ストライクウィッチーズ 鉄の狼の漂流記 (深山@菊花)
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主人公&登場人物設定※ネタバレ&追加あり

主人公

 

シュミット・リーフェンシュタール

 

 

【挿絵表示】

 

 

生年月日:1926年5月15日(前世界時点)/年齢:18歳(物語開始時)→19歳(501編及び502編)→20歳(501再結成時)

身長:176cm/原隊:第1航空艦隊第I飛行隊第4飛行中隊

階級:少尉→中尉(暴走列車救出後)→大尉(501ロマーニャ再編後)

固有魔法:強化

使用機材:Fw190A-6→Fw190D-9(暴走列車救出事件後)→Do335(輸送船団護衛前)

使用武器:MG151、MP40、MG42

使い魔:シベリアオオカミ?

パーソナルマークイメージ:エースコンバットZEROのガルム隊エンブレムのシベリア狼版のような感じ

 

本作の主人公。黒髪に目の色を深紫にした青年。502編において、戦闘を行った際左頬に傷跡が残る

一人称は『私』。怒った時や気持ちが高ぶった時は一人称が『俺』となる東部戦線にてYak-9との戦闘中に撃墜された後、ストライクウィッチーズの世界に流れ着いた若きエースパイロット。通称「鉄の狼(アイゼンヴォルフ)」

 

正義感が強く、困っていたりする人を見るとどうしても助けたいというほどの優しい性格をしており、初めて会う人からもそれがすぐわかるほどである。しかしいけないことや他人を不愉快にするようなことをする人を見ると厳しく注意するキツさもある。また、妹を養うため軍に入隊決意をする行動力もあるが、辛いことや悲しいことがあってもそれを抱え込んでしまう悪い癖があり、いつも一人でそれと戦ってきた。

 

魔力量は比較的多く、部隊の中では宮藤の次くらいの量を持っている

彼の固有魔法『強化』は、彼が触れたものや抱き着いている人に強化を掛け、その能力を上げたりする固有魔法であり、自身に流して身体能力を上げたり、武装に力を流せば通常の数倍の火力に倍増させ、ストライカーユニットに魔力を流せば、ストライカーのリミットを超える力を引き出すことのできる能力である

 

一見するとメリットしかなさそうな能力であるが、軽くユニットの限界値を振り切ってしまうために機体の部品消耗を上げてしまったりする。また、シュミット自身の魔法力消費量が増えてしまうため、戦闘での乱用はある程度控えている(ただしMG151を持ち運ぶ際の身体強化に必ず使用し、戦闘時はネウロイを即刻見つけるために目も強化している)

 

501に配属された当初は、なかなか部隊のメンバーに自分の境遇のことから信じてもらえず関係がうまくいかなかった。そのため、一部の人以外で少し距離のある対応(階級をつけて必ず呼んだり)が多かったが、暴走列車救出事件をきっかけに周りと打ち解けていくようになり、同じ階級の人や年下の隊員などを名前で呼んだりするようになる。

 

感覚のセンスが非常に高く、初めて魔法力を扱う人間としては上出来すぎる魔力コントロールをしたり、一回の飛行でユニットの特性を理解したりと戦闘のセンスはとても高い。戦闘の傾向は高火力を使用した一撃離脱戦法を得意とする。また、その多い魔力を使ったシールドで盾役もやるが、本来戦闘機乗りであった彼は若干シールドの在り方に慣れておらず、回避を多用する癖が多い。

 

隊員の呼称

501

・宮藤=宮藤

・リネット=リーネ

・ミーナ=中佐

・坂本=少佐

・ペリーヌ=ペリーヌ

・エーリカ=ハルトマン

・バルクホルン=大尉→バルクホルン

・シャーロット=シャーリー

・ルッキーニ=ルッキーニ

・エイラ=エイラ

・サーニャ=サーニャ

 

502

・ひかり=雁淵

・ラル=隊長

・ロスマン=先生

・サーシャ=サーシャさん

・クルピンスキー=クルピンスキー、ニセ伯爵

・ニッカ=ニパ

・管野=管野

・ジョーゼット=ジョゼ

・下原=下原

 

その他

・ミハエル→ミハエル

・マルクス→マルクス

・アリシア→アリシア

 

シュミットの呼ばれ方

501

・宮藤、リーネ、ミーナ、ペリーヌ、サーニャ→シュミットさん

・坂本、エーリカ、バルクホルン、シャーロット、ルッキーニ、エイラ→シュミット

 

502

・ひかり、ニパ、ロスマン、サーシャ、ジョゼ、下原→シュミットさん

・ラル→シュミット

・クルピンスキー→狼君(使い魔とエンブレムに因み)

・管野→おめえ、おまえ

 

その他

・フレイジャー兄弟→シュミット

・アリシア→お兄ちゃん

 

※主人公誕生の秘話

 

名前と通称:元ネタは某ミニ四アニメに出てきたドイツチームの名前とメンバーの名前から。

      苗字はドイツの女性映画監督レニ・リーフェンシュタールから。

 

 

登場人物

 

ミハエル・フレイジャー

 

カールスラントの技術者にしてシュミットの親友。双子のマルクスは弟。階級は少尉。

前の世界では弟のマルクスと共に兵士として戦場に出て戦死。その後ストライクウィッチーズの世界に飛ばされた。

ストライクウィッチーズの世界ではマルクスと共にストライカーユニットに興味を持ち技術者になる。性格はマルクスよりも元気で真っ直ぐしている。だが意外と切れ者であり、色々な問題もあらゆる視点から解決してきた。

シュミットの魔法力の膨大さに気づいたときにはマルクスと共同で新型ユニット『Do335』を開発し、シュミットと再会したときには婚約者をつくっていた。

 

 

マルクス・フレイジャー

 

カールスラントの技術者にしてシュミットの親友。双子のミハエルは兄。階級は少尉。

ミハエルと共に戦場へ出て戦死した後、ストライクウィッチーズの世界に飛ばされた。

ミハエル同様、ストライカーユニットに興味を持ち技術者となる。性格はミハエルより少し控えめで礼儀正しい。兄同様切れ者で、兄にはない発想などを持ち合わせており、「二人合わされば不可能無し!」とまで豪語するほどである。

シュミットの魔法力の膨大さに気づいたときにはミハエルと共同で新型ユニット『Do335』を開発した。

 

 

※作者のイメージとして、二人はハリー・ポッターシリーズのウィーズリー双子や桜蘭高校の常陸院ブラザーズをイメージしている。そのため具体的なキャラクターの容姿は定まっていない。強いて言えば常陸院ブラザーズをモデルとしている。

 

アリシア・リーフェンシュタール(15歳)

 

ハンブルクの空襲で重症を負ったシュミットの妹。前世では病院での急病に死亡したと思われていたが、死ぬ前の状態でストライクウィッチーズの世界へ漂流。そしてアリシアを拾ったアンナの手で一命をとりとめた。

ウィッチになることを憧れている一方、自分が何故ウィッチになるのかが正確につかめなかった。しかし、芳佳達が飛ぶ姿を見て明確な目標が生まれ、ウィッチになることを決断した。




とまぁ、現時点までの設定を書きました。話を更新するごとに設定が少しずつ解放されていきます。
それでは。

※エイラの呼び方について変更しました。
※シュミットのルックスを載せました。
※フレイジャー兄弟の設定を追加しました。
※アリシア・リーフェンシュタールの設定を追加しました。
※下手~な挿絵を追加しました


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第一章「異世界漂流編」
始まりの話


駄文です。温かい目で見てやってください。


東部戦線。高度約7000m上空では二機の戦闘機による空戦が行われていた。

一つは、ドイツ空軍の主力戦闘機、Fw190A。もう一つは、ソビエト空軍の主力戦闘機Yak-9である。

Fw190は、ドイツの開発した戦闘機であり、初登場でイギリスのスピットファイアを圧倒。連合軍に強烈な衝撃を与えた傑作戦闘機だ。

対するYak-9もソビエト空軍の中核であり、大戦中のソビエト空軍を支え、ソビエト空軍機で最も優れた機体の一つともいわれる優秀な戦闘機である。

この対峙する二機の戦闘機のうち一機、Fw190に乗るパイロットのシュミット・リーフェンシュタール少尉は、Yak-9の動きに内心焦りを感じていた。

 

(くそっ……恐ろしく上手い!)

 

 Fw190は傑作戦闘機には変わりない。しかし、空冷エンジンを使うA型は6000~7000mで急激に出力が落ちるため、高高度性能が不足しているのだ。対してYak-9は、コンセプトは中・高高度用戦闘機として開発しており、現在の高度でも遺憾なく実力を発揮できるのだ。

それに加え、搭乗員の腕前の差があったのだ。シュミットも決して腕が低いわけではない。彼も10機以上敵戦闘機を撃墜してきたエースパイロットである。しかし彼の相手するYakの搭乗員は、そのシュミットの腕を持ってしても及ばない腕前を持っていたのだ。

そして、勝敗は呆気なく決した。シュミットが後ろを取っていた時、Yak-9はフラップを開き高速で急旋回を行った。それに負けじと、シュミットフラップを展開しも急旋回をする。しかし――、

 

(しまった……!)

 

彼は、急旋回によるGでブラックアウト現象を起こしてしまい、視野を失ってしまったのだ。そして、視界を奪われたシュミットは、操縦桿を戻してしまう。その隙を逃さないYak-9のパイロットは、シュミットの乗るFw190の後方に素早く移動し、容赦なく機関砲弾を浴びせた。 シュミットはまともに回避を取ることができず、彼のFw190は翼がもげ落ち、火を噴きだした。

 

「……畜生」

 

シュミットは燃える機体から脱出しようとキャノピーに手を掛ける。しかし、被弾が原因でキャノピーが壊れてしまい、開かなくなってしまった。

 

「なっ!そんな…!」

 

そして、シュミットの意識は突如闇に飲み込まれだし、彼の視界は暗転した。その直後、Fw190は機体全体に火が回り、空中で爆発した。

 

 

 

そして、シュミット・リーフェンシュタールはこの世界から姿を消した。




というわけで、今回より始めました作者の趣味全開小説です。このお話は、一応最後まで書き通すつもりですが、更新はリアルの都合上不定期になりがちになるのでご了承ください。






※撃墜数が多かったため、シュミットの記録を下方修正しました。


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第一話「ファーストコンタクト」

第一話です。


「な、なにっ!?」

 

シュミット・リーフェンシュタールは衝撃の光景に思わず声を漏らした。

彼はつい先ほど、昼の東部戦線で敵戦闘機に撃墜され機体もろとも空中で爆破したと思っていた。しかし次に目を開けたら、雲の上の夜間の空にいたのだ。

 

「ここは一体……っ!」

 

彼は再び驚いた。なぜなら、攻撃によって壊されたはずのFw190に乗っていたからだ。しかもよく見ると、機体の数か所に被弾痕が残っている。これはYak-9との戦闘途中でついたものだった。

シュミットの頭の中は混乱した。何故、自分はバラバラになったはずの機体に乗っているのか。何故、夜間の空を飛んでいるのか。そして、ここは一体何処なのか。あまりにも非現実的な出来事の連続に、彼はコックピットの外をキョロキョロと見まわした。

すると、シュミットのいる高度、8000mよりもさらに下に、飛行物体の影を見つける。彼は操縦桿を倒し、機体を降下させる。

 

「ここが何処なのかを確かめなくては…」

 

しかし、降下していくうちにシュミットはさらに信じられないものを見て目を見開いた。高度を上げて飛行物体に近づいていくと、かなり離れた距離からでもその大きさが異様に感じられた。

 

「なんだ……あんな巨大な航空機は見たことないぞ?」

 

シュミットはもう少し接近して確認しようとする。次の瞬間、彼の真横を赤色の線が通り過ぎた。突然の出来事に、シュミットは回避行動を取り、攻撃が飛んできた方向を再び確認する。

そこには、胴体が黒く数か所が赤く光っている不気味な存在が浮遊していた。それはさっきシュミットが見た飛行物体だった。

 

「なんだなんだ!?」

 

シュミットは訳が分からないといった風に、その飛行物体の周辺をぐるぐる飛び回る。すると、またその飛行物体から赤いレーザーが伸び、シュミットのフォッケウルフを掠めた。

 

「うわっ!」

 

二度目の攻撃に、シュミットはコックピット内でシェイクされる。シュミットはすぐさま体制を立て直し、攻撃してきた飛行物体に向き直る。

 

「にゃろう……そっちがその気なら!」

 

そう言って、シュミットは回避行動を取りながら飛行物体に接近していく。

 

「お返しだ!!」

 

そう言って、機体に内蔵されているMG151機関砲を発砲する。MG151は、第二次世界大戦の20mm機関砲の中でも命中率の高さと高い攻撃力で、連合軍の機体を次々と落としていった高性能な機関砲である。

しかし、彼の撃ったMG151の弾は飛行物体に着弾はしたものの、その装甲をほとんど削ることはできなかった。

 

「な、馬鹿な!」

 

シュミットは驚愕の表情を浮かべる。今まで連合軍機を落としてきた攻撃が、目標に対して全く効いていないからだ。

そして、シュミットは一撃離脱による降下で、飛行物体の下に通り過ぎていく。しかし、敵に無防備な姿をさらけ出している状況である。このままでは撃墜されてしまう。

シュミットは急いで回避行動を取ろうとする。後ろでは、飛行物体が攻撃をしようと赤い模様を光らせる。

その刹那――、飛行物体は爆発を起こした。

 

「なにっ!?」

 

突然の爆発に混乱するシュミット。そして爆発の後、飛行物体は白い破片となり空中で分解、消滅した。

 

「なん……えっ……」

 

シュミットは言葉が出ず、何回も口をパクパクさせた。

 

『敵、撃破確認。オールグリーン』

 

突如聞こえた無線の声に、シュミットは驚き、周りをキョロキョロと見まわした。そして、彼の眼は信じられないものを見た。

そこには、月を背にした銀色の髪の少女が飛んでいた。足には不思議な機械を装着し、手にはロケットランチャーを握っていた。おそらくこのロケットランチャーで攻撃したのだろう。少女の顔は、シュミットの目から見てもかわいい部類に入る顔であった。しかも、その頭部から緑色のレーダーのような針が出ていたからだ。

しかしシュミットは、目の前の少女の姿を見て腰のホルスターの拳銃に手を回した。なぜなら、彼女の顔を見てソビエト人だと判断したからだ。しかし、数秒考えたのち、拳銃から手を離した。いくらソビエト人だからと言って、助けてくれたであろう少女に対していきなり拳銃を向けるのは場違いだと考えたからだ。

そして、コックピット内のハンドルを急いで回しキャノピーを開けた。

 

「そこの君!すまないがここは一体何処だか教えてくれ!」

 

大声でシュミットは叫ぶ。すると少女はこちらに近づいていき、機体のすぐ横に並ぶように並走した。

 

「どうしたのですか?」

「ここは一体何処だい?それに、君の付けているその足のは一体……」

「?」

 

シュミットは少女に言った。しかし、少女は何を言っているのかわからないという感じに首を傾げた。

 

「ここはブリタニアですが……」

「ブリタニア?一体何処だ?」

 

シュミットは、ブリタニアという言葉に訳が分からなくなった。少なくとも、シュミットの世界ではブリタニアなどという名前の国家はないからだ。

 

「ブリタニアは大陸からドーバー海峡を進んだ先にある国ですよ……?」

 

ドーバー海峡という言葉に、シュミットは瞬時に頭の中で理解した。彼の中でそこにある国は、敵であるイギリスだけだったからだ。

 

「ドーバーの先って……そこはイギリスじゃないか!」

「イギリス?それって何処ですか?」

 

全くかみ合わない会話に、シュミットは言葉を続けた。

 

「何処って……君が言うブリタニア……!」

 

ここでシュミットは、今までの不可解な出来事のことを思い出し、まさかと考えた。

 

(まてよ……第一空中分解した機体が原型をとどめていること自体がおかしかった。それに俺は今まで……)

 

シュミットがそう考えている頃、少女は誰かと話していた。

 

「すみません。定時連絡ではないのですが……」

 

そう言って、サーニャは少し会話した後再びシュミットに近づき話しかけた。

 

「すみません。私の後についてきてもらっていいですか?」

「何処へ向かうんだ」

「私達の基地に向かいます」

 

シュミットは考えた。ここがもしイギリスなら、敵地に向かうことになる。しかし、シュミットの頭の中では、向かう先がイギリスとは思えなかったのと、燃料は残り少ないこと、そして、彼女が敵だとは思えなかったことから、行っても問題ないだろうと考えた。

 

「……ここから基地までどれくらいだい?」

「約150km西です」

「解った。燃料が残り少ない。誘導よろしく」

 

少女はこくりとうなずき、シュミットの前方に移動する。

そんな姿を見て、シュミットは心の中であることを考えていた。

 

(ブリタニア……俺の記憶が正しければたしか昔のイギリスの名前だったはず……)

 

そんなことを考えている内に、シュミットと少女は高度を下げ、基地を目視で確認する。

 

「ほぉ……」

 

到着した基地は、ドーバー海峡に設置された基地だった。

 

「私が先に着陸します。その後に続いて着陸してください」

「了解」

 

シュミットの了承を聞いて、少女は先に着陸する。そして、次にシュミットも着陸態勢に入る。スロットルを落とし、フラップとランディングギアを展開して、ゆっくり陸に足をつける。

ここまではよかった。しかし次の瞬間、彼の機体のランディングギアが壊れ、機体は胴体着陸してしまった。

 

「うわあああああ!!」

 

シュミットはコックピット内で叫ぶ。人生で初めて胴体着陸をし、その衝撃でシュミットは頭をぶつけ、そして気絶してしまった。

 

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サーニャ・V・リトヴャクは、突如後方で起きた衝撃音に振り向いた。そこには、さっきまで誘導していた戦闘機の足が折れ、胴体着陸をしている姿が映った。

 

「あっ…!」

 

サーニャは思わず声を漏らした。目の前には火花を散らしながら滑走路を滑るFw190。

 

「胴体着陸をしてるぞ!」

「衛生兵!」

 

周りでは、兵士たちが戦闘機に駆け寄って行く。サーニャもそれにつられて戦闘機に走った。

コックピットから、一人の青年が下ろされる。目を覆っていたゴーグルは割れ、頭から血を流していた。

 

「急いで治療を!」

 

周りの兵士が、担架を持って来る。そこに、救助されたパイロットが寝かされ運ばれる。

サーニャは、その姿を心配そうな表情をしながら見届けていた。

 

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眠っていたシュミットは、瞼を少しずつ上げた。そして、救護室のベットの上でぼーっと天井を見ていた。

 

(ここは……救護室?俺は一体……)

 

彼は、気絶する直前の出来事を忘れており、何故ここで寝かされているのかを全く理解していなかった。

シュミットはとりあえず起き上がろうとして――、痛みで再びベッドに倒れた。

 

(腕が痛い……)

 

痛みを感じた左腕を見てみると、そこには包帯が巻かれていた。幸いにも骨折している様子ではなかった為、彼は空いている右腕で再び起き上がろうと試みた。

起き上がって部屋を見てみると、他にもベッドがあったが、どのベッドも使われておらず、彼一人だけが部屋を独占していた。

 

「……静かだな」

 

シュミットはあまりにも静かな部屋で一人だけだったため、少し寂しさを感じていた。

突如、部屋の扉が開きそこから女性が二人入ってくる。一人は、ドイツ軍の制服を着用している赤髪の女性。もう一人は、大日本帝国海軍の軍服を着て、刀を持った眼帯の女性だった。

 

「目が覚めたようね」

 

赤髪の女性がそう言って近づいてくる。

 

「ここは一体……」

「ここは501統合戦闘航空団です」

「統合……なんだそれは?」

 

シュミットは全く聞いたことない部隊名を聞いて聞き返す。

 

「統合戦闘航空団を知らないだと?」

「すまない。イギリスの部隊名などは解らない」

「イギリス?イギリスってどこだ?」

 

眼帯の女性がシュミットに聞き返す。噛み合わない会話に、シュミットも思わず疑問を感じる。

 

(イギリスを知らないだと?)

 

「何処って……、大陸からドーバーを渡った先……」

 

シュミットは説明するが、赤髪の女性はシュミットの予想外の答えをした。

 

「それって、ブリタニアのことを言っているのかしら?」

 

ここに来て、シュミットは気絶する前のことを思い出した。

 

『ここはブリタニアですが……』

 

あの銀髪の少女から言われた言葉。その時もブリタニアと言っていることを思い出したのだ。

 

「あの時も言っていたブリタニア……ここは一体……」

「おい、大丈夫か?」

 

眼帯の女性が聞くが、シュミットの頭にはその言葉が入らなかった。

 

「なぁ。今何年の何月だ?」

 

シュミットは二人に問う。すると、さらに予想外の答えが返ってきた。

 

「今は1943年の7月よ」

 

その言葉に、シュミットは頭をハンマーで叩かれたような衝撃を受けた。彼が東部戦線で戦っていたのは1944年の9月。一年以上前の時代に戻っているからだ。

 

「それじゃあ、ドイツは?今ドイツは連合軍と戦争をしているはずだ!」

 

シュミットは焦ったように二人に問う。すると、さらに衝撃的な答えが返ってきた。

 

「ドイツ?なんだそれは。それに連合軍って……」

 

ドイツが無い?連合軍に心当たりが無い?その事実にシュミットは混乱で頭が痛くなった。

 

「ミーナ。なんか会話が噛み合ってなくないか?」

「私もそう思うわ。とりあえず、あなたの原隊を教えてくれない?」

 

ミーナと呼ばれた女性は、シュミットに原隊はどこかと質問する。しかしシュミットは、この事実を言うべきかどうか少し考え、決心したように首を縦に振った。

 

「私の名前はシュミット・リーフェンシュタールです。階級は少尉。所属は第1航空艦隊所属です」

「名前からしてカールスラント人か」

 

シュミットの名前を聞いて、眼帯の女性がそう呟く。

 

「私はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。階級は中佐。この501統合戦闘航空団の隊長をしています」

「私の名前は坂本美緒。階級は少佐。501統合戦闘航空団では戦闘指揮官をしている」

 

二人はそれぞれ自己紹介をする。

 

「それでシュミット少尉。あなたに聞きたいことがあるのですがいいですね?」

 

ミーナ中佐は真剣な表情でシュミットを見た。

 

「あなたはこの基地に誘導され、滑走路に着陸しました。しかし、あなたの機体は大破してしまい、あなたは気絶してここに運び込まれました。そこまでの経緯を覚えてますか?」

「はい、なんとなくですが……」

 

シュミットは普通に答えた。ミーナは再び話し出す。

 

「あなたを救護室に運び込んだ後、あなたの機体をチェックしました。しかし、あなたの機体に描かれていた部隊章、および国籍マークについて見たことのないものが書かれていたの」

 

シュミットは、ミーナの言いたいことを理解した。

 

「貴方は一体何者ですか?」

 

その言葉に、シュミットは観念した。そして、ここに来て理解した事実を中佐に告げた。

 

「私はおそらく、この世界の人間ではありません」

「……どういうことだ?」

 

坂本の言葉は最もだ。ちゃんとした理由がなければこのように聞かれるのも当然である。

 

「私は、私のいた世界では、あのような黒い物はいなかった」

「それはネウロイのことか?」

「おそらくそれだ」

 

そう言って、シュミットは天井を見た。しかしその目は天井ではなくどこか遠いところを見ていた。

 

「私の祖国はドイツ。そしてドイツは今、世界大戦をしているからだ」

「世界大戦?」

 

それから、シュミットは二人に自分の世界について話した。世界の主要国。1939年に始まった第二次世界大戦。そこで行われている人類同士の殺し合い。今まで起きてきたことをすべて二人に話した。

 

「人類同士で戦争……それも世界規模で」

 

坂本はその事実に衝撃を受け、声が暗くなった。ミーナも同じで、彼女はこの世界でもネウロイがいなければ同じ運命を辿っていただろうと考えた。

 

「私からは以上です。それとお願いがあるのですが、この世界のことについて教えてもらってもいいですか?」

 

シュミットは、この世界の辿った運命を教えてほしいと頼んだ。

二人は、この世界のことについて話した。人類はネウロイという正体不明の謎の存在と戦っていること。人類が対立するのではなく、団結してネウロイと戦っていること。ネウロイに対抗するウィッチのこと。

それを聞いたシュミットは、内心複雑な感情をしていた。

 

「そうですか……。ありがとうございます、ミーナ中佐、坂本少佐」

「それでなのだけど、あなたに提案があるの」

「提案?」

 

シュミットはミーナの言葉にオウム返しする。

 

「サーニャさん……、貴方を誘導したウィッチの話では、貴方は単機でネウロイと戦っていたと聞きました」

 

そう言って、ミーナは窓際に移動し外を見る。

 

「なので、貴方のパイロットセンスを見込んでこの501統合戦闘航空団の戦闘機パイロットとして一緒に戦ってほしいの」

 

ミーナの言葉に、シュミットは考えた。この世界は少女たちがネウロイと直接戦い、奪われた祖国を奪還しようとしている。シュミットは、そんな少女たちが戦っている事実がシュミットの胸を痛めていた。

 

「それに、少尉は身寄りが――、」

「やります!」

 

坂本の言葉が終わる前に、シュミットは宣言した。

 

「私でよければ力になります!」

 

その言葉に、ミーナは微笑み返した。

 

「よろしくお願いね、シュミット・リーフェンシュタール少尉」

 

この日、シュミット・リーフェンシュタールは連合軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』の一員となった。

 




※少し文章を修正しました
※大変な誤字があったため修正をしました。


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第二話「覚醒と真実」

少し用事が入り投稿が遅れました。


その後、シュミットは501を案内されていた。シュミットのFw190を確認しに行くためだ。ちなみに、案内をしているのは坂本である。

初めのうちは、異世界に来たことに対して色々と言いたいことがあったシュミットだった。特に、坂本やミーナの服装に対してだった。

 

「どうしてズボンをはいていない……」

 

シュミットは質問した。二人の格好は彼の世界ではあまりにも危ない格好であると思ったからだ。しかし、予想外の答えが返ってきた。

 

「何を言っているの?ズボンなら履いているじゃない」

 

ミーナにこう言われ、シュミットはこれが異世界だと痛感させられた。あまりにも常識があてにならないと。

その後、格納庫に案内されたシュミットは、中を見て坂本に質問する。

 

「失礼ですが、私の機体はどこに?」

「お前の機体は胴体着陸で全損。格納庫端の方に一応保管してある。」

「了解しました」

 

シュミットが返事をし、坂本は案内した。そして、格納庫端に置かれていたシートをかぶっている物体の前で止まり、そのシートを捲り返した。

垂直尾翼に鎖を咥えた狼と剣が描かれた機体は、胴体着陸の影響で翼は折れ、キャノピーは割れ、修復不可能にまで壊れていた。

シュミットはその機体のコックピットに近づき、中に手を伸ばした。そして、中から鎖でつながれた二つの札を取り出した。

 

「それは?」

 

坂本がシュミットに質問する。

 

「これは亡くなった仲間のドッグタグです。双子で親友でした」

 

シュミットは、少し寂しそうに呟いた。そして、そのドッグタグをポケットにしまい、坂本に向き直った。

 

「少佐、もう大丈夫です」

「そうか」

 

そう言って坂本は再び歩き出した。それにシュミットも続こうとして――トラブルが起きた。

バキンッ!という音がしてシュミットが振り返ると、格納庫内に鎖で繋がれ立てられていた太いパイプが数本、自分に向かって倒れてくるではないか。

 

「なっ!?」

「ん?……なっ!」

 

シュミットは驚き固まってしまい、慌てて両腕を頭の上で交差した。坂本は何が起きたのか一瞬理解が遅れてしまい、シュミットに倒れるパイプを防ごうとしたが出遅れてしまった。

 

しかし、そのパイプがシュミットに当たることはなかった。

 

シュミットは、目の前の光景に目を疑った。坂本は、見慣れたそれを見てありえないと心の中で思った。

 

彼の目の前には、青色の模様が描かれた円いシールドが張られていた。しかしそれは、坂本が出したシールドではない。彼が出したものだったのだ。

そしてパイプは、シールドを伝いそのままシュミットの横へ崩れ落ちた。シュミットは、いったい何が起きたのか全く理解できず、ただ茫然と立ちすくしていた。

坂本はハッと我に返り、シュミットに駆け寄った。

 

「お前、まさか……!」

 

坂本は信じられないものを見る目でシュミットを見た。シュミットは、目を泳がせながら坂本を見た。

 

「今のは……一体……」

 

シュミットは声を絞り出して呟いた。周りにいた整備兵達も、ありえない物を見て言葉を失っていた。

その時、格納庫の扉が勢いよくバン!と開いた。その音に驚き、シュミットは扉を見た。そこには、ミーナを含む数人の少女が立っていた。彼女たちは一斉にシュミットを見て、走って駆け付けた。

ミーナが坂本に詰め寄る。

 

「美緒!今のは一体……」

 

ミーナはシュミットの姿を見て、まさかと思った。ほかの少女たちも、目の前の光景に目を見開き驚いていた。

 

「あなた……それ……」

 

ミーナはシュミットの頭上を指して話す。シュミットは、「それ」と言われて何があるのかと思い、自分の頭を触った。

……何かが生えていた。髪の毛の中に、自分のものとは違う何かが生えていることにシュミットは驚いた。

シュミットの頭に生えていたもの、それは耳だった。しかしシュミットは、今の自分の姿がわからず、それが何なのかを特定できなかった。

 

「なんだこれ……」

 

シュミットは思わず下を向く。そしてさらに信じられないものを見た。

シュミットの視界には、自分の背中から伸びている物があった。それは動物の尻尾だ。それも、狼のような大きな尻尾だった。

 

「な、な、な……」

 

シュミットは声を震わせた。そして、

 

「なんだこりゃあああああああああ!!!」

 

格納庫内で盛大に叫んだ。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

数分後、シュミットは落ち着きを取り戻し、現在の自分を再び見直した。相変わらず腰あたりからは尻尾がふわふわと揺れていた。そして、シュミットはがっくりと肩を落とし、溜息を吐いた。

そんなシュミットに、ミーナが話しかけた。

 

「あなた、ウィッチだったの!?いや、それより……いつの間に“使い魔”と契約をしていたの?」

「使い魔?」

 

ミーナの言葉にシュミットは疑問を浮かべた。

 

「私たちが魔力を使う時に、そのコントロールをサポートをして、外見は動物の姿をしているの。本来その使い魔は、動物と触れ合ったりすることで契約をするの」

 

そう言ってミーナはシュミットの目を真剣に見る。

 

「シュミット少尉。貴方は動物と触れ合ったりしたことは?」

「動物と……」

 

シュミットは頭の中をフル回転させ記憶を探った。そして、あることを思い出した。

 

「……あっ」

 

その一言に、ミーナは納得したようにシュミットに聞いた。

 

「……心当たりがあるようね」

「……1年ほど前、ソビエト領に撃墜され墜落した時、一匹の白い狼に出会いました。狼がゆっくり私に近づいて、飛びかかって襲ってきたんです」

 

シュミットは、動物関連の事件の中でもっとも印象的だった出来事を説明していく。それは、敵戦闘機に撃墜された際に、ある狼に襲われた話だった。

 

「私はその時とっさに目を閉じて身構えてしまった。だけど、衝撃は全くなくて、恐る恐る目を開けたら、狼は目の前から消えてたんです……」

「…少し特殊な事例ではありますけど、間違いなくそれね。恐らくそのときに使い魔と契約したのね」

 

シュミットの説明に、ミーナは答えた。そして、頭を押さえた。

 

「なんてこと……、今まで男性のウィッチ、いや、ウィザードと言うべきかしら。そんな話は聞いたことなんてないわ……」

「はっはっはっはっはっ!いやー、面白いじゃないか。私もこんなことは初めてだ」

 

ミーナは困ったように言い、坂本は高笑いをしていた。

シュミットはもう一つ、気になることをミーナに質問した。

 

「そんなことよりミーナ隊長。後ろにいる少女達が困ったような表情をしているのですが……」

 

そう言ってシュミットが見ると、彼女たちは全員信じられないようなものを見る目でシュミットを見ていた。

 

「ああ、そういえばまだ紹介をしていなかったわね。今からブリーフィングルームに行って紹介をするわ。ついて来て」

 

そう言って、ミーナは先導して格納庫を出ようとする。その後ろを、先ほどの少女達が付いていく。シュミットもそれに続くように付いていった。

やがて、前方に黒板と教壇がある、教室のような部屋へやってきた。ミーナが教壇に立ち、他の少女たちはそれぞれ席に着く。そしてシュミットは、ミーナに手招きされ前に立つ。

 

「皆さん。今日は新しく501統合戦闘航空団の戦闘機パイロットとして配属……するはずだったメンバーを紹介するわ。シュミット少尉、どうぞ」

 

そう言って、ミーナはシュミットに自己紹介をするように言う。他の皆は、視線をミーナからシュミットに移した。

 

「初めまして。本日より第501統合戦闘航空団に配属になった、元ドイツ空軍第1航空艦隊所属シュミット・リーフェンシュタールです」

 

そう言って、敬礼をしながら挨拶をする。すると前に座っていた女性がミーナに質問した。

 

「ミーナ、その男は一体誰なんだ。魔法力を持った男も、ドイツ空軍も聞いたことないぞ」

「それについては、本人から直接聞くようにお願いします」

 

そう言って、ミーナは表情を引き締めた。

 

「では解散」

 

そう宣言したと同時に、隊員全員が一斉に立ち上がる。それを確認して、ミーナは歩き始めた。

その直後、シュミットは後ろから何者かに飛びつかれた。

 

「うわっ!?」

 

突然の出来事に対応できず、シュミットは前のめりに倒れる。

 

「おお、大丈夫か?」

 

そう声を掛けられ、シュミットは顔を上げる。そこにはオレンジのロングヘア―をしたグラマーな少女が立っていた。

 

「おーいルッキーニ、降りてやれ」

 

そう言って、ルッキーニと呼ばれた12、3歳ぐらいの少女がシュミットの背中から離れる。ようやく解放されたシュミットは起き上がる。

 

「ん~……やっぱ無い……」

「は?」

 

ルッキーニという少女の発言に、シュミットは訳が分からないといった表情で見る。

 

「そりゃそうだろルッキーニ……」

 

目の前の女性は苦笑いをしながら答えた。そして、シュミットは理解した。この少女は自分の胸を掴んで調べたのだ。その事実にシュミットは呆れかえってしまった。

 

「と、紹介がまだだったな。私はシャーロット・イェーガー中尉だ。宜しく。気軽にシャーリーと呼んでくれ」

 

そう言って、シュミットに手を差し出す。シュミットはその手を取り、立ち上がった。

 

「宜しく……んで……」

 

挨拶した後、シュミットは胸を掴んだ少女に向き直った。

 

「あたしはフランチェスカ・ルッキーニ。ロマーニャ空軍少尉!」

「そうか……」

 

元気に挨拶するルッキーニに、シュミットが小さく返事をし、そして近づく。ルッキーニは、詰め寄ってきたシュミットの雰囲気を察して、少し後ずさった。

 

「初対面の人の胸をいきなり揉むのはやめろ。同性でも嫌がられるぞ」

「は、はい……」

 

シュミットの注意に、ルッキーニは少し涙目になる。それを見たシュミットは慌てた。

 

「あ、いや……俺は別に泣かせようとしたつもりは……」

「あっははは。ルッキーニ、シュミットは怒ってないって」

 

 

そう言って、涙目のルッキーニに対してどうしようかオドオドするシュミットをフォローするシャーリー。すると今度は後ろから声を掛けられた。

 

「私はエーリカ・ハルトマン。中尉だよ~。トゥルーデ、自己紹介は~?」

「……ゲルトルート・バルクホルンだ」

 

そう言って、先ほどミーナに質問した少女と、金髪ショートの少女が自己紹介をする。しかしシュミットは、二人の名前を聞いてあることが頭の中をよぎった。

 

(ハルトマンにバルクホルン……それって……)

 

シュミットが顎に手を当て考えだしたのを見て、エーリカが疑問に思い聞いた。

 

「どうしたの?」

「……いや、一つ質問いいか?二人には戦闘機乗りの兄はいるか?」

 

その質問に、エーリカとバルクホルンは顔を見合わせる。そして、シュミット言った。

 

「私は双子の妹がいるけど兄はいないし、トゥルーデも兄はいないよ~」

「……そうか」

「だけど、なんでそんなこと聞いたの?」

 

エーリカの疑問に、シュミットは二人に言った。

 

「いや、私よりも先輩の戦闘機乗りに、同じ苗字のエースパイロットがいたんだ。名前はエーリッヒ・ハルトマンとゲルハルト・バルクホルン。ハルトマンが最多撃墜王で、バルクホルンがその次だった」

「へ~」

「そうなのか……って、そんなことより!」

 

エーリカが興味津々に聞いている横で、バルクホルンは思い出したかのようにシュミットに言った。

 

「お前は一体何者だ!ドイツ空軍なんて聞いたことがないし、どうして魔法が使えるのかも!」

 

その言葉に、周りのウィッチ全員もシュミットを囲むように集まった。シュミットは、覚悟を決め話した。

 

「私は元々……この世界の人間ではない」

 

その言葉に、ウィッチ達全員の表情が変わった。それは、余りにも唐突すぎて脳が理解していない表情だった。

 

「……何かの冗談か?」

「いや、冗談ではないぞ」

 

シャーリーの言葉に、坂本が答える。

 

「サーニャが言うには、こいつは昨晩突然現れたと言っていたし、私達も尋問をした。まず間違いないだろう」

 

坂本の説明に、全員が唖然とした表情でシュミットを見た。シュミットは、ここからどうしたらいいかと思い、内心焦っていた。

 

「んじゃあさ、シュミットのいた世界のことを教えろよ」

 

そう言ったのは、昨晩シュミットに会った少女の横に立っていた、白ロングヘアの女性だった。

 

「君は?」

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン。スオムス空軍少尉だ」

 

エイラからの質問に、シュミットは坂本を見る。

 

「……話してもいいかな?」

「問題ないと思うぞ?」

 

坂本の言葉に観念したシュミットは、自分の元居た世界のことを話した。特に、世界大戦のこと、人々が殺し合いをしたことには全員が驚きの表情をしていた。

やがて、すべて話し終えたシュミットは、周りを見た。そこには、それぞれ複雑そうな表情をしたウィッチたちが立っていた。シュミットは後悔していた。話さない方が幸せだったかもしれないと……。

しかし、最初に口を開いたのは、エイラの横に立っていた少女だった。

 

「でも、シュミットさんはいい人ですよね?」

『!』

「サ、サーニャ!?」

 

サーニャと呼ばれた少女の言葉に、全員が驚いたような顔をした。

 

「だってシュミットさんは、さっきルッキーニちゃんが泣きそうになったのを見てすごい慌ててたから……その……」

 

サーニャの言いたいことを全員が察した。シュミットが、ルッキーニと接していた時の行動を見て、少なくとも彼が悪い人には見えないことを内心感じていたからだ。

しかし、そう割り切れないのが人間である。彼が優しいと知っていても、それが彼が人の乗る戦闘機を落とした事実に変わりないのだから。

しかし、そんなことを気にしない人もいた。

 

「まぁ、隊員達には徐々に慣れてってもらうしかないさ」

 

坂本だけがそんなことを気にも留めずにシュミットと接していた。それが、シュミットにとっての唯一の救いとなっていた。

 

「それより、ペリーヌ」

「はい!」

 

坂本に呼ばれ、眼鏡をかけた少女は大きく返事をする。

 

「同じ少尉同士だ。501の基地を案内してやれ」

「はい!」

 

坂本からの指令にペリーヌは返事をし、シュミットの前に行く。

 

「はじめまして、自由ガリア空軍少尉ペリーヌ・クロステルマンです」

「よろしく、ペリーヌ少尉。それじゃあ、案内をよろしく頼む」

 

互いに挨拶をする。そして、ペリーヌが先頭に立ちシュミットが後ろをついて、ドアに向かって歩いていった。

 

「あっ」

 

しかしシュミットは、あることを思い出し振り返った。

 

「リトヴャク中尉」

「……はい」

「そのー……、ありがとう」

 

そう言って、シュミットは再びドアに向かって歩いて行った。




ペリーヌが中尉でなく少尉なのは、原作開始前という理由と後に作る話のためです。
もちろん昇進します。


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第三話「ストライカーユニット」

第三話です。ここ最近忙しくなかなか更新できませんでした。


その後、ペリーヌとシュミットは501基地のあちこちを移動していた。その途中で、ペリーヌが部隊での規則なども説明していた。時々シュミットが規則について質問をし、それにペリーヌが解りやすく答えた。

そして、基地の案内が終わる頃には、時刻は昼頃になっていた。

 

「……そろそろお昼ですから、食堂に向かいましょうか」

「解った、クロステルマン少尉」

「……ペリーヌと呼んでいください、シュミット少尉」

 

食堂に向かう前、ペリーヌがシュミットに言った言葉はシュミットを驚かせた。しかしペリーヌからしたら、案内をしている途中でも解る真面目さを理解し、信用に足る人物と理解したからであった。

 

「解った。できれば俺も階級無しで呼んでほしいな、ペリーヌ」

「解りました、シュミットさん」

 

こうして、シュミットとペリーヌの関係は少し改善された。

その後シュミットとペリーヌが食堂に付くと、すでに隊員が座っていた。

 

「ご苦労だったペリーヌ。よくやった」

「ありがとうございます、少佐!」

 

坂本がペリーヌに礼を言い、ペリーヌはしっかりとした返事を返す。しかし、それをルッキーニがニヤニヤしながら見ているのを見て、シュミットはペリーヌの坂本への心酔を心の中で理解したのだった。

そして食事が始まったと同時に、ミーナは思い出したかのようにシュミットに話しかけた。

 

「そういえばシュミット少尉」

「ん?どうしました?」

「午後から訓練を行うため食事が終わったら格納庫に来てほしいの」

「あー、はい。解りました」

 

訓練と言われて、いったいどんなものかと考えたが特に気にも留めずに返事をした。

そして食事を終え、シュミットは格納庫に向かった。そこには、先に食べ終わっていたミーナ、坂本、そしてペリーヌがいた。おそらくペリーヌは坂本についてきたのだろう。

そしてそこにあったのは、台に固定された不思議な機械だった。外見と色はどことなく、シュミットの乗っていたFw190に似ている。

 

「……これは?」

 

シュミットが思わず質問する。

 

「これは私達の空飛ぶ箒、『ストライカーユニット』です」

「……ストライカー……ユニット」

 

ミーナから言われた言葉に、シュミットは上の空で返す。そして、その機材をまじまじと見つめだした。

 

「このユニットの名前は『フラックウルフ Fw190』。この基地で使っているのは大尉のD-6型のみで、これはその一つ前のA-6型」

「Fw190のA型か」

「そう、貴方の前使っていた機体と合わせたの」

 

シュミットの乗っていた戦闘機はFw190A。ミーナ中佐はそれを配慮し用意してくれたのだ。

 

「さっそくこいつを履いてみるんだ」

 

 坂本は当たり前のように言うが、シュミットは履こうとして思い出した。シュミットは今長ズボンを履いている。そのため、足を入れようにも口が細くて入らないのだ。

シュミットは急いで軍服のズボンを捲り上げ始めた。

 

「何をしているんだ?」

「いや、口が小さくて長ズボンだと入らないので……」

「?…………あぁ、なるほど」

 

坂本の疑問にシュミットは答えるが、彼女は何のことか一瞬理解が遅れた。ウィッチは基本女性しかおらず、男性が乗ることを考えて設計はされていない。シュミットの足は細身だが、長ズボンを履いたままではユニットに足が入らない。

そして、ズボンを捲り上げたシュミットはストライカーに足を入れる。

 

「よし、まずは魔力を流してみろ」

「魔力を流すって……」

 

いきなり坂本に言われて、シュミットは困惑する。そもそも魔法力に目覚めたのは今朝。それをいきなり足の推進機に魔力を流せと言われて戸惑うのも当然である。

しかしシュミットは、頭の中でなにかを閃いたのか目を瞑りだした。すると、ユニットにプロペラが現れ、足元に大きな魔方陣が展開される。今、彼の頭の中では戦闘機を動かすプロセスが描かれている。

その光景に、ミーナは内心驚いていた。初めて見る物と初めての体験。それをシュミットは特にマニュアル無しでやってのけたのだ。そしてシュミットは次に何をしたらいいのかわからず、目を開いた。

 

「あの……これでいいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

 

そうして今度はその光景を見ていたペリーヌを入れて、編隊を組んで飛行することになった。

 

「それでは先導します」

 

そう言って、ペリーヌはユニットを履きながら離陸する。シュミットもそれを見様見真似で離陸を開始する。その時も、頭の中では戦闘機の離陸のイメージをする。そうして、空中で待機しているペリーヌのところまで上昇し横に並ぶ。

そうして、編隊飛行を開始する。初めの内は、ストライカーユニットを履いている感覚に慣れず、何回も編隊を外している場面が目立っていたが、飛行を開始してからしばらくして、彼はその特性を掴み、後半には自由自在に飛行していた。

それを地上から見ていたミーナと坂本は感心したように微笑んだ。

 

「シュミット少尉は要領がいいのね。この短時間であそこまでユニットを扱うなんて……」

「そうだな。まるで生まれ持った才能のようだ」

 

そうしてしばらく飛行してから、ペリーヌとシュミットは基地に降り立ち、ミーナと坂本の前にホバリングしながら停止した。

 

「すごいわね、初めて履いた人でここまで扱った人は見たことないわ」

「ホントですか?」

 

ミーナの言葉にシュミットは驚いた。まさか初訓練でここまで褒められると思っていなかったからだ。

 

「うむ、これならすぐに実践参加も出来そうだな」

 

坂本も言う。シュミットはその言葉に嬉しくなり少し笑った。

 

「あっ……」

 

それを見てペリーヌが驚いたように声を出す。

 

「どうした?」

「いえ……今初めて笑ったと思いまして」

 

その言葉に、ミーナと坂本もそういえばと思った。そう、シュミットは今までこの基地に来てから笑った姿を見せなかった。そのため、今初めて笑った姿を見てみんなが驚いたのだ。

 

「いや、嬉しくて……その、褒められたことが」

 

それを聞いてミーナや坂本、ペリーヌはシュミットの純粋な言葉に微笑んだ。

その後、ユニットの訓練を終えたシュミットは、ミーナから彼が使う武装について説明を受けていた。

 

「このMG42が部隊の中で多く使われている機関銃。他にも、扶桑の九九式やM1918などもあります」

 

その説明を聞いてシュミットは悩んだ。どれも口径が20mmも無い機関銃ばかりであり、初めてネウロイと戦った時の印象が強かったシュミットからはどうしても火力面で心配になっていた。

 

「他にもう少し高威力の武装はありますか?」

「他に?」

「はい」

 

それを聞いてミーナは少し考え、使い魔の耳を出し、そして武装の山の中から一つ大きな機関砲を取り出した。

 

「これなんかどうかしら?」

 

ミーナが出したのはMG151機関砲。シュミットの乗っていたFw190にも使われていた機関砲である。

 

「MG151……しかしそれはフォッケにも積んでいたやつです」

「でも、ウィッチの魔力を付加した弾丸ならこの機関砲も化けるわよ」

 

それを聞いてシュミットは少し考えた後片手を出し、ミーナから機関砲を受け取った。

 

「取り合えず試し撃ちをさせてください」

「解ったわ」

 

そう言って、ミーナとシュミットは滑走路に出た。そこには、シャーリーとルッキーニが滑走路に立っていた。そしてそのさらに向こう側――滑走路の先端には的が立てられていた。

 

「よう、シュミット」

「よう!」

「シャーリーにルッキーニ。見学?」

「お前の訓練を見に来た」

 

シャーリーが当たり前のように答えた。

 

「見学って言っても、特に面白い物はないと思うぞ」

「それでも問題ないさ」

 

シュミットは二人に言うが、特に気にしていないようだった。

そしてシュミットは、滑走路の格納庫側に立ち、魔力を発動した。そして、MG151を持ち的に照準を合わせた。

 

「よし、撃て!」

 

坂本が言い、シュミットは引き金を引いた。そして、物凄い衝撃と轟音が滑走路を走った。そして滑走路の先の的は粉々に砕けるどころか、その存在が無くなっていた。

それを見て誰もが言葉を失った。今だかつてこのような攻撃をしたウィッチはいなかったからだ。

 

「なっ……」

 

ミーナも坂本も、ペリーヌもシャーリーもルッキーニも一斉にシュミットを見た。そのシュミットはMG151のとてつもないエネルギーに吹き飛ばされ、ストライカーの固定台にたたきつけられていた。

 

「大丈夫ですの!?」

 

慌ててペリーヌがシュミットに駆け寄る。それに釣られるようにミーナ達もシュミットの元へ駆け寄る。

 

「おいおい、大丈夫か!?」

「シュミット少尉!?」

「いっつー……」

 

シュミットは頭をさすりながら起き上がった。

 

「なんだ今の……」

「おそらく少尉の固有魔法が原因かもしれないわね」

「固有魔法?」

「ええ、おそらくあなたの固有魔法はおそらく『強化』といったところかしら」

 

そう言ってミーナは説明をする。シュミットがMG151を持ったところから先ほどの射撃までの間のシュミットやその周辺の変化の説明をした。つまり、彼がMG151を片手で受け取ったのも、その後の射撃で急激に威力が上がったのもその『強化』がきっかけだということだった。

それを聞いたシュミットは言葉を失い両手を見た。

 

「と、とりあえず武装はこれでいいのか?」

 

シャーリーの言葉にミーナ達は考えた。シュミットが見せた力は、ネウロイに対する強大な戦力となりうる。しかし、武装が元々強力な上に強化を上乗せしたことで、シュミット自身への負荷がかかるのではないかと危惧したのだ。

しかし、シュミットは迷うことなく答えた。

 

「問題ない。元々この武装で行く予定だったし、威力が上がるならこちらとしてはちょうどよいさ」

 

そう言って、シュミットは滑走路に散らばったMG151を片手で持ち上げ、それを持ってミーナ達のところへ戻った。

 

「それより、これを抱えたままの訓練をしたいのですが、いいですか?」

 

シュミットは何事もなかったかのようにミーナに進言した。

そしてその後に行われた訓練でも、シュミットは特に問題なく飛行し、無事にストライカーの使い方をモノにしたのだった。

 

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その日の夜、シュミットは自分に用意された自室のベッドで一人考え事をしていた。それは昼間の出来事が頭から離れず、ずっと頭の中をさまよっていたからだ。

 

(あの力がウィッチの力……これでみんなの力に俺はなれる……?)

 

彼はずっと頭の中で渦巻いていた感情を殺し、ベッドの枕に顔を埋めたのだった。




彼の固有魔法は『強化』にし、武装も豪快にMG151にしました。


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第四話「これからと初撃破」

投稿遅れました。今回の話から少し書き方を変更します。


「――というわけでシュミットさんは正式に501の一員として戦ってもらいます」

 

初訓練の数日後、ミーナはシュミットを部隊長室に呼び、今後のことと正式な待遇を説明した。

その内容は、

 

・正式な501戦闘員として、ミーナの指揮下に付く。

 

・出身国はカールスランド出身で通す。

 

・階級は前の世界と同じ少尉。

 

これがシュミットに与えられた内容であった。

 

「ということは、私は今日からドイツ人からカールスラント人ということですか?」

「そうよ」

 

ミーナにキッパリ言われてシュミットは「なるほど…」と呟いた。

ちなみにミーナは内心でホッと溜息を吐いていた。理由は上層部にシュミットのこと上層部に納得させ、そして501に編入するにはどうしたらいいかと報告終了までずっと悩みに悩んでいたからだ。

 

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<side.シュミット>

 

ヴウウウウウウウウウウウウウウ!!

 

中佐に今後のことを言われてから数日後、格納庫に来ていた私の耳に突如警報が鳴り響いた。間違いなくネウロイが出現したと知らせる警報だ。

すぐさま格納庫内にあるユニットに走る。そして固定されているユニットに足を入れる。

ちなみに今の服装は足を入れやすいように半ズボンを履いている。

そして使い魔の尻尾を出し、魔力を流してユニットを始動させる。そして回転が始まると同時に真横にセットされたMG151を手に取り、そして滑走路を離陸した。

そして上空まで離陸し、基地の塔を見る。そこには基地の兵士がブラックボードを掲げている。そこには敵の方位と高度が描かれていた。

そして方位を確認して、全速力でその方角へ飛行を開始する。

 

『シュミットさん、聞こえる?』

 

すると突然、ミーナ中佐の声が耳の通信機に届く。

 

「中佐?」

『敵は大型ネウロイが1機。今隊員達はユニットに向かっていますので、先に上がっているシュミットさんはネウロイの位置に単騎先行してください』

 

どうやら他の皆は準備中で、今飛んでいるのは私だけということか。

 

「了解、直ちにネウロイ撃墜に向かいます」

 

そう言って足のユニットにさらに魔力を流す。そして同時にユニットにも強化を掛ける。

そしてしばらくして、大型の飛行物体を肉眼で確認した。間違いなくネウロイだ。

 

「こちらシュミット、目標を確認。これより攻撃を開始する」

 

そう無線で言ってから自身の腕を強化し、背負っていたMG151を手に持つ。

するとネウロイはこちらの存在に気が付き、無数の赤いビームを発射し始める。それをバレルロールで回避しながら、ネウロイに向かっていく。近づくにつれてビームの濃度も濃くなるが、それもシールドでいくつか防ぎながら接近する。

 

「喰らえネウロイ!」

 

そう言って、手に持つMG151の引き金を引く。固有魔法で強化されたMG151は、凄まじい連射速度で魔力の付加した弾丸を吐き出した。

吐き出された弾丸は、ネウロイの胴体に突き刺さった。その光景はもはや「削る」より「抉る」である。

そして抉られたネウロイの体は砕け、大きくコアを露出させた。

 

「っ!そこ!」

 

すぐさまコアに弾丸を叩き込む。するとネウロイのコアは破壊され、その胴体は初めてネウロイと会った時と同じように空中で光の破片となって砕け散った。

 

「ふー……」

 

その光景にひとまず安心し、思わず息を吐く。

 

「シュミットさん!」

 

すると真後ろから声がする。振り向いてみてみると中佐達隊員達が編隊を組んでこちらに向かっていた。

 

「こちらシュミット、ネウロイ撃墜に成功しました」

「こちらも肉眼で状況を確認しました。シュミットさん、お疲れ様」

 

中佐が優しく言い、頷き返した。

 

「これより基地に帰投します」

 

中佐の宣言が、私の高揚した心に響いた。

 

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基地に帰投した後中佐に報告した私は、格納庫に来ていた。そこでは今回使われたストライカーを整備する兵士たちがいた。

 

「お疲れ様です」

 

そう挨拶すると、隊員たちはこちらを向き敬礼をする。しかしすぐさま再びストライカーの整備作業に没頭し始めた。

なんかこう……不愛想というよりかはなにか義務のようなものだろうか、彼らの行動にはそのような雰囲気が見て取れた。

「すみません。ミーナ隊長からの命令で、ウィッチ隊との会話は必要最低限以外禁じられていますので」

「……ああ、なるほど」

 

表情に出ていたのか、一人の隊員から説明される。どうやら中佐からの命令のようだ。

 

「そういうことなら仕方ないか……それと、私のユニットは?」

「それでしたらこちらです」

 

そう言って案内された先には、分解されたFw190の姿があった。なんというか、内部は実際の戦闘機でも見た空冷エンジンの形をしていた。

 

「これが魔道空冷エンジン……、こう見ると実際の戦闘機とほとんど形は変わらないのか」

 

思わずそんな光景に感心している時、後ろから足音が聞こえる。

 

「シュミット少尉」

 

声のした方を振り向くと、そこにはミーナ中佐が立っていた。周りの整備兵は敬礼をしている。

 

「はい、何でしょうか?」

「少し来てもらえますか?」

 

そう言われ、中佐についていく。向かった先は初めて自己紹介をした会議室だった。そこには他の隊員達も集まっていた。

 

「どうしたんだミーナ、全員を呼んで」

 

バルクホルン大尉が中佐に問う。それは他の隊員も同じ考えであった。

 

「実は定期補給が遅れるという情報が今日届いたのよ」

 

その言葉に全員が驚きの声を漏らす。

最前線における補給の重要さは生存にも関わる。その定期補給がやってこないとなると、物資不足に陥ってしまい部隊が機能しなくなることだってある。

 

「というわけで、臨時補給を実施することにします」

 

中佐の言葉に全員が今回集められた理由を理解した。どうやら臨時補給に行く人を選ぶようだ。

 

「大型トラックが運転できるシャーリーさんは決定として、後二名同行する人を選びます」

 

そう言って話し合いが始まる。そして、

 

「ではペリーヌさんとシュミットさん。二人は明日シャーリーさんと一緒に同行してください。」

「それと、任務中はシャーリーの指示に従うように」

「了解」

 

話し合いの結果、私とペリーヌが同行することになった。

 

「それと、何か欲しいものがあったら言ってください」

「欲しいもの、ふむ……」

 

ミーナ中佐の言葉に思わず考える。そういえばこっちに来て欲しいものなど考えたことなかった――って、

 

「……考えたら今お金とか無かったな」

「それなら問題ありません」

 

思わず呟いた言葉に、中佐が間髪入れずに言った。そして封筒を私に渡してきた。

 

「あの、これは?」

「あなたが数日間部隊に居た分のお給料です。一応前渡金ということになります」

 

なるほど、つまりは物凄く速い給料というわけか……。とりあえず自分の欲しいものはおいおい考えるとして、まずは他の隊員たちの欲しいものを聞くことにした。

 

 

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<side.out>

 

翌朝、大型トラックに二台のストライカーユニットを乗せシュミット達は出発した。

しかし道中まではよかったが突如、シャーリーが大型トラックを暴走させだし、助手席にいたペリーヌと荷台で寝ていたシュミットは乗っている暴れ馬によって揺さぶられてしまっていた。

そして街に着いた頃、シャーリーとペリーヌが荷台を見ると、そこには完全に伸びていたシュミットが完成していた。

 

「シュミットさん!?」

「おい、大丈夫か!?」

 

慌てて二人はシュミットを起こす。そして目を覚ましたシュミットの第一声が、

 

「シャーリー、帰りは絶対に俺が運転するからな……」

 

と、一人称が変わるほど怒っていた。

その後、トラックを止めに行ったシャーリーをシュミット達は待っていた。

 

「へー、ここがブリタニアの町かぁ……」

 

シュミットは初めて見たブリタニアの町をみて思わず声を漏らす。そこは鉄道駅のある中規模の町であり、少し離れたところをSLが走っていた。

前の世界でもイギリスに行ったことのなかったシュミットからしてみては、ブリタニアの町を見るのはなかなか複雑な気持ちだった。

 

「……珍しいですの?」

「ああ、前の世界ではイギリスは敵対国家。それどころか我が国はイギリスに爆撃をしていたから……」

 

そう言いながらシュミットは前の世界のことを思い出す。

あまりいい思い出はなかったが、それでも仲間と言える存在は沢山いた。しかしこの世界に来てからは、どうしても同じ部隊員でも距離感のようなものを感じており、彼は少しセンチメンタルな気持ちになっていた。

 

「そういえばシュミットさん。前の世界での戦争をもう少し詳しく教えてくれませんか?」

「……何故だい?」

「少し興味がありますの」

 

しかしシュミットは困ったような表情をした。

 

「……すまない、この話は少し無しにしてくれないか」

「どうしてですの?」

「どうしてもだ」

 

答えになってない答えを言うシュミットの考えていることを察し、ペリーヌもこの質問をやめた。

そしてしばらくしてシャーリーも合流し、三人は市場で買い物を始める。

そしてある程度物資を買い、時刻が昼を過ぎた頃、まだ昼食もとっていない三人は何か食べたいと思い一旦荷物をトラックに運ぶことにした。

 

「そういえばシャーリー、トラックは何処に止めたんだ?」

「ああ、駅の近くだよ」

 

そう言って三人は駅に止めてあるトラックに向かう。トラックは駅の横にある広場の端に止めてあり、そこからは駅に出入りする蒸気機関車が見えていた。

シュミット達が荷物を積み込んだ後、これからどこに行くかを決めようとした矢先だった。

シュミット達の後方――駅の方から笛の音が聞こえてきた。その笛は何回も繰り返し鳴らされており、シュミット達も何事かと振り返った。

 

「なんだ?」

 

シャーリーが呟いたその時、突然、ピーッ!!っと汽笛を鳴らしながら流線形の蒸気機関車が駅の構内を走り抜けていく。

そして驚いたことに、その蒸気機関車の車輪からは火花が上がっていた。




リアルで忙しい日々が続き更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。次回の話はできるだけすぐに更新しようと思います。




※流線形の蒸気機関車:世界最速で有名なあれです。

※少し文章を訂正しました。


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第五話「暴走列車と決断」

今回も5000文字越えなかった……

第五話です、どうぞ。


目の前を猛スピードで走り抜けた蒸気機関車を見たシュミットは、急いで駅の構内に走った。駅の中では、駅員が走り抜けた機関車の方角をただ茫然と見ていた。

シュミットは駅員に駆け寄り問い詰めた。

 

「おい、あの列車は一体なんだ?何があったんだ!?」

 

シュミットはできるだけ心を平常心にして駅員に聞いた。

 

「そ、それが分からないんです。あの列車は本来ここに停まるはずなのですが……」

 

駅員もどうやら状況を理解できておらず、通過した列車の説明をしただけだった。

 

「駅員さん。この次の駅は?」

「つ、次は終着駅の――」

「終着駅だって!?」

 

駅員の言葉にシュミットは思わず叫んだ。なぜなら、終着駅の構造は行き止まり型の駅であるからだ。

 

「あの機関車はおそらくブレーキが故障したんだ!このままでは次の駅に突っ込むぞ!」

「何ですって?!」

 

シュミットの言葉に駅員も叫ぶ。もしそれが事実なら、あの機関車は駅に突っ込みその周辺を大きく破壊する事故が発生するということだ。

 

「次の駅にこのことを知らせるんだ!早く!」

「わ、解りました!」

 

駅員は大急ぎで走っていく。そしてシュミットも走って駅の外に出る。

そしてシュミットはシャーリー達のいるトラックへ戻ると、そのまま荷台のシートを外し始めた。

 

「ど、どうしたんだ!?」

「何かありましたの!?」

 

二人はシュミットに質問するが、シュミットは聞こえていないのかそのままシートを外し、荷台に乗せたストライカーユニットに足を入れた。

 

「シュミット!」

「シュミットさん!」

 

二人が名前を呼びようやくシュミットは声が聞こえたらしく振り向く。

 

「……どうした?」

「どうしたじゃないぞ!一体どうしたんだ!?」

 

シュミットの言葉にシャーリーが聞き返した。

 

「さっきの機関車は暴走している」

「――なんだって!?」

「そんな!?」

 

シュミットの簡潔な内容に二人は驚愕の表情をした。その間にもシュミットはユニットの魔道エンジンを始動させ、足元に魔方陣を展開していた。

 

「俺は列車を止めに行きます!」

 

そう言ってシュミットは発進し、大空へ飛び出した。そして、列車が走り抜けた方向へエンジンを回しそのまま一直線に進んだ。

シュミットは列車に向かう途中、線路の様子を確認しながら進んでいた。

 

(線路は下り坂、もしブレーキが壊れているならここでさらにスピードが上がっているかもしれない……)

 

線路の状況を確認したシュミットは、さらにエンジンの回転数を上げた。

そしてしばらくして、シュミットの前方に機関車の煙を確認したシュミットは高度を下げ列車に接近した。

客車の横を通り抜ける時、シュミットは客車の中の様子を確認する。中の乗客はシュミットの姿を確認し、驚愕と歓喜の表情をした。

 

(乗客が沢山いる……くそっ!)

 

シュミットは心の中で悪態をつきながら、前方の機関車へ接近する。

 

「おーい!!」

 

シュミットは機関車に向かって声を張り上げる。するとその声を聞いた機関士が運転室から顔を出しシュミットの姿を確認する。

 

「ウィッチ……じゃない、ウィザード!?」

 

機関士はシュミットの姿を見て驚きの声を上げるが、シュミットはそれを気にも留めず機関車の運転室に近づいた。

 

「こちらは501統合戦闘航空団のシュミット・リーフェンシュタールです!一体何があったのです!?」

 

シュミットが機関士に聞く。すると機関士は下がり、シュミットを運転室内に来るように誘導した。シュミットはそれを確認して運転室内に入る。

 

「ありがとうございます。一体何があったのです?」

「じ、実は機関車のブレーキが故障してしまったのです」

 

シュミットは機関士の話した内容を聞いて「やっぱりか…」と呟いた。彼はある程度そのことを推測していたが、いざ言われるとやはり心に響くものがある。

 

「このままでは駅に突っ込んで……」

 

横にいた機関助手が絶望の表情をしながら声を出す。それを見てシュミットは何かできることはないかと思考を巡らせる。

 

「シュミットさん!」

 

シュミットがそんなことを考えている時、機関車の外から声が聞こえる。振り向いてみるとそこにはユニットを履いたペリーヌが並走していた。

 

「ペリーヌ、緊急事態だ!」

 

そう言ってシュミットはペリーヌに説明をする。

 

「なんとかしなくては……」

 

ペリーヌも機関車を止める方法を考え始める。

するとシュミットの視界にあるものが映った。それは機関車の中に置かれていた長い鎖だった。

 

「これだ!」

 

シュミットは思いついたように声を出した。隣で考えていたペリーヌはシュミットを見る。

 

「それをどうするのですか?」

 

ペリーヌはシュミットが何かいい方法を思いついたと考え質問した。

しかしシュミットの口から出た方法はとんでもないものだった。

 

「こいつを最後尾の客車の連結器に付けて、俺とペリーヌで後ろに引っ張るんだ」

「何ですって!?」

「なんと!?」

 

ペリーヌだけでなく機関士達も驚きの声を上げる。

 

「俺の固有魔法を使って鎖とユニットを強化すればいけるかもしれない」

「しかし危険すぎます!下手をしたらシュミットさんの魔力が無くなってしまいます!」

 

シュミットの作戦内容にペリーヌが反対する。ペリーヌはシュミットのことを思って反対したのだ。

しかしシュミットはそんなこと関係ないと言わんばかりに言った。

 

「今何もしないでじっとしてるよりはマシだ!」

 

その言葉を聞いてペリーヌは一瞬たじろいだ。シュミットの目は本気だった。それは意地でもやってやると言わんばかりの。

その目を見て、ペリーヌも決心する。

 

「……わかりました、やりますわ!」

「そう来なくちゃ!」

 

ペリーヌの返事に満足したようにシュミットはニヤリとした。それを見ていた機関士達も顔を合わせ頷き合った。

 

「私達も最善のことはします!」

「ご武運を!」

 

そう言って機関士達はスコップを取り、石炭を機関車の外へ出し始めた。彼らは少しでも機関車を軽くしようと考えたのだ。

それを見てシュミット達も顔を合わせた。

 

「いくぞ!」

「はい!」

 

そう言ってシュミットは運転室の外に出て、そのまま列車の最後尾に向かった。ペリーヌもそれに追随した。

シュミットは最後尾に付くと、まず連結器に鎖を通した。そして、客車の両端にある緩衝器にも鎖を絡めてしっかり固定した。

そしてゆっくりと鎖を後ろに引っ張りはじめる。

 

「ペリーヌ、俺に抱き着け!」

「えっ、わ、わかりました!」

 

シュミットの言葉にペリーヌは一瞬戸惑いの声を出したが、急いでシュミットの腰に手を回し抱き着いた。

そしてシュミットは鎖を持つ手に魔力を流し始める。そしてそれを脇の下に挟む形――綱引きのように引っ張り始める。同時に、鎖と自身の足のユニット、そしてくっついているペリーヌの足のユニットに固有魔法をかける。

 

「いくぞ!!」

 

その掛け声とともに、シュミットとペリーヌはペリーヌは鎖を引っ張り始めた。ユニットのエンジンが轟音を上げ、プロペラは物凄い速さで回転を始めた。

 

「ふぐっ、ぐぐぐぐぐぐ……!」

「うっ、うぐぐぐぐぐぐっ……!」

 

二人は懸命に鎖を引っ張る。それを見ていた乗客達は、その二人に声援を送った。

 

「頑張れ!!」

「頑張るんだ!!」

「頑張って!!」

 

しかし機関車の速度はまだ目に見えて減速しておらず、物凄いスピードで走っている。

機関士達も一生懸命に石炭を外に捨てる。

 

「まだ速度が落ちない……」

 

シュミットは鎖を引っ張りながら考えた。

 

(くそっ……まだパワーが……足りないのか……)

 

やがて、前方に町が見えてきた。機関士達はそれを見て叫ぶ。

 

「いかん!もうすぐで駅に着くぞ……!」

 

後方で客車を見ていたシュミット達も、前方に見える町を見る。

 

「町が……」

 

ペリーヌがかろうじて声を出す。彼女も魔力全力で鎖を引っ張っており、声は小さかった。

シュミットは町を見て、そして脳裏にある光景がよぎった。それは駅に突っ込んだ機関車が駅を突き破り、周囲を破壊しながら進む姿だった。

 

(そんなこと…は……ぜったい……させ…ない……!)

 

シュミットは心で念じるように言い聞かせた。そしてさらに固有魔法をユニットにかけ始めた。先ほどよりもさらに轟音を上げるユニット。プロペラの回転数もさらに加速する。と、同時にユニットからは黒煙が出始める。

そしてついに、一人の乗客が気が付き言い出した。

 

「列車のスピードが落ちているぞ……!」

 

それを聞いて乗客達も気が付く。

 

「本当だ!」

「スピードが落ちているわっ!」

 

しかし、ついに列車は町の中に入ってしまった。そして、列車の先には駅が見えてきてしまった。それを見てみんなが焦る。

 

「拙い!もうすぐ駅だ!!」

 

機関士や乗客達が叫ぶ。そして、駅が近づいていることにパニックになり始める。

そんな中シュミットは、前方に見える駅を見てさらに力を入れ始めた。

 

(まだ……だ……!)

 

そしてさらにユニットに魔力を流した。二機のユニットは魔道エンジンから火花が出始める。もうそれは執念と言っていいレベルのものだった。そして、

 

「まだだああああああああ!!!」

 

シュミットは思い切り叫んだ。

 

 

 

そして、列車は停止した。

 

 

 

機関車の先頭の緩衝器が、駅の車止めの緩衝器と接触し、ゆっくりと押した。そして、先ほどまで物凄い速さで走っていた鉄の塊は、その巨体をようやく停止させたのだった。

機関士や乗客、駅員たちはその光景をじっと見て止まっていた。そして、一人の乗客が声を絞り出した。

 

「と、とまった…………」

 

その声を発端とし、

 

『やったああああああああああああああああああああ!!』

 

乗客や機関士、駅員全員が大声で叫んだ。

 

「止まった!止まったぞ!!」

「助かったんだわ!!」

 

乗客達は互いに抱き合ったり、深い握手をしたりして喜び合った。中には涙を流しながら喜んでいる乗客もいた。

 

「は……ははっ、止まった!止まったぞ!!」

 

運転室内では機関士達が糸が切れたように地面にへたりこんだ。そして、互いの顔を見ながら大声で喜び合った。

みんながみんな、列車の停止を喜んだ。そんな中、一人の乗客の言葉に反応してみんな喜ぶのを突如やめた。

 

「っ!ウィッチ達は!?」

 

その一言を聞いた乗客達は一斉に客車からホームへ出て、列車の最後尾に向かってホームを走り始めた。彼らは全力で走り、列車を止めてくれたウィッチ達に会おうとした。

そして、最後尾の客車のさらに向こう側に二人はいた。

そこには、二人の男女が倒れていた。少女は両腕を広げ仰向けに倒れており、少年の方は線路にうつ伏せで倒れていた。その近くには火がついて黒煙を上げている二機のストライカーユニットが転がっていた。

乗客達は大急ぎで駆け寄った。そして、その男女を抱きかかえた。

 

「こっちは息があるわ!」

 

少女のほうに駆け寄った乗客が声を出す。しかし、青年の方に向かった乗客からは慌てたような声が聞こえてきた。

 

「大変だ、呼吸が浅いぞ!」

 

その言葉に全員が大慌てになる。そんな中、一人の乗客が言う。

 

「急いで二人を病院に連れて行くんだ!!」

 

そうして乗客達は一斉に動き出した。

 

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<side.ミーナ>

 

「……つまり二人は今、機関車を止めに!?」

「そうなんだ中佐!」

 

私は執務室で先ほど一人で帰ってきたシャーリーさんの言葉を聞いて混乱していた。横では美緒も驚いたように目と口を開いていた。

シャーリーさんの言ったことによればシュミットさんとペリーヌさんは今、たった二人で暴走している列車を止めていることになる。

そんなことを考えているとき、美緒が走ってドアへ向かった。

 

「っ!美緒!」

「二人のところに急いで行くぞ!」

「でも、今から行っても――」

 

「間に合わない」、という言葉は続かなかった。なぜなら、執務室に備えられた電話が鳴り始めたからだ。

私は慌てて受話器を手に取った。そして、伝えられた内容にさらに驚いた。

 

――二人は列車を止めた。

 

この内容は近くにいた美緒、そしてシャーリーさんにも伝わった。そして今、二人は近くの病院に搬送されたと言われた。そして、今後のことについても説明を受けた。

 

「……わかりました」

 

私は一言返事をし、電話を切った。そして、目の前に立っている二人に向き直った。

 

「列車は無事停止したわ。それと、二人共無事で、今病院に入院しているそうです」

 

私は混乱し、うまく言葉が出なかった。しかし心の中で私は、今ここにいない二人に対して称讃していた。

 

(二人共……よく頑張ったわ……!)




書いてて思ったことを一言

「物語だからできる話だなこりゃww」

とまぁ、機関車を止める話は実は前々からずっと考えていました。
次の投稿はまだ未定ですが、できるだけ早く投稿したいと思います。
それでは。


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第六話「事件解決と仲間」

今回は比較的早く更新ができました。どうぞ


<side.シュミット>

 

目を覚ますと、知らない天井が見えた。501の救護室や部屋の天井でなく、本当に知らない天井だ。どうやら私はどこかのベッドで寝かされているようだ。

 

「シュミットさん!」

 

と、突然横から声が聞こえてきた。顔を向けるとそこには私と同じようにベッドにいるペリーヌがいた。彼女は体を起こしこちらを見ていた。

 

「ペリーヌ、ここは何処だ?」

「ここは病院です」

「病院?」

 

それからペリーヌが状況を説明してくれた。あの後、機関車は停止し、私とペリーヌは近くの病院に搬送された。ペリーヌはその日の夜――昨日に目覚めたらしく、私は丸一日ずっと眠っていたらしい。

あたりを見渡すと、他にも数台の空いたベッドが置かれており、ここが病院なんだと感じた。

ふと、今の時間は何時ぐらいかを確認するために、窓側に顔を向け――言葉を失った。

そこにあったのは、長いテーブルの上に供えられた沢山の花束だった。

 

「これは……?」

「それは昨日の列車に乗っていた機関士と乗客達からのお見舞いの花ですわ。一応、私の分も含まれています」

 

そう言って、ペリーヌは説明した。どうやらこれはあの時の機関士と乗客達からの贈り物だったのだ。

 

「そうか、みんな無事だったのか」

「無事じゃないですわ!」

 

突如、ペリーヌが声を張り上げた。私は思わず聞き返した。

 

「な、なんでさ?」

「シュミットさんは下手をしたら死ぬかもしれなかったのですよ!」

 

私は意味がわからずもう一回ペリーヌに聞き返した。

 

「死ぬ?どういうことだ?」

「どうもこうも、シュミットさんは魔法力をすべて使い切ってしまったからじゃないですか」

「それを言ったらペリーヌもじゃないか」

「シュミットさんはそんな状態でさらに固有魔法を発動させていたのです。それは自分の命を削るようなものです!」

 

ペリーヌからの説明を受けようやく理解した。どうやらあの時私は自分の魔法力がもう無いも同然の状態で固有魔法を何故か(・・・)使ってしまったようだ。

 

「そっか、そんなことがあったのか……」

「そうですわ!」

「でも、やっぱりみんなが無事でよかったよ」

「で、ですが……もう……」

 

ペリーヌはさらに何か言おうとしたが、とうとう諦め話すのをやめた。

わたしはそれを確認しそっと微笑んだ。

 

「大丈夫、私は五体満足だから」

 

そう言ってから私は部屋の窓を見た。窓の外では雲一つない快晴の青空が広がっていた。

 

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<side.out>

 

それからしばらくして、シュミット達の病室に来客がやって来た。

 

「二人共無事かしら?」

 

なんとミーナが花束を持って病室に入ってきたのだ。その後ろには坂本もいる。

 

「ミーナ中佐!」

「さ、坂本少佐!」

 

シュミットとペリーヌは慌てて名前を呼ぶ。彼らはまさか今この病室に二人がやって来ると思っていなかったからだ。

 

「ど、どうして?」

「二人共目が覚めたと報告が来たので、お見舞いに来たのよ」

 

そう言って、ミーナな手に持っていた花束を乗客達が持ってきた花束の横に持っていく。

 

「あら、ずいぶんたくさん花束が届いているわね」

「それは列車の機関士や乗客達が持ってきてくれたものです」

「そうなの」

 

そう会話しながらミーナも花を置く。そして、シュミットとペリーヌに向き直った。

 

「そういえば、私のユニットが見当たりませんが何処か知りますか?」

「二人のユニットなら基地に運び込まれました。二機とも魔道エンジンが焼き付く大破状態です」

「そうですか……」

 

そう言って悲しそうな表情をするシュミット。ペリーヌも横で聞きながら同じ表情をする。

彼らにとって、ストライカーユニットは空を飛ぶ箒であると同時に、なにかと愛着のあるものだ。それが二機とも大破状態まで壊れたといわれると悲しいのも当然である。

しかし、ミーナの次の言葉に二人はその表情を変えたのだった。

 

「その件に関しては問題ありません」

「「へっ?」」

 

突然問題ないと言われても理解できないシュミットとペリーヌ。そしてミーナは話を続けた。

 

「今、二人のユニットが無いと聞いてカールスラントとガリアから新しいユニットが支給されると連絡が来ました。それも、両機とも新型のユニットだそうです」

 

一瞬、話の内容が理解できなかった。しかし、だんだん理解してきた彼らは思わず聞き返した。

 

「本当ですか!?」

「でも、なぜそんなに早く?」

 

ペリーヌは驚くが、シュミットはなぜそこまで早くユニットの支給、しかも新型がやってくるのか分からずミーナに聞いた。

それを答えたのは坂本だった。

 

「二人の功績が世界中に広がったからだ」

「世界中に?」

「そうだ」

 

そう言って、一枚の新聞をシュミット達に見せた。その新聞の見出しにはこう書かれていた。

 

『二人の勇敢なウィッチによる暴走列車停止!』

 

それを見てシュミット達は口をぽかんとあけ、目を見開いた。

 

「この新聞が二人のことを大々的に取り上げたことで、全世界がこの事件を知ったんだ。そして各国から感謝の言葉が届いたんだ」

「各国から?」

 

なぜ各国からなのかと疑問に思うシュミット。ブリタニアだけならまだしも他の国が感謝ようなことは身に覚えがないからだ。

 

「あの時止めた列車にはブリタニアの他に、カールスランド、オラーシャ、ガリアの旅行客も乗っていたからだ」

 

坂本の説明にシュミットは「ああ、なるほど…」と呟いた。彼らは知らない間に他の国の国民も救っていたようで、それが各国からの感謝の言葉の原因だったようだ。

 

「というわけで、ユニットについては問題ありません。それと二人には後日、表彰式に出てもらいます」

「表彰式……?」

「ですか……?」

 

ミーナからの突然のカミングアウトにシュミットとペリーヌは思わずオウム返しをする。

 

「そうよ。今回の功績を評してブリタニアが貴方達二人に勲章を贈りたいと申し出たのです」

「と、同時に二人はこの功績で一階級昇進ということになる」

 

突然の説明に頭がパニックになり始める二人だが、瞬時に理解し聞き返した。

 

「本当なのですか?」

「ええ、そうよ」

「階級が上がるとなると……」

「二人は中尉に昇進だな」

 

そしてようやく状況をしっかり理解したシュミットはベットに倒れこみ、天井を見上げた。

 

「勲章が贈られてくるなんてな……」

「初めてですの?」

「ああ、初めてだ。前の世界では勲章を貰ったことは無かったから」

 

そう言ってシュミットは天井を見ながら笑顔になった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

その後、シュミット達は病院を退院した。二人は肉体的には特に怪我も無く健康体であったため、すぐに退院することができた。

そして基地に向かう途中、ミーナ達が乗ってきたJu52の中でシュミットは窓の外の景色を見ていた。ふと、彼は何か思い出したかのように顔をミーナに向けた。

 

「そういえば、あの時買ったものって基地にありますか?」

「あの時って…ああ、昨日の臨時補給の買い出しのことね。大丈夫よ、シャーリーさんが戻ってきて持ってきたから」

「そうですか」

 

それを見て、ミーナはシュミットが何か自分の買い物をしたんだと考え質問した。

 

「そういえばシュミットさん。貴方も何か自分の物を買ったのですか?」

「はい、一応……。自分のものではまぁ、無いのですが」

「どういうことだ?」

 

横で聞いていた坂本が質問した。

 

「あ、いえ…ユニットの整備兵達に差し入れをあげようと思って買ったもので」

 

シュミットが何気なく言った言葉に、ミーナは注意をする。

 

「シュミットさん。ウィッチはできるだけ必要以上の接触は厳禁だと言ったはずですが」

「でも私はウィザードですよ?」

 

シュミットの返しにミーナは溜息を吐いた。

 

「まぁ、シュミットさんは男性ですからいいでしょう。今回は不問にします」

「ありがとうございます」

 

そう言って、シュミットは再び窓の外を見始めた。外の景色は、雲の向こう側に大きな太陽が沈む光景が広がっていた。

そしてしばらくして基地に到着した時、シュミット達は不思議な光景に目を疑った。

Ju52が着陸した滑走路の横に、木箱の山ができていたからだ。

ミーナ達はそれを見て近くにいた兵士に聞いた。

 

「これは一体……」

「ミーナ中佐、先ほどブリタニア本国から緊急の補給がやってきて食料と武器弾薬が――」

「そう、わかったわ」

 

そう言って、ミーナはシュミットに体を向けた。

 

「ま、まぁ結果オーライということで……」

 

シュミットはその光景に苦笑いをしながらこう答えるしかなかった。

そして基地に入ったシュミット達は、そのまま食堂に向かった。

 

「おっかえりー!」

「へっ、うわああ!」

 

そして扉を開けると突然、何者かがシュミットに抱き着いてきた。シュミットはいきなりすぎて何が何だかわからずそのまま後ろに倒れた。

そして顎を引いてシュミットは飛び込んできた人物を確認した。

 

「ル、ルッキーニ!」

「おいおいルッキーニ、シュミットが困ってるぞ」

 

そう言って、シャーリーがルッキーニの後ろから現れる。そして、シュミットにくっついていたルッキーニを離した。

そうしてようやくシュミットは起き上がることができた。

 

「ありがとう、シャーリー」

「どういたしまして。それより、よくやった!」

「へ?」

 

シュミットは突然褒められ一瞬間の抜けた返事をした。

 

「あの列車のことさ。まさか本当に止めるとは思っていなかった!」

「ああ、そっか。シャーリーもあの時いたもんな」

「そうだぞ!」

 

シュミットは一瞬、あの場にシャーリーが最初いたことをすっかり忘れていた。そんな会話をしている時、シャーリーの後ろからバルクホルンとエーリカが近づいてきた。

そしてバルクホルンが話し始めた。

 

「あの時は素っ気ない態度をとってすまなかった」

「あの時?」

「初めて会った時だよ」

 

エーリカが補足するように言った。

 

「あの時、少尉のことをちゃんと信用できずにきつい態度をとった。今回の救助を知って本当にすまないと思った」

「もー、そんな堅苦しいこと言わない」

 

エーリカがぐったりしたように言った。

 

「そうだ。あの時のことを信用できないのは誰だってそうだ。だから気にしてないさ」

「そ、そうか」

「そうさ。それに、これから仲良くできればいいさ」

 

シュミットは特に気にしてないというふうに言った。その言葉に、バルクホルンもそっと笑った。

 

「さぁ、立ち話もなんでしょうし席に座りましょう」

 

ミーナがそう言ってまとめ、全員が席に着いた。その後も、話題はシュミットとペリーヌのことでいっぱいだった。

夕食後、シュミットは臨時補給の際買ってきた物を持って格納庫に向かっていた。

格納庫に入ると、整備兵達が集まって談笑していた。シュミットはそれを見て近づいていく。それを一人の整備兵が気づき立ち上がる。

 

「どうしました?」

「いえ、皆さんに差し入れを持ってきました」

 

そう言ってシュミットは集団の真ん中に木箱を置き蓋を開けた。それを見た整備兵達は中身を見て驚きの声を上げた。中にはスコッチウィスキーの瓶が何本もあり、その横にナッツの袋も一緒に入っていた。

 

「おお!?これは……」

「ありがたい!」

「いえ、いつもユニットをしっかり整備してくれているお礼です」

 

整備兵達はシュミットに感謝の言葉を言うが、シュミットは当然のことをしたまでといった態度をしていた。

 

「この前の記事見たぜ。たいした度胸だな」

「ありがとうございます」

 

こうして、整備兵達の談笑に加わっている時に、シュミットの後ろで魔道エンジンの回転音が聞こえてくる。

誰かと思って振り向くと、そこには初めて会った時と同じ武装をして離陸するサーニャの姿が見えた。

シュミットはサーニャをじっと見ていた。

 

(……かわいい子だな……サーニャって)

 

そんなことを思いながら見るシュミットに、整備兵の一人がこう言った。

 

「いつも一人で夜間哨戒をしててすごいですねぇ」

 

シュミットは気になる単語を聞いて聞き返した。

 

「いつも一人だって?」

「はい。この基地の夜間哨戒はいつもリトヴャク中尉が一人でやってるんです」

 

それを聞いて、シュミットは顎に手を当てた。そして一言呟いた。

 

「……一人か……」

 

そうしてシュミットはなにか考え事を始めた。ほかの整備兵達は、シュミットの様子が変わったのを見てただじっと見ていた。




というわけで、ペリーヌの階級を少尉からにしたのはこのためでした。
次回の投稿も今回のようにできるだけ早く投稿します。では


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第七話「新ユニットと差し入れ」

数日後、シュミットとペリーヌは新型のユニットが届き、格納庫に来ていた。格納庫内ではミーナと坂本もいる。ユニットが届くまでの間に二人はブリタニアから勲章を授与されたり、一階級の昇進で中尉になったりといろいろなことがあったが、割愛させてもらう。

 

「これがシュミットさんの新しいユニットで、こっちがペリーヌさんの新しいユニットです」

 

ミーナからの説明にシュミットとペリーヌは格納庫内に新しく配備されたユニットを見る。

二人はそれが見覚えのある外見をしており少し驚いていた。シュミットからしたら、前回使用していたFw190Aによく似ていたことから。ペリーヌからしたら、ガリアの生産していたユニットによく似ていたことから。

 

「これって、前のユニットの発展型ですか?」

「そうよ」

 

シュミットの質問にミーナが答える。

 

「シュミットさんのユニットは『Fw190D-9』。これは元々バルクホルン大尉が使っていたFw190D-6のテストデータを下に機体安定性を強化した最初の量産型です」

「最初のってことは、これを付けるのは――」

「現状ではシュミット一人だけということだな」

 

坂本の言葉にシュミットは目の前の台に固定されたユニットを見る。外見は前回使っていたFw190Aよりも少しスリムな外観をしており、いかにも空力がよさそうな形状をしていた。

その横ではペリーヌが新しいユニットをまじまじと見ていた。

 

「これは、VG.33ですか?」

「いいえ、ペリーヌさん。こののユニットは『VG.39』。これまでのVG.33のクワドラ12Y-31魔道エンジンを、ヒスパニアの工廠でより強力な12Y-89魔道エンジンに換装した発展型で、出力が前回の1.4倍に向上したそうです」

「へー、これがガリアの新型ユニットか……ん?ペリーヌってガリアのユニットを使ってたんじゃないのか?」

 

ミーナの説明を聞いていたシュミットがペリーヌに尋ねる。

 

「あの時使用していたユニットは『ウルトラマリン スピットファイア』で、ブリタニアから支給されていたユニットですわ」

「そうだったのか」

 

ペリーヌの説明を聞いてシュミットは納得した。ガリアはネウロイに制圧されてしまい、まともなユニットを生産する時間が与えられなかったため、ブリタニアからのユニット支給を余儀なくされていたようだ。

 

「それとペリーヌのユニットは機体のテストも兼ねている。しっかりデータを取るように」

「はい、少佐!」

 

坂本からの説明にペリーヌははっきりとした返事をする。

 

「とりあえず、今日の午後に新型のユニットのテスト飛行をしましょう」

「了解しました」

 

ミーナの提案にシュミットは返事をした。

午後になってシュミットとペリーヌは新型ユニットに足を入れていた。周りでは整備兵が最終調整を行っている。

 

「OKです」

 

整備兵の言葉に二人は頷き、そして魔道エンジンを始動する。

 

「おぉ……」

 

シュミットは思わず声を漏らす。魔道エンジンを始動した瞬間の反応からすでに違いがわかったようだ。

ペリーヌもその変化に驚いている。

 

「よしっ、発進!」

 

シュミットは勢いよく宣言し発進する。それに続くようにペリーヌも発進する。そしてそのまま滑走路を走り上空に離陸する。

シュミットは前回との違いに驚いた。

 

「速い!立ち上がり加速が段違いに違う!」

「こちらのユニットもです!」

 

シュミットとペリーヌは機体性能の違いに驚く。そしてそのまま並んで飛行する。

地上ではその光景を全員が見ていた。

 

「ほう、一気に上がったな」

「1000mへの上昇速度も前回より速いわね」

 

坂本とミーナがその光景を見ながら感心する。

 

「すごいな、前よりもうんと速いぞ!」

「いけいけー!」

 

シャーリーとルッキーニは興奮したようにはしゃぐ。

上空ではシュミットが地上に向けて合図をする。

 

「こちらシュミット。限界高度まで上昇します」

 

そう言って、上空に体を向けて飛び始める。

 

「いくぞペリーヌ!」

「はい!」

「魔道エンジン出力最大!」

 

シュミットとペリーヌはユニットの魔道エンジンの回転数を最大まで回す。急激に回転数を上げたユニットは勢いよく上昇し始める。その途中、サーニャとエイラが上空で二人の上昇を記録していた。

 

「……ペリーヌさん、上昇が止まりました。シュミットさん、高度12000mに到達、まだ上昇しています」

 

ペリーヌの上昇は止まった後、シュミットはさらに高高度に上昇していく。その速度は前回、前々回使っていたFw190Aを遥かに上回る速度だった。

 

(速い!ここまでぐいぐいと昇るなんて!)

 

そして高度13000mに到達する前に、シュミットは上昇が止まり始めた。

ここでシュミットはあることを思いついた。

 

「中佐、これから強化を使ってさらに上昇してみます!」

 

そう言って固有魔法を自身のユニットに発動する。すると、さっきまで咳き込んでいたユニットは息を吹き返し、再び上昇を始めた。

 

「シュミットさん、上昇を開始。さらに高度を上げていきます。すごい……」

「ほえ~…」

 

それを見ていたサーニャとエイラは驚いたように声を出す。

 

「すごいわね、強化の力が合わさってさらに高度を上げていくなんて」

 

ミーナは感心したようにその光景を見ていた。

そしてシュミットはこの日、高度14000mまで上昇した。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「すごいよシュミット!高度14000mだって!」

 

地上に降りたシュミットを出迎えたのは、ルッキーニの無邪気な喜びの声だった。ルッキーニはシュミットに飛んで抱き着く。そこに他の皆も集まってやってくる。

シュミットはルッキーニの言葉に驚いたように目を開いた。

 

「14000?そこまで行ってたのか!?知らなかった……」

「へ?」

 

シュミットの衝撃発言に皆は間の抜けた声を出す。

その反応を見てシュミットは少し頬を赤くし、指で掻きながら答えた。

 

「いや、なんていうか……あまりにも上昇するもんだったから、ずっと伸びていくんじゃないかなと考えながら飛んでたもんだから、高度とか全く考えてなくて」

 

シュミットは頬を赤くして笑顔でそのことを説明した。それを聞いた全員がそんなシュミットの姿を見てポカンとしていた。

 

「……ん、皆どうしたの?」

 

シュミットは皆のその反応を見て不思議に思いながら見ていた。

 

「……シュミットさんがそんな笑顔で何か話しているのを見るのは初めてですわ」

 

比較的シュミットと共にいることの多いペリーヌが言う。それに賛同するように他の皆も頷く。

その後、気を取り直してシュミットとペリーヌは武装を持ち、再び上昇した。今度は高度5000mでの最高速度の計測をするためだ。

 

「よしっ!行くぞ!」

 

そうして、シュミットはMG151を背負ったまま最大までユニットのエンジンを回した。

 

「シュミットのやつすごい加速だな」

「今何キロだ、ルッキーニ?」

「時速650キロ!……670…690…」

「すごい……」

 

すでにペリーヌの加速が停止した後でも、シュミットはまだ加速する。

 

「700キロ!700キロに入ったよ!」

 

ルッキーニがはしゃぐ。501の中で現在700キロを超える速度を出したのは、シャーリーの他にシュミットが初である。

 

「すごいな、カールスラントの新型は」

「そうだねー」

 

バルクホルンとエーリカも感心したように見ていた。

そしてシュミットはここでもミーナに進言した。

 

「こちらシュミット、これより強化を開始します」

 

そう言って、上昇テストの時と同じように固有魔法をユニットにかける。

 

「また加速したな」

「時速720…740…770…!」

「どんどん加速しているぞ!」

 

そのあまりの変化に全員が驚く。

 

「速度790キロ!すごい、すごいよ!」

 

ついにルッキーニが驚いたようにはしゃいだ。その速度はシャーリーの出した最高記録に近づく速度だった。

そして、シュミットは加速が止まったのを確認し、滑走路へ戻ってくる。

 

「ルッキーニ、何キロ出た!?」

 

シュミットはルッキーニに聞いた。

 

「すごいよシュミット!790キロ!シャーリーの記録に迫ったよ!!」

「本当か!?」

 

ルッキーニが興奮しながらシュミットに報告した。それを聞いたシュミットは嬉しくなり子供のような反応をした。

それを見ていた他の皆は、シュミットのそんな姿に苦笑いをしていた。

 

「なんというか、子供っぽいところもあるんだな……」

「そうねぇ」

「というか、私はあいつのあんな笑顔見たことなかったぞ……」

「私もだ……」

 

それぞれが別々の反応をしていたが、別段シュミットは気にしていなかった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その日の夜、サーニャは夜間哨戒に出るために目を覚ました。そして基地の中を歩いているときふと、とある部屋から光が漏れて明るくなっているのを見つけた。

 

「……?」

 

気になったサーニャは、その光の漏れている部屋に近づく。そこは食堂であり、中からトントンと小刻みな音が聞こえていた。

気になったサーニャは部屋の中をそっと覗く。そして目の前の光景に驚いた。

 

「~♪」

 

なんとそこには鼻歌を歌いながら何かを作っているシュミットがいたからだ。

 

「シュミット…さん?」

 

サーニャの言葉に気づいて、シュミットは振り向いた。そして、サーニャに優しく微笑んだ。

 

「やぁサーニャ。ちょっと待っててくれないか」

「……?」

 

そう言ってシュミットは手際よく厨房で作業する。その光景にサーニャは首を傾げた。

そしてシュミットは水筒と小さな包みをサーニャに渡した。

 

「はい、これ」

「あの、これは?」

「サンドイッチ。一応夜間哨戒中に食べてね。それとこっちの水筒にはミルクティが入っているから、寒くなった時にどうぞ」

 

サーニャは驚いた。今まで夜間哨戒の時にこのように差し入れをした人はおらず、シュミットが初めてだったからだ。

 

「あ、ありがとうございます」

「いやいや」

 

サーニャのお礼の言葉にシュミットは嬉しそうに応え、厨房に向き直った。そして、厨房内の道具を片付け始める。

 

「昼間のテスト、すごかったですね」

「ああ、あれは私もすごいと思った。カールスラント様様だ」

 

そう言うシュミットは、後ろを向いてて表情こそは見えなかったが、その声は子供のように楽しそうだった。それを聞いてサーニャは、こんな声もするんだと思った。

その時ふと、サーニャは気になることを思い出しシュミットに質問した。

 

「そういえば、シュミットさんはどうして厨房にいるのですか?」

「ん?あー、その、あはは……」

 

その質問にシュミットは振り向き、少し恥ずかしそうにしながら腰に手を当て頬を掻き始めた。そしてサーニャに言った。

 

「その、サーニャのためなんだ」

「えっ、私のため……ですか?」

「うん」

 

そう言ってシュミットは説明した。

 

「サーニャが一人で夜間哨戒をしているって、ここの整備兵に聞いたからさ。だから一人で大変だなと思って、何かできることは無いかなと考えたんだ」

 

そう言うシュミットに、サーニャの心は温かくなった。そして、思えば最初にお礼を言われた時もこんな感じに心が温かく感じたとサーニャは思い出した。

 

「その……ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

サーニャは頬を赤く染めながらもう一度お礼を言う。それを見てシュミットも笑顔になる。

 

「夜間哨戒、頑張ってねサーニャ」

「はい」

 

そして、シュミットの元気付けの言葉にサーニャは返事をし、夜間哨戒に向かったのだった。

食堂から出ていくサーニャを見送ったシュミットは、その扉をずっと見ていた。

 

(夜間哨戒で一人、それが毎日だもんな……)

 

その光景を頭に浮かべたシュミットは表情を変え、少し下を向いた。それは先ほど見せた優しい笑顔ではなく、すこし寂しさの混じった真剣な顔だった。

そしてシュミットは何かを決めたように顔を持ち上げた。

 

「明日、ミーナ中佐に聞いてみようかな……」

 

そう呟いて、シュミットは残りの後片づけを消化し始めるのだった。




というわけで、新ユニットはFw190D-9となりました。
ちなみにペリーヌのスピットファイアの設定は、史実におけるイギリス製航空機を使用していた自由フランス空軍を参考にしました。


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第八話「夜間シフトとシュミット」

「夜間哨戒に?」

 

執務室の部屋で、ミーナは目を丸くした。

朝、シュミットはミーナのところへやってきてミーナにある提案をしたのだ。その内容は、

 

「中佐、私を夜間哨戒に出して貰えないでしょうか?」

 

という内容だった。

ミーナは突然シュミットがそんなことを言ったことに驚き聞き返した。

 

「……どうしてですか?」

「サーニャのことです」

「サーニャさんのこと?」

 

ますます分からなくなるミーナである。

 

「サーニャは一人で夜間哨戒をしていると聞きました。それはかなりの負担になると思うんです」

 

その言葉にミーナもシュミットが言いたいことを理解した。

 

「なので――」

「少しでもサーニャさんの負担を減らしたい、と?」

 

シュミットは言おうとしたことをミーナに先言われ少し驚くが、少しして頷いた。

ミーナは内心どうしようかと考えていた。今まで夜間哨戒はサーニャが主にやっていた。そこにシュミットを入れることは確かに負担軽減にはなるだろう。しかし、シュミットはフォーメーションにおける火力の中核にもなる。

しかしミーナは、ここにきてから初めて頼みごとをしてきたシュミットを見た。その目は真剣にミーナを見据えていた。

 

「分かりました、後で全員を招集して伝えます」

「ありがとうございます」

 

シュミットはミーナに礼を言い、頭を下げた。

その姿を見たミーナは、少しだけ微笑んでから自分の書類仕事に移るのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「というわけで、シュミットさんをこれから夜間哨戒班に組み込むことにします」

 

ブリーフィングルームにウィッチーズ全員が集められ、これからの方針について説明された。

 

「唐突だなミーナ、どうしてだ?」

 

坂本はミーナに質問する。他の隊員も同じだ。突然シュミットを夜間哨戒班に入れる理由を知りたかったからだ。

 

「これはシュミットさんと話し合い、サーニャさんの負担を減らそうと考えた結果シュミットさんを夜間哨戒班に入れ、交互に出撃させようと考えたの」

「はい、はい!それなら私もやるゾ!」

 

突然、エイラが自分も夜間哨戒班に入ると志願した。

 

「そうね、シュミットさんはここでの夜間哨戒は初めてでしょうし、エイラさんもシュミットさんに指導をお願いするわ」

 

そう言って、ミーナはエイラの夜間哨戒班への志願を了承するのだった。

そしてその日の夜は、シュミット、サーニャ、エイラの三人で一度夜間哨戒に出て、シュミットの指導をすることに決定した。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

夜になって、三人は格納庫に行きそれぞれの武装を持ってユニットを始動させた。

しかしそこでシュミットはある違和感を感じた。

 

(……なんだ?)

 

シュミットは、ユニットを始動した時の微妙な変化のようなものを感じた。シュミットは自身の足を見る。しかし、その違和感の答えを見つけることは出来なかった。

 

「おーいシュミット、なにしてるんダ?」

「……いや、何でもない」

 

エイラの呼びかけにシュミットは応え、先ほどの違和感のことを頭の隅に追いやる。

そして3人は横一列に並んだ。中央ではサーニャが魔道針を発現させている。

 

「初めて見た時もそうだったけど、やっぱりこの魔道針?ってすごいな」

 

シュミットは純粋にサーニャの魔道針に興味津々だった。

 

「そうだゾ!サーニャは501唯一のナイトウィッチなんだゾ!」

「そうか、すごいな……」

 

そんな会話をエイラとシュミットがする。それを聞いていたサーニャは少し照れたように頬を赤くしていたが、夜の暗さでそれは見えなかった。

 

「よし、離陸開始だ」

 

そう言って、まずエイラが先導して離陸を始めた。それに次いでシュミット、最後にサーニャが離陸した。

そのまま三人は横に並び、雲の上まで到達した。

 

「……ほぉ」

 

そして、雲の上に到達した時、シュミットは思わず目の前に広がる光景に溜息を漏らした。

 

「どうした?中尉は戦闘機に乗っていた時も夜の空を見たことあるんじゃないのカ?」

 

エイラがシュミットの溜息に疑問に思い聞く。その様子をサーニャも見る。

 

「今まで戦闘機の中から空は見たことあるけど、ユニットを履いて空を飛んでみたのは初めてなんだ。こんな景色は初めて見た」

 

シュミットはわくわくしたように答えた。それを見てエイラは呆れたような表情をした。

 

「中尉ってなんか、偶に子供っぽいよナ~」

「フフフッ……」

 

その光景に、サーニャは笑って見ていた。ふと、サーニャはあることを思い出しシュミットに向き直った。

 

「シュミットさん、昨日はありがとうございました」

「へ?」

「えっ!?」

 

突然のお礼に、シュミットは一瞬何のことかわからず驚き、エイラはシュミットがサーニャに何かしたと勘違いし驚いた。

 

「シュミット、サーニャに何をしタ!」

「え、うぇ……?」

 

突然詰め寄って顔を近づけてきたエイラにシュミットは思わず後ろに後ずさる。

 

「何って、昨日の夜間哨戒の時用にサンドイッチとミルクティを渡しただけなんだが……」

「へ?」

 

その内容に、エイラは一瞬呆気にとられたように声を出す。そしてエイラはサーニャの方を向いた。

 

「本当だよエイラ。シュミットさんは私に差し入れをしてくれただけだから」

 

サーニャの言葉にエイラは納得したように下の配置に戻った。

ふと、エイラはシュミットのある物が気になり質問した。

 

「そういえば中尉、腕に巻いているそれはなんダ?」

 

エイラはシュミットの右腕に巻いているあるものに気が付き質問した。それは外観からすればアクセサリーのようだった。

 

「ああ、これか……これはドッグタグだ」

「ドッグタグ?」

「ああ、私の親友二人の大切なドッグタグなんだ……」

 

その言葉は、二人に何かシュミットが暗いことを隠していると感じた。

意を決して、サーニャが聞いた。

 

「その親友さんのってことは……」

「死んだよ」

 

シュミットの言葉に二人は驚いた。今まで何も話さなかったシュミットの、知られざる過去を知ったからだ。

それを察したエイラは、質問を変えた。

 

「そ、そういえば中尉はこの世界に来る前は何をしていたのダ?」

「わ、私も気になります」

 

エイラの質問にサーニャも一緒になって質問した。シュミットは内心、どうしようか困っていた。この世界に来る前のことと言えば戦争のことが先に浮かんだからだ。

 

「そうだなー……」

 

そう考えながら、シュミットは戦争のことは避ける形で話すことにした。

 

「生まれはドイツ――こっちで言うカールスラントのベルリン生まれ。育ちはハンブルク」

「ということは、こっちで言うカールスラント人?」

「そうだね」

 

エイラの言葉にシュミットは肯定した。

 

「そこで私は、普通の生活をしていた。家族は、両親と妹が一人いたんだ」

「えっ、妹さんがいたのですか?」

「うん……」

 

サーニャの言葉に、シュミットは少し声のトーンが低くなりながら答えた。

 

「サーニャは?」

「えっ…」

 

突然、シュミットはサーニャに質問した。いきなりの質問にサーニャは驚く。

 

「いや、妹がいるって言ったら驚いたから、サーニャのほうはどうなのかなと思って」

 

シュミットが突然の質問の理由を説明した。それを理解したサーニャは話し始めた。

 

「私は、モスクワ生まれのウィーン育ちです。両親と共に音楽を学んでいました」

「そうなんだ。エイラは?」

「私は陸戦ウィッチの姉がいる」

「姉!本当か」

 

シュミットは本当に驚いたようにエイラを見た。その様子に今度はエイラが後ろに後ずさった。

しかしシュミットは、その反応をした後すぐに悲しそうな表情をして前を向き直った。

 

「ど、どうしたんだ?」

 

突然反応が変わったシュミットに、エイラが不思議に思い質問した。

 

「いや、家族がいるっていいなって思ってさ……特に上がいるって」

「そっか。中尉は、家族を置いてこっちに来てしまったからナ」

「いや、違う……」

 

エイラの言葉をシュミットは即座に否定した。その否定に、エイラとサーニャは思わずシュミットを見返した。

 

「私の家族は――っ!」

 

そこから先の言葉は続かなかった。突如、サーニャの魔導針が警戒色に変化し、全員がそれを見て戦闘態勢に変わったからだ。

 

「ネウロイ!」

「何処だ!?」

 

シュミットはサーニャに聞く。サーニャは場所を特定する。

 

「ネウロイの反応……位置……直下!」

「っ!散開!」

 

サーニャの位置特定に、シュミットがいち早く命令をする。それを聞いて全員が散らばる。

その直後、雲の中からネウロイが姿を現した。

 

「サーニャナイス!」

 

シュミットはそう言い、背中に背負っていたMG151を構え、セーフティを解除する。そして、武装に固有魔法を使う。

 

「喰らえネウロイ!」

 

そしてシュミットはネウロイに向かって武装のトリガーを引く。勢いよく発射された弾丸は、そのままネウロイの体を思い切り抉り始めた。

 

「す、すげぇ……」

「……」

 

その光景にエイラとサーニャは驚きながら見ていた。

するとネウロイはシュミットのことを危険と判断したのか、ビームをシュミットに向けて集中的に向け始めた。

シュミットはそのビームをシールドを張りガードする。そしてサーニャとエイラに言った。

 

「今のうちに攻撃をするんだ!」

 

それを聞いたエイラとサーニャは即座にネウロイに攻撃を開始した。

サーニャがフリーガーハマーで攻撃をする。その攻撃でネウロイの表面は剥がれ落ち、コアが露わになる。そこに向けて、エイラがMG42で攻撃を開始する。攻撃をうけたネウロイは回避行動を開始するが、その中の一発がネウロイのコアに命中しコアを破壊した。そしてネウロイは空中でバラバラになって砕け散った。

 

「ナイスだ!エイラ、サーニャ!」

 

シュミットは二人に向けてガッツポーズをする。それを見てエイラとサーニャも微笑み返す。

そして三人は再び編隊を組み直し、基地に向かって連絡を開始した。

 

「こちらシュミット、501基地応答願います」

『こちら501、シュミット中尉どうしました?』

 

無線に応えたのはミーナだった。

 

「たった今、ネウロイと遭遇しこれと交戦、撃墜をしました」

『ネウロイですって!?』

 

ミーナは無線の向こうで驚いたようにシュミットに聞いた。

 

『詳しく聞きたいわ。基地に帰投して』

「了解しました、中佐」

 

そう言って無線を終了するシュミット。その横ではエイラがさっきのことを再び聞き出した。

 

「なあなあ、中尉」

「ん?」

「さっき言ってた、“違う”ってどういう意味ダ?」

「ああ、そのことか――、」

 

シュミットは思い出したように言った。

 

「私の家族はもういないんだ……」

「え、どういうことダ?」

「あっ……」

 

シュミットの言葉にエイラは気になり聞き返す。その横でサーニャは察したのかエイラの質問を止めようとする。しかしシュミットはそれに気づかずに話してしまった。

 

「私には前の世界に家族がいないんだ……皆死んでしまって……」

 

その言葉に、エイラは質問したことを後悔した。その横でサーニャも話を聞いて何も言えなくなった。その時のシュミットは、目元に今にも涙を浮かべそうにしながら前を向いていた。

そしてさらにシュミットは言った。

 

「両親はハンブルク空襲で無くなって、妹はその空襲で大怪我を負って入院したんだ。それで、軍に入って医療費を稼ぎ始めたが、妹も容体が急に悪化して、そして――」

「も、もういい!もういいから!」

 

シュミットの説明をエイラは焦りながら止めた。

シュミットはエイラを見る。その表情は本当に泣き出してしまいそうな表情をしていた。

 

「もう、話さなくていい……」

 

エイラはそんなシュミットを見ていられなくなった。サーニャも、シュミットのそんな姿を見ていられなくなり顔を背けた。

 

「そうか、すまない……」

 

そう言って、シュミットも話をやめる。そして三人は無言のまま基地に帰投した。

その時も終始、シュミットは表情を暗くしたままだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「報告は以上です、中佐」

「ありがとう、シュミットさん」

 

基地に帰投したシュミットは、ミーナの執務室に行き報告を終了した。

しかしミーナは、シュミットの様子が少しおかしいことを感じた。

 

「どうしました、シュミットさん?」

「あ、いえ、なんでもありません……失礼します」

 

そう言って、シュミットは部屋を後にした。その後ろ姿を、ミーナは心配しながら見ていた。

そしてシュミットは部屋に戻ると、すぐさまベッドに倒れこみ、枕に顔を埋めた。

 

(家族……そういえば、こっちに来てしっかり考えたこと無かったな……)

 

シュミットは顔を枕に埋めたまま眠りについたのだった。




というわけで、シュミットの暗い一面についてすこし触れました。
感想、誤字、脱字などの報告お待ちしております。

※41.3の熱が出たため、治り次第次話投稿します


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第九話「温もり」

無事に風邪から復活した作者です。というわけで、遅れていた小説を再開します。


翌日、シュミットは夜間哨戒に一人で出発した。この日は生憎の雨で、格納庫の先はザーザーと大降りだった。そのため、シュミットはいつもの服の上にコートを着ていた。

彼はまたユニットに足を入れ、エンジンを始動した。この日は特に違和感を感じなかったのか、すんなりと自身の武装を手に取った。

 

「よし、行くか」

 

そう言って、離陸をしようとした時だった。

 

「シュミットさん」

 

後ろから声を掛けられ、シュミットは振り返った。

振り返った先には、なんとサーニャが立っていた。

 

「サーニャ?」

 

シュミットはユニットを履いたままサーニャに近づいた。

 

「どうしたんだ?今日は私の当番なのに」

「……その、これを」

 

そう言ってサーニャはシュミットにあるものを手渡した。それは一昨日シュミットがサーニャに渡したものとよく似ていた。

 

「これは?」

「あの、差し入れです……この前のお礼の……」

 

そう言って、サーニャはシュミットに渡す。それをシュミットは受け取るが、受け取った後シュミットは動かなかった。

サーニャは疑問に思った。

 

「……シュミットさん?」

「あ、ありがとうサーニャ。嬉しいよ」

 

そう言って微笑むシュミット。それを見てサーニャは頬を赤くする。

 

「それじゃあ行ってくるね」

 

そう言って、シュミットは離陸をした。

離陸直後の雨は、シュミットの体に強くぶつかり、彼の肌を冷やした。そして、雲の上まで上昇したシュミットは、自身の目に強化を掛け、視力を強化した。

しかし、雨に打たれたのが原因か、シュミットは肌寒くなりくしゃみをした。

 

「はっくしゅん!」

 

途端にシュミットは、先ほどサーニャに渡された水筒を思い出し、それを取り出した。水筒の蓋を開けると、中から湯気があがる。

シュミットは一口飲んで驚いた。

 

「ミルクティ…」

 

それは、この前の差し入れで出したのと同じミルクティだった。しかしシュミットはそれを飲んでこう思った。

 

(美味いな…)

 

彼は自分の入れたミルクティよりもそれがとても美味しいと感じたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、シュミットは夜間哨戒を終え眠りについた。しかし、なかなか寝付けなかったのか夜明けに再び起きてしまった。

シュミットは窓の外を見て頬を掻いた。

 

「まいったな。まだ夜明けごろじゃないか…」

 

今日の夜間哨戒はエイラのため、シュミットはもう一度寝ようかと考えたが、眠気が覚めてしまい眠れそうになかった。

仕方なく、シュミットは部屋の外へ出た。そしてそのまま食堂へ行きコーヒーでも飲もうかと思ったところで立ち止まった。

外から誰かの掛け声が聞こえてきたのだ。そしてシュミットは基地の外へ出て声のする方向に向かった。そこでは、坂本が真剣を振って鍛錬をしていた。

 

「少佐」

「どうしたシュミット、朝早くから珍しいじゃないか」

 

坂本がシュミットに声をかけた。

 

「いえ、なんかなかなか寝付けなかったので、目も覚めてしまったし食堂で休憩でもしようと思ったところ、少佐の声がしたので」

 

そう言ってシュミットは近くにあった木のところに行って、その鍛錬を見学することにした。

 

「こんな朝早くから訓練ですか?」

「ああ、ここは最前線だからな」

 

そう言って再び坂本は剣を振る。それを、シュミットはしばらく眺めているのだった。

その後、時間が過ぎ朝食時になった時にシュミットと坂本は食堂へ移動した。

驚いたことに、食堂にはすでに殆どの人が揃っていた。中には、朝が弱いサーニャもいた。

ミーナがシュミットに挨拶をする。

 

「おはよう、シュミットさん」

「おはようございます」

 

そう言って挨拶をするシュミット。それを見てシャーリーとルッキーニも挨拶をする。

 

「おはよう、シュミット」

「おはよー!」

「ああ、おはよう」

 

それを区切りに他の隊員も挨拶をする。そしてシュミットは自分の食事を取りに行った後、空いている席に腰掛けた。

と、シュミットはあることを思い出しサーニャに顔を向けた。

 

「サーニャ」

 

突然呼ばれたサーニャは少し驚きシュミットを見た。

 

「昨日のミルクティとても美味しかったよ、ありがとね」

 

そう言って微笑みながらサーニャにお礼を言うシュミット。サーニャはそれを見て少し恥ずかしくなったのか赤くなる。その様子を見てシュミットは食事を開始する。その光景を見て、他の隊員は様々な反応をしていたが、シュミットはそのことに気づかなかった。

すると突然ルッキーニがシュミットに駆け寄って来る。

 

「ねぇねぇシュミット!」

「ん?どうしたルッキーニ」

「これからシャーリーが新記録に挑戦するんだけど見る?」

「新記録?」

 

シュミットはルッキーニの言っていることの意味が解らずオウム返しをする。

するとシャーリーが補足するように説明した。

 

「ストライカーのスピード限界記録に挑戦しているんだ」

「スピード限界だって?……今までの記録は?」

 

シュミットはシャーリーの説明を聞いて今までの最高記録を聞いた。

 

「今までは790キロ。この前シュミットが出した記録と同じだよ」

「なにっ、本当か?」

 

シュミットは思わず驚きシャーリーを見た。

 

「それって、ユニットの素の速さだけでか?」

「そうだ!私が改造してな」

 

そう言って胸を張るシャーリー。それを聞いてシュミットはさらに驚く。シュミットは、ユニットを強化で最大出力を底上げして790キロを出したのに対し、シャーリーはユニットの改造だけで同じ790キロを出したと言ったのだ。

 

「なぁシャーリー、私も見ていいか?」

 

シュミットは興味が沸き、シャーリーに聞いた。それをシャーリーは快く了承した。

そしてシュミット達は朝食をとった後、滑走路に移動した。

滑走路ではシャーリーが珍しくゴーグルをつけて離陸準備をしていた。その横でルッキーニが速度計を持っていた。

 

「シャーリー、準備できたよー!」

「おう!」

 

ルッキーニがシャーリーに合図を送る。それを確認してシャーリーも声を返した。

 

「GO!」

 

ルッキーニが合図を送る。それと同時に、シャーリーは物凄い加速で滑走路を走り始めた。

 

「いっけー、シャーリー!」

「凄い加速だな」

 

ルッキーニがシャーリーに声援を送る。その横ではシュミットがシャーリーのストライカーの加速に舌を巻いていた。

基地のバルコニーでは、朝食の席にいたウィッチーズ全員がシャーリーの離陸する姿を見ていた。

 

「高度1000mまで51秒、今までの記録を上回る上昇速度です。少佐」

「おっ、前よりも速く上がったな」

 

ペリーヌの報告を聞いた坂本が反応する。

シャーリーはその後、測定高度まで上昇した後魔導エンジンの回転数を急激に上げた。

 

「魔導エンジン、出力全開!」

 

こうして、ぐいぐいと加速するシャーリー。その姿を見てルッキーニがはしゃぐ。

 

「いけー、シャーリー!」

 

その横では、シュミットがその光景を見て純粋に驚いていた。

 

「たまげた……あんなスピードが」

「時速750…760…770」

 

シュミットの驚く横でルッキーニがシャーリーの加速を読み上げていく。

 

「785…790…795!」

「795!?」

 

バルコニーでは同じ光景を見ていた坂本達もシャーリーの出した最高記録を聞いていた。

 

「加速が止まりました」

「どこまで出た?」

「795キロです。そこから速度が前後しています」

 

ペリーヌの報告を聞いた坂本は双眼鏡から目を離した。

 

「まだまだ改良の余地がありそうね」

 

ミーナがそう結論付けた。

滑走路ではシュミットがシャーリーの姿を確認して手を振っていた。

 

「シャーリー、凄いじゃないか!新記録達成だぞ!」

 

そう言ってシュミットは振っていた手を変え、シャーリーに親指を立てた。それを見たシャーリーも、シュミットに親指を立て返した。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

シャーリーの新記録挑戦を見学した後、昼食を取ったシュミットは朝の坂本の姿を思い出し、滑走路で一人訓練として周辺を走っていた。最前線で人類を守る兵士として、少しでもネウロイを倒すためにウィッチ達は戦う。そのことを今朝シュミットは再認識し、自主的に訓練をやっていた。

そして滑走路を15周ほど走ったところで、一旦休憩することにした。

 

「精が出るな」

 

と声を掛けられ、シュミットは振り返る。そこには坂本が立っており、さらにその後ろにはペリーヌが建物の影からシュミット達――正確には坂本を見ていた。

 

「はい、少佐。体力は必要ですし、私たちは最前線で戦う人類の希望であると朝再確認したので、それに恥じぬようにしないといけないと思ったので」

「はっはっはっは!」

 

それを聞いて坂本が高笑いした。その様子を見てシュミットも少し微笑む。

 

「少佐も訓練しますか?」

「ふむ、そうだな」

 

それを聞いて、建物の後ろから見ていたペリーヌが反応した。それに気が付いたシュミットが、ペリーヌに声を掛けた。

 

「ペリーヌ!ペリーヌも一緒にやるか?」

 

その声を聞いて坂本もシュミットの向いている方向を見る。そこにはあたふたしているペリーヌがいた。

それを見た坂本も声をかける

 

「ペリーヌ、お前も参加するか?」

「も、勿論です少佐!」

 

こうして、坂本とペリーヌを加えた三人の訓練は、午後の時間いっぱいを使って行われた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

訓練を終え夕食を取ったシュミットは、一日の汗を流そうと基地のお風呂に向かっていた。

しかしその途中で、エーリカとバルクホルンに会う

 

「ん?シュミットか」

「シュミット―!」

「大尉、ハルトマン、もしかしてこれからお風呂か?」

「ああ、そうだ」

 

それを聞いてシュミットはこの時間には入れないなと考えた。

 

「もしかして、シュミットもお風呂に入ろうとしていた?」

「ああ、そうだったのだが……二人が入るのなら仕方がないな。先どうぞ」

「すまないな」

 

バルクホルンからお礼を言われてから、シュミットは部屋に戻る。そして部屋のベッドに倒れた。

そしてしばらく天井を眺めているとき、シュミットは突如再び起き上がった。

 

「……そういえば、今日ユニットを見てなかったな」

 

そうして、シュミットは部屋を出て格納庫に向かった。

格納庫に入ったシュミットは、自分のユニットに歩み寄った。そして、しばらくそのユニットを眺めていると、ハンガーからユニットのエンジン音が聞こえてきた。

 

「……?」

 

気になって行って見ると、そこにはエイラとサーニャがいた。

 

「エイラにサーニャじゃないか」

「お、シュミット」

「シュミットさん」

 

シュミットは二人に声を掛ける。それに気づいた二人はシュミットの方向を振り向く。

 

「エイラはこれから夜間哨戒か?」

「そうダ。サーニャは見送り」

「そうか…」

 

そう言ってシュミットは格納庫の先の外を見る。昼間と違い真っ暗闇の外の景色を見てから、再びエイラに振り返った。

 

「気を付けていくんだぞ」

「……なんだよ突然」

 

突然シュミットがエイラに気を付けてと言ったことに、エイラはどうしたんだと聞き返した。

 

「いや、無事に帰って来いよってことだよ。何かあって怪我でもしたら皆が心配するからな」

「……」

 

それを聞いたエイラは表情を変えた。そして何かを言おうとするが、その前に別の人に言われた。

 

「……それは、シュミットさんもです」

「へ?」

 

突然の声にシュミットは間の抜けた声を出す。言ったのは、今まで会話に参加していなかったサーニャだった。

 

「シュミットさんに何かあったら、他の皆も心配します。シュミットさんはもう一人じゃないから……」

「そうだゾ。シュミットはもう一人じゃないんだゾ!」

 

それを聞いて、シュミットは目を見開いた。

 

「……そうか」

 

そう言って、シュミットは格納庫を静かに出ようとした。その姿をエイラとサーニャは見送っていたが、シュミットは格納庫の出口で立ち止まり、再び二人に向き直った。

 

「ありがとうサーニャ、エイラ」

 

そう言って、シュミットは格納庫の外に出て行った。

それを見てから、エイラは夜間哨戒に出て行った。それを見送ったサーニャは格納庫を出るが、出た後すぐに立ち止まった。

そこには、既に部屋に向かったはずのシュミットがいた。シュミットは格納庫を出たすぐそこで壁にもたれかかっていた。

 

「シュミットさん?」

 

サーニャは思い切って声を掛ける。その声に驚いたようにシュミットは肩をビクつかせた。

 

「サ、サーニャ……?」

 

シュミットがサーニャを向く。そのシュミットの顔を見て、サーニャは少し驚いた。

彼の目には涙が浮かんでいた。

 

「……泣いていたのですか?」

 

 サーニャの言葉にシュミットははっとして、目に浮かんでいた涙を指で拭った。

 

「ごめんごめん、変な姿を見せてしまった。それと、これは嬉し涙だよ」

「えっ?」

 

シュミットの言葉に、サーニャは何のことかわからずに聞いた。

 

「……どういうことですか?」

「さっき、二人が言ったことが嬉しくてさ。一人じゃないって言ってくれたことが」

 

そう説明するシュミットは少し笑いながら赤くなった頬を指で掻いた。その姿を見て、サーニャも自然と頬を赤くする。

 

「それにサーニャもだよ、一人じゃないのは」

「……えっ?」

「サーニャだって、この部隊の一員だ。だから何かあったら心配するのはサーニャも同じだ。だから少しでも負担を減らそうと私は思ったんだ。サーニャだって、大切な仲間だからね」

 

そう言われたサーニャは更に赤くなる。その様子を見て、シュミットは笑った。

 

「ははっ、少し格好つけたな。でも、私だってサーニャは大切に思っているのは変わりないから」

 

そう言ってシュミットは無意識にサーニャの頭に手を当て撫でていた。しかししばらくして、自分がサーニャに何をしているのかを知り、急いで手をどけた。

 

「あっ、悪い!今のはその……」

 

そう言ってどう説明しようか困るシュミットを見て、サーニャは笑って返した。

 

「大丈夫です、シュミットさん。その、気持ちよかったです……」

 

そうサーニャは頬を赤くしながら言った。それを聞いたシュミットは、恥ずかしくなって更に赤くなった。

 

「その、なんだ、それならよかった……」

 

何と言ったらいいか思いつかずそう言ったシュミットだったが、さっきのことがまだ恥ずかしいのか頬は赤いままで、サーニャから少し顔を逸らした。

それから暫く二人は無言になる。しかし、シュミットがその沈黙を破った。

 

「……そろそろ部屋に戻ろう、サーニャ」

「は、はい」

 

そう言って自分の部屋に並んで歩き出す二人。しかし、その間も話は一切無いままだった。

そしてサーニャの部屋の前に到着した後、シュミットはサーニャに挨拶した。

 

「それじゃあおやすみ、サーニャ」

 

そう言って手を振るシュミット。

 

「おやすみなさい、シュミットさん……」

 

サーニャも挨拶を返す。そうして、サーニャは部屋に入っていった。

それを見て、シュミットも部屋に戻った。

部屋の中でサーニャは、ベッドに寝ころびながら考え事をしていた。

 

(シュミットさん……撫でられたとき、凄く気持ちよかった……)

 

そう考えながら、サーニャは枕に顔を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、そういえばまだお風呂入っていなかった……」

その頃、部屋の前に来たシュミットはそのことを思い出し、再び来た廊下をUターンしたのだった。




気が付いたら6000文字も超えているジャマイカ……。


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第二章「ストライクウィッチーズ編」
第十話「新たな仲間」


ようやく文章がまとまりました。(ちなみに一度4000文字がパーになるトラブルが発生して枕を濡らしました)
ではどうぞ!



「扶桑へですか?なんでまた突然…」

 

シュミットがこの世界に来てから暫くたったある日、シュミットは坂本と話していた。

坂本は荷物を持ち、どこかへ向かう準備をしていた。

 

「実は扶桑で有望なウィッチが見つかったと連絡があり、私が直々にスカウトしに行くことになったのだ」

「少佐直々って…」

 

シュミットが不安するのは、最前線であるブリタニア防衛の501において、主力ウィッチが一人欠けることへの戦力ダウンを心配していたのだ。

 

「なに、心配するな。近々ここに新人が配属される」

「新人?」

 

新人という言葉にシュミットは驚き坂本に聞き返した。

 

「そう、新人だ。お前からしたら後輩だな」

「そうですが…」

 

後輩という響きは確かに聞こえがいいが、ここは最前線。新人を投入するほど連合軍は人材不足という状態に立たされているのだ。そのため、そんなウィッチ達を戦いに出すことをシュミットは内心複雑に考えていた。

 

「まぁいざという時はシュミット、お前が新人に色々教えてやれ」

「私がですか?」

 

突然のカミングアウトにシュミットは驚いた。

 

「しかし、私は男ですが大丈夫でしょうか…?」

「なに、心配するな。どの道この部隊の仲間になるんだから、早い内に関係を持つことも大切だぞ」

 

坂本に言いくるめられ、シュミットはこれ以上何も言わなかった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「というわけで、今日から配属になったリーネさんです」

「リ、リネット・ビショップです…」

 

翌日、ミーナによって集合した部隊員は、新たな新人の紹介をされた。因みにその席に坂本はおらず、既に扶桑へと出発した後だった。

 

(若いな、やっぱり…)

 

その容姿を見て、シュミットは内心そんなことを思っていた。年はルッキーニやサーニャよりは上かもしれないが、それでも若い彼女の姿は彼の胸を締め付けた。

 

「事前に言ったように基地の案内はシュミットさん、貴方にお願いします」

 

ミーナにそう言われ、シュミットは頷きリーネを見る。

 

「では、解散」

 

それと同時に、リーネの周りに他の隊員が詰め寄る。シュミットは机に座り腕を組みながらその光景を見ていた。女性の中に男一人が入るのは気が引けたので、彼は離れてその光景を見ることにした。途中、ルッキーニがリーネの胸を揉んではしゃいでいるのを見た時ばかりは、さすがのシュミットも顔を逸らしたが。

そして暫くして紹介が終わった後、リーネがシュミットの元にやってきた。

 

「宜しくリネット。私はシュミット・リーフェンシュタール、階級は中尉。宜しく」

「は、はい!」

 

と、自己紹介をする。しかしリーネは男性との接点があまりなかったのか、少し慌てたように返事をした。

 

「それじゃあ、基地を案内するからついてきてくれ」

 

そう言ってシュミットは初めて基地に来た時のことを頭に浮かべながら、基地を案内し始めた。

その後ろを、リーネがついていく。しかしリーネはシュミットの背中を見ながら考え事をしていた。

 

(この人がリーフェンシュタール中尉…)

 

シュミット自身は知らないことだが、彼はブリタニアではかなり有名になっていた。無論、列車を止め乗客を救ったことが大きく新聞に載ったことが原因だ。

そのため、リーネの中ではシュミットは遠い存在に見えていた。勿論、そんなことは現在シュミットが知るはずもなく彼は基地の案内を続けていた。

そして暫くして基地の案内を終えた後、シュミットはリーネに向き直った。

 

「さて、ここまでで何か質問はあるか?」

「だ、大丈夫です…」

「そうか」

 

そう言って、シュミットは基地の案内を終えた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

さて、少佐がいない間リーネを訓練するように頼まれたシュミットはユニットを履いていた。その横では、同じようにユニットを履いたリーネがいた。

 

「さて、これから飛行訓練を行う。私の後についてきてくれ」

 

そう言って、シュミットは先に飛行を開始する。それについていくようにリーネも離陸する。最も、まだリーネは離陸する姿が少し不安定ではあるが。

その様子を、ミーナが執務室から眺めていた。

そして、暫く飛行する間、シュミットはリーネを見ていた。

(なんていうか…力んでる?)

 

シュミットはリーネの飛行の様子を見ながらそう考えていた。飛んでいる姿自体は別にどうということはないが、リーネの表情が凄く真剣な表情をしており、シュミットはそんな風に思っていた。

その後、空中でホバリングしシュミットはリーネに言った。

 

「リネット、力んでるぞ。もっと肩の力を抜いて」

「は、はい…」

「ん~、まだ力んでる…」

 

シュミットはどうしたものかなと頬を掻く。

 

「あの、リーフェンシュタール中尉…」

「そう、それだ!」

「えっ!?」

 

突然シュミットが大声を出したことにリーネは驚いた。

 

「呼び方!なんか力んでる感じがあるなと思ったんだよ」

「ええっ…?」

 

まさかシュミットがそんなことを言うとは思わずリーネは困惑する。

 

「…よし、んじゃあ私はリネットを中佐と同じようにリーネと呼ぶ。リーネも私をシュミットと呼んでくれ」

「わ、わかりました。シュミット中尉…」

「階級も無しでいいんだけどなぁ…」

 

と、シュミットは苦笑いしながらまた頬を掻いた。

ちなみにシュミットは少しでも肩の力を抜かせようと砕けた話し方をした。この世界に来る前のシュミットなら、こんなことを言うことはなかっただろう。しかし、501の中に溶け込んでから彼は変わった。そのことを自分でも実感しているシュミットは、リーネがこの部隊にいれば必ず変化があると、シュミットは思っていた。

そしてシュミットとリーネは訓練を終え基地に帰投する。その頃には、リーネの力みもある程度解消され飛行も安定していた。

 

「さて、今日の晩御飯は何だろうな」

 

ユニットを片付けたシュミットは、そんなことを言いながら格納庫から出ていく。その姿を後ろから見ていたリーネは内心驚きながら見ていた。リーネの中でシュミットは多くのブリタニア人を救った人物であり、初のウィザードということもあって彼が怖い人物のイメージを考えていた。そんなイメージとのギャップの差にリーネはぽかんとしていたのだ。

その後、シュミットは夕食をとった後、ミーナの執務室に来た。

 

「中佐、少しいいですか?」

「どうしたの、シュミットさん?」

 

ミーナは突然やってきたシュミットに優しい声で聞いてきた。

 

「リーネのことなのですが」

 

そう言って、シュミットは訓練の時のことを説明した。それをミーナは静かに聞いていた。

 

「――というわけなのです」

「そうね…」

 

そう言って、ミーナは答えた。

 

「おそらく、ブリタニアが故郷だからじゃないかしら」

「ブリタニアが故郷…」

 

その答えに、シュミットも思うことがあったのか顎に指をあて考える。

 

「プレッシャー…ですか?」

「たぶんそうね」

 

彼女の故郷はブリタニアである。ヨーロッパ大陸の大部分がネウロイに占領された今、ブリタニアは連合国軍にとって欧州最後の砦。そこの最前線である501基地に配属されたことによるプレッシャーがリーネを緊張させているのだとミーナは推測した。

それを聞いてシュミットは納得したと同時に、ミーナの洞察力に感心していた。今日一日近くで見ていたシュミットよりも、最もらしい答えをミーナが出したからだ。

 

「とりあえず、訓練をかなり積ませて一度実戦にでも出さないとこの緊張は解れないでしょうね…」

 

そう言うシュミットは少し表情を暗くしながら執務室の窓の外を見たのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

それから暫く、シュミットは夜間飛行のない日は彼が教育をしていた。最初の頃は力んでいたリーネだったが、彼の指導のかいがあって訓練では少しずつ力を上げていた。

そこでシュミットはミーナに一度リーネを実戦に出してもいいかと提案した。ミーナはその提案に了承したが、いざ実戦に出した時、問題が発生した。

シュミットに言われ後方から狙撃するように言われたリーネだが、実戦となった瞬間再び力んでしまい訓練通りの力が出せなかった。

シュミットは格納庫付近の壁に凭れながら海を眺めていた。そしてリーネのことを考えていた。

 

(どうしたものかなぁ…)

 

シュミットはどうやってリーネに実戦慣れさせるか困っていた。現在のシュミットではお手上げ状態であったのだ。

その時、シュミットの上空からユニットのエンジン音が聞こえた。シュミットが顔を上げると、サーニャとエイラが基地に帰投し着陸しようとしていた。

シュミットが手を振って迎える。

 

「おかえりサーニャ、エイラ」

 

それを見てサーニャとエイラは手を振り返す。

 

「は~い、おかえり~」

 

と、シュミットの後ろから声が聞こえる。シュミットが振り向くと、水着姿で日光浴をしているシャーリーが二人に声を掛けていた。その横ではルッキーニが同じように水着姿で日光浴をしていた。

そこにペリーヌがやってくる。

 

「相変わらず、緊張感の無い方々ですこと。そんな恰好で…戦闘待機中ですわよ」

 

と、ペリーヌはシャーリーとルッキーニの格好に対して文句を言う。

 

「なんだよ~中佐から許可貰ってるし、解析チームも後20時間敵は来ないって言ってたぞ」

 

と、シャーリーは言う。

 

「それに、見られて減るもんでもな~い♪」

「ペリーヌは減ったら困るから脱いじゃだめだよ~」

「っ、大きなお世話です!」

 

と、シャーリーとルッキーニが煽りペリーヌが腹を立てる。そんな光景をシュミットは苦笑いしながら見ていた。

ちなみに彼としてはペリーヌ側である。この日は坂本が扶桑の新人ウィッチをスカウトして戻ってくる日であり、いつ何が起きても問題ないように戦闘待機中である。また、私情としてシャーリーの豊富な胸を直視できないからというのも理由である。

シュミットは小さく溜息を吐いて再び海を見る。相変わらずドーバーは穏やかであり、この海の先のヨーロッパがネウロイによって占領されているなんてとても思えない光景だった。

このまま20時間は何も起きずただ平穏のままであったらとシュミットは考えていた。

 

ヴウウウウウウウウウウウウウウ!!

 

と、シュミットの切なる願いは叶わなかった。基地全体にサイレンが鳴り響いたのだ。

 

「!?」

「敵!?」

「まさか、早すぎますわ!?」

 

と、先ほどまで言い合っていた三人が驚く。

シュミットはそんな三人を余所に格納庫へ走り出した。

それをみてペリーヌも格納庫に向かって走り出し、シャーリーとルッキーニも軍服に袖を通して後を追いかけた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

突如出現したネウロイは扶桑艦隊を襲ったが、ウィッチーズによってすぐさま撃墜させられた。先に交戦していた坂本と新人ウィッチによって足止めをし、そこにルッキーニが遠距離から狙撃してネウロイのコアを破壊した。

その後、シュミット達ウィッチーズは滑走路に集められた。

彼らの視線の先には坂本と、扶桑からやってきた新人ウィッチが並んで立っていた。

シュミットはその少女を見て、リーネと同い年ぐらいかと結論づけた。

 

「えー、皆揃ったな。では紹介しよう!」

 

坂本が口を切る。

 

「本日付けで、連合軍第501統合戦闘航空団に配属となった宮藤芳佳だ!」

 

そう言った後、坂本は宮藤を見る。

 

「宮藤芳佳です!よろしくお願いします!!」

 

この日、501統合戦闘航空団に新たな仲間が加わった。

 




ようやく主人公(原作)が登場しました。








やばい……無性にリリカルなのはの小説が書きたくなってきたどうしよう……(ボソッ)


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第十一話「芳佳とリーネ」

今回は早く書けたので早く投稿します。


シュミットは夜間哨戒中、今日やってきた新人ウィッチのことについて考えていた。

宮藤はリーネと同じぐらいの年だが、リーネと違い訓練なしで飛びいきなり実戦をして見せた。それが、リーネの不安を更に掻き立てないか心配していた。

 

「厄介な方に行かなければいいけどなぁ…」

 

そんなことを考えながら基地に帰投した彼は、遠くで刀を振っている坂本を目視した。その横には宮藤がいる。

シュミットは気になり格納庫に戻った後坂本達のいるところに向かった。

坂本は朝の鍛錬で刀を振っていた。それを宮藤は離れながら見ていた。

 

「早朝から精が出ますね、少佐」

「シュミットか、帰投したばかりか?」

「はい、それと宮藤だっけ?」

「は、はい!」

 

と、宮藤の大声の返事にシュミットは少し微笑んだ。

 

「これからよろしくな。ふぁ~…」

 

そう言って、シュミットは大きく欠伸をする。そしてのろのろとした足取りで基地に歩いていった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

朝、シュミットは眠たい体を起こしてブリーフィングルームに来ていた。既に部屋にはミーナと宮藤以外のウィッチ達が集まっており、皆がそれぞれの待ち方で待っていた。

そして、ミーナが宮藤を連れて部屋に入ってくる。宮藤の姿を確認したウィッチーズは視線をそちらに全員向ける。

そして壇上に上がったミーナが手をたたく。

 

「ハイ皆さん、注目。改めて今日から皆さんの仲間になる新人を紹介します」

 

そう言ってミーナは説明する。

 

「坂本少佐が扶桑皇国から連れてきてくれた、宮藤芳佳さんです」

「宮藤芳佳です、皆さん宜しくお願いいたします」

 

そう言って宮藤がお辞儀をする。

 

「階級は軍曹になるので、同じ階級のリーネさんが面倒を見てあげてね」

「は、はい…」

 

と、ミーナはリーネを指名するがリーネは自信なさそうに返事をする。

 

「はい、じゃあ必要な書類、衣類一式、階級章、認識票なんかはここにあるから」

 

そう言ってミーナは壇にある物を見せるが、宮藤はそれを見て顔色を変えた。

 

「あの…」

「はい?」

「これはいりません…」

 

そう言ってミーナに壇上にあった拳銃を手にもって渡した。

 

「何かの時には持っていたほうがいいわよ?」

「…使いませんから」

「そう…」

 

そう言って宮藤は拳銃を持つのを拒み、拳銃はミーナが受け取った。

 

「あっはははは、おかしなやつだな」

 

坂本がそう言って笑うが、ペリーヌが反応しルッキーニに聞いた。

 

「何よきれいごと言って、ねぇどう思う?」

「んぁ?」

 

と、ルッキーニが特に反応を示さなかったためペリーヌは更に癇癪を起こした。

 

「なによなによ!」

 

そう言ってブリーフィングルームから出ていくペリーヌ。それを見てミーナが苦笑いをする。

 

「あらあら、仕方ないわね…個別の紹介は改めてしましょう」

 

そう言った後ミーナは表情を引き締めた。

 

「では解散!」

 

それと同時にシュミット達全員が立ち上がる。それを見てミーナはブリーフィングルームを後にした。

シュミットはその一連の出来事を見て「まぁ、そうなるよな…」と、宮藤が拳銃を拒んだのを考えていた。元々ただの学生に過ぎず、ウィッチとしての訓練を受けていなかった少女がいきなり銃を持てと言われて納得するはずがない。

しかし同時にここは最前線。銃を手に取って戦うペリーヌからしたらその行為が理解できないのも頷ける。

そんなことを考えているとき、ルッキーニが宮藤に飛びついた。

 

「ひゃあ!!」

「どうだ、ルッキーニ」

 

シャーリーがルッキーニに聞く。ルッキーニは残念そうな顔をする。

 

「残念賞…」

 

それを聞いてエイラが言った。

 

「リーネは大きかった」

「うう…」

 

エイラの言葉を聞いたリーネが恥ずかしそうに頬を赤くして顔を下げる。

 

「あっはははは、私ほどじゃないけどね」

 

そう言ってシャーリーは手で胸を持ち上げる。宮藤はルッキーニに残念賞と言われ、自分の胸を触る。

 

「私はシャーロット・E・イェーガー、リベリオン出身で階級は中尉だ。シャーリーって呼んで」

「はい」

 

シャーリーはそう言って宮藤に手を差し出す。宮藤はその手に握手をするが、シャーリーのいたずらで思いきり握られ痛そうにする。

 

「ははははは、食べないと大きくなれないぞ!」

 

そう言って胸を張るシャーリー。宮藤はその胸を見て驚いたように見る。ルッキーニは、つまんないと言ってそんなシャーリーの胸に抱き着いた。

シュミットはその光景を顔を逸らしていたが、とりあえず自己紹介しないといけないと思い席を立ち宮藤の元に行く。

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン、スオムス空軍少尉。こっちはサーニャ・V・リトヴャク、オラーシャ陸軍中尉」

「…」

 

と、エイラとサーニャの自己紹介が行われる。尤も、サーニャは朝に弱く立ちながら眠った状態のためエイラが自己紹介をした。

 

「私はフランチェスカ・ルッキーニ、ロマーニャ空軍少尉!」

「んで私はシュミット・リーフェンシュタール、カールスラント空軍中尉だ」

 

そしてシャーリーに抱き着いているルッキーニと前に歩み寄ってきたシュミットも自己紹介をする。

 

「よ、宜しくお願いします」

 

芳佳は律儀にお礼をする。

 

「よし、自己紹介はそこまで。各自任務につけ。」

 

そう言って坂本が自己紹介を終わらせる。

 

「リーネと宮藤は午後から訓練だ。リーネ、宮藤に基地を案内してやれ」

「り、了解…」

 

坂本はリーネに宮藤を案内するように頼む。リーネは了承したが、その表情はまだ不安そうにしていた。

その後宮藤とリーネが基地の案内を始めたため、全員が各自行動を始めた。シュミットは本来午前中は眠るつもりだったが、自己紹介の間に目が覚めてしまったため、基地の射撃場で訓練することにした。

シュミットが火器を持ち射撃場に着くと既にそこには坂本とペリーヌがいた。ペリーヌは坂本から射撃について指導をしてもらっていたようだ。

 

「少佐にペリーヌ、二人も射撃訓練ですか?」

「ああシュミット、そうだ」

 

そう言う坂本の横でシュミットは的に向けて背負っていた機関銃を構えた。それはいつも彼が使っているMG151/20では無く、『MP40』と言うカールスラント製の短機関銃だった。

ある日、いつものようにネウロイ出現の時にMG151を持って出撃したシュミットだったが、大きなMG151は彼でも重量の関係で取り扱いが少し難しいという問題があり、ネウロイと格闘戦をしたときに少し扱いずらいと感じたのだった。そのため、手軽に扱える軽量の機関銃を使おうと考えた結果この機関銃を使うようになったのだ。尤も、戦闘の時はそのMPを両手に持って撃つバルクホルンの戦闘スタイルに似た形ではあるが。

 

閑話休題(それはさておき)

 

シュミットが射撃訓練をしばらくしていると、リーネが宮藤を連れて射撃場の案内に来た。リーネが射撃場の説明をすると宮藤はそこの敷地の広さに驚いていた。

ちなみにシュミットは射撃に集中していたためリーネたちが来ていることに気づかず、ずっと黙ったまま淡々と訓練をしていた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「あの人は?」

 

リーネに基地を案内されていた宮藤は、大勢のカメラマンに写真を撮られているウィッチが気になり質問した。

 

「ハルトマン中尉ですね。このあいだ撃墜数が200機になったんですよ」

「200機!?」

 

宮藤はハルトマンの撃墜数に純粋に驚いた。

 

「今までそんなにたくさんのネウロイと戦ってきたんだ……」

「隣にいるバルクホルン大尉なんて250機ですよ。ミーナ隊長も160機超えていますし、三人がいなかったらここもとっくにネウロイに制圧されていたと思います。他の皆もすごい魔法の技を持っていて、沢山の人や故郷を守ってくれているんです」

 

そう言うリーネは悲しそうな表情をする。

 

「本当にすごいんです、ウィッチーズは…」

「私なんて治療しかできないよ」

「それでも凄いです。私なんて何もできない足手まといですから…」

 

リーネはさらに表情を暗くする。宮藤は「そんな…」と反論するが、リーネは聞く耳を持たずに次を案内するが、振り返った先にある壁に激突した。

 

「うわっ!?…ごめんなさい!」

「リネットさん…」

 

リーネは壁に激突して謝り、宮藤はその様子を見て苦笑いをしていた。

その後、リーネと宮藤は屋上に行った後坂本の訓練に参加していた。

 

「もっと早く!!」

 

坂本の声が滑走路に響く。滑走路では宮藤とリーネが走っている。そこから離れたところではシュミットが訓練の様子を見学していた。

 

「お前達の前には何が見える!!」

「海です!!」

 

宮藤が応える。

 

「海の向こうには何がある!!」

「ヨーロッパです!!」

 

今度はリーネが応える。

 

「ヨーロッパは今どうなっている!!」

「ネウロイに占拠されています!」

「そうだ!お前達はそこを奪還せねばならない!その為には訓練、訓練、更に訓練だ!」

 

そう言って宮藤とリーネは滑走路を走る。その様子をシュミットは見ながらドーバーを見る。

 

(そうだ…この海の先にはネウロイに占拠されたヨーロッパがあるんだ…)

 

シュミットはそう考えながら宮藤達の訓練を見ていた。

その後、坂本とペリーヌも訓練に加わり4人で飛行訓練をしていたが、宮藤とリーネはへばってしまい夕日が眩しい滑走路に寝そべっていた。

 

「もうへばったのか宮藤」

 

坂本が二人の近くに下りながら宮藤に話しかける。その向かい側にはペリーヌが下りてくる。

 

「まぁ初日ならこんなものか」

 

そう言って宮藤とリーネを見ながら坂本が少し笑う。

 

「しかし魔法のコントロールはバラバラ、基礎体力もからっきしだな」

 

そう言いながら坂本はふと、シュミットのこと思い出した。シュミットは初めて来たときから魔法のコントロールも良く、基礎体力も高かったなと考え、宮藤がこのようになるのも当たり前かと思っていた。むしろ、初めてユニットを動かしてあそこまで飛行していたシュミットのほうが異常なのではあるが。

 

「貴方のような素人が一緒では私達が迷惑しますわ。さっさと国にお帰りになったら?」

「そう責めるのも良くないだろペリーヌ」

 

ペリーヌがそう責めるが、ペリーヌの後ろから声がする。坂本とペリーヌが向くと、そこには滑走路を歩きながら近づいてくるシュミットがいた。

 

「私だって初めて軍に入隊したときはこんな感じだったんだ。誰もが最初はこうだろう」

 

シュミットがそう言ったためペリーヌもこれ以上責めることをやめた。

 

「それより坂本少佐、空戦テクニックで試してみたいことが…」

「そうか、ならもうひとっ飛びするか」

「はい、是非!」

「よし、宮藤とリーネは今日はここまでだ」

 

そう言って坂本は再び飛び立つ。ペリーヌもそれに次いで飛び立つが、飛びながら宮藤に対してあかんべーをしていた。シュミットはそんな様子を見てやれやれと思ったのだった。

 

「宮藤、リーネ、二人ともそんなところで寝ていないで汗を流しに行きなさい」

 

そう言ってシュミットも滑走路を後にするのだった。後に残された二人は肩で息をしながら「はい……」と言ったのだった。

 




しゅみっとは あたらしぶきのつかいかたを おぼえた。
しかし、本編が始まるとシュミットを話に入れるの少し難しくなってきますね。


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第十二話「力合わせて」

第三話の後編です。ではどうぞ


翌日、宮藤とリーネは基地の上空を並んで飛行訓練していた。綺麗に飛ぶリーネの横で、宮藤はまだ不安定に飛んでいる。

地上ではミーナと坂本、そしてシュミットが見ていた。

 

「うーん、なかなか上達しないわね」

「魔法力は高いんだが、コントロールができていないんだあいつは」

「宮藤は魔力運用からやはり指導すべきですかね?」

「そうだな」

 

ミーナと坂本が宮藤の飛行する姿を見て言い、シュミットが今後の課題について言う。

 

「リーネさんは相変わらず訓練ではうまくやってるわね」

「私がいない間にシュミットが指導してくれたおかげだな。これで訓練の半分でも実戦で出来ればな…」

「リーネはやはり要領がいいと思います。後はあの空回りさえどうにか出来ればよかったのですが…」

 

リーネに対する評価もする。そんな中でシュミットは自分ではこれ以上は何もできないのかという自虐を心の中でしていた。

 

「いや、シュミットの指導は十分だ。後はあいつら次第なんだ…」

 

そう坂本がフォローするが、シュミットはやはり肩の荷が下りなかった。

訓練を終了すると、宮藤とリーネは昨日と同じように滑走路でへばっていた。

 

「はぁ…はぁ…」

「ふぅ…ふぅ…」

 

宮藤とリーネは肩で息をする。そんな二人の元に一人の人物が近づいていく。

 

「バルクホルンさん…」

 

肩で息をするリーネがその人物の名前を言う。近づいたバルクホルンは腰に手を当て宮藤を見る。

 

「新人。ここは最前線だ、即戦力だけが必要とされている。死にたくなければ帰れ」

 

バルクホルンは宮藤に対してきつく言う。そんな言葉に宮藤は応える。

 

「私は…皆の役に立ちたいと…」

「ネウロイはお前の成長を待ちはしない。後悔したくなければ、ただ強くなることだ」

 

そう言って、バルクホルンは宮藤達の元から離れていく。そんなバルクホルンを、宮藤はただ見ているだけしかできなかった。

その晩、宮藤は滑走路の先で海を眺めていた。

 

「宮藤さん?」

 

と、そんな宮藤に誰かが声を掛けた。宮藤が振り向くと、リーネが宮藤の元にやってきた。

 

「リネットさん」

 

その後、二人は並んで滑走路の先で座る。

 

「ここ、私のお気に入りの場所なの」

「そうなんだ!綺麗な場所だよね」

「うん」

 

そう言って二人は話し合う。

 

「今日も怒られちゃった、もっと頑張らないと…」

 

宮藤はそんなことを言うが、リーネは下を向く。

 

「宮藤さんが羨ましいな…」

「何が?」

 

突然、リーネが宮藤のことを羨ましいと言い宮藤は疑問に思う。

 

「…諦めないで頑張れるところ」

「同じこと通知表に書いてあった」

 

宮藤はそう言って笑うが、リーネはまだ悲しそうな表情をしたままだった。

 

「私なんて何の取り柄も無いし、ここに居ていいのかしら…」

「へ?リネットさんあんなに上手なのに」

 

宮藤はリーネの言葉を否定する。

 

「ううん、全然そんなことないわ…」

「上手だよ」

「訓練だけだの。実戦じゃあ全然だめで、飛ぶのがやっと…」

「えっ、訓練でできれば――」

「訓練も無しでいきなり飛べた宮藤さんとは違うの!!」

 

と、ついにリーネが叫ぶ。宮藤はそんなリーネに驚いた。

 

「っ…ごめんなさい」

 

リーネはしまったという表情をして宮藤に謝り、そして基地に向かって走り出してしまった。

 

「リネットさん!」

 

宮藤が呼ぶが、リーネはその言葉を無視してそのまま走り去ってしまった。宮藤はそんなリーネをたた棒然とみていた。

そんな光景を、基地の隅でミーナとシュミットが見ていた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「監視所から報告が入ったわ。敵、グリット東114地区に侵入、高度はいつもより高いわ。今回はフォーメーションを変えます」

「バルクホルン、ハルトマンが前衛!シャーリーとルッキーニは後衛!ペリーヌは私とペアを組め!」

「残りの人は、私と基地で待機です」

『了解!』

 

翌日、ネウロイが侵攻したため、501基地は緊急出動していた。

ネウロイ迎撃に出動した坂本達を、宮藤とリーネは滑走路から見ていた。

 

「行っちゃったね」

「そうですね…」

「今、出来ることって何だろう」

「足手まといの私に、出来る事なんて…」

「あっ、リネットさん…」

 

そう言って、リーネは基地に向かって走って行ってしまった。それと入れ替わるように、ミーナが宮藤の元にやってくる。

 

「宮藤さん、ちょっといいかしら」

「あっ、はい」

 

宮藤が返事をし、ミーナが説明する。

 

「リーネさんは、このブリタニアが故郷なの」

「え?」

 

ミーナから言われた内容に、宮藤は思わず声を漏らした。

 

「ヨーロッパ大陸がネウロイの手に落ちているのは知っているわよね?」

「はい、リネットさんに…」

 

宮藤はリーネに説明されたことを思い出す。

 

「欧州最後の砦、そして故郷でもあるブリタニアを守る。リーネさんはそのプレッシャーで、実戦だとだめになっちゃうの」

「リネットさん…」

 

宮藤はミーナの言葉に、リーネのことを思った。

そんな宮藤に、ミーナは質問した。

 

「宮藤さんはどうして、ウィッチーズ隊に入ろうと思ったの?」

 

その質問に、宮藤は即座に答えた。

 

「はい、困っている人達の力になりたくて――」

 

それを聞いてミーナは微笑んだ。

 

「リーネさんが入隊したときも、同じ事を言っていたわ」

 

そう言ってミーナは宮藤に言った。

 

「その気持ちを忘れないで。そうすれば、きっとみんなの力になれるわ」

 

ミーナは優しい声でそう言って、基地に歩いて行った。

その頃上空では、出撃した坂本達がネウロイを発見した。

 

「敵発見!突撃!」

 

そう言ってバルクホルンとハルトマンがネウロイに近づき、シャーリーとルッキーニが援護する。

しかし、攻撃を受けたネウロイは特に反撃もせず、あっさりと墜落していく。

 

「手応えがなさすぎる…」

 

ペリーヌが疑問に思い言う。

 

「おかしい、コアが見つからない」

「まさか、陽動ですの?」

 

ペリーヌのその言葉に坂本がハッとする。

 

「だとしたら…基地が危ない!!」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「リネットさん」

 

その頃宮藤は、リーネの部屋の前で立っていた。

 

「私、魔法もへたっぴで叱られてばかりだし、ちゃんと飛べないし、銃も満足に…使えないし、ネウロイとだって本当は戦いたくない」

 

宮藤は部屋の前で淡々と言う。リーネはそれをドアの前で聞いていた。

 

「でも、私はウィッチーズに居たい。私の魔法でも誰かを救えるのなら――何か出来る事があるのならやりたいの」

 

宮藤はさらに言う。その言葉を聞いて、リーネは表情をさらに沈める。

 

「そして、皆を守れたらって」

 

その言葉に、リーネは目を見開いた。

 

(守る…)

 

「だから私は頑張る。だからリネットさんも…」

 

リーネはその言葉に、ドアの向こうにいる宮藤の方に向く。

その時、基地の中をけたたましいサイレン音が響き渡った。

 

((敵襲!?))

 

その頃、基地のブリーフィングルームには待機していたミーナとエイラがいた。

 

「出られるのは私とエイラさん、シュミットさんだけね。サーニャさんは?」

「夜間哨戒で魔力を使い果たしてる。ムリダナ」

「そう…」

「ミーナ中佐、遅れました」

 

そう言って部屋に入ってくるシュミット。彼は元々夜間哨戒の為に寝ていたが、緊急出動となったため準備していたのだった。

 

「じゃあ、三人で行きましょう」

「待ってください!」

 

ミーナが出撃しようとした時、突如別の声が聞こえてきた。声のした方向を見ると、宮藤が立っていた。

 

「私も行きます!」

 

宮藤は自分も戦場に出ると言った。しかしミーナはそんな宮藤を真剣な表情で見た。

 

「まだ貴方が実戦に出るのは早すぎるわ」

「足手まといにならないよう、精一杯頑張ります!」

「訓練が十分でない人を戦場に出すわけにはいかないわ。それにあなたは、撃つことにためらいがあるの」

 

ミーナの正論には、シュミットも賛成だった。宮藤はまだ訓練が十分とは言えず、銃を撃つことにためらいがある。そんな兵士を危険な戦場に出すことなどとても出来ない。

しかし宮藤は真剣な表情で言い返した。

 

「撃てます!守るためなら!」

 

その言葉と表情を見て、シュミットは思わず驚いた。彼の目にはいつもの宮藤ではなく、真っ直ぐと信念を貫こうとする心が感じ取れたのだ。

しかしミーナはそんな宮藤を止めた。

 

「とにかく、貴方はまだ半人前なの」

「でも…」

 

と、そこに宮藤の後ろからリーネが現れた。

 

「私も行きます!」

 

そしてリーネも自ら行くと言った。その行動には宮藤やシュミットだけでなくミーナも驚いた。

 

「リネットさん…」

「二人合わせれば、一人分ぐらいにはなります!」

 

シュミットはそんなリーネの表情を見て、進言した。

 

「中佐、私は異存ありません。彼女達が自分から出撃すると言うなら」

 

その言葉にミーナは少し考え、そして決断した。

 

「90秒で支度しなさい」

 

ミーナは彼女達の出撃を許可したのだった。

 

『はいっ!!』

 

そして5人は基地を出発した。

上空でシュミットは自身の持つMG151/20とMP40の状態を確認していた。その時、ミーナがシュミットに声を掛けた。

 

「驚いたわ」

「はい?」

 

シュミットはミーナの言葉の訳が分からず変な返事をした。

 

「シュミットさんなら、二人の出撃を反対すると思ったから」

「ああ、その事ですか」

 

そう言ってシュミットは後ろを見る。後ろでは真剣な表情をした宮藤とリーネがいた。

 

「あの二人の表情を見て、私は彼女達を出しても大丈夫だろうと思ったので…根拠はありませんが」

 

そう言ってシュミットは再び視線を先に戻す。

そして、彼の強化した目はネウロイをとらえた。

 

「中佐、ネウロイを確認しました」

「判ったわ」

 

そう言ってミーナは全員に命令を下した。

 

「敵は三時の方向から基地に向かってくるわ!私とエイラさん、シュミットさんが先行するから、宮藤さんとリーネさんはここでバックアップをお願いね」

「はいっ!」

「はい!」

 

その命令に宮藤とリーネは返事をする。

 

「じゃあ、頼んだわよ」

 

そう言ってミーナとエイラ、シュミットの三人は先行を開始する。

残った宮藤とリーネはそれを見届けた。

 

「――宮藤さん」

 

と、ふいにリーネが宮藤に声を掛けた。

 

「本当は私、怖かったんです…」

 

リーネは宮藤に不安をぶつける。

 

「私は今も怖いよ。でも、うまく言えないんだけど…何もしないでじっとしている方が怖かったの」

「何もしない方が…」

 

リーネは宮藤の言葉を聞いて考えだす。

その頃、先行したシュミット達はネウロイと交戦し始めた。

それぞれの火器を撃つシュミット達だったが、ネウロイの速さに思うように当たらなかった。

 

「速い…」

 

エイラが思わず呟く。

 

「なんてスピードだ。弾が当たらない…」

「今までより圧倒的に早いわ…一撃離脱じゃ無理ね。速度を合わせて!」

「ん!」

「了解!」

 

そう言ってシュミット達はネウロイの速度に進行方向を合わせる。そして攻撃を開始する。

バックアップにいた宮藤とリーネはその様子を遠くから見ていた。

 

「…ネウロイ?」

「そうみたいです…」

「近づいてくるよ!」

「わっ!!」

 

宮藤の言葉にリーネは慌ててボーイズMk.Ⅰ対装甲ライフルを構える。そして照準器を覗きネウロイを見た。

 

「落ちろ…!」

 

シュミットはネウロイに対して強化したMP40の弾丸を撃ち込む。ミーナとエイラも、ネウロイに対して弾を撃ち込んでいく。

すると突如、ネウロイは自分の体を切り離し、さらに速度を上げた。

 

「加速した!」

 

シュミット達は分離したネウロイの胴体を回避して体制を立て直すが、ネウロイは急激な加速でシュミット達を引き離しにかかった。

 

「速すぎる!まずいわね!」

 

ミーナの言葉を聞いてシュミットは自身のユニットに強化をかける。強化のかかったFw190はネウロイに対して引けを取らない速度で加速する。

 

「もう少し…もう少し…」

 

シュミットはMG151/20を構える。そして、ネウロイが射程距離に入ったと同時に引き金を引いた。しかし…

 

「なっ!?」

 

突如、シュミットのユニットから黒煙が上がった。いつも以上に強化をかけたことによる内部破損だった。

シュミットは舌打ちをしながらミーナに報告した。

 

「すみません中佐!ユニット故障、黒煙が上がりこれ以上の追跡不能です!」

 

シュミットはミーナに報告する。ミーナはそれを聞いて宮藤とリーネに無線をつなげる。

 

「リーネさん、宮藤さん!敵がそちらに向かっているわ!貴方達だけが頼りなの、お願い!」

 

ミーナは宮藤とリーネにネウロイを託した。シュミットは事の成り行きを見守った。

そして、ネウロイは撃墜された。

リーネの飛行時の不安定な射撃を、宮藤が肩車することによって支え、リーネの放った六発の弾丸が高速移動するネウロイを撃ち抜いた。そして、コアを破壊されたネウロイは破片になって砕け散った。

 

「当たった!!」

 

リーネは初めてネウロイに弾を命中させ撃墜したのだ。

 

「すごーいっ!!」

 

宮藤はネウロイが砕けるその光景に目を奪われた。

 

「やった!やったよ宮藤さん!私初めて皆の役に立てた!宮藤さんのおかげだよ!!ありがとう!!」

 

リーネは興奮して宮藤に抱き着く。それによってバランスを崩した二人はホバリングできず海の中に落ちていく。

 

「あははははははは!」

 

宮藤とリーネは海から顔を出して笑い合う。

と、突然宮藤が笑顔でリーネに話した。

 

「“芳佳”でいいよ!私たち友達でしょ?」

 

その言葉を聞いてリーネも笑顔になる。

 

「じゃあ、私も“リーネ”で!」

 

それを聞いて宮藤が笑顔で返した。

 

「うん!リーネちゃん!」

「はい!芳佳ちゃん!」

 

そう言って、またリーネは宮藤に抱き着いた。

 

「あははははははは!」

 

そんな宮藤とリーネの元にミーナ達が合流する。尤も、シュミットはユニットが不調になったためエイラに肩を借りている。

 

「一件落着ですか、中佐?」

「そうね」

 

シュミットの問いにミーナも笑って返した。シュミットはリーネが笑顔になったのを見て心の中で安心したのだった




うーん、やっぱりシュミット君の出現回数が減るなぁ。


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第十三話「バルクホルンと宮藤」

気が付いたらお気に入りが100件超えている……それにUAも7000行っている……。

シュミット「どうしたんだ作者」
深山「夢を見ているみたいだ」



バルクホルンは夢を見ていた。それはネウロイに故郷を焼かれ、炎に包まれる夢だった。

 

「くっ!」

 

バルクホルンはネウロイに向かって機銃を乱射する。ネウロイはバルクホルンに対して反撃するが、バルクホルンはシールドを使いネウロイの攻撃を防ぎ、そして回避をしながらさらに弾丸を撃ち込む。そして、ネウロイはついに装甲を剥がしコアを露出させる。

 

「っ、うあああああああああああ!!」

 

バルクホルンは怒りの銃弾をそのコアに浴びせる。コアはその弾丸をもろに受けその体を白い破片に変える。そして破片は燃え上がるカールスラントに落ちていく。

バルクホルンはその光景を眺めていたが、彼女の視界にあるものが映った。それは、泣いている一人の少女だった。

 

「クリスッ!!」

 

バルクホルンは叫び、そして気が付く。ここは彼女の寝室であり、先ほど見ていたものは夢だと。

バルクホルンは部屋の中で一人呟いた。

 

「…なんで今頃、あんな夢を」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「おはよう…ふぁ~」

 

翌朝、シュミットは欠伸をしながら食堂に入ってきた。彼は夜間哨戒シフトに入っているため、基本的に朝は欠伸をしている。

 

「シュミットさん、おはようございます」

「おはよう宮藤、リーネ」

 

シュミットはカウンターの向こうで朝食を作っている宮藤とリーネに挨拶を返す。

 

「うん、いい薫りだな」

「今、お味噌汁を作っているんです」

「味噌汁…ああ、日本料理か」

 

シュミットは味噌汁が最初何か解らなかったが、それが和食だと知って何気なく言う。

 

「日本料理?」

「ん?ああごめん…扶桑料理だな」

 

芳佳とリーネはシュミットの言った日本が何か解らず聞き返す。シュミットは二人が自分が異世界から来たことを知らないのをすっかり忘れていたため、しまったと思いながら言い直した。

 

「そういえばシュミットさん」

「ん?なんだい?」

 

リーネに声を掛けられシュミットは返事をする。最近はリーネも普通に笑顔を取り戻すようになって、シュミットとも特に緊張無く会話できるようになっていた。

 

「知っていますか?カウハバ基地が迷子になった子供の為に出動したんですって」

「へぇ、そりゃまた凄いな」

「ですよね!」

 

リーネの話の内容にシュミットはそんなことを思った。

 

「でも、そうやって一人ひとりを助けられないと皆を助けるなんて無理だもんね」

「そうだね」

 

芳佳とリーネが笑い合って話すが、シュミットはその会話を共に笑い合うことはできなかった。

 

「…」

 

そんな二人を黙ってい見ているシュミットに、宮藤が疑問に思い聞いた。

 

「どうしたんですかシュミットさん?」

「いや、なんでもない」

 

シュミットはなんでもないと返す。しかしそんなシュミットの横で新たな声がした。

 

「みんなを助ける…」

「えっ?」

「ん?」

 

シュミット達が見ると、そこには朝食を取りに来たバルクホルンが立っていた。

 

「そんなものは夢物語だ…」

 

その言葉にシュミットも表情を暗くする。

 

「えっ、なんですか?」

 

宮藤は何を言ったのか聞き取れずバルクホルンに聞き返した。

 

「すまん、独り言だ…」

 

そう言って、バルクホルンはさっさと席に歩いて行ってしまった。

その後、他のウィッチ達も食堂にやってきて、それぞれ朝食を開始した。

しかしそんな中、バルクホルンは朝食に手を付けずじっとしていた。

 

「どうしたのトゥルーデ?浮かない顔で」

 

ミーナが聞く。

 

「食欲もなさそう」

「…そんなことはない」

 

ハルトマンの言葉をバルクホルンは否定しスプーンを動かし始める。しかし一口食べた後、バルクホルンは宮藤の方を向いた。

 

「…ん?」

「どうしたの?」

 

宮藤が突如振り返り、リーネは疑問に思う。

 

「誰か見ているような気がしたんだけど…」

「誰か?」

「…気のせいかな」

 

そう言って、さっきのことを忘れる宮藤。

 

「おかわりー!」

「あ、はーい!」

 

と、ルッキーニがご飯のお代わりを要求し、宮藤はテーブルに行く。しかし宮藤の目にあるものが飛び込んだ。それはバルクホルンの前に置かれていた殆ど手つかずの食事だった。

 

「あの…お口に合いませんでしたか?」

 

宮藤がバルクホルンに聞くが、バルクホルンは無言のまま席を立ち片付けに行った。

そんな様子をシュミットは納豆を食べながら見ていた。

 

(なんか変…というかここ最近変だな大尉は…)

 

宮藤もバルクホルンを見つめたまま固まるが、ルッキーニが宮藤にお代わりを要求したためすぐにそっちに意識が向く。

 

「バルクホルン大尉じゃなくてもこんな腐った豆なんて――とても食べられたんじゃありませんわ」

 

と、ペリーヌが納豆について文句を言う。シュミットはそんなことを言うペリーヌを見る。

 

「納豆は体にいいし、坂本さんも好きだって――」

 

宮藤の言葉にペリーヌが過剰に反応した。

 

「さ、坂本さんですって!?『少佐』とお呼びなさい!私だってさん…付けで…」

 

と、ペリーヌが盛大に自爆している姿をシュミットは笑いながら席を立つ。

 

「ご馳走様。おいしかったよ」

「あ、はい!」

 

そう言って自分のトレーを片付けに行くシュミット。しかし彼の心の中では、バルクホルンの普通じゃない行動について考えていた。

その後、考え事をしていたシュミットはミーナと坂本がいるのを見つけた。そして彼女たちの視線の先に、バルクホルンとハルトマンが飛んでいるのを確認した。

 

「中佐、何を見ているんですか?」

 

シュミットはミーナに近づきながら聞く。シュミットに気が付いたミーナと坂本は彼に振り向くが、またバルクホルンとハルトマンに視線を戻した。

 

「えぇ、バルクホルンがのれていないのよ」

「のれてない?」

「ああ、完璧主義者のあいつが遅れがちなんだ。だから次のシフトでは外そうと考えているんだ」

 

坂本の言葉を聞いてシュミットも空を見上げる。そこにはバルクホルンとハルトマンが並んで飛んでいるが、バルクホルンの動きが僅かに遅れていたのだ。

 

「もし不調なら、外した方が確かにいいかもしれないですね…」

「どうも、宮藤さんが来てからなのよ」

「宮藤が?」

 

ミーナの言葉にシュミットが不思議に思う。なぜ、宮藤なのか。

坂本は宮藤が原因と言って、ある提案をした。

 

「ならば、宮藤と組ませてみるか」

 

坂本の視線の先には宮藤が洗濯物を干しているところだった。

その後、坂本と別れたシュミットは、基地の中を歩いていた。彼の中では、バルクホルンの不調がなぜ宮藤なのかということが不思議だったため、基地の中を歩きながらずっと考えていた。

と、彼の視界の先にペリーヌが見えた。彼女ならバルクホルンのことについて何か知っているかもしれないと思い近づいた。尤も、シュミットからすると最も話しやすい相手が階級が同じであり、列車を共に止めたペリーヌだったからというのもある。

 

「ペリーヌ、少しいいか?」

 

シュミットがペリーヌに声をかける。その声に気が付いたペリーヌは、シュミットの方向を振り向いた。

 

「なんですか、シュミットさん」

「大尉のことについてなんだが…」

「…バルクホルン大尉の?」

 

そう言って、シュミットはバルクホルンの不調について説明し、彼について何か知っていることは無いかと聞いた。

 

「すみませんが、大尉のことについては私も…」

「そうか…」

 

そう言って顎に手を当てるシュミット。と、その時、彼の頭上でべしゃっ、と言う音が聞こえた。そしてシュミットは頭に感じる突然の冷たさに驚いた。

 

「うわっ!?」

 

驚いて頭に手をやると、それは水で濡れたモップだった。そしてそのモップを辿ってみると、そこには肩にモップを掛けた宮藤がいた。宮藤は声に気づきシュミットを見ていた。

 

「わわっ、ごめんなさい!!」

 

そう言ってシュミットにお辞儀する宮藤だったが、モップが再びシュミットに倒れてきたため彼は手でそれを受け止めた。

 

「宮藤…一応謝る時も周りに注意してくれ。危うくもう一回モップを被るところだったぞ…」

 

シュミットは溜息を吐きながら宮藤に言う。注意された宮藤はまた謝った。

 

「全く貴方は、注意力が散漫すぎですわ!」

 

と、ペリーヌが宮藤に指摘するが、宮藤は何かに気が付き横を見る。その行動に気づきシュミットも見た。そこにはバルクホルンとハルトマンが立っていた。

バルクホルンが宮藤に気づき見た。そして、少し目元をきつくした後、すたすたと歩きだしてしまった。

 

「あ、あの…」

 

声を掛ける宮藤だったが、バルクホルンはそれを無視して歩く。

 

「ちょっと宮藤さん!人の話を聞きなさいったら!」

 

ちなみに、宮藤に無視されたペリーヌは更に怒り、宮藤に大声で注意したのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

リーネはアフターヌーン・ティーの為に食堂で準備をしていた。

 

「芳佳ちゃん遅いな~」

 

と、食堂に駆け込んでくる足音がする。

 

「ごめん!遅れた!」

 

リーネが振り向くとそこには肩で息をしている芳佳がいた。

 

「どうしたの、心配したよ?」

 

リーネが心配そうに芳佳に言う。

 

「ごめんね~、広すぎて掃除が大変なの。さっ、手伝うね!」

 

そう言って芳佳もアフターヌーン・ティーの準備を始める。

そして準備をしていく二人だが、突然宮藤がリーネに話しかけた。

 

「ねぇ…」

「なあに?」

 

リーネは宮藤の言葉に耳を傾けた。

 

「私って、バルクホルンさんに嫌われているのかな?」

「へ?どうして?」

 

リーネは宮藤の言葉の意味が分からず聞き返す。宮藤は表情を曇らせながら話し始めた。

 

「うん、なんか避けられているような気がして…」

「気のせいだよ。だって、バルクホルン大尉は誰にでもそんな感じだよ?」

 

宮藤をフォローするようにリーネが言う。

 

「あ、中佐とハルトマン中尉は別だけどね」

「へ?」

 

今度は宮藤がリーネの言葉に驚いた。

 

「同じカールスラント出身で、戦いが始まった時からずっと一緒だったんだって。あの三人」

「へー」

 

と、リーネの説明を聞いて宮藤は驚きの声をあげる。しかし、あることが気になりリーネに聞き返した。

 

「あれ、シュミットさんは?」

「へ?」

「シュミットさんも同じカールスラント出身だから、ミーナ中佐達と一緒だったと思って」

 

宮藤の疑問は、同じ国出身でミーナやバルクホルン達と年が近いシュミットもずっと一緒だったと思っていたのだ。

それについてリーネが教えた。

 

「シュミットさんは1年ほど前にこの基地に来たから、ミーナ中佐達と最初から一緒じゃなかったよ」

「へー、そうなんだ」

「でも、少し不思議なの…」

「へ?なんで?」

 

リーネの言葉に宮藤が聞き返す。

 

「シュミットさんって、実は501より前の記録が無いの」

「へ?どういうこと?」

 

リーネの衝撃の発言に宮藤はどういうことか分からずまた聞き返した。

 

「今は中尉だけど、501に来た時はシュミットさんは少尉だったの。だけど、シュミットさんの過去の経歴が501からしか無いの」

「それって何かおかしいの?シュミットさんは私みたいに501が初めてじゃないの?」

 

ウィッチの制度について疎い芳佳はそのことについて特に変とは感じなかったらしい。しかし、リーネは芳佳にさらに説明する。

 

「本来ウィッチは、入隊時に階級が必ず軍曹にされるの。だけどシュミットさんが501に来たときは少尉ってことは、階級が2つ上なの」

 

それを聞いて宮藤もリーネが言いたいことを理解した。シュミットが宮藤と同じように501が初めてだとしたら、彼は入隊時に軍曹のはずだ。しかし、501に来た時が少尉だということは、過去に功績を上げて501に来たことになる。しかし、シュミットの過去にそのような経歴は無いのだ。

宮藤とリーネはそのことに疑問に思いながら、アフターヌーン・ティーの準備を進めていくのだった。

因みに、

 

「はっくしょん!」

 

そんな噂をされていることを知らないシュミットは、一人くしゃみをしながら「風邪かな…」と呟いていたのだった。

 




シュミット君ってあまり自分のことをベラベラ喋らないタイプの人だから、宮藤とリーネは彼が並行世界の住民だということを知らないんです。


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第十四話「家族」

すこしリリカルなのはに手をまわしていて更新が遅れました。どうぞ


夕方、シュミット達は食堂に集まっていた。この日は隊員の給料日であり、ミーナが手に給料の入った封筒を持っていた。

シュミットはこの世界に来てから多額の給料を貰っているが、彼はその給料の使い道が全くと言っていいほど無い。服などに特にお金を掛けず、これといった趣味が無いシュミットは毎回渡される多額の給料を部屋のトランクに仕舞う習慣ができているのだった。

その時、ミーナとバルクホルンの気になる会話をシュミットは聞き逃さなかった。

 

「今回はどうするの?」

 

ミーナがバルクホルンに聞く。その手には給料の入った封筒があった。

バルクホルンが言った。

 

「また、いつものようにしておいてくれ」

「少しは手元に置いておかないと……」

「衣食住全部出るのにそれ以外必要ない」

 

シュミットはバルクホルンの言った「いつも」と、ミーナの言葉から給料を毎月何処かに送っていることを推測する。しかし、シュミットはその送り先が何処なのかは全く検討が付かなかった。

 

「はい、シュミットさん」

 

そう考えている間に、ミーナはシュミットのところにやってきた。相変わらず封筒は多額の給料が入っており、シュミットはそれを見て「またか……」と思いなら受け取った。

ふと、先ほどのやり取りが気になったシュミットは、ミーナに話しかけた。

 

「中佐」

「はい?」

「後で少し時間いいですか?」

 

シュミットは真剣な眼差しでミーナを見た。それを見てミーナも、シュミットが何か真面目な話を持ち掛けると理解し了承した。

全員が給料を受け取った後、シュミットとミーナは厨房をバラバラに出て行くウィッチ達を見送りながら部屋に頃る。そして、部屋に誰もいなくなった後、二人は向き合った。

 

「それで、どうしたのシュミットさん?」

「はい、大尉のことなんです」

 

シュミットの言葉を聞いてミーナは表情を変えた。

 

「さっきの中佐と大尉の会話を聞いて、大尉はいつも何処かに給料を送っていると思ったのです。それと、今回の大尉の不調は何か関係ありませんか?」

 

ミーナはシュミットの言葉を聞き考えた後、口を開いた。

 

「トゥルーデには、入院中の妹がいるの」

「妹……」

 

妹という言葉にシュミットは過剰に反応した。

 

「カールスラント撤退戦は知っているわね」

「はい」

 

カールスラント撤退戦。それはネウロイのカールスラント侵攻に伴い行われた大撤退戦である。この撤退戦で、各地の防衛部隊に多大な犠牲を出した地獄のような撤退戦である。

 

「そのカールスラント撤退戦で、トゥルーデの妹が撃墜したネウロイの負傷してしまい、今もずっと意識不明なの」

 

それを聞いてシュミットは自分の過去と照らし合わせた。シュミットは過去に自分の妹を空襲で無くしている。その時も、妹の入院中は妹の為に懸命に働いていた。

 

「そんなことが……あったのですか……」

「え、えぇ……」

 

シュミットの声が震えているのをミーナは感じ取った。

 

「中佐、大尉は妹の病院には……」

「行っていないわ」

「!?」

 

シュミットが言い切る前にミーナは簡潔に答えた。そしてシュミットは驚いた。

 

「ま、全くですか……?」

「……そうよ」

 

その言葉を聞いてシュミットは拳を握り締めた。そしてミーナに「ありがとうございました」と言ってから食堂を退出した。

そして部屋に着いたシュミットは拳を握り締め、抑えきれない怒りを部屋の壁にぶつけた。ドンっ!と、鈍い音が部屋に響き渡る。そしてシュミットはそのままベットに倒れた。

壁に打ち込んだ右拳はまだ痛むが、シュミットはそんなこと全く頭に無く、ただただバルクホルンに対して怒っていたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「今日は編隊飛行の訓練を行う!」

 

翌日、格納庫では坂本以下数名のウィッチが集まっていた。その光景をシュミットは自分のストライカーユニットの整備をしながら聞いていた。因みに、彼一人では整備は出来ないため、整備兵二人もシュミットを手伝っている。

 

「私の二番機にリーネ」

「はいっ!」

 

リーネが大きく返事をする。

 

「バルクホルンの二番機には宮藤が入れ」

「っ……」

 

坂本が命令するが、宮藤はバルクホルンを見る。バルクホルンは宮藤の視線に特に反応せずじっと坂本を見ている。

 

「宮藤、返事はどうした」

「…はいっ!」

 

坂本が注意をして宮藤はようやく返事をした。

それを聞きながらシュミットは黙々とユニットの整備を行っている。因みに、今回の整備は只の整備ではなく、ユニット自体の改造も目的だった。これはミーナからの許可の元行われている。

 

「しかしいいですね、中尉」

「ん?何がだ?」

 

突然、一人の整備兵に言われシュミットは何のことか分からず聞き返した。因みにこの整備兵二人はシュミットと年が近く、男友達の少ないシュミットが気軽に話せる整備兵達だ。

 

「ウィッチ達に囲まれているのがですよ」

「ああ、そういうことか……」

 

そんな会話をしながらも手を休めないシュミット。

 

「だが実際、楽では無いな」

「そうですか?」

「ああ。女性の中に男一人が混じるのは肩身が狭い。だからこうやって気軽に話せる男友達などがいると凄い嬉しいからな」

「そうっすか……」

 

そう言いながらユニットの改造をする三人。そんな中、シュミットのエンブレムを見たもう一人の整備兵が口を開いた。

 

「しかし中尉のユニットのこのエンブレム、なんていうかかっこいいですね」

「ああ、『鉄の狼』って言うんだ」

 

シュミットのユニットに書かれたエンブレム。それは白いオオカミが鎖を咥えており、その狼の後ろに赤い剣が盾に伸びている姿である。そして三人はユニットの改造を終える。

 

「中尉、ユニットの改造はこれで完了しました」

「ご苦労、助かったよ」

「いえ!……しかし何故いきなり『耐久改造』を?」

 

そう、今回行ったのは『ユニットの耐久改造』である。シャーリーがP-51Dスピードを追求する改造をしていたように、シュミットは自身のユニットFw190Dに耐久改造を施したのだ。

 

「私の固有魔法のためだ。固有魔法の強化はユニットや武装の性能を底上げすることができるが、この間、ユニットに対して使っていた時に黒煙を噴いて壊してしまったんだ。だから少しでも耐久力を上げて壊れにくいようにしようと思ってさ」

「なるほど……」

 

シュミットの説明を聞いて整備兵二人も納得する。今回の改造は、この間の経験から思いついた内容だった。因みに、ユニットの耐久力を上げるために代償としてFw190は速度が少し落ちてしまったのだった。

シュミットは油で汚れた手を拭きながら格納庫の外に出る。上空では坂本、バルクホルン、宮藤、リーネの四人が編隊飛行を組みながら飛行している。

その様子をじっくり眺めていたシュミットだったが、突然鳴り響く警報を聞いてそれをやめた。振り返ると上空に信号弾が打ち上げられており、それがネウロイ侵攻を示していた。

シュミットは急いで格納庫に戻り、ユニットを履いた。ユニットの近くでは先ほどの整備兵二人が立っていた。

 

「ご武運を、中尉!」

「二人とも整備ありがとう。リーフェンシュタール、出撃する!」

 

そう言って背中にMG151を背負い、両手にMP40を持ったシュミットは滑走路を発進した。

そして上空に上がっていき坂本達と合流した。

 

「少佐、ネウロイは!?」

「グリッド東、07地区、高度一万五千にネウロイが侵入した」

 

そう言って、全員がネウロイの方向に飛行を始める。

飛行中、坂本はネウロイの出撃の不定期さに愚痴を零す。

 

「最近、奴らの出撃サイクルはブレが多いな」

「カールスラント領で動きがあったらしいけど、詳しくは……」

「カールスラント!」

 

ミーナの言葉にバルクホルンが反応した。

 

「どうした!」

「……いや、なんでもない」

 

坂本が聞くが、バルクホルンはそのことを誤魔化した。しかし、彼女の顔には明らかに気にしている様子が浮かんでいた。

 

「よし、隊列変更だ!ペリーヌはバルクホルンの二番機に、宮藤は私のところに入れ。シュミット、お前は遊撃だ!」

「了解!」

 

シュミットは坂本からの命令を受け、両手に持つMP40のセーフティを解除する。

そして坂本の魔眼が、ネウロイを捉える。シュミットも強化していた眼でネウロイを目視する。

 

「敵発見!」

「バルクホルン隊突入!」

「了解!!」

 

バルクホルンは降下しネウロイに突入を開始する。

 

「少佐、援護に!」

「了解!ついてこい宮藤!」

「はいっ!」

 

坂本は宮藤を連れ上昇をする。

シュミットも高度を上げ、上空からネウロイを見る。

バルクホルンがMG42を二丁構え、ネウロイに弾丸を浴びせる。そして離脱していくところを見ていたシュミットは、ペリーヌがバルクホルンの動きについていけず遅れている姿を見た。

 

(ペリーヌが遅れている……?)

 

シュミットはペリーヌが遅れているのを不思議に思った。

そしてシュミットは急降下しネウロイに向けてMP40の銃弾を浴びせる。強化を掛けた弾丸はMG151ほど抉ることは無いが、それでも高いダメージをネウロイに叩き込んでいく。

 

「やっぱりおかしいわ」

「え?」

 

と、ミーナが突然言い出した。横で聞いていたシュミットとリーネは何のことか分からずミーナを見る。

 

「バルクホルンよ!あの子はいつも視界に二番機を入れているのよ。なのに今日は一人で突っ込みすぎる!」

 

それを聞いてシュミットもバルクホルンを見る。バルクホルンはネウロイに急接近し、ホバリングしながら弾丸を浴びせている。それはあまりにも危険な行為だった。

 

「大尉!突っ込みすぎです!」

 

シュミットはバルクホルンに向かって怒鳴った。

 

「あそこを狙って!」

「はい!」

 

リーネはミーナから命令を受け、バルクホルンとペリーヌが攻撃している赤い部分を撃った。そして命中と同時にバルクホルンとペリーヌは離脱するが、それを見計らってかネウロイが反撃を開始し始めた。

バルクホルンは迫りくるビームをシールドで受けず回避する。しかし回避した先にはペリーヌがおり、彼女はシールドを張ったと同時にはじき飛ばされる。そして飛ばされた先にはバルクホルンがおり、ペリーヌとバルクホルンは空中で激突した。

 

「やばい!?」

 

シュミットが焦りネウロイに降下するが、ネウロイはバルクホルンのそんな隙を逃す事無く容赦なくビームを浴びせた。そして激突により反応が遅れたバルクホルンはシールドをまともに張ることができず、ネウロイのビームを食らってしまった。ビームはバルクホルンの持っていたMG42を貫き、その中に入っていた弾丸を誘爆させた。

 

「ああ!!」

 

そしてバルクホルンはそのまま地上へ墜落し始めた。

 

「大尉!!」

「バルクホルンさん!!」

 

ペリーヌと宮藤が墜落していくバルクホルンに駆け寄る。そして空中で二人はバルクホルンの体をキャッチする。

 

「おのれッ!!」

 

坂本がネウロイに対して怒りを露にするが、その横を一つの影が通り過ぎた。

それはシュミットだった。シュミットはその表情を怒りに変え、ネウロイに向けて突撃した。

 

「おのれ!!よくも大尉を!!」

 

シュミットは手に持っていたMP40を捨て、MG151に持ち替えた。そしてユニットに強化を掛けネウロイに突撃した。急激に速度を上げたシュミットは強化したMG151をネウロイに向けて容赦なく浴びせた。

 

「許さねえええ!!」

 

シュミットの怒りの弾丸はネウロイの装甲を大きく抉る。そしてネウロイはそんなシュミットを危険視したのか、離脱するシュミットに対して攻撃をする。

シュミットはそれを回避した後再びネウロイにダイブした。

 

「くたばりやがれ!!」

 

シュミットはネウロイの弾幕を掻い潜り、再び弾丸を浴びせた。そして今度はネウロイのコアを露出させた。

 

「コアだ!!」

 

坂本がネウロイのコアを確認する。その時だった。

 

「ぬあああああああああああああああ!!」

 

雄叫びを上げながら宮藤の治療を受けたバルクホルンが下からものすごい勢いで上昇してきたのだ。バルクホルンは両手にMG42と九九式二号機関銃を持ちながら突撃し、それをネウロイのコアに向けて撃った。

そしてネウロイはコアを穿たれ空中で欠片となってバラバラに砕けた。

その様子を空と地上の全員が見ていた。そしてミーナはバルクホルンに近づいた。バルクホルンはミーナに気づき振り向いた。

 

「ミーナ…」

 

パンッ!

 

バルクホルンの言葉を遮って、ミーナは彼女の頬を叩いた。そしてミーナは口を開いた。

 

「何をやっているの!?貴方まで失ったら、私たちはどうしたらいいの!故郷も何もかも失ったけれど、私たちはチーム…いいえ家族でしょう!この部隊の皆がそうなのよ!」

 

ミーナはそう言って、空いている手でバルクホルンを抱いた。

 

「貴方の妹のクリスだってきっと元気になるわ。だから、妹のためにも新しい仲間のためにも死に急いじゃだめ!!皆を守れるのは私達ウィッチーズだけなんだから!!」

 

ミーナは泣き出しそうな顔をしながらバルクホルンに言った。その言葉にはどれほどの感情が入っていただろうか。彼女たちが戦ってから失ってきた物が、その言葉の中にはどれほど含まれていただろうか。

バルクホルンは口を開いた。

 

「……すまない、私達は家族だったんだよな」

 

その言葉は、静かながらもウィッチーズ達全員に届いた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、シュミットはバルクホルンの部屋を訪れていた。

 

「大尉……」

「ん、どうしたシュミット」

 

バルクホルンはシュミットの方を振り向く。その表情はもう思いつめた様子は無くなっており、柔らかくなっていた。

 

「家族を……妹を大事にしてあげてください」

「……どうしたんだ急に」

 

シュミットの突然の言葉にバルクホルンは訳が分からず聞いた。

 

「たった唯一の、血の繋がった家族です。だから絶対大事にしてください。大尉が死んだら、残された人は心に深い傷を負うことになるから……」

 

その言葉の重々しさに、バルクホルンはシュミットの目を見た。彼の目は、目の前のバルクホルンでは無くどこか遠くを見ていた。

 

「シュミット……」

 

バルクホルンはそう言って、シュミットに近づき肩に手をやった。

 

「ああ、約束する。私はもう死なないと」

 

バルクホルンが笑顔で言う。その言葉を聞いて、シュミットも笑顔になったのだった。

 




彼のエンブレムイメージはエースコンバットのガルム隊エンブレムをシベリア狼にした感じです。


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第十五話「疑問と新記録」

ようやく投稿できた。


シュミットは現在、ユニットを履きながら基地の周辺を飛行していた。滑走路では数名の整備兵が上空を見たり、計測器を見ている。

現在行っているのは改造したFw190の調整だ。改造したことによってFw190は耐久力を上げたが、その分性能にピーキーな部分が生まれてしまった。そのため、今回の調整でそれを修正しているのである。

 

(しかし、すごい完成度だな)

 

シュミットはユニットの完成度に内心驚いていた。

 

『どうですか、中尉』

「ああ、短期間でよくここまで改造してくれた」

 

地上の整備兵からの無線にシュミットは答える。

現在シュミットは背中にMG151を背負い、両手にMP40を持っている。つまり彼の一番重武装の状態で飛行しているわけである。勿論その時にシュミットはユニットに強化を掛けているのだが、現在確認するだけでも特に目立った問題は無かった。

 

「こちらシュミット、これよりユニットに最大強化を掛ける。計測を頼む」

『了解しました!』

 

シュミットは地上に向けてこれから固有魔法を最大に掛けると言った。整備兵達は急いで計器に向き直る。

そしてシュミットは最大まで固有魔法を掛けた。急激に回転数を上げるシュミットのユニットは、勢いよく飛んでいく。そしてしばらくして、シュミットは加速が止まったのを体で確認してから整備兵に聞く。

 

「何キロ出た?」

『770キロです。ここから加速が止まっています』

 

整備兵の言葉を聞いてシュミットは宙返りをした。ユニットの耐久改造はスピードを犠牲にして行われたが、その速度の低下が彼の予想よりも少なかったため喜んでいた。

 

「次は空戦機動を行う!」

 

そう言ってシュミットは上空で強化を最大にしながら様々な機動で飛行する。

その様子をミーナと坂本がバルコニーから見ていた。

 

「すごい鋭い動きね」

「ああ、改造がうまくいったようだな」

 

ミーナと坂本はシュミットの鋭くなった動きを見て内心舌を巻いていた。彼は通常でも十分な機動をしていたが、現在の機動はそれを上回る動きだった。

しかしシュミットが飛行中、トラブルが起きた。

 

「なっ!?」

 

突如、高速旋回を行っていたシュミットがふらついたのだ。シュミットが急いでユニットを見ると、そこにはエンジンから黒煙を上げているFw190の姿があった。

シュミットは急いで高度を下げ、そして滑走路に着陸した。その様子を見て整備兵たちが駆け寄ってくる。

 

「どうしました中尉!?」

 

整備兵たちは突然シュミットが前触れもなく着陸したことに驚いていた。対してシュミットは足に穿いているユニットを見ていた。そこには、黒煙が出ていない普通のユニットがあった。

 

「いや、飛行中に黒煙が上がったんだ」

「なんですって!」

 

整備兵たちは驚く。シュミットはユニットを台に固定して足を出した。

 

「とにかく、何か故障しているかもしれない。急いで確認してくれ」

「分かりました」

 

そう言って、ユニットの分解をする整備兵達。その様子をシュミットは離れてみていた。

暫くして整備兵から掛けられた声は、シュミットの予想だにしなかった答えだった。

 

「変ですね…特に破損した部品が無いんです」

「…破損が無い?」

 

シュミットが整備兵に聞き返すが、整備兵は「はい」と首を縦に振った。

 

「エンジンと各種パーツを確認しましたが、どこにも異常がありませんでした」

「それは本当か?」

「はい。一応これから交換可能のパーツを新品に交換しますが……」

 

その説明を聞いてシュミットは不思議に思った。確かに上空でシュミットが感じたのは、何かが故障したような感覚だったのだ。

結局この件は、新品のパーツに交換することで暫く迷宮入りとなったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「えっ!?海に行くんですか?」

 

ブリーフィングルームに宮藤の声が広がる。シュミット達は現在ミーナに集められていた。

 

「ああ、明日の午前からだ。場所は本島東側の海岸」

 

坂本の言葉に宮藤が喜ぶ。しかしシュミットは内心でこれが訓練であると理解していたため喜んでいなかった。それは他の隊員も同じだった。

 

(海で訓練か……宮藤達“あれ”をやるんだろうな)

 

シュミットはここに来て受けた海の訓練のことを思い出していた。

ふと宮藤を見ると、坂本に注意されていた。

 

「なんだ宮藤!訓練が嫌いなのか!?」

「いえ、そうじゃないですけど!」

 

その光景を見てミーナは笑っていた。シュミットはそんな様子を見て、(やっぱり中佐はお母さんだ……)と思っていた。

 

「シュミットさん。なにか変なことを考えて?」

 

シュミットは突然ミーナに声を掛けられドキッ!っとして首を振った。その時の声が怖かったからだ。

そんなシュミットを見た後、ミーナは全員に向き直った。

 

「集合はここ。時間は1000時よ。いい?」

『了解』

 

ミーナの説明に全員が返事をした。

 

「分かったわね、宮藤さん」

「はい!」

「では以上の内容をシャーリーさんとルッキーニさんに伝達してください。シャーリーさんは朝からハンガーにいるわ。ルッキーニさんは…基地のどこかで寝ていると思うから探してみて?」

「わかりました」

 

ミーナからの命令に宮藤は固く返事をする。

 

「宮藤、別に一日中訓練という訳でも無いぞ」

「えっ、そうなんですか?」

 

シュミットが宮藤に頷く。それに補足するようにミーナが言う。

 

「つまり訓練の合間にはたっぷり遊べるってこと」

 

ミーナの説明を聞いて宮藤が希望を見たような顔をする。

 

(最も、その体力があればなんだけどなぁ)

 

と、シュミットは少し意地悪く思っていたのだった。

その後シュミット達は解散し、宮藤はシャーリーのところに向かっていた。因みにシュミットも自分のユニットが気になり宮藤達と一緒に向かっていた。

ふと、リーネがシュミットに声を掛けた。

 

「そういえばシュミットさん」

「ん?何だい」

 

シュミットはリーネに声を掛けられ振り向く。

 

「シュミットさんって原隊はどこなんですか?」

「原隊?」

 

突然リーネから言われた言葉にシュミットは何のことか考えた。そして今度は本当のことを言おうかどうか迷っていた。

 

「原隊かぁ…」

 

そして決心して言おうと思った瞬間、突如大きな音がハンガーから聞こえてくる。

 

「きゃあ!!」

 

宮藤とリーネは驚いて互いに抱き合う。シュミットは「またか……」と呟いていた。

 

「ハンガーの中から?」

「行こう!」

 

そう言って宮藤とリーネは走ってハンガーに向かう。シュミットはその二人の後を歩いてついて行った。

宮藤がハンガーにいる人物に声を掛ける。

 

「シャーリーさん!」

 

宮藤に呼ばれたシャーリーは振り返って手を振った。

 

「よう!どうしたんだ三人とも!」

 

シャーリーは呑気に答える。よく見ると頭にはウサギの耳が出ていた。

シュミット達三人はシャーリーのところへ行く。そこには、内部メカむき出しのユニットに足を入れているシャーリーがいた。

リーネがシャーリーに聞く。

 

「あの、さっきの音は…」

「ん?これのことか?」

 

そう言ってシャーリーは自慢げに足元のユニットを指さした。

 

「ふふん、これはな……」

 

そう言ってシャーリーは台に固定されたユニットを始動させる。ユニットからはものすごい轟音が鳴り響き、プロペラを思い切り回転させる。宮藤とリーネはその音に両手で耳を塞いだ。シュミットは最初からこの音が来ることを分かっていたため既に両手で耳を塞いでいた。

宮藤がシャーリーに向かって声を掛けるが、あまりの轟音に声がかき消されてしまっている。

 

「うん、いい感じだ。もう少しシールドとの傾斜配分を変えれば…」

 

と、シャーリーはそんな宮藤の様子に気づかずユニットの改造をしている。

すると、宮藤が手を上にあげてブンブンと振っているのを見て声を掛ける。

 

「何を言っているんだ?」

「音が……あの……」

 

シャーリーが聞くがその声は宮藤に届いておらず、宮藤の声もまたシャーリーに届いていない。

仕方なくシャーリーはユニットを止める。すると

 

「静かにして下さい!!!」

 

宮藤の声がハンガー内に響き渡った。その大声にシャーリーも耳を塞ぐ。

シャーリーが宮藤に言った。

 

「……声が大きい」

「え、あ、ごめんなさい…」

 

宮藤はシャーリーに言われて慌てて謝る。

 

「ていうかなんなんですか?ハンガーで一体何をやっているんですか?」

「も~うるさいな~……」

 

宮藤がシャーリーに質問すると、別のところから声が聞こえる。全員が声のした方向を振り向くと、ハンガーの鉄筋の上で目をこすってシャーリー達を見ているルッキーニがいた。

 

「ルッキーニちゃん!?」

「ふぁ~、せっかくいい気持で寝てたのに、芳佳の大声で起きちゃったじゃない」

 

そう言ってルッキーニは鉄筋から飛び降りる。

 

「ルッキーニちゃん、あの音平気だったの?」

「うん。だっていつものことだし」

「いつも?」

 

リーネの問いにルッキーニは当然のように答える。それに対して宮藤は疑問に思った。

 

「シャーリー、またエンジンの改造をしたのか?」

「よぉシュミット、お前もいたのか?」

「ずっと横にいたぞ……」

 

シャーリーはシュミットの存在を完全に認識していなかったのかそう答える。シュミットは自分の影の薄さに内心傷ついていた。

 

「エンジンの改造って、どういうことです……」

 

宮藤がシャーリーに聞く。シャーリーはユニットを履いたまま格納庫の外に向かった。

 

「おいで、見せてあげる」

 

そして五人は格納庫の外に出る。

 

「あの、改造って……」

「魔導エンジンのエネルギーの割り振りをいじったんだよ」

「割り振りって、攻撃や防御に使う分のエネルギーを変えてるんですか?」

「そういうこと」

 

そう言ってシャーリーは手に持っていたゴーグルを掛ける。

 

「一体何を強化したんですか?」

「また速さか?」

 

リーネとシュミットが聞く。

 

「勿論、速度!」

 

それに対してシャーリーは当然のように答えた。

 

「シャーリー!」

「おう!」

 

そうして、シャーリーはスタートの準備をする。そして、

 

「ゴーッ!!」

 

そしてルッキーニの掛け声と共にシャーリーは思い切り加速した。

 

「凄い!」

「なんて加速…!」

「まだまだ!」

 

そしてシャーリーはものすごい速さで上昇していく。その様子をバルコニーで坂本とミーナ、ペリーヌが観測していた。

 

「おっ、一気に上がったな」

「高度1000まで50秒。今までにない上昇速度です、少佐」

「ピーキーに仕上げたわね」

「お手並み拝見だ……」

 

そしてシャーリーは魔力を強くする。

 

「行くよマーリン!魔導エンジン出力全開!」

 

そうして、シャーリーは急激に加速する。その様子を見ていたリーネは加速が止まらずに驚く。

 

「シャーリーさんまだ加速してる」

「時速770キロ!780…785…790…795…800キロ突破!記録更新だよ!」

 

そしてシャーリーは宮藤達の目の前を通り過ぎて行く。

 

「いっけー!!」

「いけいけーシャーリー!!」

 

ルッキーニとシュミットが興奮した様子でシャーリーにエールを送る。そんな見たことないシュミットの姿を宮藤とリーネは驚きながら見ていた。

 

(もっとだ…もっと!)

 

しかしシャーリーの思いとは裏腹に、ユニットが振動し始め加速はここで止まってしまう。

 

「加速が止まります」

 

バルコニーで計測していたペリーヌがそう言う。

 

「どこまでいった?」

「800を超えたあたりです」

「そうか、800を超えると伸びなくなるのか」

「やっぱり、これが限界なのかしらね…」

 

ミーナがそう言うと、坂本も目の前の光景を見て呟いた。

 

「音速はまだまだ遠いな」

 

その後、シャーリーは滑走路に戻ってくる。そのシャーリーと並走する形で宮藤とリーネ、ルッキーニが走る。

 

「シャーリー!記録更新だよ!」

「凄かったです!」

「おおっ、やったあ!」

 

シャーリーがそういうとバランスを崩して三人の上に落ちてきた。三人は下敷きになってしまうが、シャーリーはそんな様子を気にせず呑気にこう言ったのだった。

 

「あー、お腹減った~!」

 

そんな様子をシュミットも微笑みながら見ていたのだった。

 




久しぶりに投稿した気分です。なんて言いますか、シュミット君影薄いかも(汗)
誤字、脱字、感想、お待ちしております。


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第十六話「海と音速」

第十六話です。気が付いたらUAが1万超えてびっくりしました。どうぞ。


「これなんですか?」

「グラマラスシャーリー新記録って、バイクの記録ですか?」

 

その後、ハンガーに戻ってきた5人。シャーリーがユニットを整備する横で、宮藤とリーネはシャーリーの写真が載った本を見ていた。シュミットは現在自分のユニットを見に行っている。

 

「シャーリーはパイロットになる前は、バイク乗りだったんだって!」

「へー、シャーリーバイク乗ってたのか」

 

ルッキーニの説明をちょうど戻ってきたシュミットが聞いて驚いた。尤も、彼は一度シャーリーがトラックを爆走させた時に、何かしらの陸の乗り物に乗っていたとは推測していたが。

するとシャーリーがハンバーガーを咥えながら振り向いた。

 

「ボンネヴィル・フラッツって知ってるかい?」

「ぼん…?」

「リベリオンの真ん中にある、見渡す限りすべて塩で出来た平原さ」

「そんな所があるんですか」

「ああ」

 

シャーリーの説明を聞いて皆関心する。

そしてシャーリーは思い出を語るようにしゃべり始めた。

 

「そこは、あたしらスピードマニアの聖地なんだ」

 

そして語り始めるシャーリー。シュミット達はその話を聞いて、シャーリーが速度に拘る理由を理解した。

 

「その日にあたしは軍に志願して入隊。で、今ここでこうやってるってわけ」

「それで、任務のない日にスピードに挑戦しているんですね」

「そういうこと。因みにシュミットは最速を競うライバルってわけだ」

「…誰がライバルだ?」

 

と、シャーリーの話を静かに聞いていたシュミットがツッコム。

 

「え?だって初めて最大速度出したとき、790キロ出したじゃないか!」

「あれは強化あっての結果だ。それに、ユニットはこの前改造したので最高速を落としたんだから」

 

と、シュミットが説明したのを聞いてシャーリーは驚いた。

 

「ユニットを改造したのか!でもなんで速度が落ちたんだ?」

「ああ、強化に耐えれるように耐久改造をした。おかげで最高速度は770まで落ちたがな」

 

そんな二人の会話を聞いて宮藤が口を開いた。

 

「最速かぁ、すごいなぁ。でも、それってどこまで行けば満足するんです?」

「そうだなぁ……」

 

そう言ってシャーリーは少し考えた後宣言した。

 

「……いつか音速――マッハを超えることかな!」

「へ?音速って何ですか?」

「音が伝わる速度のことだ宮藤」

「そう、大体時速1200キロメートルぐらいさ」

 

それを聞いて宮藤とリーネはその掲げる壁の大きさに驚いた。

 

「わぁ!」

「そんな速度を出すなんて本当に可能なんですか?」

 

リーネがシャーリーに聞いた。シャーリーは立ち上がりながら「さぁね」と言う。

 

「でも、夢を追わなくなったらおしまいさ」

 

そう言ってシャーリーは首にかけていたゴーグルを取りウィンクした。

 

「ま、今日はここまでっと」

 

そう言ってシャーリーはゴーグルを整備途中のユニットの翼に掛けた。

 

「ところで、二人は何か用かい?」

「え?」

 

それを聞いて二人は驚き顔を見合わせる。そして、思い出したように声を出した。

 

「あーっ、忘れてた!」

 

その後、滑走路へ歩きながら話す四人。ルッキーニはシャーリーのユニットのところで眠っていたのでそのままだ。

それがまさか、あのようなことになるとは誰も知らずに。

 

------------------------------------------------------------------------

 

翌日、晴れたブリタニアの空が501を照らす。尤も、全員の格好はいつもと違った。

 

「やっほーう!!」

 

シャーリーとルッキーニがはしゃぎながら海にダイブする。そして二人は豪快に海の中に水柱を立てて入っていく。

その奥ではバルクホルンがクロールをしており、それを追う形でハルトマンが犬かきをしている。

勿論、この日は全員水着を着ているのだ。

 

「肌がヒリヒリする……」

「腹減ったナ~」

 

浜辺ではサーニャとエイラが座っている。北国出身である二人は肌が日焼けに弱く、ブリタニアの暑い太陽に日焼け負けしていた。

すると、二人の座っているところが突然陰になった。二人が振り返ると、そこには大きなパラソルを持ったシュミットが二人に傘を傾けていた。

 

「北国出身だとここの太陽は暑いだろう」

 

そう言ってシュミットはパラソルを浜辺に差し込む。

 

「気が利くナ」

「まぁな」

 

そう言うエイラとシュミット。サーニャは声には出ていなかったがシュミットに向けて心の中で「ありがとう…」と思っていた。

ふと、エイラはシュミットの格好が気になり質問した。

 

「……ナァ、なんでシュミットは上着を着ているんダ?」

「ん?」

 

シュミットの格好は、下半身は水着なのだが、上半身はいつもの上着を着ていた。それもしっかりボタンを閉じている。

 

「ああ、これは「なんでこんなの履くんですか!?」……ん?」

 

シュミットが説明しようとした矢先、横から大声が聞こえて三人は声のした方向を振り向く。そこには訓練型のユニットを履いていた。

 

「何度も言わすな!万が一海上に落ちた時の訓練だ!」

「他の人達もちゃんと訓練したのよ。あとは貴方達だけ」

 

そう、宮藤とリーネはユニットを履いたままこれから海にダイブするのだ。ちなみにこの訓練はミーナの言う通り他の隊員もやっている。勿論シュミットもやったのだが、彼はあろうことか冬の海でやったのだ。

そのことを思い出したシュミットは何故か、夏なのに身震いをしていた。

 

「つべこべ言わずさっさと飛び込め!!」

 

そして坂本の掛け声と共に宮藤とリーネは海にダイブする。しかし二人は海に入った後懸命にもがくが、そのまま沈んで行く。

坂本とミーナは静かにその海を見守っている。

 

「……浮いてこないな」

「ええ……」

 

そして坂本は懐中時計を取り出し時間を見る。そしてその時間を確認した後呟いた。

 

「やっぱり飛ぶようにはいかないか」

「そろそろ限界かしら?」

 

ミーナは指を顎に当てながら言う。すると海の中から宮藤とリーネが出てきた。二人は懸命に酸素を求めるように顔を上げるが、何回も沈んでは浮き沈んでは浮きを繰り返していた。

 

「いつまで犬かきをやってるかー、こら。ペリーヌを見習わんか!」

 

と、坂本が言う。ペリーヌは懸命に犬かきをする宮藤とリーネの横に泳ぎながらやってくる。

 

「まったくですわ」

 

そしてペリーヌは宮藤とリーネを通り過ぎて行ったのだった。

 

「そんな……いきなり……むりっ……」

 

そして宮藤とリーネは再び海の中に沈んで行った。

 

「よーし、皆休憩だ!」

 

坂本の掛け声で全員が休憩に入る。他の隊員たちはまだ余力が残っており海で遊んでいるが、宮藤とリーネは海からユニットを持ってくるときには既にクタクタに疲れ果てていた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

そして二人は砂浜に倒れた。

 

「…もう動けない」

「私も…」

「遊べるって言ったのに……ミーナ中佐の嘘つき……」

「すぐ慣れるさ」

 

二人の上から声が聞こえる。顔を上げるとそこには水着を着たシャーリーがいた。

 

「シャーリーさん」

「シュミットの時に比べたらまだ楽な方だぞ?」

「へ?シュミットさんの時って?」

 

宮藤が興味を持ち質問した。

 

「二人が来る前の時にシュミットだけ一人であの訓練をした時があったんだが……」

「だが?」

「……冬の海の中でやらされたんだ」

「えっ?」

 

それを聞いて宮藤とリーネは固まった。

 

「それって、本当ですか……?」

「本当だぞ。だから今の季節にやっているお前達の方がよっぽど楽なんだ。それに……」

 

そう言いながらシャーリーは宮藤とリーネの間に仰向けに寝転がる。

 

「こうやって寝てるだけだって悪くはない」

 

そう言ってシャーリーは両腕を広げて寝る。それを見て宮藤とリーネも両手を広げて寝転がる。

 

「お日様あったかい……」

「うん、気持ちいい……」

「だろ?」

 

宮藤とリーネの感想をシャーリーは賛同する。

暫く寝転がっていた三人だったがふと、リーネがシャーリーに聞いた。

 

「……シャーリーさん」

「ん?なんだ?」

「その、シュミットさんの原隊って解りますか?」

 

シャーリーはリーネの言葉を聞いてふと目を開ける。

 

「シュミットの?本人に聞けばいいだろ?」

「その、この前聞きそびれてしまって。シャーリーさんならわかると思って……」

 

リーネの話を聞いて、宮藤も聞いた。

 

「そういえば私も気になります。シュミットさんってどこの人なんですか?」

「何処って……芳佳ちゃん。シュミットさんはカールスラント出身だよ?」

 

芳佳の聞き方にリーネが苦笑いをしながら返すが、シャーリーは芳佳の聞き方を聞いて「鋭い言い方だな……」と、呟いた。

 

「え?何か言いました?」

「……なぁ二人共、パラレルワールドって信じるか?」

「ぱら……何ですか?」

 

シャーリーの突然のカミングアウトに宮藤が訳が分からず聞き返した。

その問題をリーネは答える。

 

「えっと、今いる世界とは別の隣り合った世界?だったような……」

「ああ」

 

シャーリーの質問に答えるリーネだったが、答えた後リーネは「まさか……」と心の中で思った。

 

「シュミットは……」

 

と、続けて言おうとしたシャーリーの言葉は続かなかった。彼女は突然太陽を睨み始めた。

突然会話を止めたシャーリーを不思議に思い、宮藤とリーネは起き上がった。

 

「……シャーリーさん?」

「どうしたんですか?」

 

二人の問いにも答えないシャーリー。すると、睨んでいた眼を急に開いた。

 

「……敵だ!」

「えっ!?」

「ネウロイ!?」

 

シャーリーの言葉に二人は反応した。するとシャーリーは立ち上がり、急いで基地に走り始めた。

宮藤とリーネは反応が遅れ、置いて行かれるかたちになった。

 

「シャーリーさん!」

 

すると、基地から警報が鳴り始める。それに反応して、他の隊員も動き始めた。

 

「敵は一機、レーダー網を掻い潜って侵入した模様!」

「っ、また予定より二日早いわね!」

 

坂本の連絡を受け、ミーナは愚痴る。

 

「誰が行く!?」

「既にシャーリーさん達が動いているわ!」

 

そうして、シャーリーはいち早く格納庫のユニットに行く。

 

「イェーガー機、出る!」

 

そして、魔導エンジンに魔力を流し急発進する。

 

「シャーリーさーん!うわぁ!?」

 

と、滑走路にいた宮藤がシャーリーが通り過ぎたことにより倒れる。

 

「芳佳ちゃん、私達も!」

「うん!」

 

そして、宮藤とリーネも格納庫に行き発進する。

その間にも、シャーリーは上空で地上からの連絡を待つ。

 

『シャーリーさん聞こえる?』

「中佐!」

『敵は一機、超高速型よ。既に内陸に入られているわ』

「敵の進路は?」

 

シャーリーがミーナに聞く。

 

「方角はここから西北西、目標はこのまま進むと――」

 

地図を広げた坂本が定規で印をつけ、そしてたどった先に遭ったのは。

 

「――ロンドン!」

 

なんとその先にあったのはロンドンだった。

 

「ロンドンだ!直ちに単機先行せよ!シャーリー!お前のスピードを見せてやれ!」

 

それを聞いてシャーリーは首にかけていたゴーグルを上げる。

 

「了解!」

 

そして、最大速度で目標に向かって飛び出す。そのスピードは先を飛んでいた宮藤とリーネをあっという間に通り過ぎるほどだった。

そして地上では、ミーナと坂本が空を見ていた。

 

「……頼んだわよ、シャーリーさん」

 

ミーナがそう言う横で、シュミット達が到着する。

 

「中佐!ネウロイは!?」

「今、シャーリーさん達が先行して行っています」

 

その時、ルッキーニがシャーリーの飛んで行った方向を見ていた。

 

「あ~、シャーリー行っちゃった…まさかあのままなのかな…」

 

と、ルッキーニが気になる単語を呟いた。すかさずシュミットが聞いた。

 

「ん?あのままって何だ?」

「えっとね、夕べあたしシャーリーのストライカーをね……」

 

と、話すルッキーニの言葉が途切れた。それはシュミットの横にいたミーナの雰囲気があからさまに変わったからだ。その変化にシュミットは蛇に睨まれた蛙のごとく固まった。

 

「あの、なんでもないです……」

 

と、ルッキーニが振り返るがそこには黒いオーラを出したミーナがいた。

 

「続けなさい?フランチェスカ・ルッキーニ少尉?」

 

と、目の笑っていない顔で言われルッキーニは青ざめた。

 

------------------------------------------------------------------------

 

ルッキーニの説明を聞いたシュミットは青ざめた。

ルッキーニは昨晩、シャーリーのユニットを壊してしまい、それをあろうことか適当につなげて戻したのだ。つまり、現在のシャーリーのユニットは奇跡的に動いていると言っていい。

その頃、シャーリーは上空で不思議な感覚に飲み込まれていた。

 

(何だ?全然加速が止まらない。今日はエンジンの調子がいいのか?)

『……せよ!…尉!』

 

坂本が無線を送るが、ノイズが入りシャーリーの耳に入らない。

 

(この感じ…似てる…似てる…あの時と!)

 

そしてシャーリーはスイッチが入ったのか、魔導エンジンにありったけの魔力を流し始めた。

 

「いっけえええええええええ!!」

 

そして急激に加速するシャーリー。その加速は止まるところを知らず、ついには音速の壁を突破する。

シャーリーは音の無くなった空間を飛びながら驚く。

 

(これは…あたし、マッハを超えたの!?これが超音速の世界……?)

 

シャーリーは目の前に広がる光景に喜び始めた。

 

「すごい!すごいぞ!やった!あたしやったんだ!」

 

シャーリーはうれしくてバレルロールをする。

 

『聞こえるか大尉!返事をしろ!』

「少佐!やりました!あたし音速を超えたんです!」

 

坂本の無線がようやくシャーリーに入るが、シャーリーは音速を超えたことで頭がいっぱいであり、本来の目的を忘れていた。

 

『止まれーッ!!敵に突っ込むぞ!!』

 

その言葉を聞いた時には遅かった。シャーリーは目の前のネウロイに驚きシールドを張り、そのままの速度でネウロイに突っ込んだ。

それを、追っていた宮藤とリーネが見ていた。

 

「敵、撃墜です!」

『シャーリーさんは!?』

「えっと……」

 

宮藤達が確認すると、ネウロイの破片の向こう側に飛行機雲が見えた。

 

「大丈夫です!」

「シャーリーさんは無事です!」

 

そう言って近づく二人だが、シャーリーの足のユニットが突如外れ、海に向かって落ち始めた。

 

「あれ?わああ!?全然無事じゃない!!」

 

そうして、宮藤とリーネは落ちて行くシャーリーに急いで向かう。そして、シャーリーが海に落ちる寸前にギリギリでキャッチする。

そしてキャッチした宮藤は驚愕した。

 

「ええええええ!?何で!?」

 

その声を聞いた基地では、坂本が宮藤に無線を飛ばす。その横にはミーナとシュミットがいる。

 

「どうした!何があった!?」

『シャーリーさんを確保しました!でもっ……!』

「でもなんだ!「ああ……おっきい……」」

 

その言葉を聞いて坂本はきょとんとした。隣で聞いていたミーナとシュミットは察したのか赤くなる。

 

「おい、状況を正確に説明しろ!」

 

しかしリーネは海の上で大きく叫んだ。

 

「説明できませーん!!」

 

こうして、ネウロイは無事(?)撃墜されたのであった。




というわけで、水着回でした。シュミット君は気配りができる子です。


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第十七話「夜間シフトとシュミットⅡ」

というわけで、サーニャ回です!


ブリタニア上空、Ju52の中で坂本は仏頂面をしていた。

 

「不機嫌さが顔に出てるわよ、坂本少佐」

 

その坂本の向かい側に座るミーナが坂本を見て言う。

 

「わざわざ呼び出されて何かと思えば…予算の削減なんて聞かされたんだ。顔にも出るさ」

 

そう、二人はブリタニア上層部に呼び出されたのだ。その内容は501の予算削減の話だったのだ。

 

「彼らも焦っているのよ。いつも私達ばかりに戦果を挙げられてはね」

「連中が見てるのは自分たちの足元だけだ」

「戦争屋なんてあんなものを」

 

ミーナは話した後、少し表情を変えた。

 

「シュミットさんが言ったみたいにネウロイが現れてなかったらあの人達、今頃人間同士で戦い合っていたのでしょうね…」

「そうだな…世界大戦となっていたんだろうな…」

 

二人はそう言って次の言葉を失う。

坂本は横で外の景色を見ていた宮藤に話しかけた。

 

「悪かったな宮藤」

「え?」

 

宮藤は突然話を振られて何のことか分からず驚く。

 

「せっかくだからブリタニアの街でも見せてやろうと思ったのに」

「いえ…私は軍にもいろんな人がいるんだなって…」

 

そう話している途中で、宮藤は先ほどの坂本達の会話の気になることを聞こうとした。しかし、ここで別の声が聞こえてくる。

 

「~♪」

 

それは歌声だった。

 

「…あの、何か聞こえませんか?」

 

宮藤は坂本達に質問した。

 

「ん?ああ、これはサーニャの唄だ。基地に近づいたな」

「私達を迎えに来てくれたのよ」

 

と、ミーナが補足する。それを聞いて宮藤は輸送機の外で同行しているサーニャに向かって手を振った。

 

「ありがとう」

 

サーニャはそれを見て恥ずかしくなったのか、輸送機から離れ雲の中に入ってしまった。

 

「サーニャちゃんって、なんか照れ屋さんですよね」

「うふふ、とってもいい子よ。唄も上手でしょ?」

 

そう会話している間も、サーニャの唄声が輸送機内に流れる。と、突然その歌声がピタリと止まった。

 

「…あら?」

「どうしたサーニャ」

 

坂本がサーニャに聞く。

 

「……誰かこっちを見ています」

「報告は明瞭に、後大きな声でな」

「すみません」

 

坂本から注意され、サーニャは謝った。

 

「シリウスの方角に所属不明の飛行体、高速で接近しています」

「…ネウロイかしら?」

「はい、間違いないと思います。通常の航空機の速度ではありません」

 

それを聞いて坂本が魔眼で確認するが、彼女の目には何も見えなかった。

 

「…私には何も見えないが」

「雲の中です。目標を肉眼で確認できません」

 

それを聞いて宮藤が慌てる。

 

「ど、どうすればいいんですか?」

「どうしようもないなあ」

「悔しいけど、ストライカーが無いから仕方がないわ」

「そ、そんなぁ…」

 

と、宮藤に対して落ち着いて答える坂本とミーナ。

 

「!、まさかそれを狙って?」

「ネウロイがそんな回りくどいことなどしないさ」

「目標は依然、高速で近づいています」

 

ミーナが推測するが、坂本が否定した。その間にも、サーニャの報告ではネウロイが接近しているという情報が届いていた。

 

「サーニャさん、援護が来るまで時間を稼げればいいわ。交戦は出来るだけ避けて」

「はい」

 

ミーナの命令にサーニャは返事をし、フリーガーハマーの安全ロックを解除した。そしてそのままネウロイのいるであろう方向へ転換した。

 

「目標を引き離します」

「無理しないでね」

「…サーニャちゃんにはネウロイが何処に居るかわかるんですか?」

 

宮藤は先ほどまでのサーニャの動きを見て不思議に思い、坂本に聞いた。

 

「ああ、あいつには地平線の向こう側にある物だって見えているはずだ」

「へぇ~」

 

坂本の説明を聞いて宮藤は関心したように声を吐く。

 

「それで何時も、夜間の哨戒任務に就いてもらっているのよ」

「お前の治癒魔法みたいなもんさ。さっき唄を聞いただろ?あれもその魔法の一つだ」

「唄声でこの輸送機を誘導していたのよ」

 

ミーナと坂本が説明する中、サーニャは雲に向けてフリーガーハマーの引き金を引き、二つのロケット弾を発射した。ロケット弾はそのまま真っ直ぐ飛び、雲の中で爆発した。

 

「反撃してこない…?」

 

サーニャはネウロイからの攻撃が無いことに違和感を感じる。その間にも、輸送機はネウロイから遠ざかっていく。

 

「サーニャ、もういい。戻ってくれ」

「でも、また…」

 

サーニャは肩で息をしながらまだ戦えると言った。

 

「ありがとう、一人でよく守ってくれたわ」

 

ミーナの言葉に、ようやくサーニャも戦闘を終了した。

その頃、雲の下では基地から離陸したシュミット達が輸送機に向けて飛んでいた。

 

「ひどい雨だね。何も見えない」

「いや、あそこにいる!」

 

シュミットが強化した目で輸送機の機影を確認する。その横には、サーニャが並走していた。

それを見て、エイラが急いで駆けつけて行く。

 

「サーニャ!!」

「ちょっとエイラさん!勝手なことを…!」

「いや、いいだろう。戦闘は終わったようだ」

 

バルクホルンが輸送機の様子を見てそれを容認した。

しかし、輸送機と一緒に下りてくるサーニャの表情は暗かった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「それじゃあ、今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか」

 

バルクホルンは雨に濡れた体を拭きながら言った。

あの後基地に帰投した後、シュミット以外のウィッチ達はシャワーを浴びた。そして休憩が終了後、今回のネウロイについてミーティングルームで話し合っていた。

 

「ずっと雲に隠れて出てこなかったからな」

「けど、何も反撃してこなかったって言うけど、そんな事あるのかな?それ本当にネウロイだったのか?」

 

そう、ハルトマンの意見は尤もである。今までのネウロイは、ウィッチの攻撃に対して反撃の行動を示していた。しかし今回のネウロイはサーニャの攻撃を受けたにもかかわらず反撃を一切してこなかったのだ。

 

「恥ずかしがり屋のネウロイ!」

「……」

「……なんてことないですよね。ごめんさない…」

 

リーネが場の空気を和ませようと言うが、全員が反応しなかったためリーネは縮こまってしまった。

 

「だとしたら、ちょうど似た者同士気でも合ったんじゃなくて?」

 

ペリーヌが紅茶を飲みながらそんなことを言うため、それを聞いたエイラが舌を出す。

 

「ネウロイとは何か。それが明確になっていない以上、この先どんなネウロイが現れても不思議ではないわ」

 

ミーナが手に持ったマグカップを回しながら言う。

 

「仕損じたネウロイが連続して出現する確率は極めて高い…」

「ということは、また現れるってことか?」

 

バルクホルンの言葉にシュミットが聞く。それをバルクホルンは頷いて返した。

 

「なににしても、しばらくは夜間戦闘を想定したシフトを敷こうと思うの」

 

ミーナの提案に、全員が賛同する。

 

「サーニャさんとシュミットさんはこれまで通りとして、宮藤さん」

「は、はい!」

「当面の間、貴方達は夜間専従班に任命します」

「えっ!?私もですか!?」

 

宮藤は突然自分が夜間専従班に任命されたことに驚く。

 

「宮藤は今回の戦闘の経験者だからな」

 

坂本が任命された理由を言うが、宮藤はそれに納得してはいなかった。

 

「そうなると、もう一人必要ね……」

 

そう、ミーナの言う通りもう一人必要になる。501では基本的に二人一組のロッテ戦術を使う。そのため、三人一組の戦術を使用しないため、一人減らすかもう一人入れるかした方がいいのである。

 

「わ、私はただ見てただけで…うわっ!?」

「はいはいはいはい!!私もやる!!」

「いいわ、じゃあエイラさんも含めて四人で」

 

と、宮藤が話しているところを頭を押さえる形でエイラが割り込む。エイラは既に夜間戦闘班のメインからは外れていたが、彼女は501にシュミットが来る前まで、501内でサーニャの次に夜間戦闘経験がある。そのためミーナはエイラの参加を許可した。

 

「すみません。私がネウロイを取り逃がしたから…」

「ううん。そんなこと言ったんじゃないから!」

「そうだサーニャ」

 

サーニャの言葉を宮藤が否定する。そして同時に、今まで黙っていたシュミットも否定した。

 

「サーニャ一人で出来ないなら、四人で戦えばいいんだから」

 

そうシュミットは優しく言った。エイラはその言葉にムッとしたが、サーニャはその言葉を聞いて少し肩の荷が下りたような感じがした。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「あら、ブルーベリー。でもどうしてこんなに?」

 

翌日の朝、食堂に来たペリーヌが沢山籠に詰め込まれたブルーベリーを見てそう言った。

それをリーネがもう一つ籠を持ちながら答えた。

 

「私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ?」

 

テーブルの方では他の隊員が朝食後のデザートにブルーベリーを食べていた。そしてリーネの会話を聞いてバルクホルンが口を開いた。

 

「確かに、ブリタニアでは夜間飛行のパイロットがよく食べるという話を聞くが…」

「目にいいのなら、私は尚更食べないといけないな」

 

バルクホルンの言葉を横で聞いてシュミットもブルーベリーを食べ始めた。

 

「芳佳、シャーリー!ベ~して、べ~!」

「?べ~」

「?こう?」

「べ~」

 

と、三人は互いの紫色になった舌を見せ合う。それを見て笑い合う三人を見て、ペリーヌが口元を拭きながら見ていた。

 

「まったくありがちなことを……」

「お前はどうなんダ?」

 

と、後ろからそろりと近づいたエイラによって口を開かれるペリーヌ。そこは紫色に色が変わっていた。

それを見て坂本が目の前で立ち止まり「何事もほどほどにな…」と言いながら立ち去って行ったので、ペリーヌは半泣きになりながらエイラに詰め寄っていく。

 

「なんてことなさいましてエイラさん!」

「なんてことナイって」

 

その光景を見ていたシュミットは自分の口の前に手をかざして舌を見た。案の定、舌は紫色に変わっていた。その様子を見てバルクホルンが尋ねた。

 

「……どうした?」

「いや……食べすぎも注意だなと思ってな」

 

そんな感じに出来事が起きている中、サーニャは静かにブルーベリーを食べていたのだった。

 

「さて、朝食が済んだところで……」

 

食事が終了し、坂本が夜間専従班となったシュミット達に向き直った。

 

「お前たちは夜に備えて寝ろ!!」

「了解」

 

その宣言を聞いて、シュミットは了承する。宮藤は何故か分からない様子だったが。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その後、シュミット以外のウィッチ達が集まっていた。

 

「さっき起きたばっかりなのに…何も部屋の中まで真っ暗にすることないよね」

「暗いのに慣れろって事ダロ」

 

宮藤は文句を言っていた。それに対してエイラが理由を説明した。

 

「ごめんね、サーニャちゃんの部屋なのにこんなにしちゃって……」

 

宮藤に声を掛けられ、サーニャは顔を上げる。

 

「別に…いつもと変わらないけど…」

「そうなんだ…でも、なんかこれお札みたい…」

「オフダ?」

 

宮藤が言う後ろでエイラが聞く。

 

「お化けとか幽霊とか入って来ませんようにっておまじない」

 

それを静かに聞いていたサーニャが口を開いた。

 

「私、よく幽霊と間違われる…」

「へ~、夜飛んでるとありそうだよね」

「ううん、飛んでなくても言われる…いるのかいないのかわからないって」

「ツンツンメガネの言う事なんか気にすんナ。暇だったらタロットでもやろう」

 

そう言って、エイラがベッドの上にタロットカードを並べる。そしてその中の一枚を宮藤が引いた。

 

「どれどれ…ふーん。よかったナ。今一番会いたい人ともうすぐ会えるって」

「えっ、そうなの!?」

 

それを聞いて宮藤が笑顔になるが、すぐに表情を暗くした。

 

「…でも、それは無理だよ」

「なんデ?」

「だって、私の会いたい人は…」

「そうか…そう言われてもナ~」

 

そう言ってベッドに寝っ転がるエイラだった。その様子を見てから宮藤はふと壁を見た。

そこにはカレンダーが掛かっており、18日に丸印が書いてあった。それを見て宮藤は「あれ?」と思った。

 

 




うーん、シュミット君やはり薄い。


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第十八話「重み」

すこし更新が遅れました。どうぞ


宮藤達が部屋で話し合っている頃、シュミットは自室で魘されていた。

彼は夢を見ていた。それは、一人の青年が炎の中を走っていた。

景色が炎の海となっているハンブルクの街。そこを走る青年は、妹を探していたのだ。

 

「どこだ!どこにいるんだ!!」

 

青年は叫びながら懸命に妹を探す。そして、燃える街の中で真ん中に倒れている妹の姿を確認する。そして彼は妹の元に駆け寄ると、背中におんぶさせる。

その時、燃えていた建物の一部が崩れ、兄弟に向けて降ってきた。その時の光景はスローモーションで見えた。そして、瓦礫となった建物が兄弟の前に迫ってくる。

 

「うわあああああああああああああ!!」

 

シュミットはベッドの上で悲鳴を上げ起き上がった。そして、シュミットは周りを見渡し、自分の部屋の中にいることを確認した。

 

「はぁ…はぁ…」

 

シュミットは肩で息をしながら、自身の胸に手を当てた。シャツは触るだけでわかるほどグッショリと濡れていた。そしてその向こう側にはバクバクと唸る心臓があった。

シュミットは呼吸を整えていき、ゆっくりと落ち着いていく。

 

「最悪だ…」

 

シュミットはそう呟き、汗まみれの体を洗うためにお風呂に向かった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「夕方だぞ~おっきろー!」

 

ルッキーニの声が聞こえ、部屋で眠っていた宮藤達は目を覚ます。そして全員が食堂に向かう。そこには既に、シュミット以外の全員が席についていた。

 

「あの、シュミットさんは?」

「シュミットさんは汗をかいたからと言ってお風呂に行ってるよ」

 

宮藤の質問をリーネが説明しているとき、ちょうどシュミットが食堂に入ってきた。そして部屋が薄暗くなっているのに気づいた。

 

「…なるほど、夜間対策か」

 

そう言って席に座るシュミットだが、彼は疲れたような表情をしていた。

 

「…どうしたシュミット。疲れた顔をしているぞ」

「…いえ、悪い夢を見ただけです」

 

坂本が気付き声を掛けるが、シュミットは特に答えなかった。

そして彼らの目の前にはマリーゴールドのハーブティがあった。全員がそれを飲む。

 

「…山椒みたいな匂いだね」

「山椒?」

 

芳佳がそう感想するが、リーネは何のことか分からなかった。その時、ルッキーニが芳佳の横に現れた。

 

「芳佳、リーネ、もっかいべ~して」

 

そうしてルッキーニ達が舌を出すが、別に変色していることは無かった。ルッキーニは面白くなさそうな表情をした。

そして静かに飲んでいたシュミットとサーニャはこの時、偶然にも同じ思いをしていた。

 

((……まずい))

 

そしてその後、夜間専従班のシュミット、サーニャ、宮藤、エイラの四人はハンガーから滑走路を見ていた。滑走路に誘導灯が付くが、宮藤は初めての夜間哨戒の為目が慣れておらず、目の前の光景を見て竦んだ。

 

「あっ…震えが止まんないよ」

「何で?」

「夜の空がこんなに暗いなんて思わなかった」

「夜間飛行初めてナノカ?」

「無理ならやめる?」

「今ならやめることもできるがどうする?」

 

シュミット達三人は宮藤を心配し提案するが、宮藤は手を目の前に出してこういった。

 

「…て、手つないでもいい?サーニャちゃんが手を繋いでくれたら、きっと大丈夫だから」

 

それを聞いたサーニャの魔導針が緑色からピンク色に変わった。心なしか使い魔の尻尾も揺れている。そしてサーニャが宮藤の右の手を繋いだ。それを見て面白くなさそうにしていたエイラが反対側に行き、宮藤の左の手を繋いだ。

 

「さっさと行くゾ!」

 

その光景を見ていたシュミットが、三人の前に出る。

 

「それじゃあ、先に私が離陸する。宮藤は後についてこい」

「は、はい!」

 

そう言って、MG151を背負ったシュミットがユニットを始動させ先に離陸していく。その後ろを付いていくように、三人も離陸する。

 

「えっ、ちょ、心の準備が!?」

 

宮藤は心の準備が整っていなかったが、そのことに気づかない三人はそのまま離陸してしまう。

しかしその気持ちもすぐ消えた。四人が雲の上まで来た時、宮藤はその光景を見て目を輝かせた。

 

「すごいなぁ!私一人じゃ絶対こんなところへ来れなかったよ!」

 

宮藤は上空で8の字に飛行しながらはしゃいでいた。

 

「ありがとうサーニャちゃん!エイラさん!」

「…うぉーい私は?」

 

と、忘れられていたシュミットがツッコむ。

 

「あ、ごめんなさいシュミットさん…」

「…まったく」

 

そんな感じに夜間哨戒は過ぎて行き、結局この日はネウロイは現れなかった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、食堂で座っていたシュミット達の目の前には奇妙なものが置かれていた。

 

「…これなんだ?」

 

シュミットが代表して言った。それを宮藤が答えた。

 

「肝油です、ナツメウナギの。ビタミンたっぷりで目にいいんですよ?」

 

そう言う宮藤の手元には一斗缶が抱えられており、漢字で「肝油」と書かれていた。

 

「…なんか生臭いぞ?」

「魚の油だからな。栄養があるなら味など関係ない」

 

ハルトマンが匂いを嗅いで感想を零し、それをバルクホルンが問題ないと宣言している。

ペリーヌはそれが宮藤の用意したものだと思い馬鹿にする。

 

「あっはは、如何にも宮藤さんらしい野暮ったいチョイスですこと」

「いや、持ってきたのは私だが…」

 

ペリーヌが笑う姿を宮藤の横で見ていた坂本が言う。そう、これを持ってきたのは坂本だったようだ。

それを聞いて今まで馬鹿にしていたペリーヌが固まる。

 

「あ、ありがたくいただきますわ!!」

 

と、慌てて肝油の入った容器を手に取り、一気に飲み干した。途端、ペリーヌは再び固まった。

 

「うぇ~なにこれ~」

 

と、ルッキーニが舌を出しながら肝油に対して感想する。その横ではシャーリーが容器を咥えながら

 

「エンジンオイルにこんなのがあったな…」

「…シャーリー、お前エンジンオイル飲んだことあるのか?」

 

と、感想を零していた。因みにそれを聞いてシュミットが突っ込んだ。

 

「ぺっぺっ!」

「……」

 

エイラはその味を舌が拒絶したのか懸命に吐き出していた。その横に座るサーニャは肝油の容器を手に持って下を向いたまま固まっている。

 

「新米の頃は無理やり飲まされ往生したもんだ」

「……お気持ち、お察しいたします」

 

坂本が昔のことを思い出すように言うが、ペリーヌはその味に完全に撃沈して悶えていた。

 

「もう一杯♪」

 

と、ここでまさかのミーナである。彼女はそれを飲んでおかわりを要求しているではないか。その横ではハルトマンがミーナを見て引いており、さらに横ではバルクホルンが「ま、まずい…」と言って撃沈していた。

しかし、シュミットはミーナを見て問題ないのかなと考えてしまい、彼はその肝油を一気に飲み干してしまった。

 

「………」

 

そして容器を口元につけたまま彼は停止した。目は開いているが、完全に意識は無くなっている。つまり、目を開けたまま気絶してしまったのだった。

そしてその日、屍を生み出した食堂に唯一いなかったリーネは、事前に肝油を察知して部屋に逃げていたのだった。

その後、昨日と同じく夜間専従班は再び部屋に戻った(シュミットは気絶しているのをミーナに起こされ部屋に戻った)。

宮藤達女性陣は部屋の中で昨日と同じようにベッドの上に固まっていた。

ふと、宮藤が二人に質問した。

 

「ねぇ、エイラさんとサーニャちゃんの故郷ってどこ?」

 

その質問に二人は寝転がりながら答えた。

 

「私スオムス」

「オラーシャ…」

「えっと、それってどこだっけ?」

 

宮藤は懸命に欧州の地図を頭の中で開いている。

 

「スオムスはヨーロッパの北の方、オラーシャは東」

「へぇー…ヨーロッパって確かほとんどがネウロイに襲われたって…」

「うん。私のいた街もずっと前に陥落したの」

 

宮藤の言葉をサーニャが繋いで説明した。

 

「じゃあ、家族の人達は?」

 

宮藤が心配して質問した。

 

「みんな街を捨ててもっと東に避難したの。ウラルの山々を超えたもっとずっと向こうまで」

「そっかぁ、よかった」

 

それを聞いて宮藤がホッとしたように言った。しかしエイラが顔をしかめて起き上がる。

 

「何がいいんだよ、話聞いてないのかオマエ」

「だって、今は離ればなれでもいつかはまた皆と会えるって事でしょ」

 

宮藤のこの言葉に二人は一瞬だけ目を開く。

 

「…あのな、ウラルの向こうったって扶桑の何十倍もあるんだ。人探しなんて簡単じゃないぞ。だいたいその間にはネウロイの巣だってあるんだ」

 

エイラが説明するように言う。そう、オラーシャは黒海に現れたネウロイの巣によって国土を二分にされてしまっている。そのうえ、オラーシャは2つの統合戦闘航空団を抱えるほど過酷な戦線を持つ国家でもある。

 

「そっか、そうだよね。それでも私は羨ましいな」

「強情だなオマエ」

 

宮藤の強情さにエイラは呆れる。

 

「だって、サーニャちゃんは早く家族に会いたいって思ってるんでしょ?」

「…うん」

 

宮藤の問いにサーニャが小さく頷く。

 

「だったら、サーニャちゃんの家族だって絶対早くサーニャちゃんに会いたいって思ってるはずだよ」

 

宮藤の言葉を二人は真剣な顔をして見ていた。

 

「そうやってどっちも諦めないでいれば、きっといつか会えるよ。そんな風に思えるのって素敵な事だよ」

(宮藤さん…)

 

宮藤の素直な言葉にサーニャは心が不思議な気持ちになった。

そして、少し前にシュミットがあることを言った言葉を思い出した。

 

(…サーニャは強いな)

(…えっ?)

(私なんかよりずっと優しくて勇敢だ…)

(シュミットさんもすごく勇敢だと思いますよ?)

(……私は勇敢では無いさ。サーニャは両親と祖国の為に懸命に戦っているじゃないか。それはサーニャの誇れることだと思うよ。誰かの為に戦うなんて…)

 

その時も、シュミットがサーニャの優しさと勇敢さをほめていた。

しかし同時に彼の目には悲愴感が漂っていた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「はぁ…はぁ…」

 

シュミットは自室で思い切り呼吸を荒げていた。彼は先ほど、先日と同じ夢を見て、また大声を上げて起き上がった。

シュミットは昨日と同じ思いをして不快に思った。そして同時に、彼は頭の中である人物を思い浮かべていた。

そしてしばらくの沈黙の後、シュミットは目元を手で覆った。

 

「どうしてなんだ……」

 

彼はベッドの上でそんなことを呟いた。その言葉を示す意味は、彼にしか分からない。

そしてシュミットは、ベッドから立ち上がった。そしてそのまま部屋の外に出た。理由は、また寝汗を掻いてしまい、お風呂で洗い流そうと思ったからだ。

幸い、起床時間よりも早いため、この時間帯にサーニャ達は起きていないだろうと考えたシュミットは重い足取りでお風呂に向かったのだった。

その途中、バルクホルンに遭った。バルクホルンはシュミットが暗い表情をして重い足取りで風呂場に向かっているのを見て止めた。

 

「シュミット」

「…ああ、バルクホルンか」

 

シュミットは声を掛けられるまでバルクホルンの存在に気づいていなかったようだ。

 

「風呂に行くのか?」

「ああ、空いていないのか?」

「いや、空いている…大丈夫か?顔色が悪いぞ」

「問題ない。ただ、ひどい夢を見ただけだ」

「…ひどい夢?」

「ああ…前の世界の夢だ」

 

それを聞いてバルクホルンは黙った。彼の前世でひどい夢と言ったら、人類同士で戦争をしていたことだということだと思ったからだ。

しかしバルクホルンはシュミットに助言した。

 

「シュミット」

「何だ?」

「その…あまり抱え込むなよ。私達は家族なんだ。相談ぐらい私達だって乗ることができる」

 

それを聞いて先ほどまで少し下を向いていたシュミットが顔を上げた。そして少し驚いた表情をした後、僅かにほほ笑んだ。

 

「……ありがとう」

 

そう言って、彼は風呂場に向かったのだった。

 




う~ん。サーニャ回次で終わるかなぁ?


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第十九話「火傷と誕生日」

少し更新が遅れました。どうぞ


「うわー、汗でベタベタ…」

 

起床時間になって宮藤が部屋から出てくる。その後ろからエイラとサーニャも出てくる。

 

「じゃ、汗かきついでにサウナに行こう」

「サウナ?」

「ほう、宮藤はサウナ知らないのか」

 

そう言って三人はサウナに向かう。

しかし、この時三人は知らなかった。サウナはお風呂場にあり、現在風呂場にはシュミットがいることを。

 

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シュミットは湯船に浸かりながら眠っていた。

そして暫くして彼は温泉の中に沈んで行く。

 

「ブクブク……」

 

そしてシュミットは起きて自分がお風呂の中で眠っているのに気づいた。最初は慌てて何もないところをつかんで上がろうとしていたが、少しして冷静になってからお風呂の淵をつかみ顔を出した。

 

「はっ!!ゲホッ!ゲホッ!」

 

シュミットは驚いて水を飲んでしまい咽てしまう。そして暫くして呼吸を落ち着かせる。

 

「……情けない」

 

そう言って手を頭にもって呟く。彼はお風呂で寝てしまっていたことに対して自分のことを情けなく思ってしまった。そして、このままお風呂に浸かっているのも駄目だと思いタオルを巻いてお風呂を出ようとした。

と、シュミットが手を掛け扉を開けたら、そこには予想外の人達がいた。

 

「…え?」

「へ?」

「ん?」

「は?」

 

四人とも固まる。シュミットの目の前には宮藤達が立っていた。勿論、全員が体にタオルを巻いている。対する宮藤達も固まっていた。更衣室にはシュミットの服があったはずだが、三人とも見落としていたようだ。そのため誰もいないと思っていたんだろう。

シュミットは頭の中がパニックになっていた。まさか自分がお風呂に入っているときに(もう出るが)、女性が入ってくるとは思わなかったからだ。

 

「…な、な、シュミット!?」

 

エイラが先に硬直から抜けだし声を出す。しかしエイラはあるものが目に入り手を出そうとしたのを止めた。因みにサーニャはシュミットを見た時に最初に気が付き、恥ずかしがるより前にそちらの方に意識が向いていた。宮藤は途中で気が付いていた。

 

「…オマエ、その“火傷痕”」

 

そこにあったのは、シュミットの体に走る大きな火傷痕だった。その火傷痕は、いつも彼が着ている服からは見ることのできないところにあり、現在上半身が裸だからこそ見えるものだった。

 

「ああ、これか。こいつは爆撃に巻き込まれたときに負った火傷の痕だよ」

 

シュミットはどうという事無いように言い、そのまま自分の服のところまで行った。後ろ姿の時も、背中には火傷の痕が残っていた。

残された三人はどう話したらいいか困って立っていたが、シュミットがそれに気づき振り向いた。

 

「……すまないが、私は着替えたいんだが」

 

それを聞いて三人とも赤くなり、急いで目当てのサウナに向かったのだった。

そして残ったシュミットは着替えながらこう思った。

 

(後で何か聞かれるんだろうな…)

 

そう思いながら、時間が余っているのに気づき彼は食堂へ向かったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「ふあ~、これじゃさっきと変わんないよ~」

 

宮藤はサウナの中でぐったりしながら言う。

 

「スオムスじゃ風呂よりサウナなんダゾ」

 

と、エイラが説明する。そのエイラの横座っているサーニャを、宮藤が見る。

 

「…サーニャちゃんって肌白いよねー」

「何処見てんだオマエ!」

 

宮藤の純粋な感想にエイラが噛みつく。それに気づかずさらに言う。

 

「いつも黒い服着てるから余計目立つというか…」

 

その言葉にエイラの表情が変わり叫んだ。

 

「サーニャをそんな目で見ンなァッ!!」

 

と、サウナの中――基地中をエイラの大声が響き渡ったのだった。

その後、三人は基地の外の川に出た。

 

「こっちこっち。サウナの後は水浴びに限るんだ」

「確かに冷たくて気持ちいいけど…」

「恥ずかしがるなよ、女同士だろ?」

 

と、エイラに連れられて川に入る宮藤だが、少し恥ずかしいのか声が後半には小さくなっていた。

そんな会話をしている時、どこからか唄声が聞こえてくる。

 

「~♪」

 

その声に気づき、二人が声のする方向を岩の向こうから見ると、そこにはサーニャがいた。サーニャが座りながら唄を唄っていたのだった

 

「なぜだろう…なんだこう…ドキドキしてこないか宮藤」

「うん…」

 

と、エイラと宮藤が感想する。そんな二人に気づきサーニャが振り向く。宮藤は邪魔をしたと思い立ち上がった。

 

「あ…ごめん!」

「何で謝るの?」

 

サーニャは不思議そうに聞いた。

 

「その、邪魔しちゃったから…素敵だねその唄」

 

それを聞いてサーニャが少し嬉しそうに頬を赤くした。

 

「これは昔、お父様が私のために作ってくれた曲なの」

「お父様?」

 

そう言って、サーニャは説明をした。サーニャの父親はウィーンで音楽の勉強をしており、サーニャが雨続きで退屈しているときに作ってくれた曲だと言う。

それを聞いた宮藤はサーニャに言う。

 

「素敵なお父さんだね」

 

それを聞いてサーニャも言う。

 

「宮藤さんのお父さんだって素敵よ?」

「えっ?」

「オマエのストライカーは宮藤博士がオマエの為に作ってくれたんだろ?それだっけ羨ましいってことだよ」

「……せっかくならもっと可愛い贈り物のほうが良かったかも」

「ゼータクだな。高いんだぞあれ」

 

と、三人はそのあとそろって笑いだす。

そして、そのあと三人が食堂に行くと、そこにはキッチンで何かをしているシュミットがいた。

 

「何してるンダ?」

 

エイラが聞いた。その声に気づきシュミットが振り向く。

 

「ん?ああ、久しぶりにと思って作ってみたんだ」

 

そう言って、シュミットは水筒を手に取って見せた。それを見てエイラとサーニャが反応した。

 

「おっ、またミルクティカ?」

「え?なんで分かるんですか?」

 

唯一事情を知らない宮藤が聞く。

 

「宮藤さん、シュミットさんは前までこうやって私たちに差し入れを作ってくれてたの」

「その時に出す飲み物は全部ミルクティだがナ」

 

サーニャとエイラが説明して宮藤も理解する。そしてシュミットは水筒の蓋を全て閉めると、それを三人に渡した。

 

「えっ、私もですか?」

「おいおい、さすがに目の前で宮藤だけ渡さないのは無いよ…」

 

宮藤は自分に渡されると思っていなかったから驚いていた。それをシュミットは苦笑いで返した。その言葉に全員が笑うのだった。

そして、四人は再び夜間哨戒に出始めた。そしてしばらく飛んでいる間に、宮藤が思い出したように口を開いた。

 

「シュミットさん」

「ん?どうした?」

「さっきのお風呂でのあの火傷…どうしたんですかあれ」

「あっ、それ私も聞きたいゾ」

 

宮藤の質問にエイラも便乗する。サーニャも黙って見ていたが、火傷のことは気になり聞きたいと思っていた。

シュミットは何気なく言った。

 

「あれは、戦争での火傷痕だ」

「…戦争?」

 

宮藤は見当が付かず首をかしげたが、エイラとサーニャは過去を話してもらったことがあり思い当たることがあったのか顔色を変えた。

 

「そういえば、宮藤には話した事が無かったな」

「何をですか?」

「私が異世界から来たことだよ」

 

そういうと宮藤は黙ってしまう。シュミットの言っていることが信じられなかったからだ。

 

「…え、冗談ですよね?」

 

そう言って笑う宮藤だが、誰も答えなかった。宮藤はサーニャとエイラの方を見るが、二人とも首を振るだけで嘘だと言わない。

そして宮藤は今度こそ不安になった。そんな宮藤にシュミットが説明の続きをした。

 

「…残念ながら本当だ。私はこの世界とは別の世界から来た」

「…別の世界」

「ああ、そこにはネウロイなんていう敵はいなかった」

「えっ!?ネウロイがいないんですか!?」

 

宮藤はその世界にネウロイがいないことに驚いた。

 

「ああ、そうだ。代わりに、人と人とが醜い争いをする世界だったがな」

「…人と人がですか?」

「ああ、そうだ」

 

その突き付けられた残酷な事実に宮藤はショックを受けた。ネウロイがいなければ平和になる考えていた彼女の考えが否定されることを言われたからでもある。

 

「…どうして同じ人同士で戦うんですか?」

「領土、資源、思想の違い、戦争をする理由は様々だ。この世界のようにネウロイという共通の敵などを持たなくなると、人間は自分たちのことを優先に考えてしまう…」

 

淡々と言うシュミット。そして少し黙った後、再び口を開いた。

 

「…私の火傷は、ドイツ――こっちのカールスラントだな。そこのハンブルクという街がイギリスに空襲された時に出来た物だ」

「空襲…」

 

その単語だけで、宮藤は何があったのかをある程度察した。

 

「私はその時、空襲で焼けるハンブルクの街中をはぐれた妹を探していた」

「妹さんですか?」

「ああ…名前をアリシアっていうんだ。ちょうど今年で15になるな、見た目は何て言うか…」

 

そしてシュミットは少し言いにくそうにする。その様子はどうも恥ずかしそうだ。

 

「どうしたんダヨ」

 

エイラがシュミットの様子が変になったのを見て聞いてきた。そしてシュミットは、意を決して言った。

 

「…その、似てるんだ。サーニャに」

「えっ?」

 

サーニャは突然のことに驚く。シュミットは言ったと同時に顔を赤くしてサーニャから目を逸らした。

 

「…話が逸れたな。すまないサーニャ」

「いえ、大丈夫です」

「どうしてサーニャだけに謝るんダ!」

「すまんエイラ」

 

と、シュミットの謝罪にサーニャが赤くなったのを見て、エイラがシュミットに不満そうに言った。

 

「ともかく話を戻す。私は燃える街ようやくアリシアを見つけた。その時だった。焼けた建物の瓦礫が、私達のところに落ちてきたんだ」

 

その言葉を聞いて今度は全員が息を呑んだ。

 

「…そして気が付いた時には、私は病院にいた。気絶して、どういうわけか私は病院のベッドの上で体に包帯を巻かれて寝ていたんだ」

「…その、アリシアさんは」

「同じようにアリシアも病院にいた。だが、アリシアは私より重症だった。火傷で体中に包帯を巻かれて、空襲で出た有毒ガスを吸ってしまい、血液の殆どを交換することになった」

「そんなっ…!」

 

それを聞いて宮藤が声を上げる。彼女は医者の生まれだったため、その容体の深刻さを理解した。

 

「その後私は退院後、軍に志願した。私の両親もその空襲で亡くなってしまい、このままアリシアにしっかり治療をさせるお金を稼ぐために。そして私は戦闘機パイロットとして、敵対国のソビエトの兵士と戦っていた」

 

シュミットはさらに表情を暗くした。

 

「…だが、アリシアは私が軍にいる間に容体が悪化してしまい、そのまま亡くなってしまったんだ」

「っ!!」

 

それを聞いた全員が顔を下にした。そしてサーニャに至っては涙を流していた。

それを見たシュミットが慌ててサーニャのもとに行った。

 

「すまんサーニャ!こんな話をするもんじゃなかったな…」

 

そう言って彼はポケットからハンカチを出してサーニャの涙を拭きとり、話さない方がよかったかと後悔した。

宮藤とエイラはシュミットの過去を興味で聞いたことを後悔した。彼の過去の悲惨さをここまで知ることになるとは思わなかったからだ。

そして宮藤は場の空気を盛り上げようと思い、あることを思い出した。

 

「そ、そうだ!」

「ど、どうしたんだ宮藤?」

 

シュミットが思わず聞く。突然宮藤のテンションが変わったからだ。他の皆もそんな宮藤の方向を向いた。

 

「ねぇ聞いて!今日はね、私の誕生日なんだ!」

「本当カ?なんで黙ってたんダヨ!」

 

その言葉にエイラが反応するが、 彼女も内心では「グッジョブ」と思っていた。

 

「でも、私の誕生日はお父さんの命日でもあるの。なんだかややこしかったし、シュミットさんがあんな話をしていたから皆に言いそびれちゃった」

 

その説明をしてエイラが溜息を吐いた。

 

「バカだなオマエ」

「え?」

「こういう時は、楽しいことを優先したっていいんダゾ」

「そうかな?」

「そうだよ。シュミットの暗い話なんかよりよっぽど楽しいことじゃないか!」

 

それを聞いて、シュミットとサーニャも微笑みを取り戻した。

 

「そっか、宮藤はこれで何歳になるんだ?」

「15歳です」

「そっか。そいつはめでたいな」

 

シュミットはそう言ってバレルロールをしてぐるぐる飛行する。いつも堅いイメージのシュミットがそんなひょうきんな動きをしているのを見て笑い、その笑い声につられてサーニャとエイラも笑う。

シュミットはみんなに笑われてムッとする。

 

「おいおい、そんな笑わなくてもいいじゃないか…」

「だって、面白かったんですもん。シュミットさんがそんなことするなんて思わなくて」

 

そうして笑いあっているとき、サーニャが宮藤にあることをした。

それに気が付いた宮藤が驚く。

 

「あれ?何か聞こえる」

「ん?」

 

それに気が付きシュミットも耳を澄ませる。すると、そこには音楽の音が流れていた。

 

「…ラジオの音」

 

エイラがその答えを言った。

 

「夜になると空が静まるから、ずっと遠くの山や地平線からの電波も届くようになるの」

 

サーニャの説明を聞いて宮藤が興奮してはしゃいだ。

 

「へええ、すごいすごい!こんな事が出来るなんて!」

 

エイラは静かにサーニャの横に行った。

 

「三人だけの秘密じゃ無かったのカヨ~」

「ごめんね。でも、今夜だけは特別」

「…ちぇっ、しょうがないな~」

 

そう言って謝罪するサーニャにエイラも速攻で許した。ちなみにこの事はシュミットも知っている。

 

「えっ?どうしたの?」

 

宮藤はそんなエイラの反応が気になりサーニャに近づく。そんな二人の間に割り込むようにエイラが来る。

 

「あのなっ、今日はサーニャの…」

 

その先の言葉は続かなかった。突如、サーニャのリヒテンシュタイン式魔導針が警戒色に変化したのだ。異変に気が付いた全員が驚く。

 

「っ!?」

「どうしタ!?」

 

エイラが心配してサーニャに問う。ほかの皆もサーニャの方を見る。

すると突然、彼らの耳に謎の音が流れてきた。それはラジオの音ではなかった。

 

「何だ…!」

「…これ、唄だよ!」

「しかし、こいつはまるで…」

 

その唄は、501基地にまで届いていた。

聞いていたミーナと坂本も驚いていた。

 

「これがネウロイの声…?」

「サーニャを真似てるってのか!?」




血液の殆どを交換するって、現実で有名なのはニキ・ラウダですかね?


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第二十話「仲間とケーキ」

というわけでサーニャ回、これにて終了です。


突如聞こえてきたネウロイの声、もとい唄。それを聞いていた上空の四人は驚きでその場にホバリングしていた。

サーニャが口を開いた。

 

「…どうして?」

「敵か!?サーニャ!!」

「ネウロイなの?どこ!?」

「どこにいるんだ!?」

 

エイラと宮藤は周囲状況が分かるサーニャに聞く。しかしサーニャは答える前に三人に静止の手を出した。

 

「三人とも避難して!!」

「なっ!?どうしたんだ!?」

 

シュミットがサーニャの意図を読めずに聞き返した。その時だった。

突如、サーニャはユニットの回転数を大きく上げ、急上昇をし始めた。

 

「あっ!?」

 

宮藤が驚くと同時に、突如雲の中から赤色の光が出てくる。それはネウロイの攻撃だった。攻撃はそのまま伸びていき、上昇したサーニャのちょうど足元を掠めていく。そしてサーニャはその攻撃を避けるが、左足のユニットに被弾してしまい、ユニットが壊れバランスを崩した。

 

「サーニャ!!」

 

エイラが反応した時、横からサーニャに向かって飛んでいく影があった。それはシュミットだった。シュミットは急激にユニットを加速させ、そのまま落下しかかっているサーニャをキャッチする。

それに続いていくようにエイラと宮藤もサーニャの下へ向かった。

 

「なにしてるんだサーニャ!なんで一人で行く!!」

 

シュミットはサーニャをお姫様だっこした状態で怒鳴る。横で聞いていたエイラと宮藤も、ここまで人に怒っているシュミットを見て驚いていた。

 

「敵の狙いは私…間違いないわ」

 

サーニャは震えながら言う。シュミットの袖を掴む手も震えていた。

 

「わ、私から離れて…一緒にいたら…」

「バカッ!何言ってんダ!」

「そんな事出来るわけないよ!」

 

エイラと宮藤も反論する。しかしサーニャは下を向いたまま震えている。

 

「…だって――!」

 

そんなサーニャの表情を見て、エイラがサーニャのフリーガーハマーを取った。

 

「エイラ?」

 

シュミットがエイラの行動を見て驚くが、そのままエイラは右手にフリーガーハマー、左手にMG42を持って前に出る。

 

「どうするの!?」

 

宮藤もエイラの行動に何をするのか疑問に思い聞いた。

 

「サーニャは私に敵の居場所を教えてくれ。私は敵の動きを先読みできるから、やられたりはしないよ」

 

そうして今度は雲の方を向いた。

 

「あいつはサーニャじゃない。あいつは独りぼっちだけど、サーニャは独りじゃないだろ」

 

その言葉を聞いて、今度はシュミットも動いた。

 

「宮藤、サーニャを頼む」

「えっ、は、はい」

 

シュミットはお姫様抱っこをしているサーニャを宮藤に託す。そしてシュミットは背負っていたMG151を構え、セーフティロックを解除する。

 

「エイラ」

「なんダ?」

「敵の狙いがサーニャなら、私は出てきたネウロイを迎撃する。エイラは攻撃に専念してくれ」

「分かった」

 

こうして、エイラとシュミットはネウロイに対して牙を向ける。サーニャは心配そうに二人を見る。そんなサーニャを見てエイラが心配させないように言った。

 

「大丈夫、私達は絶対負けないよ」

「そうだ。生き残って基地に戻ってやるさ」

 

エイラの言葉に同乗するようにシュミットも言う。そんな光景を見て宮藤もサーニャに笑顔を見せる。そしてサーニャも、そんな三人の姿を見て強張っていた表情を崩した。

そして、エイラは雲に向けてフリーガーハマーを構える。その後ろでシュミットがMG151を構え迎撃準備に立つ。そして宮藤の支えを貰い飛んでいるサーニャが指示を出した。

 

「…ネウロイはベガとアルタイルを結ぶ線の上をまっすぐこっちに向かってる。距離、約3200…」

 

その指示を聞いてエイラが指定された方向にフリーガーハマーを構える。

 

「こうか?」

「加速してる。もっと手前を狙って…そう、後3秒」

「当たれよ!」

 

エイラの声と共に、三発のロケット弾が雲の方向へ進んでいき、そして爆発する。すると、着弾した方向から今度は赤いビームが飛んでくる。四人はそれを回避する。

 

「外した!?」

「いえ、速度が落ちたわ!ダメージは与えてる…戻ってくるわ!」

「戻ってくるナ!!」

 

エイラは再びロケット弾を発射する。しかし今度はその弾を雲の中で回避するネウロイ。

 

「避けた!」

「速いな…」

「くそっ、出てこい!!」

 

再びロケット弾を放つ。そして今度はネウロイに直撃した。ネウロイは激しく燃え上がりながら痛みを苦しむような鳴き声を出す。

 

「出た!」

 

そしてネウロイはそのまま四人のところへ一直線に飛んでくる。そしてシュミットが今度は前に出た。

 

「ここは任せろ!喰らえ!!」

 

そしてMG151の引き金を引くシュミット。強化を掛けたMGの弾丸は、ネウロイの体を大きく抉り始める。その間にも、ネウロイはシュミットに対して攻撃をしようとする。

 

「シュミットさんダメ!逃げて!」

「逃げるものか!」

 

サーニャが大声で叫ぶが、シュミットはそこから動くことなくネウロイに攻撃を加えていく。その時だった。

 

「っ!」

 

シュミットの目の前に大きなシールドが現れる。宮藤が前に立ってシールドをシュミットの前に張ったのだ。

 

「ダンケシェーン、宮藤!」

「大丈夫!私たちきっと勝てるよ!」

「私も手伝うゾ!それがチームだ!」

 

そして、三人はネウロイに立ち向かう。そんな三人を見て、サーニャも動いた。サーニャは宮藤の背中に掛けてある九九式機関銃を構える。

 

「へっ?」

「なっ?」

「む?」

 

三人はその行動に驚くが、そのままサーニャは引き金を引いた。そしてネウロイに向けて三人の弾丸が飛んでいく。その弾丸を正面から受けたネウロイはコアまで削られ、ついにその姿を欠片に変えた。その距離はあと数十メートルという距離まで迫っていた。

 

「いよっしゃ!!」

 

シュミットはネウロイが欠片になる瞬間を見てガッツポーズをした。他の三人もついにネウロイが撃墜されたことを切っ掛けに張り詰めた力を抜いた。

そして四人はそのままホバリングをする。しかし、彼らはまだ気になることがありそのまま上空を見ていた。

 

「…まだ聞こえる」

「なんで?やっつけたんじゃ…」

「いや、さっきよりもノイズが無いぞ…」

 

三人はこの音が何なのかわからなかった。しかしサーニャはこの音に心当たりがあるのか理解した。

 

「違う…これはお父様のピアノ」

 

そう言ってサーニャは、片足だけになったユニットを再び始動させる。そしてそのまま高度を上げた。

 

「…そっか、ラジオだ。この空のどこかから届いているんだ!すごいよ!奇跡だよ!」

 

宮藤はその奇跡とも言えることに驚きはしゃぐ。しかしエイラが首を振った。

 

「そうでもないかも」

「えっ?」

「今日はサーニャの誕生日だ」

「そうなんですか?」

「ああ本当だゾ、正確には昨日かな」

「え…じゃあ私と一緒?」

 

宮藤はシュミットとエイラの説明に驚いていた。自分の誕生日がまさかサーニャと同じだなんて思わなかったからだ。

 

「サーニャのことが大好きな人なら、誕生日を祝うなんて当たり前だろ?」

「そうだ、大切な人のことを本当に思う人なら、誕生日を祝うものだ」

 

エイラとシュミットの言葉に、宮藤も言葉を奪われた。

 

「世界の何処かにそんな人がいるなら――こんなことだって起きるんだ。奇跡なんかじゃない」

「…エイラさんって優しいね」

「…そんなんじゃねえよ、バカ」

「ば、ばかって…」

 

エイラは宮藤に優しいと言われ恥ずかしくなる。そんな会話を聞きながら、シュミットは上空を見ていた。彼の視線の先には月を背にするサーニャがいた。そしてシュミットは、初めてサーニャに出会った時のことを思い出した。この世界に初めて来たときも、サーニャの後ろには月があった。その姿を見て、シュミットは心を奪われ、そして今回もそんな姿を見て心を奪われていた。

そんなシュミットにエイラが気付く。

 

「…なにボーっとしてるんダ?」

「いや、初めて会った時のことを思い出してな…あの時も月の綺麗な夜だった」

 

そう言って笑うシュミットだったが、彼がサーニャに対して恋愛感情を持っていることをエイラは知っていた。そのためエイラはムッとしてシュミットの顔を睨む。しかしシュミットはやはりサーニャのことでいっぱいなのか、その視線に気づいていなかった。

サーニャは上空で、遠くにいる両親に言葉を送っていた。

 

「お父様、お母様、サーニャはここにいます…ここにいます」

 

そして、宮藤がサーニャに声をかけた。

 

「お誕生日おめでとう!サーニャちゃん!」

「貴方もでしょ」

「へっ…?」

「お誕生日おめでとう、宮藤さん」

「おめでとナ」

「おめでとう、二人共」

 

全員がおめでとうと言いあう。そしてシュミットはふと、あることを思い出した。

 

「……よし」

「えっ、どうしたんですか?」

「いや、なんでもないさ」

 

シュミットは誤魔化して何なのかは説明しなかった。そして四人は、一緒に基地に帰投していくのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌朝、リーネは厨房に入る。勿論、ウィッチーズの朝食を作るためである。

しかし、リーネはあるものが目に入りそこに視線を移した。そこには昨晩は無かったカバーのようなものがあり、その中には何かが入っていた。

恐る恐るリーネはそのカバーを取った。そして、中にあるものを見て吃驚する。

 

「へっ?」

 

なんとそこにあったのはホールケーキだった。白色のクリームを使い、上には果物が乗っている。

そして一番目についたのは、そのケーキの真上にあったメッセージカードだった。そこには『HAPPY BIRTHDAY』と書かれており、それが誕生日ケーキであると教えていた。

 

「え、え、えええええええええ!?」

 

リーネは驚きのあまりついに大声を出した。それを聞きつけて他のウィッチ達も食堂に集まってくる。

 

「どうしたの!?」

「こ、これって一体…」

 

隊員達がぞろぞろと集まってくる中で、リーネはそれを見せる。

 

「ほう、これはまた立派だな」

「リーネが作ったの?」

 

シャーリーとルッキーニが目の前のケーキを見てリーネに聞くが、リーネは首を横に振る。

 

「それじゃあ、一体誰が…」

「おはようございます…」

 

ペリーヌが誰が作ったのかを問おうとした時、ちょうど食堂に人が入ってきた。

 

「あっ、シュミットさん」

「ん?どうした、みんな揃って…ふぁ~あ」

 

入ってきた人物はシュミットだった。シュミットはまだ眠気が取れていないのか欠伸をしている。

 

「これを見てください」

「これ……あっ」

 

シュミットはこれと差されたケーキを見ず、何かを思い出したように声を出した。その反応を見てバルクホルンが聞いた。

 

「どうした?」

「いや、やっぱそこに置いておくのはまずかったかなと思って…」

『………はい?』

 

シュミットの言葉に意味が解らず全員が聞き返した。

 

「だから、そこに置いておくのはまずかったかと…」

「ちょっとまて、これお前が作ったのか?」

 

シュミットの説明を遮る形でシャーリーが聞く。

 

「ああ、私が作った」

 

そしてシュミット。さも当然のように真実を告げた。

それを聞いた他の隊員たちは固まった。そして、全員が一斉に声を出した。

 

『な、なんだってー!!』

 

シュミットはその大声に耳を塞ぐ。近くで聞いていたためキーンというふうに頭の中で響いたのか、彼の眠気はすっ飛んでいった。

 

「な、なんだよ…」

「だって!シュミットさんが作ったって!」

「そんなに変なことか?」

「いえ、イメージとかけ離れているというか…ケーキなどを作るなんて思いませんでしたわ」

 

ペリーヌの言葉にシュミットは内心傷ついた。

 

「…そんなにか?」

「だって、シュミットが料理しているの見たことないもん!」

 

ルッキーニの意見はもっともだ。彼は料理を作ることはほとんどない。夜食用のサンドウィッチを作ったりしているのは見たことある人はいるが、まさかケーキを作るなんて誰も思わなかったからだ。

 

「シュミットさんがケーキを作れるなんて意外でした。てっきり料理とか得意じゃないのかと…」

 

おまけのリーネの言葉に、シュミットはグサッといった。

 

「…そこまで言わなくてもいいじゃないか」

 

そうしてシュミットはがっくりと崩れるのだった。

その後、坂本達いなかったウィッチ達も集め、誕生日のメインでもある宮藤とサーニャを呼び、誕生日パーティーを開いたのは言うまでもない。




エイラもシュミットがサーニャを好きだということを気づいています。そして同時にサーニャもシュミットに対して恋愛感情らしきものを持っているので、エイラとしては複雑な心境ですね。
後シュミット君はケーキを焼ける子でした。


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第二十一話「スースーする事件」

久しぶりの投稿です。一応試験が終わりひと段落ついたので投稿しました。
どうぞ。


起床ラッパの鳴る前の501基地。この時間帯は殆どのウィッチが眠っており、起きている人はごく僅かである。

一人は坂本少佐。彼女は毎朝の鍛錬のため誰よりも朝が早い。二人目に、夜間哨戒から帰ってくる人。この日はサーニャである、生憎彼女は立ったまま眠っている状態であった。

そして三人目の人物、シュミットは501基地の外にいた。正確には、基地の射撃場に立ち訓練を行っていた。

 

「……」

 

淡々と撃ち続けるシュミット。手に持っている武装はMG42。彼は重いMG151では無く、501でも使用者の多いMG42を使えるようにしようとしているのだ。

その時、基地の方向からラッパの音が聞こえる。起床ラッパの音だ。

シュミットは訓練を終了し、MG42を肩に担いで基地に向かった。しかし、何故かその場で突如立ち止まった。

 

「…なんだろうな、この嫌な予感は」

 

と、突如シュミットはそんなことを呟いた。そして、この嫌な予感がこの後に本当に起こるとは考えず、基地に帰投したのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「ん…寝坊しちゃった…朝は坂本さんの訓練に出ないと…」

 

と、起床ラッパで起きた宮藤が寝ぼけながら部屋の扉をあけて出る。手には枕を抱えており、まだその目は半開きである。

 

「遅刻!遅刻!」

 

と、そんな宮藤の前をペリーヌが焦って走っていく。しかし、振り返って再び部屋に向かう。

 

「眼鏡、眼鏡…」

 

彼女は眼鏡を掛けるのを忘れてしまったようだ。

別の場所ではシャーリーが歯を磨いている。しかし、その姿は問題があった。彼女は下着姿で部屋の扉を開けて歯を磨いているのだった。

その目の前を通ったミーナがそんなシャーリーの前を通った。

 

「おはよう、シャーリーさん…」

「ふわぁ~」

 

ミーナはシャーリーの姿を見て震えながら挨拶をするが、シャーリーは眠たいのかそのままあくびを返したのだった。

その時、シュミットが自室に向かって歩いていく。そんなシュミットを見てミーナは挨拶をする。

 

「おはよう、シュミットさん。どこに行ってたの?」

「おはようございます、中佐。射撃場で少し訓練に行ってました」

 

シュミットがミーナに挨拶をし返す。と、その時、

 

「起床だ!起きろハルトマン!」

 

別のところから大きな声が聞こえる。シュミットは気になりその方向を向くと、ドアの空いた部屋から声がしていた。そこはハルトマンの部屋だった。

シュミットは部屋に戻る前にそこが気になり近づいていき、そして部屋を覗く。

 

「もうちょっと…あと70分」

「そんなちょっとがあるか!!」

「何やってるんですか?」

 

シュミットが目の前の漫才に思わずツッコむ。その声に気づきバルクホルンが振り返る。

 

「シュミットか。ハルトマンを起こしているんだ…おい起きろ!」

「後40分…」

「おーきーろー!」

 

バルクホルンは真剣に言うが、ハルトマンは相変わらずマイペースに答えたため更に苛立つ。

そんな二人を余所にシュミットは部屋の中を見渡す。部屋の中は衣服や物で散らかっており、片付けをしていないという証拠がわかる。

 

「うわぁ…」

 

シュミットはその部屋に思わず声を漏らす。

 

「カールスラント軍人たるもの、一に起立!二に起立!三も――」

「いや、そんなに規律で埋まったら普通過労で倒れますよ…」

 

バルクホルンがハルトマンに論ずるが、シュミットはさすがにそれは無いかと思いツッコむ。

バルクホルンはいったん落ち着きを取り戻しハルトマンに質問する。

 

「…今日は何の日だ?ハルトマン」

「お休みの日~」

「違う!」

「ハルトマン、今日は午後から表彰式じゃなかったか?」

 

質問を間違えるハルトマンにバルクホルンとシュミットがツッコむ。

そう、今日はハルトマンの表彰式である。ネウロイ撃墜数250機を表彰して、カールスラント本国から騎士鉄十字章が贈られることになっている。

 

「ふぁ~、それじゃあお昼まで…」

「おいおい、早く起きろ」

「そうだ、早く起きんか!」

 

ハルトマンは昼と聞くや再び寝ようとするが、シュミットとバルクホルンはハルトマンを起こそうとする。案外二人は似ているところがあるのかもしてない。

そしてバルクホルンがハルトマンの上に乗っている衣類を剥ぎ取る。

 

「なっ!?」

「っ!?」

 

目の前の光景にバルクホルンとシュミットは思わず赤面する。そしてシュミットは目元を手で覆う。

なんとハルトマンは下に何も履いていなかったのだ。そんな姿で彼女はシュミットの前にいたのだ。

 

「さ、さっさと服を着んか!履かんか!!」

 

バルクホルンは手に取った衣類をハルトマンにぶつけるが、そこはスーパーエース。眠い体でもその衣類を難なく回避する。

そんな会話が後ろで聞こえる中、シュミットは足元に落ちていたあるものに目が行く。それは柏葉騎士鉄十字章だった。

 

「あの~、勲章をこんな風に乱雑に置いていいんですか?」

 

シュミットはそれを手に取りバルクホルンに見せる。バルクホルンはそれが何なのかを理解し驚く。

 

「柏葉騎士鉄十字章が…!」

 

「まぁ、普通は床に置きませんよね」、と言いながらシュミットはそれをバルクホルンに渡す。シュミットもブリタニアから贈られた勲章は大事に保管してあるし、少し前に一級鉄十字章、騎士鉄十字章も授与され、それも大切にしている。それに比べたらかなり雑な扱いだと思った。

とりあえずシュミットは後ろを振り向けないのでハルトマンをバルクホルンに任せ部屋を出たのだった。そしてその足で食堂に向かうと、今度はシャーリーが食堂にいた。

 

「おはよう、シャーリー」

「おはよう、シュミット!」

 

相変わらず元気なシャーリーである。そしてその後バルクホルンもやってきて、三人で朝食にふかしたジャガイモを食べ始める。

 

「しっかし、誰も起きてこないな」

「まぁ、そうだな」

「まったく、どいつもこいつもたるんでいる」

 

そう言いながらバルクホルンはジャガイモを頬張る。

 

「まーしばらくはネウロイもこないはずだし、いいんじゃない?」

 

そう楽観的に答えながらジャガイモを頬張るシャーリー。

 

「まぁ、ピリピリしすぎるのも考えようだが、一応少しぐらいは警戒もいるんじゃないか?」

「そうだぞリベリアン、備えよ常にだ」

 

シュミットはどっちつかず。バルクホルンとシャーリーの間のような考え方だ。

しかしバルクホルンは常に備えはいると論ずる。

 

「これだからカールスラントの堅物は」

「それは私も入るのか?」

 

シャーリーの言葉にジト目をするシュミットだが、目の前のじゃがいもの山から大きいサイズのじゃがいもにフォークを差し込む。

 

「あっ!その大きいのは私のだろ!」

「芋に名前が書いてあるわけないだろう。それに…」

 

そう言ってシュミットは一口食べてからこう言った。

 

「ブリッツクリークはドイツの十八番だ」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「はぁ…なんだってこんな…」

 

現在シュミットは基地の外を歩いていた。

元の原因は、何者かによってペリーヌのズボンが紛失し、何故か宮藤のズボンが証拠物となり、何も履いていない宮藤を見てバルクホルンが自身のズボンを脱ごうとしたので、全く解決に向かっていないと思いシュミットは探しに行くと言い外に出た。紛失したならまず探せばいいと考えるものだ。

 

「しかし普通なら無くした脱衣所にあるものが普通だよな…」

 

そう言いながらシュミットは脱衣所に入る。そしてしばらく探し回るが、結局ペリーヌのズボンは見つからなかった。

そして脱衣所を出た時、バルクホルンとシャーリーに遭遇した。

 

「あっ!?シュミット!」

「二人共どうしたんですか?揃って」

「シュミット!ルッキーニだ!」

「は?」

 

シャーリーに言われシュミットは何のことか一瞬間の抜けた声を出すが、説明を聞いてシュミットも納得した。ペリーヌのズボンを盗んだのはルッキーニであり、現在ルッキーニは宮藤のズボンを盗んで逃走中だという。

 

「とりあえず私は外を見てきます」

「わかった!」

 

そうして二人と別れたシュミットは、基地の外に出る。

そしてしらみつぶしに捜索をするが、結局ルッキーニの姿は見つからなかった。その時だった。基地をネウロイ接近の警報が鳴り響く。

 

「ネウロイ!?っくそ!」

 

シュミットは次から次へとくる面倒ごとに少し苛立ちながら、急いで格納庫へ向かう。

そして格納庫に到着して――言葉を失った。

 

「さ、坂本さん!私履いてません!」

「わたくしもちょっとスケスケで…」

「問題ない!任務だ任務!空では誰も見ていない!」

「「ええ~!!」」

 

坂本の軍服を着た宮藤とズボンを履いてないペリーヌがたじたじしているのに対し、ボディースーツ姿の坂本が笑いながら言う。勿論そんな反応に驚く二人。

シュミットはそんなことよりもと思いながら急いで自分のユニットに足を入れ、そして魔力を流す。すると、

 

「私も行きます…」

 

そう言って格納庫の入り口からサーニャが入ってくる。

 

「サーニャ?」

「うわっ!?サーニャ…?」

 

シュミットが気付き反応するが、その横でエイラが何か驚いたように反応する。

よく見ると、サーニャは下にいつも履いている黒のタイツを履いていない。

そこから覗く白い素肌を見てシュミットは一瞬ドキリッ!とするが、ネウロイが接近しているのを思い出し急いで思考を切り替える。

 

「シュミット・リーフェンシュタール、出撃!」

 

そうして離陸するシュミットだった。

上空へ上昇し、先んじてロンドン方面に向けて来るであろうと先読みし飛行を開始した。

そして地上では、事態は悪化していた。

 

「こ、ここで脱げってヒドイじゃないカ!」

「だって私のだから…!」

「坂本さん、スース―します!」

「我慢だ宮藤!」

「何をやっているんだこいつら…」

 

目の前のカオスな光景にバルクホルンが真面目な感想をこぼす。そんな隊員を放っておいてバルクホルンは出撃しようとする。その時だった。

 

「みんな待って!」

 

格納庫の出口、そこにはミーナが立っていた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「誤報!?」

 

その言葉にその場にいた全員が驚く。

この警報の原因はルッキーニが誤って警報装置を押してしまい起きてしまったことだったのだ。そしてそのルッキーニをハルトマンがその場で確保し、事態は終息したのだった。

 

「ハルトマン、やったな!お前こそカールスラント軍人の誇りだ!」

「見事だ中尉!」

 

それぞれが口々にハルトマンを褒め称える。

 

「さぁ、今から表彰を始めましょう!準備はいいですね、ハルトマン中尉」

「了解」

 

そうして仕切り直し、ハルトマンの表情式が行われる。

 

「ハルトマン中尉、壇上へ!」

「はい!」

 

堂々と返事をし、ハルトマンが壇上に歩んでいく。その姿を周りのみんなが拍手を贈る。因みにルッキーニは罰として両腕にバケツを抱えて泣いている。

そしてハルトマンが勲章を受け取ったその時だった。海風が吹き、ハルトマンのジャケットが少したなびく。そしてそこにあったのは、ルッキーニのズボンだったのだ。

それを見て拍手をしていた手が止まり、その光景に全員固まる。何のことかわからない坂本は不思議に思い、ミーナはみんなが祝福をしていると勘違いをする。

そしてもう一つ、ある異変に気付く人物がいた。

 

「……そういえば、シュミットはどこ行った?」

 

坂本の言葉に、全員が思い出したように周りを急いで見る。しかし、そこにシュミットの人影は無かった。

 

「あれ!?シュミットさんは?」

 

その頃、ドーバー海峡上空。

 

「変だ…基地からの連絡が全く来ない…」

 

皆に忘れられたシュミットがホバリングしながら不思議に思っていたのだった。




というわけで、皆に忘れられるシュミット君でした。


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第二十二話「気が付かない気持ちと衝撃的な再会」

と言うわけで続きだしまーす。


シュミットは現在、模擬戦を行っていた。相手は宮藤とリーネ、そしてペリーヌであり、2対2のロッテ戦を組んで戦っていた。因みに、シュミット&宮藤対ペリーヌ&リーネである。そしてこの模擬戦をシャーリーが判定していた。

シュミットはこの間使い方を理解したMG42(訓練用のペイント弾)を構えながら高度を上げ、そして急降下をする。彼の視線の先には宮藤を狙っているリーネがいた。

 

「え?うわぁ!?」

 

急降下の速度が合わさり、MG42の弾丸は高速でリーネに向かう。そのことに気づいたリーネは弾丸が飛んできたのに気づくが時すでに遅く、体にオレンジ色の塗料が付着する。これによりリーネは撃墜判定をもらったのだった。

そしてシュミットはその速度を維持し、今度は上昇をする。そして周辺を確認しペリーヌを探し当てる。ペリーヌは宮藤を追いかけていた。いくらか実戦を経験した宮藤の動きは初期の頃に比べて格段に良くなっている。しかし、実戦経験量で言えばペリーヌは宮藤より上であるため、動きのキレが違った。そして、ペリーヌの弾丸は宮藤に着弾し、宮藤に撃墜判定が下る。

 

(互いに僚機を失った状態…状況は互角。だが…!)

 

シュミットはそんなことを考えながらユニットに強化を掛け、再び急降下をする。狙いはもちろん生存しているペリーヌだ。

だがペリーヌもシュミットの方向を見て迎撃の態勢を取る。そして両者は互いに銃口を相手に向けた状態になる。そして後数秒でシュミットはペリーヌを射程圏内に捉えようとした時だった。

突如、シュミットのユニットから黒煙が噴き出した。

 

「なっ…!?」

 

突然の出来事にバランスを崩し、シュミットはペリーヌから射線を外す。同時にペリーヌもシュミットの不規則な動きに態勢を立て直そうとしたため、銃口からシュミットが外れた。

しかし、その後の動きは明らかに差が生まれた。シュミットのユニットは両方から黒煙が出ており、プロペラの回転も乱れていたため態勢を立て直すのに時間がかかった。その間にペリーヌがシュミットの背後を取る。

 

「しまった…!」

「もらいましたわ!」

 

そして手に持つ訓練用のブレン軽機関銃が火を噴き、シュミットのユニットに着弾した。これにより、シュミットは撃墜判定をもらったのだった。

そしてシャーリーが笛を鳴らす。

 

「そこまで!勝者、リーネ&ペリーヌチーム!」

 

そして両者は互いに集合する。

シュミットは集合と同時に自身のユニットを見た。しかしそこには煙は出ておらず、先ほど煙が出た証拠をエンブレムの白い狼の煤汚れが示していた。

眉を寄せてユニットを見るシュミットに、宮藤が声を掛ける。

 

「シュミットさん、どうしたのですか…?」

 

その声を聞いて表情をいつものに変え、シュミットは答えた。

 

「いや、なんでもない…次はチームを変えるぞ!」

 

シュミットはこのことを頭の隅に寄せ、模擬戦を再開したのだった。

 

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その後、シュミット達は数回の模擬戦を行ったが、再びユニットから黒煙が上がった。それも今度は、ユニットに強化を掛けていない状態でだ。

その出来事に周りのみんなも気づき声を掛ける。

 

「シュミット、一回ユニットを見てもらったらどうだ?なんかおかしいぞ?」

 

シャーリーが提案する。

 

「そうですわね…こう何回もトラブルが起きては実戦にも支障がでますわ」

 

ペリーヌも言う。

 

「そうだな、一回整備班にちゃんと見てもらわないといけないな」

 

そう言ってシュミットも同意する。そして5人は基地に帰投し、シュミットは基地の整備班にユニットの整備を頼む。

そして数十分の後、整備班から告げられた内容にシュミットは驚く。

 

「中尉、すみませんがユニットからは何処も異常は見当たりません」

「なんだって?」

「はい。全てのパーツをオーバーホールしてないので完全とは言えませんが、少なくとも魔道エンジン自体には破損はありませんでした」

 

魔道エンジンに破損は無いと言われ、シュミットは納得ができないでいた。なら上空で起きたあの黒煙は一体なんなんだ、と。

 

「すまないが、上空でトラブルが起きてからでは遅いんだ…この機体をオーバーホールして点検をしてもらいたい」

「わかりました。ユニットを一回オーバーホールし再点検を行います」

「ありがとう」

 

そう言ってシュミットは格納庫を出る。するとその先にミーナがいた。

 

「あっ、中佐」

「シュミットさん、少しついて来てください」

 

突然シュミットはミーナにそんなことを言われ驚く。すぐさま自分が何か悪いことをしたのかと考える。しかしミーナはそんなシュミットを見て一言言った。

 

「別にシュミットさんが悪いことをしたわけじゃないわよ」

 

それを聞いてシュミットは少しホッとする。しかし再び、何故呼ばれたのかを考え始めるシュミット。

そして部隊長室に来たミーナとシュミット。そこには坂本もいた。

 

「シュミットさん」

「はい」

 

ミーナは真剣な声でシュミットの名前を呼ぶ。その声にシュミットも真面目に返事をする。

 

「明日の1300にシュミットさん宛にカールスラントの技術者が来ます」

「私に?でも、私はテストパイロットでもないはず…何故?」

 

シュミットの言う通り、テストパイロットでもない彼のところに何故技術者が来るのか。

 

「シュミットさんが数少ないウィザードだから、ってところかしら」

「なんだ?ミーナも詳しく知らないのか?」

「えぇ…」

 

坂本が聞くが、ミーナ自身も詳細は分からないと言うのだ。それを聞いてシュミットは少し不安になった。

 

「…それ、大丈夫ですかね?」

「まぁ、正式な書類が届いているから間違いないと思うけど、一応私も明日同席するから」

 

ミーナがそう言うのでシュミットも一応明日になればわかるだろうと思い、執務室を出た。そしてそのまま自分のユニットの状況を見るために格納庫に向かう。明日来る技術者がウィザードの自分目的で来ると考え、どの道ユニットが無ければ意味がないだろうと考え、ユニットの現状を確認しに行ったのだ。

そして格納庫に入り、自身のユニットのところに向かう。すると、数名の整備兵がオーバーホールを終えたのかユニットを再び組み立てていた。

すると一人の整備兵――アロイスが声を掛ける。

 

「中尉!」

 

そう言って挨拶をするが、シュミットはどうもその様子に居心地悪くしている。

 

「う~ん、その、私だけの時は中尉じゃなくて名前で呼んでほしいな。少ない男友達だからなんか階級で呼ばれると堅苦しいというか、友達失いそうというか…」

 

と、シュミットが言った。実際、ウィッチーズは女性が殆どでシュミットのみが魔力を持っている男である。そのため肩身の狭さもあるため同性の友達が少ないのだ。

それを聞いて整備兵も雰囲気を崩す。しかし敬語はそのままである。

 

「わかりました、シュミットさん」

「うん。組み立て途中だったか…明日までには間に合うな」

「明日ですか?」

 

アロイスが聞くのでシュミットが明日カールスラントから技術者が来て、その時にユニットを使うかもしれないと伝えた。それを聞いて他の整備兵も理解した。

 

「大丈夫です、明日までには組み立て終わりますから」

「そうか」

「しかし…」

「ん?」

 

整備兵の一人が声を漏らし、シュミットが聞く。

 

「シュミットさんのユニットなんですが、オーバーホールしても異常は無かったんです」

「えっ?」

 

それを聞いてシュミットは驚く。なら昼間に起きたあのトラブルは一体何だったのか。

 

「間違いないのか?」

「はい。パーツ一つ一つを確認しましたが、破損している様子は見つかりませんでした」

「なら…一体何故トラブルが起きたんだ…」

 

ユニットに原因が無い。なら一体どういうことなんだ?全く頭の中で整理がつかないシュミット。アロイスが声を出した。

 

「とりあえず、ユニットに原因が無いのが幸いでしたね」

「だが、これからもこの問題が起きたら厄介だな」

 

そう話しているとき、シュミットの後ろから別のユニットのエンジン音がする。その音に気になりシュミットが振り向くと、夜間哨戒に向かおうとしているサーニャがいた。

 

「サーニャ」

 

シュミットがサーニャに近づき声を掛けると、サーニャがシュミットの方向を向く。しかし、シュミットの後ろにある光景、整備兵が敬礼をしているすぐそばにある分解されたユニットを見てシュミットに聞いた。

 

「シュミットさん、それは…」

「ん?ああ、あれか。昼間の訓練で黒煙を噴いたから点検してもらってたんだ。部品に異常はないから問題なかったから今組み立ててもらってるところなんだけど」

 

なんでもないようにユニットを見ながら言うシュミットだったが、サーニャはシュミットのユニットをじっと見る。その後シュミットの方向を見る。

 

「シュミットさん」

「ん?」

「その、本当に大丈夫ですよね…?」

 

サーニャが弱々しくシュミットに聞く。シュミットもそんなサーニャの声を聴いてサーニャの方向を見る。するとそこにはシュミットを不安そうに見ているサーニャが映っていた。

 

「あぁ、大丈夫だ。501の整備兵の腕は確かだから、少なくとも落ちる心配は無い」

 

こういう時も他の隊員を立てるのを忘れないシュミット。そんなシュミットを見て、サーニャはこれ以上なにも言わなかった。しかし、サーニャはこの時心の中で不安が渦巻いていたのだった。

そしてサーニャが出撃する後ろ姿をしっかりと見送るシュミットだが、その後ろから声を掛けられる。

 

「羨ましいな~」

「え?」

 

シュミットは後ろから掛けられた声を聞いて振り返る。するとそこにはアロイス達整備兵がいた。

 

「シュミットさんですよ。あんな可愛いウィッチにシュミットさん心配されてるんですよ?」

「まぁ、戦闘で死んだら他の皆も悲しむからな」

「そうじゃないっすよ」

 

シュミットの言葉にアロイスの後ろに立っていた整備兵が否定する。

 

「ん?違うのか?」

「知らなかったんですか?」

「なにがだ?」

「たぶんリトヴャク中尉…いえ、なんでもないです」

 

シュミットはそのあとの言葉を教えてもらえず首をかしげるが、アロイス他もう一名の整備兵も納得するのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日1300、滑走路でシュミットとミーナ、そして坂本が立っていた。

 

「遅いな…」

 

坂本が言う。予定ではもう到着するが彼女の目にはまだ輸送機の姿は見えないらしい。

 

「そういえば中佐、今日来る技術者っていったいどんな人なんですか?」

 

シュミットはふと気になりミーナに聞く。その質問を聞いてミーナが答える。

 

「技術者は双子の兄弟で、互いに少尉。そして…」

「来たぞ、ミーナ」

 

ミーナがその先を言おうとした時、坂本がミーナに言う。その声を聞いてシュミットとミーナも坂本の向いている方向を見る。同時に、シュミットは目に強化を掛けて見る。すると遠方にJu52が飛んでくるのが見えた。そしてそのまま滑走路に着陸をする輸送機。

シュミット達は輸送機の扉の近くに行く。そして扉が開き中から人が出てくる――はずだった。

 

「ミハエル、何故お前が先に出る!」

「何を言うマルクス、兄である俺が先に出るのが普通だろう!」

「扉を開けたのは俺だ!」

 

何故か輸送機の扉の所で先に出るかで睨み合う男二人。そして二人はドアに詰まった後、同じタイミングで足を踏み外し地面に落ちる。

 

『うわぁ!?』

 

そして地面で倒れる二人の男。見た目は若く20も行ってない。階級章を見ると少尉の階級章がついていた。

 

「大丈夫なのか、この二人は…」

 

坂本が横で呟く。ミーナは事前に来たこの二人の詳細を受け取っており、その通りだったことに頭を痛めたのか手を添える。

その時、ミーナは横にいるシュミットに目をやる。そして、シュミットが固まってその二人を見ており何か言おうとした時だった。

彼の目がありえないものを見ている目をしているのに気づき、今度はどうしてそのような目をしているのか疑問に思った。

 

「…どうしたの、シュミットさん」

「…なんで」

 

ミーナが聞くが、シュミットは声を絞り出すだけで精一杯なようで、目の前の光景に口をパクパクさせる。

その時、輸送機から転げ落ちていた双子が顔を上げシュミットを見つける。そして二人はシュミットを見て顔を笑顔にした。

 

「「あっ!やっぱりシュミットだ!!」」

「えっ?」

「なに?」

 

その言葉を聞いて、ミーナと坂本は驚く。この二人はまるでシュミットを知り合いのように呼ぶではないか。

しかしこの言葉でシュミットはさらに信じられないように言った。

 

「なんで…なんでお前達(・・・)がいる…ミハエル…マルクス…」

 




シュミット君のユニットの不調、実は前にも少し触れて居たり。
シュミット君、意外に鈍感です。そして最後に出てきた二人は一体!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!


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第二十三話「親友と事件」

まさかこんなすぐに話が完成するとは思わなかった。


「なんで…なんでお前達がいる…ミハエル…マルクス…」

 

シュミットの言葉にミーナと坂本が確信する。この二人はシュミットと一回会ったことがあるようだ。しかし、いったい彼はいつこの二人に知り合ったのかが疑問に思った。

そしてミーナと坂本は気づく。彼らの目を見るとそこから涙が流れていることに。そしてミーナはさらに気付く。シュミットの目からも涙が流れていた。

シュミットはまだ信じられないでいた。目の前にいる人物に対してだ。それが真実かどうかまだ受け入れられなかったのだ。

しかし彼の疑念を断ち切る言葉が双子から告げられた。

 

「…ハンブルクの空襲」

「っ!?」

「ソ連との闘い」

「なっ…!?」

 

その言葉にはシュミットだけでなくミーナと坂本も驚く。ハンブルクの空襲という言葉は基地の外の人間が知るはずがない。しかし目の前の双子は確かに言った。それどころか、ソ連との闘いまで言っているではないか。ミーナと坂本はこの二人に対して危険を抱く。

しかしシュミットはその言葉が完全に確信に変わったのか、双子に向かって走り出す。

 

「シュミット!?」

「シュミットさん!?」

 

ミーナと坂本は双子に対して何をしようとしているのか分からず驚く。しかしシュミットは彼らのもとに行き、そして抱き着く。

 

「なっ?」

「えっ?」

 

そしてさらに驚く。何故抱き着く?二人の位置からシュミットの表情は見えなかった。しかし、そこにはすすり泣く声が聞こえる。声の主はシュミットだった。

 

「ううっ…本当に…本当に二人だよな…なぁ!?」

「ああ、俺たち双子」

「本物だ」

 

その声に抱き合いながら声を大きくして泣き始めるシュミット。そんなシュミットを双子も涙を流しながら抱き合う。

ミーナと坂本は状況が読み込めず双子に言った。

 

「ごめんなさい、状況を説明してもらえる…状況でもなさそうね」

 

が、三人が泣きながら抱き合っている姿を見て聞きづらそうにしていたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「…信じられないな。まさかシュミットと同じ世界、しかもシュミットからしたら死んだはずの親友に出会ったなんて」

 

あれから三人は落ち着き、ミーナと坂本に状況説明をされる。そして伝えられた事実に二人は驚かされた。

双子の名前は兄がミハエル・フレイジャー。弟がマルクス・フレイジャーと言う。そして更に驚く事実に、この二人は前の世界でのシュミットの親友だった者だった。

最初こそ信じられなかった二人だったが、シュミットがいつも身に着けていたあるものでこの二人が親友であったという確信を持てた。

彼の持っていたドッグタグ。坂本は始めてシュミットがこの基地に来た時のことを思い出し、その時に双子の親友が居たことを聞いていた。そしてそこに記されていた名前が、この二人の名前と一致していたのだ。

二人は前の世界で戦死したはずだった。しかし、二人は気づけばこの世界、1943にいたという。二人の服には銃弾の痕こそあったが、体には外傷がなかったそうだ。

 

「私と同じ状況だ…」

 

シュミットは初めてこの世界に来たことを思い出した。その時も機体に弾痕こそあったが大破していなかった。

 

「そんで俺達はこの世界に来て、この世界のことを教えてもらった」

「あの時は驚いたよ。聞いたことのない国家に見たことの無い敵。それにあの服装も…」

「違いない…」

 

双子が頷きながら言う姿を見て、シュミットも同意する。全く同じ経験をしてきて共感できる人がいるんだから尚更だ。

 

「そんで俺たちはこの世界のストライカーユニットに興味を持った。そして俺たちは今技術者としてユニットを開発しているってわけだ」

「なるほどな…」

 

これによってなぜ二人が技術者になったのか理解した。前世でもそうだったが、この二人は興味を持ったことはとことんやる性格だったなと思った。

 

「さて、そんなことより仕事だ!」

「おうミハイル!」

 

そう言って立ち上がる二人。

 

「そういえば、二人は技術者としてこっちに来たんだったな」

「勿論!」

「何のための俺達技術少尉だ!お前の階級にだって届い……」

 

と、マルクスの言葉は続かなかった。なぜなら彼の目はシュミットの階級章を見ていたからだ。

それを見てシュミットは気づき、そして誇らしげに言った。

 

「ふっ、残念だが俺はもう中尉だ」

「「な、なんだってー!?」」

 

シュミットの堂々の宣言に双子は心底驚いたように叫んだ。しかし横で見ていたミーナと坂本は意外なものを見た気分だった。

 

「珍しいな、シュミットがあんな表情をしているのも…」

「そうね。いつもならあんな表情することなんてないものね…」

 

ミーナと坂本はシュミットが悪い笑顔をしながら双子に向かって誇らしげにしている姿を見て新鮮に思う。

 

「嘘だろ…俺達お前に再会したら驚かそうと思っていたのに…」

「逆に俺達が驚かされちまったぜ!」

 

二人は地面に膝をつき頭を抱えながら嘆く。そんな様子を見てシュミットが笑うのだった。

しかし、そんな空気をぶち壊すことが起きたのだった。突如、基地全体に警報が鳴り響く。ネウロイが現れた証拠だ。

 

「なっ!?」

「おっ?」

「なんだ?」

「まさか…!?」

「敵襲だ!」

 

五人がそれぞれの反応をするが、真っ先に坂本が格納庫に向かう。それに続いてミーナ、シュミットが向かう。後に続くようにフレイジャー兄弟がついていく。

そして格納庫に着き、坂本とミーナ、シュミットがユニットを履く。そして体から使い魔を出す姿を見て、双子が吃驚したように言った。

 

「うわぉ!?本当に魔法使えたのか?」

「さっき聞いてただろ、ミハエル…」

 

ミハエルのボケにシュミットがツッコむ。そうするうちに、坂本が先に出撃する。ちょうどその時、夜間哨戒だったサーニャを除くウィッチ達全員が格納庫に到着する。

 

「ミハエルマルクス!そこにいるとウィッチ達の発進の邪魔になる!」

「わかった、シュミット!」

 

シュミットは二人に警告をする。その警告を聞いて双子も頷き、格納庫の端に行く。そして端っこに着いた後、双子がシュミットに声を掛けた。

 

「シュミット!ネウロイをぶっ飛ばしてやれ!」

「俺達の分も頼んだぞ!」

「任せろ!」

 

二人からエールをもらいシュミットはMG151を手に取り離陸を開始した。そして基地の上空に行きネウロイの来た方角を確認する。その後、他の隊員達も基地の上空に集まり、編隊を組んでネウロイに向かった。

 

「ネウロイは一機、大型だ。このまま進めばロンドンに到着する。ネウロイが上陸する前に何としても墜とすぞ!」

『了解!』

 

坂本からの号令に全員が大きく返事をする。その時、シュミットに横から声を掛けられる。

 

「シュミット~」

「ん?なんだ、ハルトマン」

「さっきの人たちは誰?」

「おいハルトマン!作戦中だぞ!」

 

ハルトマンがシュミットに質問し、バルクホルンがそれに注意をする。しかしバルクホルンも内心あの二人が誰なのか気になっていた。

 

「私の親友だ」

「えっ?親友?」

「シュミットさん、友達いたんですか?」

 

ハルトマンと、話を聞いていた宮藤からそんなことを言われシュミットはぐさりと胸に何かが突き刺さる。

 

「あのなぁ…私だって人間だから友達だっているんだぞ…」

 

そんな呆れた声に宮藤は「ごめんなさい…」と謝る。

そんな無駄話が目立った状態だったが、ネウロイに接近してくると全員の気持ちは引き締められた。

 

「敵発見!」

 

坂本の声と同時に、シュミットもネウロイを確認した。ネウロイは巨大な爆弾に先が尖ったような形状をしていた。

 

「バルクホルン隊、イェーガー隊、突撃!」

「了解!」

 

そしてバルクホルンとハルトマンが先行して降下する。その後に、シャーリーとルッキーニが追走する。そして四人はネウロイの攻撃を防いだり避けたりしながら接近し、手に持つ機関砲の銃弾を叩き込む。

シュミットはいつも通りの遊撃では無く、今回はペリーヌと組んでいる。二人は三番目に降下する。

そしてシュミットはネウロイの光線を縫うように避けながら接近し、そこにMG151の弾丸を叩き込む。その攻撃にひるんだネウロイは悲鳴を上げた後、四方八方に攻撃をする。坂本とミーナの近くにいた宮藤がその攻撃を防御する。

そしてしばらくシュミット達がネウロイと空戦を繰り広げる中、ついに坂本がコアの位置を魔眼で特定した。

 

「コア発見!ネウロイの中央だ!」

 

その連絡を聞いて、全員が一斉にネウロイの中央に攻撃を開始する。そしてシュミットがネウロイに接近した時だった。

突如、シュミットがバランスを崩したのだった。

 

「うわっ!?」

 

急接近した状態だったが突然の態勢の崩れでネウロイから照準がずれる。

シュミットはユニットを見た。そこからは驚くことに黒煙が出ていた。

 

「なっ!?こんな時に…!?」

 

シュミットは驚いた。まさかこのタイミングでユニットの不調が発生するとは思わなかったからだ。

そして最悪の出来事は連鎖した。ネウロイがそれぞれのウィッチ達に光線を放つ。それはもちろんシュミットにも飛んできた。

シュミットは態勢の崩れた状態で立て直そうとしていたため、完全に反応が遅れてしまった。急いでシールドを光線の方向に張るが、即席で作られたシールドはネウロイの攻撃を受け色を赤くした。

 

「なっ…!?」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

501の格納庫で、ミハエルとマルクスはボーっと外を見ていた。その方向は先ほどウィッチ達が出撃した方向だ。

 

「しかし凄いな、ウィッチーズ。そうだろうマルクス」

「同感だ、ミハエル」

 

二人はそんなことを言いながら青空を見る。しかし、二人は心の中で何か不吉な予感がしていた。

 

「なぁマルクス」

「なんだミハエル」

「大丈夫だろうな…その、不安と言うか」

「珍しいな、俺も同じことを考えていた」

 

二人は言葉にできない謎の不安を感じていた。その時、後ろから足音がする。

 

「…貴方達は?」

 

突然声を掛けられ、二人は振り返る。そこにいたのは銀髪の少女、サーニャが立っていた。

 

「おろ?」

「俺達のことか?」

 

双子の言葉にサーニャは頷く。

 

「俺はミハエル・フレイジャー。こっちは弟のマルクス。互いに階級は少尉」

「よろしく」

 

そう言って肩を組み挨拶をする二人。そんな二人のおかしな姿を見て悪い人ではなさそうだとサーニャは心の中で思った。

 

「もしかして、君もウィッチ?」

「サーニャ・V・リトヴャク。オラーシャ陸軍中尉で501のナイトウィッチ…」

「ナイトウィッチかぁ…って、中尉!?」

「失礼しました!」

 

中尉という階級を聞いて二人は固組みを解き急いで敬礼をする。その様子を見て、根は真面目な人なんだとまたいい方向に評価する。

 

「ん?ナイトウィッチってこの時間寝ているものじゃないんですか?」

 

と、ミハエルがそんなことに気づき聞くが、サーニャは不安そうに答えた。

 

「その、目が覚めてしまって…少し胸騒ぎがするような…しないような…」

 

そんな曖昧な言葉を言うサーニャだったが、ミハエル達は互いに顔を合わせる。まさか自分たちと同じように胸騒ぎがしているとは思っていなかったからだ。

そして、遠方にウィッチ達が帰還して来るのが見えた。その様子を見て、ミハエルとマルクスは安心したようにホッと息を吐いた。

 

「俺達の思い過ごしだったようだな」

「そのようだな」

 

そう安心した二人だったが、この後その気持ちは真逆の方向に向かった。

まず最初に気づいたのはサーニャだった。ウィッチ達が基地に向かう速度が速かったのだ。そして、彼女の目にはあるもの(・・・)が見えてしまった。

 

「あっ…!?」

 

サーニャが声を漏らす。その反応にミハエルが気付く。

 

「どうしました中尉?」

 

ミハエルがサーニャに聞くが、その横にいたマルクスも気づいた。

 

「あっ!?」

「何だマルクス…あっ…」

 

マルクスの声を聞いて、そしてミハエルもその方向をしっかり見る。そしてその先にあった光景に言葉を失った。

彼らは見てしまった。その衝撃の光景を。

そしてウィッチ達が滑走路に降り立ってきた。そしてその光景は更に彼らの心に衝撃を与えた。

 

 

 

 

 

 

バルクホルンとシャーリーに担がれ、頭から血を流している(・・・)シュミットが気絶しながら運ばれてきたのだった。




最近書いていてサーニャの口調これで大丈夫かなと思ってきました。
そう、登場したのはシュミット君の前の世界での親友二人でした!
そしてシュミット君、血まみれの帰還。一体どうなる!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!


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第二十四話「サーニャの安堵と助言」

次話投稿します。正直に言います。変な文章です。
と言うより、気が付いたらUAが20000を超えていてびっくりしました。皆さんありがとうございます。


「シュミットさん!」

 

サーニャが叫んでシュミットのところに駆け寄っていく。その後に続いてフレイジャー兄弟も走り出す。

 

「サ、サーニャ!?」

 

エイラがこの場にサーニャがいることに驚き声を出す。他のウィッチ達もサーニャが起きていると思っておらず少なからず驚いていた。

サーニャはバルクホルンとシャーリーに担がれ医務室に向かっているシュミットを見る。

シュミットは頭から血を流し気絶していた。しかしその血はまだ傷口が開いているのか流れ続けている。また、彼は機関砲を持っておらず、代わりに彼の服には小さい金属片が刺さっていた。

ミハエルとマルクスもシュミットの容態を見て驚く。

 

「シュミット!?」

 

マルクスの声によってか、それとも痛みによってか、シュミットは唸り声を出す。

 

「ううっ……」

「シュミット…」

「宮藤、お前も同行するんだ。シュミットの治療をしろ!」

「わかりました!」

 

まだ若干の意識があるシュミットにマルクスが大事なものを触るかのようにてを伸ばす。坂本は宮藤に命令をし、宮藤が返事をする。そしてバルクホルン達についていく。残された皆はその場で運ばれていくシュミットを見ているしかできなかった。

そんなとき、ミーナが皆に声をかけた。

 

「シュミットさんが心配なのは分かるわ。でも皆とりあえず基地に戻りましょう」

 

そう言えば全員まだユニットを履いていたんだと思い、急いでそれぞれのユニットの固定台に向かったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「皆注目。宮藤さんの治療のかいもあって、シュミットさんは取り敢えず命に別状はありません」

 

ミーナの言葉によって、ブリーフィングルームの張りつめた雰囲気は若干抜ける。

 

「ただ、まだ気絶した状態から目覚めていないので、今日の夜間哨戒はサーニャさん、貴方が代わりに出てください」

「わかりました…」

 

サーニャはミーナから言われ了承する。しかし、そこにあった表情はまだ若干元気が無く、返事も少し暗かった。その反応は他のウィッチ達も見てわかるほどだった。

ミーナがそんなサーニャを見て励ましの声を掛ける。

 

「大丈夫よサーニャさん。シュミットさんは疲れて眠っているだけで、大事を取って医務室で休んでいるだけだから」

 

ミーナに励ましを貰い、ようやくサーニャも安堵の息を溢す。そんなサーニャを見てミーナは少し笑顔になった後、全員に解散を言った。

そうしてそれぞれ解散していく中、ブリーフィングルームにはミーナと坂本が残る。しかし、ミーナは最後に出ていくサーニャを呼び止めた。

 

「サーニャさん」

 

突然呼ばれたサーニャは何だろうと思い振り返る。

そこには微笑をするミーナがいた。

 

「シュミットさんが気になるのね」

 

ミーナがストレートに言い放つ言葉はサーニャをドキリとさせた。横にいる坂本はなんの話だ?というような反応をしている。何故ミーナがサーニャにだけ言ったのか分からなかったようだ。

 

「一応、医務室には静かにしていれば入室していいから、出撃までなら面会してもいいわ」

 

その言葉はサーニャからしたら今一番欲しかった言葉かもしれない。サーニャはミーナにお礼を言った。

 

「ありがとうございます」

「その代わり、出撃には必ず間に合うように」

 

そうしてサーニャはブリーフィングルームを出て、そして小走りだが走り始める。そして医務室の前に到着した時、その場で立ち止まる。

サーニャは少し戸惑っていた――医務室の中に入るか入らないか。目の前にある厚さ5cmも無い扉を開ければ、その先に目的の人物がいる。しかしサーニャはその扉を開こうにも体が重く感じていた。

しかしいつまでも突っ立っているわけには居られない。サーニャは意を決して扉を押し、そして中に入った。

医務室の中には宮藤がシュミットの近くに立っていた。宮藤がサーニャに気づく。

 

「あっ、サーニャちゃん」

「芳佳ちゃん…」

 

宮藤がサーニャに気づき声を掛けるが、サーニャは今にも消えそうな小さな声で返事をする。原因はサーニャの目線の先に映るシュミットだった。

治癒を受けたシュミットは頭に包帯を巻いた状態でベットの上で眠っていた。帰還した時に服に刺さっていた破片はどうやら肉体にまで達していなかったようで、体には包帯が巻かれていなかった。

サーニャはゆっくりとシュミットに近づいていく。そしてベッドの真ん前にまで近づいた時だった。

 

「うっ…」

 

突然呻き声がする。その声に部屋にいたサーニャと宮藤が驚くと、シュミットが閉じていた瞼を少しだけ開いた。

 

「シュミットさん…!」

「シュミットさん!」

 

二人は思わずシュミットの名前を呼んだ。そしてシュミットは一度瞬きをした後、二人の方向を向いた。

 

「…サーニャに宮藤」

「シュミットさん…よかった」

 

宮藤が安堵の声を漏らす。

 

「私は…一体何があった…」

「シュミットさん、ネウロイの攻撃を受けて落とされたんです」

「私が…あぁ、あの時か」

 

シュミットは徐々にその時の記憶を思い出したのか、納得したように声を漏らしながら体を起こす。その時だった。シュミットはサーニャを見てあるもの(・・・)に気づき驚いた。

 

「サーニャ…何故泣いている(・・・)んだ?」

 

シュミットの声を聞いて宮藤もサーニャを見る。そこには目から涙を流し、そして両手で手を覆っているサーニャがいたのだ。

 

「サーニャちゃん…」

 

宮藤もそんなサーニャを見て驚くが、サーニャは静かにシュミットを見て涙を流していた。

シュミットはそんなサーニャの姿を見て少し心が痛くなってくる。そしてさらに驚くことは続いた。

今度はサーニャがシュミットに近づき、彼の手を取って握り、そして静かに涙を流した。

シュミットは自分の手をサーニャが大事そうに握っているのを見て、言葉を失った。自分が知らず知らずのうちにサーニャにこんな心配をかけてしまったことに対する罪悪感を感じたからだった。

また、その罪悪感は別のことで加速していた。シュミットからしたらサーニャは妹の面影を感じる少女でもあった。そのため、自分の妹を泣かせたような感覚までも彼に重くのしかかってきた。

しかしシュミットはここで勘違いをしていた。サーニャを心配させたのは自分が知らず知らずのうちにサーニャに心配されるほど行動に弛みが出てしまっていたのだろうと思っていた。

 

「すまないサーニャ…私の慢心のせいでこんな事故になっていまって。サーニャも怒るよな…」

 

しかしサーニャはシュミットの言葉を聞いてゆっくりと首を振った。その反応にシュミットはひょっとする。

そしてサーニャが言った次の言葉でシュミットは自分の勘違いを知った。

 

「違うんです…、シュミットさんが無事だったから嬉しくて…」

 

サーニャの突然の言葉にシュミットは目を開いて驚いた。まさかサーニャがそんな風に思って泣いているとは思っていなかったからだ。シュミットはそんなサーニャの言葉を聞いて心から温まる何かがあった。そして目元に僅かに涙を浮かべる。

 

「すまない、本当にすまないサーニャ…」

 

そして静かにシュミットも涙を流し始める。部屋の中にはサーニャとシュミット、二人の静かな鳴き声が広がった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

ミハエルとマルクスは現在本来の目的であるシュミットのユニットを、501の整備兵たちと見ていた。彼らも最初こそシュミットを見てショックを受けたが、彼らは彼らなりにシュミットのために墜落原因について懸命に追及していだった。

現在ユニットは坂本からの進言でオーバーホールをしていた。勿論、昼間の戦闘で出た黒煙についてだ。今回は出撃した全員が見ていたのだ。どうあがいてもユニットの故障以外では考えられないと。

 

「……おかしい」

 

整備中のアロイスが手元を動かしながら疑問の声を漏らす。それは他の整備兵も感じていることだった。

 

「ここまで破損した部品が見つからないなんて、普通ありえない…」

 

そう、全員が整備を徹底して確認しているが、いまだに一つも破損した様子は無かった。501の整備兵は完全にこのことにお手上げな状態だった――二人を除いて。

この様子を見ていたミハエルとマルクスは、互いに顔を見合わせた。そして、頭の中である仮説を考えていた。

 

「なぁマルクス」

「なんだミハエル」

「これって、故障じゃないんじゃないか?」

「同感だ。こいつはおそらく故障じゃない」

 

その会話を聞いていた整備兵たちは一斉に「えっ!?」っと驚き作業している手を止めた。無理もないだろう。今整備しているユニットは故障じゃないと言っているのだ。

 

「どういうことですか少尉、故障じゃないと?」

 

アロイスが代表して聞いた。

 

「ああ、そうだ。こいつは故障じゃない」

「むしろ正常と言ったほうが正しいんじゃないかな」

 

マルクスの正常という言葉にさらに驚く整備兵たち。故障だと言われているユニットは正常。そんなことを言われて信じられる人はいないだろう。

 

「とりあえず、シュミットにこの事は言うべきか?」

「そりゃそうだろう。じゃなきゃシュミット、また堕ちるぞ?」

 

全く内容の分からない話をする二人に整備兵たちは困惑するが、その様子を見てマルクスが言った。

 

「一応言っておく。この件はユニットじゃなく搭乗者――つまりシュミット自身が原因だ」

「えっ?」

 

なぜ負傷したシュミットが原因なんだと考えるが、そんな整備兵たちを余所に二人は格納庫から出た。

そして二人はそのまま501の基地を歩いていた。勿論シュミットの医務室に向けてだ。

 

「しかし、シュミットはいいものだな。花のウィッチーズの周りにいつもいるわけなんだから」

「同感だミハエル。俺も同じように囲まれたいと思うよ」

 

と、他愛もないくだらない話をする二人。するとその時、二人はあることに気づいた。

 

「…なぁマルクス」

「なんだミハエル…まさか」

「そのまさかだ…」

 

そして二人は声を合わせて言った。

 

「「いったい医務室って何処だ?」」

 

なんと二人は医務室の場所を分からずに基地を歩いていたのだ。それどころか彼らは501基地の内部についても詳しく知らない。そのため現在いる位置も何処かわかっていないのだ。

しかしそんな二人に救いの手は舞い降りた。

 

「何をしているの!」

 

突然後ろから声を掛けられ二人は振り返る。振り返った先には二人の見知った顔がいた。

 

「ミーナ中佐!」

「その、シュミットのところに行こうと思っていたのですが、彼の医務室はどこかわかりますか?」

 

そう言って真面目に言う二人だが、ミーナはシュミットのいる医務室を教えようとして――そしてやめた。

今医務室にはシュミットだけでなく、治癒をしていた宮藤、そしてシュミットの下に向かったであろうサーニャがいると考えたからだ。

そのためミーナは二人に言った。

 

「貴方達がシュミットさんを大事に思っているのは分かるわ…しかし、今シュミットさんは安静にしないといけないから面会はできないの」

「そ、そうですか…」

「せっかく解決方法が分かったのに…」

 

二人はミーナの説明を聞いてがっくりと肩を落とすが、ミーナはそんな中でミハイルが言ったある言葉が気になった。

 

「解決方法?それっていったい何のこと?」

 

ミーナは二人に質問した。

 

「シュミットが落ちた原因についてです」

「あれはおそらくユニットが故障したものじゃありません」

 

それを聞いてミーナは驚いた。ミーナでさえ、墜落の原因はユニットの故障による物だと考えていたからだ。しかしこの二人はそれを否定した。

 

「…詳しく聞かせてもらえないかしら」

 

――そして、ミハエルとマルクスはミーナに説明をした。それを聞いてミーナは更に驚いたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「シュミットさん、起きているかしら…」

 

そう言ってミーナは医務室に入ると、目の前の光景に少し固まった。そこにはシュミットの手を握って泣いているサーニャと、そのサーニャを見て泣いているシュミット。そんな二人を部屋の隅から見ていた宮藤は、ミーナに向けてどうしたらいいのかわからないといったような表情をしていた。

しかしシュミットがいち早く立ち直った。彼はもう片方の手で目元の涙を拭ってベッドに座りながらミーナに向き直った。

そんなシュミットを見てミーナも立ち直る。

 

「よかった、目が覚めたのねシュミットさん」

「はい、すみません中佐。心配をかけてしまって」

「それなら、シュミットさんの親友さんに言ってあげた方がいいわよ。二人共貴方のことを心配していたから」

「そうですね」

 

そう言っていつもの調子を取り戻してきたシュミット。

 

「そういえば、あの二人から伝言です」

「伝言?」

 

シュミットは何故二人から伝言が来たのかと疑問に思った。二人はまだ基地にいるのではないか?

 

「なんでも本国に戻って準備をすることがあると言って急いで帰って行ってしまったの」

「はぁ…」

 

それはなんとも二人らしい…と、シュミットは思った。

 

「そして伝言ですが、『シュミット、ユニットに魔力を流しすぎるな。もっと細かく制御をしろ』。だそうです」

「は?」

 

なんとも訳が分からないといった様子のシュミット。しかし彼の中では高速で頭が回っていた。

 

(魔力を流しすぎるな…細かく制御?どういうことだ?しかし二人が特に理由もなくそんなことを言うはずがない。ユニットに関してもあっちの方が熟知しているのは確かだ。ということはこれは助言か?)

 

懸命に考えているシュミットを見て、ミーナは忘れていた事を思い出した。

 

「そうだ、シュミットさん」

「あっ、はい」

「サーニャさんをあまり心配させないように、ね」

 

そう言って微笑した後、ミーナは医務室の外へ出て行ったのだった。




なんか自分で書いていて二人の距離は縮まっているのか分からなくなってきました。というより、芳佳ちゃん完全に凄い現場に居合わせていますねw
しかしフレイジャー兄弟、なかなかの切れ者であります。シュミット君に重要な助言を残していきました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!


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第二十五話「お手柄と規則」

新たに投稿します。切るところが無かったものですから文章が少ないです。ご了承ください。


あれから数日後、医務室から復活したシュミットは今、格納庫で自身のユニットと格闘していた。その周りには整備兵も立っており、ユニットに色々と線をつなげていた。因みに現在、他の整備兵もウィッチーズのユニットの整備を行っており、格納庫内は整備兵だらけであるが、シュミットのユニットは既に整備を終えていた。

Fw190はプロペラを高速で回転しているが、今シュミットは今魔力を絞っている。そしてそのまま魔力を強くし、回転数を少しずつ上げていく。そしてその魔力が段々高回転になっていき、そして最大までくる一歩手前の時だった。

ボンッ!と音がし、固定されたユニットから黒煙が出始める。同時に、プロペラ部分の回転数が落ちる。

 

「っ!」

 

それを見て今度は魔力を少し下げ始める。すると、今度は徐々に黒煙が薄くなっていき、ついに出なくなる。それと同時に、ユニットの回転数が復活した。

それを連続して行うシュミット。そしてある程度同じことを繰り返す。

 

「中尉、やはり安全装置が作動しているようです」

「そうか…なるほどねぇ」

 

整備兵からの言葉を聞いて、シュミットは納得の声を漏らしながらユニットから足を外す。その時、格納庫内に別の声が聞こえてきた。

 

「いつもありがとうございます!」

 

その声にシュミットを含む整備兵たちが振り向く。そこには手にお盆を持った宮藤が立っていた。

 

「お菓子作ってみたんですけど、皆さんで食べてください」

 

宮藤がそう言って差し出すが、整備兵たちはそんな宮藤を余所にユニットの方を再び向いてしまった。

 

「あの、これ、扶桑のお菓子で…」

「宮藤」

「あっ、シュミットさん」

 

シュミットは困った反応をする宮藤に声を掛ける。宮藤はそこにシュミットが居たことに驚いたような反応をしていた。

 

「この基地のウィッチの規則を知ってるか?」

「え、規則ですか?」

 

宮藤はシュミットの言った規則について懸命に考え始めた。

 

「ミーナ中佐から、必要最低限以外のウィッチ達との会話、および接触は禁止されているんだ」

「え、でもシュミットさんは」

「私はウィッチじゃなくてウィザード…同じ男同士だからミーナ中佐から特に禁止とかないんだ」

 

そんなルールを聞いて宮藤は驚きと同時に残念な思いになる。せっかく作ったおはぎを振るまえないことにだ。

そんな宮藤を見て、シュミットは名案を思いつく。

 

「宮藤」

「はいっ」

「それ、私から整備兵に渡せば問題ないぞ?」

「え?」

 

そんな提案を言うシュミットに宮藤は何のことかわからず疑問の声を漏らす。

 

「つまり、宮藤が作ったそのお菓子を私から整備兵に渡すことはできるってわけだ…まぁ、裏技みたいなものだけど。どうする?」

「えっと…」

 

宮藤は数秒悩んだのち、シュミットにそのお盆を差し出した。

 

「その、お願いします…」

「了解」

 

そう言ってシュミットはお盆を受け取ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「へぇ、そんな事があったの」

 

リーネは宮藤の話を聞いてそんな感想を零す。内容は先ほど格納庫であった一件だ。

 

「あの時はシュミットさんがいたからよかったけど…なんでミーナ中佐はそんな規則を作ったんだろう…リーネちゃん知ってる?」

「私も命令があるのは知っていたけど、あまり気にしていなかったから」

 

リーネも一応命令の存在を知っていたが、彼女はあまり気にしていなかったようだ。

宮藤がそんな命令に不満を零す。

 

「こんな命令絶対変だよ、変すぎる。リーネちゃんもそう思わない?」

「えっと、私、兄弟以外の男の人とほとんど話した事なくて…」

「そっか、学校とかは?」

「ずっと女子高だったから」

 

リーネは元々女子高出身で、部隊に入っても話す男の人はシュミットだけ、それもいつも一緒にいることの多い宮藤に比べたら圧倒的に少ない。そのため男性と接する機会があまり無いため芳佳の言うことをあまり自分で表現できなかった。

 

「そうなんだ…あっ、ほらあれ、赤城だよ!」

 

リーネの話を聞いて宮藤は少し下を向くが、前方に見えたあるものにその顔を上げた。

 

「アカギ?」

「うん、私の乗ってきた船。修理しているって聞いたけど、直ったのかな?」

 

そう言って説明する時、基地の建物の影からシャーリーとルッキーニが出てくる。

 

「あっ、いたいた。芳佳!」

「ミーナ中佐が呼んでたぞ」

「はーい。何だろう?」

 

シャーリーから言われた言葉に宮藤はリーネに首をかしげる。リーネも呼ばれた理由が思いつかず首を傾げ返したのだった。

そして呼ばれた宮藤は部隊長室の扉を開ける。

 

「失礼します」

 

そう言って室内を見渡すと、中には坂本と初老の扶桑軍人がいた。

 

「おお、宮藤さん!お会いしたかった!」

 

そう言って近づく扶桑軍人の前に、ミーナ中佐が重なった。

 

「こちらは赤城の艦長さんよ。ぜひあなたに会いたいとおっしゃって」

「杉田です。乗員を代表して貴方にお礼を言いに来ました」

「お礼?」

 

宮藤はお礼と言われてオウム返しをするが、杉田は続けて説明した。

 

「貴方のおかげで遣欧艦隊の大事な艦を失わずに済みましたし、何より多くの人命が助かりました。本当に感謝しております」

 

そんなことを言われ宮藤はすこし縮こまる。

 

「いえ、私は何も。あの時は坂本さんと他の人たちが…」

「いや、確かにあの時お前が居なければ全滅していたかもしれん。誇りに思ってもいいぞ、宮藤」

 

謙遜する宮藤に対して坂本が言う。坂本に言われては宮藤も誇りに出来るだろう。

 

「そうかな、えへへ」

 

そう言って照れ笑いをする宮藤。そんな宮藤に杉田が包みを差し出す。

 

「全乗員で決めました。これを貴方にと」

「あらあら、よかったわね」

「ありがたく受け取っておけ、宮藤」

 

杉田から包みを渡されミーナと坂本はよかったねと宮藤に言う。

 

「はい、ありがとうございます」

 

そう言って宮藤は包みを受け取った。杉田はそんな宮藤を見て少し微笑んだ後、表情を引き締めミーナの方向を向いた。

 

「反攻作戦の前哨として、我々も出撃が決まりました」

「ついにですか…」

「反攻作戦?」

 

ミーナは杉田の言葉を聞いて覚悟をしたように表情を引き締めるが、宮藤は何のことだかわからず聞き返した。

 

「ええ。今日はその途中で寄らせて頂いたのです。明日には出港なので是非艦にも来てください。皆が喜びます」

「はい」

 

そう元気に返事をする宮藤だったが、次の言葉でその思いは消えた。

 

「残念ですが、明日は出撃予定がありますので――」

「そうですか、残念です」

 

ミーナにそう言われ、杉田は残念そうにする。宮藤も同じようにがっかりしたのだった。

その後、部隊長室を出た宮藤はリーネと話していた。

 

「艦長さんって大佐だから、ミーナ中佐より偉いんだよ」

「ふぇ~、そんなに偉い人だったんだ」

「艦長さんが代表してお礼に来てくれたなんて、凄いね!」

 

そうリーネに言われて宮藤は照れ笑いをするが、突然正面から現れた人に立ち止まる。

 

「宮藤さん!」

「ふぇっ!?」

「さ、先の戦いでの宮藤さんの勇敢な戦闘には大変敬服しました!艦を守って頂き大変感謝しております!」

 

宮藤の目の前に、一人の青年が現れた。彼は赤城の乗組員だった。

 

「あ、はい。どういたしまして…」

「あの、そのですね。これ、受け取ってください!」

「えっ?」

 

芳佳は青年から渡された一つの封を見て驚くが、リーネはそれが何か察したようで、芳佳に小声で伝えた。

 

「ラブレターじゃない?」

「え?ラブレター?」

「うん。受け取ったら?」

 

そう言ってリーネは芳佳の持っていた包みを持ち、芳佳の手を空けた。芳佳は突然ラブレターをもらったことに驚き、顔を少し赤くした。そして少しずつ手を伸ばし、それを受け取ろうとした時だった。

 

「あっ!」

 

そのラブレターは突風で宙を舞った。

宮藤と青年は追っかけるが、追っかけた先にはミーナがそのラブレターを持って立っていた。

 

「ミーナ中佐!」

「…このようなことは厳禁と伝えたはずですが」

 

宮藤がミーナを呼ぶが、ミーナは青年の方にきつい言葉を向けていた。

 

「すみません、是非とも一言お礼が言いたくて」

「ウィッチーズとの必要以上の接触は厳禁です。従ってこれはお返しします」

「申し訳ありませんでした…」

 

そう言って青年は走って行ってしまった。宮藤はその光景を見てショックを受けたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

ミーナは執務室の窓から遠くを眺めていた。そこからはいまだに奪還できていないガリアが見えるが、彼女の目はガリアではなく別のものが映っていた。

彼女の目には、ネウロイの攻撃によって焼ける基地施設が映っていたのだ。

 

「聞いたぞ」

 

と、ミーナの後ろから声がする。振り返ると、そこには坂本が立っていた。

 

「美緒…」

「手紙を突き返したそうだな」

 

坂本はそう言って少しずつミーナの下に近づいていく。

 

「そういう決まりだもの」

「…まだ忘れられないのか」

 

そうして坂本も、もう一つの窓から外の景色を見たのだった。

 

一方宮藤とリーネは、部屋の中で杉田館長からもらった包みを開いていた。

宮藤とリーネがそれを見て思わず声を漏らす。

 

「わぁ、扶桑人形だ!」

「かわいい~!」

 

贈られてきたものは宮藤の故郷の伝統的な扶桑人形だった。それを見て宮藤とリーネは笑顔になる。しかし宮藤はそれを見た後、ある思いが彼女の中を巡った。

 

「お礼…言いたいな」

 

宮藤はその思いが叶えられず少し寂しそうに呟いたのだった。




シュミット君、そんな裏技バレたら中佐に何て言われるか…
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは


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第二十六話「リリー・マルレーン」

と言うわけで次話完成したので投稿します。どうぞ。


「ガリアから敵が進行中との報告です」

「今回は珍しく予測が当たったな」

 

ブリーフィングルームに集められたウィッチーズは、ミーナからの説明を聞いていた。その説明に坂本が感想をこぼすが、シュミットも同じような思いだった。

 

(敵が一定のペースで来るならこっちとしては戦いやすいことこの上なしだな…)

「現在の高度は15000、進路は真っ直ぐこの基地を目指してるわ」

「よし、バルクホルン、ハルトマンが前衛!ペリーヌとリーネが後衛!宮藤は私とミーナの直掩!シュミットはいつも通り遊撃!シャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャは基地待機だ!」

「お留守番~お留守番~♪」

「ユニットのセッティングでもするか」

 

基地待機組はそれぞれ色々な反応をするが、出撃組は気を引き締めた。

そしてその様子を見て坂本が号令をする。

 

「よし、準備にかかれ!」

 

そうして出撃組は格納庫に行き、ユニット履く。シュミットもユニットに魔力を流し始める。そして武装はいつも使うやつでは無かった。MG151はこの前の出撃で壊れてしまい、補給が来るまで今はMG42を使うことにしたのだ。しかしシュミットはそれをバルクホルンと同じように二丁持っていた。

そしてそのまま離陸をする。滑走路ではシャーリーとルッキーニが見送りをする。

 

「行ってらっしゃーい!」

 

そして上空で編隊を組むシュミット達。そしてしばらく飛んでいるとき、坂本がネウロイを発見する。

 

「敵発見!」

「タイプは?」

「確認する!」

 

ミーナがどんな種類か聞くので坂本が眼帯を取り魔眼で確認をする。それを聞いてシュミットも強化した目で坂本の向いている方角を見る。

坂本がネウロイを特定した。

 

「300m級だ!いつものフォーメーションか?」

「そうね」

 

坂本が聞くのでミーナがそれに肯定した。しかしシュミットはそのネウロイの形状を見て疑問に思った。

 

(何だ?赤い斑点がバラバラに散らばっている?型は左右対称だが模様は非対称じゃないか)

 

そう考えている中、坂本が命令を下す。

 

「よし、突撃!」

 

そして全員がネウロイに対して突撃をする。前衛のハルトマンとバルクホルンがネウロイを射程に捉えた時だった。

突如ネウロイは小型に分裂したのだ。

 

「なにっ!?」

「分裂した!?」

 

それぞれが驚くが、ミーナが固有魔法の『三次元空間把握能力』を使いその数を数える。

 

「右下方80、中央100、左80」

「総勢260機分か、勲章の大盤振る舞いになるな!」

「そうね」

「で、どうする?」

 

坂本がミーナに聞く。ミーナはすぐさまフォーメーションを指示した。

 

「あなたはコアを探して」

「了解」

 

坂本が返事をする。

 

「バルクホルン隊中央」

「了解」

 

バルクホルンが返事をする。

 

「ペリーヌ隊、右を迎撃」

「了解」

 

ペリーヌも返事をする。

 

「宮藤さん、貴方は坂本少佐の直掩に入りなさい」

「了解!」

「いい、貴方の任務は少佐がコアを見つけるまで敵を近づけないことよ」

「はい!」

「シュミットさんは私について来て!左を迎撃するわ」

「了解!」

 

そうして、ウィッチーズ8人対ネウロイ260体の勝負が始まった。

 

「これで10機!」

「こっちは12機だ!久しぶりにスコアを稼げるな!」

「ここの所全然だったからね」

 

ハルトマンとバルクホルンは個々の実力を生かして各個撃破をする。

 

「いいこと、貴方の銃では速射は無理だわ。引いて狙いなさい」

「はい!」

「私の背中は任せましたわよ!」

 

ペリーヌとリーネは即席で全後衛に分かれる。そしてペリーヌはネウロイの集団に急降下する。

 

「これを使うと後で髪の毛が大変なのよね…」

 

そう言いながらペリーヌは自身の固有魔法を発動する。

 

「tonnerre!」

 

彼女の固有魔法『雷撃』によって、周辺にいたネウロイの集団が一瞬にして砕ける。

 

「フン、わたくしにかかればこのくらい…」

 

と言い終わる前に彼女の後ろで音がする。振り返ると彼女の墜とし損ねたネウロイを後方からリーネが狙撃して墜としていた。

 

「やるじゃない」

 

ペリーヌはそんなリーネを見て称賛した。

シュミットとミーナも、バルクホルンと同じように個々でネウロイを撃墜していた。

 

「25機…26機…28機」

 

シュミットは持ち前の一撃離脱戦法で両手に持ったMG42をネウロイに叩き込む。と同時に、彼は撃墜数を数えていた。理由は坂本の言った『勲章』という言葉に感化されたからだった。また、魔力を絞った状態で戦闘をするのも忘れない。彼はこの感覚をこれからも行っていかなくてはいけないのだから。

しかし、いくら戦闘をしてもまだコアを撃墜できないでいた。

 

「キリが無いよ!」

 

ハルトマンが愚痴る。

 

「コアは一体どいつなんだ!?」

 

ハルトマンに続きバルクホルンも疑問の声を漏らす。

ミーナは坂本の下へ向かった。

 

「コアは見つかった?」

「駄目だ」

「まさか、また陽動!?」

「違うだろう」

 

ミーナがハッとするが、坂本はそれを否定する。

 

「コアの気配はあるんだ。ただし、どうもあの群れの中にはいない」

 

その言葉を言ってからミーナと坂本は全体を見渡す。

 

「戦場は移動しつつあるわね」

「ああ、大陸に近寄っているな」

 

長期戦になるにつれて、だんだんその戦場はブリタニアの本島に接近してきていた。このままでは完全上陸されてしまう。その時だった。

宮藤が何かに気づき振り返った。

 

「っ!上!!」

 

その声を聞き坂本も振り返る。そこに確かにネウロイはいた。太陽を背にして数機のネウロイが隠れていた。

坂本は魔眼でネウロイを見る。しかし太陽とかぶさってしまった。

 

「くっそ、見えない…」

 

そういう間にも、ネウロイは急降下を開始する。宮藤が動いた。

 

「行きます!」

 

そう言って宮藤はミーナと坂本の前に立ち、向かってくるネウロイに対して機関砲を向ける。

ネウロイはそんな宮藤に対して攻撃をするが、ウィッチーズの中でも高い魔力を持つ宮藤にシールドをさせられ攻撃が防がれる。

そして宮藤がネウロイに対して攻撃をする。ミーナも後ろから援護する。それによって数機のネウロイが破片に変わる。

 

「よし、いいぞ!もう少しだ!」

「はい!」

 

そしてさらに攻撃を加えていく宮藤。ついに坂本はコアを特定した。

 

「見つけた!」

 

そのネウロイは急降下したのち坂本達に攻撃をせずそのまま離脱していく。

 

「あれなの?」

「ああ」

「全隊員に通告、敵コアを発見!私達が叩くから他を近づかせないで!」

『了解』

 

すかさずミーナが全体に命令を出す。命令を受けたウィッチ達はコア以外の敵を接近させないように叩き始める。

そして宮藤とミーナ、坂本がコアに対して攻撃を開始する。攻撃を受けたネウロイは被弾し回避する。

 

「宮藤逃がすな!」

「はい!」

 

坂本の声に返事をし、宮藤がネウロイのコアを追尾攻撃する。そしてついに宮藤の攻撃が命中し、コアは破壊された。

それにより、別の場所で交戦していたシュミット達のネウロイも破片に変化した。

宮藤、ミーナ、坂本は破壊されたネウロイの破片をシールドで防ぐ。しかしその時だった。

 

「…っ!?」

「美緒…!?」

 

破片の一部が坂本のシールドを突き破り、彼女の髪を少し切り裂いたのだ。その光景を間近で見ていたミーナも驚く。

しかし他の隊員はそんな事に気づかず宮藤に近づき称賛の声を送る。

 

「芳佳ちゃんすっご~い!」

 

リーネが宮藤に抱き着く。しかしペリーヌはプイッとそっぽを向いた。

 

「ふん。あんなのマグレですわよ」

「いや、不規則挙動中の敵機に命中させるのはなかなか難しいんだ」

 

ペリーヌがツンとした感想をするが、バルクホルンがフォローする。そんな光景を見ていたシュミットはペリーヌの表情を見ていないが、雰囲気から彼女が宮藤を少し称賛しているのではないかと考えていた。

 

「宮藤やるじゃ~ん」

「えへへ、そうかな?」

 

そんな会話をしているとき、宮藤は撃墜したネウロイの破片を見る。破片はキラキラと輝きながら陸上に降り注いでいく。その光景はさながら雪が降っているようだった。

 

「綺麗…」

「ああ、こうなってしまえばな」

 

宮藤の言葉に坂本が加える。

 

「綺麗な花には棘が…って言いますわね」

「自分のことか?」

「おいおいハルトマン、失礼だぞ。ペリーヌだって美人なんだから」

 

ペリーヌの言葉にハルトマンが茶化すが、シュミットがここでフォローをする。しかし、このフォローを聞いていた他のメンバーがシュミットの方向を向いた。

 

「…ん?どうした?」

 

シュミットは自分を見ている人全員が意外そうな顔をしていたことに気付き聞く。

 

「いや、シュミットがそんなことをサラッと言うものだからな…」

「ん?なんか変なことだったか?」

 

バルクホルンが代表して言ったが、シュミットは何か可笑しいことでも言ったかという反応をした。その反応に更に全員がありえない物を見たような反応をした。そんな反応をしてシュミットはがっくりと肩を落とす。

 

「おい、そんな反応は無いだろ…ん?中佐?」

 

シュミットは自分をどんな目で見られていたのかを考え若干傷つくが、ミーナがどこか寂しそうな表情をしながら突然降下をしていくのに気づき反応した。その行動に他の隊員達も気づく。

 

「ミーナ?」

「え…おーい、どこに…」

「待て…一人にさせてやろう」

 

ハルトマンがミーナについていこうとするが、坂本がそれを腕で静止する。

バルクホルンが気付く。

 

「…そうか。ここはパ・ド・カレーか」

「パ・ド・カレー?」

 

シュミットが気付きバルクホルンに聞くが、バルクホルンは首を振るだけで答えなかった。

ミーナはそのままパ・ド・カレーの地面に降り、そして一台の車の前に来た。そしてそのままミーナは車の扉を開け――中にあったある物を見て固まった。

車の助手席には包みがあった。そしてミーナはその包みを開く。そしてその中に会ったものを見る。それは赤いドレスと一通の手紙だった。

ミーナはその中身から誰の物なのかを理解した。そして、静かに涙をボロボロと流し始めたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「やっぱり来なかった…」

 

赤城の甲板の上、宮藤に手紙を渡そうとした少年はそう呟いた。あの時ミーナに言われていたから来るはずないとは思っていたが、それでも少し寂しく感じたのだろう。

そんな時だった。彼の帽子が宙を舞った。それと同時にウィッチが通り過ぎる。青年はそのウィッチを見た。

 

「宮藤さん!」

「みんなありがとーう!頑張ってねー!私も頑張るから!」

 

宮藤が手を振りながら甲板の上に立つ兵士たちに声を張る。その声に反応して兵士たちも「ありがとう」と嬉しそうに口々に言った。

リーネが宮藤に言った。

 

「芳佳ちゃん、よかったね!」

「うん!ちゃんとお礼言えた」

「世話になったからな」

「はい」

 

そして赤城に並行して飛んだ後、坂本が「基地に戻るぞ」と言った時だった。坂本の耳にある音が流れる。

それは赤城の艦橋にも届いた。杉田艦長が気付く。

 

「これは…全艦に繋げ!」

「了解!」

 

そしてその声(・・・)は全艦に流れた。

501基地では、ウィッチ達が集まっていた。それだけでなく、何名かの基地の兵士たちもいる。彼らの目線の先にはサーニャの伴奏に合わせて歌うミーナがいた。彼女が赤いドレスを着ながら歌うのは『リリー・マルレーン』だった。それはシュミットも聞いたことのある歌だった。

 

(父さんが昔この曲を聞かせてくれたっけ…)

 

シュミットは昔、この曲を父親がレコードで買ってきて聞いたのを覚えていた。シュミットはこの曲に対して今、懐かしさと寂しさを感じていた。

そしてミーナが歌い終わると、ミーナはお辞儀をした。周りのみんながミーナに拍手を送る。

宮藤が近づいてミーナに感想を言った。

 

「とっても素敵な歌でした!」

「ありがとう」

 

ミーナはそんな宮藤に微笑み返す。

その時、宮藤の頬っぺたを後ろから誰かが引っ張る。その犯人はエイラだった。

 

「サーニャのピアノはどうした~サーニャの~」

「ふぉっへもふへひへひは~(とっても素敵でした~)」

「えい、もっと褒めろ!」

「ほへへまふっへは~(褒めてますってば~)」

 

そんな二人の光景を見て周りのみんなが笑い始める。その光景を見て自然とミーナも笑いが漏れる。

シュミットも壁の所にもたれかかりながらその光景をみて、自然と微笑みが零れたのだった。

 




シュミット君は実は天然で女性を褒めるようです。これは作者も知らなかったな~(大嘘)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!


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第二十七話「決意と想い」

少し更新が遅れました。どうぞ。
※タイトルに付け足しをしました。


ミーナの歌を聞いた後、シュミットは報告書を持ちにミーナの執務室に向かっていた。そんな中、彼は夕方にあった光景を考えていた。

 

(ミーナ中佐、歌が上手だったんだな。それにサーニャのピアノも…)

 

シュミットはサーニャのことを思い出し、そして顔が少し赤くなる感触を感じた。ここのところそんな日がよく続いている。サーニャのことを考えるとだ。

シュミットは脱線している思考を振り切ろうと首を大きく振る。そしてそのまま執務室の前に着いた時だった。

 

「約束して。もう二度とストライカーは履かないって」

(ん?)

 

シュミットは部屋の中から聞こえた声に気づきドアノブの前で手を止めた。部屋の中から聞こえてきたのはミーナの声だった。

 

(ミーナ中佐、誰かと話しているのか?)

 

シュミットがそんなことを考えていると、また新しい声が部屋から聞こえてくる。

 

「それは命令か?」

(少佐の声…中佐と少佐は何か話してたのか?)

「そんな恰好で命令されても、説得力が無いな」

「私は本気よ!今度戦いに出たら、きっと貴方は帰ってこない」

 

シュミットは黙って部屋の中で行われている会話を聞き続ける。

 

「だったらいっそ、自分の手でというわけか…矛盾だらけだな。お前らしくもない」

「違う!違うわ!」

 

ミーナが声を大きくした。シュミットはそんな会話に水を指すようなことだとは考えていたが、このままでは何が起きるか分かったものじゃないため意を決して部屋の扉をノックした。そして中に入り――目の前で起きている光景に固まった。

ミーナは赤のドレス姿で拳銃を握っており、その銃口を坂本に向けていた。坂本はそんな銃口に憶することもなく立っていた。

ミーナはシュミットが入ってきたことで驚くが、坂本は特に意に介さずそのまま歩き始めた。

 

「私は、まだ飛ばねばならないんだ」

 

そう言って扉の方に向かう坂本。そんな坂本にミーナは銃口を向けた。しかしその方角にはシュミットがおり、シュミットは突然こちらに銃口を向けられたと勘違いし驚くが、ミーナが怯えるような瞳で向いていたのを見てその目をじっと見返した。

そして坂本が部屋を出た後、シュミットは数秒固まったのちミーナに声を掛けた。

 

「中佐、報告書を持ってきました」

「…ええ、ありがとうシュミットさん」

 

シュミットの声に銃をしまいながら応えるミーナだったが、その声は力ない。シュミットはその報告書を机に置いた後、ミーナの方向に向いた。

 

「中佐、貴方に何があったのですか?」

 

シュミットはミーナに聞いた。しかしミーナは首を横に振る。

 

「貴方には関係ないわ」

「ですが昼間の行動…パ・ド・カレーで何があったかは知りませんが、だからって坂本少佐に飛ぶななんて…」

「貴方に何が分かるっていうの!」

 

シュミットの言葉にミーナは怒鳴る。そこにあった表情はシュミットに対する怒気と過去の悲しみを懸命にこらえていた。

ミーナは続けてシュミットに思いをぶつけた。

 

「貴方にだってわかるでしょう!大切な人を失う悲しさが!」

「…わかりますよ」

 

シュミットは目を瞑り呟く。

 

「だったらっ…!」

「…だが、その思いに共感はできません」

 

ミーナはシュミットに続けて言葉を放とうとしたが、シュミットが目を開けて否定をしたため黙る。

 

「貴方が悲しみ背負い、二度とそうなってほしくないという考えは分かります。だが、決意を決めて戦うと言う人に対して、貴方のそれはただの我が儘です。その我が儘で、貴方は相手の気持ちを踏みにじろうとしていることを理解していますか!?」

 

シュミットはミーナに向けて強く言い、そして爆発したその炎を少しずつ鎮める。

彼の目には涙が浮かんでおり、その雫が頬を伝っていく。それをミーナは見て、そしてこれ以上言葉を発することは無かった。

シュミットだって辛い。仲間が墜ちる姿など想像したいとも思わない。しかし彼はミーナと違い、その人の決意に対して自分自身がとやかく言うことはしない。

部屋の中に沈黙が続く。シュミットは腕を顔の前に上げ、目元の涙を拭う。

 

「すみません中佐、上官に対して反発を…」

「いえ…」

「失礼します…」

 

シュミットはミーナに謝る。普通なら上官に反発など謝っても許される行為ではないが、ミーナもこの時ばかりはそのことを咎めることもなかった。そのままシュミットは部屋の扉の方にゆっくりと歩いていき、そして扉の前で立ち止まった。

 

「中佐…過去に捕らわれてずっと悲しんでいては、その先には進めません」

「…」

「大切な人を失い悲しむのは分かります。私だってそうでした。ですが、現実はいくら逃れようとも逃れられません。しっかり受け入れなければ」

 

そう言って、シュミットは扉を開け部屋を出た。

シュミットは廊下を歩くが、体は鉛のように重く感じ、自然と足取りも遅くなった。そしてようやくの思いで自分の部屋に着いた後、シュミットはベッドに倒れた。

 

「そうさ。悲しいのは誰だって同じさ…私だって…」

 

シュミットは部屋の中で一人そう呟くと、心の中で溢れそうになっていた思いを一気に外に吐き出した。

シュミットは泣き始めた。それは彼が今まで抑えてきた悲しみの表れだった。彼自身、悲しみを乗り越えて来たつもりだった。しかし、それは間違いだった。自分でもまだ何処かで引き摺っていた。だが今、部屋の中は彼以外の人はいない。この悲しみを受け止めてくれる人はいないのだ。彼は思いっきり泣いた。誰にもこんな姿は見せられないと。

しかし、部屋の外。悲しみの声を叫ぶ狼の叫びを聞いている少女が一人おり、その少女も中にいる人物に対して心を痛めていたことに。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌朝、シュミットは思いもよらぬ目覚めをした。

 

「いたっ!?なんだ…」

 

眠っていたシュミットに突然衝撃が襲う。それは彼の背中に何かが倒れてきたからだ。シュミットは起き上がった後、自身のベッドの後ろを向き――そこにいた人物に固まった。

 

「なっ…」

 

そこにはなんとサーニャがいたのだ。昨日は夜間哨戒に出ていたサーニャだったが、なんとサーニャは下着姿でシュミットのベッドに眠っていたのだ。そして彼の部屋の床にはサーニャの脱ぎ散らかした服が散乱していた。

シュミットは思わずサーニャに触れ、そして軽く揺さぶる。

 

「サーニャ、起きろ…」

 

小声で言うシュミットだったが、夜間哨戒で疲れて深い眠りについてしまったのか、サーニャは起きなかった。それどころか揺さぶっても眠ったままだ。

シュミットは起きないサーニャにどうしようか迷った。もう少し声を出して言えばサーニャは起きるかもしれない。しかしそれでは今安らかに眠っているサーニャの睡眠を妨害することになってしまう。

シュミットは葛藤した。そして10秒の葛藤の後、あっさり折れた。最後はサーニャの寝顔に負けたのだ。

 

「はぁ…仕方ない。だが、今日だけだぞ」

「………うぅん…」

 

そう言ったシュミットの言葉を聞いたのか、サーニャは眠りながら返事をした。その様子を見てシュミットはサーニャに自身の使っていた布団を掛けた。そして気持ちよさそうに眠るサーニャの顔を拝んだ後、部屋に脱ぎ散らかされているサーニャの服を見た。

シュミットは伸びをして――息を吐く。

 

「…仕方無い」

 

そう言って、シュミットはサーニャの衣類を手に取り一つずつ丁寧に畳んであげるのだった。

サーニャの衣類を綺麗に畳んだ後部屋をそっと出るシュミット。しかし、

 

「あっ、おはようございます中佐…」

「…おはようシュミットさん」

 

運悪くか、シュミットはミーナに出くわしてしまった。互いに相手の顔を見て挨拶するが、昨日のことを思い出してか気まずくなってしまう。

こういうときどうすればいいかシュミットは考える。そして、先ほどの出来事もどうしたらいい状況だったかを思い出し、ミーナに話すことにした。

 

「中佐、サーニャが寝ぼけて私の部屋に来てしまったのですが、そのままでも構いませんか?」

 

どこか他人行儀な喋り方になってしまうシュミット。流石に昨日の今日では気まずさのせいでこんな喋り方になるものだろう。

しかしシュミットの質問に対してミーナは簡潔だった。

 

「シュミットさんが襲わないのなら構いません」

「襲いませんって…」

 

思わずツッコむシュミット。しかしこの些細な会話だけでも、シュミットは少し心が軽くなった感じがしたのだった。

そしてその足で外に出るシュミット。朝の涼しい気温と同時に、シュミットは眩しい日の出を拝む。

 

(目の前にガリアがあるのに…私たちはいつそれを奪還できる?)

 

そして彼は基地から見える欧州の国、ガリアの土地を見る。シュミットがここに来て既に1年も立ったが、いまだに欧州の巣を一つも落とせていない。

以前シュミットはミーナと坂本から説明されたことがあった。

 

殆どのウィッチは成人を過ぎると魔法力が減衰し飛べなくなってしまう。そのため、ウィッチの兵役は短く「儚い花」と言われている、と。

 

ただしウィッチの中にもいつまでも魔法力が衰えない人もいる。宮藤の一族がそうだと言っていた。そしてシュミットは人類初のウィザード。ウィッチの常識がウィザードは来ない可能性もある。しかしシュミットはいずれ自分も魔法力を失うかもしれない。そうなれば、自分は戦えなくなってしまうと考えていた。そのため、彼の中では巣を一つも攻略できていない状況が不安でしょうがなかった。

 

(皆それぞれ志を持って戦っているのに、その時間が短いのは残酷なとこ…いや、本来少女が戦うこと自体が残酷なことか…そう考えたら短い方がいいかもしれないな…)

 

そう考えていた時、シュミットの頭にある疑問が過った。

 

「…私は今、何を決意に(・・・・)戦っているのだろうか?」

 

思わず零れる声。シュミットが初めてこの世界に来た時、彼は若い少女が戦っているということを聞き、自分がその力になれないかと戦う決意をした。

しかし、それは彼の使命感に駆られた行動(・・・・・・・・・・)のようなものであり、彼自身の持つ決意かと聞かれると、少し違った。

シュミットは顎に手を当てて下を向き考え始める。

 

(何だろうか。みんなにとっては大切な人を守るとか、祖国を奪還するとか、そういう…)

 

しかし、そう考える内容はシュミットからしてみると困る点でもある。この世界に流れ着いた彼に家族はいない。祖国を奪還するにしても、彼にとってのこの世界の思い出が圧倒的に少なく、どうしても祖国と言う捉え方ができないでもいた。そうなると、自分の中にある決意はいったいなんだろうかと考える。

いつの間にか目を閉じて考えるシュミットの頭の中は真っ暗闇だった。完全にその答えが見つからない。そんな時だった。彼の中に彼女(・・・)が浮かんだのは。

初めてこの世界に来た時に彼の愛機から見た月夜をバックに映る銀髪の少女。そしてその後の生活で関わった、その少女との風景が。

 

「…あ」

 

シュミットは、ようやくあることに気づいた。いや、正確には知らず知らずのうちに思っていたことだったと言うべきか。

朝の時もそうだった。その前から何回もそう思う瞬間があったかもしれない。しかしシュミットは今までその正体について知らなかった。否、自信が無く確信を持てなかっただけだった。

しかし、彼は今自信を持ってその正体を言えるだろう。ここ最近感じていたドキドキする感覚。そしてなぜ自分は彼女のことを考えてしまうのかと。その答えが今度はちゃんと言える、そう確信していた。

 

「…そうか」

 

シュミットはその正体を理解し、そしてゆっくりと目を開ける。心臓の鼓動が早く感じ、その頬はだんだん赤く染まっていくが、彼の心の中にある決意が生まれた瞬間だったのだ。

 

「私は、彼女が笑顔でいてくれることを望んでいるんだ…」

 

それは、シュミットの決意だった。彼が()をしたその人のための。そして少し間を開けた後、シュミットはもう一言呟いた。

 

「私は…サーニャが好きなんだな」

 

その言葉と同時に、シュミットの周りにブリタニアの朝の風が吹き通った。




シュミット君、ようやく気付く。
ミーナ中佐に言うシュミット君。正直に言うとミーナ中佐の我が儘ですよね。
しかしブリタニア編はもう終盤に差し掛かってきてますね。次は何処編やろうかな~。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは。


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第二十八話「家族と成長」

少し間が空いてしまったのと、文章が少ないです。


ミーナは現在執務室で書類整理を行っていた。彼女は昨日、そして朝のシュミットのことを考えていた。

その時、執務室の扉を叩く音がする。

 

「ちょっといいか」

 

そう言いながら部屋に入ってきたのは坂本だった。そしてその後ろから宮藤も入ってくる。二人の手元には様々な資料があった。

 

「悪いな、便利に使って」

「いえ、このくらいへっちゃらです」

 

坂本が宮藤にそう声を掛ける。宮藤はどうということ無いと返事をした。

坂本が持ってきたのはデータだった。それはつい最近来襲したネウロイの物であった。

 

「8月16日と18日に来襲したネウロイだが、奴の出現した時に各地で謎の電波が傍受されている。周波数こそ違うがサーニャの歌っていた声の波形と極めてよく似ている」

「えぇ」

「唄…!?」

 

坂本の説明を聞いていたミーナは小さく返事し、さらに横で聞いていた宮藤は歌という言葉に反応した。初めて夜間哨戒に出た時に聞こえた、サーニャの歌に似たネウロイの声。あれを思い出したからだ。

 

「あのネウロイはサーニャの行動を再現していたと見て間違いなさそうだな」

「ええ」

 

坂本がそう結論付けた。

 

「分析の規模をもっと広げよう。しばらくは忙しくなるぞ」

「そうね」

 

坂本がこれからについて話し終わったが、ミーナは終始小さな返事を繰り返すだけだった。

 

「バルクホルンやハルトマン、それにシュミットにも今のうちに知らせておきたいな。三人をここに…」

「あの!」

 

坂本が3人を呼ぼうとした時、宮藤が声を発した。

 

「バルクホルンさんなら今日は非番です。夜明け前に出ていきましたよ?」

「何処へ?」

「ロンドンです」

「ロンドン?」

 

宮藤の言葉に坂本が聞き返す。

 

「意識不明だった妹さんが目を覚ましたって、バルクホルンさんが慌ててストライカーを履いて出ていくのをみんなで止めたんですよ?いつもはあんなに冷静な人なのに!」

 

その様子を思い出したのか宮藤は思わず笑いが零れる。しかしそんな宮藤にミーナが静かに返した。

 

「無理もないわ。バルクホルンにとって、妹は戦う理由そのものだもの。誰だって、自分にとって大切な守りたいものがあるから、勇気をもって戦えるのよ」

 

ミーナのその言葉は、聞いていた宮藤の心に響いたのか、思わず固くなる。そして宮藤はそんなミーナに返事をうまく返せなかったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「クリス!」

 

ロンドンの病室、その一室に声が響く。声の主は焦った様子のバルクホルンだった。

 

「病室ですよ!お静かに!」

「あ、ああ、すみません!急いでいたもので」

 

中にいた看護師がバルクホルンに注意する。注意されたバルクホルンは謝るが、その横からくすくすと笑い声がしてくる。

 

「フフッ…フフッ…」

「クリス…」

 

笑い声の主はベッドの上に座りながら先ほどのバルクホルンの姿に笑いを押されられない様子である。彼女はバルクホルンの妹のクリスだった。

そしてバルクホルンはそんなクリスの下に少しずつ近づいていき、そして彼女に抱き着いた。

その光景を、後ろで見ていたハルトマンと看護師は微笑ましく見守った。

そして数十秒抱き合ったのち、二人は向き直った。

 

「お姉ちゃん、私が居なくて大丈夫だった?」

「な、なにを言う。大丈夫に決まっているだろう。私を誰だと…」

 

クリスに言われ一瞬焦ったバルクホルンは冷静に返したつもりだった。しかし思わぬ口撃が横から飛んできた。

 

「あーもう全然ダメダメ。この間まではひどいものだったよ?やけっぱちになって無茶な戦い方ばっかりしてさ~」

「お姉ちゃん…」

「お前!今日は見舞いに来たんだぞ、そういうことは…!」

「だって本当じゃん」

 

バルクホルンが反論するが、それでもハルトマンが更に加えていくため徐々に負け始めてしまう。

 

「ないない!そんな事は無いぞ!私はいつだって冷静だ!」

 

そう言いながら妹に懸命に話すバルクホルン。そんな姉の姿を見てか、クリスは安心したように微笑んだ。

 

「お姉ちゃん、なんだか楽しそう」

「そ、そうか?」

「それは宮藤のおかげだな」

 

クリスに言われるが自覚の無いバルクホルン。しかしそんな会話にハルトマンが宮藤の名前を出したことで、クリスはその人物が誰かを聞いた。

 

「宮藤さん…?」

「うん。こないだ入った新人でね」

「お前に少し似ていてな」

「私に!?会ってみたいな!」

 

ハルトマンとバルクホルンの説明を聞いてクリスは興奮したように反応した。

 

「そうか、じゃあ今度来てもらおう」

「本当!?お友達になってくれるかな?」

 

バルクホルンがクリスに宮藤を会わせようかなと提案をすると、クリスはさらに楽しそうに反応した。

 

「ハハハ、かなりの変わり者だけど、いい奴だ。きっといい友達になれるさ」

 

そう言ってバルクホルンは自慢の妹に優しく言ってあげる。それを聞いてクリスも嬉しそうに笑顔になった。

 

「あっ、似てると言っても当然お前の方がずっと美人だからな!」

「…姉馬鹿」

 

まぁ、この一言が無ければある意味いいお姉ちゃんだったなと、聞いていたハルトマンが小さく呟いたのだった。

その後バルクホルンとハルトマンはしばらくクリスと話した後、病院を後にした。そして二人が乗ってきた車に戻る時だった。

車のフロントガラスについているワイパーに、一通の手紙が挟まっていたのだ。

 

「何だこれ?」

 

ハルトマンがそれを手に取って見る。そして一瞬見た後、バルクホルンに手渡した。

 

「なんでこんなものが…」

 

バルクホルンはそう言いながら封蝋の面を裏返す。するとそこには宛先の名が書かれていた。その宛先を見てバルクホルンは表情を変えた。

 

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ殿…」

「ミーナ宛…?」

 

バルクホルンはミーナに宛てられた手紙に得体の知れない何かを感じた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

現在、501では模擬戦闘による訓練が行われていた。訓練参加者は宮藤、リーネ、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニ、そしてシュミットの六人だった。

現在は宮藤&ペリーヌ対シャーリー&ルッキーニで模擬戦を行っていた。勿論、全員武器は訓練用のペイント弾。訓練している高度は2000mほどの低空である。

 

「よろしくね、ペリーヌさん!」

「まったく、訓練とはいえどうして私が宮藤さんと…!」

 

芳佳が緊張感の無い声でペリーヌに言うので、ペリーヌは不満を持っていた。

 

「よーし、手加減しないよー」

「後ろがガラ空きだぞ宮藤!」

 

ルッキーニとシャーリーが後ろから追随する。宮藤が懸命に動くが、シャーリーとルッキーニのコンビは互いの性格の為か連携が高い。そのためなかなか引き剥がすことができないでいた。

 

「宮藤さん、後ろを取られてましてよ!」

「う、うん!」

 

ペリーヌが注意をする。そんなペリーヌに返事をする宮藤だが、引き剥がすのに必死でその返事も余裕が無かった。

シュミットはその光景を見ながらリーネの横に立っていた。

 

「こりゃ、宮藤が先に撃墜されて、1対2の構図が完成するかな?そうなるとペリーヌに勝ち目は薄くなるな」

「頑張れ芳佳ちゃん!」

 

シュミットが冷静に状況判断をしてそう結論付けたため、リーネは審判と言う中立の立場なのになぜか応援していた。

そして宮藤は懸命にルッキーニから逃れようとしているとき、頭にふとあるイメージが流れた。

 

「いっただきー!」

 

ルッキーニが自信満々に宣言をし機関銃を宮藤に向けた時、それは起きた。

突如、ルッキーニの照準器から宮藤が高速で消えたのだ。この時宮藤はループをしたのだ。そしてそのループの頂上直前で横滑りをし斜め旋回、大幅に旋回半径を縮めてルッキーニの後ろに付いた。

突然の空戦機動にルッキーニは反応できず、あっさりと宮藤に後ろを取られた。

 

「えっ…!?」

「あの技は…!」

 

ルッキーニは純粋にその動きに驚いているとき、ペリーヌはその機動を宮藤が行ったことに驚いていた。それは彼女が憧れる坂本の得意の空戦機動「左ひねりこみ」だったのだ。

そして宮藤は驚いているルッキーニに対して容赦なくペイント弾を放つ。そしてそれはルッキーニの履いていたG55をオレンジ色に染めた。

そしてそのまま宮藤は前方にいたシャーリーに対してもペイント弾を浴びせる。それもシャーリーのユニットP-51に命中し、彼女のユニットはオレンジに染まった。

リーネが戦闘終了のホイッスルを鳴らす。

 

「ペリーヌ、宮藤ペアの勝ち!すごいよ芳佳ちゃん!」

 

リーネがそう宣言をした後、芳佳を称賛する。シュミットも先ほどの宮藤の機動を見て驚いていた。

 

「やられたー!」

 

ルッキーニががっかりしたように言う。

 

「おっかしいなー、絶対後ろについていたはずだったのに!」

「大分成長したな、宮藤!」

「確かに、あの技術を何処で身に着けたんだ?」

 

ルッキーニは先ほど後ろを取っていたはずの宮藤に何故後ろに回れたのか考え腕を前で組んだ。シャーリーとシュミットは宮藤があんな高等テクニックをいつの間に身に着けたの驚きながら聞いたのだった。

 

「そうですか?…ってひゃあ!?」

 

宮藤は周りに褒められ照れるが、突如変な声を出した。原因は彼女の後ろについて胸をもんでいる人物が原因だった。

 

「どれどれ~♪どれどれ~♪」

「な、なにするの!?」

 

ルッキーニは宮藤の胸を揉みまくる。宮藤はその手触りにあたふたしながら悲痛な叫びを出す。

しばらく揉んだのち、ルッキーニは宮藤から離れた。

 

「残念、こっちはちっとも変わりない」

「うん、見りゃ分かる」

「おいおい…」

「こらー!」

 

ルッキーニの感想にシャーリーが便乗して言ったため、シュミットがすかさずツッコミを入れた。宮藤はそんな会話を聞いて思わず叫ぶ。

 

「もー、二人とも酷いですよ!」

「でも腕を上げたのは確かだ」

「本当ですか?」

 

すかさずシャーリーがフォローする。下げるだけでなく再び上げる彼女の行動はやはりムードメーカなところだろう。シュミットはよく周りを見ているなとシャーリーを評価したのだった。




芳佳ちゃんの才能は以外にも戦場などで発揮されるものなのかなぁ。本人は争いを嫌っているあたり皮肉ですけど。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!


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第二十九話「小さな告白と人型」

最初に言います、シュミット君、君の行動なんだか柄に合いませんね。
それではどうぞ。


「宮藤さん!私、貴方に決闘を申し込みましてよ!」

「け、決闘!?」

 

501の脱衣場に大声が響き、その声に驚くように更に声が出る。前者はペリーヌであり、後者は宮藤である。

事の発端は、簡単に言うとペリーヌの嫉妬であった。宮藤が訓練で見せた空戦テクニックの「左捻り込み」が、彼女のあこがれる坂本の動きと瓜二つ(に重なった)のだ。それを見てペリーヌは宮藤がこっそりと坂本からこっそりと教えてもらったのではないかと思い嫉妬したのだ。

尤も、宮藤はそんなことしてなく、彼女は見よう見まねでその軌道をやったのだ。そういう意味では彼女はある種の天才であるのだが、その天才さがまたペリーヌの嫉妬を加速させたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「悪いが、中身は勝手に見させてもらった…」

 

執務室にバルクホルンの声が通る。彼女は神妙な顔をしながらミーナの机の前に置かれた手紙を見ていた。その周りにはハルトマンとシュミット、そして机の前の椅子に座るミーナの横には坂本がいた。

 

「『深入りは禁物、これ以上知りすぎるな』…これはどういうことだ」

「興味あるね」

「同感だ。一体何か調べていたのか?」

 

バルクホルンの言葉に同調するようにハルトマンが言い、シュミットは目の前の人物に質問した。

 

「やましいことなど何もしていない。そうだろう、ミーナ?」

 

答えたのは坂本だった。そして坂本はミーナに目を向け言うが、ミーナは自分に話を振ってくるとは思わなかったので一瞬遅れた反応をして答えた。

 

「え?えぇ…そうよ。私たちはただネウロイの事を調べていただけで…」

「それでどうしてこんなものが届く?」

「ネウロイを調べるだけで、こんな手紙を寄越すなどおかしい話だ」

 

ミーナの説明を聞いてバルクホルンとシュミットは反論の声を上げた。二人だけでなく、エーリカを含む三人はこの手紙が届いたことについて先ほどのミーナの説明からは納得がいかない様子だった。

エーリカが質問した。

 

「差出人に心当たりは?」

「ありすぎて困るくらいだ」

「そうね、私たちのことを疎ましく思う連中は軍の中にいくらでもいるはずだから」

「結局、どこの軍も一枚岩なんてありわしないのか」

 

坂本とミーナの心当たりを聞いて、シュミットはこの世界でも同じような軍に対して少しがっかりしていた。人類共通の敵を持とうが、その本質は変わらないのだと。

しかし、坂本が次のように繋げた。

 

「が、こんな品のない真似をする奴の見当は付く。恐らく()()()は、この戦いの核心に触れる何かをすでに握っている。私たちはそれに触れたのだろう」

「…あの男って」

「トレヴァー・マロニ―、空軍大将さ」

「トレヴァー・マロニ―?」

 

シュミットは坂本の言った人物について知らずに疑問の声を漏らす。彼は元々別世界の出身であると同時に、この基地の上司について詳しく知らない。疑問を持つのも当たり前である。

 

「この501の上官、ミーナの上司だ。彼は軍上層部のタカ派で、ウィッチに対してあまり良い印象を持っていないんだ」

「待て、それだからと言ってネウロイの追及を『深入りするな』だと?だったらそいつはネウロイを倒す気じゃないのか?」

「いや、そうではない」

 

シュミットはバルクホルンの説明を聞いて更に分からなくなり質問する。しかしシュミットの疑問を坂本が否定した。

 

「……」

 

シュミットは左手で右肘を支え、右腕を顔の前に持っていき唇の前に指を添え考える。そして、しばらく考えた後その手を下ろした。

 

「…中佐、その大将の腹がだいたい読めた」

「どういうことかしら?」

「確信は無い。だが恐らくそいつは『ストライクウィッチーズ』の解散を目論んでいる。そして同時に、それを出来る何かを今隠しているんだろう」

「それを出来る何か…?」

 

シュミットの推測にミーナは最初『ウィッチーズの解散』を聞いて驚くが、その後に続いて言った「それを出来る何か」について疑問を持ちシュミットを見た。他のメンバーもその単語について気になりシュミットを見る。シュミット全員の思いを理解し話し始めた。

 

「そうだ。俺の前の世界では自分の国から相手の国に直接進行せずに攻撃をする兵器を開発した。それと同じように、その大将はウィッチを必要とせず、ネウロイを倒す新兵器か何かを開発していると考える。彼がウィッチに対していい印象を持たないタカ派であり、高い役職に付いているのならそういう可能性もあるだろう」

 

その説明を聞いて、執務室には沈黙が流れた。しかしそれは決してシュミットの説明に対して理解が追い付かなかったからではない。むしろ、その推測があり得る可能性があるというのが渦巻いた結果、彼女たちは一斉に黙りじっくりと考えるしかなくなったのだ。

そして執務室で解散後、シュミットは自室に向かって歩いていた。しかし彼は同時に考え事をしながら歩いていた。

 

(トレヴァー・マロニ―大将は、ウィッチーズの解散を目論んでいる。しかしその決定打は一体…)

 

執務室で推測を言ったシュミットだったが、結局のところ推測だけであり本当の所はどうなのかは分からない。しかし一つだけ彼が確定して言えるのは、ウィッチーズの解散を目論んでいるという考えだった。

そんなことを考えながら歩いていたシュミットは、自分の部屋の扉を開ける。

 

「…あぁ」

 

そういえばそうだったな、と思いながらシュミットは部屋を見た。部屋には自分のベッドで相変わらず眠っているサーニャが居た。そんな姿を見て、シュミットは先ほど考えていた事を止めることにした。

 

「サーニャの前でそんなこと考えてはいけないな」

 

そう言ってシュミットはベッドに座ると、そっとサーニャを見た。そこで眠っている姿は相変わらず可愛らしいものである。彼女の体は線が細く、腕は強く握ってしまうと折れてしまうのではないかという細さである。

そんなサーニャを見て、ドキドキとするシュミット。そして少しずつ手を伸ばしていき、サーニャの頭をそっと撫でた。

 

「…」

 

そして少し撫でた後、シュミットは思わずボソリと呟いた。

 

「…サーニャ、私は君が好きだ」

 

小さな声で呟いた。そう言ったのち照れくさくなり頬を指で掻く。その時だった。

突如、サーニャが撫でていた頭から黒猫の耳とリヒテンシュタイン式魔道針を出し、同時に黒猫の尻尾を出した。突然現れたそれにシュミットは思わず驚く。

 

「わっ!」

 

吃驚した声を出すシュミット。その声を聞いてか、サーニャは静かに瞼を開けた。そしてそのままゆっくりと体を起こし、シュミットを見た。

シュミットはまだ眠たそうなサーニャを見て声を掛ける。

 

「お、おはようサーニャ…」

 

シュミットは優しく声を掛ける。サーニャはその声を聞いて周りを見渡した。そしてそこが自分の部屋でないことに気づく。

 

「あれ…ここは?」

「私の部屋だ。サーニャが朝入ってきてそのまま眠ってしまったんだ」

 

シュミットがサーニャに状況を説明する。その説明を聞いてサーニャは急に意識が覚醒したのか目を開き、そして顔を赤くした。

 

「その、すみません。迷惑かけてしまって…」

「迷惑なんてそんなことは無いさ。私だって一人は寂しい…そんなことより、魔道針を出してどうしたんだ?」

 

サーニャが謝ってくるが、シュミットはそんな事を気にするほど小さな人間ではない。それよりも彼はサーニャが魔導針を出していることに質問した。

 

「ネウロイの反応が…」

「ネウロイだって!?…!」

 

ヴウウウウウウウウウウウウウウ!!

サーニャの言葉にシュミットが驚いたと同刻だった。基地全体に警報が鳴り響いたのは。

 

「警報!くそっ!」

「シュミットさん…!」

 

シュミットが毒つくように言い立ち上がる。そんなシュミットを見て、サーニャが思わず声を張る。

シュミットはサーニャに突然呼び止められ驚き、立ち止まる。サーニャはシュミットを見ていた。しかしその目は不安そうだった。

シュミットはそんなサーニャを見て少し心を落ち着かせる。

 

「大丈夫だサーニャ。そう心配しないでくれ」

「はい…」

 

そう言って、シュミットは優しくサーニャに言う。しかしサーニャはその言葉を聞いてもまだ不安だった。

そんなサーニャを見てシュミットは足を床につけ手をそっと差し出す。その手にサーニャは何だろうかと考えるが、そっと自分の手をとった。そしてシュミットは、その手をそっと顔に寄せ、なんとその手の甲にキスをしたのだ。

 

「えっ…!?」

 

サーニャがシュミットの行動に驚く。そしてその後少しずつ頬が赤くなる。

シュミットがサーニャの顔を正面から見る。

 

「その…おまじないだ」

「えっと…」

 

シュミットは顔を赤くしながら言い、そして少し恥ずかしくなったのか目を逸らす。そして、彼はなにかを決心するように少し考えた後、再びサーニャの方向を向いた。頬を赤く染めた彼は、静かに告白した。

 

「…私はサーニャが好きだ」

「えっ…!?」

 

突然の告白。シュミットにそう言われたサーニャは思わず驚きの声を出す。そんな反応を見たシュミットは自分の心臓の音が段々速くなるのを感じた。

数秒の沈黙が流れるが、ネウロイが迫っていることを思い出したシュミットはその沈黙を破り、サーニャに優しく言った。

 

「ネウロイが迫っているから、私は出撃する…そして、必ずサーニャのもとに戻る」

 

シュミットはそう言って部屋の扉を開け駆け出した。部屋に取り残されたサーニャは固まってしまう。彼女は心臓の鼓動が速くなっているのと、体が火照ってくるのを感じた。

そして格納庫に向かうシュミットは走りながらこんな事を考えていた。

 

(言ってしまった。少し柄に会わなかった。それにあの場面で言うなんて…嫌われてしまったかもしれないな)

 

と、自分の行動に少し嫌悪感を感じ、センチメンタルな思考にも走り出していた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

基地に警報が鳴る数十分前、格納庫には宮藤とペリーヌが居た。

 

「決闘なんてそんな…!私嫌です!本物の銃を人に向けるなんて…!」

 

格納庫の中、宮藤はペリーヌに向けて眉をハの字にして答える。彼女はこの決闘に対して良い思いなどしていなかった。元々争いごとを嫌う彼女の性格から、決闘なんて自分からやりたいなど思わない。

 

「まさか、本当に撃つはずありませんわよ。気分ですわよ気分」

「でも、私そんなことをするためにウィッチーズに入ったんじゃありません!」

 

ペリーヌがあくまで形だと言っているが、宮藤はそれでも納得いかなかった。実銃を人に向けたくないのだ。

そんな宮藤を見てペリーヌは呆れたように溜息を吐く。

 

「まったく…入隊の時もあなたそんなおバカなこと言ってましたわね。言ってるでしょう、形だけですから」

 

そうして二人は離陸し、そして並行する。高度は1000mほどであり、地面が近かった。

 

「宮藤さん、聞こえまして?十秒以上後ろを取った方の勝ち。だったらいいでしょう」

 

ペリーヌがインカムで宮藤に言う。宮藤はそれを聞いて少しだけ頷いた後、自分の持つ九九式の安全装置を見る。

 

(安全装置は…うん、かかってる)

 

そうして互いに背を向け数百メートル離れた後、今度は向き合いながら接近、そして位置が入れ替わり、決闘が始まった。

先に宮藤の後ろに接近したのはペリーヌだった。彼女は真っ先に低空を飛んでいる宮藤を見つけると即座に後ろを取る。宮藤は遅れてペリーヌに気付く。

そして後ろを取ったペリーヌだったが、宮藤は突然ループをする。それに追いていくペリーヌだが、宮藤の使用するユニットの零式は機動自慢で有名である。高速で運動をする宮藤にペリーヌは段々と苛立ちを感じてきた。

 

「まったくもう!ちょこまかちょこまかと…!」

 

そして始まった決闘は、呆気なく終了した。

 

ヴウウウウウウウウウウウウウウ!!

 

決闘中の二人に警報の音が届く。そして二人はその警報と同時に互いに近づく。

 

「警報!」

「ネウロイが出たの!?」

 

ペリーヌと宮藤は驚いていた。その時、二人のインカムに声が届く。

 

『グリッド西地区に単機よ。ロンドンに向かうコースを…』

 

声の主はミーナだった。ミーナは全体にネウロイの情報を送っていた。ペリーヌはネウロイの位置を聞いてミーナの会話に入る。

 

「中佐、ペリーヌです。私と宮藤さんは…その、訓練で飛んでいたところです。そのまま先行して…」

『何ですって?そんな予定聞いていないわよ…あっ、貴方達はそこで待機していなさい!いいわね!』

 

ミーナはペリーヌが訓練していたと聞いて聞いていなかったと言うが、突如何かに焦るように命令を下した。

ペリーヌは会話を終えて宮藤の方を向いた。

 

「ペリーヌさん!」

「聞いての通りよ、皆が来るまでここに…」

 

ミーナに言われたことを言うペリーヌだが、宮藤はふと下を見る。そしてそこに民間人がいる姿を見つけ、そして顔色を変えた。

 

「私、先に言ってます!」

「なっ、えっ!?」

「ここで待っていたら、逃げられちゃいます!」

 

突然宮藤がそんな事を言うのでペリーヌは驚く。そして宮藤は先行してしまう。置いていかれるペリーヌだが、彼女は命令である待機を守るため追いかけることができず、懸命に宮藤を言葉で止めようとする。

 

「ちょっと、命令違反よ。戻りなさい!」

「私にだって足止めくらいはできますから!」

「ちょ、調子に乗るのもいい加減にしなさい!こらっ!!」

 

宮藤はペリーヌの静止を振り切ってそのままネウロイの方向に直進していく。しかし、宮藤はいくら飛んでもまだネウロイを見つけられなかった。

 

(どこだろう…だいぶ近づいているはずだけど…)

 

そうして目を凝らしながら見る宮藤。既に周りの景色は雲と青空、そして下には青い海のみになっている。そしてしばらく飛行したのち、ついに遠方で赤く光る何かが映った。

 

「見つけた!」

 

宮藤は光った方向を向くと背中に掛けていた九九式を構える。そしてだんだん近づくにつれて、ネウロイの正体を見る。その大きさはせいぜい2mほど、これまでの最小である。

 

「小さいけど、ネウロイには違いないよね…これなら私一人でもやっつけられるかも」

 

そう思った時だった。突然、ネウロイは宮藤の周りをぐるぐると飛行し始める。今まで見てきた行動とは違うので宮藤は一瞬呆気にとられるが、すぐに気を引き締め銃口を向けた。

銃口を向けられたネウロイはその場で止まるが、宮藤はネウロイに向けて弾を放とうし――放てなかった。

 

「あっ、安全装置が!」

 

なんとあろうことか宮藤は安全装置の解除を忘れてしまっており、引き金を引いてもそれが動かなかった。

しかし、本来ならこの一瞬の隙を見てネウロイは容赦なく攻撃するものであるが、目の前のネウロイは攻撃をしなかった。

宮藤はその間にも安全装置を解除する。

 

「よし、これで…」

 

そう言いながら九九式に目を向けていた宮藤は改めてネウロイに銃口を向け――完全に固まってしまった。

 

「えっ!?」

 

宮藤はそう声を漏らした。何故なら、そこには先ほどの小さなネウロイがいると考えていた宮藤の予想外の光景があったからだ。

先ほどのネウロイは宮藤が目を離した隙に、その姿を変えていた。2mほどの姿だったネウロイは、二つの足に二本の腕、それを繋ぐ胴体に顔、しまいには足にウィッチの履くユニットを模したもの、つまり『人型』になっていたのだ。

 

(ネウロイが…人の形に…?)

 

宮藤は人型になったネウロイを見て、ただ困惑するしかできなかった。




ついにシュミット君告白しちゃったよ!!(あの場面で!!)
シュミット君意外と勘がいいですね。マロニ―ちゃんの考えを推測ですがほぼ当てているんですから。
宮藤はやはり軍人には向かない性格ですが、彼女でなければやはり人型のネウロイとの接触がないんですよね…。
ここで皆さんに
今後出そうと考えているシュミット君の新ユニット、それを皆さんの投票で決めようかなと考えています(無ければ作者が勝手に決めますが)
投票する新ユニットは以下の通りです。

1.Ta152(Fw190Dの発展型)
2.Do335(予想外のこの子、作者の本命)
3.その他(読者の希望)←NEW!

以上の中から選びたいと思います。投票お待ちしております!
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第三十話「撃墜と悔い」

少佐墜落、さてどうなってしまうのか!
そう言えば皆さん口々に「シュミット君のあれはフラグかな?」と言っていましたが、大丈夫です。死にません。


「じゃあ宮藤は一人で向かったんだな?」

 

ペリーヌの下にシュミット達が合流し、そして坂本が聞く。無論、宮藤の下に向かいながらである。

 

「すみません、もとはと言えば私が…」

「その件はネウロイを倒してからだ」

「はい…」

 

ペリーヌが謝罪をするが、坂本はネウロイ撃破を優先したので保留にする。

坂本は焦りを感じていた。宮藤がネウロイに対して一人で接触していることについてだ。

 

(余計な気を起こすんじゃないぞ、宮藤!)

 

坂本は険しい表情をした。そして、その会話を聞いていたシュミットは考えだす。

 

(もしネウロイと戦闘になったとしても、向こうから連絡が無いのはおかしい…何かあるはずだ)

 

シュミットは先ほどから宮藤の連絡が全くないことに対して、得体の知れない何かと不安を感じていた。

シュミットはミーナに連絡を取る。

 

「中佐、本当に宮藤はネウロイの所に向かったのですね?」

『宮藤さんがネウロイと接触したのは間違いないわ…でもそこから先はサーニャさんにも分からないって』

『すみません…』

「いや、それで十分です。サーニャが言うから間違いないでしょう」

 

中佐の言葉の後にサーニャが謝るが、シュミットとしてはサーニャが嘘など言うわけがないと信じているので疑うことはしなかった。

こんどは坂本がミーナと話す。

 

「どういうことだ、離れるようには言えないのか?こっちから呼びかけているが通じないんだ」

『こちらもダメ。ネウロイが何かジャミングのようなものを仕掛けているのかも…』

『あいつ…まさか捕まったんじゃ!?』

 

ミーナの言葉に続いて今度はエイラが言う。エイラもサーニャと一緒に居たようだ。そして、エイラの『捕まった』という言葉は隊員達を不安にさせる。

 

「まだ追い付かないのか、ミーナ!」

『それが、ネウロイはガリア方面に引き返しているわ。単に戻るつもりなんじゃ…』

「いや、いた!宮藤がいる…ん?もう一人いるぞ…」

 

坂本達が全速力で宮藤の下に向かっているときだった。シュミットが強化した目は、遠方にいる目標の人物をとらえたのは。そして彼は、更に言葉を続けた。

シュミットの言葉を聞いて坂本が右目の眼帯を取り、魔眼で確認をする。坂本の目にも、宮藤ともう一人の人影が見えた。

 

「宮藤の他にウィッチがもう一人いる」

「なんだって!?」

 

坂本の言葉に他の隊員達も驚く。ブリタニア防衛を行い、ガリアのネウロイを主で倒しているのはストライクウィッチーズであり、この周辺に他のウィッチが居ることはおかしかった。

しかし、じっと見ていたシュミットは違和感を感じた。

 

「違う…!?」

「コアが見える…あれはネウロイだ!」

 

シュミットは目の前の存在が人で無いことを悟った。そして坂本がその存在に対して答えを出し、周りのウィッチーズはその答えに体が強張る。

そんな中、宮藤は恐る恐るといった形でネウロイのコアに触ろうとしている。

 

「何をしている!宮藤!」

 

坂本が怒鳴る。怒鳴り声に気づいたのか宮藤は我に返り振り返る。

 

「坂本さん!」

「撃て!撃つんだ宮藤!」

 

坂本が宮藤に命令をする。しかし宮藤は撃たなかった。

 

「違うんです!このネウロイは…!」

「何をしている!いいから撃て!」

「駄目です、待ってください!」

 

あろうことか、宮藤はネウロイを背に坂本の方向を向いて両腕を広げる。まるで自分が盾になるように。

坂本はそんな宮藤の行動を見て、彼女がウィッチに意識を取り込まれていくのではないかと考え、懸命に宮藤をネウロイから引き離そうとする。

 

「惑わされるな!そいつは人じゃない!」

「違うんです…そんなことじゃ…!」

「撃たぬなら退け!」

 

坂本が何度も宮藤に言うが、宮藤は一向に退かない。それどころか、彼女は立ち止まったまま坂本に向けて何かを説得しようとするばかりである。痺れを切らした坂本はついに、宮藤の方向に向けて99式を構えた。

宮藤は思わずその銃口に硬直する。その時だった。

宮藤の後ろにいた人型のネウロイが、宮藤の下を離れた。

 

「えっ!?」

「おのれ!!」

 

宮藤は突然の行動に驚くが、坂本はそれを好機と見た。手に持つ機関銃の引き金を引きネウロイにその弾丸を浴びせる。

しかしネウロイはその攻撃をいともたやすく回避すると、反撃とばかりに両腕の部分を前に出し、その先から赤い光線を放った。

しかし今までネウロイと戦ってきた坂本だ。奇襲攻撃だろうと即座にホバリングに移り、光線が来る方向に向けてシールドを張った。

――誰もがそのシールドで攻撃を防ぐと思っていた。しかし、現実は違った。

坂本のシールドはネウロイの攻撃を受けたと同時に消えてしまった。まるでその姿は弾丸が紙を突き破ったように呆気なかった。

そしてその攻撃の一つが、坂本の持つ99式機関銃に命中した。機関銃は誘爆を起こし、坂本は爆発に巻き込まれた。

 

「あああああ!!」

「少佐!」

「坂本さん!」

 

悲鳴を上げ墜落していく坂本。その姿に隊員達は坂本を呼ぶ。しかし、坂本の足からユニットが外れてしまい、そのまま立て直すことはできなくなってしまう。

宮藤はその光景を見て真っ先に墜落していく坂本の下に向かい、坂本を空中で支える。遅れる形でペリーヌも坂本の所へ向かい、墜落していくのを阻止する。

シュミットは墜落していく傷だらけの坂本を見て、そして今度はネウロイの方向を向く。そして背中に背負っていたMG42を構え、そして突撃していく。

 

「この野郎!!許さねぇ!!」

 

シュミットはキレ、そして怒りに任せて攻撃をする。ここまで切れたのは、バルクホルンがネウロイの攻撃を受けた時以来だが、彼はまたしても目の前で仲間が墜とされる光景を見てしまい、怒りに感情が支配された。MGには強化を掛け、もはやネウロイの塵も残すまいという気迫だ。

その会話を基地で聞いていたミーナは焦ったように状況を聞く。

 

「どうしたの!?何が起きたの!」

 

ミーナの声を聞き答えたのは宮藤だった。

 

『少佐が…ネウロイに撃たれて』

 

宮藤の言葉を聞きミーナはスーッと血の気が失せていく。そしてそれに補足するようにバルクホルンも言った。

 

『今、シュミットが追撃しています。だけど、シールドを張ったのに何故…』

「バルクホルン大尉…追いなさい」

 

ミーナはバルクホルンが言い終える前に次の命令を下した。

 

『しかし少佐が…』

「追って!!命令よ!!」

『わ、わかった…』

 

バルクホルンは突然の命令に困惑するが、ミーナがまるで怒鳴るように言うので思わず返事をする。カールスラントのスーパーエースも、この時ばかりはミーナの言葉に勝てなかった。

そして命令をしたミーナは涙を流し、そして声を殺すように泣きだした。

 

「ミーナ中佐…」

 

後ろで見ていたサーニャは、そんな姿のミーナを見て何を言ったらいいのか分からなくなり、ただ名前を呼ぶことしかできなかった。エイラも横で同じように言葉を出せなかった。

そして現在、シュミットは一人でネウロイと戦っている。しかし、未だにネウロイに攻撃を当てられていなかった。

そして、対するネウロイも今までのネウロイほどの攻撃数を出さなかった。そのため、シュミットは段々違和感を感じた。

 

(何だこいつは!今までのネウロイに比べて戦意が無い!)

 

それでも攻撃の手を緩めないシュミット。しかし、その勝負は呆気なく決した。

シュミットの持つMG42が突如弾詰まりをしたのだ。

 

「何っ!?」

 

突然の弾詰まりにシュミットは気を取られMGを見る。その瞬間と同時に、ネウロイは高速で離脱していく。すぐさまシュミットはネウロイの行動に気づくが、既にその時には遠方に逃げられてしまった。

 

「待て!」

 

弾詰まりをしたMGを構えるが、ネウロイはそれでも止まることなく雲の中に消えた。サーニャのように周辺を感知できないシュミットでは、雲の中に逃げたネウロイを追跡することは不可能である。

シュミットはネウロイを逃がしてしまった事に苛立ちを覚えた。そしてホバリングしながら手に持つMG42に右こぶしを叩きつけた。

 

「畜生…!」

 

静かな怒りが、シュミットの中を駆け巡った。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その後、坂本は501基地に連れられる。すぐ傍ではペリーヌが悲鳴のように坂本を呼んでいた。

 

「少佐、坂本少佐!私が…私が付いています!返事をしてください!」

 

懸命に声を出すペリーヌだが、坂本は目を開けない。

ペリーヌは目の前に立つ人物に顔を向ける。

 

「宮藤さん!」

 

ペリーヌは藁にも縋る気持ちで宮藤を呼ぶ。現在宮藤は坂本に向けて懸命に治癒を施していた。しかし、一向に坂本の傷は塞がっていかなかった。坂本が撃墜され負傷したことと、このままでは死んでしまうという焦りが宮藤の治癒のコントロールを阻害していた。

そしてしばらく懸命に治癒をするが、宮藤はフラフラとバランスを崩す。

 

「芳佳ちゃん!」

 

咄嗟にリーネが宮藤の体を支える。宮藤はずっと治癒を施していたため疲労が溜まってしまい、リーネにもたれかかる。しかしすぐに体を起こし、再び坂本に治癒を施し始める。

 

(坂本さん…!)

 

そして懸命に治癒を続ける宮藤だったが、とうとう意識が無くなってきてしまう。過呼吸の状態で再びふらついた宮藤を今度はバルクホルンが支える。

 

「宮藤ッ!」

「芳佳ちゃん!これ以上無理したら…!」

「放してください!放して!」

 

バルクホルンとリーネに抑えられるが、それでもまだ宮藤は治癒を施そうとしていた。その時だった。

 

「落ち着きなさい、宮藤さん!」

 

突然、宮藤を止める声が聞こえた。その声の下方向を全員が見た。

 

「ミーナ」

 

バルクホルンがその人物の名前を呼ぶ。そこに立っていたのは真剣な眼差しで宮藤を見るミーナだった。

そして、ミーナの横を医師が走り抜けていく。医師は坂本の乗る移送車を押していき、そして手術室に入っていった。

 

「少佐、少佐…」

 

ペリーヌはその扉の前で立ち止まることしかできなかった。彼女は手術室に入ることは出来ない。ただ扉の前で坂本の無事を祈るだけしかできなかった。

そして、宮藤は魔法力を使い果たし、気絶してしまった。

 

「宮藤!」

「芳佳ちゃん大丈夫!?芳佳ちゃん!」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その後、気絶した宮藤は部屋に連れられて行く。手術室の前にはミーナとペリーヌが、手術の結果を待ち続けて扉の前の椅子に座っていた。

その時、その椅子、ペリーヌの横の空いているスペースに新たに一人座った。

 

「中佐、少佐の容体は…」

 

新たに座ったのはなんとシュミットだった。シュミットは座った後、ペリーヌを挟んでミーナに坂本の容体を聞く。

 

「…宮藤さんが手術の前に治癒を施したけど、それでも傷は塞がらなかったわ。後は手術に成功するのを祈るしかないわ」

「そうですか…」

 

ミーナの言葉を聞いてシュミットは少しショックを受けたように小さく息を吐き、そして正面を向いた。

しばらく三人の間には沈黙が流れるが、突然シュミットが声を出した。

 

「すみませんでした…」

「えっ?」

 

突然のシュミットの謝罪。ミーナとペリーヌは何のことか分からずシュミットに聞くように言葉を漏らした。

 

「あの時ネウロイを追撃したのに、結局撃墜することができなかった…本当に申し訳ありませんでした」

 

シュミットは立ち上がり、そしてミーナとペリーヌの前で頭を下げた。二人はそんなシュミットにどうしていいのかわからなかった。

その時、手術室の赤いランプが消える。そして扉が開いた。

全員が扉の空いた方向を見る。最初に声を発したのはミーナだった。

 

「容体はどうですか…」

 

ミーナは医師に聞くが、医師はまだ難しい表情をしていた。

 

「まだ、予断を許さない状態です」

 

医師から告げられた言葉に三人はショックを受けた。まだ峠を越えていないのだ。素直に喜べるなんてことはできない。

そして一番坂本を慕っていたペリーヌは、坂本のいる手術室内に向けて走り出した。

 

(すみません少佐、私が不甲斐ないばかりに…せめて、せめて少佐が回復してくれれば…)

 

残されたミーナとシュミットは、ただ立ったまま坂本の容体が回復するのを願うしかできなかったのだ。




シュミット君の後悔。負傷した坂本。一体どうなる501!
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第三十一話「罪と罰」

それでは三十一話です。どうぞ。


夕方、シュミットとペリーヌは坂本が寝ている病室にいたペリーヌは坂本のベッドの横の椅子に腰かけ、ずっと坂本の容体を見ていた。

シュミットはその二人とは離れたところ、入口のドアの壁にもたれかかりながら見ており、彼は人差し指を噛んだまま黙っていた。

 

(心拍数はまだ安定しているが…はやく目覚めてください少佐…)

 

シュミットは坂本の横にある計器に表示されている数字を見ながら、心の中で願っていた。

突然、シュミットの横にある扉が開く。彼が横目で見ると、下を向いた宮藤と、そんな宮藤の後ろにリーネが立っていた。

シュミットはその瞬間、部屋の空気が変わったのを感じた。ガタリッ!と坂本の寝るベッドの方向から音がするのでシュミットが見ると、憤怒の表情をしたペリーヌが走りながら宮藤の下に向かっていた。そしてペリーヌは右腕を大きく上げ、それを宮藤に向けて振り下ろす。しかし、それが宮藤の頬に振り下ろされることが無かった。

 

「止めろペリーヌ」

 

彼女の手をシュミットが掴み受け止めた。事前に行動を察したシュミットが止めたのだ。

 

「放してください!宮藤さんのせいで少佐は怪我を負ったのに、今までのうのうと寝ていて!」

「宮藤は気絶するまで治癒をしていたんだぞ…坂本を救おうとしていたのに何故打とうとするんだ!?」

「そんなの当たり前です!」

 

ペリーヌは宮藤に対して怒っていた。自身のあこがれである坂本が大怪我をする原因を作った宮藤のことを。しかしシュミットは宮藤に援護をする。シュミットからしたら、宮藤が坂本を怪我する原因を作ったと同時に、自分が気絶するまで懸命に治癒を坂本に向けてやっていたというのを聞いていたからだ。しかし、ペリーヌは気が昂ぶっており、そんなシュミットの主張を聞き入れなかった。

シュミットはペリーヌの手を押さえ、ペリーヌはそれを解こうとする。そんな争いの横にいた宮藤だったが、突如部屋の中に走り出した。

 

「芳佳ちゃん!」

 

リーネが声を掛けるので、その声につられてシュミットとペリーヌも宮藤を見る。すると宮藤は坂本のベッドの前に行き、魔法力を腕に集中させ治癒をし始めた。

宮藤は先ほどまで気絶していた。無論それは魔法力を使い疲労が溜まりすぎたことによる気絶だった。そんな状態から目覚めてまだ間を開けていないのに、再び芳佳は坂本を治療し始めたのだ。

それを見て、シュミットも理解した。宮藤が坂本を死なせるなど絶対に思っていないと。

そして、シュミットはそっとペリーヌの掴んでいた腕を離す。ペリーヌはそれに気づきシュミットを一瞬見るが、再び宮藤が坂本を治療する姿に向き直る。

 

(宮藤だって理解しているはずだ。自分が原因で少佐が怪我をしたことを。そしてその事を悔やんでいることだって…)

 

シュミットはそう考えながらしばらく様子を見た後、自分のやれることはここには無いなと悟る。そして静かに部屋を出ていく。

リーネはそんな行動をするシュミットに気づくが、彼の表情が自分はここでは何もやれることがないと悟っているのを見て察したのか、特に止めることはしなかった。

そして今度シュミットが向かったのは、基地の食堂だった。部屋の扉を開けると、中にはシャーリーとルッキーニ、エイラとサーニャがいた。

 

「あっ、シュミット」

 

中に入ってきたシュミットに気づいたのはルッキーニだったが、彼女の表情は現在宮藤に治療されている少佐のことを思ってか、いつもの明るい元気さは無かった。

それに気づいたのはシャーリーもだったのか、シュミットに聞いた。

 

「少佐はどうだ?」

「宮藤がさっき少佐の居る医務室に来て、再び治療を開始した。だが、まだ容体は回復に向かっていないだろう」

「そうか…」

 

シュミットから言われた現実にシャーリーは落胆した。

そして次にサーニャがシュミットに質問をした。

 

「でも、芳佳ちゃん命令違反して大丈夫なんでしょうか?」

「恐らく後日に処罰が下されるだろう。いくら少佐を治癒したからと言って、独断専行に命令違反がまだ残っているからな。弁解は絶望的だろう…」

 

サーニャにそう説明しながら、シュミットはテーブルの上を見る。そこには缶詰があり、シャーリーが持っている籠の中にも同じような缶詰があったのを見て、これを出したのはシャーリーだなと理解した。

 

(そういえば、宮藤とリーネは今医務室にいるんだったな…よし)

 

そう考えてからシュミットはキッチンの方へ袖をまくりながら移動する。その行動を見て周りは不思議に思うが、シュミットはそんな様子を余所に手を洗い出す。

 

「何をしているんだ?」

 

シャーリーが代表して声を掛ける。

 

「ん?何って、みんなのご飯を作るんじゃないか」

「えっ?」

 

誰が声を漏らしただろうか。シュミットが当然というようにサラリと答えるので、周りもそんなシュミットに驚いていた。

シュミットはそれを見て説明するように言う。

 

「あのなぁ…宮藤は今少佐の治療中で、リーネは付き添いしているんだ。あの二人に料理しろなんて言えるわけがないだろう」

「だけど、お前料理できたのか?」

「なっ…この前ケーキ作ったのは私だぞ」

 

シュミットが説明をしてもシャーリーはシュミットが料理できないのだとまだ思っていたようだ。実際、彼がケーキを作った時は作った現場を誰も見ていないため、料理ができるという認識がしずらかったというのがあったのだろう。

 

「あっ」

「どうしたの?」

 

と、シュミットが材料を切っているとき、テーブルの方から声がする。顔を上げて見てみると、エイラが一枚カードを持っており、サーニャが聞いていた。

 

「宮藤占ってた」

「なんて出たの?」

「死神」

『縁起でもない…』

 

死神のカードの意味は正位置の意味ではろくなものが無い。この時ばかりは全員の思いが一致したのだった。

 

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その夜、ミーナとシュミットは医務室にいた。

 

「もう大丈夫です。この子の魔法のおかげですよ」

 

そう言って医師は宮藤を見た後、部屋を出ていった。残されたミーナとリーネとシュミット。そして坂本の眠るベッドに付きっきりだった宮藤とペリーヌ。

そしてミーナはベッドに近づく。

 

「美緒」

 

ミーナの声かけに坂本が閉じていた瞳を開ける。そしてゆっくりとミーナの方向を向いた。

ミーナはその様子を見てミーナは一瞬安堵の表情をするが、すぐに表情を引き締める。坂本が真剣な眼差しでミーナを見ていたからだ。

一瞬のためらいの後、ミーナは言った。

 

「それでも飛ぶのね…」

 

その言葉に坂本は「ああ」とでも言いたげな表情をする。シュミットにも、坂本が返事こそしなかったがそう言ったように見えた。

そしてシュミットは一歩前に出た。

 

「すみません少佐、少佐を攻撃したネウロイを倒せなくて」

 

そしてシュミットは頭を下げる。しかし坂本はそんなシュミットに短く答えた。

 

「気にするな」

 

そう言うが、シュミットはやはりそれでも僅かに罪悪感を感じていた。

そして翌日、シュミットは夜間哨戒を終えてから坂本の眠る医務室に向かっていた。そして部屋に入ると、ちょうど宮藤が起きたところなのだろうか、二人は離れて眠っているリーネとペリーヌを見ていた。

シュミットも起こさないように静かに近づいていく。

 

「宮藤、起きたんだな」

「あっ、シュミットさん」

 

後ろから声を掛けると宮藤が気付いたように振り返る。無論、シュミットも口元に指をあてている。

そして宮藤は再び坂本の方を見る。

 

「…よかった」

「宮藤、顔色が悪いぞ」

「そりゃそうですよ少佐。宮藤はずっと少佐を治癒していたんですから」

 

坂本は宮藤を見て顔色をうかがうが、シュミットが付け足す。

それを聞いて坂本も理解したのか、宮藤を見た。

 

「ありがとう…」

 

短くだが、宮藤に感謝の意を込める。そしてすぐに表情を変えた。

 

「…何故撃たなかった」

「えっ」

「あの時、何故お前はネウロイを撃たなかった」

 

坂本は少し間を開けて宮藤に聞いた。この事実はシュミットも聞きたかったことだ。

 

「…撃てなかったんです」

 

宮藤は短く、そして弱々しくだが言った。それを聞いて坂本は宮藤の手を取り、宮藤を自分に近づけた。

 

「人の形だからか?あれはお前を誘い込む罠だ」

「でも、私あの時なにか感じたんです…」

「ネウロイは敵だ」

 

宮藤はあのネウロイから何かを感じたというが、坂本にはそれが理解できなかった。

軍人である以上、彼らは打倒ネウロイを掲げて戦ってきている。そんな彼らの敵はネウロイだけであり、守るべきものは人類である以上、ネウロイから何かを感じるなど到底納得できるものではない。それは()()()()()を除いてだ。

 

(ネウロイから何かを感じた…それは宮藤の勘違いか、それとも軍歴の浅い宮藤だから感じた物なのか)

 

シュミットは宮藤と坂本の会話を聞いて考えていた。彼も軍人であることは確かである。しかし、彼の場合はネウロイに対しての知識が乏しいところがある。そのため、宮藤の主張に対しても「もしかしたら」という考えを持ったのだ。

しかしシュミットは、ミーナから言われたことを思い出し宮藤に言った。

 

「宮藤、残念だがこれから君を拘束する」

「えっ」

 

宮藤は突然後ろから声を掛けられ驚くが、シュミットの真剣な表情を見て気が後ずさりする。彼の表情は基地にいるとき今まで見せたことのない真剣な表情――絶対に逃がさない、とでも言いたげな表情をしていた。

 

「ミーナ中佐からの命令だ。少佐が目覚めた後、宮藤が起き次第拘束して連れてくるように言われている」

 

そう、シュミットはミーナの命令に従っているのだ。今回の事件の発端となった宮藤を連れてくるようにと。

そして、宮藤を連れてシュミットは医務室を出た後、そのまま部隊長室に向かった。中に入ると、エーリカとバルクホルンが立って待っており、執務机の椅子にはミーナが座っていた。

 

「中佐、宮藤軍曹を連れてきました」

 

シュミットはミーナに言った。その時に宮藤を軍曹をつけて呼んだことに宮藤は少し困惑していた。シュミットが宮藤のことをいつも気軽に苗字で呼んでいたのに対して、今回はそんな軽い雰囲気でもなかった。

 

「ご苦労、シュミットさん。さて、宮藤芳佳軍曹」

 

ミーナはシュミットに礼をした後、率直に宮藤に話し始めた。シュミットは宮藤が逃走を図らないように宮藤の後ろに回った。

 

「あなたは独断専行の上上官命令を無視、これは重大な軍機違反です」

「はい…」

 

ミーナが淡々というので、宮藤もその空気に逆らうほど馬鹿でなく、素直に返事をする。

そして次にミーナは質問した。

 

「この部隊における唯一の司法執行官として質問します。あなたは軍法会議の開催を望みますか?」

 

ミーナは宮藤に軍法会議を望むか聞く。勿論、宮藤は軍法会議に対する知識に疎い。そう考えているシュミットは、宮藤が返答などしないだろうと考えていた。

案の定、宮藤は「あ、あの…」と僅かに呟いただけだった。彼女は軍法会議を望む返答をしていない。

 

「返答が無いので軍法会議の開催は望まないと判断しました」

 

そして、ミーナも先の返答から望んでいないという解釈をした。

 

(本来なら今の反応はアウトだが…まぁ、ミーナ中佐の優しさというか甘さというか…)

 

シュミットはそんなミーナの判断を見て、そう考えていた。実際、他の部隊長ならこんな風に裏で庇うようなことをしないだろう。

そしてミーナは宮藤に処分を言い渡した。

 

「今回の命令違反に対し、勤務、食事、衛生上やむを得ぬ場合を除き、十日間の自室禁固を命じます。異議は?」

「あの、私ネウロイと…」

「改めて聞きます。異議は?」

「聞いてください!」

 

バンッ!

宮藤が異議を唱えず自分の主張を続けようとしたため、ミーナは手に持っていた資料を机に叩く。流石に大きな音が鳴るので、宮藤も開いていた口を閉じる。後ろで聞いていたシュミットも、ミーナから来る雰囲気に思わず息を呑んだ。

そしてミーナはもう一度問う。

 

「異議は?」

「…ありません」

 

こうして、宮藤の処罰は決まった。




シュミット君、また君料理できること忘れてますね。
ミーナ中佐、やっぱり甘いですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは!


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第三十二話「謹慎と脱走」

少し元気があったので書き終えました。第三十二話です、どうぞ。


「なぁ宮藤、自室禁固だって?」

 

宮藤に処罰が言い渡された後、リーネの計らいで宮藤はお風呂に入っていた。因みに、現在お風呂には男性であるシュミット、執務中のミーナ、ベッドの上の坂本とそれに付き添うペリーヌを除いて全員が入っていた。

そして入ってきた宮藤に、横にいたシャーリーが聞く。宮藤は答えないが、そんな宮藤の方に腕を回した。

 

「それで済んで良かったなぁ!」

 

そしてシャーリーは自分の自慢の胸に宮藤を抱き寄せた。抱き寄せられた宮藤は驚くが、それに続けるようにルッキーニが言った。

 

「シャーリーなんか5回も禁固刑くらってたもんね~」

「バカ言え!4回だ4回!」

 

ルッキーニとシャーリーの漫才のような会話を聞いて、一緒に入っていた他のウィッチーズも笑う。

それに便乗するようにエーリカが胸を張って言った。

 

「私6回!」

 

更に笑いが起こる。しかし宮藤はそんな会話を聞いても笑わうことなく、立ち上がった。

 

「みんな聞いて!」

 

宮藤が立ち上がって言うので、全員の視線がそっちに向かった。

 

「あの、私ネウロイに今までと違う何かを感じたの。もしかしたら、ネウロイと戦わずに済む方法があるのかも…」

 

宮藤はそう主張した。しかし、彼女の言葉を素直に聞く人はいなかった。

 

「何をバカなことを」

「芳佳ちゃん」

「でもあの時はネウロイと分かり合えて…」

「今まで奴らが何をしてきたか知ってるのか?お前はネウロイの味方をするのか?」

 

そう、バルクホルンの言う通りだ。ウィッチーズの殆どは、ネウロイに祖国や大切なものを奪われた者だって多い。そんな彼らの敵はいつもネウロイだった。そのため、宮藤の行動はまるでネウロイの味方をしているようにも見えるのだ。

 

「今回のネウロイは他と違います!」

「お前は違いが分かるほど戦ったのか!?」

 

宮藤はそれでも主張するが、バルクホルンが追い込むように更に言う。実際、バルクホルンに比べたら宮藤はネウロイとの戦闘経験が圧倒的に少ない。そう言われると、宮藤はネウロイが違うほど戦ってきてないし、理解できると言いきれない。

風呂場に沈黙が流れる。

 

「人型が出たのは聞いたけど、だからってなあ」

 

沈黙を破るようにハルトマンが言う。それに続くように、サーニャの髪を洗っていたエイラが口を開いた。

 

「カワハバ基地の事カ?所詮噂じゃん」

「でもこの間の唄うネウロイは…?」

「それが罠だったじゃないカ!」

 

サーニャは芳佳を庇う形で言うが、エイラにあっさりと反論されしょぼくれる。

まったくもって議論は解決に向かわない。風呂場の空気が重苦しくなってくる時だった。

 

「……っ、ひゃあ!」

「芳佳~元気出せよ~」

 

ルッキーニが突然芳佳の胸を触りだす。だがそれでも物足りなかったのか他を探すと、目の前に立っていたリーネを見つける。

リーネはルッキーニに追いかけられる形になってしうが、ルッキーニはシャーリーを見つけるとすかさずダイブする。

 

「やっぱりこれだよね~」

 

そう言ってルッキーニはシャーリーに抱き着く。シャーリーもそんなルッキーニの頭をなでる。

それを見てハルトマンが楽しいのかと疑問に思うが、すぐに横にいたバルクホルンの胸を掴む。掴まれたバルクホルンは驚きハルトマンを怒鳴る。

そんな光景が流れ知らず知らずのうちに周りには笑いが零れる。宮藤も一瞬笑うが、彼女は誰も信じてもらえなかったことから再び表情を暗くしたのだった。

 

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そして深夜、ミーティングルームに集められたシュミット達は、ミーナから衝撃的な告白を受けた。

 

「宮藤さんが脱走したわ!」

「脱走!?」

「やるなぁ」

 

台を叩いて言うミーナの言葉に、他の隊員達も驚く。シュミットも例外ではない。

 

(宮藤が脱走…理由なく脱走するはずなどない。何かあるはずだ)

 

シュミットは思考を高速で働かせる。宮藤が何の前触れもなく脱走したことに対して、疑問を持ったからだ。

 

「あのバカ…」

 

バルクホルンがそう愚痴る。そんな僅かな声をシュミットは聞き漏らさなかった。やはりなんだかんだ言っても、彼女も宮藤が心配なのだ。

そんな中、ミーナは次の命令を下そうとする。

 

「これが司令部に知れたら厄介だわ。急いで連れ戻すわよ」

 

そう命令を下した時だった。ミーナの下にある電話が鳴り響く。急いで受話器を取りミーナは応えた。

 

「はい、501統…閣下!?……ですが、それは…いえ、了解しました」

 

数秒の会話の後、ミーナは受話器を下ろした。シュミットは嫌な予感がしたが、次に告げたことは嫌でも残酷な現実だった。

 

「司令部から宮藤さんに対する撃墜命令が下ったわ」

「なにっ!?」

「――っ!?」

 

ミーナの命令にシュミットは予感が当たり思わず声を漏らす。そして同時に、横にいたリーネもだ。

シュミットはリーネの反応が気になった。それは何かを隠している様子であり、撃墜命令を聞いて焦っている様子だった。

 

「リーネ…何か知っているな。大方、宮藤の脱走を手助けした、とか」

「っ!?」

 

シュミットに言われリーネは驚く。その反応は図星を表していた。他のウィッチーズもそれに気付く。

 

「リーネさん。貴方…っ!?」

 

ミーナはリーネに詰め寄ろうとするが、シュミットが腕をリーネの前に出し庇う姿をする。

 

「中佐、リーネをとやかく言う前に今は宮藤の方が最優先です。リーネ、宮藤の脱走を手助けしたんだ。今度はお前が自室に謹慎されるぞ。それでも…」

「構いません!」

 

シュミットの問いが終わる前に、リーネは返事をした。その姿を見て、シュミットはリーネが少なくとも宮藤の脱走の手助けをしたことに対する覚悟が出来ている証拠だった。

シュミットは静かにミーナを見た。

 

「中佐」

「いいわ。リーネさんは今日1日、宮藤さんの代わりに自室で謹慎していなさい」

 

ミーナもその意思を受け止めたのか、即座にリーネに謹慎を言い渡した。

そして、宮藤捕獲部隊が編成される。メンバーはミーナにシュミット、ハルトマンにバルクホルン、シャーリーにルッキーニの6人だ。

そして全員が武装をして離陸をする。宮藤の逃走した方角は事前に報告されており、全速力で追いかけた。

しばらく飛行していく。ふとシュミットは横を見る。見ると海から日が昇り始めており、既に朝になった証拠だった。

 

(たく、宮藤の奴こんな面倒なことを…)

 

そう考えるシュミットだが、彼は内心この出来事は何かが起こる。そう感じていた。それは彼の気のせいかもしれない。しかし、それでも僅かな希望を求めていた。

シュミットだって、共に生活してきた仲間を殺すなんて嫌である。この数か月間、宮藤と何度も会話やら色々と接してきたシュミットは、彼女も501の隊員と同じように家族のように感じてきていた。

そしてしばらく飛行して、ついに見つけた。

 

「っ!いたぞ!」

 

一番目の利くシュミットが、遠方にいる宮藤をついに発見した。そして同時に、宮藤の向こう側にいる物にも気づく。

 

「あれは…中佐、人型ネウロイです!人型ネウロイが宮藤の前に!」

 

シュミットは人型のネウロイが宮藤を先導しているのを見ていち早くミーナに報告する。報告を聞いたミーナも頷く。

そして同時に、シュミットの静まっていた怒りが少しずつ沸騰してきた。

 

「あいつが少佐を…くそっ!」

「待って!」

 

シュミットは背中のMG151を構え、ネウロイの突撃しようとする。しかしそのシュミットをミーナが止めた。

 

「何故です中佐!」

「…なんだあれは!」

 

シュミットが静止したミーナの行動に不満の声を漏らすが、横からシャーリーが驚きの声を上げる。それに気づきシュミットもシャーリーの向いている方向を向き――そして固まった。

青い空に白い雲が点在する空の中、その部分は異色と言える光景が広がっていた。まるで大きな竜巻のように渦巻いている大きな()()()が浮かんでいた。その色はまるで何も寄せ付けないかのような闇に染まっていた。

シュミットはミーナに聞く。

 

「中佐、あれは一体…」

「――ネウロイの巣よ」

 

ミーナから告げられたのは衝撃の単語だった。その言葉にハルトマンも続く。

 

「前にも見たことある。あそこからネウロイ(奴らが)来るんだ!」

「あれを破壊しようと多くの仲間が攻撃した。だが、誰一人近づくことすらできなかった…」

 

バルクホルンが説明をするが、その表情は本当に悔しそうだった。彼は今まで死んだ兵士たちのことを思い、そして目の前に広がる絶望の塊を見て恨みを持った目を向けていた。

その時、ルッキーニが声を張る。

 

「芳佳が中に入っていくよ!」

「なにっ!?」

 

ルッキーニの言葉を聞いて全員が見る。人型ネウロイに先導されながら宮藤は難なく巣に入っていく。その光景を見て全員唖然とした。今まで誰も近づくことができなかったネウロイの巣に、彼女は易々と入ったのだ。

 

「入っちゃった…」

「誰も入れなかったのに…」

「奴らの罠か!?」

 

全員が口々に言うが、バルクホルンは最悪のことを仮定した。それを聞いて真っ先にルッキーニは巣に向かって飛ぼうとした。

 

「芳佳!」

「待ちなさい!」

「中佐!?」

「…様子を見ましょう」

 

ミーナの突然の静止にシュミットは驚くが、彼女はこの状況を黙って見ることにしたのだ。

そして宮藤が巣に入ってから数分が経過する。未だに中から宮藤が出る気配は無かった。

その時だった。突然、宮藤を先導した人型のネウロイが巣の外に現れたのだ。

 

「さっきの奴だ!」

「芳佳は!?」

「いない…やっぱり罠か!」

 

全員がその様子を確認するが、周辺には宮藤は居なかった。

ミーナはすぐさま号令を掛けた。

 

「ブレイク!」

『了解!』

 

ミーナの号令と同時に全員が散開する。そして人型ネウロイに攻撃をしようとした時だった。

最初に気づいたのはシュミットだった。彼は自分たちの来た方向から何かが接近してきているのに気づいた。

 

「…?あれはなんだ!?」

 

シュミットが驚きの声を上げる。そうこうする内に、高速で接近する飛行物体はシュミットの横を通り抜けていく。それどころか、今まさにネウロイを攻撃をしようとしたバルクホルンたちも通り抜けていく。

 

「なにっ!?」

 

全員が驚いて立ち止まる。そしてその飛行物体の行方を見た。

飛行物体は突然加速した後急上昇を行い、そして向きを変えて高速で急降下を開始する。降下する先には人型のネウロイが居た。飛行物体は機銃が付いているのだろう、人型ネウロイに対して銃弾による攻撃を開始した。攻撃を受けた人型ネウロイの周辺に着弾による煙があがるが、その横を高速で飛行物体は通過した後、今度は離脱。そしてさらに驚くことに変形をしたのだ。

ネウロイはそんな飛行物体に反撃をする形でビームを発射する。その量はこれまで戦ってきたネウロイの比では無いくらいの量だった。全員が一斉にシールドを張ったり回避をする。

 

「こんな凄いビーム初めてだよ!」

「キツイね!」

 

ルッキーニとシャーリーは回避しながら愚痴るが、他の四人は飛行物体について分析していた。

 

「さっきのは!?」

「何だあいつは!?」

「外観は人工物、恐らく人が製作したものとみて間違いないだろう。しかし…」

「あれは…」

 

そんな風に分析していたが、今度はその飛行物体は驚く行動をした。

なんと変形した形から突然、赤い光線を放ったのだ。それは見間違えるはずがない、ネウロイが今まで攻撃してきたビームと酷似していた。

 

「あいつもネウロイなのか!?」

 

シャーリーが驚くが、そのビームはそのまま人型ネウロイに直進した後飲み込んだ。そしてネウロイでは受けきれなかったのか、ビームは更にネウロイの巣にまで伸びていった。

 

「あいつ強いぞ!」

「何なんだあいつ!ネウロイを一撃で!」

「分からん…あのビーム、とんでもない威力だぞ!」

「ん?…あァッ!?」

 

と、突然ルッキーニが奇声を上げる。その声に気づき彼女の方向を見ると、なんと宮藤が気を失ったまま落ちていく姿が見えた。

 

「芳佳ッ!!」

「宮藤!!」

 

ルッキーニとシャーリーが落ちていく宮藤を追いかける。そんな中、謎の飛行物体は役目を終えたとでも言った様子でシュミット達には目もくれずに来た方向を再び逆戻りして行った。

シュミットはこの光景を見て以前推測していたことを思い出した。

 

「まさか…いや、もしかしたらあれが新兵器だというのか?」

 

シュミットは飛行物体の飛んで行った方向を見ながら、その新兵器と思われる物から見えた禍々しい何かを感じたのだった。




宮藤はやっぱり軍人という枠にはまっていないところがまた面白いところですかね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第三十三話「解散と告白と新たな決意」

CAUTION! CAUTION! この話はとてつもない甘い成分を含んでいます。
耐性の無い方、あるいはこういった話が苦手な方はブラウザバックをお勧めします。
作者は苦情は受けませんのでご了承を。
それではどうぞ!
※タイトルの話数を間違えました。訂正します


謎の飛行物体が空域を離脱したのち、宮藤は拘束された。しかし、この時ミーナが撃墜せず基地に帰投したのは、彼女なりの優しさがあるのだろうか。

そして基地に帰投しようとするシュミット達だったが、滑走路に人影を見つける。

 

「あれ?誰かいるよ?」

「ん?…あの軍人は?」

 

ルッキーニの声にシュミットも見ると、滑走路には数名の兵士が居た。そしてその中央に黒い軍服の男性が立っている。

そして全員が滑走路に降りると、中心の男性はミーナに話しかけた。

 

「ご苦労だった、ミーナ中佐」

 

そう言うと同時に、シュミット達の後ろから風を切る音が鳴る。振り返って見ると、先ほど見た飛行物体が空中で反転をし、そして目の前に立つ人物の後ろに着地した。

シュミット達は驚く。

 

「さっきのだ」

「ああ…」

 

そう驚いている瞬間、周りに立っていた兵士が一斉にシュミット達を囲い、そして手に持つ銃を向けた。

その行動に更に驚くが、ミーナはいたって冷静に目の前の人物に話し始めた。

 

「まるでクーデターですね、マロニー大将」

(マロニーだって?…それじゃあこの人が!)

 

シュミットはミーナの言ったマロニーという名前を以前聞いていたので内心驚いていた。このようなクーデターまがいの事を起こした人物がまさか自分たちの上司だったのだ。

しかしマロニーはそんなミーナの言葉を特に気にするそぶりをせず、まるで当然と言わんばかりの態度をとる。

そしてマロニーは紙をミーナ達に見せた。それは配置転換の書類だった。

 

「命令に基づく正式な配置転換だよミーナ中佐。この基地はこれより私の配下である第一特殊強襲部隊――通称、『ウォーロック』が引き継ぐこととなる」

「ウォーロック…!?」

 

ウォーロックという単語はウィッチーズを困惑させた。シュミットはマロニーの後ろに聳え立つウォーロックと呼ばれた兵器を見る。

機械の体に手足が生えたような構造をしているウォーロックを見て、シュミットからはこの兵器から何かろくでもないことをしでかすのではないかと考える。

 

「…こいつがウィッチの代わりになるのか。お笑いだな」

「口を慎みたまえ、シュミット中尉」

 

ボソリと呟くシュミットにマロニーは反応をしたので、シュミットは「はいはい…」と言った様子で肩をすくめる。

そしてしばらくした後、包囲されているシュミット達の所に次々と基地で待機していた他のウィッチ達も集まってくる。

ウィッチーズが全員集まったのを見てマロニーは頷いた。

 

「ウィッチーズ全員集合かね」

 

そしてマロニーは一歩前に出た。そしてマロニーは宮藤の前に立つ。

 

「君が宮藤芳佳軍曹か」

「はい…」

 

宮藤は目の前に立つマロニーの気に押され尻すぼみな返事をする。

 

「君は軍規に背いて脱走をした。そうだな?」

「…軍規…」

 

宮藤はマロニーに言われ思い返すが、彼女は何かを思い出したのか反応する。

 

「あっ…!その後ろの…」

「ウォーロックのことかね?」

 

宮藤の反応にマロニーは自信満々そうに紹介をする。しかし宮藤はさらに続けた。

 

「私見ました。それがネウロイと同じ部屋で、実験室のような部屋で…!」

「なっ!?何を言い出すんだ君は!!」

 

宮藤の発言にマロニーはまるで動揺したように反応した。そしてその反応を見逃さない人たちが数名いた。その中にはシュミットもいた。

 

(ネウロイと同じ部屋…そして実験室。宮藤がこの兵器の開発室を見るはずが無いはず。だが反応の仕方が嘘をついているそれでは無い…)

 

シュミットは冷静に分析をしだす。そして再びウォーロックを見た。

 

「質問に答えたまえ!君は脱走した!そうだな?」

「…はい。でも…」

 

マロニーの質問に宮藤は返事をするが、追加で何かを訴えようとした。しかしマロニーはそれを聞かずにミーナを見る。

 

「中佐、私は脱走者は撃墜するように命令したはずだ」

「はい。ですが…」

「隊員は脱走を企てる。それを追うべき上官も司令部からの命令を守らない。全く残念だ…」

 

マロニーは心底失望したように言う。それを聞いてシュミットは腹が立つが何とか胸の中で抑えた。

そしてさらにマロニーは衝撃の言葉を口にした。

 

「本日只今を持って、第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズは解散する!」

『なっ!?』

 

マロニーの言葉に今度は全員が驚く。ブリタニアの防衛を担っているストライクウィッチーズを突然解散すると言い出すのだ。

 

「各隊員は可及的速やかに各国の原隊に復帰せよ!以上だ。分かったかね中佐」

「…了解しました」

 

ミーナは相手に悟られないように、しかしそれでもマロニーを睨みながら返事をした。

中で一番ショックを受けたのは宮藤だった。

 

「そんな…解散…ウィッチーズが…」

「君の独断専行が原因なのだよ、宮藤軍曹」

 

宮藤は解散と言う現実を受け止められなかったが、更に畳みかけるようにマロニーが言った。そしてそれにショックを受けた宮藤は気を失い倒れたのだ。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「芳佳ちゃん!芳佳ちゃん!」

 

リーネの呼びかけに宮藤はベッドに眠りながら目を覚ます。そして目覚めた宮藤を見てリーネは喜ぶ。

 

「芳佳ちゃん!よかった…」

「リーネちゃん、皆…私…」

「宮藤、お前はさっき滑走路で倒れたんだ」

「蓄積した疲労とショックで意識を失ったみたいね」

 

宮藤は現状を把握できていなかったのでシュミットが説明をし、ミーナがその原因について言った。そして宮藤は徐々に思い出していき、思い出したように意識を覚醒した。

 

「そうだ!あのウォーロックって、なんかおかしい。今から皆で調べれば…」

 

そう言う宮藤だったが、全員の方向を振り向いた時にあるものが目に入った。それは彼らの足元に置かれていた大きなカバンだった。

 

「皆…それは――」

「…命令で、私達皆は今すぐここを出なくちゃいけないの」

「それじゃあ、やっぱりウィッチーズは…解散?」

 

リーネの説明を聞き宮藤は質問する。宮藤はこれが夢であってほしかった。しかし現実は非情でありリーネは「うん…」と弱々しく肯定したのだった。

それを聞いて宮藤は罪悪感に駆られた。自分の無責任な行動で、全員の居場所だった501は失われてしまったことに対してだ。

 

「ごめんなさい皆…私…ごめんなさい…私のせいで…私の…!」

「違うよ、そうじゃない…」

「芳佳、元気出せ!」

 

宮藤は目から大粒の涙を流しながら全員に謝罪した。リーネはそんな宮藤を見ていられなくなり懸命にフォローをしようとし、ルッキーニはいつもの元気で宮藤を慰める。しかしそれでも、宮藤はずっと涙を流し続けたのだった。自分の行動が証明できず、そのせいで皆に迷惑をかけてしまったことに対して。

そしてしばらく泣いた後、全員移動の支度をする。それぞれは各原隊に戻ったりするのだが、ここで困ったのはシュミットだった。

異世界から来た彼に原隊は無い。そのため他と同じように原隊復帰などできないのだ。困り果てたシュミットはミーナに聞いた。

 

「私は一体どうしたらいいんでしょうか?まさか仕事を失うとか無いですよね?」

 

ミーナに質問するシュミット。そんなシュミットを見てミーナは書類を一枚シュミットに渡した。

それを受け取ったシュミットは内容を見る。

 

「…私はここに?」

「ええ。原隊のない貴方はここに向かうように辞令が来ました」

「なるほど…しかしまた遠いな…」

 

そう言って書面を見るシュミット。軽い感じに言っているが、彼の向かう先は再び最前線、それもブリタニアからは離れた地だった。

そしてそれぞれが501を離れていくとき、シュミットはサーニャを見送りに来ていた。サーニャはエイラと共に貨物列車に便乗、そして港に着いた後スオムス方面に向かうのだ。彼女は離れ離れになった両親の手がかりを探しに行く形であり、エイラはそれについていくというのだ。

出発の時、シュミットはサーニャに言った。

 

「サーニャ…その、もしよければ手紙を書いていいかな?離れ離れになっても…その」

 

珍しく言葉を選んで赤くなりながら頬を掻くシュミット。エイラはそんなシュミットを見て突っかかる。

 

「オマエ、サーニャに何をする気だ!」

「なっ、何って手紙を書いていいか聞いているだけじゃないか…」

 

エイラがシュミットに強気で聞く。そんなエイラにシュミットは珍しく押される。

しかし、ずっと黙っていたサーニャだったが、何かを決心したように口を開いた。

 

「あの…シュミットさん」

「えっ、うん」

「手紙、私も書きます」

「っ、本当か!」

「はい」

 

それを聞いてシュミットは嬉しくなった。しかしシュミットが内心喜んでいる中、サーニャはモジモジとしながら新たに何かを言おうとする。そして再び決心をし、シュミットに話し始めた。

 

「それと…その」

「ん?」

「この間シュミットさんが私に言ったことを…」

「この間…」

 

この前と言われてシュミットは思考を振り返り、そして凍る。この前あったことと言ったら、シュミットがサーニャに告白したことだ。あの時は出撃間際だったのと、坂本が撃墜されたり宮藤が脱走したりと色々な出来事が重なり落ち着かなかったので完全に忘れていたのだ。

それを思い出しシュミットは顔が熱くなるのを感じた。心臓がバクバクと鳴る。横で聞いていたエイラは何のことか分からずサーニャを見る。サーニャも同じように頬を赤くしながら下を向いている。ますます分からなくなるエイラ。

そして、顔を赤くしながら下を向いていたサーニャがついに顔を上げて言った。

 

「私も…シュミットさんのことが好きです」

 

サーニャは告白した。それは紛れもなくこの間のシュミットの告白に対する返事だった。

シュミットは驚きで目を開く。あの時シュミットは自分が嫌われてしまったと思っていた。しかし今回手紙を書いていいか聞いて、サーニャから返事をもらったので少し心の中で喜んでいた。

しかし、今の告白はシュミットの予想外だった。サーニャが、シュミットのことを好きだと言ったのだ。この返答が来るのは予想外だった。

そして、それを聞いていたエイラだが、完全に固まっていた。それはもう、石になったと言わんばかりに。

そんなエイラを余所に、シュミットの胸の中から溢れる思いが駆け巡る。そして突然、サーニャを抱きしめた。抱きしめられたサーニャはいきなりの行動に驚くが、シュミットがその腕でサーニャのことを大切に抱きしめていたので、少しずつシュミットの体に身を委ね始める。

サーニャはシュミットに身をゆだねながら、彼の温もりを感じた。抱きしめられながらシュミットから感じる温もりを感じて心が自然と暖かくなっていく。

そしてシュミットは、そんなサーニャに抱きしめながら静かに話し始めた。

 

「サーニャ…私もサーニャが好きだ。だから、サーニャの告白が聞けて今すごく嬉しい。サーニャ、私はサーニャとずっと一緒に居たいと思っている」

 

抱きしめながら告白するシュミット。そうしてしばらくした後、シュミットは抱きしめていたサーニャの肩を掴み、ゆっくりと彼女の顔を見る。シュミットの顔の僅か10数㎝先には、頬を赤くした彼の愛した少女の顔があった。その姿は初めて会った時よりも一層美しいと言える姿で映っていた。

そして、二人の顔はゆっくりと近づいていく。ゆっくり、ゆっくりと近づいていき、そしてついに――、

 

「「んっ…」」

 

僅かな時間だが、静寂が流れる。そう、二人はキスをしたのだ。時間にして数秒だったが、二人にはとても長い時間に感じた。瞼を閉じながら、時間にして5秒ほど。そして、二人は息が苦しくなったのか、互いに唇をそっと離す。

互いの頬は真っ赤だった。しかし二人は今、とても幸せだった。

そして今、シュミットは心の中で新たな決意を固めた。

 

「サーニャ。私はネウロイを絶対に倒し、そしてサーニャの祖国を解放することを誓う。そして…ずっとサーニャを守って見せるから!」

 

そう誓いを新たに、二人の男女はここで結ばれたのだった。




ついに来ました。というか、みんなの意表を突くタイミングでぶっこみました。作者の気まぐれで。
自分で書いておきながら言いますが、とてつもなく甘く感じました。
まさか自分が恋愛話を書くとは考えもしませんでしたね。
恋愛話は今回が初(小説を書くこと自体このシリーズが初)なので、模写がかなり苦労しました。
一応忠告します。まだ一期終わっていません。あしからず。
誤字、脱字報告お待ちしております。次回どうなる!?


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第三十四話「ウォーロック」

次話投稿します。最初に言います。シュミット君が出ませんでした。理由ですか?出しにくかったためです。


シュミット達が基地を離れたちょうどの時、501基地ではマロニーの指揮の元、部下達が態勢を整えていた。既に基地の格納庫は封鎖され、ストライカーが持ち出せないようになっていた。

兵士の一人が報告をする。

 

「閣下、ウィッチーズ全員が当地より離れました」

「うむ…」

 

報告を聞きマロニーは頷くが、彼は内心で僅かに焦りを感じていた。

 

「すべて順調です」

「どこが順調なものか。まったく想定外のタイミングだ…こちらの戦力はまだウォーロック1機しかいない。表に出る時期では無かったのだ」

 

副官がマロニーに言うが、マロニーは不満だらけだった。彼は顔を歪めて副官の言葉を反論する。

 

「しかし、もう隠れているわけには…」

「そうとも。元はと言えば忌々しいあの扶桑の小娘。あいつがネウロイと接触するようなことさえなければ、こんな時期に我々が動く必要などなかったのだ」

 

そう、彼の最大の誤算は宮藤だったのだ。彼女のネウロイとの再接触は完全に予想外の事態であった。しかし同時に、ブリタニア防衛を行う501の解散の口実に持っていけた所は別の意味でも誤算だったが。

 

「扶桑に返してもよろしかったのですか?」

「軍を離れ、ストライカーを失ったウィッチーズなどただの小娘にすぎん。恐れる必要などない」

 

副官が不安をマロニーにぶつけるが、マロニーはニヤリとしながら計画に狂いなど起きないと信じていたのだった。しかし、未だに彼には懸念となる存在があった。

 

(シュミット・リーフェンシュタール…何故だ。何故私はあの若造にこう不安を持つのだ…?)

 

それはネウロイを見て嘲笑をしていたシュミットの目を見たマロニーの不安だった。彼の目は、まるで目の前の存在に対して一切期待をしていない、それどころかこの存在に対して完全に敵として見ている蔑んだものだった。その目をしていたシュミットを見て、大将と言う立ち位置にいるはずの彼は、謎の不安に駆られていたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

一方その頃、ただ黙って基地を離れたミーナ達では無かった。彼女たちはバスから降りた後、周りを見回す。

 

「ふぅ、やっと監視もなくなったわ」

 

そう言いながら魔法を解くミーナ。それを聞いてバルクホルンがホッと息を吐く。

 

「このままカールスラントに戻って、祖国奪還のために戦った方がよかったかもな…」

 

バルクホルンの言葉にハルトマンはポカンとする。

 

「へ?」

「ん、なんだ?」

「トゥルーデが戻ろうって言いだしたんじゃん」

 

ハルトマンの鋭い指摘に流石のエースも動揺する。そう、宮藤が心配で戻ろうって言いだしたのは実を言うとバルクホルンだったのだ。

 

「そ、それは宮藤に…借りがあるから」

「そうだね~、たっぷりとね」

「つ、つまりだ!あいつを失意のままに返してしまっていい物か!カールスラント軍人がそのようなことで…」

 

その先の言葉を続ける前に、ミーナがバルクホルンの前に人差し指を出しバルクホルンを止める。

 

「はいはい、気持ちは十分よ」

 

ミーナがそう言って指を振る。しかしそんな軽い空気を放ったと思ったら、今度は真剣な顔に戻る。

 

「…それに、宮藤さんの言ってたことも気になってるの」

「ネウロイと友達になるってやつ?」

 

ハルトマンが聞くがミーナは首を横に振る。

 

「いいえ、ウォーロックがネウロイと接触してたって話よ」

「!」

「宮藤さんがあの話をした時のマロニー大将の焦りは、何か秘密があるんじゃないかしら」

「報告義務違反があれば、こっちが攻めに回れる」

「そういうこと」

 

ミーナ達はマロニーの反応を見て何か裏があると推測していたのだ。

そして彼女たちは移動を開始し、501の基地を遠方から見ることができる廃屋の中から監視していた。

ちょうどその時だった。501の基地から飛行物体が1つ上昇をしていく。それは現在ブリタニア防衛を担うことになったウォーロックだった。

 

「早速ガリア制圧作戦か」

 

測量儀を覗きながらバルクホルンが呟く。

 

「大忙しだね」

「軍の上層部にウォーロックの強さを認めさせたいのよ。そして量産の指示を取り付けたい…それにしても、ウォーロック1機しかないのに実戦なんて…」

「戦果を挙げて隠したいことがあるんじゃないのか~?」

 

ミーナは分析をすると同時に、1機しかないウォーロックでいきなり実戦をすることに疑を唱えていた。そんなミーナにハルトマンが言う。言い方こそ軽いが、内容は意外と核心を突いている。

 

「奴らの化けの皮を剥がすチャンスだな!」

「にっしっしっし…やる気だね。やっぱり宮藤のため?」

「なっ!?」

 

バルクホルンはまるで隅から隅まで見破ってやるという気迫で言う。そんな姿にハルトマンが茶化すと、これまた口をパクパクさせうまく言葉を繋げれなくなる。やっぱり宮藤のためなのだろう。

そんな姿を見ながらミーナは「監視を続けましょう」と、笑いながら言うのだった。

そして501から離れたところにある飛行場では、シャーリーとルッキーニが複葉機に乗って離陸しようとしていた。二人はこの飛行機に乗り、まずはルッキーニの故郷へ行き、その後にシャーリーが本国へ移動する。

離陸しようとしているとき、二人は遠方から聞こえる音に気づく。その方向を見ると、ウォーロックが飛行していた。

 

「おっ、ウォーロックだ」

「あの音好きじゃないな」

 

シャーリーはウォーロックの動きに感心するが、ルッキーニは露骨に嫌そうな顔をする。

 

「もう実戦か」

「いー!やられちゃえ!」

「おいおい」

 

ルッキーニは更にウォーロックを拒絶する。そんなルッキーニを見てシャーリーは笑う。そして二人の乗った複葉機は離陸をしたのだった。

ほぼ同時刻、宮藤と坂本、そして坂本の付き添いでついてきたペリーヌの三人が空母赤城からウォーロックを確認した。

 

「左デッキへ!」

「は、はい!」

 

坂本に命令をされペリーヌは急いで左デッキに行く。宮藤もついていく。ウォーロックはそのまま直進していく。その先にあるのはガリアにあるネウロイの巣だった。

 

「ガリアへか」

「早速ですわね」

 

三人はウォーロックを見届ける。

ウォーロックが近づくと同時に、ネウロイの巣からビームが飛んでくる。その数は計り知れないが、ウォーロックはそんな攻撃を軽々と避けていく。

そしてしばらくウォーロックが避けると、今度はネウロイ自身が雲から降りて出現した。ネウロイは正面からウォーロックに攻撃をする。ウィッチであればシールドを張ることもある攻撃の雨だったが、ウォーロックはその速さに物を言わせて回避をし、そしてネウロイに接近をする。

すると、反撃と言わんばかりに前方部分を開く。そしてその開いた先から今度はネウロイと同じビームを放った。そのビームは高速でネウロイに直進すると、ネウロイのコアを的確に貫きネウロイを消滅させた。

その光景を赤城から見ていた三人は驚く。

 

「一撃でネウロイを!」

「なんという威力ですの…!」

 

坂本はネウロイをさらに分析する。そしてある不思議な点に気付く。

 

「おかしい…何故ウォーロックはビーム兵器を使えるんだ?」

 

そう、ウォーロックが放った攻撃は紛れもなくネウロイのビームである。それをどうしてウォーロックが放つことができる?

すると宮藤が思い出したように言う。

 

「あっ!」

「どうした宮藤!」

「…見たんです。ネウロイが見せてくれたんです…ウォーロックはネウロイと会っていたんです!」

 

宮藤の言葉は余りにも突拍子な内容であり、坂本も目を見開く。

 

「ウォーロックがネウロイと接触していただと!?」

「あり得ませんわ、ネウロイは敵ですのよ。それに、ネウロイの技術を手に入れたのなら私たちにも報告があるはずですわ」

「でも…」

 

ペリーヌの反論は尤もだ。敵であるネウロイに接触など今まで到底できたことでは無い。そんな中でネウロイの技術を手に入れたなど、信じられないのも当然だ。

しかし、この反論にまったを掛けた人物がいた。

 

「…本来ならあり得ない。だが、辻褄は合う」

「えっ?」

 

坂本の言葉に流石のペリーヌもびっくりする。

 

「もし、敵がネウロイだけでないとしたら…宮藤、お前の行動はあながち無駄ではなかったかもしれない」

「えっ…」

 

坂本の目は真剣そのものであり、冗談を言っているものでは無かった。

その時だった。ネウロイの巣から、新たにネウロイが現れたのだ。その数は2機。今までにない行動パターンである。

ウォーロックは再びネウロイに攻撃を敢行する。ビームを放ちネウロイに命中させ倒すが、この間にも巣から新たにネウロイが出現する。その出現速度はネウロイの攻撃速度を上回っており、瞬く間にネウロイはウォーロックを囲むまで増えていた。

501基地でもその異常事態は観測されていた。研究員の一人がマロニーに報告をする。

 

「ネウロイの数8!…いや9!」

「ウォーロックの処理能力は限界です!」

 

研究員の言葉にマロニーは苦虫を噛んだ表情をし、命令を下す。

 

()()()()()()()()()()()()を稼働させろ!」

「しかし、コントロールするには共鳴させるウォーロックが5機以上必要です!」

 

それを聞いてマロニーは歯ぎしりをする。その時だった。突然ウォーロックを制御している装置から警告音がする。

研究員がそれに気づく。

 

「こ、コアコントロールシステムが勝手に動いています!」

「なに!?」

「ウォーロック自らが、コアコントロールシステムを稼働させたようです!」

 

その間にも、ウォーロックはコアコントロールシステムを作動する。その光景は赤城から見ていた坂本達からはありえない物を見ているようだった。

 

「な、なにが起こっているのです!?」

「ウォーロックの数が半端じゃない!」

 

巣の下で佇むウォーロック。その周辺を囲む形で無数のネウロイが飛行する。しかしどのネウロイも敵であるウォーロックを攻撃しない。彼らはまるでウォーロックからの命令を待とうとしているかのように周辺をぐるぐると飛行をするだけだった。そう、彼らはウォーロックに自分の動きを支配されてしまったのだ。

そして、ついに事態は終盤へと向かった。ウォーロックに支配されたネウロイ達は、突如ネウロイ同士で攻撃をし始めたのだ。その光景を見て坂本達は更にありえない物を見る目で眺める。

 

「バカな!ネウロイがネウロイを攻撃している!」

「そんな…同士討ち!?」

「まさか…ウォーロックがネウロイを操っているのか…?」

「そ、そんな事って…」

 

坂本を慕うペリーヌも、この時ばかりは坂本の言葉を信じられなかった。そんな中、宮藤はただその光景にショックを受けるだけだった。

そしてついに、ウォーロックを囲っていたネウロイが全滅した。その報告を聞き基地は湧き上がっていた。

 

「ネウロイを殲滅しました!!」

『おお!!』

 

彼らは勝利に沸き立つ。その時だった。

 

「なっ!?」

「どうした?」

「それが…こちらからの制御が遮断されました!」

 

この時、異変に気付いたのは基地司令部だけだった。制御を遮断したウォーロックは役目を終え基地に帰還するはずだった。しかし、巣の真下で静止したまま、突如ウォーロックはその白い機体色を変化させていく。徐々に黒く染まっていくウォーロック。そして黒く染まったウォーロックは急降下をし、そのまま赤城の方向へ向かった。

 

「帰ってきましたわ…」

 

ペリーヌが茫然とその姿を見ながら呟く。

その時だった。ウォーロックは赤城に接近したと同時に突如、先ほどネウロイに向けていたビーム()を放ったのだった。




シュミット君出ませんでしたが、マロニ―の懸念として出しました。因みに次回にはちゃんと出ます。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第三十五話「ウィッチーズ集結」

前回登場しなかったシュミット君。今回はちゃんと出ます。


エイラは現在複雑な心境だった。その原因は無論、列車に乗る前にあったあの光景が原因だ。

シュミットに向けてのサーニャの告白。そしてその後の二人のキス。完全に彼女は予想外のことであり、そしてショックだった。そもそも、あの会話からしてサーニャは以前にシュミットから告白されていたということになる。でなければ、あの時に「私も」と言わないからだ。

エイラはサーニャに対して友情に留まらない感情を抱いていた。そのため、彼女は自分がフラれたという現実をまだ受けきれなかったのだ。

エイラからしても、シュミットは真面目で人当たりが良く、サーニャだけでなく501の全員をしっかりと気に掛ける優しい性格だと分かっていた。そして彼は誰よりも仲間を大事にし、何かあったら仲間の為に怒る。彼の性格はエイラの中でも評価のいいものだった。

しかしそれでも彼女は心の中で認められなかった。やはり彼女もサーニャが大切だと思っていたからだ。

そう考えながらサーニャを見るエイラ。現在サーニャはそんなエイラの感情は知らず、体を預け静かに眠っている。

 

(シュミットがサーニャのことが好きだって分かってたし、サーニャも薄々そうだと思ってタ…だけど…)

 

エイラはまだ、心の中が混乱していた。ズルズルと引きずるエイラだが、突然その思考は塞がれた。

眠っていたサーニャが突然、何かを感じたのか頭に猫の耳を出す。サーニャの使い魔の黒猫の耳だ。そして今度は魔道針を出す。

その光景に呆気にとられるエイラだったが、サーニャは何かを感じ取ったのかのか状況を口に出す。

 

「…艦が…燃えてる」

「艦?」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

ウォーロックが空母赤城を攻撃する姿を、離れた所からシュミットは見ていた。元々彼もバルクホルンたちと同様、ウォーロックを監視する目的で基地の近くに潜伏していた。

彼は手に持っていた荷物を思わず落としてしまう。

 

「…なんてことだ」

 

黒煙を上げる空母赤城の姿を見ながら呟く。そしてウォーロックは容赦なく赤城を攻撃する。その攻撃はウォーロックの射線上、赤城の後方にあった司令部まで届いていた。

瞬間を見てシュミットは走り始める。目的地は旧501、生憎彼のいる位置から近い。

彼は自身に魔法を掛けながら全力でダッシュする。そしてそのまま基地に静かに潜入をし、急いで格納庫に向かう。しかし、いざ格納庫の目の前に着いた時、()()光景にシュミットは固まってしまった。

 

「こいつは…」

 

シュミットの眼前にあるのはウォーロックの攻撃で半壊している基地と、大きな鉄骨で出口の塞がれた格納庫だった。基地はどうと言うことは無いが、問題となるのは目の前の格納庫だった。格納庫を塞ぐ鉄骨はシュミットでは取り除くことができず、この状態ではユニットを履いて外に出ることはできない。

シュミットは焦った。攻撃されている赤城を助けようとユニットの下に向かったのに、完全に計画が狂ってしまう。

 

(くそ…どうしたら!何か…何かないか…)

 

シュミットはじっくり考える。愛機のFw190を自力で外に出そうとも考えたが、それでは更に潜入に時間がかかり赤城が沈没しかねない。懸命に、何かないか周辺を探った。

その時、彼の脳裏に()()()が浮かび上がった。

 

「…っ!そうだ、あれならいけるかもしれない!」

 

名案を思い付いたと言わんばかりにシュミットは再び走り出し、格納庫から離れていった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

同時刻501の基地司令部内は新たな展開が起きていた。

全身をぼろぼろにし微かに笑いながら気絶をする副官。その目の前に立つバルクホルンは魔法を展開しており、彼がこの副官を無力化したのだ。そしてその光景を見ていた他の兵士達は次は自分に来るのではないかという恐怖を感じ取り、全員が部屋の隅っこに逃げて怯えている。その姿はまるで部屋の隅に追い詰められたネズミのようだった。

そんな光景をマロニーは悔しそうに見ていた。瞬く間に部屋を占拠された彼は、占拠者達に質問をした。

 

「…我々をどうするつもりだ」

「どうする?ミーナ」

 

バルクホルンはミーナに聞く。ミーナは部屋の司令机の上に数々の資料を広げ、それを一通り見た後彼女は小さく息を吐く。

 

「ウィッチーズを陥れようとして随分色々となさったようですね、閣下」

「っ!」

「ウィッチを超える力を得るため、敵であるネウロイのテクノロジーを利用。しかもその事実を隠そうとしてウィッチーズを無理やり解散に追い込もうとした」

 

そう言ってからミーナは手元の資料を置き、マロニーを見る。

 

「良い計画でしたが――宮藤さんの軍の理解を超えた行動に慌てて動いたのが失敗でしたね」

 

マロニーはぐうの音も出なかった。完全に自分の立場は不利であり、もし次に言葉を発したら今度は別の失言をしかねないのだ。

そしてバルクホルンはこのことをすぐに感知できなかったことに後悔した。

 

「もっと…もっと早く宮藤を信じてやっていれば」

「あっ!?」

 

突然、エーリカが窓の外を見ながら叫ぶ。

 

「おーい大変だ!赤城が沈みそうだよ…あっ!」

 

エーリカは状況を報告した後再び赤城を見る。すると、今度は飛行物体が二つあるのに気づく。一つはウォーロックであり、もう一つはなんとウィッチだった。

 

「ウォーロックとウィッチが戦ってる、誰だ?」

 

ウィッチと言う単語を聞き全員が驚く中、ミーナは固有魔法でその人物を探る。

 

「――宮藤さんだわ」

「宮藤!?」

「ありえん!お前たちのユニットはすべてハンガーに封印されているはずだ!」

 

戦っているウィッチの正体が宮藤と知りバルクホルンは驚くが、その後ろでマロニーはあり得ないといった。今回ばかりはマロニーの言葉は正しかった。格納庫を塞がれた状態ではユニットの持ち出しなどできない。では一体どうやって持ち出した?

そしてミーナは分析を進める。そしてあることに気づく。

 

「このユニットの波形は…美緒のストライカー!」

「うっそー!やるな~宮藤」

「なるほど。敵を欺かんとすれば、まず味方か…流石坂本少佐だ!」

 

ハルトマンは戦えない坂本に変わりユニットを使って戦っている宮藤のことを称賛し、バルクホルンは坂本の判断力に感心していた。

その時、それは窓の外を見ていたハルトマンが気付いた。

 

「あっ!あれ!」

「どうしたハルトマン!」

 

ハルトマンの声にバルクホルンが反応する。そしてハルトマンが衝撃の発言をした。

 

「シュミットだ!シュミットがユニットを履いて飛び出したよ、武器も持たずに!」

「なにっ!?だがどうやって?」

 

バルクホルンは驚いた。シュミットがいることはさして問題はない。衝撃的だったのは彼がどこからともなくユニットを履いて離陸したという事実だった。格納庫は封印されているのに一体何処でユニットを持ってきた。

その答えを見つけたのはミーナだった。

 

「このユニットの波形…間違いないわ!」

「なんだ?」

「以前()()()()()()()()使()()()()ものよ!」

 

それを聞いてバルクホルンたちは理解した。彼が履いているのは封印されているD型でなく、以前使っていたA型だったのだ。A型は事件後に整備班によってこっそり修理された後、シュミットがD型を使うことになり使われなくなったが、シュミットはそのユニットを別の場所にこっそり保管していたようであり、封印を免れていたのだ。

 

「なるほど、その手があったか!」

 

バルクホルンは再び感心した。そして同時に、シュミットの行動の速さに驚きながら称賛もしていた。

 

「宮藤さんとシュミットさんの二人では時間稼ぎが精一杯よ。行きましょう!」

「それもそうだな!行くか!」

「待て待て待て!」

 

ミーナは急いで行動を開始した。それに賛同するようにハルトマンも付いていく。そしてバルクホルンはマロニーを縛ってから二人についていく。

そして格納庫に向かう三人。

 

「つまりだ!宮藤がネウロイに接触したから、奴らは慌てて尻尾を出したってわけさ。分かるだろうミーナ!エーリカ!」

「はいはい」

「あ~、もう私の知ってるトゥルーデじゃない~」

 

バルクホルンの熱の入る説明を聞き、ミーナは苦笑いをし、ハルトマンはぐったりとする。そして三人が格納庫に近づくと、格納庫前に立っている二人の人影に気づく。

 

「あれ?」

「エイラさん!サーニャさん!」

「お前達…なんで戻ってきたんだ?」

 

格納庫の前に立っていたのはエイラとサーニャだった。二人は封印された格納庫を見て困ったように立ち尽くしていたが、三人に気づき振り向く。そしてバルクホルンに質問されエイラは何故か慌てる。

 

「あ、えっと、その…列車がさ!ほら、二人共寝てたら始発まで戻ってきちゃって。仕方ないからここの様子でも見ようかな~って…なぁサーニャ」

 

エイラが説明をするが、完全に何か本音を隠している説明だった。そしてサーニャに賛同を求めるが、サーニャは本当のことを話した。

 

「途中で気付いたんです。今、シュミットさんと芳佳ちゃんが戦ってる。私達はシュミットさん達を助けに来たんです」

「あぁ、サーニャ~…」

「素直じゃないな~」

「私達も同じよ」

「わ、私は違うぞ!」

 

サーニャの言葉にエイラがヘタレた反応をする。そんな姿を見てハルトマンがからかう。ミーナもおんなじだと言うと、今度は何故かバルクホルンが焦った反応をする。

しかし、彼女たちはこうやって話している暇はない。

 

「それより始めるぞ!」

 

そう言ってバルクホルンは話を切る。そして魔法力を発動させると、格納庫をふさいでいる鉄骨の一つを掴む。そしてありったけの力を込めてその鉄骨を持ち上げ始めた。こんな芸当ができるのは彼女の固有魔法の『筋力強化』だからこそ出来るものだろう。尤も、シュミットもやろうと思えばできるかもしれない。

そしてついに格納庫の封印は解かれた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「くぅッ…!」

 

既に沈み始めている赤城の甲板上でペリーヌは現在、右腕で坂本の手を取り支え、左手で赤城の甲板の端を掴んでいた。こうなってしまったのは、宮藤が戦っていたウォーロックの攻撃が偶然にも赤城の後部に直撃し、船体を大きく振動させる。その衝撃で放り出された坂本をペリーヌが掴み、そして空いたもう一方の手で甲板を掴み、海に放り出されるのをギリギリで回避したのだ。

ペリーヌが坂本に聞く。

 

「大丈夫ですか少佐!?」

「もういいペリーヌ、放せ!」

「その命令だけは絶対聞けません!」

 

坂本は手を放せと言うが、ペリーヌは聞かなかった。自分の尊敬する人物の手を放すなど、彼女のプライドが許さなかった。

空で戦う宮藤はそんな二人を急いで助けに向かおうとするが、ウォーロックの攻撃を受けなかなか動けないでいた。

 

「坂本さん!」

 

宮藤が叫ぶ。その時だった。戦闘空域にオレンジ色をした複葉機が乱入してきた。

 

「ルッキーニ!」

「まっかせろー!」

 

それはシャーリーとルッキーニの乗る飛行機だった。彼らの機体はネウロイの横を通り抜けて沈みかけている赤城に迫る。その目的はペリーヌと坂本の救助だった。

それを勘づいたのか、ウォーロックが攻撃を複葉機に向かって行う。その時だった。

 

「いっけぇ!」

 

シャーリー達の乗る複葉機とウォーロックの間に、一つの人影が入る。そしてその人影は複葉機を守ろうとウォーロックの攻撃に対してシールドを展開し、その攻撃を弾いた。

 

「シュミットさん!」

 

宮藤がその人物の名前を呼ぶ。それは懐かしのユニットを履いてやって来たシュミットだった。彼はウォーロックを睨みつけながら呟いた。

 

「はぁ…はぁ…間に合った」

 

強化を掛け全速力で空域に登場したシュミット。彼の行動により、シャーリーは最適なコースで赤城に近づいていく。

その時だった。ペリーヌの腕に限界が来てしまい、甲板を持っていた手が離れる。そしてそのまま落ちて行ってしまうペリーヌと坂本。

 

「きゃあああああああ!」

 

落下しながら悲鳴を挙げるペリーヌ。そんなペリーヌを空中で抱く坂本。

しかし、二人が海に落ちることは無かった。シャーリーの操る複葉機は海面を低空で飛行し、後部に座っていたルッキーニが二人をキャッチした。

 

「よっしゃー!!ナイスキャッチ!」

「おっかえり~」

 

シャーリーは作戦が成功し喜び、ルッキーニも笑顔になる。

その姿を見てシュミットもガッツポーズをした。

 

「おし!」

 

それと同時に、赤城は急速にその船体を海に沈めていく。あと少し遅れていたらと思うとひやひやするシュミットだったが、彼は悠長に考えている余裕は無かった。

まだウォーロックと戦闘は続いている。それを食い止めるのがシュミットの仕事だ。彼は急いで離陸したのと武器が無かったことで非武装だが、防御ぐらいなら出来る。

 

「さて…ここからが正念場だ!」

 

シュミットは再び気合を入れ直し、ブーストを掛けて再びウォーロックと対峙したのだった。




懐かしのA型ユニットです。
書いていてエイラを慰めたくなりました。後ついでに言いますと、サーニャがシュミットの名前を先に呼んでいることに注目。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第三十六話「ストライクウィッチーズ」

ストライクウィッチーズ編、最終話です。
それではどうぞ!


坂本とペリーヌを救出し、ひとまず一難去った二人だが、敵であるウォーロックはまだ健在していた。

赤城を守るために急いで飛んできたシュミットは武器を持ってきておらず、攻撃は宮藤に任せきりな状態であり、彼は今防御に専念していた。

しかし、もともと攻撃寄りのシュミットは防御を使用する回数がそう多くないため、宮藤ほどの防御力は無い。それでもウォーロックの注意をひきつけながら彼は懸命にシールドを強化し張る。

 

「くっ…!」

 

ウォーロックの攻撃はすべてひきつけ、その隙を宮藤に攻撃してもらう。これが彼らが即席で組んだ戦術だった。しかし段々ウォーロックも学習をしてきたのか、徐々にシュミットを見なくなってきており、宮藤を狙うようになり始めていた。

それでもシュミットは懸命に食らいつき、宮藤を守る形で前に出る。

 

「こっちを向け!!」

 

シュミットは大声でウォーロックを怒鳴る。その怒鳴り声が聞こえたのか、ウォーロックはその声に応えるかのようにシュミットへ攻撃をする。無論、シュミットもそう来るようにしたのですぐさま防御を張る。しかし、ここでトラブルが起きた。

 

「うわっ!?」

 

シュミットは突如体勢を崩した。すぐさまユニットを見る。すると左足から黒い煙が出ていた。

シュミットは舌打ちをする。ここまでウォーロックに追随するために強化を出し惜しみせず掛けっぱなしにしていた。 そのためユニットにガタが来たのだ。しかし強化を掛けた状態でユニットがここまで持ったのは歴代最長記録かもしれない。それだけユニットもよく持ちこたえたものである。

しかし、体勢を崩した状態では宮藤を完全に守ることはできなかった。初撃をかろうじて防いだ後彼は高度が下がってしまい、残りの攻撃は宮藤に向かってしまう。

宮藤もそれに気づき咄嗟にシールドを張る。しかし完全に分が悪くなってしまった。シュミットはもう高速で飛行ができないので、宮藤は一人で戦うしかない。そしてウォーロックもそれを狙ったかのように宮藤に攻撃を集中させた。まさに万事休すである。

その時だった。攻撃していたウォーロックにどこからか攻撃が飛来。そしてそれはウォーロックを爆散させ、ウォーロックは沈没寸前の赤城に激突。そしてそのまま赤城と共に海中に没した。

一連の流れを見ながらシュミットは攻撃した方向を見る。するとそこには映ったのはかなりの遠方にリーネが装甲ライフルを持ってホバリングしていた。リーネがその位置から狙撃をウォーロックにしたのだ。シュミットはその距離を見て感心した。

 

(あんな芸当私には無理だな…)

 

そう考えながらも、シュミットはこのタイミングで不運に見舞われた。左足のユニットが壊れてしまい右足だけで飛行していたが、なんと今度は右足からも黒煙を噴き出したのだ。

 

「そんな…」

 

彼はここにきて絶望を感じ、ユニットが壊れないことを祈った。しかしシュミットの願いは届かず、ユニットは魔道エンジンが壊れてしまい、完全に飛行する術を失ってしまった。

そして彼は腕を空に伸ばし、そのまま墜落していく。宮藤が落ちていくシュミットに気づく。

 

「シュミットさん…!?」

 

急いで降下するが、すでにシュミットはかなり下まで落ちていく。その時だった。

宮藤を通り越して誰かが高速でシュミットに猛接近する。そしてシュミットの伸ばしている手を海面ギリギリでキャッチした。

宮藤はシュミットを助けた人物を見て驚いた。

 

「サーニャちゃん!」

 

シュミットを助けたのはなんとサーニャだった。サーニャはシュミットの手を取ると、そのまま彼を抱きかかえながら再び上昇をしていく。

宮藤はその光景を見てぽかんとする。その時、後ろから声を掛けられた。

 

「お待たせ!」

「芳佳!」

 

宮藤は呼ばれて振り返ると、なんとウィッチーズのみんながユニットを履いてやって来た。

 

「みんな!」

「よく耐えたな宮藤」

「坂本さん!」

 

宮藤は坂本やウィッチーズが駆けつけてきたことがうれしかった。そしてサーニャとシュミットも集まっている高度にやってくる。

シュミットがサーニャに声を掛ける。

 

「ありがとうサーニャ。おかげで助かったよ」

「うん」

 

シュミットに感謝の言葉を言われサーニャは頬を赤くしながらこくりと頷いた。それを見てシュミットのD型ユニットを抱えたエイラが言う。

 

「サーニャに感謝しろヨ。オマエが怪我したら、サーニャが悲しむんだゾ!」

「エ、エイラ…」

「…ああ、そうだな。私がしっかりしていないと駄目だな」

 

エイラに指摘されサーニャは少し狼狽える。シュミットもその言葉に驚くが、指摘していることは当たり前のことであると彼も認識し、甘んじてその言葉を受け入れ、そしてしっかりとしないといけないと再び決意する。

そんな中、バルクホルンが抱えている宮藤の零式を見ながら呟く。

 

「これは必要なくなったようだな」

 

彼女たちの目的は宮藤とシュミットの支援に行くことが目的であり、そのためにシュミットと宮藤のユニットを持ってきていたが、攻撃目標であるウォーロックは既に海中に沈んでしまったため、必要が無くなってしまった。

しかし、それを聞いていたエイラはサーニャに抱えられているシュミットにユニットを履かせた後、タロットを引いた。

 

「…そうでもないかも」

「えっ?」

 

エイラの言葉に聞いていた者たちは驚き見る。そしてエイラのカードをシュミットが覗き見て、そこにあったカードを見て固まった。

そこに書かれていたのは塔のイラスト――つまり「タワー」のカードだ。タロットではどう転んでもろくな事が無いカードとして有名だ。

 

「おい…嘘だよな?」

「ほら見て」

 

シュミットはエイラに聞くが、エイラは海面を指さした。

そこは赤城の沈没した地点。しかしそこには渦潮が発生していた。そして次の瞬間、その渦潮から大きな水柱が上がる。ウィッチーズ他、退艦し救命ボートに避難していた赤城乗組員たちは驚く。

 

「なんだあれは!」

「まさか…」

 

赤城の乗組員たちは口々にその正体を探ろうとする。その中で、艦長の杉田は水柱の正体に思い当たるものがあったようであり、まるであり得ないと言わんばかりに言う。

そして水柱は収まり、今度そこから現れたのは沈んだはずの赤城だった。

 

「赤城だと…!」

 

ありえない物を見ている気分だった。沈んだ船が自力で戻ってくることなどない。その時、坂本は赤城の艦首を見て驚く。そこには先ほど撃墜したウォーロックがまるでフィギュアヘッドのように艦首にくっついているではないか。そして赤城の外観は黒色に変色し、所々に赤い斑点模様がついていた。その姿はまるで赤城の形をしたネウロイだった。

 

「ウォーロックが赤城と…!」

 

その間にも、宮藤と坂本のユニット交換作業は行われており、ペリーヌが坂本の足にユニットを履かせる。

 

「少佐!これで…」

「ありがとう、ペリーヌ」

 

ユニットを装着し終え、坂本は礼を言いそしてユニットを始動させる。

 

「動くなよ宮藤」

 

同じ頃、宮藤もシャーリーに抱えられた状態で、バルクホルンにユニットを履かせてもらっていた。

そして宮藤のユニットも装着し終える。

 

「よし、いけるぞ。これで全員だ!シュミット!」

「なんだ!」

「これを!」

 

バルクホルンは気合を入れ直したと同時に、背中に掛けていた機関砲を一つシュミットに持たせる。それは彼の愛用しているMG151であった。

シュミットはそれを受け取る。

 

「MG151…助かる!」

 

シュミットは礼を言う。それと同時に、赤城は海面から離れ始める。そしてそのまま上空へ飛翔し、シュミット達に向けて攻撃を開始する。それはネウロイのビームだった。

シュミット達は一斉に散開し、そして赤城を取り囲む。

坂本はミーナと共に飛行していた。

 

「美緒、できる?」

「ああ、やるぞ!」

 

二人は互いの手を取り魔法を発動させる。これは坂本とミーナの複合技であり、ミーナの空間把握と坂本の魔眼で飛行している赤城を見る。

すると、驚くべき状況が分かった。

 

「な、何だこれは!?」

「ウォーロックと赤城が融合している!これじゃあ手の付けようが無いわね…」

 

なんと、ウォーロックは轟沈した赤城と融合していたのだ。その様子を見てミーナは手の付けようがないと考える。しかし、坂本はそう思っていなかった。

 

「だが、やるしかない!あれはもうウォーロックでもネウロイでもない。別の存在だ。我々ウィッチーズが止めなければ、誰もあれを止める者はいない!」

 

坂本の言葉に全員が頷く。彼らの攻撃目標と覚悟は決まった。

サーニャが魔道針で感知する。

 

「来ます!」

 

その声と同時に、ネウロイ化した赤城は攻撃を再開する。

 

「ストライクウィッチーズ、全機攻撃態勢に移れ!目標、赤城及びウォーロック!」

『了解!』

 

ミーナの攻撃命令に全員が大きく返事をする。その間にもミーナと坂本は分析をする。

 

「コアは赤城の機関部だ!」

「外からは破壊できそうにないわね。内部から辿り着くしか…」

「内部を知っている私が行く!」

 

分析するさなか、坂本は自分が赤城内部に侵入し、コアを破壊すると言った。しかし、いくらユニットを履いているからと言っても彼女は本調子ではない。

 

「美緒!あなたは…!」

 

案の定ミーナが坂本を止めるが、坂本はそれでも内部に侵入する気だ。その時、別の所から声が上がった。

 

「私が行きます!」

「私も!」

「私も内部なら多少は分かりますわ」

 

宮藤とリーネ、そしてペリーヌが志願をする。宮藤とリーネはペリーヌも来てくれると言って驚く。

 

「ありがとう、ペリーヌさん!」

「べ、別にあなたのためじゃありませんわ!」

「ペリーヌ、オマエが付いていてくれれば心強い」

「は、はい!」

 

ペリーヌはツンとした態度をとるが、坂本のエールを言われ途端に表情が変わる。わかりやすいものだ。

 

「では、その他の隊員は三人の突入を援護!突破口を開いて!」

『了解!』

 

ミーナが即座に命令を下す。それを受け全員が応をする。赤城は急上昇しながら雲の上に出る。高度は5000m、ついに戦闘が開始された。

 

「攻撃開始!」

 

そして全員攻撃を始める。先に動いたのはハルトマンだった。

 

「先に行くよ!」

 

そう言ってハルトマンは赤城に急接近していき、固有魔法「疾風」を使い、赤城の船体を削る。

 

「私の仕事を!」

 

それを見てバルクホルンも感化され、両手に持つMG42を赤城に向け引き金を引く。

急接近しながら戦うハルトマンとバルクホルンのペア。それとは逆に遠方から攻撃をするペアもいた。

 

「右だな」

「うん」

 

エイラは固有魔法「未来予知」を使い、サーニャを抱きかかえながら赤城からの攻撃を最適なタイミングとコースで避ける。そして避けた後、サーニャがフリーガーハマーで攻撃を加える。

 

「上だな」

「うん」

 

今度は上昇をする二人。そして上昇した直後、先程居た位置に赤城からの攻撃が通り過ぎる。

所変わって、シュミットは赤城の前方部分でホバリングしていた。

 

「軍艦にフィギュアヘッドは似合わないな」

 

そう言ってシュミットは眼前に見える融合したウォーロックに向けてMG151を構える。異変に気付いたのかウォーロックはシュミットに攻撃を始めるが、シュミットはそれを避けたりシールドを張ったりしながら接近していく。

 

「さっきのお返しだ、喰らえ!」

 

そして彼は固有魔法「強化」を掛けMG151の引き金を引く。飛び出した弾丸は艦首についていたウォーロックのオブジェクトに命中後、それを粉砕し更に後ろの装甲まで削る勢いで突き進んでいく。

そして、完全にウォーロックの姿が消えた後、シュミットは上空を見る。

 

「シャーリー!ルッキーニ!今だ!」

 

彼が呼ぶと、待っていたと言わんばかりにシャーリーがルッキーニを抱えながら急降下をしていく。シュミットによって安全に降下した後、今度はシャーリーが抱いていたルッキーニを投げ飛ばす。

 

「いっけーッ、ルッキーニ!」

 

シャーリーの固有魔法「超加速」は、ルッキーニをカタパルトのように打ち出す。ルッキーニはその速度を維持したまま自身の前方にシールドを張る。それと同時に、彼女の固有魔法「光熱攻撃」を展開する。これにより、ルッキーニは自らが光熱の弾丸となり、物凄い加速で赤城の艦首に接近、そしてその艦首を粉々に粉砕した。

 

「芳佳、やっちゃえー!」

 

ルッキーニが宮藤に合図を送る。これにより赤城内部に侵入が可能となった。

 

「行きますわよ!」

「はい!」

 

三人の中でペリーヌがリーダーとなり、二人に指示を出す。そして三人は艦首から赤城内部に侵攻した。

しかし、三人にはいきなり壁が立ちはだかる。

 

「隔壁が…!」

「リーネちゃん!」

「はい!」

 

ペリーヌは隔壁を見て驚くが、すぐさま宮藤がリーネに救援を求める。そしてリーネは装甲ライフルを隔壁に向けて放つ。それにより、隔壁は粉々になり三人は進行を再開する。

そしてしばらく艦内を飛行するが、突然、奇襲攻撃に遭遇する。

 

「あッ!」

「しまっ…!」

「武器を失うなんて、なんてこと!」

 

その奇襲攻撃は艦内の小さな窓から放たれ、リーネと宮藤の持つ武器に命中した。二人はその武器を捨てるが、これで武器持ちはペリーヌだけになった。

そしてさらに進行していき、三人はコアのあるであろう機関部前に差し掛かる。

 

「この奥ね!」

 

ペリーヌはブレン軽機関銃を壁に向けて撃つが、彼女の機関銃では壁を打ち抜くことはできなかった。

 

「この銃じゃ無理ですわね…」

「そんな…」

「ここまで来たのに…」

 

ペリーヌの言葉に宮藤とリーネはショックを受ける。しかし、ただペリーヌも言うだけでは無かった。彼女にはまだ奥の手があった。

 

「最後に取っておくつもりでしたのに…」

 

そう言ってペリーヌは弾の切れた機関銃を捨て壁に近づいていく。そして右手を出し、壁に向けて固有魔法「雷撃」を使った。

 

「tonnerre!」

 

雷撃により、最後の壁は崩壊した。そして壊れた壁から三人は中を見る。

 

「これは…」

 

そこにあったのは、巨大なネウロイのコアだった。しかしここで問題が起きた。

 

「これだけの大きなコア…一体どうやって破壊すれば…!」

 

しかし、既に三人は攻撃手段を失った。目の前のコアを破壊するものを持っていなかった。

しかし、宮藤は覚悟を決めたのか、先導してコアの部屋に入り、そしてコアの真上で立ち止まる。

 

「芳佳ちゃん!」

「宮藤さん。何をする気ですの?」

 

リーネとペリーヌはそんな宮藤の行動に疑問を持つが、宮藤は二人に声を掛けた。

 

「リーネちゃん、ペリーヌさん。私を支えて!」

 

宮藤に言われ、二人は両腕を取り空中で宮藤を支えた。

 

「――ありがとう」

 

宮藤はリーネとペリーヌにそう言うと、突然足に履いていたユニットのプロペラを逆回転させた。そして、そのままユニットは宮藤の足からスルりと離れる。

 

「えっ!?」

 

二人が驚く中、ユニットはそのまま落下していき、そして部屋の中央にあったネウロイのコアに直撃、そしてコアを破壊した。

外で戦闘していた者たちは、突然攻撃が止んだため戦闘をストップした。赤城に浮かんでいた黒い模様と赤い斑点が突如消えたのだ。そしてそのまま支えを失ったかのように赤城は落ちていくが、雲を少し抜けた辺りから、その大きな船体をボロボロと破片に変え、ついには消滅した。

そして全員が、その光景に見とれている中、ルッキーニが気付く。

 

「あっ!芳佳だ!」

「やったな!」

 

先に気づいたのはルッキーニだった。そこにはリーネとペリーヌに支えられた宮藤が居た。ルッキーニは喜びながら真っ先に宮藤の下に飛んでいく。ルッキーニと一緒に、シャーリーもついていく。それを区切りに、他の隊員も一斉に宮藤の下に集まっていく。

 

「やった!やったよ芳佳ちゃん!!」

 

リーネは大はしゃぎしながら宮藤を抱く。ペリーヌはそんな光景を相変わらずだと言わんばかりの表情で後ろを向く。しかし、近づいてきたシュミットは、そんなペリーヌが笑顔だった姿を見て、彼女も同じ思いなんだと思った。

そんな風に思っていた時、シュミットはあるものが目についた。

 

「あれは…!」

 

シュミットの声に全員がその方向を見る。なんとそこにはネウロイの巣となっている雲がちぎれるように拡散していく光景だった。そしてしばらくして、その雲はそこにはなかったかのように姿をまるで消した。

 

「ネウロイの巣が…」

「消えていくぞ!」

「ガリアが…私の故郷が解放された…」

 

皆が口々に言う。それぞれが喜びの声を上げる。中でも一番嬉しかったのはペリーヌであり、ついに彼女は自分の愛する祖国が解放されていく姿を見て、心の中から抑えきれない感情が湧き上がり、目に涙を浮かべた。

そんな光景を見ながらシュミットは考える。

 

(これは欧州奪還の貴重な第一歩だ。そして、それを区切りに私達はネウロイを倒していくんだ…!)

 

シュミットも、ついにやったと言わんばかりの感情があった。今まで奪還することのできなかったヨーロッパの一国をついに奪還したことに、そして、彼の愛するこのウィッチーズで為せたことに、心の中から喜んだのだった。

そして、ストライクウィッチーズの役目はこれで終了した。ミーナがウィッチーズに命令を下す。

 

「ストライクウィッチーズ、全機帰還します!」

『了解!』

 

こうして、第501統合戦闘航空団「ストライクウィッチーズ」は正式に役目を終え、解散したのだった。

しかし、彼らの戦いはまだ終わっていない。これからが、彼らの本当の戦いの始まりなのだ。




どうも、深山です。いやぁ、書いてみると長いのなんの。1期編がここまでかかるとは正直予想外ではありました。これにより、1期編は終了します。
さて次回、シュミット君は一体どこに行くのでしょうか?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第三章「ブレイブウィッチーズ編」
第三十七話「第502統合戦闘航空団」


というわけで第三章「ブレイブウィッチーズ編」が始まりました。


「…寒い」

 

MG151とMG42を背負いながら飛行しそう呟くのは、元501統合戦闘航空団のウィッチ、否ウィザードであるシュミット・リーフェンシュタールだった。今の季節は冬であるため彼はトレンチコートを装着しながら寒い中を飛行している。いくらウィッチが魔法で守られて風邪をひきにくいと言っても、寒い物は寒いのだ。尤も、現在彼は高度7000mを飛行しながら飛んでおり、雪を降らす雲は彼の下に広がっている。もしこれで雲の下を飛んでいたら彼は雪の中雪まみれになっていたかもしれない。

 

「しかし…まさかこの世界のロシア――じゃなかった。オラーシャ方面に飛ぶとは思わなかったな」

 

そう、今彼が飛んでいるのはオラーシャ方面である。尤も、オラーシャは現在ネウロイの巣により領土が分断、国土の大きさも相俟って、統合戦闘航空団を二つも抱えている。補充として戦力を欲しがるのも頷けるのだ。

そして同時に、シュミットの原隊は501統合戦闘航空団であり、501が解隊された今、原隊を失った彼は「動かしやすい即戦力」などという立場になっているのだった。他から引き抜くよりも効率的に兵を送れるわけだ。

そんなこんなでシュミットは現在、最前線の基地に向かっているわけである。シュミットは懐中時計を取り出す。

 

「…よし、そろそろ高度を下げよう」

 

時間を確認し、彼は高度を下げようとする。いくら雪をよけるためとは言え、雲の上を飛んでいては目的地を確認することはできない。シュミットは少しずつ高度を下げ始めた。

しかし、ここで彼は謎の違和感を感じた。

 

「…?なんだ?」

 

突如、彼の耳にキーンッ!という謎の音が聞こえる。それに気づきよく耳を澄ましてみると、さらに驚くことが起きた。

 

「これは…一体なんだ?」

 

耳に響く音だと思っていた音は、耳ではなくまるで()()()に響いているようにも聞こえてくるではないか。そしてそれは、まるで何か導いているようにも聞こえてくる。

そして、彼は()()()。下から赤いものが飛来し、彼に直撃する光景を。

 

「くっ…!?」

 

彼は急いでその場から横滑りをする。そして更に驚くことが起きた。彼が横に移動したと同時に、彼がいた場所を赤い光線が通り過ぎていったのだ。

 

「なっ、今のは…!?いやしかしそんな事より…」

 

シュミットはその光線を見て驚いた。それは紛れもなくネウロイの攻撃、すぐさま背中のMG42を構えて先ほど攻撃の来た雲の中を見る。雲の中に隠れて見ずらいが、僅かに黒い部分が現れる。間違いなくネウロイだ。

 

「ネウロイ補足!」

 

シュミットはすぐさまネウロイに接近する。シュミットはMGを先ほどネウロイが居たであろう場所に向けて撃つ。すると数十発の弾丸の内、数発が手ごたえのある反応をした。

 

「そこか!」

 

シュミットは続けて手ごたえのあった場所に撃つ。すると今度はネウロイの方から攻撃が飛来するが、シュミットはそれを左右に動きながら避ける。

そしてしばらくネウロイの攻撃を避けると、ネウロイはまるでしびれを切らしたのか雲から顔を出す。そしてそのままシュミットの方向に攻撃しながら直進してくる。

 

「よし、チャンスだ!」

 

シュミットはすぐさま背中に掛けていたMG151を、手に持っていたMG42と入れ替える。そして迎撃する形で強化を掛ける。

ネウロイは相変わらず直進してくるが、攻撃はシュミットのシールドで弾かれている。

そしてネウロイはシュミットの射程に入ってきたのを見計らい、シュミットが引き金を引き――いや、引こうとした。

突然、目の前の景色が変化した。シュミットの目には、まるで光が現れてシュミットを飲み込んだと思ったら、次には周囲の景色が夜の星のように見えた。そして驚くことに、目の前にいるネウロイがまるでスローモーションのように動いている。先ほどの速さから一変して、今度は狙いやすいほどゆっくりとしている。

シュミットはそのネウロイに向けてMGを再び構えなおす。

 

(ネウロイがゆっくりになっている分、恐ろしく狙いやすい…)

 

そして引き金を引こうとした時だった。突然ネウロイがシュミットから見て左側に急旋回をしだす。その行動にシュミットも驚いた。

 

(ここで旋回だと!?)

 

すぐさま銃を構え直し、ネウロイが逃げるであろうコースに向けて引き金を引いた。

――そして、世界は戻された。ネウロイの動きも先ほどのスローモーションではなくいつもの速さに戻っている。しかしここで気付く。自分の向けている銃口の方向にネウロイはおらず、自分はただ何もない方向に引き金を引いていた。それに気づきシュミットは焦るが、ここで不思議なことが起こった。

なんと銃弾の先頭が向かっている先に、ネウロイが移動し始めたではないか。それも先ほどスローとなった世界の時と全く同じ動きをして。

 

「なっ!?」

 

シュミットは驚く。その間にもネウロイは移動するが、そこにはシュミットの銃弾が向かっており、ネウロイの到着と同時に彼の弾丸はネウロイに吸い込まれていった。そしてまともに弾丸を受けたネウロイはコアを破壊されたのか、その場で光の破片となって砕け散った。

シュミットはネウロイを撃墜した。それも呆気なくだ。しかし彼は、今起きたことが現実なのか理解できなかった。

 

「さっきも感じたあの感じ…それに今のネウロイの動き…まるで分っていたみたいに…」

 

シュミットは自問自答した。しかし彼にはその答えが出てこなかった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

連合軍第502統合戦闘航空団――通称「ブレイブウィッチーズ」は現在、ネウロイの反応があった地点に向かっていた。

ブレイブウィッチーズ、それはオラーシャの抱える統合戦闘航空団の一つであり、東部戦線を担当する最前線でもある。

 

「本当にこの辺りかよ…」

 

頬に絆創膏を付けた扶桑のウィッチ、管野直枝が聞く。彼女の言う通り、周辺を見てもネウロイの影は全く見えなかった。

「あ、あれ!」

 

と、隊員の一人、ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン――ニパが上方にホバリングしているウィッチの姿を確認する。

 

「ウィッチ!?」

 

全員が驚く。まさかこの辺りにウィッチがいるとは思っていなかったのだろう。

そんな中、502の戦闘隊長であるアレクサンドラ・イワ―ノヴナ・ポクルイーシキン――サーシャは先導してウィッチの下に向かっていく。

 

「そこのあなた…っ!」

 

サーシャは目の前のウィッチに声を掛け、そして驚く。

 

「…ん、あれ?ウィッチ?」

 

そこにいたのはシュミットだった。シュミットは先ほどまでボーっとしていたが、突然ウィッチが現れたことに驚いていた。

 

「貴方…ウィザード!?」

 

初めて見るウィザードにサーシャは驚く。そんな中、シュミットはサーシャの後ろからやって来る他のウィッチ達を見て分析する。

 

「もしや…1つ聞いていいか?」

「な、なんでしょう」

「間違っていたらすまないが、もしかして502の人達かな?」

「え、ええ…」

 

シュミットの質問にサーシャは答える。それを聞きシュミットは安心したように息を吐いた。

 

「よかった。あっ、自己紹介遅れました。本日より第502統合戦闘航空団に配属になる、シュミット・リーフェンシュタールです」

 

そう言ってシュミットは自己紹介をした。しかし、それを聞いていたウィッチ達は全員驚きのあまり大声を出した。

 

『えええええええええ!?』

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「君がシュミット中尉か」

「はい。シュミット・リーフェンシュタールです」

 

その後、シュミットは502の基地に案内される。サーシャが基地に連絡をすると、彼の配属は既に隊長たちには届いていたらしく、そのまま誘導しろと言われた。そして誘導されたシュミットは基地に着く頃には既に日は落ちている。シュミットは格納庫にユニットを置き、サーシャに案内され部隊長室に行く。

部隊長室に入ると、部屋の窓の手前に部隊長机があり、椅子に腰かけた女性とその横に立つ銀髪の女性が居た。椅子に掛けた女性がシュミットを呼び、シュミットは返事をする。

 

「私は502部隊隊長、グンドュラ・ラルだ。階級は少佐」

「私は教育係のエディータ・ロスマン、階級は曹長です。貴方の活躍は聞いています、シュミット中尉」

「恐縮です」

 

ロスマンに言われシュミットは少し照れるが、それを表情に出さない。そんな中、彼は二人の関係を見て、上司とそれを補佐する頼れる部下のような関係だろうと自分の中でイメージを構築していく。

そしてシュミットは後ろに立ったままのサーシャに振りむく。

 

「それと…」

「私はアレクサンドラ・イワ―ノヴナ・ポクルイーシキン、戦闘隊長をしていて大尉です。サーシャと呼んでください」

「宜しくサーシャ大尉」

 

そう言ってサーシャも挨拶をし、シュミットも宜しくと言う。シュミットはサーシャを名前と階級を付けて呼ぶ。

そんな中、ラルが切り込む。

 

「さて、丁度いい時間だ。残りの自己紹介は食事の時に行うとしよう。それと中尉」

「はい」

「食事が終わったら、もう一度ここに来てくれ」

「?…わかりました」

 

ラルからの命令にシュミットは何だろうと考えるが、全員が移動を開始したのでそれについていく。

そして到着したのは食堂だった。そこには先ほど空中で出会った隊員達が全員揃っていた。

シュミットはロスマンに言われ、テーブルの前に立つよう言われて移動する。そしてそのシュミットの横にロスマンが並び、ラルとサーシャはそれぞれの席に座る。

 

「紹介するわ。本日より501より援軍として、シュミット・リーフェンシュタール中尉が配属されます」

「シュミット・リーフェンシュタールです。階級は中尉、宜しく」

 

ロスマンに紹介され、シュミットも続けて挨拶をする。その姿を見てそれぞれ驚いたようにシュミットを見る。

そんな中、席に座っていたウィッチの一人が立ち上がる。

 

「ヴァルトルート・クルピンスキー、中尉だよ。同じ中尉同士だし、是非とも伯爵と呼んでくれるかな」

 

クルピンスキーが真っ先に自己紹介をする。しかしシュミットは名前の後の言葉が気になる。

 

「伯爵…?」

「所詮ニセ伯爵です」

 

ロスマンが小さい声で助言をして、「ああ、なるほど」と思ったのだった。

 

「宜しくクルピンスキー」

「連れないなー…」

 

シュミットに伯爵と呼ばれずにショックを受けたように肩をすくめるが、表情はとてもそう見えなかった。

それに続き、階級の高い順番から自己紹介をしていく。

 

「下原定子、階級は少尉です」

「ジョーゼット・ルマール、少尉です…」

 

次に少尉の下原とジョーゼット――ジョゼが自己紹介をする。しかし二人共シュミットが男であるという立場からか少し距離を取ったような挨拶になる。まぁそういうのには慣れてきたシュミットも、特に気にする様子はなかった。

そんな中、一人の人物がシュミットを睨む。その視線に気づきシュミットが向くと、管野がシュミットのことをジッと睨んでいた。

 

「ん?」

「…」

 

シュミットはどうして睨まれているのか考えるが、それより先に管野の横にいた二パが管野に声を掛ける。

 

「ちょっと管野、シュミットさんは上官だよ…」

「うるせぇ」

 

二パが注意するが、管野は聞く耳持たず。まるで品定めしているかのような態度をとられるが、シュミットはこれも特に気にしない。

 

(まぁ、女性ばかりの中に男性が一人入るだけでもおかしなものだからな…)

 

と、自分に色々な視線を向けて来るというのを既に覚悟しているからである。

そんなシュミットを余所に、悪くなった空気を取っ払う形でニパが自己紹介をする。

 

「えっと、私はニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。階級は曹長、ニパでいいです。こっちは菅野直枝少尉。その、よろしくお願いします」

「はい、紹介はここまで。それでは食事にしましょう」

 

そしてシュミットも席に着き、食事は始まる。シュミットはテーブルに並ぶ食事の味に舌を鳴らしながら、周りからの質問に受け答えする。

 

「シュミットさん。前は501に居たんですよね?イッルは元気でした?」

「イッルってのはエイラか?ああ、元気だった。501でも仲良くしてもらったし」

「君って撃墜数どれだけだい?」

「えっと…たしか145機だったはず」

「シュミットさんってどんな固有魔法使うのですか?」

「私の固有魔法は強化。手に持つ機関砲やユニットを強化、後ウィッチが私を抱いた状態で固有魔法を発動したりするときにその力を増幅させる効果もあったりするね」

 

様々な質問をされるが、シュミットも質問した。

 

「この料理美味しいね。誰が作ったんだい?」

「私です、中尉」

「下原か、凄いね。私も料理を作れるけど、ここまで美味しくはできないな」

「あ、ありがとうございます」

 

シュミットに褒められ、少し照れたように言う。

そんな感じに会話は進み、食事は終了したのだった。




ついに始まったブレイブウィッチーズ編!しかし作者の心配はこの作品をどう書いていくのかにありますね。そのため、前以上に亀更新になる可能性が高まるんです。それでもめげずに頑張ります。
それと、最初にシュミット君の感じた謎の現象…。これが一体今後にどう影響するのか!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第三十八話「事情聴取と決闘」

すこし用事があり投稿が遅れました。どうぞ。


食事を終えたシュミットは、ラルに言われた通り再び部隊長室に行く。

 

「隊長、シュミットです」

 

シュミットが扉の前で言うと、中から「入れ」と言う声が聞こえる。それを聞きシュミットは「失礼します」と言って扉を開ける。

そして中に入ると椅子に腰かけ両手を口元に置いているラルとその横に立つロスマンがいた。

 

「さてシュミット、何故呼ばれたと思う?」

 

突然、シュミットはラルに聞かれてひょっとする。まさか自分が聞こうと思っていたことを言われるとは思っておらず、完全に出鼻を挫かれたわけだ。

それでもシュミットは思い当たることを考える。

 

「…私が魔法を使えること関連ですか?」

「それもある。が、それとは違う」

 

一体なんだろうかとシュミットは思うが、ラルは続けていった。

 

「――ガリアの巣は一体どうやって倒した?」

 

ラルから言われた言葉はシュミットを動揺させた。まるで言えと言わんばかりも気迫が感じる。

しかし、シュミットはそれを言うことはできない。彼には箝口令が敷かれている。それはシュミットだけでなく、旧501メンバー全員に言えることだ。

 

「…残念ですが、それは箝口令が敷かれているので言えません」

「そうか…」

 

シュミットは言えないとラルに宣言する。それを聞いてラルは手短に、まるで分かっていたかのように言う。

そしてラルは次の質問をした。

 

「それと次だ。お前はこの世界とは別の世界から来た、これは本当か?」

 

その質問はシュミットの想定内だったので、即座に返事をした。

 

「はい、そうです。…と言うより、報告書の通りのはずですが」

「貴方の居た世界、それに気になるの」

 

そう聞いてきたのはロスマンだった。彼女は純粋にシュミットの出身の世界について知りたいようだった。

しかしシュミットは易々と言っていい物なのか考える。

 

「…ネウロイこそ居ませんが、あまりいい話は無いですよ?」

「何故だ?」

 

シュミットが注意すると、ラルは眉を顰める。

 

「ネウロイは居ない…その代わりに私達は人間同士で殺し合いをしていましたから」

「なんですって?」

 

人同士で殺し合いをしていたという言葉は二人を衝撃させた。ラルも言葉には出ていなかったが、目は開かれており驚いている証拠だった。

そしてシュミットは説明した。彼の居た世界で起きたことを。それをラルとロスマンは黙って聞くほかなかった。殆ど同じ時系列で、このように流れが違う運命を聞き彼女たちは終始黙っているしかなかった。

 

「――これが私の居た世界の真実です」

 

シュミットが一通り、大まかであるが説明をした。会話が終わった後、声を出したのはロスマンだった。

 

「…まさか人類同士で戦争をするなんて」

「それ、501の坂本少佐も同じようなことを言ってましたよ」

 

シュミットはそんな言葉を懐かしく思いながら思い出した。あの時も坂本が初めて会った時に言っていたなと思い出しながら、随分この世界に自分はいるなと実感をする。

ラルとロスマンは黙ったままなので、シュミットは立たされたままいつまでこの状態なのかとふと考える。

 

「あの、これで終わりですか?」

「ああ、戻っていい」

 

シュミットは思わず聞くが、ラルはあっさりと承諾した。

 

「では失礼します」

 

シュミットはその声を聞き挨拶をしてから部屋を出る。残った二人は再び話し始める。

 

「…衝撃的でしたね」

「ああ…」

 

二人は短くだが、先ほどのシュミットの話を振り返る。彼女たちはシュミットの世界のことを知り、ネウロイが居ない世界というのについて考える。

 

「ネウロイがいなかったら、私達も人を撃っていたのかもしてないな」

「そうですね…」

 

ラルとロスマンは、それはそれで嫌な世界だと感じたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

部隊長室を出たシュミットは、自分に宛がわれた部屋に向かっていた。

 

(502基地…ここもいい基地だな)

 

と、歩きながら建物の感想をするシュミット。ふと、窓の外を見てみるとペテルブルグの街が見える。しかし、そこには人気は無く、ただ沈黙した街が続いていた。

 

「おい、お前!」

 

と、窓の外を見ていたシュミットに後ろから何者かが声を掛ける。シュミットがそれに気づき振り向くと、そこには管野が立っていた。

 

「なんだ、管野少尉」

「明日俺と模擬戦をしろ!」

 

突然、管野はシュミットに模擬戦を仕掛けてきた。シュミットは一体なんだと考える。

 

(そう言えば、自己紹介の時もどこか気に入らないような態度を取っていたな)

 

シュミットは管野がシュミットを認めていないのだろうと結論づける。こういうタイプの人間は言われても素直に聞くようなのじゃないなと考え、シュミットもそれに乗ることにした。

 

「…気に入らないか?」

「誰もそんなこと言ってねえよ!」

「いや分かる。自分だってすぐに周りに気に入られる存在じゃないと自覚してるからな」

 

管野は言ってないと否定するが、シュミット自身は自分が異端な存在である自覚をしてるため多分その類いなんだろうなと考える。

 

(そういえば、バルクホルンにもこんな態度とられたな…)

 

と、シュミットはまた昔なつかしの出来事を思い出す。

 

「んで、やるのかやらねえのどっちだ?」

「わかった。その模擬戦で俺の力を示せばいいんだな」

「へっ、そう来なくちゃ!」

 

シュミットの言葉に管野もどうやら納得したようだ。

そしてシュミットは再び来た道を戻っていき、部隊長室に行く。

 

「すみません隊長」

「なんだシュミット」

 

そして先ほど廊下であった出来事を話し、明日に模擬戦を行っていいかをラルに聞く。

 

「わかった、許可しよう」

 

ラルはあっさりと許可をした。シュミットはこれに少し驚くが、彼女はこういう人なんだと自分の中でイメージを作っていく。

 

「案外あっさり許可取るんですね…」

「なに、その方が管野も納得するだろうと考えただけだ」

 

それを聞き、彼女なりにも考えがあるんだなとシュミットは思ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

そして翌日、シュミットと管野は格納庫の台に固定されたユニットに足を入れた状態で待機している。二人の手にはそれぞれMG42と九九式の模擬戦銃を持っている。

 

「…よし」

 

シュミットは足に履いているFw190を見ながら言う。魔道エンジンの回転がいつも通りなことに彼は納得した様子である。

しかし、彼には一つ懸念を抱いていた。

 

(昨日のあれは一体何だったんだろう…)

 

シュミットは昨日の戦闘であったあの現象について、あれが只野偶然ではないと思っていた。もしあれがこれからの戦闘中に起きたらと思うと、不安であった。

シュミットと管野はそのまま離陸をし、そして基地の上空5000mまで上昇する。シュミットはふと下を見ると、この決闘を見るギャラリーの姿を見る。中には純粋に結果を楽しみにしているような顔をしている者がいるのを見て、シュミットは思わず苦笑いをする。

そして二人は高度5000mまで上昇し、そして向き合う。この決闘の勝敗を、ロスマンがユニットを履きながら見ることになっており、彼女も同じ5000mで少し離れた位置に配置していた。

 

「お互いがすれ違った後開始、それでいいな」

「ああ」

 

シュミットの決闘開始の方法に管野も肯定の返事をする。

そしてシュミットと管野は一度離れた後、今度は互いに急接近した後そのまま横を通り過ぎる。決闘の開始だ。

まず動いたのは管野だった。すれ違ったと同時に管野はシュミットの後ろに付こうと旋回をする。管野の履いているユニットの零式は宮藤や坂本の履いているものと同種であり、その自慢とするのは運動性能の良さである。反面、防御力は高くない。しかし、この決闘においては運動性能の方が厄介なのである。

すぐさまシュミットの後ろに取りついた管野は、手に持つ九九式の引き金を引く。しかし、その攻撃はシュミットも呼んでおり、バレルロールで回避をし、急降下を始める。それについていく管野だったが、突如シュミットは高度を再び上げ始める。

 

「っ!?」

 

突然の動きに管野は完全に遅れる。最初の急降下でマイナスGがかかり、一瞬集中が薄れるその隙を狙った完璧なタイミングだった。

遅れた管野を余所に、シュミットは上昇をしていき、今度は急反転を行う。彼のお家芸の一撃離脱の体制だ。

そして急降下で加速するシュミットはそのままの速度で管野に突っ込んでいく。管野もそれに気づき、横に体を滑らせる。それにより、シュミットの射線から外れようとする。

しかし、シュミットもそれはお見通しである。予め管野の回避するであろう方向を定め、即座にその対応を行った。そしてシュミットは引き金を引く。

しかし、ここで管野はロールを行い、機動を急にずらした。それにより攻撃は命中することなく横を通り過ぎていく。

シュミットはそんな管野を追跡せず、そのまま上昇をしていく。高度が下がったため、ここは上昇ずるべきであるとシュミットは判断した。

しかし、そんなシュミットに管野はすぐさま反応し、後ろについていく。管野の使う零式は、シュミットのFw190に負けず劣らずの上昇力を持っている。管野はそれを活かしてシュミットを追跡しようと試みる。しかし、ここで管野は失敗した。

 

「くそっ…ついていけねぇ」

 

そう、急降下をしていたシュミットの方が速度が乗っており、上昇速度で完全に管野を振り切っていた。逆に管野は回避した分速度を少し落としているため、上昇する速度の違いが一目瞭然であった。

シュミットはあらかじめこうなることを予想していた。管野の性格から恐らくこの選択は上昇を選んで迎撃をするだろうと。そしてそれは綺麗に当てはまった。

管野は付いていくことができず、上昇速度が著しく落ちていく。高度は既に7000mまで上昇している。管野は完全にシュミットについていけないと断念をし、降下を始めようと高度を下げ始める。

その瞬間をシュミットは待っていた。彼は管野が反転すると同じタイミングで反転を行う。そしてそのまま再び急降下を始める。

管野は降下を開始したと同時に後ろを見て、そして衝撃を受けた。

 

「なにっ!?」

 

先ほどまで上昇をしていたはずのシュミットが、既に高速で急接近をしているではないか。そして管野は、そのシュミットの目をみて固まった。

彼の目は、まるで獲物を見つけた狼のごとく鋭い目つきだった。管野の知らないその目は、彼が前の世界で獲物を捉えるときにする目だったのだ。

そしてシュミットは、引き金を引く。練習銃から放たれた弾丸はそのまま管野に向けて吸い込まれていき、管野のユニットをオレンジ色に染めた。

それと同時に、笛の合図が鳴る。

 

「そこまでです!勝者、シュミット中尉」

 

ロスマンの審判が下される。これにより、管野は敗北し、シュミットが勝利したのだった。

悔しがる管野の横で、シュミットは先程の戦闘について考察していた。

 

(今回は無かったな…なんなんだあの光景は…)

 

シュミットは勝利よりも、先の戦闘では感じなかったあの時の光景が今回は無かったことに疑問を持っていたのだった。




今回の戦闘では出なかったあの光景、一体何なんでしょうね?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第三十九話「縮まる関係と奇妙な出来事」

気が付いたらUA28000、お気に入り270人超えていました。皆さん日ごろからこの小説を読んでいただきこの場で感謝いたします!
三十九話です。どうぞ!


決闘を終えてシュミット達が地上に降り立つと、502のメンバーは今回の主役たちに駆け寄っていく。

 

「惜しかったね管野…それにしても、シュミットさんがあんなに強いなんて」

 

ニパが管野に言うが、管野は共に降りてきたシュミットを見ていた。

シュミットは息切れ一つしておらず、それどころか冷や汗すら流していない。まるで先ほどの戦闘は慣れていると言わんばかりの様子だった。

管野は確信した。シュミットの実力はあんなものじゃないと。そして、今回の決闘で彼の実力は間違いなく自分より上であると理解した。

その時、クルピンスキーとサーシャの近くにいたシュミットが視線に気づき、近づいて手を差し出す。

 

「な、なんだよ…」

「これでいいかな?」

「え?」

 

シュミットの言葉に、周りにいたウィッチ達は何のことかと思う。

 

「これで私は実力は示した。文句ないな?」

「…ああ。俺はお前のことは気に食わねえが、技量に関しては認めてやる」

「それじゃあ信用は日頃の行いで勝ち取らせてもらおうか」

 

管野はシュミットの事をまだ信じてはいないが、彼の持つ技量に関しては認めたようである。それを聞きシュミットも納得したような反応をした。

 

「しかし、さっきの動きはどこで身に着けたのかな?狼君?」

 

クルピンスキーは純粋にシュミットの戦闘について聞いたのだろう。しかし、シュミットの境遇を聞いたロスマンは内心では「余計なことを…!」と思っていた。

 

「狼君って…あれは私が前の世界で使っていた技だ」

「前の世界?それってどんなところだったんですか?」

 

シュミットの言葉に疑問を持ったのはニパだった。ニパだけでなく、ロスマン以外のウィッチ達も同じように気になる。

しかしシュミットは言おうとしなかった。

 

「あまり話したくないんだがな…」

「どうしてだい?」

 

クルピンスキーが聞く。しかしシュミットはそれでも言うつもりはないらしい。

 

「…ネウロイは居なかった」

「ネウロイが居ねえだと!?」

 

衝撃の言葉に全員が驚く。その声にシュミットは静かに頷く。

 

「ネウロイは居なかったし、ウィッチなんてのも居なかった。そして人類は国同士で戦争をしていた…それだけだ」

 

そう言ってシュミットは格納庫に向かっていく。残されたメンバーはただ突っ立ったままシュミットの後姿を見ているだけだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その後502で生活してから暫く立った日、シュミットは部屋で手紙を書いていた。

 

「親愛なるサーニャへ…なんか変かな?」

 

一人自分の書いた文章を見て恥ずかしく思いながらシュミットは手紙を書いていく。シュミットは502に着任してからまだ一回もサーニャに手紙を書いていない。せっかく約束したのだから手紙を書かなくてはいけないと思い出し、今懸命に描いている。しかし、シュミットは親友の男友達(フレイジャーズ)に対して手紙を書いたことこそあるが、自分の思いを寄せる人に対して手紙を書くのは初めてであり、何を書いたらいいのかと考えていた。

 

「そういえば、今日新しいウィッチが配属されるんだったな」

 

と、ふと思い出す。ラルから伝えられた内容は、502に新しく扶桑からウィッチがやって来るというものだった。

 

「…たしか、雁淵孝美中尉だったっけ?」

 

曖昧な記憶を探りながら名前を思い出す。その名前を聞き管野が色々説明していたっけと思いながら、手紙を書いていく。

そしてある程度書き終わった後、シュミットは少し気分を変えようと部屋を出る。

 

「…って、部屋出ても特にすることは今無いな」

 

そんな事を廊下で呟いた後、シュミットは歩き始める。そしてしばらく歩いて辿り着いたところは格納庫だった。

 

「やっぱりここが落ち着くかな」

 

501の時も格納庫によく来ていたシュミット。自分の愛機が置いてあるそこに行くと、先客が見えた。

 

「ん?サーシャ大尉?」

 

シュミットが呼ぶと、ユニットの前で修理をしているサーシャが居た。

 

「シュミットさん」

「そのユニットって…ニパのですか?」

「ええ…」

 

そう言って直しているのはBf109、ニパのユニットだった。彼女は手を機械油まみれにしながらニパのユニットを修理しているのだ。

 

「しかしなんでまた大尉が?」

 

上官であるはずのサーシャが何故ユニットを直しているのか気になりシュミットは聞く。

 

「ニパさんはよくユニットを壊すんです。ニパさんだけじゃなく、管野さんやクルピンスキーさんもよく壊すんです」

「そりゃまた物騒な…」

 

話を聞きシュミットも思わず苦笑いをする。シュミットが着任した数日後、実際にもニパが空中でユニットの故障をして墜落して行った姿を見ただけに否定できないからだ。

 

「シュミットさんも『ブレイクウィッチーズ』なんてならないでくださいね」

「ブレイクウィッチーズ?」

 

シュミットは聞きなれない単語に聞き返す。

 

「あの三人を称してそう呼んでいるんです」

「ユニットを壊すから?」

「はい」

 

それを聞き名前に納得した。そして同時に、サーシャに対する気苦労を感じた。そして一人でユニットを直しているサーシャを見て、シュミットもユニットに手を触れた。

 

「えっ?」

「手伝います大尉。一人より二人の方がすぐに終わりますから」

 

そしてシュミットも部品の破損箇所を直していく。501の時に自分のユニットを耐久セッティングにした時にユニットについて調べたため、ある程度は構造を理解していた。

 

「そういえばシュミットさん」

「何ですか?」

「この間、シュミットさんが言っていた世界…前居た世界について、詳しく伺ってもいいですか?」

 

突然、シュミットに聞いてくるサーシャ。余りに突然のためシュミットも一瞬ぽかんとするが、すぐに表情を変える。

 

「あまり聞いていても気持ちいい話じゃないですよ?」

「それでも、シュミットさんのことをちゃんと知っておきたいのです」

 

シュミットはあまり話したい内容では無かったが、サーシャは自分たちが余り知らないシュミットについてちゃんと知っておこうと考えたのだろう。

シュミットが手元を止め顔を上げるとそこには真剣に、そして眉を下げたサーシャの顔があった。そんな顔を見てシュミットも折れた。

 

「…ネウロイの居ない世界。それどころか、ウィッチなんて存在すらない世界です。そして私の祖国ドイツ――こっちで言うカールスラントなんですが、ドイツは戦争をしていました」

 

静かに話し始めるシュミット。ここまではこの間話したこととほぼ同じなのでサーシャも驚かなかった。

 

「敵対国はイギリスやフランスなど様々…元々私は軍人じゃなく、ただの一般市民でしか無かった。しかしある日、私の住んでいたハンブルクの街はイギリスからの大規模な爆撃で崩壊。私の家族も、妹を残して亡くなってしまいました」

 

それを聞きサーシャが驚く。シュミットが元々軍人でないことや、住んでいた街が人の手で空襲に遭ったなんて考えてもなかった。

 

「両親を亡くし、妹は大怪我をして入院をしてしまい、私はその医療費を養うために軍に入隊しました。そして戦闘機乗りになり、私は最前線である東部前線で戦っていました」

「東部ってことは…」

「はい。敵国ソビエト…こっちで言うところのオラーシャでした」

 

それを聞き、サーシャは更にショックを受けた。別の世界の自分の祖国がシュミットの国と戦争をしたことに。

 

「そこで私と同じように人の乗っている戦闘機と戦いました。しかし、最後はソビエトの戦闘機に墜とされ、気がついたらこの世界のドーバー上空を飛んでいました」

 

そう言って、話を終えたシュミットはサーシャを見る。サーシャはシュミットを悲しそうな目で見ていた。

 

「どうしました?」

「いえ…その」

「オラーシャの人を恨んでなんかいませんよ」

 

シュミットはサーシャがどもっているのですぐさま言った。

 

「あっちはあっち、こっちはこっちです。だからオラーシャ人を恨むなんて場違いにも程がありますよ。第一、私の彼女はオラーシャ人ですから」

 

そう笑顔で言うシュミット。サーシャはそんなシュミットを見て少し顔色を戻す。

 

「…サーシャ大尉って優しいんですね。心配してくれて嬉しいですよ」

 

そう言ってサーシャを褒めるシュミット。その言葉にサーシャは少しだけ頬を赤くする。そして彼女もようやく笑顔になる。

そして二人で手際よく直していき、ユニットは修理完了した。

 

「これで終了ですねサーシャ大尉」

 

手を拭きながらサーシャに言うシュミット。サーシャもそんなシュミットにお礼を言った。

 

「ありがとうございますシュミットさん。それと、大尉は無しでいいですよ」

「なら、そう呼ばせてもらいます。サーシャさん」

 

そうして僅かに二人の距離が縮まった時だった。基地全体に警報が鳴り響く。

 

「敵襲!?」

「戦闘用意!離陸するぞ!」

 

そしてシュミットは急いでユニットを履き、MG151を持つ。サーシャもユニットを履き、武装を持つ。そして格納庫に駆け込む形で二パや管野達もやって来る。

 

「シュミット・リーフェンシュタール、出撃する!」

 

そしてシュミットは離陸をする。それに続く形で他の隊員達も離陸をする。そして基地上空で一度編隊を組んだ時、別の声が聞こえる。

 

『聞こえるか』

「隊長!」

 

インカムに流れたのは基地にいるラルの言葉だった。

 

『北極海沖で扶桑艦隊にネウロイの軍団が接近していると通報があった』

「扶桑艦隊って、まさか今日着任予定のウィッチが乗っているやつじゃ…!」

『そうだ』

 

シュミットの推測は当たっていた。それを聞きウィッチーズも同じように驚く。

そしてシュミット達は戦闘隊長のサーシャを先頭に編隊を組む。シュミットは不安を持つ横で、管野は張り切っていた。こころなしか、表情も笑顔だ。

そんな管野にクルピンスキーが聞く。

 

「直ちゃん、今日はやけに張り切ってない?」

「扶桑から知り合いが来るんだよね。たしか雁淵…」

「おう!孝美は俺のマブダチだからな!俺達が着く頃にはネウロイが居ねえかもな!」

「…それならいいが」

 

飛行途中、管野が堂々と宣言をするが、シュミットはその言葉を聞いてもまだ不安を持っていた。

そしてその不安は的中したのだった。突如、サーシャのインカムに連絡が来る。

 

「えっ!?もう一度お願いします…はい」

「どうした?」

「雁淵中尉が戦闘不能!?」

「孝美がやられたのか!?」

「ウィッチがやられただと…このままじゃ艦隊は壊滅するぞ!くそっ!」

 

サーシャから告げられた言葉は着任予定のウィッチが戦闘不能になったという知らせだった。それを聞きシュミットは急加速をする。

 

「おい待て!」

「急ぐぞ!艦隊が壊滅する前に到着するんだ!」

 

後ろから管野達が追いかけてくる。シュミットはウィッチの居ない艦隊がどうなるかよく知っている。501でも嫌と言うほど理解した。

 

(何としても艦隊を護るんだ…!)

 

そして先ほどよりペースを上げた編隊は、ついにネウロイの大軍を捉えた。その奥には扶桑の艦隊が数隻いるが、どれも被弾をし煙を上げていた。

そして更に驚く光景があった。

 

(ウィッチが飛んでいる!たしか中尉は戦闘不能になったはずだが…)

 

そう、目の前にはなんとウィッチが一人戦っているではないか。先ほど受けた報告とまるで違う光景に一瞬驚くシュミットだったが、そのウィッチが今まさにネウロイの攻撃を受けそうになっていた。

シュミットはすぐさまMG151を構え、ネウロイに向けて引き金を引く。弾丸はそのままウィッチを襲おうとしていたネウロイに吸い込まれ、そしてネウロイを破片に変えた。

そしてそれを区切りに、サーシャが命令をする。

 

「全機突入開始!」

『了解!』

 

サーシャの掛け声に全員が了解し、そしてネウロイに攻撃を浴びせていく。そんな中、シュミットも強化を自身に掛けようとする。

 

(一気に決める!)

 

そして強化を掛けた時、それは起きた。

シュミットは景色と共に光に飲み込まれ、そして世界は再びスローモーションに流れる。502着任前の戦闘で起きた現象が、再び起こったのだ。

 

「なっ…また!?」

 

シュミットは再びこの光景に驚く。しかしネウロイがスローになった分、自分の攻撃を当てるチャンスでもある。シュミットはすぐさまネウロイにMG151を向け、引き金を引いていき、次々とネウロイを倒していく。

しかし、シュミットがネウロイに攻撃をしている時それは起きたのだった。

 

(落ちろ、蚊トンボ!)

「っ!今の声は!?」

 

突然、彼の頭にそんな声が聞こえてくる。その声はなんと聞き覚えのある声だった。しかしその声に気を取られながらもシュミットは攻撃をしていき、ついに艦隊の上空からネウロイが一掃されたのだった。




うーん、サーシャさんが一番502ではシュミットに関係が近くなりましたね。そしてシュミット君に起きた謎の現象、ついに言葉まで聞こえてしまう。勿論声の主はあの人です。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十話「雁淵ひかり」

予定調和と言いますか、ひかりちゃんの登場です。


「扶桑から援軍の予定だった雁淵孝美中尉に代わって、妹の雁淵ひかりさんが配属になりました」

「雁淵ひかりです!姉の代わりに頑張ります!」

 

ロスマンに紹介され、自己紹介と決意表明をする雁淵ひかり。

あの戦闘の後の夜、雁淵孝美中尉が負傷により戦闘不可能状態となってしまい、本来ならカウハバへの移動予定であった妹の雁淵ひかりが着任することになった。

本来ならひかりがこの基地に配属されるとは考えられないため、シュミットは一体ラルが何をしたのか気になったが、聞きづらいことでもあり黙っていることにした。

 

「…ケッ!」

 

そんなひかりの自己紹介を見て、管野がそう漏らす。

 

(あの反応…管野は新人が来るたびにあんな反応なのか?)

 

と、シュミットは初めて来たときと同じような反応をしている管野を見て、あれが通常なのかなと考える。

そしてひかりの自己紹介に続きラルが自己紹介をする。

 

「私が502隊長のグンドュラ・ラルだ。階級は少佐だ」

「私は戦闘隊長のアレクサンドラ・イワーノヴナ・ポクルイーシキン。大尉です」

「ヴァルトルート・クルピンスキー中尉だよ。伯爵と呼んでくれるかな?」

 

ラルに続きサーシャとクルピンスキーが挨拶する。クルピンスキーは相変わらず伯爵と呼ばせようとしているようである。

 

「伯爵…そんな偉い人が!?」

「そいつの伯爵は偽物だ」

「シュミットさんの言う通り、この人の冗談には付き合わなくていいわよ」

「ひどいな~、狼君に先生~」

 

どうやらひかりは以外と純粋なのかもしれないとシュミットは思いながら、すぐさま真実を告げる。それに同調するようにロスマンも言う。クルピンスキーはそんな二人に心外だという様子だが、声は特に気にした様子では無かった。

 

「狼君に先生…?」

「私はエディータ・ロスマン、曹長よ。この隊の教育係をしているわ」

「私はシュミット・リーフェンシュタール。階級は中尉で、狼君ってのは私の使い魔に関係した中尉の呼び方だ」

 

クルピンスキーが言った二人のあだ名に雁淵が疑問の声を漏らすが、すぐさまロスマンとシュミットは自己紹介をする。

 

「ジョーゼット・ルマール、少尉です…」

「下原定子、少尉です」

 

それに続くようにジョゼと下原が自己紹介をする。しかしジョゼはひかりに対して何故か目を合わせずすこし下を向いていた。

そして次は管野の自己紹介である。

 

「……」

 

しかし管野は自己紹介する気が無いらしい。シュミットの時と同じ反応だ。

 

「管野の番だよ…」

「知るかよ…ふん!」

 

ニパが管野に言うが、管野はやはり自己紹介する気はないらしい。それどころかひかりの方向を見るや睨む。睨まれてひかりも睨み返す。そんな悪い雰囲気を感じ取ってか、ニパがすかさず立ち上がる。

 

「えっと…隣は管野直枝少尉。私は曹長のニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。ニパでいいです」

「はい、紹介は終わり。食事にしましょう」

 

最後にニパが自己紹介をし、食事に移った。

そしてそれぞれが食器を鳴らす中、クルピンスキーが声を掛ける。

 

「ねぇ雁淵さん。ひかりちゃんって呼んでいいかな?」

 

クルピンスキーはひかりに尋ねる。シュミットは反応が無いのに気づき顔を上げる。

 

「あれ?」

 

クルピンスキーも気づく。雁淵はスプーンを手に持ったままの姿勢で目を半開きにしながら舟を漕いでいた。

その様子に下原が驚く。

 

「ね、寝てます!?」

「子猫ちゃんは、よっぽど疲れてるのかな?」

「まぁ、初戦闘で疲れない人はいないでしょうし。しかしまぁ見事に舟を漕いで…」

「ふふふっ」

 

クルピンスキーの言葉にシュミットはフォローする。しかしその姿は中々どうして、見事なまでに典型的な形であろうかと感心しており、ニパはそんな姿に思わず吹く。

 

「何がおもしれえんだよ…」

 

そんな様子でも管野はパンをかじりながら愚痴るのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、ひかりは朝早くから走り込みをしていた。彼女は姉である孝美のようなウィッチになることを夢見ており、そのためには努力を惜しまない子でもあった。

そんな風に走り込みをするひかりの後ろから、追い抜く二人の人影が居た。

 

「おはようございます!」

 

ひかりが挨拶をする。挨拶をし返した相手は管野とニパだった。ニパはその声に返事をした。

 

「おはよう、自主トレ?」

「はい!」

「おせえぞ、ニパ!」

 

管野はニパが遅れていることに注意をする。

 

「なんだよもう~…」

 

注意をされてすぐに戻る二パ。ひかりの前をペースを上げて並んで走る二人。そんな姿にひかりは感化され、ペースをさらに上げる。

それに気づくニパ。

 

「あれ?雁淵さんついてくるよ?」

「ふん…!素人が俺達のペースについてこれるわけねぇ!」

 

そして管野もペースを上げる。雁淵に追い抜かれないように。突然ペースを上げた二人にニパは付いていくことができなくなる。

そして階段を上がりきる時にはひかりは管野を追い抜いていく。

 

「おい!てめぇ!」

 

管野が大声を上げる。それに気づきひかりも止まる。

 

「俺は認めねえからな!お前なんかじゃ孝美の代わりは務まらねえ!あいつと俺でネウロイの巣をぶっ潰すはずだったんだ!なのに…てめぇが弱えから…!」

「そうです…!」

 

管野が繰り出す口撃にひかりも言い返す。

 

「私のせいで…私が弱いからお姉ちゃんは…。でも頑張って絶対強くなります!」

「頑張るだけで強くなれりゃ世話ねえんだよ!今必要なのは即戦力だ!」

「やってみなきゃわかりません!」

「何をもめているんだ」

 

ますますヒートアップしていく口喧嘩は、第三者によって止められた。

 

「えっと…」

「シュミットだ。んで、何をもめているんだ?」

 

止めに来たのはシュミットだった。外に出てきたシュミットは朝早くから大声が聞こえてきたので駆けつけると、ひかりと管野が口喧嘩をしている姿が見えたのでやって来たのだ。

と、そこに遅れていたニパも到着する。

 

「ちょっと二人共、シュミットさんの言う通り喧嘩はよそうよ。仲間なんだし…」

「仲間じゃねえ!」

 

ニパがなだめようとするが、管野にそれは逆効果だった。

 

「弱え奴は他の奴まで危険にさらすんだ。仲間ごっこしてえならさっさと扶桑へ帰れ!」

「ちょ、ちょっと管野!」

 

そう言って管野は走って行ってしまう。ニパが止めるがそれでも立ち止まらなかった。

 

「管野は口は悪いが悪人じゃないさ。あいつはあれでも必死なんだ。ひかり、私はお前を仲間と思っているから安心しろ」

 

シュミットがフォローする。

 

「分かってます…私がもっと強ければ…」

 

だが、ひかりも自分が弱いことに自覚があるらしく、フォローしてもそのことを気にしていた。

しかしシュミットとしても、管野の言い分は尤もなところがある。まともに戦えない兵士が戦場に出たところで、危険な目に逢うのは分かりきっていることでもある。

が、シュミットはこの会話はさらにモチベーションを下げると考え話題を変えようと考える。しかしなかなか話題が上がってこない。そんな時、ニパが話しかける。

 

「ところで雁淵さんってマラソン選手か何か?」

「そういえば、さっき走っていたのは雁淵だったのか。確かにすごいペースだったな」

「えっ?違います。いつもお父さんにお弁当届けてただけです」

「えっ?お弁当?」

 

ひかりからの突拍子の無い答えに驚くニパ。シュミットも声に出てないが「お弁当を届けただけで何故ああ体力が付くんだ?」と、思っていた。

そんな時、突然ぎゅるるるると言う音が聞こえる。音の主はひかりだった。それを聞いてニパが笑い、シュミットも微笑む。

 

「ははっ、昨日食べながら寝てたよね。もうすぐ朝食だし戻ろう?」

「あの、ニパさん。シュミットさん!」

「ん?」

「なんだ?」

 

突然雁淵に名前を呼ばれて二人は反応をする。

 

「ありがとうございます、仲間って呼んでくれて!」

 

その言葉を聞いて二パとシュミットは微笑む。

 

「…あっ!」

「ん?なんだ?」

「思い出した!シュミットさんって昔新聞に載ってましたよね!あの、列車を止めたとかなんかで!」

 

突然ひかりが声を出したことに驚いたシュミットだが、話の内容を聞いてシュミットは一瞬何のことか考える。そしてこの世界に来てすぐに暴走列車を止めたことがあったなと思い出す。

 

「えっと、あの新聞扶桑にも伝わっていたのか…」

「はい!」

「シュミットさんって昔そんなことをしたんですか?」

「ああ。なんていうか、そのことを今更思い出すとは思わなかった」

 

シュミットは少し恥ずかしくなり頬を掻く。そんな姿にニパは「シュミットさんって照れるんだ…」と、日ごろの姿からは余り想像がつかず、少し驚いたように見ていたのだった。

――一連の光景を、基地の中から見ている人達が居た。

 

「基礎体力はありそうですね」

 

部隊長室の窓からラルとロスマンが先ほどの光景を見て、ひかりを分析していたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「現在我々の前には最重要攻略目標だったネウロイの巣アンナ、南方にヴァシリーがあります。それに加え、今回白海にも出現しました」

「また厄介なところに…」

 

朝食の後のロスマンからの説明にサーシャが厄介だと言う。シュミットも地図に記されているネウロイの巣を見て、さらに白海の位置を結ぶ。

 

(オラーシャを完全に分断する要塞線ができるな…こりゃ確かに厄介だ)

「よし、新しい巣を敵勢目標『グリゴーリ』と命名する」

 

ラルの言葉によって新たな巣はグリゴーリと命名された。

 

「グリゴーリから出てくるネウロイの影響圏は急速に広がっており、このままでは補給が断たれる可能性があります」

「可能性どころか、完全に補給が断たれ孤立しますね」

 

ロスマンの説明にシュミットが思わず零す。可能性ではなくこれは断言である。

 

「そうなれば我々は当基地から退却を余儀なくされます」

「いや~参ったねぇ。絶体絶命じゃないか」

「そのためにも、我々は可及的速やかにグリゴーリを殲滅する必要がある」

 

クルピンスキーは軽く言うが、内容はとても軽いものでは無かった。ロスマンがグリゴーリ殲滅は絶対であると宣言する。

そんな中、下原が手を挙げる。

 

「あの、ネウロイの巣って倒せるんでしょうか…?」

「倒せる」

 

その質問にシュミットが答えた。その言葉に全員がシュミットを見る。

 

「501に居た時に、私は実際にネウロイの巣を倒した…尤も、その内容は上層部から箝口令を敷かれていて話すことはできないが」

「だが、501にやれて我々にやれないわけがない」

「ふん!俺がぶっ潰す!」

 

管野は手と拳を合わせてそう宣言する。しかしシュミットはそう宣言する管野を見ながら考えていた。

 

(果たしてネウロイの巣は倒せるのか…実際の所我々はウォーロックの後処理をしたに過ぎないんだ。実際ネウロイの巣がどうなっているのかなど想像がつかない…)

 

シュミットは確かにネウロイの巣の消滅を見た。しかし、彼らはあくまでウォーロックを倒したに過ぎない。あれが正攻法などと無論考えておらず、一体どうしたらネウロイの巣を倒せるのかなどと想像がつかないのが現状だ。

 

「雁淵」

「は、はい!」

 

ラルがひかりを呼ぶ。呼ばれたひかりは立ち上がって大声で返事をする。

 

「お前は午後から訓練だ。それまで誰かに基地を案内してもらえ」

「はい!…えっと」

 

ラルに予定を言われて返事をするひかり。しかし彼女はだれに案内をしてもらえばいいか困り周りを見る。

 

「じゃあ、ジョゼさんお願いできる?」

「えっ?あの、私はちょっと用事が…」

 

ロスマンに指名されるジョゼだが、彼女は都合が悪いらしく目を逸らす。しかしシュミットはそのジョゼの表情を見て、彼女がひかりを何故か避けているのではないかと思った。

そんなジョゼを見てロスマンを相手を変えた。

 

「そう…じゃあ、ニパさんお願い」

「はい」

 

ロスマンは今度はニパを指名した。ニパは特に予定は無いようなので、その任務を受けた。そんなニパを見てか管野は「ケッ…」っと気に入らない様子だった。

 

「よし、各自勤務表通り行動に移れ」

『はい!』

 

最後にラルが締め、502のウィッチ達は返事をし返した。




投稿日はクリスマスイブですが、その日に合わせて小説は出来ませんでした。ここでお詫び申し上げます。忘れた頃に思い出す列車!シュミット君からしたらあまりかっこいい姿では無いため少し恥ずかしいのです。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十一話「厳しい現実」

クリスマスです。ですが作者は通常運行です。
それでは四十一話どうぞ!


基地を案内された後、ひかりは格納庫に居た。同じように格納庫にはロスマンとサーシャ、そして時間の空いたシュミットも見学という形で居た。

そしてひかりはユニットを履き魔道エンジンを始動させる。

 

「魔法力混合比9:1に、回転数1500でキープ」

「はい!」

 

サーシャがひかりに指示をする。ひかりは回転数を上げるが、なかなかその回転数は上がらない。

 

「ベースとピークの回転数が1000も離れているわ!もっと制御に気を配って」

「酷いわね…」

 

ロスマンはそんなひかりを見てそう感想する。

 

「2000に上げて!」

「はい!」

 

サーシャは更に指示を出す。そしてようやく2000まで到着する。

 

「扶桑の新型…2000馬力で最高速度600キロ、航続距離は2000キロクラス。どんな飛行をするか楽しみです…」

「発進!」

 

サーシャは純粋にユニットの真価を楽しみにしている。そしてロスマンの指示で離陸をするひかり。しかし、その離陸はどうもおぼつかない。なんとも加速が鈍いのだ。

 

「2000まで上げたはずだけど?」

「加速が悪いですね」

「というより、まるで回っていない感じじゃないか?」

 

三人は口々に感想をこぼす。そしてロスマンは次の指示を出す。

 

「300に上昇。その後基地外周に沿って旋回してから滑走路上空を全速で通過」

『はい!』

 

ロスマンの指示にひかりは返事をし、そして旋回をする。が、バランスを崩してしまう。そしてユニットの片足からは僅かだが煙が出ている。

 

「扶桑の新型って欠陥品なの?」

「機体は悪くありませんね。魔法力がまったく足りていません」

「魔道エンジンにすら魔力がちゃんと回っていないとなると、魔力制御もあまり良くないんじゃ…」

 

ロスマンは中々酷い感想を言うが、サーシャは原因がひかりにあると言う。そしてシュミットは魔力がエンジンに行ってないのを見て、魔力の制御も良くないと判断する。

そしてひかりはロスマンの指示で強制的に陸に戻され、今度は計器でユニットを計測する。何人かの計測員が機械の周りに立ち、装置を操作する。

 

「じゃあ、全力で回してみて」

「はい!」

 

サーシャの指示でひかりは魔道エンジンを回す。しかし、回転数は高くない。エンジンの音もどこかとろい。

 

「どうだ?…って、見たままか」

「はい。やっぱり、このユニットの必要魔法力に足りてませんね…」

「おかしいな…ちゃんと飛べたのに…」

 

シュミットがサーシャに聞くが、サーシャの評価にひかりは何故と弱々しく言う。しかし、そんなひかりに現実を突きつける。

 

「飛べたんじゃない。飛ばせてもらっていたのよ」

 

ロスマンの言葉に更にひかりは落ち込む。

 

「そいつは孝美の新型ユニットだろ?」

 

と、計測中の四人の後ろから声がする。シュミットが振り返ると、管野がひかり達のほうに歩いてくる。

 

「素人じゃ無理だ、俺が使う!」

「駄目です!チドリはお姉ちゃんと私のです!」

 

管野は自分がそのユニットを使うと主張する。しかしひかりはそれに反論する。

 

「何がチドリだ!ふざけんな!」

「新型に関しては誰が使用するのが最適かいずれ指示します!」

「どうせ、こいつには無理だ!」

「そんなの分かりません!」

 

と、言い争いをしている中、シュミットは事の流れを静観することにした。そして管野はひかりに重要なことを告げる。

 

「エンジンも満足に回せねえくせに何言ってやがる?」

「それは…」

 

実際、目の前で見て叩きつけられた現実はひかりの口を止めるのに有効だった。ひかりは次の言葉を言うことができず固まってしまう。

 

「俺はもっと強くならなきゃいけないんだ!孝美は居ねえ、新しい巣だって出来てる。そんな状態でこんなど素人を入れても足手まといになるだけだ!」

 

管野はひかりにそう言って指を指す。しかし、その言葉をロスマンが止める。

 

「その判断はラル隊長が下します」

 

その一言により、管野は「チッ!」っと舌打ちをして格納庫から出ていく。ひかりは、足にはいているユニットを見ながら悔しそうに口をギュッと締める。

シュミットは一連の流れを見て、シュミットは評価をした。

 

(こればかりはやはり管野の言う通り…というか、実際問題私も同じ判断をしていたんだ。当然の結果か…)

 

と、ひかりには悪いが言っていることが余りにも正論であるため否定はしなかった。

そしてひかりはロスマンとサーシャに連れられて部隊長室に向かい、格納庫内はシュミット一人になる。

 

「しかし本来なら来るはずのウィッチが帰るとなる…そうしたらグリゴーリはどうなるのかね?」

 

そんな事を思っているときだった。突如、基地全体に警報音が鳴り響く。ネウロイが現れたという証拠だ。

すぐさまシュミットは自分のユニットを履き、出撃のスタンバイをする。丁度その時、格納庫に管野が入って来る。

 

「緊急出撃だ…ッ!」

 

管野はそう言いながら走って来るが、突然ひかりの紫電改を見て立ち止まる。その光景を見てシュミットは管野が紫電改を履くのかと考えたが、管野が履かずに自分のユニットに向かったのを見て、管野は意外と誠実な人間なんだなと判断するのだった。

そして格納庫内に他のウィッチ達が到着する。そしてユニットをそれぞれが履きながら、サーシャが指示を出す。

 

「敵は中型一機、グリゴーリから当基地に向かって高度3000、時速300で接近中。接敵まで15分。クルピンスキー中尉は私の僚機。管野、ニパ組が前衛。シュミットさんは遊撃。下原、ジョゼは待機」

「ひかりさん、貴方も出撃して!」

 

サーシャの指示で全員が配置される。シュミットは501の時と同様、遊撃の立場になる。そんな時、ロスマンがひかりを呼ぶ。ひかりはそれに返事をしユニットを履くが、管野は反発する。

 

「なんでこんなやつを…!」

「訓練の一環だ。私が許可する」

「…了解」

 

ラルの指示のため、管野も渋々と返事をする。しかしその様子は納得などとてもしていなかった。上官からの命令のため仕方なく返事をしただけだ。

そしてシュミット達は基地から発信をし、ネウロイの方角に向けて編隊飛行をする。

 

「ひかりさん。私の指示に従って、絶対に二番機位置から離れないように」

「はい!」

 

サーシャの指示に返事をするひかり。そして編隊を組んでいる時、シュミットはいつも通り強化した目でネウロイを第一に発見する。501の時からネウロイ発見は手慣れたものである。

 

「もう見つけたのですか?」

「はい。雲の中にいますが間違いありません」

「高度を上げるわ」

 

シュミットが先にネウロイを発見したため、サーシャは全員に高度を上げるよう指示を出す。これによりネウロイに対して優位に立てる位置取りができた。

 

「前衛は突入!」

『了解!』

 

サーシャの指示に管野と二パが急降下をする。そしてロスマンはひかりに聞く。

 

「ひかりさん、コアが見える?」

「…」

 

ロスマンが聞くが、ひかりはじっとネウロイを見たまま答えない。

 

「どう?見えるの?見えないの?」

「…見えません」

「…そう。もういいわ、下がってなさい」

 

そう言って、ロスマンもネウロイの攻撃に参加する。

シュミットはその会話が聞こえたことに戦闘中ながら考え事をする。

 

(コアが見える?雁淵は魔眼持ちってことか?)

 

そう考えながらも、引き金を引く手は緩めない。そんな時、ネウロイの攻撃がひかりに飛んでいく。

 

「危ない!」

「えっ?きゃああ!」

 

突然の声にひかりはハッとする。そしてネウロイの攻撃をシールドで防ぐが、その威力に後ろに弾き飛ばされる。幸い怪我はしていない。

 

「雁淵さん!」

「逃げろバカ!」

 

ロスマンと管野が呼ぶが、ひかりに新たなネウロイの攻撃が飛来する。ひかりはその速さについていけずシールドを張ることができない。そんな時だった。

 

「退け!」

 

突如、シュミットがひかりを弾き飛ばし、そしてそのまま自身も流れるように攻撃を回避する。そしてそのままシュミットはMG151をネウロイに向けて放ち、ひかりから注意を逸らす。

 

「シュミットさん!」

「てめえ死にてえのか!?ったく…ニパ!」

「了解!」

 

管野が怒鳴り声をひかりに言う。そして管野とニパはそのままネウロイに再び攻撃を再開する。

シュミットもネウロイに攻撃をする。

 

「くっ…!なに!?」

 

しかし、再び起こった。あの光景が。またしても世界がスローモーションに流れ、今度はネウロイが方向転換をする姿が確認できた。

 

(またこの光景…三回も起きたらもう偶然なんてものじゃない!)

 

シュミットはこの光景が偶然でないことを完全に悟った。そして、その光景に従う形で、銃口を向ける。

そして世界は再び戻る。速度の戻った世界で、シュミットの弾丸はネウロイの行動位置を先取りし、ネウロイはその地点に到着と同時に体が大きく削れる。

その光景を、後ろから見ていたロスマンは気づく。

 

「偏差射撃!?」

「えっ?」

 

ロスマンの言葉にサーシャも気づく。

そしてネウロイの体を削った攻撃により、ついにコアが露出する。そこにクルピンスキーが銃撃を行い、ネウロイは完全に消滅、後には破片だけが残ったのだった。

ひかりは、戦闘に参加することができずにただ見ているだけしかできなかった。しかし、彼女は先ほど助けてもらったシュミットの下に行く。

 

「シュミットさん。さっきはありがとうございました」

「気を抜くなよ。戦場ではちょっとの油断が死だぞ」

 

ひかりはシュミットの雰囲気の違いに戸惑う。朝見せたあのシュミットとは違い、今のシュミットは鋭い目でひかりを見ていた。

 

「では、管野さんとニパさんは周辺に残敵が居ないか確認。残りは帰投します」

『了解』

 

そうして、全員が散開をする。そんな中、ロスマンはひかりの前に止まっていた。

 

「貴方が見たのは、コアじゃなかったようね」

 

そう言って、ロスマンは基地に帰投した。残されたひかりはショックを受けた後、遅れて基地に帰投したのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

基地に帰投中、シュミットは先ほどの光景について疑問を持っていた。

 

(やはりあの光景、もしかして強化を使った時に起きている?いや、今回は発動していなかった…それじゃあなんだ?)

 

シュミットは今まで起きたあの光景について思い出す。最初はあれらがすべて強化を使った時に起きていると考えるが、今回の戦闘では強化を使っていないときに起きている事を思い出し、考えを否定する。

そんな風に神妙な顔で考えているシュミットを見てか、後ろからロスマンが声を掛ける。

 

「何を考えているのです?」

 

シュミットは、ロスマンが教育係をしている上でこれについて何か知っているかもしれないと考え、思い切って聞くことにした。

 

「あの、先生」

「はい」

「基地に着いたら聞きたいことがあるのですがいいですか?」

「え、ええ…」

 

そう言って、シュミットは基地に帰投し、そして格納庫に到着する。

ロスマンは隊長に話があると言って、その後でいいか聞いたのでシュミットも格納庫で待つ。そんな時、ひかりは自分のユニットであるチドリの前に膝を抱えて座り込みながら、チドリに向けて話す。

 

「ねえチドリ…あの時見えたのは絶対コアだった。でもなんで見えたんだろう…」

 

ひかりは座りながらそう呟く。その後ろからシュミットが声を掛ける。

 

「雁淵、コアが見えたってことは魔眼持ちなのか?」

「いえ…でも確かに前はコアが見えたんです」

 

その会話を聞いてシュミットも考える。

そして離れた所ではラルとロスマンが話をしていた。

 

「どうだった?」

「残念ながら…」

「そうか」

 

ラルがロスマンに聞くが、ロスマンは首を横に振る。それを聞いてラルは特にショックをするそぶりをせずに聞いていた。

ラルはひかりを呼ぶ。

 

「雁淵ひかり軍曹」

「はい!」

『ラル隊長、ニパさんがまた墜落しました』

 

と、突然基地にアナウンスが聞こえる。声の主は下原だった。

 

『原因は冷却機に大量のイナゴが混入』

「なんだそりゃ」

「相変わらずついてないわね…回収班は?」

『墜落場所の特定が難しく、地上からの捜索には時間がかかりそうです』

「夕食には間に合いそうも無いな」

「いや、そこですか?」

 

ラルの言葉にシュミットはツッコむ。そんな時、ひかりが声を出す。

 

「私が助けに行きます!」

「貴方が行っても…」

「宜しい、許可する。現在、管野少尉がラドガ湖上空で待機中だ。それに同行しろ」

「はい!」

 

そう言ってひかりは離陸していく。その後ろ姿を見ながら、ロスマンとシュミットがラルに聞く。

 

「よかったのですか?」

「何も雁淵を出さなくても」

「思い出ぐらい持ち帰らせてやってもいいだろう…扶桑に返すための書類を頼む」

 

そう言って、ラルは格納庫を出ていく。

 

「それで、シュミットさん。聞きたい事って?」

「はい」

 

ロスマンに言われてシュミットが質問した。

 

「ネウロイとの戦闘中、突然景色が光に飲み込まれて、そしてスローモーションに流れる光景が最近起きるんです。そして、ネウロイがスローモーションに動いたり、移動する方向が分かったり…3回も起きたから偶然じゃないと思うのですが、何か知りませんか?」

 

シュミットはロスマンに聞く。教育係のロスマンが分からなければ正直お手上げとシュミットは考えていた。しかし、そんなシュミットの不安は当たらず、ロスマンは指を顎に当てて何か考える。

 

「…もしかして、人の声とかも聞こえたことは?」

「えっ?」

 

と、突然ロスマンが聞いてきたのでシュミットも思わず素で返事をしてしまう。しかしシュミットはその質問を聞かれて過去に起きたことを思い出し、その中で一回だけあったことを言う。

 

「二回目の時ですが、管野少尉の声が聞こえました…突然響くような声で。なんていうか、インカムから聞こえたのじゃなく」

「そう…」

 

そう言って、ロスマンは完全に理解したように呟いた。その反応を見てシュミットはロスマンが何かを知っていると理解し質問した。

 

「知っているんですか?」

「ええ。知っているわ…」

 

ロスマンは知っているというが、その表情はあまり言いたくなさげだった。

 

「シュミットさん、これから何があっても貴方はその()()に入らないように」

「な、どういう意味です?」

 

ロスマンに言われてシュミットは訳が分からず聞く。

 

「…シュミットさん。貴方のそれは『ゼロの領域』と呼ばれるものです」

「…『ゼロの領域』?」

 

シュミットは聞きなれない単語にただオウム返しをするしかできなかった。




ついに発覚したシュミット君の現象。一体どのような能力なのか。
ひかりちゃんって意外と生存率低い立ち位置ですよね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十二話「ゼロの領域と訓練」

気がつくとUAが3万越えていたことに吃驚しました。皆様に御礼を申し上げます。
第四十二話です。少しロスマン先生に独自設定を入れました。どうぞ!


「…なんなんですか、そのゼロの領域ってのは」

 

シュミットはロスマンに言われた単語がイマイチぴんと来ないため聞く。

 

「ゼロの領域は、知覚の限界を超えた先に起こる現象のことなのです」

「知覚の限界…」

「ええ」

 

ロスマンはさらに説明をする。ゼロの領域は、知覚の限界を超えた先に起こる現象であり、周りがゆっくりになったり未来に起こる出来事がビジョンで見えたりなど、その内容はさまざまである。それらはどれもシュミットが経験をした内容だった。

そしてロスマンは中でも大事なことをシュミットに言った。

 

「そしてこの現象は、起きた後が大変なんです。ゼロの領域は、精神に負担をかけます。今まではその時間が短かったから実感が無かったのかもしれませんが、長い時間使うとそれこそ大きな負担になるんです」

「先生凄い詳しいですね…」

 

スラスラと説明するロスマンを見て、シュミットは何気なくこんな疑問を持つ。何故、ロスマンはここまでスラスラと言えるのか気になったのだ。

その質問をしたシュミットだが、ロスマンが少し表情を落としたのに気づく。そしてロスマンは口を開いた。

 

「実は昔、私も同じ現象が起きたことがあります」

「えっ」

 

ロスマンからの衝撃の言葉にシュミットも驚く。

 

「私は産まれたときに大病を患い、体の成長が遅れ、体力もあまり無い体になってしまいました。そんな体で戦うために私は研究を重ね、そしてゼロの領域に至った」

 

ロスマンの説明をシュミットは黙って聞いていた。

 

「ですが、ゼロの領域に入るにつれて段々私の精神は摩耗していき、とても戦闘で使い続けるには無理と理解しました」

「そんなことがあったのですか」

「ええ。ですからゼロの領域は諸刃の剣、絶対にこれ以上踏み込まないようにしてください。聞いたところシュミットさんは領域を認識してきているので、自分で入らないように制御はできるはずです」

 

そう言ってから、ロスマンは格納庫から出ていった。残されたシュミットはロスマンの言葉を真剣に考える。

 

(領域に入ってはいけない…か)

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、ひかりは扶桑に返される前に最後のチャンスを与えられた。猶予は一週間、その間にクリアできなければひかりは扶桑へ返される。

そしてひかりはロスマンに連れられて射撃場に行く。

 

「ん?ロスマン先生訓練ですか?」

 

射撃場にはシュミットがおり、手に機関銃を持ちながらロスマンに聞く。

 

「ええ。ひかりさんはユニットを履いて、機関銃を持ちなさい」

「はい!」

 

ロスマンに指示され、ひかりはユニットを履き九九式を構える。その間に、ロスマンは的の所に行き小さな的を立てる。そしてロスマンは的を設置した後、ひかりに再び指示を出した。

 

「ではここからセミオートで、あの的に当てて見なさい」

「小さい…」

 

ひかりの立っている位置から的まではかなりあり、小さな的は余計に小さく見える。しかしシュミットは、静止しているのであの的に当てるのはかなり楽なものと考えていた。

 

「構え!」

「は、はい!」

 

ひかりは機関銃を構える。

 

(銃はしっかりと脇を締めて…肩で保持して…静かに引き金を…戻す!)

 

ひかりは訓練で習った機関銃の持ち方を頭の中で復唱し、そして引き金を引いた。しかしひかりの撃った弾丸はコインから約1mほど離れた場所に着弾した。

シュミットはこれを見て確信した。魔法力が足りな上に、コントロールも殆どできていないと。

 

「魔法力が弱い…反動吸収が出来ていないわね」

 

ロスマンも同じような心境だった。

 

「五歩分前に出なさい!」

「え…は、はい!」

 

ロスマンはひかりに新たに命令する。ひかりはどういう事かわからなかったが、すぐに五歩分前進する。

 

「構え!」

 

そして再びひかりに構えるように言う。シュミットはロスマンがひかりは何mで的に当てられるかを測るのだと理解した。

 

「撃て!」

 

そして再び号令し、ひかりは引き金を引く。今度の弾丸は先ほどよりはコインに近い位置、約70cmの距離に着弾した。

 

「後五歩!」

「はい!」

「後五歩!」

「はい!」

 

何回も前進させられるひかり。その光景を見ながらシュミットは、いつになったら当たるか見ていた。

そしてついに、コインに弾丸は当たった。

 

「あ、当たった!」

「まさかここまでとは…」

 

ひかりは当たったことに喜ぶが、ロスマンはその光景に少なからずショックを受けていた。シュミットも「こんなにか…」と思いながら、その様子を見ていた。

ひかりの立ち位置はロスマンに前進を命令されていくうちに、ついには的から3mほどの距離になっていた。これではネウロイとの戦闘では全く使えない。

 

「貴方は絶対的に魔法力が不足しています。私が教える基準に全く達していません」

「じ、じゃあテストは…」

「不合格」

 

ロスマンから告げられた言葉は真っ当なものだった。しかしひかりは諦めずに言う。

 

「だったら、朝の走り込み倍に増やします!そしたら魔法力だってきっと強く――」

「なるわけ無いでしょ!魔法力は先天的なもので、後からどうにかなる物じゃないわ」

「でも、まだ一週間ありますよね!?テストを続けさせてください!」

 

ロスマンに厳しく言われるが、それでもひかりは諦めない。そんな姿を見て、シュミットは「やる気はあるんだがなぁ…」と、呟く。

そんなひかりの熱意を見てか、ロスマンも黙っていなかった。

 

「…じゃあこっちに来なさい」

「は、はい!」

 

そう言ってロスマンは歩き出し、ひかりはその後ろをついていく。

そんな光景を、後ろから見ている人達がいた。

 

「やっぱり無理なのかなぁ…」

「って、ニパいたのか」

 

シュミットはいつの間にかいたニパに気づかず驚く。

 

「ほらな、言った通りだろ!」

「うわっ!管野いつから居たの!?」

「いや、ニパの後ろにいたぞ」

 

と、今度は管野がひょっこりと現れニパは驚くが、シュミットは管野とニパは一緒にやって来ているものだと思い、特に言わなかった。

そしてロスマンに連れられひかりは502基地の基地にある一本の大きな柱の所に連れられる。その大きさは502基地の次に大きいぐらいだ。

 

「たっか~い…」

 

ひかりはその大きさに驚いているが、ロスマンはその横で上空に一つ帽子を投げる。投げられた帽子はそのまま飛翔し、柱のてっぺんにある細い棒に引っかかる。

 

「あれを取ってきなさい」

「はい!ユニットを持ってきます!」

 

ひかりはロスマンに言われ、自分のユニットを取ってこようとする。しかしロスマンはそれを止めた。

 

「飛んではだめです」

「えっ!?じゃあどうやって?」

「手本を見せてあげます」

 

そう言って、ロスマンは柱の下に歩いていく。そして両手を柱に付ける。

 

「魔法力を全身に回して、それを手足に適切に分配、触れている個所の制御をきちんとすれば登れるわ」

 

そう言ってロスマンは柱を登っていく。そしてあっという間に半分を超える。

 

「そ、そんなの学校では習いませんでした!」

 

ひかりがそう言うと、ロスマンは手足を柱から離し地上に降りる。

 

「無理なら国に帰りなさい。このテストに合格できなければ、出撃は認めません」

「えっ」

「どうするの?」

「やります!」

 

ひかりはやると言った。

 

(そうだ。やってみなくちゃわからない!やる前に諦めちゃだめだ!)

 

そう言って、ひかりは柱に向けてダッシュをし、そして手足に魔法力を込める。そしてそのまま柱にジャンプをして張り付く。

しかし、ひかりはそのまま滑り落ちる。

 

「取れたら持ってきて」

 

そう言って、ロスマンは歩いて行ってしまう。

その光景を、離れた所からシュミットとニパ、そして管野が見ていた。

 

「あれってホントにテストなのかなぁ…」

「手足にうまく魔力を配分させるためかもな」

「どっちにしても出来なきゃ終わりだ」

 

そう言っている間にも、ひかりはまたチャレンジをし、そして同じように地面に落ちたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

結局、ロスマンからの訓練は一日かけても終わることが無く、そのまま二日目に入っていく。

 

「昨日よりうまくなってない?」

「一日中やってれば誰でもうまくなるぞ」

 

ニパはひかりが昨日より上に登っていることに吃驚するが、管野は冷たく言う。そんな二人の言葉を余所に、シュミットは黙ってその光景を見ていた。

しかしひかりが登っていく途中、突然鳥の妨害に遭い、再び地面に落ちていく。

 

「痛ったぁ…」

「ひかり!大丈夫!?」

 

慌ててニパが駆け寄る。それについていく形で管野とシュミットも付いていく。ひかりが先ほどの鳥が柱の途中に巣を作っていたことに気づく。

 

「あんな所に鳥の巣が…」

「千鳥だな。巣立ちが近づいてるみたいだ」

「千鳥…!へぇ…」

 

ひかりは鳥の名前が自分の使っているユニットと同じ名前と知りその姿を見る。

そして四人は柱を背に座る。シュミットだけは、背にもたれ掛かるだけであるが。

 

「おめえ分かんねえのか?ロスマン先生は諦めろって言ってんだよ」

「でも、てっぺんの帽子を取ってくれば…」

「バーカ。あんなのおめーが取れるわけねーだろ」

 

管野は意地悪くひかりに言う。

 

「管野は出来るの?」

「へっ、楽勝だろ!」

 

二パが聞くと管野は立ち上がってそういう。そして魔法力を使い管野は柱に張り付き、そして手足を高速で交互に動かしていきその柱を登っていく。

その姿を見て周りも感心する。

 

「わーすごい!…あれ?」

 

三人は地上で見て管野が突然落ちてきたのに気づく。そしてそのまま管野は地面に叩きつけられる。

 

「こんなのできたって何の役にも立たねえよ!」

 

管野は立ち上がってそう言う。その光景を見てシュミットも少しやってみたくなった。

 

「ふむ、私もやろうかな」

「えっ?」

 

シュミットの発言に皆が驚くが、シュミットはお構いなしに手足に魔法力を込め、そして柱に張り付く。

三人はその光景を見ている中で、別のことにも興味が沸く。

 

「…シュミットさんの魔方陣大きい」

 

シュミットが手足に巡らせている魔力の大きさから、魔方陣は大きくできる。その結果、シュミットはすいすいと柱を登っていく。

そして半分を過ぎたところでシュミットは手足を離し、そして地面に飛び降りる。

 

「意外と疲れるな…魔法力の分配ってのも」

 

シュミットは手のひらを見ながらそう呟く。それを見て、ひかりも感化される。

 

「…でも、やらなきゃダメなんです!」

 

そう言って、ひかりは再び柱を登りだす。

 

「勝手にやってろ…!」

 

そして管野はそんなひかりの姿を見て面白くないのかそのまま基地に帰っていく。

 

(ロスマン先生は出来たんだ!それに、シュミットさんもやっていた!私だって…!)

 

ひかりはロスマンとシュミットが柱を登れたのを見て、自分でもできると信じて登り始める。

シュミットはひかりが戦場に出るのはどっちつかずであった。出撃しても事故を起こしてしまいそうなひかりを出すのは嫌であるが、自分が役に立ちたいと努力をする彼女の熱意は買っていた。

そして、魔法力の少ないひかりに対してシュミットは魔法力が多い。そんな現実を見せられてはひかりのその熱意が下がるのではないかと少し考えた。

 

(もしかしたら、私は登らない方が良かったかな…?)

 

シュミットはそんなことを思いながら、下でただ黙って見ているしかできなかった。

 

三日目に入る。相変わらず登りきることはできなかった。

 

四日目に入る。今度は靴を脱ぐ作戦に出るひかり。それにより以前よりも登れるようになる。しかし、結局途中で落ちる。

 

五日目。何故かひかりは朝食を食べない。理由は「ちょっとでも軽くなれば登れるかな」と言っていた。それを聞いた管野は「お前は超弩級のバカだ」と言っていた。その通りであり、食事を取らなければ体にエネルギーは回る事が無いため力が出なかった。

 

六日目。こんどは朝食をちゃんと食べるひかりだったが、結局連日の疲れが祟り登っている途中で糸が切れた人形のように墜落する。落ちるひかりをすぐさまシュミットが駆けつけてキャッチをする。

 

「…おい、寝てるぞ」

 

シュミットはひかりが眠っているのに気づく。それを見て管野とニパも驚く。

結局ひかりはそのまま訓練を受け続けることはできないと見て、三人はそのままひかりを部屋に連れて寝かせるのだった。




ロスマン先生がゼロの領域に至ったという設定です。領域に入るなとロスマン先生に念押しされるシュミット君。これからどうなるのやら。
それとひかりちゃんは色々と芳佳ちゃんと真逆なんですね。改めて知りました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十三話「先生の想いと接触魔眼」

第四十三話です。どうぞ!


眠って意識がなくなったひかりは、その日の夜に目を覚ました。

 

「あれ?なんで部屋に…?」

 

ひかりは驚き体を起こす。記憶では柱を登っているはずだったのに、気が付けば部屋の中。それも夜中など、驚かない方がおかしい。

すぐさまひかりは部屋を出て、訓練課題を行うとする。そして柱に触れようとした時、後ろから声を掛けられる。

 

「こんな時間からやるつもり?」

 

ひかりは声のした方向を向く。

 

「ロスマン先生」

「ちょっと付き合いなさい」

 

そう言ってロスマンは歩いていき、ひかりもそれについていく。そして二人は502の基地からネヴァ川を挟み、ペテルブルクの街が見える場所へ移動した。

 

「ひかりさん。貴方はどんなウィッチになりたいの?」

 

突然、ロスマンはひかりに聞く。その質問にひかりは堂々と宣言した。

 

「どんな…お姉ちゃんみたいに皆の役に立つ立派なウィッチです!」

「それは無理よ」

 

しかし、ロスマンはきっぱりと言い切った。それを言われ、ひかりは聞き返す。

 

「何でですか!?」

「私は、前にもあなたのようにどうしても戦いたいという子を教えたことがあった。真面目で、やる気もすごくあったのだけど…」

「…魔法力が弱かったんですか」

「そう。その子が戦闘に向いてないのは分かっていた。でも、私は熱意に負けて出撃を許可した」

 

ロスマンは淡々と説明していく。そんな中、ひかりは話に出てくる少女が気になった。

 

「その子はどうなったんですか?」

「…二度と飛べなくなったわ」

 

ひかりはロスマンが何ていうかわかっていた。あれだけひかりを出撃させたがらないロスマンと、今の話から。

 

「戦場では能力のない物は、本人も周りも悲しい思いをするのよ」

「…でも、その子は悲しかったのかな?」

「!」

 

ひかりの言葉はロスマンを驚かせた。その言葉は今まで彼女が考えたことのないものだった。

 

「先生!私も他の人の迷惑になるなら扶桑に帰ります。でも、ほんのちょっとでも戦力になる見込みがあるなら、ここに居たいんです!」

「それなら…」

「分かってます!帽子を取るんですよね?最後の最後までやらせてください!」

 

ひかりは自分の思いをロスマンにぶつけた。そして、ロスマンは折れた。

 

「もう好きにしなさい」

「はい!」

 

そう優しく言うロスマンに、ひかりも返事をした。

そしてひかりが居なくなった後、ロスマンは立ち止まりながら声を発する。

 

「盗み聞きとは感心しませんね、シュミットさん」

 

そう言われて、基地の角から現れたのはシュミットだった。

 

「いつから気付いてました?」

「途中からです」

「盗み聞きするつもりは無かったんですが、出ずらい雰囲気だったので」

 

そう言ってシュミットは歩みながらロスマンの所へ行く。そして横に着いてからシュミットはペテルブルクの街を並んで見る。

シュミットはロスマンに聞いた。

 

「いいんですか?雁淵を止めるものだと考えましたが」

「あの子の諦めが悪いからです。いずれ猶予は明日まで、それによって決まります」

「まぁ、熱意は今まで見た人達の中でも上位に位置するものですからね」

 

ロスマンの言葉を聞きシュミットはなるほどと同じように思ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

ひかりの試練最終日。この日は生憎の曇りであり、風も吹いている。

ひかりは決してあきらめずに柱を登り続ける。

 

「風が強いな。もう今日しかないのに」

「ついてねえ奴だな」

「だが、今日達成しなければ扶桑に返されるんだ」

 

ニパと管野、そしてシュミットは離れた所から見ている。すると、ひかりは横風にあおられてズルズルと流されていく。そして吹き飛ばされてしまう。

 

「ひかり…!」

 

ニパ達が驚いたその時だった。ひかりは足に魔力を咄嗟に制御し、柱にかろうじて張り付く。そのひかりの下には、千鳥の巣があった。ひかりは巣に落ちないように懸命に足掻いたのだ。

しかしシュミットはその姿を見て目を開いた。

 

(…あれは!)

 

ピタリと立ち止まっているひかりを見て、シュミットはあることに気づいた。

 

「おーい!大丈夫?」

「巣は無事です!」

「ったく…」

 

ニパが心配をするが、ひかりは自分ではなく巣のことを心配されたと思い言ったため管野は呆れる。

そして体勢を立て直し、ひかりは再び両手を付く。しかし、再び横風に飛ばされて地面に落下する。

 

「上の方はもっと風が強い…」

「ひかり…」

 

ひかりは風の強さに

 

「おい、この風の中じゃ無理だ。ロスマン先生に言ってもう一日――」

「駄目です。延長は認めません」

 

管野が提案をするが、それは別の人に遮られた。

 

「ロスマン先生…」

「さぁ、時間が無いわよ」

「はい!」

 

ロスマンはひかりに登るように言う。ひかりはすぐさま再スタートを掛けようと、手を触れる。

 

「止まって」

「待つんだ」

 

と、そのひかりに待ったを掛けるように二つの声が重なった。ひとつはロスマン、もう一つはシュミットだった。

シュミットはロスマンを見る。

 

「先生も気づいたんですね」

「ええ。そこで足を離して」

 

ロスマンはひかりに足を離すように指示する。

 

「えっ!?落ちちゃいます!」

「雁淵、先生の言うことを聞くんだ」

「でもっ!」

「いいから。足にかけていた魔法力を、両手に集中しなさい」

「は、はい!」

 

そう言って、ひかりは目を瞑る。

 

(両手に集中…)

 

そしてその間に魔法力を両手に集中させようと意識する。

下ではニパと管野が二人の動向について疑っていた。

 

「できるの!?そんな事…」

「何考えてるんだ…?」

 

そして、ひかりはついに両足を離した。するとどういうわけか、ひかりは両手だけで柱にぶら下がっている。しかも、横風にも流されることも無い。

 

「今度は左手を離しなさい!」

「ええっ!?」

 

突然のロスマンの言葉にひかりは驚く。

 

「貴方には全身に回すだけ魔法力は無い。でも一か所に集中させることができる!」

「は、はい!」

 

ロスマンに言われ、今度は右手に魔法力を集中させようと意識する。そしてついにひかりは左手を離した。すると、ひかりは右手だけでぶら下がっている。

 

「すごい片手だけで!」

「魔法力を左手に込めて、落ちる前に手を入れ替えて手だけで登りなさい!」

「はい!」

 

ニパが驚く中、ロスマンは次の指示を出し、そしてひかりは実践する。すると、右腕と入れ替わる形で左腕が上に行き、ひかりは柱を登り始める。

その光景にニパと管野は驚く。

 

「あいつ…」

「次、右!」

「はい!」

 

そしてそのままひかりはロスマンの指示の後、交互に柱を登っていく。その速度はスローではあるが、以前よりも着実に柱を捉えて登っていた。

 

「凄い…登ってる!登ってるよ!」

「手だけで登りやがった…!」

 

ニパと管野はその光景に思わず微笑みがこぼれる。

シュミットはロスマンに話しかける。

 

「流石先生ですね」

「いえ、それよりも私は貴方が気付いたのに驚いたわ」

「これでも洞察力はある方だと自負しているつもりですから」

 

そういうシュミットだが、実際これに気づいていたのはあの場ではロスマンとシュミットの二人だけだった。しっかり見ていないと気付かないものである。

と、ロスマンは後ろから気配を感じて振り返る。

 

「何ですか?」

「諦めさせるんじゃなかったのか?」

 

そう言ったのはいつの間にか外に出てたラルだった。

 

「確かに、魔法力の少ないあいつにはこれしかない。だがこんな方法でクリアしても、後がつらいぞ?」

 

ラルがロスマンに問うが、ロスマンは上を見上げて言った。

 

「あの子のあきらめが悪すぎるんです」

「そうか。不肖の弟子か」

 

そうしてひかりは着実に登っていく。

しかし、天はさらなる課題を与えた。曇っていた天気は悪化し、ついには雨を降らした。

 

(寒くて手の感覚が無くなってきた…)

 

ひかりは自分の手の感覚が薄れていくのを感じる。その時、さらなる出来事が起きた。基地全体に警報が鳴り響いたのだ。

 

『東方から急速に接近してくる中型ネウロイを確認。総員緊急出撃!』

 

基地全体に放送が流れる。間違いなくネウロイの出現だった。

 

「急ぐぞ!」

 

シュミットは走って格納庫に行き、ユニットを履く。管野やロスマンもユニットを履くが、ニパはひとつ心残りがあった。

 

「一緒に出たかった…」

 

ニパはひかりと一緒に出撃したいと思っていたが、それは叶わなかった。そして三人は離陸をするが、離陸をしてすぐ、管野は何かを思い出したかのように言った。

 

「ちょっと忘れ物した」

「お、おい管野?」

「行かせてやれ」

 

そう言って戦列から離れる管野。ニパはその行動に驚くが、シュミットは察したのかそのまま行かせた。

そして暫くシュミット達はネウロイの出撃地点に向かっている時、後ろから管野が追い付いた。

 

「もういいのか?」

「ああ…」

 

シュミットが管野に聞くと、管野は返事を返した。心なしか、その声には喜びを感じ取れた。その様子から、どうなったのかを理解した。

そしてついにシュミット達はネウロイを発見した。

 

「ネウロイ発見!」

「管野一番、出る!」

 

管野が威勢よく言い先行していく。それに続くようにシュミット達もついていく。

 

「前衛は攻撃、中尉達は援護を!」

「了解!」

「任せろ!」

 

サーシャの指示に従いシュミットはクルピンスキーと共に前衛の援護をする。管野は上昇をした後、急降下を開始。そして高速で急降下しながらネウロイに向けて銃弾を放ち、そしてネウロイの前方を通過する形で急降下をしていく。

シュミットは一連の動きを見て、管野のたぐいまれなる才能を見る。

 

(なるほど、危険な分もあるが確かに有効な戦術だ)

 

と、飛行しながら分析をする。

そんな管野に、ニパが注意をする。

 

「先行しすぎだよ!」

 

注意をしながらも、ニパは攻撃を続ける。

シュミットはネウロイのコアがあるであろう地点を予測して引き金を引く。しかし、ネウロイは未だに破片に変わらない。

その時だった。

 

「あれ?ひかりだ!?」

 

二パは戦闘中、基地の方角から飛んでくる二つの影に気づく。一つはロスマンであり、もう一つはなんとひかりだった。

 

「ふん、おせえんだよ!」

「だが、よく来た」

 

管野がそう言うが、その言葉はどこか嬉しそうだった。そしてシュミットも、ひかりの登場に同じように言った。

ひかりと共に飛ぶロスマンは指示をする。

 

「ひかりさん、貴方はお姉さんにはなれないわ」

「えっ?」

 

突然の言葉にひかりは困惑する。しかしロスマンは続けて言う。

 

「攻撃を避け続けて、弾が当たる距離まで接近するのよ。貴方はあなたになりなさい!」

「は、はい!」

 

ロスマンの言葉にひかりは納得し、そして大きく返事をする。

そしてひかりはネウロイに向けて飛行する。無論ネウロイも攻撃を仕掛けるが、ひかりはその攻撃を堅実に、そしてしっかりと回避をし、そしてネウロイに接近していく。

 

「前の雁淵とは比べ物にならないほど動きが良くなっている…!」

「紫電改がしっかり回ってる。力をユニットに集中させてるんだ!」

「あの訓練のおかげ?流石ロスマン先生!」

 

シュミットは以前のひかりとは全然違う飛行に純粋に驚き、管野とニパはその指導をしたロスマンを称賛していた。

そしてひかりはネウロイに急接近をし、引き金を引く。弾丸は着実にネウロイに向けて飛来をし、その装甲を削る。

しかしひかりは前面に気を取られ、後ろに迫るネウロイの尾翼に激突する。

衝撃によってはじき出されるひかりだが、ここで彼女は変化を感じた。

 

「コアが…見えた!」

 

ひかりの目には、ネウロイのコアの位置が見えた。そしてひかりはその位置に向けて機関銃を向ける。

周りのみんなはひかりがコアを見つけたのを知り、一斉にひかりが撃っている位置に向けて引き金を引く。

シュミットもMG42をネウロイに向けて放っているその時、再びあの光景が見えた。そう、ゼロの領域だった。その景色は、ネウロイが次に避ける先がまるで光のレールのように映っていた。

 

「っ!ネウロイが右に急旋回をするぞ!」

「えっ!?」

 

突然のシュミットの言葉に周りは驚くが、その発言通りネウロイは右に急旋回を行った。

その景色が既に見えていたシュミットはすぐさまネウロイの進路方向に先回りをし、そしてネウロイのコアがあるであろう位置に向けて弾丸を放った。それに釣られるように他のメンバーも弾丸を放つ。

そしてついにネウロイはコアを破壊され、その姿を破片に変えた。

戦闘が終了し、全員が集まる。

 

「ひかり凄い!」

「ビギナーズラックってやつか…」

 

ニパと管野がそう言う横で、ロスマンはシュミットに詰め寄る。

 

「あなた、また領域に入ったわね!」

「その話は後に。それよりも雁淵」

「えっ、はい」

「お前、コアが見えたのか?」

 

詰め寄るロスマンの言葉を遮り、シュミットはひかりに聞いた。

 

「はい、見えました。前と同じでぶつかった時に見えたんです!」

(…ぶつかった時)

 

ひかりの言葉を聞いて、ロスマンは先ほどのシュミットへの言葉を端に置き考える。

そして基地に帰投した後、ひかりはロスマンに連れられ部隊長室に来た。そしてロスマンは今回の戦闘で起きた現象をラルに話した。

 

「…確かなのか?」

「ええ。どうやら接触することでコアが見えるようです」

「噂に聞いたことがある」

 

ロスマンの説明を聞いてラルも過去に聞いたことを思い出す。

 

「雁淵ひかり、お前には『接触魔眼』の固有魔法があるようだ」

「接触魔眼!?」

「だが絶対に使うな」

 

ひかりは自分に固有魔法があると聞いて嬉しくなるが、ラルが釘を刺す。

 

「え、何でですか?魔眼があれば――」

「無駄に命を捨てるな!」

 

ひかりは何故と聞くが、ラルの覇気のある言葉に口を止める。

 

「何のために孝美は()()()を使ったと思っているんだ」

()()()?」

「『絶対魔眼』だ。聞いてないのか?」

 

ひかりは初めて聞く単語にただ聞くしかできなかった。

 

「心配掛けたく無かったのね…」

 

その様子にロスマンはそう解釈した。

 

「リバウの戦いで聞いた話だが、通常の魔眼では捉えらえない特異型や、複数のネウロイのコアを一瞬で特定できる必殺の技だ」

「ただし肉体と精神の負担が大きく、シールドの能力も著しく低下するから、援護無しでは自殺行為に等しいわ」

「お姉ちゃん…あの時そうだったんだ…」

 

ひかりは姉があの時に行っていた行動の正体とその真意を知り、瞳を揺らす。

 

「いいか、接触魔眼は禁止だ。いいな?」

「…わかりました」

 

ラルは念を押すように言い、ひかりはそれに返事をした。

そうして、ひかりはようやく502の一員として、戦うようになったのだった。




意外と洞察力のあるシュミット君。そして言われてもゼロの領域を使ってしまうシュミット君。意外と問題児?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十四話「オラーシャ料理と部屋の秘密」

気が付くとお気に入り数が300人超えていました。皆様に感謝厚く申し上げます。今年度中はこれが最後になるかもしれませんね。それでは四十四話です。どうぞ!
※文章をすこし変更しました。


シュミットは現在、夜中にもかかわらず基地の外でペテルブルクの街を見ていた。無論、眠気が無いわけでもないのだが、どうしても眠れそうな気分ではなかった。

 

「ペテルブルク…いや、レニングラードだったな前は…」

 

シュミットは座りながらそう呟く。彼の居た世界ではこの街は名前の方に印象があった街であり、ドイツ軍が包囲した街でもあった。尤も、シュミットがこの世界に来る前の間際には既に街は解放されてしまっていたが。

そしてしばらく黙ったまま街を眺めていたシュミットだったが、ふと後ろから気配を感じて口を開く。

 

「…昨日のお返しですか?ロスマン先生」

 

そう言って振り返ると、ロスマンはシュミットを見ながら黙っていた。

 

「今日の戦闘のことですか?」

「忠告したはずです。ゼロの領域には入るなと。何故それを聞かないのです?」

 

ロスマンはシュミットに問う。

 

「守りたい人がいるからです」

「え?」

 

突然、シュミットから思いもよらない返答が来てロスマンは驚く。

 

「今は離れ離れだけど、守りたい人がいる。その人の為に、私はネウロイからオラーシャを解放するために強くなる。それが答えじゃ納得できませんか?」

 

今度はシュミットがロスマンに聞く。

 

「ですが、今のままではあなたは死んでしまいます」

「そのために、今は段階的に慣らしていこうと思います。それに…」

 

そう言って、基地の方向に歩き始めるシュミット。しかし歩いてる途中で立ち止まる。

 

「自分を愛してくれる人を置いて死ぬつもりなど、端からありませんから」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

ひかりが502に来てから数週間がたった朝、基地を歩いているシュミットはふと鼻に触れるいい匂いを感じる。

 

「いい香りだ…」

 

そう言いながらシュミットがキッチンに足を運ぶと、エプロンを付けている下原とその横で味見をしているジョゼが居た。

 

「おはよう。いい香りだな」

「シュミットさんおはようございます。ジョゼ、今日のつまみ食いそれで五杯目だよ?」

 

下原はシュミットに挨拶をしながら、ジョゼに少し注意をする形で言う。しかしジョゼはその言葉に反論する。

 

「違うよ定ちゃん。これはつまみ食いじゃなくて味見」

「はいはい」

 

と、ジョゼに言われて下原も解っているという返事をする。二人の日常的な会話を聞きながらシュミットは「五杯って味見なのか…」と、自分の中での味見と照らし合わせながらそれでいいのかと考えていた。

その時、ジョゼの肩を後ろから触れる手が伸びる。

 

「ジョゼちゃん。僕にも君を味見させてほしいな?」

「おい、ニセ伯爵…」

 

と、後ろから掴んだのはクルピンスキーだった。シュミットはそんなクルピンスキーの言動に呆れたように言う。因みに、日ごろのクルピンスキーの行動を見てからシュミットもロスマンと同じように「ニセ伯爵」と呼ぶようになっていた。

そんなクルピンスキーの目の前に一つのスープ皿が現れる。

 

「どうぞ。しっかり味見してください」

 

と言って下原がクルピンスキーに鍋のスープを入れたお皿を出す。

 

「そりゃないよ~下原ちゃん」

 

そう言いながらも受け取るクルピンスキー。

 

「シュミットさんも要りますか?」

「いや、朝食のお楽しみにさせてもらうからいいよ」

 

下原はシュミットにも味見をするか聞くが、シュミットは美味しそうな香りのするスープを朝食のお楽しみにすることにした。

 

「おはようございまーす!」

 

と、シュミット達の後ろから声がする。振り返ってみると、ひかりが元気よく挨拶をしていた。

 

「おはよう雁淵」

「おはようひかりちゃん」

「おはようございます」

 

三人はそれぞれ挨拶をする。

 

「あの、私ちょっと用事が…」

「えっ、ジョゼさん…!」

 

しかしジョゼはひかりの姿を見た瞬間、その場から逃げるように出ていってしまう。ひかりが呼び止めるがジョゼはそのまま歩いて行ってしまう。

ひかりは今の光景を見て、ジョゼに自分が好かれていないと感じた。

 

「私、嫌われてるのかな…?」

「違うんです!ジョゼは…」

「とっても照れ屋さんなのさ」

 

下原が何かを言おうとするが、すぐさまクルピンスキーが言う。

 

「この僕の思いにも答えてくれないもんねー」

「逆に答えたら驚きだ…」

 

シュミットはクルピンスキーがまともな答えを言うと期待したために、尚更がっかりしながら言った。

そして朝食が始まる時ウィッチ達が席に着くがただ一つ、ジョゼの席だけは空席になっていた。そこには食器が置いてあるため、既に朝食を取ったという証拠が残っていた。

 

(ジョゼさん…一人で先に済ませてる)

 

ひかりはジョゼに何か言おうと思っていたが、既に居ないことに少しがっかりとしていた。

 

「このカーシャ美味しい」

「スープもうめえ!」

 

ニパと管野が朝食の味に舌鼓を打つ。下原が朝食のカーシャにはソバの実を使っていると説明をする。

 

「オラーシャではシチーって言うのよ。シチーとカーシャ、日々の糧。オラーシャの代表的な家庭料理です」

 

朝食に出ているシチーとカーシャについて、サーシャが説明を加える。ラルはその説明を聞きながら黙々とスープを口に運んでいる。

 

「下原さんって、オラーシャ料理も上手なんですね!」

「喜んでもらえてうれしいです」

 

ひかりは扶桑の料理だけでなくオラーシャの料理も作れる下原に感激をし、下原もその言葉を嬉しそうに受け取る。

 

「下原ちゃんの料理の腕前は最高だよ」

「オラーシャ料理もいいけど、扶桑料理も繊細よね」

 

クルピンスキーとロスマンも同じように賛同する。

 

「…ロシア料理を舐めていたな」

 

と、シュミットは自分の思っていたロシア料理について全く違うものを感じ、そしてその味に感激をしていた。

しかし、そんなシュミットの言葉をふと耳にした人物がいた。

 

「ロシア料理?」

 

クルピンスキーがシュミットの言った単語が気になり何気なく聞く。クルピンスキーはシュミットが異世界から来たことを知らないため疑問に思ったのだ。その言葉に、他のウィッチ達も気づきシュミットを見た。

 

「いや、オラーシャ料理だった。すまんすまん」

「もう。シュミットさん、驚かさないでください」

 

シュミットはごまかすように言う。事情を知るサーシャは注意と言う名のフォローをしたため、他のみんなもそれ以上聞く様子も無かった。

ふと、ロスマンがひかりに聞く。

 

「それよりも、ひかりさんは何か作れるの?」

「お姉ちゃんの作る海軍カレーが好きです!」

「そんなこと聞いてんじゃねーよ!」

 

ひかりは自分が作れる料理ではなく自分が好きな料理を言ったため管野が間髪入れずにツッコむ。そんなコントを繰り広げたため、食卓には笑いが出る。そんな中、下原が何かを考えるように手元を見ているのをシュミットは気づく。

 

(…何か悩み事か)

 

と、シュミットは引っかかる様子だったが聞くことなく、そのまま朝食は終了した。

その後ひかりは朝食を食べ終わった後、自分の部屋に戻り、そして驚く。部屋がいつの間にかピカピカに整理されているのだ。

 

「また綺麗になってる…。一体誰が…?」

 

と、誰が部屋を綺麗にしたか気になっているとき、外の方でバタンと言う音が聞こえる。ひかりはそれに気づき音のした方向に行くと、別の部屋の中にいるある人物に気づく。

 

「…ジョゼさん?」

「雁淵さん…」

 

部屋の中に居たのはなんとジョゼだった。ジョゼは両手にモップと水バケツを持ち、頭に三角巾を巻いていた。

 

「いつも部屋を掃除してくれてたのってジョゼさんだったんですね!」

「あの、私実家がペンションをやってるの。だから、皆の部屋のベッドメイキングなら出来るかなって…」

「そうだったんですか!どうもありがとうございます!」

 

ひかりはジョゼが部屋を綺麗にしてくれていたと知り感謝の礼をする。しかしジョゼは何か負い目を感じている表情をしていた。

そしてひかりは部屋を見渡す。そしてあるものに目が行く。

 

「手紙?」

 

ひかりは机の上に置かれている手紙のようなものに目が行く。よく見るとその横にはペンが置かれており、部屋の主が書いているものだと推測できる。

そしてひかりは手紙の内容を見る。ジョゼもその手紙が気になったらしく、近づいていく。

 

「親愛なるサーニャへ…サーニャ?」

「サーニャは私の恋人の名前だ」

 

ひかりが最初の名前に気になり誰かと想像するが、部屋の入り口から声がして振り返る。振り返るとそこにはシュミットが立っていた。

 

「シュミットさん…てことはこの部屋って…」

「私の部屋だ」

 

ひかりがもしかしてと思い聞くと、シュミットが歩きながら返答をする。そしてひかりの持っている手紙を取る。

 

「他人の部屋に入って、そんでもって手紙を見るのは流石にいただけないな…ジョゼはどうやら掃除に来ていたようだが」

「ご、ごめんなさい!」

「別に怒ってなんかいないさ。ただ、些細な事でも不愉快になることはあると注意しただけだ。それに、出しっぱなしにしていた私の不注意もあるわけだからな」

 

そう言って、シュミットは手紙と机の上にあったペンを片づけ始める。そして同時に机の上に出ていた他の道具も片づける。ひかりはそんなシュミットを見ながら、先ほど言っていた単語を思い出し質問をした。

 

「あの!シュミットさんって恋人いたんですか!?」

「ん?」

 

ひかりからの突然の質問にシュミットは片づけをしながら返事をする。そして質問をされて少し恥ずかしくなり、顔を赤くする。

 

「あぁ。その、なんだ…いる」

 

シュミットは元々そういうことを言いふらすことは基本的に無く、502に来てから自分に恋人がいると言ったのはサーシャとロスマンだけである。その言葉を聞きジョゼとひかりは驚いた。

 

「シュミットさん、恋人いたんですね」

「てっきりいないと思ってました!」

「いなっ…いっつ!」

 

意外という言葉にシュミットは予想だにしていなかったのか思わず動揺する。そしてその動揺で手元が狂い、持っていたハサミで思わず自分の左手を大きく切ってしまった。

 

「あっ、シュミットさん!」

「あ!待って!」

 

ひかりが血が出る手を見て驚くが、ジョゼがすかさず止める。

 

「シュミットさん、手を出してください。今治癒を掛けます」

「すまないジョゼ、頼む」

 

シュミットは切っ左手を出すと、ジョゼが両手のモップとバケツを下ろし血が出ているシュミットの手に自分の両手をかざす。

そしてジョゼが治癒魔法をかける。するとたちまち、手に出来た切り傷は塞がっていき、ついには無くなる。

 

「これで大丈夫です」

「ありがとうジョゼ。おかげで助かった」

「ふぅ~…」

 

ジョゼは治癒を終えると頭に手をかざす。ひかりはジョゼの顔が赤くなっているのに気づき話しかける。

 

「ジョゼさん、顔赤いですよ?」

「治癒魔法を使うと、体が少し熱くなるだけ。そ、それじゃあ…」

 

そう言ってジョゼは部屋を出ていく。そして残されたひかりだが、

 

「んで、雁淵はいつまで居るのかな?」

「あっ!すみません、失礼します!」

 

と、シュミットに言われて気づき慌てて部屋を出ていくのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「現在ネウロイの進行はラドガ湖の北方で止まっていますが、湖の凍結が始まると一気に南下、つまりこちらへ進出して来ると予想されます」

 

その後、ウィッチ達全員はブリーフィングルームに集まった。そして現在ロスマンがグリゴーリからのネウロイの進出状況について説明をしていた。

 

「凍結って12月の頭だっけ?」

「あと一ヶ月足らずですね」

「ですので、次の補給を待って新たな防衛網を構築する必要があります」

 

クルピンスキーとサーシャの予想に、ロスマンが次の計画を説明する。

 

「今日の定時偵察、当番は誰ですか?」

 

ロスマンが聞くと、下原とジョゼが手を挙げる。今日の定時偵察は二人が当番だった。

そしてロスマンは指し棒を地図に向けて説明をする。

 

「偵察範囲をラドガ湖北東、ペトロザヴォ―ツク周辺まで広げます。気づいたことがあったらすべて報告してください」

『了解』

 

ロスマンに言われて下原とジョゼは返事をする。

そしてロスマンは今度はひかりの方向を見る。

 

「ひかりさんも同行しなさい。遠乗りの訓練にいい機会だわ」

「はい!」

 

ロスマンはひかりに経験を積ませようと、今回の出撃に同行するように指名し、ひかりは返事をした。

 

「よろしくお願いします!」

「こちらこそ」

「よ、よろしく…」

 

ひかりが下原とジョゼによろしくと言う。しかし、下原は普通に返事をする中ジョゼはまた少し下を向きながら返事をした。

 

(ジョゼのやつ…何か雁淵に引け目を感じて避けている?もしや…)

 

と、シュミットはそんなジョゼの姿を見ながら考えているのだった。

そして、偵察に行った三人はこの日、帰ってくることはなかった。




シュミット君が恋人持ちなことが段々広がっていく。というより、シュミット意外とうっかり者ですかね?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十五話「極寒の死闘」

なんとか書けた…これが正真正銘の今年最後の話です。
それでは四十五話です。どうぞ!


現在シュミット達は格納庫で出撃準備を整えていた。無論、彼らは偵察に向かった三人の捜索のためである。

そして彼らはユニットを履き終え、命令が出るまで待機をしていた。

 

「連絡が途絶えてもう二時間…」

「はぁ、僕のかわいい子猫ちゃん達無事かな~…」

 

ロスマンは純粋に気に掛ける形、クルピンスキーは平常運転と言えることを言う。

 

「たく、あいつら世話かけやがって…めんどくせえな…ああめんどくせえ!」

 

管野は消えた三人の捜索など面倒だと口で言う。

 

「一番先にユニット履いたくせに…」

「う、うるさい!」

 

しかしニパが鋭いツッコミを言い、管野もその事実を隠そうとニパに怒鳴る。何を隠そう、真っ先に格納庫に行きユニットを履いたのは管野だったのだ。

その時、格納庫の入り口にサーシャが現れる。

 

「三人の捜索は中止です!」

「中止!?なんでだよ!」

 

サーシャの中止発言に管野は納得いかない様子で言う。しかし、サーシャは次に格納庫の扉を開くと、その現実をまざまざを突き付けられる。

格納庫の出口から先、目の前に広がっていたのは真っ白な世界だった。外はブリザードによる猛吹雪が広がっており、完全にホワイトアウトしていた。

 

「この視界の中では出るのは無理ね」

「むしろこっちが遭難しかねない場合もあるぞ」

 

ロスマンとシュミットは冷静に状況分析をする。

 

「全員、別命あるまで待機してください。以上!」

「くそっ!」

 

そしてサーシャが全員に待機命令を送る。その命令に納得ができない様子で、管野はユニットの固定台を拳で叩いたのだった。管野だけでなく、他の隊員も出撃できないことに少なからず不満を持ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「…あったかい?」

 

ひかりは体に感じる温かさで目を覚ました。そして、視界に映る人影を見る。

 

「ジョゼ…さん?」

「雁淵さん!よかった…」

「ジョゼ、これ以上はあなたのほうが危ないわ」

 

ジョゼは治癒を掛けながらひかりが目覚めたのを見て安堵の声を漏らす。そして下原はジョゼの体を気遣い治癒を止めるように言い、ジョゼは治癒を止めた。

ひかりは二人を見て、いつもと違うのに気づく。

 

「あの…二人ともその恰好?」

 

そう、二人の格好は上着を脱いだ下着の姿である。

そしてひかりは体を起こし、自分も同じような格好になっていることに驚く。

 

「えっ、私も!?」

「服を脱いでお互いの体温を直接伝えあってたの」

 

ひかりが驚く横でジョゼが訳を説明した。

 

「ジョゼが一晩中、治癒魔法の発熱で温めていたのよ」

「すみません。私が皆さんの言うことを聞かずに無茶したから…」

 

下原が付け加えるように説明をするが、ひかりは自分の失態を二人に謝る。

そもそもの原因は、偵察中に起きた出来事にあった。ペトロザヴォ―ツクへの偵察を行った三人であるが、そこに広がっていたのは凍り付く街だった。そしてその原因は上空にいたネウロイであり、なんとそのネウロイは冷気を周辺に広げていたのだ。ネウロイを倒すために迎撃に向かった三人であるが、逆にネウロイの冷気の返り討ちに遭ってしまい、武器とユニットが凍り付いてしまう。そしてその冷気をまともに食らってしまったひかりの治癒の為に、ジョゼと下原の二人は即席で雪の釜倉を掘り、ひかりの治癒を始めた。

そして今に至るのだ。

 

「ううん、謝らなければいけないのは私…」

 

しかし、ひかりの言葉をジョゼは否定し下を向く。その言葉にひかりはどうしてと驚く。

 

「ずっとあなたを見るのが辛かったの…孝美さんを治せなかったから」

「ジョゼさん…」

「最初に謝ればよかったのに、その勇気も無くて、あなたから逃げてたの」

 

そしてジョゼはひかりに頭を下げる。

 

「これであなたに許してもらおうなんて思ってないど、ごめんなさい」

 

そんな行動にひかりは両手を前で振って否定する。

 

「いえ、ジョゼさんが居たからお姉ちゃんは命をとりとめたんです!私の方こそ本当に感謝しています」

「雁淵さん…」

 

そう言って今度はひかりが頭を下げた。そんな姿にジョゼも少し微笑みが戻った。

 

「フフ。これで二人共、仲良しさんですね」

 

そしてそんな姿を見た下原が二人を抱き寄せる。こうして、互いの誤解が解け、ようやく仲良しとなれたわけだ。

そして下原は上着を着てから釜倉の外に出る。外の様子を見るのと同時に、周辺を散策するためだ。

そして暫くしてから下原が返ってくる。その手には機関銃を持っていたが、その先は曲がっていた。

 

「銃を見つけたけど…」

「銃身が」

「これじゃあ撃てませんね…」

 

三人は銃を見て戦えないと判断する。

 

「ネウロイは?」

「この近くには居ないみたい」

 

それを聞き、ひかりは思いつく。

 

「基地の方へ向かったんじゃ…早く知らせないと!」

「でも無線は通じないし、この吹雪の中じゃ動けないわ」

 

ひかりの意見はジョゼの言葉で断念せざるを得なくなる。

 

「とにかくみんなで生き延びて、ネウロイのことを基地に伝えるんです。それと、近くに面白いものを見つけたんで、そこへ移りましょう」

 

そして三人は外へ出て移動を開始する。そして少し歩いた先に、それはあった。

 

「戦車?」

「ネウロイとの戦いで壊れたのね」

 

そこにあったのは壊れたオラーシャの戦車だった。吹雪の中に横たわるその巨体は吹雪をもろともせずに佇んでいた。

そして三人は戦車の中に入る。先ほどの釜倉に比べたらマシではあるが、それでもまだ寒い。

 

「でも、やっぱり寒いね」

「あっ、さっき取ってきたやつが」

 

下原はポケットを探ると、その中から木の樹皮を取り出した。

 

「白樺の樹皮です。脂を含んでいるから湿っていても燃えやすいんですよ」

「へー!」

 

下原の説明にひかりは初めて知ったことに下原の知識の豊富さに舌を巻く。

そして下原は手際よく火種を作り、それを樹皮に付けて火を焚く。

 

「下原さんって、火まで起こせるんですね」

「父が学者で、いつも一緒に野山に入っていたから、色々教わったんです」

「へぇー」

 

その時、戦車内に「ぐぅ~」という音が鳴る。音源はジョゼであり、その音が周りにも聞こえてしまった恥ずかしさからジョゼは顔を赤くする。

 

「そういえば、昨日から何も食べてませんね」

「そうだ!ビスケット持ってたんだ。皆で食べよう!」

 

そう言って、ジョゼはポケットからビスケットを取り出す。ビスケットは三個残っており、ちょうど三人で分けることができた。

 

「いいんですか!?」

「うん、勿論!」

 

その頃、基地では。

 

「な、なにこれ…?」

 

ロスマンが目の前にある()()を見てそう呟く。それを見てサーシャが分析する。

 

「スープですね…たぶん」

 

サーシャがスープだろうと見た物体であるが、何故か色は禍々しく紫。これを食べ物と見るのは無理だろう。

そしてロスマンが勇気を出してそのスープを一口含み――そして固まった。

 

「うっ!!?」

「!!」

 

全員が固まるロスマンを見て、その味を戦慄した。その時、台所からクルピンスキーが出てくる。

 

「どう、美味しいでしょう?先生ご自慢の食材で、僕が愛情込めて作ったんだよ」

「何ですって!?」

 

なんと、このスープの作者はクルピンスキーであった。そしてロスマンはクルピンスキーの言葉を聞き急いで台所に行く。そしてそこにあるものを見て悲鳴を上げた。

 

「いやーーーー!!私が一年かけて集めた貴重なオラーシャキャビアが…」

 

そしてあろうことか、クルピンスキーはそのスープの材料にロスマンの集めたオラーシャのキャビアをふんだんに使ったようだ。

 

「おのれニセ伯爵!!」

 

そして台所にクルピンスキーの悲鳴が響く中、他の隊員達もスープを口に運ぶ。

 

「うっ、なにこれ…」

「やっぱり下原じゃないとダメだ…!」

 

しかしそれを食べてニパはスープの酷い味に口を押える。そして管野は下原が居ないという状況の拙さを感じる。サーシャに至ってはその味を感想することができずに口を押えたままである。

そんな中、ラルとシュミットは特に反応をせずにスープを飲んでいる。

 

『…』

「さ、流石隊長とシュミットさん。こんな時でも冷静ですね」

 

サーシャは二人の行動を見て言う。

しかし、実態は違った。ラルはスプーンを持つ手を止め、短く一言。

 

「…不味い」

 

そして同じく無反応のシュミットだったが、突然彼の手は空中で止まる。

この時シュミットは後悔していた。クルピンスキーが作ると言っていたので、自分が出る幕でないと思ったことに。

 

「…これなら私が作るべきだった」

 

そう言って手に持っていたスプーンを離し、そして落とす。そしてそのままシュミットは椅子から横に倒れたのだった。

 

「シュミットさん!?」

 

その光景を見てサーシャが声を上げる。

この日彼らは、502に下原が居ないとどうなるかというのをよく知ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、ひかり達は戦車から出た。既に外は晴れており、吹雪がやんだという証拠だった。

 

「ペテルブルクの方は真っ暗、猛吹雪に包まれているみたいね」

「この辺りの吹雪がやんだってことは…」

「ネウロイが移動したのね」

 

下原の固有魔法の一つである遠距離視により、ペテルブルクでの吹雪を観測される。そしてそれは、この辺一帯のネウロイが移動したことを意味していた。

 

「じゃあきっと、基地の皆さんが気付いて出撃してますよ!」

「それはどうでしょう…」

「えっ?」

 

ひかりが希望的予測をするが、下原はそれを否定した。

 

「ネウロイは雲に隠れてて基地からは見えないし、レーダーにも映っていないかもしれない…」

「それに、あの猛吹雪じゃ飛べないはず…と、考えるとネウロイのことを知っているのは多分私達だけ」

 

ジョゼと下原の分析により、現状を知るのはこの三人だけという結論に至った。

 

「じゃあ三人で倒しましょう!」

「でも、近づいたらまたあの冷気で凍っちゃう」

 

ひかりはならばこの三人で倒そうと提案をするが、武器も無く、ユニットを凍らせて来るネウロイの存在に対してなす術が無い。

 

「ウィッチに不可能は無い…」

「えっ?」

 

突然下原が言ったことに二人は何を言ったのかと思い反応した。

 

「私の上官の口癖です…そうですね。やってみましょう!」

 

そして、三人は準備を開始した。三人はそれぞれ、ユニットを温め解凍する。そして同時に、ユニットが凍るのを遅らせるために周りにテープを巻く。そして下原の提案で、ガラスの熱割れの原理を利用したネウロイ攻撃作戦を考える。そしてその材料に戦車の燃料を使い、その攻撃により露出したコアを、周囲に自生する木で作成した弓矢で攻撃をする。

こうして、即席ではあるがネウロイ攻撃の準備は整った。

 

「じゃあ、行きましょう!」

『了解!』

 

こうして、三人は離陸を開始した。そしてそのままネウロイの方向へ向かう。

その途中、下原は衝撃の光景を見た。

 

「見てください!ラドガ湖が!」

「カチカチだ…」

 

なんと、まだ凍らないと予想されていたラドガ湖が既に凍っていたのだ。無論この原因は今回出現したネウロイによるものである。

そして三人はそのままネウロイの居るであろう雲に突入した。

 

「さ、寒い…!」

「定ちゃん、急がないと!」

 

ひかりは雲の中の寒さに体を震わす。そしてジョゼは既に凍り始めているユニットを見て下原に注意をする。

そしてついに三人はネウロイの位置に到着した。

 

「攻撃開始!」

『えいっ!』

 

下原は合図を送ると背中の矢筒から矢を一本取り出し、それを弓で弾き絞る。その間に、ひかりとジョゼは戦車の中にあった薬莢に入れた即席の燃焼材を、ネウロイの上に思い切り投げる。そしてその燃焼材はネウロイ周辺に広がった。

 

「燃えて!」

 

そして下原がその燃焼材に向けて矢を放つ。矢はそのままネウロイに向かっていき、ついに着弾。そしてその先に仕組まれた火薬が爆発すると、周りの燃焼材に誘爆。瞬く間にネウロイは火だるまになり、その表面を大きく削った。そしてついにコアが露出する。

 

「あっ、あそこにコアが!」

「ええ!」

 

ジョゼの指示で下原が弓を引き絞り、そしてコアに狙いを定める。しかし、ユニットが凍ってしまい突如魔道エンジンの回転数が停止、そして下原はバランスを崩してしまい、矢はコアとは別の方向へ向かってしまった。

 

「そんな!もう凍り始めてる!」

「私が下原さんを支えます!ジョゼさんはユニットを温めてください!」

 

ひかりが下原のユニットを支える。しかし、ジョゼは困った様子で言う。

 

「ダメ!誰かが怪我してないと、治癒魔法が使えないの!」

「えっ!?だったら…!」

 

突如、ひかりは下原のユニットに頭を思い切り叩きつけた。その行動に見ていた二人は驚く。

 

「雁淵さん!?」

「いって…これでいいですか?」

「う、うん!」

 

ひかりの突然の行動に困惑するが、自分の身を削ってまで戦うひかりをみて、ジョゼもすぐに治癒を開始した。そして、治癒魔法の熱はユニットに伝わっていき、少しずつであるが解凍をしていく。

 

「これでもう少しだけ飛べるわ!」

「ありがとう、二人共!」

 

下原は二人に感謝をし、そして最後の矢を引き絞る。そしてその矢をネウロイのコアに向けて放った。

 

「いっけぇ!」

 

下原の念は届き、矢はそのままネウロイのコアに直撃。そしてついに、コアを破壊されたネウロイはその姿を破片に変えた。

それと同時に、周辺の雲も晴れた。

 

「やったー!やりましたね!」

「やったね定ちゃん!」

 

ひかりとジョゼは下原の下によって来る。そんな二人の活躍に、下原も感謝の言葉を言う。

 

「ありがとう、二人共」

「さぁ、基地に帰ろう。お腹へっちゃった!」

「うん!」

 

こうして、溝の空いていた三人の関係は、この戦いを持ってその溝を埋めることができた。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「三人共無事で本当によかったわ」

「あのくらいの吹雪で死んでたら話になんねーぜ」

 

ロスマンが三人の無事にホッと肩をなでおろし、管野は三人が生きてて当然とばかりに言う。

 

「もう、素直じゃないな、直ちゃんは」

「ふん」

 

クルピンスキーの言葉に管野は腕を組みながらそっぽを向く。実際のところ、管野も三人のことを気にしていたのだった。

 

「それにしても、吹雪がネウロイの仕業だったなんて…」

「ラドガ湖を凍らせたんだ。随分知恵の持ったネウロイだったな」

「下原さんたち、今回は大手柄よ」

 

サーシャとシュミットは今回のネウロイについて考察をし、最後にロスマンが三人の功績を評価した。

丁度その時、キッチンから下原が食事をもってやって来た。

 

「いえ、任務ですから」

 

そう言う下原だが、そこには笑顔があった。そしてそれを見て、ひかりとジョゼは顔を見合わせて微笑む。

一連の流れを見て、シュミットは三人の変化に気づいた。

 

(なんにせよ、今回の出撃が三人の不安定な関係改善になったんだな)

 

そして、それぞれの前に食事が出てくる。

 

「美味しそー!」

「今日は扶桑料理にしてみました」

 

そして全員が下原の食事に手を付ける。

 

「…美味」

「やっぱり下原さんの料理は最高だね!」

「あら?この茶碗蒸し…」

 

それぞれが下原の作った扶桑料理を楽しむ中、ロスマンは茶碗蒸しの中に入っている材料に目がいった。

その説明を下原がした。

 

「はい。缶詰の底にキャビアが残っていたので使ってみました」

「キャビアの使い方、よくわかってるわね。どこかのニセ伯爵とは大違いだわ」

 

そう言ってロスマンは向かいに座るクルピンスキーをジト目で見る。

 

「キャビアなんて塩辛いだけで、どこがいいんだか」

「だから貴方はニセ伯爵なの!まだシュミットさんのほうが伯爵よ!」

「は、私!?」

 

クルピンスキーはまるで分らないといった様子で言うのでロスマンがツッコむが、その言葉にシュミットがまさか自分が言われると思わずに困惑した。その会話で食卓に笑いが出る。

サーシャはその光景を見ながらラルに話しかける。

 

「食事の力って、凄いんですね」

 

そしてラルは動かした口を止めて、一言。

 

「…美味い」

 




食事は兵士の士気に関わるってよくわかるね。というより、502は定ちゃんいなかったら完全に食事どうなっていたんだろうか…。それとシュミット君、肝油以来の気絶です。
誤字、脱字報告お待ちしております。来年もよろしくお願いします!それでは次回!


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第四十六話「成長するネウロイの攻撃」

あけましておめでとうございます。深山です。今年第一回の初投稿を行いたいと思います。
それでは第四十六話です。どうぞ!


「飛んでいる自分をイメージしてバランスを取りなさい!」

「はい先生!」

 

格納庫内、ひかりはロスマンからの指導を受けていた。ひかりが今乗っているのはドラム缶に板を載せただけの不安定な台である。そしてひかり自身も両手に水入りバケツを持っており、これでバランスをとっていた。そしてロスマンの横には手に収まるサイズの雪玉が山のように置かれていた。

 

「こら、待ちなさい!」

 

と、別のところから声が聞こえる。ひかりが気になり声のした方向を見る。

 

「あっ、ニパさん!」

「ごめんなさーい!」

「お待ちなさい!」

 

ひかりがニパを呼ぶと、二パはダッシュで走っていた。その後ろを、サーシャが追いかけていた。

ロスマンはその光景を横目で見ながら、ひかりがバランスを少し崩しているのを見て足元の雪玉を手に取る。

 

「バランス!」

 

それをひかりに向けて投げつける。ひかりはそれを体を動かして避ける。

その時、ひかりの前でニパがオイル缶を踏み転んでしまう。

 

「ニパさん!?」

「いてて、何でオイル缶が転がって…」

 

ニパは頭にたんこぶを作りながらオイル缶を睨む。

その時、二パの後ろにサーシャが近づいていく。

 

「ニパさん」

「さ、サーシャさん…」

 

後ろから怒鳴り声でもないのに形容しがたい恐怖を感じ、ニパは冷や汗を流しながら振り返る。振り返ると、腰に両手を置きニパを見下ろすサーシャがいた。

そしてきつーい一言をニパに下した。

 

「正座!」

 

そしてニパは自分のユニットの前に正座させられる。ニパのユニットは破損しており、少し汚れていた。

サーシャはユニットを見て溜息を吐く。

 

「またユニットをこんなにして」

「ニパさん頭大丈夫ですか?」

 

ひかりは器用に雪玉をよけながらニパの頭に出来たたんこぶが気になり容体を聞く。

 

「あぁ、平気平気。私の固有魔法は『超回復』でね。他人は直せないけど…」

 

そう言ってニパは固有魔法を発動させる。すると、頭に出来ていたたんこぶは見る見るうちに引っ込み、ついに消滅した。

 

「ほら、この通り」

「凄い!墜落し放題でげふっ!」

 

ひかりはニパに視線が行き過ぎてしまい、正面から来ていた雪玉を顔面に食らう。

 

「しっかりよけなさい。ネウロイの攻撃はこんなものじゃないわよ」

「はい、先せばふっ!」

 

ロスマンに注意されひかりは返事をするが、再び顔面に雪玉を食らうのであった。

 

「墜落し放題って…」

「はぁ…」

 

二パはそんな光の言葉に苦笑いをし、サーシャは溜息を再び吐く。そしてサーシャはニパのユニットを見る。

 

「えっと、今回の破損個所は…」

 

そう言って彼女は目を瞑る。そしてホッキョクグマの耳を出し魔法を使い始める。

そして暫く黙った後、口を開く。

 

「…ありました。これなら私だけでも十分直せますね」

「さすがサーシャさん!これならまた落ちても…」

「また?」

 

サーシャはニパの発言を聞き睨む。その反応と声にニパはビクリとする。

 

「あ、安全第一で…」

「サーシャさんって見ただけでユニットの直し方が分かるんですか?」

 

ひかりはその光景を見てふと疑問に思う。その答えはひかりの元に歩み寄ってきたロスマンがした。

 

「彼女の固有魔法は『映像記憶能力』。難解な技術書から、十年前の朝食のメニューと言った些細なことまで、魔法力で記憶した物をすべて頭に入っているのよ」

「凄ーい!」

 

ロスマンの説明を聞いてひかりは凄い能力だと声を出す。しかしロスマンはそんなサーシャを見る。

 

「サーシャさん。戦闘隊長であるあなたの力は、出来れば修理以外で活用してほしいものね」

「すみません…」

 

ロスマンの言葉にサーシャは謝る。ロスマンとしては、その力を別のところに使用してもらいたいのであるが、如何せんここは502、ユニットの破損率の高さからその力はこのように使われてしまっていた。

そしてひかりとロスマンは訓練を終えて格納庫を出て行き、残ったのは正座させられているニパと、そのニパのユニットを直しているサーシャだけになった。

と、そこに新たな来客が現れる。

 

「…サーシャさんまたユニット修理ですか?」

 

格納庫内に入ってきたのはシュミットだった。彼はユニットを直しているサーシャを見る。そしてその後ろに正座をさせられているニパを見て納得したような表情をした。

 

「なるほど、ニパのユニットか」

「ええ。だからニパさんには反省として正座をさせているんです」

「落ちたくて落ちているわけじゃないのに…」

 

サーシャの言葉にニパは自分は落ちたいわけではないのにと言う。

その時だった。ユニットを直しているとき、格納庫内に警報が鳴りだす。

 

『北東部監視所がネウロイの攻撃を受けた。出られる者は全員出動せよ』

 

基地内にラルの言葉が流れる。それを聞き全員がハッとする。

 

「行かなきゃ!」

「ニパさんは留守番です」

「えっ!?」

 

二パがすぐに行こうとするが、サーシャに止められる。

 

「ニパ、そのユニットでどう出撃するんだ?」

「まだ修理が終わってないですから」

「え~、そんなー!」

 

二人に現実を突きつけられニパはショックを受けるのだった。

そしてシュミット達はユニットを履きすぐさまネウロイの攻撃を受けた地点に急行した。

到着したシュミット達は監視所の惨状を見た。既に軍トラックと数十名の兵士たちがいた。

 

「こいつは酷い…しかし、他の場所は被害がいってないな」

 

シュミットは周辺を見て監視所だけを狙ったと考える。

その時、インカムにラルの声が届く。

 

『状況は?』

「目撃した兵によれば砲撃は一発のみ。ペテルブルク外周部より撃ち込まれたと思われます」

 

サーシャがラルにインカムで説明をする。その言葉を聞き管野が崩れた監視所を見ながら毒づく。

 

「くそっ!とうとう街の近くまで来やがったか!」

 

ジョゼの下原もネウロイがここまで到着したことについて言う。

 

「今まではラドガ湖が陸上ネウロイの侵攻を阻んでくれていたけど…」

「この前凍っちゃったから…」

 

そしてロスマンがラルに指示を請う。

 

「隊長、指示を」

『サーシャに任せる』

「えぇ!?」

 

ラルに言われサーシャはまさか自分に振られると思わず変な反応をしてしまう。それに乗るようにクルピンスキーが言う。

 

「それでは戦闘隊長、ご命令を」

「実際階級はサーシャさんが高い、命令を」

 

シュミットも言う。享楽主義のクルピンスキーだけでなく、わりと真面目なシュミットが言うのだから流石に自分がやらないわけにはいかないと気持ちを入れ替える。

 

「こ、これより手分けして周辺空域の探索を始めます。ラドガ湖方面を重点的に探ってください」

『了解!』

 

そうしてブレイブウィッチーズによるネウロイ探査が始まったのだった。

その頃、基地の格納庫に残されたニパ。

 

「うう…サーシャさん…いつまでこうしてればいいの?」

 

ニパはサーシャに言われた正座をまだやっており、その表情は苦痛に耐えていた。

 

「痺れて…くうぅ…」

 

そしてニパは耐えきれずに横に倒れた。倒れた先には自分のユニットがあり、そこにぶつかってしまう。

ニパは起き上がってユニットを見た。

 

「あっ…これ…」

 

ニパはぶつかった衝撃で開いたユニットをみて、あるものに気づいた。

そして再び場所は出撃班に戻り、ネウロイの捜索は分散して懸命に行われたが、ネウロイは見つからなかった。

 

『こちら下原・ジョゼ班、ポイントA異常ありません』

『ポイントB、異常ないぜ』

 

ポイントAは下原・ジョゼ班、ポイントBに管野とクルピンスキー、そしてシュミット。それぞれ捜索を行ったが、結局ネウロイは発見できなかった。

 

「了解、帰投してください」

「えっ!?まだネウロイを見つけてないですよ」

 

サーシャの言葉にひかりが驚き聞く。因みにサーシャの班にはロスマンとひかりが共に飛行しており、彼女たちはラドガ湖付近まで捜索範囲を広げていた。

 

「ネウロイ探索はこれより陸戦ウィッチ部隊へ引き継ぎます。ロスマンさん、雁淵さんと先に戻ってください。私は最後にもう一回りしていきます」

「了解、戻りますよひかりさん」

「は、はい!」

 

サーシャの指示を受けてひかりとロスマンは基地に反転していく。そして、残ったサーシャが周辺を最後に探索しているとき、それは起きた。

サーシャの捜索付近で、雪が盛り上がり始める。そして突然、盛り上がっていた場所が吹き飛び始めた。そしてそこから、まるで砲台のような形をしたネウロイが現れる。

 

「なっ、ネウロイ!」

 

サーシャは突然のネウロイに驚く中、すぐさま戦闘態勢に切り替わる。そして機関銃で銃撃をしながら急降下をしネウロイに接近をしていく。

その時、ネウロイは自身についている砲身のような部分をサーシャに向け、そして何かを撃ちだした。

サーシャはその攻撃を避けてネウロイに再度攻撃をしようとするが、ネウロイはサーシャに見向きをせずに地面に穴を掘りだした。雪を巻き上げながら地面に潜っていくネウロイに、サーシャは徐々にその姿をしっかりと捉えれず、そしてついにはその姿を完全に消した。

 

「逃げられた…」

 

サーシャはネウロイの消えた穴を見ながら悔しそうに見る。その時だった。

 

『こちらラル、第一貯蔵庫がやられた』

「まさか…!?」

 

ラルの無線を聞きサーシャは驚きペテルブルクの街を見る。街は遠くに見えるにもかかわらず、一本の黒煙が上がっていた。間違いなくネウロイの攻撃が命中したという証拠だった。

 

「…最初から街が目標だったの?」

 

サーシャはネウロイの攻撃目標を理解し、そして煙を上げるペテルブルクの街をただ見ていることしかできなかった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「くっ、監視所の次は貯蔵庫か!」

「物資が不足気味なだけに、貯蔵庫がやられたのは痛いな」

「まだ第二貯蔵庫があるとはいえ、これは拙いぞ…」

 

管野は次々と502に関連した施設が破壊されていくのに怒りを感じ、ラルは冷静に被害状況を言い、シュミットはそんなラルよりも状況が厳しいと言った様子で言う。

そしてラルの言葉を聞きサーシャは下を向き謝罪をした。

 

「すみません、私が油断したばかりにネウロイを取り逃しました…」

「失敗は誰にでもありますよ」

 

ニパがそんなサーシャにフォローをする。ニパが言うと何故が重みが違うと感じるシュミット。

 

「今回も撃たれたのは一発のみ、ペテルブルクから88km地点の雪原に潜んでの、超長距離ピンポイント砲撃です」

「驚いた、こいつは一流の砲撃手だね」

 

ロスマンの説明にクルピンスキーが言う。シュミットも今回ばかりはクルピンスキーの言葉に同調した。

 

「全くだ。んでもって、狙っている位置は全て重要施設…まるで観測でもしているみたいだな」

「いかにネウロイであろうとも、これほどの長距離からピンポイントで直撃させることは不可能です。ですが」

 

そう言って、今度はラルが口を開く。

 

「観測班から、砲撃前標的となった施設から微弱な電波が発信されたという報告が上がってきた」

「えっ?」

「どういうことですか?」

 

ラルの言葉にどういうことか分からず下原が聞いた。

 

「つまり、砲撃を誘導するマーカーの役目を果たすネウロイがいるという事よ」

「じゃあ街の中に…その、ネウロイが?」

「そうとしか考えられないな。しかしネウロイも知恵を持った戦術を考えたことだ…」

 

ロスマンの説明を聞きジョゼがまさかという風に聞くが、シュミットが代表して言い、他の全員が黙っているためそれは肯定とみなされた。

 

「そこで部隊を二つに分ける。エディータ・クルピンスキー・管野・下原・ジョゼは砲撃ネウロイを捜索し、発見次第撃破」

 

そしてラルが今回の撃退にウィッチ達を分散してそれぞれ各個撃破する作戦に出た。

 

「サーシャ・シュミット・ニパ・雁淵は街に侵入したマーカーネウロイを発見し、こちらも撃破せよ」

 

そしてシュミットは第二班に選ばれた。

 

「二人はオラーシャとスオムス出身だ、土地勘があるだろう」

「でも、私は南部の生まれでこの街のことは…」

「まぁ、お前ならなんとかなるだろう」

「そんな他人事みたいに…」

 

ラルの言葉にサーシャは気を落とす。シュミットも流石にラルがそんな他人事のように言うので思わず肩を落とした。

 

「私がついてますよサーシャさん!一緒に頑張りましょう!」

「えぇ…」

 

ニパがサーシャに向けて励ましの言葉を言うが、サーシャとしては気が気では無く、シュミットも「ニパがついてるって言ってもなんか不安なんだよな…」と思ったのだった。




今回のネウロイはやはり頭いいと思うと言うか、今までのネウロイとは一味違いますね。
そして皆様、今年も『鉄の狼の漂流記』をよろしくお願いします。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十七話「擬態ネウロイとテントウムシ」

第四十七話です。オリジナル展開に走ります。どうぞ!


翌日、二手に分かれて基地を出発し、シュミット達マーカーネウロイ撃退班はペテルブルクを飛行していた。

 

「いやぁ…ラル隊長はああいってたけど、街には小さい頃に一度買い物に来たぐらいで、本当は土地勘とかあんまりないんだよね」

 

と、自信なさそうに言うニパにシュミットは内心大丈夫かと思う。

 

「へー、何買ったんで…うわぁ!」

 

と、よそ見をしながら飛行していたひかりは、目の前に建物の尖塔が迫り、慌てて回避をしたひかりはバランスを崩す。

 

「大丈夫ひかり?」

「なんとか…」

「はぁ…」

「余所見をして墜落するなよ…」

 

二パが心配して駆け寄り、サーシャとシュミットはそんな危なっかしい動きのひかりを見て互いに心配になる。

その時、ひかりはサーシャに話しかける。

 

「あの、サーシャさん!」

「はい?」

「サーシャさんはこの街に詳しいんですか?」

 

ひかりは二パの言葉を聞いてからサーシャがこの街に詳しいのか気になり質問した。しかしサーシャの答えはひかりの思いにあまり期待できるものでは無かった。

 

「昨日も言ったけど、私は南部の生まれだから…この街には祖母が疎開する前に住んでいたらしいけど…」

「じゃあ大事な街ですね!」

「え?」

 

サーシャの説明にニパが割り込んで言う。

 

「頑張ってネウロイから守らなきゃ!」

「…どうせ無人なのだから、街を防衛する意味はありません」

 

しかし、ニパの言葉に対してサーシャの言葉は冷たかった。

 

「え?でもおばあちゃんの家が…」

「私自身何の思い出もありません。そもそも、この街に祖母を訪ねたことなど、一度もないのだから…」

「サーシャさん…」

 

サーシャの言葉にニパはショックを受ける。

 

「無人の街を守るよりも、ネウロイを倒すことこそウィッチの責務です」

「そ、そんな…」

「くれぐれもつまらないことに気を取られ、直したばかりのユニットをまた壊さないでくださいね」

「はい…」

 

サーシャのきつい言葉にニパは黙ってしまう。

しかし、今まで黙っていたシュミットが口を開いた。

 

「…街を守るのも大切な事だと思うが」

「えっ?」

 

突然の言葉に思わず驚きシュミットを見るサーシャ。横にいたニパとひかりもシュミットの方を見ると、シュミットは真剣な眼差しをしながら下の街を見ていた。

 

「疎開している人達が無事に戻ってくるようにネウロイから守り、そして街を解放する。ウィッチの大切な役目だと私は思うぞ?」

 

シュミットの真顔の言葉に全員が黙ったままになる。

しかし、その沈黙はあっという間に破られた。突然、ラルの言葉がインカムに流れる。

 

『第二貯蔵庫付近より、謎の電波の発信を観測班がとらえた。至急向かってくれ』

「了解!」

 

ラルが無線で緊急電を伝える。その言葉に全員が表情を引き締め、そして急行した。

シュミット達が到着したときには、第二貯蔵庫は滅茶苦茶に破壊されていた。砲撃ネウロイの攻撃によるものだ。

 

「間に合わなかった…」

「そんな…!」

 

ニパとひかりはネウロイの攻撃阻止が間に合わなかったことにショックを受ける。

 

「第一斑、砲撃ネウロイは発見できたか!?」

『駄目です、見つかりません!』

「散開して!まだ近くにマーカーネウロイが居るかもしれない!」

『了解!』

 

シュミットは砲撃ネウロイ攻撃班に無線を飛ばすが、ネウロイの位置を特定できなかった。サーシャはまだネウロイが離脱していないと考え第二班の散開を命令する。

そしてシュミットたちは散開する。

 

「くそ…何処に居る…って!」

 

と、低速ホバリングをしていたニパがよそ見飛行をして何かにぶつかる。

 

「いてて…もう、ついてないな…」

 

そう言いながらニパは自分のぶつかった銅像を見る。その時だった。

突然、銅像は形をぐにゃりと変形をさせ、そして形を変形、ついには黒と赤色だけになる。

 

「いた!化けてた!」

 

ニパはそのネウロイに発砲しながら報告をする。それを聞きシュミット達もネウロイの姿を確認した。

 

「擬態能力を持つネウロイ!?」

「化けたネウロイだと!?」

「追います!続いて!」

 

サーシャの指示で逃げるネウロイの追走劇が始まった。ネウロイはペテルブルクの街中を飛行する。その行動は高速で離脱したと思ったら突然路地に入ったりと、不規則な動きをしていく。

サーシャは先頭に立ちネウロイを追う。それに続いてシュミット。しかしその後ろをついてきていたニパとひかりは、突然のきつい軌道に付いていけず、店の看板や道に置かれていた木箱に激突してしまう。

 

「もう!何してるの!」

 

サーシャは後ろを見ながら二人に注意をする。対するサーシャは後ろを向いた状態でも激突する事無く華麗に飛行する。流石にその芸当はシュミットでも厳しく、彼は後ろを一瞬見ただけであり、声を掛ける余裕はない。尤も、彼はネウロイの方に必至なだけもある。

その後もネウロイとの追いかけっこは続く。サーシャとシュミットが機関銃で銃撃をするが、ネウロイはそれを狭いペテルブルクの道ですいすいと回避をする。ネウロイの方は自身の攻撃手段が無いのか、機関銃の攻撃に対して反撃してこない。

しかし、その動きは徐々に激しくなってくる。ネウロイは狭い路地をまるで隙間を縫うように移動していく。その動きに先頭で追いかけるサーシャは見失うことなくついていけるが、サーシャの後ろをついてきていたシュミットは、ついにネウロイの位置を把握できなくなってしまい、サーシャが行く道をついていくのでやっととなってくる。

 

「くそっ…サーシャさん、こっちはこれ以上追跡できません!上からネウロイを確認します!」

「わかりました!」

 

シュミットはサーシャのように迷わず移動できないと判断をし、街を上から見る形で追跡することにした。シュミットは自身が上からナビゲートする形で見ようと思い街の上に上昇し、街を見下ろすシュミット。しかし彼はここで判断を失敗したことを知る。

 

「よしっ…なにっ!?」

 

最初こそ大通りのような広い場所を飛行していたシュミットだが、ネウロイを追いかけていく内に狭い路地に入っていったため、上空から確認すると建物の影に隠れて道はほとんど見えなかった。おまけに周辺の建物は高さが同じの物が密集して並んでいるため、場所を把握しようにも困難になってしまった。その結果、上空から探すつもりが逆にネウロイを見失う結果になった。

シュミットは後悔した。

 

(くそっ…建物がこんなに密集していちゃネウロイが見えない…)

 

一方、唯一追跡していたサーシャはマーカーネウロイの動きに追いて行っていた。

そしてサーシャはネウロイが次に移動するであろう一に先回りすることにした。

 

「ここだ!」

 

そして一つの路地に迷いなく入った時、サーシャはある違和感に気づいた。

 

「…あれ?何で私、こんなに迷わず飛べるの?」

 

サーシャはそう思いながらも、正面に出会うネウロイに向けて発砲をする。それを受けてネウロイはすぐ脇にあった路地に入り、サーシャはそれに続いて路地に入る。

そして、サーシャは先ほどの違和感を更に感じることとなった。

 

「…えっ!?」

 

突然、自分の目の前に景色がフラッシュバックする。それは、小さい少女が今自身がネウロイを追いかけている道を走っている姿だった。そしてサーシャは()()()()が誰なのかを知っていた。

そして、そのフラッシュバックした景色に気を取られてしまい、ついにサーシャもネウロイを逃してしまった。サーシャは周辺をもう一度確認しネウロイを探すがその姿は無く、仕方なく高度を上げる。そしてそのサーシャにひかりとニパ、シュミットが駆け寄ってくる。

 

「サーシャさん!遅れてごめん!」

「すまないサーシャさん。上空からネウロイを追いかけるのを失敗した」

「ネウロイは!?」

 

ニパとシュミットはそれぞれの謝罪の言葉を並べ、ひかりはネウロイが何処に行ったかを尋ねる。しかし、サーシャはそれよりも気になることがあった。

 

「私、この街を知っている…?」

 

サーシャのつぶやきを聞き、聞いていた三人は首をかしげたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「解析班によれば、砲弾はネウロイの体組織より生成されたもので、一日に三発が限界だと思われます」

「とりあえず、今日はもう安心か。とは言え、街に潜伏するマーカー役のネウロイが擬態するとは…また面倒だな」

 

隊長室内にロスマンの分析の言葉が報告され、ラルは厄介ごとだと言う。

あの後、ネウロイを発見することは出来ず、もう二発の砲弾を街に許してしまい、あえなく帰投しサーシャとロスマンは部隊長室に来ていた。

ラルはサーシャの表情が優れないのを見て声を掛ける。

 

「どうした?サーシャ」

「い、いえ。すみません、自分が仕留めてさえいれば…」

 

サーシャは自分がネウロイをしとめることができず街に続けて被害が出たことに、自分があの時に倒していれば、と後悔していた。

 

「まぁ、そういう時もある。明日も頼むぞ」

 

しかしラルはそんなサーシャに責任を押し付けることなく、明日も頼むと励ましの言葉を述べた。

その晩、サーシャはサウナの中、昼間に見た光景を考えていた。

 

「あの時のあれは…」

 

ネウロイを追いかけているときにフラッシュバックした景色。あれは自分の固有魔法で記録したものだと考え、サーシャは魔法を使う。しかし、いくら思い出そうとしてもその景色は思い出すことは出来なかった。

 

(…やっぱり、過去にあんな景色を記録した覚えはないわ。けど、なんで街のことをあんなにはっきり…?)

 

サーシャは何故か疑問に思い考え――そして首を振った。

 

(何を考えてるの?街のことよりネウロイを倒すことの方が先決よ!)

 

そう言って、自分に暗示をかけてサウナを出る。

そしてサーシャは格納庫に入ると、そこに意外な人物が見えた。

 

「ニパさん?どうしたのこんなところで?」

 

そうしてサーシャはニパのところに行くと、ニパは何故か狼狽える。

 

「それ、私のユニットでしょ?」

「なな、なんでもないよ?」

 

そう言う二パだが、サーシャは二パの向こう側に自分のユニットに書かれているあるものに目が行った。

 

「なっ、なにこの落書き!?」

 

そこにはサーシャのユニットの整備開閉扉の内側に、謎の物が描かれていた。それは確かに落書きに見えるものだ。

 

「あの、これは…」

「悪戯にも程があります!確かにニパさんには厳しく当たることもありましたが…だからと言って、こんなこと!」

 

サーシャは悲しそうに二パに訴える。

ニパは懸命に弁解をしようとする。

 

「待ってよ!違うんだ、これは…」

「私だって別に好きで厳しくしているわけじゃないのに!でも、私は戦闘隊長だから皆のことを…」

「それを分かっているから、ニパも恩返しをしたかったんだ」

 

サーシャはそんな二パに目に涙を浮かべながら言う。その時だった。サーシャとニパのいる位置と反対側のユニットの位置から声がし、二人は振り向く。

そこには、自分のユニットを手で整備しているシュミットの姿があった。尤も、ニパは最初から共にいたため分かっていたが、サーシャはシュミットの存在に気づいていなかったため驚いたように見ていた。

 

「シュミットさん…」

「どういうことです…?」

「二パは自分のユニットに、サーシャのお守りの言葉が書かれていたのを見て、自分もお返しにそこにテントウムシの絵を描いたんだ」

「て、テントウムシ?」

 

シュミットにそう言われてサーシャは自分のユニットに描かれているテントウムシを見る。形は不格好ではあるが、背中に七つの黒丸に、足が六つ。言われてみればテントウムシの形をしている。

サーシャはそれを聞いてニパに聞いた。

 

「ほ、本当なの?」

「え?う、うん…」

 

二パが返事をする横で、シュミットが油まみれの手を拭きながら説明し始めた。

 

「ヨーロッパではテントウムシは幸運を運んでくる縁起物、ニパは部隊のことを思ってくれているサーシャに幸運がやってくるようにとテントウムシをお返しで描いたのさ…まぁ、ニパの絵心が無いのが誤解の原因だったがな」

「シュミットさん、それは酷いよ!第一、最初から説明したらこんな誤解が生まれなかったのに!」

「いや、だってサーシャさん私の存在に気づいてない様子だったもん…」

 

シュミットは説明の後に絵のことを言い、言われたニパはへこみながら反論するが、シュミットはシュミットで自分の存在が無かったことに対するショックを受けへこんでいた。

そんな光景を見ながら、サーシャは涙を一つ、静かに零した。それは悲しいからでは無かった。部隊の皆に、自分の思いがしっかりと届き、そして逆に、自分のことを思ってくれている仲間がいるという嬉しさの表れだった。

 

「…バカ」

 

目の前でへこんでいる二人に向けて、サーシャは一言、そう呟いたのだった。




シュミットいるなら誤解はすぐ解けるんじゃないかと思い、このような展開になりました。しかしシュミット、久しぶりに影の薄さを発揮してますね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十八話「封じ込めた記憶」

第四十八話&通算50話目です(設定等も込み)。それではどうぞ!


翌日、再び行われたマーカー型ネウロイ捜索に出たシュミット達。この日は二つのチームに分かれ、ニパとひかりのペア、サーシャとシュミットのペアで飛行していた。

ニパとひかりは共に海軍港周辺を飛行していた。

 

「今日は別行動なんですね、ニパさん」

「うん。サーシャさんが街を記憶して、ネウロイが潜んでいるのを見破るんだって。シュミットさんはサーシャさんの付き添い」

「えっ!?この街を全部ですか!?」

 

ニパの説明を聞きひかりは思わず驚くが、ニパはまさかという反応をした。

 

「流石にそれは無いよ。次にネウロイが狙いそうな施設の周辺を記憶して、あぶり出すんだって」

「へぇ~」

 

ニパの説明を聞き関心するひかり。だが、ニパは横を見ながらよそ見飛行をしてしまい正面に気づかず、先に気づいたひかりが慌ててニパの名前を呼ぶ。

 

「ニパさん前!」

「え?ぎゃ!」

 

しかしニパはその言葉に反応できず、正面に迫っていた()()に激突した。

 

「ニパさん大丈夫ですか?」

「またかよ…えっ?」

 

ニパは自分の激突した銅像を確認し、そして不思議に思う。そこは建物の屋根より高い高度、本来ならこんな場所に銅像などありはしない。

 

「こんなところに銅像…?」

 

そう思った次の瞬間、銅像の形がぐにゃりと変形をする。そして、昨日見たネウロイの形になった。

 

「わわあぁ!?」

 

二人は慌ててネウロイに機関銃を向けるが、ネウロイはバレたと知ると一目散に逃げ始め、弾をすいすいと避ける。

その様子は別行動中のシュミットとサーシャにも届いた。

 

『マーカーネウロイ発見!追跡中です!』

「なにっ?」

「位置は?」

『えっと、海軍港を北に…わあっ!ニパさんが頭からズズズって街灯に!ニパさんしっかりして―!!』

 

と、状況報告をするひかりがこんがらがったように言うが、同時に位置を報告してくれたおかげで場所は分かった。

 

「全くあの子ったら…ついているのやらいないのやら…」

「とにかく追いかけよう。今度こそネウロイの好きにはさせない」

 

そうして二人は報告のあった海軍港の方角に向かう。すると、その道中に街灯にめり込んでいるニパを見つけ、さらに奥には木に絡まっているひかりが居た。

 

「何でそう絡むことができるんだ…」

「あっ!あそこです!」

 

シュミットは思わずその姿を見て言うが、ひかりはそんなことを構わずネウロイの方向を指す。

そこには銅像が一つ立っており、その手前にいびつな形をした像が立っていた。間違いなくネウロイの変形したものだ。ネウロイは自分を見ているシュミット達の方をチラリと見る。

 

「それで隠れたつもりか!」

「バレバレよ!」

 

シュミットとサーシャが機関銃を撃つと、ネウロイはそそくさとその場から逃げる。そしてそれをシュミットとサーシャが追いかける。しかし、昨日と同じように段々とシュミットは遅れが生じる。

 

(くそっ…戦闘機でこんなところ通ることなんて殆ど無いからな…)

 

しかしそれでも懸命に食らいつくシュミット。その時だった。

 

「きゃあ!」

 

突然、サーシャがバランスを崩した。そして同時に、魔導エンジンが止まっているのを見てサーシャが気絶したとシュミットは感じた。

 

「サーシャさん!」

 

その頃、ペテルブルクから88km離れたラドガ湖周辺地点で、砲撃型ネウロイ捜索班はついにそのネウロイをあぶり出した。

 

「あぶり出し成功!さすが先生!」

「あれだけ砲撃を受けていれば、砲撃地点からある程度潜伏地点を絞り込めます」

 

管野がロスマン先生を見る。砲撃ネウロイの潜伏地点を割り出したのはロスマンだったのだ。

砲撃型ネウロイはあぶり出された腹いせに攻撃を開始する。

 

「さぁ、仕留めますよ」

『了解!』

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「…うっ」

 

サーシャは暗転していた意識を徐々に戻す。そして同時に、自分に感じる温もりに気づく。

 

「気付いたか」

「…えっ!?」

 

突然、自分の上から声が聞こえて思わず顔を上げる。すると、目の前にシュミットの顔が見えるではないか。そして自分の姿を見ると、シュミットがサーシャの体を大事そうに抱いていたのだ。

サーシャは驚き慌てて離れる。

 

「きゃあ!?」

「わっ!?」

 

いきなり弾き飛ばされシュミットは地面に再びたたきつけられる。そしてサーシャはシュミットを見た後周りを見て、状況を理解した。

シュミットとサーシャの足にはユニットが付いておらず、離れたところにある。そしてその間には地面を擦ったような跡が雪に残っており、同時にシュミットの来ている服の背中が汚れているのが見えた。

そしてシュミットだ付け足すように説明する。

 

「いや…サーシャさんが急に気絶して墜落しそうになったから、急いで自分がキャッチしたんだ…だから、疚しい気持ちとかじゃなくてだな…」

 

慌てたように説明するシュミットを見て、サーシャは完全に理解し、そして罪悪感を感じた。シュミットは自分を助けてくれたのに、それを知らずに自分は弾き飛ばしてしまったことに。

そして同時に、現在サーシャは駆け巡る激しい鼓動を感じていた。

 

(なによ…この鼓動…)

 

サーシャは胸の中を巡る鼓動を振り払おうと頭を振り、そして周りの景色を見る。その時、サーシャはある建物を見て目を開いた。

 

「…っ!これって!」

 

サーシャは驚いたように建物を見た。それはペテルブルクに立つ立派な寺院だった。そして、サーシャは頭の中にある光景が蘇った。

それは、小さい頃のサーシャが建物の窓からその寺院を見た光景だった。

 

「やっぱり…やっぱり、私は」

「…サーシャさん?」

 

サーシャは自分の記憶を懸命に思い出す。そんな姿をシュミットはどうしたのかと思い不安そうに見る。

そこに、ひかりとニパが到着した。

 

「サーシャさん!」

「大丈夫!?怪我してない?」

 

ニパはサーシャの容態を気にするが、サーシャはそれよりも気になることがあり、三人の元から離れ、そして周辺の景色をぐるぐると見始める。

 

(私は、この街を知っている。この街に居たことがある)

 

そしてサーシャは思い出した。

 

(そうだ…まだ小さい頃、私はおばあちゃんの家にお母さんと遊びに来たんだ…そして、街の子供たちと遊んでいた時…)

 

そこで、景色は流れる。子供たちと遊ぶサーシャの元に、暴走した一台の車が突っ込んでくる。サーシャはその車に引かれそうになり、思わず車に対して手を出した。すると、目の前に魔力シールドが現れ、車の衝突を防いだ。

 

(私は、初めて魔法力を発動した…)

 

そして、サーシャは振り返った。すると、そこには先ほど一緒に遊んでいた子供たちが一斉にサーシャを見ていた。しかし、その表情は先ほどの笑顔とは打って変わって、まるでサーシャをうかがうような目で見ていた。それだけでなく、周りの大人たちまでサーシャをうかがうように見ている。

そんな反応をされ、幼いサーシャはその場から逃げるように走り出した。

 

(周囲の反応が恐ろしくて…私は、泣きながら駆け出して…そして)

 

サーシャはそう思いながら、一つの建物の前に立ち止まる。

 

(…おばあちゃんの家に逃げ込んだのよね)

 

そこは、サーシャの祖母の家だった。サーシャはそこの建物の扉を開け、そして中に入る。

 

(オラーシャは迷信深いところがあったから、魔女扱いされることも魔女になった自分も全部が怖くて、自分で記憶を閉ざしていた…だから、この街がどうなろうともよかったのかも)

 

そう思いながら、サーシャは棚にかかっていた一つの写真立てに気づき、それを手に取る。そこにあったのは、小さい頃のサーシャを抱きしめる母、そしてそれを見守る祖母の姿が映っていた。

 

(お母さんもおばあちゃんも、泣いて帰ってきた私を抱きしめてくれたっけ…)

 

そして、サーシャはそっと、写真立てを自分の前に持っていき思いに浸る。

暫く部屋の中に静寂が訪れる中、入口の方から声がする。

 

「あ、あの…」

「どうしたの?サーシャさん…」

 

声を掛けたのはひかりとニパだった。二人はサーシャの行動が不思議に思い、ついてきていたのだった。

サーシャは自分の為すべきことを思い出し、その写真をもとの位置に戻す。

 

「ごめんさない。任務に戻ります」

 

そうして、気持ちを切り替えるサーシャ。そして三人は外に出ると、外では建物の壁にもたれかかる形でシュミットが立っていた。

 

「サーシャさん、さっき連絡があった。砲撃型ネウロイを発見して交戦中だそうだ」

「そう。私達も早くマーカーネウロイを見つけたいところだけど…」

 

マーカーネウロイを発見し、それを撃退するのがシュミット達の任務である。しかし、先ほどの出来事からシュミット達はネウロイの位置を見失ってしまっていた。

 

「くっそー…あそこに通信所があるからこの辺が次の目標なのかも」

「へっくし!」

 

と、ニパが向いた寺院の方向を一斉に見た時、突如ひかりがくしゃみをした。

 

「すみません。あの建物が凄いキラキラしてて…なんでくしゃみ出るんだろう…」

「あはは、変なの」

 

ひかりの言葉を聞いてニパは笑う。しかし、サーシャは目の前の建物を見て目を細めた。

 

「違う…」

「えっ?」

「どうした?」

 

サーシャの言葉を聞き三人は何のことかと疑問に思う。しかしサーシャは目を瞑り黙ってしまう。

 

(記憶を閉ざすほどに嫌いだったこの街…皮肉ね。その時の記憶が役に立つなんて)

 

サーシャはそう思い、そして目をそっと開く。

 

「あの寺院に尖塔は無い!」

「えっ?」

「なんだって?」

 

周りが驚く中、サーシャは先に飛行して寺院に向かう。それに続くようにシュミット達もついていく。

 

「サーシャさん!尖塔ってあの先っちょのやつでしょう?」

「それで隠れたつもり!?」

 

ニパが聞く中、サーシャはそのネウロイに向けて持っていた機関銃を向け、そして発砲する。すると、最初こそ巧妙に隠れていたネウロイが間ともに弾丸を食らってしまい、その色を黒色に変える。

 

「あっ!?」

「居た!」

「くっ!」

 

ひかりとニパは突然ネウロイが現れたことに驚くが、シュミットはすぐさま持っていたMG42を向けてサーシャと同じように発砲する。

すると、ネウロイは複数の銃弾を受けてもがく。しかし、ここで問題が起きた。ネウロイがその体を破片に帰る前、突如上空に何か赤い光をチカチカと放った。

 

「しまった!?」

 

サーシャがその行動に気づくが、ネウロイはその姿を破片に変えた。しかし、破片に帰る前につけたマーカーは消えない。

 

「マーキングされた!」

「くそっ!第一斑!急いで砲撃型ネウロイを倒してくれ!」

 

丁度その時、砲撃型ネウロイ攻撃班はようやくコアを発見した。

 

「コア発見!」

「一気に決めてやるぜ!」

 

管野は威勢よく宣言し、自分の持っていた機関砲を放り投げ、右手を掲げる。そしてその先にシールドを展開すると、その力を右手に集中させた。管野の固有魔法『圧縮式超硬度防御魔法陣』による効果だ。そして管野はそのままネウロイに急降下をする。

しかし、ネウロイはここで行動を変えた。先ほどまでビームで攻撃をしていたネウロイは、突如自分の持つ砲身を上に向けて、そこから弾を放ち始める。

その射線上に居た管野は驚きよろける。

 

「しつこいよ!」

 

すぐさまクルピンスキーがカバーに入り、ネウロイのコアに弾丸を浴びせる。それにより、ネウロイは力尽きその姿を破片に変えた。しかし、撃ちだされた弾丸はその限りでは無く、そのままペテルブルク方面に飛翔していった。

 

「すみませんサーシャさん、撃たれました!50秒でそちらに着弾します!」

 

下原はすぐさまサーシャに報告をする。

 

「了解、至急退避します。攻撃を受ければこの辺りも無事では済みません」

 

サーシャはすぐさま命令をするが、それを聞きひかりとニパは驚く。

 

「えっ!?でも…」

「ここにはサーシャさんの…」

「行ったはずです。無人の街を防衛する必要は無い、と。これは命令です」

 

そう言って、サーシャは離脱を開始する。ひかりとニパは困ったように顔を見合わせた後、それに続く。

しかし、それにシュミットはついていかずにホバリングしていた。ひかりはそんなシュミットに気づく。

 

「シュミットさん!早く離脱しましょう!」

「えっ?」

 

ひかりが呼びかけるが、シュミットは砲撃が来るであろう方向を見ながらホバリングしており、動こうとしない。

 

「シュミットさん!?」

「言ったはずだ」

「えっ?」

 

突然、シュミットが口を開きひかりは驚く。

 

「街をネウロイから守るのもウィッチの役目だと」

「なっ!?」

 

シュミットが昨日言っていた言葉を思い出し、全員が目を開く。その間にも、砲弾は寺院に向けて飛来してくる。

 

「何をしているの!?早く逃げて!」

「シュミットさん!」

 

皆が呼びかけるが、シュミットは動かない。そして、砲弾を肉眼で確認し、その着弾位置にシュミットは急行すると、手に持っていた機関銃を放り投げ渾身の力を込めてシールドを展開した。無論、シールドには強化を掛け、いつもよりも数段頑丈なシールドを形成する。

そして、その砲弾はシールドに吸い込まれるようにぶつかった。しかし、その勢いと衝撃は凄まじく、シールドから巨大な火花を散らす。

 

「止まれえええええ!!」

 

シュミットがそう叫ぶ。その時だった。

徐々に削れていた砲弾はついに削り切ってしまい、空中で大きな爆発を起こす。そして、その爆炎の中にシュミットは飲み込まれた。

 

「シュミットさん!」

 

サーシャが叫ぶ。すると、その爆炎の中からシュミットが現れる。しかし、その高度は徐々に下がっていく。

そんな姿を見てサーシャは急いで急行し、そして徐々に落ちていたシュミットを持ち上げる。そしてそのまま地面に下りる。

 

「シュミットさん!?シュミットさん!!」

 

サーシャは懸命にシュミットを呼ぶ。シュミットは頭から血が出ているが、その呼びかけに目を開く。

 

「シュミットさん!よかった…」

 

目を開いたシュミットを見てサーシャは安心したように声を漏らす。そして、すぐさま表情を変えた。

 

「何故このような無茶な真似をしたんですか!」

 

サーシャはシュミットがあのような行動をしたことを怒っていた。目に涙を浮かべているサーシャを見て、シュミットはポツリと言った。

 

「…街が壊されるのが嫌だった」

「えっ?」

「私は、前の世界で爆撃で燃える故郷の街を見て、それで街が壊される姿をもう見たくないと思った。だから、ペテルブルクも今は人が居なけど、いつか人々が帰ってくる街だから、絶対に守ってやるって思って…それに」

 

そう説明して、シュミットは少し間を空ける。

 

「…それに、サーシャさんの大切な街だったから」

「っ!」

 

その言葉を聞き、サーシャは目を見開く。まさかそのようなことを言われると思っていなかったサーシャは、自分の為に街を守ったなんて思わなかった。

シュミットは訳を説明した後、頬を人差し指で掻き、目を少し逸らす。

 

「…まぁ怪我するのは覚悟の上だったけど、おかげでユニットが壊れちまった。正座も覚悟しなきゃいけないなぁ…っ!」

 

そう溜息を吐きそうになった時、シュミットは突然自分の顔に冷たい感触を感じサーシャを見る。なんとサーシャは目から涙をぼろぼろと零していた。突然涙を流すサーシャを見てシュミットは驚く。

 

「うっ…うっ…」

「なっ、サーシャさん?」

「うわぁーーーん!!」

 

突然、サーシャはシュミットの胸に抱き着き泣きだす。突然の行動にシュミットは驚きあたふたする。

 

「わぁ!サーシャ!何だ!?ちょ、何が一体?って、二人共見てないでどうにかしてくれ…!」

 

シュミットは思わずサーシャを呼び捨てで呼ぶ中、この姿を見ているひかりとニパに助けを求める。しかし、その助けは届かず二人はただ笑って見ているだけだったのだ。




シュミット君が思っていた街を守る責任感、それは自分の故郷の惨劇から生まれたものだった。それと、なんて言いますか…シュミット君!君はオラーシャキラーですか!?
とまあ、オリジナル展開に走ったこの話でした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四十九話「サトゥルヌス祭開催前日」

調子が良かったのでもう一話投稿することにしました。どうぞ!


ネウロイによるペテルブルク砲撃から数週間後、シュミットは朝早く目覚めて外を見ていた。

 

「…寒いな」

 

肌にしみる寒さに震えながら、シュミットはペテルブルクの街を見る。季節は12月に入り、日の出の遅いペテルブルクの街は無人の為暗く沈黙していた。

シュミットはそんな中、手前の川が凍っているのに気づく。昨日見た時はその川は凍っていなかった。

 

「なるほど、寒いわけだ」

 

そう納得しているとき、シュミットの右側から声が聞こえる。

 

「あー!」

 

突然の声にシュミットが見ると、そこには朝早くから走り込みを終えたひかりが立っていた。

 

「川が凍ってる!」

 

ひかりは川が凍っているのを見て目をキラキラさせている。そして、そのまま凍っている川に手を出し、コツコツと叩き、再びわくわくとする。

シュミットはそんなひかりに近づく。

 

「おはよう、雁淵」

「あっ、おはようございます!」

 

シュミットが挨拶をすると、ひかりはそれに気づき挨拶を返す。

その時、新たな声が二人の元に届く。

 

「おはよう、ひかりー!シュミットさーん!こっちこっち!」

 

突然呼ばれて声のした方向を見ると、凍っている川の上にニパが手を振っていた。その横には管野が厚着をしながら何か道具を準備していた。

 

「ニパさんと管野さん?」

「何をしているんだ?」

 

ひかりとシュミットは不思議に思い顔を見合わせた後、ニパ達の方向に歩いていく。

そして二人の元に到着するが、凍った川の上は先ほどより寒さが増し、ひかりは両肘をつかむ。

 

「さ、寒いですね…」

「川が凍ってんだ、寒いに決まってんだろ」

 

そう答えたのは管野だった。管野は厚着して着ぶくれいるにも関わらず寒さで震えていた。それに対してニパは何も着ずに平然としている。

 

(流石スオムス人…いや、だとしても足を出している状態で普通寒くないなんて無いだろう…)

 

と、冷静に分析をしているシュミットであるが、あのような下半身をして寒さを感じないのをシュミットは不思議に思ったのだった。

 

「ネヴァ川は毎年12月には凍るんだ。今年は遅いくらいだよ。暖冬かな?」

「どこが暖冬だ!?これだからスオムス人は…」

「これで暖冬かよ…」

 

ニパの言葉に管野とシュミットは思わずツッコむ。そんな中、ひかりは質問をした。

 

「で、何をするんですか?」

「せっかく川が凍ったんだし、そりで滑って遊ぼうかなって」

「意味わかんねえよ!」

 

ひかりの質問にニパが答え、管野がさらにツッコむ。最近ではよく見るお馴染みの三人の姿だ。

そんな中、ひかりは日の出ていない東の空を見る。

 

「最近、日の出がすっごい遅いですね」

「今のペテルブルクは日の出が10時、日没は午後4時だからな」

 

ひかりの言葉に管野が説明する。それに続くようにシュミットも言う。

 

「今北半球は冬、そんな中でも北に近い地方は太陽があまり当たらないんだ」

「それにスオムスの北の方は極夜って言って、一度も太陽が昇らなかったりもするんだよ」

「えーっ!?いつ起きたらいいかわかんなくなりそう」

 

最後のニパの説明を聞きひかりは驚く。

 

「さて、そりで遊ぼう!」

「んじゃあ私は離れたとこで見ているよ。4人もそりには乗らないだろうし」

 

そう言ってシュミットは川から基地の方向に歩いて行く。

そしてそりで滑っていく三人。後ろから押しているのは、じゃんけんで負けた管野である。管野は使い魔を出すと全力でそりを押し、二人が乗っているそりを全力で押す。

そしてある程度進んでから停止し、またじゃんけんをする。今度はひかりが負け、そりを押すことになった。

そんな光景をシュミットは温かい眼差しで見ていた。

 

「…いいな、こういうのも」

 

そう思っていた時だった。シュミットはそりの進んでいる先に薄くなっている氷があるのに気づく。そして同時に、後ろで押していたひかりがこけてそりから離れてしまい、そりはブレーキを失った状態でその地点に突っ込んでいった。

そして案の定、薄い氷は二人乗りのそりの重さに耐えきれず崩壊し、二人は冷たいネヴァ川の中に落っこちて行ったのだった。

 

「あらら、大変だ」

 

と、割と呑気なことを言うシュミットだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「風邪?」

「はい。応急処置はしておきましたので、明日には熱も下がると思います」

 

食堂の席、ジョゼが説明する。

あの後、シュミットに引き上げられた二人とひかりはサウナに向かい暖を取ったものの、ひかりが熱を出してしまいサウナの中で倒れてしまった。そしてその後、ジョゼの治癒魔法による応急処置を受けて、現在に至るのだ。

 

「直ちゃんたち、ひかりちゃんを凍った川に落としたって?」

「落とされたのは俺らだ!」

 

クルピンスキーが茶化し、管野は被害者は自分達だと主張する。

 

「あの…ウィッチってあんまり風邪とか引かないですよね…?」

「ん?そうなのか?」

 

ニパの言葉にシュミットは知らないため疑問に思う。しかし、その説明はロスマンとサーシャがした。

 

「ええ。ウィッチは魔法力で守られているから、怪我や病気に罹ることは珍しいわ」

「ただ、肉体的、精神的な疲労がたまると、ウィッチでも病気になることがあります」

「過労!?」

 

説明を聞き二パが驚く。そしてコップを両手で持ったまま下を向く。

 

「…やっぱり私が朝から連れ回したせいで…」

「それだけが理由じゃないわ。ひかりさんは元々魔法力が強くないの」

「最近、厳しい任務が続いたことが一番大きいと思います。もう少しこちらも考慮すべきでした」

「まぁ、全くの新人がここまで最前線で戦ってきたんだ。どう足掻いても疲れない方がおかしな話さ」

 

二パの言葉をロスマンはそれが一概では無いと言い、サーシャとシュミットはそうなった原因となる点を挙げた。

 

「なに、風邪程度で済んでよかった」

 

そんな中、ラルは表情を変えずにそう言い、カップの中の紅茶を飲む。

しかし、ニパはそれでもひかりが心配であり、カップの中の液体に映る自分の姿を眺めていた。

 

「ひかり…」

 

その時、台所から下原が鍋を持って現れる。

 

「お食事、出来ましたよ」

 

そう言って、鍋の中身をそれぞれの皿に分ける。

 

「下原ちゃん…なんだい、これ?」

 

クルピンスキーは出された料理を見て質問をする。

他の隊員も、食べながらその料理を追求する。

 

「ニョッキに似てるわね…これ、ちゃんと煮えてる?」

 

ロスマンが食べながら言う。

 

「ピエロギ…じゃないよね?」

「具の無いぺリメニ?」

「食べたことのない料理だ」

「うーん…?」

 

クルピンスキーとサーシャ、シュミットも言う。ジョゼはその料理を食べて色々考えている。しかし、誰一人正解では無かった。

しかし、この答えは管野が知っていた。

 

「あ、これ水団か?」

「すみません。今ある食材ではこれが精一杯で…」

 

下原は申し訳なさそうに言う。現在502基地は深刻な食糧問題に立たされているようだ。

その後、ブリーフィングルームに熱を出したひかり以外のウィッチが集められた。

 

「現在、ムルマン港からの補給が立たれた上に、先日の砲撃で弾薬や燃料の集積所と、食料貯蔵庫も破壊されています」

「このままじゃ基地機能が崩壊するな…」

 

ロスマンが前に立ち説明をし、それに対しシュミットが現状が続いた先のこの基地の状況を冷静に分析する。

ラルはロスマンに聞く。

 

「スオムスからの援軍は?」

「頼んではいますが、あちらも残っている補給線は北海経由の陸路のみで余裕がないそうです」

「現在補給線奪還作戦を立案中ですが、とにかく食料の備蓄が足りません」

 

サーシャが付け加えるように説明する。それを聞き横に座っていたクルピンスキーが肩を落とす。

 

「しばらくはずっとあれ食べることになるのかー・・・えっと…チントン?」

「水団だ」

 

クルピンスキーのミスに管野がツッコむ。

 

「現状打開策はなし、補給が改善するまで待つしかないということか」

「明日は基地恒例のサトゥルヌス祭が予定されていますが…?」

 

ラルがそう結論付ける中、ロスマンが聞く。しかし、ラルの答えは決まっていた。

 

「今年の祭りは中止だな」

「えええええっ!?」

 

ラルの中止の言葉を聞き、驚いたのはなんとニパだった。ニパは立ち上がるが、周りがそんなニパを黙ってみているのを感じ、すぐに座る。

 

「あっ…いえ…なんでも、ありません…」

 

そうして小さくなるニパであった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「何が、えええええっ、だ。どうせ祭りでひかりを喜ばせたい、とか考えてたんだろ」

 

ブリーフィングが終わった後、廊下で管野が後ろに手を組みながらニパに言う。

 

「わかってるなら賛成してよ」

「物資も補給も無いから無理だって」

 

二パは賛成が欲しかったようだ。しかし、管野は賛成しようにも物資不足の現状から無理と判断し、賛成しなかったようだ。

その後、二人は部屋で寝ているひかりのところへ行き、ベッドの前に椅子を二つ並べて座る。

二人が座って数分後、ひかりはうっすらと目を開けた。

 

「あ、起きた」

「ひかり!」

 

管野はひかりが起きたのに気づき、ニパはひかりが目覚め安心したように声を出す。

ひかりは顔を二人の方向に向けた。

 

「あれ?二人ともどうしたんですか?」

 

ひかりは何故自分が寝かされているのかわからず、そして同時に何故管野とニパが部屋にいるのか気になって質問した。

そして二人はひかりに説明した。

 

「えっ!?私、風邪で倒れちゃったんですか?」

「ごめん、ひかり…私がそりなんかに誘ったせいで…」

 

ひかりは自分が倒れたことに驚く中、ニパは自分のせいでひかりが風邪を引いたという罪悪感から謝罪する。

しかし、ひかりはそんなニパに驚きながら違うと否定する。

 

「い、いえ、私の気が緩んでたせいです」

「ひかりのせいじゃないって!」

 

ひかりが否定するが、ニパはそれでも引かない。しかし、ひかりは自分にかかっている布団を手でぎゅっとつかみ説明する。

 

「ただでさえ役立たずなのに、風邪引いて倒れちゃうなんて…」

「早く元気になって、また一緒に飛ぼう!」

 

二パが言うと、今度は管野が立ち上がる。そして、起き上がっているひかりのおでこに人差し指を出し、そして突く。ひかりは突然突かれて後ろに倒れ、布団に寝る。そこに、管野が掛け布団を体に被せる。

 

「燃料不足で基地内の暖房も止まってんだ。暖かくしてさっさと寝ろ」

「管野さん…」

 

そう優しく言う管野に、ひかりはそんな管野の温かさを感じ、再び眠りについたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「やっぱりサトゥルヌス祭はやろう」

「言うと思ったぜ」

 

その後ニパは訓練のランニング中、管野に再び提案した。すると、管野はそう言うと分かっていたようで、二パの言葉を聞いて反応した。

 

「私、ちょっとでもいいからひかりを元気づけたい。この基地に来て良かったって、そう思ってほしいんだ」

 

ニパとしては、ひかりをどうしても元気づけたくてやりたい様子である。

 

「ったく。でも隊長が中止しちまったしな…そもそも基地には水団くらいしかねえぞ」

「それでも出来るだけのことはやってみようよ」

「んなこと言ってもなあ…」

 

管野としてもその案に乗りたいところではあるが、色々と制約がかかってしまう状況下の為、どうしたらいいんだとニパに聞く。

 

「そうだ!他の皆にも相談してみよう!」

 

そうして、最初に二人は一番信用できるサーシャに聞くことにした。

格納庫に着くと、そこにはサーシャだけでなくシュミットも居た。尤も、シュミットはまた自分のユニットに手を加えている様子だった。

そしてニパはサーシャに相談をした。

 

「なるほど、ひかりさんの為にサトゥルヌス祭をしたいんですね」

「隊長には秘密にしてもらえますか?」

 

二パがサーシャに頼むと、サーシャは笑顔を返した。

 

「うふふ、了解。ひかりさんに冬じいさんと雪娘がプレゼントを持ってきてくれればいいのにね」

「冬じいさん?」

「雪女がプレゼント?」

 

サーシャの言葉に二パと管野は聞きなれない単語を聞きハテナを浮かべる。そんな二人にサーシャが説明する。

 

「雪娘。オラーシャ地方の言い伝えなのよ」

「ふーん」

「あの!私たちで用意できそうなプレゼントって何かないですか?」

 

ニパは自分たちでひかりに何かプレゼントできるものは無いかと聞く。そしてサーシャは考え、そして意見を出した。

 

「そうね、うーん…昔、朝起きたら枕元に木彫りの人形が置いてあったことがあってね…きっと、おばあちゃんが作ってくれてたんだと思うけど、嬉しかったな…」

「それ、明日の夜までに作れます?」

 

ニパはサーシャに聞く。

 

「ええ。一日あれば大丈夫。準備しておくから、明日朝から一緒に作りましょう」

 

そうして、今度はシュミットに質問した。

 

「そうだな…うちの国じゃ、モミの木に飾り付けをしたりしたな」

「モミの木?」

 

二パは質問する。

 

「あぁ、元々は『ユール』って言う祭りで使われたのが最初で、モミの木は生命の象徴なんだ」

「へー」

「雁淵に元気になってほしいなら、生命の象徴でもあるモミの木を準備するのもいいな」

 

そうして、シュミットからも新たに案が出た。

その後、ニパと管野は基地のウィッチ達のところへ行き、サトゥルヌスの相談をしていったのだった。




というわけで、秘密裏にサトゥルヌスを開催することになった二パ達でした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十話「サトゥルヌスの再会」

第五十話です。ついにあの二人が登場します。


「ニパさんと管野さんが、サトゥルヌス祭をやろうとしているようです」

 

翌日、隊長室でロスマンはラルに報告した。彼女はニパ達から相談こそされていないが、クルピンスキーからその話を聞き知った様子である。

それを聞いたラルは止めるかと思われたが、そうでは無かった。

 

「なら今日は二人は非番でいい」

「寛大なんですね」

「そうじゃない。今は哨戒任務さえ減らして、次の作戦の備蓄をしたい状況だ」

 

ラルとしては、備蓄を蓄えるうえで非番にしたのだと言う。その答えにロスマンは意外といった様子だった。

 

「あら?てっきり隊長もお祭りに興味があるのかと」

「…」

 

ラルは黙ったままである。しかし、ラルの頬はほんの微かではあるが赤くなっており、僅かに間が開いている様子から、ロスマンの推測もあながち嘘ではないようだ。

その反応を見てから、ロスマンは思い出したかのように再び話し始めた。

 

「それと、クルピンスキー中尉の風説の流布に対する懲罰の件ですが…」

 

ロスマンはクルピンスキーに対して懲罰をするのを思い出した。事の原因は、二パと管野がクルピンスキーの部屋を訪ねた際、二人に対して虚偽の言い伝えを流し二人をビビらせたのだ。因みに、この言い伝えのモデルとなっていたのがロスマンであったため、彼女としては意地でも懲罰を下したい様子であった。

そんな時、ラルは口を開いた。

 

「…モミの木」

「は?」

 

突然モミの木と言ったラルにロスマンは何のことだろうと考える。

ラルは続けて言った。

 

「…サトゥルヌスにはツリーが必要だ」

 

こうして、クルピンスキーの懲罰は決まったようである。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「サトゥルヌス祭のこと、ひかりさんには教えてないの?」

 

格納庫内、テーブルを広げて木を削り彫刻を掘っているサーシャがニパに話しかける。

 

「うん。ひかりをびっくりさせたいんだ」

「わかったわ」

 

ニパはひかりにサプライズとしてこの祭りをしたいようで、本人にはまだ言っていないのだった。

 

「あ、管野さんできた?」

 

と、サーシャは管野が削り終えたのに気づき、その手に乗っているのを見る。

 

「へへん。我ながら傑作」

 

そう言って管野が差し出した手には、小さな動物の彫刻があった。どうやら管野は器用な様子であり、その彫刻の姿は極めて精工にできていた。

 

「へー、管野うまいじゃん」

「可愛い猫ね」

 

二パはその木彫りの動物を見て凄いと称賛し、サーシャは可愛い猫だと言う。

 

「…犬だ」

 

しかし、管野が作ったのはどうやら犬だったようであり、僅かに眉をぴくつかせていた。

その時だった。

 

「おはようございまーす!」

 

突然、格納庫の入口から聞き覚えのある声が聞こえ、三人はびっくりしたように反応する。

 

「!!」

「ひかりだ、まずいよ」

「隠せ隠せ!」

 

三人は急いでテーブルの上に乗っている木を片付ける。

 

「そんな急に…管野さん!そこに正座!」

「はい!」

「物資が厳しいのに、毎回ユニットを壊して…」

 

と、突然サーシャは管野を正座させる。すると管野は即座に返事をし正座をする。そしてサーシャは木を持ちながら管野を叱り始める。どうやらこうして誤魔化す作戦のようだ。そしてそれはうまくいき、そうやらひかりは気づいた様子では無かった。

そしてニパが慌ててひかりの下へ向かう。

 

「ひかり!寝てなきゃダメじゃないか」

「大丈夫です。熱も下がったし…」

 

ひかりは熱はもう下がったという。しかし、ニパはひかりのおでこに手を当てて熱を測る。

 

「…まだ少し熱が残ってるって。ほら、部屋に戻って」

「でも、私、昨日ずっと寝てたからトレーニングをしないと…」

 

その時だった。格納庫の大きなゲートから、突然メキメキと言う音が聞こえる。そして、そこに突然、大きな木が音を立てて倒れてくる。

 

「うわぁ!?」

 

二人は突然の出来事に悲鳴を上げる。そして、大きな土煙を上げた先に、二人の人影が見えた。

 

「いやー、やっと運んでこれたよー。いっちばんでっかい奴採ってきたからねー」

「おい…主に運んでたのは私だぞ」

 

この大きな木を運んできたのはクルピンスキーとシュミットだった。クルピンスキーは懲罰として、シュミットはモミの木の最初の提案者として同行していた。

そしてクルピンスキーは入口の所にいるひかりに気づき大声を出す。

 

「あ!ひかりちゃーん!見て見てー」

「わあ!中尉だめー!」

「ま、まて、言うな!」

 

ニパとシュミットはクルピンスキーが声を掛けたのに気づき、慌てて止める。しかし、その努力空しくクルピンスキーは口を開いた。

 

「ひかりちゃんの為のツリーだよ」

「あちゃー…」

「中尉のバカ…」

「だからあれほど言ったのに…」

 

クルピンスキーがばらしてしまい管野とニパ、シュミットは頭を抱える。シュミットに至っては、ひかりに遭っても「資材集め」と誤魔化すようにくぎを打っていたのに言ってしまったことで、両手を頭に抱えてうずくまっていた。

 

「私の…ための…ツリー…?」

「わぁあ、ほら、やっぱり寝てないと」

 

しかしひかりはその言葉を聞いた後、突然体をぐらりとしてしまい、慌ててニパが体を支えた。

その後、ニパはひかりを部屋に連れてベッドに寝かせた。

 

「私のためにお祭りですか?」

「うん。今中尉がロスマンさんと一緒においしいキノコを採りに行ってるから、楽しみにしてて」

 

ひかりにニパが説明する。あの後、クルピンスキーは注意が足りなかったことで情報漏洩をしたということで、ロスマンと共に懲罰としてキノコ採りに行ったのだった。因みに、事前にくぎを刺して止めようともしていたシュミットはお咎め無しだったため、基地でニパに変わって彫刻掘りをしている。

ひかりはニパに質問した。

 

「私、サトゥルヌス祭ってよくわからないんですけど…」

「欧州各地の冬至の伝承や風習が集まって祭りになったって言われてるんだ」

「でも、どうして私のためにわざわざそのお祭りを?」

 

ひかりは疑問に思いさらに質問した。質問されたニパは、少し昔のことを思い出しながら説明した。

 

「実は私が502に入ったのは、1年とちょっと前なんだ。スオムスでは同い年くらいの気の合う仲間と戦ってたから、502に配属されたばっかりの頃は緊張して全然馴染めなくてさ」

「ニパさんにそんな頃があったなんて…」

 

ひかりは何時ものニパとは想像できない様子だった。

 

「でも、ちょうど1年前に基地でサトゥルヌス祭があったんだ…スオムスでも、いつも仲間と一緒にサトゥルヌス祭で明かりを焚いていたんだ。だから、ここも同じだと思ったら元気が出てさ」

 

ニパの頭の中に、当時の光景が蘇る。基地の前に大量のろうそくがあり、それがキラキラと輝いている光景が。

 

「あれ以来、私は502に馴染めるようになった気がするんだ」

「お祭り…私も大好きです」

 

ひかりもお祭りが好きであり、ニパの話を聞いて楽しみにする。

 

「祭りって、人と人との心を繋ぐ不思議な力があると思うんだ。だから、ひかりにもサトゥルヌス祭を楽しんでもらいたくて」

「ありがとうございます…ニパさんって優しいんですね」

 

ひかりの言葉に、ニパは照れる。

 

「え、いや、そろそろキノコ届いてるかな!ちょっと見てくるね!」

 

そして、照れ隠しで部屋から出て行くニパ。そして、二パは食堂に着いたとき、それは()()()()()

食堂のキッチンでは、ロスマン、下原、ジョゼの三人が居た。しかし、なぜか全員机にひれ伏していた。

ニパは様子がおかしいと感じ、全員に声を掛ける。

 

「ど、どうしたのみんな!?」

「このキノコを料理したら…」

 

ロスマンは懸命に何かをこらえながら、スープ皿に入っているものをニパに差しだす。ニパがそれを取り中身を見ると、びっくりしたように反応した。

 

「これってワライダケじゃん!なんでこんなのを…」

 

そう、スープの中に入っていたキノコはワライダケだったのだ。そして、食べている人全員が今、懸命に笑いをこらえていたのだ。

そして、事の成り行きを下原が話し始める。笑いをこらえながら。

 

「クルピンスキーさんが絶対おいしいって…くくっ」

「えー!?」

 

ニパが驚く中、後ろから声を掛けられる。

 

「二パ君ごめん…せっかくの祭りを台無しにして…ぐっひゃっひゃっひゃっ!」

 

そして謝罪をするクルピンスキーではあるが、笑い声が完全に台無しであった。

そして、不は連鎖する。突然、基地内に警報が鳴りだす。

 

『中型ネウロイ一機、基地に接近中!』

 

索敵兵により、ネウロイの接近を知らせる報告が来る。

 

「こんな時にネウロイだなんて!」

 

ニパはそう言いながら急いで格納庫に走る。

そしてニパは中にいる三人を呼ぶ。

 

「管野!サーシャさ…」

「だーっはっはっはっ!!」

「ふふ…ふふふ…」

「あっはははははははは!!」

 

しかし、既に遅かった。スープを飲んでしまった管野とサーシャ、そしてシュミットはワライダケの力に伏してしまっていた。

 

「こっちもかよ…」

『ニパ、聞こえるか』

「隊長!」

 

その時、ここでニパに希望が舞い降りる。なんと無線でラルがニパを呼んでいるではないか。

 

『出撃できるのはお前だけだ、頼んだぞ』

「了解!」

 

そうしてニパはユニットを履きMG42機関銃を持つ。その時、後ろから声がする。

 

「ニパさーん!」

「ひかり!?」

 

なんとひかりが格納庫入り口から入り、そしてひかりはその足でユニットのところに向かっていた。

ニパはそれを見て静止させる。

 

「私に任せて!絶対に来ちゃだめだからね!上官の命令だよ!」

「えっ!?…了解」

 

ひかりはニパに上官命令を言われてしまい立ち止まる。その時だった。基地に衝撃が走り、格納庫入り口に燃えるツリーが倒れてくる。

 

「あっ!ツリーが!!」

「くそっ!よくもー!!」

 

ひかりがツリーの惨状を見てショックを受ける中、ニパは塞がった格納庫入り口の隙間から離陸をし、そして上空のネウロイに向かう。

 

『敵の発見が遅れたのは、何らかの能力に思われる。十分に注意しろ』

「了解!隊長はまともでよかった…」

 

指示を受け返事をしたニパは、唯一無事だと思われるラルの様子に心強さを感じた。

しかし、実際は違った。

 

「ぐっはっはっはっはっはっは!」

 

部隊長室内、ラルの笑い声が響き渡っていたのは当人以外知らなかったのだった。

そしてニパはしばらく飛行し、侵入してきたネウロイを発見した。

 

「あれか!」

 

すぐさま上昇をし高度の優位を保つと、そのまま背後に回り込み、後ろから機関銃弾を浴びせた。

しかし次の瞬間、攻撃を受けたネウロイはまるで煙のように姿が消えた。

 

「カモフラージュか!くそっ、どこだ!?」

 

ニパは周辺を懸命に探すが、一向にネウロイは現れない。その時だった。

 

『二パさーん!』

「ひかり!?」

『11の方角です!』

「あっちか!」

 

突然、インカムに光の声が流れ、ニパは急いで11の方角に急行した。しかし、いくら飛んでもネウロイは発見できない。

 

「どこだ…!?ひかり、居ないよ!」

『えっ!?私は見えていますよ!』

「えっ!?…ひょっとして!」

 

ニパはひかりの言葉を聞いて何か閃き、そしてそのまま背面飛行をして急降下をする。すると、先ほどまで姿を現さなかったネウロイの姿がはっきりと確認できるではないか。

 

「居た!やっぱりカモフラージュしてるのは上の方だけだ!」

 

ニパはネウロイがカモフラージュしているのは上だけだと判断し下に潜ったのだ。そしてその体制のまま二パは機関銃の引き金を引く。ニパの攻撃を受けたネウロイは急いで離脱するべく、形状を変化させて高速移動を開始する。

ニパはそのネウロイについていきさらに銃弾を浴びせる。その時だった。

 

「えっ?ええっ!?詰まった!?」

 

なんとニパの持っていたMG42が弾詰まりを起こしてしまい、ニパは攻撃できなくなってしまった。

そしてネウロイはその瞬間を好機と捉えたのか、今まで回避に徹していたのから一変して今度はニパに集中攻撃を開始した。

 

「ニパさん!?」

「何でこんなについてないんだよ!!」

 

ひかりは集中攻撃を受けている二パの様子を心配し悲鳴を上げる。ニパは自分の幸運の無さがここで出たことに対して最悪だと思った。

万事休す、と思われた次の瞬間。攻撃を受けているニパの後方から、数発の大型弾頭が飛来する。 そしてその弾頭はネウロイに向けて全弾命中した。

 

「えっ!?」

「誰が撃ったの!?」

 

空に上がっているのはニパだけである。それなのに、後ろから攻撃が着たことに二人は驚いた。

そしてネウロイはその攻撃にコアを露出し、居てられなくなったのか、再び急旋回をする。

 

「コア、確認」

 

と、逃げるネウロイにニパのいる場所から違うところから弾丸が飛んでいき、ネウロイのコアに命中。そしてついに、ネウロイはその姿を光の破片に変えたのだった。

 

「一体、何が…?」

 

二パは目の前の不思議な光景にただ呆然とする。その時、ニパは後ろから声を掛けられた。

 

「よー、ニパ」

 

ニパは呼ばれて振り返り――そして最大級の歓喜の顔をした。

 

「あー!!イッル!!」

「へへーん」

 

なんとそこに居たのは、ユニットと機関銃を持ち、サンタクロースの格好をしたエイラだった。

さらにそれだけでは無かった。

 

「敵、撃破確認。オールグリーン」

「サーニャさん!」

「お久しぶりね、ニパさん」

 

エイラだけでなく、今度はサーニャも現れるではないか。ユニットにフリーガーハマー、そして彼女もエイラと同じようにサンタクロースの格好をしていた。

 

「えっ?誰?」

 

ひかりは上空に居る人物が誰か知らずにポカンとする。

 

「エイラ!サーニャ!!」

「501のリトヴャク中尉とユーティライネン少尉…」

「なんだ?あの派手な服」

 

すると、ひかりの後ろに先ほど格納庫に居た三人が出てくる。シュミットはエイラとサーニャ、特にサーニャの姿を見て大きく目を開き。サーシャは冷静に何故ここに居ると言った様子で、管野は赤い服装をしている二人が気になる様子で同じように見る。

 

「管野さん、サーシャさん、シュミットさん。もうおかしくないんですか!?」

「おめー、喧嘩売ってんのか!?」

「私達、食べた量が少なかったから」

「右に同じ…しかし、サーニャが来るとは思わなかった」

 

ひかりがなかなかに失礼なことを言うので管野はジト目でひかりを見る。そしてサーシャは原因を説明し、シュミットはサーシャの言葉に同意した後、再びサーニャを見る。

 

「えっ?サーニャさんって…」

「ああ、この前言った私の恋人だ」

 

ひかりはシュミットの言葉を聞き質問すると、案の定シュミットが言う。

 

「えっ!?おめえ恋人居たのか!?」

「あれ?言ってなかった…なぁ」

「言ってねえよ!」

 

この中で唯一そのことを聞いていなかった管野は、シュミットに恋人が居ると知らずに驚く。

そんな中、シュミットは凍った川を渡る不思議なものを見つけて指をさした。

 

「ん?あれを見ろ」

「何だありゃ!?」

「NKL16…輸送ソリよ」

 

輸送ソリはそのまま502基地の方向へ向けてやってくる。そこに、エイラとサーニャが高度を下げて並行する。

 

「サトゥルヌスのプレゼントです」

「いい子にしてたかー?ニパ」

 

なんとそれは二人が運んできてくれた補給物資だった。彼女たちは偶然ここに来たわけでは無く、補給物資を運ぶ任務を任されてやってきていたのだ。

 

「ア、アハハハ…」

 

そしてエイラにいい子にしてたか聞かれたニパは、思わぬプレゼントを貰い笑うのだった。




エイラ&サーニャ登場。そしてシュミットはワライダケを食べてしまった。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回。


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第五十一話「サトゥルヌス祭」

第五十一話です。文字数が予想より増えたためこちらに追加で書きました。どうぞ!


その後、502の格納庫内ではサーニャ達によって運ばれた物資を下ろしていた。

 

「わぁ!ハムです!」

「こっちはりんごジャムだ!」

 

下原とジョゼは補給物資の中に食料の姿を見つけて嬉しそうにする。

 

「こっちは弾薬に武器…よかった。これで基地の機能麻痺の心配は無くなったな…」

 

もう一つの箱の中身を見てシュミットはホッとしたように息を吐く。

そんな中、ニパはある箱の中身を見て目を輝かす。

 

「あっ!ひかり見てー!」

 

二パは横にいたひかりに箱の中身を見せる。すると、ひかりは目をキラキラさせてその中身を見た。

 

「わぁ!」

 

そしてその後、格納庫内に大量のろうそくが並べられる。エイラとサーニャの持ってきてくれた補給の中にあったろうそくを並べたのだ。

二パは横に立つひかりに聞く。

 

「どう?ひかり」

「すごくきれいです…」

 

ひかりは目の前の光景に心を奪われる。ひかりだけでなく、502の隊員たち全員がその光景を見ていた。

 

「先生もキノコ採ったのにさ…なんで僕だけ…」

 

と、格納庫の端っこでぼやく者がいた。首から下に看板を掛けたクルピンスキーだ。看板には『私は破壊活動をしました』と書かれており、シュミットはその姿を見て「これじゃあ敗北主義者…」と、心の中でブルっていたのだった。

 

「スオムス軍より、502基地への補給任務、完了しました」

 

サーニャがラルに書類を渡す。ラルはそれを受け取った。

 

「確かに受領した」

「向こうも苦しいと聞いたけど…」

 

ロスマンは502だけでなくスオムス方面も補給がきつい状況であると聞いていたため、補給状況が気になりサーニャに聞く。

 

「エイラ達スオムスのウィッチが、ニパさんを助けるんだってかき集めたんです」

 

しかし、サーニャはこれがスオムスウィッチ達による厚い支援であると説明したため、周りもそれに納得した。

 

「助かりました。リトヴャク中尉、ユーティライネン少尉」

「いやー、そんな大したことはー」

 

サーシャに代表して礼を言われエイラは大したことじゃないと言う。しかし、その笑顔から感謝の言葉は届いた様子であった。

そして、補給によって無事にサトゥルヌス祭を開くことができた502は、テーブルに豪華な料理が並べられた。

 

「おい、雁淵」

「はい」

 

管野がひかりを呼び出す。ひかりは何だろうと思い返事をすると、彼女の目の前に一つの人形が渡される。

 

「わぁ…可愛い」

「マトリョーシカっていうオラーシャの人形よ」

 

サーシャが説明を加える。ひかりが受け取ったのはオラーシャ人形であるマトリョーシカである。

 

「お前にやる」

「ありがとうございます!」

「それ、真ん中から開くのよ」

 

管野からもらい喜ぶひかり。そしてサーシャは、マトリョーシカの秘密をひかりに説明する。サーシャの説明通りにひかりが開けると、今度は中に一回り小さなマトリョーシカ人形が出てくる。

 

「わぁ…!」

「まだ開くんだよ」

 

ニパがさらに説明を加える。そう、マトリョーシカ人形は開けると中に小さな人形が入っているのだ。

そしてその言葉の通りひかりは人形をさらに開けると、今度は中から沢山の木彫りの人形が出てくる。

 

「わぁ…いろんな動物がいっぱい!」

「それ、管野とサーシャさん、それにシュミットさんが作ったんだ。動物は全部502のウィッチの使い魔の形をしてるんだよ」

「へぇー!」

 

そう、中から出てきた動物の人形は、すべて502のウィッチ達の使い魔がモチーフになっているのだ。ひかりはその人形を見て感激していた。

 

「あっ、これ管野が作ったやつだ!」

「わぁ…!可愛いブタ!」

「犬だ…」

 

そんな中、クルピンスキーはこそこそと隠れながら四つん這いで歩いていく。

 

「匂う…匂うぞ…」

 

そしてクルピンスキーは輸送ソリで送られた物資の木箱のところに行く。

 

「僕を呼んでるこの香り…おっ!」

 

そしてクルピンスキーは木箱の中をあさると、その中から一本の瓶を取り出した。

 

「君かー!シャンパン君!」

 

クルピンスキーは中から出てきたシャンパンを見て喜ぶが、すぐさまそのシャンパンに別の手が伸びる。

 

「あぁ、隊長!?」

「これを振ったら楽しくなるかな?」

「なると思います」

 

シャンパンを手に取ったラルはロスマンに聞くと、ロスマンは賛同する。すると、ラルはシャンパンを横に振り始めた。

 

「あぁー…」

 

クルピンスキーがその姿を見て悲痛な声を上げるが、ラルはそのままシャンパンのコルクを指で弾いた。すると中からシャンパンが噴水のように舞い上がる。

シャンパンの中身は格納庫内の蝋燭の光を反射しキラキラと輝く。

 

「わぁ…綺麗…」

「うん!」

「せっかくのシャンパンがぁ…」

 

ひかりたちがその光景に見とれ、クルピンスキーはシャンパンが飲めずに嘆く。

そんな中、シュミットとサーニャ、エイラの三人は少し離れたところでその様子を見ていた。

 

「ちょっと心配してたんだけどナー」

「ニパさんのこと?」

「うん。あいつ502で浮いてんじゃないかって…」

「そんなことは無いぞ、ほら…」

 

そう言ってシュミットは二パの方を見る。それに続いてサーニャとエイラはニパを見ると、ニパはひかりたちといっしょに笑っていた。

 

「な?」

「心配ないみたいね」

「うん。心配して損した」

 

シュミットとサーニャに言われ、安心したようすのエイラ。

 

「…私も安心した」

「えっ?」

「ん?」

 

突然、シュミットがポツリと言ったのでサーニャとエイラは反応した。

 

「二人共元気そうでよかった。手紙だけだと、やっぱり心配だったから、こうやって二人の顔が見れて本当に安心した」

 

そう言ってシュミットは少し顔を赤くしながら頬を掻く。

 

「…サーニャだって心配してたんだゾ」

「ん?」

「エ、エイラ…」

 

と、エイラが突然切り出すのでシュミットは驚き、サーニャはエイラが言ってしまうと思っておらず顔を赤くして少し狼狽える。

それでもエイラは話す。

 

「サーニャだって、オマエが最前線に配属になるって手紙を受け取って心配してたんだゾ。自分だけ心配だったなんて思うなヨ」

 

エイラの言葉を聞き、シュミットは目を少し開き、そして再び戻す。そして今度はサーニャの方を見る。

 

「ありがとう、サーニャ」

「えっ」

「サーニャが心配してくれ、私は凄く嬉しいんだ。だから、ありがとう」

 

そう優しい声で言うシュミットに、サーニャは徐々に顔を赤くする。しかし、言ったシュミットもそんなサーニャを見て徐々に恥ずかしくなってきてしまい、顔を赤くする。

エイラはエイラで複雑そうな顔をする。二人の関係に横やりを入れたいのを必死で抑えているが、顔は素直なものである。

そしてシュミットはふと、ある物を思い出した。

 

「そうだ、これを忘れてた」

 

そう言ってシュミットはジャケットのポッケに手を入れ、中に入っていた物を取り出す。

 

「これ、二人に」

 

そう言って掌に出したのは、二つの木彫りの動物だった。それぞれ模した動物は猫と狐である。

 

「これ…」

「私たちの使い魔か!」

「うん。みんなの分を作った後、二人の分も作ったんだ」

 

そうしてシュミットはそれぞれの手に人形を手渡しする。

 

「その、サトゥルヌスのプレゼントとして受け取ってほしいな」

 

シュミットとしてはもっとしっかりとしたプレゼントを渡したかったが、物資不足の中で出せるプレゼントは限られていたため、これが精いっぱいだった。

 

「ありがとう、シュミットさん」

「ありがとナ」

 

サーニャとエイラは共にありがとうと言う。そして――、

 

「…!」

「なッ!」

 

なんと、サーニャはシュミットの右頬にキスをしたのだった。あまりに突然だった為二人は驚き思考が停止した。そして、それに気づいた502のメンバーは全員その光景を見て驚愕の顔をする。

 

『ああー!』

 

それぞれが驚く中、シュミットは徐々に思考を戻していき、そして顔を赤くした。

 

(これは、完全に不意打ちなプレゼントをもらってしまったな…)

 

そう思いながら、シュミットは照れ隠しに手元のコップの飲み物を仰いだのだった。




ううむ、やはり分けると少なくなってしまったなぁ…というわけで、サトゥルヌス祭を無事に開くことができた502。次回はOVAのあの話に入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十二話「ペテルブルクの朝」

というわけで第五十二話です。OVAの話です。どうぞ!


サトゥルヌス祭が行われた次の日、シュミットは自分の部屋で目を覚まし起き上がる。

 

「ふぁ~あ…」

 

大きな欠伸をしながら伸びをするシュミット。そして眠たそうに瞬きを数回した後、ふと横から気配を感じて見る。

 

「ん?…わっ!?」

 

シュミットは自分の眠っているベッドに居る人物を見て驚く。なんとそこにはサーニャが眠っているではないか。

 

「サーニャ…また寝ぼけて潜り込んだ…ん?」

 

シュミットはサーニャが恐らく寝ぼけてやってきたと思いふうと息を吐くが、サーニャは夜間哨戒に昨日行っていないこと思い出し、じゃあ何でいるんだと考える。しかし、少し考えてシュミットは思考を切った。

 

「まぁ…いいか」

 

そう言って、シュミットはサーニャが風邪をひいてはいけないと掛布団をしっかりとかけてあげる。

 

「全く…下手したら襲っちゃうぞー…」

 

シュミットは小声で言うが、サーニャはそれでもぐっすりと眠っている。そして自分の発言に今度は邪な雰囲気を感じて慌てて頭を振る。

 

「いかん…そんなことしたら駄目だ…」

 

そう言って懸命に振り払う。しかし、再びサーニャの寝顔を見てしまうシュミット。

その時だった。突然、部屋の扉が「バンッ!!」という大きな音を立てて開いた。

 

「わっ!?」

「サトゥルヌス祭の次は年末大掃除!年越しまであと一週間、基地中ピカピカにしちゃうんだから!」

 

シュミットが驚きで振り返ると、そこにはジョゼがモップを片手に立っていた。そして同時に彼女のテンションがどこかおかしいのに気づくシュミット。

 

「ジョゼ、一体どうした…」

「ほえ…?」

 

シュミットはいつものテンションとは違うジョゼに戸惑いながら聞く。サーニャは騒がしさに目を覚まし、寝ぼけた目でジョゼを見ていた。

 

「さあ、着替えが済んだら出てってください!」

 

そうして、シュミットとサーニャは服を着替えさせられ、部屋を追い出される。そしてジョゼは部屋の扉を閉めたのだった。

 

「ま、まるで嵐のようだ…」

「眠い…」

 

シュミットは一連の光景を見てそう称し、サーニャは眠たそうに扉を見たんだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「ったく、502にも変な奴が居るんだな」

 

エイラは後頭部で手を組んで歩きながらニパに話す。エイラも先ほど同じようにジョゼに部屋から追い出され、現在ニパと共に基地の廊下を歩いていた。

 

「ジョゼさんって普段は静かな人なんだけど、年末の大掃除だけはやる気が出過ぎて人が変わっちゃうんだ」

「はぁ…勘弁してくれよ」

 

ニパに説明されてエイラはぐったりとした様子で溜息を吐く。

 

「イッルもサーニャさんも休暇なんでしょ?年明けまでこっちに居るの?」

「うーん…どうしようかな~…」

 

そう、二人は現在休暇中であり、502に滞在しているのだ。エイラはニパに言われてどうしようか頭の中で思う。

その時、エイラは正面に見える人物に気づいた。

 

「あっ」

 

エイラが立ち止まって見た先には、窓の外を見ているサーニャとシュミットが居た。

 

「サーニャ」

 

エイラはサーニャに気づいて歩み寄っていく。

 

「サーニャ」

「あ…」

 

エイラに呼ばれてサーニャは気づく。同時に、シュミットもエイラ達に気づき挨拶をする。

 

「おはようエイラ、ニパ」

「おう。何してるんだ?」

「街を見てたの」

 

エイラの質問にサーニャは返事をした。そんな中、ニパはふと気になる。

 

「あれ?サーニャさんって、ペテルブルクに来たことあったっけ?」

「ううん。ただ、大きいけど寂しい街。そう思って…」

 

サーニャはペテルブルク出身ではないが、巨大な街に見合わず静かなところから、心の中で寂しい街だと思い眺めていたのだ。

 

「まぁ、皆疎開しちゃって誰も住んでないからね」

「でも、いつかきっと皆この街に戻ってこれるよね?」

「サーニャ…」

 

二パの説明に、サーニャは戻ってこれるという希望を求める。

そんなサーニャに、今まで黙っていたシュミットが口を開いた。

 

「ああ、きっと戻ってこれる。私達ウィッチ達が今戦っているんだ。絶対解放してやるさ」

 

そうシュミットはサーニャに優しく言った後、再び沈黙している街を見る。しかし、その視線はどこか遠くを見ている様子だった。

 

(そうだ。ネウロイを倒して、絶対に街を解放する。それがウィッチの役目なんだ…)

 

それがいつになるかわからない。しかし、シュミットは必ず自分が戦う間に街を解放してやると心に誓っていた。

その時、エイラは気を聞かせようとサーニャに話しかけた。

 

「よし。ちょっと街に行ってみようか」

「え?」

 

突然の言葉にサーニャは驚く。

 

「誰も居ないけどさ。久しぶりのオラーシャの街を散歩しようぜ。…ふ、二人っきりで…」

 

エイラは街に散歩に行こうと誘う。そしてちゃっかり二人で行こうと言い、同時にシュミットの顔色もうかがっていた。

 

「そうだな…サーニャ、一緒に行って来たらどうだ」

「え?」

 

そして、なんとシュミットは意外と呆気なく承諾した。サーニャはシュミットに突然言われると思わず驚き、エイラはそんなシュミットに、内心驚いていた。

無論、これには理由があった。

 

「久しぶりのオラーシャの街なんだ。次の機会に取っておく必要などない」

 

そう、シュミットはサーニャが久しぶりにオラーシャに来ているのだ。せっかくだから故郷の街に行く方がいいと思っての計らいだったのだ。

しかし、そうは上手くいかない。

 

「リトヴャク中尉、ユーティライネン少尉、ここに居ましたか」

 

突然後ろから声がして振り返ると、そこにはラルとロスマンが居た。

 

「すまんが、少し時間をもらえるか?」

「はい。何でしょうか?」

「スオムス方面の戦況について聞かせて欲しくてな」

「現場の生の声が知りたいの」

 

ラルとロスマンはスオムス方面の状況については報告でしか知らず、現場を知っているサーニャ達に質問する。

それを聞きエイラは考える。

 

「あー…えっとだな…その…なんか色々大変…?」

「それはわかるけど…」

「それじゃあ大変な事しかわからないぞ…」

 

エイラの答えにロスマンとシュミットはガクッとする。

しかし、サーニャはしっかりと説明を始めた。

 

「正直、あまり余裕はありません。この時期、周辺の湖も凍り付くため陸戦ウィッチの稼働率も損耗率も通常より高いです」

「なるほど。ラドガ湖が凍結したうちとしても他人事ではないか」

 

サーニャの説明を聞きラルは502の状況と照らし合わせる。

 

「その分、空はハンナ大尉が中心になって凌いでくれています。おかげで、私やエイラもここに来られました」

「流石はハンナ・ウィンド大尉ね。噂は聞いてるわ」

「そっか!やっぱりハッセはすごいなー」

 

ハンナ・ウィンドはエイラに続くスオムス№2のエースであり、「射撃のハンナ」と称されるエースウィッチだ。ロスマンとニパはそのハンナの活躍を聞き、凄いと称賛する。

 

「中尉、立ち話もなんだ。続きは隊長室で」

「わかりました」

「えっ!?ちょ…サーニャ!」

 

ラルに言われて付いていくサーニャを見て、エイラは手を伸ばして反応した。

 

「ちょっと行ってくるね。街にはエイラだけで行ってきていいから」

「いってらっしゃい」

 

サーニャが行くのでシュミットは「いってらっしゃい」と言う。それを聞き、サーニャはシュミットを見て少し微笑んだ後、ラルと共に部隊長室に行くのだった。

そんなサーニャの言葉に、エイラは困った顔をする。

 

「いや、一人じゃ意味ないだろ…」

「じゃあ私が付き合ってあげるよ。けど一人で行くのが寂しいなんて、いつまでたってもイッルは子供だな」

「いや、そうじゃないよ…」

 

ニパがそう茶化す。彼女は何故エイラが誘ったのかを理解しておらず、シュミットはそんなニパに突っ込むのだった。

そしてエイラはまるで子犬のようにサーニャを見て、

 

「サーニャ~…」

 

と、言ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「昨日は邪魔が入ったけど、今日こそは…!」

 

12月27日、エイラは歩きながらそう決意する。エイラはサーニャを街に行くのに誘えなかったことを諦めておらず、今日こそは街に行ってやるという意気込みで歩いていた。

その時、前方の角から人影が現れる。

 

「あっ」

「やあ、エイラくん。丁度良かった」

 

前方から現れたのはクルピンスキーだった。そして何故か手には花束を持っている。

そしてクルピンスキーは言った。

 

「サーニャちゃんの部屋を教えてほしいんだけど」

 

その言葉を聞き、エイラは嫌な予感がした。

 

「サ、サーニャになんか用か?」

「かわいい子をデートに誘うのに理由がいるのかい?」

 

その言葉を聞き、エイラの嫌な予感は確信に変わった。

 

「サーニャに妙な色目使うな!」

 

エイラがそう噛みつく。すると、今度はクルピンスキーはエイラの顎を取り上から眺める。

 

「ふふ…」

「うっ!?」

「なら…エイラ君に使うのならいいのかな?」

 

クルピンスキーはエイラを見ながらそう、甘い声で囁く。それを聞き、エイラは完全に目の前の人物に危険色を表した。

 

「お、おおおおおお前見境ないのかヨ!」

「フッ…」

 

エイラが言うとクルピンスキーはニヤリとする。そして、

 

「無いね!」

 

と、堂々と宣言したのだった。

そしてエイラは急いでサーニャの下に走り出した。

 

「逃げろー!サーニャ!危ない奴がいるぞー!」

「ハッハッハッハ!危ない恋こそ燃えるものだよ!サーニャちゃーん!!」

「シュミットー!サーニャが危険だー!」

 

そうして二人はともにサーニャの下に向かう。エイラはサーニャを守ろうと、クルピンスキーは全力でデートに誘おうと。

そして、二人はサーニャの部屋の扉を開けた。

 

「サーニャちゃん!」

「あっ」

「ん?」

 

そして二人はサーニャを見て同時に止まる。なんとそこには下着姿のサーニャが居たのだ。サーニャは着替えの途中だったのだ。

そしてサーニャは二人に気づき顔を赤くした。

 

「っ!!エイラ…!」

 

そしてサーニャはエイラを睨む。

 

「ち、違うんだ!これには訳が…」

 

そんなサーニャにエイラは慌てる。しかし、そんな空気を壊すかの如く話し始める人物がいた。

 

「これはこれは…まさにオラーシャの新雪の如き…」

「え?」

 

クルピンスキーは片膝をついて両手に花束を持ち、サーニャを見ながら告白をしていく。

 

「汚れの無い…美しい…」

「サーニャをそんな目で見んナー!!」

 

しかし、そんなクルピンスキーの両目を隠してエイラが懸命に静止をする。

 

「独り占めなんてずるいよ」

「ぐぬぬ…」

「ぬぬぬ…」

 

クルピンスキーはそれでもサーニャに歩み寄っていく。エイラはそれを懸命に止める。

両者互いに引かない。しかし、そこに新たに人が現れた。

 

「一体何を騒いで…!サーニャ!?」

「きゃ!?」

「すまない!」

 

なんと騒ぎを聞きつけてシュミットがやって来てしまった。そして、シュミットはその目でサーニャの下着姿を完全に見てしまった。そして、サーニャもシュミットに気づいて顔を赤くしながら悲鳴を上げて胸元を隠す。シュミットもサーニャの下着姿を完全に見てしまい、頬を染めて急いで目を逸らした。

そんな中、エイラとクルピンスキーを止める人物が現れた。

 

「何をしてるんですか!」

「っ!?」

「サ、サーシャちゃん!?」

 

シュミットのすぐ横で、サーシャが腰に手を当てながら二人を見る。元々サーシャはシュミットと共に居たため、すぐさま騒ぎを聞きつけてやって来たのだ。

 

「なぁ、こいつどうにかしてくれヨ!」

「ウィッチ同士、友情を深めようとしただけです。大尉殿」

 

エイラはクルピンスキーを止めてくれとサーシャに援軍を求め、クルピンスキーはこれはあくまでスキンシップだと言い張る。

そんな様子にサーシャは溜息を一つ。

 

「はぁ…ホントにもう…」

 

そう言ってサーシャは部屋に入ると、ベッドの上に畳んであるサーニャの着替えの服を手に取り、それをサーニャの肩にかける。

 

「シュミットさん、もう目を開けていいですよ」

「あ、ああ…ありがとうございます、サーシャさん」

 

サーシャに言われてシュミットは逸らしていた目を開ける。

そんなサーシャにサーニャも礼を言う。

 

「ありがとうございます、ポクルイーシキン大尉」

「サーシャで構いませんよ。それとも、愛称が似ていると呼びづらいですか?」

「いえ。じゃあ私のこともサーニャって呼んでください」

「ありがとう」

 

サーシャはサーニャに言われてありがとうと言う。そして、すぐにクスリと笑う。

 

「でも、ふふ。なんだかサーニャさんは他人とは思えませんね」

「私達、似てますか?」

「そうであれば光栄です」

 

そう言って互いに笑顔になる二人。そんな様子を、黙って見ていたエイラとクルピンスキー。

その時、サーシャはサーニャにあることを聞いた。

 

「ところでサーニャさん、少しユーティライネン少尉をお借りしたいのですが…」

「私?」

 

名前を呼ばれてなんだろうと思うエイラ。

 

「はい、いいですよ」

「ええっ!?」

 

そしてサーニャはあっさり承諾。その余りの速さにエイラは驚く。

 

「ありがとうございます。では行きましょうか、少尉」

「ど、どこ行くんだヨ…?」

 

そしてサーシャはエイラに同行を願うが、エイラは何処に行くのかわからず聞く。

 

「いい機会ですので、少尉の飛行技術を教授していただこうかと。恥ずかしながら、502には問題児が多くて…」

 

そう言って困った様子のサーシャ。

 

「さあ」

「えっ?」

 

そしてエイラはサーシャに手を取られる。

その様子を見てクルピンスキーはチャンスと言わんばかりに言う。

 

「頑張ってね、エイラ君。サーニャちゃんのことは僕に任せて…」

「任せて?」

 

と、突然クルピンスキーは恐怖感の混じった言葉を聞き固まる。そして油が切れた機械のように首を動かすと、そこには何故かニヤリとしているシュミットが居た。

 

「シュ、シュミットさん?」

「サーニャに何をするのかな?」

「な、何ってサーニャちゃんに…っ!」

 

クルピンスキーはシュミットのことをさん付けで冷や汗を流しながら言う。そしてシュミットが聞くとクルピンスキーは言い、そして言い終える前にシュミットはクルピンスキーの肩を掴んだ。

 

()()()()()()()…ちょっと()()一緒に来てくれ。急に模擬戦がしたくなってきてしまってな」

「えっ、あっ、ああ…!」

 

シュミットはそう言ってクルピンスキーを引っ張っていく。シュミットがいつものニセ伯爵ではなく名前で呼び、俺と言っていることから、クルピンスキーは完全に怒っていると感じた。

そしてシュミットはサーシャの方を向いた。

 

「サーシャさん、クルピンスキー中尉借ります」

「え、ええ…」

 

サーシャはシュミットの変わりように戸惑いながらも返事をする。これで承諾はもらった。

 

「さあ、逝くぞクルピンスキー…」

「さ、サーシャちゃん!助けて~…!」

 

そしてクルピンスキーを引きずりながら部屋を出ていくシュミット。その様子をサーシャとエイラは黙って見て、そしてサーニャは手を振って見送ったのだった。




ついにこの話が来ました。そして501時代と同じようにシュミットのベッドに潜り込むサーニャ。そして連れていかれたクルピンスキー中尉(ドナドナド~ナ~ド~ナ~)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十三話「エイラの努力と年越し準備」

というわけで第五十三話、中編です。どうぞ!


12月28日、エイラはこそこそと廊下を見ていた。

 

「こっそり…」

 

そしてエイラは廊下に誰もいないのを確認して振り返る。

 

「今だ。さあ今日こそ一緒に街に行くぞ、サーニャ」

「あ…」

 

そう言ってエイラは後ろに立つサーニャの手を取って走り出す。そう、一昨日、昨日とサーニャと街に出かけることを失敗したエイラは、今日こそはサーニャと街に一緒に行こうと試みていた。そして、二日続けて妨害に遭ったことから現在こっそりと出ようと頑張っているのだ。

そしてサーニャの手を引きながら走るエイラであるが、突如使い魔の耳を出しあるものに気づく。

 

「っ!こっちだ」

「え…」

 

そしてエイラとサーニャが隠れると、その先にラルとサーシャが歩いてくる。

 

「リトヴャク中尉…うちにも夜間戦闘に長けたウィッチが居ればな…」

「ですね。そうすれば、専門外の下原さんにかかる負担も減りますし…」

 

そう言いながら隠れているエイラ達の前を歩いていく。ラルとサーシャは502のナイトウィッチ不足の点を下原の固有魔法の力と地上指揮所との連携という形で補っているのが現状であり、純粋なナイトウィッチを欲しがっていたのだった。

そしてエイラは二人が歩いていったのを見てチャンスとばかりに動こうとする。

 

「よし、行ったな…今のうちに…っ!伏せろサーニャ!」

「っ!」

 

しかし、再び固有魔法で何かを察したのか、エイラはサーニャに伏せるように言う。

すると、今度は花束を持っていたクルピンスキーが歩いて来た。

 

「サーニャちゃん、どこかなー?昨日は狼君にやられたけど、今日こそはもっとお近づきになりたいなー」

 

と、花束を肩にかけて歩いていく。昨日シュミットの怒りに触れて連れてかれたクルピンスキーであるが、あれぐらいではめげないのがクルピンスキーである。再びシュミットに何されるかわかったものでもないのに、それでもサーニャと接触しようとしていた。

しかし、それは事前に察したエイラによって叶わず、クルピンスキーはそのまま歩いて行ったのだった。

 

「はぁ、まったく…皆、サーニャ、サーニャと。というか、なんであいつまたサーニャに接触しようとしてるんダ…?未来予知による絶対回避が無ければ捕まってたぞ…」

 

エイラは困ったように言う。そして同時にシュミットに連れてかれたクルピンスキーが、何故再びサーニャと接触しようとしてるのかと頭を抱えていた。

 

「気を引き締めなきゃな」

「エイラはさっきから誰と戦っているの?」

 

エイラの決意にサーニャは不思議に思いエイラに聞く。

 

「安心しろ。サーニャは私が守る!」

「…?う、うん…」

 

エイラに言われてサーニャは一瞬何のことかと首を傾げ、そして首を縦に小さく振る。

その後、エイラとサーニャは基地を隠れながら歩いていく。

 

「エイラ、そんなに街に行きたかったの?」

「ま、まあな」

 

そう話しながら歩いてるとき、エイラは曲がり角で誰かとぶつかった。

 

「うわっ!?」

「あっ!?」

 

エイラがぶつかったのは下原だった。そして下原は驚いた様子でエイラを見た後、何かを察したのかエイラに聞いた。

 

「あ…お出かけですか?」

(コイツは大丈夫そうダナ)

 

エイラは下原の反応を見て大丈夫そうだと思い、外出するとちゃんと伝えた。

 

「ああ、ちょっとな」

「そうですか。いってらっしゃい」

 

そうして下原はいってらっしゃいの挨拶をした。しかし、その時下原はエイラに手を引いてもらっているサーニャの姿を見て、目の色を変えた。

そんな下原に気づかずにエイラとサーニャは歩いていく。

 

「もうすぐだぞ、サー…にゃうぅっ!?」

 

そして突然、エイラは急にサーニャの手に急ブレーキを掛けられて驚く。そして振り返ると、衝撃の光景が映った。

 

「はあああ~…幸せ~!」

「あ、あの…?」

 

なんと下原がサーニャをホールドしているではないか。そしてそのままサーニャの頭にスリスリとして堪能しているではないか。

そんな姿にエイラはここ最近で一番驚く。

 

「わあああっ!?なにしてんだヨお前!?」

「ああもうサーニャさんかわいいです小さいです私もう我慢できませーん!」

「あ、あぅぅ…」

「ごめんなさい、本当は最初見た時からずっとこうしたかったんです!」

 

と言った様子で暴走する下原を、エイラは懸命にサーニャから引き剥がそうとする。

 

「こ、こらー!サーニャから離れろー!」

「後生です。もう少し、もう少しだけこの小さ可愛さを堪能させてくださーい!」

「はーなーせー!」

「あぅ…うぅ…」

 

エイラは懸命に下原を引き剥がそうとするが、下原はそれでも剥がれない。そしてサーニャはそんな下原に困った様子でただされるがままされていた。

その様子を、廊下の角から見ている人たちが居た。

 

「久しぶりに出たわね、下原さんの病気が…」

「俺らに続いて501からも犠牲者か…」

 

ロスマンと管野はその光景を隠れながら見ていた。そう、下原は一見普通そうに見えて、小さくてかわいいものに目が無い抱きつき魔だったのだ。そしてそれは502だけでなくついに501からも被害者を出す結果となってしまった。

 

「普段は物静かで奥ゆかしい子なんだけど…」

「あれ、地味に堪えるんだよなー…あっ」

 

ロスマンは普段の様子と比べ、管野は自分も被害に遭った時の状況を思い出して疲れた表情をする。その時、管野は奥から来た人物に気づいた。

 

「下原、サーニャが苦しそうだ。離してあげろ」

 

そう言って下原の肩を叩いたのは、突然現れたシュミットだった。そしてそれを聞き下原は慌てて抱き着いていたサーニャを離す。

 

「あっ、すみません!大丈夫ですか!?」

「いえ…」

 

下原は急いでサーニャに容体を聞くが、サーニャは疲れた様子ではあるが下原に大丈夫と言った。

そしてシュミットはここでエイラに話しかけた。

 

「エイラ」

「な、なんだヨ」

「外出許可、しっかりとっといたぞ」

 

その言葉を聞きエイラは驚く。そしてシュミットは続けて言う。

 

「隊長に話したら承諾をもらった。というより、休暇だから別に問題ないと言っていたぞ」

 

そう、シュミットはエイラの計画を知ってしっかりとラルに話を付けてきたのだ。そして、それを言おうと思って探しているとき、先ほどの現場に遭遇したのだ。

それを聞いてエイラはポカンとし、そしてすぐに表情を笑顔にしていく。

 

「ほ、本当カ!?」

「ああ、本当だ」

「ありがとナ、シュミット!行くぞサーニャ!」

 

そしてエイラはシュミットに礼を言い、再びサーニャと一緒に歩いていく。その光景を、シュミットは黙って手を振って見送っていく。

そんな中、下原がシュミットに聞いた。

 

「あの、シュミットさんは行かなくていいんですか?」

「ん?ああ、エイラがサーニャと二人きりで行きたいって計画してたんだ。私が加わるのはよくないと思ってな」

「でも、サーニャさんってシュミットさんの恋人なんですよね?」

 

それを言われ、シュミットは少し頬を赤くしてから返事をした。

 

「…まぁ、本音を言えば行きたいんですけど、まだ仕事があるんです…。だから、サーニャのことはエイラに任せることにしました」

 

そう言って、シュミットは再び廊下を歩いて去っていった。その後ろ姿を、下原とロスマン、管野は黙って見ていたのだった。

そして、外出許可を出したラルはというと――、

 

「寒いな…」

「廊下ですから…」

 

手にティーカップを持ちながら廊下でそう呟く。その横ではサーシャも同じようにティーカップを持っていた。何故二人が廊下にいるかと言うと、部隊長室に大掃除に来たジョゼが入り、ラルたちは追い出されてしまっていたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

12月31日。この日はサーニャは下原と共に台所に居た。下原は現在ジャガイモをボウルの中でつぶしており、サーニャはその向かい側でジャガイモの皮をむいていた。

と、その時下原がサーニャに話し始めた。

 

「あの…この前はすみませんでした」

「いえ、ちょっとビックリしましたけど…」

 

下原はサーニャにこの間のことを謝罪した。対するサーニャもそんな下原に特に気にした様子ではないようである。

 

「あの、サーニャさんって料理も上手なんですね。おかげで年越しパーティーの準備が捗りました」

「うんうん。流石サーニャさん!」

「え?」

 

と、下原は突然聞こえた声に気づき下を見ると、そこにはサーニャの腰に抱き着いて笑顔の表情をしているジョゼが居た。

 

「ふふ~ん」

「あーっ!?何してるの、ジョゼ!」

 

下原はそんなジョゼに叫ぶ。

 

「~♪」

「ずるい!私だって我慢してるのに!」

「えっ?」

 

と、下原の発言を聞きサーニャはびっくりする。そんな中、ジョゼはサーニャを抱いたまま話し始めた。

 

「だってサーニャさん凄いの」

 

そして訳を話し始める。ジョゼは大掃除の時、食糧庫を掃除していたら大切な食糧がネズミに食い荒らされているのを見つけた。その様子に困っているとき、サーニャが現れたのだ。サーニャは魔導針を使い食糧庫の中を探知すると、室内の隅っこに空いている穴に手を入れる。すると、その中からネズミが一匹出てきたのだ。サーニャは今回の犯人を捕まえて、二度と食べてしまわないようにしたのだ。

 

「ってわけで、サーニャさんは食べ物の恩人なの!ありがとう、サーニャさん。もうずっとここに居てください」

「え、えっと…」

 

大食いでグルメなジョゼは食に関しての恩人は大切にするようだ。

しかし、そんな中ジョゼはサーニャにスリスリとしているので、下原は自分も我慢していることをしているジョゼに怒った。

 

「こら!ジョゼ!」

「料理の準備はどうなって…」

 

そこに、ロスマンとサーシャが入ってくる。ロスマンは料理の状況を聞くが、目の前の光景に一瞬止まる。

 

「何をしているの?あなたたち」

「っ!?」

 

ロスマンからしたら下原とサーニャが互いに包丁を持って向かい合っている様子に見えたようである。三人は慌てて直立する。

そして下原が慌てて状況を説明した。

 

「は、はい!サーニャさんのおかげで順調に進んでいます。オラーシャ料理に関しては私より詳しいですよ。あはは…」

「へぇ…さすがね。私もオラーシャ料理のレシピはいくつか記録していますが、それだけに奥の深さもわかります。これは楽しみですね」

 

下原がそう説明すると、サーシャはサーニャの料理の腕を楽しみにする。

サーニャはサーシャに言われて少し照れる。

 

「そんなに期待されると…」

「じゃあ、メインはオラーシャ料理になるのかしら?」

「はい。ボルシチとピロシキです」

 

ロスマンに聞かれて下原が説明するが、その時に下原は包丁を掲げたためロスマンは思わず後ずさる。

そしてそれに続くようにサーニャも言った。

 

「あとオリヴィエとペリメニ。それと毛皮を着たニシンとか」

「ニシンが毛皮を着るの?」

 

ジョゼはサーニャの説明に疑問を浮かべる。

 

「酢漬けのニシンにビーツやジャガイモ、サワークリームとかを重ねて作るオラーシャ料理です。ケーキみたいで綺麗ですよ」

「はぁ…!楽しみ~!」

 

ジョゼはサーシャの説明を聞き目を輝かす。しかしサーニャは少し困った顔をする。

 

「イクラやキャビアも欲しいんですけど、補給物資に入れ忘れてしまって…」

「そう…だったら、これを使って」

 

材料の準備を忘れていたため困ったサーニャであったが、ここで意外な助け舟が出た。ロスマンがイクラとキャビアの入った缶詰を差し出した。

それを見て下原は驚く。

 

「え?これロスマンさん秘蔵の食材ですよね?」

「あなたたちなら、あのニセ伯爵みたいなマネはしないと信じられるもの」

 

そう言っているとき、その缶詰に手が伸びる。

 

「あーん。…やっぱりキャビアってしょっぱいだけだなー」

 

そして、何処から現れたのか、クルピンスキーがキャビアの缶詰を勝手に開けて食べだした。

 

「…うまい」

 

さらに、クルピンスキーの後ろでは何故かラルがロスマンのイクラの缶詰をつまみ食いしていた。

ロスマンはクルピンスキーに気づき悲鳴を挙げる。

 

「きゃあ!何やってるのニセ伯爵!おのれー!」

「隊長も、どさくさに紛れてつまみ食いしないでください」

 

ロスマンはキャビアの缶詰を奪うとそれを大事そうに持つ。そしてサーシャもつまみ食いをしているラルから缶詰を回収する。

そしてクルピンスキーとロスマンの追いかけっこが始まる。

 

「こら!待ちなさい!」

「ジョゼちゃん助けて―!」

「知りません!」

 

クルピンスキーはジョゼに助けを求めるが、ジョゼはクルピンスキーを突き放す。

 

「ひいー!」

「いいかげんにして!」

 

そしてクルピンスキーはロスマンに捉えられた。

一連の光景を、食堂の外から見ていたエイラが叫ぶ。

 

「こらー!お前らいい加減にしろよ!サーニャが困って…え?」

 

と、怒っていたエイラだったが突然その怒りを鎮めた。

 

「ウフフ…」

 

見ると、サーニャはその光景を見て笑っているではないか。エイラはサーニャが笑顔なのを見て止まる。

そしてそこにニパとシュミットが登場した。

 

「あ、いたいた。ねえイッル」

「ん?」

「今年最後の汗を流しに行こうよ」

 

そう言って、ニパはエイラの手を取る。

 

「え?おいちょっと…今、そんな気分じゃ…」

 

エイラはそう言うが、ニパに連れられてサウナに行ってしまう。

そしてシュミットは腕をまくりながら食堂に入ってきた。

 

「下原」

「はい!」

「台所、少し借りるぞ」

「はい…え?」

 

シュミットに言われて最初こそ返事をした下原だが、手を洗っているシュミットを見て驚いたように声を漏らす。他のみんなもそんな下原を見てシュミットの方を見た。

 

「シュミットさん…何か作るんですか?」

「ん?ああ、ちょっと年越しのケーキを作ろうかなと思ってな」

『ええっ!?』

 

何気なく言うシュミットであるが、他の隊員達は余りにも似合わないシュミットのそんな姿に驚きの声を上げる。

しかし、ここでサーニャが話し始めた。

 

「シュミットさん、ケーキを焼くのが凄く上手なんです。私の誕生日の日にも、501でケーキを焼いたんですよ」

 

サーニャに説明されてさらに驚く皆。

 

「な、なんていうか意外です…」

「シュミットさん、料理できたんですか…?」

「いや、下原より料理はうまくないんだよなぁ。お菓子作りなら得意なんだけど…しかしやっぱり意外かなぁ?」

「意外です」

 

意外と言われて少しショックを受けながら準備を進めるシュミットに、サーニャ以外の全員がただ黙って眺めているのだった。




シュミットが居るからエイラとサーニャは無事に街に行けました。いやぁ、やっぱりシュミット君がケーキ作るなんて想像できないだろうなぁ…。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十四話「ペテルブルグ大戦略」

というわけで第五十四話、OVA後編に入ります。CAUTION! CAUTION!甘い成分を含んだ文章となっております。読む方はコーヒーを片手にどうぞ!


シュミットが台所でケーキを作っている中、502のサウナの中にはエイラと二パ、ひかりと管野が居た。

 

「小」

「んがっ!」

 

管野が叫ぶ。

 

「中」

「ぅひゃ!?あははは…!」

 

ひかりがくすぐったくする。

 

「大」

「うわあー!?や、やめろー!」

 

ニパが止めるようにエイラに言う。エイラはサウナの中でそれぞれの胸を揉んでいたのだ。

そしてエイラは胸を揉み終わった後、溜息を一つ吐いた。

 

「はぁ…つまんないナ~…」

「てめえっ!!人の乳揉んどいて何言ってやがんだ!!」

「ふぇ…くすぐったかった」

 

エイラの言葉に管野が怒る。ひかりはエイラの揉み心地にくすぐったさを感じていた。

そんな中、ニパがエイラに聞く。

 

「ねえ、イッル。まさかサーニャさんにもこんなことしてんの!?」

 

二パが聞くと、エイラは顔色を大きく変えて言い始めた。

 

「な、なに言ってんだお前!そんな気軽な気持ちでサーニャを触っていいわけがないだろ!」

「俺達ならいいのかよ…」

 

エイラの言葉に管野がツッコむ。

 

「はぁ~…」

 

そう言ってエイラはサウナの中に寝転ぶ。そんなエイラにニパが聞く。

 

「イッル、何かあったの?」

「う~ん、この間の借りをどう返したらと思ってサー…」

「この間?」

 

ニパが疑問に思う中、エイラが説明する。この間とはシュミットがエイラとサーニャに外出許可を取ってくれたことである。エイラはそれに対してシュミットに借りを作ったため、その返し方について悩んでいた。エイラは自分の時間を割いてまで作った借りを借りっぱなしにしたくなかったのだ。

そして悩み続けるエイラ。その姿について管野が二パに聞く。

 

「こいつ本当にスオムスのスーパーエースで、ガリア開放の英雄なのかよ?」

「イッルはサーニャさんが絡むとちょっと面倒なんだ」

「ちょっとじゃねえだろ!」

 

とてもこんな姿を見てはスーパーエースらしさが無い。それについてニパが説明をすると、再び管野はツッコむ。

その時、ひかりは気になることがあり質問した。

 

「そういえば、こっちではどんな風に年を越すんですか?除夜の鐘は無いですよね?」

「ばーか。サトゥルヌス祭とあんま変わんねえよ」

「むっ!」

 

管野が説明をするが、ひかりはバカと言われて少しムッとする。そして管野が続けて説明する。

 

「皆でうまいもん食って、どんちゃん騒ぎだな」

「あっ!下原さんたちがご馳走の準備してましたね!楽しみ~」

 

ひかりはキッチンで料理をしていた下原たちのことを思い出してわくわくする。

そして管野は寝転がっているエイラを見る。

 

「まあ、それが出来るのも補給物資を持ってきてくれたこいつらのおかげだな」

「ですよね。ホントありがとうございます!」

「あー、いいってことよー…」

 

ひかりが礼を言うと、エイラは手を上げて揺ら揺らとする。

その時、ニパがあることに気づく。

 

「あっ、でもサトゥルヌス祭と違うところもあるよ。スオムスでは年越しと同時に花火を打ち上げるんだ」

「花火ですか?」

「でね、二人で花火を見ながら年を越すと幸せになれるって言い伝えがあってさ」

 

二パの説明を聞いてひかりはロマンチックに思えてくる。

 

「なんかいいですね!」

「でしょ、でしょ」

 

ひかりの言葉にニパも頷く。

 

「つーか、二人で年越しする時点で、もう十分幸せなんじゃねえか?」

「もう、管野は全然わかってない。こういうのがロマンチックなんだから!」

 

管野がそう言うが、二パはそれに対してロマンチックでいいじゃないかと言う。

その時、今まで黙っていたエイラが何かを思いついたように起き上がる。

 

「それだ!」

「ん?」

 

突然の声に管野とニパが同時にエイラを見る。

 

「そうだよ。忘れてた…それがあるじゃんか」

 

そう言って今度はニパの頭をなでるエイラ。

 

「お手柄だぞ、ニパ。ありがとナ」

「ぅええあっ?あ、あ…」

 

エイラはニパに礼を言うが、ニパは頭をぐりぐりとされて変な声を出す。

 

「ようし!こうしちゃ居られないぞ!とう!」

 

そうして、エイラはダッシュでサウナ室から出ていく。残されたメンバーはそんなエイラをただ見ているだけであった。

 

「どうしたんだろう?」

「知るかよ」

 

二パは頭を揺らしながら管野に聞くが、管野もよくわからない様子であった。

 

「よくわかんないけど、イッルに褒められた…ニヘヘヘ」

 

しかし、ニパはそれよりもエイラに褒められたことに頭がいっぱいになり、とても嬉しそうにしていた。

 

「花火?そんなムダなことに貴重な物資を使えるか。無理だな」

「ぐぬぬ…ケチ」

 

そしてエイラは服を着て部隊長室に行き、ラルに提案をした。しかし、ラルは物資不足の状況でそんなことができるかとバッサリと提案を切ってしまい、エイラは膨れるのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その後、食堂のテーブルに豪華な料理が並べられる。どれもすべて下原とサーニャが作ったものであり、ケーキなどのお菓子についてはシュミットの作ったものだ。

そしてラルとロスマン、サーシャの三人は前に立つ。

 

「諸君らの活躍によって、今年もネウロイの進行を阻止し、ペテルブルクを守ることができた。そして来年こそ奴らへの反攻の年とする。いいな」

『はい!』

 

ラルの言葉に全員が返事をする。

 

「ふぁい」

 

と、一人だけ既に食べ始めている者が居た。ジョゼである。

それに管野が気付く。

 

「あ!こいつもう食ってやがる!」

「ジョゼ、お行儀が悪いよ」

「らって…」

 

下原に注意されるが、ジョゼはどうやら待てなかったようである。そしてひかりもそれに続いて食べ始めたため、全員が流れで食事を開始した。

 

「うん。このボルシチ最高だね」

「美味しいわ~」

「懐かしいオラーシャの味です」

「美味い」

 

みんなテーブルの料理を食べて、顔がほころぶ。

 

「きょうの料理の味付けは、殆どサーニャさんがやってくれたんですよ」

「さすがサーニャ」

 

下原の説明を聞き、エイラがサーニャを褒める。その言葉にサーニャは少し照れたようすで赤くなる。

それを聞き、ひかりたちもサーニャの下へ行く。

 

「え!?そうなんですか?」

「凄すぎです、サーニャさん!」

 

みんな口々にサーニャを褒める。そんな中、サーニャはシュミットが気になり見る。

シュミットはもぐもぐと口を動かし、そしてそれを飲み込むと今度は微笑んだ。

 

「美味しい…」

 

静かに放たれたシュミットの言葉を聞き、サーニャはホッとしたのと同時に嬉しさが巡る。その反応にシュミットは気づいていなかったが、サーニャの周りにいたメンバーは微笑ましくサーニャのことを見ていた。

その時だった。基地全体に警報が鳴りだす。

 

「ネウロイ!?」

「もう…空気読んでよ!」

 

口々が反応する中、ラルは冷静に命令を下す。

 

「食事は中断だ。すぐに出撃の用意をしろ」

 

ラルが命令するが、ロスマンとサーシャは誰を出すか考えていた。

 

「誰を出しますか?」

「弾薬と燃料は相変わらず心もとないですが」

「おまけに夜間戦闘と来たか…」

 

そう言ってラルはウィッチ達を見る。

その後、出撃を開始した。出撃メンバーは、ナイトウィッチであるサーニャ。夜間戦闘経験の豊富なエイラとシュミット。夜間視を持つ下原。そして、夜間戦闘経験を積むためにロスマンの付き添いでひかりが出撃した。

ひかりは、初めての夜間戦闘に興奮していた。

 

「うわあっ!?なんですか、これ。星が凄い…こんなの見たこと…うわあ!?」

 

その時、ひかりは突然ひっくりかえってしまい、自分がどの方向を向いているのかを完全に見失ってしまう。

 

「どっちが上ー!?」

「一度目を閉じて深呼吸。力を抜いたら、あとはユニットに聞きなさい」

「はい!」

 

ロスマンがそんなひかりに指導をする。それをききひかりはすぐさま実行に移し、そしてふらついていた体を立て直した。

 

「戻った!ふう…ありがとう、チドリ」

 

ひかりは自分のユニットに礼を言う。そしてロスマンがひかりの横に行く。

 

「夜空は位置を見失いやすいわ。常に自分の仲間の位置を把握すること」

「はい!」

「夜間戦闘の経験を積むために来たのだから、しっかりと体に叩き込みなさい。いいわね?」

「はい!」

 

そんな様子を見て、サーニャは何か思い出したのか微笑む。その様子にシュミットとエイラは気づく。

 

「どうした?」

「芳佳ちゃんと初めて夜空を飛んだ時を思い出したの」

「ああ、宮藤もバタバタしてたナー」

 

そう言っているとき、シュミットは別のことを思い出した。

 

「…私はこの空をみてサーニャと初めて会った時を思い出した」

「えっ?」

「ん?」

 

突然、シュミットがそんな事を言うので二人は驚く。

 

「私がこの世界に来た時も、あのようにきれいな月が出ていたと思ってな。その時のサーニャを見て、私はあの時一目惚れをしたんだ」

「あぅ…」

 

そしてシュミットがそんなことを告白してくるので、サーニャは段々恥ずかしくなってくる。

その時だった。

 

「前方3000!ネウロイです!」

「っ!」

 

突然下原がネウロイ発見の報告をしたので、全員が臨戦態勢に戻る。

 

「エイラ、シュミットさん、お願い!」

「いっくぞー!」

「さっさとネウロイを倒すぞ!」

 

そしてエイラとシュミットは先陣を切って突撃する。その後ろをサーニャが付いていく。

そんな様子を見てひかりは驚く。

 

「わっ!皆さん凄い気合が入ってますね」

「よく見ておきなさい。彼女たち501エースの力を。そして特に、エイラさんが無傷のエースと言われるわけを」

「はい!」

 

そしてロスマンはひかりに先ほど突貫したウィッチ達、その中でも特にエイラの動きを見るようにと言う。それはひかりの追求すべき戦闘スタイルを求めるうえで、最も近い動きをするのがエイラだからだ。

そして先陣を切ってエイラがネウロイに攻撃を加える。しかし、ネウロイはエイラの攻撃を数発受けた後、即座に反撃を開始する。

そして、エイラはそのダメージがあまり通ってないのに気づく。

 

「効いてない!?ウソだろ?」

「私が行きます!」

 

エイラが下がって、今度は下原が突撃する。そして下原も攻撃をするが、その攻撃がネウロイの装甲を僅かに削った程度だったことから、このネウロイが防御特化型のネウロイと判断する。

 

「装甲が硬い!?」

「下がって!」

「私が行く!」

 

そして今度は下原が後退をし、今度はシュミットとサーニャが攻撃を開始する。サーニャが手に持つフリーガーハマーのロケット弾をネウロイに命中させると、今度はシュミットがその隙をついて突撃する。

 

(行くぞ、ゼロの領域!)

 

そして、久しぶりにシュミットはゼロの領域に入る。そのままシュミットはネウロイが進行するであろう方向などを先に読み取り、手に持つMG151を構える。

 

「喰らえ!」

 

強化も合わさったMG151の弾丸は、ネウロイの装甲を完全に抉ることは出来なかったが、その表面を大きく削る。

そして、ロスマンが全員に指示を出した。

 

「攻撃が効かないわけじゃない。防御特化型のネウロイよ!」

「特化?」

「つまりこいつは攻撃を続ければいいんだ」

 

ひかりはちゃんと理解できていない様子だったので、シュミットはわかりやすく言う。

 

「そうと分かれば…!」

「そうよ。効くまで攻撃を続けてコアを探し出すだけのこと!」

「つまり、いつもと同じってことだろ」

「ですね!」

 

そうして、再び編隊を組み直す。

 

「行くわよ!」

 

そして、ネウロイに向けて再攻撃を開始する。ネウロイは急旋回をし、連携を組んでいるシュミット達に攻撃を仕掛ける。

未来予知の固有魔法を持つエイラと、ゼロの領域に入っていたシュミットはネウロイの攻撃が来るのを予想したため、そのまま上昇をして回避をする。それ以外のウィッチはシールドで攻撃を防ぐが、ひかりは攻撃の強さに弾き飛ばされる。

 

「ああっ!?」

 

そして弾き飛ばされたひかりはすぐさま体勢を立て直すが、ネウロイは容赦なく攻撃をするためひかりは回避するので精一杯になっていた。

 

「近づけない…!」

「おい!」

 

その時、先に回避をしていたエイラがひかりの下へ来る。

 

「えっ!?」

「いいか?攻撃はこうやって躱すんだ」

 

そう言ってエイラは急上昇をする。そして今度は急降下をし、ネウロイに向けて進んでいく。ネウロイがエイラに気づき攻撃をする。

 

「当てれるもんなら当ててみな!」

 

しかし、その攻撃はエイラの前では無意味だった。エイラは攻撃をまるで隙間を縫うようにすいすいと回避していく。

 

「すごい…シールドを全然使ってない」

 

ひかりはそんなエイラに驚く。

 

「そらそらそらそらそらーっ!」

 

そしてエイラは急降下するそのままの速度でネウロイに攻撃を加えていく。そしてネウロイの攻撃がエイラに向かっている間に、ロスマンとサーニャがネウロイの前方に立ちはだかり、同時にフリーガーハマーで攻撃をする。ネウロイはその攻撃に遅れて全弾命中し、そしてついに装甲が剥がれてコアが見える。

 

「コアです!」

「今のうちだわ!」

 

全員がすぐさまコアに向けて照準したその時、ネウロイはその露出したコアを隠すべく装甲をすぐさま再生させる。

 

「再生が早い…!」

 

そして、再生したネウロイは物凄いスピードで直進を開始する。そしてそのままウィッチ達の横を通り過ぎていく。

 

「逃げた!」

「違います!向こうには基地があります!」

 

ひかりはネウロイが逃げたと思うが、下原の夜間視によってその方向が基地とわかると全員が驚く。

 

「まずいわ!今、基地に行かせては…」

「追います!」

 

全員が急いで基地の方向に向かおうとしたその時、後ろから声がする。

 

「大丈夫です」

「えっ!?」

 

突然のサーニャの声に全員が振り返る。そこにはサーニャだけでなく、エイラもいた。

 

「どういうことですか?」

「追わなくても大丈夫ってことダ」

「だって…」

 

ひかりが聞くが、エイラとサーニャは自信ありといった表情で宣言した。

そして、基地に向かうネウロイの進行方向に、その人はいた。

 

「悪いな」

 

そう、シュミットはネウロイが基地に向かうこともゼロの領域で読み取ったのだ。そして、すぐさまシュミットは移動し、ネウロイを待ち構えたのだ。

 

「大切な人の故郷なんだ。ここで墜とさせてもらう」

 

そう言って、シュミットはMG151を構える。そして、強化を掛けた弾丸をネウロイに向けて放った。ネウロイは高速で進む中、強力な弾丸が自分の体を貫く勢いで命中したため、その装甲を大きく抉り取り、ついに中に隠れていたコアまで破壊される。そして、シュミットの横を通り過ぎたネウロイは、その姿を光の破片に変えて消滅させた。

その光景はまるで夜空に大きく現れた花火のようだった。

 

「すごいわ、シュミットさん」

「綺麗…花火みたい」

 

その様子を出撃したメンバーは離れた所から見ていた。

そして、基地の中からもネウロイの消滅した姿は確認できた。

 

「たーまやー!ってか」

 

管野がそう言うように、まるで花火のように輝く光景を、基地の中から全員が見ているのだった。

そしてシュミットはそんな光景を静かに見ていた。

 

「綺麗だ…」

 

そう呟いたその時、突然シュミットは自分の手を取られて驚く。そして、手を取った人物の方向を見ると、それはサーニャだった。

 

「サーニャ」

「お疲れ様、シュミットさん。まるで本物の花火みたいね…」

 

そう言って、サーニャは微笑む。

 

「今年もよろしくね、シュミットさん」

「っ!」

 

そんなサーニャを見て、シュミットはすごく綺麗と思ってしまった。それは初めてサーニャに遭ったあの夜よりも、数倍綺麗だと感じた。

そんなサーニャに、シュミットも微笑み返した。

 

「…ああ。今年もよろしく、サーニャ」

 

そう言って、シュミットはサーニャの手を握り返した。そして、サーニャの体を自分の方に寄せると、そっと互いの顔を近づける。サーニャもそれに気づき、ゆっくり、ゆっくりと顔を近づけ…

――そして、ついに二人の唇は重なった。二人は目を瞑ったまま、静かにキスをつづけた。

その様子を空で見ていた人たちは、二人共とても熱々だと思いながら見守り、エイラも今回ばかりは自分の借りを返すつもりで、静かに二人のキスを見守っていたのだった。

 

(まぁ…これで借りは返したからナ…)

 

そして数秒の後、シュミットは重ねていた唇を離してサーニャに微笑む。同じように、サーニャもシュミットに微笑み返したのだった。




というわけで、ペテルブルグ大作戦ついに完結しました。いや~、なんていいますか、あま~いです。それはそれはとっても甘いです!
そして次の話で、皆様に投票を行ったシュミットの新ユニットについて触れる話に入りたいと思います。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十五話「隠蔽された負の遺産」

第五十五話です。前回、新ユニットについて触れると言いましたが、予定よりも進まなかったため次回に持ち越します。それではどうぞ!


「イッルのプレゼント、まだ開けてないのがあったよ」

 

エイラとサーニャが休暇を終えて502から居なくなったある日、格納庫内で二パが補給箱の中に未開封の物があるのを見つけた。そして現在、シュミット、ニパ、ひかり、管野、クルピンスキーの五人で中身を調べようとしていた。

 

「美味しいものとか入ってるといいですね~」

「ぶどうジュースあるかな~」

 

ひかりは中身に食べ物が入っていたらという願望を持ち、クルピンスキーも同じようにぶどうジュースを欲しがる。しかし、箱を開けると中から出てきたのは武器と弾薬だった。

 

「何だ、武器か…」

「残念」

「おいおい…せっかく搔き集めて持ってきてくれた補給だぞ?」

 

中身を見てがっかりするクルピンスキーとニパに、流石に失礼だろうとシュミットは言う。

そんな中、管野は中に意外なものが入っているのを見つけた。

 

「あ!リベレーターまで入ってる」

 

そして管野はリベレーターの裏側を見る。

 

「何だ…弾も入ってねえじゃねえか…」

 

管野の言う通り、リベレーターには弾が一つも入っていない。元々一発しか撃つことのできない銃なのに、さらにその弾丸まで無しとなってはまるで武器の役目を持たない。

しかし、ひかりはその銃を見て食いついた。

 

「可愛い!何ですかそれ!」

「か、可愛い?」

「バカかおめえ?」

 

ひかりの予想外の反応にニパと管野は呆れたように反応する。シュミットも黙ってはいたが、年頃の女の子が可愛いという代物では無いと思い、内心苦笑いをしていた。

その時、クルピンスキーが管野からリベレーターを取る。そしてひかりに説明した。

 

「これはね子猫ちゃん。ケルト魔法がかかったお守りで…ほら、全体がルーン文字の形をしているだろう?」

「ルーン文字…ですか?」

 

ひかりは聞きなれない単語になんのことかわからずに聞く。

 

「そう。敵の弾が当たらないおまじないがかかっているんだよ」

「わぁ!扶桑の破魔矢みたいですね!いいなぁ~、欲しいな~」

「デートしてくれるんだったら、あげてもいいよ」

 

ひかりが欲しがっていたので、クルピンスキーは少しいじわるに言う。

それを聞いて、ひかりは少しがっかりする。

 

「え~…、じゃあ要りません」

「ウソウソ。ひかりちゃんにあげるよ」

 

しかし、クルピンスキーもそこまで意地悪ではない。すぐにそれをひかりに渡してあげると、ひかりはとても喜ぶ。

 

「やったー!!」

 

そんな様子を、見ていたシュミットとニパ、管野の三人は呆れた顔をして見ていた。

 

「…まるで息をするように嘘を吐いた」

「でも、ひかり信じちゃったよ…」

「正真正銘のバカだな…」

 

無論、クルピンスキーが言ったのは嘘であるが、ひかりはそれを本当のことだと完全に勘違いしており、そんなひかりの純粋さを少しかわいそうな目で見てしまうのだった。

そんな中、ニパは箱の中に小さな箱があるのに気づく。

 

「ん?これ何だ?」

 

二パはそれを手に取って見る。そして、管野がそこに書いてある文字を読む。

 

「クルピンスキーへって書いてあるな」

 

それを聞き、全員がニパの持つ箱に目をやる。そしてクルピンスキーは自分の名前を呼ばれたため、その箱が自分宛ての物と見て興味を示す。

 

「てことは、スペシャルなぶどうジュースかな?開けてみて」

 

クルピンスキーはわくわくしながらニパにあけるように言う。そしてニパが箱を開けると、中には美味しそうなマカロンが並んでいた。

 

「わぁ、お菓子だ!」

「ちぇっ、違ったか~」

 

ニパは中身を見て喜ぶが、クルピンスキーはお目当てのもので無かったので少しがっかりする。そしてその中の一つを手に取って食べ――、

 

「っ!!…なんだこれ?」

 

そしてマカロンを睨む。シュミットもそれに気づき、中身を見る。すると、そこには金属の小さなケースのようなものが入っていた。

 

「これは…?」

 

シュミットはクルピンスキーの持つマカロンから、その中の物を取り出した。そして、そのケースの蓋を開けてみる。

すると、驚いたことにそこにはマイクロフィルムが入っているではないか。

 

「!これは…クルピンスキー、これを急いで隊長の所へ持っていけ!」

「りょ、了解!」

 

シュミットに言われてクルピンスキーはそれを部隊長室に持って行った。

ひかりとニパ、管野の三人はその光景を見て何だろうと思いシュミットに質問した。

 

「あの、何かあったんですか?」

「…これは恐らく、機密事項だ」

「えっ?」

 

シュミットの言葉に尚更わからないといった反応をするひかり。その時、基地のアナウンスが流れる。

 

『シュミット・リーフェンシュタール中尉、至急隊長室へ来てくれ』

 

シュミットは自分がアナウンスで呼ばれるとは思わず、少し驚く。

 

「…ちょっと行ってくる」

 

そう言って、シュミットは格納庫を出る。そしてそのままダッシュで隊長室に行く。

 

(クルピンスキー宛の物の中身は機密事項として、何故私が呼ばれる?)

 

そんな事を考えながら、シュミットは隊長室のドアを叩いた。

 

「リーフェンシュタール中尉です」

「入れ」

 

室内から声がしたので、シュミットは扉を開けた。

 

「失礼します」

 

そうして入ると、中にはラルとロスマン、サーシャにクルピンスキーが待っていた。そしてシュミットはそのままラルの机の前に行く。ラルの前には先ほどのマイクロフィルムがあり、ラル自身は手元の資料らしきものを見ていた。

 

「隊長、どうしたんですか?」

「単刀直入に聞く。これに見覚えはあるか?」

 

シュミットが聞くと、ラルは手に持っていた資料をシュミットに見せた。シュミットがそれを拝見する。

 

「これは…っ!!?」

 

シュミットは中身を見て、そこに映っていた()()()に目がいった。それは、彼が半年ほど前に見たあの兵器だったのだ。

 

「ウォーロック!?」

 

シュミットはあり得ないといった様子で見る。周りのみんなはそれが何なのかわからず疑問に思う。

 

「…ウォーロック?」

「なんですか、これ…」

 

口々に疑問の声を出す中、シュミットが呟いた。

 

「…ネウロイのコアを利用した兵器だ」

「えっ!?」

「ネウロイのコアを利用した兵器ですって!?」

 

シュミットの言葉にロスマンがあり得ないといった様子で聞く。

そしてラルが話す。

 

「ネウロイをもってネウロイを制す…そんな作戦が存在したとはな」

「だが、ウォーロックは作戦中に暴走をして、そのツケを私たちが払わされた…今となっては思い出したくもない兵器だ」

 

シュミットはあの時の状況を思い出して嫌な顔をした。ウォーロックのせいで501は解散させられ、そして暴走したらこんどは501が倒すことになった。面倒なことを運んできたこの兵器に対して、いい思い出など一つもないのだ。

 

「倒せたと言っても、これを我々が再現するのは不可能です」

「だがこの資料から分かったことがある。ネウロイの数にも限りがある。倒し続けていれば、いつかは巣が空になる」

 

サーシャはその真実を聞き、自分たちがウォーロックを再現するなど出来るものでないと言う。そんな中ラルは、この資料からネウロイの巣の特性を理解し、巣の破壊につながる重要な手がかりとなる点を説明する。

それを聞き、ロスマンも顎に手を当てて考える。

 

「マンシュタイン元帥も、この情報を知れば火力を集中させて、ネウロイに消耗戦を仕掛けようとするでしょう」

「だろうな」

「ひょっとして!」

 

ラルの反応を聞き、サーシャは何かに気づいた。そして様子を、ラルは納得したように説明した。

 

「そうだ。ムルマンに向かっている物資の中に、グリゴーリ攻略の切り札が積まれているに違いない」

「ムルマン?」

 

シュミットはラルの言葉に何のことかわからずに聞く。その質問を、サーシャが説明した。

 

「現在ムルマンに、ブリタニアからの大規模な輸送船団が向かっているんです」

「だから私たちに護衛を…」

 

ロスマンは事前に502に護衛の援軍要請が来ていたことについて、これで合点がいった様子だった。

そんな中、クルピンスキーは護衛船団の話を聞き食いついた。

 

「ぶどうジュースあるかな?」

「ない」

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その後、シュミット達は食事の席でラルとロスマンからの作戦説明を受けていた。

 

「そのままでいいから聞け、作戦を伝える」

 

ラルがそう言うと、全員が手を止めて前方を見る。そしてロスマンが地図を立てると、説明を開始した。

 

「現在、ブリタニアからムルマンに大規模な補給船団が向かっています。その船団を護衛するのが今回の作戦です」

 

ロスマンが指し棒で示すと、現在の輸送船団の位置が指される。

そしてラルが付け加えて言う。

 

「今回の作戦に参加するのは五名。作戦指揮はクルピンスキー中尉、副指揮はシュミット中尉が取れ」

「はい」

「えっ!?待ってよ、僕が行くの~?」

 

シュミットはすんなり返事をしたが、クルピンスキーは乗り気ではなかった。

その反応を見越してか、ロスマンは一枚の写真を取り出して説明を加える。

 

「船団には非常時用に一人、ブリタニアのウィッチが同行しています」

 

そう言ってロスマンは写真をクルピンスキーに見せた。それを見てクルピンスキーは(可愛い…!)と心の中で反応した。

 

「行きます!」

「おい…」

 

クルピンスキーの早変わりの様子にシュミットは呆れてしまう。

そしてラルは残りのウィッチを見た。

 

「残りのメンバーは中尉が選出せよ。また、現地で新型ユニットを受領し戦力強化後、護衛を行うように」

「新型!?行く行く!俺が行く!」

 

新型ユニットという言葉に今度は管野が反応した。

 

「じゃあ残り三人は直ちゃん、ニパ君、ひかりちゃんで」

「えっ!?私もですか?」

「ムルマンか~…遠いなあ…」

 

ひかりは自分が指名されると思わず驚き、ニパはムルマンまでの距離を頭で想像して大変そうだといった反応をする。

勿論、この選出はシュミットもある程度推測ができた。

 

(管野、ニパ、雁淵…なるほど、最年少組への経験か)

 

ウィッチは基本的に20歳であがりを迎えてしまい、殆どは魔力が無くなってしまう。そうなってくると、次世代のウィッチ達が今度は引っ張っていく番になる。それを見越してクルピンスキーが選出したんだと考え、シュミットはいつものあのクルピンスキーから考えを少し改めたのだった。

そして翌日、出撃メンバーはユニットを履いて準備をしていた。しかしそんな中、ニパのユニットは指導と同時に黒煙が少し出てきていた。

 

「おい、大丈夫か?それ…」

「うーん…1000キロ持ってくれよ~」

 

管野が聞くが、二パは大丈夫と言い切れず神頼みをする。

そしてひかりは、

 

「~♪」

 

昨日クルピンスキーからもらったリベレーターを紐を通して自分の首からぶら下げていた。

管野はそれに気づきひかりに聞く。

 

「おめえ、それ持っていく気か?」

「いいでしょ~♪あげませんよ~」

「死んでもいらねえ…」

 

嘘のお守りなど何が起こるかわからないため、管野は欲しくなかった。

そしてクルピンスキーは、先ほどから机の前で真剣な表情をしていた。

 

「むう…」

「指揮官に選ばれたから、さすがにクルピンスキーさんも真剣ですね」

「ニセ伯爵の真剣って、なんか碌でもなさそうなんだよな…」

 

ひかりはそんなクルピンスキーに感想をするが、シュミットはその表情を見て嫌な予感をしていた。

 

「夜空の星…いや、大輪の薔薇…違うな~」

 

案の定、クルピンスキーはロスマンから渡されたブリタニアウィッチの写真を見てそんな事を考えていた。

 

「ねえ、ひかりちゃん」

「伯爵様?」

 

クルピンスキーはひかりに聞こうとするが、それを後ろから威圧のある声が止めた。

 

「ういっ!?先生…これは…その…ぐえっ!」

 

クルピンスキーは懸命に言い訳をしようとするが、その前にロスマンからの制裁を頂いたのだった。

それを見て、シュミットは「やっぱりな…」と呟いたのだった。

その後、シュミット達は発進をし、ムルマン港に向かった。そんな中、クルピンスキーは飛行しながらもブリタニアウィッチのことでいっぱいだった。

 

「早く会いたいな♪ブリタニアの子猫ちゃん♪」

「楽しそうですね、クルピンスキーさん」

 

ウキウキしているクルピンスキーにひかりが話しかける。この状態のクルピンスキーに話すのはひかりだけである。

 

「ああ、当然ひかりちゃんも可愛いよ。でも、この子うちの基地には居ないタイプでさ~」

 

そんなひかりにクルピンスキーは手に持つ写真を見せる。ひかりは苦笑いしているしかできない。

そしてその会話を、前方で聞く三人は耐えていた。

 

「さっきからずっとあの調子だよ…」

「くそ~…殴りてえ…」

「我慢しろ…むしろ、今は雁淵を讃えてやれ…」

 

三人は、クルピンスキーのマイペースに対して相手をしてあげているひかりを心の中で讃えた。もしひかりが相手しなかったら、自分たちにそれが飛んでくるのだから。

そして、シュミットたちは途中数回の休憩を挟み、1000kmの長い道のりを越えて、ムルマン基地に到着したのだった。




女の子にホイホイつられる伯爵。そしてひかりちゃんは純粋なのか、伯爵の言葉を信じちゃうという…。次回、ホントのホントに新ユニットが出ます。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十六話「シュミットの新たな翼」

第五十六話です。投票によって選ばれた機体が登場します。どうぞ!


「あ~、遠かった~…」

「やっぱり1000キロは疲れるな~」

 

ムルマン基地に付いたシュミット達、クルピンスキーとニパは長旅の疲れを感じていた。シュミットも黙ってはいたが、同じように疲労は感じていた。

そんな中、ひかりはまだ元気だった。

 

「私はまだまだ行けますよ!」

「お前はそのまんま飛んで扶桑に帰れ」

 

誰よりもスタミナのあるひかりの言葉に反応して管野が意地悪を言う。それに対してひかりは両手の人差し指を口に持っていき、「いーっ!」と管野に言う。

そんな風に五人は歩きながら、ムルマン港に積み上げられた物資を見ていた。

 

「いや~、凄い量の物資だね」

「これにまだ追加があるんですよね?」

「ああ、これでもまだ一部だからな。今回の船団が大規模なのも頷けるな」

 

クルピンスキーとひかりは物資の量を見ておったまげたという感じに、シュミットはこれだけの荷物に追加であるのだから、今回の作戦がいかに重要なものかを再認識する。

そんな中、ニパはあるものに気づいた。

 

「ねえ、何?あのでっかいの」

「すげえな。戦艦でも作ってんのか?」

 

管野たちの視線の先には、物資の中に混じって置かれている巨大な機械があった。それはパット見、大口径砲の装填装置のようである。

 

「あれは…!」

 

と、クルピンスキーが何かに気が付いたようである。

 

「陸戦ウィッチのカワイ子ちゃん発見!いいねいいね~!」

「またかよ…」

 

しかし、それは先ほどの機械ではなく、その横に数名居た陸戦ウィッチの姿だった。体をくねくねとしながら喜んでいるクルピンスキーを、管野は呆れたように見る。

 

「へぇ…陸戦ウィッチって初めて見るな」

 

と、シュミットは今まで航空ウィッチしか見た事が無いため、陸戦ウィッチを初めて見たシュミットはその姿を見て少し新鮮な雰囲気だった。

そして、五人はムルマン基地の大きな倉庫に向かっていた。そこには、補給船団によって運ばれた新型ユニットが置いてあるからだ。

そして様々な荷物が積みあがる倉庫に到着した後、彼らは中を歩いていく。

 

「確か、ここに補給ユニットが…あったあった」

 

そして格納庫内の奥まで歩いていくと、そこには固定台に固定された三つのユニットがあった。

管野はそれを見てはしゃぐ。

 

「やったぁ!俺の紫電改だ!これさえあればネウロイなんてイチコロだぜ!」

 

管野は自分の目の前に固定されている紫電改を見てそう豪語する。実際、管野が通常使っているのは零式であり、紫電改は新型である。無論新型の方が性能向上が図られるため、こう豪語できるのも頷ける。

 

「ピカピカだ~」

「こっちのK型は僕のだね」

 

そしてクルピンスキーの言ったK型は、メッサーシャルフ社が開発した新型ユニットであり、クルピンスキーが使っているG型の性能向上型である。

そんな中、ひかりは固定台の横にある箱が気になる。

 

「他の箱は何ですか?」

「ラル隊長とロスマン先生用だね」

 

クルピンスキーがひかりの疑問について説明する。箱の中に入っているのはクルピンスキーに支給されたK型と同系のユニットが入っているのだ。

 

「いいなぁ、新しいユニット」

「じゃあ、ニパ君はこれを使って」

 

ニパは周りに新しいユニットが支給されていることに羨ましがる。それを聞き、クルピンスキーが提案した。

 

「ええっ!?でもそれクルピンスキーさんのでしょう?」

「ニパ君のは壊れちゃったから仕方ないよね」

 

ニパはクルピンスキーの提案を受けて驚くが、彼女のユニットがムルマン基地に到着した時に壊れてしまったため、現在ユニットが無い状態である。そのため、クルピンスキーはこの新型をニパに譲ろうとしたのだ。

そんな中、先ほどからずっと黙っていたシュミットに周りが気付く。

 

「どうしたの、シュミットさん?」

「…」

 

ニパが気になり聞くが、シュミットは目の前に固定されているユニットを見たまま黙っていた。それはシュミットに宛がわれた()()()()()()である。

その様子に気になり周りもそのユニットを見た。

 

「…なんだこれ?」

「見たことない機体…」

 

管野が代表して言う。それに続いてニパも言う。

 

「確かに、フラックウルフとはまた違う形状だね」

 

クルピンスキーでさえ、このような形状をしたユニットを見たことは無い。

台に固定されているユニットは、シュミットの使用しているFw190D-9よりも少し大きく重量感があり、それでいて片足に()()()()()()()()()()()()()配置されている。このような形状をしたユニットは今まで見たことない。

その時、後ろから声が聞こえる。

 

「あ、ここに居ましたか」

 

声を掛けられて振り返ると、一人の兵士が立っていた。

 

「リーフェンシュタール中尉の手紙を預かっております」

「私の?」

「はい」

 

そう言って、兵士は胸元から手紙が入っているであろう封筒を出し、それをシュミットに差し出した。そして、シュミットはその差出人を見る。周りのみんなもその手紙の差出人を見た。

 

「フレイジャーズ?」

「誰だそいつら?」

 

ニパと管野はその差出人の名前を見て誰かと思うが、この名前はシュミットにとっては馴染みのある名前だった。

 

「私の親友二人の苗字だ。そいつらは双子なんだ」

「え?」

 

そしてシュミットは封筒を開けると、中に入っていた手紙を読む。

 

「ようシュミット、まだ生きているな。魔力を押さえて飛行しているか?あれは魔力を過剰にユニットに送ったことによって、魔道エンジンがリミッターを掛けてしまっていたお前のユニットに対する対策だったんだ。ちゃんと説明をすることが出来なくてすまなかった。俺達はその問題の解決の為に、急いで新ユニットの開発に向かったんだ。そして今回の補給船団の中に、完成した試作型新型ユニットをお前に送った…」

「試作型のユニット!」

 

試作型のユニットと言う言葉を聞き全員がそれを見る。

 

「送ったユニットの名前は『ドルナウDo335』。DB603魔道エンジンを片足に二機ずつ縦に配置、計四機のエンジンを配置した機体だ。ただ試作したはいいが、機体のテストパイロットの魔力では動かすことができなかった機体で高い魔法力適性を必要とする機体だが、お前の高い魔力なら間違いなく乗りこなせるはずだ」

 

そうして一通り読み終えた後、シュミットは宛がわれたユニットであるDo335を見る。そして、さらに文章の続きを読む。

 

「この機体をお前に送る条件として、シュミットにはテストパイロットになってほし…って、テストパイロットだと!?」

 

そして、まさかの言葉にシュミットは今日一番の驚きの声を出したのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

そしてその後、基地の外で管野と二パ、シュミットは固定台を出してユニットを履いていた。

 

「管野一番、出る!」

「カタヤイネン、行きます!」

「動作確認だけだから、無理しないようにって言われてますよ」

「わーってるって」

 

管野とニパはさっそくユニットを回す。ひかりは注意事項を二人に言うが、管野はそんなの分かりきっていると反応をする。

そしてシュミットの周りには、数名の計測員と機材が置かれる。彼だけは今回、テストを兼ねての試験飛行を行うのだ。

 

「…ふぅ」

 

一息吐いてから、支給されたDo335の魔道エンジンに魔法力を流し始める。魔道エンジンが流れると、片方のユニットから三枚羽のプロペラがそれぞれのエンジンから現れる。そして、さらに驚くことがあった。

 

(!?全力で魔力を送っても止まらない!)

 

そう、シュミットが全力で魔力を送っても、ユニットはリミッターがかかることなくエンジンを回し続けている。この事実にシュミットは感激を受けた。久しぶりにシュミットは制限を掛けた魔力ではなく、自身の全力を流すことができるからだ。

そして、管野とニパは先に離陸を行いテスト飛行を開始する。

 

「おお!魔法力の立ち上がりがハンパねえ!」

 

管野は新型の紫電改の加速力の違いを肌で感じ、感激する。

 

「管野!こっちのK型もすっごい早いよ!」

 

ニパはそう言って管野を追い越す。その速さは前回使っていたG型よりも優れていた。

今度はシュミットが離陸した。そしてすぐに、その性能の違いを理解した。

 

「速い!」

 

加速Gの重さの桁違いさから、そのユニットの速さが前回使っていたFw190よりも勝っていると感じたシュミット。

そして要ったん5000mまで上昇した後、急降下を開始する。

 

(急降下速度もなかなか出る…)

 

急降下を終えた後、再び5000mまで上昇する。今度は速度の計測に入るのだ。

 

「こちらシュミット、これより最高速度の計測に入る」

『了解しました』

 

インカムから返事がしたので、シュミットは魔道エンジンに魔力を流し始めた。

 

「魔道エンジン、最大出力!」

 

そして、魔力を全力で回すシュミット。そして徐々に速度が上がっていくシュミットに、下から見ていた者たちはそれぞれ眺めていた。

 

「すごい、シュミットさん…」

「まだ加速してやがる…」

 

さらに加速していく。

 

(…740…745…750…755)

 

そして、加速は徐々に収まっていき、ついに最高速度が出される。地上で計測していた計測員が報告をする。

 

「加速が止まりました」

「何キロだ?」

「770キロです」

 

770キロ、その速度を聞いて観測員たちはどよめく。今まで通常時のレシプロストライカーでここまでの最速を出した機材は無く、この速度は衝撃を受けるものだった。しかし、シュミットは別段驚いていなかった。

 

(770…前に強化を使った時に790まで出たからなぁ)

 

と、彼としては今回の速度が通常時であるということを考え、強化を掛けての試験はまた今度という形にするのだった。

そして、シュミットは次に機動を行った。シュミットは軽く旋回などを行いながら、機体の特性を探っていく。

 

(…Fw190よりは少し重い感じだが、一撃離脱を行う上では問題なさそうだ)

 

シュミットはDo335の特性が一撃離脱特化型であると肌で感じた。しかし、彼の得意とする軌道は一撃離脱戦法であり、高い格闘戦は次である。そのため、Fw190並みの機動力は十分すぎでもあったりしたのだ。

そして、地上で見ていた者たちはシュミットの動きの変化に気づいた。

 

「なんか、シュミットさん凄く速くないですか?」

 

ひかりはそんな事を聞く。ひかりの疑問は嘘ではなく、実際に動きがいつもと違っていた。

 

「なんか、すげーキレがあるな」

「うん。シュミットさん、いつもより動きがいいよ」

 

管野とニパもそう感じた。シュミットの動きはいつも見ているものよりも速く、それでいてキレが良かった。そして、様々な機動を行うシュミットは笑顔だった。

 

(凄い…凄い!全力で飛べる日がこんなに早く来るとは思わなかった!)

 

そう、彼は感激しているのだ。今まで制約を掛けられた状態で飛行していたため、彼の中では窮屈な点もあった。それに対して、このユニットを履いているときは全力で飛行をすることができるのだ。解放された気分からシュミットは高揚していた。

 

「速い!これほど動けるなんて!」

 

そして、彼は一通りの動きをしてから地上に降り立った。そして、下で見ていた者たちはその時、今まで見たことのないシュミットの笑顔を見ることになったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「あのK型、本当にもらっていいんですか?」

 

その後、サウナの中に入った女性四人の中で、ニパはクルピンスキーにBf109Kを本当にもらっていいのかを聞く。因みに、シュミットはテストパイロットとして、その報告文書の作成を現在行っており、女性陣はサウナに入りに行っていたのだ。

そしてニパに聞かれたクルピンスキーは、手にぶどうジュースを持ちながら答える。

 

「いいのいいの。いや~仕事の後のぶどうジュースは最高だね~」

「何もしてねえだろ、おめえは!」

 

クルピンスキーの言葉に管野がツッコむ。

 

「なあ、アレひょっとして…」

「本当にぶどうジュースなんですか?」

 

ニパはクルピンスキーの飲んでいるものがぶどうジュースでないと気付く。ひかりもなんとなくクルピンスキーの言動を見て、あれがぶどうジュースなのか、と疑問を持った。

 

「ああ…殴りてえ」

 

そして管野はいつまでたってもお茶らけているクルピンスキーに腹を立てており、懸命に拳を押さえているのだった。

その後、サウナから出たひかり達は宛がわれたベッドで就寝準備を取る。

 

「ふぁ~…今日は疲れたからさっさと寝よ」

「おやすみなさ~い」

 

ニパはあくびをしながら眠り、ひかりも挨拶をして眠る。そんな中ひかりは、クルピンスキーのベッドはまだ埋まっていないのが気になった。

 

「クルピンスキーさん、戻ってこないですね」

「ああ、ほっとけほっとけ」

 

ひかりが聞くが、管野は特に感心せずに目を瞑ったまま睡眠の準備を進めていた。

そしてひかりの心配は的中した。クルピンスキーはなんとサウナの中で瓶を抱えたまま眠っていたのだった。

 

「…おい、起きろ」

 

と、クルピンスキーを起こす声がする。シュミットだった。書類を作り終えたシュミットは、自分もサウナに入ろうとサウナ室に来たのだが、目の前に眠っているクルピンスキーを見て頭を抱えて溜息を吐いた。

そしてシュミットは起こそうとするが、それでもクルピンスキーは起きない。いつまでたっても埒が明かないため、シュミットは諦めて横で服を脱ぎ始め、そしてサウナの中に入っていくのだった。

シュミットは先ほどの光景を忘れて、サウナ室の中で今日の試験飛行について考えていた。

 

フレイジャー兄弟(あいつら)が作った機体、本当によくできた機体だった。あのお陰で、私が再び全力で飛べる日がすぐに来るとは思わなかったな…)

 

そしてシュミットは、ここにはいない親友に対して、心から感謝していた。そして、サウナ室の天井を見上げる。

 

(ありがとう、親友。これで私は、前よりも戦える)

 

サウナ室の中で、シュミットは自分を助けてくれる親友(とも)の存在を、再び大きく認識したのだった。




というわけで、シュミット君の機体はDo335になりました!
最終的な投票結果を発表します。

Ta152 0票
Do335 4票

というわけで、完全にDo335に軍配が上がりました。作者の予想ではTa152は少なくとも1票はあると思っていたので、0票というのには少し以外という風に思いました。次回、新ユニットを付けたブレイクウィッチーズの初空戦です。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十七話「大規模船団護衛作戦」

第五十七話、伯爵がかっこいい回です。どうぞ!


「そろそろ時間なのに…クルピンスキーさんどうしたんだろう?」

 

輸送船団護衛の日、格納庫内でひかりは出発前の時間にまだクルピンスキーが来ていないことにどうしたのかと心配をする。

 

「遅いね…」

「まったく…作戦指揮官が一番遅くてどうする…」

 

ニパも同じように思う。シュミットはリーダーであるクルピンスキーが時間までに来ないことに対して、真面目にしてほしいと思っていた。

その時、ひかりは格納庫入口の人影に気づいた。

 

「あっ、来ました!」

 

その声を聞き全員が見ると、クルピンスキーがやって来た。

 

「うぅ…気持ち悪い…」

 

しかし、その足取りは重く、フラフラとしながら歩いてくるではないか。気持ち悪そうにしながらやって来るクルピンスキーを見て、管野とシュミットはすぐに理解をする。シュミットに至っては頭に手を当てて頭痛を感じていた。

 

「やっぱりな」

「典型的な二日酔いだ…」

 

そしてひかりはそんなクルピンスキーを心配して声を掛ける。

 

「どうしたんですか?顔がおかしいですよ」

「それを言うなら顔色がおかしいだろ」

「ああ…ひかりちゃんは今日も可愛いね~…」

 

クルピンスキーは酔った状態でひかりを見て、開口一番にそう言った。その様子にシュミットは「こんな時でもそれは減らないのか…」と、さらに頭を痛めた。

 

「これから船団の護衛に行くのに…」

「ちょっと休んでた方が…」

 

ニパはこれから任務に着くというのにまるで頼りないクルピンスキーを見て困った様子で言う。ひかりはそんなクルピンスキーの体を気遣って休んだ方がいいのではというが、クルピンスキーは拒否した。

 

「いや!どうしても行くんだ」

「中尉…」

 

クルピンスキーの言葉にニパは思わず打たれかかる。しかし、次の言葉は完全にそれを台無しにした。

 

「ブリタニアのカワイ子ちゃんを迎えに行かないと…!」

「海に捨てようぜ…」

「もうそれでいいんじゃないか…?」

 

この状況下でもぶれないクルピンスキーに管野が言ったので、シュミットは投げやり気味になっていたのだった。

そして予定通り出撃をした五人であるが、クルピンスキーは二日酔いの結果最後尾でフラフラとしていた。

その時、インカムに入電が入った。

 

「緊急入電!船団にネウロイ襲来!」

「奇襲か!」

「えっ!?そこってネウロイが出ないはずじゃ…!?」

 

ニパが入電内容を言い、シュミットは予想以上にネウロイが速かったことに自分の読みが浅はかだったと思う。そしてひかりは現在船団がいる海域が安全圏であるのにネウロイが出たことに驚いていた。

 

「出たんなら出たんだろ」

「戦場では何時、何が起こるかわからないもんだ」

「とにかく急ぐぞ…うわぁっ?」

 

管野が全速力でネウロイに向かおうとした時、横から高速で通り抜けるクルピンスキーに驚いた。一瞬のことではあったが、シュミットはクルピンスキーの表情が見え、そこにあったのが先ほどの酔いどれと大違いだったことに驚いていた。

 

「急にどうしたの?」

「ブリタニアの子が危ないって言ってましたよ」

 

ひかりの説明を聞き、シュミットは納得した。

 

「相変わらずあのニセ伯爵は…」

「俺達も行くぞ!」

 

管野の言葉と共に、スタートが遅れたシュミット達も急いで輸送船団に向かったのだった。

そして現在、輸送船団は突然現れたネウロイの攻撃にさらされていた。

 

「艦長!随行のウィッチが撃墜されました!」

「くっ…おのれ…!」

 

艦隊旗艦の艦長は、副官からの報告を聞き歯を軋ませる。船団を護衛していた唯一のウィッチが撃墜されては、艦隊の防衛能力は大幅に落ちてしまう。

艦長は決断した。

 

「なんとしてもエルスワース号の積み荷だけは守らねばならん!最大船速、本艦を盾にするぞ!」

「アイアイサー!」

 

艦長の指示により、旗艦は輸送船団の先頭に立ち、ネウロイに向けて攻撃をする。ネウロイもその攻撃に気づき、その旗艦に向けてビームを放つ。

赤い光が目前まで迫って来る。艦長は直撃すると思い、腕を目の前にして身を庇う。その時だった。

ネウロイのビームは何と、旗艦の艦橋の目の前で突如拡散していき、周りの海に落ちていくではないか。それにより、旗艦は直撃を受けることは無かった。

 

「こちらは第502統合戦闘航空団、クルピンスキー中尉!これより船団を援護する!」

 

そう、ビーム攻撃が拡散したのは偶然ではない。クルピンスキーが咄嗟にビームと艦の間に入り込み、シールドを展開したのだ。

そして、シュミット達も到着し、ネウロイに向けての攻撃態勢を整える。

 

「よし…なにっ!?」

 

その時だった。球体形状をしていたネウロイは突然、その体を分裂させたのである。その数は3個。しかし大きさはそれぞれ違い、一つだけ他より小さかった。

 

「分裂しやがった!?」

「直ちゃん、ニパ君、左側のネウロイをお願い」

『了解!』

 

クルピンスキーはすぐさま管野とニパに命令をする。

 

「クルピンスキー、私は中央の少ない奴に単独で行く。ひかりはクルピンスキーと共に右側のネウロイを」

「了解!ひかりちゃんは僕について来て!」

「はい!」

 

シュミットはここで提案をする。そしてクルピンスキーはそれを受け入れ、ひかりを連れて右側の分裂したネウロイに向かう。

この作戦を立案した理由はもちろんある。シュミットは新型ユニットを履いているのと同時に、背中にMG42を二丁背負っている。火力はシュミット一人でも申し分ないため、残ったメンバーの中で一人で戦うとしたら、シュミットが適任であったからだ。

五人はそれぞれネウロイに向けて向かう。すると、三つに分かれたネウロイはさらに小型のネウロイを無数に排出する。

 

「うわぁ!いっぱい出てきた!」

「行くぞ」

 

先に命令を受けて行動をしていた管野とニパが接敵をする。管野は先制攻撃で無数に表れたネウロイを攻撃する。しかし、その弾丸でもいくつかのネウロイを逃してしまう。

 

「逃した!」

「任せろ!」

 

そこをニパがフォローに入り、取り逃したネウロイを的確に撃ち落としていく。かなり厳しいはずの状況ではあるが、二人は楽々とこなしていく。

 

「なんだ、楽勝じゃねえか」

「新しいユニットのおかげだね」

 

そう、彼女たちがここまで楽に戦えるのは、新型ユニットの性能によるお陰であった。再びネウロイが攻撃をするが、それでも二人は次々と墜としていく。

シュミットは分裂した中で小さいネウロイに向かっていた。しかしここでもネウロイは小型のネウロイを大量に排出してくる。

 

(なるほど、こいつは501の時のキューブ型ネウロイ戦みたいだな!)

 

シュミットは現れた小型のネウロイを見てそう思う。しかし今回はそれよりも幾分か少ない。

背中に掛けていたMG42のセーフティを解除し、シュミットは両手に持って構える。

 

「いくぞ!」

 

シュミットはネウロイに向けて突撃する。幸いにも、小型のネウロイに特別な攻撃は無く、これらは高速で船団に向かおうとしていた。それをシュミットは的確に撃ちぬいていく。

 

「…8…14…19…」

 

ここでも、シュミットは撃墜数を重ねていく。新型ユニットによる実力をいかんなく発揮しており、全力を出しているため今までより動きが格段に良くなっており、ネウロイは次々と撃墜されていく。

しかし、シュミットの一方的な撃墜にはさらに別の理由があった。

 

「…右上方20…左上方18」

 

シュミットはゼロの領域を使っていたのだ。そのおかげで、ネウロイの細かい位置や進行についても見え、世界がスローモーションに流れている。そのおかげで、シュミットはネウロイを効率良く、そして素早く撃ち落としていくのだった。

そして、クルピンスキーとひかりも、ネウロイに攻撃を開始する。

 

「ひかりちゃん、背中は任せたから、絶対に離れちゃダメだよ」

「はい!」

 

いつもより真面目に命令をするクルピンスキーにひかりは返事をする。ネウロイはここでも小型のネウロイを排出してくる。それを、クルピンスキーが先頭に立ちネウロイを撃ち落としに向かう。

そして次々と小型ネウロイを撃墜していくクルピンスキーであるが、ひかりはそんなクルピンスキーに驚いていた。

 

「凄い…ついていくのがやっとなのに…!」

 

そう、クルピンスキーの攻撃速度は速く、そして鋭い。ひかりはそんなクルピンスキーについていくのがやっとである。

そしてシュミット達五人は、粗方子機ネウロイを倒した。しかし、ネウロイは再び子機ネウロイを出してくる。

 

「参ったな…キリが無いよ」

 

クルピンスキーがそうぼやくが、それでもすぐさま攻撃をしていく。その間にも、輸送船団はムルマン港に向けて進路を変えていき、護衛艦は対空戦闘で子機ネウロイを墜としていく。

しかし、全力で戦っていたウィッチ達の壁に、綻びが生まれた。

 

「やべえ、親機に抜かれた!」

「子機が邪魔で追い付けないよ!」

 

管野とニパが戦っている場所で、親機が移動をし始めたの。管野たちは子機に足を止められ、その追跡ができない。

すぐさまクルピンスキーが後ろを追いかけるひかりに命令をする。

 

「ひかりちゃん、ちょっと直ちゃんたち手伝ってきてくれるかな?」

「えっ!?」

 

突然の言葉にひかりは驚く。

 

「でもクルピンスキーさんは!?」

「大丈夫大丈夫。あとは僕一人で何とかなるって」

 

クルピンスキーはそう言う。実際、クルピンスキーとひかりの迎撃したネウロイは既に子機を失っており、残りは親機のみであった。

しかしひかりはそれでも一人だけで戦わせることになるのは嫌だったのか、首にかけていた物をクルピンスキーに渡した。

 

「じゃあ…このお守り持っててください!」

 

ひかりが渡したのは、首からかけていたリベレーターであった。クルピンスキーの嘘を信じ込んでお守りにしていた物を、ひかりはそれをクルピンスキーへのお守りとして渡したのだ。

クルピンスキーは一瞬驚いた後、それを受け取った。

 

「…ありがとう、ひかりちゃん。これがあれば百人力だよ」

「じゃあ、行ってきます!」

 

そしてひかりは管野の手伝いに向かう。残ったクルピンスキーは、ひかりに渡されたリベレーターを見る。

 

「ふっ、弾も入っていない銃がお守り、か…」

 

自分で言ったことだから仕方ないが、クルピンスキーはおかしく感じた。そしてそれを胸ポケットに入れると、クルピンスキーはネウロイに向かった。

 

「さて、ここは絶対通すわけに行かないね」

 

そう言うクルピンスキーではあるが、親機は足掻きと言わんばかりに再び子機を出す。

 

「とか、カッコつけたけど、ちょっと厳しいかな…やるしかないね!」

 

そう言うと、クルピンスキーは自身に固有魔法をかけた。

 

「マジックブースト!」

 

マジックブースト、それはクルピンスキーの持つ固有魔法であり、一時的に超加速を得ることのできる固有魔法である。

クルピンスキーはそのままネウロイに向けて突撃した。

そしてその頃、ひかりは管野とニパの所に合流した。

 

「ひかり!?なんで!?」

「おめえ!あっちはどうした!?」

「クルピンスキーさんが応援に行けって!」

 

ニパと管野は案の定驚くが、ひかりの説明を聞くと今度は別のことに驚く。

 

「ええっ!?じゃあクルピンスキーさんは一人!?」

「こいつと同じのを一人で相手してるのか!?くそっ、カッコつけやがって!」

 

そして、ひかり達三人は子機のネウロイを攻撃していき、ついにすべてを撃墜し終える。そしてそのまま親機である大型のネウロイに向かい、その銃弾を思い切り浴びせる。

 

「どけどけどけ!」

 

そして大型のネウロイは、ついにその姿を光の破片に変える。

 

「やった!」

「待って!コアなかったよね?」

「ってことは…こいつは本体じゃねえ!」

 

ひかりが喜ぶが、ニパはその中にコアが無いのに気づく。そう、彼女たちが戦っていたのにはコアが無かったのだ。

その頃、一人になったクルピンスキーは単独でネウロイと戦っていた。しかし、それはあまり優勢と言える状況では無かった。

 

「あと少し…持ってよね」

 

ユニットからの悲鳴を聞き、クルピンスキーはそう念じる。マジックブーストは瞬間的に超加速を得る代わりに、ユニットへの負担が増大する。

と、そんなクルピンスキーに助けがやって来る。

 

「こっちは片づけた!加勢するぞ、クルピンスキー!」

 

なんとシュミットがやって来たのだ。シュミットは一人でネウロイに向かい、そしてネウロイを倒して援軍に駆けつけてきたのだ。

すぐさまシュミットも固有魔法をユニットに掛ける。

 

「いくよ、シュミット!」

「言われなくても!」

 

そして二人はユニットにブーストを掛けてネウロイに突貫した。一人より二人、さらにシュミットはMG42を二丁持ってきているため、ネウロイは一瞬にして墜とされる。

しかし、ここでクルピンスキーのユニットの左足から火が出る。マジックブーストの負荷に耐え切れなくなったのだ。

 

「下がれ!」

 

すぐさまシュミットはクルピンスキーに言う。そしてシュミットは一人でネウロイを攻撃していく。無数にいた子機は既に片が付いていたため、親機のほうに集中攻撃を加えていく。

 

「喰らえ!」

 

シュミットはユニットの強化を解除し、機関銃に強化を掛ける。二丁の機関銃から放たれる弾丸は、ネウロイの装甲を大きく削っていく。しかし、それでもまだコアの位置が特定できなかった。

その時だった。シュミットの後ろから、飛来物がやってくる。それは何と子機のネウロイでは無いか。シュミットが後ろを振り返ると、クルピンスキーがおり、シュミットはあの子機はクルピンスキーが弾き飛ばしたものだと瞬時に理解する。

そしてそれは親機に吸い込まれていき、その装甲を大幅に削り取る。そしてそこに、コアが露出した。

 

「コアだ!」

 

それに気づき、クルピンスキーは手に持っていたStg44に外付けしたロケット弾を発射する。ロケット弾はそのままネウロイのコアに吸い込まれていき、コアを破壊、そして今度こそネウロイをひかりの破片に変えたのだった。

ネウロイを撃墜したクルピンスキーはホッと息を吐く。

 

「はぁ…」

「クルピンスキー!!」

 

その時、シュミットはクルピンスキーの名を大声で叫ぶ。その声に気づいて顔を上げると、なんと目の前に消滅したはずの子機が一機、突撃してくるではないか。

 

「しまっ…」

 

クルピンスキーは反応が出来ず、その攻撃をまともに胸元に喰らってしまい、そして落ちていく。シュミットはすぐさまその子機を撃墜した後、落ちていったクルピンスキーの下へ向かった。

 

「クルピンスキー!」

 

名を呼んで駆けつけ――そして安心したように肩の力を抜いた。

クルピンスキーは意識がある。それもしっかりと。海にあおむけで浮かんでいるクルピンスキーは、右手を自分の胸ポケットに入れ、そして中から先ほどひかりにもらったリベレーターを取り出した。

 

「ありがとう、ひかりちゃん。助かったよ」

 

ひかりからもらったリベレーターがネウロイの突撃を防いだのだ。その証拠に、リベレーターに凹みができている。

それを見て、シュミットも察した。

 

「…嘘から出たまことと言うべきか。運が良かったな、クルピンスキー」

「まぁね…」

「後で雁淵にしっかりと礼をしておくことだな」

 

そう言って、シュミットは手を差し伸べる。クルピンスキーもその手を取り、シュミットに引き上げられる。

 

「さて、まずは病院か?足、罅が入ってるんだろ?」

「ははっ、お見通しかな?優しくお願いするよ、狼君?」

「生憎、その保証は出来ないな、ニセ伯爵」

 

そう言って、シュミットはクルピンスキーを抱えて飛行をするのだった。




シュミット君、だいぶチートじみて来ました。そして伯爵をクルピンスキーと呼ぶシュミット。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十八話「焦る気持ちと負傷」

第五十八話です。どうぞ!


「管野さんはそこに正座!」

 

格納庫内、管野はサーシャに正座をさせられていた。

 

「う~…」

「あ~あ…」

 

管野は正座をさせられて膨れる。その様子を、格納庫入口の扉の影からニパとひかりは見ており、シュミットは堂々と格納庫の壁にもたれ掛かりながら見学する。

整備兵は管野のユニットを点検し、そしてサーシャに報告した。

 

「インテークから入ったネウロイの破片のせいで、魔道タービンが破損したようですね」

「管野さんも中尉になったんですから、もっとユニットを大事にしてください」

 

そう、今回正座されられたのは、管野が新型ユニットである紫電改を壊したことから始まる。

新ユニットを渡された四人は、慣熟訓練を行っていた。その時に、ネウロイと遭遇してしまい交戦状態に入ったのだ。ネウロイは防御型であり、銃弾が通りずらかったため、管野が固有魔法を使いネウロイに突っ込み、そしてネウロイを貫いて消滅させた。しかしその結果、管野はユニットを壊してしまったのだった。

サーシャが注意をするが、管野はあまり反省した様子は無かった。

 

「階級なんて関係ねえ!ネウロイをぶっ倒せばそれでいいだろ!」

「はぁ…ひかりさん!」

「は、はい!」

 

突然サーシャに言われて、ひかりは慌てて返事をする。

 

「あなたはブレイクウィッチーズなんて言われちゃダメですよ」

「ブレイク…ウィッチーズ?」

 

聞きなれない単語にひかりはハテナを浮かべる。そんなひかりにシュミットが説明した。

 

「よくユニットを壊す三人のウィッチのことだ」

「まず、そこのニパさん」

 

サーシャがニパの方を見る。

 

「わ、私は壊さないよ!壊れるんだ!」

 

ニパは必死に訴える。しかし、彼女の不運さはある意味狙っているのではないかと思えるほどである。

 

「それから、管野さん」

「ふん!戦果は上げてんだろ。ブレイク上等だ!」

 

管野に至っては戦果が上回ってるのだから、ブレイクしたって別に構わないだろうと、堂々と反省の色無し。

 

「そして、療養中のクルピンスキーさん」

 

この場に居ないクルピンスキー。彼女は昨日の輸送船団護衛で足に罅が入り、療養中である。しかし、噂は流れたのか、彼女はこの時「はっくしょい!」と、くしゃみをしていたのだった。

そしてシュミットが締めくくる。

 

「まぁ、そう言うわけだ。補給が来たばかりだから、雁淵もユニットを壊さないようにな」

「は、はい!」

 

そう言うシュミットに返事をするひかり。しかし実は彼以外知らない事実として、シュミットは501にいる時にユニットを3回壊しており、502のユニット消耗具合を知ってからは、出来る限り壊さないよう努力をしていたので、実際の所はあまり偉そうに言えないのが現実であった。

そんな中、ひかりはあることに気づく。

 

「あの、シュミットさん」

「なんだ?」

「なんだか、疲れてません?」

 

ひかりはふと、シュミットに疲れの色が見え、なにか疲労を感じているのではないかと思う。

 

「そんなことは無いぞ?」

「えっ、でも…」

 

しかしシュミットはそんなことを感じておらず、疑問に思いながら言う。しかし、ひかりの目からはいつもよりも覇気のない表情をしているシュミットが映っていた。

そしてそれはニパも感じた。

 

「あの、本当に疲れた表情してるっていうか、ぶっちゃけ疲れてません?」

「そんな風に見えるか?うーん…」

 

ニパの言葉にシュミットは別段そんなことは無いんだがなと思う。

 

「まぁ、倒れないようにしているから大丈夫だ」

 

そう言って、シュミットは格納庫から出て言ったのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「イテテ…まだ痺れが収まんねぇ…」

 

その日の夜、管野はしびれる足を引きずりながら廊下を歩いていた。その痛みに苦痛の表情をしていた管野であるが、ふと目の前に人影が見える。

 

「?」

 

よく見てみると、それはひかりだった。

 

「雁淵…こんな時間にあいつ…?」

 

ひかりが歩いていった方向は格納庫であった。管野はひかりが何故この夜中に格納庫に向かうのか気になり、付いていく。

そして格納庫を覗くと、ひかりは自分のユニットの前で膝を抱えてしゃがんでいた。

 

「チドリ…あれから連絡が無いんだけど、お姉ちゃん大丈夫かな…?」

 

ひかりは愛機のチドリに聞く。その言葉は、格納庫で見ていた管野が出て答えた。

 

「心配すんな。孝美は簡単にくたばる奴じゃねえ」

「管野さん」

 

ひかりは管野に気づき立ち上がる。そして管野はひかりに説明した。

 

「孝美はハンパなくつええからな。呉の海軍学校で初めて会った時、俺の相棒はコイツしか居ねえって思ったぜ」

「管野さんの相棒…それって、私じゃダメですか!?」

 

ひかりは、自分が管野の相棒になれるか真面目に聞く。その言葉に管野は驚く。

 

「はぁ!?おめえが!?100年早えんだよ!」

「じゃあ、どうすれば相棒にしてくれます?」

 

管野に言われるが、ひかりはそれでも食い下がらない。

 

「そんなの簡単だ」

 

そして管野はそれに対して堂々と言った。誰でもわかる単純なことだ。

 

「強くなればいいんだよ。孝美のようにな」

 

その言葉を聞き、ひかりはチドリをなでながら話す。

 

「お姉ちゃん言ってました。ネウロイを倒して世界に平和を取り戻したら、チドリと一緒に旅をしたいって」

「孝美らしいな」

 

ひかりの言葉を聞き、管野はそれから孝美っぽさを感じた。

そしてひかりは管野に質問した。

 

「管野さんの戦う理由って何ですか?」

 

ひかりは管野が何故戦うのか気になり質問した。それに対して、管野は堂々と宣言した。

 

「決まってんだろ!どっから来たかわかんねえ変な奴らに好き勝手やられてムカつくじゃねえか!」

「フフッ、管野さんっぽいですね」

 

管野の言葉に、ひかりは管野らしいと感じた。

しかし、管野はひかりを指差し、そのための決断も宣言した。

 

「だがな!その為には強くならなくちゃいけねえ!今よりもっともっとな!」

「ええっ!?管野さんは今でもすごく強いじゃないですか!」

 

管野がさらに高みを目指すことを聞き、ひかりは驚く。今でも十分強い管野であるから、それよりもさらに強くなるとはこの時考えもしなかったのだ。

しかし、管野にはある引け目を感じていた。

 

「ダメだ!クルピンスキーやシュミットの方がずっと強え。けど、絶対俺は奴らより強くなって、ネウロイを全滅させてやる!一秒でも早くな!」

 

そう、管野はこの間の戦闘で、単独で戦うシュミットとクルピンスキーを見て、現実を突きつけられてしまった。上には上がいる、それを理解してしまった管野は、今のままではまだだということを実感したのだ。

その言葉を聞き、ひかりは背筋を伸ばして手を上げ、宣誓をした。

 

「はい!私も一緒に頑張ります!」

「ばーか。お前の力なんて当てにしてねえよ」

 

そう言って、管野は歩いて行ってしまった。ひかりはそんな管野の方を見て、

 

「いーっだ!」

 

と、言ってやるのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「グリゴーリ攻略に向けまず、ペトロザヴォーツクに向かっているネウロイを排除しろ、との軍司令部からの命令だ」

 

翌日、ブリーフィングルームに集められたウィッチ達は、ラルから命令を

 

「ペトロザヴォーツクって、この前…」

「せっかく取り戻したのに…」

 

ひかりと二パはこの間開通させた補給線が、再び脅かされていることを知り衝撃を受ける。

 

「ということは、このネウロイを倒さない限り…」

「また補給が止まっちゃう…」

「そんな!クルピンスキーさんが怪我までして守ったのに!」

 

下原とジョゼの言葉に、ひかりはこらえきれずに声を出す。

 

「要は倒せばいいんだ。そうだろ?ラル隊長」

「ああ。その通りだ」

 

しかし、管野は堂々とラルに聞く。それに対して、ラルも無論だと言わんばかりに簡潔に言う。

そしてシュミット達は出撃する。そんな中、ニパは管野の雰囲気の違いに気づく。

 

「今日の管野、少しピリピリしてない?」

「一秒でも早く、ネウロイを倒したいんですよ!」

「何で?」

 

ひかりは昨晩のことを聞いていたため、すぐさまその答えを言うが、二パは何故そうなのか知らないためひかりに聞く。

 

(実戦で場数を踏むんだ。倒して倒して、強くなってやるぜ!)

 

管野は今、自分のパワーアップの為に闘志を燃やしていた。そんな管野に気づき、サーシャは忠告をする。

 

「管野さん。新型のユニットにも慣れたからって、あまり無茶しちゃだめよ」

「ああ。わーってるって」

 

サーシャの忠告を受ける管野ではあるが、管野の内面にはまだメラメラと燃える闘志があった。

そんな中、シュミットは黙ったまま飛行をしている。

 

「…」

「シュミットさん」

 

黙ったまま飛行しているシュミットに、ロスマンが声を掛ける。

 

「どうしました?先生」

「どうしましたって…貴方気付いてないの?」

「えっ?」

 

ロスマンに声を掛けられて振り向くが、ロスマンはそんな反応をしているシュミットに困惑する。

そう、今現在、シュミットは汗を掻いている。季節はまだ冬で、そして上空を飛行しているのにだ。しかし、シュミットはそのことに気づいておらず、ロスマンが言おうとした時だった。

 

「ネウロイ確認!まだ動きはありません」

 

下原の遠距離視が、飛行をしているネウロイの姿を捉えた。そしてその言葉に、誰よりも反応したのは管野だった。

 

「管野一番!出る!」

 

そう言って、管野は先陣に立ちネウロイに向けて飛行する。それに続くように、他のウィッチ達も出撃していく。

その行動に気づいたのか、ネウロイは回頭をし、ウィッチ達の方向を向く。

 

「みなさん!距離を取って!」

「先手必勝!このまま突っ込む!」

 

サーシャはその行動に警戒を出し、全員に散開を命令する。しかし、管野はその命令よりも先にネウロイに突撃を刊行する。

しかし、ここでネウロイは今までの沈黙から一変、こんどは管野たちに攻撃をし始める。その攻撃は今まで戦ってきたネウロイとは桁違いであり、全員がシールドを張らざるを得なくなる。

 

「ぐっ…」

「う…きゃあっ!」

「ひかり!」

 

皆それぞれシールドで守る中、ひかりはそのエネルギーを抑えきれずに弾き飛ばされる。

管野はそんなひかりにまたかと言う。

 

「ったく…何やってんだあいつは!」

「蜂の巣をつついたみたい!」

「これじゃあ攻撃する暇が無いよ!」

 

下原とジョゼは、この攻撃の嵐に防衛で手いっぱいになる。他の皆も、攻撃に回れずにいた。

そんな中、ロスマンはネウロイの行動パターンを見て、あることに気づいた。

 

「この攻撃パターン…もしかしたら!」

 

そう言って、ロスマンはネウロイの攻撃避けながら急上昇をする。そして、手に持つフリーガーハマーで狙いを定め、攻撃をする。フリーガーハマーのロケット弾は、そのまま飛翔していき、ネウロイの後部に直撃した。それと同時に、ネウロイの攻撃は止まった。

 

「やっぱり!コアだわ!」

「なるほど、あのネウロイはコアを守る形で攻撃をしていたのか!」

「ロスマン先生、さすが!」

 

誰よりも先に気づいたロスマンに、全員が流石と言う。

 

「管野さん!」

「おう!任せろ!」

 

そして、管野とサーシャが前衛に立ち、ネウロイに接近していく。ネウロイはそれでも攻撃の手を緩めず、ウィッチ達に強烈な弾幕を放ってくる。

 

「なんて弾幕なの…っ!?」

 

ロスマンはネウロイの攻撃にそう零すが、その時に彼女はある物を見てしまった。

彼女が気付いた先には、シュミットが居た。ネウロイに向けて飛行しているシュミットであるが、その飛行はいつもよりキレが無い。攻撃を回避しているが、どれもかしこもギリギリなのだ。

ロスマンは頭の中で一つの推測を立てた。

 

「まさか…っ!」

 

そしてサーシャと管野はネウロイに向けて接近していく。しかし、弾幕の濃さに自由に接近ができない。

 

「管野さん!一旦距離を取って!」

「問題ねえ!このままいける!」

「管野さん!」

 

サーシャが命令をするが、管野はそれを振り切ってネウロイに接近していこうとする。サーシャがその行動を止めようとするが、それでも管野は止まらなかった。

 

(クルピンスキーやシュミットはネウロイを一人で倒したんだ。俺だって…!)

 

そして接近していく管野であるが、突如ネウロイは攻撃パターンを変更した。先ほどまで弾幕のように撃っていたネウロイであるが、突如その攻撃を収束させる。そして、収束したネウロイの攻撃は、まるで巨大なトンネルのように管野に向かっていった。

 

「!?」

 

管野はその攻撃に急いでシールドを張る。しかし、そのエネルギーは今までの比ではなく、管野は後ろにノックバックされる。

その隙を、ネウロイは逃さなかった。ネウロイは先ほどの収束攻撃をもう一発放った。

 

「管野さん!」

「!!」

 

サーシャが管野を呼ぶが、管野はその攻撃に対処できない。その時だった。

なんとサーシャが管野に突撃をしていき、サーシャを突き飛ばした。弾き飛ばされた管野はネウロイの攻撃の射線から抜ける。しかし、そこにはサーシャが取り残されてしまった。

 

「間に…合え…!!」

 

その時だった。サーシャの目の前に、なんとシュミットが飛んできた。そしてシュミットはサーシャの盾になる形で、ネウロイの攻撃の前に立ちシールドを張る。

しかし、ネウロイの攻撃は生半可なものでは無かった。即席で張ったシールドは強大な攻撃を受けきれず、シュミットは後ろに飛ばされてしまう。そしてそのままサーシャにぶつかってしまうと、脆かったシールドをネウロイの攻撃が僅かに超えてしまう。そして超えた攻撃は、シュミットの持っていたMG42に直撃し、中に入っていた弾丸を爆発させた。

 

「ああああ!!」

「きゃあああ!!」

 

そして、二人はバランスを崩して墜落していく。

 

「サーシャ!」

「シュミットさん!」

 

墜落していくサーシャとシュミットを、管野とひかりが追いかけていく。そして、管野はサーシャを、ひかりは

シュミットを空中で掴むことに成功した。

 

「サーシャ!おい!サーシャ!!」

「うっ…」

 

管野は懸命にサーシャを呼ぶ。サーシャは頭から血を流しているが、痛みを感じて僅かに呻き声を出す。

しかし、サーシャよりもシュミットの方が危険だった。

 

「シュミットさん!シュミットさん!!」

 

ひかりに呼ばれるシュミットであるが、彼は完全に意識を失ってしまっていた。そして何より、彼の胸元は機銃の爆発で傷を負ってしまい、血が出ていた。そして顔の左頬には破片が掠ったのか大きな傷ができており、そこからも血が流れていた。

そしてブレイブウィッチーズは、ウィッチ二名の負傷を出し、作戦中断。帰還したのだった。




どうも、作者の深山です。最近は大学入学前の課題やらテストやらが大量に押し寄せており、更新が遅れてしまいました。これからもこのように不定期で更新をしていく日が続くと思いますが、休載は予定しておりません。ですので、気長に待ちながら更新を待っていただけると幸いです。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第五十九話「敵討ち」

久しぶりです。投稿に少し間を開けてしまいました。一旦間が落ち着いたので投稿をしたいと思います。それではどうぞ。


ネウロイの戦闘による負傷を受け、シュミットとサーシャは治療を受けていた。治療には治癒魔法を持つジョゼが加わり、怪我の具合が酷いシュミットから治療を受けていた。

治癒魔法をシュミットにするジョゼ、その横には下原が付き添いでジョゼの汗を拭っていた。

そしてしばらくの時間治癒魔法を続けていくと、計器のバイタルが安定していく。

 

「心拍が安定した。こちらはしばらく大丈夫だ」

「はぁ…」

 

医師がそう言うと、ジョゼは治癒を止める。シュミットは元々の魔力の高さから、その命を繋ぐことができた。

そして彼女はシュミットだけでなく、まだ軽傷であったサーシャにも治癒を掛けていかなければならない。ジョゼはすぐさまサーシャに治癒を開始する。しかし、シュミットより軽傷であった分、その時間は先ほどよりは短い時間で彼女のバイタルは安定した。

 

「こちらも心拍が安定した。もう大丈夫だ」

「ふぅー…」

 

医師の言葉に、ジョゼは治癒を終えて一息を吐く。いつも治癒を加えている時は一人だけのことが多いのに対し、今回は二人、それも二人共がかなりの怪我を負っていたため、顔はいつもより赤く火照っている。

 

「良かったね、ジョゼ」

「うん」

 

そんなジョゼに下原は言葉を掛けてあげ、ジョゼもそれに返事をしたのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

その日の夜、ウィッチ達は食事を取っていた。しかし、その席には病院に居たクルピンスキーだけでなく、本日負傷したシュミットとサーシャの席も空いていた。

そんな中、ひかりは管野の様子に気づいた。

 

「管野さん?」

 

ひかりの言葉に全員が管野を見ると、管野は下を向いたまま食事にあまり手を付けていなかった。

管野は、今日の二人の負傷のことについて大きな責任を感じていた。

 

「俺のせいだ…俺が無茶したばっかりに、あの二人が…」

「管野の責任じゃないって」

 

そしてラルは食堂の席に座るものに命令を下した。

 

「明日、あのネウロイに再攻撃を掛ける。それまで各自、十分体を休めておけ」

 

そして、食事を終えた管野は、医務室に向かった。部屋に入ると、手前から2番目のベッドにサーシャ、その奥にシュミットが眠っていた。サーシャは頭に包帯を巻いていており、シュミットは体に包帯と左頬にガーゼを付けていた。パッと見で重症なのはシュミットだった。

そして管野は椅子を持ってきて、サーシャの眠るベッドの横に座った。その時、ひかりが医務室に入ってきた。

 

「管野さん」

「雁淵か…何だ?」

「サーシャさんとシュミットさんのことが気になって…」

 

そう言って、ひかりはベッドに眠るサーシャとシュミットを見る。その時だった。

 

「…うん…?」

 

先ほどまでベッドで寝ていたサーシャが瞼を開けたのだ。そしてサーシャは自分の傍にいる二人に気づく。

 

「管野さん…ひかりさん…」

「サーシャ!」

「サーシャさん!」

 

管野とひかりはそんなサーシャに驚き声を上げる。そして、サーシャはどこか安心したように話し始めた。

 

「管野さん…あなたは無事だったのね」

「ああ、おかげでこの通りピンピンだぜ」

「よかった…」

「でも、シュミットさんが…」

 

ひかりはそう言うと、奥のベッドのシュミットに目を向ける。それに気づき、サーシャもシュミットの方を見る。サーシャは目覚めたが、シュミットはまだ目を覚ましていなかった。

そして管野はさらに自分のことが許せなくなり、サーシャに謝罪した。

 

「サーシャ…俺のせいで済まねえ」

「カバーが手薄になったのは私のミスです。管野さんは悪くないわ」

 

サーシャはあくまで自分が悪いと主張する。しかし、管野はそれでも自分の責任であると思い込んでしまう。

その時、三人の奥から声が聞こえてくる。

 

「うっ…うん…」

 

一番奥の方から声がする。全員が顔を上げてみると、シュミットが薄らと瞼を開けて天井を見ていた。

 

「シュミットさん!」

「ん…あれ?」

 

ひかりがシュミットの名前を呼ぶが、シュミットは声を呼ばれて驚いた様子でひかりを見る。そして、部屋の中を首を回しながら見始める。

 

「…ここは医務室か?」

 

そして、今度は自分の頬に張られているガーゼに手を添え、そして体に巻かれている包帯の違和感に気づく。

 

「…そういうことか」

 

そう言って、今度はサーシャの方を見る。

 

「大丈夫か、サーシャ」

「えっ、ええ…」

「そうか、よかった…」

 

そう言って、ホッと息を吐くシュミット。しかし、シュミットからしたら大丈夫か心配したのかもしれないが、見ている側としてはシュミットの方が重傷であるので、全員が困惑した様子で見ているのだった。

そんな中、シュミットは聞いた。

 

「…あれからネウロイはどうなった」

「シュミットさんとサーシャさんが負傷して、作戦は終了しました」

「そうか…なら、ネウロイはまだ生きているんだな」

「はい」

 

ひかりの説明を聞いて、シュミットは目をつむって考える。

 

「済まねえ、あの時、俺一人で突っ込んでいかなければ…」

 

そんな中、管野は再び自分にその責任を感じ取ってしまい謝罪の言葉を出す。しかし、そんな言葉にサーシャとシュミットは怒らなかった。

 

「それが管野さんらしさなのよ。だから、あまり自分を責めないで」

「管野の戦いに誰も悪いなんて言うやつはいないさ」

「サーシャ、シュミット…」

 

二人の言葉に管野は驚き顔を上げる。怒るだろうと思っていただけに、予想外すぎて驚いたのだ。

そして、サーシャは管野に言う。

 

「あなたなら、きっとあのネウロイを倒せるわ。だから、頑張って」

「!…ああ、ぜってー俺がぶっ倒す!」

 

サーシャの励ましの言葉に、管野は決意を新たに返事をする。

 

「雁淵、お前も頼むぞ」

「はい」

 

シュミットも管野の横に居るひかりに励ましのエールを送り、ひかりは大きく返事をする。しかしそんなひかりに、管野が言う。

 

「でしゃばんじゃねえぞ!」

「はい!」

「うふふ」

「ふっ…」

 

管野の言葉に、ひかりは真っ直ぐと返事をする。そんな様子に、サーシャとシュミットは微笑む。

 

「荷が軽くなったかな?」

「ええ」

 

そう言って、二人はひかりと管野を再び見たのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「先ほど入った情報では、昨日のネウロイはこの地点から殆ど動いていないようです」

 

翌日、ブリーフィングルームでロスマンが地図に描かれたバツ地点を指す。

 

「このネウロイを排除できなければ、再び補給路は立たれ、我々は飢え死にだ」

「そんなぁ…」

「腹が減っては戦は出来ません」

 

ラルが続けて言った言葉にジョゼたちは困った反応をする。

 

「クルピンスキーさんやサーシャさん、シュミットさんの為にもあのネウロイをやっつけましょう」

「当たりめえだ!これ以上好き勝手させてたまるかよ!」

 

ひかりの言葉に同調するように管野が言う。この補給線を確保しなければ、502は事実上の壊滅を辿っていくことになる。それを回避するためには、このネウロイを撃墜する未来しかなかった。

しかし、ここで問題が1つある。

 

「管野、このメンバーではお前が最上位の中尉となるが…」

「うえっ!?俺が戦闘隊長かよ!?」

 

ラルに言われて管野は驚く。そう、負傷している三人はそれぞれ階級が大尉と中尉であり、その不在の中で一番上の階級は中尉昇進をした管野に回ってくるのだ。しかし、管野はまだ中尉になりたてで現場指揮を経験しておらず、いきなり現場指揮を行えと言っている状況である。

だが、ラルもそんな管野にいきなり戦闘隊長をさせるわけにはいかないため、対策は考えていた。

 

「いや、現場の指揮はエディータに任せる。それで構わんな?」

「ああ、わかった」

 

ラルの言葉に素直に従う管野。ロスマンは階級こそ下であるが、前線戦闘経験は管野より多い。この状況ではそのほうが最善であると管野も理解した。

そして作戦を立て、管野達は出撃をする。向かう先は無論、ネウロイが飛び続ける地点。

しばらく飛行をしていくと、下原の遠距離視が昨日のネウロイを捉えた。

 

「30km前方にネウロイ確認!まだこちらには気づいていません」

「ここで分かれましょう」

『了解!』

 

ロスマンの指示で、ひかりと管野、そして二パの三人は散会していく。そう、今回の作戦は前回と違った。ネウロイの特性は前方の火力が高く、後ろのコアを守る形になっている。そのため、ロスマンとジョゼと下原の三人はネウロイに先に接敵し、注意をひきつける。そして注意が三人に向かったところを見計らい、残りの三人は後ろから攻撃を仕掛けるという作戦に出たのだ。

そして、別れた三人の中で管野は、ひかりとニパに話す。

 

「ニパ!雁淵!俺達で絶対に決めるぞ!」

「はい!」

「うん!」

 

その決意に、ひかりとニパも返事をする。

そして管野達と別れたロスマン達は、ネウロイに接近をしていく。

 

「攻撃開始!」

 

ロスマンは合図とともにフリーガーハマーを向けて攻撃を開始する。下原とジョゼも手に持つ機関銃を向けて引き金を引く。その攻撃に気づき、ネウロイは体の正面を向ける。そして攻撃を開始する。

 

「管野さん達…頼むわよ」

 

ロスマンは攻撃を懸命に耐えながら、今回の作戦の要である管野達に祈るのだった。

その頃管野達は、ネウロイの後方に移動していた。その時、ネウロイが赤い光線を出している姿に気づく。

 

「始まった!」

「行くぞ!」

「はい!」

 

管野の声と共に、全員がネウロイに向けて接近をしていく。そして接近していく中で、ひかりは気づく。

 

「ホントだ。全然撃ってこない」

 

そう、ネウロイはひかりたちが接近しても攻撃を全然してこない。そのおかげで、三人はすんなりとネウロイの後方に接近することができた。

 

「コアの位置も分かっているし、これなら行けるね!」

「ああ!速攻だぜ!」

 

管野はそう言って、手に持つ機関銃を向けて引き金を引く。それに気づきネウロイも攻撃を後方に始めるが、前方に対して圧倒的に少ない弾幕量のため、彼女たちは撃ちながら周辺に散開する。

連続して攻撃を加えて行き、このまま続けて行けばネウロイは倒せると思われていた。しかし、現実は甘くなかった。

 

「なにっ!?」

 

先に気づいた管野は驚く。突然、ネウロイの体が半分離れ始めて行くではないか。

 

「分離ですって!?」

 

ロスマンも驚きの声を上げる。ロスマンだけでなく、他のウィッチたちも驚く。そして、二つに分離したネウロイは大きい方をさらに分離、合計分離数は5つとなった。

ロスマンはすぐさま次の指示を出した。

 

「作戦変更!分離した各個体を迎撃せよ!」

「作戦が気付かれた!?」

「焦んな!コアさえやればこっちの勝ちだ!」

 

ニパは動揺する中、管野は怯むことなくネウロイに機関銃を向ける。

しかし、それだけで終わりでは無かった。なんとネウロイは先ほどの形から一変、形状を変化させて別の形になってしまった。

 

「あっ!?形が…」

「くそっ!コアの位置が分かんねえ!」

 

ひかりは驚き、管野は愚痴る。そう、形状変化により相手の動揺だけでなく、コアの位置を判別させることができなくなってしまった。そして、形状を変えたネウロイはひかり達に攻撃を開始する。その弾幕量は先ほどロスマンたちを攻撃していた時並みの量でだ。

三人はシールドを張る。

 

「くっ…もうちょっとだったのに!」

「うっ…何っ!?」

 

その時、ひかりたちを攻撃していたネウロイは離れて行く。

 

「あっ!逃げる!」

 

それに気づき三人は追撃していく。ひかりは指示を求めて管野に話しかける。

 

「管野さん!」

「コアだ!コアの位置さえわかれば…!」

 

管野は状況打開はコアにあると考えて、懸命に破壊しようと考える。しかし、先ほどの変形の為にコアの位置は判別できなくなってしまっていた。

そんな中、ひかりは管野の言葉に気付いた。

 

「コアの位置…」

 

別の場所で個別に分かれるネウロイを攻撃するロスマンたち。しかし、ネウロイは攻撃を加えてもその体を再生させていく。

 

「コアを破壊しないとキリがないです!」

「弾薬も魔法力ももちません!」

 

下原とジョゼがそう言う中、ロスマンはインカムでラルに聞く。

 

「隊長」

『やむを得ん…撤退だ』

 

その言葉を聞き、ひかりは驚く。

 

「待ってください!じゃあ補給路は!?」

『一旦諦めるしかあるまい』

「そんな…」

 

ひかりはラルに聞くが、ラルは状況を見てネウロイを倒すのは難しいと悟り、補給路を捨てる決断をした。

しかし、その言葉をきっかけに、ひかりの中で思いが渦巻く。せっかくの思い出開通した補給路を、ひかりはみすみすネウロイの手に明け渡したくなどなかった。

 

「ラル隊長、私に接触魔眼を使わせてください!」

 

そして、ひかりは決意を胸に、ラルに意見具申をしたのだった。




どうも、深山です。投稿が遅れてしまって申し訳ありませんでした。作者の都合により更新速度が大幅に低下してしまい、このような状況になってしまいましたことを深くお詫び申し上げます。また、現在もまだ立て込んでいる状況であり、次回の投稿も遅れてしまう可能性があります。それでも、投稿を停止する予定はないので、気長に待ってください。そして、落ち着いた後に投稿速度を改善いたしますので、読者の皆様、少し辛抱をお願いします。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十話「ブレイクウィッチーズ」

意外と早く書けました(白目)。それではどうぞ!


「雁淵軍曹!?」

 

ひかりの突然の発言に、状況を知っているロスマンが驚いたように声を出す。

 

「接触…魔眼?」

「何それ?」

 

しかし、接触魔眼のことを知らない下原たちは何のことか分からずに疑問を浮かべるのだった。

そんな中、ロスマンは懸命にひかりを説得をする。

 

「やめなさい!雁淵軍曹!」

「お願いです!今使わないでいつ使うんですか!?ラル隊長!!」

『……』

 

ロスマンが静止を呼びかけるが、ひかりは懸命にラルに説得をする。しかしインカムの向こうのラルは沈黙したままである。

 

「おめえ、何言ってんだ…」

「どういうこと?ひかり…」

 

そんな中、管野とニパは困惑した様子でひかりに聞く。ひかりは説明をする。

 

「私、ネウロイに触ったらコアの場所が分かるんです」

「触ったら!?触ったらって、バカかてめえ!そんな危なっかしいもの役に立たねえだろ!」

「立ちます!立たせます!」

「無理だ!死にてえのか!」

 

ひかりの主張を、管野は否定する。管野の言い分は尤もである。状況を打開するために接触魔眼を使いコアの位置を特定する。しかしそれに対して要求されるのは、ひかり自身が回避を行いながらネウロイに接近をしていくと言うことなのだ。無論、そんな危ないことに管野が頷くはずがなかった。

しかし、インカムに声が流れてくる。

 

『…いいだろう。管野、雁淵を援護してネウロイまで連れて行け』

「はあ!?やらせるのか!?」

「隊長!?」

 

なんと先ほどまで黙っていたラルが口を開くと、とんでもないことを言ってくるではないか。管野は思わず聞き返す。管野だけでなく、ロスマンも驚きラルに聞く。

 

『命令だ。管野中尉。雁淵がコアを特定し、管野がトドメを刺せ』

「くっ…」

 

しかし、ラルから帰ってくる言葉は作戦指示であり、肯定だった。管野は思わず黙ってひかりを見る。

そんな管野に、ラルは声をきつくして言う。

 

『聞いているのか?管野中尉』

「わかったよ!連れてきゃいいんだろ、連れてきゃ!」

「管野!」

 

管野はその威圧に押され、返事を返した。その行動に二パが驚くが、管野はひかりの方を向く。

 

「てめえ!足引っ張ったりすんじゃねえぞ!」

「わかってます!」

 

管野に言われて返事を返すひかり。

 

「行くぞ!」

「了解!」

「ああ、もう!」

 

管野が先に動き出す。それに続きひかりが付いていき、ニパはそんな様子に困りながらついていく。そして三人は逃走を開始するネウロイを追撃する。

 

(あいつ…本当にネウロイに触る気か…?)

 

管野は後ろを飛ぶひかりを見ながら考える。そして、その行動は仇となった。

逃亡するネウロイは再びビームを収束させ、後ろ向きに飛んでいる管野に向けて放ったのだ。

 

「管野おおおお!!」

 

それに気づきニパが全速力で管野の前に行く。そして管野は自分に迫るビームに気づくが、シールドを張る余裕は無かった。

しかし、そのビームは管野に当たらなかった。

 

「ニパ!」

 

直撃の寸前に、ニパが管野とビームの間に割り込みシールドを張った。それによって、ネウロイは防がれる。そして攻撃が収まると、ニパは管野の方を振り向く。

 

「おい!よそ見すんなよ!」

 

ニパはそう言って、ひかりと共に前進を再開する。しかし、管野が動けなかった。

 

「はあ…はあ…はあ…」

 

彼女は呼吸を荒くして立ち止まっていた。そしてその様子に、ひかりとニパが気付いた。

 

「管野?」

「管野さん?」

 

二人が振り返って管野を呼ぶが、管野は懸命に声を絞って言った。

 

「駄目だ…こんな作戦馬鹿げてる…どうせ失敗する」

「え?」

「作戦は中止だ…」

 

そう管野が言うので、二人は驚く。いつもの威勢のいい管野ではない。今ここに居るのは、弱気になったただの少女だった。

 

「管野さん!」

「なんだよ?」

 

そんな管野にひかりが近づいていくが、管野は力のない声で返事をする。

そしてひかりは管野に聞く。

 

「管野さん、変ですよ。どうしちゃったんです?」

「俺には…無理だ…。クルピンスキーやサーシャ、それにシュミットみたいに、お前らを守れねえ…」

 

ひかりの言葉に、管野は力なく言う。管野は自分の力では駄目だと、シュミット達のように戦えないと言っている。その様子はいつもの管野とは完全にかけ離れていた。

そしてひかりはそんな管野に大声で聞く。

 

「何言ってるんですか!いつもの管野さんらしくないです!ここで帰ったら補給路は、502はどうなるんです!?」

「んなのわかってる!わかってんだよ!!」

「私の接触魔眼と管野さんの突破力があれば絶対に勝てます!」

「うるせえ!ひよっこが生意気なこと言ってんじゃねえ!」

 

管野が大声で言うが、その声にはいつもより覇気を感じられない。そんな管野にひかりもそれに引くことは無かった。

 

「じゃあ、クルピンスキーさんやサーシャさん、シュミットさんが怪我したのは何でですか!?補給路を守る為じゃないんですか!基地の皆を守る為じゃないんですか!その戦いをパアにするんですか!?私は絶対に嫌です!」

「お、おい二人共さあ…」

 

ひかりと管野の間にニパが懸命に止めようとは言ってくる。しかし、ひかりの思いはそこで止まることは無かった。

 

「私達は今ここで絶対にあのネウロイを倒すんです!倒さないといけないんです!ここに立ち止まってちゃいけないんです!」

「…」

「だから!ネウロイの所まで私を連れて行ってください!お願いだから、やる前からできないなんて言わないでください!お願いだから…」

 

ひかりは目に涙を浮かべながら管野に懸命に頼む。そんなひかりに、管野は何も言い返せなくなり黙っているしかできなくなってきた。

 

「管野さん言ってたじゃないですか。今度こそあのネウロイを必ず倒すって!なのに、今更…なにビビってんですか!そんなんでお姉ちゃんの相棒になるなんて1000年早いんです!」

「…」

「それでも…」

 

そして、ひかりは懸命に涙をこらえながら、管野に言い放った。

 

「ブレイクウィッチーズか!!!」

「!!」

 

その言葉に、管野はハッとした表情をした。そしてしばらくの沈黙の後…

 

「!!」

「っ!!?」

 

管野はひかりを頭突きした。突然のその行動にひかりはおでこを抑えながら管野を見る。

 

「ああ、やるよ!やってやるよ!」

「管野さん…」

 

そこにあったのは先ほどの弱気な少女では無く、いつもひかりが見てきた管野直枝だった。

 

「泣くんじゃねえ。そんなんでネウロイに触れんのか?」

「泣いてないです!」

 

管野の言葉にひかりは懸命に反論する。それを聞き、管野は顔をニヤリとさせる。

 

「行くぞ、雁淵。俺の真後ろにぴったりついてこい!」

「はい!!」

 

そして、管野達三人は再びネウロイに向けて追撃を開始した。その管野の表情には、もう迷いなど微塵も無かった。

 

「作戦は?」

「俺が真っ直ぐあいつに突っ込む。お前も俺に続いて突っ込め」

「わかりました!」

 

管野の指示を受け、ひかりは後ろに着く。

 

「ニパはこいつの後ろを守ってやってくれ!」

「うへえ…了解」

 

そしてニパは命令を受けて苦笑いをしながら返事をする。

そして三人は突撃した。

 

(そうだ…何ビビってんだよ、管野直枝。お前はこんなところで立ち止まってちゃいけねえだろ!)

 

管野は心の中で先ほどのことを後悔した。そして、自分が今なすべきことを胸に、ネウロイに向けて直進していく。

そんな管野達に、黙っているネウロイでは無かった。再びネウロイはビームを収束させ、管野に向けて放ってくる。

 

「管野!でかいのが来るよ!」

「このまま行く!」

 

ニパに忠告を受けるが、管野はそう言って手に持っていた機関銃を捨てた。そして空いた右手に、自分のシールドのエネルギーを一点集中させる。固有魔法、圧縮式超硬度防御魔方陣によるシールドであり、管野はそれを自分の前に出す。

 

「うおおおおりゃあああああ!!!」

 

そして大声を出しながら管野はネウロイのビームに突っ込んでいく。ビームと管野は接触するが、前方に張られた圧縮シールドは強力な攻撃をもろともせずに突き破っていき、管野はそのまま前進をしていく。

そして、ネウロイはそのビームを出し終えてしまい、残ったビームも管野によって霧散させられた。そして、管野は後ろについてきているひかりを見た。

 

「今だ!行け、雁淵!」

「うおおおおおおおお!」

 

管野に言われ、ひかりは管野の後ろから飛び出してネウロイに急接近する。そして、その手でネウロイの体を触った。そしてひかりは振り返りネウロイをしっかりと目に捉える。同時に、彼女の目は赤く光り、接触魔眼が発動した。発動した魔眼によって、ひかりはコアの位置を特定する。

 

「あそこだ!」

 

そう言って、ひかりは機関銃を接触魔眼で見た位置に向けて放つ。すると、その部分が剥がれだし、コアが露出するではないか。

 

「あった!本当にあった!」

 

ニパがその様子に驚くその時だった。ネウロイは再びその体を分離させ始めた。

 

「あっ!また分離した!」

「ええええっ!?」

「へっ、場所が分かればこっちのもんだ」

 

ひかりとニパが驚く中、管野は威勢よく言った。そして、そのまま急降下をしていく。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

大声をあげながら、管野は攻撃をするネウロイの隙間を縫っていく。そして、一つのネウロイに向けて突っ込んでいく。

 

「くたばれえええええ!!」

 

そう言って、右腕を引き絞る。そして、

 

「剣一閃!!」

 

そう言って、露出していたネウロイのコアを圧縮シールドと共に拳で殴った。それによりコアは砕け散り、ネウロイはその体を破片に変えて行く。同時に、他の独立していたネウロイの体も次々と破片に変えて行く。

その様子は、別の場所で戦っているロスマンたちにも届いた。

 

「えっ?何?」

「向こうがコアを破壊したんだわ」

 

突然の行動に驚く中、ロスマンは冷静に状況を分析する。

 

「やったー!やりましたよ、管野さん!」

 

ひかりは喜びの声をあげながら管野に近づいていく。そんなひかりに、管野は振り返っていった。

 

「ああ、やったぜ()()!」

 

なんと、管野はひかりのことをお前などではなく相棒と言ったではないか。その言葉に驚き、ひかりは聞き返した。

 

「えっ!?今なんで言いました?」

「えっ?あ、いや…な、何も言ってねえ!」

「確かに言いました。相棒って!」

「冗談じゃねえ!お前が相棒なんてありえねえ!」

「あはは」

 

管野はひかりの言葉を否定するが、ひかりはしっかりと相棒という言葉を聞いていたため管野に懸命に詰め寄る。

そんな姿を見ていたニパは思わず笑う。

そして、この声はロスマンたちにも届いていた。

 

「言ったよねー?」

「言ってたね」

 

ジョゼの言葉に下原が同意する。そしてロスマンはインカムで話す。

 

「ふふ…こちらエディータ。ネウロイを排除しました」

『そうか、やったか…いい弟子じゃないか』

「胃に悪いです」

 

どうやらその様子もラルに聞こえていたようであった。

その時、ひかりたちに悲劇が訪れる。なんと三人のユニットが息を吹いたのだ。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「嘘ッ!?」

 

三人が嫌な予感がする中、それは見事に的中した。

 

「うわああああ!」

 

ユニットのエンジンは停止してしまい、三人の体は重力に逆らえずに落ちて行くのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

「管野さんニパさんひかりさんはそこに正座!」

 

頭に包帯を巻いているサーシャの声と共に、三人は格納庫内に正座をさせられる。その様子を、基地に帰投した者たちは揃って見ていた。

そして正座している三人を見ながら、松葉杖をしているクルピンスキーはひかりに言った。

 

「いや~、これでひかりちゃんんもすっかりこの502、そしてブレイクウィッチーズの仲間入りだね」

「ホントですか!?やったー!やったやったー!」

 

クルピンスキーの言葉にひかりは両手を上げて喜ぶ。

 

「なに喜んでるんですか!ひかりさん!」

「あっ」

 

しかし、サーシャの言葉にその手は突然固まり、そしてゆっくりと下ろしていく。

その様子を見て、左頬に傷跡が残ってしまったシュミットは壁にもたれかかりながらクルピンスキーに言った。

 

「ニセ伯爵、ブレイクウィッチーズの連帯責任でお前も正座」

「えっ!?なんで~?」

「当たり前だろ!?逆に何でいつも悪く思わないんだ!」

 

と、突然足にギブスを巻いている人に正座をしろと言うシュミットにクルピンスキーは反応するが、その様子に反省する意味を理解している様子がないためシュミットは逆に驚く。そして、その場にいた者たちはその光景に笑いだす。無論、それは正座をしていた新たなブレイクウィッチーズも含めてだった。




前回予告していましたが、僅かに時間が空いたため速攻で書けました。
これでひかりちゃんも新たにブレイクウィッチーズの仲間入り。そしてギブス状態で正座をしろと無茶ぶりを言う傷残りのシュミット。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十一話「進化する感覚」

投稿が遅れてしまって申し訳ありません。第六十一話です、どうぞ!


ひかりがブレイクウィッチーズの仲間入りした数日後、シュミットは現在上空で空戦を行っていた。

 

「くっ…」

 

空戦の相手はクルピンスキー。空戦場所は502の上空である。しかし、状況は徐々にシュミットの方に向かってきていた。

新型ユニットの性能差もあり、シュミットの動きは格段に良くなっていた。しかし、それだけが勝利の条件ではない。クルピンスキーも一線で戦うウィッチであり、その腕は502でも上位に入るものだ。

しかし、今回はそれだけでは無かった。

 

(…不思議だ。景色がまるでゆっくり流れているみたいだ)

 

飛びながらシュミットは周辺の変化に気づいていた。まるで景色がいつもよりゆっくりと流れている。それだけでは無い。

クルピンスキーが冷や汗を一つ掻いている中、シュミットは汗を掻いていない。

 

(体も軽い…こんな日が今まであったか?)

 

シュミットはそう思いながらも、クルピンスキーの背後を取る。後ろを取られたクルピンスキーは危機感を感じ、自分のギアを更に上げる。

 

「マジックブースト!」

 

マジックブーストによって加速したクルピンスキーは、すぐさまシュミットの背後に移動する。しかし、シュミットはその速さに特に動揺をしていなかった。

 

「強化!」

 

シュミットも自身のユニットに強化を掛け、そして同時に急上昇をする。それに続きクルピンスキーも上昇をするが、その方角は太陽。一瞬目に光が入り、クルピンスキーは目を細める。その一瞬、時間にして僅か1秒に満たなかったが、シュミットはターンをする。そして、急降下をしながらクルピンスキーに迫る。

その行動にクルピンスキーは迎撃態勢をとる。そして、シュミットとクルピンスキーは互いに引き金を引いた。

模擬機関銃から放たれたペイント弾は互いの弾丸同士で交差し、そして相手に向かっていく。しかし、二人はそれをバレルロールで回避をし、そしてすれ違う。その瞬間、勝敗は決した。

シュミットはすれ違う瞬間にループを行う。強化されたシュミットの速さは急降下も相まって速く、ループの速度は何時もより高速だった。そしてそのまま、クルピンスキーの背後を再び取る。

 

「貰った!」

 

シュミットはそう言って、引き金を引く。そして放たれたペイント弾はそのままクルピンスキーに飲み込まれていき、彼女に着弾した。

 

「うわっ!」

『そこまで!』

 

クルピンスキーは自分に弾が命中したのに驚き、インカムに地上からの声が届く。模擬戦はシュミットの勝利で終了した。

模擬戦が終了したため、クルピンスキーはホバリングしているシュミットの元に行く。

 

「いや~、やられちゃったよ。前よりも強くなったんじゃない?」

「ああ、自分でも調子がいいと思ったさ」

 

クルピンスキーに言われてシュミットもそう言う。彼自身、今回の戦闘で感じたのはいつもより調子が良かったという思いだった。以前の自分がここまで動きがいいと感じることは無かったため、シュミットは新型のユニットを履いているから調子がいいのだと結論付けた。

地上で見ていた者たちも、先ほどの戦闘について話していた。

 

「凄い!」

「シュミットさんが勝っちゃうなんて…」

「以前のシュミットさんとは比べにならないぐらい動きが変わっているわ」

 

ジョゼ・下原は先ほどの光景に驚きながら感想を零し、サーシャは冷静にシュミットの変化について分析していた。

そして地上に降りてきたクルピンスキーとシュミットの元に、隊員たちがやって来る。

 

「流石ね、シュミットさん」

「ええ、自分でもここまで動けるとは正直思いませんでした」

 

ロスマンに言われ、シュミットもそう感想を零す。そうして笑った時、シュミットはある謎の違和感を感じた。

 

「ん…?」

「どうかしました?」

 

シュミットの反応にひかりが問うが、それを無視してシュミットはクルピンスキーの方を向いた。

 

「ん?何かな狼君」

「お前のユニット…なんか変だぞ」

「えっ?」

 

突然、シュミットはクルピンスキーのユニットを見ながらそう言ったので、クルピンスキーは何のことだと思い間の抜けた声をする。他の隊員たちも、シュミットがなぜそんなことを言ったのか意味が分からず首をかしげる。

その時だった。何とクルピンスキーのユニットから突然黒煙が上がるではないか。

 

「うわあっ!?」

 

あまりに急な出来事に驚く中、地面に近かったクルピンスキーは急いで足をつける。すると、ユニットの魔導エンジンは突然停止した。

 

「ふぅ…危なかった~…」

「大丈夫ですか、クルピンスキーさん!」

 

とっさの判断で地面に下りたため難を逃れたクルピンスキーは息を一つ吐いてそう言った。そして他のウィッチたちもクルピンスキーを心配して近づいていく。

 

「また壊しましたね、クルピンスキーさん」

「ギクッ!」

 

と、サーシャの声を聞きクルピンスキーは汗を掻く。サーシャはクルピンスキーがまたユニットを壊したため怒っていた。

良からぬことを感じたクルピンスキーはすぐさま助けを求めた。

 

「お、狼君…」

「悪い、無理だ」

「そ、そんな~…」

 

すぐ横に居たシュミットに助けを求めるクルピンスキーであるが、シュミットはバッサリと切り捨てた。あまりの速さにクルピンスキーは項垂れ、それを見ていた周りの者たちは笑いだすのだった。

 

-----------------------------------------------------------------------------

 

翌日、ネウロイ出現の報を受けたブレイブウィッチーズは、出現地点に出向いていた。

ネウロイはウィッチ達に赤い光線を放ちながら襲い掛かるが、皆それぞれシールドを張りながら攻撃を加えて行く。

そんな中、一人だけかなり異質な戦い方をしている者がいた。

 

「そらそらそら!」

 

シュミットはネウロイの攻撃をまるで予測しているかのような動きで回避しながら接近をし、超近距離からMG151を撃っていく。そして後ろからくる攻撃もまるで分っているかのような動きで回避をし、そして離脱をしていく。

その動きを見て、ひかりは以前見た光景を思い出した。

 

「凄い!まるでエイラさんみたい!」

「俺たちも行くぞ、ひかり!」

「はい!」

 

管野に言われてひかりは後ろを付て行く。管野が前に出て盾役になり、ネウロイに接近した後ひかりが接触魔眼を使う。このフォーメーションは、ここ最近よく見る光景になりつつあった。ネウロイはその動きに気づき管野達に攻撃をするが、管野はシールドを張りながらネウロイに突っ込んでいくため、突破をされてしまう。そして、

 

「今だ!」

「はい!でああああ!!」

 

管野に言われ、ひかりはネウロイに腕を伸ばしてタッチをする。そして、彼女の目は接触魔眼が働き、ネウロイのコアの位置を捉えた。

 

「コア!右の翼の付け根です!」

「おう!」

 

ひかりの情報を聞き、管野は威勢良く返事をする。そして急降下をしながらネウロイの攻撃を回避していき、手に持っていた機関銃を放り投げる。そして、空いた右腕を後ろで引き、固有魔法でシールドを圧縮させる。そしてそのまま、それをネウロイに向けて振りかぶる。

 

「剣一閃!」

 

その掛け声と共に、管野はネウロイの右翼付け根に拳を振り下ろす。その攻撃により、ネウロイは表面の装甲と共に内部のコアが破壊され、その姿を光の破片に変えたのだった。

ひかりは真っ先にネウロイ撃墜をした管野の元へ行く。

 

「やりましたね!管野さん!」

「ああ!お前もよくやったぜ」

「はい!相棒ですから!」

 

ひかりの言葉に、管野は一瞬ドキッとした後胸元で腕を組み、「100年早い」と言う。

 

「えっ!?この前そう言ってくれたじゃないですか」

「言ってねえよ」

「言ってましたー!」

 

ひかりは言ったと主張するが、管野はそれを頑なに否定する。

そんな様子を、他のウィッチたちは皆で見ていたのだった。

 

「アハハ、すっかりいいコンビだ」

「ちょっと妬けちゃうな」

 

ニパはその光景を見て少し微笑みながら言い、クルピンスキーは少し羨ましそうな感じで感想を零す。他のウィッチたちも微笑みながら見る中、突然クゥという小気味良い音がする。

音源はジョゼだった。ジョゼはお腹を押さえながら下原に話しかける。

 

「定ちゃん、お腹空いた~」

「じゃあ、帰ったらワッフル作ろっか」

 

ジョゼの言葉に下原はおいしい提案を出す。それを聞いて、ジョゼは笑顔になる。

そして最後に、サーシャが締めくくる。

 

「それでは帰投します。ニパさんが落ちる前に」

 

そう言って、サーシャはニパの方向をチラリと見る。ニパはニパで突然自分のことを言うと思わずに焦る。

 

「うぇえ?最近減ったよね?」

「減ってません」

「あ、あれぇ?変だな…」

 

サーシャにピシャリと言われてニパは慌てて自分のユニットを見る。

シュミットも、二パのユニットの方を見て言った。

 

「いや、今日は落ちないぞ」

「えっ?」

 

突然の言葉に、サーシャは思わずそんな声を漏らす。シュミットは、ニパのユニットをじっと見た後、もう一度言った。

 

「うん。変な音とかしないし、多分落ちないな」

「ほ、本当ですか?」

「ん~、多分」

 

多分という言葉に思わずガクリとするサーシャ。基本的に不確定なことをシュミットはあまり言わないため、サーシャは基本的に彼の言動についてわりと信じることが多い。

そんな様子に全員が笑っている中、ひかりは遠方からするエンジン音に気づき、音のする方向を向いた。

 

「あれ?何でしょう?」

 

ひかりの言葉につられて、全員がウィッチの方向に向けて飛んでくる飛行機を見る。機種はJu52、カールスラントの機体だ。

 

「あの機体は…」

 

ロスマンはその機体を見て、中に乗っている人物にどこか心当たりがある様子である。そしてJu52はそのまま、502基地の方向へ飛んでいってしまう。

 

「とりあえず、基地に帰投しましょう」

『了解』

 

サーシャの言葉で、全員が基地に向けて飛行を開始する。

そしてしばらく飛行していく中、ロスマンは横を飛んでいるシュミットの様子がおかしいのに気づき、質問をした。

 

「どうしました?」

「…いえ」

 

シュミットはそう言って、自分のユニットを少し揺らしながら何かを探っている様子だった。その様子はとても不愉快と言った様子である。

 

「…なんか、ボルトのようなものが一個転がってる気がするんです」

「ボルト?」

「ええ…中でコロコロ音を立てて煩いんです」

 

シュミットはそう言って、とても不愉快そうにユニットを揺らしている。しかし、ロスマンからはその音など聞こえない。ユニットのエンジン音の喧しさにそんな音など聞こえるはずがない。それに輪を掛け、シュミットのユニットは片足に2つエンジンを使っている。他のユニットより音が大きい方だ。

それに気づきロスマンはハッとした。

 

(まさか、さっきのことと言い、音がちゃんと聞こえてる…?)

 

とても信じられることでは無かったが、シュミットはまるで音が聞こえていると言った様子で言うではないか。それだけでなく、ロスマンは昨日、シュミットがクルピンスキーのユニットの不調を訴えたのも思い出し、これが偶然では無いことを悟った。

 

(ゼロの領域…だけど…)

 

ロスマンには一つ、この現象に思い当たる物があった。しかし、現在のシュミットはそれを使っている様子は無く、ごくゆったりとした様子で飛んでいる。ゼロの領域を使ったのであれば、必ずしも起こる消耗現象が起きているはずである。

そしてロスマンは、ここで一つの仮説を作った。

 

(もしかして、シュミットさんの感覚は…)

 

そう、シュミットの感覚は現在怪我の功名か、ゼロの領域に片足を入れた状態にまで研ぎ澄まされていたのだ。それにより、シュミットは体感する飛行感覚の変化、さらには些細なユニットの変化までも感じ取るようになっていた。しかしシュミット自身は、その変化について気づいていない。

ロスマンが横でシュミットをちらちら見ながらそんなことを考え飛んでいたため、シュミットはその視線に気づき声を掛けた。

 

「ん?どうしたんです?」

「いえ、なんでもないわ」

「?」

 

何でも無いと言われてシュミットはロスマンの反応に疑問を浮かべるが、特に気にした様子では無かったのですぐに興味をなくした。

そして先ほど502の基地へ向かったJu52を気にしながら、ブレイブウィッチーズは帰投したのだった。




どうも、深山です。インフルエンザって恐ろしいと再び実感しました。おかげで投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十二話「復活の丹頂鶴」

というわけで第六十二話です。タイトルの通り、あの人の復活です。どうぞ!


「マンシュタイン元帥に敬礼」

 

ラルの言葉に、全員が各国それぞれの敬礼をする。シュミットも、自分の母国空軍の敬礼をする。

502基地に帰投したウィッチーズは、すぐさまブリーフィングルームに集合させられた。そして全員が部屋に入ると、なんとそこにはラルの他にもう一人いた。

シュミットはその姿を直接見たことは無かったが、その顔はよく覚えていた。別の世界であれど、その人物はなんとマンシュタインだったからだ。

そしてマンシュタインは全員の敬礼を確認した後、すぐさま首を小さく振った。

 

「うむ、座ってくれたまえ」

 

その言葉に、ウィッチたち全員が席に着く。そしてマンシュタインは、ラルの方を向いた。

 

「突然すまないな、ラル少佐」

「いえ。それで、今日はどういった用向きで?」

 

ラルが聞くと、マンシュタインは正面を向いて説明を始めた。

 

「一部の者には内々に伝えていたが…ペテルブルグ軍集団によるグリゴーリ攻略のフレイアー作戦について、だ」

「ついに…」

 

マンシュタインの説明を聞き、ロスマンはついにと覚悟をした様子で反応した。

そんな中、ひかりはフレイアーが何のことか分からず小声でニパに聞いた。

 

「フレイアーって何ですか?」

「こっちの神様で、豊穣の女神って言われてるんだ」

 

そして、マンシュタインは続けて説明する。

 

「補給路が回復し、士気が大幅に向上したことでフレイアー作戦の発動が正式に決定した・そこで、君たち502部隊にも当作戦への参加を要請する」

「いよいよか」

 

管野はマンシュタインの説明を聞き、拳をつかみながらやる気になったように言った。

しかし、ラルは気になることがありマンシュタインに質問した。

 

「その作戦ですが、501ストライクウィッチーズがガリアを開放した例に準ずるのでしょうか?だとすれば、リスクが大きすぎると思われますが…」

 

その言葉を聞き、眉を上げたシュミット。それは昨日にラルの元へ届いた資料に記載された、ウォーロックのことを言っているのだと理解したからだ。あれを使うとなると、連合軍側への被害が来る可能性の方が高い。

それについてはマンシュタインも理解している様子であった。

 

「ウィッチは耳も早いな。安心したまえ、ネウロイのテクノロジーは我らの手に余る」

 

その言葉を聞き、シュミットは少し安心したように息を吐く。

 

「では?」

「作戦そのものはシンプルだ。現在ムルマンに集結中のペテルブルグ軍の戦力でグリゴーリを叩く。そうすることにより…」

「ネウロイの生産力を壊滅させる」

「そうだ。そして無防備になったグリゴーリ内部に侵入し、本体のコアを超大型列車砲で撃ち抜く」

 

その説明を聞き、二パと管野は考える。

 

「超大型列車砲って、この前船で運んでたやつかな?」

「つーか、コアをぶち抜くったって、どうやってコアの位置を見つけるつもり…」

「あっ!!」

『!!』

 

ニパと管野はコア特定方法を考え、ある答えにたどり着いた。そして同時に、502のウィッチたち全員も何かを理解した。ただ一人、ひかりだけは理解していない様子であった。

 

「なお、グリゴーリのコアを見つける魔眼持ちウィッチも、既に選定済みである」

 

そしてマンシュタインの言葉を聞き、真っ先に立ち上がったのは管野とニパだった。

 

「ちょっと待て!まさか、ひかりにそんな危ねえ真似させるつもりかよ!?」

「駄目です!駄目駄目!」

「えっ、私?」

 

ひかりは分かった様子で無かったが、管野と二パはあまりにも危険すぎる内容に抗議をした。

他のウィッチたちも、三人の方向を向いていた。

 

「ついにバレちゃったか…」

「落ち着きなさい。管野さん、ニパさん」

「けどよ先生!こんなひよっこがネウロイの巣に突っ込んで無事で済むと思ってんのかよ!?」

 

管野は指を指しながら言う。シュミットも黙ってはいたが頷いていた。いくらロスマンの指導があったひかりであるが、接触魔眼は元々危険なうえに、ネウロイの巣はさらに激戦区となる。そんなところに新人のひかりを突っ込ませるなど正気の沙汰ではない。

 

「作戦開始まであと1ヵ月あります。その間に、私がひかりさんを育て上げれば何も問題はありません」

「残念だが、作戦決行は、これより7日後だ」

 

ロスマンがそう説明した時だった。マンシュタインから信じられない言葉が出たのは。

 

「はあ!?」

「7日後!?」

 

7日後という言葉に、管野とニパはありえないと言った様子で目を見開く。

ラルはおかしいと思い質問した。

 

「どういうことでしょうか?内示によれば作戦は1ヵ月後だったはずでは?」

「グリゴーリが動き出した」

「なっ!?」

「グリゴーリが…」

「動き出した…!?」

 

そしてさらに告げられた真実は、ウィッチーズ全員を動揺させた。今までネウロイの巣は停止している者ばかりであり、巣そのものが動き出した例など無かったからだ。

 

「再び補給路を失えば戦線は一気に瓦解する。もはや悠長に1ヵ月も待っていられない。今しかないのだよ」

 

それを聞き、全員が黙ってしまった。

 

「あ、あの…」

「ふざけんな!」

 

ひかりが何か言おうとした時だった。管野は大声で怒鳴った。

 

「やめろ!管野」

「いいや、やめないね!隊長こそ、ひかりをみすみす死なせるようなこんな命令断っちまえよ!」

「管野さん…」

 

大声で抗議する管野に同調するように、他のウィッチたちも反対する。

 

「私も反対!仲間を危険な目になんて合わせられないよ!」

「第一、ひかりの力ではとても成功には程遠い作戦だ。ほかに作戦は無かったのか?」

「他に何か手は無いのですか?」

 

ニパ、シュミット、サーシャが言う。

 

「子猫ちゃんを一人で行かせるわけにはいかないよね」

「どうしても、と言うのでしたら…」

「私たちも一緒に行きます」

「お前ら…」

「みなさん…」

 

クルピンスキー、下原、ジョゼも言う。ウィッチたち全員の総意に、管野とひかりは思わず驚く。

そして、ひかりは立ち上がった。

 

「私やります!やって見せます!」

「バカかてめえ!何言って…」

「君たちは何か勘違いしてるようだが。この作戦、雁淵軍曹を使うつもりなどない」

『えっ!?』

 

ひかりの言葉に管野は止めようとするが、ここでマンシュタインは新たに告げる。すると、ウィッチーズ全員がまるで予測していなかった言葉に驚く。

そしてマンシュタインは手元の時計を見る。

 

「そろそろか…」

 

そう言って、マンシュタインはブリーフィングルームの窓から外を見た。すると、窓の外から飛行音がしてくる。それは徐々に基地の方へと近づいてきていた。

 

「来たか」

「来たって…」

「ムルマンからここまで時間通り。流石と言うべきだな」

 

マンシュタインは満足したようにいった。そしてシュミット達は席を立ち、窓辺に立って外を見た。すると突然、謎の飛行物体が窓の目の前を通り過ぎて行くでは無いか。

 

「何?今の…」

「ウィッチ…だよね?」

 

ウィッチの姿に全員がその人物を探る。しかし、()()()()()()()()()()()()人たちからは、その飛行は見覚えのある物であった。

 

「あれは…!」

 

管野は気づいたように反応した。その時だった。

ひかりはまるで嬉しそうに顔を笑顔にしながら走り出した。

 

「ひかり?」

「ひかりさん?」

 

皆が何事かと思いひかりの名を呼ぶが、ひかりはそれを聞かずに無我夢中でブリーフィングルームを出て行く。

そして部屋にいたマンシュタインは、ラルに向けて言った。

 

「これで502も正しい形となるだろう。これまで現場の判断でよく頑張ってくれたな、ラル少佐」

「…恐縮です」

「では、失礼する」

 

そう言って、マンシュタインも部屋を出ていった。

そして部屋に残ったラルの横に、ロスマンとシュミットが来る。

 

「とんだタヌキジジイだ」

「隊長の独断でひかりさんを502に引き留めた件は、お咎め無しのようですね」

「代わりに、少しばかり面倒なことになりそうだがな」

 

そしてシュミットがラルに質問した。

 

「雁淵の反応と言い、今来たのって…」

「ああ、あいつだ」

「なるほど」

 

ラルの言葉に、シュミットも納得したように頷いた。

そして基地の外、滑走路では今まさに、ひかりが空を見ながら走っていた。

 

「間違いない!あれは…あれは…お姉ちゃん!」

 

ひかりは喜びながら走る。自分の憧れのであり、いつか共に飛びたいと願っていた姉が、負傷から帰ってきたからだ。

そしてひかりは、姉の着陸した場所へ到着する。

 

「お姉ちゃん」

 

ひかりは自分の姉、孝美を呼ぶ。孝美は振り返りひかりを見た。

しかしその表情は、まるでひかりをこれから叱ると言った表情をしていた。そして、孝美はキツイ声で話し始めた。

 

「ひかり」

「お、お姉ちゃん…?」

「どうしてあなたがここに居るの?」

「えっ?」

 

ひかりはまるで驚いた様子で孝美を見る。

 

「あなたの本来の任地はカウハバ基地だったはずよ。それが何故ここに居るの?」

「そ、それは…」

 

ひかりは答えることができなかった。ひかりは負傷した孝美の代わりに502に来たことを、自分の口から言う事が出来なかった。

そして、孝美はさらに言った。

 

「ひかり。ここはあなたが居ていい場所ではないわ」

「お姉ちゃん…で、でも!私、扶桑にいた時より強くなったんだよ!チドリだってちゃんと乗れるようになったんだよ!」

「誰もそんなこと聞いてないわ」

 

そして孝美は、ひかりの横を通り過ぎて行く。

 

「すぐに荷物をまとめてカウハバに行きなさい。これは正式な辞令よ」

「そんな!」

 

ひかりは振り返るが、孝美はそんなひかりに振り返ることなく、そのまま502基地へと行ってしまった。

 

「お姉ちゃん…」

 

残されたひかりは、ただ呆然と突っ立っていることしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「孝美!やっと来たな。待たせやがって、コノヤロウ」

 

孝美が格納庫にユニットを止めると、502のウィッチたちは格納庫にやってきた。

管野は孝美にそう言うと、孝美は管野の様子を見て微笑んだ。

 

「相変わらずのようね、管野さん」

「ふん、そうそう変わるかよ。けど、お前の妹はなかなかやるようになったと思うぜ」

 

管野の口からひかりのことを言われ、孝美は下を向いて黙ってしまう。

 

「…孝美?」

「いえ、なんでもないわ…」

 

管野が気にするが、孝美はなんでもないと振り切って、ラルに話しかけた。

 

「本日をもって、502統合戦闘航空団に着任しました、雁淵孝美中尉です。リバウ以来ですね、ラル隊長」

「ああ。久しぶりだな、孝美」

「本当に復帰できたんだ…」

「良かったね、ジョゼ」

 

孝美に言われて、ラルは返事をする。ジョゼは自分の治癒魔法で回復できなかった孝美が復帰をして502に来てくれたことに涙を浮かべ、その様子に下原はよかったと言った様子でジョゼに言った。

全員が新たにやってきたウィッチである孝美に向いている中、管野はひかりが居ないことに気づいた。

 

「あ…そういやひかりの奴は?」

 

そして管野はニパと共にひかりを探しに行く。そして、格納庫の外で滑走路の先で突っ立っているひかりを見つけた。

 

「居た居た、ひかり~」

 

ニパが声を掛けて駆け寄っていく。

 

「どうしたのさ?こんなところで」

「待ちに待ってた孝美が復帰したってのによ」

 

管野がそう言うが、ひかりは振り返らなかった。その様子に気づき、管野は歩いてひかりの正面に立つ。

 

「ひかり?あっ…」

 

そこにあったひかりの表情を見て、管野は気づいた。その表情は、先ほど孝美がひかりの話を聞いたときにしていたのと同じものだったからだ。




というわけで、孝美ちゃん復活!何故ブレイブウィッチーズ編の主人公を文章でひかりと書いていたかと言うと、姉と混ざってしまうからですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十三話「姉と妹」

第六十三話です。どうぞ!


孝美が着任してから翌日の502。

 

「いい動きをしている…」

 

シュミットはそう言って、大空を見る。空では現在、クルピンスキーと孝美の模擬戦が繰り広げられていた。

クルピンスキーと孝美の互いに相手の弾を避けながら銃撃を加えて行く空戦は、502のメンバーから見てもとてもレベルの高いものとなっていた。

しかし、状況は若干孝美が有利であった。紫電改は零式より格闘能力が低いとはいえ、世界のストライカーユニットの中では格闘戦の高い部類に入る。その上、速度、上昇力でも他国のユニットに引けを取らない高性能である。孝美はクルピンスキーの後ろを何度も取っており、いずれクルピンスキーが撃墜されるであろう状況に近づいていた。

しかし、それで終わらないのがクルピンスキーである。

 

「熱くしてくれるねえ、孝美ちゃん」

 

クルピンスキーは孝美の腕をそう称賛すると、固有魔法を発動した。マジックブーストにより加速したクルピンスキーは、すぐさま孝美の後ろへ周り込み、そしてあっという間に背後を確保した。

あまりの速さに孝美も一瞬反応が遅れ驚く。

 

(もらっちゃうよ!)

(まだまだ!)

 

クルピンスキーはすぐさま孝美に模擬専用機関銃を向けるが、孝美はそんなクルピンスキーにすぐさま反応し、自分も手に持つ模擬銃を向ける。

そして両者、至近距離で機関銃を向けた状態で静止する。決着はつかづ、引き分けであった。

その様子は、地上で見ていた者たちを驚かせた。

 

「凄い!」

「クルピンスキーさんと互角なんて…」

 

下原とジョゼは孝美の高い実力に舌を巻く。

 

「模擬戦をしてクルピンスキーさんが本気になるなんて」

「さすがだな。ブランクの影響はみじんもないようだ」

 

サーシャはクルピンスキーが昨日シュミットと模擬戦をした時のように本気になって模擬戦を行ったため、孝美の戦闘力の高さを評価した。ラルも、怪我をして3ヵ月離脱していた孝美にブランクの様子を感じず、その腕の高さを評価する。

 

「いや~、強いね孝美ちゃん」

「クルピンスキーさんこそ、流石ね」

 

上空では模擬戦を終えた二人が会話していた。クルピンスキーは孝美の高い実力を肌で感じ、そう感想する。孝美も、502トップクラスのクルピンスキーの腕に称賛を与える。

 

「これなら狼君にも勝てるんじゃない?」

「狼君?」

「下で見てる狼君」

 

孝美は疑問に思うが、クルピンスキーはその正体を示すように下を向く。クルピンスキーの目線の先には、上空を黙ってみていたシュミットが居た。

 

「もしかして、リーフェンシュタール中尉のこと?そんなに強いの?」

「強いのなんの、この間なんて僕が負けちゃったぐらいだよ~」

 

孝美が疑問に思う中、クルピンスキーは説明する。

そして、地上で見ていたシュミットは、横にいたラルに質問された。

 

「どうだ、お前でも負けるか?」

 

質問されたシュミットは最初は自分に質問されたと思わずに聞き流していたが、自分だと判ると少し考える。

 

「うーん…最初はこっちが勝つでしょうね」

「ほう。何故だ?」

「向こうはこちらの戦法を知らないのに対して、こっちは1回ではありますけど戦法を見て知っていますから。情報があるだけでも有利に進めやすいですし」

 

シュミットはそう言って再び孝美を見た時ふと、ひかりを見た。

ひかりは、空を飛ぶ孝美の様子を見て、どこか悲しそうにしていた。その様子に、シュミットはひかりに何かあると感じたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「なにこれ!おいしい!」

 

その後、基地の食堂では全員が初めて食べる味に舌を鳴らしていた。ジョゼはその食べ物のおいしさに驚き、思わずそう感想する。

 

「皿うどんって言って、扶桑の郷土料理なんです」

 

孝美がそう説明する。そう、今回この食事を作ったのは孝美であり、故郷佐世保の郷土料理である皿うどんを振舞っていたのだ。

 

「美味…」

 

シュミットも、今まで食べたことのないおいしい味にそう零す。

 

「いやぁ~、綺麗で強くて郷土料理も上手だなんて、完璧だよね、孝美さんって。ね?ひかり」

 

ニパは孝美の完璧超人なところに驚きながら、ひかりに聞いた。しかしひかりは、その言葉が聞こえていなかったのか、下を向きながら黙っていた。

 

「…」

「ひかり?」

「え?あ、そうですね…ごちそうさま」

 

ひかりはそう言って席を立って行ってしまう。

 

「あ…ひかり?」

 

ニパはそんなひかりにおかしく思う。他のウィッチたちも、ひかりの様子がおかしいのに気づき、全員がひかりの方向を見る。ただ一人、姉の孝美を除いては。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「何かちょっとおかしいんだよな」

 

その晩、サウナの中でニパが言う。サウナ内にはニパの他に、管野、サーシャ、クルピンスキー、下原、ジョゼが居た。

ニパの言葉に、ジョゼが返事をする。

 

「何が?」

「ひかりのこと。どうも孝美さんを避けてるみたいなんだけど…」

「言われてみれば。仲の良い姉妹だって聞いてましたけど…」

 

そう、ひかりと孝美は本来仲の良い姉妹であると聞いているニパ達は、ひかりがまるで孝美を避けている様子におかしいと感じていたのだ。

 

「久々に会って緊張してるのかも?」

「そっかなー?それならいいんだけど…作戦も近いし」

 

ジョゼがそう言うが、ニパはどうも釈然としない。

そんな中、サーシャが全員にある告白をした。

 

「そのことですが…ひかりさんにはカウハバへの転属命令が出ているようです」

「え?」

『ええーっ!?』

 

突然のカミングアウトに、思わず驚くニパ達。そんな中、管野は黙ってその話を聞いていた。

 

「待ってよ!どうしてひかりが居なくなっちゃうのさ!?」

「そもそも今の状況がイレギュラーであって、カウハバ基地が本来の配属先なんですよ」

 

そう、ひかりの本来の配属先はカウハバ基地。それをラルが黙って502基地に置いている方がおかしな話であり、この命令は当然起こりうることだったのだ。

 

「でも、次の作戦はすごく重要なんでしょ?二人一緒に戦うってのは駄目なの?」

「マンシュタイン元帥直々の命令です。残念ですが…」

「そんな…」

 

元帥直々となれば、この命令を変えることなど到底無理な話になる。

それを聞き、ジョゼはしょんぼりとする。

 

「私、ひかりさんが居なくなるのはイヤだな…」

「でも、これで良かったのかも…」

「え?なんで?」

 

下原の言葉の意味が分からず二パが聞き返す。

 

「うん。接触魔眼は凄く危険だから、命令通りカウハバに言った方が…」

「えーっ?ジョゼさんまで…」

 

ジョゼの言葉も一理ある。ひかりの接触魔眼は使いどころを間違えば命を落とす代物だ。それなら、まだ安全ラインにあるカウハバに移動した方が、ひかりにとっては平和になる。しかし、ニパはそれに納得しない様子であった。

そんな中、今まで黙って聞いていたクルピンスキーは、管野に質問した。

 

「直ちゃんはどう思ってんの?」

「え?俺?なんで?」

「だって、ずっと言ってたじゃない。俺は孝美と一緒に戦うんだ、ってさ」

 

突然降られて訳が分からない様子だった管野だが、クルピンスキーに言われて少し考える。そんな様子を、他の人達も管野が気になり注目する。

 

「はっきりしてることは…戦場に必要なのは強え方だってことだ」

 

管野の中では、これに尽きるのだった。

その頃、ひかりは基地の柱を登っていた。そこは以前、ロスマンに指導をしてもらった時に使った柱である。ひかりはそこを、以前のように両手に魔法力を這わせながら登っていく。その速さは、前よりも比べ物にならないぐらい速かった。

そしてひかりは、柱のてっぺんまで上り詰めた。

 

「はあ…はあ…はあ…」

「ひかり!」

 

突然、下から声を掛けられひかりは見る。すると、なんと下から孝美が登ってくる。しかも、ひかりやロスマンのように柱に手を添えるのではなく、彼女は足だけでまるで歩くようにで登ってくるではないか。

そして、難なく柱のてっぺんまで登ってきた孝美にひかりは驚く。

 

「お姉ちゃん…」

「こんな無駄なことをしていないで、早くカウハバ行きの準備をしなさい」

 

孝美はやはりひかりに厳しく言う。しかし、ひかりはその言葉に引き下がらなかった。

 

「無駄じゃないよ!」

「!?」

「私、少しでもお姉ちゃんに近づきたくて、ずっと頑張ってきた」

 

そう、今の自分があるのは、この訓練のおかげでもあった。そんな訓練が無駄だとは今まで一度も思わなかった。

 

「502の皆にも、最初は全然認めてもらえなかったけど、でも頑張って頑張って、今は仲間って言ってくれてる!」

 

ひかりは懸命に、孝美を説得しようとした。

 

「それにね、私接触魔眼が使えるようになったんだよ!魔眼で管野さん達と一緒にいっぱいネウロイを倒したんだよ!」

「全部知ってるわ。それでも、あなたはここに居てはいけない」

「お姉ちゃん…」

 

ひかりはいくら言っても孝美が聞いてくれなかったと思い、ショックを受けた。

そして孝美はそう言って、柱からジャンプをして地面に降下する。そして、慣れたように地面に降り立って行ってしまった。

 

「…」

 

残されたひかりは、ただ一人柱の上で黙ってしまっていた。

そして基地に戻っていく孝美は、途中で建物の柱にもたれかかっているラルに気づいた。

 

「ラル隊長」

「大事な妹を危険な目に遭わせたくないのだと、はっきり言ってしまえばいいじゃないか」

 

ラルは孝美にそう言うと、体をこんどは孝美の方へ向けた。

 

「妹をこの最前線から引き離す。それがマンシュタイン元帥との取引か」

「知っていたんですか?」

 

そう。今回のひかりの転属命令は、孝美がマンシュタインとの取引の結果生まれたものだ。孝美は、まだちぐはぐな自分の妹が最前線で戦うことを良しとしなかった。そこで、ひかりを502からカウハバへ正式に転属させることで、危険な最前線から遠ざけようと考えていたのだ。

それを知っているラルは、一つ疑問に思うことがあり孝美に質問した。

 

「正式な辞令が出ているなら、何故そこまであいつを追い込もうとする?」

 

ラルは辞令があれば転属できるひかりを追い込もうとしている孝美の心境が知りたかったのだ。

そして孝美は、その質問に下を向きながら答えた。

 

「だってあの子は、ひかりは絶対にあきらめない子だから…。こうでもしないと…」

「フ…」

「本当は…本当はあの子を力いっぱい抱きしめたい。抱きしめて、強くなったねって褒めてあげたい。なのに私は、ひかりを傷つけることしか…」

 

孝美自身は、ひかりをちゃんと褒めてあげたいと思っていた。しかし、ひかりの我儘な性格を考え、自分を鬼にして最前線に戻らないようにしていたのだ。

その様子を見て、ラルは笑った。

 

「…姉妹揃って不器用なことだ」

 

そうして、孝美は先に基地の中に入っていった。

そしてラルは、基地の外で立ったまま、口を開いた。

 

「そこで盗み聞きしてる奴、出てこい」

 

ラルがそう言うと、建物の奥の柱から人影が現れる。それはなんとシュミットだった。

 

「いや、盗み聞きするつもりは無かったですよ?私は」

「最初から聞いていたんだろ?」

「…最初からですけど」

 

そう言って、シュミットはバツが悪そうにする。そう、実は彼は最初からラルと孝美の会話を聞いていたのだった。尤も、彼自身は偶然ここに居合わせたというものであり、偶々興味が沸いて聞いただけであったが。

そしてシュミットはラルの横に行き、ひかりが登っていた柱を見る。柱の頂上では、ひかりが黙ったままそこに居た。

その時、横から声がする。

 

「お前はどう思う?」

「えっ?何がですか?」

「孝美のことだ」

 

シュミットは最初何のことを言われたのか分からず聞き返すが、ラルに言われ先ほどのことだと思い出すと少し考える。

 

「あれが普通…なんじゃないですか?」

「ほう…理由は?」

「自分の妹が可愛いのは誰だって同じですよ。そんな妹が、危険な最前線で戦ってたら、いつか撃墜されて大けがをする姿を見たいなんて思わない。だからそうならないために、妹を最前線から遠ざけようとするんですから」

 

そう言っているシュミットだったが、突然顔を少し上げて夜空を見た。

 

「もし、私の妹もひかりと同じ状況だったら、私も孝美と同じことをしていた可能性が高いですから」

「ほう、お前に妹が居たのか?」

「ええ…」

 

そう言って、シュミット悲しそうな表情をする。彼の中に残っているアリシアの思い出、それを思い出していた。

そして、シュミットはラルと別れると、基地の中を歩き出す。

 

(だが…もう少し接する方法とかあったんじゃないか?あれではあまりにもひかりに残酷すぎるのではないか?)

 

シュミットは、孝美のひかりへの接し方についてそう思うしかできなかった。あの接し方が、吉と出るかなど、彼が知る由もないのだが。




自分の妹が危険な最前線で戦っている。過保護なお姉ちゃんはそんな妹に危険な目に遭ってほしくないと考え、懸命に最前線から引き離そうとするんですね。
誤字、脱字、感想お待ちしております。それでは次回!


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第六十四話「孝美とひかり 魔眼VS接触魔眼」

第六十四話です。ついにひかりと孝美は真剣勝負へと向かいます。
※タイトルに納得いかない点があったため修正しました(18/2/04)


「先ほど、グリゴーリを監視していた偵察部隊が全滅しました」

 

後日、ブリーフィングルームに集められたウィッチーズは、ロスマンの言葉を聞き衝撃を受けることとなった。

 

「全滅!?」

「報告では、先日バレンツ海で出現した球体型ネウロイが再生した個体とのことです」

 

サーシャが驚く中、ロスマンが説明をする。そんな中、その説明を聞き反応したのはシュミットとクルピンスキーだった。

 

「バレンツ海のネウロイだと!?」

「そんなバカな!?あいつは僕たちが確かに倒したはずだ!」

「ですが、事実です」

 

納得のいかない様子のシュミットとクルピンスキーだったが、ロスマンが正面に写真を張り付ける。するとそこには、シュミット達がバレンツ海で戦闘した球体型のネウロイが映っていた。

そしてさらに驚くべきものが映り込んでいた。

 

「あのユニット…!僕のだ!」

 

そう、写真の中の一枚に、クルピンスキーの履いていたユニットを取り込んだネウロイの写真があったのだ。それは、そのネウロイがあの時戦闘した球体型ネウロイであると決定づける証拠になっていた。

 

「コアを破壊したのに…何で!?」

「そう熱くなるな」

 

そう言って首を下げ考え出すクルピンスキーを、ラルが静止した。クルピンスキーが顔を上げて見ると、そこにはロスマンにコルセットを縛られているラルの姿があった。

それを見てクルピンスキーは戦慄した。

 

「隊長…?まさか!」

「お前達が倒しきれなかったのなら私が出るしかないだろう」

 

そう、ラルは自分が出撃する気でいるのだ。今までシュミットは502でラルが全線で戦っている姿を見たことがないため、ラルの実力をよく知らない。しかし、ラルはこれでも世界第三位の撃墜数を誇る、スーパーエースの一人なのだ。

そしてラルは孝美を見る。

 

「行くぞ孝美。作戦の肩慣らしにちょうどいい」

「はい」

 

ラルの言葉に、孝美は立ち上がって返事をした。その時だった。

 

「待ってください」

 

ブリーフィングルームの後ろから声がし、全員が振り返る。するとそこには、ひかりが立っていた。

 

「ひかり!」

「何をしに来たの?」

 

管野は驚いてひかりの名前を呼ぶが、孝美はやはり鋭い目つきをしながらひかりに厳しく言う。

しかし、ひかりはそれに臆することなく進言した。

 

「私も戦わせてください」

 

ひかりの言葉に反応したのは、やはり孝美だった。

 

「あなたには無理だと何度言えば!」

「そんなのは、やってみなくちゃわかんない!」

 

孝美はひかりに言うが、ひかりはその言葉を聞かずに孝美を睨み返した。

両者互いに睨んだまま硬直する中、それを解いたのはラルだった。

 

「いいだろう」

「えっ!」

「ラル隊長!?」

 

ラルはニヤリとしながら許可をした。その言葉にひかりは顔を明るくし、孝美はありえないと言った様子でラルを見た。

そしてラルも、只では出撃許可を出さなかった。

 

「もしお前の接触魔眼が孝美に勝るようなら、どんな手を使ってでも502に置いてやろう」

「ホントですか!?」

 

ラルからの衝撃の提案に、ひかりは驚く。しかしそれは、都合のいい話ではない。

 

「ただし、その場合お前に変わってカウハバには孝美に行ってもらう」

「えっ!?」

 

そう、いずれは誰かがカウハバに行かなくてはならないのだ。ひかりが勝って残った場合、代わりに行くのは敗者となる孝美なのだ。

 

「もしお前が勝っても、孝美と一緒に戦うという望みは叶わない。それでもやるか?」

 

ラルはひかりに聞く。そして、ひかりは決意した。

 

「…やります!だって今の私は502の一員だから!」

「ひかり…」

「お前…」

 

ひかりの決意に、孝美と管野は驚く。孝美は自分の妹が即座に決断をしたことに。管野はひよっこのはずだったひかりが、ここまで成長していることに。

そしてラルは、その様子に満足したようだ。

 

「上等だ。さあ、孝美はどうする?」

「…」

 

ラルに言われ、孝美もわずかに考える。そして、答えは決まった。

 

「いいわ。どちらがこの502にふさわしいか、はっきりさせましょう」

「うん、わかった」

 

孝美は、そんなひかりを迎え撃つことを選んだ。そして、両者の存続を掛けた勝負が始まるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ネウロイは現在ムルマン方向へ進行中です」

「狙いはやはりフレイアー作戦の為に集結した艦隊に間違いなさそうね」

 

そして、502は出撃した。いつもは出撃をしないラルを含むフルメンバーのブレイブウィッチーズ。そしてその先頭には、ひかりと孝美が並んで飛行、その後ろを、他のメンバーが編隊を組んで飛行していた。

そして、二人の勝負の内容はこうなった。

 

「孝美、ひかり、コアの位置を捉え、私に報告しろ。より早く、より正確に見抜いた方を勝者とする」

「了解!」

 

どちらも魔眼持ち。ならば、どちらの魔眼が相手のコアをしっかりと捉えることができるかが勝負となった。

ニパはピリピリとした二人の様子を見て、困ったように話し始めた。

 

「ひかりはずっと孝美さんと一緒に戦いたがっていたのに、なんだってこんな勝負をするのさ?」

「それは、ひかりが自分の成長をしっかりと孝美に伝えたいからじゃないか?今ひかりは、孝美とでは無く、この502と共に戦うことを望んでいるんだ。だから、対立する孝美と戦うんだ」

 

その言葉に、シュミットが答えた。シュミットはひかり自身が、502として戦う事への誇りを持っていると考え、それを孝美から認めてもらうために戦うのだと解釈した。

 

「だが、ひかりにとってこれは茨の道だ」

「遠視可能な孝美さんの魔眼と、ひかりさんの接触魔眼じゃ、どう考えても…」

「そうね。ひかりさんが勝てる確率は万に一つよ」

 

シュミットの言葉に、ジョゼは勝負にならないと言い、ロスマンはひかりの勝率はほぼ無いと言った様子だった。

 

「それでも、あの子はわずかな可能性に賭けた。私たちと共に戦うために。そして、自分の成長を姉に見せるために」

「ひかり…」

 

しかし、この勝負を決めたのはひかりと孝美である。外から口出しできることは何もなかった。

そして、ついにその時は始まった。

 

「11時の方向、ネウロイです」

「…マジか」

 

下原の遠視がネウロイを発見する。一歩遅れてシュミットも見つけるが、その姿を見てありえないと言った様子だった。

そこには、バレンツ海でシュミット達が戦闘したあのネウロイの姿があったからだ。

クルピンスキーもその姿を確認した。

 

「ホントだ…再生しちゃってるよ」

「行くぞ!」

 

そして、ラルの掛け声と共に、戦闘が始まった。ブレイブウィッチーズは散会、それぞれがネウロイに向けて接近していく。

そして、ひかりと孝美の真剣勝負が始まった。ネウロイは最も接近してきていた二人に対して攻撃をする。

その攻撃に孝美はシールドを張り防御するが、ひかりは攻撃を回避しながらネウロイに接近していく。接触魔眼を発動させるためには、シールドを張る余裕などないひかりは、その攻撃を順番に躱していく。

 

「一気に決着させる!」

 

しかし、孝美はこの勝負を一気につけようとする。魔眼を発動させると、即座にネウロイのコアを補足した。

 

「目標捕捉!H4699T9326!」

「早いな」

 

孝美の言葉を聞き、ラルは即座に座標に向けて狙撃をした。ラルの放った弾丸は真っ直ぐとその座標に伸びて行き、ネウロイに命中。そして、そこにあったネウロイのコアを貫いた。

誰もがその瞬間、孝美の勝利と思った。

 

「やった!…えっ!?」

 

孝美は思わず喜ぶ。しかし、様子がおかしいことに気づき顔を驚かせた。

孝美の目には、砕けたはずのコアが徐々に再生する姿が映っていた。

 

「コアが…コアが再生した!?」

「なんだって!?」

「コアが再生だと!?」

「じゃあ、どうやって倒せばいいの!?」

 

孝美の衝撃発言に、クルピンスキーとシュミットは驚き、ジョゼはどうしたらいいのか困った様子で聞く。

 

「いえ、待ってください!」

 

しかしここで、孝美はあることに気づいた。そこには、コアの中を動き回る謎の物が見えた。

 

「コアの中で何か動いてます!まるで、コアの中にコアがあるみたい!」

「そう言うカラクリか!おそらくそいつが真のコアだ!」

 

孝美の言葉を聞き、ラルは納得したように言った。そう、シュミット達が前回倒したはずのネウロイは、表面をコアで守り、その中に真のコアを忍ばせていた。その結果、最初こそは消滅したように見せかけるカラクリをしていたのだ。

 

「真のコア!?」

「そいつを撃ち抜くしかない!」

 

ひかりは驚く中、ラルはネウロイ撃墜は真のコアを撃墜するほかないと言う。

その時だった、ネウロイの体が分離し始める。

 

「気をつけろ!子機を大量に出してくるぞ!」

 

シュミットが全員に注意を呼び掛ける。それと同時に、ネウロイから大量の子機が飛翔しだす。

ウィッチたちは全員子機の迎撃をすることになる。それは、勝負をしている孝美も同じだった。

 

「くっ…!魔眼に集中できない…!」

 

孝美の魔眼は、その子機による数に押され発動を拒まれた。その時だった。

 

「!?」

 

孝美の横を、一人のウィッチが通り過ぎて行く。それはひかりだった。

 

「ひかり!?」

 

孝美が驚く中、ひかりは迫ってくる子機を回避しながら前進していく。この状況下でありながら、ひかりはネウロイを回避し迎撃、そしてその先に居る親機に向けて進んでいった。

 

「まだまだ!」

「頑張れ、ひかり!」

 

ひかりは全力で進んでいく。ニパはそんなひかりにエールを送る。しかし、あまりにも多すぎるネウロイの数は、ひかりのバランスを大きく崩した。

 

「きゃあっ!」

「雁淵さん!」

 

弾き飛ばされたひかりを見て、ジョゼと下原は驚いたようにひかりの名前を呼ぶ。しかし自分たちも子機を相手にするため、その助けに回ることなどできなかった。

そして、ひかりの周りを子機が包囲をし、そして攻撃をしようとする。

 

「!!」

 

万事休す、と思った時だった。突然そのネウロイは後方から飛来したロケット弾と弾丸により、破片に変わり消滅した。

 

「なっ!?」

 

ひかりが驚く中、攻撃をした者たちはひかりに話しかけた。

 

「どうやら補習が必要みたいね」

「ひかり、勝負はまだ終わってないぞ」

「えっ!?」

 

声のした方向を見ると、そこにはロスマンとシュミットがいた。先ほどのネウロイは、二人が撃墜したのだ。

そして、ロスマンは言った。

 

「思い出しなさい。あなたがここで得たものを。あなたの飛び方を!」

「ロスマン先生…はい!」

「いいか。自分のすべてを孝美にぶつけて行くんだ!」

「わかりました、シュミットさん!」

 

ロスマンとシュミットの言葉を聞き、ひかりは大きく返事をした。そして、再びひかりは子機を避けながら親機に向けて接近をしていく。

 

「右!…左!…右!…邪魔するなああああ!!」

「ひかり…」

 

ひかりは左右に体を動かしながら、次々とネウロイの攻撃を回避していく。その気迫は、管野をも見たことがないほど鬼気迫るものだった。

そして、孝美もそれに負けてはいなかった。即座に自分の周辺に居た子機を撃墜すると、親機に向けて魔眼を発動した。

 

「目標、重捕捉!」

 

ひかりは懸命に、親機に向けて直進していく。

 

「行けええ!ひかりー!!」

 

そんなひかりに、管野は全力で応援をする。そしてひかりは、徐々にその体をネウロイのコアに近づけて行く。

 

「目標、補正!」

「うううう!!」

 

孝美はコアの特定プロセスを次の段階へ進めて行く。ひかりは左手を伸ばし、全力で親機に触れようとする。

 

「目標!最終捕捉!」

「たああああああ!!」

 

孝美は更にプロセスを進める。そしてひかりは、ついにネウロイの親機に到着し、その体に手を触れた。

そしてひかりは、接触魔眼を発動する。

 

「完全捕捉!グリッドH1588T1127!!」

「ここです!!」

 

孝美は、完全に補足したネウロイのコアの座標を報告する。ひかりは、絶対魔眼で見つけたネウロイのコアの位置に機関銃の銃口を差し込む。

そして、両者の導き出した場所に、ラルが再び狙撃を行う。放たれた弾丸は再びネウロイのコアに飛翔。そして、コアの内部に潜んでいた真のコアを貫通した。

これにより、コアが完全に壊れたネウロイは、親機子機共々、今度こそ本当にその姿を光の破片へと変えたのだった。

全員が戦闘終了によりその場で立ち止まる。

 

「私?お姉ちゃん?どっち?」

 

ひかりは、先ほどの勝負が自分が勝ったのか、それとも孝美が勝ったのか気になり、懸命に周辺を見る。その時だった。

 

「!?」

 

ひかりの真横から、生き残っていた子機が体当たりを行う。ひかりは突然のことに対処しきれず、その体当たりを食らってしまい、そして気絶してしまった。

そしてひかりの体は、重力に逆らうことができずにそのまま墜落していくのだった。

 

「っ!?ひかりーー!!!」

 

管野が叫ぶが、ひかりはそれでも気絶したまま墜落していく。

その時、ひかりに向けて一人のウィッチが急降下していく。そのウィッチは、ひかりの姉の孝美だった。

孝美は落下するひかりの体を空中でキャッチすると、その体を抱きかかえた。

 

「お姉…ちゃん…」

 

ひかりは、姉の孝美の姿を見ると、その薄れていた意識を完全に手放した。

 

「ひかり…」

 

孝美は、自分の腕の中で眠ってしまったひかりを見ると、そっと自分の顔にひかりの顔を近づけた。

 

「強く…なったね…」

 

そう言って、孝美は一筋の涙を流したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「コアへの指示だが、二人とも正確な位置を示していた。だが、孝美の方が僅かだが早かった。よって、命令通り部隊には孝美を残す。以上だ」

 

そして基地に帰投した後、ブリーフィングルームでラルが全員に向けて伝える。しかし、その席にはひかりの姿は無かった。

ひかりは、基地の滑走路に居た。滑走路の先端で、懸命に涙をこらえていた。

 

「うっ…うっ……」

 

ひかりは、涙を流したくなかった。自分で決めたことであり、そして敗北した。悔しい思いがあったが、決して後悔はしていなかった。

しかし、彼女の中に渦巻いていた思いは、ついに爆発した。

 

「うわぁぁぁぁん!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

ひかりは滑走路の先でへたり込み、思い切り泣いた。大粒の涙は、次々と滑走路を濡らしていく。

自分の中に渦巻いていた思いは涙と共にグシャグシャになってしまい、もはやどうして泣いているのかすらひかりはわからなくなってしまった。しかしひかりは、大声で泣いていた

その様子を、ブリーフィングルームから出てきたウィッチたちは、静かに見守っていることしかできなかったのだった。




といわけで、孝美の勝利で終わった502存続の決闘。そして徐々にクライマックスへ向かっていくブレイブウィッチーズ編。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十五話「フレイアー作戦 前編」

第六十五話です。珍しく文字数が5000を下回りました。どうぞ。


「チドリ…さよならだね」

 

孝美が502残留を決めた翌日、ひかりは格納庫内で自分の愛機であった紫電改『チドリ』の前に立ち、お別れの挨拶をしていた。

孝美に敗れたひかりは、即刻カウハバ基地への転属となった。そのため、ひかりがこの紫電改に乗るのはこれが最後となったのだ。

 

「昨日は接戦だったぜ」

 

と、ひかりは話しかけられ振り返ると、そこには管野が立っていた。

 

「管野さん」

「一瞬おめえが勝つかもって思ったぐらいな」

「もしかして、私を応援してくれてました?」

 

ひかりは思わずそんなことを管野に聞く。管野は歩み寄りながらいつも通りの口調で答えた。

 

「んなわけねえだろ。昨日はたまたま出来が良かっただけだ。元々、孝美とおめえじゃ実力は月とスッポンだ」

 

と、管野はひかりに言う。しかし、管野からしてみればそれはいつも通りのからかいのつもりだったが、ひかりはその言葉に少し寂しそうな表情をしながら笑顔で答えた。

 

「…ですね」

 

思わない答えに、管野も一瞬呆気にとられる。

 

「え?なんだよ、おめえ悔しくねえのか?あんなに強くなりてえって言ってたのによ」

「悔しいけど、やれることはやりきったんでスッキリしました。やっぱお姉ちゃんは凄いです」

「ひかり…」

 

ひかりは、いつものように明るい声で言う。そこには本心が現れている様子でもあり、管野はやはり呆気にとられた。

そしてひかりは、自分が今まで使っていたチドリを撫でる。チドリは、数々の戦闘によって小さな傷をところどころに残していた。

 

「チドリ。今までありがとう。お姉ちゃんと頑張ってね」

「おい」

 

その時、管野はひかりのことを呼ぶ。

 

「わっ」

 

ひかりは管野に呼ばれて振り向くと、その方角からあるものが飛んできて慌ててキャッチをする。そしてキャッチしたものを見ると、それは管野の使っていた手袋だった。

 

「この手袋…」

「前に欲しがってたろ。餞別だ」

 

ひかりが驚く中、管野は自分の手袋を餞別としてプレゼントしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「本当にスオムスに行っちゃうのかよ、ひかり」

「あはは…そうですね」

 

ひかりの転属を、見送りに来た代表としてニパは言う。その言葉に、ひかりは少し笑ってから返事をする。

そして次はサーシャが前に出る。

 

「向こうに行ってもユニット壊しちゃダメよ」

「はい。正座させられないように気を付けます」

 

サーシャはひかりがユニットを壊さないように念を押しながら、見送りの言葉を述べる。

対するひかりも、正座されないようにしようと言うが、カウハバに正座があるわけがないのであった。

そして次に、下原とジョゼが出る。

 

「これ、おにぎりです」

「飲み物も」

 

そう言って、二人は手に持っていた物を差し出す。

 

「下原さん、ジョゼさん。お世話になりました」

「ひかりさん」

 

ひかりが二人にお礼したら、今度はロスマンがひかりに話しかけた。

 

「あなたの今日までの日々は無駄じゃないわ」

「先生…」

「昨日の動き、なかなか良かったわよ」

「ありがとうございます、ロスマン先生!」

 

ひかりはロスマンに言われ、嬉しくなり大声でお礼を言う。

そして、ひかりはトラックに乗り込もうとした時だった。

 

「ひかりちゃん」

「?」

 

呼び止められて振り返ると、クルピンスキーが歩み寄ってきた。

 

「やっぱり、ひかりちゃんが持ってた方がいいよ」

「あ、お守り」

 

クルピンスキーがポケットから取り出したのは、ひかりに以前渡されたリベレーターだった。ネウロイの体当たりからクルピンスキーを守ったそれは、表面を変形させていた。

 

「ニパさんから聞きましたよ。これ本当は武器なんですよね」

「あはは、ばれた?一発くらい入ってた方がお守りっぽいよね」

 

あの後、ひかりはニパから本当のことを言われ、リベレーターがちゃんと弾の撃てる武器であることを聞かされた。そしてクルピンスキーはそれを、今度は弾丸を込めてひかりに返したのだった。

 

「ありがとうございます、クルピンスキーさん」

 

ひかりはそう言って、リベレーターをポケットに入れたのだった。

そして、ひかりを乗せたトラックは出発する。

 

「みなさ――ん!お元気で――!」

 

ひかりはトラックの窓から体を乗り出して、そして全員に手を振って別れの挨拶を掛けた。

その様子を、シュミット達他ウィッチ達は黙って見ていたが、ニパは思わず走り始めた。

 

「ひかり!」

 

ニパは、離れていくトラックを追いかける。

 

「ひかり――!」

「ニパさん…」

 

追いかけるニパを見て、ひかりは少し寂しそうな顔をする。始めてきた502で、一番最初に親しくしてもらったニパのことを思うと、ひかりも別れるのが辛く感じるのだった。

そして、今まで離れたところで様子をうかがっていた管野は、ひかりを追いかけていたニパの下へ行く。

 

「おい、作戦会議始まるぞ」

「何で追いかけないんだよ…」

「追いかけてどうにかなんのかよ?」

 

ニパの言葉に、管野は聞き返した。それを聞き、ニパは思い切り管野の方を振り返った。

 

「私たちの仲間だろ!管野の相棒じゃなかったのかよ!」

 

ニパは思わず、管野に大声で問う。

管野の表情を見ると、ひかりと別れるのが少し寂しそうだった。

 

「…俺の相棒は孝美だ」

 

しかし、彼女の中の相棒は孝美、これは変わらない。今までがそうであり、管野にとってはこれからもそのつもりなのだから。

そして場面は、格納庫内に移る。そこには、ひかりの姉である孝美が一人いた。

孝美は、ひかりが今まで使っていたチドリの前に立ち、静かにそれを見ていた。

 

「ひかりが行ったぞ」

 

その時、黙ったままの孝美に話しかける声がする。孝美が顔を上げて見てみると、そこにはラルとシュミットが居た。尤も、シュミットはラルがどこに行くのか気になりついてきた様子であるが。

孝美は、ラルに聞く。

 

「どんな様子でした?」

「心配なら見送ってあげればよかったじゃないですか」

 

そんな孝美の質問に、シュミットは逆に聞き返した。そして孝美はその答えを、困ったような顔をしただけだった。それが答えだ。

そして孝美は、チドリに触れる。

 

「…傷だらけ」

「その傷は、ひかりがここに居た証だ」

「あの子がこんな最前線で戦えるようになってただなんて…頑張ったんですね、ひかりは」

 

孝美は、本当に驚いた様子で言う。魔法力も少なく、ユニットの飛行も安定しなかった雛鳥は、彼女の知らない間に逞しいほど成長をしていた。

 

「ああ、本当に頑張った。だが私が望むのは作戦を遂行させることができる強いウィッチ。それだけだ」

 

ラルは一瞬瞼を瞑り言った後、次には真剣な眼差しで孝美に言った。今重要なのはグリゴーリ攻略であり、必要なものはそれを達成できる十分な戦力だ。

そして、その言葉に孝美も真剣な眼差しで答えた。

 

「その役目は、私が必ず果たします」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「周知の通り、グリゴーリは現在時速5キロで南西に移動している。目標はペテルブルグ。この502で間違いない」

 

ブリーフィングルームに集められたウィッチ達は、暗い部屋の中、マンシュタインの説明を静かに聞いていた。前方には投影機により移されたグリゴーリの写真があった。

そしてマンシュタインは、続けて説明する。

 

「従来の出現した敵に応戦する策を捨て、我々から打って出る大反攻。それがフレイアー作戦である」

 

マンシュタインの言葉は、今までの常識を遥かに覆す物だった。今まではネウロイが出現し、それをウィッチが攻撃する後手の戦い方をしていた。しかし今回は、移動するネウロイの巣に向けて先手を打ちに行く。過去に例のないことだ。

そして投影機は、次の写真を写す。そこには、骨組みのボビンのような姿をし、そこから細い糸のようなものが無数に出ている謎の形状をしたネウロイの姿があった。

 

「北方軍がグリゴーリ内部の観測に成功した結果、雲状の巣の中心には巨大な本体があり、それがネウロイの発生源であることが判明した」

「ネウロイの生産工場」

 

マンシュタインの言葉に、ラルがそう感想する。

 

「我々の作戦目的はその本体の破壊。そのための切り札が…これだ」

 

そう言って、写真は次のものに変わる。そこには、二つの巨大な大砲が現れた。

 

「超巨大列車砲、グスタフとドーラだ」

「これが…」

「でけえ…」

 

写真で見るその大きさに、ニパと管野の口から思わず漏れる。二人だけでなく、誰もがその大きさに圧巻された。

 

「カールスラント技術省の力を集結した、口径800ミリ。史上最大最強の火砲だ」

「800ミリ…そんなの作れるんだ…」

 

800ミリという途方もない大きさの大砲に、下原は現存技術で実現可能なことに驚く。しかし、この中で唯一驚いていないのはシュミットだった。彼は前世において、この巨大な列車砲が実現できることを知っていたからだ。

そしてマンシュタインは、次の写真に写る物を指し棒で指す。そこには、巨大な砲弾が映し出されていた。

 

「まずグスタフがグリゴーリに向かって撃ち込むのは、新たに開発した超爆風弾だ。子の弾丸を使って本体を隠しているこの雲を消滅させる。その後、露出した本体を破壊するのがドーラだ。ドーラには対ネウロイ用魔導徹甲弾が装填されている」

「魔導徹甲弾…?」

 

マンシュタインの説明を聞き、孝美は思わず聞きなれない単語を耳にする。

そして写真は次に写る。そこには、魔道徹甲弾の構造図が現れた。

 

「陸上ウィッチのべ数百名の魔法力を充填した、この魔導徹甲弾。これを本体コアに叩き込み決着をつける」

 

そう力強く宣言するマンシュタイン。しかし、この作戦には問題点があった。

 

「だが、上空1100メートルに位置するグリゴーリを撃ちぬくには最低でも10キロ圏内に近づかなければならない」

「そこって敵の攻撃範囲じゃないか」

 

クルピンスキーの言う通り、その範囲はネウロイの攻撃範囲になる。そのため、向こう側からの攻撃が激しくなることも容易に予想できた。

そしてマンシュタインの口から、502に命令が下った。

 

「502統合戦闘航空団、諸君らの任務は列車砲を護衛し、射程内に到達させることだ。そして、雁淵中尉はコアの位置を特定せよ」

 

502統合戦闘航空団は、ネウロイ攻撃の要となる列車砲を護衛することだった。そして同時に、孝美にはとても重要な役割が与えられたのだった。

そしてブリーフィングは終了し、シュミット達は格納庫に移動した。それぞれが自分のユニットに足を入れると、魔道エンジンを始動させ、そして手に自分の火器を持つ。

 

「いいか!グリゴーリを倒すまで帰れると思うなよ!502統合戦闘航空団、出撃!」

『了解!』

 

ラルの掛け声に全員が大きく返事をする。そして、502統合戦闘航空団は作戦成功を目指し出撃したのだった。




というわけで、502はフレイアー作戦に出発。次回、あの二人が登場します。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十六話「フレイアー作戦 中編」

第六十六話です。ついにエイラとサーニャが出せました…では、どうぞ。


「では、ここからは列車移動になりますので。小官はこれで」

「はい!ありがとうございました!」

 

運転手の言葉に、ひかりはお辞儀をしお礼を言う。そして運転手は、ひかりを乗せてきたトラックに乗り込み、走り始めた。

残ったひかりは、周辺を見る。現在地はペテルブルクにあるスオムス方面へとつながる駅。ペテルブルクは街から人々が避難してしまっているため、周辺にいる人はすべて軍人もしくは軍属関係者のみであった。

ひかりはここで、ある人物を探していた。

 

「確かスオムスからの迎えの人が…」

「よう!」

「あっ!」

 

ひかりが探しているとき、後ろから声を掛けられた。ひかりは聞き覚えのある声にハッとすると、そこにはよく知る人物二人が居た。

 

「エイラさん!サーニャさん!迎えに来てくれたんですか?」

 

そこには、以前休暇でひかりと共に年越しをしたエイラとサーニャが居た。二人はひかりのはしゃいだ姿を見ると、揃って微笑むのだった。

そして、ひかり達は列車に乗り込んだ。そしてサーニャは、何故ひかりを二人で迎えに来たか事情を説明した。

 

「ニパさんから迎えに来てほしいって連絡があったの」

「ニパさんが?」

 

思いがけない人物の名前にひかりは驚く。そしてその訳を今度はエイラが説明した。

 

「ひかりのこと、すんげー心配してたゾ」

「…」

 

それを聞き、ひかりは少し下を向く。その時だった。

サーニャが突然、魔導針を頭に出した。

 

「あ」

「サーニャ?」

「空」

 

ひかりとエイラがどうしたのかと思う中、サーニャは窓の外を見ながら話した。それを聞き、ひかりは列車の窓を開けて空を見た。

 

「あっ!!」

 

ひかりはそこにあった光景を見て、目を開いた。空には、小さな飛行機雲が何重にも並んで引いていた。

 

「502が出撃したのか」

「はい!」

 

エイラはそれを見て、502が出撃したことを理化した。そう、その雲は502から出撃したウィッチ達が一糸乱れぬ編隊飛行をした時に出来る飛行機雲だったのだ。

そしてひかりはそのウィッチ達に指を指しながら興奮したように話し始めた。

 

「あれは隊長!あれはサーシャさん!ロスマン先生、下原さん、ジョゼさん、それにシュミットさん」

「よく見えるナー…」

 

ひかりの目の良さにエイラは思わず感心したような驚いたような、そんな反応をした。

そしてひかりは、次々と名前を呼んでいく。

 

「左はクルピンスキーさん、ニパさん、管野さん。それから…」

 

次々と名前を呼んでいく中、ひかりの声は尻すぼみになっていく。

 

「ねーちゃんか?」

「はい」

 

言いにくそうにしていたひかりに変わり、エイラが言う。

 

「ま、そんな湿っぽくなるなって」

 

エイラはそう言って、軍服のポケットを探る。そして、中から一つの箱を取り出した。

 

「じゃーん。気分が落ち込んだ時でも、おいしいお菓子を食べればウキウキハッピーになれるもんさ」

 

エイラはそう言って、ひかりの掌に箱の中に入っているお菓子を分け与えた。

次々と積まれていくお菓子にひかりは目を輝かす。

 

「あっ!チョコレートだ!」

 

そう言って、ひかりは手のひらに乗っていたお菓子をいっぺんに口に運ぶ。しかし、ひかりは一つ勘違いをしていた。そのお菓子はチョコレートでは無かった。

 

「チョコじゃないぞ。サルミアッキだ」

「そ、そんなにいっぱい…」

 

エイラがお菓子の正体を説明する中、サーニャは一変にそれを口に含むひかりにアワアワとする。

サルミアッキとは、北欧の国で生まれたキャンディーである。北欧では代表していいほど誰もが食べるお菓子であるが、それ以外の国では、()()()()からあまり食べられることは無い。

そして、サーニャの嫌な予感は的中した。

 

「おいひい………うえっ!!」

「お、おい、ひかり!」

「ひかりさん」

 

最初こそおいしそうに食べていたひかりだが、徐々にその顔色を青くしていく。そして、思わず悲痛の叫びを出すのだった。

サルミアッキの特徴と言えば、その独特な味であろう。食べたことのない人が初めて食べた時にした感想は「ゴムの味」やら、「刺激のある苦み」といった感想をさせるほどだ。その為、北欧ではメジャーであっても、それ以外の国ではあまり食べられることが無いのだ。

因みに、以前シュミットは501にいた時に、エイラからもらって食べた時があったが、その味のあまり気絶をしていたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その頃、502は編隊を崩さず一糸乱れぬ飛行をしていた。

 

「孝美」

 

飛行している中、管野は横を飛行している孝美に近寄る。

 

「お前はひかりに勝って俺の相棒になったんだ。俺たちは絶対に勝たなくちゃいけねえ、絶対にだ」

「ええ。もちろんよ、管野さん」

 

管野の言葉に、孝美を頷いて応える。

そして、502は前方に今回の作戦の要を見つけた。

 

「グスタフとドーラを確認しました」

「あれを僕たちが守るのか」

「でかいな…」

 

シュミット達は下を見ると、そこには二両の大型列車砲が見える。二つのレールにまたがって移動する列車砲の堂々とした姿は、誰が見ても圧巻なものであった。

 

「10時の方向、グリゴーリを視認した」

 

ラルの言葉に、他のメンバーは列車砲に向けていた視線を上げる。彼女らの顔を上げた視線の先には、黒く禍々しい色をした積乱雲がそびえていた。間違いなくネウロイの巣である。

そして、編隊は更に進んでいく。巨大列車砲のさらに先には、連合軍の大部隊が駐留していた。大規模な戦車、高射砲、ロケット砲部隊。火器だけでもとてつもない規模を誇るだけでなく、白海には空母艦隊が待機しており、陸と空、隙間の無い布陣である。

 

「大部隊だな」

「そりゃそうだ。この作戦に全部かかってるんだ」

 

二パの言葉に、管野が当たり前だと言わんばかりに言う。シュミットは下を見る。陸上兵器の主となっているのはカールスラントの兵器軍であり、兵士もカールスラント軍人が割合的に多かった。

そして、北方軍の全線司令部では、マンシュタイン元帥以下、多数の将校が司令部に居た。

 

「白海に待機中の空母艦隊に連絡。艦載機の発進を要請しろ!」

「了解!」

 

司令部に居た副官が通信兵に命令をする。それにより、黒海の空母艦載機が発艦する。

 

「艦載機、前線に着きました!」

「よかろう。これより、フレイアー作戦を開始する!」

 

マンシュタインの言葉と共に、フレイアー作戦が始まった。陸上から高射砲と戦車部隊による砲撃が始まり、上空を戦闘機が飛翔していく。それにより、迎え撃つネウロイを次々と迎撃していく。

しかし、ネウロイも只物ではない。巣から現れるネウロイの数は無尽蔵であり、いくら倒しても次々と現れてくる。

 

「始まったぞ」

「はい。グスタフ、ドーラ、あと30秒で敵攻撃範囲内に到達します」

 

そして、502は戦果の中に突入していく。いよいよ、ウィッチたちの出番となるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ぷはー…びっくりした…」

「大丈夫?」

 

出発の際に渡された飲み物を口に運び、口の中のサルミアッキを流し込むひかり。そしてひかりは飲み込んだ後、ホッと息を吐く。そんなひかりの様子を、心配そうに見るサーニャ。

 

「どうだ?いけるだろう?」

 

サーニャの横では、今まさにそのサルミアッキを食べているエイラが居た。

その時、サーニャは魔導針を出した。

 

「あっ、始まったみたい」

 

その言葉を聞き、ひかりは慌てて電車の窓の外を見る。しかし、ひかりの居る現在地からは戦場は見えなかった。

 

「はあ…私たちも出撃したいナー」

「スオムス軍はバックアップでしょ…」

 

エイラは少しつまらなさそうに後頭部で腕を組む。サーニャの言う通り、今回のフレイアー作戦ではスオムス軍はバックアップである。

 

「お姉ちゃん…」

 

ひかりは、現在地から見えない場所で戦っている孝美の様子が気になり、心配そうな表情をする。

そんなひかりに、サーニャが話しかける。

 

「やっぱり心配?」

「はい…」

「私も、少し心配なんです…」

 

ひかりの返事に、サーニャも同じ思いをする。サーニャにとっては、負傷することの多いシュミットのことが心配だった。

その時、ひかりの横で何かを置く音がする。気になり振り向くと、そこには大きな箱が置かれていた。

 

「じゃーん!」

「あっ!無線機!」

 

ひかりはそれを見て、ビックリしたように無線機を見る。

 

「へへーん、待ってろー…」

 

そしてエイラは、無線機のノズルを回し、周波数を合わせる。ノイズが流れる無線機は、徐々にその音を拾っていき、そして声を出す。

 

『第8航空隊、205空域にて小型ネウロイ10体と交戦状態に』

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「敵の攻撃範囲に到達」

「来るぞ!列車砲が射程内に到達するまで何としても守り抜け!」

『了解!』

 

二両の巨大列車砲が、敵の攻撃範囲に入る。それにより、502の任務が始まった。

ネウロイはウィッチの姿を確認すると、一斉にその矛先を向ける。ウィッチたちはそれぞれ攻撃を回避すると、自分の持ち場に移動していく。

 

「見てて、ひかり!必ず勝って帰るから!」

 

孝美はそう言って、ネウロイの集団に攻撃を開始していく。しかし、数機のネウロイはそのまま通り過ぎ、列車砲に向かっていく。ネウロイたちも、列車砲の異質な存在に気づいたようだ。

ネウロイは次々と攻撃を加えて行くが、その攻撃は列車砲に届かなかった。

 

「くうっ!」

「何だよこのビームの数!」

 

ジョゼとニパは懸命にシールドを張り、ネウロイの攻撃から列車砲を守る。しかし、その攻撃の激しさに二人はきつい状況を強いられる。

 

「敵も本気って事ね」

 

ロスマンはフリーガーハマーを撃ちながら、冷静に分析をする。

そしてラルとクルピンスキー、シュミットの三人は並んでケッテを組んでいた。

 

「5秒で1体がノルマだぞ!」

「言われなくても!」

「分かってるさ!」

 

ラルの言葉に、クルピンスキーとシュミットは揃って返事をする。三人は上昇をしながら次々と迫りくるネウロイを排除していく。

 

「うおりゃああああ!!」

 

そして管野は、大声で雄叫びをあげながら次々とネウロイを倒していく。そして管野の後ろを孝美が援護していく。管野が倒し損ねたネウロイを孝美が倒し、そして孝美が危険になったときは管野が助ける。

 

「あの二人凄い!」

「息ぴったり!」

 

そんな連携を見て、ジョゼとニパは目を開きながらその腕の良さを褒める。

そして、戦場はウィッチだけでは無かった。戦闘機部隊もウィッチの活躍に負けじと、ネウロイに攻撃を加えて行く。しかし、戦闘機部隊はウィッチほど臨機応変な動きができず、一機、また一機と墜とされていく。

戦いは、消耗戦へ向かっていく。

 

「第1航空隊壊滅!第8高射砲大隊壊滅!全体損耗率30%!ネウロイの毎分出現数半数に減少」

 

司令部では、前線の報告が次々と入ってくる。

 

「攻撃を緩めるな!撃って撃って撃ちまくれ!出し惜しみは無しだ!」

 

マンシュタインの横に座る初老の軍人、カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイムが大声を出す。

そして、通信兵が報告をする。

 

「グスタフ、ドーラ、射程圏内到達まであと1分!」

「超爆風弾発射用意!」

 

通信兵の言葉に、次の命令をマンネルヘイムは行う。

そして前線では、巨大列車砲の一機、グスタフが動き出す。グスタフはその巨体の上部に並ぶ巨大な砲身を、ターレットリングを回していく。

そのゆっくりした動きは、ネウロイの注目を集め、ネウロイは次々とグスタフに向けて攻撃を加えて行く。

 

「こっちに来るんじゃねえ!」

「邪魔しないで!」

 

管野と孝美は、互いに横に並びながらネウロイとグスタフの間に入り、グスタフに向かうネウロイを撃ち落とす。その後ろを、ジョゼと二パがシールドを張ることにより、攻撃は一発もグスタフに向かうことは無かった。

そして、グスタフはターレットを停止させる。

 

「機関停止。標準誤差修正。装薬装填。安全装置全て解除」

 

通信兵の言葉に続き、グスタフはその砲身を固定させた。

 

「発射準備完了。グスタフ、射程圏内に到達」

 

通信兵が、司令部の中央に座るマンシュタインに向けて報告をする。

 

「発射!!」

 

そして、マンシュタインの号令と共に、グスタフはその砲身から火を噴いた。まるで雷が落ちたかのような音を放ちながら、その砲弾は撃ちだされた。

 

「うわあっ!?」

「すごい衝撃!」

 

あまりの衝撃に、護衛で近くを飛んでいたニパとジョゼはその凄まじい爆風をくらう。ニパに至っては、その爆風のエネルギーによって体が持ち上げられるほどだ。

そして、グスタフから放たれた超爆風弾は、一直線に飛翔していき、周辺に居たネウロイ諸共、ネウロイの巣を捉える。

そして、その砲撃により、ネウロイの巣は徐々に吹き飛ばされていく。霧散していくネウロイの巣は、その中に隠された秘密を暴きだした。

ブリーフィングの写真に写っていたネウロイが、この砲撃により、その巨大な体を人類に向けて堂々とさらけ出したのだった。




どうも、最近お気に入り数が徐々に減ってきていることに少し危機感を覚えた深山です。
ついにクライマックスに走り出したブレイブウィッチーズ編。しかし、只ではネウロイも終わらせません。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回。


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第六十七話「フレイアー作戦 後編」

皆様の評価のおかげで、オレンジバーに突入しました!心からお礼を申し上げます!
それでは、第六十七話です。どうぞ!


「超爆風機構発動成功。グリゴーリ周辺の雲が消滅しました」

「成功だ!」

 

副官の言葉に、思わず喜びの声を出すマンネルヘイム。

 

「ここまでは、です」

 

しかし、マンシュタインの表情はまだ動かない。作戦はまだ途中であり、次が決まってこその成功である。それまで、彼の気が緩むことは無かった。

そして、超爆風弾により隠れ蓑を失った巨大ネウロイは、ウィッチ達を圧巻させた。

 

「あれが敵の本体」

「うわー、でっかー…」

 

あまりの大きさに全員が立ち止まって見てしまう。そんな中、ロスマンは手に持つフリーガーハマーからロケット弾を数発ネウロイに向けて叩き込む。

真っ直ぐと飛翔した弾丸は、そのままネウロイに吸い込まれていくが、命中個所に傷一つつけることは無かった。

 

「通常の兵器では傷もつけられませんね」

 

ロスマンは冷静に、巨大ネウロイを分析していく。

そして、ここからが孝美の大仕事だ。

 

『雁淵中尉、コアの特定だ』

 

マンシュタインの無線がウィッチ達に伝わる。そう、孝美はこの後魔眼を使い、巨大ネウロイのコアを特定しなくてはいけない。

 

「行くぞ孝美!」

「了解!」

 

管野の言葉に、孝美は返事をしながら巨大ネウロイに向かっていく。そして、前衛に出ていたウィッチたも次々と巨大ネウロイに向けて進んでいく。

 

「孝美をコア特定エリアまで護衛する」

『了解!』

 

ラルの言葉に、残ったウィッチも返事をする。彼女たちの任務は、ネウロイの攻撃から孝美を守ることだ。

そして、超巨大ネウロイは動き出した。ネウロイは自分の体に巻き付かせていた糸状の物体を解き、その先っぽの部分を連合軍に向けた。すると、その先っぽの部分から次々と赤いビームが伸びて行く。今までよりも遥かに強いネウロイの攻撃だ。

シュミット達は散会すると、その糸状になっている部分に攻撃を加えて行く。しかし、無数にあるその部分は、いくら攻撃を加えて行ってもキリがなかった。

そして、孝美は魔眼を発動してネウロイのコアを特定し始めるが、ネウロイはそんな孝美を攻撃する。

しかし、その攻撃は前に立った管野によって憚れた。管野はシールドを張った体制から、孝美に聞く。

 

「見えたか、孝美!?」

「ええ。目標重捕捉…目標補正…」

 

管野の言葉に返事をしながら、孝美は次々と工程を進めて行く。

 

「最終捕捉…完全捕捉!グリッドH2541、T0429!」

 

そして、孝美はネウロイのコアの位置を特定する。

孝美の報告は、司令部に届いた。

 

「グリゴーリのコアを特定!」

「ドーラ、発射用意!」

 

マンシュタインの号令と共に、ドーラが発射準備を始める。ドーラは砲身の先に魔力を集め始めた。

 

「ドーラ、術式完了。発射10秒前。9、8…」

 

そして、ドーラの射撃が秒読み段階に入る。その時だった。

ネウロイは、今まで分散させていた糸を束ね、そして一つの大きな砲身を作る。そして、そこにビームを収束させ、発射させる。

放たれたビームは、そのままドーラへ向けて直進していく。ニパとジョゼは懸命にシールドを張る。

 

「くうっ!」

「くそっ…くそっ…!」

 

懸命にシールドを張る二人だが、ネウロイの強力な攻撃を防ぎきれず、ついにシールドは崩れた。そして、壊れたシールドの隙間から流れたビームは、そのままドーラに直進。そして、ドーラの砲身に直撃し、融解させた。

 

「ドーラ被弾!砲身が融解して発射できません!」

「何っ!?」

「撃てないだと!?」

 

通信兵の言葉に、司令部の人間に動揺が走る。しかし、歴戦の戦士はすぐに次の手を打つ。

 

「ならばグスタフで撃つ!予備弾を用意しろ!」

 

マンシュタインはすぐさま前線に命令する。列車砲は2機あり、1機が破損してももう1機で対応できる。兵士たちはすぐさま予備弾をドーラに装填を始める。

しかし、事態は急変した。ネウロイは列車砲の攻撃が無いと知ったのか、突如糸状の部分を収納し始めた。そして、衝撃の行動が起こった。

 

「グリゴーリがペテルブルク方面に移動を開始しました」

「何だと!?」

「発射までどれくらいだ!?」

 

マンネルヘイムはすぐさま兵士に聞く。

 

『術式の展開に20分必要です!』

「遅い!射程外に出られたら終わりだぞ!」

 

突然高速で移動し始めたネウロイに対して、あまりにも遅い装填時間にマンネルヘイムは思わず机を叩く。

そして、ウィッチ達は呆然とネウロイの姿を見ていた。

 

「攻撃が止んだ?」

「僕達には興味なしってことかな」

「ふざけやがって…」

 

クルピンスキーの解釈に、シュミットは拳を握り締め、歯ぎしりをしながら言う。

 

「20分も待ってたら射程外になっちゃうよ」

「こっちの武器じゃ歯が立たねえし、どうすりゃいいんだ!」

 

既に策は尽きてしまい、解決策が見つからない。

その時、孝美の目にある物が止まった。それは、ネウロイの攻撃により使用不能になったドーラだった。孝美はすぐさまドーラに向かう。

 

「孝美?」

 

管野は何事かと思うが、孝美はそのまま急降下していき、そしてドーラに到着する。そしてそのまま孝美はドーラの砲弾が装填されている蓋を開くと、中から砲弾が出てくる。

 

「あれは!」

「魔導徹甲弾?まさか!」

 

皆が驚く中、孝美は手に持っていた対物ライフルを捨てると、なんと両手でその砲弾を持ち上げるような動作をし始めた。

その行動に、下原が分析する。

 

「弾を運ぶつもりです!」

「直接ぶつけようって気か!」

「魔導徹甲弾の重量は1トン近いわ」

 

全員が無茶だと言う中、孝美は懸命に砲弾を持ち上げようとする。

 

「ム、ムリですよ!」

「きっと、ひかりならこうするはず!絶対にあきらめるわけにはいかないの!」

 

ジョゼが止めようとする中、孝美はそれでも懸命に砲弾を持ち上げようとする。

 

「バーカ」

 

そんな孝美に、管野はそう言いながら横に並ぶ。

 

「一人で出来るわけねーだろ」

「そうそう」

 

管野だけでなく、二パも言う。そして、二パの横にシュミットも降下してくる。

 

「502で一番馬力のある私抜きで、どうやって持ち上げるんだ?」

 

シュミットはそう言うと、魔導徹甲弾に下から手を添える。

それだけでなく、孝美の空いている左側にジョゼが来る。

 

「管野さん、ニパさん、シュミットさん、ジョゼさん…」

 

そして、次々とウィッチが集結する。あっという間にウィッチ全員が魔導徹甲弾に集結する。

 

「皆さん…」

「守るより攻める方が性に合うからね」

「可能性はこちらの方が高いです」

 

クルピンスキーとサーシャはそう言って、魔導徹甲弾持ち上げに入る。

 

「やっぱり妹さんとソックリね」

「姉妹揃ってバカって事か」

 

ロスマンの評価に、管野が付け加えて言う。

 

「バカは嫌いじゃない」

 

そして、ラルが締めくくる形で言う。

その様子は、司令部にも届いた。

 

「502部隊が、魔導徹甲弾を直接ぶつけるつもりです!」

「グスタフの発射にはまだ時間がかかります」

「では、彼女たちに託すしかあるまい」

 

副官の言葉に、マンシュタインもその行動を通した。司令部も、もはや残された手は尽きており、最後の望みを502に託したのだ。

 

「せーの!」

『うおおおおお!』

 

そして、下原の掛け声と共に、ウィッチ達は一斉に砲弾を持ち上げる。懸命に砲弾を持ち上げようと、全員が声を張り上げながら力を籠める。

すると、最初こそびくりとも動かなかった砲弾は、全員の力によってその巨体を浮かせるでは無いか。

 

「上がった!」

「やった!」

 

その変化に、思わず喜びの声をあげる者もいた。

 

「行くぞ!」

 

そして、ラルの言葉と共に、全員が今度は砲弾の下側に入り、両手を上に持ち上げる。

 

「まさか、こんなの抱えて突撃するなんてね」

「後にも先にもこれっきりだ」

 

クルピンスキーは、今まで体験したことのない事に思わずそんな言葉を漏らし、シュミットはこんなことが二度と起こらないように願いながら言う。

 

「向こうはまだこっちに気づいてないよ」

「余裕こきやがって!今に見てろ!」

 

そして、砲弾を抱えたウィッチ達は、ペテルブルクへ向かうネウロイの真上に移動した。

 

「敵の直上600メートル!目標地点到達!」

「コアの位置変わらず!補足完了!」

 

サーシャが位置を報告し、孝美がネウロイのコアを再度特定する。コアの位置は変わらず、目標を定めることは造作もなかった。

 

「降下!」

 

そして、ラルの掛け声と共に、全員が砲弾を抱えながら急降下をし、そして徐々にネウロイに近づいていく。

 

「投下!」

 

サーシャの指示と同時に、ウィッチ達は一斉に手を放す。しかしただ一人、孝美だけはまだ手を離さなかった。

 

「何やってんだ、孝美!」

「絶対に当てて見せる!」

 

管野が大声で呼ぶ中、孝美は砲弾を確実にコアに命中するために最後まで残った。

そして、ネウロイはその様子に気づいた。直上からやってくる孝美と砲弾に向けて、赤いビームを放ったのだ。

しかし、そのビームは孝美に命中する前に、管野がシールドを張って防いだ。

 

「行くぞ!孝美!」

「管野さん!はい!」

 

そして、管野が盾になりながら砲弾は徐々に降下していく。そして、

 

「いっけええええ!!」

 

孝美は、砲弾を手から離した。そして、そのまま投下された砲弾はネウロイのコアがある位置に真っ直ぐと進んでいき、そしてネウロイを貫いた。

砲弾の命中と同時に、ネウロイの体は光の破片に変わっていく。

 

「やったぞ、孝美!」

「はい!」

 

管野と孝美が、その様子に顔を歓喜の表情に変えた。

その時だった。散り散りになっていくはずの光の破片が、突然ピタリと止まる。そして、まるで映像の巻き戻しのように今度は収束していくではないか。そして今度は、再び黒い不気味な形を形成していく。

 

「グリゴーリ健在!再生しています!」

「グリゴーリが再生!?」

「何故だ!?コアを破壊したはずじゃないのか!?」

 

勝利を確信した司令部に動揺が走る。

その時、孝美は再生していくネウロイを見てあるものを見つけた。

 

「あれは…!」

 

魔眼を発動している孝美の目には、小さな何かが映っていた。それは以前、孝美が見たことのある物だった。

 

「コ、コアの中にコアが見えます!」

「なんだって!?」

「こいつもコアの中に真コアを持っていたのか!」

 

孝美の言葉に、ウィッチーズは全員まるで頭を強くたたかれたような衝撃を受ける。

その衝撃は、司令部にも伝わった。

 

「真コアをピンポイントで撃たないと倒せないだと!?」

 

孝美の言葉を受け、マンシュタインは信じられないと言った様子で聞き返す。

そして、同時刻にグスタフに砲弾が装填されたと、通信兵から伝達された。

 

「グスタフ、発射準備完了!」

「最後の一撃だ、次は無いぞ」

「雁淵中尉!今、真コアは見えているか!?」

 

マンシュタインは大声で孝美に聞く。最後の一発、これを外したらもう後がない状況下だ。

 

「見えます!グリットH6…えっ!?」

「どうした?孝美」

 

孝美は冷静にコアの位置を伝えようとするが、突然その口の動きが止まった。

 

「き、消えた!?捕捉不能!真コアが見えません!」

「何だと!?」

 

孝美から出た次の言葉は、さすがのラルも動揺させた。魔眼持ちである孝美が、ネウロイのコアを特定できないのだ。

そして、孝美はあるカラクリに気づく。

 

「コアが魔眼を遮っているんだ…くっ…」

 

孝美は、ネウロイのコアの作りを理解し、そして思わず奥歯を噛みしめる。

そしてその様子は、列車の中の無線で聞いていたひかり達にも届いた。

 

「真コア?」

「何だそれ?」

 

サーニャとエイラは、聞きなれない単語に疑問を浮かべる。しかし、唯一ひかりだけが、以前に聞いたことのある単語であり、そしてその実態を理解した。

ひかりの様子の変化に、エイラが気付く。

 

「どうした?」

「お姉ちゃん…あれを使うんじゃ…」

「え?」

「何を使うの?」

 

エイラとサーニャはひかりが何を言っているのか分からず聞く。

しかし、ひかりはそれを答える前に突如走り出した。

 

「おい、ひかり!」

 

エイラが静止を呼びかけるが、ひかりはそれを聞かずに列車の後方へと走る。

 

「お姉ちゃんを止めなきゃ!」

 

ひかりは、孝美が何をしようとするのかを理解し、そしてそれを止めさせようと走り出したのだ。

彼女は貨物に積まれた自分のユニットを目指していた。そして、車両のドアを開ける。

 

「えっ!?ユニットは…」

 

しかし、ひかりの目の前に貨物車両は無く、そこにあったのは遠ざかる景色だけだった。

 

「貨物列車は別だって」

 

後ろから追いかけてきたエイラが言う。ひかりのユニットを載せた貨物列車は別の車両であり、この列車では無かった。

しかし、ひかりは諦めなかった。

 

「私、行きます!」

「は?行くってお前、どうやって?」

「それに、ユニットも無いのに行っても…」

 

ひかりの決断に、エイラとサーニャは困った表情をする。ユニットもなければ、行く手段もない。一体どうやってひかりは孝美の元へ向かうのか。

 

「やってみなくちゃわかりません!」

 

しかし、ひかりはそう言って突然列車からジャンプをした。

 

「あっ!?」

 

ひかりの突拍子もない行動に、エイラは驚く。そしてひかりは地面に叩きつけられながらも、なんとか着地した。

そして、雪に埋まった顔を上げると、すぐさま体を起こし、そして走り始めた。なんとひかりは、走って孝美の元へ向かったのだ。

全力で走るひかり、果たして彼女は、孝美を止めることができるのか。




ユニットの力だけで砲弾を持ち上げるって、凄いことですよね。
そして、攻撃を受けても健在するグリゴーリ。果たして、雁淵孝美はどうするのか!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十八話「発動 絶対魔眼」

UAが45000まで突入しました。皆様御贔屓にありがとうございます!それでは第六十八話です。どうぞ!


地上の戦車・高射砲部隊が、グリゴーリに向けて砲撃を行う。しかし、どの攻撃もグリゴーリに有効なダメージを与えることができず、逆にビームを食らい高射砲部隊は壊滅する。

 

「第6陣地、突破されました。…敵が進路を変えました!グスタフに向かっています」

 

報告を聞いたマンネルヘイムは、突然動きを変えたグリゴーリに焦りの表情をする。

 

「奴め、こっちの狙いに気づいたか」

「雁淵中尉、真コアが見えないとはどういうことだ!?」

 

マンシュタインは孝美に状況を聞く。

 

『外郭のコアが魔眼を遮るシールドの働きをしているようです』

「なんだと!?」

 

詳しい説明を聞き、マンシュタインは信じられないといった表情をする。

管野は、司令部に向けて報告していた孝美に聞く。

 

「さっき見えた位置じゃダメなのか?」

「真コアは移動している。もう同じ位置にはないわ」

「じゃあ、どこに撃っていいかわかんないの?」

 

孝美の言葉に、ニパは困った表情をする。コアが移動していては、同じ位置に向けて攻撃を加えても意味がない。真コアの位置をしっかりと捉える何かが必要だった。

 

(あれを…()()()を使うしかない…!)

 

孝美は、心の中である決断をする。

そして、戦場を離れたところの凍った湖上では、森を抜けてきたひかりが全力で走っていた。

 

(お姉ちゃん、絶対魔眼を使う気だ…!)

 

ひかりは、孝美が絶対魔眼を使うと考え、全力で戦場に向かっていた。何としても、彼女は孝美を止めたかった。それは、以前ラルとロスマンから聞かされたことを思い出したからでもある。

 

(通常の魔眼では捉えられない特異型や、複数のネウロイのコアを特定できる必殺の技だ)

(ただし、肉体と精神の負担が大きく、シールドの能力も著しく低下するから、援護無しでの使用は自殺行為に等しいわ)

「絶対に止めないと…!」

 

ひかりは、全力で凍った湖を走る。

途中、ひかりは湖の中の氷が張っていない場所に来るが、以前ロスマンから教わった魔法力の運用を生かし、足場に魔法陣を作る。そして、その魔法陣の上を陸のように使いながら、全力で戦場に向かった。

その頃、孝美がちょうどグリゴーリに向けて飛行をし始めた。

 

「待て!孝美!」

「おい!孝美!」

 

ラルと管野が孝美の考えを理解し止めようとするが、孝美はそれを聞かずにネウロイの下へ向かう。

 

「孝美!」

 

管野はもう一度大声で呼ぶが、やはり孝美は止まらなかった。

そしてラルも、孝美にもう一度静止を呼びかける。

 

「はやまるな、孝美!」

「隊長!他に方法がないんです!」

「バカ野郎!」

 

しかし、孝美はそれでも絶対魔眼を発動しようとしたため、ラルは思わず歯を食いしばりながら言う。

そして、孝美は使ってしまった。

 

「発動…絶対魔眼!」

 

孝美の言葉と共に、彼女の目は通常時の青では無く、赤くなる。そして、彼女の特徴的な茶色の髪は、先に向けて徐々に赤く染まっていく。

その様子は、地上を走っていたひかりにも確認できた。

 

「赤い光…ダメ!お姉ちゃん!」

 

ひかりは、孝美が絶対魔眼を使ってしまったことに気づき、大声を出す。しかし、その声が孝美に届くことは無かった。ひかりは、全力を出していた足に更にペースアップをした。

その間にも、孝美はネウロイの攻撃を避けながらコアを補足していく。

 

「コア捕捉…真コア…真コアはどこ!?」

 

孝美は懸命に、ネウロイの真コアを捕捉していく。しかし、その行動は仇となった。

ネウロイは、回避の鈍くなっている孝美に向けてビームを撃つ。孝美はそれに気づきシールドを張る。

 

「シールドが…もたない…!」

 

しかし、絶対魔眼を使っている彼女のシールドは脆く、シールドの強度は徐々に崩れて行く。

そして、さらなる攻撃が孝美に襲い掛かる。万事休す、孝美は思わずその攻撃に目を瞑った。

だが、攻撃が孝美に当たることは無かった。

 

「っ!?」

 

なんと、502のメンバー全員が孝美の前に立ち、シールドを張ったのだ。それにより、本来孝美に命中するはずだった攻撃を全てはじいたのだ。

そして、管野は孝美に振り返った。

 

「へっ、やると思ったぜ」

「ロスマン先生から聞いたよ、絶対魔眼の話」

 

管野に続けて、ニパも言う。

 

「雁淵中尉ならきっと使うだろうって」

「だって、ひかりさんの姉でしょう?」

 

サーシャとロスマンは、孝美がその絶対魔眼を使うだろうと読んでいた。特に根拠は無かったが、しいて言えば、ひかりと姉妹だという理由からだ。

 

「一人で行くなんてずるいです」

「皆でやりましょう」

 

下原とジョゼも孝美に向けて言う。

 

「はやまるなと言っただろう」

「私達は仲間なんですから」

 

孝美の左側からラル、右側からシュミットがそれぞれ言う。ラルは孝美を全力で静止したのには、ちゃんと意味があった。シュミットは、同じ部隊である仲間に頼ってほしかったと思いながら、孝美に言う。

 

「みなさん…ありがとう」

 

そんな仲間の心の温かさに、孝美は自分の行いを少し後悔し、そして礼を言う。

そして、再び502はグリゴーリに向けて飛翔を始めた。

 

「絶対魔眼!」

 

孝美は、再び絶対魔眼を発動する。そんな孝美にグリゴーリはさせまいと攻撃をするが、その攻撃は前方に立つシュミット達のシールドによって阻まれる。

 

「うおおおお!」

 

全員が全力でシールドを張る。ネウロイは負けじと、さらに強力な攻撃をウィッチ達に放つ。

 

「くうっ…」

「くっ…」

 

その攻撃の重さに、ウィッチ達も思わず苦しそうな表情をする。しかし、彼女達は絶対にシールドを張る力を緩めなかった。

 

「目標、最終補正!」

「うおおおお!」

 

後ろで懸命に捕捉する孝美の為にも、全力でシールドを張る。

 

「完全捕捉!」

 

そして、孝美の魔眼はグリゴーリのコアの中を移動する真コアを捉え始める。

 

「真コア、グリットH58954…」

 

そして、真コアの位置を報告した時だった。グリゴーリの糸の一本が、ウィッチ達の真上に向かう。そして、上から撃ち落とす形で孝美にビームを加えたのだ。

 

「しまった!」

 

予想外の攻撃にウィッチ達は焦るが、孝美はそれでも再びコアに向けて顔を上げた。

 

「T87449…」

『T87449、了解』

 

そして、孝美は力を振り絞って、真コアの座標を報告する。そして、通信兵の言葉を聞き安心したのか、孝美は薄れていた意識を手放し、そしてその体は地面に向けて落下し始めた。

 

「孝美――!」

 

管野は大声で孝美を呼ぶが、孝美は力を使い果たしてしまい再上昇できない。

 

(ひかり…)

 

孝美は、薄れゆく意識の中でひかりのことを思う。その時だった。

突然、孝美は自身の体を包み込む謎の温かさを感じた。薄っすらと瞼を持ち上げると、目の前にはジョゼが居た。

 

「っ!」

 

ジョゼは、真っ先に孝美の下へ向かうと、その体を抱きかかえ、固有魔法の治癒を全力で使い始めた。

以前はこの力で孝美を救うことができなかった彼女は、今度こそは孝美を助けて見せようと真剣だった。

 

「あったかい…」

 

そして、孝美はその固有魔法の温かさに身をゆだねながら、意識を手放した。

そして地上では、孝美による報告をもとにグスタフがグリゴーリに向けてその砲身を向けていた。

 

「グスタフ、グリット入力完了!照準完了!」

「発射!」

 

そして、マンシュタインの発射許可により、グスタフが再び火を噴いた。放たれた魔導徹甲弾は、そのままグリゴーリに向けて飛翔していく。

その様子は地上の砲兵隊だけでなく、降りたったウィッチ達も見ていた。

 

「発射した…」

「我々が出来る事は全てやった」

「後は願う事だけだ…」

 

ウィッチ達は既に、自分たちのやるべきことをすべて終えた。残りは放たれた弾丸が、無事にネウロイのコアを貫き、そして消滅するのを願う事だけだった。

全員が砲弾が着弾するのを見ているとき、ここで思わぬ出来事が起きた。

 

「本体ネウロイ中心に雲が復活していきます!」

「なんだと!?」

 

通信兵の思わぬ報告に、歴戦の将軍が今までにないほどの動揺を見せた。何と、グリゴーリが自分の周辺に雲を復活させるでは無いか。

そして、自分の体を半分ほど覆った時に、魔導徹甲弾はその雲にぶち当たった。しかし、その攻撃が貫くことは無く、徹甲弾を空中で停止させた。

 

「徹甲弾が弾着前に停止しました!」

「雲がシールドになっているのか!?」

 

ラルが分析した通り、グリゴーリ周辺に現れた雲は自身を守る鎧になっていた。

 

「ああっ!徹甲弾が!!」

 

そして、ついにそのシールドに憚れた徹甲弾は、衝撃に耐えきれずにその体を崩壊させた。

 

「そんな…」

「それはないよ…」

 

ウィッチ達は、目の前の光景に絶望の色を見せた。

 

「くそっ…くそ―――!」

「失敗だ…」

 

管野は拳を握り締め、言いようのできない怒りを振り撒く。ラルも、声を掠らせながら呟く。平常心を保つラルも、今回ばかりは絶望した。

 

「魔導徹甲弾は予備共に破壊されました…」

「万策尽きたか…」

 

司令部内も、重い空気が流れる。

 

「全部隊に撤退命令」

 

マンシュタインは、全軍に撤退命令を出す。彼自身は出したくなかったが、現時点でもうグリゴーリを攻略する術は失われてしまい、これ以上は軍隊の消耗だけになってしまう。

地上で見ていた兵士たちは、呆然としながらグリゴーリを見上げた。彼らの目には、もう希望が失われていた。

 

「お姉ちゃ――ん!」

 

その時、ウィッチ達のもとに聞きなれた声が聞こえる。全員が振り返ると、そこには信じられない人物が居るではないか。

 

「ひかり!?」

 

まず最初に驚いたのは、管野だった。そこには、カウハバ行きの列車に乗ったはずのひかりが走ってやってくるではないか。

 

「ひかりちゃん?」

「ひかりさん…」

「ひかり…」

 

他のウィッチ達も、ひかりが現れたことに気づき驚くが、ひかりはその様子を無視して、孝美に駆け寄った。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん、しっかりして!死んじゃ駄目っ!」

 

ひかりは、目から涙をぽたぽたと流しながら孝美に呼びかける。彼女の目には、孝美が今にも死んでしまいそうに見えた。

 

「大丈夫だよ、ひかりちゃん」

「えっ…!?」

 

しかし、その様子をクルピンスキーがまず否定した。その言葉に、ひかりは思わず顔を上げて驚く。

 

「でも、お姉ちゃん、絶対魔眼を…?」

「絶対魔眼の弱点であるシールドの低下は皆で。肉体へのダメージはジョゼさんの治癒魔法でカバーしたわ」

「脈も体温も正常よ。安心して」

「だが、全ての攻撃を防ぎきれず、孝美に傷を負わせてしまった。すまん…」

 

ロスマンとジョゼが説明をし、ラルは自分たちの力が及ばなかったことをひかりに謝罪した。

しかし、ひかりはそんなラルの言葉に首を横に振った。

 

「皆さんがお姉ちゃんを助けてくれたんですね。ありがとうございます」

 

ひかりがそう言って、メンバーにお礼を言う。

その時、ジョゼの膝元で眠っていた孝美が目を覚ました。

 

「ひかり…」

「お姉ちゃん!」

「ごめんね、ひかり…倒せなかった…」

 

孝美は、自分のことを心配しているひかりの方を見ると、最初に謝った。

 

「そんな!何で謝るの!?」

「中尉は悪くありません」

「そうだよ!精一杯やったよ!」

 

そんな孝美の言葉を、ひかりは元より、隊員達も揃って否定した。孝美は自分の身を削ってまで、グリゴーリのコアを特定したのだ。不運なことに、それはグリゴーリによってその思いは阻まれてしまったが。

 

「もう、打つ手は残ってないんでしょうか?」

 

下原の目線の先には、自身の直下にある兵器を蹂躙するグリゴーリの姿が映っていた。グリゴーリはグスタフやドーラだけでなく、撤退をしていく連合軍兵士にも容赦のない攻撃を浴びせて行く。

 

「ああっ!?」

「このままペテルブルクが落ちるのを見てるしかないの…?」

 

ニパは思わず、目の前の光景に問う。

 

「真コアの位置がわかんないんですよね」

「残念だが、あれからコアの位置も移動している…」

 

ひかりの言葉に、シュミットが答える。尤も、シュミットも為す術のない状況の為に、声が力ない。

しかし、ひかりはシュミットの言葉を聞くと、メンバー全員に振り返った。

 

「私に接触魔眼を使わせてください。私も戦います!」

「ひかり…?」

「気持ちはわかるけど…」

「列車砲も魔導徹甲弾も無い今となっては…」

 

ひかりは自分も戦うと言うが、既に手段の無いウィッチ達の力では、どうにか出来るものでは無く、誰もその言葉に首を縦に振らなかった――ただ一人を除いて。

 

「俺もだ!俺もまだ戦いてえ!」

 

なんと、ひかりの言葉に最初に頷いたのは管野だった。管野は拳を握り締めると、全員に主張した。

 

「俺はまだピンピンしてるぜ!魔法力だって残ってる。最後のカスを使うまで諦めたくねえ!弾がねえなら、この拳がある。俺がぶん殴ってやる!」

「ムリだよ。相手はグリゴーリだよ?」

 

管野は大声で主張するが、ニパはどうやって倒すのだと言った様子で管野に言う。

そんな中、今まで黙っていたラルは、何かを感じていた。

 

「…」

「隊長?」

 

コルセットを抑えるラルの様子に、ロスマンが疑問に思い聞く。

 

「さっきから、妙に古傷が熱い…」

「え?」

「向こうに何かを感じる」

 

ラルはそう言って、何かを感じる方向を見る。

そして、ウィッチーズがそこに歩いていくと、それはあった。

 

「これだ」

「魔導徹甲弾の砕けた弾芯のようですね」

 

そこにあったのは、グリゴーリの雲によって防がれた魔導徹甲弾の一部分だった。

 

「まだ魔法力を失ってないわ」

 

そして驚くことに、この弾芯は陸戦ウィッチの魔法力を残していたのだ。




ひかりの登場!そして砕けた魔導徹甲弾の残骸!これらが一体どうなるのか!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第六十九話「ブレイブウィッチーズ」

第六十九話です。ついに決着がつきました。どうぞ!


『502の諸君。よく健闘してくれた。だが我々にもはや反撃の術は残っていない。撤退だ…』

「撤退!?」

 

無線から聞こえるマンシュタインの言葉に、まさか撤退になると思わず、ひかりは驚く。

しかし、ラルはその言葉を遮った。

 

「待ってください、元帥。我々に策があります」

『何?』

 

ラルの言葉に、無線の向こう側のマンシュタインは思わず目を開く。

そして、ラルは管野を見る。

 

「管野」

「?」

「望みを叶えさせてやる。殴って来い」

 

なんと、ラルは管野に殴って来いと言った。

 

「殴る?」

「グリゴーリを?」

「どうやって?」

 

しかし、ラルの言葉の意味が分からずに皆聞き返す。

 

「隊長?」

「本気ですか?」

「盛り上がってきたぜ!!」

 

サーシャとロスマンもラルに聞く。二人はラルが何をしようとしたから理解したようだ。管野は拳を上にあげて一人盛り上がる。

 

「時間がない、始めるぞ」

 

そう言って、ラルは作業に入ろうとする。

司令部では、ラルの説明を聞いたマンシュタインが頷いた。

 

「そうか…わかった」

 

そう言って、マンシュタインは受話器を下ろした。

 

「出来るのか?そんなこと」

「今は彼女たちに希望を託すしかありません」

 

横に居たマンネルヘイムが聞くが、マンシュタインはこの件を全てウィッチーズに委ねた。もはや彼らに出来る事は何も無い。頼るなら、残りはブレイブウィッチーズだけだった。

 

「落下の衝撃でこんな状態ですが、魔法力はまだ宿っています」

「こんなバラバラなのにどうするの?」

 

サーシャの言葉にニパはどうしたらいいのか聞く。

 

「簡単だ。魔法力を別のものに移せばいいんだ」

「そうだ。そしてそれを、管野の手に移す」

「えっ!?」

 

そんな二パの質問を、シュミットとラルが説明する。しかし、膨大な魔力を手だけに移すなどとても出来る事でなく、下原はありえないと言った様子で驚く。

 

「正確に言うと、その魔法力だけを管野さんの手袋に移植します」

 

サーシャが説明の付けたしをしたため、ようやく下原たちも理解した。

 

「俺の手袋…あーっ!?しまった…」

 

しかし、ここで思わぬ問題が起きた。管野は手袋を今回はしておらず、手元は素手だった。

 

「あっ。はい、管野さん」

 

しかし、ひかりは何かに気づくと、自身のポケットの中を探り出し、中から1組の手袋を取り出した。それはひかりが基地を離れる前に、管野に貰った餞別の手袋だった。

 

「へっ、用意がいいな。借りるぜ、ひかり」

 

管野はひかりの準備の良さを褒めながら、その手袋を受け取り、そして手にはめた。そして、右手を今度は魔導徹甲弾の芯に向けて翳す。

すると、徹甲弾の魔力は管野の方に移っていき、管野の右手は青く光り輝く。

 

「うおぉ…!」

「すごい!」

 

その光景に、他のウィッチ達は驚く。

 

「管野の右手は魔導徹甲弾そのものだ」

「おーい!」

 

その時、遠くから声がする。

 

「あった、あったよー!」

 

クルピンスキーとロスマンが揃ってやって来る。クルピンスキーの手には魔導徹甲弾の内部にあった弾芯によく似たピンク色の結晶あった。

 

「超爆風弾の弾芯よ。やっぱりバラバラに破壊されていたわ」

「使えそうなのはこれだけ」

「ちょうどいい」

 

クルピンスキーはラルに渡すと、ラルはそれを機関銃に取り付けていたロケット弾に括り付けた。これにより、小型ではあるが、超爆風弾が完成した。

そしてラルは、管野の方を向く。

 

「いいな?殴れるのは一度だけだ」

「へっ!一度で十分だ。な、ひかり」

「えっ!?」

 

管野に突然振られたひかりは思わず間の抜けた返事をする。しかし、ここで管野から思わぬ言葉が出る。

 

「えっ!?じゃねえよ。俺の相棒はお前だろ」

「管野さん…」

 

なんと管野は、今まで否定していた相棒と言う言葉を堂々とひかりに向けて言ったのだ。

 

「大隊、おめえの接触魔眼が無きゃ、真コアを殴りようがねえしな」

 

そう言って、管野はひかりに向けて左拳を突き出した。

 

「はい!」

 

それを見て、ひかりも大声で返事をし、そして拳を打ち返した。

そして、ひかりはジョゼに抱っこされている孝美の方を見る。孝美は、ひかりのことを厳しい目で見ていた。

 

「お姉ちゃん…」

「失敗は許されないわ。ひかりに出来る?」

「えっ…それは…」

 

孝美の真剣な声に、ひかりは思わず言い吃る。

しかし、彼女の決断は早かった。

 

「でも、やってみなくちゃわかんない!」

「くすっ」

「ふふっ」

 

ひかりの言葉に、孝美は笑う。それにつられて、ジョゼも笑う。

 

「フッ」

「ふふっ」

「アハハ!言うと思った」

 

二人だけでなく、他のウィッチ達も笑いだす。ニパに至っては、ひかりの言う事をまるで分っていたかのように返す。ひかりは思わずキョトンとする。

 

「ひかり、チドリを使って」

「わかった」

 

そして、孝美は自分の使っていたチドリを、ひかりに譲った。

ひかりはチドリを足にはめると、魔法力を流し始める。ひかりの魔法力を受けたチドリは、勢いよくその回転数を上げる。

そして、ラルはシュミットに聞く。

 

「シュミット、お前ゼロの領域を使えるな。ロスマンに聞いたぞ」

 

その言葉に、ロスマン以外の他の隊員達は何のことかと疑問に思うが、シュミットは目を見開く。

そして、ひかりが代表して聞く。

 

「何ですか?その、ゼロの領域って…」

「簡単に説明したら、未来が見える能力ってやつだ」

「なんだって!?」

 

ラルの説明に、周りのウィッチ達は驚く。しかし、シュミットはラルに聞く。

 

「ゼロの領域で誘導しろってことですね」

「そうだ」

 

ラルは、シュミットのゼロの領域を使い、ひかりを安全に誘導するつもりなのだ。

そして、シュミットはその考えに頷いた。

 

「さあ、奴をぶっ飛ばしにいくぞ!」

『了解!』

 

ラルの掛け声と共に、ブレイブウィッチーズは発進した。

負傷した孝美と、孝美の治療に魔法力を使ったジョゼは、出発したひかりたちを地上から見送った。

 

「そうですよね」

「えっ?」

 

突然、孝美がそんなことを言うのでジョゼは何のことかと思い孝美を見る。

 

「出来るか出来ないかなんて、やってみないとわからない。でも私はひかりに対して、そんな当たり前のことを怖がっていたのかもしれない」

「雁淵中尉…」

 

孝美は、自分自身に心の中でブレーキを掛けていたのかもしれない。そのため、ひかりのように真っ直ぐと行く姿に、僅かながら恐怖心を抱いていたようだ。

 

「今はひかりを信じるしかありません。頑張って、ひかり」

 

しかし、孝美はそんなひかりの思いを信じることを選んだ。ひかりなら、グリゴーリを倒すことができるかもしれない、そう思ったからだ。

 

「この前の戦闘の時、先に真コアを特定したのは確かに孝美だった」

 

ラルは、この間行われたひかりと孝美の勝負のことを振り返る。その時の勝負は、孝美の勝利だった。

 

「だが、よりピンポイントに真コアの位置を特定できたのはひかりだった」

 

しかし、ネウロイのコアを正確に特定したのは、孝美では無くひかりだったのだ。その点で見れば、ひかりの接触魔眼はとてつもない正確なものだ。

 

「一度きりの勝負だ。私はひかりに全部のチップを掛けよう。こいつは、バカしか賭けないギャンブルだがな」

「いいね、それ。僕も乗ったよ」

 

ラルの言葉に、クルピンスキーは乗った。これは普通の神経をしていたら絶対に賭けないギャンブルだろう。しかし彼女たちはウィッチーズ、普通などとは違うのだ。

そして、先頭を飛んでいたロスマンはひかりのほうに振り向いた。

 

「ひかりさん。あなたは決して優れた教え子では無かった。でも努力は誰よりもしてきたわ。費やした努力の価値がどれほどかを、ここで証明して見せなさい」

「はい、ロスマン先生」

「はっきり言えば、ここは卒業試験だな」

 

返事をしたひかりに、シュミットは付け足して言う。しかし、彼女たちの会話は終わる。

 

「雲の生成過程を全て記憶し、分析した結果、グリットH2223、T3358に層の薄い箇所が確認できました」

「了解」

 

サーシャの固有魔法、『映像記憶能力』によって記憶したグリゴーリの形状は、雲の薄い部分を作っていた。

そして下原の固有魔法、『遠距離視』によって、グリゴーリの位置を特定する。

 

「グリゴーリまでの距離、12000!」

「今の進行速度だと、15分でペテルブルクが飲み込まれるわね」

「5分で片を付ける、行くぞ!」

『了解!』

 

ラルの言葉に、ウィッチーズ全員が返事をする。そして、グリゴーリの雲の薄い地点へと向かっていく。

グリゴーリは、雲から雷を発生してウィッチに襲い掛かる。しかし、それは先頭に立っていたロスマンがシールドで防ぐ。

 

「そこだ!」

 

そして、ラルが後方で銃を構え、そこから超爆風弾の魔芯を括り付けたロケット弾を放った。固有魔法、『偏差射撃』を使ったミサイルの軌道は、そのままグリゴーリの雲に突き刺さり、そして爆発する。

その爆発により、魔導徹甲弾を防いだグリゴーリの雲は穴を開けた。

 

「今よ!」

「フォーメーションアロー!」

 

そして、クルピンスキーを先頭に、雲の中にウィッチ達が向かう。グリゴーリは、突入させまいと再び攻撃を加えて行く。

 

「邪魔するな――!」

 

クルピンスキーがシールドを張り攻撃を防ぐと、そのまま穴の中へ入っていく。

そして、中へ侵入したウィッチ達は、内部に待ち構えていたグリゴーリと対峙する。

 

「ブレイク!」

 

サーシャの掛け声と共に、チームに分かれる。ひかりと管野をグリゴーリまで送り届けるクルピンスキーとシュミット、ニパのチーム。そして、その護衛を行うサーシャと下原のチームに。

 

「なんとしても管野さんとひかりさんが本体に到達するまで耐えるのよ!」

「ユニットが悲鳴上げそう!」

「壊しても怒らない?」

 

サーシャの言葉に、ニパとクルピンスキーが言う。

 

「ちゃんと二人を届けられたらね!」

 

そんな言葉に、いつもは怒るサーシャが許した。

 

「右上、敵の攻撃が薄くなっています!」

「マジックブースト!」

 

下原の言葉を聞き、クルピンスキーは固有魔法、『マジックブースト』を使う。それにより、加速をしたクルピンスキーを先頭に、グリゴーリの触手をかいくぐっていくシュミット達。

そして、ここで先頭が交代する。

 

「狼君!」

「了解!」

 

先頭を飛んでいたクルピンスキーから、今度はシュミットが先頭に立つ。そして、後ろに付いてくるひかりと管野を今度は引っ張っていく。

 

「ゼロの領域!」

 

そして、シュミットはゼロの領域を使う。それにより、景色はゆっくりと流れ出し、そしてグリゴーリの攻撃する未来が見える。

 

「右だ!」

「はい!」

 

シュミットは指示をしながら、回避行動をする。ひかりと管野もそれについていくと、先ほどまでいた位置をネウロイの攻撃が通り過ぎる。

 

「次は左だ!」

「はい!」

 

そう言って、今度は左に回避をしていく。すると、先ほどいた位置にネウロイの触手が通り過ぎる。

そして、ついにグリゴーリの触手を通り過ぎた。

 

「クリアだ!!」

「いっけえええ!!!」

 

シュミットは、後ろについてきていたひかりと管野に道を開けた。そして、ニパは大声で叫ぶ。

 

「やあああああ!!」

 

ひかりは左手を伸ばしていく。そして、ネウロイの体にタッチしたひかりに、『接触魔眼』が発動した。それにより、ひかりの目にはコアの位置が特定された。

 

「あっちです!」

 

ひかりはそう言って、ネウロイの体を縫うように進みながら、コアのある位置に向けて進んでいく。途中でネウロイが攻撃を加えようと触手を伸ばすが、ひかりが機関銃の引き金を引き、触手を撃ち抜いていく。

 

「やりやがるぜ。まさかこいつのケツに付く日が来るとはな」

 

管野はそう言って、ひかりのの後ろを付いていく。彼女の中で、ひかりの後ろを付いていくなんて思わなかった。

 

「うおおおお!!」

 

そして、ひかりは大声を出しながらネウロイの体に機関銃を突き刺した。

 

「ここだああああ!!」

「うおおおおおおお!!剣!いっせ―――ん!!」

 

ひかりの示した位置に、管野が雄叫びをあげながら拳を引く。管野の固有魔法、『圧縮式超硬度防御魔法陣』は、魔導徹甲弾の魔力が増幅され、思い切り光る。

そして、管野はその拳をひかりの示したグリゴーリのコアの位置に思い切り打ち込んだ。

 

「砕けろおおおおおお!!!」

 

管野は大声で、表面の体を砕いていく。そして、その奥にあったコアまでそのエネルギーが伝わって行き、コアに大きく罅を作る。

 

「あとちょっと!管野さん、もう一発!」

 

ひかりが大声で管野に言うが、管野の体はぐらりとし、拳は離れてしまう。

 

「もう、鼻血も出ねえ…」

「管野さん!!」

 

そのまま墜落しそうになる管野に、ひかりは慌てて管野の右腕をしっかりと掴む。

その時、ひかりのポケットから掴んだ拍子にある物が落ちた。

 

「あっ!?」

 

ひかりは、その出てきた物を手に持つと、グリゴーリのコアに向けて構えた。なんとそれは、クルピンスキーからもらったお守りである弾丸入りのリベレーターだった。

 

(魔法力を右手に集中させて…)

 

ひかりは意識を集中させると、体中を流れる魔法力を右手に流す。そして、その手に持っていたリベレーターに魔力を伝え、

 

「撃つ!!」

 

引き金を引いたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ひかりがコアに攻撃をした直後、誰もがその光景を眺めていた。

上空を移動していたグリゴーリが、その雲諸共、体を徐々に白色に変えていく。そして、白色に変わったそれは、一気に爆ぜた。大空に飛び散ったグリゴーリの体は、今度こそ復活する事無く、地上に降り注いだ。

 

「ひかり…」

 

孝美は、地上からその光景を見ながら、ひかりの無事を案じた。

 

「あっ!」

 

その時、孝美の目にそれは飛び込んだ。

魔法力切れで落ちて行く管野を、その手を取って支えるひかりの姿が映った。

 

「えへへ…」

「へへっ」

 

ひかりは、管野に向けて微笑む。それを見て、管野も微笑み返す。

そして、ひかりと管野は地上にゆっくりと降り立った。

 

「ひかり!」

「お姉ちゃん!」

 

孝美は思わず立ち上がると、懸命に足を動かしてひかりに抱き着いた。

そして孝美は、涙を流しながらひかりをギュッとする。

 

「やったね、ひかり!ホントに強くなったね。すごいね、ホントにすごい。えらいね…」

「ううん、私じゃない。皆のおかげ」

 

孝美の言葉に、ひかりは首を振って答える。その言葉に、ジョゼに支えられた管野が「へへっ」と嬉しそうにする。

 

「管野おおおおお!!」

「うばっ!?」

 

その時、管野に向けてニパが思いっきりダイブをする。そのダイブにジョゼは思わずよけたため、管野はそのままニパに抱かれたまま地面を転げまわった。

 

「良かったよおお!!怪我してない!?」

「むぐ…ぶはっ!い、今のが一番効いた…ジョゼ」

「もう魔力切れです」

 

ニパは心配した様子で管野に聞くが、ニパの胸にホールドされた管野からしたら今のアタックが怪我の要因と言えるだろう。そしてジョゼは、それはもういい笑顔で管野に言い放ったのだった。

 

「ふあ――、終わった終わった」

 

そして上空では、クルピンスキーが代表してそう声を出す。他のウィッチ達もそれぞれ解放されたような顔をする。

 

「ふう…」

「お疲れ様」

「お前もな」

 

ラルは息を吐きながら、コルセットの紐を緩めた。そんなラルに、ロスマンは詰め寄って労いの言葉を掛けた。

そして、司令部では兵士たちが書類を打ち上げながら完成を上げる。

マンネルヘイムも、横に座るマンシュタインに手を出し、固い握手をする。

 

「やりましたな、元帥」

「ええ、やってくれました。第502統合戦闘航空団ブレイブウィッチーズ。戦場の魔女たちに祝福あれ」

 

そしてマンシュタインは、グリゴーリを倒したブレイブウィッチーズのことを心から祝福したのだった。

そして、全員合流したブレイブウィッチーズは、編隊を組む。魔法力の切れた管野と孝美とジョゼの三人は、それぞれひかり、クルピンスキー、下原に運ばれていく。

 

「綺麗ね」

「うん」

 

孝美の言葉に、ひかりが答える。雲が晴れ、その隙間から降り注ぐ陽の光がオラーシャの自然を輝かせる。あまりにもきれいな光景に、他のウィッチ達も思わず認める。

 

「もうすぐここにも春が来るわ」

「平和な春だね」

 

そんなとき、誰かから「ぐぅ~」と言った音がする。

 

「っ!」

「クスッ、お腹減りましたね」

 

音源となったジョゼは恥ずかしそうに顔を赤くし、その様子に下原が笑いながら言う。

 

「はあ…腹と背中がくっつきそうだぜ」

「私もです」

 

管野は力が出ないと言った様子に言い、その言葉にひかりも同調する。

その時、ニパのユニットからブスンと言う音を立てる。

 

「う、うわっ!?拙い!」

「ニパさん?また壊したんですか?」

 

焦るニパに、サーシャが横に並んで聞く。

しかし、その横にシュミットがやってきた。

 

「サーシャさん、手出して」

「えっ?こうです?」

 

サーシャは言われて手を出すと、シュミットはその手を突然掴んだ。

 

「きゃあ!?えっ…?」

 

その時、サーシャの左足のユニットから煙が上がり、バランスを崩しそうになる。しかし、ゼロの領域でその未来が見えたシュミットに手を繋いでもらっていたため、落ちずに済む。

その様子に、クルピンスキーが反応する。

 

「アハハ!あの戦闘の後で、まともなユニットなんてないよ」

「じゃあ、全員正座ですね」

 

クルピンスキーの言葉に、ひかりが思わずそんなことを言う。

 

「それより狼君、他の女性に手を出したって彼女に言いふらしちゃうよ~?」

「ちょ、ちょっと待て!私はただ助けただけじゃないか!?」

『アハハハハ!』

 

と、クルピンスキーのとんでもない発言にシュミットは今まで見せたことないほど慌てる。今まで言われっぱなしのクルピンスキーのカウンターは、シュミットにクリーンヒットしたのだった。そしてそんな光景に、皆が大笑いする。

 

「フッ。全く…帰るぞ、ブレイクウィッチーズ」

『了解!』

 

ラルも思わず微かに笑い、そしてブレイブウィッチーズに号令をかける。こうして、任務を終えた英雄、ブレイブウィッチーズは基地に帰投していくのだった。




ついに決着、ブレイブウィッチーズ編はとりあえずの終了を迎えました。そしてシュミット君にもちゃんとオチはあります。
次回からは、新たな章へと向かっていきます。これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第四章「ストライクウィッチーズ2編」
第七十話「新たな戦場へ」


第七十話です。という訳で、今回から新たに『ストライクウィッチーズ2』編へ向かいます。どうぞ!


グリゴーリを攻略したブレイブウィッチーズ。その基地の一角に、シュミットは居た。

 

「いい天気だ…」

 

そう言って、彼の手には川に釣り糸を垂らす釣り竿があった。休暇となったこの日、シュミットは特にやることが無かったため、暇を持て余していた。この釣りも、その暇つぶしの一つになればと思っていたが、生憎魚は一匹もかかっておらず、只時間が過ぎて行くだけだった。

 

「あっ、居た!シュミットさーん!」

 

その時、後ろから呼ぶ声が聞こえシュミットは振り返った。そこには、遠くからシュミットのことを呼ぶひかりの姿があった。

ひかりはその後、ラルと孝美の計らい、そして自分の意志で502に残留した。それにより、今では正式に502のウィッチとなった。

そして同時に、ひかりには思わぬ吉報が届いた。なんと彼女の魔法力が僅かではあるが上がり、それにより今までより戦闘における苦労が少し報われるようになったのだ。

 

「どうした、ひかり!」

「ラル隊長が呼んでます!」

 

シュミットはひかりに何かを聞くと、ひかりは用件を伝えた。本当にシュミットのことを呼んでいたのはラルであり、ひかりはその伝令役として呼んだのだ。

シュミットは釣り竿を置くと、ひかりのもとへ向かった。

 

「ありがとう、ひかり」

「いえ!でも、何で呼んだんでしょう?」

 

シュミットはひかりにお礼を言うと、ひかりはラルが何故呼んだのか疑問に思った。

その言葉に、シュミットも考える。

 

「ふむ…何だろうな」

 

しかし、シュミットも何故呼ばれたのか思いつかず、二人は結局首をかしげたのだった。

そして、シュミットは部隊長室に来る。

 

「失礼します」

「入れ」

 

部屋の中から呼ばれ、シュミットは扉を開ける。中にはいつも通りラルとロスマンが居た。ラルは手に資料を持っており、目線はシュミットから外れていた。

 

「隊長、ひかりが呼んでいたと言ってたんですが、どうしたんですか?」

 

シュミットはラルに聞くと、ラルは手に持っていた資料を出しながらシュミットを見た。

 

「これだ」

「えーと…」

 

シュミットはその資料を手に取ると、内容を見た。それはなんとシュミットに向けての内容でもあった。

 

「…転属ですか!?」

「そうだ」

 

なんと、シュミットが受け取った資料は、彼の転属書だったのだ。あまりにも突然のことにシュミットは驚く。

そして、シュミットが驚くことは立て続けて起きた。

 

「…これ、本当ですか?」

「そのままの意味よ」

 

シュミットは資料に記されている配属先を見て、思わず聞き返す。しかし、ロスマンはそこに書かれていることが本当であると言った。

 

5()0()1()

「原隊復帰だな」

 

ラルの言葉の通り、シュミットが次に移動するのは最初に配属された部隊、501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』だったのだ。しかし、501はブリタニアの任務を終了し、解隊されたのだ。

 

「ロマーニャで新たに501を再結成するようで、シュミットさんはそちらに行くように頼まれました」

「再結成…ミーナ中佐からですか?」

「それよりも上からの指示だ」

 

シュミットはラルに聞くが、ラルからしたらミーナよりもっと上からの指示だったようだ。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「孝美さんがカウハバに行くと思ったら、今度はシュミットさんが行くなんて…」

「いや、私だってこうなるとは思わなかったから、お互い様だ」

 

シュミットの501転属日、分かれに来たメンバーのニパがそう言う。ひかりが基地に残ったと思った矢先に、今度はシュミットが転属してしまうことになると誰が思っただろうか。

 

「向こうに行っても頑張ってください」

「お元気で!」

「ああ、ありがとう」

 

下原とジョゼの言葉に、シュミットは二人の手を取って答えた。

そして、今度は管野が出る。

 

「俺はもっと強ええ奴になって、今度はおめえを倒す!」

 

管野は、最初の時に負けたことをまだ根に持っていたようで、シュミットに向けて今度は勝つと言い放つ。

その言葉に、シュミットは思わずフッとする。

 

「分かった。なら私はそれよりもっと強くなってやろう」

「へっ!」

 

管野の言葉に、シュミットは受けて立った。再びこの二人が戦う日はいつになるか分からない。しかし、シュミットは次世代を担うウィッチの成長を楽しみに待つのだった。

そして、次に出てきたのはサーシャとクルピンスキーだった。

 

「向こうに行っても、頑張ってくださいね」

「ありがとう」

「元気でね~」

「ああ」

 

そう言って、シュミットはサーシャとクルピンスキーにハグをして別れの挨拶をした。尤も、キスをする場合があるが、シュミットは控えた。

そして、シュミットは荷物を整えると、足にユニットを履く。Do335は現在、シュミットの魔法力の関係上からテスト機であると同時にシュミットの物となってきていた。この件については、彼の日ごろの素行と戦果から差し引いた結果、上層部からある程度認められて勝ち取ったものと言っていい。

 

「今までありがとう、皆。それじゃあ!」

 

そして、シュミットは魔導エンジンに魔力を流し、離陸したのだった。




別れは簡潔に、そしてシュミットの戦いはこれから始まる。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十一話「緊急事態」

第七十一話です。少しだけシュミット君にある人物との会話があります。どうぞ!


シュミットは現在、501への途中中継で寄った第504統合戦闘航空団『アルダーウィッチーズ』の基地についていた。

第504統合戦闘航空団は、アルプス南方からの欧州反攻作戦を目的とした部隊である。

 

「貴方がシュミット・リーフェンシュタール中尉ね」

 

と、シュミットは基地の格納庫の外に立っていると、横から声がしたので振り向く。そこには、扶桑海軍の白い士官服を来ているウィッチが立っていた。顔を見てみると、そこには温厚そうな雰囲気をしていた。

 

「貴方は?」

「504統合戦闘航空団戦闘隊長の竹井醇子、階級は大尉よ」

 

シュミットに聞かれ、竹井は自己紹介をする。シュミットは竹井の階級が大尉であると聞くと、すぐさまカールスラント式の敬礼をする。彼からしたら年は同じぐらいでも、上官であるからだ。

その時、シュミットはふと疑問に思った。

 

「そういえば大尉」

「なにかしら」

「どうして、501がロマーニャに再結成されたんです?」

 

シュミットは、自分がこれから行く501が何故ロマーニャに再結成されたのかを出発前に知らされていない。そのため、ロマーニャに2つも統合戦闘航空団を持つ経緯を知らないのだ。

その言葉に、竹井は順番に説明していった。

 

「…人型ネウロイですか!?」

「ええ、そうよ」

 

竹井から聞かされた言葉に、シュミットは驚く。なんとヴェネツィア上空のネウロイの巣に、以前501で確認された人型ネウロイが現れたと言う情報が出たのだ。

そして、アルダーウィッチーズはその人型ネウロイとのコミュニケーションを試みた。しかしそれは叶わず、人型ネウロイは上空からの突然の攻撃に消滅。さらにネウロイの巣の上から新たな巣が現れ、元の巣を飲み込み、そしてヴェネツィアは陥落したのだった。

 

「そんなことが…」

「504は事実上壊滅、その任務を引き継ぐ形で501が再結成されることになったの」

 

その時だった。基地全体に、警報が鳴り響く。

 

『監視班よりネウロイ発見との報告!』

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

時間は少し前に遡る。

 

「現在アドリア海上空。間もなく目的のロマーニャ軍北部方面基地に到着します」

 

アドリア海上空では、扶桑皇国の巨大飛行艇、二式大艇が飛行していた。中にはパイロットの他に、ウィッチの坂本美緒、坂本の従兵である土方圭助、そしてついこの間に横須賀第四女子中学校を卒業した宮藤芳佳だった。

 

「うむ」

「う~、やっと降りられる」

「なまったな、宮藤」

 

土方の報告を聞いた宮藤は疲れた様子で一息する。そんな宮藤に坂本は気が緩んでいるぞと言った様子で言い、宮藤は思わずドキリとする。

実際問題、宮藤は501解散後は予備役扱いとなっていた。しかし、本当のことを言うとネウロイとの接触をした際の軍規違反が祟り不名誉除隊となったのだが、坂本はそのことを宮藤に言っていないため表向きにはそうなっているのだ。そしてその間の宮藤は、501に行く前の暮らしに殆ど戻っており、訓練などをしていなかったのだ。では何故、今回宮藤は坂本と共に居るのか。

その時、宮藤はあることを思い出し坂本に聞く。

 

「あ、そうだ。お父さんからの手紙、なんだかわかりましたか?」

 

そう、元々宮藤が自分から坂本を訪ねたのは、父親である宮藤一郎の手紙が発端だった。彼女の元に届いた手紙を坂本に渡したのだ。

しかし、坂本は宮藤の言葉に首をわずかに横に振った。

 

「いや…だが、宮藤博士の研究に関するものかもしれない。技術班に渡して置いた」

 

坂本は手紙の内容は分からなかったが、宮藤一郎は魔導エンジンの権威であり、宮藤理論確立者でもあった。その為、彼の手紙は技術面におけるものと考え、扶桑海軍の技術班送りになったのだった。

 

「遅れて付いたのは、検閲によるトラブルだろう」

「またですか…」

 

そして、宮藤のもう一つの希望であった父の生存の可能性は、検閲による遅延という形で薄れたのだった。

 

「電探に反応あり、急速接近中」

「なに?」

 

コックピットからの連絡に坂本が反応する。その時だった。

二式大艇のすぐ横を、赤い光線が3つ走り抜けた。至近距離を通ったそれは、飛行艇に振動を与える。

 

「きゃああああ!」

「なんだ!?うわっ!?」

 

突然の衝撃に宮藤と土方は座っていた椅子から飛ばされる。坂本は椅子をつかみなんとか耐えると、コックピットに聞いた。

 

「くっ、どうした!」

「未確認機からの攻撃です!第一エンジン被弾!」

「なにっ!?」

 

先ほどの衝撃は、二式大艇のエンジンに被弾したときの衝撃だった。

そして、コックピットの先では、未確認機が急速接近していた。

 

「まさか…!」

「ネウロイ…」

 

そう、未確認機の正体はネウロイだった。

そして坂本は、すぐさま立ち上がると二式大艇の窓から前方を魔眼で見た。彼女の魔眼には、今まさに次の攻撃を加えようとしているネウロイの姿が映った。

 

「ネウロイ確認!距離約12000!奴らめ、もうこんなところまで来ていたのか…!」

「っ!」

 

坂本と宮藤は、ネウロイがこの地点に現れたことに驚く。

二式大艇のパイロットが回避行動をとる。すると、先ほどいた地点を赤い光線が再び通り過ぎる。

 

「きゃあああ!」

「くっ…!」

 

あまりにもキツイ機動をしたため、中に乗っていた宮藤たちは体が浮き、そして揺さぶられる。宮藤は坂本にぶつかったため、坂本がすぐさま彼女の体を支える。

 

「うぐっ…!」

「土方!」

 

しかし、同じように飛ばされた土方は、飛行艇内の角の部分に自分の横腹をぶつけてしまった。その結果、彼の横腹から血が流れる。

 

「土方さん!」

 

宮藤はすぐさま駆け寄ると、治癒魔法を掛け始める。それにより、土方の表情は僅かにやわらぎだす。その治癒速度は、以前より早かった。

 

(魔法力が安定している…成長したな、宮藤!)

 

坂本は、宮藤の安定した治癒を見て、成長したなと心の中で褒める。

そして、坂本はコックピットへすぐさま命令をする。

 

「今は退避だ!急降下してやり過ごす!」

「了解!」

 

坂本の指示により、二式大艇は急降下を開始する。これにより、速度を稼いでネウロイから離脱を図るのだ。

その時、二式大艇の後方で爆発音がする。

 

「なんだ?」

「え?」

 

音に気づいた坂本と、土方の治癒を終えた宮藤が窓から後方を見る。すると、後方ではネウロイが攻撃による被弾をしていた。

その下を見ると、複数の航跡波が海に確認できた。

 

「ヴェネツィア海軍か!」

 

坂本がその正体に気づく。先ほどの攻撃は、ヴェネツィア海軍の旗艦ヴィットリオ・ヴェネトからの艦砲射撃だったのだ。

ヴィットリオ・ヴェネトの艦長、レオナルド・ロレダンは、ネウロイに向けて言い放つ。

 

「見たか、対大型ネウロイ用焼夷弾の威力を!次弾徹甲装填!」

 

そう言って、ロレダンは次弾装填を指示する。焼夷弾で怯ませた後、艦隊は次に徹甲弾を撃ち込んでネウロイを墜としにかかる。

 

「徹甲弾、装填完了!」

「徹甲弾、撃て!」

 

装填完了の言葉を聞き、ロレダンは全艦隊に砲撃を開始させる。戦艦及び巡洋艦から放たれた砲撃は、そのままネウロイに向けて飛翔し、そして全弾着弾をした。

その光景を、飛行艇の中から見ていた宮藤は目を見張りながら見ていた。

 

「凄い…」

「駄目だ。あの武装では大型ネウロイは墜とせない」

「えっ?」

「目標が大きいから、一見すると当たってもコアには届いていないんだ」

 

坂本の言う通り、ヴェネツィア海軍からの砲撃は全弾着弾しているが、ネウロイはその攻撃に怯んだ様子は無かった。

そして、ネウロイは反撃と言わんばかりに攻撃を加えて行く。それにより、随伴の駆逐艦が被弾、大きく火を上げた。

 

「あっ!?」

「駆逐艦がやられた…ロマーニャのウィッチはまだか!?」

 

その光景に宮藤はショックを受け、坂本は無線を使う土方に振り返る。

 

「少佐、ロマーニャ第一航空団に出撃を要請しましたが、航続距離不足との回答です」

「航続距離不足だと…!」

 

頼みの綱であるロマーニャウィッチは、二式大艇のいる位置までの航続距離が足らず、出撃できないのだ。

その間にも、ヴェネツィア海軍の船は次々と被弾していく。

 

「あっ!また艦が!」

「くっ…回避が遅すぎる。あれじゃあ的だ」

「少佐、直近の504航空団は、先日の交戦で戦闘力を喪失しており、30分以内に到着可能なウィッチ隊はありません」

「30分だと!?このままでは5分で全滅だ!」

 

ヴェネツィア海軍は攻撃こそ高いが、回避性能が低い。30分何と言う悠長な時間を耐えられるはずがなく、残り5分で壊滅してしまう。

その時だった。

 

『…こちら…ミット…』

「なんだ?」

 

土方は手に持っていた無線の耳当てから、声が漏れているのに気づいた。すぐさま土方は耳に当てた。

 

『こちら、シュミット・リーフェンシュタール中尉!聞こえるか!?』

「シュミット中尉?」

「シュミットだと!?」

 

土方は面識がなく疑問に思う中、反応したのは坂本だった。

 

「土方貸せ!」

「はい」

 

坂本は急いで駆け寄ると、土方の持っていた耳当てを自分の耳に当てた。

 

『こちらシュミット、聞こえるか!?』

「シュミット、私だ!」

『その声は…少佐!』

 

無線の向こう側では、シュミットが驚いた。まさか無線に出たのが坂本と思わず、予想外だったのだ。

しかし、坂本はそんなのをお構いなしにシュミットに聞く。

 

「シュミット!今どこにいる!」

『504からそちらに向かっています。後15分ほどかかります』

「15分…もっと早く来れないか?」

『全速力です』

 

坂本は、シュミットがもう少し早く来ることができないかと聞くが、シュミットとしては全速力の為これ以上の時間短縮は困難であった。

 

「わかった、出来る限り早く来てくれ。事態は一刻を争う」

『了解!』

 

そう言って、坂本は無線を終えた。

 

「仕方ない…出るぞ!」

「えっ?」

「了解!出撃準備!」

 

坂本はそう言って、自分が出ると言う。宮藤はそれに驚くが、土方は坂本のユニットのところに居る技術者に出撃準備を言う。

 

「紫電五三型、いつでも行けます!」

 

技術者も、坂本の新ユニット『紫電改』の出撃準備を終え、坂本はその報告に頷く。

しかし、宮藤はそんな坂本の前に立ち、両腕を広げる。

 

「駄目です坂本さん!止めてください!」

「どけ、宮藤」

「どきません!坂本さんはシールドが張れないんですよ!お願いです…」

 

宮藤は懸命に坂本を止めようとする。坂本は既に、シールドを張る力が衰えてしまっている。そのため、戦場に出ては彼女は攻撃を防ぐ術がないのだ。宮藤はそんな危険な状況で坂本に戦ってほしくないと思ったのだ。

そんな宮藤を、坂本はじっと睨んでから、フッと笑う。

 

「前にもこんなふうにお前に止められたことがあったな。安心しろ宮藤、私はこんなところで命を落とす気は無い」

「でも…」

「確かに、20になってシールドはもう使えなくなった。だが私には新型ユニットの紫電改と、こいつがある」

 

そう言って、坂本は背中にかけていた扶桑刀を見る。

 

「一度お前に救われた命だ、そう簡単に捨てたりはしない」

「だったらお願いがあります!」

 

宮藤はそう言って、坂本を見る。その眼には、ある決断があった。

 

「私も一緒に戦います!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「宮藤、お前が先行してネウロイをヴェネツィア艦隊から引き離せ!後方から私がコアを叩く!」

「了解!」

 

宮藤の言葉は、坂本も首を縦に振った。

二式大艇の発進機は、1機だけしかない。そのため、作戦はまず宮藤が先行して発進し、ヴェネツィア艦隊をシールドをもってして護衛、そして艦隊を安全圏に引き離す。そして、後に発進する坂本が、宮藤と合流。そしてネウロイを撃墜するという作戦だった。

そして、宮藤とそのユニットを固定した台は、二式大艇の天井が開き、そこから外に出た。宮藤は魔導エンジンに魔力を流し、そして回転数を上げる。

 

「飛べ、宮藤!」

「行きます!」

 

そして、坂本の言葉と共に、宮藤は発進した。その直後、ネウロイの赤いビームが、宮藤を固定していた発進ユニットを直撃した。

 

「坂本さん!」

「やられたのは発進ユニットだけだ!周りを見ろ、次が来るぞ!」

 

宮藤は驚く中、坂本は前を見るように警告をする。すると、前方から赤い光線が飛んでくる。

すぐさま宮藤はシールドを張ると、そのシールドは二式大艇を覆うほどの巨大なものが形成され、そしてネウロイのビームをはじいたのだった。

 

「凄い…」

「なんて巨大なシールドだ!」

「これが宮藤の力だ」

 

そのシールドにパイロットと土方は驚くが、坂本は流石といわんばかりに言う。

しかし、ここでトラブルが起きた。

 

「少佐!魔導過給機が損傷!紫電改、飛行不能です!」

「なんだと!?」

 

技術者の言葉に、坂本は衝撃を受けた様子で振り返る。

これにより、宮藤は単独での戦闘を余儀なくされたのだった。




じゅんじゅんとシュミットの会話(ほんの僅かですが)。次回、彼女たちが集結します。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十二話「集結 ストライクウィッチーズ」

第七十二話です。ついにあの少女たちが集結します。


坂本の紫電改が破損したため、単独での戦闘を行うことになった宮藤。

 

「危険です少佐!今は自重して、紫電改の修理を待つべきです!」

「その修理を待っている間に、どれだけの人間が傷つくと思う?」

 

土方は懸命に坂本を止める。彼女はユニット無しでネウロイに立ち向かおうとしているのだ。

しかし、坂本も止まらない。今坂本が出ない間に、ヴェネツィア艦隊が被害を受けて行くのだ。そんな光景を黙ってみている坂本で無かった。

そんな坂本の言葉に、土方は思わず怯む。しかし坂本は、土方に僅かにほほ笑み返す。

 

「フッ、どうやら宮藤の病気がうつってしまったようだ」

 

坂本はそう言って、二式大艇の上に登るのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「駆逐艦ヴェニエル大破!機関出力急速低下!このままでは行き足が止まります!」

「くそう…何もできんのか…!」

 

部下の言葉を聞き、ロレダンは苦虫を噛みしめたような顔をする。ネウロイ向けに開発した砲弾は有効打を与えず、艦隊は旗艦を含む全艦が損傷状態になる。

 

「艦長、ウィッチです!ウィッチがいます!」

「なにっ!?」

 

その時、監視班の言葉にロレダンはすぐさま艦橋の窓から外を見る。すると、遠くの方に一本の飛行機雲が流れて行く。間違いなくウィッチの姿だった。

 

「あれは白地に太陽の月のマーク…あれは扶桑のウィッチです!」

「扶桑だと!?」

 

監視班の識別に、ロレダンは扶桑のウィッチが突然現れたことにさらに驚かされることになる。

その扶桑のウィッチである宮藤は、艦隊の前方へ飛行すると、すぐさまシールドを張る。ネウロイは艦隊をウ攻撃するが、宮藤の張った巨大なシールドは艦隊へのビームを防ぎ、その全てを弾いた。

 

「私がひきつけている間に、遠くに逃げてください!」

「バカな…君一人を残してはいけん!」

 

宮藤は艦隊に向けて退避するように言うが、ロレダンにもヴェネツィア海軍の誇りがあった。ウィッチ一人で戦わせまいと彼は言う。

 

「艦長!我々に反撃の手段は残っていません」

「ううむ…」

 

しかし、副官の言葉にロレダンは考える。砲弾は効かず、艦隊は負傷状態である。今戦っても無駄な消耗を増やすだけだった。

 

「わかった、我々は足手まといなだけだ。全艦十六点回頭!全速退避!」

 

そして、艦隊は回避行動を開始した。

艦隊が取り舵を取り避難していくのをみて、宮藤はホッと息を吐く。

 

「よかった…っ!」

 

しかし、すぐさまネウロイが次の攻撃を加えて来たので、宮藤は全力で艦隊を守ろうとシールドを張った。

 

「早く離れて…」

 

宮藤は艦隊がすぐに逃げてくれるように思う。その時、彼女を一つの影が覆った。

顔を上げて上空を見てみると、太陽に映る二式大艇の姿があった。

 

「坂本さん!」

 

宮藤は、二式大艇の上に立つ坂本を見る。

 

「土方!このまま突っ込め!」

「了解!」

 

二式大艇の上に登った坂本は、土方に指示をする。それにより、二式大艇はネウロイに向けて飛行していく。

そして、坂本は体に羽織っていたマントを投げ捨てると、使い魔の耳と尻尾を出し、そして立ち上がった。

ネウロイは突っ込んでくる二式大艇に対し威嚇をする。ネウロイが攻撃をする前兆だ。

 

「危ない!」

 

宮藤は危険を感じて叫んだ時だった。坂本はなんと二式大艇の上を走り始めると、そのままジャンプをした。そして、すぐさま背中に背負っていた扶桑刀を抜くと、それを構えた。

ネウロイは飛び出した坂本に、ビームを放つ。

 

「坂本さん!」

「であああああ!」

 

宮藤が叫ぶ中、坂本も叫ぶ。そして、手に持っていた刀を振りかぶった。

 

「必殺!」

 

そして、その刀を振り下ろした。

 

「烈風斬っ!!」

 

坂本が刀を振り下ろしたと同時に、ネウロイはビームを坂本に向けて放つ。しかし、坂本はそのビームを刀で切り裂いていき、そのままネウロイに突っ込んでいった。

そして、ネウロイは突っ込んだ坂本によって体を光の破片に変えたのだった。

 

「坂本さん!」

 

宮藤はすぐさま、落下をしていく坂本に向かって飛んでいき、そして空中でキャッチをした。

 

「すまんな宮藤、紫電改が故障してな、来るのが遅れた」

「だからって、無茶しすぎです」

 

坂本は宮藤に謝罪するが、宮藤は坂本の破天荒な戦い方に肝を冷やしていた。

 

「どうだ、言った通りだろう?シールドが無くても私は戦える。この()()()があればな」

 

そう言って、坂本は手に持っていた刀、烈風丸を見る。

ふと、坂本は宮藤に聞く。

 

「ところで宮藤、烈風丸ってどう思う?一晩中考えたんだがな」

「えっ?か、かっこいいと思いますよ?」

「そうか!かっこいいか!よーし!」

 

宮藤の言葉を聞いて、坂本は豪快に笑った。

 

「ありゃりゃ、もうネウロイは倒されてしまったのか」

 

その時、宮藤と坂本の耳に聞き覚えのある声が聞こえる。二人が振り返ると、MG151を構えたシュミットが拍子抜けた様子で居た。

 

「シュミットさん!」

「シュミットか!久しぶりだな!」

「ええ、お久しぶりです」

 

そして、坂本達は着水した二式大艇に降り立つ。

 

「お見事です、少佐。紫電改を出すまでもありませんでしたね」

 

土方はそう言って、坂本の制服を渡す。しかし、それを受け取った坂本はどこか納得をしていない表情だった。

 

「手ごたえが無さすぎる…」

「え?」

「きっと、坂本さんが強くなったからそう感じるんですよ」

 

坂本の言葉に土方はどういうことかと思うが、宮藤は坂本が強くなったからだと言う。

しかし、シュミットは何かに気づいた。

 

「まて!ネウロイの破片を見ろ!」

 

シュミットの言葉に、全員が海に落下していくネウロイの破片を見る。すると、ネウロイの破片はまるで吸い上げられているかのように上昇していく。

 

「坂本さん!」

「ネウロイが再生している…!」

 

宮藤と坂本が驚く中、ネウロイはその体を再生させていく。

 

「コアは破壊したのか?」

 

シュミットが聞くと、坂本は魔眼を再生しているネウロイに向ける。すると、彼女の魔眼にはネウロイのコアが映っていた。

 

「バカな、コアが生きている」

「行きます!」

「私も行くぞ!」

「宮藤、シュミット、コアは再生中の先端だ。ぶち抜いてとどめを刺せ!」

 

すぐさま離陸をしていく宮藤とシュミットは迎撃に向かう。坂本は、二人にコアの位置を言う。

そして、宮藤とシュミットはそれぞれネウロイのコアがある地点に向けて銃撃を加えて行くが、ネウロイのコアはそこからは見つからなかった。

 

「少佐、本当にここなんですか?」

「まて…なにっ!」

 

シュミットに言われ坂本は再び魔眼でネウロイのコアを補足する。すると、とんでもない事実が分かった。

 

「そうか、そう言う理屈か。シュミット!宮藤!そいつのコアは移動している!今は右端だ!」

「えっ?はい!」

「こいつもコアが移動するのか!?」

 

坂本の指示に宮藤は驚き、シュミットはペテルブルクの時と同じなことに衝撃を受ける。そして二人はすぐさま右端に攻撃を加えるが、ネウロイのコアは発見され無かった。

そして、再生していたネウロイはついにその体を完全に復活させた。

 

「宮藤、シュミット、同時多重攻撃を仕掛けるんだ!」

「どうじたじゅう?」

「一緒に攻撃をすることだ」

 

宮藤は何か分からず聞くが、シュミットが簡単に説明する。

そして坂本は、二式大艇の中を覗く。

 

「紫電改はどうだ!?」

「あと五分で何とか…」

「飛べさえすればいい!3分で仕上げろ!」

 

坂本は技術者に時間短縮を呼びかける。その時だった。

ネウロイが、坂本達の二式大艇に攻撃をしたのだ。

 

「坂本さん!」

 

危機一髪、宮藤が間に入りシールドを張る。宮藤は懸命にシールドを張るが、これにより同時多重攻撃ができない状況になる。

そして、坂本は宮藤の様子に気づく。

 

「いかん、宮藤の魔法力が限界だ」

 

宮藤は既に連戦を強いられているのだ。魔法力が限界に近付いている。

その間にも、シュミットはネウロイに攻撃を加えて行く。しかし、肝心のコアは未だに破壊できなかった。

 

「くそっ…このままじゃ弾を消耗するだけだ」

 

シュミットは何か打開策を考える。しかし、宮藤が耐えきれずにネウロイの攻撃によって弾き飛ばされた。

 

「宮藤!」

 

体制の悪くなった宮藤は、今はいい的となってしまった。その時だった。

突然、ネウロイの体が爆発したのだ。それは、シュミットや宮藤からは別方向からの攻撃によるものだった。

 

「なっ!?」

「えっ?」

 

シュミットと宮藤は何事かと思う。しかし、その攻撃は二人にも見覚えのある物だった。

 

「いやっほ~う!」

「シャーリー!」

「シャーリーさん」

 

そう言って、呆けている宮藤達の横を通り過ぎたのは、彼らにも親しい人物だった。リベリオン合衆国陸軍の制服を来たウィッチ、シャーロット・E・イェーガーだった。

そして、やって来たのはシャーリーだけでは無かった。

 

「チャオ~」

「ルッキーニちゃん!」

「見た見た!?今のぜーんぶ命中したでしょ!」

 

そう言って宮藤に自慢するのは、ロマーニャ空軍の若き天才、フランチェスカ・ルッキーニだった。

さらに、やってきた二人とは別方向から、今度は一発の弾丸が飛翔してくる。弾丸はそのままネウロイに着弾すると、その丈夫な体を貫いた。

 

「対装甲ライフルだ!」

「てことは!」

「間違いない」

「リーネちゃん!」

 

彼らの予想した通りだった。新たにやってきたのは、ブリタニア空軍所属のウィッチ、リネット・ビショップだった。

 

「芳佳ちゃん!」

「リーネちゃん!」

 

リーネはそのまま芳佳の手を取ると、くるくると回り始める。芳佳も、久しぶりに再会する親友の姿に顔を笑顔に変える。

 

「無事だったんだ!」

「うん!ガリアから今着いたの!」

「ガリア?ってことは…」

 

リーネは宮藤に会うために、ガリアから飛んできたと言った。その言葉に、シュミットはある推測をすると――、

 

「感激している場合ではありませんわよ」

「ペリーヌさん!」

 

そう言って現れたのは、自由ガリア空軍の高貴なるウィッチ、ペリーヌ・クロステルマンだった。

さらにさらに、ネウロイに向けて飛翔して攻撃してきたのは、ロケット弾だった。

 

「ロケット弾!?」

「見て!」

 

ペリーヌは驚く中、リーネがロケット弾の飛翔してきた方向を見る。すると、遠方から二人のウィッチが現れる。

 

「エイラ!サーニャ!!」

「エイラさん!サーニャちゃん!」

 

シュミットと宮藤はその二人の名前を呼ぶ。スオムス空軍のトップエース、エイラ・イルマタル・ユーティライネンと、オラーシャ陸軍所属のシュミットの恋人、サーニャ・V・リトヴャクだった。

そして、皆のもとに新たなエンジン音が聞こえる。

 

「来たか!」

「三人だ!」

 

皆が顔を上げて見ると、その方角から3人のウィッチの姿が見えた。

 

「ミーナ隊長!」

 

特徴的な赤毛を揺らしながらやって来る501の部隊長、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。

 

「バルクホルンさん!」

 

両手に二丁の機関銃を構えミーナの横に並ぶ、カールスラントのスーパーエース、ゲルトルート・バルクホルン。

 

「ハルトマンさん!」

 

そして、バルクホルンとは反対側に並ぶ、カールスラント兼人類一の撃墜王、エーリカ・ハルトマン。

 

「左右に」

『了解!』

 

ミーナの指示に、二人は返事をし、三人はネウロイに向けて接近、そして銃撃を浴びせて行く。

そして、坂本はミーナに戦闘指示を求める。

 

「ミーナ中佐、総攻撃だ!」

「わかってるわ。フォーメーション・カエサル!」

『了解!』

 

ミーナの言葉に、全員が返事をして集結し編隊を組む。

そして、坂本の準備も整った。

 

「少佐、紫電改行けます!」

「わかった!」

 

土方の言葉に坂本は返事をし、そして紫電改に足を入れて魔導エンジンを回した。

 

「出力、異常なし!」

「坂本美緒、出る!」

 

そして、坂本は発進し、そのまま編隊に加わった。これで501は全員が揃った。

 

「攻撃開始!」

 

そして、ミーナは手を前に振り、攻撃開始の合図を送った。

ネウロイは負けじと攻撃を仕掛けるが、全員その攻撃を回避し、接近をしていく。

 

まず最初に、ルッキーニが固有魔法、『光熱攻撃』をシールドに張り、ネウロイの体に向けて突撃を加える。彼女のシールドは、言わば弾丸であり、ネウロイの体を大きく削る。そして、突撃時により減速したルッキーニを、シャーリーが『超加速』を使ってキャッチし、そして離脱していく。

 

その後ろを、今度は前方に回ったミーナとシュミットが銃撃を加えて行く。ミーナは『三次元空間把握』を使い攻撃を回避をしていき攻撃を加える。そしてシュミットは『ゼロの領域』を展開しながら回避をし、『強化』によるバフの加わった火力でネウロイの体を削る。

 

ネウロイは正面からの攻撃に対して、自身も反撃をする。しかし、その隙をついてペリーヌが上空から急降下をし急接近。そして『雷撃』による電気攻撃をネウロイに浴びせる。

 

全身の装甲を削られたネウロイはすぐさま再生をしていくが、リーネによる『射撃弾道安定』が加わった銃弾は的確に装甲の厚くなっている部分を貫いた。

 

ネウロイはその攻撃に雲の中へ逃げて行く。しかし、それを逃がさないウィッチが居た。エイラはサーニャの手を取ると、『未来予知』による雲の中からの攻撃を回避し、サーニャが『全方位広域探査』で雲の中のネウロイを補足、そしてフリーガーハマーの一撃を加える。

 

あぶり出されたネウロイは周辺に向けてビームを放つが、ハルトマンはその攻撃をスイスイと避けて行くと、『疾風』を使いネウロイの体を削り取る。

その瞬間を間髪入れずにバルクホルンが接近するっと、二丁の機関銃から強力な攻撃を浴びせて行く。

 

「うおりゃあ!!」

 

そして、機関銃の銃身を持つと、『筋力強化』によるパワーを使い銃床部分を思い切りネウロイに振り下ろした。

 

「コアが出た!」

 

宮藤がコアの露出に気づく。

 

「任せろ!」

「坂本さん!」

「美緒っ!」

 

坂本がネウロイに接近する姿に、宮藤とミーナが心配する。

 

「手出し無用!」

 

しかし、坂本はそう言ってネウロイからの無数の攻撃を高速で回避していく。あのような動きは誰も見たことが無かった。

 

「何だあの機動は!」

「攻撃を全部避けているぞ!」

「エイラみたい!」

 

その機動に全員が驚く中、ネウロイは渾身の一撃を坂本に向けて放つ。

 

「無理だ!当たるゾ!」

「少佐!」

「切り裂け!烈風丸!」

 

皆が驚く中、坂本はなんと刀をビームの方向に向け、そして切り裂いた。

 

「喰らえ!烈風斬っ!」

 

そして、坂本はネウロイに向けて刀を振りかぶった。刀からは一閃のビームのように刃が伸びて行き、ネウロイの体を一刀両断する。

そして、コアを破壊されたネウロイは、その姿を今度こそ完全に光の破片へと変えたのだった。




集結、501!ついにストライクウィッチーズ2編に突入しました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十三話「始動 501」

第七十三話です。どうぞ。


「芳佳ちゃん!」

「リーネちゃん!無事でよかった!」

 

ネウロイ撃墜後、ウィッチ達は次の第501統合戦闘航空団の基地となるロマーニャの遺跡のある島へと合流した。

戦闘後二式大艇で移動した宮藤は、基地に駆け上がるとまずリーネとの再会を分かち合った。

 

「うん、芳佳ちゃん来てくれたんだ!」

 

そして、二人は手を取り合う。その様子を、他のウィッチ達は微笑ましく見ていた。

 

「しっかし、まさか宮藤が来るとはなあ」

「それを言ったら、シャーリーさんはアフリカのはずじゃ?」

「へへ~ん。ロマーニャが心配で抜け出してきた!」

 

シャーリーは宮藤の登場に驚いた様子だったが、ペリーヌは本来アフリカに居るはずのシャーリー達が居ることに驚いている様子である。そのカラクリをルッキーニが説明するが、シュミットはそれでいいのかと内心思うのだった。

 

「えっと、私たちはスオムスに行くはずがさ…ちょっと乗り間違えてアドリア海に…」

「エイラの占いで、危ないって出てたから」

「さ、サーニャ~…」

 

と、サーニャがバッサリと真実を言ったためにエイラはドキリとしてサーニャを力なく見る。

その時、サーニャはあるものに目が行く。それは、シュミットの左頬に出来た傷跡だった。

 

「シュミットさん、それは…」

「ん?ああ、これ…」

 

サーニャに言われ、シュミットは自分の頬の傷を撫でる。その様子に、他のウィッチ達も気づいた。

 

「ん?シュミット、お前その頬はどうした?」

「前まで無かったよね?」

「これな…サーニャ達は知ってるだろうけど、502に配属されたんだ。その時に負傷して残っちゃったんだ」

 

皆が不思議がる中、シュミットは訳を説明する。エイラとサーニャは年越しの時に502に居たため配属先を知っているが、他の者には説明をしていなかったため知らず、全員が初めて聞いたと言う表情をする。

 

「502…あいつが居たな」

「あいつ?」

「クルピンスキーっていただろ?」

 

と、バルクホルンがある人物の名前を呼ぶ。

 

「居た。あのニセ伯爵か?」

「そうだ」

 

シュミットも思い当たりバルクホルンに聞くと、それは合っていた。そして、バルクホルンはシュミットに近づくと、小声で言った。

 

「ハルトマンだがな…そいつの影響を受けたんだ…」

「……え」

「あいつは元々真面目だったんだが、そんなハルトマンをああしたのが…」

「まさか…!」

「…そのまさかだ」

 

バルクホルンの説明にシュミットもまさかと思うが、彼女の真面目な言葉にその真実を受け止めた。そして、今度クルピンスキーに会ったらどうしようかとも心の中で考えるのだった。

そんな中、今まで静かに聞いていた宮藤が聞く。

 

「あの、大丈夫なんですか?」

「ん?ああ、大丈夫だ。怪我も無事に治ったし、後遺症なんかも無かったから」

 

そう言ってシュミットは周りに問題ないと説明する。しかし、その言葉に安心できない人が一人居た。

 

「っ!」

 

シュミットの説明を聞いて、サーニャは一歩前に出る。そして、なんとシュミットの頬の傷に手をかざした。思わぬ行動にシュミットも驚く。

 

「さ、サーニャ…?」

「…」

 

シュミットはサーニャの表情を見る。サーニャは、少し悲しそうな表情をしていた。彼女は、シュミットの傷ついた姿を見て、彼のことを案じたのだ。

そんなサーニャの気づかいをシュミットも察し、そしてサーニャに言った。

 

「サーニャ」

「シュミットさん…」

「大丈夫だよ。少し怪我しただけだから、命に別状は無いさ」

「でも…」

 

シュミットは言うが、それでもサーニャは心配である。そんなサーニャを、シュミットは自分の胸に抱き寄せた。

 

「大丈夫、サーニャを残して死ぬつもりは無い」

「本当?」

「…怪我はするかもしれない」

「もう…」

 

と、シュミットの少し頼りなさそうな言葉に、サーニャは僅かに膨れる。だが、サーニャはシュミットの言葉に安心をしたようで、そのままシュミットに思い切り抱き着いた。

 

「うわっ!?大胆…」

 

と、今の今まで忘れていたが、二人のそんな姿を周りも見ているわけであり、まず先にハルトマンが言う。その言葉にシュミットがドキリとしてみると、皆が二人のことを見ていた。

殆どが二人が相思相愛のことを知らないため、まさかこんな行動をするとは思わず、口をポカンと開きながら見ており、唯一知っていたエイラは複雑そうに見る。

シュミットの胸の中にいるサーニャは気付かなかったが、シュミットはそんな周りの様子に頬を赤くして、そして自分の左頬を指で掻くのだった。

そして、少し離れたところでは坂本とミーナが会話していた。

 

「凄い刀ね…」

「烈風丸、私が魔法力を込めて打った刀だ。刀身に術式が練りこんであり…要は刀自体が強力なシールドになっている」

 

ミーナは坂本の持つ刀を見て、それが只物でないと感じる。坂本はその烈風丸をミーナに見せ説明すると、それを背中の鞘に戻した。

しかし、ミーナはそんな坂本を心配した。

 

「それにしても、無茶しすぎじゃない?」

「私は飛びたいんだ。あいつのようにな」

 

そう言って、坂本は皆とじゃれ合っている宮藤を見る。

 

「やっぱり、降りるつもりはないわね」

「ああ」

 

その様子に、ミーナはいつもの坂本だと思うのだった。

そして、それぞれの再会を喜ぶウィッチ達を、ミーナは集めた。

 

「集合!」

 

ミーナの掛け声に、全員が横一列に並ぶ。戦闘隊長である坂本は、ミーナの横に立つ。

 

「では、連合軍総司令部からの命令を伝えます」

 

そして、ミーナが手に持つ命令書を読み上げる。

 

「旧501メンバーは現隊に復帰後、アドリア海にてロマーニャを侵攻する新型ネウロイを迎撃、これを撃滅せよ。尚、必要な機材・物資は追って送るが、それまでは現地司令官との協議の上調達すべし」

「はっはははは、流石に手際がいいな!」

「ガランド少将のお墨付きよ」

 

坂本は手際の良さに笑うが、ミーナは微笑み返す。

しかし、その言葉にハルトマンが後頭部で腕を組みながら言う。

 

「無理やりもらってきたんだよ」

「人聞きが悪いぞハルトマン。過程はどうあれ、命令は命令だ」

 

ハルトマンの言葉にバルクホルンが訂正を言うが、シュミットは「大丈夫かそれ?」と、思ったのだった。

 

「ねえねえリーネちゃん、つまりどういうこと?」

「えっと…」

「つまり、501再結成するってことだ」

 

宮藤はどういうことか分からずリーネに聞くが、シュミットが簡潔に説明した。

そして、ミーナは更に読み上げて行く。

 

「私、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐以下、坂本美緒少佐」

 

次に、戦闘隊長である坂本が呼ばれる。

 

「ゲルトルート・バルクホルン大尉。シャーロット・E・イェーガー大尉」

 

そして、階級が大尉のバルクホルンとシャーリーが呼ばれる。

 

「シュミット・リーフェンシュタール大尉」

 

そしてさらに、シュミットが大尉で呼ばれる。シュミットは501再編と共に、彼は大尉として着任することになったのだ。

 

「エーリカ・ハルトマン中尉。サーニャ・V・リトヴャク中尉。ペリーヌ・クロステルマン中尉。エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉」

 

その後に、階級が中尉であるハルトマン、サーニャ、ペリーヌ、エイラが呼ばれる。エイラは以前会った時は少尉であったが、本国スオムスで正式に士官教育を受け中尉となった。

 

「フランチェスカ・ルッキーニ少尉」

 

そして、唯一少尉となった最年少、ルッキーニが呼ばれる。

 

「リネット・ビショップ曹長、宮藤芳佳軍曹」

 

そして、士官の次にさらに階級が下であるリーネと宮藤が呼ばれる。リーネはブリタニアでの功績により曹長へと昇格したが、宮藤は軍規違反による点から以前と階級はそのままである。

そして、ミーナは全員の名前を言い終わった後、周りを見回した。ウィッチ全員、ミーナの顔をじっと見ており、ミーナは確認を終えると真ん中を見て宣言した。

 

「ここに、第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』を再結成します!」

『了解!』

 

ミーナの宣言の言葉に、全員が大きく返事をしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

501再結成から翌日。

 

「…明らかに体力不足ね」

「あの三人はブリタニアの戦いの後、軍から離れていたからな。実質半年以上のブランクだ」

 

ミーナの言葉に、坂本が付け加えて言う。彼女たちの目線の先には、疲れて息を切らして倒れている宮藤とリーネ、倒れてはいないが肩で呼吸をしているペリーヌの姿があった。

坂本の言う通り、宮藤とリーネとペリーヌは501の解散後、軍から離れていた。宮藤は扶桑に帰り元の生活に、リーネとペリーヌはガリア復興にそれぞれ当たっていたため、完全に軍から離れていた。

 

「午前中の飛行訓練でも、あの三人は問題が多かったぞ」

 

と、ミーナの横に来たバルクホルンが言う。そう、現在行われたフィジカル訓練は午後の部であり、午前は飛行訓練を行っていた。

しかし、午前の訓練でも三人の飛行は問題点が多かった。コントロールを失った宮藤は、回避のできなかったリーネに接触、そしてそのまま突っ込んでくる二人を避けることができなかったペリーヌも巻き込まれ、三人は空中で大衝突をしたのだった。

そして、その訓練を見てきたシュミットも言う。

 

「これじゃあ戦闘をまともにこなせそうに無いな…」

「少佐、今のままじゃ実戦に出すのは危険だぞ!」

「…そうだな」

 

バルクホルンが坂本に言うと、坂本も頷いた。

そして、坂本は歩いて三人のところへ向かった。残ったミーナとバルクホルンとシュミットは、その様子に困った表情をする。

その時、バルクホルンは思い出したようにシュミットに話しかけた。

 

「そういえばシュミット、以前のお前とは見違えるほど飛行が変わったな」

「突然なんだ?藪から棒に」

「そうね。トゥルーデに迫るシュミットさんの飛行は随分目を見張るものがあるわ」

 

バルクホルンに続いてミーナも言う。その言葉に、シュミットも少し照れた表情をする。

午前に行われた飛行訓練で、シュミットはバルクホルンの後ろを取る飛行を何度もした。以前のシュミットならここまでバルクホルンを追い詰めることは無かっただろう。これは、シュミットの成長の結果と言える。

そして、坂本は三人のもとにつく。

 

「起きろ、二人共」

「坂本さん」

「少佐」

 

坂本の言葉に倒れていた宮藤とリーネが起き上がる。そして、三人は坂本を見た。坂本は手に持った竹刀を叩くと、三人に言った。

 

「宮藤!リーネ!ペリーヌ!お前達は基礎からやり直しだ!」

『は、はい!』

 

坂本の気迫ある言葉に、三人は返事をすることしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

坂本に烙印を押された三人は、ある目的地に向けて飛行していた。

 

「あそこですわ」

 

そう言って、地図を見ていたペリーヌが指差す。そこには、小さな孤島があった。

三人は降下をして孤島に下りると、周りを見渡した。

 

「本当にここが訓練所なんですか?」

「少佐に頂いた地図だと、ここで間違いありませんわね…」

 

周りを見渡しても人の気配がしないためリーネが聞くが、ペリーヌの持つ地図はここを指しているので、場所は間違いないようである。

宮藤も周りを見る。

 

「でも、誰も居ないよ?」

「あっ、芳佳ちゃん、上」

「え?」

 

と、リーネが何かに気づき空を指さす。それにつられてあとの二人も見ると、空から突然大きな何かが三人のもとに落ちてくるではないか。

 

「うわあ!?」

「きゃっ!?」

「ネウロイ!?」

 

三人はすぐさまその場を離れる。そしてペリーヌはいち早く機関銃を落下してきたものに向けた。しかし、そこにあったのは、只の大きなたらいであった。

 

「ネウロイ…じゃない」

「誰がネウロイだい!」

「うわっ!?喋った!?」

 

突然声がしたため、ペリーヌは思わずたらいが喋ったと驚く。しかし、声は続けて言う。

 

「こっちだよ!」

 

その言葉に、三人は声のする方向を辿って上を向く。すると、そこには箒に跨った一人の老婆の姿があった。

 

「挨拶も無しに家の庭に入って来るなんて、躾がなってないねぇ」

「あ、こ、こんにちは!」

「あの、もしかしてアンナ・フェラーラさんですか?」

 

老婆に言われて宮藤はすぐに挨拶をするが、リーネは何かに気づき老婆に聞く。

すると、アンナと呼ばれた老婆は少しだけ不機嫌そうに答えた。

 

「そうだよ」

「あの、私達坂本少佐の命令で訓練に来たんです!ここで合格貰うまでは絶対に帰るなって言われました!」

 

目の前の人物が坂本に言われたアンナだと分かると、宮藤は訳を話した。そう、彼女たちは坂本に言われ、アンナの下で訓練を受けるように言われたのだ。

 

「ふん…とりあえず、その履いてるもん脱ぎな」

 

そう言って、アンナは三人の履いているストライカーユニットを脱ぐように言う。その言葉に三人はユニットを脱ぐと、アンナは三人にあるものを渡した。

 

「…バケツ?」

「じゃあまずあんたたちには、今晩の食事とお風呂の為に水を汲んできてもらおうかね」

「水汲みですか?」

「え~っと」

 

宮藤は周りを見回す。しかし、彼女の見える範囲に井戸は無かった。

 

「井戸ならあっちだよ」

 

その時、アンナが井戸の位置を示す。しかし、示した先は島を大陸と繋ぐ橋の向こう側、丘の上にあった。

 

「ええっ!?あんな遠く…」

「うわあ…」

「ここは海の上だからね、水が出るのはあそこだけさ」

 

しかし、ここでリーネは考え付く。

 

「あっ、でもストライカーを履けば!」

「そっか!」

「ストライカーで飛んでいけばあっという間ですわ」

 

そう言って、ペリーヌはユニットのところに歩き始める。しかし、その道をアンナが前に立ち塞ぐ。

 

「誰がそんなの使っていいって言ったんだい!?」

 

そう言って、アンナは三人にあるものを渡した。それは、先ほどアンナが乗っていたものと同じ形の箒だった。

 

「ほら、これを使うんだよ」

「まさか…」

「箒?」

 

アンナから渡されたそれを見て、三人は顔を見合わせきょとんとしたんだった。




う~ん、さり気なく熱くなったかな?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十四話「芳佳と一人の少女」

第七十四話です。オリジナルキャラが登場します。ではどうぞ!


「痛い…」

「食い込む…」

「ぐぅ…」

 

宮藤、リーネ、ペリーヌは悲痛な声を出す。

アンナから渡された箒にバケツを掛けて跨った三人は、箒に乗りながら浮き上がる。しかし、自身にかかる負荷により三人は浮きあがることしかできず、その場で立ち止まったままである。

 

「うわっ!?」

「うわあ!」

 

そして、宮藤とリーネは大きくバランスを崩す。ペリーヌだけが唯一体制を維持しているが、彼女もその状態から動くことができない。

 

「いつまで地面をうろうろしてるんだい!さっさと飛んでいかないと、晩御飯に間に合わないよ」

 

ハンナはそう言って、手を一回たたく。すると、全員の箒は動き出す。

宮藤とリーネはその場でぐるぐると回転をし、宮藤はそのまま上に飛んでいく。リーネは回転に耐えられずに振り落とされる。ペリーヌは前に後ろに流されるように動き、制御が効かずに落ちた。

そんな三人の姿を見て、ハンナは溜息を一つ吐いた。

 

「はあ…全く情けない。これで魔女とは片腹痛いね…」

 

そう言って、リーネに近づくアンナ。

 

「あんたは無駄にでかいものつけてるから、バランスが取れないんだよ」

「きゃあ!」

 

アンナはそう言ってリーネの胸を掴む。その行動にリーネは思わず驚き顔を赤くする。

上空に打ち上げられた宮藤は、箒に懸命に掴まりながらぐるぐると回される。

 

「うわああああ!」

「いつまで回ってんだい?」

「箒に聞いてください!」

 

そんな宮藤にアンナは聞くが、宮藤は振り回されたまま言う。そして彼女は目を回してしまい、手を放して地面に落ちた。

そんな中、ペリーヌは懸命に姿勢制御を行っていた。

 

「ほお、中々やるね」

「こ、これくらい…ウィッチとして当然…ら、楽勝…ですわ…」

 

アンナに答えるペリーヌだが、その表情は強張り、声は上ずっていた。

そんな中、アンナはまるで意地悪く言う。

 

「そうかいそうかい」

 

そう言って、彼女は箒をつんと触る。すると、姿勢を懸命に整えていたペリーヌはバランスを崩す。

 

「ぐぅ…う…す、擦れる…」

 

そう言って、ペリーヌも箒から脱落したのだった。

三人の無様な様子に、アンナは溜息を吐く。

 

「アンナさん」

 

その時、アンナの名前を呼ぶ声がする。それは三人の物では無かった。

アンナは声のした方向を振り返った。そこには、箒に跨りながら水入りバケツを運ぶ少女の姿があった。その少女は右目元に火傷の痕のようなものがあった。

 

「おや、お帰り」

「水汲み終わりました。あの。その人たちは?」

「ご苦労さん。出来の悪い教え子たちだよ」

 

そう言って、アンナは倒れている三人のところに行く。

 

「あんた達には永遠に合格がやれそうにないね」

「そ、そんな…」

「いまどき!ウィッチの修行に箒だなんて時代遅れにもほどがありますわ!」

 

そう言って、ペリーヌは箒を投げ捨てた。

 

「おや?もう音を上げたのかい」

「ペリーヌさん…」

「アンナさん!」

 

リーネはそんなペリーヌに困った顔をするが、宮藤は違った。彼女はアンナの名前を呼ぶと質問した。

 

「あの、私も知りたいです。こんな修行で本当に強くなれるんですか!?」

「あんた、強くなりたいのか?」

「はい!」

「何故だ?」

 

宮藤の言葉に、何故強くなるのかアンナは問う。宮藤は、アンナの問いに答えた。

 

「私!強くなってこの世界を守りたいんです!強くなって、ネウロイからこの世界を守りたいんです!困っている人達を守りたいんです!」

「芳佳ちゃん…」

 

宮藤の言葉に、他の皆も釘付けになる。彼女の真剣な眼差しは、その答えに嘘偽りが無いと言う証拠だった。

そんな宮藤を、誰よりも見ていた人が居た。先ほどアンナに呼ばれた少女だった。彼女は宮藤のことを、どこか驚いたように見ていた。

そして、今まで黙っていたアンナは口を開いた。

 

「悪いけど、もう一回水を汲んでおいで」

「わかりました、アンナさん」

 

そう言って、先ほどの少女は箒に跨り、大空へと飛び立つ。

 

「えっ?」

「行っちゃった」

 

全員がその姿を見て、ポカンと待っていた時だった。箒に跨った少女は戻ってきた。箒には、並々と水が入れられたたらいがあった。

 

「うわあ!?こんなにいっぱい!」

「これを一人で!?」

「凄いです…!」

 

三人はその光景に驚く。自分たちではうまく飛べなかった飛行を、彼女は軽々と行ったことに。

 

「でも、これで本当に強くなれるんですか?」

「信じられないかい?あんた達の教官だって、ここで訓練して一人前の魔女になったんだよ」

「え?」

 

とんでもない言葉に、三人は思わず口をポカンとする。アンナの言った教官と言う言葉に。

 

「教官って…」

「坂本少佐が!?」

「ああ!あの子は素直でね、最初から私のことを尊敬して、一生懸命練習してたもんさ。おかげで見事な魔女に成長したってもんさ」

 

アンナは坂本のことを自慢しながら言う。三人はその言葉に感激を受けるが、ただ一人だけその言葉に苦笑いをしていたのには気づかなかった。

 

「坂本さんがこの訓練を!」

「あの…坂本少佐が使われていた箒って…」

「さっきあんたが投げた奴だよ」

「ええっ!?」

 

と、アンナの言葉にペリーヌは驚いた顔をする。自分のあこがれる坂本の使っていた箒を、まさか投げてしまっていたとは思わずに。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「……うん?」

 

宮藤は、真夜中に目を覚ます。宮藤たちは一つの大きなベッドに三人で眠っており、横からはリーネとペリーヌの寝息が聞こえる。

宮藤はそのまま、外へ出る。目が覚めてしまい、すぐには眠れそうになかった。

 

「あれ?」

 

その時、外に人影を見つけて宮藤は驚く。その人は、昼間に水を運んできた少女だった。

 

「あの…」

「ん?」

 

宮藤は恐る恐る呼びかける。相手の名前が分からなかったため、声掛けしかできなかった。しかし、少女はその声に気づき振り返る。右目元の火傷の痕を持った少女は、宮藤を見て話しかけた。

 

「眠れないの?」

「うん…少し…」

「私もなんだ」

 

そう言って少し笑う少女に、宮藤はふと思う。

 

(あれ?今の…)

 

宮藤は、彼女の仕草を見て考える。今の表情を、自分はどこかで見たことがあるかもしれないと思ったのだ。

そんな中、少女は話し始めた。

 

「そういえば、貴方の名前は?」

「え?あ、宮藤芳佳です」

「芳佳って言うんだ」

 

宮藤の名前を聞いて、少女は微笑む。

 

「私はアリシア」

「アリシアちゃんか。いい名前だね」

 

彼女の自己紹介に、宮藤はそう感想する。アリシアは、その言葉を聞いて少し顔を赤くした。

その時、宮藤は再び何かに引っかかる。

 

(あれ?どこかで聞いたような…どこだっけ?)

 

宮藤は考える。以前彼女の名前を聞いたことがあるはずなのだ、どうしても思い出せなかった。

その時、アリシアは宮藤の方を見て話し始めた。

 

「宮藤さんは凄いね」

「え?」

 

突然の言葉に、宮藤は何のことか疑問に思いアリシアを見る。アリシアは、少し下を向きながら続けて話し始めた。

 

「困っている人達を守りたくて、強くなりたいなんて」

「アリシアちゃんだって凄いよ!あんなに箒に上手く乗れるなんて」

 

宮藤はアリシアにフォローする。宮藤からしたら、あんなに箒を自由自在に操れる彼女の方が凄く感じる。

しかし、アリシアは言った。

 

「でも、分からないの…」

「え?」

「私は、宮藤さんみたいな目標が分からないの。だから、私の力を何のために使うのかを答えれないの…」

 

そう言って、アリシアは少し悲しそうな顔をする。

だが、そんなアリシアに宮藤は言った。

 

「そんなこと無い!アリシアちゃんにだって出来る事があるよ!」

「え?」

「アリシアちゃんにだって出来る事がある。私やリーネちゃん、ペリーヌさんだってアリシアちゃんより箒はうまく飛べないけど、皆出来る事がある。だから、アリシアちゃんだって必ず…」

 

そんな宮藤の言葉に、アリシアは僅かに笑顔になる。

 

「ありがとう、宮藤さん」

「え、えへへ…」

 

ありがとうと言われ、宮藤は僅かに照れるのだった。

そして、少しの会話をした後、宮藤はベッドに戻った。

 

「あれ?」

 

ベッドで再び寝ようとした宮藤だが、そこにある物が目に入った。

それは、ベッドに書かれていた文字だった。様々な国の言葉で書かれていたその言葉は、宮藤には意味が分からないものだった。しかし一つだけ、宮藤にもわかるものがあった。

 

「く、クソババ…」

 

扶桑語で書かれているその言葉に宮藤は思わず頬を引きつらせる。しかし、その字を見てあることに気づいた。

 

「これ…坂本さんの字だ」

 

それは、宮藤が以前見た坂本の字にそっくりだった。そこから、これを書いたのが坂本だと芳佳は理解した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「きゃあ!?」

 

リーネは思わず悲鳴を上げる。そして、箒からずり落ちると、石橋の淵に摑まったままぶら下がりになる。

 

「うわーん!」

 

リーネは助けを懸命に求める。

 

「いっ…きゃっ…あっ…」

 

ペリーヌは箒が上下に動き、体がそれにガクガクと揺さぶられる。二人は昨日からあまり変わった様子が無かった。

 

「やれやれ…」

 

アンナはそう言って溜息を吐いた後、もう一人のウィッチを見た。

 

「…!」

 

リーネとペリーヌが箒に遊ばれている中、宮藤は懸命にバランスをとると、ゆっくりとだが飛行をしていく。

その様子には、アンナも少し感心した。

 

「おや、随分良くなったじゃないか」

「あ、ありがとうございます…!」

 

アンナの言葉に宮藤は答えるが、それでもまだ余裕がなかった。

何故宮藤は急に上手くなったのか。それは昨夜にあった。

 

 

 

「箒と共に?」

「う~ん、なんていうかね。箒に跨って乗るんじゃなくて、箒と一緒に飛ぶイメージかな」

 

宮藤は疑問に思う中、アリシアが説明する。

 

「皆は箒に跨って浮くイメージがあるけど、そうじゃなくて箒と一緒に飛ぶの。箒だけじゃなくて、自分も飛ぶイメージで」

 

そう説明するアリシアに、宮藤は考える。確かにあの時は、宮藤は箒に跨って、箒だけが飛ぶイメージがあった。

 

「わかった、明日やってみる!」

 

宮藤がそういうと、アリシアは微笑み返したのだった。

 

 

 

「ちょっと来なさい」

 

そう言って、アンナは全員を呼ぶ。

 

「あんた達全員、魔法力は足りているんだ。足りないのはコントロール。今までは機械がしてくれたものを、自分でコントロールしなくちゃ駄目なんだよ」

 

そう言って、アンナはリーネとペリーヌの箒を持ち上げる。

 

「ひゃっ!?」

「いっ!?」

「痛いのは、箒に体重が掛かってるからだよ。あの子なんか、もうコツを掴み始めてるよ」

 

そう言って、ハンナは宮藤を見る。

 

「いいかい?あんた達はストライカーユニットって機械にずーっと頼ってた。まずそれを忘れて箒と一体化するんだ」

「箒と一体化?」

 

アンナの言葉に、リーネが考える。

 

「箒に乗ろうとするんじゃなく、箒を体の一部だと感じるんだよ」

「体の一部…ですの?」

 

ペリーヌも考える。

 

「そして、自分の足で一歩前に踏み出す。そんなイメージで魔法を込めるんだ。ちゃんとした魔女なら、簡単な事さ」

 

そう言って、アンナは堂々と言う。

その言葉に、リーネとペリーヌ、そしてコツを掴み掛けていた宮藤が考える。すると、三人の魔法力は箒と共に一つとなる。

 

「一歩前へ…」

 

そして、全員が一歩を踏み出した。すると、

 

「やった!飛べた~!」

「私も飛べた!」

「飛べましたわ!」

 

宮藤は先ほどまで掴み掛けていたイメージを完全に掴んだ。他の二人も、今までまともに飛べなかった状態から、こんどはしっかりとイメージを持って飛べるようになる。

三人がちゃんと飛べたことに感激する中、アンナはその様子をしたから見て納得したように微笑んだ。

 

「アンナさん」

「おや、アリシア。もう終わったのかい?」

「はい」

 

アンナの言葉に返事をしながら、アリシアは足元のバケツを見せる。そこには、満載にされた水バケツがあった。

そして、アリシアは空を見る。

 

「皆飛べましたね」

「やっと一人前だよ…全く、あんたに比べたらよっぽど手のかかる子だよ」

 

そう言って、アンナは箒に跨り三人の下へ行った。

 

「いつまで遊んでんだい?さっさと水汲みに行かんと、日が暮れちまうよ!」

「い、言われなくても行きますわ!」

『行ってきまーす!』

 

そう言って、三人は水汲みに向かった。

その様子を見ていたアンナの下に、アリシアが箒に乗ってやって来た。

 

「昨日と全然違いますね」

「あんただろう。あの扶桑の若いのに何か助言したのは」

「駄目ですか?」

 

アンナの質問に特に悪いと思った様子に思わないのか、アリシアは聞き返す。そんなアリシアの様子に、アンナは一つ溜息を吐いてから、井戸に向かった三人の方を再び見る。

その後、三人はアンナから今日のノルマを認められたのだった。




アニメを見ていましたが、あのシーンはなんていいシーンだ、と思いました。そして登場した謎のキャラクター、アリシア。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十五話「衝撃の事実」

第七十五話です。少女の事実が明らかに。


「気持ちいい…」

 

宮藤はそう言う。夕食をとった三人はアンナに言われ、集めた水を入れたお風呂に入っていた。一日の訓練を終えて入る風呂は、心の癒しであった。

 

「でも、もう少しお湯が欲しいね」

「そうだね」

 

宮藤の言葉に、リーネが同調する。お湯は二人の腰当たりまでしかなく、体全体を温めるほどの量は無かった。

その時、宮藤はまだお風呂に入らずに海を見ていたペリーヌに気づく。

 

「あれ?ペリーヌさん入らないの?」

「え?も、勿論入りますわ」

 

宮藤に言われて、ペリーヌもお風呂に入る。しかし、その声はどこか上ずっていた。

 

「ひゃあ!?」

「うわあっ!?」

 

そして、ペリーヌはお風呂に入るが、突然驚きながら思い切りお風呂から出る。その声に宮藤たちも驚いてみると、ペリーヌは股のところを抑えていた。

 

「し、しみる~…」

 

ペリーヌは初日と二日目の最初に箒に股が擦れてしまい、その場所が赤くなっていた。そこにお湯が触れ、彼女に刺激を与えていたのだ。

その様子に、宮藤たちも驚いた様子で見る。

 

「び、びっくりした…」

「大丈夫?ペリーヌさん…」

 

宮藤は純粋に驚き、リーネは心配した様子で見る。

 

「大丈夫?」

 

その時、三人の後ろから声がする。振り返ると、そこには体にタオルを巻いたアリシアが居た。

 

「あ、アリシアちゃん」

 

芳佳がアリシアの名前を呼ぶと、アリシアもお風呂に入る。しかし、リーネとペリーヌは驚いたように見ていた。

アリシアは目元だけでなく、体にも大火傷をしたような痕が残っていたからだ。

アリシアはお風呂に入ると、リーネとペリーヌの方を向いた。

 

「そういえば、まだ宮藤さんのお友達に自己紹介してなかった。私はアリシア」

「えっと、リネット・ビショップです」

「ペリーヌ・クロステルマンですわ」

 

アリシア言葉に、リーネとペリーヌが自己紹介する。

 

「ビショップさんに、クロステルマンさん。よし、覚えた」

「あ、出来ればリーネって呼んでほしいかな…」

「私も、ペリーヌでよろしいですわ」

「分かった、リーネさん、ペリーヌさん」

 

そう言って、アリシアは二人の名前を呼ぶ。しかし、苗字で読んだためリーネとペリーヌは名前でいいと言い、その言葉にアリシアも頷いて返事をした。

そして、リーネはアリシアの体を見ながら聞いた。。

 

「アリシアちゃん、それは…」

「ん?あ、これ?これは…」

 

そう言って、アリシアは自分の火傷の痕を見た。しかし、言いずらいのか少し困ったような表情をして頬を掻く。

リーネとペリーヌはその仕草に、どこか既視感を感じる。しかし、リーネは慌てて両手を振る。

 

「い、いいの。言いずらいなら言わなくても…」

「ううん、大丈夫…ちょっと昔大火傷しちゃってね。その時に血液を殆ど変えるほどの大けがを負っちゃったんだ」

「血液の殆どって…」

 

リーネの謝罪に、アリシアもためらったことを謝り説明した。しかし、その中であまりにも大事なことをサラッと言ったので、三人は驚く。宮藤は医者の生まれであるため、誰よりも衝撃を受けた。

 

「大丈夫、今はほら、この通り」

 

しかし、アリシアはそういうと体を大きく動かす。その様子から、とても不調と言う言葉は似合わなかった。

アリシアの様子を見て、三人も安心したように笑った。その笑顔に、アリシアも笑うのだった。

 

「そういえば、アリシアちゃんの使い魔って鳥?」

「うん、シュヴァルベなんだ」

「シュヴァルベ?」

 

リーネの言葉にアリシアは自慢するように言う。鳥類を使い魔に持つウィッチは航空ウィッチとして比較的優秀になる傾向がある。アリシアの箒の飛行の腕も、それに準ずるものと言える点もある。

しかし、芳香は聞きなれない単語に疑問を浮かべる。そんな宮藤に、アリシアが説明する。

 

「宮藤さんは扶桑出身だよね。扶桑ならツバメって言うかな」

「へ~、燕か~」

 

燕という説明を聞いて、宮藤が理解した。

そして、四人はお風呂から出ると、島と大陸を繋ぐ石橋に来た。橋からは、遠くまで海が広がり、空には地平線の彼方まで星が鏤められていた。

石橋に立っている四人は、夜の優しい風に身を任せる。

 

「いい風…」

「うん。ストライカーが出来る前のウィッチって、皆箒で飛んでたんでしょ?」

「私のお母さんも、昔は箒を使ってたって言ってたよ」

「そうなんだ。私は逆に箒ばかりだったから、ウィッチの使うユニットの方が珍しく感じるな~」

 

芳佳の言葉にリーネが答える。彼女たちにとっては、箒を使うのは珍しいことである。対するアリシアは箒ばかりだった為、ストライカーユニットの方が珍しく感じるのだった。

 

「でも、箒で飛んだくらいでホントに強くなるのかしら…」

 

しかし、ペリーヌはまだ箒で飛ぶことで強くなると言うのに疑問を持っているようだった。

 

「疑り深いねぇ」

 

その時、四人の後ろから声がする。振り返ると、アンナが立っていた。

 

「明日も早いってのに、こんなところで何してんだい」

「橋を見てたんです」

「橋?橋がどうかしたのかい?」

 

宮藤の言葉に、アンナはどういうことだと思う。

しかし、宮藤は一つ気になることがありアンナに質問した。

 

「あの、アンナさんはあんなに上手く箒で飛べるんだから、橋なんかいらないんじゃないかなって」

 

宮藤の言葉に、アンナは少しだけ下を向くと、今度は橋を見て説明をした。

 

「あたしの娘は、魔法が使えなくてね」

「え、娘さん?」

「随分前に嫁に行っちまったけど、年に数回孫を連れて会いに来るんだ…この橋を渡ってね」

 

そう言って、アンナは端に向けていた視線を大陸に変えた。

宮藤はその娘さんが何処に居るのか気になり、アンナに聞いた。

 

「娘さんは何処に居るんですか?」

「ヴェネツィアさ」

 

アンナからの衝撃の告白に、アリシアを除く三人は驚く。ヴェネツィアは現在、ロマーニャ上空に出来た新たな巣によって占領されており、丁度501が任務にあたっている地域であったからだ。

 

「ヴェネツィア…!」

「ネウロイに占領された…!」

「大丈夫だよ。家族全員無事に逃げたって連絡があった。今はこっちに帰って来る途中だよ」

 

しかし、アンナの言葉に三人は安心した表情をする。

 

「良かった…」

「…では、アリシアさんは何故魔法が使えるんですの?」

 

しかし、ペリーヌは一つ疑問が浮かんだ。魔法の使えない母親から生まれた子供は本来魔法が使えない。しかし、アンナの孫にあたるはずのアリシアは魔法を使えるではないか。

 

「おや、聞かなかったのかい?」

「私は、アンナさんの孫じゃないよ」

 

しかし、アンナはアリシアが話していると考え、意外そうな表情をする。そして、アリシアが訳を説明した。

その言葉に、三人はまた驚かされる。

 

「え?じゃあ、なんで…」

「アリシアは少し前、この島で倒れているところを私が助けたんだ。その時は思い切り衰弱していたから、病院まで送るのには苦労したよ…」

「それで、助けてもらったお礼に、私はアンナさんに恩返しとして働いてるの」

 

そう、アリシアはアンナの孫でなく、アンナがこの島で拾ってきた少女だったのだ。衰弱していた彼女を病院まで送り、現地のウィッチの力によって命を繋げた。その恩返しとして、アリシアはアンナの下で共に暮らし、そして手伝いなどをしているのだ。

そして、アリシアは三人の方を向くと謝った。

 

「ごめんね…」

「え?どうして?」

 

突然の謝罪に、宮藤は驚く。しかし、アリシアは続けて訳を言った。

 

「501の人が来るって聞いて、私はあまり自分のことを言わないようにしてたの…」

「え、なんで?」

 

どうしてそんなことをしたのか分からず、リーネが続けて聞く。

しかし、アリシアから放たれた告白は、三人に衝撃を与えるにはとても大きな物だった。

 

「だって…あそこには()()()()()が居るって聞いてたから…」

「お兄ちゃん…えっ?」

「それって!?」

「まさか!?」

 

三人は動揺する。そして宮藤は、アリシアの名前を聞いて、どこかで聞いたことがあると思った。リーネとペリーヌも、彼女の仕草をどこかで見たことがあると感じた。それが今、頭の中ですべてつながった。

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()…お兄ちゃんの名前は、シュミット・リーフェンシュタール」

『っ!!』

 

三人は、まるで頭を思い切り殴られたかのような衝撃を受けた。

 

「シュミットさんの…」

「妹…」

「まさか…ありえませんわ…」

 

三人は動揺する。彼女達には、シュミットの妹がこの世界に居るなんて想像がつかなかった。

しかし、宮藤だけはすぐに彼女がシュミットの妹だと納得できた。

 

「そうだ…思い出した」

「え?」

「前にシュミットさんに聞いたの…前の世界の空襲で、大事な妹を失ったって。その空襲で血液を殆ど変えたことも…その時の名前も、アリシアだった…」

「じゃあ…本当にシュミットさんの妹ですの?」

 

宮藤の言葉に、ペリーヌは信じられないと言った。しかし、彼女が見てきたアリシアの日常的な仕草は、兄であるシュミットとよく似ている部分もあった。そして、先ほど見た体の火傷痕は、空襲で火傷したと考えれば辻褄が合うものだった。

四人の間に、気まずい雰囲気が流れる。宮藤たちは、アリシアに対してどう接したらいいか分からなくなってしまった。

 

「明日は朝から修行だよ。さっさと寝なさい」

 

しかし、その雰囲気を解くように、アンナが全員に言った。その言葉に、四人は解散して、宮藤たちはベッドに入る。しかし、彼女たちはあまりの衝撃になかなか眠ることができなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「初めからこの方法で運べばよかったんだ」

「うん、そうだね」

 

宮藤の言葉に、リーネも頷く。三人は現在、箒に乗りながら協力して水入りたらいを運んでいる。前日に行ったバケツで運ぶ方法よりも、この方が効率的だった。

 

「今日こそはお風呂をいっぱいにしようね」

「うん。肩までつかろうね。ね?ペリーヌさん」

「わ、私はどちらでもいいんですけど…」

 

宮藤は昨日腰までしかなかったお風呂の水に、今日こそは肩まで浸かれるようにしようと張り切っていた。その言葉にリーネは同調しペリーヌに聞くが、ペリーヌは少し答えに困ったように言う。彼女は昨日のことを思うと、あまりお風呂に楽しく入れる様子では無かった。

しかし、三人は昨日のことを思い出す。

 

「でも、ちょっとビックリしたね…」

「え?」

「アリシアちゃんのこと…」

「うん…」

 

宮藤の言葉に、リーネも言う。前の世界で亡くなったはずのシュミットの妹が、この世界に流れてやって来たのだ。それだけでも衝撃的であるが、このことをもし兄であるシュミットが知ったらどうなるだろうか。

 

「…」

 

そして、アリシアも三人の様子を地上から見ていた。昨日のことから、アリシアはどうも三人に接しずらくなっていた。

 

「なにをぼうっとしてるんだい?」

「アンナさん…」

 

アリシアが振り返ると、そこにはアンナが居た。アンナは呆れた様子でアリシアに言った。

 

「そんなに迷ってるなら、行ってきたらどうだい」

「でも…」

 

アリシアの様子に、アンナは501の兄の元へ行けばいいと言う。しかし、アリシアはシュミットに会うのを迷っていた。それは、アリシアの夢にも関係していた。

アリシアは、ウィッチになりたいと思っている。しかし、シュミットが自分の為に軍に志願したことも知っている。そんな兄に、最前線で戦うウィッチになると言ったら、間違いなく止めると考えていたのだ。

再会をしたくても、懸命にその気持ちを抑えるアリシアに、アンナはまた溜息を一つ吐いた。この子はなぜここ一番の決断に欠けるのかと。

アリシアがそんなことを思っている頃、ペリーヌが遠方に光る何かに気づいた。

 

「何あれ?」

 

ペリーヌの声に、リーネと宮藤も見る。

 

「まさか…」

「ネウロイ!」

 

そう、彼女達が見つけたのは、島の方向に向かって飛行するネウロイだった。




というわけで、新たに登場したアリシアは、シュミットの妹でした。え?もう知ってる?何処で漏れたのだ(すっとぼけ)
誤字、脱字報告お待ちしております。


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第七十六話「目指すべき目標とシュミットの涙」

第七十六話です。シュミットも登場します。


「アンナさん大変です!ネウロイがこっちに来ます!」

 

宮藤たちは箒を降りると、急いでネウロイのことを報告した。丁度アンナは501からの連絡を受けていた直後であり、手に持っていた受話器を電話機に戻した。

 

「今あんた達の基地から連絡があったよ」

「誰か出撃してくれたんですか?」

 

リーネが聞く。しかし、アンナは首を横に振った。

 

「基地からの部隊は今から出撃しても間に合わないそうだ…この家はあきらめるしか無いね」

「そんな!」

 

アンナの諦めたような言葉に、宮藤たちはショックを受ける。その時だった。

 

「アンナさん!ネウロイがすぐに迫って来てる!」

「えっ!?」

 

アリシアがやって来て、アンナに言う。その言葉に、宮藤たちが急いで外に向かう。すると、島の外の方で大きな水柱が上がる。全員が見てみると、水柱の奥にはネウロイが迫って来ていた。ネウロイが威嚇に海面を撃ったのだ。

 

「真っ直ぐこっちに向かってきてる!」

「このままじゃ、島も橋も…」

「確実にやられますわね…」

「そんな…」

 

宮藤たちの言葉に、アリシアはショックを受ける。その時、後ろからアンナがやって来る。

 

「あんた達何してるんだい!さっさと逃げるんだよ!」

「ここを見捨てるなんてできません!」

「家族が帰ってくるお家なんですよね」

「それに、この橋が無くなってしまったら、お孫さんたちが帰ってきた時の目印が無くなってしまいますわ」

 

しかし、アンナの言葉に宮藤とリーネ、ペリーヌが言う。そんな三人の言葉に、アンナも思わず思いとどまる。ヴェネツィアから避難してくる家族の為にも、この島と橋が無くては意味がない。

そして、宮藤たち三人は急いでストライカーユニットのところに向かい、ユニットに足を入れた。そして、機関銃を手に持つと、魔法力を流した。

 

「発進!」

 

そして、三人は出撃する。アンナとアリシアは、その様子を下から眺める。彼女たちが現在出来る事は、出撃した三人を見送ることだけだ。

 

「皆…」

「アリシア、よく見ておきな」

「え?」

 

アリシアは心配する中、アンナは突然アリシアに言った。その言葉にアリシアは疑問に思うと、アンナは続けて説明した。

 

「あんたが目指してるウィッチの姿を。そして、あんたが探している答えを」

「…はい!」

 

アンナに言われて、アリシアは一瞬ハッとし、そして返事をした。彼女は、今戦っている三人を見る。

上空では、三人が編隊を組んでネウロイに向かっていた。

 

「私とリーネさんが編隊で攻撃、宮藤さんが援護して」

『了解!』

 

三人の中で一番階級が高いペリーヌが宮藤とリーネに指示を出し、二人は大きく返事をする。

そして、彼女達の機関銃の射程範囲内にネウロイが来る。

 

「攻撃開始!」

 

ペリーヌの合図と共に、三人がネウロイに向かう。ネウロイは三人に向けて攻撃を行うが、それぞれ華麗にビームを回避していく。

まずペリーヌが機関銃をネウロイに向けて撃つ。ネウロイはペリーヌに向けてビームを放とうとするが、宮藤が援護で射撃を行い、ネウロイは宮藤側に攻撃を加えて行く。

しかし、二人が撃ってもネウロイの装甲はあまり削れない。そこで、リーネが一発ネウロイに向けて狙撃を加える。すると、ネウロイの装甲は削れる。しかし、すぐさま削れた部位をネウロイは修復した。

 

「硬い!」

「火力を上げないと破壊できないよ!」

 

ペリーヌとリーネはその硬さに驚く。今まで戦ってきたネウロイとは全く違うその特性は、彼女達を困らせた。

 

「三人で同時に攻撃しよう!」

「でも、三人で編隊攻撃なんて高度なこと…」

 

宮藤が提案するが、リーネは自分たちにそれは難しいと言う。世界的に見ても、ケッテ戦術はタイミングを合わせるのが難しく、熟練のウィッチぐらいしか使うことが無い。

 

「出来るよ!この三人なら絶対できる!」

 

しかし、宮藤は堂々と言う。一緒に訓練をしてきた三人なら、息を合わせることは出来るはずだと。

その言葉に、最初に頷いたのはペリーヌだった。

 

「行きますわよ!」

 

彼女は、宮藤の提案に乗った。どちらにしても、火力をあげないとネウロイは倒せない。それなら、宮藤の言葉を信じることにした。

 

「はい!」

 

そして、リーネもその姿に乗った。この三人ならできると、彼女もどこか確信したのだ。

三人は再びネウロイに向かっていく。ネウロイは今までより激しく攻撃を加えて行くが、三人はその攻撃を回避していき、そしてネウロイの下から上昇して攻撃を加える。

 

「皆の動きが見える!」

「ビームを躱せますわ!」

「箒のおかげだ!」

 

ネウロイの攻撃を避けながら、三人は驚く。501で飛行訓練をしてきた時のような衝突も起きない。それどころか、お互いが動く位置までも読めるようになった。これも全て、アンナの箒の特訓のおかげだった。

その様子は、下から見ていたアリシアも驚いていた。

 

「凄い…」

 

アリシアは、あんなにもスイスイと飛んでいく三人を見て、そう呟く。そして、あのように空を飛べる姿に憧れる。

そして、ネウロイのコアが露出した。

 

「コアが見えた!」

 

リーネが先にコアを確認する。しかし、コアは再生を始めていた。

 

「もう再生が始まってますわ!」

「早くコアを壊さないと!」

「私がやります!」

 

リーネがそう言って射撃姿勢を整えると、ネウロイのコアに向けて対装甲ライフルの引き金を引く。しかし、弾丸はコアの僅か横の場所に命中し、リーネは外してしまう。

その時、ネウロイがリーネに向けてビームを放つ。

 

「危ない!」

 

宮藤が言うが、リーネは静止状態の為回避に移れない。そして、ネウロイの攻撃はリーネの左足のユニット下部を掠る。それにより、リーネのユニットが片方壊れる。

 

「きゃああ!」

「リーネちゃん!」

 

バランスを崩して落ちて行くリーネの元に、宮藤が追いかけて行く。そして、海面すれすれのところで宮藤はキャッチをする。

そして、宮藤はリーネの足の間に自分の体を入れると、リーネの体を支える。ブリタニアで初めて一緒に出撃したときにした、あの体制だ。

 

「嘘ッ!?」

「合体した!?」

 

そのフォーメーションを知らないアリシアとペリーヌは、思わぬ行動に驚く。しかし、宮藤とリーネは互いを信じながらネウロイに向かう。

 

「私のシールドでギリギリまで近づくから、リーネちゃんはコアを狙って!」

「了解!」

 

そして、二人はそのままの体制でネウロイに向かっていく。

 

「もうすぐ島ですわ、急いで!私も援護しますわ!」

 

そう言って、ペリーヌが今度は援護側に向かう。宮藤たちが受ける攻撃を半分、自分の方に持っていく。

そして、リーネを抱えた宮藤とペリーヌがネウロイのコアの位置に攻撃を加えて行く。それにより、再びコアが露出する。

 

「今ですわ!」

「リーネちゃん!」

「はい!」

 

ペリーヌと宮藤の言葉に、リーネが返事をする。そして、リーネの放った弾丸はネウロイに進んでいくと、ネウロイのコアを貫いた。それにより、ネウロイの姿は光の破片へと変わるのだった。

 

「やりましたわ!」

「やったあ!」

「うん!アンナさんの家も橋も守れたね!」

 

上空では、宮藤たち三人が喜ぶ。アンナの家と橋を守る為に力を合わせて倒したネウロイだ。嬉しさも数倍ある。

その様子を、地上で見ていたアリシアは感激を受けていた。自分の目指すウィッチの姿が、あんなにも羨ましく思えた。

 

「凄い…あれがウィッチ…」

「三人とも合格だよ…」

 

アリシアの横では、アンナが上空で喜びを分かち合う三人に微笑みながら合格を言ったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その夜501、ミーナの執務室に居た坂本は、アンナと電話をしていた。部屋には、ミーナの書類仕事を可能な限り手伝っているシュミットもいた。

 

「坂本です。この度はお世話になりました」

『ああ、ぜーんぜん大変じゃなかったよ。誰かさんと違って、ベッドで泣いてたりしなかったしね。へっへっへっ』

 

電話の向こうでは、アンナが笑いながら言う。無論、ベッドで泣いていた誰かさんとは坂本のことであり、坂本は「クソババア…」と、心の中で思ったのだった。

電話の向こうでは子供達の声がしており、アンナの困った声がする。そんなアンナに、坂本は負けじという。

 

「私は泣いてませんよ!アッハッハッハ!」

『静かにおし!聞こえないよ!』

 

しかし、アンナは子供達に手を焼いており、坂本の言葉は聞こえなかった。アンナの声は、机に座っているミーナとシュミットにも聞こえた。

 

『とにかくあれだね』

「はい?」

『中々見込みがあるよ、あの子たちは』

 

電話の向こうのアンナの声に、坂本も微かに笑う。

その時、アンナは何かを思い出したらしく、坂本に言った。

 

『おや、忘れるところだった。あんたの所に男のウィッチがいるだろう』

「え?はい、シュミットのことですね」

 

アンナが言った男のウィッチは、ウィザードのことであり、シュミットだ。坂本は何故そんなことを聞いてきたのかと思った。

 

『そいつと電話を替わってくれないかい?』

「は、はあ…」

 

アンナはそう言って、シュミットに替わるように言った。坂本は訳が分からず、シュミットを呼ぶ。

 

「シュミット」

「ん?はい?」

「お前に変わってほしいそうだ」

「え?私に?」

 

シュミットも自分が呼ばれるとは思わず、坂本に聞き返す。しかし、坂本はうなずくだけであり、それ以上は分かった様子でなかった。

そして、シュミットは受話器を受け取る。

 

「はい、シュミットです」

『おや、あんたかい。丁度来たところだよ。ほれ』

 

そう言って、アンナは誰かに受話器を渡した。シュミットは何のことかと思うが、次に受話器から聞こえた声には、彼の目を大きく開かせるものだった。

 

『お兄ちゃん』

「っ!?」

 

受話器から聞こえた声に、シュミットは固まる。そして、彼は信じられないと言った様子で口をパクパクとさせる。

その様子の変化に、シュミットは動揺した。

 

「お、おまえは…」

『私だよお兄ちゃん。忘れたの?』

「ち、違う…」

「どうしたの?シュミットさん」

 

ミーナも様子がおかしいと感じる。

 

『アリシアだよ』

「っ!?まさか…!?」

 

シュミットは、尚更ありえないと言った顔をする。そして、恐る恐る聞いた。

 

「本当に…アリシアなのか?」

『そうだよ、お兄ちゃん』

「あっ…ああ…」

 

電話の向こうからするアリシアの言葉に、シュミットは崩れる。その様子に、その場にいた者たちは驚く。

 

「シュミット!?」

「シュミットさん!?」

 

急いでシュミットの元に行くが、シュミットは受話器を握ったままへたり込んでいた。

 

「本当に…アリシアなんだよな…」

『もう、そう言ってるじゃん…』

 

再び確認を取るが、受話器の向こうでは呆れたような声がする。しかし、その声はシュミットが聞き間違えるものでは無かった。

そして、シュミットは目から涙をボタボタと流し始める。

 

「アリシア…よかった…アリシアが生きてる…」

 

懸命にシュミットは涙を噛みしめる。しかし、目から零れ落ちる涙は部屋の床を濡らす。

 

『お兄ちゃん…うぅ…大丈夫?』

 

電話の向こうでは、アリシアが心配した様子である。しかし、電話の向こうのアリシアも、涙を流している様子であり、嗚咽するような声がする。

 

『お兄ちゃん…明日、会える?』

「アリシア…」

『お兄ちゃんに会いたい…会って直接、話がしたい…』

 

その言葉に、シュミットは受話器を外してからミーナを見る。ミーナは、困った様子で見ていた。

 

「電話の相手は一体…」

「アリシア…私の妹です」

「なんですって!?」

「バカな!?」

 

シュミットの言葉に、ミーナと坂本は信じられないと言った様子である。別世界から来たシュミット、妹はすでに死んでいることも聞いていたミーナは、尚更信じられなかった。

 

「間違いありません…妹の声…疑った時に怒った声も…妹の物だ…」

 

しかし、シュミットが涙を流しながら、凄く嬉しそうにしている。その姿に、彼女は疑うことはあれど、電話の相手がシュミットの妹なのだと、どこか感じた。

 

「中佐…明日、宮藤たちの元に行かせてください。そして…妹に…」

「わ、分かったわ…」

 

シュミットが懸命にミーナに聞く。その様子に、ミーナも了承した。死んだと思われていた妹が生きている。それだけでも、彼が会いに行く理由になっていた。

 

「アリシア…」

『うん…』

「明日…お前のところに行く」

『本当…?』

「ああ…本当だ…」

 

そう言って、シュミットは涙を流しながら言う。その言葉に、電話の向こうのアリシアも微かに笑った声を出す。

 

『クスッ…じゃあ、明日ね。約束だよ…』

「ああ…約束だ…絶対に会いに行く…」

 

そうして、シュミットは電話を切った。そして、ミーナと坂本の方を向いた。坂本は微笑み、ミーナは優しくシュミットを見る。

 

「中佐…」

「…妹さんによろしく伝えてね?」

「はい…うぅ…」

 

ミーナの言葉に、シュミットは返事をし、そして涙をボロボロと流す。今までこらえてきたものが、彼から溢れた。

そんな様子のシュミットに、ミーナが両腕を広げる。そのミーナに、シュミットは抱き着いた。

 

「うっ…あっ…うあっ…うわああああああああん!!」

 

ミーナに抱かれながら、シュミット大声では泣いた。今まで人前で大泣きなどしなかったシュミットが、今大声で泣いている。妹を失った時の涙は、今こうして嬉しさの涙に変わった。彼の心の中はグチャグチャだった。しかし、ただ一つはっきりしていたのは嬉しさだった。

そんなシュミットに、ミーナは優しく頭を撫でてあげるのだった。




アリシアとシュミット、電話で涙の再会。そして、今まで人前で見せたことのなかった大粒の涙。それを受け止めてあげるミーナ。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十七話「再会」

第七十七話です。どうぞ。


翌日、501基地の食堂。

 

「あ!おはようございます、バルクホルンさん!」

「おはよう、宮藤」

 

最初に来たバルクホルンに、宮藤が挨拶をする。一番早く起きた宮藤が、朝食の準備をしていた。

そして、バルクホルンは出来上がった朝食を受け取っていく。それに続いて、他のウィッチ達も食堂にやって来る。

 

「おはよう」

「おっはよ~、芳佳!」

 

シャーリーとルッキーニが揃ってやって来る。

しかし、全員が席に集まる中、そこにシュミットの姿は無かった。

 

「あれ?シュミットは?」

 

ルッキーニが気になり疑問に思う。それに続いて、他のウィッチもシュミットの席を見る。

 

「そういえば、居ないな」

「いつもは早く起きてくるのにね」

 

皆口々に言う。いつもは食堂の席に居るシュミットが居ないのだ。居ないイメージがあまりなかった。

 

「シュミットさんなら、朝早くから出かけてますよ」

 

しかし、訳を知っている宮藤が言う。

 

「出かけてる?どこに?」

「妹さんのところにです」

「そうか、妹か…」

「妹の所なら…」

 

宮藤が言うので、全員サラッと納得したような反応をする。しかし、しばらくしてから何かがおかしいことに気づく。そして、全員が同じタイミングで衝撃を受けたのだった。

 

『いもうと!!?』

「わっ!?」

 

突然大声を出す皆に、宮藤は驚くのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ここか…」

 

その頃シュミットは、昨日宮藤達が来ていたアンナの島に来ていた。そしてシュミットは走りながら、石橋を渡っていく。目的の人物に会うために。

 

「はぁ…はぁ…」

 

息を切らしながら、シュミットは島にある一軒の家の前に付く。

 

「誰だい!」

 

その時、シュミットの後ろから声がする。シュミットが振り返ると、そこには一人の老婆が箒に乗っていた。

シュミットはあることに気づき、老婆に聞く。

 

「もしかして、アンナ・フェラーラさんですか?」

「そうだよ…おまえさんかい、シュミットって言うのは」

「はい。シュミット・リーフェンシュタールです」

 

シュミットはアンナだと気づくと、自己紹介をする。その様子に、アンナはフンと反応する。

 

「この前来た子らより礼儀がなっとるね」

 

そう言って、アンナは箒から降りる。シュミットは、アンナに聞いた。

 

「あの…アリシアが居るって…」

「ああ、あの子かい。それなら、あんたの後ろにいるよ」

「え?」

 

アンナに言われて、シュミットは思い切り振り返る。そして、目を大きく開いた。

ブロンドの髪に深紫の瞳。線の細い体をした少女は右目には火傷の跡があるが、シュミットはその人物を見間違えることは無かった。

少女は、シュミットの姿を見て信じられないと言った表情をし、そして次に目に涙を浮かべ始めた。

 

「あ…アリシア…」

「お兄ちゃん…」

 

震える声で、互いの名前を呼ぶ。そして、二人は目の前の人物が本物だと悟った。

 

「アリシア!!」

「お兄ちゃん!!」

 

シュミットは走り出した。アリシアも走り出す。互いが無我夢中に相手に向かっていく。

そして、両社は互いの距離の中央で抱き合った。しかし、アリシアのパワーにシュミットは押し倒される。

 

「お兄ちゃん!!お兄ちゃん…!!」

 

アリシアは、シュミットの胸に顔を埋めながら呼ぶ。懸命に涙をこらえるように、アリシアはシュミットを呼ぶ。

 

「アリシア…!!」

 

シュミットも、アリシアをしっかりと抱きしめながら名前を呼ぶ。目からは涙が次々と流れ落ち、地面を濡らしていく。

二人は延々と泣く。シュミットは永遠の別れとなった妹との、奇跡の再会を。アリシアは、別れを告げた兄との願いの再会を。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「気が済んだかい」

「はい。すみません…お見苦しいところを」

「いいってこったい」

 

あの後、長い間泣いていた二人は、そのままほったらかしにしていたアンナの事を思い出し、シュミットは謝罪した。アンナからしたら、突然来た男がアリシアの前で大泣きしているのだから。しかし、アンナはそのことについてとやかく言うことなどなかった。

するとアンナは、そういえばと思いシュミットに話し始めた。

 

「そういえば、あんたは魔法力を持っとったね」

「え?ええ…」

 

そう言って、アンナは箒をシュミットに向けて投げつけた。シュミットはそれを受け取ると、箒を見た後アンナを見た。

 

「これは…」

「ついでだ、あんたの飛行を見せてもらおうじゃないか」

 

そう言って、アンナは腕を組む。シュミットは何のことかと思うが、アリシアが補足する。

 

「箒に跨って、それで飛ぶんだよお兄ちゃん」

「ま、跨る…?」

 

アリシアに説明を受けるが、シュミットは箒をもう一度見る。これで本当に飛べるのかと言うのを考えるが、先ほどアンナに遭った時は箒に乗っていることを思い出した。

シュミットは覚悟を決め、そして箒に跨る。そして、魔法力を内部でコントロールすると、箒と飛ぶ姿をイメージした。

それにより、シュミットは体を僅かに浮かせる。

 

「ほえ~…」

 

アリシアはその姿に感心する。自分が初めて飛んだ時に比べたら、明らかにレベルが違った。しかし、シュミットはこれまで1年以上戦闘をしてきたウィザードだ。これぐらいはまだできて当然である。

 

「ここからだね」

 

そう言って、アンナはシュミットを見る。宮藤たちが来たときは、箒に体重が掛かり負担を掛けていた。その状態では、安定した飛行などできないからだ。

しかし、シュミットはいい意味で期待を裏切った。

 

「よっと」

 

そのまま垂直上昇すると、上空を飛行し始めた。

 

「お兄ちゃん凄い…」

 

アリシアはその姿に驚く。自分でも苦労した飛行を、シュミットは一発でやってのけたのだ。

上空を飛行しながら、シュミットは思う。

 

「ユニットの音がしない分、空気の音が違う…」

 

シュミットは、箒で飛ぶイメージを感じ取りながら、声に出す。いつもは戦闘機やユニットによって飛行していたため、エンジンの音などでここまで鮮明に空気を切り裂く音を感じることは無かった。そのため、この体験はなかなか新鮮だった。

そして、シュミットはあることを頭の中に思い出した。

 

(そうだ!これが出来るなら()()()()

 

その様子を、下からアリシアは見ていた。

 

「凄い…あんなに自由に動けるなんて」

 

シュミットの飛行を見ながら、ずっと同じようなことを言うアリシア。しかし、アンナは何かに気づいた。

 

「…何かやるようだね」

「え?あっ!?」

 

アンナの言葉に何のことかと思うアリシアだが、その光景に思わず声を出す。

なんと、シュミットは今まで跨っていた箒から手を離すと、なんと箒の上に両足を乗せた。そして、そのままの状態から立ち上がる。

余りにも予想外の光景に固まるアリシアだが、シュミットはそのまま立った状態で飛行をする。まるで、箒と一つになったかのように。

そして、シュミットは島の上を周回する。そして、再び地上に戻ってきた。アリシアは、シュミットの下に行く。

 

「ふう、どうだった?」

「どうもこうも、なによあれ!?」

 

アリシアはあり得ないといった様子でシュミットに問う。初めて箒に乗った人が、いきなり立ち乗りなど行うこと自体があり得ないことであった。

シュミットはシュミットで、自分が昔読んだ本に出てきた魔法使いがしていた飛び方をやろうと思い、そして成功させただけである。しかし、内心ではシュミットも失敗するんじゃないかと冷や冷やしていたのだった。

 

「驚いたね。あんたは随分コントロールとバランスが良いようだね」

 

アンナもあそこまでシュミットが自由自在に飛べると思わず、驚いた様子だった。

 

「合格ですか?」

「文句なしだよ、あんたは」

「お兄ちゃん凄い!」

 

シュミットが聞くと、アンナは合格を言い渡した。誰が見ても、先ほどの飛行は合格をくれていただろう。そして、別の声がする。

シュミットが声の下方向を見ると、そこには子供が居た。それは、アンナの下に避難してきた娘の子――つまりアンナの孫だった。どうやら先ほどの飛行をこの事たちは見ていたようだ。子供たちは目を輝かしてシュミットを見る。そんな子供達に、シュミットは照れたように頬を掻く。

そんな中、アリシアは少ししょんぼりとした様子だった。

 

「凄いなあ…私もお兄ちゃんみたいになれるかなぁ…」

「ん?」

 

アリシアの言葉が気になり、シュミットは反応する。

 

「兄ちゃんみたいにか?」

「うん…」

「どういう意味だ?」

 

もう一度聞くと、アリシアは返事をする。シュミットはどういう訳か分からずにアリシアに聞く。すると、アリシアはどこか言いずらそうな複雑な表情をした。

そんなアリシアに、シュミットが聞く。

 

「…言えないことなのか?」

「えーと、その…」

 

シュミットが聞くが、アリシアは言いずらそうにする。

そんなアリシアを見て、シュミットは優しく微笑むと言った。

 

「言いずらいなら、無理に言わなくていい。だけど、悩み事とかなら、一人じゃなくて誰かにも相談を受けることも大切だ。思いはしっかりぶつけないと伝わらない」

「え?」

「兄ちゃんは信用できない?」

「そんなんじゃない!」

 

シュミットの言葉に、アリシアは全力で否定する。その言葉に、アリシアは決心した。

 

「その…私がウィッチになるって言ったら、お兄ちゃんは怒る?」

「…」

 

アリシアは、シュミットに聞く。ウィッチになるということは、命を懸けて戦うという意味と同義でもある。

シュミットはアリシアの言葉を聞くと、黙ったままになる。周りの空気は静かになり、アリシアもそんな空気に居心地が悪くなる。

 

「何故、ウィッチになりたいんだ?」

「それは…」

 

シュミットの言葉に、アリシアも僅かに言いずらくする。しかし、思いはぶつけないと伝わらないと言ったのはシュミットだ。彼女は意を決して言った。

 

「私は、自分の持つ力を使って救える命を救いたい。私を助けてくれたウィッチやアンナさんの為にも、このままじっと守られる側じゃなく、守る側に立って皆を守りたいの!お兄ちゃんが戦うみたいに!」

「…」

 

アリシアは大声で、シュミットに主張した。そんなアリシアをシュミットはじっと睨んだまま、腕を組み静かにしている。

数秒の時が流れた。そして、シュミットは息を一つ吐くと、アリシアに言う。

 

「ウィッチになることは簡単じゃない。お兄ちゃんだってそうだったし、何回も命を落とす場面に遭遇した。それでも、お前の決心は変わらないか?」

「…危険なことは分かってる。でも、それを覚悟の上で私はウィッチになる!」

「そうか…」

 

そう言って、シュミットは振り返り、少し歩く。そして、アリシアに背を向けたまま言った。

 

「…ノイエ・カールスラント」

「え?」

「お前が技術を磨きたいなら、まずは基礎から整えることが大切だ。誰だって最初は、基本が肝心だ。ウィッチになりたいなら、基礎をしっかりと学んで来い。支援は私がやってやる」

 

シュミットの言葉に、アリシアは目を見開いて驚く。危険なウィッチになることに、シュミットが反対するんじゃないかと思っていたからだ。

そして、シュミットは背を向けた状態から振り返り、アリシアの方を見る。そこには、優しくアリシアの方を見ているシュミットの姿があった。

 

「兄ちゃんだって、アリシアが心配だ。心配で心配で…命を落とすようなことに、あまり首を突っ込んでほしくないとも思ってる。だけど、アリシアが決意して決めたことなら、兄ちゃんはそれを否定などしない」

「お兄ちゃん…」

「ちゃんと決意したんだ。違うか?」

「ううん。違わない」

「だったら、その決意をしっかり通して、そして兄ちゃんに示してくれ。いいな?」

 

そう言って、シュミットはアリシアの頭を撫でた。撫でられたアリシアは、シュミットの方を見て、しっかりと返事をした。

 

「うん!お兄ちゃん!」

「よし!いい返事だ」

 

アリシアの返事に、シュミットも納得したように微笑む。もうアリシアに、迷いなどは無かった。彼女は、夢の為に完全に決意を固めたのだった。

そうだ、とアリシアは思い出したようにシュミットに行った。

 

「そう言えばお兄ちゃん。恋人さんがいるんだって?」

「え?」

 

突然の言葉に、シュミットは思わず固まる。そして、誰から聞いたかをアリシアに聞いた。

 

「だ、誰から聞いた…?」

「宮藤さん」

「は、ははは…」

 

宮藤から聞いたというアリシアの言葉に、シュミットは顔を赤くしながら頬を掻いて照れるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「んで、シュミットは妹の夢を後押ししたんだ」

「ああ」

 

ハルトマンの言葉に、シュミットが返事をする。

夕方に帰ってきたシュミットを待っていたのは、事情を知らないメンバーによる質問攻めだった。シュミットはそれを一人一人に説明をしていくと、気が付けば時刻は夜になっていた。

 

「しっかし妹に再会するなんて、お前の親友のことといい、ここはお前達にとってのあの世なのか?」

「あの世って…」

 

シャーリーの言葉にシュミットは思わず苦笑いするしかできなかった。確かにシャーリーの言葉も間違っていないのだから、反論もできない。

 

「今度、その妹さんに会ってもいいですか?」

「ああ、アリシアも会いたいと言ってた」

「さ、サーニャが行くなら私も行くぞ!」

 

サーニャは一度アリシアに会いたいようだ。サーニャの言葉に、エイラも会いに行くという。尤も、彼女はサーニャについていく形のようだが。

その様子を離れて見ていた、ミーナと坂本。

 

「…変わったわね」

「何がだ?ミーナ」

 

突然のミーナの言葉に、坂本が聞いてくる。その言葉にミーナはため息を一つ吐くと、説明した。

 

「シュミットさんがよく笑うようになったってことよ」

 

そう言って、ミーナはシュミットを見る。シュミットはみんなと会話しながら、ずっと笑顔だった。日常的な会話で、あそこまで笑っているシュミットの姿など無かった。アリシアとの再会が、彼の心の奥底に眠っていた鎖を解いたようだ。

しかし、ここで思わぬことが起きた。

 

「アリシアは、世界で一番自慢の妹だ」

 

と、シュミットが言った。今までそういったことを言わなかったシュミットが、まさかそんな事を言うとは思わなかったため、周りは驚く。

しかし、ここで()()という言葉に反応した人が居た。

 

「何を言うかと思えば、一番自慢の妹はクリスに決まってる」

 

と、バルクホルンが言った。ハルトマンとミーナはまただといった様子であるが、その言葉にシュミットが反応した。

 

「いや、一番はアリシアだ。これは譲らない」

「何を言う!一番はクリスだ!」

「アリシアだ」

「クリスだ!」

 

と、言いあってるうちにいつの間にか睨み合いになっていた。その様子に周りのみんなはオドオドするが、ハルトマンだけが違った。

 

「うわあ…妹自慢がま~た増えたよ…」

 

予想外の伏兵にハルトマンはそう感想を零すのだった。




昨日は用事があり投稿できませんでした。アリシアとの再会。シュミットの心情は複雑ですが、二十七話で言ってたように、相手が決意したことならちゃんと考えてあげるんです。そして、やっぱりシスコンになりましたね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十八話「ジェットストライカー Me262」

続けて投稿します。少し時間がずれました。どうぞ!


501の格納庫内に爆音が響き渡る。その音は基地の外にも聞こえるほど巨大なものだった。

格納庫内では現在、その爆音とともに強風も吹き荒れていた。風により照明は揺れ、室内の塵などは風に舞い上がっていた。

そして、その原因となる人物が格納庫の中央に居た。

 

「よーしよし!今日も絶好調だな、私のマーリンエンジンは」

 

シャーリーはそう言って、自分の履いているユニットP-51を見る。彼女のユニットは高回転でエンジンを回すと同時に、周囲に轟音と暴風を噴き荒らしていた。

 

「シャーロット・イェーガー大尉!」

「ん?」

 

その時、シャーリーを呼ぶ声がする。声の下方向を見ると、そこにはバルクホルンが両腕を腰に当てて立っていた。

 

「そんな恰好で何をやっている」

「何って…エンジンテストだけど?」

 

バルクホルンが聞くが、シャーリーは見たまんまだと言わんばかりに答える。しかし、シャーリーの今の格好は下着のみである。その恰好をバルクホルンが許せなかった。

 

「そうじゃない!今は戦闘待機中だぞ。ネウロイが来たらどうするつもりだ」

「だって、ハンガーの中でエンジン回すと熱いじゃん。ほら、あっちも」

 

そう言ってシャーリーは指差す。バルクホルンがその方向を見ると、格納庫の鉄骨の上に眠るルッキーニが居た。彼女もまた、シャーリーと同様に下着姿である。

 

「あちい…」

「全く、お前たちはいつもいつも…」

 

その様子に、バルクホルンは小言を言う。しかし、シャーリーは何かを見つけると顔をにやけさせ、バルクホルンに言った。

 

「へぇ~、カールスラント人は規則に厳しいってか?どうなんだ、ハルトマン?」

「あっつ~…」

 

シャーリーが言うと、バルクホルンの後ろで声がする。バルクホルンが振り返ると、そこにはハルトマンが居た。しかし、彼女の姿もシャーリーのように、最低限の物しかなかった。

その様子にバルクホルンが驚きながら言う。

 

「ハルトマン!?お前まで!?くぅ~…それでもカールスラント軍人か!」

「え?そうだけど?」

「あっはははははは!」

 

ハルトマンは当たり前だといった様子で言うので、バルクホルンはそんなハルトマンを睨む。その様子を見て、シャーリーは大声で笑うのだった。

 

「暑いな…」

 

その時、シュミットも格納庫に入って来る。彼は格好こそまともであるが、格納庫内にこもった熱にうんざりとした様子だった。

バルクホルンはちょうどいいといった様子でシュミットに言う。

 

「シュミット!」

「ん?」

「こいつらにも何か言ってやってくれ。隊の規律が乱れて仕方がない」

 

そう言って、シャーリー達の方を見るバルクホルン。それにつられてシュミットも見ると、納得をした様子だった。

 

「暑いから服を脱いだ…ってことかシャーリー?」

「おうシュミット、この堅物軍人に何か言ってやれ。この暑さで服なんか着てたら、それでこそいざというときに動けなくなる」

「規律を守れと言ってるんだ!もしこの時にネウロイが来たらどうするつもりだ?」

 

と、シャーリーとバルクホルンはヒートアップしていく。その様子を、シュミットは「またか…」といった様子で見ることしかできなかった。どちらの言うことも正しいから、彼はこの場は時の流れに任せることにしたのだ。

その時、格納庫の入り口から数名の兵士たちが入って来る。彼らは何か荷物を持ってきた様子で運んでいる。それと同時に、ミーナと坂本も入って来る。

そして、兵士たちの運んできたものは、ユニットの固定台に乗っていた。

 

「ほう…これがカールスラントの最新型か」

「正確には試作機ね」

 

坂本はそこに固定されたユニットを見て言い、ミーナが補足する。そこには、全体を赤く塗られたユニットがあった。

そして、ミーナは手元の資料を読みながら続けて説明した。

 

「Me262V1、ジェットストライカーよ」

「ジェット?」

「ハルトマン中尉」

「どうしたんだ?その恰好」

 

ジェットという言葉に、ハルトマンが反応する。しかし、ミーナと坂本はハルトマンの格好を見て驚く。

 

「こら、ハルトマン!服を着ろ服を…ん?」

 

と、バルクホルンがハルトマンに注意をするが、バルクホルンも目の前に固定されたジェットストライカーに気づく。

 

「なんだこれは?」

「ジェットストライカーだって」

「ジェット!?研究中だったあれか!?」

 

ハルトマンの説明に、バルクホルンは思い当たるものがあるようで反応した。シュミットもユニットを見る。

ユニットは、通常エンジンのある位置とは違い、翼の部分に魔導ジェットエンジンが搭載されていた。その姿を見て「シュヴァルベと同じ形状なんだな…」とシュミットは思った。

 

「今朝、ノイエ・カールスラントから届いたの。エンジン出力はレシプロストライカーの数倍、最高速度は時速950キロ以上、とあるわ」

「950!?凄いじゃないか!」

 

ミーナの説明に、シャーリーが反応した。950キロなどという速度は、今まで使われてきたレシプロストライカーでなかなか出すことのできなかった速度だ。

 

「んで、そっちのは何だ?」

 

シュミットは横に並べてあるものが気になり聞く。そこには4つの大型機関砲と、戦車砲のようなものが置かれていた。

 

「ジェットストライカー専用に開発された武装よ。50ミリカノン砲一門、他に30ミリ機関砲四門」

「凄い!」

「そんなに持って、本当に飛べるのか?」

 

ミーナの説明にバルクホルンが目を輝かせるが、坂本はそんな武装を実際に持っていけるのかと疑問に思う。

その時、シャーリーがジェットストライカーの前に立ちながらミーナに話しかけた。

 

「なあなあ!これ私に履かせてくれよ!」

「いいや、私が履こう!」

 

しかし、そのシャーリーの言葉に待ったをかけたようにバルクホルンが言った。

 

「なんだよ、お前のじゃないだろ?」

「何を言っている。カールスラント製のこの機体は、私が履くべきだ」

「国なんか関係ないだろ。950キロだぞ?超音速の世界を知っている私が履くべきだ」

「お前の頭の中はスピードのことしかないのか?」

 

シャーリーとバルクホルンの言い合いはヒートアップしていく。その様子を、ミーナたちは呆れたように見る。

 

「また始まったわ…」

「しょうもない奴だ…」

「喧嘩好きだね全く…」

 

と、それぞれが言う。しかし、ミーナはシュミットに聞いた。

 

「シュミットさんはどう?」

「え?」

「履いてみたいとは思わないの?一応前の世界でもジェット戦闘機を見たことがあるのでしょう?」

 

ミーナに聞かれるシュミットだが、彼は特にジェットに対しての頓着が無かった。

 

「前の世界でもジェットは見たことないんですよね…それに、私はDo335のテストパイロットですから、そっちを放り出すわけにはいかないですから」

 

と、シュミットは特に乗る気は無いようだ。

その時、鉄骨の上で寝ていたルッキーニが飛び出した。

 

「いっちばーん!」

「あっ、おい!」

「ずるいぞルッキーニ!」

 

ルッキーニは上空を舞うと、今まさに二人が取り合いをしていたジェットストライカーに足を入れた。その様子にはシャーリーとバルクホルンも驚くが、ルッキーニはそのまま魔道エンジンに魔法力を流し始めた。

 

「へへーん、早い者勝ちだも~ん!」

 

そう言いながら、ユニットのエンジンは回転数を増していく。格納庫内に先ほど以上の轟音が響き渡るその様子を、全員が見守っていた。

 

「ぴぎゃー!?」

 

しかし、突然ルッキーニが跳ね上がった。彼女はユニットから足を離すと、そのまま固定台に体をぶつける。しかし、ルッキーニはそんな事を気にしていないのか、突然なりふり構わず走り出した。そして、ルッキーニはシャーリーのユニットの固定台の裏に隠れる。

 

「ルッキーニ!?どうしたんだよ?」

 

シャーリーがルッキーニの下に行くと、ルッキーニは震えていた。

 

「なんかビビビッて来た!」

「ビビビ?」

「あれ嫌い…シャーリー、履かないで…」

 

そう言って、ルッキーニはシャーリーを見る。シャーリーはルッキーニが怯えながら目で何かを訴えかけているように見えた。

 

「やっぱ私はパスするよ」

「何?」

「考えてみたら、まだレシプロでやり残したことがあるしさ。ジェットを履くのはそれからでも遅くはないさ」

「フッ、怖気づいたな。まあ見ていろ…」

 

シャーリーの言葉にバルクホルンが自慢げに言う。

 

「私が履く」

 

そして、バルクホルンはジェットストライカーに足を入れた。そして、魔法力を流し始める。

 

「凄い…」

 

一瞬にして、バルクホルンはジェットストライカーの力を感じる。けたたましい音の中に感じる不思議なエネルギーは、バルクホルンを納得させるに十分だった。

その様子を格納庫に居たものが全員見るが、ルッキーニだけが嫌そうに見ていた。そして、バルクホルンは言った。

 

「どうだ?今までのレシプロストライカーでこいつに勝てると思うか?」

「なんだと!?」

 

バルクホルンの煽りにシャーリーが反応する。

 

「みなさーん!こんなところに居たんですか…あれ?」

「朝ごはんの支度が出来ましたよ~…?」

 

と、朝食の支度を終えた宮藤とリーネがやって来る。しかし、どうも様子がおかしいということに二人は気づく。

 

「いい年してはしゃぐなよ。新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいだぞ」

「負け惜しみか?みっともないぞ」

「気が変わっただけだ。私はこれでいいんだよ」

「勝手気ままなリベリアンめ!」

「なんだと!?この堅物軍人バカ!」

 

その間にも、シャーリーとバルクホルンの言い合いはヒートアップしていく。

この場をどうにかして押さえないといけないと思い、シュミットはある名案が浮かぶ。

 

「そこまで言うんだったら、勝負したらどうだ」

「なに?」

「勝負?」

 

突拍子もない案に二人は止まるが、シュミットが続けて言う。

 

「バルクホルンはジェットで、シャーリーがレシプロで戦えばいい。そうすれば、白黒はっきりするはずだ。ついでに、ジェットの性能を図ることもできる」

「面白い」

「いいだろう」

 

シュミットの説明にどうやら納得したようだ。これなら揉めているのも白黒はっきりとするし、ジェットストライカーの性能テストにだって出来る。

そして、二人は勝負を始めるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

格納庫内に二つのエンジン音が響き渡る。一つはバルクホルンの履いているジェットストライカーの物、もう一

つはシャーリーが履いているレシプロストライカーの音だ。

そして、二人は同時に固定台からユニットを離すと、離陸をした。

 

「一体何の騒ぎですの?」

 

騒ぎを聞きつけてきたペリーヌが宮藤たちに聞く。ペリーヌからしたら謎のユニットを履いたバルクホルンが離陸をしていき、それをシャーリーが追いかけているようにしか見えていた。

 

「バルクホルンさんとシャーリーさんが勝負してるんです」

「最初は上昇勝負だよ!頑張れ、シャーリー!」

 

そんなペリーヌにリーネが説明をし、そしてルッキーニが続けて言う。最初に行うのは上昇力のテスト、どちらのユニットがより早く、より高く上がれるかを競うのだ。

 

「そりゃああああ!」

「ぐう…!」

 

バルクホルンは雄たけびを上げながら上昇していく。一方のシャーリーも上昇速度では負けておらず、バルクホルンに並んで登っていく。

しかし、高度12000メートルに差し掛かった時、シャーリーのユニットが息を吹いた。

 

「くっ…!」

 

シャーリーはユニットを見た後、今度は上を見る。そこには、グイグイと高度を上げていくバルクホルンの姿があった。

 

「シャーリーさん、12000メートルで上昇が止まりました。バルクホルンさん、まだ登ってます。凄い…」

「ありがとう、サーニャ」

「ほぇ~…」

 

その様子をサーニャが報告をし、シュミットがお礼を言って手元にある紙に書いていく。サーニャの魔導針であれば正確な高度が測れると思い、シュミットが頼んだのだ。そして横にいるエイラはずっと上昇をしていくバルクホルンを見て気の抜けた声を出す。

上昇力テストの結果、シャーリーのP-51は12000メートル、バルクホルンのMe262は高度13000メートルまで上昇し、バルクホルンの白星となったのだった。




Me262の高度は、シャーリーより上昇したという点から13000メートルにしました。史実とは違いますがご了承ください。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第七十九話「邪悪なユニット」

第七十九話です。前回が丁度80話目だったんですね。ではどうぞ!


「てい」

「あっ!」

「へへ~ん、勝った勝った」

「負けた腹いせか?みっともないぞ大尉」

 

バルクホルンが取ろうとしていたじゃがいもをフォークで横取りしながらシャーリーが挑発する。しかしバルクホルンはそれが負けた腹いせかといった様子で別のじゃがいもをフォークで刺す。

 

「シャーリー、次は頑張ってね!」

「おう!任せとけって!」

 

そんなシャーリーにルッキーニが応援をし、シャーリーが応える。上昇力テストで負けたシャーリーのことを思って、ルッキーニはシャーリーに頑張ってもらおうと思っていた。

そして、午後の部で再び二人はユニットを履いた。

 

「そんなにいっぱい持って飛べるんですか?」

 

次の勝負を行うシャーリーの格好を見て、宮藤が聞く。現在のシャーリーは手にM1918を持ち、体にはその予備弾倉を10個以上ぶら下げている。いつもより明らかに多い量の弾薬を持っていた。

しかし、シャーリーは宮藤の方を見ると笑いながら言った。

 

「私のP-51は万能ユニットだからな、いざとなればどんな状況にだって対応できるんだ」

 

シャーリーの言う通り、ノースリベリオンのP-51はマーリンエンジンを搭載した高性能機である。そしてシャーリーの使うD型は、その中でも使用目的に合わせたセットアップが即座に出来る万能型であった。

 

「今度は何ですの?」

「搭載量勝負だそうです。重いものをどれだけ持てるかを競うんです」

 

ペリーヌが再び聞き、リーネが答える。次の勝負内容は搭載量を競い合うものであり、いかにどれだけの物を持ち、そして性能を落とさずに目標を撃ち落とせるかといったものだ。

しかし、ペリーヌはシャーリーに向けて言う。

 

「それよりシャーリーさんは、胸の搭載量を減らした方がよろしいんじゃなくって?」

 

と、ペリーヌが皮肉る。その言葉にはシャーリーではなく、何故か宮藤とリーネが反応した。

 

「待たせたな」

 

その時、反対方向からバルクホルンの声がする。見てみると、ジェットストライカーを履きながら武装を持っていた。しかし、両手にMk108機関砲4門を持ち、なんと背中には50ミリカノン砲を背負っているではないか。これだけでも、シャーリーとの搭載量の違いを見せつけていた。

 

「だ、大丈夫ですかバルクホルンさん!?」

「フッ、問題ない」

「おいおい、そんなんで飛べるわけないだろ」

 

宮藤が驚きながらバルクホルンに聞くが、バルクホルンは問題ないと言う。しかし、シャーリーからしてみても武装が多く、ジェットの力があろうと飛べるわけがないと言う。

 

「嘘だろ…」

 

しかし、現実は違った。離陸をすると余りにも多い搭載量をもろともせずにバルクホルンは飛んでいくではないか。圧倒的な速さで飛んでいくその姿にはシャーリーも度肝を抜かれた。

 

「目標を確認!」

 

そしてバルクホルンは浮いているバルーンを見つけると、30ミリ機関砲を構える。そこから放たれた弾丸は、一瞬にしてバルーンを爆発させた。今までの機関銃とは圧倒的に違った火力だった。

 

(凄い…凄いぞこのジェットストライカーは!)

 

バルクホルンはジェットストライカーの底力に顔を輝かせる。今まで履いたどののユニットよりも素晴らしいと感じたのだ。

 

「マジかよ…」

 

その様子を、シャーリーはただ茫然と見ていることしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ん~、私は料理のことはよくわからないけど、宮藤の作る料理は美味いな」

 

と、シャーリーが言う。一通りのテストを終えた一同は、宮藤たちが作った肉じゃがを食べていた。シャーリーの向かい側ではルッキーニが美味しそうに口を動かしている。

 

「これ、魚のダシか?」

「カツオです。ありがとうございます!」

「うん、美味…」

「美味しい…」

 

シャーリーが聞くと、宮藤が答える。肉じゃがはカツオだしを使って作ったようであり、皆に好評だった。

しかし、ペリーヌは一つ不満な点があった。

 

「それにしても…どうしてこんな油臭いところで食事することになるのかしら…」

「食べながら文句言うナ」

 

ペリーヌの言葉をエイラが注意する。そう、現在食事を取っているところはハンガーであり、食堂では無かった。

しかし、これには理由があった。

 

「芳香ちゃん、バルクホルンさんとシャーリーさんが心配なんですよ」

「私にできることはこのぐらいだから」

 

そう、ここで食べようと考えたのは宮藤だった。宮藤は勝負をするバルクホルンとシャーリーのことが心配になり、自分ができることは何か無いかと考えた結果、ここで食事することになった。

 

「ほら!お腹がすくと怒りっぽくなるって言うじゃないですか」

「そうでしたっけ?」

「そう言えば、前に誰かが『腹が減っては戦は出来ない』って言ってたな」

 

宮藤の言葉にペリーヌは疑問に思うが、シュミットはなんとなく納得した。

しかしそんな中、夕食に手を付けてないものがいた。

 

「あの、バルクホルンさんもお疲れじゃないですか?」

「あ、ああ…そこに置いといてくれ…今は、少し休みたいんだ…」

 

宮藤はユニットの固定台の所に座っているバルクホルンに食事を持っていく。しかし、バルクホルンは宮藤に置いといてくれと、力なく言った。よく見ると、顔もどこか疲れた表情をしていた。

 

「…」

「ん?どうした?」

「…いや」

 

シュミットはそんなバルクホルンの様子が気になり見る。しかし、シャーリーがそんなシュミットに聞いてきたので、彼ははぐらかしながら再び肉じゃがを食べた。

 

(…気のせい、か?)

 

しかし、彼の中ではまだ疑問な点があったのだった。

そして、食事を取ったシャーリー達はお風呂に入る。

 

「いやー、ドラム缶が風呂になるなんて大発見だなぁ」

「坂本さんがリバウに居た頃はよく使ったそうですよ」

 

シャーリーがドラム缶風呂に入りながら言う。基地の風呂はまだ完成しておらず、シャワーのみである。そこで、ドラム缶に水を入れて下から火を焚き、ドラム缶風呂を使って湯浴みをしていたのだ。

その時、ルッキーニが宮藤の入っていたドラム缶風呂に飛び込んだ。

 

「うりゃー!」

「うわっ!?ルッキーニちゃん、定員オーバーって、うわっ!?」

「あっははは!こっちは私一人でいっぱいだからな」

 

じゃれるルッキーニと慌てる宮藤の姿を見ながら、シャーリーは自分の胸を揺らして言う。

そしてしばらくゆっくりと入っているとき、宮藤は一つ思うことがあった。

 

「バルクホルンさんも入ればいいのに…」

「ほっときゃいいさ」

「なんだか、今日はいつもより疲れていたみたいですよね…」

 

宮藤はバルクホルンもお風呂に入ればいいのにと思う。シャーリーはあんな奴ほっとけといった様子で言うが、宮藤はバルクホルンの表情が凄く疲れているように見えたため、お風呂に入れば疲れもとれるのではと思っていた。

 

「きっとあいつのせいだよ!」

 

そんな中、宮藤と一緒に入っていたルッキーニが言う。しかし、宮藤は何のことを言っているのか分からずにルッキーニに聞く。

 

「え、誰?」

「あのガアーッ!ってやつ!」

「え?ジェットストライカーのこと?」

「そう!」

 

宮藤の言葉にルッキーニがそれだと言う。しかし、宮藤はジェットストライカーが原因だとはあまりピンとこなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日、上空ではシャーリーとバルクホルンが横一列に並びながらホバリングしている。

 

「位置について…」

 

さらにその横では、ルッキーニが手に旗を持ちながら構える。

 

「よーい、どーん!」

 

そして、旗を思い切り振り下ろした。それと同時に、シャーリーが加速をしていく。

今日行われたテストは、加速力と最高速度のテストであり、同時にスタートをしてどれだけの速度を出せるかを競うものである。

 

「あれ?バルクホルン?どーん!どーんだってば!」

 

しかし勢いよくスタートしたシャーリーに対し、バルクホルンは目を瞑ったままスタートしない。ルッキーニは再びバルクホルンに向けて聞こえるように旗を振った。

しかし、バルクホルンはジェットストライカーの魔道エンジンの回転数が上がった瞬間、まるでカタパルトから打ち出されたかの如きスピードでスタートした。

 

「ひぎゃあ!?」

 

バルクホルンの起こした爆風はそばにいたルッキーニを吹き飛ばした。しかし、バルクホルンはそのことを気にせずにシャーリーに接近していく。

 

「なっ!?」

 

そして、あっさりとシャーリーを追い抜いた。

 

(凄いぞ…まるで天使に後押しされているみたいだ!)

 

バルクホルンは飛行しながら、今の現状を思った。ジェットストライカーの力は、今までバルクホルンの感じたことのないほど魅力的なものだった。

 

「あ、あたしがスピードで負けるなんて…」

 

一方シャーリーは、今起きたことが夢かと感じた。部隊最速、世界で見ても最速と自負するシャーリーが、スピード勝負で負けたのだ。自分の前を許したことのないシャーリーからしたら、このような経験は初めてだった。

 

「ん?なんだ?」

 

しかし、前方に通り過ぎていったバルクホルンを見ていたシャーリーはふと、様子がおかしいことに気づいた。バルクホルンの飛行が突然、不規則になったのだ。突然上昇しては降下し、右へ左へ飛んでいる。そしてついには、彼女は海面に墜落した。

 

「あっ!?」

「落ちた…!?」

「バルクホルンさん!」

 

それを見ていた者たちは、ただ驚くしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

海から引き揚げられたバルクホルンは、医務室に運ばれる。メンバーはバルクホルンのことが心配になり、全員が医務室に来ていた。ただ一人、シュミットを除いて。

そして、気絶していたバルクホルンは目を薄っすらと明けた。

 

「あ、起きた」

 

最初に気づいたのはハルトマンだった。ハルトマンの言葉につられ、他のウィッチ達もバルクホルンを見る。バルクホルンの顔は、疲労したようにやつれていた。

しかし、バルクホルンは、なぜみんなが自分を見ているのか気になり質問した。

 

「どうした皆…私の顔に、何かついてるのか…?」

「バルクホルンさん!よかった…」

 

最初に安堵の声を漏らしたのは宮藤だった。しかし、バルクホルンは何のことかわからない様子だった。

 

「一体、何が…」

「トゥルーデ、海に落っこちたんだよ」

「私が…落ちただと…?」

 

ハルトマンの衝撃の告白に、バルクホルンは重い瞼を開く。なぜ自分が落ちたのか分からず、ハルトマンの言葉が信じられなかったのだ。

 

「魔法力を完全に使い果たして、気を失ったのよ…覚えてないの?」

「バカな…!?私がそんな初歩的なミスをするはずが無い…」

 

しかし、ミーナが続けて説明すると、バルクホルンはますますあり得ないといった顔でミーナを見た。

だが、坂本はそんな大尉に首を横に振って言った。

 

「大尉のせいじゃない。恐らく原因はジェットストライカーにある」

「はっきりとはわからないけど、魔法力を著しく消耗させてるんじゃないかしら…今、シュミットさんが履いて確認を行っているわ」

 

ミーナが言う通り、今シュミットはバルクホルンの代わりにジェットストライカーを履いていた。彼は今回の原因がジェットにあると考え、原因究明を買って出たのだ。

しかし、バルクホルンは二人の言葉に対して、自分の信念を曲げなかった。

 

「試作機に問題は付き物だ…あのストライカーは素晴らしい。実戦配備するために、まだまだテストを続けなければ…」

「駄目だ」

 

しかし、バルクホルンの言葉は医務室の入り口から聞こえた声に遮られた。全員が見ると、そこにはテストを終えて帰ってきたシュミットが居た。よく見ると、彼は疲弊したような顔をしていた。

 

「どうだった?」

「どうもこうも無いですよ、はっきり言って駄目です。バルクホルン、あのユニットは、飛行中に人を殺しかねない代物だった…」

「何だと…だが…」

「駄目よ」

 

シュミットの言葉にバルクホルンが何かを言おうとする。しかし、そのバルクホルンをミーナは手を握りながら止めた。

 

「貴方の身を危険に晒すわけにはいかないわ。バルクホルン大尉、貴方には当分の間飛行停止の上、自室待機を命じ上げます」

「ミ、ミーナ…」

「これは命令です」

「…了解」

 

ミーナに命令と言われ、バルクホルンはベッドに倒れこみ、そして返事をした。しかし、彼女の表情は弱っていても、どこか諦めきれてない様子だった。

 

「シュミット大尉、貴方も身の安全を考え、バルクホルン大尉と同じ飛行停止にします」

「了解…」

 

ミーナは続けて、ジェットストライカーを使ったシュミットにも同じように命令をする。それに対してシュミットは、バルクホルンのように躊躇うことなく素直に従った。彼からしても、命を削るようなことは御免だった。

そして、ミーナは医務室に居たウィッチ全員に新たな命令をした。

 

「現時刻をもって、ジェットストライカーの使用を禁止します!」




空飛ぶ棺桶と化したMe262。そして、身を削ってまで原因を追求するシュミット。無論彼もバルクホルンと同じように飛行禁止になりました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十話「堅物なウィッチ」

第八十話です。タイトルが全くと言っていいほど思いつかなかった回です。どうぞ!


翌日、自室待機を命じられたバルクホルンの部屋に来た宮藤とリーネは、目の前の光景を見て驚いた。

 

「あ、あの、バルクホルンさん?」

「何してるんですか…?」

 

バルクホルンとハルトマンの部屋は、ハルトマン側のスペースはごみの山となっており、バルクホルン側は整頓された綺麗ないものとなっていた。そんな中、バルクホルンはなんと自分のスペースの所にある天井の柱に片手で掴まり、なんと懸垂をしているではないか。

そして、質問されたバルクホルンは二人に言った。

 

「トレーニングだ。私が落ちたのは、ジェットストライカーのせいではない。私の力が、足りなかったからだ…」

「えっ!?またあれで飛ぶつもりですか?」

 

衝撃の告白に宮藤が驚く。しかし、バルクホルンはまるで当たり前と言わんばかりに答えた。

 

「当然だ。あのストライカーを使いこなすことができれば、戦局は変わる」

「無駄だ、諦めろ」

 

しかし、そんなバルクホルンの言葉に対して否定した声が聞こえる。宮藤達が部屋の入り口を見ると、そこにはシャーリーが立っていた。

 

「シャーリーさん」

「私を笑いに来たのか、リベリアン…魔法力切れで墜落など、まるで新兵だからな」

 

バルクホルンは、シャーリーがいつものようにからかいに来たのだと思い言った。しかし、シャーリーの表情はいつものような笑顔ではなく、真剣な眼差しでバルクホルンを見ていた。

そして、シャーリーは言った。

 

「隊長やシュミットが言ってただろ!あのストライカーはホントにやばいんだ、飛べなくなるだけじゃ済まないぞ」

「その通りだ」

「あっ、シュミットさん」

 

シャーリーの言葉に同調して、シュミットも現れた。シュミット自身も、あのジェットストライカーがいかに危険なものかを肌で感じていたからこそ、使うことを止めるように言ったのだ。

しかし、バルクホルンはその忠告に折れなかった。

 

「ジェットストライカーの戦闘能力の高さは、お前達だって十分分かっているはずだ。このくらいの危険など…」

「だったら死んでもいいのか!」

 

シャーリーが大声を出して言う。その雰囲気の変化には、宮藤やリーネも思わずビクリとするほど驚いた。

しかし、バルクホルンはトレーニングの手を止めない。

 

「私は、もっと強くならねばならんのだ」

「このわからずやっ!…シュミット?」

 

ついにシャーリーの堪忍袋の緒が切れそうになった。その時、シュミットがシャーリーの横を通り、バルクホルンに向かっていく。

シャーリー達はシュミットの様子を窺う。するとシュミットは、トレーニングで懸垂していたバルクホルンの足をいきなり掴み、そしてバルクホルンを引きずり落した。

 

「なっ!?」

 

突然のことにバルクホルンは手を滑らせ、そして地面に落ちる。そしてシュミットは、バルクホルンが次の行動を起こす前に彼女のシャツを左手で掴んだ。

 

「何をする!」

「ふざけるな!!」

「っ!」

 

シュミットのことを怒鳴りながら見るバルクホルン。しかし、彼から放たれた怒気の言葉は、彼女も思わず固まる。

そしてシュミットは、空いた右手を振りかぶると、そこに拳を作る。宮藤とリーネはシュミットがバルクホルンを殴ると思い、目を伏せる。

しかし、シュミットは振りかぶったその拳を、振り下ろすことは無かった。代わりに、彼は歯を食いしばりながらバルクホルンを見ており、その手は震えていた。

 

「俺に殴らすようなことをさせんじゃねえよ…!」

 

シュミットは震える声で、バルクホルンに言った。彼はバルクホルンを殴ろうとした拳を懸命に理性で止めているのだ。

その時、基地全体にけたたましい音が鳴り響く。ネウロイ発見の警報だ。

 

「あっ、ネウロイだ…」

「ハルトマンさん!?」

「居たんですか!?」

 

なんと、部屋の反対側のゴミの山にハルトマンが寝ていたのだ。そのことに気づかなかったリーネと宮藤は驚くが、ハルトマンは上着を着ると走り出した。

 

「お先!」

 

そう言って、ハルトマンは部屋から出た。

 

「私たちも行くぞ」

「…」

 

それに続いて、ネウロイに意識を切り替えたシュミットが出て行き、その次にシャーリーが一瞬バルクホルンの方を見た後、無言で走っていく。

 

「ちょ、ちょっとシャーリーさん!」

「芳佳ちゃん!私たちは司令室で待機だよ!?」

 

慌ててその後ろを宮藤が付いていこうとするが、リーネが場所が違うと宮藤に言う。

そして、部屋の中はバルクホルン一人だけになった。彼女は、シュミットの表情を見てから、下を向いて気の弱そうな顔をしていた。

 

「隙ありっ!」

「わっ!?」

 

その時、後ろからハルトマンが現れ、バルクホルンの耳に何かをはめた。バルクホルンは驚いてハルトマンを見るが、彼女は扉の方に両腕を広げながら走り去っていった。

 

「忘れものだよ~」

「…インカム?」

 

バルクホルンは、自分の耳にはめてあるものを確認する。それは、戦闘時にウィッチ達がつけるインカムだった。

そして、待機以外のメンバーは基地を出発してネウロイ迎撃に向かう。

 

『目標はローマ方面を目指して南下中。ただし、徐々に加速している模様。交戦予想地点を修正、およそ…』

「大丈夫だ。こちらも捕捉した」

 

レーダーを見ていたミーナが坂本達に修正地点を言おうとするが、先に坂本達がネウロイを肉眼で確認した。ネウロイは、複数のパーツで構成された弾丸のような形状をしており、徐々に坂本達に急接近していた。その時だった。

 

「なにっ!?」

『分裂した!?』

 

なんとネウロイが分裂をしたのだ。その数は5。ネウロイは数を利用してウィッチーズの壁を突破する気のようだ。5対5、数の差はこれで消えた。

 

「各自散開、各個撃破!ここから先へ行かすな!」

『了解!』

「シャーリー!」

 

坂本はすぐさま命令をし、各自がそれに返事をする。そんな中、坂本はシャーリーを呼んだ。

 

「どうした少佐?」

「コアがあるのはあの真ん中の奴だ、かなり速い。お前に任せた」

 

坂本は魔眼でコアの位置を事前に察知していた。その中でコアのあるネウロイは、一番速い速度で動いていた。そのため、部隊最速であるシャーリーにコア付きネウロイを頼んだのだ。

 

「了解」

 

その言葉にシャーリーも顔色を変え、そしてネウロイに向かった。高速で移動するネウロイの背後に回り込む。するとネウロイは、自分の後ろについている推進部分の勢いを強くした。

 

「逃がすか!」

 

しかしシャーリーも負けていない。高速移動するネウロイに向けて懸命に食らいつきながら、機関銃の引き金を引く。しかし、ネウロイはその攻撃を軽々と避けて行く。そして、次は自分の番だと言わんばかりにターンをし、そして頭をシャーリーに向ける。

 

「おっ、やる気か!」

 

その行動にシャーリーも迎撃態勢をとる。しかし、ネウロイから放たれたビームは凄まじく、シャーリーは回避とネウロイの捕捉、そして攻撃の三つを同時にこなさなくてはならない状況になる。

 

「じっとしてろよ…くそっ…」

 

その様子を見て、坂本が基地に連絡する。

 

『こちら坂本、シャーリーが苦戦してるようだがこちらも手が足りない。至急増援を頼む!』

「了解!リーネさん!宮藤さん!」

『了解!』

 

連絡を受けたミーナは、後ろに立つ宮藤とリーネを呼ぶ。二人も無線で聞いていたため、用件はすぐ理解していたので返事をする。

そして、二人は格納庫に向かってユニットを履き、魔法力を流す。その時だった。

 

「え?バルクホルンさん!?」

 

二人の目の前に突然、バルクホルンが現れるではないか。彼女は飛行禁止を受けて自室待機を命じられているはずだったからだ。

 

「お前たちの足では間に合わん!」

 

しかし、バルクホルンは二人に言うと、走り出した。向かった先にあったのは、鎖で縛られて使用禁止にされたジェットストライカーMe262があった。

バルクホルンはその鎖を掴むと、『怪力』を使って鎖を引きちぎった。そして、解放されたジェットストライカーに足を入れると、魔法力を流す。

 

「命令違反です、大尉!」

「今あいつを助けるには、これしか無いんだ!」

 

リーネが懸命にバルクホルンを止めるが、彼女は止まらなかった。ハルトマンにインカムを渡されて聞いていたバルクホルンは、戦場で苦戦するシャーリーの声を聞き、急いで向かおうとしたのだ。

 

「でも、まだ体力がっきゃあ!?」

 

宮藤求めにかかるが、バルクホルンは50ミリカノン砲を手に取ると緊急発進してしまった。

 

『トゥルーデ!?』

「すまんミーナ、罰は後で受ける。今は…」

 

その様子を見ていたミーナは無線でバルクホルンに呼びかける。しかしバルクホルンはミーナに謝りながら突き進んでいく。

 

『5分だ』

 

その時、無線で新たな声がする。それはシュミットの物だった。

 

『5分以内にケリをつけろ…罰はそれからだ』

「フッ…5分で十分!」

 

何とシュミットがバルクホルンに言った。その言葉を聞きバルクホルンは微かに笑うと、全速力でシャーリーのところに向かった。

その頃シャーリーは、ネウロイの速さに苦戦をしながらも、その後ろを取っていた。

 

「そこだ!」

 

シャーリーはチャンスを作りだし、そして引き金を引く。しかし、機関銃から弾は撃ちだされなかった。シャーリーの機関銃が弾詰まりを起こしたのだ。

 

「ジャムった!?」

 

シャーリーは思わず驚く。その一瞬の隙を突き、ネウロイは更に二つに分かれる。そして、二つに分かれた個体はシャーリーを挟み撃ちにした。

 

「やばい、挟まれた…!」

 

シャーリーはもう体力的にもかなり来ていた。たとえ片方の攻撃を防いでも、もう片方が後ろから攻撃をしかねない。万事休すと思われた次の瞬間、シャーリーの後方に居たネウロイが突然爆ぜた。

 

「えっ!?」

 

何事かと思ったシャーリーが見ると、バルクホルンが50ミリカノン砲を構えていた。彼女が放った弾丸が、シャーリーを挟撃していたネウロイを粉砕したのだ。

そしてバルクホルンは更にカノン砲を3発撃つ。

 

「バルクホルン!?」

 

シャーリーはバルクホルンが居ることに驚くが、バルクホルンの放った弾丸はシャーリーに向かっていた残ったネウロイに2発直撃。そして露出したコアに3発目が命中し、コアは粉砕される。

コアが破壊されたことにより、各場所に分散していたネウロイは全て光の破片に変わった。

 

「ジ、ジェットストライカーは使用禁止のはずでは…?」

「バルクホルンめ、無茶し寄って…」

「しっしっし」

 

ペリーヌは使用禁止になっているはずのジェットを使っているバルクホルンに驚くが、坂本は無茶をするバルクホルンに対して言った。そしてハルトマンは「やっぱりな」と言わん顔で笑っていた。

 

「やったぞバルクホルン!…おい?バルクホルン?」

 

シャーリーはネウロイを撃墜したバルクホルンの元へ向かおうとする。しかし、バルクホルンは直進したまま振り返らない。

シャーリーはそんなバルクホルンの様子がだんだんおかしいことに気づく。

 

「…どうなってんだ?バルクホルンのスピードが落ちないぞ!」

「いかん!ジェットストライカーが暴走してるんだ!このままだと魔法力を吸い尽くされるぞ!」

 

坂本がバルクホルンの身に起こっていることに気づいた。なんとジェットストライカーの暴走が起きており、バルクホルンの魔法力をまるでポンプのように吸い尽くして言っていたのだ。ウィッチの魔法力をすべて吸い尽くされては、二度とと魔法を使う事が出来なくなってしまう可能性が高い。

 

『シャーリーさん!』

「了解!」

 

ミーナは切羽詰まった声でシャーリーのことを呼ぶ。シャーリーも、自分がバルクホルンが止めようと返事をしながら向かっていく。この状況下でバルクホルンを捕まえることができる可能性があるのは、最速のシャーリーだけだ。

シャーリーは懸命にバルクホルンについていく。魔導エンジンを高速で回しながらバルクホルンに迫る。しかし、ジェットストライカーの方が直線の伸びが違った。シャーリーの最高速度を振り切る形で、バルクホルンの体は遠ざかっていく。

 

「くっそったれええ!!」

 

シャーリーは大声でそう言うと、ありったけの力を振り絞ってフルパワーを出した。魔導エンジンが焼き切れんばかりに回り、シャーリーの速度はぐんぐんと加速する。その加速によって、シャーリーはソニックブームを出した。

シャーリーは音速の壁を超えてバルクホルンに迫ると、ついにバルクホルンの体を捕まえた。

 

「止まれえええ!!」

 

そしてシャーリーは、ジェットストライカーについていた緊急停止装置のレバーを引っ張る。それにより、ジェットストライカーは黒煙を吐き出すと、バルクホルンの足から離れたのだった。

離れたジェットストライカーは海面に水没していく。しかしシャーリーは、バルクホルンの体を懸命に抱きかかえた。

 

「はぁ…んっ?」

 

シャーリーはようやく止まったことに溜息を吐く。その時、自分の胸に新たな感触を感じた。顔を下ろしてみてみると、バルクホルンが気持ちよさそうにシャーリーの胸に顔を埋めていた。他の人から見て、先ほどまで自分のウィッチ生命が危ぶまれる状況にあったなどと誰が思うかというほどに、幸せそうだった。

 

「ああーっ!!それあたしの!」

 

ルッキーニがバルクホルンに指差して抗議するが、バルクホルンは起きなかった。シャーリーはバルクホルンを抱えながら、そんなルッキーニの方を笑いながら見るのだった。




いいなぁ、バルクホルン…(遠い目をしながら)。それとシュミット君、女の子に手を出すのはいけませんよ(殴ってなかったからは禁止!)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十一話「双子の妹と狼の迷い」

第八十一話です。久しぶりにあの二人が登場します。どうぞ!


その日の夕方、格納庫内。

 

「寝ている間に一体何があったんダ?」

「バラバラ…」

 

シュミットの代わりに夜間哨戒に出ることになったエイラとサーニャは、目の前でかろうじて原形をとどめていたジェットストライカーを見ながらそう零す。その横には、砲身が折れて使い物にならなくなった50ミリカノン砲もあった。

 

「全く、人騒がせなストライカーでしたわね」

「ええ、それと使う人間もね」

 

ペリーヌが言った言葉に、ミーナは同調する。そんなミーナの言葉に、罰としてジャガイモの皮むきをしていたバルクホルンがドキリとした表情をする。

そんな様子を見てか、シャーリーがフォローするように言う。

 

「おかげでネウロイを倒せたんだ、少しは大目に見てくれよ」

「規則は規則ですよ」

 

しかし、ミーナはそれでも許さない。今回ばかりはバルクホルンの自業自得である。

 

「まあ、出撃したのは私も非があるし、同じように罰を受けるとするか…」

「しかし、バルクホルンが命令違反なんて初めてじゃないか?」

 

シュミットはそう言ってバルクホルンの横に座ると、ナイフを持ちながらジャガイモを手に取って手際よく皮むきを始めた。シュミットもバルクホルンに5分と言ったのだ。彼も同罪と見てもいいだろう。

そして坂本はバルクホルンが命令違反をするなんて珍しいと言う。今までのバルクホルンは違反無しの記録を作れるほどの規則を守っていた人だ。だからこそ、彼女の違反を見れた彼女たちは珍しいものを見たと言っていいだろう。

その時、坂本の横から声がする。

 

「皆さん、どうもお騒がせしました」

 

その声をして全員が顔をあげてみると、そこにはメガネを掛けたハルトマンが居た。しかし、全員が全員疑問に思う。

 

「…何故、お前が謝る?」

「ハルトマンのせいじゃ無いだろ?」

「いえ、私は…」

 

坂本とシャーリーが言う通り、今回の件にハルトマンが謝る点は無い。しかし、ハルトマンは何かを説明しようとしたが、格納庫の入口からした声に遮られた。

 

「みなさーん!お腹空いてませんか?」

「お芋がいっぱい届いていたから、色々作ってみましたよ~」

 

リーネと宮藤がカートに沢山の料理を運びながらやって来る。そして宮藤は一人一人にフライドポテトを配っていく。

 

「はい、ハルトマンさんもどうぞ!」

「いただきます」

「あれ?メガネなんてしてましたっけ?」

「はい、ずっと」

 

宮藤はハルトマンにもフライドポテトを渡す。ハルトマンもそれを受け取るが、宮藤はハルトマンがメガネをかけていることに疑問に思う。

その時、宮藤の後ろから声がする。

 

「うわっ、美味しそう!」

「あっ、こっちのハルトマンさんもどうぞ…って、え!?」

 

後ろからハルトマンが来たので、宮藤はフライドポテトを勧めた。しかし、ここで全員が気付いた。

ハルトマンが二人いるのだ。事情を知っているもの以外は、皆まるでありえないものを見るような目で二人を見た。

 

「お久しぶりです、()()()

「あれ?ウルスラ?」

『姉さま!!?』

 

衝撃の発言に全員の言葉がシンクロする。何とメガネをかけたハルトマンは、フライドポテトを食べているハルトマンに姉さまと言ったのだ。

その様子を見て、ミーナが説明した。

 

「こちらはウルスラ・ハルトマン中尉、エーリカ・ハルトマン中尉の双子の妹さんよ」

『妹!?』

「彼女はジェットストライカーの開発スタッフの一人なの」

『へ~…』

 

ミーナの説明を受けて全員が驚き、そしてビックリしたように見る。双子なだけに、外見はメガネを覗いて完全にそっくりだった。

その時、シュミットの後ろから新たに声がする。

 

「その開発スタッフは」

「俺達も加わっていたがな」

「え?あっ!?」

 

突然二つの声がするのでシュミットが振り返ると、そこには彼の見覚えのある顔があった。ハルトマン姉妹と同じくこちらも()()、ミハエル・フレイジャーとマルクス・フレイジャーがそこに立っているではないか。思わぬ人物の姿にシュミットだけでなく、他のメンバーも驚く。

そして、フレイジャー兄弟とウルスラは並ぶと、バルクホルンの前に立った。

 

「バルクホルン大尉、この度はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。どうやらジェットストライカーには、致命的な欠点があったようです」

『申し訳ありませんでした』

「まあ、試作機にトラブルは付き物だ、気にするな…それより、壊してしまってすまなかったな」

 

ハルトマンが代表して謝罪し、フレイジャー兄弟が揃って謝罪の言葉を言う。その様子に、バルクホルンも特に気にした様子は無く、逆に試作機を壊してしまったことに対して三人に謝罪した。

 

「いえ、大尉がご無事で何よりでした」

「ユニットよりも、パイロットの命は金なんかに変えられないから」

「命がある方が大切です」

 

しかし、ウルスラはバルクホルンが無事であることの方が大切だ。フレイジャー兄弟も同じように言う。人の命はお金に変えることなどできない。それをよく知っているシュミット達からしたら、命がいかに大切なものかをよく理解していることだ。

 

Me262V1(この子)は本国へ持って帰ります」

「その為にわざわざ来たのか?」

「代わりと言っては何ですが、お騒がせしたお詫びにじゃがいもを置いていきます」

 

ウルスラの言葉にシャーリーが思わず聞くと、その代わりとしてウルスラは沢山の食料をここに置いていくようだ。外では山積みにされたジャガイモを見てペリーヌが「またこんなにも…」と、げんなりした様子で見ていた。

しかし、フレイジャー兄弟の目的は他にもあった。

 

「いえ大尉、自分たちはシュミットに用がありました」

「ん?」

 

ミハエルに名前を呼ばれて、芋の皮むきをしていたシュミットが反応する。そしてマルクスがシュミットに言った。

 

「お前にあげたDo335関連だ」

「ああ!そうだ、そのことを忘れてた。ありがとうミハエル、マルクス」

 

マルクスに説明されてシュミットが思い出したと言った顔をする。そして、シュミットはちゃんと言えなかったお礼を今言った。突然の様子にフレイジャー兄弟は苦笑いをする。

 

「い、今かよ…」

「まあ、親友が困っているときは助けるものだ。本当なら直接飛行してもらいたかったが、今は飛行禁止なんだって?」

「ああ、体力と魔法力を大きく消費してな」

「だから代わりと言っては何だが、Do335の状態を見て行くことにするよ。いいですか?中佐」

 

そう言って、フレイジャー兄弟はミーナに確認を取る。

 

「ええ、許可します」

「了解!」

 

それに対してミーナも許可をし、二人はシュミットのユニットの方に向かうのだった。

そして、テーブルの上には宮藤たちが奮闘して作った料理が沢山並べられた。

 

『なっ!?』

 

しかし、バルクホルンとシャーリーがフライドポテトを取ろうとした時、丁度同じものを同時に取ってしまう。そして二人はいつものようににらみ合う。

 

「これは私のフライドポテトだ」

「リベリオンの食べ物はいらないとか言ってなかったか?」

「今は体力回復の為、エネルギー補給が最優先だ」

「素直に美味いって言え」

「まあまあだな」

 

と、二人はたった一つのフライドポテトを奪い合いながら言い合いをする。時にはそのポテトが宙を舞ったりしている。シュミットはその様子を見て「またか…」と言った様子で溜息を一つ吐く。宮藤たちも、「他にもいっぱいあるのになんで取り合いになるんだ?」と言った様子でそれを見ていた。

そしてシュミットは、皿に盛りつけられたフライドポテトをいくつか皿に取ると、立ち上がって歩き出した。

 

「あ、シュミットさんどこ行くんですか?」

「ん?あいつらのところ」

 

宮藤に聞かれてシュミットは指差しながら答える。指の先には、今まさにDo335の状態を確認しているフレイジャー兄弟が居た。

そしてシュミットはフライドポテトを持ちながら、二人のところに行く。

 

「ほい、お二人さん」

「おっ、さすがシュミット!」

「気が利くな」

 

二人はシュミットの持ってきてくれたフライドポテトを見てお礼を言う。シュミットはそれを近くに置いた。

そしてシュミットは、二人にあることを思い出して言った。

 

「…アリシアに会った」

「ん?」

「アリシアってお前の妹だよな…?」

 

シュミットの突然の言葉に、ミハエルとマルクスは何のことかと思う。

 

「夢でか?」

「いや、夢なんかじゃない。生きていたんだ…この世界で」

「なん…なっ!?」

「お前…それ本当か?」

「ああ…」

 

二人は信じられないと言った様子でシュミットを見る。シュミットの妹であるアリシアが死んだことを、彼らは前の世界で知らされていた。だからこそ、この世界で亡くなったはずの妹が生きているということに驚いていた。

 

「私たちみたいに、アリシアもこの世界に流れ着いたみたいなんだ。アリシアが言うには、来たときは衰弱していて、現地の人に助けてもらったらしい…顔に火傷の痕が残ってるんだぜ?これが同姓同名だと思うか?」

「…思わねえ」

「ああ…」

 

シュミットの説明に、ミハエルとマルクスも信じられないが信じるしかなかった。妹なら、兄であるシュミットが見間違えるはずがない。それに顔には火傷の痕が残っているのだ。尚更違うと言いきれない。

そして、ミハエルとマルクスは話始める。

 

「不思議だな…」

「ああ…向こうで死んだ人が、こっちで生きている。こんな偶然が普通あるか?」

「無い…とは言い切れない。現に私たちがそうなんだから」

 

三人は尚更分からなくなる。どうして自分たちは、この世界に生きているのだろうか。神の仕業か、あるいはそうなる運命だったのか、この答えはいまだ分からない。

しかし、シュミットはこの事に特に恨んだ顔をしていなかった。そして、二人に話した。

 

「だが、私はこの事を最悪だとは思ったことは無い」

「ん?」

「おかげで、私はサーニャに出会えた。だから、この運命を恨んだことは無い」

 

そう言って、シュミットはサーニャを見る。彼の目は、本当にこの出会いがあったことを感謝している様子だった。

それを見て、ミハエルは少し笑う。

 

「そうかい…なあ、シュミット」

「ん?なんだ?」

「俺はお前に以前驚かされたんだ。だから、今お前を驚かしていいか?」

「急にだな。なんだ?」

 

ミハエルが突然そんなことを言うので、シュミットも流石に突然すぎて訳か分からないと言った様子でミハエルを見る。横に居るマルクスは、どこかニヤリとしていたため尚不気味だ。

そして、ミハエルは堂々と宣言した。

 

「実はな…俺、結婚するんだよ!」

「へ~……は?」

 

ミハエルのとんでもない言葉にシュミットは最初サラリと流しながら聞くが、よく考えてみた瞬間、彼の表情は固まった。そしてシュミットは信じられないと言った様子でマルクスを見た。

 

「…マジか?」

「おおマジだ。何なら、写真だってあるぞ」

 

そう言って、ミハエルはジャケットのポケットに手を入れた。そして中から出てきた一枚の写真を見せる。

そこには、シュミットから見ても美人の部類に入る女性の写真があった。

 

「この人が…」

「そう、俺の奥さんだ!」

()()()が抜けてるぞ、ミハエル…」

 

シュミットが聞くと堂々と言うミハエル。しかし、ミハエルの言葉にツッコムマルクス。

 

「式は…?」

「これからだ」

「マジかー…」

 

ミハエルに言われて、シュミットは「やられた」と言った様子でユニットの固定台にもたれかかる。

 

「まさかお前が最初か~…」

「へへーん、参ったか~!」

 

シュミットのたまげたと言って頭に手を当て、その様子にミハエルは勝ち誇った表情をする。

シュミットとミハエルとマルクスは、かつて三人で話し合ったある勝負があった。それは「誰が最初に結婚するか」と言った内容であった。シュミットの中では、性格的にミハエルはマルクスより後だろうと考えていた。そのため、ミハエルが結婚するといった言葉には予想外だった。

ミハエルとマルクスは、前回驚かされた借りを返した気分になり、二人とも笑いだす。

 

「って言っても、シュミットだってすぐしそうじゃん」

「ん?」

 

マルクスの言葉にシュミットは顔をあげて見る。するとマルクスはシュミットの横に来て、耳元で囁いた。

 

「恋人が居るって言ってたじゃん。結婚だって考えてるんだろ?」

「…」

 

マルクスが少し意地悪くシュミットに言った。しかし、シュミットはその言葉に動揺する素振りを見せなかった。

そして、シュミットは口を開いた。

 

「確かに居る。だが…」

「だが?なんだ?」

「勿体ぶるなよ」

 

シュミットの言葉にミハエルとマルクスが耳を傾ける。しかしシュミットはサーニャの方を見ると、二人の予想外のことを言いだした。

 

「今は、まだ駄目だ」

「え?」

「どういう意味だ?」

 

シュミットの言葉の意味が分からず、ミハエルとマルクスは疑問に思う。しかし、シュミットは続けて説明した。

 

「サーニャはまだ15歳だし、彼女はやらなきゃいけないことがある」

「やらなきゃいけないこと?」

「何だそりゃ?」

 

シュミットの説明にますます分からないと言った様子のフレイジャー兄弟。しかし、シュミットもシュミットでしっかりと考えていた。

 

「サーニャ今、生き別れになった両親を探している」

「生き別れの両親?」

「ああ。ウラル方面に疎開したらしいが、彼女は両親の居場所を知らなかった。だから、今サーニャは懸命に両親を探しているんだ」

 

ミハエルは何のことかと思うが、シュミットが続けて説明する。サーニャは今、休暇を使って分断されたオラーシャに向かい、両親を探していた。どこかに避難しているはずの両親と再会するためだ。

そして、シュミットが結婚を現在考えない理由がここにあった。

 

「そうやって頑張る彼女に、自分が今彼女と結婚することが果たしていいことか?違うとはずだ。自分の私情を只彼女にぶつけるだけでは、彼女は幸せにならない。だから…」

「今は結婚をしない、と?」

「ああ…」

 

シュミットの後の言葉を、マルクスが続けた。そして二人は、自分がすべきことは何かを探している様子のシュミットの顔を見ながら呆れたように言った。

 

「あのな~、シュミット」

「そういうのは簡単なんだよ」

「え?」

 

二人の言葉に何のことかと思うシュミット。しかし、フレイジャー兄弟はシュミットに言った。

 

「お前も一緒に探してやればいいじゃないか」

「そうだ。恋人のことを大事にしてるんなら、それぐらいすればいいじゃないか」

 

二人の突然の言葉に、シュミットは呆気にとられたような顔をする。

 

「お前がその人を大切に思っているのなら、それぐらい出来るだろ?」

「男だったら迷うんじゃなく、まず行動をしろ」

 

二人は畳みかけるようにシュミットに言った。そしてシュミットは、その言葉に目を開きながら驚いている様子だった。まるで、今まで見つからなかった物を見つけたように。

そして、シュミットは顔を戻すと、自分を侮辱したように微かに笑った。

 

「…そうだよ、簡単なことだ。サーニャは懸命に探してるんだ。それなのに、私が探さないでどうするんだよ」

 

そう言って、シュミットは微かに笑う。今まで自分が本当にすべきことは何なのかをずっと悩んでいた。しかし、答えは身近に、とても簡単なところにあったのだ。

そして、その答えを教えてくれたフレイジャー兄弟の方を向く。

 

「ありがとう、おかげで答えが分かった」

「そりゃよかった」

「迷ったときは親友に頼め」

「ああ、ありがとう…」

 

そう言って、シュミットは吹っ切れた顔をする。その顔を見て、フレイジャー兄弟も互いの顔を見て、そして微かに微笑むのだった。




ウルスラ登場&フレイジャー兄弟再登場。そして不思議なストライクウィッチーズの世界。そして、シュミットの中の迷い回でした。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十二話「臨時補給」

第八十二話です。どうぞ!


「ということで、臨時補給を実施することになりました」

 

ジェットストライカーの騒動が起きた数日後、基地のブリーフィングルームでミーナの声が響く。

事の始まりは、朝食の食堂で起きた。宮藤たちが朝ご飯を作ろうとした時、お米が無いことに気づいた。予定であれば次々とバラバラに集まってくるはずのメンバーが、いっぺんに来たことによる誤算によるものだった。

そこで、ミーナがそのことを聞き、臨時補給を行うことにしたのだ。

 

「臨時補給か…」

 

と、シュミットはそのことに少し嫌な顔をする。初めてこの世界に来た時にすぐ臨時補給が行われたが、その時はシャーリーの運転する暴走トラックによって揺さぶられ、補給実施先で暴走列車を止めた。こうも色んな事が続けてあれば、あまりいい思い出とは感じなかった。

 

「大型トラックが運転できるシャーリーさんと、ロマーニャの土地勘があるルッキーニさんはまず決定とします」

「偶には基地の外に出たかったから、こんな任務は大歓迎だよ」

 

と、ミーナがやはり言ってきた。運転はやはりシャーリーであり、ロマーニャが故郷のルッキーニが街を案内する意味ではこれは当然だった。シャーリーもその任務を喜んで受けるようだ。横に入るルッキーニは年相応に飛び跳ねてはしゃいでいる。

 

「他に、宮藤さんとリーネさんも同行します」

「あの…私はやっぱり待機で…」

 

さらにミーナは、街に送り出すメンバーとして宮藤とリーネを指名する。しかし、リーネはすこし言いずらそうにではあるが、手を上げで自分は待機をすると言った。

宮藤はどうしてと思うが、ミーナはそれを了承した。

 

「わかりました。では、宮藤さんお願いね」

「中佐、リーネが行かないなら私が行きます。物資は重いので力仕事もありますから」

「いいわ。では、シュミットさんもお願い」

「了解」

 

と、リーネの空いた枠にシュミットが入る。そして、シュミットはシャーリーに言った。

 

「シャーリー」

「ん?なんだ?」

「安全運転で頼むぞ。いいな?」

 

と、シュミットはシャーリーに念を押すように言う。以前のような暴走運転はもうごめんだと思っていたからだ。

 

「おう!」

 

しかし、シャーリーは本当にわかっているのかと思う顔で返事をした。シュミットは僅かに不安になるが、返事をしたのだから多分大丈夫だろうと今は思ったのだった。

 

「宮藤、任務中はシャーリーかシュミットの指示に従うようにな」

「はい!」

「では、欲しいものがある人は言ってください」

 

そして坂本は、宮藤に命令をしっかり守るようにと言う。そして、ミーナは全員に何か欲しいものが無いかを聞いた。

 

「欲しいものか…新しい訓練器具とか…」

「はいはい…そういうのじゃなくて、皆の休養に必要な物よ」

 

坂本の言う欲しいものが完全にトレーニング系の物であったため、ミーナがそうじゃないと説明する。

 

「休養か…訓練をしっかりしてしっかり休む、重要だな」

「うーん、それなら訓練の後に士気を保つには風呂が必要だな」

「それ、バスタブを買えって事ですか…?」

 

バルクホルンが休養と言う言葉に共感し、そして坂本が風呂が必要であると言う。しかしシュミットは、坂本がまるでバスタブを買ってこいと言っているようにしか聞こえず苦笑いをする。

そしてミーナは溜息を吐く。

 

「はぁ~…貴方達の頭って訓練しかないの?誰かもうちょっとまともなものを――」

「あの、私は紅茶が欲しいです」

 

ミーナが周りに助けを求めた時、リーネが手をあげて意見を出す。今まで出た物の中からは一番まともだった。

その言葉に続いて、ミーナも意見を出す。

 

「そうね、ティータイムは必要ね。それじゃあ私はラジオをお願いしていいかしら?」

「カールスラント製の立派な通信機があるじゃないか?」

「ここに置くラジオよ。皆で音楽やニュースが聞けるといいでしょう?」

 

と、ミーナはラジオを注文する。確かに隊の中での娯楽は重要なので、その意見には誰もが賛成した。

 

「紅茶とラジオ、それから…」

「ピアノ!ピアノを頼む!」

 

と、宮藤がメモを取っているとき、エイラが宮藤に言う。しかし、シュミットは流石にそれはとエイラに言う。

 

「サーニャのピアノが聞きたいのは解るが、流石にピアノは運べないぞ…」

「ちぇっ、サーニャのピアノが聞きたかったのに…なあサーニャ、欲しいもの無いカ?」

「エイラ、自分の欲しいものを頼んだら?」

 

そう言って、エイラはサーニャに欲しいものは無いかと聞くが、サーニャはエイラ自身が欲しいものを頼めばいいんじゃないかと思いエイラに優しく言う。

 

「バルクホルンさんは欲しいものありますか?」

「私か…特に無いな…」

「じゃあ、クリスさんへのお土産とか」

 

宮藤はバルクホルンに聞くが、バルクホルン自身は特にほしいものが無いようだ。しかし、宮藤はなら妹さんにあげるプレゼントとかはと、名案を出す。

 

「ク、クリスか…そうだな…か、可愛い服を…」

「え?」

「服を頼む!」

 

そう言って、バルクホルンは妹へのプレゼントとして服を頼んだのだった。

 

「ふむ…私も何かアリシアに送るか…」

 

と、それを聞いていたシュミットも妹へのプレゼントを考えた。

そして宮藤は、ペリーヌにも聞く。

 

「ペリーヌさんは?」

「あ、私は別にいりませんわ」

「え、でも、せっかくだし…」

「いらないって言ってるでしょ」

 

そう言ってペリーヌは、ブリーフィングルームから出て行った。宮藤はどうしてか分からずに突っ立ったままになるが、ここに来る前にペリーヌと共に行動していたリーネが説明をした。

 

「実はペリーヌさん、頂いたお給料と貯金をガリア復興財団に寄付してて…」

「そうなんだ…」

 

と、リーネの説明を聞いて宮藤もハッとした。ペリーヌは現在ガリアが解放された後も復興の為に戦っていた。そのため、自分の自由に使えるお金が無い状態だったのだ。

そしてリーネは、あることを思いついた。

 

「そうだ芳佳ちゃん、紅茶の他に花の種をお願いしていい?」

「うん。えっと~…あとはハルトマンさん…」

「ん?ハルトマンの奴、まだ寝ているな」

 

宮藤はハルトマンを探すが、周りにその姿が無かった。バルクホルンは思い当たることがあるらしく、ハルトマンの部屋に向かった。

 

「起きろ、ハルトマン!」

「う~ん…後90分…」

「兵は神速を貴ぶのだ。さっさと起きろ!」

 

と、いつものやり取りをする二人。そこに、宮藤がハルトマンに質問する。

 

「あの~、買い物に行くんですけど、何か欲しいものありますか?」

「お菓子!」

「お前に必要なのは目覚まし時計だ!」

 

宮藤の質問にハルトマンはすぐさま起き上がり答えるが、バルクホルンは違うだろうとハルトマンに言う。それでも駄々をこねたので、バルクホルンは宮藤と共に部屋を出た。

 

「…という訳で、目覚まし時計を頼む」

「あ、はい…」

 

と、バルクホルンが言うので宮藤も返事をし、そしてメモを取った。

その時、廊下を走ってエイラがやって来る。

 

「宮藤!」

「えっ!?」

「枕だ!」

「枕?」

 

突然のエイラの言葉に宮藤は何のことかと思う。しかし、エイラは続けて注文内容を言った。

 

「色は黒で、赤のワンポイントがあるといい。素材はベルベットで、無かったら手触りのいいやつ…」

「エイラさん、いっぺんに言われても分かんないですよ…」

 

エイラがあまりにも高速で注文内容を言うので、宮藤の頭の中はこんがらがってくる。

その様子を見てエイラはハアと息を吐くと、宮藤の持っていたメモ帳とペンを取った。

 

「仕方ないナ~、書いてやっから、間違えんなヨ!」

 

そう言って、エイラはメモに内容を書き記す。

 

「いいか宮藤、絶対忘れんなヨ!絶対だゾ!」

「はぁ~…」

 

そう言って、エイラは宮藤の手にメモ帳を戻したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「うぇ~…気持ち悪い…」

「駄目…だったか…」

 

宮藤はトラックの中でお腹を抱えながら言う。その横ではシュミットが後悔した様子でグッタリとしていた。

基地を出発したトラックは、最初こそ普通に走行していた。しかし、シャーリーが前方に対向車が居ないと確認すると、突然スピードを上げだした。そしていつも通りの暴走状態になったのだ。そして現在に至る。

 

「芳佳、芳佳!ローマの街だよ!」

「え?」

 

ルッキーニが宮藤を起こす。宮藤はルッキーニの言葉に窓の外を見ると、そこにはロマーニャの綺麗な街並みが広がっていた。

 

「わあ~すごい!」

「あれ?芳佳ローマ初めて?」

「うん!」

 

宮藤は初めて来たローマの街に興味津々だった。そして宮藤が気になった建物などはルッキーニが一つ一つ説明する。

 

「あははは、芳佳子供みたい!」

「扶桑の建物は基本木造って聞くから、こういう石造りの街が珍しんだな」

「ローマは歴史ある街だからな」

「へへ~ん。そうでしょそうでしょ!」

 

ルッキーニは先ほどから目を輝かせてばかりの宮藤を見て笑う。シュミットは宮藤が珍しく見る理由を言い、シャーリーも、宮藤がこんなに驚くのも街を見ながら納得するので、ルッキーニは自慢げになる。

 

「ホント素敵な街だね!ルッキーニちゃんの生まれた街なんでしょ?」

「ふふ~ん、まあね!」

「アフリカでも、ローマの自慢ばっかりしてたからな~」

 

シャーリーの言葉に「だって」と膨れるルッキーニ。その様子から、シュミットはルッキーニがとても故郷を愛している優しい人間なんだと思った。

 

「ここでいいのか?」

「うん、ここは大抵のものは揃ってるんだ」

 

そして、ルッキーニが案内した場所にトラックを止める。そこには雑貨屋があり、ここで皆の注文した欲しいものを買うのだ。

中に入ると、そこには食器や家具、衣類や食品などありとあらゆるものがあった。

 

「おお、似合ってるな宮藤」

「どれどれ?…いいな」

 

シャーリーは宮藤が自分のサイズに合うかを図っている洋服を見てそう感想する。シュミットもアリシアにあげる洋服を探しながら、宮藤の服を見る。

 

「いえ、これはバルクホルンさんに頼まれたやつです」

「えええ!?これ、あいつが…!?」

 

しかし、宮藤の説明を聞いてシャーリーは服を見ながらあり得ないと言った顔をする。そして、何を思ったのか突然お腹を抱えて笑い出した。

 

「あっははははは!いっひひひひひ!」

「違いますよ!これは妹のクリスさんが着るんです!」

「はっははははは!」

 

宮藤は懸命に言うが、シャーリーは相当ツボにはまったようだ。彼女の頭の中では、宮藤が今手に持っている服を着ているバルクホルンの姿が頭にあった。

 

「はぁ~…宮藤、メモを貸してくれ」

「あっ、はい!どうぞ」

 

シュミットはそう息を吐くと、宮藤からメモを貰う。そして、他に必要なものは何かを確認して店内を見る。

 

「枕…枕…これか?えっと…赤ズボン隊…なんだそりゃ?」

 

そして、シュミットはメモにやたら詳細に書かれていた注文品を見つけて籠に入れる。

 

「後は…おっ」

 

他に必要なものは何かと探しているとき、シュミットの目にある物が止まった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ルッキーニは現在、退屈していた。理由は、自分が集めるものは集め終わったため、残りの人達が終えるのを待たされていたからだ。

 

「ふぁ~…ん?」

 

ルッキーニは欠伸を一つして、窓の外を見た。その時、ルッキーニの目にある光景が止まった。

それは、黒服でサングラスを掛けた男二人が、赤髪の少女の手を取って車に入れようとしている姿だ。よく見ると、少女は抵抗しているではないか。

ルッキーニはすぐさま店を出て、少女の元へ向かった。

 

「放してください!」

 

少女は抵抗をしている。しかし、黒服たちは少女を車に引っ張ろうとした。

 

「スーパールッキーニキーック!!」

 

その時、店から飛んでやって来たルッキーニが、男たちに向けてジャンプ蹴りをした。男はその蹴りを顔に食らい吹っ飛ばされ、そしてもう一人の男を巻き込んで倒れた。

 

「あああ、あの…」

「へへ~ん。いこ?」

「え?えええええ!?」

 

少女は倒れた男たちを見てアワアワする。しかし、ルッキーニが手を取って少女を懸命に男たちから放そうとする。しかし、少女はいきなりすぎて何のことか分からずに大声を出したのだった。

 

「ま、待て…ぐっ」

 

そして、ルッキーニによって倒された男たちは手を伸ばすが、力尽きてその場に気絶をしたのだった。




ついに来ました、鬼門回。なんて言いますか、この回は作者としてもどう書いたらいいのか分からない回ですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十三話「私のロマーニャ」

第八十三話です。どうぞ!


「あれ~、車にもいないな」

「さっきまでお店の椅子に座ってましたよね?」

「あいつ、どこに行ったんだ?」

 

シャーりは車の中を見るが、そこにルッキーニの姿は確認できなかった。あの後三人は、店の中にルッキーニが居ない事に気づき探し始めた。しかし、ルッキーニの姿はどこにもなく、トラックに探しに来たがそれでも居なかった。

シャーリーは困った様子である。

 

「う~ん…ルッキーニに残りのお金全部渡しちまったからな~…」

「ええっ!?まだ食料買ってないですよ!」

「急いで探すぞ」

 

そうして、三人によるルッキーニ捜索が始まったのだ。

 

「ルッキーニちゃ~ん!」

「どこだー、ルッキーニ!」

 

シュミット達はトラックで街中を移動しながら、ルッキーニの名前を呼ぶ。しかし、ルッキーニがこれに反応することは無く、それどこから影も形も見当たらない。

 

「どこ行ったんだ…本当に」

 

シュミットは街の人にもルッキーニの所在を聞く。しかし、誰もルッキーニの所在を知る者はいなかった。

シュミットは仕方なくシャーリー達の元へ戻った。

 

「駄目だ、やっぱりルッキーニの場所を知る者は…って、お前たち何やってるんだ?」

 

カフェで休憩をしていたシャーリー達のところに来たシュミットは、二人の姿に呆れながら聞く。二人の目の前にはケーキがあり、完全にくつろいでいた。

 

「おう、シュミット」

「おうじゃねえよ…疲れたのは分かるが、もうちょっと深刻になってくれ…」

 

と、流石にシュミットもこの光景にはぐったりとするしかできなかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その頃ルッキーニは、助けた少女マリアと共に街中を観光していた。時には歴史的建造物の場所へ行ったり、お店に行って買い物をしたり、子供達にアイスをおごってあげたりと、色々なことをしていた。

その間にも、ルッキーニと行動を共にしていたマリアは初めて見る光景ばかりなのか目を輝かせたりしていた。そして現在、二人はローマで一番高い観光名所に来ていた。

 

「どうマリア!ここから見る景色が、私は一番好きなんだ!」

「美しい…」

 

ルッキーニが自慢げに紹介する。マリアはルッキーニに言われて街を見ると、その光景にとても感激していた。そこからはローマの街の殆どが一望でき、人も小さく見えるほどの光景だった。

 

「私、家に帰らないでずっとここに居たいです」

「だったらいればいいじゃん!」

「ふふっ、そうですね」

 

ルッキーニがそんなことを言うので、マリアは笑う。しかし、マリアは笑った後に再び街に視線を落とすと、どこか不安そうな顔をする。

 

「この美しいローマの街を守ることが、私にできるでしょうか…?」

「え?」

「あっ、家から煙が!」

 

ルッキーニはマリアの言っていることが分からずに聞くが、マリアは家の屋根から煙が出ていることに驚く。

 

「食事の準備の煙だよ」

 

そんな風に驚くマリアに、ルッキーニが説明する。しかし、マリアはその家一つ一つをみると、おかしなことを言った。

 

「あの一つ一つが、()()の暮らしている家なのですね」

「…民人?」

「今まで知りませんでした」

 

マリアの不思議な言い方に、ルッキーニは疑問に思う。民人なんていう言い方をする人など、ルッキーニは今まで見たことが無い。しかし、ルッキーニはそんな事よりと、話題を変えた。

 

「ねえ、ホントは絶対見せたい景色がもう一つあるんだ!」

「それは是非見てみたいです!」

 

ルッキーニの新たな話題にマリアも食いつく。しかし、ルッキーニはここで表情を少し落とす。

 

「う~ん、今はちょっと…」

 

ルッキーニは()()その景色を見せることができないと言う。そんなルッキーニの姿を見て、マリアは特にがっかりした表情などを見せずに笑った。

 

「そうですか。では、またの機会にお願いします」

「うん!」

 

そんなマリアの約束の言葉に、ルッキーニも笑顔になり頷いたのだった。

その時だった。街全体に空気を吹き飛ばすような音が鳴り響く。それはローマに設置されたネウロイ警報だった。

 

「ネウロイだ!」

「大変!早く逃げましょう、ルッキーニさん!」

 

マリアはルッキーニの手を取って逃げるように言う。しかしルッキーニは動かず、マリアの方を向いて言った。

 

「あたし、行かなきゃ」

「え?」

 

ルッキーニの言葉にマリアはどういうことかと思う。

丁度その時、地上を走っているトラックから宮藤が顔を出してルッキーニを見つけた。

 

「居た!シャーリーさん!塔の上です!」

「塔!?」

「ホントだ!ルッキーニ!」

 

宮藤の言葉にシュミットは驚くが、シャーリーはルッキーニの姿を見つけると大声で呼ぶ。

その声に、ルッキーニも気づいて柵を乗り超える。

 

「シャーリー!」

「危ない!」

「行かなきゃ!私ウィッチだから!」

「えっ?ウィッチ?」

 

ルッキーニはマリアに振り返って言う。マリアはルッキーニがウィッチだという事に驚いた様子だった。

そして、ルッキーニは自分のかぶっていた帽子をマリアに投げ渡す。

 

「これ、持ってて!」

「あ、はい!って、ええっ!?」

 

マリアはそれを受け取ったと同時に、ルッキーニは屋根からジャンプをする。その高さにマリアは驚く。しかし、ウィッチであるルッキーニはそのまま屋根の上を滑りながら、マリアに話す。

 

「だから私、ロマーニャを守らなきゃいけないの!」

 

そう言って、ルッキーニは大ジャンプをした。そして地面に降り立つと、トラックの荷台に積み込まれていたストライカーユニットに足を入れる。

魔法力を流し込み、魔導エンジンを回転させる。そして右手側に出た機関銃を手に取ると、そのまま垂直に飛翔した。

上空では、先に飛んでいたシュミット達が待っていた。しかし、ルッキーニは真っ先に先頭に立ち、ネウロイに向かっていく。

そんなルッキーニをシャーリーが止める。

 

「先走るな、ルッキーニ!」

「でも…!」

「分かってる。だが一人じゃだめだ」

 

ルッキーニはシャーリーに何か言いたげだが、シャーリーはちゃんと理解していた。シャーリーだけでなく、宮藤やシュミットも分かっている。

 

「ルッキーニちゃんの故郷を守りたいのは、私たちも一緒なんだから!」

「皆で協力して、ロマーニャの街を守るぞ!」

「うん!ありがとうシャーリー!芳佳!シュミット!」

 

三人の思いを知って、ルッキーニは笑顔で返事をする。

 

「よし、宮藤お前は私に付け。シャーリーはルッキーニを頼む」

「はい!」

「了解!行くぞ、連携攻撃だ!」

 

宮藤がシュミットに並び、ルッキーニがシャーリーに並ぶ。そして、四人はネウロイに向かって飛行する。

ネウロイは四人に向けて攻撃をする。しかし、それぞれ回避をして攻撃を加えて行く。

その時、ルッキーニがあるものを見つける。それはネウロイの体の下から僅かに露出していたコアだった。

 

「あっ、シャーリー!コアが見えた!」

「よし!X攻撃だ!」

「わかった!宮藤、お前はルッキーニの方に行け!私はシャーリーと相手の気を向ける」

「はい!」

 

ルッキーニの言葉に、シャーリーが作戦を通達、そしてシュミットはルッキーニ護衛の為に宮藤を移動させる。

まずシュミットとシャーリーがネウロイの上から攻撃を加えて行く。攻撃を受けて、ネウロイはシュミット達にビームを撃つ。

 

「いいぞ!来い来い来い!」

「そのまま騙されろよ…」

 

ビームを回避しながら、シャーリーとシュミットは続けて攻撃をしていく。これでネウロイの注意はルッキーニ達から離れた。

 

「ルッキーニちゃん!」

 

宮藤がルッキーニの名前を呼ぶ。ルッキーニは自分の前にシールドを重ねて張ると、固有魔法『光熱攻撃』を行う。これで、ルッキーニはネウロイを貫くつもりだ。

しかし、ネウロイはルッキーニの行動に気づき、攻撃をルッキーニ側に変えた。

 

「気付かれた!」

「宮藤、ルッキーニを守れ!」

「はい!」

 

シュミットの言葉に宮藤は返事をし、ルッキーニの前に立つ。そしてネウロイの攻撃を自慢の大きなシールドですべて防ぐ。

攻撃を宮藤がすべて受けたおかげで、ルッキーニは動きやすくなる。そして、ネウロイのビームを避けながらルッキーニは急上昇をしていき、そしてネウロイに体当たりした!

 

「たああああ!!」

 

気合一発、ルッキーニはネウロイの体を貫いた。それにより、ネウロイのコアは完全に壊れ、ネウロイはひかりの破片に変わったのだった。

 

「凄い…」

 

一連の光景を見ていたマリアは、ただその姿に凄いとしか言えなかった。その時、ルッキーニが空から降りてくる。

 

「見せてあげる!」

「え?」

「さっき言ってた、絶対見せたい景色」

 

そう言って、ルッキーニはマリアの体をお姫様抱っこすると、そのまま上空へ飛翔した。

 

「はわわ…」

「へへ~ん!見て、マリア!これが絶対見せたかった景色だよ!」

 

マリアはだんだん上がって来る高度に驚く中、ルッキーニが下を向きながらマリアに言う。その声につられてマリアも見る。そして、目を輝かせる。

眼前には、ローマの街全てが一望できた。先ほどの塔の上よりもずっと高く、そしてずっと綺麗に映っていた。

そんな中マリアは、ルッキーニに質問した。

 

「…ルッキーニさんは怖くありません?」

「え?何が?」

「あんな恐ろしい敵と戦うなんて、怖くは無いんですか?」

 

マリアは、あんな恐ろしいネウロイと戦うルッキーニに、怖くは無いのかと思う。自分からしたら、あのような敵と戦うとなったら怖いと言ってしまうかもしれないからだ。

しかし、ルッキーニは違った。

 

「だって、ネウロイやっつけないとロマーニャ無くなっちゃうじゃん。皆の家とか友達を守るのが、ウィッチだもん」

 

ルッキーニはそうマリアに言った。ロマーニャ軍の問題児と言われている彼女も、ペリーヌと同じように祖国を愛している。だからこそ、彼女は祖国を守る為に戦うのだ。

そんなルッキーニを見て、マリアは微笑みながら言った。

 

「ノーブレス・オブリージュですか」

「え?マリアって難しいことばっかり言うね…」

「そうですか?」

 

ルッキーニに言われてマリアはキョトンとする。そして、二人は一緒に笑い合うのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「うわあああん!ごめんなさーい!」

 

翌日、ルッキーニは両手にバケツを持たされて基地の外を立たされていた。原因は、食料調達のために持って行ったお金をルッキーニがマリアとの観光に全て使ってしまったことが原因だった。

 

「監督責任!…私にもあるな…共に反省しよう」

「すまん、ルッキーニ」

「今回ばかりは何も出来ない…すまんな」

 

坂本は監督責任と言うが、自分にも非があるなと言って歩いて行ってしまった。そしてシャーリーとシュミットは、ルッキーニの横を謝りながら歩いて行った。

そして、基地の中ではそれぞれの注文した物を渡し合っていた。

 

「はい、エイラさん」

「言ったものあったカ?」

「サーニャちゃんにはこれ」

「あ、ありがとう、芳香ちゃん!」

 

宮藤がエイラとサーニャに注文されたものを渡す。そして宮藤は少し困ったように言った。

 

「もー、エイラさんって注文が多くって…」

「そ、そんな事無いゾ…!」

「エイラ、人にお願いするときはちょっと遠慮するものよ?」

「う~…」

 

サーニャに注意されて、エイラは少し立場が弱くなる。

そこに、シュミットがやって来る。

 

「はいこれ。こっちはエイラで、こっちはサーニャに」

「ん?何だ?」

 

シュミットは二人にケースに入った何かを渡す。エイラはそれを受け取るとケースを開けた。中に入っていたのは、狐の絵柄が入っているグラスコップだった。

そして、サーニャが中を見ると、そっちにもグラスコップ、こちらは黒猫の絵柄が入っていた。

 

「これって…」

「ロマーニャの街で見つけたんだ。部隊の皆の分全部買ってきたんだ」

 

そう、シュミットはロマーニャの雑貨屋で、動物の絵柄の入ったグラスコップを見つけたのだ。ロマーニャで盛んになったガラス工芸品は、シュミットの目を引き付けた。そして、シュミットは自分のお金から皆の分をすべて買ってきたのだ。

 

「ありがとう、シュミットさん」

「ありがとナ、シュミット」

「喜んでもらえてよかったよ」

 

サーニャとエイラはシュミットにお礼を言う。シュミットは二人のお礼を聞けて、買った甲斐があったと言った様子だった。

そして、宮藤はペリーヌの元にあるものを持っていく。

 

「ペリーヌさん、これ」

「なんですの、これは?」

「お花の種、この基地の周りにお花を植えたらどうかなって、リーネちゃんが」

「リーネさんが?」

 

ペリーヌはリーネが事の発案だと知り驚く。ペリーヌは、今回の件で一人だけ何も頼まなかった。そのため、リーネはペリーヌに少しでも元気になってもらおうと思い、花の種を頼んだのだ。

 

「はい。ペリーヌさんにお花の育て方を教えてもらおうと思って」

「ど、どうして私がそんなことを…」

「一緒に植えようよ!」

「教えてください」

 

二人真っ直ぐとした言葉に、ペリーヌもあっさりと折れた。

 

「仕方ありませんわね」

 

そう言って、ペリーヌはお花の育て方を一つ一つ説明したのだった。

そして、皆はミーナの注文したラジオの前に並び、耳を立てる。

 

『…さて、本日初めての公務の場である、栄優会に出席されたロマーニャ公国第一皇女、マリア殿下からのお言葉です』

 

ラジオからは男の人の視界が聞こえてくる。そして、少し静かになると、次に女性の声が聞こえてくる。

 

『昨日、ローマはネウロイの襲撃を受けました。しかし、そのネウロイは小さなウィッチの活躍で撃退されたのです。その時私は、彼女からとても大切なことを教わりました』 

 

全員が静かにラジオを見ながら聞く。

 

『この世界を守る為には、一人一人が出来る事をすべきだと、私も私が出来る事でロマーニャを守っていこうと思います』

 

そして、ラジオの向こう側に居るマリア殿下は、とんでもない言葉を501のウィッチ達に落とした。

 

『ありがとう、私の大切なお友達、フランチェスカ・ルッキーニ少尉』

「え?」

『ええええ!?』

 

衝撃の言葉に、ラジオを聴いていた全員が驚く。何故、今ルッキーニの名前が出たのかと誰もが思った。

 

『感謝を込めて、ささやかなお礼を501統合戦闘航空団に送ります』

 

そして、殿下の続けて言われた言葉と共に、基地の外で音がする。全員が見てみると、パラシュートによって投下された沢山の木箱があった。それは、マリア殿下がお礼として送ってくれた、補給物資の数々だった。

 

「お、重い…」

 

その補給物資の下では、外で立たされていたルッキーニが下敷きになってしまったのだった。




ようやく山を越えた気がしました(難題という)。次はサーニャ回にようやく入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十四話「未来予知とシールド」

第八十四話です。どうぞ!


「雨が降っても気にしない~♪槍が降っても気にしない~♪なーにがあっても気にしない~っと」

 

エイラは歌いながら飛行をしている。その周辺には小型のネウロイが複数接近してくるが、エイラはまるで分かっていたかのようにネウロイの場所に機関銃を向けて撃つ。

その様子を見て、宮藤はエイラのところに行きながら言う。

 

「エイラさん、シールド使わないと危ないですよ?」

「ん?何処見てんダお前?」

 

宮藤はエイラの言葉を心配して言うが、エイラはまるで何言ってるんだと言わん表情で宮藤を見る。そして新たに小型ネウロイが現れると、単身でネウロイを迎撃、攻撃を回避しながら逆にネウロイに攻撃を加えて行く。

 

「あらよっと」

「す、すごい…」

 

そして、エイラは周辺に居たネウロイを一瞬にして倒す。宮藤はそれを見て驚くが、エイラからしたらいつものことだった。固有魔法『未来予知』の力は、エイラを被弾させることなくネウロイを倒させた。

ネウロイ発見の報告を受けたウィッチ達は、すぐさま現地に到着してネウロイとの戦闘を行っていた。しかし、殆どのネウロイを倒したとき、複数の人はその手ごたえの無さに疑問を持った。

 

「こんなもんか?」

「あらかた撃墜したようだが…妙だな、手ごたえがない」

 

全員が集まり、シャーリーとバルクホルンが言う。しかし、坂本は気づいていた。

 

「これは全て子機だ。操っている本体を探しているんだが…」

「まだ健在だと?」

「ああ」

 

坂本の言葉にペリーヌが聞く。

 

「いつの間にかやっつけちゃったんじゃない?」

「本体を倒せば子機も消えるはず…」

 

ルッキーニがもう倒したのではと言うが、それではリーネの言う通り、子機すべてがいっぺんに消滅するはずである。

その時、坂本は後ろから何か気配を感じて振り返る。そして、そこに会った光景に目を開いた。他のウィッチ達も、坂本に続いて後ろを見た。

 

「何だあれは!」

「く、雲を突き抜けてますわ!」

 

バルクホルンとペリーヌが言う。そこにあったのは黒い色をした異形の存在、ネウロイの姿だった。しかし、その形が問題だった。ネウロイの形状は、縦にとてつもない長さをしており、なんと雲を突き抜けていた。

 

「まさか、あれが本体…!?」

「お前達はここで待て!」

「少佐!?」

 

シャーリーもまさかと言った声で言う。しかし、あれこそが本体であるネウロイなのだ。そして、坂本は全員にここで待つように言うと、ネウロイに接近をしていく。

ネウロイは坂本が接近しても特に攻撃をする様子は見せない。表面は全面的に黒色であり、ネウロイがビームを放つ赤い部分が無かった。

 

「なんて高さだ…」

 

坂本はネウロイの高さが何処まであるかを上昇しながら図る。しかし、てっぺんの部分は肉眼でまだ確認できない。

坂本は魔眼を開きながら見る。すると、ネウロイのてっぺんあたりで赤く光る部分が見えた。

 

「あれがコアか」

 

坂本はネウロイのコアを確認した。その時、坂本の体に振動が伝わってくる。

 

「限界か…」

 

坂本は紫電改を見ながらそう呟く。紫電改は息を吹きながらエンジンを回していた。既に1万メートルを超えており、レシプロの上昇限度に来ていたのだ。

そして、失速をして上昇が止まり、坂本の体は今度は降下を始めた。

 

「厄介だな…」

 

坂本はネウロイのコアの位置を魔眼で確認しながらそう言う。そして、坂本は待機させていたウィッチ達の元へ行く。

 

「一時撤退だ、基地に帰投する」

「ですが、まだ敵が」

「帰って作戦を立て直す。今日は遠出をしすぎたから、そろそろ戻らないと基地にたどり着けなくなる」

 

坂本は基地への帰投を選択した。遠出による魔法力と弾丸消費の状態、そして圧倒的高度にコアがあるネウロイ

に立ち向かうには、現在の体制では不十分すぎる。

そして、全員帰投をする。時は周り、周囲の景色はオレンジに染まる。宮藤は夕日の方を見ながら飛行していた。あまりにもその景色が綺麗だったからだ。

その時、宮藤はエイラが手に何かを持っているのに気づく。よく見るとそれは何かの枝のようであり、エイラはどこか嬉しそうに笑顔になっていた。

 

「なんですか、それ?」

「何だヨ」

「何かの枝ですか?」

「うるさいな、なんでもない…」

 

宮藤が聞くが、エイラは逃げながら枝を隠す。エイラが逃げるので、宮藤は追っかける。しかし、エイラはまるで宮藤が来るのが分かってるかのようにヒョイヒョイと避ける。

全然エイラを捕まえられないので、宮藤は息を切らしながらエイラに聞く。

 

「はぁ…エイラさんって、なんでそんなにすばしっこいんですか?」

「ふふーん、すばしっこいだけじゃこうはいかないサ。私は未来予知の魔法が使えるんだ。敵の動きだろうがお前の動きだろうが、私には全部見切れんのサ~」

「へ~」

 

宮藤はエイラの説明を聞いて初めて知り、驚いたようにエイラを見る。

 

「自慢じゃないが、私は実戦でシールド使ったことが無いんダ。あんなものに頼ってる奴は、私に言わせりゃ二流ダナ」

「そんな~!私はシールドだけが取り柄なのに…!」

 

そして、エイラが宮藤に少し意地悪に言うので、宮藤は困ったようにエイラを見る。宮藤が戦闘で取り柄があると言えば、まず最初にシールドが来るぐらいだ。それをバカにされてはたまったものではない。

 

『そんな言い方してはダメよ、エイラ』

『取り柄は人それぞれだからな』

 

その時、耳のインカムに声が二つ流れてくる。宮藤たちが気付き基地の方を見ると、二つの飛行する影が見えた。その影はサーニャとシュミットだった。

 

「お帰りなさい、皆」

「入れ替えだな」

「サーニャ!」

「シュミットさん!」

 

二人が帰ってきたウィッチ達に言う。そして、エイラと宮藤は二人の姿を見て返事を返すように言う。そして、シュミットとサーニャは帰ってきたウィッチ達の横を一度通り過ぎると、宮藤たちの横に来た。

 

「そっか、これから夜間哨戒なんだ」

「うん」

 

宮藤の言葉にサーニャが返事を返す。そう、二人はこれから一緒に夜間哨戒任務に行くのだ。

ブリタニアの時のように、サーニャの負担を減らそうとシュミットがミーナに言ったのだ。尤も、別の意味もシュミットにはあったが、ミーナは二つ返事で了承してくれた。

しかし、これから夜間哨戒に行く二人を坂本が止めた。

 

「待てシュミット、サーニャ、今夜はいい。一緒に基地に戻れ」

「え?…はい」

「了解」

 

坂本の言葉に、サーニャとシュミットは疑問に思いながらも返事を返した。そして、全員で基地に帰投したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「サーニャちゃんこんな大きなものいつも持ってて大変だね…」

 

基地に帰投した宮藤は他のメンバーが先に上がる中、サーニャのフリーガーハマーを見ながら言う。宮藤の使う九九式機関銃に比べると圧倒的に大きなフリーガーハマーは、ユニット固定台に収められてもその重量感を持っていた。

だが、サーニャは宮藤の言葉に首を微かに横に振った。

 

「ううん、慣れてるから」

「サーニャは一人で夜間哨戒することが多かったからな、いざとなったらこのフリーガーハマーで一人でだって戦うんダ」

「うん、凄いよね!」

 

エイラの言葉にリーネも凄いと言う。基本的に夜間哨戒に出るウィッチは、単独戦闘を強いられるために武装が強力なものになる傾向があるのだ。

 

「でも、一人よりは誰かと一緒の方が寂しくないよね」

「うん」

 

宮藤の言葉に、サーニャも笑顔で答える。一人で飛ぶよりは、誰かと一緒に飛んだ方が圧倒的にいい。それに、今はシュミットが一緒に飛んでくれているから尚更であった。

 

「あ、そうだ」

 

エイラは思い出したように、手に持っていたものをサーニャに差しだした。それは、先ほどエイラが手に持っていた木の枝だった。

 

「あ、それ」

「針葉樹の葉…ですか?」

 

宮藤は先ほど見たものだったため反応し、リーネはそれが針葉樹の葉と考える。そして、エイラはそれをサーニャに渡した。

 

「ありがとう、エイラ!」

「今日、飛んでいった先にイトスギの森があってサ、オラーシャの冬景色にちょっと似てたんだ」

「昔住んでいた家にも、沢山生えていたのよ」

「へ~!」

 

エイラは、サーニャが住んでいたオラーシャの景色に今日行った場所がよく似ていたため、そこからイトスギの枝を持ち帰ってきたのだ。故郷を思うサーニャの為に、エイラが気を利かせたのだ。

その時、格納庫入り口から声がする。

 

「ここに居たのか」

「あ、シュミットさん」

「ミーナ中佐達が呼んでいた。ブリーフィングをするそうだ」

 

シュミットの言葉に、格納庫に居た者たちも全員がブリーフィング室に行く。既に中には人が集まっており、前の方には投影機があった。

そして、席に着いた宮藤たちを見て、ミーナが周りを見回す。

 

「全員いるわね」

 

そう言って、ミーナは部屋の明かりを落とす。そして、投影機から画像が映し出される。出された画像は、昼間に宮藤たちが見たネウロイの姿だった。

 

「空軍の偵察機が撮ってきた写真だ」

「…ノイズだけ?」

 

坂本の言葉にシュミットが言う。昼間に出撃していなかったシュミットとサーニャからは、ノイズしか映っていないように見えた。

 

「これが昼間現れたネウロイだ。全体を捉えようとしたらこうなった。全長は、3万メートルを超えると推測される」

「さっ!?」

「3万!?高さ30キロってことか!?」

 

坂本の衝撃発言に皆が驚く。宮藤は、手でそれが富士山の何倍かを数えていた。

そして、坂本は続けて説明をしていく。

 

「これが、毎時およそ10キロという低速でローマ方面に移動している。そして厄介なのが、こいつのコアの位置だ」

「どこに?」

 

坂本の言葉に、シュミットが聞く。すると、坂本はネウロイの頂点の位置を指した。

 

「ここだ」

「てっぺん?」

「ああ。私がこの目で確認した」

「ですが、私たちのストライカーユニットの限界高度は精々1万メートルですわ…」

 

ペリーヌの言う通り、このネウロイのコアの位置は問題があった。ウィッチ達の使うストライカーユニットの限界高度は1万メートルを超えるぐらいであり、3万メートルまで届かない。

そして、写真は次の物に替わる。そこには、何かの図面が映し出された。

 

「だから作戦には、これを使う。ロケットブースターだ」

「これがあればコアのある所まで飛べるんですか?」

「いや、そんな簡単な話ではないはずだ…」

 

宮藤が言うが、バルクホルンはこれが簡単な話では無いと言う。その言葉に同意するように、ミーナが言った。

 

「ええ、ブースターは強力だけど魔法力を大量に消費するから短時間しか飛ぶことができないわ」

「だったら、私達皆で誰かを途中まで運べばいいんだな?」

「そういうことだ」

 

シャーリーの言葉に、坂本が同意する。今回の作戦は、誰かが誰かをネウロイの位置に届ける形になるようだ。

 

「しっかし、3万メートルも上空ってことは空気も無いよな」

「え!?空気無いの!?」

 

シャーリーの言葉にルッキーニが驚いたように反応する。

 

「じゃあ喋っても聞こえないね」

「おお、かもな!」

「え!?聞こえないの!?」

 

そしてエーリカの言葉にシャーリーがそうだなと言い、ルッキーニがまた驚く。しかし、声が聞こえないことよりも更に大事なことがある。

 

「聞こえないことより深刻なのは、生命維持の方だな」

「3万メートルの超高高度は、人間の限界を超えた未知の領域よ」

「だが、我々はウィッチだ。ウィッチに不可能は無い」

 

シュミットの言葉にミーナも続けて言う。しかし坂本は、ウィッチであればこの作戦は乗り切れると言った。

そして、部屋の明かりがつけられると、坂本は周りを見る。

 

「そこで、瞬間的かつ広範囲にわたる攻撃力を備える者として…」

 

そう言いながら、坂本はサーニャを見た。

 

「サーニャ、コアへの攻撃はお前に頼みたい」

「えっ!?」

 

坂本の言葉に、何故かエイラが驚く。シュミットは驚きはしなかったが「やはり…」と小さく言う。

 

「この作戦には、お前のフリーガーハマーによる攻撃力が不可欠だ」

「はいはいはい!だったら私も行く!」

 

坂本の言葉に、エイラが手をあげながら言う。しかし、ここで坂本はエイラに質問した。

 

「ふむ、そうか。時にエイラ、お前シールドを張ったことあるか?」

「シールド?」

 

坂本に言われてエイラは手を下ろすが、今度は腕を組んで自慢げに言った。

 

「自慢じゃないけど私は実戦でシールドを張ったことなんて一度も無いんだ」

「なら無理だ」

「うん、ムリダナ…えっ!?」

 

坂本にバッサリと切られ、エイラは一瞬そのまま返事をし、そして少しして驚く。

 

「そうね、こればっかりは…」

「な、なんで!?」

 

ミーナも同意したようだが、エイラはどうやら理解していないようだった。

 

「今回の作戦はブースターを使用する上に、極限環境での生命維持、そして攻撃と、とても多くの魔法力を消費するわ」

「となれば、サーニャには自分の身を守る余裕は無い。だからもう一人、サーニャの盾となり、守る者が必要となる」

 

ミーナと坂本の言う通り、サーニャは攻撃だけに徹することしかできない。そのため、ネウロイに攻撃されたときに対する防御の役割を担う人物が必要だ。

 

「わ、私は別にシールドを張れないわけじゃないぞ!」

「だが実戦で使ったことは無い」

「その通りだ!」

 

エイラの自慢気な言い方に、坂本は頭痛がするのか頭を抱え、ミーナも「やっぱり無理ね」と言う。その反応にエイラも流石に何も言えなくなる。

そして、坂本は何かを少し考え、今度は宮藤の方を見た。

 

「宮藤、お前がやれ」

「は、はい!…え?」

「魔法力の多いシュミットか宮藤だが、シュミットには()()()()をしてもらうし、もっとも強力なシールドを張れるのはお前だ。お前なら適任だろう」

 

そう言って、坂本は言う。確かに魔法力の多い二人なら、シールドの強度も並大抵のことでは破られない。その中でも、シールドにおいて長けているのは宮藤だった。

 

「少佐、別のことというのは?」

 

そんな中、シュミットは別のことと言うのが気になり坂本に質問した。

 

「お前には、固有魔法を使って他の魔法力消費を抑えてもらいたい」

「強化を?」

「そうだ。強化を使って全員の力とブースターの能力増幅、それとサーニャへの魔法力消費を抑えるんだ」

 

坂本はシュミットに説明をする。つまりシュミットは、固有魔法を使って作戦成功率を上げる役割があるのだ。ロケットブースターに強化を掛けることで、通常よりも出力を上げて高高度まで上がる、これによりネウロイのコアを攻撃するサーニャ達の魔法力の消費をできる限り抑えるようにするのだ。

 

「分かりました」

 

シュミットも内容を理解をし、坂本に返事をした。

宮藤は突然のこと過ぎてぼうっとしてしまうが、横からかかる謎の圧力に気づいた。

 

「ん?」

「がるるるるるる」

「あわわわわわ」

 

振り向いてみると、エイラが宮藤に嫉妬丸出しで詰め寄っていたのだ。その顔に宮藤はただ、オドオドとすることしかできなかった。




冒頭のあの歌って「器の大きな人の唄」って言うんですね(最近知りました)。シュミットの固有魔法は作戦成功のカギになりました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十五話「仲違い」

第八十五話です。久しぶりに文章が少ないです。どうぞ!


翌日、基地上空。

 

「あの~…本当にいいんですか?」

 

リーネは対装甲ライフルをエイラに向けながら聞く。弾はペイント弾では無く、実弾だ。

 

「構いませんわ。おやりになって」

「で、でも…」

 

リーネの質問に答えたのはエイラ…では無く、エイラの後ろに居るペリーヌだった。しかしリーネは、どこか撃ちずらそうな反応をしていた。

そして、ペリーヌは前に並ぶエイラに言った。

 

「さ、エイラさん。私をサーニャさんと思って守ってくださいまし」

「え~…オマエがサーニャ?」

 

ペリーヌに言われてエイラは露骨に変な反応をする。

そもそも何故、このような事になっているのか。それはエイラがペリーヌに協力を求めたことから始まった。宮藤に代わって自分がサーニャの盾役になる為に、シールドを張る訓練を頼んだのだ。因みに、何故ペリーヌに頼んだのかと言うと、エイラのイメージから宮藤といつも揉めているから、「敵の敵は味方」という理由だった。

しかし、エイラが露骨な反応をしたのでペリーヌは怒った。

 

「真面目におやりなさい!」

「は、はい!」

 

しかし、その声に驚いて反応したのはリーネだった。そして、リーネは罪悪感を感じながらも対装甲ライフルの引き金を引いた。

 

「あ、ひょい!」

「ひっ!?」

 

しかし、エイラは後ろを向きながらも未来予知によって弾丸の位置を知り、体を本能的にわずかに逸らす。そして、本来エイラがシールドで止めるはずだった弾丸は後ろに居たペリーヌのところへ飛んでいき、ペリーヌはギリギリのところで弾丸を止めた。なんと弾丸の位置は自分の顔だったではないか。

その様子を見てリーネが心配そうに聞く。

 

「だ、大丈夫ですか~…」

「何で避けるんですか!避けたら訓練になりませんでしょ!?」

「ワリイワリイ…けど、お前じゃ本気になれなくてサ…」

 

ペリーヌはエイラに詰め寄って聞く。エイラはエイラで、ペリーヌではサーニャのようにいかないようでどうやらシールドを張れないようだ。

しかし、そんなエイラの態度にペリーヌが爆発した。

 

「誰の為に私が体を張ってると思いまして!?リーネさん!いいからじゃんじゃんお撃ちになって!」

「で、でも…」

「いいから!!」

「は、はい~…!」

 

ペリーヌに半ば脅される形でリーネは引き金を引く。

 

「よっ!」

 

しかし、エイラはエイラで再び固有魔法で弾丸の位置を未来視してしまい、すべて避けてしまう。そのため、弾丸は全部ペリーヌの元へ飛んでいく。

地上で見ている者たちも、その光景を見ていた。

 

「うわ~…あんなの私にも出来ないよ…」

「その才能が仇になるとはな…」

「…」

 

ハルトマンはとんでもない光景に驚きながら、バルクホルンはエイラの才能の弱点である点を見ながら呟く。一方シュミットは、その光景をじっと見ながら黙っていた。

 

「エイラさん!何度言ったらわかるんですの!!」

「ご、ごめんなさ~い!」

 

上空ではペリーヌがエイラに大声で怒鳴り、特に悪いことなどしていないリーネが何故か謝ると言う不思議な光景が繰り広げられるのだった。

結局シールドを張れなかったエイラは、自分とサーニャの共用の部屋に戻る。

 

「あれ?」

 

エイラは部屋に入ったとき、ソファーに掛かっていた物に目が行く。そして、それを手に取ってみた。

 

「これは…」

「エイラのコートでしょ?」

 

エイラの言葉にサーニャが答える。サーニャは、部屋のクローゼットの中で何かを探している様子であり、顔だけを出しながらエイラに言った。

 

「成層圏は寒いから」

「そっか!そういやこれも久しぶりだな!」

 

エイラはそう言って自分のコートを見る。エイラ自身も寒さに慣れている点からコートを着る機会があまりなかったため新鮮な気分だった。

 

「で、どうだったの?」

「え?」

 

突然サーニャに聞かれてエイラは何のことか分からず聞き返す。しかし、次に帰ってきた言葉はエイラを動揺させた。

 

「ペリーヌさんの特訓」

「な、なんだ…知ってたのか」

 

エイラはサーニャに秘密で特訓をしていたつもりだったが、サーニャはエイラがペリーヌと共にシールドを張る特訓をしていることを知っていた。

 

「上手くできた?」

 

そして、サーニャはエイラがシールドを張ることができたかを聞く。しかし、サーニャに帰ってきた言葉は簡潔だった。

 

「ムリ、駄目だった」

「そう…」

 

その答えは少し予想外だったためか、サーニャはしょんぼりしたように反応した。

その様子に気づかず、エイラはサーニャの方を見る。そして、サーニャが手に沢山のマフラーを持っているのに気づいた。

 

「あれ?マフラーそんなに持ってくのカ?」

「うん、これ?」

 

エイラに言われてサーニャは視線を手元に向ける。

 

「エイラと私と芳佳ちゃん、それからシュミットさんのだよ」

「宮藤?」

 

エイラは芳佳と言う単語に驚く。シュミットにはサーニャが貸してあげることを知っていたが、宮藤に貸してあげることは聞いていなかったからだ。

 

「芳佳ちゃん、扶桑からなんも用意をしないで来ちゃったから、貸してあげようと思って」

 

サーニャは説明をして、そして少し下を向く。

 

「でも、エイラも張れるようになるといいね。シールド」

「無理だよ…」

「え?」

 

しかし、エイラから帰ってきた言葉はサーニャの予想外の物だった。

 

「やっぱり、慣れないことはするもんじゃないな」

 

エイラは僅かに弱く、そう言った。しかし、サーニャはそんなエイラに聞いた。

 

「エイラ、諦めるの?」

「出来ないことをいくら頑張ったって、仕方ないじゃないか…」

 

エイラはそう言って、サーニャから目を背ける。これでは、エイラはまるで逃げているだけである。

そんなエイラに、サーニャは言った。

 

「出来ないからって、諦めちゃダメ!」

「なっ」

「諦めちゃうから…出来ないのよ」

 

サーニャはエイラに言う。諦めるからこそ、逃げているからこそシールドを張ることができないのではないかと。

しかし、エイラはそんなサーニャの言葉に癇癪を起こしてしまった。

 

「じゃあ最初からできる宮藤に守ってもらえばいいだろ!」

 

エイラはこの時、カッとなってしまった。そして、サーニャに強く当たる。自分の力では無く、最初からシールドを張ることができる宮藤に頼めばいいだろと。

 

「エイラのバカ!」

「サーニャの分からずや!」

 

サーニャの大声に、エイラも言い返した。その時、エイラは未来予知であることに気づく。

目の前に、何かが飛んできてエイラに直撃する。それは、サーニャが愛用していたクッションだった。そしてエイラは、自分に当たったクッションなど気にせず、サーニャを見た。

サーニャは、懸命にエイラの方を見ていた。今にも泣きそうな表情をしているサーニャに、エイラは何も言えなかった。

そして、サーニャは走り出すと、黙って部屋を出て行ってしまった。

 

「あ…」

 

残されたエイラは、どうすることもできずに部屋の中で立ったままになるのだった。

その時、サーニャの出ていったドアから新たな声がする。

 

「何があった、エイラ?」

「シ、シュミット…お前には関係無い事ダ…」

 

突然現れたシュミットにエイラは驚く。しかし、エイラはシュミットには関係の無いことだと言って説明しない。

 

「…サーニャ、泣いてたぞ」

「っ!」

 

その一言で、エイラは動揺する。自分がサーニャを泣かせてしまったと言う事実に。

 

「お前がシールドを張れないのは仕方ない…だが、お前が頑張って守ろうと思うサーニャに、癇癪をぶつけてどうする?」

「だ、だけど…」

 

シュミットの言葉にエイラは尻すぼみになる。その様子を見て、シュミットは溜息を一つ吐くとエイラに背を向け、そして話し始めた。

 

「…正直な話、出来る事なら私がサーニャを守りたいとだって思ってる。だが、私はそれが出来ない。正直に言うと、まだチャンスのあるエイラが羨ましいと思う」

「…」

「私は、自分の為すべきことをしてサーニャを守ろうと思う。エイラ…お前はサーニャの力になりたくないのか?」

「違う!」

 

シュミットの言葉に、エイラは思い切り否定した。その言葉に、シュミットは顔を見せないが微かに微笑む。

 

「なら、サーニャを守ってくれ」

 

そう言って、シュミットは部屋から出て行ったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その夜、サーニャは基地の外の湖で水浴びをしていた。

 

「…」

 

サーニャは黙ったまま、空に見える月を眺めて水に浮いていた。考え事をしているサーニャの周りで音を立てるのは、水の音だけだった。

 

「サーニャアアアアン!!」

 

その時、突然そんな声がしたのでサーニャは体を起こして声のした方向を見る。

そこには、ハルトマンが湖に思い切りダイブをし、高い水しぶきをあげた。

 

「いったぁ~…」

 

思い切りダイブをしたハルトマンは、あまりにも高くジャンプをして水に打ち付けられたので痛そうな反応をする。その様子を、サーニャはキョトンとしながら見ていた。

そして、二人は基地に残された遺跡の石に座って、話をする。こう見えても、二人は仲がいい。

ハルトマンは、サーニャが何か悩んでいると踏んで話を聞いていた。

 

「にゃはは、そんなことがあったんだ」

「笑い事じゃありません…」

 

ハルトマンが笑いながら言うが、サーニャにとっては笑えない。今までウィッチーズの中では一番と言っていいほど関りのあったエイラと喧嘩をしたのだから、当然である。

 

「で、サーニャはどうしたいんだい?」

「…私?」

 

ハルトマンに言われてサーニャは顔をあげてみる。すると、月を見ていたハルトマンは少し意地悪くサーニャを向いて言う。

 

「やっぱり、本当はシュミットに守ってもらいたかったりする?」

 

その言葉に、サーニャは顔を赤くする。その様子を見てハルトマンは少し面白そうな反応をするが、再び視線を月に向けた。

 

「でも、任務じゃ仕方ないか…」

 

シュミットに助けてもらいたいという思いはサーニャにもある。しかし、彼も彼で作戦の重要な部分を担っているのだ。

サーニャは、複雑な思いで水面を見るのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「本日未明に、ロマーニャの艦隊と航空部隊が接触したそうよ」

 

翌日、基地の部隊長室でミーナが坂本に届いた伝令を話していた。

今回のネウロイ撃退は、ウィッチーズだけでなく、ロマーニャ軍も作戦に加わっていた。尤も、ウィッチ達が作戦を組み直している間、ロマーニャ軍がネウロイを引き受ける形であったが。ロマーニャ軍も、ウィッチーズだけに戦果を取られるのを焦っていたのだ。

 

「結果は?」

 

坂本がミーナに聞くが、ミーナは首を横に振って説明した。

 

「返り討ちに遭って、重巡洋艦ザラとポーラが航行不能、それから航空兵力も損失したわ」

 

ロマーニャ軍はネウロイに対して、戦闘機による機銃攻撃、巡洋艦艦隊による艦砲射撃、爆撃機による反跳爆撃によって、例の超巨大ネウロイに攻撃を加えた。

しかし、ロマーニャ軍の攻撃はネウロイの進行を低下させることができず、逆にネウロイの攻撃によって戦力を喪失する羽目になってしまった。

 

「…我々の出番だな」

 

坂本はそう言って、座っていたソファーから立ち上がるのだった。




本音を言えばサーニャを守りたいシュミット。だが、彼の役目はそうさせてくれないので、逆に今はエイラを羨ましく思っていたりする。そして、エイラにサーニャを守ってくれと頼んだのですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十六話「守りたい」

第八十六話です。どうぞ!


ロマーニャ軍からウィッチーズへのネウロイ討伐権が移行した日、格納庫内。

 

「ふふ~ん。ルッキーニ、似合ってるじゃないか!」

 

シャーリーはそう言ってルッキーニを見る。ルッキーニは赤いコートと黄色のマフラー、そしていつもの素足とは違い黒く長いストッキングを履いている。

 

「暑いよ~…」

「我慢だルッキーニ、成層圏は無茶苦茶寒いんだぞ?」

「うっ、寒いのやだ~」

 

ルッキーニはその格好に不満のようである。しかし、シャーリーの言葉に今度はそっちに嫌がる。温暖なロマーニャ育ちのルッキーニからしたら、暑い地域で熱い格好も嫌いだが、寒いのはもっと嫌いであった。

 

「ははは、じゃあこれも付けてっと」

 

シャーリーはそんなルッキーニを見て笑いながら、ルッキーニに耳当てを付けた。これで、成層圏で耳が冷たくなるのは抑えられる。しかし、ルッキーニは変な感覚にむずかゆく感じる。

その横では宮藤が大きなコートを見ながら話す。

 

「バルクホルンさんのコート、ちょっと大きい…」

「我慢なさい。何も着ないよりましでしょ?」

 

扶桑から殆ど用意もせずに飛んできた宮藤は、コートなどを持っていなかった。そのため、バルクホルンからコートを借りたのだが、サイズが合わず手が少しダボダボになる。そんな宮藤に、ペリーヌが注意する。

 

「ん?何だコレは?」

 

そのコートを貸したバルクホルンは、テーブルの上に置かれているティーカップに気づき質問する。その質問に、マフラーを巻いたリーネが答えた。

 

「ジンジャーティーを作ってみました。体があったまりますよ」

「ふむ、そうか」

 

リーネはそう言って、ティーポットを手に説明する。成層圏の寒さに耐えるためには、厚着だけでなく内部から体を温める必要もある。そのため、リーネは生姜を使ったジンジャーティーを作ったのだ。

 

「どうですか?お砂糖たっぷり入れたから飲みやすいと思いますよ」

 

リーネはそう言うが、飲んでいる人達は反応はそれぞれだった。

 

「まじい…」

「いや、しかし思ったほどでは…うぐっ!」

 

ハルトマンの言葉にバルクホルンがフォローしようとするが、彼女も言葉に詰まってしまう。

 

「おかわり~」

 

ミーナは笑顔でおかわりを要求するが、その後ろでペリーヌが何とも言えない反応をする。

 

「…辛いな」

 

シュミットはそう言って、もう一度ジンジャーティーをあおる。いくら砂糖で甘くしたとしても、しょうがをたっぷり使っているため辛いのだ。

 

「あ、あとから効いてくる感じだね…」

「しかし、薬だと思えばどうということは無い」

 

宮藤は横に居るサーニャに言うが、サーニャはその辛さが少しきついようだった。しかし、坂本が薬だと思えば問題ないと言うように、考え方は人それぞれのようだ。

そんな中、エイラはその様子を離れたところから見ていた。

 

(なんでお前がサーニャのマフラーしてんダヨ…)

 

と、宮藤に少し嫉妬している様子で、ジンジャーティーを飲むのだった。

そして、ウィッチ達は滑走路に集合すると、ユニットを履いてフォーメーションを組む。土台を利用して作るその形状は、周りから見れば人間タワーである。

第一段目にミーナ、坂本、ハルトマン、バルクホルン、シャーリーが土台となる。この5人は、上の段の人間をレシプロストライカーの限界高度まで持ち上げる。

第二段目には、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラ、シュミットの5人が腕を組む。この5人は比較的若い、もしくは魔法力が多いと言う点から採用され、第一段目の人達が限界高度到達と同時に離脱したら、ユニットに取り付けてあるロケットブースターを点火し、最上段の二人を持ち上げる。

そして、最後の段には、宮藤とサーニャが居る。二人は第二打ち上げ班が2万メートル以上上昇した後、離脱をしたらロケットブースターを点火、そのままネウロイのコアの位置3万3333メートルまで上昇し、コア破壊に向かう。

そして、全員がフォーメーションを組み終わる。

 

「皆いいわね?」

『はい!』

「シュミットさん!」

「了解!」

 

ミーナの言葉と共に、シュミットは固有魔法を発動する。彼は、第一打ち上げ班の上昇から第二打ち上げ班上昇まで、全てのユニットに強化を掛けるのだ。

 

「10!9!8!7!6…」

 

そして、着々とカウントダウンが進んでいく。

 

「5!4!3!2!1!0!」

 

そして、ゼロの合図と同時に、第一打ち上げ班がユニットのエンジンを高回転で回す。そこに、シュミットの強化の力も加わっているため、回転数は通常時よりもはるかに上回っていた。そして、全員の体は持ち上げられ、徐々に垂直飛行を開始していく。

 

(3000メートル…4000メートル…)

 

シュミットは、高度を数えながら時が来るのを待つ。

そして、第一打ち上げ班の動力の限界高度1万1000メートルに差し掛かり、第一打ち上げ班は離脱を開始する。

それと同時に、第二打ち上げ班がロケットブースターを点火する。無論、シュミットもロケットブースターを点火しており、同時に強化をまた全員にかけている。これにより、ロケットブースターは通常の上昇力よりもはるかに上昇距離を維持することができる。

 

(1万5千…1万7千…)

 

シュミットの意識は、徐々に朦朧としてくる。無理もない。彼の負担は通常よりも遥かに多いのだ。しかし、彼はこの役割をしっかりと果たさなければならない。

そして、ロケットブースターの上昇は本来の上昇距離よりも長い1万2千メートルを稼ぎ、高度は2万3千メートルに差し掛かった。これで、サーニャたちは実質1万メートル弱の上昇で済むので、魔法力の消費を抑えることができた。

ここで、第二打ち上げ班は離脱に入る。

 

「よし…」

 

シュミットは重い瞼を懸命に開きながら、上を見る。これで、後は宮藤にサーニャを託すだけになった。もう彼が出来る事は、作戦成功を祈ることだけだ。

エイラは離脱をしながら、サーニャを見る。サーニャは宮藤と体を抱き合いながら上昇していく。その時、サーニャはエイラの方に気づき、顔を向けた。

 

(…嫌だ!)

 

その顔を見て、エイラの心は揺れ動いた。エイラは、サーニャの身に何かが起きた時のことを考え、そして不安になった。

 

「私が…私が…サーニャを守るんだ!!」

 

エイラはそう言って、離脱をしている体勢から一転、ブースターに魔法力を再び流し始めると、そのままサーニャの元へ向けて上昇をした。

その様子に誰もが驚く。そして、サーニャがエイラに言った。

 

「何してるの、エイラ!?」

「サーニャが言ったじゃないか!諦めるから出来ないんだって!私は、諦めたくないんだ!私が…サーニャを守るんだ!!」

 

エイラはそう言って、懸命に手を伸ばす。自分がサーニャを守るんだと、懸命にサーニャのいる位置に届くように手を伸ばす。

しかし、エイラは魔法力を使っており、ロケットブースターも耐久が持たなくなってくる。彼女の手は、無情にもサーニャに届かない。

 

「っ!?」

 

その時だった。エイラが伸ばした手に突然、感触が来る。エイラは思わず目を開けて見ると、なんとそこにはサーニャと共にいたはずの宮藤の姿があった。

 

「宮藤!?」

「エイラさん、行きましょう!」

 

エイラは宮藤が目の前にいることに驚くが、宮藤はエイラの背後に回り込むと、こんどはその体を抱きかかえてロケットブースターを思い切り吹かす。それにより、エイラの体は宮藤と共にサーニャの元に送り届けた。

 

「芳佳ちゃん!」

「無茶よ!魔法力が持ちませんわ!帰れなくなりますわよ!」

 

皆が口々に言う。誰もがこの行動は無茶であると思っていた。

 

「私が、エイラを連れて帰ります…必ず連れて帰ります」

 

しかし、誰もが驚く声がする。それは何とサーニャだった。サーニャが、エイラを連れて帰ると言ったのだ。

そして、さらに驚く声がする。

 

「サーニャを頼むぞ!エイラ!!」

「なっ!?シュミットさん!?」

 

なんと、シュミットがエイラとサーニャの方を見ながらそんな事を言うではないか。エイラは、そんなシュミットに振り向くと、真剣な顔で頷き返す。

その顔を見て、シュミットは微笑む。そして、瞼をそっと閉じる。今の今まで、誰よりも負担がかかっていたシュミットが、最後の力を振り絞って言った言葉だったのだ。彼はエイラの表情を見て張り詰めていた気が抜けたのか、ドッと来た疲れに負けそのまま空中で眠ってしまった。

そのシュミットに気づき、ペリーヌが急いで受け止める。

 

「シュミットさん!?もう…無茶苦茶ですわ…」

「いっけー!サーニャー!エイラ―!」

 

ペリーヌはそう言って、再び視線を空に向ける。横に居るルッキーニは、年相応のはしゃぎ方をしながらエールを送っていた。

そして、エイラをサーニャの元に送り届けた宮藤は、そっと手を放し、そして離脱を開始した。宮藤は、エイラにサーニャのことを託したのだ。

エイラはそんな宮藤に驚くが、宮藤が完全に離れて行くのを見て、そして表情を変えた。

二人は、ぐんぐんと上昇をしていく。エイラのロケットブースターは、成層圏でのシールドの役割を担うために既に活動を停止していた。後はサーニャの力のみで上昇していくことになってしまっていた。

しかし、二人は確信していた。必ずネウロイのところへ辿り着くと。何故なら、途中までの高度をシュミットがありったけの魔力と固有魔法を使って稼いだのだ。必ずたどり着けると。

そして、二人はついに3万メートルの高度を抜けた。天を仰げば鏤められた星々、下を向けば青い星が見えていた。そして、真ん中には赤い光、ネウロイの姿が見えた。

 

「来る!」

 

ネウロイは、形状を変化させる。先端部を花のように開くと、そこにビームを収束させ、そして二人に向けて放った。

 

 

 

しかし、ビームは二人に当たることは無かった。ビームは二人の目の前で拡散し、後方へと飛んでいく。

エイラがシールドを張ったのだ。特訓で一度も張ることができなかったシールドを、エイラが張ったのだ。始めて張ったシールドは、ネウロイの攻撃からサーニャを守ったのだ。

そして、エイラが懸命にシールドを張ることで、サーニャはフリーになった。そのおかげで、サーニャはネウロイに対してフリーガーハマーを安心して向けることができる。

サーニャはずっとエイラと繋いでいた手を離すと、フリーガーハマーをしっかりと構えて引き金を引いた。放たれた9発のロケット弾はネウロイに向けて飛翔していくと、周辺で爆発。ネウロイの表面を削ると同時に、コアを完全に粉砕した。

そして、ネウロイは大爆発の中に飲み込まれながら、その姿を完全に消滅させた。

 

「っ!」

 

しかし、この爆発の衝撃はサーニャは後方に吹き飛ばした。エイラはシールドを張っていたが、サーニャはそのまま体が爆風に流されてしまう。

だが、そんなことはさせなかった。エイラはシールドを張る手とは逆の手を伸ばして、サーニャの手を取った。そして、サーニャを爆風に飲み込ませないようにシールドの中に入れた。

暫くして、爆風は収まった。後に残ったのは地上に向かって落ちていくネウロイの残骸だった。破片は、まるで夜空の雪のように地面に向けて降り注いでいく。

エイラは、サーニャの方を向いて微笑む。そして、サーニャの耳に顔を寄せる。

 

「聞こえるカ?」

「うん…」

 

エイラがサーニャに聞くと、サーニャは答える。

 

「ごめんな」

「ううん、私も」

 

エイラは、サーニャに謝った、昨日のことを。そして、サーニャも同じように謝った。互いが悪かったのだ。今ここで、二人はしっかりと謝った。

そして、サーニャは遠くに見える景色に気づく。

 

「見て、エイラ。オラーシャよ」

「うん」

 

サーニャに言われてエイラも見る。そこには、雲の下に存在するオラーシャの姿があった。その中でも、雲を突き抜ける大きな場所があった。ウラル山脈だ。

サーニャは、そのウラル山脈に向けて手を伸ばす。

 

「ウラルの山に手が届きそう…」

 

サーニャは懸命に手を伸ばし、そして少しおろして言った。

 

「このまま、あの山の向こうまで飛んでいこうか…」

「…いいよ」

 

その言葉に、エイラが返事を返した。そして、続けてサーニャに言った。

 

「サーニャと一緒なら…私はどこへだって行ける」

「っ!」

 

その言葉に、サーニャは目を開いてエイラを見た。エイラは、目に涙を浮かべながらサーニャに言っていた。

そんなエイラを見て、サーニャはエイラの体を抱き寄せる。

 

「ありがとう。でも嘘…ごめんね。今の私たちには帰るところがあるもの」

 

エイラの言葉にお礼を言って、そしてサーニャは謝る。今の二人には、ちゃんと帰るところがある。彼女たちの帰りを待つ人がいる。そして、大切な人が待っている。

そして、エイラは言った。

 

「あいつが誰かを守りたいって気持ちが…少しだけ分かった気がするよ」

 

エイラの頭の中には、二人の人影が浮かんでいた。一つは、自分の力で皆を護りたいと志す少女の姿。そしてもう一つは、愛する人の笑顔の為に命をも懸ける青年の姿。

そして、二人はゆっくりと重力に従い降下していく。真上に見える星空と、遠くに見えるオラーシャの大地をしっかりと、瞳に焼き付けながら。




というわけで、サーニャ編が終わりました。シュミット?彼は彼で活躍してましたよ?次は(ある意味)問題の話に入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十七話「シュミットの想い」

第八十七話です。どうぞ!


地中海、501基地周辺。

 

「ふぁ~…」

 

サーニャは夜間哨戒を終え、欠伸をしながら基地に向かっていた。その横では、同じように夜間哨戒を終えたシュミットが居た。

 

「もう少しだサーニャ、頑張れ…」

「はい…」

 

シュミットはサーニャに励ましの声を掛ける。しかし、そんなシュミットも少し疲れた表情をしており、彼も彼で我慢しているようだった。

そして、二人は基地の格納庫に付く。シュミットは先にサーニャに上がらせ、自分は後の仕事を行う。

 

「ふぁ~…」

 

シュミットは欠伸を一つする。サーニャの前では懸命にこらえていたが、今は居ない為思わず零れたのだ。そして、仕事を一通り終えたシュミットは、自分の部屋へ寝に向かう。

 

「…ん?」

 

そして、部屋の扉を開けたシュミットは、そこにある光景に気づく。一人部屋である彼の部屋は、ベッドは一つだけだ。しかしその上に、誰かが寝ている。

シュミットはベッドに近づき寝ている人物を見る。

 

「おや…」

 

ベッドの中で眠っているのは、なんと先に上がっていたサーニャだった。そしてシュミットは周りを見ると、床に脱ぎ散らかされた服を見つけた。サーニャが部屋に入り込み、ベッドに潜り込んだようだ。

シュミットはその姿に微笑む。そして、ベッドの上にあるシーツに手を伸ばした。

 

「そのままじゃ風邪を引くぞ…」

 

そう言って、シュミットはサーニャの肩までをシーツで覆ってあげる。そして、今度はサーニャの脱ぎ散らかした服を見た。

 

「…仕方ないな」

 

そう言って、シュミットはサーニャの服を一つ一つ丁寧にたたむと、それをサーニャに分かりやすい位置に置いた。

そして、ベッドをサーニャに占領されたシュミットは、眠たい体をソファーに預け、そして夢の中へ入るのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「みなさん、おはようございます」

 

朝、ミーナがレクリエーションルームであいさつをする。部屋の中にはミーナの他に、坂本、宮藤、リーネ、ペリーヌ、ルッキーニ、エイラが居た。

そして、ミーナは通達を説明する。

 

「今日の通達です。先日来の施設班の頑張りにより、お風呂が完成しました。本日正午より、利用可能になります」

 

その言葉を聞いて、皆の顔が笑顔に変わった。

 

「やった~!」

「おっふろ~!おっふろ~!」

 

それぞれの喜ぶ姿を見てミーナは微笑み、そして捕捉した。

 

「アドリア海を一望できる、野外に作ってもらったのよ」

「ほう、露天風呂か」

 

ミーナの言葉に坂本が感心したように言う。ブリタニアの501基地にあったお風呂は室内浴場であり、露天風呂は珍しい形であったからだ。

 

「では、各自今日は自由行動です。お風呂の件は他の人にも教えてあげてね」

『は~い!』

 

ミーナの言葉に全員が返事をした。

 

「良かったね、芳佳ちゃん」

「うん!一緒に入ろうね!」

 

宮藤は早速リーネと約束を交わす。

 

「ペリーヌさんも!」

「え?ま、まあ汗を掻いたとにすっきりするのはいいことですわ…」

 

そして、宮藤はペリーヌも一緒に入ろうと誘う。名前を呼ばれたペリーヌは少し恥ずかしそうにではあるが、宮藤たちと一緒に入ることを約束した。

そんな中、ルッキーニは我先にとお風呂に直行しようとする。

 

「おっふろ~!おっふろ~!わったしがいっちば~ん!」

 

と言いながら走っていくルッキーニの上着の襟を坂本が掴む。

 

「聞いてなかったのか?風呂が使えるのは正午からだ」

「え~…まだ駄目なの?」

 

ルッキーニは坂本の言葉にブーブーと言う。ルッキーニとしては、今すぐにでもお風呂に入りたい気持ちでいっぱいだったからだ。

 

「風呂に入れるまでまだ時間があるな…というわけで、風呂に楽しく入る方法があるのだが…」

「何ですか?坂本さん」

 

坂本は風呂に楽しく方法があると言う。その言葉に食いつき宮藤が聞く。

すると、坂本は自信満々に言った。

 

「訓練で汗を掻け、全員基地の周りでランニングだ!」

 

坂本の言葉に全員が顔を変える。

 

「え~…」

「でも、訓練だったらいつでも…」

 

全員が不満そうな顔色をする。しかし、坂本は有無を言わさずに声を変えた。

 

「つべこべ言わずに走れ!」

『は、はい~!』

 

坂本に言われて全員がレクリエーションルームから走って出て行くのだった。

そこに、宮藤たちと入れ違いで起きてきたシュミットがやって来る。

 

「おはようございます」

「おはよう、シュミット」

「おはよう、シュミットさん」

 

シュミットは部屋の中に居た坂本とミーナに挨拶をする。坂本達もシュミットに挨拶を返す。

 

「さっきのあれ、何ですか?」

「宮藤たちか。風呂に入りたければ訓練で汗を掻けと言ったんだ」

 

シュミットは宮藤たちが部屋から出て行く姿を見て疑問に思い聞くと、坂本が答えた。

 

「風呂?」

「ええ。基地にお風呂が完成したんです。正午から利用可能です」

「へ~」

 

風呂と聞いてピンとこなかったシュミットだが、ミーナの説明を聞き納得した。

 

「それにしても…なんで風呂如きであんなにはしゃげるんだ…」

「それで英気を養えるならいいじゃない」

 

坂本は疑問に思ったようで口にするが、ミーナはそのあたりを寛容に見ているようである。そして、ミーナはどこか疲れた様子で肩を叩く。

 

「疲れています?」

「最近はネウロイと戦うよりも、上層部と喧嘩してることの方が多い気がするわ」

 

ミーナは疲れた声で言う。その様子に坂本も「そうだな」と言った様子で言う。

 

「そういえば出撃する機会も減っているな。ネウロイの撃墜数も確か…」

「長い間、199機のままね」

「199…次墜とせば勲章ですね」

 

ミーナの言葉にシュミットは驚く。急激に頭角を現したシュミットの撃墜数は現在175機、ミーナの199機には及ばない。

しかし、ミーナはその言葉にあまり嬉しそうでは無かった。

 

「でも、そんなのはいらないから、書類を減らしてほしいわ」

 

と、ミーナは勲章をもらう事よりも事務仕事が減るほうが嬉しいようだった。

疲れている様子のミーナに、坂本が提案した。

 

「風呂に浸かって温まれば、疲れもとれるぞ。ミーナも入ったらどうだ?」

「ああ…でも、この後も書類の整理が残ってるから。考えておくわ、ありがとう」

 

ミーナもその提案に乗ろうかと考えたが、まだ彼女には消化しなければならない書類がある。そのため、一旦は保留にすることにした。

 

「そうか。無理するなよ」

「中佐、一応手が空いてますから手伝いましょうか?」

「そう?ならお願いしてもいいかしら」

 

坂本はそんなミーナに労わるように声を掛け、シュミットはミーナの負担を減らせるかもしれないと思い自分も書類仕事を手伝うと言った。シュミットの言葉はミーナにとっての助け舟になり、ミーナも了承したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「♪」

 

シャーリーは鼻歌交じりに部屋でエンジンの改造を行っていた。自由行動となったシャーリーが基地でやることは、基本的にユニットのエンジンテストか部屋での機械いじりなどが主であり、今回は後者であった。

シャーリーがエンジンを改造している頃、部屋の中では小さな出来事が起きていた。シャーリーの部屋であるが、ここはルッキーニもよく利用する部屋であり、部屋の中には集めた虫を入れた籠などがあった。その中の一つ、今朝ルッキーニが採ってきた虫を入れた小瓶の蓋が空き、中から一匹の虫が外に出たのだ。

そして、飛び出した虫は羽を出して羽ばたくと、部屋の天井付近に行った。そして、部屋を照らす照明の配線部分の周辺を飛行する。

すると、虫が飛んだ付近に突然配線から火花が出た。その結果、部屋の照明がすべて消えた。

 

「ん?停電か?」

 

シャーリーは急に部屋が暗くなったことに気づき照明を見る。しかし、すぐに復旧するだろうと思い、特に気にした様子を見せずに再びエンジン改造をするのだった。

その間にも、例の虫は部屋を出て基地中を飛行していく。そして不思議なことに、虫の通った場所は次々と停電を起こしていった。

所変わって、ここはハルトマンとバルクホルンの共用の部屋。部屋の中ではごみの山の中にハルトマンが眠っている。

 

「くっ、何者もジークフリート線を超えることは許されない」

 

しかし、バルクホルンはそんなハルトマンを見ながら、あるものに手を掛ける。それは、ハルトマンがいつも来ているジャケットであり、部屋の境界線である柵に掛けられていたのだ。バルクホルンはそれが自分の領域への侵犯と考え、ジャケットを寝ているハルトマンの方に投げた。

 

「起きろ!ハルトマン!もう昼だぞ!」

「う~ん…後40分…」

 

バルクホルンが寝ているハルトマンに言うが、ハルトマンは眠たい様子で言う。その言葉にバルクホルンは怒った。

 

「またか!何が後40分だ!」

 

そう言って、バルクホルンは柵を乗り越えようとする。しかし、ハルトマンのごみの山はバルクホルンの足の踏み場を阻んでくる。

 

「く…あ、足の踏み場が無い…」

 

バルクホルンが手こずっている時だった。突然彼女の後ろからドサリッという音がする。振り返ってみると、ハルトマンのエリアにあった本が数冊バルクホルンのエリアに落ちていた。

 

「なにっ!しまった…ハルトマン起きろ!起きて何とかしろ!」

「う~ん…後50分…」

 

バルクホルンはハルトマンを大声で呼ぶが、彼女は眠りから覚める気は無いようで、先ほどより長い時間を要求していた。

 

「起きろ~!…なんだ?」

 

バルクホルンは懸命にハルトマンを起こそうとする。その時だった。突然部屋の明かりが消えた。バルクホルンは次々と消えていく照明に気を取られる。

そして、バルクホルンがそっちに気を取られている隙に、再び後ろで音がする。見ると、先ほど侵入した本が数を増やしているではないか。

 

「わああ!私のジークフリート線が!」

 

バルクホルンはその様子に悲鳴を上げた。

そして、基地に新たに設置されたお風呂の前、坂本が手に懐中時計を持ちながら針を見ている。その様子を、先ほどまで訓練をしていた宮藤たちが見ていた。

 

「よし、時間だ。入ってよし」

『やった~!』

 

坂本の言葉に宮藤たちが手をあげてお風呂の中に入っていく。しかし、何故かペリーヌだけはその場に立ったままだった。

 

「ん?どうしたペリーヌ」

「へ?」

「入らないのか?」

 

坂本が気になり聞くと、ペリーヌは少し恥ずかしそうに坂本に聞く。

 

「あの、少佐は?」

「ん?ああ、私は朝練の後に行水をしたからな。今日はもういい」

「え?そ、そうですか…」

 

坂本の言葉を聞き、ペリーヌはしょんぼりとした様子で宮藤たちの後を追う。その様子を、坂本は何のことかわからずに見ているのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「平和ですね」

「そうね」

 

その頃、執務室ではミーナとシュミットが書類仕事をしながらそんな会話をしていた。窓から差し込む日の光は部屋を暖め、外の景色は晴天。ネウロイと戦っていないと考えれば気持ちのいい日である。

 

「そういえばシュミットさん」

「はい?」

 

ミーナは何かを思い出したかのようにシュミットに尋ねる。シュミットは突然自分が呼ばれたので、書類から顔をあげてミーナを見た。

 

「この間の時、エイラさんに何か言ったんですって?」

「ああ、あれですか…」

 

ミーナの言葉にシュミットは理解した。この間の3万メートル級ネウロイとの戦闘後、エイラは3日間の独房謹慎となった。理由は独断行動だった。そしてミーナは、そのもととなることをシュミットが関係していると踏んで聞いたのだ。

 

「…本当なら、自分がサーニャを守りたかったんですけどね。だけど自分では出来ないし、エイラにはチャンスがあった。だけど、エイラはシールドを張る特訓でちゃんとしなかった。だから、本当に守りたいのかと喝を入れたんですよ」

 

シュミットはそう言って、窓の外を見る。彼は今でも、あの時自分が守りたかったと思っていた。しかし、彼の役目は他にあり、サーニャを守れなかった。

 

(…だけど、私はサーニャを守る気持ちは変わらない。何があっても…)

 

そう真剣な顔をして思っているシュミットを見て、ミーナは微笑んだ。

 

「フフッ、本当に大事にしているのね、サーニャさんのことを」

「当たり前です」

 

ミーナの微笑みの言葉にシュミットは顔を少し赤くしながら当然とばかりに言う。しかし、彼はミーナであるからこそ、このように話すことができるのだ。何故なら、ミーナは彼にとっての大切な仲間であり、そして尊敬できる人であったから。




次回、例のムイムイが暴れる回に入ります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十八話「モゾモゾする事件」

第八十八話です。シュミットの災難とは?どうぞ!


シュミットとミーナが執務室で書類仕事をしている頃、基地に新設された浴場の更衣室では、ある事件が起きていた。

 

「全く…何かと思ったらたかが虫ぐらいで」

 

坂本はそう言ってあきれた表情をする。そんな坂本の目の前ではペリーヌが下にかがんで泣いていた。理由はズボンの中に入った虫を追い出そうとした時、坂本に見られたからと言うものであった。

 

「でもさ、ズボンの中にその虫が入ってさ…モゾモゾって…」

「そうですわ!あの性悪虫のせいで私がこんな目に!絶対に許しませんわよ!」

「あたしの虫だからね!」

 

エイラの言葉にペリーヌが立ち上がって怒る。彼女からしたらあれほどの屈辱を味わせた虫を意地でも許すことなどしなかった。そんなペリーヌにルッキーニが自分のものだと言う。

 

「よし、皆で捕まえよう」

「えぇ~…」

 

そして、宮藤がその虫を捕まえようと言うが、リーネはどこか乗り気では無い。第一、その虫の最初の被害者がリーネであったからである。

こうして、宮藤たちによる虫捜索が始まったのだった。全員で周辺を捜索しながら、基地中を探し回る。

 

「見つけた!あっち行った!」

「もうやめようよ~…」

「おのれどこに~!」

 

宮藤が逃げる虫を発見して追いかける。それに続いてルッキーニ、リーネは乗り気じゃない様子であるが宮藤たちについていく。そしてペリーヌは虫に対して完全に怒っている様子であり、周辺を懸命に探している。

その時、廊下の扉が開く。

 

「何を騒いでいるんだ!」

「バルクホルンさん」

 

部屋から出てきたのは先ほどまでハルトマンを起こしていたバルクホルンだった。バルクホルンは廊下で騒いでいる宮藤たちに言う。

 

「お前達、宿舎の廊下で騒ぐのは軍規違反だ」

 

宮藤たちに厳しく言うバルクホルン。しかし、そんなバルクホルンの後ろを虫が飛んでいく。

 

「あっ!いた!」

「虫!」

 

宮藤とルッキーニが気付き反応する。しかし、虫に反応している二人にバルクホルンは再び小言を並べようとした。

 

「虫?虫がどうしたんだ?大隊こんな騒ぎをだれがあああ…!?」

「あ、大尉のズボンに入ったナ」

 

バルクホルンの反応がおかしくなったのに、エイラが気付く。先ほど追いかけていた虫が、バルクホルンのズボンの中に侵入したのだ。

 

「バルクホルンさん…!」

「鎮まれい!」

 

宮藤は心配してバルクホルンの様子を伺うが、突然バルクホルンが大声を出す。その大声に、虫を追いかけていた者たちは思わず全員直立した。

 

「戦場では常に冷静な判断力が生死を左右する…こういう場合は…まず…!」

 

バルクホルンはそう言うと、自分のズボンに手を掛けた。

 

「こうだあ!」

「えええっ!?」

 

そうして、なんと全員の目の前でズボンを思い切り下ろした。あまりにも予想外の行動に目の前にいた宮藤が驚く。

 

「貰ったあ!」

「ぎゃう!?」

 

その時、後ろの部屋からハルトマンが現れると、思い切りバルクホルンのお尻を叩いた。あまりにも突然なことと痛さに、バルクホルンは変な声を出す。

しかし、ハルトマンの甲斐空しく虫は生きており、そのまま逃亡。後に残ったのは、バルクホルンの尻に残った紅葉のような手を叩いた跡だった。

 

「あ!逃げた!」

「虫~!」

「待ちなさい!」

 

宮藤たちは再びその虫を追いかけるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「は~。取り合えず、今日の分は終わったわ」

「お疲れ様、中佐。はい」

 

ミーナは肩を叩きながら解放されたように言う。そんなミーナに、シュミットは両手に持っていたコーヒーのカップを一つミーナに渡した。

 

「ありがとう、シュミットさん。シュミットさんのおかげで捗ったわ」

「いえいえ」

 

ミーナのお礼の言葉にシュミットは少し嬉しそうにしながらコーヒーを啜る。

 

「そういえば、美緒がお風呂に入って温まるといいって言ってたわね」

「あ~、そんなこと言ってましたね~」

 

ミーナが思い出したように言う。シュミットも、そういえばそんなことあったなと思いながら気の抜けた声で言う。書類仕事による疲れの反動か、いつもよりも緩くなっていた。

 

「中佐、入ってきたらどうです?英気を養う目的で」

「そうね…そうしようかしら」

 

シュミットの言葉にミーナは少し考え、そして決めた。

 

「じゃあ、私はもう部屋に戻ります」

「ええ。ありがとう、シュミットさん」

 

そして、シュミットは部隊長室から出て行った。そして、基地の廊下を歩いていく。

 

「本当にのどかだな…」

 

基地の外に見える海を見ながら、シュミットはそんなことを思う。休日の501にしては随分と静かだと思いながらシュミットは廊下を歩いていき、そして自分の部屋に入る。

 

「う~ん…まだ寝てるな」

 

シュミットは部屋の中で寝ているサーニャを見ながら言う。サーニャは帰ってきた時と殆ど同じ様子であり、起きた様子は無かった。その証拠に、部屋に畳んであるサーニャの服にも変化はない。

 

「…起こすべきかな?」

 

シュミットは流石にお昼を回っているので、そろそろサーニャを起こそうかと思った。

そうしてシュミットはサーニャの寝ているベッドに行く。しかし、そこにあった寝顔を見て躊躇う。サーニャがあまりにも気持ちよさそうにしているので、シュミットはここは起こすべきではないと考えた。

 

「…このままでも、いいかな」

 

そう言って、シュミットは部屋の明かりをつけようとした。

 

「あれ?」

 

しかし、照明のスイッチを押しても電気がつかない。もう一度押しても同じだった。

 

「停電か?」

 

シュミットはそう思い、そして困った表情をする。暗くては手紙を書くにも見ずらいので、どうしたものかと思っていた。

そして、シュミットは諦めて部屋の外に出た。

 

「はあ…ん?」

 

シュミットは溜息を一つ吐く。その時、廊下からエイラが手に何かを持って現れた。

 

「エイラ…なに持ってるんだ?」

「ダウジングだ」

 

さも当たり前のように答えるエイラにシュミットは訳が分からなくなる。何故エイラはダウジングをもって歩いているのか。

その時、エイラはシュミットの部屋の方を見る。

 

「こっちダナ」

「私の部屋?居るのはサーニャだけだぞ」

「な、なんでサーニャがオマエの部屋に!?」

 

シュミットの言葉にエイラが驚いたように反応する。そして、シュミットの顔に詰め寄る。

 

「いや、サーニャが寝ぼけて入っただけだ…」

「とにかく入らせてもらうぞ」

「あ、おい…なんなんだ?」

 

シュミットが止める間もなく、エイラはシュミットの部屋に入っていく。そして、部屋の中でダウジングを構える。

 

「…こっちだ」

 

そう言って、エイラはベッドの方に向く。そこには、サーニャが眠っていた。

 

「さ、サーニャ?いや…サーニャのもっと向こう…」

 

エイラは違うと思いながら、サーニャに迫っていく。そして、ダウジングは思わぬところで止まった。

 

「なっ!?違うよな…絶対に違う…よな…?」

 

エイラはその反応に驚く。なんと、ダウジングが指した場所はサーニャのズボンの位置だったのだ。しかし、ネウロイ探索で頼っているダウジングが、嘘をつくとは思えなかった。

そして、エイラは口の中の唾を一つ飲み込む。そして、サーニャのズボンに手を掛けた。

 

「エイラ、一体何なんだ?なんで急に私の部屋に…」

「っ!?」

 

その時、外で突っ立って固まっていたシュミットが、エイラの様子が気になり部屋に入ってきた。突然部屋にシュミットが入ってきたためエイラは驚いてしまい、そしてサーニャのズボンにかけていた手を思い切り引いてしまった。その結果、エイラはサーニャのズボンを思い切り下してしまった。

そして、それに気づかないサーニャでは無かった。エイラの行動にサーニャは目を覚まし、そして首を動かしてエイラを見る。

 

「ち、違うこれは…!」

「エイラ…」

 

エイラは懸命にサーニャに弁解をしようとする。しかし、サーニャはエイラの方を見ると頬を赤くしながら目を細めて見る。

そして、悲劇は連鎖する。

 

「どうしたエイ…ラ…」

「み、見るな!」

 

エイラの様子がおかしいことに気づき、シュミットが来てしまった。その結果、シュミットは完全に見てしまった。エイラが懸命に隠そうとするが、もう遅かった。

 

「っ!」

 

サーニャはシュミットに気づき、急いで隠す。シュミットも、急いで体を横に向け、顔を逸らした。

 

「…」

 

サーニャは、シュミットを羞恥の表情でシュミットを見る。

 

「…すまない、サーニャ」

 

そしてシュミット、あっさりと謝った。この言葉から、シュミットは全部見てしまったと白状したのだ。しかし、これは逆効果だった。

サーニャはエイラの脱がしたズボンを履き直すと、立ち上がってシュミットの方に歩み寄っていく。

そして、部屋の中に一つ、乾いた音が響き渡った。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「と、とにかく!サーニャがネウロイの気配を感じたらしいんだ!」

 

その後、シュミットとエイラ、そしてサーニャは宮藤たちと合流し、エイラが全員に説明する。因みにそのエイラは頭にタンコブを一つ付けており、横にはサーニャが顔を赤くしながら膨れっ面をしていた。そしてさらに横にシュミットが右頬に赤い紅葉を作りながら立っていた。

そして、サーニャが続けて言う。

 

「まだはっきりしないけど、基地の上空と、それから建物の中」

「建物の中!?」

「まさか、あの虫がネウロイ!?」

 

バルクホルンの言葉に、事情を知っている者全員が驚く。

 

「虫?」

「はい。基地の中を変な虫が飛んでいるんです」

 

シュミットは訳が分からないため聞く。その質問を宮藤が答える。

 

「エイラ、サーニャ、シュミット、お前たちは協力して建物の中を探してくれ」

『了解』

 

坂本の命令に三人が返事をする。虫型ネウロイが基地の中に居る可能性を考え、戦力の分散を図った。

 

「バルクホルンとハルトマンは上空の迎撃準備」

『了解』

 

そして、バルクホルンとハルトマンにも命令をする。二人はサーニャの言っていた基地上空に居るネウロイの迎撃を行う準備を行う。

坂本は宮藤を連れて行く。宮藤はミーナに連絡、坂本は屋上でネウロイの確認だ。

 

「…あれだな」

 

そして、坂本がネウロイを確認する。その時、宮藤が後ろから走ってやってくる。

 

「坂本さん!ミーナ隊長が部屋に居ません!」

「なにっ!?仕方ない、緊急警報だ!」

 

坂本は屋上に設置されている緊急警報を押す。しかし、基地に警報音は鳴らない。電気系統が既にネウロイによって麻痺したのだ。

 

「基地の電気系統までやられたのか!?宮藤、ハンガーのハルトマンとバルクホルンに伝令だ!」

「はい!」

 

坂本はすぐさま宮藤に命令をする。連絡が取れないのであれば、直接取るしか他に方法は無い。

そして、宮藤は走って格納庫に行くと、バルクホルンとハルトマンに坂本からの命令を伝えた。

 

「坂本少佐から伝令です。上空のネウロイにコアは確認できないが、このまま放置はできない。二人には早急に迎撃してほしいとのこと」

『了解!』

「尚、基地内には電気系統を麻痺させる飛行物体が存在します。十分注意されたし、とのことです」

 

そして、宮藤は続けて補足を言う。

 

「あのズボンに入ってくる変な虫のことだな」

「ちょうど対策を話し合っていたところだ」

 

そう言って、バルクホルンとハルトマンは揃ってズボンを下ろした。

 

「ええっ!?」

「行くぞ、ハルトマン!」

「スースーする!」

 

宮藤は驚く中、二人はユニットを履いてそのまま離陸してしまった。残された宮藤は、顔を赤くしながら出撃した二人を見送った。

 

「あっ!そうだ忘れてた!」

 

呆けていた宮藤は突然、思い出したかのように走り出す。伝令を伝えただけでなく、この後に坂本に伝え返すのも大切である。

そして、宮藤は急いで坂本の居る場所へ戻ってきた。

 

「さ、坂本さん!バルクホルンさんとハルトマンさんが出撃しました!」

「よし」

 

宮藤の言葉に坂本が返事をし、そして右目の眼帯を開き魔眼を使ってネウロイの反応を感じ取る。

 

「…こっちだ!」

 

そう言って、坂本達も基地内のネウロイを捜索しだしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「はあ、確かに美緒の言う通り、疲れが取れた気がするわ」

 

その頃、ミーナはネウロイが接近していることは知らずに、基地に新設されたお風呂を堪能していた。ミーナ自身はあまりお風呂を好んで入るわけではないが、坂本の言った通り疲れが取れた気がしたので満足していた。

そして、ミーナは更衣室に置いていた自分の服を着始める。

 

「あそこです!」

「あそこだ!」

「そこか!」

 

ミーナが上着を着て、ズボンを履いた時だった。突然入口の方から声がする。ミーナが振り返って見てみると、そこには出撃したバルクホルンとハルトマン、外で待機しているシュミット以外の全員が居た。

 

「ちょ、ちょっと?えっ?」

「今ですわ!」

 

ミーナは全員がそろって自分の方を見ていたので何のことか分からずに怯む。その時、ペリーヌが思い切りダイブをして、ミーナのズボンに手を掛ける。そして、そのズボンを思い切り下におろした。

 

「見えた!」

 

そして、坂本が魔眼でネウロイの姿を捉えた。しかし、ミーナは坂本がズボンを下ろした瞬間にそんなことを言ったので完全に勘違いをし、顔を赤くする。

 

「きゃあああああああ!!」

 

そして、ペリーヌが下ろしたズボンを今度は思い切り引っ張り上げた。

その結果、ズボンの中に潜んでいたコア持ちの虫型ネウロイは、ミーナによって完全に潰され、そして破壊された。

 

「あっ」

「あれ?」

 

それと同時に、サーニャの魔導針、エイラのダウジングロッドの反応が消えた。

 

「見事だ、ミーナ」

「流石ですわ!」

「うわーん!私の虫~!」

 

坂本はネウロイを倒したミーナに称賛、他の皆もルッキーニ以外がミーナを見て流石と言う。

 

「な、何なの一体!?」

 

しかし、訳の分からないミーナは皆が一体何をしているのか分からず、顔を赤くしながら聞き返すのだった。

そして、基地の上空では、接近していたネウロイが突然粉砕した。

 

「ネウロイが」

「何もしてないのに消えた?」

 

バルクホルンとハルトマンは突然の光景に驚く。自分たちは攻撃をしていないのに突然その姿を光の破片に変えたのだから尚更だ。

その時、二人の耳に付けたインカムに声が流れてくる。

 

『坂本だ。コアはこちらで破壊した。上空の物は本体では無い。基地に帰投せよ』

「へ~…」

「了解、任務を終了する」

 

坂本の言葉にハルトマンは驚き、バルクホルンは任務終了を言った。これで、ネウロイの危機は完全に去った。

 

『ハックション!』

 

しかし、二人は肌寒さのあまりくしゃみを同時にするのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「これ、書類です…」

「ありがとう、シュミットさん」

 

モゾモゾするネウロイの事件から数日後、シュミットは部隊長室に提出書類を出していた。ミーナはそれを何事もなく受け取るが、シュミットは部隊長室に新しく飾られたあるものに目が行った。

 

(あの形…パ…いや、ズボン?)

 

シュミットが見ていたものは、勲章だった。それは、昨日のネウロイをミーナが撃墜したとき、200機目であったことを称えられて送られた特別な勲章だった。

しかし、シュミットはその勲章の形に何か悪意を感じるのだった。それは、どう見てもズボンの形をした勲章であり、明らかに狙ったとしか言いようのない代物であったからであった。




なんというラッキースケベシュミット。そしてあの勲章の悪意ある形。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第八十九話「宮藤の不調」

第八十九話です。どうぞ!


「ふぁ~…」

 

夜間哨戒を終えたシュミットは欠伸をしながら基地に帰って来る。今日はサーニャは居ない。

シュミットの体内時間は以前に比べて夜間哨戒をしていく内に夜行型へと変わって来ていた。しかし、それでも早朝は眠いため、欠伸はよく出てくる。

 

「ん?」

 

ふと、シュミットは基地のはずれのところに居る人影を見つけた。それは坂本の姿だった。坂本は、海に向けて手に持っていた刀を振るうと、そこから海面が大きく揺れ、そして基地から地中海に向けて一直線のビームのように波が広がっていく。

 

「なんだありゃ…?」

 

シュミットはそんなことを思っていた時、新たに人影が一つ増える。なんとそれは宮藤の姿だった。

 

「あれは宮藤か…?扶桑の人って随分早起きなんだな…」

 

シュミットはこんな早い時間に宮藤の姿があることに少し珍しそうに思いながら、基地に帰投していくのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シュミットは眠い体を懸命に引きずりながら食堂へ行く。

 

「お~う、シュミット!」

「おっはよ~!シュミット!」

 

食堂へ入ると、シャーリーとルッキーニがシュミットの方を向いて挨拶をする。

 

「あれ?今日はシャーリーとルッキーニが当番?」

「そだよー!今日のメニューはズッパ・ディ・パーネとボンゴレビアンコだよ!」

 

シュミットが聞くとルッキーニが答える。シュミットが厨房の方を覗くと、そこにはパンのスープと二枚貝を使用したパスタがあった。

 

「へぇ~…こっちはどうやって作るんだ?」

 

そう言って、シュミットはルッキーニ達に作り方を聞く。その間に、他のメンバーも続々と食堂へとやって来る。

そして、集まった人たちが食事をとり始めた頃、遅れて宮藤が食堂へやって来た。シュミットが声を掛ける。

 

「おはよう宮藤、早起きだったのに来るの遅かったな」

「え?」

「基地の外に居たのを朝見たぞ」

 

宮藤は驚く中、シュミットは基地の外に居たのをしっかりと見ていたため、遅かったことに意外だと思っていたのだ。

そして食事は進んでいくが、宮藤は下を向いて何か考え事をしていたのか、小さく返事を返した。

 

「うん…」

「?」

 

その反応に全員が不思議に思う。代表してリーネが聞く。

 

「どうしたの、芳佳ちゃん?具合でも悪いの?」

「え?ううん、大丈夫。どこも悪くないよ」

 

リーネの言葉に宮藤は顔を笑顔にして返事をする。

 

「だったら食え、たとえ腹が減ってなくてもだ。エネルギーを摂取しない奴が有事の際、まともな戦闘ができると思うか?」

「は、はい…」

 

バルクホルンの言葉に宮藤は肩を小さくしながら返事をする。

 

「エネルギーって…」

「あー、もう。朝っぱらから軍人の説教なんて聞きたくないよ~」

 

そんなバルクホルンの言葉に厨房に居たシャーリーは苦笑いをし、バルクホルンの横に座っていたハルトマンはうんざりしたような顔をする。

 

「おいハルトマン!それがカールスラント軍人の言葉(セリフ)か?」

「また始まった…」

「いいか?ここはブリタニアと違って戦力が全然足りないんだ。我々の任務は今まで以上に重いんだぞ!」

 

ハルトマンは耳にタコができるようであるが、バルクホルンの言っていることも正しい。ロマーニャの軍隊は他国の軍隊に対して練度の低さが露見しており、ブリタニアに比べると圧倒的に戦力不足が否めない。そのため、ウィッチ一人一人の責任は以前より重いのだ。

しかし、シュミットはそんなバルクホルンに言った。

 

「…なあバルクホルン、それは分かるが前にも聞いたぞ」

「いいやシュミット、これは大事なことだ」

「だがな、何度も言っていたらうんざりして逆効果になるぞ」

 

シュミットとバルクホルンが言い合いになる。基本中立立場のシュミットは仲裁役などを行う立場であるので、珍しい姿でもあった。

 

「頂きます!」

 

その時、二人が言い合いをしている向かい側で大きな声がする。見ると、宮藤が目の前のボンゴレビアンコを食べ始めていた。その表情は、先ほどの暗いのから一転して今度はなにか明確な目標が生まれたようでもあった。

その様子を見て、それぞれポカンとしたり、安心したように笑顔になったりなど様々な顔をしたのだった。

そして、食事を終えた者たちはそれぞれの仕事に移る。宮藤は、リーネとペリーヌと共に空戦訓練を行っていた。

まず初めに、宮藤とペリーヌが訓練を行う。この二人の性質は完全に異なっていた。ユニットは加速と格闘戦に優れた零式と、高速域の性能が高いVG.39bis。

 

(速い…あの子、前より速くなってる)

 

ペリーヌは飛行しながら、宮藤の変化に気づく。加速をしていく宮藤の動きが以前よりも速く感じたのだ。零式は元々加速にそれは、宮藤が以前よりも魔法のコントロールが上手くなり、ユニットの使い方を熟知した証拠であった。

 

「でも、スピードなら私の方が上ですわ」

 

そう言って、ペリーヌは手に持っていた模擬戦用機関銃を構える。いくらパイロットの技量が上がっても、ユニットの差は変わらない。そのため、ペリーヌは徐々に宮藤との距離を詰めていく。

 

「貰った!」

 

ペリーヌは宮藤を完全に照準器内に捉え、そして引き金を引こうとした。

その時、宮藤の姿が突然照準器内から消えた。ペリーヌは一瞬だけ驚くが、左後方を瞬時に見る。見ると、そこにはペリーヌの後ろに回り込もうとしていた宮藤の姿があった。

左捻り込み、坂本が得意とし以前宮藤もブリタニアで行った空戦技術である。宮藤は感覚で、この技を自分の物にしていた。

 

「でも、まだまだですわ!」

 

ペリーヌはそう言って、離脱にかかる。しかし、宮藤の零式は旋回性能と加速に優れているため、ペリーヌの後ろについて照準するだけの余裕が生まれた。宮藤が完全にペリーヌを模擬戦用機関銃の照準器に捉え、そして引き金を引くだけになった。

 

「うわっ!?」

 

宮藤は引き金を引いた。それは、驚きの声と共にだった。そして、宮藤から放たれたペイント団は回避軌道をするペリーヌから離れたところを飛んでいった。

 

(外した?この距離で?)

 

ペリーヌは思わず驚く。距離にして200メートルも無く、ペリーヌを照準器に捉えていたのにもかかわらず宮藤は外した。はっきり言って、殆どあり得ないことであった。そして宮藤は、何故かバランスを崩していた。

しかし、ペリーヌはそのチャンスを逃さなかった。すぐさま宮藤の後ろに回ると、照準をしっかりと定める。

 

「もらいますわ!」

「うわっ!?」

 

ペリーヌの放ったペイント弾は正確に宮藤に飛んでいき、宮藤のユニットに直撃、ユニットをオレンジ色に染めた。

その瞬間、リーネが手に持っていた笛を吹く。

 

「勝負あり!ペリーヌさんの勝ち!」

「まあ、このくらい当然の結果ですわね」

 

リーネの言葉にペリーヌが堂々と言う。しかし、内心で宮藤に後ろを取られたことに関しては僅かに気にしている様子であった。

 

(変だな…?急に力が抜けたみたい…)

 

一方宮藤は、先程のことについて不思議に思っていた。先程たしかにペリーヌを捉えたのに、彼女は急に力が抜けたかのような感覚に襲われたのだ。

 

「宮藤さん!」

「は、はい!」

突然ペリーヌに呼ばれて宮藤は意識を慌てて戻す。

 

「何をぼさっとしていますの?後二戦行きますわよ」

 

そう言って、二人の模擬戦は再開した。

しかし、残る二つの試合も宮藤はペリーヌに敗北した。いつもの宮藤なら負けるにしても、ペリーヌにある程度肉薄する戦いをするようになっていた。だが、今日に限っては肉薄どころか動きそのものが不安定であった。

 

(なんでだろう…上手く飛べない…)

 

宮藤は内心焦っていた。アンナとの特訓で飛行は明らかに成長していた。しかし、ここ一番で全然思い通りの飛行をしてくれない。

 

「三戦全敗…芳佳ちゃんらしくないよ…」

「ちょっと宮藤さん、訓練だからって手を抜かないでくださる?それとも私では本気を出せないと?」

 

リーネは純粋に宮藤の様子を心配し、ペリーヌは宮藤に問う。しかし、宮藤も意図して手を抜くことなどしていないとわかると、目を細めてペリーヌは地上へ降下していった。

その様子を、基地から見ていた坂本は変だと思いながら見ていたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そうか、ペリーヌもそう感じたか」

「はい。今日の宮藤さんの動きは絶対変でした。いつものキレが無いというか…」

 

坂本はペリーヌの言葉に同意するように言った。ペリーヌはあの後、訓練から離脱したわけではなく、坂本に訳を説明しに行ったのだった。すると、坂本も地上で見ており、宮藤の様子をおかしいと感じていた。

 

「わかった、報告してくれてよかった」

「え?いえ、私は…その、戦力低下につながる要因は一つでも排除しなくてはと思っただけで…」

 

坂本に礼を言われてペリーヌは少しタジタジになりながら答える。しかし、ペリーヌもなんだかんだ言いながら宮藤の様子を心配していたのだった。

そして、坂本は整備班に宮藤のユニットの点検を行うように指令する。空中で見ている限りでは、宮藤の履いている零式が原因であると思った。

 

「異常なしだと?」

 

しかし坂本は、整備兵からの言葉に聞き返すことになった。

 

「はい。全ての項目をチェックしましたが、異常はありませんでした」

「魔道エンジンもきちんとオーバーホールしています。一応、念のためにオイルとプラグは新品に替えましたが」

 

整備班からの報告では異常なし。つまり、ユニットに対して特に問題点が無いのだ。

 

(となると、問題は宮藤自身か…)

 

坂本はそう考える。ユニットに問題が無いのであれば、次に来るのは使用者のほうである。すぐさま坂本は、宮藤を呼び、そして健康診断を行った。

医務室では、宮藤が女医から聴診器を当てられていた。その後ろでは、坂本が様子を見る形で立って見ている。

 

「はい、服着ていいですよ」

 

そして、女医は聴診器を離すと、宮藤に言う。宮藤はそれに従って制服を着た。

 

「至って健康ですね」

「そうですか」

 

告げられた言葉は、ある意味予想外だった。ユニットが原因でなければ宮藤に問題があってもおかしくないはずであるが、異常なしであるからだ。

そんな中、宮藤は坂本に聞く。

 

「急に健康診断何てどうしたんですか?」

「いや、定期的に部下の健康状態を把握するのも上官の役目だからな」

「でも、どこも異常無いんですよね?」

 

坂本は宮藤に悟らせないようにわざと別の理由を言う。尤も、その考え方も大事であるため宮藤は特に不思議に思わなかった。しかし、宮藤は疑問に思いながら女医に聞く。

女医は笑顔で答えた。

 

「ええ。全く何処にも異常はりません。理想的な健康体ですね」

「えへへ。実は私、今まで風邪ひいた事が無いのが唯一の自慢なんです」

 

女医に言われて宮藤は照れながら言う。基本的にウィッチは魔法力によって風邪など引きにくい、その上宮藤の魔法力は人並み以上のため、滅多なことでは風邪などひかないのである。

 

「おい、そこで何をやっている?」

 

ふと、坂本は宮藤から視線を外すと、横に向けて声を掛ける。その方向を見ると、リーネとペリーヌが居た。

 

「…すみません」

「あ、リーネちゃん。ペリーヌさん!」

 

二人は謝りながら宮藤の前に来る。宮藤は、二人が居たことに気づいていない様子であったが、宮藤のことを心配して見に来てくれていたのだ。

 

「芳佳ちゃん、どこか悪いの?」

「ううん、ただの健康診断。全然なんとも無いよ」

「よかった~」

 

宮藤の言葉にリーネは安心したように言う。

 

「なんとも無いなら尚更不安だな」

「わっ!?」

「バルクホルン!どこに居たんだ?」

 

しかし、突然聞こえた新たな声に全員が驚きながら、声のした方向を見る。そこには、いつの間にか入ってきていたバルクホルンの姿があった。突然現れたその姿には流石の坂本も驚く。

そして、バルクホルンは言った。

 

「お前がまともに飛べていないのは確認が取れている。その原因がわからない以上、お前を実践に出すわけにはいかん」

「本当?芳佳ちゃん。うまく飛べないの?」

 

バルクホルンの言葉を聞いてリーネは宮藤のことを心配しながら見る。宮藤は、思い当たることがあるらしく、下を向いた。

 

「不調の原因が明らかになるまで、基地待機を命じる」

「っ!?嫌です!」

 

そして、バルクホルンの衝撃の言葉は宮藤を驚かせ、そして反発させた。宮藤からしたら、まだ飛ぶことができる、不調なだけでいつかは元に戻ると思っていた。

 

「これは上官命令だ」

「命令…」

 

バルクホルンの言葉に、宮藤は怯む。以前命令を違反した結果、何が起きたかを身をもって体感し、そしてもうこりごりに思っていたのだ。しかし、宮藤はまだ心の中で飛びたいと思っていた。

しかし、希望はさらに打ち砕かれる。

 

「そうだな。その方がいいだろう」

「そんなっ!?」

 

バルクホルンの言葉に、坂本も同意した。彼女自身も、今の宮藤ではいつ何が起きるのか分かったものではない。そのためには、基地待機にしたほうがいいと考えた。

そして宮藤は、坂本とバルクホルンの二人に言われ、顔を下に向けながらショックを受けるのだった。




少し忙しい日々に入ってしまい、小説の投稿が遅れて申し訳ありませんでした。次回の話も、おそらく少し間が空くと思いますので、ご了承ください。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十話「芳佳の魔法」

お久しぶりです、投稿が遅れました。第九十話です、どうぞ!


坂本とバルクホルンに基地待機を命じられた夜、宮藤は格納庫内で箒を手に持っていた。

 

「…」

 

宮藤は箒にまたがりながら、魔法力を流し始める。昼間坂本に言われた基地待機の問題は自分にあると感じ、彼女は焦っていたのだ。

 

「誰だ!?」

 

その時、格納庫内に誰かの声がする。宮藤は慌てて声のした方向を見ると、そこにはエイラとサーニャが居た。

 

「あれ?芳佳ちゃん?」

「宮藤か、何やってんだ?」

 

二人は宮藤の姿に驚くと、何をしているのかを聞く。宮藤は一瞬慌てながらも、二人に説明した。

 

「その、箒で訓練をちょっと…」

「へぇ~、箒で訓練か。そういえば私の近所にも箒で飛ぶばあちゃんが居たナ」

 

宮藤の言葉にエイラは昔を思い出すように言った。

 

「でも、どうしてこんな時間に?」

「あの…サーニャちゃんやエイラさんは急に飛べなくなったことってある?」

 

サーニャはこんな夜中に宮藤が箒で訓練をしていたことに疑問に思い聞くと、宮藤は弱々しくであるが告白した。

しかし、その言葉は二人を驚かせた。

 

「芳佳ちゃん、飛べなくなったの…?」

「えっ!?そうなのか宮藤!」

「え?ううん!飛べないわけじゃないけど…」

 

サーニャとエイラの言葉に宮藤は慌てて二人に言った。

 

「なんだ、びっくりさせるなよ…っ!誰だ!?」

 

エイラが言った時、突然格納庫内に何かが落ちたような音がする。その音に真っ先に反応したエイラは足元にあったバケツを音のした方向に投げた。

 

「きゃん!?」

 

すると、誰かの声がする。全員が声のした方向を見ると、なんとペリーヌが頭を抑えながらそこから現れたのだった。

 

「いった~…ちょっと!何なさるんですの!」

「ペリーヌさん!?」

 

宮藤はペリーヌの登場に驚く。ペリーヌは少し頬を赤くしながら言った。

 

「べ、別に何でもありませんわよ…ちょっとお手洗いに…」

「タンコブ」

「え?」

 

サーニャの言葉にペリーヌが気付き頭部を触ると、そこには立派なタンコブが出来ていた。先ほどエイラが投げたバケツがクリーンヒットしたようだ。

 

「あはははは!」

「貴方のせいでしょうが!」

 

エイラはそれを見てお腹を抱えながら笑うが、ペリーヌはそんなエイラに怒る。

そして、宮藤がそのタンコブを治癒魔法で治し始めた。すると、ペリーヌの頭に出来ていたタンコブはみるみるうちに小さくなっていく。

 

「お~、治った治った」

「魔法力は大丈夫みたい…」

 

エイラは呑気に言い、サーニャは宮藤の魔法力が特に問題ないという様子を確認する。

 

「良かったな宮藤」

「貴方達、人の頭で実験しないでくださる!?」

 

エイラはまた呑気に言うため、ペリーヌは癇癪をおこす。流石に実験台にされるなら誰だって怒るものだ。

しかし宮藤は、自分の手元を見ながら顔色を暗くする。

 

「じゃあ、なんでうまく飛べないんだろう…」

「ちょっと休んだ方がいいのかも…」

「そうそう、きっと疲れが溜まってるんだよ。寝て起きたら治ってるんじゃないか?」

 

サーニャは心配そうに言う。その言葉にエイラも同調し、そして全員が就寝につくのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

翌日宮藤は朝早くに起きると、箒を持って外に出た。昨日サーニャたちとの遭遇で中断した箒の訓練をするためにだ。

宮藤は、箒に跨り魔法力を流し始める。箒に魔法力が伝わっていき、ブラシの部分を揺らし始める。

 

「うっ…!」

 

宮藤はアンナの特訓で培った力を使い、魔法力を制御する。

 

「飛んで…」

 

宮藤がそう言うと、足が地面から浮き上がり、少しずつ上昇していく。

このまま上昇していくだろうと思ったその時だった。突然、宮藤の箒のブラシの部分が爆ぜ、そして散らばった。それにより、宮藤はバランスを崩して地面に足が付く。

そして、宮藤は地面に膝をつくと下を向いた。

 

「そんな…どうして…どうして飛べないの?こんなんじゃ誰も守れないよ…」

 

宮藤は、今の自分の惨状に涙を浮かべながら言う。彼女の信念は、今にも崩れそうになっていた。

その時、宮藤は後ろから声を掛けられる。

 

「箒…壊れちゃったね…」

「っ!…リーネちゃん…」

 

宮藤が振り返ると、そこには壊れた箒の繊維を持っていたリーネが居た。リーネは宮藤に優しく微笑むと、横に座った。

二人はしばらく正面を向く。彼女たちの目の前には、アドリア海の景色、そして沈んで行く月の姿があった。

 

「綺麗だね、アドリア海…前にも、こうやって二人で海を見たことあるよね」

「うん…」

 

リーネは地平線の向こう側に見える月を見ながら言う。宮藤もリーネの言葉に返事をするが、明らかに元気がない。

 

「箒、一緒に直そっか…」

「うん…ありがとう」

 

リーネの言葉に宮藤も頷いた。そして、二人はバラバラになった箒を回収していくのだった。

その様子を遠くから見ていた者が居た。基地の部屋の窓から見ていた人物は、先ほどまで宮藤に起きていた現象に気づいていた。

 

「あれは…」

 

そう呟いて、シュミットは考えあることを思いついたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「連合軍司令部によると、明日にはロマーニャ地域の戦力強化の為、戦艦大和を旗艦とした扶桑艦隊が到着する予定です」

「いよいよ到着するか」

 

翌日、ブリーフィングルームに集められたウィッチ達は、ミーナから報告を聞いていた。その報告に、坂本がようやくと言った様子で言った。

 

「大和?」

「芳佳ちゃん知ってるの?」

 

宮藤は聞いたことのある名前に反応する。リーネが聞くと、宮藤は以前横須賀の港に停泊していた大和のことを説明した。

その説明を聞いて、シュミットも関心する。

 

(扶桑最大の戦艦だったっけ…戦力強化で旗艦だから、250mぐらいはあるんだろうなぁ)

 

と、シュミットは考える。最大の戦艦と言うのであれば、それぐらいはあるだろうと彼は思っていた。尤も、前の世界でも大和のことを知らなかったシュミットは大和の全容が完全に分からないからそんなことを考えているのだった。

その時、ブリーフィングルームに備え付けられた電話が鳴る。ミーナは受話器を手に取った。

 

「はい…えっ!大和で事故!?」

「なに!?」

「事故…!」

 

ミーナの驚いた様子の反応に全員も反応した。そして、ミーナは電話を終えると全員のほうを向いた。

 

「救助要請です。先ほど、大和の医務室で爆発があり、負傷者が多数発生。大至急医師を派遣してほしいそうよ」

(医務室で爆発…何があったらそうなる?)

「よし、すぐに二式大艇で送ろう」

 

ミーナの言葉にシュミットは不安に思うが、坂本はすぐさま提案を出す。

その時、宮藤とリーネが立ち上がった。

 

「私に行かせてください!戦闘は無理でも、治療と飛ぶくらいならできます!」

「私も行きます!包帯ぐらいなら巻けます!」

 

宮藤は、治癒魔法は使うことができると言う。リーネもそんな宮藤の手伝いをすることができると言った。この提案は、飛行艇で医師を運ぶよりも早くに大和に到着できるというメリットがある。

 

「言うと思いましたわ」

 

ペリーヌは二人にそう言うが、口は笑っていた。他の皆も、だろうなと言った様子で口元を緩ませた。

坂本は、この提案に異を唱えなかった。

 

「そのほうが、飛行艇よりも遥かに早く着くな」

「わかったわ。宮藤さん、リーネさん、大至急大和へ向かってください」

『了解!』

 

ミーナの言葉に二人は返事をし、そしてユニットに向かおうとする。

 

「宮藤」

「えっ?はい!」

 

その時、宮藤は声を掛けられ立ち止まる。振り返ってみると、シュミットが宮藤の方を見ながら立ち上がっていた。他のメンバーは、突然呼び止めたシュミットを見る。

そして、シュミットは宮藤に言った。

 

「飛ぶときは力を抜け。お前はユニットに掛ける力を抜けばしっかり飛べるはずだ」

「え?は、はい…?」

 

シュミットの言葉に、宮藤は疑問に思いながら返事をする。

 

「よし、急いで行け。負傷者は待ってくれないぞ」

「はい!」

 

宮藤はシュミットの言葉に返事をして、再び格納庫に向かったのだった。

残った者たちは、シュミットの言葉が気になり質問した。代表して、バルクホルンが聞く。

 

「さっきの言葉、どういうことだ?」

「どうもこうも、手短に宮藤がちゃんと飛べるように言っただけだ」

 

シュミットはさも当然のように言うが、何故それが飛べるようになるのかまだ理解できない様子であった。

そんな中、ミーナと坂本は理解した様子であった。

 

「シュミットさん、まさか…」

「ええ。宮藤の魔法力は、恐らく以前より強大になっているのでしょう」

 

ミーナの言葉を察したシュミットは、すぐさま肯定したのだった。その言葉に、全員が驚いたようにシュミットを見る。そんな視線を気にせず、シュミットは説明した。

 

「宮藤が箒に乗っているのを見ましたが、以前私に起きたのと同じような現象が起きています。宮藤の魔法力が増えた証拠です」

「なるほど…それなら大和に向かったのも幸運だな」

「え?」

 

坂本の言葉にシュミットはどういうことかと思う。だが、坂本は何かを知っている様子であったが、説明はしなかった。

その間にも、宮藤とリーネは大和に向けて飛行をしていた。

 

「芳佳ちゃん、大丈夫?」

「う、うん…」

 

リーネは心配そうに宮藤に問う。宮藤は返事をするが、内心ではまだ不調に悩んでいた。

 

(シュミットさんが言ったみたいにしたけど…まだうまく飛べない…)

 

宮藤は、シュミットの言葉に従い力を抜きながら飛行した。しかし、以前より不調が僅かに和らいだだけであり、まだ安定していなかった。元々の魔法力の高さが、彼女の制御を不安定にさせているのだ。

その時、二人の眼前に複数の航跡波が見えた。それは、船が複数進んでいるという証でもあった。

 

「大和だ!」

「おっきい…」

 

宮藤はその中央に位置する巨大な船に見覚えがあり反応し、リーネは大和の姿を見てたまげた様子だった。あれこそが、扶桑の艦隊であった。

宮藤とリーネは、大和の後方にある甲板部に降り、そして医務室に案内された。

 

「宮藤さんとリーネさんですか!」

「はい!」

 

宮藤とリーネの姿に気づき、一人の兵士が声を掛けた。宮藤は返事をするが、兵士の前に倒れている負傷兵を見て顔色を変える。それだけでなく、部屋の中には負傷して包帯を巻いている兵士達が沢山いた。

 

「一番の重篤患者です…ここの設備ではこれ以上手の施しようがなくて…」

「酷い怪我…」

 

兵士の説明を受け、リーネは驚く。胸元に包帯を巻かれた兵士であるが、その出血はまだ止まっておらず、このままでは命が危ない状況だった。

 

「分かりました!」

 

宮藤はすぐさま状況を判断し、負傷した兵士に向けて両手を伸ばす。そして使い魔の耳を出すと魔法力を発動、治癒魔法を掛け始めた。

すると、負傷した兵士の出血はみるみるうちに収まり、傷が塞がっていく。

 

「出血が止まった…!」

「よし、リーネちゃん包帯を!」

「はい!」

 

兵士はその様子に驚く。ウィッチの治癒魔法を知らないわけでは無かったが、これほど強力な物だとは思わなかったからだ。そして、傷を塞いだ兵士の包帯をリーネが新しいものに変えていく。

 

「次の人は?」

「こっちです」

 

兵士は別の兵士の所へ宮藤を案内する。その兵士も、先ほどの兵士同様出血が酷かった。しかし、宮藤は再び治癒を掛けていき、その兵士の傷口をすぐさま塞いだ。

 

(凄い…これが噂に聞いた宮藤さんの治癒魔法の力…)

 

あまりにも凄すぎる光景に、案内をしていた兵士は驚くばかりだった。

 

「芳佳ちゃん大丈夫?もう十人以上治療しているけど…」

「うん、全然平気。まだまだ大丈夫だよ」

 

リーネは心配しながら宮藤に聞くが、宮藤は問題ないと言った。既に十人以上の治癒をしているが、彼女の治癒魔法は衰えることなく次々と治癒をしていく。

 

「はい、これでよし。次の人は?」

「居ません。これで最後の負傷者です」

 

宮藤は案内する兵士に聞くが、兵士は既に居ないと言った。宮藤は、負傷した兵士を全員治療したのだ。

 

「最後!」

「はい、お二人のおかげで全員無事で済みました。本当にありがとうございます!」

「良かったね、芳佳ちゃん」

「うん!」

 

兵士のお礼の言葉に、宮藤は嬉しそうにする。彼女の「自分の力で皆を守りたい」と言う決意は、大和の兵士たちを救ったのだった。




どうも、深山です。自動車学校やらでゴタゴタしており、更新が完全に遅れました。そして、本来なら次あたりで魔法力の件が発覚しますが、シュミットと言う前例がある為、ここでカミングアウトしました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十一話「芳佳の新たな翼」

第九十一話です。ついにあの機体が登場します。どうぞ!


「ふぅ…そうか、全員無事で済んだか」

 

宮藤が負傷した兵士を治療した後、大和の艦橋では一人の老兵が報告を聞き、一息ついていた。大和艦長である杉田淳三郎だ。彼は、以前赤城の艦長をしていた人物であり、ブリタニアでストライクウィッチーズともかかわりのある人物であった。

その横に並ぶ大和の副長、樽宮は杉田と同じ赤城からの乗組員であり、杉田に話しかけた。

 

「あれほどの規模で…奇跡です」

「またしても宮藤さんに救われたな」

 

樽宮の言葉に杉田も言う。普通なら誰かが殉職してもおかしくない状況であったのに、宮藤とリーネの力によって全員が無事で済んだのだ。

 

「今度のお礼は何にしましょうか?」

「ハハッ、確か前回は陸軍の扶桑人形だったな」

 

樽宮の言葉に、杉田は次は何を送ろうかと考えるのだった。

その時だった。艦橋内に警報音が鳴り響き、その音に杉田と樽宮は反応する。その音は、電探室からの非常電であった。

 

「電探室より報告!方位340、距離6万に大型ネウロイの反応アリ!」

 

兵士が報告をする。しかし、その内容に杉田はありえないと言った様子であった。

 

「バカな!?ここは安全圏のはずだぞ!」

「艦長!」

「くっ…全艦戦闘準備急げ!」

 

杉田はすぐさま司令を出し、艦内には警報音が鳴り響くのだった。

その音に、治療を終えた宮藤とリーネも反応した。

 

「ネウロイ!?」

「行こう!リーネちゃん!」

「うん!」

 

宮藤の言葉にリーネも頷き、二人は大和の後部格納庫に向かうのだった。

そしてさらに、501の基地のレーダーにも反応が現れた。

 

「ネウロイ出現!」

「場所は?」

 

レーダーを見たミーナの言葉に坂本が聞く。その言葉に、横に居たハルトマンが答えた。

 

「グリットD15、進路方位165」

「待って、その海域って…!」

「っ!大和!」

 

ミーナと坂本はネウロイの出現した海域を聞き驚く。その場所には、ロマーニャに向かっている大和が現在居る海域であったのだ。

 

「そんな!?ネウロイの巣があるヴェネツィアから、沖合いに500キロは離れてるわ!」

「ああ、今までそんな遠くに出現した例は無い!」

 

ミーナと坂本はありえないと言った様子だった。周辺にあるネウロイの巣は最も近くてヴェネツィアである。そこから扶桑艦隊の位置までは直線距離で500キロもあり、これまでのネウロイの最大行動範囲を軽く超えているのだ。

 

「でも出てるよ、ほら。扶桑艦隊に向かってる」

 

ハルトマンが指差す。レーダーはネウロイが扶桑艦隊に向かっているのが現在も確認できた。

 

「くそっ…出撃準備!」

 

坂本はすぐさま基地に警報を鳴らすのだった。

その頃、扶桑艦隊では空母により艦載機発艦が行われていた。50機以上の艦載機は艦隊に向けて接近するネウロイに向かっていた。しかし、艦載機は巨大なネウロイから放たれた薙ぎ払いのビームを喰らい、次々と墜とされていく。

 

「全艦対空戦闘準備!主砲、発射用意!」

「主砲、発射用意!目標、右70度、300!」

「面舵!」

 

艦橋内では次々と司令が行われ、それに伴い艦隊も陣形を整えていく。

 

「ネウロイめ…大和の46センチ主砲の威力を見せてやる!」

 

杉田はネウロイを睨みながら言う。

 

「測距、250!発射準備よし!」

「撃ち方始め!」

 

観測員の言葉を聞き、杉田が号令をかけた。大和の全主砲塔から放たれた砲弾は、周りの空気を大きく震わせた。そのエネルギーは、これまでどの戦艦も出したことのない凄まじいものだった。

そして、放たれた砲弾はそのまま巨大ネウロイに向けて飛翔、そして着弾した。主砲のエネルギーは、ネウロイの体を大きく削った。

 

「見たか!これが大和の力だ…!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「大丈夫?リーネちゃん」

「うん…何?今の音」

 

大和の艦内では、宮藤とリーネが耳を塞ぎながらしゃがんでいた。先ほどの大和の砲撃音に驚き、二人は急いで伏せたのだ。

 

「凄かったね…立てる?」

「大丈夫」

 

宮藤が心配しリーネに聞く。リーネは無事と返事をし、立ち上がった。

 

「急ごう!」

「うん!」

 

そして、二人は大和の後部格納庫に到着した。そして二人は武器を持ち、ユニットに足を入れた。

 

「あれ?」

 

しかし、ここで問題が発生した。リーネは魔導エンジンを回し、離陸準備を終えた。だが、宮藤がまだだった。彼女のユニットの魔導エンジンは、最初こそ順調に回転していたが、急に停止した。

宮藤はもう一度再始動をし、魔導エンジンを回す。しかし、魔導エンジンは少し動き、再び停止した。

 

「なんで…どうして動かないの…?」

 

宮藤はユニットを見ながら呟く。そこには、絶望を感じている顔があった。

リーネは宮藤がまだ離陸準備を整えていないのに気づき声を掛ける。

 

「芳佳ちゃん?」

「ちょ、ちょっと待ってね…!」

 

リーネの言葉に宮藤は慌てて答え、そしてもう一度魔導エンジンを回した。しかし、今度は魔導エンジンすら回ることが無かった。

 

(お願い…動いて!)

 

宮藤は懸命に魔導エンジンを回す。その時、艦内に振動が伝わる。

 

『巡洋艦高雄大破!』

 

そして、艦内放送が流れる。それは、扶桑艦隊が損害を受けているという現実を突きつけられた。

 

「芳佳ちゃん、私先行くね」

「あっ!リーネちゃん!」

 

リーネは芳佳を心配するが、外では扶桑艦隊がネウロイとの劣勢な戦いを強いられている。この状況を変えるには、すぐにでもウィッチが出るしかできなかった。

 

「待って!待って!リーネちゃん!」

 

芳佳はリーネを止めに掛かるが、リーネは大和から飛翔していく。

 

「いかん!高雄の行き足が止まる!」

「このままでは高雄が的にされます…あっ、駄目だ!やられる!」

 

艦橋内では杉田が双眼鏡を見ながら歯を食いしばる。先ほどのネウロイの攻撃を受けて大破状態になった高雄は速度を失った。そして、その高雄にネウロイのビームが今まさにとどめを刺さんと伸びていく。

しかし、その攻撃が高雄に当たることは無かった。ビームはなんと高雄の目の前で逸れ、横の海に落ちた。リーネが高雄とビームの間に入ってシールドを張り、高雄を攻撃から守ったのだ。

 

『皆さん聞こえますか!私が攻撃を防いでいる間に避難してください!』

「リーネちゃん…何言ってるの…!」

 

リーネの言葉に、外で見ていた芳佳はありえないと言った様子でリーネを見た。

 

「来るべき作戦の為に、大和をここで失うわけにはいかん…」

 

リーネの言葉に杉田は目を瞑り、顔を顰める。しかし、連合軍が次の作戦に必要としているのは大和であり、これを失っては元も子もない。杉田は苦渋の決断をした。

 

「両舷全速!取り舵一杯!全艦急速離脱!」

 

杉田の命令により艦隊は離脱を開始する。その艦隊に向けてネウロイはビームを放つが、リーネが懸命にシールドを張り防ぐ。

 

「リーネちゃん…っ!」

 

芳佳はシールドで懸命に艦隊を守っているリーネを見て、すぐに格納庫に戻った。そして、ユニットを履きもう一度魔法力を流す。

 

「お願い…お願い動いて!私を飛ばして!」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

『艦隊は進路を変更した模様』

 

ミーナの声が無線から聞こえ、出撃した全員が耳を傾ける。

坂本は扶桑艦隊が単独でネウロイから回避できるはずがないと理解しており、何故回避ができたのかを聞いた。

 

「回避できたのか!?一体どうやって?」

『それが…リーネさんがおとりになったみたい』

「えっ!?」

 

ミーナの言葉に真っ先に驚いたのはペリーヌだった。そしてシュミットは何故リーネだけなのか気になりミーナに聞いた。

 

「リーネだけ?宮藤は居ないのか!?」

『それが…リーネさんが単独で飛行しているらしく、宮藤さんは飛んでないみたいなの…』

「なにっ!?」

 

ミーナに言われた衝撃の言葉に、全員が驚く。そして、シュミットは自分も同行すればとここで判断を誤ったと悟った。

 

「このままではリーネが危険だ!急ぐべきだ!」

 

シュミットは戦闘隊長である坂本に言った。坂本も頷き、ウィッチ達は先ほどよりも速いペースで艦隊に向かうのだった。

その頃大和の格納庫内では、芳佳がへたり込んでいた。

 

「どうして飛ばせてくれないの…」

 

芳佳は、自分が戦えないことに涙を流した。外では大切な親友が決死の覚悟で戦っているのに、自分は戦うことができないだけでなく、飛ぶことすら満足にできない。

 

「ごめんなさいお父さん…私約束守れない…もう飛べない…もう誰も守れない…」

 

芳佳は涙をボロボロと流しながら、亡き父である宮藤一郎に謝罪する。父に言われた言葉「祖父や母に負けない立派な力(魔法力)で皆を守るような立派な人」になるようにと言われた言葉を、芳佳は胸にしっかりと約束した。しかし、今の芳佳はユニットも満足に飛ばせず、ただの無力な少女になってしまった。

 

「リーネちゃん…」

 

芳佳は、一人で戦っている親友(リーネ)に申し訳なくなり、さらに涙を流す。その時だった。

 

(泣くんじゃない芳佳。お前は飛べなくなったわけじゃない)

「え?」

 

芳佳は一瞬、幻聴を聞いたと思った。しかし、彼女は聞き間違えるはずがなかった。

 

「…お父さん?」

 

彼女には今、亡き父宮藤一郎の声が聞こえた気がした。

 

(これが、お前の()()()()だ)

 

そして、その言葉と同時に大和格納庫の床が一部開く。そして、下から現れたものは、今まで見たことのないストライカーユニットだった。

 

「ストライカーユニット…」

 

芳佳は、涙を拭きそのユニットを見た。

 

「ネウロイとの距離、約三海里。射程圏外に出ます」

 

その頃艦橋では、樽宮が双眼鏡を覗きながらネウロイを見る。大和以下扶桑艦隊は、ネウロイの射程圏外に到達した。

 

「大和を守る為とはいえ、ウィッチ一人を残して戦線を離脱…扶桑皇国軍として、心より恥じる…」

 

しかし杉田は、ウィッチ一人を身代わりに自分たちが離脱をしたことに不甲斐なさを感じていた。だが、主砲はネウロイに効かず、逆にネウロイに返り討ちに合っていた彼らには、逆に戻ることは足を引っ張ることであった。

 

「艦長、後部格納庫が開いています!」

「なに?」

 

その時、艦橋員の一人が大和後部に気づく。杉田も急いで後部を見ると、そこにはユニットを履いたウィッチの姿があった。芳佳だった。

 

「あ!あの機体は試作型の…!」

「宮藤さん危険だ!その機体は試験飛行も済んでいない!」

 

樽宮は芳佳の履いているユニットに気づく。杉田も急いで芳佳を止めようとするが、芳佳は大和のカタパルトにユニットを固定した。

芳佳はユニットに魔法力を流す。すると、足元に半径50メートルはあるだろうという魔法陣が現れた。

 

「発進!」

 

そして、芳佳はカタパルトを発進した。体に衝撃が加わるが、芳佳は大和から離れて離陸をしていく。水面をすれすれで飛んでいく芳佳。

 

「リーネちゃん…!」

 

芳佳は懸命にリーネの元へ向かう。その飛行は、今まで不調だった様子がまるで嘘のように快調だった。

その頃リーネは、苦しい戦いを強いられていた。リーネの持つ対装甲ライフルは、修復の早いネウロイの装甲の前では連射力で不利であり、ネウロイの攻撃によって撃つチャンスも大きく失っていた。

 

(芳佳ちゃんたち…ちゃんと逃げられたかな…)

 

そんな中でも、リーネは扶桑艦隊と芳佳の心配をしていた。しかし、彼女の魔法力は既に限界に近づいていた。

しかし、ネウロイは待ってくれない。無慈悲に行われた攻撃をリーネはシールドを懸命に張り防ぐ。しかし、ついにシールドが崩壊し、リーネは大きくバランスを崩し高度が下がっていく。

 

(芳佳ちゃん…)

 

リーネは意識が薄れて行きながら、最後に芳佳の無事を願った。

 

「リーネちゃん!」

 

その時だった。芳佳がものすごい勢いでやって来た。そして、今まさに海に落ちそうになっていたリーネの体を捕まえた。

 

「芳佳ちゃん…」

「リーネちゃん、遅れてごめんね!」

 

リーネは芳佳に気づく。芳佳はリーネに謝罪し、そして聞く。

 

「大丈夫?飛べる?」

「うん…」

 

芳佳の言葉に、リーネは頷き離れる。

 

「よくも…よくもリーネちゃんをおお!!」

 

そして芳佳は、今までリーネに攻撃を加えていたネウロイに向き直ると、激しく吠えた。

今、彼女の中で目の前の存在は大切な親友を負傷させた『敵』となった。芳佳は巨大ネウロイを睨むと、背中にかけていた機関銃を構える。

ネウロイはそうはさせまいと攻撃を仕掛けた。しかし、その攻撃は芳佳の強大なシールドの前には無力であり、貫通することができなかった。

 

「うおおおおおおお!!」

 

芳佳は雄叫びをあげながらネウロイに突っ込んでいく。そして、自身の前面にシールドを張る。それにより、芳佳は完全に守られる。

ネウロイは再び攻撃を加えるが、やはり防がれる。そして芳佳はシールドを張った体制のままネウロイの体に突撃をした。

 

「やあああああああ!!」

 

芳佳は、ネウロイの体を突き破りながら機関銃の引き金を引く。放たれた弾丸はネウロイの体を次々と破壊していき、そしてコアを露出させた。そして、芳佳の弾丸はついにネウロイのコアをも粉砕、ネウロイの体は完全に消滅したのだった。

 

「芳佳ちゃーん!」

「リーネちゃん」

 

芳佳の元に、リーネが飛んでやって来る。そしてそのまま、芳佳の体をホールドした。

そして、二人は顔を合わせる。

 

「やった、やったね芳佳ちゃん!」

「うん!」

 

リーネは芳佳が飛べるようになったことを心から祝福した。その言葉に、芳佳も笑顔になる。

 

(ありがとう、お父さん)

 

そして、芳佳は父一郎の事を思う。あの時、自分を救ってくれたのは間違いなくお父さんであると、芳佳は心の中で思っていたのだった。

そしてその様子を、離れたところで見ている集団があった。501ウィッチーズだ。

 

「あの光はネウロイの破片か!」

「ああ、ネウロイは消滅したようだ」

 

バルクホルンは前方で見える光の破片に気づき、坂本も状況を理解した。

 

「少佐!二人は…」

「心配するな。二人とも無事だ」

 

ペリーヌは芳佳とリーネのことを不安に思うが、坂本が無事であることを言いホッとする。その様子に横に居たシュミットは微笑むが、芳佳とリーネの姿を確認しあるものに気づく。

 

「ん?何だあれ?見たことない機体だ」

「なに?」

 

シュミットの言葉に坂本も気づき、芳佳のユニットを見た。

 

()()!完成していたのか」

 

坂本は驚いた様子で、芳佳のユニットを見たのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「これが扶桑の新型機?」

 

その晩、格納庫内でミーナが坂本に問う。その様子を、夜間哨戒に出ようとしていたシュミットも耳を傾けて聞いていた。

 

「J7W1震電。一時は開発が頓挫したと聞いたが、宮藤博士の手紙によって完成したそうだ」

「ほう」

「博士の?まるで宮藤さんの専用機みたいな話ね」

 

坂本の言葉にシュミットは関心を示し、ミーナはどこかおかしく思いながらも言った。

 

「で、お手柄の二人は?」

「帰ってきてすぐに寝たよ。魔法力を限界まで使ったんだ、ムリは無い」

 

ミーナの言葉に坂本が答える。扶桑の艦隊を大型ネウロイから守ったリーネと、そのリーネを助けて大型ネウロイを撃破した芳佳は、現在二人揃ってベッドで眠っているのだった。

 

「でも凄いわね。前のストライカーでは強くなりすぎた宮藤さんの魔法力を受け止めきれなかったって事でしょ?」

「ああ。魔導エンジンの損傷を防ぐためにリミッターが働いていたようだ。だがこの震電なら、シュミットのユニット同様、宮藤の力を全開で引き出せる。それにしても、シュミットは最初から気づいていたのか?」

「え?まぁ…同じ経験者でしたから」

 

坂本の言葉にシュミットは頬を掻きながら言った。彼も自分の経験が無ければ気付くことは無かっただろう。

 

「もうひよっこ卒業かしら?」

「新人と思っていた宮藤も、気が付きゃ立派なパイロットの一人だとは…早いものだな」

 

ミーナの言葉にシュミットも同感した。しかし坂本は、それを喜ばしく思いながらも少し寂しくも感じていたのだった。




という訳で登場、震電(某ゲームでもお世話になっています)。そして、新人という殻から抜けた芳佳ちゃん。地味に話の途中から「宮藤」から「芳佳」に変わっているんです。気づきました?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十二話「青の一番の苦難」

第九十二話です。どうぞ!


芳佳が震電の力によって復活してから少しの時が経ったある日、ウィッチ達はネウロイ発見の報告を受け出撃していた。

 

「ネウロイ発見!」

 

坂本がネウロイを視認する。周辺には大きな橋と大陸が見える。報告が遅れたためネウロイは既にロマーニャに接近していた。

 

「各自、戦闘態勢!」

『了解!』

 

坂本の言葉に全員が散開をし、ロッテを組む。ネウロイはウィッチ達に攻撃を仕掛けるが、それぞれ回避軌道を取り攻撃を避けて行く。

芳佳は、誰よりも早くネウロイの元へ向かった。

 

「くっ…なんて上昇ですの!?」

 

ロッテを組むペリーヌは思わず驚く。今までの芳佳の上昇力では見られなかった、空を切り裂くような凄い速さだった。これも、新たに芳佳のユニットになった震電の恐るべき潜在能力であった。しかし、ペリーヌも負けじと芳佳の後ろを付いていき、ネウロイに向かう。

そして芳佳はネウロイの正面に来て、ヘッドオンを仕掛ける。機関銃からばら撒かれた銃弾はネウロイに命中し、ネウロイは目標を芳佳に定めた。芳佳はそれをシールドで防ぐ。

 

「くっ」

「前に出すぎでしてよ」

 

ペリーヌはそう言って、機関銃の引き金を引く。これで攻撃はペリーヌの方へも向かい、芳佳にかかる負担の軽減になった。

その時、ネウロイの体を貫く一発の弾丸が通った。芳佳達が下を見ると、下方からリーネが対装甲ライフルで狙いを定めていた。

しかし、ネウロイも一発の火力が高いリーネに警戒を強め、今度は逆にリーネを攻撃した。

 

「きゃっ!」

 

リーネは慌てて避ける。しかし、ネウロイから放たれたビームはリーネの後方にあった橋の上部を掠めた。

 

「橋が…!」

「被害は僅かだ。陣形を崩すな」

 

ペリーヌはそう言って橋を見るが、坂本が言う。幸いにも橋の上部を掠めただけであり、崩れることは無かった。

しかし、その光景を見てペリーヌはネウロイを睨み返す。そして、先ほど芳佳を止めたことを忘れ、今度は自分がネウロイに突撃をしていく。

 

「ペリーヌ!?」

「橋に…なんてことするんですの!!」

 

ペリーヌはネウロイの攻撃を掻い潜りながら攻撃を加えて行く。鬼気迫る攻撃は、ネウロイの体を大きく削る。

 

「ペリーヌさん凄い…」

「チャンスだ!全機攻撃!」

『了解!』

 

坂本の号令により、他のウィッチ達もネウロイに攻撃を加えて行く。ネウロイは四方八方から飽和攻撃を受け、完全に対応ができなくなった。

そして、ついにネウロイのコアが露出した。

 

「コアが見えた!」

「よくも橋をおおおお!」

 

そして、ネウロイのコアに向けて真っ先にペリーヌが接近した。そして機関銃から弾丸を放つ。そしてコアの粉砕により、ネウロイは光の破片へと変わった。

 

「ペリーヌさん!」

「やりましたね!」

 

芳佳とリーネは今回のネウロイを倒したペリーヌの元へ行く。

 

「…」

 

しかし、ペリーヌはネウロイの事よりも、先ほど攻撃を受けた橋の方が気になる様子だった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「皆さん、ご苦労様」

「全員よくやった。宮藤もだいぶ震電に慣れたな」

 

任務終了後、ミーナと坂本は出撃したメンバーに今日の戦闘に対する労いの言葉をかけた。

 

「はい、もっと訓練して完璧に扱えるようになりたいです」

「良し!その意気だ!」

 

芳佳の言葉に坂本は嬉しそうに言う。そして、今度はペリーヌの方を向いた。

 

「ペリーヌ」

「…」

 

坂本はペリーヌを呼ぶが、ペリーヌは反応しない。坂本がよく見ると、彼女は下を向きながらどこか沈んだ表情をしていた。

 

「…ペリーヌ?」

「…あっ、はい」

 

もう一度呼ぶと、今度は慌てながらも反応した。先ほどの言葉は聞こえていない様子だった。

 

「今日は大活躍だったな」

「はい…ありがとうございます…」

 

そして坂本がペリーヌを褒めた。しかし、ペリーヌはお礼を言ったらすぐに基地の言ってしまった。

それに続き、坂本とミーナも基地に入っていくが、他のメンバーは先ほどのペリーヌの様子を見て怪しく思う。

 

「…なんか変だな」

「だね!」

「どうかした?」

 

シャーリーの言葉にルッキーニが間髪入れずに言う。その言葉に芳佳は訳が分からず聞くが、ルッキーニはシャーリーの胸に体を預けると言った。

 

「だって、少佐に褒められたいつものペリーヌだったらさ~、『あら少佐~、そんなことありますわ~!』」

「『も~っと、ほめてくださいまし!』とかさ」

「そ、そうかな…?」

 

ルッキーニがペリーヌの真似をして言う。それに続きシャーリーもルッキーニみたいにペリーヌの真似をした。その様子にリーネと芳佳は苦笑いをしながら見るが、シャーリーとルッキーニは大笑いをするのだった。

その晩、彼女たちの気持ちとは裏腹にペリーヌは部屋で少し顔色が優れなかった。

 

「我がクロステルマン家に代々伝えられてきた数々の家宝も、今や残っているのはこのレイピアだけ…」

 

ペリーヌは手に一つの立派なレイピアを持ちながら言う。

 

「…でも、これを売れば()()()を作り直す為のお金の足しになるでしょうか?」

 

ペリーヌはそう言って考える。

事の始まりは、ペリーヌが祖国復興をしている時だった。ペリーヌはウィッチとして稼いだお金と共に、家に残されていた家宝を売りそれを全てガリア復興に回してきた。しかし、ある日ペリーヌは子供に連れられて衝撃の光景を見てしまった。

 

(「橋が…」)

 

子供に連れられて来たところは、住宅街と学校を繋ぐ石橋だった。しかし、その石橋は中央がネウロイの攻撃によって崩されてしまったのだ。この状態では、沢山の子供が学校へ行くことができない。次世代を担う大切な子供達だ。

しかし、ペリーヌはそのレイピアを見て考えながら、レイピアを抱きしめた。

 

(お父様…お母様…私はどうしたらいいのでしょう…)

 

これを売れば、橋を作り直すことができる。しかし、ペリーヌは貴族である家系を誇りに思っており、最後の家宝となったレイピアを手放すことは出来ない。それは家宝であると同時に、ペリーヌの亡き両親との繋がりともいえる形見であるからだ。

ペリーヌは、どうしたらいいのか分からず、レイピアを抱きながら答えの見つからない問いを続けるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「いやっほーう!」

「やっほーう!」

 

翌日、シャーリーとルッキーニは大はしゃぎをしながら海へと走っていく。二人の格好は水着姿である。

 

「ほら行くよ!」

「ちょ、ちょっと待て!準備体操ぐらいしろ~!」

 

ハルトマンがバルクホルンの手を取って海に向かう。バルクホルンはハルトマンに準備運動をしてから入ろうと言うが、彼女の力に負けそのまま海に連れてかれる。勿論、二人の格好も水着だ。

何故全員水着姿なのか。それは今日が海での訓練の日であったためだ。ブリタニアでも行われた通り、今回は全員水着姿である。

 

「いいか、訓練だからと言って絶対に気を抜いてはいかんぞ!」

「久しぶりだから気を付けてね」

 

そして海沿いの岩場上では坂本とミーナの言葉に、芳佳、リーネ、ペリーヌの三人は足元を見る。

 

「この訓練だったんだ…」

「またやるんですか…」

「何故私まで…」

 

芳佳とリーネは以前行ったこの特訓で溺れそうになった経験があり、その後の自由時間でも体力を使い果たして遊ぶことが出来なかったりと、あまりいい思いでが無かった。そして何故かペリーヌも同じ訓練をすることになったため、彼女はどこか不服そうだった。

 

「さっさと飛び込め!」

 

そして坂本の号令と共に三人は海へ飛び込むのだった。その様子を、エイラとサーニャは砂浜で揃って見ているのだった。

 

「またあの訓練をしてるのか…」

 

と、そんな声が聞こえながら二人の座っているところが日陰になる。二人が見ると、訓練を終えたシュミットが以前のように二人の為に日傘を用意したのだった。

 

「暑くないか?」

「暑い…」

「だろうね。ほら」

 

シュミットの言葉にサーニャが答えた。その様子を見て、シュミットは二人にあるものを渡した。

 

「何だコレ?」

「日焼け止めオイルらしいんだ。効果は分からないが、少なくとも塗らないよりはマシかもしれないと思ってな」

 

エイラの言葉にシュミットは説明をする。彼が二人に差しだしたのは、ロマーニャで買ってきた日焼け止めオイルだった。ロマーニャに買い物に行ったときに見つけた日焼け止めオイルを見つけ、以前二人がブリタニアの太陽に肌が負けていることを思い出した。そこで、今回の訓練の為に買ってきたのだった。

 

「…オマエ、これを使ってサーニャに変な事するんじゃねーだろうな?」

「エ、エイラ…」

「な、そんなわけないだろ!」

 

突然エイラに言われてサーニャとシュミットは驚く。そしてシュミットは反論するが、頬を少し赤くしたためエイラはそんなシュミットを睨む。

 

「ぐぬぬ…ん?そういえば今日は上着着てないんダナ」

「え?ああ、まあね」

 

ふと、エイラは気付いた様子でシュミットの体を見る。彼の体は以前と違い今回は上着を着ておらず、上半身をさらけ出していた。その為、彼の体は火傷の痕が完全に周りにも見えていた。

だが、シュミットは今回特に隠す必要を感じていなかった。

 

「まぁもう皆知っているし、今更隠しても意味ないと思ってな…ふぁ~」

 

そう言って、シュミットは日傘の下で寝転ぶのだった。前日の夜間哨戒もあり、彼は泳ぐ元気よりもまず睡眠を欲しがっていた。今はゆっくりと休養を取ることにしたのだった。

その頃、海に入ったペリーヌが顔を出した。

 

「おっ、流石だなペリーヌ!」

「はい…日頃のご指導の賜物です。いつも一生懸めっきゃ!?」

 

坂本は真っ先に上がってきたペリーヌを見て褒める。その言葉にペリーヌは少し頬を赤くして言うが、突然自分の髪を引っ張られてもう一度海に沈む。

何が起きたかと言うと、同じように訓練をしていた芳佳とリーネが助けを求めペリーヌに抱き着いたのだ。その結果、ペリーヌは二人の分の重量が加わり自力で浮くことができずに沈んだのだった。

そして、三人はそのまま海の中へ沈むのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「訓練終了!」

 

坂本の号令と共に、全員が訓練を終了した。

 

「ふぅ、疲れたね」

「うん。久しぶりだったからね」

 

リーネと芳佳は訓練を終え、揃って岩場で座る。二人は疲れこそしたが、以前のように動けないほど体が疲れていなかった。これも、日ごろ坂本と行ってきた訓練の賜物と言えるだろう。

 

「ペリーヌさんが居て助かりました」

「おかげで私まで溺れるところでしたわ!」

 

リーネは芳佳の向こう側に座るペリーヌに言うが、彼女は自分まで巻き添えを食らったため少し怒っていた。

 

「…立派な橋」

「ペリーヌさん?」

 

ペリーヌが小さくつぶやいた言葉にリーネは不思議に思い見る。彼女の視線の先には501ロマーニャ基地と大陸を結ぶ橋があった。

ペリーヌは祖国の壊れた橋のことを思い出し、あのような立派な橋が少し羨ましくも感じていた。

 

「うにゃあ!」

「ルッキーニちゃん!」

 

その時、三人の居た岩場の目の前の海面からルッキーニが現れた。ルッキーニは何かを見つけた様子であり、周りをきょろきょろとしている。

 

「何してるの?」

「あのねあのね!海の底に箱があった!」

「え?箱?」

 

芳佳が聞くと、ルッキーニは両腕を大きく広げて海底にあった箱を示す。

 

「うん!おっきくってね、鍵がついててね、なんか宝箱みたいなやつ!」

「宝箱!?」

「宝箱ですって!?」

 

ルッキーニの言葉に全員が喰いつく。その中でも、ペリーヌが誰よりも喰いついた。

 

「確かに…このアドリア海は昔から海上貿易が盛んなところ…宝箱の一つや二つ海の底へ沈んでいてもおかしくは無いですわね…」

「そうなんだ!面白そうだねリーネちゃん!行ってみよう!」

「うん!」

 

そう言って、芳佳とリーネは海にダイブをする。

 

「お、お待ちなさい!」

 

その様子を見てペリーヌも後を追う。そして、ルッキーニを混ぜた四人は海中を潜っていく。

 

(でも、本当に宝箱なんて…)

 

しかし、ペリーヌは内心半信半疑であった。いくら交易が盛んであったからと言って、宝箱であるといった確証は無いわけである。

そして、四人は海中深くに潜っていく。すると、四人の前方に開けた空間が生まれ、その中央に一つの箱が現れたのだった。




海中に宝箱があったとしても、その中のものが金以外とかだと錆びつきそうですね。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十三話「ロマーニャのお宝と赤ワイン」

第九十三話です。例のあの話です。どうぞ!


「あれ?」

「また箱が出てきた」

 

あの後、箱を海中から引っ張り上げてきた四人は中身を見てキョトンとする。幅1メートル、高さ60センチの箱を開くと、なんと中には一回り小さい箱が出てきた。

 

「ま、まあそれだけ重要なお宝だという事ですわ…きっとこの中には金銀財宝が…」

 

他が困惑する中、ペリーヌはポジティブに考え再び箱を開けた。しかし、再び箱を開けるとまたしても一回り小さな箱が出てくる。

そして、同じように何回も何回も箱が出ては開け、箱は出ては開けを繰り返す。既に箱の数は10個を超えた。

 

「いったいいくつあるの…?」

「開けても開けても箱だよ…」

「お宝まだ~?」

 

芳佳とリーネは何回も出てくる箱に疲れた様子であり、ルッキーニは早く箱の中身が知りたくて待ちきれない様子だった。既にはこの大きさはペリーヌの手に乗るサイズまで小さくなっている。

 

「ちょっと黙っててくださいまし!これがきっと最後ですわ。開けますわよ…」

 

そんな中、ペリーヌはまだ諦めない様子で箱を開ける。彼女としては、ガリアの壊れた橋を直すために一刻も早く資金が欲しいところであった。もしかしたら、この箱の中にお宝が入っている、その希望を持っていた。

しかし、それは実らなかった。

 

「空っぽ…」

「騙された~」

 

ペリーヌが開けた箱の中には、何も入っていなかった。中身が空っぽなことに芳佳とリーネはガッカリとし、ルッキーニは騙されて砂に倒れた。

 

「そんな…宝が無いなんて…それじゃあ子供たちが…」

 

一番ショックを受けたのはペリーヌだった。一刻も早く橋を直してあげたいと思っていたペリーヌにとって、宝箱の財宝は希望であったからだ。

ペリーヌは両手を目元にしくしくと泣き出した。

 

「ペリーヌさん!?」

「ど、どうしたんですか…?」

 

その様子に芳佳とリーネは驚くが、ペリーヌはしばらく泣き続けるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「そっか…ペリーヌさん橋の為に頑張ってたんだ」

「それでガリアから戻って来てから様子がおかしかったんですね…」

 

その後、とりあえず落ち着いたペリーヌから訳を聞いた芳佳とリーネは、何故突然泣き出したのかを理解した。因みにルッキーニは先ほど沢山現れた宝箱をタワーのように積み上げて遊んでいた。

 

「やっぱり、そう簡単にお金は手に入りませんわね…こうなったら、家宝のレイピアを売り渡してでも…」

「ペリーヌさん…」

 

それでもペリーヌは、どうしても橋を架け直したい。こうなれば最後の手段はレイピアを手放すしかなかった。

 

「あれ?なんか変な音がする?」

 

その時、箱を積み上げて遊んでいたルッキーニが何かに気づいたように声を出す。その言葉に全員の視線がルッキーニに集まった。

 

「音?」

「うん。もう何も入っていないのに中から音がする。ほら」

 

リーネの言葉にルッキーニが小さな箱を振りながら返す。よく聞くと、箱の木材に何かが当たっているようなカラカラという音がしていた。

 

「あ、もしかして!ちょっと貸して!」

「んにゃ?」

 

その時、芳佳が何かに気が付いてルッキーニが持っていた箱を手に取った。ルッキーニは訳が分からない様子で芳佳を見る。リーネとペリーヌも芳佳の持っている箱を見る。

 

「うちの近所にね、こういうの作ってるところがあるの」

 

芳佳はそう言って、小さな宝箱の奥底をいじくる。すると、芳佳がいじってた箱の奥底が開く。

 

「できた!」

「これは…」

 

ペリーヌは開いた奥底を見て驚く。そこには丸められた小さな紙が入っていた。手に取って開くと、そこにはロマーニャなどが描かれた地図が描かれていた。

 

「地図みたい…」

「もしかして!」

 

ルッキーニはその地図を見て目を輝かせる。

 

「宝の地図ですわ!」

 

そして、ペリーヌも地図の内容を見て確信した。これは宝の地図であると。

四人はその後、地図の通りに歩いていく。すると、ロマーニャ基地の外周部の岩場に、大きな穴が開いていた。そこは地図にも表されていた場所だった。

 

「ここだ!」

「やはり地図の通りですわ!」

 

ルッキーニの言葉にペリーヌは確信する。この地図は間違いなく本物であると。しかし、芳佳とリーネは別のことに興味が移った。

 

「ペリーヌさん書いてある字読めるんだ!」

「これってラテン語でしょ?」

 

二人は地図の言葉が分からなかったため、ペリーヌが読めることに驚いた。その言葉に、ペリーヌは自慢げに言った。

 

「ラテン語を読むくらいの事、良家の子女の嗜みでしてよ」

「良かった、ペリーヌさん元気になって」

 

ペリーヌが元気になったのでリーネは嬉しそう言う。先ほどまで落ち込んでいた様子から見れば誰だって今の元気な姿を見ればホッとすることだ。

 

「な、なにを言ってますわの…さ、行きますわよ」

 

そんなリーネの言葉にペリーヌは少し照れて、それを隠すように海に入った。それに続き、ルッキーニも海に入る。

 

「リーネちゃん行こ!」

「うん!」

 

それに続き、芳佳とリーネも海に入るのだった。

四人が見つけた穴は海底から入る形となっており、一度海に潜ってから洞窟の穴をくぐらなければならない。四人は呼吸を止めて海底を泳いでいく。そして、洞窟内に入ったのを確認すると、再び浮上をした。

 

「ぷはっ…わ~!」

「綺麗…!」

 

水面から顔を出した芳佳とリーネは目の前に広がる光景に目を開いて驚く。

 

「星空みた~い!」

「洞窟の入口から入った太陽の光が水面に反射しているんですわ」

 

ルッキーニも目を輝かせてみる。そんな中、ペリーヌは冷静に分析をした。四人の目の前には洞窟の天井に光り輝く青色の模様が映っていた。それはまるで、夜空に鏤められた星のようだった。

 

「あ!あっちに道が」

 

と、リーネが洞窟の入口とは反対の方に穴が開いているのを見つけた。全員が陸に上がって穴のところに行くと、一つの入口は二つに分かれていた。

 

「どっち?」

「どっちも奥に続いているみたいですが…こっちですわ」

 

芳佳が疑問に思う中、地図を読んでいたペリーヌが左側の穴を見る。

 

「ホントに~…?」

「はぐれたくなかったら黙ってついてらっしゃい」

「へいへ~い…」

 

ルッキーニはペリーヌの言葉に嘘くさそうに言うが、ペリーヌがピシャリと言って左に入って言ったのでついていくのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ルッキーニさんが居ない?」

「ああ、魚を捕るからと言って岩場の方へ行ったっきり戻ってこないんだ」

 

ミーナの言葉にシャーリーが付け加える形で説明をする。シャーリーはルッキーニの姿が見えなくなったので他の皆にも聞いたが、誰もその居場所を知らない様子だった。

 

「そういえば、たしか宮藤たちも訓練後に岩場へ行ったはずだが…」

 

ふと、坂本が思い出したように言う。その言葉にバルクホルンやハルトマンもおかしいと感じた。

 

「行ってみましょう」

 

ミーナが原因究明として皆に指示をした。こうしてミーナを先頭に、坂本、シャーリー、バルクホルン、ハルトマンの5人による捜索チームが組まれたのだった。

 

「なんかあったのカ?」

 

その様子を、パラソルの下で見ていたエイラが言葉にするが、彼女は暑さのあまり体が止まっていた。

ふと、エイラは横に居るサーニャが何も言わないのに気づく。気になって横を見ると、サーニャはその横で眠っているシュミットを見ていた。

 

「すぅ…」

 

シュミットは小さな寝息を立てて寝ており、ミーナたちの様子などお構い無しな様子だった。

 

(…なんか子供っぽいナ)

 

エイラは眠っているシュミットを見てそんな風に思う。いつも見ている真面目な雰囲気と違い、今のシュミットはまるで子供のように無防備に眠っている。

その時、エイラはサーニャがシュミットを見ながら少し頬を赤くしているのに気づく。

 

「どうしたんだサーニャ?」

 

エイラは気になって聞くと、サーニャはエイラの方を向いた。頬を少し赤くしたサーニャは、エイラに言った。

 

「エイラ、少し手伝って…」

「?」

 

サーニャの言葉にエイラは疑問符を浮かべるのだった。

その間にも、坂本達は例の岩場へと到着をし、それぞれ分かれて周辺を捜索する。

 

「しかし一体あいつら何処に行ったんだ?」

「おーい!」

 

周辺を散策している時、岩の向こう側からシャーリーの声がする。

 

「こっちに穴があったぞ!」

「本当か!?」

 

続けて放たれたシャーリーの言葉に全員が移動する。すると、シャーリーの指している場所に人が通れそうな穴があった。五人は海に入りその穴をくぐっていく。

 

「うわ~…すっげぇ!」

「あそこにまた穴があるよ?」

 

海面から顔を出したシャーリーが洞窟の天井を見て感想するが、ハルトマンがその奥にもさらに穴があることに気づいた。

そして海から出た一行は穴の前に行く。

 

「どう?」

「ちょっと前に誰かが歩いている…この奥に入っていったんだろう」

 

そう言って足元を調べていたバルクホルンは穴を見た。そこには穴の中でさらに右と左に分かれていた。

 

「どっちに行ったんだ?」

「二手に分かれるか」

「分かれるのは危険だわ。右に行きましょう」

 

坂本の言葉に待ったをかけたミーナが、ペリーヌたちの向かった方とは逆の右側を選択した。

 

「全く手間かけさせるな~」

「でも、探検みたいで楽しいな~」

「遊びじゃないんだぞリベリアン」

 

ハルトマンの言葉にシャーリーが面白そうに言うが、バルクホルンはそんなシャーリーに注意をする。

5人がしばらく歩いていくと、周辺の景色は変わっていった。先ほどまでゴツゴツとした岩がせり出していた壁が、次第にレンガを重ねたような造りに変わっていった。

 

「人工の洞窟のようだ」

「私たちが基地にしているところは元々は古代のウィッチの遺跡だったから、この洞窟もその一部なんじゃないかしら?」

「ほう…おっ」

 

ミーナの説明に坂本は納得したように反応したが、ある物が目に入り再び反応した。そこには、大きな暖炉のようなところの上に乗っていた巨大な壺だった。

 

「これは…随分立派な壺ね」

「我々の大先輩の業か…素晴らしいな」

 

ミーナの言葉に坂本も同意した。その壺は、古代ロマーニャ人が陶器作りでも見事な職人技を持っていることを知らしめる一品であった。

 

「は~…そんなのどうでもいいじゃん…」

 

しかしハルトマンは壺などに興味は無く、疲れた様子で暖炉の横の板にもたれかかった。

 

「っ!」

 

その時だった。もたれかかったハルトマンの体が大きく傾いた。それと同時に、暖炉の上ではまるで何かが動いたかのような音がする。それは古代人の作り出したカラクリ()だった。

 

「危ない!」

 

いち早く坂本が気付き、横に居たミーナを突き飛ばした。ミーナは突然のことに驚いて横を見ると、そこには衝撃の光景が見えた。

 

「少佐!」

「なにこれ!?っ!美緒!」

「あわわわわわ」

 

先ほどまで坂本のいた場所に、なんと暖炉の上にあった壺が降ってきていた。同時に、ミーナには赤い液体が飛んで来ており、彼女の体を大きく染めた。

シャーリーとバルクホルンは少佐が壺に押しつぶされた瞬間を見たため慌てる。ミーナは自分に掛かった赤い液体を見て少佐の身を案ずる。そして、事の原因となったハルトマンはその光景を見て歯をガタガタと震わせていた。

バルクホルンが怪力を使って壺を思いっきり殴りつけた。

 

「そりゃあああ!!」

「やった!」

 

バルクホルンのパンチによって壺は粉砕された。そして、中から坂本が現れた。

そしてミーナは坂本の姿を見て急いで駆け寄った。

 

「大丈夫美緒!?しっかり!美緒!」

「ちょっと待て!」

 

ミーナが坂本の体を懸命に揺らしている時、バルクホルンが何かに気づいた。そして、自分の腕にかかった液体の匂いを嗅いだ。

 

「なんだ?この匂いは」

「…あれ?血じゃない?」

 

バルクホルンの言葉にミーナも気づき自分の腕にかかった赤い液体を嗅ぐ。するとどういう訳か、この液体からは血の匂いが感じられなかった。

 

「まさかこれ…」

「ああ…」

 

シャーリーも嗅いでみる。すると、シャーリーはすぐさまその答えに到達したようだった。続けてバルクホルンもその液体の正体に気づいた。

 

「…ワインだね」

 

そして、とどめにハルトマンが地面に広がった液体を見て言った。そう、赤い液体の正体は坂本の血では無く、只の赤ワインだったのだ。

 

「み、美緒…?」

 

では何故、坂本は座ったまま沈黙をしているのだろうか。一同がそう感じた時だった。

 

「わっしょおおおおおおいっ!!!」

『っ!?』

 

突然、坂本が大声を出して起き上がった。その声に全員が驚く中、ミーナは坂本の様子が気になり聞いた。

 

「み、美緒…いや少佐、大丈夫?」

「…勿論…らぁいじょうぶらぁ!」

「っ!?」

 

坂本はそう言って、突然ミーナの唇を奪った。突然の行動にミーナは驚き、そして次には頬を赤くし目をとろんと細めた。

 

「しょ、少佐!?」

「な、な、な…」

 

一連の光景を見てシャーリーとバルクホルンはどうしたらいいのか分からずにただ見ることしかできなかった。

その間にも坂本はミーナから唇を放した。ミーナはその場で倒れるが、坂本はまるで何かのスイッチが入ったかのように笑いだした。

 

「わっはっはっははは!わっしょおおおおいっ!!」

 

そう言って、今度は洞窟の未開の方向へ全力で走り出した。

 

「あっ!逃げた!」

「待て少佐!」

 

バルクホルンが坂本を呼び止めるが、坂本は止まらずに暗闇の奥へと消えて行った。

 

「な、なんだ…?」

「どうするミーナ…ミーナ?」

 

バルクホルンはどうしたらいいか分からなくなりミーナに助けを求めた。

 

「…ミーナはちょっと無理」

 

しかし、先ほどのキスで完全に伸びてしまったミーナに変わってハルトマンが答えた。

 

「ああ…」

「あ~…もはや指揮不能だな…」

 

そんな姿のミーナを見てバルクホルンはぐったりとし、シャーリーはどうしたものかと思うのだった。




悲報、少佐壊れる。そして何かを企んでいるサーニャ。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十四話「ロマーニャ基地のお宝」

第九十四話です。前回サーニャが何をしたのか今回明らかになります。どうぞ!


「ね~、どこまで行けばいいの~?」

 

ルッキーニがぐったりとした様子で言う。洞窟に入ってからかなり時間がたっており、ルッキーニはもう歩き疲れ始めていた。

 

「頑張ってルッキーニちゃん」

「もう少しですわ。この光の先に必ず」

「ホント?」

 

疲れた様子のルッキーニにリーネが鼓舞する。そしてペリーヌの言葉に芳佳が聞く。そんな四人の目の前には洞窟の終わりの地点が見え、そこから光が漏れる。

 

「うわあ!広~い!」

 

芳佳は光の向こう側に付くと、その周りの光景に驚く。

 

「ここが地図にあった宝の部屋!?」

「間違いありませんわ!ついに辿り着いたんですわ!」

 

リーネの言葉にペリーヌが頷く。先ほどまでの洞窟の景色から一変して、広い空間へと変わった周りの景色。その中央には玉座に座っている王様のように大きな石像がそびえていた。

 

「おっきい石像…鎌倉の大仏ぐらいあるよ?」

「でも、ちょっと怖いね…」

 

芳佳は石像を見て、扶桑にあった鎌倉の石像と比べる。逆にリーネはその石像が鎧兜をして自分の方を向いていたので少し怖く感じていた。

しかし、ペリーヌはまだ地図と睨めっこしていた。

 

「…あそこですわ。あの石像の奥、そこにお宝が眠っているはず!」

 

そう言ってペリーヌは石像の方に歩き出した。続いてルッキーニも歩き出そうとし――立ち止まった。

 

「っ!」

 

ルッキーニはふと横を見る。そして、そこに掛かっていたある物を見て目を輝かせたのだった。

 

「何処?何処ですのお宝は…いいえ、子供達の橋は…」

 

その間にもペリーヌは石像の周りを散策する。しかし、彼女のお目当ての物はなにも見当たらなかった。

その時、ルッキーニが声を出す。

 

「ティッティティーン!どう、かっちょいい?」

「似合う似合う!」

「ルッキーニちゃんかっこいい!」

 

ルッキーニはそう言って、壁に掛かっていたレイピアと盾を手に決めポーズをとる。そんなルッキーニに芳佳とリーネは拍手をしながら言った。

 

「きゃあ!!」

「え?」

 

その時、石像の方向から悲鳴が聞こえる。芳佳達が声に気づき振り向くと、なんと先ほどまで座っていたはずの石像が立ち上がっているではないか。そして同時に、石像はその右手を大きく上に振りかぶっており、その先にはペリーヌが居た。

 

「石像が…!」

「ペリーヌさん逃げて!」

 

リーネが大声で叫ぶ。

 

「駄目ですわ!橋を架けるまで諦めるなんてできませんわ!」

 

ペリーヌはそう言って、石像の振り下ろされた右腕を回避する。石像の重さがあってか、先ほどまでペリーヌが立っていた石床は大きく陥没した。

 

(…ですわ、丸腰では流石に分が悪いですわね…一体どうすれば!)

 

しかし、ペリーヌからしても今の状況はどうしようもできない。素手で石像と戦うことなど無理に等しいのだ。

 

「ペリーヌ!」

 

その時、ペリーヌは後ろから声を掛けられる。ペリーヌが振り返ると、ルッキーニが大きく振りかぶってあるものをペリーヌに投げた。それは先ほどルッキーニがポーズを決めて遊んでいたレイピアだった。

ペリーヌはそれを確認すると、持ち手の部分を空中でキャッチする。そして、レイピアを石像に向けて構えると、しっかりと握りしめた。

 

(お父様、お母様、そしてガリアの皆…私は負けませんわ!)

 

その間にも、石像は空中に浮いているペリーヌの体をめがけて拳を構える。そして、拳の位置にペリーヌが来たと判断した石像は大きくその拳を突いた。

しかしペリーヌは空中で体勢を立て直すと、その拳の上に着地した。そして、拳の上で足を思い切り踏み込むと、そのまま石像に向けてジャンプした。

 

「やあああ!!」

 

そして、ペリーヌは右手に構えたレイピアを石像に突き刺した。

 

「トネール!!」

 

気合一発、ペリーヌは掛け声と共に雷撃をレイピアに伝わせる。レイピアを伝って石像に送られた電撃は、その表面だけでなく内部までエネルギーを伝わせた。

 

「ペリーヌさん!」

 

その光景に芳佳達は只見ていることしかできなかった。しかし、ペリーヌが地面に降り立ったと同時に勝敗は決した。

先ほどの雷撃を受けた石像は頭部を地面に落下させた。そして次に体の表面が剥がれ落ちるようにボロボロと崩壊していき、最後には地面に倒れた。

 

「やったー!勝った勝った!」

「凄い!」

「ペリーヌさん凄い!」

 

三者三様の称賛をペリーヌに向ける三人。その時、部屋中に石同士が擦り合うような音が鳴り響く。

 

「見て!」

 

芳佳が気付き指を差す。そこには、先ほど石像が座っていた玉座の下部分が少しずつ開いていき、そこから光が漏れ出していた。

 

「あんなところに扉が…!お宝!」

 

ペリーヌは予想外のところに隠し扉があることに驚くが、すぐさまその先にお宝が眠っていると察して開いた扉の奥に入った。

部屋の中に入ったペリーヌは、周辺の光景の変化にまず驚いた。先ほどまで薄暗かった空間から一変、解放された天井から差し込む日の光は部屋全体を眩く照らしていた。

 

「こ、ここが宝の間…」

 

そしてペリーヌは、部屋の周辺を確認する。しかし、そこにはお宝らしき黄金に輝くものは一つも無かった。代わりに、部屋中には様々な種類の植物が植えられていた。

ペリーヌは近づいてその植物を見た。

 

「これはハーブ…クローブにローリエ…オレガノにソフラン、そしてこれはコショウ…」

 

ペリーヌは植物の名前を一つ一つ当てていき、そして気づく。

 

「まさか…これがお宝?」

 

ペリーヌはその植物を見てそう結論付けた。そう、近世における時代において香辛料は貴重な物、中でもコショウの価値は金と同等とまで言われ、その存在が戦争の引き金ともなったと言われる代物であった。時代背景から見ればこれだけの香辛料の数はまさにお宝と言える代物である。

しかし、ペリーヌは肩をがっくりと落とした。そして、目には涙を浮かべる。

 

「ペリーヌ?」

「えっ!?どうして少佐がここに!?」

 

その時、香辛料の山の中から坂本が体を起き上がらせる。突然現れた坂本の姿に驚くペリーヌ、しかし坂本はそんなペリーヌを見て疑問に思った。

 

「…ペリーヌ、泣いてるのか?」

「…これが私の探していた宝だったなんて」

 

坂本がペリーヌに聞くが、ペリーヌは俯いて小さな声で言った。

 

「どれも只の香辛料…昔なら貴重な財産と言えますが、今では簡単に手に入るものばかり…これではガリアの復興資金には到底なりませんわ!」

 

ペリーヌはそう言って涙をボロボロとこぼした。昔でこそ、香辛料は殆ど栽培がおこなわれておらず貴重な代物であったが、時代が経つにつれて栽培がおこなわれ、その量は今では簡単に手に入るほどにまで増えていた。価値など既に落ちたも当然の代物だった。

しかし、そんな風に泣き崩れているペリーヌの肩に坂本は手を置いた。

 

「泣くんじゃないペリーヌ、大切なのは気持ちだ」

「気持ち…」

「そうだ。お前のそのガリアを思う気持ちこそが、大切な宝なのだ」

「…少佐」

 

坂本の言葉に、ペリーヌは顔を上げる。そしてそのまま坂本の顔を見た。

その頃、部屋の外ではシャーリー達が芳佳達の元へ現れた。

 

「おっ、ルッキーニが居たぞ!」

「宮藤たちも居るな…よし、行くぞハルトマン」

「お、重い…」

 

シャーリーは真っ先にルッキーニの姿を確認した。その後ろから来たバルクホルンも芳佳の姿を確認し、後ろに居たハルトマンに言う。そのハルトマンはと言うと、坂本によってダウンしたミーナをおぶってやって来たため少し疲れた様子だった。

 

「おーい、何やってたんだよー!」

「あ、シャーリーさん!」

「心配したんだぞ」

 

こうして、宮藤たち捜索隊も無事合流したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

一方その頃、基地の浜辺。

 

「…うぅん」

 

疲れの溜まっていたシュミットは外の気温が少しだけ下がったのを感じ、瞼を少し持ち上げた。

 

(…ん…あれ?)

 

その時、シュミットは持ち上げた瞼の先にある物を見つける。銀色の髪をし、シュミットの様子をじっと見ている人影が見えた。まだ僅かに寝ぼけていたシュミットは頭の回転が回っていなかったが、次第に回転するにつれてその人物をはっきりと認識した。

 

「…サーニャ?」

「おはよう、シュミットさん」

「ああ、おはよう…」

 

シュミットはサーニャの顔を見て聞くと、サーニャは挨拶をしてくる。そして同時に、シュミットは自分に違和感を感じた。

まず顔の頬あたりを触れる感触を感じたのだ。それはサーニャの腕であると理解した。そして今度は後頭部にも感触を感じていた。

 

「――え?」

 

シュミットは気付いた。今自分がどのような状態になっているのかを。今現在シュミットは、サーニャの膝に自分の頭をのせていたのだ。そう、今シュミットはサーニャに膝枕をしてもらっている状態だったのだ。

シュミットはみるみるうちに顔を赤くする。

 

「サ、サーニャ…その、これは…」

 

シュミットは思考が若干パニックになりながらサーニャに聞く。そんなシュミットの様子を見てサーニャは少しおかしく思ったのか微笑んだ。その横に居たエイラはかなり不機嫌そうな顔をしてシュミットの方をじっと見ているのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その日の夜、洞窟を探索した芳佳とリーネ、ペリーヌの三人は部屋に集まって話をしていた。

 

「あそこは古代の遺跡で、ウィッチが宝を守る為に掛けてあった魔法がまだ残っているんじゃないかって。ペリーヌさんを襲ったのもそれかも」

「全く迷惑な話でしたわ」

 

リーネの言葉にペリーヌはあの出来事を思い出しうんざりとした様子で返す。

その時、芳佳がペリーヌにある物を差し出した。それは便箋の入った封筒だった。

 

「はいこれ、ペリーヌさんに手紙が届いていたよ」

 

ペリーヌはそれを受け取って中身を見る。

 

「あら?ガリアからですわ?」

 

ペリーヌはその手紙の送り主がガリアからであることを知り、中を急いで確認した。

 

「これは!」

 

そしてペリーヌは、手紙と共に送られた一枚の写真を見て驚く。

「橋だ!」

「わぁ!皆で造ったんだね!」

 

芳佳とリーネもその写真を見る。そこには、崩れた橋の上に新たに木で造られた橋が出来ており、その上にガリアの子供たちがカメラの方を向いてポーズをとっている写真だった。そう、ガリアの子供たちが復興している人達と協力して、崩れた橋を直したのだ。

ペリーヌは中に同封された手紙を読んでいく。そして、その手紙を読み終わるとギュッと胸元で握りしめた。

 

(皆で力を合わせて作った橋…これが本当の復興なのかもしれませんわね)

「良かったねペリーヌさん」

「ええ、私も一刻も早くネウロイを倒して、そしてまたガリアに…!」

 

リーネの言葉にペリーヌは決意を新たに言う。

 

「私も行きたいな!ガリアに!」

「うん、行こうよ!」

「まあ、その時は道案内ぐらいさしてあげましてよ?」

 

芳佳とリーネの言葉にペリーヌが言う。そんなペリーヌの言葉に二人は笑顔になる。

 

「ありがとう、ペリーヌさん!」

 

芳佳がペリーヌにお礼を言った。そのお礼の言葉に、今度はペリーヌも笑顔になるのだった。

丁度その頃、レクリエーションルームでは坂本が窓の外を見ながら口を開いた。

 

「そうか…謎の多い基地だ」

 

そう言って坂本は月を見た。その時、ふとあることを思い出した。

 

「そういえば、中佐はどうしたんだ?」

『え?あ~…』

 

先ほどから見えないミーナの姿に坂本が疑問に思い聞いた。しかし、ハルトマンとシャーリーは互いに顔を見合わせ、バルクホルンは何も覚えていない坂本に困った様子だった。

その頃、基地の浜辺では。

 

「………はぁ~……」

 

浜辺で一人、両膝を抱えながら月夜を眺めているミーナの姿があったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

基地でそのようなことが起きている頃、アドリア海上空ではシュミットとサーニャが夜間哨戒に出ていた。

 

「…」

「…」

 

互いに無言のまま飛行する二人。しかしシュミットは、海でのことを思い出し頬を赤くしながらサーニャに話し始めた。

 

「サーニャ」

「え?」

 

突然話しかけられたサーニャはシュミットを見る。そんなサーニャにシュミットは頬を掻きながら恥ずかしそうに言った。

 

「その…ありがとう。膝枕してくれて」

「ううん。シュミットさんが喜ぶかなって思って」

 

シュミットの言葉にサーニャは微笑みながら言った。その様子を見て、シュミットは以前のサーニャならこんな大胆なことをしなかっただろうと思い、サーニャが変わったと感じた。

 

「おかげで疲れもしっかり取れて、元気になったよ。サーニャのおかげだな」

 

そう言ってシュミットはサーニャに微笑んだ。そんなシュミットを見てサーニャも嬉しくなり頬を緩めた。その時だった。

 

「っ!」

「なっ!」

 

突然、サーニャの魔導針の色が緑色から赤色へと変化した。突然のことに二人は驚くが、すぐさま自分の持っている武器を構えた。それはネウロイを感知したという合図であり、ネウロイがこの近くに居ることを示していた。

 

「方位80…高度8000…速度200ノット…」

「今までのネウロイに比べたら遅いな…」

 

サーニャが魔導針で感じたネウロイの反応を口に出していく。それを聞きシュミットは冷静にネウロイの分析を行う。

それと同時に、サーニャの言った方角からネウロイが姿を現した。




昔なら価値の高いものが、時が経つにつれて価値が下がっていく。ある意味残酷ですね。そしてサーニャさん大胆…。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十五話「アフリカの星」

第九十五話です。少しだけ前半部分は戦闘が入ります。どうぞ!


ネウロイが姿を現し、シュミットとサーニャは武器を構えた。

 

「お出ましか…こちらシュミット!501、応答を願う!」

 

シュミットはそう言ってネウロイにMG151を向けながらインカムで基地に連絡を取る。しかし、インカムからは雑音がしており、何も聞こえなかった。

 

「501!?…くっ、故障か?」

 

シュミットは再度聞くが、雑音が晴れないためインカムが故障したと感じた。

 

「仕方ない、二人で倒すしか無いな…サーニャ、援護を頼む!私は前に出る!」

「うん!」

 

シュミットがすぐさま強化を掛けてユニットを回す。そしてそのままネウロイに急降下をすると、機関砲の引き金を引いた。

 

「喰らえ!」

 

弾丸はネウロイの体を大きく削る。さらに、ネウロイが反撃をしてこない様子を見るからに向こう側がこっちに気づいていないとシュミットは理解した。

その間にも、冷静にネウロイをシュミットは分析していく。

 

(こいつの装甲は並みのネウロイと変わらない…とすると)

 

シュミットはゼロの領域に入る。すると、すぐさま次の光景が頭に入ってきた。

 

「来た!」

 

すぐさま回避行動をとるシュミット。すると、先ほどまでいた位置に今まで見たことのない巨大な赤い線が通り過ぎて行った。

しかし、ネウロイはシュミットに気を取られた分、別方向からくる攻撃に疎かになっていた。シュミットのいる位置と真反対の方向から数発のロケット弾が飛翔してくると、その全てがネウロイに着弾した。サーニャのフリーガーハマーによる攻撃だった。

ネウロイは今度はサーニャに気づくと、そちらに向けてビームを放つ。サーニャは回避をするが、今度も放たれたビームは先ほど同様、過去に類のないほど巨大な物であった。

 

「サーニャ!このネウロイは攻撃の手数が少ない分、一発でも掠めたら致命傷になる!立ち止まらずに攪乱するぞ!」

「ええ!」

 

シュミットの言葉にサーニャも返事をした。そう、このネウロイは一発の火力を極端に上げたネウロイであり、一発の火力であれば今まで戦ってきたネウロイの中でも一番と言える大火力を持っている。その反面、次の攻撃に移る時間が空くため、手数が極端に少ないのだ。

シュミットはネウロイの特性を知るやいなや、その対策として互いの動きを常に動かす戦法に出た。こうすることによって、ネウロイは動き回る両方の目標の内片方だけを狙わなくてはいけなくなる。手数の少ないネウロイからしたら、もう片方は完全にフリーとなる。

 

(…今だ!)

 

シュミットはゼロの領域でネウロイの攻撃を予測していた。前衛に出ているシュミットはネウロイが真っ先に攻撃をしてくる。その為、シュミットのゼロの領域は攻撃回避に最適であり、尚且つ後方で援護を行うサーニャは安全に援護が行える状況となっていた。

しかし、シュミットは戦っているうちにある違和感を感じていた。

 

(…何だろう…特に考えてもいないのに()()()()()()()が分かる?)

 

シュミットは戦いながら、自分があまりサーニャを意識していないのに気づいた。しかし、その動きはまるでサーニャが何処に居るのかが的確にわかっているかのように無駄が無いことに気づいた。

 

(…どうして?シュミットさんが行く先が分かる?)

 

同じ頃、サーニャも違和感を感じていた。サーニャはシュミットが次に動く位置がまるで手に取るように分かった。しかし二人現在、先ほどの会話を除いて特に合図などを出していない。それなのに、まるでこう動くというのが分かるのだ。

そして暫く攻撃を加えていった時、ネウロイの表面が大きく削れた。

 

「っ!コアだ!」

 

装甲の剥がれた地点にコアを確認したシュミットは、コアに向けて火力を集中させた。サーニャも同じくコアを確認したため、フリーガーハマーの照準をコアに向けた。

 

((っ!?))

 

その時だった。突然二人は更なる違和感を感じた。まるで体が別の何かによって浮いたかのように感じた。しかしそれは、居心地の悪いものでは無かった。()()()()()()()()()()()()と、二人は感じた。

その間にも、ネウロイのコアに飛翔していった弾丸とロケット弾は着弾し、ネウロイの体は光の破片へと変わったのだった。

 

「今のは…いや、どこかで感じた…」

 

しかし、シュミットはネウロイ撃破よりも先ほど感じた違和感が気になっていた。そして、その違和感を()()()()に感じたことがある気がした。

 

『…こちら501基地、シュミットさん何があったの!?』

 

その時、インカムの向こう側の雑音が晴れ、ミーナの声が聞こえてくる。シュミットは慌てて返事をした。

 

「あ、はい…こちらシュミット。えと…ネウロイと交戦状態になりました」

『ネウロイと!?位置は?』

「いや、戦闘終了して今は破片に変わっています」

 

ミーナが慌てた様子でシュミットに聞くが、ネウロイは既にサーニャと二人で撃破したため居なかった。

 

『そう…シュミット大尉、帰投したら報告をお願いします』

「了解…」

 

ミーナはそう言って通信を終えたが、シュミットはそれよりも気になることがありサーニャの方を見た。

そのサーニャも、何かを感じた様子で困惑した顔をしており、シュミットは先ほどの現象が自分とサーニャの二人に起こったものだと理解したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

シュミットとサーニャが謎の現象を感じた日から数日が経った頃、芳佳とリーネは外で洗濯物を干していた。

 

「あ、輸送機だ」

 

ふと、芳佳は航空機の音が聞こえたので空を見上げた。そこには、青空の中を突っ切るように一機の輸送機が飛行していた。

 

「あれはJu52…ミーナ中佐が帰ってきたみたい」

 

リーネは輸送機の機種を識別し、連合軍司令部へと出ていたミーナが帰ってきたんだと言った。

その時だった。基地の上空を飛行していた輸送機から突如、一つの影が離れた。

 

「え?」

 

芳佳は一瞬何が輸送機から離れたのかと思い目を凝らす。すると、それはなんと女性の人影ではないか。

 

「ええっ!?」

「飛んだ!?」

 

リーネと芳佳は突然輸送機から人が飛び降りたのでビックリする。その間にも、飛び降りた女性は使い魔を出すと空中で姿勢を整え、そして何事もなかったかのように地面に着地をした。

 

「わー…!」

「凄い…!」

 

二人は揃ってその光景に見とれていた。そして目の前に降り立った女性の姿を見る。女性は掛けていたゴーグルを外すと二人の方を向いた。

 

「やあ、初めまして子猫ちゃんたち」

「子猫?」

「わぁ~…!」

 

女性からの自己紹介の言葉にリーネは一瞬呆気にとられるが、芳佳は先ほどのダイブとそのルックスから、女性のことを目を輝かせながら見ていた。

 

「フッ…悪いけど、サインはしない主義なんだ」

「へ?」

「はわぁ~!」

 

と、突然の告白にリーネはさらにポカンとするが、芳佳はその言葉も女性の決め台詞のように聞こえたのか更に目を輝かせた。

 

「ところで君たち…」

「マルセイユ!」

 

女性が二人に何かを言おうとしたその時、横から大声が聞こえる。マルセイユと呼ばれた女性が振り向くと、そこには訓練途中であったバルクホルンとハルトマンが居た。

しかし、バルクホルンはマルセイユのことを睨みながら続けて言った。

 

「何しに来た!お前はアフリカに居るはずだろ!」

「おっ!ひっさしぶりだなハルトマン!」

 

しかし、そんなバルクホルンなど眼中に無いかのように、マルセイユはハルトマンの元へ駆け寄った。そしてマルセイユはハルトマンに合えたことをまるで心から喜んでいるかのように言った。

 

「航空学校以来か?…いや違うな、JG52の第四中隊だ!そうだよ!覚えてるか?同じ中隊に居た融通の利かない上官の…えっと、なんて言ったっけ――?」

「バルクホルンだ!」

「おー、そうだった」

 

マルセイユの露骨な視線にバルクホルンが言う。その言葉を聞きマルセイユは手を差し出した。

 

「久しぶりだな、バルクホルン!元気だったか?」

「…大いに元気だ!」

 

バルクホルンもその手を取り握手を返す。

 

「あのかっこいい人、バルクホルンさんの友達なのかな?」

「そ、そうは見えないけど…」

 

芳佳は二人の握手する姿を見てそう感想するが、リーネは二人から出ている謎のオーラを感じ、とても仲のいい様子には見えなかった。その様子を見ていたハルトマンも、げんなりとした様子だった。

 

(ああ…面倒なのが来たな~…)

 

と、完全に厄介ごとが増えたと言わんばかりの顔をした。

そして、滑走路に着陸した輸送機内では、その光景を見てミーナが溜息を一つ零したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あっ!さっきの人だ」

 

その後、ミーナにブリーフィングルームに集まるように言われた芳佳達は、本の中に先ほど出会ったマルセイユの写真を見つけた。

 

「凄い…本に載ってるんだ」

「えっと…ハンナ・マルセイユ、カールスラント大尉、第31飛行隊『ストームウィッチーズ』所属で、200機撃墜のスーパーエース…!」

「200機…凄い!」

 

芳佳はマルセイユの撃墜数を聞いてその数が遠い存在に感じる。シュミットも離れたところで芳佳達の話を黙って聞いていた。

 

(マルセイユ…マルセイユ…あ、そういえばそんな名前のパイロットが居たな)

 

と、シュミットは前世での記憶を思い出しながら思っていた。

 

「しかも容姿端麗でカールスラントに留まらず世界中にファンが多数。通称『アフリカの星』だって」

「アフリカの星!かっこいい!」

(アフリカの星…偶然…なのか?)

 

リーネが続けて読んでいき、芳佳はマルセイユの二つ名を聞いて目をキラキラさせた。しかしシュミットは先ほど考えていたパイロットの二つ名と同じであることに、これが偶然なのかどうか疑わしくなってきた。

 

(…てか、初めてハルトマンやバルクホルンと会った時もそんなこと思ったな)

 

しかし、初めてバルクホルン達と会った時も前世のエースと何か関係あると感じたため、今更かと特に深く考えるのはやめるのだった。

 

「サインほしいな~」

「あいつサインはしないよ」

 

と、芳佳の言葉に横で聞いていたシャーリーが言った。

 

「え?シャーリーさんマルセイユさんのこと知ってるんですか?」

「ルッキーニとあたしはここに来る前ちょっとアフリカに居たからな」

「いた~!」

 

と、シャーリーの言葉に続けてルッキーニが言う。

 

「どんな人なんですか?」

「噂ならいっぱい聞いたけど…あいつの事なら同じカールスラントの連中が詳しいだろ」

 

芳佳の言葉にシャーリーはハルトマンとバルクホルンの方を向きながら言った。ハルトマンは机に伏しており、バルクホルンは腕を組みながら黙っていた。

 

「そういえば、同じ部隊だったって…」

「…カールスラントで私とハルトマン、マルセイユは同じ飛行中隊に居た」

 

芳佳の言葉に今まで黙っていたバルクホルンが口を開いた。しかし、バルクホルンはどこか不機嫌そうであった。

 

「やっぱり!友達なんですね」

「友達じゃない!あんなチャラチャラしたやつ…」

 

芳佳の言葉にバルクホルンが頑なりと否定した。

その時、今までいなかったミーナと坂本が入って来る。その後ろにはマルセイユも来ていた。

 

「静粛に」

 

ミーナがそう言って、私語をしていた者たちを黙らせる。そして、坂本が説明を開始した。

今回ブリーフィングルームに全員が集められたのは、マルタ島を占拠しているネウロイを倒すためだ。

 

「――ここで選ばれたウィッチ二名が突入、護衛のネウロイを倒しコアを破壊する。以上だ」

「…たった二人ですか?」

 

坂本が作戦を伝え、最後に重要な部分を強調する形で言った。その言葉に芳佳が聞き返す。

 

「この作戦では移動に扶桑の潜水艦を使う。格納、射出できるユニットは二機までだ」

 

そう、この作戦には潜水空母である扶桑の伊400型潜水艦を使う。その伊号潜水艦から射出できるのは二機までであり、今回の作戦は海中から敵占拠エリアに侵入するため、それ以上の援軍は送れない。

そして、今度はミーナが横のハンナを見ながら説明した。

 

「では、突入部隊のウィッチを発表します。まず、今回の作戦の援軍として参加することになった第31飛行隊のハンナ・マルセイユ大尉」

「っ!どういうことだ中佐!突入部隊は私とハルトマンのはずだ!」

 

衝撃の言葉にバルクホルンが立ち上がった。今回の作戦は元々501のトップエース2人――つまりバルクホルンとハルトマンが突入することになっていたのだ。

しかし、ミーナはそんなバルクホルンに言った。

 

「上層部からの指示です」

「なるほど…そういうことか」

 

ミーナの言葉に真っ先に理解したシュミット。しかし芳佳はどういうことか分からずシュミットに聞く。

 

「どういうことですか?」

「つまり、この作戦はプロパガンダの意味があるんだ」

 

シュミットは芳佳に説明した。アフリカの星と言われる彼女は容姿端麗、つまり軍の戦意高揚の広告塔として今回の作戦に参加するのだ。

 

「我が501から作戦に参加するのは一人のみ。バルクホルン大尉、貴方です」

「無理だ」

 

そしてミーナが続けて501からの参加メンバーを発表した。しかし今度はマルセイユがキッパリと言った。その言葉にバルクホルンが睨む。

 

「バルクホルン、あんたじゃ私のパートナーは務まらない」

「…何が言いたいんだマルセイユ」

「言葉通りさ、あんたの力量じゃ私と一緒に戦うのは無理だって言ってるんだ」

 

マルセイユは挑発的な態度でバルクホルンに言った。バルクホルンはそんなマルセイユにさらに怒りを燃やすが、マルセイユはどこ吹く風といった様子で今度はハルトマンを見る。

 

「私の力量と釣り合うのは…」

「何処を見てるんだマルセイユ、カールスラント防衛線の頃から、お前の『上官を上官と思わない』その態度!」

 

そう言ってバルクホルンはマルセイユの元に歩いていく。既に内部では怒りが爆発したのか、バルクホルンは使い魔を出して臨戦態勢になっていた。

 

「フッ、今は同じ階級だ」

 

そう言って、マルセイユも使い魔を出す。そして二人は互いの手を合わせる。

 

「ぐぬぬ!」

「ぬうう!」

 

二人の魔力がぶつかり合い、周囲の空気を変えた。その魔法力はブリーフィングルームの石床に罅を入れ、そして風を起こした。

 

「ストーップ!!」

 

その時、別のところから声が聞こえ二人は争いを中断する。声のした方向を見ると、ハルトマンが立ち上がって二人の方を見ていた。

 

「私がマルセイユのパートナーをやるよ!それでいいだろ!」

「ハ、ハルトマン…」

「ハルトマン中尉…」

 

ハルトマンの言葉にその場にいたものは全員ポカンとした。しかし、マルセイユだけがハルトマンを見てニヤリとした。

 

「フッ、楽しみだなハルトマン」

 

そう言って、マルセイユは納得した様子でハルトマンに言った。その言葉に、ハルトマンはまるで面倒なことになったと言わんばかりに溜息を吐いたのだった。




んー、シュミット君またなんか変な出来事に巻き込まれてるな~。今度はサーニャも込みですが。
そしてマルセイユの登場。ここまでは特に変わった点はありません。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十六話「勝利の意味」

皆さんお久しぶりです、深山です。忙しい日々が続いており更新できませんでしたが、更新を行いたいと思います。ではどうぞ!


マルセイユがハルトマンと組むことになった次の日、二人は空中に配置させたターゲットバルーンを共同で撃ち抜く訓練をしていた。この訓練は、護衛のネウロイを倒していくのでコンビネーションを養う目的もあった。

 

「二人とも凄いですね!」

「どっちもカールスラントのトップエースだからな」

 

芳佳は上空で飛行するハルトマンとマルセイユを見ながら感想する。二人は高速で飛行しながら次々とターゲットを撃ち抜いていく。いまだ一つも撃ち漏らしが無い様子から、マルセイユの実力の高さもよくわかる。

 

「え?もしかして今回の作戦って…」

「そう、部隊の垣根を超えたトップエース同士の協力作戦」

 

そんな中、リーネはあることに気づいた様子であった。その様子を見て次の言葉をミーナが言った。

しかしシュミットは話を聞いていながら疑問に思う点があった。

 

「ん?だがネウロイ撃墜数は200機って聞いたぞ。それならバルクホルンの方が上じゃないか?」

「そうでもないの。アフリカ方面は欧州よりも強力なネウロイが出やすくて、その実数は2倍の価値があるのよ」

「なるほど」

 

ミーナの説明を聞いてシュミットも納得した。撃墜数が200でも、その価値が二倍となれば400となる。実力は折り紙付きであるのも頷ける。

しかし、バルクホルンと坂本は上空で飛行している二人を見て納得のいく様子では無かった。

 

「だが、今のままでは難しいか…」

「ああ、あまり息が合っていないな…」

 

と、二人は上空で飛んでいるハルトマンとマルセイユに評価を下した。一見互いの動きは凄いように見えるが、それは()()()()()としてみれば凄いわけである。しかし、連携を組んでの飛行となれば話は別であった。綺麗に見える動きには若干のずれが生まれていた。

その時、突然マルセイユが編隊を崩した。ハルトマンの後方に付けると、機関銃をハルトマンに向けた。

 

「なっ!?」

 

あまりにも突然の行動に全員が驚く。まさか引き金を引くのではないかと思ったが、それは起きなかった。

 

「ダダダダダ!!」

 

マルセイユは機関銃の発射音を口で言うと、構えを解いた。

 

「これで九勝目だ!」

「…」

 

マルセイユの言葉にハルトマンは一瞬ポカンとした様子で見た。そして、ハルトマンは胸を押さえるような演技をしだした。

 

「うがー…やーらーれーたー!」

 

と、ハルトマンはマルセイユにやられたかのように胸を押さえてふらついた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「訓練飛行中に人に銃を向けたマルセイユ大尉は本来なら営倉行きです。が、残念ながらこの基地にはありません。代わりに二人は今日から作戦の日までこの部屋で過ごすこと」

 

あの後、二人は訓練を中止され地上に降ろされた。マルセイユは訓練中にもかかわらず実弾入りの機関銃を他の兵士に向けた行為によって、連携の取れていないハルトマンと共に隔離部屋に送られた。

 

「次やったら絶対許しませんよ」

 

そう言って、ミーナは部屋を出て行った。後に残された二人は、部屋に唯一置かれたベッドに腰掛けた。

 

「ハンナのせいで怒られたじゃないか」

 

マルセイユのふざけに乗った以外は軍規を守っていたハルトマンは、自分まで巻き込まれる理由は無かっただろうと不満だった。

 

「あっははっ…やっぱりミーナは怖いな~」

 

が、対するマルセイユは特に気にした様子はなく、以前と変わった様子の無いミーナに逆に安心した様子だった。

しかし、彼女は次にハルトマンを見た。

 

「…どうして戦わない」

「え?」

 

マルセイユの言葉の意味が分からずハルトマンは声を漏らす。

 

「さっき私が狙った時だ。お前の腕なら回避することも反撃することもできたはずだ」

「…ハンナは変わんないな~」

 

マルセイユの言葉にハルトマンは余り興味なさそうに言った。

 

「変わる必要が無い」

「なんでそんなに勝ち負けに拘るのさ?」

 

マルセイユの様子を見てハルトマンは逆に疑問に思う。そんなハルトマンに、今まで寝転んでいたマルセイユが起き上がり言った。

 

「戦場では勝利以外に価値は無い。私は常に勝利し続け、最強で居続ける。それだけだ」

「なんだそれ?」

 

マルセイユの思想にハルトマンは訳が分からないといった様子で言う。しかし、マルセイユはエーリカに続けて言った。

 

「一緒の隊にいた時のお前との勝負は8勝8敗、私と戦って互角だったのはエーリカ、お前だけだ。だから決着を付けたいのさ、この作戦の間に」

「…」

 

マルセイユはどうしてもハルトマンと決着をつけたいと思っていた。彼女にとってハルトマンは唯一同格の相手であり、また彼女が勝たなければいけない存在であった。

 

「はー、じゃあハンナの勝ちでいいよ」

 

しかし、ハルトマンはマルセイユとの勝負をする気は無いようで、興味なさそうに勝ちを譲った。

 

「またか!前もお前は同じようなセリフで私から逃げた!何故だ!」

 

その答えにマルセイユは問い詰めた。どうして彼女はいつも戦いを避けるのか。

 

「…めんどくさいじゃん」

 

だが、ハルトマンはそう言って寝っ転がった。この日マルセイユがいくら言っても、ハルトマンが勝負に乗ることは無かった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ハルトマンとマルセイユが隔離部屋に送られた翌日から、マルセイユはあらゆることでハルトマンと張り合うように生活をした。その行動は訓練の短距離走だけでなく、食事の場でもハルトマンと張り合うようになっていた。

しかし当のハルトマンはその勝負に全く乗ることなくマイペースで過ごしていた。

 

「私の二勝だ」

「勝負してないってば…」

「勝利は何において優先される」

「だから勝負してないってば…」

 

その晩、マルセイユは基地の風呂でハルトマンに自慢げに宣言をする。しかしハルトマンはそれを気にも留めた様子が無かった。逆に、ハルトマンは何回も勝負を挑んでくるマルセイユにめんどくさそうに言った。

 

「たく…そんなだからお前はいつまでも中尉のままなんだ」

「そんなのどうでもいいよ~」

 

マルセイユの言葉をまたしてもハルトマンはどうでもよさそうに言う。彼女にとっては自由にできることの方が大切なようだ。

そんな様子のハルトマンを見て、マルセイユは変わってないと感じながら伸びをした。

 

「はぁ~…風呂はいいな、固まった筋肉が解れる。話には聞いていたが本当だった」

「アフリカには無いの?」

 

マルセイユの言葉にハルトマンが質問した。

 

「アフリカじゃ水の一滴が血の一滴だ」

「ふぅ~ん…大変なんだな~」

「でも、アフリカはいいぞ。煩い上官も居ないし、怪しい連合軍上層部も殆ど関わってこない」

「じゃあなんで今回の作戦に参加したんだよ?」

 

そう説明するマルセイユを見て、ハルトマンは彼女が今回の作戦に参加することに疑問を抱いた。

 

「ま、上層部の人気取りぐらいには付き合ってやるさ…それでアフリカ部隊が守れるなら安いものさ」

 

そう言って、マルセイユは湯船に体を預けてゆったりとした。彼女も彼女で、胸に秘めていることがあるようだった。

 

「それに!」

 

突然、湯船に体を預けていたマルセイユが立ち上がった。

 

「501にはエーリカ・ハルトマンが居たからな!」

「…だったらシュミットとでも戦ったら?」

 

マルセイユの言葉に対してハルトマンは疲れた様子でシュミットの名前を言った。その単語にはマルセイユも反応した。

 

「基地に居たあのウィザードか…強いのか?」

「さぁ~…でも、本気を出したシュミットはトゥルーデより強いと思うけどな~」

 

と、ハルトマンはお湯に浸かりながらのんびりと言った。彼女から見たシュミットはバルクホルンとの模擬戦に置いても最近では別の手を隠しているのではないかと言った様子で見ていた。その為、本気になればバルクホルンを倒すのではないかと思っていたのだった。

しかし、その言葉を聞いていたマルセイユは逆に考えることとなった。

 

(本気を出したらあいつ(バルクホルン)以上!?あいつがか?)

 

マルセイユは日常で見ていたシュミットの様子を見て、そのようなイメージは無かった。

 

(だが、ハルトマンが言うなら…)

 

しかし、マルセイユはハルトマンが言うのだからもしかしたらと、シュミットについて興味を持った。

そして、二人はお風呂から出て脱衣所へ向かっていく。

 

「あれ?」

「マルセイユさんとハルトマンさん!」

 

脱衣所の扉を開けた先には宮藤とリーネが居た。その後ろにはシャーリーとルッキーニも立っており、四人ともこれからお風呂に入ろうとしていた。

シャーリーがマルセイユに聞く。

 

「どうだった、初めての風呂は?」

「ああ、中々いい…っ!」

 

シャーリーの言葉にマルセイユが感想を言う。しかし、彼女は突然感じる感触に思わず頬を赤くする。

 

「もらったー!」

「お前!私の後ろを!?」

 

その原因は、マルセイユの後ろに回ったルッキーニが原因だった。ルッキーニはマルセイユの後方へすぐさま回り込むと、その大きな胸を掴んだ。

 

「大きい…でも、やっぱりシャーリーの勝ち!」

「な、バカな…私の負けだと!?見ろ!形は世界一だ!」

「形なんて好みだろ!」

 

マルセイユは大きさでシャーリーに負けたことにビックリをするが、すぐさま形であれば自分こそが一番であると主張する。しかし、シャーリーは形など人の好みによって変わると言い張る。

そんな不毛な争いを芳佳は目をキラキラしながら見て、そんな芳佳をリーネはジト目で見ているのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…へくしっ!」

 

その頃、上空ではシュミットがくしゃみをする。

 

「大丈夫ですか?」

「いや、なんでもない…大丈夫だよサーニャ」

 

シュミットが突然くしゃみをしたことにサーニャは心配するが、シュミットは風邪じゃないとサーニャを安心させる。尤も、シュミットの事を噂していた者は地上に居たのだが、そのことを彼が知る由もなかった。

いつも通りの夜間哨戒であるが、今日はネウロイの発見は行われていないため、ごく平和な夜間哨戒が行われていた。

 

「…」

 

しかし、そんな夜間哨戒でもシュミットは別のことに思考がいっていた。それは、昨日に起きた出来事についてだった。

 

(ゼロの領域…いや、それとも別の物…?)

 

シュミットは昨日起きた謎の現象はゼロの領域によるものであると推測する。しかし、ゼロの領域であればサーニャも領域内に入っていなければならないため、すぐさま別のことが原因であるのかと考える。しかし、今の彼の中の経験では答えが出ない。

 

「…ん?」

 

ふと、シュミットは横からの視線に気づく。振り向いてみると、サーニャが再びシュミットの方を案ずるように見ていた。

 

「その…どうしたんですか?」

「え?」

 

突然の言葉にシュミットはなんのことかと驚く。

 

「さっきからずっといろいろな顔をして悩んだり、首を振ったりしてて…」

「あ、えっと、なんていうか…」

 

サーニャの言葉にシュミットは少し困った様子になる。

 

「その…サーニャはこの間の事どう思う?」

「えっ?」

 

シュミットに突然振られてなんのことかとサーニャは思う。この間とはいったいいつの事だろうかと思うが、シュミットが続けて補足した。

 

「この間の夜間哨戒の戦闘の時、その、言いずらいんだけど…あの時サーニャと一緒になった気がして…」

 

と、シュミットは少し顔を赤くしながらサーニャに言う。サーニャもシュミットの説明を聞いて察したのか、少し考えたのち顔を赤くした。

 

「…」

「…」

 

互いに気まずく感じる。しばらく飛行した後、シュミットが沈黙を破った。

 

「…すまん、変な質問だった」

「いえ…」

 

二人はそう言って、一旦考えるのを中断する。否、正確には先ほどの質問のことが頭から離れなくなり、両者とも恥ずかしく感じているのだった。

そして、特に異常事態も起こらないまま二人は基地に帰投をする。

 

「あれ?」

 

ふと、シュミットは滑走路の先に人影があるのを見つけた。この時間に起きているのは基本的に坂本であるが、今回は違った。

 

「マルセイユ大尉?」

「お前がシュミットだな」

 

シュミットはこんな朝早い時間からマルセイユが居たことに驚くが、マルセイユはシュミットのことを確認した。気のせいか、彼女はまるで新たな獲物を見つけたかのような顔をしていた。

 

「一番を心掛けるだけあって、朝も早いんだな…なんの用かな?」

「ハルトマンから聞いたぞ。お前の実力はバルクホルン以上でハルトマンと同等だとな」

「は?」

 

一体何のことを言っているんだとシュミットは口を少し開いたまま固まった。そんな様子に気づかず、マルセイユは続けて宣言した。

 

「勝負だ、シュミット・リーフェンシュタール」

「えぇ…?」

 

マルセイユの衝撃の言葉にシュミットは頬を引きつらせるしかできなかった。




う~ん、マルセイユ大尉のセリフ回しが分からないな…。それとシュミットはいつからそんな評価になっていたのでしょうか?でも、ハルトマンが言うならマルセイユも流石に乗りますよね?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十七話「アフリカの星VS鉄の狼」

新たな年ってやはり時間の隙間を縫うのは厳しいですね。
というわけで第九十七話です。どうぞ!


「…なんで突然?」

 

シュミットはマルセイユに聞き返す。いきなり勝負をしろと言われるとは思っておらず、頭の中は若干のパニックとなっていた。

しかし、マルセイユは少し不機嫌そうに言った。

 

「ハルトマンが勝負に応じないんだ。だから代わりにお前と戦う」

「はあ?」

 

あまりにもビックリな言葉にシュミットも呆れる。ハルトマンが勝負に応じないから代わりに選ばれたみたいに聞こえるからだ。

しかし、シュミットとしてもこの勝負は考えるものであった。ハルトマンと同じレベルのウィッチとの直接対決だ。基本的に模擬戦に乗らないハルトマンに対してこっちは積極的だ。

 

「…わかった。時間が無いから今から始めるぞ」

 

その言葉に、マルセイユはニヤリとしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「互いがすれ違ったら勝負開始、一発でも被弾をしたら負け、いいな?」

「いいだろう」

 

シュミットの言葉にマルセイユが同意する。

現在二人は基地の外の上空をホバリングしている。二人の手には実戦用の機関銃ではなく、模擬戦用の機関銃を手に持っている。

そして、二人の様子を同じくホバリングをしてみているサーニャ、その手にはホイッスルを持っており、今回の模擬戦の審判をすることになった。

 

「すまないサーニャ…他に頼める人も居なかったんだ」

「いえ…頑張ってください、シュミットさん」

「ありがとう」

 

そう言って、シュミットはサーニャの頬にキスをした。そして、そのままマルセイユのほうを向いた。

 

「なんだ?お前のガールフレンドか?」

「ああ」

 

マルセイユがサーニャを見ながら聞いてくる。その言葉にシュミットは平然と言うが、少しして頬を赤くする。そんなシュミットを見てか、マルセイユは少し意外そうに、そして面白いものを見たような顔をした。

 

「なんだ、お前もそんな顔をするんだな」

「そんな顔とはなんだ?」

「べっつに~」

 

そう言って、まるでハルトマンかと言う様子でマルセイユは武器を構えた。その行動にシュミットも手に持つ演習用のMG42を構える。

そして互いの距離を1キロほど離し、両者はホバリングをする。これでサーニャが笛を吹いたら、今度は互いに相手に向けて銃撃せずに接近、そしてすれ違ったと同時に戦闘開始となる。

 

(相手はハルトマンと同等の実力者…長期戦になれば間違いなく負ける…だが短期であっさり負ける可能性もある…)

(あの堅物(バルクホルン)以上の実力者…シュミット・リーフェンシュタール、どれほどのものか楽しませてもらうぞ)

 

お互いに相手を考える。時間にして数秒であるが、彼らはじっと相手を睨みながら停止をする。

そして、二人の中央でホバリングをしているサーニャから『ピーッ!!』という音が鳴った。模擬戦開始の合図だった。

 

「っ!」

 

シュミットはマルセイユの方向へダッシュをする。マルセイユも同じようにシュミットの方向へダッシュした。両者高速で接近をしていき、そして横を通り抜けていく。

シュミットはすぐさまゼロの領域に入った。

 

(相手の固有魔法も分からない状況、何が起こるか分かったものじゃないからな…全力で行くぞ!)

 

そう言って、シュミットはすぐさま反転をする。

一方のマルセイユも、同じように反転をしていた。シュミットの操るDo335よりも、マルセイユの操るBf109Fの方が重量の軽さから若干機動力が高い。同じ一撃離脱型のユニットでも、運動性能ではマルセイユに軍配が上がる。

 

「貰った!」

 

そう言って、マルセイユは手に持つ演習用のMG34をシュミットに構えた。マルセイユはシュミットが次に飛ぶであろう方向に合わせ銃口を合わせ、そして引き金を引いた。

――しかし、シュミットに命中はしなかった。

 

「っ!」

 

マルセイユは流石に驚いた。完全に捉えたと思っていた攻撃は、まるで弾丸が逸れたかのように流れていき、シュミットに一発も命中しなかった。

対するシュミットは内心冷や汗をかいていた。

 

(もう少しで命中するところだった…)

 

シュミットはゼロの領域に入っていてよかったと素直に感じる。彼は自分がマルセイユの弾丸の餌食になる未来を完全に見ており、すぐさまその射線位置から横にずれたのだ。

その間にもシュミットは固有魔法を発動する。足に履くユニットは唸り声を上げて回転数を上昇させる。そして、あっという間にシュミットの高度をマルセイユよりも優位となる位置まで押し上げた。

そして、今度はそのままの勢いでループを行う。そしてマルセイユを照準に捉えた。

 

「っ!」

 

マルセイユも、そんなシュミットの行動に迎撃態勢をとる。しかしマルセイユの位置はシュミットより下であり、上昇をしながらの迎撃体制へとなった。

 

(喰らえ!)

 

シュミットは引き金を引く。同じくマルセイユも引き金を引いた。両者の弾丸は交差をするが、互いに一発も命中する事無く後方へと通り過ぎて行った。

シュミットとマルセイユは互いに交差をする。しかし、シュミットはここでマルセイユの一瞬の動きに気付いた。

 

(…?)

 

交差する直前、マルセイユが若干体制を変えたことに気づいた。しかし、シュミットはこのままの速度を殺さないように高速で急降下をしていく。そしてそのまま急降下の加速を利用して再度上昇を仕掛ける。しかし、彼はここで嫌な予感を感じた。

 

(後ろから何か来る!?)

 

急いで後方を確認すると、なんとマルセイユが後方で追いかけているでは無いか。そう、先ほどの若干の体制変更はシュミットの後方に付けるために行った行動だったのだ。

そして、マルセイユはすぐさま機関銃を構えてシュミットの方向へ引き金を引いた。しかし、シュミットはその攻撃に対して横へ回避を行う。そして、シュミットは背面飛行をしながらマルセイユへ向けて機関銃を構え引き金を引いた。

爆撃機乗りが後方機銃を使うように彼はマルセイユに向けて弾丸を放つ。その攻撃をマルセイユは難なく回避するが、シュミットはこの一瞬の隙を狙った。

 

(今だ!)

 

シュミットはマルセイユがロールをして回避をしたのを確認し、すぐさまその後方へ回るように動いた。その行動にマルセイユも気づくが、若干反応が遅れる。

 

(ロール回転をすると状況判断を行う時に一瞬の遅れが生まれる…それはパイロットもウィッチも共通だ!)

 

そう、シュミットはこの信条を持っているからこそ回転しながらの回避機動を行うのをこの世界に来てから控えるようにした。それは戦場に置いて最も大切な一瞬を失う危険な行為であると理解したからであった。

そして、シュミットはマルセイユの後方へと回り込む。しかし、マルセイユも次の行動を早く行いシュミットを引き離そうと急降下をした。その結果、シュミットが照準を合わせようとした瞬間に彼女はまるで消えたかのような形となった。

 

(なっ!?下か!)

 

シュミットはすぐさま下を向くが、既にマルセイユは危機的状況を脱しており、カールスラントの誇るウルトラエースの力があのような状況下でもすぐに次の行動へ移せるのかと舌を巻いた。

しかし、対するマルセイユもシュミットの評価を改めていた。

 

(確かに強い…いや巧い。少なくとも一瞬の隙を突く判断力は本物だ)

 

マルセイユは、先ほどの機動の隙を的確に突こうとしたシュミットの動きにそう評価した。シュミットの動きはマルセイユに比べると劣っているが、隙を突いたり次の戦術へと繋げる流れの巧さで対等に戦っているのだ。

 

(だがこれで終わりだ!)

 

マルセイユは自分に向かってくるシュミットの攻撃を回避すると、今度は突撃をしてきたシュミットに対して機関銃を構えた。

 

「ちいっ!」

 

シュミットはマルセイユが引き金を引く前に次の行動を行った。マルセイユの横を通り抜けながらもシュミットは機関銃をマルセイユ側に合わせた。

 

「貰った!」

「喰らえ!」

 

互いに引き金を引いた。シュミットの弾丸はマルセイユに飛翔し、マルセイユの弾丸はシュミットに飛翔していく。そして、勝敗は決した。

 

「っ!」

「くっ!」

 

シュミットの弾丸はマルセイユから若干逸れて顔の横を通り過ぎた。対して、マルセイユの弾丸はシュミットの胴体へ命中した。

 

「そこまで!」

 

サーニャが笛を吹いて模擬戦終了を言った。この瞬間、マルセイユの勝利が確定した。

 

「まさか太陽があるとはな…」

 

シュミットはそう言って負けを認めた。そう、シュミットは最後の射撃時にマルセイユの後方の日の出によって目がくらみ、マルセイユに合わせていた照準がズレたのだ。長いこと夜間哨戒ばかりを行っていたシュミットは夜目に慣れてしまっていた。その為、朝の日の出に対して常人以上に眩む結果となった。

 

(最後は詰めを誤ったな…いや、疲れもあるのか…)

 

そして、他の敗因としてはゼロの領域をずっと使っていたことによる状況判断力の低下にもあった。疲労がたまった状態となったシュミットは戦闘中に自分の判断ミスを生んでいることに気づかなかったのだ。

そこへ、マルセイユがシュミットの元へ来る。シュミットは両手を上げて降参のポーズを取った。

 

「私の負けだな…」

「いや、少し違うな」

 

シュミットの言葉をマルセイユは否定をした。そして自分の髪をかき分ける。するとそこにはペイント団が若干掠った痕が頬にできており、オレンジの細い線を描いていた。

 

「…いや、だが致命傷はそっちが与えた。こちらの負けは変わりない」

 

しかし、シュミットは自分の弾丸が相手へと致命傷を与えるに至っておらず、逆に向こうの弾丸がしっかりと胴体を捉えていることからも勝敗は負けであると言った。

 

「なら、とりあえずは私の一勝だ」

「ああ…ん?()()?」

 

シュミットはマルセイユの言葉に何か引っかかった様子であるが、マルセイユが何も言わなかったので特に咎めなかった。

ふと、シュミットは下を向く。見てみると、数人のウィッチ達が集まって先ほどの戦闘を見ていたようだった。その中にはミーナの姿もあった。

 

「こりゃ、中佐に何か言われるな…」

 

と、シュミットはミーナを見てこの後が来ないことを切実に願ったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…やだね、私はサインをしない主義なんだ」

「何でだよ…いーじゃんかサインの一つや二つ!」

 

マルセイユの言葉にハルトマンがケチとマルセイユに対して言う。

シュミットとの模擬戦が終わった後、マルセイユはハルトマンと共に使っている部屋に戻った。そこへハルトマンがやってきて、彼女のサインを求めた。曰く、バルクホルンの妹であるクリスがマルセイユのファンであり、バルクホルンは彼女を喜ばせようとハンナのサインを描いてもらおうか迷っていた。それをハルトマンが代わりに貰ってくると言って、そして今に至るのだ。

しかし、マルセイユはハルトマンに言った。

 

「フンッ、あんなシスコンの石頭に描いてやるサインは無いね」

 

そう言って、ハルトマンが持ってきた写真を天井に向けて投げた。投げたサインは天井の梁に刺さる。

しかし、この言葉にハルトマンの目が変わった。

 

「…おいハンナ、トゥルーデをバカにすんな!」

「!」

 

滅多に怒ることのないハルトマンに一瞬マルセイユは驚くが、すぐにあることを思いついた。

 

「フン、だったら私と勝負しろ。勝ったらいくらでもサインしてやる」

 

マルセイユはチャンスとばかりにハルトマンに言った。シュミットとの模擬戦で若干のフラストレーションは解消されたが、彼女はハルトマンとの決着を望んでいた。この機を逃さず、マルセイユはハルトマンが模擬戦をするように話を仕掛けたのだ。

そして、ハルトマンも覚悟を決めたように言った。

 

「…勝ったらするんだな?」

「ああ」

 

ハルトマンはマルセイユに聞く。マルセイユは当然だと言わんばかりに言った。こうして、最強のウルトラエース二人による約束が生まれるのだった。




シュミット対マルセイユ、決着は僅かの差でマルセイユに軍配が上がりました。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十八話「500overs」

お久しぶりです。少し投稿遅れました。では第九十八話です、どうぞ!


マルタ島奪還作戦が開始され、ウィッチ達は全員が出動する。現在上空には別行動となるハルトマンとマルセイユの二人を除き、501の全員が編隊を組みながら飛行していた。

そして、作戦予定地に到着したメンバーは下を見る。

 

「…まさかこんな光景を見るとはな」

 

シュミットはそう言って眼前に広がるマルタ島奪還作戦に参加する艦艇群を見た。その言葉に横に居たリーネが質問した。

 

「そんなに珍しいんですか?」

「いや、ブリタニアとカールスラント、そしてロマーニャの艦が並んで艦隊行動をしているからな。私の世界ではこんな光景を拝むことはまずありえないから」

 

そう言って、シュミットはブリタニアのキングジョージⅤ世級を見る。その後方にはヴィットリオ・ヴェネト級、ビスマルク級が続いていた。シュミットの世界で言えば敵対国同士の船が並ぶことなどありえないだけに、この光景は異様と同時に壮観であった。

そしてその先には、大きなドームによって一部分が覆われたマルタ島の姿があった。上空のウィッチからはマルタ島のネウロイに対して攻撃することはこのドームによって現在不可能な状態になっている。

そんな中、編隊の中央に居るミーナがインカムに話しかける。

 

「聞こえる?マルセイユ大尉、ハルトマン中尉」

『ああ、良好だ』

 

ミーナの言葉に答えたマルセイユ。現在マルセイユはハルトマンと共に下――正確には海底に居た。

扶桑の建造した大型潜水艦伊400番型、彼女たちは現在この潜水艦の中に乗っていた。

 

「目標はネウロイによって占拠されているマルタ島、この前扶桑艦隊を襲ったネウロイもここから出現したと予想されるわ。ネウロイは地上で要塞化していて手が出しずらいの。だから内側から潜水艦を使って侵入して倒します」

 

そう、今回二人が潜水艦に乗っているのはその為であった。マルタ島を出来るだけ傷つけずにネウロイを倒す為には、水中から侵入して敵要塞に攻撃を加える方法しかなかった。伊400型潜水艦は潜水空母と呼ばれる艦でもあり、ウィッチ二人を収容するのにうってつけであったのだ。

 

「二人共、準備はいい?」

『いつでも行ける』

『こっちもいいよ』

 

ミーナの言葉にマルセイユとハルトマンが答える。しかし、シュミットはこの返事を聞いて少し気になった。

 

(なんだか二人共ヒリヒリとしている?)

 

シュミットは二人の声――特にハルトマンの声に違和感を感じたのだ。いつものような軽い雰囲気と違い、今回はどこか真剣さが強かったからだ。

 

「作戦開始!」

 

そして、作戦は開始された。伊400はマルタ島を覆っていたネウロイのドームの内部に入ると、浮上をした。

 

「発進!」

 

そして、二人はカタパルトによって撃ち出された。そして二人は上昇をしていく。ネウロイは突然の侵入者に対して攻撃を加えていく。二人は回避をしながらネウロイに対して分析をした。

 

『いっぱい居る…敵数、多分40くらい』

「40!?」

「多いな」

 

40という言葉にリーネが驚く。坂本も単純に内部に潜んでいたネウロイの数が多かったことが少し予想外だったようであった。戦力は単純に2対40、一人当たり20機を相手にする計算になる。

 

『違う、38だ』

『35だよ』

 

しかし、マルセイユが数の訂正をする。続けてハルトマンがさらに訂正、徐々に減っていく数に芳佳は困惑する。

 

「え?どっちなんですか?」

「いいえ、どっちも合ってるわ。敵が減ってるの」

「え?」

「二人が撃墜してるんだ」

 

バルクホルンの言葉に芳佳も理解した。しかし、はっきり言って二人の撃墜速度の速さは異常だった。ブリタニア基地に現れた分裂したネウロイと違い、このネウロイは個の戦闘力も高い。その為こちらのほうが圧倒的に強いのだ。しかし、二人はそんな攻撃に対して高速で撃墜を加えていく。

 

「28!」

「25だ!」

 

子機のビームを掻い潜りながら二人は機関銃の引き金を引いていく。時には互いが交差をしたりしてネウロイを攪乱し、その隙を突いて撃墜を加えていく。

 

「…21!」

「…10!」

 

二人が目指すはコアのあるネウロイだ。その位置はドームの一番上の位置にあり、二人は急上昇をしていく。ネウロイは、させないと二人に対して攻撃を激しく行っていく。しかし、それもあっさりと回避をされて撃墜される。

 

「7…6…5…」

「4…3…2…」

 

そして、ついに二人は最後の子機を撃墜した。

 

『0!』

「残るはコアのみ…!」

 

インカムで聞いていたシュミットが呟いた。

 

「これで!」

「終わり!」

 

そして、二人の放った弾丸ははドーム内に存在していたコアに向けて飛んでいき、そしてコアに直撃した。コアは攻撃に耐えきれずに崩壊した。

コアを失ったネウロイのドームは、形状を維持できなくなった砂のように頂上から外側へ広がるように崩壊を始めた。

 

「見てあれ!」

「凄い…たった二人で…!」

 

芳佳はあっという間にネウロイを倒したハルトマンとマルセイユに驚く。所要戦闘時間僅か数分で決着をつけたのだ、驚かない方がおかしいものである。

しかし、シュミットはドームから出てきたハルトマンとマルセイユを見て疑問に思った。

 

「…まて、二人の様子がおかしいぞ」

「え?」

 

シュミットの言葉に全員が注目する。二人は周りに聞こえない声で何かを話していた。そして突然、離れるように散開をする。

 

「二人共、何してるんでしょう?」

 

芳佳が疑問の声を漏らした時だった。ある程度の距離が離れた二人はまるで戻ってくるように反転をした。そして、マルセイユがハルトマンの後方へ付けると、なんと手に持っていた機関銃を撃ち出した。

 

「う、撃ちましたよ!?」

「ああ、撃ったな」

 

芳佳は思わず大きく驚いた。その言葉に坂本は返すが、目線は二人に向いたままだった。

 

「あいつ…!」

「味方に向かってなんということを!」

「仕方のない奴らだ」

 

皆口々に言うが、誰一人と動くことは無い。

 

「なにを呑気なこと言ってるんですか…実弾ですよ!?」

「二人はウィッチだ。シールドがあるから当たりはしない」

「そ、そうですけど…」

 

坂本が言うが、芳佳はどこか納得できない。元々銃を人に向けて撃つなどという世界から一番遠かった芳佳だ。最近でこそ躊躇いを捨てることができたとしても、やはり心の奥底では人に向けるなど考えられたいことであった。

そんな芳佳にシュミットが言った。

 

「諦めろ宮藤、これは恐らく二人の決闘…譲れないものでもあったんだろう」

「二人の戦いは、シールドを出した方が負け。そして、弾が切れた方が負けだ」

 

その間にも、マルセイユとハルトマンは戦闘をしていく。しかし、その動きははっきり言って恐ろしいものだった。

 

「シャンデルで頭を抑えようとしたのに、ハイGバレルロールで逆に背後を取った!」

「凄い…」

 

その先頭は、今この場に居る者が見ても明らかにレベルが高いと言わしめるほどのものであった。空戦軌道の殆どは高度なものばかりであり、どれも並のウィッチなら決着をつける有効的なものであった。しかし、二人はそんな中何度も相手の背後を奪い合いしていく。

 

「貰った!」

 

ここで、マルセイユが後方を捉え機関銃の引き金を引いた。弾丸はハルトマンへ向けて飛来していくが、ハルトマンはその弾丸を僅かな動きで回避すると急上昇した。

 

「sturm!」

 

ハルトマンは上昇をしながら固有魔法『疾風』を使った。マルセイユは上昇と同時にハルトマンを追いかけていたが、太陽の方向へ上昇したのと固有魔法のコンボを使わされたためその場で回避軌道を取る。

その瞬間、攻防は逆転した。マルセイユの視線から外れたハルトマンがすぐさまマルセイユの後方へ回った。そして、今度は逆にマルセイユに向けて引き金を引く。しかし、マルセイユはハルトマンの攻撃を回避していく。

 

「…決着がつくぞ」

「え?」

 

突然、シュミットが発した。その言葉に一瞬驚く一同であるが、その答えが出た。

並列して飛行していたハルトマンとマルセイユが互いに相手に向けて機関銃を構えた。そして二人はホバリングしながら停止した。

しかし、二人の機関銃から弾丸が放たれることは無かった。

 

「弾切れだ」

「私もだ」

 

ネウロイとの戦闘に続いて決闘を行った二人の機関銃はついに弾丸を使い果たしてしまったのだ。

勝敗はシールドを張った方の負け、もしくは先に弾丸が切れた方が負けである。しかし、どちらも達成することのできなくなった今、この勝負の結果は決まった。

 

「引き分けだね」

「フッ」

 

ハルトマンの言葉にマルセイユが微笑み返した。

 

「…決着ならず、か」

 

そうして、二人の勝敗の結果にまた一つ、ドローの数字が刻まれたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「…一体、どういう風の吹き回しだ?」

 

マルタ島奪還作戦とハルトマン、マルセイユの決闘が行われた翌日、バルクホルンは驚いた様子で自室の中を見る。正確には、自分の使用しているスペースとは反対側のハルトマンが使用しているスペースを見ていた。

そこには、散らかった自分のスペースのゴミを片付けているハルトマンの姿があった。

 

「お前が部屋を片付けるなんて…」

「ごめんトゥルーデ」

 

バルクホルンの言葉にハルトマンがまず謝罪の言葉を述べた。そして、続けて言った言葉にバルクホルンは驚かされた。

 

「…ハンナのサイン貰えなかった」

「っ!」

 

ハルトマンは落ち込みながら言う。しかし、バルクホルンはハルトマンが自分の為にマルセイユと戦ったと理解した。

 

「…もういい、気にするな」

 

バルクホルンには、ハルトマンのその気持ちで十分だった。

ハルトマンが部屋を片付けている頃、基地の滑走路ではJu52が離陸しようとしていた。

 

「随分急ぐのね」

「午後から向こうで雑誌の取材があるからね」

「流石、アフリカの星だな」

 

ミーナの言葉にマルセイユが返す。その内容に坂本はなるほどと言った様子で言った。

ふと、マルセイユはあることを思い出した。

 

「ああそうだ、忘れていた」

 

マルセイユはそう言って、ジャケットのポケットから一枚の写真を取り出した。それは自分の写真であり、そこにはサインが描かれていた。

 

「バルクホルンの妹に送ってやってくれないか?」

「自分からトゥルーデに渡してあげればいいのに」

 

マルセイユの言葉にミーナが言うが、マルセイユは輸送機の階段を上り切った後振り返って言った。

 

「言っただろう、私は忙しいんだ」

 

そう言って、マルセイユは輸送機内にその姿を――消す前に再び戻ってきた。

 

「そうだミーナ、もう一つ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「あら、ここに居たのねシュミットさん」

「あれ?ミーナ中佐?」

 

格納庫にやって来たミーナを見てシュミットは驚く。彼は今自分のユニットのメンテナンスを行っていた。

シュミットは手を拭きながら立ち上がると、ミーナの方に体を向けた。

 

「マルセイユ大尉を見送った帰りですか?」

「ええ。それと、シュミットさんに伝言を頼まれたわ」

 

ミーナの言葉にシュミットは吹いていた手元をピタリと止めた。

 

「え?誰から?」

「ふふ、マルセイユ大尉からよ」

「え?マルセイユ大尉から?」

 

意外な人物からの伝言にシュミットはさらに驚くが、ミーナにその内容が何だったのかを聞いた。

 

「『今度も私が勝たせてもらう。それまで無様に負けるなよ』だそうよ?あの子に気にいられたみたいね、シュミットさん」

「…」

 

ミーナは笑顔で言うが、シュミットはまた再戦をすることになるのかと考え、ハルトマンの気持ちが若干分かった気がしたのだった。

一方その頃――

 

「やっぱやーめた!」

「え?」

 

ハルトマンはそう言って、先ほどまで手に持っていた本を放り投げるとそのままゴミ部屋と化している自分のテリトリーで仰向けに寝転がるのだった。

 

「えええええええ!?」

 

それを見ていたバルクホルンは、先ほどまでのハルトマンの行動から突然の変化に対して怒るを通り越して呆れて驚くのだった。




特に原作と変わりありません。シュミット君がマルセイユ大尉から少し認められた以外。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第九十九話「衝撃の強敵」

少し間を開けた上に変な時間の投稿となってしまいました。第九十九話です、どうぞ!


「~♪」

 

マルセイユが501から帰った翌日の夕方、芳佳とリーネは夕食当番でキッチンに居た。芳佳は鼻歌を鳴らしながら鍋の中身をかき混ぜていた。

 

「いい香りだな」

「あ、シュミットさん」

 

そこへ、鍋の中のスープの香りに誘われてシュミットがキッチンへ現れ、芳佳が気づき声を掛けた。そしてシュミットはキッチン内に居る芳佳とリーネを見て、今日の料理当番を確認した。

 

「そうか、今日は二人が当番か」

「はい」

 

シュミットはそれに納得し、そして周辺を見る。キッチンの中は調理途中ではあったがまだ少しスペースが開いており、シュミットはそこを見つけると二人に問う。

 

「なあ、そのスペース使っていいか?」

「え?えっと…」

「いいですけど…」

「ありがとう」

 

そう言って、シュミットは食糧庫に向かっていく。二人は何を作るのかと思い顔を見合わせるが、しばらくしてシュミットが戻って来た。

代表して芳佳がシュミットに聞いた。

 

「何を作るんですか?」

「ん?久しぶりになにかデザートを作ろうかなって…」

「デザート!?」

「わっ!?ルッキーニ!?」

 

シュミットのデザートの発言を聞き、突然現れたのはルッキーニだった。ルッキーニが材料を持ってきたシュミットに後ろから思い切りダイブをしたためシュミットは思わずよろける。

 

「ねえねえシュミット、何を作るの?」

「…それは夕食の後のお楽しみだ」

 

そう言って、シュミットはルッキーニを剥がし、手に持っていた材料を空いているスペースに置いた。

 

「さて、作戦開始だ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

その後時間は流れ、基地のウィッチ達が揃って食堂に集まって夕食は行われた。夕食には芳佳とリーネ作の料理が出され、ウィッチ達からの好評を貰っていた。

そして、先に食べ終わったシュミットが立ち上がった。

 

「ん?どうしたシュミット?」

「あっ、シュミットさんさっき食後にデザートを出すって言ってましたよ」

「へー、珍しいな」

 

芳佳の言葉にシャーリーは珍しいと言った。基本的にシュミットは自分からデザート系を作ることは稀であり、その時の気分次第で行うからだ。

 

「お待たせ」

 

そう言ってシュミットがキッチンから現れる。彼は人数分のお皿を乗せたお盆を抱えて、それぞれの席にその中の皿をひとつづつ並べていく。

 

「にゃ~!」

「ルッキーニそんなに楽しみにしてたのか?」

「うん!」

 

最初に置かれたルッキーニは皿の中身を見て目を輝かす。シュミットはそんなルッキーニの様子に少しビックリした様子で聞くとルッキーニが頷き返した。その間にも他のメンバーへとお皿を並べていく。

 

「あら、カイザーシュマーレン」

「カイザー…えっと」

「カイザーシュマーレンだ、宮藤」

 

名前を忘れた芳佳にバルクホルンが言う。カイザーシュマーレンはカールスラント組には馴染みのあるパンケーキデザートであった。

 

「ん~!おいしー!」

「そうか、それなら良かった」

 

ルッキーニの言葉にシュミットは満足そうに言う。

 

「そういえば、なんで急にこんなの作ったんダ?」

「ん?そうだな…」

 

純粋に疑問に思ったのかエイラが質問するが、シュミットは少し間を開けてから考え出す。

 

「…特に理由は無い、かな?」

 

そう言って、シュミットは全員に配り終えた後お盆を戻しにキッチンへと歩いていく。

 

「あれ?シュミットさんのは?」

「ん?無いよ?」

「えっ!?どうしてですか?」

 

リーネが疑問に思って聞くがシュミットはサラリと言うので今度は芳佳が驚いて聞く。他のメンバーも何故シュミットの分が無いのかと思い話を聞く。

しかし、シュミットは頬を掻きながら顔を赤くして言う。

 

「あー、その…分量を間違えてしまってね…」

 

そう言ってシュミットはキッチンにお盆を返した後、置いてあった水筒を手に持ってその足でドアに向かおうとする。これから格納庫に行って夜間哨戒の準備をするのだ。

 

「シュミットさん」

「ん?なんだ…い?」

 

シュミットがサーニャの横を通り過ぎて格納庫に行こうとした時、サーニャが呼び止めた。シュミットは何かと思い振り向き目線を座っているサーニャに向けた。そして、そこにある光景を見てシュミットは驚いた。

なんとサーニャがカイザーシュマーレンをフォークに乗せ、その下で空いている手を落ちないように添えていた。そして、シュミットの方を少し微笑みながら向いていたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「~♪」

 

現在雲の上の空、夜間哨戒をしながらサーニャは唄っていた。その横ではシュミットが並んで飛行しているが、サーニャと違って顔を少し赤くしている。

どうしてシュミットは顔を赤くしているのか、それは先ほどの後の出来事によるものだつた。

あの後、シュミットはサーニャからカイザーシュマーレンを分けてもらったのだが、なんと皆が居る場で食べさせてもらったのだ。すなわち「あーん」をさせてもらったのだ。

その行動に見ていたエイラは驚きで口をパクパクし、されたシュミットは恥ずかしくなり顔を赤くしていた。いつものシュミットとサーニャのイメージからかけ離れた二人を見たウィッチーズは驚かされたのだった。

 

(なんだか、いつの間にかサーニャはたくましくなったなぁ)

 

シュミットがそんなことを思っていた時、サーニャが突然唄うのを止めてシュミットの方を向いた。

 

「シュミットさん」

「え?なに?」

 

シュミットは突然名前を呼ばれて一瞬驚きサーニャの方を向く。

 

「どうして、あのお菓子を作ったのですか?」

 

サーニャは質問した。それはエイラがした質問と同じ内容だった。しかし、サーニャはシュミットが特に理由もなくお菓子を作ることが無いと理解していたのだ。そのため、あの時シュミットが言ったことが何か答えをはぐらかしたと理解していたのだ。

その質問に対してシュミットはじっとサーニャの方を見る。そして、観念したように肩をすくめた。

 

「やっぱりサーニャにはかなわないかな…」

 

そう言ってシュミットは頬を掻く。彼は上手くごまかしたつもりでいたが、サーニャ(恋人)にはバレてしまっていた。しかし、そのことにシュミットは純粋に嬉しさを感じていた。

そして、シュミットは答えた。

 

「…もうすぐ2年だから」

「え?」

「もうすぐ、私がこの世界にやって来てサーニャが出会って二年になる」

 

そう、二年前の7月はシュミットがこの世界へ流れ着いた月だった。そして同時に、サーニャに出会った日でもあった。

 

「去年はゴタゴタしていてできなかったけど、今年はちゃんとやろうと思ってさ。大事な出会いのあった日だから、忘れるなんてできないから」

 

シュミットは静かに言った。しかし、サーニャの耳にはユニットのエンジン音に紛れるその声がしっかりと聞こえた。そして、その言葉にサーニャは頬を赤くして驚き、そして笑った。

 

「フフッ」

「え?」

「シュミットさんって結構ロマンチストなんですね」

 

サーニャは思わず笑った。そして、心の中で喜んだ。それは、シュミットの持つ意外な一面を見れたことに対する嬉しさだった。

そんなサーニャを見てシュミットは少し恥ずかしくなったのか赤くなる。だが、サーニャが笑っている姿を見て彼も心の中で嬉しかった。

その時だった。

 

「…っ!?」

「っ!」

 

突然、サーニャの頭の魔導針が一瞬だけピンク色へと変わった。それは警戒色に変わったことを意味しており、近くに(ネウロイ)が居ることを示すものであった。

しかし、ここで魔導針の警戒色は突然解かれる。いつもなら長く色を変えているはずなのに、僅か1秒にも満たない時間で解かれてしまった。その短さにシュミットが聞く。

 

「どうした?」

「反応が消えた…!」

「なにっ!?」

 

サーニャの不安げな言葉にシュミットは驚く。そして、どこからネウロイが現れてもいいように背負っていたMG151を構えた。しかし、ネウロイはどこからも現れなかった。

だが、サーニャは目を瞑ったまま魔導針で探索を行う。そして、シュミットに言った。

 

「…違う…反応がある…でも、弱い…」

「反応が弱い?」

「うん…」

 

反応が弱いという言葉にシュミットが反応する。それを聞いて、シュミットはネウロイは間違いなく何処かに居ると理解した。そして、念のためにゼロの領域を発動する。

 

(…何処だ…何処に居る?)

 

シュミットはサーニャ同様ネウロイを懸命に探る。そして、ついにその時がやって来た。

 

「っ!?サーニャ危ない!」

「えっ?きゃあ!」

 

シュミットはゼロの領域で見えた未来を見て目を見開いた。そして、横に居たサーニャを急いでその場から離れるように抱き寄せ、そして引っ張った。突然抱き寄せられたサーニャは驚き悲鳴を上げるが、次の光景を見てさらに驚かされた。

先ほどまでサーニャとシュミットの居た地点に赤い線が伸びた。それは雲の下から現れたものであり、紛れもなくネウロイの攻撃であった。

シュミットはサーニャに容体を聞く。

 

「大丈夫か、サーニャ!?」

「は、はい!」

(くそっ、ゼロの領域に居て正解だった…!)

 

シュミットは心の中でそう思った。彼の未来では突然現れた攻撃に回避できずに被弾をする姿が映った。慌てて行った行動は功を奏したのだ。

そして抱いていたサーニャを放すと今度は雲に向けてMG151を向けた。

 

「出てこい!」

 

そう言ってシュミットは引き金を引いた。強化を使って放たれた弾丸は勢いよく雲の中へ刺さっていく。

そして、その中の数発が雲の中で命中したという合図を出した。雲の内部で被弾した音をしたのだ。

 

「そこか!」

 

シュミットは音のした方向へ照準を合わせ弾丸を放つ。すると、先ほど以上の手ごたえを示した。

 

「っ!ネウロイが上昇します!」

 

サーニャもネウロイを正確に捉え、すぐさまシュミットに報告をする。

その言葉の通り、雲から徐々に黒い物体が姿を現して来た。その形状はまるで矢じりのようであり、規模は中型であった。

しかし、サーニャの魔導針は未だに反応が弱かった。それはこのネウロイの形状がレーダーの電波を殆ど跳ね返さない構造をしてるからであるが、その事実をシュミットとサーニャは知らなかった。

 

「サーニャ、援護を頼む!」

「はい!」

 

シュミットはサーニャに指示をしてネウロイに突撃を加えた。サーニャもそのシュミットの言葉に返事をしフリーガーハマーを構えた。

シュミットとサーニャの姿を見て、ネウロイも攻撃を加えていく。しかし、シュミットはゼロの領域に入っているためネウロイの攻撃が何処に来るかを分かっており全て回避をしていく。そしてシュミットが殆どの攻撃を請け負っているためサーニャも回避しやすくなっている。このスタイルが、この二人のロッテにおける基本戦術と最近ではなっていた。

そしてシュミットは攻撃を掻い潜りながらネウロイに反撃を行い、そして一撃離脱でネウロイを通り過ぎて行く。ネウロイは攻撃をしたシュミットに反撃とばかりに攻撃をしようとするが、今度はサーニャのフリーがハマーによってその体を大きく削られる。

 

「こちらシュミット、501聞こえるか!」

『こちら501基地、リーフェンシュタール大尉どうしました?』

「ネウロイ発見!現在交戦中!」

 

シュミットはネウロイが怯んでいる今の間に急いで緊急報告を501に向けて言う。しかし、インカムの向こう側に居た索敵班の人間は信じられないといった様子で応えた。

 

『何ですって!?こちらには何も映っていません!』

「恐らくレーダーに映らないネウロイです!早く基地のウィッチに知らせてください!」

『わ、わかりました!』

 

シュミットの言葉に索敵兵は慌てた様子で動き出した。これで基地の方では警報が鳴り、ウィッチ達が数分後に到着することになる。

しかし、シュミットはそれまでの間にこのネウロイは片付けなければいけないと本能的に感じていた。それはこのネウロイの特性を理解したからだった。

 

(もし索敵班の言葉が本当なら、このネウロイはレーダーに映らない。取り逃がしたら厄介だ)

 

シュミットは再びネウロイに向けて武器を構え引き金を引く。先ほどまでサーニャに気を取られていたネウロイは疎かにしていた下方から強力な攻撃を受けたために怯む。

そして、シュミットは急上昇をしてネウロイの真上に来ると、こんどは雨のように機関砲弾をばら撒いた。凄まじい攻撃を受けたネウロイはその表面を大きく削られ、そしてその右翼の部分から赤いコアを露出させた。

 

「コア発見!サーニャ!」

「はい!」

 

シュミットとサーニャは露出したコアに向けて引き金を引いた。シュミットの弾丸が真っ先にコアに到達しコアを破壊、その後にサーニャのフリーガーハマーの爆風によって原型をとどめないままにコアは爆発四散する。

 

「よし!」

「やった!」

 

二人は思わずそう声に漏らした。しかし、ここで衝撃的な光景を二人は見ることになった。

 

「えっ!?」

「な!?」

 

コアを完全に吹き飛ばしたはずのネウロイは、どういう訳かその形を保っている。それどころか、()()()()()()()()()()()が徐々にその姿を修復させてきているではないか。

 

「バカな!?完全にコアは破壊したはず!」

 

シュミットはありえないと叫んだ。例えこのネウロイが、以前ペテルブルクで出会った真コアを持つネウロイであったとしても、先ほどの攻撃では真コアもろとも完全に破壊できるものであった。しかし、このネウロイはそんなものお構いなしにコアを修復させていくでは無いか。

シュミットはもう一度コアに向けて機関砲弾をお見舞いする。今度もまた弾丸は修復中のコアに飛来して行き、コアを粉砕する。しかし、先ほど同様コアは徐々にその姿を戻していく。

 

「くそっ、皆が来て一斉に叩くしかないか…サーニャ、ネウロイの注意を引き付ける!援護してくれ!」

「はい!」

 

シュミットはサーニャに指示をし、そしてネウロイに向かっていった。このままでは弾薬を無駄に消費するばかりであり、ネウロイに対して有効ではない。ならばウィッチーズの総力を挙げてこのネウロイを叩くしかない。その為に到着までシュミットは囮となる道を選んだ。

そして、シュミットは再びネウロイを攻撃していく。こんどはコアの部分だけでなく、全体的にネウロイの体に向けて弾丸をお見舞いしていく。シュミットの放った弾丸はネウロイの体広範囲に着弾していく。

そして、被弾した爆煙が晴れると、そこにはシュミットとサーニャの度肝を抜く衝撃的な光景があった。

 

「なにっ!?」

「うそっ…!」

 

右翼側には先ほどのコアがその装甲に姿を消そうとしていた。それとは反対の左翼側に、()()()()()()()が顔を出していたのだ。

 

「コアが二つだと!?」

 

シュミットはその光景に思わず空中で立ち止まってしまい、攻撃の手を緩めてしまった。その一瞬をネウロイは逃すまいと、シュミットとサーニャにに向けて攻撃をする。

すぐさまシールドを張る二人であったが、ネウロイは二人に攻撃をしながら今度はその体を雲の中へと沈め始めた。

 

「待てっ!くっ…!」

 

シュミットは行かせまいと叫ぶが、ネウロイは自分の体が消えるまで二人に対して攻撃の手を緩めなかった。その為攻撃に回ることができない二人はシールドの向こう側で二つのコアを見せながら雲の中へ逃げようとするネウロイを見ることしかできなくなってしまった。

そして、ついにネウロイは雲の中へ入り、二人の視界から完全に消滅した。

 

「サーニャ!位置は!?」

「…駄目、反応ロスト…しました…」

 

シュミットはすぐさまサーニャの魔導針を頼るが、サーニャの魔導針は雲の中へ逃げたネウロイの姿を捉えることができなかった。完全にネウロイは二人の前から離脱に成功したのだった。




う~ん、ちょっと甘かったかもしれないですね(渋い緑茶を飲みながら)
そしてステルス性と二つのコアを持つネウロイの登場です。二人は一体どうやってこのネウロイを攻略していくのか!?
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!
※補足でカイザーシュマーレンはオーストリアの料理ですが、バイエルン地方でも人気があったります。(シュミットはハンブルク出身ですがそこはご愛敬ということで)


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第百話「ステルスネウロイの恐怖」

第百話です、どうぞ!


「ネウロイは矢じりのように先が尖った形状をしており、そしてコアを二つ両端に保有していた」

「コアが二つ…」

 

ブリーフィングルーム内の中央に立っていたシュミットが即興で書いた図面を張り全体に見えるように黒板へと張って説明をしていた。その説明を聞いていたリーネが衝撃を受けたように言葉を漏らした。

ネウロイを取り逃がしたシュミットとサーニャは、その後基地から出撃したミーナ達と合流した。そして周辺にネウロイを確認できなかったため、一度基地へと戻ってきたのだ。そして、シュミットが説明した今回のネウロイの特徴についてミーナに話すと、すぐさま緊急会議が開かれたのだった。

 

「二回右側のコアを破壊したが、粉砕したはずのコアは僅かな時間で再生をした」

「つまり、コアを同時に破壊しないといけないってことか?」

「現時点ではそう考えるしかない」

 

シャーリーの質問に対してシュミットが推測であるが答える。

 

「そして、サーニャと基地観測員の反応からして恐らくこのネウロイはレーダーに映らない、もしくは映りにくいと思われる」

「映りにくい?」

「そう、恐らくこのネウロイはレーダーなどの電波に感知されにくいんだろう」

 

シュミットの更なる発言にブリーフィングルーム内に僅かな緊張が生まれた。そしてその緊張の中ハルトマンが聞く。

 

「じゃあこのネウロイを捉えるのは難しいってこと?」

「難しいどころか、最悪と言っていいはずだ。なんせ夜間に出現するんだからな」

 

ハルトマンの疑問に対して坂本が言った。

 

「だが、サーニャの魔導針なら僅かに捉えることができた。完全に反応を消すことは恐らくできないのだろう。そうなると、サーニャはこのネウロイ討伐には必須となる」

 

シュミットはそう言ってサーニャの方を見た。しかし、サーニャは僅かに顔を下に向けていた。シュミットはそんなサーニャに少し疑問を持つ。しかし、坂本が口を開いたのでそっちに意識を戻した。

 

「確かにサーニャは討伐には必須だろう。それに夜間哨戒と考えるとシュミットも同伴だ。となると、後二人は欲しいな」

 

坂本はそう言ってウィッチ達を見た。今回のネウロイの特性上、シュミットとサーニャの二人ではネウロイ撃破は不可能と判断し、他のウィッチを昼間の任務から引き抜き夜間哨戒へと組み込むことにするのだ。

 

「ハイハイハイ!なら私もやる!」

 

坂本の言葉にすぐさま一人喰いついた。サーニャが心配なエイラは、手を挙げて自分を推薦するように言う。

 

「いいだろう…よし、宮藤」

「は、はい!」

「以前のように、お前も夜間哨戒に加える。いいな?」

「はい!…え?」

 

坂本の言葉に芳佳はいつものように返事をし、そしてその事実を理解し間の抜けた返事をした。どうやら芳佳は今回の件に自分が回されるとは思っておらず、そのまま返事をしてしまったようだ。

対してシュミットは選ばれたメンバーが以前ネウロイが出現したときのメンバーであると理解し、逆にあまり混乱は起きないだろうと心の中で思っていた。

そして時刻は既に夜の12時を回っており、既に翌日となった。ブリーフィングも終了し、ミーナが口を開いた。

 

「では解散。それと夜間哨戒組は明日…いえ、今日の出撃に備えるように」

『了解』

 

こうして、全員が解散をしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ブリーフィングが行われた次の晩、シュミット達4名は例のネウロイ討伐に出撃した。しかし、シュミット達はネウロイの反応をサーニャの魔導針で捉えられず、目視確認も天候の関係で曇りのため、夜目が一番効くシュミットでも見つけることはできなかった。そして、更に不運は重なった。

 

『大尉!グリッド西、05地区でネウロイ発見の報告アリ!』

「なにっ!?」

 

基地からの通信にシュミットは衝撃を受けた。ネウロイは自分らに全く捕捉されずに大陸沿いまで移動していたのだ。シュミット達4人は急いで報告された地点へと急行する。

全力で飛行し到着した4人であるが、到着した地域でネウロイを発見することは出来なかった。周辺には厚い雲が複数浮かんでおり、目視でネウロイを捉えるのは絶望的だった。

シュミットもすぐさまそれを理解し、横に居たサーニャに問う。

 

「サーニャ、ネウロイの反応はあるか?」

「…いいえ、ネウロイの反応、ありません」

「そんな…」

「くそっ…」

 

サーニャの言葉に芳佳とエイラから声が漏れる。四人は急いで高度を下げて地上を見る。幸いにも、大陸沿いにはネウロイによる被害は見られず、攻撃した痕跡も無かった。

そして夜間哨戒を終え、4人は基地へ帰投する。シュミットは部屋に入ると備えられたソファーに座る。しかし本来であれば次の夜間哨戒に向けて体調を万全にしなくてはいけないが、彼は明るくなりつつある窓の外の景色を見ながら考え事をしていた。

 

(以前のように四人、それも全員が前よりも強くなっている分比較的楽に見つかると思っていたが…甘く見ていたか)

 

シュミットはそう心の中で思うと、立ち上がって棚に置かれている冠水瓶に手を伸ばす。そして中に入っている水をグラスに注ぐとその中身をあおる。

そしてグラスを再び棚に置き、窓の外をもう一度見た。

 

(今回のネウロイは以前なんかと比べ物にならないぐらい強敵だ…)

 

シュミットの心情は不安だった。新人だった芳佳が強くなっていると同時に、ネウロイも強くなっている。もしかしたら今回は楽に行くどころか、以前より苦戦をするかもしれないという思いを捨てきれないでいた。そしてもう1つ、彼が気にすることはあった。

その時、部屋の入口の方から「コンコン」という音が鳴る。誰かが扉を叩いたのであろう音にシュミットが気付くと、誰が来たのかと思い扉へ向かった。

 

「はい」

 

シュミットは扉を開ける。そして、そこに居た人物に僅かに驚いた。シュミットは部屋の前に居た人物の名前を呼ぶ。

 

「サーニャ?」

「…」

 

シュミットはサーニャの名前を呼ぶ。しかしサーニャはブリーフィングルームで見せた時のように僅かに暗い顔をしており、何かを言おうかとまるで迷っているかのようだった。

そんなサーニャの姿にシュミットは疑問に思う。何があったのかを聞こうとシュミットは一瞬考えたが、無理に聞くのはよくないと結論付けた。

 

「…とりあえず、部屋に入る?」

 

シュミットの問いにサーニャは顔を上げる。そして僅かに間を開けてサーニャは頷く。

とりあえずサーニャを部屋に招き入れたシュミットだが、結局どうしたものかと思う。その間にもシュミットは部屋に備えられたテーブルの椅子に座らせる。そしてシュミットは先ほど同様冠水瓶からコップへ水を汲み、それをサーニャの前に出したら反対側の椅子へ座った。

 

「どうしたんだいサーニャ、こんな時間に部屋に来るなんて…って言っても、大体予想はつくけどね」

「えっ?」

 

シュミットの衝撃の言葉にサーニャは驚いた様子でシュミットを見る。

 

「今回のネウロイが()()()に殆ど反応しなくて、こうしている間にもネウロイが何処かを攻撃しているんじゃないか、かな?」

「――!」

 

シュミットの言葉にサーニャは図星だったらしく、何故シュミットが言い当てたのかと驚いた顔をする。その様子を見てシュミットは「やっぱり…」と呟いた。

シュミットは前日から感じていたサーニャの様子に最初は僅かに疑問を持っただけであったが、今日行われた夜間哨戒でそれは確実な物へと変化した。サーニャは501で一番の夜間哨戒能力を持ち、そして全方位広域探査によってネウロイを捕捉し攻撃する。以前であれば捕捉後は一人で戦闘を行っていたが、今はシュミットが共に飛んでいるためその負担を大きく減らすことに貢献していた。

しかし、そんなサーニャが今回はネウロイを捕捉できないのだ。彼女は内心で不安を持ち始めていた。それは、「今回のようにまた逃してしまい、そして次は何処かが被害を受けてしまうのではないか」というものであった。

 

「サーニャ」

 

シュミットはサーニャの名前を呼んで立ち上がる。そしてそのままサーニャの後ろ側へ回り込むと、彼女を後ろから抱きしめた。

突然の行動にサーニャはビクリと驚いて顔を赤くする。しかし、シュミットはサーニャが口を開く前に話し始めた。

 

「――私はサーニャを信じるから」

「え」

 

シュミットの言葉にサーニャは一瞬何のことかと驚く。しかし、それが自分に対しての励ましの言葉であると理解した。

 

「サーニャなら、あのネウロイを絶対に見つけることができるって信じてる」

「でも…」

 

サーニャはシュミットの言葉にまだ不安を持った様子で問おうとする。しかし、またしてもシュミットの言葉に遮られた。

 

「大丈夫だよ、明日は絶対見つけれる。だってサーニャが居るから私も夜間哨戒で安心して戦えるからね」

 

シュミットはそう言って抱いていたサーニャから離れた。

 

(まったく…私が疑ってどうするんだ…)

 

シュミットは先ほどまで感じていた不安に対して、そしてサーニャのことを信じてあげていなかった自分に対して首を振った。シュミットだけでなくサーニャだって不安を感じているのだ。ここで全員がその思いに飲み込まれてしまえば、ネウロイなど到底倒せるものではない。シュミットはセンチになっていた自分を引っ叩いてやる気持ちで反省した。

対するサーニャは、シュミットの言葉に胸に感じていた不安の錘が大きく減ったように感じた。今回のネウロイは以前とはまるで違い自分の固有魔法で捉えることが全くできず、このままではいつ被害が起こるか分からないという不安が巡っていた。しかし、シュミットはそんなサーニャを信じているのだ。だからこそ、サーニャは信じてくれる人の為に次こそはと、心の中で気持ちを切り替えるのだった。

しかし、サーニャはそう感じたと同時に疑問に思うことが一つ浮かび上がった。

 

「あの、どうしてシュミットさんは私の悩んでいたことを知っていたんですか?」

 

サーニャはシュミットが先ほど自分の心情を正確に当てたことに対してまだ疑問に思っていた。もしかしたら、自分は周りからも分かりやすい表情をしていたのではと、僅かに考えた。

しかし、シュミットの答えは予想外の物だった。

 

「…サーニャだから、だな」

「え?」

 

シュミットは僅かに考える素振りを見せ、そして言った。その言葉にはサーニャは何のことかと思うが、シュミットはそんなサーニャに続けて言った。

 

「サーニャだから、もしかしたらこう考えるんじゃないかなとか、こう思っているんだってのが、サーニャだから分かるって言うか…その、サーニャ以外なら多分分からなかったっていうか…なんていうか…」

 

シュミットは説明が難しいのか上手く言葉に表せないでいた。しかし、窓の外から零れる朝日の光に照らされた彼の顔は、その頬が赤く染まっているということを証明していた。彼はまるでサーニャに問い詰められたときのエイラのような反応をしていたのだ。

そんないつもは見せないシュミットの様子にサーニャはおかしく思い笑った。

 

「フフフッ」

「サーニャ、なにも笑うことは…」

「ごめんなさい。でも、やっぱりおかしくて」

 

シュミットはサーニャが自分を見て笑っていることに少し恥ずかしく思った。しかし、先ほどまで悩んでいたサーニャの表情が和らいだのを見て、心の奥で少しだけ不安が和らいだのだった。

ふと窓の外を見ると、先ほどよりも空は明るくなっていた。そろそろシュミット達は確実に眠らなければならない時間にまでなってきていた。

 

「そろそろ次の夜間哨戒に向けて体調を整えないといけないな」

 

そう言って、シュミットはカーテンを閉める。サーニャも同じタイミングで椅子から立ち上がった。

部屋の中は窓からの光を失い薄暗くなるが、シュミットはサーニャに差し出したコップを片付け始める。

 

「ん?」

 

ふと、シュミットは片付けているときに自分の後ろでサーニャが移動する気配を見せないのに気づいた。暗い部屋の中では彼女の表情を読み取れないシュミットであるが、とりあえず何があったのかと思い聞いた。

 

「どうした?」

 

シュミットは何気なくサーニャに言った。しかし、次の言葉は彼の理性を大きく揺さぶられるものであった。

 

「その、一緒に寝てもいいですか?」

「……え」

 

サーニャのとんでもない爆弾発言に、流石のシュミットも一瞬理解が遅れた。今、彼の心の中では二つの感情が巡っていた。

 一つは、引っ込み思案な性格――最近は大分改善されているが、そんなサーニャがまさかこのようなことを言ったことに対する驚き。

もう一つは、本当にその言葉に対して「いいよ」と言っていいかどうかという葛藤だった。シュミットも、サーニャがアプローチを掛けていることを理解し、その行動について純粋に嬉しく思っていた。しかし彼の中にある良心が今、最後の壁として立ちはだかっていた。

数秒黙った後、シュミットは答えた。

 

「――いいよ、おいでサーニャ」

 

シュミットの理性は、あっさりと根負けしたのだった。




久しぶりに書くと、どうしてこうなった、というような文章を書いていることがありますね。今回がそうでした。
シュミットと関わるうちに段々積極的になってきたサーニャ。尤も、積極的になるのはシュミットの時だけですが。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第百一話「リベンジ」

少しゴタゴタがあり更新が遅れました。第百一話ですどうぞ!


「っ…ん…」

 

シュミットは僅かに唸り、そして閉じていた瞼をゆっくりと開いた。

 

「……」

 

そして、寝起きで未だに回らない脳を回転させながら目の前の光景を見る。閉じられたカーテンの隙間から僅かに光がこぼれるが、寝た時間が早朝であったため、今が夕方であると判断する。

続いて、部屋の中を見回す。部屋の中は眠る前と特に変わった様子はなく、床にはサーニャの服が散らばって…、

 

「――ん?」

 

ふと、シュミットは自分の頭の中で何か違和感を感じた。何故ここにサーニャの衣類があるのか?その答えはすぐさま理解する。

 

「…あっ」

 

頭の中で整理がつき、シュミットは自分の眠っていたベッドを見る。そこにはシュミットの手を握って眠っているサーニャの姿があった。その寝顔は、よく言えば安心している、悪く言えば無防備と言っていい表情であるが、そこにはシュミットだからこそという()()()()()()があるからこそ見せるサーニャの素の姿の表れであるといえるものであった。

そんなサーニャの姿にシュミットの心の中で掻き立てられたのは、彼女を守ってあげたいという『保護欲』とも言える思いだった。

 

「…フッ」

 

シュミットはサーニャに小さく微笑むと、部屋に掛けてある時計見て時刻を確認する。そして、そろそろ起きるべき時間だと確認すると、サーニャの体をゆっくりと揺らした。

 

「サーニャ。サーニャ」

「……うぅん」

 

シュミットが揺らすこと数回、サーニャは小さな声を漏らしながら閉じていた瞼を開いた。そんなサーニャの姿を見て、シュミットは微笑みながら言った。

 

「おはよう、サーニャ」

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

数時間後、昨日同様四人で夜間哨戒が行われた。しかし、エイラはいつもとは違うサーニャの雰囲気に気づいた。

昨日まで暗い顔をしていたはずのサーニャが、今日はそんな表情を見せずにネウロイを探索している。エイラは今までサーニャと一緒に居た時間が長かったため、サーニャの些細な表情変化などに気づいていたのだ。そのため、昨日の今日で何ともないことに少し不思議に思っていた。

 

「サーニャ、反応はあるか?」

「いいえ、まだありません」

 

シュミットはサーニャに聞くが、サーニャは昨日同様まだネウロイの反応を捉えることができなかった。しかしそこには不安の表情は無く、彼女は意地でもネウロイを見つけると言った思いであった。

 

「それにしても、ネウロイ全然見つかりませんね」

「そうだナ…」

「なんだか前に一緒に飛んだときみたいですね」

 

芳佳はまだ見つからないネウロイに対してそんなことを漏らした。芳佳の言う通り、この状況は以前四人で夜間哨戒に出撃したときと似たようなことになっていた。尤も、メンバーは以前より戦い慣れしていると同時に、ネウロイも以前よりも強敵となっているといった違いはあった。

 

「でも、絶対見つけることできますよ!」

「そうだ。このままネウロイの好きになどさせないさ」

 

そう言って、シュミットは少し黙る。そして、何かを思いついたのか、今度はサーニャの方を向いた。

 

「サーニャ」

「はい?」

「手を出して」

 

シュミットの言葉にサーニャは一瞬何のことかと思うが、そっと右手を差し出した。その手をシュミットは左手で握る。エイラと芳佳もサーニャ同様突然シュミットがサーニャの手を握ったことに対して疑問を持つが、すぐさまシュミットが答えた。

 

「今から私が強化を使う。もしかしたら、サーニャの魔導針でネウロイを捉える確率が上がるかもしれない」

「…そっか!向こうが映りずらいならこっちが捉える力を強くすればいいのカ」

 

真っ先に察したのはエイラだった。以前シュミットはブリタニアで暴走列車を止めた際にペリーヌに自分に抱き着けと言った時のことを思い出し、サーニャの固有魔法にシュミットの固有魔法を使うことで相乗効果を上げようと考えたのだ。

しかし、あまりパッとしなかったのか芳佳はこんなことを言った。

 

「ええっと、つまり()()()()()()ネウロイを探すって事ですか?」

「…」

 

芳佳の言葉にシュミットとサーニャは互いに顔を見合わせる。しかし、互いに少し笑うと芳佳に言った。

 

「ええ」

「ああ、そうだな」

 

サーニャとシュミットは二人に対して言った。そんな反応に対して、芳佳とエイラは一体どんな反応をしたらいいのかと一瞬思った。

そして、シュミットとサーニャはすぐさま作戦を実行した。

 

「いくぞ」

「はい」

 

シュミットの言葉にサーニャが返事をする。そしてシュミットが強化を掛けた。それにより、サーニャの固有魔法は強化をされる。

 

「…」

「…」

「…」

「…」

 

シュミットとサーニャはそれぞれ固有魔法を使っていることにより黙るが、エイラと芳佳はそんな二人の様子に口を開くことも忘れてじっと構える。

数十秒間の時が流れる。このままネウロイを捉えることは出来ないのではないかと思ったまさにその時だった。

 

「見つけた!」

「来た!」

 

サーニャの魔導針が赤く光り、シュミットとサーニャは二人して反応する。それはネウロイを捉えたという証拠であった。サーニャはネウロイの位置を報告していく。

 

「南南西…高度7千」

「7千メートルか…丁度雲の中あたりだな」

 

全員はネウロイの方向へ向けて飛行を始める。その間にも、シュミットは相手からの奇襲を考えゼロの領域へと入った。その時だった。

 

「――え?」

「ん?どうした?」

「いえ…なんでもありません」

 

突然サーニャが何かに驚いた様子で声を漏らした。すぐさま横にいたシュミットがサーニャに聞くが、サーニャはなんでもないと言った。しかし、シュミットは彼女の言葉が嘘であると内心では悟ったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

(…なに…これ?)

 

サーニャは現在困惑していた。いま彼女の前には見たことのない景色が流れており、その光景はこれまで見たどの光景とも合致しないものであったのだ。

そこには、さながら夜の星空と言うべき光景が広がっていた。そして、彼女にはこれまでにないほどの()()が送り込まれていた。一つは、自分のユニットから伝わるエンジンの音であり、その振動は今までに感じたことのないほど詳細が分かるものであった。そして二つ目に、シュミットのほうから聞こえてくるユニットのエンジン音。本来はユニットのエンジン音が二つ重なると、一つの音になって聞こえてくる。しかし現在サーニャは二つの音が別々に、そしてはっきりと聞こえてきていた。

そして、最後の一つにはシュミットの存在だった。彼が横に居るというイメージが、これまでよりはっきりとサーニャに感じさせていた。

その時、サーニャは新たな景色を見た。それは前方から伸びてくる赤い光であり――、

 

「っ!拙い!」

「あっ!」

 

突然シュミットがそんなことを言い、サーニャを握っていた手を放した。そして今度は前方へ向かって飛行すると、突然シールドを張ったではないか。

サーニャと芳佳は、シュミットが突然そんな行動をとったことに対して驚く。しかし、次の瞬間シュミットのとった行動に対して理解をした。

シュミットが張った大きなシールドは、突然前方から現れた赤い光――ネウロイの放った攻撃を遮った。攻撃はそのままシールドにぶつかると、貫くことができずに拡散していく。

この一連光景に唯一この事に驚かなかったのは、未来予知を使うことのできるエイラだった。エイラはネウロイの攻撃と同時に、シュミットが次に取る行動に対しても未来が見えたため、こうなることを理解していたのだ。

対して、逆に一番衝撃を受けていたのはサーニャだった。サーニャが先ほど見た謎の光景がたった今目の前で起こったのだ。まるでこれは未来予知と言っても過言では無かった。そして、彼女には今の光景が普通ではないことを心の中で若干感じた。

 

「やはり待ち伏せをしていたか…」

 

シュミットは先ほどの攻撃を受け、このネウロイが如何に危険かを再認識した。このネウロイは賢いのだ。自身の体をレーダーに映りずらくするだけでなく、雲の中に入ってウィッチが近づいてきたところを奇襲する。並のネウロイならまず取らない行動をとってくる。

シュミットはすぐさま背負っていた2丁のMG42を構える。今回は長期戦を予想し、いつもの火力特化から弾数を多くする作戦へとシュミットは変えた。

 

「来るぞ皆!」

 

シュミットの声と同時に、全員が武器を構える。すると、ネウロイは四人が自分の存在に気づいたと理解したのか雲の中から姿を現した。間違いなく昨日シュミットとサーニャが遭遇したネウロイだった。

 

「全員散開!エイラとサーニャは右翼、宮藤は私に続いて左翼を攻撃!」

『了解!』

 

全員が返事をし散会する。攻撃力の高いシュミットとサーニャを同じところに集めると火力の偏りが生まれるため、今回はサーニャをエイラと共に組ませ、シュミットは芳佳の技術不足をカバーする目的を兼ねて組んだ。こうすることでバランスを取り、ネウロイのコアを同時に破壊する作戦に出たのだ。

しかし、その作戦をもってしても、今回のネウロイは強敵に変わりなかった。

 

「…駄目だ、やはり息が合わないか!」

 

シュミットはそう愚痴った。ネウロイの両脇の翼のコアを露出させて同時に攻撃するという方法ははっきり言えば無茶な内容と言える。それはそれぞれコアを破壊する人同士が互いに息を合わせて行う。それもネウロイが攻撃を加えていく中を掻い潜りながらだ。

シュミットはなにか打開する方法は無いかと戦いながら懸命に探る。そして、ネウロイのある一つの特徴を見つけた。

 

(…まさか?)

 

シュミットは急降下をしネウロイの下部に行く。そして、ついに糸口となる部分を掴んだ。

 

「皆!下方は攻撃が薄い!裏側からコアに向けて攻撃するぞ!」

 

シュミットはネウロイとの戦闘でその特性を理解した。このネウロイは一方向に対して攻撃力が高い分、反対方向は攻撃を捨てている形だったのだ。

 

「そうと分かれっば!」

 

真っ先にエイラが動いた。それに続いて芳佳とサーニャも下方へと向かおうとした。

しかし、ネウロイは全員が下方へと向かおうとしているのに気が付いたのか、行かせまいと攻撃をウィッチ達に見舞った。

エイラは未来予知でその攻撃を回避しながらネウロイの下方へと行く。しかし、未来予知を持たない芳佳とサーニャは攻撃に阻まれた。

 

「くっ…!」

「うっ…!」

 

揃ってシールドを張り攻撃を防ぐ。しかし、この時点で芳佳とサーニャは分断され、先ほど四人で受けていた攻撃を二人で受ける状況になってしまった。

 

(しまった分断された…っ!拙い!)

「?どうしたシュミット?って、おい!?」

 

シュミットは分断されたことについて危険だと思ったその時、ゼロの領域は衝撃的な光景を映した。それはネウロイの攻撃を受けているサーニャのシールドが破れ、サーニャの持つフリーガーハマーに()()()()()()()光景だった。

そして、彼は急いで急上昇をした。エイラは突然上昇をして自分の横を通り過ぎて行くシュミットの行動に驚くが、シュミットはそんなのお構いなしに飛行していく。彼が向かっていく先にはシールドが今にも貫かれそうになっていたサーニャが居た。

 

「サーニャ危ない!!」

「え?きゃっ!」

 

シュミットは勢い良くサーニャを抱き寄せた。サーニャは突然シュミットが現れ体を引き寄せられたので小さく悲鳴を上げたが、その衝撃で手に持っていたフリーガーハマーが離れた。そして、シールドが消えたことでビームはそのままフリーガーハマーへ直撃した。

すぐさまシュミットはフリーガーハマーの方向へシールドを張りる。それと同時に、フリーガーハマーは内部でロケット弾が誘爆し、周囲に赤黒い炎と黒い煙、そして壊れたフリーガーハマーの破片をまき散らした。

 

「サーニャっ!!」

「シュミットさん!!」

 

エイラと芳佳が叫ぶ。二人の姿は、黒煙の中へ包まれたのだった。




本来ステルス機を捉える場合、レーダーは低周波レーダーを活用するという手段がある為、こんかい強化したら逆に強くなるんじゃないか?と思う人が居ますが、シュミットの強化は使用者の能力を『昇華』させるものと考えてもらえればありがたいです。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第百二話「信じる」

第百二話です。どうぞ!


「サーニャっ!!」

「シュミットさん!!」

 

エイラと芳佳は、爆風に飲み込まれた二人の名前を叫んだ。その間にも、ネウロイは離脱を図ろうと移動を開始しようとしていた。その時だった。

ダダダダダンッ!という音が、煙の中から聞こえると、ネウロイに向けて何かが飛来していく。それは弾丸であり、ネウロイは離脱を使用としていた最中に撃たれ、悲鳴を上げた。

二人は何が起こったのかと思い、思わず煙の立ち込めている方向を見た。立ち込めていた煙は風によって流され、そこから現れたのは、サーニャを庇いながら片手でMG42を構えているシュミットの姿が現れた。

ネウロイは、攻撃を加えたシュミットの姿を確認すると、ビーム攻撃を放った。しかし、事前にシュミットはシールドを張ってそれを防ぐと、エイラと芳佳に言った。

 

「二人とも、時間を稼いでくれ!」

「な…」

「早く!!」

「わ、分かっタ!」

 

シュミットの大声に、今まで固まってしまっていた二人はすぐさまネウロイに対して臨戦態勢を整え、そして攻撃に向かった。

二人が攻撃に向かったことにより、ネウロイはシュミットだけに対応することをやめ、二人に対して攻撃を加え始めた。

 

「無事か、サーニャ?」

 

そして、シュミットは後ろに庇っていたサーニャのほうを向く。サーニャは目をつむっていたが、シュミットの声に反応して目を開け、彼の顔を見る。

 

「はい…血が!」

「ん?」

 

サーニャの声に気づき、シュミットは顔のヒリヒリと痛む個所を触れる。彼の体は煙によって黒く煤けていたが、傷の残っていた彼の左頬には真っ赤な血が垂れていた。

しかし、手に一日をジャケットで拭い取ると、サーニャに行った。

 

「かすり傷だ。この程度どうということはない…それより、サーニャのほうは大丈夫か?」

「は、はい。シュミットさんのおかげです」

「そうか」

 

そう言って、シュミットはサーニャを見る。サーニャもシュミットほどではないが、爆発の煙によって特徴的な銀の髪にも黒い煤がかかっていた。しかし、外傷らしきものは見当たらなかったため彼は安心した。

 

「サーニャ、これを使ってくれ」

 

シュミットは、重量から弾丸がまだ残っているほうのMG42をサーニャに差し出した。サーニャはそれを受け取った。

彼は、武器を失ったサーニャに少なくとも自衛の手段がなければいけないと考え、間に合わせでMG42を一丁渡したのだ。

 

「フリーガーハマーとは完全にものが変わるが、武器がないよりマシだ。だが、あまり前衛には…」

「大丈夫です、シュミットさん」

 

シュミットの言葉を遮って、サーニャは口を開いた。その言葉にシュミットはビックリしてサーニャを見る。

 

「だが、突然機関銃に持ち替えて対応できるかい?サーニャは基本フリーガーハマーを使うじゃないか」

「使えます」

 

またも、シュミットの言葉にサーニャは返す。

 

「たとえ別の武器でも、しっかりと戦えるように訓練をしてきましたから。それに…」

 

サーニャはそう言って、シュミットの目をしっかりと見て宣言した。

 

「怪我をしたシュミットさんをほっといて、後ろから戦うことはできません」

 

その言葉を聞いて、シュミットはサーニャの目をじっと見返す。そして、その瞳に宿る曇りの無い眼を見て、その言葉が本心から来ているものであると理解し、頷き返した。

 

「…分かった。サーニャの言葉を私は信じる」

 

そう言って、サーニャの言葉を呑んだ。サーニャは一瞬安堵した顔をするが、シュミットが「ただし」と言った言葉に再び彼の顔を見た。

 

「…サーニャも、私のことを信じてくれ」

「え?」

「たとえ怪我をしても、私は絶対に生きて帰ってくる。サーニャに心配をさせたくないからね」

 

シュミットはそう言って、サーニャに向けて言った。シュミットは、自分を見るサーニャの目が、僅かに血が流れている頬を気にしているのをみて、不安に思っていると考えた。その為、サーニャに不安にさせることをさせてはいけないと考え、咄嗟にそう言ったのだ。

その言葉に、サーニャはハッとして僅かに頬を赤く染めて頷く。が、すぐさま目の前のネウロイに対して気を引き締め直した。シュミットも同様に、武器を構えてネウロイの方向へ向いた。

その頃、ネウロイと戦闘を繰り広げていたエイラと芳佳は、苦戦を強いられていた。

 

「この…落ちろ!」

 

エイラが叫びながら攻撃をするが、ネウロイは二人に対して反撃を行う余裕があった。もともと四人で戦っていた分が半分になるのだ。ネウロイからすれば幸運であり、ウィッチたちからすれば不運である。

戦闘が長引けば長引くほど、人間には疲労が蓄積されていく。それはどのようなことでも同じであり、永遠と動き続けることなどできないのだ。そのため、二人の動きは徐々に低下していった。

 

「くっそー…」

 

エイラはネウロイに対して睨んだその時だった。突然、ネウロイがエイラや芳佳とは違う方向から攻撃を受けたのだ。攻撃を受け、ネウロイは悲鳴を上げて逃げ出すが、二人は攻撃の来た方向を向いた。

二人の向いた先には、頬から血を流しながら機関銃を構えているシュミットと、彼の機関銃を構えているサーニャが並んで飛行している姿があった。銃口から煙が出ていることから、撃ったのはシュミットのようだ。

 

「サーニャ!」

「シュミットさん!大丈夫ですか!?」

「ありがとうエイラ」

「大丈夫だ宮藤、かすり傷程度だ…だが、後で治療を頼む」

 

二人は無線から聞こえた落ち着いた声に一旦安堵した。

しかし、ネウロイはまだ健在している。回復をしたネウロイは攻撃を仕掛けたシュミット達の方向へ反撃を開始する。

 

「ここで必ずネウロイを倒すぞ。エイラ、サーニャと共に左側のコアを攻撃」

「おっけーい!」

「宮藤、お前は私と一緒に右のコアだ」

「はい!」

 

シュミットは回避をしながらエイラ達に指示を出す。事前に決めた取り決めだが、一度混乱した現在もう一度仕切り直す形で言った。

 

「よし、行こう」

「はい」

 

そして、シュミットとサーニャは散開して降下をする。その動きはまるで示し合わせたかのように、左右に同じような軌道を取りながらであった。

ネウロイは四人に対して攻撃をする。しかし、シュミット達は難なく回避をし、ネウロイの下部へと潜り込み、そして攻撃を叩き込んでいく。しかし、いくら下部の攻撃が薄いと言ってもネウロイからの反撃が無いわけではなく、ネウロイは4人に妨害を加えていく。

 

「喰らえ!」

「えいっ!」

 

エイラと芳佳は、シュミット達だ来るまでの間に戦っていた分僅かに疲弊していた。その為、二人は懸命にタイミングを合わせて攻撃を行っているが、ネウロイの攻撃なども相まって僅かなズレを生んでいた。

しかし、サーニャはこの状況で、いつもとは違うものを感じていた。

 

(軽い?)

 

サーニャは内心、自分の動きの迷いの無さを感じていた。いつもの動きよりも激しく、そして限界を攻めるような動きとなっている。しかし、今回はそれでも迷いを感じることは無かった。むしろ、次にどう動くかのイメージさえもしっかりしていた。

 

(――いいえ、違う。この感じは…)

 

同じように、シュミットも自然と体が動き、思考がスッキリとしていた。

 

(…なんだろう)

 

彼は短く、そう思った。ネウロイを避けながら攻撃するのに、自然と時間はゆっくりと流れているように感じ、それはゼロの領域とは別の感覚であった。

 

(悪くない。いや、むしろ…)

 

知らず知らずのうちに、シュミットはサーニャの方向を向いていた。サーニャも、同じようにシュミットの方に目を合わせる。そして、二人はこの感覚を理解した。

 

(――そう)

(――なるほど。だから、こんなに心地がいいんだな)

 

 

 

 

ネウロイの抵抗は、シュミット達より長い時間戦闘をしていたエイラや芳佳への負担を徐々に上げていた。そしてそれは、人間だけにはとどまらなかった。

 

「あれ!?」

 

芳佳の持っていた機関銃が突然「ガチッ」といった音を立てて弾を出さなくなってしまった。芳佳は引き金を何回も引くが、やはり弾が出ることは無かった。芳佳の機関銃は弾詰まりを起こしてしまったのだ。

まず異変に気付いたのは、サーニャ側にいたエイラだった。

 

「どうした宮藤?」

「エイラさん、機関銃から弾が出ません!」

「ナンだって!?」

 

芳佳の言葉を聞いてエイラは衝撃を受ける。そして、すぐさまインカムでシュミットに話しかけた。

 

「シュミットっと、宮藤のヤツ弾詰まりしたゾ!」

 

エイラは、シュミットが芳佳の言葉に反応していないことに気づき、回避をしながらもインカムで伝える。しかし、その向こう側から返答の声は無かった。

エイラはシュミットが反応しないので疑問に思った。次の瞬間だった。

 

「…?お、おいシュミット!?なっ、サーニャ!?」

 

シュミットは、ネウロイに向けて突然突っ込んだ。それだけではない、サーニャもシュミットと同じようにネウロイに向けて突撃をし出したのだ。そして、二人共エイラの言葉にまるで反応していなかった。

 

「サーニャちゃん!?シュミットさん!」

 

芳佳も二人の異変に気付く。しかし、二人は止まることなくネウロイに向けて全く同じタイミングで引き金を引いた。そして、飛んでいった弾丸はそれぞれ鏡に映したかのようにネウロイの左右中央部に命中する。

ネウロイは、同時攻撃を仕掛けたシュミットとサーニャに対してお返しとばかりに攻撃を集中させる。しかし、二人はまるで示し合わせたかのように左右に同じような軌道を描きながら回避をし、そして再び同時に攻撃をする。

その光景に、二人は立ち止まってしまった。

 

「す、凄い…」

「…あぁ」

 

攻撃する手段を失った芳佳は防御中心の体制に移ろうとしていたが、目の前で行われている光景に思わず声を漏らす。エイラも、二人の息の合った連携技に芳佳に同意する。

二人が見とれているそれは、ある意味異質であった。今まで見てきたウィッチは、連携をする掛け声やアイコンタクトなどの合図をし、合図なしの場合は若干の遅れが生じるものであった。しかし、今回のそれは違った。二人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を左右に取っているのだ。

そして、エイラはその状況で自分のできることを考え、そして二人の援護に回っていた。この状況でエイラは、自身がネウロイの注意を逸らし、シュミットとサーニャの負担を減らしに向かったのだ。

それと同時に、エイラは二人の様子も観察していた。

 

(ま、全く同じ動き…なんなんだ、コレ?)

 

エイラは、この二人の動きを見て衝撃を受けた。只連携も物凄く上手いだけではなかった。それはもはや鏡写しに近いレベルで連携を取っているのだ。ここまで行う連携など、エイラは今まで501の隊員を含めて見たことが無かった。

その間にも、二人はネウロイのコアが存在する場所へ連携して攻撃を加えていく。そして、ついに物語は終盤へと向かった。

 

「コアだ!」

 

同時攻撃により、ネウロイの二つのコアがある位置の表面は大きく剥がされ、そこに真っ赤なコアが二つ露出する。それと同時に、ネウロイは攻撃の勢いを先ほど以上に厚くし、シュミット達に攻撃をするのを防ぎ始める。

エイラは未来予知で次の攻撃を予測し、攻撃の間を縫いながらコアに近づく。しかし、エイラはここで()()()()()()()を見た。

 

「えっ?」

 

エイラの目には、攻撃を回避しながら接近をしているシュミットとサーニャの姿が映った。二人はネウロイの分厚い攻撃の間をすり抜けながら左右に広がっていき、一気にコアの目の前まで到着、そして同じタイミングで引き金を引いた。

二人の機関銃から放たれた弾丸は、それぞれ左右のコアのある位置に飛翔していく。何十発と弾丸を撃ち込まれたネウロイは、全く同じタイミングでコアを破壊され、今までにない大きさの悲鳴を上げる。そしてコアの付近を中心に、その体を白色に変えていき、最後には破裂して光の破片へと変わった。

 

「…」

 

エイラは、先ほどの光景に口をわずかにポカンと開け言葉を完全に失ってしまっていた。その視線の先には、ネウロイのコアを撃ち抜いた二人が空中でたたずむ姿があった。

その光景に、エイラはまず、シュミットに対して嫉妬をした。サーニャの横に並ぶシュミットの姿を見て、自分があの隣に居たいという気持ちが現れた。

しかし、その心が完全に嫉妬で溢れることは無かった。それどころか、徐々にその気持ちは薄れていき、今度は逆にその光景に対しての諦めのようなものが生まれてきていた。

なぜ、エイラはそんな風に考えたのか。その理由はかなり前に遡る。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

数か月前の501基地、エイラは基地の外を歩いていた。それは、目当ての人物を探すために。

 

「サーニャ~…?」

 

エイラは、基地の中に姿を見せないサーニャを探していた。いつもなら基本共に行動しているエイラだったが、この日は珍しく基地内で遭遇していなかった。その為、サーニャの居場所を突き止めるべく歩いていたが、思い当たるところは既に探してしまい、今度こそ困っていた。

その時、訓練場から聞こえて来た銃声にエイラは気づいた。エイラは、それがいつも射撃場にいることの多いシュミットの物であると考えた。そして同時に、シュミットならサーニャの居場所を知っているかもと考える。

しかし、エイラはシュミットに聞こうかどうか最初迷っていた。そして、数秒の葛藤をし――シュミットに聞くことを選んだ。

しかし、エイラはここで大きな勘違いをしていたことを、射撃場に来て理解した。

 

「――え?」

 

エイラが到着した射撃場に居た人物は、先ほどまでいると考えていたシュミットでは無かったのだ。

 

「サ、サーニャ…?」

 

エイラは、驚きのあまり声がちゃんと出なかった。そこには、今まさに探していたサーニャが、MG42を的に向けて構えている姿があったのだから。




皆さん、更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。日常生活のゴタゴタと、私個人のモチベーション低下、スランプ等理由から、更新が大幅に遅れてしまいました。深くお詫び申し上げます。
シュミットとサーニャ、二人に起きた出来事。そして、エイラが見たサーニャの目的は!?
誤字、脱字報告お願いしますそれでは次回!


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第百三話「ロマーニャの奇跡」

随分久しぶりに投稿した気がします。とりあえずこれでオリジナル回は終わりです。どうぞ。


「サ、サーニャ…?」

 

エイラは、射撃場にいたサーニャの姿に少なからず衝撃を受けた。エイラはてっきり射撃場にはシュミットがいると考え、サーニャの居場所を聞こうとしたらまさかの本人に出会ったのだから、予想外も予想外であった。

そんなエイラの呟きに近い言葉に気付いたのか、サーニャが振り返った。

 

「エイラ?何をしてるの?」

「あっ!え、えっと~…?」

 

突然名前を呼ばれて、エイラはたじろぐ。が、サーニャがいつも使うことのないMG42を持って射撃場にいるのかという疑問が再び浮上し、サーニャに質問した。

 

「な、なんでそれを持ってるんダ?」

 

エイラが手に持つ機関銃を指差して質問した。サーニャは一度手元を見て、再びエイラの方を向いた。

 

「エイラやシュミットさんも使っている武器だから」

「いや、そういう意味じゃなくてダナ…その、なんでいつも使わないのをサーニャが持っているのかって意味で…」

 

サーニャが勘違いして言うのでエイラは肩をがくりと落として訂正する。

その言葉にサーニャは首を傾げるが、エイラの言いたいことを理解したのか一度機銃を見て少し考える素振りを見せた。そして、サーニャは少しだけ頬を染めながらエイラの方を向いて言った。

 

「シュミットさんのためになりたいから」

「…シュミットの為?」

 

エイラは、サーニャの言葉の意味を理解できなかった。サーニャがMG42で射撃訓練をすることと、シュミットの為になることがどうつながるのかと。

しかし、エイラが聞き返す前に、サーニャが口を開いた。

 

「この前、シュミットさんに聞いたの」

「何をダ…?」

「私とエイラが離れた後のこと、そして頬に傷を作った理由を…」

 

そう言って、サーニャはエイラに話した。ブリタニアでシュミットが血まみれになって帰ってきた時の心境。そして、ペテルブルクで再会した後の安心と、その後にシュミットがまた負傷したことを。

シュミットはペテルブルクにいた時にサーニャと手紙でやり取りをしていたが、負傷したことを心配させないようにと考えて書かなかった。その結果、サーニャはロマーニャに来て始めてシュミットが負傷したことを知った形になり、逆にサーニャを不安にさせる形になってしまい、ロマーニャで集結した日の晩にペテルブルクにいた時のことを洗いざらい話す羽目になったのだった。

そして、サーニャはシュミットから話を聞き、自分の知らないところで彼が無茶をしていることを理解した。

 

「だから、シュミットさんが無茶をしないために――」

「特訓をしていたのカ…」

 

サーニャが言い終わる前にエイラが続きを言う。その言葉に、サーニャは小さくだが頷いたのだった。

話を聞いたエイラは、サーニャが何故射撃場にいるのかを理解したと同時に、彼女の想いを理解したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「――エイラさん…エイラさん!?」

 

エイラの思考は、芳佳の声により数か月前から現在へと戻る。エイラが声のした方を向くと、芳佳がエイラの顔を困った様子で見ていた。

 

「な、なんだよ宮藤…」

「エイラさん、さっきからずっと固まったままだから…どうしちゃったんですか?」

「な、なんでもねえよ…」

 

芳佳は心配して聞いたのだろうが、エイラはそんな芳佳に悟られないようにそっぽを向きながら答える。が、少しして今度はサーニャたちのことが気になり再び上を向いた。

が、なにやら様子がおかしかった。上にいたシュミットとサーニャが困惑した様子で互いの顔を見たり、周囲をきょろきょろしているのだ。

 

「ん?…なんダ?」

 

エイラは疑問に思い二人の元へ上昇して向かった。それに気づいたシュミットが、何かを恐れた様子の顔でエイラの方を向き、次いでサーニャもエイラの方を向く。

それを見てエイラは、疑問に思いシュミットに聞いた。

 

「なにやってんだ?」

「エイラ…今、私たちはなにを…ネウロイは何処行った?」

「は?」

 

シュミットが突然、訳の分からないことを言いだしたのでエイラは思わず間の抜けた返事をした。

 

「何処って…今二人が倒したじゃないか…」

「…倒した?私たちが、か?」

「エイラ…どういうこと?」

 

二人の言葉に対して、ネウロイならさっき二人が倒したじゃないかとエイラは思った。

しかしシュミットと同じようにサーニャも困惑した顔をしており、二人がふざけているわけでなく真剣にエイラにネウロイの所在地を聞いていることを理解した。

 

「エイラさん、なにしてるんですか?」

 

とそこへ、三人の元へ芳佳がやって来る。芳佳はエイラが二人に対してなにをしているのかと思い質問するが、そんな芳佳にサーニャが聞いた。

 

「芳佳ちゃん、ネウロイはどこに…」

「宮藤、ネウロイは一体どこに行った?」

 

サーニャに次いでシュミットも聞いてきた。

 

「へ?ネウロイって…さっきみんなで倒したよ?」

 

芳佳の言葉に、二人は互いの顔を見合わせた。そしてネウロイが消えた理由を理解した。

しかし、どうしてネウロイが居なくなったのかは理解こそしたが、自分達が如何にしてネウロイを倒したのかについては理解できなかった。

 

「エイラ、なにがあったのかを教えて!」

「宮藤、一体私たちは何があった?」

 

サーニャとシュミットは、二人にネウロイ撃墜の経緯を聞いた。エイラと芳佳は疑問に思いながらも、二人が同じ動きをしながらネウロイのコアを同時に破壊したところまで説明した。

そして二人からネウロイ撃墜の経過を聞いたシュミットは、一度混乱していた頭を整理した。

 

「…つまり、私たちがネウロイを倒したのだな」

「おいおい、まさか…」

「もしかして、覚えてないんですか?」

 

エイラと芳佳は困った様子でシュミットに聞いた。そんな芳佳に、シュミットとサーニャは互いにアイコンタクトをし、そして今度は芳佳の方を向いた。

 

「…すまない、私もサーニャも全く覚えていない」

「じゃあ、あの時の動きは、偶然だったんですか?」

「…恐らく偶然だ」

「す、凄い…」

 

シュミットは少しだけ間を置いた後、正直に偶然であると告白した。その言葉に芳佳は純粋に驚きの言葉を零した。しかし、エイラの言葉は違った。

 

「ま、偶然なんだったら次は無いんじゃないか?取り合えず倒せたんだし、この話は終わりだな」

「エ、エイラさんそれはちょっと…もしかしたら凄い奇跡かもしれないじゃないですか」

 

エイラが割とそっけなくシュミットに言ったので、芳佳は見も蓋もないと言った様子だった。

だが、エイラは先程の光景が二人が偶然引き起こしたことに対してガックリとしたと同時に、二人の間に存在する()()に対して妬いたのだった。

偶然とはいえ、無駄の無い――シンクロとも言える統制の取れた動きでネウロイに接近し、合図も無く同時に攻撃、そしてネウロイの二つのコアを同時に破壊した。

そんなシュミットとサーニャの行動に、自分とサーニャ以上に深い信頼関係が存在していることを知らされたのだ。

エイラは以前、サーニャがシュミットの為に特訓していることを知った時、心の中の何パーセントかは追いつけないだろうという事を思ってしまった。それはサーニャの実力が決して低いからではなく、シュミットが常に異常な速度で成長していくモンスターのような存在だからだと、認めたくはないが思っていたからだ。実際、アフリカの星との戦いからも、シュミットはそこから学び成長しており、以前よりも格段にキレのある飛行をしていた。

そんな怪物のような成長をするシュミットに対して、サーニャの特訓に対して何処か不安を持っていた。もしかしたら、サーニャはシュミットに懸命に追いつこうとして、無茶をしてしまうのではないか――と。

しかし、そんなエイラの不安を余所にサーニャは成長し、そしてシュミットの隣に並んでいた。以前、サーニャは超巨大ネウロイ撃墜の為にシールドを張る特訓をしていたエイラに対し、出来ないからといって諦めるのは駄目だと言った。諦めてしまうから出来ないのだと。

その時エイラは、癇癪を起こしてサーニャの言葉に反発をしてしまった。そんなことは無理だ、出来っこないんだと思っていた。

 

「――だけど、サーニャは本当に出来た…」

「え?なにエイラ?」

「な、なんでもない」

 

突然名前を呼ばれたサーニャは何のことかと思いエイラの方を向くが、エイラが悟られないようにと誤魔化す。

 

(…サーニャの言った通りだ。諦めるから、できる事もできなくなるんダナ)

 

エイラは、あの時のサーニャの言葉が本当に正しいことを理解したのだった。その言葉をサーニャ自身が証明して見せた。いつの間にか、サーニャは一歩先に歩み出していて、自分はまだ立ち止まったままだったことを思い知らされた。

それと同時に、サーニャにとってシュミットの存在がそれほど大きなものであることも。

 

「…取り合えず、厄介なネウロイはこれで撃墜完了だ。基地に連絡して帰投するぞ」

 

そんなエイラの心境を余所に、シュミットは全員に帰投命令を出したのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

基地に帰投したシュミットは、三人を先にあがらせ、ミーナに報告をしに行った。

そして、報告を終えたシュミットは自室に戻ろうとするが、扉の前に来た時に突然ミーナから質問の声が飛んできた。

 

「シュミットさん」

「はい?」

「本当に倒したことをおぼえていないのね?」

「はい。私もサーニャも、ネウロイと途中まで交戦していた記憶はありましたが、倒した記憶は無く、エイラと宮藤が教えるまでネウロイが逃げたとばかり思ってましたから」

 

シュミットがその時のことを説明した後、ミーナは続けてもう一つ質問した。

 

「…その時、奇妙なことは何か起きなかった?」

「奇妙な事ですか?特に何も――」

 

無い。と言おうとしたシュミットだったが、探っていた記憶の中に一つだけ、思い当たる節があり言葉が止まる。

そんなシュミットの様子を見てミーナは目を僅かだが細めた。

 

「思い当たることがあるのね」

「…」

 

それに対してシュミットは返答しなかった。正確には、返答しようとはしたが何と答えたらいいのかと思い言葉を選んでいた。

そして、整理の付いたシュミットは口を開いた――ネウロイとの戦闘中にサーニャが次に動くイメージのようなものが頭の中に入ってきたことを。それだけでなく、サーニャが動くタイミング、攻撃をする瞬間、回避軌道をする時など、サーニャの行動パターンの全てが、会話など合図などをしてなくても分かっていたかもしれない――そんな時があった気がすることを、ミーナに話した。

そしてシュミットは、今度はミーナに対して質問を返した。

 

「…中佐、何か知ってるんですか?」

「いいえ、何も。だけど――」

 

ミーナが余りにもあっさり知らないと言ったのでシュミットは一瞬「あれ?」と思ったが、ミーナの言葉にはまだ続きがあったので再度意識を向けた。

 

「もしかしたら、それは二人が起こした奇跡なのかもしれないわね」

「…」

 

シュミットは、ミーナの言葉からどこかデジャヴに感じた。それは、戦闘終了時に芳佳がエイラに対して言った奇跡と被ったからであった。

 

「宮藤もそんなことを言ってました…奇跡だなんて、そんな大それたものでもないと思いますが」

 

シュミットはそう言って、執務室を後にしたのだった。

そして、執務室内で一人になったミーナは、シュミットの出て行った扉の方を見ながら、静かに独り言を呟いた。

 

「…いいえ、違うわシュミットさん。貴方がサーニャさんと起こしたのはまぎれもない奇跡なのよ」

 

その言葉は、静まり返った執務室に響き、そして誰にも聞かれる事無く消えたのだった。




イヤーキセキッテスゴイナー。
そして実はサーニャちゃんはいつの間にか強化されていたのであった。でも強化理由はちゃんとあるんです(大体狼のせい)
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第百四話「シュミットの災難」

最近1月間隔で小説を投稿してばかりですね。第百四話、今回からギャグ回に入ります。どうぞ!


 ステルスネウロイ撃墜の翌日、501は久しぶりの安寧を迎えた。

 朝日の差し込む基地は太陽の光に照らされ、501はいつも通りのスタートを切ろうとしていた。

 基地の一室では、自室のベッドで寝ていたシュミットが閉じていた瞼をうっすらと開けた。うつ伏せの体制から首を少し上げたシュミットは、カーテンの閉じられた窓の方向を向いた。

 

(……朝か)

 

 シュミットは朝になったと判断し起きようと――したのだが、あっさりとやめた。

 

(なんか怠いような、疲れてるような……)

 

 シュミットは覚醒したばかりの頭をなんとか働かせたが、深く考えるまでも思考は回らなかった。分かることは、なにかしらの理由で寝足り無く、疲れがとれていないのだろうということぐらいだ。

 そしてふと横を見ると、同じように――どういう訳か、シュミットのベッドで寝ているサーニャの姿があった。彼女は規則正しい呼吸で静かに眠っており、起きる素振りを見せなかった。

 

(そうだ…昨日ネウロイをようやく倒せたんだった…)

 

 ここでようやく、シュミットは昨晩の出来事を思い出し、そして理解した。数日掛けて追い続けていたネウロイをやっとの思いでようやく倒したから、今自分は疲れているのだと。

 

(……どの道今夜も哨戒だし、もう少しぐらい寝ててもいいな)

 

 いつもなら起きようかと考えるシュミットだが、今回ばかりは一段と疲れと眠気が彼を襲っていた。もう少し睡眠をとって次の哨戒に備える目的と、彼自身がもう少しだけ寝させてくれてもいいじゃないかというちょっとだけの甘えだった。

 そうして、シュミットは珍しく二度寝をした…自分の身に起こったことを知らずに。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 シュミットが二度寝した頃と同時刻、基地の食堂には既にウィッチ達が朝食を取ろうと集まっていた。

 

「よーっす!おっはようさーん!」

「おっはようさーん!」

 

 扉を開けて入ってきたシャーリーとルッキーニが挨拶をする。

 

「おはようございます」

「リーネ、ご飯なあに?」

 

 リーネが二人に挨拶を返す。シャーリーはリーネに献立を聞いている時、再び食堂の扉が開いた。

 

「おはようございますっ!ごめんリーネちゃん、遅れちゃった」

「ううん、大丈夫だよ芳佳ちゃん。昨日はお疲れ様」

「え、うん、ありがとうリーネちゃん」

 

 昨晩夜間哨戒に行っていた芳佳がリーネに謝罪しながらやって来るが、リーネは特に気にした様子は無く、逆に芳佳に対して労りの言葉を送る。実際、芳佳の他に朝食の席にやって来た夜間哨戒組は誰もまだ来ておらず、彼女が一番乗りである。

 その後、他のメンバーも次々と食堂に集まって来るが、シュミットとサーニャはまだやって来なかった。

 

「そういえば、シュミットが居ないな」

「まだ寝てんじゃないカ…?」

 

 エイラが眠たそうにしながら言う。

 

「昨日は大変でしたからね」

「全く、シュミットもたるんでる。カールスラント軍人なら、時間厳守は基本中の基本なはずだぞ」

 

 芳佳の言葉に対し、バルクホルンはいつもならすぐにやって来るシュミットがたるんでいると言う。

 

「でも、ハルトマンさんもいませんよ?」

「なんだ、カールスラント軍人なら規律ある行動をするもんじゃないのか?」

 

 と、シャーリーがバルクホルンに対して逆にカウンターを仕掛けた。これにはバルクホルンも少しばつの悪そうな顔をする。因みに、ハルトマンはいつも通りの寝坊だった。

 

「不純行為」

「……え?」

 

 はたして、誰が零した言葉だったか。しかし、たった一言とはいえあまりにも破壊力の高い言葉は一同の動きを固めた。

 

「まさかそんなこと…」

「っ!サーニャアアアアアア!!」

 

 ペリーヌが流石にそれはと言おうとしたその瞬間、突然エイラが勢いよく席を立ち、そして食堂の扉を勢いよく開けて外に行く。

 

「待てエイラ!まだそうと決まったわけじゃないぞ!」

 

 真っ先に復活したシャーリーが声を掛けながら後を追っていく。尤も、シャーリーは僅かに感じた「何か面白そうなことが起こりそう」という理由も含まれていた。

 

「行っちゃった…」

「全く馬鹿馬鹿しい…朝から騒がしいですわ」

「でも、結構大事じゃないんですか…?」

 

 芳佳は目の前で起きたゴタゴタにまだ整理がついていない様子で扉の方を向いていた。それに対してペリーヌは、特に心配することなしと意に介さない様子だが、リーネは若干不安になりながら質問した。

 

「…まあ、シュミットさんの事だから多分大丈夫じゃないかしら」

「ふむ…」

 

 ミーナも大丈夫だろうとは思ったが、その表情と若干空いた間が心配を表していた。そして、坂本も顎に指を置きどうだろうかと思考に入る。

 

「サーニャっ!」

 

 そして、エイラは勢いよくシュミットの部屋の扉を開いた。なぜ彼女が真っ先にシュミットの部屋に向かったのかは御愛嬌であるが、エイラはそのままシュミット達が眠っているベッドへ向かう。

 エイラが大声を出すので、一緒に寝ていたサーニャとシュミットは瞼を持ち上げた。

 

「…エイラ?」

「…エイラ、あまり大声を出さないでくれ。サーニャが起きる」

「お前!サーニャに変な事…し……て……」

 

 眠たそうに言うシュミットの言葉を遮って、エイラは問い詰めた――否、問い詰めようとしたが、その言葉が徐々に収まっていく。

 

「はぁ…はぁ…この私が速さで負けたなんて…ん?なにやってん…だ……」

 

 自慢の速さでまさか負けるとは思わなかったシャーリーが遅れて到着し、固まっているエイラに何をしているのか聞こうとするが、こちらも言葉が消えていく。

 二人共、揃ってシュミットの方を口を開いたまま凝視していた。そして、互いに顔を向き合わせると、これが現実かどうかを認識し、そしてもう一度シュミットを見た。

 シュミットは、寝ぼけた様子で目元を擦りながら聞いた。

 

「…二人共、私の顔に何かついてる?」

「シュミットさん…ソレ…?」

「えっ…ソレ?」

 

 突然、後ろから声を掛けられたのでシュミットは振り返る。振り返ると、いつもなら起きた時眠たそうにしているはずのサーニャが、今回は初めからしっかりと覚醒していた。それだけでなく、シュミットの胸元に驚愕と言った様子の視線を向けているではないか。

 シュミットは、そんなサーニャの視線につられて胸元を見た。

 

「……」

 

 そこには丘が見えた。着ているシャツの生地が、いつもより鮮明に見えていた。逆に、現在の体制なら見えるはずのズボンの見える範囲が狭かった。そして、シャツの隙間からは、その丘が二つの山で出来ているものだと理解した。

 

「……」

 

 何があるのかと思い、シュミットはそこにあったものが何か探ろうと手を伸ばしたが、あることに気づいた。

 着ているシャツの袖が、妙に長く、ぶかぶかとしていたからだ。

 

「…ん?」

 

 ここに来て、シュミットの頭の中は回転し始めた。先ほどから、妙に肩が重たいような感じがしてきたからだ。

 

(長いシャツの袖…肩の重さ…胸元…胸…元…っ!!?)

 

 シュミットは何かに気が付き、慌てて自分の両手をその丘に持ってきた。そして触れると、なにやら不思議な柔らかを感じた。決して悪いものでは無く、むしろ心地いいと言えるような。

 しかし、シュミットはそれの正体に気が付くと、顔色を青くした。そして、今度は慌てて両手を両足の付け根――股の所へ持って行った。そして、気が付いた。

 

「…な、無い」

 

 その時の表情を見たシャーリーとエイラ、サーニャの三人は、この時シュミットが見せた表情を忘れることは出来なかった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ほ、本当にシュミットさん…?」

「…」

 

 固まってしまっている隊員たちの中でいち早く復帰したミーナがシュミットに質問するが、シュミットは真っ赤な顔に手を当てたまま言葉は返さなかったが、首を縦に振って肯定した。

 そこにいたのは、確かにシュミットの面影を残した()()が立っていた。顔立ちは女性らしく整っており、髪はうなじが隠れるほどまで伸びていた。体格は華奢になった為、その胸元に膨らんでいる物は特別大きいわけではないにもかかわらず少し目立っていた。また、元々細身な方だった脚はさらに華奢になり、どこからどう見ても女性の外見をしていた。

 

「背も低くなっているな」

 

 坂本の言葉の通り、シュミットの背は低くなっていた。例を挙げると、連れて来たシャーリーよりも高いはずの背が、頭のてっぺんよりも若干低くなっていたのだ。

 ミーナは頬に指を当てながら疑問に思った。

 

「でも、なぜこんな事に?」

「それが、どうやら私の使い魔が関係してるみたいです…」

「声も高くなってますわ…」

 

 羞恥が一周回って段々と落ち着いたシュミットがようやく口を開いた。その声を聞いた他の面々は、まさか声まで変化しているとは思わずまたも驚くことになった。

 あの後、シュミット達は医務室に行き、自分の身に何が起きてるのかを検査させられた。その結果、彼の使い魔がこの異常現象にかかわっていたことが分かったのだ。使い魔は基本的に、ウィッチが魔力を使う時にコントロールなどをサポートする存在である。しかし、シュミットの使い魔は通常の使い魔よりかなり高位な存在であり、彼との関係は密接な繋がりがあったのだ。

 そして、ここに昨日行われたネウロイ討伐が関わっていた。ネウロイ討伐の際、彼は魔法力を気付かぬうちに枯渇寸前まで消費していたのだ。それを感知した彼の使い魔が、日頃から少しづつ蓄えていた分の魔法力を逆流させることでシュミットに供給し、魔法力を失うことを防いだ。

 そこまでならよかったのだが、ここで問題が発生した。使い魔自身がそんなことを出来るということは認識していたのだが、如何せんそれを実行したのはこれが初めてだったのだ。その為、どの様な副作用があるかなど認知しておらず、使い魔の性別が魔法力ごとシュミットに上書きされてしまい、彼を女体化させてしまったのである。

 

「そ、そんなことが…」

「はい…」

 

 ミーナは説明を聞いて頬を引きつらせた。他のウィッチ達もそんなことがありえるのかと言った様子でシュミットを見ていた。そしてシュミットは、彼の横に現れた使い魔のシベリアオオカミが申し訳なさそうな顔をして頭を下げているので、そんな使い魔に対して「君は悪くない」と言った様子で頭を撫で続けた。

 皆が困惑していたが、ここで芳佳が質問した。

 

「で、でも、ちゃんと戻るんですよね?」

「一応比較的すぐに戻るらしい」

「それって、どのくらいですか?」

 

 リーネの言葉に、彼の使い魔はまた困った顔をする。シュミットはそんな使い魔の横にしゃがみ、その顔を見合わせる。

 ――時がたつこと十数秒、シュミットが話し始めた。

 

「彼女が言うには多分数日…でも、それがどれくらいなのかは分からないし、あくまで推測らしい」

「そっか…って、今聞いたのか?」

 

 シュミットの説明にシャーリーがどうしたものかと思ったが、一つ気になることがあった。たった今、シュミットは使い魔と言葉を交わさずに会話をしたのかと。

 シュミットは少しだけ考える素振りを見せ、そして説明をした。

 

「えっと、彼女が私の頭の中に直接言葉を送ってくる感じというか、言葉を交わさなくても会話ができるらしい。だよね?」

 

 シュミットの言葉に彼女は頷く形で肯定した。

 

「ふーん、じゃあアタシにも伝わるのか?」

「伝えれる?」

 

 シャーリーが疑問に思いシュミットの使い魔に聞く。シュミットも問うと、彼女はまたしても頷いた。

 

「へぇ…うわっ!?」

 

 感心していたシュミットが突然驚きの奇声をあげる。そして、シュミットに衝撃が加わる。いつもなら耐えれるはずだった衝撃だったが、体格が変わってしまいバランスを取ることができず尻もちをついてしまう。

 

「わっ!シャーリーの方がおっきいけど、凄く柔らかい…!」

 

 その正体はルッキーニだった。始めてシュミットと出会った際にやった時のように彼女は背後から飛び込んで胸を揉んでいたのだ。

 

「お、おいルッキーニ、そんなことしたら前みたいに怒られるぞ…」

「ふえ?なんで?」

 

 シャーリーはアフリカでルッキーニが胸を揉んだことで問題を起こしたことを思い出し、シュミットがさすがに怒るのではないかと考えた。対するルッキーニは、そのことを忘れているのか、何故と言った様子でシャーリーの方を見ていた。

 シャーリーは恐る恐るシュミットの表情を見た。しかし、そこには彼女の恐れていた表情では無かった。

 

「ちょ、やめっ…あぁ…」

『…』

 

 シュミットが、顔を赤くしながら妙に扇情的な声を出していた。彼にとっては今まで経験したことの無い不思議な感覚を堪えられずに漏らした声だが、その声が色っぽく思わず見ていた者たちは赤面してしまう。唯一、尻もちをついたシュミットの横に座っていた彼の使い魔だけが、目を細めなにか面白そうなものを見る様子で眺めていた。

 

「ん~!大満足~!」

 

 だが、シュミットのことなど気にしてないルッキーニは、その後も胸を堪能し、そして満足したのか手を離した。それにより、シュミットはようやく解放されたが、疲れた様子でへたり込んだままになってしまった。

 

「フランチェスカ・ルッキーニ少尉…」

「え?えっと…あの~…」

 

 だが、シュミットはそんな状態でも声を絞り出した。その声は、初めて胸を揉まれた時よりも低く、周りの温度を下げていた。その変化にはさすがのルッキーニもマズいと感じたが、もう遅かった。

 

「以前言ったよね?胸を揉むのは嫌がられるって…」

「…は、はい」

「ねえ、502で面白い懲罰を教わったんだが、体験してみるかい?」

「…イエ、エンリョシマス」

 

 ユラリと立ち上がったシュミットは、ルッキーニの方向を向きながらそんなことを言う。その言葉の端々から感じる謎の威圧に、ルッキーニは段々涙目になってくる。

 そして、頬を赤く染めながらも、シュミットはニヤリと笑った。だが決して、目は笑ってなかった。

 

「…遠慮しなくていいぞ、ルッキーニ」

「うにゃああああああ!!」

 

 混乱の501、朝早くからルッキーニの悲鳴が食堂で木霊したのだった。




というわけで、シュミットは女性になりました。
因みに、今回使い魔などの設定は『天空の乙女たち』を参考にしました。(喋るところとか)
そして、何故かシュミットが不純行為をしないという風に思えるペリーヌさんと、気が気ではないエイラ。この差は一体何処で生まれたのか…
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第百五話「不思議な彼女と体の変化」

かなり長い間投稿が遅れてしまいました。
第百五話です。


「…つまり、魔法力が枯渇気味なことを除いて、体の健康状態には何ら問題ないと?」

「そうらしいです――この体で問題ないは変ですけど…」

「うえ~ん!ごめんなじゃ~い゛!」

「全く…」

 

 部屋の中で泣きながら謝罪をするルッキーニに、シュミットはやれやれと言った様子で肩を落とす。

 現在ルッキーニは『シュミットの胸を揉んだ罪』により502名物の正座をやらされていた。ただ、彼は特に泣かせるつもりは無かったが、その時に見せた形相に思わず泣いてしまったのだ。

 シュミットはこれまで起こった出来事に段々と慣れて来たのか調子が戻って来ていた。シュミットは手のひらを閉じたり開いたりし、次に腕を動かし感覚を徐々に体へ馴染ませていく。

 

「まあ、体格が少し変わった分違和感は凄かったですけど、だんだん慣れてくるとしっくりしてきましたし…って、何じっと見てるんだエイラ?」

「うえっ?」

 

 そう説明していたシュミットだが、会話中に向けるエイラの妙な視線に違和感を感じ声を掛けた。突然名前を呼ばれたエイラは変な声を出しながら反応する。

 

「さっきから、なんか妙に私に向ける視線が変だし…」

「な、何でも無いゾ…」

 

 シュミットがエイラに問うが、本人は何もないと否定をする。

 が、実際にはシュミットの方を向いてエイラは考え事をしていたのだ。

 

(あの胸…あいつ(ルッキーニ)の反応から今までにない感触なんだろうけど、でも…)

 

 彼女は、先ほどルッキーニがシュミットに飛びついた際の感想から、501では揉んだことの無い感触なのだろうと揉んでみたいという衝動に駆られていた。

 しかし、その胸の持ち主がよりによってシュミットであるため、どうしても手を出すことができずにおり、躊躇いと欲望の葛藤に悩まされ先ほどのような表情を作っていたのだった。

 

「――エイラ?」

「え?」

「どうかしたの?」

 

 ついには、サーニャにまで心配されるほど顔に表情が出てしまっていたエイラであった。

 

「…そういえば君…って、君って言うのもなんか違和感あるな。もしかして君、名前とかある?」

 

 シュミットは横に静かに座っている雌狼に対して質問しようとした時、ふとあることに気が付いた。今まで"君"と言っていたのだ。そもそも、彼女には名前があるのだろうかという疑問すら湧いてきていた。

 シュミットがそんな質問をする為、周りにいた全員も思わず彼女を見た。雌狼は静かに瞳を閉じ、そして話した。

 

(…ジャーニーです)

「…ジャーニー、と言うのか」

 

 シュミットはその声を確かに聴いた。透き通るような女性の声だが、その中に含まれる明確な何かを感じ取ることができた。

 

「ジャーニー?旅って意味か?」

 

 シャーリーはジャーニーの名前がリベリオン語で旅を意味する単語であることに気づき、変わった名前だと感じた。

 

「そうなのかシャーリー?そう考えると不思議な名前ではあるのか…」

 

 シュミットはその意味を考え、そして僅かに微笑む。

 

「…でも、なぜかしっくりくる名前かもしれない」

「そうか?」

「ああ…」

 

 そしてシュミットはジャーニーの頭をゆっくりと撫でる。撫でられたジャーニーは少し気持ちよさそうに目を細めた。

 

「これからもよろしくよろしくな、ジャーニー…って、そうじゃなくて!」

 

 シュミットは一度それでサラッと流そうとして、本来の目的を忘れかけて急な切り返しをした。その変化にジャーニーはビクリと反応してシュミットを見た。

 

「ジャーニー、君は私を助けてくれた…そして、その結果私は女性となった。女性になったのは、君の中の女性としての個性が私に上書きされているんだな?」

(そういうことになります)

 

 シュミットの問いに対し、ジャーニーはその考えは間違いないと肯定した。しかし、その肯定に対して、シュミットは逆に謎を深めた。

 

「なら、その個性は君の情報であるはず。にもかかわらず、型は私を踏襲して、君の情報は殆ど判別できない。君の個性は、本当に私に出ているのか?」

 

 シュミットは、ジャーニーの個性が出ているのであれば、何かしらの形で自分の今の姿に影響を与えると考えていた。

 しかし、その考えに対して、ジャーニーは少し微笑むと、光になってシュミットの中に吸い込まれた。そして、シュミットの体からいつものように狼の耳と尻尾が生える。

 

「それが個性、ということですの…?」

「…そうかもしれないな」

 

 ペリーヌの言葉に、シュミットは魔法力をカットし、耳と尻尾をしまったのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 その後、シュミットはいつも通り訓練に参加することとなった。魔法力を大幅に使い果たしたと言っても、体が動かないわけではない。

 シュミット自身も、性別や肉体が変わろうと、今まで作り上げた肉体であれば訓練は通常通り参加しても問題ないだろうと考えていた。その考えに、坂本は訓練に参加することを感心し、ミーナもシュミット自身がジャーニーと対話してそう判断してるのなら、訓練に参加することは問題無いと考えた。

 ――しかし、彼の考えとは裏腹に、肉体変化の影響は小さいものでは無かった。

 

「はぁ…はぁ…」

「どうしたシュミット!息が切れているぞ!」

 

 声を張る坂本に忠告されながら、訓練を終えたシュミットは膝に手を置きながら呼吸を整える。

 

(あ、あれ…?)

 

 シュミットは、いつもなら息切れしないはずの訓練で自分の呼吸が乱れていることに困惑していた。

 ロマーニャ基地に来てから、訓練でシュミットが基地の外周を走るだけでここまで息切れをしたことは無かった。しかし、女性の体になって初の訓練では、彼の予測しなかった息切れが発生していた。

 

「大丈夫ですの、シュミットさん?」

「シュミットさんが息切れしてるの久しぶりに見たかも…」

「だ、大丈夫…」

 

 ペリーヌやリーネは、シュミットが汗を垂らしながら肩で息をしている姿を見て、彼の様子がいつもと違うことに気づき声をかける。

 

(体は軽いのに…息切れなんて久しぶりだ…)

 

 シュミットは呼吸を整えながら考える。訓練をしている間、彼は今の体がいつもより軽いと感じていた。それは、彼の男性としての体よりも線の細い女性らしい体になり、男性体であった頃に比べてだいぶ鍛えた筋肉などが体に合わせて減っていたからであった。

 だからこそ、いつものペースならバテる心配はなく、そのまま走れると考えていた。しかし、現実にはいつもより疲れてしまっていた。

 

(もしかして、肉が減ったんじゃなくて、無くなったのか…)

 

 シュミットは体中を触り、そこからあることに気づいた。彼の肉体は女性らしいものになったが、あまりにも女性らしくなりすぎた。彼の肉体は使い魔の影響により()()()()()()()()()()()にまで変えらてしまったのだ。その為、心肺機能を含め、それまで訓練されてきた肉体がこの体には受け継がれていなかったのだ。

 

(なぁジャーニー…これって、私の肉体は男に戻った時にちゃんと治るよな?)

(安心してください、それは保証します)

 

 しかし、弱音を吐いたところで訓練が中止されるわけではない。午前に起きた混乱の為、午後に訓練が流れてしまっており、中断ができる状況でも無かった。

 

「よーし、今日の訓練は終了だ!」

 

 結局最後までこの状態でシュミットは訓練に挑まなければならないのだった。坂本の号令と共に訓練が終える頃には、既に日は傾き、景色はオレンジに染まりかけていた。

 

「あ~、終わった~…」

「このぐらいで音を上げるなハルトマン」

 

 バルクホルンがエーリカのぼやきに注意する。だが、なんだかんだ言ってもハルトマンは訓練にちゃんと参加していたりする。

 

(ハルトマンはなんだかんだ言っても、根は真面目だったんだろうな。となるとあのニセ伯爵は本当に何を吹き込んだんだろうか?)

 

 無くなった筋力や体力に振り回されて疲弊しながらも、シュミットはバルクホルンが以前言っていたことを思い出しながら、次クルピンスキーに出会ったら何をしようかと考えるのだった。

 と、横を歩いていたシャーリーがシュミットの疲弊した姿に気づいて声を掛けた。

 

「シュミットどうした?凄い疲れた様子だけど、もしかしてそのセクシーボディに振り回されたとか?」

 

 若干茶化しながらも、相手の様子をうかがうシャーリーに対し、シュミットは思考をいったん中断して振り向いた。

 

「あ、ああ…なんか肉がなくなった」

「胸についてるのにか?」

 

 シャーリーはそう言うとシュミットの胸元を見た。本来ならありえないその膨らみは、ルッキーニなら容赦なく手を伸ばすだろうと考えながら、自分でもその感触についてどんなものなのか若干興味を持っていた。

 そんなシャーリーの言葉にシュミットは思わず胸元を隠す仕草をする。その動きや仕草は、さながら女性のそれであり、シャーリーは僅かに驚いた様子で表情を変えた。

 

「何処見て言ってるんだシャーリー…それに、肉じゃないだろ。そうじゃなくて、体についてた筋肉がなくなったって言ったんだ」

「へー」

 

 そう言ってシャーリーは腕を伸ばすと、横を歩くシュミットの二の腕を掴んだ。するとそこには筋肉質な腕特有のかたさを感じさせない、やわらかい感触があった。

 

「ホントだ、柔らかいな。肉体が変わるってのも不便なもんだなぁ」

「あぁ、全くだ…はぁ」

 

 シュミットはげんなりとした様子で自分の腕に触れ、その柔らかい肉と汗でざらつく肌を見て溜息を一つ吐いた。

 

「随分疲れた様子だなシュミット。風呂に浸かって温まれば、疲れもとれる」

「ねーねーシャーリー!あとでいっしょに洗いっこしようね!」

 

 坂本の言葉を聞いたルッキーニがシャーリーと約束する。シュミット叱られてシュンとしていたルッキーニも、時間が経っていつもの調子が戻っていた。

 シュミットはいつもシャワーばかりであったが、今回ばかりは坂本の提案に乗ってみるのもアリかと考えた。

 

(流石に今日は疲れたし、少佐の提案に乗るのも――)

 

 しかし、シュミットはここであることに気づいた――否、気づいてしまい歩みを止めて立ち止まった。

 シャーリーが突然止まったシュミットに気がつく。

 

「あ」

「ん?どうしたシュミット?」

 

 その言葉に周りにいた者も気づいてシュミットの方を見た。そこには信じたくない物を知ってしまった絶望感のようなものを感じたように、目を見開き口元を手で押さえたシュミットの姿があった。

 そして、シュミットはゆっくりと口を開いた。

 

「…風呂」

「へ?」

「私は…っ!」

 

 彼が言おうとしたその時だった。突然基地中にけたたましい警報が鳴り響く。ネウロイの襲来を意味していた。

 

「なっ、ネウロイだと!?」

 

 基地に響くサイレンに訓練に居た者たちは全員臨戦態勢に入り、格納庫へ走り出す。

 

「出撃準備!バルクホルン、ハルトマン、シャーリーとルッキーニが前衛!ペリーヌとリーネが後衛だ。残りは基地で待機だ!」

「了解!」

 

 坂本は走りながらフォーメーションを言っていく。選ばれたメンバーはストライカーを履いて武器を手に取ると、滑走路を離陸していく。基地待機を命じられたのは昨晩出撃したメンバーだった。

 

「なにが起こるか分からない。私たちも基地に戻るぞ」

 

 シュミット達も、急いで待機部屋であるブリーフィングルームへと走り出した。




みなさんお久しぶりです。深山です。
一年以上の間を開けての投稿になってしまったことをまず皆様にお詫び申し上げます。
最初は私自身の用事もあったのですが、小説に対してスランプとモチベーションがなくなってしまったことにより、全く書かない期間を作ってしまいました。
これからもこの不定期な更新が続くことになる可能性は高いと思います。しかし、私はそれでもしっかりと物語の終わりまで書くことを目標として書いていきます。
これからもよろしくお願いします。誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第百六話「夢の中で」

第百六話です。
今回はだいぶ意味深な回です。どうぞ!


 予想外のネウロイ襲来により、501は臨戦態勢に入った。夜間哨戒に出撃したシュミット達は現在、ミーナを含めたメンバーはブリーフィングルーム内で待機していた。サーニャとエイラは同じ席に、宮藤は少し離れた前目の席に座り、ミーナが無線機の前に立って状況確認をする。

 シュミットは、ミーナの横で腕を組みながら無線機を睨む。

 

『コア確認!』

『いくぞルッキーニ!』

『おっけーシャーリー!くーらーえー!』

 

 無線機の向こうでは今まさに戦闘を行っている坂本達の声が流れてくる。戦況は極めて有利であり、ルッキーニの声の後に、ネウロイの攻撃音が止む。

 

『こちら坂本美緒。ネウロイの撃破を確認した』

「了解。全員帰還してください」

 

 無線のやり取りを終え、ミーナはホッと一息つく。隣に立っていたシュミットも、組んでいた腕を解いて胸元に持っていき、肩を撫で下ろした。

 

「どうやら、無事だったみたいですね」

「そうね」

 

 シュミットが席に座る芳佳達の方を向く。芳佳達もシュミットの様子に気づいて引き締めていた表情を緩めた。

 

「とりあえず、私たちの待機は終わりだな。全く、こんなときにネウロイとは…」

「訓練後に襲撃なんて趣味悪いヤツ~」

「エイラ、行儀が悪いわ」

 

 エイラは腕を頭の後ろで組んで椅子を揺らしながら愚痴る。そんなエイラにサーニャは注意するが、周りに居た者もウンザリするエイラと同じような思いだったが、この声はネウロイに届くことはまず無いのが現実だ。

 

「まあ、ネウロイがこちらの事情を察する事なんて……うっ…」

 

 エイラに話しかけていたシュミットだったが、突然その言葉が途切れた。シュミットは体をぐらりと揺らし、目元を手で押さえると小さく呻き声を零したのだ。

 シュミットは慌てて机に手を伸ばし、崩れ落ちそうになった体を支える。周りで見ていた者たちも、シュミットの容体の変化に気づいた。

 

「シュミットさん?」

「だ、大丈夫ですか?」

「…大丈夫。ちょっとふらついただけ」

 

 サーニャと芳佳が心配そうに駆け寄るが、シュミットは頭を振って周りに無事を伝える。しかし、傍から見てもシュミットの様子は正常には見えなかった。よく見ると、彼の顔色は青白く、見るからに元気が無かった。

 

「顔色が悪いわシュミットさん。今日はもう上がりなさい」

「ですがミーナ中佐…」

「昼間は大丈夫と判断して許可を出しましたが、本来なら貴方は昨晩に魔法力と体力を大きく消費しています。体も万全な状態ではないのに、大丈夫なはずありません」

 

 ミーナに説得され、シュミットは押し黙る。ミーナの目は、心配そうにシュミットを捉えていた。その目を見せられては、シュミットも反論することはできなかった。

 

「…わかり…ました」

 

 シュミットは言葉を途切れさせながら返事を返した。そしてその瞬間、彼の瞼は閉じられ意識を失い、足元から崩れ落ちるようにブリーフィングルームの床に墜落する。

 

「シュミット!」

「シュミットさん!」

 

 周りは慌ててシュミットの名を叫ぶ。彼の体は、シュミットの使い魔のジャーニーが突如現れて自らの体をクッションのようにして地面に叩きつけられるのを防いだ。

 ジャーニーの登場に周りは一度立ち止まった。しかし、彼女の目が一度シュミットを労わるように見ると、今度はミーナ達に向いた。

 

(彼を休ませてください)

 

 ミーナ達の脳に響く透き通るような優しい声。その言葉に、ミーナ達はシュミットを医務室へと運ぶ手配をしたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「シュミットが倒れた!?」

 

 ネウロイ迎撃に向かった坂本達は、帰還するとシュミットがブリーフィングルームで倒れたことをミーナから知らされた。

 ブリーフィングルーム内で突如倒れたシュミットは医務室に運ばれ検査を受けた。その結果は、過労による疲れが気絶の原因だった。

 

「シュミットさんは過労のため、現在は医務室で宮藤さんの治癒を受けています」

「過労って、午後の訓練も普通に受けたじゃないか」

 

 バルクホルンは信じられないと感じた。午後に行われた訓練では、女性の体になったシュミットはいつも通り訓練をこなしていたのだ。

 しかし、ハルトマンは訓練の時を振り返ってバルクホルンに聞いた。

 

「でもさー、なんかシュミット変じゃなかった?」

「変?」

 

 その言葉に周りの視線はハルトマンへと向く。すると、訓練の時を振り返ったシャーリーも顎に手を当てながら思い出す。

 

「そういえば、確かに今日のシュミットは変だったな」

「具体的に何がだ」

 

 坂本がシャーリーの言葉に尋ねる。

 

「シュミットって訓練は涼しい顔してんじゃん。だけど今日のアイツはなんか疲れてたぞ?」

「そういえば、今日のシュミットさん、訓練の途中で息切れをしていましたわ」

「確かに、シュミットさんらしくなかったかも…」

 

 シャーリーの言葉にペリーヌやリーネも思い出す。いつものシュミットなら、汗をかいても息切れはほとんどせず、涼しい顔で訓練をこなしている。しかし、今日のシュミットは珍しく滝のように汗を流して肩で息をしていた。

 

「本当かペリーヌ?」

「はい。ですが、本人は大丈夫とおっしゃってらしたので…」

 

 会話をしていく内に、シャーリーはもう一つあることを思い出した。

 

「そういやシュミットの腕、今日触ったら肉が無かったなぁ」

「それはどういうことかしら?」

 

 シャーリーの発言が気になったミーナが質問をする。訓練中の状況を知らなかったミーナは、シュミットとシャーリーの間で交わされた会話について興味があった。

 

「なんかシュミットが『肉がなくなった』とか言って腕を出してきたんだ。そしたら凄い柔らかくてさー」

「なんで?おっぱいがあったのに?」

 

 ルッキーニは昼間のシャーリーと同じようなことを聞く。彼女にはシャーリーの言葉の意味がよく分からなかったが、その意味は坂本が理解した。

 

「なるほど。つまりシュミットの筋肉が無かったというわけか」

「筋肉が無いって、それじゃあシュミットの体は一般人の物と大差がなかったということか?」

 

 坂本の言葉にバルクホルンが信じられないと言った様子で言った。

 

「じゃあ、シュミットは無理をして訓練を受けていたってこと?」

 

 ハルトマンの言葉に全員がシュミットが倒れた原因を理解をした。シュミットの体に起きた異変は、彼が訓練で得た身体能力が全て一般女性のレベルにまでリセットしていた。そのことをシュミットを含めた全員が認識をせずに、一般的な軍の訓練してしまった結果、彼の体が耐えきれずに倒れることになってしまったのだ。

 

「私たちはもっとちゃんと理解しておかなくちゃいけなかったわ。シュミットさんは途中で気づいたのでしょうけど…」

 

 ミーナの言葉は最後まで続かなかったが、全員が理解する。シュミットはバルクホルンやシャーリーみたいに極端な考えはないが、基本的に決めたことに対して妥協を行わない。途中で体に起きた異変に気づいても、訓練を中断するような性格ではない。

 それは彼の美徳となる部分だが、今回はそれが裏目に出てしまっていたのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 どこまでも続く真っ白。まるで白いペンキが世界を塗りつぶしてしまったかのような場所に、シュミットの意識は居た。

 

(ここはどこだ…)

 

 体が光の中を落下していく――否、落下しているという表現だけではなかった。まるで光の中を漂っている、もしくは彷徨っているともいえる状況であった。それほどまでに、この空間では出来事が定まらなかった。

 

(…広い)

 

 シュミットはただ単純にそんなことを感じた。彼の体はただ只管白い世界の中にポツンと存在していた。その気持ちは、真っ白でただ只管広い部屋の中に立たされているような気分だった。

 そして、その視界はシュミットの体を包み込んだ。彼の瞳に一度何も映さなくなると、次の瞬間ぼやけた景色が映しだされた。

 

(これは…吹雪?)

 

 シュミットは、徐々にこの景色について理解していく。真っ白な景色は、吹雪による視界不良だったのだ。そして周囲に目をこらすと、雪をかぶっている木々が見え、その木は彼の視界の向こう側のどこまでも続いていた。

 

(吹雪の森…)

 

 シュミットは、周囲に見える森や吹雪を具体的には知らない。しかし、彼の記憶の中で似たような出来事はいくつかあった。

 その中には、雪の中を歩いたことも、森の中を歩いたことも多数あったが、猛吹雪の森の中を歩いたのは、()()()()しかなかった。

 

「この景色…っ!」

 

 シュミットは思わず声を漏らし、そして気が付いた。彼の手には厚い手袋があり、そして服装も分厚いドイツ空軍のパイロット服だった。吹雪に煽られた彼のコートは白く染まり、水がしみ込んでいた。

 間違いなく、この格好はこの世界の物では無かった。

 

「この格好…なぜ…?」

 

 シュミットは混乱していた。記憶の中では、温暖なロマーニャ地域に居たのに、今目の前に見えるのはドイツ空軍時代の軍服と深い森と猛吹雪だ。

 間違いなくこの光景はドイツ時代に経験した者に酷似していた。敵軍に撃墜された時に吹雪の中を帰還した時の出来事だったのだ。

 

(一体…私はどうしたんだ…?)

 

 彼は心の中で自問自答する。その時だった。彼の後ろから、吹雪の風の音に紛れて「ギュッ!」と何かが雪を踏む音が微かに聞こえた。

 シュミットは音に気づいて勢いよく振り返った。

 

「グルルル!」

「っ!」

 

 そこには、シュミットを威嚇するシベリアオオカミの姿があった。シベリアオオカミは目元をギラリと睨ませながら一歩ずつ近づいてきていた。まるで、今にもシュミットの事を襲おうと姿勢まで低くしているではないか。

 

(そうだ…あの時も確かこうだった…!)

 

 シュミットは完全に思い出した。これは、彼が撃墜された頃、吹雪の森の中で狼に襲われたときの記憶だった。そして、彼はこの時に今の使い魔であるジャーニーと契約をしたのだ。

 シュミットはこれが夢の世界であることを途中から理解していた。しかし、只の夢ではなく、これが過去を映している夢であることも理解した。

 そして、シュミットは自分を威嚇するシベリアオオカミに対して思わず声を零した。

 

「…ジャーニー?」

 

 シュミットは、威嚇するシベリアオオカミに向けて聞いた。しかし、その言葉に帰ってくるものはなく、オオカミは何も反応しなかった。

 そして、オオカミの目を見たシュミットは直感的に感じた。

 

(違う…これはジャーニーじゃない…!)

 

 その目は、501基地で見たジャーニーのものでは無かった。このオオカミから、非を認めた時に見せた落ち込みや、面白いものを見た時の目を細める表情は無い。獲物を逃がさない狩人の鋭い目そのものをしていたのだ。それは、使い魔のように話す生き物がする表情ではなかった。

 そして、シベリアオオカミはシュミットに向けて飛び掛かる。シュミットを襲ってきたのだ。

 

「わぁっ!!」

 

 彼は思わず尻餅をついて腕を顔の前に持っていき身構えた――あの時と違い、今回は目を開いたままだった。

 すると、目の前でとんでもないことが起こった。

 

「っ!?」

 

 突然、目の前が先ほどとは比べ物にならないほどの光に包まれる。そして、飛び掛かった狼が頭から光の粒子になってしまったのだ。そして、その粒子はシュミットに向かって飛んでくると、彼の体に吸い込まれるように消滅したのだった。。

 以前は目を瞑ってしまい見ることの無かった景色。しかし、その時の景色を彼は夢の中で見た気分だった。

 

(こ、これがあの時の…)

 

 そして、シュミットの景色はここで暗転したのだった。

 




シュミットは無理をして倒れてしまいました。
そして、彼は自分が使い魔と契約した瞬間を夢の中で見た形になります。
誤字、脱字報告お待ちしております。それでは次回!


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第百七話「秘密」

昨日ランキングを見たら、なんと20位にランクインしていました。嬉しくて感激してしまいました。みなさん、本当にありがとうございます!
今回は短めです。どうぞ!


「…うん」

 

 シュミットは、意識を現実に覚醒させた。

 

(暗い…夜?)

 

 彼はぼんやりと天井を見ながらそんなことを考えた。部屋の中は外からの光が少なく暗かったので、天井の梁の模様まではしっかりと見えない。窓の外を見ると、既に日は落ちて暗くなっており、上空には満月が雲のかかった姿で見えていた。

 

「シュミットさん」

「…サーニャ?」

 

 シュミットは横からの声に気づいてベッドの横を見る。そこにはサーニャが安どの表情を見せながらシュミットを見ていた。

 シュミットはサーニャの方を見ながら体を起こした。

 

「…私は何が?」

「シュミットさん、さっきブリーフィングルームで倒れたんです…」

「…倒れた?」

「覚えてないのですか?」

 

 シュミットはサーニャの説明を聞いても一瞬なんのことかと思った。対するサーニャは、シュミットが自分の身に何が起きたのかを認識していなかったので困惑した。

 

「えっと…訓練の後ネウロイが現れて、ブリーフィングルームに行って、ネウロイは倒されて…」

 

 シュミットは記憶を辿っていくが、彼の中では無線の向こう側でネウロイが撃破されたところで途切れていた。

 

「その後、ミーナ中佐に上がるように言われたら、シュミットさんが床に崩れて…」

「そうなのか…」

 

 サーニャの説明その内容を聞いたシュミットは俯き、そして少ししょんぼりとした。まさか自分が気絶するなど考えても居なかったので僅かにショックを受けたことと、周りに皆に迷惑をかけたことにより気が落ち込んでしまったのだ。

 そしてシュミットはサーニャの方を向いた。

 

「サーニャ、ごめん。その…心配をかけてすまなかった」

 

 シュミットはまずサーニャに謝罪をした。サーニャは突然の謝罪に僅かに瞳を開いたが、シュミットの言葉は続いた。

 

「それだけじゃない。他の皆にも、いらない心配をさせてしまったな」

 

 シュミットの謝罪はだんだん声が小さくなっていき、顔が下に向いていった。ただでさえ女性の体になってしまったことで混乱を招いただけでなく、サーニャを含め、501の皆にいらぬ心配をかけてしまったのだ。彼は、体だけでなく、精神状態まで疲労で少しセンチメンタルになっていた。

 しかし、サーニャはそんなシュミットを咎めるようなことはしなかった。彼女は下を向いて元気をなくしていくシュミットの顔に両手を伸ばしてその頬に触れる。女性となったシュミットの顔の肌はいつもより柔らかさを感じたが、サーニャは下を向いていたシュミットの顔を持ち上げた。

 

「私は、シュミットさんが無事でよかったです。その…倒れた時は凄く不安で、シュミットさんが大変なことになったんじゃないかと思ってしまいましたけど…」

 

 サーニャはそう言って、小さく微笑んだ。彼女はシュミットの無事を心の底から安心していたのだ。彼が倒れた時サーニャは不安になった。医務室でシュミットが寝ている間も、夜間哨戒の無かったサーニャはずっと彼の心配をしてそばに居たのだ。

 そんなサーニャの言葉に、シュミットは胸の奥が熱く感じていた。サーニャは倒れたシュミットの事を怒ったりせず、ただ心配してくれていたのだと感じたからだ。

 シュミットは一筋の涙を流す。そして、サーニャの体に手を伸ばし、そして自分の下へ引き寄せて抱擁した。

 サーニャは突然抱擁されたことに一瞬驚いたが、彼の体の微かな震えと、胸から伝わる鼓動を感じ取った。そして、そのまま何も言わずに両手をシュミットの背中に持っていき抱き返した。

 

「…すまない。少しだけ、こうさせてくれ」

 

 そして、シュミットは、サーニャに小さくだが、ありがとうと囁いた。それは、サーニャがこんな自分の事を心配してくれたこと、そして、こんな自分の我儘を受け入れてくれたことを。

 サーニャは、シュミットの心が落ち着くまで、静かに体を預けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「シュミットさん、もう大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

 

 あの後、長い間互いを抱きしめていたシュミットとサーニャ。しかし、シュミットの震えと心の乱れが徐々に落ち着いてくると抱き合うのをやめ、お互い向き合っていた。

 

「それならよかったです。後でジャーニーさんにも感謝をしないといけないですね」

「ジャーニー?」

「シュミットさんが倒れた時、ジャーニーさんは自分の体を下にしてシュミットさんに衝撃が来るのを防いだんです」

 

 シュミットは突然ジャーニーのことを言われて何のことかと思ったが、サーニャの説明を聞いて驚く。気絶した際、まさかジャーニーが自らの体でシュミットが怪我するのを防いだなどとは知らなかったのだ。

 しかし、シュミットはそのことを言われ、夢で見た事を思い出した。

 

「…なあ、サーニャ」

「はい」

「ジャーニーの事なんだけど」

 

 シュミットは、夢の中で見た内容を話し始めた。以前501にやって来た時にミーナに向けて話したことはあったが、サーニャと一対一で直接話したことはなかった。

 

「じゃあ、ジャーニーさんとはそうして出会ったんですね」

「ああ」

 

 そして、シュミットは一通り説明すると、サーニャに質問した。

 

「サーニャ、私は気になったんだ。以前ミーナ中佐に使い魔の契約が特殊な例って言われたんだ。使い魔というのは通常どのような形で契約をするんだ?」

 

 それは、シュミットの純粋な疑問だった。以前ミーナが「特殊な例」と言ったが、それなら使い魔との契約は一体どういったものなのかについて気になったのだ。

 サーニャは少しだけ考える素振りをみせ、そして説明した。

 

「その、ウィッチが使い魔と契約するときは、使い魔自身がウィッチのお尻に触れるんです」

「し、尻に触れる…?」

「はい」

 

 サーニャの説明を聞いたシュミットは頭の中でそのイメージをして赤面する。まさかウィッチと使い魔の契約方法がそのようなものだとは考えておらず、その内容を知って何とも言えないむずかゆい感覚に陥ってしまう。

 

「なので、シュミットさんの使い魔契約は確かに特殊かもしれません」

「そうなのか…」

 

 そして、シュミットはサーニャの説明を聞いて自分の使い魔について興味が湧いてくる。

 

「ジャーニーは、普通じゃないのかな…?」

「たぶん、そうかもしれません。もしかしたら何か違うのかもしれないですけど」

 

 サーニャはそう言って少し考えると、ある案を閃いた。

 

「そうだ。ジャーニーさんに聞いてみるのはどうですか?」

「ジャーニーに?」

「はい」

 

 サーニャは、こういう時は直接本人に聞いてみるのが一番であると考え、シュミットに提案した。

 シュミットは少しだけ考え、そして頷いた。

 

「そうだね。聞いてみよう…ジャーニー」

 

 サーニャの提案に乗ったシュミットは、ジャーニーを呼ぶように話しかけた。昼間の会話や倒れた時の動きから、ジャーニーは少なくともシュミットの見方側であるのだと感じていた。その為、シュミットはもしかしたらこの不思議な出来事を、ジャーニー自身が話してくれるかもしれないと考えたのだ。

 

「…あれ?」

 

 しかし、ジャーニーはシュミットの呼びかけに反応しなかった。彼の体からジャーニーは具現化せず、部屋に沈黙が流れる。

 シュミットはもう一度呼んでみた。

 

「ジャーニー?おーい…」

 

 しかし、結局ジャーニーは出てこず、だんまりだった。

 シュミットとサーニャの間に微妙な沈黙が流れた。

 

「出てこない?」

「うーん…寝てる?」

 

 結局、なぜジャーニーが出てこないのかということを二人は考え始めた。その時だった。

 

「っ!」

 

 突然部屋の中に「ぐぅ~っ」という子気味のいい音が鳴り響く。それは、シュミットのお腹から鳴った音だった。

 その音にシュミットとサーニャは気づいた。互いに顔を見合わせ、そしてワンテンポ遅れて両者は笑った。

 

「ウフフフ…」

「あ、はははは…」

 

 サーニャはどこかおかしく感じ、こらえきれずに思わず笑った。シュミットは頬を赤くして気恥ずかしそうにし、左頬を指で掻きながら微かに笑い返した。シュミットは昼以降、訓練や戦闘を終えた後に何も食べていなかったので、お腹が空いたのだ。

 

「そっか、もう夜だもんね…皆はご飯食べたんだっけ?」

「はい。私の分も、芳佳ちゃんが持ってきてくれました」

 

 そう言ってテーブルの方を見ると、そこには空の食器の乗ったトレーが置いてあった。

 

「多分、今はみんなお風呂に入ってると思います」

「そっか、風呂…風呂、ねぇ…」

 

 風呂という単語を聞いて、シュミットは徐々に声を小さくし、そして微妙な顔をする。そんなシュミットにサーニャはどうしたのかと思いシュミットに聞く。

 

「シュミットさん?」

「…サーニャ」

「はい」

「私は、お風呂に入らないといけないの?この体で?」

 

 そう、シュミットは昼間の会話を思い出し――そして、嫌なことを思い出してしまった。それは、シュミットが女性の体になった状態で風呂に入らなければならないということだった。

 サーニャはシュミットの言葉の意味が理解できなかった。正確には、身を綺麗にすることは当たり前である以上、その行為自体に疑問を持たなかったからだ。

 しかし、彼の言葉の意味をしっかり考え理解すると、その意図に気づいた。

 

「あっ」

「…」

 

 ただ一言。ほんの一秒にも満たない言葉は、シュミットを固まらせるのに十分だった。そう、シュミットはこの体で風呂に入ることを嫌がった。それは、たんにお風呂が嫌いという訳ではなく、ただただ恥ずかしい想いをしなくてはいけないのかという考えたくもないことに気づいてしまったからだ。

 

 

 

 

 ――そしてシュミットは、体が元に戻るまでの間は訓練および飛行、そして戦闘の禁止を後日ミーナより正式に言い渡された。

 その期間、ある時間帯においてただならぬ羞恥心を感じる訓練のような日々を過ごすことになったのは、サーニャとの二人だけの秘密となったのだった。




というわけで、タイトル通りやたら秘密ができた回でした。
誤字・脱字報告、感想をお待ちしております。それでは次回もまた!


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第百八話「運命(さだめ)」

なんか久しぶりの投稿ですね。


 シュミット女体化事件から数日後の501の朝。

 

「離陸開始」

 

 掛け声とともに基地の格納庫から滑走路へ飛び出していく人影。ストライカーユニットDo335を装着し、MG42を構えながら離陸していくのはシュミットだった。

 肉体が元の姿に戻った彼は、先日に医者の診察により飛行禁止が解除された。そしてブランクを取り戻すべく、すぐさまユニットを履いて鈍った体の矯正へと勤しんでいた。

 

「こちらシュミット。高度4000に到着した」

『こちらでも確認した。そのまま訓練を開始してくれ』

「了解…さて」

 

 空中と海上に設置された障害物がシュミットの目の前に並んでいる。その数は、空が狭いとさえ錯覚させるほど夥しい量だったが、彼に緊張を与えるほどの影響はなかった。

 

「行くぞ」

 

 その言葉と共に、高速でエンジンをうならせ、障害物の渋滞へと突入していく。

 ロマーニャの風に揺れるバルーンはワイヤーで引っ張られていようと不規則な動きをするが、シュミットはゼロの領域を開くこともなく難なく回避をしていく。

 そしてすべての障害物を回避しきると、その先に設置された目標バルーンへ向けてMG42を構え、そして引き金を引く。

 発射された数発の演習弾はそのままバルーンの中央へ着弾し、バルーンが破壊された。

 

「命中!次!」

『こちらでも命中を確認。大尉お見事です』

 

 そして間髪入れずにシュミットは次の目標へと飛翔していく。

 女体化を含めた数日のブランクだったが、彼の腕を鈍らせるほどの影響はさほどなかった。

 その後も次々と目標を破壊していったシュミットは、最後の目標も破壊した。

 

『目標全ての撃破を確認しました。流石ですリーフェンシュタール大尉』

「ああ、ありがとう」

 

 観測員の報告を聞いて、シュミットは現時点でこれといった問題は無さそうだと感じた。

 そして次の訓練に入ろうとした時、彼の目に気になる物が映った。それは、遠方に見える501基地の滑走路から離陸していく飛行物体が反射した陽光だった。

 

「501。今飛びだったのは?」

「はい。ミーナ中佐と坂本少佐の搭乗したJu52です」

「Ju52…そうか、ありがとう」

 

 ミーナと坂本がJu52で離陸していくという事は、彼らの向かう先が連合軍の司令部であることを意味していた。

 シュミットは離陸上昇するJu52にニアミスとならないよう高度を上げると、無線を飛行機へ飛ばした。

 

「お疲れ様です、ミーナ中佐、坂本少佐。お気をつけて」

『ありがとうシュミットさん。そちらもお変わりない?』

「大丈夫です。ですが、もう少し確認を行います」

「そうか。精が出るな」

 

 ミーナ達と短い会話を終えると、Ju52は高度を上げて連合軍司令部へと向かい、シュミットはそのまま訓練を続けた。

 

「あれ?」

 

 しかし、訓練中に違和感を覚えたのは、シュミットが固有魔法を使おうとした時だった。

 いつもの感覚で強化を使おうとした彼だったが、どういうわけかユニットに強化が伝わらなかった。

 

「えっと…こうか」

 

 もう一度強化をかける。すると、今度は伝達したのか、Do335の魔導エンジンが高回転で唸り声をあげる。

 しかし、再び違和感が彼を襲った。

 

『730…735…740…』

 

 徐々にスピードを上げていくシュミットだったが、どうも加速が鈍かった。そして観測班からの報告を聞いていつもより伸びが悪いと確信する。

 

『速度、762km/hで停止しました』

「762!?嘘だろう?前は780を超えたのに…」

 

 シュミットは愕然とした。501に来てからDo335を強化込みでテストした際、彼の出した最高速度は784km/hだった。それから大きな調整を加えていないにもかかわらず、20km/h以上も速度が落ちているとは思わなかったからだ。

 

「もう一度だ」

 

 シュミットはこの減速がただの鈍りであるなら、次は少なくとも速度が上昇するだろうと考えていた。

 しかし、結果は変わらなかった。

 

『大尉、760前後で停止しました』

「またか…そうか、ありがとう。一度基地へ帰投します」

 

 シュミットは、無線交信を終えると、基地の滑走路へ向けて回頭した。

 そして滑走路へランディングを開始したシュミットだったが、滑走路の先に4つの人影が見えた。

 

「うん?シャーリー達が居る。あんなとこでなにしてるんだ」

 

 滑走路の先に居たのは、シャーリーとルッキーニ、そしてリーネと芳佳だった。

 

「あっ。シュミットさん」

「ようシュミット。訓練の帰りか?」

「ああ…シャーリー達はなにをしているんだ?」

 

 シュミットは4人が滑走路で立ち話をしていたので、なにをしているのか質問した。

 

「私たちはこれから宮藤たちを連れて、風呂に行くんだ」

「風呂?シャーリー達4人で?」

「いや?他のみんなもだぞ」

「…ああ、そういう」

 

 なぜこんな時間から風呂と思ったが、先ほど離陸していったミーナ達の事を思い出し、彼の中で答えが見つかった。

 

「なら、みんなが出てから私も呼んでくれ。自室に居るつもりだから」

 

 そう言ったシュミットだったが、シャーリーの横に居たルッキーニが何かに気づいたのかシュミットに聞いた。

 

「ねーねーシュミット、どうしたの?」

「え?」

「だって、全然元気ないよ?」

 

 ルッキーニの言葉につられて、他の三人もシュミットを見る。

 訓練後のシュミットは僅かに汗をかいた様子だったが、これはいつも見る光景だった。しかし、その顔色は僅かに生気がなく、疲れた様子であった。

 

「シュミットさん。そんなにキツかったのですか?」

「いや、そんなことは無いぞ。そんなに疲れて見えるか?」

「うん。なんか変だよね?ねえシャーリー?」

「確かに…」

 

 ルッキーニの言葉に、シャーリーも確信はないが頷いた。

 

「まあ、数日ぶりの飛行でブランクが出ていたのかもしれないな。心配しなくても、お風呂に入れば英気を養えるし、大丈夫だ」

「なら?私達と一緒に入るか?すぐに入れるぞ?」

「…遠慮しておく。というか冗談はよしてくれ」

 

 シュミットは僅かに笑うと、そのまま格納庫に移動していく。

 格納庫内では、ユニットの整備兵たちが慌ただしく動いていた。彼らはユニットの分解整備を既に始めており、いくつかのユニットは既に分解されて部品の交換などが行われていた。

 

「リーフェンシュタール大尉、お疲れ様です」

「ユニット全てオーバーホールか」

「はい。今朝早くに、中佐より全ユニットへの一斉整備の命令が下されました」

 

 整備兵の言葉に、シュミットの予想は確信に変わった。

 

「…毎度手間をかけるな」

「滅相もない!我々の責務ですから」

「そうか」

 

 軽いやり取りをすると、シュミットはユニットを固定台へ付け、MG42を降ろした。

 

「大尉のユニットが来たぞ!かかれ!」

 

 整備班長の掛け声とともに、数名の整備兵がユニットにやってくる。

 シュミットはそれを確認すると、格納庫を後にするのだった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「「そーれいっ!」」

 

 元気いっぱいなわんぱく声と共に大きな水柱が立ち、周囲に水しぶきが立ち込める。

 水柱を起こしたシャーリーとルッキーニは、二人そろって湯から顔を出してはしゃぎ合う。その様子をミーナと坂本、そしてシュミットを除くすべてのウィッチたちが各々の姿勢で見ていたが、まだ湯船に浸かっていない芳佳が疑問に思う。

 

「それにしても、あんでこんな朝早くからみんなでお風呂に入るんですか?」

 

 いつも朝早くからウィッチ達がお風呂に浸かることは無い。たとえ使う例があったとしても少数で、基地のウィッチ全員で朝早くから入るなんてことは日常的には考えられない光景だった。

 しかし、その疑問に先にお風呂に入っていたペリーヌが事情説明をした。

 

「バルクホルン大尉が、『今のうちに英気を養っておけ』ですって」

 

 そう説明された芳佳は、奥に居たバルクホルンを見る。

 バルクホルンは僅かに間を開けて真意を説明した。

 

「――ここでの最後の風呂になるかもしれないからな」

「最後…」

「そう。今朝ミーナと少佐が司令部に行ったでしょ?そこで最終作戦が発動されるらしいんだって」

 

 バルクホルンの説明に補足する形で、湯船で犬かきをしていたハルトマンが付け加えた。いつもはどこかゆるいハルトマンも、この時ばかりは真剣な表情で語った。

 

「最終作戦ですか?」

「ああ。ヴェネツィア上空のネウロイの巣に向けて総攻撃を仕掛ける、オペレーションマルスが発動される」

 

 そうして各々がお風呂から上がっていく。そこでシャーリーは、全員が出たのを確認するとあることを思い出した。

 

「そういえば、シュミットに風呂が空いたことを伝えないといけないな」

「シュミットはまだ訓練中か?」

「いや、自室に戻るって言ってたぞ」

 

 シャーリーとバルクホルンが他愛もない会話をする。その会話を横で聞いていたサーニャがバルクホルンに声をかけた。

 

「大尉、私が呼んできましょうか?」

「頼んでいいか?」

「はい」

 

 サーニャはそう言うと、脱衣所を出ようとした。

 その時だった。ルッキーニの言葉に、奇妙な違和感をサーニャは覚えた。

 

「シュミット疲れてたもんね」

「そうだな」

「疲れていた?」

 

 バルクホルンが聞き返す。

 

「うん。だってなんかフラフラしてよ?」

「いくらブランクがあるとはいえ、確かにちょっと様子が変だったな」

 

 シャーリーもルッキーニの言葉に同調する。しかし、それはまだ半信半疑な様子であり、ルッキーニだけがどこか確信を持った様子だった。

 

「なら、尚更入ってもらわないといけないな。しかし、数日訓練をしなかっただけでふらつくなんて、シュミットもお前の影響を受けて来たか」

「なんだ?カールスラント人は周りの影響に流されないってか?」

 

 バルクホルンとシャーリーのいつもの光景。しかし、その会話にサーニャには得体のしれない不安がちらついていた。

 そしてエイラと一緒にシュミットの部屋へと向かったサーニャは、その扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

 部屋の中からシュミットの声がする。

 合図を聞いたサーニャとエイラが扉を開けると、窓際で椅子に体を預けながら外の様子を見ていたシュミットが顔を二人の方へ向けた。

 

「サーニャにエイラ。どうした?」

「風呂が空いたから、次はシュミットの番だって呼んできたんだ」

 

 エイラに言われて、シュミットは何のことかと少し考え、そして思い出した。

 

「そうか。ありがとう」

 

 そう言うと、彼は椅子から立ち上がって窓を閉めた。

 そんな様子を黙って見ていたサーニャだったが、シュミットの様子がいつもとおかしいと勘づいた。そして、彼に問いかけた。

 

「シュミットさん、大丈夫ですか?」

「うん?どうして」

「さっき、ルッキーニちゃんがシュミットさんが疲れているって」

 

 サーニャの言葉を聞いて、シュミットはああ、と思った。そして、サーニャも自分が僅かに不調であると見抜かれたのだなと観念した様子だった。

 

「大丈夫さ。そんな調子が悪いわけじゃない」

「ホントか?」

 

 エイラにも指摘された。流石に、シュミットも三人に指摘されてはこれが気のせいと見過ごすわけにはいかないと感じた。

 

「みんなして指摘するって事は、やっぱなんか疲れてるのかな。まあお風呂に入ればこりも解れるさ」

 

 そう気軽に言うシュミットだったが、サーニャの表情がそれでもどこか気にしていると言った様子なのを見て、誤魔化せないなと観念した。

 

「やっぱ、誤魔化せないか」

「誤魔化すって、サーニャはシュミットの事を心配しているんだぞ。それを…!」

「分かってる。みんなが私の不調を心配しているのは。私自身だって感じていたんだから」

 

 エイラの言葉を遮るように、シュミットが言った。そして、数秒の沈黙が流れた後、シュミットが口が開いた。

 

「久しぶりの飛行でブランクがあると思っていたが、今日の訓練飛行は順調にできていたんだ。だから()()要因ってわけじゃないと思う。なんせ、いつも通りの機動をしてもこれといった違和感はなかったからね」

「じゃあ…」

「ただ」

 

 サーニャが言葉を発する前に、シュミットが話をつづける。

 

「ただ…固有魔法を使った時、いつもよりユニットの加速が鈍く、強化時の最高速度が低下した。それ以上に、今日の訓練で一度固有魔法がかからなかったんだ」

「え?」

 

 説明を聞いたエイラとサーニャは、シュミットの身に何かとんでもなく悪い事が起きているのだという不吉さを感じた。

 だが、シュミットの次の言葉を聞いた二人は、目を見開いて驚くこととなる。

 

 

 

「……ウィッチの魔法力ってのは、一般的には2()0()()()()()()()()()()()んだよな」

「あ、ああ…って、まさか!?」

「そんな…」

 

 

 シュミットの説明を聞いたエイラとサーニャは、その事実から彼の直面している問題が何かを理解した。それは、世界中のウィッチが僅かな例外を除いて迎えることとなる宿命であり、切りたくても切り離せない残酷な現実だった。

 

「確証はないけど、私の魔法力の減衰がもう始まっているんだと思う」




随分久しぶりの投稿となりました。また少しずつですが投稿を再開していこうと思います。
というわけでシュミットですが、ついにこの時が来てしまったわけです。
こんな状態でどうやって劇場版!?ベルリン編!?シュミットの明日はどうなる!?
誤字、脱字報告、感想をお待ちしております。それでは次回(いつだよ)もまた!


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