

「そうですね、そうしますか」

 

 私にしなだれかかってくる葵さん。

 彼女の肢体の柔らかさを感じながら、私はズボンを下ろし、既に勃起しているイチモツを取り出す。

 そしてソレを――ぐったりと倒れているエレナさんの膣口に突っ込んだ。

 

「――ん、おっ!?」

 

「え!?」

 

 エレナさんの苦悶の声と、葵さんの驚きの声が同時に上がる。

 それはそれとして、私は腰を振り出した。

 

「……おっ!……おっ!……おおっ!」

 

「うーむ、いつもより締まりが悪いですね。

 完全に気を失っているので、無理もないですが」

 

 度重なる葵さんの責めで下半身が麻痺しているのか、エレナさんの膣はいつものように私を締め上げなかった。

 それでも、その暖かさと、いつもとは異なる反応は、私を気持ちよくさせるに十分なものであったが。

 

 と、そこでそれまで呆然としていた葵さんが我に返る。

 

「いやいやいやいや、何やっちゃってるんですか!?

 これ以上はまずいですって!

 危ないんですよ! 言いましたよね!?」

 

「いえ――まだ大丈夫というようなことを先程は仰ってませんでした?」

 

「“まだ大丈夫”と、“まだいける”は全然意味が違いますよー!?

 ちょっと! ステイ!! 誠ちゃん、ステイです!!

 本気でこの子を壊しちゃうつもりですか!!?」

 

「そ、そうは言いましても。

 もう、腰が止まりません!」

 

「どうなってるんですか、アナタの身体は!?」

 

 気持ち良いのだから仕方ない。

 腰のピストンが止まらないのも、全て気持ち良さが悪いのだ!!

 

「……お、うっ!……おっ!……あ、あ、あっ!」

 

 苦し気に喘ぐ――いや、呻くエレナさん。

 こんなエレナさんの姿を見るのは初めてだ。

 そこは、葵さんに感謝せねばなるまい。

 

「誠ちゃん! 見て!! この子、口から泡噴いてる!!

 泡噴いてるんですよ!!

 本気で危険なのでこれ以上はダメーーっ!!」

 

 当の葵さんは必死で私を止めようとしているのだが。

 ――くっ! 女の細腕だというのに異様な程力強い!?

 勇者は伊達でないということか!!

 

「離して下さい!

 私はやり遂げねばならんのです!!」

 

「何カッコいい顔して最低なこと言ってるんですかー!?

 ……う、嘘っ! 止められない!?

 誠ちゃんの筋力能力値(パラメーター)、アタシよりも低いはずなのに!

 どうなってるんですか!?」

 

「能力値など所詮は杓子定規に数値化したデータに過ぎません!!

 これが数値(データ)を超えた――人の、意思の力です!!」

 

「うわまたカッコいい台詞を!?

 こんなひっどい行動で!!?」

 

 驚く葵さんをよそに、私は腰を動かし続けた。

 このアブノーマルな状況は、私の身体を一気に絶頂へと導いていく。

 ……葵さんのクンニを横で見ていて、ずっと興奮しっ放しだったというのも大きな要因か。

 

「さあ、出しますよ! イキますよ! エレナさん!

 膣で、子宮で、受け止めて下さい!!」

 

「……おっ!……おおっ!……おごぉおおおおおっ!!?」

 

 私に精子を注がれて、エレナさんは雄叫びに見紛うような嬌声を響かせる。

 数瞬遅れて、彼女の股間から黄金色の液体がじょろじょろと流れてきた。

 失禁しのだ。

 

「あ、あーあ、やっちゃった……

 これもう、完全に頭おかしくなっちゃったでしょ、この子……」

 

「いえいえ、エレナさんは芯の強い女性です。

 この程度で、心を壊したりはしません!」

 

「……嫌な信頼ですねー、それ」

 

 苦笑いする葵さん。

 実際、ミサキさんに見込まれているエレナさんの精神がこの程度でどうこうしてしまうはずがない(多分)。

 

 とりあえず私はエレナさんから肉棒を引き抜いた。

 どろりと、愛液に混じって精液も彼女の膣口から垂れていく。

 

「一息ついたところで――」

 

 私は葵さんを見る。

 正確には、彼女の股間を見る。

 

 薄い生地のレギンスを履いているからだろう、股がびちょびちょに濡れていることが、一目で分かった。

 何せ、愛液に濡れて生地が透け、下着が確認できてしまうのだから。

 

「――随分と濡らしていますね」

 

「あ、あんっ♪

 誠ちゃん、今したばっかりなのに……♡」

 

 エレナさんを心配していた態度はどこへやら。

 私が股間を触り出すと、途端に顔を綻ばせる葵さん。

 寧ろ自分から私の手に股を擦り付けてくる。

 

「するんですか?

 今ここで、エレナの横でしちゃうんですかー?」

 

「ええ、しますよ。

 いけませんか?」

 

「まさか♡

 誠ちゃんのちんぽ、早くアタシに味合わせて下さい♪」

 

 葵さんはテーブルに座ると、私に向けて股を開いた。

 愛液によってぴったりと彼女の股に張り付いたレギンスは、割れ目の形もまたくっきり映し出している。

 

「いつ見ても、色っぽい身体ですね。

 服の上からでも、膣の入り口がひくひく動いているのが分かりますよ?」

 

「だ、だって、待ちきれなかったんです!

 会ったらすぐ誠ちゃんのちんぽを入れて欲しかったのに、ずっとお預けになってましたから!」

 

 ぴちゃぴちゃ音を立て、自分で自分の股間を弄り出す葵さん。

 その様子に辛抱堪らず、私は彼女をテーブルに押し倒した。

 

「あんっ♪

 強引ですねー」

 

「男はいつだって獣なのですよ」

 

「やだー♡」

 

 イチモツがいきり立って仕方ない。

 今は衣服を脱がす手間も惜しい。

 私は葵さんの白い服を掴み、引き千切っていった。

 

「あっあっあっ――アタシ、今日はこれしか服持ってきてないのに♪

 帰る時の服が無くなっちゃいますー」

 

「裸では帰るのは嫌ですか?」

 

「まさか♡

 全然平気ですよー♪

 誠ちゃんが望むなら、街中でストリップだってやれます♡」

 

 嬉しいことを言ってくれる。

 そんな会話をしている内に、私は葵さんの服の胸部分をビリっと破いた。

 柔らかそうなおっぱいが丸出しになる。

 

「――いい胸ですね。

 手が吸い付いて離れません」

 

「は、あぁあんっ――気に入って貰えましたか、アタシのおっぱい♪」

 

「ええ、とても」

 

 語った通り、彼女のおっぱいは揉んだ感触が非常に柔らかく、掌を包み込むかのようだった。

 それでいて、しっかりと揉み応えはあるという一品だ。

 私はそれをぐにぐにと握ってやる。

 

「あっ! あぁああっ! はぁああんっ♪

 いいです、気持ち、良いっ♡」

 

 喜びの声を上げる葵さん。

 調子に乗って、片方の乳首を抓み、もう片方は口でしゃぶり出す。

 固く立った乳首が、私の下の上でコロコロと転がる。

 

「あぁああっ!! あっ!! ああっ!! あぁあんっ!!

 乳首ぃっ!! そこ、しゃぶられるの、好きぃっ♪」

 

 葵さんが両手で私の頭を抱え、胸を顔に押し付けてきた。

 もっと強くして欲しいのか。

 望み通り、歯で彼女の先端を噛んでやる。

 

「あぁあああああっ!! イイっ!! イイぃっ!!

 そんなに強く噛んだら、アタシの乳首千切れちゃいますぅっ♪」

 

「では、ここで止めますか?」

 

「止めないで!! 止めないでぇっ!!

 千切っちゃっていいですっ!! 噛み切っちゃっていいですからぁっ!!

 あとで幾らでも治しますから、もっともっと強くして下さいっ♡」

 

「ならば――」

 

 彼女のいう通り、乳首を千切る勢いで噛みつく。

 ……まあ、本気で取れるようなことが無いよう、絶妙に力を加減してはいるのだが。

 

「ああっ!! あああっ!! あぁああああっ!!!」

 

 だが、葵さんが受ける刺激は絶大だったようだ。

 肢体を弓のようにしならせ、絶叫する。

 

「――あっ――ああっ――ご、ごめんなさい、誠ちゃん。

 今ので、軽くイっちゃいましたぁ♪」

 

「構いませんよ、そんなこと。

 そんなに自分を責めないで下さい」

 

「あ、ありがとうございます……♡」

 

 絶頂したからか、葵さんの息は乱れていた。

 私は一度、彼女のおっぱいから顔を上げる。

 すると――

 

「誠ちゃーん、あんまり焦らさないで下さい♪

 あたしのおまんこ、早く触ってぇ♪」

 

 ――葵さんからそんな要望が。

 私はこくりと頷くと、もうびちょびちょになった彼女のレギンスを引き裂く。

 その下からは、綺麗な意匠のレースの下着が現れた。

 同時に、私の鼻に葵さんの“匂い”がつく。

 

「もう蒸れ蒸れですね。

 凄い匂いですよ、葵さんのここ」

 

「言わないで下さぁい♪

 ダメですか? アタシのくっさいおまんこじゃ、誠ちゃんは楽しめませんか?」

 

「そんなわけないでしょう。

 臭いだなんてとんでもない。

 良い匂いです――男を狂暴にする、発情した雌の匂いですよ」

 

「あ、ああ、嬉しいです♪」

 

 本当に嬉しそうに、笑顔を浮かべる葵さん。

 私は自分の言葉を証明するかのように、彼女の股間へと顔を近づける。

 そして、先程葵さんがエレナさんへやったように、クンニリングスを始めた。

 

「あっ! あっ! ああっ!

 そんな、舐めてくれるだなんてっ♪

 誠ちゃん、嬉しいけどダメです、そこ、汚いですよぉっ!」

 

「汚い?

 こんな“美味しい”ところが汚いわけないでしょうに」

 

 下でクリトリスをつつき、膣口をなぞる。

 彼女の中からは、愛液が止めどなく溢れてきた。

 男を惑わすその匂いは鼻孔に充満し、味は口内に広がる。

 

「ああぁああっ! 誠ちゃんのべろがっ♪ アタシのあそこを擦ってぇっ♪

 あっ! あっ! あぁあああんっ!!」

 

 葵さんが喘ぎながら身を捩る。

 目を閉じて、私の責めを感じ入ってるようだ。

 

 ――そろそろ、挿れようか。

 

「あっ♡ 誠ちゃんのちんぽぉっ♪」

 

 私が挿入の準備をしだすと、葵さんはそれに目敏く気付く。

 股をさらに大きく拡げ、ねだるように腰をくねらせてきた。

 

「は、早くっ♪ 早く、その立派なおちんぽ様をアタシに下さぁい♪」

 

「待ちきれないようですね。

 なに、すぐに挿入して差し上げます――よっ!」

 

「あ、あぁああああんっ♡」

 

 私の肉棒は、一突きで葵さんの奥にまで到達した。

 彼女の膣は雄を容易く受け入れ――しかし、迎え入れたモノを離すまいと、きつく絡みついてくる。

 

「あぁぁあああ――誠ちゃんのちんぽっ♪ 誠ちゃんのちんぽぉっ♪」

 

「……葵さん?」

 

 私の声が若干トーンダウンした。

 彼女が――泣いていたからだ。

 目に、大粒の涙を浮かべている。

 

「ど、どうしました?

 どこか痛みが――?」

 

「違うんですっ! 嬉しいんですっ!

 アタシ――アタシ、ずっとこの日を夢見てました!

 誠ちゃんと、またこうやって繋がれる日をっ!」

 

 涙ながらに、葵さんは語る。

 

「ずっと、ずっと、誠ちゃんだけを想ってました!

 “どんなに辛くても”アナタともう一度会えることを信じて、頑張ってきたんですっ!

 それが、叶ったから――叶ったから、アタシ、もう――!」

 

「葵さん……」

 

 今の彼女の“顔”から、何を慮るべきなのか。

 ……いや、何も考えるまい。

 下手な邪推は、彼女も望んでいないだろうから。

 

 私は、互いに快楽に酔いしれるべく、腰を動かし始める。

 

「あっ♪ 誠ちゃんのが、アタシの中を行ったり来たりして――♪

 ああっ!! あああっ!! あぁあああんっ!!」

 

 嬌声を漏らす葵さん。

 私の方も、彼女の柔らかい膣壁で握られたイチモツがピストンの度に扱かれ、堪らない快感がもたらされていた。

 

「ああっ!! あっあっあんっ!! あぁあああっ!!

 せ、誠ちゃん、キスしてっ!!

 キスして下さいっ!!

 もっと、誠ちゃんを感じさせてっ!!」

 

「いいですよ!」

 

 彼女のお願いに従って、私は葵さんの唇に自分の唇を重ねる。

 瑞々しい柔肉の感触が、唇を通して伝わってきた。

 

「んっ♪ ちゅっちゅっ♪

 はぁああ、誠ちゃぁんっ♡

 ちゅっちゅっ♪ れろ、れろれろ♪

 ああ、あっあぁぁあああん♡」

 

 葵さんの方から、舌を絡ませてくる。

 互いの舌を味わい合い、唾液を飲み合い、口の中を舐め合う。

 股間から来る刺激と併せて、頭が蕩けそうな程の快楽に襲われていた。

 

「あぁあああん♪ はあぁあああああんっ♪」

 

 それは彼女も同じようだ。

 激しく私の口に吸い付きながら、自ら腰も振り出し、快感を貪っている。

 

 このまま永遠に過ごしていたいのだが、私にある衝動が去来する。

 

「――葵、さん!

 そろそろ、イキます!!」

 

「はっあっあっ♪ イキそうなんですか、誠ちゃん?

 いいです、イっちゃって下さい♡

 アタシの中に誠ちゃんの精子、いっぱいいっぱい注いで下さい♡」

 

 葵さんが、腕で私の首に抱き着き、脚を私の腰に回してきた。

 絶対に子宮へ射精して欲しいという、意思表示だ。

 

「勿論、葵さんの中に出しますとも!

 ちゃんと、受け止めて下さいね!」

 

「はい、はいっ♪

 全部、受け入れますっ♪

 誠ちゃんの精子で、絶対、孕んでみせますぅっ♪」

 

 私と葵さん、双方の動きが早くなる。

 ラストスパート。

 一気に絶頂へ向けて階段を駆け上がっていく!

 

「――くぅっ!

 出しますよ、葵さん!!」

 

「あ、アタシもっ!! イクっ!! イクぅぅううううううっ♪」

 

 私が葵さんの最奥に精を解き放ったのと、彼女の膣が一際強く男根を締め付けてきたのは、同時だった。

 

「あっ! ああっ!!

 出てますっ♪ 出てますよっ♪

 誠ちゃんの精液が、子宮をいっぱいにしてます♪」

 

 言いながら、葵さんは腰を再びくねらせた。

 その動きに合わせて彼女の膣が私のイチモツを絞り――最後の一滴まで、精液を搾取してくる。

 

「はぁあああああ……

 お腹が、熱いですー♪

 誠ちゃんの精子で、満タンになっちゃってます♪」

 

 満足そうに笑う葵さん。

 しかし少しして、彼女はあることに気が付いた。

 

「……誠ちゃんのおちんぽ、まだ固いままですねー?」

 

「そりゃ、まだ1回しか出してませんから」

 

「エレナにも出してませんでした?」

 

「それを含めたって、たったの2回です」

 

「そ、それじゃあ――」

 

 葵さんは私の言葉を頭で反芻しだした。

 そしてにんまりと、ぞくっとするような色気のある笑みを浮かべて、

 

「それじゃあ、まだ、してくれるんですね♡」

 

「当然です。

 最低でも、あと3回はやりますからね!」

 

「あ、ああっ♪

 誠ちゃん、すごぉいっ♪」

 

 彼女の手や足が、私に絡みついてくる。

 私は私で、腰を力強く前後に振り始めた。

 

「はぁああんっ♪ あぁあああんっ♪ あ、あぁああああああっ♪」

 

 その日。

 深夜まで、彼女の艶声は止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

「……うーん、どうも受精した気配がありませんねー」

 

 夜遅く。

 地球の時間で言えば、日が変わってもう大分経つような時刻。

 ベッドにて、私の隣で横になっている葵さんは、お腹をさすりながらそんなことを言ってきた。

 

「分かるもんなんですか、そんなこと」

 

「女の勘ってやつです」

 

「ほう」

 

 彼女がそう言うからには、そうなのだろう。

 

「大丈夫です。

 今日が無理でも、孕むまで注ぎ続けてあげますから」

 

「ふふふふふ♪

 期待してますよ、誠ちゃん♡」

 

 葵さんが私の腕に抱き着いてくる。

 互いに裸なので、柔らかい彼女の感触が直に伝わってきた。

 ……いかん、また勃起しだしてしまう。

 

 ちなみに、反対側にはエレナさんが眠っている。

 あれから一度も目を覚まさなかったので、そのままベッドへ運び込んだのである。

 

「まあ、今日はこのまま休んで下さいねー。

 明日に響いちゃいけませんので。

 なにせ明日は――」

 

 そこで、彼女の口が止まった。

 数秒、硬直する。

 その後、

 

「あーーーーっ!!」

 

 部屋に叫び声が木霊した。

 すぐ近くで聞いた私の耳は、キーンと痛み出す。

 

「んー、なになにー?

 うるさいなー」

 

 その声で、エレナさんも起き出した。

 様子を見るに――良かった、特に異常は無さそうだ。

 

 それはそれとして、私は葵さんに問いかける。

 

「ど、どうされたのですか?」

 

「忘れてました!!

 デュスト!! あいつが明日――ていうか、もう今日ですけど――またウィンガスト(ここ)に来るんですよ!!

 誠ちゃんと戦うために!!」

 

「え?」

「へ?」

 

 私とエレナさんが、実に間の抜けた声を出した。

 そして次の瞬間、

 

 

「「そういうことは早く言えぇぇえええええっ!!!!」」

 

 

 2人の男女による絶叫が、部屋に轟いたのだった。

 

 

 

 第二十一話 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝。

 朝もや中、街道を歩く男が一人。

 白銀に輝く美麗な鎧に身を包んだ、銀髪の美青年。

 もしこの街道に他の旅人が居たのであれば、誰も彼もがその圧倒的な“存在感”に慄いただろう。

 

 彼が目指すは、冒険者の街『ウィンガスト』。

 

「――楽しみだ」

 

 自然と、笑みが零れる。

 今日これから起こることを考えると、気分が高揚して仕方がなかった。

 

「見せて貰おう、キョウヤ様に見込まれた男の実力を」

 

 男の名は、デュスト。

 “光迅”の二つ名を冠する、五勇者の一人。

 

 彼は、今から戦うことになる相手の名をゆっくりと呟く。

 

「クロダ・セイイチ。

 ……さぁ、“開戦”といこうじゃないか」

 

 

 

 第二十二話へ続く



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第二十二話 嵐<ヤツ>が来た!
① アンナ・セレンソン


 

 

 

「納得いきません!!」

 

 そう、“デュスト”は叫んだ。

 

「聞き分けなさい。

 それが最善手です」

 

 “隊長”が――この街の警備隊の隊長を務めるが“アレッシア”が、子供を窘めるように言葉を紡いだ。

 いや、2人の間柄を考えれば、“子供を窘める”というのは比喩でも何でもないのだが。

 

 アレッシアは続ける。

 

「今、この街は魔王の軍隊に包囲されています。

 相手の戦力はこちらのおよそ10倍。

 地の利がこちらにあると言っても、果たしてどの程度耐えきれるか分かりません」

 

「それは分かっています!

 この街のためなら、いつだってこの命投げ捨てる覚悟です!

 なのに、なのにどうして――」

 

 デュストが両手でテーブルを叩く。

 

「――どうして! 僕に、逃げろと!」

 

「誰も逃げろなどと言ってはいません。

 近隣の街に、この街と魔王軍の現況を伝える任を貴方に与えるだけです。

 魔王軍への警戒と、この街への救援を要請するために」

 

「そ、そんなの――!」

 

 間に合うわけが無い。

 思わず喉から出かかった台詞を、何とか飲み込む。

 たとえそれが、“この場に居る全員承知している事実”だとしても、言って良いことと悪いことがある。

 

 代わりに、デュストは別の提案をした。

 

「伝令であれば、アルビーさんに任せればいいではないですか。

 あの人の俊足に、僕は到底及びません。

 もしくは、ヴィ―トスさんです。

 生存(サバイバル)技能はこの隊で群を抜いている」

 

 言う言葉に嘘はない。

 2人共にデュストの尊敬する先輩であり、それぞれの分野で右に出る者のいない達人だ。

 

「この街からの脱出には秘密経路を使用してもらう予定ですが――そことて、魔王軍に見つかっていない保証はない。

 無事に脱出できても、一番近くの街までどう急いでも2日はかかり、その間に魔王軍の斥候と遭遇しないとも限らない。

 デュスト、君は警備隊(われわれ)の中で最も戦闘技術に優れています。

 仮に魔王軍と交戦になった場合、生き残れる可能性が一番高い」

 

 だが、アレッシアは淡々とした口調でそれを却下した。

 

「僕の戦闘技術を買って頂けているのでしたら、それこそ僕を最前線に送って下さい!

 必ず、多くの魔族を切り捨てて見せます!」

 

 それでもなお、デュストは食い下がる。

 

「デュスト。

 ことは、この街一つで済む問題ではありません。

 今回の魔王軍の侵攻はかつてない規模。

 にもかかわらず、多くの人々は未だこの事実を知りません。

 それ程、奴らは緻密に計画を練ってきたのです。

 後手に回っては、下手すれば人類の勢力圏が無くなりかねない」

 

「そ、それは――」

 

 ぐうの音も出ない正論。

 なんとか反論できないか頭を捻っていたところへ、アレッシアがさらに畳みかけてきた。

 

「一つでも多くの街に、国に、魔王軍の脅威を知らせねばならない。

 事実を知った者の責任として、人類に籍を置く者の義務として。

 デュスト、貴方はまだ若く、才気がある。

 その力を、これからの戦いに活かしなさい」

 

 アレッシアがデュストの目を見た。

 真摯に、強い意志を持って訴えかける瞳。

 

「世界を救うのです、デュスト」

 

 そんな目に射貫かれ、デュストは――

 

(……勝てない)

 

 ――自身の敗北を悟った。

 彼は恭しく敬礼し、しっかりとした口調で告げる。

 

「分かりました、隊長。

 このデュスト、承った任務を必ずや遂行します」

 

 

 

 

 

 ――そんな会話をしたのが、今から2日前。

 

(……くそ。

 僕は早く行かなくちゃいけないっていうのに!)

 

 胸中で愚痴を叩く。

 デュストは息を殺しながら周囲を見渡して、一言。

 

「魔物が、多い……!」

 

 通常であれば、もう隣街に着いていてもおかしくない。

 だというのに、彼はまだ中間地点にすら辿り着けていない。

 

 理由は単純、魔王軍の斥候が、街の周囲を哨戒しているからだ。

 ある時は隠れてやり過ごし、ある時は迂回して回避し、ある時は素早く打ち倒し――

 どうにかここまで来たものの、歩みは遅々として進まない。

 

 こうしている間に、デュストの街は――

 

(――焦るな。

 これだけ多くの魔物がここにいるということは、逆に考えれば魔王軍は他の街へまだ手を伸ばしてはいないということなんだ。

 多少速度が犠牲になっても、確実に進むことを優先しろ)

 

 はやる気持ちを無理やり押し潰す。

 ここでやけを起こそうものなら、魔物に取り囲まれ彼は命を落とすだろう。

 隊長からの使命を果たすまで、簡単に死ぬわけにはいかなかった。

 

 デュストは細心の注意を払って魔物達の目を巧みに掻い潜り、少しずつ隣街へと近づいていく。

 ――と。

 

(――あれは?)

 

 魔物が数匹群がっていた。

 何かを囲んでいるような……

 

(何をしているんだ?)

 

 どうしてもそれが気になったデュストは、魔物に気取られぬよう慎重に近づいていく。

 非常に軽率な行動なのだが、好奇心に制止が効かぬ程度には彼の精神はすり減っていたのだ。

 

(――ぬ、ぐっ!

 ひ、酷い……!!)

 

 そしてすぐに後悔した。

 何匹もの魔物達が、“人間の屍”で玩具のように遊んでいたのだ。

 人の“欠片(パーツ)”を放り投げ、蹴り飛ばし、バラバラにして、弄んでいた。

 

(――落ち着け。

 落ち着け、落ち着け!!

 ここで僕が出て行ったところでどうなる!?

 奴らに弄られる死体が一つ増えるだけだ!!)

 

 魔物を切り捨てたくなる気持ちを必死で抑える。

 人で相手するには余りに相手が多かった。

 デュストは遺体となった人々の冥福を心で祈り、その場を後に――

 

(――え)

 

 後に、できなかった。

 デュストは、見てしまったのだ。

 

「う、あ、あぁあああああっ!!!」

 

 自制など効かなかった。

 剣を片手に、一匹の魔物に向かって駆ける。

 

「“母さん”! “母さん”っ!!!」

 

 その魔物もまた、人の死体を辱めていた。

 それはデュストのよく知る人物。

 孤児の彼を引き取り、実の子同然に育て上げてくれた女性。

 

 ――警備隊の隊長である、アレッシアだった。

 

「殺してやる!! 殺してやる殺してやる!!!」

 

 デュストとて、母はもう死んでいるであろうと薄々感じてはいた。

 魔物に殺されていることを覚悟してはいたのだ。

 

 だが、『実物』を目の当たりにして、その覚悟は消し飛んだ。

 ――いや、ただ殺されただけなら、或いは抑えられたかもしれない。

 死んだ後も魔物によって尊厳が貶められてる姿を見て、“理性的な思考”ができる程デュストはできた人間ではなかった。

 

「だぁああああっ!!」

 

 掛け声と共に、デュストは魔物へと斬りかかる。

 

 

 

 ……戦いは、すぐに劣勢となった。

 当たり前だ。

 そもそも数が違う、違い過ぎる。

 

「ぜぇっ…ぜぇっ…ぜぇっ…ぜぇっ…」

 

 スタミナが尽き、肩で息をするデュスト。

 

(――ここで、終わりか)

 

 母の仇を討ったちっぽけな満足感と、母の願いを全うできない絶大な無力感がデュストを襲う。

 

 最初の数匹は斬り倒したものの、すぐに周りを囲まれた。

 どこから現れたのか、ぞろぞろと魔物は湧いてきて、今では見えるだけでも20は超えている。

 後はジワジワと嬲り殺しだ。

 なまじ強い分、なかなか楽になれない。

 

(せめて、一匹でも多く……!)

 

 それでもデュストは、戦いこと自体は諦めていなかった。

 勝ち目などまるで見えないが、それでもまだ手足は動く。

 動く以上、徹底的に抗戦する。

 

「でりゃぁあああっ!!!」

 

 幸い周囲を魔物で覆われているため、狙いをつける必要はなかった。

 ただただ闇雲に剣を振り回し、魔物を切りつける。

 

(……手足の感覚が無くなってきたな)

 

 デュストの身体に無事な箇所などもう無いのだから、仕方ない。

 牙に斬られ、爪で裂かれ、角の刺され。

 大腕で叩かれ、重脚で踏まれ、巨体に吹き飛ばされ。

 満身創痍という言葉がこれほどしっくりくる状況とは珍しい。

 

「ぜぇっぜぇっ――がはっ! がっ、ぐふっ!?」

 

 口から血を吐く。

 喉が熱い。

 息ができない。

 頭が上手く回らない。

 右手は逆向きに曲がっている。

 左肩が外れている。

 右足は折れ、左足は千切れる寸前。

 目の前には、まだまだ多くの魔物達。

 援軍でも呼ばれたんか、最初よりも増えている。

 

「が、ふっ――だ、ダメ、か……」

 

 自分に終わりが来たのだと、悟る。

 諦める諦めない以前に、もう身体へ力が入らない。

 デュストはその場に倒れ、後はもう魔物に殺されるのを待つだけとなった。

 

(…………あ、れ?)

 

 その時だった。

 彼の周りに、『光』が降り注いだのは。

 

(な、なんだ……?)

 

『光』は魔物を次々と葬っていった。

 幾度剣を振るっても倒れなかった屈強な魔物達が、『光』によって次々と消し飛ばされていく。

 

(――六龍()の奇跡、か?)

 

 デュストはその『光』に魅入っていた。

 彼は信心深い人間というわけでもなかったが、しかしそうとしか思えない所業である。

 まるで自分を助けるかのように、魔を切り裂く『光』が差し込むなど。

 

 

 

 その場にいる全ての魔物が消え去るまで、ものの数分もかからなかった。

 今、ここに生きているのはデュスト一人。

 

 ――いや。

 

(あ、あれは――?)

 

 少し離れた丘に、一人の人間が立っていた。

 それが本当に人間であるかどうかは、分からない。

 何しろ、全身を鮮やかな紅色の鎧で覆っているのだから。

 ただ一つ間違いないのは、あの『光』を放ったのがこの人物だということだ。

 

 “彼”はデュストに気付いたのか、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「大した頑丈さだな。

 まだ生きているのか」

 

 思いのほか、澄んだ声でそう告げてきた。

 もう耳はほとんど聞こえなくなっていたのに、“彼”の声は不思議とよく聞こえる。

 

「あ、貴方、は――?」

 

 力を振り絞って、デュストは尋ねる。

 “彼”はすぐに返答してくれた。

 

「私か?

 私はキョウヤ。

 ミサキ・キョウヤだ」

 

 ――デュストは誓う。

 自分はこの出会いを、この光景を生涯忘れない、と。

 彼は今、救世主と出会ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 時と場所は変わり。

 ここはウィンガストの街。

 太陽が昇りかけている頃合い。

 とある路地にて、デュストは一人の男性と向かい合っていた。

 

「……今、なんと?」

 

 目の前の男が、信じられないといった顔でこちらを睨んでくる。

 

「聞こえなかったか、クロダ・セイイチ?

 戦う前に、まずは君の親しい人を全て壊しておくと言ったんだ」

 

 デュストは、理解できなかった相手――黒田誠一に対して、同じ言葉をもう一度言ってやる。

 まあ、まさか本当に聞こえていなかったということもないだろうが。

 

「何を考えている……?

 貴方は開戦を宣言しにきたのだろう!!

 後は、貴方と私が戦えばそれで済むはず!!」

 

「ただ戦うだけではつまらないじゃないか。

 僕としては、最高の君と戦いたいわけだ。

 同じ相手との殺し合いに“二度目”なんてものは無いからね。

 だから、お膳立てをしようと思う。

 君が、僕を憎くて憎くて仕方がないような状況を、仕立て上げようじゃないか」

 

「必要ない!!

 そんなことをしなくとも、私は逃げなどしない!!」

 

 叫ぶ黒田。

 どうも、相手は勘違いをしているようだ。

 訂正すべく、口を開く。

 

「君が逃げるだなんて僕は思っていないさ。

 何せ、キョウヤ様の代理なのだから。

 でもね、あの女性を斬った後の君は、それまでよりずっと魅力的だったんだよ。

 だったら、試したくもなろうというものじゃないか」

 

 女――確か、リアという名前だったか――を切り伏せた時の黒田は、あのミサキ・キョウヤを彷彿とさせるような殺気を放っていた。

 実に、自分好みの『感情』。

 

 故に、デュストは考えた。

 ただ勝つだけ、ただ殺すだけでは、“勿体ない”と。

 

「クロダ・セイイチ。

 君にはね、キョウヤ様の代理として戦う以上、義務があるのさ。

 全身全霊を持って僕を愉しませるという、義務が」

 

「ふ、ふざけるな――!!」

 

 激昂した黒田がこちらへ突進してくる。

 一般的な冒険者・兵士であれば、まず避けられない速度。

 だがそれをデュストは軽いバックステップでいなした。

 さらに2、3度跳び、相手と距離を開ける。

 

「ハハハ、僕はまだ開戦を宣言していないぞ?

 殺し合うのは少し早いだろう。

 クロダ・セイイチ、つまるところこれは鬼ごっこのようなものと思えばいい。

 君が鬼で、僕を捕まえられたならそこで開戦としようじゃないか。

 犠牲者を出したくなければ、早く僕に追いつくことだ。

 追いつけるものならね」

 

「き、貴様!!」

 

 言うべきことは言った。

 デュストは身を翻すと、その場を後にする。

 後ろから黒田が追いかけてくる気配があるが――遅い、遅すぎる。

 

「この分だと、彼と戦うのは“全部回った後”になりそうだな」

 

 高速で移動しながら、彼我の速度差から大雑把に目算を立てた。

 

「……まずは、アンナからにしようか」

 

 呟くと、目的の方向へ足を向ける。

 つまり、この街において黒田の唯一の、真の協力者である、アンナ・セレンソンがいる場所へと。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ミサキ・キョウヤと出会った後。

 デュストは必死で頼み込み、“彼”の旅路に同行させて貰った。

 彼もまた、魔王軍との戦いを目的としていたからだ。

 

 キョウヤとの旅は、概ね順調であったといえる。

 何せ、キョウヤはこと個人での戦闘に関して負け無しだった。

 上位の魔族相手すら、余裕を持って勝利してしまう程だ。

 

 さらには、旅を続けるうちに心強い同行者も現れた。

 

 誇り高きエルフ、“森の賢者”エゼルミア。

 頑強なる人狼、“白き狼”ガルム。

 そして当代の『勇者』である、“癒しの勇者”イネス・シピトリア。

 

 果たしてこんなメンバーの中に自分が居ていいのか?

 自分がとんでもない場違いをしているのではないかという不安を抱きつつも、魔族との戦いは連勝に連勝を重ねていく。

 

 ――但し。

 それは、あくまで彼ら“個人”の戦いに限るものだ。

 現在このグラドオクス大陸で起きているのは、魔族とそれ以外の種族間での大規模戦争である。

 たった5人の『部隊』が勝ち続けても、それだけで大勢が有利になるほどの影響は無かった。

 根本的な戦力は魔族側が優勢であり、キョウヤ達が勝っても、それ以外の場所で人類は負け続けた。

 

 自分達がどれだけ勝利を収めても、戦線は膠着――いや、やや押されてすらいる。

 そのことにもどかしさを感じていた、そんなある日。

 

「五勇者、ですか?」

 

「そうだ」

 

 デュストの返した言葉に、キョウヤは軽く頷いた。

 いつもの5人で今後の打ち合わせをしていた際、彼から出てきたのはそんな台詞だった。

 

「お言葉ですが、キョウヤ様。

 僕達の中で『勇者』なのはイネスだけですよ?

 いや、歴史上『勇者』が2人以上同時期に現れたこと自体、例がありませんけれど」

 

『勇者』とは、数十年に一度、魔王を倒すために生まれる人間だ。

 過去に何人もの『勇者』が現れ、魔王の侵攻を阻止してきた。

 今でいえば、イネス・シピトリアがそれに当たる。

 

「その定義は今問題ではない。

 大体、民衆の多くは『勇者』がどういう存在(モノ)なのか知りもしないからな。

 彼らが知っているのは、勇者が現れれば魔王を何とかしてくれるという事実だけだろう」

 

「それは、まあ……」

 

 デュストからして、『勇者』について知ったのはつい最近のことだ。

 それまでは、ただ何となく“凄い英雄”としか認識していなかった。

 

「注目すべきは、勇者が来たと知るだけで民衆は湧き上がるということだ。

 イネスを見ればよく分かるだろう。

 毎回特に何をするでもないのに、顔を見せただけでやたらとアレコレ厚遇されてる」

 

「な、なんですかその言いぐさ!?」

 

 同じく横で話を聞いていたイネスが、キョウヤに食ってかかった。

 いきなり自分が何もしていない扱いされたら、それは怒るだろう。

 確かにキョウヤの戦果に比べれば彼女は何もしていないに等しかったが。

 

「あっ!?

 今、デュストも私のことを大して戦績もあげていないごく潰しみたいな目で見ましたね!?

 見ましたよねっ!?」

 

「ま、まあまあ、イネス殿。

 どうか落ち着いて欲しいでござる」

 

 彼女の隣に居たガルムがどうどうと鎮めていた。

 ここ最近よく見る光景だ。

 

「ふふ、ふふふふふ、つまり、キョウヤさんはこう言いたいのでしょう?

 事実は横に置いて、ワタクシ達全員が『勇者』であるということにする。

 一人でも優秀な扇動役となれる勇者が、五人もいるとなれば民も大いに盛り上がると」

 

「その通りだ。

 基本的に魔王軍の方が総合的戦力は上だからな。

 せめて威勢位はこちらが勝っておきたい」

 

「な、なるほど」

 

 エゼルミアとキョウヤの言葉に、納得する。

 確かに、イネスと共に戦えると知った兵士は、軒並み士気が上がっていた。

 それを我々全員で行えるようにしよう、ということなのだろう。

 

「アタシは気乗りしませんねー。

 だって、勇者ってアタシですし?

 アタシこそが勇者なんですし?」

 

「まあ、お前から勇者という単語を取ったら何も残らないからな。

 アイデンティティーの危機だというのは分かる」

 

「言うに事欠いて何ほざいてくれやがりますか!?

 アタシがこのパーティーにどれだけ貢献していると――!!」

 

「だって、お前ができることは大体エゼルミアが代わりにやれる――」

 

「あー! あー!! 聞ーこーえーまーせーんー!!

 アタシがいないと、王様にだって簡単に面会できないんですからね!!

 民衆の協力だってそうそう仰げないんですからね!?」

 

「要するにコネ担当ですわね」

 

「はうっ!?」

 

 キョウヤに突っ込まれ、エゼルミアに止めを刺されるイネス。

 哀れである。

 と思っていると、今度は矛先をデュストの変えてきた。

 

「デュスト!!

 アナタは違いますよね!?

 こんな奴の甘言には乗りませんよね!?」

 

「いやだなぁ、イネス。

 キョウヤ様のやることに、間違いなんてあるわけないじゃないか」

 

 朗らかに笑って答えると、

 

「この狂信者がぁっ!!」

 

 イネスは地団駄を踏みだした。

 実際問題、キョウヤのやってきたことが一度として誤ったことは無いのだから、どうしようもない。

 

(基本、この人を信じていれば大抵上手くいくというのに、なんで突っかかるのやら)

 

 そんな疑問すら湧いてくるが――個人差というのもあるのだろう。

 

「しかしでござるな、ミサキ殿。

 そうは言っても、どうやるでござるか?

 行く先々で、我々が勇者であると言って回ると?」

 

「自分達で主張したところで、怪しまれるだけだろう。

 ……こいつを使う」

 

 ガルムが疑問を呈すると、キョウヤは一人の女性――女の子と形容した方が相応しいかもしれない――を部屋に招いた。

 

「紹介しよう、こいつは――」

 

「いやー、今をトキメク英雄さん達にお会いできて光栄だにゃー。

 あ、アチシ、アンナ・セレンソンっていうんだにゃ。

 ふへへへへ、こんな美少女だからって、手を出したりしちゃダ・メ・だ・ぜ・☆

 でもでも、きっちり面倒見てくれるってーなら考えてやらなくもないにゃ♪

 具体的には―、三食昼寝付きで月の小遣いが金貨――あいたっ!?」

 

「五月蠅い」

 

 入ってきた獣人(猫耳なので獣人だろう)の少女は、キョウヤの言葉を待たずに喋り出し、そのすぐ後にキョウヤに殴られ口を止めた。

 

「えー……キョウヤ様、彼女はいったい?」

 

「ああ、こいつは都のとある商会で仕事をしているわけなんだが。

 彼女の商人としてのネットワークを活用させてもらう」

 

「ああ」

 

 合点がいった。

 この大陸で、商人達の繋がりは広く、かつ情報伝達も正確だと聞く。

 

「彼女に、我々のことを喧伝してもらう、と?」

 

「そういうことだ。

 やれるな、アンナ・セレンソン?」

 

「あいあいさー!

 ばっちし皆さんのことを宣伝させて貰うにゃん!

 その代わり――」

 

 アンナはキョウヤを下心が満載された目で見る。

 彼女が何を言わんとしているのか、デュストでも分かった。

 当然、キョウヤも理解しているのだろう、鷹揚に頷くと、

 

「ああ、上手くいった暁にはお前の独立を援助してやる。

 金に糸目はつけん、大々的に私達のことを民衆に知らしめるんだ」

 

「うわっほーい! キョウヤちゃんってば太っ腹ー♪

 もう、アチシが築き上げてきた情報網をフル活用しちゃうにゃっ!!

 大船に乗ったつもりでいて欲しいにゃー!!」

 

 大はしゃぎするアンナ。

 非常に短いやり取りだが、彼女の人間性は何とはなしに分かった気がする。

 キョウヤはそんな彼女から視線を自分達へ移すと、こちらへと話しかけてきた。

 

「さて、そういうわけなので、お前達には早急にやって欲しいことがある」

 

「と、言いますと?」

 

 デュストが問いかけると、キョウヤは各自に紙を配りながら、

 

「決まっているだろう。

 自分達をPRする上でに、格好良い紹介文を考えるんだよ。

 ついでに二つ名もな。

 ビシっと決まったヤツをつけろよ」

 

「「「「――――はい?」」」」

 

 キョウヤ以外のメンバーの動きが固まった。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「……でゅ、デュスト、ちゃん」

 

 部屋に入ったデュストを出迎えたのは、そんな震える声だった。

 

「やあ、久しぶりだね、アンナ」

 

「……う、あ」

 

 挨拶をするも、向こうは呻くのみ。

 まあ、これから自分がどうなるのか理解していれば、怯えもするというものだ。

 だが――

 

(覚悟が足りないな)

 

 胸中で少々落胆する。

 自分と敵対すれば、こうなることは分かりきっていただろうに。

 

「さて、僕がどうして来たのか、もう勘付いているとは思うけれど――」

 

「――そ、その前に、一ついいかにゃ?」

 

「うん?」

 

 さっさと“用事”を終わらせようとするも、そこにアンナが待ったをかけた。

 取り合う必要も無い――のだが、一応はかつて共に戦った仲。

 デュストは彼女の言葉を促した。

 

「やけに周りが静かにゃんだけど、他の店員はどうしちゃったのかにゃ?」

 

「ああ、目につく連中は全部斬り捨てておいたよ。

 素直に君のところへ案内してくれるとは思えなかったし、騒ぎを起こされても嫌なんでね」

 

 思いのほか、つまらない質問だった。

 そんな、少し考えれば想像のつくようなことを一々尋ねてくるとは。

 アンナはその答えに嘆息すると、

 

「そっかー。

 ……本当に変わっちゃったんだにゃあ、デュストちゃん」

 

「そうかな?

 まあ別にいいさ、そんなこと。

 で、そろそろ“用事”を片付けたいんだけど、いいかい?」

 

「……分かったにゃ」

 

 殊勝に頷くアンナ。

 静かに席を立ち、デュストに近寄――

 

「うがぁああああっ!!?」

 

 ――彼女の手に『光る物』が見えたため、デュストは“とりあえず”その腕を斬り落とした。

 “別れた腕”からは、水晶のようなものが転げ落ちる。

 

「『転移の水晶』、かな?

 今更逃げようとしてもダメだよ」

 

「あ、あぁぁ……デュスト、ちゃん――」

 

「命乞いは聞かない。

 だから、無様を晒すのは止めた方がいい」

 

「う、く」

 

 先を制され、アンナは口をつぐんだ。

 これ以上手間をかけても意味がない。

 デュストは手にした剣を、彼女に向けて振り下ろす。

 

 ――この店に転がる『モノ』の数が、一つ増えた。

 

 

 

 第二十二話②へ続く



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②! ゲルマン・デュナン

 

 

 

「どうしてだ!!

 何故、こんなことを!?」

 

「それはこちらの台詞にござる。

 やはり立ちふさがるのか、デュスト殿」

 

「ガルム!!」

 

 月明かりの下。

 2人の男が、向かい合っていた。

 一人はデュスト、もう一人はガルム。

 共に、五勇者として魔王軍と戦ってきた者同士。

 そんな彼らが、切り立つ崖のすぐ傍で、対峙している。

 

 デュストは叫ぶ。

 嘆きを含んだ声で。

 

「どうして、どうして――」

 

 言葉が後に続かない。

 余りのことに頭が回らず、言うべき台詞が出てこない。

 

 それでも気を奮い立たせ、目の前にいる男を糾弾する。

 

「どうして!!

『風呂場覗き』なんて馬鹿なことをやろうとする!?」

 

「馬鹿とは失敬な!?

 覗きは男の浪漫にござろう!!」

 

 憤然たる面持ちで反論するガルム。

 

 いや、本当に。

 余りに馬鹿馬鹿し過ぎて、言葉を失ってしまう。

 

「いいでござるか、デュスト殿!

 この崖の下には! この地方名物の温泉――その女湯があるにござる!!

 しかも!! 今!! 我々の女子連中が入っている!!

 これを覗かずして何が男か!?」

 

「そんな男の定義があってたまるか!!」

 

 ガルムは何時に無く真剣な顔で、本気でどうでもいい主張をしてくる。

 当然反論するが――ふと、ガルムは表情を緩ませ。

 

「いや、ていうかでござるね。

 真面目な話、拙者はそれ位の役得があってもいいんじゃないかなーって思うんでござるよ。

 拙者がこのパーティーでどれだけ苦労しているか、知ってるでござろ?」

 

「え。

 あ、いや、まあ……」

 

 突然の方針転換に、デュストは虚を突かれてしまった。

 いや、実際問題、ガルムが苦労しているのはよく分かる。

 

「イネス殿は多分に気紛れだし。

 放浪癖があるのか突如として姿を消すこと多々。

 嫌なことがあるとすぐ逃げだしたりするし。

 その度に、その穴を拙者があれやこれやで埋めているでござるよ」

 

「そ、それは、確かにそうだけど」

 

 イネスは勇者である癖に気分屋で、その日の気分で行動を変えることがしばしばあった。

 しかも、国の重鎮が揃う会議の前やら大軍同士の合戦の前やら、重要な時ですらそれをやらかす。

 そして彼女が居なくなった場合、その不在をどうにか処理するのは、常にガルムだった。

 というか、デュストはイネスの代わりなんてできないし、他の2人はイネスをフォローする気なんて無いので、必然的にガルムがやるしかないのだ。

 

「エゼルミア殿は生粋の魔族嫌い――というか、あれはちょっとヤバいレベルにござろう。

 投降してきた魔族まで殺すのは、どうかと思うでござるよ。

 おかげその魔族が持ってた情報は手に入らずじまい。

 余計な火種を撒きに撒いて、やらなくてもいい戦闘を何度も起こしたでござる。

 その度にあっちこっち走らされる身にもなって欲しく」

 

「あー、あれは、僕もやりすぎだとは思う」

 

 デュストとて魔族は憎いが、エゼルミアのそれは常軌を逸していた。

 魔族と見れば、老若男女、敵味方すら関係なく殺す。

 おかげでいらぬ衝突があちこちで生じ、ガルムは弁明やら斥候やらで忙しなく動くはめになる。

 無論、デュストはそんなことできないし、他の2人はそんな面倒を被る気なんてさらさらないからだ。

 

「キョウヤ殿は、なんでもかんでも力押しでどうにかしようとする。

 いや、力押しでなんとかできてしまう力量があるのは確か何でござるが、もう少し、こう、スマートな解決をして貰えないかと。

 あの御仁、やろうと思えば八方丸く収まる解決もできるはずなのに、それをせずにあえて物騒な解決方法を選んでいるとしか!!

 しかも力押しは力押しでも――(ミナゴロシ)とかそういう方向でござるからね?

 邪魔なら味方陣営でも叩き潰そうとするし。

 怯える人々を励ましたり、危険視する人々を宥めたり、本気で大変なんでござるよ、マジに」

 

「は? キョウヤ様のやることが間違ってる訳がないだろ?

 おかしなこと言ってると殺すぞ?

 というかあの方を危険視している連中とはいったい誰だ。

 言え! すぐに僕が叩き斬ってくる!」

 

「そしてデュスト殿はこんなだし!!!

 誰か拙者を労って!!!!」

 

 両手で顔を覆ってしくしくと涙を流すガルム。

 その姿に、デュストも気勢が削がれてしまう。

 ……覆った手の隙間から、ガルムが自分の様子をジロジロと観察していることにも気づかず。

 

「――デュスト殿こそ。

 興味はござらんか?」

 

 先程までとはまた声色を変えて、ガルムが喋り出す。

 

「我が女性陣は大陸全体を見渡してもそうそうお目にかかれぬ美女揃い。

 そんな綺麗どころと日々を過ごし、一度もムラムラ来たことが無いと?」

 

「うぐっ!?」

 

 痛いところをつかれた。

 不意を打たれたので、効果は抜群だ。

 

 そりゃ、ある。

 あるに決まっている。

 デュストとて年頃の男である。

 女性と旅をして、一度もそんな気持ちにならなかったなどと言えるわけが無い。

 

 しかも、ガルムの言う通り五勇者の女性達は皆美しい。

 あの美貌を間近で見れるなら命も惜しくない、と。

 そう言って部下になりたがる男が後を絶たない程の容貌なのだ。

 

 その上イネスもエゼルミアも、肌の露出こそ少ないものの、身体のラインが浮き彫りになる服をよく着る。

 特にイネスは、『そういうこと』に頓着しないのか分かっててやっているのか、普段の仕草からしてかなりドキっとさせてくる。

 ボディータッチが多かったり、胸とかお尻とかを見せつけるポーズをしてきたり。

 からかわれているのかもしれないが、やられた方は堪ったものでは無い。

 基本的に5人旅なので、『処理』する時間も限られているのだ。

 

「くっくっく――その顔色を見るに、デュスト殿も満更では無い様子。

 ささ、拙者と共に桃源郷へ出向こうではござらんか」

 

「ぬ、ぬ、ぬ――」

 

 一度欲望に囚われた心は、そう簡単には抜け出せなかった。

 確かに、今ガルムと協力してしまえば、そう労を要さず女性の裸が見れる。

 あのイネスの、思わず触りたくなってしまうメリハリの利いた肢体も。

 あのエゼルミアの、まるで宝石にも例えられるほどに美麗で華奢な肢体も。

 

(今なら、見放題……!

 大特価セール実施中……!!)

 

 ちょっと興奮して謎のワードまで浮かび上がってしまった。

 

 いや、しかし。

 イネスとエゼルミアだけなら、まだいい。

 いやよくはないのだけれども、正直なところ見たいという欲望の方が勝りかけている。

 

 だが。だが!!

 今温泉にいるのは2人だけではなく――

 

「駄目だ!! 駄目だ駄目だ駄目だぁああっ!!!」

 

「ぬぅっ!?」

 

 デュストは剣を抜き放ち、己が欲望を切り裂く。

 いや、別に欲望を切り裂くような技を持っているわけではなく、なんとなく剣を振り回して欲望を払ったような気になっているだけだが。

 

「女湯覗きなんて低俗なこと、キョウヤ様に忠誠を誓った身でできるはずがない!

 ガルム、どうしてもというのなら、この僕を倒していけ!!」

 

「やはりこうなるか……!!

 喜びを分かち合おうと思ったでござるが――こうなっては仕方なし。

 拙者一人で極楽を堪能させて貰うでござる!!」

 

 ガルムが不思議な形の短剣――『くない』を両手に持ち、身構えた。

 そして、勇者同士の戦闘が始まる。

 

 

 戦いは一進一退。

 一撃の威力ではデュスト。

 しかし、技の多彩さ、動きの俊敏さでは、ガルムが勝っていた。

 

 岩をも容易に切断するデュストの剣閃を、流れるような動きでかわし反撃に転じるガルム。

 大陸最高峰の戦闘技術が、史上稀にみるしょうもない理由により披露されていた……!

 

 

 延々と続く打ち合いの末――

 

「ぬっ!?」

 

 デュストの強撃を受け損ね、ガルムのバランスが一瞬崩れる。

 

「貰ったぁっ!!」

 

 それを見逃すデュストではない。

 全力の一撃をガルムに叩き込む。

 

「ぐぁあああああっ!!!?」

 

 直撃こそ避けたものの、剣を振るった『衝撃』でガルムは吹き飛んだ。

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ……や、やったか?」

 

「ぐ、ぬ、ぬ。

 見事にござる、デュスト殿」

 

 半身を起き上がらせながら、ガルムは自らの負けを認めた。

 

「……不思議なものでござるなぁ。

 初めて会った時はまだまだ殻を被ったひよこのようだったデュスト殿が、とうとう拙者を負かす程になるとは」

 

 遠い目をしながら呟く。

 

(……そう、いえば)

 

 旅を始めたばかりの頃、自分と他の4人との間には天と地ほどの力量差があった。

 それが、ここまで追いつけた。

 ただ我武者羅に剣を振り続けた、その成果か。

 

 とは言ったものの。

 

「……嫌味にも聞こえるぞ。

 貴方、まだ本気を出しちゃいないだろう。

 “人間のまま”なんだから」

 

「はっはっは、それを言われては返す言葉もござらぬ!

 もし次やることがあれば、その時は真剣にやらせて貰うでござるよ!!」

 

 朗らかに笑うガルム。

 デュストとしても、別に悪い気はしていない。

 寧ろ、“目標の一人”にそう言われ、嬉しさすらこみ上げていた。

 

「さて、ちと肩を貸してはくれぬか。

 些か堪えたのでな、宿に帰るのがなかなかしんどいでござる」

 

「……ああ。

 分かったよ」

 

 そう言って、デュストはガルムに手を伸ばした。

 2人はがっちりと手をつなぎ、その次の瞬間――

 

「――と見せかけてドーン!!」

 

 爆発した。

 といういかガルムが爆発を起こした。

 火遁の術か、それともかんしゃく玉か。

 よくは分からないが、とにかく爆発だ。

 

「ふははははは! 油断大敵、注意一秒怪我一生!!

 そう容易く人を信じてはいけないでござるよ!!」

 

 ガルムのそんな叫びを耳に受けつつ、デュストは宙を舞う。

 舞って、舞って――そして、落ちる。

 落ちる。

 落ちる。

 どんどん落ちる。

 

(あれ、これ崖から落ちてるんじゃ――?)

 

 デュストがそう思うのと、

 

「――あ?

 ちと吹き飛ばす方向を間違えたような――」

 

 そんなガルムの声が聞こえたのは、同時だった。

 

 

 

 盛大に水柱が上がる。

 

「がぶっ!? がぼがぼがぼがぼ――!!!」

 

 気管に入ってくるお湯を吐きだしながら、デュストは立ち上がった。

 どうやら、ちょうど温泉の上に落ちたらしい。

 そのおかげか、結構な高さからの落下にも関わらず、身体に目立った負傷は無かった。

 

(――って、いや待て。

 温泉?)

 

 嫌な予感が全身を駆け巡る。

 そして、その予感はすぐに的中することとなるのだった。

 

「ちょっ!? ちょちょちょちょちょっと――!!?」

 

 すぐ近くから、女性の声。

 思わず振り返ると、そこには。

 

「なんでアナタ、空から降ってくるんですかー!?」

 

 一糸まとわぬ姿の、イネスが居た。

 肉付きのいいその身体は、ぷりんと張った胸とむっちりしたお尻を惜しげもなく晒していた。

 胸の突起は綺麗な桜色で、くびれの形もすこぶるエロい。

 

「ふふ、ふふふ。

 随分と堂々とした覗きですわね、デュストさん?」

 

 すぐ隣に、エゼルミア。

 こちらはタオルを身体に巻いていたが、水にぬれたソレは身体に張り付き――彼女のスレンダーな体型が丸わかりだった。

 イネスに比べれば貧相とすら言える大きさだが、しかしその形は美しく均整が取れている。

 さながら美術品のような肢体は、男共がどれだけ金を積んでも鑑賞したい欲求に駆られることだろう。

 

「おい。

 デュスト、お前これはどういう了見だ」

 

 後ろから、ドスの効いた別の声が聞こえた。

 そこには。

 そこには――

 

「ぶっほっ!?」

 

 デュストは盛大に鼻血を噴射した。

 そこで彼の意識は終わる。

 

 

 なお、余談であるが。

 彼とガルムは次の日、逆さ吊りの刑に処された。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 ここは黒の焔亭と呼ばれる酒場らしい。

 店の中、デュストは椅子に深々と座り、一休みしていた。

 疲れたわけでは無い。

 ただ、“黒田と距離が離れすぎた”ので、足を止めているだけだ。

 “助けられそうで一歩間に合わない”という切迫感があった方が、盛り上がるだろうから。

 

「あぐっ! がっ! あっ! ああっ!」

 

 デュストの耳に、女の嬌声が入る。

 なんのことは無い、店の中央で、全裸になった女が男達に犯されているというだけの話だ。

 

「はっ! うっ! ぐっ! き、貴様らっ!

 こんなことして、ただで済むと――あっ! あぅっ!」

 

「何がただじゃ済まないってぇ!?」

 

「命惜しさに身体差し出した奴が、何言ってやがる!

 もっとちゃんと腰振れ、オラ!!」

 

 銀色のポニーテールを大きく振り乱して、青白い肌の女が男に蹂躙されている。

 豊満な胸は変形する程強く握られ、尻は赤く腫れる程に叩かれていた。

 両手、口、前と後ろの穴、全てを男達の欲望のために使われている。

 

(確か魔族の――カマルとかいう名だったか?)

 

 女の名前を思い返してみる。

 この店のウェイトレスの一人。

 彼女があんな目に遭っているのは、デュストの指示であった。

 

 別に彼女に対して何か思う所があったわけではない。

 単に、彼女が自分に突っかかってきたから適当に返り討ちにし、罰として『ああいうこと』をさせただけ。

 カマルを犯すように命じた男達も最初は『魔族を抱くなんて』と怯んでいたが――

 

「はは、いいぞ、もっと動けよ!!

 じゃないと、怖い兄ちゃんに殺されちまうぜ!?」

 

「前々から気に食わなかったんだ!

 魔族の癖して人間様の店で働きやがって!!」

 

「これからは自分の立場ってもんを弁えろよ!

 この雌豚がっ!!」

 

 ――今では御覧の有様だ。

 実に都合の良い連中である。

 まあ、これはこれで面白いので、デュストは止めなかった。

 

「う、くっ! あ、あぐっ! うぅっ!

 あっ! あっ! あっ! んくうっ!!」

 

 女は苦悶と喘ぎ、半々といった声色だ。

 デュストが睨みをきかせているせいか、憎まれ口こを叩くものの特に反抗する素振りも見せない。

 

(……物足りないな)

 

 もっと抵抗してくれた方が、楽しみ甲斐があったというのが本音だ。

 無駄にプライドが高い魔族の女が、自分よりも遥かに弱い人間に弄ばれているという催し自体は悪くないのだが。

 

(必死さが足りない)

 

 なんというか、作業地味たモノを感じ始めていた。

 あの魔族の女は、男達が満足するまで我慢していればそれでいいと、そう割り切り出したのだ。

 

「あ、うぅっ! ああああっ!!」

 

 ほのかな桃色の乳首を抓りあげられ、ひときわ高い魔族の声が響いた。

 気を良くした男達は、さらに彼女を責め立てる。

 しかし。

 

(彼女からは絶望が、悲壮が、伝わってこない)

 

 デュストはそう考えた。

 どれだけ酷い扱いを受けても、殺されることは無いと高をくくっているのか。

 自分が立ち去れば、人間の男などすぐ蹴散らせると思っているのか。

 

(もっと面白くしたいところだな)

 

 何かいいアイデアは無いだろうか。

 デュストはしばし黙考し、

 

「おい、君」

 

「は、ひゃいっ!?」

 

 ちょうど近場に居た男に声をかけた。

 その男は裏返った声で返事をする。

 

「そこに散らかっている、あの女の荷物を探るんだ。

 赤色の丸薬があるはず」

 

「わ、分かりましたぁ!!」

 

 デュストの言葉に、一も二も無く男は床に放置されたカマルの荷を漁り出した。

 一切の脇目もふらない必死さである。

 余程自分のことを恐れているらしい。

 まあ、ここでやったことを考えれば、無理のない反応と言える。

 

「ありましたぁっ!!」

 

「うん、見せてごらん」

 

「はい、ここにっ!!」

 

 慌てて足をもつれさせながら、男はデュストの下へ走ってくる。

 その手に握られている物を確認してから、改めて指示を出す。

 

「その丸薬を、あの女に飲ませるんだ」

 

「は、はい?

 あの、これはどんな薬なので……?」

 

「飲ませれば分かる。

 早くやれ」

 

「はいぃっ!」

 

 いちいち細かいことを聞いてきたので、少し苛立った声で返事をしてやった。

 効果は覿面で、男はカマルのところまで全力疾走する。

 

「お、オラ!! これ、飲めっ!!

 早く飲むんだよぉっ!!」

 

「な、何だ――そ、それはっ!?」

 

 魔族の女が、目をかっと開く。

 一目でそれが何か分かったようだ。

 自分の持ち物なのだから、当たり前か。

 

「ふ、ふざけるな!

 そんなものを飲めるか!!

 殺すぞ貴様らっ!!」

 

「うわっ!?」

 

「ひえっ!?」

 

 それまでの態度と打って変わって、全力で抵抗しだす女。

 彼女を取り巻いていた男達が、一人、また一人と殴り倒されていく。

 

(情けない)

 

 肩を竦めるデュスト。

 とはいえ、相手はそれなりの力量を持つ魔族。

 戦う術を知らない人間では、こんなものか。

 

 仕方がないので、デュストは男達に助け船を出すことにした。

 

「暴れるな。

 お前の方こそ殺されたいのか、魔族の女?」

 

「うっ!」

 

 そのたった一言で、女の動きは止まった。

 怯えを孕んだ視線をこちらによこす。

 彼我の実力差をよく分かっているようだ。

 

「飲め。

 命令だ」

 

「……お、お前は、これが何なのか分かっているのか?」

 

「当然だ。

 魔族が開発した妊娠薬だろう?」

 

「―――!」

 

 カマルが息を飲む。

 デュストは気にせず続けた。

 

「魔族は子を為しにくい種族だからな。

 同族同士でまぐわっても、そうそう孕むことは無い。

 だがそれでは種族の存続に必要な子供の数を十分に確保できない。

 そこで作られたのが、その薬だ。

 それを飲むことで、魔族の女は高い確率で受精を行える。

 ――相手が『異種族』だったとしても」

 

 すらすらと説明してやる。

 魔族の女がだんだんと表情を険しくしていく。

 反して、薬の意味を知った男達は下卑た笑みを浮かべた。

 

 ちなみに、この薬は成人した魔族の多くが携帯している。

 だからこそ、デュストもこの女がそれを持っていると考えたのだった。

 

「そういうわけだ。

 さ、早く飲め。

 それとも、今すぐ死にたいか?」

 

「う、う……」

 

 殺気を浴びせてやると、観念したのか自ら薬を口に入れるカマル。

 しっかり飲み込むところまで確認してから、デュストは彼女に近づく。

 

「さて、続きをやって貰う前に、だ」

 

 剣を一閃させる。

 すると、

 

「――あ?」

 

 糸の切れた操り人形のように、魔族の女が崩れ落ちた。

 

「え? な、何だ? 何が?」

 

 カマルは自分の身体に起きたことが分からず、混乱しているようだ。

 

「手足の腱を斬っただけだ。

 別に痛くも痒くも無かっただろう?

 僕がいなくなってすぐに暴れられても興ざめしてしまうのでね」

 

「――あ、あ、貴様!?」

 

 理解が及び、顔を青くする魔族。

 自分がこれからどうなってしまうのか、容易に想像がついたのだろう。

 

(……いい顔だ)

 

 その恐怖に満ちた表情を見て、デュストは満足げに微笑んだ。

 こうでなければ面白くない。

 

「さて、僕はそろそろ行く。

 後は君達の好きにすればいい」

 

「は、はいっ!

 ありがとうございますぅっ!!」

 

 男達が一斉にデュストへ頭を下げる。

 本当に有難がっているヤツが半分、恐怖で言いなりになっているヤツが半分といったところか。

 どちらだろうと構わないが。

 

(まだクロダ・セイイチが来るまで時間はありそうだが――)

 

 いつまでもここに居ても、それはそれで楽しみに欠ける。

 ハンデをつけ過ぎるのはデュストの望むところでは無かった。

 

「はははははっ!! 妊娠薬なんて持ってるとはなぁ!?

 そんなに俺達と子作りしたかったのか!?」

 

「安心しろよ、きっちり孕ませてやるからなぁっ!!」

 

「ひっ――い、嫌だぁっ!!

 お前等の子なんて、誰が孕むかっ!!

 やめろっ!! やめろぉおおっ!!!!」

 

 涙を流して絶叫する魔族。

 逃げ出そうともがくが、彼女の手足は動かない。

 男達は、恐怖に震える女目掛けて殺到していく。

 

「いやっ! いやっ!! いやっ!! いやぁあああああああっ!!!」

 

 そんな彼女の悲痛な声を背に受けて。

 自分の心が満たされるのを感じながら、デュストは黒の焔亭を後にした。

 店に残ったのは、獣のように女を犯す男達と――

 

 

 

 その店の店長とウェイトレス“だった”肉塊が3つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィンガストの路地を、私は走っていた。

 

「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

 

 息が切れる。

 心臓が悲鳴を上げる。

 苦痛で顔が歪む。

 

 だが、脚を止めるわけにはいかなかった。

 私が遅れれば、その分被害は広がる。

 

 ……セレンソン商会の『惨状』を思い出す。

 

「くそっ! くそっ! デュストっ! あの野郎――!!」

 

 思わず口からそんな言葉が飛び出した。

 私は、自分で考えている以上に苛立っているようだ。

 

 ここまで。

 ここまで来て。

 何故、こんな回りくどいやり方をする!

 

 前回の邂逅で思い知らされていたというのに、私はまだデュストの悪逆さを軽く見ていた。

 その結果が――これだ。

 余りの後悔に、自分を殴り殺したくなってくる。

 

 そこへ、

 

「クロダっ!!」

 

 突如、上方から女性の声が聞こえてきた。

 この声は――

 

「リアさん!?」

 

 一旦足を止め、声のした方へと視線を上げる。

 民家の屋根の上に、リアさんが立っていた。

 

「よっと」

 

 そんな声と共に、彼女は私の近くへと降り立った。

 そして私が何か何か言うよりも早く。

 

「デュストを追ってるんでしょ?」

 

 そんな言葉を投げかけられた。

 私は驚きをどうにか抑えて、リアさんに話しかける。

 

「知っていたのですか!?」

 

「まあね。

 今日は街が騒がしいから」

 

 確かに、デュストは自分の行動を隠す気などまるで無いようだった。

 セレンソン商会がそのまま放置されていたことからも、それが伺える。

 まあ、私に見せつけるという目的のためなのかもしれないが。

 

 リアさんは言葉を続けた。

 

「クロダ。

 あいつは今、ギルドの方に向かってる」

 

「冒険者ギルドに!?」

 

「うん。

 あそこ、あんたの知り合いが多いでしょ。

 だから――」

 

 標的にした、というわけか!

 

「ありがとうございます!

 すぐに向かいます!」

 

 彼女に礼を言ってから、走り出そうとする。

 そこへ、リアさんから声がかかる。

 

「ねえ、クロダ。

 あたしも――」

 

「――すいません。

 これは、私の仕事なのです。

 リアさんは、どうかこの街から避難して下さい。

 奴に見つかれば、貴女もまた標的にされかねない」

 

 ついてこようとする彼女を、拒む。

 こればかりは許して欲しい。

 彼女がまた斬られるようなことがあれば、私は本気でどうにかなってしまうかもしれない。

 

「……うん、分かった。

 死なないでね、クロダ」

 

 リアさんも、納得してくれたらしい。

 私は彼女へ頷き返し、

 

「大丈夫です。

 では、行ってきます」

 

 そう言ってから、ギルドへと走る。

 

 

 

 

 ――違和感に気付いたのは、すぐだった。

 全力で走っているというのに、風景が変わらない。

 辺りから、人気も完全に消えている。

 

「……これは」

 

 すぐに思い至る。

 結界だ。

 何者かに仕掛けられた結界に、私は取り込まれた。

 

 こんな街中に、私にも気取らせないような結界を張る。

 そんなことができる人物を、そんなことをしそうな人物を、私は一人しか知らない。

 

「葵さん!!」

 

 その人物の名前を叫ぶ。

 

『ぴんぽんぴんぽーん。

 正解ですよー、誠ちゃん♪」

 

 どこからともなく、彼女の声が聞こえる。

 その気の抜けた口調に若干の苛立ちを覚えつつも、私は葵さんへ声を投げた。

 

「何のつもりですか!?」

 

『何のつもりかって、決まっているじゃないですか。

 誠ちゃんを助けるためですよー。

 このままじゃ、デュストに殺されちゃうでしょう?』

 

「余計なことをしないで下さい!

 私はあの男と戦う!!

 早くしなければ、犠牲者が増えてしまう!!」

 

『あー、やっぱりそう言っちゃいますかー。

 でもね、アタシはこの街の住人より誠ちゃんが大事なんです。

 すみませんが、少しの間――デュストが“飽きて”この街を出るまでの間、そこに居て下さい。

 私の結界の中であれば、あいつに見つかることはありませんから』

 

「――なっ!?」

 

 恐ろしいことを宣告された。

 デュストがこの街を立ち去るまで!?

 戦いを面白くする、とかいうふざけた理由で殺人を犯す男を、そんな長い間放置すれば――いったい、どれだけの人が殺されるか、分かったものではない!

 

「冗談でしょう!?

 葵さん、今すぐ結界を解いて下さい!!」

 

『私は本気ですよ。

 じゃあ、誠ちゃん、また後で』

 

 そんな台詞を最後に、葵さんの声は聞こえなくなる。

 

 体中がざわついた。

 やばい。

 やばすぎる。

 私は、デュストとの戦いしか想定していなかった。

 この状況を、どう打破すればいい……?

 

「葵さん、返事をして下さい!!

 葵さんっ!!

 おいっ!! イネスっ!!!!」

 

 私の叫びは、空しく消えていった。

 

 

 

 第二十二話③へ続く



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③ アーニー・キーン

 

 

 

『おいっ!! イネスっ!!!』

 

 結界の中から、そんな声が聞こえる。

 今まで聞いたことも無い、黒田の怒号。

 

「あははは、完全に怒らせちゃいましたねー」

 

 イネスは空笑いを浮かべる。

 胸がチクリと痛んだ。

 だが、どうしようもないことなのだ。

 こうしなけれが、彼は死んでしまうのだから。

 

 黒田は結界から力づくで脱出しようと、内部で暴れ出した。

 四方八方を飛び回り、拳や蹴り、矢、果ては<爆縮雷光>まで繰り出す。

 

「……無理ですよ、誠ちゃん。

 アタシの結界は、その程度で破れはしません」

 

 内側からの力で壊れる程、イネスの結界は生易しいものではなかった。

 “封域”の二つ名は伊達ではない。

 

「まあ、元々は自分で付けた名前な辺りちょっと間抜けですが。

 それはそれとして――」

 

 イネスは視線を隣に向ける。

 そこには、彼女の協力者――リアが立っていた。

 

 いかにイネスであっても、黒田程の冒険者を完全に閉じ込める結界を、デュストに気付かれぬよう張るのは困難だったのだ。

 そこで、予め結界を作っておき、そこへ黒田を誘導する手段を取った。

 リアを使ったのは、その方が黒田が信用するだろうとの判断である。

 

「ねえ、イネス。

 本当にこれで良かったの?」

 

 リアが尋ねてくる。

 イネスは一つ頷くと、

 

「当然じゃないですかー。

 デュストと戦ったところで勝ち目なんてナッシング。

 こんなの、逃げるが勝ちですよー。

 幸いなことに、デュストはまだ『宣言』をしていませんしね」

 

「……宣言?」

 

「ええ、誠ちゃんと戦うという『宣言』です。

 数少ない、この『戦い』におけるルールの一つとでもいいますか。

 戦いの開始を『宣言』しない限り、殺し合いを始めてはいけない、という取り決めです。

 他にも、場所はウィンガストに限定するとか、一度戦いが始まったら、その決着から1週間以内に次の戦いを始めなければならないとか、色々あるわけですが。

 ちなみに、戦い開始の『宣言』はキョウヤの代理である誠ちゃんにはできません」

 

「何それ。

 クロダに不利なんじゃ」

 

「一応、戦いの場所は誠ちゃんのホームグラウンドですから、ある程度バランスは取れてるんじゃないかなー、と。

 でも公平じゃないってのは仕方ないですよ、ルールを作ったのはアタシ達なんですから。

 ……ルールを取り決める時には、まさか代理として誠ちゃんが選ばれるなんて露にも思ってなかったですし」

 

「……ふぅん」

 

 明らかに納得していない様子で、リアが頷いた。

 納得させてあげる義理も無いので、そのまま流す。

 

「それでですね、リア。

 アナタは、今すぐ室坂陽葵を連れて<次元迷宮>を攻略してきてください。

 ちゃちゃっと2、3日くらいでケセドのところに行っちゃう感じで」

 

「んなっ!?」

 

 リアが驚きの声を上げる。

 

「そんなの、無理でしょ!?」

 

「無理でも何でもやるしかないんですよー。

 迷宮にはガルムが居るはずですから、なんなら協力を仰いで下さい。

 あいつの性格からして、無碍に断るようなことはしないでしょう」

 

「た、確かに、協力してくれそうな雰囲気ではあったけど」

 

「で、ケセドのところへ行ったらすぐにキョウヤを呼び出す。

 後はあいつに任せれば、デュストはどうにかなるでしょう」

 

 おそらくはキョウヤの計画通りになってしまうのが非常に癪だが、背に腹は代えられない。

 デュストが欠けたところで、まだ“こちら”の勝利は揺るがない。

 それよりは、黒田の生存を優先すべきだ。

 

(――あのバカ(デュスト)が勝手に突っ走らなければ、もっときちんと段取りを踏めたのに)

 

 内心、臍を噛むイネス。

 とにかく、仕切り直しが必要だ。

 デュストと戦うのは無理でも、隠れる程度であればイネスの能力で十分可能。

 後はどれだけ早くキョウヤを呼び出せるか次第である。

 

 そう考えているところへ、リアが話しかけてきた。

 

「あ、ちょっと待って!

 ケセドの力を使ってキョウヤを召喚するのはいいけど、それをやると陽葵が死んじゃうんじゃ――?」

 

「え? 今『そんなこと』を考慮する必要あるんですか?」

 

「はっ!?」

 

 リアが絶句する。

 いや、絶句したいのはこちらの方だ。

 この緊急事態に、あんな人形のことを考えてやる暇などない。

 

「あのですねー、リア。

 室坂陽葵と黒田誠一、どっちが大事なんですか?」

 

「へ? あ、そ、それは――」

 

「ついでに言っとくと、誠ちゃん側には世界の命運なんてものまで付いてるんですよ?

 悩むことなんて何もないじゃないですかー。

 室坂陽葵だって、自分が死んで世界が救われるなら、そっちを選ぶでしょう?」

 

「そ、そうとは限らないんじゃ?」

 

「じゃあ、室坂陽葵は世界の危機より自分一人の命の方が大事な人間だと?

 だとすれば、なおさら“そんな奴”のことを気遣うことは無いですよねー」

 

「そ、れは――」

 

「現実的に考えて下さいよー、リア。

 それにほら、1体の力だけなら、それなりに生存できる可能性はありますし」

 

「そうなの?」

 

「ええ」

 

 嘘である。

 1体だろうと何だろうと、龍の力を使えばあんな貧弱な精神は消し飛ぶ。

 とはいえ、こう言っておかないとリアは動く様子を見せないのだから、仕方ない。

 

「じゃ、分かりましたね。

 可及的速やかにケセドに会ってきて下さい。

 その間、誠ちゃんのことはアタシがなんとかしますから」

 

「……う、うん」

 

 ようやく首を縦に振るリア。

 イネスは心の中でため息を吐いた。

 ――彼女の立場も理解できるから、表立って文句は言わないが。

 

「それと、言うまでもないことですけれど、デュストには見つからないように動いて下さいよ?

 室坂陽葵に危害を加えるような真似はしないでしょうけど、アナタは別ですから」

 

「肝に命じとくわ。

 ……ちなみに、もし遭っちゃったら?」

 

「アタシは別の協力者を探します」

 

「助け船は期待するなってことね」

 

「こんな状況ですからねー。

 悪いですけど、アナタに回す余力は無いのです」

 

「大丈夫よ、それ位分かってる。

 最悪の場合でも、別に恨んだりしないから」

 

「それはどうもー」

 

 その言葉を最後に、リアは駆けて行った。

 陽葵と合流するために。

 

「……上手くいってくれるといいんですけどねー」

 

 イネスは結界へと注意を戻しながら、そう小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、別の路地裏。

 2人の女性が対峙していた。

 

「ふふ、ふふふふ。

 お久しぶりです、キョウヤさん。

 なかなか可愛らしいお姿になっておりますわね」

 

「……何の用だ、エゼルミア。

 あいにく、お前に構ってる暇は無いのだが」

 

 キョウヤ――正確にはエレナの体を借りたキョウヤだが――は目の前にいる女、“全能”のエゼルミアを睨み付ける。

 

「いえいえ、大したことではないのですけれど。

 今、街が面白いことになっているでしょう?

 是非、キョウヤさんと一緒に物見でもしようかと思いまして」

 

「お前と一緒に見物する趣味はないな」

 

 すげなく返す。

 が、それでエゼルミアが身を引くわけが無かった。

 

「そんなこと言わないで下さいまし。

 ……いえね、ワタクシ、ずっと不思議で仕方ありませんでしたの。

 クロダさんとデュストさんが戦えば、クロダさんが負けるのは必至。

 だというのに、キョウヤさんもクロダさんも、妙に落ち着いていらっしゃるというか。

『宣戦布告』を避けるために、もっと逃げ回るのかと思っていたのですけれど」

 

「逃げれば他の人間に被害が出ると分かっている状況で逃げるような人間ではない、ということだろう」

 

「そうかもしれませんわね。

 あのお方、性的な趣向を横に置けば極めて善人よりの人格をしているようですし。

 ふふふ、でも――」

 

 エゼルミアはそこで一旦言葉を切った。

 こちらの目を覗き込むようにしながら、続ける。

 

「ひょっとして――ひょっとしたら。

 キョウヤさんなら、一度くらいは『ルール破り』ができるのではないか、と。

 ワタクシ、そう思っているのですよ」

 

 あの余裕も、いざとなればキョウヤが手助けできるからのものではないか。

 そう、エゼルミアは付け加えた。

 

「……だとして。

 お前は、どうするつもりだ」

 

「どうするも何も、ワタクシはただキョウヤさんと共に見物をしたいだけですわ。

 ねえ、ルール通りに戦いが行われるのであれば、キョウヤさんは何の手出しもしないはずでございましょう?

 勇者との戦いは代理に全て任せるという取り決めでしたもの。

 であれば、ワタクシと一緒に居ても、なんら問題はありませんわね?」

 

「私がルールを破るとしたら?」

 

「それを見過ごすわけにはいきませんわ。

 そうでしょう?

 人との約束は守りませんと」

 

「……ふんっ」

 

 不機嫌そうに鼻をならしてやる。

 それを見て、エゼルミアは笑みを深くした。

 

「いいだろう。

 お前の誘いに乗ってやる」

 

「それでこそキョウヤさん、ですわ。

 さ、クロダさんとデュストさんの戦いを特等席で御覧に入れましょう。

 もっとも――イネスさんが色々と企んでいるみたいですわね?

 これもキョウヤさんの思惑の内なのかしら?」

 

「ノーコメントだ」

 

 なるべく感情を込めずに、キョウヤは返答した。

 

「あらあら、つれませんこと。

 まあいいですわ。

 クロダさんが生き残るのであれば、それはそれで楽しいですからね。

 ふふ、ふふふふ、直接戦闘ならともかく、かくれんぼであればイネスさんに分がありますかしら」

 

「知らんな。

 そんなことに興味は無い」

 

「ふふふ、ふふふふ、大事な大事な“勇者代理”を匿ってくれているのですから、感謝の一つくらいしてあげてもよろしいのでは?」

 

「私が? あいつに?

 文句なら山ほど言いたいが、感謝する謂れは無い」

 

「ふふ、ふふふ。

 可哀そうなイネスさん」

 

 会話の後、キョウヤの視界が暗転した。

 気付けば、街の小高い建物の上。

 エゼルミアのスキルによるものだろう。

 なるほど、見物するにはもってこいの場所だった。

 

「さささ。

 ゆっくりと楽しもうじゃありませんか。

 ふふふふ、なんでしたら、お酒や食べ物も用意しますわよ?」

 

 眼下に広がる景色を眺めて、エゼルミアはそんな言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――あれ?」

 

 その日。

 初めて、デュストが戸惑いの声を出した。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。

 まさか、まさか君達――」

 

 おろおろと周囲を見渡すデュスト。

 そこには、彼の想像を超えた光景が広がっていた。

 

 

「――君達、こんなに弱いのか?」

 

 

 ……そう。

 今、デュストの周りは瓦礫で埋もれている。

 全て、“冒険者ギルドの建物”の残骸だ。

 

「参ったな。

 仮にも冒険者なのだから、この程度で終わるわけがないと思ったのだが。

 僕の考えが甘かったようだ」

 

 動く者のいないギルド跡地を見渡して、デュストは頭を振る。

 

 たった一度だ。

 たった一度、スキルを使っただけで“こう”なってしまったのだ。

 黒田の知人である冒険者を探そうとしてギルドを訪れ、一人一人確認するのも面倒だからと広範囲攻撃スキルを使用したわけだが。

 

「脆すぎるなぁ。

 人も、建物も」

 

 冒険者はもっと、頑強な人材が揃っていると思っていた。

 ギルドはもっと、堅牢であると思っていた。

 当初の見込みでは、数十人の冒険者との戦闘を“期待”していたのに。

 

「拍子抜けしてしまったけれど、目的は達したか。

 さて次は――」

 

 落胆する気分をどうにか立て直し、デュストはその場を去ろうとした。

 2歩、3歩と進んだところで、止まる。

 

「……ところで。

 そこにいる人達はずっとそうしてるつもりなのかな?」

 

 瓦礫の山の一つを見つめながら、そう言い放つ。

 しばしして、ガラガラと音を立てて山が崩れた。

 

「なんの了見だ、貴様」

 

 その中から、一人の男が立ち上がった。

 ぼさぼさの髪に険しい顔。

 殺気を漲らせた鋭い瞳で、デュストを睨んでくる。

 

「ちょーっ! ちょっと、やばいっすよ兄貴!!

 アレ、絶対手ぇだしちゃいけない類の相手ですってば!!」

 

「無駄だよ、サン。

 もうバレてるんだから」

 

 その男の足元には、さらに2人の人物が座り込んでいる。

 一人はどことなく間の抜けた風貌の男で、もう一人は短い銀髪の少女だった。

 おそらく彼の仲間なのだろう。

 

「良かった良かった。

 まだ無事な冒険者が居てくれて」

 

 心底安心した面持ちで語り掛けるデュスト。

 その態度に腹を立てたのだろう。

 男は怒りを込めた口調で言葉を吐き捨ててきた。

 

「あんな雑な技で殺されてたまるか!」

 

「僕が<聖壁(セイント・ウォール)>使わなかったら危なかったけどね」

 

「その後あっしが<影隠れ(ハイドインシャドウ)>使ったのは無駄になっちまいやしたけどね」

 

 男の台詞に、他の2人が被せてくる。

 

(なるほど、アレに反応できたのか)

 

 銀色の髪の少女が防御スキルで防ぎ、盗賊風の男――あの装備は<暗殺士>か?――が気配遮断スキルで隠れた。

 もう少しで、彼らに気付かず帰ってしまったかもしれない。

 少々気の抜けるやり取りをしている連中だが、相応の腕は持っているようだ。

 

(……んん?

 いや、待てよ)

 

 そこで、ようやくデュストは気付いた。

 

「ああ、君達、アーニー・キーンとサン・シータ、それにミーシャ・メイヤーか」

 

「あ、あっるぇ?

 あっしら、知られてますよ?

 ひょっとしていつの間にか有名人になっちゃってたり!?」

 

「うん、ちょうど君達を殺しに来たところなんだ。

 いや、会えてよかったよ」

 

「あひぃいいいいいっ!!?

 藪蛇ぃいいいいっ!!!?」

 

「もう気付かれてたんだから藪蛇ってことはないでしょ」

 

 取り乱すサンを、ミーシャが宥める。

 2人を無視して、最初の男――アーニーが口を開いた。

 

「俺達を殺すためにこんなことをした、と?」

 

「君達だけじゃないけどね。

 まあ、メインターゲットの一つであることは確かだ」

 

「ふざけた奴だ。

 態々それを言う辺り、見逃す気は無いんだな?」

 

「当たり前だろう」

 

「そうか」

 

 アーニーが刀を抜く。

 なるほど、そういえば彼は<侍>だったか。

 

()り合う前に、名くらい名乗ったらどうだ」

 

「ああ、これは失礼。

 僕はデュスト。

 名前くらい、聞いたことはないかな?」

 

「――“光迅”のデュストか。

 なるほどな」

 

 一つ頷いてから、アーニーは構えた。

 

「ちょい待ち!! ちょい待って下さいよ、兄貴!!

 何納得してるんすか!!

 デュストっつったら五勇者の一人っしょ!!

 そんな御大層な奴がこんなとこにいるはずが――」

 

「奴がこのギルドを潰したスキルが何かわかるか?」

 

 喚くサンに対し、アーニーは静かに問う。

 

「へ? いや、分からんすねー。

 なんかすげぇ上級スキルじゃないんですか?」

 

「違う。

 あれは、<旋風斬り(トルネードバッシュ)>だ」

 

「へ?」

 

 サンがきょとんとした顔になった。

 実に間抜けな顔だ。

 

「う、うっそだろ兄貴、それ、中級スキルじゃないっすか!?」

 

「ああ、ただの中級スキルだ。

 その中級スキルで、これだけの破壊を生みだしたんだよ、あいつは!

 そんな芸当ができる奴、この大陸にそう何人もいてたまるか!

 あいつは、正真正銘五勇者なんだろうよ!!」

 

 吐き捨てるようにアーニー。

 サンはしばらく沈黙してから、

 

「ひゅ、ひゅーぽっぴー?」

 

「なんて声出してるの、サン」

 

 サンの意味不明な鳴き声に、ミーシャがつっこみを入れた。

 一方でアーニーは一歩踏み出し、叫ぶ。

 

「で、その五勇者の一人が俺達を殺そうとする理由は!?」

 

「説明してあげてもいいんだけど――止めた。

 あんまりたらたら無為な時間を過ごしても仕方がないし。

 それに、知っても知らなくても君が辿る末路はそう変わる物でも無いよ」

 

「ほざけっ!!」

 

 アーニーが怒号を飛ばす。

 そのまま振り返らずに後ろの2人へと声をかける。

 

「俺が奴と斬り合う!

 援護しろ!!」

 

「あ、あいあいさー!!」

 

「了解!!」

 

 返事を聞くよりも早く、アーニーはこちらへ向けて突っ込んできた。

 デュストもまた剣を抜き、迎撃する。

 

「ほほう、なかなか速いじゃないか。

神速(オーバークロック)>でも使っているのかな?」

 

「答える義理はない!!」

 

 高速の斬撃を次々と繰り出すアーニー。

 それをひょいひょいとかわしてから、返す刃で斬りつける。

 ――が、デュストの剣はアーニーの身体にあたる直前で止まってしまった。

 

「<防護(プロテクション)>か。

 いいタイミングだね」

 

 離れたところで杖を構えるミーシャへ告げる。

 彼女がアーニーに対して防御スキルを発動したのだ。

 

「僕の攻撃を止める辺り、効果も高いね。

 ……よいしょっと」

 

 デュストは軽い掛け声を共に剣へ力を込め、“スキルで張られた防壁ごと”アーニーを吹き飛ばした。

 

「う、おぉおおおおおっ!!?」

 

 後方へ投げ出されつつも、アーニーは刀を地面に突き刺し体勢を立て直す。

 

「なんだその攻撃力!!?

 頭おかしいんじゃねぇか、あいつ!!」

 

「文句言わずに!

 サンも援護してよ!」

 

「わ、わーってるってばよ!!」

 

 追撃をかけようとしたデュストへ、サンが投げナイフを飛ばす。

 <武器投げ(ウェポンスロー)>だ。

 熟練度はそれなり高いようで、一度に10を超えるナイフがデュストを襲う。

 

 それを軽いステップで全てかわすと、アーニーへと斬りつけた。

 間一髪、アーニーは刀でそれを受ける。

 

「あ、足止めにもなんにゃーい!?

 移動が速すぎて<影縫い(シャドウスナッチ)>も狙えないとかウケるんですけどーー!!!?」

 

 向こうではサンが頭を抱えていた。

 あっさり無視し、アーニーへの攻撃を続けるデュスト。

 

「がっ!! ぬっ!! ぐぅうっ!!」

 

 決死の形相で捌くアーニー。

 彼の身体を薄い光の膜が覆っていた。

 おそらく、ミーシャが<聖盾(セイント・シールド)>をかけたのだろう。

 対象の防御行動・防御能力に補正をかけるスキルだ。

 それの効果で、どうにかアーニーはデュストの攻撃を耐え凌いだ。

 

「うっ!! ぐぬっ!! だぁあっ!!」

 

 だが、圧される。

 どんどん圧し込まれていく。

 スキルの援助を受けてなお、デュストの攻勢は圧倒的だった。

 

 ――とはいえ。

 

(意外と粘るな)

 

 思いのほか抵抗するアーニーに、デュストの心境に変化が現れた。

 はっきり言えば、“面倒臭い”という思いがよぎったのだ。

 

(もう、さくっと終わらせるか)

 

 デュストは連撃を“維持したまま”、スキルを発動させる。

 

「<強撃(バッシュ)>」

 

 <戦士>が持つスキル――武技(バトルアーツ)の基礎中の基礎。

 強力な一撃を放つという、単純明快なスキルだ。

 使い手がデュストともなれば、発動に予備動作など一切不要。

 だが、ただでさえ強力なデュストの斬撃が、<強撃>による補強でさらに勢いが増し。

 それは最早、今のアーニーに防げるようなものではなく――

 

「おや?」

 

 デュストが首を傾げた。

 

 <強撃>はアーニーを捉えていない。

 いや、そもそも“発動すらしていなかった”。

 代わりといっては何だが、デュストの体を青白い光が包んでいる。

 

「<術理妨害(スキル・インタラプション)>!!

 うおっしゃあ、決まったぁっ!!!

 こんなこともあろうかと覚えておいたのさぁっ!!」

 

 大声出してドヤ顔しているサンが目に入る。

 どうやら、彼のスキルによってこちらのスキル発動が妨げられたらしい。

 

(これは――彼を甘くみていたな)

 

 <術理妨害>は<盗賊>の最上級スキルのはずだ。

 まさかあんな間の抜けた雰囲気の男が習得に至っていたとは。

 

「もらったぁっ!!」

 

 この機を逃さず、アーニーが攻撃に転ずる。

 

「くらえっ!!

 <金剛刃(ダイヤモンド・エッジ)>!!」

 

「なっ!?」

 

 初めて。

 デュストの顔が強張った。

 <金剛刃>もまた、最上級スキルの一つ。

 

 文字通り、金剛石(ダイヤモンド)すら容易く切り裂く一撃を放つスキル。

 特徴的なのは、この攻撃は“あらゆるスキルによる防御”を一切合切全て無視する、超高速の斬撃だということ。

 防御は不可能、回避も至極困難。

 しかもアーニーはこれを<神速>(高速起動)の最中に使っている。

 デュストとて、これをモロに食らえばただでは済まない。

 

 

 ……だから。

 

 

 不意をつかれたので、思わず。

 ついつい、反射的に。

 デュストは、“思い切り斬ってしまった”。

 

「――――がっ!?」

 

 アーニーの苦悶の声。

 その身体には縦一文字に深い斬り傷が刻まれている。

 

 一瞬遅れて、その傷から大量の血が噴き出る。

 

「――――っ」

 

 声も無くその場に崩れ落ちるアーニー。

 デュストは、<金剛刃>が発動するよりも遥かに速く、彼を斬ったのだ。

 

「あー、やっちゃったなぁ」

 

 頬をぽりぽりと掻く。

 本気を出すつもりなど無かった。

 適当に楽しめるよう、“加減して”戦おうと思っていたのに。

 

「まあ、やってしまったものは仕方ない。

 いやはや、大したものだよ君達のコンビネーションは。

 一瞬とはいえ僕に本気を出させたのだからね」

 

 健闘をたたえて、パチパチと拍手を送る。

 皮肉ではなく、デュストは心から彼らを褒め称えていた。

 

「そ、そんな……兄貴が、一撃で……?」

 

「次元が、違い過ぎる――」

 

 もっとも、サンとミーシャにそれを素直に受け取る余裕はないようだったが。

 2人とも顔を青ざめ、デュストと倒れたアーニーを交互に見ていた。

 

 そんな彼らへ、デュストは一歩一歩近づいていく。

 

「さてと。

 実に陳腐な台詞を吐かせてもらおう。

 ”次は、君達の番だ”」

 

「ひ、ひぃいいいいっ!?」

 

「くっ!!」

 

 悲鳴を上げるサン、後退りするミーシャ。

 もう、2人には抵抗する術はなく――

 

 

「待で」

 

 

 ――後ろから、声がかけられた。

 はっとして、振り向く。

 

「お前の、相手(あいで)ば、俺、だ――」

 

 立ち上がっていた。

 確実に仕留めたはずの、デュストによる全力の斬撃を食らったアーニーが、立ち上がっていた。

 

()い。

 まだ、終わっでないぞ」

 

 脚をふらつかせ、体勢もろくに定められない。

 それでもアーニーは、刀を構える。

 

「……あ、兄貴ぃ」

 

「……アーニー」

 

 2人が呆然と呟くのが聞こえる。

 デュストもまた、信じられない面持ちで彼を見つめる。

 そして、

 

「は。

 はっはっはっはっはっは!!」

 

 笑った。

 腹の底から笑った。

 

 相手を蔑む嗤いではない。

 本気で面白い相手だと思ったから、笑ったのだ。

 

「素晴らしいぞ、アーニー・キーン!

 まだ戦う(やる)のか!

 まだ戦える(やれる)のか!

 ああ、素晴らしい!! 素晴らしい!!!」

 

 笑みを消して、剣を構える。

 

「褒美をやろう。

 僕の奥義を見せてやる。

 本来、君程度の力量(レベル)の相手に晒していい代物では無いんだ。

 喜んで受け取り給え」

 

 デュストの身体が、光を放っていく。

 スキル発動による光彩(エフェクト)とは異なる、黄金色に輝く眩い光。

 それが全身を覆った直後――

 

 

 

 ――奥義・光迅(ライトニング・オーバー)

 

 

 

「え? へ? え? え?」

 

「な、何が――?」

 

 サンとミーシャはただ戸惑う。

 現状を理解できていないようだ。

 

 ……デュストの前には、ボロ雑巾のようにズタズタに切り裂かれた、アーニーが転がっていた。

 

光迅(ライトニング・オーバー)

 自身の体を“光粒子化して”文字通り光速で戦闘を行う技法さ。

 といっても、君達には理解できないかもしれないが」

 

 改めて、デュストは2人へと向き直る。

 

「……そうだな。

 君達にも、なにかご褒美をあげようか。

 おい、君」

 

「あ、あっしに、何か、御用で?」

 

 震える声で、サンが答える。

 

「うん、もしこれから僕に一太刀でも浴びせられたら。

 後ろにいる“彼女に手を出す”ことは止めてあげよう」

 

「――う、あ」

 

 デュストが放つ圧迫感に気圧されたのか、後ろへ下がっていくサン。

 だが、その身体がミーシャに当たったところで、彼の後退は止まる。

 

「…………」

 

 サンはじっとミーシャを見る。

 一つ、二つ、首を振ってから、

 

「……く、そ。

 ちくしょう――ちくしょぉおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 猛然と、デュストへ飛びかかってきた。

 

 

 

 その後。

 ギルド跡地では、断末魔が“2つ”響く。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ」

 

 片膝をつき、肩で息をするデュスト。

 心臓が破裂しそうな程にバクバクと音を立てている。

 体中が軋み、激痛が隅々にまで行き渡っている。

 

「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ――や、やった!」

 

 だが、彼が発したのは歓喜の声。

 ――今、デュストの目の前には、“数十匹”の魔物が斃れていた。

 

「な、ななななな、なな、なななななな――!?」

 

 遠くで、イネスが理解不能な単語? 叫び? 鳴き声? まあ、そんなものを上げていた。

 

 

 

「なんなんですかー!?

 なんなんですかー、今のー!?」

 

「五月蠅いぞ、イネス」

 

 キョウヤがそんな彼女を一喝する。

 

「いや、イネス殿の驚きも尤もでござる!

 あれは、いかなる業なのか!?

 一瞬で魔物の大群を葬るとは――!?

 いったい、いかようなスキルをデュスト殿は使ったでござる!?」

 

 興奮を隠そうともせずに、ガルム。

 そんな彼へ、エゼルミアが『答え』を教える。

 

「――ふふ、ふふふふ。

 使ったのは、<加速(ヘイスト)>ですわね」

 

「なんと!?

 いや、しかし<加速>は下級スキル――少々体の動きが早くなるだけのものではござらぬか!?」

 

「それは“一般的な”<加速>でございましょう?

 デュストさんは熟練度を徹底的に高め、それを多重に行使――効果を極大化したのですわ」

 

 エゼルミアの後を、キョウヤが継ぐ。

 

「極限まで超高速化された身体は物質の枠を外れ、光へと昇華された。

 比喩でなく、光の速さで動けるわけだ。

 もっとも、動作は光速でも知覚や思考は人間のままだからな、制限は自ずとかかる。

 負担も通常のスキルに比べ桁違いにでかいから効果時間は数瞬、連続での使用もできまい。

 それに、身体を光粒子化することによる不具合も生じる。

 私の傍では決して使わないよう厳命しなければ」

 

「素直に祝福できないんですかね、このへそ曲がり」

 

 解説するキョウヤに、イネスが冷たい視線を送る。

 

「うん、よくやったと思っているぞ。

 デュストは、スキルの新たなステージに到達した。

 ――私に、一歩近づいたわけなのだから」

 

「いや、どんだけ上から目線なんですか、アナタ!?」

 

 

 

 騒々しく騒ぐ仲間を後目に、デュストは喜びに打ち震えていた。

 

(やった! やった! やった! やった――!)

 

 痛みで身体が動けないのでなければ、盛大にガッツポーズを決めていたことだろう。

 

(これで! これで――あの人の、キョウヤ様のお役に立てる!!)

 

 デュストは、ずっと不安だった。

 自分は、キョウヤの足手まといなのではないか。

 自分などいなくとも、キョウヤにとって何の不都合もないのではないか。

 

(キョウヤ様に並べたとは、思えないけれど――)

 

 この奥義――自分の二つ名から取って“光迅(ライトニング・オーバー)”と名付けた――の習得によって、その不安は幾分拭い取られた。

 名乗った時は、相当御大層な二つ名を付けてしまったと後悔したが、今、彼は名実ともに『光』となったのだ。

 

(この力で、キョウヤ様を手助けする!

 そして、平和を――皆が平穏に暮らせる世界を手に入れるんだ!!)

 

 決意を新たにしたところで。

 疲労と激痛によって、デュストの意識は落ちるのだった。

 

 なお、その後1週間ほど痛みは引かず、デュストはベッド暮らしを余儀なくされた。

 

 

 

 第二十三話へ続く



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第二十三話 決戦
①! リア・ヴィーナ


 

 

 

 黒田誠一という男性を、気になりだしたのは何時の頃からだっただろうか。

 

 ローラは昔を思い出す。

 最初は、その他大勢の一人だったはずだ。

 彼女の身体を求める男達。

 その中の一人が、黒田だった。

 

 毎日のように複数の男達と関係を結んだローラにとって、黒田は然程特別な相手では無かった。

 当時の彼女は、一人一人の男の顔を気にする余裕なんてなかったから。

 身体を徹底的に穢され、その上最愛の夫を失ったローラは、ひたすら享楽に耽るしか心を保つ術が無かったのだ。

 

 だから、“黒田の存在に気付く”まで、何度彼に抱かれたか、実は覚えていない。

 

 黒田のことをはっきりと意識したのは――

 あれは、そう。

 なんてことはない、朝の出来事。

 

 

(……今、何時でしょう)

 

 ベッドの上で気だるげに身を起こすローラ。

 外から日が差し込むので、夜が明けたのは確かなようだ。

 

「……身体、だるい」

 

 ぼそっと呟く。

 昨夜の男はやたらとしつこいヤツだった。

 何度も何度も、膣に精を吐きだされ、それでもなお責め立てられる。

 幾度絶頂したのか、とても数えられたものでは無かった。

 

「別に、いいんですけどね」

 

 むしろ、助かる位だ。

 頭がぶっ飛んでしまえば、その分嫌なことを考えないで済む。

 

(いっそ、壊れてしまっても)

 

 そう思ってみても、まだローラは正気でいる。

 とっかえひっかえ男に抱かれている彼女を、正気だとみなせるのであれば、だが。

 

「……シャワー、浴びなきゃ」

 

 散々男の精を浴びたのだ。

 別に精液をかけられることに抵抗はないが、あのガビガビとひっつく感触は好きでない。

 

 重い体を引きずって、ベッドから降りるローラ。

 

「……あれ?」

 

 ようやく気付いた。

 自分の身体は、ほとんど汚れていない。

 昨日、あれ程汚されたというのに、だ。

 

「……ベッドも」

 

 男の精液があちこちに飛び散っているはずのベッドも、綺麗な様子だった。

 ここだけを見れば、昨日のアレが夢だったようにも思える。

 

(私の身体をタオルで拭いて、ベッドも整えた人がいる――?)

 

 そういえば、前にも同じことがあった気がする。

 あった気がするが――いつのことだったか、誰を相手にしていた時だったか思い出せない。

 そもそも、ここ最近物事を記憶するという行為もほとんどやっていないのだから仕方ない。

 何もかも、惰性で生きている。

 

「まあ、別にいいか」

 

 その言葉で、ローラはこの件を忘れることにした。

 どうだっていいことなのだ。

 朝、ザーメン塗れになっていようと、綺麗な体でいようと。

 男に抱かれればまた汚れるだけ。

 

「朝食、食べますか」

 

 のろのろと、リビングに向かう。

 食事をとるのもおっくうだ。

 でも、欠かす訳にはいかなかった。

 朝、ちゃんと食べないと、その日の仕事ができない。

 

 仕事。

 夫と一緒に始めた、マジックアイテム屋。

 ローラは、この店の経営だけは止めなかった。

 どれだけ男に求められても。

 どれだけ精根尽き果てても。

 この、最後の思い出を維持することだけが、自分が生きている意義とすら考えている。

 

「――――えっ!?」

 

 突然、ローラは叫ぶ。

 リビングから香りが漂ってきたのだ。

 

 それは、コーヒーの香り。

 余人からすれば、ただそれだけのモノだった。

 驚くほどのものではない。

 

 だが、ローラにとっては違う。

 そのコーヒーの香りは、違うのだ。

 何故なら、それは――

 

(ウィリスさんの、コーヒー……!?)

 

 亡き夫がよく煎れてくれた、コーヒーの匂い。

 それが、リビングから漂ってきたのだ。

 

 夫のウィリスが、いつも作ってくれたコーヒー。

 ローラが不機嫌な時、ご機嫌取りに使われたコーヒー。

 疲れた時に、差し出してくれたコーヒー。

 その香が、鼻孔を満たしてくる。

 

「あ、あ――」

 

 ローラは、駆け出した。

 

(ウィリスさん――!

 ウィリスさん、ウィリスさん、ウィリスさんウィリスさん――!!)

 

 心の中で、夫の名を連呼しながら、彼女はリビングのドアを開けた。

 そこには――

 

「おはようございます、ローラさん。

 今、お目覚めですか?

 勝手をして申し訳ないのですが、ありあわせのもので朝食を作らせて頂きました」

 

「――え?」

 

 そこに居たのは、夫ではなかった。

 夫とは似ても似つかぬ、黒髪の男。

 昨夜、自分を抱きに来た男だ。

 

 ――でも。

 

「どうかされましたか?

 何やら不思議そうな顔をしておられますが?」

 

 微動だにしないローラを見て、夫ではない男が話しかけてくる。

 

 夫のコーヒーと同じ匂いがしたのは、材料が同じだからだろう。

 おそらくこの男はキッチンにある物を適当に使って料理したのだ。

 だから、偶々夫が使っていたコーヒー豆を使って、偶然夫と同じようにコーヒーを煎れただけ。

 

 ――でも。

 目の前にあるのは、夫のコーヒーなのだ。

 ローラが、ずっと忘れられなかった、夫の思い出なのだ。

 

 何故か分からないが、視界が潤んできた。

 上手く、相手の顔が見えない。

 

「え? え? ど、どうしました?

 あ、勝手に使ったのはまずかったですかね!?

 申し訳ありません、材料費はきちんと払いますし、何でしたら同じ物をすぐ買ってきますので!」

 

 ローラの顔を見た男が戸惑いだす。

 昨日は彼女がどれだけ泣き叫んでも責めを緩めなかったくせに、こんなちょっとした涙で動転するとは。

 そのことが、少し、おかしかった。

 

 瞳から涙をこぼし、口にわずかな笑みを浮かべて、ローラは口を開く。

 

「――あの」

 

「な、何でしょう?」

 

 どぎまぎして、男が答えた。

 

「貴方の、お名前を教えて貰えませんか?」

 

「名前、ですか?

 最初にお会いしたとき名乗った気もしますが――私の記憶違いですかね。

 黒田です。

 黒田誠一と申します」

 

「クロダ・セイイチ……」

 

 口の中で彼の名を反芻する。

 この瞬間から、ローラにとって黒田はその他大勢で無くなった。

 

 

 

 ……誰かに聞かれたら、きっと笑われる。

 蔑まれることすらあるだろう。

 

 “彼の煎れたコーヒーが、夫のそれと同じ匂いがしたから、気になってしまった”だなんて。

 

 

 

 

 

 

 そんな回想はよそに。

 

「~~♪ ~~~~♪」

 

 ローラは上機嫌に街を歩いていた。

 手には、つい先ほど市場で買った食材が抱かれている。

 

(今日は、クロダさんが夕飯を食べにくる予定、と)

 

 頭でスケジュールをチェック。

 つい数日前、黒田と一緒に夕飯を食べる約束をしていたのだ。

 最近、どうにも彼は忙しいようで、プライベートで一緒する機会がなかなか少なくなっていた。

 その分、お仕事ではほぼ毎日一緒なわけだが、流石に<次元迷宮>内では黒田もローラへ手をだしてこない。

 いや、白色区域や緑色区域では割と頻繁に弄られていたのだが、黄色区域に入ってからはずっと真剣モードなのだ。

 

(……まあ、真面目にしているクロダさんも格好いいんですけど)

 

 というより、日中はずっと真面目な状態でいて欲しい。

 変態になるのは夜だけ、というわけにはいかないのだろうか。

 

「そうはいかないんでしょうね……」

 

 諦め半分に呟く。

 彼の変態を直すのは、あのキョウヤでさえ手を焼いているというのだから、並大抵のことでは無いのだろう。

 

「……んん?」

 

 歩いていて、ふと気づく。

 前から見知った人物が歩いてきた。

 セドリックだ。

 

「おお、ローラさん。

 こんなところで奇遇だね。

 夕飯の買い物かい?」

 

「こんにちは、セドリックさん。

 ええ、そうです。

 今日はクロダさんがうちに来るので」

 

「おっと、そうだったか!

 通りでたくさんの荷物を持っているわけだ。

 すまないね、呼びかけてしまって」

 

「いえ、別に急ぎというわけでもありませんから」

 

 セドリックが頭を下げようとするのを止める。

 

 セドリック・ジェラード。

 この街有数の資産家にして――ローラを性人形に堕とした人物。

 だが、その件に関して彼女はもう言及しないことにしていた。

 別に許したわけではない。

 許したわけでは無いが、言ったところで過去が変わるわけでもない。

 壊したのは彼だが、彼女が現状に回復するまでアレコレと世話をしたのも彼なのだ。

 それこそ、店の経営から、ローラの治療法模索、周囲の人間関係構築に至るまで。

 憔悴しきった様子で毎日ローラのために駆けずり回る……そんな姿を見せられてまで憎しみを維持できるほど、ローラの心は強くなかった。

 それに、夫が死んだのはセドリックが原因ではない、ただの事故、偶然だ。

 

 だから、彼女はもう何も口にしない。

 憎悪についても、感謝についても。

 ただ、店に通う常連として彼を扱っていた。

 

「……おや?」

 

「どうしました?」

 

 急にセドリックが怪訝な顔をしだす。

 

「いや、今日はなんだか街が騒がしいな、と思ってね」

 

「……そうでしょうか?」

 

 そうは言われても、ローラにはさっぱり分からなかった。

 いつも通りの街並み、いつも通りの人の流れだ。

 だが、セドリックは前言を翻さなかった。

 

「昔取った杵柄というかなんというか。

 これでも鼻が利くんだよ、私はね。

 ローラさん、今日は早めに帰った方がいい。

 なんなら、私が送っていこう」

 

「そ、そうですか?」

 

 彼がここまで強硬に主張するというのならば、何かあるのだろう。

 商売の関係で色々危険な橋を渡ってきた人物だ。

 ローラよりも、そういうことについて敏感なのも頷ける。

 

「では、お願いします」

 

 ローラは素直に従うことにした。

 半信半疑ではあるが、どちらにせよ今は帰宅する途中なのだ。

 どこかへ寄り道するつもりもない。

 

 それに、勢い余ってかなりに食材を買ってしまった。

 ちょうど、荷物持ちも欲しかったところなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒナタ、早く! 急いで!」

 

「わ、分かってるって!」

 

 家の中で、2人の少女が慌ただしく動いていた。

 ……失礼、1人は少年だったか。

 

「で、でもいきなりケセドのとこ行くって、大丈夫なのか!?」

 

「分からない!

 分からないけど、やるしかないでしょ!!」

 

「――だ、だよな」

 

 不安げな表情をする少年――室坂陽葵に、魔族の少女――リア・ヴィーナが一喝する。

 ……言っては何だが、彼は本当に少年なんだろうか。

 遠目から見ると、完全に少女の容貌にしか見えない。

 ショートカットの金髪に蒼色の双眸。

 “魔王を幼くしたら”こんな容姿になるのだろう。

 

「……よし、終わった!

 いけるぞ、リア!」

 

「うん、それじゃ、早く『青の証』を起動して!」

 

 <次元迷宮>へと赴く準備が完了したようだ。

 2人とも冒険者用の装備に身を包み、いつでも探索が行える格好だ。

 

 

「それは、よくないな」

 

 

 “デュスト”は、そこで声をかけた。

 

「え?」

「あ!!」

 

 2人の声が重なる。

 少年は戸惑い、少女は緊迫と、その意味合いは違っていたが。

 扉を無理やりこじ開け、デュストは彼らの家の中へと入る。

 

「……でゅ、デュスト!!」

 

「こ、こいつが!?」

 

 リアの言葉に陽葵もまた驚きの声をあげ、顔を強張らせた。

 自分が何者で、何をしに来たか、理解しているのだろう。

 

 こちらを凝視するばかりで動こうとしない2人に対し、デュストは声をかけた。

 

「ムロサカ・ヒナタ。

 君をどうこうするつもりは今のところないのだけれど。

 しかし、これから君の命運が決まる一戦が行われようとしているのに、一人そこから逃げ出すのは感心しない」

 

 陽葵の顔を見据えて、そう言う。

 

「お、オレの、命運?」

 

「そうだよ。

 僕がクロダ・セイイチに勝てば、“君の所有権”は僕に移る。

 そういう『ルール』なんだ。

 知らなかったかな?」

 

 恐怖で固まりながら質問してくる陽葵に答えてやる。

 どうやら、彼は黒田やキョウヤから何も説明されていないようだ。

 

「君はこの戦いの勝者が手に入れるトロフィーのようなものだからね。

 これから僕と黒田が一戦交えるところで、肝心の『景品』がその場に無いのでは、ちょっと物足りない。

 そうだろう?」

 

「そ、そんな勝手な――!」

 

「勝手をしてるのは君の方だよ?

 この『ルール』があるから、今まで自由に行動できていたというのに。

 別に、すぐ君を拘束しても良かったんだから」

 

 憤る陽葵を、デュストは呆れながら諫める。

 

 勇者達は、いつだって陽葵を手に入れることができた。

 それをしなかったのは、“室坂陽葵の初期所有権はキョウヤが持つものとする”というルールがあったからだ。

 

(まあ、ムロサカ・ヒナタを手元に置いたところで、何かあるわけでもないのだけれど)

 

 彼の役割は、龍の力の容器であること以外、何もない。

 最後に陽葵を所有することに意味はあるが、途中所有する者に特にメリットはないのだ。

 だからこそ、勇者達はその『ルール』を受け入れた。

 

 ……彼の容姿を鑑みるに、ガルム辺りは喜んだかもしれないが。

 

「うん、ムロサカ・ヒナタの方はそれでいいとして、だ。

 ――リア・ヴィーナ。

 君はどうしようか?」

 

「――!!」

 

 彼女の身体がびくっと震えた。

 それを気にも留めず、デュストは言葉を続ける。

 

「本当はね、前に一回斬ってるから、今回は別にいいかとも思っていたんだけれど。

 でも会っちゃったからなぁ。

 それに――彼を逃がそうともしてたみたいだし」

 

「……どうするつもり?」

 

 気丈にも睨み付けてくるリア。

 

 ちなみにだが、彼らが本当に“逃げる”つもりだったとは、デュストも考えていない。

 大方、今すぐにケセドのもとへ赴き、キョウヤを召喚する心づもりなのだろう。

 

(もっと早くその判断をすべきだったね)

 

 遅すぎたと断じざるを得ない。

 デュストが来る前に、彼らはケセドと遭わなければならなかったのだ。

 そうすれば、また話は違っただろうに。

 もっとも、今更それを指摘したところで、どうにもなるまい。

 嫌がらせ程度にはなるだろうが、そこまでする気はデュストにも無かった。

 

「――うん、そうだね。

 ムロサカ・ヒナタの件に関する罰も込めて。

 嬲り殺しにしてあげようか」

 

 言うと同時に、デュストはリアの腹へ蹴りを放った。

 

「お、ご――っ!?」

 

 水平に吹き飛ばされ、彼女は部屋に壁に激突する。

 

「がはっ!? げほっ!?」

 

 崩れ落ちて咳き込むリア。

 それなりに力を込めたつもりだが、流石に魔族。

 一撃で致命傷とはいかなかい。

 いや、そうなるように力を調節したのだけれど。

 

「り、リア―――!?

 くそっ!! お前っ!!」

 

 陽葵が激高し、殴りかかってきた。

 軽く流し、その力を利用してほいっと投げ飛ばしてやる。

 

「こふっ!?」

 

 背中から床に落ち、ろくに受け身もとれなかった陽葵の口から空気が漏れた。

 そんな彼の腹部に、デュストは足を叩きつけた。

 

「がっ――!?」

 

 痛みにのたうち回る陽葵。

 これで当分動けないだろう。

 

「彼が立ち直る前に、君を処理しておこうか」

 

 倒れているリアに詰め寄り、胸に拳を叩き込む。

 

「が、ごはっ!?」

 

 そのまま、適当に彼女を蹴りつけていく。

 

「あっ!! いぎっ!! ひっ!! あぐっ!!」

 

 蹴られる度に悲鳴を上げる。

 ろくに身体を動かせないのか、避けることも受けることもできず、ただ為すがままだ。

 

「……んん?」

 

 ある程度ヤったところでデュストは気付いた。

 まさかとは思ったが、もう一度彼女の様子を見て確信を持つ。

 

「は、はははは!

 これは驚いた!!」

 

 思わず笑いだしてしまう。

 リアは――この魔族の女は、こんな状況で――

 

「君、気持ち良くなっちゃってるのか!?」

 

 リアの顔が、先程とは打って変わっていた。

 痛みに歪んでいるのではない。

 快楽に、蕩けているのだ。

 

 着物のような衣装が乱れ、彼女の股間も露わになっていた。

 そこに見える白いショーツには、うっすらと液体が滲んでいる。

 失禁とは違う――愛液の染みだ。

 

「いや、魔族は変な“歪み”を持っている連中は多いが――その中でも君は格別だな!

 痛めつけられることに快感を感じるだなんて!!」

 

「――はっ――はっ――え?」

 

 痛みを堪えて、彼女が聞き返してきた。

 ――痛みに堪えているつもりなのだろう、彼女は。

 傍から見れば、快感を堪能しているようにしか見えない。

 

「な、何言ってんのよ。

 あたしが、そんなわけ――」

 

「なんだ、自覚が無かったのかい?

 ほら、あそこの鏡を見てみなよ。

 今の滑稽な君の姿が確認できるから」

 

 デュストは部屋に設置してある鏡を指さす。

 指し示されるまま、そちらを見るリアだが――

 

「――う、そ」

 

 絶句した。

 彼女に自覚がないのは本当だったようだ。

 デュストに嬲られ、悦びの笑みを浮かべた自分を見て、リアは言葉も出ないようだった。

 

「いやいや、僕は罰のつもりで殴りつけたというのに。

 君にとっては、ご褒美だったわけだ!」

 

 さらに蹴りを2,3発入れてやる。

 

「あっ!――あっ!――あっ――!!」

 

 リアは悲鳴を上げるが、その声には明らかに艶があった。

 

「――ぐ、うぅ……う、嘘。

 嘘よ! あたしが、そんな――!!」

 

 ここに至ってまだ、彼女は現実を受け入れられないようだ。

 

「嘘? それはこちらの台詞だよ。

 こんなことをされて悦んでしまうとか、とんだ計算違いだ!

 ははは、ほら、ほらほらほら――!!」

 

 蹴る、踏みつける、蹴り飛ばす。

 痛々しい痣があちこちにできるが――

 

「あっ!! あぅっ!! あぁあああんっ!!」

 

 完全に嬌声を上げ出す、リア。

 

「はぁっ! あぁっ! あぁんっ!」

 

 身体に走る痛みに、歓喜の表情を浮かべる。

 デュストはおかしくておかしくて仕方がなかった。

 

「いやはや、さっきの3人組といい、この街の住人は、僕を驚かすのが得意なようだ!!

 もっとも、君と彼らはまるで方向性が違うけれどね!

 はははは、こんなに笑ったのは久々だよ!!」

 

 嗤うデュストだが、一方でリアはショックを隠せないでいた。

 

「……そ、そんな。

 あたし――悦んでる、なんて――」

 

 鏡に映った自分の姿を――デュストに嬲られる度に艶声を出す自分の姿を見て、愕然としている。

 ただ、身体の方はもっと痛みが欲しいのか、おねだりをするようにくねくねと淫らに動いていた。

 

「うーん、だけどなぁ、これじゃあ罰にならないんだよね。

 そぉらっ!!」

 

 デュストは彼女の股間を蹴りあげた。

 狙いは過たず、つま先がリアの女性器に下着ごとめりっと沈み込む。

 

「――んおっ!!?

 あ、あぁあああああっ!!?」

 

 快楽に喘ぎだすリア。

 今、デュストは金属製のブーツを履いている。

 こんなのがぶち込まれたなら、普通の女性であれば痛みで悶絶してもおかしくないというのに。

 

「そらっ!! そらそら!!

 こんなのが気持ちいいのかいっ!?」

 

「あっ!!? あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 ぐりぐりとつま先を動かすと、それに応じてリアは淫らな鳴き声を上げた。

 まったく、とんだ予想外だった。

 こんな面白い無様を晒してくるとは。

 

 デュストは一旦彼女の膣から足を抜き去ってから、

 

「せぇのっと!」

 

 掛け声と共に、今度は思い切りリアの股をつま先で痛打した。

 

「あひぃいいいいいいいっ!!!?」

 

 彼女は絶叫した。

 デュストのつま先から踵の手前まで、リアの中に埋め込まれた。

 だらだらと、血と愛液が混ざった液体が流れ出てくる。

 

「あっっ!! あっっ!! あっっ!! あっっ!!!

 あぁあああああああああ……」

 

 大きな嬌声の後、リアの身体から力が抜ける。

 股間からはさらに黄金色の液体まで漏れ始めた。

 今度こそ、失禁したか。

 

「はっははははは!!

 いや、いい見世物だった!!

 面白かったよ、リア・ヴィーナ!!

 これに免じて、君の命は見逃してあげよう!!」

 

 ひとしきり笑うと、デュストは足を彼女から取り出す。

 当のリアはというと、失神した上に泡まで吐いていた。

 

 ブーツについた血と愛液を拭ってから、部屋を立ち去ろうとする。

 だが、その前に。

 

「そうそう、ムロサカ・ヒナタ。

 今からついて来いとは言わないけれど、僕とクロダ・セイイチとの戦いの場には顔を出すように。

 ローラ・リヴェリの店は知っているだろう?

 おそらく、あそこで僕達は戦い合うはずだ」

 

 未だ苦しみに悶える陽葵へそう告げる。

 彼からの返事は無いが、間違いなく聞こえてはいるだろう。

 

(もし来なかったとしても――相応のペナルティを課すだけだしね)

 

 それで用事は済んだとばかりに、デュストは彼らの家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葵さんの張った結界の中で、私は途方に暮れていた。

 

「はぁっ!…はぁっ!…はぁっ!…はぁっ!」

 

 荒く息を吐く。

 

 周りは建物の残骸だらけ。

 いや、結界に取り込まれた初期は街の風景が広がる空間だったのだが。

 

「はぁっ!…はぁっ!……周りを徹底的に破壊すれば、結界が破れると踏んだのだけれども!」

 

 結界は綻びすら見せる様子が無かった。

 仮にも五勇者が展開した結界。

 私如きが破るのは無理があったか。

 

 ミサキさん直伝の結界突破法が無理となると、いよいよ後がなくなってきた。

 爆縮雷光(アトミックプラズマ)を連続して使ったため、精神力も大分削れている。

 

「葵さん……」

 

 呟く。

 

 まさか、彼女がこんな手段を取ってくるとは。

 悪意が無いだけに性質が悪い。

 純粋に私を想ってしてくれているのだろうけれども、しかしこうしている間にもデュストは――

 

「くそっ!」

 

 友人達が奴の手にかかる光景を想像して、思わず愚痴が零れる。

 最悪な未来の妄想が、胃をキリキリと軋ませ、手を震えさせた。

 これだけ時間が経って何のアクションも無いということは、ミサキさんの方も足止めを食らっている可能性が高い。

 

 どうすればいい?

 どう動けばいいんだ?

 

 ……私はただ、途方に暮れるしかなかった。

 

 

 

 第二十三話②へ続く



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② ローラ・リヴェリ

 

 

 

 結局、セドリックに荷物持ちをさせて、ローラは店への帰路を歩いている。

 店が見えてきたところで。

 

「――あら?」

 

「店の前に人がいるようだね。

 お客さんかな?」

 

 セドリックが言うように、ローラの店の前に銀髪の男が一人立っている。

 金属製の軽鎧を装備しているところを見るに、冒険者だろうか。

 そういうことに詳しくないローラが見ても、相当な高級品に身を固めていることが分かった。

 

(誰でしょうか?)

 

 あれ程にレベルが高そうな冒険者は、この街でもなかなかお目にかかれない。

 そんな人物が、何故自分の店の前に居るのか。

 正直なところ、ローラのお店はそれ程高価なアイテムを取り扱ってはいなかったりする。

 

「すいません、お店になにか御用でしょうか?」

 

 声が届く距離まで近づいてから、ローラは男に挨拶をした。

 彼の方もこちらに気付いたようで、軽く会釈をしてから答える。

 

「こんにちは。

 いや、お店に用があるわけじゃないんだ。

 用があるのは、君にさ。

 ローラ・リヴェリ」

 

「え?」

 

 予想していなかった答えに、反応が遅れた。

 その間に、男性は言葉をさらに紡ぐ。

 

「僕の名はデュスト。

 “光迅”のデュストだ。

 キョウヤ様に与している君の前に、僕が現れた意味――分かるよね?」

 

「………!!」

 

 理解した。

 理解できてしまった。

 

 同じくキョウヤの(というか黒田の)協力者であるリアが、デュストに殺されかけたという話は、ローラも耳にしていた。

 穏健な理由で、そんな相手が自分の目の前に現れるはずがない。

 

(『遭遇したらまず逃げられないから諦めろ』とかキョウヤ様は冗談めかして言ってましたけど…!)

 

 実際に会ってしまったのだから冗談では済まされない。

 

「うん、分かってくれているようだね、結構結構。

 じゃあ――あまり、抵抗はしないでくれるかな。

 そちらの方が、君にとっても楽だよ。

 なに、素直にしていてくれれば、痛みも感じさせないまま“終わらせて”あげるさ」

 

 硬直して動けないローラの姿を見て、向こうは勝手に合点いったようだ。

 腰に備えた長剣を抜き、切っ先を自分に向けてくる。

 彼が放つ殺気のような圧力にローラの身体は竦み、逃げるという選択肢が塗り潰されてしまった。

 

 代わりに、精一杯気力を振り絞り、相手に問いかける。

 

「な、何が、目的なんですか?

 私を殺したところで、貴方に何か利益があるとは思えないのですが」

 

「目的かい?

 そう大したことじゃないんだ。

 ちょっと、クロダ・セイイチを“怒らせたくて”ね」

 

「お、怒らせる……?」

 

「そう。

 激昂して、力を十全に発揮するクロダ・セイイチと戦いたいんだ。

 そういうわけで、協力してもらうよ」

 

 そんな滅茶苦茶な――という言葉は出せなかった。

 デュストが剣を振りかぶったからだ。

 ただそれだけの行為なのに、ローラは自分が死ぬのだということを確信した。

 殺気とも違う、相手に死の覚悟を強要させる、『迫力』のようなもの。

 それに、ローラは飲み込まれたのだ。

 

 ――だが。

 

「ま、待ちたまえ!!

 急に何を言っているんだね!!?」

 

 間に割ってはいってくる人物がいた。

 セドリックだ。

 

「君があのデュスト!? クロダ君と戦う!?

 馬鹿も休み休み言ってくれないかね!」

 

 相手が抜き身の剣を持っているのもお構いなく、猛然と言い放つセドリック。

 デュストもそれを無視できなかったようで、セドリックへ向き直った。

 

「……セドリック・ジェラードか。

 余り事態を理解できていない人間に水を差されたくないんだけどね。

 まあ、君もターゲット候補だから、斬る分には然程問題ないわけだけれど」

 

「何をぶつぶつと。

 生憎と私達は忙しくてね。

 君のようなおかしな男の相手をしている暇は――」

 

 セドリックの言葉が途切れた。

 大きく目を開き、ある一点――デュストの右手を凝視している。

 そこには、金色に輝くカードがあった。

 

「――そのカード」

 

「うん、僕が五勇者である証拠だね。

 あれこれ押し問答するのも面倒だからさ。

 これで信じてくれたかな」

 

「……信じたくはないがね。

 それを持っている以上、間違いないわけか」

 

 大きく息を吐くセドリック。

 流石に物的証拠を目にしては認めざるを得なかったのだろう。

 深呼吸を一つしてから、大声で言い放つ。

 

「こんな“ガキ”が!

 かの五勇者だとは!

 いや、まったくもって信じたくはない事実だ!」

 

「セドリックさん!?」

 

 突然の暴言に、ローラは慌てる。

 

「……なに?」

 

 デュストも表情が変わった。

 笑みを消し、目つきが鋭くなる。

 だが、それに気づいていないのか、セドリックの言葉は止まらなかった。

 

「女性に対していきなり剣を抜くような輩が五勇者だとはねぇ!?

 こんな狼藉を平気で働く奴が勇者だとは、世間の評価もあてにならないものだ。

 なんなら7年前に私も名乗りをあげればよかったかな!?

 君ができるっていうのなら、私でも十分勤まるんだろう、五勇者ってのは!」

 

「――お前」

 

 剣呑な光がデュストの瞳に宿った。

 ローラの本能が、危険を知らせる警鐘をならせ続ける。

 

 まずい。

 セドリックを止めないと、この男(デュスト)は何をするか分からない。

 

 だが、彼女が何かをするよりも早く、デュストは動いていた。

 

「――!」

 

 セドリックの顔が歪む。

 自分のすぐ目の前――比喩ではなく、彼の“目”に切っ先が触れる位置に、デュストは剣を突きつけていた。

 

「余り大口を叩くものじゃない。

 自分の立場を理解できていないのかな?」

 

 不敵な笑みを浮かべて、デュスト。

 だが――

 

「ほほう?

 これはいったい何の意思表示かね?

 いやぁ、歳を取ったもんでね、言いたいことはきちんと言葉にしてくれないと分からないだよ!!」

 

 セドリックはまるで怖気づかなかった。

 さっきまでと変わらぬ口調で、デュストへ言葉を投げつける。

 

「いやまさか!?

 “命が惜しければ自分を敬え”なんてことは無いだろうねぇ!?

 あの五勇者が!!

 そんな陳腐なことをするわけがない、そうだよねぇ!?」

 

「貴様!!」

 

 今度はデュストが顔を歪める番だった。

 もっとも、彼の場合は『怒り』の表情であったが。

 

「せ、セドリックさ――」

 

 もういつデュストが『爆発』するか分からない。

 そのことをセドリックに告げようとしたローラだが、彼の瞳に押し留められた。

 セドリックは、意味ありげに自分へと目配せする。

 

(まさか――)

 

 今のうちに逃げろ、と彼は言っているのか。

 この、一連の滅茶苦茶な言動は、デュストを怒らせ、彼の注意を全てセドリックへ引き付けるためのものだったと。

 

 確かに、デュストの意識は今、完全にセドリックへと向けられている。

 それこそ、ローラなど眼中にないという程に。

 

(でも、それだと)

 

 セドリックを見捨てることになる。

 いや、もうこの状況から彼を助ける手段などあるのかどうかも怪しいのだが。

 ローラとて、セドリックを犠牲にして逃げれるかどうかも分からないというのに。

 

 彼女が迷っている間にも、セドリックとデュストの危険な会話は続いた。

 

「彼女よりも先に死にたいのか、お前」

 

「おおっと、今度は大分直接的な表現できたね!」

 

 セドリックは煽るように笑顔を浮かべてから、ふっとそれを消す。

 

「……やってみろ、若造。

 こんな中年の親父に言い負かされて、駄々をこねるように暴力を振るってみろ。

 勇者とはこんな幼稚な人間なんですと、証明してみるがいい!!」

 

「…………」

 

 ローラには、デュストの腕から先が一瞬消えたように見えた。

 彼が剣を振るったのだと気づいたのは――セドリックの両腕が地面に落ちてからだった。

 

「――っっ!!!」

 

 悲鳴を上げそうになるのを必死に堪える。

 今ここでローラにまた注意を向けられれば、セドリックが必死で行ってきたことが無駄になってしまう。

 

 セドリックは無くなった手へとしばし視線を向けてから、

 

「おやおや。

 私を殺すんじゃなかったのかな?」

 

 平然とした態度で、話を再開した。

 

「――なっ!?」

 

 これには、デュストも面食らったようだ。

 

「なんだい、その顔は?

 まさか私が恐怖に怯えるとでも思ったのかな?

 泣いて命乞いをするとでも考えたのかな?

 はははは、そうやって君のちっぽけな自尊心を満足させようと考えたわけだ!

 やろうと思えばすぐにでも殺せる私を、敢えて殺さずにおいてね!!」

 

「う、ぐっ!」

 

 たじろいでいる。

 あのデュストが、セドリックの気迫に気圧されている。

 

 セドリックの腕からはおびただしい量の血が流れていた。

 放っておけば、デュストが何かをするよりも早く彼は出血によって死に至るだろう。

 それは当の本人も分かっているはず。

 だというのに、セドリックは腕のことなど気にも留めず、デュストを嘲笑っていた。

 

(……私も、覚悟を決めないと)

 

 ローラは、ゆっくりとその場を離れる。

 セドリックの目論見通り、デュストは今、彼女のことを気にも留めていなかった。

 一歩、また一歩と動いても、勇者はこちらを見る気配すらない。

 

「さぁ!!

 次はどうするのかね!?

 今度は足を斬るか!?

 それとも首を裂くのかな!?

 好きなだけやればいい!!

 好きなだけやってみろ!!

 無力な一市民を、暴力によって支配するのが君の勇者としての在り方なわけだろう!!」

 

「――ぬ、ぐ、う」

 

 デュストが片手で頭を抱えだした。

 まるで何かに苦しんでいるように。

 

「だ、黙れ――」

 

「黙れ!?

 おやぁ、勇者様は私に口を閉じて欲しいと言う訳か!?

 どうしたんだい、勇者様!!

 言葉じゃ勝てず、暴力で止められず、とうとう懇願してきたというわけかい!?

 はっはははは!! こりゃ滑稽だ!!

 勇者がこんな中年親父に負けを認めた!!」

 

「黙れと言っただろうがっ!!!」

 

 デュストが剣をセドリックの腹に刺した。

 だが、セドリックは呻き声一つ上げない。

 ただただ嘲笑を浮かべ、デュストを見つめる。

 

 その顔が気に食わなかったのか、デュストは一度剣を引き抜いてから、さらにセドリックの身体へと突き立てた。

 

「こんな――こんな、弱さで、貧弱さでっ!!

 勇者がどうのと語るんじゃない!!

 ふざけるなよ、お前っ!!

 ああっ!? どうしたっ!!

 何か言ってみろっ!!

 何か言ってみろぉおおっ!!!」

 

 そのまま、何度も何度もセドリックを刺し続けるデュスト。

 セドリックが崩れ落ちても、なおやめない。

 必死の形相で。

 執拗なまでに、繰り返す。

 

 その余りにも残虐な(愚かな)姿を見て――ローラは、足を止めた。

 

 

 

 

 

 

 セドリックが微動だにしなくなってから、ようやくデュストは剣を離した。

 

「はーっ…はーっ…はーっ…はーっ」

 

 興奮しすぎたせいか、息が乱れる。

 こんな薄汚いヤツにここまでしてしまうとは、酷い失態だ。

 

「偉そうな口を叩くから、こうなるっ!」

 

 物言わぬセドリックを、さらに罵る。

 そうしてから、はっと気づく。

 

(……そうだ。

 ローラ・リヴェリは!?)

 

 ようやく、当初の目的を思い出した。

 慌てて周囲を見渡すと、少し離れたところに目的の女性はいた。

 

(――なるほど。

 この隙に逃げようとしていたわけか。

 どうもそれは叶わなかったようだが)

 

 セドリックの末路に怖気づいたのか、ローラはそれ以上離れるでもなく、棒立ちしていた。

 

(……んん?)

 

 だが、デュストはそんな彼女に違和感を感じる。

 

 ――彼女の表情から、恐怖の感情が伺えないのだ。

 それどころか、冷めた視線をこちらに向けていた。

 

「……驚いたね。

 知人がこんな風になったというのに、そんな顔をするとは。

 やはり、かつて自分を破滅させた男に対して思う所があったのかな?」

 

「今、分かりました」

 

 デュストのからかいを込めた台詞を一切無視し、ローラは口を開いた。

 

「貴方はつまり、こうしないとクロダさんに勝てないんですね」

 

「……何?」

 

 予想外の言葉に、デュストは眉を顰めた。

 

「だって貴方、“弱い”じゃないですか。

 武器も持たないセドリックさん相手に自棄を起こして。

 そんな『弱虫』がクロダさんに勝てるわけが無い」

 

「……言ってくれるね。

 仮に僕が弱いとして、それで君と僕の力関係が変わるわけじゃないんだよ?」

 

「ええ、そうですね。

 私は弱い貴方よりもさらに弱いです。

 抵抗なんてできるはずがありません」

 

 あっさりとローラは認めた。

 

「だから、さっさと殺せばいいんじゃないですか?

 私の死体を見せて、クロダさんの動揺を誘えばいい。

 何をしたところで貴方の負けは変わりませんけれど」

 

「――っ!」

 

 反論しようとした。

 反論しようとしたのに、言葉が出ない。

 

(何でだ――何で!!)

 

 さっきの男といい、この女といい。

 何故、ここまで圧倒的な力の差を前にして、怯えない。

 五勇者である自分を前にして、毅然としていられる。

 

(あってはならない!

 あってはならないっ!!)

 

 こんな。

 こんな、戦う術を碌に持たないような弱者達から。

 

 キョウヤの目を連想してしまうなど。

 アレッシアの顔を思い浮かべてしまうなど。

 

 絶対に、あってはならないのだ。

 

(やめろ、その目を!)

 

 そんな、蔑んだ(眩い)目で自分を見るな。

 そんな、気分が悪くなる(素晴らしい)顔を自分に見せるな。

 

 破壊したくて(守りたくて)破壊したくて(守りたくて)仕方なくなる!

 こんな小生意気な連中を殺せば(こんな人達を守りたくて)実に晴れやかな心になるだろう(僕は戦ってきたんだ)

 

「どうしました?

 気分でも悪いのですか?

 大分、苦し気ですけれど」

 

「……うるさい」

 

 剣を彼女に向ける。

 

 もういい。

 不愉快な会話はここまでだ。

 この女は、さっさと殺そう(やめろ)

 

 ゆっくりと剣を振り上げる(やめろ)

 そして、ローラの首を目掛けてそれを振り下ろした(やめろ)

 

「……どうしたんですか?

 剣を持ったまま、固まって」

 

 ――剣は、頭上に掲げたままだった。

 その状態のまま、デュストは動けなくなっている。

 

「殺せばいいじゃないですか。

 セドリックさんのように、私も!

 そんなこともできない程、意気地なしですか、貴方は!」

 

「――ぐ、うぅうっ!!」

 

 呻く。

 身体が震える。

 

(ダメだ。

 これ以上僕を挑発するな)

 

 もう限界だった。

 今すぐ、この女を排除しなければ(これ以上は抑えられない)

 黒田の目の前で嬲ってやろうか(クロダはまだ来ないのか)という考えもよぎったが、別にその必要もないか(早く来い!)

 

「……言ってくれたな、ローラ・リヴェリ」

 

 喉から絞り出すように声を出す。

 

「そんなに殺されたいなら、望み通りにしてやる!!」

 

 デュストの顔が険しいモノへと豹変する。

 そしてここまでの溜めに溜めた鬱憤を晴らすかのように、剣を全力でローラへと叩きつけた。

 

 

 「――え?」

 「――あ?」

 

 

 殺そうとした男と、殺されそうになった女、2人が同時に声を出した。

 剣は、逸れていた。

 上段から降ろされた剣撃はローラではなく、大地を割っている。

 その威力は驚嘆すべきものなのだが、生憎ここにはそれに注意を払う人間はいなかった。

 

 2人が浮かべた疑問は一つ。

 “何故、当たらなかったのか”

 

「……これは」

 

 先に気付いたのはデュストだった。

 振り下ろされた剣を弾いた『モノ』を見つけたのだ。

 

 それは、“一本の矢”であった。

 

「――!!」

 

 次にローラが気づく。

 その矢を放った人物を目に入れて。

 満面の笑みを浮かべ、『彼』の名を叫ぶ。

 

「――クロダさんっ!!」

 

 果たして。

 

 ――黒い軍服に身を包み、紅く輝く籠手と脚鎧を纏った男。

 ――黒い髪に黄色い肌、中肉中背の<来訪者(日本人)

 

 黒田誠一が、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イネスは、“眼前に立つ男”を睨み付ける。

 自分の結界を破壊し、黒田を逃がした下手人へ、憎悪の視線を送る。

 

「自分が何をしたか、分かっているんですか、“ガルム”?」

 

「分かっているとも」

 

 短く答えるガルム。

 その堂々とした様子に、イネスは苛立ちを募らせた。

 

「へー?

 アナタは誠ちゃ――黒田誠一と仲が良かった風に見えたんですけどねー。

 所詮、捨て駒ですか」

 

「……分かっておらんようでござるな、イネス殿」

 

 こちらの皮肉にまるで動じず、ガルムは言葉を紡ぐ。

 

「戦うべき時に戦えなかった男の辛さ。

 それは死に勝るモノなのでござるよ」

 

「ふーん?

 だから、わざわざ<次元迷宮>からこっちまで飛び出してきたと。

 ご苦労なことですねー。

 ちょっと本気でむかつくんで、殺していいですか?」

 

「やるというのなら受けるが、意味がないでござろう。

 勝ち目のない戦いがご所望か?」

 

「ちっ」

 

 舌打ちを入れる。

 非常に腹立たしいが、今ガルムと戦うことにメリットは何一つない。

 ただ、自分が負けるだけだ。

 

 ガルムは続ける。

 

「それにな、イネス殿。

 セイイチ殿は、勇者ではない」

 

「そりゃそうでしょうよ」

 

「違うでござる。

 拙者が言いたいのは――つまるところ勇気だとか奇跡だとか、そういうものを当てにして戦う人種ではないということ。

 セイイチ殿は、理論を重ねて勝機を見出す類の男」

 

「いや、それが普通でしょう?

 勝ち目もないのに戦う馬鹿なんて――アタシ達だけで十分ですよ」

 

「そうその通り、セイイチ殿は凡人にござる。

 その凡庸な男が、あのデュスト殿と戦うと決めた。

 ……見えているのでござろう。

 セイイチ殿には、何かしらの勝算が」

 

「勝算?

 デュストに対して、どうやって勝つと?

 まともに戦うことすら難しいっていうのに?」

 

「それは拙者にも分からぬ」

 

「……役に立たないですね」

 

「申し訳無いでござる」

 

 頭を下げるガルム。

 無責任な発言に、イネスの頭は急騰する。

 

(そこまで言うなら、責任とって腹でも斬れってんですよ!

 この日本カブレが!!)

 

 罵詈雑言を浴びせたくなるが、どうにか堪える。

 彼も言ったように、意味がないことだ。

 

「どちらにせよ、セイイチ殿とデュスト殿の戦いは始まってしまった。

 勇者同士の戦いに、他の勇者は介入できない取り決めにござる。

 ここに至っては、戦いの結果を見届けるしかないでござろう」

 

「…………ええ、そうですね」

 

 不服であることを隠そうともせず、不機嫌にイネスは応える。

 もう、自分が黒田にできることは何もない。

 

(誠ちゃん、せめて、死なないで)

 

 死んでさえいなければ、身体の傷はどうとでも修復できる。

 死亡以外の形で決着がついたのなら、彼を救う手段はあるのだ。

 そんな終わり方を、デュストが許すとはとても思えないが。

 

(祈るべき神様がいないのって、こういう時不便ですねー)

 

 ちょっとした愚痴も零しながら、イネスは黒田とデュストの戦いを見守った。

 

 

 

 第二十三話③へ続く



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③ 風迅 vs 光迅

 

 

「……クロダ・セイイチ」

 

 デュストは、現れた『敵』の名前を呟く。

 まだ大分距離が離れているので、果たして向こうに聞こえたかどうかは定かでないが。

 

「……デュスト」

 

 相手もまた自分の名を呟いたのが聞こえる。

 もっとも、向こうはこちらと異なり、憤怒の形相であったが。

 今日一日“やったこと”が相当堪えたようだ。

 

「大分、遅かったじゃないか。

 どこで道草を食っていたんだい?

 待ちくたびれてしまったよ」

 

 軽口を叩く。

 だが、黒田はそれに一切応じず。

 

「――デュストぉおおおっ!!!」

 

 叫び、駆け出してきた。

 

(……迅い)

 

 既に『風迅(ブラスト・オーバー)』を使用しているのだろう。

 瞬く間にこちらとの距離を詰めてくる黒田。

 

「はははははっ!!

 いいぞ、クロダ・セイイチ!

 さっそく始めようじゃないか!

 勇者同士の戦い、『開戦』だ!!!」

 

 宣言し、剣を構える。

 激突まであと数秒といったところか。

 

(だが、ちょっと動きが直線的すぎるな)

 

 黒田は、感情に任せて全速で突貫してきている。

 故に、動きが至極捉えやすい。

 

(そんなでは、始まって早々に“終わって”しまうぞ?)

 

 “やり過ぎた”かもしれない。

 面白くするために、黒田の感情を昂らせすぎたか。

 怒りに囚われ、戦術はおろか駆け引きもできなくなるとは。

 

 無論、だからといって加減などするつもりはなかったが。

 

「頼むから――これで終わらないでくれよ!!」

 

 声を張り上げ、長剣を振るう。

 同時に、黒田も右拳を突き出す。

 

 剣と拳が超高速で交差し――

 

 

 ――次の瞬間。

 

 

 黒田の拳が、デュストの顔面に“めり込んでいた”。

 

 

 

 

 「ほへ?」

 

『それ』を離れた場所で見たイネスは、余りのことに口をあんぐりと開け。

 

 「んなっ!?」

 

 同場所のガルムも目を大きく見開き。

 

 「う、そっ」

 

 エゼルミアですら、信じられないといった顔となり。

 

 「はは、はははは――!」

 

 キョウヤだけは、愉快そうに笑っていた。

 

 

 

 

(……あ、れ――?)

 

 黒田の攻撃により盛大に後方へ吹き飛ばされながら、デュストは混乱していた。

 現状が把握できない。

 

 確か自分は黒田を迎撃していたはず。

 相手の突きは避け、こちらの一撃により切り伏せる。

 そういう光景になっていたはずなのだ。

 

 デュストは空中で体勢を立て直し、地面に着地する。

 (黒田)を見据えながら、さらに胸中で自問した。

 

(なんで、僕が攻撃を食らったんだ!?)

 

 ありえない。

 百歩譲って、デュストの攻撃が回避されることまでは許容しよう。

 だが、五勇者の一人である自分が、一方的に攻撃を叩き込まれるなど、ありえない――あってはならないことだ。

 

(――まぐれだ!!)

 

 そう結論づける。

 先程の――セドリックとローラの一件で、認めたくはないが自分は動揺していた。

 その動揺が、剣の動きを鈍らせたのだろう。

 デュストはそう考えたのだ。

 

(今度は、万全の力で斬る!)

 

 呼吸を整え、駆ける。

 黒田の動きとは比べることすらおこがましい程の速さ。

 今のデュストは、目で追うことすら困難極まる。

 

 お返しと言わんばかりに、黒田まで一直線に疾走。

 そのままの勢いで、敵の脇腹を目掛けて切り上げる。

 

「――え」

 

 思わず声を漏らしてしまう。

 そこに、黒田はいなかった。

 

 避けたなどと生温いものではなく。

 こちらが攻撃を繰り出した瞬間、標的が消えていたのだ。

 

「がぁっ!!?」

 

 突如、脇腹に衝撃。

 なんのことはない、“すぐ横”に居た黒田の蹴りが、デュストの脇腹に当たっただけ。

 

(――なんだ、これは?)

 

 湧いた疑問を解決する時間など無く。

 

「がっ!? ぐはっ!? がふっ!?」

 

 右腹、喉下、右頬に、黒田の連撃が決まる。

 

「き、貴様――!!」

 

 反撃。

 袈裟に切りつけるが――あっさりかわされた。

 返す逆風斬り、間を置かず唐竹斬り。

 ――かすりもしない。

 

「ぐほっ!?」

 

 そして敵のカウンター。

 正拳突きで鳩尾を狙われた。

 僅かな間、呼吸を止められる。

 

「う、ぐ――」

 

 ちょうど攻撃のため息を吐いた瞬間にやられた。

 視界が暗転しかけ、バランスが崩れる――

 

「……あ」

 

 だが、デュストは倒れなかった。

 自分が何かしたわけではない。

 “黒田に頭を掴まれた”のだ。

 

「まさかもう終わりとは言わないだろう?」

 

 敵の声。

 明確に自分への殺気に満ちている。

 それは本来喜ばしいことのはずなのに――デュストは、背筋が寒くなるのを感じた。

 

 

 黒田の猛攻が始まる。

 

 

 掴まれたまま、頭を殴打された。

 さらに顔面を蹴られ、再び吹き飛ばされる。

 空中で追いつかれ、今度は腹に数発。

 地面に叩き落された後、追加で蹴りを3発。

 無理やり立たされて、喉に手刀。

 咳き込み、屈んだところで後頭部に肘打ち。

 同時に、顎へ膝蹴りが飛んできた。

 

(そんな、馬鹿、な――)

 

 成す術も無くやられている。

 いや、デュストとて黙って殴られているわけではない。

 合間合間に、間隙を縫って攻撃を仕掛けている。

 手数だけなら、黒田よりも多いくらいだ。

 

 しかし、それはまるで功を奏さない。

 全て、かわされる。

 どれだけ剣を振っても、突いても、結果は同じだった。

 当たらない。

 当たる気配もない。

 

(これ、なら――!)

 

 相手の右肩へ袈裟斬りを放つ。

 当たれば致命傷だが――これはフェイント。

 本命は次の刺突。

 

「ごほっ…!?」

 

 だが黒田は、フェイントに見向きもしなかった。

 こちらに当てる気が無いことを確信したかのように、腹へ打撃(ボディブロー)を決める。

 

(こんな――!

 こんな、ことが!!)

 

 薄々、デュストも気付いてきた。

 というより、認めざるを得なかった。

 

 今の黒田は、決してデュストより強いわけではない。

 証拠に、これだけ打撃を受けても、致命的な傷はまだ負っていなかった。

 力も、速度も、防御も、耐久も、全てデュストが圧倒的に上なのだ。

 前に戦った時と、それは変わっていない。

 

 ただ一つ――

 

(こいつ、僕より“上手い”!)

 

 ――ただ一つ、変わったこと。

 それは黒田の戦闘技術だった。

 命中、回避――戦いに関する技量が、前回とは段違いに高かった。

 

 こちらが攻撃をした瞬間――いや、その直前から(・・・・・・)、相手は避けている。

 こちらが避けた先(・・・・)を狙って、相手は攻撃を仕掛けている。

 完全に動きが読まれている、見切られている。

 

 圧倒的な性能差が、絶対的な技量差によって覆されたのだ。

 

(手加減していたのは、あいつの方だったのか!!)

 

『本番』まで、徹底的にひた隠しにしてきた。

 デュストを超える技量の持ち主であるということを。

 それこそ、大事な人を殺されかけた時ですら、片鱗も見せず。

 

 ――『本番』での勝利を確実なモノとするために。

 

(僕はそれにあっさり乗せられた、と)

 

 効果は絶大だった。

 事実、デュストは成す術もなくやられている。

 事前にこのことが分かっていれば、多少は策も練れただろうが――

 

(――だが!!)

 

 後ろへと強引に跳び、無理やり距離を取る。

 単純な速度ならば優位なのはデュストだ。

 黒田は、すぐには追いつけない。

 

(これは、どうだ!?)

 

 相手との間合いを広げたところで、デュストはスキルを行使した。

 

「<絶・滅界斬(ワールド・デモリッション)>!!」

 

 辺り一帯に衝撃波を放ち、空間を壊滅させる最上位武技(バトルアーツ)

 如何に回避が上手かろうが、物理的にこれを避けることは不可能。

 

 なのだが。

 

「あづっ!!?」

 

 右肩に灼熱感。

 見れば、矢が刺さっていた。

 考えるまでも無い、黒田の<射出>で飛ばされたのだろう。

 スキル発動による僅かな隙を突いてきたのだ。

 

 そして、その痛みによる“発動の遅れ”を、黒田が見逃すわけが無かった。

 

「――うぁっ!?」

 

 呻く。

 目と鼻の先に、黒田が居た。

 矢を射るのと同時に突っ込んできたのか。

 

 ――デュストの顎に、黒田の上段突きが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

 所変わって。

 

「なんなんですかー!?

 どうしちゃったんですかー、これ!?」

 

「う、うむぅ。

 これは、拙者もセイイチ殿に謀られていたか」

 

 ワーワーキャーキャー騒ぐイネスと、苦虫を噛み潰したようなガルム。

 無論のこと、黒田がデュストを圧倒しているのが原因である。

 

「誠ちゃんってば強すぎ!?

 どうなってんですか!?

 キョウヤといい、地球人の戦闘力おかしくないです!!?

 っていうか、こんだけ強いっていうならアタシの努力はいったい――!!?」

 

 動揺し過ぎて、黒田の呼称を素に戻しているイネス。

 それに気づいているのかいないのか、ガルムは頭をぽりぽりと掻いて、

 

「完璧にいらぬお世話であったなぁ」

 

「しみじみと言わないで下さいよぉ!!

 アタシ、ちょー空気読めないヤツじゃないですか!!

 誠ちゃんも誠ちゃんですよ!!

 こんだけ強いならちょっと位教えてくれたって!!」

 

 教えられたとしても容易には信じられなかっただろうし、仮に信じられたとしても、その場合は黒田に“今と同じ接し方”をできなかっただろうが。

 しかしそういうことを些事として横に置き、イネスは憤った。

 ガルムはそんな彼女を窘めるように、

 

「拙者達に対策を取らせぬためであろう」

 

「あんだけの戦闘技能に対して、対抗策もクソもないでしょー!?

 そりゃ、デュストやアナタならどうにかできるのかもしれませんけど!!」

 

「……いや。

 拙者が思うに、アレはイネス殿が考えているモノとは少々違うでござる」

 

「え?」

 

 顎に手をやり、ガルムは目を瞑って何やら得意げにしている様相。

 その顔に少しイラッときつつ、イネスは尋ねる。

 

「単純に、誠ちゃんの技量が凄いってわけじゃないんですか?

 こう、相手の動きを先読みする、みたいな」

 

「デュスト殿相手にそんな真似ができるような領域には、如何にセイイチ殿とて到達しておらぬでござろう。

 アレはおそらく、“社畜”による補正を受けているためでござる」

 

「社畜って、誠ちゃんの特性の?

 でもあれは、“慣れた作業”の成功率が上昇するってだけの特性でしょう?」

 

「多少誤解があるようでござるな。

 確かに言葉にすれば、イネス殿の言う通りなのでござるが……セイイチ殿の特性は、その成功率の上昇幅が尋常でないのでござる。

 例えば、一度攻撃を当てることを作業として覚えた(ルーチン化した)相手に対して、セイイチ殿は二度と攻撃を外さない。

 一度かわすことを作業として覚えた(ルーチン化した)攻撃を、セイイチ殿は二度と食らわない。

 しかも――難易度にもよるでござるが――ものの数回の試行で、セイイチ殿は繰り返し作業(ルーチン)の域に達することができるのでござる」

 

「なにそのチート」

 

 そうとしか言いようがなかった。

 要するに、勝ち方を覚えた敵に対して、黒田は決して負けないということなのだから。

 

「まあ、その代わりに初めて行う攻撃はまず失敗するでござるし、初見の技はまず無抵抗に食らうことになるでござるが」

 

「……そういえば、結構でっかいデメリットも抱えてましたね」

 

 殺し合いにおいて、当然のことながら相手は殺す気で攻撃してくる。

 黒田が『社畜』を発揮するためには、その攻撃を最低でも1,2回はそのまま受けなければならない。

 必殺の意思を込めて繰り出された技をそのままくらえば、普通死ぬ。

 数回で見切れるといっても、その数回が本来は致命的なのだ。

 

「故に、社畜の特性を十全に発揮できればセイイチ殿に勝機はあると睨んではいたが――そこまでの道筋を拙者は想像できなかった。

 あのデュスト殿の攻撃を回避するなど、並大抵の難易度であるとも思えんでござるしな」

 

「でも、今の誠ちゃんは社畜によってデュストを完封している。

 ……まさか、数日前のあの邂逅で――?」

 

 黒田とデュストは一度、手合わせしている。

 デュストはまるで全力など見せていない、まさしく試し合いという体の戦いではあったが。

 ただあれだけのことで、デュストの全てを見切ったとでも?

 

「いや、いくら何でもそれは無理でござろう。

 そこまで滅茶苦茶な特性であったら、それこそ隠す必要などない。

 おそらく、セイイチ殿は――」

 

 

 

 

 

 

「――キョウヤさん、貴方の仕込みですわね?」

 

「そうだよ」

 

 エゼルミアの問いに、キョウヤはあっさりと頷いた。

 流れる汗を拭いながら、エゼルミアは続ける。

 

「デュストさんの全攻撃パターン・防御パターンに対して、その対処法をクロダさんに教え込んだ。

 ……おそらく、他の勇者に関しても同様のことをしているのでしょう?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 ニヤリと、キョウヤが笑う。

 背筋が凍る。

 冷や汗が止まらない。

 

「そんなこと――不可能ですわ!!」

 

 自分で言っておきながら、エゼルミアはその結論を到底信じられなかった。

 信じられるわけが無い。

 

 一言で攻撃・防御パターンなどと言っても、一人の人間が行える行動は細かく細分化すれば数え切れない程にある。

 その全てを網羅するなど、並大抵のことではない。

 さらに逐一それらへの対処手段を講じ、全てを教え込む、など。

 ましてや、相手は戦闘の卓越者たる、勇者なのだ。

 

「そもそも、貴方はこの7年間、ワタクシ達と会ってすらいないではないですか!」

 

「ん、そんなことか?

 大分長く一緒に旅をしていたし、時折アンナからの報告もあったからな。

 まあ7年あれば大体この程度には成長しているだろうと辺りを付けたわけだが」

 

「……化け物」

 

 余人から見ればエゼルミアは超人であるが、その彼女から見てもなおキョウヤは計り知れない怪物であった。

 今語られたことが如何に不可能であるか、その理由を幾らでも挙げることができる――しかし、現実に黒田はそれを行っている。

 結果論程有力な証拠はない。

 

(人間じゃありませんわ。

 キョウヤさんも――それを身に着けて実行できるクロダさんも)

 

 戦慄する他なかった。

 “ただの人の身”で、“今の勇者達”と戦うには、それ位やらねばならないのだとしても。

 

 そんな彼女をよそに、キョウヤが語り出す。

 

「そうだな――『勇者殺し(ヒーロースレイヤー)』とでも名付けてやろうか?

 はは、アレに比べれば、『爆縮雷光』も『風迅』も玩具みたいなものだ」

 

 実に上機嫌だ。

 全てキョウヤの思い通りに駒が動いたのだから、それは愉快であろう。

 

「大体からして、だな。

 勇者の代理を送り込み、魔王の息子に協力を取り付けて、ケセドの力で私を再召喚する?

 私がそんな中途半端な真似(・・・・・・・)すると思ったのか?

 お前達を殺すなど、誠一だけで十分だ。

 “逃げ回られる”のが心配だったので、一芝居打ったがね。

 何せ、戦いを始める権利はそっちにしか無かったのだから。

 もう、その心配もなくなったが」

 

「勇者の戦いは、一度始まれば1週間以内に次の戦いを始める必要がある――でしたわね」

 

「そういうルールだ。

 もう、お前達は逃げられない」

 

「――っ」

 

 キョウヤが鋭利な視線でエゼルミアを貫く。

 その身体は本来のモノで無いというのに、放つプレッシャーはかつてのキョウヤと同じものだ。

 

 それに懐かしさすら感じるエゼルミアではあったが。

 

「……まあ、いいですわ。

 クロダさんにワタクシ達の戦い方は通じない。

 恐ろしい話ではありますが、そういうものとして対処することにいたします」

 

 一つ息を吐いてから、そう宣言する。

 

「――なんだ、つまらんな。

 驚くのはもう終わりか」

 

「いつまでも驚き続けては、疲れてしまいますので。

 貴方をこれ以上喜ばせるのも癪ですし、前向きに考えますわ」

 

「相変わらず切り替えが早い女だ」

 

 キョウヤがわざとらしく肩を竦めた。

 いや、竦めたいのはこちらの方ではある。

 

 しかし言ったように、落胆している暇はもう無い。

 時間は限られている。

 早急に、黒田への“出方”を決めねばなるまい。

 

(……それに。

 つけ入る隙が、無いわけでも無さそうですし、ね)

 

 エゼルミアはその双眸で、デュストと戦う黒田の姿をじっと見つめた。

 

 

 

 

 

 

 この展開に驚愕しているのは、勇者達だけではなかった。

 

「ど、どうなってんだ、コレ!?」

 

 戦いの場にかけつけた陽葵もまた、驚きの声をあげていた。

 

「…………な、何が起きてんのかぜんぜんわかんねぇ」

 

 その理由は、少々情けないものではあったが。

 

 陽葵には、2人の戦いをまるで視認できなかった。

 速い。

 とにかく速い。

 

 黒田は、比喩でなく風を引き裂きながら戦っている。

 遠目で見ている陽葵が、気を抜けば姿を見失いかねない程。

 繰り出す拳や蹴りは、ほぼ見えない。

 これでも連日の<次元迷宮>探索で、陽葵のレベルもかなり上がっているにも関わらず、である。

 

 デュストの方はもっと酷かった。

 正真正銘、姿を捉えられない。

 残像による分身を発生させながら、超高速で機動している――のだと思う。

 何人ものデュストが同時に戦っているようにすら錯覚してしまう。

 

 確実に分かるのは、自分はこの戦いに介入することなど絶対にできない、ということだ。

 

「く、黒田が勝ってる――んだよな?」

 

 戦況を正確に把握できてはいないが、そういう雰囲気は掴める。

 時折、くぐもった呻きと共に、デュストが足を止めるからだ。

 おそらく、黒田の攻撃によってダメージを受けたのだろう。

 一方で黒田の苦悶の声は聞こえてこない。

 ということは、黒田が優位に立っていると考えて間違いはないはず。

 

「……やっぱ勇者より強いんじゃないか、あいつ。

 散々人を不安にさせるようなこと言っておいてさ」

 

 軽く愚痴る。

 陽葵は“黒田では勇者に勝てない”ことを前提として、今日まで頑張ってきたのだ。

 その根本を崩されたのでは、文句の一つも言いたくなる。

 

 ……目の前で起きているのが、この世界においてどれ程“ありえないこと”なのか。

 残念ながら、陽葵には理解できていなかった。

 

 ただ茫然と、2人の戦いを眺めていたその時。

 

「ヒナタさん!」

 

 声がかけられる。

 慌ててそちらを向けば、そこにはローラの姿があった。

 

「あ! ローラさん、無事だったのか!!

 ……って、その人は!!?」

 

 彼女の傍らには、一人の男性が倒れていた。

 全身血だらけになっており、あちこちに裂傷が見える。

 ローラのその倒れた人に薬と包帯で治療を施しながら、陽葵に叫んでくる。

 

「セドリックさんです!

 デュストにやられたんです!!

 ヒナタさん、お店から、ポーションを持ってきてください!

 まだ――まだ、息があります!!

 間に合うかもしれません!」

 

「わ、分かった!!」

 

 リアから聞いた通り、デュストは自分達以外にも、黒田と近しい人達を斬ってまわっていたようだ。

 セドリック以外にも被害にあった人もいるのだろうか?

 知人達の安否が頭をよぎるが、心配してどうなるものでもない。

 陽葵はローラの指示に従い、急いで彼女のお店へと駆けた。

 

 店へはいる時、一度だけ振り返って黒田とデュストの様子を見た。

 

「―――あ!」

 

 2人の距離が離れていた。

 黒田の立っている場所は大きく変わっていないので、デュストが離れたのか。

 互いに動かず、様子を伺っているようだが――

 

「……え?

 デュストの身体が光って――」

 

 陽葵が見る前で、デュストの身体が光に包まれていった。

 

「な、なんか、やばそうだぞ…?」

 

 デュストが何をするつもりなのか、陽葵は分からない。

 分からないが、“不吉な予感”が彼の身体を震わせた。

 

 

 

 

 

 

「はぁーっ…はぁーっ…はぁーっ…」

 

 肩で息をするデュスト。

 どうしても呼吸が荒くなる。

 一発一発はそう大したことのない打撃でも、これだけ蓄積すれば深刻なダメージとなっていた。

 

(このまま行けば、僕はそう遠くないうちに倒れる)

 

 そうなることは、誰が見ても明白だっただろう。

 それ程一方的に、デュストは叩きのめされていたのだ。

 この状況を打開するためには――

 

(――『光迅(ライトニング・オーバー)』だ)

 

 切り札の使用を決意する。

 

(いくら先を読まれようと、回避不能の一撃を叩き込む。

 クロダ・セイイチがいかに技量が高かろうと、光は捉えられないだろう――!)

 

 スキル<加速(ヘイスト)>を使用する。

 身体の速度が上がるのを感じるが、まだまだ足りない。

 さらに<加速>を、加えて<加速>を、乗じて<加速>を。

<加速>の上に<加速>を重ね、自分の身体へ<加速>の効果を積み上げていく。

 

<加速>

<加速><加速>

<加速><加速><加速>

<加速><加速><加速><加速><加速><加速><加速><加速><加速><加速>――!

 

 極限まで速度を高めれたデュストの身体が、光を帯びる。

 これこそが五勇者デュストの奥義。

 彼だけが行使できる、光速戦闘技法(・・・・・・)

 

「――『光迅(ライトニング・オーバー)』!」

 

 叫ぶと同時に、デュストは光となる。

 比喩でなく光の速度で黒田に肉薄し――

 

 

 「愚かな」

 

 

 ――聞こえるはずのない、誰かの声が頭に響いた。

 

 

 そしてデュストは。

 何故ここまで、自分が『光迅』を使わなかったのか。

 その理由を“思い出した”。

 

 

 

「がぁあああああああっ!!!!

 がふぁっ!!? あぁああああああああっ!!!」

 

 辺りに、“デュスト”の悲鳴が木霊する。

 目からは血涙が、鼻から鼻血が、口から吐血が。

 穴という穴から血が流れ出る。

 全身には激痛。

 痛みで身を捩れば、その動きがさらなる痛みを呼び寄せた。

 

「あぁああああああっ!!!

 ぐぁああああああっ!!!!」

 

 のたうち回るデュスト。

 そんな彼を、黒田は静かに見下ろしていた。

 

「分かっていたはずだろう。

 私を相手に『光迅』を使えば、こうなると」

 

 ご丁寧に解説をしてくる。

 

「私が装備している籠手と脚鎧。

 貴方も良く知る、ミサキさんの甲冑――“戦神の鎧”の一部。

 これは、ヒヒイロカネという素材でできている」

 

 悶えるデュストを見ながら、黒田はなおも続ける。

 

「ヒヒイロカネはオリハルコンにも並ぶ伝説の素材。

 その強度もまたオリハルコンのそれに迫る。

 ただ、一番の特性は――エネルギーの吸収にある」

 

 ……その通りだった。

 戦神の鎧を形成するヒヒイロカネは、周囲のエネルギーを吸収する特性がある。

 そんな代物に、光となった――エネルギーの一種となった状態で突っ込めば。

 

「当然、貴方の身体はエネルギーとして戦神の鎧に“吸収される”。

 それは、身体が欠けるに等しい」

 

 デュストの一部を吸収した証拠に、黒田が装着する籠手は赤く光り輝いていた。

 

「私がこれを身に着けている限り、『光迅』は通用しない。

 そんなこと、貴方が一番よく知って(・・・・・・・・・・)いるはずなのに(・・・・・・・)

 

 そう、知っていた。

 敬愛するキョウヤが愛用していた鎧だ、その特性も、黒田が現在それを身に着けていることも、全て承知していた。

 

(……なんで、忘れていたのだろう)

 

 致命的な失態だった。

 “外側”に大きな損傷はないが、“内部”があちこちやられている。

 骨が数本、内臓が数か所、“消え去って”いた。

 

「がはっ!」

 

 一際大きく血を吐くデュスト。

 そんな彼に、黒田は冷たく宣告してくる。

 

「ところで。

 今、私の籠手には貴方の一部が充填(チャージ)されている。

 ――お返ししよう」

 

 『光迅』の力を帯び輝く拳が、デュストに向かって撃ち放たれた。

 

 

 

 第二十三話④へ続く



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④ ――決着

 

 

 

(――終わった)

 

 デュストは静かにそう悟った。

 身体が転がっている。

 どこを殴られたのかも、どう吹き飛ばされているのかも、よく分からない。

 

(もう、どうしようもない)

 

 意外な程、デュストの内面は落ち着いていた。

 

 身体が止まる。

 いったい、今自分はどんな有様なのか。

 

 視界が赤い。

 耳が聞こえない。

 痛みは一周回って麻痺してきた。

 代わりに触感も働かないが。

 嗅覚? 血が詰まって鼻で息を吸えない。

 口の中も鉄味の液体でいっぱいだ。

 ただ――とりあえず、五体は満足にあるようだった。

 

 赤く染まった視界の端に黒田の姿がある。

 こちらへ近づいてくる。

 デュストに止めを刺すつもりだろう。

 彼の射程圏内にデュストが入れば、この戦いは終了する。

 

(ああ、これで――これで――)

 

 もうデュストには黒田に対抗する手段が無かった。

 こちらの攻撃は全て対処される。

 動きが完璧に先読みされ。

 切り札のはずだった『光迅』では盛大な失態を見せた。

 身体には無事な箇所などどこにもない。

 使っていた剣もいつの間にか無くなっている。

 

 正真正銘、勝率0%。

 

(これで――)

 

 デュストは、諦めて目を閉――

 

 

「終わるわけがあるかぁああっ!!!」

 

「っ!?」

 

 気合いと共に立ち上がる。

 すぐ目の前には驚き顔の黒田がいた。

 デュストが再び立つとは、思わなかったのだろうか。

 

 確かに、デュストに勝ち目はない。

 こちらの攻撃は通用しないのだろう。

 動きは読み切られているのだろう。

 『光迅』は大ポカし、身体はずたぼろで、剣も無くした。

 

(だけど――!)

 

 身体は動く。

 武器なら、手足がある。

 

 ならば(・・・)、諦める理由などどこにもない。

 後悔は、死んでからで十分だ。

 

(この程度で敗北を受け入れられるなら――僕は、勇者なんてやってない!!)

 

 己を奮い立たせる。

 デュストは、なけなしの力で拳を握り、

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

 雄叫びをあげ、黒田に向かって走った。

 ……いや、走ったつもりだった。

 

 遅い。

 致命的に遅い。

 五勇者一と言われたデュストのスピードは、見る影もなくなっていた。

 

 よたよたとふらつく。

 足がもつれそうになる。

 

 それでも、駆ける。

 敵に向かい、必死に足を動かす。

 もう少しで手が届くところへ来て――

 

「がっ!?」

 

 ――その前に、黒田の拳が飛んでくる。

 顔にクリーンヒット。

 後ろに仰け反るが、倒れるのだけは堪える。

 

「がぁああああっ!!!」

 

 前へ倒れ込むように、再度突っ込む。

 当然、黒田は迎撃態勢。

 デュストの腹や肩に打撃が炸裂する。

 

「だぁあああああっ!!!!」

 

 無理やり(・・・・)それを無視。

 そして黒田へと、こちらの拳を突き出す。

 

 何の策も弄していない、瀕死の身体で放った一撃。

 力も速度も、いつもの1割程度。

 こんなものが当たるわけが無い。

 

 無い、のだが。

 

「ぐ、あっ!?」

 

 苦悶の声。

 デュストのものではない。

 

 この日、初めて。

 デュストの攻撃が、黒田に当たったのだ。

 

「ぜぇっ! ぜぇっ!――だりゃぁああああっ!!」

 

 少し動いただけで心臓がはち切れそうになるのを、気合いで誤魔化す。

 その勢いで、デュストはさらに拳を繰り出した。

 

「うっ! グッ! げはっ!?」

 

 また当たった。

 デュストの攻撃がクロダに命中しだした。

 

(なんだっ!?

 何が起こった!?)

 

 自分でも理由は分からなかった。

 だが、デュストの拳には確かに黒田を殴った感触がある。

 

(当たるというのなら――!!)

 

 もう一発、と拳を振り上げたところで、黒田が反撃してきた。

 頭に一つ、身体に二つ。

 その全てをデュストはモロに食らう。

 

「そ、んなものでっ!!

 止まるかぁああああっ!!!」

 

 実際のところ、何か致命的なものを砕かれた感触や、潰された感触があったが。

 根性で(・・・)、それらを無視した。

 

 続く黒田の攻撃も貰いながら、それでもデュストは腕を思い切り振る。

 

「ぐはぁっ!!?」

 

 後ろに下がったのは、黒田の方だった。

 相手の足元が若干ふらついている。

 デュストの攻撃が、効いているのだ。

 

「お、おぉおおおおおおおおっ!!!」

 

 その機を逃さず、デュストは黒田へと飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

「ふふ、ふふふふ。

 形勢が逆転しましたわね、キョウヤさん?」

 

 黒田とデュストを指しながら、エゼルミアは言う。

 2人の戦いは、先程とは真逆の展開となっていた。

 傷だらけのデュストが、黒田を殴り倒している。

 黒田の方も反撃はしているのだが、どうにも上手くいかない。

 見当違いの方へと攻撃したり、当たっても“当たり損ない”になって大したダメージを与えられていない。

 

「……この辺りが誠一の弱点だな。

 相手が予想外の行動を取り出すと、途端に対応できなくなる。

 いや、特性によるデメリットだというのは承知しているが、理不尽な程弱くなるんだよな」

 

「今のデュストさんの行動は、想定していなかったと?」

 

「そりゃそうだ。

 自分の命も、勝利すらも(・・・・・)投げ捨てて攻撃してくるなんて、想定するわけがない」

 

 キョウヤはそう言うと、大きくため息を吐く。

 しかしその態度に、焦りは見受けられなかった。

 

「そう言う割には、随分と余裕がおありで」

 

「もう誠一の負けは無いからな。

 見ろ、デュストの身体を。

 動けば動くほど、あちこちから血飛沫が上がってる。

 殴っているあいつの方が、ダメージ多いんじゃないのか?」

 

「……それもそうですわね」

 

 エゼルミアも肯定せざるを得なかった。

 まさにキョウヤの言う通り。

 デュストは自分の命を削りながら攻撃していた。

 

 彼の身体は既に致命傷を負っている。

 本来、動くことなどできようはずもないところを、気力で動かしているのだ。

 その代償は、肉体のさらなる損傷という形で返ってくる。

 

「例えこのままデュストが攻撃を止めなかったとしても、誠一が死ぬより先に力尽きるだろうよ。

 それに――」

 

 そこでキョウヤは、笑みを浮かべた。

 嬉しそうな、それでいて寂しそうな、そんな顔だ。

 

「今のあいつはデュストに戻っている(・・・・・)

 なら、何の心配も無いさ」

 

 

 

 

 

 

「く、黒田っ!?」

 

 思わず叫ぶ。

 陽葵の見ている前で、黒田が地面に倒れ伏した。

 デュストの拳で、殴り飛ばされたのだ。

 

(ど、どうしたんだよ!

 さっきまで調子良かったのに!!)

 

 デュストが素手による攻撃を始めてから、黒田は防戦一方になっている。

 陽葵は予想外の展開に戸惑いながらも、その理由に検討はついていた。

 

(社畜って特性のせい――なのか)

 

 おそらく、そうなのだろう。

 以前にアンナから聞いた、黒田の特性。

 予期せぬ出来事に対し、失敗の可能性が大幅に上昇するという、あれだ。

 

「……確かに、こんなの黒田も考えてなかったんだろうな」

 

 陽葵の目から見ても、デュストは何で動けるのか分からない様相だった。

 腕の一部が変な方向へ曲がっていた。

 拳からは、折れた骨が飛び出しているのが見える。

 足はガクガクと震えていて、自分の体重を支えるのもやっとという有様。

 攻撃だって、精彩に欠けていた。

 陽葵が目で捉えられる程度に、そのスピードも落ちている。

 

(……それでもオレより速いし、攻撃力高そうなのが癪だけど)

 

 自分が瀕死の勇者以下であることを不承不承認める。

 ただ、陽葵は別のことにも気づく。

 

(追い打ち、しないのか?)

 

 倒れている黒田へ、デュストは攻撃を仕掛けなかった。

 絶好のチャンスだというのに。

 代わりに、彼は声を張り上げて黒田を罵倒する。

 

 「どうした、不甲斐ないぞ、クロダ・セイイチ!

  こんなパンチで倒れるのか!?

  それでキョウヤ様の代理などと、よく言えたものだ!!」

 

 「ぬ、ぬぅうっ!!」

 

 その言葉を受けて、黒田は立ち上がる。

 黒田の体勢が整うのを確認してから、デュストは戦闘を再開した。

 

 「最初の威勢はどこへ行った!?

  こんな僕に気圧されているようでは、“この先”やっていけないぞ!?

  まさか他の勇者が僕より弱いだなんて思ってるわけじゃないだろう!!」

 

 両の拳で黒田を殴りながら、デュストは叫ぶ。

 だが黒田だってやられてばかりじゃない。

 紅い籠手を纏った拳で、デュストを狙い撃つ。

 

 しかしデュストは、その攻撃を身体を倒れ込ませて回避。

 そのまま、黒田へとカウンターの右ストレートをぶち込んだ。

 

 「がはっ!?」

 

 「踏み込みが甘い!!

  今のはもう半歩進んでいれば僕を捉えていたぞ!!

  効率を重視するのは結構だが、ここぞという時には危険を冒す勇気も必要だ!!」

 

 怒号を飛ばして、さらに殴る、殴る。

 

 「気合いが足りない!!

  劣勢の時こそ、気力を奮い立たせるんだ!!

  もっと()を睨み付けろ!!」

 

 黒田を攻撃しては、その度に黒田の欠点を指摘する。

 そんな行いを、繰り返すデュスト。

 その姿はまるで。

 

「なんか――稽古つけてるみたいだ」

 

 陽葵は素直に、自分が抱いた感想を口に出した。

 そう呟いた次の瞬間。

 

 「――うぉおおおおおおっ!!!」

 

 黒田が、今まで聞いたこともないような雄叫び――否、絶叫をあげる。

 なりふり構わぬ勢いで身を捻り、全身を乗せた拳を繰り出す。

 デュストも、それを迎え撃った。

 

 

 

 

 

 

 黒田とデュスト、2人の腕が交差していた。

 互いが、互いの顔に目掛けて拳を突き出した形だ。

 

「あ、がっ!」

 

 黒田の腕が力なく垂れる。

 

「ぐっ……」

 

 それは、デュストも同じだった。

 いや、こちらの方が深刻か。

 腕だけではなく、全身にもう力が入らない。

 

 デュストは、その場に膝をついた。

 

「……は、はは。

 やれば、できるじゃないか」

 

 相手を称賛する。

 この一発は、良かった。

 全霊を込めた攻撃は、デュストにとって満足のいくものだった。

 

「……僕の、負けだ」

 

 自身の敗北を――終わりを宣言する。

 もう、指先一つぴくりとも動かせない。

 ただ、意識がかろうじて残っているだけ。

 喋ることすら、碌にできそうもない。

 

 黒田は、こちらをじっと見つめている。

 そこには勝者の驕りなどなく、真摯さすら感じられる面持ちだ。

 

(……伝え、ないと)

 

 自分に、“こんなこと”を言う資格など無いことは分かっている。

 でも、言いたかった。

 口にしたかった。

 (アレッシア)から託された“願い”を、少しでも彼へと繋げたかった。

 

 万感の想いを込め、デュストは言葉を紡ぐ。

 

「……頼む。

 この、世界を、救ってくれ」

 

 その懇願に。

 黒田が、しっかりと頷くのを見て。

 

 ――デュストの意識は、消えた。

 

 

 

 第二十三話 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日談――などではなく。

 現在、デュストさんが倒れた直後である。

 私こと黒田誠一は、肩を大きく揺らしながら呼吸をついていた。

 

 身体は大分ガタがきている。

 半死半生の人間にここまでやられるとは、情けない限りだ。

 デュストさんも言っていたが、実にこの先が思いやられる。

 

「やったじゃねぇか、黒田!!」

 

 後ろから声が聞こえる。

 陽葵さんだ。

 可愛らしさ全開な満面の笑みを浮かべて、私に駆け寄ってくる。

 

 その向こうには、ローラさんとセドリックさんの姿。

 ローラさんも私に向かって微笑んでいた。

 セドリックさんは倒れたままだが――胸が上下に動いている。

 どうやら、一命をとりとめたらしい。

 私はほっと息を吐く。

 

 

 デュストの身体が起き上がったのは、その時だった。

 

 

「ええっ!?」

 

 陽葵さんが驚きの声をあげた。

 私は油断せず、デュストを注視する。

 

 彼の身体を、“赤色の光”が包んでいた。

 そして見る見るうちに、肉体の傷が治っていく。

 

「な、何が起きてるんだよ、これ」

 

 戸惑う陽葵さん。

 デュストの身体は、完全に元通りに――私と戦う前の状態になっていた。

 

 動けない私達をよそに、デュストが口を動かす。

 

『――見事だ、ミサキ・キョウヤの代理よ』

 

 聞こえてきたのは、しかしデュストのものでは無かった。

 もっと重々しく厳かで、頭の中に直接響くような声だ。

 

「デュストじゃ、ないのか?」

 

『そうだ。

 我が名はゲブラー。

 六龍の一体、赤龍ゲブラーである』

 

 陽葵さんの質問に、『デュスト』――いや、ゲブラーは答えた。

 

「え、えぇえええええええっ!!?」

 

 後ろの方で、ローラさんの叫び声が響く。

 陽葵さんも、目を丸くしていた。

 

 赤龍ゲブラー。

 本人の申告通り、六龍の内の一匹であり、7年前の魔王との戦いでデュストに力を与えた龍。

 本物かどうかの証拠は無いが――放たれる圧倒的な存在感が、彼が超常の存在であることを疑いようのないものとさせていた。

 

 陽葵さんが、ゲブラーへ問いかける。

 

「勇者が龍の力を借りているって話は聞いてたけど――龍を身体に入り込ませてたのかよ!?」

 

『我々に実体はない。

 7年前――魔王との決戦の折より、我は勇者の一人、デュストへと憑依していた。

 もっとも、この者は我の力に酔いしれ、愚かな行いに走ってしまったようだが』

 

「ようだがって、止められなかったのか!?」

 

『我々はこの世界へ多く介入しない。

 ただ、力を与えた者の動向を見守るのみ』

 

「そ、そうなのか……まあ、神様みたいなもんだからな、仕方ないのか?」

 

 首を傾げながらも、陽葵さんは一応納得したようだ。

 だが、

 

『では約定の通り――我は室坂陽葵の身体へと移る』

 

「…………え?」

 

 この言葉に、再度目を見開いた。

 

「ど、どういうことだよ!?」

 

『言葉通りの意味だ。

 この勇者達の戦いで、“負けた勇者”に力を与えていた龍は、其方の身体へと移り、勝者の決定を待つ。

 これは、勇者達が取り決めた契約なのだ』

 

「そ、そうだったのか。

 ん? 勇者が龍に憑依されることでその力を借りてたってことは、オレもゲブラーの力が使えるようになるのか?」

 

『龍の力を行使しようとするのであれば、それも可能であろう。

 其方が、憑依した我の力をどう扱おうと、我はそれに関知しない』

 

「へー。

 なんか、棚ぼたラッキーな感じだな!」

 

 ゲブラーの言葉に、ただ喜ぶ陽葵さん。

 だが、それを聞いていたローラさんは、“ある事”に気付いたようだ。

 彼らの会話を遮り、ゲブラーへと言葉を飛ばす。

 

「……お、お待ち下さい、ゲブラー樣!!

 貴方様の力を借りる行為は、常人であれば耐えられないと聞きます!

 ヒナタさんであっても、龍の力で精神が壊されると!

 今、ゲブラー樣がヒナタさんへと憑依された場合、彼は――!?」

 

『――うむ。

 我が力によって、室坂陽葵の人格は消え去るであろう』

 

「んなっ!!!?」

 

 あっさりと返したゲブラーの台詞に、陽葵さんが驚愕する。

 

「ちょ、ちょっと待った!

 無し!! それ無し!!

 憑依するの、少し待って!!」

 

「ゲブラー樣、ご慈悲を!!

 もう少しだけ――ヒナタさんの心が貴方様に耐えられるようになるまで、お待ち頂けませんでしょうか!!」

 

 陽葵さんとローラさん、2人がゲブラーへと頼み込む。

 しかし、奴の答えは――

 

『それは無理だ。

 この約定は7年前、勇者達が取り決めたこと。

 我はただそれに従うのみ』

 

 ――実に、冷淡なものだった。

 

「そ、そんな――」

 

 ローラさんは嘆き。

 

「う、嘘、だろ。

 これでオレ、終わりなのか……?」

 

 陽葵さんは呆然とする。

 

『室坂陽葵よ。

 猶予は与えられたはずだ。

 其方がこの六龍界に召喚されてから今まで、十分な時間はあったはず。

 それを活かせなかったのは――其方の不覚であろう』

 

「あ、あ、あ……」

 

 ゲブラーが、陽葵さんへと近づく。

 

『……む』

 

 ふと、足を止めた。

 私が、陽葵さんの前に立った(・・・・・・・・・・)からだ。

 

「く、黒田?」

 

「クロダさん……?」

 

 2人の声が聞こえるが、そちらを向くことなく、私はただゲブラーを見る。

 

『何のつもりだ、ミサキ・キョウヤの代理よ。

 よもや、我の行動を妨げようと?』

 

「ええ、そのつもりです」

 

『それ程、室坂陽葵に入れ込んだか。

 命に代えても、守ると?』

 

「………違う」

 

『む?』

 

 ゲブラーが怪訝な声を出した。

 

 そう、違う。

 無論、陽葵さんは大切なセックスフレンド――もとい、仲間だが。

 今、ゲブラーの前に立ちふさがった理由に、彼は関係が無い。

 

 私は、毅然と言い放つ。

 

お前(・・)が、罪を犯したからだ」

 

『罪、と?

 我が、何をしたというのか?

 勇者の愚行に対して何もしなかったことを、罪だと咎めるか?』

 

「そんなわけが無い。

 私が言いたいのは、そういうことでは無い」

 

『では、何だ。

 述べてみよ、ミサキ・キョウヤの代理よ』

 

 言われるまでも無い。

 存分に語ってやろうじゃないか。

 

「五百年前。

 お前達(・・・)は、六龍の巫女を誑かし――魔王へと仕立てた」

 

「え!?」

 

「く、クロダさん!?

 いきなり何てことを!!」

 

 陽葵さんが驚きの声を、ローラさんが批難の声を上げる。

 だがそれに取り合わず、私は続ける。

 

「それから7年前まで。

 魔王となった巫女を操り、この大陸に災厄をまき散らした。

 ただ、“その方が面白い”から、という理由でだ!」

 

 声を荒げる。

 ゲブラーは何も反応しない。

 

「そして7年前!

 お前は勇者デュストを騙くらかし、己の操り人形とし!

 彼の武勇を、地に落とした!!」

 

 叫ぶ。

 ゲブラーへと、言葉を叩きつける。

 

「その罪、ここで贖ってもらう!!」

 

 宣告の後、しばしの沈黙。

 それを破ったのは、他ならぬゲブラーだ。

 

『く、く、く――はは、はははははははははっ!!!』

 

 嗤った。

 奴は、楽しそうに嗤いだした。

 

『キョウヤから聞いたのか!?

 それとも、ガルムから入れ知恵されたか!!?』

 

 ゲブラーの声が響く。

 その声色から、重々しさや厳かさは消え去っている。

 そして――こいつは、私の言葉を否定していない。

 それが意味することは、ただ一つ。

 

「……そん、な。

 ほ、本当に――?」

 

 ローラさんの呟きが聞こえる。

 彼女も理解したのだ。

 “本当の黒幕”が、誰なのか。

 

 ゲブラーの、嘲った声が聞こえる。

 

『それで!?

 どうする!!

 お前は、我にどうやって罪を償わせる!?

 ただの人間に過ぎないお前が、六龍である我に、何をするというのだ!!?』

 

「決まっている!!」

 

 私の周囲を、風が取り巻く。

 

 ――『風迅』。

 <射出>による力場が、全身を駆け巡っていく。

 鼓動が早まり、筋肉の蠢動が加速する。

 

 身体チェック。

 骨――罅はあるが、折れは無し。

 肉――打身多数も、動きに阻害無し。

 

 問題ない。

 任務の遂行に、一切の支障無し。

 

「当方、ミサキ・キョウヤが代理、黒田誠一!!」

 

 構える。

 紅い籠手を纏った拳を、ゲブラーに向けて突き出した。

 

 

「――これより、“勇者”を執行する!!」

 

 

 

 

 第二十四話へ続く



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第二十四話


 

 

 

 以前、ミサキさんは語った。

 六龍を祀っていた巫女が魔素に蝕まれ、『魔王』の人格が誕生したのだと。

 六龍の力を借り魔王を倒した勇者達は、六龍の力に魅入られ道を踏み外したのだと。

 

 それは、根本的な箇所に虚偽がある。

 

 巫女を魔王にしたのは、六龍だ。

 勇者を外道に堕としたのは、六龍だ。

 

 魔素によって狂わされたのは、他ならぬ六龍自身だったのだ。

 

 

 

 実のところ。

 勇者デュストとの戦いは、私の勝ちが最初から確定したものだった。

 いや、あんなものを戦いと呼んではいけないのかもしれない。

 私はただ、ミサキさんの敷いたレールの上を走ったに過ぎないのだから。

 

 この先は、違う。

 いかにミサキさんであっても、六龍の戦闘パターンなど把握していない。

 予行訓練無しの、正真正銘ぶっつけ本番。

 

 

 即ち。

 ――ここからが、本当の戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 第二十四話 魔龍討滅戦

 

   赤龍ゲブラー

 

 

 

 

 

 

 目の前には、赤い(オーラ)を纏ったデュスト――赤龍ゲブラーが居る。

 私の『宣言』を受け、不敵な笑みを浮かべていた。

 

『“勇者”を為すとは、また面白いことを言ったものだ。

 “勇者”は、我の存在を許容せぬ、と?』

 

「逆に聞こう。

 暴虐な振舞を許す勇者がいるとでも?』

 

『くく、くはははは!

 この世界における“勇者”がどのような存在(・・・・・・・)か、其方は知っているのだろう?

 それでなお、そう嘯くか!』

 

 一瞬、イネスさん――葵さんの姿が頭を過ぎる。

 

「お前達の定義した“勇者”など知ったことか。

 地球では、“勇者”とは弱気を守り、悪を挫く者のことを言うのだ」

 

『それを其方が実践すると?

 ――滑稽だな。

 己の卑小さを自覚できておらぬとは』

 

「それはそちらも同じだろう。

 低俗な化け物風情(・・・・・・・・)が人を見下すなど、笑い話にもならない」

 

『――言ってくれたな。

 六龍たる我を怪物と同列に扱うか』

 

 ゲブラーの声色が変わった。

 怒気がそこに含まれだす。

 同時に、奴からの“圧力”が爆発的に膨れ上がった。

 まだ何もされていないというのに、肌がピリピリと痺れ、喉がカラカラに乾く。

 

『その暴言、万死に値する。

 少々遊んでやろうかとも考えたが、その気は失せた。

 疾く、滅するが良い』

 

 顔から笑みが消えた。

 どうやら、最初から全力で来て貰えるようだ。

 

 それでいい。

 手加減されると、こちらも困るのだ。

 段階的に力を解放されでもしたら、慣れるの(ルーチン化)に時間がかかってしまう。

 

()ね』

 

 先にゲブラーの身体が動いた。

 

 “右から来る!”

 

 気付けば、もうすぐそこにゲブラーの腕。

 赤い光を纏った手が、猛烈な速度で私の頭へ振られる。

 まともに受ければ、まあ、即死だろう。

 

 咄嗟に私は<射出>で“左”に飛ぶ。

 だが無理。

 ゲブラーの腕の方が早い。

 

 右腕でガード――は無理なので、受け流しを試みる。

 

「がっ!?」

 

 攻撃を流そうとしたのだが、完全には決まらなかった。

 長し損ねた力が、右腕に炸裂する。

 とてつもない衝撃。

 近距離でダイナマイトでも爆発すれば、こうなるだろうか。

 

 <射出>の勢いと併せ、猛烈な勢いで私は吹き飛んだ。

 

「ぬっ! ぐっ! ぬぁっ!!」

 

 吹き飛びながら、<射出>の力場で体勢を立て直す。

 そして、なんとか着地。

 

 すぐに右腕を確認。

 ……良かった、ちゃんと“ある”。

 凄まじい打撃だったので、引き千切れてしまったのではないかと心配だったのだ。

 流石は『戦神の鎧』、大した防御力である。

 とはいえ。

 

 ……腕をただ振っただけでこの威力を生みだしたのか。

 分かってはいたが、出力が人の規格から大幅に外れている。

 

 ゲブラーの方を見る。

 彼我の距離は、一気に30m程離れていた。

 つまりそれだけの距離、吹き飛ばされたわけである。

 

『逃げるのは、上手いようだな』

 

 奴の声が聞こえ――即、<射出>を使用。

 その場から離脱する。

 直後、“直前まで私が居た場所”を、ゲブラーの放った『衝撃波』が通過。

 遅れて、衝撃波が通過した地面が粉々に吹っ飛んだ。

 さらに後方で、建物が倒壊する音が聞こえる。

 不幸にも、衝撃波が当たったのだろう。

 

 住人の安否が心配だが、おそらくもう避難している(・・・・・・・・)はず。

 被害の補てんも、後でジェラルドさんあたりがしてくれるだろう。

 他のことを考えず、とにかくゲブラーに集中しなければ。

 

『くはははは、逃げ惑うがいい!』

 

 次から次へと衝撃波。

 <射出>による三次元機動と“風迅”による高速移動で、左に右に、上に下に回避する。

 街並みが破壊されていく。

 煉瓦も石も、土壁も石壁も、それに触れれば木端微塵だ。

 当然、当たれば私も同じ末路を辿るだろう。

 

 避ける合間で、矢を<射出>して牽制。

 しかし放った矢はケブラーの纏う光に触れると、即座に燃え尽きた。

 

『そんなものが我に効くとでも思ったか?』

 

 奴の言う通り、そして私も予想した通り、矢は何の効果も無い。

 続けざま、さらに5本の矢を飛ばしても、結果は同じだった。

 

 お返しとばかりに、ゲブラーの衝撃波が来る。

 一撃即死の圧力に身体が竦むのを堪え、回避に専念する。

 

『これは、どうだ?』

 

 ゲブラーの呟き。

 私の目には、紅く輝く光弾が写る。

 曲線を描き、猛烈な速度でこちらへ向かってきた。

 

 ――これを待っていた!

 私は両腕を、光弾に向けて伸ばす(・・・・・・・・・)

 

『――む』

 

 訝しむようなゲブラーの声。

 

 私の手に当たった光弾は、『戦神の鎧』によって吸収されたのだ。

 装着する籠手は紅く赤い輝きを放っている。

 ゲブラーの力が充填(チャージ)されたのである。

 

「せやぁああああっ!!!」

 

 掛け声と共に、ゲブラーへと猛進。

 全身の駆動部に<射出>を行使し、一気に奴へ肉薄する。

 防御の必要などないと考えているのか、ゲブラーは何の対処もしてこなかった。

 

 その傲慢を突く。

 

「せぃっ!!!」

 

 右の腕で、ボディブローを放つ。

 

 本来、私の攻撃などゲブラーには通用しない。

 オーラに弾かれて奴に触れることすらできないだろう。

 下手すれば矢と同様、攻撃した私の方が砕けるかもしれない。

 

 だが。

 

『がぁっ!?』

 

 ゲブラーの身体がくの字に折れる。

 拳は、深々と奴の腹に抉り込まれていた。

 

 本来、私の攻撃は通用しない。

 しかし今、『戦神の鎧』には、その籠手にはゲブラーの力が宿っている。

 私の打撃(風迅)に、奴自身の力が上乗せされれば。

 

「どうやら、効くようだな!」

 

 言葉と共に、左拳でアッパーカット。

 

『ごっ!?』

 

 ゲブラーの頭が跳ね上がる。

 

 ……奴に気付かれぬよう、心の中で安堵する。

 理屈上、この方法であればダメージが与えられるという算段ではあったのだが。

 実際に試したことは無かったので、実は内心不安だったのだ。

 通じなかった場合、全力逃亡も視野に入れていた。

 

 だが、その不安は晴れた。

 六龍だの言っても、相応の(・・・)力を持ってすれば、攻撃が通る。

 これで、攻撃手段が確立された。

 

 あとは――

 

『ミサキ・キョウヤの鎧かっ!!

 おのれぇっ!!』

 

 ゲブラーが腕を振ってきた。

 自分の身体を全力で後方へ<射出>。

 ギリギリでかわすことができ――

 

「ぐっ」

 

 呻く。

 胸部に激痛が走った。

 おそらく、肋骨が何本か折れたのだ。

 内臓にもダメージが及んだのだろう、喉から血が上がってくる。

 回避できたと思ったのだが、僅かにかすってしまったか。

 もっと、慎重に対処せねば――!

 

 口の中の血を無理やり飲み込み、改めて構えを取る。

 両手の輝きは、今の攻撃で既に消費されていた。

 

『人間風情が、この我に痛みを与えるかっ!!!』

 

 ゲブラーはゲブラーで、怒髪天を突いているようだ。

 人から抵抗されるなど、ましてや負傷を負わされるなど、奴にとって初めての体験だったのかもしれない。

 私は貴重な初体験相手となったわけだ。

 

 ……軽口を思い浮かべている場合ではなかった。

 ゲブラーは怒りに任せて衝撃波を周囲へ何発も撃ち放つ。

 

 ほとんど狙いは付けられていない。

 八つ当たりで周囲を壊滅させるついでに(・・・・)、私も潰そうという考えなのか。

 ふざけた行為だが、それが却って避けづらい。

 

 私は神経を最大限に研ぎ澄まし、ゲブラーの攻撃へ対処していく。

 

 

 

 

 

 ――さて。

 何故、私は曲がりなりにもこうしてゲブラーと戦えているのか。

 未知の相手であり、絶望的とすら言える戦力差がある相手に、追い縋れているのか。

 不思議に思っている方もいることだろう。

 

 種明かしをしよう。

 先程、予行はしていないと言った。

 その発言を少々修正する。

 実は、“それに近いこと”はやってきたのだ。

 デュストとの戦闘である。

 

 ゲブラーは、六龍がこの世界へと多く介入しないと言ったが、それは完全に嘘というわけではない。

 実体のない六龍は、この世界に対して過度に干渉“できない”のだ。

 奴らが積極的に世界へ関わりたい場合、依り代の存在が不可欠となる。

 7年前までは、依り代には巫女が使われていたわけだ。

 

 そして、ここからが肝要なのだが。

 六龍の物質的な活動は、依り代に大きく依存する。

 龍の力を行使する器としての適性、というだけではない。

 その依り代を使って行動する以上、依り代の身体的特徴による束縛を受けるのだ。

 例えば足の長さから歩幅は制限されるし、骨格は動く際の所作に影響する。

 果ては依り代の持つ『癖』も――些細なものから、行動決定の指針に至るまで――その行動に現れる。

 

 つまり。

 今のゲブラーの行動は、デュストの戦闘パターンからある程度予測が可能ということだ。

 特に攻撃の予備動作については、かなりデュストのそれと酷似している。

 

 この確度の高い予測によって、『社畜』によるデメリットは限りなく0になっている。

 

 ――これが、理由の一つ目。

 

 

 

 

 

 

『おのれおのれっ!!

 ちょこまかとっ!!』

 

 ゲブラーの攻撃は続く。

 衝撃波の乱れ打ちが、私に降り注ぐ。

 

 だが、どうにかこうにか、私はそれを避けていた。

 そのことが、余計に奴の苛立ちを募らせているようではあるが。

 

『消し飛べぇっ!!』

 

 感情的になったおかげなのか。

 ゲブラーは、再び光弾を放つ。

 都合4つの光が、それぞれ別の軌道で私を襲い来る。

 

 学習能力が無いのか。

 それとも、同時に複数くれば捌けないとでも考えたのか。

 どちらにせよ、甘い。

 “風迅”を使用している今、この程度であれば――

 

 右手で払い。

 左手で止め。

 右足で受け。

 左足で蹴りつけ。

 

 ――両手両足を使って、4個の光弾を吸収する。

 

『なっ!?』

 

 驚きに、ゲブラーが一瞬動きを止めた。

 それを見過ごすわけにはいかない。

 私は一直線に奴目掛けて跳ぶ!

 

『ぬっ!?』

 

 気付くのが遅い!

 今度は、輝く四肢による拳と蹴りの四連撃。

 一つとして外すことなく、ゲブラーへ叩きつけた。

 

『ガアァアアァアアアア―――っ!!!』

 

 人のモノとは思えぬ絶叫が、辺りに響いた。

 

 

 

 

 

 

 ――理由の、二つ目。

 

 これは単純明快。

 ゲブラーの戦闘練度が低いのだ。

 出鱈目な出力に目を奪われてしまうが、奴の戦闘行動自体は実に稚拙(・・)

 デュストの洗練された剣技と比べてしまうと、大人と子供、月とすっぽん、比べることすらおこがましい。

 駆け引きも何もなく、ただ嬲ってくるだけなのだから。

 読みやすい(・・・・・)こと、この上ない。

 

 

 

 

 

 

 戦闘は、再び遠距離戦となっていた。

 実のところ、“デュストの身体”を使った直接攻撃が最も厄介なので(避けにくい上に吸収もできない)、この距離は私にとっても都合がよい。

 

 そしてゲブラーの攻撃の特性も分かってきた。

 基本的に、奴は遠距離では衝撃波と光弾の二種類を使う。

 衝撃波は速度が高く、比較的広範囲を薙ぎ払う代わりに、どうも精度が低い。

 おかげで、避けるのは決して難しくない。

 一方、光弾は衝撃波に比べるとやや速度は劣るものの、ゲブラーの意思で自在に動かせるようだ。

 吸収できるからこそ驚異は少ないが、しかし避けにくさという点では衝撃波の比ではなかった。

 

『オオオォオォオオオオッ!』

 

 ゲブラーの雄叫び。

 奴も自省したらしく、今や攻撃は衝撃波と光弾の混合となっていた。

 

 衝撃波によって私の動きを止め、光弾で『戦神の鎧』が装着されていない部位を狙い撃つ。

 こうなってくると、『戦神の鎧』による吸収戦法も使いにくい。

 仮に、最初からこの戦術で来られたら私は成す術も無く負けていただろう。

 ゲブラーの攻撃に何度か体験したからこそ、どうにか回避できているのだ。

 

「はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 額から汗を流して、次から次へと放たれる攻撃へと対処していく。

 痛みと疲労、そして緊張感で心拍数が上がる。

 しかもデュストとの戦いから“風迅”を連続使用しているため、身体のへの負担も厳しい。

 ――自身の身体能力を大幅に超える動きの代償は、軽くないのだ。

 

 このままでは、ジリ貧。

 龍と体力勝負など無謀以外の何物でもない。

 

 打開策は――ある。

 

 私はゲブラーの射撃をかわしながら、“ある地点”へと降り立つ。

 この位置なら(・・・・・・)、衝撃波は使えまい。

 

『――ム』

 

 案の定、ゲブラーは衝撃波による射撃を取りやめた。

 向かってくるのは、光弾のみ。

 

 そうなれば、格好の餌食。

 私は赤い光を籠手に充填し――ゲブラーを叩くべく、接近戦を仕掛ける。

 

 

 

 

 

 

 ――最後の理由。

 

 それは、陽葵さんの存在だ。

 彼の身体は、六龍の依り代に最も適している。

 魔王が居ない今、龍達が自分の力を十全に発揮したい(・・・・・・・・)のであれば陽葵さんの身体が不可欠なのだ。

 つまり、ゲブラーは間違っても陽葵さんを傷つけたくない。

 この戦闘の初手――私が陽葵さんの前に立っていた際、奴が直接殴りかかってきたのも、それが理由である。

 

 そして、先程私が立っていた場所も、その時と条件は同じ。

 ゲブラーと私の立ち位置を結んだ延長上に、陽葵さんがいたのだ。

 彼が射線に入っていたが故に、精密性に難のある衝撃波を使えなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 ゲブラーとの3度目の接近戦を終えた直後。

 私は確信を得る。

 

 ――もう、十分だ。

 

 奴との戦闘パターンには、慣れた(・・・)

 思いのほかゲブラーの行動が単純だったため、ルーチン化は予想よりも早く為すことができた。

 これで、『社畜』が使える。

 

 まだ『戦神の鎧』に充填をしていない状態で、私はゲブラーに近づいていく。

 雨あられと光弾と衝撃波が降り注ぐが、それらを軽く(・・)かわす。

 光に対しては手をかざし、力を吸収しておく。

 

『――なんだ、その動きはっ!?』

 

 驚愕するゲブラー。

 なんだも何も、奴はデュストと私の戦いを見ていなかったのだろうか?

 ……見ていなかったのかもしれない。

 ならばなおのこと、好都合。

 

 十分接近したところで、一撃。

 

『グァッ!』

 

 ゲブラーは苦悶の声を上げる。

 今までは、攻撃の直後、すぐに離脱していた。

 その必要はもう無い。

 

『今度は逃げぬのか。

 いい度胸だっ!』

 

 腕で私を薙ぎ払ってくる。

 危なげなく(・・・・・)、それを回避した。

 

『ぬっ!』

 

 避けたのを見て、もう一度手が振るわれる。

 今度は避けず、“完璧な形”で受け流す。

 どれ程の剛力であろうと、力を100%流してしまえば、自身にかかる負担は0だ。

 

『何だとっ!?』

 

 あっけにとられるゲブラーの身体を、右手でそっと触る(・・)

 奴の身体を取り巻くオーラが、少しずつ籠手に吸収されていく。

 光弾ほど凝縮された力ではないので、どうも充填には時間がかかるようだ。

 

『――貴様っ!!』

 

 ゲブラーの攻撃が来るが、私は奴に触れたまま(・・・・・)対処する。

 

 右からの一撃を避ける。

 上からの振り下ろしを流す。

 下からの振り上げは回り込んで回避。

 

『我を愚弄するかっ!?』

 

 左腕を振り回してきたので、それもやはり受け流し。

 そんなところで、充填が完了した。

 右拳をゲブラーの右頬にぶち込む。

 

『ブハッ!?』

 

 後ろに仰け反り、そのまま倒れた。

 追撃を仕掛ける――前に、奴の身体は跳ね上がり、体勢を元に戻した。

 流石にそこまで甘くはないか。

 

『――認めよう』

 

 ゲブラーが喋る。

 

『貴様は、ミサキ・キョウヤと(・・・・・・・・・)同等の脅威であると(・・・・・・・・・)!』

 

「ッ!!」

 

 奴の身体が、否、“デュスト”を取り巻く赤い光が膨れ上がる(・・・・・)

 咄嗟に<射出>で後方へ退避するも、広がる光に追いつかれ――

 

 

 

 

 

 

『やはり死なないか。

 よい、分かっている。

 この程度では、貴様は斃せない』

 

 耳にゲブラーの声が聞こえる。

 私はというと、地面に仰向けで転がっていた。

 奴の言うように死んではいないが、身体のあちらこちらが焼け付くように痛い。

 『戦神の鎧』で吸収しきれなかった(・・・・・・・・・)エネルギーが、この身を焼いたのだ。

 それ程、膨大な出力が展開された。

 意識は保てているものの、すぐには動けそうにない。

 

 一方でゲブラーの方はと言えば。

 

『よもや、たかが“代理”相手にこの姿を取ることになるとは思わなかったぞ』

 

 赤い光が、巨大な、神々しさを感じさせる『龍』を形成していた。

 全長は、20mを優に超えるだろうか。

 “デュスト”の身体は、その『龍』の中心辺りに浮かんでいる。

 これこそが、奴の“原型”に近い姿なのだろう。

 

『しかし――もう、立つこともできぬようだな。

 当然の結末だ。

 最後に我が姿を謁見できたことを光栄に思いながら、死ぬがよい』

 

 確かに。

 今の私は、身体が麻痺して指一本動かせない。

 次に来るゲブラーの攻撃に、何の反応もできないだろう。

<射出>で無理やり移動することならできるのだが、これまでの戦闘で周囲はほぼ更地のようになっている。

 身を隠すことも不可能。

 このまま、死を待つのみ。

 

 

 だが。

 だがしかし!

 この展開もまた、予想済みだ(・・・・・)

 

 

 「今にゃっ!!

  撃てぇーーいっ!!」

 

 

 アンナさん(・・・・・)の掛け声。

 それと共に、無数の光がゲブラーに向かって降り注いだ!

 

『オオォオオオ――――!?』

 

 龍が叫ぶ。

 

「にゃっははははははっ!!

 どうにゃっ!?

 のべ金貨5000枚にも及ぶ攻撃用マジックアイテムの一斉掃射はっ!!」

 

 続いて、アンナさんの笑い声が響いた。

 首を無理くり動かして声の方を見れば、そこにはアンナさん、並びにセレンソン商会の方々の姿が。

 

「待たせたにゃ、クロダちゃん!

 いやー、ここまでよく頑張ったにゃあ。

 ご褒美をあげよう」

 

 私の近くに駆け寄ってきたアンナさんが、声をかけてくる。

 同時に、私の身体へ治癒のポーションを降りかけてきた。

 

「あれ?

 すぐに全快しないにゃあ。

 クロダちゃん、どんだけダメージ食らってたの?」

 

「まあ、それなりには貰ってしまいましたね」

 

 全身の痛みはまだ引かないが、とりあえず会話ができる程度には回復した。

 

「私のことより、まずはゲブラーを」

 

「分かってるにゃ!

 ポーションはいっぱい持ってきたから、それで回復しててちょうだい!」

 

 言って、アンナさんは私に幾つものポーションを投げ渡してくる。

 受け取ってすぐ、それを自分に使いながら、私はゲブラーを見た。

 

『何故だ、何故だ!?』

 

 奴は混乱していた。

 残念ながら、アンナさん達の射撃に戸惑っているわけでは無い様だ。

 エネルギー体なので効いたかどうかの判別はしにくいが、ダメージを負ったような様子はない。

 

 アンナさんに向かい、ゲブラーが叫ぶ。

 

『お前は、“デュストが殺した”はずだ!』

 

「はんっ、分っかんないのかにゃあ?

 神様の癖に?

 ほんっと大したこと無いんだにゃ、六龍ってのも。

 こんなのを拝んでた知ったら、信者の皆さん首吊って死んじまうにゃ!」

 

 ふてぶてしい口調でアンナさん。

 彼女も、ゲブラーに対して思う所あるのだろう。

 

「もともと、勇者達の戦いは“ヒナタちゃんがケセドに会ってから”始める予定だったにゃ。

 なのに、デュストちゃんはそれを無視して開戦を前倒しにした。

 それは何故か――」

 

 アンナさんは、ゲブラーを睨み付ける。

 

 僅か、だが。

 彼女の目に、光る物が浮かんだ気がした。

 

「デュストちゃんは、“今らならまだ”お前の意思に逆らえると踏んだから、戦いを開始したのにゃ!

 あの人は、ただの一人もこの街の住人を殺しちゃいない!!」

 

『あ、あの役立たずがぁ――っ!!』

 

 ゲブラーが吼える。

 自分の操り人形だと思っていた相手が、実のところ反抗していたのだと知って。

 “そんなこと”も察していなかった、無様さを晒されて。

 正直なところ、私も少しスカっとした。

 

 デュストは、アンナさん達を殺したように“見せかけた”だけだったのだ。

 ……まあ、重傷は負わされていたのだけれども。

 アンナさんは、デュストと遭遇した後、対ゲブラー戦を見据えて準備を整えていたのである。

 そして、大人数で挑みやすい巨龍形態にゲブラーが変化するまで、住民を避難させながら近場で待機していたのだ。

 なお、住民の避難に関してはジェラルドさんにも一役買って貰っている。

 

「よーし、店員の皆さーん!

 もういっちょ、やっちまうにゃ!!」

 

 再度、アンナさんの号令で商店の人々はまたマジックアイテムによる射撃を実行する。

 だが――

 

『舐めるなぁっ!!』

 

 龍の“一息”で、その攻撃は吹き散らされてしまった。

 

「にゃあっ!?

 やっべ、マジかよあいつ!?」

 

「仮にも六龍ですからね。

 これで何とかできたら世話無いですよ」

 

「クロダちゃん、なにを淡々と解説してんにゃ!?」

 

 合いの手くらいは入れようかと思っただけである。

 何せ、今の私はポーション飲むことくらいしかやれることが無いのだ。

 

『塵共がっ!!

 纏めて消えいっ!!』

 

 ゲブラーが、“大きく息を吸った”。

 奴の口元に、眩い赤光が集中していく。

 これが噂に聞く、『龍の吐息(ドラゴン・ブレス)』か!?

 

 ゲブラーは、我々に向かってその光を解き放つ――

 

 

 「だっしゃああっ!!

 <大地割り(グランド・スマッシャー)>だぁっ!!」

 

 

 どでかく、野太い声が、その直前に響く。

 

 

 

 第二十四話②へ続く



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『ヌォオオオっ!?』

 

 龍の足元で、大規模な地崩れが発生した。

 バランスを崩し、『龍の吐息(ドラゴン・ブレス)』は明後日の方へ飛んで行く。

 

「はっはぁっ!! 神様も足場崩されりゃ転ぶってか!!?

 いやぁ、まだまだ現役いけるかな、俺もよぉっ!!」

 

 ゲルマンさん(・・・・・・)だ。

 巨大な大剣を大地に突き刺したまま、豪快に笑っている。

 

「て、店長っ!?」

 

 予想外の登場に、私は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 アンナさんが協力者を募っているのは知っていたが、まさか店長だとは!

 

「おう、クロダか!

 お前なぁ、こういうことはちゃんと説明しとけよ!!」

 

「す、すみません!?

 しかし、こんな危険な場所へ立ちいらなくとも!!」

 

「なぁに言ってやがる!!

 ダチの危機(ピンチ)を黙ってみてられるかよぉっ!!

 それに、役に立つだろう、俺は!?」

 

 確かに。

 あのゲブラーの行動を妨げてくれたのだ。

 値千金の仕事である。

 というか、ここまで店長は強かったのか!

 

「っていうか、アチシが渡したドーピングアイテムのおかげなんだけどにゃー」

 

「おいこらアンナぁ!!

 いきなりネタ晴らしするんじゃねぇよ!!」

 

「自分の手柄みたいに言われると不愉快なんだにゃ!?

 ゲルマンちゃんにあげたアイテム、総額幾らになると思ってんの!?

 全部消耗品だからもう戻ってこないし!!」

 

 横から急に説明するアンナさんと、怒鳴り合いする店長。

 

 な、なるほど。

 マジックアイテムの中には、一時的に身体能力を増加させる物もある。

 店長はそれを使っているらしい。

 しかも、アンナさんの反応を見るに、相当高価な品のようだ。

 

 ――と、その時。

 

『ヌゥウウウウウウッ!!?』

 

 龍が雄叫びをあげた。

 攻撃のためのものではなく。

 その逆。

 ゲブラーが、攻撃を食らっているのだ。

 

 無数の『黒い刃』が、龍に襲い掛かっている。

 

「ふむ、傷を負った様子は無し。

 ……まあ、驚かす程度のことはできるか」

 

「――カマルさん?」

 

 私のすぐ傍らに、黒の焔亭で最近働き出した女魔族――カマルさんが立っていた。

 こちらの方は見ず、今しがた使ったスキルの戦果を確認している。

 

「貴女も、手助け頂けるのですか?」

 

(それがし)は、お前に肩入れする義理は無いのだがな」

 

 そう言ってから、カマルさんは私の方を向く。

 

「クロダ・セイイチ。

 一つ、取引がある」

 

「何でしょう?」

 

 今の状況、協力して貰えるなら何でもするが。

 

「お前の、子が欲しい」

 

「はい?」

 

 私に子供などまだ居ないが。

 たぶん。

 

「言葉が足りなかったな、某にお前の子を産ませて欲しい」

 

「理由を聞いてもいいでしょうか」

 

「某は、強い雄と子を儲けたいのだ。

 ゲルマンの所へ居ついたのも、それ故のこと。

 あの男の種で孕もうと考えていたのだが、“勇者より強い雄”がすぐ傍にいるなら話は別だ」

 

 強い視線を私に送るカマルさん。

 

「そうでしたか。

 分かりました、その話、お受けしましょう」

 

 即、了承する。

 寧ろ、願っても無いことだ。

 何人だって孕ませてあげよう。

 

「なんか、ひっでぇ会話をしてるにゃあ。

 今がシリアスな場面だって分かってんのかにゃ?」

 

 ぶつぶつとアンナさんが呟くが、私もカマルさんも無視。

 

「契約成立だな。

 では、某も微力を尽くす」

 

「よろしくお願いします」

 

 会話が終わると、カマルさんは懐から青色の飲み薬を取り出した。

 それをぐいっと一口で飲み干す。

 すると、彼女の身体から、目に見えて強い魔力が――黒い靄が発された。

 

 その“靄”を凝縮させて刃と為すと、ゲブラーに向かって投げつける。

 

「ふっふっふ。

 カマルちゃんも何の惜しげもなくアイテムを使ってくれるにゃあ……

 アレ、一本幾らするか知ってるのかにゃあ、知らないんだろうにゃあ……」

 

 横で泣いている猫には、取り合わない。

 アイテムによる能力増幅(ステータス・ブースト)無しに、ゲブラーと戦うのは自殺行為なのだ。

 

 店長とカマルさんは散開し、それぞれ遠距離攻撃スキルを用いて龍へと仕掛けていく。

 それを援護するように、商店の皆さんが射撃支援を行う。

 

『――小賢しい!!』

 

 だが、それで時間を稼げたのは、最初だけ。

 すぐにゲブラーは、彼らの攻撃を意に介さなくなる。

 不意を突かれたからこそ動揺しただけで、奴にとっては蚊に刺された程度の威力でしかないのだろう。

 

 龍の口に再び光が濃縮されていく。

 阻止すべく全員が攻撃していくが、ゲブラーは止まらない。

 

『終わりだ』

 

 ――龍の吐息(ドラゴン・ブレス)が放たれた。

 巨大な、赤い光の塊が、私達を飲み込むように迫ってくる。

 

 そこへ、

 

 「<術理妨害(スキル・インタラプション)>!!」

 「<聖壁(セイント・ウォール)>!!」

 

 今度は、2つの声が。

 

 光塊の進行が止まり、その場で拡散していく。

 しかし、拡散されて弱まった“光”でも我々を砕くには十分である。

 そこへ、私達それぞれの前に光輝く障壁が生まれた。

 障壁は、ゲブラーの光を悉く遮る。

 

 このスキルは――

 

「やっほー!!

 クロダの旦那、まだ生きてるぅー!?」

 

「ふざけてる場合じゃないでしょ、サン。

 敵は六龍なんだよ?」

 

 見覚えのある2人が現れる。

 一人はサンさん――もとい、三下さん。

 もう一人はミーシャさんだ。

 

 彼らが居るということは。

 

 

 「――借りを返しに来たぞ、デュスト!!」

 

 

 そんな雄叫びをあげながら、ゲブラーへ突っ込んでいく一つの影。

 兄貴(アーニー)さんだ――っておい!

 幾らなんでも今のゲブラーに接近戦は無謀……

 

 「うぉおおおおおおおおっ!!!」

 

 『ぬぐっ!? なんだ、お前は!!?』

 

 ……斬っていた。

 兄貴さんは、刀身が輝く刀を手に、ゲブラーを滅多切りにしていた。

 凄まじい速度で動き回り、龍の腕や尾による攻撃を全て掻い潜っていく。

 <神速(オーバークロック)>を使用しているにしても、速すぎる!

 速度だけなら、デュストのそれに勝るとも劣らないのでは!?

 

「生き生きとしてるなぁ、兄貴。

 まるで水を得た魚のようだぜ。

 こいつぁ、血の雨が降っちまうぜぇ?」

 

「これだけ大量のブーストアイテムを、お金のこと気にせず使える機会なんてそう無いからね。

 さっき、手酷く負けたばかりの相手ってこともあるし。

 アーニーも、大分昂ってるんでしょ」

 

 丁度良く、2人が解説してくれた。

 アレもまた、アンナさん提供のマジックアイテムによるものらしい。

 ちなみに、ゲブラーは非実体なので、仮に斬れたとしても血は出ない。

 

 「だぁああありゃぁあああああっ!!」

 

 さらに斬りまくる兄貴さん。

 

 彼の斬撃でも龍に変化は見られない。

 しかし、他の攻撃を無視しているゲブラーが、兄貴さんへは注意を払っているところを鑑みるに。

 身体へちょっとした負荷はかけられているのだろうか?

 単に周囲をうろちょかれてうざったく感じているだけ、とは考えたくない。

 

 考察をしている横で、アンナさんと三下さんが話しだした。

 

「……少しはお金のことも気にして欲しいんだがにゃあ。

 誰が出資してると思ってんの?」

 

「おお、アンナの姉御!

 この度はあっしらの治療ありがとやんした!

 へっへっへ、頂いた給金分は働きやすぜ!」

 

「にゃ? あちし、君に給料は払ってないはずだがにゃ?」

 

「そういうこといきなりバラすの止めてよぉ~!

 あっしが善意で働いてるのが皆にバレちゃうじゃーん!

 あっしが仲間を傷つけられたことへの怒りと、クロダの旦那への友誼で六龍との戦いに赴いた正義の勇士だってことがバレちゃうじゃ~ん!!!」

 

 …………。

 いや、実際、そうなのだろうけれど。

 色々台無しだよ、三下。

 

「クロダ」

 

 アンナさんと三下さんとが話し合い(?)をしている中、ミーシャさんが私に話しかけてきた。

 

「身体がまだ治ってないみたいだね?」

 

「ええ、ポーションでの回復はスキルよりも効果が遅いですからね」

 

 返事をすると、ミーシャさんは私の身体を抱きかかえてきた。

 

「――何を?」

 

「大丈夫、じっとしてて。

 君は僕が治すから――ね?」

 

 口を近づけ、耳元でそっと囁くミーシャさん。

 私の身体を擦りながら、熱い眼差しを向けてくる。

 色々なところ(・・・・・・)を触られるのが、少しこそばゆい。

 私は、何となく察した。

 

「ええ、お願いします、ミーシャさん」

 

「任された。

 だから――また(・・)――」

 

「ええ、お付き合い(・・・・・)しますよ。

 楽しみにしていて下さい」

 

「――うん」

 

 そこでミーシャさんは顔を上げた。

 大きな声で、三下さんへと話しかける。

 

「サン!

 僕がクロダを治療するから、その間、龍の攻撃が来ないようにして!!」

 

「うっしゃあ、任されたぜ、ミーシャ!!

 お礼はデート一回とかでいいのよ!?」

 

「考えとくよ!」

 

「おお、思ってた以上に色よいお返事!!?

 頑張っちゃうぜ、あっしはぁ!!」

 

 俄然やる気になって、龍へと向かっていく三下さん。

 とはいえ、兄貴さんのように接近戦を挑むわけでは無い。

 <術理妨害(スキル・インタラプション)>によるゲブラーの行動妨害に専念しているようだ。

 本来はスキル発動を邪魔する<盗賊>の暗技なのだが、スキルを一切使用しない龍に対しても、『龍の吐息』等の“技”の効果を減じる形で影響が出るらしい。

 これは、かなり嬉しい誤算だった。

 

「なんだかドロドロとしたやり取りを見てしまった気がするにゃあ。

 どうなってんだよ、クロダちゃん周りの男女関係」

 

 アンナさん、深い詮索はしないで頂きたい。

 

 

 

 

 

 

 戦闘は膠着した。

 こちらの攻撃はほとんど成果を挙げていないものの、ケブラーからの攻撃もどうにかこうにか凌げている。

 少しでもバランスが崩れれば一瞬で崩壊しかねない状況を、『膠着』などと表現していいかどうかについては議論の余地があるか。

 当然、怪我人も次々と出てきており――

 

「怪我した人は、一旦後ろに下がって治療するんだにゃー!」

 

 アンナさんはそんな指示を飛ばしたものの。

 

「人手が足りねぇにゃあっ!?」

 

 すぐ頭を抱えることになった。

 無理もないことであった。

 こちらの人数も、そう多くは無いのだ。

 この戦いの目的が“龍の打倒”などという大それたものであることを考えると、寧ろ極少人数しか集まっていないとすら言える。

 スキルでの治療を専門としているのは、<僧侶(プリースト)>の派生職である<神官(アコライト)>に就いているミーシャさんだけというのもネックだ。

 

「あの、私もお手伝いをして良いでしょうか?」

 

 そんなアンナさんに声をかけたのはローラさんだった。

 

「私は<錬金術師(アルケミスト)>ですから。

 他の人が使うより、アイテムの効果を高められます」

 

「……うん。

 ありがとにゃ、ローラちゃん!」

 

 アンナさんは少し悩む素振りを見せたが、ローラさんの申し出を快諾した。

 

「よし! じゃあ、オレも!!」

 

「ヒナタちゃんは後ろに下がっててにゃあ」

 

「…………」

 

 ローラさんに続いた陽葵さんは、あっさり断られていた。

 仕方ない。

 彼が前に出ると、色々と計算が狂う(・・・・・・・・)のだ。

 

 

 

 ローラさんが加入して、癒し手の問題はかなり緩和された。

 <錬金術師>は、アイテムの効果を高めるだけでなく、それを複数人に作用させたり、遠方の相手へ効果を及ぼしたりと、アイテム関連スキルに特化した職業だ。

 潤沢にマジックアイテムが揃えられているこの状況では、下手すれば高ランク冒険者よりも役に立つ。

 

 

大治癒(EX)ポーションを範囲にかけるんで纏まって下さい!

 そちら、スピードアップをガードアップを飛ばします!!

 精神回復(マジック)ポーション×10、一気に使いますよ!!!」

 

「待って! 待ってにゃ、ローラちゃん!!

 そんないっぺんにアイテム使わないで!!

 もう少し惜しんで!! お願いにゃから!!!!」

 

 

 猫の心労は多少酷くなったが、そこは我慢して欲しい。

 それに、一応持ち直しているものの、それはあくまでアイテムの大量消費によるもの。

 補給されない以上、どんどんアイテムは無くなっていく。

 いつまで、戦線を保てるか……

 

 

 「ざっけんじゃないってーの!!!」

 

 

 突如、大声が轟いた。

 リアさんだ!

 彼女も、来てくれたか!

 

 次の瞬間、黒い雷を纏った大鎌(サイズ)が回転しながらゲブラーへ襲来。

 自我を持つかのように動き、龍を切り刻んでいく。

 

 

 「あー、もう!! あー、もうっ!!!」

 

 

 またリアさんの声。

 前線で戦い者達の頭上に、暖かな光が降り注ぐ。

 彼らの傷が、瞬く間に治癒された。

 

 攻撃と回復、両方を一気に済ませたのか。

 凄いぞ、リアさん!

 

「クロダぁっ!!」

 

 戦場に現れた彼女は、私を名指しで呼びつけた。

 

「なんです?」

 

「なんです?、じゃない!!

 なんで、なんで説明してくんなかったのよ!!!

 おかげで、あたしは、あたしは――!!」

 

 怒りの形相で私へ糾弾するリアさん。

 はて、何かあったのだろうか?

 

「ううぅぅうう、とんだピエロに――!」

 

 リアさんが、下を向いて頭を掻きむしりだした。

 どうしたというのか。

 

「とにかく!!

 これ、終わったら話があるから!!

 怒りたいこととか、怒って欲しいこととか、色々あるんだからね!!!」

 

「え? はい、分かりました……?」

 

 どうにも要領を得ないが、今は気にしている場合でも無い。

 リアさんはリアさんで、言うだけ言ったらすっきりしたのか、ゲブラーの方へと視線を移す。

 大鎌(サイズ)を手元に戻し、今度は自身に黒雷を纏わせ、龍へと向かっていく。

 

「<次元迷宮>の探索で鍛えられたあたしの実力、見せてあげるんだから!!」

 

 ……うん、それは元々、陽葵さんを鍛える目的でやっていることなんだけれどもね。

 結果オーライではあるが。

 

「いや、リアちゃんもブーストアイテム使ってるから本来の実力と違う――まあ、いいんけどにゃ」

 

 隣で諦め交じりのため息を吐いて、アンナさんがぼそぼそと愚痴を零していた。

 

 

 

 

 

 

 戦いは続いた。

 六龍という、とてつもない敵を相手に。

 ほとんど寄せ集めに近いメンバーで。

 なんとか、戦いを続けられていた。

 

 

 

 

 

 

 ゲルマンさんと三下さんの会話が聞こえる。

 

「おう、どうした兄ちゃん!!

 早く<術理妨害>を使え!!」

 

「おぇっぷ、も、もう無理っす。

 アレ、基本一日一回だから。

 特殊なポーションで回数増やしてるんですが、もうお腹の中たっぷんたっぷんで。

 これ以上飲めないっす」

 

「何言ってやがる!!

 お前のソレはこっちの生命線だろうが!!

 意地でも飲むんだよぉっ!!」

 

「止めて!! 止めて、おっさん!!

 そんなに入らないのぉっ!!」

 

 決して怪しいことをしているわけでは無い。

 

 

 

 

 

 

 ローラさんとミーシャさんの会話が耳に入る。

 

「……治療するのに、そこまで密着する必要がありますか?」

 

「あるよ」

 

「そんな話、聞いたこと無いですけれど」

 

「君はまだ駆け出し(Eランク)の冒険者だろう?

 浅はかな知識で判断して貰いたくはないね」

 

「…………そうですか」

 

 あ、ローラさんの額に青筋が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 アンナさんとカマルさんが私達を指さしている。

 

「あそこの2人に、さっきのカマルちゃんとクロダちゃんのやり取りを聞かせてあげたら面白いことになりそうだにゃあ」

 

「止めてやれ、武士の情けだ。

 某としても、障害が多いとヤり辛い」

 

 そうして頂けると助かります。

 

 

 

 

 

 

 兄貴さんとリアさんの会話が……

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

「てぇええええええいっ!!」

 

 ……この2人は、一切互いに会話せず、龍を斬っていた。

 いや、貴方達はもう少し会話した方がいいのでは?

 最前線のツートップなのだから。

 不思議と息があってるので、無理強いはしないけれど。

 

 

 

 

 

 

『――貴様ら』

 

 突然、ゲブラーの声が、周囲に響いた。

 怨念の籠った、重い声。

 

『我を“舐める”のも、そこまでしろ!!!』

 

 頭の中身が揺さぶれるような、大音量の絶叫。

 ローラさんや陽葵さん、商店の人々など、戦闘に熟練していない人々が立ち竦んだのが見えた。

 

 と、同時に、ゲブラーの全身(・・)が発光し出す。

 いかん、これまでの『吐息』とは規模が――!?

 

「ぜ、全員退避にゃー!!!」

 

 アンナさんの号令。

 それを合図に、その場の誰もがゲブラーから離れた。

 だが、離脱は間に合いそうにない――?

 

「<聖壁(セイント・ウォール)>!!」

「<魔盾(デモンズ・シールド)>!!」

 

 ミーシャさんとリアさんの声が重なる。

 聖と魔、2つの属性の障壁が、全員を包み込む。

 

 遅れて、龍の赤光が迫る。

 それは視界を赤で染めていき――

 

 

 

 

 

 

 綺麗に更地となった街に、ただ一匹、ゲブラーは立っていた。

 誰もが倒れ伏しているのを見渡して、呟く。

 

『ふん、所詮はこんなものだ、人間など――』

 

「それはこちらの台詞だ」

 

 私も(・・)立ち上がった。

 リアさんとミーシャさんのスキル、そして『戦神の鎧』のおかけで、私の被害が最も少なかったようだ。

 直前まで治癒を受けていたのも良かった。

 それでも無傷とはいかないが、動くことに問題はない。

 

 私は、ゲブラーへと言葉を投げつける。

 

「こんなものだ、六龍の力など。

 お前は、未だに誰も殺せていない」

 

『……そのようだな。

 だが、だからどうした?

 死ぬのが数秒遅くなるだけだ』

 

 私の台詞に、奴は認識を改めた。。

 

 そう、まだ死んでいない。

 アンナさんの素早い合図が功を為したのか、傷の程度の差はあれど、皆生きている。

 

できるのか(・・・・・)

 今のお前に」

 

『とうとう頭がおかしくなったか、クロダ・セイイチよ。

 虫の息となった者を殺すなど、造作も――!?』

 

 そこで、ようやくゲブラーは察したようだ。

 自身の異変に。

 爪の先が、尻尾の先端が、少しずつ崩れ始めていることに。

 

『これは――!!』

 

「お前は、私達がただ闇雲に戦っていると思っていたようだな」

 

 といっても、この現象を起こしたのは、我々の攻撃によるものではない。

 

 ゲブラーに、私達の攻撃は通用しない。

 それは、全員が承知していた(・・・・・・・・・)ことだった。

 ならば何故、無駄と知りつつ戦闘を続けたのか。

 

 元々、ダメージを与えることを目的としていなかったのだ。

 私達は、ただ“戦闘を長引かせること”を目的に、戦っていた。

 

「私達は、お前の力に、依り代であるデュストが耐えきれなくなる(・・・・・・・・)のを待っていたのだ」

 

 ゲブラーは強い。

 仮にも神なのだ、強いという言葉が陳腐に見える程、強い。

 まともにやり合えば、勝ち負け以前に勝負にならない程、力がかけ離れている。

 

 しかし、六龍が世界に干渉するためには、依り代の存在が必須。

 そして先述した通り、龍の力を完全に発揮できるのは、陽葵さんの身体だけなのだ。

 デュストでは、依り代として不十分なのである。

 

 そんな身体で、龍の力を使い続ければ。

 人の形態ならばともかく、龍の形態となり、膨大な力を振るい続ければ。

 デュストの身体が限界に到達するのは、火を見るよりも明らかだ。

 

 事実、龍の内部に浮かぶ彼の身体には、あちこちに“罅”が入っていた。

 

『そんな、貴様、まさか、まさか――!』

 

 わなわなと震えるゲブラー。

 これで、奴は終わりだ。

 依り代を失っても完全に無力化されるわけではないが、これ程の干渉はもうできまい。

 後は――

 

 

 ――そこで、気付いた。

 困惑しているとばかり思っていたゲブラーは、嗤っていた。

 醜く顔を歪ませ、私を嘲るように嗤っていたのだ。

 

『まさか、そのこと(・・・・)に、我が気づいていないと思っていたのか?』

 

「――何ッ!?」

 

 直後、ゲブラーが飛んだ!

 巨体に似合わぬ速さで、一直線に飛んだ!

 目標は、遥か後方の陽葵さん――!?

 

『馬鹿め!

 デュストの限界など、とうに把握していたわ!!

 こやつの身体が崩壊する? 何の問題がある!

 ここには、室坂陽葵が居るのだから!!!』

 

 迅いっ!!

 

 思えば、奴は龍の形態となってから、大きく移動はしなかった。

 それは、私の油断を誘うためだったのか。

 自分のスピードを私に把握させぬよう、敢えて動きを制限していたのか!

 

 いかん、陽葵さんは、先程の攻撃によって気絶している。

 彼を逃がすことも、できない!!

 

 ここに来て、私の方が出し抜かれるとは!!

 

『はは、はははははぁっ!!

 残念だったな!!

 我はこれより魔王の息子を依り代とする!!

 こやつがいれば、もはやデュストなど用済みよ!!』

 

 陽葵さんの傍らに降り立つと、ゲブラーの光がデュストから抜けていく。

 そして、一際眩しい光が彼の身体から出現した。

 おそらく、アレがゲブラーの『核』。

 六龍の、存在の根源。

 ソレは、ゆっくりと陽葵さんの身体へと近づいていき――

 

『――ア?』

 

 “止まった”。

 まるでデュストの身体から離れるのを拒むように、(ゲブラー)の動きを止めた。

 

 「そう、つれないことを言うな」

 

 “デュスト”が喋った。

 離れた私にも聞こえる声で、もう身体が崩れかけているデュストが喋り出した。

 

『デュスト!?

 貴様、まだ意識があったのか!!?』

 

「7年も、一緒に過ごしたんだ。

 もう少し、付き合っていけよ……!!」

 

 デュストは、核を掴んでいた。

 必死の形相で、何としてでも離すまいと。

 

 彼は、顔を私に向ける。

 精一杯に声を張り上げ、私に檄を飛ばしてきた!

 

「今だ、クロダ・セイイチ!!!

 やれぇえええええっ!!!」

 

「心得たぁ!!」

 

 ここが、勝機!!

 

「うぉおおおおっ!!」

 

 前方に、手をかざす。

 <射出>の精密操作を始める。

 

 ――風の檻を展開。

 ――分子の無限加速、開始。

 ――分子衝突によるエネルギー、発生。

 

 私の目の前に、膨大な雷光が現れる!

 

『何をするかと思えば!

 今更、“爆縮雷光(アトミック・プラズマ)”など、我に効くとでも――!?』

 

 ゲブラーの嘲りは、そこで終わった。

 私がその雷光の中に、右脚を踏み入れた(・・・・・・・)からだ。

 

 分子衝突で発生したエネルギーが、『戦神の鎧』に――その脚部へと吸収される!

 

『おおおおおおお――っ!?

 それは――!!? それは――!!?』

 

 莫大なエネルギーが、右脚へと凝縮される。

 

 ――超過充電(エクセス・チャージ)、完了。

 

 黄金色に輝き、雷光を迸らせる、右脚。

 その状態のまま、私はゲブラーに向かって“跳ぶ”!

 

 空中で身体を捻り、跳び蹴りの姿勢に体勢を固定。

 そして――<射出>!

 己の身を、奴に向かって<射出>させる!!

 

 一度の<射出>では終わらない!

 <射出>の力場で加速した身を、さらに<射出>で加速させる!

 まだまだ<射出>!!

 激突の瞬間まで、自身に<射出>を使い続ける――!!

 

 

<射出>!

<射出><射出>!

<射出><射出><射出>!

<射出><射出><射出><射出><射出><射出><射出><射出><射出>――!!

 

 

「ううぅっ、おぉおおっ、りゃぁああああああああっ!!!!!!!!」

 

 

 我が身を光の矢と化し。

 ゲブラーの核へと、突き立てる。

 

 

 

 奥義之壱、“爆縮雷光”

 奥義之弐、“風迅”

 

 ――複合(・・)

 

 

 

  決戦奥義、“疾風迅雷”

 

 

 

 ウィンガストの街に、天空を貫く雷の柱が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆心地(・・・)には、巨大なクレーターが出来ていた。

 その中心には、“赤い光”が鎮座している。

 

『…………な、に、が』

 

 “光”が、言葉を発した。

 

『――疾風迅雷だぁっ!!!!』

 

 怒号が、周囲の空気を震わせる。

 “光”は明滅しながら、言葉を続けた。

 

『殺せると思ったのか!!!

 人の身で、六龍を!!!

 殺せるなどと、思いあがったのかっ!!!』

 

 言う割に、“龍の身”を保てぬほど、消耗したようだが。

 しかし、“疾風迅雷”で止めを刺せなかったのも事実。

 

 とはいえ。

 まだ、終わりではない(・・・・・・・)

 

『――ア、ウッ!?』

 

 “光”が、呻いた。

 

『な、なんだ、コレ(・・)は!?』

 

 “赤い光”の表面に、“青色の文字”が浮かびあがっている。

 私は、そこで“光”に話しかけた。

 

「それが何なのか。

 お前が、一番知っているはずだ。

 何せ――御同類(・・・)の力なのだから」

 

『クロダ・セイイチ!!』

 

 私の存在に、向こうも気づいたようだ。

 だがそれより、ゲブラーは“文字”が気にかかるようで――

 

『――これは、ケセドの“契約文字”!?』

 

「その通り」

 

 早々に答えへ辿り着いた。

 いちいち私が説明するまでも無いのだが、一応解説してやる。

 

「契約の内容は、こうだ。

 “六龍が魔素によって歪められた時、その“神格”を消去し、存在を浄化する”」

 

『――な、に?』

 

 “光”が狼狽しだした。

 自分がどうなるのか、想像できたのだろう。

 

 ケセドによる契約の力は絶対だ。

 それは、ケセド自身すら覆せない程。

 “疾風迅雷”とは、『戦神の鎧』に仕込まれた(・・・・・)契約文字を、龍の核へと“打ち刻む”技でもあったのである。

 

『ふざけるな!

 消える!? 消えるだと!?

 我の存在が、消えるというのか!?』

 

「六龍が消えるわけではない。

 お前が――現在、ゲブラーと名乗っている思考パターンが消去されるだけの話だ」

 

『それは、消えると同義だ!!』

 

「魔王の息子にやろうとしたことと、同じだろう?」

 

『違う!!

 同じなわけがあるか!!

 我は六龍だぞ!!

 遥か昔よりこの六龍界を守護してきた神なのだ!!

 1人の人格が消えるのとは、その重さが違うのだ!!』

 

「同じだよ」

 

 寧ろ、私にとってはゲブラーが消えることの方が重要度は低い。

 仲間と敵の価値など、比べるべくもない。

 

『そも、何故、貴様がこの“文字”を使える!?

 これは、ケセドにしか使用できぬ、権能のはずだ!!』

 

「少し考えれば分かると思うが?」

 

『――!!』

 

 考えが及んだのか。

 “赤い光”は強く明滅し出した。

 

『う、裏切ったのか、ケセドォっ!!!!!!』

 

 怨嗟の叫びが辺りに木霊した。

 まあ、好きなだけ泣き喚けばいい。

 もうすぐ、終わるのだから。

 

「――そろそろのようだな」

 

 “赤い光”から感じる圧力(・・)が、急速に弱まっていく。

 感じられる力は変わらないが、刺々しさのようなものが消えていく、と言えばいいのか?

 

『あ、あ、嫌だ。

 消えたく、無い。

 我が、どれほど永き時を生きたと思っている――?

 消えたくない、今更、消えたくなど、無い――』

 

「散々生きて、好き放題してきたのだ。

 もう、終わっていいだろう」

 

『嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 消えたくない、死にたくないのだ。

 死にたく――死にたくな――――――――』

 

 それを最期に、ゲブラーの声は聞こえなくなった。

 後に残ったのは、ただ純粋な“赤き光”。

 “光”はゆっくりと移動し――遠く離れた場所で倒れる、陽葵さんの身体へと吸い込まれていく。

 

 大丈夫だ、これは問題ない。

 六龍の力で陽葵さんの人格が壊れるというのは、あくまで龍の“神格”によるもの。

 それが消えた、ただの“力”を仕舞い込む分には、陽葵さんに悪影響は無い。

 

「――という、触れ込みだったのだが。

 本当だろうな?」

 

 まあ、信じる他ない。

 そのまま放置するには、危険極まりない存在なのだから。

 

「さて。

 まずは……早急に、皆さんを治療しませんと」

 

 意識がある人もちらほらと居るようだが、自分で動けるのは私だけのようだった。

 痛む身体に鞭を入れると、覚束ない足で歩き出す。

 

 

 

 ともあれ。

 赤龍ゲブラーとの戦いは、こうして終了を迎えた。

 

 

 

 第二十四話 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――ここは、どこだ?)

 

 デュストは、暗闇の中に居た。

 ここが、どこなのか分からない。

 自分がどうなっているのか、分からない。

 

(――クロダ・セイイチは、大丈夫だろうか?)

 

 龍を、己に巣食ったゲブラーを、倒すことができたのだろうか。

 いや、ゲブラーだけではない。

 他の勇者に取り付く龍達とも、彼は戦わねばならないのだ。

 容易な道のりではないだろう。

 その手助けをできない自分が、実に情けない。

 

 ……そんな時、声が聞こえた。

 

 

 「デュスト」

 

 

「……キョウヤ、様?」

 

 聞き違えるわけが無い。

 あの人の声を、デュストが間違うわけが無いのだ。

 姿は見えないが、キョウヤはすぐ傍に居る。

 

「……キョウヤ様。

 僕は、貴方のお役に立てたでしょうか?」

 

 デュストは、どうしても聞きたかった質問をキョウヤへ投げかける。

 相手の位置が分からないので、ただ声を出しただけだが。

 

 しかし、返事はしっかりと返ってきた。

 

「ああ、赤龍ゲブラーは斃れた。

 お前のおかげだよ。

 ……ありがとう、デュスト」

 

 それは、デュストにとって至上の喜びだった。

 キョウヤから、お褒めの言葉を頂けるとは。

 

「――ああ、光栄です、キョウヤ様」

 

 良かった。

 胸のつっかえが取れた気分だ。

 

 (アレッシア)の望みは叶えられなかった自分だけれど。

 それはきっと、後に残る者が、成し遂げてくれるはず。

 

(キョウヤ様なら――クロダ・セイイチなら――きっと、やってくれる)

 

 デュストは、最期にそっと微笑んで。

 満足げに、その生涯へ幕を下ろした。

 

 

 

 完



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第二十五話 新たなる幕開け
① 日常への帰還


 

 

 

 ――冬の最中、雪の降る日だった。

 

 

 

 いつものように会社に向かい、いつものように信号を待っていた時のこと。

 

 本を片手に開いた女性が一人、横断歩道を渡っていった。

 信号は赤なのに。

 トラックが高速で走ってくるのが見えた。

 信号は青だから。

 トラックが女性に気付き、ブレーキを踏んだが、スピードが緩まない。

 雪が積もっていたから?

 女性はトラックに気付かない。

 本を読むのに没頭していたから?

 私は、咄嗟に飛び出し、女性を突き飛ばした。

 ……これは未だに理由が分からない。

 

 

 嘘だ。

 分かってる。

 今は理解しているし、きっと当時も心のどこかで察していた。

 

 彼女を助けようとした理由。

 それは、私がその女性のことを、一目で――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深夜。

 ここは、病院の病室。

 ゲブラーとの戦いの後、私達はほぼ全員が入院するはめになった。

 比較的軽傷で済んだ人は即日退院できたのだが、私を含め数人はスキルやマジックアイテムによる治療があったにも関わらず、数日の入院が必要となった。

 

 ……驚いたことに、私が一番重傷と診断されていたりする。

 まだまだ動けるかと思っていたのだが、いや、自分のことは意外と分かっていないものだ。

 

 そんなわけで、一日も早い完治のため、私はベッドの上で安静にしているわけだ――が。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 部屋には、女性の声が響いている。

 私の上に跨っている(・・・・・・・・・)女性のものだ。

 

「はっ! あっ! あっ! ああっ!

 療養中だというのに――あっあっあっ!?

 何故、ココはこんなに元気なのだ――あっあっあっあっあっ!!」

 

「結構溜まっていましたからね。

 イチモツも頑張ってしまうというものです」

 

 彼女の問いかけに返事する。

 

 仰向けになった私の腰に乗っている女性。

 銀色の髪をポニーテールに結えた、鋭い目つきの女の人だ。

 瞳はやや斜に構えているものの、顔つき全体は凛々しく整っており、美人といって差し支えない。

 スタイルも豊満。

 筋肉質ながらも、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。

 引き締まった健康的な肢体が、逆に艶めかしい。

 

 だが一番の特徴は――青白い肌だろうか。

 

「貴女こそ、そんなに早く“子作り”したかったのですか、カマルさん?」

 

「気が、変わって欲しくなかったからな――あっああっあっあっ!!

 今思えば、杞憂にも程があったが――あっやだっおいっ激しいっあっあっ!!」

 

 私が下から突き上げてやると、思いのほか可愛らしい声を披露してくれる。

 

 そう、今私が抱いているのは、魔族のカマルさんだ。

 ゲブラーとの戦いで、協力の見返りとして彼女を孕ませる約束したのだが、早速それを果たそうとしていた。

 私が退院するまで待てなかったとは、せっかちな方である。

 

 まったくもって拒む理由は無いため、彼女が病室を訪ねて来るや、勃起した肉棒を贈呈してあげた。

 

「あっ! あっ! ひっ! はっ! ああっ!

 奥、にっ! あ、当たるっ!! あっ! あっ! うっ! んんっ!!」

 

 大きなおっぱいをプルンプルンを震わせて、カマルさんは上下に身体を揺らしていた。

 月光に照らされる蒼白な肢体は幻想的で、なんとも現実感を失わせる。

 ただ、私の下半身にかかる“重さ”と、男根を搾る“圧”が、これが幻ではないと気づかせてくれる。

 

「うっ! あっ! あっ!

 そ、そろそろ、(それがし)は、イク、ぞっ!

 あっあっあっあっああっ!

 お、お前はっ! お前は、準備、いいかっ!?

 あっ! ひっ! ひっ! ひっ! いいっ!!」

 

 快楽に潤んだ瞳で私を見つめるカマルさん。

 絶頂が近い様だ。

 

 私も同時にイカせたいのだろう、膣に力が入ってくる。

 ぎゅうぎゅうと愚息に絡みつき、射精を促してきた。

 

「いいですよ、私も一緒にイってあげます」

 

「そ、そうかっ――あっあっああっああっ!

 いいか、ちゃんと中にっ! んんっ! んっ! んああっ!!

 子宮の中に、出すんだぞっ!! はぁああっ! あっ! あっ!

 (それがし)を、孕ませるんだっ! あっ! イクっ! あっ! もうイクっ!!」

 

 彼女が素早く腰を振り出した。

 私もそれに追随するように、ピストンをしてやる。

 病室には彼女の喘ぎと、肉と肉がぶつかる音、その2つが響いていた。

 

「あっ! あっ!! いいっ! いいぞっ!!

 もうっ! イクっ!! イクっ!! あぁああああああああああっ!!!」

 

 カマルさんが仰け反った。

 それと同時に、彼女の膣肉が私のイチモツを締め付ける。

 

「――出しますよ!」

 

 その刺激に、私は抗わない。

 彼女の子宮へ、自分の白濁液をたっぷり吐きだす。

 

「――はっ!――あっ!――あっ!――あああっ!」

 

 カマルさんの身体が小刻みに震える。

 その度に、女性器は精液を搾っていった。

 

「――うっ!――あっ!――はぁああっ!」

 

 幾度目かの痙攣を終え、ようやく彼女は息を整えだす。

 

「……はぁっ……はぁっ……た、たっぷり出したな。

 (それがし)の中に、お前の種を感じるぞ……」

 

 愛おしそうに、自分のお腹をさすっている。

 

「これで、妊娠されたのですか?」

 

「――分からん。

 実のところ、魔族は妊娠薬を使っても必ず孕むとは限らんのだ。

 魔族同士であればそれなりの確率にはなるのだが、異種族となれば――お前達人間が通常の性交で受精する率より低い位だ」

 

「そうなのですか」

 

 行為が始まる前にカマルさんが飲んでいた妊娠薬。

 魔族が子を生すときに使うそうなのだが、それをもってしても確実ではない、と。

 彼らの出生率が低いのは知っていたが、実際、なかなか苦労しているようだ。

 

「まあいい、今日のところはこれくらいで――」

 

「それでは、もっと注いであげねばなりませんね」

 

「――なに?」

 

 腰を上げ、帰ろうとするカマルさんを、私は掴んで押し留める。

 

「おい、別に(それがし)は無理強いするつもりは無いぞ。

 お前は先ほど達したばかりだろう。

 連続でやる、など――――あ」

 

 彼女が息を飲む。

 

「も、もう、勃起していたのか」

 

「と言いますか、そもそも萎えてませんし」

 

「な、なにっ!?」

 

 驚くカマルさん。

 いや、一度射精した程度で収まるわけがないだろうに。

 

「納得して頂けたところで、次いってみましょうか」

 

 彼女の肩を引き、私の方へと身体を倒させる。

 お互い、密着する形。

 カマルさんの無駄肉の無いしなやかな肢体を、全身で感じる。

 

 互いに、顔がすぐ近く。

 少し動けば触れる距離。

 息遣いが聞こえる程だ。

 

「――お、おい、待て。

 (それがし)は、子種を貰いに来ただけだ。

 それ以上のことは――んぅっ!?」

 

 ぶつぶつ喋る彼女の口を唇で塞ぐ。

 魔族であっても、ソコの繊細さは変わらなかった。

 

「――んっんんっ――ん、んっ――ふぁっ――あ、うぅ――」

 

 無理やり舌をカマルさんの口内へ突き込み、中を舐めまわる。

 柔らかく、暖かい。

 2人の唾液が混じったものを、ちゅるるとすすった。

 

「んっ――チュッ――チュパッ――あっああ――はぁああ――」

 

 カマルさんの抵抗する力が弱くなってくる。

 最初こそ私から離れようとしていたのに、今や為すがままだ。

 

「――ああ、あぁああ――ふ、うぅぅ―――んんんっ――ぷはっ―――はぁっ」

 

 散々舐めまわしてから、口を離した。

 カマルさんは、少し涙目になって抗議してくる。

 

「――そ、(それがし)は、お前と愛し合うつもりなど無いんだぞ!

 愛してやるつもりなんか、無いのにっ!!

 こんな、こんなことされたら――――あっああっ!?」

 

 そんな言葉を聞きながら、私は股間を膣口へと近づける。

 私のイチモツが、再びカマルさんの花弁へ到達した。

 彼女の腰をぐっと掴み、膣へ挿入していく。

 

「――と、止まれっ!!

 今、今挿れられてしまえば、(それがし)はどうなるか――

 あ、あぁああっ!?

 駄目だっ! ダメっ! ヤっ! あぁああああああっ!!」

 

 どうのこうの言いつつ、剛直を突き刺されるとしおらしくなってしまうカマルさんであった。

 

 

 

 ――私は約束を守るため、日が昇るまで彼女を犯し抜く。

 

 

 

「……こ、ここまで、お前がスゴイとは」

 

 朝、ふらふらとした足取りでカマルさんはベッドを病室を去った。

 

「た、たくさん――――あ、はあぁぁ♪――――たくさん、注いで貰ったが。

 確実に、孕んだとは言えないので――――最後まで、こんな濃いのか♪――――また、すぐに(・・・)抱いて貰うぞ。

 分かったな!?」

 

 膣から零れてしまった精子を美味しそうに舐めながら、そう言い残して。

 

 

 

 

 

 

 さて。

 カマルさんとのセックスで調子が戻ってきたので、今日は色々出歩いてみることにする。

 とはいっても、病院内を歩くだけなのだが。

 

 取り急ぎ、まず向かったのは――

 

「おお、クロダ君じゃないか。

 お見舞いに来てくれるとは、すまないね」

 

「いえ。

 お元気そうで何よりです、セドリックさん」

 

 ――セドリックさんの病室だ。

 今回の事件で、私に次いで傷が酷かったのが、彼である。

 相当、グサグサにやられたらしい。

 ローラさんの治療が後少しでも遅れていたら、まず死んでいたそうだ。

 

 セドリックさんはベッドに横たわりながら、朗らかに笑う。

 

「はっはっは、いやぁ、死に損なってしまったよ」

 

「冗談でもそんなことを仰らないで下さい」

 

「結構本気なんだがね。

 私のような屑が、女性を庇って死ぬなんて機会、そうあるとは思えないからね。

 しかも、相手は天下の勇者様と来た。

 あの辺りが死にどころだと――思ったんだがなぁ」

 

「…………」

 

 彼は遠い目をしている。

 私は、上手く返事ができなかった。

 セドリックさんは、おそらく本気でデュストに殺されるつもりだったのだ。

 

「――上手くいかないもんだねぇ。

 満足して死ぬってのは、難しい」

 

「……セドリックさん」

 

「ああ、すまないね、クロダ君。

 せっかく会いに来てくれたというのに、湿っぽい話をしてしまった。

 私だって、無暗に死のうとしてるわけじゃないよ?

 シエラちゃんのこともあるしね」

 

 シエラさん。

 黒の焔亭でウェイトレスをしている女の子だ。

 デュストによって彼女も傷つけられたが――幸い、命に別状はない。

 それどころか、かなり“上手い具合”に斬られたそうで、傷も全く残らなかったそうだ。

 ――流石、五勇者の一人といったところか。

 

 私は頷きながら、セドリックさんへ答える。

 

「そうですね、セドリックさんはシエラさんを孕ませなければならないわけですから。

 まだまだ元気で居て貰いませんと」

 

「いや、実はもうそれは必要なくなったんだ」

 

「――と、申しますと?」

 

「あの子、無事孕んでくれたみたいでねぇ。

 出産はまだ大分先になるが、シエラちゃんはお母さんになったんだよ!」

 

「おお、それはおめでとうございます!」

 

 新しい生命の誕生へ、私は素直に祝福した。

 いや、まだ産まれてはいないか。

 

「そういうことでしたら、なおさらですよ。

 これから育児が始まるわけですし」

 

「うんうん。

 男の子と女の子、どっちになるかなぁ。

 できれば女の子がいいね。

 小さい時から、色々仕込めるし(・・・・・・・)

 

「夢が広がりますね!」

 

「正真正銘の親子丼ができちゃうねぇ!

 母娘揃って肉便器とかそうそう見れるものじゃないよ」

 

 にっこりと、満面の笑顔を浮かべるセドリックさん。

 確かに、私もその光景は見てみたい。

 

 しかし、ふと彼は笑顔を消すと。

 

「――しかしなんだねぇ。

 そろそろ、神様は私に天罰を下した方がいいんじゃないかな。

 これ以上犠牲が増える前に。

 割と真面目な話」

 

「はっはっはっはっは」

 

 結構ガチな口調でそんな台詞を吐くセドリックさんに、私はとりあえず笑って誤魔化した。

 

 ……まあ。

 その“神様”は、これから私が倒さなければならないわけだけれども。

 

 ――少し、気分が重くなる。

 

 一匹と戦っただけであの体たらく。

 それが残り五匹。

 覚悟していたこととはいえ、気が遠くなりそうだ。

 

 余談だが、ゲブラーと戦った周辺はほぼ壊滅状態となった。

 住民の命こそ無事だったものの、その被害にギルド長のジェラルドさんは頭を抱えていた。

 気持ちは察せるが、こちらとしても精一杯な努力の結果なので、なんとか処理をして頂きたい。

 

「さて、ではそろそろ私はお暇しましょう」

 

「なんだ、もう少しゆっくりしていけばいいのに」

 

「お言葉に甘えたいところですが、他にも会いたい方々がいるので」

 

「それもそうか。

 クロダ君、ここ数日病室から出れなかったからねぇ。

 ただ、まだ完治したわけじゃないんだあら、無理は禁物だよ?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 セドリックさんへ一つ頷いてから、私はその部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 次に向かったのは。

 

「あれ、黒田じゃん!

 もう、身体いいのか?」

 

 金髪碧眼の美少女――ではなくて美少年が、部屋に入った私を出迎える。

 ここは、陽葵さんの病室だ。

 あんな事件が起きた後でも、少年はベッドの上から愛くるしい笑顔を私に向けてくる。

 

 サラサラなショートヘア、美麗な眉、パッチリした瞳、筋の通った鼻、瑞々しい唇。

 美少女という言葉が裸足で逃げ出しかねない程の、愛らしさっぷり。

 

 ――陽葵さん、男、だったよな?

 いや、うん、少年だ、美少年。

 女の子ではなく、男の子。

 頻繁に確認(・・)していないと、本気で忘れそうになる。

 それくらい、陽葵さんの美貌は際立っているのだ。

 

「ええ、おかげさまで動ける程度には回復しました。

 ……それでですね、陽葵さん。

 此度のことは――」

 

「――だいたい、アンナから教えて貰ったよ。

 俺を狙ってるのは、勇者じゃなくて六龍だってことなんだろ」

 

「はい」

 

 そこで、彼は私を睨んできた。

 睨み顔もまた可愛いのだが、それは置いといて。

 

「……あのさぁ。

 隠し事しすぎだろ、お前!?」

 

「いや、本当に申し訳ありません。

 ただ、容易に発言していい内容でも無かったのです……」

 

 彼へ色々秘密にしていたことに関して、弁解のしようがない。

 

 ただ、敵は神様なんですというのは突拍子も無さすぎたのだ。

 しかもこちらにはそれに対する証拠が何かあるわけでもなく。

 仮に陽葵さんが納得したとしても、周囲は納得してくれない。

 下手すれば背信者とみなされ、周りが敵になってしまうことだってありえた。

 

 また、失礼を承知で言えば、陽葵さんにソレを教えても仕方がない(・・・・・)というのもある。

 六龍に対し、彼が何かできるというわけでもなく――いや、陽葵さんに限った話でもないが。

 勇者が本当の敵でないとはいえ、彼らと敵対しているのも事実。

 

 陽葵さんへ――というか、一部の人以外へ六龍のことを伏せていたのは、こういう理由からだったのである。

 

「まあ、いいけどさ。

 そういう事情も、アンナがアレコレ教えてくれたし」

 

 不承不承という形で承諾してくれる陽葵さん。

 

 ――アンナさん、しっかりとアフターケアをしてくれていたらしい。

 彼女もかなり傷は酷かったはずだが、事件の後も奔走していたようだ。

 頭の下がる思いである。

 

 ちなみに、陽葵さんの入院はダメージ云々ではなく、“経過観察”のためだ。

 何せ今、彼の身体には赤龍ゲブラーの力が宿っている。

 ゲブラーとしての“神格”は消えているものの、その力がどう陽葵さんへ影響するのか、誰も分からないのだ。

 一応、本人にもそれは伝え、了承を貰っている。

 今日、彼の元を訪れたのも、現況の把握が目的なのだ。

 

 とにかく、許して貰えてほっとしているところへ、陽葵さんが質問してくる。

 

「――ところで。

 もう、無いよな、隠し事?

 オレへ秘密にしてたことって、コレで全部だよな?」

 

「……はっはっはっはっはっは」

 

 私は穏やかに笑った。

 なるべく彼とは視線を合わせない。

 

「おいこらっ!?

 あるのか!?

 まだあるのか!!?

 いい加減にしろよ、お前!!」

 

「い、いや、そんな大したことじゃないんですよ!?」

 

 陽葵さんの剣幕に少し焦りながら――しかし大丈夫、この反応は予想していた。

 彼に説明すべき事柄は、予め仕分けてきている。

 

 陽葵さんはなおも詰め寄って来て、

 

「じゃあ言えよ!

 大したこと無いなら、教えてくれてもいいだろ!」

 

「あー、はい、そうですね。

 ……青龍ケセドが貴方のお父さんだったりとか」

 

「大したことだろう、それは!!!!?」

 

 周囲に陽葵さんの大声が響いた。

 一応、病室なのである程度自重して頂きたく。

 ……無理もないが。

 

「え、え、どゆこと、どゆこと?

 オレって魔王の息子ってだけじゃないの?」

 

「落ち着いて下さい」

 

 私へ問い質すために近寄ってきた陽葵さんを抑え、ベッドに座らせる。

 そのすぐ隣に、私も腰を下ろした。

 

 今、彼はゆったりとした病院着を着ている。

 普段のショートパンツ姿より肌の露出は少ないが、そのぶかぶかさが仇となり。

 隣からなら、簡単に胸元を覗き込めた。

 陽葵さんの薄い桜色をした乳首が、目に映る。

 まるで女性のようにむっちりとした胸の先端にある、乳首が。

 

 見えてしまったものは仕方ない。

 私はそっと彼の上着の中へ手を挿れ、その突起を撫でだす。

 

「――あっ」

 

 陽葵さんの口から甘い声が漏れる。

 構わず、私は言葉を続けた。

 

「私も聞いた話ですので、確証があるとは言えません。

 実体の持たない龍であるケセドが、魔王とどのように子を作ったのかも把握しておらず。

 ただ――ケセドは、貴方を自分の下へ連れてくることを条件として、私達に力を貸してくれたことは確かなのです」

 

「ん、あ、あ――ケセドの力って、ゲブラーを消したっていう、あの?」

 

 赤龍を消滅させた、契約文字のことを言っているのだろう。

 

 ――乳首がだんだんと固くなってきているのが、手の平の感触で分かる。

 そして陽葵さんは特に抵抗もせず。

 私の為すがままを、受け入れていた。

 

「はい。

 それ以外にも、色々力添えしてくれました」

 

「あっ――はぁ、あ、あ――で、でも、六龍って魔素で狂っちまったんだろ?

 ――ん、ふ、う――それがどうして?」

 

「……陽葵さんを授かったことで、親としての情が芽生えた、とか」

 

 そういうことも、あり得ないとは言い切れない。

 私は撫でるだけでなく、突起をカリカリと爪先で擦ってやる。

 

「――あっ――あ、ああ――

 そ、そっか、それだから、ケセドに会いに行けって話なんだな――あ、んん――

 オレ達が六龍に勝てる可能性を――あ、あ、あ――少しでも、上げるために。

 次も、上手くいくとは――うっあっあっあああっ――限ら、ないもん、な――はぁぁぁ――」

 

 気持ち良さそうに、陽葵さんの顔が少しずつ蕩け始める。

 大分心が落ち着いてきたのだろう。

 はっきり言って、その表情はかなりエロい。

 

 彼は、私が思っていたよりも状況を正確に飲み込んでいた。

 アンナさんの説明によるものか。

 しかし、心苦しいが話はもう少し続くのだ。

 

「ええ、そうです。

 ……ただ」

 

「――あ、あぅっ――た、ただ?」

 

「ミサキさんはこう言っていました。

 “胡散臭い。奴が善意で協力するなど、ありえない”と」

 

 私は陽葵さんの腰を掴んで抱え上げて、自分の上へ降ろした。

 背面座位のような姿勢だ。

 彼のプリっとしたお尻の感触が、服越しに股間へ伝わる。

 男のモノとは思えない、淫猥な曲線を描く尻肉。

 

「――んん――なんか、確かに言いそうな台詞だな」

 

「気を付けて頂きたいのは、“貴方をケセドの所へ訪れさせる”ことは、“契約”にされているということです。

 ケセドの契約は、ケセド自身にすら効果を及ぼす強力なもの。

 もし、陽葵さんがケセドに会いたくないとしても、私は貴方を無理やり(・・・・)連行するでしょう」

 

 後ろから、陽葵さんに抱き着く。

 暖かく、華奢で、柔らかい。

 女性が漂わせる、甘い匂いすら纏っている。

 それをスンスンと嗅ぎながら、首筋を舐めた。

 五感の全てで、陽葵さんを感じ取る。

 

「――ん、ん、んんぅ。

 そ、そうなのか――あ、ああぁぁぁ――」

 

 顔を赤らめながらも、表情は曇る陽葵さん。

 彼にそんな顔をさせてはならないと、両手で乳首を弄ってやった。

 

「――あ、あ、あ。

 気持ち、いい――はぅ、ん、んぅう」

 

 すぐに悦楽へ浸っていく。

 うん、やはり陽葵さんはこうでなければ。

 

 ……結局のところ、陽葵さんをケセドに会わせようとしているのは、その“契約”が主要因なのだ。

 果たしてコレを、“どうしても息子を守りたいがための行為”ととるか、“何か後ろ暗い企みがあるからの行為”ととるか。

 ミサキさんは、後者と判断している。

 私は――

 

「――はぁっ――あっ――あっ――く、黒田、は?」

 

「はい?」

 

 唐突な陽葵さんからの問いかけ。

 両方の突起を責められているため、かなり息が乱れている。

 

「――んんっ――あ、あぅっ――く、黒田は、どう、思ってるんだ?

 ――ん、んんぅっ――け、ケセドの、こと」

 

「私、ですか。

 ……正直に言いますと、私はケセドに会ったことがあります」

 

 陽葵さんの乳首は、もうビンビンに勃っていた。

 相当、感じいっているのだろう。

 見れば、彼の股間もまた“盛り上がって”いる。

 身体は正直なものだ。

 

 陽葵さんは、切なそうに身を捩りながら、

 

「――はあぁぁぁ――んん、マジか」

 

「マジです。

 その際、“信用ならない相手”という印象は、確かにありました。

 しかし――」

 

 ここで、両方の乳首を指でぎゅっと抓んだ。

 

「あ、あぁああああっ――!?」

 

 堪らず、陽葵さんが喘ぐ。

 胸の刺激に身体を仰け反らし、私へ身を預けてくる。

 

「――しかし、陽葵さんの身を案ずるような気配もあったように記憶しています。

 演技の可能性もありますが、賭けてみてもいいのではないか、と」

 

 六龍が敵であるという事実が明るみになっても、陽葵さんの身が危機的状況にあることは変わらない。

 奴らは、彼を魔王に代わる新たな器にしようと目論んでいるのだから。

 これもまた“聞いた話”なのだが、この“戦い”に勝利した勇者を操っていた龍が、六龍の主導権を握るとか、そういう取り決めらしい。

 はた迷惑にも程がある。

 

 そして――陽葵さんにとっては最悪なことに――彼を使い潰そうとしているのは、ミサキさんですら例外でない。

 つまり、このまま行けばどう転んでも陽葵さんに明るい未来はない。

 解決の糸口を掴むためにも、彼はケセドに会った方がいいと、私は考えている。

 

 それはそれとして、陽葵さんの乳首を指先で抓んだまま、その指をぐりぐりと動かしてやった。

 

「あっあっあっあっあっ――!

 やだっ! 強いっ! 強すぎだってば!」

 

「――ご理解、頂けましたでしょうか?」

 

「分かった! 分かったよ!!

 ――んんっ! あっあぅっあっあっあっ!

 ケセドに、会うっ! オレ、ケセドに会うから!!」

 

 乳首の快感に耐えられず、そこから逃げようとジタバタ暴れ出す陽葵さん。

 だが私は彼の身体をがっちりホールド。

 そう簡単には逃がさない。

 

「あっあっあっあっあっ!

 緩めてっ! 指、緩めてぇっ!!

 このままだと、オレ――あっ! あっ! あっ!――オレ、イっちゃうっ!

 イっちゃうんだってっ!!――んぁあああああっ!!」

 

「いいじゃないですか。

 思い切り、気持ち良くなって下さい」

 

 陽葵さんが絶頂を迎えられるよう、胸の先端を引っ張ったり、捻ったりと、思い切り弄ってやる。

 すると――

 

「あ、あぁあああああああっ!!!」

 

 ――陽葵さんが、身体を硬直させる。

 時を同じくして、彼の着る病院着の股間部分に、じわじわと染みが広がっていった。

 射精したのだ。

 

「――あっ――あっ――あっ――はあぁぁぁぁ――――」

 

 二度、三度と痙攣してから、陽葵さんはぐったりと後ろへ寄りかかってくる。

 私がいなければ、そのままベッドへと倒れ込んでいただろう。

 

「……気絶してしまったようですね」

 

 乳首の責めだけでイって、しかも気をやってしまう。

 相変わらず、陽葵さんは敏感体質だ。

 これから先、<次元迷宮>ではさらなる魔物からの嬲りがあるだろうに、大丈夫だろうか?

 

「特訓が必要かもしれませんね」

 

 一回犯される度に地上に戻っていては、ケセドへと辿り着くのはいつになることやら。

 彼には、もっと(性的な意味で)強くなってもらわなければならない。

 勿論、物理的に強くなってもいいのだが。

 

「――では」

 

 私は、陽葵さんをベッドへうつ伏せに寝かせた。

 そのまま、ズボンをずり下ろす。

 

「……綺麗ですね、陽葵さんのお尻」

 

 思わず感嘆の言葉が口から出た。

 何度見てもこれは飽きない。

 雌として理想的な丸みを帯びた尻なのだ。

 

「しかも、この感触」

 

 両手で陽葵さんの尻肉を揉む。

 柔らかいのに、確かな弾力がある。

 極上と呼んでいい触り心地だ。

 

「さて、始めますか」

 

 尻の割れ目をくいっと開く。

 真ん中から、艶やかな色合いの“穴”が現れる。

 こんなところまで、陽葵さんは美しい。

 

 私は自分の愚息を取り出し、既に勃起しているソレを後ろの穴へと突きつける。

 そして有無を言わさず――気を失っているから言いようが無いけれど――剛直を根本まで“中”へ突き挿した。

 

「おっ!!? おおぉぉおおおおおおおおおっ!!!?」

 

 寝ていたはずの陽葵さんが、雄叫びのような嬌声を上げる。

 

 

 

 ――今日は時間が無いので、そのまま尻穴へ3発程注ぎ込んでから私は病室を立ち去った。

 

 

 

 第二十五話②へ続く



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②! 皆さんへお見舞いを

 

 

 

 次は誰のお見舞いへ行くか。

 少し悩みながら廊下を歩いていると、前から見知った二人組が現れる。

 

「……クロダか」

 

「お、旦那!」

 

 一人は<侍>、一人は<暗殺士>の装備を身に着けた男達。

 兄貴さんと三下さんだ。

 

「おや、お二人とも先日はどうも。

 ちょうど、お礼に行こうと考えていたのですよ。

 もう、お身体の方はよろしいのですか?」

 

 一礼して挨拶をかわす。

 

「これでもBランク冒険者だぞ。

 あの程度の傷、大したことでもないさ」

 

「とか言ってますけどね、いや、実際はやばかったんすよ。

 デュストの野郎から滅多切りにあって、それを無理やりポーションで治した後、さらに龍にやられちゃって。

 旦那程じゃないが、医者の診断じゃ当分絶対安静だと――うべっ!?」

 

「――余計なことを言うんじゃない」

 

 裏拳を三下さんに叩き込み、黙らせる兄貴さん。

 まあ、兄貴さんがかなり危険だったことは私も聞き及んでいたが。

 自分の限界を無視してブーストアイテムを使用していたらしい。

 余程、奴に対し腹を据えかねていたのだろう。

 

 私は軽く苦笑いをして、

 

「はははは、とにもかくにも、改めて感謝を。

 貴方達が来てくれたおかげで、助かりました。

 私達だけでは勝てたかどうか――」

 

「ふん、結局は一人で始末しておいて、よく言ったもんだ。

 だいたい、射式格闘術(シュート・アーツ)だったか?

 前に魔族と戦った時は、そんなもの微塵も見せなかったな」

 

 兄貴さんが睨み付けてきた。

 それを言われると、辛い。

 そもそも兄貴さんだってあの時本気出してなかったじゃないですかとか言いたいけれど、藪蛇になりそうなので指摘せず。

 

「も、申し訳ありません。

 私の一存で使っていい技術というわけでもなかったので」

 

 咄嗟に、ミサキさんをダシに使ってしまう。

 本人に知られれば、絞られることだろう。

 

「おうおう、知ってますぜぇ!

 クロダの旦那が、あのキョウヤの代理だったってな!!

 色々奥義も授かったりしたとか!?

 通りで強ぇわけだぜ!!

 しかしそんな旦那にあっしらは協力したってわけで?

 ひょっとして、あっしも勇者の仲間!?

 新たな五勇者伝説ここに幕開け!、みたいな!?

 やっべ、どうしよう兄貴!

 サインの練習とかしてあっし全然してこなか――うぎゃっ!?」

 

 止まらない三下さんを、今度は正拳で黙らせた。

 殴った手を擦りながら、兄貴さんは私の方を向き、

 

「――クロダ。

 まだ、勇者共とは戦うんだろう?」

 

「ええ、勿論です。

 しかしご安心ください。

 これ以上、貴方達を巻き込もうとは――」

 

「――ふざけるなよ」

 

 私の台詞が遮られる。

 

「ここまで関わらせておいて、巻き込まんだと。

 冗談じゃない。

 目の前に“ご馳走”ぶら下げられて、手を出さずにいられるか。

 俺も一枚噛ませて貰うぞ」

 

「……良いのですか。

 相手は五勇者――ひいては六龍。

 世界の英雄と、それを守護する神々ですよ?」

 

「知ったことか。

 強いヤツがいるなら、それに挑む。

 どんな怪物でも神でも、対峙したならやることは変わらん」

 

「……そうですか」

 

 そう言ってくれるなら、こちらも拒まない。

 兄貴さんレベルの戦士が協力してくれるのは、はっきりと有難かった。

 何せ、相手は神様なのだ。

 怖気づくとかそれ以前の問題として、神様と敵対しようと考えられる人が、そもそも希少なわけで。

 アンナさんも、協力者探しには相当苦労していたらしい。

 

「兄貴がやるってんならあっしもお供しますぜ!

 へへへ、あっしの雄姿、またご披露しましょう!!

 もう大船にいたつもりでドーンとしていてくだせぇ!!」

 

「……まあ、貴方はひたすら<術理妨害(スキル・インタラプション)>かける役目でしょうけどね」

 

「ひっどいっ!!?」

 

 しかしソレが有効なのだから仕方ないのである。

 <盗賊(シーフ)>の最上級スキルである<術理妨害>。

 まさか龍相手にすら行動阻害を引き起こせるとは、嬉しすぎる誤算だった。

 とりあえず三下さんには、それをぶっ放ち続ける係になって貰うしかない。

 

 ショックを受けている彼をよそに、兄貴さんが話しかけてくる。

 

「クロダ。

 俺達はしばらく、探索は中断し街に留まるからな。

 いいか、連中が来たら、必ず知らせるんだぞ。

 分かったな?」

 

「――はい。

 頼りにさせて貰います」

 

「……ふんっ」

 

 再度頭を下げると、兄貴さんは一つ鼻を鳴らしてから歩いて行った。

 

「あ、あ、待って下せえ、兄貴!

 いやぁ、まったく兄貴ってば素直じゃないんだから、もう!

 旦那に“この前”の借りを返す機会、前々から伺ってたんでしょって――ぱっぴゅぅうううっ!!?」

 

 慌てて戻ってきた兄貴さんの鉄拳が、三下さんをふっ飛ばした。

 そのまま、病院の外にまで飛んでいく。

 

「借りって、まさか魔族(アーク)と戦った時のですか?」

 

「乗っかってくるんじゃない!

 そういうのはさらっと流せ、さらっと!!」

 

 照れ隠しなのか、怒号を飛ばすと今度こそ足早に去る兄貴さん。

 前々から察してはいたが、やはり律儀な人ではある。

 ――少々、いやかなり厄介な思想持ちではあるけれども。

 

 

 

 

 

 

 私が続いて向かったのは、ゲルマンさんのところだ。

 この前の魔族襲来時といい、店長には毎回多大な迷惑をかけてしまっている。

『黒の焔亭』の営業も中止させてしまっているので、生活にも支障が出ていることだろう。

 ちょっと本気で詫びを入れた方がいい。

 幾ら程、包めばいいだろうか――

 

 ――と、悩んでいたのだが。

 

「アホゥ。

 いるか、そんなもん!」

 

 開口一番が、それだった。

 

「い、いえ、しかしですね」

 

 「――あっ――あぅっ――んんぅっ―――んぁああっ――」

 

「しかしもへちまもあるかってぇの!

 いいか、俺は強制されたわけじゃねぇ。

 お前を助けたいと思ったから、助けたまでよ!」

 

「店長――」

 

 頭を下げようとする私を、頑なに止める店長だ。

 

「あのなぁ、クロダよ。

 友人(ダチ)助けるのに見返りなんざ要るか?

 お前、金手に入んねぇなら友達見捨てんのかよ?」

 

 「――は、あ、あ――あっ――まだ、やるの――あっあっあぅっ――」

 

「そんなこと、するわけないじゃないですか」

 

「だろう?

 それと同じってぇことよ。

 詫びだの謝辞だの、そういう湿っぽいことは他の連中にやってやんな」

 

 「――あ、ひっ――あ、ああ――はぁっあっあんっ――」

 

 そんな台詞を吐かれては、これ以上粘ることはできないか。

 だが、友人云々言うのであれば。

 

「ただ、お礼だけは言わせて下さい」

 

「おいおい、クロダ、お前分かって――」

 

 「――はぅっ――んんっ――も、これ以上は――あっああっあああっ――」

 

「友人であるならば。

 いや、友人であるからこそ。

 助けてくれたことには感謝せねばならないと思うのです。

 ゲルマンさん、貴方が私の友人であるというのであれば、この謝礼を受け取って欲しい」

 

「――ちっ」

 

 店長が舌打ちする。

 

「湿っぽいのは苦手だっつってんだろが」

 

「すみません。

 ――そして、ありがとうございました。

 魔族の時といい、今回といい、貴方のおかげで助かりました」

 

 「――い、いい加減――あっあっあっ――止めて――あぅっはぁっあぁっ――」

 

「――へっ、いいってことよ。

 ただまあ、そういうことなら態度で示して貰おうか。

 例えば、俺の店できっちり飯食っていくとかな」

 

「ええ、それは勿論」

 

 「――イ、クっ――僕、イク――ま、また――あぁあああああっ――」

 

 私と店長は、硬く握手する。

 一しきり会話が終わったところで、私は改めて店長に質問した。

 

「――ところで。

 ミーシャさん、どうしたんですか?」

 

「ああ、こいつか?」

 

 先程から聞こえる喘ぎ声の正体。

 それは、短く揃えた銀髪が美しい少女、ミーシャさんだった。

 全裸になった彼女が店長の上に乗り、乱れていたというわけである。

 

 一旦、動きを止めていたゲルマンさんだが、再度腰を振り出した。

 ぐちょぐちょと、2人の結合部が音を鳴らす。

 

「――あっあっ――イ、イッたばかりなのに――すぐ、動かないで――あっあっ――!」

 

 会話の最中に絶頂していたミーシャさんが、また喘ぎ始める。

 体格の大きいゲルマンさんに抱かれる彼女は、小柄さもあいまってまるで子供のようだった。

 彼が少し力を入れれば、容易く壊れてしまいそうな程に。

 そんなミーシャさんの頭を撫でながら、店長は説明してくれた。

 

「最近、ウェイトレスが足りなくなってきてなぁ。

 シエラの奴はセドリックに孕まされたし、リアは当分そっちにかかりきりなんだろ?

 残ったジェーンだけで店まわすのは厳しそうだなと思ってところで、こいつが目に飛び込んできたってわけよ」

 

「なるほど、スカウトですか」

 

「――こ、こんな勧誘の仕方――あっあぅっ!?――あっあっあっあっ!――ひど、い――あぁあああっ!」

 

 店長はミーシャさんの控えめな胸や尻を無遠慮に触る。

 小さくはあっても可愛らしソレは、男を魅了するに十分な淫猥さを持つ。

 

「どうよ。

 ちと身体にメリハリはねぇが、感度はなかなか悪くねぇ。

 いい雌になりそうな女だろ?

 誘ったらほいほいノッてきやがったしな」

 

「ほほう」

 

「――いい、バイトがあるって言うから――あっああっ!――そう言うから、来てあげたのに――んっんんぅううっ!

 いきなり、押し倒されて――あっ! あっ! あっ! あっ! あぁあああっ!」

 

 そういえば、兄貴さんはしばらく<次元迷宮>に潜らないと言っていた。

 ミーシャさんは、その間の金策をしようとしていたのだろう。

 

「で、どうだ、ミーシャ。

 そろそろ、答えは出たんだろうな?」

 

「――で、出るも何も――あっあっあっあんっ!――働くわけ、ないでしょっ!?――あぁああっ!!

 こんな、野蛮な奴のところでなんてっ――あ、あん、ん、んんぅううっ!」

 

「あぁんっ?」

 

 店長は顔をしかめると、腰の動きを激しくした。

 途端、ミーシャさんの嬌声も大きくなる。

 

「あ、あひぃいいいいっ!?――あっあっあっあっあっ!?」

 

「てめぇ、こっちが下手に出てるからって調子コキやがって!

 まんこに肉棒ぶっ込まれりゃ何もできなくなる雌ガキの分際で、人を野蛮扱いか!?」

 

 パン、パン、と肉のぶつかる音が響く。

 彼女の小さい肢体が、大きく揺さぶられた。

 

「あっああっあああっああああっ!――い、イク、僕、またイクっ!――あっ! あっ! あっ! あっ!

 ――あぁああああああっ!!!」

 

 あっという間に、ミーシャさんは絶頂する。

 だが、店長は止まらない。

 

「こんなもんじゃ済まさねぇぞ、オラっ!

 ぶっ壊れるまで犯してやっからな!?」

 

「いひぃいいいいっ!!? あうっ!? あっ! んおっ!! おおっ!! おぉおおっ!!

 いっ! いっ! いっ! いっ! いっ! いぃいいいいいっ!!!」

 

 敏感になっているところをさらに責め抜かれ、絶叫するミーシャさん。

 目や口は大きく開き、涙や涎が垂れ流れる。

 

「どうだっ!? ええっ!? どうなんだっ!?

 まだ働きたくねぇとか抜かすか、このアマっ!?」

 

「あっっ!!? あっっ!! あぁああああっ!!!

 おっ! おおっ!! おっ!!――は、働くっ!!――働き、ますぅっ!!

 うぁああああああっ!!?――働かせて、下さいぃいいっ!!!」

 

 とうとう、店長の申し出を承諾する。

 新たなウェイトレスの誕生である。

 ミーシャさんの制服姿――うん、いい感じになりそうだ。

 

 ゲルマンさんも、彼女の言葉にニヤリと顔を歪ませて、

 

「最初からそう言えっ!!

 ――よし、ご褒美だっ! お前の助平なまんこで、しっかり味わえっ!!」

 

「おっ!!? おぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 店長が腰を大きく突き込んだところで、2人ともしばし動きを止める。

 

「――おっ――おっ――おっ――おっ――」

 

 ミーシャさんが、小刻みに動くだけ。

 膣内に射精されているのだ。

 

 しばしして、店長が口を開いた。

 

「はっ! この好きモンがっ!

 ちんこ全然離そうとしやがらねぇ。

 大した淫乱っぷりだな、おい!!」

 

「――ち、ちがっ――おっ――こんな、こんなの――おっおっ――

 ――身体が、おかしくなっちゃった、だけ――おっ――おっ――おおっ――」

 

「……まだ生意気言いやがるか」

 

 まだ痙攣が収まらないミーシャさんをベッドへ放ると、店長はその上に覆いかぶさった。

 体格差がより際立ち、彼女は今にもゲルマンさんに押し潰されそうだ。

 そして、店長はこれまでよりも大きく腰をグラインドさせ始めた。

 

「おひっ!?――あ”っ!?――あ”あ”っ!?――あひゃぁあああっ!!?」

 

 喘ぎとも悲鳴とも付かない声を上げ始めたミーシャさん。

 瞳は白目を剥いている。

 もうまともに思考が働いていないだろう。

 

 だが、店長はそんなことで責め手を緩めない。

 その指で、舌で、イチモツで、いっそうにねちっこく、彼女の肢体を嬲り始めた。

 

「――悪いな、クロダ。

 今日は、こいつを徹底的に“仕込み”てぇんだ。

 俺の“味”を、忘れられなくするためにな」

 

 一度こちらを向き、彼はそう言ってきた。

 私は頷いてから、

 

「ええ、分かっています。

 今日はこれでお開きということで。

 また後日、お会いしましょう」

 

「おう。

 店もすぐ再開するつもりだからよ。

 そっちも忙しいんだろうが、偶にゃ顔出せよ」

 

「はい、食事をする約束ですからね。

 店の利益に、貢献させて頂きます」

 

「はは、助かるぜ。

 じゃあな、クロダ」

 

「はい、それでは」

 

 一つお辞儀してから、私は病室を出た。

 

 

 「――おおっ!!――んぉおおっ!!――おぉおおおっ!!――おぉおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 

 ――その日は一日中、その部屋からは獣の雄叫びのような声が響いていたとか。

 

 

 

 

 

「――む」

 

 病院を歩く私に、ある感覚が訪れる。

 それは、人が誰しも感じるアレ。

 即ち――尿意である。

 

 いや、もったいぶって言う単語ではないが。

 

「――トイレは、と」

 

 慌てる程ではないが、私は手洗い場を探す。

 幸いなことに、ちょうどいつも使っているトイレが近くにあった。

 

「あれ、クロダじゃない?

 もう歩けるようになったのね」

 

 私は便器に近寄ると、それを掴んで丁度いい位置に調整し、

 

「――え。

 ちょ、ちょっと、何すんの――」

 

 イチモツをその中に突っ込んだ。

 

「――んぐっ!?」

 

 快適な暖かさに股間が包まれる。

 それに気を良くしながら、私は放尿を始めた。

 

「――んんっ!?――ん、んんぅっ!!?――うぶっ!?――ん、ん、ん、ん、ん――!!?」

 

 ジョロジョロと便器へ流れ込んでいく尿。

 当の便器はと言えば、苦し気に顔(?)を歪めながらも、しっかりと飲み込んでいる(・・・・・・・)

 

「――んんっ!――んーっ!――ん、ぐっ――んっんっんっんっ――ちゅっ――」

 

 最後は、便器の方から一滴残らず小便を吸い上げてくれた。

 脳内に良い解放感が訪れる。

 

「さて、すっきりしたところで行きますか」

 

「――んんっ!――ま、待ちなさいよ!?」

 

 先へ行こうとする私に、便器が話しかけてきた。

 

「ん?――どうしました、リアさん?」

 

「それはこっちの台詞よ!?

 いきなりあんなことしてきて、どういうつもりなわけ!?」

 

 便器――リアさんが、私に詰め寄ってくる。

 

 今のリアさんは“人”状態。

 セミショートの茶色い髪が、彼女の動きに合わせてなびいている。

 着ているのは病院着ではなく、いつものTシャツとスパッツ。

 タイトなサイズの服は、リアさんの均整取れたスタイルを映し出していた。

 大きすぎず、かといって小さいわけでもない、程よく肉の付いた胸と尻だ。

 健康的な色気を振り撒く美少女然とした印象を、見る人に与える。

 

 なお、怪我の度合いとしては兄貴さんと同程度だったのだが、そこは魔族。

 次の日にはほぼ快調し、元気に動き回っていたりする。

 

 そんな彼女に対し、私は――

 

「リアさんは、何でしたっけ?」

 

「え?」

 

「リアさんは、私の何なんでしたかね?」

 

「――えっと、それは」

 

 勢いが削がれ、リアさんは俯きがちに呟く。

 

「……肉便器、だけど」

 

「そうでしょう?

 肉便器を便器として扱ったのですから、問題ないじゃないですか」

 

「そ、そうかもしれないけど!

 でも、せっかく動けるまで回復したんだから、もっと話すこととかあるでしょ!?」

 

「いや、リアさんとは毎日顔を合わせてましたし」

 

「うっ」

 

 そうなのである。

 私だって、別に彼女のことを心配していなかったわけではない。

 ただ、入院してから今日まで、リアさんは私を甲斐甲斐しく看病をしてくれており。

 その時に、勇者や六龍に関する説明や、これまで事情を伏せていたことや巻き込んでしまったことへの謝罪と感謝を何度も伝えていた。

 なので、見舞い回りをしている今、敢えて話をする必要性も少ないかと判断したわけで。

 

 なお、看病内容は今のような小便の処理である。

 ここ数日で、リアさんの便器っぷりはより磨きがかかっていた。

 

 ――と、私はそう考えていたのだが、リアさんの方は考えが違っていたようである。

 

「あ、あんたの方に無くても、あたしの方にはあるの!

 ――その、謝りたい、ことが」

 

「と、申しますと?」

 

「――元気になってから伝えようと考えていたというか、言うタイミングを掴めなかったというか」

 

 彼女はそう前置きしてから。

 

「……あんた、イネスの結界に囚われたことあったでしょ?

 そうなるように誘導したの、あたしなの」

 

「え?」

 

「い、言い訳にしかならないんだけど。

 イネスに、このままじゃあんたが死んじゃうって言われて。

 あたしも、あんたがデュストに勝てちゃうなんて夢にも思ってなくて。

 それで、ついあんなことを」

 

「――そうでしたか」

 

 だがそれは、仕方のないことだ。

 寧ろ、彼女にしっかりと説明していなかった私の方にこそ非がある。

 私を想ってしてくれた行動に、文句など言えようはずがないし、恨みを持つなどもっての他。

 リアさんに対し――そして葵さんに対しても――謝意こそあれ、責める気持ちは一切ない。

 

 ――ただ、恐縮しきっているリアさんを見ると、嗜虐心がむくむくと湧いてきて。

 

「リアさん。

 本当に謝りたいと言うのであれば、態度が間違っている(・・・・・・・・・)のではないですかね?」

 

「――あ」

 

 私の(ワザと作った)冷たい言葉に、リアさんがはっとする。

 そしておずおずとその場に膝をついて、頭を下げてきた。

 

「……に、肉便器の分際で、差し出がましいことをしてしまい、すいませんでした」

 

 土下座の姿勢で、私に詫びてくるリアさん。

 私はその姿をまじまじと見下ろす。

 

 改めてみると、腰が折りたたまれ、実にお尻が強調されるポーズだ。

 スパッツの張り付いた尻肉が、プリンっと音を立てそうな様子で鎮座している。

 この形の良い“丸み”に、惹かれない男などいないだろう。

 

 見ているだけでは何なので、私はそれを手で触ってみた。

 

「――あっ」

 

 一瞬、ピクッと震えたリアさんだが、それ以上の反応はない。

 私はサワサワと彼女の臀部を触っていく。

 スパッツのスベスベした触り心地と、肉のむっちりした感触が良いハーモニーを作っていた。

 

「――んんっ」

 

 鷲掴みにしてやると、指がぐにっと尻肉へ埋まる。

 同時に強く反発も感じ、肢体のハリの良さがよく分かった。

 

「――ああっ!」

 

 肉の触感を愉しみながら、手を股間へと移す。

 触ると、生地の上からもそこが既にしっとり湿っていることが分かった。

 

「……私に謝りたいと言っておいて、どうしてココが濡れているんですかね?

 ただ、自分が気持ち良くなりたいだけだったのですか?」

 

 指で“割れ目”を強くなぞってやると、だんだん指へ愛液が付き始める。

 

「――あっ!――あっあっ!

 ち、違うのっ――あたし、そんなつもりじゃ――あっああっあっ!」

 

 股間を擦られる度に、喘ぐリアさん。

 しかし土下座の姿勢は維持したままだ。

 感じてしまっているとはいえ、その辺りに彼女の誠意が見て取れる。

 

 しかしそんなことはおくびに出さず、頭を下げたままビクビク悶える少女へと告げる。

 

「違うというのであれば、リアさんはどうされたいのでしょう?」

 

「――はっあっあっ――た、叩いて、下さい。

 この、不出来な肉便器を――あっあっあっ――嬲って、躾けて下さいっ!」

 

「――ほう?」

 

 私は股間を弄る手を離し、それを大きく振りかぶった。

 そのまま勢いをつけ、リアさんの尻を叩く。

 

「はぁあああああああんっ!?」

 

 バチンッ!という大きな音と一緒に、少女の甘い声が周囲に響く。

 どうもリアさん、“こんなもの”も快感らしい。

 

 そうとなれば、私は容赦せず何度も尻を叩いてやった。

 

「あぁあああああっ!?――はぁああああああっ!?――あひぃいいいいいいっ!!?」

 

 一つ叩けば、大きな嬌声が上がる。

 ちょっとした楽器を演奏している気分だ。

 しかもその奏でる音の、卑猥なこと。

 聞いているだけで、股間に熱が集中してくる。

 

「いやああああああっ!!――んぁあああああああっ!!――あ、あぁぁああああああああっ!!」

 

 興奮しているのは、私だけではない。

 リアさんの股は、もう見るからにビチョビチョだ。

 スパッツに愛液の染みが広がっている。

 

 私は尻ではなく、その股間に向けて、平手を振り下ろした。

 

「――あっ、あぁぁぁあああああああああっ!!!?」

 

 堪えきれず、リアさんはとうとう頭を上げた。

 身を反らしたまま、硬直。

 同時に股間から、スパッツの生地を通して、透明な液体がジョロジョロと流れ出る。

 ――床に、愛液の水たまりができた。

 

「……イったのですか?」

 

「――は、ひっ――い、イキ、ましたぁ――」

 

 質問に、口をパクパクとさせながらどうにか答えるリアさん。

 私は大きくため息を吐いて、

 

「まったく、何時、私がイっていいといいましたか?

 私は、まだ射精を一度もしていないというのに」

 

「あ、あ――ご、ごめん、なさいっ!

 でも、あたし、我慢、できなくて――」

 

「御託はいいです。

 リアさんが、これからするべきことはなんですか?」

 

「――は、はい」

 

 絶頂したばかりで自由が利かなくなっている身体で、リアさんはゆっくりと腰を上げていく。

 そして、私が挿入しやすい位置に、尻と股間を突き出してきた。

 濡れたスパッツは彼女にぴっちりと張り付き、女性器の形までくっきりと浮かび上がらせている。

 

「あたしの、まんこ、使って下さい――

 クロダのおちんぽ、あたしの中にじゅぼじゅぼ挿して下さいっ!」

 

「いいでしょう」

 

 私のイチモツはギンギンに硬くなっている。

 ソレを取り出し、リアさんの膣へ、ずぶずぶと突き入れていった。

 

「あ、う、うそ――スパッツ、ごと――!?」

 

 思わず、リアさんが呟いた。

 彼女の言う通り、スパッツは脱がしていない。

 こんな薄い布一枚で止められる程、私の剛直は弱く無いのだ。

 

「――あっあっ――はいって、くる――あっあっあっ――はいって、きちゃってるっ――」

 

 スパッツの生地を巻き込んで、私の男根はリアさんへ侵入していった。

 流石にいつもより抵抗は大きいが、強引に前へ押し進める。

 

「――あっあっあっ――全部、はいっちゃった――あぁあああ―――」

 

 程なく、私のイチモツは全てリアさんへ収まった。

 股間に纏わりつくスパッツの触感が、いつもと違う刺激をくれる。

 それを愉しみつつ、私は腰を振り始めた。

 

「――あっ!?――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 すごいのっ! あっ! あぅっ! スパッツが、ぎゅってくるぅっ!! あぁああああっ!!」

 

 不自由さはある。

 生地が突っ張って、思うように突けないこともあった。

 だが、それを含めて、新鮮さが快感に繋がる。

 

「――あっ! あっ!――クロダの、強いっ!――あっ! あっ! あっ! あっ!

 お腹に、ずんずん来てるっ!――あひっ! あっ! あぅっ! あぁんっ!」

 

 リアさんが、自分からも腰を振り始めた。

 快感に、愛液がまた垂れ流れている。

 股間はおろか、尻も、太ももも、淫らな液で濡れていた。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ!

 あうっ! おっ! おっ! おっ! おおっ!!」

 

 互いに、動きが激しくなる。

 肉と肉のぶつかりが、大きくなっていった。

 もっとこの肉を貪ってやろうという欲情が、私の中でとぐろを巻く。

 同時に、射精感もまた昂ってきた――ところで。

 

 ――ブチっという音が聞こえた。

 

「――あっ! あっ!――破れちゃったっ!?――あっあっあっあっ!

 スパッツ、破れちゃったっ!?――あっあうっあっあんっあんっ!!」

 

 イチモツに感じる圧迫感と生地の肌触りが、急に消えた。

 代わりに、熱い膣壁と、膣のヒダに絡まれる感触が現れる。

 

 どうも、剛直がスパッツを突き破ってしまったらしい。

 ……こんなので破れるものなんだ。

 

 まあ、邪魔が無くなり、より直接的にリアさんを味わえるようになったとも言える。

 ヤることは何も変わらない。

 私は腰に力を入れ、彼女を突き続けた。

 

「あっ! ひっ! あぅっ! あっ! ああっ!

 イクっ! あたし、またイクっ! イっちゃうのっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!!

 イって、いいですかっ!? あぁああああっ!!」

 

「ええ、いいですよ。

 私もそろそろです。

 思い切りイって構いません」

 

「――は、い――あっあっあっあっあっ――ありが、と、ござい、ますっ――

 あぁあああああっ!!――イクッ、イッちゃうっ!――あ、あ、あ、あ、あっ!!」

 

 私が許可すると、リアさんはさらに大きく尻を振り始めた。

 今度は先に絶頂しないよう、セーブしていたのか。

 キツい膣にイチモツの根本から先端までを擦りあげられ、私の方もすぐに射精へ到達してしまう。

 

「――中、出しますよっ!!」

 

 リアさんの腰をがっしり掴み、剛直を一番奥へと挿し込む。

 その状態で、溜まっていた快楽を解放――精を注ぎ入れた。

 

「ああっ!! あああっ!! 来てるっ!! 熱いのがっ!! あたしの子宮(なか)にっ!!

 あっ! ああっ!! あぁあああああああああっ!!!!」

 

 精子を子宮で受け止めながら、リアさんも達したようだ。

 ガクガクと脚を震わせ、恍惚とした表情になっている。

 

「――あっ!――――あっ!――――あっ!――――あっ!――――」

 

 膣肉が精液を搾り取っていく。

 その快楽に身を任せ、私は好きなだけ射精を続けた。

 

「――――あ」

 

 リアさんが脱力し、自分で作った愛液溜まりへと倒れ込んだ。

 周囲に透明な液体が跳ねる。

 

「リアさん」

 

 私は、痙攣を繰り返し、膣口からは白濁液を流す彼女へ話しかける。

 

「――な、なに?」

 

 幸い、リアさんにはまだ意識があるようだった。

 或いは、今意識が戻ったのか。

 どちらでも構わず、私は言葉を続けた。

 

「ここ、病院ですので。

 床をこんなに汚しては、まずいでしょう?

 ちゃんと綺麗に――舐め取って(・・・・・)下さいね?」

 

「……っ!?」

 

 彼女が、息を飲むのが分かる。

 だが逡巡したのは一瞬。

 

「――ぺちゃ――んっ――れろ、れろ―――ん、んんっ――」

 

 リアさんは床に飛び散っている自分の愛液と、私の精液を舌で舐め始める。

 股に穴の開いたスパッツを履き、四つん這いになって床を舐める美少女。

 その淫らな光景を、私はゆったりと楽しんだのであった。

 

 

 

 第二十五話③へ続く



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③! 待ち人来る

 

 

 

 床掃除を続けるリアさんと一旦別れ、私は病院の待合室に来ていた。

 確か、いつもこの時間帯に――

 

「こんにちは、ローラさん」

 

「――クロダさん!?

 もう、大丈夫なんですか!?」

 

 ――私は、目的の人物をすぐ見つけることができた。

 ローラさんだ。

 人の多い待合室でも、綺麗な黒髪を伸ばした美女である彼女は、とても目に付いた。

 

 ローラさんは、あの事件で負った怪我が最も少なかった一人である。

 入院することなく、ちょっとした手当だけで済んだ。

 戦いの中、最も後衛に居たのが幸いしたのだろう。

 

 ただし、肉体的な負傷は無かったものの、経済的な負傷は甚大だった。

 ゲブラーの攻撃によって、ローラさんのお店が倒壊してしまったからだ。

 奴と、彼女の家の近くで戦ったのがまずかった。

 

 聞く話によると、土台から吹き飛ばされたらしく修理は不可能。

 新しく建て直すしかない、とのこと。

 そのため、ローラさんは入院こそしなかったものの、これから暮らす場所をすぐに探さねばならないハメになったのだ。

 一応、経済的援助はアンナさんやセドリックさんが申し出てくれたそうだが、それでも慌ただしい日々だっただろう。

 

 そんな中でも、ローラさんは決まった時間になると私の病室に顔を出してくれた。

 私が入院中、入用な物の差し入れもして貰った。

 まったく、彼女には足を向けて眠れない。

 

 と、そこで私はローラさんの“変化”に気付く。

 

「――おや。

 今日は、いつものドレスじゃないのですね」

 

「ええ。

 家財一式無くしてしまったので、服も新調しました」

 

「おお、そうでしたか」

 

 彼女の服が、“黒いドレス”では無くなっていた。

 ローラさんは基本、黒で統一した服ばかり着ていたのだが、今着ているのは落ち着いた色合いのワンピースだった。

 シックな雰囲気は黒ドレスと同じだが、今日のワンピースはそこに程良い“明るさ”も付与している。

 

 今まで黒ドレス姿しか(迷宮内ではタイツ姿もお目にかかったが)拝見したことがなかたので、今日の服装にはちょっとした衝撃すら感じる。

 服によって人の印象は大きく変わるもので、今日のローラさんには清廉な空気が漂っているようにも見えた。

 

「それで、クロダさん。

 お身体の方なのですが――」

 

「ええ、すこぶる快調です。

 無理はできませんが、今日は病院内を回って皆さんに挨拶していたところで」

 

「ああ、それは良かったです。

 では、退院も直に?」

 

「まだ主治医さんに看て貰ったわけではないですが、この調子なら明日明後日には病院を出られるのではないかと」

 

「そうですか――でも」

 

 私の回復を喜んでくれていたローラさんだが、そこで顔が曇った。

 

「そうすると、また、戦わなければいけないんですよね、“あの方達”と」

 

 心配そうな瞳を私に向ける。

 ……そうか、彼女は私の身を案じてくれているのか。

 

「それは――まあ、そうです。

 いや、入院している時に戦闘が開始されてもおかしくはなかった。

 そこは、彼らの温情でしょうか」

 

 ルール上(・・・・)、私がどれ程の大怪我を負っていようと、勇者達は私に戦いを仕掛けられる。

 そして六龍達は、一刻も早く私を排除したいはず。

 なにせ、人の手で龍を倒せることを証明したのだから。

 にも拘わらず戦闘が起こらないのは――

 

 抗ってくれているのだろう。

 勇者達が。

 龍の意思に。

 

「で、でも、クロダさん!」

 

 ローラさんが強い剣幕で私に迫る。

 

「はい?」

 

「なにも、クロダさんが戦うことはないと思うんです!

 これは、この世界の問題で――

 貴方は、<トーキョー>の人じゃないですか!

 命を懸けてまで、戦うことは――」

 

「現状、六龍が全ての黒幕であることを知る人はこの世界にほとんどいません。

 仮にそれを喧伝したとして、信じる人は稀でしょう。

 龍に対して有効な干渉手段を持つ人物となれば、さらに希少となります。

 なら、私がやらなければ。

 ――それが、私の仕事ですから」

 

「そんな――」

 

 悲しそうな表情になるローラさん。

 そんな顔、しないで欲しい。

 

「大丈夫ですよ、ローラさん。

 私は――私達は、必ず勝ちます。

 龍と戦おうとしている人達は、この世界にも少なからずいますし。

 何より、勇者キョウヤが後ろに控えているのですから。

 あの人は、勝算の無い戦いをしない方です」

 

「……それは、貴方の命が保証された勝利じゃないじゃないですか」

 

 ぽつりと、そう呟いてきた。

 いや――その通りでは、あるのだが。

 

「――ローラさん」

 

「あ――す、すみません、私ったら、自分ではなにもできない癖に勝手なことばかり言って!

 ごめんなさい、私の我が儘ばかり、押し付けて」

 

「いえ。

 ローラさんの気持ちは、素直に嬉しく思います。

 ――それに応えられないのが、申し訳ないのですが」

 

「…………あの、それは、龍との戦いについてだけの話ですよね?」

 

「他に何か?」

 

 別の意味合いでもあったのだろうか?

 ローラさんは慌てて首を振り、

 

「い、いいえ、何でも!

 と、とにかく、私が言いたいことは、ですね!

 私も、クロダさんの力になるってことです!

 ……直接お手伝いができる程、強くありませんけれど。

 私にできることなら、何でも言って下さい!」

 

 力強く、私への協力を宣言してくれるローラさん。

 有難い――本当に、有難い。

 力の大小など関係なく、彼女達が進行する“神”を討とうとしている私に対し、そう言ってくれること自体が、ただ喜ばしかった。

 

 私は彼女の言葉に頷いて。

 

「ありがとうございます。

 では――」

 

 

 

 

 

 

 

 ここは、病院の中庭。

 その中でも、特に人目に付きにくい物陰である。

 私の目の前には、大きなお尻がどどんと置かれていた。

 

「あのー」

 

「何ですか、ローラさん?」

 

「どうしてあんな格好いい流れからこんなことになってるんでしょうか?」

 

「はっはっは、そんなに褒めないで下さい」

 

 尻の持ち主は、ローラさんだった。

 彼女はワンピースのスカートを捲り、私に向けて尻を突き出している。

 下着も黒を愛用していたローラさんだが、今日履いているのはシルクの白ショーツ。

 シンプルながらも上品な一品だ。

 何か心機一転することでもあったのだろうか。

 

 とりあえず、私はこの巨尻を触ることにする。

 

「――は、あっ」

 

 ローラさんの甘い吐息。

 

 やはり彼女のお尻で特筆すべきは、この大きさと柔らかさか。

 でかい。

 でかいにも拘わらず、しっかりと美麗な形状を整えている。

 そして、柔らかい。

 突けば、尻肉がプルプルと震える。

 

「この下着も、肌触りがいいですね」

 

「そ、そうですか?――あぁんっ」

 

 シルクの光沢が見る者を愉しませ、その滑らかな触感は触る者へ感動を与える。

 

 お尻ばかり説明してきたが、そこから下の方も魅力的。

 スラリと伸びた脚だが、太ももにはムッチリと柔肉がついている。

 贅肉などまるでついている感じがしないのに、この柔軟さは如何なものか。

 エロい下半身だ。

 

 ローラさんの尻に顔を近づけ、匂いを嗅いでみる。

 

「――あ、あのっ!

 そこは、余り嗅がないで下さい!」

 

「いい匂いですよ?

 ……ひょっとして、ここに来る前にシャワー浴びましたか?」

 

「――は、はい」

 

 彼女の股からは、シャンプーの甘い匂いがした。

 だが、それに混じって雌の香も。

 

「もう、濡れ始めてますね」

 

「し、仕方ないんです!

 クロダさんにこんなことされちゃったら、自然と――」

 

 まだ尻を撫でただけで、愛液を漏らし始めたのか。

 それほどまでに感じて貰えるとは、嬉しいばかりだ。

 

 私は一度、二度、とローラさんの尻を舐めた。

 

「――あっああっ」

 

 舌に柔らかく繊細な尻肌の感触が残った。

 これはいい肉だ。

 

 一旦尻から離れ立ち上がると、ローラさんに後ろから抱き着き、尻へ股間を擦り付ける。

 

「分かりますか、ローラさん。

 勃起しているのが」

 

「わ、分かります。

 クロダさんのおちんぽ、すごく、おっきくなってる――あっあっ――」

 

 既にイチモツは取り出している。

 剛直にシルクの触感がサワサワと伝わるのが、実に気持ち良い。

 

 上の状況も確認したいため、ワンピースの胸元をずり下げた。

 

「――あ」

 

 たわわに実った果実が2つ、姿を現す。

 素晴らしいサイズである。

 さらには、男の視線を惹きつける美しい曲線。

 美巨乳というやつか。

 

「おや、ローラさんも勃っていたのですね」

 

「――あんまり、見ないで下さい……」

 

 ローラさんが恥ずかし気に顔を俯かせる。

 

 私が言及したのは、彼女の乳首だ。

 既にソコは、ぷっくりと立っていた。

 ソレを指先で掴み、コリコリと弄ってやる。

 

「あ、あぁぁあああっ!!

 駄目ですっ――乳首、駄目っ――あぁああああっ!!」

 

 身を捩って喘ぎだすローラさん。

 その敏感な反応に私は気を良くし、さらに胸を責めた。

 乳首を抓み、乳房を揉んでこねくり回す。

 ついでに、彼女の耳に舌を這わした。

 

「はぁあああああっ!?

 ――あっあっあっ!――お、おっぱい、気持ち、いいですっ――

 で、でも――耳っ――あぁああっ!――耳、凄すぎてっ――あああああっ!!」

 

 どうも、耳も性感帯のようだ。

 せっかくなので、ローラさんの耳の穴にまで舌を挿し入れ、さらに耳全体をぐちゃぐちゃに舐めまわした。

 

「あああ、あぁあああああっ!!

 耳、やだっ――感じすぎちゃって――あぁああああっ!――た、立ってられませ――んぁぁあああああっ!!」

 

 本当にきついのか、悶え、身体をばたつかせる。

 倒れてしまわないように彼女を支えながら、さらに耳とおっぱいを弄っていく。

 

「あぁああああっ!――だ、めっ――は、あぁあああっ――私、イッちゃい、そうです――

 あっあっあっあっあっ!――も、もう、イキ、ますっ――ああっあっあああっ!」

 

「――胸と耳で絶頂してしまうのですね」

 

 乳首を抓む力を強め。

 ジュポジュポと音を立てる程、耳の穴へ吸い付く。

 

 ローラさんの身体が、一瞬、固まった。

 

「――あっ!――あっあぁああっ!――

 イ、イッちゃい、ましたぁ――はあぁぁぁぁ――」

 

「それは何よりです」

 

「あ、あ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 絶頂へ達したことで、ローラさんは荒く息をする。

 そんな彼女の股へ手をやれば、もうショーツはビチョビチョだった。

 “準備”は十分整ったと見ていいだろう。

 

 私はショーツをずらし、露わになった女性器へ肉棒を添えた。

 

「――挿れますよ、ローラさん」

 

「は、はい、来て下さい。

 いっぱい、私を味わって下さい」

 

 言葉を交わした直後。

 私は剛直を彼女へ突き入れた。

 

「――あぁぁあああああっ!!

 き、来た――あぁああああああ!!」

 

 膣内を突き進む、私の愚息。

 だが、まだ道半ばというところで、プニプニとしたモノに当たる。

 これは――

 

「――子宮、こんなところにまで降りてきてしまったんですね」

 

「だって、だって――気持ち、良くて――」

 

「……子宮の中、挿れちゃいますよ」

 

 腰に力を入れ、子宮口をこじ開ける。

 抵抗は一瞬、すぐにローラさんの子宮は私を受け入れた。

 

「あぁぁあああああああああっ!!!!」

 

 甲高い嬌声を上げるローラさん。

 顔はもう、淫猥に蕩けてしまっていた。

 

「――はっあっあっ!――子宮のっ――奥に、までっ――

 あっあっあっあっ――クロダさんの、ちんぽ、届いちゃってますっ――あっあっ――」

 

「ええ、私にも分かります。

 ローラさんの、一番奥にある“肉壁”が」

 

 亀頭の先に、柔らかい肉の存在を感じる。

 これ以上は進みようがない、ローラさんの最奥だ。

 

 私はピストン運動を開始し、剛直の先端でソレを突いてやった。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 叩かれてますっ!――クロダさんのおちんぽが、私の子宮っ――あっあっあっあっあっ!

 ――叩いちゃってますっ!!――おぁあああああっ!!」

 

 甘い喘ぎが周囲に響く。

 私が一突きする毎に、ローラさんのおっぱいが、尻肉が、プルンプルンと卑猥に揺れた。

 イチモツに膣のヒダが絡まり、優しく締めつけられる。

 子宮口が、ちょうどカリの部分を擦った。

 それらが、私をさらに興奮させていく。

 

 ――と、そこへ。

 

 

 「――あっあぅっあっ――はぁっあぁっあんっ――」

 

 

 ローラさんとは異なる艶声が耳に入る。

 

「……?」

 

 不思議に思った私は、周囲を見渡した。

 すると、別の物陰に人の気配を発見。

 ――どうやら、別のカップルもここを使用していたようだ。

 

 私は好奇心に抗えず、<屈折視>と<感覚強化>のスキルを駆使し、その人達の“行為”を確認する。

 

 

 「へっへっへ、どうよ、あっしの指先テクニックは!?

  なかなかのモンだろう、おいっ!?」

 

 

 ――って三下さんかよっ!?

 

「――ど、どうしました、クロダさん?――なんだか、急に動きが――」

 

「い、いえ、何でもありません!」

 

 訝しむローラさんを安心させるべく、腰の動きを早くする。

 

「――あっあっあっあっあっあっ!!

 激し、激しい、ですっ――あぁああああああっ!!」

 

 途端に、大きく喘ぎだすローラさん。

 これで誤魔化せた――はず。

 

 ……いやいや、三下さんだからって差別は良くない。

 彼は、やるときはヤる男だ。

 奴がエレナさんをレイプしようとしていたことを、私はしっかり覚えている。

 

 えーっと、お相手の女の子は――

 

 

 「――や、だ――なんで、あたしが、アンタなんかと――

  あっ――あっ――ああっ――へ、変なとこ、触んないでっ」

 

 

 ――リアさんだった。

 格好は先ほどと同じ、Tシャツにスパッツ姿。

 三下さんの眼前でM字開脚し、女性器を露出させている。

 いや、露出してしまっているのは、私がスパッツを破ったせいなのだが。

 

 「へへ、なーにが“ヤダッ♪”だよ!?

  まんこ晒しながら床舐めてた変態の分際でよぉっ!!」

 

 言って、三下さんはリアさんを弄る指に力を入れる。

 彼が触っているのは、彼女のクリトリスだった。

 

 「あ、あぁぁああああっ!?」

 

 顔だけは反抗的な態度だったリアさんだが、その責めですぐ嬌声を吐きだす。

 私とヤった後で、いつも以上に身体が敏感になっているのかもしれない。

 

 ――どうもリアさん、あの“床掃除”を見られてしまったらしい。

 あれ程早く片付けた方がいいと念を押しておいたのに。

 

 はてさて、どうしよう。

 すぐに止めるべきか?

 しかし、三下さんはアレでまあ一応は信用がそれなりにできる男。

 デュストによって狂わされた私の“感覚”が、今どうなっているのか確認するにはいい機会かもしれない。

 何せ、今後のプレイ内容に大きく影響する大事な案件だ。

 

 私は数秒悩んでから、しばし静観することに決めた。

 一方、三下さんはねちっぽい声でリアさんに迫っている。

 

 「――あっしは知ってんだぜぇ?

  あんたが、どんな男にも股開く肉便器だってことをな!

  バイト先の店で、いろいろやらかしてるみたいじゃねぇか?」

 

 黒の焔亭でのことを言ってるのだろう。

 まあ、あれだけヤってれば、噂の一つも出るか。

 

 「おーうおうおうおうっ!!

  ショックだぜぇ、あっしはぁっ!!

  ゲブラーと戦ってた時、あんた輝いてたじゃねぇかよぉっ!!

  兄貴と並び立って、華麗にあの化け物と戦ってたじゃあねぇかぁよほぉぉうっ!!」

 

 「――う、ぐっ」

 

 「それが、それがお前よぉっ!?

  病院の中で露出決め込む、淫乱なビッチだったなんてよぅっ!!」

 

 「――ち、違うっ! あたしは――」

 

 三下さんが、さらに陰核を弄った。

 

 「――あぁあああああっ!?」

 

 文句を最後まで言い切れず、リアさんは喘ぐ。

 

 「どこが違うってんだぁっ!?

  ちぃっと股いじってやりゃあ、男の言うことに逆らえねぇ雌犬じゃねぇか!?

  おい、何か言い返してみろよぉっ!!」

 

 「――あっあっあっあっあっあっ!!」

 

 リアさんは何も返せず。

 ただ、嬌声を発するのみ。

 

 「さぁて……んじゃ、次は“上”も見せて貰おう。

  ほら、自分で捲ってみなっ!!」

 

 「――う、うう」

 

 嫌がる素振りを見せながら、リアさんは自らシャツを捲り、胸を露出させる。

 男の手にいい感じで収まるような、適度な大きさのおっぱい。

 それが、零れ落ちそうな勢いで三下さんの前に現れた。

 

 「ほほぉおおう。

  いいパイオツじゃねぇか!

  お前みてぇな淫猥女、どんな汚ぇ乳首してんのかと思ったら、なんとも鮮やかなピンク色!

  まるで新品みたいだなっ!!」

 

 「――変な、解説、入れないでっ」

 

 「褒めてるんだぜ、あっしはよぉっ!!

  今まで多くの男とヤってきたんだろ!?

  なのにまんこは綺麗なままだし、乳首もくすんでねぇっ!!

  お得な体してんなぁ、お前っ!!」

 

 そこで、何故か三下さんトーンダウン。

 

 「しっかしよぉ、お前――申し訳ねぇとは思わねぇのか?

  親御さんは、こんなことをさせるためにお前を産んだ訳じゃあねぇんだろう?」

 

 「――えっ――そ、そうかも、しれないけど」

 

 説教モードに入った。

 何をしたいんだ、奴は。

 リアさんも若干戸惑っている。

 

 「よぉしっ! ここでちょっと謝っておこうじゃないかっ!!

  はい、“お父さん、ごめんなさい”――さ、復唱っ!!」

 

 「――え、え?」

 

 「復唱しろよぉっ!?

  プリーズコール、アフターミーっ!!」

 

 「え、えと、お、お父さん、ごめんなさい――?」

 

 おい。

 何やってる、三下。

 

 「元気が足りないぞぉっ!!

  そんなんじゃお父さんには届かないっ!!

  次はもっと元気よくっ!!

  “お母さん、ごめんなさい”――さん、はいっ!」

 

 「――お、お母さん、ごめんなさい!」

 

 律儀に大きな声を出すリアさん。

 ここ、付き合う必要あるのだろうか。

 

 「“先生、ごめんなさい”――さぁっ!!」

 

 「――せ、先生? ご、ごめんなさい」

 

 「“お当番さん、ありがとうございました”」

 

 「お当ば――はっ?」

 

 それ学校の帰りの会だろうがよっ!?

 三下さん、学校通ってたのか!?

 そこ、日本と同じ制度だったのかっ!?

 というか、ナニの最中に何言いだしてるんだ、お前は!!

 

 「へっへっへ。

  これで、思い残すことはなくなったなぁ?

  じゃあ、仕上げにコイツを飲んで貰おうか」

 

 急に邪悪な笑みを浮かべる三下さん。

 手には、怪しげな丸薬が一つ。

 それを、リアさんに飲ませようとする。

 

 「なっ――や、止めなさいよ!

  何、飲ませようとしてるの!!」

 

 当然、彼女は拒むのだが、

 

 「ああんっ!? あっしの厚意が受け取れねぇってーのかい!?

  ――おらっ!! 受け取れねぇっていうのかよぉっ!!」

 

 「あ、ああっ!? あひっ! あっあっあっあっあっあっ!!?」

 

 三下さんに胸や股間を引っ叩かれ、感じ始めてしまう。

 

 「――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 「へ、大人しくなりやがったか。

 最初からそういう態度でいりゃいいんだよぉっ!

 ほれ、飲めっ! ぐぐっと飲み込めっ!!」

 

 「あっ――んっ―――んんっ!」

 

 抵抗の気力を失った彼女の口に、三下さんが薬を無理やり入れる。

 リアさんは彼の為すがまま、ソレを飲み込んでしまった。

 

 「けっけけけけ。

  飲みやがったなぁっ!?

  くくく、すぐに効果が出るだろうぜぇ。

  ――何を飲ませられたか、聞きたいか?」

 

 「――あ、あっ――何の、薬だったの――?」

 

 怯えるリアさん。

 ……確かに、何の薬だったのだろう。

 媚薬か、それともカマルさんが使っていた妊娠薬――!?

 

 「へっへっへ、そいつはなぁ――胃腸薬よ!」

 

 「い、胃腸――っ!?

  え、胃腸薬?」

 

 「お前、さっき廊下を舐めてただろぉう?

  病院だから掃除はしっかりしてるとはいえ、床は雑菌だらけよ。

  腹壊しちゃあ、まずいからなぁっ!!」

 

 「え、あ、そう?」

 

 ――ただの親切かよっ!?

 厚意って本当に裏の意味なかったんかいっ!!

 

 「さぁて、これで後顧の憂いは完全になくなった。

  そんじゃあ、お前を味わわせて貰うとするかなぁっ!?」

 

 「――ひっ」

 

 三下さんの空気が変わった――本当に変わったんだろうな?

 彼はリアさんの股間へと顔を近づけ、女性器をゆっくりと舐め始める。

 

 「ほぉおおおおおうっ!! うめぇええええっ!!

  こいつの愛液、超うめぇええっ!!

  生き返るようだぜぇええっ!!」

 

 「――あっ――あっあっ――」

 

 三下さんの舌に敏感なところを責められ、甘い声を漏らすリアさん。

 

 「――んんっ!? んんんんんっ!!?

  なんだぁ、こいつぁっ!?」

 

 突如、三下さんが変な声を上げる。

 

 「ペロッ――これは精液の味。

  お前あっしと会う前にヤってたのかよぉっ!?」

 

 私の精子がまだリアさんの膣に残っていたらしい。

 

 「おいおい、誰とヤってたんだぁ?

  ほら、お兄さんに話してごらん?

  悪いようにはしないから」

 

 その話を聞いて、どう“良いように”できるというのか。

 

 「そんなの、話すわけ無いでしょっ―――あぁぁあああっ!?」

 

 言葉の途中で、三下さんに乳首を抓まれるリアさん。

 

 「はーなーせーよー!

  いいだろー、それくらいー!

  教えてくれよー!」

 

 「あっあっあっあっあっあっあっ!?」

 

 ぐいぐいと乳首を引っ張る三下さん。

 リアさんはあっさりと根負けし、

 

 「――く、クロダよ。

  クロダと、してたのっ!」

 

 「なんだってーっ!?」

 

 三下さんが仰々しく驚く。

 

 「おいおい、旦那も隅におけねぇなぁ。

  こんな便利な雌犬を飼ってたとはよぉっ!」

 

 「私は雌犬なんかじゃ――んあ、あぁああああっ!?」

 

 リアさん、今度はクリトリスを弄られる。

 

 「そうだなっ! お前に比べりゃ犬の方がよっぽど高尚ってもんだ!!

  こんなキャンキャン鳴く犬、そうそういねぇぜっ!?」

 

 「ああっ! あっ! あぁぁああっ!!」

 

 肢体の仰け反らして喘ぐ。

 三下さんは、再び彼女の膣口に顔を寄せ、

 

 「さぁてぇ?

  旦那にゃ悪いが、この精液はどかさねぇとなぁ!

  あっしが楽しむためによぉっ!?」

 

 そう言って、ちゅるちゅるとリアさんの割れ目へ吸い付く。

 

 「――あっ!?――や、だっ――クロダの精子、吸われちゃってるっ!?

  ――あっあっあっあっあっ――やめてっ!――やめてよっ!――あぁああああっ!?」

 

 三下さんの頭を股間から離そうとするも、感じてしまってそれどころではないようだ。

 そのまま吸うこと数分。

 

 「――ふぅ。ミッションコンプリート!!」

 

 宣言する三下さん。

 リアさんに注がれた私の精液は、完全に取り除かれてしまったようだ。

 

 「あんた、なんてことを――!」

 

 彼女が涙目で抗議する。

 しかし、三下さんはまるで取り合わない。

 

 「へっへっへ。

  これが――旦那の味か」

 

 くちゅくちゅと、口の中で精液を咀嚼していた。

 ――――え?

 

 「んむぅ――まったりとしてコク深く、濃厚な味わい。

  あっしの口の中でまだ精子が泳いでいるようだぜぇ。

  流石はクロダの旦那だぁ――♪」

 

 止めろぉっ!!

 おまっ――ちょっ――ナニやってんだ!?

 なんで精子を味わっている!?

 どうして味を確かめながらにやけているんだぁっ!!?

 

 「――――――うわぁ」

 

 リアさんも完璧にドン引きしている。

 

 よし、殺そう。

 すぐに殺そう。

 こいつは、生かしておいてはいけない類の男だ。

 

 そう私が決意し、実行に移そうとした直前。

 

 「――おい、何をやっている」

 

 誰かが、三下さんへ話しかけてきた。

 

 「うぇっ? おお、兄貴っ!!」

 

 兄貴さんだった。

 あきれ顔で、三下さんとリアさんの前に姿を現していた。

 

 「いやね、今、この女と楽しもうとしてたところなんでさぁっ!!

  兄貴も一つ、如何です!?

  これで、なかなかの名器を持ってるようですぜ――ぐぼっほっ!?」

 

 説明している最中に、兄貴さんから蹴りを入れられる三下さん。

 

 「――おい」

 

 「な、ななな、なんでしょう、兄貴!?」

 

 「いいか。

  この女は、俺と迫る強さを持った戦士だ。

  しかも、あの化け物(ゲブラー)と戦った――仲間でもある。

  そんな奴を、辱めようとするんじゃない」

 

 「い、い、イエッサー!

  イエッサーっす、兄貴!!」

 

 兄貴さんの一睨みで、三下さんは一瞬で縮み上がった。

 そして今度は兄貴さん、リアさんへと向き、

 

 「お前もだ、女。

  あれ程の腕を持ちながら、みっともない真似をするな。

  どうしてもヤりたいというなら、俺に言え。

  ――無様を晒す前に、その首を刎ねてやる」

 

 「――あ、の――ごめん、なさい」

 

 迫力に圧され、彼女は思わず謝ってしまっていた。

 兄貴さんは、そんなリアさんに纏っていたマントを放る。

 

 「こ、これは――?」

 

 「コレにくるまっておけ。

  まさか、そんなザマで歩き回るつもりか?」

 

 「え――――その、ありがとう」

 

 彼女の視線に、何かいつもと違う感情が込められているようなのは、気のせいだろうか?

 

 「……ふんっ」

 

 一方で兄貴さん、鼻を鳴らしてから、

 

 「おい、行くぞ」

 

 「ま、待ってくだせぇ、兄貴っ!!」

 

 兄貴さんは、中庭を立ち去った。

 去り際、

 

 「おい、お前。

  そんなところで乳繰り合ってる暇があるなら、助けに行ってやれ。

  ――知らん仲でも無いんだろう?」

 

 そんな言葉を、私の方へ投げつけて。

 ……バレていたのか。

 

 こうまで言われては、動かない訳にはいかない。

 

「――すいません。

 ちょっと、リアさんのところへ行ってきます。

 少しだけ、待っていて下さい」

 

 そう告げて、ローラさんの身体から離れようとする――が。

 

「――はぁーっ――はぁーっ――はぁーっ――はぁーっ――」

 

 彼女は、荒い息を吐くだけで反応をしない。

 どうしたことか?

 ローラさんの顔を見て――ぎょっとした。

 

「――はぁーっ――はぁーっ――も、むり、です――はぁーっ――はぁーっ――

 ――イったんです――はぁーっ――いっぱい、イったんです――はぁーっ――はぁーっ――

 ――もう――もう――許し、て――――」

 

 彼女は淡々とそう呟いていた。。

 目は焦点が合っておらず、口は半開き。

 顔は涙や涎でぐしゃぐしゃになっている。

 股間は愛液を垂れ流し――潮まで噴いたのか、私のズボンもビチョビチョに濡れていた。

 

 ――しまった。

 向こうに夢中になって、ついずっと腰を振り続けたままだった。

 私がツッコミを入れ続けていた間、ローラさんはずっとイキ続けていたのだろう。

 完全に、頭がぶっ飛んでいる状態だ。

 

「――はぁーっ――はぁーっ――もう、むりです――はぁーっ――むり、なんです――」

 

 恍惚とした表情で、何度も同じ台詞を繰り返す。

 

 その様子が、余りにも蠱惑的で。

 リアさん達を眺めている間に溜めていた快感が、一気に噴き出て。

 

 ――私は、思い切り射精した。

 

「おっおっおっおっおっ――!?」

 

 ローラさんの肢体が、ガクガクと揺れ始めた。

 

「だ、め――!

 ――いま、されたら――おっおおっおっお!――そんな、されたら――おおっおっおっおっ!――――壊、れ―――――――あ」

 

 それを最期に、身体から力が消えた。

 糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちる。

 一応、私が腰を掴んでいたため、倒れることこそないものの。

 上半身がぶらぶらと垂れ下がった状態だ。

 

「――――ローラさん?」

 

 呼びかけるが、当然返事は無い。

 

「……運んだ方が、良さそうですね」

 

 結局。

 私はローラさんを担ぎながら、リアさんを彼女の病室までエスコートすることになったのだった。

 

 

 

 第二十五話④へ続く



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④ 戦いの予兆

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 今、私は自分の部屋へと向かっている最中だ。

 最中なのだ、が。

 

「…………」

 

「…………」

 

 一緒に歩く2人――リアさんとローラさんの間に、沈黙が降りていた。

 何やら重い雰囲気なので、それを解すべく声をかけてみる。

 

「どうしました、お二人共。

 お話ししづらそうに見えますが」

 

「そ、そんなこと言われましても」

 

「そりゃ、気まずくもなるでしょっ!?」

 

 ローラさんとリアさんがそれぞれ言い返してくる。

 はて、何かあっただろうか?

 

「――いきなり、下半身丸出しのローラさん連れてこられたら!」

 

「――その、目が覚めたら全裸のリアさんが」

 

 リアさんは、私がローラさんを担いでいた時のことを、ローラさんは私がリアさんを着替えさせていた時のことを言っている。

 ……一応、ここは病院なので、リアさんは少し声のボリュームを落として頂きたい。

 

「まあまあ、過ぎたことは言いっこなしですよ」

 

「あんたがやったんでしょう!?」

 

 食いかかってくるリアさん。

 しかし、

 

「そうなんですけれども。

 ――リアさんに関しては私にも言い分が」

 

「あー……それは、ごめん」

 

 私の言葉にトーンダウンする。

 まあ、責任の大半は三下さんのように思えるが。

 

「……分かっちゃいたけど、やっぱりローラさんともヤってたのね」

 

 ぽつりと、リアさんが零した。

 それを受ける形でローラさんは、

 

「私は、リアさんとクロダさんがそういう関係だというのは分かってはいましたが」

 

「あれ、そうなの?」

 

「それはまあ――いきなり、肉便器とか紹介されたら」

 

「……それもそうね」

 

 リアさんが肩を落とす。

 初めての挨拶で、うかつなことを言ってしまったのを後悔してるのか。

 私はリアさんの方を叩きながら、

 

「紹介には、もう少し言葉を選びましょうよ」

 

「し、仕方ないじゃない!

 そんな急にいい言葉が出てこなかったのよ」

 

「まあ、リアさんが肉便器なのは本当のことではありますが」

 

 私も咄嗟の行動に関しては自信が無いので、彼女を責められない。

 そんな私達の会話を聞いて、ローラさんが深くため息を吐いた。

 

「――肉便器とか、普通そんな軽々しく言えない単語だと思うんですけどね」

 

「……うっ」

 

 リアさんが言葉に詰まる。

 ローラさんの方を向いて、

 

「まあまあ。

 今度、一緒に3Pをしましょう。

 裸の付き合いをして、親睦を深める方向で」

 

「――わかりました」

 

「え、そこ、分かっちゃうんだ!?」

 

 驚きの声を出すリアさん。

 一方でローラさんは、彼女を値踏みするような視線で見つめ、

 

「……しっかり、リアさんの脅威度を確認しなければ」

 

「うわ何だろ、急に背筋がぞわっとしたような」

 

 リアさんが明後日の方を向いて首を傾げる。

 まるで原因は分かっているけれどそれを直視したくないかのような振舞だ。

 ともあれ、3Pの約束ができたのは嬉しい限り。

 明日への活力に繋がってくれる。

 

 

 

 さらに歩くことほんの数分。

 私の病室が見えてきた。

 

「――おや?」

 

 扉の前に人がいる。

 ……陽葵さんだ。

 

「どうしたんですか、陽葵さん。

 そんな、ドアの前で?」

 

 私は彼に話しかけた。

 

「あ、黒田!

 リアや、ローラも一緒か。

 いや、お前に会いに来たんだけどさ――」

 

「――何の用事でですか?」

 

「え?」

 

 ローラさんが会話に割り込んできた。

 彼女はどことなく無機質な声で続ける。

 

「ヒナタさんは、いったい何のお用事でクロダさんの部屋に来たのでしょう?」

 

「あ? え? いや? その?

 ――ええっと、そう!

 これからのことを相談するためだよ!

 黒田、今日は調子良さそうだったから、その辺も話しておこうってさ!」

 

「――なるほど、そうでしたか」

 

「うん、うん、そうなんだよ!」

 

 ローラさんへ、こくこくと頷く陽葵さん。

 どこか、焦りのようなものも見受けられるが――

 

「――それはそれとしまして。

 何故、扉の前に立っていたのです?」

 

 質問を繰り返す。

 

「それなんだけどさ。

 ここ、お前の部屋、だったよな?」

 

「勿論、そうです」

 

「いや、入ってみたら中にどえらい美人が居て。

 しかもなんか睨んできたんで、こりゃ部屋を間違えたかな、と」

 

「どえらい美人さんですか?」

 

「うん、すげぇ美人」

 

「陽葵さんよりも?」

 

「なんで女の人の比較にオレが出てくるんだよ」

 

 この人はまだ自分の魅力を理解していないらしい。

 まだ雌堕ちが完了していないということか。

 

 しかし――美人?

 まあ、綺麗な女性に知り合いは意外と多いのだが……誰か、見舞いに来てくれたのだろうか。

 

「――ふぅむ?」

 

 考えても仕方ない。

 私はドアを開け、部屋に入ってみることにした。

 そこには――

 

「……うわ、本気で美人だ」

 

「……す、すごい、綺麗な女性(ひと)

 

 リアさんとローラさんが背後で呟くのが聞こえる。

 

 部屋に居たのは、掛け値なしの美女だった。

 緑髪とすら例えることができる、最高級の黒髪をショートカットに整え。

 顔は眉目秀麗――器量の良すぎる顔立ちとやや切れ長の瞳が、クールな印象を強める。

 服装は、パンツルックのビジネススーツ(・・・・・・・)だ。

 高い身長――おそらく165cm前後――も相まって、実に格好良い。

 そして服の上からでも分かる程の、メリハリあるスタイル。

 サイズだけで見ても、ローラさんと同じクラスだろう。

 

 街中で出会えば、男は勿論、女ですら目で追ってしまうであろう美貌の持ち主。

 しかし、この女性へ声をかけられる人はまずいないだろう。

 究極の“芸術品”に対し、人は遠目で鑑賞するだけなのだ。

 

 そんな女性が、私の病室で椅子に座り、静かに本を読んでいた。

 

「――――っ」

 

 彼女を凝視しながら、私は声が出せないでいる。

 そうしているうちに、女性はこちらを向き、綺麗な唇を開いた。

 

遅かったじゃないか(・・・・・・・・・)誠一(・・)

 私を待たせるとは、いい身分になったものだな」

 

 彼女の声。

 外見だけでなく、声もまた美しく透き通っている。

 

「――え?」

「――今の」

「――まさか」

 

 後ろに居る人達(順に、陽葵さん、リアさん、ローラさん)が、同時に声を出した。

 女性は、構わず続きを紡ぐ。

 

「君達も一緒か。

 ……まあ、いい。

 こうして顔を会わせるのは、初めてになるな」

 

 立ち上がって、数歩、こちらへ近寄ってくる。

 

初めまして(・・・・・)

 私が、五勇者の一人――“殺戮”のキョウヤだ」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 3人が、黙り込んだ。

 その数秒後、

 

「「えぇぇえええええええええっ!!!?」」

 

 陽葵さんとリアさんが、同時に叫ぶ。

 

「――う、うそ」

 

 ローラさんだけ、妙に反応が異なったが。

 ただ茫然としている様子だ。

 

「い、いや、それはおかしい!」

 

 そんな中、女性にくってかかる陽葵さん。

 

「ミサキ・キョウヤって、男の名前だろう!?

 偽名を使ってたってのか!?」

 

「まさか。

 それは私の本名だよ」

 

 平然と美女は答えた。

 

「少し考えれば分かりそうなものだが。

 ミサキ・キョウヤは“こっち”に合わせて順序を変えただけ(・・・・・・・・)

 日本名は――境谷(きょうや)美咲(みさき)だ」

 

「――え、えー。

 絶対男だと思ってたのに……」

 

「そちらが勝手に勘違いしていただけだろう?」

 

「ま、まあ、そうなんだけど、さぁ!」

 

 まだ納得いかないようだが、陽葵さんは一先ず引き下がる。

 ……い、いや、今はそんなことよりも!

 

「ま、ま、待って下さい、美咲(・・)さん!」

 

 彼に代わって、私が彼女へ詰め寄った。

 美咲さんがこの場に現れたショックから、ようやく抜け出したのだ。

 そのままの勢いで、私は質問する。

 

「どうやって、こちらへ!?

 六龍の力で、この世界への干渉はできなかったはずでは!?」

 

「お前がゲブラーを倒したからだよ」

 

 やはり、淡々と返す美咲さん。

 

「私の干渉を妨げている『呪縛』は、六龍全ての力に依るもの。

 その一角が崩れた以上、『呪縛』もまた不完全なものになったわけだ」

 

 ……あの、六龍、他にも五匹いるんですけど。

 六匹揃っていないと、美咲さんに対抗できないのですか、そうですか。

 ――――え、本当に?

 

「――あれ、前に『呪縛』は勇者達がかけたって」

 

「そんなの嘘に決まってるだろう。

 状況をよく理解しろ、室坂陽葵」

 

 陽葵さんが零した疑問に、ぴしゃりと断言。

 嘘をついていたというのにまるで悪びれもしない辺り、流石である。

 

「まあ実のところ、『呪縛』が無くなったわけではない。

 この世界での私の行動にはまだ制限がかかっている。

 今は、“顔出し”ができるようになっただけだ。

 勇者への戦力としては考えるなよ」

 

「そ、そうですか」

 

 そうなのか。

 うん、美咲さんが言うからにはそうなのだろう。

 滅茶苦茶過ぎて私にはよく分からない。

 

「それで、本日は何用で来られたのでしょうか?」

 

「大したことでもない、ただ、誠一に会いに来ただけだ。

 今回は、お前にしては大分頑張ったからな、少しは労ってやろうと思った」

 

 私に対し、すっと微笑みを浮かべてくれる彼女。

 

「え、そうだったんですか?」

 

 何だ、そうならそうと早く言ってくれれば。

 無駄に緊張することもなかったのに。

 ――美咲さんの表情と褒めの言葉に、自然と口元が緩んでしまう。

 

 だが彼女は、その微笑を一瞬で消し、

 

「――それと。

 君達(・・)へ言いたいことがあったというのも理由の一つだ」

 

 私以外の3人へ、そんな台詞を投げかけた。

 

「オレ達に?」

 

「何? これからのことの指示とか?」

 

 陽葵さんとリアさんの問いに、美咲さんは頭を振る。

 

「それはまた後でやる。

 関係者全員を集めてからの方が、手間が少ないからな。

 私が言いたいのは、そういうことではない」

 

 彼女が一歩前へ出る。

 私と、3人との間に割って入る形で。

 

「いいか、よく聞け。

 こいつの――黒田誠一の恋人(・・)は、この私だ(・・・・)

 勝手に手を出すんじゃない」

 

 強い口調で、そう宣言した。

 ああ――それを言ってしまわれるのですか。

 

「「――え?」」

 

 呆けたように声を出す陽葵さんとリアさん。

 片割れのリアさんが、私の方へと質問してくる。

 

「――ほ、本当に?」

 

「ええ、そうです。

 一応、その、付き合っているわけでして」

 

「――へ」

 

 よろよろと後ろに下がると、尻もちをつくリアさん。

 まあ、この世界では伝説的英雄である美咲さんが私の恋人というのは、確かにショッキングな出来事かもしれない。

 

 美咲さんは何故か不敵な笑みを浮かべ、さらに言葉を紡いだ。

 

「今までは、私がこの世界へ来れない以上――誠一に付き添えない以上、ある程度は黙認してきてやった。

 しかし、これからは違う。

 誠一は、いつでも私に会えるのだから。

 ――こいつの隣に立つのは、私一人だけだ」

 

 そ、そんなに堂々とカップルであることを主張されると、恥ずかしい気持ちもあるのですが。

 しかしふと周りを見ると、リアさんも陽葵さんも、深刻そうな顔をしていた。

 何かあったのだろうか。

 

 私が疑問を口にする前に、病室に声が響く。

 

「――待って下さい」

 

 ローラさんだった。

 

「確かに、キョウヤ様とクロダさんは、一年前までは(・・・・・・)恋人同士だったのでしょう。

 でも、“今”はどうなのですかね?」

 

「……何が言いたい、ローラ?」

 

「いつまでも想い続けられるとは限らないということです。

 1年も放っておけば、愛情が冷めることもあるのでは?」

 

「――ほほぅ」

 

 美咲さんが目を細くする。

 ローラさんも、負けずに見返していた。

 

 何やら剣呑な空気なので、私は仲介を試みる。

 

「――あの、お二人共?」

 

「クロダさんは黙っていて下さい!」

 

「私は、今ローラと話している!」

 

「――はい」

 

 あっさりシャットアウトされる。

 流れ的に、私について話題にしているのかと思ったのだが、どうも違うようだ。

 

 彼女達の会話は続く。

 

「つまり、お前は疑っているわけか。

 私と、誠一の絆を」

 

「――そこまではっきりとは言いませんが。

 でも、キョウヤ様だって“不安”ではないのですか?」

 

「……いいだろう。

 そこまで言うのなら、見せてやる。

 お前と私の、決定的な違いというヤツをな」

 

 美咲さんは、急に視線を病室の外、廊下の方へ送る。

 

「おい、そこのお前」

 

「――へ、あっしですかい?

 って、うおわっ!?

 美人が!?

 とんでもねぇ綺麗どころがあっしの目の前に!!?」

 

 ちょうど廊下を歩いていた男へ、彼女は話しかけた。

 ――って、なんでお前がそこにいる、三下!?

 

「ちょっと用がある。

 こっちに来い」

 

「はいはい! なんでげしょ!!

 美人の頼みとあればこのあっし、なんでも聞いちゃいますぜぃ!」

 

 三下さんは、ほいほいと病室へ入ってくる。

 気のせいか、目がハートマークになっているような?

 とりあえず、部屋にいる他の面子は完全に視界へ入っていないようだ。

 

「ああ。

 君、今から私の胸を揉め」

 

「ほえっ!?」

 

 ――――っっっっ!!?!!!!?

 

「い、いいんですかいっ!?

 え、マジでいいの!?

 揉んでいいのですか揉んで!?」

 

「ああ、いいとも。

 別に変な裏はないから安心して揉め」

 

「うっひょぉおおおおおおおおっ!!!

 人生の春が来たぜっ!!!?

 え、どういうことですか、ひょっとしたあっしに一目惚れですか!!?

 んもう、言ってくれれば幾らでも夜の相手を――」

 

「いいから揉め」

 

「あ、はい。

 んじゃあ、遠慮なく――」

 

 

 ――射式格闘術(シュート・アーツ)、開始。

 

 

「――ぺさぁあああああああああああああっ!!!!!!!?」

 

 哀れ。

 三下は錐揉み回転しながら、謎の悲鳴と共に病院の外へと吹っ飛んでいった。

 何やら私の手には、骨を砕いた(・・・・・)ような感触もあったが、些細なことである。

 そんなことよりも何よりも――

 

「何を考えているんですか、美咲さん!!

 あんなこと言って、誤解されたらどうするんです!!」

 

 問い質そうとする、が。

 美咲さんは、満足げに笑顔を浮かべるだけ。

 

 ……あの、そういう顔をされるとその、照れてしまうのですが。

 

「――ふ。

 分かったか、ローラ。

 これが、お前と私の“差”だ。

 お前は私と、同じ舞台(ステージ)にすら立てていない」

 

「いや、何のことやらさっぱりなのですが」

 

 美咲さんの意味不明な勝利宣言に、つっこみを入れる私。

 こんなことをして、いったい何になったというのか――――あれ?

 

「……あ、あ、あ」

 

 気付けばローラさんが、絶望的な顔をしていた。

 

「……うそ。うそですよね。

 クロダさんが、女の人へのセクハラを止めるとか――」

 

 なんだか、凄く失礼なことを言われている気もする。

 でも何となくだが事実のようにも思えるので、私は黙っていた。

 

 美咲さんはローラさんを見下し、

 

「理解したようだな。

 決して越えられない壁の存在を」

 

「――うぅ」

 

 そんな彼女へ、何も言い返せないローラさん。

 と、そこへリアさんが――

 

「諦めちゃだめよ、ローラさん!

 あたしだって、この前似たようなこと、クロダにして貰ったんだから!!」

 

「――っ!?」

「――っ!?」

 

 デュストと遭遇した次の日のことを言っているのだろう。

 突然の発言に、

 

「――そうか。

 死にたいか、リア・ヴィーナ」

 

「――お友達になれると思ったのに」

 

 美咲さんとローラさんの、冷たい目がリアさんを見据えた。

 慌ててリアさんは、

 

「あ、あれ!?

 ちょっと待って!

 キョウヤは分かるけどローラさんはちょっと待って!!

 あたし、フォローしたつもりなんだけど!?」

 

「フォロー?

 告解の間違いでしょう?」

 

「君は対抗馬にすらならんと思っていたのだがな。

 私の予想を覆すとは――大したものだ」

 

 じわりじわりとリアさんへ迫るローラさんと美咲さん。

 目が完璧に笑っていなかった。

 なまじ、二人共美人なので、迫力が半端ない。

 

「――お、おーい」

 

 そんなリアさんへ助け船――になるかどうか分からないが、陽葵さんが口を開く。

 

「どうした、室坂陽葵。

 君も何かあるのか?」

 

「い、いや、そうじゃなくて!

 黒田が、さっきからぶっ倒れてるんだけど――大丈夫か?」

 

「――ん?」

 

 ……ようやく気付いて貰えたか。

 実は、射式格闘術は相当に負担がかかる。

 手足を<射出>するのだから、当たり前だ。

 下手すれば四肢が引きちぎれる。

 そんな技を入院で弱った時に使ったものだから、私の身体はあちこちが悲鳴を上げていた。

 

「――何をやってるんだお前は!!」

 

 美咲さんの悲鳴だか怒号だか、どちらか分からない声が炸裂する。

 

 

 

 ――とりあえず、その日はもう解散となった。

 決着は後日つけるそうだ

 いったい、何の決着だろうか。

 

 

 

 

 

 

 夜。

 なんやかんやで、今日は一日忙しかった。

 あの後、医者に診てもらったのだが、身体に異常は無かったようだ。

 明後日にでも退院できるとのこと。

 これには私もほっとした。

 

 現在、私は目をつむり、ベッドで静かに身体を休めている。

 すぐには眠れそうにないが、倒れた直後なので無理はしない。

 寝転がって、体力の回復に努める。

 そうしていると少しずつ、意識が眠りへと誘われていった。

 そんな時。

 

 

 ――唇に、柔らかくて暖かい感触があった。

 

 

「――?」

 

 目を開く。

 眠気が一気に覚めた。

 私のすぐ目の前に、美咲さんの顔があったのだ。

 息が止まる程に美しい、彼女の顔が。

 

「――東京へ戻られたのではなかったのですか?」

 

 今日はまだ仕事が残っている言って、ローラさんが部屋を出るタイミングで美咲さんは地球へ向かったのである。

 そんな気軽に異世界へ行けてしまうのかとか色々疑問に思うところはあったが、何せ美咲さんのすることなのでぐっと飲み込んだ。

 

 美咲さんは視線を彷徨わせながら、

 

「まあ、その、なんだ。

 褒美を、くれてやってなかったからな」

 

「褒美というのであれば、この先もしたいのですが」

 

「阿呆。

 病人が何を言ってる」

 

 私の頭をこつんと軽くたたく美咲さん。

 ――むう。

 駄目か。

 駄目なのか。

 私としては、かなり切実な願いだったのだが。

 

 しかしその後、彼女は顔を赤く染めて、

 

「――その。

 “相手”なら、お前が元気になったら、してやる。

 だから、今はしっかり休め」

 

「おおっ! 分かりました!!」

 

「分かりやすく笑顔になるな――バカ」

 

 最後は照れたようにぽつっと呟く。

 その仕草が、とても可愛らしかった。

 いつもの彼女を知る誰もが、想像できないであろう愛らしさ。

 これを知っているのが世界に私だけだと思うと、なんというか、優越感のようなものが漲ってくる。

 

「……それと」

 

「何でしょう?」

 

「聞き流してくれて構わないんだが。

 今日、私にしたこと――もし同じような状況になったら、ローラにもしてやれ」

 

「はい?

 それは、どういう?」

 

「――二度は言ってやらない。

 本当は、敵に塩なんて送りたくないんだ。

 今の言葉の意味は、自分で考えろ」

 

「――は、はぁ」

 

 そっぽを向く美咲さん。

 なんだかいじけている様にも見えるが――?

 

 まあ、美咲さんの言うことだ。

 深い意味があるのだろう。

 私は彼女の言葉を胸に刻み込む。

 

 少し間をおいてから、美咲さんが告げてきた。

 

「さて、私はもう帰るからな。

 次は、お前が退院する日に顔を出す」

 

「分かりました。

 また会えるのを心待ちにしています」

 

「――ああ。

 私も、だ」

 

 最後に。

 美咲さんは、もう一度、私に口づけをしてきた。

 彼女の温もりが、唇を通じて伝わってくる。

 そのまま数十秒、下手したら数分、ずっと私達は重なっていた。

 

「――んっ」

 

 名残惜しそうな表情で顔を離す美咲さん。

 ……私も、寂しい。

 

「――それじゃ」

 

「ええ」

 

 短く挨拶すると、美咲さんの姿が光になって消えた。

 

「――――」

 

 その後を、ずっと見続ける。

 口には、まだ彼女の感触が残っていた。

 

 体の奥底から、活力が湧いてくる。

 明後日と言わず、今すぐにでも退院できそうな程。

 

「――よしっ」

 

 思わず気合いが入る。

 自分でも理由は分からないが、心はやる気に満ち満ちていた。

 再び始まる勇者達との戦い――六龍との戦いに備え。

 私は改めて、床に就くのだった。

 

 

 

 第二十五話 完



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第二十六話 久々の我が家
① 山無し、オチ無し、意味無し


 

 

 

 私は長い廊下を歩く。

 物静かな建物の中、私の足音だけが響く。

 

 目の前には、大きな門。

 その横には守衛の男性が立っている。

 

 私は、彼へと頭を下げた。

 

「――お世話になりました」

 

「もう、こんなところ来るんじゃないぞ」

 

 いかつい顔の守衛さんは、ややぎこちない笑みを浮かべてくれた。

 重い門が、彼の手によって開けられる。

 鉄格子が開ききる音を聞き終わってから、私は門をくぐった。

 

 ――建物の外で待っていたのは、見知った顔ぶれ。

 今日、私が外に出るということを、皆覚えていてくれたようだ。

 集まった人々の一人、黒髪を短く整えた美女――美咲さんが、数歩私に近寄ってくる。

 そして、厳かな声で労いの言葉をくれた。

 

「勤めご苦労だったな」

 

「――ふぅ。

 娑婆の空気は美味いですね」

 

「……いや。

 これ退院するときにするやり取りじゃないだろ」

 

 とりあえず、突っ込んでくれたのは陽葵さんだった。

 

 

 

 

 

 

 私を含めた五人が、ウィンガストの街を歩いていた。

 目的地は私の家。

 なお、陽葵さんとリアさんは昨日既に退院している。

 

「……ていうか、何だったの、今の?」

 

「はっはっは、お気になさらず」

 

「少しやってみたかっただけだ」

 

 リアさんの疑問に、私と美咲さんがそれぞれ答えた。

 この街の病院、構造がちょっとアレに似ていたので、出所ごっこをしてみたのである。

 守衛さんも案外ノリよく付き合ってくれた。

 なお、発案者は美咲さんだ。

 

「しかし、美咲さんがこういうことをしようとするとは意外でした」

 

「ああ、いい予行練習になると思ってな」

 

「え、予行?」

 

 どういうことですか?

 

「だってお前、その内刑務所入りするだろう?

 強姦か何かで」

 

「しませんよ!?」

 

 ショックである。

 人を何だと思っているのだ。

 そんな、犯罪者予備軍みたいに私のことを見ていただなんて。

 

「――あ、そっか」

「――そう、だよな」

「――わ、私は、そうなってもクロダさんを待ち続けますから!」

 

 おっと?

 どうやら皆さん、同じ意見のようで。

 

 いや、やりませんよ?

 やっていませんからね?

 どんなに弁解しても納得してくれそうにないから口に出さないけれども。

 

 落ち込む私をよそに、美咲さんが口を開いた。

 

「まあ、未来のことは置いておいて、だ。

 この状況に、一言物申したいことがある」

 

「あら、キョウヤ様もですか。

 実は、私もなんです」

 

 応じたのは、ローラさんだ。

 美咲さんは彼女の方をジロっと見て、

 

「――いつまで、君達は付いてくるのだろう?」

 

「もう面会の用事は済んだのですから、お帰りになられたらどうですか?

 お忙しい立場なのでしょう?」

 

 バチッという火花が散る音が聞こえた。

 きっと私の耳がおかしくなったのだろう。

 しかし、美咲さんもローラさんも目が笑っていないどころか顔全体が真剣(マジ)なのはどういうことか。

 

「すげぇ、ローラすげぇ」

 

「この前の敗北から、もうここまで回復してるのね。

 想像してたよりずっとタフだわ、この人」

 

 少し離れたところで、陽葵さんとリアさんがひそひそ会話している。

 こちらに加わる気は一切無さそうだった。

 私も向こうへ行ってもいいだろうか。

 駄目かな。

 駄目か。

 

「これから誠一は久々の帰宅をする。

 長い入院での疲れを癒すのは“恋人”である私の役目なのだがな」

 

「ええ、クロダさんは昨日まで入院されていました。

 ですから、相応の看護がまだ必要です。

 私はこれでも、リハビリテーションに関する知識も持っていますので」

 

「君程度の知識なら私だってある。

 しゃしゃり出てくるな」

 

「失礼ながらキョウヤ様は知識をお持ちなだけなのでは?

 私は経験も豊富です」

 

「――経験?

 ああ、自分で(・・・)実践してたか」

 

「――ええ。

 自分で実践してましたよ、それが何か?」

 

 やばい。

 目が座ってる。

 2人とも目が座ってる。

 道の通行人が私達を思い切り避けて歩いているのは、美女・美少女(美少年?)揃った集団が物珍しいからだと信じたい。

 

 「なりふり構ってない感じね、ローラさん」

 

 「自分で――って、あの人昔なにかあったのか?」

 

 「それは聞かない方がいいと思うわ。

 すっごい怖かったし」

 

 リアさんと陽葵さんもまた、少し離れたところへ移動していた。

 遠巻きにしながら、こちらを興味深く伺っている。

 ……安全地帯から見える人の不幸は、それ程までに美味いか。

 

「そもそもからして。

 君は自分の住居の方で忙しいのではないのか?」

 

「お生憎様です、もう住む場所は確保しておりますので」

 

「……まさか、誠一の家を住まいにしているということじゃないだろうな」

 

「――っ!?」

 

「おい、“その手があったか”という顔は止めろ」

 

「……ローラ・リヴェリ、一生の不覚でした。

 どさくさに紛れて荷物を運びこんでいれば。

 いえ、今からでも――」

 

「止めろよ?

 お前、本当に止めろよ?

 荷物運んできても捨てるからな?」

 

「五勇者の一人ともあろうお方が、行き場を無くした女一人見捨てるのですか?」

 

「先程、家は見つかったと言っていたばかりだろうが!」

 

 2人の激論は止む気配がない。

 どうしろというのだろう。

 私も他人の振りでもすればいいのか。

 

 「少し、ローラさんが優勢かしら?」

 

 「境谷(きょうや)にあんだけ睨まれて一歩も退かないんだもんなぁ。

  オレとか、ここで見てるだけでもあいつの“気”で皮膚がピリピリするってのに」

 

 「へぇ、あんた、生物の“(オーラ)”が感じ取れるようになったの?」

 

 「……ごめん、かっこつけて言ってみただけ」

 

 「……あんたね」

 

 リアさん、陽葵さん。

 和気藹々と話してないで、こっちに助け船出してくれないものですかね?

 さっきから、脂汗が流れて大変なことになっているのですが?

 

「――ああ、それと」

 

 美咲さんが矛先を変える。

 

「君達、何を他人事のようにしているんだ。

 さっきの台詞、ローラだけに言ったものじゃないからな?」

 

 「うわ、こっち来たっ!?」

 

 「忘れられてると思ったのに!!」

 

 突如の攻勢に、少年少女が慌てだす。

 

「い、いいじゃない、ついて行くくらいっ!」

 

 開き直った態度で物申すリアさんだったが、

 

「付いて来る位なら確かに構わないが、家には上げないぞ」

 

「――くぅっ!?」

 

 さくっと撃沈され、悔し気に呻いた。

 対して美咲さんは声の調子を若干落として。

 

「というかだな。

 リア・ヴィーナ、君の場合、本気で考え直した方がいい。

 君と誠一では、相性が最悪だろう。

 負のスパイラルへ陥りかねない。

 行きつく先は破滅だぞ?

 君だって、それは薄々感じ取っているんじゃないのか?」

 

「そ、そういうガチな感じの説得は止めて!」

 

 何か痛いところを突かれたらしい。

 しかし、私とリアさんの相性が悪い?

 勝手な主観ではあるものの、そんな気はしないのだが――

 

「相性が駄目な方向に良すぎるんだよ。

 お互いがお互いを堕落させてる」

 

 ほほう、そうなのですか。

 ところで今、私は疑問を口に出していなかったはずですが。

 

「そういう顔をしていた」

 

 しれっと美咲さんは答える。

 今のも私の顔を読んだということなのか。

 

「――くっ。

 さりげなく気心知れてる風なアピールをしてくるだなんてっ」

 

 そして横でローラさんが悔しがってた。

 どういうことなのか。

 

「あ、オレは別にいいよな?

 だって男だし」

 

 便乗する形で陽葵さんの主張。

 

「いや、ダメでしょ」

 

「ヒナタさん、性別が男なだけで実質的には女の子みたいなものじゃないですか」

 

「どういう理屈だよっ!?」

 

 リアさんとローラさんに同タイミングで突っ込まれる。

 しかしOKかNGかは別にして、私も陽葵さんを男の子扱いするのには抵抗があった。

 その愛らしい容姿と艶めかしい肢体で男性を主張するのは無理がある。

 残念ながら美咲さんも同意見――かと思いきや。

 

「ああ――そうだな、室坂陽葵はいいんじゃないか?」

 

「キョウヤ様!?」

 

「どういうこと!?」

 

 美咲さんの発言にくってかかる女性陣。

 

「いや、男にまで目くじらを立てるのもどうかと思っただけだ。

 深い意味はないさ――はははっ」

 

 実にワザとらしい笑顔。

 

「――まさか」

 

「――あんた、ひょっとして」

 

 それにピンと来るものがあったのか。

 ローラさんとリアさんは、美咲さんに詰め寄り――

 そのまま、さささっと素早く3人固まって私から離れていく。

 

 「――そういう(・・・・)趣味だったの、あんたっ!?」

 

 「――勇者様ともあろうお方が……」

 

 「――う、うるさいなっ!

  別にいいだろ、人の趣味をとやかく言うな!」

 

 珍しくミサキさんが慌てているようなのだが。

 

 「だいたい、君達はどうなんだ、君達はっ!

  そういう(・・・・)妄想をしたことが無いと、はっきり言いきれるのか!?」

 

 「――い、いや、それは、まあ」

 

 「――嫌いじゃ、ないですけれど」

 

 「――ほら見ろ、ほら見ろっ!!」

 

 何を話しているのだろうか。

 ここからだとよく聞こえない。

 だが<感覚強化>を使って盗み聞きしようものなら、美咲さんに殺されそうな予感があった。

 

 「――で、でも、ヒナタさんは無理ですよ!

  だってあの子、完璧に女性ですよ!?」

 

 「――男同士だっていうのには変わらないだろうが!

  じゃあ、お前は誰だったら良いんだ!?」

 

 「――それはその、もっと男らしい感じの。

  容姿だけならデュスト様とか最高です。

  アーニーさんはギリギリ許容範囲ですかね」

 

 「――その辺りが良カップリングであることに異論はないが……」

 

 「――あ、それとガルム様も。

  あの方、実際にクロダさんととても仲が良さそうでしたし」

 

 「――ああ、実はその組み合わせ、私も期待している」

 

 っっ!?

 なんだろう、今、背筋にぞわっとした悪寒が。

 

 「――リアさんは?」

 

 「――え?」

 

 「――リア・ヴィーナ、君はどうなんだ。

  ここまで来て、一人だんまりを決め込むのは良くないぞ」

 

 「――あ、あたし?

  あたしは、その――店長、とか?」

 

 「――ガチムチ好きか」

 

 「――業が深いですね」

 

 「――な、なんで2人して一歩引くのよっ!?」

 

 ……よくは分からないが。

 時折聞こえる単語からして、好きな男性のトークでもしているのだろうか。

 ローラさんはデュストさんや兄貴さんみたいな人が好み?

 ガルムが妙に人気なのは解せないが。

 リアさんは、なんだかんだで店長に気がある、のか?

 

「……女の人が、こういう(・・・・)話題で盛り上がるの、万国共通なんだなぁ」

 

 私の隣では、陽葵さんがしみじみと呟いていた。

 

「そうですね。

 好きな男性についての会話。

 いわばガールズトークというやつでしょうか」

 

「ガールズトークなのはあってるけど、想像してるのとは違うやつだぞ。

 ……クロダは分かんない方がいいかもだけど」

 

 む、違ったのか?

 

 

 

 

 

 

 それから十数分。

 私達はまだ街の通りを歩いていた。

 自宅まではもう少しかかる。

 私の家と病院の距離が離れていることに加え、この街が巨大なクレーター内に出来ているために坂が多いということも、移動に時間がかかる要因だ。

 

「そういえば、気になっていたのですけれど」

 

「ん、なんだ?」

 

「どうして、クロダさんを選んだのでしょう。

 敢えて、ご自分の恋人をこんな危険な任務に就かせなくとも――」

 

 ローラさんが美咲さんへ話しかけている。

 あのガールズトーク(?)の後、2人の間にあった張りつめた空気は多少緩和していた。

 善哉、善哉。

 

「ふむ。

 その理由は3つある」

 

 美咲さんが指を一本立てる。

 

「1つ。

 能力的問題。

 私のバックアップがあるとはいえ、勇者と戦うには相応の資質が必要だ。

 誠一には、それがあった」

 

 二本目の指を立てる。

 

「2つ。

 性格的問題。

 世界の命運を左右する案件だ。

 信用できる相手でなければ、託すことなどできない。

 その点、誠一は私に忠実だ。

 ――女性関連のアレコレを除けば」

 

「はっはっはっは」

 

 私を睨んできたので、朗らかに笑って受け流す。

 

 ……実のところ。

 何故私を選んだのかも何も、付き合う条件(・・・・・・)として、勇者の代理となることを突き付けられたわけで。

 恋人を勇者代理にしたのではなく、勇者代理になったから(・・・・・)美咲さんは私を恋人として受け入れてくれたのだ。

 ローラさんの指摘は、順序が逆なのである。

 

 それはそれとして、美咲さんは三本目の指を立てた。

 

「最後の一つは――」

 

「女の勘?」

 

「――っ!?」

 

 陽葵さんの言葉に美咲さんが動揺した。

 

「む、室坂陽葵――何故っ」

 

「……やっぱり、そうだったんだな、境谷」

 

 したり顔で陽葵さんは頷く。

 

「あんたは、●星市出身だったわけか!」

 

「くっ!?」

 

 ●星市?

 東京にそんな市あったかな?

 

「職業に<(カタナ)>とか<忍者(カゲ)>とかあったから、もしかしてと思ってたんだ。

 スキルにも<修羅(イクサガミ)>とか<念動(キネティック)>とかそれっぽいのあったし」

 

「だ、だが、それが分かるということは君も――!」

 

「おう、オレだって大好きだ!」

 

「――っ!!」

 

 パァァァッと美咲さんの表情が明るくなる。

 純粋無垢な笑顔というかなんというか。

 滅茶苦茶魅力的な微笑みだった。

 

「そうか、そうだったか。

 ――どのあたりからやりだしたんだ?」

 

「Dからかなぁ。

 RRも部活の先輩と少し遊んだことある。

 まあ、一番やってたのはDXとかそっちなんだけどね。

 境谷は?」

 

「私は元々ル●ル派だった。

 その辺からG●R●Sは一通り」

 

「ああ、言われてみればスキルの取得方法がマ●ックと似てたような?」

 

「それは結果論だ。

 最適な方法を模索していたら最終的にあそこに落ち着いたというだけで。

 まあ、参考にはしたが」

 

「へぇー」

 

 何だろう。

 よく分からない。

 よく分からないが、とてもマニアックな話をしている気がする。

 

 確実に言えるのは、この辺りの会話はストーリーとは何の関係も無いということだ!

 ――適当に読み飛ばして(・・・・・・・・・)問題ない(・・・・)と見た。

 

「――まさか、黒田を気に入った理由って、あいつが社●(メ●ト●ウン)に似てるから?」

 

「違う! 断じて違う!

 確かに一目見たとき、なんか似てるなぁとは思ったけど!

 しかし言ってはなんだが、日本人でそれなりに容貌整ってれば大体イケるだろ、あの人」

 

「まあ、黒田って外見特徴あんまり無いもんな。

 普通に格好良いとは思うけど、なんか平均的というか。

 でもだからこそ、ミラーシェードくらいかけても良さそうじゃないか?」

 

「私も強く勧めたんだが――」

 

 そういえば東京に居た頃、美咲さんにやたらソレ(ミラーシェード)について語られたような。

 いまいち性に合わなかったので、やんわりと辞退したが。

 

「だったらせめて刀!

 刀持たせようっ!!」

 

「何が“せめて”なのか分からないけれども。

 いや、それも試したんだ。

 試したんだが――武器を持たせると射式格闘術(シュート・アーツ)の難易度が格段に跳ね上がってなぁ。

 誠一の<社畜>をもってしても、習得は無理だった。

 出会ったのがあと1,2年早ければと悔やんでならない」

 

「そっかぁ」

 

「――完成させたかったな、電磁●刀(レール●ン)

 

「ってそっちかよっ!?」

 

 ……まあ。

 色々言いたいことはあるのだけれども、一言。

 美咲さんはいいとして、陽葵さん。

 貴方、年齢(とし)いくつだ。

 

 

 

 ――絶対誰もついて来れていない話題はこれ位にして。

 

 

 

 私達一行は、ようやく家に到達した。

 病院を出た当初はどうなることかと肝を冷やしたが、なんだかんだと皆さん打ち解けているようだ。

 

「――黒田はク●ツでいいとして……オレはフェイ●かな、やっぱり」

 

「――君はマ●キンだろう、間違いなく」

 

「――なんで!?」

 

 特に美咲さんと陽葵さんは妙に意気投合している。

 (おそらくは)マイナーな共通の趣味を持つことが分かり、互いに親近感を抱いたのだろう。

 これで彼女が“陽葵さんを見捨てる”可能性が減ったと考えれば、喜ばしいことではある。

 

 ……ただ、一つ懸念点が。

 ともすれば忘れてしまいそうになるのだが、陽葵さんは生物学上一応は男に属する。

 彼を信じていないわけではないのだけれども、変なこと(・・・・)が起きないよう、後で“釘”を挿して(・・・)おかねば。

 

「――ん、もう着いたのか」

 

「意外と早かったなぁ。

 もっとかかるもんかと思ってたのに」

 

 到着したことに気付き、2人は会話を中断した。

 リアさんはそんな彼らをジト目で見ていた。

 

「……あんた達、よく分かんない話をずーっとしてたもんね」

 

「お二人は気が合うようですね。

 どうでしょう、クロダさんから乗り換えてみては?

 美男(?)美女同士、お似合いだと思いますよ」

 

 ローラさん、そこには言及しないで下さい。

 ちょっと私に危機感が積もってしまうので。

 

「性質の悪いジョークはそこまでだ、ローラ。

 ……まあ、ここまで来させた以上、すぐに追い返す真似はしないが。

 なるべく早めに帰るんだぞ、お前達」

 

「――今日のところは、それで勘弁してあげましょう」

 

「だんだん物言いが尊大になってきたな!?」

 

 強いなぁ、ローラさん。

 いったい何が彼女をここまで強くさせているのだろう。

 それとも私が気づかなかっただけで、元からこれ程強いお方だったのだろうか。

 

「よし、退院パーティーしようぜ、退院パーティー!」

 

「ま、今日くらいはいいんじゃないの?

 祝勝もかねてさ」

 

「……そうですね、パーティーまでは厳しいですが、食事会程度なら」

 

 アンナさんやジェラルドさんは、未だに後処理に追われていると聞く。

 ゲブラーによる被害の大きさも考えれば余り浮かれてはいけないかもしれない、が。

 リアさんの言う通り、多少は慰安をしても罰は当たらないだろう。

 家にある食材の在庫が足りるかどうか少々不安だけれど――まだ日も高いし、近所のお店で買い足せばいい。

 

 アレコレ考えながら、私は家のドアを開ける。

 

 

「おかえりー、クロダ君♪

 ご飯にする? お風呂にする?

 そ・れ・と・も♪

 ボ――」

 

 バタンッ。

 

 私は扉を閉めた。

 なんだこのデジャブ。

 

 

 

 第二十六話②へ続く



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② 女の戦い――その表と裏

 

 

 

「ひっどーいっ!

 ひっどーいっ!!

 ボクがせっかくクロダ君の退院祝いにスタンバってたっていうのにー!!」

 

 改めて玄関を開けると、そこには半泣きの美少女――エレナさんが居た。

 

「クロダ君が入院してる間、この家をしっかり維持してきたのは誰だと思ってるの!?

 来る日も来る日も掃除して、部屋の隅々までピカピカにしたっていうのにー!!」

 

「いえ、入院といっても数日程度で――」

 

「誰だと思ってるの!?」

 

「――申し訳ありませんでした」

 

 エレナさんは大層お冠だった。

 男とはこういう時、無力なもの。

 私は深々と頭を下げる。

 

 しかし。

 

「無茶を言うな、エレナ。

 そんな破廉恥な姿でいきなり出てくれば、驚きもするだろう」

 

 女の涙は男に対して効果抜群だが、同じ女性には効かないのであった。

 美咲さんがエレナさんの服装について指摘する。

 

 破廉恥などと形容された通り、今のエレナさんはなかなか露出の高い格好をしていた。

 具体的には、下着エプロン。

 ショーツとブラの上にエプロンを羽織っただけの服装だった。

 白と青のストライプが入った、お揃いの下着が可愛らしい。

 黒髪を後ろで束ねた、幼い顔つきの彼女によくマッチしている。

 コンパクトグラマーな彼女のおっぱいが立派な谷間を作り、プリッとハリのあるお尻がふりふり揺れる様子をよく鑑賞できる姿だ。

 

 「――おおおおっ!?」

 

 「あんたは見ないのっ!」

 

 後ろで目を輝かせていた陽葵さんを、リアさんが引っ叩いた。

 例え、限りなく美少女に近い彼であろうと、男であれば目を惹きつけられるに違いない。

 

 しかし、何故下着エプロンなのだろう。

 こういうのの定番は、裸エプロンではなかろうか。

 

「だって、下着つけてた方がクロダ君萌えるでしょー?」

 

「――うっ!?」

 

 痛いところを突かれた。

 そうかもしれない。

 裸は裸でいいものだが、そこに服を加えることで魅力は増大すると――私は考えてしまっている。

 全裸セックスより着衣セックス。

 私の秘めた趣向をこうも容易く見抜くとは!

 

「……薄々分かってはいましたけれど」

 

「そういえば、服着てヤってることの方が多かったような――」

 

 ローラさんとリアさんが同意してきた。

 おやおや、案外皆さん、ご承知していらしゃる?

 

「――そ、そうだったのか?

 いやしかし今日のスーツは一張羅だからあんまり皺付けたくないし……」

 

 美咲さんは隣で頬を赤く染めてもじもじしている。

 何ということだろう。

 超可愛い。

 スゴイ。

 今すぐ抱きしめたい。

 

「っていきなり抱き着くな、お前は!!」

 

 本能に従ったら触れるより先に蹴られた。

 もんどりうって倒れる私。

 何故だ。

 今のはOKサインではなかったのか。

 

「もー、クロダ君ってば、欲情したならボクを襲えばいいのにー」

 

「エレナもっ! 誠一を誘惑するんじゃないっ!!」

 

 色っぽく身体をくねらせるエレナさんを、美咲さんが りつける。

 

「えー、なんでー?

 ボク、クロダ君の愛人だよ?

 セックスフレンドだよ?

 ミサキだって認めてくれたじゃん」

 

「――う、ぐ。

 た、確かに、認めたような記憶があるような気は朧げにするが!

 だからって四六時中いつでもヤるのを許可してはいないぞ!」

 

 エレナさんとの愛人関係は美咲さんも承知済みだったようだ。

 まあ、そうなのだろうと察してはいたが。

 

「けちー! ミサキのけちー!

 ボクの身体を好き勝手弄っておいて、利用価値が無くなったらすぐポイするだなんて!!

 この悪女っ!!」

 

「人聞きの悪いこと言うな!!

 誠一とのアレコレを認めてやった段階で、こっちとしてはかなりの譲歩をしたんだからな!?

 お前以外の女なら、そうそう譲らんぞ、こんなこと!!」

 

「だったら今日くらいいいでしょー?

 ボク、もう一週間近くクロダ君とのセックスお預けにされてるんだから。

 久々に、いっぱい愛されたいの♪」

 

「私は一年以上我慢してるんだよっ!!」

 

 なるほど。

 美咲さんは、欲求不満であったか。

 それならば――

 

「あの、何でしたら、今すぐにでも――」

 

「お前は口を挟むなっ!!」

 

「えー」

 

 私のことで口論しているはずなのに、私に発言権は無いのですか。

 こちらはさくっと無視して美咲さんはエレナさんへ向き直り、

 

「とにかくっ!!

 まずはその見っとも無い格好を直して来い!!

 まったく、あんな恥ずかしい真似、よくやれたもんだ」

 

「――できないんですか?」

 

「――え?」

 

 ここまで沈黙していたローラさんが割って入ってきた。

 

「できないんですか、キョウヤ様?

 恥ずかしいからって、この程度のことも?

 クロダさんの恋人なのに?」

 

「な、なにを――?」

 

 彼女の迫力に、美咲さんが一歩下がる。

 

「ねえ、クロダさん。

 好きですよね?

 エレナさんがしている、こういう格好。

 とても、そそられてしまってますよね?」

 

「え? あ、はい――まあ」

 

 次いで、こっちにも迫る。

 その勢いに、つい首を縦に振ってしまった。

 いや、事実ではあるのだが。

 

「ほら、クロダさんはあの挨拶を望んでいるんですよ?

 なのに、恋人を自称する(・・・・)キョウヤ様は、ソレができない、と」

 

「ぬ、ぬ、ぬ」

 

 煽っている。

 美咲さんを、煽っている。

 お二人のどちらも、初めて見る顔をしている。

 

「――お前は、どうなんだ。

 できるのか!?

 あの、無意味に恥ずかしい行為ができるというのか!?」

 

「当たり前じゃないですか。

 やってみせますよ」

 

 

 

 

 

 

 と、いうわけで。

 私達は、改めて自宅の前に立つ。

 ローラさんに代わりエレナさんがメンバーに加わっていた。

 外へ出るにあたってエプロン姿では流石にまずいということで、ブラウスとミニスカートという彼女定番の姿に着替えている。

 

「……では、開けます」

 

 一度、そう宣言してから、私は玄関の扉を開けた。

 そこには――

 

「お帰りなさいませ、クロダさん♪

 ご飯にします?

 お風呂にします?

 それとも、わ・た――」

 

 バタンッ。

 ドアを閉めた。

 

「ちょっと、クロダさんっ!?

 別に扉を閉めるところまで踏襲しなくてもいいんですよっ!?」

 

 向こうからローラさんの声。

 ……そういえばそうだった。

 つい、条件反射的に手が動いたのだ。

 

 

 

「どうですか、見事にやってみせましたよ?」

 

「――よ、よくもまあ。

 羞恥心を親の腹にでも忘れてきたのか」

 

「クロダさんを想えばこそです!」

 

 勝ち誇ったローラさんに、負け惜しみを言う(本人に言ったら殺されそうだ)美咲さん。

 勝敗は、彼女達の表情を見れば明らかだった。

 

「――ほほぅ」

 

 そして私は小さく感嘆の息を吐く。

 無論、ローラさんの格好に対してだった。

 

 彼女、きっちりエレナさんと同じ服装にして下さったのだ。

 つまり、今ローラさんは下着とエプロンしか纏っていない。

 豊満な彼女の肢体が、惜しげもなく披露されている。

 今日も下着は白。

 短いエプロンから見える太ももが堪らない。

 

 「――おおおおおっ!!」

 

 「見るなっつーに!」

 

 後ろではやはり陽葵さんが、結構本気の勢いでリアさんにどつかれていた。

 こうなってくると、彼のエプロン姿も拝見してみたいところではあるが。

 

 そうしてる内にも、ローラさんと美咲さんの戦い(?)は続き、

 

「所詮、キョウヤ様の言う恋人とは、その程度の関係だったのですね」

 

「い、言ってくれたな!?」

 

「ええ、言いましたとも」

 

「私だって、やろうと思えばそれくらい――!」

 

「――できるんですか?」

 

「……で、できるわぁっ!!

 ちょっと待ってろ!!」

 

 私の家のへと駆けこんでいく美咲さん。

 

 おやおや。

 とても興味深いことになってきましたよ?

 

 

 

 

 

 

 三度、玄関の前である。

 面子は美咲さんとローラさんが入れ替わり。

 やはりTPOを考え、下着エプロンは止めている。

 

「すぅー……はぁー……」

 

 高まり過ぎた鼓動を抑えるため、大きく深呼吸した。

 これから起こるであろうことへ期待が、私を昂らせているのだ。

 

「……では、行きます」

 

 表情を引き締め、いざドアを開く。

 すると――

 

「お帰り、誠一♪

 ご飯にする?

 お風呂にする?

 それとも、わた――」

 

 ――そこが、彼女の限界だった。

 表情を凍らせたまま、見る見る間に美咲さんの顔が赤くなっていく。

 顔は俯き、目に涙が溜まる。

 

 やばい。

 今すぐ抱きしめたくなる程、可愛い。

 

「――――っ」

 

 パタンッ。

 美咲さんは、ドアを閉めた。

 

 カチャッ。

 ついでに鍵も閉めた。

 

「――って、美咲さん!?

 鍵を閉められると困るんですけど!!

 今、鍵は美咲さんがお持ちですよね!?」

 

 ドンドンと扉を叩く。

 中からは――何の反応も無かった。

 

 

 

 <念動(キネティック)>で鍵をこじ開け家に入り。

 部屋の隅で蹲っている美咲さんを発見したのは、それから十分後のことだ。

 

 

 

 

 

「全然ダメじゃん」

 

「下着姿にすらなってませんでしたよね」

 

「――――う、うるさいな!

 お前等変態共と変態具合を競ったのは間違ってた!!」

 

 美咲さんは、エレナさんとローラさんに駄目だしされている。

 言い返してはいるものの、形勢は圧倒的に不利。

 

 なお、ローラさんの指摘通り、美咲さんは下着エプロンになっていなかった。

 スーツの上にエプロンを羽織っただけだったのだ。

 これでは彼女らに蔑まれても仕方がないというもの。

 

「なんか、キョウヤのイメージ変わったなー。

 もっと傲岸不遜な奴だと思ってた」

 

「TRPG好きに悪い奴はいないんだよ」

 

「いや、その例えは分かんないけど」

 

 3人を眺めて、ほのぼのと会話してる陽葵さんとローラさん。

 完全に他人事だ。

 ――いや、他人事であるのは間違いないのだが。

 

「え、えーと、ですね。

 とりあえず皆さん、家に到着したわけですし。

 食事会でもして、楽しもうじゃないですか」

 

 陽葵さんから提案されたことを、改めて皆さんへ打診してみる。

 これで乗ってくれれば良かったのだが、エレナさんとローラさんは不満顔だ。

 

「あれ、クロダ君、ミサキを庇うの?」

 

「そうやって甘やかすからつけ上がるんですよ?」

 

「い、いいえっ、そういうつもりでは!?」

 

 首をぶんぶん振る。

 しかし彼女達はそれに構わず。

 

「いいなー、ミサキって。

 何やってもクロダ君が助けてくれるんだから」

 

「ちょっと自分の立場に胡坐をかきすぎなのではないかと」

 

「一から出直してきた方がいいんじゃないのー?」

 

「恋人の何たるかを勉強してくるべきですね」

 

 2人の攻勢が止まらない。

 ――だが。

 

「――ふ」

 

 美咲さんの表情が一変した。

 

「お前等、人が下手に出ていれば、随分と調子に乗ってくれたな?」

 

「「「―――っ!?」」」

 

 エマージェンシー! エマージェンシー!

 やばい!

 美咲さんがキレた!!

 放つプレッシャーが尋常じゃなくなっている!

 私はおろか、エレナさんやローラさんまで動けなくなっていた!

 

「――や、やだなぁ♪

 ボクはミサキのためを思って、ね♪

 クロダ君とミサキの仲が、円滑に進むように――」

 

「あっ、裏切りましたねっ!?」

 

 突如媚びだしたエレナさん。

 しかし、時既に遅し。

 

「――くく、くくくくく。

 “地獄”というものを見せてやる」

 

「あーーーーーっ!?」

「いやーーーーーーっ!?」

 

 

 

 

 

 

「――さて。

 食事の準備を始めるか」

 

「……そうですね」

 

 全てが終わり。

 つい先刻のことなど何も知らぬとばかりに、平静な態度で美咲さんは言い放った。

 

 「――うう、うううう。

 怖かったよぅ、怖かったよぅ」

 

 「人間て、こんな簡単に空を飛べたんですね……

 初めて知りました……」

 

 大分離れたところで、お仕置きを受けた2人は青い顔をしている。

 一応、身体は無事である。

 ――美咲さんは、回復系スキルにも(・・・・・・・・)長けている(・・・・・)ので。

 “死んでなければ治せる”とは、彼女の弁だ。

 

 一方、美咲さんは台所を見渡してから、

 

「食材はエレナが揃えたようだな。

 ……しかし、何で一品も調理してないんだ?」

 

 「――うううう、料理しながら後ろからクロダ君にガバッて襲われるシチュエーションをやってみたかんだよぅ」

 

「お前、それ病気だぞ、頭の」

 

 冷たい口調でばっさりエレナさんを切り捨てる。

 その後、美咲さんは陽葵さんとリアさんの方を向いて、

 

「何はともあれ。

 一応君達は“お客”になるわけだからな。

 私が料理を作ってやるから、少し待っていろ」

 

「え、境谷が!?」

 

「あんた、料理できるの!?」

 

「できるに決まってるだろう!?

 私にかかれば炊事洗濯家事掃除、何だって完璧にこなせるとも。

 まあ、他人に料理を振る舞ってやる気は早々起きないがな。

 今日は特別大サービスだ」

 

 彼らの疑いに、胸を張って答える美咲さん。

 ワイシャツに包まれた大きな胸が強調されるポーズであり、非常に良いものだと思う。

 

 と、そこへ――

 

「――納得いきませんね」

 

 料理に取り掛かろうとする彼女だが、そこへ待ったをかける人が居た。

 

「えっ!?」

 

「もう復活したの、ローラさん!?」

 

 陽葵さん達の驚きも御尤も。

 美咲さんの調理を止めたのは、ついさっきまで震えていたローラさんだった。

 

「キョウヤ様は“こちらの世界”、随分とお久しぶりのはずです。

 ウィンガストには、『でんしれんじ』や『おーぶんれんじ』と言った便利な製品は無いのですよ?

 トーキョー暮らしの長い貴女に、ここで料理ができますでしょうか?」

 

 電子レンジとオーブンレンジのことか?

 アンナさん辺りから存在を聞いたことがあるのだろうか。

 

「……毎度毎度つっかかってくるな、ローラ。

 別にいいだろう、料理くらい」

 

「ええ、私だって、ただキョウヤ様が料理をするだけであればこうは申しません。

 でも――私を“客”扱いするというなら、黙っていられませんよ!!」

 

 くわっと目を開くローラさん。

 

「ああっ!! もうっ!! 面倒臭いな、お前っ!!」

 

「面倒で結構です!

 ほら、キョウヤ様はリビングへどうぞ!

 私がしっかり“御持て成し”をしますから!!」

 

「ここは誠一の家で、引いては私の(・・)家だ!!

 客はお前の方で、持て成されるのもお前の方なんだって!!

 あ、こら、キッチンに入ってくるな!!」

 

「“お客様”であるキョウヤ様は、ゆっくりしていて下さい!!

 お料理は私がしておきますから!!」

 

「あ、言うに事欠いて私を“客”と言い切ったな!?

 それを言ったら戦争だろがっ!!」

 

「戦争上等ですよ!!

 私は絶対に屈しませんから!!」

 

「その不屈のタフネスは違う所で発揮させろバカっ!!」

 

 わーわーきゃーきゃーと。

 2人の争いは、収まる気配を見せない。

 

 

 

 …………とりあえず。

 紆余曲折の末、食事会の料理はローラさんと美咲さんとで作る運びとなった。

 

 

 

 それから。

 

「<赤外放射>!」

 

「な、なんですか、そのスキル?」

 

「ふん、このスキルによって食材全体を均一に温めることができるのだ」

 

「それって反則っ!?

 ていうか、結局『でんしれんじ』使ってるようなものじゃないですか!!」

 

「五月蠅い!!

 器具の不足はスキルで補えばよかろうなのだ!!」

 

 調理している最中だというのに、2人はやたらと騒々しかった。

 

「――でもなんだかんだテキパキ動いてるな、境谷」

 

「言うだけあって、ちゃんと料理できるのね」

 

 陽葵さんとリアさんは、リビングでまったりとくつろぎモード。

 お茶を飲みながら台所の様子を面白そうに楽しんでいる。

 

 ……私はどうしようか。

 一応、この家の主は私であるわけで。

 女性二人に働かせて自分だけふんぞり返っているのはまずい気がする。

 しかし今のキッチンへ手伝いに行くのは生命保健の危機だ。

 とすれば――

 

「――ねーねー」

 

 服の袖を引っ張られた。

 振り返ると私の後ろにエレナさんの姿。

 美咲さんの“お仕置き”から、ようやく回復したようだ。

 

「どうしました?」

 

「…………」

 

 何か用があるのかと尋ねてみるも、エレナさんは黙ったまま。

 どうしたのだろうか?

 疑問に思ったその時。

 

「―――っ!?」

 

 私の股間を、“何か”が当たる感触。

 驚いて下を見たが、何も見当たらない。

 だが、股間が触られている感覚は未だに持続していた。

 

 これはまさか――

 

「――んふふふふ」

 

 もう一度エレナさんの顔を見ると、にんまりとした小悪魔な笑顔。

 

 ……なるほど、そういうことか。

 遅ればせながら事態を理解できた。

 彼女は今、<念動>を使っているのだ。

 触れることなく、物を動かすことができる初級スキル。

 それを用いて私のイチモツを擦っているということである。

 

 コツを掴んできたのか、エレナさんの<念動>は私の愚息を上手い具合に扱き出した。

 竿の根元から天辺までを丁寧に擦りあげている。

 スキルでこんなことをされるのは、初めての体験だ。

 その新鮮な刺激に、股間が反応を始めてしまう。

 

「――んー、おっきくなってきちゃったねー?」

 

 からかうように、そして他の人達には聞こえないように、小さく笑うエレナさん。

 ぬう、そちらがその気ならば。

 

「――あ、んっ」

 

 エレナさんの口から喘ぎが漏れた。

 今度は私が<念動>で彼女の股間を刺激してやったのだ。

 

「――ん、ん――は、あっ――」

 

 艶めかしい吐息。

 太ももをもじもじとする様子が愛らしい。

 

「――あっ――あ、あ、あぅっ――」

 

 形勢は逆転した。

 元より、こういうことには私の方に一日の長がある。

 エレナさんの<念動>も継続はしているが――私の責めで集中が途切れがちなのだろう、大分たどたどしい。

 

「――はぅっ――あっあっ――すごい、これ――ああぁぁ――」

 

 とうとう瞳を閉ざし、股への刺激に感じ入るエレナさん。

 舌でゆっくりと唇を舐める仕草が、実にエロティック。

 彼女のショーツにも――<屈折視>を用いて覗いていのだ――うっすらと染みができ始めていた。

 

「――あっ――あ、う――気持ちいい――ああっ――んぅ――」

 

 美咲さん達が台所で騒いでいる中、エレナさんは喘ぎ続ける。

 バレないように声を殺しながら。

 

「――ん、ふ――ね、ねぇ、クロダ君――」

 

「はい?」

 

 彼女からの呼びかけに返事をするが、

 

「―――――」

 

 それ以上、何も言ってこない。

 ただ一度、ドアの方へと視線を移す動作を取る。

 これが意味することは――

 

「……あ、ちょっとお手洗い借りるねー」

 

 直後、エレナさんは自然体を装って部屋から出て行った。

 となれば、すべきことは一つ。

 

 数分時間を置き、私も一言断ってからリビングを退出する。

 

 

 

 さて、エレナさんはどちらへ向かったか。

 トイレ――は違うだろう。

 あそこは人が来やすい。

 この家で、まず人の来ない場所と言えば――

 

「――お待たせしました」

 

 ドアを開けると、目的の人物が確認できた。

 ここは、倉庫だ。

 昼であっても薄暗く、基本的に人の立ち入りは無い。

 今日、ここに居るメンバーで倉庫に入ったことがある人は、エレナさん以外に居ないはず。

 

 私の姿に気付くと、向こうも足早に近づいてくる。

 その勢いのまま、彼女は私に抱き着いてきた。

 

「――んんっ――ん、ちゅっ――ぺろっ――ん、んんっ――」

 

 首に腕を回し、私の首元を舐め出すエレナさん。

 暖かく、ぬるっとした感触がこそばゆい。

 互いの身長差を補うため、背伸びもしているのも意地らしくて良い。

 

 私もまた彼女の身体を抱きかかえると、エレナさんの顔へ舌を伸ばす。

 

「――はむっ――んっ――れろれろっ――ん、ちゅ――ちゅっちゅっ――」

 

 すぐ、私の舌に彼女が食いついてきた。

 互いの舌が絡み合い、唾液が混ざり合う。

 とても繊細で、滑らかな舌触りだ。

 

「――ん、ちゅ、ちゅ、ちゅ――んぅううっ――あふっ――んんっ――――ん」

 

 舌の味わいを十分堪能し尽くしてから、私達は顔を離す。

 

「ね、早くしよっ!

 もう、ボク、待てないよ!」

 

 発情した雌そのものの顔で、エレアさんが告げる。

 用意がいいことにブラウスのボタンは外され、ブラもずらしてある。

 サイズこそ小さめだが、丸々と美しく実った彼女のおっぱいが、すぐそこにあった。

 

 私はソレに吸い付く。

 

「――あっ――はぁんっ!」

 

 耳にはエレナさんの喘ぎ声。

 口にはハリの良い胸の弾力。

 

「――あっあっ!――もっと、もっと強くっ――あっあっああっ――!」

 

 彼女の要望に答え、乳首を前歯でカリッと噛んでやる。

 跡が残る程の強さで、だ。

 

「あっ――あぁあああっ!!

 いっつ――あっ――あっあっあっあっ!――イイっ――イイよっ!――あ、あ、あ、あ、あ!」

 

 調子に乗って、私は顎へさらに力を加えた。

 

「あぁああああああっ!!?

 ちょっとっ!? ダメっ!! 痛いっ!! 痛いってばっ!?

 んくぅううううっ!!? ボクの乳首、千切れちゃうよっ!!?」

 

 待ったが入るが、お構いなしだ。

 エレナさんの胸の突起へ、ぐいぐいと歯を食い込ませる。

 

「あひぃいいいいいいっ!!?

 いっいっいっいっいっいっ!?

 待ってっ! 待ってっ!! 待ってぇええっ!!

 ほ、ホントに、取れちゃうぅううっ!!

 あぁああああああああっ!!!」

 

 感極まった声で鳴くエレナさん。

 そろそろいいか。

 私は歯の咬合を止める。

 

「――あっ!?

 ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――

 ――も、もう、酷いよ、クロダ君」

 

 本当に痛かったのだろう。

 彼女の目から涙が流れていた。

 

「では、もう止めますか?」

 

「んー、なんか今日は意地悪だー。

 こんなんで止めるわけないでしょ?」

 

 エレナさんはミニスカートの裾を捲り、

 

「見えるでしょ、ボクのおまんこ、もうぐちょぐちょなの。

 クロダ君の棒挿れてくれないと、収まんないよ」

 

 言った通り、先程出来た“染み”はショーツの股部分全体へ広がっていた。

 濡れた縞パンはエレナさんの股間へ張り付き、彼女の女性器を浮き彫りにしている。

 

「それでは――おねだりをしてみて下さい」

 

「おねだり?」

 

「ええ。

 私のモノが欲しいのでしょう?

 ならば、相応の態度を取って頂かないと」

 

「色々注文してくるねー。

 仕方がないなぁ、クロダ君ってば」

 

 不平を口にしつつも、顔は面白そうに笑っている。

 エレナさんは一旦私から離れると、スカートを完全に捲り、お尻をこちらへ突き出すようなポーズを取った。

 

「――お願い、クロダ君。

 ボクのまんこ、めちゃくちゃにしてぇ?」

 

 お尻を艶めかしく振りながら、私を誘惑するエレナさん。

 小柄だがスタイルの良い彼女は、お尻の曲線もまた綺麗で色っぽかった。

 それでいて、幼さを感じさせるストライプ柄のショーツが、背徳感も演出している。

 

「――ええ、いいですよ」

 

 私は一つ頷くと、背後からエレナさんに覆いかぶさり、ズボンからイチモツを取り出す。

 彼女の腰をがっしると掴み、ショーツをずらして露わになった尻の谷間へ愚息を添えると――

 

 ――“後ろの穴”目掛けて、一気に挿入した。

 

「――おぉおおおおおおおっ!!?」

 

 予想と異なる刺激に、けたたましい嬌声が上がる。

 

「――ち、ちがっ! クロダ君、そっち、違う穴ぁっ!?

 おっおおっおっおっおっ! お、お、お、お、お、お!!」

 

「おや、そうでしたか?

 しかし、こちらでも問題はないでしょう?」

 

 ここまでの行為で、アナルの方にも愛液は伝っていたようで。

 思ったよりすんなりと彼女の菊門は私を受け入れてくれた。

 なので、小気味よくピストンを開始する。

 

「おっおっおっおっおっおっ!?

 やだぁっ!! クロダ君っ!!

 まんこっ!! まんこがいいのぉっ!!

 おっ! おおっ! おっ! おおおっ!!

 ボク、まんこをほじって欲しいのにぃっ!!

 お、お、お、お、おぉおおっ!!」

 

「そう言う割に、随分と気持ち良さそうですね」

 

 エレナさんが感じている証拠に、アナルはキツく私を咥えこんで離さない。

 腰を動かすたびに強く扱かれ、快感が股間に走った。

 

「だ、だってぇっ!

 こっちはこっちで――あっあっあっあっあっあっ――イイんだもんっ!

 で、でもぉっ――おっおぅっおっおおっおぉおおっ――まんこの方が、もっと好きなのっ!!」

 

「むう、なんとも贅沢なことです」

 

 やれやれ、と頭を振る。

 いや、彼女の気持ちはよく分かっているのだ。

 だから――ちゃんと、膣の方も弄ってやる。

 

「――ん、おっ!!?」

 

 エレナさんの声が変わった。

 

「お、おぉおおおおおっ!!?

 な、に、コレっ!!?

 ボクのまんこ、急に、動いてっ!?

 あぁあああああああああっ!!!」

 

 彼女が激しく悶える。

 それもそのはず。

 今、彼女の女性器は私の<念動>によって“外側から”刺激を受けている。

 エレナさんのお望み通り、膣を滅茶苦茶にしてやった。

 これまで体験したことも無い快感を受けているはずだ。

 

 <念動>は知覚した物体にしか効果を及ぼさない。

 これまで散々肢体を弄った彼女に対してだからこそできる使い方である。

 

 ついでに、膣だけでなく子宮の方にも干渉してみよう。

 

「おほぉおおおおおおおっ!!?

 あっ!! あっ!! あっ!! ああっ!!

 子宮、がっ!! 震えて、るっ!?

 あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!

 どう、なって――あぁああああああっ!!!!」

 

 ビクビクと痙攣を始める彼女。

 菊穴もきつく締まり、剛直が痛い程絞められた。

 無論、そうなっても私は腰を前後に動かすのだが。

 

「おぁぁああああああああっ!!!

 イクっ!! もうイクっ!! ボク、こんなの耐えらんないっ!!

 イクっ!! イクっ!! イクっ!!

 イクぅぅうううううううううううううっ!!!!」

 

 プシャアアッと、勢いよくエレナさんの股間から透明な液体が噴いた。

 同時に、彼女の身体が力なくへたり込む。

 その動きで、後ろの穴からイチモツが抜けてしまった。

 ――あっという間に絶頂へ達したようだ。

 

「はぁっはぁっはぁっはぁっはぁっはぁっ」

 

 荒く、細かい呼吸。

 絶大な快感による影響が、焦点が定まっていない。

 股からは愛液が垂れ流しになっている。

 

 そんなエレナさんに、私は告げた。

 

「――まだ私は射精できていないのですが。

 続けても、いいですか?」

 

「――っ!?」

 

 息を飲む音が聞こえる。

 彼女は、ガクガクと身体を震わせて腰を持ち上げた(・・・・・・・)

 

「――い、いいよぉ、クロダ君♪

 でも、今度はちゃんとまんこにハメてね?」

 

 私が挿れやすい所にまで尻を持ってきて、再度おねだりするエレナさん。

 

「よろしいのですか。

 当然、先程のように外側からも膣を弄りますが」

 

「う――うんっ! うんっ!!

 ヤって!! ヤっちゃって!!

 ボクのまんこ、壊してもいいからっ!!

 いっぱい、ズボズボしてぇっ♪」

 

「――わかりました」

 

 そうまで言うなら是非もない。

 私は膣へとイチモツを突っ込み――<念動>を起動した。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!?」

 

 獣のような声がエレナさんの口から発せられる。

 

「ほ、本当に来たぁああああああっ!!!?

 あ”っあ”っあ”っあ”っあ”っ!!!

 犯されてるっ!! 外と中から、同時に犯されちゃってるっ!!!?」

 

 愚息が膣肉に締め付けられ――その上から、<念動>によって圧される。

 堪らない快楽だった。

 欲しいところに、自分で刺激を加えられるのだから。

 ……まあ、取りようによっては自慰をしているようにも見えなくはない。

 さしずめ、今のエレナさんは生きたオナホール(・・・・・・・・)か。

 

「おあああああああああっ!!!!

 イクっ!! またイクっ!! またイ”グのぉおおおおおっ!!!!」

 

 彼女の足が大きく揺れた。

 バランスを崩しそうになるものの、私が腰をきっちりホールドしているため、倒れることは無い。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”っ!!?

 イグッ!! イグッ!! イグぅぅうううううっ!!!」

 

 再び大きく身体を震わせる。

 

「あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!!

 イグの止まらない”ぃぃいいいいっ!!

 またイグっ!! またイグっ!! あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!」

 

 エレナさんは連続絶頂しているようだ。

 膣からは愛液が滝のように流れ、床に水たまりを作っている。

 全身から力が抜けたかと思えば、次の瞬間には痙攣を起こす。

 これを、何度も繰り返していた。

 

「――そろそろ、私もイキますよ」

 

 そんな有様を見せつけられ、昂らないわけが無い。

 膣と<念動>による圧迫もあって、私の股間は射精寸前である。

 

「あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! イグっ!! イグっ!! イグっ!!!」

 

 しかし、私の声はエレナさんに届いていないようだ。

 意識が残っているかも怪しいのだから、仕方ない。

 私は腰の動きを速めていく。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!!

 お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”ッ!!!!」

 

 いつものエレナさんからは想像つかない、とてつもない雄叫び。

 彼女はもう、そんな声を出すことしかできないのだ。

 

 そして、私も限界へ到達する。

 

「――ぐっ、イクっ!!」

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”っ!!!!!」

 

 エレナさんの奥へ、白い精を解き放った。

 ――果たして、そのことに彼女が気づいているのかどうか。

 

「お”お”お”お”お”――――――――お」

 

 <念動>を解除すると、エレナさんの動きは止まった。

 うんともすんとも言わない。

 失神している。

 目は開いたままで――しかし、輝きは失っていた。

 

「おおっと?」

 

 股からは、黄色い液体も流れてくる。

 解放感から失禁もしてしまったようだ。

 そうなっても、エレナさんはピクリとも動かない。

 

「――――と、とりあえず、脈は正常ですね」

 

 取り急ぎ、エレナさんの安否を確認。

 全くの無反応であるものの、生命活動は問題なく行っている模様。

 

「これは、アレですね、やりすぎですね」

 

 実のところ、かなり肝が冷えていた。

 微動だにしないエレナさんは、一見、死んでいる様にすら見えてしまう有様なのだ。

 この現場を誰かに見られれば、強姦罪どころか殺人罪を適用されかねない。

 

 <念動>を使った新しい試み(・・・・・)が、私の心の均衡を壊したのかもしれなかった。

 ――我ながら、酷い言い訳だ。

 

「た、確か、倉庫には取り置きのポーションが」

 

 気休めかもしれないが、体力回復のポーションを彼女に飲ませる。

 口に流し込んでも上手く飲み込んでくれないが――多少は、体内へ入ったはず。

 

「……掃除と看病しながら、意識が戻るのを待ちますか」

 

 自身にそう言い聞かせ。

 エレナさんを床へ横たえると、私は雑巾片手に床拭きを始めるのだった。

 

 

 

 第二十六話③へ続く



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③ 信じて送り出した彼氏が、異世界でヤリチンになっていただなんて

 

 

 

 その後、食事は滞りなく進んだ。

 ローラさんと美咲さんは、若干のトゲトゲしさはあるものの談笑を交わし、周囲は胸を撫で下ろし。

 2人の用意した料理も素晴らしい美味しさで、皆さん舌鼓を打ち、賞賛を集めていた。

 たいそう和やかな雰囲気のまま食事会は終了。

 遅くなる前に、それぞれ帰路へついた。

 

 ――もっとも。

 その最中、私は逆さ吊りの刑に処されていたわけだが。

 はっはっはっは、当然のように全てバレていましたとも。

 皆さんが楽しく過ごしていた間、一人疎外感を味わっていたのである。

 ……ヤったことを考えれば、自業自得以外の何物でもないが。

 しかし、私は後悔しない。

 どれ程の制裁が待っていようと、あんな状況になったらこれからも誘いに乗り続けるだろう。

 

 ちなみに、エレナさんは多少小言を言われただけで、普通に食事会へ参加していた。

 美咲さんとの仲がなせる業か。

 ――少し。

 ほんの少しだけ、不公平を感じてしまったことを許して欲しい。

 

「根本的にお前が悪いんだからな?」

 

「い、いえ、勿論納得はしていますよ!」

 

 ジト目で私を睨み付けてくる美咲さん。

 今、家には私と彼女の2人きり。

 リビングのテーブルに、向き合って座っている。

 日は既に沈んでおり、照明が私達を照らしていた。

 やや暗い部屋の中、黄色い光で浮かび上がる美咲さんの怜悧な美貌は、幻想的ですらある。

 暖色系の光のせいか、いつもなら冷たい印象を与えがちな切れ長の瞳も、どこか優しげに感じられた。

 

「――決して、協力の見返りに許したわけではない」

 

「あの、わざわざ疑惑を生む発言をしなくとも……」

 

 ローラさんは、最後まで美咲さんが家に残ることに反対していたのだが。

 エレナさんの大分頑張ったとりなしにより、彼女もこの状況を不承不承ながら受け入れてくれたのだ。

 美咲さんとの裏取引が噂されたが、真偽は不明のままである。

 ……不明のままである!(強調)

 

「はぁ……恋人の家に泊まるのに、こう苦労しなければならないんだ」

 

「それはその――申し訳ありません」

 

「お前が謝るようなことじゃない――いや、お前が謝るべき案件でもあったな。

 あっちこっちの女に手を出しおってからに」

 

「ははは……弁解のしようも無いですね……

 つ、次は、私の方からローラさんにお願いしましょうか?」

 

「それはやるな。

 ……なんだか負けた気分になる」

 

 そういうものなのか。

 まあ、口では色々言っているものの、美咲さんはローラさんのことをかなり気に入っている。

 それは彼女達のやり取りを見ていれば明らかだ。

 気に入った相手だからこそ、自分で決着をつけたいのだろう。

 彼女はそういう女性(ひと)だ。

 

「そういうわけで、ローラの方は別にいい。

 自重はしろと思うが、これからも付き合いは変える必要はない」

 

「おお、そうですか!」

 

「笑顔になるな!!

 自重しろよ!?

 本気で自重してもらうからな!?」

 

 顔を綻ばせかけると、すぐにお怒りを頂いた。

 女心は複雑である。

 私にはそうそう理解できそうにない。

 

「分かっています、分かっています。

 あ、エレナさん共、今まで通りでいいということですよね?」

 

「確かにその通りではあるのだが――絶対曲解してるだろ、お前」

 

「そんなことありませんよ?」

 

「うわぁー、信頼できない顔してるな、おい」

 

 呆れて肩を竦める美咲さん。

 ふと思うのだが、こういう何気ない動作にも、どこか品があった。

 どんな動きをしても、絵になるというか、美しさを損なわないというか。

 本人にそのつもりは無いそうなので、彼女が無数に持つ才能の内の一つなのだろう。

 

「……どうした、私の顔をジロジロ見だして」

 

「いえ――綺麗だと、そう思っていただけです」

 

「んなっ!?」

 

 美咲さんが少し身を反らす。

 何やら驚いている様子。

 

「そ、そういうことを急に言うな!

 そりゃ、私が美しいのは自明の理ではあるが――その、心の準備というものがある」

 

「そうでしたか。

 以後、気を付けます」

 

「ああ、心に留め置くように。

 ……いいか、私を称賛するなと言っているわけじゃないからな?

 その辺りの区別はしっかりつけるんだぞ」

 

「ご安心下さい。

 美咲さんを褒め称える言葉なんて、貴女を語ろうと思えば幾らでも出てきます。

 もっとも、私の語彙力という限界はありますが」

 

 美しさの塊である彼女について表現しようと思えば、自然と礼賛することとなる。

 そんな当たり前のことを説明しただけだったのだが、

 

「う、ぐ――言ってる傍からお前は」

 

 何故か、美咲さんの顔が紅潮していく。

 私から目を反らして恥ずかしがる仕草が、とてつもなく愛らしい。

 

「ごほんっ!

 と、とにかく、その2人について取り立ててどうこう言うつもりは無い!」

 

 咳払いをすると、表情が戻った。

 残念、もう少し可愛い姿を見ていたかったのに。

 

「問題なのは――リア・ヴィーナについてだ。

 お前、彼女に関わるのはもう止めた方がいい。

 かなり危険な状況だぞ」

 

「――え」

 

 そう、だったのか?

 まるで気が付かなかったが。

 

「元々、酷い“歪み”持ちの魔族だったが、それがさらに悪化している。

 日に日に、自分の“歪み”に浸食されてるようだ。

 このままじゃ、まともな生活が送れなくなる」

 

「な、なんと!

 いったい、どうしてそんなことが――」

 

「それはこちらが聞きたい。

 私はリア・ヴィーナとろくに接点がないんだ。

 お前の方が余程彼女に詳しいだろう。

 何か最近、変わったことは無いのか?」

 

 変わったこと、か。

 記憶を辿ってみるが――

 

「――思いつきませんね。

 今まで通り、肉便器として(・・・・・・)普通の暮らしをしているように見えます」

 

「チェストぉおおおおおっ!!!」

 

「いったぁいっ!?」

 

 脳天に手刀を決められた。

 痛い。

 凄く痛い。

 頭蓋骨が割れたように痛い。

 

「馬鹿っ!! 馬鹿っ!! お馬鹿っ!!

 どう考えてもっ!! それがっ!! 原因っ!! だろうがっ!!」

 

「え、ええっ!?」

 

「何で驚く!? どうして驚くんだ!?

 驚くのはこっちの方だぞ!!?

 こんな質問の返しに『肉便器』なんて単語が出てくるとは思わなかったわ!!」

 

「え、結構使いません?」

 

「使わないよっ!!!」

 

「私の周りでは常用しているのですが」

 

「……お前の人間関係、一度リセットさせた方が良さそうだな」

 

「や、止めて下さいよ!?」

 

 店長もセドリックさんも、この世界で出来た大切な友人だ。

 こんなことで離れ離れになるなんて辛すぎる。

 

「……まあ、これで明らかになったな。

 リア・ヴィーナがおかしくなったのは間違いなくお前のせいだ。

 今後、彼女には近づかないように」

 

「被虐趣向が命に係わる方向へ行かないよう、注意していたつもりなんですけどね……」

 

「生物的生命活動に問題はないかもしれないが、社会的生命活動に大きな問題が発生しているだろう!」

 

「いえ、肉便器として立派に社会的地位を確立できま――ぐほっ!?」

 

「はっ倒すぞ、お前!?」

 

「……は、はっ倒してから言わないで下さい」

 

 椅子ごと殴り飛ばされたので、いそいそと座りなおす。

 じんじんと痛む頬を擦りながら、口を開く。

 

「とはいえ、リアさんはこれからも陽葵さんにご協力頂く形になりますし、全く関わらないというわけには。

 急に態度を変えれば彼女も訝しむでしょうし」

 

「……確かに、今更お前をどうこうしたところで、彼女を取り巻く環境は大きく変わらんか。

 魔族の問題だからといって放置していたのがまずかったな。

 そういう意味では、私にも責任の一端はある――かもしれない。

 限りなく極僅かな一端ではあるが」

 

 美咲さん、ここでため息を一つ。

 

「仕方ない――これからは、彼女の面倒も少しは見てやるか」

 

「そういえば、美咲さんは前々からリアさんに関わるのを避けていましたね。

 何か理由があるのですか?」

 

「嫌なんだよ、魔族と付き合うのは。

 どうあがいても連中が抱える“歪み”は消えないから、関係が破綻する危険性を常に抱えなければならない。

 話をしていて異様にムシャクシャする」

 

「……なるほど」

 

 つまり、“歪み”という種族の呪いから解放してあげたいのに“それができない”ということが、美咲さんにとって大きなストレスになるわけか。

 お人好しな(・・・・・)彼女らしい悩みだ。

 

「――誠一、何故ニヤついている?」

 

「い、いえ、何でもありません!」

 

 慌てて顔を引き締めた。

 

「と、ところで、話のついでという訳でも無いのですが、陽葵さんについては――」

 

「――当面、好きなようにやらせてやれ。

 悔いが残らないように」

 

 美咲さんが、真剣な――憐れみを帯びた表情になる。

 

「やはり、まだ厳しいのですか、陽葵さんは」

 

「“まだ”も何も、彼の状況は何も変わっちゃいない。

 ゲブラーを倒したことで私達(・・)の勝利条件には大きく近づいたが、残念ながら“陽葵の生存”はそこに含まれていないからな。

 私達が勝とうと、万に一つ龍共が勝とうと、陽葵は後数週間程度の命だ」

 

「…………」

 

 誰が勝者になっても(・・・・・・・・・)、陽葵さんの死は避けられない。

 彼が生き残ることを優先するプレイヤーが、一人もいないからだ。

 

「だからこそ、あいつとも余り親しくしてやるつもりは無かったんだ。

 ……くそ、まさか奴が同好の士(TRPG好き)だったとは。

 これじゃ、気にかけない訳にもいかないじゃないか。

 あの卑怯者め」

 

「いや、そこで卑怯者呼ばわりは何か違う気がしますが」

 

 趣味が合うという、ただそれだけのことで見捨てられなくなってしまう辺り、美咲さんのお人好し度が測れるというもの。

 

「そうは言ったところで、私が彼にしてやれること等たかが知れている。

 せいぜい、万全の状態でケセドに面会させてやる程度だ。

 そこから先は、関知しないからな」

 

「――ええ、分かっています」

 

 彼女からのバックアップが十全に貰えるというだけで、かなり事態は好転していると言える。

 陽葵さんに関しては、何故か(・・・)セドリックさんも支援を申し出てくれているので、探索にかかる費用面の問題も解決の見込みだ。

 この上、ケセドの協力を取り付けることができれば――或いは。

 まだまだ不確定要素の多い道のりではある。

 

「……さて、周りの連中の話はここまでにしておいて、だ。

 次は誠一だ」

 

「私、ですか?

 どうしました?」

 

「どうしたもこうしたもあるか!?

 さっきも言ったが、お前、他の女にちょっかいをかけすぎだろう!?」

 

「そ、そうですかねー?」

 

 明後日の方を見ながら、返事する。

 あー、そっちの話題ですか。

 

「おい、誤魔化すな、私の目を見ろ。

 私だってな、お前と一緒に居てやることができないから、多少は我慢するつもりでいたんだ。

 お前がどうしようもない変態だってことは分かっていたしな。

 ――だからって、これはやり過ぎだろう!?」

 

「あー、なんと申し上げればよいでしょうか……」

 

「正直に答えろ。

 誠一、この1年で、何人の女と関係を持った?」

 

「……えーと」

 

 過去の記憶を掘り起こす。

 た、確か――

 

「――五十、は行ってなかったと思うんですけど」

 

「死ね」

 

 死んだ。

 いや、本当に死んではいないのだけれど、ボコボコにされた。

 マウント取られて顔面に拳を叩き込まれた。

 

 ヤバい。

 何がヤバいって、この体勢。

 美咲さんに馬乗りにされていると、その、彼女の下半身が私の身体に押し付けられてですね。

 服の生地越しではあるものの、その柔らかい感触は痛みを忘れさせるに十分な代物で。

 あと、下から見上げる美咲さんのビジネススーツ姿も、なかなかオツなモノだ。

 結構ぴっちりと身体にフィットするタイプのスーツなので、彼女の完璧なスタイルがよく見て取れる。

 

「――なんだか嬉しそうだな。

 お前、そういう趣味もあったのか?」

 

「えー、そんなことは無いですよ」

 

「……止めた。

 喜ばせたんじゃ意味がない」

 

 美咲さんは殴る手を止めると、私の腹の上へぽすんっと腰を下ろす。

 

 ……おおおおおおおっ!!

 お尻がっ!! 美咲さんのお尻がっ!!

 私の腹の上にっ!!

 あー、良い塩梅だ。

 いっそ、ずっとこうされていてもいい。

 

「なぁ……まさかとは思うが、私に不満があったり、するか?」

 

 恍惚に浸る私に、美咲さんが話しかける。

 言葉遣いとは裏腹に、どこか不安があるような声色だ。

 

「不満なんてあるわけないじゃないですか。

 私は心の底から美咲さんを愛しているんですから。

 ずっと貴女を抱いていたいくらいですよ?」

 

「そ、そうか」

 

 私の正直な吐露に、彼女の顔が少し明るくなる。

 が、すぐに表情が引き締まり、

 

「……なのに、他の女に浮気するんだな?」

 

「それは、その――男の本能と言いますか」

 

 どうしようもないのである。

 男は――いや、人は、本能に逆らえないのだ。

 これは生命が地上の誕生してからの、誰にも代えられぬ摂理なのだ。

 そんな私の態度に、

 

「はあぁぁぁぁぁぁ――」

 

 美咲さん、大きくため息。

 

「なんで私、こんな奴を好きになってしまったんだろうな?」

 

「どうしてですかね?」

 

「お前が疑問に持ってどうする!?

 お前がっ! 毎日毎日しつこくしつこくずーっと言い寄ってくるからっ!

 なんというか――こう――絆されてしまったんだろうがっ!!」

 

「継続は力なり、ですね」

 

「してやり顔で言うな!

 なんか腹立つぞ!?」

 

「あっはっはっは。

 ――ところで」

 

 私は、腕のすぐ近くにある美咲さんの太ももをすっと撫でる。

 

「――んっ」

 

 彼女の口から、くすぐったそうな音が漏れた。

 いかにも不意に発せられたその声が、とても色っぽかった。

 

「――美咲さん。

 今夜は、恋人として(・・・・・)一緒に過ごす、ということでよろしいでしょうか?」

 

「足を触りながら言うな!

 ……そ、そのつもりが無かったら、残るわけないだろうが」

 

 視線を少し外し、頬を染める。

 ああ、それはいけない。

 そんなことをされたら、もう我慢することができなくなる。

 

「――きゃっ!?」

 

 美咲さんから、実に可愛らしい声。

 両手で彼女の身体を思い切り引き寄せたのだ。

 

 床に倒れている私。

 その上に覆いかぶさる形で美咲さん。

 彼女の眉目秀麗な顔が、すぐ近くに迫る。

 呼吸による空気の流れが感じられる程に。

 

「ちょ、ちょっと――」

 

 狼狽える美咲さんというのも、大分珍しい。

 ただ……実を言うと、私も平静では無かった。

 

 至近距離で見る彼女の美貌と、体中で感じられる彼女の温もりと柔らかさ。

 それらが私の鼓動を早くさせる。

 さらに腕が細かく震えていた。

 ひょ、ひょっとして、私も緊張してしまっているのか――?

 

「ま、待った、待ったっ!!」

 

 そんな隙を突かれ、美咲さんが身体を引き離す。

 な、なんてことだ!

 このまま一戦なだれ込もうと思ってたのに!

 

「おい、そんな世界の終わりが来た、みたいな顔するな!

 ……別に、しないと言った訳じゃないだろう」

 

「ほ、本当ですか……?」

 

 どこかしおらしい雰囲気になった彼女は、恥ずかし気に口を開く。

 

「ま、まずは、シャワーを浴びなきゃだろうが。

 ちゃんと身体を綺麗にしてから――」

 

「何を言ってるんですか。

 美咲さんの身体に汚いところなんて無いじゃないですか」

 

「な、無いけれど!

 私に汚いところなんて無いけれど!

 でも、シャワーを浴びなくちゃいけないんだよ!」

 

「そんなものですか」

 

 そういうことであれば――

 

「では、浴室へ向かいましょう」

 

「いやいや、何で手を引くんだ。

 どうして一緒に行こうとするんだ」

 

「いえ、一緒にお風呂へ入ろうかと」

 

「ダ・メ・だっ!!」

 

 大声が部屋に響く。

 

「ど、どうしてです?

 同時に済ませてしまった方が効率的じゃないですか」

 

「デリカシーがっ!! 足りなすぎるっ!!」

 

「デリカシー?」

 

「そうだっ! デリカシーだっ!!

 こういう時は、別々に入るものなんだよ!!

 いいか、まず私が入るっ!

 お前はその後っ!!

 分かったな!?」

 

「わ、分かりました!」

 

 問答無用な迫力に、首を縦に振る以外の選択は無くなっていた。

 美咲さんは立ち上がり、風呂場に向かって歩き出す。

 

「……お、終わったら、合図する。

 それまで、絶対、浴室に入ってくるんじゃないぞ。

 当然、覗くのも禁止だ。

 私は、その、寝室の方で待ってるから。

 隅々まで入念に綺麗にして、それから来るんだぞ、いいな!?」

 

 早口にそう言い切ると。

 私の返事も待たず、足早に美咲さんは行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 そこから時は進む。

 

「……いいお湯でした」

 

 私は体を洗い終え、寝室の前へ来ていた。

 これからヤることを考え、服はもう纏っていない。

 

「――――っ」

 

 なんだろう、凄くそわそわする。

 

 この一枚のドアを隔てた先に、美咲さんが居るのだ。

 私を受け入れる(・・・・・・・)準備を終えた(・・・・・・)、彼女が。

 それを考えると、居ても立っても居られない気分になる。

 気分になる、のだが。

 

「…………ごくり」

 

 生唾を飲み込む。

 

 全身を駆け巡る期待感と、得も言われぬ不安感。

 それがごちゃ混ぜになり、私の頭は混乱していた。

 いつも通りすればいいというのに、身体が言うことを聞いてくれない。

 

「――な、情けなや」

 

 自分の小心ぶりに辟易する。

 こんな大事なところで、縮こまってしまうとは。

 ――いや、股間の方はずっと勃起しているんですがね、それは置いといて。

 

「よし、行きましょう!」

 

 自身に喝を入れる。

 意を決し、寝室への扉を開く。

 

 中に入った私の目に飛び込んできたのは――

 

 

 「……き、来たか、誠一」

 

 

 ――一糸纏わぬ姿でベッドに横たわった、美咲さんの姿だった。

 い、いや、訂正。

 何も着ていない訳ではない。

 一枚の、薄いシーツでその身を包んでいた。

 

「……うぉぉ」

 

 意図せず、呻いてしまう。

 何だ、これは。

 

 部屋に灯は点いていない。

 月の明かりが差し込むだけ。

 だがその月光に照らされる美咲さんの肢体は、神々しさすら感じられた。

 

 一歩ずつ、ゆっくりと彼女に近づいて行く。

 私の視線を感じてか、美咲さんは顔を俯かせ、

 

「その――あまり、ジロジロ見ないで欲しい」

 

「無茶を、言わないで下さい」

 

 こればかりは、美咲さんの命令でも聞くわけにはいかない。

 というか、聞くことができない(・・・・)

 目が、彼女から離れようとしてくれないのだ。

 

 短め(ショート)に切り揃えられた、極上の艶を持つ彼女の黒髪。

 今、その髪はしっとりと濡れ、艶めかしい輝きを帯びている。

 いつもは凛々しく締まった顔が、今宵は少し緩み、羞恥からかほんのりと上気し。

 常に自信に満ちている切れ長の双眸も、どこか不安げだ。

 思わず抱き締めたくなってしまう可憐さが、極致に至った端麗さと見事に同居している。

 

 ――ベッドに辿り着いた。

 美咲さんは少し思案する様子を見せてから、

 

「……あー、時間、かかったな」

 

「言われた通り、残すところ無く洗ってきましたので」

 

「……そ、そうか」

 

 どうにも歯切れが悪い。

 私も人のことは言えないが。

 

「……その、もう、裸、なんだな」

 

「美咲さんだって、そうじゃないですか」

 

「そ、それは……そうだけれども」

 

 そこで会話が途切れる。

 お互い、次にどう言葉を紡ぐか、考えあぐねている。

 

 ……ええい!

 ついさっき、覚悟を決めたはずだろう!

 

「――失礼します」

 

「あっ――」

 

 思い切って、ベッドに入り込む。

 先刻とは逆に、私が美咲さんにのしかかる形だ。

 彼女の肢体は、もう目と鼻の先。

 

「――触りますよ」

 

「――あ、ああ」

 

 短いやり取り。

 この状況で相手の了承など本来要らないとは思うのだけれど、しかし許可を貰うことで幾分気が楽になる。

 

 私は、両手で美咲さんの二の腕を触る。

 シーツに覆われていない、彼女の肌を。

 

「――んんっ」

 

 色情を感じさせる、短い吐息。

 

 すべすべだった。

 少し湿った美咲さんの腕は、手触りの良い至極のきめ細やかさであった。

 撫でているだけで、快楽中枢を刺激される。

 

 ――シーツに手をかける。

 

「――お、おい」

 

「いけませんか?」

 

「あ、いや――その、いい」

 

 彼女が頷くのを確認してから、彼女を覆うシーツをそっと捲っていく。

 

「うぁぁ……」

 

 恥じらいながらも、私の為すがままになる美咲さん。

 そして――生まれたままの姿が、私の眼前に現れた。

 

「おおおぉ――」

 

 感極まって、感嘆の声が出てしまう。

 

 ――別にこれが、初めてではない。

 美咲さんの裸を見るのは、これが初めてではないのだ。

 だというのに、私の身体は硬直して動けなくなった。

 

 美しい。

 ただひらすらに、美しい。

 豊満な胸は、全く崩れる様子を見せず。

 その先端には、上向きにツンと向いた桜色の突起。

 腰は細くくびれ、お腹周りは引き締まっている。

 大きなお尻はキュッと上がった卵型。

 しかし、色気があるとか、情欲をそそるとか、そんな低俗な形容をこの裸体にはできない。

 

 芸術品だ。

 その肉の付き方は、彫刻を連想させる。

 究極の肉体美がそこにあった。

 劣情を催すよりも前に、美麗な存在(もの)に対する賛美が来る。

 

「ど、どうしたんだ、急に固まって――?」

 

「あ、いえ――美咲さんが、余りに綺麗すぎて、つい我を忘れてしまいました」

 

「――っ!

 そういう世辞を、いきなり言うなと――」

 

「お世辞なんかじゃありません。

 心からの本心です」

 

「――っ!?」

 

 美咲さんの顔が、一気に赤面する。

 ひょっとしたら、私もそうなっているかもしれない。

 さっきから、顔が火照って仕方ないのだ。

 

「で、では――」

 

 私は、恐る恐る彼女の胸に触る。

 

「あっ」

 

 か細い艶声。

 美咲さんは触れた手を、敏感に感じ取ってくれたようだ。

 

 ――凄い。

 なんなんだ、こんなに大きなおっぱいなのに、凄いハリだ。

 無論、硬いだなんてそんな訳では全くない。

 柔らかいのだ、指で突けばプルンと揺れる位に柔らかいのに、弾力もまた凄いのである。

 

 試しに揉んでみる。

 

「――ん、ああっ」

 

 少し大きくなった美咲さんの声。

 同時に、手の平全体へ、その柔肉の感触が伝わってくる。

 中身が詰まっているような、揉み応えのあるおっぱい。

 しかし手を離せば、すぐに元の形に戻る。

 

 揉む指に力を入れると胸に食い込んでいく。

 堪らない反発が指にかかる。

 ハリの良さを、これ以上なく如実に現していた。

 

「あっ――あっ――あっ――

 せ、誠一、少し、強い――んぅっ」

 

「す、すみませんっ」

 

 夢中になり過ぎて、つい思い切り力を込めすぎてしまったようだ。

 すぐに、もっとソフトなタッチに切り替える。

 

「これ位で如何でしょう?」

 

「んっ――あっ――あっ――

 そ、それ位、で――はっ――んっ――あっ――」

 

 気持ち良くなって貰えたようだ。

 私の方もまた、極上の触感をずっと味わっている。

 股間へ血が集まっていくのが、よく分かった。

 興奮は高まっていき――

 

「――美咲さんっ」

 

「んあっ!?――――んむっ」

 

 私は彼女の唇を奪った。

 瑞々しい感触が口に当たる。

 

「――んっ――んんっ」

 

 そのまま、軽いキスを繰り返す。

 付いては離れ、離れては付く。

 美咲さんの切れ長な双眸が、熱く私を見抜く。

 私もまた、彼女の瞳へ視線を集中させた。

 見つめ合いながら、口づけを続けるのだ。

 

 さらには――

 

「――んんっ!?――あ、こらっ――ふむぅっ――んんぅっ!」

 

 ――舌を彼女の口内へ侵入させる。

 最初、抵抗しようとした美咲さんだが、

 

「――ん、んちゅっ――あ、あふっ――は、あ、あ――れろっ――れろれろっ――」

 

 すぐに、彼女も舌をこちらに絡ませてきた。

 なんて滑らかな舌触り。

 それでいて、意外と力強くもある。

 ともすれば、私の舌が負けてしまいそうな程だ。

 

「――ちゅ、ちゅ――んふぁっ――ぺろ、れろっ――ん、んぁっ――んぅっ――」

 

 美咲さんの歯を、口内を、丹念に舐めていく。

 それは相手も同じ。

 お互いがお互いを、最大限に堪能しようと舌を動かした。

 

「――んんぅっ――あ、んっ――ん、ん、ん――ちゅっ――あぅっ――――あっ」

 

 一旦、そこでキスを止める。

 美咲さんは、なんだか名残惜しそうな表情。

 

「もう、終わりか――?」

 

「物足りなかったですか?」

 

「……手慣れてる感じがして、なんだか嫌だった」

 

 ぷいっと顔を反らした。

 幸せそうな表情で言われても、説得力は無い。

 悦んで頂けたようで何よりだ。

 

 ……さあ。

 もう、前戯はいいだろう。

 

「――あっ!

 そ、そこは――」

 

 美咲さんが身体をピクッと小さく震わす。

 私が、彼女の股間に手を伸ばしたからだ。

 

「……もう、濡れているようですね」

 

「そういうことを、いちいち報告するんじゃない……!」

 

 股の付け根に位置する、美咲さんの花弁。

 その入り口は、閉じた蕾のままであった。

 しかしその隙間からは、愛液が漏れ始めている。

 

 私は彼女に覆い被さったまま、自分のイチモツを膣口へと添えた。

 美咲さんが、小さく口を開く。

 

「――誠一」

 

「挿れますよ、美咲さん」

 

「――う、うん」

 

 そのやり取りを合図に、私は腰を彼女目掛けて推し進めていく。

 

「――あっ!――あっ!――くぅっ!

 ――は、入って、きてるっ!」

 

 美咲さんの嬌声が、鼓膜を刺激した。

 聞くと、脳が溶けそうになる。

 

 だが、股間の方はもっと大変だった。

 

 ――き、キツい!

 まるで処女であるかのように、彼女の膣は私を容易に受け入れてくれなかった。

 

 それなのに。

 拒むような動きをしているにも関わらず。

 入り込んだ剛直の頂きには、ヒダが我先にと絡み付いてくる。

 そして、優しく、激しく、締め付けるのだ。

 なんという、名器!

 なんという、気持ち良さ!

 

 早く!

 早く、肉棒全体でこの快感を味わいたい!

 その欲求に突き動かされ、私は腰の動きを加速させていく。

 ――が。

 

「――痛っ!!」

 

「美咲さん!?」

 

 彼女の悲鳴で、我に返った。

 見れば、大粒の涙が美咲さんの目に浮かんでいる。

 

「どうされたのですか!?

 初めて――じゃ、無いですよね?」

 

 愚問である。

 彼女の初めてを貰ったのは、他ならぬ私なのだから。

 しかし、美咲さんはふるふると首を横に振って、

 

「――前した時から、どれだけ間が空いてると思ってるんだ!

 きゅ、急に挿れられたら、痛いに決まってるだろう!?」

 

「――え。

 まさか、以前に私としてから、一度もヤっていないのですか?」

 

「するわけが無いだろう!?

 お前以外の男となんて!!」

 

「ご自分でも、されていない?」

 

「するかっ! そんな、はしたないこと!!」

 

 ――なんと。

 私が美咲さんと最後にセックスしたのは、もう一年以上前のことだ。

 それから彼女は、自慰すらせず過ごしていたというのか。

 信じられないストイックさ。

 美咲さんらしいと言えば美咲さんらしい。

 

「――では、もっとゆっくり行きますね」

 

「あ、ああ、そうしてくれると助かる」

 

 宣言通り、ゆっくりと、彼女が痛がらないように細心の注意を払って腰を進めていく。

 

「――はっ!――あっ!――あっ!――あっ!」

 

 美咲さんの声に艶が戻ってきた。

 痛みでは無く、快感を感じ始めているようだ。

 

「――あっ!――あっ!――あっ!――――あああっ!!」

 

 全部入ったところで、彼女は一瞬身を仰け反らした。

 肢体が硬直し、ビクビクッと震えだす。

 これは――

 

「……ひょっとして、イきましたか?」

 

「はぁっ――はぁっ――し、仕方ないだろう!

 はぁっ――はぁっ――はぁっ――久々、だったんだからっ!」

 

 涙目で息を切らしながら、美咲さんが告げてくる。

 いや、咎めているつもりは全くないのだが。

 寧ろ、挿入しただけで絶頂してくれたなんて、嬉しいことこの上ないのだが。

 

 彼女の呼吸が落ち着くのを待ってから、私は尋ねる。

 

「あの――動いても、大丈夫ですか?」

 

「……ああ。

 そろそろ、大丈夫だと、思う」

 

「それでは――」

 

 私は、緩やかに腰を振り始めた。

 美咲さんの膣内を、イチモツが前後しだす。

 

「――あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 時同じくして、彼女が大きく喘ぎ始めた。

 良かった、しっかりと快感を感じてくれている。

 

 ほっと一安心――を、する前に。

 私の方が、緊急事態に陥っていた。

 

「――み、美咲さん」

 

「あっ! あっ! あんっ! ああっ!――ど、どうしたんだっ?」

 

「ま、まずいです――もう、イキそうでして」

 

 そう。

 私は、あっという間に絶頂へ達しようとしていた。

 

 全ては、美咲さんの女性器のせいだ。

 膣壁が男根の下から上、カリの部分に至るまで、余すところなく全てに強く絡みつき。

 少し動くだけで、股間へ絶大な快楽を注入してくる。

 

 気持ちは昂り続け、収まる気配が無く。

 射精感がむくむくと湧き上がってくる。

 

「あっ! あっ! あっ!――い、いいじゃ、ないかっ!

 あぅっ! あんっ! あっ! ああっ!――お前も、イけばっ――あぁああっ!」

 

「し、しかし――」

 

「だい、じょうぶっ――あっあっあっあっあっ!――私、もっ――あっああっあぁああっ!

 私も、また、イキ、そうっ――あっあっあぅっあぁっあああっ!」

 

 美咲さんの表情が蕩けていく。

 目尻が下がり、口は大きく開けられた。

 手がベッドのシーツを強く握りしめる。

 恍惚に浸っているのだ。

 つい先ほどイったばかりだというのに、もう再度の絶頂へ到達してしまうらしい。

 

 だが、私にとっては渡りに船だった。

 どうにも、男が一人でイクというのは、寂しいものがある。

 相手が美咲さんであれば、なおさらだ。

 一緒にイケるなら、それに勝る幸福は無い。

 

「――イキ、ます!

 イキますよ、美咲さん!」

 

「ああ――あっ! あうっ! あっ! あんっ!――き、来てっ!

 私、もう、イッちゃう、からっ――あ、ああっ! あ、あ、あっ!――早く、来てっ!!」

 

 腰のグラインドをどんどん速くしていく。

 もう、美咲さんの心配をする余裕は無かった。

 申し訳ないが、自分のことで、手一杯――!

 

 愛液でぬるぬるになった膣が絡みつく、締め付ける、搾り上げる!

 一刻も早く私の精液が欲しいとばかりに、イチモツを扱いてくる!

 

「あっあっあっあっあっあっ!!

 イクっ! あっあっあっあっ! 私、イクっ!! あっあっあっあっあっ!!」

 

 美咲さんが淫らに喘ぐ。

 腰を振る度に豊かな胸が揺れる、愛液が飛び散る。

 肉と肉がぶつかる音が、部屋に響く。

 

 ――限界、だ!

 

「い、イク――っ!!」

 

「あっあっあっあっあっあっ!!

 あぁぁああああああああああああああああっ!!!!」

 

 彼女が絶頂するのと、私が射精するのは、同時であった。

 美咲さんの脚がピンと伸びる。

 身体が固まり、直後に痙攣が起きる。

 

「――あっ!――あっ!――あっ!――あっ!」

 

 イった余韻で、さらに悶える美咲さん。

 それに合わせて膣肉も締まり――おおおおおっ!?

 

 締まるっ!

 搾ってくる!!

 まだ精子が足りないとでも言うのか!?

 凄まじい絞めつけだ!

 

「――うあっ!?」

 

 出るっ!

 精液が、止まらないっ!!

 体の奥から、吸い上げられるようにっ!!

 一回の射精で、こんな量、出したことないぞっ!?

 

「――あっ!――あっ!――熱、いっ――こんな、こんなにっ――

 ――いっぱい、いっぱい、入ってきて――奥、当たってっ!――あっ!!――あっ!!!」

 

 彼女の喘ぎが、また大きくなってくる。

 精子の奔流で膣内を叩かれ、気持ち良くなっているのだろう。

 ――そして。

 

「あっ!――あっ!――ああぁあああああっ!!?」

 

 精液を注ぎ込まれる快感で。

 美咲さんは、三度めの絶頂へと達するのだった。

 

 

 

「はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……はぁーっ……」

 

 精も根も尽き果てた様子で、美咲さんはベッドに横たわっていた。

 私はそんな彼女に添い寝している。

 

「――誠一」

 

 不意に、彼女が呼びかけてきた。

 

「なんです?」

 

「もうちょっと――こっちに、顔、寄せろ」

 

「? はい、分かりました」

 

 言う通り、身体を密着させるまで、彼女に近寄る。

 すると美咲さんは――

 

「――んっ」

 

 ――私を、ぎゅっと抱き締めてきた。

 裸同士での触れ合い。

 大きな胸が、締まったお腹が、むっちりとした太ももが。

 私に押し付けられる。

 

 柔らかい。

 暖かい。

 何より、心地良い。

 

「幸せ、だ。

 ようやく――お前と、愛し合えた」

 

「――美咲さん」

 

 私の顔をじっと見つめてくる。

 彼女は腕に力を込めると、

 

「今夜は――ずっと、こうしていて、いいか?」

 

「勿論ですよ」

 

 断る理由が無かった。

 あわよくば二回戦を――という考えが無いわけでも無かったが。

 そんなことより、彼女を長く感じていたかった。

 

「――誠一、愛してる」

 

「私もです――美咲さん」

 

 改めて、愛を告白し合う。

 自然と、顔が綻んだ。

 美咲さんも、同じだった。

 

 

 

 ――この日。

 私達は朝まで、抱き合いながら眠っていた。

 

 

 

 第二十六話 完



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世界設定
人物紹介(ネタバレ有り)※


※第二十六話までのネタバレを多く含んでいます。
 先に本編を読まれますことを強く推奨いたします。

※項目は順次追加していく予定です。


 かつて、この世界は魔王の脅威に曝されていた。

 人々は魔王に従う魔族や魔物に怯える生活を強いられる。

 

 しかし遡ること7年前。

 異世界より召喚された勇者ミサキ・キョウヤ(境谷美咲)と、彼女の下へ終結した4人の勇者――通称、五勇者が魔王討伐に立ち上がった。

 この世界における神――六龍を支配する魔王との戦いは熾烈を極めたものの、龍を魔王から解放し、彼らから力を借りることにより、とうとう魔王に打ち勝つ。

 魔王が斃れたことで、それに率いられていた魔族との戦争も集結し、世界には平穏が訪れた。

 美咲以外の4人は世界の復興のため各地へ渡り、そして彼女は一人、表舞台から姿を消した。

 魔王と相打ちになったのだとも、元の世界に帰っていったのだとも伝えられている。

 人々は勇者達へ感謝し、彼らがもたらした平和を享受していった。

 

 めでたし、めでたし。

 

 

 

 ――では、終わらない。

 全ては偽りだ。

 勇者達は負けたのである。

 魔王に、ではない。

 魔王を影から操っていた存在――六龍(・・)に、だ。

 全ては、龍達が企てていたことであり、魔王は傀儡に過ぎなかった。

 4人の勇者は龍の手に堕ち、美咲は地球へと追放される(・・・・・)

 

 この世界は何も変わっていない。

 ただ、支配の形態が変わっただけだったのだ。

 

 

 

 だが、しかし。

 勇者は諦めなかった。

 魔王をも凌駕する力を持つに至った彼女は、地球で六龍へ反撃する機会を待ち続けた。

 

 そして、今。

 一人の男が、この世界に降り立った。

 彼こそが、“勇者”境谷美咲が送り込んだ、勇者と龍への刺客。

 ――“勇者代理”、黒田誠一である。

 

 

 

 

 

 

 

 

■黒田誠一

 年齢:26歳

 身長:179cm 体重:75kg

 種族:人 職業:<魔法使い>

 

 主人公にして語り手。

 黒髪黒目で、実に日本人らしい容貌の持ち主。

 勇者ミサキ・キョウヤ見出された、勇者代理にして他の勇者達への刺客。

 

 1年前にウィンガストへ送り出されてからは、戦いへの準備をしつつ潜伏していた。

 <射出>を応用した絶技“射式格闘術”、そしてミサキ・キョウヤの編み出した奥義“爆縮雷光”“風迅”を駆使する。

 さらに、覚えた(ルーチン化した)動作は100%成功させるという強力な特性:社畜と、それを最大限に利用した“勇者殺し”の技能まで併せ持つ。

 対勇者に限ればずば抜けた戦闘能力を発揮する一方、初見の行為はほぼ間違いなく失敗するという欠点もある。

 総力戦の末、赤龍ゲブラーを倒し、彼の標的は残り3人となった。

 

 なお、どうしようも無い変態というのは、擬態でも何でもなくこの男の本性。

 ヤれそうな女を見れば、相手にどんな事情があろうとも一切の躊躇なく手を出す。

 しかし一応、性関連の事柄から離れさえすれば、かなり誠実かつ真っ当な人物でもある。

 

 

■境谷美咲

 

【挿絵表示】

 

 年齢:23歳

 身長:169cm スリーサイズ:B88・W56・H85

 種族:人 職業:勇者

 

 魔王を倒すため、魔王によって召喚された“勇者”。

 生まれついての天才であり、六龍界に召喚されてからもその天才性をいかんなく発揮。

 冒険者という“システム”を開発し、魔法や武技などの“技”を<スキル>として統一させた。

 本人も魔王を上回る程に力を備えるという、万能っぷり。

 最終的には六龍の罠に嵌り地球へと追放されてしまったものの、その際に魔王の息子“室坂陽葵”の身柄を賭けた勝負を取り付けることに成功。

 自分自身では手が出せないため黒田誠一を代理とし、勇者への刺客へ育て上げた。

 

 黒田とは恋人関係。

 表面上は黒田がかなり熱を上げている状態だが、実のところ彼女も心から彼を愛している。

 つまりラブラブカップルである。

 なのに黒田は他の女にも平気で手を出す始末。

 あらゆる方面に完璧な美咲も、唯一男の趣味だけは悪かった。

 

 一見冷徹な性格に見えて、その実、近しい相手を見捨てることができないお人好し。

 彼女が魔王を助けようとしている根本的な理由はここにある。

 

 

■リア・ヴィーナ

 年齢:18歳

 身長:157cm スリーサイズ:B84・W56・H83

 種族:魔族 職業:肉便器(黒田専用)

 

 ウェイトレスとは仮の姿、その正体は魔王の息子“室坂陽葵”を護衛するため派遣された魔族である。

 魔族の中でもかなりの力を持ったエリート――なのだが。

 如何せん、勇者達の戦いに割って入るにはまだ力不足が否めない。

 現在は、陽葵を青龍ケセドに会わせるため、<次元迷宮>を踏破中。

 

 魔族は個人個人でその精神に何らかの“歪み”を持っているのだが、彼女の場合は『極度の被虐趣向』として現れた。

 それをいい様に利用され、ゲルマンやセドリックに散々身体を弄ばれた挙句、今は黒田の肉便器として扱われている。

 こう書くと凄まじい転落人生だが、本人は割と幸せな模様。

 ……美咲によるリハビリ計画の早急な実行が待たれる。

 

 性格は勝気――だったのだが、肉便器となった今は快楽に対してやたら素直になった。

 

 

■ローラ・リヴェリ

 年齢:25歳

 身長:159cm スリーサイズ:B90・W58・H87

 種族:人 職業:薬師→<錬金術師>

 

 過去、セドリックによって凄絶な調教を受けていた。

 薬によって自我が完全に消去される一歩手前まで追い詰められたものの、ギリギリのところでセドリックが改心。

 日常生活が送れるようにはなったものの、その直後に夫を亡くしたことで堕落。

 一日中男に抱かれ続ける生活を送るようになる。

 黒田との出会いによりそこからは立ち直るものの、薬の後遺症は治らず、男の求めに抗えない身体になってしまう。

 ただ、そんな状態でも黒田への想いは本物。

 

 美咲の発破により心はさらに回復を見せ、調教前の精神状態に戻りつつある。

 その結果、最大の恋敵である美咲にやたらと突っかかるようになったが、本気に彼女を嫌っているわけではない――はず。

 元々は、相当芯が強い性格であった模様。

 

 現在は陽葵をサポートするため、彼の救護係として黒田と共に<次元迷宮>へ潜る日々を送っている。

 

 

■エレナ・グランディ

 

【挿絵表示】

 

 年齢:20歳

 身長:150cm スリーサイズ:B81・W52・H81

 種族:人 職業:<魔法使い>

 

 実は、地球に居る美咲からの<思考転送>を受け、彼女の指示で動いていた。

 といっても、基本的には美咲へ身体を貸すだけで、エレナ自身があれこれ動いたことはほとんどない。

 

 黒田については美咲から(惚気混じりで)話を聞いて気になり出し、会ってみたらドストライクだったのでそのままモーションをかけた。

 この辺り、美咲と波長が合うということの片鱗が垣間見える。

 

 美咲が六龍界へ来れた今、自分はお役御免と一足早く黒田との愛人生活を楽しむ気満々。

 勇者? 六龍? 何それ、美味しいの?状態である。

 ……一応、世界の危機に対する危機感らしきものは抱いている。

 

 

■室坂陽葵

 年齢:15歳

 身長:164cm スリーサイズ:B72・W51・H85

 種族:人? 職業:<勇者>

 

 魔王の息子。

 絶世の美女である魔王とよく似た美貌の持ち主だが、娘ではない。

 

 元々は魔王の“スペア”として六龍が魔王に産ませた(・・・・)存在。

 しかし六龍の思惑に反し魔王は陽葵を息子として本気で愛してしまった。

 魔王は陽葵の身を案じ、地球に送り出してそちらで生活させていたのである。

 (この辺り、六龍達も地球の方が大事なスペアが安全に暮らせるだろうと考えていた)

 

 だが結局、美咲と六龍との戦いに巻き込まれる形で六龍界へ帰還することになった。

 五勇者の戦いの“景品”として扱われるが、当然本人の意向など無視。

 現在の所、六龍の“器”になる未来がほぼ確定しているため、近い将来“室坂陽葵”という人格は消滅することになる。

 一縷の望みに賭け、自分の“父親”である青龍ケセドと会いに、<次元迷宮>の探索へ赴く。

 

 女なのは外見だけで、基本的に趣向は男なのだが――どうにも敏感体質。

 胸や尻を触られると、すぐに気持ち良くなってしまう。

 そんな体質を黒田に気付かれ、六龍界に来て早々に処女を卒業するはめになる。

 その後も幾度となく抱かれ続け、今ではメスイキすることへの抵抗が大分薄まってきてしまった。

 幾人もの男(や魔物)に犯されているが、一番気持ちいいのは黒田、らしい。

 

 

■アンナ・セレンソン

 年齢:28歳

 身長:146cm スリーサイズ:B75・W54・H80

 種族:獣人(猫) 職業:<商人>

 

 一代でセレンソン商会を大陸規模にまで発展させた天才商人にして、美咲の仲間。

 勇者と魔王の戦いの真実を知る、数少ない一人。

 美咲の掲げる六龍打倒に賛同し、彼女が居ない間様々な準備に奔走していた。

 黒田に目をかけていたのも、これが理由である。

 

 在庫一斉処分の覚悟で店のアイテムをつぎ込み、とうとう赤龍ゲブラー撃破に成功。

 しかしそのせいで店の経営状態がかなりアレな感じになってしまい、目の前が暗い状態。

 現在は次の戦いに備えつつ、商会を立て直すために奮闘している。

 

 大分あっぱらぱーな性格ではあるものの、仁義は守る。

 そのため、なんだかんだ言って美咲や黒田からの信頼は篤い。

 しかしその言動に辟易されることも多い。

 

 

■ボーレンクイロン・ヴァキャ・アンラマウェンスタ・ヴィーマゲウォン

 年齢:31歳

 身長:345cm 体重:204kg

 種族:巨人 職業:武器屋の主人

 

 通称、“ボーさん”

 ウィンガストで武器屋を営む巨人族の男性。

 店では、武器の売買だけでなく、鍛冶も請け負っており、店に並ぶ武器の半分以上は彼が鍛えた物。

 腕の良い鍛冶師として知られており、別の街から彼の武器を求めて店を訪ねる人もいる程。

 ただ、武器屋を経営する商才には欠けるようで、店は余り儲かっていない。

 

 主人公も彼の店はよく利用しており、武器防具の購入や修理をしたい場合はまず彼のもとを訪れる。

 ボーさんも生来人に頼られるのが好きな性質であるため、主人公から相談があればなんだかんだで乗ってくれる。

 

 なお、顔が良ければ男だってOKの模様。

 あと巨人族の中ではイチモツが貧相らしい。

 

 

■ゲルマン・デュナン

 年齢:42歳

 身長:186cm 体重:95kg

 種族:人 職業:店長兼料理人

 

 黒の焔亭の店長とコックを兼任している男性。

 元傭兵で、筋肉ムキムキのマッチョマンである。

 頭は禿げているが、これは料理に髪の毛が入らないよう剃っているんだ――とは本人の弁。

 強面ながらも面倒見が良い性格のため、店の従業員や友人達からは頼られている。

 料理の腕も高く評価されており、ウィンガストの美味いお店と言えば黒の焔亭を挙げる人も多い。

 

 しかし、淫乱な素質のある女を肉便器に仕立てることを、ライフワークにしている下衆でもある。

 黒の焔亭のウェイトレスは、全員彼の手によって堕とされてしまっている。

 一応、素質の無い女には手を出さないようにしているが、素質があると見るや恋人がいようが夫がいようがお構いなし。

 リアへ手を出すことに制限をかけたのは、ひとえに黒田への友情あってこそなのだ。

 現在はミーシャを肉便器にするべく画策している。

 

 

■セドリック・ジェラード

 年齢:56歳

 身長:168cm 体重:85kg

 種族:人 職業:資産家

 

 元々は別の街で大きな商会を運営していた、やや恰幅の良い壮年の男。

 今では商会の経営を後任に譲り、ウィンガストで隠居生活をしている。

 ウィンガストでも一二を争う大金持ちなのだが、それを鼻にかけることはしない、出来た人物――なのだが。

 

 その実、妻に逃げられた腹いせに、数多くの女性を肉便器へ堕としてきた外道。

 ローラもその毒牙にかかり、徹底的に嬲られることになった。

 しかし自我が崩壊しても夫への愛を捨てなかった彼女を見て、考えを改める。

 その後は、ローラが幸せになることへ己の全てを捧げるようになった。

 

 但し今でも、特定の相手が居ない女性は、隙あれば肉便器へ堕とそうとしてしまう困った人。

 

 

■ジャン・フェルグソン

 年齢:18歳

 身長:176cm 体重:65kg

 種族:人 職業:<盗賊>

 

 エレナとパーティーを組む駆け出し男冒険者で、彼女とは幼馴染。

 仲間想いで兄貴肌の人物で、何故か主人公のことを冒険者として尊敬している。

 エレナからは一人の男性としても想われていたりするのだが、それを知ってか知らずか、彼女からのお誘いをスルーし続け――

 痺れを切らしたエレナは、黒田の愛人になってしまった。

 ただ、それに関しても妹分と尊敬する人物がくっついたとして、素直に祝福していたりする。

 

 ただ、女に対して興味が無いというわけでもなく、相応の助平心も持ち合わせている。

 お気に入りは陽葵であり、彼の尻穴で童貞を卒業(?)した。

 

 

■コナー・エアトン

 年齢:17歳

 身長:180cm 体重:79kg

 種族:人 職業:<聖騎士>

 

 エレナとパーティーを組む、駆け出し冒険者で、やはり彼女とは幼馴染。

 ジャンとは昔から一緒に行動していた腐れ縁。

 ジャンが主人公の信者であることから、主人公のことは話でよく聞かされている。

 彼もまたエレナから好意を持たれているのだが、ジャンとの三角関係になることを恐れているのか、彼女の想いに応えるような行動を起こしていない。

 

 他にも複数の女性から言い寄られているのだが、まるで浮ついた気配が無い。

 その事実が意味するものは――?

 

 

■ジェラルド・ヘノヴェス

 年齢:77歳

 身長:153cm 体重:44kg

 種族:魔族 職業:冒険者ギルド長

 

 冒険者ギルドのギルド長を務める老人だが、その正体は魔族。

 人間の動向を探るため、そしていずれ来る“魔王の息子”陽葵を迅速に保護するため、ウィンガストに潜入していた。

 ただ、根が真面目なためギルド長としての職務もしっかりとこなしている。

 

 美咲の目的に“魔王を助ける”ことも含まれていたため、黒田らと手を組むことを決意。

 戦線に出てこないながらも、様々な支援や後始末を行っている。

 

 なお、彼の持つ魔族としての“歪み”は『魔王への絶対的な献身』。

 “歪み”としてはかなりまともな部類ではあるものの、魔王を救うためならばあらゆるものを犠牲にしかねない。

 それが、保護対象である陽葵であっても。

 

 

■アーニー・キーン

 年齢:27歳

 身長:181cm 体重:80kg

 種族:人 職業:<侍>

 

 通称:兄貴。

 いかつい顔つきの、危険な香りを漂わせる男。

 退屈しのぎに女をレイプしようとするような無法者だが、一方で仲間や認めた相手に対しては義理堅い一面も。

 Bランク冒険者の中でも上位の実力を持ち、黒田でも“射式格闘術”なしでアーニーと戦うのは相当の危険を伴う。

 

 エレナを襲おうとした件で黒田と知り合い、その後の決闘で彼に敗北。

 黒田と心行くまで死合いをしたいという目的で、黒田に関わり出す。

 デュストに惨敗後、黒田達と協力し赤龍ゲプラーへのリベンジを成し遂げた。

 現在は標的を勇者に定め、動いている。

 

 

■サン・シータ

 年齢:24歳

 身長:178cm 体重:70kg

 種族:人 職業:<暗殺士>

 

 通称:三下。

 アーニーとパーティーを組む冒険者で、意外にも実力はある。

 口を開けばどうでもいい妄言を垂れ流す、ある意味でアンナの同類。

 女に対しては割と見境が無く、良さげな相手を見つければ無理やりの行為も辞さないが、本人のキャラのせいでヒール役になりきれない。

 アーニー同様、気に入った相手に対しては親身になる面も持つ。

 

 黒田を“旦那”と呼んで親し気に接してくるが、黒田本人からはちょっと厄介がられている。

 ミーシャを想いを寄せているものの、別に一途というわけではなく、他の女性にもちょっかいを出したり。

 また、ボクッ子に対して並々ならぬ熱意がある。

 

 

■ミーシャ・メイヤー

 年齢:23歳

 身長:151cm スリーサイズ:B75・W52・H77

 種族:人 職業:<僧侶>

 

 アーニーや三下とパーティーを組む冒険者。

 短く切り揃えた銀髪を持つ、クールな美少女。

 ……本来、“美女”と呼ばれるべき年齢なのだが、背が低い上にスレンダーな体型のため、少女にしか見えない。

 

 大量の触手による凌辱を受けるも、黒田の協力を得たアーニー達によって救出される。

 三下からの好意に満更では無いものの、救出のお礼として黒田に抱かれ、彼の徹底した責めに屈服してしまった。

 黒田へ想いを寄せだすも、今度はゲルマンに目を付けられ、彼の味を覚え込まされてしまう。

 その後、黒の焔亭で働き出すことになるのだが――

 

 

■柿村浩太

 年齢:24歳

 身長:178cm 体重:75kg

 職業:<魔剣士>

 

 東京からウィンガストへと来た男性で、主人公の学生時代の後輩。

 軽い言動とチャラい外見から誤解されがちだが、なかなか芯の通った好青年。

 学生時代にも、ウィンガストの冒険者としても先輩である主人公の事は大いにリスペクトしている。

 彼も黒の焔亭の常連であり、リアに恋心を抱く。

 ……果たして、彼が再登場することはあるのだろうか?

 

 

 



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第二十七話 それぞれの思惑
① 意外な来訪者


 

 

「さあ皆さん。

 これから六龍と如何に戦っていくか、お話合いいたしましょう?」

 

 セレンソン商会の一室。

 対勇者の関係者が集まったここで、その“女性”は高らかに会議の始まりを宣言した。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 それに対して誰も返事できないでいると、

 

「どうなさいました?

 今後を決める、大事な会議ですのよ?

 もう少し、“やる気”を出していきませんと」

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 皆、無言。

 ただその“女性”を凝視している。

 

「――だんまり、ですか。

 この覇気の無さはどうしたことです。

 そんな調子では、勇者、引いては六龍と戦っていけませんよ?」

 

「…………おい」

 

 見かねて――いや、我慢できなくなって、か?――美咲さんが口を開く。

 

「どうしてお前がここにいる、エゼルミア(・・・・・)

 

「勇者が悪の龍を倒そうとするのは当然でございましょう、ミサキさん」

 

 睨む美咲さんに対し、にっこりと笑いかける長い銀の髪を持つ美しいエルフ――即ち、“全能”のエゼルミア。

 

 そう。

 残りの勇者との戦いを話し合う場に、当の勇者(エゼルミア)本人がさも当然のように姿を現していたのだ。

 全員が全員――美咲さんでさえ、余りのことに言葉が出せなかった。

 

「……おい、誠一。

 獲物が現れたぞ。

 狩る準備をしろ」

 

「あ、はい」

 

 美咲さんに言われるまま、とりあえずいつもの籠手と脚鎧を装着する。

 そんな私を見て、エゼルミアさんは(実にワザとらしく)慌て、

 

「いけませんわ、クロダさん。

 ふふ、ふふふふ、か弱い女性を虐めるような真似をしては。

 ワタクシ、困ってしまいます」

 

「――まったく困ったように見えないのですが」

 

 慎重にエゼルミアの動向を伺う。

 相手は現存する全てのスキルを身に付けた勇者だ。

 こちらの想像を超えた一手を打ってくる可能性がある。

 

「ふふふ、ふふ、そんな怖い顔しないで下さいまし。

 ワタクシ、アナタ方の味方となりに来ましたのよ?」

 

「それを信じろと言いますか?」

 

「ええ、信じて頂きたいものです。

 何しろ――今のワタクシには龍が憑いておりませんから」

 

 この女性、いきなりとんでもないことを言いだした。

 

「ほ、本当ですか?」

 

「騙されるな、誠一。

 口八丁言ってるだけだろう。

 何しろ、我々にはその真偽を確かめる術がないことを、この女は知っているのだから」

 

 美咲さんが釘を刺してくる。

 彼女の言う通り、人の中に隠れた龍の存在をこちらから確認する技術を私達は保有していなかった。

 龍が力を顕現すれば話は別だが。

 

「そう疑わないで下さいな。

 ワタクシ、龍から見捨てられてしまいましたの」

 

「み、見捨てられた、ですか?」

 

 どういうことだろうか。

 

「クロダさん、アナタの力はデュストとの戦いで龍に知られることとなりました。

 “爆縮雷光”と“風迅”、“勇者殺し”に“疾風迅雷”――そして、ケセドの“契約文字”。

 それは龍達に脅威を覚えさせるに十分なものでした。

 そして、私に憑りついていた龍――白竜ケテルは判断しましたの。

 ワタクシでは、クロダさんに決して勝つことができない、と」

 

「……そうでしょうか?」

 

「謙遜なさらないで下さい。

 ワタクシは全てのスキルを修めておりますが、スキルなど結局のところ発動できなければ無意味。

 クロダさんは<射出>を驚異的な熟練度に高めておりますから、ワタクシが何かするよりも先にアナタは動けるのです。

 そんな、ただでさえ相性が悪いところへ、“勇者殺し”などという技能まで習得されてしまいましては。

 ワタクシに勝ち目なしとケテルが考えるのも、無理はありません」

 

 ……まあ、間違いではない。

 そもそも私が<射出>の熟練度を徹底的に上げたのは、エゼルミア対策という一面もあったのだ。

 熟練度が高ければ高い程、スキルの発動は早くなる。

 つまり、熟練度100である彼女のスキルは、熟練度524である私の<射出>より必ず発動が遅くなるのだ。

 

 全能を謳われるエゼルミアが“何の対策も立てないまま”“真っ向から”挑んでくるというのであれば、勝つのは私だろう。

 ――そんなこと、まずありえない話なのだが。

 

「晴れて自由の身になったワタクシは、今まで龍に操られていた己を恥じながらも、僅かばかりであろうとアナタ方の力になろうと、こうして馳せ参じたわけです。

 ふふ、ふふふふふ、納得して頂けましたでしょうか」

 

「いや、まったく」

 

 美咲さんがにべもなく切り捨てる。

 

「色々つっこみどころ満載だが。

 だいたい、本当に見捨てられたのなら、奴がお前を無事に(・・・)解放するはずが無いだろう」

 

「ふふふふ、そうかもしれませんわね?」

 

「……いい加減にしろよ、エゼルミア」

 

「そんなに睨まないで下さいな。

 そもそも、ワタクシがあれこれ説明せずとも、キョウヤさんは察しはついているのでしょう?

 何故、ワタクシから龍が離れたか」

 

「……ケセドの“契約文字”か」

 

「ふふふ、その通りですわ」

 

 あっさりと認めるエゼルミア。

 ……なるほど、つまり彼女が私達の側へ来たのは。

 

「ケセドから貰った“契約文字”――魔素を浄化する力をご所望ですか」

 

「あらあら、いきなり核心をついてはいけませんわよ、クロダさん。

 こういうことは、もっともったいぶらなくては」

 

「こっちはお前と延々問答するつもりは無いんだ」

 

 曖昧な返答をするエゼルミアに、美咲さんは苛立ちを隠さない。

 と、そこへ。

 

「あー、すまんのぅ。

 どうにも、話が見えないのじゃが」

 

 同席していた冒険者ギルド長のジェラルドさんが口を開いた。

 確かに、今の会話では事情が分かりづらいか。

 もう一人の出席者――事情を全て把握しているアンナさんでさえ、どうにも話についていけてない気配を漂わせている位だ。

 私が説明をしようとするのを制して、美咲さんが語り始める。

 

「まず、エゼルミアとデュストは根本的に立ち位置が違う。

 デュストはゲブラーと対立していたが、エゼルミアはケテルと半ば“同志”のような関係になっていた」

 

「んなっ!?

 勇者は龍に操られているわけではなかったのか!?」

 

 ジェラルドさんが絶句した。

 

「全員がそうという訳ではないということだ。

 エゼルミアが魔族を排除しようとしていることは知っているな?

 一方でケテルは“魔素をこの世界から完全に取り除く”ために動いている。

 つまり、こいつらは目的がある程度一致しているのさ」

 

「規模が大分違いますけれどもね。

 ワタクシはただ魔族を絶滅させたいだけですが、ケテルはこの世界のあらゆる“魔素に汚染された存在”を消そうとしていますわ。

 魔族は勿論のこと、魔素から齎された力を扱う人間も、果ては魔素で歪んだ他の(・・)六龍すら」

 

 エゼルミアが自ら補足する。

 魔素の力によって生活が成り立っているこの世界において、魔素の完全な排除は社会の崩壊を意味する。

 大部分の人間も“消される”上に、残った人々も生きていけるかどうか。

 ケテルの目的は六龍の中で最も危険なものと言えるだろう。

 

「一番の問題は自身に匹敵する力を持つ他の六龍でした。

 当初の目論見では、五勇者の戦いに勝利し六龍を束ね、その権限を持って自分以外の(・・・・・)六龍を消し去ろうとしていたのですが。

 そんなことをせずとも六龍を抹消できる方法が提示されてしまいましたのよ」

 

「ケセドの“契約”によって六龍が浄化できるのであれば、五勇者の戦いに乗る必要も無いということか」

 

 美咲さんの確認に、エゼルミアは首を横に振った。

 

「いえ。

 五勇者の戦いも続行するようでしたわよ。

 2つ手段があるのならば、両方とも実行した方が確実だろうというだけのことですわ。

 今頃、ネツァクかティファレトと――まあ、おそらくネツァクでしょうけれど――“交渉”していることでしょう」

 

「そしてお前は奴の“同志”として、ケセドの契約文字を奪いに来たか?」

 

「まさか。

 ワタクシが何かをしなくても、クロダさんは龍を“浄化”していくわけですから。

 ワタクシはただ、クロダさんが滞りなく仕事ができますよう、サポートしたいだけですわ」

 

「真っ先にケテルが浄化されるかもしれんぞ」

 

「そこはそれ。

 ケテルはケテルで上手くやることでしょう。

 そこまで面倒を見てあげるつもりはありませんわ」

 

「……ふむ」

 

 そこで、美咲さんとエゼルミアとのやり取りが一段落したようだ。

 

「――勇者も六龍も、一枚岩ではないということかのぅ」

 

 説明を聞いていたジェラルドさんが、納得したように言葉を零す。

 彼の言うように、六龍はそれぞれの思惑で動いており、彼らの中で仲間意識は決して高くない。

 ケセドは龍を倒す手段を私に与えたし、ケテルのように同族を殺そうと考えている奴もいる。

 ――だからこそ、つけ込む隙もあるわけだが。

 

 そして残念なことに、勇者もまたただ操られているだけではないのだ。

 デュストは反撃を企てていたが、一方でエゼルミアは龍と協調していた。

 

「そういうわけですので、ワタクシがアナタ方の味方になることを信じて貰えましたかしら?」

 

「お前の方にメリットがあるのは分かった。

 だが、私側にお前を受け入れるメリットが無いぞ。

 知っての通り、誠一はお前達を倒すに十分な力を備えている。

 その上、今は私も居る。

 今更、助力が必要だと思うか?」

 

「ふふふ、ふふ。

 ミサキさんらしくありませんわ、分かりきった問いをするなんて。

 仮に(・・)クロダさんは勇者に必ず勝てるとしても、相手はそうそう真向勝負を仕掛けてきますでしょうか?

 人質をとってもいいですし、暗殺をしたっていい。

 毎日食べるお料理一つ一つに毒が入っていないか確認するのは大変ですし、奇襲を警戒して夜眠れずに過ごすのも辛いですわよ?」

 

「……まあ、それを一番やりそうな(・・・・・・・・・・)お前の動向が、傍で確認できるというのは安心といえば安心か」

 

「分かって頂けて嬉しいですわ!」

 

 え?

 いや、そういう納得の仕方でいいんですか?

 

「あの、美咲さん?

 流石にこの流れでエゼルミアさんを味方に引き入れるというのは――」

 

「ふふ、ふふふふ――不安ですか?」

 

「――率直に申し上げて、かなり」

 

 エゼルミアが私達に協力する必然性は理解できたが、だからといって信用できるかどうかは別問題だ。

 美しい女性を疑うのはポリシーに反するものの、これは仕方が無いのでなかろうか。

 

「ふふ、ふふふ、そう仰ると思いました。

 でも、“この提案”を聞けば首を縦に振って下さると信じていますわ」

 

「……?」

 

 そんな前置きをして、エゼルミアが語った内容は――

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 打合せは(信じられないことに)滞りなく終わり。

 私達は商会を後にしようとしたのだが。

 

「ふーーっふっふっふ。

 会議は終わったようですねー?」

 

 店の出口で、エゼルミアと同じ五勇者の一人である、イネス・シピトリアが不敵な顔で待ち受けていた。

 

「ああ、葵さん。

 こんにちは」

 

「はい、こんにちは♪

 ご無沙汰しておりました、誠ちゃん♪

 入院中にお見舞いへ行けず、ごめんなさいです。

 本当は一日中看病したかったんですけど、細かい雑務が色々降ってきちゃいまして!

 許して下さいとは言いません。

 お詫びに、これからずっと誠ちゃんの隣で過ごすことを誓――――うべらっ!?」

 

「いきなり現れて何を口走っているんだ阿呆女」

 

 私に抱き着きつこうとしてきたイネス、もとい葵さんを、足蹴にする美咲さん。

 む、むう、残念。

 もう少しで葵さんの感触を味わえると思ったのに。

 

 彼女の肢体もまたきっちり出るとこ出ていて、非常に男好きしそうな形に整っている。

 美咲さんの身体を芸術的に美しいと表現するなら、葵さんの身体はただひたすらエロを追求したと表現していい。

 これは別に、どちらかを称賛しているのではない。

 皆違って、皆良い。

 それでいいじゃないか。

 

「おい、誠一」

 

「はい?」

 

「今、変なことを考えなかったか?」

 

「い、いいえ! そんなことは決して!!」

 

「――そうか」

 

 美咲さん、鋭すぎやしないだろうか。

 それとも、私が分かりやすすぎるのか。

 

「ちょ、ちょっと!

 何すんですか、この暴力女!?」

 

 起き上がった葵さんが、美咲さんに抗議するも。

 

「何するも何も、お前は敵だろう。

 敵なら倒さなければ」

 

「だからっていきなり女の子の顔を蹴ります!?」

 

「“女の子”なんて言える年齢じゃないだろ。

 私より年上の癖に」

 

 まあ、葵さんは私と同い年のはずなので、美咲さんよりは年長か。

 

「あーっ!!?

 言いましたね!!?

 女の子に一番言っちゃいけないNGワードを言っちゃいましたね!?

 デリカシー無いにも程がありますよ!!」

 

「女が女に言う分には問題ない」

 

「そんなわけないでしょ!?

 だから友達いないんですよ、このボッチ!!」

 

「友人ならたくさんいるぞ。

 “私達、友達だったはずだよね”と何度も言われたことあるからな」

 

「うわ、なんか普通にかわいそう」

 

 ……どことなく、仲が良さそうだな、この2人。

 

「っていうか、何か反応薄くありません?

 仇敵であるアタシがいきなりの登場ですよ?

 誠ちゃんが普通に対応してくれるのは嬉しいからいいとして、アナタはもっと慌てふためいてくれないと」

 

「いや、だってエゼルミアが来た後だったからなぁ」

 

「え」

 

「――あらあら、イネスさん、ごきげんよう」

 

 さらっと会話にまざるエゼルミアさん(一応味方側なので、敬称を付けることにした)。

 先程まで少し後ろに居たせいか、葵さんは彼女の存在に気付いていなかったようだ。

 

「な、なななな、なんでアナタがここに!?」

 

「一身上の都合でミサキさんの味方をすることにしたのです」

 

「えぇええええ――」

 

 口をあんぐりと開ける葵さん。

 いや、勇者達で話し合ってなかったのか、その辺のこと。

 もう少し仲間意識というか、コンビネーションというかを、しっかりした方がいいのでは。

 

 ……いや、そうすると私達が苦しくなるので、これくらい杜撰な方がありがたいのか。

 

「で、お前は何のために来たんだ。

 今からここで“()り合う”のか?」

 

「誠ちゃんと“ヤり合う”のは本懐ではあるんですけど――」

 

 気のせいか、2人で単語の意味するところが大分違う気がする。

 

「――今日来たのは、残念ながら別の用件でして」

 

「2匹の龍の力を手に入れたから、自慢しに来たのですね?」

 

 エゼルミアさんが途中で遮る。

 

「あー、アタシが言おうとしてた台詞だったのに!?」

 

「ワタクシがここに居る時点で、バレていそうなものだとおもわなかったのですか?」

 

「ううぅぅ……」

 

 その指摘に、葵さんががっくり肩を落とす。

 要するに、エゼルミアさんに憑いていた白龍ケテルは、葵さんに鞍替えしたということか。

 

「…………」

 

 ――ほんの一瞬だけ、美咲さんの顔が痛ましそうに歪む。

 

「ま、まあとにかくそういう訳で、アタシはパワーアップしたんです。

 キョウヤ、もうアナタなんかに負けません!

 かつてアナタに受けた屈辱、100倍にして返してやりますよ!!」

 

「いや、負けるも何も今現在私は“呪縛”でお前達に手が出せないし、そもそもお前の敵は誠一だろう」

 

「アタシが誠ちゃんの敵になるわけないでしょう!?

 いえ、まあ一応、戦わなくちゃいけないわけなんですけど、そこはそれ。

 アタシの敵は過去も未来もずっとアナタだけですよ!!

 ふふん、“呪縛”があるのにこっちの世界へ来たのが運の尽き!

 簡単には殺してあげませんからね、すっごい酷い目に遭わせてあげます!

 さあ、怯えるに怯えまくるがいいのです!!

 お嫁にいけない身体にしちゃる!!」

 

「嫌われたものだなぁ」

 

 よくよく考えるとかなり危機的状況だと思うのだが、美咲さんは揺るがない――が。

 

「……んん?」

 

 美咲さんと葵さんのやり取りの最中、私はあることが気になりだした。

 

「待って下さい。

 先程、美咲さんは葵さんを思いっきり蹴り飛ばしましたよね?

 ひょっとして“呪縛”、解けているのではないですか?」

 

「あれはコミュニケーションの一環として処理されたのだろう」

 

 あっさりと返してくる美咲さん。

 だが葵さんは納得いかなかったようで。

 

「そんなコミュニケーションがあってたまりますか!?

 ――あ、いや、でもだとするとキョウヤは今アタシを攻撃できてしまう……?」

 

 先程までの自信はどこへやら。

 葵さんの顔に不安がよぎった。

 

「では試してみよう――“爆縮雷光”」

 

「「「――え?」」」

 

 その場にいた全員が同じ反応をした。

 美咲さんが、実にあっさりした動作で奥義をぶっ放しやがったのだ。

 

 彼女の掌で生まれた雷光(プラズマ)が、一直線に葵さんへと向かう。

 私が使用した時とは異なる、洗練された一条の光。

 ……悠長に解説している場合ではないか。

 

 私は咄嗟に地面に伏せ、直後に来るであろう爆発に備える。

 雷光が対象(葵さん)に接触した瞬間、当たりは光に包まれた。

 

「なぁああああっ!!?」

 

 爆風に吹き飛ばされそうになるのを、必死に堪える。

 他の人に気を配る余裕はない。

 幸い、ここに居るのは勇者関係者ばかり。

 寧ろ私が一番気を遣われてしまう立場だ。

 

「あ、葵さん!?」

 

 風が収まってすぐに立ち上がり、爆心地の方向を見て、叫ぶ。

 もうもうとした煙が晴れたそこから現れたのは――

 

「あわ、あわわわわ」

 

 かなり本気(ガチ)で怯えている、無傷な葵さんの姿だった。

 “呪縛”によるものなのか、彼女の周辺だけは爆縮雷光の影響をまるで受けていない。

 周囲の地面は、クレーターのように抉れていると言うのに。

 

 ……その大きさから察するに、美咲さんも相当手加減した(・・・・・)ようだが。

 

「い、いいいい、今、この人本気でアタシを殺そうとしましたよ!?」

 

「分かっていたことではありませんか、イネスさん。

 ミサキさんは、やるときは()るお方だと」

 

 顎をガクガク震わせる葵さんと、マイペースなエゼルミアさん。

 同じく変わらぬ口調で美咲さんが、

 

「敵なんだから、殺されて当たり前だろう。

 今更何言ってるんだ」

 

「街中でこんな技ブッパしてきたのに驚いてるんですよ!!」

 

「大丈夫だ、誰も何も傷つけていない」

 

 ……まあ、陥没した地面以外に、被害は無さそうではあった。

 

「ふ、ふふーん!

 でもでも、アナタがアタシに手が出せないことがこれで証明されましたからね!

 もう怖くもなんともないですよー、だ!!

 アタシの手で誠ちゃんがノックダウン(性的かつ恋愛的な意味で)される様を、指をくわえて見ているんですね!!」

 

「誠一とは戦えないぞ」

 

「え?」

 

 美咲さんの台詞に対し、きょとんとした声を出す葵さん。

 

「誠一は今現在、“エゼルミアと戦闘を行っている”。

 だから、他の勇者は手出しができない」

 

「ほえ?」

 

 葵さんの可愛らしい鳴き声。

 

「ど、どゆことですか?

 エゼルミアは一応そっち側に付いたって建前なのでは?」

 

「一応とか建前とか言わないで欲しいですわ。

 ワタクシは今や、美咲さんの忠実な僕です」

 

「お前に忠実な僕とか言われるとなんか嫌だな」

 

 勇者3人が顔を突き合わせて会話しだす。

 

「おかしいでしょう!?

 なんで誠ちゃんと戦闘開始してるんですか!!

 “決着”がつかない限り、戦いは終わらせられないんですよ!?

 何考えてんですか、あんたら!!」

 

「ええ。

 ですから、適当なタイミングで“負けを宣言”いたしますわ」

 

「ん、んん?」

 

 葵さんが首を傾げる。

 

「ま、負けを宣言?

 あれ、それだけでいいんでしたっけ?」

 

「“ルール”に定めているのは、何らかの(・・・・)“決着”がつくまで戦うということだけですわ」

 

「え? で、でも、負けなんてしたら六龍が――――あ」

 

「はい、死ななかったとしても、負ければ自分に憑いている六龍に制裁を貰うことでしょうね。

 ふふ、ふふふ、ワタクシは今、六龍から解放(・・・・・・)されていますから問題ありませんけれど」

 

「……お、おーぅ?」

 

 新事実が発覚し、目が点になっている葵さん。

 エゼルミアさんはニコニコしている。

 

 これが、エゼルミアさんの持ってきた“提案”だった。

 彼女と戦いを宣言しておくことで、他の勇者からの干渉を防ぐ。

 これによって私たちは時間を――陽葵さんが自力でケセドに会いに行くための時間を確保することができるのだ。

 ……私個人の有利不利ならばともかく、彼の件を引き合いに出されては協力を受けざるを得なかった。

 

 無論、これには裏がある。

 エゼルミアさんとの戦闘宣言によって得られた時間は、私達にのみ有利に働くわけでは無い。

 勇者や六龍達も、今後に備えだすはずだ――というか、エゼルミアさんの目的は正にそれだろう。

 この作戦が吉と出るか凶と出るかは、かなり怪しい。

 美咲さんも了承した以上、勝率は十分にあるはずだ、が。

 

「哀れだな。

 流石、五勇者のお笑い担当だ」

 

「そんなのガルムだけで十分ですよ!」

 

「あらあら、お二人でコンビを組んだのではなかったのですか?」

 

「お断りです!!」

 

 勇者達の会話――はたまた、掛け合い漫才か――は続いている。

 

 しかし、先程から私は全然会話に加われていない。

 知己の3人が和気藹々(?)と話しているので、なかなか間に入るのが難しいのだ。

 若干の手持無沙汰を感じ、同じく置いてきぼりを食らっている隣の人――アンナさんやジェラルドさん――に話をふろうと思ったところ、

 

「え?」

 

 振り向いた私の目に入ったのは、泣いているアンナさんだった。

 美咲さん達の方を見つめながら、瞳から大粒の涙を零している。

 

「ど、どうしました!?

 何かあったのですか!?」

 

 慌てて彼女に話しかける。

 

「にゃ……だって、だってェ……」

 

 アンナさんの震える声。

 感極まった様子で、続ける。

 

「7年前と、同じなんだにゃ……あの人達が、また、いつも通り(・・・・・)のやり取りをしてるんだにゃ……

 それ見てたら、なんか、嬉しくなっちゃって……」

 

 ……なるほど。

 アンナさんは、龍と関わる前の五勇者と親交があった。

 あの光景に、昔を思い出してしまっていたのか。

 

 ――まあ、あの3人、日常的にこんなギスギスした会話していたのか、というツッコミどころもあるわけだが。

 

「――――」

「――――」

「――――」

 

 ふと。

 気付けば、美咲さん達が話を止めていた。

 皆、神妙な顔でアンナさんを見ている。

 

「――まあ、なんだ」

 

「――空気が変わってしまいましたわね」

 

「――今日は、ここらで解散しますか」

 

 3人が3人とも、何とも言えない複雑そうな顔をしている。

 アンナさんの言葉に、それぞれが思う所あったのだろう。

 

 ……その後、葵さんとエゼルミアさんは二言三言会話してから去っていった。

 最後まで彼女達の姿を名残惜しそうに見ていたアンナさんの姿が――どこか、物悲しかった。

 

 

 

 第二十七話②へ続く



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②! 十人十色

 

 

 

「まあ、そういわけでして。

 エゼルミアさんが協力頂けることになりました」

 

「…………」

「…………」

 

 所変わって、ここはリアさんの家。

 先程まで行っていた“会議”の内容を伝えに来たわけなのだが。

 リアさんも陽葵さんも、浮かない表情だ。

 

「――ねえ、クロダ。

 それ、大丈夫なの?」

 

「すげぇ信用できないんだけど」

 

「仰ることは理解できます」

 

 私だってエゼルミアさんがどこまで協力してくれるのか、半信半疑なのだ。

 

「しかし彼女のおかげで、陽葵さんが<次元迷宮>を攻略する比較的(・・・)安全な時間が確保できたのは間違いないわけです」

 

「……比較的(・・・)、なのか」

 

「まあ、そうですね」

 

 陽葵さんの確認に、頷く。

 

 エゼルミアさんのおかげで、当面勇者同士の戦いは起きない。

 すぐに陽葵さんの『所有権』が移るということは無い以上、ある程度の安全(・・・・・・・)は担保された。

 ただ、デュストの件でもあったように、『所有権』が無いからといって全く手が出せないわけではないのである。

 

 というより、陽葵さんの『所有権』というのは六龍が収まった後の『主導権』という意味合いが強く、余り陽葵さんの安全には関わりが無かったりするのだが。

 それでも、自分の“モノ”でない以上は、龍達とてそこまで無茶はしてこない――はずだ。

 

「しかし結局のところ、陽葵さんのすべきことは変わりません。

 己のレベルアップと、ケセドへの到達を可及的速やかに行って頂くだけです」

 

「……そう、か。

 そうだよなぁ。

 協力してくれるってんなら、ちゃちゃっとオレをレベルアップとかしてくれればいいのに」

 

「流石にそれは無茶でしょう」

 

 幾ら“全能”のエゼルミアといえど、そんなことはできない、と思いたい。

 六龍ならその限りではないが、奴らの協力などそう得られるものではないだろう。

 

「それと、もう一つ重要なことがあります」

 

「今度は何だ?」

 

 私は陽葵さんのリアさんの顔を交互に見つめてから、告げる。

 

「協力関係になったからと言って、エゼルミアさんへ会いに行くのは止めて下さい。

 彼女と面会したい場合、できれば美咲さん、最低でも私と同行をお願いします」

 

「……そりゃまた、どうして?」

 

 可愛らしく首を傾げる陽葵さんに、私ではなくリアさんが説明を始める。

 

「それだけエゼルミアが危険ってことでしょ。

 前にも話したこと無かったっけ?

 あいつ、魔族と見れば相手の事情関係なく殺してきたのよ。

 今回、ジェラルドさんに何の手出しもされなかったのが奇跡みたいなもんよ」

 

「そういや、龍と関係なく危険人物だったな……」

 

「そういうこと。

 ヒナタは魔族じゃないけど、魔王の息子だからね。

 何されるか分かったもんじゃないわ」

 

 私が言いたかったことをきっちり伝えてくれるリアさんだ。

 

「先程の会議では終始穏やかでしたが、それも美咲さんという“ストッパー”が横に居たからでしょう。

 エゼルミアさんと出会わないよう、細心の注意を払って下さい。

 そして、もし出会ってしまった場合――下手な抵抗は、しない方がよろしいかと」

 

「て、抵抗するなって言っても」

 

「命に係わるようなことをされない限り、素直に従っておいた方が得策ということです」

 

「命に係わるようなことをされたらどうすんだ?」

 

「……色々と覚悟を決めなければならないでしょう」

 

「そ、そうか」

 

 陽葵さんはかなり怯えているようだ。

 実際、それ位に危機感を持たなければならない相手でもある。

 

「ただ、美咲さんからは当面大丈夫だろうとの話も伺っています。

 魔族であるリアさんはともかく、器に過ぎない陽葵さんに危害を加えるようなことはしないだろう、と」

 

「あたしはともかく、なんだ」

 

「はい。

 なので、一番気を付けなればならないのはリアさんなのです」

 

「そりゃ、滅茶苦茶気を付けるけどね」

 

 肩を竦めるリアさん。

 彼女はエゼルミアさんの恐ろしさを私以上に知っているので、釈迦に説法といったところか。

 

「さて、では一旦私はこれで。

 他の方々にも話を伝えなければなりませんし」

 

 一通り話が終わったところで、私は席を立つ。

 先程の会議に参加していなかった他の関係者へも情報を渡さなければならないからだ。

 

 この辺り、少数での打ち合わせの欠点でもある。

 ただ、大人数で行うと話が纏まりにくいことが多いため、特に美咲さんは少人数での会議を好んでいた。

 

「え、もう行っちゃうの?」

 

 リアさんが意外そうな顔で私を見る。

 

「もう少し、ここに居てもいいんじゃ?」

 

 陽葵さんがそれに続いた。

 ……2人とも、“ナニか”を期待しているような目だ。

 

「どうかしましたか?」

 

 私は敢えてソレに気付かぬよう振る舞う。

 

「どうって、その――」

 

「ほ、ほら、いつもならさ、こう――」

 

 リアさんも陽葵さんも、要領を得ない。

 私と二人きりの時はもっと積極的だと言うのに――やはり、他に人がいると素直になりきれないのか。

 もう3Pもした仲なのだから、気にする必要もないと思うのだが。

 

「……何か、欲しいもの(・・・・・)でもあるんですかね?」

 

 2人をじっと見つめながら、告げる。

 そんな私の反応に、

 

「――――」

「――――」

 

 リアさんと陽葵さんは一度互いに目を見合わせてから、自分達が“欲しいモノ”を口にした。

 

 

 

 

 

「あっあっあっあっあっあっ!!

 コレ、コレがずっと欲しかったのっ!!

 もっと!! もっとおまんこ突いてぇっ!!

 あぁぁあああああああっ!!!」

 

 

 

「お、おおっ!! おぉおおおおおっ!!?

 ほ、ほじってるっ!!? 黒田のちんこが、オレのけつ穴ほじってるぅっ!!

 おっおっおっおっおっおっおおぉおおおっ!!!

 イクっ!! イクぅぅううううっ!!!」

 

 

 

 

 

 

「さて、では改めまして、私はそろそろお暇しますね」

 

 十分に堪能し終えてから、身だしなみを整えつつリアさんと陽葵さんにそう告げる。

 

「ひーっ……ひーっ……ひーっ……ひーっ……」

 

「お、おぉ……おぉおお……おおぉぉ……」

 

 ただ彼らの耳に届いているかどうか。

 2人は目の焦点も定まらぬまま、大きく息をつきながら床に倒れ伏していた。

 気をやってしまい、まだ正気に戻っていないのだ。

 

 ……この後、特に予定は入っていないと言っていたし、このまま放置してもおそらく大丈夫だろう。

 部屋の片づけも済んでいることだし。

 

 私はそう結論付け、リアさんの家を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 次に訪れたのは、黒の焔亭だ。

 店長も勇者の件に関わりだしたのもあるが、今回重要なのはカマルさんの方である。

 彼女も魔族。

 エゼルミアさんに出くわすには、相当な危険を伴う。

 

「――と、こういう流れなのです。

 ご理解頂けましたでしょうか?」

 

「そ、れは、分かった――分かった、が――」

 

 カマルさんが息も絶え絶えといった様子で話しかけてくる。

 ポニーテールに結えた長い銀髪を振り乱しながら、

 

「な、なんで、こんなことをしながら――あぁあああああっ!!?

 こらっ! 突くなっ!! 激しく突くなぁっ!!

 あっあっあっあっあっあぁああっ!!」

 

 上半身を反らしながら喘ぐカマルさん。

 

 現状を説明すると、今私は彼女と2人きりで黒の焔亭の個室にいる。

 勇者の話は他に漏らすわけにはいかないため、店長に手配して貰ったのだが――ここで誤算があった。

 密室に1組の男女が籠れば、することは一つしかないのだ。

 つまり、セックスである。

 

「そんなわけあるかっ――あ、ああ、あぁあああっ!!?」

 

 カマルさんは、私に突っ込みを入れつつ私に突っ込まれる(性的な意味で)という、なかなか器用なことをやっている。

 

 いや、色々言っているが、彼女だって全裸になって私に向けて尻を突き出しているのだ。

 バックから挿入されたとして、いったい何の問題があろう?

 

「大事なことだからと言って、こんな格好させたんだろうが!

 まるで(それがし)が誘ったような――あっあっあっあっ!」

 

「そうは言いますが、普通途中で気付きませんか?

 カマルさんだって、したかったんでしょう?」

 

「そ、それは――ん、んん、んぁ、ああああっ!!」

 

 台詞が艶声でかき消される。

 

 カマルさんの名誉のために敢えて指摘しないが、今の喘ぎは私が原因ではない。

 彼女が自ら腰を動かしだしたのだ。

 すべすべした無駄肉の無い尻が私の眼前でくねりだす。

 

 ……カマルさんとしても、現状に至った経緯を余り詮索されたくないようだ。

 であるならば、私も無粋なことはせず、ただ“今”を楽しむことにしよう。

 

「あひぃいいいっ!?」

 

 彼女の動きに合わせて腰を動かし、膣の奥へと肉棒を叩き込む。

 堪らず、カマルさんは大きな喘ぎを漏らした。

 

「おっ! あっあっあっあっあっあっ!!」

 

 青白い肌の身体がくねる。

 彼女の強さを物語る引き締まった肢体は、同時に淫猥さも醸し出している。

 その外見からの印象に違わず、カマルさんの女性器も力強く愚息を擦りあげてきた。

 

「いい塩梅ですよ、カマルさん。

 すぐに射精してしまいそうです」

 

「あっあっあっあっあっああっ!!

 そ、それなら――あっあぁああっ!――は、早く出してくれ!

 もう、某はイってしま――あぁああああっ!!」

 

 ふむ、カマルさんはそろそろ限界が近い様子。

 ならば――と、私は手を彼女の正面側へと回し。

 乳首とクリトリスを思い切り抓ってやった。

 

「おぁああああああああああっ!!?」

 

 絶叫が響く。

 

「おっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!? ああああっ!!!?」

 

 ビクッビクッと肢体が震える。

 下からピチャピチャという音。

 股から愛液が大量に流れ出ていた。

 絶頂し、だらしなく蕩けた顔を振り向かせ、カマルさんは私に質問してきた。

 

「あっ!――あっ!――あっ!――な、なんで、イカ、せ、て――?」

 

「いえ、なんとなく、面白そうだったので」

 

 深い意味は無いのである。

 ただ、イった直後の彼女を責めたかった――それだけだ。

 

「というわけで、悶える姿をたくさん見せて下さいね」

 

「な、何が“というわけで”、だ!!

 あっ!? ああっ!!? あぁぁあああああああっ!!!?」

 

 今まで以上に腰を激しく振ってやると、カマルさんの不満はたちまち霧散したようで。

 

「おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!!!」

 

 そこには、アへ顔を晒しながら獣のような鳴き声を上げる、一匹の美麗な雌の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「カマルさんへの説明も済みましたし、店長にも話を通しておかなくてはなりませんね」

 

「はぁっ…はぁっ…あ、あれだけヤっておいて…はぁっ…何故、平然としていられるんだ。

 はぁっ…はぁっ…はぁっ…化け物め」

 

 荒く呼吸しながら私を睨み付けてくるカマルさん。

 行為が終わり、既に服(黒の焔亭のウェイトレス制服だ)も着ている。

 ただ、その太ももには膣から漏れ出た一筋の精液が垂れていた。

 

「あれだけと言われましても……3回しただけですよ?」

 

「はぁっ…はぁっ…普通、1回出せばスッキリするだろう」

 

 そうだろうか?

 寧ろ、1回した程度で終わっては生殺しな気分にすらなりそうなものだが。

 

 まあ、私のことは置いといて、店長だ。

 この時間、客の入りが少なくなるため、多少時間を貰っても大丈夫なはず。

 

 

 

 そんなわけで、店長に会うため店のホールの方へ向かったのだ――が。

 そこへ行くよりも早く、店長を見つけてしまった。

 

 

 

 「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 「おらっ!! もっとケツ振れ!! この肉便器がっ!!」

 

 「はいっ! はいぃっ!!

  あひっ!! あひぃぃいいいいっ!!」

 

 

 

 店長が居たのはすぐ隣の個室だった。

 先程までの私よろしく、女性を後ろからガンガン突きまくっている。

 

 「嬉しいかっ!? 俺のちんこ突っ込まれて、嬉しいんだろう!?」

 

 「嬉しいっ! 嬉しい、ですっ!! あっあっあっあっあっあっ!!

  もっと、もっといっぱい僕をハメ――あぁぁぁあああああああっ!!!」

 

 「馬鹿野郎!!

  便器の分際で人様にお願いできる立場だと思ってんのかよぉっ!!」 

 

 理不尽な言葉を吐きかけながら、腰を女性の尻にぶつけていく店長。

 

 ちなみに犯されているのは短い銀髪の女性――ミーシャさんである。

 少女と見紛う程の小柄な体躯である彼女と、筋骨隆々なゲルマン店長との対比は、どこか犯罪チックである。

 いや、やってることも犯罪まがいではあるのだが。

 

「……今日もやっているのか、あの男は」

 

 呆れたように、カマルさん。

 彼女の様子を見るに、この光景は珍しいものではないようだ。

 

「最近はいつもあんな調子で?」

 

「ああ。

 暇を見つけては毎日のようにあの少女を犯し抜いている。

 女も最初は抵抗する素振りを見せていたのだがな――今では、あのザマだ」

 

 ミーシャさんの凹凸の少ない肢体を店長に鷲掴みにしていた。

 そのまま、力任せに肉棒を突き立てているのだ。

 

 「あーっ!! あーっ!! あーっ!! あーっ!!」

 

 彼女の瞳からは理性の光が消えていた。

 股からは愛液が垂れ流しになっている。

 その容貌と相まって、ただ与えられた快楽に酔っているだけの、壊れた人形のようだ。

 

「……哀れだな。

 ああなってはもう、まともな生活は送れまい」

 

 それはどうだろうか?

 無数の触手による凌辱からも生還したミーシャさんだ。

 再び不死鳥のごとく立ち上がるかも――

 

 「出すぞっ!!

  しっかり味わえっ!!」

 

 「ああ、あぁぁあああああああっ!!!」

 

 そうこうしている内に、店長が射精しだした。

 ミーシャさんの膣に収まりきらない精液が、零れ落ちている。

 部屋の外で見ている私からも見える程だ。

 

 「おい、顔こっちに寄こせ」

 

 「は、はい」

 

 ミーシャさんもイったらしく、意識が朦朧としているようだが――そんな彼女の頭を店長は掴む。

 そして口の中へとイチモツをつっこんだ。

 

 「んんんむっ!――ん、んん――ん、ぺろぺろ――ん、んぅぅ」

 

 すぐにフェラを始めるミーシャさん。

 だが店長はそれを楽しむでもなく、

 

 「しっかり飲めよ」

 

 「――んぐっ!?

  ん、んん、んんんんぅぅうううううっ!!?」

 

 ミーシャさんが苦しそうに呻き出す。

 かなりの量の“液体”を口の中に注がれているようだ。

 これは射精ではなく、放尿か。

 彼女は店長の小便を飲まされているわけか。

 

 「んっんっんっんっん――!」

 

 ごくごくと喉を流しながら、ミーシャさんは尿を飲み干していく。

 ――しばしして、

 

 「ふぅ……あー、すっきりした」

 

 爽やかな笑顔の店長だ。

 一方でミーシャさんはというと、

 

 「――は。

  ――あ、は。

  ――アハ、アハハハハハ」

 

 なんだか、狂ったように笑っていた。

 ――流石のミーシャさんも、ここから立ち直るのはやはり不可能だろうか?

 

 「アハハハ、アハハハハハ――おぎぃいいいっ!!?」

 

 笑い声が中断した。

 

 「何笑ってやがんだっ!!」

 

 店長が、彼女の尻穴に指を突っ込んだからである。

 後ろの穴を指でぐりぐりとかき混ぜながら、

 

 「狂った“フリ”なんてしてんじゃねぇぞ!

  こっちは全部お見通しだからな!!

  そんな浅はかなこと二度と考えられないようにしてやる!

  お前の頭、かんっぺきにぶっ壊してやらぁ!」

 

 「おっ!? おおっ!? ご、ごめんなさい! ごめんなさいっ!!

  おぉおおおおおっ!!?」 

 

 部屋の中では、再度プレイが始まった。

 店長、今度は尻穴を使いだしたか。

 

 今回は大分“スパルタ”式に仕込んでいるようだ。

 それだけ、店長から見てミーシャさんが『逸材』ということなのだろう。

 “良い素材を見るとついつい張り切ってしまう”と、以前彼の口から聞いたことがある。

 彼女が冒険者であり、この店のバイトをできる期間が短いというのも、それに拍車をかけているのかもしれなかった。

 

 しかし、こんな状況では話も何もできそうにない。

 せっかく楽しんでいるのだ、邪魔は良くないだろう。

 

「仕方ないですね。

 店長には、カマルさんの方からお話をして頂けますでしょうか?」

 

「……某は、これを目の当たりにして眉一つ動かさぬお前が空恐ろしい」

 

 要領を得ない返事だが、一先ず承知して貰えたということでいいのだろう。

 私は後をカマルさんに託し、次の目的地へと向かった――――のだが。

 

 

 

 その判断が間違っていたことを、私はすぐに思い知らされた。

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 部屋は、重苦しい空気で満ちていた。

 テーブルを挟んで、この部屋の主である女性と、私より前にその女性に会いに来ていた女性が睨み合っている。

 刺々しい雰囲気に、身動きすることすら躊躇われた。

 

「――それで、何のお話でしたか」

 

 部屋の主――ローラさんが口を開く。

 

「――とぼけるな。

 お前の企みは既に割れているんだ」

 

 対面する女性が応じる――美咲さんだ。

 2人の視線がぶつかり合い、火花の散る情景を幻視する。

 

 何故この人達が会うとこうなってしまうのか。

 いい加減いい大人なんだから、もう少し穏やかに話し合うことはできないのか?

 できないのか。

 そうか。

 

「企み、ですか?

 何のことでしょう」

 

「お前が、今日、誠一をこの部屋に泊めようとしていたことだ」

 

「そんな、誤解です!

 企むだなんて――クロダさんが私の部屋に泊まるのは、極々普通のことじゃないですか」

 

「――――っ」

 

 ビキッと何かが割れる音がした。

 見れば、美咲さんに掴まれた木製テーブルの端に亀裂が入っている。

 

「あ、あの、美咲さん?

 一応、そのテーブルは宿の備品で――」

 

「何か問題が?」

 

「――い、いえ、何でもありません」

 

 一睨みされて黙らせられる。

 所詮、私なんぞこの程度である。

 

 ちなみに、ここは蒼い鱗亭という宿で、エレナさんやジャンさん達が活動拠点としている場所だ。

 家が無くなって困っていたローラさんへ、エレナさんが紹介してくれたのである。

 

「……ふん。

 どちらにせよ、誠一はこんな宿に泊まらずとも自分の家があるんだ。

 意味もない()の外泊を私は許容してやる気はないのでね」

 

「あらあら、キョウヤ様とクロダさんがご結婚されていたとは初耳ですね。

 いったいいつ婚姻なされていたのでしょう?

 何時何分何秒、太陽が何回上がった時!?」

 

「子供みたいなキレ方をするな!

 そういう真似が許される年齢(とし)じゃないだろう!」

 

「わ、私はまだ25です!

 キョウヤ様より若いですよ!!」

 

「はっはぁっ!!

 残念だったな、私は23だ、この年増め!!」

 

「え、ええっ!?」

 

 実はそうなのである。

 美咲さん、ローラさんより若かったりするのだ。

 ……16歳で世界救うとか、宴会のネタにすらならない話だが。

 

 流石にローラさんは驚いて――しかし、次に彼女が放った言葉は私の想像を超えていた。

 

 

「キョウヤ様は、年上には敬語を使いなさいと習っていないのですか!?」

 

 

「―――っ!!!」

 

 テーブルが致命的な破壊音を発する。

 美咲さんが、端を握りつぶした(・・・・・・)のだ。

 

 やべぇ。

 やべぇよ。

 こんなことなら、店長が部屋から出て来るまで黒の焔亭で待っていれば良かった。

 カマルさんのアナルにも精液を注いで、店長とのセックスが終わったミーシャさんへさらに肉棒つっこんでアヘアヘ言わせていれば良かった!

 

「あ、あのー、お二人とも?

 もう少し、穏便にですね――」

 

「お前は黙ってろ」

 

「クロダさんには関係ありません」

 

「いや、しかし――」

 

 粘ろうとして、すぐに口をつぐむ。

 

 睨まれている。

 美咲さんとローラさん、2人に睨まれている。

 あぶら汗が止まりません。

 

「いいか、誠一」

 

 美咲さんの、ドスが効いた声。

 

「私はこれから、この女と大事な話し合いをする。

 それまで少し、席を外していろ」

 

 ――それは、話し合いで済む(・・・・・・・)のでしょうか?

 

「大丈夫ですよ。

 次にクロダさんがこの部屋へ訪れる時には、全ての決着がついていますから」

 

 それ絶対大丈夫じゃないヤツですよね、ローラさん。

 色々とつっこみたくはあるが、しかし場の空気がそれを許してくれなかった。

 というか、私にそんな度胸は無かった。

 

 私はただ、

 

「……はい」

 

 彼女らに、素直に従うだけである。

 ――ヘタレ野郎ですみません。

 

 

 

 

 部屋から追い出されたのはいいとして、さあ、これからどうしよう。

 帰宅する、という選択は躊躇われた。

 それをしたら、私は何かこう、とんでもない目に遭いそうな予感がするのだ。

 となれば、あの二人の“決着”がつくまで時間を潰す必要があるわけだが。

 

 と、そんな悩める私に声をかけてくる人が。

 

「あ、クロダ」

 

「おや?」

 

 栗色の髪をおさげにした、小柄な少女。

 長いスカートにエプロン姿な、典型的宿屋の従業員スタイル。

 年齢にそぐわない大きな胸がチャームポイント。

 そんな彼女は蒼い鱗亭の(自称)看板娘――

 

「――イルマさんじゃないですか。

 どうしました、こんなところで」

 

「どうしたもこうしたも、私はこの宿の娘なんですから。

 居るのは当たり前でしょう」

 

 それもそうか。

 

「クロダこそ、今日はどうしたんです?

 またエレナに会いに来たんですか。

 それなら残念でしたね。

 彼女、今留守ですよ」

 

「いえ、そういうわけではなく、ちょっとした用事があったのですが――色々あって時間が空いてしまいましてね」

 

「はぁ?

 よくわかんない状況ですね――んっ!」

 

 突如、彼女の口から甘い声が漏れた。

 

「それで、少々暇を持て余していたところだったのですが――」

 

「あっ!? あっあっ! あ、あぁああっ!!」

 

「――イルマさんが来てくれたなら、もう大丈夫ですね」

 

「ああぁぁぁああああっ!!」

 

 高い嬌声を上げるイルマさん。

 何故急にこうなったのかと言えば、私に“胸の先端”を抓られているからだ。

 ブラの上からでも十分に感じられるよう、強く力を込めて。

 彼女の大きな胸は、感度も良好なのである。

 

「はーっ…はーっ…はーっ……あっ」

 

 涙目になって呼吸を荒げるイルマさんを、抱き寄せる。

 年端も行かない少女の柔らかい感触が、腕の中に広がる。

 

 もう片方の手でスカートを捲る。

 小ぶりなお尻が露わになり――それを覆う綿のパンツが可愛らしい。

 

「いいですよね、イルマさん?」

 

「あ、あ――クロダ――で、でも私、今日はこの後ジャンと――」

 

 そうは言いながらも、彼女の頬は赤く染まっていく。

 その表情に、堪らずキスをしてしまう。

 

「んんっ――んちゅっ――ん、んんんん――」

 

 小さな唇の隙間に舌を差し込み、イルマさんの口内を蹂躙する。

 ほのかに甘い少女の味が食感を通じて私の快楽中枢を刺激してきた。

 

「ん、ん、ん、ん――んはぁぁああ――はぅぅぅ――」

 

 イルマさんも同じなのだろう。

 顔がたちまち蕩けていく。

 

「ああ――んぁああ――クロダ――」

 

 全身から力も抜けていき、完全に私へ身体を預けてきた。

 頃合いを見計らい、私はもう一度尋ねる。

 

「――いいですよね?」

 

「――は、い。

 いっぱい、セックスして、下さい」

 

 ゆっくり、しかし確実に、少女は頷いた。

 

 

 

 

 

 

「あぁああああああっ!!

 あっあっあっあっあっあっあっあっ!!

 すごいっ! すごいぃっ!!」

 

 抱えられたイルマさんが、腕の中で激しく喘ぐ。

 

 私達は、イルマさんの自室へと移動していた。

 人目につきやすい場所は流石にまずかろうという判断だ。

 私は別に見せつけてもいいのだが、彼女の場合は職場がここなだけに仕事へ影響が出てしまう可能性が高い。

 

「いい締まり具合ですよ、イルマさん」

 

「ひぃいいっ! ひぃいいっ! ひぃいいっ! ひぃいいっ!!」

 

 身体を強張らせて快楽に耽る彼女に、その称賛が届いているのかどうか。

 

 イルマさんの下半身は、胸と反比例するかのように――というより、年齢相応に――未成熟なままだった。

 太ももは細めだし、お尻も小さい。

 膣もまた、雄を完全に受け入れられる程には育ち切っておらず。

 

 しかしだからこそ、その“窮屈具合”が癖になりそうな程に私のイチモツを刺激するのだった。

 

「あぁああっ! あぁああっ! あぁああっ! あぁああっ!」

 

 駅弁の姿勢で私に揺らされるイルマさん。

 そして彼女の動きに合わせて揺れ動くおっぱい。

 こちらは成人女性もかくやという程に育っている。

 あどけない顔とのアンバランスさが、最高に背徳感を演出していた。

 

「あ、あぁあああっ!!? おっぱいっ!! おっぱい、イイっ!!」

 

 目の前でプルンプルンと揺れる胸に吸い付く。

 硬くなった乳首を、舌の上で転がした。

 

「ああ、あ、あ、ああ、あああっ!! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 次いで、おっぱい全体を舐めていく。

 プリンのように滑らかで、若さゆえかハリも十二分にある少女の“丘”は、私の触感を楽しませてくれた。

 

「あぁあああっ!! イクッ!! あっ!! イクぅッ!!」

 

 彼女の肢体が仰け反り、痙攣を始める。

 絶頂したのだろう。

 だが、ここで止めるつもりは無い。

 

「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あぁああああっ!!!」

 

 イったばかりのイルマさんを、さらに責め立てる。

 敏感になった彼女の身体は、さらなる快楽によって身もだえた。

 

 同時に膣が、痛みさえ感じる程に強く私の股間を締め付ける。

 いや、締めるというより、“穴”のサイズがさらに小さくなった感じだ。

 

「そろそろ、私もイキますよ――っと、そうだ」

 

 一度目の限界を迎えようとした時、私はあることを思いついた。

 そしてその思いつきを実行すべく、イルマさんを上手く支えながらズボンのポケットを探る。

 幸い、すぐに発見することができた。

 

「イルマさん、これを飲んで下さい」

 

 取り出したのは『赤い丸薬』。

 つい先刻カマルさんと会った際、彼女から頂いた(・・・・・・・)薬だ。

 それを、イルマさんの口へと放り込む。

 

「んぐっ?――ん、んぅっ――ん、ん――」

 

 幸いなことに、彼女は突然口内に入った異物をちゃんと飲み込んでくれた。

 ――これで良し。

 

「では改めて――」

 

 腰を激しく動かす。

 イルマさんは上下に揺さぶられ、獣のように鳴き叫んだ。

 

「あぁあああああっ!! あぁあああああああっ!!

 あぁああああああああっ!!!!」

 

 甲高い声に鼓膜が震える。

 一方で私の方も絶頂へと達し、

 

「さ、たっぷり出しますからね」

 

 そう告げてから、射精感を解放した。

 ドクドクと膣内へと精子を迸らせる。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!!?

 んぁぁああああああああっ!!!」

 

 イルマさんは、またイケたようだ。

 先程よりもさらに激しく身体が震えていた。

 瞳が白目を剥き、口はだらしなく開けっ放し。

 

「――あ――うっ」

 

 ガクリと首が垂れる。

 手足も力なく落ちる。

 どうも、気を失ったようだ。

 

「しかし――」

 

 せっかく“薬”を飲ませたのだ。

 ここで終わらせるのはもったいない。

 もっと注いでやらなければ(・・・・・・・・・)

 

 そう考え、私は気絶したままのイルマさん相手に、なお腰を振り続けた。

 

 

 

 

 

 それから一時間ほど経っただろうか。

 

「――――あ。

 私、は――」

 

 ベッドに寝かせていたイルマさんが、ようやく目を覚ました。

 

「大丈夫ですか?

 途中で気を失っていたのですよ」

 

「そ、そうでしたか――あうぅぅぅ!?」

 

 変な声と共に、少女の股間からドロリを精液が零れ落ちた。

 散々射精したせいか、その量はかなりのものだ。

 

「はあぁぁぁぁ――すごい、いっぱい――♪」

 

 恍惚としているイルマさん。

 流れ出た精液を手ですくい、ペロペロと舐め始めた。

 悦んで頂けて何よりだ。

 

 そのまま彼女は、幸せそうに精子をすするのだが――

 

「―――――んぅっ!?」

 

 突如、苦悶の声を出した。

 

「あっ!――あっ!――お、お腹が、熱い――!?

 身体――身体が、変になっちゃっいました――!?」

 

 ベッドの上を転がりまわる。

 そんな少女を落ち着かせるべく、私は声をかける。

 

「大丈夫ですよ、イルマさん。

 変になんかなっていません。

 貴女は今、受精しているんです」

 

「じゅ、受精――?」

 

 行為中、彼女に飲ませた薬。

 あれは魔族が子作りする際に飲む『妊娠薬』だ。

 本来、子供を作りにくい魔族を孕みやすくするための薬なのだが、実は魔族以外の種族にも効果があるのだそうで。

 魔族に比べて受精率の高い他の種族が使えば――薬との相性もあるが――百発百中に近い確率で子供を身籠るとか。

 とはいえ、かなり貴重な薬なので、そうおいそれと他種族に使うことは無いらしい。

 

 カマルさんを快楽漬けにした際、ドサクサに紛れて1個だけ譲り受けたのだが――好奇心に抗えず、ついつい使ってしまった。

 ただ、イルマさんが年齢的にきちんと子供を作れる身体になっているかどうか。

 そこが心配だったのだが、杞憂だったようだ。

 

「わ、私、クロダの、子供を――――あ、あぁぁあああ!?

 熱いっ!! あ、熱いぃいいいっ!!」

 

 お腹を抱え、なおも悶えるイルマさん。

 この妊娠薬、他種族に使用すると効果が高いが副作用的なものも大きくなってしまうそうで。

 カマルさん曰くあくまで一時的な痛みとのことだが――この様子を見ると、少し不安になってしまう。

 

「あぁああ!――あぁあああ!――あぁあああああ!!」

 

 

 

 イルマさんの苦悶は、その後30分程度続いた。

 苦しみから解放された彼女は、体力の消耗からかそのまま眠りに落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 

 その後。

 

「ふっ、勝った」

 

 ドヤ顔を決める美咲さんと共に、私は帰路についている。

 ちなみにローラさんはというと、部屋で真っ白に燃え尽きていた(物理的な意味でなく、精神的な意味で)。

 いったい2人の間にどんなやり取りがあったというのか。

 ――残念ながら尋ねる勇気はない。

 

「……だがあなどれん。

 あの女、どうやら“かつての自分”を取り戻しつつあるようだ。

 次に戦う時、果たして今日のように行くかどうか……」

 

 美咲さん、貴女はいったいローラさんの何を知っているというのですか。

 あとローラさん、美咲さんにここまで言わせるとかいったいどうしちゃったんですか。

 

 聞いたところによれば、裏の人間でさえ使用を躊躇う程の劇薬を使って調教されてなお、ローラさんは最後の一線を耐えきったとのこと。

 元々、美咲さんに迫る精神力の持ち主だったのかもしれない。

 ……今度、昔の話を聞いてみてもいいかもしれない。

 勿論、ローラさんが気を悪くしない範囲で。

 

「……それと」

 

 小さく呟く。

 

 イルマさんの子供についても、準備を進めておかなければ。

 まだ先の話とはいえ、出産や子育てには色々と入用だ。

 勇者との戦いも重要だが、このことを軽視してはいけない。

 万全のサポートを尽くす所存である。

 

 しかし、目下のところ。

 

「――美咲さん」

 

「あ」

 

 彼女の腰に手を回す。

 あんなにも“強い”女性だというのに、その肢体は華奢で、柔らかかった。

 

「今夜も、私の家に泊まるんですよね?」

 

「あ、当たり前だろう。

 あそこは、私の家みたいなものなのだから」

 

 照れて顔を赤くする姿が、とてつもなく愛おしい。

 

「――誠一」

 

 美咲さんもまた、腕を私の身体に絡ませてきた。

 彼女の温もりを全身で感じられる。

 

 私達は恋人のように――これはきっと比喩ではない――身を寄せ合いながら、日が沈んでいく道を歩くのだった。

 

 

 

 第二十七話③へ続く



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③! フリダシ ニ モドル

 

 

 黒田と美咲が帰っていった後で。

 

「――――く、次は――次こそは――」

 

 ローラ・リヴェリは、何とも悪役チックな呟きをしていた。

 

 途中までは確実に自分が有利な展開だったのだ。

 だというのにあの女勇者、終盤であんなことをしてくるとは。

 まさかのタイミングでの暴挙に一瞬対応が遅れてしまい――そのまま畳みかけられたのだ。

 

「もう二度と、あんなへまはしません――!」

 

 決意を新たにする。

 今度の戦いでは、完全なる勝利を手にするのだ。

 

(まあ、明日は私がクロダさんのお相手をするという約束を取り付けてはいるんですけれど)

 

 妥協はしっかり引き出していた模様。

 ただでは転ばない女、ローラであった。

 

「……んー!」

 

 伸びをする。

 そろそろ日も沈む。

 夕食を食べ、明日に備える必要があるだろう。

 陽葵の迷宮探索もそろそろ再開するという話だ。

 ついて回るだけとはいえ、まだ慣れないローラとってはかなりの負担となる。

 

「――でも、最近は体調もいいですし」

 

 それは精神面(・・・)も含めて、だ。

 心にかかっていたモヤモヤが、少しずつ晴れていく感覚。

 クロダと出会ってから少しずつそれを感じていたのだが、最近は特に顕著だった。

 

(……キョウヤ様のおかげなんですよね)

 

 彼女が自分を気遣ってくれていることを、ローラも十分理解していた。

 さりげなく“体調”について尋ねられることもかなりの頻度であり――ついでに発破もかけられている。

 いつもしている口論にしたって、彼女が物理的暴力に訴えてきたら何の抵抗もできないのだ。

 なのに美咲は決してそれをしようとせず(或いは手加減をし)、同じ立ち位置で自分と口論してくれている。

 

(だからと言って、譲る気は無いのですけれど)

 

 感謝の気持ちと恋愛での敵対関係は別物である。

 容赦する気など毛頭ない。

 

(――ただ)

 

 ただ。

 彼女が泣きながら誠一と一緒になりたいと懇願する様子は――正直、ものすごく可愛らしかった。

 

「……いやいや、私にその“ケ”はありませんから」

 

 頭をぶんぶんと振って、変な気分を振り払う。

 と、そんな時。

 

「あら?」

 

 コンコン、とドアがノックされる音。

 

(夕食ですかね?)

 

 確かにもういい時間だ。

 宿の従業員が夕飯を知らせにきたのだろう。

 

「はーい」

 

 入り口に向かい、扉を開ける。

 そこには――

 

「よお♪」

 

「――え」

 

 思考が停止した。

 ドアの向こうに立っていたのは。

 

「――あ、あ?」

 

 口が動かない。

 身体も動かない。

 目の前の“存在”に、理解が追い付かないのだ。

 

「なんだ、せっかく俺様(・・)が挨拶してやったんだからよ。

 そっちもちゃんと挨拶しろよ」

 

 そこに居たのは、『狼』だった。

 2mを超える巨躯を持つ、『狼』。

 そんな獣が“二つの足で立っている”。

 

(――じ、人狼――?)

 

 そう。

 数ある獣人種族の中で、最強と謳われる種。

 純粋な“力”ならば魔族すら寄せ付けないとされる、雄々しく気高い天性の狩人(ハンター)

 ローラの前に現れたのは、“人狼”だった。

 

 全身を覆う、鮮やかな白毛。

 名刀を連想させる、爪の鋭利なシルエット。

 その姿は芸術品にも例えられるだろう。

 だが、彼女にはその美しさを鑑賞する余裕は無かった。

 ……何故ならば。

 

 

 人狼の股間(・・)には、巨大な“イチモツ”がそそり立っていたからだ。

 

 

「あ、あ、あ、あ――」

 

 1歩、2歩と後ろに下がるローラ。

 

 “彼”が何者か分からない。

 何故、ここに来たのかも分からない。

 ただ、“これから自分が何をされようとしているか”はすぐ察することができた。

 

「い、いやぁあああああっ!!」

 

 逃げようとする。

 後ろへ駆け出す。

 窓から外に抜け出そうとする。

 

「うるせえよ」

 

 だが、無理だった。

 あっさりと。

 余りにあっさりと、ローラは捕まる。

 人狼の巨大な手に腕を掴まれる。

 鋭い鉤爪が、柔肌に食い込む。

 そのまま、彼女は床に引きずり倒された。

 

「いやっ! いやぁあっ!!」

 

「うるせえっつってんだろ!!」

 

 片手で床に押し付けられる。

 どんなに身を捩ろうとしても、びくともしない強靭さだった。

 うつ伏せのまま、床に縫い付けられたかのようだ。

 

 人狼はもう片方の手でローラのスカートを捲り出した。

 

「お、やっぱいいケツしてんなぁ?

 初めて見た時(・・・・・・)からずっとそそられてたんだ」

 

「ひっ!?」

 

 狼はローラの豊かに育った尻をまじまじと鑑賞しだした。

 黒いタイツに包まれた、魅惑の双丘を。

 

「こんなもんフリフリさせやがって!

 男誘ってんだろ、なぁ!?」

 

「いや――いやぁ――」

 

 同意を求められても、まともに返せるわけがない。

 圧倒的な力を前にして、ローラはただ身を縮こませるしかなかった。

 

「さぁてと」

 

「――あぁっ!?」

 

 人狼が彼女のドレスをビリビリと破り出した。

 上等な生地でできた服を、紙のように容易く。

 

「――あ、あ――!?」

 

 あっという間に、ローラは裸にされる。

 たわわに実った胸、引き締まった腰、むちっとしたお尻に太もも。

 美しく豊満な肢体が、獣の眼前に晒された。

 

「そそる身体だねぇ。

 ひゃははは、興奮してきちまったぜ!」

 

 生まれたままの姿の彼女を見て、人狼は舌なめずりする。

 肉棒がより膨張しているように見えるのも、気のせいでは無いだろう。

 

 そして。

 

「おらよ」

 

 軽い掛け声だった。

 なんてことない動きだった。

 そんな気軽な動作で。

 

 人狼は、まだ濡れてもいない女性器に、人とは比べ物にならないほど太い男性器を突っ込んできた。

 

「――――あ」

 

 ローラは身体を硬直させる。

 パクパクと口を動かす。

 “衝撃”に頭が真っ白になる。

 

「――あ――ああ――あああ――」

 

 硬直が解けだす。

 何が起こったのかを理解する、してしまう。

 そして――股間に生じた“激痛”を認識した。

 

「――ああぁぁああああああああああっ!!!!?」

 

 絶叫。

 あらん限りの絶叫。

 彼女の金切り声が、部屋を震わせた。

 

(――痛いっ!――痛いっ!――痛い痛いっ!!)

 

 自然と涙が出てくる。

 何の準備も整っていない膣に、丸太のようなイチモツが刺さったのだ。

 膣内が“壊れて”も不思議では無いのである。

 痛みに泣き叫ぶのも無理はない。

 

 だが、のたうち回ることはできなかった

 がっちりと固定されてまるで動けないのだ。

 せいぜい、手足をバタつかせる程度。

 

「なんだ。

 裂けるか血を出すかすると思ってたのに、きっちり咥えこんでるじゃねぇか。

 つまんね」

 

 恐ろしく身勝手な呟きと共に、ため息を吐く人狼。

 しかしすぐに気を取り直して。

 

「まあしかし、まんこの塩梅はいいな。

 これはこれで楽しめそうだ!」

 

 腰を振り出す。

 まだローラは激痛に悶えているというのに、お構いなしだった。

 

「いやぁあああああああっ!!?」

 

 当然、抵抗などできない。

 人狼の力は、濡れてない膣内の“動きにくさ”など気にも留めなかった。

 

「おお、おお、よく締め付けてくんなぁ」

 

 いや。

 ローラの膣は締めてなどいなかった。

 単に、“サイズが合ってない”だけだ。

 単に、窮屈なだけなのだ。

 

「ああぁぁああぁあああああああっ!!!」

 

 彼女は喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げる。

 

(いやっ!! いやっ!! いやっ!! いやっ!!)

 

 どれだけ拒絶しようにも、ローラにはこのケダモノから逃れる術はなかった。

 極太の男根が、ギチギチに張りつめた膣の中を行き来する。

 

「ああぁあああああっ!!

 いやぁぁあああああああああっ!!!」

 

 その度にローラは脳天を貫く程の痛みに襲われた。

 ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 それは痛みだけが理由では無く。

 

(クロダさんに尽くすって決めたのに!!

 クロダさん以外の男には抱かれないって決めたのに!!)

 

 悔しさであった。

 後悔であった。

 黒田を一途に愛すると決意した誓いは、余りにあっけなく砕かれたのだ。

 

 ……だが。

 そんな気持ちとは裏腹に、ローラには“もう一つ”の感覚が湧き上がってくる。

 

「あ、あぁああああっ!! あぁあああんっ!!」

 

 彼女の声に、甘い響き(・・・・)が混じりだす。

 

(――なんでっ!!

 こんなことされているのに!!

 なんで私の身体は――気持ち良く、なってしまっているの!!?)

 

 人狼の巨根が膣を抉る。

 普通の女性なら痛みで発狂してもおかしくない行為を受けながら、ローラの身体はそこに快楽を見出し始めていた。

 徹底的な調教(・・・・・・)によって植え付けられた、どんな雄も受け入れる雌の性が、再び彼女を蝕みだしたのだ。

 

(戻れたと、思ったのに――!

 戻るために、ずっと頑張ってきたのに!!)

 

 美咲と初めて会った時――叱咤されたその時から、ローラは自らの性を必死で律してきた。

 その甲斐あって、ここ最近は“雌の貌”は鳴りを潜めていた、のだが。

 この人狼の――圧倒的な雄に組み敷かれ、“自分が雄を悦ばす雌に過ぎない”ことを想いだしてしまったのだ。

 

「お? もう濡れ始めてやがる。

 無理やり突っ込まれて感じるなんざ、よっぽどだな、お前。

 そんなの俺様のが良かったか?」

 

 感心したような声。

 と同時に、白い狼が腰を激しく動かしだした。

 

「あぅっ!? おぁああっ!! あがっ!! うぁあああっ!!!」

 

 腹を突き破りかねない勢いで肉棒がローラの最奥へ打ち付けられた。

 彼女の腹が、人狼の愚息の“形”に盛り上がる。

 脳が焼けるような痛みと――快感。

 

「ああっ!! ああっ!! ああっ!!

 あぁああああああ――♪」

 

 ローラが発したのは、聞き間違いようも無い嬌声(・・)だった。

 ――それは、彼女の“敗北宣言”。

 

 こうしてローラ・リヴェリは、雌に戻る(・・・・)こととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へい、お待ち」

 

「おお、ありがとう、店長」

 

 ここは、黒の焔亭。

 もう夜遅く、他に客も居ない店内で、セドリックは食事をしていた。

 色々と所用を片付けていたら、夕飯が遅くなってしまったのだ。

 他に仕事が無いのか、店長のゲルマンもセドリックと同じテーブルの席についていた。

 

「しっかしなぁ、面倒なことになっちまったな」

 

「ん? なんだい、店長。

 難しい顔をして」

 

 食事する手を止め、ゲルマンに返事するセドリック。

 

「いや、なにって“勇者”の話さ。

 クロダの奴、まあ何かしらの事情は抱えてんだろうと思っちゃいたが、ここまででかい爆弾だったとは思わなかったぜ」

 

「ああ、そのことか」

 

「随分と落ち着いてるじゃねぇか。

 聞いた話じゃ、割とガチで世界の危機らしいみてぇだっつうのに」

 

「規模が大きすぎてね、いまいちピンと来ないんだよ。

 自分の周りのことだけで精一杯な生活を送ってきた私みたいなのが、いきなり世界の危機とか言われてもねぇ」

 

「……それもそうか」

 

 店長は腑に落ちた顔だ。

 

「勿論、知ってしまった以上協力は惜しまないがね。

 龍に支配されるっていうのも――少し眉唾な気はするけどね――まあ、ぞっとしない話だ。

 何より、クロダ君やローラさんが関わっているとなっては、全く持って他人事じゃない」

 

「そりゃそうだ。

 俺もせいぜい腕を振るうことにするさ。

 ……大分、錆びついちまってるけどな」

 

「おや、この前は結構な活躍をしたと聞いているよ?」

 

「戦いから離れた生活してたからな、どうしたって衰えちまうぜ。

 全盛期の頃なら、リアと()りあってもいい勝負できたと思うんだがな」

 

「――魔族と1対1って、大きく出たね、店長」

 

「はっはっはっ! 言うだけなら無料(ただ)ってなぁ!」

 

 豪快に笑うゲルマン。

 ただセドリックの知る限り、そう法螺というわけでも無いはずだ。

 魔族との戦争で、かなり無茶をしていたと聞いている。

 

「私も微力ながら力添えするとしよう。

 せいぜい、資金を提供する程度だがね」

 

「こんな時でも金の価値は変わんねぇんだなぁ。

 アンナの奴が嘆いていたぜ」

 

「彼女、私財をほとんど投げ打ったみたいだからね。

 まったく、頭が下がるよ」

 

 セレンソン商会のアンナは勇者とも親交深かったと聞く。

 彼女にとって、今の状況はかなり複雑な心境だろう。

 かつての仲間達が敵になっているのだから。

 

「まあ、しかし、だ。

 最初に言った通り、私にとってはやはり現実感が無い。

 ローラさんの恋愛が成就するかどうかの方が、よっぽど重大問題だね」

 

「ああ、それか。

 ローラがとうとう本腰入れ出したんだってな。

 クロダとローラか――上手くいくかね?」

 

「そりゃ行くとも。

 あれ程お似合いのカップルはそう居ない。

 これまでは、どうにもローラさんが燻っていたせいでいまいち進展無かったが、これからは違うだろう」

 

「おお、燻らせていた当の本人が、よく言ったもんだな」

 

「おっとその件については言わないでくれたまえ。

 本気で首を吊りたくなる――いや、ローラさんが望むのであれば吊るのも吝かでないが」

 

「迷惑だから俺の店ではやらないでくれよ?」

 

 物騒な話をしているが、彼らの間ではちょっとしたジョーク程度だ。

 いや、ローラのためなら命を投げ出すというのは、冗談ではないが。

 

「ただなぁ……正直、かなり厳しい戦いだと思うぜ、俺はよ」

 

「ほほう、そこまで言うからには理由を聞こうじゃないか」

 

「だってよぉ――クロダの奴、あの(・・)ミサキ・キョウヤと婚約してるって話だろ」

 

「うっ!?」

 

 痛いところを突かれ、セドリックは口をつぐむ。

 

「そんなきっちり話したことはねぇけどよ。

 見た感じ、どえれぇ別嬪さんだったぞ」

 

「い、いや!

 美麗さで言えば、ローラさんも負けてはいないさ!!」

 

「ローラも美人だってことには俺も異論はねぇけどよ。

 ……いや、外見のアレコレを外野が議論しても仕方ないか。

 俺が言いたいのは、だ。

 あのミサキ・キョウヤに対しては、クロダの方もかなり熱が入ってるってことさ」

 

「うぐっ!?」

 

 痛いところを突かれ(以下略)

 

「彼女にちょっと手を出そうとした男をクロダがぶっ飛ばしたって話も聞いてる。

 信じられるか? あのクロダが、だぞ。

 ローラには悪いが――」

 

「ま、まだだっ!!

 まだ勝負が決まったわけじゃないっ!!

 だいたい、彼女はクロダ君に相応しくないんじゃないか!?

 性格が全然違うようだし!!」

 

「人間は自分と正反対の相手に惹かれるってのを聞いたことがある。

 そういう意味じゃ、あの二人が好き合うのも納得できるな。

 ぱっと見た感じ、ミサキ・キョウヤはクロダと真逆な女だ。

 変態というか、淫乱な要素がまるで見当たらねぇ。

 いや寧ろ、近くに居るとこっちの背筋がシャキっとしちまう真面目オーラを放ってやがる」

 

「畳みかけてくるの止めてくれないかな!?」

 

 ざっくり、セドリックも同じ感想を持っていただけに反論が難しい。

 

「大丈夫!

 クロダ君とローラさんはくっつくさ!

 間違いない!!」

 

「ほほう。

 ちなみに根拠は?」

 

「……その、ほら。

 この世には一夫多妻ってものがあるだろ?」

 

「おもっくそ負けてるじゃねぇか!!

 俺が言うことじゃねぇが、もう少し信頼しろよ!!」

 

「そ、そうか。

 そうだね」

 

 気を取り直して。

 

「ともあれ。

 ローラさんも頑張ってるんだ。

 苦しい“リハビリ”をずっと続けてきた。

 特にここ最近は、見違えるように生気に満ちているように見える。

 まるで、私とのこと(・・・・・)がある前の彼女を見ているみたいに。

 その頑張りが、報われないはずがない」

 

「ガチで御禁制なドラッグやら何やら使ってたからなぁ。

 よくあそこから立ち直れたもんだ。

 それだけでも大したもんだよ、彼女は」

 

「おっと?

 その辺りのことは蒸し返さないでくれと言ったはずだよ?

 この店を自殺者有り物件にしたいのかい」

 

「止めれ。

 まあなんだ、色々語っちまったが、結局なるようにしかならねぇんだ。

 当人たちが上手い落としどころ見つけられるよう、見守ってようじゃねぇか」

 

「なるべくローラさんが有利になるよう動くけどね、私は。

 最終的に部外者がアレコレできる問題じゃないとは思うけどさ。

 ……存外、リアちゃん辺りが掻っ攫っていくかもしれないな」

 

「リアか。

 クロダとの相性はかなり良いと思うんだが――肉便器がどこまでやれるか、だな。

 俺はそれよりも、エレナの方がやべぇと思う」

 

「ああ、あの子は危ないね。

 なんかもう、漁夫の利を狙う気満々だよ、絶対。

 いや、強い女性(ひと)だよ、彼女は」

 

「同感だ。

 他にクロダの相手として可能性がありそうなのは――」

 

「ヒナタ君とかどうかな?」

 

「……男だろ?」

 

「いやいや何言ってるんだい!?

 全然イケるよ!!

 というかヤりたいよ!!」

 

「えー?」

 

「何でドン引きしてるんだい!!?

 ヒナタ君としたいって言ってる人、私の周りにも結構居るんだよ!?」

 

「ホモの巣窟かよ」

 

「ホモジャナイヨー!?」

 

 変な声を響かせるセドリック。

 他に客が居たら、相当奇異の視線を浴びたことだろう。

 興奮する彼に店長は酒を差し出し、

 

「まあ、一杯飲んで落ち着けよ。

 今更お前さんの趣向をどうこう言うつもりは無いさ。

 ……ちょっと近づかないで欲しいと思うだけで」

 

「ヒナタ君の魅力が分からないとは何と浅はかな……

 それはそれとして、そのお酒は頂いておこう」

 

「おう。

 俺も一杯貰うとするか」

 

「いいのかい?

 一応、仕事中だろう?」

 

「お前以外にもう客いねぇだろうが。

 直に戸締りなんだから、多少飲んでも問題ねぇよ」

 

「それもそうか」

 

 コップに酒を注ぐ。

 2人はそれを手に持つと、

 

「――さて、何に乾杯するね?」

 

「当然、ローラさんの輝かしい未来に、さ」

 

「最後までそれかい!!

 ま、別にいいけどよ」

 

 呆れ顔になる店長だが、嫌がる素振りは見せない。

 彼らはコップを掲げ、

 

「それじゃ、今後のローラさんの幸福を祝って――」

 

「「乾杯っ!!」」

 

 互いに軽く打ち鳴らしてから、一気に酒を飲み干す。

 そしてまた、よもやま話に興じ始めるのだった。

 

 ……この歓談は、もうしばし続くようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 ローラの艶声が部屋に響く。

 人狼との行為は、まだ続いていた。

 

「ああんっ! あぅっ! ああっ! あぁああんっ!!」

 

 だがその様子は最初と大きく変わっていた。

 彼女は狼からのレイプを受け入れているのだ。

 

「ああっ!! んぁああっ!! あ、ああぁあっ!!」

 

 ローラの声からは嫌悪感など微塵も感じられない。

 顔を蕩けさせ、ただ快楽に酔う雌の声を上げている。

 そして何よりも――

 

「おい、もっと早く動けよ!

 ちんたらしてたら、何時まで経っても俺様がイケねぇだろうが!」

 

「は、はいっ――あ、あ、あ、あ、あ、あっ!!

 あぁあああああっ!!」

 

 ――彼女は自ら進んで、人狼の肉棒を受け入れているのだ。

 

 人狼は、ただベッドで仰向けになっているだけ。

 その上に跨り腰を動かしているのは――即ち、この行為を率先して行っているのは、ローラなのである。

 

「あぅ、あぁ、あん、んぅ、んぁあああっ!!」

 

 指示の通り、肢体を激しく上下させる。

 大きく実った乳房が、プルプルと揺れた。

 

 彼女が腰を落とすたびに、巨根によって腹がぼこっと膨らむ。

 酷い苦痛を味わって然るべきだというのに、ローラは苦悶などまるで感じず、ただ快感に身を捩る。

 挿入することすら困難な太い肉棒を、彼女は悦んで堪能していた。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――――あああっ!!?」

 

 ビクっとローラが震える。

 

「おっと、出ちまった」

 

「あぁああああああっ!!?

 あぁぁああああああああああっ!!!!」

 

 人狼が射精したのだ。

 その巨大なイチモツから想像できる通り、膨大な量の精液が彼女の中へ放たれる。

 

「ほぉおおおおおおっ!?

 おほぉおおおおおおおおっ!!」

 

 ただでさえ男根で限界まで圧迫されていたローラの膣へ、さらに精液が溜まっていく。

 みるみるうちに腹部が膨張する。

 その様はまるで、臨月を迎えた妊婦のようだ。

 

「おっ!? おおっ!? おっ!? おおおっ!?」

 

 パンパンにまで膨らみ切るローラのお腹。

 太すぎる肉棒で膣を完全に塞がれているため、精液が外に零れないのだ。

 

「あっ!? あがっ!! うっ!! うぐぅううっ!!?」

 

 流石の彼女も、苦し気に呻き出す。

 腹が今にも破裂しそうになれば、当然だ。

 しかしそんな状況でも、人狼はまるで動じず――笑い出した。

 

「ひゃはははっ!

 早く抜いた方がいいと思うぜ。

 まだまだ精液は出る(・・・・・・・・・)んだ。

 本気で腹が破れちまうぞ?」

 

「――――!!?」

 

 狼の言葉に、ローラが焦りの色を見せた。

 

「ん、んん、んんんっ!!

 ぬ、抜けな――抜けな、いっ!?

 おぁああああああっ!?」

 

「膣痙攣が起きてるみたいだな!

 俺様の射精でお前もイってたわけだ!

 ひゃははは、こりゃやばいんじゃないか?」

 

 面白そうに顔を歪める人狼。

 だが彼女はそれどころでは無かった。

 腹はさらに膨らみ、鋭い痛みが走り出す。

 

「んぐっ! んんぅうううっ!!

 うぐぅうううううっ!!」

 

 腹部の痛みと――こんな時にも感じてしまう快楽に耐え。

 ローラは足を踏ん張って必死に巨根から逃れようともがく。

 恐ろしいことに、射精はまだ続いていた。

 

「んっ! んっ! んんっ!! んんんっ!!!

 んぁああああああああああっ!!!」

 

 ――努力の甲斐あり。

 とうとう、彼女は肉棒を引き抜くことに成功した。

 ぶちゅっという大きな音と共に、ローラと人狼の結合が解かれる。

 

「あっ!! ああっ!! あぁああああっ!!!」

 

 途端、噴き出てくる膨大な精液。

 ドバドバと、信じられない量の精子が膣口から流れ落ちた。

 

「はーっ――はーっ――はーっ――はーっ――」

 

 苦しみから解放され、大きく息をつく。

 疲労困憊の様子で、全身に汗が浮かび上がっていた。

 

「なに休んでんだ!

 次は尻穴で奉仕しろ」

 

 そんなローラに、人狼は無慈悲な命令を下す。

 拒むことを許さぬ、威圧感のある声。

 身を竦ませてもおかしくないのだが――

 

「は、はい♪」

 

 ――ローラは、嬉々として従った。

 あんなことの直後だというのに、今度は後ろの穴を人狼に差し出す。

 

 彼女にとって、男を悦ばせるためならば、自分の苦しみなど度外視なのだ。

 そういう風に(・・・・・・)調教されている(・・・・・・・)

 

「ん、ん、んん――」

 

 相変わらず人狼は動かないため、“位置合わせ”も自分で行う。

 途轍もない大きさの亀頭の上に菊門を乗せると、

 

「んん――お、おぉおおあああああああああっ!!!?」

 

 自ら腰を下げて、尻の中へイチモツを迎え入れた。

 

「お、おおっ――おっ――おおおおっ――」

 

 腸が人狼の愚息で埋め尽くされていく。

 その衝撃で、ローラは容易くイってしまった。

 

「自分だけ楽しんでんじゃねぇぞ!

 とっとと動け!!」

 

「あ、あ――す、すみません――」

 

 絶頂で目の焦点も合わない状態でも、律儀に謝る。

 そして――

 

「おっ! おおっ! おっ! おっ! おっ!」

 

 ――再び、腰を動かし始めた。

 尋常でないでかさの肉棒に尻穴を穿られ、ローラは自然と歓喜の声を出してしまう。

 

「おおっ!! おおぅっ! おぁああああっ!!」

 

 美咲と出会ってから見せ始めた、あの気丈な姿は、もうどこにも無かった。

 

 

 

 ……それから、少しして。

 

「おごっ!!? おぐぅううっ!! あっ!! あごぉおおっ!!」

 

「ひゃはははははっ!!!

 こいつは傑作だ!!

 この女、精液吐きながら腰振ってやがるっ!!」

 

 人狼の笑いが木霊する。

 彼の言葉通り、ローラの口からは精子が噴き出ていた。

 言うまでも無く、狼のモノだ。

 尻穴に注入された精液が逆流しているのである。

 

「良かったなぁ!!

 こっちの穴は“上”まで繋がっててよぉ!!

 おかげで、どんだけ注がれても平気だってんだから!!」

 

「あがぁっ!! おぶっ!? うぷっ!! おごぇえええっ!!」

 

 どう控えめに見ても“平気”には見えなかったが。

 目は白目を剥きかけ、舌はだらんと伸びている。

 完全に正気を失った顔。

 吐き出した精液は全身にこびり付き、汚れていない場所を探す方が困難な有様だった。

 

 それでもなお、ローラは腰を動かし、人狼への奉仕を続けてる。

 

「ほらっ! もっと動け!!

 お前の大好きな精液を、たらふく食らわせてやるっ!!」

 

「おぇっ!? おぉおおおおおっ!! おごっ!! おぁあああああっ!!!」

 

 ……人狼の愉快な笑い声と、女性の苦悶の響きは、しばらく止むことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 何時間が経過したのか。

 もう直に、空が明るくなるであろう頃合い。

 

「はぁあああああんっ♪

 もっとぉっ♪

 もっとぉ、精液下さい♪」

 

 ローラと人狼は、未だに身体を重ね合っていた。

 

「あぁああああんっ♪

 精液♪ 精液ぃ♪」

 

 ……いや、コレ(・・)をローラと形容していいものかどうか。

 壊れたような喜悦の笑みを浮かべて人狼の巨根に縋り、全身で奉仕する様には、人としての尊厳すら見当たらない。

 瞳からは生気が消え去っていた。

 今の彼女と比べれば、場末の娼婦とて真人間に見えるだろう。

 

「ひゃははははっ!

 そんなに俺様の子種が欲しいかっ!」

 

「はい♪ 欲しいですぅ♪

 もっといっぱい、私に精液をお恵み下さい♪」

 

 豊満な胸で棒を挟み、舌で亀頭をくまなく舐める。

 愛おしそうにイチモツを撫でる彼女は、雄にかしずく雌犬が重なる。

 

「ほれ、お望みの精液だ。

 よく味わうんだぞ!」

 

「あぁああああああ♪」

 

 男根の先端からチョロチョロと精液が湧き出る。

 ローラは顔を輝かせて、それに吸い付いた。

 

「ん、んんっ♪

 んんぅうううう♪

 美味しい♪

 精液、凄く美味しいです♪」

 

 白濁したドロドロの液体を、極上のスイーツでも食べているような表情で舐め取っていく。

 

 

 ――全てが無駄になった。

 

 黒田への恋慕も。

 美咲への敵愾心も。

 セドリックの後悔も。

 ローラ自身の努力も。

 

 全て、全てが無駄だ。

 彼女は、振り出しに戻ったのだ(・・・・・・・・・・)

 

 

「ひゃははは!

 気に入ったぜ!

 お前、俺様の雌にしてやる。

 これから毎日、俺様の肉棒を味合わせてやるよ!

 どうだ、嬉しいだろう!?」

 

「嬉しいです♪

 この素敵なちんぽを頂けるなんて、私、幸せ過ぎておかしくなってしまいます♪」

 

 もう既におかしくなっている(・・・・・・・・・)のだが。

 ローラにその自覚は無かった。

 

「よぉしっ!

 なら、こんなシケた宿とはおさらばだ!

 もっと“いい所”でお前を弄ってやろう」

 

「はい♪」

 

 人狼は立ち上がり、軽々とローラを抱えた。

 彼女はそれに一切抵抗しない――するはずが無い。

 

 白い狼は部屋の窓を乱暴に開けると、そこから外へと身を躍らせ――

 

 

「待て」

 

 

 ――人狼の動きが止まった。

 後ろからの声。

 いつの間にか、部屋のドアが開かれている。

 

「――あ」

 

 そこに立つ人物を見て、ローラの目に光が宿った。

 

「――クロダ、さん?」

 

 名を呟く。

 扉の前には、黒田誠一が立っていた。

 紅い籠手に脚鎧。

 完全装備の黒田だ。

 

 彼はローラの方を一瞥し、一瞬微笑みかけると。

 視線を人狼に戻し、口を開く。

 

黄龍ティファレト(・・・・・・・・)

 その女性(ひと)から――ローラさんから離れて貰おうか」

 

「そんな他人行儀な名前使うなよ。

 いつも通り、“ガルム”って呼んでくれていいんだぜ、親友」

 

(――――え!?)

 

 交わされた内容に驚くローラをよそに。

 黒田と人狼――五勇者の一人、“鉤狼”のガルムは、静かに睨み合った。

 

 

 

 第二十八話へ続く



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第二十八話 “鉤狼”のガルム/黄龍ティファレト
① 埒外の戦い


 私の目の前には、2人の人物がいる。

 

 一人は、ローラさん。

 白濁液に塗れた姿は、彼女が今まで何をされていたかを如実に語っていた。

 

 もう一人は――人狼。

 二足歩行する巨大な狼という出で立ちの男。

 私は、彼を知っている。

 何度か共に戦った(・・・・・)こともあった。

 五勇者の一人“鉤狼”のガルムと呼ばれる男――――いや。

 “こいつ”をそう呼ぶのは、相応しくない。

 

「貴様に、“親友”などと呼ばれる謂れは無い」

 

「おやおや、つれない返事だなぁ?」

 

 今、目の前にいる“こいつ”は断じてガルムではない。

 元々の彼にあった、親しみやすさを、どこか情けない雰囲気を、微塵も感じさせない。

 そう、“こいつ”は――

 

「黄龍ティファレト。

 ガルムの身体を乗っ取ったか」

 

「んー? そうだなぁ? そうかもしれねぇなぁ?

 ま、どーでもいいじゃねぇか、そんなこと」

 

 大仰に肩を竦める人狼。

 狼の姿をしていながら、その仕草は非常に人間臭い。

 

「しかし随分と遅かったな。

 待ちくたびれちまったぜ。

 ちゃんと“間に合う”ように来なけりゃ駄目だろ、親友?」

 

「――――」

 

 言い返せない。

 ローラさんが、既に蹂躙され尽くした(・・・・・・・・)のは、私でも分かる。

 遅きに失したのだ。

 

いつもの(・・・・)美咲なら、ちゃっちゃと勘付きそうなもんだが。

 ひゃははは、オトコが出来て鈍ったか?

 あの女も可愛らしいところがあるじゃねぇか!」

 

「……貴様が、美咲さんについて語るな」

 

「おお、怖い怖い。

 そう睨むなよ、あの女を取って食ったりはしねぇさ。

 親友のオンナなんだからなぁ?」

 

 こちらを小馬鹿にしたような口調だ。

 私はゆっくりと拳を突き出し、中段に構える。

 

「お、なんだ、もうヤるのか?」

 

「敵を前にして、戦わない訳にはいかないだろう」

 

「へえ?

 たった一人で、“龍”に勝てるつもりだってか?」

 

 確かに。

 赤龍ゲブラーは、別に私一人で斃せたわけでは無い。

 全体から見れば私の功績など微々たるものだろう。

 故に、黄龍ティファレトに独りで挑むなど、無謀にも程があるのだ、が。

 

「……退く気はねぇか。

 度胸は座ってんな」

 

 動かぬ私を見て、ティファレトはそう呟いた。

 

「いいだろう、ちっとばかし遊んでやる(・・・・・)

 だがその前に――まずは“掃除”をしなくちゃなぁ?」

 

 そう言って、人狼は口元を歪めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あのー」

 

「なんですか?」

 

 ローラさんの声に、私は答える。

 

「な、何をしておられるのでしょうか?」

 

「何って、掃除ですが」

 

 言いながら、床にこびり付いた精液を雑巾で拭く。

 まったく、酷い有様だ。

 こんな状態で放置していたら、精液臭くて他の客が利用できなくなってしまうだろう。

 

「おーい、親友。

 そっちのそれ、取ってくれ」

 

「分かりました」

 

 新しく水を汲んできたバケツを渡す。

 ティファレトもまた、意外と器用に床掃除をしていた。

 この分なら、そう時間もかからず清掃は終わりそうだ。

 

「……えーっと」

 

 一方で、ローラさんは思案顔。

 

「先程からどうしたんですか?

 具合でも悪くしたとか?」

 

「それはまあ、つい先刻まであんなことされてたわけですから、具合が良いわけないんですけれど。

 私が言いたいのはそういうことじゃなくてですね」

 

 彼女は私とティファレトを指さして、

 

「――なんで普通に掃除してるんですか?」

 

「いえしかし、このまま放置していては宿に申し訳が立ちませんし」

 

「この建物は木造だからなぁ。

 木材ってのは腐りやすいんだぞ?」

 

「いやいや、おかしいでしょう!?」

 

 私達の答えに、彼女は納得できないようだ。

 

「ついさっきまで、凄いシリアスな雰囲気でバトル一歩手前な感じだったじゃないですか!

 それがどうして和気藹々とお掃除してるんです!?」

 

「そう申されましても」

 

 確かに龍との戦いは大事だが、それが掃除を疎かにしていい理由にはならない。

 立つ鳥跡を濁さずという言葉もある。

 あと私とティファレトは別に和気藹々とはしていない。

 奴とは不倶戴天の敵同士である。

 ただ、大事の前の小事ということで今は協力しているだけだ。

 

「……大事と小事って、掃除はそこまで重要な行事なんですか?」

 

 無論である。

 部屋が綺麗にしていれば心も綺麗になるのだ。

 

「心が綺麗……?」

 

 おっと、そこに疑問を持たれますか。

 確かに私は、自分が清廉潔白な人間であると胸を張って言える人間ではない。

 

 ――あと気のせいか、なんだかさっきからローラさん、私の心を読んでいませんか?

 

「それとそこの貴方!!

 さっきは私を抱えて連れ去ろうとしてた癖に、何でせっせとベッドメイキングしてるんですか!!」

 

 今度はティファレトへ矛先を向ける彼女。

 龍を相手に怒鳴りつけるとは、凄い胆力だ。

 

「さっきまでのプレイで寝床もかなり乱しちまったからなぁ。

 だいたい、お前を動かしたのは単に作業の邪魔にならなそうな場所へ移そうとしただけだし?」

 

「窓から飛び出そうとしてたのは!?」

 

「換気のために開けたんだよ」

 

「換気!?」

 

 私が来た時点で、部屋はあなり精液臭かった。

 まず空気を換えようとしたのは、妥当な判断だろう。

 

「それよりもローラさん、いつまで裸でいるんですか」

 

「そうだぜ。

 早くシャワー浴びて服着て来いよ。

 あんましはしたない格好でうろつかないで欲しいもんだ」

 

「レイプ犯に、はしたないとか言われました!?」

 

 ショックを受けるローラさん。

 確かに、ティファレトだって(毛皮があるとはいえ)裸のようなものなのだから、彼に裸云々を語られたくは無いだろう。

 男性器をぶらさげながらシーツを広げている姿は滑稽ですらある。

 

「んじゃま、ちゃっちゃと片付けるぞ」

 

「ええ」

 

「……おかしい。

 絶対におかしい」

 

 ぶつぶつ言いながらシャワーを浴びに行ったローラさんをしり目に、私達は部屋の清掃を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁて、仕切り直しだ」

 

「随分と時間をかけてくれたな、ティファレト」

 

「へ、お前の方こそ、仕事が雑だったんじゃねぇか、親友?」

 

「手間をかければいいというものでもない。

 クオリティを維持しつつ短時間で業務を完遂してこそのプロだ」

 

「大口叩いてくれるじゃねぇか!」

 

 “鉤狼”ティファレトと睨み合う。

 奴から放たれる圧倒的な威圧感。

 気を抜けば、身体が勝手に後退してしまいそうだ。

 

「……シリアスっぽくしてますけど、話してる内容は掃除のこと」

 

 横でぼそっとローラさんが呟いた。

 何故かげっそりした顔つきだ。

 ティファレトに犯されたのが本当に辛かったのだろう。

 

「ティファレト。

 ローラさんを穢した罪も、贖って貰うぞ」

 

「穢しただぁ?

 女なんてのは、男を悦ばしてなんぼだろうが!

 そのためにこの世に産まれたんだからなぁ?」

 

「貴様――!」

 

 余りの言い分に激昂する。

 まるで女性をモノのように扱うとは!

 

「気にかけて頂けてるのは結構なんですけれど。

 なんかすっごい安っぽい台詞に聞こえるのは、私の心が汚れてしまったからなんですかね」

 

 ――くっ。

 あの素直なローラさんが、ここまで斜に構えた態度をとるとは。

 おのれ、ティファレト!

 許せん!!

 

「それにあの女、最終的にはアンアン鳴いてたし。

 どれだけ強引にナニをしちまったとしても、最終的に気持ち良くなったなら特に問題は発生しねぇいだろう!?」

 

「ぐっ!?

 へ、減らず口を!!」

 

 ――くそ、言い返せない。

 一部の隙も無い、完璧に理論的な返答だ。

 頭の軽そうな話し方をしながら、知能の高さが窺い知れる。

 流石は龍、と言ったところか。

 

「何故返答に窮しているんですか。

 結果がどうであろうと、合意の無かった時点で犯罪ですからね?

 たぶん言っても無駄なんでしょうが……」

 

 疲れた口調で言ってから、彼女は俯いてしまった。

 

「ううう、なんだかデュスト様のときと何もかも違い過ぎます……

 あんな感じで今回も格好良いクロダさんが見れると思ったのに――」

 

「ひゃはははっ!

 俺様をあんな負け犬共と一緒にするんじゃねぇよ!」

 

「言われなくとも一緒にするつもりなんてありません。

 デュスト様に失礼過ぎて」

 

 しかし今日のローラさん、物怖じしないな。

 つい先刻まで自分を犯し抜いた人狼相手に、退くことなく会話している。

 今度は彼女、私の方を向き、

 

「というかクロダさん、ティファレトと面識があったのですか?

 掃除のときも、妙にツーカーでしたし」

 

「ああ、それは――」

 

 私が答える前に、ティファレトが割って入る。

 

「ひゃはははっ! 何言ってやがる!!

 こいつにケセドの“契約文字”をくれてやったのが誰だと思ってんだぁ!!?」

 

「ええっ!?」

 

 ローラさんの驚きの声。

 流石に想像していなかったか。

 

 以前説明したが、私はこの世界に来てから、世界の知識や冒険者のノウハウ、戦いの技術等をガルムから習っていた。

 その時に数回だけティファレトの(・・・・・・・)人格になった(・・・・・・)“ガルム”と対面したことがあるのだ。

 ――龍からすれば、如何に強力な力を持つ勇者とはいえ、ただの人間の人格を乗っ取るなどそう難しいことではないのだろう。

 

 しかし、である。

 今の台詞には語弊があった。

 私はそれを修正すべく、口を開く。

 

「いえ、“契約文字”はケセド自身から貰ったものですが」

 

「うん、まあ、そうなんだけどさ」

 

「ええー」

 

 あっさり認めるティファレト、そして呆れるローラさん。

 だが人狼は何故か粘ってきた。

 

「そこはほれ、ケセドの奴に渡りをつけてやったのは俺様なわけで。

 俺様が親友に契約文字を授けたっつうことにしても問題は無いんでなかろーか」

 

「いや、情報は正確に伝えませんと」

 

「ぬう――」

 

 確かに、ティファレトの協力なしに“契約文字”の入手は無かったであろうから、奴の功績も大きいと言えば大きい。

 ただ、同じことを“ガルム”もしようとしてくれていたので、手放しに感謝はしたくないところだ。

 

「……なんだか、凄い疲れてきました」

 

「あんなことがあった後です、無理はいけません。

 ローラさんは、下がっていて下さい。

 奴とは、私がきっちり決着(けり)を付けてきます」

 

「――クロダさん。

 その台詞は、掃除をやる前に聞きたかったです……」

 

 どこか憂いを帯びたローラさんの瞳。

 涙の輝きすら見える。

 

「じゃあ、そろそろ移動しようぜ。

 流石にここじゃまずいだろ」

 

「そうですね。

 近くに暴れるのい適した空き地がありますから、そこでやりましょう」

 

「おっけー」

 

「……急に馴れ馴れしい感じになるし」

 

 部屋の中で戦えば宿がどうなるか分かったものでは無い。

 私達は連れ添って、部屋を後にした。

 

「……しかも普通に玄関から外に出るんですね」

 

 そんなローラさんの呟きを、背中に投げかけられながら。

 

 

 

 

 

 

 

 目的の場所に着いた。

 宿からほど近い広場である。

 ここなら、周囲の被害はある程度抑えられるだろう。

 ――ティファレトがその気になれば、この街そのものを破壊することすらできるので、気休めでしかないが。

 

「……クロダさん」

 

「はい?」

 

 ローラさんが話しかけてくる。

 宿に残っているよう言ったのだが、どうしてもとついてきたのだ。

 

「緊張感の無さに流されてしまいましたけれど、相手は六龍なんですよね?

 ミサキ様達に知らせた方がいいんじゃ――」

 

「いえ、援軍が欲しいのは山々ですが、それを許してくれる相手ではないでしょう」

 

 いつ戦闘が始まってもおかしくない、一触即発な状況なのだ。

 加えて、ケブラーのような巨大な龍の形態であるならばとにかく、ガルムの身体を使っている状態では大勢で挑んでも非効率的という理由もある。

 

「で、でもそれでは、本当に一人で六龍と戦うことに――」

 

「おいおい、戦う訳でもねぇ奴が怯えてんじゃねぇよ」

 

「っ!?」

 

 ローラさんの言葉に、ティファレトが反応した。

 

()り合うのは、俺様と親友だ。

 横から口挟むんじゃねぇ」

 

「う、あ――」

 

 宿の時とは打って変わり、強烈な殺気を放つティファレト。

 ローラさんはその“気”に当たり、たじろいでしまう。

 

「ま、しかし。

 お前の心配は分かる。

 ひゃ、はははっ――今すぐそれを晴らしてやるよ!」

 

 言うが早いか。

 人狼は駆けた。

 私に向け、疾走する。

 

 巨躯からは想像できない速度。

 身構える間もなく、肉薄され――

 

「――おらぁっ!!」

 

 鋭い爪が迫る。

 回避――できないっ!

 

 

 周囲に血が飛び散った。

 

 

「……え?」

 

 ローラさんの気の抜けた声。

 呆然と私達を――いや。

 血が噴き出し(・・・・・・)あちこちが裂け(・・・・・・・)不自然な方向へ(・・・・・・・)折れ曲がった(・・・・・・)、ティファレトの腕を見ていた。

 

「やっぱりか」

 

 しかし重傷を負ったにも関わらず、ティファレトの態度は飄々としている。

 まるで“こうなること”が分かっていたかのようだ。

 

「ど、ど、どういうことですか、クロダさん!?」

 

「ケセドの“契約”ですよ」

 

「契約!?」

 

 ローラさんの質問に答える。

 

「勇者の戦いは、ケセドの“契約の力”によっていくつかの制約(ルール)が課せられています。

 基本的に、戦いを滞りなく進めるために制定されたのですが……

 その中に、“勇者同士の戦いに他の勇者は介入できない”というものがある」

 

「――あ」

 

 彼女も気付いたようだ。

 

「現在、私は“エゼルミアさんと戦闘を行っている”ことになっています。

 つまり、ティファレトが――ガルムの身体を操っているティファレトが私と戦うことは、『ルール違反』ということです」

 

「その代償が、コレってわけだ」

 

 手をプラプラと振って、笑うティファレト。

 

「ひゃはははっ!

 なーにが、室坂陽葵を助けるため、だ。

 お前等は、最初からコレ目当て(・・・・・)でエゼルミアと取引したんだろう?

 ケセドの“契約”を文字通り『盾』にして、俺様とイネスを消す腹積もりだったわけだ。

 何せ、“戦闘中の勇者”には手を出せないが、“戦闘を行っていない勇者”には手を出せるからなぁ!!」

 

「――知っていたのか」

 

「ああ、分かっていたとも!

 ひゃははははっ!

 ケテルもつくづく人間ってもんが見えてねぇ!

 エゼルミアがただ魔族を殺したい一辺倒で行動するとでも思ったかね!

 あの女は確かに魔族嫌いの気狂いだが――しかし、自分が勇者であることの矜持も持ってやがるのさ!」

 

 ティファレトの言う通りだった。

 この“作戦”をそもそも提案してきたのは、エゼルミアさんだったのだ。

 

「エゼルミア様が――」

 

 感嘆の声を出すローラさん。

 この世界の住人である彼女としては、五勇者が“勇者として行動していた”ことに、感じ入るものがあるのだろう。

 

 ――もっとも、彼女が魔族の絶滅を企てていることも事実。

 危険人物であることにも、変わりはないのだが。

 

「そこまで理解していて、何故私と戦うと?」

 

 抱いていた疑問を口にする。

 今までの台詞が確かならば、ティファレトは己が不利を自覚して戦いに臨んだということになる。

 

「あん?

 何言ってやがる。

 だからこそ(・・・・・)、だろうが!」

 

「むっ!?」

 

 目を見張った。

 

 みるみると、人狼の腕が治っていく。

 まるで逆再生をしているかのようだ。

 これが、人狼の回復力か。

 ガルムから聞いてはいたが――想像以上だ。

 ティファレトが司るという、『生命』の力とやらも上乗せされているのか?

 

「美咲から叩き込まれた“戦闘技術”に、契約を利用して得た“ケセドの力”!

 これでようやくお前は――俺様と、対等の戦い(・・・・・)ができるってわけだっ!!」

 

「んなっ!?」

 

 人狼は、治った腕を振りかぶり、何の躊躇も無く私に振り下ろした。

 その気迫に、反射的に手でガードする。

 

「――ぐぁっ!!?」

 

 吹き飛んだ。

 今度は、私の身体(・・・・)が吹き飛んだ。

 

「うぉおおおっ!?」

 

 <射出>を使用して姿勢を制御、どうにか着地する。

 爪で撃たれた腕が、ビリビリと痺れている。

 

「クロダさんっ!?」

 

「――大丈夫です」

 

 叫ぶローラさんを安心させるべく、片手を上げて無事をアピールする。

 実際の所、驚愕で鼓動がやたら早くなっていたが。

 

 ……馬鹿な。

 ケセドの契約を無効化したのか――?

 

「いいぞ、親友。

 よく耐えた。

 いきなり終わりじゃ、呆気なさすぎるからなぁ?」

 

「――っ!」

 

 ティファレトの姿を見て、私は息を飲む。

 

 違った。

 契約は無効になどなっていなかった。

 その証拠に、人狼の腕は再度ズタズタに切り裂かれている(・・・・・・・・)

 つまり奴は――

 

「ケセドの“契約”の上から、力づくで攻撃してきたのか――!?」

 

「おうよ」

 

 ティファレトがニヤリと笑った。

 

 考えてみれば、奴の攻撃が直接当たれば私など一たまりも無いのだ。

 ケセドの“契約”があったからこそ、私はこうして生きているというわけで。

 ……いやしかし、だからといって自分に返ってくるダメージお構いなしに仕掛けてくるとは――

 

「――無茶苦茶だ」

 

「ひゃはははっ!!

 無茶苦茶、実に結構!!

 俺様はな、他の“誰か”の思惑に乗って行動するのが、大ッ嫌いなんだよぉっ!!」

 

 狼の腕が瞬時に治る――と同時に、再度こちらへ突貫。

 

 まずい。

 すぐ態勢を整えねば、()られる。

 

 ――奥義“風迅(バースト・オーバー)”!

 

「ひゃっははははははぁっ!!」

 

「うぉおおおおおっ!!!」

 

 ティファレトの鉤爪を、超加速した上段蹴りで迎え撃つ。

 爪と接触する直前、光の文字(ケセドの契約)が私の脚鎧を包み――

 

「「――ぬあっ!!?」」

 

 弾かれる。

 衝突の衝撃で、ティファレトは仰け反り、私は後ずさった。

 人狼の腕は今回も傷を負ったが、すぐ元に戻る。

 一方で私の脚には鈍い痛みが残った。

 

「いい感じだぁっ!!」

 

「くっ!」

 

 来る!

 今度は逆腕!

 正拳突きで撃ち落とす!

 

「まだまだぁっ!!」

 

「ぬぁああっ!!」

 

 連撃が迫る!

 

 下からの斬り上げ!

 踵落としで撃墜!

 

 横薙ぎ!

 回し蹴りで潰す!

 

「だりゃぁっ!!」

 

 こちらから貫手!

 ケセドの力によるものか、容易くティファレトの胸に突き刺さる!

 ――が、相手は止まらない!

 

「痒い痒いっ!!」

 

 蹴りつけが迫る!

 両腕で受け止め!

 

 体当たり!

 受けは無理だ避けろ!!

 

「ひゃははは! いい反応するじゃねぇかっ!!

 ガルムの特訓が効いてるなっ!!」

 

「お陰様で!!」

 

 跳び退り、数mの距離を置いて対峙。

 

 瞬く間に息が上がる。

 ティファレトが攻撃する度に光る契約文字が私を守るが、奴は全く持って意に介さない。

 腕が砕けようと足が裂けようと、手を休めなかった。

 すぐさま完治させ、次の攻撃に移る。

 

 発生しているダメージ自体は遥かにティファレトの方が上だが、とてもじゃないが有利に戦いを進めている気がしない。

 というより、疲労が溜まっていく分こちらが明らかに不利か。

 

「ふぅぅぅ――」

 

 息を整え、低く構える。

 

 有効打は与えられていないが、ティファレトの動きは大分見れた(・・・)

 そろそろ“社畜”の効果が発揮できる。

 ガルムと何度も手合わせした(・・・・・・・・・)おかげだ。

 身体の主がティファレトに変わっても、基本的な動きは似通っている。

 

 ――だが。

 

「うーむ。

 もう、無理そうだな」

 

 あっさりと、人狼はそう言った。

 

「なに?」

 

「いや、もうお前に攻撃は通用しねぇだろうなってことさ。

 “社畜”、もう効き出してんだろ?

 なら、俺様の攻撃はもう親友には当たらん」

 

 軽く断言してくる。

 

「……では、どうする。

 もう止めるのか」

 

「まさか。

 当たらねぇとは言ったが――それは、このままなら(・・・・・・)の話だ」

 

「何?」

 

 どういう意味か。

 聞く間は無かった。

 すぐに“答え”が分かったからだ。

 

「はぁああああっ!!」

 

 変わっていく。

 人狼の“色”が変わっていく。

 気品さすら漂う白い毛並みが、燃えるような赤色へと。

 ――いや、比喩ではない。

 その身体は確かに炎を纏っていた。

 

 な、なんだ、これは――?

 

「ひゃはははは、ちょっとした形態変化(フォームチェンジ)ってやつだ。

 最近のお約束だな?」

 

 ……確かにゲームのボスが“変身”するのはお約束と言えばお約束だが。

 これは、かなり、まずい!

 私は、こんな展開、予想していない(・・・・・・・)!!

 

「さぁて、踏ん張りどころだぜ、親友。

 “社畜”が使えるようになるまで、耐えきれるかな?

 ――赤い俺様は、白い時よりちぃっと熱いぜ」

 

「――っ!!」

 

 赤い狼が飛び掛かってくる。

 ティファレトの猛攻が始まった。

 

 

 

 第二十八話②へ続く



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② 変身は男の浪漫

 

 拝啓、皆様。

 前回よりこの方、いかがお過ごしでしょうか。

 私は現在――

 

「おりゃぁっ!!」

 

「ぐほっ!?」

 

「だりゃぁっ!!」

 

「がはっ!!」

 

「どっせぇっ!!」

 

「げぼっ!?」

 

 ――絶賛、サンドバック中です。

 

 などと冗談言っている場合ではない。

 やばい。

 完全にやばい。

 体毛が赤く変わった人狼ティファレトに、成す術も無くボロボロにされていた。

 

「どうしたどうした!?」

 

「ぐっ!? がっ!? げっ!?」

 

 左右からの連打に、身体が右へ左へ弾かれる。

 脳が揺さぶられ、意識が朦朧と。

 既に体中が激痛に苛まれており、どこをどう殴られたのか把握ができない。

 

 私が今生きていられるのはケセドの契約文字によるものだ。

 これが無ければ、もう二桁回数は殺されていただろう。

 幸いというか、奴が纏う炎は契約文字と戦神の鎧でほぼ無効化できたが。

 

 攻撃の速度と威力が飛躍的に向上している。

 しかも、ティファレトはこれまでと戦い方まで変えていた。

 

「おらっ!」

 

「うぐっ!?」

 

 中段突き。

 

「しゃらっ!!」

 

「がふっ!?」

 

 上段突き。

 

「おらよっ!!」

 

「ぐっ!? がっ!?」

 

 足払いから肘打ちへのコンビネーション。

 

 ――これまで行っていた本能的な戦いとは異なる、効率的な動きだ。

 黄龍ティファレトは、“拳法”――細部は異なるが、空手に近いか?――を扱っていた。

 自分のポテンシャルを最大限発揮できるよう、“技”を使っているのだ。

 まるで、人間のように。

 

 “白い時”とは余りに違う、初見の事柄(・・・・・)

 “社畜”の効果(デメリット)も加わり、とても対処できそうにない。

 

「おらおらぁっ!!」

 

 ――できそうにない。

 本来ならば(・・・・・)

 

「むんっ!!」

 

 振り下ろされた狼の手刀を、片手で受け流す(・・・・)

 

「せやぁっ!!」

 

 そしてもう一方の腕で、拳をお見舞いした。

 

「なにっ!?」

 

 予想だにしていなかったのか、ティファレトはその攻撃をモロに食らう。

 契約文字の効果も上乗せされた高速の打撃は、人狼の胸を大きく抉った。

 

 ……やはりか。

 

「――へ、随分と慣れる(・・・)のが早かったじゃねぇか」

 

「お陰様でな」

 

 相手の動きが止まったのを見計らい、懐から治癒ポーション取り出し、一気に飲み干す。

 全快――には程遠いが、かなりマシになった。

 

 奴の想像より早く私が対応できたのは、奴が“拳法”を使ったからだ。

 動物的な動作に比べて、体系だった動作は理解しやすい(・・・・・・)

 空手を学生の頃に齧ったことがあるのも、大いに役立った。

 もし、ティファレトがまた系統の異なる“本能的な戦法”を取ってきたら、こうはいかなかっただろう。

 

 それに加えて――

 

「うぉおおおっ!!」

 

「おっ?

 今度はそっちの番ってか?」

 

 <射出>で加速し、一気に肉薄。

 そのまま超速の連撃を繰り出す。

 

 右拳。

 左肘。

 右蹴り。

 左膝。

 右鉤突き。

 左貫手。

 右回し蹴り。

 左蹴り上げ。

 

「グッ! ヌッ!? ヌっ!? ヌッ!?」

 

 攻守逆転。

 私の責めに、人狼は初めて“防御”に回った。

 

 ――やはり、予想していた通りだ。

 ティファレトの(・・・・・・・)防御能力が落ちている(・・・・・・・・・・)

 

 “白い時”はダメージを受けても即再生して動き続けていた。

 しかし“赤くなった今”、目に見えて再生速度が鈍っている。

 私を殴った時(・・・・・・)にできた傷がなかなか癒えないのを見て、もしやと思ったのだ。

 

 おそらくだが、奴はそれまで防御に回していた“力”を、攻撃に割り振った(・・・・・・・・)のではないだろうか。

 純粋な強化ではなく、能力変更(パラメータチェンジ)

 奴の言った形態変化(フォームチェンジ)は、そのものズバリだったわけか。

 

「せりゃぁあああっ!!」

 

「う、お、お、お、お――っと!?」

 

 この好機は逃さない。

 すかさず追撃を仕掛ける。

 

 私の拳が、脚が、人狼の肉を抉っていった。

 

「こいつは、きつい、な――――おいっ!!」

 

 形勢不利と見て、ティファレトが大きき後退する。

 だが逃がす訳にはいかない。

 <射出>によって加速された動きで、人狼を追う――が。

 

「ぬぅううああああああっ!!」

 

 ティファレトの雄叫び。

 同時に、またしても奴の“色”が変わった。

 今度は――青。

 

「ひゃ、ははははっ!!

 さぁ、今度はどうするっ!?」

 

 青い狼は私を迎え撃つように動き――速い!?

 “風迅”の全速力ですら奴に追いつけない。

 ――今度は速度特化か!?

 

「く、くそっ!」

 

 “水飛沫”を残しながら縦横無尽に駆け巡るティファレトの姿を、必死で捕えようと試みる。

 ――しかし、目で追うことすら困難だった。

 速度だけならデュストの“光迅”が上だが、“機動性”ではこちらの軍配が上がる。

 

「どこ見てやがるっ!!」

 

「!!?」

 

 思考の直後。

 すぐ横から、人狼の声が聞こえた。

 気付けば、もう手の届く位置に奴の姿はあった。

 

「食らっときなぁっ!!」

 

「くっ!!」

 

 籠手でガードしようとする――が、無理!

 人狼の速度に、とてもついていけない!

 奴の爪が、私の顔に直撃する――――あれ?

 

「おらおらおらぁっ!!

 まだまだいくぜぇっ!!」

 

「…………」

 

 次々に襲い来るティファレトの攻撃。

 その様は中国拳法のそれに似ていた。

 私はそれを棒立ちになって受け続ける。

 

「おらおらおらおらっ!!」

 

「…………」

 

「そらそらそらそらっ!!」

 

「…………」

 

「どらどらどらどらっ!!」

 

「…………」

 

 えーと。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 人狼もようやく気付いたようで――いや、とうの昔に気付いていたのかもしれないが――叫びを止めた。

 一応、手は出してきている、が。

 

 一切の誇張抜きで、痛くも痒くも無い。

 ……ティファレトの攻撃は、契約文字の前によって“完全に”無効化されていた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 私達に訪れる沈黙。

 先にそれを破ったのは人狼の方だった。

 

「スピードに特化し過ぎちまったぁっ!!?」

 

「阿保かっ!!」

 

 どうも、速度に“力”を割り振り過ぎて、ケセドの契約文字を突破するだけの攻撃力を残していなかったらしい。

 お粗末にも程がある。

 

「な、ならこれはどうよっ!!」

 

「まだ変わるのか!?」

 

 三度、狼の体色が変化する。

 次の色は緑だ。

 奴を中心に、旋風が巻き起こった。

 

「ひゃははははぁっ!!

 この形態(フォーム)は感覚特化だぁっ!!」

 

「か、感覚特化?」

 

 それは――――この状況でどんな意味があるんだ?

 まあ考えても仕方ない。

 未だ至近距離にいるティファレト目掛け、直突きを放つ――が。

 

「ふっ、見え見えだぜっ!!」

 

 拳は、あっさりと払われた。

 攻撃を止めるのではなく、“流す”動き。

 詳しいわけでは無いが、その所作は太極拳に酷似していた。

 突きの軌道を変えられたことに気付けない程の、流麗な“受け”。

 

 感覚を強化したと言うだけあって、私の動きを完璧に把握されたのだろうか。

 だとすれば、考えた以上に厄介な能力だ。

 ――と。

 

「――?」

 

 私は怪訝な顔をした。

 ティファレトが硬直している。

 のみならず、顔を苦し気に歪めていた。

 その目は、己の手を――私の拳を払ったことで契約文字により多少の傷を負った、己の手を見つめていた。

 そして。

 

「うぉおおおおおおっ!!?

 手がっ!!? 手が焼けるように痛いっ!!!?」

 

 その場で、地面をのたうちまわり出した。

 ……おい。

 

「ひょっとして、痛覚まで強化した、とか?」

 

「ひゃははははは、その通りだぁっ!!

 やっちまったぜぇっ!!

 うぁああああっ!! マジ痛ぇえええええっ!!!」

 

 ごろんごろんと転げまわる。

 六龍の威厳など、まるで見えない有様であった。

 最早、間が抜けているとかそういうレベルですらない。

 

 ……い、いや、これは絶好のチャンス!

 

「うりゃうりゃうりゃうりゃっ!!」

 

「あっ! コラっ!! 今攻撃してくんなっ!!

 しかもヤクザ蹴りとかお前っ!!

 ぎゃっ!! いってぇっ!! 痛いっ!!

 やめっ!! やめろぉっ!!?」

 

 どれだけ泣き言を喚こうが、お構いなしである。

 ダウンしている人狼相手に、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る、蹴る。

 痛みが増大しているせいか、見た目の怪我以上にティファレトは痛がっていた。

 もうこのまま押し切れそうな気すらする。

 

「ん?」

 

 蹴った脚に硬い感触。

 まるで金属を叩いたような。

 これは――?

 

「ふ、ふふふのふ。

 これぞ、4つ目の形態」

 

 人狼の不敵な声(若干震えていたが)。

 見れば、いったい何時変化していたのか、ティファレトの身体が紫色になっていた。

 その毛並が、金属的な輝きを帯びだす。

 

「防御を高めたか」

 

「ひゃははは、その通りだ。

 もう、親友の攻撃は通らねぇぜ?」

 

 次から次へとよくもまあ。

 だが冷静に考えて、これは私にって相当危険な能力だ。

 こうも多彩に仕掛けられては、“社畜”の効力が発揮できない。

 慣れる(ルーチン化)する前に、別の戦闘スタイルに変わってしまうからだ。

 ただでさえ、ガルムではなくティファレトがいきなり出てきたため、“勇者殺し(ヒーロースレイヤー)”(命名:美咲さん)が使えないというのに。

 もしケセドの契約文字が無かったならば、抗うこともできず敗北していたことだろう。

 

「……んん?」

 

 そこで私は、あることに気付いた。

 白、赤、青、緑ときて、紫。

 最初は六龍の力でもモチーフにしているのかと思っていたのだが、この配色、ひょっとして――

 

「ひゃはははは。

 気付いたようだな、親友」

 

 私の態度に何かを感じ取ったのか、ティファレトが笑い出す。

 

「貴様、まさか、その力は――!」

 

「そう――――仮面ラ●ダーク●ガだ」

 

「はっきり言いやがった!!」

 

 少しは伏せろよ!!

 いや伏字は使っているけれどそういう問題では無く!!

 

「なんで六龍が日本の特撮番組を知っているんだ!?」

 

「ひゃははははっ!!

 そんなもん、好きだからに決まってんだろうが!!」

 

「答えになってない!!」

 

 一応、地球のことはかなり前々から認識していたという話なので、日本の文化についても把握していておかしくはないが!

 

「いや知ってるとしたところで、何故●イダーの真似事を!?

 意味があるのか、それ!?」

 

「ああっ!?

 お前、五●雄●の悪口は俺様が許さねぇぞ!!」

 

「悪口を言うつもりは無いけれども!!」

 

 だからと言って、特撮の真似事は如何なものかと思う。

 

「なに呆れ顔してやがる!!

 親友が使う“疾風迅雷”だって、ありゃただのライ●ーキックだろ!?」

 

「バラすなぁっ!!」

 

 言われなければ気付かれないのに!

 黙ってろよ、そういうことは!

 

「そうだよ!

 私だって、●面ライダ●好きだよ!!

 というか、特撮ものは全般的に見ていたよ!!

 昔憧れてたヒーローの真似をして何が悪い!!?」

 

「――いや。

 悪くなんかねぇさ。

 男の子だもんな」

 

 優し気な口調で慰めてくるティファレト。

 その台詞に、心の枷が解かれていくのを感じる。

 

 いや、どうしてもね。

 この年齢になってもまだ子供向け番組が好きっていうとね。

 世間の目が気になってね。

 

 一瞬空気が弛緩したようにも感じたが、すぐに身を引き締める。

 

「さあ与太話はここまでだ!

 俺様の鉄壁な防御、どう攻略するつもりだぁ!?」

 

「くっ!」

 

 試しに打突を繰り出すも、全て毛皮に弾かれる。

 契約文字も発動しているのだが、その力をもってしても傷一つ付けられない。

 

「無駄無駄ぁっ!!

 屁でもねぇぜ、そんなパンチなんざぁっ!!

 なんなら“疾風迅雷”でもやってみるか?

 あんな大技を俺様相手に決められると思うんならなぁ!?」

 

 ――確かに、“疾風迅雷”であれば今のティファレトにも痛撃を浴びせられるだろう。

 だがあの技は酷く『前準備』が長い。

 相手に警戒されていては、当てることなど不可能だ。

 

 どうしたものか……

 

「――――」

 

「んー?

 どうしたぁ。

 打つ手なしか、おい?」

 

 無駄と分かってはいるが、さらに打ち、殴り、蹴る。

 ――全て徒労に終わったが。

 

「ひゃはははっ!

 本気で何もできねぇのかよ!!

 そんじゃ、こっちから行くぜぇ!!」

 

 私の攻撃を全て跳ね除けたティファレトが、動き出す。

 すぐさま防御を固めた。

 今の奴は防御特化、凌げないことも無いはずだ。

 

「…………」

 

 ん?

 

「…………」

 

 おや?

 

「…………」

 

 人狼が、動かないぞ?

 

「…………」

 

 いや、動こうとはもぞもぞしてはいるようなのだが。

 

「…………」

 

 なんなんだ?

 

 ――しばししてから、ティファレトが口を開いた。

 

「……か、身体を硬くし過ぎて……動けなひ」

 

「……………………」

 

 

 

 ――決戦奥義“疾風迅雷”

 

 

 

 ティファレトを中心に、光の柱が聳え立った。

 

 

 

 

 

 

「やりましたね、クロダさん!」

 

 見守っていたローラさんが駆けてきた。

 決着がついたことに安心したのか、満面の笑みを浮かべている。

 人狼は、今なお燃え盛る炎の中だ。

 

「途中から酷くぐだぐだで緊張感がまるで無かったですけれど」

 

 なんだか今日のローラさん、言葉に刃があり過ぎませんかねぇ?

 自分を酷い目に遭わせて犯人が消えた、安心感から来るものだと思っておこう。

 

 ――と、その時。

 

「あああああああっ!!

 死ぬかと思ったぁっ!!」

 

「きゃあっ!?」

 

「しぶとい!?」

 

 炎の中から、狼が立ち上がる。

 “疾風迅雷”を受けてまだ無事なのか!

 いくら何でも硬すぎるだろう!?

 

「ひゃははははっ!!

 詰めが甘いぜ!

 もう1、2発叩き込めば、勝負は決まってたのになぁ!?」

 

 無茶を言う。

 あんな大技、そうそう連発できるか。

 

「まあしかし、だ。

 俺様をここまで追い詰めるとは。

 流石親友、やるじゃねぇか!」

 

「いや、後半はほとんどそちらの自爆だが」

 

「コントでもやってるのかと思ってました」

 

 さり気無く酷いことを言うローラさん。

 だがティファレトは動じず、

 

「へ、コントか、そいつはいい。

 六龍のギャグ担当とは、この俺様のことよっ!!」

 

「ぬぅっ!?」

 

 強い!

 あっさり認めた!!

 この器のデカさ、ガルムとは桁違いだ!

 

「驚くところ間違えてますよ、クロダさん」

 

「そうですかね?」

 

 一応説明しておくと、まだガルムの身体から抜け出していないティファレトには、“神格消去”の契約文字を撃ち込めない。

 奴が“疾風迅雷”を食らって無事なのは、その辺りも関係している。

 それを差し引いても、驚異としか言いようのないタフネスだが。

 

 ともあれ。

 

「戦闘はまだ終わっていないようです。

 離れていて下さい、ローラさん」

 

「そうだぞ。

 近くに居たら巻き込まれちまうからな」

 

 私とティファレトが彼女に離脱を促す。

 

「……なんだか、本当に息が合ってますね、お二人共」

 

 訝し気な顔をしながら、ローラさんは広場の外へと退避していった。

 去り際、私へと意味深な視線(・・・・・・)を送りながら。

 

「さぁて。

 続きをおっぱじめるか」

 

「―――」

 

 人狼の言葉に応じず、無言で構えを取る。

 奥義が通用せず絶体絶命――に見えるかもしれないが、然にあらず。

 ティファレトも決して無傷では無いのだ。

 いや、傷の深さは深刻とすら言える。

 体中至るところに傷痕や火傷痕が残り、再生が追い付いていない。

 平然と振る舞っているものの、相当厳しい状態のはずだ。

 

「ひゃははは、その面。

 今の俺様相手なら十分勝機があると思ってんな?」

 

「……違うか?」

 

「いや、違わねぇ。

 確かにこっちもいっぱいいっぱいさ」

 

 軽く認めるティファレト。

 その“潔さ”には、好感すら抱いてしまいそうだ。

 

「だがなぁ、親友。

 俺様はまだまだ全部見せたわけじゃねぇぞ?」

 

「――まだ、あるか」

 

 覚悟は、していた。

 憑依しているガルムもまた、多彩な技を持つことで知られる勇者だったのだから。

 

「2000の技を持つ男と呼んでくれ」

 

「駄目だ」

 

「そっかー」

 

 その呼び名は権利上問題があるからね。

 

「ひゃははは!

 親友なら――特撮好きのお前なら分かるだろう!

 この“上”の形態があることを!」

 

「ま、まさか!」

 

「そう――ライジ●グフォー●だ」

 

「…………」

 

 だから隠せって。

 せめて黄金の力とか、そんな具合に。

 

「本当は身体の一部位を他の獣の形に変形させて、鷹・虎・バッタとかもやってみたかったんだが」

 

「この期に及んで別ネタも持ってくるのか……」

 

「魔物と融合(ユーゴー)して、“力、お借りします”とかなぁ」

 

「そろそろコメントするのが辛くなってきたぞ」

 

 ウ●トラ●ンネタまで振られても、その、なんだ、困る。

 というか、時代設定的に私はそれを知っていていいのだろうか?

 

「時間も無いことだし、その辺のお披露目はまたの機会にしよう」

 

「心底そんなもの見たくない」

 

 こいつとの再戦なんぞ御免被る。

 

「じゃあ行くぜぇっ!!

 俺様の真の力、見て貰おうか!!

 ――超・変・身っ!!」

 

 とうとう伏字無しでやりやがった!!

 

 ――などと突っ込む間も無く。

 ティファレトが、金色の狼へと変貌していった。

 

 すかさず私は、

 

「ローラさん、今です!」

 

「はいっ!」

 

 ローラさんへ“合図”を送ると、全力で後方へ退避。

 地面に身を伏せ、衝撃に備えた(・・・・・・)

 

「あん?」

 

 人狼が訝しむが、もう遅い。

 ローラさんの投げた“爆弾”は、既に奴のすぐ傍らに転がっている。

 

 “爆弾”。

 無論、日本でいう本来の意味の物品では勿論無い。

 『獄炎の欠片』と呼ばれる赤い結晶で、使用すると周囲に莫大な破壊エネルギーをまき散らす――まさに、“爆弾”だ。

 最上級の攻撃用マジックアイテムであり、いざという時のため、ローラさんがアンナさんより預かっていた代物である。

 

 傷を負って万全の状態にない、しかも“変身”のため無防備になっている今なら、ティファレトにも十分な効果があるはず。

 この隙を作るために、ここまで奴が“変身”する際、敢えて攻撃を行わなかったのだ!

 

「うぉおおおおおっ!?」

 

 ティファレトも、投げ込まれたソレが何か、すぐに理解したようだ。

 慌てて距離を取ろうとするも、それより早くマジックアイテムが効果を発動した。

 

「バカな――――!?」

 

 “結晶”から爆発的に放たれる赤黒い光へと、人狼が飲み込まれていく。

 その光はさらに勢いを増していき――

 

「――あれ?」

 

 私も飲み込まれた。

 え、嘘?

 ちゃんと距離、取りましたよね?

 

「ば、馬鹿なぁあああああっ!!?」

 

 ティファレトと共に、灼熱地獄へと引き込まれる。

 

「あ、あら?

 効果範囲が伺っていた仕様より広いみたいですね?」

 

 そんなローラさんの呟きを聞きながら。

 

 

 

 第二十八話③へ続く



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③ I am your father

 

 

 灼ける。

 灼ける。

 身体が灼ける。

 

『獄炎の欠片』によって発生した“火”の渦は、今なお私を覆っていた。

 戦神の鎧が持つエネルギー吸収効果よってある程度は防げているが――ここまで炎に包み込まれては、完全に燃え尽きるまで、そう時間はかからないだろう。

 美咲さんのように“全身鎧”として着込んでいれば違ったのだろうが。

 

 不思議と、痛みは感じなかった。

 人が感じられる痛覚の許容量を超えてしまったのかもしれない。

 周囲の空気が燃やされ、脳へ酸素が届かなくなったことも原因か。

 

 意識が朦朧とする。

 思考が停止していく。

 これが(ティファレト)によるものではなく、味方(ローラさん)によって齎されたのだという、ぐだぐだ感極まる事実も、最早私にはどうでもいいことだ。

 ……本当にどうでもいいことなのだ。

 

(――っ――ちっ――いちっ――)

 

 ああ、なんだ。

 誰かの声が聞こえてくる。

 

(――いちっ――せ――ちっ――せいいちっ――誠一っ――)

 

 あ、貴方は……父さん!

 十年前に亡くなった父さんじゃないか!

 

(誠一、クラスの麗奈ちゃんな、そろそろ子供を孕める身体になっていると思うんだ。

 今度、家に連れてきなさい)

 

 ああ、父さん――

 

(誠一、セックスをした代償に金を払うなんてことしてはいけない。

 女はな、男に犯されるために生きているんだ。

 セックスしてやること自体が、女への報酬なのさ)

 

 これが、走馬燈か――

 

(さあ、誠一、こっちに来なさい。

 今日は近所の雌共を集めた。

 どっちが多く孕ませられるか、競争しようじゃないか――)

 

 父の幻影が、手を伸ばしてくる。

 私もまた、その手を取ろうと腕を伸ばす。

 

 父さん、私も今そっちに――

 

 私の手を父が握ってきた、その瞬間。

 

 

「逝くなぁっ!!」

 

「!?」

 

 

 誰かの声(・・・・)で、一気に現実へ引き戻された。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、無事か、親友!?」

 

「……ど、どうにか」

 

 あれから。

 私はティファレト(・・・・・・)の手で『獄炎の欠片』から救出された。

 広場では、未だにエネルギーの奔流が渦巻いている。

 あと少しあの場所に留まれば、私はこの世から旅立っていたことだろう。

 

「クロダさん、御無事で何よりです」

 

「ご心配おかけしました」

 

 心配そうな顔で私への手当を続けるローラさん。

 そんな彼女へ、ティファレトが詰め寄る。

 

「いや、心配顔してるけどな?

 あれやったの、お前なんだからな?

 分かってんのか、おい?」

 

「どうしてあんな効果になってしまったのでしょうね?」

 

「おい親友!

 この女、反省してねぇぞ!!」

 

 それは別に構わない。

 例え私もろともでも、龍が倒せたのなら今後の計画に大きな支障はないのである。

 ただ――

 

「――やはり、理由が気になりますね。

 どうして、こんなことになったのか」

 

『獄炎の欠片』にここまでの効果範囲は無いはず。

 いったい何が起きたというのか。

 

「だ・か・ら!

 この女のせいなんだって言ってんだろ?

 大方、<範囲拡張(エリアエンラージ)>でも使ったんだろう」

 

<範囲拡張>とはその名の通り、マジックアイテムの効果範囲を広げる<錬金術師(アルケミスト)>のスキルである。

 確かに、『獄炎の欠片』を確実にティファレトへ当てるため、使用を指示してはいたが。

 しかし、

 

「そんなまさか。

 私のレベルでは、こんなにまで拡大できませんよ」

 

 そう。

 ローラさんはまだ冒険者になりたてのため、当然スキルの熟練度も低い。

 故に、効果量も微々たるものであり、これ程の大惨事を引き起こすことなどできはしない。

 だがティファレトはなおも続ける。

 

「その認識がおかしいんだっつーの。

 おい女、ちょっと自分の冒険者レベルを確認してみろ!」

 

「は、はい?」

 

 人狼に促され、戸惑いながらも冒険証を取り出すローラさん。

 ――すぐに、彼女の顔色が変わった。

 

「ええぇええええっ!?

 91になってます!!」

 

「きゅうじゅういちっ!!?」

 

 私の顔色も変わった。

 なんだそれ。

 私のレベルより高いじゃないか。

 

「ど、どうなってしまったんですか!?

 昨日確認した時はまだ15位だったのに!

 私の身体に何が!?」

 

「ひゃはははは!!

 んなもん決まってんだろうが!!」

 

 ティファレトが高笑いをあげる。

 こいつ、ローラさんのレベルについて知っていたのか?

 

「ついさっきまで、この女は俺様の精液をたらふく飲んで、注がれたからな!

 最強の人狼種の精子を介して、生命を司る黄龍ティファレト様の力を浴び続けていたわけだ!!

 そりゃ、この女程度なら、限界まで力が引き出されるってもんよ!!」

 

「――な、なんと」

 

 そんなことができるのか!

 コツコツと魔物を倒してレベルを上げていたのか馬鹿馬鹿しくなってくるな!

 

「と、ということは、ひょっとして私、クロダさんやミサキさんより強くなってたりするのでしょうか?」

 

「あん?

 んなわけねぇだろ。

 レベルってのは、“どれだけ潜在能力を解放できたか”を示す指標だ。

 同じレベルでも人によって強さは千差万別。

 ひゃはははっ! 弱ぇ奴はどこまでいっても弱いままってことだな!」

 

 ――その通りではあるのだが。

 腹の立つ言い方をする奴だ。

 

「んで、美咲は強さの限界が他の人間共とは比べ物にならん位高い。

 知ってるか?

 あいつ、7年前に魔王と戦ってた時、レベルは20行ってなかったんだぜ?」

 

「え!?」

 

「ま、マジですか」

 

 初耳だった。

 規格外に過ぎる。

 

「親友の場合、限界はそう高いわけでもないし、しかも素のステータスが低い<魔法使い>だからな。

 ただ殴り合うだけなら、この女でも案外いい勝負はできるかもしれねぇ。

 親友の強さは“社畜”による超絶技能に集約されてるからなぁ」

 

「な、なるほど」

 

 ローラさんは、ティファレトの説明を素直に聞き入っていた。

 敵の言葉を簡単に信じてしまうのは危険かもしれないが、間違ったことを言ってはいないので問題は無いだろう。

 

「でもこんな力を私に与えて、いったい貴方は何をしようと――ま、まさか!」

 

 ローラさんが、何かに気付いたようだ。

 

「――まさかこの力で、キョウヤ様を暗殺しろ、と?」

 

「違うぞ?」

 

 あっさりティファレトは否定した。

 

「そんなこと言っておいて本当は?」

 

「だから違うって」

 

「えー」

 

 どうしてそんな残念そうなんですか、ローラさん。

 

「だいたい、お前じゃどう足掻いたところで美咲を殺すことなんざできねぇよ。

 身の程を知れ」

 

「む、むぅ。

 ……試してみる価値はあると思うのに」

 

「こ、この女、怖いことをさらっと言いやがったぞ」

 

 一瞬、人狼がたじろぐ。

 凄いやローラさん。

 

 しかし今のは、奴に対して精神的優位に立つためにああいった言動をしたのであって、きっと本心からの発言ではないはず。

 ――本心じゃないですよ、ね?

 

 とはティファレトもすぐに気を取り直したようで、

 

「ひゃははははっ!!

 そんなことより、まだ気づかねぇのか!?

 てめぇの身体の異変によ!!

 俺様が、ただレベルを上げただけだと思ったのか!!」

 

「何っ!」

 

 聞き捨てならない。

 ティファレトめ、ローラさんの身体に何を仕掛けたというのか。

 

「わ、私に、いったい何を――?」

 

 怯える彼女に、ティファレトは顔をいやらしく歪ませながら、

 

「ひゃははははっ!!

 教えてやるよ!!」

 

 ボロン、とそのイチモツを見せつけた。

 

 で、でかい!

 そして太い!

 男根!

 恐ろしい程に、男根!!

 

 こ、こんな猛々しい雄を見てしまったら、ローラさんは盛りの付いた雌犬に成り果て――

 

「えい」

 

 ――彼女は躊躇うことなく、人狼の肉棒へ“薬品”を振りかけた。

 

「あぁああああああああああああっ!!!!!!???」

 

 途端、のたうちまわるティファレト。

 奴の股間は、じゅうじゅうと音を立てながら焼け、煙を上げている。

 

 ……きょ、強酸か何かを使ったのだろうか?

 他人事ながら、見るだけで股間の竦む光景だった。

 

「ひゅーっ…ひゅーっ…ど、どうだ、これで分かっただろう?」

 

「貴方の馬鹿さ加減が、ですか?」

 

 どうにかイチモツの薬傷を治した人狼の言葉を、ローラさんはばっさりと切り捨てた。

 

「そうじゃねぇよ!!

 ほらぁっ、いつものお前なら、俺様の巨ちんを見ようものなら勝手に股濡らしてアヘアヘ喘ぎ出しただろうが!」

 

「そんなことは!――――無い、とは言い切れませんけど」

 

 言い切れないどころか、確実に“そうなって”いただろう。

 ローラさんに刻まれた調教の痕は、彼女に雄への従属を強制させる。

 だが今回は、その傾向が見られなかった。

 これはいったい?

 

「言ったはずだ。

 俺様は生命を司る黄龍ティファレト。

 俺様の力に当てられりゃ、どんだけきつい“後遺症”だろうと、立ちどころに治るって寸法よ」

 

 そ、それでは――

 

「――ローラさん?」

 

「は、はい。

 言われてみれば、今は意識がいつもよりはっきりしているような。

 頭の中の靄が晴れたと言いますか……」

 

 彼女を蝕んでいた後遺症が、治った?

 ティファレトは、このためにローラさんを……?

 

「き、貴様、まさか――」

 

「おっと。

 俺様はただ、好みの雌を犯しただけだぜ?

 その結果、雌がどうなろうと――初期状態(ふりだし)に戻っちまったとしても――俺様の知ったことじゃねぇさ」

 

「ティファレト――」

 

 気のせいか、人狼の顔が優しい微笑みを浮かべたように見えた。

 

「いえ、繰り返しますけど無理やりしたら犯罪者なんですからね?

 そもそも、私の身体を治すのにレイプする必要あったんですか?」

 

 暖かくなった(気がする)空気を、ズバッと切り裂くローラさん。

 

 ――ま、まあ、そうなのかもしれないけれども。

 もう少しこう、この温い流れを大事にしてもいいのではないだろうか。

 いや無理か。

 

「いいじゃねぇか別に。

 細かいこと気にすんなって」

 

 朗らかに笑うティファレト。

 その表情からは、奴の真意が測れない。

 本当にただ犯したかっただけなのか、それとも何らかの策謀の一環なのか。

 普通に考えれば後者なのだが、ここまでの言動を見るに前者の可能性も否定できない。

 ――考えても仕方ないことか。

 

 さて、色々と話し込んでしまったが。

 

「……ティファレト。

 そろそろ戦闘を再開しよう」

 

 人狼に対して拳を向ける。

 少し和んでしまったものの、奴との戦いは継続中。

 未だ決着はついていないのだ。

 

「ん?

 ああ、いいよ、戦いは親友の勝ちで。

 あのままやってりゃ、ギリギリで親友が勝ってただろう」

 

「……は?」

 

 気を引き締める私に対し、余りにも淡泊に自分の負けを宣言してきた。

 

「他の六龍の支配を諦めるのか?

 陽葵さんの身体に移る、と?」

 

「何言ってんだ親友。

 さっきの爆発で頭イカレちまったのか?

 “この戦い”は、“勇者の戦い”じゃなかっただろうが」

 

 ……あ。

 そういえばそうだったか。

 これは、“ティファレト”を倒すために始めた戦いだった。

 故に、敗北したとしても陽葵さんに入る必要は無い。

 

「いやしかし、この戦いの目的を鑑みるに、敗北を宣言した以上お前には消えて貰わないと」

 

「ん? なんだ、敗者をこれ以上いたぶろうってか?

 それなら俺様にも考えがあるぞ」

 

「――何をするつもりだ」

 

 身構える。

 まあ、今の提案を受け入れるわけが無い。

 人狼は戦う力を十分に残しているのだから。

 奴が何かしてもすぐ対処できるよう、十二分に注意を注ぎ込む。

 しかしティファレトは――

 

「何をするって?

 決まってんだろ――逃げるんだよ!」

 

「はい?」

 

 ――思いもかけないことを口にした。

 

「戦って勝てない相手からは逃げる。

 当然のことだな」

 

「に、逃げる――?」

 

「親友も分かってんだろ?

 単純な速度じゃ、俺様の方が圧倒的に上だ。

 親友は、俺様を絶対に捕まえられねぇ」

 

 ――その通りだ。

 しかし、六龍が人間相手に逃げを打つのか?

 

「ひゃははははっ!

 俺様にそういう“プライド”を期待しても無駄だぜ!

 言ったろ、六龍のギャグ担当だってな!」

 

 ……これまた、手強いギャグ担当も居たものだ。

 

「つまり貴様は、自分以外の勇者が戦いが終わるまで身を隠す、と?」

 

 実に有効な手ではある。

 しかし、私がそれを口にした途端、ティファレトは露骨に不機嫌な顔をした。

 

「んなわけあるか。

 俺様がそんな情けねぇ戦法とるわけがないだろうが。

 だいたいな、もう“勇者の戦い”なんざ起きねぇよ」

 

「なんだと?」

 

 いきなり何を言っているんだ?

 まだ勇者はガルムを除いても2人残っている。

 龍に至ってはまだ5匹だ。

 

 訝しむ私を嘲笑うように、ティファレトは続けた。

 

「当たり前だろうが。

 いいか親友。

 お前は、“人の身であっても龍を倒せること”を証明しちまったんだぞ?

 それを知っちまった龍共が、真っ正直に戦うとでも思ってんのか。

 1000年以上続くグラドオクス大陸の歴史の中、延々と引きこもり続けてた(弱虫)共がよぉ」

 

 ……いや、自分で言うのもなんだが、私の勝率は現状でも相当低いと思うんだけれども。

 考えが顔に出ていたのか、人狼は私の疑問に答えてくる。

 

「だとしても、だ。

 六龍相手に人間が1%でも勝算があるだなんて、龍達は思ってもみなかったのさ。

 だから、その可能性を提示しただけで一気に尻すごみしちまう。

 情けないったらありゃしねぇぜ」

 

 肩を竦め、やれやれと首を振るティファレト。

 “自分は違う”とでも言いたげな仕草だ。

 

「今頃、“勇者の戦い”を起こさずに親友を殺す手段を模索している頃だろう。

 エゼルミアを解放したのには、そういう“裏事情”もある。

 ひゃははは! その結果、親友には“ケセドの契約”という心強い武器が追加されちまったんだから世話ねぇわな!」

 

 人狼はひとしきり笑った後、

 

「――全て、境谷美咲の思惑通りだ」

 

 心底つまらなそうに、吐き捨てた。

 全く持ってその通り(・・・・・・・・・)なので、特に口を挟まない。

 

「本っ当に自分の思うがまま盤上を動かしやがったな、あの女。

 穴だってちらほら見える計画だったってーのに、きっちり実行できちまうから笑えねぇ。

 どうなってんだよあの女は、本気でよぉ」

 

「随分と、キョウヤ様のことを買っているのですね?」

 

 これはローラさんの発言。

 ティファレトは割って入られたことを特に気にする風でも無く、彼女の質問に答える。

 

「買わざるを得ないだろう。

 まだ青臭ぇガキの時分に異世界へたった一人で召喚されて、世界を救った挙句、神様(俺様)にまで喧嘩売ってきた奴だぞ?

 しかも7年前の時点で危うく勝ちかけてた(・・・・・・)からな。

 ベルトルを絞め殺したヴィルバルトだって、ここまで無茶苦茶な性能(スペック)しちゃいねぇよ」

 

「ヴィル?」

 

「気にすんな、こっちの話だ。

 ともあれ、ここまで状況が整った時点で美咲の勝利は揺るがねぇ。

 一応、デュストは勇者の中じゃ親友に対して“一番勝率が高かった”んだが、それでも親友があっさり勝っちまうしなぁ。

 なんかもう、どうにもなんねぇな、コレ」

 

 いや、デュストとの戦いは“あっさり”なんて一言で片づけられてしまう程容易いものでは無かったのだが。

 しかし現実に勝ってしまっている以上、何を言えるわけでもない。

 だから、私は別のことを口にした。

 

「そう考えていたのであれば、何故お前は私との戦いに望んだ?」

 

「一応、白黒ハッキリしときたかったのさ、親友とは。

 あわよくば――とも、思わないでも無かった。

 何もせずにあの女の思惑通り行かせるのも癪だったしな。

 結果は、親友の勝ちだったわけだが。

 しかし仮に俺様が親友に勝ったとしたら今度は他の龍共を調子づかせちまう訳で、それはそれで癇に障る。

 ひゃははは、割と手詰まりだったな、俺様も!」

 

「ま、待って下さい。

 なら、どうして“神格を消去する”ケセドの契約文字をクロダさんに?

 確か、貴方が手引きしたんでしたよね?」

 

 今度はローラさんが疑問を呈す。

 

「あの契約は、あくまで“室坂陽葵を助けるための代物”であって、“勇者の戦い”には本質的に関係ないからな。

 うぜぇ連中(龍共)が消えれば俺様も気分良いし」

 

 この理由は、以前聞いていた。

 こちらとしても龍同士が敵対しているのは有難いので、ティファレトの助力を受け入れたわけだ。

 

「とにかく、もうこの“戦い”の動向は見えた。

 結末が決まりきった勝負ほどつまんねぇものはねぇ。

 室坂陽葵の器には興味はあるが、アレも結局ケセドの用意した(・・・・・・・・)もんだからなぁ。

 そこまで食指は動かん」

 

「……何のために“勇者の戦い”へ参加したんだか」

 

 こいつの口振りからして、いっそのこと我関せずでいればよかったのでなかろうか。

 無論、今語っていない“理由”があるからなのだろうが。

 

 私の考えを察したか、ティファレトは顔をニヤリと歪める。

 

「何のために、か。

 ひゃははははっ!! 教えてやる!!

 俺様の目的はなっ!! 親友、お前の身体だよぉっ!!」

 

「なにっ!!」

 

「ええっ♪」

 

 私とローラさんが同時に驚きの声を――って。

 

「あの、ローラさん?

 どうして満面の笑みなんですか?」

 

「え? いえ、だって、クロダさんの身体が目当てだなんて言われたら――」

 

 顔を赤くしてもじもじし出すローラさん。

 いや、ちょっと待て。

 

「違うぞー。

 そんな意味で言ったんじゃないぞー?」

 

「えー?」

 

 ティファレトに指摘され、露骨に不満顔をする。

 

「ちょっとローラさん、今、シリアスな場面なんですよ?」

 

「なんですぐいやらしいことを連想するかね、この女は

 空気読んで欲しいぜ、まったく」

 

「……うぅ、非常識な人達に常識を諭されるとは」

 

 彼女はがっくり肩を落とした。

 それはさておき。

 

「私の身体が目当て、だと?」

 

「そうさ。

 まだ気付いてねぇんだろうなぁ。

 室坂陽葵ほどじゃねぇが、親友、お前も六龍に高い適性を持っているんだぜ?

 六匹の龍全ては無理でも――俺様一人が、全力を振るうには十分な適性をな!!」

 

「んなっ!?」

 

 初耳だぞ!

 美咲さんはそんなこと一言も――

 

「ひゃはははっ!! 美咲の奴が分かるわけねぇだろう!!

 あいつ、龍の力への適性だけはこれっぽっちも持ってねぇからな!!

 いくらあの女が化け物でも、知覚できねぇもんに対処のしようはねぇ!!」

 

「――で、では、貴様の目的は」

 

「そう!

 最初っから、親友だったのさ!!

 その身体を手に入れるために、お前に近づいたんだよぉっ!!」

 

「な、なんと」

 

 だがそうだとするならば、辻褄は合う。

 ガルムが私を強くしようとしたのも、私に協力してくれたのも。

 全ては、私の身体を手に入れるためか。

 

「ひゃはははははっ!!

 どうよ親友、今までずっと蚊帳の外(・・・・)で寂しかっただろう?

 勇者のイザコザも異世界の存亡も、お前にとっちゃ対岸の火事だからな。

 だが安心しろ、これからは親友も立派な“当事者”だっ!!」

 

「くっ!!」

 

 言われれば。

 これまで私は、どこかこの“戦い”を冷めた視点(・・・・・)で見ていたかもしれなかった。

 命のやり取りこそあるものの、結局のところ私に深く関係するものではない、と。

 まさか、このような形で深く関わることになろうとは――!

 

「あ、質問いいですか?」

 

「ん、なんだ?」

 

 ローラさんが手を上げてから喋り出す。

 

「ヒナタさんが龍への高い適性を持っていることは納得ができるんです。

 何せ、魔王と龍の間に出来た息子さんなんですから。

 でも、クロダさんが龍適性高いのは、いったい何故なのでしょう?」

 

「うーん、良い質問だっ!

 いや寧ろその質問を待っていた!!

 待っていたぞ!!」

 

 なんだか嬉しそうなティファレトだ。

 

「ひゃははは!!

 教えてやろう!!

 親友が、どうしてここまで高い龍適性を持っているのか!!

 それは――!!」

 

 高笑いと共に――人狼の姿が変わっていく?

 人狼から、人の形態になろうとしているのか。

 今更、どういうつもりだ。

 

 

「――なぁ、親友」

 

 

 数秒か、それとも数十秒か。

 短時間で、ティファレトの“変身”は終わった。

 私の目の前には、一人の人間が立っている。

 黒い髪に、中肉中背な中年の男。

 その姿を見て――

 

「……!!?」

 

 ――私は、絶句した。

 

 ちょっと待て。

 冗談がきつい。

 これはあり得ない。

 あってはならない。

 こいつは――この人は――

 

 

「俺様が誰か、分かるか?」

 

 

 ――分かる。

 分かってしまう。

 彼は、私の――

 

「………父さん」

 

 私の、父親だった。

 亡くなったはずの、父と同じ容姿だった。

 

「そうさ、父親さ。

 紛れも無く本物の、お前の父親だ。

 親友、お前はな――俺様が自由に動く器となるために、作られた存在なんだよぉっ!!」

 

「――うそ、だ」

 

 頭が真っ白になる。

 理解が追い付かない。

 私の、父親が、ティファレト?

 いや、今やつのガルムの身体を借りているのだから、ガルムが私の父ということになるのか?

 駄目だ、まるで思考が動かない。

 

 横を見れば、ローラさんもまた驚きの顔を――

 

「あ、やっぱりそうだったんですね」

 

 ――あれ?

 ローラさん、平然としてます?

 

「あの、ローラさん。

 ここ、凄く驚くところですよ?

 驚天動地の大事実ですよ?

 なんでそんなに冷静なんですか」

 

「そうだぞ!!

 ここまで引っ張んたんだからもっと驚いてくれないと困るだろう!!」

 

 私の台詞に、父さ――ティファレトも便乗してきた。

 しかし彼女はしれっと、

 

「だって、そんな感じしましたもの。

 妙に息が合ってましたし、お二人共そっくりな生粋の変態でしたし。

 却って納得しました。

 常々、クロダさんのような変態が自然発生するわけが無いと思ってましたから」

 

 毅然とした態度で台詞を紡ぎ続けるローラさん。

 なんだか私、盛大にディスられているような?

 

「だいたいですね。

 既に魔王と龍の混血であるヒナタさんが居るわけですから、今更龍の子供なんですとか言われても新鮮さがないですよ」

 

「し、新鮮さが――」

 

「無い――?」

 

 思いもよらぬ駄目だし!

 そんな彼女の言葉にこそ我々は驚愕し、共に返す言葉を失くしてしまうのだった。

 

 

 

 第二十八話④へ続く



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④! ローラさんの逆襲

 

 

 

「お、おい、やべぇぞ。

 この女、想像以上にノリが悪い」

 

 ぼそぼそと私に語り掛けるティファレト。

 父の顔でいきなり話されるとかなり懐かしさがこみ上げてくるのだが、それはともかく。

 

「レベルが一気に上がったとか、後遺症が治ったとか、その辺りが関係しているんですかね?」

 

「くそぉっ! とっときのネタだったのに!!」

 

 実に悔しそうだ。

 いや、私にとってはかなり深刻なお話でかなりショックも受けているので、ネタとか言わないで欲しいのだが。

 

「と、とにかく!

 俺様は親友の父親で、俺様の血を引くからこそお前は高い龍適性を持っているってことだ!

 ひゃははははっ!! 楽しかったぜぇ、お前との親子ごっこはよぉっ!!」

 

 ティファレトは無理やり雰囲気の立て直しを図った。

 しかしそこへさらにローラさんが水を差す。

 

「あ、でも本当にクロダさんのお父さんなんでしょうか?

 単に姿かたちを似せただけだったりしませんか?」

 

「む、それは――」

 

 あり得るかもしれない。

 神にも等しい龍であるならば、私の父の姿を真似る程度、造作も無いことだろうし。

 

「ふっ、信じられねぇか。

 ま、しゃあないわな。

 だがよ、疑うのは、こいつを見てからにするんだな!」

 

 すっと腕を差し出してくる父さん――もといティファレト。

 その二の腕には、醜い火傷痕があった。

 

「こ、これは――!」

 

 正しくそれは、私の記憶に残るもの。

 今まで忘れたことのない――

 

「へへ、覚えているか、誠一。

 お前が小学校に上がりたての頃、俺が唐揚げを揚げてやった時――」

 

「――ふざけて飛び跳ね、鍋が傾いて油が私に。

 それを庇って、父さんはうでに酷い怪我を――」

 

「ははは、自分が怪我したわけじゃないってのに、お前はびーびー泣いてたなぁ。

 ずっと、俺に謝っていたっけか」

 

 ――私の思い出通りの“父の手”だった。

 そして思い返してみれば、ガルムにもこの火傷はあったのではなかったか。

 彼は長袖の服を愛用していたので、滅多に腕を見る機会はなかったが。

 人狼の時にも、或いは――

 

 ――い、いや、待て。

 

「ティファレト、お前は龍――それも生命を司る龍だ。

 この程度の傷、すぐに治せるはず――」

 

「馬鹿野郎。

 お前との大事な思い出を、そう簡単に消せるわけないじゃないか」

 

「――父さん」

 

 見つめ合う。

 そこには、優しい目をした父の顔が。

 

「……ホントに普通に親子関係楽しんでたんじゃないですか」

 

 ローラさんが深くため息を吐いた。

 今日の彼女は対応が冷たい。

 何か嫌なことでもあったのだろうか?

 

「どうだ、これで俺様が誠一の親父であることに納得いったか?」

 

「いやまだです。

 根本的なお話として、時系列がおかしいじゃないですか。

 今のやり取りからして、クロダさんのお義父様(おとうさま)の身体はガルム様ということですよね。

 でも貴方がガルム様に憑いたのは魔王との戦いの時――7年前の話のはずです」

 

 ん?

 今、何か変な単語があったような?

 

「ああ、そんなことか。

 簡単なことさ、俺様は五勇者が魔王と戦うよりも(・・・・・・・・)前から(・・・)ガルムに憑依していたっていうな」

 

「え?」

 

「何!?」

 

 ローラさんも私も、呆気にとられた。

 そんなこちらの反応を無視して、ティファレトは続ける。

 

「そもそもガルムを作った(・・・)のは俺様だし。

 魔王だけが操り人形ってわけじゃなかったってことさ。

 別にガルムだけじゃないぜ。

 “元々の勇者”であるイネスについては言わずもがな(・・・・・・)、エゼルミアだって前々からケテルに接触されていたようだし、な。

 五勇者の中で龍と関わりが無かったのは――美咲だって魔王に召喚されたんだっつうことを考えりゃ――デュストだけってことになる」

 

 そ、そうだったのか?

 デュスト以外の勇者全員が、龍の関係者?

 

「もっとも、六龍(俺様達)の真意を知っているのはイネスとガルム(・・・・・・・)くらいだったが。

 ひゃはははっ! いくら美咲が“天才”だからって、そうそう都合よくこんな面子が集まるかってんだ!」

 

 な、なんと。

 

「デュストは――そのような立ち位置だったのか」

 

「ああ。

 龍に見込まれたわけでもなく、特別な生い立ちを持つわけでも無い。

 ただ世界を救いたい一心で他の連中と同じ場所まで上り詰めた……凄い奴だったよ」

 

「そ、そんな方を、私は――」

 

 殺してしまったとは!

 なんということをしてしまったんだ!!

 他にやり様は無かったのか、もっと、彼を助ける手段を模索すべきでなかったのか!?

 

「気にするな――とは言えないが。

 しかし、あいつの死も無駄じゃなかった。

 あの死に様で一部の奴に火が付いた(・・・・・)んだから」

 

「それは――?」

 

「ひゃははは、ま、気にするこたぁねぇよ、お前は」

 

 どういうことなのか。

 その疑問が解消することなく、先にローラさんが口を開く。

 

「つまり、六龍の器として生み出されたのは、ヒナタさんだけではなかったということですね」

 

「その通りだ。

 ガルムもイネスも、室坂陽葵を作る前段階って感じだな。

 しかし、六龍界最強の生物として設計した人狼ガルムも、最高の龍適性者となるべく調整された勇者イネスも、“魔王”ほどの器にはなれなかった。

 そこで六龍が目をつけたのが、地球だ。

 あそこの連中は、龍への適性が六龍界の生物に比べて高かったからな。

 この辺、地球が六龍界より魔界から“遠い”ことが関わっていると思うんだが――そう仮定すると、六龍発生の理由は魔素に原因が――――」

 

 何やらぶつぶつ呟き出した。

 

 六龍誕生が魔素の影響によるモノというのは、興味深い話ではあるし、実際、筋の通った説にようにも感じる。

 ティファレトを始め、六龍は魔素を浄化することを本来の役割としていた。

 これはつまり、六龍は魔素の対になる存在として生まれたとも考えられる。

 

 しかしこの六龍界は魔界と隣り合わせであるため、魔素による浸食は六龍の力をもってしても今なお続いている。

 故にこの六龍界の住人は産まれ持って“魔素”の影響を受けており、そのため魔素の対である龍への適性が低いのではないだろうか。

 

 対して地球には魔素という存在は無く、逆に言えば地球の人間は魔素の浸食を一切受けていない。

 私見ではあるが、このことが地球人の龍適性や冒険者適性の高さに繋がっているのではないか、と。

 

 少々忘れられがちな事実ではあるが、冒険者が主に行使する“スキル”や“能力値向上(ステータスアップ)”は、“魔素”に抵抗するため(・・・・・・)発現する能力なのである。

 魔素に慣れ親しまない(・・・・・・・)地球人の方が、“魔素への反発が大きくなる”というのは、あながち間違った考え方ではないだろう。

 

「おっと、脱線しちまったな。

 そうして“龍への適性が高い”地球人をもとに、“完璧な龍の器”を生み出そうと六龍は画策し――最終的に室坂陽葵が出来上がったわけだ」

 

「私は陽葵さんの試作品として作られたということか」

 

「え?

 ああ、まあ、そういうことになる、かな?」

 

 歯切れが悪くなるティファレト。

 何か隠し事でもあるのか?

 

 と、ローラさんが少し怪訝な顔をして、

 

「あら? それではヒナタさんは地球で産まれたということなんですか?

 六龍界で産まれ、地球へ“逃がされた”と聞いていたのですが」

 

「そうだ、室坂陽葵は――無論、誠一も、地球で産まれた。

 面倒だから一気に説明しちまうが、誠一はガルム(俺様)と地球の女、室坂陽葵は“魔王”と“ケセドが憑依した地球の男”との間に出来た子だ。

 もっとも、室坂陽葵は“ただ産まれた”だけでなく、色々と細工を受けているようだ、が」

 

「細工ですか?」

 

「詳しくは俺様も分からん。

 だが、わざわざイネスを派遣して(・・・・)、その警護に当たらせた位だ。

 ケセドの奴にとって余程大事なんだろう」

 

「――なるほど」

 

 納得いったように、ローラさんはコクコクと頷いた。

 会話が途切れたところを見計らい、ティファレトへ声をかける。

 

「私からも質問良いだろうか?」

 

「む、いいぞ。

 どんとこいや!」

 

「……何故、十年前に死んだことにしたんだ?

 父さ――ティファレトの目的を考えれば、別に私の前から居なくなる必要は無かったはず」

 

「ひゃはははは、そんなことか!

 もう、俺様が世話焼いてやる必要はねぇと思ったからさ!

 あとは、十分成長した後で身体を奪ってやればいいってなぁ!!」

 

「――そうか」

 

 そんなところだろう、とは思っていたが。

 それでも、父の顔でそう断言されるのは、少々きついものがある。

 

 と、ローラさんがぽつりと呟いた。

 

「……これ以上クロダさんと一緒にいると情が移り過ぎて身体を奪うとかできなくなると思ったのでは?」

 

「!?」

 

 いやいやローラさん、そんな馬鹿な。

 

「ガルム様にクロダさんの稽古をつけさせていたのも、クロダさんが傷つくのを可能な限り防ぐためとか」

 

「!!?」

 

 ちょっとロマンチックに過ぎませんかね?

 

「クロダさんを親友呼びしているのも、息子扱いするとまた情が湧いてきてしまって駄目だけれど、かといって他人行儀に付き合いたくないから、じゃないんですか?」

 

「!!?!?!?!?」

 

 ローラさんの妄想が炸裂している。

 

「あの、ローラさん?

 流石に六龍――ティファレトを美化し過ぎではないでしょうか。

 この世界で散々好き勝手をやってきた存在なんですよ?」

 

「そ、そそそそ、そうだぜ!?

 この、極悪非道で有名なティファレト様が、に、人間に情を持つとか、そんなん或るわけないじゃん?

 アハハハハハハ」

 

 ほら、ティファレト自身がこう言っている。

 だがローラさんは難しい顔をしながら、

 

「……ひょっとして、ティファレトとは戦わなくていいのでは?」

 

「お、話が分かるじゃねぇか、女!

 そうそう、俺様は昔から六龍界に君臨してたわけだし、今更それをどうこうしようっつう美咲がおかしいんだよ。

 俺様のやりたいことなんざ、せいぜい六龍界や地球に居る全雌を孕ませたい、なんていうささやかなもんなんだぜ?

 勿論、未来永劫永遠にな。

 他の男との子作りもそう制限するつもりもねぇし。

 ああ、でも俺様が気に入った綺麗どころ数万人(・・・)程度は専用の肉便器にさせて貰いたいかな」

 

「やっぱり駄目ですね、お話になりません。

 You are guilty!」

 

「えー」

 

 当たり前だ。

 女性は皆のモノ。

 一人でそんな多くを独占しようなど、マナー違反にも程がある。

 

「……なんだか、クロダさんもかなり酷いことを考えているようですけれど」

 

「そんなことは無いですよ?」

 

 ローラさんにジト目でにらまれて、ちょっとたじろいでしまう。

 ――読心できるようになったわけじゃないですよね?

 

「さぁて。

 楽しい会話はもう終わりだ!

 いいか親友、お前の身体は近々俺様のものになる。

 間違っても、他の龍に殺されるようなヘマこくんじゃねぇぞ!

 体を十分にいたわれ。

 あと、健康とかにも気を付けろ?」

 

 ティファレトの姿が、父のものから、人狼へと変わった。

 

 ――問題、ない。

 私の父は、10年前に死んだのだから。

 

「……いいだろう。

 私ももう、お前を父とは呼ばない」

 

「……………………お、おう。

 ……俺様も……余り、馴れ馴れしくされたくは、ないからな……

 ……そっちの方が、せいせいするぜ……」

 

 どういうわけか、人狼の耳がしなしなとヘタレだした。

 ぱっと見、気落ちしているようにも見えるが――

 

「偶には呼んであげてもいいのではないですか?

 そちらの方が精神にダメージを与えられそうです」

 

「そうですかね?」

 

「ひゃ、ひゃははははは!

 俺様としては嫌で嫌で仕方がないが、親友がどうしてもと言うなら父さんと呼ばれるのも吝かでは無い!!」

 

 ローラさんの提案に、何故かティファレトの方が反応した。

 そのまま奴は、私達の前から跳び去ろうと――

 

「――あ、ちょっと待って下さい」

 

「ん、なんだ、女?」

 

 ――跳び去ろうとする前に、ローラさんが引き留めた。

 彼女は続ける。

 

「せっかくですから、クロダさんとアナルセックスしていって下さいよ」

 

「「え?」」

 

 私とティファレトが同時に声を上げる。

 ナニ言い出してるんだ、この人。

 

「だって、話を聞く限りティファレトはクロダさんに死んで欲しくないわけでしょう?

 そしてティファレトの精液には、レベルを上げる効果がある、と。

 これはもう、クロダさんパワーアップのためにアナルセックスするしかないですよね?」

 

「あ、あー。

 確かに、筋は通っている、かもしれない、けれども」

 

「でしょう?

 では、早速クロダさんに筋を一本通してあげて下さい」

 

「あ、やっばい、この子、目がマジ――」

 

 ティファレトが、本気で狼狽えている!?

 それ程、彼女の放つ圧力的な何かは凄まじいというのか!?

 

「い、いや、ローラさん?

 あのですね。

 流石に私もこういうのは――」

 

「クロダさんは、気持ち良ければなんでもヤれるんですよね?

 大丈夫です、きっと凄く気持ち良くなれますよ。

 体験した私が言うのですから、間違いありません。

 そのうえ、“キョウヤ様の計画”もより滞りなく進められるようになるのですから、これはやらない手は無いはずです。

 ――それともまさか、ご自分が()れられるのは嫌なんですか?」

 

 み、美咲さんの話まで出されると辛い。

 辛い、のだけれどもいやしかし!

 

「ヤるんでしょう?

 ヤりますよね?

 ヤらないとかありえなくないですか?」

 

 ローラさんは喜悦に満ち満ちた笑みを浮かべていた。

 でも目は一寸も笑っていなかった。

 

 そんな彼女を前にして、私は、ティファレトは――

 

「……や、やべぇ。

 ひょっとして俺様、目覚めさせちゃいけないヤツを目覚めさせちまったのか――!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月×日

 

 きょう、レベルが10もあがりました。

 とってもつよくなれて、うれしいです。

 あと、ローラさんのまんぞくげなかおが、とてもいんしょうてきでした。

 

 くろだ せいいち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇の中。

 そこには、一人の女性が恭しい礼をとっていた。

 

 闇に、厳かな声が響く。

 

『ティファレトは首尾よく動いたようだな、イネス』

 

「はい、ネツァク様。

 ティファレト様が派手に動いたおかげで、ミサキ・キョウヤはこちらの動きにまで気付いていません」

 

 イネスと呼ばれた金髪の女性は、顔を上げずにそう答える。

 そこへ、また別の声が聞こえた。

 

『しかし嘆かわしいことですね。

 魔族の身体を使わなければならないとは』

 

「申し訳ありません、ケテル様。

 急遽用意できる器は、アレ(・・)しかなかったのです。

 大した適性はありませんが、それでも数回程度の“使用”には耐えられるかと」

 

 姿勢を維持したまま、イネスは視線を横に向ける。

 そこには――

 

 

「んぉおおおおおおおっ!!

 おっ! おおっ!! あぅっ!! ああっ!! あぁああっ!!!」

 

 

 ――幾人もの男に嬲られる、魔族リア(・・)ヴィーナ(・・・・)の姿があった。

 それを確認し、イネスはうっすらと微笑む。

 

「此度におけるケセド様の契約は、勇者とその代理にしか適用されません。

 つまり、あの魔族はルールの外を動くことが可能です。

 これを利用すれば、ミサキ・キョウヤを討つことなど容易い――」

 

 彼女の返答に満足したのか、“声”はそれで止まった。

 後に残るのは、

 

 

「あひぃいいいいいっ!!

 ああぁああっ!! あぁああああっ!! あぁあああああああああっ!!!」

 

 

 一晩中犯され続けている、哀れな少女の嬌声だけ。

 

 

 

 第二十八話 完



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第二十九話 ジャン・フェルグソンの不幸な一日
①! お昼までのお話


■朝

 

 

 

 朝――と呼ぶにはもう日は大分上ったか。

 そんな頃合いに、一人の青年がウィンガストの道を歩いていた。

 

「ふ、ふっふっふっふっふ」

 

 口には不敵な笑み。

 そのにやけ顔が不審さを招き、道行く人々に怪訝な顔をされいてるのだが――本人は気付いていない。

 

「やるぜ――俺はやるぜ――!」

 

 握りこぶしを作りながら、独りごとを呟く。

 不審さがさらに上がり、他の歩行者から距離を置かれているのだが、お構いなしだ。

 

(やってやる、この精力回復ポーションで!

 一日中、セックス三昧してやるぜ!!)

 

 流石にこの部分は声に出さない。

 その程度の分別はついている。

 ……振舞だけでなく、中身まで不審な男であった。

 

(待ってろよ、イルマ!!)

 

 心の中で最近付き合いを始めた少女の名を叫ぶ。

 

 イルマは、青年が寝泊まりしている宿屋『蒼の鱗亭』の一人娘だ。

 栗色のおさげが可愛らしい、まだ幼い容貌の女の子だ――いや実際、青年よりも大分年下ではあるのだが。

 ただその外見に反し、胸はかなりのボリュームだったりする。

 その上、形も整っており、若さゆえにハリも抜群――

 

(――だと、思う)

 

 というのは、青年の妄想であるが。

 実はこの男、まだその少女といたして(・・・・)いないのだ。

 健全な交友を続けているのである。

 

(……だが、それも昨日までだ!

 順調に距離詰まってきてる気がするし!

 今日こそは!!)

 

 特に確証は無いが、彼には自信が溢れていた。

 

(あのおっぱいを自由にできるってんだから――

 へ、へへ、滾るぜっ!!)

 

 つまるところ、この青年は、そのイルマという少女とセックスする気満々なのだった。

 それはもう、精力を回復させるという(ポーション)を何本も懐に忍ばせている程に。

 この日のため、せっせと金を溜めていたというのだから、彼の情熱が推し量れるというものだ。

 

 これから起こることに心を弾ませながら、青年は恋人の待つ宿へと歩を進める。

 ――彼の名は、ジャン・フェルグソンと言った。

 

 

 

 

 

 

「え、今日は無理?」

 

 そしてジャンの企みはあっさり頓挫する。

 デートの申し出を断られてしまったのだ。

 

『は、はい、今日は――そ、の――体調が、悪くて――』

 

「そうか……」

 

 がっくりと肩を落とす。

 どうも彼女、風邪を引いてしまったらしい。

 

 ここは、宿の2階にあるイルマの自室前。

 風邪をうつしてはまずいと、彼女は部屋の中から出てこない。

 ジャンは廊下に立ったまま、扉越しに少女と話をしていた。

 

『ご、ごめん、なさ、い――ん、あっ――埋め合わせは、します、から――あふっ――』

 

 相当無理をしているのだろう、イルマの声を所々途切れがちだった。

 

「いいって、気にすんな!

 そんなことより、今日はしっかり休むんだぞ?」

 

『は、はい―――――あぅっ!?』

 

「ん? どうした、イルマ?」

 

『い、いえ、なんでも――あっ、そこ、ダメっ――なんでも、無い、です』

 

「そうか?

 それならいいんだけど」

 

 本格的に調子が悪いようだ。

 余り長話するわけにもいかないだろう。

 ジャンは早々にその場を立ち去ることにする。

 

「長居するのもなんだな、ちょっと外出してくるよ。

 ちゃんと布団にくるまって寝てるんだぞ」

 

『は、い――今、ちゃんと、くるまられて(・・・・・・・・)ます(・・)

 

 ちゃんとベッドで寝ているようだ。

 

「寒くしないようにな。

 暖かくしてろよ?」

 

『え、ええ、すごく、温かくて――――あ、熱いの、擦りつけられ、て――!

 ――――あ、だめ、クロ――――そこ、違うとこ―――――!』

 

 どうやら、きちんと暖かくもしているらしい。

 

「なにか、入用なもんあるか?

 買ってくるけど」

 

『い、いいえ――――お、おお、お――入って、きちゃって、ま、す――――い、要らない、です。

 もう、私――コレ(・・)だけ、で――十分――んんんっ――』

 

 今の状況に不備はない模様。

 これなら、そう心配することもないだろう。

 

「そうか。

 じゃ、俺、そろそろ行くわ」

 

『んっ――おっ、おおぉお、おおっ――い、いって、らっしゃい。

 ―――――私、も――――すぐ、イき、そうっ――――』

 

「ああ、またな」

 

 最後に一言挨拶を口にしてから、ジャンは扉の前を後にする。

 

 

 

 彼が、宿の階段を降りるのと。

 

『おおっ! おぉおおおおっ!!

 すご、すごひぃいいいいいっ!!

 お尻でイクっ!! イきますぅううううううっ!!!』

 

 ……少女のけたたましい喘ぎ声が廊下に響き渡るのは、同時であった。

 

 

 

 

 

 

■昼

 

 

 

「――さて。

 宿を出たはいいが、これからどうすっか」

 

 当然ではあるが、今日は他の予定を入れていない。

 とはいえ、ジャンはこの街に来てもう長い。

 時間の潰し方なんて幾らでも思いつきはするのだが――

 

(な、なんか――おさまりがつかないんだよな――)

 

 ハッキリ言えば、ジャンは欲求不満だった。

 イルマとの初体験を迎える準備を万端整えていたところへ、お預けを食らったのだ。

 健全な青年である彼が性欲を持て余したからと言って、誰が責められよう。

 

(問題は……)

 

 このムラムラをどう解消すべきか、だ。

 そういうお店(・・・・・・)へ行くのも手だが、仮にもジャンは恋人を持つ身。

 他の女性と関係を持つというのは、少々抵抗がある。

 浮気は良くない。

 

 となれば――

 

(――よし、ヒナタに会いに行こう)

 

 ジャンは即決した。

 室坂陽葵とは、イルマと付き合いだすまで彼が想いを寄せていた超美少女だ。

 上手いこと押し倒して関係を持ったこともある。

 

(アレは最高だった……)

 

 思い出すだけで、股間が反応してしまう。

 陽葵ほどの美少女と体を交えるなど――いや、知り合いになることすら、まずありえないことだろう。

 一国のお姫様だって、あそこまでの美貌を持っているかどうか怪しい位なのだ。

 

 そして、ここが重要なところなのだが。

 なんと陽葵は、生物学的には『男』に分類されるのだ。

 つまり、

 

(ヒナタとセックスしても、浮気にはならない!!)

 

 いや流石にそれはどうだろう?

 ……と、ツッコミを入れる者はここに居ない。

 

 ジャンは浮かんだ名案に心を弾ませながら、道を歩いていく。

 行く先は、陽葵の家だ。

 

(ここ最近、ヒナタの奴なんか忙しいみたいであんまし会えなかったけど……)

 

 直接自宅へ行ってしまえば、流石に会えるだろう。

 仮に留守だったとしても、待っていれば帰ってくるはず。

 

「うし、待ってろよ!」

 

 気合いを入れ、強く足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 歩くこと、しばし。

 ジャンは目的地に到着した。

 ここは室坂陽葵の住む家の前――ではなく。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「あ、ども」

 

 自分に声をかけてきたウェイトレス(・・・・・・)に、軽く挨拶をするジャン。

 そう、ここは陽葵の自宅などではなく、少し前から通いだした酒場兼食堂。

 その名も、『黒の焔亭』である。

 

(あっるぇー、おかしいなぁ?)

 

 実にワザとらしい。

 ジャンは、上機嫌に鼻歌などしつつ、ホールの角――余り人目につかない(・・・・・・・・・)席へと座った。

 彼がここに来た目的は一つ。

 

(いやぁ、ヒナタと会う前の景気づけに、ね?)

 

 実はこの店、余り大っぴらになってはいないものの……ウェイトレスに、イタズラし放題なのである。

 追加料金を払うような、“特別サービス”というわけではない。

 ただ、この店のウェイトレスは、ナニ(・・)をしてもされるがままなのだ。

 しかも働いている娘は美人・美少女揃い。

 

 そのことに気付いてからというもの、ジャンは何度もここへ足を運んでいる。

 今日もまた、綺麗なウェイトレスにアレコレしてしまおうという算段だ。

 

 ……浮気は駄目とかいう台詞はいったい何だったのか。

 

(いやほら、本番とかしなけりゃ大丈夫だよ!)

 

 定義の狭い浮気もあったものである。

 

(まあそんな細かいことは置いといて!)

 

 ジャンは店内を見渡す。

 

(……この前の女の子はまたいないみたいだなぁ)

 

 初めて黒の焔亭へ訪れた時に見たウェイトレス。

 快活な笑顔の可愛い娘で、この店一番の美少女とジャンは見立てている。

 残念ながら、最初に会った時以来一度も姿を見ていないのだが。

 

(やっぱもう辞めちゃったのかな?

 だとしたら残念だ。

 もっと早くこの店のことを知ってれば……)

 

 軽く肩を竦める。

 しかし過ぎたことを嘆いても仕方ない。

 今ここにいるウェイトレスさんで楽しまなければ。

 

「はい、お水だよ。

 注文は決まったかな?」

 

「ああ、はい。

 料理は―――――と?」

 

 物思いの最中、席へ水を届けに来てくれた店員へ、慌てて対応するジャンなのだが。

 そのウェイトレスの顔を見て、固まってしまった。

 

「――――み、ミーシャ、さん?」

 

「あれ、誰かと思えばジャン君。

 君、このお店に来てたんだ」

 

 銀色の髪を短く揃えた、白い肌の小柄な女性。

 他の店員も着用している、エプロンとミニスカートが特徴的な制服姿がとても愛らしい。

 一見して幼い少女にも見える彼女だが、外見相応の年齢でないことをジャンは知っていた。

 実際、顔つきは可愛いというより綺麗に整っているし、物腰も落ち着いている。

 

 だが、目の前の女性の年齢が分かったのは、何もそういうところを目敏く察したからではない。

 単に顔見知りだったからだ。

 その店員はジャンにとって先輩にあたる女冒険者、ミーシャだったのである。

 直接の知り合いというわけではないのだが、ジャンによく絡んでくるサンという口煩い冒険者を介して、何度か顔を会わせたことがあった。

 何でそんな口煩い馬鹿とつるんでいるのか不思議になる程、面倒見の良い女性だ。

 

「ミーシャさんこそ、いつからここで働いてたんですか?」

 

「つい最近だよ。

 サンやアーニーが、しばらく探索は休むなんて言い出すから、その間の資金稼ぎにね。

 結構、バイト代いいんだよ、ここ」

 

「へー」

 

 言われてみれば、ここのところよく街でサンに出くわすような気がする。

 

(迷宮に潜るのさぼってやがったのか。

 高ランク冒険者のくせに)

 

 ランクが高いからこそ、しばらく<次元迷宮>へ行かなくても十分暮らせる元手があるのかもしれないが。

 その辺をよくよく考えると、まだEランクである自分が惨めに思えてくるので、そこで思考を止める。

 

「で、最初に戻るけど注文は?」

 

「あ、はい、すぐ決めますんで、ちょっと待って下さい」

 

 促されて、メニューに目を落とすジャン。

 

(―――――待てよ?)

 

 そこで、頭に疑問がよぎる。

 

(この店で働いてるってことは、まさかミーシャさんも――)

 

 手を出すことができるのか?

 他のウェイトレスと同じように?

 

(いやいや、でもミーシャさんだぞ。

 仮にもBランクにまで上り詰めた冒険者が、こんなところで――)

 

 頭を振って、浮かんできた考えを否定する。

 本当に、ただ高いバイト料に釣られてこの店に勤めているだけの可能性だってあるのだ。

 しかし、

 

(……いや、でもミーシャさん、サン相手にも結構優しく接してるしな。

 案外、男を選ばないタイプなのかも)

 

 失礼な想像までしてしまう。

 そうこう考えている内に、

 

「まだ決まらないかな?

 じゃあ、もう少し経ってからまた来るよ」

 

「い、いや、もう決めます!

 決まりましたから!」

 

 席を離れようとするミーシャを慌てて引き留める。

 次に注文を取りに来るウェイトレスが、彼女とは限らないのだ。

 “ナニか”をするなら、今決めた方が良い。

 

(ええい、ままよ――!)

 

 ジャンは腹を決めた。

 

(もし違ってても全力で謝れば許してくれるだろ――!!)

 

 やや後ろ向きな覚悟の決め方ではあったが。

 

「あの、ちょっとメニューで聞きたいことあるんですけど」

 

 メニュー表を片手に、質問する体でミーシャへと近づく。

 

「うん、なにかな?」

 

 無警戒に接近を許す彼女。

 こちらの意図をしらないのだから、当然と言えば当然だが。

 

「このAランチなんですけどね――」

 

 台詞の途中ですっと、手を伸ばし。

 ミーシャのお尻を触る。

 軽く、しかし偶然とは言い訳の利かない仕草で。

 

「――!」

 

 彼女の顔が一瞬強張った。

 

(ど、どうだ――!?)

 

 ここで拒まれたら目論見は外れたことになる。

 第3者から見れば数秒にも満たない、しかしジャンからすれば永遠に続くように感じられる空白時間の後――

 

「――う、うん、Aランチがどうしたの?」

 

 ミーシャは、尻を触られているにも(・・・・・・・・・・)かかわらず(・・・・・)、普通に応対を始めた。

 気付いていない――なんてことは、ありえない。

 高レベルの冒険者が、ジャンの行動を察知できないはずがないからだ。

 

(ビンゴーーーー!!)

 

 内心で喜びの声を上げる。

 彼は賭けに勝った。

 ミーシャもまた、男にどう弄られれても構わない――いや、男にその肢体を弄られたい欲求を持つ女だったのだ。

 

「はい、Aランチなんですけど、コレ、おかずの一部をBランチと交換できます?」

 

「それは――――あっ」

 

 銀髪のウェイトレスがピクッと震える。

 ジャンが彼女の尻をスカート越しに揉みだしたからだ。

 

(……ちょっと、固い、かな?)

 

 外見の通り、そこまで尻に肉は付いていないらしい。

 他のウェイトレスに比べて、ミーシャの肉はやや柔らかさに欠けていた。

 

(でも、その分ハリというか、揉み応えはあるな)

 

 ぐにぐにと、小柄の女性の尻を揉み続けるジャン。

 手に返ってくる感触が実に心地よい。

 

「ん、ん――はぅ――」

 

 軽く吐息を履くミーシャ。

 ジャンの手を振り払うでもなく、なすがままだ。

 

「ねえ、ミーシャさん」

 

「な、何――?」

 

「なにじゃなくてですね。

 どうなんすか、コレできます?」

 

「ええっと、僕じゃよく分からないから店長に―――あっ!」

 

 紛うこと無き艶声が、ミーシャから漏れる。

 ジャンの手がスカートの中へ入り込み、直接彼女の素肌を触り出したからだろう。

 

(うおおお、すっげぇスベスベしてるっ!!)

 

 きめ細やかな肌の触感に、彼の股間もむくむくと反応してくる。

 何よりも――

 

「は、んっ!――あっ――んぅっ!」

 

 ――日頃見知った女性の普段は見せない艶姿が、至極官能的だった。

 

「どうしたんです、ミーシャさん。

 さっきから様子おかしいっすよ」

 

「そ、それは、君が――」

 

「俺?

 俺がどうかしました?」

 

 言いながら、彼女の股間をショーツの上から擦る。

 “そこ”は既にじんわりと濡れていた。

 

「あっ――うぅぅぅ」

 

 身悶えするミーシャ。

 その様が、ジャンの嗜虐心を強く刺激する。

 

「ほら、教えて下さいよ!

 AランチのおかずとBランチのおかず、股間できるのかどうか!」

 

 股間の割れ目(・・・)に沿って、指を強く前後させる。

 

「あ、ああっ!

 そ、そこっ! あぁあああああっ!!」

 

 びくっと彼女の身体が震えた。

 股間を擦る指先に熱さを感じる。

 愛液がさらに漏れ始め、下着を濡らしているのだ。

 

「へへ、ミーシャさんがこんなエッチな人だったなんてね。

 俺の指が、そんな気持ちいいんですか?」

 

「い、言わないで――あ、あ、あ、あ、あっ」

 

 股を撫でまわしてやると、面白いように反応するミーシャ。

 幼い容貌の彼女が喘がせる行為には背徳感もあり、それがジャンの興奮を加速させた。

 

(―――ん?)

 

 指先に感じる違和感。

 固い、小さな突起物を触った感触。

 ショーツの下に、“何か”ある。

 

(―――クリトリスか!)

 

 正体を察し、ジャンはにんまりと笑う。

 それは大きくなった陰核に違いなかった。

 彼は迷わず、その突起を抓んだ。

 

「――あぅっ!!?」

 

 これまでよりも大きく身を揺らすミーシャ。

 気を良くしたジャンはクリトリスを抓んだまま、その指先をぐにぐにと動かす。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ!」

 

 銀髪のウェイトレスは堪らず身悶えする。

 恍惚とした顔で、瞳を閉じてただ喘ぐ。

 ジャンの責めに感じ入っているようだ。

 

(どうだっ! このっ!)

 

 指の力をさらに強める。

 手を動かせばぴちゃぴちゃと小さく音が立つほど、ショーツには愛液がしみ込んでいた。

 そして、

 

「はぁああああああああっ――――」

 

 大きく息を吐ぎながら、ミーシャは小刻みに震えた。

 彼女の身体から力が抜けていき、ジャンへとしなだれかかってくる。

 ちょうど、彼の肩に彼女の頭がのっかるような形だ。

 

(うおっ!)

 

 間近で見るミーシャの顔に、今更ながらドギマギしてしまう。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 熱い吐息がジャンの顔にかかる。

 頬を紅潮させた彼女の表情に、彼は躊躇を無くし。

 

「……ミーシャさん」

 

「あ、ジャンく―――――んぅっ」

 

 ミーシャの唇を奪う。

 小柄な少女とのキスは、仄かに甘く、柔らかかった。

 

「ん、んんっ――んちゅっ――れろれろっ――んぅううっ」

 

 互いの舌が絡み合う。

 

(あー、ミーシャさんの舌、すごく滑らかで気持ちいいなぁ。

 それに――へへ、なんだよ、やっぱやる気まんまんなんじゃないか。

 こんな積極的にベロ絡ませてくるだなんて)

 

 そんなことを思いながら、口づけの感触に酔いしれるジャン。

 2人はそのまま数十秒にわたって唇を重ね続けた。

 

「ん、ん、ん、ん―――んはぁ」

 

 ミーシャの顔が離れる。

 名残惜しいが、ずっとこうしているわけにもいかない。

 ここはただの(・・・)食堂なのだから。

 

「じゃ、じゃあ、おかずを交換したAランチ、で、いいんだね?」

 

「はい。

 よろしくっす」

 

「わ、分かった」

 

 もじもじとした仕草で顔を赤らめながら――それがまたジャンの欲情を掻き立てるのだが――ミーシャは注文を厨房へ伝えに行った。

 

(――はー、良かったー)

 

 その後ろ姿を見ながら、ジャンはつい顔をにやけてしまう。

 

 やはりこの店は凄い。

 これからも通って行こう。

 そう決心する。

 

(ま、今日はこの後メインディッシュ(ヒナタ)が残ってるからな。

 ミーシャさんとはまた今度だ)

 

 食事をしたらすぐに陽葵の家へ行こう。

 そう考えていた――この時はまだ。

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 厨房での会話

 

「おいミーシャ!

 お前、変な注文とってくんじゃねぇよ!

 なんだよ、おかず交換って!

 セットにした意味ねぇじゃねぇかっ!」

 

「わ、悪かったよ、店長。

 なんというか、勢いに流されちゃって……」

 

「勢いに流された、だぁ?

 ――はっ、流されたのは快楽にだろうが!

 ココをこんなに濡らしてきやがって!」

 

「あぅっ!?

 ちょ、ちょっと、いきなり変なとこ触らないで――んぁああああっ!!?」

 

「まんこをこんだけびちょびちょにしちまってよぉ!

 あんっ!? その“客”にナニやられてたんだぁ!?」

 

「うっあっあっあっ!?

 お尻、触られたり、とかっ――あぅっ――キス、されたり、とかっ――んんぅっ!

 で、でも挿れられたりはされてないから!!」

 

「――なんだとっ!!?」

 

「ひゃうっ!!?

 つ、強いっ!! そこ、そんなに強くしないでぇっ!!」

 

「てめぇっ!! 肉便器の分際でハメられてねぇとはどういう了見だ!!

 男に求められたら自分から股開けよっ!!」

 

「あっあっあっあっあっ!!

 そ、そんな、僕は――――あぁああああああっ!!」

 

「まだお前は自分が“人間”だと思ってるみてぇだな!!

 肉便器としての自覚がねぇっ!!」

 

「あぅっ! あぅっ! あぅっ! あぅっ! おぅっ!」

 

「いいかっ!

 その客が帰る前に抱かれて来い!!

 てめぇのまんこをそいつの精液で満タンにしてもらえっ!!」

 

「おひぃいいいいいいいっ!!!」

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 場面はホールに戻る。

 

「……お待たせ」

 

「おっ、待ってました――――って?」

 

 ミーシャが料理を運んできた、のだが。

 ジャンは彼女の表情を見て怪訝な顔をする。

 

(め、滅茶苦茶エロいんですけどー!?)

 

 ミーシャの顔は今、はっきりと紅潮し、その呼吸も悩まし気。

 一見して“発情している”ことが分かる様子だったのだ。

 

「……はい、これ。

 おかず交換したAランチ」

 

「ど、どうも」

 

 とろんとした目に見つめられ、心拍が上がってしまう。

 彼女はテーブルの上に持ってきたランチを置くと――

 

「おわぁっ!?」

 

 悲鳴が上がった。

 ジャンのものだ。

 

「な、何するんですか、ミーシャさん!」

 

 “悲鳴の原因”に問いかける。

 配膳を済ますや否や、ミーシャがジャンの腰にしがみ付いてきたのだ。

 彼女はそのまま、ズボンを脱がしにかかってくる。

 

「え、えぇえええっ」

 

 余りのことに、ジャンの頭は付いていけなかった

 いったい何が起きたと言うのか。

 

 戸惑っている間に、彼の股間は開けられ。

 

「はぁぁぁぁ――ちんぽぉ――」

 

 ミーシャはうっとりとした瞳で目の前のモノ――ジャンのイチモツを見つめた。

 

「あ、あのですね、ミーシャ、さん?」

 

「――――はむっ」

 

「のぉっ!?」

 

 問いかけには何も答えず、彼女は男根にしゃぶりついてきた。

 途端に股間が暖かくこそばゆい感触に包まれる。

 

「んっんっんっんっ――ぴちゅっ――んむ、んむむぅ――」

 

 まだ勃起していない、小さいままなジャンの“ムスコ”が、女性の口の中で転がさせる。

 亀頭を吸われ、竿を舐められ、袋にはミーシャの唾液が垂れた。

 

(お、おお、おおおお!

 気持ち良すぎるだろぉっ!?)

 

 フェラの快感にむくむくと肉棒は固さと大きさを増していく。

 

「ぺろ、ぺろぺろっ――んむ、んむ、んむ、んむ――」

 

 温かく、どこか繊細な刺激は股間中に広がり。

 自分でも驚くほど早く、ジャンのイチモツは雄々しく反り返りだす。

 

「れろっ――んぅうううっ――んはっ」

 

 ミーシャの頭がジャンの股間から離れる。

 彼女の口の中から引き抜かれたイチモツは、見事に勃起を完了させていた。

 

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…」

 

 そんな肉棒に、愛おしそうな視線を送る先輩冒険者。

 ここまで来れば、如何に鈍いジャンでも彼女の目的は理解していた。

 

「ミーシャさん。

 俺のちんこ、欲しいんですか」

 

「……うん」

 

 ドストレートな質問に、ゆっくりと、しかし躊躇いなくミーシャは頷く。

 

(マジか!

 ここまでスケベだったのかよ、ミーシャさん!)

 

 ジャンの中にあった彼女のイメージが、木端微塵に吹き飛ぶ。

 幼い容姿をした面倒見のいいお姉さんな先輩は実のところ、チンコ大好きな雌犬だったわけだ。

 

(いいけどな! それでも!!)

 

 別に幻滅などしない。

 寧ろ、降ってきたこの幸運にジャンは歓喜した。

 ……彼の中で、『浮気は駄目』という意識はとっくの昔に消え去っていた。

 

「じゃあ、ミーシャさ――――いや、ミーシャ。

 俺の上に跨れよ」

 

「は、はい」

 

 調子に乗ってタメ口を使うも、彼女は気にした様子が無い。

 命令に対して素直に従い、ジャンの太ももの上に腰を下ろしてきた。

 可愛らしいウェイトレス制服を着た女性が、対面座位のような姿勢で彼に密着する。

 

(お、軽い)

 

 見た目通りなミーシャの重さが、なんとなく感慨深かった。

 

 そもそもからして、知り合いの、身目麗しい女性とこれからセックスできるのだ。

 それも白昼堂々、他の客もいるこんな食堂の一角で。

 えも知れぬ感動が、彼の中に渦巻いていた。

 

「よし、じゃあ腰浮かして俺のちんこ挿れろよ。

 できるだろ?」

 

「……わかった」

 

 ミーシャは言われるがまま。

 彼女の肢体が男根の真上にくるよう動き、そして――

 

「――ああっ! はぁあああああああああっ――――」

 

 ゆっくりと腰が下ろされる。

 

(ぬぉおおおおおっ!!)

 

 嬉しさのあまり、心の中で叫ぶジャン。

 彼の男性器が、少しずつミーシャの中に納まっていった。

 彼女の膣内は熱く、膣壁は男根に絡みついてくる。

 

「あ、あ、あ、あ、あ――――んふぅっ」

 

 ……全て挿入した。

 ジャンの愚息は、頂上から根本まで、膣に覆われたのだ。

 

(うわぁあああああ、すっげぇ暖けぇ――熱いくらいだ!)

 

 胸中で感激する。

 しかし気持ち良いのは彼だけではないようで、

 

「あはぁ――すごいぃ――」

 

 夢見心地のような調子で呟くミーシャ。

 流石に女性器までは外見通りといかず、十分成熟しているらしい。

 男性器を丸々全部突っ込まれていても、苦しげな様子はない。

 

(あー、辛抱堪らん!)

 

 股間から伝わってくる極上の快楽に、ジャンは思わずミーシャの腰を掴む。

 そのまま力任せに、彼女の肢体を上下へ揺さぶった。

 膣が上がり降りし、彼のイチモツを扱きあげる。

 

「――あっ!!

 あっあっあっあっあっあっ!!

 あぁあああああっ!!」

 

 強烈なピストン運動に、ミーシャの口から甘い声。

 気持ち良さそうに顔を歪ませている。

 

(喘がせてる!!

 俺のちんこで、ミーシャさんを喘がせてるぞ!!)

 

 普段の彼女を知っているからこそ、今のあられもない姿により興奮してしまう。

 幼女とすら言っていい外見の女性を犯す禁忌さもそれを助長する。

 それと同時に沸き上がったのは――

 

(どうだ、サン!!

 お前の恋人、今、俺の上でよがってんぞ!!

 俺のちんこ突っ込まれて、悦んでんだぞ!!)

 

 ――いけすかない先輩から女を寝取ったことに対する、優越感だった。

 

「あひっ! あんっ! あんっ! あんっ! あぅうっ!!」

 

 ジャンの考えを知ってか知らずか、ミーシャは嬌声を上げ続けた。

 ただ彼に動かされるだけでなく、自らも腰をくねらせている。

 その動きによって膣肉がうねり、ジャンへさらなる快感を与えていた。

 

「おほっ!

 すっごいテク持ってんな、ミーシャ!

 どこで覚えたんだよ、こんなの!」

 

「あぁあああああんっ!!

 はぅっ! あっああっああっあああっ!!」

 

 尋ねてみるも、彼女は艶声を奏でるだけ。

 答えを期待していたわけではないので、別に不快な気分は無い。

 

(しかし、とんだ好きものだな、この人も。

 そりゃ、サンみたいな奴とも付き合うわけだ)

 

 快楽に耽るミーシャを見て、そう納得する。

 

(と、そうだ。

 せっかくだし――)

 

 腕を彼女の胸元に伸ばす。

 その手で制服を掴み、胸が露出するように服をずり下ろした。

 

(おおっ!)

 

 目の前に、ミーシャのおっぱいが姿を現す。

 なだらかな白い丘の上に、ピンク色の乳首。

 “行為”によるものだろう、その素肌はほんのりと汗ばんでいる。

 大きさはかなり控えめだが、雄の目を惹きつける美しさがあった。

 

(それに、ヒナタに比べれば大きいしな!)

 

 男と胸の大きさを比べられていると知れば、ミーシャとて心穏やかでいられないだろう。

 

「あんっあんっあんっあんっ! あぅううううううっ!!」

 

 もっとも、仮に今の彼女へそれを伝えたとしても、それどころではないのだが。

 だらしなく口を開けて、ミーシャはジャンの肉棒を味わっていた。

 自分の胸が露わになったことも、気付いているのかいないのか。

 

「じゃ、いただきまーす」

 

 そんな台詞を口にしてから、ジャンは目前の胸へと吸い付いた。

 

「はぁあああああんっ!?」

 

 喘ぎの調子が変わる。

 乳首に吸い付かれた刺激によるものか。

 

(すべすべの肌に、コリコリした乳首……いいなぁ、これは)

 

 胸全体を舌で舐めていき、先端を口先で咥える。

 舌で感じられるミーシャの汗、肉の柔らかさがジャンを楽しませた。

 

「は、あっ――あっあっあっあっあっああぁああんっ!!」

 

「うぉおっ!?」

 

 彼の行動に釣られてか、女性はさらに激しく腰を動かしだす。

 イチモツが強く絞られ、扱かれ、快感のボルテージが一気に上昇した。

 

(や、やべっ!

 もう、出そう!!)

 

 あっという間に絶頂間近にまで導かれる。

 それ程、ミーシャの膣は的確にジャンの肉棒を搾っているのだ。

 

「み、ミーシャっ!!

 射精っ――射精、するぞっ!!」

 

「あっあっあっあっ!!

 いい、いいよっ! 出してっ!!

 あぅっあんっはぅっんぅうっ!!

 僕のナカに、いっぱい出してぇっ!!」

 

 中出しを懇願される。

 女性にそう言われては、答えなければ男が廃るというものだ。

 

「よぉしっ! 出すっ! 出すぞっ!!

 お前の中に精液たらふく出してやるっ!!」

 

「来てっ! 来てぇっ!!

 あっ! あっ! あっ!! あっ!! あっ!!!」

 

 あらん限りの力で腰を動かす。

 射精感が限界まで高まり――

 

「出るっ!! 出るっ!!」

 

「ふぁああああああああああああああああっ!!!!」

 

 ――放たれた精液が、膣へと注がれた。

 

 

 

「ふぅーっ…ふぅーっ…ふぅーっ…ふぅーっ…」

 

 ジャンの上で、未だ荒く息を突くミーシャ。

 胡乱気な瞳から、まだ彼女が絶頂の余韻から覚めていないことが分かる。

 

「み、ミーシャさん」

 

 息も絶え絶えという様子の彼女に語り掛ける。

 興奮がやや冷めたせいか、口調が元に戻っているジャンだ。

 

「……なに、かな?」

 

 弱々しい声の返答。

 

「俺、毎日この店通いますから。

 毎日、ヤらせて下さいね」

 

「……うん、いいよ。

 僕の身体、いっぱい、使ってね」

 

「――はいっ!」

 

 期待した通りの返事に、つい元気よく声を出してしまう。

 

(あー、やっぱ凄いな、この店は!

 これからはタダでミーシャさんとセックスできんのかよっ!)

 

 明日から始まる薔薇色の未来を夢見て、ジャンは食事を開始した。

 ミーシャの身体と繋がったまま。

 

 

 

 第二十九話②へ続く



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②! 午後のお話※

■午後

 

 

 

「ただいまー、と」

 

 玄関から入ってきたのは、サラサラに流れる短い金髪が特徴的な絶世の美少女――もとい、美少年。

 ショートパンツからスラリと伸びた脚線美が眩しいその人物は、室坂陽葵。

 

「よ、おかえり」

 

 ジャンは、帰ってきた彼へと軽く手を挙げて挨拶を返す。

 すると――

 

「うわぁっ!?」

 

 陽葵は、ガラス細工のように綺麗な双眸を大きく開いて驚き、

 

「な、なな、ななな、なんでお前がここに居んだよ、ジャン!?」

 

 盛大にどもりながら、細い可憐な指をこちらに突き付けて質問してきた。

 

「なんでって、ヒナタに会うために来たわけだけれど。

 お前、最近冒険者ギルドに全然顔出してないだろ?

 知ってるか? 今ギルド、建物が壊れて大変なことになってんだぞ」

 

「…………ああ、知ってる」

 

 苦虫を噛み潰したような顔――そんな表情ですら可愛らしい――で、陽葵が答えてきた。

 どうやら、最近の冒険者事情は把握しているらしい。

 

「噂じゃ一人の男がスキル一発でギルドをぶっ壊したとか。

 そいつが勇者の一人だとか、六龍が降臨したとか、皆好き放題噂してるぜ。

 ま、全部眉唾モノだけどな」

 

「…………そうだな、嘘臭いよな」

 

 陽葵は何か言いたいのを必死で抑えているような顔だ。

 まあ、知り合いも多くいるギルドで悲惨な事件な起きたのだ。

 思う所の一つや二つあるのだろう。

 

「んで、それを解決したのが、クロダさんだっつう話だ!

 やっぱすげぇよな、あの人!!」

 

「そこは無条件で信じるのか」

 

「当たり前だろ?」

 

 きょとんとして返す。

 クロダとは黒田誠一という冒険者のことであり、前々からジャンは彼を只者ではないと思っていたのだ。

 何せ、Eランクだというのに高ランク冒険者から注目を浴びる程の腕前を持ち、<次元迷宮>では出会った冒険者を無償で手助けしているという。

 ジャンも何度か手助けを受けているし、冒険の手解きをして貰ったこともある。

 

(これで尊敬するなって方が無理な話だよな)

 

 今回起こった危急の事態に当たり、とうとう黒田は本気を出した、ということなのだろう。

 陽葵もまた、ジャンの考えは否定しないようで、

 

「…………まあ、間違っちゃいないけどさ」

 

 消極的ながらも、賛同の意を表した。

 

「お、ヒナタもクロダさんの凄さが分かってきたのか?」

 

「……い、一応」

 

 何故か顔を赤らめる。

 その仕草の愛おしさといったら無かった。

 今すぐ抱きしめたくなるほどだ。

 

 まあ、陽葵の教育係を務めているのが黒田なのだから、その実力の程はジャン以上に理解していてもおかしくない。

 

「で、話し戻すけど、ここんところヒナタと全然話とかできてなかっただろ。

 寂しくなってきたから、ついついお前の家を訪ねたってわけさ」

 

「何が“わけさ”だ!

 だいたいな、“あんなこと”があって顔合わせたいとか思わないだろ、ふつう!?」

 

 急に激昂しだす陽葵。

 どうしたというのか。

 

「ま、まさかヒナタ、俺と会いたくなかったのか!?」

 

「当たり前だろっ!!

 人を無理やり押し倒してきた奴と顔合わせたいなんて思うかぁ!!」

 

 普通に考えれば妥当な話である。

 しかしジャンは納得できず。

 

「なんでだ!?

 あの時、ヒナタだって凄く気持ち良さそうだったじゃないか!

 俺のチンコ挿入されて、あんあん喘いできっちり射精だってしてただろ!?」

 

「そういうことを大声で話すな、バカ野郎!!

 脳ミソ腐ってんのか!?

 っていうかそもそもだな、ココは俺の家――じゃないけど――とにかく、他人の家に何で勝手に上がってんだ!!」

 

 噛みつくような勢いで捲し立てる陽葵。

 しかしその態度のわりにやや逃げ腰で、ジャンに近づいてこようとしない。

 仕方ないのでこちらから彼の方へ歩み寄りながら、

 

「なんだ、そのことか。

 ちゃんとこの家の家主には許可貰ってるぞ」

 

「リアが許したのか!?」

 

 またしても驚く。

 ジャンがここに来たことがそれ程ショックなのか。

 

「おう、しっかりとな。

 いくら何でも無断で上がり込んだりしないよ」

 

「ぐ、ぐぬぬ……

 リア、こういうヤツは嫌いなタイプだと思ってたのに……」

 

 ぶつぶつ言う陽葵だが、ジャンはどこ吹く風。

 気後れする理由は無いと、胸まで張っていた。

 と、そこで陽葵が何かに気付いたように、

 

「そういえば、リアはどこ行ったんだ?

 今日は家に居るって話だったのに」

 

「リア?

 ああ、この家の子な。

 なんか用事があるっつって出てったぞ」

 

「そ、そんな無責任な――!?」

 

 陽葵の肩ががっくりと落ちた。

 そんな美少年ににじり寄るジャン。

 

「ま、そういうことだ。

 せっかくの機会だし、俺とイチャイチャし・よ・う・ぜ☆」

 

「おい、止めろ、近づくな。

 それ以上オレに寄るんじゃねぇ!」

 

「へへ、そんなツレナイこと言うなよぉ。

 また一緒に気持ち良くなろうぜぇ」

 

 険しい顔の陽葵をねっとりとした視線で見つめる。

 美術品のように整った容貌、染み一つない肌、むっちりとした太もも――それら全てがジャンを興奮させていく。

 

「お前、分かってんのか!

 オレ、男なんだぞ。

 男同士でヤるとか気がくるってんだろ、おい!」

 

「大丈夫だ、俺は全く気にしない」

 

「ああ、やっぱりこいつも変態なのか……」

 

 何かを諦めたような表情。

 相手が動かないのをいいことに、そのまま陽葵の腰に手を出すジャン。

 だが――

 

「……そういうことなら容赦しねぇぞ」

 

「へ?」

 

 ジャンの腕を、陽葵ががっしりと捉えた。

 その細腕からは想像できないような力で握り締められる。

 

「ちょ、ちょちょちょっ!?

 い、痛いっ! 痛いって!!?」

 

 ギリギリと腕を締め上げられた。

 まるで万力に挟まっているかのようだ。

 そして、

 

「どりゃぁああっ!!」

 

「なぁあああっ!!?」

 

 有無を言わさず投げ飛ばされる(・・・・・・・)

 片手で。

 軽々と。

 “技”を使ったのではなく、“力”だけで、無理やりに。

 

「がはっ!?」

 

 陽葵の“剛腕”に、ジャンは成す術無く地面に倒れた。

 強く打った背中に激痛が走る。

 

「な、な、な、な――!?」

 

 状況が理解できない。

 何故、自分は地面に伏しているのか。

 何故、こうも簡単に倒されたのか。

 

「ふふん、いつまでもオレが同じレベルでいると思うなよ?

 悪いけどな、ジャン、お前なんてもうオレの敵じゃないんだよ」

 

「う、嘘だ……」

 

 呆然と呟いた。

 

(ちょっと前まで俺よりレベル低かったのに――!?)

 

 心の中で嘆く。

 陽葵は、つい最近冒険者になったばかりなのだ。

 しかも、最弱と評判の外れ職業(クラス)である<勇者>なんて選んでしまった不遇の身なのだ。

 それが、自分を軽々と倒してしまうまでに成長しているとは。

 

(こ、これが<来訪者(ストレンジャー)>の素質なのか)

 

 <来訪者>とは、『地球』という異世界からこの世界にやってきた人々全般を指す言葉だ。

 彼ら<来訪者>はこの世界の住人であるジャン達よりも遥かに高い冒険者適性を持つ。

 そして室坂陽葵もまた、<来訪者>なのだ。

 

(最初聞いた話じゃ、<勇者>に対する適正は低いってはずだけど)

 

 あくまで<来訪者>としては低いというだけだったのだろう。

 こんな短期間でこれ程強くなったのだから。

 

「さ、これで力の違いが分かっただろ?

 今回は見逃してやるから、さっさと帰るんだな」

 

 ドヤ顔で語る陽葵。

 余裕綽々といった様子だ。

 

(いやしかし言うだけある。

 強いぜ……)

 

 ジャンとて冒険者の端くれ。

 彼我の実力差はよく理解できた。

 悔しいが、どう足掻いても陽葵に勝つことはできないだろう。

 

(――でもよ)

 

 それは、“真っ向勝負”なら、の話だった。

 

 「――さて、と。

 リアはどこ行ったのかな?」

 

 陽葵は既に、ジャンへの興味を無くしていた。

 さっさと出て行けとばかりの態度だ。

 

(……甘いぜ、ヒナタ)

 

 ジャンは、“帰り支度をする”風に装って、陽葵の隙を伺う。

 自分の方が強いという思い込みからなのだろう、後姿を――むっちりとした尻を晒して完全に無防備な状態。

 

 仮にもジャンは<盗賊>。

 不意打ちは得意戦法だ。

 真後ろは回り込み、距離を測り、相手の気が緩んだ一瞬を狙って――

 

「貰った!!

 秘技・千年殺し!!」

 

「おいおい、何やっても無駄だって―――――あ」

 

 どんな攻撃を食らったところで、ダメージなんて貰わないと高を括っていたのだろう。

 陽葵は何の用心もせず、ジャンの“技”を受けた。

 “千年殺し”――つまるところ、いい年齢(とし)した大人が全力で放つカンチョーを。

 当然狙いは、陽葵の尻穴。

 

 タダのカンチョーと侮るなかれ。

 冒険者になり強化された身体能力により、ジャンの指先はちょっとした凶器にも比肩する鋭さを持っている。

 

「手応え、あり」

 

 ニヤリと笑う。

 手応えどころの騒ぎではない。

 ジャンの人差し指は陽葵の履くショートパンツを突き破り、アナルの中へ根本まで入り込んでいた。

 直腸の“熱さ”が指先へダイレクトに伝わってくる。

 

「あ、あ、あ――?」

 

 一方で陽葵は小刻みに震えていた。

 瞳孔が大きく開き、視線は宙を彷徨っている。

 唐突に訪れた肛門への衝撃を、脳が処理しきれていないのだろう。

 

「どうだ、ヒナタぁっ!!」

 

 ダメ押しとばかりに、指でアナルの中をかき混ぜる。

 その行為への“反応”はすぐに起こった。

 

「んぉおおあああああああっ!!!?」

 

 けたたましい陽葵の喘ぎ声。

 彼の足はガクガクと揺れ、身体から力が抜けていく。

 

「おっ!――おっ!――おっ!――おっ!」

 

 白目を剥きかけながら、なおも身体を痙攣させる。

 股間にはじわじわと“染み”のようなものができていく。

 射精によるものだろう。

 

「――へへへ、イったみたいだな、ヒナタ?」

 

「あっ――あ、あ、あ」

 

 話しかけるも、陽葵は上の空。

 絶頂の余韻で、頭が真っ白になっているのだ。

 

 構わずジャンは続ける。

 

「油断大敵だぜ。

 ヒナタが尻穴ほじればすぐにアンアン悶える淫乱だってことは、この前抱いた時によく分かってんだからな」

 

 ここで、指を尻穴から引っ張り出す。

 

「んふっ!?」

 

 その刺激で、陽葵からまた軽い喘ぎが聞こえた。

 しかし指の挿入から解放されてもまだ、彼が動き出す気配はない。

 未だ快感に支配されている様子。

 

(相変わらず、感じやすい奴だなぁ)

 

 だからこそ、こうやって強攻策に訴えたわけだが。

 ジャンは陽葵の前に回り込んで、

 

「どれどれ、と」

 

 無造作に、手をショートパンツの中へ突っ込んだ。

 手の平に熱い粘液がまとわりつく感触。

 

「おほっ、どろどろだぁ」

 

 陽葵のショーツは、精液で濡れていた。

 案の定、手を取り出してみれば白く濁った液体でべとべとになっている。

 ジャンは躊躇することなく、自分の手についた白濁液を舐めとった。

 

「んー、ヒナタのミルクはいい味してんなぁ」

 

 舌に広がるその新鮮な味に顔を綻ばせる。

 

「……う、あ、この、変態野郎、が!」

 

「お、気づいたか、ヒナタ」

 

 正気を取り戻した陽葵が、こちらを罵倒してくる。

 しかし、とろんとした瞳で睨まれても、何の迫力も無い。

 寧ろ煽情的にすら感じてしまう。

 

「でもなぁ、お前だって相当だろ?

 尻穴いじられるだけでこんだけ感じる奴、そうそういないと思うぜ」

 

 言いながら、手を再び陽葵の尻へ。

 流れるような動作で、人差し指と中指をくいっと彼の菊門へと突っ込む。

 

「おほっ!?」

 

 途端に陽葵の表情が歪む。

 どうにか取り繕っていた毅然とした顔が、瞬く間に蕩けていく。

 

「ほらっ! ほらっ! ほらっ!

 どうよ、ヒナタ!?

 気持ちいいんだろっ!?」

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! んぉおおおっ!!」

 

 指を出し入れする度に、部屋へ陽葵の嬌声が響く。

 美しい艶顔は、見ているだけでジャンの股間を膨らませていった。

 

「おっ! おっ! おっ! おおっ! あ、出るっ! 出ちゃうっ!!」

 

 陽葵が涙目で限界を訴える。

 対してジャンは笑顔を浮かべ、

 

「なんだ、もう二回目イケるのか?

 流石はヒナタだな!」

 

 指のピストン運動を激しくする。

 

「んぉおおおおおおおおっ!!!?」

 

 それに呼応して、陽葵の喘ぎが一際大きくなった。

 口は大きく開き、だらしなく涎が垂れ始める。

 

「よしっ! イケっ! ヒナタっ! イっちまえっ!!」

 

「おっ! あっ! あっ! あっ! あっ!

 で、出るっ!! 出るぅっ!! 出ちゃうぅっ!!」

 

「イケって言ってんだよっ!!

 ほらっ!! イケっ!!!」

 

 肛門へ突っ込む指を3本に増やし、我武者羅に中を掻きまわす。

 とろりとした“液”が穴から流れてきた。

 

「あはははっ! なんだよヒナタ、お前尻からも愛液出せるのか!?

 本気で感じてるんだな!!

 いいんだぞ、イケよ、イケっ!! イケって!!」

 

「やめっ! あっ! やめろっ!! ああっ!

 出るっ! 出るぅぅううううっ!!!!」

 

 次の瞬間、陽葵の身体が硬直した。

 

「んあっ!!…あっ!!…あっ!!…あっ!!」

 

 固まったまま、びくんっびくんっと肢体を震わす。

 ショートパンツにできた“染み”が、さらに広がっていった。

 

「イったか……」

 

 そんな少年の姿を見て、ジャンは満足げに微笑んだ。

 ずるっと指を菊穴から引きずり出すと、手は陽葵の粘液で濡れていた。

 指先だけで絶頂させてやった達成感に浸っていると、

 

「んっ!……ふっ――」

 

 突如、陽葵が膝から崩れ落ちる。

 気をやってしまい、身体を支えられなくなったのだろう。

 

「おっと」

 

 倒れる前に少年の身体を支えるジャン。

 

(おおっ♪ やわらけーっ!)

 

 ついでに陽葵の肢体の感触も堪能。

 

「はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

 喜ぶジャンをよそに、陽葵は大きく息をついていた。

 瞳は虚ろで、身体に力は無い。

 

「あー、気を失っちまった感じか?」

 

 試しにぺしぺしと軽く頬を叩いてみても、反応が無い。

 

「こりゃ本格的に気絶してんな……」

 

 ジャンの股間は変わらず勃起中。

 陽葵の身体を使って発散しようと思っていたのだが――

 

「――このままじゃ味気ないよなぁ」

 

 意識の無いまま穴に突っ込んでも良いのだが、やはり生の反応が欲しいところだ。

 ジャンは悩んだ末に、

 

「そういやアレ使えるか?」

 

 あることを思いつく。

 陽葵を小脇に抱えたまま自分の懐を探り、“小さなガラス瓶”を取り出した。

 

「じゃじゃーんっ!!」

 

 誰も聞いている人が居ないというのに、効果音付きで。

 

「ここに取り出しましたるは、その名も高き精力回復ポーション!」

 

 名が高いかどうかは知らないが、ジャンが手に取ったアイテムは今彼自身が呼んだ通りの代物だ。

 本来は、イルマとのセックスに使用するつもりで用意したのだが……

 

「事情が事情だし、ヒナタに使っちまおう」

 

 どんな事情かは定かでないものの、ジャンは陽葵の頭を丁度良い角度に調整すると、その口へポーションを注ぎ込んだ。

 

「さぁヒナタ、たんと飲むんだぞー」

 

「――んぐっ!?――んっんんっ!?」

 

 上手く飲めるか心配だったが、幸いなことに陽葵は少しむせながらも液体を飲み込んでいった。

 

「んっんっんっんっんっ」

 

 着々とポーションは陽葵の中へ入っていき、

 

「――ぷはっ!」

 

 とうとう瓶が空になった。

 と同時に、陽葵の目に光が宿る。

 

「な、なんだっ!?

 ジャン、今お前、俺に何飲ませた!?」

 

「別に変なもんじゃねーよ、ただのポーションだって。

 ……効果覿面だな、おい」

 

 後半は相手に聞こえないようぼそりと呟く。

 絶頂したことで気を失ったのであれば、精力が回復すれば意識も戻るのではないかと安直に考えていたわけである。

 

「よし、じゃあ仕切り直したところで、再開しようか」

 

「しねぇよっ!?

 アホか!! バカか!! 死ぬか!?

 いきなり人のけつに手ぇ突っ込みやがって!!

 もう許さねぇ、この場でギタギタにしてやらぁ!!」

 

「まあまあ、落ち着けよ。

 そんなこと言っといてヒナタ――」

 

 憤る少年を宥めつつ、彼の股間を指さす。

 

「――“ソコ”、カチンコチンにしてるじゃないか」

 

「……え?」

 

 指摘されて気付いたのか、陽葵は自分の下半身を見てぎょっとしていた。

 履いているショートパンツがもっこりと膨らんでいたのだ。

 

「ど、どうせ、さっきお前が飲ませたのが原因だろ!」

 

「強がるなよ。

 お前だって、もっとしたいんだよな?」

 

「や、ちょっと!?」

 

 戸惑っている隙をついて、陽葵のパンツをするすると脱がす。

 <盗賊(シーフ)>やってるだけあって、ジャンは手先の器用さには自信があるのだ。

 あっという間に少年の下半身を露わにさせる。

 

「ははは、やっぱりおっきくしてるんじゃないか」

 

 陽葵の股間に付いている可愛らしいイチモツは、大きく反り返っていた。

 思わずしゃぶりつきたくなってしまう。

 

「み、見るな、バカ野郎!!」

 

 抵抗しようとしてくるが、恥ずかしさのせいか動きにキレが無い。

 能力値(ステータス)が大きく劣るはずのジャンが十分に対処できる程度だ。

 

「ほーら、正直になれって」

 

「あ、コラっ! やめっ!?」

 

 相手の動きを制しながら背後に回った。

 そのままのプリプリの丸いお尻を鷲掴みにする。

 

「あふっ!?」

 

 陽葵の悶え声。

 と同時に、

 

(うぉおおおっ!!

 すべすべで、もっちもちだぁっ!!)

 

 手の平に吸い付いてくるような、柔らかい感触。

 もち肌、という言葉に全く違わない、素晴らしい尻肉だ。

 

「んふっ――んっ――あっ――あくっ――

 も、揉むなっ!――ん、んぁっ――そんなとこ、揉むなぁっ!」

 

 愚痴を言いながらも、身体はまたしても気持ち良くなってしまっている陽葵。

 ぐにぐにと尻を揉まれただけで、反抗する気力が失われるとは。

 

(本っ当に淫乱な子だなぁ)

 

 感慨深く思いながら、ジャンは自分のズボンも脱いでいった。

 

「お、お前――!?」

 

 ナニをされるか察したのだろう。

 陽葵がジャンの手から逃れようともがき出す――その前に。

 

「んぁああっ!? し、しごくなっ!! ソコ、しごくなぁっ!!

 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ!」

 

 ジャンの先制攻撃が決まった。

 陽葵のペニスを手で扱き始めたのだ。

 少し細めで、熱のこもった“棒”を力いっぱい上下に擦る。

 

「あっあっあっあっあっあっ――!」

 

 甘い響きの帯びた声。

 少年から抵抗の意思が無くなってきた証だ。

 

「さて、んじゃ行くぜ、ヒナタ!」

 

「あっあっあっ――ダメ、ダメっ――――――んぉっ!?」

 

 何か言うのを無視して、ジャンはギンギンに勃起した自らの愚息を陽葵の尻穴に埋め込んでいく。

 

(おほっ! 暖けぇっ!! 締まるぅっ!!)

 

 熱くて柔らかい媚肉が、股間を包んでいく。

 この上ない快感だった。

 あまりの気持ち良さに、自然と腰が動いてしまう。

 

「すっげぇっ! やっぱすげぇよ、ヒナタ!!

 お前のけつ、本物のまんこより気持ちいいっ!!」

 

「そ、そんなこと言われても――おっおっおおっおっ!

 う、嬉しく、無い――お、お、お、お、お、おっ!?」

 

 穴の“入口”は元より、“中”全体が蠢動してジャンの肉棒を握り込んでくる。

 極上の快楽がもたらされ、すぐにでも射精してしまいそうだった。

 

「やべっ! 出るっ! もう出ちまいそうだ!!

 ヒナタっ! 中で出すからなっ!!」

 

「んぉおっ! おっ! おっ! おおっ! おっ!!

 やめっ! やめろっ!! 中にはっ! 中には出すなぁっ!!

 おっおっおっおっおっおおっ!?」

 

 まるで女のような悲鳴を上げる少年。

 喘ぎながら言っても説得力に欠けるが。

 そもそも――

 

(妊娠させてやるっ!!

 ヒナタに俺の子供を孕ませてやるっ!!)

 

 ――今のジャンに、陽葵の声はまるで届いていない。

 腰を思い切り振りながら、少年のペニスを握り締めた手を全力で上下させる。

 

 

 

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「うぁあああああああっ!?

 激しっ!? 激しいっ!!

 あっあっあっあっあっあっあっ!!

 イクっ!! イっちゃうっ!!」

 

 甲高い陽葵の嬌声。

 その声色が耳を楽しませてくる。

 

「イケっ!! ヒナタ、お前もイケっ!!

 お前の金玉に溜まった精子、全部俺が搾り出してやるっ!!」

 

「あっ! やっ!! んぁっ! おおおおっ!!

 ダメっ! ダメっ! ダメっ!!

 あぁあああああああっ!! イク、イクぅうううううっ!!」

 

 二人の肌に汗が浮かんでくる。

 激しいプレイに、息が上がる。

 

「オラオラっ!! 一緒にイこうぜっ!!

 ヒナタっ!! なあっ!! 一緒にイこうっ!!」

 

「おっ! おおっ! おおっ!! おぉおおおおっ!!」

 

 射精感が限界に達する。

 少年の尻穴も大きく動き、男根を締め付けてきた。

 

「イケェっ!!」

 

 ジャンは自分の腰を、思い切り陽葵の尻へ打ち付ける。

 イチモツが少年の深いところへ届いた瞬間、精が解き放たれた。

 

「んぉおああああああああああっ!!!!」

 

 陽葵のペニスからも、白い液体が迸る。

 びゅるびゅると、宙に白濁液が飛んでいく。

 

「お、ほっ……あ、あぅ……ん、んぅうう……」

 

 陽葵の腕がだらんと落ちる。

 白目を剥きかけながら、艶めかしい喘ぎを漏らしていた。

 

「はぁっはぁっ――い、一緒にイけたな、ヒナタ!

 俺達、身体の相性いいんじゃねぇかっ!?」

 

「あっ……あふっ……んっ……んぅっ……」

 

 喜ぶジャンの言葉を、陽葵は聞いているのかいないのか。

 しかしそんな少年の態度を気にせず、台詞を続けた。

 

「でもなぁ、今日はコレじゃ終わらないんだなぁ。

 へへ、精力回復ポーション、まだまだ残ってるんだぜ?」

 

 懐から、ポーションの入った小瓶をさらに取り出すジャン。

 中の液体を一気に口に含むと、陽葵と口づけする。

 

「ん、んんふぅうううううっ!!?」

 

 か弱い力でジタバタする少年を無理やり押さえつけ、彼の口の中へポーションを口移ししていった。

 

(あー、唇もプニプニしてるなぁ、ヒナタ)

 

 そんな感想も抱きつつ。

 口に含んだポーションを、全て陽葵へと吐き出す。

 

「さて、もう一本」

 

 今度は自分の番だ。

 追加でポーションを取り出して、それを一気飲みする。

 

 ――効果は、すぐに現われた。

 

「あ、ふっ――――ま、またぁっ!?

 またなのかよっ!?」

 

 陽葵のペニスが、反り返り始めたのだ。

 

「元気だなぁ、ヒナタ!

 俺もまだまだヤれそうだぜっ!!」

 

 ジャンの愚息もまた、硬さを取り戻している。

 有無を言わさず、その剛直を菊穴へと再挿入した。

 

「んほぉおおおおおおっ!?」

 

 盛大に喘ぎを響かせる陽葵。

 せっかくポーションで取り戻した正気も、すぐ霧散してしまったようだ。

 

「ポーションはまだ10本以上(・・・・・・・)残ってるからなっ!!

 ぶっ倒れるまでヤるぞ、ヒナタぁっ!!」

 

「あ、あひっ!? あひぁあああああああああああああああっ!!!!?」

 

 

 

 

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■夕方

 

 

 

 日が暮れ、辺りが暗くなってきた頃。

 

「ん、んんっ――れろっ――れろれろっ――ん、ふぅ―――ぺろっ――」

 

 その“寝室”には、何かをしゃぶる(・・・・)音が鳴り続けていた。

 

「おー、フェラも上手いな、お前。

 またすぐ射精できそうだ」

 

「んふぅっ――ぺろぺろっ――ん、んんんっ――ん、はぁっ――」

 

 音の正体は、陽葵のフェラチオだった。

 2人はあれから、プレイの場所を寝床に移したのだ。

 

「ん、ん、ん、ん――れろ、ぺろぺろっ――んんぅっ――」

 

 ベッドに寝そべったジャンのイチモツを、少年は言われるがまま舐め続けている。

 数時間にわたるアナル責めによるものか――その瞳からは正気の光が完全に失われていた。

 

「お、出るっ!」

 

「――ん、んぅううううっ」

 

 陽葵のテクニックにより、あっさり射精してしまう。

 それ程、少年の舌の動きは官能的だった。

 

(男を悦ばせるために生まれたような奴だなぁ)

 

 出した精液を舐めとる陽葵を見ながら呆然とそんなことを考えた。

 

「――なぁ、ヒナタ。

 お前、俺のモノになっちゃえよ」

 

「んぁっ!?」

 

 少年の尻を揉みながら、告げる。

 

「いいだろ?

 俺、ヒナタの気持ちいいところ全部知ってるぜ?」

 

「あ、あ、あ――あふっ!! お、おおおおっ!」

 

 手を尻の割れ目に――その奥にある“穴”へと移していく。

 

「お前のことは全部分かってんだ。

 唇や舌の柔らかさから乳首の感度、尻のもちもち具合や竿の固さ、金玉の大きさだってな」

 

「お、お、お、お、お、おっ!? んぉっ! おぉおおおおあっ!!」

 

 菊門の中へ指を突っ込み、中を掻きまわす。

 

 

 

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「なあ、俺のモノになっちゃえよ。

 毎日気持ち良くしてやれるぜ。

 絶対、その方がいいって!」

 

「おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!

 おぁあああああああああああっ!!!!」

 

 一際大きな嬌声と共に、陽葵のペニスから白い――いや、透明な液体が噴き出た。

 潮を吹いたのだ。

 少年は何度か痙攣を繰り返した後、ベッドに倒れ、動かなくなる。

 

「……気絶しちまったか」

 

 男の潮吹きなどという珍しいものを見ても、ジャンは驚かない。

 今日、既に幾度も“吹かせた”からだ。

 

「返事を聞くのは、また今度だな」

 

 言って、ベッドを降りる。

 手早く身支度し、家を出ようとする、が。

 

「あ、そうだ」

 

 その直前で“忘れ物”に気付いた。

 

「どうなってるかな、アレ(・・)

 

 ジャンは急ぐでもなく、ゆったりとした歩調で陽葵の家の“トイレ”へと向かう。

 その扉を開けると、そこには――

 

 

 「……あ……あ、あ……あ……ああ……」

 

 

 ――息も絶え絶えな、虚ろな瞳をした全裸の少女。

 この家の本来の主である“リア・ヴィーナ”が、便器へ被さるように倒れていた。

 

 

 

 第二十九話③へ続く



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③! 夜までの話

 

■再び午後

 

 

 

 話は数時間ほど遡る。

 

「誰、あんた?」

 

 陽葵の家を訪れたジャンにかけられたのは、そんな言葉であった。

 

「え、あ、その、ヒナタの友達、なんですけど……」

 

 返す言葉がどもってしまう。

 それもそのはず、

 

「へー、友達、ねぇ?」

 

 陽葵の家――のはずだった場所から現れた“少女”が、ジャンのことを思い切り睨んでいるからだ。

 セミショートの茶髪を持った可愛らしい美貌から、きつい視線が投げかけられる。

 

(こ、こんなはずでは――!?)

 

 想定では今頃、ベッドの上で陽葵とイチャイチャしているはずだったのに。

 まさかの事態である。

 あまりにも想定が甘すぎたとも言える。

 

「いや、あのですね。

 本当に俺はヒナタの友達で、今日は遊びに来ただけでして」

 

「あんたの言う“友達”ってのは――」

 

 ジャンの弁明を、少女がぴしゃりと遮る。

 

「――“ようヒナタ、今日はいっぱいエッチしちゃおうぜぇ!”とか開口早々に言っちゃうような関係のことなの?」

 

「えっと、それは……」

 

 少女の(意外と似てる)声真似の前に、ジャンは二の句が継げなくなる。

 

 痛恨のミスであった。

 陽葵とのセックスが待ちきれず、ついつい先走った台詞を零してしまったのだ。

 

(ヒナタ以外の人が居ることも考えておくべきだったー!!)

 

 いや、陽葵しか居なかったとしても、その挨拶は如何なものか。

 どう控えめに見積もっても、ただの変態である。

 

「で、話はもう終わり?

 まだしたいって言っても断るけど。

 気持ち悪いからさっさと帰って」

 

「いや、いやいやいや、変なジョーク口走ったことは謝るけどさ、本当に友達なんだって、俺とヒナタは!」

 

「信じられない。

 仮に万に一つそうだったとしても、あんたみたいな気持ち悪い奴、ヒナタに近づけたくないっての。

 というかあたしの傍にも居て欲しくないから、早く立ち去りなさいよ、気持ち悪いの」

 

「そ、そんなに気持ち悪い気持ち悪い連呼しなくても――!?」

 

 有無を言わせぬ辛口トークにジャンの心はボロボロだった。

 こちらの言葉など、何も聞いて貰えそうにない。

 

(ここは一時退散した方がいいか!?)

 

 とてもではないが説得できそうにない。

 何より、この少女が居ては陽葵とアレやコレするのにも支障がある。

 今日は日が悪かったということで、諦めるべきだろう。

 

(…………んん?)

 

 と、心が折れかけたところで、ジャンはある“引っ掛かり”に気付く。

 

(この子、どこかで会ったような――?)

 

 目の前の少女を見れば見る程、既視感のようなものが湧いてくるのだ。

 自分は彼女とどこかで会ったことがあるような。

 そんな感覚を覚える。

 

(どこだったかな?)

 

 記憶の本棚をひっくり返す。

 正直なところ、この少女もまた相当な美人さんだ。

 顔を険しく歪ませ、加えてTシャツとスパッツという酷くラフな格好をしているにもかかわらず、彼女の持つ美しさはまるで損なわれていないように感じる。

 つまり、そういうマイナス点を鑑みても十分美麗だと思える程の美貌を持っているわけで。

 これだけの美少女、一度見ればそうそう忘れるはずが無いのだが……?

 

(――ああっ!!(・・・・・) そうだっ!!(・・・・・・)

 

 そこで閃く。

 ようやくジャンは理解した。

 彼女が“何者”なのかを。

 

(そうと分かれば!)

 

 改めて少女へと向き直り、話しかける。

 

「……なあ、お前(・・)

 

「ん? 何よ?

 あたし、さっさと消えてって言ったの。

 分からない?」

 

 何時まで経っても動こうとしなジャンに、少女はかなり苛立っているようだ。

 しかし、今のジャンはそのことに何の痛痒も覚えない。

 彼は目の前の女の子に詰め寄ると、

 

「なに、肉便器の分際(・・・・・・)で俺に意見してるんだよ」

 

「――――え?」

 

 きょとん、とする少女。

 初めて怒り以外の表情を現したが、ジャンにとってはどうでもよいことだ。

 だって彼女は肉便器――男に奉仕するだけ(・・・・・・・・)の存在(・・・)なのだから。

 

「おらよっ」

 

「あうっ!?」

 

 無造作に少女の胸を揉む。

 Tシャツ越しに、柔らかくて張りのある感触が手に伝わる。

 

「へー、肉便器のくせにいい身体してんなぁ。

 むっちり肉が詰まってやがる」

 

「な、なにをっ!?――――あっあぅ、や、あぁっ!?」

 

 両手でぐにぐにと彼女のおっぱいを揉みしだく。

 触って初めて分かったのだが、少女はノーブラだった。

 この辺りも、実に肉便器らしい。

 

「だ、だめっ――あ、あ、あ、あ、あっ――や、やめなさいよっ――んん、んぁ、あ、あぅ――」

 

 口で嫌がりつつも、身体は抵抗してこない。

 ジャンの手を払いのけようともしないし、ジャンから逃げようともしない。

 まあ、彼女は肉便器なのだから当然の反応だ。

 

「んで?

 ヒナタは何時ぐらいに返ってくるんだ?」

 

「そ、そんなことあんたに――」

 

「いいから言えよ!

 肉便器が反抗するんじゃねぇ!!」

 

 生意気な物言いをする少女の乳首を、思い切り抓ってやる。

 

「あ、あひぃいいいいっ!!?」

 

「言えっ!

 ヒナタは何時になったら来るんだ!?」

 

「あっあっあっあっあっ!?

 あ、あと、30分くらいで――あっあっあっあっああああっ!!?」

 

 人の形をした便器が、ビクビクと肢体を震わせながら答えてくる。

 ジャンはそれを聞いて、

 

(あと30分か……ちょっとあるなぁ)

 

 少し思案する。

 ただ待つだけでは、持て余してしまう時間だ。

 彼はちょっと考えてから、

 

「しょうがない、おいお前、真っ裸になれ」

 

「え、え?」

 

 投げた言葉に、便器が戸惑う。

 頭の回らない奴である。

 ジャンは苛立ちを隠そうともせず、再度乳首を思い切り捻った。

 

「んひぃあああああああっ!!?」

 

「ヒナタが来るまで、お前で時間を潰してやるっつってんだよ!

 いいからさっさと服脱げや!!」

 

「あっ! ああっ! あっ!!

 分かった!! 分かったからっ!!」

 

 必死に首を縦に振るのを見て、一旦手を離す。

 少女型便器はその場でいそいそと服を脱ぎだした。

 まずはTシャツ。

 薄い生地が捲られると、プルンと実った美しい果実が姿を現す。

 

「おい」

 

「な、何よ」

 

 ジャンの言葉に便器が怪訝な顔をした。

 

「なんでここで脱ぎだしてんだよ」

 

「ぬ、脱げって言ったのはあんたじゃない!」

 

「こんな外から丸見えの場所で俺にセックスしろってのかよ!

 誰かに見られたら恥ずかしいだろ!?

 早く家の中に入れろ、中に!!」

 

 それを聞いて、美少女を形どった便器は呆れたようにため息を吐く。

 

「……こんなことしといて恥ずかしいとか」

 

「何か文句あんのか!?」

 

 綺麗な桃色に染まった乳首をぎゅうっと掴む。

 堪らず、肉便器は悲鳴を上げ――いや、喘ぎ始めた。

 

「あ、あぁぁあああああっ!?」

 

「いいから家の中に入れろよ!」

 

「わ、分かったってばっ!! 入ればいいでしょっ!?」

 

 悶える便器に案内され、室内へ上がるジャン。

 家の中は、ヒナタのような美少女が住んでいるにしては、やや質素な印象を受ける内装だ。

 

「――なんなのよ、もうっ」

 

 そして中に入るや、美しい少女に似た精液処理施設は誰に促されるでも無く、全裸になった。

 口は悪いが躾は行き届いているようだ。

 

「へぇー、便器の癖して綺麗な身体してんな。

 胸も尻もプリっとしてやがる」

 

 そんな肉便器の肢体を弄るジャン。

 多くの男から精の捌け口として使われているはずだが、この身体の美しいこと。

 スタイル抜群――という程ではないものの、女としては十分に魅力のある大きさのおっぱいと、ハリのあるお尻。

 無駄肉が無いのに柔らかい二の腕に太もも。

 どこもかしこも型崩れなどせず、均整を保っていた。

 肌には染みの一つもない。

 便器には不似合いな恥じらいのある表情も、ジャンの欲情をそそる。

 

「んっ…ふっ…あっ…あっ…」

 

 少し触っただけだというのに、少女型便器はもう軽く喘ぎ始めていた。

 とんでもない淫乱だ。

 

「よし、じゃあまずはフェラして貰おうか」

 

「あっ…あっ…………う、うん」

 

 その命令に、便器はおずおずと従った。

 ゆっくりと躊躇いがちにジャンの前で膝立ちになり――しかし慣れた手つきでズボンを脱がせてくる。

 程なくして、まだ勃っていない男性器がぼろんと姿を現す。

 

「んっ――ふっ――」

 

 柔らかく小さい男根が目の前にぶら下げられた性処理用の雌便器は、迷いなくソレを口に含んだ。

 熱く、滑らかな触感が股間に広がる。

 

「んんっ――ちゅぱっ――じゅぽじゅぽっ――んっ――あぅっ――れろ、れろれろっ――」

 

 ジャンの性器は肉便器の口の中でこねくり回された。

 舌で舐められ、転がされ、口全体で吸われる。

 

「んむっ――んぅっ――じゅぽっ――ぺろぺろっ――んむぅっ――じゅぽじゅぽっ――」

 

「おお、上手い上手い。

 もう勃起しちまったぜ。

 何本の男を咥えたんだか」

 

 股間に血が集中し、イチモツがむくむくと膨らんでいくのが分かった。

 準備は整ったと言える。

 

「おし、もういいぞ」

 

「んっんっ――――ぷはっ」

 

 便器の肩を掴んで無理やり引き離す。

 物欲しそうな顔をこちらに向けてくる精液用便女に、ジャンは新たな命令を下した。

 

「こっちに尻向けて股開け」

 

「……は、はい」

 

 今度は素直に従った。

 ジャンに背中を向け、足を広げつつお尻を突き出す。

 これまでと違うその態度を僅かに訝しんだが、その女性器を見てその疑問はすぐに氷解する。

 

「……んだよ、まんこがもうびちょびちょじゃないか」

 

 思わず口にする。

 便女の股間は洪水になっていたのだ。

 こちらは何もしていないというのに、サーモンピンクの膣口からはだらだらと愛液が垂れている。

 

 ジャンはワザとらしく男根を見せつけ、目の前の雌便器に告げた。

 

「ほれ、これが欲しいんだろ?

 おねだりしてみろ」

 

「……あ、あんたのちんぽを、あたしのまんこに、挿れてっ」

 

 待ちきれないのか、腰をいやらしくくねる肉便器。

 そんな彼女の尻をジャンは思い切り引っ叩いた。

 

「あひぃっ!!?」

 

「口の利き方がなってねぇだろ!

 ちゃんと敬語使え、敬語!!」

 

 便器の桃尻がパァンッ、パァンッ、といい音を立てる。

 白い肌に赤い紅葉が張り付けられていった。

 

「あっ!? あぅっ!? あぁあんっ!」

 

 苦しげで、しかし甘い声色が発せられた。

 公衆便女は改めて懇願してくる。

 

「う、あっ――あ、貴方様のおちんぽを、あたしのまんこに、どうか挿入して下さいっ」

 

「――そうそう、それでいいんだ。

 別にお前のことを嫌ってるわけじゃないけど、お互い立場の違いってのはちゃんと理解しておかないとな」

 

 満足げに頷くジャン。

 イチモツに手をやり、肉便器のまんこへ挿入しようと――

 

「じゃ、恵んでやるとするか――――んんっ?」

 

 ――したところで、表情を歪ませた。

 パァンッという肉を叩く音が、再び部屋に響く。

 

「はひぃっ!?」

 

 雌の悲鳴。

 直後、男の怒声が響く。

 

「おいっ!!

 まんこの位置が低いぞ!

 これじゃ俺が屈まなけりゃならないじゃないか!!

 もっと高くしろっ!!」

 

 その怒りに対して便器女はぼそっと、

 

「……こ、細かい」

 

「なんか言ったか!?」

 

 ジャンは腕を思い切り振りかぶって尻へ張り手をかます。

 

「あひぃいいいっ!?」

 

「お前、さっきから、微妙に一言多いんだよ!」

 

 バシィッ、バシィッ、という音と共に、尻が赤く染まっていく。

 先程よりも甲高い悲鳴を便女が鳴らす。

 

「あっ! あっ! あっあっあっ!!

 ごめん! ごめん、なさいっ!!」

 

 瞳に涙をためて謝る性処理用雌を見て、ジャンは溜飲を下げる。

 叩くのを止めてやると、便器女はつま先立ちになってくいっと尻を上へ向けた。

 

「――――これで、いいんでしょ!」

 

「……ま、こんなもんか」

 

 乱暴な物言いが気に障らないでも無かったが、いい加減挿入したいのでぐっと堪える。

 

(まったく、俺も甘い男だぜ)

 

 一般的な男性であれば、躾と称してこの肉便器へさらなる制裁を加えていたところだ。

 自分の寛大さに酔いしれながら、青年は自らの愚息を膣口にあてがい、中へと押し込んでいった。

 

「あ、ああ、あ、あぁあああっ!!」

 

「――おっ? お、お、おっ!?

 すげぇ、滑り込んでいくぜ!?」

 

 十分に濡れた膣は、剛直をあっさりと受け入れた。

 ……いや、飲み込んだ、という表現が正しいか。

 まるで腰が引っ張られるかのように、ジャンのイチモツは女性器へと収まったのだから。

 

「――はぁぁぁあああああ」

 

「や、やっばいな、これ!

 まだ動いてないってのに、超気持ちいい!?

 おおおお! めちゃくちゃビクビクしてんな、お前のまんこっ!!」

 

 膣壁が蠢動し、肉棒を刺激してくる。

 この快感だけで、射精してしまいそうな程だ。

 こんな状態で腰を振ったらどうなってしまうのか?

 

「ええい、ままよっ!

 やってやるぜ!!」

 

「ふぁっ!? あっああっあぁあああっ!!!?」

 

 覚悟を決めて、ピストン運動を始めた。

 肉棒を押し込むたびに膣肉が絡まり、引き抜けば竿全体が絞られる。

 

(やべっ! やべっ! いいな、コレっ! 凄くいいっ!!)

 

 つい先ほどでまぐわったミーシャよりも――性処理用便女風情と比べるなんて、彼女に失礼千万であることは承知だが――さらに至極の快楽がここにあった。

 一突きするごとに、快感で頭が蕩けそうになる。

 

「あっ! あっ! ああっ! ああっ!! あぁああっ!!」

 

 便器の発する甘い嬌声がソレを加速する。

 股間と耳で快楽を味わいつくした。

 

「ぐっ!――――出るっ!!」

 

「あっあっあっああっあああっ!――――え、早っ!?」

 

 肉便器がつい本音を零すのと、

 

「うぅっ!」

 

 ジャンが精を解き放つのは、ほぼ同時であった。

 イチモツからびゅるびゅると、大量の精液が迸っていく。

 

「は、あぁああ、あああぁぁぁぁぁ――」

 

 一方で便女は、子宮へと精子が注がれる感触に浸っていた。

 足がガクガクと震えているところを見るに、ただソレだけでイキかけたようだ。

 

「ふぅ、早速一発やっちまったな――ってぇっ!?」

 

 そこでジャンは、はたと気付く。

 

「どうすんだよっ!

 これからヒナタとヤりまくるつもりだったのに、射精しちまったじゃないか!?」

 

「そ、そんなこと言われても――」

 

 あんまりと言い分に、肉便器も目を白黒させた。

 ジャンはそれに構わず、ぶつぶつと文句を続ける。

 

「あーあ、精液を一発分無駄にしちまったぜ……」

 

「……む、無駄。

 あたしに精液出したのが、無駄って……」

 

 呆れて口が塞がらない様子の少女型便器。

 まあ、大事な人(室坂陽葵)に注ぎたかった精子を肉便器に使ってしまったのだ、彼の気持ちも慮れるものだろう。

 

「……ヒナタはそろそろ帰ってくるからな。

 ポーション使うしかねぇか。

 高いんだけどなぁ、コレ」

 

「……いや、確かに値は張るけどそこまで高い物でも。

 仮にも冒険者なんでしょ、あんた」

 

「う、うるせぇな!!

 全部、お前のせいなんだぞ!!」

 

「あたしに責任転嫁しな――あひゃぁああああっ!!?」

 

 便女の台詞は最後まで続かなかった。

 ジャンが飲み終わったポーションの瓶を、雌の女性器へと力任せに突っ込んだからだ。

 

「だからっ! 肉便器が人を不快にさせる言動するなっての!

 男を悦ばしてなんぼだろうが、お前は!!」

 

「おっ!? おっ!? おっ!!?

 おひぃいいいいいいいいっ!!!?」

 

 ぐりぐりと瓶を雌穴へねじ込んでいく。

 公衆便女は、白目を剥きながら悦んでいるようだ。

 

「おらっ! おらっ!! おらぁっ!!」

 

「おっ!! おぁっ!! んぉおおおっ!!!?」

 

 これでもかという程――どんなに力をかけても、これ以上入っていかない程に――瓶を押し込む。

 最奥へ到達してなお、瓶を捩じって膣内を責めた。

 

「うぁあっ!!? あぅっ!!? んぁああっ!! んがぁあああああああっ!!!!」

 

 無茶苦茶に膣内を掻き混ぜられ、苦悶の悲鳴が上がる。

 しかしジャンは構わず、瓶を我武者羅に動かし続けた。

 

「おっおっおっおおっおっ!? おっ!!? おっ!!? ごぁあああああああっ!!!?」

 

 愛液が噴き出る。

 普通の女性であれば膣や子宮が壊れてもおかしくない責めでも、不都合無く感じているらしい。

 流石は肉便器か。

 しかしそんな便女も、ついには――

 

「んぐっ!!? いぎっ!!? がっ!!? あっ!!? あぁあああああああああああっ!!!!」

 

 ――果てた。

 踏ん張ることができなくなった脚が膝から崩れ、その場にへたり込む。

 膣からは愛液が湧き水のように溢れ出ていた。

 瞳は焦点が合わず、歯をガチガチと鳴らしている。

 

 そんな便女を心配するでもなく、ジャンはこう告げた。

 

「……これはペナルティが必要だな。

 人様にツッコミ入れるとか、肉便器に有るまじき行動だろ」

 

「はーっ…はーっ…はーっ…はーっ…」

 

 こちらの言葉を聞いているのかいないのか、精液用トイレは荒く息をつくのみ。

 しかし青年は青年で、便器の容態を気にしていないため、お互い様か。

 

「いいか?

 これから俺とヒナタがイチャついてる間、お前はずっとその瓶でオナニーしてろ。

 場所は……トイレでいいか」

 

 言うや否や、ジャンは公衆便女の腕を掴んで無理やり立たせ、お手洗いへと案内させた。

 トイレのドアを開けてすぐ、性処理用雌の背中を押して中へと押し入れる。

 力づくで動かしたからだろう、少女型便器はたたらを踏み、トイレの中へと倒れた。

 ちょうど、便器に便器が重なる形だ。

 その光景に、ジャンは思わず笑ってしまった。

 

「はは、ま、便器同士仲良くしてくれ。

 ――絶対に手を緩めるんじゃないぞ。

 俺が来るまで、ずっとオナニー続けるんだからな」

 

「……は、はひ、ぃ」

 

 彼の命令に、肉便器は弱々しく頷くのであった。

 

 

 

 

 

 

■再び夕方

 

 

 

 時間は戻る。

 夕暮れ時、ヒナタとの蜜月の時を終えたジャンは再びトイレに赴いていた。

 

「あ……あ、ひっ……お……お、お……」

 

 肉便器――陽葵によればリアとかいう名称らしいが――とにかくその肉便器は逃げ出すことなく未だ全裸で便器の上に倒れている。

 くっきりとした瞳は虚ろに、綺麗だった顔は涙と涎で汚れ、均整の取れた身体にはもう力が無い。

 それでもなお、だらりとした腕をどうにか動かして、便女はオナニーを続けていた。

 ゆっくりと、ゆっくりと、瓶をまんこに出し入れしている。

 

「ん……お……お、ほ……お……」

 

 瓶が挿し込まれ、引き抜かれ、その度に愛液がぼたぼたと零れた。

 トイレの床が、肉便器から溢れた雌汁で水浸しになっている程だ。

 

 最早意識も無いのだろうが、言われたことを健気に実行している。

 そんなリアを見てジャンが抱いた感情は――

 

「――ちっ」

 

 苛立ち、であった。

 

「手を緩めるなって言ったじゃないかよ。

 なにチンタラやってんだ……!」

 

 命令を守っていなかった。

 どれだけ頑張っていようと、それは事実である。

 肉便器が、男にただ服従するだけの存在が、またしても自分を侮辱した。

 ジャンはそう感じたのだ。

 

「いい加減にしろよ、お前!」

 

 瓶を掴む。

 肉便器の手を払いのける。

 そして思いのたけをぶつけるように、瓶を力任せに突っ込んだ。

 

「――――お”っ!!?!?!!!?」

 

 途端、リアからなんとも形容できない声が発せられる。

 

「ほらみろ!

 まだ全然元気じゃねぇかよっ!!」

 

「お”っ!? ごっ!? がっ!? あ”っ!!?」

 

 ジャンが腕を動かすと、大きな奇声が響く。

 弛緩していた肉便器の肢体は硬直し、手足がピンと張られた。

 瞳は白目を剥き、口から泡が噴き始めた。

 

「ほらほらぁっ!!

 これ位思いっきりオナニーすんだよぉっ!!」

 

「がぁっ!!? あ”あ”っ!!? お”ごぁっ!!? がぎゃあ”っ!!!?」

 

 プシャァッ、プシャァッ、と女性器から潮が噴く。

 ひょっとしたら尿も混じっているかもしれない。

 

「あ”あ”っ!!? あ”あ”っ!!? あ”あ”っ!!? あ”あ”あ”っ!!?」

 

 瓶はこれ以上進めない程深くへ刺さっている。

 その状態でジャンはさらに奥へと押し込んでいるのだ。

 今、瓶の先端が叩いているのは膣ではなく、子宮だ。

 子宮の、奥壁。

 身体の一番奥の肉を、ぐりぐりとガラスの瓶で抉っているのだ。

 

「そらそら! そらぁっ!!」

 

「お”お”っ!!? お”っ!!!? あ”っあ”っあ”っあ”っあ”っあ”っ!!!?」

 

 

 

 ――――――――あ

 

 

 

 停止した。

 肉便器の身体が、完全に停止した。

 

 手足がだらりと落ちる。

 首が垂れ、口は何も発しない。

 瞳の光が完全に消え去る。

 

「あれ?」

 

 訝しんだジャンが、瓶で突いても反応が無い。

 というより、瓶を動かしても抵抗が来ない。

 膣が絡まってくる感触が無いのだ。

 

 ――膣肉すら、活動を止めた。

 

「……なんだ、壊れたのか」

 

 つまらなそうに呟く。

 もう少し遊ぶつもりだったのだが。

 

「仕方ない、帰ろう」

 

 公衆便女への関心は、その一言をもって失くした。

 ジャンはトイレの扉を閉めると、陽葵の家を後にする。

 

 

 

「―――――――――」

 

 男が居なくなっても、リアは目覚めない。

 暗闇の中、忘れ去られた肉便器が一つ、転がっていた。

 

 

 

 

 

 

 ――それから。

 

「あっ!」

 

 道を歩いている時、ジャンは気付く。

 

(あの子、前に黒の焔亭で会った、あのウェイトレスじゃん!!)

 

 何となく感じていた既視感はコレだったのだ。

 陽葵の家で会った少女は、黒の焔亭で色々とサービスしてくれたウェイトレスなのだ。

 

(そうと知っていれば!

 お願いしたら色々させてくれたかも(・・・・・・・・・・)しれないのに(・・・・・・)!!)

 

 陽葵に加えて、あんな美少女とまでアレコレできていた可能性を見出し、がっくりと肩を落とす。

 いや、そう上手くいくとも限らないのだが。

 

(ま、まあ、次があるさ、次が!)

 

 前向きに考える。

 また陽葵に会いに行ったとき、あの少女――確か、リアという名前(・・)――と顔を会わせる機会もあるだろう。

 

(その時に頼めば!

 土下座とかすれば、或いは――!)

 

 希望が湧いてくる。

 陽葵だけでなくリアとも深い付き合いができる、かもしれない。

 

(――しかし、ヒナタとリアちゃん、か。

 あんな美少女二人が一つ屋根の下で暮らしてるだなんてね。

 世の男共が知ったら、連日あの家に通っちまうんじゃないか?)

 

 容易に想像できる。

 あのレベルの美貌を持つ女の子達(厳密には違う)と知り合えるなら、相当の労力も惜しまないだろう。

 

(……うん、余り人には知られないようにしとこう。

 別に俺が独り占めしたいとかそういうわけじゃなくて)

 

 迷惑をかけたくないという、あくまで善意からの判断である。

 独善に限りなく近いとか指摘してはいけない。

 

 と、その時。

 

(…………あれ)

 

 ジャンの胸が、チクリと痛んだ(・・・・・・・)

 

(なんだろ、これ)

 

 心がざわつく。

 変な違和感がある。

 

(すごく、悪いことをしちゃったような――)

 

 自分は何か、取り返しがつかない程(・・・・・・・・・・)酷いこと(・・・・)をやってしまったのではないか。

 そんな気持ちになる。

 

(いやでも、そんなこと無い、よな?)

 

 どう思い返しても、そんな覚えは無かった(・・・・・・・・・・)

 ジャンは決して善人ではないが、しかし少女を悲しませて楽しむような悪人でもない――はずだ。

 

(気のせい、だよな?

 気のせい……)

 

 胸の内に浮かんだモヤモヤを、そう思い込むことで有耶無耶にする。

 急に“女の子を悲しませてしまった”と思い浮かんだこと自体、不自然なのだが。

 ジャンは、そのこともまた気にしないことにした。

 

 

 ――もし。

 もしここで、彼が“違和感”をさらに追求していたのなら。

 “これから先の物語”に関わることもできたのだろう。

 

 それが幸せなことなのかは別として。

 

 

 

 

 

 

■夜

 

 

 

「あー、すっかり暗くなっちまった」

 

 もうすっかり日が落ちてから、ジャンは蒼の鱗亭へ戻ってきた。

 

「……まだ良くなってないみたいだな、イルマ」

 

 イルマの父親――この宿の店主から、彼女がまだ部屋から出てこないことを聞いている。

 

「まあ、買い物が無駄にならなかったのは、不幸中の幸いか」

 

 風邪に効く薬や、体に良い飲み物を買ってきていたのだ。

 別にこの一日、遊び歩いていただけではないのである。

 

「少しは良くなってるかな」

 

 イルマの部屋の前に立ち、ドアをノックする。

 すると、中から声が。

 

「んっ――ふっ――だ、誰、ですか?」

 

 イルマだ。

 やはり体調が悪いようで、声の調子がいつもと大分違う。

 

「あ、俺。

 ジャンだけど。

 あんま、良くないみたいだな」

 

「あっあっあっ――ジャン、です、か。

 ん、ふぅぅ――何の、用事、で?」

 

「用事っていうか、見舞いに来たんだよ。

 ほら、薬やドリンク、勝ってきたんだぜ」

 

「そ、そうでしたか――んぉ、おっおっおっおっ――」

 

 無理をしているのか、どうにも声がしっかりとしていない。

 

「これ、渡したいんだけどさ、入ってもいいか?」

 

「は、入って――?

 そ、それは、ダメ――おほぉおおおおおっ!!?」

 

 少女の甲高い声。

 

「どうした、イルマ?」

 

「――あっ――かっ――はっ――な、なんでも、ない、です――ん、んぅううっ!

 ――あっあっあっ――は、はい、分かり、ました――だから――あっあぁあああっ!」

 

 なんとなく、中で誰かと話しているようにも聞こえる、が。

 そんなわけはない。

 イルマは部屋で一人寝ているのだから。

 

「――ん、ジャン、来て――ん、おっおっおっおっ――部屋に、入って来てくだ、さ、い――あぅぅぅぅ――」

 

「お、そうか。

 分かった」

 

 許可を得て、ジャンはドアノブに手をかける。

 それを捻って扉を開けると――

 

 

 

「――――――――――――――え?」

 

 

 

 ――呼吸が止まる。

 部屋の中には。

 

「おほっ!! おほっ!! あっ!! ああっ!! あぁああああああんっ!!!」

 

 極太の巨根に貫かれ、悦びの嬌声を上げる全裸のイルマと。

 

「よ、大分遅い到着だな、短小ボーイ♪」

 

 その巨根の持ち主――全身を白い毛で覆われた、“巨大な狼”が居た。

 

 

 

 第二十九話④へ続く



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④! 夜の話

 

 

 

「んおっ!! おぅっ!! おっ!! あぁああっ!!!」

 

 部屋には、小柄な少女の――イルマの喘ぎ声が響ていてた。

 ジャンはといえば、余りの光景に呆然と佇むばかり。

 

「おひっ! おひぃいいっ!!」

 

 極太の巨根。

 成人男性の二の腕以上に太い男根が、少女の下半身を下から貫いている。

 “入り口”が破れてもおかしくないような代物を受け入れ、それでなおイルマは悦び喘いでいた。

 

「おっ! おっ!! おおっ! おおぅううううっ!!!」

 

 ジャンが目の前にいるというのに、まるで気にした素振りがない。

 いや、比喩でなく腹が膨らむ(・・・・・)程の巨根を突き込まれては、気にする余裕などないのか。

 その証拠に、イルマの双眸は大きく見開き、涙や涎を流しながらただひたすらに嬌声を発している。

 普段の彼女とは似ても似つかない、雌の貌だ。

 

「お、お前――何なんだよ(・・・・・)……?」

 

 しばしして、ジャンはようやく声を絞り出す。

 誰、ではなく、何。

 それは、イルマを犯している“相手”が余りに想像を絶する存在だったからだ。

 

「んー? 俺様のことが気になるかぁ?

 ひゃははは、どうだっていいじゃねぇか、そんなこと」

 

 嗤った。

 目の前の男――“雄”と表現した方が良いかもしれない――は、ジャンを嘲笑うかのように顔を歪めた。

 

「ひっ」

 

 “その仕草”を見て、ジャンは小さく悲鳴を上げる。

 それはそうだろう。

『狼』にすぐ目の前ですごまれ、怯えない人間などそうはいないのだから。

 

(なんで――なんで、こんなところに人狼がっ!!?)

 

 心の中で叫ぶ。

 

 ――ジャンが驚くのも無理はない。

 目の前にいるのは、人狼。

 数多の人種が揃う冒険の街ウィンガストにおいてすら滅多にお目にかかれない、希少種族。

 その人狼が、イルマの部屋でベッドの上に寝そべっているのだ。

 もう何が何だか訳が分からない。

 自分の恋人が目の前で犯されているというのに、その実感が未だ湧いてこなかった。

 

 そんな戸惑うジャンを見かねて――という訳でも無いのだろうが、人狼が口を開いた。

 

「なんだよ、びびっちまってんのかぁ?

 情けねぇ野郎だな、おい。

 ほれ、お前が気にしなきゃなんねぇのは、こいつだろ?」

 

「おっほっ!?」

 

 唐突に、人狼が腰を激しく動きだす。

 2mを優に超える巨体が振動を始め、その上に股がる幼い少女は跳ねるように揺さぶられた。

 彼女の腹が巨根に圧迫され、ボコッ、ボコッ、と蠢動する。

 

「おっ!! おっ!! おっ!! おっ!! おぉおおおおっ!!!!」

 

 獣のような声を上げるイルマ。

 まるで、自分を犯す“狼”と立場が入れ替わったか(・・・・・・・・・・)のように。

 

「そらよっと!!」

 

 さらに力を入れる人狼。

 イルマの身体を片手で掴むと、おぞましいデカさのイチモツを彼女の中へ押し入れる。

 

「いぎぃいいいいいっ!!!?」

 

 堪らず、絶叫する少女。

 これまでの嬌声ではなく、苦痛による悶絶だ。

 イルマの腹部が棒状の膨らみ、今にも突き破られそう(・・・・・・・)になっている。

 

「い、痛いっ!! 痛いぃいいいいいっ!!

 破れるっ!! 破けちゃうっ!!! 死んじゃうぅうううううっ!!!」

 

 口から泡を垂れ流しながら泣き叫ぶイルマ。

 その声を聞き、ジャンはようやく我に返った。

 

「――て、てめえっ!!

 イルマから離れやがれ!!」

 

 人狼へ向かって突撃する。

 怪物への恐怖を、恋人が汚された怒りで塗りつぶし。

 なけなしの勇気を振り絞って、化け物からイルマを救おうと疾走する。

 

 だがそれは――

 

「うりゃ」

 

「あぎゃっ!!?」

 

 ――余りにもあっさりと打ち砕かれた。

 こともあろうにジャンは、人狼に“デコピン”されただけで壁まで吹き飛んでしまったのだ。

 

「あ、あ、あ、あ」

 

 意識が朦朧とする。

 指で弾かれた――ただそれだけの衝撃で、ジャンは脳震盪を起こしてしまった。

 

 強さ(レベル)が違う。

 比べることすら烏滸がましい。

 僅かな抵抗すら愚かしく思えてしまう。

 

「ひゃ、はははっ!

 どうした、短小ボーイ! いくら何でも弱すぎねぇか!?」

 

「……ひっ!?」

 

 すぐ近くから声をかけられる。

 いつの間にか、人狼はジャンのすぐ近くに立っていた。

 ……少女を抱え、繋がったままで。

 

「い、イルマ――」

 

 恐ろしさに身が震えるのを必死に抑えながら、どうにかジャンは顔を上げた。

 そして靄のかかる視界で、自分の愛する少女の様子を伺う。

 狼に責め立てられ、イルマは変わらず苦悶の声を――

 

「あっ!! あぁあっ!! あぁあああんっ!!」

 

 ――あげていなかった。

 

「……嘘だろ、イルマ」

 

 思わず、そう呟く。

 ほんのわずかな時間で、少女の肢体はあの凶悪な肉棒に適応してしまった。

 丸太のようなソレが押し込まれる度に、引き抜かれる度に、身をくねらせる。

 股間からは愛液が滝のように流れ落ち、その顔は完全に蕩けきっていた。

 

「あぁああっ!! あぁあああっ!!

 すごぉいっ!! すごぉいぃいいっ!!!」

 

 幼稚さすら感じられる容貌とは不釣り合いに大きな胸を揺らしながら、少女は喘ぎ続ける。

 雌犬のような顔付きで乱れていた。

 

「ひゃはははぁっ!!

 どうだっ!?

 俺様のちんこはっ!!」

 

「あっ!! あっ!! あっ!! ああっ!!

 す、凄いっ!! 凄い、ですっ!!

 あんっ!! あんっ!! あんっ!! あんっ!!

 さ、最高ぉっ!!!」

 

 人狼の質問に、イルマは蕩けた笑顔で答える。

 ジャンのことなど、もう眼中にないかのように。

 

「おいおいおいっ! お前の恋人は目の前のコイツだろぉ!?

 恋人の前でそんなこと言っちまっていいのかよぉ!?」

 

「いいっ!! いいんですっ!!

 んぁあっ!! あ、あ、あ、あ、あ、ああっ!!

 だって!! だって!!! こんなに、気持ち、いぃいいいいいっ!!!」

 

 涙を流し。

 涎を流し。

 一片の淀み無く、イルマは言い切った。

 

(い、イルマ……?)

 

 ジャンは呆然としたまま、その言葉を聞いていた。

 現実感が無い。

 信じられない、信じたくない台詞を、脳が必死に否定していた。

 

 そんな彼の気持ちとは裏腹に、狼と少女の会話は続く。

 

「ひゃはははっ!!

 なんだよ、そりゃあっ!!

 お前、もうコイツは要らねぇってか!?」

 

 突如、人狼が腰を思い切り突き出す。

 イルマの腹部がこれまで以上にボコッと張り出した。

 

「んほぉおおっ!!!?」

 

 イルマの目が、ぐりんっと白目になった。

 だらしなく舌が垂れ、首が力なく落ちた。

 

「俺様のちんこがあればいいんだろう!?

 俺様のちんこがありゃ、他は何も要らないんだろう!?」

 

「い、い、い、い、いらにゃいぃぃいいっ!!

 コレ、あればいいぃいいいいっ!!

 なにもいらにゃいぃぃいいっ!!

 ちんこだけでいいのぉぉおぉおおおっ!!」

 

(う、ぐっ――!)

 

 心が抉られる。

 どうしようもない消失感。

 大事なモノが、手からすり抜けてしまった喪失感。

 いつの間にか、ジャンの目からは涙が零れ落ちていた。

 だが当然、人狼とイルマのまぐわいは続く。

 

「そうかそうかっ!

 そんなに俺様のがいいかっ!

 んじゃあ、コレをくれてやろう!」

 

 と、狼の動きが止まった。

 次の瞬間、

 

「あっあっあっあっあーーーーー!!?」

 

 甲高いイルマの悲鳴。

 彼女の腹が、みるみるうちに膨張していく。

 

(な、何が……?)

 

 少女の身に起こったことに理解が追い付かない。

 狼が射精を始めたのだと――大量の精液でイルマの腹部が膨らんだのだと気づいた頃には、

 

「――おっ――お、ごっ――あがっ――」

 

 まるで臨月を迎えたかのように、少女の腹はパンパンに膨れ上がっていた。

 ――挿入されたイチモツが太すぎて、注がれた精液が外に零れないのだ。

 

 そんな様子を見て、人狼は高笑いする。

 

「ひゃははははっ!!

 丸々とした姿になっちまったなぁ!?

 ザーメン風船になった気分はどうだ!?」

 

「――う、あ――死、ぬ――死ん、じゃう――」

 

 何とか声を絞り出すイルマ。

 

(ほ、ホントに裂けちまうんじゃないか……?)

 

 傍から見ているジャンですら、そんな危惧を抱く。

 あと少し。

 ほんの少しでも人狼が精子を出したなら、破裂する。

 それ程に切迫した膨らみっぷりだった。

 

「気持ち良くなったり悲鳴上げたり忙しないヤツだな!

 そんな簡単に死にはしねぇよ!!

 おらっ!!」

 

「いっ!? ぎっ!! ぎっ!! ぎっ!! ぎぁああああああっ!!!」

 

 射精した。

 人狼は、イルマの懇願など全く気にせず、さらに射精した。

 限界かと思われた少女の腹がさらに大きくなっていく。

 

「がっ!! あっ!! ()ぬっ!! ()げるっ!! ()ぬぅううううっ!!?」

 

 ミチミチッという肉が裂ける音が聞こえた――気がする。

 少女の口からは泡がぶくぶくと流れ出た。

 じわじわと、限界を超えてなおイルマの腹部は膨張し、そして――

 

「おらよっ!」

 

 ――裂ける、その直前で、人狼が肉棒を引き抜いた。

 

「あ”あ”っ!! あ”あ”っ!! あ”あ”ーーーーーーーっ!!!!」

 

 イルマの股から、精液がドバッと流れた。

 比喩表現などではなく、本当に大きなバケツがひっくり返った時のような量の精液が落ちたのだ。

 少し離れたジャンにすら、精液が跳ねてくる程に。

 

「はーーっ! はーーっ! はーーっ! はーーっ!」

 

 解放されたイルマは、大きく息をする。

 危険な領域に居たせいだろう、目の焦点は合っておらず、ただ中空を見ていた。

 

(――ん?)

 

 そこでジャンは気付く。

 ゼェゼェと息も絶え絶えな彼女を、狼はまるで品定めするかのようにジロジロと見ていた。

 何のつもりかと訝しんでいる内に、人狼が口を開く。

 

「――ふむ。

 ま、30点ってとこか。

 お前のまんこ、ただキツいだけなんだよなぁ。

 大して気持ち良くねぇんだよ。

 俺様の精液便所になるには不合格だ」

 

「えっ」

 

 思わず声が出る。

 人狼から飛び出したのは、酷評だった。

 あれだけのことをしておきながら、狼はまるで満足していなかったのだ。

 

「だがまあ、ただの便所としてなら使ってやらなくもない。

 精液は駄目だが、小便やうんこならくれてやってもいいぜ。

 どうだ?」

 

(どうだ、てお前、そんな――!)

 

 無茶苦茶な話だった。

 イルマのことを人としてはおろか、雌としてすら見ていない。

 だがそれに対する少女の反応に、ジャンはまた驚かされることになる。

 

「――――な、なり、ます。

 私を、貴方の便器として、使って下さい」

 

「なぁっ!!?」

 

 言葉が無い。

 イルマはあろうことか、狼の便器に成り下がることを受け入れてしまった。

 

 嫌々とした顔ではない。

 恐怖に支配されているわけでもない。

 嬉しそうに笑いながら、自ら進んで人間便器になることを肯定したのだ。

 

 人狼はくつくつと可笑しそうに笑って、

 

「おお、そうか。

 じゃ、早速役目を果てして貰おうか。

 実はさっきから催しててなぁ。

 小便くれてやるからしっかり飲み干せよ」

 

「は、はい!

 下さいっ! 私、全部飲みますからっ!!」

 

 極太の――これが先程までイルマの中に入っていたことが信じられない――男根を前に、少女は嬉々として口を開けた。

 飲むつもりなのだ。

 本気で、便器になるつもりなのだ。

 彼女は完全に“墜ちて”しまったのだ。

 

 もう、自分の知っている少女はここには――

 

 

「ふざけるなぁっ!!!」

 

 

 ――部屋に、ジャンの怒号が響いた。

 流石に無視できなかったのか、視線が彼に集中する。

 

「じゃ、ジャン……?」

 

「ほほう、どうした、短小ボーイ?

 なにか不満があるってかい?」

 

 ジャンは人狼に向き直る。

 怒りに燃えた目で目の前の雄を睨み付け、

 

「当たり前だ!!

 言うに事欠いて便器になれだと!!?

 んなこと聞いて黙ってられるかよ!!」

 

「おいおい、これは俺様とコイツとの話だぜ?

 無関係な野郎は入ってくんなよ」

 

「無関係じゃねぇよ!!」

 

 断言した。

 そうだ、自分とイルマは無関係などではない。

 冒険者と宿屋の娘、ではないのだ。

 

「俺は、イルマの恋人なんだよっ!!!」

 

「へぇー、恋人、ねぇ?」

 

 精一杯の怒気を、殺気を叩きつけても、人狼はどこ吹く風。

 逆に質問で切り返された。

 

「だがよ、短小ボーイ。

 お前はその“恋人”を放って、他の女と遊んでたよなぁ?」

 

「――――え」

 

 言葉が詰まった。

 いきなりの話題に、頭が真っ白になる。

 

「俺様が何も知らないとでも思ったか?

 真昼間から酒場で女とイイコトしてたよなぁ?

 その後は別の女の家に押しかけて、日が暮れるまでセックス三昧か」

 

「――う、う」

 

 押し黙ってしまう。

 いったいどんな理由か不明だが、人狼はジャンの行動を逐一把握していた。

 嘲るように、奴は続ける。

 

「そんなお前が恋人だぁ?

 聞いて呆れるっての」

 

「―――――ううぅ」

 

 肩が落ちる。

 首を垂れる。

 全て、狼の言う通りだった。

 なんとかしてイルマを助けたいと思ったこと自体が、お門違いというわけだ。

 

 ――しかし、人狼の台詞はこれで終わりでは無かった。

 

「それによ。

 もうこの女はガキを孕んでんだよ(・・・・・・・・・)

 お前のじゃねぇ、別の種でできたガキを、な」

 

「ん、なっ!?」

 

 衝撃の発言に、バッと顔を上げる。

 見つめる先は狼では無くイルマ。

 俯く彼女の表情は、ここからではよく見えない。

 

 掠れる声で、ジャンは尋ねた。

 

「ほ、本当、なのか」

 

「……本当です。

 私のお腹の中、赤ちゃん、いるんです……」

 

「そん、な――」

 

 身体から力が抜ける。

 がっくりと膝が崩れた。

 

(まさかだろ、イルマ、あの人狼に――?)

 

 項垂れるジャンを見て、狼がくつくつと嗤いながら告げる。

 

「ひゃははははっ!!

 どうよ、自分の想い人が別の男に孕まされた気分は!?」

 

「う、うぅ、うぅぅぅ――てめぇ、うぅ、ちくしょうっ」

 

 ぼろぼろと涙が零れ落ちる。

 殴りたかった。

 この人狼を。

 そして、これまで恋人が人狼に犯され続けていた(←ジャンの妄想)ことに気付かなかった、自分自身を。

 

「さぁてぇ?

 待たせたな、今からお前を便器にしてやる」

 

「あっ」

 

 放心する青年を気に留めず、人狼はイルマへと向き直った。

 常識外れの巨根が少女の眼前へと突きつけられる。

 

「――あ、ああ」

 

 見せつけられただけで、イルマはあっという間に雌の貌へ戻った。

 顔を赤らめ、愛おしそうに男の象徴を見つめ――

 

「あ、あああああっ!?」

 

 その先端から放たれた“汚水”を、顔で受け止めることになった。

 

「ほれほれ、ちゃんと口開けな!

 どんどん零れていっちまうぞ!」

 

「あ、あああっ! はぁああああああっ!!!」

 

 言われるがままイルマは大きく唇を広げ、狼の小便を口に含んでいく。

 だが到底飲み切れるような量ではなく、少女の身体は黄色の水で汚れていった。

 

(あ、ああ――イルマ――)

 

 自分をレイプした男の小便を、喜んで身に受ける彼女を見て。

 ジャンは心は暗澹たる場所へ落ちていった。

 

(なんで――なんで――)

 

 思い起こすのは、イルマと初めて会った日。

 

 『はあ、ジャン、ですか。

  いつまでにもつか分かりませんが、ウィンガストに居る間はうちの宿を贔屓して下さいね』

 

 最初はどこかよそよそしかった彼女。

 だが蒼の鱗亭で日々を過ごすうちに、少しずつ少女と親しくなり、

 

 『え、今日はまだ夕飯とってない?

  ……あの、なんなら今から私が作りましょうか?

  えっと、私もまだ食べてないんで、一緒に食事ってことになりますけど……』

 

 一緒に居る時間が増えていった。

 冒険仲間であるエレナやコナーを除けば、彼女と一緒に居る時間が一番長かったように思う。

 そして――

 

 『――あの、ジャン?

  笑わないで聞いて欲しいんですけど、私――』

 

 告白。

 顔を真っ赤に染めて、自分への好意を伝えてきてくれたイルマ。

 まだ恋愛経験が無かったであろう少女の頑張りは、ジャンは何故自分から言い出せなかったのかと後悔すら覚えた。

 

 だというのに。

 

「よし、これでお前は今日から便器女だ。

 しっかり俺様の下の世話をするんだぞ。

 気が向いたらまんこにも突っ込んでやるからよ」

 

「は、はぁい♪」

 

 非道な狼の言葉に、イルマは満面の蕩けた笑みで答える。

 

 終わった。

 彼女は終わってしまったのだ。

 

 イルマはもう、ジャンの恋人ではない。

 宿屋の一人娘でもない。

 人であることすら、放棄した。

 ただ雄の汚物を食らって悦ぶ、雌犬以下の便器に成り下がったのだった。

 

 ジャンはもう、ただそんな少女を見ていることしかできず――

 

 

「んなわけあるかぁっ!!!!」

 

 

 ――立ち上がった。

 どうしようもない現実を見せつけられ、それでもなお――いや、だからこそ、ジャンの胸には怒りが湧き上がったのだ。

 

 狼に犯された?

 お腹に子供がいる?

 便器になりたい?

 

(――だから、なんだってんだよ!!)

 

 駆ける。

 ジャンは走る。

 ほんの短い距離だけれど、全力で。

 相手をしっかりと見据えながら。

 

「イルマぁっ!!」

 

 抱き締める。

 汚物に塗れた少女を。

 自分が汚れることなど、一切気にせず。

 

「お前は! 俺の! 恋人だっ!!」

 

「……じゃ、ジャン?」

 

 突然のことに呆然とする彼女。

 ジャンはそのまま有無を言わさず、少女に口づけする。

 

「ん、んぅううっ!?」

 

 イルマが驚き、身を捩らせても、離さない。

 舌を潜り込ませ、口内を蹂躙していく。

 彼女の全身は狼の汚臭に包まれ、口の中は汚汁でいっぱいになっているが、そんなもの意に介さない。

 

「ん、ん、んん、んんんっ!!」

 

 たっぷりとキスをしてから、唇を離す。

 彼女の瞳を見つめて、告げた。

 

「俺は、お前を絶対に離さないからな!

 お前の恋人であることを辞めないからな!!

 お前がこいつに、どんな扱いを受けようとも、だっ!!」

 

「――あ。

 で、でも、私――私、は」

 

 ジャンの言葉を肯定するでもなく、かといって拒むでもない。

 煮え切れない少女の態度に、寧ろジャンはほっとした。

 少しでも彼女の中に自分への好意が残っているのであれば、諦める必要は無いのだから。

 

「ひゃははははっ!!

 健気だねぇ?

 そんな小便被った女でも、見捨てられないってかい?」

 

「見捨てる、見捨てない、じゃねぇよ。

 ――こいつは俺の恋人で、何があったってその事実は変わらないってだけだ」

 

 人狼の嫌味を切り捨てる。

 そんな言葉で、今のジャンはたじろがない。

 しかし、狼はなおも追撃してくる。

 

「ま、そうだよなぁ?

 こいつが他の男にナニされても恋人だっつーことは、短小ボーイが他の女とナニしたっていいってことだもんなぁ?

 便利な雌を確保ってか?」

 

「そんなことしねぇよっ!!

 ――いや、今までは、してたさ。

 ああ、イルマのことを俺は何も言えねぇ!

 他の女性を抱いちまったことだってある!!」

 

 自分の不貞を認める。

 そう、ジャンだってイルマと変わりはしないのだ。

 

「でも、もうしねぇ!!

 これからはイルマだけだ!

 イルマだけを愛していく!

 例えイルマが、他の男に抱かれたとしてもな!!」

 

「へーえ?」

 

 何が面白いのか、人狼はニヤニヤと笑いだす。

 

「だがよ、その女にはもうガキができてるんだぜ?

 そいつはどうするよ?」

 

「育ててやるよ!!

 誰の子だろうと、母親がイルマなら俺の子みたいなもんだ!!

 育て切ってやるさ、たとえ何人だろうとな!!」

 

 断言する。

 本当にそんなことできるのか――そんな疑問は挟まない。

 できる、ではなく、やるのだ。

 やらねばならぬのだ。

 彼女を、この人狼の手から救うには、それだけの覚悟が必要なのだ。

 

「ジャン――で、でも――」

 

 全てを聞いていたイルマは、しかしまだ不安な顔をしていた。

 それはそうだろう、何せ、自分を犯した相手がすぐそこにいるのだ。

 ジャンが何をどうしたところで、この人狼に勝てない事実は揺るがない。

 狼がまたイルマを犯そうとしても、それを止めることはできないのだ。

 

(……諦めねぇぞ)

 

 だからこその、覚悟だ。

 イルマがどれだけ犯されようと、彼女を愛し続ける覚悟。

 腕っぷしでは勝てなくとも、想いの強さで負けるつもりはなかった。

 その意思を表明するため、再度ジャンは狼を睨みつけ――

 

「その一言を聞きたかった」

 

「え?」

 

 ――彼から出たのは、予想外の言葉だった。

 こちらをゆっくり見渡しながら、人狼は続ける。

 

「便所女に、短小ボーイ。

 ひゃはははっ! お似合いだぜ、お二人さん。

 ……せいぜい、幸せになんな」

 

 先程までと、雰囲気が違った。

 口調こそ変わっていないが、こちらを見る目がどこか優し気で。

 まるで、自分達を祝福しているかのようで――

 

「あんた、まさか――」

 

 まさか、この人狼はこの結末に導くために――!?

 全ては、ジャンの不貞を正すためだったと――!?

 

「何のことかね?

 俺様はたまたま目に入った女を犯しただけだぜ」

 

 言って、狼は窓に向かう。

 手で窓を開け放つと、枠に足をかけた。

 

「――行くのか?」

 

「……へっ」

 

 ジャンが話しかけると、人狼は一度だけ振り返る。

 

 

「今日はこれ位で勘弁してやらぁ」

 

 

 

 

 

 

 ――その後。

 ジャンは二度と、その人狼に会うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなんでいい話風にまとまってるでござるかぁっ!!!?」

 

 夜。

 とある酒場にて、男が大声を上げていた。

 

「おかしいでござろう!?

 もう色々とおかしいでござろう!?

 どこから突っ込めばいいか分からぬくらいに!!」

 

 男の名は、ガルム。

 五勇者の一人、“気苦労”――もとい、“鉤狼”のガルムである。

 彼が人狼であるという事実は広く知られているが、六龍の一匹ティファレトに憑かれていることを知るのは極一部の人間のみだ。

 

「イルマ殿、なんでそう簡単に身体を許してるでござるか!?

 便器になること受け入れちゃったりとか、頭どうかしちゃってない!?

 ジャン殿はジャン殿で、イルマ殿を許すとこはともかく、なんでティファレトまで許すの!!?」

 

「六龍の力使ってテキトーに頭弄ったんじゃないですかねー?」

 

 喚き散らすガルムに、冷ややかな台詞が浴びせる一人の女性。

 美しい金髪を三つ編みにしている彼女は、イネス・シピトリア。

 やはり五勇者の一人で、今はガルムと共に食事をとっているようだ。

 

「まあ、そうなのかもしれんでござるが……

 あと根本的なツッコミとして、イルマ殿のお腹にいるの、セイイチ殿の子供でござるよね?」

 

「そうですねー。

 ま、いいんじゃないですか?

 ジャン……でしたっけ?

 あんな頼りなさそうな男の子供より、誠ちゃんの子供の方がはるかに将来性ありますし」

 

「そ、そういう問題ではないのでは?」

 

 余りにぞんざいな返答に、思わず突っ込んでしまう。

 

「そもそも、ティファレトは何がしたかったんでござろうか?」

 

「単に女が居たから襲っただけなんじゃないですかー?

 ひょっとしたら、自分の孫の将来が心配だったのかもしれないですけどー」

 

「……あの、食事しながらこちらに目線も向けずに返事しないで欲しいでござる」

 

 イネスは、本気でどうでもいいらしい。

 確かに、ガルム達が真剣に取り扱わねばならないような案件ではないのだが。

 

「ま、まあ、ティファレトの考えはどうあれ、1組のカップルが幸せになったのなら、良き事と割り切るべきか……」

 

「あ、件の女――イルマでしたっけ?――ついさっき誠ちゃんの家を訪ねてましたよ。

 きっと今頃よろしくヤってるんじゃないですかー?」

 

「何もかも全部台無しでござるぁああああっ!!?」

 

 頭を抱えて絶叫する。

 

 まあ、この件に関してガルムが口を挟んでも仕方がない。

 正直、彼が動いたところで何も変わらない気すらする。

 

「――あー、ところで、イネス殿」

 

「なんです?」

 

 気持ちを切り替えて、ついでに話題も切り替える。

 どちらかと言えば、この話の方が本題だ。

 

「その……“彼女”に、何か恨みでも?」

 

「え?

 ――ああ、リアのことですか」

 

 イネスは一瞬、何のことを言ってるのか分からないという顔をしたが。

 すぐにこちらの意図を理解したようだ。

 2人は、視線を酒場の奥に向ける。

 

 そこには――

 

 「あっ!! あっ!! あひっ!! ああっ!! あぁあああっ!!!」

 

 ――何人もの男に組み伏せられた茶髪の少女が居た。

 複数の肉棒をその身に突き込まれ、徹底的な凌辱を受けている。

 彼女がリア・ヴィーナという名で、実は魔族であるという事実を知るのは、この場でガルムとイネスだけだ。

 

 異常なのは。

 こんな行為が行われているというのに、酒場に居る他の客は全く彼女達を気に留めていない、ということだ。

 少女が暴行されているすぐ隣で、3人の女性客が他愛ない談笑を繰り広げている。

 

 ――イネスが結界を張り、人々の認識を狂わせたのだ。

 精力のある男達が、リアを肉便器だと思い込むように。

 それ以外の人達が、この“惨状”を気付かないように。

 

 そんな所業をしている本人は、ニッコリと笑って先の質問に答える。

 

「恨むだなんてそんな。

 寧ろ親近感湧いてるくらいですよー。

 ……肉便器になる運命で産まれてきただなんて、もうアタシそっくり!」

 

「…………」

 

 言うべき言葉が思い浮かばず、押し黙るガルム。

 構わず、イネスは続けた。

 

「それに、これは彼女のためにやってることなんですよ?

 幾ら優秀な魔族だからって、龍の力入れたら壊れちゃうじゃないですか。

 だ・か・ら、男共の精を使って補強してあげてるわけです。

 龍の力を使っても、そう簡単には(・・・・・・)壊れないようにねー」

 

 言っている内に、リアを犯す男の一人が倒れた。

 呻き声の一つもあげず、ぴくりとも動かない。

 

「……イネス殿」

 

「そんな怖い顔しなくったって大丈夫ですよー、ガルム。

 別に死んでなんかいないですって。

 単に精を吐き出し過ぎて、すっからかんになっちゃっただけで。

 ま、もう二度と勃起とかできない身体になっちゃったでしょうけど、散々リアを犯したんですから十分()は取れたでしょ」

 

「――リア殿を“器”として強化するだけならば、このような手段を使う必要は無かったのでは?」

 

「アタシが知ってる中ではコレが一番てっとり早いやり方なんですよー。

 昔、とある淫魔から教わったんですけどね」

 

 精液は命の源であり、それが故に強い“力”を宿している――という説がある。

 イネスはその“力”を用いて、リアをより強固な“龍の器”に仕上げようとしているのだ。

 

「だいたい、こんなの全然“甘い”じゃないですか。

 魔王と戦ってる時、各国に助力して貰う見返りに、アタシが国の重鎮共からどんな扱いを受けてた(・・・・・・・・・・)()

 ガルムは確か、知ってましたよね?」

 

「――ぬ、ぐ」

 

 またしても、言葉を詰まらせる。

 だが、イネスは止まらない。

 

「ま、それでもですね、アイツらはまだ全然マシでしたよ。

 一応は、アタシを“女”として扱ってくれましたから。

 雌犬だの肉便器だの言われても、まあ、女扱いであることには変わらないですし?

 やっぱり龍に遊ばれる(・・・・)のが一番辛かったですね。

 両手両足をもがれて(・・・・)、何か月もスラムに放置された時は、どうなることかと思いましたよー。

 浮浪者の汚物を食べて、どうにか飢えを凌ぎましたけど。

 あ、小鬼(ゴブリン)の巣に苗床として提供された時、アタシが何匹赤ちゃんを産んだか、話したことありましたっけ?」

 

「い、イネス、殿」

 

 かろうじて声を絞り出す。

 自分に、彼女へ何か言う資格が無かったとしても。

 それでも、何かを言わねばならない。

 

 しかし、イネスはガルムの言葉を待つことなどせず。

 

「――ガルム。

 今まで何もしてこなかったアナタが、今更出しゃばってくるの、止めて貰えます?

 別にアナタを恨んじゃいませんけどね、せめてアタシの邪魔だけはしないで下さいよ」

 

 怜悧な視線。

 もう、彼女にはガルムのどんな言葉も届かない。

 いや、それはとおの昔からだったか。

 

「……イネス殿。

 そこまで――そこまで、ミサキ殿が憎いか(・・・・・・・・)

 

「当たり前でしょう」

 

 絶対零度。

 殺気まで含んだ声。

 

「あの女はアタシから、勇者としての立場を奪い。

 アタシの意義を奪い。

 復讐の機会(・・・・・)を奪い。

 その上――あり得ないことに、黒田誠一まで奪った。

 恨むなって方が無理じゃありません?」

 

「――――」

 

 ガルムは何も口に出せなかった。

 沈黙する彼をつまらないそうに一瞥すると、イネスはリアを見つめる。

 未だ男達と絡み続ける彼女を。

 

「さあ、いっぱい男達から精液搾り取って、いっぱい強くなって、アタシの役に立って下さいねー。

 全てが終わった後、もし(・・)アナタが生き残っていれば――」

 

 

 

「――アナタだけ(・・)は、助けてあげますから」

 

 

 

 イネスの顔には、酷薄な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 第二十九話 完



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第三十話 最近の進捗報告を
① 陽葵さんは頑張ってます


 

 

 

 こんにちは。

 皆さん、近頃如何お過ごしでしょうか?

 ……などと妙に畏まった挨拶から入ってしまった。

 なんだか妙に間が空いてしまったような、大分お久しぶりなような、そんな気がしたのである。

 おかしい、別にこの間――私とティファレトとの戦いから然程時間は経っていないはずなのに……

 

 とまあ、そんな時空にまつわる話は置いておいて、私の現状をまず報告しよう。

 今どこに居るかと言えば、<次元迷宮>の『赤色区域』である。

 ウィンガストにあるダンジョンの最奥に近い場所、と言った方が分かりやすいだろうか?

 何故そんなところに居るかと問われれば、陽葵さんの脱出装置を実践しているから、と答えよう。

 美咲さんに命じられた役割を、私は忠実に実行している。

 

 つまるところ、陽葵さんとリアさんはとうとうゴール――青龍ケセドがいる階層の程近くにまで辿り着いたわけだ。

 実にめでたい話である。

 

 そして報告と言えばもう一つある。

 今、陽葵さんのパーティーには新しいメンバーが加わっていた。

 アーニーこと兄貴さんと、サンこと三下さんである。

 迷宮攻略に参加させて欲しいと、向こうから申し出てきたのだ。

 赤龍ゲブラーとの戦闘で、兄貴さんは自分と勇者達との“力の差”を強く認識したようで。

 己をさらに鍛え上げるのに、<次元迷宮>の奥を目指す陽葵さんへの同行は丁度良いものだったらしい。

 

 ただ正直なところ、私はこの話、少々不安があった。

 何せ、兄貴さんも三下さんも、元々はエレナさんをレイプしようとした所で知り合ったわけである。

 いちいち取り立ててはいないものの、彼らはレイプ未遂犯なのだ。

 そんな2人が、見目麗しい美少女である陽葵さんやリアさんと共に行動したら、迷宮探索そっちのけで乱交でも始めるのではないか――私はそれを危惧したのだ。

 特に三下さんは少し前にリアさんを犯そうとした前科もある。

 

 ……ただ、結局のところそれは杞憂であった。

 彼らは真面目に迷宮攻略に勤しんでいる。

 というより――

 

 「あ、兄貴ぃっ!!

  この魔物、武器が効かねぇっ!!」

 

 「防御が固すぎる! お前の得物じゃ無理だ!!

  俺とリアで撃破するから、サンは足止めに徹しろ!!」

 

 「あいあいさー!!!

  しがみ付いてでも動き止めてみせますぜ!!!」

 

 ――そんな余裕、彼らには無かった。

 何せここは『赤色区域』。

 魔物もトラップも、最強クラスの代物がわんさか湧いて出るエリアだ。

 一瞬たりとも気を抜くことはできず、一度魔物と遭遇しようものなら全力を尽くさねば打倒は困難。

 ……いや、全力で臨んだとしても相性次第で勝利はおぼつかなく、撤退も常に考慮しておかなければならない。

 彼らの場合、陽葵さんは<勇者(ヒーロー)>で兄貴さんは<(カタナ)>、どちらも<戦士(ファイター)>系の職業(クラス)だ。

 三下さんの<暗殺士(アサシン)>は<盗賊(シーフ)>系の中でも攻撃的な職業、リアさんは魔族なので職業(クラス)の枠に収まらないものの、前衛としての動きが得意のようで。

 要するにこのパーティー、回復を務める役回りが居ない(一応リアさんは回復スキルを多少使えるが)非常に前のめりなパーティーなので、持久戦はなるべく避けねばならない。

 今戦っている魔物――とにかく防御の固い巨大なカニ型の魔物『シヲマネキ』相手ならば、逃げた方が好ましいのだが。

 彼等には逃げられない理由があった。

 

 「あー! くそっ!! 離せ!! 離せって!!」

 

 陽葵さんが掴まっているのだ。

 例によって例のごとくである。

 この<次元迷宮>探索が始まってから、毎回のように見られる光景だ。

 魔物を強制的に発情させる『欲情の呪符』のおかげで、出会った魔物は悉く彼に種付けしようと襲いかかってくるのだ。

 そのせいで陽葵さん、生物学上は年若い男の子であるというのに、大家族のお母さんもかくやという回数の出産を経験してしまっている。

 尻穴から卵をひり出すのを、出産と形容するならば、だが。

 ……改めて書くと、酷い話である。

 

 「ヒナタ! もう少し頑張って!!」

 

 「頑張ってって、どうやって!?」

 

 リアさんが激励を飛ばすも、陽葵さんは泣き顔だ。

 彼女も巨大な鎌でシヲマネキを切りつけているのだが、異常な硬さと見上げる程の巨躯を誇る魔物には致命的なダメージが入りづらい。

 

 「けつ穴を締めるんだよぉっ!!

  挿れられちゃったらおしめぇよ!?」

 

 「もちっとオブラートに包めやぁっ!!」

 

 アドバイス(?)を飛ばす三下さんを怒鳴りつける陽葵さん。

 まあモノには言い方があるのかもしれないが、実のところカニの産卵管が先程から陽葵さんのお尻をツンツン突いているので、適切な助言ともいえる。

 と、そんなところで、

 

「……いやはや、大変な状態ですね」

 

 私は大きく息をつく。

 もうじき、出番が来てしまうかもしれない。

 いざという時しっかり動くため、軽く食事をしておくことにする。

 手に持った肉にかぶり付くと、口の中にカニの香り(・・・・・)が広がる。

 

「ふむふむ、いい味です」

 

 迷宮の奥底でこんな美味いカニが食べられるとは。

 いや、迷宮の奥底だからこそ食べられるわけなのだが。

 

「……世の中って不公平ですね」

 

「どうされました、ローラさん?」

 

 私の隣では、陽葵さんの治療役をお願いしているローラさんが、同じくカニを頬張っている。

 ピチピチのボディスーツを着ている美女が、口からカニ汁を垂らしながら食事している様は、どこか煽情的だ。

 しかし彼女、なんとなく世の無常を噛み締めているような顔だが……?

 

「いえ、どうという程のものでもないのですけれど。

 ヒナタさん、必死に頑張ってるっていうのに――こう、なんていうか――」

 

 彼女の視線がすっと横にずれる。

 そちらには、つい先刻私が倒したシヲマネキの死骸が。

 魔物は基本的に倒すと魔晶石を残して消えてしまうのだが、稀にアイテムをドロップすることがある。

 今回は幸運なことに、カニ肉を落としてくれたのだ。

 故に、こうして我々はカニ料理を食しているわけだが。

 

「ヒナタさん達は4人で手こずっている魔物を、クロダさんは一人で……」

 

 ああ、そういうことか。

 

「いやいや、私は何度かこの魔物と戦う経験がありましたからね。

 初見ではこうもいきません」

 

 というか、初見では危うく殺されかけた。

 一緒に探索してくれていたガルムさんが助けてくれなければ、そのままカニの餌になったことだろう。

 こうして単独でシヲマネキを倒せるようになったのは、さらに4,5回戦った後だ。

 今は問題なく倒せるが、それも私が持つ特性『社畜』のおかげであり、100%私の実力かというとかなり怪しい。

 

「そういうことも含めて不公平だと思う訳ですけれど」

 

「むむぅ」

 

「まあ、私もなんやかんやでレベルが90超えてますから、クロダさんのことは言えないのですけどね」

 

「……あー」

 

 そんなこともありましたね。

 ローラさんは黄龍ティファレトの気紛れだかなんだか分からない行為により、レベルが91にまで引き上げられている。

 レベルだけであれば、今この場にいる誰よりも高い。

 もっとも、ローラさんは余り戦闘向けの能力値(ステータス)をしていない上に、職業(クラス)も<錬金術師(アルケミスト)>とサポート特化型、その上戦闘経験もほとんどない。

 仮に戦ったとして、リアさん達に勝つのは相当難しいだろう。

 とはいえその支援能力はかなりズバ抜けたものになっており、私が余裕をもって今の階層(フロア)に居られるのも、彼女のおかげによるところが大きいのだ。

 

 ちなみに余り吹聴できる話でもないが、私も“同じ方法”でレベルが上がっていたりして、実は結構強くなっている。

 ……忘れたい思い出なのだが。

 

「まあしかし、陽葵さん達も大分強くなっているんですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。特にリアさんは凄い成長ですね。

 あのシヲマネキという魔物、かなり危険度の高い相手でして。

 それ相手にほとんど危なげなく戦えているのは、相当ですよ。

 冒険者であればランクAクラスに片足突っ込んでます」

 

「それでも片足つっこむっていう程度なんですね」

 

「ランクA昇格のためには、戦闘力が7年前の5勇者と同等に近い水準に達している必要があるそうでして」

 

「……それ、ランクAの冒険者は存在しないってことじゃ」

 

「一応、数人はいるそうですよ」

 

 気に恐ろしきは、そんな強さの者達を育成できてしまう『冒険者システム』か。

 流石は美咲さんが開発しただけのことはある。

 なお、ランクA冒険者は一年中<次元迷宮>に篭っているか、どこぞの国に抱えられるかしているので、ウィンガストの街で暮らしていてもまずお目にかかれない。

 

 そんな雑談をしている内に、

 

 「うぉおおおおおっ!! 今じゃ、リアちゃんっ!! 兄貴っ!!!」

  あっしごとコイツを殺れぇえええええいっ!!!」

 

 「ば、バカっ!! そんなことしたらアンタも!!」

 

 「サンはそう簡単に死にはせんっ!!

  早くしなけりゃあいつの身体がもたんぞ!!」

 

 「ぐっ――こんのぉおおおおっ!!!!」

 

 三下さんが身体を張ってカニを抑えているところへ、リアさんと兄貴さんの全力技が決まる。

 それをもって、とうとうシヲマネキは倒れ伏したのだった。

 コンビネーションの勝利である。

 案外良いパーティーなのかもしれない。

 

 「はぁっ、はぁっ、ヒナタ、無事!?」

 

 早速リアさんは、陽葵さんの救助に向かう――が。

 

 「うっ」

 

 思わず息を詰まらせてしまった。

 遅れて兄貴さんと三下さん(生きてた)もその場所へ到着する。

 

 「……生きては、いるな」

 

 「……どー見ても無事じゃねぇっすわ。

  っていうかもう、男として終わっちゃってる感じ……?」

 

 兄貴さんですら言葉を詰まらせ、三下さんに至っては完全にドン引きしていた。

 彼等3人の前には――

 

 「……げぼっ……おぇっ……」

 

 ――入りきらなくなった(・・・・・・・・・)『卵』を口から吐き出す、陽葵さんの姿があった。

 尻には産卵管が奥深くまで刺さり、腹は臨月を迎えた産婦のように膨れ上がっている。

 

 私の場所からでは、あの少年がいかなる状態か正確に把握できないが……

 一つ確かなことは、今日の探索はここで終了、ということだった。

 

 

 

 

 

 

「皆さん、お疲れ様でした」

 

 <次元迷宮>から帰って。

 陽葵さんとローラさん以外のメンバーは、アンナさんが用意してくれたセレンソン商会の一室で休憩中である。

 男性陣は鎧を外し身軽になり、リアさんはラフなTシャツにスパッツといういつもの普段着に着替え終えていた。

 そんな彼らへ、私はねぎらいの言葉をかけるのだが――

 

「……うん」

「……ああ」

「……まあ」

 

 ――皆さん、気のない返事。

 というか、リアさん兄貴さん三下さん、全員が疲労が溜まり尽くしたような表情だ。

 壁にもたれかかっていたり、床に座り込んでいたり、見事に3人とも気力が底をついた状態。

 

「あー……どうも皆さん、本当にお疲れの様で」

 

「……うん」

「……ああ」

「……まあ」

 

 おっと、これはまずい。

 全員、死んだ魚のような目をしている。

 徹夜で残業して朝を迎えた同僚のような瞳だ。

 

 無理もない。

 赤色区域は本来、ランクA冒険者が活動する領域。

 彼等は確かに強いが、まだあの区域を探索するレベルには達していないのだ。

 それを、青龍ケセドより託されたアイテム『青の証』のワープ機能で、街での補給や休憩を頻繁に繰り返しつつ無理やり進んでいるのである。

 寧ろ、疲労困憊にならない方がおかしい。

 

「あの、ポーションを用意いたしましょうか?」

 

「いらん」

 

「あっし、もうさっさと眠りてぇ。

 鉛仕込んだみてぇに瞼が重いんで」

 

 提案したものの、兄貴さんと三下さんにはすげなく断られてしまった。

 強力なモンスターと幾度となく戦いすり減らした神経は、アイテムによる単純な治癒では回復しないのだろう。

 

「……俺達はもう帰る。

 明日の出立時間は適当に連絡寄こせ」

 

「明日も協力頂けるのですか?」

 

 この疲労っぷりをみるに、明日は休むかと思ったのだが。

 そんな私の疑問に対し、兄貴さんは一つ睨みを入れてから、

 

「この程度で音を上げるとでも思ったか?

 都合のいい修練の機会だ、逃がすわけがないだろう」

 

「ぶっちゃけ、あっしは休みたいんですがねぇ。

 ただ、あっしらより酷い目見てるガキが頑張るってんなら、一抜けちまうのはカッコ悪いっしょ」

 

 三下さんも続く。

 有難いことにどうやら彼ら、まだまだ協力する腹積もりらしい。

 私が手出しできない関係上、これはかなり助かる。

 

「……ありがとうございます」

 

「ふんっ」

 

 頭を下げた私を残し、二人はそのまま部屋を出て行ってしまった。

 部屋に居るのは、私とリアさんだけ。

 この後どうするのか聞いたところ、

 

「あたしも、帰るわ。

 ヒナタの容態は気がかりだけど、ローラさんがいるなら大丈夫だろうし。

 今は、少しでも身体休めたい……」

 

「……そうですか」

 

 彼女の疲れ具合も、先の2人と大差ないようだ。

 いや、あのパーティーで治癒スキルや支援スキルを持っているのはリアさん位なので、単純な疲労は彼等以上かもしれない。

 いつもは快活な表情を見せる可愛らしい顔も、今は沈んでいる。

 迷宮探索の要ともいえる彼女に無理はさせられない。

 

「では――」

 

 私はリアさんのシャツに横から手を挿し込む。

 

「あっ」

 

 途端にビクっと反応する彼女の肢体。

 手の平には乳首のコリっとした感触が。

 どうやら彼女、今日はノーブラのようだ。

 

「ちょ、ちょっと、クロダ?」

 

「なんですか?」

 

「あたし、すっごく疲れてるんだけど。

 すぐに休みたいって、言ったよね?」

 

「はい、聞きました。

 ですから、今日は1回だけにしておこうかと」

 

「そ、そういう捉え方するの!?――――あうぅっ!?」

 

 両手でリアさんの胸を揉み上げる。

 ハリのある柔らかさが堪らない。

 巨乳と呼ぶには些か小さめだが、掴むにはちょうど良い大きさだ。

 肌のスベスベ具合も実に素晴らしい。

 肩辺りまで伸びたセミショートのブラウンヘアからは、すっきりした甘い匂いも香ってきた。

 <次元迷宮>を脱出してすぐにお風呂へ入っていたようなので、それも原因だろう。

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!」

 

 一つ揉むたびに肢体を震わせるリアさん。

 

「どうですかね?

 やはり、早く休んだ方が良いでしょうか?」

 

 言いながら、乳首をぎゅっと抓む。

 

「あ、あぁあああああっ!!!?」

 

 リアさんが身体を仰け反らせた。

 同時にスパッツから、ピチョピチョと液体が漏れ落ちる。

 今ので軽く気をやったようだ。

 

「……如何です?」

 

「はぁっ……はぁっ……だ、ダメに決まってるでしょ!」

 

 ぬぅ、意外にも意思が固い。

 リアさんも相当に疲れが溜まっているのだろう。

 そうまで言われては私も引き下がるしか――

 

「……い、1回だけだなんて、ダメ。

 あたし、肉便器なんだから――クロダの気が済むまで、いっぱいハメハメして♡」

 

 ――なるほど、そういうことか。

 

「ならば、貴女が今すべきことは何ですか?」

 

「……ん」

 

 その言葉に、リアさんがゆっくりと動き出した。

 一旦私から身体を離すと、スパッツを脱ぐ。

 そして壁に手を付いて、産まれたままの姿になった尻をこちらへ突き出してきた。

 形の良いプリッとした尻肉が、ふりふりと目の前で揺れている。

 股間の割れ目から透明な汁がとろっと滴った。

 その光景を目にしただけで、むくむくと愚息が立ち上がってくる。

 

「あたしのおまんこに、クロダの太いおちんぽ、挿れて♡」

 

 蕩けた瞳で私を見つめながら、リアさんが口を開く。

 甘い蜂蜜のような声色だ。

 男の欲情を掻き立ててくる。

 

「おやおや、肉便器が命令するんですか?」

 

「い、挿れて下さい♡

 あたし、ちんぽ無しじゃもう生きていけないの♡」

 

 自らの指で雌の入り口をクパァッと開きながら、リアさんが懇願してきた。

 膣肉は綺麗なサーモンピンク。

 愛液で濡れて艶のある光沢を帯び、物欲しそうにヒクついている。

 

「であれば仕方ありませんね。

 今、挿入してあげます」

 

「う、うん♡

 早く、早く――!」

 

 嬉しそうに腰をふるリアさん。

 その艶めかしい景色を鑑賞しながら、手早くイチモツを取り出した。

 前述の通り、私のソレは既に準備万端。

 いつでも挿入可能だ。

 私は両手で少女の尻をがしっと掴む。

 指が柔肉へ食い込んでいく感触を味わいながら――

 

「――いきますよ」

 

 そう宣言して、男根を少女の膣口へと滑り込ませていく。

 

「あ、ああぁああああああっ!!!

 来たっ! 来たぁああああああっ!!!」

 

 リアさんの口から歓喜の声を溢れ出る。

 彼女の膣内は、待ち望んでいた肉棒を悦んで迎え入れてくれた。

 しかし挿入のスムーズさとは裏腹に、愚息にはヒダが次々と絡まってぎゅうぎゅう締め付けてくる。

 そして棒の先端にもコリッとした感触が――

 

「――なんだ、もう子宮が下りてきているではないですか」

 

「あっあぁああああ――――だ、だって!

 欲しかったのっ! 欲しかったから!!」

 

「そんなにコレが味わいたかったんですね」

 

 そこまで期待されていたのなら、応えなければ男が廃るというもの。

 私は“狙い”を上手く定め、腰を思い切り少女へ叩きつける。

 

「おっほっ!!?」

 

 亀頭が狭い子宮口をこじ開け、子宮の内部へと侵入した。

 

「あっ!? かっ!? はっ!? ああっ!?」

 

 口をパクパクと動かすリアさん。

 目からは涙、口からは涎が流れ、表情は蕩けている。

 どうやら満足してくれているようだ。

 私は一安心し、腰を前後に振り出した。

 

「おっ!!? おっ!!? おっ!!!? おぉおおっ!!!

 おほぉおおおおおおおおおおっ!!!!?」

 

 だらしなく顔を緩ませながら、少女が喘ぐ。

 彼女の子宮口が上手い具合にカリへひっかかり、なかなか強烈な快感をイチモツへ与えてくれた。

 一度目の射精に、そう時間はかからなそうだ。

 

「あひっ!! あひっ!! おひぃっ!!

 おっ!! おほっ!! おほっ!! んぉおおおおっ!!!」

 

 子宮の入り口だけでなく、膣肉もまた竿を扱きあげてくる。

 根元から先端まで満遍無く刺激され、私は絶頂へ導かれていった。

 

「おっおっおっおっおっおっおおおおっ!!!?」

 

 尻を、胸を、プルプルと揺らしながらリアさんは嬌声を吐き出し続ける。

 腰を一突きする度に女性器からは愛液が噴き出た。

 まさかとは思うが、1回ごとにイっているのだろうか?

 その予想を裏付けるように、膣の締め付けがどんどん強固なっていく。

 膣痙攣でも始めたかのように。

 まあ、気持ち良いので問題ない。

 

「――まず1度目、イキますよ」

 

 宣言し、愚息を少女の一番深い場所にまで突き挿す。

 先端が子宮壁にまで当たるのを感じながら、私は射精感を解放した。

 

「おぉおぉぉおおおおおおっ!!!?

 あひゃぁあああああああああああああっ!!!!?」

 

 子宮内へ直接精液を注いでやると、リアさんの肢体がガクガク痙攣しだした。

 どうやら、彼女もイってくれたらしい。

 ……何度目の絶頂なのかは分からないが。

 

「お、ほ、ほ、あ、あ――――あ、あ、あ、あ――――」

 

 視線を宙に彷徨わせながら、リアさんが甘い吐息を断続的に吐く。

 瞳孔も口も開きっぱなしだ。

 理性が完全に吹き飛んでいるようだった――が。

 

「おひぃいいいいいいいいいいいいいっ!!!!?」

 

 私が再び動き出すと同時に、また嬌声を叫び出した。

 当初はこれで終わりにするつもりだったのだが、リアさん自身に“気の済むまでやって欲しい”と請われた以上、遠慮する必要はあるまい。

 2度目の射精を迎えるべく、私はピストン運動を早める。

 

「おおぅっ!!? おおぅっ!!? おぉおおおっ!!!

 おほっ!? んほぉおおおおおおおおおっ!!!!?」

 

 少女は白目を剥きかけながら、私の責めに絶叫を上げ続けた。

 

 

 

 

 

 

 ――しかし。

 リアさんの体力をもってしても、今日の疲れは如何ともしがたかったらしい。

 3度目の中出しを終わったところで、残念ながら彼女は動かなくなってしまった。

 

 

 

 

 第三十話②へ続く



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②! ティファレトに助力を頼んでみたものの

 

 

「あら、クロダさん。

 ヒナタさんの様子を見に来たんですか?」

 

「はい、そうです。

 どうですか、容態は?」

 

 扉をくぐった私に声をかけてきたのは、長い黒髪の美女――ローラさんだ。

 ここはセレンソン商会にある宿泊部屋の一つ。

 陽葵さんはここに運び込まれ、彼女の治療を受けているのである。

 

「特に問題はないですね。

 元気なものですよ」

 

 ローラさんは私の質問を受けてにこやかに答える、が。

 

「いやいや、問題ある! 問題あるよ!?」

 

 そこにツッコミが入った。

 ベッドでうつ伏せに寝ている金髪の少年――もとい美少女――ではなくて美少年の陽葵さんだ。

 短めに切られた美しいブロンズヘアは、施術中に大分暴れたのか、かなり乱れていた。

 しかもちょうど治療の直後だったのだろう、お尻が丸出しになっている。

 相変わらず、男のモノとは思えないプリプリの尻肉だ。

 思わずむしゃぶりつきたくなる。

 

「問題、ありましたか?

 経過は良好ですよ?」

 

「あんだけケツからポンポコ卵が出て、平気なわけ無いだろ!?」

 

 不思議そうな顔をするローラさんに、陽葵さんが食いつく。

 ぱっちりとした彼の瞳には涙の粒が溜まり、それがとてつもなく可愛らしかった。

 言われて見てみれば、確かに彼の尻穴はパクパクと引くついている。

 早く“棒”を突っ込んでくれと言わんばかりに。

 

「……確かに。

 普通、あれだけの量の卵を排出すれば、直腸が傷ついても不思議はないんですよね。

 括約筋が切れて肛門が閉じなくなったり、最悪脱肛してしまったりも……」

 

「ごめん。

 オレから振っといてなんだけど、そういう生々しい話はちょっと――」

 

「だというのに、ヒナタさんの身体は至って健康です。

 薬で処置しているとはいえ、凄い丈夫な身体ですね」

 

「……なんだか嬉しくないなぁ」

 

 せっかくローラさんが褒めているというのに、陽葵さんは複雑そうな顔だ。

 

 ちなみにだが、陽葵さんが産んだ卵は、アンナさんが回収している。

 なんでも好事家に高く売れるんだとか。

 

 それはともかく、私はそんな2人の会話へ割って入る。

 

「あー、それはアレじゃないですかね。

 陽葵さんは魔王の息子であり、かつ六龍の完全な器であるわけですから、その副産物として強靭な肉体となっているのでは?」

 

「……むむぅ」

 

 その言葉に、美少年は浮かない表情。

 

「オレ、そういうんじゃなくてもっと分かりやすい強さが欲しかったなぁ。

 だいたい、強靭とか言われても、そんなに体力あるわけでも防御力あるわけでもないし……」

 

「正直に申し上げて――性的なこと限定な強靭さですよね」

 

「言うなぁ!

 なんか薄々勘付いてたけども!!」

 

 指摘を受けて激昂する陽葵さん。

 ちょっと弄ればすぐに感じてしまう敏感さを持つ上に、壮絶な責めにも耐えられる彼の肢体。

 まあ間違いなく六龍の力によるものなのだろうけれども、こんな肉体にしてしまう辺り、龍の歪みっぷりが分かる。

 

「前々から言いたかったんだけどこーゆーのってさぁ! なんかもっと凄いスキルが身に付くもんなんじゃねぇの!?

 異世界に行ったらチートスキルで無双だろ、普通!?」

 

 いや何が普通なのかは分からないが。

 迷宮探索でストレスが溜まって、自分でも訳の分からない愚痴を吐いてしまっているのだろう。

 

「何を言ってるんですか、陽葵さん。

 貴方は<盗賊><僧侶>の“適性”が最高クラスじゃないですか。

 加えて、<多重発動(コンボ)>なんていう強力な特性まで持ってるんですよ?

 十分、チートと言って差し支えない能力ではないかと」

 

「うぐっ!? そ、それはまあ、そうなんだけど」

 

 紅顔の美少年は言葉を詰まらせる。

 最初の職業選択で<勇者(はずれ)>を選んでしまったのは、彼にとって忘れたい過去であるらしい。

 私にとっても頭の痛い案件ではあるのだが。

 

 と、そこで会話を聞いていたローラさんが話しだした。

 

「でも、もうヒナタさんは大分強くなりましたよね。

 そろそろ転職ができるランクになったんじゃないですか?」

 

「…………」

「…………」

 

 私と陽葵さんが揃って押し黙る。

 

「あ、あら?

 違いました?」

 

 そんな私達を見て、慌てるローラさん。

 気が重いが、説明せざるを得ないか。

 

「……これは完全に私の誤算でした。

 冒険者のランクを上げるには幾つか条件があるのですが、その一つに冒険者レベルがあります。

 ギルド長のジェラルドさんが協力してくれている現状、陽葵さんにとってはそのレベルだけがハードルなわけですが――」

 

 他の条件は、ギルドへの貢献度や探索した階層の深さなど、ギルド側の都合によって設定されたもの。

 一定のレベルに到達しさえすれば――つまり、転職に耐えうる(・・・・)キャパシティを獲得できさえすれば、職業の変更は可能なのである。

 

「陽葵さん、かなり極端にレベルが上がりにくかったんですよね」

 

 以前説明したような気もするが、冒険者レベルとは強さの指標ではなく、その者の潜在能力がどれだけ発現できてかを示すものである。

 おそらくだが、陽葵さんは途方もなく潜在能力が高いのだろう。

 本来なら喜ぶべきことなのだが、ここで重要なのは、陽葵さんの能力(ステータス)の向上速度が普通の冒険者と大して変わらない、ということ。

 限界能力は非常に高いのに、成長は人並み――これが意味することはつまり、レベルアップ頻度の遅さ、である。

 実のところ単純な強さならば陽葵さんはBランクに限りなく近くなっているのだが、冒険者レベルはまだ28しかない。

 Dランク程度の数値である。

 転職には最低でもCランクが必要であり、基本職を変更する転職にはBランクが必須。

 これでは<勇者>から脱却してくてもできない。

 

「でも実力がBランク相当あるのであれば、転職してもよいのではないでしょうか?」

 

「いや、それがそう単純な話でも無く――」

 

 ローラさんの疑問も御尤も。

 転職に関しては、少々複雑な事情があるのだ。

 

 転職とはすなわち、それまで自分の身体に“インストール”していた冒険者システムを一新することに他ならない。

 ただこの時、自分の能力(ステータス)応じた(・・・)“負荷”がその身にかかるのだ。

 能力が高ければ高い程その負荷が大きくなるわけで、実力があるから低レベルでも転職可能、ということにはならないのである。

 レベルを上げ――つまり己の潜在能力を開発して、自分の“器”を高めることでしか、この負荷を耐える術はない、とされている。

 

 ただこの辺りの事情はまだ研究の真っ最中であるらしく、ひょっとしたら近い将来別の理論が確立するかもしれない。

 

「――とまあ、そんなわけです」

 

「なるほど。

 全て把握できたわけでもないのですが、とにかく陽葵さんが転職するのはかなり絶望的なわけですね」

 

「その通りで」

 

 彼女の言葉に深く頷く。

 そんなわけで陽葵さんには、なんとか頑張って<勇者>のまま赤色区域を踏破して貰うしかない。

 

「あーあ、簡単にレベルが上がる方法とかねーのかなぁ」

 

「それがあったら皆さん苦労していませんよ。

 地道にコツコツ頑張りましょう。

 大丈夫です、必ず道は開けます」

 

 とはいえ、陽葵さんに残された時間は短い。

 実を言えば内心私にも焦りが出始めているのだが――それを彼に悟らせるわけにはいかなかった。

 限られた期限で最善を尽くすよう、励ましの言葉をかけていた――その時。

 

「何を言ってるんですか、クロダさん。

 あるじゃないですか、簡単にレベルを上げる方法が」

 

 きょとんとした顔で、ローラさんがそんなことを言いだした。

 ……まさか。

 

「あの、ローラさん?

 それは、ひょっとして――」

 

「はい。ティファレトです」

 

「――やはり」

 

 そのことだったか。

 確かに、私やローラさんは黄龍ティファレトにレベルを上げて貰ったことがある。

 

「しかし、そのためにはティファレトに――」

 

 こう、色々ヤられてしまうわけで。

 ぶっちゃけた話、滅茶苦茶に犯されてしまうわけで。

 だがそのことを指摘しても彼女はどこ吹く風。

 

「今更じゃないですか?

 そうでなくてもヒナタさん、毎日のように酷い目にあっているんですから。

 一度我慢すればそれで済むなら、安いものですよ」

 

「……あー、確かに」

 

 現状、陽葵さんは探索の度に魔物に犯されてボロボロにされている。

 一回ティファレトに犯されるだけで、その後の探索の安全が保障されるのであれば、悪くない話、かも。

 

「しかし、協力してくれますかね。

 奴には何の利益も無い話ですよ?」

 

 いや、陽葵さんとのアナルセックスは素晴らしい気持ちの良さなのだが、果たしてティファレトをそれで釣れるかどうか。

 だが私の疑問に、ローラさんは気軽な口調で答える。

 

「そこは大丈夫ですよ。

 クロダさんがお願いすれば一発です。

 息子の頼みを無碍に断らないでしょう」

 

「そうですかね?」

 

「ええ、そうです」

 

 やたら自信あり気なローラさん。

 彼女がここまで言うからには、何かしら確信めいたものがあるのだろう。

 

「ただ問題は、ティファレトが今どこにいるか、なんですけど」

 

「――いえ、それについてなら、私に心当たりがあります」

 

 ティファレトの居場所は知らないが、奴が憑依しているガルムさんがこの街で拠点にしている宿屋なら、以前話に聞いている。

 その辺りを散策すれば、遭遇できる可能性が高いはず。

 

 思い立ったが吉日。

 私達は、早速そこへ向かって移動を開始した。

 

「おーい、2人で話進めんなー。

 ちっとも分かんねぇぞ、オレ」

 

 状況に付いていけていない陽葵さんには、道すがら説明を行う予定だ。

 

 

 

 

 

 

 さて、珍しいことに私の目論見は当たった。

 件の宿屋に来てみれば、ちょうど“ガルムさんの姿”があったのだ。

 しかし、どうも彼は別の客人と応対中のようで――

 

「やっぱ悪ぃよ、こんな色々してくれてるなんてさ」

 

「なぁに、気にすんなよ、ジャン……殿。

 金は天下の周りものって言うだろ?……でござるよ」

 

 ――しかも、相手はジャンさんだった。

 あとなんか口調がおかしい。

 

「でもさ、同じ冒険者のよしみったって――俺、アンタと一緒に冒険したことはおろか、大して話すら――」

 

「袖振り合うも他生の縁ってヤツよ……でござる。

 何かと入用なんだろ? 遠慮すんなって……でござる」

 

 この怪しいにも程がある語尾――さてはアイツ、中身はティファレト!?

 ジャンさん相手に何してんだあの龍!?

 

「いや、しかしホント、これ以上援助してもらう訳にはいかねぇんだよ!

 クロダさん――って言ってもアンタは知らないか。

 その、親しくしてる先輩冒険者からも、お祝いってことで滅茶苦茶な大金渡されちゃっててさ。

 恋人(イルマ)に子供ができたって報告したら、もう自分のことのようにアレコレ世話してくれて。

 この上、アンタからまでなんて――」

 

 …………。

 まあ、自分のことだったりしますからね。

 

 なお、この2人の会話は<感覚強化>の魔法によってかなり遠くから視聴していたりする。

 そのため、ティファレトはともかくジャンさんには気づかれていないはずだ。

 

「子育てを甘くみんじゃねぇぞ……でござる。

 飯代やら病気や怪我の治療代やらで何かと金はかかるんだ……でござる。

 金は幾らあっても困るもんじゃねぇ……それに俺様にとっても孫になるわけだし」

 

 ――むう、ティファレトの奴め。

 イルマさんが産む子供の世話をしてやろうという魂胆らしい。

 余計な真似を。

 ジャンさん達夫婦の第一子については、私が全力で養育費を渡す予定だというのに。

 しかし赤ちゃんを育てるにはとかくお金が必要という指摘にも一理ある。

 邪魔をするわけにもいかないか。

 

 そんな私の思惑は知る由も無く、ジャンさんは涙ぐみながらガルムさん(ティファレト)に頭を下げていた。

 

「ありがとよ。

 この街に来てから色々あったけどさ、こんなに暖かくしてくれる人と会えるなんて。

 俺、冒険者になって良かったよ……!」

 

「……まあ、托卵されてる時点で幸せじゃあないんだけどな」

 

「ん、今なんて?」

 

「いやいや、なんでもない、なんでもない……でござる」

 

 つい余計な一言を零し、慌てて首を振るティファレトINガルムさんなのだった。

 

 

 

 ――とまあ、2人のそんな小芝居も終わり。

 

 

 

「え? いや、それ無理」

 

 ジャンさんと別れたティファレトへ、いざ本題の話を振った結果がこの回答であった。

 

 今、私達が居るのは宿の一室――ガルムさん(本人)が借りている部屋だそうだ。

 そこで、まだ人間の姿をしているティファレトと、私・ローラさん・陽葵さんが向かい合っている。

 

 それはさておき、私は発言の真意を確かめるため、奴を問い詰めた。

 

「ど、どういうことですか?

 まさか、陽葵さんとセックスできないとでも!」

 

「まあ、それもある」

 

「馬鹿な!?」

 

 信じられない返答に、絶句。

 有り得ない。

 こんな美しく可憐で、胸を除けばスタイルまで抜群な男の子を抱くことができないなんて。

 貴様、それでも私の父親か!?

 

「そうは言ってもなぁ。

 一応、俺様“生命”を司る龍だかんなぁ。

 生産性の無い行為はNGよ?」

 

 ……言われてみれば、一緒に暮らしていた時も父は男を犯すような真似はしなかったような。

 

「あのね、男とヤるってのがまずおかしいんだかんね?

 親友だって六龍界(こっち)来るまでそんなことしてねぇだろ」

 

「いえいえ、何人か抱きましたよ」

 

「ヤったことあんのぉ!?」

 

 結構カワイイ人が居たので。

 流石に陽葵さんと比べると美少女度は劣るものの、代わりに少年特有の色気を持っていたりで、なかなか良い感じであった。

 

「マジか……俺様、ちょっと教育間違えたかも」

 

 ティファレトは驚愕の表情だ。

 龍が驚くなんて相当稀な状況なのだろうが、ガルムさんの顔なので新鮮味はない。

 

 と、そこでローラさんがふと口を開く。

 

「あら? でもこの前クロダさんとは――」

 

「あああああああああああ!!!!」

「あああああああああああ!!!!」

 

 唐突にトラウマ級の過去を指摘され、悶え苦しむ私とティファレト。

 床をゴロゴロとのたうち回る私達を眺めながら彼女は、

 

「反応がそっくりですね、流石親子」

 

「この状況見てよくそんな言葉吐けるなお前!?」

 

 無情な台詞にティファレトが食いつくものの、必要以上にローラさんへ詰め寄ったりはしない。

 どうもこの龍、彼女に対してかなりの苦手意識を刷り込まれたようだ。

 六龍をここまで追い詰めるとは、ローラさんの豪胆さには舌を巻くほかない。

 ……代償に私の括約筋は酷いことになった。

 まあ、向こうも同じだが。

 

「くっそぉ、六龍界にまでBLの波が押し寄せてくるとは。

 美咲か? 美咲が全ての元凶なのか?

 お前もあの女に感化されたっていうのかよ!」

 

「失礼な。

 私とキョウヤ様は不倶戴天の敵同士ですよ。

 昨日もクロダさん×デュストさんかデュストさん×クロダさんかで深夜まで激論を交わしていた程です」

 

「リアルの知り合い同士で掛け算するとかレベル高すぎだろ!? ってか故人を混ぜんな、不謹慎だろ!!

 普通に仲良いじゃねぇか、お前等!」

 

「ちなみに私はデュストさん×クロダさん派です」

 

「聞いてねぇけど!?」

 

 意味が分からない会話を展開するティファレトとローラさん。

 しかし何故だろう、彼女の言葉を聞いていると背筋がゾクゾクしてしまう。

 

 と、ともあれ、気を取り直して。

 

「しかし、陽葵さんのプリプリしたお尻を見ても抱けない等と言えますか?

 この揉み心地、最早芸術品ですよ?」

 

「おい黒田。

 いきなり――あ――尻揉みだすな――ん、んんっ――

 ただでさえオレ――あうっ――この場のノリについていけてねぇんだから――は、う――

 実はお前が龍の息子だったとか――んっ――すっげぇ重要な話なんじゃないのか?――んあっ――

 いいのか、さらっと流しちゃって――あ、ああ――」

 

 ちょうど横に居た陽葵さんの尻を揉みしだきながら、ティファレトを説得する。

 むっちりとして、手に吸い付いてくるようなこの感触。

 ショートパンツ越しですら、これだ。

 この気持ち良さに比べれば、陽葵さんがジト目で睨んできていること等、些事にすらならない。

 

 私の言葉を聞いた黄龍は、鷹揚な風に頷きながら、

 

「確かに。

 尻揉まれただけでその反応っつーのは、女通り越して発情した雌犬とすら言える。

 正直、俺の股間もムクムクと起き上がってきちまった」

 

「――では!」

 

 色よい返事に俄然期待感が増す。

 ついでに陽葵さんの尻を弄る指にも力が入ってしまった。

 

「だ、だから、尻を揉むなって――はぅっ!?

 待って! 穴っ! 穴に指入れちゃ――あぅうううっ!!?

 ヤ、やりたいなら別に今じゃなくてもいいじゃ――おぉおおおおっ!!!?」

 

 金色の髪を振り乱して陽葵さんは喘いだ。

 彼の尻穴には、ずっぽりと指が2本が突っ込まれている。

 ただの排泄器官であるはずのソコは、咥え込むかのように私の手を締め上げた。

 まるで女性器のようだ。

 

 陽葵さんをさらに感じさせるため、私は指を前後に動かしだした。

 その途端、少年の肢体が弓なりに反る。

 

「お、おぉぉおおおおおおっ!!?

 なんで!? なんで激しく――お、お、お、お、おぉおおおうっ!!?」

 

 指を抜き差しする度、ジュポジュポと音が立つ。

 部屋にいる他の3人に見つめられながら、陽葵さんは絶頂への階段を駆け上がっていった。

 

「おっ! おっ! おっ! おっ! おっ!!

 イクっ! イクっ!! イクっ!! イクぅっ!!!

 んおぉおおおぉおおおおおっ!!!!?」

 

 アヘ顔を晒しながら、陽葵さんはイった。

 肢体が硬直し、二度三度痙攣を起こす。

 履いているショートパンツの股間部に、ジワジワと“染み”が広がっていく。

 その場で崩れ落ちそうになる彼を支える。

 華奢で柔らかいその身体を抱きしめながら、その顔をベロで舐めていった。

 

「ん、ふっ――はうっ――れろっ――ん、ぺろっ――あぅうう――」

 

 キメ細かい肌、瑞々しい唇、繊細さの中に力強さもある舌、どれも味わい甲斐のある一品だ。

 一しきりそれを堪能してから、ティファレトの方へ顔を向ける。

 黄龍は私の腕の中でぐったりしている陽葵さんをじっと見つめると、

 

「――有り得ねぇ程敏感体質だなぁ、コイツ。

 指だけでもこんだけ盛大にイかされるってのに、魔物のちんこぶっ刺されてよく今まで壊れなかったもんだ」

 

「腕の良い方が救護を担当されていますから。

 それで、陽葵さんでしっかり興奮できるとのことでしたが、ならば彼のレベルを上げて貰えるわけですね?」

 

「だから、それはできねぇんだって」

 

 頭を振るティファレト。

 まだ何かあるというのか。

 

「まだというかだな。

 認めるのも癪なんだが、ケセドの“契約”でこの“器”にゃ龍の力が干渉できなくなってんだ。

 そうでもなけりゃ、他の龍がさっさとコイツを奪ってるだろ?」

 

「……なんと」

 

 そうだったのか。

 いや、陽葵さんは“勇者の戦い”の『景品』であるのだから、そう簡単に手出しできないプロテクトのようなものはあるのだろうと思っていたが。

 力を貸すような真似もできない程、徹底した防護だったとは。

 龍本人がこう断言している以上、助力を求めるのは不可能か。

 私の心に諦念が湧いてきたところへ、

 

「案外大した力を持ってないんですね。

 仮にも六龍だというのに」

 

 唐突にローラさんが煽ってきた。

 彼女、黄龍相手には攻め攻めである。

 しかしティファレトはティファレトで、その態度を気にした様子も見せず。

 

「そうだぜ。

 六龍っつってもそこまで大したもんじゃねぇんだよ。

 “器”が無けりゃ、碌にこの世界へ干渉することもままならない。

 地球の神話やおとぎ話に出てくる“何でもあり”な存在じゃ無いのさ」

 

 うーむ、どうだろう。

 比較対象が悪い気もする。

 だいたい、地球での『神様』はあくまで想像上の存在なのに対して、六龍は実在するのだから。

 

「俺様としちゃ、美咲はやり過ぎだと思うがね。

 六龍(俺様達)は揃って人の不幸が好物だが、それでも人間を絶滅させようとまでは考えてない。

 この世界に危機が訪れたら、それを解決したりもしてる。

 戦争を意図的に引き起こしてもいるけどな――別に龍のいない地球でも人同士の殺し合いなんて日常茶飯事だろ?

 完全に排除しなけりゃならん程の存在か、俺様達は?」

 

「そりゃそうでしょう。

 人同士の争いが不可避なものだったとしても、六龍が原因でそれが増加している可能性は高い。

 第一、六龍は何のデメリットもなく(・・・・・・・・・・)楽しんでいるじゃないですか」

 

「お、良いコト言うじゃねぇか、親友。

 美咲の言葉を借りたんでなければ、100点あげてもいいぜ」

 

 ……細かいことを指摘するのはやめて頂きたい。

 

「ま、今のは単なる愚痴だ、忘れてくれ。

 とうの昔に六龍と美咲は交渉決裂してるからな。

 ひゃはははっ、あの女がこうまで滅茶苦茶な存在だとあの時知ってりゃ、他の龍共も手の平返してたかもしれんが」

 

「よくよくキョウヤ様を褒めるんですね」

 

 これはローラさんの言葉。

 

「……まあ、実際凄いヤツだからなぁ。

 どうしてまだ人間でいられるのか(・・・・・・・・・)俺様も理解できねぇ。

 次元渡航者(プレインズウォーカー)の領域に到達しちまってるんじゃねぇか。

 その内、自分で世界創れるようになったりしてな」

 

「……すいません、よく理解できないです。

 でも貴方がキョウヤ様を好きなのはよく分かりました」

 

「気にすんな、理解させようとも思っちゃいねぇ。

 あと俺様があの女を好いてるとか勘違いすんな――いや、マジ勘弁」

 

 しかし、ティファレトはここまで饒舌だったのか。

 こちらが聞いてもいないのに、アレコレと話をしてくる。

 

「はっきり言って暇なんだよ。

 話相手も大していねぇし。

 楽しいイベントも大方片付いちまったからなぁ」

 

 イベント――勇者同士の戦いのことを指しているのか。

 

「ま、残る関心事はアレだな。

 ……親友があのミサキ・キョウヤを相手に、どう戦うのか(・・・・・・)ってところ位か」

 

 っ!?

 

「え? 今なんて?」

 

「ひゃはははは、なんでもねぇ、なんでもねぇ」

 

 ぼそっとした声でえらいこと言ってくれた。

 幸い、ローラさんには聞き取れなかったようだが。

 

「さて――しかし、だ。

 せっかく俺様のとこに来てくれたってーのに何の見返りも無しってんじゃ神としての沽券に関わるか」

 

 お、随分と殊勝な台詞。

 

「そうさなぁ――よし、この“器”、今夜一杯預からせて貰おうか」

 

「陽葵さんに何かして頂けるのですか?」

 

 龍の力は効かないとのことであったが……

 

「ああ、これからはもう男のちんこのことしか考えられない、雌ガキに堕としてやる!」

 

「おお!」

 

「“おお!”じゃないですよ!」

 

 ローラさんが突っ込んできた。

 ――あ、なんだろうこのフレーズ、全身に悪寒が走る。

 別にローラさんにヤられたわけでもないのだけれど。

 

「ひゃはははは、ジョーダンだ、ジョーダン。

 うむ、俺様にいい考えがあるのだ、ダイジョーブダイジョーブ。

 なんのかんのでそそる身体してやがるのも分かったし」

 

「うわぁ、信用できない顔……」

 

 確かにいやらしい笑みではある。

 しかし、いくら何でもこのタイミングでただ自分の性欲のみを追求するような男でも無いはず。

 たぶん。

 おそらく。

 

「ま、マジな話このまんまいったらこのガキお先真っ暗だからな。

 ケセドの思惑も美咲の計画もひっくり返そうってなら、細工は幾らあっても多すぎるってこたぁねぇだろうよ」

 

「――ケセドも、油断できる相手でないと?」

 

「当たり前だろ、あいつも六龍だぞ。

 まともな感覚なんざ持ってる訳がねぇ。

 それでも、この“器”を助けようと思ったらあいつの考えに乗るしかねぇんだがな」

 

「……そうですね」

 

 難しい。

 非常に難しい案件なのだ。

 六龍を倒そうとしているにも関わらず、その六龍に協力を求めざるを得ないというのは。

 陽葵さんの問題に限った話では無いが。

 

 しかしケセドとて陽葵さんの親。

 裏は当然あるのだろうが、彼が助かる方向に盤面を動かしてくれる――と願うばかりだ。

 

「じゃ、俺様はちとこのガキと遊ぶからよ。

 お前等はそろそろ帰ってくれ。

 俺様は一人で愉しみたいタイプだからな」

 

 その言葉で、この場はお開きとなる。

 私はローラさんを伴って、宿を後のするのだった。

 

 

 

「あれ? もう話終わったんか?

 俺のパワーアップは? え? 無しになった?

 それってどういう――おーい、黒田、何で帰ろうとしてんだよ。

 だったら俺も一緒に――あれ? あんたどうして俺を掴んでんだ?

 おい。離せよ。離せって。ちょっと。なぁ。

 無理! ナニ出してんだ! そんなん入るか!!

 壊れる!! けつが壊れちまう!! やめろ!! やめて!!!

 んんぉおおぉおおおおおおおおおおおおっ!!!?!!!?」

 

 

 

 第三十話③へ続く



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③ エゼルミアさんとの戦い(仮)

 

 

 ティファレトの宿から出てから、しばし後。

 ローラさんと別れた私は、自宅に向かっていた。

 いや、そのまま彼女としっぽりと一夜を過ごしても良かったのだが――というかそうしたいのはやまやまだったのだが、そうもいかない理由があった。

 今夜は非常に大事な用事……否、任務があるからだ。

 

「……ふぅううう」

 

 大きく息を吐く。

 我ながら、少々緊張してしまっているようだ。

 今まで通りにやればいいのだと分かっていても、やはりどうしても気負ってしまう。

 もう玄関の前に辿り着いているにもかかわらず、あと一歩踏み出すのを一瞬躊躇してしまった。

 

「――よし」

 

 一言呟き、覚悟を決める。

 努めて自然体で家の扉を開けると――

 

「お待ちしておりましたわ、クロダさん」

 

 ――出迎えたのは、銀髪を長く伸ばした、怜悧な美貌の女性。

 鋭く尖る耳が、彼女が一般的な人間ではなくエルフであることを示している。

 

「お待たせしてしまい申し訳ありません、エゼルミアさん」

 

 女性へと一礼。

 彼女こそ五勇者の一人、“全能”のエゼルミア。

 今日、私と“戦う”ことになっている人物だ。

 

 “勇者の戦い”は、一度戦闘を開始したならば1週間以内に次の戦いを始める必要がある。

 そしてエゼルミアさんが私との交戦を宣言したのがちょうど一週間前。

 その“ルール”を守るためには、本日中に私と彼女との戦いに一応の(・・・)決着を付け、新たな戦いを開始せねばならない。

 しかしこの辺りは互いに合意済み。

 事前に彼女から説明を受けた通り、適当なところでエゼルミアさんの方が負けを認めてくれる――はず。

 

 しかし相手は五勇者の知能担当(本人談)。

 裏でどう企み事をしているかなど私如きには分かろうはずもなく、戦いに乗じて何か仕掛けてくるのではないかと、どうしても身構えてしまう。

 現在の“状況”を作り出した当の本人が、敢えてそれを壊すように動き出すというのも考え辛いが、そう思わせておいて実は、ということもある。

 かといって、悩んだところでそれに対する打開策など私がもちうるはずも無く。

 ――馬鹿の考え休みに似たり、とはこのことか。

 

 そんなように思考を巡らしていたところへ、

 

「本当に遅い。

 また何か変なことしでかしたんじゃないだろうな?」

 

「あ、誠ちゃん、お邪魔してまーす♪」

 

 私へ声をかける女性がさらに二人。

 一人は美しい黒髪を短めに揃えた、スタイルのメリハリがしっかり効いている美女――我が上司にして我が愛すべき恋人である美咲さん。

 もう一人はブロンズヘアを三つ編みに纏め上げた、これまた美しい女性――五勇者“封域”のイネスであり、そして私の幼馴染でもある葵さんだ。

 少々ややこしい事情があるため、私からの呼称は基本的に『葵さん』で固定している。

 

「お二方も来ていたのですか?」

 

「一応、この女(エゼルミア)が変なことやらかさないか、確認をしにな」

 

「もう、誠ちゃんのことが心配で心配で。

 この女(エゼルミア)、基本的に性格悪いですからね」

 

 おお、台詞から滲み出るエゼルミアさんへの不信感。

 貴女方、7年前は一緒にパーティー組んでたんですよね?

 

「はっはっは、聞いたか、誠一。

 こいつ(イネス)はお前のことがまるで信頼できないらしい。

 まあ、多少子供の頃一緒に過ごしたことがあるとはいえ10年近く交流皆無な“他人”だ、仕方あるまい。

 余り気を悪くするんじゃないぞ」

 

「あー、聞きました!? 聞きました!?

 息を吐くように毒ばら撒きましたよこの腹黒女!!

 こいつ(キョウヤ)、目的のためなら平気で人を利用してきますからね!!

 甘言に惑わされちゃだめですよ!!」

 

 おお、隠そうともしない互いへの敵意。

 どうやって共同生活送っていたんだろうか、この人達?

 

「ふふ、ふふふふ。

 まったく、苦労致しましたわ、キョウヤさんとイネスさんの仲違いを仲介するのは。

 世間ではガルムさんが“気苦労”の絶えない人と評価されてらっしゃいますが、ワタクシも相当苦労していたのですよ」

 

「おいエゼルミア! 何サラっと自分は良い人みたいに振る舞ってるんだ!?」

 

「アナタって昔っからそういう奴ですよね!!

 今回も平然とアタシのこと裏切るし!!」

 

「ふふふ、ふふ、そうでしたかしら?」

 

 険しい顔の美咲さんと葵さんを、のほほんと受け流すエゼルミアさん。

 ああ、きっと“こういう感じ”で旅をしていたのだろうなぁ。

 共に居たデュストさんとガルムさんの気疲れが偲ばれる。

 しかしよくよく考えてみれば四六時中美咲さんと一緒に居られたというわけで、別に労ってやる必要も無いかもしれない。

 

「で、勝負の内容は何にするんだ(・・・・・・)?」

 

 エゼルミアさんへ鋭い視線を送り、美咲さんが問う。

 

「ふふふふふ、気になるのですか、キョウヤさん」

 

「ああ。

 正直なところ、現状一番の心配事だ」

 

「あらあら、信頼されていませんのね。

 いえ、クロダさん以外へ“何か”を仕掛けることはない、と寧ろ信頼されているのでしょうか?」

 

「お前の目的はあくまで“魔族の殲滅”だからな。

 今の私の妨げになるような行動はとらないだろうと思ってはいる。

 ま、この街にいる魔族連中の安全を度外視すれば、だが」

 

 いや、リアさんやカマルさん、それにジェラルドさんへ危害を加えられるのはかなり困るのですが。

 流石に知人へ手出しをされて黙っていられる程、私もお人好しでは無い。

 

「ふふ、ふふふ、そんなに睨まないで下さいまし、クロダさん。

 それ位のリスク(・・・・・・・)、承知の上でワタクシの提案を飲んだのではありませんこと?」

 

「一切否定しないのですか」

 

「それは勿論。

 魔族を殺してこその、“全能”のエゼルミアですわ。

 前のジェラルドさんは――ワタクシの誠意を示すためのサービスと考えて下さいな」

 

 言い切った。

 まあ、実際そうなのだろう。

 彼女は魔族を殺す。

 魔族を見れば必ず殺す。

 それは、龍に操られる以前からの趣向――いや、特性と言い換えてもいい。

 ……リアさん達には、引き続き注意喚起しておかなければ。

 

「えーと、真面目は話してるとこ、すみませんが」

 

 そこへ、葵さんが割って入った。

 

「勝負の内容って? 普通に戦うだけじゃないんですか?」

 

「…………」

「…………」

 

 その質問に、美咲さんとエゼルミアさんが押し黙る。

 ひょっとして葵さん、分かっていない、のか?

 

「あのですね。

 この“勇者の戦い”では、勝負の内容まで規定していない(・・・・・・・)んですよ」

 

「え、嘘!?」

 

 この反応を見るに、彼女は本当に把握していなかった模様。

 

「本当ですわよ」

 

「頭大丈夫か、お前」

 

 私の言葉をエゼルミアさんが肯定し、次いで美咲さんが辛辣な一言を浴びせる。

 

 そう。

 青龍ケセドの“契約”により様々な規約が設けられている“勇者の戦い”なのだが、実のところそのルール自体がかなりアバウトなのだ。

 “負けても勇者へデメリットが無い”や“勝負内容が決められていない”というのはその最たる例といえよう。

 

「じゃあなんですか、別に殺し合わなくとも、チェスだの将棋だので決着をつけてもいいと!?」

 

 納得いかない顔で、葵さんが喚いている。

 

「その通り。

 互いの同意は必要だがな」

 

「え、えぇぇぇぇぇ――」

 

 美咲さんの説明に、葵さんががっくり肩を落とす。

 

「すっかすかじゃないですか、このルール!!」

 

「そうだよ」

 

「どうして今まで気づかなかったんですの?」

 

 絶叫する葵さんに対し、2人は至って冷静。

 実に対照的な布陣だ。

 

 一応補足しておくと。

 本来、この“戦い”は六龍の支配下に置かれたもの。

 ルールの穴を突いてアレコレやらかそうとしても、龍にとって都合の悪い行為が見過ごされるはずがないのである。

 美咲さん以外の勇者は、形式に差こそあれ、龍に操られていたのだから。

 逆にしっかりとしたルールを制定してしまえば、六龍自身の行動を制限する羽目になりかねない。

 故に、奴らは曖昧さを残す選択をしたのだろう。

 

「で、結局どうするんだ、エゼルミア?

 まさか普通に戦う気も無いんだろう」

 

「勿論ですわ。

 それではつまりませんもの」

 

 美咲さんの鋭い視線を、エゼルミアさんは平然と受け止めた。

 

 しかし、つまる・つまらないで判断して欲しくはないものではある。

 単なる言葉の綾なのだろうが。

 

「ワタクシの提案する勝負内容は――」

 

「勝負内容は――?」

 

 相手の言葉を繰り返すと同時に、ごくりと唾をのむ。

 慎重に受け答えしなければならない。

 こちらには拒否権だってあるのだ。

 慎重に吟味し相手の目論見を探り、こちらの被り得るデメリットを想定する必要がある。

 

 そしてエゼルミアさんが言葉を続けた。

 

「――セックス勝負というのは如何でしょう?

 先に耐えられなくなった方が負けということで」

 

「分かりました、受けて立ちましょう」

 

 即答である。

 

「何が“分かりました”だっ!!」

 

「かはっ!?」

 

 美咲さんのローリングソバットが私の側頭部へ命中。

 

「ぐぁぁああああっ!!?」

 

 あ、あれ、ヤバい、コレ本気で痛い。

 頭蓋骨は無事なのか?

 脳ミソ抉れてない?

 

 激痛で床をのたうち回っている私をよそに、美咲さんと葵さんがエゼルミアさんへ詰め寄る。

 

「ふざけんなよ、エゼルミアぁっ!!!!」

 

「何考えてんですか、貴女!!?」

 

「ナニと言われましても――勝負の内容はワタクシが好きにして良いのでしょう?」

 

 さらりと答えるエゼルミアさん。

 だがそんなモノで2人が納得するはずもなく。

 美咲さんがさらにがなり立てる。

 

「限度ってもんがあるわ! なんだその勝負!!

 というか勝負として成立しないだろう!!?」

 

「どうせワタクシの負けで終わるのですから、成立するしないは問題ないのではなくて?」

 

「だったら!!

 他のでもいいだろう!!

 この街にいる魔族を何人殺せるかとか、そういう勝負で!!」

 

 いや、それガチでヤバいヤツじゃないですか。

 

「確かに、最初はそれにしようと思っておりました。

 “勝利”のため、クロダさんは最低1人魔族を殺さなくてはいけない――しかもこの街の魔族はクロダさんの知人ばかり。

 彼が被る苦悩や、犠牲となる人物の悲哀さ滑稽さを楽しむのも乙なものです」

 

 ああ、エゼルミアさんもガチでヤバい人でしたね。

 龍が憑いていようと憑いてなかろうとお構いなしに危険人物じゃないか。

 

「でもですね。

 こういう(・・・・)勝負にすれば、ミサキさんやイネスさんが物凄く悔しがるんだろうなー、と不意に思いついてしまったのですよ。

 そうしたら――居てもたってもいられなくなりまして」

 

「ああ、ああ、お前はそういう奴だよ!」

 

「本っ気で人を不快にさせるのが好きなお人ですねぇっ!!」

 

 美咲さんと葵さんのボルテージは最高潮だ。

 そんな2人を宥めるべく、私は一先ず体を起こす。

 

「まあまあ、お二人とも。

 確かにとんでもない動機ですが、それで魔族殺しの罪を負わねばという事態が避けられたのですから。

 良しとすべきかと」

 

「お前は単にエゼルミアを抱きたいだけだろうが!!」

 

「痛いっ!!!?」

 

 美咲さんの!

 踵落としが!!

 脳天!! 脳天にっ!!

 陥没!! 陥没してませんっ!!?

 

 ああ、しかし今日の美咲さんもいつも通りかなりタイトなビジネススーツを着ていてですね。

 太ももとかがかなりピチピチになっておりまして、脚線美がものの見事に露わとなっているわけですよ。

 先程から蹴られる度にそれを間近で観察できているため、まあこれはこれで幸せかな、と。

 あの無駄肉の付いていない、それでいて柔らかそうな太ももに顔を挟まれたいと願うのは、男の性であろう。

 

「……クロダさん。

 どうして蹴られたのに笑っておりますの?」

 

「ちょっと気持ち悪いぞ、お前」

 

「キョウヤに対してドM過ぎません?」

 

 対して3人は若干引き気味だった。

 この気持ち、やはり女性陣には理解できないか……!

 

 ま、それはそれとして。

 

「では早速勝負といきましょうか。

 場所はここで構いませんね」

 

「ええ、問題ありませんわ」

 

「問題しかないわっ!!!!」

 

 絶叫が響く。

 美咲さんはまだ納得していないらしい。

 

「誠一! 危機感が無さすぎるぞ!!

 は、肌と肌が触れ合っているときはどうしたって無防備になるだろう!

 それを狙って、エゼルミアが洗脳やら何やらを仕掛けてくるとは思わんのか!?」

 

「んー、まー、しかしー、受けてしまいましたからねー。

 どーしようもないんじゃないですかねー」

 

 そこまで深く考えられなかった(棒読み)。

 浅慮な自分が本当に恨めしい(棒読み)。

 

「……あー、どうしようかなぁ。本気でむかついてきたなぁ」

 

 バチバチッという音。

 美咲さんの周囲に雷が走り出した。

 あれ、まさか“爆縮雷光(アトミック・プラズマ)”使うつもりじゃないですよね?

 ココ、私の家なんですけど。

 

「無駄ですわよ、キョウヤさん。

 今、ワタクシとクロダさんは交戦中なんですもの。

 先程までの“じゃれ合い”ならともかく、それ以上であればケセドの“契約”と“呪縛”が働きますわ」

 

「ぬっ」

 

 エゼルミアさんに指摘されたことで、雷が収まる。

 美咲さんはケセドからかけられた呪縛により、勇者達を攻撃することができない。

 さらに、一度戦いが始まれば他の勇者はそこへ手出しすることができない。

 二重の戒めにより、彼女の行為は妨げられるというわけだ。

 逆に言えば――今のは本気の殺意(・・・・・)によるものだったということでもある。

 あ、冷や汗出てきた。

 

「なんでしたら、キョウヤさんも混ざりますか?」

 

「結構だ!!」

 

 提案を即決で跳ね除ける美咲さん。

 くっ、残念。

 美咲さんとエゼルミアさんの3P、やってみたかったのに!

 

「あ、ハーイ、ハーイ、アタシ、混ざりたいです!」

 

「ごめんなさいね、イネスさん。

 ワタクシ、アナタのことそんなに好みじゃなくて。

 冒険仲間としてならともかく、同衾の相手としてはちょっと……」

 

「あ”? ぶっ殺しますよアナタ?」

 

 一方で拒否され、これまたガチな殺気を放ちだす葵さん。

 

「クソっ!!

 こんなところにいられるか!

 私は帰らせてもらう!

 行くぞ、イネス!」

 

 何かのフラグっぽい台詞ですよ、美咲さん。

 

「ってちょっと待って下さい、なんでアタシがアンタに付いてかなきゃなんないんですか」

 

「この状況で一人帰ったらなんか負けたみたいだろうが!」

 

「勝手に負けてて下さいよ!!

 アタシはエゼルミアの後に誠ちゃんとヤりますから!!」

 

「やかましい! とっとと来い!!」

 

「おやおやー、自分の意見が通らないと思ったら力づくですか――ってやば!?

 この女、力強すぎ!?

 あ、やめ、引っ張らないで、引っ張らないでー!!?

 “呪縛”効いてないじゃないですか、どうなってんだケセドォっ!!!」

 

 首根っこを掴まれ、葵さんはずりずりと引きづられていった。

 これは2人の仲が良い――と考えてもいいものだろうか?

 

 ぎゃあぎゃあと喚きながら去る二人を見送った後、

 

「――さて。

 では、始めましょうか」

 

「流石です。

 あれだけ騒いだ後だと言うのに一切ぶれぬスケベ心、感心致しますわ」

 

 その割には、少し呆れたような声色なのは何故だろう。

 

「でもね、ごめんなさいクロダさん――」

 

 するすると、エゼルミアさんが身に着けていた上品なローブを脱ぎ去っていく。

 良い脱ぎっぷりである。

 

「おお……」

 

 思わず感嘆の声が漏れてしまう。

 現われたのは、華奢な身体だ。

 染み一つない、白色の肌。

 スラリと伸びた手足。

 そんな肢体に、銀糸のような輝きを放つ長い髪が絡んでいる。

 胸こそ控えめであるが、モデルのような彼女の美しさはその程度のことで陰りはしなかった。

 ――しかし。

 

「あっ」

 

 そこで気付いてしまう。

 芸術品のような美麗さを誇る彼女が、ただ一つおかしな(・・・・)箇所を持つことに。

 

「ふふ、分かりまして?

 ワタクシ、昔魔族の慰み者になっていた時期がありますの――ほんの(・・・)百年程度ですけど。

 その時戯れに、熱した鉄の棒をココに付き込まれましたの。

 それ以来、こんな有様ですわ」

 

 ニコリと笑顔でそう説明してくれた。

 いや、全く持って笑える内容ではないのだが。

 

 ……エゼルミアさんの股間は焼け焦げていた。

 詳細に語ることが憚れる程に、爛れているのだ。

 

「まあ、よくあるお話ですわ。

 ワタクシだけが特別な不幸というわけでもなく。

 もっと酷い目に遭った女性はごまんといることでしょう。

 ワタクシとしても、産んだ――産まされた(・・・・・)子供を目の前で殺されたり、あまつさえその子の■を◆べさせられたりした方が、余程堪えましたしね。

 平和な時代しか知らないクロダさんには、理解し辛いことかもしれませんけれど」

 

 淡々と語る。

 顔に微笑みを携えたまま。

 ああ、やはり、狂っているんだな、この女性(ヒト)は。

 狂わざるをえなかった、という方が正しいか。

 

「ふふ、ふふふふ。

 ですから、今日のこれはほんのお遊びなのですわ。

 キョウヤさんの言う通り、勝負なんて成立するはずが無いのですから。

 単に、あの二人をからかいたかっただけ、なんです」

 

 ……気のせいだろうか。

 最後の台詞の際に浮かんだ笑顔だけは、どこか暖かかった。

 

「そう、ですか」

 

 口から声を絞り出す。

 私は彼女に一つ頷いてから、

 

「――承知しました。

 つまり、アナルセックスしかできない、と。

 そういうことなのですね」

 

「へ?」

 

 おや。

 エゼルミアさんが、初めて驚きの顔をした。

 意外にも純朴で、可愛らしい表情だ。

 

「お、おかしいですわね?

 クロダさん、ワタクシの話、ちゃんと聞いておりました?」

 

「勿論です。

 エゼルミアさんは女性器が使えず、こちらの責めは尻穴に限定される。

 成程、このような手段でこちらの戦法を封じてくるとは、流石“全能”のエゼルミアといったところでしょうか」

 

「あー、そう受け取るのですかー。

 薄々気付いてはおりましたが、本格的に頭が狂っておられるのですわね、貴方」

 

 頭を振りながら、こめかみを抑えるエゼルミアさん。

 ……まあ、気持ちは分かる。

 しかし私はそれよりも、彼女の小ぶりなお尻が気になってしまうのだ。

 プリっとした肉付きの良い尻も良いが、こういう可愛らしい尻も良いものである。

 

「では失礼して」

 

 唾液で湿らせた指を、すっと彼女の菊門へと挿し入れる。

 

「んふっ!? きゅ、急に何をなさるのっ!?」

 

「……かなり窮屈ですね。

 まずは少し解す必要がありますか」

 

 エゼルミアさんの後ろはまだ固く、そう簡単に異物の侵入を許さない。

 なんとか第一関節まで入った指をゆっくりと動かし、直腸を掻き混ぜていく。

 

「はひっ!?

 ちょっとお待ちになって!!

 ワタクシ、本当にそんなつもりで言ったわけではっ!!

 おふっ!? 動かさ、ない、で――んくぅっ!!?」

 

 まだそれ程ほぐれていない割に、感度は良好のようだ。

 この辺、魔族の慰み者になった経験が生きているのかもしれない。

 指は、第二関節まで埋没が完了している。

 

「おっ! お、お、お、おっ!

 も、もう、終わり! 終わりにして下さいませ!」

 

「……終わり、ですか?」

 

「そ、そう!

 ワタクシの、負――んふぅ!?」

 

 何かを言いかけていたところで、エゼルミアさんの唇を奪う。

 薄い唇から、彼女の少しひんやりとした体温を感じられた。

 そのまま空いている方の腕をエゼルミアさんの腰に回し、引き寄せる。

 切れ長な瞳と視線が交差する。

 五勇者だの“全能”だのと言われる彼女だが、その肢体の柔らかさは間違いなく女性のそれであった。

 

「んんっ!! ん、ん、ん、んんんっ!!

 も、もう――んんんんんっ!!?

 んんんぅうううううっ!!!」

 

 息遣いが激しくなる。

 私の指は既に、根元まで刺さっていた。

 そこへさらに一本、追加する。

 

「んふぅううううっ!!?

 ふっ! ふっ! ふっ! ふむぅうううっ!!!」

 

 2本の指が彼女の中をかき混ぜていく。

 肢体がガクガクと動くのを、手で押さえつける。

 穴の抵抗がかなり小さくなった。

 今なら、いけるだろう。

 

「では――」

 

「え? あ、待って――」

 

 立つ位置を変えて、エゼルミアさんを後ろから抱き替える。

 ――銀色の髪に隠れたうなじが色っぽい。

 そんな感想を抱きつつ、既に万端整った剛直を、彼女の尻穴へと突き立てるのだった。

 

「んぁああああああっ!!!?」

 

 響く嬌声。

 先刻まで閉ざされていた菊門は、強引に入り込んだ愚息を痛い程ぎゅうぎゅうと締め付ける。

 

「あ、ああ、あ――は、(はい)った――(はい)って、しまいましたわぁ――

 こんな――いきなり――はふぅうううううっ!!?」

 

 またしても言葉が途切れる。

 私が腰を振り出したせいだが。

 

「あ、あ、あ、あ、あ! お、おぉおおっ!! おふぅうううっ!!!」

 

 うん、よく締まる穴だ。

 女性器が使えないのは非常に残念だったが、コレはその代わりを十二分に果たしている。

 これならば、十分勝機がある!

 

「も、もう勝負とかそういう問題では――あぁああああっ!!」

 

 強くすれば壊れてしまいそうな華奢な肢体へ、俺の欲望を叩きつける。

 結合部からはぐちゅぐちゅと音が鳴り、それをかき消すほどの喘ぎ声をエゼルミアさんが発する。

 

「なん、で――なんで、ワタクシの身体、こんなに感じてますのぉっ!?

 あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!!

 こんな、こんなの――散々、ヤられましたのにぃっ!!」

 

「それは簡単なことですよ」

 

 質問を浴びせられたため、説明する。

 勿論、腰はグラインド運動を続けながら、だが。

 

「エゼルミアさんが魔族といたして(・・・・)いたのは、何年前ですか?」

 

「あ、あふ、ん、くぅっ――も、もう、百二十年は、前、ですわ――はぅっ!?」

 

 先程から100年とか120年とか、とんでもない数字が並んでいる。

 流石、長寿種族のエルフである。

 

「なるほど、思った通りです。

 そして貴女は、それから一度も性交渉をしていませんね?」

 

「お、おお、お、おっ――し、していません、わ――

 おっおっおっおっおっ! ねぇ、話をするなら、せめて一度止まって頂けません――ひゃうっ!?」

 

 長い耳をぺろりと舐める。

 反応を見るに、どうやらココも性感帯のようだ。

 

「つまり、エゼルミアさんは100年以上も未経験!

 それだけの間ナニもしなかったことで、快楽への耐性が生娘程度にまで落ちてしまったのですよ!

 そのくせ、快楽の味はしっかり知っているときた!」

 

「そ、そんな都合よくことが運ぶと――ふぁあああああああっ!!!?」

 

 確かに私の妄想が多分に入っているのは否めないが。

 ここまでの乱れっぷりを見るに、大きくは外れていないように思う。

 100年単位で経験が無ければ、それはもう処女と大差ないはずだ。

 

「どうですか!? 初めてを私に捧げた感想は!?」

 

「おお、お、お、お、お――ど、どうも何も、ワタクシの初めてなんてとうの昔に奪われて――お、おぉおおおおっ!!!?」

 

「何を言っているんですか! 貴女の初めては、今日失われたんですよ!」

 

「そんな無茶な――あ、ああああ、あっ!!

 深いっ!! 太いぃいいいっ!!!

 奥っ!! 奥をっ!! コツコツしないで下さいましぃいいいっ!!!」

 

 気丈に(?)振る舞いながらも、エゼルミアさんの顔は快楽に蕩けていた。

 一方で私も、そろそろ射精できそうだ。

 

「――まずは一発目、イキますよ!」

 

「おあ、あぁあああっ!! ダメ、もう――っ!!

 ああぁあああああああああっ!!!!」

 

 肉棒を思い切り奥へ突っ込むと、そこで精を解き放つ。

 精液が彼女の腸内へとびゅるびゅる吐き出されていく。

 堪らない解放感だ。

 

「ほぁああああ――熱い――熱いのが、たくさん――

 お腹、いっぱいに――」

 

 恍惚とした表情で精子を受け止めるエゼルミアさん。

 口が半開きになり、だらしなく涎を垂らしていた。

 時折、ビクビクっと身体が痙攣する。

 白い肌に浮かんだ汗が、実に艶かしい。

 彼女の方も、しっかりと達してくれたようだ。

 

「しかし、これではどちらが勝ったか判断しにくいですね」

 

「はっ…はっ…はっ…はっ……ま、まだそんなことを仰ってますの……?」

 

 息切れで胸を大きく動かしながら、律儀に指摘を入れてくれる。

 

「仕方ありません、次は負けませんよ!」

 

「つ、次って、今終わったばかりではありませんか――もう、反り返っておりますの!!?」

 

 最早周知の事実であるが、一発の射精で萎える程、私の愚息は柔ではない。

 既に二回戦目に備え、臨戦態勢に入っているのだ。

 

「ダメっ!! ダメダメっ!! いけませんっ!!

 もう、もうワタクシ、おかしくなりそうで――ほぉおおおおおおおっ!!!?」

 

 再度、尻穴へと挿入。

 柔らかくなって滑った門は、二度目の侵入を歓迎してくれたようだ。

 

「はひっ!! はひっ!! はひっ!!

 やめてっ!! もう、ワタクシの負けですから!!

 これ以上はっ!! これ以上はっ!!

 ああぁぁぁああああああああああああっ!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 数時間後。

 うっすらと空が明るくなってきた。

 

「ぜひっ――ぜひっ――ぜひっ――ぜひっ――

 ま、負けって、何度も言いました、のに――」

 

 息も絶え絶えなエゼルミアさんが、涙を流しながらこちらを睨んでくる。

 しかしその瞳は弱々しく、いつものような迫力は無い。

 立つほどの体力も無いらしく、床に倒れ伏していた。

 まあ、延々とぶっ続けでアナルセックスし続けたのだから、当たり前だろう。

 寧ろ、これだけヤったというのにしっかり正気を保てている辺りが流石五勇者。

 単純な体力でも、人並み外れている。

 

「ふーっ――ふーっ――そんなところ、評価されたくありませんわ。

 肉体労働は、専門外なのです――ふーっ」

 

 息を整えながら、上半身を起こすエゼルミアさん。

 

「こんな、精液塗れにされるだなんて――肌も髪も、床までべっとりと。

 どれだけ溜め込んでおられるのですか」

 

「この手の勝負を挑まれたのは初めてだったので、つい熱くなってしまいましたね」

 

「限度を知りませんのね。

 ワタクシでなければ、気が触れているところですわよ?」

 

「そうですかね?」

 

 結構色んな人に付き合って貰ってたりするのだが。

 

「……それはもう、その方々は狂ってしまっているということなのでは?」

 

「いやそんなまさか」

 

 一日中セックスし続けたくらいで壊れる程、人は弱くない、と思う。

 

「行為そのものではなく、お相手が貴方というのが問題なのでしてよ?」

 

 そう言ってエゼルミアさんが深くため息を吐く。

 

「まあ、いいですわ。

 こんなことを議論しても仕方ありませんし。

 とりあえず――」

 

 私の方へ向けて軽く手をかざした。

 ただそれだけで、私の“傷”が癒されていく。

 

「――これは、どうも」

 

「ふふふ、ふふ、お馬鹿な人。

 調子に乗って、女性器の方まで使おうとするから、そうなるのですわ。

 焼けて歪に固まったところへ男性器を挿入すれば、無事で済むわけがないでしょうに」

 

 嗜めるように言われる。

 いやこれは恥ずかしい。

 エゼルミアさんの言う通り、途中で我慢できなくなってしまったのだ。

 つい、前の穴にまで突っ込んでしまった。

 

「どうしても、前の処女も頂きたい気持ちを抑えられなかったものでして」

 

「――処女って貴方。

 また変なことを口にしますのね」

 

 ジトっとした視線で睨まれた。

 

「実際、痛がっていましたし、血も出たではないですか」

 

「濡れてもいないところへ無理やり入れられたら、痛がりもしますわ!

 あと血は、貴方が男性器から流れたものでしょう!

 そんな状態で、よく続けられましたわね!?」

 

 はい、その通りです。

 剛直が負った傷から、結構な血が流れてしまったわけで。

 しかしせっかくエゼルミアさんを抱く機会が訪れたのだから、その程度で止まるわけにもいかなかったのである。

 

「……今日、貴方のことがよく分かった気がいたしますわ。

 それと――」

 

 そこでエゼルミアさんは私から視線を外し、

 

「――イネスさんがクロダさんに執着する理由も。

 ふふ、ふふふふ、確かに、あの子とって貴方は望外の存在でしょう」

 

 そう、なのだろうか。

 自分がそれ程大した人間だとは思えないが。

 

「でもキョウヤさんが貴方の恋人になった理由は、却ってよく分からなくなりました。

 クロダさん、あの人の好みの真逆をいってると思うのですけれど」

 

「毎日熱心にプロポーズを繰り返した成果ですかね」

 

「毎晩、寝込みを襲ったのですか!?」

 

「失礼な!

 一年近いプラトニックな交際の末に、ですよ」

 

「ええぇぇぇええええっ!!?」

 

 細い目を丸く開いて驚かれた。

 こんな顔もするのか、この人。

 

「貴方、そんな人並みの恋愛行動がとれるのですか!?」

 

「いやいや、できますよ、それ位!」

 

「でしたら、他の女性にもそうしてあげれば良かったですのに……」

 

「ははははは……」

 

 空笑いで誤魔化す。

 どうしても、女性を目の前にするとムラムラが湧き上がってしまうのだ。

 美咲さんは例外というか、物理的に手が出せなかったというか。

 

「――ねぇ、クロダさん?」

 

 少し間が空いてから、エゼルミアさんが口を開いた。

 

「なんでしょう」

 

「ワタクシと、本当にセックスしたくはありませんか?」

 

「はい?

 いえしかし、貴方は――」

 

「ふふふ、ふふ、これ位、すぐ治せますわよ」

 

 ……その言葉に、驚きは無かった。

 どれ程酷い傷であろうと、“全能”のエゼルミアが癒せないわけがない。

 敢えて(・・・)治癒していないのだ。

 理由も察しはつく。

 消したく無いのだろう、魔族への憎悪の証を。

 

 彼女は私の目を覗き込みながら、続ける。

 

「ワタクシが目的を達した後であれば、この傷を残す必要はありません。

 ですので、今日よりさらに気持ち良くして差し上げられますわ。

 ふふ、ふふふふ――どうです、ワタクシに協力して頂けませんか?」

 

「それは――ちょっと、無理ですね」

 

 エゼルミアさんの望みは、魔族の殲滅。

 何の恨みも無い人達に手を出す勇敢さは持っていない。

 胸を張って言えたことではないが、私は小市民なのだ。

 

「あら、残念」

 

 大して残念で無さそうな声色で、そう呟く。

 期待などしていなかった、ということだろう。

 エゼルミアさんは一つ、大きく伸びをしてから、

 

「流石に疲れましたわ。

 少し休ませて頂いても?」

 

「ええ、構いませんよ。

 奥の部屋にあるベッドを使って下さい

 私は片付けをした後、適当に床で寝ますので」

 

 明日――というか既に今日だが――の仕事に備え、私は多少は休んでおいた方がいいだろう。

 

「ふふ、ふふふ、一緒に寝ては頂けませんの?」

 

「良いのですか!?」

 

「勿論ですわ。

 ――と、言いますか、普通セックスってベッドの上で行いません?

 まさかずっと玄関先の廊下でヤり続けるとは思わなかったですわ」

 

「移動の時間も惜しんでしまいまして」

 

 礼に欠いた行動をとったかもしれない。

 その代わり――という程のものではないが、休憩は彼女の望むようにしたいと思う。

 

 そんなわけで、私とエゼルミアさんは同じベッドで眠りについたのだった。

 

 

 

「――何をしている、お前らぁああああああああああっ!!!!!!!」

 

 

 

 朝、様子を見に来た美咲さんに怒鳴られるまで。

 もう、ギタギタにされた。

 ボロボロにされた。

 いつの間にかエゼルミアさんは消えていた。

 

 ――ひょっとして、コレが狙いだったりしたんですか、貴女。

 

 

 

 第三十話 完



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第三十一話 エレナ、散華
①! 大衆の面前で露出調教


 

 

 

 もうじき、全てが終わる。

 “彼女”にはその確信があった。

 

 今、事態が停滞しているのは、様々な者の思惑によるものだ。

 境谷美咲は、室坂陽葵をケセドに会わせなければならない“契約”がある。

 龍は、“ただの(・・・)人間に負ける可能性”のある“勇者の戦い”をこれ以上続けたくない。

 エゼルミアは、上手く立ち回り漁夫の利を得たい。

 そしてイネス・シピトリアは、“準備”のために時間が欲しい。

 だが一番の要因は――実に業腹だが――『黒田誠一が室坂陽葵を見捨てられない』ことだ。

 彼があの“小奇麗に造られた器”へ愛着を持ったが故に、この面倒臭く、しかしありがたい状況が生まれたのだ。

 

 やたらと手間取っていたようだが、あと数日で室坂陽葵はケセドに会う。

 その結果、あの器に何が起きるのかは、分からない。

 対して興味もない。

 ただそれによって、この場を押し留めていた“栓”が外れることだけは分かる。

 そこから生まれる“流れ”は、事態が“終着”に辿り着くまで治まることは無いだろう。

 己が勝者になるか、それとも敗者になるか決まるのに、そう猶予はないはずだ。

 

 しかし。

 彼女には、その前にどうしてもやらねばならぬことがあった。

 全てが終わる前に、この話がエンディングを迎えるよりも前に、為さねばならぬことがあったのだ。

 それは――

 

「あんたをメチャクチャにしてやることですよぉっ!!!」

 

「ええ、ボクっ!!?」

 

 少女の絶叫が響いた。

 ここは、六龍を崇める教会の一室。

 余人の立ち入りを禁止したこの部屋には、今2人の女性が居た。

 

 一人は、黒髪を後ろで結んだ少女――いや、年齢のことを考えれば女性と呼ぶべきか。

 先程大声を出した彼女の名は、エレナ・グランディ。

 少女にも見紛う程に小柄な体格ながら、メリハリの効いた肢体の持ち主だ。

 重要なのは単純な大きさ(サイズ)ではなく、全体から見た“~比率(バランス)”なのだということを教えてくれる。

 

 そしてもう一人は金髪の女神官イネス。

 こちらも十分なスタイルを持っているが、特に際立っているのはその煽情さ。

 胸も、尻も、腰も、ただただひたすらに男の欲情を掻き立てる“形”をしているのだ。

 彼女を前にして邪な考えを持たない男は起床であろう。

 

 2人は部屋の中、向かい合っていた。

 ただ、エレナの方は両手両足が縛られている(・・・・・・)のだが。

 

「『ええ、ボクっ!?』じゃ無いんですよ!!

 アナタ、自分が何でここに連れてこられたか、分かってます?」

 

「えー、そんなこと言われても。

 ボク、アオイさんの気に障るようなことしたっけ?」

 

 五勇者の一人に凄まれていると言うのに、エレナは平然と返す。

 意外と胆力がある娘だ。

 

「おっとぉ? 誠ちゃんの居ない場所でアタシのことはイネスと呼んでもらいましょうか。

 貴方に葵呼ばわりされる謂れは無いんですからね!」

 

「じゃあイネスさんで。

 ボク、イネスさんを怒らせるようなことした?」

 

「ふっふっふ、ふふふのふ。

 しましたよ! もうとびきり凄いことしてますよ!

 これはアタシだけでなく、他のヒロイン勢も巻き込んだ問題です!!」

 

 ヒロイン勢ってなんだ。

 

「んんー?

 心当たり無いなぁ。

 そもそもボク、最近全然出番無いじゃん?

 何かしでかすこと自体、ありえないと思うんだけど?」

 

 出番ってなんだ。

 

「はんっ! ここに至ってまだしらを切る気ですか!?

 とぼけ続けるつもりなら、教えてあげますよ!!」

 

 ビシっと人差し指を突きつけ――静かな声で告げる。

 

「アナタ、誠ちゃん以外の男に犯されたこと無いでしょう」

 

「ギクッ!!」

 

 エレナは分かりやすく身を竦ませるが、

 

「や、や、やだなぁ、もう!

 この実に好きモノ然としたボクが、クロダ君以外と経験が無いだなんてそんな。

 もう、両手で数え切れない位の男達に抱かれてきたわけで――」

 

 しどろもどろになって弁解を始める。

 

「ほほう? では初体験の相手の名前を言って貰いましょう」

 

「え、え、えーと、そう!

 近所に住んでたジョン君だよ、ジョン君!

 年上の幼馴染っぽいお兄さんに優しく手解きされちゃってね?」

 

「ふーん、そのジョン君ってのは――」

 

 イネスは懐から、とあるモノを取り出す。

 

「――コイツのことですかぁ!?」

 

「うわぁあああっ!!? なんで持ってんのソレっ!?」

 

 出てきたのは、細めのすりこぎ棒(直径2cm)であった。

 

「……随分とお粗末なモンですねぇ、このジョン君(仮)は。

 ま、生娘にはちょうど良かったのかも知れませんけど?」

 

「あわ、あわわわ」

 

「で? 経験豊富(・・・・)なエレナさんは、他にどういった男とお付き合いがおありで?

 あ、相手は生物に限りますよ?」

 

「あ、あ、あ、あ――」

 

 がくり、とエレナが首を垂れる。

 

「ごめんなさい、クロダ君としかしたことないです……」

 

「ふん、最初っからそうゲロっとけばいいんですよ!」

 

「で、でも、それと今の状況と、どう関係が!?」

 

「分からないんですか!?」

 

 イネスはもう一度、ビシっとエレナを指さして、

 

「想い人以外の男に強姦されたことが無い女なんざ、ヒロインじゃねぇっ!!!」

 

「いやその理屈はおかしい」

 

 真顔で返された。

 でも動揺なんてしない。

 

「理屈もクソもねーんですよ。

 アタシもリアもローラも――あとついでに陽葵も――誠ちゃん以外の男共に身体を弄ばれたことがあるってのに。

 なんで、アナタだけ綺麗な身体をしているんですかねぇ?」

 

「うっ」

 

 エレナが一瞬言葉を詰まらせた。

 

「ん、いや、でもそこはね?

 ほら、ボクってサブヒロインだから。

 メインどころとは扱いが違うかなーって?

 正妻の座だって他の皆に委ねてるわけで」

 

「そうやって上手いこと争いを回避して、美味しいとこだけ貰っていこうと思ってるんでしょう!?」

 

「そ、そんなことないよ!?

 皆が潰し合いしてる内にちゃっかりクロダ君の隣をゲットして、最終回ではクロダ君と平和に暮らしながら散っていった皆のことを思い出そう――だなんて、そんなことちっとも思ってないから!!」

 

「…………へえ」

 

 つい、真顔になってしまった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 沈黙。

 見つめ合うこと、十数秒。

 

「……正直な娘ですねぇ、そういうとこ、アタシは嫌いじゃないですよ?」

 

「ほ、ホント?

 実をいうとね、ボクもイネスさんのこと初対面から気に入ってたんだ。

 これからは仲良くしていきたいな♪」

 

「そうですね、仲良くしましょう♡

 もっと仲良くなるために――まずは、輪姦強姦されてアヘアヘになっちゃいましょうね♡」

 

「うわぁああああっ!! ダメだぁあああああっ!!!」

 

 頭を抱えようとして、手が縛られてたので上手く身体が動かせない様子のエレナ。

 そこでふと、思いついたように口を開く。

 

「……そういえば、ミサキは?

 その条件だと、ミサキだって該当しない?」

 

「う」

 

 痛いところを突かれた。

 視線をそらし、宙を漂わせてから、

 

「――まあ、アイツはヒロイン枠じゃないんで」

 

「あー、へたれた!! へたれたよ、この人!!」

 

「う、うるさいですね!!

 あの女だってその内コテンパンにしてやりますよ!!

 だいたい、今のアナタに私を非難する権限なんてありませんから!!」

 

「んぬぅ、なんたる言論統制――!」

 

 無理やり口を封じる。

 言葉に窮したら力づく。

 これが、五勇者イネスのやり方である。

 

(頭悪い、なんて指摘は受け付けませんからね!)

 

 そういうことらしい。

 

「ていうか、ミサキは今日どうしたのさ?

 ボクのピンチに駆け付けてくれたりしないの?」

 

「あー、アイツ、今日は重役会議があるから忙しくて六龍界(こっち)来れないって言ってましたよ」

 

「ああぁぁぁ……あの子、肝心な時に頼りにならない……」

 

 がっくり肩を落としながら器用に四つん這いポーズとなるエレナ。

 見るだけで勝利感が湧き上がり、非常に気分が良い。

 と、思ったら――

 

「ん、そうだ。

 感想でアンケートを取ろう。

 ボクの寝取られが見たいって意見が50人分くらい集まったら――」

 

「んな集まるわけ無いでしょう!

 現状を見なさい、現状を!!」

 

 感想ってなんだ。

 

「さぁて。

 談話タイムは終了ですよー?

 ここからは、楽しい楽しい輪姦タイムです」

 

「にょわぁあああああああっ!!!?」

 

 

 

 

 

 

「さ、やって参りました。

 ここはウィンガスト一番の大通りです♪」

 

 にこやかに告げるイネスに対し、

 

「て、抵抗できずに連れてこられてしまった……

 体が勝手に動いて――どうなってんの、コレ……?」

 

 疲労困憊といった様子のエレナ。

 先程までと異なり、身体を覆う程に大きなコートを着ている。

 

「くくくくく、“封域”の中では、アタシが支配者(ルール)ですよ!」

 

「あ、なんかその台詞、パクリっぽい」

 

「パクリじゃありませんよ! アタシのオリジナルですよ!!」

 

 パクリである。

 

「とにかく! 結界内でアナタはアタシに絶対服従なんです!」

 

 それこそが、イネスの特性(・・)である<封域>の力。

 分類としては黒田の<社畜>や陽葵の<多重発動>と同じだが、彼女のものは最早独自能力(オリジナル・タレント)とでも言うべき代物だ。

 なにせ、任意の空間に周囲と隔絶すること()できる“結界”を展開し、その中の“物質”を自在に操作できるという効果なのだから。

 もっとも、無制限に操れるわけではないし、一定以上の魔力を持つ存在へ直接干渉はできないのだが。

 とはいえ今目の前に居る小柄な女(エレナ)程度の相手であれば、数十人単位で行動を支配することが可能である。

 

「そ、そんなとんでもない力を、こんなつまらないことのために!?」

 

「ふふふ、獅子は兎を捕らえるにも全力を尽くす、といいます」

 

「マジか、この勇者」

 

 大マジであった。

 イネスは今回の話でエレナを滅茶苦茶にしてやる決意を固めているのだ。

 

「さぁて、ではこれからアナタに“あること”をして貰うわけですが――

 くっくっくっく、何されると思います?」

 

「んー、イネスさんと一緒にお昼を食べるとか?

 ボク、この辺りにいいお店知ってるんだ♪」

 

「いいですねー♪

 アナタが無事他の男の精子で孕まされたら、懐妊祝いに好きなモノ奢ってあげますよ♪」

 

「あー……そろそろ心がポキっと折れそう」

 

 逆にまだ折れていない辺り、なかなかの鋼鉄メンタルっぷりだ。

 流石、あの境谷美咲に気に入られているだけはある。

 

「ま、予想できてるとは思いますけどね。

 エレナ、そのコートの中、どうなってますか?」

 

「……何も着てないです」

 

 自己申告の通り、エレナは今、裸にコートのみ纏っている状態だった。

 無論彼女が好き好んでそうしているわけではなく、<封域>の力で命令した結果である。

 

「そして、これだけ人通りの多い場所で、素っ裸になったらどうなるでしょう?」

 

「んー、衛兵さんに怒られる?」

 

「そんなわけありますか!!

 すけべな男共に囲まれて、路地裏に連れ込まれて、頭おかしくなるまで犯されるんですよ!!

 ほら、アレを見なさい!!」

 

「え」

 

 指さした先。

 そこには、短い銀髪の少女がエレナと同じコート姿で佇んでいた。

 往来の端――あまり目立たない場所で、どこかへ行くわけでもなく、所在なさげな様子で立ち止まっている。

 

「って、ミーシャさんじゃん、アレ」

 

 エレナも彼女のことを知っているようだ。

 あのミーシャという名前の女は、室坂陽葵とパーティーを汲みだしたアーニーやサンの冒険仲間であり、黒田とも肉体関係を持っている。

 ちなみに、背が低く余り凸凹の無いスタイルのため幼くみられがちだが、年齢はエレナより上だ。

 いわゆる合法ロリである。

 

「ま、まさかイネスさん、あの人にも――!?」

 

「いえ、アレはアタシと無関係です」

 

 本当である。

 偶然、露出行為をしようとしているのに出くわしただけ。

 これ程良いタイミングで現れるとは、とイネス自身驚いているくらいだ。

 

「ま、大衆の前で露出するなんて、女なら誰でも体験することですからねー。

 ちょっと探せばあれぐらいすぐ見つかりますよ」

 

「絶対そんなこと無いと思う」

 

 ジト目で睨まれるが、実際に居るのだから仕方ない。

 

「ほら、そんなことより始まりましたよ?」

 

「う、うわぁ――」

 

 

 

 ミーシャは、震える手でコートのボタンに手をかけていた。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 息が荒い。

 目の焦点が定まっていない。

 相当緊張している様子だ。

 

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 少しずつ、コートが開いていく。

 その隙間から、彼女の肢体が見える。

 胸は平たく、お尻も小ぶりだが、間違えようもなく女の身体だ。

 周囲に行きかう人はほとんど(・・・・)気付いていないようだが、イネスのところからならはっきりとその露出を確認できた。

 狙って位置取りしたわけでは無いにも関わらず、だ。

 そしてそれは、他にもミーシャの露出を見物できる人物がいる、ということも意味する。

 つまり――

 

「おい、お前」

 

「っ!?」

 

 “男”に声をかけられ、ミーシャがびくっと震えた。

 つまり、こうなるのも時間の問題だったわけだ。

 

「へへ、なんだよ。

 そんな歳で、なんともご立派な趣味してんなぁ」

 

「……っ!!」

 

 ミーシャは肩を掴まれる。

 当然、彼女が肌を露わにしていると気づいたその男によって、だ。

 彼は、下卑た笑みを浮かべながらミーシャに詰め寄っていく。

 

「おいおい、返事くらいしろよ。

 こんなとこで裸になる位だ、相当欲求不満なんだろ?」

 

「ち、違うっ――これは、店長が――」

 

 だんまりを決め込んでいたミーシャが、そこで初めて声を出した。

 しかし、

 

「何が店長だっ」

 

「んっ!? あぅぅううううっ!?」

 

 すぐに悶えだす。

 見れば、男の腕がコートの中に挿し込まれていた。

 ナニをされているのかはよく見えないが、位置的に股間でも弄られたのだろう。

 

「下手な嘘つくんじゃねぇよ。

 お前が変態だからこんなことしてんだろ?

 もう股からこんだけ愛液漏らしてんじゃねぇか」

 

「はぅぅうううっ――あ、ああぁぁあああ――」

 

 男の手がゆっくりと動く。

 それに合わせて、ミーシャもうっとりと喘ぎ声を出し始めた。

 

「は、あぁぁあああ――んぅぅうううう――」

 

 彼女の足元にぽたぽたと水滴の落ち、愛液の跡ができ始める。

 お世辞にも上手いとは言えない乱暴な責めで、感じてしまっているのだ。

 

「へっ、ガキの癖に変な趣味覚えやがって。

 そういう“悪い子”にはおしおきが必要だなぁ?」

 

「あっ! あぁあああっ!!」

 

 ビクビクッと彼女の肢体が震えた。

 敏感なところに手を出されたようだ。

 クリトリスでも抓まれたか、それとも穴に指を挿し込まれたか。

 

「仕方ねぇ、俺がじっくりと“教育”してやるとするかぁ」

 

 ニタァ、といやらしく笑う男。

 

「ひっ!? い、嫌だ、僕はそんな――」

 

 そのおぞましい表情に危機感を募らせたのか、ミーシャは反抗する素振り見せるが、

 

「今更嫌だだと!?」

 

「あぅっ!!? そ、そこ、強くしちゃ――あぅぅうううっ!!?」

 

 あっという間に黙らされる。

 一瞬で肢体から力が抜けたところを見るに、軽く達してしまったのだろう。

 彼女の身体は、雄に逆らえぬよう仕上がっている(・・・・・・・)らしい。

 男はミーシャを強引に抱き寄せると、半ば引きづるように移動を始めた。

 

「おら、こっちに来い。

 二度と“悪いこと”できねぇようにしてやるからよぉ」

 

「あ、あぁぁああああ――」

 

 男に引っ張られ、ミーシャは路地へと――人通りの無い場所へと連れ去られていった。

 ナニを仕様としているかなど、いちいち詮索する必要すらない。

 さらには、二人のやりとりをじっと見ていた視線(・・)も複数有って――

 

「なぁ、今の見たか」

「ああ、見た見た」

「すげぇカワイイ女の子だったなぁ」

「おい、今から俺達もご相伴に預からせてもらおうぜ」

「いいねぇ」

「そうしようそうしよう」

 

 ――その男達もまた、ずらずらとその後を追っていった。

 皆、最初の男と“同じ表情”に顔を歪ませて。

 

 

 

 しばしの時が経ち。

 耳を澄ますと聞こえてくる女の絶叫は、果たして空耳なのかどうなのか。

 

「……とまあ、こんな具合ですよ」

 

 イネスは一連の行為を見届けてから、そう締めくくった。

 

「んー、流れるようにお持ち帰りされちゃったんけど――大丈夫なの、彼女?」

 

「別に心配する必要ないでしょう、殺されるわけじゃありませんし。

 寧ろ、悦んでたくらいですよ」

 

「そ、そうかな?」

 

「そりゃそうでしょ。

 やろうと思えばあの子、ついていった男連中含めて全員皆殺しに出来る位“強い”んですから。

 仮にもBランク冒険者なわけですし」

 

「それもそっか。

 ……ウィンガストって、治安のいい街だったはずなんだけどなぁ」

 

 エレナも納得したようである。

 あと双方合意の上(のはず)なので、これは犯罪ではない、いいね。

 

「心のつっかえも取れたところで、アナタもレッツトライ!

 これでアナタもNTR処女卒業ですね♪」

 

「んー、あ、お腹痛くなってきちゃった。

 明日じゃダメぇ?」

 

 エレナが上目遣いにこちらを見る。

 その視線をしっかりと受け止め、ニッコリと笑いかけながら、

 

「ダ・メ♪

 さあ、往来のど真ん中でその肢体をさらけ出してくるんですよ。

 大丈夫、見られて恥ずかしいような身体じゃないことは、アタシが保証してあげますから!」

 

「んんー、全然嬉しくないな、その誉め言葉!!

 あー、また身体がかってに動くー!!」

 

 ヤケクソ気味な笑顔を作り、ぎこちない足取り(・・・・・・・・)でエレナは通りの目立つ場所へと歩いていく。

 こちらの命令へ多少は抵抗しているようだが、まるで力が足りていない。

 

「……なんか泣けてきた」

 

 コートに手をかけながら、エレナが呟く。

 実際、瞳の端には涙が溜まっている。

 実に良い表情だ。

 こちらの嗜虐心をくすぐってくる。

 

(ふっ――グッドラック!)

 

 心の中で彼女の冥福を祈ってやった。

 いや死にはしないが。

 たぶん。

 

「あー、やばいやばいやばいやばいやばい――」

 

 瞳を泳がせ、顔に固まった笑みを貼り付けながら、コートを開いていくエレナ。

 立派な丸みを帯びた胸がプルンッと揺れる。

 腰つきはきゅっと締まり、太ももは小柄だがしっかり肉がついていた。

 小柄だがスタイルの良いトランジスタグラマーな肢体が、大衆の面前に露わになる。

 

 「お、おい」

 「やだっ」

 「うわっ」

 「……変態さん?」

 

 ミーシャの時より多くの注目が、彼女へ集中する。

 

「う、うう……」

 

 何とか涙を堪えながら、好奇の視線に耐えるエレナ。

 しかしそれもどこまで持つか。

 自分の未来がある程度予想できているのだろう、唇が細かく震えている。

 

 と、そんなところへ――

 

「――ちょっと、君」

 

「っ!?」

 

 エレナが息を詰まらせる。

 とうとう、一人の男が彼女へ近寄ってきたのだ。

 

(来ましたねっ!)

 

 俄然、見物するこちらの手にも力が入るというもの。

 いったいどんな風にエレナは犯されてしまうのか、壊されてしまうのか。

 そんな期待を胸に、彼女の行く末を見守る。

 

 一方、声をかけてきた男はエレナの身体をジロジロと眺めていた。

 獲物の品定めをしているのか。

 それとも、この女をどう料理してやろうかと考えを巡らせているのか。

 或いは、仲間を呼ぶことも検討しているのかもしれない。

 

「うぅぅ……」

 

 恥ずかしさからか、惨めさからか、恐怖によるモノか。

 とうとう、エレナの目から一筋の涙が落ちる。

 だが、“命令”を受けている彼女はその場から逃げられない。

 もう、目の前の男の欲望にその身を委ねるしか道は無いのだ。

 

「――ふむ」

 

 そしてひと通り見終えた男は、落ち着いた口調でこう告げる。

 

「ちょっと、詰所までご同行願えませんか?」

 

「あ、はい」

 

 ――彼は、街の衛兵さんだった。

 

 

 

 

 

 

「もう、こんなことするんじゃないぞ」

 

「すみませんでした……」

 

「イネス様も。

 五勇者である貴女にこのようなことを言いたくありませんが、情操教育も教会の務めでは?」

 

「仰る通りです、申し訳ありません……」

 

 1時間後、そこには衛兵の詰所で平謝りする2人の女性の姿があった。

 ひとしきり頭を下げたエレナとイネスは、詰所を後にする。

 

「…………」

「…………」

 

 無言。

 

「…………」

「…………」

 

 互いの顔を見ることもなく、黙って歩いている。

 十分に衛兵の詰所から距離が離れ、周囲に人気が無くなってから――

 

「ふざけんなエレナぁっ!!

 なんでレイプされないんですか!?」

 

「代わりにたっぷり説教されたっつーの!!

 ボクの社会的地位はボロボロだよっ!!」

 

 同時に罵り合った。

 

「つかなんなんですか!? なんでアタシを身元引受人に指定したんですか!?

 おかげで『露出狂の面倒看てんのかこの人』みたいな憐れんだ眼差しを向けられましたよ!?」

 

「そんぐらい責任取ってよ!!

 だいたい、こんなお馬鹿な案件に他の人巻き込めれるか!!」

 

 どちらも譲らなかった。

 まあ、悪いのは根本原因を作ったイネスではあるのだが、それは置いといて。

 

「くそぅ、これが<秩序のカリスマ>の力ですか……

 真っ当な人物ばかりに好かれるとか、反則ですよそんなの……」

 

 ちょっと本気で悔しかった。

 女の裸を見ても欲情に流されない、紳士的な男を惹きつける特性とか、ずる過ぎる。

 

「そんな大層な特性じゃないはずなんだけどねー」

 

「だったら譲って下さいよ!!

 その特性があればアタシの人生変わってたんですよ!!

 ほらっ!! 寄こせ!! 寄こせぇええええっ!!!」

 

「うわぁああっ!!? 目が怖い目が怖い!!!」

 

 エレナの肩を持って、ガクガクと揺さぶる。

 もっとも、イネスに特性の受け渡しを行うような力は無いのだが。

 

「ふんっ! しかしいい気になっていられるのも今の内ですよ!?

 次はこうはいかないんですからね!!」

 

「えー、まだ続けるの、コレ……?」

 

 当然だ。

 この程度で諦めるわけにはいかない。

 何としてでも、この女を他人棒で喘がせてやらねば気が済まないのだ。

 

「くっくっくっく、次はもっと酷いヤツですよぉ。

 今回上手く回避できてしまったことを、後悔させてあげます」

 

「……そろそろ誰か助けに来てくれないかなぁ」

 

 そんなものは来ない(断言)。

 イネスは<封域>を起動すると、エレナへ新たな命令(コマンド)を実行するのだった。

 

 

 

 第三十一話②へ続く



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②! スラム街に全裸放置

 

 

 

「さぁさぁさぁ!

 ここがどこかと申しますと!」

 

「……スラムじゃん。

 シャレになってないって、イネスさん」

 

「ふふふーん、アタシは何時でも大真面目ですよーっだ」

 

 冷や汗をかくエレナへ、上機嫌に鼻を鳴らす。

 そう、ここはウィンガストのスラム。

 どこか薄暗い街並み、道路や壁は汚れ、あちこちのゴミが散乱している。

 治安が良い――いや、本当に治安はいいんですって――この街において、唯一衛兵の手が及ばぬ危険区画。

 冒険者崩れ達がたむろする、一歩入れば一切の安全が保障されない場所である。

 

「まさかと思うけど、ここで?」

 

「ふふふふふ、そうその通り。

 アナタはこの場所で公衆便女になって貰います」

 

「いやいやいや、ここはやばいんだよ、本当に!

 話し合おう!!

 ね、もう一回話し合おうよ!!

 話せば分かる!!」

 

「問答無用!!

 モラルなんて欠片も無いスラムの住人に、蹂躙され尽くすがいいですよぉ!!」

 

 事ここに至り、話し合いなど意味は無し。

 さくっと提案を退かせるが、エレナは諦めなかった。

 

「あのねあのね。

 何か前のは失敗、みたいな扱いになってるけどさ。

 普通、真昼間に大通りで裸見せるとか、人生終わる級の事件なんだからね?

 ボク、真面目にウィンガストから出ようかどうか考えてたりするんだからね?」

 

「……そうですね。

 確かに、それが“普通”なんでしょう。

 でも! アタシはそれを普通として語れること自体が許せねぇ!!

 安心しなさい、今からその“普通”をぶち壊してやりますから!!

 今日の非常識が明日の常識ですよ!!」

 

「あああああ、この人絶対カルシウム足りてないー!

 なんでそんなに怒ってるのさ!?

 絶対さっきよりボルテージ上がってるよね!?」

 

「知りたいですか!? 教えてあげますよ!!」

 

 エレナを睨み付け、

 

「いや実は貴方が衛兵に連れてかれて説教されてる間に、教会でちょっとしたミサがありましてね?

 アタシそこでスピーチに呼ばれてたんですけど、重要なとこでかんじゃって」

 

 顔を上に向けてその時のことを回想する。

 あれは恥ずかしかった。

 

「ミサに来てくれた信徒さんの何人かに、笑われたんですよぉっ!!!

 しかもその後露出狂(アナタ)を引き取ってとか衛兵さんが言いに来たから、もうアタシを見る目が生暖かい生暖かい!!」

 

「小っちぇえええっ!!!

 そんなことで怒ってたの!?」

 

「ほ、他にもありますよ!!

 卵買ったら一個腐ってたとか、朝に髪の毛セットがなかなか決まらなかったとか!!」

 

「どれこれも小っちゃい!!

 そんなことが理由でボク汚されちゃう!?」

 

「あとあと、“侯爵ライフ”の主人公!!

 アイツなんなんですか!?

 あのいけすかない顔、絶対キョウヤですよね!?

 ナニ異世界転生してんですか!!

 しかも男の娘になってるし!!」

 

 いきなり何言いだしてんだ、こいつ。

 

「あー、確かにミサキそっくりだよねー。

 でも聞いた話じゃあの人、あの子の伯父さんらしいよ」

 

「マジで!?」

 

 マジです(裏設定)。

 

「むぅうう、しかし伯父ですかー……逆TSかと思って、少し期待してたのに」

 

「実は、抱かれたかったりする?」

 

「……ほんのちょっとだけ」

 

「イネスさんのミサキへの想いって、凄く入り組んでるよね……」

 

「えへへへ、これ、秘密ですよ?」

 

 はにかんだ笑顔。

 しかし次の瞬間、それを般若面に変え、

 

「しかしこの秘密を知ったからには生かしちゃおけねぇ!!」

 

「アップダウンが激しすぎるよー……会話が疲れる……」

 

 言葉の通り、披露しきった顔のエレナ。

 そんな彼女へ勝ち誇った笑みを見せながら、

 

「ふふふん、そんなこと言ってる余裕がまだあるんですねぇ?

 アレを見なさい! 今回も都合よく良い感じのサンプルが居ますよ!!」

 

「えー、また居るのー?

 まあ、ここはスラムだから居ておかしくはないけどさ」

 

 嫌な顔をしつつも、エレナはこちらが指さす方を向いてくれた。

 まあ、他にやりようもないからなのだろうが。

 

 

 

 

 

 

「ひぃっ――ひぃっ――ひぃっ――」

 

 いったい、いつ頃から“彼女”はそうされていたのだろう。

 息も絶え絶えになりながら、その女性は喘いでいた。

 

「はぁっ――ひぃっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 それは喘ぎ声と表現してもいいものか?

 体力を限界まで消耗し、嬌声をあげることすらもままならないようだ。

 

「おい、何へばってんだ!」

「もっと腰振れ!」

「手ぇ休んでるぞ!」

「締めつけ弱ぇぞ!」

 

 周囲の男達は、そんな彼女を見て身勝手に野次を飛ばす。

 彼らは全員、スラムの住人だ。

 その身なりは“汚い”の一言で表せる。

 

「はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 女性の方に、男達へ答える気力は無さそうだった。

 10人以上の男が彼女を囲んでいる。

 手で2人の男根を扱き、胸で1人をパイずりし、前と後ろの穴に突っ込まれ、時折フェラも強要されていた。

 誰かが果てれば、別の男と交代し、飽きれば別の体位へ移行する。

 それを延々と繰り返されているのだろう。

 

「ひぃっ――ひぃっ――ひぃっ――ひぃっ――」

 

 女の瞳から、涙が一筋零れ落ちる。

 それを見た男連中は、どっと笑いだした。

 

「見ろよ、泣いてるぜこの女!」

「お父さんやお母さんが恋しくなっちゃったんでちゅか~?」

「全く、恥ずかしくないのかね? 泣くんて」

 

 

「「――魔族のくせに」」

 

 

 魔族。

 そう、その女性は魔族だった。

 種族特有の青白い肌を持ち、銀色の髪はポニーテール状に束ねている。

 筋肉質ながらも豊満な身体は、余すところなく男達の精で汚れていた。

 汚れの具合から見て、ここへ連れ込まれたのは昨日今日の話では無いだろう。

 本来は鋭いはずの目つきにも、諦めや絶望の色が帯びていた。

 

 彼女の名はカマル。

 かつてバール・レンシュタットという名の魔族に従い、ウィンガストを襲撃し。

 巡り合わせの妙によって、黒田達と共に赤龍ゲブラーと戦った女性だ。

 強気で男勝りな、戦士気質の性格だった――はず。

 

「ひぃっ――ひぃっ――ひぃっ――ひぃっ――」

 

 今のカマルは、そんな面影をまるで残していなかったが。

 声もまともに上げられなくなった彼女は、肉便器というよりただの便器だ。

 

「あー、しかし、こうも何の反応もねぇと……」

「ああ、つまんねぇな。飽きる」

「最初は泣き叫んでくれてたんだがなぁ」

 

 男達も、似たような感想を抱いていたらしい。

 機械的に動くだけでまともに反応もしないのでは、どれだけ美しい肢体をしていようと精巧なラブドールのようなもの。

 これで射精しても、オナニーしたのと大差無い。

 

「……なぁ、アレ使ってみねぇか?」

 

 そんな中、男の一人が提案した。

 

「アレって――ああ、アレか」

「この前、売人からくすねてきた薬」

 

 他の男達も、その言葉でそれが何か思い至ったようだ。

 

「だがなぁ、アレなかなか高価そうなヤツだったぞ。

 こんなの(・・・・)に使っていいのか?」

「いいじゃねぇか。

 売って足つくのもまずいシロモンだ。

 だったら、ココで使ってみようぜ」

「……それもそうだな」

 

 渋った男も、それで納得したようだった。

 

「よし、いっちょやってみっか!」

 

 別の男が、懐から小さい瓶を取り出す。

 血のように赤い液体が入った瓶を。

 これが例の薬なのだろう。

 

「……量、少ねぇな。

 大丈夫なのか?」

「聞いた話じゃ、1滴だけで女を絶頂させるらしいぜ。

 こんだけの量でも、一度に飲ませりゃ確実に頭ぶっ壊せるってよ」

「本当かねぇ?」

 

 一部、薬の効果に疑問を持つ連中もいるようだが、そんなことお構いなしに、薬を持つ男は瓶をカマルの顔に近づける。

 そして、中身を数滴(・・)口の中へ垂らしたのだった。

 すると――

 

「――おほっ!!?

 ああっ!! ああっ!! ああっ!! あひぁああああああああああっ!!!!」

 

 見事、カマルは復活(・・)した。

 瞳は完全に白目を剥き、涙や涎が流れっ放しになっているところを見るに、理性は崩壊しているようだが。

 

「おぅっ!! あふっ!! んんっ!! んほぉおおおおっ!!!」

 

「はは、自分で腰振り出したぞ」

「すげぇ締まるぜ!! こいつはいいや!!」

「お、お、お! 手の動きも早くなったぜ!?」

「馬鹿、そりゃコイツが痙攣してるだけだろ」

 

 男達からも喝采が上がる。

 勢いづいた連中は、一層乱暴にカマルを責め立てた。

 胸を力任せに揉み、乳首に噛みつき、無造作に尻を叩く。

 だがそんな行為でも、今の彼女にとっては快感に繋がるらしく。

 

「あひぃいいいいいいいっ!!!

 おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぅっ!! おぉおおおおおおっ!!!!」

 

 カマルの女性器は、愛液を噴き出し続けている。

 絶え間なく絶頂しているのだ。

 

「おおしっ!! いいぞ、そら、イケ!!」

「俺もぶちまけてやる!!」

「孕め、オラァっ!!」

 

 男達も次々に精を迸らせた。

 カマルの穴という穴から精液が溢れ、肌という肌に精子がかけられる。

 

「あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!! あっ!!」

 

 肢体がピンと伸び硬直。

 その後、壊れた玩具のようにガクガクと身体全体が震えだした。

 しかし、男達の手は休まらない。

 

「次は俺だな、まんこいただき!」

「今度はしゃぶって貰うかぁ!」

「そろそろちんこがきついんだよなぁ。

 けつの穴に腕つっこんでみるか」

 

 思い思いのやり方で、魔族を蹂躙していく。

 

「おごぉおおおおおっ!!! あがっ!! んぎぃいいいいいいいっ!!!」

 

 最早喘いでいるのか苦しんでいるのか分からない。

 ただ、その顔は快楽に蕩けている。

 周囲で休憩している残りの男達がそれを見て、

 

「この分ならまだまだ楽しめそうだな」

「へ、こいつ仕留めるのに何人もやられたからな。

 きっちり元を取らねぇとよ」

「“(それがし)を抱けるのは(それがし)より強い男のみ”だっけ?

 まったく、かっこつけちゃってまあ」

「そんで負けてんだから世話ねぇよな。

 ま、十人で囲ってボコボコにしただけだけどよ」

 

 どっと笑い声が響く。

 

「へへ、最低でも俺ら全員のガキ孕むまで、付き合って貰わねぇと」

「二度と日の目見れると思うんじゃねぇぞ?

「魔族が一人いなくなったとこで、誰も気にしやしねぇからなぁ?」

 

 その笑いは、下卑たものへと変わっていく。

 そんな男達に鑑賞されながら――

 

「おひっ!! おひっ!! おほっ!!

 んほぉああああああああああああっ!!!!!」

 

 ――カマルは、終わらない凌辱に身を任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「……酷い」

 

 それが、エレナがカマルの末路を見た感想だった。

 

「ええ。

 最近姿を見せないと思っていたら、こんなことになってたんですねー」

 

「ん、んー、これ、大丈夫なの?

 早く衛兵に知らせた方がいいんじゃ――?」

 

「ああ、心配いりませんよ。

 あの手の連中はなんだかんだ言ってすぐ飽きますから。

 性欲の対象としてみるのはせいぜい1年くらい。

 その後何年か玩具扱いするかもしれませんが、それも過ぎたらさくっとぽいされますって」

 

「な、なんか、滅茶苦茶台詞がすっごく重い……」

 

 こちらの表情に何か(・・)を感じ取ったのか、エレナはそれ以上の追及をしてこなかった。

 代わりに、

 

「ところでイネスさん」

 

「はい?」

 

 何か質問を投げかけてくる。

 

「あのね。

 結局、彼女――――誰?」

 

「おい」

 

 思わず声が低くなる。

 

「誰ってカマルでしょう?

 ゲブラーを倒した時、一緒に戦ってたじゃないですか」

 

「うーん……そだっけ?」

 

 彼女はまだ思い出せない模様。

 

「前々から思ってたんですけど。

 アナタ達、横の繋がりが希薄過ぎません!?」

 

「そ、そんなこと言われても!?

 あの時、ボクはミサキと入れ替わってたし!?

 寧ろイネスさん何でそんなにちゃんと把握してるのさ!」

 

「そりゃ誠ちゃんと肉体関係になったヤツは全員チェックしときますよ」

 

「……あ、そうなんだ」

 

 とりあえず納得して貰えたようだ。

 

「と、いうわけで、アナタにも早速実践して頂くわけなんですが」

 

「ちょっと待って、時間ちょうだい。

 今の内に舌噛んで死ぬかどうか、真剣に考えてるから」

 

「舌切ったくらいじゃ人間死にませんよ。

 それにその程度の傷、アタシならすぐ治せますし」

 

「ぬぁあああ、選択肢が無い……!!」

 

 滂沱の涙を流すエレナ。

 そんな彼女の肩を優しポンと叩いて、

 

「まあでも安心して下さい。

 アタシにも慈悲はあります」

 

「え?」

 

「流石に、何の用意も無くあの下品な男連中の相手をしろなんて言いませんよ♪」

 

「お、おお!?」

 

 エレナの顔が期待に輝く。

 その反応に満足しながら、イネスは懐からとある“物体”を取り出した。

 

「この“バイブ”を使ってイカせにイカせまくり、前後不覚に陥らせてからアイツらに前に放り出してあげます。

 最初から理性ぶっ飛んでるんで、嫌な思いもせずに済むって寸法です!」

 

「……キミを信じたボクがバカだった」

 

 イネスの手にあるモノ(・・)

 それは、バイブというには余りにも大きすぎた。

 大きく、太く、重く、そして大雑把過ぎた

 それは――正に鉄塊だった

 

「大きさがもうアソコに挿れられるレベルじゃないし……

 巨人族の女性用なの?」

 

「いやぁ、いけますって、これ位。

 室坂陽葵はこれよりふっとい触手しり穴に突っ込まれてるんですよ?

 おかげで、もうナニ突っ込んでも感じちゃうとか。

 アイツ、毎日うんちする度に絶頂してるんですって!」

 

「知りたくないよ、そんな情報!!

 百歩――いや千歩譲って太さはいいにしても、表面にびっしり生えたトゲトゲは何さ!?

 男の餌食になる前に死んじゃうよ!?」

 

「……はぁあああ。

 これだから素人は」

 

 大きくため息をついてから、無知なる若者に説明してやる。

 

「よく見て下さい。

 この棘、先端が少しだけ丸くなってるでしょう?

 これで、ギリギリ怪我をしない設計になってるんですよ」

 

「よく見ないと分からない程度の丸みで、保護できるもんなの?」

 

「………」

 

 少し痛いところを突かれた。

 

「ええい!! やかましいですね!!

 アナタはさっさとこっちにまんこ差し出せばいいんですよぉ!!」

 

「そうやって自分に不都合なこと起きると誤魔化そうとするー!!

 あっ!! 身体がっ!! 身体がまた勝手に!!?」

 

 イネスの“命令”によって、エレナは服を脱ぎだした。

 着ている物を全て脱ぎしてたところで、こちらに向かって股を開いてくる。

 

「……散々誠ちゃんに弄ばれたはずなのに、まだ綺麗な色してますねぇ」

 

「んー、まじまじと見つめられても困るんだけど」

 

 エレナの肢体を見物し、ほうっと息を吐く。

 小柄だけれどグラマーなスタイル。

 いい形をした胸の先端や、股の付け根にある花弁は、どちらも鮮やかな色を保っていた。

 

「しかし、結構濡れてるじゃないですか。

 口では色々言ってても、カマルのレイプ見て感じてたんですねぇ?

 乳首だってビンビンに勃っちゃって」

 

「うぐっ」

 

 エレナが言葉を詰まらせた。

 なんのかんので、彼女も変態なのだ。

 

「じゃあ、時間も無いので早速いきますよー」

 

「そんな気の抜けた台詞で――うぐっ!?」

 

 バイブ(のような巨大棒)をエレナの膣口に添える。

 そのまま挿入しようとする、のだが――

 

「――ちょっと、動かないで下さいよ。

 上手く入らないじゃないですか」

 

「う、動いてない! 動いてないよ!!

 単にサイズが合ってないだけだってば!!」

 

 そうなのかもしれない。

 しかしそんなことで諦める訳にもいかなかった。

 これは、エレナのためでもあるのだから。

 

「そう、これはアナタのため。

 ……アナタが男達に凌辱されて気が狂わないよう、予めしっかり気を狂わせておかないと」

 

「ぶつぶつと恐ろしいこと言ってるぅ!?

 サイコ入ってるじゃん、イネスさ――――ふぐぅううううううっ!!!!?」

 

「あ、入った」

 

 苦戦の末、とうとうバイブ(に似た鉄塊)がエレナの膣へとインサートする。

 

「は、はい、ちゃった――ど、ど、どうなちゃったの、ボクのアソコ――?」

 

「うわぁ、ちょっとドン引くレベルで広がってますねー」

 

 エレナの膣口は限界まで――いや、限界以上に広がっている。

 千切れない(・・・・・)のが不思議なくらいだ。

 

「冒険者の身体強化って、こんなところにも効果があるってことですかね?」

 

 しみじみと呟く。

 

「んでは、早速動かしますよー」

 

「ま、待って――うぐぁあああああああっ!!!?」

 

 突き刺さった極太の金属棒を動か――そうとしたが、びくともしない。

 

「ぬ、結構ガッチリ締まってるんですね……」

 

 故に、渾身の力を込める。

 ズボッという強烈な音を立てて、バイブが引き抜かれた。

 

「いぎぃぃいいいいいいいっ!!!?」

 

 続く、エレナの絶叫。

 ただ抜いただけではなく、棘によって膣肉を掻き乱されたのだから、当然だ。

 

「えーと――おお、良かったですね、エレナ!

 血は出てないみたいですよ!」

 

「――はぁっ――はぁっ――はぁっ――はぁっ――」

 

 体の無事を伝えたというのに、エレナからの返事は無い。

 そんな余裕はもう彼女には無さそうだ。

 なので、イネスはイネスで続きを行う。

 

「じゃ、次は押し込んで――」

 

「ふぐぅうううっ!!!?」

 

「で、また引き抜く、と」

 

「あぎぃいいいいいいっ!!!?」

 

 先程よりはスムーズに行えた。

 エレナの身体も適応してきたのだろうか。

 

「調子が出てきましたよー!

 連続していってみましょう!」

 

「ああぁぁああぁぁあああああっ!!!?!?!!」

 

 超極太バイブ(棘付き)をピストンさせる。

 その刺激にエレナは悶絶するが、“命令”があるため身体を動かせない。

 身じろぎすることすらできない。

 

「良い感じ良い感じ♪

 うん、奥にも入ってきましたし♪」

 

「がっ!! あっ!! があっ!! あがっ!!」

 

 痛みに涙を流すエレナ。

 奥にまで侵入した極太棒が、そんな彼女の腹を膨らませる。

 イネスはさらに抜き差しの速度を上げていった。

 

「おごぉっ!! あがぁっ!! おごっ!! おごぉおおっ!!

 めく、捲れる(・・・)っ!! ボクのまんこ、捲れちゃうっ!!」

 

「あや?」

 

 言われて見てみれば。

 バイブを抜く際、一緒に膣肉が外に出始めていた(・・・・・・・・)

 

「あー、うん、まあ、大丈夫ですよ、たぶん?

 仮に子宮が摘出されちゃっても死ぬこた無いはずです。

 死にさえしなければ、怪我はいくらでもアタシが治してあげますから♪」

 

「いやぁあああああああああああっ!!!!!」

 

 若干無理やり自分を騙し、バイブ責めを続行。

 ジュボジュボと盛大に音を立て、トゲトゲしい金属棒が何度も行き来を繰り返す。

 

「あ”あ”!! あ”あ”!! あ”あ”!! あ”あ”!!」

 

「愛液が大分零れるようになってきましたねぇ。

 ひょっとして、もうイってます?」

 

「イ”っでる!! イ”っでるがら”!!

 もうやべでぇえええええええええっ!!!!」

 

 喚き散らしながら許しを請うエレナ。

 イネスは少し考えるそぶりを見せてから。

 

「うーん。でも、まだ理性がある(・・・・・)じゃないですかー。

 目的はアナタをおかしくする(・・・・・・)ことなんですから。

 もっと続けないと」

 

「やだぁあああああああっ!!!?!!!?!!?」

 

 絶叫が木霊する――が。

 それに応える者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 たっぷり、1時間程経っただろうか。

 

「……こんなもんですかねぇ?」

 

 額の汗を拭うイネス。

 傍らには、

 

「――――」

 

 物言わず。

 虚ろな瞳となった、エレナが居る。

 バイブは既に取り除いてあるが、女性器はぱっくりと開きっぱなしになっていた。

 元に戻るには時間がかかりそうだ――或いは、戻らないかもしれないが。

 

「完全に頭狂わせましたし、これでスラムの住人にレイプされまくっても平気ですね、エレナさん♪」

 

 にっこりと微笑む。

 

「――――」

 

 当然、彼女からの返事などあるわけがない。

 涎を垂らしながら、中空をぼんやり眺めるだけ。

 

「……なーんて」

 

 笑顔を、止める。

 

「アタシがそういうこと言うの、期待してたでしょう?」

 

「――――――っ」

 

 ほんの少し。

 極僅かに、だが。

 エレナは、反応した(・・・・)

 

「ダメですよー、人を騙しちゃ(・・・・)

 アナタ、こんなもんじゃ壊れませんよね?

 その程度のメンタルじゃ、キョウヤに選ばれるわけありませんし、誠ちゃんとも付き合えないですよねぇ?

 そんなこと、ちゃんとアタシも分かってるんですから」

 

「――――――」

 

 エレナは、動かない。

 イネスは再び笑みを取り戻し、そっと彼女の股間に手を伸ばす。

 

「ふふふふふ、ぷっくり膨れてますねー、エレナのクリトリス」

 

「――――――」

 

 指先で陰核を突くも、エレナは微動だにせず。

 まあ、いい。

 こんなことでどうにかできるとは、思っていない。

 

「ねぇ、エレナ――」

 

 彼女の耳元で囁く。

 

「アナタのココ、潰しちゃいましょうか(・・・・・・・・・・)?」

 

「――――――っ」

 

 再び、エレナに微小な動き。

 構わず、続ける。

 

「ね。クリトリス触られると、凄く気持ち良いですよね?

 凄く、敏感ですものね、ココは」

 

 指で、股間の小さな突起をこね回す。

 

「コレ潰したら、きっと凄いですよぉ?

 すっごい気持ち良くなっちゃって――きっと、理性なんてもうどっかにぶっ飛んじゃうんです」

 

「――――――――」

 

 反応、なし。

 しかし仄かに息遣いが荒くなってきた。

 

 実際の所、ぶっ飛ぶどころの騒ぎではないだろう。

 ショック死してもおかしくはない。

 

「でもまあ、流石にそんなのは、ねぇ?

 幾ら後で治せるからって、流石に可哀そうだと思っちゃいますよ、アタシでも。

 だから――」

 

 意味ありげに、言葉を止める。

 相手の目をじっと見つめ、

 

「どうしてもって言うなら、考え直してあげてもいいですよ?」

 

「――――――止めてくだ」

 

「ダメ」

 

 

 ――プチッ

 

 

 

 

 

 

「あー、出した出したぁ」

 

 伸びをしながら、薄汚い男がスラムの路地を歩く。

 つい先ほどまで、カマルを犯し抜いていたのだ。

 今は小休止中である。

 

「……出すもん出したらションベンしたくなるの、何でだろうな?」

 

 湧いてきた尿意に、ぶるっと震える。

 男は用を足すため近場の袋小路へと歩を進めた。

 如何にスラムとはいえ、人通りの多い場所でするのは気が引けたのだ。

 

「あん?」

 

 そこで気付く。

 道端に、人が倒れていた。

 それも――

 

「へへへ、女じゃねぇか」

 

 にんまりと嗤う。

 カマルに続いて、またもや女を手に入れる機会が訪れたのだから、自然な反応といえる。

 その上、目の前に居るのがかなりの美少女とあっては、昂るのも仕方ない。

 しかも見る限り全裸。

 男は意気揚々と女性に近づき――

 

「――なんだこりゃ」

 

 言葉を失った。

 その女性の――エレナの惨状を見て。

 

「……ひ、酷ぇ。

 酷すぎる――!」

 

 瞳は輝きを無くし、焦点が合わないまま固定された視線。

 身体は力を失い、ピクリとも動かない。

 股間からは血まで流れていた。

 

「こんな女の子に――どこの誰が――!」

 

 わなわなと、義憤に震える男。

 ところで先程まで男がレイプしていた魔族の女性はもっと酷い状態だったりするのだが、そこんところコイツはどう考えているのだろうか?

 そこへ、他の男達もやって来る。

 

「どうしたんだ、そんなとこで突っ立って」

 

「ああ、お前らか。

 ちょっとこいつを見てくれ」

 

「――っ!?」

 

 皆そろって目を丸くした。

 幾人かは痛まし気に目を伏せる。

 

「くっ――まだ若い子に、なんてことを!!」

 

「俺達だってここまではやらねぇぜ!!」

 

 いや、やってただろう。

 ついさっき。

 すぐそこで。

 

「ちっ、こうしちゃいられねぇ!

 おいお前ら、湯沸かしてこい!

 あと、綺麗な布も!

 ありったけな!!」

 

 一人の男が指示を飛ばす。

 

「ああ!」

 

「分かった!!」

 

 他の連中もそれに応じ、各々が準備に駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 テキパキとした手際で手当てされていくエレナ。

 その一部始終を見て、

 

「……うん、知ってましたよ。知ってた」

 

 死んだ魚の目をしながら、イネスは呟く。

 ちなみにだが、この間にもカマルへの凌辱は続いている。

 エレナの治療で手の空いた者が、カマルをレイプし出すとかそんな感じ。

 

「これが――格差か」

 

 持つ者と持たざる者の決定的な扱いの差を見て。

 ――イネスは、さめざめと泣いた。

 

 

 

 第三十一話③へ続く



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③! 彼女は堕ちました

 

 

 色々あった後、イネス達は最初の部屋へと帰ってきた。

 目を伏せ、悲しげな表情を作りながらエレナへと語りかける。

 

「とうとうここまで来てしまいましたね……」

 

「来たくて来たわけじゃないんだけどねー。

 いい加減帰っていい?」

 

 そんなイネスへ、呆れ顔になって答えるエレナ。

 

「クリ潰しまでされてその態度――アタシの認識が甘かったことを認めましょう」

 

「いやいやー、本当もういっぱいいっぱいなんだって、ボクも。

 痛みはないけど、なんか身体も敏感になってるし」

 

「普通、頭ぶっ壊れて“あー、うー”とか言うだけのオブジェクトになっておかしくないんですけどねー。

 どんだけ丈夫なんですか、アナタのメンタル」

 

「んー、今まで気づかなかったけど、ボクって大分凄い?」

 

「スゴイスゴイ。

 流石はキョウヤに選ばれただけあります。

 自分を壊そうとした相手を前にして余裕ぶれるあたり、恐怖感とか麻痺してません?」

 

「いやー照れちゃうなぁ」

 

「しかしそんなこと言いつつ、背中が冷や汗でびっしょりなのを見過ごすイネスさんでは無いのでした」

 

「うぐっ」

 

 まあやせ我慢であろうとここまで貫き通せるなら立派なものだ。

 割と真面目に尊敬の念を抱きかけている。

 

「それはさておき。

 アナタを公衆便女に堕としてやる企画を続けますよ。

 とはいえアタシもいつまで暇ってわけじゃないので、次でラストです」

 

「……うわーい。

 これで帰れるー」

 

 その宣言に、エレナが喜ぶ。

 心底嫌そうな顔をして。

 

「無事に帰らせてあげるつもりなんて毛頭ありませんけどね!

 次にアナタが向かう場所こそ正真正銘の魔窟。

 サ●コパスな変態共が集結する、ウィンガストの恥部」

 

「そ、そんなとこあるんだ、この街に」

 

 慄く彼女の顔に気をよくし、イネスは力強く告げる。

 

「その名は――“黒の焔亭”!」

 

「…………あー」

 

 なんだか驚いたような納得いったようなそうでもないような、微妙な返答をされた。

 

「イネスさん的にも、あそこってそういう認識なんだ?」

 

「そりゃそうでしょうよ。

 アソコにいる連中、やってること完璧に犯罪ですよ?

 被害者を完堕ちさせてるから立件されてないだけで」

 

「そんなことは――まあ、うん、そうか」

 

 エレナも思い当たるところは多いようで、否定はされなかった。

 

「つうか、あいつら何で“味方面”してんですかね?

 ローラとか、セドリックのせいで人生どん底にまで落とされたってのに」

 

「一応、本人反省してる(?)みたいだし」

 

「その割に、今でも女の子に手を出したり孕ませたりしてるみたいですけど」

 

「……そだね」

 

 弁護のしようがないようだった。

 実際、真っ黒にもほどがある人物だ。

 

「そこの店長に至っては、これまで何百人の女性を肉便器に堕としてきたことか。

 あいつ、大陸のあっちゃこっちゃの街で専用便器を備えてるみたいですよ」

 

「うわぁ」

 

 それだけヤって何故官憲に掴まらないのか。

 悍ましいまでの手腕である。

 

「でもまあ、それ言ったらクロダ君だって同じようなもんじゃないの?」

 

「誠ちゃんはいいんですよ、誠ちゃんだから。

 堕とされた女だって、誠ちゃん相手なら幸せでしょう」

 

「んー、なんか極まってるねぇ、イネスさんも。

 人のことサイ●パス扱いしてる場合じゃなさそうだよ?」

 

「お? なんですか、文句ありますか?

 自分がキチ●イだからって●イコパス相手にサイコパ●っつって何が悪いんですか?」

 

「自覚あるんだ……こりゃ性質が悪い」

 

 エレナは諦めたように嘆息した。

 しかしすぐ顔を上げると、

 

「んー、でもボク何度もその店行ってるしなぁ。

 今更手を出されたりするかなー?」

 

「そこはご安心を。

 “封域”使ってアイツらのなけなしの理性を吹き飛ばしておきますから」

 

「そんなんやるなら別にどこだって関係ないよね!?」

 

「何言ってんですか!

 普通の人間が理性を失うのと、あのサイコ●ス共が理性を失うのとでは、次元が違いますよ。

 信じられます!? アイツら、あれでまだ普段はセーブしてるんですよ!?」

 

「マジか」

 

「マジですよ。

 そんなわけなんで、今度こそグッバイです、エレナ。

 もしまた会うことがあったら、今度は同志として迎え入れてあげてもいいですよ?」

 

「今迎え入れてもらっちゃ、だめー?」

 

「だめー♪」

 

 上目遣いに可愛らしく尋ねてきたので、こちらも満面の笑顔を作って返してやる。

 

「じゃあ早速逝って貰いましょうか――という、その前に」

 

「ん?」

 

 訝し気にこちらを見るエレナ。

 そんな彼女へ微笑みかけながら、

 

万に一つ(・・・・)のことを考えて、ここいらで“壊れて”おきましょうか」

 

「――え」

 

 彼女の表情が固まる。

 何を言ってるのか分からないから、ではなく。

 イネスの意図を正確に理解してしまったためだろう。

 

「ほらぁ、今までのパターンが今回も発動する可能性も無きにしも非ずじゃないですか。

 何度も同じ展開繰り返すのはワンパターン過ぎると思いません?」

 

「そ、そうかな?

 ボク、そういうの好きだよ!

 天丼はギャグの基本っていうし!」

 

「アハハハハ、アナタが置かれてる状況はもうギャグじゃなくなってるんですよねー♪

 だ・か・ら。

 もしまた手を出されなかったとしても普通の生活に戻れないようにさせて貰います」

 

「いやいやいやいや、それ、当初の目的と違うんじゃないかな、かな?

 ボクを男達に輪姦させたいんでしょ!?」

 

「うーん、そうなんですけどー。

 “無事に帰れる”可能性を残しておくも、ねぇ?

 そんなわけでほら、股開いて開いて!」

 

 “命令”する。

 その言葉に従い、エレナはその場で座り、イネスに対して股を開いて見せた。

 ミニのプリーツスカートが捲れ、彼女の秘部が露わになった。

 ちなみに面倒だったので下着は着けさせていない。

 

「やっぱり綺麗な色形してますねー。

 今から崩しちゃう(・・・・・)わけですけど。

 まあ、形だけ(・・)はちゃんと戻してあげますから、安心して下さいねー」

 

「……こ、これから、どうするの?」

 

「んふふふ、声が上擦ってますよ。

 ほらほら、リラックスリラックス。

 さっきまで見せてた余裕はどこいったんですか?」

 

「…………」

 

 にこやかに話しかけるも、反応しない。

 どうやらこちらの本気はちゃんと伝わっているようだ。

 少し安心する。

 

「で、どうする?って質問の答えですけど。

 今更、凝ったことはしませんよ。

 ただ、アナタのまんこに私の腕をぶち込んであげるだけです」

 

「――――!!?

 ま、待って――」

 

「待たなーい♪」

 

 言うが早いか、イネスはエレナの膣口へ、その腕を無理やり差し入れた。

 余り濡れていないようだが、そこは“勇者”として鍛えられた力で無理やり捻じ込む。

 前腕の中ほどまで、一気に侵入させる。

 

「い、ぎぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?!!?!!?」

 

 喉が張り裂けんばかりの絶叫。

 だがイネスはため息を吐いて、

 

「これくらいなんだっていうんですか。

 さっき入れたバイブの方がよっぽど太かったですよ?

 本当に“酷い目”を見るのは、ここからなんですからね?」

 

 言って、膣内へ挿れた手を動かす。

 まずは軽く開いて閉じてを繰り返し。

 

「いひっ!!? うぎぃいいいいっ!!?」

 

 さらに周囲を掻き混ぜる。

 

「おごぉっ!!? おぐぁああっ!!!」

 

 そうしているうちに、コリっとした箇所が手に当たる。

 

「むむ、これが子宮口ですね!」

 

「ふーっ…ふーっ…ふーっ…お、お、お願い、も、許し、て」

 

「許しても何も、まだ始まってすらいませんよ。

 ほい、挿入ー、と」

 

 指先で狭い子宮口を無理やりこじ開け、その中へと手を突き込む。

 

「こふっ!!? あ、か、か、あ、あ――!」

 

「暖かーい♪

 ここで赤ちゃんが育つんですねー。

 いや、人体の神秘♪」

 

 神秘解明のため、とりあえず“中”を掻き毟ってみる。

 

「おっ!! ほっ!! おっ!! おぉぉおおおおっ!!!!」

 

 ぷしゃぁあああ――という音と共に、エレナの股間から黄色い液体。

 失禁したようだ。

 

「あー、汚いですねぇ。

 私の着てるローブ、かなりの値打ち物なんですよ?

 そういう悪い子には――こうだ!」

 

 力任せに、内側から子宮を握る(・・)

 

「んんんんんんんんんんんん――――――っ!?!!?!?!!」

 

 声にならない悲鳴。

 

「どうですか、エレナ?

 流石に誠ちゃんもこんなプレイしてくれなかったでしょう。

 あの人、女の子が死にかねない(・・・・・・)真似はしませんからね♪」

 

「あっ――――かっ――――はっ――――」

 

 呼びかけても、エレナは口をパクパク動かすのみ。

 目や口は見開き、涙や涎、鼻水が零れ。

 視線は定まらず、唇は小刻みに震えている。

 その様子に、イネスは満足げに頷くと、

 

「それでは“オペ”を始めますよ。

 アナタの子宮を直接改造して、四六時中イキ続ける身体にしてあげます」

 

 手に“魔力”を込める。

 

「――お”っ!!!?!!? お”っ!!!! お”っ!!!! お”っ!!!! お”っ!!!! お”っ!!!!」

 

 それに反応して、エレナの身体が跳ねた。

 改造というのは、比喩ではない。

 イネスは本気で、彼女の肢体を“おかしく”してやるつもりだ。

 

「今までの平穏な日常にグッバイ♪

 いってらっしゃい新たな世界へ♪

 ではでは、エレナさん――」

 

 すっと、笑顔を消す。

 酷薄な表情へ返ると、

 

「サヨナラ」

 

 

 

 

 

 

 ――――お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”

 

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 はい、こんにちは、黒田誠一です。

 なんとも中途半端なところでバトンタッチされた感がありますね。

 

「……バトンタッチ?」

 

 自分の思考に、自分で突っ込む。

 私は一体何を考えているんだ。

 

「疲れている、のか?」

 

 そう自嘲してから、頭を振った。

 この程度で疲れる、など。

 そんなことを言っては、毎日のように戦いに明け暮れている陽葵さん達に失礼だ。

 私はそれをただ見ているだけなのだから。

 

 ちなみに今日の<次元迷宮>探検は今しがた終わったところだ。

 ここに来てテンポが上がっている。

 皆、目的地が近くなりモチベーションが高まっているのだ。

 特に陽葵さんは素晴らしい。

 “自分の父親に会える”というのもカンフル剤になっているのかもしれない。

 もっとも、そのせいでかなり体力的には無理をしており、迷宮から帰ってきてすぐに倒れてしまったのだが。

 家に帰る気力も無いようだったので、今日はセレンソン商会の一室を借りてそのまま就寝してしまった。

 

 閑話休題。

 で、今私が何をしているのかと言えば、久方ぶりに“黒の焔亭”へ顔を出そうと通りを歩いているのである。

 最近は陽葵さん達に付きっ切りで仕事しているため、ほとんど店に行けていない。

 そろそろ店長の顔が見たくなってきたのだ。

 

「――と、考え事をしている最中に」

 

 到着してしまった。

 夜も大分更け、客足も遠のく頃合いだが幸いにしてまだ店はやっていた。

 

「御免ください」

 

 言って、ドアをくぐる。

 やはりというか、店内には客が誰も居ない。

 ウェイトレス――ジェーンという名の、金髪でグラマラスな女性だ――が一人暇そうにしているだけだ。

 

「あらぁ、クロダ?

 見ての通りもう店じまい寸前だから、大したモノ出せないわよ」

 

「いえいえ、頂けるだけで有難いですよ。

 夜分に申し訳ありません」

 

 ジェーンさんの言葉にお辞儀で返す。

 

「しかし従業員の方も居ないとは珍しいですね」

 

「ミーシャは昨日店長の御遣い行ったまま帰ってこないのよね。

 カマルも数日前から姿を消してるけど――まあ、あいつは魔族だし。

 おかげで忙しいったら。

 リアやシエラが居れば楽なんだけど」

 

 リアさんはこちらの事情でしばらくお休みを頂いている。

 ちなみにシエラさんはセドリックさんに孕まされ、現在産休中だ。

 2人が居なくなった補充として新たに従業員を雇ったはずなのだが、そのどちら共居なくなるとは――何やらエロの匂いがするな。

 後で行方を探ってみよう。

 

「それで、店長はどちらでしょう?」

 

「ああ、ちょっと前から店の奥に引きこもってるわ。

 セドリックさんと一緒にね」

 

「ということは?」

 

「ま、そういうこと(・・・・・・)なんでしょうね」

 

 意味ありげな顔で言う。

 

「どうする?

 2人が来るまで、ワタシとしてる(・・・)?」

 

「おや、仮にも仕事中ではないのですか」

 

「ワタシをちんぽ無しじゃ生きていけなくした男が、そんなこと言うの?」

 

「それもそうですね」

 

 仕込んだのは店長だが、“最初”を頂いたのは私だ。

 あれはまだウィンガストに来たばかりの頃だったか。

 

 

 

 …………。

 

 

 

「……なかなか来ないですね」

 

 あれから一時間ばかり経過したというのに、店長達はまだ戻っていない。

 

「やはりこちらから出向きましょうか」

 

 余程良い“相手”なのだろうか。

 話によると夕方頃からずっととのことなので、下手すれば5時間近くぶっ通しということになる。

 並大抵の女性なら――いや、かなりの性豪な女性であっても、それだけの時間あの2人の相手をすれば、どうにかなってしまっていることだろう。

 

「これは、是非拝見しにいかねば!」

 

 そんな光景を鑑賞しない手はない。

 私はささっと服装を整えると、

 

「ではジェーンさん、少し席を外します」

 

 ウェイトレスに挨拶する。

 少し、では済まないかもしれないが。

 とはいえ、

 

「お、お――おお、お――おおおお――」

 

 股から白濁した液を垂れ流しながら倒れているジェーンさんには、伝わらなかったかもしれない。

 放心した彼女は一旦置いて、私は店奥の廊下へと足を踏み入れる。

 

「……む」

 

 すると早速“聞こえて”きた。

 

 「あぅっ!! はぅっ!! んおっ!! おぉおっ!! んぅぅううっ!!」

 

 激しい。

 絶叫のような喘ぎが鼓膜を震わせる。

 相当“愉しんで”いるようだ。

 

「ここですね」

 

 一つの扉の前に立つ。

 声はここから聞こえてきた。

 

「では失礼」

 

 鍵は<念動>でさくっと解除。

 そっとノブを捻り、ドアを開ける。

 中から、雄の粟臭い臭いと、女性の甘酸っぱい匂いがむわっと漂ってきた。

 そこで見た光景は――

 

「よーし! イケ!! イケっ!! イケっ!!」

 

 “相手”を駅弁のような姿勢で抱きかかえ、ひたすら腰を打ち付けるゲルマン店長。

 

「ほぅら、ココ、気持ちいだろう?」

 

 “相手”の尻穴に腕を突っ込み、内側から責め立てているセドリックさん。

 そして、

 

「んほぉおおおおおおっ!!

 イクッ!! イクッ!! イキますっ!!

 またイクぅうううううううううううっ!!!!!」

 

 金色(・・)の髪を振り乱し。

 豊満な胸やお尻を揺らしながら、ヨガリ続ける女性が一人。

 

「……まさか」

 

 ――それは予想だにしなかった人物。

 五勇者の一人、イネス・シピトリアだった。

 私の幼馴染、駒村葵でもあるその女性が、いつもの三つ編みを解き、艶めかしい姿で肢体をくねらせている。

 

「おいテメェっ!!」

 

 私が呆然としていると、店長が怒鳴りだした。

 

「何、“人の言葉”を喋ってやがる!!

 テメェは“何”だ!? 言ってみろ!!」

 

 言って、さらに腰を激しくグラインドしだした。

 

「んほぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 葵さんの膣が、ビチャビチャと愛液を噴き出す。

 その様子から、彼女が正気でないことは明らかだった。

 

「言え!! ほら、言えよ!!

 自分が“何者”なのか、言ってみろ!!」

 

「おひっ!! おひっ!! おひっ!! おひぃいいいいいっ!!!!

 言いますっ!! 言いますぅうううっ!!!」

 

 だらしなく涎を垂らしながら、葵さんが店長に答える。

 

「アタ、シ――アタシ、は、“豚”ですぅうううっ!!!

 雄にお仕えして、精を注がれることしか能がない、“雌豚”なんですぅうううっ!!!」

 

「そうだっ!! テメェは雌豚だっ!!

 豚が人の言葉を喋るか!?

 豚には豚に相応しい鳴き声があるだろうが!!!!」

 

「ぴぁああああああああああああっ!!??!??」

 

 店長が、目の前にあるたわわな胸のその先端に噛みついた。

 噛み切るような勢いで乳首を責められ、葵さんの声色が変わる。

 

「ごめっ、ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!!

 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あああああああっ!!! 千切れるぅううううっ!!!」

 

「謝る前にするべきことがあんだろ!!!」

 

 凄む彼に促され、

 

「――ぶ、ぶひぃいいいいいっ!!!

 ぶひっ!! ぶひっ!! ぶひっ!! ぶひぃいいいいいいいっ!!!」

 

 葵さんが、豚の鳴き声を上げ始めた。

 

「おう、そうだ! それだ!

 自分の身の程ってもんをしっかり理解しやがれ!!」

 

「ぶひぃぃいいいいいいいっ!!

 ぶひぃいいいいいいいいいいいんっ!!!」

 

 喘ぎの代わりに豚の真似事をしだす葵さん。

 勇者としてはおろか、人としてのプライドすらかなぐり捨てている。

 

「よしっ!! じゃあそのままイケっ!! もっかいイケっ!!」

 

 葵さんの細い腰が掴まれ、剛直を激しくピストンされる。

 

「ぶひっ!! ぶひっ!! ぶひっ!!

 ぶひぁああああああああああああああああっ!!!」

 

 再度、噴き出す愛液。

 透明な液体がシャワーのように流れ出る。

 

「おらっ!! テメェの大好きなザーメンだ!!

 感謝しろよっ!!」

 

「ぶひぃぃいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 店長がイチモツを膣の奥にまで叩き込んだ。

 その状態で、二人の動きが止まる。

 一秒、二秒――数秒経ったところで、葵さんの股から白い液体が漏れ始める。

 子宮に収まりきらなかった精液だ。

 ドロドロの粘液が、床を汚していく。

 見れば、その部屋の床は一面ビチョビチョだった。

 葵さんの愛液と、店長達の精液で。

 

「――ぶ、ぶひっ――ぶひっ――ぶっ――ぶぶっ――」

 

 白目を剥いて気をやりながら、それでも豚真似を止めない彼女。

 調教がしっかり行き届いているようだ。

 

「まだまだ終わりじゃないよぉ?

 もっとヨガり狂おうね?」

 

 ここで、店長へ責め手を譲っていたセドリックさんが口を開いた。

 葵さんの肛門に差し入れていた腕が動き出す。

 余程大きく動いているのだろう、彼女の腹がぼこぼこと膨れた。

 しかし――

 

「――ぶっ――ぶ、ぶぶっ――ぶ、ひっ――ぶっ――ぶ――」

 

 腹部が蠢動してしまうまでに腸内をこねくり回されているというのに、葵さんに大した反応はなかった。

 店長がぽりぽりと頭を掻き、

 

「あー、こりゃ完璧にイっちまってんなぁ。

 ま、散々ヤっちまったし、仕方ねぇか」

 

 どうやらこれ以上は無理と判断したらしい。

 膣から男性器を引き抜くと、葵さんの身体を床に放り捨てた。

 

「――ぶひっ」

 

 落ちた衝撃で、鳴き声を出す彼女。

 理性は無くなっていると言うのに、店長の教えは守っている。

 

「続きは明日だな。

 今日はお開きにしようぜ。

 この部屋も掃除せにゃならんし。

 セドリック、お前も少しは手伝えよ?」

 

「いや、まだだ!

 まだ終わってないよ!」

 

 片付けを始めようとする店長を、セドリックさんが止める。

 

「まだ、私には――コレがある!」

 

 そう言って彼が持ち出したのは、3つの瓶。

 血のように赤い液体(・・・・・・・・・)が入った瓶だった。

 

「ちょっと前に購入した薬でね。

 女性を発情させる薬さ」

 

「……お前はまた変なモンを。

 ローラの件で散々後悔したってのに」

 

「ろ、ローラさんは関係ないだろう、ローラさんは!!」

 

 痛いところ突かれたようで、どもるセドリックさん。

 だがすぐに気を取り直し、

 

「とにかく、これを使えばまだまだ愉しめるはずさ!」

 

「本当かねぇ?」

 

「本当本当!

 この薬を確か1滴で女性を絶頂させるとか」

 

「おいおい、流石に1滴は嘘だろ。

 どんな毒薬だ、そりゃ」

 

 店長が冷静にツッコミを入れる。

 

「そ、それもそうか。

 あー、じゃあ、1瓶(・・)だったかな?

 うん、1瓶で女性を絶頂させるんだった、間違いない!」

 

「ほー、そりゃ強力な媚薬だなぁ」

 

「……もしかして信じていないね、店長?」

 

「いや、信じちゃいるぜ?

 俺の流儀に反するってだけでな。

 男ならイチモツ一本で女を堕とせねぇと」

 

「そりゃ店長やクロダ君ほどのツワモノならそうなんだろうけどねぇ。

 私みたいなのは、道具も使わなけりゃやってられないよ」

 

 肩を竦めるセドリックさん。

 確かに、店長並みのセックステクニックを求められては立つ瀬がない。

 

「まあ、やってみればいいんじゃね?」

 

「突き放した言い方だねぇ……いいけども。

 さささ、たーんと召し上がれ」

 

 葵さんの頭を抱えて口を開け、瓶の中身をその中へ注いでいく。

 一本(・・)二本(・・)三本(・・)と、次々に赤い液体が彼女の口に入っていった。

 

「さぁ、これでまた遊べ――」

 

「ぴぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!?!?!?!?!?!!」

 

「――のわぁっ!?」

 

 突如、葵さんの身体が跳ねた(・・・)

 

「ぴぃいいいいいいいいいいいいっ!!!!!

 ぴぃいいいいいっ!!! ぴぃいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」

 

 床から飛び跳ねるような勢いで身体をガクガクと震わせる葵さん。

 店長とセドリックさんはその様子を驚くような目で見ている。

 

「おい!! なんだこりゃあ!?」

 

「あー……やっぱり1滴だったんじゃないかなぁ。

 1滴飲ませるだけで十分だったんだよ、きっと」

 

「何淡々と言ってやがる!

 じゃあ何か!? 1滴で絶頂させちまうような劇薬を、3瓶分も飲ませたってか!!」

 

「そういうことになるねぇ、ハハハ」

 

「笑ってる場合じゃねぇ、どうすんだコレ!?」

 

 2人が相談している間にも、葵さんの動きは止まらない。

 人から出る液体全てを垂れ流し、表情も身体も硬直させ、ブルブルと痙攣している。

 

「ぴぃいいいいいいいいっ!!!!

 ぴぃいいいっ!! ぴぃいいいいいっ!!!! ぴぃいいいいいいい――――」

 

 と、そこで一旦止まり、

 

「――あひゃ。

 あひゃっ――あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――!!」

 

 今度は笑い出した。

 壊れたような――いや、本当に壊れたのだろう――笑みを浮かべ、笑い続ける。

 “液体”はなお葵さんの身体から溢れ、床を汚し続けている。

 

「ちっ、仕方ねぇな――!」

 

「ど、どうするつもりだい、店長!?」

 

「決まってらぁ!!」

 

 ゲルマン店長は壊れた葵さんへ圧し掛かると、彼女の女性器へ自らの剛直を挿し入れる。

 

「あひゃっ――あっ! あぁぁぁああああああああああああっ!!!!!!」

 

「うおっ!? こんな状態だってのにすげぇ締め付けだ!!

 こりゃ気を抜くとすぐ果てちまいそうだぜ!」

 

「何やってんだい、君は!?」

 

「コイツをなぁ、もう身体が動かせなくなるくらい、イキ尽くさせんだよぉ!!」

 

「なるほどそうか!」

 

 セドリックさんも合点がいったらしい。

 彼もまた葵さんへ詰め寄り、その肢体を責めだした。

 胸を捏ね、乳首を抓り、尻穴を穿る。

 

「あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!! あ”っ!!」

 

 狂ったような喘ぎが響く。

 果たして店長の目論見通り行くのだろうか?

 ともあれ、こうなってしまったら。

 

「私も手伝った方がいいですかね」

 

 こんな自分でも少しくらい役立てられることもあるだろう。

 そう思って部屋に踏み入ろうとすると――

 

「おや?」

 

 ――腕が引っ張られた。

 誰かに掴まれたかのように。

 いや、“かのように”ではなく、実際に掴まれていた。

 誰がやったのかと言えば、

 

「おや、エレナさんではないですか」

 

 私に傍らに、いつの間にかミニスカート姿の小柄な女性――エレナさんが立っていたのだ。

 こんなところでどうしたのだろう?

 

「ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ……ふーっ……」

 

 不思議に思う私だったが、エレナさんは何も答えず。

 ただ妙に色っぽい呼吸を繰り返すだけだった。

 肩を上下するたびに後ろで結えた髪が揺れ、実に艶めかしい。

 

「あの、エレナさん?」

 

「……く、クロダ君」

 

 ようやく、彼女が口を開く。

 

「あ、あのね、ボク、今までイネスさんに掴まっちゃっててさ」

 

「なんと!?」

 

 そうだったのか!?

 まさか葵さんが、無関係な人に手を出してくるなんて!?

 ……いや、美咲さんの依り代として選ばれたエレナさんを無関係と呼んでいいかは怪しいところか。

 

「一応、最後の最後で店長さん達に助けてもらえたんだけど」

 

「ええ!? まさか葵さんを倒したのですか!?」

 

 彼女は仮にも五勇者の一人。

 世界を救った英雄だ。

 当然、その強さも並外れており、生半可な――いや、一流と呼ばれる戦士であっても、葵さんに勝つことなど不可能のはず。

 それを店長とセドリックさんが……?

 

「んー、倒したっていうか、あの2人を前にしたら、イネスさんの方から降伏したというか。

 なんか、逆らえなくなっちゃった感じ?」

 

「……ああ」

 

 事情を把握できた。

 葵さんはこれまでの人生、六龍によって弄ばれ続けてきた。

 そのせいで、雄に絶対服従する調教されてしまったのだ。

 再会してからは大分なりを潜めていたものの、店長達がその性質を暴いたのだろう。

 流石、雌に対する嗅覚が半端じゃない。

 

「ともあれ、無事で何よりです」

 

「ん、んんー、あんまり無事じゃない、かな?」

 

「え?」

 

 そう言うと、エレナさんは履いているスカートを捲りあげてきた。

 露わになった彼女の股間は――

 

「びしょ濡れですね」

 

「う、うん」

 

 彼女の股間は、びちゃびちゃに濡れていた。

 一応ショーツも履いているが、ほとんど意味をなしていない。

 次から次へと溢れ出る“愛液”を、まるで防げていないのだ。

 

「い、イネスさんに散々ヤられて――さっきからずっと、愛液が止まらないの」

 

「そう、でしたか……」

 

 言われて見てみれば、廊下のあちこちに“水たまり”ができていた。

 全て、ここへ来るまでにエレナさんが流した愛液の跡、というわけか。

 

「ん、いつまで、経っても、止まる気配がなくって――

 頭、も、結構、くらくらしちゃって」

 

 そこで、エレナさんが抱き着いてきた。

 彼女の柔らかさが伝わってくる。

 

「お願い――クロダ君のおちんぽで、ボクのまんこに蓋をしてくれない、かな?」

 

「……いいのですか?

 すぐに治療所へ行った方が――気恥ずかしいようでしたら、ローラさんに頼むという手もありますし」

 

「休んで、体調が落ち着いたらそうするつもり、だったんだけど。

 なんか、ダメっぽい感じ」

 

 会話している間にも、エレナさんは雌汁を流し続けている。

 ここまで来ると、脱水症状も心配だ。

 

「たぶん、何回かイけば、気分だけでも落ち着くんじゃないかなって」

 

「……分かりました」

 

 そういうことであれば、仕方あるまい。

 まずは彼女を抱く必要がある。

 私はすぐに愚息を取り出すと――幸い、葵さんのこともあって準備は万端だ――エレナさんを抱きかかえ、その秘部へと突き込んだ。

 

「あ、あぁぁぁあああああっ!!

 来たっ!! 来たぁあああああっ!!!

 すごぉおおおいっ!!!」

 

 嬉しそうに喘ぎだすエレナさん。

 それほど喜んでもらえると、男冥利に尽きる。

 彼女の下の口も、私の息子を捕らえて離さない。

 よっぽど、コレが恋しかったようだ。

 

「ではヤりますよ、エレナさん。

 徹底的にイかせ尽くして差し上げます」

 

「うんっ――うんっ――いっぱい、して!

 いっぱい精子注いで、ボクを孕ませちゃって!!」

 

 涙目で懇願してくる。

 ならばこちらも全力で応えねば。

 私は腰を全力で動かし始める。

 

「あっ!! ああっ!! あああっ!!

 すごいよぉ!! ボクもうイクっ!!!」

 

「おや、もうイってしまうのですか?」

 

「敏感になってるのっ!! イっちゃう!!

 すぐイ――イクぅぅぅうううううううっ!!!!」

 

 ガクガク震えだすエレナさん。

 ほとんど挿入しただけでイったようなものだ。

 

「……どうです、少しは気が晴れましたか?」

 

「ふーっ……ふーっ……ま、まだまだ全然足りない……

 もっと、もっといっぱいシテ、クロダ君っ――!!」

 

「承知しました」

 

 というわけで、私はエレナさんの治療のため、精一杯お相手することになったのであった。

 

 「お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!! お”う”っ!!」

 

 すぐ隣では、葵さんが犯されてたりもするわけだが。

 しかし彼女とて五勇者の一人、この程度のことで参ったりはしないはず。

 明日になれば、また元気な姿を見せてくれるだろう。

 と、そう判断して――

 

「あぁあああっ!!! イクっ!! イクイクイクイクイクぅうううっ!!!!」

 

「んお”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!!」

 

 ――私は二つの喘ぎ声を聞きながら、夜を過ごしたのであった。

 

 

 

 

 第三十一話 完



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第三十二話 魔龍討滅戦 青龍ケセド
① 前日のこと


「……おい、ヒナタ。

 もう一度確認しろ」

 

 <次元迷宮>の中、アーニーさん――通称兄貴さんの声が響く。

 声をかけられた相手である陽葵さんはそれに応じ、

 

「あ、ああ、間違いねぇよ。

 ここが――その、“目的地”だ」

 

 彼は手に持った蒼い宝石『青の証』をじっと見つめながらそう答える。

 一緒に居た他の2人――リアさんと三下さんはその言葉を聞き、

 

「ほ、ホントに、到着したの……?」

 

「ま、マジっすか……?」

 

 呆然とした面持ちでそう返す。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 四者が四様に沈黙した。

 無理も無い。

 <次元迷宮>の奥底、青龍ケセドの場所にまで辿り着くというこのミッション。

 その至難さを、彼等は身に染みて理解しているのだから。

 これまでの道程で、どれほどの苦難を4人乗り越えてきたか、その苦労は余人である私が語ることなどできないだろう。

 

 しかし、その静寂も破られる時が来る。

 彼等の前に、ケセドの居場所へと繋げる『ゲート』があるのは間違いないのだから。

 

「――お、おお、おぉおおおおおっ!!!

 やった! やりましたぜ!! とうとう到着したんだ、俺ら!!

 うぉおおおっ!! 凄くね、コレ!!?」

 

 最初に口火を切ったのは、案の定三下さんだった。

 両手を突き上げ、派手に騒ぎ立てている。

 

「と、到着したんだ……!!

 凄い!! あたし達、凄い!!!

 やった――やったぁあああっ!!!」

 

 リアさんが満面の笑みを浮かべた。

 彼女がここまで喜ぶのは何気に珍しい。

 一度<次元迷宮>の赤色区域に挑み手痛い目に遭っている分、感激もひとしおなのだろう。

 

「……どうした、ヒナタ。

 浮かない顔だな。

 お前の目的が達成したんだぞ」

 

 一方で兄貴さんは冷静さを保ったまま。

 なんだか貫禄すらある。

 この探索行で彼は(なんのかんの文句言いつつも)年長者としてパーティーを取りまとめていた。

 今もなお、若干挙動不審な陽葵さんのことを気にかけてくれている。

 

「い、いや、だってさ。

 まさか、本当にここまで来れるだなんて――なんか、現実感がなくて。

 ……夢じゃないよ、な?」

 

 必死に迷宮の奥へ進んではいたものの、到着できるかどうか半信半疑なところがあったのだろう。

 実際、陽葵さんが<次元迷宮>で遭遇した“悲惨さ”は他の3人を余裕で凌ぐ。

 毎日のように異形の怪物に尻穴犯されては出産を繰り返していたのだ、自分の未来へ疑問も抱くというもの。

 だがそれでも、彼は見事に困難をやり遂げた!

 雄としての尊厳は最早欠片も残っていないかもしれないが!

 

「よし! そんじゃ早速――」

 

「待ちな、ボーイ!」

 

 目の前の『ゲート』に入ろうとする陽葵さんを、三下さんが止める。

 

「な、なんだよ急に!」

 

「お前さんよぅ、そんな“なり”で先に進むつもりかい?」

 

「……う」

 

 痛いところを突かれたように、陽葵さんが呻く。

 今の彼は――まあ、一言で言い表すなら“ボロボロ”だった。

 それはそうだ、今日だけでもいったい何匹の魔物と戦い、いったい幾つの罠を掻い潜って来たか。

 もっとも、服装の損傷具合については他の3人も似たり寄ったりではあるが。

 

「ケセドは曲がりなりにもお前の親父さんなんだろ?

 感動の再開んときにボロ着てちゃみっともないぜ。

 こういう時ゃ、カッコ良く決めていくもんさぁ!」

 

「んー、まあ、確かに……」

 

 三下さんの言葉に、陽葵さんが考え直し始める。

 リアさんもうんうんと頷いて、

 

「まだ何があるか分かったもんじゃないんだから、準備はちゃんとしてから向かった方がいいんじゃない?

 ……ケセドが素直に助けてくれるとも思えないし」

 

「というより、確実にまだ何かあるだろう。

 赤龍が“あんな”だったんだ、青龍がまともだとは思えん。

 さらなる無理難題を課されても、俺は驚かんぞ」

 

 同じ六龍である赤龍ゲブラーには散々な目に遭わせられたのだ。

 2人が青龍ケセドを信じられないのも無理はない。

 

「じゃあ、今日はいったんここで帰って、明日改めて進む?」

 

「それがいいんじゃないかしら」

 

 陽葵さんが思案の末出した結論に、リアさんが同意した。

 他の2人も異論が無いようだ。

 

 と、いうわけで。

 ゴール直前に迫った彼等は一度ウィンシュタットへと戻る選択をとった訳である。

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでした、陽葵さん」

 

「お、黒田。久しぶり!」

 

 セレンソン商会に戻った陽葵さんに声をかける。

 

「久しぶりという程、長く会っていない訳ではありませんよ」

 

「あー、そっか。

 いや、最近迷宮探索ばっかやってるせいか、一日がやたら長く感じてさー」

 

 確かに、朝から晩まで<次元迷宮>に篭りっきり。

 時間感覚が少しばかりおかしくなっても不思議はない。

 陽葵さんはさらに続けて、

 

「……それにほら、最近オマエ、オレのこと抱いてくれないし」

 

 頬を染めて、そんなことを言ってくる。

 むぅ、可愛い。

 毎日のように迷宮探索という重労働をこなしているというのに、その美貌にはまるで陰りが無い。

 商会でシャワーでも浴びたのか、短めに整えた金色の髪はしっとりとしている。

 ほのかに上気した肌が実に艶めかしい。

 

 ともあれ、確かに彼の言う通りだ。

 前に陽葵さんを抱いてから、なんと3日も(・・・)間が空いてしまっている。

 これは由々しき事態といえよう。

 

「申し訳ありません。

 陽葵さんのお仕事に支障が出るといけませんので……」

 

 頭を下げて謝罪した。

 実際問題、陽葵さんは非常に感じやすい体質なので、一度ヤると次の日に影響が出る程に精が果ててしまうのだ。

 この探索には彼の命がかかっている以上、如何に私とて早々妨げるような真似はできない。

 美咲さんから控えるよう厳命を受けていた、というのもあるが。

 

「……毎日してくれるって言ってたのに」

 

「うっ!?」

 

 その言葉を持ち出されると立つ瀬がない。

 “最初の約束”を破ってしまうとは、一生の不覚である。

 まあ、これまで本当に毎日していたかというと、一週間のうちに1、2回くらいはしなかった日もあったりした訳だが――それは今問題ではない。

 つまるところ、陽葵さんをそれだけ寂しがらせてしまったことこそが焦点である。

 

「本当に申し訳ないことをしました……」

 

「あっ」

 

 そう言う訳で、すすすっと彼のお尻に手を伸ばす。

 

「おおお――」

 

 思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

 ショートパンツの上からでも分かる理想的な曲線。

 相変わらずこの尻肉は素晴らしい。

 いや、しかしこれは――

 

「ひょっとして、前より肉付きが良くなったんじゃないですか」

 

「んっ、ふぅっ、尻揉みながら変なこと聞くなよっ!

 ……いやその、最近ちょっとパンツがきつくなったかな、とは思ってたけど」

 

「なるほどなるほど」

 

 陽葵さんの尻はさらなる進化を遂げていたらしい。

 出会った当初から雌尻として完成の域にあったのだが、よりプリプリと尻肉を付けていったのだ。

 この感触、最早生半可なものではない。

 

「私を含め、色々な人に揉まれてきましたからね」

 

「またそういうことを言う――あ、んんっ、急に強く揉むなよ、あ、あぅっ」

 

 軽く悶えながら、ピクピク肢体を震わす陽葵さん。

 実に可愛らしく、実にエロい。

 そしてエロいといえば尻だけでなく。

 

「こちらも、いい眺めですよね」

 

 彼のシャツを捲り上げた。

 なだらかな丘の頂点には、ピンク色の鮮やかな果実がちょこんと鎮座している。

 この美しさ、女性でもそうは出せない。

 

「というより、これはもう女性の胸と呼んでいいのではないでしょうか?」

 

「誰に聞いてんだよ!?

 だいたい、男の胸をさして女みたいだなんて、おかしいだろ!

 ――――その。オレ、おっぱいちっちゃいし」

 

 陽葵さんが愛らしく俯く。

 普通、男性は自分の胸を小さいだなんて形容しないし、小さいことを気にしたりもしないのだが。

 それをここで突っ込むのは野暮というものである。

 突っ込むのはイチモツだけで十分だ、いや指とかも挿れたいが。

 

「では早速――」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」

 

 床に押し倒そうとする私を、陽葵さんが手で制した。

 頬を赤く染めたその表情を見るに、嫌がっている訳では無さそうだが――

 

「どうしました?」

 

「いや、こんなところじゃなくてさ。

 その――オマエの家で、したいんだけど……」

 

「おや、そうでしたか」

 

 確かにベッドの上の方がリラックスする分、性交に集中できる。

 久々のセックスを愉しみたいという、陽葵さんなりの配慮であろう。

 幸いというかなんというか、今日は美咲さんをはじめとした来客はいない。

 

「ならば、まずは一緒に帰りましょうか」

 

「お、おうっ!」

 

 その嬉しそうな笑顔の魅力に、やはりここで食べてしまいたいという欲求を私は必死に抑えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで。

 

「……一緒に行くとは言ったけどさ」

 

 今は帰宅途中。

 日が暮れる街並みを、陽葵さんと一緒に歩いているのだが、

 

「これは、流石に……」

 

 陽葵さんは俯きがち。

 顔が真っ赤になりながら、もじもじしている。

 

「どうかされましたか?」

 

「どうかされましたか、じゃないだろう!?

 な、なんでこんな格好させてんだよ!」

 

 怒鳴る陽葵さん。

 しかし――

 

「――探索の時の装備(・・・・・・・)になって貰っただけではないですか」

 

「そうだけど。そうだけどさぁ!」

 

 今、彼が着ているのは<次元迷宮>探索でいつも着ている服である。

 即ち、ミスリル繊維を縫い込んだジャケットにタンクトップ、それとショートパンツ。

 ここだけ抜き取れば割といつもの服装そのままなのだが――

 

「探索してる時はそっちに必死であんま気になんなかったんだよ!

 まあシャツはいいさ、腹が出るだけだし。

 でもこのパンツは――し、尻丸出しじゃないか。

 丈が無さすぎて、は、はみ出しそう……」

 

 後半、台詞に勢いが無くなっている。

 

 改めて彼の服を説明させて頂くと。

 丈の短いタンクトップに、エグイ程にローライズなショートパンツ――形状としては最早ショーツに近い――なのである。

 陽葵さん的にお腹を露出するのは気にならないようだが、パンツは流石に厳しいらしい。

 実際、お尻の北半球が露わになっているし、下側だって本当にギリギリのところしか隠れていない。

 

「でもその格好でこれまで戦ってきたんですよ?」

 

「う、うぅぅ……」

 

 耳まで赤くなって、完全に下を向いてしまった。

 今更自分の痴態を自覚したということなのか。

 もっとも、探索時はこれに加えて全身を覆うボディスーツも下に着込んでいるので、然程肌の露出が気にならなかったのだろう。

 ピッチピチのスーツなので、見てる分には裸と大差ないが。

 おかげで、仕事中も大分目の保養ができた。

 

「こ、こんな格好してたら、変態だと思われる」

 

「……否定はしにくいですね」

 

「してくれよ!?」

 

 いやしかし、私はその服を着て欲しいとお願いしただけで強制はしていないのだ。

 あくまで、今の服装は陽葵さんの意思である。

 

「ですが安心して下さい。

 この時間帯のウィンガストは慌ただしいですから。

 皆さん、余り気にしてはいませんよ」

 

「そうかぁ?」

 

 実際は、先程から結構な視線を向けられてたりするけれども。

 すれ違う男達は誰もが陽葵さんの姿を目で追っていた。

 目で追うどころか、後をついてきている人すら幾人もいる。

 そりゃ、こんな美少女(彼の性別を外見から判断することは不可能である)がお腹とお尻を丸出しにして歩いていたら、ストーキングの一つもしたくなるというものだ。

 

「それに、やはり陽葵さんにはその服装が似合っていますよ」

 

「……そ、そうかな」

 

「勿論です」

 

 一転、照れ笑いを浮かべだす陽葵さん。

 何度も言うけれども本気で可愛らしい。

 この笑みに堕ちない男などいないと断言できる。

 

 それはそれとして、この服装がお似合いであることもまた事実である。

 彼の魅力を十二分に引き出していると言えよう。

 まあ、陽葵さんはスタイルが(胸以外)神懸かり的に整っているので、何を着ても愛らしいことに変わりはないのだが。

 臀部の双丘をこれでもかという程に見せつけ、それでいて一番大事な部分だけは隠れているというコンセプトが、フェチ心を擽ってくる。

 それに何より――

 

「この格好ですと、尻穴を弄るのも楽ですからね」

 

「んお!?」

 

 腕を伸ばし、徐に陽葵さんの菊門を擦った。

 ローライズすぎて、尻の割れ目を広げてさえしまえば、パンツを降ろさずともソコに触れるのである。

 

「ま、待って、クロダっ――お、お、お、こんな、こんなとこでされたら――

 お、お、お、おお、お、バレちゃうっ、お、お、お、バレ、ちゃうよっ!?」

 

 軽く悶えつつも、制止の言葉らしきものを口にしてくる。

 しかし全力で拒んでこないあたり、陽葵さんもこれから起こることに期待しているのではないだろうか?

 

「ココを弄られるのは、嫌ですか?」

 

 そう言いつつ、指をぐいっと尻穴に押し込む。

 グチュッという音が立ち、根本まで指が挿入された。

 

「はっ!? あ、う――!?」

 

 陽葵さんの肢体が一瞬硬直する。

 既に歩きは止まっていた。

 それに気を回せる程、今の彼に余裕はないようだ。

 

「どうです?

 嫌というなら、止めますが……」

 

「んぉ!? おっおっおっおっ!?」

 

 穴に突っ込む指をさらに1本、また1本と増やす。

 合計3本の指で陽葵さんの直腸を掻き混ぜてやる。

 これだけ挿入しても、彼の菊門は余裕をもって受け入れてくれた。

 流石は数多の魔物の産卵管を受け入れ、幾度もの産卵を潜り抜けた尻穴である。

 

「お、お、おお、おおお、お、い、嫌じゃ、ない、お、お、お、お、お――!?

 嫌じゃない、けど、お、お、お、おおおおおっ!?」

 

「では、もっとして欲しい、と」

 

 3本の指を抜き差しする。

 尻穴はもうぐちゃぐちゃになっていた。

 ポタポタと汁が垂れてくる程に。

 陽葵さんのアナルは既に出来上がっている。

 

「し、して欲しいっ! お、お、お、お、おっ!?

 気持ちいいんだ、気持ちいいか、ら、お、お、おお、お、おおおおっ!!

 で、でも、でも、このままだと、お、お、お、このままだとっおっおっおおおっ!!!」

 

「このままだと、どうなるというんです?」

 

「で、で、出ちゃうっ! このまま尻穴じゅぽじゅぽされたら、出しちゃうんだよぉっ!!

 おっ! おっ! おおっ! おっ! おっ!!」

 

 言いつつ、陽葵さんは自分でも腰を動かし始める。

 言葉と裏腹にもっと快感を得たい様子。

 これまで余り見たことの無い、凄い積極性である。

 ティファレトによる調教の成果だろうか?

 

「あっ! あっ! あっ! あっ! 出るっ!!

 あっ! あっ! ああっ! あああっ!! 出ちゃうよぉっ!!?」

 

「いいんですよ、思い切りだして下さい」

 

 就き込んだ指の位置を調整する。

 奥へと進ませるのではなく、それより手前――腸の肉壁をなぞる。

 すると、指先に軽く違和感の出る場所があった。

 その壁の先に“何か”あるのが分かる。

 

「おひぃいいいっ!!?」

 

 触っただけで、陽葵さんが一際高く嬌声をあげた。

 ココこそが、前立腺だ。

 

「さあ、思い切りイキましょう」

 

 宣言と共に、前立腺を指先で力強く叩く。

 手をピストンのように動かし、何度も何度も突いてやる。

 

「おふっ! おっ! おおっ! おぉおっ!!

 ひ、響くっ!! ちんこ後ろからゴリゴリされて、響いてるぅっ!!?

 おっ! おっ! おっ! おっ! おおおおっ!!!」

 

 足をガクガクと震わせながらも、

 ここは一つ、彼の自主性を重んじてみよう。

 そう考え、私は一端手の動きを止めた。

 

「お、お、お…………?」

 

 突然刺激が止められ、訝し気な顔をする陽葵さん。

 瞳が蕩けきった彼をじっと見据えて、

 

自分で(・・・)イクんです。

 できますよね?」

 

「……あ、ああ」

 

 こくりと頷くと、陽葵さんは大きく腰をグラインドしだした。

 一番気持ちの良いところへ私の指が当たるように、どうにか角度を調整してお尻を振っている。

 

「お、おお、おお、おおおおっ! おっ! おっ! おっ! おっ!」

 

 再び喘ぎ声が上がる。

 今、彼は他人により強制ではなく、自分の意思で快楽を貪り始めたのだ。

 つまるところ公衆の面前でオナニーをしているだけなのだけれど。

 

 「な、何やってんだ、こんなとこで……!?」

 「あんな綺麗な子が、痴女なのか」

 「へ、変態」

 「頭おかしいんじゃない!?」

 

 周囲の人々も、そんな陽葵さんに興味深々だ。

 いつの間にかちょっとした人だかりまでできている。

 中には少々侮蔑の言葉も混じっているが、いたしかたない。

 やってることがやってることなので、ここは堪えねばならぬところである。

 

「お、お、おお、お、おおっ! い、イイ、イイっ!!

 当たるっ、き、気持ちいいとこ、当たってるっ、お、お、おおっ! おっ! おおおおっ!!」

 

 とはいえ、陽葵さんはもう周りのことなど目に入っていないようだ。

 私の指を尻穴で咥え込もうと、一心不乱に腰を振っている。

 

「お、お、お、お、おお、おっ、い、い、いい、い、イクッ――!!

 い、イク、イク、い、い、イク、イク、イク、イクッ――――!!!!」

 

 もうあと一歩で絶頂を迎えそうだ。

 快感が最高潮へ昂ったせいか、尻肉からは汁が零れて地面に染みを作っている。

 口を半開きにし、ただただ無心に絶頂へと上り詰めていた。

 

「おっ!! おっ!! おおおっ!! イクっ!! イっちゃう!!

 イクっ!! イクっ!! んぉぉぉおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

 陽葵さんが仰け反った。

 そのまま肢体を硬直させ――股間から、白く濁った液体が宙に迸った。

 ショートパンツが勃起に耐えられず、男性器がはみ出してしまったようだ。

 まあ、本当にギリギリの股間部だけしか覆っていなかったのだから、仕方ないことである。

 ……先ほど陽葵さんが“出る”と言っていたのは、こっちのことだったのかもしれない。

 

 「え、え、男!?」

 「男の子なの!? あの子!?」

 「うっそー!?」

 「女にしか見えなかったぞ!?」

 

 陽葵さんの股間に生えたモノを見た観衆は、一様に驚愕している。

 人のコトは言えない、私もまた彼の性別を知った際には大層驚いたものだ。

 今では、男であることは寧ろ大切な個性だと認識しているが。

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ」

 

 一方で、陽葵さんは未だに周りが見えていない。

 絶頂の余韻に浸り、荒く息を吐くのみだ。

 

「ふーっ、ふーっ、ふーっ――――あふっ!?」

 

 一瞬、彼の肢体がビクっと震える。

 挿入していた指を引き抜いたのだ。

 彼の菊門はすぐに閉じることなく、物欲しそうにヒクついている。

 

「ごくり」

 

 思わず唾を飲み込む。

 ソコへイチモツを挿入したい欲求に駆られたのだ。

 早くこの名器を味わいたい、と。

 

「――いけない、いけない」

 

 頭を振って、どうにか邪念を抑え込む。

 本番は家に着いてからという約束だ。

 破るわけにはいかない。

 

「しかし、このままだと到着まで大分かかりそうですね……」

 

 前後不覚に陥っている陽葵さんを見て、そう呟く。

 まだ時折痙攣を起こす程だ。

 正気に戻るまで、少々時間がかかるだろう。

 ……仕方ない、か。

 

「よいしょっと」

 

 陽葵さんを抱え上げる。

 少々不格好だが、物理的に彼を持って帰ることにした――のだが。

 

 「うぉおおおっ!?」

 

 その時、歓声にも似た騒めきが聞こえる。

 いったいどうしたというのか。

 

 「だ、大開帳!?」

 「……エロい」

 「あんなことまでさせてくれるのかよ」

 「お、俺も混じりてぇ」

 「変態すぎる……」

 

 観衆の視線が、陽葵さんの股間に注がれていた。

 私が彼の太ももを後ろから抱え上げた、背面駅弁のような姿勢をとっているからだろう。

 この体勢だと陽葵さんの股が思い切り広がり、恥部を周囲に見せびらかすような形となる。

 

「くっ、なんたる失態」

 

 互いの位置関係からついついこんな抱え方をしてしまったのだ。

 本当に他意は無いのである(強調)。

 しかしまあ、本人は未だトリップ中で状況に気付いていないようだし、このまま街中を突っ切るのに不都合はあるまい。

 私は陽葵さんを抱いたまま、未だ騒めきの収まらない群衆の間を抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 時は経ち、夜。

 

「んぉっ!? おっ!! おっ!! おっ!! おっ!! おっ!! おっ!!」

 

 場所は私の自宅。

 ベッドの上でうつ伏せになった全裸の陽葵さんを犯している最中である。

 

「――っ! また出しますよ!!」

 

「おっ!! おっ!! おおっ!!

 おぁあああああああああああっ!!!?」

 

 彼は肢体を震わせながら、4度目の射精を受け入れた。

 腸壁が私のイチモツを絞り、一滴漏らさず搾り取っていく。

 流石は陽葵さんの尻穴である。

 

「は、あ、う、あ――んんっ!?」

 

 絶頂により息も絶え絶えな少年の頭を掴みこちらを振り向かせると、顔を近づけ口づけをした。

 

「ん、ん、んん、んふっ――ピチャ、ンチュッ――あ、んぁ、んぅ――んぅぅぅ」

 

 舌と舌が絡まり合う。

 女性のように繊細で、しかし男のような力強さも感じられる。

 この絶妙さがなんともいえない魅力である。

 

「んっんっんっ――――は、う」

 

 口内を十分に堪能したところで、一旦口を離した。

 ようやく息が整い始めた彼へ、話しかける。

 

「ふぅ、イイ感じに温まってきましたね」

 

「あ、温まるどころか――腹の中、オマエの精液でいっぱいだし。

 ん、んん、熱い――」

 

 うっとりした顔で、お腹を擦る陽葵さん。

 その仕草は実に淫猥な空気を醸し出していた。

 彼はさらに自身の股間を一瞥してから、

 

「――ん、ふぅ。

 けつもちんこも、もう、トロトロになっちゃってる」

 

「確かに、陽葵さんのモノは既にぐちゃぐちゃですね」

 

「あ――ひゃうっ!?」

 

 先走り汁だとか精液だとか潮だとかで、彼の男性器は濡れ濡れだった。

 感度も大分上がっているようで、ちょっと握っただけで反応してしまっている。

 シーツには、陽葵さんの“液体”でできた染みがあちこちにできていた。

 そのまま少し扱いてやると――

 

「あ、あ、あ、待った、そんな、されたら、あ、あ、あ、ああ、あ、い、イク、イク、またイっちゃうっ!!!?」

 

 ――陽葵さんは脚をピンと伸ばし、呆気なく射精してしまった。

 といっても、出るのは白濁した代物ではなく、透明な液体であったが。

 

「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ――だ、だから、イクって言ったのに」

 

「いえ、すいません。

 陽葵さんが可愛かったもので、つい」

 

 ジロリと睨んでくる彼に、誤魔化し笑いで返す。

 

「そ、そういうことならいいけどさ」

 

 いいのか。

 まあ、実際問題として本気で陽葵さんは愛らしい。

 顔を赤くしてそっぽを向いた、今の仕草もまた可愛らしさ全開である。

 なので、ちょっと抱きかかえてみた。

 

「――――あっ」

 

 小さく吐息を漏らすも、特に抵抗は無し。

 まあ、ことここに至り、今更嫌がりはしないだろうけれども。

 

「何度触っても良い心地ですね、陽葵さんの肌は」

 

「ん、んん――む、胸揉みながら変なこと言うな!」

 

「では触って欲しくないと?」

 

「……ここでそういう返しはずるいだろ。

 シテ欲しいからここに来たのに」

 

 それもそうだ。

 意地悪な質問であった。

 

「オマエと初めて会ったときは、こんな関係になるなんて思いもしなかったけどな」

 

「そうだったのですか?

 私はなんとしてでも陽葵さんを抱こうと、固く誓ったものですが」

 

「そんなこと考えてたのかよ……!?」

 

 これだけ愛くるしい子が目の前に現れたら、誰だってお近づきになりたいと思うだろう。

 陽葵さんが男であろうと、それは関係ない。

 この綺麗な乳首に、むっちりと肉の詰まった尻、そして女性器同然の菊門。

 どれをとっても彼の肢体は一級品なのだから。

 

「あ、あ、あ、あ――て、手つきがやらしいぞ!?」

 

「まあ、やらしいことしてる訳ですからね」

 

「そりゃそうだけど――あ、あ、ああ、やば、またイクっ!?

 ちょ、ちょっと、ダメ、あ、あ、あああ、ああ、あ、ち、乳首で、乳首でイっちゃう――――っっ!!?!?」

 

 声にならない叫びを上げて、陽葵さんはまたイった。

 イチモツから何も出てこないところを見ると、ドライオーガズムのようだ。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、お、おい黒田、一旦ストップ、イカせるの待って。

 オレ、もっと話がしたいんだから」

 

「むむ、仕方がありません」

 

 まだまだ夜は長い。

 そう焦る必要もないか。

 

「しかし話したいといっても、何を?」

 

「色々あるだろ、こっちの世界に来てからのこととか」

 

「……そうですね」

 

 確かに、陽葵さんにとってこっちに来てからは事件の連続だ。

 少し整理してみるか。

 

「突如異世界に来て冒険者になってみたら魔王の息子だと言われ、しかし魔族が欲しいのは陽葵さんの体のみで心を壊されそうになり。

 それをどうにか解決したところ、魔王は裏で六龍に操られいる事実発覚、実は陽葵さんは六龍の力を入れる器で、龍達は勇者達を使って虎視眈々とその体を狙っている、と。

 やはりどうにかこうにかして赤龍ゲブラーを倒したものの、龍の力に陽葵さんの魂は耐えられないため龍の力を宿しても自分では使うことができず。

 しかし実は滅びる一歩手前なこの世界を救うためには六龍の力を集めてそれを行使する必要がありまして。

 だから魂が壊れずに済むように、青龍ケセドへ会いに行っている、と」

 

「状況が複雑な上に深刻だ!?

 ……改めて聞くと酷いな、コレ。

 ところどころでオマエに犯されてたから、いまいち全容が把握しにくかったけど」

 

「陽葵さんに手を出しているのは、私だけではない筈ですが」

 

「黒田が事の発端だろ!

 オマエがちゃんとしてたら、オレは至極真っ当な異世界ファンタジーを体験してた筈なんだよ!」

 

 そうだろうか。

 そうかもしれない。

 しかし真っ当なファンタジー世界観は、美咲さんの手によって既に壊されていたような気がしないでもない。

 

「とにもかくにも、ガチで命の危機がやばいから本気で命懸けの迷宮探索したわけだ!

 そんで、今日晴れてゴール一歩手前まで辿り着いたと!」

 

「御目出度いことです。

 パーティーでも開けば良かったですかね」

 

「今日はしっかり英気を養うこと、て言われてさっさと解散しちゃったからなぁ」

 

 残念そうに言う陽葵さん。。

 ただ、他のメンバーが薄情とは言い難い。

 実際にケセドに会って、どうなるか予想がつかないからだ。

 祝うのは、全てが終わった後でも遅くない。

 

「あー、しかしですね。

 先程の話を蒸し返してしまいますが、<次元迷宮>の冒険は実にファンタジーな体験だったのでは?」

 

「毎日毎日魔物にけつ犯されるようなファンタジーがあってたまるか!?」

 

「……意外にありそうな気もしますね」

 

 間違いなくR18な作品だろうけれども。

 

「うっさい! 変な返答すんな!

 オマエはヤってばっかりでヤられたことないから軽く言えるんだ!!」

 

 いや、その、実は既に――

 あー、しかしこのことは余り思い出したくないので、口にはしないことにする。

 陽葵さんが望んでいる内容でもない筈だ。

 

「まあまあ、陽葵さんも気持ち良さそう卵を産んでたじゃないですか。

 白目剥いて泡吐く程に」

 

「あの状態を気持ち良さそうと言えるオマエの神経が分からん!

 本気で頭真っ白になってぶっ壊れそうになってんだよ、そん時!!

 そのせいでオレ、最近うんこするときイクようになっちまったんだぞ!?」

 

 そんな状況になってたのか。

 今度その場に立ち会わせて貰おう。

 

「それはそれは。

 スカトロプレイが捗りますね」

 

「変態も大概にしとけよ!

 絶対に付き合わないからな、そんなプレイ!!」

 

「その割に、股間が勃ち始めましたよ?」

 

 濡れ濡れになった陽葵さんの男性器が、むっくりと立ち上がっている。

 興奮してきたということだろう、が。

 

「せ、生理現象だ!」

 

 本人はあくまで否定。

 今の会話のどこにどんな生理現象の起きる余地があったというのか。

 

「……陽葵さんの期待はよく分かりましたので、いずれやってみましょう」

 

「しねぇよ!!

 ……あ、うん、“いずれ”がまたあれば、その、一回くらいやってみてもいいけど」

 

 陽葵さんが一気にトーンダウンした。

 ……気持ちは察するに余りある。

 軽い口調で纏めてしまったが、彼の置かれる立場は非常にシビアだ。

 青龍ケセドが神の力で解決――というような展開になればよいが、それは余りに楽観過ぎる。

 本人を前に決して口には出せないが、彼がこれから生き延びれる確率は、はっきりと低い。

 美咲さんの見立てである以上、間違いないだろう。

 

「大丈夫ですよ。

 いざともなれば、私も協力しますから」

 

「……うん」

 

「貴方とのスカトロプレイ実戦のためならば、どんな苦境とて乗り越えてみせましょう」

 

「そんなところにモチベーションを見出すな!!

 もっと、こう、あるだろう!?」

 

「例えばどのような?」

 

「た、例えば? そうだな――」

 

 腕を組んで考え出す陽葵さん。

 しばしの熟考の後、

 

「――なあ、皆で旅行してみないか?」

 

 そんなことを呟いた。

 

「リアとかローラとか、エレナも美咲も一緒にさ。

 アーニーやサンも誘って……ついでにボーさんやジャン達にも声かけるか?

 皆で、この大陸をあっちこっち旅するんだ。

 黒田って、どうせこの街から出たことないんだろ?」

 

「それは――はい、その通りです」

 

「やっぱりな。

 オマエのコトだからそうだと思ったよ。

 探求心とか冒険心とか全くないもんな」

 

 したり顔で頷く陽葵さん。

 いや、違うのだ。

 この街から出なかったのは、勇者や六龍との戦いを見据えた用意や特訓を行っていたからであって。

 ……私に探求意欲が無いことに間違いではないけれども。

 

「せっかく異世界に来たんだから、色々見て回らなきゃ損だって!

 きっと、面白いもんが一杯あるぞ!

 それを片っ端から皆と見に行くんだ、絶対面白いぜ!!

 あ、逆に日本へ誘うのもいいかもな?

 アハハ、皆が驚く顔が目に浮かぶようだ」

 

 陽葵さんは意気揚々と語る。

 その様子は本当に楽しそうだった。

 

「そうですね。

 様々な場所での遊び(・・)や、新たな出会い(・・・)には心躍るものがあります」

 

「……なんか違う意味を込めてるだろ」

 

 一転、ジト目になった。

 しかしすぐに視線を逸らし、

 

「――ま、まあ、別にオレは、オマエと2人きりの旅でもいいんだけどさ」

 

 そんな、嬉しいことを言ってくれる。

 うむ、陽葵さんと2人旅し、毎日違う場所でプレイに興じるのも、気持ち良さそうだ。

 勿論、単純に旅行を楽しむ気持ちもある――本当本当。

 

「ええ、そういう旅も面白そうですね」

 

「お、言ったな?

 言ったからには、本当にやってもらうぞ」

 

「はい、構いませんよ」

 

 陽葵さんと一緒に旅をするなんて、嬉しさこそあれ嫌がる理由などどこにもない。

 

「美咲に止められてもやってもらうぞ」

 

「……覚悟を決める時間を下さい」

 

 下手をすると私は殺されてしまうかもしれない。

 そうなってもよい、という決心を付ける時間が必要だ。

 

「まあ、なんとかなるでしょう、きっと」

 

「濁しやがったな」

 

「はっはっはっは」

 

 その時はその時で考えるしかない。

 とりあえず、先のことはともかく――

 

「――今は、今を楽しみましょう」

 

「あっ」

 

 陽葵さんを抱きしめる。

 柔らかな肉の付いた、細く華奢な身体。

 そしてその肌の滑らかさを、全身で感じられる。

 肢体の温みは心を落ち着かせてくれた。

 欲情を搔き乱してもくれるのだが。

 

「また、始めるのか――あぅっ」

 

「ええ、よろしいでしょうか?」

 

 むちむちの尻肉を揉みしだきながら尋ねる。

 

「あ、あ、あぅ――い、いいよ。

 オレも、もっと黒田を感じたい。

 オレの中、黒田でいっぱいにして欲しい……!!」

 

 陽葵さんは発情しかけた顔でそう懇願してきた。

 

「いいですよ、吐き出すくらい、お尻に注いであげます」

 

 抱き合った姿勢のまま、彼の穴にイチモツを挿入する。

 解されに解された菊門は、何の抵抗もなく私を受け入れた。

 

「あ、あ、あ、あ、あっ――は、入って来たあぁぁぁ♪」

 

 嬉しそうに嬌声をあげる陽葵さん。

 あちらもイチモツを固く勃起させている。

 気持ち良くて堪らないのだろう。

 それはこちらも同じで、尻穴は実に心地よく私の愚息を締めつけてくれた。

 

「さあ、行きますよ」

 

「うん、うん♪ 来て、来てっ♪」

 

 私が腰を動かし始めると、陽葵さんもまた尻を上下に振り始める。

 2人の肉がぶつかり、パンパンと小気味良いリズムを奏でる。

 

「あ、あ、あ、あ、あ――あぁああ、お、おお、お、おおぉおおっ!!

 おお、お、おおお、く、黒田っ、キス、キスもしてっ!!」

 

「分かりましたっ」

 

 繋がったまま、彼の潤った唇にむしゃぶりつく。

 

「んんっ――ん、んんんっ――ちゅっちゅっ――れろれろっ――ん、ああ、ああ、あああっ――ん、ちゅっ」

 

 ピチャピチャと音を立ててキスをしながら、私達は交わり続ける。

 

 

 

 ――どうか。

 陽葵さんと過ごす日々に、“終わり”が来ないことを祈りながら。

 

 

 

 

 第三十二話②へ続く



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②! 青龍との邂逅

 

 

 明けて、次の日。

 とうとう、青龍ケセドと対面する時が迫っていた。

 ――などと大仰に言ったところで、『青の証』を使用してささっと最後のゲートの前に到着したわけだが。

 やはりセーブポイントというのは有難いものである。

 

 陽葵さんはゲートの前で手をワキワキとさせると、

 

「さーて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

「龍が出るんでしょ?」

 

「……いや、そりゃそうなんだけど」

 

 リアさんの無遠慮なつっこみに気勢を削がれている。

 

「あー、嬢ちゃん?

 坊主はきっとそういう意味で言ったんじゃないと思うぜ?」

 

「意外と空気を読まなんな、お前」

 

 それこそ空気が読めるのかどうか怪しい三下と兄貴さんなのだが。

 とにもかくにも、4人の準備は整った。

 

「じゃあ、行くぜ」

 

「ええ」

「いつでもいいぜぃ」

「さっさとやれ」

 

 陽葵さんが『青の証』をゲートに近づける。

 ゲートはその宝石の力に依って固定され、最後の階層への“道”が造られた。

 最初にその道をくぐるのは、当然陽葵さんだ。

 彼は手をゲートに伸ばし―――――え?

 

「え!?」

 

 私の想いと陽葵さんの呟きが重なった……いや、そんなこと言ってる場合じゃない。

 

「ヒナタ!?」

 

 リアさんが大声を出す。

 ゲートが急に広がり(・・・)、陽葵さんを飲み込み始めたのだ(・・・・・・・・・)

 当然、そんなゲートがそんな動きをするなんて聞いたことが無い――というかちょっと待てくれ、なんだそれ!

 

「このぉっ!!」

 

 私が動転してる内に、リアさんが動いた。

 陽葵さんを引き戻すべく、その腕を掴もうとしたのだ。

 

「あつっ!?」

 

 しかし、ゲートが彼女を弾き飛ばした(・・・・・・)

 無論、これも初めて見る現象だ。

 そんな彼女を追い抜くように、兄貴さんが前に出る。

 

「<次元断(ディメンジョン・カット)>!」

 

 いきなり大技ぶちかました!?

 ゲートを破壊するつもりか!

 思い切りが良すぎるが、しかしナイス判断かもしれない。

 空間そのものを切り裂く<戦士>系最上位スキルであれば或いは――!

 

「――これも弾くのか!?」

 

 兄貴さんが驚愕の声を上げる。

 私も同じ心境だ。

 単純な破壊力という点においてあの技以上のスキルは存在しない。

 私の“爆縮雷光(アトミック・プラズマ)”すら斬れる筈だ。

 それが防がれたとなると――

 

「クロダの旦那ぁ!!

 ぼけっと見てないで早く来てくだせぇ!!」

 

 三下さんが声を張り上げる。

 そ、そうだった。

 こうして傍観している場合ではない。

 “風迅(ブラスト・オーバー)”――体の駆動箇所全てへ<射出(ウエポンシュート)>を使用した超加速により、一気に彼等と肉薄する。

 

「うぉおおおっ!!」

 

 気合い一閃!

 全力疾走の勢いそのままに、陽葵さんへ手を伸ばす!

 “風迅”の速度と“戦神の籠手”の強度が合されば、ゲートの妨害を突き破れるかも――

 

「ぬぁああああっ!!!?」

 

 ――というのは、甘すぎる考えであった。

 他の2人同様、私の身体もまた後方へ大きく弾き飛ばされた。

 

「ヒナタッ!!」

 

 リアさんの悲痛な声。

 私達の目の前で、陽葵さんはただ一人、ゲートに飲み込まれてしまった。

 後には何も残らない。

 青龍へと繋がるゲートそのものすらも。

 

「……やられた」

 

 苦々しく呟く。

 こうもあっさり分断されてしまうとは。

 ……いったい、どういうつもりだ、ケセド。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「…………どこだ、ここ」

 

 気付けば、室坂陽葵は一人、その“部屋”に立っていた。

 いや、部屋というにはあまりに広い。

 ドーム球場程度の広さはあるのではないだろうか――いや、ドーム球場に行ったことは無いのだが。

 さらに部屋の材質は、ファンタジーにそぐわぬ実に無機質なもの。

 

「リア達とは離れ離れになっちまうし。

 くそっ」

 

 毒づく。

 間違いなく、青龍ケセドの仕業だろう。

 それ以外考えられない。

 問題なのは、奴が何を企んでいるか、なのだが……

 

「オレを殺す――ってのは、流石に無い、よな。

 うん、無いはず」

 

 六龍に対する自分の役割を鑑みるに、いきなり命を取られるようなことだけ(・・)は無いはずだ。

 それ以外には何をされるか分かったものでは無いが。

 

(……でも。

 一応、オレの親父らしいし)

 

 黒田とティファレトの関係を聞くに、龍といっても情が無いわけでも無い、ようだ。

 ここへ来させたのも、陽葵を助けるためなのだから。

 

(そのはず、なんだけどなぁ!

 ああもう、考えれば考える程不安になる!)

 

 ただ助けるためなら何故こんな場所に来なければならなかったのだとか。

 何故<次元迷宮>を踏破しなければならなかったのかとか。

 そもそもどうやって助けるつもりなのだとか。

 気になる点は山ほどあるのだ。

 考えても仕方ないので、これまでそういう感情は押し殺して迷宮探索を続けてきたのだが。

 

「だいたい、これからどうすりゃいいんだよ」

 

 待っても何かが起こる気配が無い。

 ここからさらに移動しなければならないのだろうか?

 

(一先ず、この広間を調べてみるか)

 

 そう考えて歩き始めた、その時。

 

 

『やぁ、お困りのようだね?』

 

「おわぁっ!?」

 

 

 いきなり、“ソレ”は現れた。

 陽葵の目の前に。

 巨大な――龍が。

 

「お、おお、おまおまおま、オマエはっ!?」

 

『まあまあ、言いたいことは分かるけれど時に落ち着きなさい。

 長ったらしい前フリとか面倒なのでさっさと自己紹介をすると、僕がケセドだ』

 

「け、けけ、ケセド……!」

 

 相手は割とフレンドリーな口調なのだが、陽葵は震えが止まらなかった。

 小心者――とは言わないで欲しい。

 数十メートル(・・・・・・)はある巨体を前にして、怯えるなというのは少々無茶だ。

 この<次元迷宮>で出遭ったどんな魔物よりも巨大であり、それどころか――

 

(ゲブラーよりでかいじゃないか!)

 

 ――以前に見た、赤龍を超えていた。

 しかしその身体はゲブラー同様に青色の光によって構成されており、その厳かな造詣も相まって幻想的な雰囲気を醸し出している。

 

(ていうか、なんかホログラムみたいだな)

 

 近未来的なこの部屋の光景が、陽葵にそんな感想を抱かせた。

 そう考えてみれば、どこか声も電子音に似ているようにも感じる。

 

「そ、それで、オマエはオレをどうするつもりだよ!?」

 

『どうもこうも助けるのさ。

 君、このままだと死んじゃうだろう?』

 

「……ほ、本当か?」

 

『勿論さぁ』

 

 変わらず馴れ馴れしい口調のケセド。

 だがこちらを助ける意思があるのは確かなようだ。

 しかし、信頼できる気もしない。

 

「だったら、なんで皆と離れ離れにしたんだよ。

 オマエ、何企んでるんだ?」

 

『そりゃ、色々企んでいるとも。

 なんの打算も無く人助けしたりはしないよ』

 

「……は、はっきり言いやがったな」

 

 あっさりバラしてくる青龍に、肩透かしを食らった気分だ。

 

『無償で動く相手より、打算で動いている相手の方が信用できるだろう?

 君は六龍が碌でも無い(・・・・・)連中だと既に知っているんだから』

 

「そうなんだけど、自分で断言するのか……」

 

 たった数度の発言で、大分この龍のキャラクターが見えてきた。

 拍子抜けする性格だが、こういうキャラの方が話はしやすい。

 

「じゃあ、オマエがどんなことを企んでるか、具体的に説明してくれたりするのか?」

 

『ふーむ、君には余り関係のないことなんだけれど、聞きたいというのなら教えてあげよう』

 

 ケセドは逡巡することなく答える。

 

『つまらない話だよ。

 そもそも、六龍それぞれの目的自体、実にくだらない。

 赤龍ゲブラーは人と人々の感情が渦巻く様を――特に負の感情を愉しんでいる。

 黄龍ティファレトは生命の繁栄を愛おしんでいて――自分が雌を孕ませるという形でね。

 緑龍ネツァクは純粋に競い合い・戦いが好きで――大陸中に戦乱を巻き起こしたいらしい。

 白龍ケテルは六龍本来の使命である魔素の排除に躍起になっている――魔素に犯されたこの大陸の全生命を抹消してでも。

 黒龍ビナーも六龍の使命に忠実だ――この世界を犠牲にしてでも、この世界を守りたいってさ』

 

「……碌な奴がいねぇ」

 

 どの龍が自分の願いをかなえたとしても、酷い結末を迎える未来しか見えない。

 予想はしていたことだが。

 

『うんうん、碌なのが居ない。

 そんな中で、僕のはまだマシな方だよ。

 僕――青龍ケセドは、情報を集めたいんだ』

 

「情報を?」

 

『そう、情報。

 僕は地球にも何度か足を運んだことがあるんだけど、そこで見た“インターネット”に心惹かれてね。

 ああいう風になってみたい、と思った。

 この世界のあらゆる情報を集積し、蓄積し、網羅したい。

 それが僕の望みであり、そのために僕は色々企てている』

 

「それは――まあ、あんまり害はないような?」

 

『そうだろう、そうだろう。

 毒にも薬にもならないからこそ、境谷美咲は僕と組みことを決めたわけだからね』

 

「そうだったのか。

 あ、でも全部情報を集め終わったら、その後どうするつもりなんだよ」

 

『それは分からないなぁ。

 ひょっとしたら危ない事(・・・・)を思いついてしまうかもしれないね。

 でも情報集めは100年やそこらで終わるような代物でもなし、君や君の子供、君の孫の代にいっても、僕は変わらず情報収集していると思うよ?』

 

「ふーん」

 

 そこまで先のことを今考えても仕方ない。

 無責任かもしれないが、陽葵は現状そこまで余裕のある立場でもない。

 

「で、そこにオレがどう関わってくるんだ?」

 

『いい質問だね。

 僕はこの世界でも地球のような“インターネット”を創ろうと試みた。

 でも、ここは科学技術がまるで発展していないから、同じようには無理だ。

 そこで、人を使って(・・・・・)似たモノを創れないかと思ったわけさ』

 

「人を?」

 

 きな臭くなってきた。

 しかしケセドはこちらの不安を払拭するかのように首を横に振ると、

 

『剣呑な話じゃないよ。

 <思考転送(テレパシー)>は知っているかな?

 遠くの誰かへ思考を飛ばすというスキルだ。

 それを応用して、人の思考を基にしたネットワークを創ろうと考えたんだ』

 

 人々の脳をサーバにして疑似的な“インターネット”を形成するつもり、らしい。

 

「できるのかよ、そんなこと」

 

『普通の人を使うと難しいね。

 思考に雑念が混じるからネットワークが上手く稼働しにくいし――まあ、思考が混ざり合うことによる副作用も危険だ。

 <思考転送>で純粋な情報のみをやり取りできる、特殊な才能を持つ人種が必要だ。

 恒常的にスキルを使うことになる関係上、相当の魔力も持っていなくてはならない。

 でもそんな人間、そうそう自然発生しなくてね。

 だから、元々高い魔力を持つ人間に、そういう才能を付与すべく“調整”したってわけ。

 つまりソレが――』

 

「――オレってことか」

 

『その通り!』

 

 ケセドが拍手をした。

 でかい龍がそんなことをするものだから、音がけたたましくて仕方ない。

 

「でも本当にそんな能力オレにあんのか?

 全然気づかなかったけど」

 

『そりゃそうだ、君は<思考転送>を習得していないし、純粋な情報交換ができるのは君と同じ才能の持ち主とだけだよ』

 

「それじゃ意味ないじゃないか」

 

『今はね。

 でも君はそのうち、増えるだろう(・・・・・・)?』

 

「増え――!? あ、オレの子供か!!」

 

『そういうこと。

 人の繁殖力は凄まじいからね。

 今は君だけでも、君の子供、そのまた子供、そのまたさらに子供、と倍々計算で増えていく。

 遠くないうちに、必要な人数揃うという算段さ!』

 

「そんな上手くいくか?」

 

『ぬかりはないよ。

 その“才能”は100%君の子孫へ遺伝するようになっている。

 君を男に設定した(・・・・・・)のもこの目的のためでね。

 一生のうちに作れる子供の数が、雄と雌で段違いだから』

 

「……あ、そう」

 

 こうも無味乾燥に“室坂陽葵は造られた存在なのだ”と語られれば、いい気分はしない。

 だがケセドはそんな陽葵の気持ちを知ってか知らずか、言葉を紡ぎ続けた。

 

『ちなみに、君の顔や身体が“女性のように魅力的”となるよう設定したのも僕なんだ。

 君の子供には例の才能のみならず、身体的特徴も色濃く受け継ぐようにしてある。

 それを知った男達は、君を量産(・・)しようとする筈さ。

 性別がどちらだろうと、どのみち“美女”になるのだからね。

 男なのに美女とはこれ如何に、って感じだが――君が男をどれだけ惹きつけるかは、既に身をもって知っているだろう?』

 

「……まあな」

 

 一瞬、色々な体験がフラッシュバックした。

 この世界に来てからというもの、陽葵は何人もの男に犯されてきたのだ。

 いい加減、自分が周りからどう見られているか、自覚はしている。

 しかし、ケセドの目論見通りにいった場合の未来絵図は余りぞっとしない。

 

(要するに種馬扱いされるってことだろ)

 

 逆に考えれば、酒池肉林にありつけるかもしれないが。

 とはいえ現状、そんなに先のことをアレコレ悩む余裕は無いので、とりあえず捨てておくことにした。

 そんな心中をよそに、ケセドは変わらぬ口調で語りかけてくる。

 

『ああ、一つ安心して欲しいことがある。

 このネットワークの形成に副作用は無いし、<思考転送>を個々人が習得する必要も無い。

 <思考転送>を使うのは、ネットワークの大本である僕だからね。

 君の子孫は、ごく普通の生活を送れるよ。

 僕は君達の脳が持つ機能の極々一部を拝借するだけなんだ』

 

「ふーん」

 

 気のない返事をする。

 相手を信じられる材料は乏しいが、ここで抗議しても無駄だろう。

 

『さて、これで説明は終わった。

 そういう訳で、僕は君に普通の人間として(・・・・・・・・)暮らしていって欲しいんだ。

 だから、君を助けるために動いたのさ。

 納得して貰えたかな?』

 

 矛盾はしていない、ように思う。

 

「一応な。

 ……あ、もう一ついいか?」

 

『どうぞ、なんなりと』

 

 やはり難なく了解が取れた。

 陽葵は、今更ながら若干の緊張をもって、質問を投げる。

 

「オレ――オマエがオレの親父だって、聞いてたんだけど」

 

『親?――ああ、まあ、そういう見方もできるかもね。

 東京で適当にうろついていた男と魔王とをかけ合わせて(・・・・・・)出来た子だから、血の繋がりとかは無いけど。

 その計画をしたのも、君を“調整”したのも僕だから、親と定義してもいい』

 

「……そうかよっ」

 

 意外なほど、心が暗く沈んでいくのを感じる。

 室坂陽葵は自分で考えている以上に、親というものへどこか憧憬を抱いていたのかもしれない。

 黒田とティファレトがなんやかんや仲良さそうなのを見て、なおさらその想いを強めてしまったのか。

 ひょっとしたら、自分もあんなやり取りができるのかもしれないと、夢想してしまったのか。

 実際のところ、ケセドは陽葵のことを便利な道具程度にしか見ていないようだった。

 

(ま、こんなもんさ)

 

 自らに言い聞かせる。

 これまで親など特に意識せずに生きてきたのだ。

 これからもそうするだけの話。

 今更どうということもない。

 

『さ、それでは君の疑問も解消したところで、早速オペに入ろうか』

 

 こちらのことなどお構いなしに、ケセドは話を進める。

 陽葵は半ばヤケクソの気持ちで、

 

「ああ、さっさとしてくれ」

 

『オーケーオーケー。

 だがその前に治療法を説明しておこう。

 インフォームドコンセントは大事、いいね?』

 

 ケセドは変なところ律儀だった。

 抗議する意味も無いので、耳を傾けることにする。

 

『僕の方でも様々に検討をしてみたんだ。

 その結果、やはり君の精神(ココロ)をどう強化しても、六龍の力には耐えられないことが分かった。

 こればかりは天性の才能に依るところが大きいので、如何ともしがたい。

 なのでまず、君の魂を一度消します(・・・・・・)

 

「え?」

 

『しかる後に、こちらで用意していた魂を君の体にインストールします。

 想定される負荷への耐久試験に見事クリアしたヤツさ。

 これで手術は完了! 大団円はすぐそこだ!

 いや、言葉にすると案外簡単なことだったね?』

 

「ま、待て!

 待てよ!!」

 

 喋り続けるケセドを、全力で止めにかかる。

 到底聞き逃せる台詞では無かった。

 

「オレの魂を消す!?

 それ、死ぬってことだろ(・・・・・・・・)!!?」

 

『そこは心配ご無用。

 新しい魂は君と寸分たがわず同じ人格・記憶が備わっている。

 ここまで<次元迷宮>を探索させていたのは、その間に君の情報を徹底的に調査するためでもあったんだ。

 術後も全く変わらぬ“室坂陽葵”として生活できることを保証するよ。

 仮にも神である僕が言うのだから間違いない』

 

「同じ性格と記憶持ってても、それで同一人物になるわきゃないだろ!?

 現に、オレは消えちまうんじゃないか!!

 そんなんで“助ける”とか言うなよ!!」

 

 喉が痛くなる程に強く叫んだ。

 あんまりな話だ。

 必死に、毎日のように酷い目に遭いながらも、青龍ケセドに会えば助かるという言葉を信じてここまで来たのだ。

 それなのに、突き付けられた現実は“室坂陽葵を消して新しい室坂陽葵を創る”というもの。

 ……やりきれない。

 

『ふむ、つまり“自己の連続性”を問題にしているわけだね。

 だがそこに関しても抜かりはない。

 実は、今僕達が居るこの“空間”、外部からは完全に隔離されていてね。

 それこそ他の龍や、境谷美咲であっても“ココ”を探知することは不可能なんだ。

 正直言うと、この空間を作り上げるのに、僕は相当の労力をかけている!』

 

「だ、だから何だってんだ……?」

 

『つまり、君の非連続性は観測されない(・・・・・・)、ということさ!

 唯一ソレを観測してしまう僕も、事を終えた後に記憶を完全に消去する。

 これで非連続性を証明することは不可能になり――逆説的に君の連続性が保たれる。

 新しい魂になったとしても、君は“室坂陽葵”なんだ!

 これにてきっちりハッピーエンド!

 世界は救われ、僕も目的を達成し、君も生を謳歌できる。

 うん、我ながら全方向へWin-Winな展開じゃないかな?』

 

「どこがだ!!!」

 

 絶叫。

 ケセドの論理はよく分からない。

 分からないが、これだけははっきりと確信した。

 “今の自分”は決して助からない、ということを。

 

「なんで――なんで、オレ――!

 頑張ってきたのに――!

 今日まで、歯を食いしばって頑張ってきたのに――!!」

 

 涙が零れてきた。

 ケセドと会うことへ、一縷の望みを託していたのだ。

 その希望を目指して、ひたむきに努力し続けてきた。

 これまでの人生で一番努力した。

 我武者羅に迷宮へ潜ったし、空いた時間には剣の稽古もしたし――男としての尊厳も捧げた。

 なのに提示された未来は、余りに絶望的な代物だった。

 

(どうすりゃ良かったんだ!?

 どうすりゃ良かったんだよ!!?)

 

 異世界に――普通とは違う世界に憧れなければ良かったのか。

 最初の職業選びで趣味に走らなければ良かったのか。

 煉先生(魔族)に従っていれば良かったのか。

 もっと厳しく修行していれば良かったのか。

 逆に何もかも放り出して逃げ出せば良かったのか。

 黒田と出会わなければよかったのか――或いは、もっと早く出会えていれば違ったのか。

 

 幾つもの考えが頭に浮かぶが、心の冷静な部分が残酷な解答を下す。

 ――きっと、何をしても無駄だったのだ。

 

「うっ――ぐっ――うぅっ――」

 

 圧し掛かってくる悲哀の重みに四肢に力が入らない。

 陽葵はその場でがっくりと膝をついてしまった。

 そのまま静かに嗚咽を漏らす。

 

 だがしかし。

 陽葵はまだ誤解していたのだ。

 ここ(・・)が、どん底なのだと。

 これ以上の“下”は無いのだと、無意識に考えてしまった。

 

『大分堪えたようだね。

 うん、仕方ない、そういう反応になるであろうことも想定していたとも』

 

 空間に、ケセドの声が響く。

 

『そんな状態で消してしまうのは、流石に忍びない(・・・・)

 言っただろう、合意は大事だって』

 

 何が合意か。

 最早、陽葵に選択肢は無いというのに。

 

『だから、こういう催しを(・・・・・・・)用意してみた(・・・・・・)

 

 言うや否や。

 天井の一部が光ったと思うと、そこから陽葵の頭に向かって一条の光が降った。

 

(何を――――――!?!!?!!?!?!?!?!?!?)

 

 ケセドが自分に対して何をしようとしたのか。

 疑問を口にする間は無かった。

 陽葵の前身に絶大な快感(・・)が走ったのだ。

 

「――あっ!!!?」

 

 口から声が出る。

 

「あっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!? あっ!!?」

 

 身体をガクガクと揺らしながら、壊れたように一つの音を鳴らす。

 陽葵の意思では止められなかった。

 というより、意思が一瞬吹き飛んでいた。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!?!!!?!?!!」

 

 喉が張り裂けるような声が上がる。

 手に、足に、胸に、胴に、股間に、尻に。

 指に、耳に、ふくらはぎに、ふとももに、乳首に、へそに、男性器に、尻穴に。

 目に、舌に、筋肉に、睾丸に、直腸に、食道に、胃に。

 およそ身体の内外全ての箇所に、まるで電流のような、鋭い快感が流し込まれたからだ。

 

「あ”――――――く、あっ!?」

 

 数瞬の後、その光は止まった――陽葵にとっては数分、否、数十分にも感じる時間であったが。

 同時に身体へ自由が戻り、そしてどうしようもない虚脱感に襲われる。

 時間にして幾秒も経っていない間に、何度も絶頂してしまったのだ。

 その証拠に、股間へ生暖かい射精の跡を感じる。

 

「は――あ――あ――な、何?

 今、何したんだ――?」

 

『簡単な事だよ。

 脳に直接“快楽の電気信号(パルス)”を送ったんだ。

 君の身体をきっちり“解析”した上で算出した信号だからね。

 ちゃんと気持ち良かっただろう?』

 

 事も無げにケセドは答える。

 

『悲しみに暮れながら消えるのは余りに哀れだからね。

 これから、一生で味わう快楽を超える量の快感をプレゼントするよ。

 最後には悔いも無くなり、“もう消えてもいい”って思う筈さ』

 

「――え?

 な、何言ってんだ、そんなこと――」

 

 中止を懇願するよりも先に、上方が明るくなったことに気付く。

 見れば、先程と同じ“光”が天井のあちこちに(・・・・・)灯っていた。

 

「う、嘘だろ……?」

 

 唇が震えた。

 一筋浴びただけで、気が狂いそうだったのだ。

 あんな無数の光条が注がれたら、どうなってしまう?

 

『じゃあ、始めるよ。

 人生最高の一時を十分に愉しんで欲しい』

 

 無情なケセドの宣告と共に、無数の光が陽葵に突き刺さる。

 彼に最後に残った、人としての品格(プライド)を磨り潰す作業が始まったのだ。

 

 

 

「んぼぉぉおおおおおおおおっおっおっおっお”っお”っお”っお”っお”っお”っお”っ!!!!!!!」

 

 

 

 第三十二話③へ続く



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③! 開戦

 

 それから、1時間が過ぎた。

 

「あーーー……あーーーーーー……」

 

 空間に、甘ったるい声が響く。

 陽葵の出す喘ぎ声だ。

 

「あーーーー……きもちいぃーー……あーーー……きもちいぃーーーー」

 

 彼は全身を弛緩させ、床に倒れていた。

 瞳から光は消え、言葉こそ発するもののそこに理性を感じられない。

 来ていた服は既にビリビリに切り裂かれ、身体を隠す機能を有していなかった。

 鮮やかな色合いの胸も、丸々とした尻肉も、剥き出しになっている。

 一見して男には思えない、艶かしい肢体が惜しげも無く露出していた。

 破かれたのではない。

 悶絶し発狂した陽葵自身が、溢れかえる快感に堪えかねて自ら破いたのだ。

 

「ああっ……は、ぁぁ……あ、ああああっ」

 

 そんな有様で、少年はまだ動いていた。

 緩慢な動作で自分のイチモツを握り、上下にしごく。

 

「あ、ああっ……ああっ……あぁあぁああっ」

 

 陽葵は自慰し続けていた。

 ケセドの仕掛けた“光線”にはもう照らされていない。

 彼は自分の意思で、あられもない姿でオナニーしているのだ。

 

「あ、は、あ……きもちいぃーー……あ、あ、あ……きもち、いぃーー…………あっ!」

 

 ピクッと小さく震える。

 次の瞬間、陽葵の男性器から液体がトロトロと流れた。

 絶頂したのだ。

 しかし精子はもう枯れ果て、透明な汁が出るのみ。

 ……それでも、彼は自慰を止めない。

 

「あ、あ……け、ケセド……ケセドォ……」

 

 力ない声で青龍へ呼びかける。

 

『んー、なんだい?』

 

 当然のように、ケセドは言葉を返す。

 その返答が聞こえているのかいないのか、陽葵は龍へと喋りかけた。

 まるでおねだりするかのように。

 

「“アレ”……“アレ”、またやって♡」

 

『いいよー。欲しいなら幾らでもあげよう』

 

 ただそれだけで通じたらしい。

 青い龍は陽葵の要望に応え――地獄のような快楽を齎す“光”を降り注がせた。

 

「お、おほぉおおおおおおおおっ!!!!」

 

 どこにそんな力が残っていたのか。

 “光”を浴びた少年は、快感に悶え、悦びの声を上げた。

 自分の体液でびちょびちょに濡れた床の上を転がりまわる。

 

「おおおおっ!! おおぉおおおおっ!! おぉぉおおおおおおっ!! おぉぉおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 亀頭の先から、透明な液がびゅるびゅる噴き出す。

 瞳は白目を剥き、最早何度目なのかも分からぬ絶頂を堪能していた。

 

「おっ!! おおおっ!!――――はーっ、はーっ、はーっ、はーっ」

 

 一しきり身体を震わせると、荒く息を吐く。

 今ので体力が尽きたのか、横たわったまま動かなくなる。

 

『随分と楽しんでくれたようだね。

 用意した甲斐があったよ』

 

 陽葵はその声に何ら反応しない――できない。

 しかしケセドは気にもせず、

 

『うーん、でも脳に快感を流すだけ(・・)だとやっぱり味気なさすぎるかな?

 次は(・・)、趣向を変えてみよう』

 

(……次?)

 

 奴は“次”と言った。

 もう陽葵は“終わった”というのに。

 自分に“ここから先”など無い。

 

『そんなことは無いさ。

 まだまだ、君は快楽を味わうことができる。

 ほら、頭もだんだんスッキリしてきた(・・・・・・・・)だろう?』

 

「……あ」

 

 言われて、気づく。

 思考が戻っている(・・・・・・・・)

 つい先ほどまで、理性は崩壊していたというのに。

 

「ど、どうして……?」

 

『そりゃ僕は神様だもの。

 その程度のことはできるんだよ。

 というか、この1時間で何度も同じことを(・・・・・)してあげたのに(・・・・・・・)、覚えてないのかな?

 まあいいや、目が覚めたところで、新しい催し物だよ』

 

 その宣告と共に床の一部が開き、中から機械のアームが飛び出してきた。

 

(ファンタジー世界に機械かよ……とか今更だよな)

 

 クリアになった頭で、ついどうでもいいことを考えてしまう。

 アームの先端は細い棒状になっており、棒の表面には細かい突起が無数に付いている。

 

『色々体験してきた君だけど、まだ前の穴(・・・)は弄られたことが無いんだよね?』

 

「――っ!!」

 

 ケセドの声で、気づく。

 コレがナニをしようとしているのかを。

 もっとも、気付いたところで抵抗すること等できないし――

 

(――つ、突っ込まれる!? あ、あの棒を、ちんこの穴に突っ込まれちゃうのか!?)

 

 むくむくと、ペニスが勃ち上がってきた。

 今の陽葵には、それに抵抗する気持ちも無いのだ。

 その期待に応えて――というわけでも無いのだろうが、“棒”がキュルキュルと回転しながら彼に近づいてきた。

 

「あ、あああ――♡」

 

 その光景をうっとりと(・・・・・)見つめる少年。

 逃げるようなことはせず、逆に挿入されやすいよう(・・・・・・・・・)自らの股間をアームへ向ける始末。

 アームはそんな彼の股間へ真っ直ぐ進み、

 

「――おふっ!!?」

 

 過たず、陽葵の“尿道”へずぶりと埋まった。

 さらにその“中”を、イボの付いた表面でゴリゴリとかき回す。

 

「んおふっ!? おふっ!? おふっ!? おふっ!? んおぉおおお、おごぉおおおおおおおおおっ!!!!!?」

 

 再度、少年が悶え出す。

 男性器へと棒をつき込まれるという余りに異常な事態に対しても、今の彼は快楽を感じているのだ。

 

「お”、お”お”っ!! ちんこっ!! ちんこスゴイっ!! ちんこゴリゴリされてるぅっ!!!?」

 

 口から泡を噴きながら、喘ぎ狂う。

 初めての感覚に脳が焼き切れそうになる。

 激痛という表現すら生温い刺激だが、それすらも気持ち良い(・・・・・)

 

(壊れてる♡ 壊れちゃってる♡ オレ、絶対壊れてるよぉ♡)

 

 己の身体が取り返しのつかないところにまで来ていることを、陽葵は受け入れていた。

 仕方ない。

 アナルはおろか、ペニスの穴でも感じてしまう男が、この先どうやってまともな人生を歩めるというのか。

 もう陽葵は、快楽に対して抵抗することができない。

 仮に、もし万一ここから生還できたとしても、彼は雄が持つ情欲の捌け口としてしか生きていけないだろう。

 

(でもっ! でもっ!! 気持ちいぃぃいいいいいっ♡)

 

 自分が堕ちてしまったことを後悔する気持ちは、既に摩耗していた。

 気持ち良いこと、快楽が齎されることだけが、少年にとっての全てなのだ。

 

「んぼぉおおお”お”お”お”お”お”っ!! ちんこっ!! ちんこぉおおおおおおっ!!!!」

 

 快楽を貪る陽葵。

 尿道を抉る棒によって襲い来る快感が、彼をあっという間に絶頂へと誘う――のだが。

 

「お”お”お”お”――――お”っ!!?? イ、イケないっ!!? イケないぃいいいいいいっ!! んがぁああああああっ!!!!」

 

 新たな事実が発覚し、絶叫する。

 膀胱にまで届く“棒”が尿道を完全に塞いでいるため、射精することができない。

 狂おしい程の快感にも関わらず絶頂はできず、陽葵の昂りは限界を超えて高まっていった。

 

「イグッ!! イグッ!! イカせてっ!! イカせてぇええっ!! あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」

 

 棒の埋め込まれたイチモツを自分でも扱きながら、陽葵は激しく苦悶する。

 だがイケないという結果は変わらず、彼はさらに悶えることとなる。

 

『うんうん、悦んでくれているねぇ』

 

 その様子を見て、満足げに頷くケセド。

 確かに陽葵は愉しんでいた――常人の感覚では地獄とも形容できる、この現状を。

 しかしここまでやってなお、青龍にとっては物足りないらしく、

 

『それじゃ、最後の仕上げ(・・・)といこうか』

 

 そう告げると、床からまた別のアームが現れる。

 いや、それはアームというよりも、“触手”と呼称した方が良いか。

 メタリックな輝きを放ちながら、ウネウネと滑らかに動く様は生物を想起させる。

 成人男性の腕を超える太さを持つ、機械製の触手だ。

 先程の“棒”よろしく、こちらの表面にはやはり無数の突起が生えていた。

 

『さあ、これで“終わり”だ。

 存分に感じて欲しい』

 

 龍の台詞が終わると同時に、“触手”が大きくうねる。

 向かう先は、当然陽葵だ。

 未だ“棒”による尿道責めで悶絶している彼へ、後ろから這い寄っていく。

 そして――

 

「~~~~っっ!!??!?!!」

 

 ――声にならない悲鳴。

 極太の触手が、陽葵のアナルに突き刺さったのだ。

 

「おごっ!!? おごっ!!? おごぉおおおおおおおっ!!?」

 

 前と後ろの穴を同時に責められる。

 本来、男が体験する筈のない状況へ叩き落された少年は、獣のように吼えた。

 

「ケツっ!! ケツにキちゃったっ!!? んおぉおお”お”お”お”お”っ!!!

 ケツっ!! ケツぅぅぅうううううううっ!!!!」

 

 “棒”同様に“触手”もまた、甲高い駆動音を鳴らしながら回転を始めた。。

 表面の突起により、腸壁が抉らる。

 二穴同時責めにより陽葵は昇天へ誘われる、が。

 

「んぎぃぃいいい”い”い”い”い”い”!!!? イケないぃぃいい”い”い”い”い”い”!!?!?!」

 

 尿道が詰まっているせいで、変わらず射精は不可能。

 有り余る昂りを解放できず、彼はただ悶えることしかできない。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!! んぎぃいい”い”い”い”い”い”っ!!」

 

 涙と涎で顔をぐちゃぐちゃにしながら、陽葵は喘ぐ。

 その声と連動するかのように、触手は大きくしなるとその身を少年の中へ埋没させていった。

 

「あがぁあああ”あ”あ”あ”あ”!!?!!?

 入るっ!!? 入ってくる!!? ぶ、ぶっといのが、オレのケツにっ!!!!

 は、入って、て、え、お、おおぉぉおおお”お”お”お”お”お”!!!?!」

 

 奥へ。

 さらに奥へ。

 “触手”が陽葵の腸内を駆け上がっていく。

 

「ぼぉぉおおおおおおっ!?!!?

 やめでっ!!! やめでぇえぇええええっ!!!」

 

 苦悶の叫び。

 しかし、当然ながらそんなもので止まるわけが無い。

 陽葵の腹は破裂寸前まで膨れ上がり、触手の通った“跡”がありありと浮かんでいた。

 

「お”、お”、お”、お”、お”、お”、お”、お”、お”!!!!!!」

 

 腹が張り裂けんばかりの苦しさに、絶叫した。

 内蔵が捻じれ、身体の芯から直接激痛が来る。

 既に陽葵の身体は触手に支えられ、宙に浮かんでいた。

 

(死ぬっ! 死ぬっ! 死んじゃうっ!!)

 

 少年は己の終焉を確信した。

 腹はぼこぼこと膨張している。

 体内がどうなっているのか、想像するのも恐ろしい。

 だがしかし。

 

(――――死んでもいい(・・・・・・)♡)

 

 陽葵の中には、この状況を愉しむ気持ちも湧き上がってしまっていた。

 自分が壊れることの恐怖より、新たな刺激が齎す快感が勝っている。

 ……正しくそれこそ、彼が“壊れた”証なのかもしれないが。

 

「お”! お”! お”! お”! まだ来るっ!! まだ来るぅぅうう”う”う”!!!」

 

 触手は腸を通過し(・・・)、なおも突き進む。

 果ては、胃を。

 そして、食道までも。

 

「キぢゃう”っ!! 貫がれ”る”っ!!! 口まで!! 口までぐ――――う”ぼぉお”お”ぇえ”っ!!!?」

 

 とうとう。

 尻穴から侵入した触手が、口から顔を覗かせた。

 陽葵の身体は余すところなく、蹂躙されたのである。

 

「お”っ!――ごっ!――お”っ!――げっ!」

 

 触手に貫通された少年は、白目を剥いて幾度も痙攣する。

 さらに手足を2,3度バタつかせてから、

 

「―――――お”」

 

 全身を弛緩させる。

 四肢がだらりと下がった。

 もう、意識は戻りそうにない。

 室坂陽葵は、その活動を停止した。

 逆に言えばこの悪夢のような宴から、ようやく解放されたとも――

 

『おまけだ』

 

 ――ケセドの言葉で、陽葵の肢体へ“光”が降り注ぐ。

 それも、十を超える数だ。

 

「――――――ごぼっ!!!!」

 

 突如、少年の鼻から血が噴き出た。

 快感が脳の許容量を遥かに超えたのだ。

 裸に剥かれ、体内を鋼鉄の触手で貫かれ、目は白目を剥き、鼻血を流す。

 その姿は、とても生きているようには見えない。

 

『いやー、終わった終わった。

 ここまでやれば、君の人生にも悔いは無いことだろう』

 

 一方、青龍は一仕事を終えたような、清々しい声色。

 ここだけ切り取れば、本当に陽葵のことを思って(・・・・・・・・・)やったかのようにすら見えかねない。

 

『さて、名残惜しいがコレも外しておこう』

 

 少年の“前の穴”を責め続けた棒が、引き抜かれた。

 栓を取り払われた彼のペニスからは、精液とも尿ともつかない、何らかの液体(・・・・・・)がとろとろと流れ落ちる。

 次いで触手も――信じられない程スムーズに、陽葵の身体から抜け出ていった。

 支えが無くなり床に倒れるも、彼は何の反応も示さない。

 

『後は魂を替えるだけなんだけれど――』

 

 と、ここでケセドが初めて困惑した(・・・・)

 

『――困るんだよなぁ、そういうの。

 僕がこの結界を創るのに、どれだけ無心したと思っているんだい?』

 

 誰も居ない部屋――誰も居ない筈の部屋で、ケセドは何かに向かって話しかける。

 

覗き見(・・・)は悪趣味だぞ、黒田君(・・・)

 

「――お前が約束を果たしていれば、このような真似をする必要は無かったのだ」

 

 声が響いた。

 同時に、景色が歪む。

 否、空間が歪んだのだ。

 別の場所からの、ゲートが開かれたのである。

 そこから現れたのは――!

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「陽葵さん!」

 

 叫びながら、私はその階層(フロア)へと入っていった。

 最終階層の一つであり、ケセドが居を構えるその空間へ。

 随分と無機質、かつ広大な部屋で――近未来的な印象を受ける。

 

 そんな広間の中央で、陽葵さんが倒れている。

 いったいどれほどの責め苦を受けたのか、見るも無残な状態だった。

 しかし――

 

「――よし、まだ無事のようですね!」

 

 胸が上下に動き、息をしている。

 ならば、大丈夫。

 腕でも入れられそうな程に尻穴が拡張されていたり、男性器から汁が垂れ流しになっていたりするものの。

 問題無い。

 陽葵さんはこんなことで壊れるような男では無いのだ。

 これまで苦難の日々(主に性的な意味で)を耐え抜いてきた彼を甘くみてはいけない。

 と、私がそう判断したところへ、

 

「え、“コレ”セーフ判定なのでござるか!?

 拙者から見ると余裕でアウトなのでござるが!?

 アウト3つでチェンジどころか、ゲームセットな感じなのでござるが!?」

 

『その辺りの判断が、流石黒田君といったところだねぇ』

 

 即座にツッコミが来る。

 片方はケセドであり、もう片方は私と共にココへ来た白髪の偉丈夫――六勇者の一人である“鉤狼”ガルムだ。

 いや、“共に来た”というより、

 

『……いらん差し金をしてくれたもんだ、ガルム。

 君が黒田君を連れてきたんだろう?』

 

「左様」

 

『これは、ルール違反にならないかな?』

 

「なる筈がないでござろう。

 我々五勇者が手出しできないのは、勇者同士の決闘のみ。

 お主は勇者でもその代理でも無く、勇者を媒介にもしておらぬ』

 

『ま、そうなんだけどねぇ』

 

 こちらを睨み付けてくる青龍の言葉に、勇者が答えた。

 そう、ケセドによって隔離したこの階層への道を開いてくれたのは、ガルムなのだ。

 もっとも、彼だけの功績という訳でも無く。

 

『まさかティファレトが(・・・・・・・)ここまで君達に協力するとは思わなかったよ。

 本当、よく分からないな、あいつの行動基準は。

 陽葵にマーキング(・・・・・)をしていたとか――媒介である人狼(ガルム)の側面に引っ張られ過ぎじゃないかなぁ?

 まるで本当の犬みたいじゃないか』

 

 毒つくケセド。

 こちらがアレコレ説明してやるまでも無く、事態を理解したようだ。

 

 数日前、ティファレトは陽葵さんを一晩中犯し抜いたいたのだが――その際に彼の身体奥深くへ“目印”を残していたのである。

 例え異界に連れ去られようと探知ができる、強力な“目印”を。

 ガルムはソレを頼りにここまで案内してくれた、という次第で。

 もっとも、結界による妨害が相当に強力だったため、入り込むのにかなり手間取ってしまったのだが。

 連れてこれたのも私一人だけだし。

 

『まあ、いいか。この件については僕の対策不足だったと反省しておこう。

 それで黒田君、こうしてここに来た以上、君の目的は僕の妨害だと思うんだけど、いいのかい?』

 

「……いいのか、とは?」

 

 相手の真意を測りかね、質問に質問で返してしまった。

 ケセドはそれを気にする風も無く、言葉を続ける――相変わらずこの龍はフランクだ。

 

『君達が見なかったこと(・・・・・・・)にすれば(・・・・)、全て丸く収まるってことさ。

 陽葵は“処置”の後も変わらないことはちゃんと保証するよ?

 君との思い出も、君への想いも、全て“再現”する。

 何も変わりはしない』

 

 それはまあ――そうなのだろう。

 少なくとも私は、そこに疑問を持っていない。

 仮にも神であるケセドがここまで言うのだから。

 

『そして――君達にとってはここからが重要だと思うんだけど。

 陽葵が六龍の力を問題無く使えるようになれば、何の犠牲も無く(・・・・・・・)世界を救えるってことだ。

 君達はそのためにアレコレ動いていたと思うんだけどねぇ?』

 

「…………」

 

 それは確かに、魅力的だ。

 7年前の勇者と魔王――もとい、勇者と六龍との(・・・・)戦い。

 その余波で、世界には巨大な穴が開いてしまった。

 魔界へと通じ、放っておけば大量の魔素が流入し世界を破滅させる、“穴”が。

 それを閉じるには、六龍全ての力が必要だ。

 陽葵さんが六龍の力を使えるようになるのであれば、円滑にその件を解決できる。

 

『僕は限りなくベストな選択肢を提供している筈だよ。

 どんな選択をしても、必ず何かが(・・・)犠牲になる。

 僕が提案しているエンディングは、その犠牲が最も少ないものだ――分かるだろう?』

 

「………そう、だな」

 

 何せ、史上最高の龍適性を持つ『今の魔王』ですら、六龍全ての力を同時には行使できないのだ。

 つまり世界の救済には陽葵さんが不可欠であり、しかし世界を救えば陽葵さんの精神は間違いなく壊される。

 場合によっては、彼以外にも犠牲が出るだろう。

 対してケセドの方法であれば、見かけ上は(・・・・・)誰も欠けることなく、世界を救うことができるのである。

 

『――さて。改めて僕に協力し給え。

 なに、そう大したことをして欲しい訳じゃない。

 ただ、“今の出来事”を綺麗さっぱり忘れるだけだ。

 忘却するための(すべ)も用意できているから、後は僕の指示にほんの少しだけ従うだけでいい。

 どうだい、簡単なことだろう?』

 

 実に簡単だった。

 ここで何もせずにいれば、私達が喉から手が出る程欲しかった結末に辿り着ける。

 それは余りに甘い誘惑だ。

 

 ふと、目を横に移す。

 傍らにいる勇者ガルムは、私の視線に気付いて一言零す。

 

「……拙者、セイイチ殿の判断に異を挟むつもりは無いでござるよ」

 

 ……有難い。

 彼は、こちらの意思を尊重してくれるようだ。

 ならば、最早迷いはない。

 私は改めて青龍を見据えると、

 

「――ケセド。

 答えは、Noだ。

 お前の行動を、私は許容できない」

 

 きっぱりと拒絶の意を表した。

 

 ……普段の私なら、或いは頷いてしまったかもしれない。

 分の悪い賭けの興じられる程、私は情熱のある人間ではない。

 より安全に、確実な選択をとるのが、黒田誠一という男だ。

 

 しかし。

 しかし、である。

 今、私はただ黒田誠一としてこの場に居るわけではない。

 私は――私の上司であり勇者でもある境谷美咲の代理としてここに立っている。

 だとするならば、私の判断は元よりただ一つ。

 

「その行動は――勇者的ではない(・・・・・・・)

 勇者とは、そのような判断をする人種ではないのだ」

 

 美咲さんも、きっと同じことをする。

 そんな確信があった。

 あの人は、不条理を見てそれを見逃せる類の人間ではない。

 ……だからこそ、彼女は陽葵さんに必要以上近づかなかったのかもしれないけれど。

 

「セイイチ殿――!」

 

『……残念だよ』

 

 2つの声が重なる。

 一つは称賛、一つは失望。

 その内で失望を表した龍が、言葉を紡ぐ。

 

『君達は理想を追い過ぎだと思うけどね。

 皆が皆、他人の都合なんてお構いなしに自分にとっての(・・・・・・・)ベストエンドを追求しちゃうんだから。

 それは――破滅を呼ぶよ?』

 

 それは、諭すような口調だった。

 まるで私を慮っているかのような言葉。

 

『何が言いたいかと言うとさ。

 僕はここまで妥協した(・・・・)んだから、君達も少しは見習わないかってこと』

 

 妥協。

 そうだ、ケセドは妥協してくれている。

 奴の目的のためなら、別に陽葵さんに全く別の人格を植え付けても良いのだ。

 だというのに、敢えて彼と同じ人格を再現しようとした。

 これは“室坂陽葵さんに関係する人々に対する配慮”ともとれる。

 

『僕の言っていることを理解して――それでも、考えは変わらないのかい?』

 

「そうだ」

 

 この後、私はケセドの指示に従わなかったことを後悔するだろう。

 きっと――間違いなく、死ぬ程に(・・・・)後悔する。

 

 それでも。

 それでも今は――

 

「当方、境谷美咲が代理、黒田誠一。

 ――これより勇者を執行する」

 

『……そうか。

 やってみたまえ』

 

 青龍ケセドとの戦いを開始した。

 

 

 

第三十二話④へ続く



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④ 決戦ケセド

 

「<火遁・豪炎弾>!!」

 

 初手、動いたのはガルムだ。

 素早い所作で“印”を組むと、スキル(本人は忍術と主張)を発動させる。

 彼の両手から灼熱の炎が噴き上がり、ケセドを襲う!

 

『ハハハ、当然のように参戦してくるねぇ、君は!』

 

「助成せぬ理由が無いでござるからな!!」

 

 青い龍は避けすらしなかった。

 真っ向から炎を浴びて、平然としている。

 仮にも勇者が放った一撃で、傷一つついていない――しかし、それは想定内。

 

「<土遁・土岩流>! <雷遁・磁雷矢>! <木遁・根縄縛>!」

 

 ガルムは立て続けにスキルを放つ。

 膨大な土砂と無数の稲妻がケセドに降りかかり、床を突き破って現れる巨大な霊樹の根がその体に絡みつく。

 どれもこれも最上級スキルに相当する。

 並みの冒険者では一つ発動するだけで衰弱しかねない代物だが、それを連続で行使できる辺り流石勇者か。

 戦場が多彩な色で染められ――しかし、それでもなおケセドの余裕は崩れない。

 

『流石に手数が多いなぁ。

 やられてばかりも癪だし、少しは反撃してみようか』

 

 その言葉と共に、床や天井のあちこちが開く。

 中から現れたのは――

 

「――ここ、一応ファンタジー世界ですよね?」

 

 つい呟いてしまった。

 出てきたのは、機関銃(・・・)迫撃砲(・・・)ロケットランチャー(・・・・・・・・・)等々。

 つまるところ、近代兵器の数々だった。

 

『面白そうだからこっちで再現してみたんだ』

 

 剣と魔法の世界にそんなもの持ち込まないで欲しい。

 いや、最近は近代的な武器を扱うファンタジー作品も増えているとは聞くが、その攻撃対象が自分となると笑えない。

 

『Fire!――ってね』

 

 気の抜けた掛け声と共に、銃口が一斉に火を噴いた。

 我々2人に向け、銃弾の雨あられが降り注ぐ。

 中世ファンタジーとしてありえない光景を前に、

 

「<風遁・爆嵐壁>!!」

 

 ガルムが危なげなくコレを処理。

 巻き起こる風が銃弾をあらぬ方向へ逸らしていく。

 爆風で肌がチリチリと焦げるが、直撃した際の惨事を考えれば些細なこと。

 とはいえガルムの切迫した顔を見るに、こちら側に余裕はまるで無さそうだ。

 

「セイイチ殿! まだか!?」

 

「整いました!!」

 

 彼の問いに、叫んで返す。

 そうだ、準備は(・・・)整った。

 この“技”には多大な集中力を要する。

 そのためガルムは先行してケセドと戦い、時間を稼いだのである。

 

『おや? いきなり疾風迅雷(ソレ)を使うのかい?』

 

 私の様子を見て、ケセドが嗤った。

 決戦奥義・疾風迅雷について、既に奴は熟知している。

 いやそれだけではない。

 我々が講じた龍への対抗策、その(ことごと)くを把握しているはずだ。

 世界観にそぐわない“実弾兵器”を持ち出したのも、ゲブラーの二の舞になることを危惧してのものだろう。

 

 既知の戦い方では奴に届かない。

 故に、“奥の手”を使う。

 

「おおぉおおおおおっ!!」

 

 気合いと共に、<射出>を展開。

 周辺の空気分子を無限速度で衝突させ、莫大なエネルギーを生み出す。

 

「ふんっ!」

 

 そのエネルギーの奔流をさらに(・・・)<射出>で操作し、両手足に纏った“戦神の鎧”へと送り込む。

 

 ――超過充電(エクセス・チャージ)、完了。

 

 赫色の籠手と具足は、その熱量を吸収して強く輝き始めた。

 その状態を維持したまま(・・・・・・)、私は構えをとる。

 

『へえ?』

 

 青龍が面白そうに鼻を鳴らした。

 

『初めて見るやつだね。

 所謂“切札”ってやつかな?』

 

「……そうだ」

 

 言葉少なに返す。

 本来の奥義“疾風迅雷”は、“爆縮雷光”で発生させたエネルギーを戦神の鎧に込め、さらに<射出>による超加速で己を弾丸と化し、鎧の力で増幅した熱量を敵に叩き込む技。

 今の私は、その過程(プロセス)を前半で――“爆縮雷光”のエネルギーを吸収増幅させた段階で、止めている。

 これぞ疾風迅雷・纏式(まといしき)

 

『なかなか楽しそうな状態だけど――そこからどうするつもりなのかな?』

 

「こうする!」

 

 具足に溜めたエネルギーの一部を<射出>で脚部へ流入。

 その力を利用し、超速度で私は駆けた。

 向かう先は無論、青龍だ。

 

『おわっ!?』

 

 ケセドの驚く声。

 だがそれだけでは終わらない、終わるはずが無い。

 次は籠手のエネルギーを腕へと流入させ――渾身の突きを放つ!

 拳が龍鱗へ当たった瞬間、網膜を潰す程の閃光と、鼓膜を破りかねない爆音が生まれた。

 

『おぉおおおおおっ!!!?』

 

 青龍の巨体が、後方へ吹き飛んだ(・・・・・・・・)

 六龍は実体を持たないため、その体躯に重さという概念は無いが――それでも、あの大きさの物体が“宙に浮く”様はなかなか壮観だ。

 ……単純に、殴り飛ばせて気分が良い、とも言う。

 

『……む、無茶苦茶をするなぁ。

 分子核の衝突で発生するエネルギーを活用するだなんて』

 

 こちらが解説するより先に、相手はこの技のことを理解したようだった。

 

 改めて説明――が必要な程、複雑な技ではないのだが。

 要するに、戦神の鎧にチャージしたエネルギーを<射出>で身体に流し込み、運動エネルギーに変換しているのである。

 いわば、戦神の鎧を外付けの電池のように扱っている訳だ。

 

『しかし、先に切り札を出すのは負けフラグだよ?』

 

「どうとでも言え」

 

 彼我の戦力差は圧倒的――絶望的と言い換えてもいい。

 切札を切り続けることでしか、戦いを拮抗させる手段がないのである。

 

『それにその技、随分と消耗が激しそう(・・・・・・・)じゃないか。

 さては美咲の発案じゃないな?』

 

「……まあ、その通りだとも」

 

 あっさり言い当てられた。

 これは疾風迅雷を私とガルムでアレンジした技術である。

 正直、元になった技よりも危険度と体力の消耗加減が跳ね上がっている。

 六龍にさえ痛打を与えられる熱量を自身に流し込むのだから、体への負荷はとてつもない。

 少しでも加減を間違えれば、その時点で私は爆散してしまう。

 そもそも、大量の熱を帯びた鎧を纏っているだけでも、体力が削られるというのに。

 効率重視な美咲さんに見られたら、鼻で嗤われかねない技だ。

 

 ――だがしかし、効いている!

 この技をもってすれば、ケセドとも戦える!

 

『おや、嬉しそうな顔をするねぇ?

 今ので一筋の希望を見いだせたかな?』

 

 そんな私の感情を見透かし、ケセドが茶々を入れてきた。

 だがそれで揺さぶられる訳にはいかない。

 賽は既に振られているのだ。

 

「……行くぞ」

 

 拳を握り締め、私は青龍へと挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

 ――そして。

 

「ぜはっ、ぜはっ、ぜはっ、ぜはっ」

 

 戦いが始まり、彼是1時間(・・・)

 私は、荒く肩で息をしていた。

 戦神の鎧も輝きを無くしている。

 

「はーっ……はーっ……はーっ……はーっ……」

 

 すぐ隣に立つガルムもまた、似たような状態だ。

 いや、向こうの方がまだ消耗は少ないか。

 

『んー? どうしたどうした、2人共。

 もう終わりかい?』

 

 その一方で、全く様子の変わらないケセド。

 こちらの攻撃がまるで堪えていない。

 私の疾風迅雷を応用した攻撃を、ガルムの忍術を、幾度となく叩きつけたにも関わらず、である。

 ……どういう耐久力をしているのだ。

 以前に戦った赤龍ゲブラーとすら比較にならない。

 これが本当の六龍の力、なのだろう。

 

「ぜはっ、ぜはっ」

 

 まだ動悸が収まらない。

 というより、これは当分収まりそうもない。

 体力の消耗もだが、体の損耗(・・・・)も激しい。

 何せ、四肢のあちこちが炭化しているような有様だ。

 

 別にケセドの攻撃によってこうなった訳では無い。

 というより、奴は時折銃火器を仕掛けてくるだけで、大した行動をとっていない。

 いや、銃器が恐ろしさは重々承知だが、今の私達にとっては然程の脅威でもないのである。

 

 体の損傷は、疾風迅雷・纏式を維持し続けたが故に起きた現象である。

 超高温に達した鎧を身に付けているのだから、この程度のことは起きる。

 “社畜”特性をもってしてもこればかりはどうにもできない。

 一応、ポーションで頻繁に治癒はしていたのだが。

 

「――効いて、いないのか?」

 

 ぼそり、と呟く。

 そうとしか思えなかった。

 青龍は攻撃を避けようとしない。

 私やガルムの放った技を全て食らっているのだ。

 そんな私の疑念は、

 

『まさか。

 そんなわけないだろう?

 しっかりダメージを蓄積されているとも』

 

 他ならぬケセド自身の口から、否定された。

 

『仮にも勇者とその代理2人が全力で撃ち込んできているんだ、六龍であっても無事では済まないさ。

 うーん、そうだなぁ。

 この調子で、1週間程(・・・・)戦い続ければ僕を倒せるんじゃないか?』

 

「……!!」

 

 ついでに、こちらを絶望させるような台詞も吐かれたが。

 はったり、とは思えなかった。

 

「ガルム」

 

 横にいる勇者に、声をかける。

 察した彼はすぐに答えてくれた。

 

「すまぬ、セイイチ殿。

 奴の媒介を探し続けているのだが、皆目見当がつかぬ」

 

 ……駄目か。

 以前にも説明したが、六龍には本来実体がない。

 精神生命体にそのままでは物理的に干渉する力をほぼ持たない。

 しかし今のケセドは十全に力を発揮している。

 ならば当然、奴は媒介を用意できているということだ。

 青龍の力を完全に引き出し、しかもこれだけ戦ってなお龍の力に耐えられる以上、相当に高い龍適性を持つ人物を。

 適性だけで言えば、あのデュストをも大きく上回る筈。

 

 実のところ我々は、最初からその人物の無力化を目的にしていた。

 十分な戦力が整っていない中で六龍と真っ向から戦うのは、無謀にもほどがあるからだ。

 当初はゲブラーの時と同じく、青龍の体内に閉じ込められているものと考えていたのだが、どうも違う。

 ならばこの階層のどこかに居るのだろうと、戦いの隙を縫ってガルムが捜索していたのである。

 ……結果は芳しくないようだが。

 

『ああ、なんだ。

 なんか変な戦い方をしているなと思ったら、君達は僕の媒介を探していた訳か』

 

 ガルムとの会話を聞かれてしまったようだ。

 まあ、奴が造った空間で内緒話をするのは無理があるか――と、そこまでは納得済みだったのだが、ケセドの台詞はさらに続いた。

 

『この期に及んで探り合いは面倒だから先に言っちゃうけどね。

 僕の媒介は、この<次元迷宮>そのもの(・・・・)だよ』

 

「!?」

 

 迷宮そのものが媒介、だと?

 

『おや? 龍の媒介は人だけだとでも思っていたのかい?

 遅れてる遅れてる! ま、確かに他の龍(・・・)はそんな認識かもしれないけどね。

 そもそもこの<次元迷宮>は僕が設計したんだよ。

 表向きは六龍(僕達)勇者(美咲)の戦いで空いてしまった“魔界への大穴”を封じるためのモノだけど。

 その実、グラドオクス大陸の龍脈に存在する“迷宮”を緻密に繋ぎ合わせて(・・・・・・)――まるで人の脳構造と同じ(・・・・・・・・)ような“回路”を造り上げたのさ。

 僕の力が100%発揮できる、専用の媒介として、ね。

 美咲からその辺りのことを聞かされては――いないんだろうなぁ。

 まあ、余り僕のことを公言しないように“契約”してあるから、彼女に責任は無いわけだけど』

 

 ……そうだったのか。

 そういえば、<次元迷宮>の製作には美咲さんもかなり関わっていたと聞く。

 だからこそ、ケセドは彼女に対して色々を便宜を図ってくれたのかもしれない。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今重要なことは――

 

「この迷宮自体が媒介になっていたとすると」

 

「……破壊は難しいでござるな」

 

 後半をガルムが引き継いだ。

 その声には力が無い。

 

 まずい、本格的に詰んだ。

 手持ちのカードでこいつを処理するのは不可能だ。

 戦いを続行するには体力が足らず、媒介を壊すには火力が足りない。

 一旦退却して体勢を立て直したいところだが、幾らケセドでもソレは許してくれないだろう。

 ……というか、そんなことをしたら陽葵さんの身が危ないなんてものではない。

 

『ささ、じゃあ再開しようか。

 僕が死ぬまで後167時間。

 それともこの次元迷宮自体を壊してみるかい?

 どちらでも、好きな方をやってみたまえよ』

 

「……ぐっ」

 

 勝算が無い。

 こうなれば――

 

「――セイイチ殿」

 

 と、隣から声がかかる。

 ガルムが真剣な顔をして私を見ていた。

 

「こんなことは言いたくない、が――恥を忍んでこのガルム、今一度、言わせて貰う。

 ヒナタ殿を、諦めるべきだ」

 

「ガルム!?」

 

 批難するも、彼の表情は変わらず。

 

「拙者達の目的はヒナタ殿を救うことでは無い(・・)

 あの少年に拘ってここで命を落としては、本末転倒にござる」

 

 ……正論である。

 陽葵さんを助けようとしているのは、言ってみれば私の“我が儘”に過ぎない。

 

『そういうことならそれでもいいよ?

 僕だって君達を殺したいわけじゃない。

 でも“諦める”というは人聞きの悪いな。

 僕の提案を受け入れれば、何も変わらない日々が待っているだけだとも』

 

 追随するように、ケセドの言葉。

 奴にしてみれば、自分の目的以外の事柄はどう転がっても気にならない、ということか。

 

 ふと見れば、ガルムが臍を噛んだような顔をしている。

 彼と陽葵さんは大した接点もないが、それでも少年の救出に労力を割いてくれた。

 陽葵さんの辿る運命に対し、思う所あるのは間違いない。

 そんな勇者をもってしても、ここが諦めどころなのだと言う。

 

 後は私が頷けば、戦いは終わる。

 陽葵さんともう会えなくなる訳ではない。

 別人になりはするが、私はそれが別人だと認識できないのだから。

 

 ……だが。

 しかし――

 

「駄目だ。

 それは、駄目なんだ、ガルム」

 

「セイイチ殿!

 今は綺麗事を並べている場合では無いでござろう!?」

 

「分かっている!

 分かっているがそれでも――!!」

 

 陽葵さんは、魔王の後継として作られた。

 彼自身の生誕を祝う者は誰もおらず。

 重要なのは器としたの肉体だけで、陽葵さん個人は尊重されない。

 六龍だけの話ではなく、私達人間側からもそんな風に見られていたのだ。

 

 陽葵さんはもっとこの世界が見たいと言った。

 陽葵さんはもっとこの世界を楽しみたいと言った。

 彼は、もっと生きるべきなのだ。

 

 ここで私が諦めたら。

 彼を救おうとする人間が、彼のことを想う人間が、この世に一人としていないことを証明してしまう――そんな気がした(・・・・・・・)

 

「現実を見るのだ!

 拙者達にはもう打つ手がない!」

 

 ガルムがなおも説き伏せてくる。

 そんな勇者の顔を正面から見据え、

 

「いや――ある」

 

「何?」

 

「ティファレトだ。

 あいつの力なら――」

 

「……セイイチ殿」

 

 沈痛な眼差しで私を見るガルム。

 

「拙者とて、それは考えた。

 しかし無理なのだ。

 仮に奴の協力を取り付けたとしても、“ガルム”という器ではティファレトの力を十全に振るえないのでござる。

 完全に龍の力を顕現しているケセドには――」

 

「無理じゃない」

 

 彼の言葉を遮った。

 確かにティファレトは強いが、それは私でも追い縋れる程度のもの。

 そのままではケセドに及ばないだろう。

 だが――

 

「――私を使えばいい(・・・・・・・)

 私を媒介にすれば、ティファレトは全力を出せる。

 他ならぬティファレト自身がそう言っていたのだから」

 

「セイイチ殿!?」

 

 ガルムが顔をしかめた。

 叱るような口調で、捲し立ててくる。

 

「馬鹿なことを!!

 そんなことをすれば命を落とすも同じこと!

 本末転倒にも程がある!

 まさか奴が身体を返却してくれるとでも考えているでござるか!?」

 

「それこそまさか、だ。そんな都合よく物事が進むわけが無い」

 

「ならば!」

 

「別に構わないんだよ、ガルム」

 

「っ!?」

 

 私の言葉に、一瞬彼は怯んだ。

 

「構わない。

 “目的”が果たされるであれば、私は自分の命に頓着しないつもりだ。

 そして――ティファレトの力があれば、“目的”達成により一層近づける」

 

「夢物語にござる!

 確かに奴はセイイチ殿に甘い!

 しかしそう都合よく動いてくれる訳が無い!

 ヒナタ殿を救うかどうかすら、怪しいものだ!」

 

「動くさ。動いてくれるとも。

 ティファレトは“目的”に賛同する筈だ」

 

「何を根拠にそのような!」

 

 ガルムは強情だった。

 何がなんでも私を思いとどまらせたいらしい。

 だがこちらとしても譲れない。

 これには陽葵さんの命がかかっているのだから。

 私は一つ大きく息を吐いてから、勇者を納得させるための言葉を吐く。

 

お前が(・・・)ティファレトだから(・・・・・・・・)だよ(・・)

 

「――――」

 

 彼の動きが止まった。

 顔が驚愕の表情で固まっている。

 

黄龍(・・)ティファレトをどこまで信頼していいかは分からない。

 しかし、この世界へ来てから共に戦ってきたお前なら信頼できる」

 

 ガルムという人物は、存在しない(・・・・・)

 いや、かつてはいたのかもしれないが、今はいない。

 ティファレトがガルムに憑りついていたのではなく。

 ティファレトがガルムという勇者を演じていた(・・・・・・・)に過ぎないのだ。

 

「……何故、気づいた」

 

 ぽつり、と“目の前の男”が零した。

 

「理由なんて無い。

 だがそりゃ気付くだろう――親子なんだから」

 

「……そう、か。そういうものなのか」

 

 ガルムと名乗っていた人物は、がっくりと肩を落とした。

 正直なところを言えば、なんとなくそんな気がしていただけなのだが。

 彼のその反応は、私の予想を肯定するものであった。

 

「ティファレト。

 或いは、ガルム。

 もしくは、父さん」

 

 “男”へと語りかける。

 

「無責任な物言いになるが、後は頼む。

 拒否するならその“器”を破壊してでも私に憑りついて貰うぞ」

 

「……違う。違うんだ、誠一。

 拙者は――俺様は――別にそんなことのためにお前を――」

 

 ぶつぶつ呟く“男”の胸倉を掴み、

 

「――やれ(・・)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おめでとう、ティファレト!』

 

 空間に、ケセドの声が響いた。

 

『見事、自分の“器”を手に入れたじゃないか。

 同じ龍として祝福させて貰おう。

 いやー、僕も一芝居(・・・)打った甲斐があったよ』

 

 馴れ馴れしい口調。

 頼んでも居ないことを、べらべらと喋る。

 

『まあ、黒田君のことだからこんな面倒なことしなくとも割とすんなり身体を手放したと思うけどねぇ。

 彼、自分の命にまるで頓着してないし。

 いやー、やたらめったらに酷い“性癖”さえ持ってなければ、かなり優秀な英雄になれたんじゃないな?』

 

 耳障りな(・・・・)台詞はなおも続く。

 

『じゃ、君に協力した代わりに、今度は僕に協力して貰おうか。

 いや何、そう大したことじゃ――』

 

「その前に、一つ聞きたいことがある」

 

 奴を遮って、“私”は口を開いた。

 

「結局のところお前は、室坂陽葵についてどう思っていたんだ?

 曲がりなりにも、あの魔王との間に作った息子だろう」

 

『変な質問をするねぇ。

 改めて聞かれると――うーん、そうだなぁ』

 

 少しの間をおいてから、奴は答えた。

 

『ま、他よりは上等な“道具”ってとこ?』

 

「――そうか」

 

 それを聞いて、心は決まった。

 

「いや、実を言うとな、ケセド。

 “私”はお前のことが大嫌いだったんだ。

 魔王といざ子作りしようと思ったら勝手がわからず勃つもん勃たたなかったとか、情けなさすぎて笑えねぇ。

 仮にも六龍に名を連ねてる奴が、頭でっかちな素人童貞だとか最悪過ぎる。

 これ以上生き恥曝したくねぇだろうから“私”が息の根を止めてやろう」

 

『あ、そうなの?

 実を言うと僕もなんだよねぇ。

 真実の愛(笑)に目覚めたら今までヤってきたことの罪悪感に押し潰されて神格が分裂しちゃったとか馬鹿なんじゃない?

 その癖、ヤってることは前と変わらないってんだから訳が分からない。

 本気で頭おかしいから一回死んだほうがいいよ』

 

 相手を想っていってやったというのにのに、随分と不躾な返答をされる。

 しかしそれで気を悪くするほど、“私”は短絡ではない。

 

「はっはっはっはっは」

 

『アハハハハハハ』

 

 しばし、広間に朗らかな笑い声が響く。

 だがそれもすぐに鎮まり――

 

 

「ぶっ殺してやるよ、インテリ気取りのふにゃちん野郎!!」

 

『やってみろ、万年発情期の駄犬風情が!!』

 

 

 ――龍同士の殺し合いが始まった。

 

 

 

 

 第三十二話⑤へ続く



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⑤ ティファレトVSケセド

 <次元迷宮>、“赤色区域”の最奥地にて。

 並みの――いや、一流の冒険者ですら早々辿り着けないこの場所で、3人の男女が深刻な顔で立往生していた。

 その中で唯一の女性であるリアが口を開く。

 

「……ど、どうしよ。

 クロダが奥に行ってから、もう1時間以上経つのよ?」

 

「どうしようったって――どうしましょうかね?」

 

 相槌を打つのは三下――もとい、サン・シータである。

 

「…………」

 

 最後の一人、アーニーはただ沈黙し続けている。

 

「うーん、ジェラルドさんに頼んで援軍を呼んでみるとか」

 

「それ出来るんならとっくにやってるでしょーよぅ。

 六龍と戦えなんて言われて首を縦に振る変人が、あっしら以外にいるとでも?」

 

「まあ、そうなんだけどさ」

 

 そもそも、今の状況を打破できる人物が冒険者ギルドに居るかどうかも怪しい。

 何せ、代理も含めれば勇者2人が手に負えていない案件である。

 並大抵の冒険者では、足手まといにしかならないだろう。

 

「ふむむむむぅ……兄貴は何か考えあります?」

 

「…………」

 

 サンが話を振るも、なお沈黙を続けるアーニー。

 

「さっきからあんた、なにずっとだまりこんでんのよ。

 なんかこう、建設的な意見は無いわけ?」

 

「自分にアイデア無いからって兄貴に無茶ぶりすんのは良くねぇぜ、リアちゃん」

 

 半ば八つ当たり気味にリアが言葉を投げつけたのを、サンが窘める。

 しかし当の本人は我関せずといった様子で――

 

「――何か来る」

 

 そう、呟いた。

 

「え?」

 

「兄貴、どういうことですか?」

 

 その台詞にリアとサンが戸惑いの声を出す。

 そんな2人へアーニーはさらに重ね、

 

「音だ。お前達にも聞こえるだろう」

 

「音って――――あっ!?」

 

 訝しむリアだが、すぐに気付いた。

 迷宮の壁、その向こうから、何かがぶつかるような、砕けるような音が響いていた。

 その“音”はだんだんと大きくなり――

 

「あれ? ちょっと、なんか揺れてません? 揺れてますよね?

 あっしら揺れてますよ!!?」

 

 サンが叫んだ。

 彼の言う通り、音と共に床が震えだした。

 いや、床だけではない。

 

「この階層(フロア)全体が揺れている、だと……!」

 

 アーニーの顔が険しくなった。

 揺れは次第に激しさを増していく。

 天井にヒビが入り、パラパラと欠片が落ちる。

 

「何が起こってるのよ!?」

 

 リアの叫びへ、

 

「知るか!!」

 

 投げやりに返すアーニー。

 

「お、おお、おおお!? 来ますよっ!?

 なんか来ちゃうっ!?」

 

 サンの気色悪い声に誰かが突っ込むよりも先に。

 ――床が、吹き飛んだ(・・・・・)

 

「何なのよーーーーっ!!?」

 

 少女の絶叫が響く中、床から2つの――青と黄の“光”が現れ。

 誰かが何かをする暇も無く、“光”は天井を突き破って消えた。

 

 程なくして、辺りに静寂が戻る。

 

「……あ、ありゃあ、ひょっとしてひょっとすると?」

 

 サンが唇を震わせながら、口を開いた。

 アーニーはそれに対して一つ頷くと、

 

「ああ、クロダだったな(・・・・・・・)

 もう片方は、ケセドか?」

 

 今彼らが見た光景を端的に言うならば。

 黄色の光に包まれた黒田と、青の光に包まれた巨大な龍が。

 取っ組み合いを(・・・・・・・)しながら(・・・・)、迷宮を突き破っていった。

 

「どうなってんの、クロダ……?」

 

 想像外の出来事に、リアはただ呆けるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ははははははっ!! なかなかいいもんだな、龍同士の戦いってのも!!」

 

 正直言って、“私”は興奮していた。

 同じ龍同士で殺し合いをするという緊張感よりも、己の力を十全に発揮できることに高揚していたのだ。

 

『ま、六龍(僕達)が戦うなんて史上初のことだからねぇっ』

 

 ため息交じりのケセドも、こちらの発言を否定はしてこない。

 奴もまたこの状況を愉しんでいるのだろう。

 

「おらぁっ!! ぶっ飛びやがれ!!」

 

 そんな青龍の首根っこを掴んで(・・・)、力任せに投げ飛ばす(・・・・・)

 巨体が吹っ飛び、階層の壁に叩きつけられ――壁を壊して“その向こう”にまで飛んで行った。

 

「ふんっ!」

 

 “私”もまた、それを追って壁の穴へと跳び込む。

 空間が入り乱れた<次元迷宮>において、壁の向こう側とは単純な地続きの場所ではない。

 その証拠に鋼鉄製の壁を破った先の光景は、灼熱のマグマが噴き出す地下洞だ。

 肌を焦がす熱風を浴びるも、然したる問題はない。

 “今の自分”にとってはそよ風以下だ。

 

『さっきから力任せばかりじゃないか』

 

 階層の中央――溶岩の上に降り立ったケセドがそう呟くと、周囲の“熱”が奴に集まり出した。

 熱を奪われたマグマが瞬く間に只の岩へと戻り、青龍の身体が膨大な熱量を帯びる。

 

『お返しだ』

 

 その“熱”を龍の吐息に乗せて直接こちらへぶつけてきた。

 さながらゴジ●の放射熱線――このネタ、通じない人もいたりするのだろうか?

 

「うおっ!?」

 

 熱線を受け、今度は“私”が吹き飛ばされる。

 というか、熱そのものよりもその“勢い”が辛い。

 

「イテ」

 

 頭から壁に激突し、反射的にそんな言葉を零してしまう。

 実際のところ、こんな攻撃でダメージを受けたりしないのだが。

 

「――と、今度は氷の迷宮か」

 

 先程の熱線で、また別の階層(フロア)に運ばれた模様。

 奴との戦いではずっとこれの繰り返しだ。

 龍の力は平然と次元の隔たりを破壊する。

 

「今度はこっちの番だぞ」

 

 こちらの階層へ飛び込んでくるケセドを見据え、思い切り拳を握る(・・・・)

 “私”の拳と青龍の巨体が激突し――余波で階層の氷が全て蒸発した。

 

 

 

 

 

 

 その後も戦いは続く。

 砂流が渦巻く階層では、存在する砂全てをガラス状に溶とかし。

 巨大な大樹を切り抜いて作られた迷宮では、大樹そのものが枯れ。

 触手蠢く生体洞窟では、そこに生きるあらゆる生命体が死滅。

 天空回廊では、空に浮かぶ浮島を地に叩き落した。

 ――幾つもの階層が破壊されていった。

 

 

 

 

 

 

 はてさて、戦いを始めてから幾ばくの時間が経ったか。

 

「あー、まどろっこしい」

 

 悪態をつく。

 正確な時間を測っていないが、大分長いこと戦った。

 しかし全力で攻撃し合っているといのに、お互い大したダメージを負っていない。

 これは六龍が元々このグラドオクス大陸を“守護する”存在であることに起因している。

 本質的に“私達”は攻撃性能より防御性能が高いのだ。

 

「龍同士だと、決め手に欠けて仕方がねぇ。

 どうしたって泥仕合になってしまう――全く、面倒だよなぁ?」

 

『……ハァ……ハァ……ハァ……』

 

 せっかく話しかけてやったと言うのに、ケセドからの反応が無い。

 ただ大きく息を吐くのみだ。

 

『ば、馬鹿げてる――本気で脳筋だな、ティファレト。

 まさか<次元迷宮>を崩壊させにかかるなんて』

 

 忌々し気に“私”を見る青龍。

 傷こそ負っていないものの、その姿は明らかに弱っていた。

 そんなケセドをせせら笑う。

 

「力押しで潰せるならそうしようと思ってたんだがな。

 どうにも決着つきそうにないんで、目標を返させて貰った」

 

 ケセド本体は傷つけられないが、奴の媒介であれば話は別だ。

 <次元迷宮>は青龍の媒介ではあるものの、何らかの守護が働いている訳ではない。

 壊すことはそう難しくない。

 

『<次元迷宮>がどれだけ広大だと思ってるんだい?

 龍の力をもってしても、早々破壊なんてできない筈なのに』

 

「お前も一緒になって暴れるからだ」

 

 “私”だけであったなら、もっと時間がかかった。

 相手を徹底的におちょくって、戦いが激しくなるよう誘導したのだ。

 ――頭脳派を気取ってくる癖に、随分とチョロい龍である。

 

 もっとも、事前に奴の媒体が<次元迷宮>であることを知っていなければ、話は違っていただろう。

 口は災いのもと、というやつだ。

 

「まあ、とはいってもまだ半分も壊せてないけどな。

 それでもお前の力を減ずるには十分か」

 

 元より互角の力を持つ者同士。

 僅かな衰えが、勝負の趨勢を決めてしまう。

 

「さて――名残惜しいが、おしまいだ。

 トドメ刺してやるよ」

 

『僕の“契約”を使うつもりかい?』

 

「その通り」

 

 かつてケセドが誠一へ渡した<契約文字>。

 今この身体が身につけている籠手と具足には、ソレが刻み込まれている。

 契約内容は、『六龍が魔素によって歪められた時、その“神格”を消去し、存在を浄化する』というもの。

 勇者の戦いに参加した他の龍共を抹消するため作られた代物だが――その内容上、ケセドも対象に含まれる。

 奴の扱う<契約>は非常に強力だ。

 ケセド自身であってもその力に逆らえない程に。

 

「策士策に溺れる、だな。

 お前、頭使うの向いてねぇわ」

 

『僕の契約を利用する身分で、よく言うよ。

 っていうか、なんかさっきから勝ち誇った顔してるけど君だってもう色々限界だろ?

 足が震えてるし、汗も随分大量に流してるじゃないか』

 

「……武者震いだ」

 

 確かに、少しだけ――本当に少しだけ、疲れているかもしれないが。

 別段、何の支障もない。

 ……うむ、問題ない。

 

『まあ、僕達はほぼ不滅に近い存在だけど、媒体はその限りじゃないからね。

 物質として存在する以上、消耗は免れない。

 100%の力を発揮できても、それを継続できるかどうかはまた別の問題だ。

 ましてや、君はまだ黒田誠一の身体を使い慣れていないし』

 

「いちいちうるさい野郎だな」

 

 どちらにせよ、こちらが有利なのは間違いないのだ。

 疲労は溜まっているが、今すぐどうこうなるレベルではない。

 ここで“契約文字”を打ち込めば、確実に勝てる――

 

『もののついでにもう一つ言っておくけど』

 

 ――気楽な調子で、さらにケセドが話しかけてきた。

 

「……なんだ。今更命乞いは聞かねぇぞ」

 

『そんなことする訳ないだろ。

 単に、その契約文字の使用説明をするだけさ』

 

 あ、これは良からぬことを企んでる顔だ。

 そう察せたものの、“私”が何かをするまえに奴は言葉を続けた。

 

『その契約ね、“使用者”にも効果を及ぼすようにしてあるんだ』

 

「はぁ!?」

 

 変な声が出てしまった。

 すると何か。

 この契約文字をケセドに撃ち込んだら、“私”もまたその契約が適用される、ということか。

 ……浄化されちゃう?

 

「お前、なんでそんな仕様にしやがった!?」

 

『他の龍に悪用されたく無かったし、こんなこともあろうかとね。

 人である黒田誠一が使う分には何のデメリットも無いんだから文句言われる筋合いはないな』

 

「この野郎」

 

 こうなると、契約文字は使えない。

 他の方法を考えなければ――と、そんな思案のところへ。

 

『まあ、でもさ――』

 

 この期に及んで、まだケセドは喋る。

 

『――君、どうせ撃つんだろ(・・・・・・・・)?』

 

「はっ?」

 

 奴の言葉を鼻で嗤った。

 何を行ってるのか、この龍は。

 自分が死ぬと分かっていて、使う阿保がどこにいる。

 “私”はケセドを睨み付け、

 

 

 

「――当たり前だ!!」

 

 

 

 <射出>行使

 目標:原子核

 陽子・電子・中性子を無限加速→原子破壊誘発

 

 迷宮を構成する物質が次々と消失、エネルギーへと変換されていく。

 瞬く間に“私”の周囲には何も無くなり(・・・・・・)、代わりに目が眩む程の光が一面を覆う。

 

『……ベクトル操作を利用した物質の純エネルギー化か。

 一芸も、ここまで窮めれば大したもんだ』

 

 物珍しい感嘆の声をしり目に、操作続行。

 

 

 <射出>再行使

 目標:純エネルギー

 生成した全エネルギーを戦神の鎧へ注入

 

 籠手と具足が眩い金色に輝く。

 無限充電(アンリミテッド・チャージ)、完了!

 

「行くぞ!!」

 

『来い!!』

 

 黄龍()の全知全能をもって、自身を青龍へと撃ち放つ。

 

 

 

 ――決戦奥義が極致

 疾風迅雷・殲滅式

 

 

 

 <次元迷宮>を、極大の光矢が貫いた。

 

 

 

 

 

 

「げほっ、げほっ――なんだ、元の場所に戻ったのか」

 

 大量の瓦礫――いったいどこの階層のものなのかは分からないが、とにかく瓦礫だ――を押しのけ、周囲を確認した。

 ここは、ケセドが居を構えていた階層であり、要するに戦いを始めた最初の場所だ。

 疾風迅雷で幾つもの階層を消し飛ばし、最終的にここへ戻ってきてしまったらしい。

 

「そういや陽葵は……無事か。

 すやすや寝てやがる」

 

 視界の端に、未だ倒れ伏した室坂陽葵の姿が見える。

 大分派手に戦ったわけだが、幸いなことにその影響を受けていないようだ。

 

「ま、最低限気を付けてはいたが――ん?」

 

 瓦礫が崩れる音。

 その下から、青い“光体”が現れた。

 

「ハハ、なかなか愉快な姿になったじゃないか、ケセド。

 もう龍の形態も保てないか」

 

『もう現界しているのがやっとって感じだね』

 

「……そのようだな」

 

 嫌味を素直に受けとる程、弱っているようだ。

 輝く契約文字が、“光体”に絡みついている。

 もうじき、ケセドは消滅する――正確には、これまでケセドとして振る舞ってきた神格が消滅する。

 

『でも、消える前にやることはやっておかないと……』

 

 そう言うと、青い光は陽葵の方へ――っておい!

 

「待て! この期に及んで何しようとしてやがる!!

 負けた癖に往生際悪いぞ!?」

 

『別に警戒しなくていい。

 害を加えるつもりは毛頭ないよ』

 

「…………」

 

 やたら穏やかな(・・・・)口調だった。

 奴を止めることを、躊躇ってしまう程に。

 

『さぁ、最期の一仕事だ……』

 

 ケセドはその身体から、キラキラとした光の粒を陽葵へと降らせた。

 少年を淡い光が包み、程なくしてそれは消える。

 

「何をした?」

 

『ちょっとした、魂の強化をね。

 これから彼へ入り込む六龍の力に押し潰されないように』

 

「……そういうことできるんなら最初からやれよ」

 

 魂の入れ替えなんてややこしい手段を使いやがって。

 穏便に事を治めておけば、こうはならなかったものを。

 

『そんな大した代物じゃないんだ。

 龍の力を安全に留め置けるようになっただけで、その力を行使したなら耐えられずに消滅する。

 その程度の強化さ。

 アハハ、黒田君には神格を浄化しとけば大丈夫って言ったんだけど、実のところ保管してるだけでもそれなりの負担にはなっちゃうんだよね』

 

 こちらが考えていたことを察したのか、ケセドは自嘲気味にそう告げる。

 

『結局のところ、ただの延命措置。

 僅かばかりの希望を残したに過ぎない』

 

 青い光が明滅を繰り返しながら、言葉を紡いだ。

 

『色々手を尽くしてみたんだけどねぇ。

 結局、僕には“ああいうやり方”しか陽葵を救う方法を見いだせなかった』

 

「随分とあのガキにご執心だな。

 ただの道具じゃなかったのか?」

 

『道具だよ――でも、愛着はあった。

 ほら、やっぱり、一応は僕の子供にあたるわけだからね。

 できることなら、この先も無事に生きていって欲しいと思っていたんだよ』

 

 ……驚いた。

 こいつ、そんな“普通のこと”を考えていたのか。

 というか、そういうことを考えながら、あんな発狂してもおかしくない――もとい、発狂しない方が不思議な目に陽葵を遭わせたのか。

 

「もっと優しく扱ってやれよ、そんな風に想ってるんなら」

 

『それは無理だ、なんたって僕は――狂ってるんだから。

 健やかに生きて欲しいと願う一方で、陽葵の泣き叫ぶ姿を見てみてかったのも本音だよ。

 そのために、“青の証”とか造って状況を整えたんだからね。

 いや実際、凄くいい声で鳴いてくれたし』

 

「……酷い親父がいたもんだ」

 

『君に言われると傷つくなぁ。

 息子と親しい女性を片っ端から食い漁ってた癖に』

 

「馬鹿を言え。

 ちゃんと一番美味しいところは誠一に残しておいたぞ」

 

 ――と、なんだこの会話は。

 仮にも六龍同士の会話だというのに、まるで自分の子供に関する世間話になってしまっている。

 

『ほんの少し。

 本当にほんの少しだけれど、ティファレト、君が羨ましい。

 六龍で最も低俗な性質の持ち主だったのに、最も真っ当な感性を獲得した。

 生命を司る君は、僕達の中で一番真剣に人と向き合っていたからかもね――向かい合う手段は交尾だけど』

 

「褒めてんのか? けなしてんのか?」

 

『褒めてるんだよ、素直に喜べ』

 

 本当か?

 どうにも嘲りの臭いがするぞ。

 

『――うん、初めて君と本音で語り合えた気がするな。

 意外なことに――気の迷いかもしれないけれど――危惧していたよりかは悪くない。

 でも、ここまでか』

 

 契約文字が、青い光体を覆い尽くていた。

 もうじき、奴は消える。

 

『ハハ、六龍と言ったって大したことは無いね。

 自分の子供一人満足に助けられない』

 

 ――それが、ケセドの残した最後の台詞だった。

 契約文字は消え、何の混じりけも無い光のみがそこに残る。

 その光も、室坂陽葵の身体へ吸収されていく。

 

「……まったくだ」

 

 全て終わり、ため息を吐いた。

 視線を落とし、自分の身体を見下ろすと、

 

「あー、俺様(・・)もそろそろか」

 

 契約文字が体表に浮かんでいた。

 自身(ティファレト)の浄化も始まってしまったらしい。

 

「こうなった以上、ベターエンドもビターエンドもその可能性は潰えた。

 後はベストエンドかバッドエンドだけだ。

 やり遂げろよ、誠一」

 

 最期に息子へエールを贈る。

 遺言なんて柄じゃないが――ま、これ位いいだろう。

 

 光る文字が増えるに従い、意識が薄れていった。

 ティファレトとして生きた幾星霜が消えていく。

 

 ただ純粋に世界を守護していた日々も。

 狂って暴虐を働いた日々も。

 雌という雌を犯し抜いた日々も。

 東京で、嫁と出会ったあの日も。

 彼女と一緒に過ごした日常も。

 ……彼女との別れも。

 

 誠一と暮らした日々も、美咲と出会ってしまったことも、勇者達とバカやった日々も。

 一切合切、全て。

 

 ここまで来て不様は曝すまい。

 訪れようとする終焉を、ただ黙って待――

 

「――やっぱ拝み倒してでも美咲と一発ヤっときゃ良かったかなぁ。

 いや無理か? 無理だよなぁ、駄目だよなぁ」

 

 つい、愚痴を零してしまった。

 仕方ない。

 これがティファレトなのだ。

 消滅する寸前だからといって、自分が自分であることは止められない。

 それで止められるなら、苦労は無い。

 

 ま、ぐだぐだになってしまったが。

 これにて俺様はおしまい。

 

 

 

 ――いざ、さらば。

 

 

 

 

 

 

 第三十二話 完



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第三十三話 魔龍討滅戦 白龍ケテル
①! エゼルミアという女


※不快感を催しかねない内容が含まれておりますので、ご注意下さい。


 

 五勇者の一人、“全能”のエゼルミア。

 彼女はいったい如何様な人物であったか。

 

 ――もし一言で表すというのであれば、凡庸な女性(・・・・・)であった。

 

 

 

 彼女は、人里離れた森の中にある集落で生を受けた。

 森の民“エルフ”としては、極々普通の生まれである。

 長の子として産まれた訳では無い。

 巫女として望まれた訳でも無い。

 本当に平凡な(・・・)子として産まれたのだ。

 

 取り立てて、才能も無かった。

 他人より優れた部分は無く、しかし特に劣った部分も無い。

 容貌はそれなりに整っていたが、それとて平均を大きく逸脱していたものでもない。

 どこをとっても、目立つ特徴の無い少女だったのだ。

 ……もっとも、容姿についてはあくまで美男美女が揃うエルフ族を基準とした話であって、他種族から見れば十分“絶世の美女”と呼ぶにふさわしいのだが。

 

 

 

 例えば、彼女の一日はこんな感じだ。

 

「ロズ、もう朝ですよ。

 ほら、そろそろ起きなさい」

 

 エゼルミアの朝は、弟達の世話から始まる。

 まだ夢の世界に浸っている2人の弟を揺り起こすのが、彼女の日課だ。

 

「むにゃむにゃ……まだ眠いよぅ。

 あと5分……5分だけ……」

 

 そして弟が素直に起きないのもまた、いつものことであった。

 エゼルミアは“怖い笑み”を浮かべると、口調を強くして、

 

「起・き・な・さ・い!」

 

「はいっ」

 

 なんだかんだでお姉ちゃん子(エゼルミア談)なロズは、ささっと目を覚ましてくれた。

 

 そんな弟の朝食を用意するのも彼女の役目。

 ついでの掃除や洗濯も済ます。

 

 別に両親が怠けているわけでは無い。

 親は親で早朝から仕事があるのだ。

 父は狩猟兼周囲の見回り、母は果実園の手入れ。

 日が昇ってすぐに両親はでかけている。

 必然的に、家の仕事はエゼルミアにお鉢が回るわけだ。

 

 

 

 弟を外遊びに追いやったところで、朝は終わる。

 気付けば日は高くなり、もうすぐ昼の時間だ。

 エゼルミアは身支度を済ませると、お弁当を持って外へ出かける。

 

「ラファル♪ お昼、持ってきましたよ♪」

 

 ニコニコと笑みを浮かべ話しかけると、

 

「ああ、今日もありがとう、エゼルミア」

 

 相手もまた微笑みながら返事をした。

 ちょうど木彫り細工をしているこの青年は、エゼルミアの彼氏である。

 つまりは恋人である。

 要するに将来を誓い合った男性である。

 

 何度も重ねたが、まあそういうことだ。

 エゼルミアは一般的な年頃の少女らしく、恋愛だってしていたのだ。

 ……なお、エルフ族は数百年単位で外見の成長が起きないため、割といい歳してても自分のことを年頃の女の子と自称する女性も多い。

 いや、この時のエゼルミアはしっかりと少女な年齢であったのには間違いない。

 

 閑話休題。

 仲睦まじい2人はそのままランチタイムに入ったようで、

 

「はい、あーんして下さい♪」

 

「ハハ、ちょっと恥ずかしいな……」

 

「ふふふ、こんなことで恥ずかしがっていては夜の私とは付き合えませんよ?」

 

「……エゼルミアって、偶に滅茶苦茶大胆なこと言うよね」

 

「私、子供は3人くらい欲しいです♪」

 

「こ、子供? 話が飛び過ぎてない? 会話のキャッチボールしようよ!?」

 

 今日日、女性から仕掛ける位当たり前である。

 この程度なら、“普通”の範囲だ――たぶん。

 彼らがこの日の夜、どれだけハッスルハッスルしたのかは、敢えて記すことは無い。

 

 

 

 

 

 

 ともあれ、エゼルミアとは、斯様に凡人であった。

 そんな普通の生活を送っていた彼女が。

 その時代において極々当たり前に起きる出来事――“魔族による襲撃”にも出くわすのも、やはり必然だったのだ。

 

 

 

 燃える森。

 立ち込める煙。

 集落のあちこちからエルフ達の悲鳴が聞こえる――いや、断末魔か。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

 そんな中を、エゼルミアは駆けていた。

 魔族に立ち向かうため――な訳が無い。

 彼女にそんな力は無い。

 全くの逆で、エゼルミアは逃げているのだ。

 

「ラファル! ロズ! どこ!?」

 

 はぐれてしまった家族と恋人の名を叫ぶ。

 本来、彼等を探す余裕など在りはしない。

 一刻も早くここを離れなければ、魔族に見つかってしまう。

 大声を出すなど以ての外だ。

 

「ロズぅ!! ラファルぅ!!」

 

 そんなこと、エゼルミアもしっかり理解している。

 しかしそれでも叫ばずにいられなかった。

 つい先刻、両親が殺されるところを(・・・・・・・・)見てしまったからだ(・・・・・・・・・)

 父も母も、エゼルミアを逃がすために魔族へと攻撃を仕掛け――そのまま帰らぬ人となった。

 彼女の親だけでなく、多くのエルフ達が同じような末路を辿っている。

 故に、それが危険な好意だと分かっていても、残された家族や恋人との合流に躍起になっているのだ。

 

 

 

 果たして。

 それは、ある意味で(・・・・・)叶った。

 

 

「あれあれぇ? こんなところで可愛いエルフちゃんはっけ~ん♡」

 

 

 ……最悪の形で、だが。

 

「え、エゼルミア」

 

「姉ちゃん……」

 

 恋人と弟は、魔族に捕えられていた。

 そしてそんな2人と再会したということは、つまるところエゼルミアは魔族に見つかってしまったということだ。

 周りは既に幾人もの魔族達に囲われている。

 もう、逃げられない。

 

「へぇへぇへぇ? 察するところ、エルフちゃんはこいつらを探してたってわけぇ?」

 

 魔族の一人――おそらくはリーダー格の男が、下卑た笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

「弟と恋人を探すため、せっかく逃げられる機会を放り投げたってわけだ。

 好きだぜぇ、オレ、そういう話ぃ」

 

「……ひっ」

 

 小さく悲鳴を上げてしまう。

 言葉と裏腹に、男の瞳には剣呑な光が宿っていたからだ。

 

「基本的に男は殺す流儀だったんだけどぉ。

 男のエルフ(玩具)も欲しいって知り合いの変態に頼まれちゃっててさ。

 こいつらは殺さずにとっといたんだよねぇ。

 いやぁ、運命感じちゃわない?」

 

 面白そうにくつくつと嗤う、魔族の男。

 奴はさらに、こう続けた。

 

「こういう縁は大事にしないと、って思うんだよねぇ。

 いやぁ、エルフちゃんは凄く運がいい!

 オレはキミを見逃してあげようと思う。

 キミの大事な人と一緒にねぇ」

 

「え?」

 

 思いもよらぬ提案だった。

 そんな美味い話があるわけないと分かっていても、思わず反応してしまう。

 

「ただぁし!!」

 

 突如、魔族の叫びが響く。

 

「助けるのは、どっちか片方だけだ!

 キミはここで重大な決断をしなくてはならなぁい!

 誰が死に、誰が助けるのか、選ぶのはキミだ(・・・・・・・)!!

 ……キミが選んで、君が殺せ(・・)

 生き残った方とキミの命は、オレが責任もって保証しよう!!」

 

「――え」

 

 その言葉に思考が停止する。

 恋人か、それとも弟か。

 そのどちらかを選択しろ、と?

 

「さささ、早く選んで()っちゃってくれよぉ!

 仮にもエルフなんだから人殺すくらい魔法でちゃちゃっとできるだろう!?

 オレは気が長い方じゃないからねぇ。

 あんま時間かかるようなら、約束破っちゃうかも♡」

 

「え、え、え――?」

 

 到底、無理な話だった。

 片方を選択するというだけでも無理難題だというのに、さらに選ばなかった方の命をエゼルミア自身の手で奪えと言っているのだ。

 できない。

 できる筈が無い。

 しかしやらなかったら3人共魔族に捕まる。

 その後どうなるかは――想像したくもない。

 

(あ、あ、あ、あ――)

 

 涙が出てきた。

 唇が震える。

 頭が混乱する。

 視界がぼやける。

 

 その時、

 

「ね、姉ちゃん」

 

 ロズが口を開いた。

 少年もまた涙を流しながら、

 

「お、俺なら、だいじょうぶ、だよ。

 うん、別に、し、死ぬのとか、ぜ、ぜ、全然、怖くねぇし。

 それで、ら、ラファル兄ちゃん、と、幸せに――」

 

「駄目だ、エゼルミア!」

 

 恐怖を押し殺し、必死に紡がれた言葉を遮ったのは、ラファルであった。

 青年は鬼気迫る表情で、

 

「殺すのは、僕にするんだ!

 自分の家族を手にかけるなんてこと、やっちゃいけない!

 ……君に、辛い選択をさせてしまって、本当にすまない。

 こんな情けない男のことなんか忘れて――どうか、生き延びてくれ」

 

 最後は、エゼルミアへの懇願になっていた。

 自分を殺して欲しい、という懇願。

 

「あっはっはっは!!

 いいね、いいねぇ!!

 こういうのを見たかったんだ、オレはぁっ!!」

 

 すぐ隣で、腹立たしく笑う魔族。

 こいつを殺したい衝動に駆られるが、それは全く意味のない選択肢だ。

 それができるのならば、今こんな窮状に至っていない。

 

(で、でも、どうしれば――どうしよう――どうしたら――?)

 

 頭は未だ不明瞭だ。

 何を為せばいいのか、まるで分からない。

 どうしたらいいのか、何も閃かない。

 ただただ、時間だけが過ぎていく。

 焦れば焦る程、決断から遠ざかっていく。

 

 

 ――そして。

 

「はーい、時間切れぇ♡

 残念賞!」

 

 場違いな位ににこやかな笑みを浮かべ。

 魔族の男は、ラファルとロズの首を捩じ切る(・・・・)

 

「あ、え?」

 

 一瞬、何が起きたか理解できなかった。

 理解できなかったけれども、しかし視界には顔のない恋人と弟の身体が、そして地面に転がる2人の頭が映っている。

 

「な、な、な、なん、なん、で」

 

 だんだんと思考が追い付いてくる。

 今、魔族が何をしたのか把握してしまう。

 

「なんで、殺した、の……?」

 

 殺す必要は無かったはずだ。

 ロズもラファルも、その身柄を魔族達は欲していた――例えそれが、玩具としての需要であったとしても。

 だから、最悪の場合でもこの場で殺されることは無い、と思っていたのに。

 

「んー、いや、まー、ノリ? みたいな?

 こうした方が面白そうっていう、その場の勢いとかあるじゃん?」

 

 余りにも気軽に、そう言ってのける魔族。

 そんな軽い感覚で、エゼルミアの最愛の人達は命を落とした。

 殺されてしまった。

 

「ま、別に男のエルフはこいつらだけじゃないしねぇ。

 別のとこ襲った時にでも、確保することにするわ」

 

 そう言って、肩を竦める男。

 彼にとってはそちらの方が重要らしい。

 

(――こ、の!!!)

 

 ふつふつと暗い感情が湧き上がるのを感じる。

 沸騰しそうな程に、血が沸き立つ。

 

「……殺す」

 

 エゼルミアの瞳孔が開いた。

 目から光が消えた。

 ただ殺意のみが頭を支配する。

 

「殺してやる!! 絶対に、絶対に殺してやる!!

 その喉元、掻き切ってやるっ!!!」

 

 絶叫する。

 本当にそれを実行しそうな程に、殺気が漲っていた。

 そんな彼女の姿を見て、魔族の男はヒューッと口笛を吹く。

 

「へー、いいねぇ?

 そういうのも好物だよぉ、オレ。

 せいぜい足掻いてみせてよ、エルフちゃん♡」

 

 太々しく、そう宣う。

 それを合図に、周囲の魔族がエゼルミアに襲いかかった。

 成す術も無く、組み伏される彼女。

 しかしその目は、憎悪を滾らせて目の前の男を睨み続けていた。

 ――必ず報いを受けさせると、その誓いを心に刻み付けて。

 

 

 

 

 

 

 それから、100年(・・・・)の月日が過ぎる。

 今、エゼルミアは――

 

「あぁああん♡

 おちんぽっ♡ おちんぽ下さいまし♡

 この雌犬のおまんこに、おちんぽぶち込んで下さぁい♡」

 

 ――堕ちていた(・・・・・)

 銀髪の少女は四つん這いになり、浅ましく尻を振っている。

 周りには、ソレを鑑賞する幾人もの魔族達。

 

「はぁぁああああ♡

 おちんぽ来たぁああああ♡」

 

 一人の魔族が――ロズとラファルを殺した魔族の男であり、この集団のリーダーでもある男が、彼女の女性器目掛けイチモツを突き挿した。

 

「どうだぁい、俺のちんこの味は?

 美味しいかい?」

 

「はいっ、ちんぽ美味しいです♡

 雌犬のみすぼらしい穴に立派なおちんぽを頂き、凄く嬉しいです♡

 あ、ああ、あ、あぁぁああああああん♡ ありがとうございますぅうううっ♡」

 

「あっはっは、すっかり雌犬っぷりが板についたねぇ」

 

 感慨深く、己の“成果”を見つめる魔族。

 エゼルミアは上の口からも舌の口からも涎を垂らし、男の肉棒に酔いしれていた。

 

「はぁああああああんっ♡ あぁぁああああああんっ♡」

 

 起伏に乏しくも美麗な肢体を、淫らにくねらせる少女。

 その有様は、確かに雌犬と称す他ない。

 

 

 

 エゼルミアは魔族に囚われてからこれまで、服を着ていない。

 二足歩行も禁じられ、四足歩行の生活を始めてもう数十年《・・・》。

 彼女の足は歩き方はおろか、立ち方すら忘れている。

 ザーメン塗れの食事は、寧ろご馳走だ。

 魔族の命令に絶対服従なのは当たり前。

 常に彼らの機嫌を伺う卑屈さも身につけた。

 

 

 ……彼等への反抗など無意味だった。

 口答えでもしようものなら、動けなくなるまで痛めつけられる。

 本当に死ぬ前に魔法で治療をされるのだが、逆に言えば永続的に暴行を受け続けるということでもある。

 抵抗すれば殴られ、抵抗しなければ犯された。

 ヒトとして最低限の生活すら送れず、矜持は次々と毟り取られる。

 強姦された。

 拷問された。

 輪姦された。

 糞尿を食わされた。

 子を孕まされた。

 子を■された。

 その子を■■■せられた。

 

 そんな日々がただひたすらに延々と繰り返され――とうとう、エゼルミアは壊れたのだ。

 どこに出しても恥ずかしくない、立派な雌奴隷に仕上がったのである。

 

 

 

「ほぅら、(なか)で出すよぉ」

 

「あひぃぃいいいいいん♡

 熱い精液、注がれてますぅぅうう♡」

 

 溜まった性欲をエゼルミアへ吐き出す魔族。

 少女もまた、悦んでそれを受け入れる。

 

「はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡ はーっ♡」

 

 恍惚とした表情で、エルフは横たわっていた。

 その様をしげしげと見つめてから、魔族の男がぽつりと呟く。

 

「……飽きたな」

 

 とてつもなく、身勝手な台詞。

 その発言に他の魔族達も眉をひそめた。

 

「飽きたって――こんな上玉、そうそう手に入りませんよ?」

 

「いや、綺麗だけどねぇ。

 でもエルフって大体皆こんな顔じゃん?

 それに幾ら美人でもこんだけ長い間抱いてりゃ、飽きも来るってもんさぁ。

 お前まだ若いから分かんないだろうけどさぁ、俺こいつとの付き合いもう100年になるんだよぉ?」

 

「あー、倦怠期ってやつですか」

 

「そうかな? そうかも。いや違うかな?

 うーん、反抗してくれてた時期は面白かったんだけどねぇ。

 毎日、次はどうやって屈服させてやろうか考えるの楽しかったし」

 

 大きくため息をつく。

 だが他の魔族は納得いかないようで、

 

「いい塩梅に育ったと思うんですけどねー。

 ほら、他の奴らは廃人になっちゃいましたけど、こいつまだヒトっぽく振る舞う(・・・・・・・・・)じゃないですか」

 

「エルフちゃん、才能があったのかもねぇ。

 それとも俺の育て方が良かったかな?

 ま、でも問題は他にもあってさ――」

 

 男はつま先でエゼルミアの股間を蹴り上げた。

 彼女の女性器に、脚の先端が突き刺さる。

 

「んほぉおおお♡」

 

 普通なら激痛にのたうち回ってもおかしくない行為だが、エゼルミアにとってはそれさえも“ご褒美”になる。

 しかし魔族の方はつまらなそうな顔をしながら埋め込まれた足をぐりぐりと動かし、

 

「もうガバガバなんだよねぇ、こいつのまんこ。

 ぶっちゃけ、大して気持ち良くない」

 

「んー、確かに、雰囲気で射精してるとこありますね、俺達も」

 

「だろ? 締め付けだけならその辺の女の方がよっぽどいいんだよねぇ」

 

 そう言って、肩を竦めた。

 散々嬲った結果なのだが、それを指摘する者はこの場に居ない。

 

「んじゃどうします?

 殺しますか?」

 

「それが後腐れも無くていいかなー。

 でもただ殺すんじゃなくて何かこう、趣向を凝らしたいんだよねぇ」

 

 魔族は腕を組んでしばし考え事をした後、ぽんと手を叩く。

 

「あ、こんなのはどうだろ」

 

 

 

 そして。

 エゼルミアの前に、金属の棒が置かれた。

 男の二の腕程はある、太い棒。

 しかしただの棒では無い。

 先端が赤熱した(・・・・)金属棒だ。

 鍛冶屋が鉄を打つ際に炉で熱した時のように、赤く輝いていた。

 自身の灼熱を証明するかのように、一部溶けだしてさえいる。

 

 そんな“棒”を指さしながら、魔族の男がにこやかに指示を出してきた。

 

「エルフちゃん、コレ使ってオナニーしてよぉ♪」

 

「…………え」

 

 一瞬、“戸惑い”を見せるエゼルミア。

 今の彼女をして、それは躊躇を産む命令だった。

 あんなモノ(・・・・・)を自身の胎に突き込んだらどうなるかなど、容易に想像できる。

 “死ね”と言われて迷うだけの感情を、まだ彼女は残していたのだ。

 しかし、男はその反応に意を介さず。

 

「まさか嫌なんて言わないよねぇ?

 エルフちゃんはいい子だもんね、言われたことをちゃんとやってくれる子だもんねぇ?

 ――早くやれよ」

 

「え?――あ、はい――え?――分かり、ました?――え?――え?」

 

 感情が入り乱れている。

 雌の笑顔を顔に張り付けながら、瞳からは涙が流れた。

 手脚がプルプルと細かく震える。

 思考が――魔族に忠実にあるべしと洗脳されつくした思考が、己の“死”を受け入れていいのかどうか、判断しかねているのだ。

 

 だがしかし。

 それでも(・・・・)エゼルミアの身体は動いた。

 魔族の言う通りに、おずおずと燃え盛る金属棒を手に取り、自分の股へと――

 

 

 

「ぎぃやぁああああああああああああああああっ!?!?!!!?!?!?!」

 

 

 

「あはははははははっ!!

 マジか!? マジで!? やりやがった!!

 普通やるかい、そんなこと!!?

 最期に笑わせてくれたねぇっ!!」

 

 

 

 

 

 

 こうして、エゼルミアの人生は幕を閉じた。

 ……いや、閉じる筈だった。

 

 彼女には一つ、本人も気付いていない才能があった。

 “龍適性”である。

 エゼルミアは六龍の力を行使できる適性が――当時の魔王とは比べるべくもないが――極めて高かったのだ。

 それに、白龍ケテルが目を付けた。

 龍は、放置され今にも死にゆく彼女へと語りかけたのだ。

 

『自分に協力すれば、魔族に対抗できる力を与えてやる』と。

 

 一も二も無く、エゼルミアは受け入れた。

 そもそも他に選択肢など無いし、ケテルの提案は彼女にとってこの上なく魅力的だったからだ。

 

 白龍の目的が、“魔素に染まりきったこの大陸の全生命を(・・・・)一掃すること”なのも。

 エゼルミアに魔族への敵意を刻み込むため、“敢えて彼女を見捨てていた”ことも。

 全て、些末事であった。

 “最も魔素の影響を色濃く受けた種族――つまりは、魔族を滅ぼす”という一点で互いの利害が一致している以上、他のことなどどうでもよい。

 

 

 

 

 

 

 龍の力を得たエゼルミアが手始めに行ったのは、大事な人達を殺し、自分を穢した者達への復讐であった。

 仮にもエルフの集落を陥落させ、100年もの間自分を監禁調教してきた相手。

 多少の苦戦は覚悟していたのだが――結果として、余りにあっさりと(・・・・・)成し遂げられた。

 

 

「あ……が……あ……ば、ばけもの……」

「ひっ……いてぇ……いてぇよぉ……」

「あ、足……オレの足、どこ……?」

 

 

 彼女の周囲には数十人の魔族が倒れ伏せている。

 ある者の身体は焼け焦げ、ある者は凍てつき、ある者は斬り刻まれ、ある者は引き千切られ――誰もが瀕死の重傷だ。

 死人がほとんどいないのは慈悲でも情けでもなく、単により苦しませてから殺そうという判断である。

 一方、エゼルミアには返り血すらかかっていない。

 

(……こんなモノですか)

 

 涼しげな顔で、憎き連中の惨状を見下ろしている。

 ケテルに与えられた力は、それ程までに圧倒的だった。

 

 ――“ヒト”の間にある力の優劣など、神のそれに比べれば誤差にすらならない、ということだ。

 

 ここまで簡単だと大した達成感も得られない。

 そのことに一抹の不満を抱えながら、エゼルミアは一人の魔族に近づく。

 直接手を下した、この集団を統率する男。

 他と同様、こいつもエゼルミアによって浅くない傷を負っている。

 

「ぜぇっ……ぜぇっ……は、はは、随分と強くなったじゃないか、エルフちゃ――ぎゃぁああああああああああっ!!!?」

 

 この期に及んで軽口を叩こうとしたので、手をへし折ってやった。

 その悲鳴はエゼルミアを実に痛快な気分にさせる。

 

「ふふふ、大分お世話になりましたからね。

 楽に死ねるとは思わないことです」

 

 自然と、笑みが浮かぶ。

 これからこの男に、どれだけの責め苦を与えてやろうか、考えただけで心が躍った。

 

(と、これではどちらが悪者か分かりませんね)

 

 己の嗜虐的な一面を一応戒める。

 これは悪を懲らしめるために行う、正当な制裁なのだから。

 

(もっとも、どれだけ泣き叫んで命乞いしても、応じはしませんけれど)

 

 気を引き締める。

 万に一つも、魔族の惨めな姿に同情をしてしまわないように。

 憐れみを感じて、手を緩めてしまわないように。

 

 そんな覚悟を持っていたエゼルミアだからこそ、次に男が吐く台詞を予想できなかった。

 

「……た、頼む、俺はどうなってもいい(・・・・・・・・・・)から……他の奴らの命だけは、助けてくれ……」

 

「――――は?」

 

 有り得ない言葉に、身体が固まる。

 その間にも、魔族は喋り続けた。

 

「あんたの里を襲ったのも……あんたを凌辱したのも……全部、俺の指示なんだ。

 他の連中は皆、乗り気じゃ無かった……止めようとする奴もいた。

 ……あんたを、助けようとする奴だって、いたんだ。

 だから、俺が悪いんだ……俺だけを、殺してくれ」

 

「――――!」

 

 頭が真っ白になりかける。

 手が震えだした。

 それ程、この男の台詞は衝撃だったのだ。

 

 彼等の真実に驚愕した訳ではない。

 こんな言葉は嘘だ。

 そんなことは分かり切っている。

 誰もがエ愉しんでエルフ達を弄んでいたのは、自明だった。

 しかしエゼルミアがショックを受けたのはそこではなく――

 

「――ああ、そうですか」

 

 極めて冷徹な声で、告げる。

 

「貴方だけが責任を負うというなら、どんなことをされても文句は無い筈ですね!?

 耐えられる筈ですよね、責任を負うんですから!!」

 

「あっ!? ぎぃっ!? がぁあああああああああああああっ!?!!?!?!」

 

 四肢の骨を粉砕し、その後じっくり時間をかけて焼いてやった。

 腹を踏み抜き、内臓を一つずつ破裂させてやった。

 さらには魔法で神経をいじくり、痛覚を倍増させてやった。

 間違いなく、地獄の苦しみを――死んだ方が増しな苦しみを味わっている筈だ。

 だというのに(・・・・・・)

 

「……だ、だのむ……あいづらは、がんげい、ないんだ……

 ゆ、ゆるじで、やっで……」

 

「こ、の――!!」

 

 性懲りも無く同じ台詞を繰り返す魔族に、激昂しそうになるのをかろうじて抑える。

 何故、死が間近に迫っているのに、無様に泣き喚かない。

 何故、ここまで嬲られてなお、命懸けで他人を庇える。

 それは。

 その行為は。

 

(ヒトの善性(・・)が為せる行動でしょう!!?)

 

 そうだ。

 そうなのだ。

 それは、善良な人々(・・・・・)のみが行える尊い御業なのだ。

 悪性の塊である、魔族には行える筈がない言動なのだ。

 

 

『お、俺なら、だいじょうぶ、だよ。

 うん、別に、し、死ぬのとか、ぜ、ぜ、全然、怖くねぇし』

 

『殺すのは、僕にするんだ!

 こんな情けない男のことなんか忘れて――どうか、生き延びてくれ』

 

 

 頭に蘇るのは、弟と恋人がかつて遺した言葉。

 どうして。

 何ゆえに。

 悪鬼たる魔族が、同じ台詞を口にする!?

 

「……死ね」

 

 言葉を絞り出す。

 

「死ね! 死ね死ね死ね死ね!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!」

 

 狂ったように――いや、実際に狂ったのだろう――魔法をばら撒いた。

 炎が、氷が、雷が暴れ狂い、周囲を蹂躙した。

 

 ……気が付けば、生きているのはエゼルミア一人になっていた。

 

「ふ、ふ、ふふ、ふ」

 

 渇いた笑いが漏れる。

 

「ふ、ふふ、ふふふ、ふふふふ」

 

 目を見開きながら、エゼルミアは笑った(・・・)

 とても笑顔と呼べる顔では無い凄惨さであったが。

 

「ふふ、ふふふ、そうですね。

 (わたくし)としたことが何を取り乱していたのでしょう」

 

 聞く者など誰もいないにもかかわらず、彼女は一人言葉を零す。

 

「魔族は、魔族であるという時点(・・・・・・・・・・)で“悪”なのです。

 その悪性から生み出される言動は全て詐称・欺瞞。

 殊更に取り立ててやる必要などなく――そもそも考慮に値するものですらない」

 

 自分へ言い聞かせるように、そう帰結する。

 いや――寧ろ、最初に誓った通りではないか。

 

「魔族は、全て(・・)殺す」

 

 魔族は、魔族であるというだけで万死に値する罪人である。

 彼女は、その咎人共を殲滅させる。

 ただそれだけ。

 それで、万事が解決する。

 

「ふふ、ふふふ、ふふふふふふ――」

 

 

 

 

 

 

 だから、エゼルミアは殺し続けた。

 ただ平凡に生きるだけの魔族を殺した。

 幸せに生きる恋人同士の魔族を殺した。

 家族を庇う魔族を殺した。

 当然、その家族も殺した。

 魔族を裏切り、魔族と戦う魔族を殺した。

 平和の尊さを説き、魔族と他種族との和平を願う魔族を殺した。

 ありとあらゆる魔族を、等しく皆殺しにした。

 

 

 

 

 

 

 このようにして、後の五勇者『“全能”のエゼルミア』は完成したのだ。

 

 

 

 

 

 

 第三十三話②へ続く



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② 標的はギルド長

 

 

 

 ジェラルド・ヘノヴェス。

 ウィンガストの冒険者ギルドを取り仕切るギルド長をしている老人だ。

 しかしそれは仮の姿――その正体は、魔族の潜入工作員だ。

 いつの日か魔族が再び決起する際に邪魔になりうる冒険者の監視と、謎多き<次元迷宮>の調査を任に受けている。

 ――とはいえ。

 

「ま、今になってはどっちが本職なのか分からんがのぅ」

 

 本人が自嘲しながら述懐する通り、ジェラルドは魔族としての活動を全くと言っていい程に行っていない。

 決起云々といったところで、勇者達の手によって魔族は壊滅的な打撃を受けているのである。

 少数民族として有名なエルフよりさらに個体数が減ったとの調査結果すらある位だ。

 かつての覇権を再び握るなど、夢のまた夢。

 ついでに言うと、生き延びていた一握りの精鋭達も黒田誠一により討伐された。

 そんなわけで、今彼が工作員としてやっていることと言えば、冒険者を監視しているだけ(・・)、<次元迷宮>を調査しているだけ(・・)

 そこから魔族復興につながる何かを企てているわけでも無く、漫然と日々を過ごしてしまっている。

 

 一方で、ギルド長としての彼は忙しい。

 生来的に生真面目な性格のせいで職務を疎かにできず、毎日のように仕事に追われていた。

 細かいところで言えば冒険者が起こした不祥事の後始末やその処罰、大きい所で言えば各国への定期報告。

 その他にもエトセトラエトセトラ、目まぐるしい勢いで降ってくる業務を、魔族ゆえの能力(ステータス)の高さを活かして危なげなくこなす。

 おかげで、ギルド長としてはすこぶる評判が良かったりした。

 

 斯様に、ジェラルドが魔族であるという事実は――そもそもそれを知っている者は極僅かであるが――有名無実化していた。

 

「その上、最近は勇者殿への助力までしているしのぅ」

 

 別段、魔族を見限ったのでも裏切ったのでも無い。

 勇者ミサキ・キョウヤの目的の一つが魔王の救出だったため、同調したに過ぎない。

 ジェラルド個人としては、寧ろ全魔族が協力すべき案件とすら考えている程だ。

 ……悲しいかな、今生存している魔族が結集したとしても、勇者一人に勝つことすら叶わないだろうが。

 

「じゃからこそ、儂は裏方に徹しとるわけでの」

 

 実際に動くのは黒田誠一に任せきりだ。

 そこに申し訳なさはあるが、ジェラルドがしゃしゃり出たところで大した役には立つまい。

 故に、勇者や六龍との戦いが円滑に進むよう、支援や後処理に奔走しているのだ。

 街で爆発が起きたり、一区画丸々吹き飛んだり、ギルド庁舎が崩壊したりしたのだが、被害が少なく大きな問題にもなっていないのはジェラルドの手腕によるところが大きい。

 実のところ、セレンソン商会には結構な量のアイテムを横流ししていたりもする。

 決して、何もしていない訳では無い。

 決して、ただ影が薄い訳では無いのだ!

 

「先程からぶつぶつと呟かれていますが、どうかされましたか、ギルド長?」

 

 突如、横から声がかけられる。

 そこには金色の髪をロールアップした、スーツ姿がピシっと似合う女性の姿があった。

 ジェラルドの秘書であり、ギルド長の仕事を補佐してくれるありがたい人物だ。

 但し、勇者や六龍については説明していない。

 

「お、おお、すまんすまん。

 ちと考え事をな。

 して、何か用じゃろうか?」

 

「本日の報告、こちらに纏めておきました」

 

「うむ、ご苦労じゃ」

 

 受け取り、中を確認。

 ざっと見た限り、緊急性を要する案件はないようだ。

 今日は多少身体を休めることができると、内心ほっとする。

 

 ちなみにだが、今2人がいるのは冒険者ギルドの執務室――ではない。

 デュストによる襲撃によっては庁舎が破壊されたため、セレンソン商会の所有する建物の一室を間借りさせて貰っているのだ。

 

「あー、ところで、クロダ君とヒナタ君の容態はじゃが――」

 

「はい、ギルド長の指示通り、確認してきました」

 

 こちらの言葉に先んじて、秘書が答える。

 

「ムロサカ・ヒナタは心身共に衰弱しています。

 投薬や治癒スキルにより快方に向かっているとはいえ、しばらくは起き上がることすら困難でしょう」

 

「……ふむ」

 

 ケセドとティファレトの戦いに巻き込まれ、陽葵は今療養中であった。

 救出時は相当に悲惨な有様で、廃人そのものだったそうだ。

 心配であるし、できれば毎日見舞いに行きたくあるのだが、仕事の関係でなかなか難しい。

 そのため、せめて秘書を代わりに向かわせている次第である。

 

「しかし――何と申しましょうか。

 ムロサカ・ヒナタの“状態”はどういうことなのでしょうね?」

 

「――む」

 

 彼女は少年の状況について疑問を持っているらしい。

 無理もない。

 室坂陽葵は地球から転移してきた<訪問者>であるものの、立場としてはあくまで一般的な冒険者だ。

 本来であれば、ギルド長が手厚く見舞いをする人物でもなければ、高価な施術を使ってまで看護される人物でもない。

 全てを明かされていない秘書にとっては、摩訶不思議な状況なのだろう。

 どう弁解したものか、と思考を巡らせていると、

 

「その、差し出がましいかもしれませんが、“ご趣味”は程々にした方がよろしいかと」

 

「へ?」

 

 秘書の言葉の意味を、一瞬理解できなかった。

 

「確かにムロサカ・ヒナタは見目麗しいですが、だからといってギルド長のストレスの捌け口にしてしまうのは――」

 

「そんなわけあるかい!!?」

 

 全力でツッコム。

 何を考えているのだ彼女は。

 

「儂がヒナタ君をあんな風にしたと思っとったんか!?

 そんなわけないじゃろ!! どんな特殊性癖持ちなんじゃよ!?」

 

「これは申し訳ありません。

 失礼ながら、業務で溜まりに溜まった性欲を、あの少年の肢体を使って発散させているものとばかり」

 

「本気で失礼じゃな!?

 ていうか君、儂のことどう思っとるの!?」

 

 一度、互いの信頼関係について腹を割って話し合った方がいいかもしれない。

 業務の合間を縫って、面談でも行うべきか。

 

「……まあ、ギルドの男連中は好き放題使っている(・・・・・)ようですが」

 

「え?」

 

「いえ、こちらの話です。

 お構いなく」

 

「そ、それお構いなくしていい話題なのかのぅ?」

 

 しかし深く聞き出すのも気が進まなかった。

 なんだか恐ろしい“闇”を暴いてしまいそうで。

 

「ま、まあいいわい。

 それで、クロダ君の方はどうじゃった?」

 

「……く、クロダ・セイイチです、か?」

 

 途端、秘書の言葉尻が濁る。

 

「何かあったかの?」

 

 黒田もまた、件の戦いにより軽くはないダメージを負い、こちらも入院している。

 Aランク冒険者に相当する戦力を持つ彼ですらこうなのだから、六龍との戦いが如何に激しいか推し量れるというものだ。

 いや、勇者ミサキ・キョウヤから特殊な訓練を受けてきた彼で無ければ、Aランク冒険者とて対六龍の戦闘には耐えられまい。

 

(紆余曲折あったものの、六龍のうち3柱の討伐に成功しておるからのぅ。

 まったく大した男じゃわい。

 人間性はともかく)

 

 とにもかくにも、彼は六龍討伐の中核を担っていると言っていい。

 必然、その容態は非常に気がかりなのだが――

 

「そ、その、彼もまた衰弱が酷く――逞しい部分(・・・・・)もありますけれど――

 身体を起こすのもままならない状態でして――それなのに強く反り返って(・・・・・)いまして――

 いえ、でも、特に問題はありません――今夜も来るように言われましたし」

 

「…………」

 

 あ、これ問題ないヤツだ。

 顔を真っ赤にして身体をくねらせる秘書を見て、ジェラルドはすぐに理解した。

 

「そ、そうか。

 ……程々にの」

 

 とりあえずそう返した。

 

(これが無ければのぅ……)

 

 とにかく手癖が悪すぎる。

 今までどうやって生活してきたのか、不思議に思ってしまうレベルだ。

 或いは、手を出した女性を悉く堕としている手腕を驚嘆すべきところなのかもしれない。

 

(魔族である儂が、人道について説いても仕方ないか)

 

 倫理観云々を語るには、魔族という種は罪を犯し過ぎていた。

 色々と――本当に色々と言いたいことはあるのだが、ジェラルドはこれについて傍観する所存である。

 

 

 

 報告が一通り済んだところで、秘書は退室した。

 遺されたジェラルドは、同じく残された山のような書類を前に一つため息を吐く。

 

「……ちと小休止を挟んでもよかろうか」

 

 この量を一気に片付けるのは無理がある――そう判断した。

 重労働に向けて一服するため、秘蔵の茶葉を取り出す。

 さあ湯を沸かそうとしたところで、ドアがノックされた。

 

「うむ、鍵は開いとるから、入ってよいぞ」

 

 つい、反射的にそう答えてしまった。

 この返答を、一瞬後のジェラルドは心底後悔する。

 もしくは、秘書を退室させてしまったことを心底後悔する。

 部屋を訪ねてきたのは――

 

「ごきげんよう、ジェラルドさん」

 

 ――銀髪のエルフだった。

 魔族殺し(・・・・)のエゼルミアだ。

 

(…………っ!!)

 

 呼吸が止まりそうになるのを、ぎりぎりで制止した。

 心拍が早くなるのは避けようもないが、相手にばれぬよう最低限の体裁を整える。

 

「おお、これはエゼルミア殿。

 勇者自ら御足労頂けるとは思いませんでしたぞ。

 ちょうど良い茶を用意していたところです。

 一杯如何ですかな?」

 

 ……声は震えていなかった、と思う。

 怪しまれないよう気を配りながら視線を忙しなく動かし、“逃げ道”の確認を行う。

 ただ顔を会わせただけで、何をそんな――と訝しまられるかもしれないが、こればかりは仕方ない。

 魔族にとって、彼女と出会うことは自身の“死”を意味するのだから。

 

「ふふ、ふふふふ、いえ、お構いなく。

 そんな大した用事ではありませんので。

 ――ワタクシ、そろそろこの街を離れようと思いますの」

 

「ほう。

 それはまた、急ですな」

 

 エゼルミアの一挙一動を監視しながら、頷いた。

 こちらの心境を知ってか知らずか、彼女は自然体のまま話を続ける。

 

「ええ、目的の“モノ”は手に入りましたから」

 

 端的に答えを返される。

 目的の“モノ”とは、十中八九間違いなく六龍を浄化するという“青龍ケセドの契約”であろう。

 元より、彼女はそのためにミサキ・キョウヤと同じ陣営になったのだ。

 

 ちなみに、ケセドは討伐されたのだが、青龍の契約は他の龍の力とは毛色が異なるらしい。

 当の龍が居なくなったと言うのに、その契約は未だに効果を発現させている。

 

(し、しかしそれを持ち出されるというのは――!)

 

 “ケセドの契約”は六龍に対する切札である。

 これが無ければ、この後の戦いを如何に乗り切れというのか。

 そんな危惧が顔に出ていたのか、エゼルミアは笑いながら言葉を紡いだ。

 

「ふふ、ふふふ、ご安心なさい、別にクロダさんから奪った訳じゃありませんわ。

 皆さんが慌ただしくしている間に、ちょっと“契約文字”を複写させて貰いましたの」

 

 ……そんなことができるのか。

 いや、相手は“全能”のエゼルミア。

 常人の尺度でその能力は測れまい。

 彼女がやったというからには、やれたのだろう。

 

「そうでしたか。

 しかし、何故このようなタイミングで街を出るのですかの?」

 

 正直余り長く会話はしたくないのだが、聞くべきことは聞いておかねばならない。

 エゼルミアはこの世界で五指に入る実力者なのだ。

 そんな人物が味方から外れるというのだから、最低限理由は把握しておくべきだろう。

 

 渋られることも覚悟していたのだが、質問の返事はあっさりと来た。

 

「ワタクシがやるべきことは、もうありませんから」

 

「やるべきことが無い?」

 

 思わぬ言葉に、聞き返す。

 

「ええ。ゲブラー・ケセド・ティファレトの3柱が消えた今、六龍がかけたキョウヤさんへの“呪縛”は無くなったも同然です。

 すぐにでも彼女はこの世界に転移してくることでしょう。

 なら、後はキョウヤさんがどうとでもいたしますわ」

 

「……そこまでですか、キョウヤ殿は」

 

「当然でしょう。

 彼女はワタクシ達を率いていた方なのですよ?」

 

 断言である。

 ミサキ・キョウヤが勝つことを微塵も疑っていない。

 彼女とエゼルミアは単純な味方同士で無いようだったが、実力への信頼は強いようだ。

 ……とはいえ、第三者であるジェラルドにとっては、あっさりと信用できる話でも無いのだが。

 

「では、ここには別れを告げに来ただけ、ということですかの?」

 

「そう思って貰って構いませんわ。

 この街に住む知人には、粗方挨拶を済ませておりますの。

 それと、ついでに野暮用なのですけれど――」

 

 そこで意味深に言葉を切れた。

 一拍置いてから、続く。

 

「――用済みになったゴミ(・・・・・・・・・)の掃除をしておこうと思いまして」

 

 エゼルミアが顔を歪ませたのと。

 

「ぬぁああああ!!」

 

 ジェラルドが窓に向かって身を投げ出したのは、同時であった。

 

 

 

 文字通り部屋を飛び出した瞬間、振り返った彼の視界には“氷漬けになった執務室”が飛び込んだ。

 つい数秒前まで居た場所が、一瞬で氷に覆われたのだ。

 もしあの場に残っていたなら、確実に命を落としていたことだろう。

 

(やはり、そう来るかぁああああっ!!!!)

 

 胸中で絶叫する。

 だが、こうなるだろうことは覚悟していた。

 あのエゼルミアが、魔族に挨拶などするものか。

 

(ひとまず初撃は避けられたか。

 儂もまだまだ捨てたもんじゃないのぅ)

 

 会話中、対処方法のイメージトレーニングを繰り返していた成果だろう。

 しかしこれで逃げ切れた訳では無い。

 

(ほんの気紛れで儂を殺そうとした――のなら、すぐ諦めてくれそうなもんじゃが)

 

 殺害方法を凍結にしようとしたのは、音が発生しない分周囲にバレにくいからであろう。

 間違いなく殺意は高い。

 確実に殺しに来ている。

 相手が逃げ出した程度で殺害を中止する、等とは考えない方が良い。

 

(となれば儂が生き延びるためには――)

 

 ウィンガストの街の裏路地を駆けながら、考えを巡らす。

 

 命乞いは意味が無い。

 そんなものが効くなら、魔族はエゼルミアをこうまで恐れはしなかった。

 彼女に対するあらゆる交渉は不可能と考えるべきだ。

 

 正面から戦う?

 それなら自殺した方が楽に死ねる分まだマシだろう。

 エゼルミアに対抗できるだけの力を持つ魔族は現存しない。

 

(――第三者に仲介して貰う他あるまいな)

 

 それしか思いつかなかった。

 自身と親しい人物の言葉であれば、彼女とてそう無碍にできない筈。

 では一体だれに頼むか。

 エゼルミアの口振りから察するに、まだミサキ・キョウヤはこの世界に来ていないだろう。

 黒田は入院中で、とてもではないが交渉作業ができる状態とは思えない。

 こうなると――

 

(アンナ殿じゃな)

 

 アンナはこの街に住む獣人族の女性であり、セレンソン商会を立ち上げた人物でもある。

 エゼルミアとは7年前からの旧知とのことであり、彼女の言葉ならエゼルミアも応じる可能性が高い。

 そう判断したジェラルドは、アンナの居るであろう商会へと向かおうとする――のだが。

 

「ぐぁっ!?」

 

 突如、足に激痛が走る。

 見れば足首に裂傷ができていた。

 堪らず、その場に倒れ込んでしまう。

 

「あらあら、つい先程ぶりですわね、ジェラルドさん?」

 

 そこへ響く、冷徹な声。

 確認する間でも無い、エゼルミアだ。

 

「大した逃げ足でしたけれど――ふふ、ふふふふ、逃げるのであればもっとしっかり逃げませんと。

 でないと、苦しむ時間が長くなりますわよ」

 

 言葉が終わるや否や、エゼルミアの手から“風の刃”が撃ち放たれる。

 

「がっ!?」

 

 肩が切り裂かれた。

 傷口から血が噴き出す。

 足を裂かれたのもコレか――などと考察する間も無く、次弾の“風の刃”がジェラルドに迫る。

 

(い、いかん、せめて、防御を――)

 

 痛みに耐え、スキルを紡ぐ。

 

「<魔盾(デモンズ・シールド)>!」

 

「<魔払い(ディスペル)>」

 

 生み出した障壁は、エゼルミアの対抗(カウンター)スキルによってあっさりと無効化された。

 こちらの行動を読まれていたのだ。

 “刃”は何の障害もなくギルド長へと辿り着き、その脇腹を抉る。

 

「ぐぁっ!?」

 

 熱い痛みに苦悶の声を上げる。

 そんなジェラルドを見て、エゼルミアは満足そうな笑みを浮かべると、

 

「ふふふ、ふふ、残念でしたわね?」

 

 さらに無数の“風の刃”がエルフの周辺に現れた。

 それらが一斉にジェラルドへと襲いかる。

 

「ぎゃああああああああっ!!!?」

 

 斬られる。

 裂かれる。

 切り裂かれる。

 

 ――但し、致命傷だけは避けて(・・・)

 

(な、ぜ、一思いに……殺さん?)

 

 疑問を持ちつつも、答えに察しは付いていた。

 嬲り殺しにするためだ(・・・・・・・・・・)

 エゼルミアは、なるべく苦しませて魔族を殺す癖がある。

 今回も、ソレなのだろう。

 ……これ程まで、分かったところで何の意味も無い問いもあるまい。

 簡単に死ぬことができないという絶望が、心を支配してくる。

 

「あら? もうおしまいですか?」

 

 全身を駆ける激痛で身動き取れなくなったジェラルドへ、エゼルミアが語りかける。

 

「仮にもギルド長などという地位についているのですから、もう少し骨があるかと思いましたが――つまらない方ですこと」

 

 軽口に反論する気力は無い。

 そんな無駄はせず、ひたすら体力の回復に努める。

 魔族は人に比べてはるかに高い身体能力を持ち、自然治癒力も当然高い。

 派手に血こそ流れているものの、芯にまで届いていない傷であれば治るのにそう時間はかからないのだ。

 

 もっとも――

 

「聞いておられますか?」

 

 ――エゼルミアもそんなことは百も承知なのだろう。

 こちらに近づいてきた彼女は、無造作にジェラルドを蹴り上げた。

 

「が、はっ!?」

 

 防ぐことも受け身をとることもできず、ゴロゴロと地面を転がる。

 

(……ああ、こりゃ、おしまいじゃな)

 

 半ば覚悟はしていたことだが、己の最期を悟る。

 ここは人通りのない路地裏。

 助けなど来ないし、例え人が通りかかったとして、勇者相手に何ができるというのか。

 

 手の打ちようなし。

 自分はこのまま、目の前の勇者に殺される。

 

 唯一の救いは、“魔王を救う”という望みだけはミサキ・キョウヤによって果たされるであろう、ということか。

 できることであれば、そこへ立ち会いたかったが――それは叶わぬ願いであった。

 

(無念じゃ……)

 

 諦めかけた、その時。

 

 

「何? 誰かいるの?」

 

 

 思ってもみなかったことが起きた。

 何者かの気配が、こちらに近づいてくる。

 そして――

 

 

「え、何これ――ちょっと――ジェラルドさん(・・・・・・・)!?」

 

 

 ――少女が現れた。

 肩口まで伸びた茶色の髪をなびかせる、美しい少女が。

 

(なんてこと――!!)

 

 思ってもみなかった――より最悪の(・・・)出来事が起きてしまった。

 人など来ないと思っていた場所に訪れたのは――よりにもよって、リアだったのだ。

 ジェラルドと同胞である、魔族の(・・・)リア・ヴィーナだ。

 

(い、いかん!!)

 

 余りのことに、意識が覚醒する。

 今のエゼルミアは魔族への殺意に溢れている。

 リアとて例外では無いだろう。

 早く、早くあの少女を逃がさなければ!

 

「リアっ!! 逃げ――」

 

「あらあら、これはこれは」

 

 悲痛な叫びは、エルフによってかき消された。

 

「――っ――――っっ!!」

 

 スキルを使われたのだろう、本当に声が出なくなったのである。

 口をパクつかせるこちらを無視して、エゼルミアは現われた少女へと顔を向けた。

 対してリアは顔を険しく歪めながら、

 

「あんた、ジェラルドさんに何してんの……!?

 今は味方のはずじゃ!?」

 

「ふふ、ふふふふ、変なことを仰いますわね。

 ワタクシが味方になると言ったのはキョウヤさんに対してだけですわ。

 と、いいますか、魔族がワタクシの前に立って無事で済むと――本気で思っていらっしゃったの?」

 

 言って、エゼルミアはこちらを踏みつけた。

 

「――っ!?」

 

 スキルの効果か、そのか細い外見からはとても想像できない衝撃がのしかかってくる。

 ボキボキと肋骨の折れる音が鳴る。

 内蔵も、幾つか破裂したかもしれない。

 

「――っっっ!?!?!?!??」

 

 どうしようもない痛みに絶叫するが、変わらず声は出ない。

 

「ジェラルドさん!!!?」

 

 だがそのことが却って悲壮感を増してしまったらしい。

 魔族の少女は真っ青な顔になって悲鳴を上げた。

 

「な、なんでよ!! なんでこんなことすんの!?

 ジェラルドさん、何も悪い事やってないでしょ!?」

 

「ふ、ふふ、ふふふ、まるで理解できていないのですね。

 “魔族である”ということが最も重い罪なのです。

 その者がどう生きてきたかなど、それに比べれば些事に過ぎませんわ」

 

 狂っている。

 率直にそう感じた。

 エゼルミアは本気で今の台詞を吐いたのだ。

 そこに挑発や侮辱の色は込められていない、が。

 

「ふっ――ざけんなぁっ!!!」

 

 リアにとっては関係なかった。

 余りに不条理な言葉に、先程と打って変わって表情が怒りに歪んでいる。

 

(ま、まずい――)

 

 少女は激昂しているせいで、冷静さを失っているようだ。

 このまま戦っても、リアが勝つ目は皆無。

 そのことは彼女とて分かっている筈なのに。

 

「ふざけているのはそちらでございましょう?

 魔族として産まれ落ちたその時に首を掻っ切っていればまだ救われたものを。

 どうしてその汚らわしい命にしがみ付くのか、不思議でなりません」

 

「――っ!!!!」

 

 リアの顔が引き攣った。

 憤りを隠そうともせず、エゼルミアを睨み付ける。

 

「こ、この――せっかく、せっかく皆頑張ってきたのに――六龍だって、倒せたのに――!!

 なんで、あんたなんかに滅茶苦茶にされなくちゃいけないのよっ!!!」

 

 そんな少女を愉快に眺めていたエルフであったが――しかし。

 

「……え?」

 

 突然、目を丸くした。

 まるで、有り得ないもの(・・・・・・・)でも見たかのように。

 

(な、なんじゃ!?)

 

 ジェラルドもまた驚愕する。

 物珍しいエゼルミアの態度に、ではない。

 彼女が“何”に対して驚いたのか、すぐに理解できあからだ。

 

 ――“リア”から、膨大な魔力(・・・・・)が溢れ出てきている。

 勇者と比べてすら圧倒的に勝る程の、常軌を逸した魔力を。

 

「殺す――殺す殺す殺す殺す殺す殺す――殺してやる、エゼルミアぁ!!!」

 

 同時に、リアの言動にも変化が現れた。

 殺意が膨張し過ぎている。

 本来の彼女ではまず有り得ない、不自然な程に(・・・・・・)膨れ上がった殺意。

 

 一方でエゼルミアは、合点がいったように頷くと、

 

「……なるほど、この力は“ケテル”ですか。

 イネスさん、なかなか無茶をしてくれますわね。

 少々侮っていましたわ」

 

 これまた物騒なことを口にした。

 

(ケテル、じゃと!?)

 

 それはいったいどういうことなのか。

 聞くよりも前に、さらなる異変が起こる。

 

「殺すっ!! エゼルミアっ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すっ!!!!」

 

 リアの力が暴走を始めた。

 魔力の渦が吹き荒れ、周辺を破壊する。

 地面が、壁が、次々と塵になって消えていく。

<スキル>として指向性を持たせていないにも関わらず、恐るべき威力だ。

 

(こ、このままでは――!?)

 

 無目的に拡大する“破壊”はエゼルミアだけでなく、ジェラルドも――下手をすれば、リア自身すら巻き込むだろう。

 こんなものを食らえば死は確実。

 しかし身体は満身創痍であり、動くことすら不可能だ。

 

(こんな終わり方があって良いのか!!?)

 

 予想だにしなかった破滅に絶望しながら、ジェラルドは魔力の奔流に飲み込まれていく。

 ――せめて、リアの無事を祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――生きとる?」

 

 だが老人は、自分でも意外に思う程あっさりと生き残った。

 身体の傷も多少は癒えている(・・・・・)

 

「リアは――!?」

 

 周りを見渡すまでもなく、すぐ見つかる。

 先程同様、莫大な魔力を――龍を形どる(・・・・・)魔力を身に纏い、ただただ破壊を(・・・)撒き散らしている(・・・・・・・・)

 周囲の建物が、無造作に倒壊していた。

 

 

『アア――アアア――アアアァア――!!』

 

 

 脳に直接響くかのような、少女の呻き声。

 その様子には理性の欠片も見られない。

 

「……まずいのぅ」

 

 無意識なのか、或いは何らかの意思が働いているのか、“リア”は人通りのある方へと向かっているのだ。

 あんなモノが大通りにでも現れたら、大混乱どころの騒ぎでは収まらないだろう。

 そもそもこの裏路地からして、住人が皆無という訳でも無いのだ。

 犠牲者は既に出ている可能性が高い。

 

「いや」

 

 頭を振る。

 おそらく、まだ死者は出ていない。

 その筈だ。

 確かに建物は壊れたが――中に居た人々は“防護壁”で守られていた。

 誰がそんなことをしたのかと言えば――

 

「――エゼルミア殿」

 

 視線を下に(・・)動かす。

 そこには一人のエルフが――エゼルミアが倒れていた。

 あの一瞬で、この勇者は周辺住民全てをスキルで守護したのだ。

 とてつもない手腕である。

 

「どう、すべきなんじゃろうな」

 

 思案する。

 エゼルミアに意識はなく、身体は重傷を負っている。

 今なら容易くトドメを刺せるだろう。

 彼女の打倒は魔族の悲願である。

 

 しかし。

 

「何故……何故、儂まで助けた(・・・・・・)?」

 

 そうなのだ。

 エゼルミアはあろうことか、魔族であるジェラルドにも“防護壁”を張ったのだ。

 その上、治療まで施して。

 直前まで弄び、殺そうとしていた相手を、である。

 いったい、何のためにそんな真似をしたのか……

 

「……悩んどる時間は無いか!」

 

 こうしている間にも、“リア”は暴走を続けている。

 事態の把握にも、その対処にも、エゼルミアは必要だ。

 ジェラルドは覚悟を決め、勇者の治療に乗り出した。

 

 ―ーそれが自身にとって吉と出るか凶と出るかは、まだ分からない。

 

 

 

 

 

 

 第三十三話③へ続く

 

 



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③! 復讐者は夢を見た

 

 龍によって力を得たエゼルミアは、ヒトの中で最強に近い存在となった。

 しかしそんな彼女と比べてすら、“五勇者”は勝るとも劣らぬ強者だったのだ。

 

 無論、その筆頭はミサキ・キョウヤ――日本では境谷美咲と呼ばれているらしいが――である。

 エゼルミアは彼女の最初の仲間だったのだが、はっきりキョウヤの強さは五勇者の中であってもずば抜けていた。

 

『え? 何? 君、“自分一人で十分”とか“足手まといは要らない”とかイキってたけど、その程度なの?』

 

 ……初めて会ったエゼルミアを、鼻で嗤った程だ。

 鼻で嗤いながらボコボコにしてくれた。

 

 いや、確かにあの頃、自分は大分調子に乗ってた時期ではあったが、アレはどうなんだ。

 しかも彼女、エゼルミアのように龍によって強化された訳でもないのである。

 だというのに、自分を歯牙にもかけないばかりか、ある時は魔族の軍隊を戦場ごと消し去ったり、またある時は籠城する魔族を城ごと吹き飛ぼしたり――規格外にもほどがある。

 何故自分を仲間に誘ったのか、本気で不思議に思った位だ。

 

『勇者は仲間を集めるものだろう? ソロプレイはつまらん』

 

 一度尋ねた時、そんなことを言っていた。

 なるほど、よく分からない。

 

 後になって、“六龍を倒すために魔王が異世界から召喚した存在”だと聞かされたのだが、その突拍子の無さに却って納得してしまった。

 それが分かってみれば、キョウヤは最初から六龍との戦いを見据えていたようにも……

 

(……いいえ、違いますわね)

 

 違う。

 そうだ、違う。

 彼女は絶対に楽しんでいた(・・・・・・)

 魔族を倒し、魔物を倒し、人道を外れた賊共を倒し、圧政を敷く王やら、偉そうな口をきく貴族も叩きのめし。

 それら全てを、イイ笑顔でこなしていた。

 心底楽しそうに、『正義の味方』をしていたのだ。

 その姿に見惚れて(・・・・)、エゼルミアはキョウヤの仲間になったのではなかったか。

 

 まあ、なんとなく気に入らないという理由で一般人にスキルをぶっ放したり、民衆を危険な方向へ扇動したり、大概なことも割と――いやかなりの頻度でやらかしていたが。

 

(あら? なんだか記憶を美化しています?)

 

 よくよく考えれば、そこまでの好人物でも無かったかもしれない。

 

 

 

 

 

 次に仲間になったのは、人狼ガルムだ。

 会ったその日から、キョウヤへ求婚をかましていた。

 あっさり振られるもめげることなく、そのまま仲間として居座ったのである。

 

 ……彼が六龍に関連する人物であることは最初から知っていた。

 まさか六龍本人であったなどとは、黒田誠一が暴露するまで流石のエゼルミアも把握できていなかったが。

 

(まあ、ワタクシ全能は名乗っていても全知は謳っておりませんから)

 

 とはいえ、共に旅をしている最中、ガルムが龍であると言われたところで、俄かに信じられなかっただろう。

 

『ふむふむ、魔族の集団を拙者が引きつけるわけでござるな。

 お任せくだされ、ミサキ殿! このガルム、見事にその役目、果たしてみせましょうぞ!

 して、引きつけた後はどうするのでござる?

 え? 拙者ごと爆破する?」

 

『ほうほう、その巨大な爆弾を拙者が担ぎ、敵集団のど真ん中で炸裂させる、と。

 完璧な作戦でござるな、ミサキ殿――拙者が死ぬということを除いては!

 ……え、本気でやるの?』

 

 貧乏くじを引かされつつも涙を流してそれを実行する惨めな姿は、とても龍を連想できない。

 キョウヤが発案する無茶な作戦を宥めるのも彼の役割だったのだが、口を出す度にイラっときた彼女にボコられていた。

 

 

『何故! 何故、拙者は斯様な扱いを受けねばならぬのか!?』

 

『それは貴様がガルムだからだ』

 

 

『拙者はいつまで斯様な扱いを受け続けるのでござる!?』

 

『それは貴様がガルムである限り、だ』

 

 

 彼女はガルムに何か恨みでもあったのだろうか?

 それ位、扱いが酷かった。

 

(……まあ、とは言いましても)

 

 特に彼に対して同情したことも無い。

 何故なら――

 

『オラオラっ! もっとケツ穴締めろ! この雌豚エルフがぁっ!! 孕めねぇならせめて俺様を気分よくさせやがれ!!』

 

『おおっ!!? おおっ!!? おおっ!!? おほぉおおおおおおっ!!!!?』

 

 ――キョウヤの居ないところで、“ティファレト”を名乗る人格に散々犯されぬいていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 4人目は、イネス。

 彼女は――まあ、哀れだった。

 六龍の玩具として産まれ落ち、正しく玩具のように弄ばれ続け、挙句の果てにはその勇者(おもちゃ)としての役割をキョウヤに奪われた女。

 それでも気丈に生きていく姿に、憧れのような気持ちを抱いたこともある。

 ……本人にそれを言ったことは無いし、これからも教えるつもりは無いが。

 

 そんな経歴の持ち主であるが故、当然ながらキョウヤとの仲は最悪に近い。

 六龍からの指示が無ければ、仲間に加わることも無かっただろう。

 

『ほざくか、イネス!』

 

『な、殴られたって止めませんよ、ミサキ!』

 

 そんな怒鳴り合いを、何度聞いたことか。

 

『そのカップリングならデュスト×ガルムだと何度言ったら分かる!?』

 

『馬鹿ですか!? デュストは誘い受けですよ!!』

 

 …………。

 意外と気は合っていたのかもしれない。

 龍のこともあってそれとなく対話を避けていたエゼルミアよりも、よほど。

 

(ちなみにワタクシは断然、キョウヤさん×イネスさん(キョウヤの強気責め)派です)

 

 ところで、黒田誠一は女に対してはやたら積極的に責めてくるが、いざ男同士ではヘタレ受けになると思う。

 室坂陽葵? あの少年は女の子みたいなものだから除外だ。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 最後、デュスト。

 彼に関しては、余り語ることは無い。

 龍と無関係の人間ながらそれなりに頑張っている、程度の感想だ。

 

『初めまして、デュストです!

 これからよろしくお願いします!』

 

『魔族? 憎いですよ、当然でしょう。あいつらに生きる価値なんて無い!』

 

『キョウヤ様が正しいというのであれば、それは正しいことです。ええ、間違いありません』

 

 正直なところ、何故キョウヤが彼を仲間に加えたのか理解できなかった。

 確かにその成長力には目を見張るものがあったが……

 

『僕が強くなった、ですか?

 ……そうは思えません。

 僕は敵を殺すことにしか使えませんが、エゼルミア様は人を助けることもできるじゃないですか』

 

『魔族は今でも憎いですよ。

 それでも、自分の復讐より大事なことがあると気づいたんです。

 この馬鹿げた舞台、僕達の手で終わらせなくては』

 

『……キョウヤ様は関係ありません。

 例えあの人に否定されようと、僕はこの役目を全うするつもりです』

 

 

 

 

 

 

『そう、つれないことを言うな。

 ……7年も、一緒に過ごしたんだ。

 もう少し、付き合っていけよ……!!』

 

 

 

 

 

 

「――――あ」

 

 そこで、エゼルミアは目が覚めた。

 まず視界に入ったのは、壊れた街並みだ。

 次いで見つけたのは、腹立たしいことに魔族の老いぼれだった。

 

「おお、気付かれましたか」

 

 ギルド長のジェラルドだ。

 どうやらまだ生きていたらしい。

 

(ああ汚らわしい殺したい臭い殺したい醜い殺したい死ね死ね死ね死ね――)

 

 胸の中で思いつく限りの罵詈雑言を並べ立て、精神の平静を図る。

 功を奏し、口から出たのは落ち着いた声色。

 

「状況を説明頂けますか?」

 

 端的に問う。

 直前までの“行為”について謝罪はしない。

 ジェラルドの方もそれは納得しているのか――或いは抗議しても無駄だと理解しているのか――嫌な顔一つせず、報告してくれる。

 

「貴女が気を失ってから、まだ数分と経っておらぬよ。

 もっとも、その間にあの子――リアは、街を壊し続けておる。

 おかげでこの辺りの見通しが大分良くなってしまったわい」

 

「なるほど」

 

 自分の眼でも確認する。

 確かに、まだこの程度の破壊(・・・・・・・)で済んでいるのなら、気絶していたのは数十秒といったところか。

 

 離れた場所には魔族の少女(リア・ヴィーナ)

 彼女は虚ろな瞳で宙を漂っている。

 その身体から漏れだす魔力が、街を無差別に爆撃していた。

 

「儂からも聞いてよいかのう、エゼルミア殿」

 

 こちらから一定の距離を置きながら、ジェラルドが口を開く。

 

「あの子の身に何が起きとるんじゃ?」

 

「端的に言えば、龍の力の暴走ですわ」

 

 隠すことでも無いので、説明することにした。

 

「リア・ヴィーナの身体には今、白龍ケテルが憑依されています。

 下手人は――十中八九、イネスさんでしょうね」

 

「イネス殿が!?

 何故、そのようなことを!」

 

「……状況から考えて、ワタクシへの牽制、若しくはワタクシへの刺客かしら。

 直にキョウヤさんが来る状況になって、イネスさんも動かざるを得なくなったのでしょう」

 

「リアを選んだ理由は?」

 

「詳しくは存じませんが、ワタクシに殺意を抱きやすい人物から選んだのでは?

 確かにその条件で限定すれば、リア・ヴィーナは高い龍適性を持っていますわ。

 けれど、龍を憑依させるにはまるで足りませんから――“何らかの手段”で補ったのでしょうね。

 ふ、ふふふふ、まあ、不完全だったようで、肝心のワタクシを放って暴れ出しているようですが」

 

 そうは言っても、暴走の原因はエゼルミアの暴挙である。

 発見されれば、再びこちらに襲いかかってくる可能性が高い。

 

「それにしても――ふふふふ、ワタクシ以上の魔族嫌いであるケテルがその魔族を器にするだなんて。

 さぞかし、白龍は怒り狂ったことでしょう。

 ひょっとして、あの暴走も発狂が原因かしら?」

 

 イネスがどれだけ弁を弄しようと、白龍ケテルが自らそのような選択をするとは思えない。

 緑龍ネツァクを上手くけしかけたのだろう。

 龍同士の仲は決して良好とは言えず、特にケテルは他の龍との確執が深い。

 

(或いは、ケテルの神格に手を入れたのかもしれませんわね)

 

 そんなことができるのかはエゼルミアにも分からない。

 しかしあの暴れぶりを見るに、そうなっている可能性は十分ある。

 

「それで、エゼルミア殿。

 これから如何にする?」

 

「そうですわね――」

 

 ただ実のところ、対処はそう難しくないのだ。

 このままただ待てばいい(・・・・・)

 リア・ヴィーナは器として不完全であり、長く力を振るうことは不可能だ。

 遠からず力尽きることだろう。

 

 つまり、ここでエゼルミアが行うべきことは被害を抑えるべく周囲の住民を退避させることである。

 もっとも、その場合“(リア・ヴィーナ)”は間違いなく自壊する――が。

 

(何の問題もありませんわね)

 

 アレは魔族だ。

 どうせ殺すつもりだった相手である。

 エゼルミアの手で殺されるか、勝手に死ぬか、違いはそれだけ。

 考慮するに値しない。

 

(イネスさんも間抜けですこと)

 

 ご大層な力を持った駒を用意するまではいいが、無目的に暴れさせるだけでは何の役にも立たないでは無いか。

 大方、キョウヤの“呪縛”が解かれるのが予想以上に早かったため、準備が完了していなかったのだろうが。

 

 まあ、どうにせよ関係無いことだ。

 さっさとあの少女を片付け、ついでに目の前にいる魔族(ジェラルド)も殺し、この街を去ることにしよう。

 そう考えを纏めたエゼルミアは、目下の案件解決のために指示を――

 

 

「――契約文字を打ち込みます」

 

 

 その言葉は、自分でも驚く程すんなりと口から出てきた。

 

「おお、そういえば複製を手にしておられたのでしたな」

 

「ええ、状況はやや特殊ですけれど、六龍に対抗する方法は変わりませんわ。

 但し、当然ですが障害もあります」

 

「と、申しますと?」

 

「契約文字は龍の“核”に打ち込まなければ十分な効果を得られません。

 そして“核”を“器”の外へ出すには、“器”の方を先に破壊(・・)する必要がありますわ。

 デュストさんの時であればいざ知らず、今回その手は使えませんでしょう?」

 

「……なるほど」

 

 一瞬怪訝な顔をしてから、ジェラルドは頷いた。

 エゼルミアが“魔族を助けようとしている”ことに何か思う所があったのか。

 無理も無い、何せ自分自身が現在進行形で驚愕している最中である。

 

「ですので、“餌”を使います。

 目の前により適した(・・・・・)“器”があれば、今の“器”が壊れきる前に移動するかもしれません。

 あの様子を見ますと白龍ケテルも理性をかなり擦り減らしているようですから、短絡的な行動に出る可能性は決して低くないかと」

 

「お、おお、そのような手が!

 しかし、龍適性の高い人物など、そう居るものですかな……?」

 

「ふふ、ふふふふ、そちらに関してはご心配なく、ワタクシがその役目を遂行します。

 他に適任者がいそうにありませんし」

 

「!! そ、それは――」

 

「ではお次は実行手段について説明いたしましょうか」

 

 何か言いたげなジェラルドを遮り、話を進める。

 

「とはいえ、こちらも課題が山積みなのですけれどね。

 ふふ、ふふふ、そもそもワタクシ、近接戦闘は得意ではありませんの。

 独りで龍と戦うのは流石に無理です」

 

「ならば、及ばずながら儂も助力いたしますぞ」

 

 ギルド長は握りこぶしを作り、何やら気合いを入れているようだが、

 

「――はんっ」

 

「鼻で笑われた!?」

 

「ああ、すみません、思わず本音が漏れ出てしまいました。

 貴方ごときが戦線に加わったところで焼け石にかける水以下ですわ――などとは思っていても口に出しませんからご安心下さいませ」

 

「……うむ」

 

 複雑そうな表情のジェラルド。

 こちらの言いたいことがしっかり伝わったようで何よりだ。

 

「それはそれとして、貴方にはやって頂かなければならないことがあります」

 

「ふむ?」

 

「周辺住民の避難です。

 ご理解して貰えているとは思いますが、アレと戦いながら一般人を守ることはできませんので」

 

「……そうじゃったな。

 あいわかった、儂に任せて下され。

 しかし、人手の件については――」

 

 

「――そういうことであるならば!」

 

 

 唐突に響く。

 “リア・ヴィーナ”に聞こえないようにするためか、意外と小さめな声が。

 

あっしら(・・・・)が、役に立ちますぜ!」

 

 そして物陰からこそこそと(・・・・・)、2つの人影が現れた。

 ……いや、実のところエゼルミア達も建物の影に隠れながら会話をしていたので、人のことを言えた義理はないのだが。

 ともあれ、そこに現れたのは――

 

「サンとアーニーか!」

 

 本人達より先に、ジェラルドが答えを口走る。

 そのことに大して声を出した張本人――つまりサンは不服そうにしながらも、

 

「へっへっへ、そういうことでござんす!

 あっしらこそがウィンガストにその名も高き冒険者、サン&アーニー!」

 

「その呼び名は初耳だな。

 そもそも俺達はそんなに名を知られていたか?」

 

 ……どうにも緊張感の欠けるやり取りである。

 しかし、実際問題として有難い。

 登場した2人の男、アーニー・キーンとサン・シータ――黒田は兄貴・三下と呼んでいたが――は、陽葵やリアと共に<次元迷宮>を攻略していた冒険者だ。

 ふざけた態度に反し、実力の程はそれなりに(・・・・・)信用できる。

 

「何はともあれ、話はその辺の瓦礫の下でしっかり聞いておりましたとも。

 龍が相手で、しかもリアちゃんがピンチだってんなら、手助けするに吝かでも無いとゆーか!

 いやー、この前のケセドん時はあっしらモノの役にも立たなくて、兄貴ってばそれですっかりやさぐれちゃってねぇ?

 溜まったフラストレーション解放のため、適当に女でも襲って喰っちまおう(性的な意味で)とか思って人気の無い路地をうろついてたら、バッタリそちらさん方と会っちまったって寸法でさぁ!」

 

 と、こちらが声をかけるより先にサンが語り出した。

 長い。

 聞いても居ないのに、ペラペラペラペラと喋る喋る。

 そういえば、サンとはこういう男だった。

 おかげで彼らがここに居た理由はよく分かったが。

 

「……サン、そういう内情は細かく説明しなくていい」

 

 隣にいるアーニーも嫌気がさした顔で自らの弟分にぼやいている。

 しかし、こちらに視線を送るや顔が引き締まり、

 

勇者(おまえ)達と戦うためにクロダ達へ協力していた筈なんだがな。

 まあ、状況が状況だ、あの女を見殺しにするのも寝覚めが悪い」

 

「ふふ、ふふふふ、それはそれは。

 ご助力下さり、ありがとう感謝いたしますわ」

 

 アーニーは戦闘狂い、サンは低俗、しかも揃って犯罪行為にも大した抵抗を覚えていないというゴロツキ一歩手前どころかそのものな2人組だが、パーティー内での仲間意識は高い。

 この申し出も、特に裏の無い、純粋な善意から来たものであろう。

 以前に行った黒田誠一の身辺調査で得たデータを思い返し、エゼルミアはそう結論づけた。

 

「いやぁ、しかしラッキーでしたなぁ!」

 

 ……そして、サンはまだ喋り続けている。

 そろそろ止まって欲しい。

 

「あのリアちゃんにこうやって恩を売る機会が来るとはねぇ。

 くっくっくっく、くくくのく。

 解決した暁には、こいつをダシにしてリアちゃんの身体を散々好き放題にしてやるぜ!

 つかあの子、根本的に貞操観念緩いからそんなん無くても普通に抱けそうだけんども。

 でもでも今回の件を上手く使えば、あっし以外に身体を許さない専用の雌奴隷にすることも不可能じゃない――そんな希望を抱いている訳でさぁ。

 へっへっへ、こいつぁしばらくイチモツが乾く気し・な・い・ぜ☆

 全く夢の広がるお話で――あれ、皆さん、なんでそんな遠くにいるの?

 あっしを独りにしないで?」

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 彼我の距離、5メートル。

 “リア”から隠れながらだと、これ位が限界だった。

 

「サン君、儂はこれでも一応冒険者ギルドの長なんじゃが。

 見過ごせぬ発言を随分としてくれたのぅ。

 ――後で話がある」

 

「しまったぁ!?

 いやしかし今は緊急事態なんで見逃しちゃあくれませんか!?」

 

「駄目」

 

「あぁああああああああっ!!!」

 

 サンが崩れ落ちた。

 

「どうでもいいが、お前ミーシャのことはどうしたんだ?」

 

「それはまあ別腹というかなんというか。

 兄貴だってクロダの旦那に固執しつつ、他に強いヤツが出てきたらそっちにも手を出すじゃないっすか。

 それと同じですよ」

 

「同じか? 同じなのか?」

 

 全く持って同じではないと思う。

 エゼルミアにとっては実に些事な話であるが。

 そんな漫才劇場を横目で眺めつつ、些事として流しようが無い案件について語るべく口を開く。

 

「楽しんでいるところ恐縮ですが」

 

 人差し指で“リア・ヴィーナ”を指さし、

 

「気付かれたようですわよ」

 

「なんだってぇ!?」

「それもそうか」

「これだけ騒げばのぅ」

 

 サン以外は落ち着いた――諦めた、が正しいか――反応を示す。

 しかし慌てていようといまいと、起きている事実に変化はない。

 龍の力を暴走させた少女はしっかりとこちらを見据えている。

 胡乱気ながらしっかりと殺意が込められた瞳。

 どうやら自分達を目標(ターゲット)として定めたようだ。

 

「お、おおおお、睨まれてる!?

 睨まれていますよ!?

 コレどうしよう?

 ひたすら逃げ回ってりゃいいの?」

 

「それではいけません」

 

 “器”が壊れる前に(自分)に食いつかせなければならない。

 そのためには速やかに『白龍が“器”を見限る』必要がある。

 消極的な策でそれは望めまい。

 つまりは――

 

「――真向勝負ですわ。

 まずはケテルに、リア・ヴィーナの無能さ(・・・)を痛感させます」

 

「なるほど、分かりやすい」

 

 事情を知る者からすれば余りに無謀な提案に、アーニーは不敵な笑みを零す。

 後ろにいるサンは笑顔が引き攣っているけれど。

 

「貴方達お二人が前衛です。

 ワタクシが後ろからサポートいたしますのでご安心を。

 ふふ、ふふふふ、よろしくて?」

 

「問題ない」

 

「あの、ホント、援護はたっぷりとお願いしますね?」

 

 簡単に指示を飛ばす。

 即席のパーティーに綿密な連携など期待できない。

 これ位がちょうど良いのだ。

 

 さて。

 (リア)は変わらず膨大な魔力をまき散らし、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

 肌がチリチリ痛む程の殺気を受け止めながら、エゼルミアはふとあること(・・・・)を思い出した。

 

(“あの台詞”、言ってみたかったのですよね)

 

 実に些細なことだが。

 前々から、こんな状況になったら使おうと決めていた言葉がある。

 

 満を持して。

 堂に入った声で。

 彼女はソレを紡いだ。

 

 

 

「――これより、勇者を執行いたします」

 

 

 

 第三十三話④へ続く



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④ 勇者エゼルミア

 

 

 

「――<聖戦(ジハード)>! <猛戦士(ベルセルク)>! <聖戦士(アインヘリアル)>! <修羅神(イクサガミ)>!」

 

 エゼルミアが持ちうる強化(バフ)スキル――即ち、現人類が保有する全て恩強化術法を、片端から使用していく。

 対象は己を含めた3人。

 自身の全能力(パラメータ)が飛躍的に上昇していく。

 

「うっひょぉおおおおおっ!!

 かつてない程の力があっしの身体に漲っていくぅ!?」

 

「流石は勇者の力ということか。

 しかし、最初から大盤振る舞いして大丈夫なんだろうな。

 途中で援護が切れるのはぞっとせんぞ」

 

 興奮するサンとは対照的に、冷静なアーニーが問いかけてくる。

 

「御心配なさらず。

 この程度(・・・・)であれば、半日は保てます」

 

「……そりゃ結構なことだ」

 

 僅かにアーニーが息を飲むが、驚かれても困る。

 これから戦うのは、エゼルミアなど及びもしない程の埒外な存在なのだから。

 本当であればさらに入念な強化を施したいのだが、残念ながら時間が無い。

 “リア・ヴィーナ”はすぐ目の前に迫っている。

 視界が歪む程に濃密な魔力を纏って。

 

 しかしそんな彼女を前にしても、たじろぐことなく一歩前に踏み出る男が一人。

 

「ヒューッ! ハハ……すげー迫力だぜ。

 それに見ろよあのパイオツを!

 これでボクっ子なら会ったその日にでも手を出したんですがね!?」

 

 ……サンだった。

 どうした訳か余裕綽々な表情で“リア”へと近づいていく。

 

「しかし残念だったなぁ、リアちゃん!

 このスーパーパワーアップを遂げたあっしの前じゃあ、今のリアちゃんだって赤子の手を捻るかのように――って、あぎゃっ!?」

 

 捻られた。

 腕を。

 あらぬ方向に折り曲がるまで。

 

「あぁああああああっ!!! 手がぁあああっ!! 手がぁあああああっ!?」

 

「バカですか貴方は!?」

 

「意味も無く正面から近づいてどうする!!」

 

 慌ててこちらに戻ってきたサンに、2人して同時にツッコミを入れる。

 だが奴は不服そうな顔をして、

 

「えー、真っ向勝負って言われたのにぃ」

 

「だからと言って何の策も弄さずに前に出れば叩き潰されますでしょう!?」

 

「だいたいお前は<暗殺士《アサシン》>だろう!

 元々正面からの戦いなど向いていないと何故分からん!?」

 

 フルボッコである。

 エゼルミアとしても、あそこまで無防備に開戦するとは思わなかったのだ。

 幸い、すぐ離脱できたからよかったものを――

 

「ただまあ、これで分かりましたぜ」

 

「何がです?」

 

「あっしの足止めも、ちょびっとは(・・・・・・)効く」

 

「……!」

 

 ――言われて見れば。

 “リア”の動きが僅かにぎこちない。

 そして地面に写る彼女の影に一本のナイフが刺さっている。

 相手の動きを止める盗賊スキル<影縫い(シャドウスナッチ)>だ。

 サンへ追撃しなかったのは、気紛れだけではないらしい。

 

「まあ、どちらにせよ無駄な行動でしたけれど」

 

「スキルが効くかどうか試すなんざ、後ろからこっそりやればいいだろうに」

 

「……すいません、ちょっと調子に乗ってました」

 

 結局謝ってきた。

 まあ、収穫が無かった訳でもない。

 こちらの妨害(デバフ)が効くと分かったのは実のところ大きい。

 

(リア・ヴィーナの適性の低さ(・・)と――暴走状態だから、でしょうね)

 

 龍が十全に力を発揮できたなら、あの程度の拘束ものともしなかっただろう。

 それができずとも、龍の御業をもってすれば拘束を無効化することも容易だ。

 だというのに、極微小とはいえ<影縫い(シャドウスナッチ)>の効果は出た。

 今の“リア”には、十分な力を発現する適正も、スキル解除を試みる思考力も無いということだ。

 

(いけますわね)

 

 まるで、倒して下さいと言わんばかりの状況。

 それでも勝てると断言できない辺りが彼我の実力差なのだが、仮にも六龍の一柱を相手にたった3人で勝算のある戦闘が行える。

 ゲブラーやケセドの時と比べれば、遥かに与し易い。

 そのことをアーニーも感じ取ったのだろう、抜刀すると同時に駆け出し、

 

「仕切り直しだ、行くぞ、サン!」

 

「合点承知!」

 

 一歩遅れて、サンもそれに続く。

 若干の回り道を挟みつつ、とうとう戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 さて、勇者について話でもしてみよう。

 

 エゼルミアが勇者という単語を始めて耳にしたのは、いつのことだったか。

 物心つく頃には、知っていたように思う。

 悪い魔族をやっつけてくれる英雄(ヒーロー)として、寝物語に親が語り聞かせてくれたものだ。

 幼心に憧憬を抱いていたかもしれないが、それは子供であれば誰もが抱く感情だ。

 特別、彼女が強い想いを抱いていた訳では無く――前にも述べた通り、エゼルミアは普通の少女だったのだから。

 成長するに従い、勇者の御伽噺など忘却してしまった。

 

 そんな彼女だが、思いがけず勇者の実在を知ることになった。

 当人に出会ったからだ。

 ……魔族の奴隷をしていた時代に、同じ奴隷として隣の檻に収監されていた女性が勇者その人だった。

 詳しくは覚えていないが、エゼルミアに負けず劣らず大層酷い(・・)目に遭わされていたようだ。

 自分と違うのは、早々に奴隷生活を打ち切られた、ということだろうか――容貌が老いて、魔族に見限られ捨てられた(・・・・・)のだ。

 もっとも、当時はその女性が本当に勇者かどうかは半信半疑だった。

 魔族が吹聴した話しか情報源が無かったのだし。

 彼女が本当に勇者だと理解したのは、六龍から“勇者の話”を聞いた時だ。

 ――まあ、それなりに失望できた。

 

 実のところ、五勇者に加わる前のイネスと出会ったこともある。

 ……無残なものだった。

 自分より遥かに弱い小鬼に、子を産むための母体とされていたのだから。

 勿論、彼女が悪いわけでは無い。

 全て、六龍の気紛れによるものだ。

 失望に憐憫が加わった。

 

 勇者という単語への感情が根本的に変わったのは、ミサキ・キョウヤに出会ってから――ではない。

 実のところエゼルミアが認識を改めたのは、デュストに出会ってからだったりする。

 

 五勇者は特殊(・・)な人間の集まりだ。

 エゼルミアとイネスは良くも悪くも龍に選ばれ、その力を受けた人物。

 ガルムに至っては六龍そのもの。

 ミサキにしても、六龍打倒のため魔王によって異世界から召喚されたという、特別にも程がある背景を持っている。

 デュストだけなのだ、何一つ特殊な事情を持たずに五勇者へ加わったのは。

 

 そんな、言ってしまえば単なる一般人な彼が、幾度地に倒れても立ち上がる、不屈の精神を見せたのだ。

 戦いに戦いを重ね、最後には他の4人と遜色のない――いや、上回る程の戦いぶりを見せたのだ。

 そして復讐心を振り払い、かつて己の仲間達を殺した魔族達を、許す気概を見せたのだ。

 

 ――その姿に励まされた。

 龍の力なんて無くとも、ただの人であろうと、ここまでの“強さ”を身につけられるのだと。

 龍に狂わせた世界で、悪意に満ちた世界で、ここまでの“気高さ”を発揮できるのだと。

 デュストの存在は、六龍()に絶望し、世界の運命(システム)に絶望したエゼルミアに、人というものへの希望を示したのだ。

 

 昔、御伽噺で聞いたのとは違うけれど。

 彼のような人こそが本当の勇者なのだと、エゼルミアは漠然と感じていた。

 ――本人にそれを言ったことなど一度も無いし、そもそも彼と本心から語り合ったことすら数える程しかないのだが。

 

 自分は違う。

 勇者ではない。

 何故なら、エゼルミアは単に復讐を、龍からの命令を、遂行していただけなのだから。

 本心から人を助けたいと思って行動したことなど一度も無い。

 こんな自分が勇者な訳がなかった。

 

 ――だけれども。

 もっと彼と話すべきことがあったのではないかと。

 もっとしてあげられることがあったのではないかと。

 そう考え始めた時には、既にデュストはこの世を去っていた。

 

 亡くしてみて、存外に酷い喪失感に襲われ。

 エゼルミアはそこでようやく、彼のことをとても(・・・)嫌いでは無かった(・・・・・・・・)ことに気付いた。

 それは本当に遅すぎたけれども。

 そして、ある夢を抱いた。

 自分も、一度くらいは彼のように――本当の勇者のように、振る舞ってみたい、と。

 デュストが抱いていたような情熱を、己が持てる訳がないと悟りながら。

 

 

 

 しかし。

 今、エゼルミアは戦っている。

 復讐のためではない。

 救おうとしている相手は、復讐対象である魔族だ。

 六龍の命令でもない。

 倒そうとしている相手は、その龍だ。

 

 永く生きてきたエゼルミアは、この時この瞬間、初めて勇者としての戦いを始めたのである。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「はっ――はっ――はっ――はっ――」

 

 荒い呼吸。

 身体は満身創痍という言葉が実に似合う。

 打身・切り傷・捻挫・骨折。

 負傷の数を数え出したらいったいどれほどになるのだろうか。

 精神力も底をついて、スキルを使うことはおろか、指先一つ動かすのも億劫だった。

 

 だがエゼルミアはまだマシな方で。

 

「が、はっ――ぜぇっ――ぜぇっ――げぼっ――ぜぇっ――ぜぇっ――」

 

 少し離れた場所で立ち尽くすアーニー。

 激しい息の合間に、吐血が混じる。

 あちらも無事な箇所など無いような有様だったが、傷の深さがより深刻だ。

 右目が潰れ、左腕は千切れ、片膝はあらぬ方向へ曲がっている。

 おそらく内臓も幾つか潰れただろう。

 寧ろ立っていられるのが不思議な程の重体である。

 

「あー、もー、痛ぇっ! もーこれ、本っ気で痛ぇってばよぉっ! あづづづづっ――」

 

 サンは愚痴を飛ばす気力をまだ残しているようだが、傷の程度はアーニーより若干浅い程度。

 両手両足が折れている中、這いつくばったまま瓦礫の中をどうにか移動している。

 ――仰向けに倒れた(・・・・・・・)、“リア”に向かって。

 

「――どう、にか――勝てましたわね」

 

 未だ動かぬ彼女を見て、エゼルミアは自分達の勝利を確信する。

 3人の作戦は見事に功を制し、白龍は契約文字によって浄化された。

 全員が戦闘不能一歩手前で、周囲の建造物は全て崩壊している訳だが、龍を相手に白星をあげたのである。

 ただ気になることもあり、

 

(ケテルの力が――ムロサカ・ヒナタの居る場所とは違う方向(・・・・)へ飛んで行きましたわね)

 

 “勇者の戦い”において、負けた龍は室坂陽葵の身体に宿るルールである。

 だがおそらく、ケテルはそのルールに則っていない。

 

(龍は勇者ではない者に宿り、それと戦う相手はキョウヤさんでもその代理人(クロダさん)でもない。

 例外だらけの戦いだったからこそ――仕掛け易かったということかしら、イネスさん(・・・・・)

 

 この事件を企てた相手を思い浮かべた。

 彼女は真っ新(まっさら)になったケテルの力をどう使うつもりだろう。

 

(……大よそ見当はつきますが。

 今更ワタクシが口を出す話でもないでしょう)

 

 もう直にこの世界へ現れる境谷美咲が対処することだろう。

 イネスはイネスで、美咲とは決着をつけたい筈だ。

 今更エゼルミアとの相対など望んではいまい。

 自分がしゃしゃりでも仕方ないことなのだ――と、そうエゼルミアは判断し、この件について考えることをやめた。

 

 と、そんな思案をしていたところへ。

 

「だーーーーー!!! チクショウッ!!!」

 

 悲鳴が響いた。

 リア・ヴィーナの容態(・・)を看ていた、サンの声だ。

 彼は骨折した腕をそれでもなお振り回しながら、

 

「駄目だぁっ!! リアちゃん、息してねぇよぉ!!? 心臓の音も聞こえねぇっ!!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 その宣告に、アーニーもエゼルミアも反応を返さなかった。

 薄々、勘付いてはいたのだ。

 ……時間がかかり過ぎたことを。

 

 遠目から見ても、リアの惨状は酷かった。

 身体の至るところに無数の“ひび割れ”が起きている。

 “ひび”からは血は流れず、ただ乾いた断面が顔を覗かせるだけ。

 それは人の死に様というより、打ち捨てられた人形のよう。

 エゼルミア達によるものではない。龍の力に器が耐えきれず、崩壊を起こした結果だ。

 

(やはり、無理でしたか……)

 

 心の中で嘆息する。

 せっかく、勇者らしく振る舞ってみたものの、やはり付け焼刃ではこの程度か。

 結局、自分は勇者になれなかった。

 

 勇者代理(黒田)であれば、上手くやれただろうか。

 何とかしたのかもしれない。

 あの男は――手のつけようのない、人として最底辺な変態ではあるものの――まごうことなく、勇者なのだから。

 

「……おい。

 なんとか、ならないのか」

 

 掠れた呟きが聞こえた。

 アーニーだ。

 震える脚で身体を支えながら、彼はすがるような眼差しをエゼルミアに向けてきた。

 

 期待されている。

 自分がこの状況を打開することを。

 

(しかし、もう手の施しようがありません)

 

 この世にスキルは数多あるが、蘇生スキルだけは存在しない。

 それは人としての限界なようで、あの境谷美咲ですら不可能と断じていた。

 まあ、死体をゾンビにしたり操り人形にしたりするスキルはあったりするが、流石に不適切だろう。

 故に最早あの少女を助ける手段は――

 

(――あ)

 

 思いついてしまった。

 リア・ヴィーナを助ける方法を。

 

 しかし、それをエゼルミアが実行できるのか。

 魔族を散々殺し続けてきた自分が。

 今ですら、魔族の女を助けずに済んだことに、どこか安堵している自分が。

 

(……勇者ならやります、やる筈です)

 

 だとすれば、エゼルミアも成し遂げねばなるまい。

 この一度だけは、勇者を全うしようと心に決めたのだから。

 復讐者エゼルミアはあの魔族を見捨てるが、勇者エゼルミア(・・・・・・・)ならば見捨てない。

 それが勇者という存在なのだと、彼女は信仰していた。

 

 だから覚悟を決めて、アーニー達へ一言告げる。

 

「ワタクシにお任せ下さいませ」

 

 足を引きずって、どうにかリア・ヴィーナの傍らへ。

 横たわる少女の身体に手を添え――魔族に触れるなど鳥肌がたって吐き気も催すが、我慢だ――目を閉じて集中し、詠唱を始める。

 精神力も生命力も大して残っていないが、幸いこのスキルの使用には大きな消耗を伴わない。

 ただ最高位の<僧侶>系スキル(加護)であるため、エゼルミアでも発動に相応の時間を要する。

 

 自身の体が淡い光り始めた。

 スキル使用に伴う発光現象である。

 その様子を見て――サンが俄かに慌て出す。

 

「あ、アレ? エゼルミアの姐さん、そのスキルってまさか――?」

 

 誰が姐さんだ。

 変なことを言ってこちらの気を散らさないで欲しい。

 

「おい、サン! その女を止めろ!! そいつは――!!」

 

 アーニーも勘付いたようだ。

 だがもう遅い。

 スキルは止められない。

 

「<奉魂《ソウル・デディケーション》>」

 

 エゼルミアは、発動ワードを口にした。

 彼女の身体から眩く神々しい輝きが放たれ――それは光の奔流となってリアへと注ぎ込まれていく。

 

 死は覆せない。

 これは絶対の不文律だ。

 スキルによって、新たな命を創造することはできない。

 ――だが、譲渡ならばできる。

 自分の命を他人に捧げる行為は、ギリギリで人の権能の範囲内だ。

 習得条件の厳しさ、発動の難易度、大きすぎる代償――それらのため、歴史上行使されたことは片手で数える程しかない代物ではあるが。

 

(こんな馬鹿げたこと、余程の愚か者でなければやりませんものね)

 

 つまり、エゼルミアは愚か者に仲間入りしてしまった訳だ。

 但し、ルビに“勇者”と付く“愚か者(勇者)”だが。

 

(悪く無い気分――かもしれません)

 

 対象が魔族でさえなえれば、最高と表現しても良かったかもしれない。

 この期に及んでも、魔族への憎悪が消えた訳ではないのだ。

 より勇者らしくあることを優先しただけの話で。

 

 薄れゆく意識の中、リア・ヴィーナの傷が見る見る内に治っていくのを確認した。

 ヒビは消え、肌に血色が戻る。

 これでこの少女は助かるだろう。

 もっとも、エルフと魔族という異種族間で命を譲渡して何の不具合もないのか、それに関しては保証できないし、責任も持たない。

 

(そこから先はご自分でなんとかして頂かないと)

 

 だいたい、そんな先のことまで冷静に考えた上で下せるような判断ではないのだ、この行為は。

 幸い腹立たしいことにこの魔族の周りには頼れる仲間が多いようであるし、多少の困難は解決できることだろう。

 まあ、有難いことに随分と“不埒な”輩も多いようなので――

 

「――せいぜい、不幸な人生を歩んで下さいませ」

 

 そんな呪詛を残して。

 魔族を殺戮することに人生を捧げた女は、魔族を助けるために命を落とした。

 

 

 

 その死に顔は大層安らかであったと、後世に伝えられている。

 

 

 

 第三十三話 完

 

 

 

 

 

 

 次回

「魔龍討滅最終戦 合成魔龍イネス」



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第三十四話 魔龍討滅最終戦 合成魔龍イネス
① 勇者 VS 勇者


 イネス・シピトリアがどのような人生を歩んできたか――そんなものを詳細に語る必要は無い。

 本人がそれを望まない。

 “肉奴隷”“雌犬”“便女”、そういう単語(・・・・・・)から連想されることは粗方ヤられた。

 屈辱塗れの人生。

 ただ、それだけだ。

 

『クハ、クハハハハ、勝った! 勝ったぞ! この勝負、我の勝利だ!!』

 

 耳障りな声が聞こえる。

 緑龍ネツァクだ。

 ただただ世界の戦乱を望むだけの、愚かな龍。

 偶然の巡り合わせで自分が最後の一匹となったことが、それ程までに嬉しいらしい。

 

『後は忌々しいミサキ・キョウヤの代理とやらを葬るだけか。

 今のお前であれば、それも容易だろう!』

 

「ええ、そうですね」

 

 呼びかけられたので、一応返事する。

 鬱陶しい事この上無いが。

 

 ここは、ウィンガストの街から程近い荒野。

 イネスはそこに独り――より正確には緑龍に憑りつかれた状態で、だが――立っていた。

 

『クハハハハ、これで我が六龍の頂点だ! 

 

「それは無理ですよ」

 

 上機嫌なネツァクへ水を差す。

 

『……何。イネス、今なんと言った』

 

「無理だと言ったんです。

 貴方はこれから、消滅するんですから」

 

『お前、自分が何を言っているか分かっているのか』

 

「貴方こそ、自分の立場がまだ分からないんですか?」

 

 イネスは、自分に憑依しているその龍を“外”へ摘まみだした(・・・・・・)

 緑色の“光”が彼女の身体から弾き出される。

 

『――あ?』

 

 呆気にとられたようなネツァクの声。

 間抜けな表情が見えないのが少し残念だ。

 

『ど、どういうことだ? 何故、こうも容易く――?」

 

「理解できませんか?

 今のアタシはケテルの力が使えるんですよ。

 龍同士で力自体は互角なのですから、アタシの分だけ、こちらが上回るのは当然でしょう?」

 

『馬鹿を言うな!

 お前がどれ程のものだというのだ!

 龍に比べれば人の力など塵芥も同然――ガァアアアアアアアアアアアアア!!?』

 

 発言の途中で、ネツァクの悲鳴を上げる。

 その表面には、無機質な“文字”が浮かび上がっていた。

 いちいち会話を続けるのが面倒になったので、“ケセドの契約文字”を使った浄化を開始したのである。

 

「アタシもね、色々ヤって力を付けてた訳ですよ。

 ケテル無しでも貴方程度ギリいけるかなとも思ったんですが、安全策を取らせて貰いました」

 

『アァアアアアアアアアアアア!!? 消える!? そんな!? 我が消える!?

 馬鹿な!! お前が我を裏切ることなど出来ぬ筈!!』

 

「ああ、アタシを縛ってた呪いですか?

 そんなのとっくに外してますよ。

 外した上で、ずっと従順なふりをしてた訳です。

 貴方をどうにかできるだけの力が蓄えられるまで、ね」

 

『っ!? ま、待て!! イネス!! 話し合おう!! 話せば――』

 

「――分からないのでさっさと消えて下さい」

 

 龍の懇願をあっさりと切り捨てた。

 実際、この盤面で奴に情けをかけるメリットなど皆無である。

 

 ……程なくしてネツァクの声は沈黙し、後には純粋な“緑光”だけが残った。

 

「呆気なかったですね。

 ま、こういう単純な奴だからこそ、ネツァクを最後に残したんですけど」

 

 その台詞は実にあっさりとしていた――散々自分に苦汁を舐めさせた仇敵に投げかける、最後の言葉にしては。

 

「後は――」

 

 イネスが手を伸ばすと、光は彼女へと吸収されていく。

 

「う、ぐっ!」

 

 莫大な力の奔流が体内を駆け巡る。

 気を抜くと身体が破裂してしまいそうだ。

 実際、今にも弾けそうな程、肌が波打っている(・・・・・・)

 無理もない。

 イネスは既にケテルを“中”へ入れている。

 2匹目となれば、如何に高い龍適性を持つ彼女であっても至難の業であった。

 だが――

 

「こ・ん・な・の・で! へばってられないんですよぉ!!」

 

 ――イネスは耐えきった。

 それは気合いのなせる業か、それとも憎悪か、怒りか、復讐心か。

 とにもかくにも、彼女は今、2柱の龍の力をその身に宿したのだ。

 ただ立っているだけで、己の絶対的な力を実感できる。

 充実感が心に染みわたる。

 今ならどんなことでもできるという、万能感に支配される。

 

「やった……やりましたよ!!

 後はこれで――」

 

「――私にソレを渡せばハッピーエンドだ。

 そうだろう?」

 

「!!」

 

 突如、後ろから声をかけられた。

 それが“誰”なのかはすぐに分かったが、そちらを向かない訳にもいかないので振り返る。

 

「……ミサキ」

 

「やあ、久しぶりだな、イネス」

 

 視界に入ったのは、黒髪の女性。

 自称(・・)勇者のミサキ・キョウヤ――間違いなく、本人(・・)だ。

 

「今回は分身(アバター)じゃないんですね」

 

「君達が頑張ってくれたおかげで、不自由なくこちらへ来れるようになったんでね」

 

 六龍がほぼ居なくなったことで、彼女の呪縛も力を失ったのだ。

 まあ、それは仕方ない。

 こうなることは、とっくに予想済みである。

 

「それで、早速出勤してきたと。

 ファンタジー世界にスーツ姿で来るとかダサいと思わなかったんですかー?」

 

「午前中まで仕事していたんだ。

 まあ、どうでもいい案件ではあったのだが、社長である私が居てやらないと社員達が可哀そうだからな」

 

「うわー、何その上から目線。

 心底その社員さん達に同情しちゃいます」

 

「うちの社員満足度は100%だ。

 毎日私の姿を眺められるのだから、当然だな」

 

「おいおい、クッソムカつくな、この女」

 

 最後、つい乱暴な口調が出てしまった。

 しかしミサキはさして気にする様子も無く、言葉を続けてくる。

 

「それで、龍の力を渡すつもりは無いんだな?」

 

「当然でしょう。

 アタシはこれを使って、“世界を壊す”んですから」

 

「…………」

 

 目の前の女が一瞬、ほんの一瞬だけ、哀しそうな顔をした。

 

「そんなことをしても意味がない」

 

「ありますよ。

 アタシの気が晴れる」

 

「義務として聞いてやる。

 そんなことのために、幾十万の人々を殺すのか」

 

「はい、殺します」

 

 淀み無く答える。

 そう口にしても、イネスの胸には何の痛痒も湧かなかった。

 自分が本当に破滅を欲しているのだとを実感する。

 

「……お前が殺したいのは私だろう?」

 

「そりゃアナタも殺しますよ。

 アタシから“勇者”も“復讐”も“誠一”も奪ったアナタを、殺さない訳ないでしょ。

 ああ、ひょっとして殺されてやるから世界を壊さないで欲しいとか、そういう殊勝な態度とったりします?」

 

「まさか。

 たかが世界一つの破滅が、私の価値に釣り合う訳ないじゃないか」

 

「言っときますけど、今のアタシはその台詞にツッコミ入れたりしてあげませんよ」

 

「それは残念」

 

 ミサキは大きく息をつく。

 その後、スッと目を細めて、

 

「止めるぞ」

 

「やれるもんならやって下さいよ……!」

 

 そう言うと、イネスは“封域”を展開する。

 限られた空間内を、己の思うがままに操る彼女オリジナルの特性。

 かつては十数m程度の範囲にしか拡げられなかったが――龍の力を得た今であれば、世界そのものを覆うことすら可能!

 大地が、空が、海が、イネスによって支配されていく……!!

 

「この六龍界そのものがアタシの領域です。

 アナタに勝ち目があるなんて思わないことですね」

 

「そうか。

 ま、やってみろ」

 

 しかしこの状況下においても、ミサキは軽く肩を竦めるだけだった。

 その仕草が、妙に腹立たしい。

 

「余裕ぶってますねー?

 アタシとしては一思いに殺さず、ジワジワ嬲り殺してやってもいいんですよ?」

 

「御託はいいからさっさと来い。

 格の違いという奴を教えてやる」

 

 

 

 ミサキとイネス。

 2人の“勇者”による戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 ――いや、始まると思っていた。

 少なくとも、イネスは。

 

「こ、の――!!」

 

 地面に<隆起せよ>と命じ、大地の刃で身体を切り裂く。

 大気に<落ちろ>と命じ、超高圧で押し潰す。

 空間に<捻じれろ>と命じ、世界の屈折で捻じ切る。

 

 その全ての試みを、ミサキは無効化していた。

 彼女が呪を唱えれば、或いは手をさっとかざせば。

 土の刃は砂に変わって崩れ去り、圧縮空気の塊は霧散し、空間の捻じれはすぐ元通りに戻る。

 

「嘘でしょ!? こんな、こんな――!!」

 

 こんな筈ではなかった。

 こんな結果を得るために、今まで苦痛に、屈辱に耐えてきたわけではない。

 

「もう終わりか?」

 

「ふ、ふざけたこと言わないで下さい!! これからですよ!!」

 

 叫んで自らを鼓舞する。

<封域>で“世界”を操り、思いつく限りの攻撃を実行する。

 

 地割れを作った。

 氷柱を落とした。

 爆炎を生み出した。

 突風を吹き散らした。

 雷を走らせた。

 

 その全てが、ミサキによってかき消される。

 

 水も。炎も。風邪も。雷も。

 果ては重力や空間操作でさえ。

 一つ一つが街を壊滅させるような規模だったとしても

 

 ――ミサキ・キョウヤに、何の痛痒も与えられなかった。

 

(なんで!? こんなの、反則(チート)にも程がある!!)

 

 ここまでの差がある筈無かった。

 今のイネスは、白龍と緑龍、2つの力を手に入れているのだ。

 神すら超えた力と形容してもいい。

 エゼルミアも、ガルムも、デュストも、相手にすらならない。

 例え3人同時に戦ったとしても、イネスの勝ちは揺るがないだろう。

 

(なのに!!)

 

 それでもなお、ミサキには及ばなかった。

 この世で最も憎い、あの女に。

 大切なモノを全て奪い取った、あの女に。

 尊厳すらかなぐり捨てて身につけた力が、欠片も通用しない。

 こちらが引き起こした現象を、最小限の力(・・・・・)で打ち消してくる。

 

(不公平――過ぎませんか!?)

 

 この世は平等だ、などと嘯くつもりはない。

 それでも――それでも、費やした代償の見返りを要求するのはいけないことなのか。

 “努力”に成果を期待してはいけないというのか。

 

「次はこちらから行くぞ」

 

 怒りに打ち震えるイネスの耳に、ミサキの声が入ってくる。

 

 瞬間。

 

 視界が、白に染まった。

 

「ひっ!?」

 

 慌てて防壁を組み立てる。

 

「あ、あ、あああああっ!?」

 

 削られる。

 削られる。

 削られる。

 防壁が削られる。

 灼熱の光が、イネスの張った結界を抉っていく。

 

「――――は、ひっ」

 

 あと僅かで消失する、というところで、眩い奔流は消えた。

 しかしミサキはそれを予期していたのか、悠然とした態度でこちらを眺めていた。

 

「これで分かっただろう。格の違いというものを」

 

 そして、心底子憎たらしい台詞を投げかけてくる。

 

「……何ですか、この馬鹿力。アナタ、龍より強いとかおかしいでしょうっ!」

 

「いや? 馬鹿力なのはお前の方だよ。

 誠一達がアレコレ策を弄して対処していた六龍を、まさかほとんど力業だけで捻じ伏せるとは私も思わなかった。

 単純な“力”なら、そっちの方が上だろう」

 

「くっ――誠ちゃんのこと下の名前で呼ばないでくれます!?」

 

「……気に障るとこそこなのか」

 

 そんなことは無いが、そんな軽口でも叩かなければ心が折れそうなのである。

 

「じゃ、じゃあ、どうしてこんなに差があるっていうんですか!?」

 

「だから言ったじゃないか、“格”の違いだと」

 

 つまらないことを聞くな、と言わんばかりの口ぶりだった。

 

「出力は大きくても、扱い方が雑なんだ。無駄が多すぎる。

 分子の動きを変える、分子間力を操作する、原子へ分解する、素粒子の流れを読む――そんな簡単な(・・・)ことも、お前はできないんだろう?」

 

「――――!!」

 

 絶句。

 そんなこと、人間ができる訳が無い。

 勿論、“地球”の科学をもってすればある程度は可能だが、それは大掛かりな装置を用いての話だ。

 個人でそんなことができるとは――

 

「――それが、<ラプラスの瞳>の力ですか」

 

「そうだ。

 視界内の存在を素粒子レベルで読み取ることができる。

 私が持つ、最強の特性」

 

 共に旅をした時、話は聞いていた。

 だがその時は話半分程度にしか聞いていなかったのだ。

 魔法と科学、その両方を理解しているイネスにすら、夢物語にしか聞こえなかったから。

 だいたい、素粒子を()れるなど、人の脳の限界を超えている。

 頭が壊れてもおかしくない。

 

(そもそも、7年前からパワーアップしてません!?)

 

 既に最強と称されていたとはいえ、手の届かない存在では無かった。

 恐らくだが、あの時はまだ自在に<ラプラスの瞳>を操れていなかったのかもしれない。

 それが今や、この有様だ。

 

「――な、んで」

 

「うん?」

 

「なんで、アナタはそうなんですか!?

 突然異世界からやってきたと思ったら、勇者とか名乗り始めて!!

 アタシ、アタシは、凄く辛かったけど、苦しかったけど、自分は勇者なんだからって、自分が頑張んなくちゃいけないんだって思って、必死にやってきたのに!!

 なのにあっさり、アタシから勇者の立場を奪って!!

 アタシを弄んできた連中も、アナタにさっくり殺されちゃって!!

 おかげで復讐の機会すら無くなりましたよ!!

 その上、誠ちゃんの恋人になったって!?

 その時の絶望が分かりますか!?

 誠ちゃんさえいれば、アタシはそれで良かったのに!!

 あの人だけが、そのままのアタシを受け入れてくれたのに!!」

 

 堰を切ったように言葉が溢れてきた。

 涙も出てきた。

 

「だからアナタを超えようと歯を食いしばって強くなって!!

 その結果がこれですか!!

 アタシのしてきたこと、全部無駄!?

 何にも報われないの!?

 ねぇ、アタシが苦しんでる姿を見るの、そんなに楽しい!?」

 

 止まらない。

 感情が止まらない。

 ミサキ・キョウヤへの怒りが、感謝が、嫉妬が、憧れが、憎しみが、愛しさが、止まらない。

 

「……イネス」

 

 そんな自分を見て、目の前の女は目を伏せた。

 

「そうだな。

 私もつい遊び過ぎた。

 ……もう、終わりにしよう」

 

 ミサキの頭上に、彼女自身より遥かに大きい、巨大な“光”が出現する。

 周囲の分子を“純エネルギー”にまで分解して生み出した、膨大な“破壊の奔流”。

 イネス一人を破壊するのに、十分過ぎる力だ。

 

 ――例え、龍の力を総動員して防御に当たっても、アレは防げない。

 

 あっさりとそう確信できる程に、圧倒的な光景だった。

 全身が脱力した。

 絶望で思考が停止した。

 もうどうしようもない。

 自分はコレで終わる。

 何も為せないまま、終わる。

 

「……さようなら、イネス」

 

「……ええ、さようなら」

 

 ミサキの通告へ、呟くようにそう返す。

 “光”が迫りくる。

 自分の“終わり”を前にして、イネスの胸中にはただ一つ想いのみが残った。

 

 

 

 ――こんな世界、大嫌い

 

 

 

 

 

 

 第三十四話②へ続く



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② すべてが終わったその後に

 

 

 現在、私は療養所の廊下を走っている。

 マナー違反にも程があるが、この時のみはどうかご容赦願いたい。

 

 ――“私”

 そう、すなわち黒田誠一である。

 色々あった挙句、どうも生還できた模様。

 いや、今私のことはどうでもいい。

 重要なのはそこでない。

 

 私が目覚めると第一声で、アンナさんに告げられたのだ。

 “美咲さんが、イネスさんを倒した”と。

 イネスさん――即ち、私の幼馴染でもある駒村葵さん。

 

 こうなるであろうことは分かっていた。

 何人(なんびと)であろうと美咲さんに勝てる訳が無いのだから。

 しかし、よもや自分が意識を失っている最中に全てが終わっていたとは――

 

「葵さん!?」

 

 そう言って、()は病室の扉を勢い込んで開ける。

 中に居たのは、2人の女性。

 一人はベッドに横たわった葵さん。

 もう一人はその傍らに佇む――

 

「――美咲さん」

 

「久しぶりだな、誠一」

 

 ――境谷美咲さんが、そこに居た。

 その表情は陰り、悲しんでいるようにも、悔やんでいるようにも見える。

 

「全て終わった。イネス・シピトリアは……死んだよ」

 

「んなっ!?」

 

 余りに衝撃的な台詞に絶句する。

 そんな、そんなことが……!?

 美咲さんが、葵さんを、殺すとは――

 

「……私は用件が済んだ。もう行く。再会の抱擁はまたの機会にしよう」

 

 そしてその一言を残し、美咲さんは立ち去ってしまう。

 私はその後を――追えない。

 終える筈が無い。

 彼女をこのままにしてはいられない。

 

「……葵さん」

 

 ぽつり、と名前を口にする。

 ベッドで眠るように横たわる彼女の傍らに立つ。

 ――綺麗な顔だ。

 死んでいるなんて信じられない。

 だが、もう葵さんは動かない。

 かつてのような明るい笑顔を見せてはくれない。

 私は、自分の幼馴染を助けることができなかった――いや、助けようともしなかった。

 

 何か他に手が有ったのではないか。

 せめて、2人が戦う場に居ることができれば。

 いや、もっと葵さんと交流し、説得を試みていれば――!

 

 今更な話だ。

 正しく後悔である。

 だが、思考を落ち着かせようとしても感情の沸き立ちを抑えられない。

 

「葵さん――!」

 

 再び口から彼女の名が零れる。

 部屋に響く程の叫びで。

 無論、こんな行為に意味など無いのだが――

 

「なんですか?」

 

「え?」

 

 ――思わぬ返事が来た。

 

「急に大声出して、どうしたって言うんです、誠ちゃん(・・・・)?」

 

 そこには、きょとんとした顔で私を見返す葵さんの姿があった。

 ごくごく普通な様子で上半身が起き上がっていた。

 よくよく見てみれば、死んでいるどころか顔の血色は寧ろ良好だった。

 

 ……え?

 嘘?

 ドッキリ?

 あれだけシリアスな雰囲気醸し出しておきながら、私を騙したんですか美咲さん!?

 

「……葵さんが亡くなったと聞いて、飛んできた訳ですが」

 

「生きてますけど」

 

「……そうですね」

 

 本当にそうですね。

 どうしてくれるんだ、この空気。

 色々と台無しである。

 こうなったらここで押し倒して有耶無耶にしてしまうか――などと考えていた、その時。

 

「それにしても誠ちゃん、なんか急に老けてません?」

 

「老けっ!?」

 

 いきなり凄い事言われた!

 確かに最近色々大変なことずくめだったので(その中には葵さんの案件も含まれている)、多少は疲れが顔に出ているかもしれないけれども!!

 

「あとさっきから気になってたんですけど、ここ、どこです? 今日、日曜日ですか(・・・・・・)? 学校はどうなって(・・・・・・・・)るんでしょう(・・・・・・)?」

 

「……え?」

 

 後に続いた言葉で、私は言葉を失った。

 まさか。

 まさか、彼女は――

 

「――あの、イネスさん?」

 

「誰ですかイネスって」

 

「……いえ」

 

 葵さんは――

 

「五勇者を覚えていますか……?」

 

「何なんです、それ? 何かのゲームのキャラですか? ははーん、さては誠ちゃん、またエッチなゲームに嵌りましたね。アタシにコスプレして欲しかったりします?」

 

 嘘をついている――ようには全く見えない。

 そもそも、この状態でこちらを騙す意味が無い。

 

「というか、ここ病院にしては妙に古臭くないですか? 一昔どころか二昔三昔前みたいな造りの建物ですよね――あれ? そもそもどうしてアタシはここにいるんでしたっけ?」

 

「…………」

 

 ああ。

 そうか。

 そういうことだったのか。

 美咲さんの言葉は正しかった。

 イネス・シピトリアは、間違いなく死んだのだ。

 ここに居るのは五勇者の一人“封域”のイネスではなく、私の幼馴染である駒村葵なのである。

 

 彼女は、自分が産まれ育ったこの世界――グラドオクス大陸での記憶を、全て捨て去っていた。

 それは美咲さんとの戦いによる結果なのか、それともイネスさんにとって自分の人生とはその程度の価値しかないものだったのか。

 私如きにその理由を推し量ることはできない……

 

 

 

 

 

 

 ……そして。

 

「……美咲さん」

 

「随分と早かったじゃないか。もっとイネスの奴と話をしていても良かったんだぞ」

 

「彼女には軽く状況説明をして、今は休んで貰っています」

 

「そうか」

 

 ここはウィンガストの街を少し離れた、小高い丘の上。

 なかなか風光明媚な場所で、街の全景を見渡すことができる。

 

「少し昔話をしよう」

 

 私から視線を外し、街の方を遠く眺めながら美咲さんがぽつぽつと語り出す。

 

「物心ついた時から、私は何でもできた。

 なにか問題に直面してもすぐにその解が分かったし、それを実行するだけの能力も兼ね備えていた。

 いわゆる完全無欠の天才という奴だ。

 逆に周りの人々がどうして問題を解決できないのか理解できなかったことすらある。

 毎日がつまらなくて退屈で仕方なかった。

 世の中を舐め切っていたな」

 

 ……そうなっても、仕方が無いことだったろう。

 彼女の持つ最上級の特性<ラプラスの瞳>は視界内の存在を素粒子レベルで解析することができる。

 しかも美咲さんの場合、その特性を最大限に活かすことのできる<身体能力(ステータス)>まで完備していたのだ。

 凡そ、完全無欠。

 周囲を見下してしまうのも、無理はない。

 

「だがある日転機が訪れた。

 六龍界への召喚だ。

 この世界に来てからはまあ、それなりに面白かった。

 魔力や魔法などというそれまで知らなかった技術があったからな、それをアレコレ弄っているだけで己の好奇心が満たされたよ」

 

 その瞳はどこか懐かしげで。

 

「だから、この世界に召喚してくれた魔王には感謝した。

 喜んで協力したとも。

 充実した毎日を私に提供してくれたのだから。

 まあ、単純に六龍共がむかついたからという理由も大きいんだが」

 

 本当に好き嫌いだけで神様に喧嘩売ったのか、この人は。

 

「それに――五勇者達だ。

 他の奴等と違い、私に近い“領域”にまで立ち入ることができた連中。

 アイツ達と一緒に居る時は、余り退屈しないで済んだ」

 

 僅かにだが、微笑みを浮かべた。

 

「私と真っ向から議論できるのなんて、エゼルミア位だ。

 どれだけ殴っても蹴ってもガルムは壊れなかったしへこたれなかった。

 将来性が一番なのはデュストだな、後数年鍛えれば私と同じレベルで<スキル>扱えるようになっただろう。

 イネスは、どれだけ打ちのめされても私への敵愾心を持ち続けてくれた」

 

 口調こそ淡々としているが、そこには彼女なりの強い“想い”が感じられる。

 五勇者の冒険は、若き日の美咲さんへ多大な影響を与えたのだろう。

 

「……皆、大切な仲間だったんだ、と思う。

 もう、誰も残っていないけれど」

 

 表情へ陰りが差した。

 自嘲するように、美咲さんは続ける。

 

「命懸けで六龍を倒せとは言ったが、本当に命を落とすまで戦わなくてもよかったろうに。

 適当なところで逃げておけば――私が、なんとかしたのに」

 

 呟き、俯く。

 僅かにだが、肩が震えていた。

 泣いて――いるのだろうか。

 いや、無理も無い。

 生死を共にした仲間達が皆居なくなったのだ。

 その喪失感たるや、部外者に過ぎない私では類推することも難しい。

 

「く――う、く――」

 

 震えが大きくなる。

 駆け寄るべきか。

 しかし駆け寄ってどうする?

 慰めるのか?

 どう言って慰める?

 勇者の幾人かは私が殺したようなものなのに。

 悩む内にも美咲さんの方は大きく上下に揺れ――

 

「――く、くくくく、くははは! 見事に全員くたばったな!

 これで私の天下だ! 最早、私を止められる者などこの世に居ない!」

 

「ええっ!?」

 

「冗談だよ」

 

 一転、笑みを浮かべてこちらを振り向く。

 しかしその瞳には……いや、よそう。

 そこに触れるのは余りにも配慮が欠けている。

 

「さておき、紆余曲折はあったものの結局は私の狙い通りに六龍は討滅できたわけだ。

 ありがとう、誠一。

 何度か私が手を貸したとはいえ、よくぞ計画を支障なく進めてくれた――全て私の助力あってのことだが」

 

 実に珍しい、美咲さんからのお褒めの言葉である。

 どこか恩着せがましい気がしないでもないが。

 

「これは何か、ご褒美も考えてやらなければな」

 

「褒美だなんてそんな。

 美咲さんに何でも命令できる権利なんて、恐れ多いですよ」

 

「そんなことは一言も言ってない」

 

 ジトっとした目で睨まれてしまった。

 

「――まあ、しかし。

 法外な報酬、とは言えないかもしれないな。

 それだけ大きい仕事をお前は果たした。

 何でもは無理だが、内容によっては頼み事を聞いてやらんでも無い」

 

「ええ!? 美咲さんが白昼堂々とストリーキングを!?」

 

「調子に乗ってると殺すぞ」

 

 ガチな殺気を放たれ、流石に口をつぐむ。

 だが、美咲さんに命令できる権利か。

 ……実に夢が膨らむ。

 股間も膨らんでしまいそうだ。

 というか寧ろ既に膨らんでいる。

 

「では早速」

 

「え? お前、ちょっと待て。

 ここ、そういう流れでは無かっただろう!

 私の過去話でしんみりして終わりって場面だろう!?

 なんでいきなりサカってるんだ!」

 

「そうは言いましても、これだけの肢体を見せつけられたら欲情の一つや二つしてしまいますよ!

 ここ数日は入院していたせいでご無沙汰でしたし!」

 

「お前の理性はサル並みか!?」

 

「止めて下さい! 猿さんに失礼ですよ!?」

 

「自分で言うな!!」

 

 どのような指摘を受けようと、最早収まりはつかない!

 

「あ、こら、止めろ!

 抱き着くな、おい!

 ちょ、ズボン、ズボンを降ろすなと!

 やっ、そこっ、ダメっ、弄っちゃ――あ、んぅううっ!!」

 

 青空の下、美咲さんの甘美な声が辺りに響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 こうして、勇者と六龍との戦いは幕を閉じた。

 過去からのシガラミは(おおよ)そ消え去り、この世界は邪な龍達から解放される。

 人々は英雄も黒幕も居ない世界で、新たな生活を築き上げていくことだろう。

 

 故に。

 だからこそ。

 ここから先は正真正銘――黒田誠一()の戦いの物語となる。

 

 

 

 第三十四話 完



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世界設定
人物紹介2(ネタバレ有)


■黒田誠一

 年齢:26歳

 身長:179cm 体重:75kg

 種族:人 職業:<魔法使い>

 

 主人公にして語り手。

 黒髪黒目で、実に日本人らしい容貌の持ち主。

 勇者ミサキ・キョウヤ見出された、勇者代理にして他の勇者達への刺客。

 実は黄龍ティファレトの息子であり、複数の強力な特性を所持しているのはそれが原因。

 

 1年前、異世界“六龍界”にある一都市ウィンガストへ送り出されてからは、戦いへの準備をしつつ潜伏していた。

 <射出>を応用した絶技“射式格闘術”、そしてミサキ・キョウヤの編み出した奥義“爆縮雷光”“風迅”を駆使する。

 さらに、覚えた(ルーチン化した)動作は100%成功させるという強力な特性:社畜と、それを最大限に利用した“勇者殺し”の技能まで併せ持つ。

 対勇者に限ればずば抜けた戦闘能力を発揮する一方、初見の行為はほぼ間違いなく失敗するという欠点もある。

 仲間との総力戦の末に赤龍ゲブラーを、黄龍ティファレトの協力を得て青龍ケセドを討滅し六龍との戦いを勇者側の勝利へと導く。

 ティファレトに憑依された際、身体に大きな負担がかかったため、現在は治療院で入院中。

 

 なお、どうしようも無い変態というのは、擬態でも何でもなくこの男の本性。

 ちょっとでも気に入った女性に対しては、手を出すことを抑えきれない。

 現代日本で生きてこれたのが不思議な程の犯罪的性欲の持ち主であるが、まあ父親が黄龍ティファレトであることを考えれば無理もないことかもしれない。

 しかし一応、性関連の事柄から離れさえすれば、かなり誠実かつ真っ当な人物でもある。

 

 

■境谷美咲

 年齢:23歳

 身長:169cm スリーサイズ:B88・W56・H85

 種族:人 職業:勇者

 

 7年前、魔王を倒すため、魔王によって召喚された“勇者”。

 生まれついての天才であり、六龍界に召喚されてからもその天才性をいかんなく発揮。

 冒険者という“システム”を開発し、魔法や武技などの“技”を<スキル>として統一させた。

 本人も魔王を上回る程に力を備えるという、万能っぷり。

 五勇者を結成し六龍との闘いに挑むものの、最終的には罠に嵌り地球へと追放されてしまう。その上、呪縛によって六龍界への干渉を禁じられる。しかし、魔王の息子“室坂陽葵”の身柄を賭けた勝負を取り付けることには成功。

 自分自身では手が出せないため黒田誠一を代理とし、勇者への刺客へ育て上げた。

 

 黒田とは恋人関係。

 表面上は黒田がかなり熱を上げている状態だが、実のところ彼女も心から彼を愛している。

 つまりラブラブカップルである。

 なのに黒田は他の女にも平気で手を出す始末。

 あらゆる方面に完璧な美咲も、唯一男の趣味だけは悪かった。

 

 一見冷徹な性格に見えて、その実、近しい相手を見捨てることができないお人好し。

 彼女が魔王を助けようとしている根本的な理由はここにある。

 

 黒田が青竜ケセドを討滅したため呪縛が解け、ウィンガストへの再転移に成功。

 緑龍ネツァクと白龍ケテルを支配したイネスを容易く打ち倒してしまう。

 本作におけるぶっちぎりの最強存在であり、設定上はどこぞのヴィルバルト将軍でも勝てないチート能力者。

 

 なお、五勇者としての二つ名を『殺戮』としていまったのは、本人の中で若干黒歴史化している。

 

 

■室坂陽葵

 年齢:15歳

 身長:164cm スリーサイズ:B72・W51・H85

 種族:人 職業:<勇者>

 

 魔王の息子。

 絶世の美女である魔王とよく似た美貌の持ち主だが、娘ではない。

 

 元々は魔王の“スペア”として六龍が魔王に産ませた(・・・・)存在。

 しかし六龍の思惑に反し魔王は陽葵を息子として本気で愛してしまった。

 魔王は陽葵の身を案じ、地球に送り出してそちらで生活させていたのである。

 (この辺り、六龍達も地球の方が大事なスペアが安全に暮らせるだろうと考えていた)

 

 だが結局、美咲と六龍との戦いに巻き込まれる形で六龍界へ帰還することになった。

 五勇者の戦いの“景品”として扱われるが、当然本人の意向など無視。

 現在の所、六龍の“器”になる未来がほぼ確定しているため、近い将来“室坂陽葵”という人格は消滅することになる。

 一縷の望みに賭け、自分の“父親”である青龍ケセドと会いに、<次元迷宮>の探索に赴く――しかし、その儚い望みも呆気なく打ち砕かれた。

 助かる術は無いと絶望を突き付けられたうえ、“父親”によって凄惨極まりない凌辱・調教を受ける。

 自我が完全崩壊しかけるが、ギリギリのところで黒田によって助けられる。

 だがそれはあくまで対処療法的に救われただけで、“いずれ消滅する”という結末に変わりはない(・・・・・・)

 彼が生き残る方法は果たしてあるのだろうか?

 

 ちなみに、女なのは外見だけで基本的に性的趣向は男なのだが――どうにも敏感体質。

 胸や尻を触られると、すぐに気持ち良くなってしまう。

 そんな体質を黒田に気付かれ、六龍界に来て早々に処女を卒業するはめになる。

 その後も幾度となく抱かれ続け、今ではメスイキすることへの抵抗が大分薄まってきてしまった。

 幾人もの男(や魔物)、果ては実の親にまで犯されているが、一番気持ちいいのは黒田なのは変わらない。

 ただ、青竜ケセドの調教後、その身は完全に雌へと堕ちている。

 

 

■リア・ヴィーナ

 年齢:18歳

 身長:157cm スリーサイズ:B84・W56・H83

 種族:魔族 職業:肉便器(黒田専用)

 

 ウェイトレスとは仮の姿、その正体は魔王の息子“室坂陽葵”を護衛するため派遣された魔族である。

 魔族の中でもかなりの力を持ったエリート――なのだが。

 如何せん、勇者達の戦いに割って入るにはまだ力が不足していた。

 しかし、勇者イネスによって体を弄られ“性交した相手の力を吸収する”特性を獲得。

 その上で町中の男共に公衆便女として酷使されたことで、その力は飛躍的に向上。

 <次元迷宮>の最深部でも十分戦えるだけの戦力を得るに至った。

 

 だが最終的にイネスの策謀によって白龍ケテルをその身に宿されてしまう。

 龍に支配された彼女は身体を崩壊させながらも暴れ続け、同じく勇者の一人であるエゼルミアがその身を犠牲にすることでどうにか救助に成功する。

 現在は治療院でボロボロになった体を治療中。

 

 なお、魔族は個人個人でその精神に何らかの“歪み”を持っているのだが、彼女の場合は『極度の被虐趣向』として現れた。

 それをいい様に利用され、ゲルマンやセドリックに散々身体を弄ばれた挙句、今は黒田の肉便器として扱われている。

 こう書くと凄まじい転落人生だが、本人は割と幸せな模様。

 ……美咲によるリハビリ計画の早急な実行が待たれる。

 

 性格は勝気――だったのだが、肉便器となった今は快楽に対してやたら素直になった。

 

 

■ローラ・リヴェリ

 年齢:25歳

 身長:159cm スリーサイズ:B90・W58・H87

 種族:人 職業:薬師→<錬金術師>

 

 過去、セドリックによって凄絶な調教を受けていた。

 薬によって自我が完全に消去される一歩手前まで追い詰められたものの、ギリギリのところでセドリックが改心。

 日常生活が送れるようにはなったものの、その直後に夫を亡くしたことで堕落。

 一日中男に抱かれ続ける生活を送るようになる。

 黒田との出会いによりそこからは立ち直るも、薬の後遺症は治らず、男の求めに抗えない身体になってしまう。

 ただ、そんな状態でも黒田への想いは本物。

 

 美咲の発破により心はさらに回復を見せ、調教前の精神状態に戻りつつある。

 その結果、最大の恋敵である美咲にやたらと突っかかるようになったが、本気に彼女を嫌っているわけではない――はず。

 元々は、相当芯が強い性格であった模様。

 

 さらに黄龍ティファレトの手で(凌辱という形ではあるが)治療され、その身は完全に調教前の状態に戻った。

 今の彼女は、完全に健常者である。

 もう男に迫られても靡いたりはしない。

 ……それでも、想い人である黒田に対してはこれまで通りその身を許してしまうのであった。

 

 

■エレナ・グランディ

 年齢:20歳

 身長:150cm スリーサイズ:B81・W52・H81

 種族:人 職業:<魔法使い>

 

 実は、地球に居る美咲からの<思考転送>を受け、彼女の指示で動いていた。

 といっても、基本的には美咲へ身体を貸すだけで、エレナ自身があれこれ動いたことはほとんどない。

 

 黒田については美咲から(惚気混じりで)話を聞いて気になり出し、会ってみたらドストライクだったのでそのままモーションをかけた。

 この辺り、美咲と波長が合うということの片鱗が垣間見える。

 

 美咲が六龍界へ来れた今、自分はお役御免と一足早く黒田との愛人生活を楽しむ気満々。

 勇者? 六龍? 何それ、美味しいの?状態である。

 だがそう旨い話が(酷い目に遭いまくっている周囲の女性陣に)許される訳もなく、勇者イネスによって肉便器調教を受けるハメになる――が、それでも結局クロダ以外の男にその身を汚されることはなかった。

 作中で最も幸運な女性かもしれない。

 

 

■アンナ・セレンソン

 年齢:28歳

 身長:146cm スリーサイズ:B75・W54・H80

 種族:獣人(猫) 職業:<商人>

 

 一代でセレンソン商会を大陸規模にまで発展させた天才商人にして、美咲の仲間。

 勇者と魔王の戦いの真実を知る、数少ない一人。

 美咲の掲げる六龍打倒に賛同し、彼女が居ない間様々な準備に奔走していた。

 黒田に目をかけていたのも、これが理由である。

 

 在庫一斉処分の覚悟で店のアイテムをつぎ込み、とうとう赤龍ゲブラー撃破に成功。

 しかしそのせいで店の経営状態がかなりアレな感じになってしまい、目の前が暗い状態。

 現在は次の戦いに備えつつ、商会を立て直すために奮闘している。

 

 大分あっぱらぱーな性格ではあるものの、仁義は守る。

 そのため、なんだかんだ言って美咲や黒田からの信頼は篤い。

 しかしその言動に辟易されることも多い。

 

 

■ボーレンクイロン・ヴァキャ・アンラマウェンスタ・ヴィーマゲウォン

 年齢:31歳

 身長:345cm 体重:204kg

 種族:巨人 職業:武器屋の主人

 

 通称、“ボーさん”

 ウィンガストで武器屋を営む巨人族の男性。

 店では、武器の売買だけでなく、鍛冶も請け負っており、店に並ぶ武器の半分以上は彼が鍛えた物。

 腕の良い鍛冶師として知られており、別の街から彼の武器を求めて店を訪ねる人もいる程。

 ただ、武器屋を経営する商才には欠けるようで、店は余り儲かっていない。

 

 主人公も彼の店はよく利用しており、武器防具の購入や修理をしたい場合はまず彼のもとを訪れる。

 ボーさんも生来人に頼られるのが好きな性質であるため、主人公から相談があればなんだかんだで乗ってくれる。

 

 なお、顔が良ければ男だってOKの模様。

 あと巨人族の中ではイチモツが貧相らしい。

 

 

■ゲルマン・デュナン

 年齢:42歳

 身長:186cm 体重:95kg

 種族:人 職業:店長兼料理人

 

 黒の焔亭の店長とコックを兼任している男性。

 元傭兵で、筋肉ムキムキのマッチョマンである。

 頭は禿げているが、これは料理に髪の毛が入らないよう剃っているんだ――とは本人の弁。

 強面ながらも面倒見が良い性格のため、店の従業員や友人達からは頼られている。

 料理の腕も高く評価されており、ウィンガストの美味いお店と言えば黒の焔亭を挙げる人も多い。

 

 しかし、淫乱な素質のある女を肉便器に仕立てることを、ライフワークにしている下衆でもある。

 黒の焔亭のウェイトレスは、全員彼の手によって堕とされてしまっている。

 一応、素質の無い女には手を出さないようにしているが、素質があると見るや恋人がいようが夫がいようがお構いなし。

 リアへ手を出すことに制限をかけたのは、ひとえに黒田への友情あってこそなのだ。

 作中だけでも、ミーシャやカマルといった女性陣を次々と肉便器に墜とし、勇者イネスも性奴隷として扱っている。

 主人公が黒田でなければ、確実に敵役な御仁である。

 

 

■セドリック・ジェラード

 年齢:56歳

 身長:168cm 体重:85kg

 種族:人 職業:資産家

 

 元々は別の街で大きな商会を運営していた、やや恰幅の良い壮年の男。

 今では商会の経営を後任に譲り、ウィンガストで隠居生活をしている。

 ウィンガストでも一二を争う大金持ちなのだが、それを鼻にかけることはしない、出来た人物――なのだが。

 

 その実、妻に逃げられた腹いせに、数多くの女性を肉便器へ堕としてきた外道。

 ローラもその毒牙にかかり、徹底的に嬲られることになった。

 しかし自我が崩壊しても夫への愛を捨てなかった彼女を見て、考えを改める。

 その後は、ローラが幸せになることへ己の全てを捧げるようになった。

 

 但し今でも、特定の相手が居ない女性は、隙あれば自分専用の肉便器へ堕とそうとしてしまう困った人。

 

 

■ジャン・フェルグソン

 年齢:18歳

 身長:176cm 体重:65kg

 種族:人 職業:<盗賊>

 

 エレナとパーティーを組む駆け出し男冒険者で、彼女とは幼馴染。

 仲間想いで兄貴肌の人物で、何故か主人公のことを冒険者として尊敬している。

 エレナからは一人の男性としても想われていたりするのだが、それを知ってか知らずか、彼女からのお誘いをスルーし続け――

 痺れを切らしたエレナは、黒田の愛人になってしまった。

 ただ、それに関しても妹分と尊敬する人物がくっついたとして、素直に祝福していたりする。

 

 ただ、女に対して興味が無いというわけでもなく、相応の助平心も持ち合わせている。

 お気に入りは陽葵であり、彼の尻穴で童貞を卒業(?)した。

 

 そんな彼も紆余曲折の末、利用している宿屋の娘イルマと恋人同士になる。

 ただ、その恋人は黄龍ティファレトに便器扱いされたり、実は黒田の子供を身籠っていたりするのだが。

 幸薄い感じだが頑張れば幸せになれる、はず。

 ……実は今でも陽葵への想いは薄れてなかったりもするけれど(男相手なら浮気じゃないよね理論)、基本不幸な身の上の彼なので大目に見てあげて欲しい。

 

 

■イルマ・コーディ

 年齢:17歳

 身長:154cm スリーサイズ:B88・W55・H79

 

 ジャン達が利用している宿屋“蒼の鱗亭”の一人娘兼看板娘。

 栗色の髪をストレートのおさげにした、かなり童顔な女の子である。

 だがその幼い外見とは裏腹に、胸部はなかなかの破壊力を持つ。

 

 ジャンがウィンガストに来てから、何かと彼の世話をしている。

 実のところ一目惚れしていたのだが、恋愛経験の乏しさからその感情を口にすることができないでいた。

 そうこうしている内、黒田に美味しく頂かれ、しかも彼の子供を孕んでしまう。

 しかも黄龍ティファレトからも凌辱を受け、肉便器ならぬ“単なる便器”扱いまで受けるのだが、最後の最後でジャンが男を見せたことにより、事なきを得る。

 ただ、未だにイルマは黒田に対し未練たらたらであり、実は彼によって尻穴調教を受けてたりも。

 ジャン頑張れ。とにかく頑張れ。

 

 

■コナー・エアトン

 年齢:17歳

 身長:180cm 体重:79kg

 種族:人 職業:<聖騎士>

 

 エレナとパーティーを組む、駆け出し冒険者で、やはり彼女とは幼馴染。

 ジャンとは昔から一緒に行動していた腐れ縁。

 ジャンが主人公の信者であることから、主人公のことは話でよく聞かされている。

 彼もまたエレナから好意を持たれているのだが、ジャンとの三角関係になることを恐れているのか、彼女の想いに応えるような行動を起こしていない。

 

 他にも複数の女性から言い寄られているのだが、まるで浮ついた気配が無い。

 その事実が意味するものは――?

 ……とか意味深なこと言ってはみたものの、その答えが分かる前に物語が終わりそうである。

 

 

■ジェラルド・ヘノヴェス

 年齢:77歳

 身長:153cm 体重:44kg

 種族:魔族 職業:冒険者ギルド長

 

 冒険者ギルドのギルド長を務める老人だが、その正体は魔族。

 リアの上役にあたる。

 人間の動向を探るため、そしていずれ来る“魔王の息子”陽葵を迅速に保護するため、ウィンガストに潜入していた。

 ただ、根が真面目なためギルド長としての職務もしっかりとこなしている。

 

 美咲の目的に“魔王を助ける”ことも含まれていたため、黒田らと手を組むことを決意。

 戦線に出てこないながらも、様々な支援や後始末を行っている。

 このまま裏方に徹するかと思いきや、一応は同盟関係にあった勇者エゼルミアから襲撃を受け、抹殺されかかる。

 しかも白龍ケテルに憑依されたリアの暴走にまで巻き込まれ、万事休すといったところで、襲撃してきたエゼルミア本人によって救助された。

 エゼルミアに対しかなり複雑な思いを抱くものの、結局彼女は最後まで勇者であったとの報告をあげている。

 

 なお、彼の持つ魔族としての“歪み”は『魔王への絶対的な献身』。

 “歪み”としてはかなりまともな部類ではあるものの、魔王を救うためならばあらゆるものを犠牲にしかねない。

 それが、保護対象である陽葵であっても。

 とはいえ、度を越えた変態が跳梁跋扈する本作において、最も理性的な人物の一人であることは間違いない。

 

 

■アーニー・キーン

 年齢:27歳

 身長:181cm 体重:80kg

 種族:人 職業:<侍>

 

 通称:兄貴。

 いかつい顔つきの、危険な香りを漂わせる男。

 退屈しのぎに女をレイプしようとするような無法者だが、一方で仲間や認めた相手に対しては義理堅い一面も。

 Bランク冒険者の中でも上位の実力を持ち、黒田でも“射式格闘術”なしでアーニーと戦うのは相当の危険を伴う。

 

 エレナを襲おうとした件で黒田と知り合い、その後の決闘で彼に敗北。

 黒田と心行くまで死合いをしたいという目的で、黒田に関わり出す。

 デュストに惨敗後、黒田達と協力し赤龍ゲプラーへのリベンジを成し遂げた。

 標的を勇者に定めた彼は、自らの鍛錬も兼ねて陽葵と共に<次元迷宮>へ挑む。

 その甲斐あって十分なレベルアップは果たしたのだが、その力は勇者に対してではなく暴走したリアを止めるために振るわれた。

 レイプ犯(未遂)として登場した癖に、気づけば作中随一の真人間ムーブをしている。

 ただ、彼の本質が無法者であることには変わりないため、次に登場したときは女性に手をかけているかもしれない。

 

 

 ■サン・シータ

 年齢:24歳

 身長:178cm 体重:70kg

 種族:人 職業:<暗殺士>

 

 通称:三下。

 アーニーとパーティーを組む冒険者で、意外にも実力はある。

 口を開けばどうでもいい妄言を垂れ流す、ある意味でアンナの同類。

 女に対しては割と見境が無く、良さげな相手を見つければ無理やりの行為も辞さないが、本人のキャラのせいでヒール役になりきれない。

 アーニー同様、気に入った相手に対しては親身になる面も持つ。

 

 黒田を“旦那”と呼んで親し気に接してくるが、黒田本人からはちょっと厄介がられている。

 そんな縁もあって、アーニーと共に陽葵の<次元迷宮>探索に手を貸していた。

 さらに暴走したリアを身を張って止めたりと、本質的には善人よりなのかもしれない。

 

 ミーシャを想いを寄せているものの、別に一途というわけではなく、他の女性にもちょっかいを出したり。

 まあ、ミーシャも黒田やゲルマンに手籠めにされているので、彼を責めるのは酷である。

 また、ボクッ子に対して並々ならぬ熱意がある。

 

 

■ミーシャ・メイヤー

 年齢:23歳

 身長:151cm スリーサイズ:B75・W52・H77

 種族:人 職業:<僧侶>

 

 アーニーや三下とパーティーを組む冒険者。

 短く切り揃えた銀髪を持つ、クールな美少女。

 ……本来、“美女”と呼ばれるべき年齢なのだが、背が低い上にスレンダーな体型のため、少女にしか見えない。

 

 大量の触手による凌辱を受けるも、黒田の協力を得たアーニー達によって救出される。

 三下からの好意に満更では無いものの、救出のお礼として黒田に抱かれ、彼の徹底した責めに屈服してしまった。

 黒田へ想いを寄せだすも、今度はゲルマンに目を付けられ、彼の味を覚え込まされてしまう。

 その後、黒の焔亭で働き出すことになるのだが、ゲルマンの命令で街を露出徘徊させられたり、その際に男達に捕まって便女扱いされたりと、散々な目に遭い続けている。

 ただ調教の甲斐あってか、本人もそういう扱いをされることが満更でもなくなってきたようだ。

 

 

■柿村浩太

 年齢:24歳

 身長:178cm 体重:75kg

 種族:人 職業:<魔剣士>

 

 東京からウィンガストへと来た男性で、主人公の学生時代の後輩。

 軽い言動とチャラい外見から誤解されがちだが、なかなか芯の通った好青年。

 学生時代にも、ウィンガストの冒険者としても先輩である主人公の事は大いにリスペクトしている。

 彼も黒の焔亭の常連であり、リアに恋心を抱く。

 ……果たして、彼が再登場することはあるのだろうか?

 ⇒ありませんでした。

 

 

 

■『全能』のエゼルミア

 年齢:254歳

 身長:177cm スリーサイズ:B80・W52・H81

 種族:エルフ 職業:賢者

 

 7年前に魔王、ひいては六龍と戦った五勇者の一人。

 元々は平凡なエルフの村娘として暮らしていたが、魔族に捕らえられ100年近く性奴隷として扱われていた。

 そのまま魔族の玩具として一生を終えようとしたところへ白龍ケテルより介入を受け、魔族に対抗できるだけの力を授かる。

 ケテルから与えられた力を利用して魔族を虐殺し続けていたところで美咲から五勇者へのスカウトを受けた。

 

 勇者としての活動は魔族根絶への足かけに過ぎず、適当なところで離反する手はずだった――のだが。

 共に戦う内に、他の勇者達へ――特に自分と同じく“平凡な出自”でありながら勇者として戦い続けるデュストへ特別な感情を抱きだす。

 そんな彼の“生き様”に感化され、最後は魔族であるリアを助けるためにその命を投げ出した。

 

 

■『封域』のイネス

 年齢:26歳

 身長:160cm スリーサイズ:B83・W54・H86

 種族:人 職業:勇者(真)

 

 五勇者の一人であり、かつ“六龍界における本来の勇者”。

 とはいえ、この世界の勇者は実質“六龍の玩具”であり、彼等の嗜虐心を満たすため散々な扱いを受けていた。

 貴族達の性奴隷、浮浪者達の公衆便女、魔物達の孕み袋――ありとあらゆる辱めを体験している。

 それでも彼女は“自分こそが勇者である”という矜持で何とか耐えてきたのだが、それも自分を超える圧倒的な力を持った美咲の登場によって打ち砕かれた。

 ただ、“理想の勇者像”を体現した彼女へは憧れも抱いており、そのため7年前の戦いにおいてはそれなりに良好な関係を維持している。

 

 それが破綻したのは、美咲が黒田と恋人になったという事実を知った時である。

 イネスは“室坂陽葵の監視”という名目で一時期地球へ赴いていたのだが、その時に黒田と出会い、友達以上恋人未満な淡い関係を築いていた。

 もっとも、黒田が相手なので当然のようにセックスはしまくっていたのだが。

 それでも彼と過ごした日々はイネスにとって数少ない穏やかで幸せな記憶であり、いつか黒田と結婚することを夢見て過酷な毎日を耐え抜いてきた。

 ……自分の全てを美咲に奪われたと理解した際に彼女が抱いた憎悪は、筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 美咲を殺すため、そして散々に自分を苦しめぬいてきたこの世界そのものを破壊するため、物語の裏で暗躍。

 リア(とついでにエレナ)を凌辱し、エゼルミアの殺害に繋がる事件を起こした上で、2匹の龍を支配下に収めることに成功する。

 だが結局、そこまでしても完全に顕現した美咲に一蹴されてしまった。

 そして敗北と罪悪感(エレナの件に関しては気にしてない)により、イネスは過去の記憶を全て消し去ってしまう。

 今は地球で暮らしていた時に名乗った“駒村葵”として生活し、見かけ上は(・・・・・)幸せな様子である。

 

 

■『光迅』のデュスト

 年齢:24歳

 身長:185cm 体重:87kg

 種族:人 職業:剣士

 

 五勇者の一人。

 美咲に憧れ勇者入りした人物であり、彼等の中では美咲に次いで若い。

 赤龍ゲブラーに取り込まれ、操られるまま悪事に手を染めるも、屈強な精神力で殺人という最後の一線だけは超えることが無かった。

 黒田とゲブラーとの決戦時、最後の力を振り絞って赤龍を拘束、諸共に討たれることで龍討伐に成功する。

 その生き様は、頑なだったエゼルミアの心を動かした。

 

 

■『鉤狼』のガルム/黄龍ティファレト

 年齢:???

 身長:201cm 体重:105kg

 種族:人狼 職業:忍者

 

 美咲に惚れて五勇者となった人狼。

 しかしその正体は黄龍ティファレト(正確にはティファレトが自分専用の器として用意した人物)であり、かつ黒田誠一の父親でもある。

 一見してガルムとしての人格とティファレトとしての人格を有する二重人格者のようだが、実際は両方とも演じているだけ(・・・・・・・)

 黒田に対して時折見せた“父親としての人格”が、彼の素である。

 まあ、全ての雌は自分が楽しむための道具、という態度も素ではあるのだが。

 

 六龍ではあるが他の龍とは折り合いが悪く、美咲達の妨害をしようとはしていなかった――むしろ積極的に協力していた程。

 実のところ“美咲に惚れた”というのは真実であり、彼女を助けたのは他龍への嫌がらせだけが理由ではない。

 女とみればとりあえず犯すティファレトが美咲には指一本触れていないのもこれが原因であり、一度でも彼女を抱けば“本気で愛してしまう”と危惧したため。

 食い物にする女は多々あれど、本気で愛する人物は“黒田の母親”だけと誓ったからである。

 

 青龍ケセドとの決戦時、黒田の意向を汲み彼の身体を乗っ取る。

 全力を振るえるようになった彼はケセドと互角の戦いを繰り広げ、半ば意図的に相討ちとなり、消えていった。

 

 なお、龍としては生命(プラーナ)の権能を司る。

 彼が女を孕ませまくっているのは、ここに由来する。

 

 

■赤龍ゲブラー

 感情(ロイス)の権能を司る龍。

 だが長い年月魔素に晒されたために歪み、今では生物の負の感情を楽しむようになってしまった。

 五勇者の一人デュストに憑依し操るも、黒田とその仲間達に敗れ消去される。

 

 

■青竜ケセド

 契約(ルール)の権能を司る龍であり、室坂陽葵の父親――正確には、陽葵を造った龍。

 本人へ伝えることはできていないが、陽葵のことを息子と認識していること、彼を父親として愛していることは、間違いなく真実。

 しかし魔素によって歪められているが故、その愛は息子への常軌を逸した凌辱という形で表現されてしまう。

 最終的にティファレトと相討ちになり、陽葵のことを想いながら消去される。

 

 

■白龍ケテル

 運命(フェイト)の権能を司る龍。

 魔素の完全な消滅を願っており、六龍の中では珍しく本来の使命を蔑ろにしていない。

 ただやはりケテルも歪んではいて、この龍が消去したいのは“魔素の影響を受けた存在”も含まれる。

 つまり魔素を消し去るために世界そのものを消滅させようと企ているのだ。

 

 だが最後は自分が最も嫌悪する魔族(魔素の影響を最も受けている生物)へ強制的に憑依させられたことで発狂。

 その神格はエゼルミアによって消去され、力はイネスに利用された。

 六龍の中で最も悲惨な目に遭っているかもしれない。

 

 

■緑龍ネツァク

 戦い(バトル)の権能を司る龍。

 御多分に漏れず魔素の影響で歪んでおり、苛烈で悲惨な戦いをこそ愉しむようになってしまった。

 この世界に永遠の戦乱を齎すことが望みである。

 イネスと最も付き合いが多く、彼女に最も多くの悲劇を与えたのもこの龍。

 それ故か、最終的にイネスの口車に乗せられケテルを魔族の中へ閉じ込め、自分自身はイネス本人の手で抹消させられるハメになる。

 

 

■黒龍ビナー

 本編未登場の、六龍最後の一匹。

 この世界を維持することにしか興味がなく、維持するためならばどんなことでもやる――例え世界が破滅するような方法だとしても。

 現在は<次元迷宮>の最奥で魔王に憑依し、世界に空いた“穴”がこれ以上開くのを防いでいる。

 

 

 



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第三十五話 黒田誠一、最期の三日間
①1日目、朝


 

 さて、ケセドとの戦いから幾日。

 私のその間、ずっと入院を余儀なくされていた。

 

「あっあっあっあっあっあぁああっ!?」

 

 身体を動かせないというのはなかなかに退屈であったが、あれだけの戦傷を受けて生きているだけでも重畳であろう。

 葵さんの件に関しては――まあ、多めに見て頂きたい。

 

「おひっ!? 激しっ――ああっ! あっ! ああっ! あああっ!!」

 

 そして今は、待ちに待った退院日である。

 流石に身体がなまってしまったかもしれないが、まずは無事に治療が終わったことを喜ぼう。

 

「おっ! おっ! おっ! おっ! おっ! すご、すごっ、いっ――んおぉおおっ!!?」

 

 なお、先程から喘いでいらっしゃるのは、この治療院の看護師さんだ。

 ちょうど騎乗位のような体勢で、ベッドに寝る私の股間の上で腰を振り続けている。

 

「あぁああああっ!! このチンポっ! このチンポっ! 好きなのぉおおおっ!!」

 

 薄茶色の髪をロールアップにした美女が淫らに肢体をくねらせた。

 円熟した雌肉は柔らかく、それでいてなかなかスタイルも良い。

 大きな胸が弾むように揺れている。

 

「当たってるぅっ!! あっ! あっ! あっ! あっ! 一番奥、当たってるぅっ!!」

 

 目を閉じ、感じ入るように私のイチモツを味わう看護婦さん。

 彼女の(なか)へ挿し込まれた肉棒が、膣肉にぎゅうぎゅうと搾られる。

 股間は温もりに包まれ、心地良い快楽を私に提供してくれた。

 

「あっ! あっ! あっ! ああっ!! あぁああああああっ!!!」

 

 肢体を弓なりにしならせ、女性は本日5度目の絶頂に達す。

 

「あっ――あっ――あっ――あっ――――」

 

 ピクピクと痙攣しながら、その余韻に浸る彼女。

 長時間にわたるセックスでその肢体は汗まみれだが、その濡れた質感が逆に色気を助長している。

 

 なお、この女性。

 名前をシリュカさんと言って、入院している間の世話を担当して下さった方である。

 身体の動かせない私の下の世話までして下さり、そのついでにこっちの“下の世話”までして下さった素晴らしい女性なのだ。

 

「あっ――はぁああああ――」

 

 大きく息を吐きながら、シリュカさんが私の方へ倒れてくる。

 そのまま互いに密着した形になると、今度はキスをねだり出した。

 

「んっ――ちゅっ、んぅっ――れろっれろっれろっ――」

 

 唇を合わせるだけでなく、舌も絡ませてくる。

 甘い吐息をかんじながら私もそれに応えた。

 

「ぺろっ、れろれろっ――んぅうっ――れろ、ぺろっ――ん、んちゅっ――はぁああっ」

 

 繊細な舌が、丹念に私の口内を舐めていく。

 さらに眼前には蕩けきった雌の貌。

 これで興奮しない男などおるまい。

 

 ここまで奉仕され、なお受け身でいるのは失礼だろう。

 彼女の柔らかな臀部を掴むと、私は未だイキリ立ったままのイチモツを彼女の股間に挿し込み、腰を動かしだす。

 

「んっ、あぁああああっ!? まだこんなに元気なのぉっ!!?」

 

 当然である。

 まだ性交を始めてから2時間も経っていない。

 いかに病み上がりとはいえ、私の勢力はこの程度でへばりはしないのだ。

 寧ろ、さらにこの女性を犯したいという欲求が湧き上がる程で。

 

「おっ! おっ! おっ! おほっ! おほぉおおっ!!」

 

 だらしなく口を開き、涙を流しながらシリュカさんは嬌声をあげ続ける。

 腰を一突きする度に彼女の柔肉が私の上で踊り、その感触が私をさらに興奮させた。

 

「……しかし残念です、シリュカさんとも今日でお別れとは」

 

 そんな言葉を口に出る。

 実際、退院すれば早々会う機会は無いだろう。

 だが彼女はそ私の台詞に首を振り、

 

「む、無理よぉっ! おっ! おおっ! おっ! こんなっ、こんなのっ、覚えちゃったらぁっ! あっあっあっあっあっあっあっ!? 貴方以外の男となんて、無理ぃっ!!」

 

 そう言ってシリュカさんは私に抱き着いてくる。

 

「あ、愛人っ! ん、ほ、お、お、おっ!? あ、貴方の、愛人にさせてぇっ! 毎日、貴方のとこ行くからぁっ!! このおチンポ、もっと味わわせてぇっ!!」

 

「いけませんよ、貴女には旦那さんがいらっしゃるでしょう?」

 

 この治療院の院長先生が彼女の旦那さんだったりする。

 先生は何度もここを利用している私にとって、恩人と言ってもいいお人だ。

 そんな方を放っておくというのは、余りやって欲しくはない。

 

「そ、そんなの、もうどうでもいいのっ! あの人のじゃ、ここまで届かないっ! も、もう、わたしのおまんこ、貴方の形になっちゃったんだからぁっ!!

 お、お、お、お、お、子宮、来てるぅっ!? 子宮、潰れちゃうぅっ!?」

 

 会話してる最中にも私は動き続けている。

 そろそろいい塩梅に高まってきたので、スパートをかけた次第。

 

「おほっ!? おっ! おほぉおおっ!!? もうイクっ!! またイクのぉおおっ!!

 せ、責任、とって! あっ! あっ! あっ! あっ! 責任取ってぇ!! わたしをスケベマンコに変えた責任、とってよぉっ!!」

 

「……仕方ありませんね」

 

 ここまで言われてしまうと、拒み続けるのも心苦しい。

 私は力を込めて腰をシリュカさんへ叩きつけた。

 

「おっほぉおおおおっ!!?」

 

「いいですよ。私の家の場所はお教えしましたよね? 欲しくなったらいつでも来てください、お相手いたしましょう」

 

「おっ! おぅっ! おっ! おっ! おぅっ! いいのっ!? いいのねっ!? これからも、わたしのおまんこに濃厚ザーメン注いでくれるのねっ!?」

 

「ええ、貴女の子宮を孕ませてあげますよ」

 

「嬉し、いっ! あっあっあっあっあっ! わたし、産むからっ! 貴方の元気な赤ちゃん、産むからぁっ!! あっあっあっあっああああっ!!」

 

 そろそろ射精の時間だ。

 肉棒が膣の最奥にまで達した瞬間、私は精を解放した。

 

「あ、あぁあああああああああああああああっ!!!? 熱いのきたぁああああああああああっ!!」

 

 部屋に絶叫が木霊する。

 

「あっ!――あっ!――あっ!――あっ! しゅご、しゅごいっ! ザーメン、子宮に直接注ぎ込まれてっ!

 あっ!――あっ!――あっ!――あっ!――あっ! お腹、いっぱいになるぅっ!!!」

 

 恍惚とした顔で、幾度目かの絶頂を堪能するシリュカさん。

 だが、まだまだ。

 私のイチモツは、膨張を維持している。

 前の穴の次は、後ろの穴だ。

 態勢を微調整すると、今度は彼女の菊門へと亀頭を埋没させていく。

 

「んほぉおおおおおおおおおっ!!?」

 

 またしても零されるシリュカさんのはしたない声。

 

 私がこの治療院を出る予定時刻まで後3時間はある。

 それまで、新しくできた愛人と暇つぶしをすることにしよう。

 

 

 

 

 

 

「んっ――じゅるじゅるっ――ん、んん、んんっーーじゅぽ、じゅぽじゅぽっ」

 

 ベッドに横たわったシリュカさんが、私のイチモツを舐めている。

 

「じゅるじゅるっ――ん、ふぅぅうう――ん、あ――れろ、れろれろ」

 

 袋から竿、その先端にいたるまで、丹念に舐め、吸い付いていた。

 度重なる絶頂で既に意識は朦朧としているのだが、それでも肉棒を離さない。

 彼女、思いがけない逸材だったようだ。

 

「――さて名残惜しいのですが、そろそろ終わりませんと」

 

 そう呟くと、看護婦の口から肉棒を引き抜く。

 

「あ、ふっ――」

 

 途端、力尽きたかのように彼女はベッドへと倒れ込んでしまった。

 そのまま、完全に気を失ってしまう。

 どうやら愚息へのあくなき欲求で精神を保っていたようだ。

 その気力には見習うべきものがある。

 

「とはいえ、そろそろ退院の準備をしませんと」

 

 本来であればシリュカさんがあれこれ手伝ってくれる予定だったのだが――穴という穴から白濁液を垂れ流し、ビクビクと痙攣を繰り返す彼女にそんなことは頼めない。

 私はいそいそと荷物をまとめつつ、経つ鳥跡を汚さずの格言通り部屋の掃除を開始するのだった。

 

 

 

 そしてきっかり退院予定時間。私は身支度を完了し、部屋の外へ繰り出していた。

 入院中、然程不自由していた訳ではないのだが、やはり外に出ると気分が違う。

 俗にいう、『娑婆の空気は旨い』というヤツだろうか。

 さて、これからまずどうするか。

 一旦自宅へ戻るか、それとも治療院に入院している他の方々に挨拶しておくか――と、悩んでいたところへ。

 

「クロダさん! もう退院されたんですね」

 

 私へ呼びかける声。

 聞こえた方へ視線を向ければ、そこには長い黒髪が美しい女性――ローラさんの姿があった。

 

 嬉しそうに笑みを浮かべている彼女だが、違和感が一つ。

 服装が、いつもと違う。

 これまで彼女の普段着と言えば、黒を基調とした喪服然としたドレス姿だけだったのだが――今日の彼女はごく普通の、落ち着いた色合いのロングスカート姿だ。

 何か心境の変化でもあったのだろうか?

 いや、これはこれで実に新鮮味があり、素晴らしいのだが。

 

「今日が退院日だと聞いて、お迎えに来ました。時間が分からなかったんですが――間に合ったようで良かったです」

 

「これはこれは、お気遣い頂きましてありがとうございます」

 

 少し戸惑っている間にローラさんが近づいてくる。

 どのやら彼女、私のために態々出迎えにきてくれたらしい。

 実に有難いことだ。

 

「それで、ご加減の方は如何ですか? 聞いた話では、かなり無茶をされたとのことでしたけれど」

 

「お陰様で、もう何ともありません。ご心配をおかけしました」

 

 黄龍ティファレトに憑依されたということを考えれば、私が負ったダメージは随分と少なかった。

 ……あいつが、私を助けてくれたのだろうか。

 ちょっとした物思いに耽りながら、私は手をローラさんの尻にまわす。

 

「え?」

 

 彼女の驚く声。

 だがそんなものは気にせず、手はそのまま尻肉を揉む。

 うーむ、柔らかい。

 それでいて――前よりハリがあるように感じる。

 レベルが上がった効果なのだろうか?

 実によい感触だ。

 

「あ、んっ――あの、クロダさん?」

 

「なんでしょうか?」

 

 返事をしながら、今度はスカートを捲りあげた。

 大きなお尻を覆う、純白のショーツがお目見えだ。

 以前は下着も黒で統一していたのだが――ローラさんの服装の変化は、こんなところにも表れているらしい。

 

「ここ、治療院ですよ? 誰かに見られたら――はぅっ」

 

「まあまあ、固いことは言いっこなしでお願いします」

 

 ローラさんの巨尻に顔を埋めてみる。

 うーん、素晴らしい。

 尻肉の柔らかさと、ショーツ生地の滑々した触感が頬を伝う。

 そのまま思い切り息を吸うと、鼻の中に雌の香りが流れ込んでくる。

 なんと男を興奮させる、香しい匂いだろう。

 股間のイチモツが、ぐんぐんと固くなってきた。

 

「すーっ、はーっ、すーっ、はーっ」

 

「し、深呼吸しないで下さい!?」

 

 肺の中がローラさんの香りで満たされる。

 心地よい幸福感だ。

 当の本人は慌てているが、やってみたかったものは仕方ない。

 

「では失礼して」

 

「あっ」

 

 ショーツの股間部をすいっとずらし、女性器と対面する。

 彼女の花弁は既にじんわりと湿っており、準備が整っていることを知らせてくれた。

 なんのかんの言って、ローラさんも感じていたのである。

 さてこの後は――

 

「――ていっ」

 

「ほおっ!!?」

 

 おもむろに、人差し指をアナルへと突き刺した。

 予期していなかったのか、ローラさんの口から素っ頓狂な声が飛び出す。

 

 仕方がない。

 仕方がないのだ。

 目の前に綺麗な菊門があったから、つい出来心で。

 同じ状況に置かれれば誰もが同じことをすると信じている。

 

 そんな訳で、せっかく指を挿入したのだがら、何もしないのはもったいない。

 私はぐりぐりと指を動かし、彼女の直腸を弄り倒す。

 

「おっ、あっ、あっ! ま、待って下さい! そこ、そこ、お尻っ――お、おおっ、おっ、おおおっ!!?」

 

 ビクッ、ビクッ、とローラさんの肢体が震える。

 それだけ気持ちよいのだろう。

 気分が良くなったので、さらに中指を追加で突っ込み、2本の指でアナルの内側を掻きまわす。

 

「あっ、あっ、あっ、あぁああああっ!! ダメ、ダメですっ! お、お、お、お、おっ――こんな、ところで、お尻だなんてっ! あっあっあっあっあっダメェっ!」

 

 そうは言っても、顔は恍惚としているのだから説得力がない。

 3本目、薬指も入れてしまおう。

 

「お、おぉぉおおおおおおおおおおぅっ!!? ひ、広がるぅっ!!?」

 

 これもまたにゅるりと入る。

 指が括約筋で絞められる感触を楽しみつつ、ジュボジュボと音を立てて出し入れしてみたり。

 

「おっ! おっ! おっ! おおっ!」

 

 いい意味で下品な喘ぎを漏らしながら、ローラさんが感じ入り始めた。

 見れば、“前の方”からは愛液が垂れ流れだしている。

 

 ……そういえば、彼女のここはあのティファレトの巨根も受け入れたのだったな。

 となれば、腕一本位余裕か(・・・・・・・)

 

 思いついたら即実行。

 私は5本の指をまっすぐ立て揃えると、その全てを彼女の菊門へと突っ込んだ。

 

「おほぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぅっ!!?」

 

 案の定、というべきか。

 ローラさんのアナルはその暴力的な行為を容易に受け入れてくれた。

 今、私の腕は手首辺りまで彼女の腸内へと侵入を果たしている。

 

「おっ!?――おっ!! おっ!!――あ、が、あ、あ、あっ――!?」

 

 白目を剥いて悶えるローラさん。

 だがまだだ、まだ終わらない!

 腕に力を込め、そのまま奥に奥にと突き進んでいく。

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!!?」

 

 獣のような絶叫が廊下に響き渡った。

 そろそろ誰かに気づかれるかもしれないが――まあ、特に問題は無い筈。

 

「凄いですね、ローラさん!

 肘のところまで入ってしまいましたよ!」

 

「お”っ――お”っお”っお”っ――んおぉおお”お”お”お”お”お”!!」

 

 称賛するも、彼女はそれどころでないようだ。

 完全にアナルへ埋没した私の前腕は、ローラさんの体温を直接感じ、暖められていた。

 手が腸液に塗れ、べとべとになっているのが感覚で分かる。

 だが突っ込んで終わり、では芸がない。

 

「ローラさん、いきますよ」

 

 彼女の腹の中で、手を開いたり握ったり、ぐりぐりと手首事動かしたりしてみる。

 

「お”お”お”お”お”お”お”お”!!!? お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”!!!!?」

 

 まだ弄っていない膣口から、プシュッと雌汁が噴出した。

 彼女から急速に力が抜け、バランスが崩れて倒れそうになるも――腹の奥にまで突き刺さっている私の腕がその肢体を支えた。

 

「お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!? お”っ!?」

 

 ただ、変な力のかかり方をしたせいか、さらに悶えるハメになったようだが。

 せっかくだし、このまま何度かイカせてみよう。

 そう決めた私は、空いている方の腕でローラさんの尻をがっしり掴むと、突っ込んでいる方の腕を思い切り抜き挿ししてやる。

 

「んほぉおおおおおおおおおっ!!! イグッ!! イグッ!! イグッ!! イグッ!! イグッ!! イグゥゥウウウウウウウウウっ!!!」

 

 再び、女性器から液体が噴き出る。

 だが私はそれを気に留めず、腕を動かし続けた。

 

「あ”あ”あ”あ”!! あ”あ”あ”あ”あ”あ”!! イグゥッ!! まだイグゥウウウウウウウウっ!!!」

 

 取っ手を捻った蛇口のように、ローラさんの股からは愛液がビチャビチャ流れ出す。

 廊下には大きな水たまりができ、周囲には彼女の淫臭が漂う。

 

 ……あ、廊下の向こうに人が。

 まあ、私達の姿を見た途端に逃げ出してしまったので、一先ず放置して問題ないだろう。

 

「あ”お”お”お”お”お”お”!!! お”お”お”お”お”お”!!!! お”お”お”お”お”―――――――――あ」

 

 ローラさんの声が止まった。

 プツンっと糸が切れたように、彼女の体が崩れ落ちる。

 全身くまなく脱力したらしく、尻穴に突っ込んだ腕だけでは支えきれなかった。

 

「――――あ、ふ」

 

 ばたりと廊下に倒れ伏せるローラさん。

 瞳から光は失われ、四肢は微動だにしない。

 

「完全に意識を手放してしまったようですね」

 

 そう判断し、彼女のアナルから腕を引き抜く。

 

「こふっ!!!?」

 

 その一瞬だけ痙攣を起こすも、その後は沈黙を保ち続ける。

 これはしばらく回復しないかもしれない。

 

「仕方ありません」

 

 私は懐を漁ると、一本の小瓶を取り出す。

 体力回復用のポーションである。

 その栓を開け、中身をローラさんの口に注いだ。

 すると――

 

「……んっ、あ?」

 

 ――効果覿面、彼女はすぐに目を覚ます。

 流石はローラさん特製のポーションだ。

 

「……あのですね、クロダさん。

 私、言いたいことがあるんですけれど」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「今更、ヤるなとはいいませんし、私の身体はもう好きにしていいんですけれど……せめてもう少し、時と場所を選んで貰えません?」

 

「善処します」

 

 ちょっと怒気を発している彼女へ、素直に頭を下げる。

 一応、周りに注意を配ってはいたのだが。

 数人に見られた(・・・・・・・)程度なので、問題ない筈――今のローラさんにそれを伝えるようなことはしないが。

 

「それで、ローラさん」

 

「え、ええ、治療院を出るんですよね。待って下さい、今、立ち上がりますから」

 

「いえ――これを見て下さい」

 

 早合点する彼女をそっと制し、私はあるモノを見せつける。

 

「……あ❤」

 

 途端、ローラさんの目が見開き、口が淫猥に歪む。

 彼女に見せたのは、怒張だ。

 先程までの痴態によって反り返るまでに勃起した、私の剛直である。

 

「さて、コレをどうして頂けますかね?」

 

「あ、あ、あ――❤」

 

 ローラさんは、私の股間から目を逸らせないでいた。

 視線を固定したまま彼女はおずおずと股を広げ――愛液でグジュグジュになった女性器を自らの手で開く。

 

「私のおまんこで鎮めますから――は、早く、早く、突っ込んで下さい❤」

 

 その目から、理性の輝きは失せていた。

 まあそれはそれとして、頼まれたからには応えねばなるまい。

 

「承知しました」

 

 一言そう呟いてから、私は愚息をローラさんの濡れた花弁へと突き立てた。

 

「ああっ!! あぁあああああああああああん❤」

 

 響き渡る嬌声。

 見れば少し離れたところに人だかりができているのだが――今の私には、関係のないことだ。

 

「あああっ❤ もっと❤ もっと突いて下さい❤ ああっ!! そこ! そこ! 気持ちいいっ❤ あぁぁあああああああああああああっ!!!」

 

 大衆に見守られながら、私とローラさんの営みは続く。

 私が腰の運動を止めたのは、たっぷり4度、彼女の中へ精を注いだ後であった。

 

 

 

 第三十五話②へ続く



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