仮面ライダーAP (オリーブドラブ)
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第1章 鉄仮面の彦星
第1話 シェードの残影


 夜の帳が下り、艶やかなネオンが煌めきを放つ夜の東京。その一角にある小さなバーで――とある一人の若いバーテンダーが、カウンターの上に設置されたテレビを眺めていた。

 

『相次ぐ、シェードの改造人間による襲撃事件は留まることを知りません。警察も自衛隊も、この神出鬼没の怪人達に対抗しうる術を見出せていない状況です』

『シェードと交戦している謎のヒーロー「仮面ライダー」を目撃した――という情報もありますが、依然としてその実態は明確にはされておりません』

『そもそも、仮面ライダーには本当に正義があるのでしょうか。被験者保護施設の関係者や人権団体からは、改造人間の生存権を著しく侵害する凶悪な連続殺人犯と、糾弾する声も上がっています』

 

 城南大学二年生、南雲(なぐも)サダト。20歳を迎えたばかりの彼は、テレビで絶えず報道されている物騒なニュースに、居心地の悪さを覚えていた。

 というのも、報道された事件現場がこの近くだからだ。

 

「……たくよぉ! 近頃の世の中は物騒過ぎらァな! ついこないだまで対テロ組織だなんだと担がれてたシェードが、今じゃ悪の秘密結社! 連中にいつ襲われるかわからねぇってんで、今じゃ若いねーちゃんも夜道をうろつかねぇ! 昔は会社帰りにナンパし放題だったのによォ!」

「お客さん、飲み過ぎですよ。もう直ぐ店じまいですし……」

「るせぇクソガキ! 誰のおかげでこのガラガラのオンボロバーに金が落ちてると思ってんだ、えぇ!?」

 

 4、50代のリーマンは飲んだくれながらサダトに八つ当たりし、赤い顔のままふらついていた。

 

「お客様。あまり飲み過ぎてはお身体に障りますよ。今日は、娘さんの誕生日でしょう? 早く帰って、安心させてあげてください」

「……ちっ、わぁったよ」

 

 だが、サダトの後ろから現れた白髪の老紳士に諭されると、罰が悪そうに立ち上がる。彼はそのまま会計を済ませると、よろめきながら店を出てしまった。

 

「すみません、オーナー……」

「いいんだ、サダト君。君が対応に困るのも無理は無い。何せ彼は、7年前のテレビ局占拠事件で、奥様をシェードに殺されているのだから……」

「……」

「――ゆえに今は、一人娘だけが拠り所なのだ。それでも、どうしても奥様のことを忘れられないでいる……。だから酒に溺れることで、現実から逃れて安らぎを得たいのだよ。……私に免じて、許してあげて欲しい」

「……別に。怒ってなんかいません。ただ、やるせないだけなんです」

 何もできないもどかしさ。客足の途絶えたこの小さなバーに、その感情だけが残されていた。

 

 ◆

 

 ネオンの光も届かない、穏やかな住宅街。輝きを失った夜空は、その闇を以てこの空を覆っている。

 

(シェード、か……)

 

 バイトから上がり、赤いレーサーバイクで帰路についていたサダトは、その中にある下宿先を目指して夜道を走っていた。

 

 馴染みの公園はすっかり闇夜に包まれ、設置されている照明だけが、そこを照らしていた。

 

 ――そこを越えた先にある曲がり角まで、いつものように向かった時だった。

 

(なっ……んだ!)

 

 ドタドタと深夜に忙しく響く足音。その音源に目を向けた先には――フードを深く被った厚着の少女を、迷彩服を纏う数人の軍人達が追いかけている光景があった。

 

 非日常極まりないその絵面の異常さだけに気を取られそうだったが――サダトは少女を追う軍人達の装備に目を移す。その見た目には、見覚えがあった。

 

(な、なんでシェードがこんなところに!)

 

 脳がそれを理解した瞬間、サダトは咄嗟に一刻も早く逃げようと、アクセルを踏み込もうとする――が。

 

「……くッ!」

 

 どうしても、それはできなかった。女の子を見捨てては逃げられない、というなけなしの理性が、恐怖という絶対的な本能に胃を唱えたのだ。

 

 彼はバイクをターンさせると、行き慣れた道を通じて軍人達の背後に回る。

 

「ぐわぁあ!?」

「く、邪魔者か!」

 

 そして後方から容赦無く、バイクによる体当たりを敢行した。だが、シェードの手先ともなればやはり改造人間であることは間違いないらしく――バイクの追突で吹き飛ばされたはずの彼らは、憤怒の表情で立ち上がってくる。

 

(化け物かこいつら! ――ちくしょうッ!)

 

 だが――サダトは恐れを振り切り、赤茶色のレザージャケットを翻してバイクから飛び降りる。そして、襲いくるシェードの刺客に強烈な突きや上段回し蹴り、裏拳を見舞った。

 それでダメージを受けてはいなかったが、予想外の反撃を受けた彼らは、警戒した表情でサダトを睨み付けた。

 

「貴様……何者だ」

「……少林寺拳法四段、テコンドー五段。なんだけど、まるで効いちゃいない……よな」

 

 手応えは確かにあった。普通の人間なら、間違いなく一発で病院送りにできるほどには。しかしシェードの軍人達には、まるで効き目がない。却って警戒させて、隙を狙えなくなってしまっていた。

 

「……乗って!」

「あ、あなたは……」

「話は後だ、急いで!」

 

 こんな怪物相手では、武闘派バーテンダーであるサダトでもどうにもならない。彼は足早にバイクに跨るとタンデムシートに少女を乗せ、緊急発進する。

 無論、シェードの軍人達は阻止しようとするのだが――それよりも先に体当たりを再び食らわされ、転倒させられたのだった。

 

 そして彼らがもう一度立ち上がる頃には――二人の男女を乗せたバイクは、夜の闇に消え去っていた。

 

「あの男……」

「……ドゥルジ様に報告しろ。新しい『素体』になり得る」

 



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第2話 エリュシオン星から愛を込めて

「……今の話、本当なのか?」

「信じ難いのも、無理はありません。信じられない、と仰るならば、それもやむを得ないでしょう。それでも私は、これか真実であると言わざるを得ないのです」

 

 シェードの追っ手を振り切ったサダトと少女は、彼の下宿先であるボロアパートに身を寄せていた。

 その六畳間の狭い部屋の中、ちゃぶ台を挟んで向き合う二人は、この場に似つかわしくないほどにスケールの広い話をしている。

 

 彼女がサダトに語った話によると。

 アウラと名乗ったこの少女は――なんと、遠い外宇宙からやってきた異星人「エリュシオン星人」なのだという。

 シェードによって改造人間にされ、人間に戻れなくなった人々を救う為、自らの意思で地球に訪れたのだそうだ。

 

 ――シェードと言えば、かつては対テロ組織として活躍し、精鋭中の精鋭と目されていた特殊部隊。

 

 しかし、ある時にその実力と成果が「人体改造」「洗脳手術」という非人道的行為の賜物だという事実が発覚し、組織は解散。

 

 統率者だった人物・徳川清山(とくがわせいざん)も投獄されてしまったという。

 

 だが7年前、その解散したはずのシェードが、テレビ局を占拠して、人質と徳川清山の交換を要求する事件が起きたのだ。

 

 その件は、シェード内で起きた内紛と思しき、改造人間同士の乱闘によって鎮静したが、彼らの再来は世間を震撼させるには充分過ぎるほどだった。

 

 さらに、シェードの非人道的行為が発覚した後も、すでに改造された被験者達は人間に戻れなくなった苦しみに苛まれ、社会問題にもなっている。

 ――彼女は、そんな被験者達を生身の人間に戻すために、はるばる宇宙から来たのだというのだ。

 

「……そういえば。アメリカやロシアにいた被験者が奇跡的に生身に戻った、なんてニュースが半年くらい前にあったっけ。あれも、君が?」

「はい。あの人達には再改造手術に成功したということにして、私のことを秘密にして頂いているんです。私の力が明るみに出れば、良くないことに利用されたりするでしょうから」

「……そういうことなら、シェードに狙われることにも説明がつく。向こうからしたら、せっかく手塩にかけて改造した被験者なのに、人間に戻されたりしたら全部の水の泡だもんな」

「えぇ。……まだメディアには知られていませんが、彼らにはばれてしまったようで――あのように、追われるようになったのです」

 

 そこまで語ると、彼女はフードを取り――艶やかな黒髪のボブカットを靡かせ、その美貌を露わにする。

 

 雪のように白い柔肌。くびれた腰に反して豊満に飛び出た胸に、むっちりとした臀部から太腿にかけての滑らかなライン。淡い桜色の唇に、大きく碧く煌めく瞳。

 確かに、異星人と言われると思わず信じてしまいそうな――おおよそ天然の地球人とは比にならない絶対的な美貌の持ち主であった。サダトの胸元程度しかない身長から察するに、恐らく10代であるが、そのプロポーションは到底、少女と呼べるようなものではない。

 

 その美しさに、思わずサダトも息を飲むが――それを悟られまいと咳払いをして、平静を装う。

 

「……南雲様を、このような事態に巻き込んでしまったことには……もはや、弁明の余地もありません。――申し訳、ありませんでした」

「いいさ、別に。乗りかかった船ってやつだろ? こういうの。……さて、だったらなるべく外は出歩かない方がいいな。行く先が見つかるまでは、ここにいた方が安全かも知れない」

 

 そんな彼女は死刑を待つ囚人のように目を伏せていたのだが――この場の空気に全くそぐわない、サダトの場違いな反応に思わず顔を上げてしまった。

 

「怒っては……おられないのですか? 私は、自分の勝手な都合であなた様を巻き込んで……!」

「君が追われてるのは、苦しんでる人を救ってきたから――正しいことをして来たからなんだろ? 正しい人を責めたくは、ない」

「……!」

 

 その言葉に、アウラは驚愕したように目を見開くと――潤む瞳を細め、口元を両手で覆う。感極まった自分の想いを、懸命に隠そうとして。

 だが彼女は、その思慕の情に嘘を付くことは出来なかった。

 

「よし、じゃあこうするか」

「……?」

 

 ふと、サダトは肘をちゃぶ台の上に乗せて、小指を立てた。その意図を察することが出来ず、アウラは小首をかしげる。

 

「南雲様、それは……?」

「んー、約束を守るためのおまじない、かな?」

「約束……」

「ああ。君のやることを信じる、っていう……約束」

「……」

 

 その目的と意義を知り、異星の姫君はほんのりと白い頬を染めて――サダトの向かいに座り、自分の小指を絡めた。

 

「南雲様……」

「ん?」

「私、私……出逢えた人が、あなたで良かった……」

「……そうか」

 

 それは、単なるおまじない。

 

 だが、知る者も頼る者もいないまま、孤独に救済の旅路を歩んできた彼女にとって――小指から伝わるサダトの体温は、かけがえのない温もりとなっていた。

 

 

 ……時は2016年。

 人間の尊厳を顧みない悪の組織と、孤独な愛の戦士の戦いが幕を開けて、7年が過ぎようとしていた……。

 




※エリュシオン星人
 成井紀郎先生が執筆された漫画版ストロンガー「決死戦7人ライダー」に登場。デルザー軍団やショッカーの黒幕である「タルタロス星人」に滅ぼされた惑星の生き残りであり、作中では科学者として働かされていた。
 大首領と相討ちになった7人ライダーを緊急手術で救い、元の人間に戻した。改造人間を生身に戻すことができる、希少な存在である。
 G本編から7年後であることから、7号ライダー「ストロンガー」に因み、この設定を採用。


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第3話 迫る闇

 場所は変わり、地下深くに位置する、とある場所。

 

 天井からは水滴が滴り、コンクリートの床には、所々に水溜まりがある。

 

 あちこちを蝙蝠が飛び回り、周囲には不気味な機械類が散乱していた。

 

「データの最終調整を始める」

 

 一筋の光明さえ差さない暗黒の空間に、一人の男のしゃがれた声が響き渡る。

 

 それを合図に、地べたを駆け回る鼠を踏み潰し、何人かの白衣の男達が、黙々と機械へ向かう。

「人工筋肉、及びパワーソースの最終データチェック完了」

「特殊装甲……及び固定兵器の最終データチェック完了。全てのデータチェック、完了しました」

 

 まるで機械の一部であるかの如く、白衣の男達は黙々と各々の作業をこなしていく。

 

 一糸も乱れぬその動きで作業が終了すると、指揮を執っていたと思しき男が、声を張り上げる。

 

「よし――事前データは完璧だ。『食前酒計画(アペリティフけいかく)』の完成の日は近いぞ」

 

 下卑た笑いを浮かべる彼の下に、作業を終えた一人の若い白衣の男が歩み寄る。

 

「No.5の基礎データを基に設計された量産型を配置し、それを前座として奴にぶつける。そして、弱った所を……!」

 

 刹那、若い男の体から一筋の光が放たれ、異形の怪人に変貌する。

 人体模型のような風貌を持つその全身は、毒々しい粘液で覆われており――彼の足が地に触れる度、びちゃりびちゃりと粘つく音が響き渡っていた。

 

「この私……エチレングリコール怪人が一網打尽に! 完璧な作戦ですね」

「うむ。あとは被験体の調達のみだ」

 

 統率者らしき男は、コンピュータに表示された数値データを眺めて腕を組むと、眉間に皺を寄せる。

 

 被験体の調達。一番の問題はそこだった。

 

「7年前の織田大道(おだだいどう)の失態のおかげで、我々は貴重な被験体を大勢失っているのだからな。手当たり次第に捕縛するほかないが……」

 

「隊長、ご安心を」

 

 彼の傍にひざまづき、異形の怪人はニヤリと笑う。

 

「大義ある『食前酒計画』。その被験体のうちの一人は、既に目星を付けております。他の候補も、必ずやこの私が手に入れてご覧に入れましょう……」

「ほう……? 楽しみにしているぞ……わが同胞よ。して、あのエリュシオン星人の方はどうなっておる? 抹殺には成功したか?」

 

 男を見上げる怪人は、さらに粘つくような下卑た笑みで口元を吊り上げ、言葉を紡ぐ。

 

「いいえ。あの娘は捕縛し、こちらで管理することとしました」

「なんだと? なぜそんなことをする必要がある。あの娘は危険だ、生かしておけば次々と我々の作品を台無しにされてしまうのだぞ!」

「ええ、無論その通りです。しかし、脅威となるのは野放しであれば――という話です。我々の手中に収めれば、これ以上ない便利な『道具』になるでしょう」

「なに……?」

「あの娘は改造人間を生身に戻してしまう。それは裏を返せば改造手術に失敗しても、被験者が死ぬ前に元に戻せる、ということです」

「ほう……」

「ならば丈夫で新しい被験者を探す手間が省ける上、トライ&エラーを繰り返し、より精強な怪人を創り出せるようにもなりましょう。それに何と言っても――奴は女。我々の手で、改造人間を元に戻せる『道具』を量産する『母体』に調教すれば……」

「ククク、なるほど……。聞けばあの娘、なかなかに見目麗しい女だという話ではないか。我が配下の野獣共も、さぞ喜ぶだろう……。いいだろう、ドゥルジ。お前の望むようにやって見せろ」

「はい……フフフ……」

 




※エチレングリコール
 粘り気のある無色透明の液体。トラクターや自動車などの不凍液として主に利用されている物質であり、消防法により危険物の一つに指定されている。
 毒性がある物質であり、1980年代にワインに甘味を出すために使用され、問題になった。


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第4話 束の間の……

 南雲サダトとアウラの出会いから、数週間。

 

 サダトの部屋に匿われた彼女は、彼がバイトや大学で家を空けている間の家事や炊事を行い、部屋主の帰りを待つ日々を送っていた。

 一方。サダトは彼女の分の生活費を稼ぐべく、バイトをさらに増やしている。移動先の目処が立たないうちは、彼女を外に出すわけにはいかないからだ。バイトさせるなど、以ての外である。

 

(でも、これってまるで……や、やだ。何考えてるの、私……)

 

 そんな暮らしが続く中で、アウラは今の自分の姿を思い返し――妄想を繰り返しては、罪悪感に沈んでいた。こんな状況だというのに、心のどこかで幸せを覚えている自分がいたからだ。

 

(これってなんか……い、いや考えちゃダメだ俺。あの子は16歳なんだぞ。エリュシオン星じゃ成人扱いらしいが、こっちの基準で言えば高校一年生だ。犯罪だ)

 

 同じ頃。サダトも大学の講義がまるで頭に入らず、悶々としていることも知らずに。

 

 ――その夜。いつものように、勤め先でのバーで一仕事を終えた彼が、黒い制服からレザージャケットに着替えていると。

 

「サダト君。最近、いつもよりシフトが多いね。買いたいものでもあるのかな?」

「……え、えっとまぁ……そんなところです」

 

 オーナーである老紳士が、目を細めて尋ねてくる。視線を逸らし、歯切れの悪い返答しかしないサダトに、彼は穏やかな笑みを浮かべた。

 

「――そうか、恋人か。君もなかなか隅に置けないな。その顔立ちで、今までいなかったという方が不思議なものだが」

「え……い、いや、ち、ちがっ……!」

「ふふ、無理に否定することはない。大切にしてあげなさい」

「いや、だから……も、もういいです! お疲れ様でした!」

「ご苦労様。ふふふ」

 

 本当のことを話せないサダトに対し、老紳士は当たりとも外れとも言い切れない指摘を送る。そんな彼の言葉を否定することに踏み切れず、サダトは喚くように声を上げてバーを後にした。

 その背中を微笑ましげに見つめる老紳士の視線を、振り切るように。

 

 ――癖がある一方で、艶のある黒い髪。整った目鼻立ちに、強い意思を宿した眼差し。いわゆる細マッチョという体格で、姿勢もいい。

 それだけの容姿を備えていて今まで彼女がいなかったのは、ひとえに恋愛に奥手なその性格が原因であり――そこが最大のコンプレックスでもあったのだ。

 

 ◆

 

「……ったく、あの人は全く……」

 

 ネオンが煌めく町を抜け、静かな住宅街へと進んでいくサダトのバイクは――わざと遠回りを繰り返しながら、下宿先のボロアパートを目指していた。帰りの途中でシェードに発見されても、すぐに住処がバレるようなことにならないためだ。

 遅かれ早かれ暴かれるとしても、ある程度時間を稼げば、アウラだけは逃がすこともできる。彼女は改造人間にされた人々を救える、唯一の希望だ。絶対に守らねばならない。

 

(……!?)

 

 その思いを新たにした時。得体の知れない気配の数々が、サダトの第六感に警鐘を鳴らした。その殺気を後方に察知した彼は、素早くハンドルを切ると進路を変え、自宅から遠ざかって行く。

 彼の行方を追う数台のバイクは、彼の背をライトで照らしながら、付かず離れずといった距離で彼を追跡する。

 

(来たな……!)

 

 そんな追っ手を一瞥したサダトは、行き慣れた狭い道を駆け抜け、林の中へ入り込んで行く。無理に追おうとしたそのうちの何台かは、そこで木にぶつかったりバランスを崩したりして、次々と転倒してしまった。

 狙い通りに撒いていけている。その光景から、そう確信していたサダトの前に――

 

「遊びは終わりだ、小僧」

「……ッ!?」

 

 ――悍ましい風貌を持つ怪人が、全身から粘液を滴らせ、正面から待ち構えていた。舗装されていない林の中で、相手が待ち伏せていたことに驚愕する余り――サダトは声を上げることすら出来なかった。

 そして――瞬く間にバイクを片手でなぎ倒され、サダト自身も吹き飛ばされてしまう。

 

「うわぁぁああぁあッ!?」

 

 舞い上がる身体。回転していく視界。その現象と身体に伝わる衝撃に意識を刈り取られ、サダトは力無く地に倒れ伏した。

 彼を見下ろす人体模型は――口元を歪に釣り上げ、ほくそ笑む。

 

「ようこそ――シェードへ」

 

 

 

 

 ――しばらく時が過ぎ。かつて青年がいた場所に彼の姿は見えず、彼の私物であるオートバイだけが残されていた。

 

 そして、そこにもう一台の、純白のカラーが眩しいオートバイを駆る男が訪れる。

 

 彼はヘルメットを外し、今や無人となったそのレーサーバイクを眺めていた。

 

「遅かったか……!」

 

 口惜しげに苦虫を噛んだ表情で、青年はバイクに駆け寄る。

 そのバイクのすぐ傍に、木の葉や草が何かに溶かされた跡があった。

 

 自然のものとは思えない、その痕跡。それと倒れたオートバイを交互に見遣る男は、眉を顰める。

 

「これは……」

 

 そして素早く立ち上がると――自身の愛車に跨り、弾かれるように走り出して行った。

 

「シェードの仕業に違いない……無事であればいいが……!」

 

 時は一刻を争う。彼の表情が、そう語っていた。白いジャケットを纏うその男はさらに

愛車を加速させていく。

 

「また一つ、尊い命が奪われようとしている……許すわけには行かない!」



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第5話 愛するために

 南雲サダトの突然の失踪から、数日。

 

 行方をくらましたまま、一向に帰ってこない彼の行方を案じるアウラは、窓から見える町並みを覗き続けていた。

 もしかしたら、ひょっこり姿が見えるのではないか。そんな、淡い期待を抱いて。

 

「南雲、様……」

 

 だが、彼が期待通りに現われることはなかった。そして――その理由は容易に想像がつく。

 

「やはり、シェードに……なら、それは私の……」

 

 シェードに狙われていた自分を庇った。標的にされる理由など、それだけで十分過ぎる。そして、そこから来る自責の念が、彼女の心を大きく揺るがした。

 

(私が、あの人を……)

 

 いくら外を覗いても、待ち続けても。彼は帰ってこない。その現実に打ちのめされたように、アウラは膝から崩れ落ちていく。

 それほどまでに、彼女にとっては大きいのだ。南雲サダトという男の存在は。

 

(……故郷から、この星の人々を改造人間の哀しみから救うべくやって来て、半年。この日本に来るまで、私は何人もの被験者達を治療してきた。けど……)

 

 ――アウラはこれまで、世界中を巡り改造手術の被験者にされた元構成員達を、何人も救ってきた。……だが、それで必ずしも誰もが幸せになれたわけではない。

 

 むしろ人間に戻ったせいで、一度社会から追放された者は生き抜くための武器を失い、野垂れ死んだケースもある。治療が原因でシェードに存在を知られた彼女の巻き添えで、人間に戻って間も無く殺されたケースもある。

 

 そんな彼女に向かう、遺族の罵声。怨み。嘆き。その全てを背負ってなお、彼女は治療を投げ出さなかった。ここで立ち止まれば、その時こそ犠牲になった命が無駄になってしまうのだと。

 

 それでも。たった一人で背負うには、その罪は重過ぎた。

 だから彼女は、味方も作らず無謀も承知で、わざわざシェードの本拠地がある日本に来たのだ。彼らに捕まり、殺されるならそれもいい――と、半ば投げやりに己の命を軽んじて。

 そうすることで、自分の罪を清算しようと。

 

 ――だが。

 それを許さない者がいた。

 

 シェードに追われ、いよいよかと覚悟を決めようとした自分を、身を呈して守り抜いた青年は――罪に塗れているはずの自分を、こともあろうに「正しい」と言ってのけたのだ。

 

 そんな資格はない、と頭では理解していながら。自分には勿体無いとわかったつもりでいながら。それでも心のどこかで、狂おしく求め続けていた言葉が――アウラという少女の心を、溶かしてしまったのだ。

 もう――この人なしではこの星で生きられないと。

 

 それほどまでに想う相手が、自分が原因で危険に晒されてしまった。その胸の痛みは、あらゆる痛みに勝る責め苦となり、彼女を締め付けている。

 ――そして。その痛みが。

 

(助け出さなくては……南雲様を、なんとしても!)

 

 愛する男との約束を破ってでも、捜索に向かう決断に踏み切らせたのだった。彼女は「家を出るな」というサダトの言いつけを破ると、勢いよくアパートを飛び出し、東京の街へと繰り出して行った。

 

 絶世の美貌を持つ彼女は、道行く人々の視線を一身に惹きつけ、時として色欲に塗れた男達に声を掛けられることもあった。

 だが、それら全てをかわす彼女は、一心不乱にとある場所を目指す。――彼女の胸中には、心当たりがあったのだ。

 

 ――それはかつて。No.5と呼ばれた改造人間と、7年前のテレビ局占拠事件の首謀者との決戦が行われた廃墟。

 そして今は、シェード残党が潜伏するアジトにもなっている。

 

 都会から程よく離れた地点であり、遮蔽物が多く入り組んだ構造でもあるため、彼らにとっては絶好の潜伏先なのだ。

 

 「仮面ライダー」と呼ばれているNo.5により、7年に渡る戦いで世界各地のアジトを潰された彼らは今、居場所を求めてこの場に集まっている。

 アウラは改造人間が持つ独特の脳波を感知し、その気配が集まる場所を特定していたのだ。

 

 人気がまるでない、僻地の廃墟。そこにいるだけで孤独感に押し潰されてしまいそうな、その魔境に足を踏み入れた彼女は――神経を研ぎ澄まし、怪人達の居所を追う。

 

(失踪から数日が経っていても、南雲様の御遺体は発見されていない。シェードが人手不足になっているという点を考慮するなら、改造人間にするために誘拐されたという線が強い。……なら、今もこのアジトに囚われているはず!)

 

 サダトの脳波を探し出そうと、アウラは瞼を閉じ、さらに感覚を鋭利なものにしていく。――その時。彼女の足元に砂利の坂から小さな瓦礫が転がって来た。

 

「……!」

 

 小さな埃が舞い散り、アウラは顔を守るようにそれを振り払う。

 

 ――刹那。禍々しい気配が、少女の第六感に轟いた。

 

 瓦礫が転がる坂の上にいる「何か」を見上げた彼女は、恐怖に屈しまいと唇を噛み締める。

 

「……!」

 

 彼女の眼前の先。

 

「……まさか貴様の方から、のこのこと来てくれたとはな。――エリュシオン星人よ」

「――シェードの改造人間っ!」

 

 そこには、シェードによってその身を改造された異形の怪人が佇んでいたのだ。

 

 青白い筋肉組織のようなものを剥き出した、人体模型を思わせる悍ましい姿。

 

 更に、その全身を得体の知れない、無色の粘液が覆っている。

 彼が一歩踏み出すたびに、べちゃり、という音が立つ。

 

 シェードの刺客……エチレングリコール怪人だ。

 

「さぁて……孕んでもらおうか、俺の子を!」

「――お断りよ!」

 



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第6話 仮面の戦士

 怪人はアウラに覆い被さらんと、駆け出した。そんな悍ましい怪物の猛威に怯むことなく、アウラは持ち込んでいた煙幕で姿をくらます。

 

 だが、エチレングリコール怪人は諦めることなく、彼女を探し回る。びちゃりびちゃりという音が、ますます激しくなっていった。

 

 やがて煙幕を抜け出し、獣欲に爛れた瞳でアウラを見据え、執拗に付け狙うエチレングリコール怪人。

 

「ふふふ、くはははは!」

「くッ……!」

 

 狂うように笑いながら、あっさりと彼女に追いついてしまった彼は――彼女の柔肌を手に入れようと、その手をゆらりと伸ばし……。

 

「はああっ!」

「ぐおっ――ぁあぁぁあッ!?」

 

 突如、コンクリートの壁をぶちやぶり現れた――もう一人の異形の者に、跳ね飛ばされてしまった。

 白く輝くバイクの体当たりを受けたエチレングリコール怪人は、その身を激しく吹き飛ばされていく。

 

「ぐぬぅッ!?」

 

 自らを覆う粘液を撒き散らしながら、彼の体はぐちゃりとコンクリートの床にたたき付けられてしまう。

 

 粘液の存在が多少は衝撃を緩和したようだが、それだけでダメージが無くなるわけではない。

 

 痛む箇所を押さえながら、粘液を纏う怪人は、颯爽と現れ、自らを襲った人物を睨み据える。同時に、アウラは自分を救った仮面の戦士に目を奪われていた。

 

「遂に現れたな……!」

「あ……あな、たは……!」

 

 純白のオフロードバイク。

 

 赤と黒の配色を持つ、シャープなスタイル。

 

 左足に伸びる真紅のライン。

 

 金色に煌めく大きな複眼。

 

 バックルに納められた、一つのワインボトル。

 

 そして――胸と複眼に輝く「G」の意匠。

 

 シェードが最も恐れ、最も危惧すべき戦士――「仮面ライダーG」。その凛々しくも雄々しい姿が日の光を後光にして、まばゆい輝きを放つ。

 

「あの事件から7年。よくもこれまでのうのうと生きて来たものだ! 我々の相手をしながら……」

 

 息を荒立てるエチレングリコール怪人を尻目に、Gは悠然とバイクを降りる。

 

 ――そこには、確かな歴戦の貫禄があった。

 

 静かな足取りで、ある程度の距離まで近づくと、彼はようやく重い口を開く。

 

「どこまでも生きていけるさ。この世界を守ると、約束したのだから。彼らと――彼女と」

 

 孤独な愛の戦士の脳裏に、7年前の戦いが蘇る。

 

 テレビ局での、かつての恋人だった日向恵理(ひなたえり)との運命の再会。

 思い出のワイン。洗脳からの解放。

 彼女を守る決意。裏切り者の烙印。

 隊長格の織田大道(おだだいどう)との死闘。

 

 そして、10人の仮面ライダーとの出会いと、激励。

 

 あれから7年間。洗脳されていた時の犯行声明が原因で社会からも迫害された彼は、たった独りでシェードの刺客と戦い続けていた。

 

 ――恐れはなかった。

 愛する者を守る事、それだけがGを戦いへと突き動かしていたからだ。

 

「人間社会は改造人間を受け入れない。そして我々は裏切り者を受け入れない! 貴様の行く末に、安住の地などないのだ!」

 

「安住の地なら、ある。彼女という、安住の地が」

 

 Gは語る口を止めることなく、拳を握り締める。これから始まる戦いに、己を奮い立たせるために。

 

「その安住の地を守る為に、僕は貴様達に立ち向かって来た。これまでも――これからも」

 

 Gはエチレングリコール怪人と真っ向から向き合い、握り締めた拳を構える。しかし、怪人に怯みは無い。

 

「馬鹿め! 私の体は猛毒の粘液で満たされている! さっきはバイクでの追突だったから通じなかっただけ……直に触れれば貴様とて!」

「なら――触れなければいいんだろう?」

 

 言うが早いか、Gの胸のプロテクターから、同じ形の物体が現れた。

 それは彼の右手に渡り、掌中に収まると同時に、先端にソムリエナイフを思わせる刃が出現した。

「し、しまっ――!」

 

 まばゆく閃くGの剣が、凄まじい勢いでエチレングリコール怪人に向かって行く。一切の隙を与えない、電光石火の連続攻撃。

 7年間に渡る実戦経験の賜物である、その剣技を前に――怪人は防戦を強いられた。

 

「うっ、ぐうっ!」

 

 後ずさりするしかない。怪人に焦燥が走る。

 

 反撃しようと踏み込めば、間違いなくそこから生まれる僅かな隙を狙われ、切り裂かれてしまうだろう。

 防御するために突き出した彼の両腕からは、激しく火花が飛び散り続けていた。

 

 一方で、Gも攻撃を緩めるつもりは全くなく、流麗かつ素早い剣捌きでエチレングリコール怪人を圧倒する。

 

「――ハッ!」

 

 そして、連続攻撃の末に繰り出された、大きく振りかぶった一撃。

 

「グギャアァアッ!」

 

 それを浴びた怪人は、容赦なく吹き飛び、再び地を転げ回った。毒性の粘液を撒き散らし、怪人は二度に渡って襲い来る痛みにのたうちまわる。

 鮮やかな身のこなしで武器を操るGとは対照的だ。

 

「これ以上は無駄な事。早々に諦め、降伏することだ。幸い、ここに改造人間を人間に戻せる姫君もいる」

「――!? ど、どうして私のことを……!」

「シェードのヨーロッパ支部と戦っている最中、奴らの情報網から君のことを偶然知ったんだ。……まさか、日本に来ているとは思わなかったが」

「……」

「――さあ。貴様も改造人間としての役目を捨て、人間に立ち戻れ。僕も、不要な争いはしたくない」

 

 先刻の滑らかな動きからは想像のつかないような毅然な姿勢で、Gは怪人に降伏を勧告する。だが、エチレングリコール怪人は降参の意を示さない。

 痛みに苦しみながらも、Gの威圧に屈する様子が見られないのだ。

 

「……流石だ。7年間に渡り、我々を翻弄し続けて来ただけの事はある」

 

 ひび割れたコンクリート壁に寄り掛かりながら、粘液を纏う怪人は立ち上がる。

 

「だが――その7年間という月日は、我々に貴様の様々なデータを残していったのだ」

 

「僕の……データだと?」

 

 自分の情報が話に関わっていると知り、Gはマスク越しに顔をしかめる。

 

「そうだ! 我が食前酒計画の真髄、心行くまで堪能していただく。行け、APソルジャー!」

 

 その時。

 

 Gは己の背後に凍てつくような殺気を感じた。

 

「っ!」

 

 後ろにいる――敵が!

 

 咄嗟の判断で水平に身をかわす。

 

 すると、さっきまで彼が立っていた場所に、謎の五人衆が舞い降りて来た。

 

「メインディッシュは、最後まで取っておくもの。まずは前置きから楽しんでいただかなくてはな!」

 



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第7話 目覚める魂

 エチレングリコール怪人は、自らがAPソルジャーと呼ぶ五人衆がやって来ると、物影に隠れていたアウラに目を向ける。

 

「……丁度いい。人類の希望たる仮面ライダーを粉砕し、その眼を絶望に染め上げてから――貴様を頂くことにしよう」

「さ……させないわ! 南雲様を返して貰うまでは……!」

「ククク。やはり、狙いは南雲サダトか。ならば、さらなる絶望に沈むがいい」

「なんですって……!」

 

 エチレングリコール怪人の真意を問い詰めようと、アウラは物陰から身を乗り出すように立ち上がる。――が、その瞬間に怪人は全身を粘液に溶かし、姿を消してしまっていた。

 

(さらなる絶望……一体何を――!?)

 

 怪人が残した言葉に言い知れぬ不安を感じて、アウラは戦いに目を移す。――その時。彼女の眼に、ある一人のAPソルジャーが留まる。

 

 他の4人と共に、Gを攻め立てるその兵士に――あの夜、自分を助けようとシェードに立ち向かった青年の、勇ましい後ろ姿が重なったのだ。

 

 そんな馬鹿な、と思えば思うほど。仕草や足運びが似通った、そのAPソルジャーは――少女の視線を捉えて離さない。

 

(ま、まさか、そんな……!)

 

「くッ!」

 

(……あっ!?)

 

 その瞬間。Gの上げた声に、アウラの意識はAPソルジャーからGの戦いへと引き戻される。

 

「……!」

 

 突如現れた五人衆の襲撃を受けて、窮地に陥るGの姿に彼女は思わず口を覆う。Gは、自分を襲う五人衆――APソルジャー達に戸惑うばかりだ。

 

 なぜなら――ボディの配色といい、顔の造形といい、どれをとってもGと瓜二つの風貌だからだ。

 だが、違う点もある。複眼を囲う部分はaの形をしており、胸のプロテクターはpの字を象っている。

 

「僕の戦闘データで、僕の模造品を作り上げたというのか……!」

 

 敵ながら、優秀な性能を発揮しているGのデータを基に量産型を生産し、それを差し向ける事でGを物理的に圧倒する、食前酒計画。APソルジャーの名も、食前酒の英訳の綴りから来ているのだろう。

 

 Gはシェードのなりふり構わぬやり方に、さらに拳を震わせる。

 ――しかし、今は彼らをなんとかすることが先決だ。

 

 いつの間にか姿を消している粘液を纏う怪人も、探し出さなくてはならない。

 

 ――すると、APソルジャー達の胸にあるP字型のプロテクターから、それと同じ形状のアイテムが現れ、各々の手に渡った。

 

(まさか……剣まで再現しているのか)

 

 最悪の展開を想定し、Gは自らの得物を構える。

 

 五人衆の手に収められたp字型のアイテムは、その先端に鋭利な刃を出現させた。

 APソルジャー専用武器「APナイフ」だ。

 

「うおおおっ!」

 

 凄まじい叫びと共に、五人の猛者は己の剣を振りかざし、孤高の裏切り者に群がっていく。

 

「ちッ……!」

 

 Gも懸命に剣で応戦する。戦闘経験においても改造人間としての性能においても、GはAPソルジャーより遥かに優れているだろう。

 

 だが、1対5という構図になると、それだけでどちらが勝つかを明瞭にすることは難しい。

 APナイフは、Gの剣よりリーチは短く、刃の硬度も劣る。しかし、5人という数は、そのスペックの差を大きくカバーしていたのだった。

 

「……食前酒でこの強さとは、恐れ入る」

 

 量産された模造品とはいえ、そのモデルは長きに渡りシェードを苦しめて来た仮面ライダーG。一体一体が、オリジナルに及ばずながらもそれなりの性能を持っている事には違いない。

 

 次から次へと襲い来るAPナイフの強襲。

 ひたすらそれを払いのけ、Gは防戦一方となっていた。

 

「……ぐッ!」

 

 そして、Gの防御をかい潜ったAPソルジャーの一撃が、裏切り者を遂に吹っ飛ばしてしまった。

 

「ああっ!」

 

 Gのやられる姿を前に、アウラは思わず声を上げてしまう。

 地面に転がるGの体。

 

「く……!」

 

 思わぬ強敵に追い詰められ、彼は短く苦悶の声を漏らす。

 

「これほど、だとはな……!」

 

 じりじりと自らのオリジナルに詰め寄ってくるAPソルジャー達。

 彼らの手にあるAPナイフの刀身が、ひび割れた天井から差し込む太陽の光で、妖しく輝く。

 

 とどめを刺してやる。その輝きが、そう叫んでいるようだった。

 

 やがて、五人衆は足元に倒れているGを包囲する。Gが見上げれば、そこには自分を見下ろす、自分とよく似た五つの顔があった。

 

 口を利かなくても解る。彼らが洗脳され、感情を閉ざされているということが。

 かつての自分自身が、そうだったように……。

 

 やがて、APソルジャー達は一斉に自らの持つ剣を振り上げる。これが、仮面ライダーGの最後。

 そう確信した悪の尖兵達が、刃を振り下ろす――瞬間。

 

「南雲……様ッ!」

 

 甲高い叫びが、廃墟一帯に響き渡る。その叫び声に、振りかざされたAPナイフを持つ手が――動きを変えた。

 

「……!?」

 

 Gはその叫びと自分の目に映る光景に、思わず言葉を失った。7年間戦ってきて、初めて見た光景だからだ。

 

 ――APソルジャーの1人が。振り下ろされた4本の剣を1人で受け止め、Gを守っているのだ。洗脳されているはずの改造人間が、少女の声一つで――自我を取り戻したというのか。

 他のAPソルジャー達も、想定外なイレギュラーの出現に驚いた様子であり、G共々硬直していた。

 

「ア、ウ……ラ……」

 

 その反逆した1人の兵士は。譫言のように少女の名を呼びながら、APナイフの刀身を震わせていた。

 他のAPソルジャー達とは明らかに違う、その個体の行動を目の当たりにしたGは――僅かな硬直を経て、再び動き出した。

 

「――ッ!」

 

 このチャンスを、逃さないために。

 

「……ハァアアッ!」

 

 4人が反逆者に気を取られている隙に剣を取り、自分を取り囲む彼らを一気に薙ぎ払ったのだ。

 

「ぐわぁあぁあッ!」

 

「ぎゃあぉぁッ!」

 

 APソルジャー達は次々に悲鳴を上げ、崩れ落ちる様に倒れていった。

 ただ一人――同胞達を裏切り、Gを救った個体を除いて。

 

「君達はカクテルかな? リキュールかな? いずれにせよ、食前酒の時間は終わりだ」

 

 しばらくすると、やがて彼らはその異形の姿から、かつて人間だった頃の姿を取り戻していくのだった。

 そして……Gは倒れ伏した4人の生存を確認したのち――自分が斬らなかった唯一のAPソルジャーを見遣る。彼もまた、無意識のうちに人間の姿に戻っていた。

 



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第8話 たった独りでも

「ん……俺、は……」

 

 Gを救ったAPソルジャー。その殻の下には――南雲サダトの姿があったのだ。

 

「……! あ、あぁ……!」

 

 立ち尽くすサダトの姿を認め、アウラは涙を目に溜めて両膝を着く。

 

(私のせい……! 私のせいで、南雲様が……!)

 

 彼女にとっては、まさしく最悪な結果になっていた。自分と関わりを持ったこと――それ以外に、サダトが改造人間になってしまう理由など、考えつかなかった。

 

 できれば、そうあって欲しくはない。巻き込んでしまうことだけは避けたかった。そんな淡い願いさえ、現実は非情に打ち砕いてしまう。

 

「う、ああ……あ……!」

 

 零れ落ちる雫を、拭う余裕さえない。泣き叫んだつもりだったが、思った程の声が出てこない。罪悪感にうちひしがれた彼女の喉からは、声にならない叫びが僅かに漏れてくるのみだ。

 

 一方。Gに倒され変身が解けた他の4人も、はっきりと意識を取り戻そうとしていた。

 

「う……ん……」

 

「こ、ここは……」

 

 眠りから目覚めた彼らの瞳には、確かな生気が感じられる。考えられる結果は一つ。

 打ちのめされ変身を解かれたショックで、洗脳から解き放たれたのだろう。

 

 Gはその様子を静かに見守っていた。

 

 

「そうだ……俺は……あの時……」

 

「シェードに襲われ、て……」

 

 洗脳から解放された者達に待ち受けるのは、改造手術を受け、奪われていた記憶のフラッシュバック。

 

 人間として平和な日々を謳歌していた時代。シェードに囚われ、兵器の身体に成り果てた自分自身。

 ――全ての記憶が彼らに蘇り、五人衆は人間の心を取り戻した。

 

 呆然とした表情で、座ったままの彼らに、Gは優しく声を掛ける。

 

「洗脳から、解放されたようだな。もう、君達の心は君達だけの物だ」

 

 しかし、5人は全く反応がない。

 意識を取り戻してから、僅かに身を震わせるばかりだ。

 

「……記憶を取り戻したばかりだから無理もないか」

 

「お、俺達が……!」

 

「改造人間……!?」

 

 5人のうちの誰かが、恐怖と絶望に歪んだ表情で、口を開く。

 

 そこには、かつてGが記憶を取り戻した時に見せたような精悍な面持ちは、全く見られない。そこにあるのは、人間でなくなった者の悲哀だけだ。

 

「い、いやだ……」

 

「いやだぁぁああッ!」

 

 自分自身に起きた無情な現状に、彼らは泣き叫ぶ。

 

「俺は――もうすぐ結婚だったんだぞ!? 子供を持って、幸せな家庭を持って……!」

 

「なんで!? なんで俺達が!? 俺達が何をしたっていうんだよぉ!」

 

「返せよ! 返してくれよ俺の身体! 返せーッ!」

 

 異形の身体と人間の心の共存は、まさしく生き地獄だ。

 

 彼らはそばにいるGに泣き縋り、元に戻してくれと、涙ながらに懇願する。

 

 しかし、Gにそんな力がある筈がなく、シェードの科学力を以てしても、改造人間を人間に戻す事など不可能だろう。

 Gとしてはどうにか彼らの心を救いたかった。しかし、彼にはどうすることも出来ない。それが現実である。

 

 彼は唯一の希望であるアウラの方に目を向けるが――彼女は膝を着いて俯いたまま、動かない。どうやら、APソルジャーの中に知人がいたらしく、ショックに打ちひしがれているようだった。

 

(彼女が持ち直してくれる時を、待つしかないな……ん?)

 

 ふと、Gの目にある光景が留まる。

 5人の中で唯一、叫ぶことも嘆くこともしない者がいたのだ。

 

 彼は悲しみを表に出さず、自らの胸に閉じ込めているようだった。

 

 そう――かつての自分のように。

 

 

 その人物――南雲サダトは、自分の身に起きた現実を享受したまま、アウラの方を静かに見つめていた。

 

「……」

 

「あっ――な、南雲、様……」

 

 その眼差しを感じてか、アウラは思わず顔を上げ――不安げな表情のまま、想い人と視線を交わす。

 

「……あはは、助けに来てくれたのか? たくもう、家から出るなって言ったのに。まぁでも――ありがとう」

「え……? な、なぜお怒りにならないのですか。わ、私は、あなたを巻き込んで……!」

 

 そして、改造された後とは思えないほど相変わらずな笑顔を向けられた彼女は――今にも泣き出しそうな面持ちのまま、自分の罪深さを訴える。

 

「前にも言っただろ? ――正しい人を責めたくは、ない。体が変わったって、俺の心は、変わらないよ」

「……!」

 

 だが。

 それでも彼は、赦していた。どれほどアウラが自罰を下そうとしても。己を卑下しても。彼はその全てを受け止め、受け入れてしまう。

 

「あ、ぁあぁあっ……なぐ――サダト、様ぁあぁあ……!」

「――よく頑張ったよ、アウラ」

 

 もはや――彼女の心に、逃げ道はない。彼の優しさに、身と心を委ね――少女はその胸に飛び込み、幼子のように啜り泣く。

 そんな彼ら2人を、Gの複眼が穏やかに見守っていた。

 

 

 

「アウラ。早速で悪いんだけど、彼らを元の人間に戻してあげて欲しい。彼らはただ操られていただけだし、今すぐ戻せば何事もなく復帰できる」

「はい。では、まずはあなたから――」

「――いや、俺は一番最後でいい」

「えっ……」

 

 アウラは早速、サダトを生身の人間に戻そうと、その逞しい胸板に手を当てる。だが、彼女の白い手が緑色の優しげな光を放つ瞬間。

 サダトは彼女の手を掴み、その光を止めてしまった。待ち望んだ瞬間を止められ、アウラは上目遣いでサダトを見遣る。

 

「この身体だからこそ、出来る事もある。まだ全てが失われていないなら、失われていないものから新しい大切なものを、見つけだしたい。俺は……そう思うんだ」

「さ、サダト様……まさか!」

「君は他の4人を助けてあげてくれ。俺は――カタを付けてくる」

 

 それが、今のサダトが求める願いだった。それを察したアウラは、言葉が出るよりも早く腕に全力でしがみ付き、引き止めようとする。

 だが――改造人間のパワーを前にしては、何の足止めにもならない。

 

「サダト、様……」

「――大丈夫。絶対、帰ってくるからさ。信じて、待っててくれ」

 

 加えて、そう言い切られてしまっては。もう、アウラには見送ることしかできない。APソルジャー専用のバイクに跨る彼の裾から、名残惜しげに少女の手が離れて行く。

 

「君は……これから何処へ向かうつもりだ」

 

 そんなサダトに、Gは背後から声を掛ける。

 

「ここから少し離れた所に、食前酒計画を進めていた地下研究所があるんです。奴はそこにいるはず」

 

 サダトは、Gの様子を伺うと、一つ付け足した。

 

「あなたは手を出さないでください。これは俺達……APソルジャーの問題です」

 

 

 それだけ言い残すとサダトは独り、廃墟を後にしていく。そこにはアウラとG、そして4人の元APソルジャーが残された。

 

「……」

 

 何も言わず、Gはサダトが旅立った方向を眺めている。

 

「サダト様……」

 

 一方。アウラは、独り戦いへ赴いて行くサダトの背を視線で追い、祈るように指を絡めていた。

 Gはそんな彼女をしばらく眺めると、彼らに背を向け、自らのバイクに跨がる。

 

「君の帰りを待っている人がいる……なら僕は、君を死なせるわけには行かない」

 

 エンジンが火を噴き、彼のバイクは猛烈な勢いで廃墟を飛び出していく。あの青年の向かう、地下研究所を目指して。

 



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第9話 闇を纏う剣

 薄暗い地下通路の中で、一つのライトが光り輝いている。

 

 シェードの地下研究所に向かうバイクのエンジン音が、地下一帯に響き渡っていた。

 

(エチレングリコール怪人は、恐らくAPソルジャーのデータを持ち帰っているはず。このまま放っておけば、更に多くの人間がAPソルジャー……つまりシェードの兵士となってしまうだろう。なんとしても、阻止しなくては……んッ!?)

 

 その時。前方から突然、謎の液体が飛んで来た。

 

「なんだ!?」

 

 咄嗟に頭を下げ、顔面への直撃をかわす。その後ろでは、何かが焼け爛れるような音が響いていた。

 

「毒液かッ!」

 

 薄暗い地下通路であるため、あまりはっきりとは見えないが――間違いなくエチレングリコール怪人が待ち伏せしていた。

 

「俺達の洗脳が解けてるって事、お見通しってことか!」

 

 サダトはバイクから飛び降りて怪人と相対すると――腰に装備されたベルトに「AP」と刻まれたワインボトルを右手で装填する。バックルに付いているレバーが、それに応じて起き上がってきた。

 

SHERRY(シェリー)!? COCKTAIL(カクテル)! LIQUEUR(リキュール)! A(エー)! P(ピー)! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

 

 その直後、ベルトからリズムを刻むように電子音声が流れ出す。その軽快な音声を他所に、サダトは左手の人差し指と中指で「a」の字を描くと――最後に、その指先を顔の正面に立てた。

 

「……変身ッ!」

 

 そして――その叫びと共に右手でレバーを倒すと、バックルのワインボトルが赤く発光を始める。

 その輝きが彼の全身を覆うと――そこには南雲サダトではない、異質な姿の戦士が立っていた。

 

『AP! DIGESTIF(ディジェスティフ) IN(イン) THE() DREAM(ドリーム)!!』

 

 APソルジャーとしての姿に変貌した彼は――意を決するように、胸から己の得物を取り出した。

 

「らああぁァッ!」

 

 サダトはAPナイフを構えると、眼前で待ち構えているエチレングリコール怪人に向かっていった。

 

「裏切り者めが――覚悟はできておるのだろうなァァァッ!」

 

 絶え間ないエチレングリコール怪人の毒液攻撃をかい潜り、サダトはAPナイフを振りかぶる。金属音と共に、彼の攻撃が命中した。

 だが――相手に効果はさほど見られない。

 

「くッ!」

「馬鹿めが! No.5を基にしているとはいえ、所詮は量産型。百戦練磨の俺に敵うものか!」

 

 あっという間に喉首を掴まれ、サダトは腕一本で投げ飛ばされてしまった。

 

「うわああッ!」

 

 壁に激しくたたき付けられ、地面に落下するサダト。

 そこへ追い打ちを掛けようとエチレングリコール怪人はじりじりと歩み寄る――が。

 

「トアァッ!」

「ぐおッ……!?」

 

 その一瞬を狙い、意表を突いて立ち上がったサダトの一閃により、すれ違いざまに脇腹を切り裂かれてしまった。エチレングリコール怪人の脇腹に、微かな傷跡が生まれる。

 

「貴様ァァァ! 消耗品の分際で、どこまで俺を愚弄するつもりだァァァァッ!」

 

 追撃の一閃を刻もうと振り下ろされた剣を片手で掴み、その剣を持っていたAPソルジャーの顔面に、毒液が滴る鉄拳が炸裂した。

 

「ぐがぁあッ!!」

 

 エチレングリコール怪人の毒液を帯びたパンチは、その衝撃力以上のダメージを齎していた。

 だが。顔面から全身に伝わる激痛にのたうちまわりながらも、サダトは立ち上がる。

 

 そして――再び剣を振りかざし、エチレングリコール怪人に踊り掛かって行った。

 

「無駄なことを。さっさと死を選んでおれば、楽になれたろうに」

「悪いが先約があるんだ。必ず生きて帰るってな!」

「……抜かせェエェッ!」

 

 だが――サダトの奮闘も虚しく、彼は再び吹っ飛ばされてしまう。今度は強烈な回し蹴りを浴び、更に激しく同じ壁に打ち付けられた。

 

「ぐはああァァァッ!」

 

 しかも、そのショックで変身が解けてしまい、彼は元の姿に戻ってしまった。

 

「しっ、しまっ……た……!」

 

 自分の目に肌色の手の平が映った事から、サダトは変身が解けてしまった事を悟る。

 

「さて。ではそろそろ、俺の毒液を心行くまで堪能して貰おうか」

「ぐっ……!」

 

 そこへ歩み寄るエチレングリコール怪人は――歪に嗤い、とどめの瞬間を迎えようとしていた。変身を解かれては、勝ち目もない。

 為す術なく、サダトが死を遂げようとした――その時。

 

「うっ――あ!?」

 

 同じ箇所に二度も、強烈な衝撃が加わったことで。今度は、その壁が音を立てて崩れ始めた。

 

「わ、ぁぁあぁああッ!?」

 

 壁にもたれかかっていたサダトは体重を乗せる先を失い――崩れた先にある奈落へと落ちていく。その闇の中へと消えていく裏切り者を、エチレングリコール怪人は冷酷に見下ろしていた……。

 




※変身ポーズと騒音ベルト
 自分が変身するライダーの意匠をポーズで描く、という部分は原作の仮面ライダーGに倣ったもの。最後に指先を顔の正面に――は、仮面ライダーゴーストの影響がバリバリだったり。
 ベルトがうるさいのは「Gの世界の最新ライダー」であることの表現として、電子音声が強調されるようになった第二期平成ライダーにあやかってのこと。ちなみに電子音声の内容は、仮面ライダーGの本編中に吾郎が発した台詞に由来している。


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第10話 変身、APソルジャー

「……あぐっ!」

 

 上も下も分からない、闇の底。その渦中に沈む彼は、やがて壁が崩れた先にある場所に落下した。

 

「……こ、ここは……?」

 

 薄汚れたなんらかの資料やコンピュータが散乱している空間。――そう。ここが彼らの目指す「地下研究所」だったのだ。

 

「そうか、ここが……。よし、ここのデータを全部処分して――」

「――そうはいかんな」

「……ッ!」

 

 だが。そう悟った瞬間――冷ややかな呟きが、波紋のようにサダトの聴覚に響き渡る。振り返れば、毒液を撒き散らしながらエチレングリコール怪人が降下して来ていたのだ。

 咄嗟にその場を飛び退き、サダトは警戒するように身構える。だが、いつでも殺せる相手と思っているからか、怪人の殺気は収まっていた。

 

「よくここまで落ちてきて、生きていられたものだな。どこまでも悪運の強い小僧だ」

「――ここのデータを基に俺達のようなAPソルジャーを大量生産するつもりなんだろうが……そんな事させるか! 徳川清山の解放なんて、させないぞ!」

 

 精一杯の虚勢を張るサダトとは対象的に、エチレングリコール怪人の姿勢は落ち着いている。

 

「勘違いするな。食前酒計画は俺の物する。だが――俺は徳川清山を救うつもりなど微塵もない」

「な、に……!?」

 

 エチレングリコール怪人から飛び出た発言に、サダトは目を剥いた。

 シェードの洗脳によって操られた改造人間は、徳川清山の忠実な奴隷となる筈。彼に逆らうなど、普通の改造人間なら有り得ない。

 

 ふと、辺りを見渡せば、ここの研究員だったと思しき白衣の男達は惨殺されていた。これも、あの怪人の仕業だとすれば――。

 そう仮説を立てたサダトは、ハッとして顔を上げる。

 

「そう。俺も貴様と同じ。既に洗脳から解き放たれている身なのだよ。シェードの奴隷など、偽りに過ぎん」

 

「まさか……そんな!」

 

 洗脳から解放されていながら、操られた振りをしてシェードに付き従っていた改造人間がいた事に、サダトは衝撃を覚えた。

 

「俺は俺達を迫害するこの世界が憎い。だがそれ以上に、俺をこの体に改造した徳川清山が憎いのだ。だからこそ、俺は徳川清山を滅ぼし、奴に代わってこの世界を支配する!」

 

 いままで抑えていた感情を解き放つように、エチレングリコール怪人は叫ぶ。

 

「そのためには力が必要だ。食前酒計画から生まれたAPソルジャーのデータは、その先駆けとなる」

「馬鹿な! 洗脳から解き放たれていながら、人間と敵対する道を選ぶなんて!」

 

 洗脳から解放されたなら、人間の心を取り戻した筈。それが、どうしてこのような野心を生み出すのか。

 ――近しい身の上でありながら、道を違えている事実に胸を締め付けられ、サダトは怪人に訴える。

 

「……ふん。俺もある事故がきっかけで洗脳から解き放たれたばかりの頃は、人間の心を以て善行を試みたものだ」

「……!」

「だが――奴らは俺を怪物と罵倒したのだ! 助けた事実など無視して!」

 

 これまで見受けられなかった、エチレングリコール怪人の真意が、根底の感情が、露呈しようとしていた。

 

「俺がそんな苦しみに苛まれた後になって……あの小娘がのこのこと、善人ヅラで改造人間を人間に戻し始めてから――俺は決めたのだ。復讐をな!」

「……!」

「そう。俺を迫害するこの世界と俺をここまで追い詰めた徳川清山への復讐! ただそれだけが、俺を駆り立てる全てだ!」

「そんな……そんなことって!」

「――ここの研究員共はよく働いてくれた。いずれ私に始末される運命も知らず、徳川清山を助ける為だと信じ続けてな……。実に下らん!」

 

 研究員の死体を踏みにじる異形の怪人。人間としての心を持ちながら、人間らしく生きる事や大切なものの為に戦う事を諦めた男の姿が、そこにあった。

 事実にうちひしがれ、俯くしかなかったサダトが、静かに口を開く。

 

「例えそうでも……俺は、立ち向かう。戦い続ける! 大切なものは――これから見つけられるから!」

「知った風な事を。もういい、貴様も消え失せろ!」

 

 ――その時。どこからともなくエンジン音が響いて来た。

 

「……んッ!?」

「来るな――奴が!」

 

 このエンジン音は――APソルジャーが使うバイクの物ではない。

 ならば――答えは一つ。

 

「――はぁあぁああッ!」

 

 刹那――怪人の頭上を一台のバイクが飛び越えていった。そのバイクは、滑らかな動きでサダトの傍に着地する。

 そして、そのバイクから白いジャケットを纏う青年が颯爽と降りて来た。

「あ、あなたは!」

「現れたな――No.5!」

 

 そう。そこには、元ソムリエの改造人間「吾郎(ごろう)」の姿があったのだ。思わぬイレギュラーの出現に、サダトは戸惑う。

 

「どうして……! これは俺の問題だって!」

「君の体は、僕を基盤に作られたのだろう? なら、僕にとっては半身だ。僕自身の問題とも言える」

「う……」

 

 サダトの抗議をあっさりあしらうと、吾郎はエチレングリコール怪人を見据える。

 

「残念だが、食前酒の時間は終わった。ここからは――メインディッシュのようだね」

「――貴様も、俺と同じだNo.5。人間社会は貴様を決して受け入れない」

 

 非情な現実を、怪人はストレートに言い放つ。しかし、吾郎の毅然な姿勢に揺るぎはない。

 

「それでも僕は戦う。貴様があり得ないと叫ぶ、愛という幻想に賭けて」

 

 彼の手元に、真紅のワインボトルが現れ、腰にワインオープナーを思わせるベルトが現れた。

 

「――俺も、賭けていいですか……それ」

「ああ。――それが悔いを残さない道なら、誰にもそれを阻む権利はない」

「わかりました。……行きます」

 

 それに続いてサダトも再び、ワインボトルを再びバックルに装填する。場違いなほどに軽快な電子音声が、この狭くじめじめした地下室に響き渡った。

「貴様らが正しいか、俺が正しいかは…この戦いの決着が教えるだろう! 来るがいい!」

 

 二人との間に距離を置き、エチレングリコール怪人は戦いに備えて身構える。

 その様を見据える吾郎とサダトは――ベルトを起動させる動作に入った。

 

 彼らの手は、「G」を――あるいは、「a」を描いていく。

 

「今、僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える――変身!」

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「変身ッ!」

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 吾郎のベルトにワインボトルが収められ、サダトのバックルのレバーが倒されると、二人の体を真紅のエネルギーが包み込んでいった。

 

 そしてその中から、新たな姿となった戦士達が飛び出していく。

 

 ――「仮面ライダーG」と、「APソルジャー」の強襲である。



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第11話 紅き一蹴、紅き一閃

「はあっ!」

 

 エチレングリコール怪人は、両腕から無数の毒液を放ち、牽制を試みる。二人はそれを巧みにかわし、コンピュータの物影に飛び込んだ。

 

「あの毒液、まともに浴びれば痛いじゃ済まされないようだ」

「俺が注意を引きます。あなたはその隙に!」

 

 サダトの変身するAPソルジャーは、物影から飛び出すと、勢いよく怪人の傍を駆け抜け、すれ違い様に斬り付けていった。

 

「ちぃ、量産型風情が小癪なっ!」

 

 その隙を、吾郎の変身する仮面ライダーGが狙う。

 

「――そこだ!」

 

 一気に物影から飛び出し、APソルジャーに気を取られて背を向けていたエチレングリコール怪人の背後を、ソムリエナイフを模した剣で切り付けた。

 

「ぐはぁっ!?」

 

 背後からの攻撃に、怪人は思わぬダメージを受け、後ずさる。

 

「もらった!」

 

 そこへ追い撃ちを仕掛けようと、APソルジャーはAPナイフを構え、一気に怪人に襲い掛かる。だが、いつまでも同じ手を食う相手ではない。

 

「貴様――生かしてはおかん!」

 

 その瞬間、APソルジャーの首がエチレングリコール怪人に掴み上げられてしまった。

 

「ぐあっ!?」

「忘れるな…私が本気で戦えば、貴様など数分も生きられないという事をな!」

 

 APソルジャーを締め上げる音が、徐々に強くなっていく。

 

「ぐ、あ、ああ……!」

「――させん!」

 

 そこへ、Gの剣が閃いた。切っ先が怪人の腕に届くと、そこから火花が飛び散る。

 

「ぐわぁっ!」

 

 手の先にほとばしる痛みに、エチレングリコール怪人は思わず手を離してしまう。そこへ、APソルジャーが再び斬り掛かった。

 

「らあああッ!」

 

 力の限り、APナイフを振るい続ける。どんなに疲れたって、傷付いたって構わない。自分の体の事なんて、奴を倒してから考えればいい。

 全ては、終わってからでいい。

 

 その思いが、ひたすらAPソルジャーを戦いへと駆り出していた。しかし、その思いとは裏腹に、彼の攻撃はさほど怪人には通じてはいないようだった。

 

「貴様の攻撃など――無駄だと何故わからないか!」

 

 何度目だろうか。APソルジャーは、またしても強烈に吹っ飛ばされてしまう。

 

「うわぁッ!」

 

 量産型の域を出ないAPソルジャーの火力では、決定打に至らない。戦況からそう判断した吾郎は、サダトが持たなくなる前に手を打つべきと行動を起こす。

 

「ならば受け取ってもらおう。僕の――悪と正義のマリアージュを!」

 

 悪の体と、正義の心。

 その融合から生まれる必殺の一撃を放たんと、Gは自らのバックルに収められたワインボトルの近くにあるパーツを押し込んだ。

 

 すると、そこからパワーソースが胸のGの意匠へと充填され、更に左足のエネルギーラインへと繋がっていく。

 

 ふと、彼の脳裏に、7年前の戦いの際に応援に駆け付けた、10人の戦士達の激励が蘇る。

『この世界を守れるのは――君だけだ』

『立ち上がれ!』

『愛の為に、戦うライダー!』

『G!』

 

(――そうだ。僕は戦わなければならない。例え孤独でも、命ある限り、愛がある限り戦い続ける。それがきっと、「仮面ライダー」だから)

 

 そして、彼の左足にワインボトルから解き放たれたエネルギーが凝縮された。

 狙うは――眼前の敵。

 

「まさかッ……ええぃ!」

 

 Gが仕掛けようとしている事に感づいたエチレングリコール怪人は、退避を始めた。だが、その行く手をAPソルジャーが阻む。

 

 APナイフの攻撃が、怪人の動きを止めていたのだ。

 

「ちぃ! 貴様、何度打ちのめされれば気が済むと――!」

「いつまで経っても済まないさ、あんたに勝つまではな!」

「ぬかせぇっ!」

 

 息の根を止めようと、怪人は腕を突き出す。

 

「らあぁ――ああああっ!」

 

 しかし、間一髪それをかわしたAPソルジャーは――ワインボトルのパーツを押し込み、Gに続くようにベルトのエネルギーを、上半身を通じて右腕に充填させていく。

 

(今の一発をかわした!? この小僧、戦いの中でここまで成長してッ――!)

 

 その渾身の力を込めた右手には――逆手に握られた一振りの剣。

 

FINISHER(フィニッシャー)! EVIL(イヴィル) AND(アンド) JUSTICE(ジャスティス) OF(オブ) MARRIAGE(マリアージュ)!』

「スワリング――ライダービート!」

 

 紅い電光を放つAPナイフを翳した彼は、遠心力を乗せるように体を回転させながら――水平に一閃。脇腹についた微かな傷跡を、その斬撃でメスのように切り開く。

 

「がはっ――!? ば、馬鹿な!」

 

 たかが量産型。そう見くびっていた者の、戦士としての末路だった。そして何かを思い出したように、エチレングリコール怪人は背後を振り返る。

 

 ――そう、そこには正に今、必殺技を放とうとする仮面ライダーGの姿があったのだ。

 

「やっ――やめろォォオ!」

 

「スワリング――ライダーキック!」

 

 円錐状に展開された真紅のエネルギーを纏い、Gの飛び蹴りが空を切り裂く。

 エチレングリコール怪人は、せめてもの抵抗に、そこへ向かってありったけの毒液を放つ。

 

 だが、円錐状のエネルギーは全くそれを通さない。

 

「うおおおおォォォォオッ!」

 

「がァあああッ!」

 

 Gの雄叫びと怪人の悲鳴がこだますると、研究所に激震が走った。スワリングライダーキックが――Gの一撃が、完全に決まったのだ。

 

「ぐわあああァァァアァアァアッ!」

 

 悲痛な叫びと共に、エチレングリコール怪人の体が吹っ飛ばされ、激しく壁にたたき付けられる。その衝撃で壁はひび割れ、彼はそこから剥がれ落ちるように倒れた。

 

「――やった、のか」

 

 APソルジャーは、その光景からGの強さを改めて思い知る。シェードの技術が生み出した、最強の改造人間。そのポテンシャルの、一端を。

 

「あんな人に、俺達は挑んでたのか……。ハハ、前座呼ばわりも納得だな」

 

 思わず、乾いた笑いが零れてしまう。――その時だった。

 

「お、のれ……!」

「!? まだ生きて……!」

 

 背後から聞こえた、年寄りのようなしゃがれ声が響く。APソルジャーは慌てて振り返り――戦いが終わっていなかったことに驚愕した。

 ――だが。彼の眼前に倒れている男は、もはやエチレングリコール怪人ではなかった。

 

「……!?」

 

 APソルジャーは、思わず目を見張る。彼らの前にいるのは、あの怪人の正体である……一人の若い男性だったのだ。

 

 怪人が人間態を持っている事自体は、別段珍しい事でもない。7年前のフィロキセラ怪人だって、織田大道という人間としての側面を持ち合わせていた。

 

 だが、シェードの改造人間との実戦経験がなかったサダトにとっては……人の身を持つ相手と殺し合いをしていた、という事実を初めて突き付けられた瞬間だった。

 Gはエチレングリコール怪人の人間態――ドゥルジを一瞥し、深く頷く。

 

「そうか、彼が……」

 

 南雲サダトを始めとするAPソルジャーの面々を苦しめ、Gを倒し、徳川清山さえ滅ぼそうとしていたエチレングリコール怪人の正体はやはり――独りの人間なのだ。

 

「あなたが……」

「く、ふふふ……いくら怪物を気取ろうと、一皮剥けば改造人間などこんなもの、か」

 

 人間としての姿になったエチレングリコール怪人――だったドゥルジは、自虐するように嗤う。その声には、怪人態だった時のような威風はかけらも見られない。

 

「俺はかつて――正義の為と信じ、シェードの人体実験に身を捧げた」

 

 息を整えた男は、静かに己の過去を語る。

 

「だが――俺は異形の怪物と化し、いつしかテロリストのみならず、人々までも襲うようになっていた。戦闘中の事故で洗脳が解けたあの時は、自らの罪深さに絶望したものだ」

 

 Gはそこまで聞くと、僅かに目を逸らしてしまった。共感する所があるからだ。

 ――彼自身、あのテレビ局のテロに荷担していたのだから。

 

「だが、それだけで俺は諦めなかった。――この力で、人々の為に働こうと決意してな。俺はこの力を以て、ある災害に苦しむ人々を助け出した。しかし……」

 

 顔を上げて過去の栄光を、精一杯の希望を振り絞るように語ったかと思うと、その表情は再び暗く沈んでしまった。

 

「彼らは俺を化け物と非難し、恩も忘れて迫害したのだ。俺の人としての心は、その日から失われた」

「……」

「脆いものさ。人間の、正義感なんてな。……仮に今から、あの娘の力で人間に戻ったとしても――この罪が灌がれることはない。ならばいっそと俺は――」

 

 APソルジャーは懸命に、彼に掛ける言葉を探す。その間に、ドゥルジは話を続けていた。

 

「――俺は、復讐を誓った。俺をこの体にした徳川清山を倒し、この世界を滅ぼすと」

「……」

「だが、結果はこの始末。いたずらに、侮れない敵を増やしただけだったようだな」

 

 すると――彼の体が、下半身から肉が焼ける音を上げ、溶解を始めた。体内の毒液を調整する機能が、戦闘で故障したためだ。

 刻一刻と、男に死が近づく。

 

「お前も同じだぞ、南雲サダト。人間の自由だ平和だと抜かしたところで、誰もお前に感謝などしない。誰も、お前を覚えない。――ヒーローなんてマネをやれるのはNo.5のように、その覚悟をしょってる奴だけさ」

「……俺も、あなたのようになるしか、ないのか」

「ああ、そうさ。地獄の底から、賭けてやってもいい。もしその時が来たら、そいつに処理してもらえ。俺のように――ブゴッ」

 

 言い終えることは、叶わなかった。すでに上半身、首と来ていた溶解は口元まで及び、肉と血に塗れた泡が、ドゥルジの言葉を飲み込んで行く。

 やがて血の匂いを纏う泡は、最後に残った頭さえ埋め尽くし――人の形をした跡だけを床に残して、男の存在を抹消してしまった。

 

 誰一人、語る者はいない。異形の姿を持つ者もいない。変身を解いた南雲サダトと吾郎だけが、生気を持たない闇の中に取り残されていた……。

 



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最終話 騎士の旅立ち

 ――その後。地下研究所から遠く離れた街の一角に、吾郎とサダトの姿があった。研究所から持ち出したAPソルジャーの開発データを、取り急ぎ処分するためだ。

 書類をめくる手を止めず、APソルジャーに関するデータを調べ続けている吾郎。そんな彼を一瞥し、サダトは空を仰ぐ。

 

「……そろそろ、アウラがみんなを治してくれてる頃ですね」

「ああ。この場所も彼女には連絡してある。じきに、ここへ来るだろう。君も――」

「――そうですか。じゃあ、もう行かないと」

 

 吾郎の言葉を受け、サダトは彼が言い終えないうちにバイクに乗り込んで行く。その行動が、彼の「選択」を物語っていた。

 その「選択」を前に、吾郎はようやく書類をめくる手を止める。そして最後に確かめるように――厳かに問い掛けた。

 

「……戦うのか」

「別に、あの人への当て付けってわけじゃありません。……ただ、俺のしたいようにしてるだけなんです」

「彼女は、納得しないぞ?」

「しなくたって、構いません。あの子は、皆の笑顔を守ってくれる。だから俺は、そんなあの子の笑顔を守る。それだけのことですから」

「なるほどな。しかし――彼女の笑顔は、君が戻らねば失われてしまうぞ」

 

「――だから約束したんですよ。必ず、生きて帰るって」

 

 彼女と出会ったあの日。おまじないと称して交わした小指を見つめながら、サダトはそう宣言した。

 

 その言葉を最後に。サダトはバイクを走らせ、街の中へと消えていく。追うことも引き留めることもせず、その旅立ちを見送った吾郎は、静かに青空を仰ぐ。

 

「必ず帰る、か」

 

 手にしたワインボトルに視線を落とし、彼はひとりごちる。――脳裏に、いつかもう一度と誓った恋人の姿を、過ぎらせて。

 

 そして――もう姿が見えないサダトに、誰にも知られることのない称号を送る。

 

「――それが答えなら。君には、『仮面ライダーAP』の称号を贈ろう。せめてもの、餞別だ」

 

 すると――自分を呼ぶ複数の声に、吾郎は思わず振り返る。彼に手を振る、アウラや人間に戻った元APソルジャー達が駆け寄って来ていたのだ。

 何も知らない彼女は、もうすぐサダトを人間に戻し、共に愛を育めるものと信じている。その表情は、意中の男と逢う瞬間を今か今かと待ち侘びる乙女そのものであった。

 

(……やれやれ)

 

 騎士に去られた姫君に、どう申し開こうか。そう思い悩む彼は、苦笑を浮かべて手を振り返していた……。

 ――その頃。

 

 街を抜け、高速道路を駆け抜けるサダトのバイクの後方に――蒼い薔薇が静かに舞い降りる。その薔薇には、人知れず一つのメッセージが込められていた。

 

『裏切り者には、死の薔薇を送ろう』

 それは、絶対に逃れられない――死の宣告。

 




※仮面ライダーAP(APソルジャー)
 本作のオリジナルライダー。名前の由来はAPERITIF(アペリティフ)=食前酒から。主菜の前に嗜むものであることから、前座=戦闘員ポジションを意味しており、シェード残党によるライダー型改造人間の先行量産型である。
 いわゆる量産型ライダーの一人であり、仮面ライダーGのデータが基盤であるため容姿もGに近く、複眼の意匠が「a」で胸のシンボルが「p」となっている。ただし量産型と言っても、Gの7年分の戦闘データを糧に生まれた最新型でもあるため、改造前の素体によっては非常に優れた性能を発揮できる。
 必殺技はワインボトルから腕部にエネルギーを充填し、専用装備「APナイフ」で切り裂く「スワリング・ライダービート」。


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番外編 アウラの門出

 ――蒼き星々が、闇の中で己の輝きを示す。自分はここにいるのだ、と世界に叫ぶように。

 命そのもの、とも言うべきその煌きから、透明なガラスを隔てて――独りの少女が、その数多の輝きを見つめていた。

 

「……地球、か」

 

 ――銀河連邦警察。

 

 全宇宙に蔓延る悪の侵略者から、管轄下の星を守るべく組織された、全宇宙規模の公安機関である。その活動範囲・内容は多岐に渡り、特に侵略者に対する武力鎮圧の割合が多数を占めている。

 そんな銀河連邦警察の内部では、年々増加する宇宙犯罪に対抗すべく、設立されてから長い年月を経た今でも「若手の育成」が急務とされている。

 ボブカットの艶やかな黒髪を靡かせ、暗黒に広がる空を眺める少女――アウラも。その「若手」となる新世代の戦士――「宇宙刑事」の一人であった。

 

 鍛え抜かれ、引き締まった腰周りに反した胸と臀部の膨らみは、女性らしい滑らかな曲線を描き――桃色に塗装された強化外骨格「ポリスアーマー」が、生まれたままの彼女の肢体に隙間なく張り付き、その曲線をあるがままに表現している。

 

『アウラ捜査官。地球への出港準備が完了しました、取り急ぎドックへ移動してください』

「……!」

 

 自分の名を呼ぶアナウンスに反応し、少女は我に返るように顔を上げる。薄い桜色の唇は、初任務に赴く彼女の覚悟を示すように強く結ばれた。

 

 ――彼女を乗せた銀河連邦警察の大型宇宙船は今日、訓練生過程を修了した新米宇宙刑事の門出を祝う役目を担っていた。

 数多くの男性訓練生を押し退け、入隊時から修了時までの間、群を抜いた成績で首席を独占してきた――アウラ・アムール・エリュシオンの、門出を。

 

 ◆

 

「いよいよ俺達の同期が初任務に行くのか〜……。しかも、いきなり単独任務で辺境惑星のパトロールときた。やっぱ首席は扱いが違うよなぁ、俺なんか配属先で雑用だぜ?」

「お前はまだいいよ、俺なんかお茶汲みと先輩の靴磨きからだ……。他の中隊には、配属先で訓練やり直しのスパルタコースが決まってる奴までいるってよ」

「ウゲェ……マジかよありえねぇ。くそっ、いくら男が首席じゃないからって、上の先輩方イビリ過ぎじゃねーか……」

「ちょっと! あんた達邪魔よ、歴史的瞬間を見逃しちゃうじゃない!」

「そうよそうよ! 宇宙刑事過程が始まって以来の、歴史的快挙! 初めて女性の首席卒業生が輩出される一大イベントなのよ!」

 

 アウラが搭乗する予定である小型宇宙艇。その機体を格納しているドックの上では、大勢の人だかりが出来ていた。

 宇宙刑事訓練生過程を首席で修了した、初めての女性宇宙刑事。その存在と門出を一目見ようと、彼女の同期達はもとより、銀河連邦警察広報部や宇宙マスコミまでもが詰め掛けていたのだ。

 

「おい、しっかり撮れよ!? 宇宙刑事過程の数百年に渡る歴史の中で、初めての超超超快挙なんだからな!」

「わかってますよ! ……しっかし、ある意味奇跡ですよねぇ。女性ながら男性顔負けの強さを持つ上に……とんでもない絶世の美少女ときた!」

「さらにさらに、あの全宇宙でも指折りの美しさって評判の、エリュシオン星の第一王女! こんなの注目の的にならねぇはずがねぇわな!」

「……けど、なんでそんなお姫様がよりによって宇宙刑事なんかになったんでしょうなぁ」

「そんなの知るかよ。……おい、準備しとけ。そろそろ出航予定時刻だ」

 

 ◆

 

「姫様! アウラ姫様!」

「……なんだ、アルクじゃない。どうしたの?」

 

 扉の向こうから聞こえてくる喧騒にため息をつくアウラが、ドックに続く入り口に近づいた時。ふと、背後から響いてきた呼び声に、彼女は大して驚く気配もなく静かに振り返る。

 

 その視線の先には――荘厳な機械仕掛の甲冑で全身を固めた老騎士が、険しい面持ちでアウラを射抜いていた。色が全て抜け落ちた白髪と、顔に残された古傷の跡が、古強者としての風格を滲ませている。

 だが、その身に纏われた鎧は銀河連邦警察で正式採用されている「コンバットスーツ」や「バトルスーツ」には該当していない。――明らかに、銀河連邦警察とは異なる組織の戦闘服である。

 

 アルクと呼ばれたその老騎士は、物々しい足音を立ててアウラに近寄ろうとする。そんな彼の顔を、少女は剣呑な眼差しで見つめた。

 

「どうした……ではありませぬ! エリュシオン星第一王女であらせられる貴女様が、何故このような道に進まれるのか! 今一度、お考え直し下され!」

「……この期に及んで顔を見せた、ということは激励の言葉でもくれるのかと思っていたのだけれど……違ったようね」

「姫様! 貴女様はエリュシオン星の未来を担われるお方! このような危険な真似事をさせられるはずがありませぬ! さあ、小官と共にエリュシオン星へ帰りましょうぞ!」

「……」

 

 籠手に固められた手を伸ばし、共に母星へ帰ろうと誘う老騎士。その真摯な瞳を前にしたアウラは、彼の想いに感服したように、その手を握る。

 

「おぉ……姫様! わかってくださいまッ――!?」

 

 その対応に、老騎士が頬を綻ばせた瞬間。

 

 彼の視界は激しく上下に回転し――重厚な甲冑に固められたその巨体が、鉛色の床に打ち付けられてしまった。

 その反動による物理的な衝撃と、何をされたか理解が追いつかない、という精神的な衝撃により、老騎士は言葉を失ったまま口を開いていた。

 

 一瞬にして握った手を取り、腕をねじり上げて投げ飛ばされたことにも、アルクは気づかないままだったのだ。そんなエリュシオン星騎士団長の姿を一瞥したアウラは、何事もなかったかのように踵を返す。

 

「ひ……ひめ、さま……な、なにを……!」

「――アルク。知っているでしょう? かつて私達のふるさとは、タルタロス星人の侵略により滅亡させられていた、と」

「……!」

 

 彼女の口から語られたエリュシオン星史の一端に、アルクは目を剥く。

 ――現在あるエリュシオン星は、正確にはエリュシオン星人の母星ではない。遥か昔、タルタロス星人と呼ばれる侵略者の襲撃を受け、故郷を失い他の星に逃れた唯一の生き残りが、他の宇宙難民を率いて新天地に築いた新たな国家。それが現「エリュシオン星」なのだ。

 現体制を築き上げた、その生き残りの血を引くアウラは――知っているのだ。現エリュシオン星の王である父を救ってくれた、恩人達が住まう星の名を。

 

「お父様は……改造人間という身でありながら人類の未来のために戦い、異星人である自分さえ救ってくださった、偉大な七人の勇者のお話を、いつも聞かせてくださった。だから私は――恩返しがしたいの。父を、エリュシオンの未来を救ってくださった、あの青い星に」

「ひ、姫様……!」

「今、地球の人々は『シェード』と呼ばれる悪の組織により、改造人間にされつつあるわ。人でありながら、人でない……そんな苦しみに苛まれている人々を見捨てることなんて、私には絶対にできない」

「そ、それならば我々が……! なにも姫様が行かずとも……!」

「戦うことだけが、宇宙刑事としての私の任務ではないのよ、アルク。改造人間にされた人を、生身に戻せる秘術はエリュシオン星人の血を引く私にしかできない。――だから私が、今回の地球派遣の任務に選ばれたの」

「で、ではせめて我々を護衛に! そのような危険な状況にある星へ、姫様を一人で行かせるなど断じて――!」

「……その私にいいようにあしらわれてるあなた達が来たところで、足手まといにしかならないわ。今の投げも読めないくらいに衰えてるあなたが、未だに騎士団長を退いていないのは――あなたより強い後任が育っていない証拠でしょう?」

「ぬぐぅう……!」

 

 懸命に食い下がり、忠誠を捧げる姫君を一人で行かせまいとするアルクだったが……どのように言葉を並べても、彼女を引き留めることは出来ずにいた。そんな老騎士の姿を見下ろし、アウラは苦笑いを浮かべる。

 

「……ごめんね、心配かけて。でも、大丈夫。一人でもやっていけるようになるために、宇宙刑事過程を履修したんだから。すぐに任務を終わらせて、大手を振って帰ってくるわ」

「……! ひ、姫様! お待ちください姫様! 姫様ぁあぁあ!」

 

 せめて不安な気持ちは見せないように。彼女は老騎士に笑い掛け――ドックに続く扉を開く。そして、自分に向け手を伸ばす老騎士を見つめ、悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。

 

「――じゃ、行ってきます」

 

 ドックに続く扉が自動で閉じられたのは、その直後である。

 

 ◆

 

 今日の主役であるアウラの登場に、人々は大いに沸き立っていた。特に人だかりの最前列を占める同期の女性陣は、一際激しく黄色い悲鳴を上げている。

 

「キャァアァアッ! アウラ姫様ぁあぁあ!」

「アウラお姉様ぁあぁあっ!」

「素敵ィイィッ! アウラ様こっち向いてぇぇえぇッ!」

 

 その迫力は周囲の男性陣や報道陣を圧倒する勢いであり、誰も彼女達を阻むことはできずにいた。――その時。

 

「……!」

「――初任務の地球派遣。ご武運をお祈りしますわ、アウラさん」

 

 苦笑を浮かべながらギャラリーに手を振りつつ、宇宙艇へ乗り込もうとしていたアウラの背後に――艶やかな声が響く。その声を耳にした彼女は、ハッチに伸ばした手を止めると、静かに後ろを振り返る。

 

「……今日は千客万来ね」

「あら、わたくしやあちらの方々の他にも誰かが? ふふ、さすが人気者ですわね」

 

 そこにいたのは、もう一人の同期。かつて首席の座を争い、共に競い合ってきたライバル――ジリアン・アルカンジュ・ビーズ候補生。彼女もまた、次席で宇宙刑事過程を修了したエリートであり、とある惑星の姫君でもあった。

 ポニーテールに纏め上げたブラウンの髪は、優雅に首を振る彼女の動きに合わせて艶やかに揺れる。決してアウラに引けを取らない美貌や白い柔肌、抜群のプロポーションを持つ彼女は、アウラに次ぐ人気を誇っている。その人気の秘訣は、男勝りなアウラとは対照的な、高貴な女性らしい振る舞いにあった。

 

「キャーッ! 見て見て! ジリアン様まで来られたわ!」

「あぁ……あのエレガントな立ち振舞い……素敵ですわ、ジリアンお姉様……」

「……お前ら一体どっちのファンなんだよ」

「ハァアァ!? 決まってんじゃないバカ男子ども! 両方よ両方!」

 

 そんな女性陣の昂りを尻目に。アウラ以上の胸をぴっちりと密着させた緑色のポリスアーマーを纏うジリアンは、穏やかな笑みを浮かべて戦友を見つめている。

 アウラもまた、そんな親友の姿を前に頬を綻ばせていた。

 

「人気って……もぅ。みんな勝手に盛り上がってるだけじゃない。たまたま女の私が首席になったくらいでさ」

「あら。首席なんて、たまたまでなれるような甘いものではありませんのよ? これでもわたくし、訓練の時は全身全霊の本気でしたのに」

「それにしちゃ、随分晴れやかな顔してるわね」

「全身全霊の本気だからこそ――ですわ。自分自身に悔いを残さない全力だったからこそ――前を向けるものですのよ」

 

 そうして他愛のない言葉を交わし――ジリアンの瞳が、アウラを地球へと運ぶ宇宙艇を映す。

 

「……地球派遣。先を越されてしまいましたわね」

「――そっか。確かジリアンのお母様も、地球には縁があったのよね」

「ええ。母上は仰っておりましたわ。美しい緑に囲まれた地球には、愛に溢れた人々が住んでいると……。その平和を脅かす敵とあらば、是が非でもこの手で懲らしめなければ――と思っていたのですが」

「ふふっ。――じゃあ、すぐに見せてあげる。私が平和にした地球の姿をね」

「あらあら。言ってくれますわね。わたくしのいいところを掻っ攫うおつもりですか?」

「決まってるわ。だって、それが私の任務だもん」

 

 笑い合う二人は、やがて互いに不敵な笑みを浮かべると――男らしさすら感じさせる眼差しを交わし、互いの拳を合わせた。必ず帰る、と約束するように。

 

 そして――出港予定の時間を迎えたアウラが、黄色い声援を背に受けながらハッチを開けた時。

 

「じゃあねジリアン。アラン教官にもよろしく――」

「――アウラ。あなたの将来のために、親友として一つ忠告しておきますわ」

「……?」

 

 突如ジリアンに声を掛けられ、何事かと首を傾げてしまった。その発言の意図が読めずにいる彼女を見遣り、ジリアンは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「もし地球の殿方と恋に落ちた時は――その口調を改めることをお勧めしますわ。そんな乱暴な言葉遣いでは、いくら地球人が温厚でもその御心を射止めることは叶いませんもの」

「んなっ……!? な、ないわよそんなことっ!」

「さぁ、どうでしょう? かの宇宙刑事ボイサーも、地球人の美しい女性と子を成したとか……。ならば、その逆も……?」

「んもーっ! ないったらぁ! ジリアンのばかっ!」

 

 そして投げ込まれた言葉の爆弾を受け、顔を真っ赤にしてしまう。今までの人生の中で、愛の告白を受けたことは数え切れないほどあるが――自分から告白するようなことを考えたことなど、一度もなかったのだ。

 王室で暮らしていた頃に、様々な星の有力者から求婚された時も。訓練生時代に、同期や先輩の宇宙刑事から告白された時も。そんな気持ちにはなったことがなかった。

 だからこそ、恋に落ちるという――未知の感情に、つい過剰に反応してしまうのである。そんな親友の初々しい姿を、ジリアンは微笑ましげに見守っていた。

 

 そして彼女が別れ際に残したその言葉は……宇宙艇に乗り込み、大型宇宙船から出港してからも、暫し彼女の思考を支配していた。

 

(ま、全くもうジリアンったら……! こ、恋なんて……私が誰かを好きになるなんてっ……!)

 

 地球人への確かな憧れ。親友の残した言葉。様々な要素が脳裏を渦巻く中、彼女を乗せた宇宙艇は、青い星へと飛び去って行く。

 その中で彼女は、ある一つの想いを巡らせていた。

 

(……だけど、もし……本当に……そんな気持ちにさせてくれる人と出会えたなら……私は……)

 

 その黒い瞳は、期待と不安の色を滲ませながら――前方で輝きを放つ星を映している。かの星――地球を見つめる彼女の胸は今、かつてない高鳴りに満たされていた。

 

(……いっぱい、幸せをあげたい……。私の胸にある、愛情を捧げて……。そんな風に、愛し合えたら、いいな……)

 




※ポリスアーマー
 藤沢とおる先生の作品「宇宙刑事ギャバン 黒き英雄」に登場。ギャバンのコンバットスーツやアランのバトルスーツとも違う、身体に密着した戦闘用スーツ。女性用なのか、かなり女性的でセクシーなラインで作られている。銀河連邦警察の捜査官ミネルバが装着した。


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第2章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第1話 闇夜を貪る異形の影


 ――至誠(しせい)(もと)()かりしか。

 

 ――言行(げんこう)()づる()かりしか。

 

 ――気力(きりょく)()くる()かりしか。

 

 ――努力(どりょく)(うら)()かりしか。

 

 ――不精(ぶしょう)(わた)()かりしか。

 

 ◆

 

 人類の海を侵略し、その大部分を征服した未知の脅威――深海棲艦(しんかいせいかん)。暗雲と暗闇に空と海を染める侵略者に、人類は敗走を繰り返し制海権を奪われ続けてきた。

 

 その脅威に抗するは、彼らと対等に戦える力を持つただ一つの存在。在りし日の艦艇の魂を宿す娘達――艦娘(かんむす)

 艤装(ぎそう)と呼ばれる兵器を身に纏い、生まれながらにして深海棲艦と戦う力を持つ彼女達は、長きに渡り海を狙う侵略者達に抗い続けてきた。

 

 双方は飽くなき死闘を繰り返し、今日に至るまで幾度となく戦いを続けている。

 ――全てはこの水平線に、勝利を刻むために。

 

 ◆

 

「こちら神通(じんつう)。異常ありません」

「こちら川内(せんだい)、異常ナシだ」

「こちら那珂(なか)ちゃん! 異常なしだよっ!」

『了解した。0400の時刻を以て、第二支援艦隊の哨戒班と任務を交代する。所定の位置まで帰投せよ』

 

 ――194X年8月25日。

 某海域。

 

 艦娘を率いる軍事拠点「鎮守府(ちんじゅふ)」より派遣された三姉妹の艦娘達が、夜の海原を駆けていた。

 艤装によりスケートさながらに海上を走る、三人の姉妹艦。夜戦を得手とする一番艦「川内」、二番艦「神通」、三番艦「那珂」の三名はこの時、深海棲艦の接近に対する哨戒任務に就いていた。

 

「……あーんもぅ、異常なさすぎっ! せっかく夜間でも隠し切れない那珂ちゃんの魅力で、みんなをメロメロにする予定だったのにぃ!」

「も、もう那珂ちゃん……いけませんよ、異常がないのは良いことなのですから」

「神通の言う通りだぞ、那珂。……あー、でもやっぱり敵を見つけて夜戦したかったっ!」

「川内姉さんっ!」

 

 柿色の服の上に艤装を纏う彼女達は、交代の時間が差し迫ると口々に本音を漏らす。長女と三女の奔放な発言に、次女はいつものことながら眉を釣り上げ諫言する。

 

「しっかし、ホントに何も起きないねー。いつもだったら、こっちを偵察しに来てる奴らが二、三匹はいるもんなのに……」

 

 ――多少なりとも深海棲艦との小競り合いは起きているが、ここ数週間は穏やかな毎日が続いている。大規模な反抗作戦に向けた準備期間……という噂もあるが、艦娘達自身も実際のところは把握していない。

 

 彼女達の指揮官である「提督(ていとく)」は現在、上層部に特型駆逐艦配備の打診のため大本営に出張しており、現在は秘書艦を務める戦艦「長門(ながと)」と「陸奥(むつ)」がその役割を代行しているが――彼女達も詳細を語ろうとはしなかった。

 だが、機密保持という鉄則を鑑みればその姿勢は当然であり、部下である艦娘達もそれについては理解しているため、詮索する者は一人もいなかった。

 

 だが。それを鑑みても――この日の静けさは異常過ぎると、彼女達は感じていた。

 

「妙、ですね。静か過ぎる……」

「今夜だって、かなり沖の方まで踏み込んで哨戒してたのに……一匹も影すら見えないなんて、ちょっと変だよね」

 

 次女と三女が、そうして訝しげに互いを見合わせていた時。先行する長女は独り、前方の水平線を眺めて居た。

 

「……!」

 

 闇一色の空を映したように、暗く淀んだ海原。その並行であるはずのラインの上に――うっすらと。

 

 何かの影が、見えたのだ。

 

「……いたいた。神通、那珂。0時の方向に何かいる」

「えっ……!? どうしてこんなところに!? 索敵を潜り抜けて来たというの……!?」

「ほ、ほんとだ。なんであんなところに……」

「とにかく、あの影の実体を探ろう。散開するよ」

 

 夜戦で培った暗視能力は、伊達ではない。素早く敵影を発見した川内は、指先で二人に散開を指示するとスピードを落とし、音を殺す。

 その指示を受け、次女と三女は互いに顔を見合わせて強く頷き、左右に航路を変えた。

 

(あんな場所に、単独で……。ウチの艦娘じゃないことは確かだよね。でも、万一にも誤射だけは避けたい)

 

 妹達が散らばって行く様を見届けた後、川内は耳に手を当て上司と連絡を取る。

 

『こちら長門(ながと)だ。何かあったか?』

「進路上に、彼我不明(ひがふめい)の人員一を確認しました。これより誰何(すいか)に入ります」

『なに? そんなところにか……? ……わかった。何か対象に変化があれば、速やかに報告しろ』

「了解しました」

 

 通信から返ってきた凛とした声に、川内は厳かに頷くと、夜目を利かせて眼前の正体不明の物体を注視する。

 その「何か」は那珂と神通に包囲されても微動だにせず、海上に静止していた。

 

『こちら神通。所定の位置に到着しました』

『こちら那珂ちゃん! こっちも着いたよ!』

「よし……神通、那珂。これより、あの人員一の正体を誰何する。逸るなよ、二人とも」

『了解しました』

『了解〜っ!』

 

 目測距離は約300。三角状に散開した川内型三姉妹は、中央で静止する対象を凝視しつつ――緩やかな速度で接近を始める。

 僅かな波の揺れも起こすまい、と慎重に歩を進める彼女達の影が、徐々に「何か」へと近づいていく。だが、「何か」は気づいていないのか、未だ反応を示さない。

 

『距離250。対象、未だ変化なし』

『変だね……かなり近づいてるのに』

「無防備と見せかけて、こちらを引き付ける算段かも知れない。油断するなよ」

 

 川内の視界に映る、神通と那珂の影が徐々に大きくなっていく。対象のシルエットがさらにはっきりと見えるようになってきた。

 通常の深海棲艦なら、とうにこちらに気付いて攻撃してくる間合いだが――まだ、動きはない。

 

『距離200。未だ、変化はありません』

『……寝てるのかな?』

「こっちの領海のど真ん中でか? ……ていうか、この影の形は……」

 

 それからさらに接近し――対象まで距離150、といったところで。

 遂に、対象のシルエットが明らかになる。

 

 ――「雷巡(らいじゅん)(きゅう)」。

 顔を黒鉄の鉄仮面で覆い隠し、下半身を機械の塊で埋め尽くした深海棲艦の一種。夜間での戦闘を本領とする種であり、この時間帯においては脅威になりうる存在だ。

 

(……間違いない、チ級だ。やっぱり深海棲艦だったのか。……でも、妙だな)

 

 対象は未確認の新手ではなく、すでに交戦経験もあるチ級だった。……が、それだけに違和感も大きい。

 

 川内は夜戦を得手とする自身の特性上、同じく夜間で性能を発揮するチ級とは何度も戦ってきた。この鎮守府で最も夜戦慣れしていると言っても、過言ではない。

 そんな彼女の経験則を以てしても――これほど無抵抗で接近を許すチ級との遭遇は初めてのことであった。

 

 夜戦に精通する彼女だからこそ感じる、えもいわれぬ違和感。その実態――あのチ級に隠された秘密を解き明かすまで、油断はできないだろう。

 

『距離100。川内姉さん、これはやはりチ級では……? どうします?』

『まだこっちに気づいていないみたいだし……先制して仕掛けるのもアリじゃない?』

「……いや、もう少し様子を見る。少なくともこの距離なら、いつ相手が動いてもこっちは絶対に外さないんだ」

 

 もしかしたら、このチ級から深海棲艦の新たな情報が得られるかも知れない。今まで発見されなかった習性があるなら、その全貌を見極める価値はある。

 川内は近づいてくる妹達に指示を送ると、正面からチ級の影に近づいていく。その間合いはすでに、50を切っていた。

 

(もう目と鼻の先か……。これ以上引き付けたって、撃つ姿勢に入る前に撃たれるのが関の山だ。それがわからないチ級とは思えないが……)

 

 しかし、ここまで近くに来てもチ級の影に変化はない。微動だにしないまま、川内達の接近を許していた。

 この近さとなると、もう夜間でも全体像がハッキリと見えてくる。鉄仮面で素顔を隠し、下半身を機械に埋め尽くすその出で立ちは、紛れもなく雷巡チ級のそれであった。

 

 彼女は居眠りでもしているかのように俯いたまま、全く動きを見せない。対して、川内達三人は砲身を向けながらジリジリと近寄っている。

 

 川内が考えている通り、ここまで無防備なまま接近を許していては、迎撃する前に撃たれてしまうだろう。仮に正面の川内を撃てたとしても、すぐに両脇から神通と那珂に撃たれてしまう。

 いくら夜間の雷巡チ級といえど、この状況を脱せられるほどの性能はないはず。――川内の表情は、さらに険しくなった。

 

『……距離、10。川内姉さん、このチ級は一体……?』

『やっぱり寝ちゃってるのかな……?』

「……」

 

 彼女に合わせて近づいてきていた妹達も、さすがに違和感を覚えたらしい。訝しむような声色で呟く彼女達は、互いに顔を見合わせる。すでに互いの顔が鮮明に見える距離だった。

 あとほんの少し近づけば、姉妹間の通信すら無用になるほどの距離になる。そこに思い至った川内は、暫し思いふけると――意を決するように顔を上げた。

 

「……よし。私がゼロ距離まで接近して調べてみる。二人は万一に備えて援護してくれ」

『え……!? む、無茶です川内姉さん! もしそこでチ級が動き出したら……!』

『そ、そうだよいくらなんでも!』

「大丈夫。……大丈夫な、気がするんだ」

 

 もしかしたら、チ級の生態を調べることができるかも知れない。今まで遠距離で撃ち合い、沈めるしかなかった深海棲艦にそこまで近付くのは初めての経験だが……この謎の敵の正体を解き明かす手掛かりにもなりうる。

 そう思い立った川内は、危険を承知で深海棲艦にゼロ距離まで接近することに決めたのであった。力強い長女の声色を聞き、妹達は不安に表情を染めつつも見守る他なかった。

 

 川内は滑るように航路を変え、チ級の背面に回りこむ。そして、息を殺して近寄っていくのだった。

 

(距離、9。8。7)

 

 心臓が高鳴る。それは期待か、不安か。

 

(6。5。4)

 

 緊張が走る。妹達の心臓が悲鳴を上げ、長女の顎から汗の雫が滴り落ちる。

 

(……3、2……)

 

 とうとう、ここまで来た。もはや、引き返せはしない。手が届く直前まで近づいてしまった彼女は、初めて見るチ級の鮮明な身体に息を飲む。

 

(1。……0ッ!)

 

 そして。ついに。

 容易く触れることができる距離まで……近づいてしまった。心臓が止まるような、強烈な緊張に震えながら……彼女は微かに震える手で、深海棲艦の柔肌に触れる。

 

(……こ、れが……)

 

 それは、自分達艦娘とさして変わらない……柔らかな感触だった。体温というものをまるで感じない冷たさではあるものの、彼女の指に伝わる感覚は、妹達や仲間達と触れ合う時とどこか似ているようにも感じられた。

 

(すごい……なんだか、まるで……)

 

 その未知の感覚に驚嘆しつつ、川内は撫でるように上から下へと手を滑らせる。……その時だった。

 

(……んっ……!?)

 

 ぬちゃり。

 

 そんな擬音が似合う、「何か」が川内の手に纏わり付いた。その違和感を敏感に感じ取った彼女は咄嗟に手を引き――彼女の足元が大きく波打つ。

 

『川内姉さんっ!』

『大丈夫っ!?』

 

 その反応を目撃した神通と那珂が、何事かと声を震わせる。普段なら、ここで強気に笑って元気付けるところであるが……今の川内に、そんな余裕はない。

 

「……!」

 

 手に纏わり付く鮮血の滴りに、戦慄している今の彼女には。

 

 自分の手についたのがチ級の血だと気づいた川内は、その感触を覚えた部位――肉体の上半身と機械の下半身を繋ぐ腰周りに、視線を移す。

 チ級の身体自体が暗い色であるためか、彼女の夜目でも中々見えない部分だったが……徐々に、その全貌が見えてくる。

 

 そして。

 

「……ひっ!?」

 

 見えた。

 

 見えてしまった。

 

 腰から無惨に食いちぎられ、「中身」を剥き出しにされたチ級の傷口が。

 

 歴戦の艦娘らしからぬ声を漏らし、川内は思わず背を仰け反らせる。すると、先ほど川内が揺らした海面にバランスを狂わされてか、チ級の身体が大きく傾いた。

 

 このまま倒れ伏して行く。誰もが、そう思う動きだった。

 

 だが。このチ級は、違っていた。

 

「……あぁ……!」

 

 食いちぎられた腰周りは、もはや骨も残っておらず……僅かな肉が繋がっているに過ぎなかった。そのためか、傾いた勢いで倒れたのは――チ級の、上半身のみであった。

 

 血糊を撒き散らしながら、うつ伏せに海面に伏したチ級の上半身は、そのまま暗黒の海中へと没する。

 それから僅かな間をおいて、残された下半身が上半身とは異なる方向に倒れ――沈み始めた。

 

『こ、これって……!』

『どど、どうなってんの!?』

 

 目の前で起きた現象に、神通と那珂も困惑の表情を浮かべる。川内は反応する余裕もなく、ただ呆然と上下に分かれたチ級の遺体が水没していく様子を、見るしかなかった。

 

(このチ級は私達を引き付けていたのでも、眠っていたのでもない。何者かに、すでに喰い殺されていたんだ……。誰が……!?)

 

 だが……海中に消えゆくチ級の上半身を見つめていた彼女は。ふと、あることを思い立ち我に返る。

 

「神通、那珂! 下を照らせ、海中だ!」

『えっ!? し、下ですか!?』

『な、なんで!』

「いいから早く!」

 

 そして妹達に指示を送りながら、手にしたライトを海中に向ける。長女の切迫した声に、妹達はただ従うしかない。

 

 底の見えない暗闇そのもの。

 そこへ差し込む三つの光は――彼女達三人に、凄惨たる光景を映し出していた。

 

「……!」

 

 川内も。神通も。那珂も。誰一人、声が出せずにいた。凍りつく三姉妹が、足下の海中を見下ろした先には――おびただしい数の、深海棲艦の遺体が漂っている。

 

 鮫型の「駆逐(くちく)(きゅう)」、「駆逐(くちく)(きゅう)」、「軽巡(けいじゅん)(きゅう)」。チ級と同じく、人間に近い部分を持っている「軽巡(けいじゅん)(きゅう)」。

 何十という深海棲艦の群れが、身体のあらゆる箇所を食い荒らされ、海中に没していた。たった今、沈もうとしているチ級も、その仲間入りを果たそうとしている。

 

 彼女達が感じていた、奇妙なまでの静けさ。その理由が、ここにあった。

 

「な、なに!? なんでみんな食べられて……だ、誰が!?」

「川内姉さん、これは……」

「……ああ、間違いない。このチ級も、海の下のこいつらも、みんな何者かに喰い殺されたんだ。……これが、ここ暫く連中の姿が見えなかった理由、か」

 

 鮮血が纏わり付く自分の手を一瞥し、川内は眉を顰める。通信がなくとも話せる位置まで集まった三姉妹は、三方向に背中を預け合い、揃って剣呑な面持ちになった。

 

 ……正体は不明。だが、チ級もろとも無数の深海棲艦を捕食するほどの「何か」がいることは間違いなかった。

 ならば、速やかにその実態を突き止めねばならない。「何か」の目的も何もかもわからないままではあるが――自分達にある意味近しい深海棲艦が喰われている以上、艦娘の自分達が捕食対象外とは限らない。

 

 その可能性を、言葉にするまでもなく危惧した彼女達は互いに頷きあうと、ライトを下に照らす。

 深海棲艦を喰らう者。そんな未知の脅威が、水平線に浮かんでいるとは限らない。第一、海にその「何か」がいるとするなら、夜戦に特化している自分達が気づかないはずはない。

 なら予想される「何か」の出処は、海中。そこに潜んで獲物を捉え、深海棲艦を喰らい尽くしていたとするなら……今まで自分達が見つけられなかったことにも説明がつく。

 

「……えっ!?」

「うそっ!?」

「どういう……こと!?」

 

 だが――三人はライトで照らした海中を見下ろした途端、驚愕の表情となる。

 

 あれほどまばらに漂っていた、無数の遺体が。おびただしい数の、遺体の群れが。

 

 忽然と、その姿を消していたのだ。

 

 三姉妹が一箇所に集まるまでの、僅かな時間。その間だけ、三人とも海中から目を離していた。

 一分はおろか三十秒にも満たない、その僅かな時間の中で、大量の遺体が海中から消え去っていたのである。

 

 一体、何がどうなっているのか。三姉妹の誰もが、その答えを見つけられずにいた。

 もしかしたら、幻か……何かの見間違いだったのではないか。そんな考えも過っただろう。……今この瞬間も、川内の手に纏わり付く鮮血の滴りがなければ。

 

「あ、あれだけの数の遺体が、どこへ……!」

「もしかして、犯人が食べちゃった……とか?」

「……いや、それはない。チ級が喰われた痕は、そんな大きさじゃなかった」

 

 川内が間近で見たチ級の傷口。僅かな肉だけで上半身と下半身を繋いでいた、その部分には、凄まじい力で食いちぎられた痕跡があった。

 だが、その傷口の形――即ち歯型は、鮫の類とは違う形状であり、しかも歯型自体はそこまで大きなものではなく……犯人は、自分達と大して変わらない体長の持ち主であることが推察された。

 

 少なくとも、無数の遺体を丸呑みにしてしまうような大きさではなかったはず。

 それに、他の遺体にも同じ形状の歯型が幾つも残されていた。跡形もなく深海棲艦を喰らい尽くせるような存在に、わざわざ獲物を小さく噛んで遺体を残す意味があるとも思えない。

 

 つまり……無数の深海棲艦を食い散らかした「何か」と。大量の遺体を跡形もなく捕食した「何か」がいることになる。

 

 「何か」は、二体(・・)いるのだ。

 

「……ッ!? なに、あれ……」

 

 その事実に至り、三人の全身が総毛立つ瞬間。何もかも消え去った海中の果てに、「何か」の影が揺らめいた。

 

 見間違いではない。

 

 影は徐々に大きくなり、彼女達が見たことないシルエットを膨らませている。

 

「……!」

 

 その先にあるものを、凝視した先には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――巨大。

 

 

 その一言に尽きる、飛蝗(バッタ)の顔が。

 

 

 三姉妹の視界全てを埋め尽くすように、広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 その口元から、僅かに覗く深海棲艦の肉片。それを目の当たりにした彼女達の絶叫が、夜空の果てへと轟くのだった。

 




 次回からは仮面ライダー側の世界のお話になります。艦これ側の世界のお話に戻るのは第10話からになりますのでご了承ください。
 なお、本作ではどっち側の世界の話なのかが分かりやすいように、艦これ側の世界は「194X年」とし、仮面ライダー側の世界は「2016年」と表記しています。


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第2話 仮面ライダーAP、南雲サダト

 ――2009年。世界各地でテロが多発。

 日本政府は鎮圧のため、精鋭揃いの対テロ特殊部隊「シェード」を創設。

 地球全土を活動範囲とする彼らの活躍により、世界には少しずつ平和の光が差し染めるようになっていた。

 

 だが。

 

 その成果が、人体を改造して兵器化するという非人道的な行為によるものと判明。シェードは直ちに解体され、創始者「徳川清山(とくがわせいざん)」も逮捕された。

 

 ――それから僅かな日数が過ぎた、2009年1月31日。

 開局50周年を迎えたテレビ朝日本社ビルにて、突如謎のテロ組織が踏み込み、ビルが瞬く間に占拠される事件が発生。

 その正体は、「織田大道(おだだいどう)」をリーダーとするシェード残党であった。人質と引き換えに徳川清山の釈放を要求する彼らは、「No.5」と呼ばれる兵士に犯行声明を読み上げさせる。

 

 しかし――彼が改造される以前から恋人関係にあったワインソムリエ「日向恵理(ひなたえり)」の説得をきっかけに、No.5は洗脳から解放され、組織から離反。

 改造人間「仮面ライダーG」に変身し、織田率いるシェード残党の怪人部隊と交戦。これを撃破した。

 

 それから間も無く、No.5は恋人を残し出奔。人間社会からもシェードからも孤立したまま、人類を脅かす怪人達と激闘を繰り広げることとなる。

 

 ◆

 

 ――それから7年が過ぎた、2016年5月。

 長きに渡る仮面ライダーGとシェードの戦いも徐々に沈静化を見せ、シェード残党の勢いはかなり弱まっていた。

 

 そんな折、世界中に「シェードに改造された元被験者が生身を取り戻した」という不可思議なニュースが舞い飛ぶようになる。

 それは、改造人間にされた罪なき人々を救う為に外宇宙から来訪してきた、エリュシオン星の姫君「アウラ」の所業だった。

 

 「改造人間を生身の人間に治す」秘術を持つ彼女の存在に目を付けたシェードは、東京まで単身で来日してきた彼女を攫おうと画策する。

 しかしその目論見は、現場に居合わせた城南大学2年生「南雲(なぐも)サダト」によって妨害されてしまった。

 

 生身でありながら、改造人間である戦闘員から少女一人を助け出した彼の手腕にも狙いを定めたシェードは、アウラを匿う彼を急襲。

 敢え無く囚われてしまった彼は、仮面ライダーGをモデルに開発された新型改造人間「APソルジャー」の一員として改造されてしまった。

 

 やがて仮面ライダーGと交戦することになる彼だったが、戦闘中にアウラの呼びかけにより洗脳から覚醒。No.5と同様に、組織への反旗を翻す。

 斯くして「仮面ライダーAP」と名を改めた南雲サダトは、アウラの力で人間に戻ることをよしとせず、仮面ライダーとして彼女を守るために戦うことを選ぶのだった。

 

 ――そして。

 

 この「Gの世界」における、第二の「仮面ライダー」が出現してから三ヶ月。

 

 シェードの中から、さらなる暴威が目醒めようとしていた。

 

 ◆

 

 ――2016年8月24日。

 東京都奥多摩町某所。

 

「……」

 

 蝉の鳴き声。川のせせらぎ。小鳥の囀り。

 都市開発がこの国で最も進んでいる東京の一部とは思えないほどに、自然の音色に彩られたこの空間の中で。

 

 赤いレザーベストに身を包む一人の若者が、石段に腰掛け一冊の本を読みふけっていた。

 夏の風に黒髪を揺らす彼の傍らには、真紅に塗装されたバイク「VFR800F」をベースとする改造人間用二輪車「マシンアペリティファー」が置かれている。

 

(相互に影響し合う、複数の世界――か)

 

 木陰の中でページを捲る若者……もとい南雲サダトは、手にした本の一節を静かに見つめる。その本の表紙には、「パラレルワールド 互いに干渉する異次元」という題名が記されていた。

 オーストラリアのとある高名な学者が提唱する、今ある世界とは全く違う歴史を歩んだ異次元の存在を、科学的考証に基づいて証明した論文を元に、日本の大学教授が学術書として著した一冊である。

 裏表紙には、「割戸神博志(わりとがみひろし)」という著者名が記されていた。

 

(城南大学の元教授、か……。2009年に消息を絶っているって話だけど)

 

 生物学を専門とする、某県出身の老教授。当時から偏屈者として知られていたらしい。

 サダトが入学してきた頃には、すでに割戸神教授は大学から姿を消している。

 ――それに彼が行方知れずとなった時期は、シェード残党の武装蜂起にも重なる。

 

 やがて、訝しむような面持ちでページを捲る彼の目に、あるページが留まった。終盤であるその項は、オーストラリアの論文の解釈ではなく――割戸神教授自身の主張が記されている。

 

 ――『この国には、この世界には偽善と欺瞞が溢れている。平和を謳いながらマイノリティを公然と迫害し、誰もそれを咎めない。この世界に生を受けていながら、この世界に居場所を見出すことができない。それを是とするならば、我々はもはや他の世界に居場所を求める他はないのかも知れない』。

 

 その一節は、この世界への深い絶望と諦観を滲ませていた。

 

(居場所を見出すことができない……か)

 

 サダトは神妙な面持ちで、その文面を見つめる。

 

 ――無差別テロを繰り返すシェードの怪人。

 その脅威から人々を守り続けてきた仮面ライダーに対する民衆の反応は、真っ二つに分かれていた。

 

 怪人達から被害を受けている大多数の一般市民は、人間の自由と平和を守る正義の味方として、惜しみない賞賛を送っている。

 現実問題として、シェードのテロ行為による被害が後を絶たない昨今においては、この考えが世論の主流であった。

 特に右翼寄りの勢力からの支持が多く、警察や自衛隊の特殊構成員として引き入れるべきという意見もある。

 

 だがその一方で、正義を騙り公然と人殺しを繰り返す殺人鬼として、強烈に批判する見解もあった。その背景には、シェードによる改造手術を受けた被験者問題がある。

 

 2009年にシェードの非人道的な人体実験が明るみになり、組織は解体されたのだが……それで改造されていた被験者達が元通りになれるわけではない。

 身体を人外の兵器にされた挙句、居場所も奪われた被験者達が路頭に迷い、異形ゆえに人間社会から追放された影響で凶行に走るという、社会問題にまで発展してしまった。

 これを受けて、政府はただちに改造被験者保護施設を全国各地に設立。シェードに改造され、かつ民間人への害意を持たない被験者達を隔離にも近い形で保護することになった。改造人間にも、人権が保障される制度が組まれたのである。

 

 そんな彼らにとって、シェードの怪人とあらば問答無用で抹殺に掛かる仮面ライダーは、まさしく「死神」であった。

 仮面ライダーの標的はシェード残党の暗躍に関わる怪人のみであるが、詳細を知らない元被験者達の間では「仮面ライダーに殺される」と錯乱状態に陥る者が続出。これを受けて、一部の人権保護団体が仮面ライダーを差別主義の殺人鬼と糾弾し始めたのである。

 

 そうして世論が二手に分かれた今も、仮面ライダーとシェードの戦いは続いている。

 だが、シェードを倒したとしても、仮面ライダーに勝利は来ない。

 

 異形の存在を受け入れる居場所がないことは、改造被験者保護施設の存在が証明している。平和が訪れたとしても、そこに安住の地はない。

 この広い世界に、仮面ライダーは独りなのだ。

 

(……俺の居場所も、ここじゃないのかもな)

 

 シェードも仮面ライダーもいない世界なら。改造人間が普遍的に暮らしている世界なら。……そんな世界が、あるなら。

 きっとそこに、自分の居場所もあるのではないか。ここよりもっと、相応しい場所があるのではないか。

 

 隣の芝生は青く見える、ということかも知れないが……それでも。似て非なる異世界が実在するというのなら……それを求める割戸神教授の思想にも、共感してしまう。

 気がつけばこうして、彼の著書を手に取っているのが、その本心の顕れであった。

 

 ――だが、その時。

 林の向こうから響き渡る悲鳴が空を衝く。その断末魔にも似た叫びを聞き、サダトは我に返るように石段から立ち上がった。

 

「……ッ!」

 

 考えるよりも速く。サダトは傍らのマシンアペリティファーに跨り、エンジンを噴かせる。

 プルトニウム原子炉を動力源とする改造人間用のスーパーマシンは、主人を乗せて猛烈に道無き道を疾走した。

 




 今話から第9話まで、仮面ライダー側の世界でお話が展開していきます。
 ちなみに今話で触れられた、この世界における改造人間を巡る社会問題については、第三章でちびちび掘り下げる方針ですので、第二章の大筋にはそこまで関係ないです。ごめんなさい。


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第3話 怪人との対決

 ――2016年8月24日。

 東京都奥多摩町某バーベキュースポット。

 

 世間では夏休みの只中。真夏の日差しを浴びながら、賑やかなひと時を過ごす人々の前に――()(もの)は唐突に現れた。

 

 全身から禍々しい棘だらけの触手を伸ばした、異形の魔物。「フィロキセラ怪人(かいじん)」と称される、シェード残党の主力改造人間だ。

 2009年に現れた織田大道の怪人態をベースに量産された個体であり、その総数は100を悠に超える。

 

 瑞々しい輝きを放つ川から這い出た悪魔の形相に、バーベキューを楽しんでいた人々は一瞬にして騒然となり、娯楽施設であるはずのスポットは阿鼻叫喚の生き地獄と化した。

 

 躓きながら、転びながら。それでも(せい)にしがみつき、ひた走る人々。そんな彼らの無防備な背中を、鞭のようにしなる触手が容赦無く貫いて行く。

 

 血糊に塗れた亡骸を踏み躙り、フィロキセラ怪人は川岸を歩んでいく。厳かに血を踏み締める彼自身の動きは、緩慢なものであったが――彼から伸びる触手の群れは、決して捉えた獲物を逃がさない。

 

 一人。また一人と、己の触手を鮮血に染めて行く。

 

 ――選ばれた改造人間である自分達こそが至高の存在であり、無力な人間共はその素晴らしさを喧伝するための生贄。家畜。

 それが仮面ライダーに追い詰められたことで、より苛烈で過激な選民思想に凝り固まったシェードの理念であった。

 

「……!」

 

 だが、それすらも跳ね除けんとする正義の使者が彼の前に立ち塞がる。逃げ惑う民衆の波を掻き分けるように、VFR800Fの赤いボディが真っ向から走って来た。

 

「……そこまでだ」

 

 フィロキセラ怪人の眼前で大きく片脚を振り上げ、バイクから降りた青年――サダトは、ジェットヘルメットを脱ぎ憤怒の形相を露わにする。彼の足元や周辺には、シェードのテロ行為により犠牲となった人々が死屍累々と散らばっていた。

 ――何もしていない怪人だったなら、投降を呼び掛けて改造被験者保護施設に入れさせることもできる。だがもはや、この個体に対話の余地はない。

 

 怪物の声による嘲笑と共に、亡骸を踏み潰すフィロキセラ怪人を前にした今。サダトの脳裏にあった選択肢は、一つに絞られた。

 「殺す」という、至極単純な選択に。

 

「……ッ!」

 

 真紅のレザーベストを翻し、ワインオープナーを象ったベルトが顕になる。同時に、懐に忍ばせていた赤色のワインボトルを手に取り――瞬時にベルトに装填した。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

 

 甲高い声色の電子音声が、ベルトから青空に響き渡る。サダトの身体を異形に変貌させる、変身待機音声だ。

 

 その直後。彼はタクトを振る指揮者のように滑らかな動きで、左手の人差し指と中指で「a」の字を描くと――最後に、その指先を顔の正面に立てた。

 

「……変身ッ!」

 

 次の瞬間。右手でレバーを倒すと、ベルトに装填されたワインボトルが赤く発光を始める。

 その輝きが彼の全身を覆うと――そこには南雲サダトではない、異形の戦士が立っていた。

 

 黒を基調とするボディに走る、真紅のエネルギーライン。金色に煌めく複眼は「a」の字に囲われ、赤い胸に刻まれた「p」のイニシャルが、燦々とした太陽の輝きを照り返している。

 

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 そして高らかな電子音声が、変身シークエンスの完了を告げるのだった。

 

 斯くして、仮面ライダーAPとして変身を遂げた南雲サダトは、フィロキセラ怪人と対峙することとなる。その右手にはすでに、胸の「p」の意匠から出現した一振りの剣が握られていた。

 「p」の字を象った柄から伸びる白銀の刃か、陽射しを浴びて眩い輝きを放つ。

 

「――シャアァアアッ!」

「おおぉッ!」

 

 その光を消し去らんと、フィロキセラ怪人の触手が唸る。だが、縦横無尽に振るわれる刃は、その猛攻を容易く凌いだ。

 火花を散らし、切り落とされて行く触手。その部位から伝わる激痛にもがく怪人は、頭部からさらに図太い触手を放った。とてもではないが、一太刀で切り裂ける太さではない。

 

「はッ!」

「……ッ!?」

 

 だが、それすらもサダトの想定内であった。彼は咄嗟に剣を投げ捨て、太い触手を両腕で掴む。

 そして、そのまま大きく両腕を振り上げ――怪人を振り回してしまった。宙を舞う怪人の背中が、バーベキューの鉄網の上へ落下していく。

 

「ガァッ!」

 

 石の上に叩きつけられる衝撃と、背中に伝わる高熱を同時に味わい、怪人は予期せぬダメージにのたうつ。そこへ、剣を拾い上げたサダトが踊りかかった。

 

「はッ! とぁッ! せあぁッ!」

「ギ、アァッ!」

 

 無論、怪人も迎撃に入ろうとするが――怪人が立ち上がって構えるより、サダトが斬り込む方が遥かに速い。

 身を起こしたばかりで無防備な怪人を、容赦無く何度も斬りつけていく。火花と血潮が飛び散り、フィロキセラの全身が血だるまになっていった。

 やがて斬撃に吹き飛ばされた彼は、その身を川の浅瀬に墜とされる。激しい水飛沫が、戦いの激しさを物語っていた。

 

「グ、オ、オォッ……!」

 

 かろうじて立ち上がりつつも、倒壊寸前の廃墟のように、ふらつきを見せるようになる怪人。その視界はすでに、失血とそれに伴う疲弊で混濁しているようだった。

 

「……とどめだ!」

 

 だが、サダトはあくまで手を緩めず――ワインボトルを押し込み、ボトルのエネルギーを右腕に集中させる。

 真紅のエネルギーラインを通じる「力」はやがて、右手に渡り――さらに逆手に握られた剣へと充填された。

 白銀の刃が紅い電光を帯びて、妖しい輝きを放つ。

 

『FINISHER! EVIL AND JUSTICE OF MARRIAGE!』

「スワリング――ライダービートッ!」

 

 そして、身体を横に回転させて放つ必殺の一閃が――降伏も命乞いも許さず、フィロキセラ怪人を切り裂く。

 

「グガ、アァアァアアッ!」

 

 絶叫と共に、怪人が爆炎に包まれたのは、その直後だった。

 

「……」

 

 爆発の威力を物語るように、川岸の周辺に煙が立ち上る。その光景から怪人の死を確信したサダトは、ベルトからワインボトルを引き抜き変身を解除する。

 そして、苦々しい面持ちで踵を返す――その時。

 

「バ、カな……こ、こんなバカなことがッ……!」

「――ッ!?」

 

 煙の方向から響く苦悶の声に、思わず振り返った。その視線の先には――血だるまで跪く、迷彩服姿の男の姿があった。

 男は血が滲むほどに唇を噛み締めながら、憎々しげにサダトを睨み付けていた。その佇まいから、あのフィロキセラ怪人の人間態であることが窺い知れる。

 あの一閃を受けていながら、まだ生きていたのだ。

 

「仮面ライダーの模造品でしか……先行量産型の一人でしかない! そんな貴様に、この俺が負けるはずがない……! 間違いだ、こんな結果は、間違いだァァァァッ!」

「ま、待てッ!」

 

 頭を抱え、目を血走らせ、狂乱の叫びを上げて。男は水を掻き分けながら、奥多摩の山中へと消えていく。

 瀕死まで追い込まれているとは思えないほどの力で、彼は逃走を図っていた。

 

 追い詰められるあまり凶悪性を増した怪人は、何をしでかすかわからない。

 サダトは素早くマシンアペリティファーに跨ると、男を追ってエンジンを噴かせた――。

 



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第4話 異形の飛蝗

 男を追い、バイクを走らせた先に待ち受けていたのは……一軒の、木造造りの山小屋だった。

 

「……」

 

 ここで途絶えている男の足音を見下ろし、サダトはバイクから降りるとヘルメットを脱ぎ、神妙な面持ちで山小屋に近づいていく。……敵の気配は、感じられない。

 キィ、という音と共に扉を開いた先には、男のものらしき血痕が山小屋の隅に続いていた。そこには、地下へ通じているものと思しき梯子がある。

 

(ここが連中のアジトだったのか……よし)

 

 無論、敵の拠点を見つけた以上、放っておくわけにはいかない。サダトは意を決したように口元を結び、梯子を降りていく。

 

(仮面ライダーG……吾郎(ごろう)さんは、海外に散らばったシェード残党を駆逐するため、ヨーロッパに向かっている。日本に残った仮面ライダーとして、俺がなんとかしなきゃ……)

 

 仮面ライダーとしての先輩である男の背中は、果てしなく遠い。それでも人間を守る改造人間として、その責は果たさねばならない。

 その一心で奥へと降りていく彼は……やがて、薄暗い研究室らしき場所へ辿り着いた。

 

「……!?」

 

 ――刹那。強烈な血の匂いに、サダトは思わず鼻を抑える。

 

 さっきの男だけの血ではない。目を凝らして辺りを見渡してみると、部屋中が血塗れになっていた。

 一見、水漏れのようにも見える滴りは、よく見ると天井に掛かった血痕によるものだということがわかる。

 

 天井に血痕が残るほどの、激しい血飛沫がここで起きていた。目の前でピチャリ、ピチャリと滴る紅い雫が、その証となっている。

 

(な、んだ、ここは。一体、ここで何が……!?)

 

 何かの資料らしき紙やディスクもあちこちに散乱している。激しい争いの跡が、これでもかというほど残されていた。

 ここで内乱でも起きていたのだろうか。そう勘繰るサダトは、とにかく辺りを調べて見ようと踏み出し――足元に奇妙な感覚を覚える。まるで、何かを踏んだような。

 

「う……!」

 

 見下ろした途端、思わず声を漏らしてしまう。彼が踏んでいたのは、血だるまになり息絶えた白衣の研究員であった。

 体のあちこちが欠損しており、脇腹は曲線を描く歯型を残して食いちぎられている。まるで、鮫に食われたかのようだった。

 

(こんな傷跡、初めて見るぞ……。俺が今まで戦ってきた怪人達とは、明らかに違う)

 

 それは、この三ヶ月近くに渡る戦いの日々の中では遭遇したことのない痕跡だった。それを一目見るだけで、これまでの常識が通じない相手であることは容易に想像できる。

 

 未知の怪人による暴走。それに伴うアジトの壊滅。それが、サダトが導き出したこの状況への結論。

 その得体の知れない怪人が、この広くもないアジトに今も潜んでいる。そう思う彼の頬を、冷や汗が伝った。

 

「……ん?」

 

 すると。立ち上がったサダトの目にふと、机に放置されていた書類が目に留まった。紙一枚で散らばった他の書類と違い、しっかりとファイリングされているそれは、彼の関心を強く引きつける。

 

「……」

 

 書類は埃まみれな上に、紙そのものがかなり古ぼけているようだった。さらにページのあちこちが血塗れになっていて、字が滲んで読めない部分が非常に多い。

 だが、人型の図面を描いたページはある程度はっきりと読むことができた。

 

「アグ、レッサー……?」

 

 そう名付けられた人型の何か――恐らく怪人だろうか――の全体像を描いた図面。それを見つめるサダトは、眉を顰める。

 飛蝗の遺伝子を組み込んだ人型の怪人。それを第一形態とし、段階的に進化する――という旨が書かれていた。……進化する怪人。ますます見たことがない。

 

(ここのアジトは、こいつを造っていたのか……。くそ、この資料を解析できれば、もっと情報も手に入っ――ん?)

 

 その時。

 

 なんとか情報を集めようと資料を凝視するサダトの目に、ある文字が留まる。それは、見取図の隅に小さく記されていた。

 ……血の滲みから免れたそれに書かれていたのは、彼が知っている名前であった。

 

(……! これは!)

 

 ――『開発主任:割戸神博志』。確かに、この資料にはそう書かれている。

 

 かつて城南大学の教授であり、パラレルワールドの実在を主張していた彼が。このアジトでシェードに与して、怪人の開発に携わっていた。

 その決定的証拠を、掴んでしまった。薄々関係があるのでは……と感じつつも、敢えて目を逸らしてきた現実と直面し、サダトは唇を噛み締める。

 

(教授……どうして、こんな……)

 

 割戸神教授とは、親交はおろか面識すらない。どのような人柄なのかも知らない。

 だが、同じ大学に身を置いていた人物であることには違いない。シェードが絡まなければ、自分の先生になっていたかも知れない。

 そんな人物が怪人の開発に関わっていたなどとは、そうかも知れないとわかっていても、認めたいものではなかった。

 

(教授……)

 

 深い落胆を覚えながら、それでもサダトはページに目を落とす。すでに教授も、この怪人の手に掛かっているのだとしたら……弔いの戦いに臨める者は、自分しかいない。

 死んでしまえば、敵も味方もないのだ。

 

「……ん?」

 

 ページを捲って行くと――やがて、古びた写真を幾つも貼り付けたページに辿り着いた。まるで五寸釘でも打ち込んでいるかのように、まばらに貼り付けられた写真の数々。

 そのチョイスに、サダトは既視感を覚える。

 

(これは……)

 

 寝たきりになった老人。苦痛に歪む顔。生気を感じない表情。それを診察する医師の、沈痛な面持ち。

 公害の一つとして数えられ、今もなお歴史に色濃く記録されている、時代が生んだ人災とも云うべき病に纏わる写真だ。

 

(なんで、こんな写真が……)

 

 正直、この資料に載っている怪人と関係があるようには見えない。だが、資料に貼られたこれらの写真は、どのページにも勝る存在感を放っている。

 まるで、これこそが全てだと訴えるかのように。

 

 ――その時。

 

「……!?」

 

 何かの「音」を、強化されたサダトの聴覚が感知した。無人であっても自然に発生する音とは――違う。

 サダトはページを捲る手を止めて書類を懐に仕舞い、息を殺すように静止する。耳を澄まし、音の実態を探る。

 

(……これは……)

 

 ――咀嚼音。

 

 何かを噛み潰す音。その答えに辿り着いたサダトは、息を飲むとワインボトルを手にして、音の発生源である奥の部屋へと踏み込んだ。

 

 やはり、怪人がここにいる。

 

 その確信を胸に、サダトは薄暗い研究室を静かに進み――扉を開ける。無機質な金属音と共に、開かれた先には。

 

「……!」

 

 あの時の男が、無残に引きちぎられた姿で転がっていた。手足は食いちぎられ、骨は露出し、肉という肉が食い尽くされている。

 

 ――だが、有る程度予想はついている展開だ。

 

 重要なのは、食っている怪人。

 

 この惨劇を起こした張本人であろう、その仇敵を凝視し――サダトは、息を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黄緑色のボディを持ち、二本の触覚を伸ばした異形の怪人。その腕には、ひび割れた頭蓋骨が抱えられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お、まえは……!」

 

 飛蝗の貌を持つ、その怪人は――瞳孔の開いた目を剥く男の首を咥えたまま、じっとこちらを見つめていた。

 



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第5話 飛蝗怪人の猛威

 薄暗い部屋に反響する水音。血の滴りが生む、その音だけが響き渡る中で――サダトと怪人の視線が交わる。

 

「……お前は、一体」

 

 問い掛けに対して、怪人は何も答えない。人語を理解できるのかも怪しい風体ではあるが。

 怪人は物言わぬまま男の首を貪る。骨が砕け散る音と共に両目が弾け飛び、割れたスイカのように赤色が広がった。

 その滴りを啜りながら、前屈みの姿勢で怪人は立ち上がる。片腕に抱えた頭蓋骨を、大切そうに抱きしめながら。

 

「戦うより他は……ない、か」

 

 こちらを見つめる複眼からは、理性が伺えない。口周りを血に濡らす彼の眼は、次の獲物を求めているようだった。

 何より、南雲サダトという男の第六感が訴えている。――生かしておいては危険すぎる、と。

 

「……ッ!」

 

 迷う暇はない。無防備なままでいては、今に男のように餌食になる。

 その確信のもと、サダトはワインボトルをベルトに装填し、素早く指先で「a」のイニシャルを描いた。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「変身ッ!」

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 そして変身完了と同時に剣を振りかざし、一気に斬りかかる。だが、怪人はその一閃を容易くかわして壁に張り付いてしまった。

 さながらそのモチーフ同様、飛蝗のようである。

 

「ク……速いッ!」

 

 この行動から、サダトを明確に敵と認識したのか。怪人は壁から弾かれるように飛び出し、サダトの上に覆い被さってくる。

 

「あぐッ!?」

 

 そして――並の改造人間を悠に凌ぐ膂力でサダトの両肩を取り押さえ。その肩口に、鋭い牙を突き立てる。

 

「うがぁあぁああッ!」

 

 先ほどまで静寂に包まれていたこの一室に、サダトの絶叫が反響し、鮮血が噴き上がる。APソルジャーの外骨格を容易く噛み砕き、中の肉まで貪ろうとする怪人は、生きたまま彼を食い尽くそうとしていた。

 

「くっ、そぉおぉおッ!」

 

 だが、ここで殺されるわけには行かない。その一心で彼は、震える左手でワインボトルを押し込んだ。

 右手を通じて、そこに握られた剣が紅い電光を帯びる。

 

『FINISHER! EVIL AND JUSTICE OF MARRIAGE!』

「がぁあぁあぁあッ!」

 

 そして無我夢中に、真紅に輝く刃を振るう。改造人間を斬り捨てるほどの電熱を帯びた剣が、怪人の身を刻んだ。

 

「ギャオオォアァア!」

「はぁ、はぁっ……!」

 

 その激痛にのたうちまわり、怪人はサダトから離れていく。サダトとしてはここから反撃に転じたいところであったが、今の捕食攻撃での失血ゆえか、速やかに動くことが出来ずにいた。

 出血が続く肩口を抑えながら、息を荒げてなんとかサダトは立ち上がる。一方、怪人は胸に刻まれた傷口から煙を噴き上げ、苦悶の声を漏らしていた。

 

 ――今の一撃は、さすがに効いたか。そう見るサダトは攻略への糸口を感じ、僅かに安堵する。

 ……仮面に隠された、その表情が一変するのは、この直後だった。

 

「……!?」

「アガッ……アァアァア!」

 

 傷を負った怪人は、僅かに落ち着きを取り戻すと――突如声の色を変え、辺りに散らばった白い破片を掻き集め始めた。無我夢中で放った今の一撃で、打ち砕かれた頭蓋骨だ。

 怪人は狼狽と嗚咽を混ぜ合わせた唸り声を、室内に響かせながら……必死に頭蓋骨のカケラを集めている。人間としての理性を感じられなかった先ほどまでとは、まるで雰囲気が違う奇行だった。

 

(な、んだ……!?)

 

 その様子を訝しむサダトは、怪人の様子を伺うように息を殺す。――すると。

 

「ト……ウサン、トウ……サン……!」

「――ッ!?」

 

 喋った。確かに、喋っていた。

 人ならざる彼の口からは、間違いなく人間の言葉が漏れている。掠れたような声色ではあるが、この静かな空間では聞き間違いようもない。

 

 だが――人語を発するその怪人は、対話の余地など全く見せない。今まで敵と認識していたはずのサダトを完全に無視して、ただ懸命に頭蓋骨の破片を拾い集めている。

 やがて、彼の両手の平に白い破片の山ができた。

 

「ア、アァ……」

 

 しかし当然ながら、それで元通りになるはずもない。粉々に砕かれた頭蓋骨は、砂が零れ落ちるかの如く手から離れていく。

 それをただ見ているしかない怪人は、深い落胆と哀しみに満ちた声を漏らしていた。その外見とはまるで噛み合わない、人間味に満ちた声色で。

 

(完全に理性が失われた怪人、とは違うのか……!? どうする、この隙に逃げるか仕掛けるか……)

 

 そんな彼の様子を伺いながら、サダトは思案する。

 

 人間を喰らう怪人である以上、人里に降ろせば甚大な被害が予想される。可能であれば、この場で始末するしかない。

 だが、この怪人はまだ底が知れない。自分も手負いである以上、迂闊に仕掛けて返り討ちに遭えば本末転倒である。

 

 先ほどの一閃を受けても、あれほど動き回っている点から見れば、決定打を与えられたようには感じられない。

 ――サダト自身の、怪人達との闘いで培ってきた経験則から判断するなら、もうしばらくは様子を見る必要があった。

 

 しかし。

 

 啜り泣くような嗚咽を吐き出す怪人が、次に放ったのは――空間も、世界も、全てを打ち砕くかのような咆哮であった。

 

「……が……!?」

 

 その絶叫に反応する間もなく――サダトの身体が一瞬にして、壁に激突する。総重量100kgを超える改造人間のボディを、容易く吹き飛ばす衝撃波が発生したのだ。

 

 壁から剥がれ落ち、地に伏せるサダトの身体は――この時すでに変身を解かれ、生身の身体が露出していた。

 

(……へ、変身が……)

 

 目に映る自分の手の色からそれに気づいたサダトは、今起きたことを整理しつつなんとか立ち上がる。しばらくの間……気を失っていたようだ。

 

 そして、ふらつきながらも両の足で立ち上がり、濁る意識を明瞭に取り戻した時。あの怪人が、姿を消していることに気づくのだった。

 

「……!? 不味い、外か!」

 

 傷の痛みに足取りを狂わされながら、それでも身を引きずるようにサダトも走り出す。躓きながら、転がりながら。

 息を荒げ、血を滴らせながら――ひた走る。

 

 このままでは……多くの血が流れることになるからだ。自分一人の血など、到底見合わないほどの。

 

「ハ、ハァッ、ハァッ……! く、そッ……!」

 



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第6話 進化する怪人

 ――2016年8月24日。

 東京都奥多摩町某所。

 

 かつて平穏でのどかな街並みであったこの地は、今。

 

 飛蝗の姿形を借りた怪人の手で、阿鼻叫喚の煉獄と化していた。

 逃げ惑う人間は背中から喰らい。立ち向かう警官隊は、拳銃を握る腕から喰らう。

 

 怪人という暴威を鎮めるべく立ちはだかる人間達は、この存在にとっては「敵」ですらなく――ただ栄養に溢れた「餌」でしかない。

 武装した警官隊がなだれ込んで来ても、彼の者は餌が食われに来た、としか認識していないのだ。

 

 警官といえど、感情を持つ一人の人間である。大勢の仲間達が容易く、それこそ羽虫を潰すかのように殺されてなお、戦意を維持できる者などそうはいない。

 やがて絶対的な恐怖に支配された彼らは、市民を守るという己の使命さえ忘れ、立ち向かうことを放棄していった。

 

 そうして――怪人が奥多摩町に出現して、僅か40分。たったそれだけの時間が過ぎた頃には、もはや彼に戦いを挑む者はいなくなっていた。

 彼を取り巻くものは鮮血に塗れた骸の山と、炎上するパトカーのみ。今頃は警察では対処し切れない案件として、自衛隊の治安出動が要請されている頃だろう。

 ――このまま生身の人間をぶつけたところで、餌が増えるだけなのだから。

 

「あ、あぁ、あ……!」

 

 その時。

 彼の者を除き死者しかいないはずの、この場に――怯える少女の声が、微かに聞こえる。その方向へ、怪人が振り返った先には……ある四人の少女達が互いを抱き合い、震える姿が伺えた。

 

 年齢は十歳前後。夏休みを友達と過ごす――という、ありふれた平和な日常の中にいた彼女達は、慄くあまり逃げることすら出来ずにいたのだ。

 突如飛び込んで来た殺戮の光景に、何分も遅れてようやく理解が追い付いた彼女達に待ち受けていたのは、逃れようのない恐怖と絶望であった。

 

「お、とうさん、おかあさん……!」

「いやぁ……なんで、なんでぇっ……」

 

 今日は、この仲良し四人組で川に遊びに行くはずだった。昨日と変わらない、楽しい夏休みの思い出が、始まるはずだった。

 ――今日の夕暮れには、暖かい夕食が待っているはずだった。両親の笑顔が、待っているはずだった。

 決して、こんな怪物に食い殺されるために生まれて来たわけではない。今日まで、生きてきたわけではない。

 

 予告もなしに舞い込んできた残酷な運命は、覚悟を決める暇すら与えない。いや、暇があったとしても幼い少女に、そんな覚悟が備わるはずもないだろう。

 

 頼れる大人は軒並み殺され、何があっても自分達のような子供を守ってくれるはず(・・)の警官隊は、我先にと逃げ出していた。

 

 この瞬間に至り、平和な日常しか知らずに生きてきた彼女達はようやく、自分達が見放されたことを悟っていた。しかし、それを受け入れられるか否かは、全く別の問題である。

 

 ある少女は、自分の運命に「なぜ」とひたすら、答えがあるはずもない問い掛けを繰り返し。ある少女は、本能が訴える恐怖に突き動かされるまま、両親を呼ぶ。

 だが、助けは来ない。颯爽とこの場に現れ、怪人を蹴散らしてくれるヒーローの気配など、感じられない。

 

「み、んな……逃げよう、逃げるのよ!」

 

 その時。両足を震わせ、涙目になり、絶望に打ちひしがれた表情のまま。四人組の一人が、辛うじて声を絞り出す。

 このままでは、どちらにしろ死ぬ。ならば例え望みが薄くとも、生き延びる努力をしなくては。――そんな悲痛な決意を、表情に滲ませて。

 

 茶色のボブヘアーを揺らし、懸命にそう訴える彼女は、リーダーを自称して三人を遊びに連れ出したことに責任を感じているのだ。自分が三人を誘わなければ、こんな目には遭わなかったかも知れない――と。

 

「で、でも!」

「だだ……い、じょう、ぶよ。わた、しが……いるじゃない」

「……」

 

 絶望的な表情のまま、無理矢理「いつも」の笑顔を作ろうとする彼女。そんな痛ましい姿と真意に、三人の胸が痛む。

 そんな少女達の苦しみなど、知ったことではない――と言わんばかりに、この災厄の元凶が近づき始めたのは、この直後だった。

 

「ぐるなら……ぎなざいっ! ゆびいっぼん、みんなにばっ! ぶれざぜないっ!」

 

 それに気づいたボブヘアーの少女は、短い手足を目一杯広げ、怪人の前に立ちはだかる。

 涙も鼻水も垂れ流したまま、恐怖に慄いた表情のまま。それでも身を呈して、三人の友達を守ろうとしていた。三人の位置からはその表情は伺えないが、彼女の胸中なら悲痛な叫び声だけで充分窺い知れる。

 

「ダメェ! 逃げんですっ! 逃げなきゃ、ダメ……なのですうぅっ!」

「一緒に逃げなきゃ、逃げなきゃ意味ないわよ! 一人前のレディーに、なるんじゃなかったの!?」

「……逃げ、て……!」

 

 三人の少女達も必死に連れ戻そうとするが、ボブヘアーの少女は足に釘でも打たれたかのように動かない。その間も、怪人の影は少女の体を覆い尽くそうとしていた。

 

「だ、め……だめですっ……死んじゃ、ダメぇえぇえっ!」

 

 そして、かけがえのない親友を失うことに何より絶望した少女の一人が、茶髪のアップヘアーを振り乱して絶叫する――その時だった。

 

「オゴォ……ァア……」

 

「えっ――!?」

 

 突如、怪人はボブヘアーの少女に手が届く直前で……仰向けに転倒したのである。何か攻撃した覚えもなく、少女達は何事かと顔を見合わせた。

 

「え……なに? しん、だの?」

「わ、私達……生きてる」

「た、助かったの、です……?」

 

 何が起きているのかも、理解できず。そのまま暫し立ち尽くした後……彼女達は無我夢中でそこから逃げ出し、遠く離れた川辺に辿り着く。

 

 怪人は、追ってきていない。

 

「……き、てる。わた、し、たち……生きてる」

 

 そこでようやく、自分達がこの地獄から生き延びたと悟るのだった。理由はわからないが、あの怪人は死んだのだと。

 

「よ、がっだ、よぉ……う、うぇえぇえん!」

「なによ、ピーピー泣いて。そんなんじゃ、レディしっか、く……うわ、あぁあ、あぁああぁあん!」

 

 その次に飛び出たのは、生還への実感を起爆剤にして破裂した、号泣の嵐。少女達は互いに抱き合い、涙し、生きていることへの感慨を深めていた。

 

 悪い夢は覚めた。自分達は生きる。明日には、また眩しい太陽が待っている。家に帰れば、いつものように夕食が待っている。

 

 少女達は、疑うことなく。

 そんな未来が来ることを、信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――苦しむことも、恐れることもなく。

 巨大な牙の一撃で、死を遂げるその一瞬まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ミズ……キレイナ、ミズ。トウサン……ミル、イッショ……』

 

 少女達四人を瞬時に喰らい、その「日常」と「未来」を閉ざした存在。それは、あの怪人とどこか似ているようで――果てしなく、異なる。

 

 体長は20メートル。六本の長い足を持ち、とりわけ最後部の後脚は一際長く、折り畳んでいても天を衝くほどの長さを誇っていた。

 黄緑色だった身体は新緑に変色し、人と飛蝗が合わさった貌は、さらに飛蝗の要素へと傾いている。

 

 ――今ここに生きている人間がいたら。この怪物を、「巨大なトノサマバッタ」と表現していただろう。だが、最後の生き残りだった四人の少女は今、微かな肉片を咀嚼されている最中だ。

 

 変わり果てた姿へと変態を遂げた怪人は、少女達の咀嚼を終えると、その脚を忙しなく動かし始め、ある場所を目指して進み始めた。

 

『ミズ、ミズ。キレイナ、ミズ。イッパイ。トウサン、イッパイ』

 

 向かう先は、まだ見ぬ無数の「餌」が犇めく日本最大の都市。そして、その経路上に在る、「ミズ」の溜まり場。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――東京都西多摩郡奥多摩町。「小河内ダム」と呼ばれる、貯水池であった。

 




 小河内ダムは、初代仮面ライダーが蜘蛛男との決戦に臨んだ場所でもあります。ライダーだけでなく、人造人間キカイダーでも戦いの舞台として登場していました。


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第7話 広がる災厄

 ――2016年8月24日。

 東京都青梅市某所。

 

 奥多摩町からやや離れたこの街は、穏やかでのどかな都市ではあるものの――やはり日本最大の都市である東京の一部というだけあり、建物と人に溢れた街並みを持っている。

 

 この街を二つに隔てる大きな川を眺めながら――黄昏時の歩道を、二人の少女が歩んでいた。

 

「お姉様。今日は何を買われたのですか?」

「ふっふーん。今日はドライフルーツデース! ディナーのあとのティータイムが楽しみネー!」

「ふふふ。あまり食べ過ぎては、お身体に障りますよ?」

「いつの世も、スイーツは別腹ネ! 我が頼もしき妹も、カレーを用意して待ってマース!」

「私は少々不安ですけど……あのお姉様のカレーは……」

 

 頭に二つのお団子を結った、ブラウン色のロングヘアー。その長髪を靡かせて、長女は天真爛漫な笑みを浮かべる。そんな姉を、隣を歩く妹は微笑ましげに見守っていた。

 

 帰国子女ゆえか特徴的な言葉遣いではあるものの、長女はその人柄から高校のクラスでは人気者であり、彼女達を含む四姉妹は半ば学園のアイドルのような扱いであった。

 黒髪のボブカットを揺らす、眼鏡をかけた長身の妹はそんな姉を暫し見つめた後――夕暮れに沈む空を見上げる。

 

(明日の献立、考えておかなくちゃ……)

 

 明日も、明後日も。平和な毎日は、必ずやってくる。当たり前の日常を、謳歌できる。

 それはこの少女に限らず、青梅市に暮らす誰もが、意識するまでもなく確信していた。

 

(今夜も、賑やかになりそう……)

 

 このあとは姉妹皆で食卓を囲み、夏休みのひと時を満喫するのだと。涼しくなる夜には、長女のティータイムに妹達で付き合うのだと。

 

 ――「その瞬間」が訪れる。その時まで。

 

「え……」

「……ん? 何デス、この音――」

 

 地の底から伝わるような振動音。それはやがて天地を引き裂かんとする轟音と化し、数秒と経たないうちに凄まじい揺れが姉妹を襲う。

 突破的な地震か――と、冷や汗をかきながらも、冷静さを維持しようと思考を巡らせる妹は、ここが川の近くであることにハッとなる。

 

「お姉様! すぐにここを離れッ――!?」

「……こ、んなの、聞いてない……デス……」

 

 だが。真相は、違っていた。

 この青梅市を襲った災害は、地震ではなかったのだ。今、地面が揺れているのは……とある災害の余波でしかない。

 

 本当の災害は。津波の如き、天を衝く濁流は。彼女達の目の前に、突如として現れたのだった。

 この地震……にも似た地面の揺れから、僅か十数秒。たったそれだけの間で――青梅市に襲い掛かる濁流は、彼女達のそばまで迫っていたのだ。

 

 しかし。

 

 彼女達の思考を停止させた、衝撃的な存在は、それそのものではなかった。

 

 青梅市に降り掛かる水の災厄。それが、運んできたものに――彼女達は理解が追いつかず、畏怖する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルに張り付く、巨大な新緑の生命体。飛蝗を象った「何か」が、理性というものを感じられない複眼に、彼女達を映していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お姉様、逃げッ……!」

 

 その時点で、すでに運命は決まっていた。

 

 恐怖に怯える暇も、絶望に打ちひしがれる暇も、正確に状況を理解する暇さえ、与えられず。何もかもわからないうちに、彼女は上体から食われていた。

 

「なん、デ……、なん、デ!?」

 

 この光景を、長女は受け入れられずにいる。だが、それを咎められる者などいない。

 

 今日は朝から夕方まで、友人や姉妹達と楽しく過ごし、夏休みの一日を満喫していた。男友達や女友達とプールに行ったり、ナンパされたり、軽い男はお断りと袖にしたり。

 仲間内でボウリング大会に興じたり、カラオケで盛り上がったり。周りが恋バナで盛り上がる中、恥ずかしくて入り込めなかったり。

 

 そんな当たり前の日常が、夏休みの日常が、今日もこれからも続いていくはずなのだ。こんな状況になるなんて、聞いていない。

 

 予報もなしに地震が来て、街が水に飲まれ、自分も腹まで水浸しになり――いきなり現れた怪物に、かけがえのない妹が食われた。

 この連綿と続く平和な人生の中で、どうやってそれを予感しろというのか。

 

「イヤ……イ、ヤ……!」

 

 ――これは、夢だ。今日のナンパを断ったり、昨日告白してきたサッカー部のキャプテンを振ってしまったりしたから、バチが当たってこんな悪夢を見てるんだ。

 だから、覚めれば自分は自宅のベッドの上にいるはず。今、血みどろになりながら下半身まで食い尽くされた妹も、いつものように呆れながら起こしに来るはず。そしていつものように、リビングの食卓まで半分寝ながら足を運ぶのだ。

 

 だから、早く覚めて欲しい。早く、解放して欲しい。誰も死んでいない世界に、自分を返して欲しい。

 

 その一心で、長女は両手で顔を覆う。次に目を開けたら、映っているのは見知った天井であると信じて。

 

 ――やがて。その間もじりじりと近づいていた巨大飛蝗は。

 

 動かぬ格好の餌を、頭から喰らうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――それから、しばらくした後。

 ほんの20分前まで、二人の美少女姉妹が歩いていた歩道の場所に……血に濡れた車が流れ着いた。そこから流れるラジオの音声だけが、水と血痕に溢れた、この街の中に響き渡る。

 

『本日未明、東京都西多摩郡の小河内ダムが突如決壊。大量の水が下流に流れる事故が発生しました。近隣の地域にお住まいの方々は避難を――』

 

『――臨時ニュースをお知らせします。現在水害発生中の小河内ダムにて、巨大な飛蝗のような怪物が現れたという通報がありました。警視庁、及び防衛省はシェードとの関連性を考慮し迅速に対応を行うと発表し、近隣の住民への避難が――』

 

 ◆

 

 ――2016年8月24日。

 東京都大田区東京国際空港。

 

 「羽田空港」の通称で広く知られる、日本を代表する空港の一つである。夜の帳が下りていたこの当時、ライトアップされた滑走路には231便の旅客機が着陸する予定だ。

 

 ……そして同機にはこの時。ある高校生の一団が搭乗していた。

 

「先輩って、ほんと愛想悪いですよねー。だから彼氏いたことないんでしょ」

「……彼氏がいないのは、あなたも同じでしょう」

「んなっ! わ、私はただ、好きな人が出来たら自分から告白するって決めてるだけで――って、うるさいうるさいっ!」

「……うるさいのはあなたよ」

 

 ある高校の女子弓道部。その夏合宿の帰りである彼女達の最前列の席で、隣り合わせに座っている二人の部員が小競り合いを続けていた。

 冷静沈着で人望の厚い部長と、次期部長でありながら血気盛んで、先輩との衝突が絶えない部のエース。そんな二人の舌戦に、後方座席の部員達は顔を見合わせて苦笑いを浮かべている。

 

 艶やかな黒髪をポニーテールに纏めた美女は、緑色のツインテールを揺らして憤慨する後輩を冷めた目で見遣る。だが、一見すれば冷徹に見えるその眼差しの奥に、穏やかな温もりが灯っていることは後輩自身も知っていた。

 ただ、それをひた隠しにする姿勢が気に食わないだけなのだ。

 

 部長自身も、後輩が部活の後に居残り練習を夜遅くまで繰り返し、血の滲むような努力の果てにエースとなった背景を知っている。だからこそ次期部長に指名したし、その実力と人柄は誰よりも買っていた。

 

 その裏返しである厳しい態度が、こうして当の本人からの反発を招いてもいるのだが。

 それでもなんだかんだで恋バナに花を咲かせているということは、彼女達の仲を示しているようにも伺えた。

 

「あの二人、相変わらずよね〜……」

「せっかくあたしらが色々お膳立てしてやったのに、結局いつも通りじゃん……」

 

 今回の夏合宿は全国大会に向けた追い込みが主目的であるが、共同生活を通じて彼女達の仲を取り持とうという部員達の試みも含まれている。

 部員達の誰もが、そうして二人の和解を願っていたのだが――追い込みはともかく、そちらの方は今ひとつだったようだ。相変わらずの喧嘩ばかりな二人に、部員達も苦笑いを浮かべざるを得ない。

 

「だ、だいたい私だってまだ本気出してないだけだし! 先輩こそ、そんな態度で居続けてたら一生彼氏出来ずにアラサー入りよ!」

「……頭に来ました。私も告白なら何度もされている。浴塗れの男に興味がないというだけよ。あなたなら簡単に引っかかりそうだけれど」

「んなっ、なんですってぇ〜!」

 

 その間に二人の口論は続いていた。これ以上(主にエースの方が)ヒートアップすると他の乗客にも迷惑になりかねない。見兼ねた部員達が、宥めようと席から立つ――その時だった。

 

「――だから彼氏が出来たら、私のところまで連れて来なさい。あなたに見合う男かどうか、審査してあげる」

「え……?」

「部のエースが悪い男に騙されて活動を疎かにされるようになったら、部員全体の士気に関わるもの」

 

 突然声色を穏やかな色に変え、煽るような口調から諭すような口調に切り替えた部長の貌に、エースは戸惑ったような表情で口ごもる。優しげな心遣いを包み隠さない、という何より強烈な不意打ちに攻勢を封じられたようだ。

 

「……なんか、ズルいよ。先輩」

「何が狡いのかしら」

 

 本当は優しいくせに、それを全く態度に出さず厳しい顔しか見せない。だからこちらも、それをわかっていても反発してしまう。

 そうやって反抗している最中に、いきなりストレートな気遣いを言葉にされたりしたら、どうしたらいいかわからなくなってしまう。

 

 ――そうして、いいように振り回されていることが何より気に食わない。本当に、嫌な先輩だ。

 

「……ばか」

「なにが馬鹿なのかしら?」

「独り言ですっ」

 

 そんな胸中が、態度に滲み出たのか。エースは緑色のツインテールをふわりと靡かせ、すとんと席に座り込む。いつまでも素直じゃない後輩の、そんな姿を物静かな部長はじっと見つめていた。

 彼女達の遣り取りが穏やかなものになる光景を見遣り、部員達は互いに顔を見合わせると、ふわりと微笑を浮かべて引き下がって行く。お邪魔虫にはなるまい、という彼女達なりの心遣いであった。

 

 ――きっと空港に着いて解散する頃には、二人の距離も縮まっていることだろう。後ろから彼女達を見守っていた部員の誰もが、そんな展望を夢想していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――が。

 

 機内に突如訪れた不自然な揺れが、そのイメージを吹き飛ばす。いきなり発生した異常事態に、女子弓道部のみならず乗客全てが目を剥いた。

 

『乗客の皆様にお知らせします。只今、羽田空港にて発生した非常事態を受け、本機の着陸先を中部国際空港に変更することとなりました。乗客の皆様には大変ご迷惑を――』

「着陸先を変更って……どういうこと!?」

「なに? なんなの? わたしたち、帰れるんじゃないの?」

「おい、どういうことなんだ! 説明しろ!」

「お客様、落ち着いてください!」

 

 次いで、機内に緊迫した声色のアナウンスが流れ込む。その内容に乗客達は騒然となり――弓道部員達にも緊張が走った。

 

「中部国際空港……? 妙ね。羽田に降りられないとしても、すぐ近くに成田空港もあるはず。どうしてわざわざ、そんな遠くまで……」

「せ、先輩! あれ!」

「……!?」

 

 そんな中、比較的冷静に事態を観察していた部長は、黒のポニーテールを揺らして逡巡する。その時、エースが突如大声を上げた。

 緑色のツインテールを振り乱し、動揺の色を声に滲ませる彼女。どんな土壇場でも大胆不敵に的を射抜いてきた普段の彼女からは、想像もつかないほどの狼狽えようだった。

 そんなエースの姿に、部員のみならず部長までも目を剥く。どんな時でも気丈さを忘れなかった彼女らしからぬ姿に、ただならぬ異常性を感じたのだ。

 

「キャアアアァア!」

「な、なによあれ……! どうなってるのよ!」

 

 さらに、エースと同じ光景を窓から見つけた他の乗客達にも衝撃と焦燥が迸る。ざわめきを広めているその「光景」を確かめるべく、部長は身を乗り出して窓を覗く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして。

 

 あるはずのない水嵩が、羽田空港を侵食している「光景」を、目撃するのだった。

 

「な……!」

「羽田が……冠水、してる……」

 

 色鮮やかなライトアップに彩られた、東京の夜景が待っているはずだった。羽田に降りたら、派手に打ち上げてこの合宿を締めくくるはずだった。

 

 しかし羽田の滑走路は水浸しになり、何機かの旅客機は海上に浮かされ、沖合いへと流されている。その向こうに広がる都市からはあるはずの輝きが失われており、代わりにライトを照らしたヘリが群れを成して飛び交っていた。

 到底、円満に解散できる状況ではない。それどころか、無事に着陸できるかも危うい。果たして、中部国際空港まで燃料が持つだろうか。

 

「成田空港に降りられないのは、これが理由……なのね。確かにこの状況じゃあ、成田も……」

「ちょ、ちょっと先輩! 冷静に分析してる場合!?」

「こんな時だからこそ、迂闊に騒いで二次災害が起こることを避けるべきよ。ただでさえ、機体が瀬戸際なのかも知れないのだから」

「せ、先輩……」

「さぁ、あなたも狼狽えてる暇があるなら早く周りの乗客達を宥めなさい。スチュワーデスだけに任せていては駄目」

「わ、わかってるわよ……それくらい」

「いい? 時期部長なら、少々のことで動じてはならないわ。部員はみんな、あなたを見ているのだから」

「……こんなの全然『少々』じゃないわよ、ばか……」

 

 こんな異常窮まりない状況でも、冷静さを失わず部員達を騒動から守ることを心掛けている。そんな部長の頼もしい姿に、エースは思わず頬を赤らめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その時。

 

「……ねぇ、見てあれ! 何か……何かいる!」

「何かって何だよ!?」

「知らないわよ!」

 

 状況が、動いた。

 

 乗客の一人が窓から指差した先――水没寸前の羽田空港から、さらに奥に伺える都市部。水浸しにされたその街道に、不自然な水飛沫が上がっていた。

 水を切る「何か」が、水中に潜んで羽田に近づいている。だが、その「何か」は鮫など遠く及ばないほどの大きさであった。

 

 しかし都市を侵している水嵩は、鯨が自在に泳げるほどの深さではない。自衛隊のヘリにライトで照らされている「何か」は、鮫でも鯨でもないシルエットを持っていた。

 

「なんなの、アレ……! こ、こっちに……羽田に来てる!」

 

 231便の乗客から見て、手前の方向へと「何か」は直進している。その進路上には、羽田空港――そのターミナルがあった。

 

「待って……! あそこに人! 人がいっぱい……!」

 

 新たに何かを見つけた乗客が指差した先。その場所――ターミナルの屋上には、大勢の民間人が集まっていた。

 この未曾有の大水害を受け、高所へ逃れようと急いだ人々が集中しているのだろう。身なりのいいスーツ姿の男性や、若い女性のグループなど、そこにいる人々の容貌は様々だ。

 この非常時においては正しかったのかも知れないが、水嵩はターミナル屋上に届くギリギリまで高まっている。水没は、時間の問題だ。

 

 そこには多数の救助ヘリも集まり始めているが、果たして間に合うかどうか……。

 

「……! お、父さん……!? お母さん……!?」

「なんですって!?」

「お父さん! お母さんっ!」

 

 すると、パニック寸前の乗客達を懸命に抑えていた弓道部のエースが、その足を止めて窓の向こうを凝視する。その口から出た言葉に、部長も思わず反応した。

 

 ――そう。ターミナル屋上に避難していた人々の中には、彼女の両親も含まれていたのだ。合宿を終えた愛娘を出迎えるため、ここまで駆けつけて来たところで水害に遭遇したのだろう。

 予想だにしない最悪の形で、合宿以来の再会となってしまった。

 

 さらに。

 

 この水害の猛威に震える、彼らを含むターミナル屋上の避難民に――水中の「何か」は、なおも急速に接近している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だっ――だめえぇえぇえぇえぇえッ!」

 

 そこから予想される展開。どれだけ頭で否定しても、脳裏に焼き付いて離れないその展開を拒むように。エースは髪を振り乱し、必死に叫ぶ。

 

 だが、水中から天を衝く水飛沫を上げて飛び出した、その「何か」――即ち巨大飛蝗は、彼女の命を削るような絶叫も、切実な願いも、容易く踏みにじっていく。

 

「な、なんだよあれぇえぇえ!?」

「きゃあぁあぁ! ひ、人が、人がぁあぁああ!」

 

 巨大な下顎が、ターミナル屋上を削りながら建物を両断していく。その直線上にいた人間は残らず餌食となり――辛うじて逃れた人々も、谷折りにされた折紙のようにひしゃげた屋上から、次々と海中に滑り落ちて行った。

 

「ぁ、あぁあ……い、いやっ……」

 

 エースはそれを、ただ見ているしかなかった。間一髪生き延びながら、悲鳴を上げて滑り落ちていく母を。咄嗟に妻を助けようと手を伸ばし、道連れとなる父を。

 散り散りに水底へと沈む生き残りに狙いを定めた巨大飛蝗が、急旋回して両断されたターミナルに迫る光景を。

 

「いやぁあぁあぁああッ!」

 

 文字通り、一人残さず。

 

 ひしゃげたターミナルの残骸だけを除く全てを喰らい尽くした巨大飛蝗の身体が、その僅かな足場に乗り上げ、勝鬨の如き咆哮を上げるまで。

 

 エースは涙も鼻水も溢れさせながら、泣き崩れるより他なかった。周りの部員はもとより、部長ですら掛ける言葉を見つけられず、立ち尽くしている。

 

「ぶ、部長……」

「……くッ」

 

 自分を迎えに来た両親を、目の前で食われた彼女に、何と言って励ませばいいというのか。どう取り繕えばいいのか。

 

「ねぇ……やだ! こっち見てる!」

 

 その沈痛な静寂を破るように、乗客の一人が悲鳴を上げる。二つに割れた羽田空港ターミナルに立つ、巨大飛蝗は咆哮を終えたのち――紅く鈍い輝きを放つ複眼を、231便に向けていた。

 

 231便と巨大飛蝗には、まだかなりの距離がある。とはいえ、相手は常識を遥かに超えた怪物であり、少なくとも見た目はジャンプ力が売りの飛蝗。

 この距離でも一飛びで食いついて来る可能性は、誰もが予感していた。あり得ない、とは誰も言い切れない。

 今の状況がすでに、常識というものを根刮ぎ崩壊させているのだから。

 

 ――その時。

 

「あ……あれ見ろよ!」

 

 何かに気づいたらしく、状況の変化を見つけた男性客がある方向を指差した。

 さらなる脅威が近づいているとでも言うのか。他の乗客達は絶望を滲ませた眼差しで、男性客が指差した先を見遣る。

 

「あれは……!」

 

 だが。次にそれを目にした乗客達が漏らしたのは、絶望の声ではなかった。

 

 浸水が激しい街道の中、僅かに水嵩が浅い道を通りながら急速に接近する――赤いバイク。そのシルエットは闇夜の中でも、乗客達には輝いて見えていた。

 

 そのバイクを駆る、命知らずな一人の男は。

 

「追い付いたッ……!」

 

 胸の傷に走る激痛も、滴る鮮血も、物ともせず。決死の形相で、ワインボトルをベルトに装填するのだった。

 

「もう……もう、これ以上は、絶対にッ!」

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「変身ッ!」

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 そして素早くレバーを倒し、ワインボトルの紅いエネルギーを漆黒の外骨格へ循環させ――仮面ライダーAPへと変身する。

 

「お、おい! 仮面ライダーじゃないか!? あれ!」

「本当か!? ライダーが来てくれたのかっ!?」

 

 その光景を見つけた231便の人々は、仮面ライダーが現れたことに歓声を上げるのだった。

 

「ハ……ッ、ハァッ……!」

 

 ――すでに彼が、半死半生の身であることも知らずに。

 




 巨大飛蝗の犠牲になっている人々は、あくまで何の力も持たない一般人。異世界の誰かと似ているけど、似ているだけの別人。という設定です。
 ちなみに怪獣(?)が自分で壊したダムの水に流される、というくだりは「ゴジラ対メガロ」を参考にしました。その映画でも小河内ダムが破壊されています。


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第8話 蒼い光

「見えたか?」

「ええ。まさかこのタイミングで仮面ライダーまで出て来るなんてね……。今まで何してたのかしら」

「……どうやら、あの怪物に一杯食わされた後らしいな。見ろ、かなりふらついている」

 

 突如として、大水害の危機に晒された闇夜の東京。その渦中に駆け付けた仮面ライダーAPを、ヘリパイロットの二人が見下ろしていた。

 射撃手はウェーブが掛かった茶色のロングヘアーを、操縦士は漆黒のサイドテールを、それぞれ無骨なヘルメットで覆い隠している。操縦士は現れたAPがすでに手負いであることを看破しているようだった。

 

「これから反撃を仕掛けようってとこ? 自分の判断で攻めに移れていいわね……ホント」

「言うな。ターミナル屋上の避難民への誤射だけは、何としても避けねばならなかった。撃つなという上の命令に反していい資格は、我々にはない」

「……そのせいで、ああして皆が食べられても?」

「ああ。……引き金さえ引けば救えたかも知れん、というのは『驕り』だ。先人が残した教訓を、我々が捨てるわけにはいかない」

「……」

「それでも納得がいかないのであれば、せいぜいお前を止めた私を恨め。気が済むまでな」

「……私だって、わかってる。恨んだりなんか、しないわ」

 

 攻撃ヘリの能力がありながら、彼女達はターミナルに接近する巨大飛蝗を撃つことができなかった。ターミナル屋上の避難民への誤射を恐れた、上層部の命令によって。

 

 ――2009年に発生した、織田大道の蜂起から7年。すでに日本政府は事態への対処に向けて、対シェード特別法案を成立させていた。

 迅速に改造人間のテロから国民を守るため、あらゆる法的手続きを省略させたものだ。これにより自衛隊はより素早く治安出動に移り、シェードのテロに対して武力を行使できるようになった。

 

 だが、現状としては国民から不安の声が上がる結果となっている。

 通常兵器の殆どを受け付けない改造人間のボディに対し、自衛隊の武器では決定打にならず。決定打になりうる火力を投入すれば、それに伴い戦闘による被害も拡大していく。警察もまた、同様の悩みを抱えていた。

 

 それだけでなく、戦闘の余波による民間の死傷者が出た――という事案が何件か発生し、あわや自衛隊存続の危機にまで陥ったケースもある。

 そうした事案の責任を取るべく、命懸けで戦った身でありながら、免職の憂き目に遭った隊員は後を絶たず。いつしか対シェード特別法案は形骸化し、再び引き金が無駄に重い時代に逆行してしまったのである。

 

 だが何と言っても、警察と自衛隊のアイデンティティを崩壊させる存在が、対シェードの領分において幅を利かせていることが大きい。

 仮面ライダーと俗に呼ばれる彼らの存在が、シェードの改造人間を誰よりも素早く駆逐してきた実状。それがあるために、警察や自衛隊の働きを疑問視する声に拍車が掛かってしまったのだ。

 

 法的手続きの一切を要さない、無法と無秩序の中から生まれた「正義」の使者。

 そんな、法治国家において認められない存在でありながら、決して無視できない実績によって覆し難い人望を獲得してしまった、政府にとっての目の上のタンコブ。

 それが現代日本における、仮面ライダーであった。

 

「法的手続きを必要としない、正義の執行者……か」

 

 彼らのような「力」を持つ者が、もっとたくさん居れば。あの力を量産し、警察や自衛隊に配備出来れば。より容易くシェードのテロを鎮圧し、人々を守ることが出来たかも知れない。

 ……自分も女だてらにパイロットなどやらずに済み、婚期だって逃さなかったかも知れない。

 

(強いんなら、責任……取ってよね……)

 

 そんな途方もない展望を思い描きながら、「妙齢」の射撃手は満身創痍の仮面ライダーを見つめ、ため息をつく。

 

 ――すると。

 

「おい、ボサっとするな! 奴の様子がおかしいぞ……!」

「え……!?」

 

 巨大飛蝗の行動に、異変が訪れる。

 操縦士の声に反応して視線を戻した射撃手の目には、231便から目線を外してうずくまる、巨大飛蝗の姿が映されていた。

 

「あの体勢から231便に飛び掛かるつもりか……! 民間機231便に危害が及ぶ可能性がある! 射撃の可否を問うッ!」

『射撃待て! 現在本庁にて確認中である!』

「く……!」

 

 何をするつもりなのかは全く読めないが、直前の動作からある程度の推測はできる。その中で最も可能性の高い「危険」を鑑みて、操縦士は上層部に射撃許可を訴えた。

 だが、上層部はなかなか首を縦に振らない。射線上に231便が近いことから、万一の誤射を恐れてのことだろう。自分の相棒がそんなに信用ならないのか、と操縦士は内心で激昂していた。

 

「ちょっと……見て、あれ!」

「……!?」

 

 しかし、その怒りさえ頭から吹き消してしまうほどの事態が、進行しつつあるようだった。

 

 ――巨大飛蝗の全身から蒸気が噴き出し、その巨体を霧で覆い隠してしまったのである。

 

「……ッ!?」

「な、何をするつもり……!?」

 

 射撃許可を待ちながら数十分に渡り動向を観察してきたが、あのような挙動は見たことがない。

 命令がないまま撃つことはできないが、今まで以上の異常事態が起きている以上、指を咥えて見ているわけにもいかない。

 

「231便に告ぐ! 現在、正体不明の巨大生物が不審な挙動を見せている! 直ちに現空域より退避されたし! 繰り返す! 現在、正体不明の巨大生物が――」

 

 操縦士の勧告を受けるまでもなく、すでに231便は東京から離れるべく進路を大きく変えていた。だが、その速度はヘリと比べてかなり緩慢である。

 

(……あの進路方向から察するに、中部国際空港を目指しているな。確かに成田も使えない今、最寄りの空港はそこしかない。だが、そこまで行くにはかなりの距離がある。果たしてそれまで、燃料が持つかどうか……くそッ)

 

 速度のなさは、燃料を少しでも長く持たせるために出力を落としたことに起因している。それ自体は懸命な判断ではあるが、そのために巨大飛蝗から素早く離脱できずにいた。

 そのジレンマを抱えた231便を見遣るヘリパイロット達は、焦燥感を募らせ唇を噛み締める。

 

 ――すると、次の瞬間。

 

「……ッ!? き、霧が晴れるわ!」

「なっ……なんだ、あれは……!?」

 

 巨大飛蝗を包んでいた霧が、徐々に闇の中へと滲んで、消えていく。そのベールの向こうには、巨大飛蝗――だった「何か」の、変わり果てた姿が丸裸にされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、地を這う飛蝗の形をしていた「何か」は。

 

 ターミナル屋上に、両の足で立ち上がっていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗、談でしょ……」

「……昼頃に奥多摩町に現れた怪人も、飛蝗のような姿だったと警視庁から報告を受けている。恐らくはその個体が、食人を経て変態したのがあの巨大飛蝗なのだろうが……さらに次の段階があったとは……」

「さしずめ、第3形態ってとこね……」

「……願わくばあれが、最終形態であって欲しいな」

 

 二足歩行の体勢に入った巨大飛蝗――ならぬ巨大怪人は、飛蝗の意匠を色濃く残しつつも人間に近しい体型へと変貌していた。

 さらに体長もかなり変化しており、50メートルにも及ぶ巨体と化している。

 新緑のボディと紅い複眼はそのまま。それに加え今度は、上体の胸や肩に深緑のプロテクターが備え付けられている。

 

「あの鎧、異様に重たそうね」

「それだけあの部位を厳重に守らねばならないのだろうな。なにせ心臓部だ」

「……そりゃあ心臓が大事なのは当たり前だけど。どうも、それだけじゃない気もする」

「というと?」

「――あの鎧の下に、『何か』があるのよ。心臓以外にも、何としても守らなきゃならない『何か』がね」

 

 プロテクターはカブト虫の甲殻のような光沢を放つ、生体鎧のようであるが。その硬度が並大抵のものではない――ということは、その分厚さから容易に窺い知れた。

 さらに厚いプロテクターに守られた上半身は、下半身と比べて異様に肥大化しており、細い手足と比べて不安定なシルエットになっている。

 

 今まで以上に、人類への攻撃性と不気味さを強調したフォルムとなっていた。それを間近で見ている二人のパイロットも、冷静さを保ちつつも冷や汗を止められずにいる。

 

「なんか、ビルでも掴んで投げて来そうな感じ……」

「同感だ、一旦離れて様子を見るぞ。いつ許可が降りても撃てるよう、照準は外すなよ」

「わかってるわ、任せて」

 

 本能的な恐怖を訴える、異様な巨大怪人の変貌。その手の内が見えない以上、迂闊に近寄ることもできない。

 操縦士は操縦桿を握り、機体を横へと滑らせて行く。彼女達を除く他のヘリ部隊も、同様に巨大怪人から距離を取って行った。

 

『官邸より通達。国民に危険が及ばない角度からの射撃を、許可する。各機、指定する位置に移動せよ』

「了解」

 

 そして――指揮所からの命に応じ、231便を背にするように陣形を組み、射撃体制に突入した。都市部と並行になるポジションであり、これなら231便にも都市にも誤射することは万一にもあり得ない。

 

「指定位置に集結完了。射撃準備よし!」

『目標、正体不明の巨大生物。射撃用意……撃て』

「射撃用意、撃てッ!」

 

 いかに誤射や誤爆の前例があろうとも、今迫っている危機を見逃すわけにはいかない。官邸閣僚も自衛官も、誰もが覚悟を決め――ついに射撃命令を下す。

 

 その覚悟に報いるが如く。ヘリ部隊に搭載された、全ての30mm機関砲が火を吹いた。

 水平に飛ぶ豪雨さながらに、巨大怪人の頭部に降り注ぐ弾丸の嵐。怪人の肉も骨も抉り取らんと、一切の容赦を捨てた掃射だった。

 

 ……だが。

 

「30mm機関砲、全弾命中。……しかし対象への損傷、確認できず」

「蚊が刺した程度にも、感じていないな……!」

 

 轟音と硝煙が渦巻く掃射を、一身に浴びて。巨大怪人は傷一つ負わないばかりか、撃たれたことすら認識していないかの如く、微動だにしない。

 対人兵器をものともしないシェード製改造人間との戦いでも、この30mm機関砲の掃射なら怯ませることはできた。だが、この巨大怪人にはまるで通じていない。

 

「鉛玉なんて効かないってことね……。でも、誘導弾なら……」

「……爆発の余波で231便が体勢を崩す可能性がある。総理は、許可できないだろうな。あちらも燃料ギリギリの瀬戸際だ」

「……辛いわね、これは」

 

 まだ自衛隊には、ミサイル攻撃の手がある。しかし、それを実行するには状況が悪過ぎた。

 

 確かに機関砲とは比にならない火力であるが、シェードの改造人間を相手にそこまでの兵器を投入した前例はない。その点だけでも議論に時間を奪われかねない上、ミサイル攻撃の影響が231便にまで及ぶ可能性も考慮せねばならなくなる。

 今すぐ使われるべき時に使えない手段を、当てにすることはできない。30mm機関砲が陽動にすらならない時点で、自衛隊が今すぐ打てる手はないに等しかった。

 

「……見て、仮面ライダーが接近してる。あんなに巨大になっても怯みもしないのは、さすがね」

「彼には悪いが、手負いの身であのデカブツを狩れるとも思えん。……自爆するのが関の山だぞ、ライダー」

 

 すると――射撃手の目に、仮面ライダーAPの姿が留まる。傷を負った身でありながら、怯む気配も見せず巨大怪人目掛けて猛進する光景を、操縦士は案じるように見つめていた。

 

(……まさか、あそこまで進化してるなんて……!)

 

 一方。すでに巨大怪人が視界全体を埋め尽くすまで接近していたAPは、水害の影響で崩れ行くビルの瓦礫をかわしながら、ワインボトルをベルトから引き抜いていた。

 同時に、ハンドル中央にボトルを装填するホルダーが現れる。そこに手にしたボトルが差し込まれ――マシンアペリティファーのボディが、紅い電光を帯びた。

 

(刺し違えてでも……ここで、止めるッ!)

 

 連戦と負傷により、もはやAPのボディは戦闘不能寸前に至るまで傷ついている。その状態で必殺の一撃を放つなど、自爆に等しい。

 

 だが、サダトはそれでもやらざるを得ないのだ。すでに犠牲者が2000人を越え、東京の一部まで破壊された今、刺し違えてでも迅速に巨大怪人を倒さねば日本に未来はない。

 仮面ライダーGから日本の守りを託された以上、ここで傷を理由に引き下がることはできないのである。

 

 迸る殺気と、マシンアペリティファーに蓄積されていくエネルギーに気づいてか。

 巨大怪人の紅い複眼が暗闇に揺らめき――サダトの姿を捉える。

 

 30mm機関砲を浴びても微動だにしなかった、この巨体が初めて明確に「敵」を認識した瞬間だった。

 マシンアペリティファーに宿る電光のエネルギーと、サダト自身が放つ殺気が、同じ改造人間にしかわからない「力」の奔流を感じさせたのである。

 

「これでッ――最後だ!」

 

 もはや不意打ちは望めない。しかし、攻撃を中断して姿を消している暇はない。ここで目標がサダトから外れれば、巨大怪人の矛先は間違いなく自衛隊のヘリ部隊と――231便に向かう。

 それだけは、是が非でも許すわけにはいかない。例え、相討ちになるとしても。

 

 その決意を、血みどろの胸に抱いて。彼を乗せたマシンアペリティファーが瓦礫を乗り上げ、闇の空へと舞い上がる。

 

『FINISHER! EVIL AND JUSTICE OF MARRIAGE!』

「スワリングッ……ライダァアッ、ブレェイクッ!」

 

 刹那。

 

 紅い電光を纏うバイクは、ライフル弾のごとく螺旋状に回転し――眩い輝きを放つ、一条の光の矢となった。

 地から天へ駆け上る、真紅の彗星。その輝きは暗黒を裂くように、地獄絵図と化した東京の街を横切り――巨大怪人の顔面に肉迫する。

 

「飛び込んだ!?」

「どうなる……!?」

 

 その閃きを目撃する射撃手と操縦士は、揃って息を飲む。仮面ライダーの捨て身の特攻は、自分達の命運も握っているのだ。

 

「――だぁあぁあぁあぁあッ!」

 

 そして。炸裂する閃光と共に、紅い弾丸となったマシンアペリティファーが巨大怪人の下顎に激突する。

 激しい激突音と衝撃波が、そこを中心に広がりヘリ部隊や231便の機体を揺らす。誰もが、命を繋ぐための姿勢制御に必死だった。

 

 そこで命を燃やし尽くしたかのように、APとマシンアペリティファーはそこから海中に墜落していった。

 

「駄目、だったの……!? 今の、一発でも……」

「いや――見ろ!」

 

 海中に没してゆく仮面ライダーの姿に、射撃手は息を飲む。一方、操縦士は過酷な状況でも機体を制御しながら、事態を正確に見据えていた。

 

 スワリング・ライダーブレイク。その自己犠牲に等しい特攻を浴びた巨大怪人は、自らの巨体を揺らめかせている。

 半開きになった顎の隙間から、くぐもった呻き声を上げて。

 

「効いた……!」

「例え身体が巨大であろうと、人型である以上は急所も人体に共通している……ということか」

 

 顎の衝撃から脳を揺らされ、巨大怪人は上体を大きく仰け反らせている。――だが、そのふらつきはそれだけが原因ではないようだった。

 

「そうか――自重か」

「え?」

「あの鎧。奴自身にとっても過ぎた重さだったらしい。だからあんなにぐらついているんだ」

 

 上体にだけ纏われた分厚いプロテクターに対し、それを支える下半身や手足はあまりにも細い。そのため、平衡感覚を狂わされると容易く体勢が崩れてしまうのだろう。

 今にも倒れてしまいそうなほど、巨大怪人の体幹は揺らいでいる。

 

「だが……攻撃はここまでだな。仮面ライダーが墜ちた今、これ以上の追撃も不可能だ。今のうちに231便を中部国際空港まで護送する」

「仮面ライダーは……見捨てるのね?」

「ここで退かねば、全ての命が無駄になる。彼が作ってくれた時間を、浪費するわけにもいかない」

「……」

「……言いたいことは分かっている。その責めは甘んじて受けよう。ただし、それはここから生き延びてからだ」

 

 だが、これ以上巨大怪人を攻める術がない今、自衛隊は隙を見て退避するしかない。例え、自分達を助けてくれた仮面ライダーを見殺しにするとしても。

 さもなくば、罪のない民間人からさらなる犠牲者が出るのだ。

 

『攻撃中止! 全機撤退ッ!』

 

 彼女達を含むヘリ部隊の全機が、後ろ髪を引かれるような思いを抱えて――旋回していく。この戦地に身を投じている彼らにとって、巨大怪人に果敢に立ち向かった仮面ライダーは、かけがえのない同胞も同然であった。

 それでも今は、逃げるしかない。彼が身を呈して救った命を、繋ぐために。

 

「……ッ!?」

 

 その時だった。

 

 巨大怪人は、とうとう身を支えきれなくなったのか。

 大きく両手を広げながら、うつ伏せに倒れ伏していく。

 

 あれだけの巨体が、再び立ち上がり体勢を整えるにはかなりの時間が掛かるはず。この空域を離脱するなら、今しかない。

 ヘリ部隊の誰もが、そう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが。彼らが目にしたのは。

 

 巨大怪人が海上に倒れ伏す瞬間。では、なかった。

 

「なに、あの体勢!?」

「何をするつもりだ!?」

 

 うつ伏せに沈む直前。両手を前に突き出し、腕立て伏せのような体勢になった巨大怪人は、すぐさま両足をガニ股のように広げる。人間の体型のまま、飛蝗の真似をしているような格好だ。

 さらに、紅い複眼は水平線の彼方を映している。その視線の直線上には――ヘリ部隊と231便も含まれていた。

 

 だが、彼女達が異変を感じたのは、その格好だけではない。紅い複眼から光を迸らせ、巨大怪人は己の上顎と下顎を全開にしていたのだ。

 

 人間の肉片と血で汚された、その大口は裂けそうなほどに広がっている。

 さらに、あれほどふらついていたのが嘘のように――その姿勢は微動だにしない安定性を保っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 深緑のプロテクターは鈍い光を放ち――発熱したかのように、蒸気を立ち上らせた。

 

 上顎と下顎の間……口の中から、蒼い光が浮かび上がってきたのは。

 

 その、直後である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いかん! 散開だ! 全機散開ッ!」

 

 その光が、何を意味するのか。あの体勢は、何のためか。

 わからないことばかりではあったが――それでも、「逃げねばならない」という本能の叫びは、操縦士の焦燥感を突き動かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、もう全てが遅い。

 

 巨大怪人の口から閃いた蒼い輝き。全てを飲み込む、熱く、激しい煌めき。

 

 それが操縦士の。射撃手の。ヘリ部隊全員の。

 ――231便に乗っていた乗員乗客の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キレイナ、ミズ。モット、キレイ……ミズ、キレイナ、セカイ……トウサン……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最期に見た、光だった。

 

 

 



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第9話 異世界への扉

 ――2016年8月25日、深夜。

 

 ありとあらゆる命の灯が消え去り、無と静寂に包まれた都市の中で……一人の男が、眠りから醒める。

 

「ぶっ……はぁあっ! げはっ!」

 

 瓦礫の上に横たわる、ひしゃげたマシンアペリティファー。その傍らに、水中から手が伸びてくる。

 瓦礫の端を掴んだその手は、自分の体を懸命に海中から引き上げて行った。

 

 やがて、夜の海中から這い出た青年――南雲サダトが、瓦礫の上へとよじ登っていく。彼が、共に戦った相棒の無残な姿を目の当たりにしたのは、その直後だった。

 

「ぶごっ……お、えぇっ!」

 

 だが、それに心を痛める暇すらない。なんとか海中から陸に上がってきたサダトは、傷が開いた胸を抑えながら海水を吐き出して行く。水没した状態で気絶していたため、大量に海水を飲んでいたのだ。

 忙しなく嘔吐を繰り返し、ようやくそれが落ち着いてからも、彼は傷の痛みに息を荒げている。

 

「は、はぁ、ぁあ……」

 

 だが、それすらも意に介さず。彼は自分の傷より、マシンアペリティファーの損傷と――東京の惨状に気を移していた。

 

(ち……く、しょう……ちくしょう……!)

 

 傷の痛みさえ忘れさせるほどの、変わり果てた東京の姿。炎上と共に傾いたビルや、水浸しの道路。亀裂が走る路面や瓦礫の山。二つに割れたターミナル。

 

 そして――海上に漂う、ヘリ部隊と。

 

 231便の、残骸。

 

 それだけが、この戦いの結末を物語っている。どれほどの命が、失われたのかを。

 

(……あの、光が……)

 

 スワリング・ライダーブレイクの一撃。その直後、サダトはマシンアペリティファーと共に墜落した。

 そのさなかで、彼は意識が混濁しつつある中でも確かに見ていたのだ。

 

 巨大怪人の大口から溢れ出た、蒼い輝き。その光が一条の線を描き、閃いた瞬間。

 ヘリ部隊も231便も光の中へ飲み込まれ、自身もマシンアペリティファーもろとも、衝撃波で遠方まで吹き飛ばされていた。

 

 気がつけば自分は水の中で、意識が明瞭になった途端に窒息寸前になっていることに気づき、もがき苦しみながらここまで上がってきた。巨大怪人が忽然と姿を消していることに気づいたのは、それからのことだ。

 そして今、無残に破壊された東京の有様を、己の眼に焼き付けている。

 

 そして。火の海に包まれた東京に、ただ一人生き延びた改造人間の、慟哭が響き渡る。

 涙で歪んだ視界の向こうには、焼き払われたヘリパイロットのヘルメットと、231便に乗っていた女子高生の制服の切れ端が、業火に照らされた海上に漂っていた。

 

「……!?」

 

 ――その時。

 

 涙すら枯れ果てた若者の眼に、あるモノが留まる。

 

 絶望が見せる幻か、蜃気楼か。その類と断じて直視していなかったソレは、現実の事象であると思い知らせるかのように、彼の視界に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間に。夜空に。

 

 亀裂が走っていたのだ。

 

「あれ、は……」

 

 ひび割れた夜空の隙間からは、どんな闇にも勝るほどの――見ているだけで吸い込まれそうなほどの、圧倒的な深淵が覗いている。

 

 明らかに自然の現象ではない。だが、幻にしてはいやにハッキリと亀裂が見えている。むしろ、今自分が見ている夜空こそが偽物ではないかと、感覚が麻痺してしまいかねないほどに。

 

 だが。夜空も亀裂も、間違いなくこの世界に存在している。幻などでは、ない。

 

(な、んなんだ、あれは……まさか!?)

 

 少なくとも、気を失う直前まであんなものは視界に入らなかった。

 空の亀裂は、巨大怪人がいた場所に非常に近く、あの時から在ったなら接近する前に気づいていたはず。

 

 ――そう。あの空の亀裂は、巨大怪人が姿を消した後に見つけたのだ。

 ならば。あの蒼い閃光の影響で発生したものであると、容易に想像がつく。

 

(……あの、穴……)

 

 サダトは鋭い眼差しで、空の亀裂を観察する。広々と亀裂の線が伸びているが、そのほとんどは小さな穴しか開いていない。

 だが中央部に大きく開けられた穴だけは、ひときわ大きな風穴が出来ていた。

 

 ――あの巨大怪人くらいの大きさなら、入り込めてしまう程度には、巨大な風穴が。

 

(……)

 

 空に走る広大な亀裂。姿を消した巨大怪人。亀裂の中にある、大きな穴。

 この状況から導き出される答えは、一つだった。

 

 サダトはすぐさまマシンアペリティファーを起こし、エンジンを掛ける。原子炉プルトニウムの叫びが、主人に劣らぬ深手を負った車体を強引に蘇らせた。

 各部から煙という名の悲鳴を上げつつ。それでもマシンアペリティファーは、主人を運ぶために力を振り絞っていた。

 

「……行くぞ、アペリティファー。これが最後でいい、俺をあそこまで運んでくれッ!」

 

 そして――上向きに横たわる瓦礫を足場に、一気に助走を付けて駆け上がり。サダトを乗せたマシンアペリティファーは、再び空中へと飛び立つのだった。

 

 行く先は、亀裂の向こう。

 その最果てに待ち受けているであろう、あの巨大怪人だ。

 

「これ以上……させない! 絶対、絶対にッ……!」

 

 どれほど怒ろうと嘆こうと、決して戻らない命の群れ。現世を離れていくその魂を、看取る暇さえ惜しむように。

 サダトはエンジンを限界以上に噴かし、強引窮まりない加速で宙を駆け抜け、亀裂と大穴の先へと突き抜けて行く。

 

 そこで待ち受けている異次元が自分の理解を超えた、凄まじい戦火の中であることも知らずに……。

 




 今話でようやく、仮面ライダー側の世界のお話は終わりになります。次回からは、艦これ側の世界を中心に物語が展開していきます。


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第10話 艦娘と仮面ライダーのファーストコンタクト

 ――194X年8月25日。

 鎮守府執務室。

 

 この世界を脅かす深海棲艦に対抗すべく結集した、艦娘達の本拠地。その運営を担う提督の執務室は、整然とした内装で固められている。

 だが、今その席に着いているのは提督本人ではない。特型駆逐艦配備の交渉のため、大本営に出向いている提督に代わり――秘書艦「長門」が、その任を代行している。

 

「……由々しき事態だな。これは」

「深海棲艦の亜種……とも違うわよね」

「奴らに共食いの習性はない。もっとも、我々が今まで知らなかっただけかも知れないがな」

 

 執務室の席に座り、部下からの報告書に目を通す黒髪の美女。その傍らに立つ茶髪の女性――陸奥は、険しい面持ちの姉を神妙に見つめる。

 

「だけど今日に至るまで、彼らが同胞を捕食したケースなんて見たことも聞いたこともないわ」

「ああ。――確証はないが。深海棲艦でも艦娘でもない未知の脅威が、この海に現れた……という可能性が濃厚だな」

 

 本日の深夜4時。

 哨戒任務に就いていた川内型三姉妹が、帰投する航路の中で発見した深海棲艦の遺体。その遺体を喰らう、二体の未確認生命体。

 一つは鮫のような歯型を残す、恐らくは等身大の怪物。もう一つは、深海棲艦すらも丸呑みにするほどの巨大な生物。

 

 いずれも、既存の情報(データ)にはない個体である。そもそも、深海棲艦を捕食する存在そのものが前代未聞なのだ。

 

「深海棲艦を喰らう巨大飛蝗、か……」

 

 報告書に添えられた、数枚の写真。巨大生物を目撃した三姉妹が動転しながらも、確実な情報を持ち帰るために撮影した決定的瞬間が、そこに写されていた。

 

 身体のあらゆる部位が欠損した深夜棲艦の遺体……があったという海中。その最奥に、うっすらと赤い複眼を光らせ――こちらを見つめる、飛蝗の顔。

 造形こそ飛蝗のそれだが、その大きさは虫という範疇を逸脱している。頭部の尺から察するに、全長20メートルはあると見ていい。

 

「……他のみんなにも、不安が広がってるわ。深海棲艦が食われている以上、私達に害がない保証もないし……」

「そうだな。……今までの実戦経験も戦術も、根底から通じない未知の生命体。さらに対話の望みも薄い上、深海棲艦の群れ――夜戦特化のチ級まで喰らうほどの強さと来ている」

 

 この事態は、深海棲艦との戦いを専門とする艦娘達に衝撃を与えている。

 ただ強い、というだけではない。自分達の常識を根底から覆す、未曾有の大敵にもなりうる存在を知り、実戦経験が豊富な者達すら不安を覚えていた。

 経験が浅い一部の若手は、そんな先輩達の様子からさらに不安を煽られ、鎮守府全体が不穏な空気に包まれるようになっている。

 

 ここで艦娘達を束ねる立場にある長門が、先陣を切って全艦隊を鼓舞すれば、その空気を打破できるだろう。

 

 だが、この未確認生命体に関する手掛かりが何も無いまま、根拠もなく虚勢を張ることは長門自身の矜恃が許さなかった。それは、かけがえのない仲間達を欺くことに他ならないからだ。

 

 不確実な情報のままいたずらに戦意を煽ったところで、待ち受ける未来に光明はない。今の状況を切り開くには、この巨大飛蝗に纏わる謎を解き明かすしかないのだ。

 

「何処から来たのか、何のためにこの海域に来たのか、目的は何なのか、そもそも何者なのか……。いずれにせよ、今は情報が少な過ぎる」

「少しでもあの生物の情報が欲しいところだけど……金剛(こんごう)達からは、まだ?」

「ああ。まだ、これといった連絡はない」

 

 昼間の時間帯である今現在、川内型三姉妹が巨大飛蝗を発見した当該海域には、金剛型四姉妹「金剛」「比叡(ひえい)」「榛名(はるな)」「霧島(きりしま)」の四名が偵察に出ている。

 高い戦闘力と素早い移動速度を併せ持つ高速戦艦である彼女達ならば、調査対象が予想を遥かに凌ぐ戦力だったとしても早期に撤退できる――と踏んだ、長門の采配によるものだ。

 

 万一のことが起きても被害を最小限に抑えるには、少数精鋭で偵察を送るしかない。だが、それでも未だに有力な情報は得られずにいた。

 

「活動海域を移した……とは考えられないかしら。深海棲艦を何十体も捕食したあとなら……」

「私も考えたが、それなら他の海軍や民間が被害に遭う可能性も考慮せねばな。種類がわからなくてもいい、せめて習性が知りたい」

「そうね……今のままじゃ、行動パターンすらまるで読めないわ」

 

 ――もしかしたら、もうこの海域には現れないかも知れない。自分達に実害が及ぶことはないかも知れない。

 だが、それは自分達が預かり知らぬところで違う誰かが犠牲になる可能性を孕んでいる。最悪の場合、自分達が見失ったせいで民間人が餌食にされる危険すらある。

 

 ゆえに、見なかったことには出来ないのだ。人類の自由と平和を守る、艦娘としては。

 

 ……その時。

 

「長門秘書艦! 金剛より通信がありました! 当該海域にて、複数の深海凄艦を発見したと!」

 

 黒い長髪を靡かせ、眼鏡をかけた色白の艦娘「大淀(おおよど)」が飛び込んでくる。その報告を聞きつけた長門は、剣呑な表情で椅子から立ち上がった。

 

「状況はどうなっている。数は」

「駆逐イ級五体、ロ級三体。現在は扇状に散開しており、イ級二体とロ級一体が民間の海岸に接近中です!」

「民間の海岸……? よし、最寄りの艦娘にその四体の撃破を優先させろ。イ級とロ級の体型ならば地上を侵攻される危険性は薄いだろうが、最悪の事態も想定せねばならん」

「了解しました!」

 

 数秒に満たない短いやり取りを終え、大淀は素早く執務室から引き返していった。そんな彼女の背を見送り、長門は神妙な面持ちで陸奥と顔を見合わせる。

 

「扇状に散開して、民間の海岸に接近……か。今までにないケースだな、例の巨大飛蝗の影響と見ていい」

「攻めてきたのではなく、逃げてきたのね……きっと。でも、これではっきりしたわ。あの巨大飛蝗は、まだここから離れていない」

 

 陸奥の言葉に、長門は深く頷き。窓の向こうに広がる水平線を見つめる。

 

「……まさかとは思うが……いや、まさかな」

「どうしたの?」

「いや、何でもない。――提督に現状を報告する。もはや我々だけでは、手に余る案件だ」

 

 そう呟く彼女のデスクには、提督が嗜んでいた一冊の本が立てかけられていた。

 その表題には、「パラレルワールド 互いに干渉する異次元」と記されている。

 

(相互に影響し合う、複数の世界――か)

 

 ◆

 

 ――194X年8月25日。

 某海域。

 

「海岸方面に逃げるなんてッ……今までにないパターンデスッ! 比叡、他のイ級とロ級はどうネッ!?」

「はい! 現在は榛名と霧島が追撃に出ており、この程度なら撃滅も時間の問題かと!」

「オーケー……とにかく、民間人に犠牲者が出ることだけは避けねばならないデース。比叡、私に続きなサーイ!」

「はい、お姉様!」

 

 溌剌とした声を上げ、二人の美少女が茶髪を揺らして海上を疾走する。

 長女「金剛」と次女「比叡」は、海岸方面に移動したイ級三体とロ級一体を追撃すべく、三女「榛名」と四女「霧島」に残りを任せて別行動に移っていた。

 

 魚雷のような形状であるイ級とロ級には小さな足があるが、体長に対してあまりにも短く地上での歩行には不便であるとされている。よって上陸してもまともに動けず、民間の住宅地まで侵攻する可能性は薄いと言われてきた。

 だが、それはあくまで「深海棲艦が陸に上がる場合を想定した場合」の「机上の空論」に過ぎない。そもそも今まで実際に陸に近づく気配がなかったこともあり、今となってはその信憑性も怪しくなってくる。

 

 歩きにくい体型であり、地上の侵攻に向かない個体であることには違いない。それでも、這ってでも地上を侵攻し出すようであれば、対抗手段を持たない民間人はひとたまりもないのだ。

 

「お姉様、これはやはり……」

「……偶然にしては出来過ぎてるネ。私も同じ考えデス」

 

 非常事態に次ぐ非常事態。金剛も比叡も、薄々ながら察している。

 川内型三姉妹が発見した、巨大飛蝗との関連を。

 

 ――やがて。二人の視界に、徐々に目標の影が鮮明に映り込んでくる。

 もはや海岸とは、目と鼻の先。避難警報が間に合わなかったのか、沖合いにいる金剛と比叡にまで、住民達の悲鳴が聞こえていた。

 

「見えましたネー……! 比叡、海岸との距離は!?」

「およそ130! イ級とロ級の射程圏内です!」

「クッ……! 比叡、後方に回るネ! 真後ろから確実にヒットさせマース!」

「了解しました!」

 

 すでにイ級とロ級は海岸を砲撃できる位置まで近づいている。彼らに攻撃の意思はまだ見られないが、次の瞬間には海岸線に火の手が上がっているかも知れない。

 

 民間人の安全を優先するなら、一秒でも早く彼らを背後から砲撃するに尽きるが、寸分でも狙いが狂えば海岸線に誤射する可能性もある。

 普段なら第一射の砲撃で射角修正を行った上で、本命の第二射を命中させるところであるが、今回に限っては試射する余裕がない。

 

 より命中精度を上げ、第一射で命中を狙うには、対象と同じ方向――直線上の射線に入れるしかない。

 金剛と比叡は互いに深く頷き合うと、同時に航路を大きく曲げていく。

 

 やがてイ級とロ級の航跡に沿うように、彼らの背部に回り込む二人は――同時に砲身を展開させ、狙いを定める。

 

「気合い、入れてッ……!」

「バーニング、ラァアァヴッ――!?」

 

 そして彼女達の35.6センチ連装砲が、同時に火を吹く――時だった。

 

 突如。海岸線の向こうから舞い上がった一つの物体が、放物線を描き――ロ級の上に激突する。轟音と同時にロ級を中心に波紋が広がり、水飛沫が天を衝くように噴き上がった。

 

「砲撃!?」

「違いますネー……榛名と霧島は向こうにいるはずデス。援軍が来るという連絡もナッスィング。……それに、あれは……」

 

 砲身を下ろした比叡が目を剥く一方。金剛は冷静沈着に、目を細めて状況を見据えていた。

 

 砲撃なら爆発と共に火の手が上がるはず。だが、ロ級には衝撃音が響くのみであり、爆炎は見えないし硝煙の臭いも感じない。

 不発弾という線も考えられたが、その可能性もすぐさま彼女の脳裏から消え去った。

 

 ――残ったイ級へと飛び掛かる物体の動きを見るに、そもそも「砲弾」の類に当てはまるものではないからだ。

 

「な、何かが海岸から飛びついて……深海棲艦を襲ってる!?」

「……比叡! 例の、二体現れた謎の生物のウチの一体かも知れマセン。気を付けるデス!」

「は、はい!」

 

 深海棲艦を捕食した、という二体の未確認生命体。片方は巨大な飛蝗であり、もう片方は鮫のような歯型を残した等身大の生物であるという。

 状況を見る限り、後者の生物が現れた可能性が高い。夜間のチ級を、いともたやすく屠るほどの存在となれば油断はできない。

 対象とコミュニケーションが取れる保証もないのだ。

 

 金剛はいざという時に比叡だけでも逃げられるよう、先陣を切り海岸線に近づいていく。イ級までもがロ級に続いて海に沈み、徐々に海に静けさが戻ろうとしていた。

 

「見てくださいお姉様! あの謎の生物、浜辺に……!」

「地上での活動も可能ということデスか……?」

 

 やがて海岸線の砂浜が見え始めた頃。

 三体の深海棲艦を沈めた謎の生物は、獲物の骸を足場に再びジャンプすると、浜辺の上にすたりと着地した。

 その光景から対象の活動範囲を推し量る二人の頬を、冷や汗が伝う。

 

 もし彼の者の攻撃対象が地上の民間人に移れば、地上で有効に戦えない自分達にそれを止める術はない。よしんばそれが出来たとしても、戦艦たる自分達の武装では確実に民間人を巻き込んでしまう。

 提督に深い愛情を寄せる金剛としては、彼が不在である時に不祥事を起こしてしまうことは何としても避けたかった。それは彼女に限らず、提督を慕う艦娘達の誰もが思うところなのだが。

 

「……とにかく、限界ギリギリまで接近するネ。周囲の影響を最小限に抑えるためにも、『絶対に外さない間合い』が必要デス」

「……わかりました」

 

 敬愛する姉の強い決意を背中越しに感じ取り、比叡も厳かに頷く。彼女達は滑るように海岸線に近づき――やがて、浜辺の上に辿り着くのだった。

 

 そして金剛と比叡は、三体の深海棲艦を沈めた戦士と対面することになる。

 

「あれが、昨日川内達が見つけたっていう……?」

「巨大飛蝗とは……随分受ける印象が違いますね。複眼くらいにしか共通点を見出せません」

 

 だが。その風貌は、写真で見た巨大飛蝗とは掛け離れたイメージを金剛達に与えている。

 

 黒塗りの外骨格。その全身を伝う真紅のエネルギーライン。金色の複眼に、一振りの剣。

 巨大飛蝗のような生物感が伺えない、機械的な容姿。人型であるという点といい、川内達の報告から予想されたビジュアルとはまるで噛み合わない。

 

 ――しかし、全くの無関係ではないのだろう。見た目も形状もサイズも巨大飛蝗とは大きく異なるものの、飛蝗を彷彿させる複眼という意匠は共通している。

 

 さらに、イ級とロ級を一瞬で斬り伏せる戦闘力。間違いなく、只者ではない。

 

「まさか、三体目の未確認生命体……!?」

「あの剣で鮫のような歯型は残せないハズ。その可能性が高そうネー……!」

 

 金剛と比叡は警戒心を露わに、35.6センチ連装砲を展開する。そんな彼女達を――異世界から紛れ込んだ異物は、金色の複眼で静かに見つめていた。

 

(……なんなんだ、この世界は。建物は古めかしい昭和の東京みたいだし、変な化け物は海岸に沸くし、武装した女の子が海の上を走ってるし……。まさか、彼女達も機械系統の改造人間なのか……?)

 

 先ほど斬り伏せた鯨のような怪物は、あからさまに人間を襲っていたが……自分に警戒している二人の少女は、敵意は見せつつも一方的に襲いかかる気配はない。

 ……望みは薄いが、単純なコミュニケーションなら取れるかも知れない。そんな僅かな希望を頼りに、異物――仮面ライダーAPは、剣を収める。

 

「君達、ここは一体どこ――」

「ひぇえぇえっ! 喋ったぁあぁあ!?」

 

 そして。そんな彼の希望は。

 予想だにしない速さで、叶えられたのだった。

 




 他の艦これ二次創作では「艦これ世界は現代もしくは近未来」という設定が多いようなのですが、本作では明確な「現代」である仮面ライダー側の世界と区別を付けやすくするため、戦時中に近しい時代として設定しています。


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第11話 滲む不信

 ――194X年8月25日。

 鎮守府執務室。

 

 夜の帳が下りる時間帯。一日の勤務を終えた艦娘達が、思い思いの時間を過ごしているこの頃。

 この世界における「異物」である南雲サダトは、金剛達に連行される形で鎮守府に招かれ――彼女達を率いる長門と対面していた。

 提督代理として、執務室に腰掛ける彼女の脇を、陸奥と金剛型四姉妹が固めている。彼女達はサダトが敵ではないと悟るや否や、物珍しいものを見る目で彼を見つめていた。

 

「……なるほど、な。おおよその状況は把握した。改造人間……つまりはあの巨大飛蝗も、元は人間だったということか」

「はい。……しかし、まさかこんな……」

 

 サダトからいきさつを聞かされた長門は、腕を組み神妙な面持ちで彼を見上げる。一方、川内達が撮影してきた写真を手にした彼は、訝しむように眉を潜めていた。

 

 写真に映されているのは、巨大な飛蝗の怪物。しかしサダトが最後に見た巨大生物は、巨大な人型に進化していた。

 深海棲艦の遺体に残された歯型も、彼が最初に戦った等身大の形態のものと一致する。

 

 ……つまりあの後、巨大怪人はここまで退化した、ということになる。

 

「まさか、とは私が言いたいところだな。件の未確認生命体が『二体』いたわけではなく、『一つの個体』による進化だったとは」

「はい。……それにしても、この世界には本当に驚かされました。艦娘に深海棲艦、鎮守府……今でも正直、信じられないぐらいで」

「それもこちらの台詞だ。我々の世界より科学技術が飛躍的に進歩した時代――というだけでなく、改造人間、シェード、仮面ライダー……か。全く、これを提督にどう報告しろというのだ」

 

 長門はまじまじとサダトを見遣り、この世界の日本人としては物珍しい真紅のレザーベストを注視する。

 

 ――この時間帯に至るまで、サダトと長門は互いの状況と世界情勢を説明し、双方が置かれている現状を教え合った。

 

 巨大飛蝗に通ずる姿に変身していたことでかなり警戒もされていたが、サダトの方から武装を解除して友好的なコミュニケーションを試みたことで、両者は交流を円滑に進めることができた。

 サダトとしては、なんとしてもこの世界の住民に事の重大さを訴えたい。長門としては、なんとしても巨大飛蝗に纏わる情報が欲しい。その利害が一致したことが、両者を素早く結びつけていた。

 

 ――長きに渡る戦いで培われた長門の第六感が、彼の人柄を看破したことも大きいだろう。

 

「そして、人間を喰らう進化怪人『アグレッサー』か……。話に聞く限りでは人間を捕食して進化を遂げていくようだが、まだ巨大怪人というような形態は発見できていないな」

「一度は退化したのに、昨日の夜明け前には、もう巨大飛蝗まで進化していた。……それだけ深海棲艦の栄養価が高いのかも知れません。俺が最後に見たあの形態になるのも、時間の問題です」

「ふむ。……しかし情報が少な過ぎる上に、我々との戦力差も不明過ぎる。南雲殿の云う『通常兵器』では通じなかったと聞くが、我々の火力がそれに勝るか否か……」

「情報、になるかはわからないんですけど。こんな物ならあります」

 

 だが。巨大飛蝗と同郷である協力者を得たと言っても、何もかも知っているわけではない。彼自身、あの巨大飛蝗とは戦い始めて間も無いのだ。

 それでも、このまま打開策が見つからないのはまずい。迂闊に攻撃を仕掛けてあの蒼い光を打たれたら、この世界も恐らくただでは済まないからだ。

 

 そこでサダトは、懐から一冊のファイルを引き抜いて長門の前に差し出した。血が滲んでいる上、インクが掠れているせいで読める字も少ない。

 それでも何か、彼女達にとっては助けになる情報があるのではないか。そこに望みを託し、サダトはファイルを捲る長門を凝視する。

 

「これは設計図……だけではないな。『アグレッサー』に纏わる資料と言ったところか。ところどころ滲んではいるが……まぁ、これは誤差の範囲だ」

「……よ、読めるんですか……?」

「無論だ。暗号解読に比べれば遥かに容易い。榛名。大淀にこれを解析するよう伝えろ、最重要任務だ」

「はい」

「……」

 

 そして、長門はあっさりとそう言い切って見せた。榛名は彼女からファイルを受け取ると、艶やかな長髪を揺らして執務室から出て行く。

 さも当然のことのように事を進める彼女達の姿に、サダトは暫し立ち尽くすのだった。これが戦いという日常に生きる、本職の軍人の姿なのか――と。

 

「さて、南雲殿。貴殿にはこの件における重要参考人として、暫くの間はこの鎮守府に滞在して貰う。あの怪物の対処には貴殿の協力が必要になる。貴殿としても、放ってはおけない案件のようだしな」

「わかっています。そのために、来たのですから」

「うむ。だが、今日はもう遅い。貴殿も見知らぬ世界に流れ着いて疲れているだろう、そろそろ休んだ方がいい」

 

 そんな彼に、長門は利害関係の一致による協力関係を確認し――彼の表情から、その決意のほどを垣間見る。

 異世界から現れた協力者の殊勝な姿勢に彼女は深く頷き、目線で霧島に指示を送る。その眼で上官の意図を汲み取った彼女は、指先で眼鏡を直すとサダトの前に進み出た。

 

「……では、客室までご案内します。どうぞこちらへ」

「はい。では、俺はこれで」

 

 その厚意を汲み、サダトは霧島の後を追うように執務室を後にする。彼の背が見えなくなるまで見送った後、長門は深く息を吐いて背もたれに身を預けた。

 

「……お疲れ、長門」

「なに、大したことはない。……確かに常識を疑うような事象ばかりに疲れはしたが、こうして数多くの情報を得られたのは僥倖だ」

「あの南雲っていうボーイ、中々いい眼をしてたネー。ちょっとやそっとの死線じゃ、ああいう眼にはならないデス」

「でも、信じていいんでしょうか……。もしかしたら、私達にそう思わせるための罠じゃ……」

「疑い出せばキリがないぞ、比叡。……彼の言動全てが信じるに足るかは、まだわからん。だが少なくとも、私達では到底知り得ない情報を持ってきた。今は、それで十分だ」

 

 南雲サダトが持ち込んできた、巨大飛蝗に纏わる資料。その解析結果が出れば、何らかの打開策が見えてくるかも知れない。

 それに、あの怪物と同じ改造人間であるという彼ならば、巨大飛蝗との交戦における戦力にもなりうる。

 巨大飛蝗が人肉を喰らい成長する生命体であると判明した今、あの怪物を放っておく選択肢は完全に消え去っている。深海棲艦すらも捕食するならば、いずれ艦娘も、その後ろで守られている人類も餌食となるだろう。

 専門外だからと黙って食われるなど、艦娘としても生物としても間違っている。その未来を変えるためならば、異世界から来た協力者だろうと改造人間だろうと、利用し尽くすのみ。

 

 それが、この件に対する長門の決断だった。

 

「提督には私から話しておく。金剛、比叡。お前達は明日、他の艦娘達に事情を説明しておけ」

「了解デース!」

「りょ、了解しました」

 

 上官であり、戦友である長門からの命を受け、金剛は朗らかな笑みとともに親指を立てる。それから一拍遅れて、比叡も敬礼で応えた。

 だが、サダトを視線で追うように、扉を見つめる彼女の瞳には翳りが窺えた。歴戦の戦艦は、その微細な影を見逃さない。

 

「……」

「彼は信用ならないか? 比叡」

「えっ!? あ、いえ、別にそんな……」

「取り繕う必要はない。お前のように疑いを持って、当然の案件だ。私もまだ信じ切ってはいないしな」

「そ、それは……」

「お前に見る目がない、とは言わん。彼が本物なら、遠からずお前から……そして私達から、信頼を勝ち取るだろう」

「比叡は心配性ネー。大丈夫デース、提督をロックオンしたこのお姉様の眼を信じナサーイ!」

 

 そんな彼女の胸中を汲み、長門はふっと口元を緩める。一方、長女は豪快な笑顔と共に妹の肩を叩いていた。

 

 ◆

 

 やがて、深夜の執務室は長門と陸奥の二人だけとなっていた。この日の業務を全て終えた提督代理は、椅子から立ち上がると窓に目線を向ける。

 ほとんどの施設や宿舎が消灯されている中、一つだけ灯りを放っている工厰。闇夜の中で一際目に付くその場所を、長門は暫し見つめていた。

 

「……陸奥。南雲殿が持ち込んできた『マシンアペリティファー』の解析結果は出ているか?」

「ええ。夕張(ゆうばり)からの報告書なら預かってるわ」

「大まかな概要は聞いている。……『核』が使われているというのは、本当か?」

 

 視線を合わせぬまま、長門は妹に問い掛ける。帰ってきたのは、普段の余裕を漂わせる口調とは異なる、真剣そのものの答えだった

 

「……本当よ。あのバイク……だったらしい鉄塊のエンジン部には、プルトニウム原子炉が組まれている」

「……」

「核エネルギーを動力源にしてコントロールするには、バイクの車体は軽過ぎるはず……。それだけシェードという組織の技術力が突出しているのね」

「……核、か。これを報告したとして、提督はどうされるだろうか……」

 

 現存するあらゆるエネルギーを凌駕する、凄まじい力の集合体。それが今、あの工厰に眠っている。

 大本営が聞きつけたら、間違いなく手段を問わず手に入れようとするだろう。核は、それほどの価値を持っている。

 どんな物でも勝つために利用せねばならない、この戦時においては。

 

「……利用し尽くす、か……」

 

 だが、この海が巨大飛蝗の脅威に晒されている今、くだらない内部闘争のために貴重なエネルギーを浪費させるわけにはいかない。

 核を巡るこの案件は、巨大飛蝗や南雲サダトの一件以上に、重く長門にのしかかっていた。

 




 仮面ライダー1号の愛車であるサイクロン号も、原子炉プルトニウムが動力源。……あれが破壊されたら、どえらいことになるんだなぁ。


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第12話 信頼の条件

 ――194X年8月26日。

 鎮守府艦娘寮前。

 

『ヘーイ、全艦娘の皆ー! 今日は我が鎮守府にやって来た、スペシャルゲストを紹介するデース!』

『なんとなんと、あの巨大飛蝗を退治するために異世界からやって来た戦士! 南雲サダト君でーす!』

『……初めまして、艦娘の皆さん。俺は、あの巨大飛蝗を倒すために、あいつと同じ世界からやってきた改造人間。南雲サダトです』

 

 広々としたグラウンドに艦娘達を集め、金剛と那珂が彼女達にサダトを紹介していた。快晴の夏空の下、彼女達の眼前に現れた見慣れない姿の男性に、多くの艦娘がどよめいている。

 ――そんな彼女達を、比叡は遠巻きに見つめていた。

 

(お姉様……)

 

 彼女に代わり那珂がサダトの紹介に加わっているのは、金剛の配慮によるものだった。

 彼に対する不信感を拭えないまま、紹介役をさせるのは辛いものがあると鑑みて、那珂に代わるよう頼んだのである。

 直に巨大飛蝗と戦った経験があり、その打倒のためにやって来たというサダトに対し那珂は好意的であり、彼の紹介役を請け負うことにも前向きだった。

 

『あの巨大飛蝗は、見境なく人を喰らう。俺の世界では、たくさんの人が犠牲になった。――その牙は、もうこの海にも迫っているんです!』

(……)

 

 そんな姉達の様子を見つめ、比叡は巫女装束に包まれた胸元を握り締め、切なげな表情を浮かべる。

 那珂にしろ金剛にしろ、考えなしにサダトを歓迎しているわけではない。友好的な関係を結ぶことで、あの巨大飛蝗に抗する術を得るためという打算も含まれている。

 長門もそれを狙い、出会って間もないサダトを味方として迎え入れているのだ。それに長い実戦経験で培われた観察眼を以て、彼女達は南雲サダトという男が善であると見抜いている。

 実績と経験が豊富な艦娘ほど、彼を受け入れている状態だ。

 

『俺はなんとしても、無関係であるはずのこの世界の人々に、無駄な血が流れることを阻止しなくてはならない! だけど、俺一人じゃどうにもならなかった……!』

(南雲君……)

『だからどうか、ほんの少しだけ! この世界をあいつから守るため、力を貸してください! その力がある、艦娘の皆さんだけが頼りなんです!』

(南雲君、私は……)

 

 それに引き換え、ただ胡散臭いという感情論だけでサダトを拒んでしまった自分の至らなさが。何より、そのために敬愛する姉に気を遣わせてしまったことが、比叡の背に重くのしかかっていた。

 

 聴衆の様子を見る限りでは、艦娘達の反応は二つに分かれている。金剛のようにサダトを受け入れる態度を見せている者と、比叡のようにサダトを訝しむ者の二つに。

 前者はベテラン、後者は若手と、キャリア層もはっきりと分かれていた。ベテラン達は若手達にはわからない何かを、サダトに感じているのだろう。

 

 理屈の上では、わかっている。

 巨大飛蝗に抗する鍵を握っているサダトを拒む理由など、あるはずがない。あの怪物を確実に排除するには、より多くの情報を持つ彼を味方に付ける必要がある。

 それに改造人間である彼が先陣を切って戦うのであれば、艦娘の損害を最小限に抑えることもできる。

 

 だが、感情がそれを拒むのだ。ぽっと出の、軍人ですらない男に、最愛の姉が笑顔を咲かせて明るく接していること。そんな男を、尊敬する先輩達が軒並み受け入れていること。

 許せない。だが、それ以上に。多くのものを失いながら、それでも巨大飛蝗を倒すために来訪してきた彼を、そんな浅ましい理由で拒んでしまう自分が、何よりも許せなかった。

 

「……待って頂戴」

 

「――ッ!?」

 

 その時。

 若手達が先人達の意向を雰囲気で汲み取り、不信感を抱いたまま彼を受け入れようとしていた、その時だった。

 

 凛とした一声が一帯に響き渡り、どよめく聴衆と金剛達を黙らせる。その声の主は、聴衆の最後部から静かに口を開いていた。

 

 ポニーテールを揺らし、凛々しい眼差しでサダトを射抜く、その美女の名は――この鎮守府の主力である第一航空戦隊の筆頭格の一人、正規空母「加賀(かが)」。その傍らには、同じく一航戦の筆頭格である正規空母「赤城(あかぎ)」が並んでいる。

 青いミニスカートを夏の風に揺らし、加賀は一歩踏み出す。その瞬間、彼女達に畏敬の念を抱く若手の艦娘達が、蜘蛛の子を散らすように道を開けた。

 

『おーっと、ここで我が鎮守府のエース加賀さんのマイクパフォーマンスかーっ!?』

 

 その鋭い視線から漂う殺気など気にする気配もなく、那珂は場違いなほどに明るく振る舞いながら、加賀の側まで駆け寄って行く。

 そして彼女の近くまで辿り着いた途端。加賀は問答無用で彼女のマイクをひったくり、サダトに厳格な視線を注ぐ。そのただならぬ気迫を真っ向から浴び、サダトの表情も引き締まった。

 

『……南雲サダト。あなたの意向は理解したわ。あなたの力を借りなければ、あの巨大飛蝗を倒すことはできない、ということも』

『……それなら!』

『けれど。命懸けで戦場に立つ艦娘が、己の命運を懸けるのは信じられる仲間だけ。今日私達と会ったばかりのあなたには、それが致命的に欠けている』

『……』

 

 それはまるで、若手達の胸中を代弁しているようだった。

 ベテラン陣のほとんどがサダトを受け入れる雰囲気である中、そのベテラン陣の中心である彼女が若手寄りの意見になることは想定外であり、遠巻きに見つめていた比叡は目を剥いている。

 だが不思議と、周りのベテラン陣は加賀の発言に驚く気配はなかった。まるで、こうなることが分かり切っているかのようだ。

 

『かといって、時間を積み重ねて信頼を築いて行く猶予はない。そうでしょう?』

『そ、れは……』

『ならばせめて。私達が命を預けても構わない、と思えるほどの覚悟と強さを証明しなさい』

『……!?』

 

 一方。加賀は物々しい雰囲気を全身に纏わせながら、サダトに一つの条件を提示する。

 

『この鎮守府の名代として、提督に代わり。私達一航戦が、あなたに試練を課す。その結果を以て、判断させて頂くわ。あなたが、私達の力を貸すに値するか否かを』

『……!』

 

 それは、何よりもシンプルで過酷な条件だった。鎮守府の主力である一航戦の主観で、サダトの能力を検証し、艦娘の力を貸し与えるか否かを審議する。

 つまり、鎮守府最強の彼女達を「力」を以て黙らせることで、艦娘を無駄に死なせない強さを証明しろ、ということであった。

 無駄な血を流させない、という言葉が口先だけではないことを知らしめるために。

 

 相手は一航戦筆頭格。まず、一筋縄では行かないだろう。サダトはチラリと、自分を見遣る金剛と目を合わせた。

 

(お膳立てはここまでネ。あとは、君のガッツ次第デース!)

(……ああ。ありがとう、金剛さん)

 

 そこから帰って来たウィンクから、サダトは彼女の意を汲み、強く頷いて見せる。そして、真摯な眼差しを真っ向から加賀にぶつけた。

 

『……わかりました! その試練、受けて立ちます! あなたの信頼を、勝ち取るために!』

『おぉーっとぉお! まさかまさかの急展開! 南雲サダト君と加賀さんとの、ガチンコバトルの開幕だぁあーっ!』

 

 やがてこの一帯に感嘆の声が広がり、どよめきは最高潮に達して行く。

 その喧騒のさなか。加賀はフン、と鼻を鳴らし、踵を返して立ち去って行った。その後に続く赤城は、たおやかな笑みをサダトに送っている。

 

(……ど、どうし、よう……)

 

 一方。

 その光景を見ているしかなかった比叡は、予想だにしなかった展開に青ざめていた……。

 

 ◆

 

 艦娘寮前で繰り広げられた、派手なマイクパフォーマンスからの宣戦布告。そして、試練の受諾。

 その一連の騒ぎを、窓から見下ろしていた長門は深くため息をついていた。そんな彼女の隣で、陸奥がくすくすと笑っている。

 

「やれやれ……結局こうなるか。一航戦には面倒を掛けてしまったな」

「加賀も赤城も面倒見がいいものね。後で山盛りの牛丼でも奢ってあげたら?」

「そうだな、検討しておく。――それで、解析の進捗はどうなっている?」

「もうすぐ終わるそうよ。成果は期待できそうね」

「そうか。……解析が終わり次第、私から提督に報告する。それから、夕張に預けたマシンアペリティファーはどうだ?」

「車体の損傷が酷すぎて、バイクとして修理するのは不可能だそうよ。ただ、エンジン部の原子炉プルトニウムは健在だから、それに見合う材料を使って別の乗り物を造ることは出来るみたいだけど」

「別の乗り物、か……」

 

 巨大飛蝗。南雲サダトという来訪者。巨大飛蝗に纏わる資料。そしてバイクに使われていたという、原子炉プルトニウム。

 様々な問題が深くのしかかる中、長門は深くため息をつきながらワイワイと騒いでいる艦娘達を見下ろしていた。

 

「……案外、それが鍵になるのかも知れんな。なにせ、我々の常識が何一つ通じぬ相手だ」

 

 その表情には、乾いた笑いが滲んでいる。

 



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第13話 変身

 ――194X年8月26日。

 鎮守府工廠前。

 

「ご、ごめんね南雲君。いつかは来るかなー、くらいには思ってたんだけど。まさかこんなに早く決闘みたいなことになるとは思わなくってさ」

「あはは……すみません夕張さん。……でも、凄いですね。急造って割りには、こんなにしっかりした物をすぐに用意出来るなんて」

「はは、まぁこれが取り柄みたいなものだから」

 

 あらゆる武器装備の開発、製造を行うこの場所の近くにある桟橋。サダトはそのそばで、両足に履いた特殊ブーツの力で海上に立っていた。艦娘と同じように。

 だがさすがに慣れないのか、何処と無くふらついている。そんな彼を、桟橋に立つ緑髪の少女が見守っていた。

 工廠での開発を主任務とする軽巡洋艦「夕張」である。サダトが今履いている特殊ブーツも、夕張が彼のために急造した装備の一つだ。

 

「でも、南雲君こそ凄いよ。新米の艦娘は直進どころか、まっすぐ立つのもままならないくらいなのに……初めてとは思えないくらい安定してる。やっぱり改造人間ってそういうところでも優秀なんだなぁ」

「いえ、そんな……。でも、やっぱり中々難しいですねこれ。水上でもバイクに乗れたら戦いやすいんだろうけど……こればっかりは慣れるしかないか」

「……うーん、水上で走れる乗り物、か……」

「……夕張さん?」

 

 大破したサダトのマシンアペリティファーも、彼女が預かっている。とはいえ、その車体はもはや彼女でも修復不能なのだが。

 自分でも直し切れないことへの悔しさからか、どうにかしてマシンアペリティファーより優秀な乗り物に作り変えてやろうと目論んでいた彼女は、サダトの一言で深く考え込んでいるようだった。

 ――水陸両用の車体。それなら、マシンアペリティファーより利便性で勝る乗り物を造れるかも知れない……と。

 

「い、いた! 南雲くーんっ!」

 

 その時だった。技術者としてのプライドで燃え滾っていた夕張と、そんな彼女に掛ける言葉を見つけられずにいたサダトの前に、比叡が駆け込んでくる。

 

「君は……ええと、比叡さん?」

「は、はぁっ、はぁっ……!」

 

 息を切らして駆け込んできた彼女は、肩を揺らしながら切迫した表情でサダトに迫った。そんなエースの珍しい姿に、夕張も目を見張る。

 

「比叡ちゃん珍しいね、そんなに慌てるなん――」

「――どうするつもりなの南雲君! このまま試練を受ける気!?」

「おわっ!」

 

 だが、夕張に構う余裕もないのか。比叡は桟橋から手を伸ばして水上のサダトに掴みかかり、その両肩をガクガクと揺さぶる。

 彼女の青ざめた表情は、一航戦の試練というものの凄まじさを物語っているようだった。

 

「わかってる!? 一航戦はこの鎮守府のトップエース! しかも筆頭格の正規空母が直々にテストするって言ってるのよ! 並大抵の実力じゃ、一分も持たずに海の藻屑にされちゃう!」

「比叡ちゃん……」

 

 徐々に涙ぐんで行く比叡に、夕張は掛ける言葉を見失う。彼女の中に渦巻く、複雑な感情が表情に現れていたのだ。

 

 信じていい人間かも知れない。むしろ、現状と人柄から判断するならその可能性の方が高い。だが、自分は安心し切れず不安を抱いてしまった。

 それが形となってしまったかのような今の状を目の当たりにして、焦燥に駆られているのだ。自分の懸念が、この事態を招いたのだと錯覚して。

 

 ――それを知ってか知らずか。彼女の手に掌を重ね、宥めるように見つめるサダトの表情は穏やかな色を湛えていた。

 

「……大丈夫。きっと、なんとかして見せる」

「わ、わかってない! わかってないよ! 一航戦の実力は半端じゃないのよ!? あなたも腕に覚えがあるのかも知れないけど、彼女達は強いなんて次元じゃ……!」

「そうだろうな。きっと、そうだろう」

 

 比叡の手を優しく握り、サダトは肩から手を離させる。そして、彼女達が待っているであろう方角へ、剣呑な眼差しを向けた。

 その凛々しい横顔に、比叡は無意識のうちに見入ってしまう。

 

「だけど、引き下がることだけは絶対にできない。彼女達は『力』以上に、俺の『覚悟』を見ようとしている」

「えっ……!?」

「ここで背を向けるようであれば、所詮その程度の『覚悟』。試練に敗れるようであれば、所詮その程度の『力』。彼女達はその二つに段階を分けて、俺の本質を推し量るつもりなんだ」

「……!」

「例え敗れたとしても、試練に挑めば『覚悟』のほどは汲んで貰えるだろう。直接あいつと戦う『戦力』に数えてはくれなくなるだろうけど、それでも協力はさせてくれるはず」

 

 やがて、サダトの手に握られたワインボトルが夏の日差しを浴び、照り返すように輝く。すでに腰周りには、それを収めるベルトが現れていた。

 

「――だが。それは本来なら無関係であるはずの艦娘の皆が、巨大飛蝗との戦いで矢面に立たされることを意味する。逃げ出すことも敗れることも、俺には絶対に許されない」

「南雲君……」

「でも、心配はいらない。俺だって、負けるつもりで挑むつもりは毛頭ないから。必ず勝って、一人でも多くの艦娘から信頼を得て見せる」

「……!」

 

 自分が疑っている間も、彼は信頼を勝ち得るために無謀な戦いに挑もうとしている。その気まずさから、咄嗟に比叡はサダトから目をそらしてしまう。

 そんな彼女を一瞥し、サダトはベルトにワインボトルを装填した。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「だから、この一回でいい。見ていてくれ、俺の――変身!」

 

 電子音声が鳴り響く中、レバーを倒し。真紅のエネルギーを、漆黒の外骨格に循環させていく。

 金色の複眼が光を放ち、関節の隙間から蒸気が噴き出し、排熱完了と共に変身シークエンスは終わりを告げた。

 

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 そして最後の電子音声と共に、「p」の字を象る柄から伸びる刃が、天の輝きを浴びて眩く照り返す。

 その剣を手にしたサダト――こと仮面ライダーAPが、特殊ブーツを頼りに水上を駆け出したのは、この直後だった。

 

「……南雲君……」

 

 もはやこうなっては、見ているしかない。そして、彼の宣言通りに勝利を飾ってくれることを、信じるしかない。

 彼の言葉を信じた長門や金剛達のためにも。――比叡自身のためにも。

 

(ちょっ……違う違う違う! 私は別に南雲君を信じてるわけじゃなくてっ……!)

「比叡ちゃん? 誰を信じてるわけじゃないって〜?」

「ひえぇえっ!? やだ、うそ、今の声に出てた!?」

 

 そんな胸中が、言葉に出ていたのか。夕張のからかうような囁きに、比叡は顔を真っ赤にして狼狽えるのだった。

 




 一航戦はアニメ版と同じく、鎮守府最強格として設定しています。大和や武蔵はいない設定なので。


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第14話 一航戦の試練

 ――194X年8月26日。

 鎮守府訓練場。

 

 多くの艦娘達が訓練のために使用している、開けた海域。鎮守府の領内にあるその海原には、移動訓練のための棒が何本も立てられている。

 その中央に、特殊ブーツを履いた仮面ライダーAPが佇んでいる。そんな彼を、波止場に立つ赤城と加賀が待ち受けていた。

 

「逃げずにここまで来た……か。少なくとも、ここで逃げるほどやわではなかったようね」

「すでに分かり切っていたことですが……その心意気、敬服致します。南雲君」

「……」

 

 こちらに向け、弓を引き絞る二人。そんな彼女達に対し、サダトは剣を水平に構えて静かに出方を伺っていた。

 もはや一触即発。そんな彼らを、大勢の艦娘達がギャラリーとなって囲っている。

 

『さぁ、世紀の一戦! 我らが栄えある一航戦のエース、赤城と加賀! 対するは、改造人間のボディを持つ異世界からの使者、南雲サダト! 果たして、この試練の先にはどのような結末が待ち受けているのかっ!?』

『霧島ちゃんキャラおかしいよ!? 絶対この状況楽しんでるよ! ツッコミは那珂ちゃんのキャラじゃないのに〜っ!』

 

 そんな彼女達の中で、太陽の輝きで眼鏡を光らせる霧島が、熱狂的な実況をお送りしている。本来その役目を担うはずの那珂が、困惑を隠せないほどの気迫を全身から放っているようだった。

 

(南雲君……)

 

 一方。そんな末妹とは対照的に、次女の比叡は指を絡めて不安げな表情でサダトを見守っていた。

 隣の金剛は自信満々な笑みを浮かべているが、そんな姉の姿を見ても、彼女の胸中に潜む淀みは拭いきれない。

 

「……心配デスか? 南雲クンのこと」

「お、お姉様! わ、私は別に……」

「大丈夫、大丈夫デース。私達が信じた男ネ、大船に乗った気分で見るといいデース!」

「……は、はい……」

 

 比叡の心配をよそに、周囲は益々ヒートアップしている。そのギャラリーの熱気に反するように、当の一航戦とサダトは静かに互いを見据えていた。

 

『両者やる気十分! ルールは簡単、一航戦の猛攻を10分間凌ぎ切るのみ! さぁ果たして南雲サダト、我が鎮守府の精鋭が繰り出す爆撃と銃撃の嵐を掻い潜り、その「力」を証明できるかっ!』

『あーん! それも那珂ちゃんのセリフ〜っ!』

 

 そして――戦いの火蓋を切り落とすように。小指を立ててマイクを握る霧島が、左手の手刀を天に掲げる。

 

『さぁ、世紀の試験の始まりですっ! 用意……始めっ!』

 

 その手刀が、下方に振り抜かれた瞬間。

 赤城と加賀の、引き絞られた弓から無数の矢が飛び出した。

 

「――ッ!」

 

 瞬く間に、その矢が全て――九九式艦上爆撃機の形状へと変貌していく。

 サイズはさながら模型のようにも伺える小さなものだが、機体下部から降り注ぐ爆弾は……紛れもない実物だ。

 

 爆炎と共に波が広がり、波止場に海水が叩きつけられて行く。絶え間無い爆撃が、容赦無く改造人間に向けられていた。

 

『ああーっと、速攻に次ぐ速攻! 並の深海棲艦なら、すでに轟沈必至の攻撃だぁーっ!』

「な、南雲君っ!」

「心配ないネー。……南雲クンなら、全弾回避してるデース」

「えっ――あ!」

 

 立ち上る煙幕。燃え盛り、倒れて行く棒。

 戦い慣れている艦娘でも、いきなりこの量の爆撃を浴びれば無事では済まない。新米の艦娘なら、間違いなく行動不能になっている。

 

 一航戦の名に恥じない、強力な速攻。この試練に対する、二人の意気込みが如実に現れていた。手加減など一切ない、本気の攻撃。

 その戦況を目の当たりにして、青ざめた表情になる比叡。そんな妹とは正反対に、金剛は胸を張ってある方向を指差す。

 

 ――その方向から、漆黒の外骨格が煙幕を突き破り、青空の下へ飛び出してきたのだった。

 今日が初の海上戦とは思えないほどの、滑らかな航跡を描く彼の身のこなしは、瞬く間にギャラリーの視線を独占していく。

 

『なぁーんとなんと、かわしました南雲選手っ! さすが戦闘に秀でた改造人間の戦士! 一航戦の爆撃にも屈していなぁい!』

 

 この番狂わせとも言うべき立ち回りと霧島の実況に、艦娘達は大いに沸き立つ。

 話でしか改造人間の力を知らない彼女達の中には、その戦闘力に対して懐疑的な者もいた。そんな彼女達も、一航戦の爆撃を鮮やかにかわした彼の機動力には舌を巻いている。

 

「南雲君……!」

「やっぱり、私達が見込んだ通りネ。でも、本番はここからデス」

 

 改造人間の力を知らしめる。という目的の達成へ、大きな一歩を踏み出す瞬間であった。

 

「――ッ!」

 

 だが、一航戦はいつまでも調子に乗らせてくれるような相手ではない。

 爆撃をかわしたサダトの上体に、無数の弾丸が降り注ぐ。防ぐ間もかわす間もなく、全弾を浴びてしまった彼の頭上を、零式艦上戦闘機21型の編隊が通り過ぎた。

 

「南雲君っ!」

「海上を走る際に生まれる独特の波紋を読み、南雲クンが煙幕から脱出した先に零戦を展開させていたようデスね」

「……!」

 

 水上を移動する際、足元から広がる航跡。その微々たる兆候を、あの爆撃による激しい波紋の中で見つけていた一航戦と姉の観察眼に、比叡を戦慄を覚える。

 

『ああっと! 一航戦も彼の動きを読んでいる! 零戦の機銃掃射を浴びてしまったぁ!』

 

 霧島の実況に覆い被さるように、再び零戦の編隊がサダト目掛けて射撃を開始した。

 

「二度もッ!」

 

 しかし、サダトも何度もやられているままではない。手にしていた剣を猛烈に回転させ、銃弾を凌いでいく。

 一航戦の必勝パターンから生き延びて行く彼の奮戦に、ギャラリーがさらに興奮していった。

 

『なんとここで南雲選手、剣を扇風機のように振り回して掃射をかわすという、まさかまさかのファインプレー! 果たして次は、どんなアクションを見せてくれるのかっ!』

 

 霧島の昂りを他所に、波止場に立つ赤城と加賀は同時に目を細める。

 そんな彼女を、サダトも静かに見据えていた。

 

「やはり、この程度では屈しませんか」

「だが、それがいつまで持つか。残り8分、ここからが正念場よ。――南雲サダト」

「……」

 

 次の瞬間、二人は矢を同時に放ち――今度は九九艦爆と零戦が同時に襲い掛かってきた。サダトは剣を下ろすと回避行動に入り、爆煙の中に姿を消して行く。

 

 ――だが、これは悪手だった。

 赤城と加賀は、航跡の波紋を辿ればいつでもサダトを見つけられる。が、サダトの方からは二人が見えないのだから。

 

 そう、例え二人が新手を放っていたとしても。

 

「……よし、抜けたッ――!?」

 

 その時は、彼が爆煙から飛び出た瞬間に訪れた。

 先程の経験則から、すぐに機銃掃射が来ると踏んでいたサダトは剣を構えて上空を見上げる。……だが、零戦の編隊はおろか、一機も見えない。

 

 足元で爆発が発生し、彼の体幹が大きくよろめいたのは、その直後だった。

 

「……、なッ……!?」

 

 一体、どこから。その焦りから視線を惑わせる彼の視界に、零戦でも九九艦爆でもない機体の編隊が映り込む。

 

『これは上手いッ! 一航戦、爆撃からの機銃掃射と思わせてか〜ら〜の雷撃に切り替えたッ!』

「雷撃……!」

 

 霧島の実況から拾った言葉が、サダトに新手の出現を悟らせた。

 九七式艦上攻撃機。雷撃戦に特化したこの機体の編隊が、お留守になっていた彼の足元を襲っていたのだ。

 

 上空からでも、水中からでも。攻撃を仕掛けられる場所もタイミングも思いのまま。

 しかも、そのいずれもが強力な威力を秘めている。それが意味する攻撃手段の多様性に、サダトは息を飲んだ。

 これが、一航戦なのか――と。

 

「……九七艦攻の雷撃をまともに受け、未だ健在……か。予想を遥かに超える自己防御能力ね」

「けれど、この世に不沈艦は存在しません。例え損害が軽微であれど、それが積み重なれば必ず綻びは生まれる。その時までに命を繋げられるかは、彼次第です」

 

 一方。この攻撃からサダトの能力を推し量る二人は、攻撃の手を緩めないばかりか、さらに多数の艦載機を放とうとしていた。

 試練というよりは、まるで――処刑のようだ。その容赦のなさに、比叡は目元に雫を溜め込んで行く。

 

「む、無茶苦茶です、こんな……! お姉様、やめさせてください! 一航戦の雷撃まで凌いだんです、もう十分じゃないですか!」

「比叡。よく見るネ。赤城も加賀も、南雲クンも、全く満足してないデス。せっかく10分も時間を取ったのデスから、最後まで好きにやらせてあげるデース」

「……!」

 

 だが、金剛は不敵に笑いながら、戦場に立つ三人を見守るばかり。彼らはどちらも止める気配を見せず、試練を続行していた。

 

 どれほど爆炎が上がっても、爆風が肌を撫でても。彼らは互いに引くことなく、力を尽くしている。

 片方は、力と覚悟を「検証」するために。片方は、それを「証明」するために。

 もしそこに手心が加われば、この場を設けた意味がなくなってしまう。何より、それ以上に相手に対する無礼もない。

 だから彼らは、寸分の加減もなくぶつかり合うのだ。

 

「……」

 

 それに深く理解を示す金剛に対して、比叡の表情は優れない。それでも彼女には、ただ祈るしか術はなかった。

 指を絡め、目を伏せて。南雲サダトの生還を、祈るしか。

 

 ――それから、7分が経過した。

 

 ついに試練終了まで残り1分となり、ギャラリーも比叡達も固唾を飲んで、戦いの行方を見つめている。

 その視線の向こうで、サダトは満身創痍になりながらも両の足で立ち続けていた。すでに外骨格には亀裂が走っており、素顔を隠す仮面も半壊し、目元が覗いている状態である。

 

 そんな彼を見下ろす赤城と加賀も、彼の異様なタフネスに手を焼いているのか。僅かに呼吸を乱しながら、次の矢を構えていた。

 

「……次が最後ですね」

「……ええ。行きますよ、赤城さん」

 

 自分達二人にここまで食い下がってきた、彼への敬意として。赤城と加賀は、全ての艦載機を解き放つ。

 

 九九艦爆、九七艦攻、零戦。三種の機体から繰り出す波状攻撃が、サダトを急襲した。

 

「――おぉおぉおおッ!」

 

 もう、持たないかも知れない。それでも彼は、立ち尽くすことだけはしなかった。諦める選択肢だけは、選ばなかった。

 その「心」を、彼女達は何よりも検証しているのだから。

 

 爆煙の中に姿を隠し、九九艦爆からの爆撃をかわし切り――煙の外へと飛び出す。

 その瞬間、彼は。

 

 水飛沫が天を衝くほどの蹴りを海面に放ち、上空に飛び上がるのだった。

 

「……!?」

 

 その行動に赤城と加賀が目を剥く瞬間。サダトは剣を振るい、機銃掃射に入ろうとしていた零戦を次々と斬り伏せる。

 彼が立っていた海面にはこの時、空振りに終わった魚雷の航跡が走っていた。

 

 爆撃も雷撃も銃撃もかわされては、もう一航戦でも決定打は与えられないだろう。誰もがそう確信している中、サダトは魚雷が通り過ぎた後の海面に着水した。

 

 ――だが、まだ終わりではない。一度のジャンプだけで全ての零戦を狩ったわけではないのだ。

 着水したところを狙うように、残りの零戦がサダトの背に群がって行く。だが、彼はそこから動く気配を見せない。

 

「南雲君っ!?」

 

 機銃掃射が終わり、零戦が通り過ぎて行くまで。サダトはそこから微動だにせず、立ち尽くしていた。

 ――それが、この試練を締めくくる最後の攻撃となる。

 

『10分経過……終了! 試練終了です! やりました、とうとうやってしまいました南雲サダト! 一航戦の雷撃、爆撃、銃撃を凌ぎ、10分生き延びてしまいましたぁぁあ!』

 

 そして、制限時間の終了を霧島が告げた時。爆発するような歓声が、この一帯に響き渡る。

 番狂わせに次ぐ番狂わせ。その積み重ねが、彼女達の興奮をこれほどまでに煽っていたのだ。

 一航戦のトップエース二人を相手に、ここまで持ち堪える戦いなど、今までになかったのだから。

 

 もはや彼女達の中に、南雲サダトの実力と誠意を疑う者はいない。彼の本質は、一航戦の手により証明された。

 今はただ、惜しみない拍手が送られている。

 

「南雲君……!」

「比叡。迎えに行ってあげるデース。多分、アレは相当疲れてるネ。……今なら、それくらいは出来るネー?」

「……はいっ! お姉様っ!」

 

 その中で、比叡は華のような笑顔を咲かせていた。そんな妹を温かく見守る金剛は、微笑と共に妹の背中を押して行く。

 その勢いのまま、次女はサダトが向かう桟橋に駆け出して行った。

 

「……南雲サダト。最後の銃撃……なぜ背中で受けたのですか? あなたなら消耗した状態でも、剣で防げたはず」

 

 一方。ギャラリーの歓声を浴びながら、訓練場を後にしようとしていたサダトの背に、加賀の一声が掛けられていた。

 サダトはその言葉に、半壊した仮面の奥から微笑を覗かせ――振り返る。

 

「……!」

「怪我させたら、いけない――て思ったんです」

 

 振り返った彼の腕には、何人かの小人が抱かれていた。先ほどサダトが斬り落とした零戦に乗っていた「妖精さん」である。

 彼は零戦を落としながら、その操縦をしていた妖精さん達を保護していたのだ。最後の銃撃を背で受けていたのも、彼女達を庇うことに専念していたためだった。

 

 もし彼が零戦を撃墜したまま妖精さん達を放っていれば、彼女達は小さい体で泳いで桟橋まで帰る羽目になる。剣で防御しようと向き直っていれば、銃撃が彼女達に向かう恐れもあった。

 

 ――その行為に、加賀は普段の無表情を崩し、呆気にとられた顔になる。そんな相棒の珍しい姿に、赤城はくすくすと笑っていた。

 

「南雲サダトさん。あなたは本当に、面白い人なのですね」

「……よく言われます」

 

 そんな赤城の褒め言葉を、からかいと解釈したのか。サダトは頬を赤らめると、そそくさと妖精さん達を抱えたまま桟橋に向かっていく。

 その背中を、二人は穏やかに見守っていた。

 

「……オホン。ともあれ、これで若手の不信は拭えたようですし。私達が一芝居打つ必要は、もうなさそうですね。赤城さん」

「ええ。これで他の艦娘達も、彼を仲間として受け入れてくれるでしょう。……私達が受け入れる姿勢でも、若い子達が不安なままでは艦隊の統率も乱れてしまいますし」

「全く……巨大飛蝗の一件が片付いたら、人を見る目というものを養わせる必要がありますね」

 

 ――最初からサダトを信用していた二人は、若手が彼に不安を抱いている現状を打破するために、この「試練」を画策していた。彼の「覚悟」と「力」を目に見える形として、鎮守府全体に知らしめるために。

 

 その目論見通り、彼は試練に耐え抜き艦娘達の信頼を勝ち取って見せた。

 戦士にとって「力」とは、決して無視できない要素だ。むしろ、「全て」に近い。一航戦の猛攻を耐え抜いた彼なら、信用していなかった他の艦娘達も受け入れられるだろう。作戦、成功だ。

 

「……そして。この『試練』を通して、一つわかったことがあります」

「……ええ」

 

 踵を返し、波止場から立ち去って行く二人。神妙な面持ちを浮かべる彼女達は、剣呑な雰囲気を纏いながら互いに視線を交わした。

 そして、同時に振り返り――桟橋に着いた途端にぶっ倒れ、周りを大騒ぎさせているサダトを遠目に見つめる。

 

「……私達の全力攻撃でも倒せない改造人間すら、容易く一蹴する。巨大飛蝗は、それほどの強敵なのだ――と」

 

 この試練を通して判明した、巨大飛蝗との戦力差。その大きさを感じ取った二人は、厳しい表情のまま波止場から完全に姿を消したのだった。

 

 ◆

 

「……赤城と加賀のおかげで、若い艦娘達の信頼も集まりつつあるな。……だが、問題は……」

 

 執務室の窓から、騒然となっている訓練場周辺を見下ろす長門。――その手には、何十枚にも重ねられた書類が握られていた。

 

 その表紙には、「資料解析結果」と記されている。

 

「……南雲殿。これほど度し難い話は、流石に私も初めてだよ」

 

 書類の内容を知る彼女は鎮痛な面持ちで、艦娘達にもみくちゃにされている青年を見つめていた。

 追い求めていた情報(もの)が手に入ったというのに。その表情はどこか、儚い。

 



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第15話 結ばれる友情

 ――194X年8月27日。

 鎮守府甘味処まみや。

 

「赤城さん……それ、食べるんですか」

「ええ。南雲さんも一口いかがですか?」

「いえ……やめときます」

 

 一日の休みを経て快復したサダトは、改めて鎮守府に歓迎されることとなった。鎮守府における憩いの場である「甘味処まみや」に招かれた彼は、赤城と同席して昼食を取っている。

 

 そして今、山盛りという言葉では足りないほどの量の牛丼を平らげる彼女の食いっぷりに、閉口しているのであった。サダトも特盛り牛丼に手を付けている最中だが、彼女の皿に築かれた巨峰の前では並盛りより小さく見えてしまう。

 メガさえも、キングさえも超越しうるチョモランマ。そう呼んで差し支えない量の牛肉が、彼女の眼前に積み重なっていた。

 

「それにしても、凄まじい回復力ですね。あれほどの損傷が、一日で直ってしまうなんて。入渠(にゅうきょ)もしていないのに」

「……あはは、それが取り柄みたいなものですから。でも、流石に昨日は無理し過ぎたみたいで……皆さんにはご心配をおかけしました」

「ふふ、そうですね。特に比叡さんは、酷い取り乱しようで。あなたのことも今朝まで、つきっきりで看病していらしたわ」

「はい、長門さんからもそう聞いています。……彼女にもお礼を言いたいのですが」

「彼女なら、今は眠っていますから……もう少し待った方がいいでしょうね。彼女も、元気になられたあなたに、早く会いたいでしょうし」

「……はは」

 

 ――あの後。サダトは客室で比叡の看病を朝方まで受け、目が覚めた頃には彼女は疲れから寝入っていた。

 今こうして外を出歩いているのは、艦娘達への挨拶回りという(てい)ではあるが、どちらかと言うと比叡が目覚めるまでの時間潰しに近い。それほどに、サダトは彼女を案じていた。

 

 そんな彼の胸中を看破している赤城は、彼が気を落とし過ぎないようにするために、こうして鎮守府の各所を案内しているのだ。さながら、観光のように。

 

「ねぇねぇ南雲くん! 南雲くんの世界って、どんなレディがいるの!? 今流行りのふぁっしょんって何!?」

「あれ、君達は確か……」

「あ、(あかつき)ちゃん騒いじゃダメなのです! 南雲さんはお食事中なのです!」

「いいじゃない(いなづま)、今日は南雲くんを歓迎してあげる日なんだから! ちょっと騒がしいくらいの方がいいわよ!」

「……ハラショー……」

「あはは、みんな元気だなぁ」

 

 そんな彼ら二人のところへ、赤城と同じ常連客の駆逐艦四人が現れる。幼い少女の外見を持つ彼女達は、人懐こい笑みを浮かべてサダトのそばに集まっていた。

 その姿に和んだのか、サダトの表情もふっと柔らかくなる。彼の様子を見つめる赤城と、店長の間宮(まみや)も、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「お、いたいた噂の改造人間クン。具合はどう?」

「見たところ、体調は悪くないようだな」

 

 すると、暖簾を潜り新たに二人の艦娘が現れた。駆逐艦四人組とは対照的に、成熟した大人の女性である彼女達は、友好的な笑みを浮かべてサダトの隣にやってくる。

 

「はい、もうすっかり元気です。足柄(あしがら)さんと那智(なち)さんもお昼ですか?」

「まぁな。間宮、いつもの頼む」

「はーい」

「しかし聞いたよー? なんでも比叡がつきっきりで看病してくれてたらしいじゃん。……いいなー、私もそんな甘酸っぱいことしてみたい……」

「お前にはその前にそれをやる相手が必要だな」

「ちぇ……あ、じゃあ南雲君ちょっと半殺しにしていい?」

「さらっと何を!?」

「あはは冗談よ」

(冗談って目の色じゃなかった……!)

 

 足柄と那智。艦隊の中でも年長者である彼女達は、大人の余裕とも呼べる佇まいで、サダトのことも暖かく迎え入れている。

 そんな彼らを、二人の空母が暖簾の外から見つめていた。

 

「ふーん……話に聞いた時は、どんなヤバい奴なんだろうって思ってたけど。ああして見ると、結構普通のコなのね」

「戦わずして相手の本質を推し量れないようじゃ、いつまでも半人前よ五航戦」

「……何よ。先陣切って戦ったくせに」

「あなた達のような分からず屋を黙らせるためよ。やむを得ないわ」

「相変わらずムカつくわね、一航戦。……フンッ!」

 

 だが、この二人はさほど仲が良くないのか。加賀の隣に座っていた空母「瑞鶴(ずいかく)」は、彼女の辛辣な物言いに反発しながら立ち上がる。

 

 ――しかし、甘味処まみやから立ち去る直前。彼女は緑のツインテールを揺らし、サダトの方を振り返る。

 その甲板胸とも評される慎ましい胸の奥に、引っ掛かるものを感じていたのだ。そんな彼女の前を横切るように、他の艦娘達がぞろぞろとやって来る。

 

「お、やってるやってる。昨日はお疲れ様だったねー南雲君。巨大飛蝗のことはひとまず置いといて、今日はゆっくり休みなよ」

「そーそー、男の子は元気が一番だからね! というわけで今日は那珂ちゃんが景気付けのニューシングルを披露――」

「――うふふ。そういうのは店の外でやってね? 那珂ちゃん」

「……は、はい間宮さん……ごめんなさい……」

「も、もう……。ごめんなさい南雲さん、お食事中にお邪魔してしまって……」

「あはは、俺なら全然構いませんよ神通さん。……しかし、随分賑やかになってきたな。いつもこうなんですか? 赤城さん」

「いえ。……皆、珍しい仲間が出来て浮き足立ってしまっているのですよ。異世界の改造人間、なんてまさに千載一遇の巡り合わせというものですから」

「そうですね……」

 

 川内型三姉妹までもが集まり、賑やかさを増して行く甘味処まみや。そんな彼女達の中心で談笑するサダトを、加賀と瑞鶴は神妙に見つめていた。

 

「む? これは……ワインボトルか。ふむ、今宵の供に良いかも知れんな」

「ちょ、ダメです那智さん! それは俺の変身アイテムで……!」

「いいじゃんいいじゃん、固いこと言わないでさぁ。今夜はお姉さん達と飲み明かすわよー?」

「ダメですってば足柄さぁぁん!」

 

 妙高(みょうこう)型の姉妹二人に絡まれ、おもちゃにされているサダト。そんな彼が、変身していた「あの姿」に――加賀と瑞鶴は、どこか既視感を覚えていた。

 

(……変、ね。なんだか、どこかで会ったことがあるような……ううん、そんなはずない)

(あの巨大飛蝗も、変身した彼の姿も……どこかで見たような気がする。だけど……あり得ない話よ)

 

 燃え盛る街の中。巨大飛蝗に立ち向かう、仮面の戦士。そのビジョンが、二人の脳裏に過っている。記憶にあるはずのない、その光景が――彼女達の中に、焼き付いているようだった。

 

 それと同じ感覚を、妙高型の二人や駆逐艦四人組も味わっていたとは、知る由もない。

 

 ◆

 

「はぁ……えらい目に遭いましたよ」

「あっははは! 足柄は相変わらず野獣デスネー! ま、根の善良さは保証するので仲良くして欲しいデース」

「だ、大丈夫です。……多分」

 

 その後、金剛に招かれたサダトは、比叡が起きたと聞いて彼女の後ろに続いていた。今は霧島や榛名と共に、艦娘寮裏でティータイムに入っているという。

 

「しかし、なんだか不思議ネ」

「……?」

「南雲君の事情は話でしか知らないはずなのに……その光景が妙にハッキリとイメージ出来るんデース。まるで、本当にそこにいたかのように……」

「え……」

「もしかしたら、向こうの世界に住んでいるもう一人の私が、自分の記憶を伝えてくれているのかも――あ、霧島! 榛名! 今戻ったデース!」

 

 金剛がふと漏らした、不可思議な体験。その意味をサダトが勘ぐるより先に、妹達を見つけた彼女が声を上げた。

 榛名と霧島は華やかな笑顔で手を振っている。彼女達が腰を下ろしている椅子やテーブルは、西洋風の流線的なデザインだ。

 

「お帰りなさいませお姉様。南雲さんもようこそ」

「あれ? 霧島、比叡はどこに行きましたカー?」

「それが……」

 

 だが、サダトが最も会いたがっていた肝心の比叡の姿が見えない。訳を尋ねた姉から視線を逸らし、霧島は苦笑を浮かべる。

 そんな末妹を見やりながら、三女の榛名が同じく苦笑いを浮かべて釈明した。

 

「南雲さんが来られると知った途端、真っ赤になって逃げ出してしまわれて……波止場の方まで」

「あらら……世話の焼ける子デスネ。南雲君! ここからは男の仕事ネー! すぐ追い掛けるデース!」

「え、えぇ!?」

「ハリアーップ!」

「は、はいっ!」

 

 その理由を知った途端、金剛はサダトの尻を引っ叩いて追跡を促す。臀部に轟く戦艦級の痛みに涙目になりつつ、走り出して行く彼を豪快な笑顔で見送りながら。

 そんな強引極まりない長女の解決策に、妹達はティーカップを手にしたまま揃って苦笑いを浮かべていた。

 

「さて……榛名」

「……はい」

 

 ――が。その長女が真剣な表情で椅子に腰掛け、ティーカップを手にした瞬間。

 先ほどまで柔らかな面持ちでティータイムのひと時を愉しんでいた空気が、一変する。榛名も霧島も、すでに笑みなど一切ない剣呑な面持ちに変貌していた。

 

「例の解析結果、見せて貰ったネー……。割戸神博士とやらは、とんでもないマッド野郎デース」

「はい。……榛名も、住む世界が違うだけで、ここまで残酷になれる人間がいるとは知りませんでした。……まさか、自分の息子を……」

「……大淀には、辛い思いをさせたネ……」

「ですが、大淀さんのおかげで巨大飛蝗――いえ、『仮面ライダーアグレッサー』の情報はぼ網羅されました。解決策も、長門秘書艦と提督の案で確立されつつあります」

 

 巨大飛蝗。もとい、仮面ライダーアグレッサー。その脅威に抗する術は今、水面下で組み立てられようとしている。まだ完全には至らないが、時間の問題だろう。

 

「仮面ライダーへの当て付けとしてその名を冠する、次元破断砲搭載型改造人間……でしたカ。あれがシェードという連中の切り札ということは、それさえ処理してしまえば向こうの世界にも光明が差しマス。ここまで来て、あの巨大飛蝗を見逃す手はありまセン」

「はい。この世界のためにも、南雲さんの世界のためにも。不肖この榛名、全力を尽くす所存です」

「この霧島も、同じです。金剛お姉様」

「二人とも、サンキューネ。……ところで霧島。夕張が『例のアレ』を建造していると聞きマシタ。進捗のほどはどうデスカ?」

 

 工廠の方角に視線を移し、スゥッと目を細める金剛。そんな姉の眼差しを辿りながら、霧島は眼鏡を指先で直す。

 

「……やはりバイク型で再現するのは不可能だったようです。原子炉プルトニウムのエネルギーに対して、その形状では余りにも軽過ぎてバランスを維持できない、と」

「なるほど。やはりシェードの科学力はとんでもないネー……アレをバイクのエンジンとして定着させるなんテ……」

 

 悪の組織の科学力に、我が鎮守府の工廠が屈するかも知れない。その口惜しさに、金剛は下唇に歯を立てる。

 そんな姉をフォローするように、霧島はテーブルの上に一枚の資料を差し出した。その一面には、一台の軍用車の写真が載せられている。

 

「そこで、敢えてバイク型から離れて重量を高め、バランスを取る方向に切り換えたそうです。素材には大和型の艤装を使い、金型には陸軍の『九五式小型乗用車』を使うようです。提督に随行していたあきつ(まる)さんがパイプになって下さいました」

「彼女にも礼を言わなくてはならないネ。……とにかく、急ぐデス。いつアグレッサーが動き出すかわからない以上、一日も早く万全な状態を整える必要がありマス」

「ええ、もちろんですお姉様。夕張さんも急ピッチで作業して下さっています。……この作戦の成否は、彼女に掛かっているでしょう」

 

 資料を手にした金剛は、祈るように目を伏せる。霧島と榛名も、それに合わせるように俯いた。技術者ではない彼女に出来る事は、来たる日に向けて英気を養うだけ。

 その前準備を担う夕張達の健闘を、祈るより他ないのだ。

 

 ◆

 

「……比叡さん」

「あっ……南雲、君……」

 

 ――その頃。

 波止場の端に立ち尽くしていた比叡を見つけたサダトは、日の光を浴びる彼女と向かい合っていた。

 

「……」

「……その、聞いたよ。あの後、つきっきりで看病してくれてたって。ありが――」

「――ごめんなさいっ!」

 

 互いに掛ける言葉を見つけられない中。なんとか先に切り出したサダトの言葉を遮り、比叡は声を張り上げる。

 猛烈な勢いで頭を下げる彼女に、サダトは何事かと目を点にしていた。

 

「……? え、と……」

「ごめんなさいっ……! 私、ずっとあなたを疑ってた! あんなにボロボロになるまで戦ってる時も、この世界に流れ着いた時も、ずっと! お姉様や長門秘書艦が南雲君を受け入れている時も……!」

「……」

「私みたいな子達がいっぱいいたから、あんな無茶な試練をやることになって、そのせいでボロボロになって……だから、その……」

 

 だが、その理由に辿り着くまでにそう時間は掛らなかった。彼女の苦悩を悟ったサダトはゆっくり歩み寄ると、その頭に優しく掌を乗せる。

 

「……知ってたさ」

「えっ……」

「君が俺を信じてないこと。信じられないから、悩んでること。全部知ってる。だから、礼が言いたかったんだ。それでも俺の、そばにいてくれてたことに」

「……」

 

 やがて掌を下ろし、比叡と向き合うサダトは穏やかな笑みを浮かべる。そんな彼と眼差しを交わす比叡は、不安げな上目遣いで彼を見上げていた。

 

「だから――ありがとう。それだけが言いたかった」

「……」

 

 その恐れを、拭うように。柔らかな微笑みを送り、サダトは踵を返す。もう言うべきことはない、と言外に語り。

 比叡はその背中を、暫し見つめ――逡巡する。このまま、何も言えないままでいいのか……と。

 

「ね、ねぇ!」

 

 答えは、否。

 これ以上、彼の厚意に甘えたままでいることは、彼女の矜恃が許さなかった。

 

「……ん?」

「私の方こそ、その……ありがとう。こうして、会いにきてくれて」

「……」

「私……信じるよ。あなたのこと、信じてみる。だから……今からでも、一緒に戦わせて、くれますか?」

 

 喉の奥から絞り出すような、か細い声。だが、サダトに気持ちを伝えるにはそれでも十二分であった。

 彼は再び比叡の近くまで歩み寄り、右手を差し出す。

 

「こちらこそ。――改めて、よろしくな。比叡」

 

 その手を見遣り、比叡はようやく。

 心からの笑顔を。いつものような、溌剌とした笑顔を。

 

「……うん。よろしくね、南雲君っ!」

 

 取り戻したのだった。

 




 ここまで書き終わってから、赤城さんがコラボしていたのは牛丼じゃなくて親子丼だったことに気づく。ゴルゴムの仕業だー!


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第16話 アグレッサーの真実

 ――194X年8月28日。

 鎮守府執務室。

 

「……先日、大淀から解析結果が帰ってきた。それが、その資料だ」

「仮面ライダー、アグレッサー……ですか」

 

 巨大飛蝗改め「仮面ライダーアグレッサー」への対策を練るこの場の中で、サダトは長門から渡された資料を神妙に見つめていた。彼の周囲を取り巻く幹部格の艦娘達も、明らかにされたアグレッサーの実態に言葉を失っている。

 そんな部下達の様子を見渡しつつ、長門は視線で話を促してくる陸奥に頷き、口を開いた。

 

「……まず。シェードは次元の壁を破り、異世界へ侵略する計画を進めていたらしい。その成果として開発されたのが、『次元破断砲』。天文学的数値の熱量を一点に集中して放つ、『次元に穴を開ける大砲』だ」

「七年に渡る戦いで仮面ライダーに生態圏を奪われ、敗残兵ばかりになったシェードは、この兵器を後ろ盾に異世界を支配することで新たな資源の獲得を目指していたの」

「だが、この兵器のチャージには莫大な電力が要求される。シェードにはもはや、そこまでの予算もなかった。そこで足りない電力を補うために、摂取したタンパク質を熱量に変換する機能を取り込んだ。――例えるなら、人肉か」

「そしてチャージしている長い時間が無防備にならないように――戦闘用改造人間の体内に組み込むことになったの」

「物言わぬ大砲を、自己の判断で歩いて戦う砲兵に作り替えたということだな」

 

 長門と陸奥が語る、アグレッサーの体内に潜む次元破断砲。その威力を知るサダトは、資料を握る拳を震わせた。

 そんな彼の隣には、比叡が寄り添っている。彼女は無言のまま、彼を宥めるように拳に掌を添えていた。

 

「その結果、次元破断砲は戦闘用改造人間の『内臓器官』として定着した。それに合わせ、改造人間の方も次元破断砲の運用に対応する生態への進化を遂げた……」

「つまり、ただの大砲だった次元破断砲は、あの飛蝗型改造人間の器官となり……改造人間もまた、それを扱える肉体へと変異してしまったのよ」

「等身大の人間型である第1形態。川内達が発見した巨大飛蝗型の第2形態。そして南雲殿が最後に戦った、巨人型の第3形態。タンパク質を蓄えて行くことで段階的に進化して行き、次元破断砲の発射体勢を整えて行く。そして第3形態の状態でエネルギーを充填させ、発射したのち――力を使い果たし、第1形態まで退化。そうして進化と退化のループを繰り返すという構造だ」

 

 淡々とアグレッサーの生態を語る長門。やがて、彼女はテーブルの上に一枚の写真を差し出した。そこには、サダトにとっては見覚えのある老人の姿が映し出されている。

 

「そして、その研究開発を引き受けていた当時の主任が、『割戸神博志』博士。……彼は、この計画のために死んでいた息子を改造人間として強引に蘇生させていたらしい」

「……!?」

 

 その内容に、資料に目を通していたサダトが思わず顔を上げる。他の艦娘達も同様に、驚愕の表情を浮かべていた。

 だが、そんな反応は想定内だったのだろう。長門は気にした様子もなく、淡々と説明を続ける。

 

「この世界の1971年。彼が住んでいた某県では当時、自然破壊を顧みない工業開発の影響で河川が汚染され、住民の肉体に深刻な疫病を齎していたらしい」

「……!」

「その影響で割戸神博士は、一人息子の汰郎(たろう)君を喪った。以来彼は、汰郎君の遺体をホルマリン漬けにして、45年以上に渡り保存し続けていたの。いつか科学技術が人を蘇らせるほどに発達した時に、最愛の息子を生き返らせるため……」

「ホルマリン漬け……!」

「そう。そして、老いから自身の限界を感じた彼は、息子を改造人間として蘇生させることに決めた。完全な人間ではないけれど、それでも生き返りさえすればいい……と」

「そして彼は、息子に次元を超える力を持たせることで、息子を『綺麗な水』に溢れた世界へ導こうとしていた。体を犯すような汚水などない、綺麗な世界へ。……尤も、その結果が今の暴走なのだがな。シェードの科学者達でも、アグレッサーの狂気を御することは出来なかったらしい」

「……」

 

 長門と陸奥の口から語られた、割戸神博士の過去。

 シェードに身を寄せ、死んだ息子を改造人間にしてまで生き返らせようとしていた理由を知り、サダトは目を伏せ記憶の糸を辿る。

 

 あの時目にした、公害の写真。あれが撮影されていた時代と、長門が口にした年代は一致していた。さらに、サダトが読んでいた割戸神博士の著者には――気に掛かる記述があった。

 

 ――『この国には、この世界には偽善と欺瞞が溢れている。平和を謳いながらマイノリティを公然と迫害し、誰もそれを咎めない。この世界に生を受けていながら、この世界に居場所を見出すことができない。それを是とするならば、我々はもはや他の世界に居場所を求める他はないのかも知れない』。

 

(割戸神博士……あなたは、そのためにこんな……)

 

 「マイノリティ」とは割戸神博士とその息子を含む、当時の某県の住民達だろう。あの当時、被害者達は果敢に工場経営者に立ち向かっていたが、訴えが受け入れられるまでは何度も握り潰されてきた歴史がある。

 その歴史の中で息子を喪い、当時の大多数――マジョリティがそれを「肯定」した結果。彼は自分が住む世界に絶望し、次元を隔てた向こうの世界に望みを懸けたのだ。

 

 そうして彼はシェードに与して次元破断砲を開発し、息子を改造人間として蘇らせた。全ては、息子を外の世界へと連れ出すために。

 

(……じゃあ、あの時俺が砕いたのは……)

 

 アグレッサーと最初に戦った時。サダトは無我夢中で放ったスワリング・ライダービートの一閃で、彼が腕に抱えていた頭蓋骨を破壊した。

 その時のアグレッサー……もとい汰郎の取り乱し様は、はっきりと覚えている。あの時は何が起きているのか、まるで理解出来なかったが。

 

 今なら、わかる。

 あの頭蓋骨は、割戸神博士だったのだ。汰郎は改造人間と成り果てていながら、父を忘れずにいたのだ。

 

(……割戸神博士……)

 

 それに気づいてしまった今。果たして自分は、アグレッサーを討てるだろうか。……剣を握る手に、迷いは残らないだろうか。

 

「……許せないデース」

「……!」

 

 その時。

 黙って話を聞いていた金剛が、剣呑な面持ちで厳かに呟く。自分に注目が集まったと感じた彼女は、ここぞとばかりに声を張り上げた。

 

「結局、割戸神博士は自分のことしか考えてないド腐れマッド野郎デース! 愛する我が子の為だろうと、死んだ人間を歪に蘇らせ、大勢の人間を殺め、次元の向こうにまで災厄を振り撒く! そんな人を人とも思わぬ覇道が、許されるはずがありマセンッ! 犠牲になった向こうの世界の住民に代わり、この金剛が鉄槌を下してやるデースッ!」

「……榛名も賛成です。どんな理由があっても、こんなことが許されるはずはありません。こんな勝手は、榛名が許しません!」

「この私、霧島も同意見です。あちらにどのような事情があろうと、我々に危害を及ぼそうと言うのなら徹底抗戦あるのみ」

 

 それに恭順するように、榛名と霧島も声を上げる。大仰なその口振りは、明らかに艦隊の士気を鼓舞するためのものだ。

 そんな姉達の姿を見遣り――サダトの隣に立つ比叡も、語気を強めて声を張る。

 

「……この比叡も、そう思います。それに、同じ改造人間だとしても。向こうの性能が、計り知れないとしても。私達には、南雲君が……『仮面ライダー』が付いています。自分達の幸せのために人々を傷付ける巨悪に、皆の為に戦う仮面ライダーが、負けるはずありませんっ!」

「……!」

 

 その力強い宣言に、隣に立つサダトは驚嘆し――周りの艦娘達は一様に、勇ましい笑みを浮かべて頷いていた。

 金剛の計らいにより、艦隊の士気が維持されていることを確信し、長門もほくそ笑む。そんな姉の横顔を見つめ、陸奥も穏やかに微笑んでいた。

 

「……当然だ。この近海に生息している深海棲艦の推定総数と、その頭数から推測されるタンパク質の量から判断し……明後日には近海の深海棲艦を喰らい尽くして、この近辺に出現するものと予想されている。だが、我々も黙って喰われるつもりは毛頭ない。提督も私も、断固戦う方針だ」

「そのための作戦も、提督の発案により完成したわ。……この世界の生態ヒエラルキーの頂点が誰なのか。私達で教えてあげましょう?」

 

 シェードに……割戸神博士に如何ような理由があろうと、決して引き下がるわけには行かない。今生きている人々のためにも、何としてもアグレッサーを討つ。

 その一心に艦隊を集めるべく、長門と陸奥は提督に代わり、徹底抗戦を宣言するのだった。そんな彼女達に同調するように、幹部格の艦娘達は不敵な笑みを浮かべて頷き合う。

 

 一致団結。その言葉通りに結束していく仲間達を一瞥し、比叡は驚嘆してばかりのサダトに笑顔とウィンクを送る。彼女だけでなく金剛も、いつもの豪快な笑顔とサムズアップを送っていた。

 

(迷うことなんて、ないよ。……一緒に、守り抜こう? 今度こそ、みんなを!)

(今度は私達が付いてるネー。さぁ、リベンジマッチの開幕デース!)

 

 言葉ではなく、表情で。

 激励の想いを伝える彼女達に、サダトは――感情を噛みしめるように俯いた後。

 

「……戦おう。俺達、みんなで」

 

 溢れるような笑顔を浮かべ、機械仕掛けの鉄拳を、握り締めるのだった。

 

 比叡と金剛の連携により、サダトも戦意を回復させた。そのタイミングを見計らい、長門は作戦会議に入るべく椅子から立ち上がる。

 

「――よし。それでは作戦を説明する。我々艦娘側は迎撃以外に特別なことはほとんどしないが、南雲殿にはある重要な役割を委ねることになる」

「解析結果によれば、アグレッサーは熱量を溜めた状態から一定の外的刺激を受けることで、体内で飼っている次元破断砲を『排泄』の一環として発射する習性があるらしいの。今回はその『排泄』の習性を利用した作戦となるわ」

「本作戦名は『スクナヒコナ作戦』とする。各員、心して聞け。各艦隊の旗艦は、この後速やかに部下に作戦内容を下達しろ」

 

 遂に、あの巨大飛蝗との直接対決が始まる。サダトも、比叡も、金剛も。他の艦娘達も。皆一様に、剣呑な面持ちで聞き入るのだった……。

 




 1970年代の公害問題については、原作漫画版「仮面ライダー」でも深く言及されています。抗議デモの中心人物が暗殺されたりと、結構えげつない展開が多かったり。
 ちなみに今話で登場した「次元破断砲」のネーミングは、仮面ライダーZXを主役とする特番「10号誕生!仮面ライダー全員集合!!」に登場した「時空破断システム」が由来です。


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第17話 核の手は借りない

 ――194X年8月28日。

 鎮守府工廠。

 

 艦娘達へのサポートのため、日夜研究開発が進められている科学の砦。夜の帳が下りた今も灯火の光を放っているその門を、長門が潜ろうとした瞬間。

 溌剌とした面持ちで汗を拭う、緑髪の少女が出迎えた。

 

「長門秘書艦、お疲れ様です」

「夜分に済まないな、夕張。――アレは、間に合いそうか?」

「バッチリですよ。明朝までにはバリバリで運用出来る状態に仕上げておきます。見てみますか?」

「ああ、是非」

 

 夕張は微笑を浮かべる長門に向け、力強いVサインを送る。そんな彼女の後を追い、工廠の奥へと歩を進める長門は、やがて――

 

「……これか。確かに、あきつ丸が提供してくれた金型通りだな」

「でも色合いはオリジナルです。この方が、南雲君っぽいでしょう?」

「確かに、『あの姿』には似合うかも知れないな。目立つ色だが……まぁ、こそこそ隠れる意味のない作戦だ。構わないだろう」

 

 ――赤一色に塗装された、九五式小型乗用車を目撃する。陸軍から手に入れた設計図を使いつつ、大和型の艤装を素材にして創り出された、この世界でただひとつの水陸両用車だ。

 通常の九五式と寸分違わぬ丸みを帯びたフォルムであるが、その車体は大和型の強度と重量を秘めている。てこでも動かない重さと、砲弾でも破れない防御力はすでに保証されているのだ。

 

「原子炉プルトニウムの出力に見合う車体を、我々の技術で最小限のサイズに収めるにはこれしかない……ということか。あんな軽量な二輪車でよく今までバランスを維持できたものだ」

「シェードは許せない連中ですけど、その科学力だけは本物です。私も、負けていられません」

「お前が創った、この『アメノカガミノフネ』が奴らの切り札を倒す礎になるんだ。南雲殿が勝利した瞬間、お前の技術はシェードをも超えたことになる」

「えへへ……じゃあなおさら、南雲君には頑張って貰わなきゃなりませんね!」

「……ああ、そうだな」

 

 長門は「アメノカガミノフネ」の車体に歩み寄ると、ボンネット部に優しく手を添える。滑らかな曲線を描くボディは、彼女の掌に冷ややかな感触を与えた。

 感慨深げに車体を撫でる彼女を、夕張は静かに見守っている。その胸中を、察しているのだ。

 

「……使わずに、済んだな」

「ええ。使わずに……済みました」

 

 微笑み合う二人。互いの脳裏には、核エネルギーに纏わる懸念が過っていた。

 

「原子炉プルトニウム。それに秘められた膨大なエネルギーは、大量破壊兵器にもなりうる力だ。提督はそれを知りながら情報を上に漏らすことなく、単純な兵器としてこれを行使しない決断に踏み切って下さった」

「この力に飲まれてはならない。我々は我々の力で、海を守らねばならない。提督は、そう仰ったのですね」

「ああ。……『(ネコ)の手は借りない』、だそうだ」

「核兵器をネコ呼ばわりなんて、思い切った御人ですね」

「全くな。――だからこそ、信じられる」

 

 もし、提督が他の軍人達と変わらない凡百の男だったなら。

 核兵器になりうる原子炉プルトニウムを接収し、上層部に引き渡していただろう。それをダシに、出世の道に踏み込もうとしていたに違いない。

 

 一度、核兵器というものを軍が兵器として使ってしまえば。その絶対的な威力に取り憑かれた者達が、確実に正道を踏み外す。

 人を悪魔にしないために。提督は、核の力を知った上で、その力を兵器として使わない決断を下したのだ。

 

「……だが、その代わり。原子炉プルトニウムには破壊兵器ではなく、大和型の重量を持つこの『大飯食らい』を転がす動力源として、大いに働いてもらう」

「ですね。いくら飛ばしてもバテない大和型……って思うと、それだけでも破格の性能ですけど」

「だから上層部がこれに感づく前に、この件を片付ける必要がある。提督が作って下さった時間と作戦、決して無駄にはしない」

 

 アメノカガミノフネから手を離した長門は、決意を新たにするかのように、勇ましく拳を握りしめた。

 そんな彼女はふと、設計図や工具で散らかった夕張の机の上に、一本のワインボトルが置かれていることに気づいた。

 

「……む? あれは南雲殿のワインボトルか。どうしてここに……」

「ああ、違いますよ長門秘書艦。あれ、私の作品です」

「夕張の?」

 

 サダトが変身の際にベルトに装填している、小さなワインボトル。それとよく似た「夕張の作品」には、「比叡」と達筆でしたためたラベルが貼られていた。

 それを手に取り、小首をかしげる長門。そんな上官の姿を、夕張は悪戯っぽい笑みを浮かべて見守っている。

 

「『比叡』と書かれているようだが……彼女と何か関係があるのか?」

「えぇ、勿論。これを使えば、作戦成功率はさらに高まります。飛び道具を持っていない南雲君には、たまらない一品ですよ」

「……?」

 

 ◆

 

 ――194X年8月28日。

 鎮守府波止場。

 

「……やっぱり、ここにいた」

「あ、比叡さん」

 

 月灯りに彩られた夜の海。その水平線を見つめるサダトの背後に、今となっては聞き慣れた声が掛けられる。

 静けさに包まれた波止場で、一際響く彼女の囁き。その声に振り返った先では、月光を色白の肌に浴びる絶世の美少女が微笑んでいた。

 

「南雲君がふらっと出掛けたって聞いてね。もしかしてって思って来てみたら、案の定」

「あはは……どうも、寝付けなくてさ」

「無理ないよ。私も、結構緊張してる」

「その、今日はありがとう。作戦会議の時、勇気付けてくれてさ」

 

 比叡から見ても、月を見上げるサダトの横顔は輝いて見えていた。そんな互いを見つめ合う二人は、はにかむように笑っている。

 

「……南雲君のこと、ちゃんとわかろうとしてなかった時の私なら、あんな風には言い切れなかった。私も、怖かったから」

「比叡さん……」

「でも、今ならわかる。南雲君は、割戸神博士とは絶対に違う。みんなのために剣を取れる『仮面ライダー』だって、今ならわかるから」

「……」

 

 その笑顔のまま。比叡は、機械仕掛けの手を取ると、白い両手で優しく包み込む。

 彼女の掌から伝わる温もりが、冷たい改造人間のボディを通して、南雲サダトとしての心に染み付いて行った。

 

「だから……信じることだって出来るの。仮面ライダーは、私達は、負けないって」

「……ありがとう」

「もう。それは、アグレッサーに勝つまで取っておいて。私の、やり甲斐なんだから」

 

 その温もりに導かれるように、自然と表情を綻ばせるサダト。比叡はその唇に指先を当てると、悪戯っぽい笑顔を浮かべてウィンクして見せた。

 そんな彼女の姿に、サダトが微笑を浮かべる――瞬間。

 

「よーし。いいネーその調子ネー。後はそこからガバッと抱き締めて濃厚なキッシュ! ひと夏の甘く切ないアバンチュール!」

「は、はわ、はわわ、榛名は、だ、大丈夫です……」

「ふむ。南雲さんはかなりのスケコマシのようですね。あの笑顔で数々の女性を誑かしてきたものと推測されます」

 

 物陰に隠れ、自分達をガン見している金剛型三姉妹。その顔触れが目に入った途端、サダトはなんとも言えない微妙な表情に一変した。

 

「おぉ……こ、これが男と女の夜戦かぁ……」

「も、もう帰りましょうよ川内姉さん……これ以上はいけません……」

「これは盛り上がってきた……! 那珂ちゃん、ちょ、ちょっとドキドキして来たよ……!」

「那珂ちゃんももうダメっ!」

 

 しかも、出歯亀は彼女達だけではない。金剛達からさらに離れた位置から、川内型三姉妹が双眼鏡でこちらを観察している。

 

「いーなー……いーなー……」

「ぶつくさ言ってないで、もう行くぞ足柄。これ以上、無粋な真似はしてくれるな」

「ちくしょー! こうなったら自棄酒よ自棄酒!」

「お、おい待て! 明後日には作戦なんだぞ、全く……」

 

 さらに夜道を歩いていた足柄も、一連の遣り取りを覗き見していたらしい。泣きながら酒場へ駆け出す彼女を、呆れながら那智が追い掛けている。

 

「は、はわわ、凄いのです……比叡さんも大胆なのです……!」

「こ、これがレディの逢引……!」

「もー……みんな帰るよー……明日も朝早いんだからぁ……」

「ハラショー……」

 

 その上、駆逐艦四人娘も夜中であるにも拘らず、月夜に照らされた二人の姿を凝視している。雷だけは眠そうにしているが。

 

「あらあら、比叡さんも大胆ですね」

「……ふしだらです」

「ふふ、加賀さんも照れ屋さんなんですから」

「……」

 

 挙げ句の果てには、一航戦の赤城と加賀までもが、通りがかったところで二人の姿を目撃していた。

 

「あ、あ、あ……!」

 

 サダトの表情からそれに気付き、後ろを振り返った比叡は。自分達に注がれていた眼差しを前にして、茹で蛸のように顔を赤らめて行く。

 

「――いやぁあぁあぁんっ!」

「どふぇっ!?」

「あ、あぁっ!? ご、ごめん南雲君っ!」

 

 その恥じらいのあまり、サダトを波止場から海に突き落としてしまったのは、その直後だった。

 

 我に返った彼女が、海に落ちたサダトを見下ろしながらわたわたと慌てふためく姿は、姉達を暫しほっこりさせていたのだが――翌日、出歯亀を働いた面子は全員揃って、ぷりぷりと怒る比叡に説教されたのであった。

 

 ◆

 

 そして、二日が過ぎた頃。

 

 彼らは運命の日を迎えることとなる。

 

「第1防衛線に展開している第3水雷戦隊が、巨大な人影を確認した模様! 間違いありません、アグレッサー第3形態です!」

「――来たか。第2防衛線の第2支援艦隊、及び最終防衛線の第1機動部隊は直ちに厳戒態勢に入れ! 現時刻1230より、スクナヒコナ作戦を開始する!」

 

 作戦司令部に届けられた通信内容に、大淀が声を上げる瞬間。長門は高らかに声を上げ、作戦の開始を宣言する。

 

 斯くして。艦娘と仮面ライダーによる連合艦隊は、仮面ライダーアグレッサーとの決戦に挑もうとしていた。

 

 ――194X年8日30日。

 鎮守府工廠。

 

「作戦が始まった……! 南雲君、用意はいいね!」

「はい、調整は万全です! 行きますよ、夕張さん!」

「オッケー! 派手にぶちかまして来てねっ!」

 

 サダトを乗せた、新たな仮面ライダーAPの相棒「アメノカガミノフネ」は。主が踏み込むアクセルに共鳴し、激しいエンジン音を上げる。

 そして、元気いっぱいにサムズアップを見せる夕張の目前を横切り――弾丸の如き速さで、工廠の外へと飛び出して行く。

 

 舞い飛ぶ先は、見渡す限りの海。その真上まで、勢いのままに車体が舞い飛ぶ瞬間。

 サダトは左手部分にあるレバーを、思い切り倒すのだった。

 

「『アメノカガミノフネ』、抜錨(ばつびょう)しますッ!」

 

 刹那。そのまま海に沈むかと思われた九五式の車体は、その紅いボディに備えられている四本のタイヤを――水平に変形させる。

 海面の上に乗せるように、横倒しにされたタイヤは「アメノカガミノフネ」の車体を海上で支えると、そのまま主を乗せて海の上を走り出して行った。

 

 夕張により開発された、核搭載水陸両用車。それが、本作戦の切り札「アメノカガミノフネ」なのである。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「変身ッ!」

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 その新たな相棒の乗り心地を感じつつ、サダトはワインボトルをベルトに装填し、素早くレバーを倒して変身に突入した。

 

 黒い外骨格に伝う、紅いエネルギーの奔流。その力の高まりを感じ、サダトは己を昂らせるようにアクセルを踏み込んで行く。

 

 激しい水飛沫を上げ、海面を爆走していく「アメノカガミノフネ」は、艦隊との合流を目指してエンジンをさらに唸らせるのだった。

 

「頼んだよ……仮面ライダー」

 

 もはや、自分に出来るのはここまで。後は、サダト達の奮闘に委ねるより他ない。

 夕張は指を絡め、懸命に祈りを捧げる。

 

 艦娘の。仮面ライダーの。

 勝利を……。

 



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第18話 スクナヒコナ作戦

 ――194X年8月30日。

 鎮守府近海第1防衛線。

 

「これが……アグレッサー……!」

「……予想以上の、迫力です……!」

 

 澄み渡る青空。太陽の輝きを帯びた、その夏空の下。天を衝くように聳え立つ、禍々しい飛蝗の改造人間。

 見るからに不安定なその体格から漂う不気味さは、最初に彼の者を発見した第3水雷戦隊に衝撃と動揺を与えていた。

 作戦会議で巨人型の「第3形態」の存在は知れ渡っているが、情報を持っていても実物を前に揺らがない保証にはならないのだ。

 

 榛名と霧島は、生理的嫌悪感に訴えるアグレッサーの凶悪な面構えに旋律を覚え、立ち尽くしてしまう。

 自分達があの試練で見た「仮面ライダー」と同じ「改造人間」だとは、どうしても思えない。自分達が知っている南雲サダトとは、あまりに違い過ぎる。

 ――根底から、隔絶している。

 

「榛名、霧島! ボサッとしてると踏み潰されるよ! ほら、牽制しつつ後退!」

「……了解ッ!」

「大丈夫です! 作戦通りにやれば、必ず勝てる相手です! さぁ、榛名さん!」

「……はいっ!」

「殿は那珂ちゃんにお任せーっ!」

 

 川内と神通の呼びかけにより我に返った二人は、砲撃を交互に放ちながら後退を始める。防衛線を後退させていく四人の最後尾は、那珂が死守していた。

 

 アグレッサーは第3水雷戦隊の牽制砲撃など意に介さず、ただ悠々と海上を歩いている。砲弾も魚雷も通じない生体甲冑の防御力に、川内は軽く舌打ちした。

 

「チッ、蚊に刺された程度にも感じてない! 神通、那珂、榛名、霧島! とにかく第2防衛線まで引き下がるよ! 神通、南雲君はもう動いてる!?」

「先ほど出撃したと大淀さんから連絡がありました! 約2分後に第1機動部隊と合流する模様です!」

「よぉーし……こっちに近づいて来てるのは間違いないみたいだし、このまま作戦通りに誘導していくよ!」

 

 絶え間無く攻撃を続けながらも、彼女達第3水雷戦隊は後方へと退却していく。その影を捉えた、遥か遠方の第2防衛線――第2支援艦隊が、動き始めた。

 

「来マシタ来マシタ……! 比叡、一気に行くネーッ!」

「はいお姉様ッ!」

 

 先陣を切り、第2支援艦隊筆頭格の金剛と比叡が、艦隊前方に進み出て艤装を展開する。発射準備を整えた二人の砲身が、唸りを上げてアグレッサーの影を捉えた。

 

「なんかムカつく面ァしてるネ……。比叡、遠慮なしにぶっ放すデースッ!」

「はい……! 気合い、入れてッ!」

「バーニングッ――ラァアァヴッ!」

 

 35.6mm連装砲の同時斉射。轟音と共に放たれた砲弾は、爆炎を上げてアグレッサーの顔面に着弾した。

 だが、アグレッサーに怯む気配はない。ゾンビのような覚束ない足取りで、彼の者は海原を掻き分けるように歩みを進めていく。

 

「こ、ここまで攻め立ててもまるで通じてないなんて……!」

「まだ『排泄』に至る『外的刺激』には及んでいない、ということデスネー。ノープロブレム、この程度は想定の範囲内ッ!」

「金剛さん! 3水戦の子達も間も無く合流よ!」

「オッケー瑞鶴! (あかつき)(ひびき)! 私達も後退ネー、3水戦を連れて第1機動部隊と合流デース!」

「りょ、了解!」

「……了解!」

 

 瑞鶴と駆逐艦「暁」、「響」の三人は金剛の支持に応じて後退を始める。牽制砲撃を繰り返しながら、比叡もその後に続いた。

 

「あんなの……勝てるのかな……」

「比叡、勝てるのかな、じゃないデース。――何が何でも、絶対に勝つ。その必勝の信念なくして、勝利はやって来まセン」

「お姉様……」

「この私が保証しマス。……我が妹の目に、狂いはない。南雲君は、絶対にやってくれるデース!」

「……はいっ!」

 

 その胸中に滲む不安。それを振り払わんと、姉は大仰な口調で鼓舞して見せた。

 相変わらずの全力投球。だが、その無鉄砲さに今まで何度救われてきたか。

 比叡は金剛の言葉を、大切にしまい込むかのように胸に手を当てる。そして、強い眼差しでアグレッサーを睨み上げ、反転した。

 

 ――絶対に、諦めない。サダトと、自分達の勝利を信じる。

 その決意を抱き、海上を走る比叡を含む第2支援艦隊は、第3水雷戦隊を引き連れて最終防衛線へと移動を開始するのだった。

 

「……来ましたね。ここまでは予定通りです」

「ここからも、ですよ。私達の手で、作戦を完遂させましょう。加賀さん」

「ええ、そうですね……赤城さん」

 

 その影と、天を衝くアグレッサーの巨体を視界に捉え。虎の子の一航戦を擁する、第1機動部隊が動き出す。

 同時に弓を引き絞る赤城と加賀は、互いに強く頷き合い――放つ矢の群れを九九艦爆の編隊へと変えて行った。

 

 けたたましいエンジン音と共に、数多の飛行機が「妖精さん」を乗せてアグレッサーの頭上へ舞い上がる。

 直後。彼の者の頭上に、必殺の信念を帯びた爆撃が、絶え間無く降り注がれた。

 

 その時。

 

 空間を揺さぶるような絶叫が、大気を震わせ波を荒立たせた。

 その叫びを浴び、近海に集結しつつある全艦隊に衝撃が走る。心構えが甘ければ、一瞬にして戦意を刈り取られてしまうような咆哮だ。

 

 雄叫びを上げたアグレッサーは、上体を大きくよろめかせながら前進していく。その僅かな変化を、一航戦は見逃さない。

 

「全弾命中を確認。外皮への損害は確認出来ず。――しかし、動きが変わりました」

「南雲さんの渾身の体当たり(スワリング・ライダーブレイク)には及ばずとも、それに近い『外的刺激』は与えられつつあるようですね。作戦通り、全艦隊でアグレッサーを包囲します」

「了解。……ここは、譲れません」

 

 赤城はアグレッサーの周囲で牽制砲撃を続けている第3水雷戦隊と第2支援艦隊を一瞥し、背後に控えている第1機動部隊の部下達に指先で支持を送る。

 

「い、いよいよなのです……!」

「大丈夫よ電、私がいるじゃない!」

「油断するなよお前達、ここからが正念場だ」

「さぁ……って! あの無性に憎たらしいツラ、私達で吹っ飛ばしてやろうじゃない!」

 

 部下の駆逐艦「雷」「電」、及び重巡洋艦「那智」「足柄」の計四名の艦娘は、彼女の指示に沿うように、扇状に散開していった。アグレッサーを、囲う形に。

 

 ――この「スクナヒコナ作戦」の第1段階は、具体的な位置が掴めていなかったアグレッサーを索敵することにあった。

 第3水雷戦隊、第2支援艦隊、第1機動部隊。この選りすぐりの精鋭艦隊を、3段階の防衛線に配置して索敵の網を張る。

 そして3艦隊のいずれかに「引っかかった」瞬間、アグレッサーを陽動して全艦隊で包囲。全方位から、徹底的に叩く。

 その作戦第2段階が終わり、最終段階に入る時こそ。本作戦の切り札が、動き出すのだ。

 

「全艦隊、砲撃用意!」

「3水戦砲撃用意急げ!」

「第2支援艦隊、砲撃準備完了!」

「こちら3水戦準備完了!」

 

 赤城が第1機動部隊に指示を送り、僅か30秒。第2支援艦隊及び第3水雷戦隊を含む連合艦隊が、アグレッサーの全周を包囲し――砲撃準備を整えていた。

 

 その様子を赤城からの通信で聞きつけていた長門は、深く頷く陸奥と大淀を一瞥して――通信機を口元に近づけ、厳かに命ずる。

 

「……我々の力、思い知らせてやれ。全艦、砲撃開始!」

 

 彼女が下した、一斉砲火の命。その指示に応じ、アグレッサーを包囲する全ての砲門が火を噴いた。

 砲弾の直撃。上空からの爆撃。機銃掃射。

 精鋭揃い艦娘達が、必殺の信念の下に放つ猛攻。その全てが、飛蝗の巨人に注がれて行く。

 

 硝煙と炎が辺りを包み込み、青空さえも暗雲が滲む。彼女達を取り巻くこの世界すらも飲み込むほどの「余波」が、近海全域に波及するほどの斉射だった。

 

 ――だが。

 

 煙が晴れた先には、傷一つないアグレッサーが立ちはだかっている。

 その光景に、誰もが戦慄を覚えたが――それでも、希望は捨てる者は一人もいなかった。

 

 これすらも、作戦の一つなのだから。

 

「……! 目標、口部より蒼い発光を確認!」

「次元破断砲が動き始めた……! 作戦、最終段階に入ります!」

 

 黒煙の中から現れたアグレッサー。半開きになったその顎の間からは、蒼い輝きが漏れ出していた。

 その光景から、「外的刺激」による「排泄」が始まったと察知した赤城と加賀は、同時に後方を振り返る。

 

 旗艦である赤城のその反応から、状況を悟った部下四名は、示し合わせるように左右に「道」を開けた。

 

「……南雲さん、ご武運を!」

「はいッ!」

 

 ――その道を、「アメノカガミノフネ」が突き進む。赤城の激励に応える彼は、仮面の戦士としてこの海域に踏み込んでいた。

 全艦隊の包囲網を突き抜けるように、一直線に水を切り疾走する九五式小型乗用車。その車体を操るサダトは、仮面越しにアグレッサーを睨み上げながら、足柄や雷の傍を横切って行く。

 

(南雲君……!)

 

 その光景を遠巻きに見守りながら、拳を握る比叡。そんな彼女の視線を他所に、サダトはハンドルの隣に現れたワインボトルの差し込み口に、素早くボトルを装填した。

 

「……行くぞ、割戸神博士ッ!」

 

 刹那。

 

 アメノカガミノフネの車体は、赤い電光を纏い――爆発するエネルギーに、その身を舞い上げられて行った。

 

 大和級の艤装を素材に造られたボディは、生半可な重量ではない。にも拘らず、マシンアペリティファーに組まれていたスワリング・ライダーブレイクの射出機能は、アメノカガミノフネの車体すらも紙飛行機のように吹き飛ばしてしまったのである。

 原子炉プルトニウムが秘める超常的エネルギーは、超重量の水陸両用車すらも容易く宙に舞わせてしまうのだ。

 

「おおぉおぉおッ!」

 

 うつ伏せに倒れ込み、次元破断砲の発射体勢に入ろうとしていたアグレッサー。その顔面に、赤い電光を纏うアメノカガミノフネが、質量にものを言わせて激突する。

 その衝撃と轟音に、空気はさらに振動し海面の波紋が噴き上がった。仰け反ったアグレッサーの頭上を、アメノカガミノフネが通り過ぎていく。

 

「そこだッ!」

 

 だが、この一撃は今の状況を作るための布石でしかない。アグレッサーの頭上まで舞い上がった瞬間、アメノカガミノフネから二本の錨が打ち出された。

 鉄の錨はしなるように真下へ伸び――アグレッサーの二つの複眼に、突き刺さる。目に錨を刺された激痛に、巨人はのたうちまわるように首を振った。

 

「取ったッ!」

 

 サダトはそのまま、アメノカガミノフネをアグレッサーの後方に着水させる。大和級の重量が50メートル以上の高さから落ちてきたこともあり、その衝撃から舞い上がる水飛沫は雲に届くほどであった。

 そして、仰け反ったアグレッサーに錨を突き刺したまま。アメノカガミノフネは彼の者から逃げるように、最大戦速で動き出した。

 

 だが、その車体が前進することはない。錨と車体を繋ぐ鎖がどれほど張り詰めても、アグレッサーの複眼とアメノカガミノフネは、強固に繋がれたままとなっている。

 

 体勢を崩した状態から眼に錨を打ち込まれ、ただでさえ姿勢が不安定なのに後方に引っ張られては、さしものアグレッサーも思い通りの発射体勢には移れない。

 しかも自分を引っ張っているのは、半永久的エネルギーの原子炉プルトニウム。発揮できる力に限りがあるアグレッサーでは、抗しきれないのだ。

 

 斯くして、うつ伏せの発射体勢に移り、次元破断砲の「排泄」で包囲網を破ろうとしていたアグレッサーの狙いは、眼に突き刺された錨とそれを引っ張るアメノカガミノフネに積まれた原子炉プルトニウムの力により、破綻することとなったのである。

 真後ろに引っ張られ続けているアグレッサーは、正面を向くことさえ出来ず空を仰ぎ続けている。喉元を過ぎた次元破断砲のエネルギーは……もはや、抑えられない。

 

「……来ます! 全員、衝撃に備えてッ!」

 

 大口を開いたアグレッサーの顎の間から、蒼い光が溢れ出して行く。その閃光を目撃した赤城が、叫ぶ瞬間。

 

 次元を裂いたあの光が、一条の閃光となって天へ伸びていく。

 

 雲も、大気も、この世界の次元すらも、紙切れのように断ち切る絶対の破壊力。

 

 どんな命も、未来も、希望も。一瞬にして、塵のように消し去ってしまう不条理の権化。それが、艦娘達がこの瞬間に目撃した、次元破断砲の威力であった。

 

(次元破断砲の斉射時間は15秒……! その間、南雲君がアグレッサーを抑え続けていてくれれば「排泄」は空振りに終わる!)

 

 アグレッサーが次元破断砲を出し尽くし、力尽きたその瞬間。彼の者を討つには、その僅かな隙を狙うしかない。

 だが、次元破断砲が万一にも鎮守府に向かえば致命傷は免れない。アグレッサーに次元破断砲を撃たせる上で、その一閃を空振りに終わらせる必要があった。

 そのために提督が発案したのが、この作戦だったのだ。原子炉プルトニウムを兵器としてではなく足として使い、アグレッサーを屠る重要なファクターとして利用する。それが、スクナヒコナ作戦における提督の狙いだったのだ。

 

(あと10秒……!)

 

 空に亀裂を刻み続ける、蒼い閃光。それを見上げながら、加賀も拳を握り締める。

 たった10秒が、恐ろしく、永遠のように――永い。

 

(……8秒! とっととバテるネー!)

 

 常に豪快な笑みを崩さなかった金剛も、この瞬間だけは冷や汗を頬に伝わせている。

 

(5秒! 早く過ぎなさいよっ!)

 

 瑞鶴も、滝のように汗を滲ませながら弓を握る手を震わせる。

 

(……3秒。もう、もう終わるっ……!)

(まだ!? まだ尽きないの!?)

 

 榛名と霧島も、緊迫の表情で閃光を凝視していた。

 ――そして。

 

(……1秒! 南雲君ッ!)

 

 祈るように、比叡が目を伏せた瞬間。

 

 亀裂が走るアグレッサーの複眼が、妖しい輝きを放った。

 

「え――」

 

 次元破断砲の斉射が途切れる直前。生物的な本能に訴える、強烈な危機感。それを肌で感じた比叡から、一瞬で血の気が失われた。

 

 辛うじて、直立の姿勢のまま垂直に次元破断砲を撃ち続けていたアグレッサーが――突如、後方に倒れ込んだのである。

 ――否、倒れ込む寸前まで仰け反ったのだ。まるで、ブリッジでもするかのように。

 

 そうなれば、口から放射し続けている次元破断砲の射線も変わってくる。天を切り刻むばかりだった熱線は、弧を描くように鎮守府の後方へと狙いを変えていく。

 遥か沖の彼方まで、次元の亀裂が広がり始めていた。

 

 ――だが、アグレッサーの狙いは次元の傷を広げることではない。

 

 自分を苦しめているサダトを、この一瞬で消し去ることが目的なのだ。

 

 ブリッジのように真後ろへ仰け反ったアグレッサー。熱線を放っているその口は、自分の背後でアメノカガミノフネを走らせていたサダトの方へ向けられたのだ。

 

「なッ……南雲くぅぅうぅうんッ!」

 

 比叡がそれに気づいた時には。彼女が叫んだ時には。

 

 ――何もかもが、終わっていた。

 

 真後ろに狙いを変えた次元破断砲は、撃ち終わる寸前にアメノカガミノフネを破壊した。赤い車体から噴き上がる爆炎と、立ち上る黒煙が、その結末を物語っている。

 

 ……確かに作戦通りだ。

 アグレッサーは「排泄」として次元破断砲を放つも空振りに終わり、鎮守府にも艦娘にも損害は出ていない。

 

 しかし。

 予期せぬアグレッサーの対応は、アメノカガミノフネの焼失という結果を齎したのだった。……中の人間がどうなっているかなど、考えるまでもない。

 

「いっ……いやぁぁぁああ!」

 

 比叡の痛ましい悲鳴が、青空に轟いて行く。だが、返事はない。

 南雲サダトの身はすでに、海中へと没しているのだから。

 




 スクナヒコナとは、日本神話に登場する小さな神様のこと。御伽噺として有名な「一寸法師」の源流でもある神様です。
 アグレッサー第3形態とAPライダーの、同じ改造人間とは思えないほどの体格差にちなんで「一寸法師作戦」とし、そこから転じて今の作戦名になった。という設定。
 アメノカガミノフネという名前も、スクナヒコナが日本にやって来る際に乗っていた船の名前から取っています。


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第19話 生きるべき世界

 ――194X年8月30日。

 鎮守府近海。

 

 仮面ライダーアグレッサーとの決戦は、佳境に入ろうとしていた。

 次元破断砲の放射は天を穿ち、沖合いの向こうまで切り裂くのみに留まり、鎮守府を含む日本列島は無傷。艦娘も、誰一人欠くことなく作戦を進めることに成功した。

 ――作戦の要であったアメノカガミノフネが、役目を果たす瞬間に爆散したことだけは、想定外だったが。

 

「南雲君、そんな! そんなぁっ!」

「比叡、気をしっかり持つネ! まだ作戦は終わっていまセンッ!」

「こんなの、こんなのって!」

「……比叡ッ!」

 

 思わぬ事態で南雲サダトを欠き、艦隊に衝撃が走る。それでも艦娘達は己の本分を全うすべく、敢えて彼の安否を頭から外していた。

 だが、比叡だけは割り切れぬまま取り乱している。敬愛する姉の平手が飛ぶまで、彼女はエースらしからぬ表情で錯乱していた。

 

 冷や水をかけるような乾いた音。その一発に呆然となり、立ち尽くす妹の両肩を掴み、金剛は険しい面持ちで訴える。

 

「……比叡。南雲君は、まだ戦ってるデス。今も、この瞬間も、私達と一緒に。ならば何としても作戦を完遂し、勝利を分かち合わねば。南雲君の命は『敗北』として、終わってしまいマス」

「……う、うっ……!」

「愛する男に勝利を捧げるのは、レディの嗜みデス。私は、必ずアグレッサーを斃す。そして、その勝利を提督と――南雲君に捧げマス」

 

 やがて彼女は、いつも通りの豪快な笑みを浮かべて。砲門を展開しながら踵を返し、アグレッサーと相対する。

 目を合わせることなく、肩越しに妹に語り掛ける彼女は――凛々しい眼差しで、討つべき仇敵を見据えていた。

 

「……何を以て何を捧げるか。それは、比叡が決めるデス」

「――ッ!」

 

 その背中は、巨大な敵と比べてあまりにも小さい。だが、今の比叡には山よりも大きなものとして映されている。アグレッサーなど、及びもつかないほどに。

 

(……私は、私はッ! 南雲君に、この勝利を……南雲君の世界で犠牲になった人々の、仇をッ!)

 

 そして。血が滲むほどに握り締められた拳が、武者震いを起こす。砲門を展開させ、立ち上がる彼女の眼差しは――必殺の信念を纏い、アグレッサーの複眼を射抜いていた。

 

 こいつだけは、必ず斃す。その信念を背負って。

 

『……今だ。全艦隊、砲撃用意ッ!』

 

 通信機から全艦娘に、長門の叫びが伝わる。それと同時に、アグレッサーの巨体に変化が現れた。

 

 蒸気を噴き出しくぐもった声を漏らしながら、新緑の肉体が枯れ木のような茶色に変色していく。ミイラのように細まって行く手足が、徐々に縮もうとしていた。

 次元破断砲のエネルギーを蓄積していた胴体の生体鎧も、抜け殻のように剥がれ落ちて行く。ただの肉片と成り果てたプロテクターが、海に落ち水飛沫を舞い上げた時には――すでにアグレッサーの体は、骨と皮だけに枯れ果てていた。

 

 次元破断砲の放射で蓄積していたエネルギーを出し尽くし、第1形態まで退化しようとしているのだ。

 ――そして。この無防備な状態こそ、スクナヒコナ作戦の真の狙いなのである。

 

 第3形態から第1形態に退化する、途中経過。枯れ果てた木のような、醜い今の姿こそが――待ち望んでいた絶好の的。

 第3形態でも第1形態でもない、その中間にある「第0形態」。数分に満たないこの形態になっている今こそ、アグレッサーに致命傷を与え得る千載一遇の機会なのだ。

 

 この一斉砲火で、全てを終わらせる。誰もがその決意を固め、砲身を巨大な仇敵に向けていた。

 

『……我々が勝ち取るこの勝利を、南雲サダトに捧げる! 全艦、砲撃開始ッ!』

 

 そして。

 

 異世界から来訪した歪な侵略者に、鉄槌を下すべく長門は全ての艦娘に砲撃を命じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だが。

 

「……ッ!?」

 

 次の瞬間に訪れたのは、全艦隊から放たれる裁きの業火――では、なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トウサン……トウ、サン……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 枯れ果て、力尽き、何もできないはずのアグレッサー第0形態。

 

「……なッ!?」

「そんな……!」

 

 その骨格が浮き出た禍々しい大顎から、蒼い霧が溢れたのだ。

 

「まだエネルギーが尽きてないの!?」

「イタチの最後っ屁、という奴デスカ……! 往生際の悪いッ!」

『……不味いぞ! 全艦砲撃中止! 退避だ! 全速後退急げッ!』

 

 次元破断砲は撃ち尽くしたはず。

 現に今のアグレッサーから滲んでいる光は、先程の放射に比べてあまりにも弱々しい。例えるなら、山火事とマッチの火。

 

 だが、如何に出力が弱っていようと「次元破断砲」には違いない。

 全力放射なら次元を切り裂く程の破壊力。それが弱っているからと言って、自分達を壊滅させるには至らない威力で済む保証などない。

 

 艦娘達が強気に攻め入れたのは、アグレッサー第3形態の唯一にして最大の攻撃手段を「確実に外す」算段があったからこそ。それを欠いた今、不確定要素で満ちている第0形態の放射を浴びる訳にはいかない。

 一目散に、逃げるしかないのだ。

 

 だが――第0形態の、放射の方が……速い。

 

「くッ……! 間に合わない!」

「急いで! 少しでも遠くへッ!」

 

 現場指揮官として連合艦隊を纏めていた赤城と加賀が、艦娘達へ懸命に呼び掛け続けている。その後ろでは、アグレッサーの大顎に蓄積された蒼い霧が、熱線となりはち切れようとしていた。

 

「だっ……だめえぇぇえぇっ!」

 

 艦娘達を指揮する役目を担う、二人の司令塔。彼女達が地獄の残り火に焼き払われてしまえば、艦隊は間違いなく大混乱に陥る。

 最悪、第0形態を取り逃がしてサダトが作ったチャンスをふいにする可能性もあるだろう。第1形態に戻られて見失うようなことがあれば、もう自分達で対処できるかもわからなくなってくる。

 

 なんとしても、リーダーである彼女達を守らねば。間に合わないと知りながら、金剛の制止を背に受けながら、それでも彼女は――比叡はひた走る。

 

 届くはずのない、手を伸ばして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ライ、ダァアァアァッ!」

 

 だが。

 悲劇に終わるはずだった、この一閃は。

 

 不遜な乱入者の横槍によって、阻まれてしまうのだった。

 

「キィィイィックッ!」

 

「――!」

 

 海の底から突き上げる怒号。張り裂けんばかりの絶叫と共に、海面を突き破り垂直に舞い上がる飛び蹴りが、アグレッサーの顎を打ち抜いた。

 

 呻き声を上げ、力づくで再び真上を向かされた巨人。枯れ果てた顎の奥からは、素麺のようにか細い熱線が伸びていた。

 周囲に荒々しい波紋を起こし、耳をつんざく奇怪な音と共に。次元破断砲が、最後の熱線を吐き終えて行く。

 

 今度こそ、アグレッサーに抗する力はない。さらに干からびて行く彼の者の身体は、塩をかけられたナメクジの如く縮み始めていた。

 

 ――だが、全艦隊の視線は万策尽きたアグレッサーではなく。海中からその巨大な顎を蹴り飛ばし、灰となったアメノカガミノフネの残骸の上に着地した「影」に向かっていた。

 

 今となっては見慣れてしまった、その「影」。夢でも、幻でもないそのシルエットに、艦娘達は驚嘆と共に一つの真実に辿り着く。

 

「……南雲君っ!」

「すまない、遅くなった!」

 

 南雲サダトは、今もこうして生きている。そしてまだ、戦いを続けている。仮面ライダーは、死んではいないのだと。

 

「あの放射から生き延びたのデスカ!? とんだラッキーボーイネ!」

「アグレッサーは自分の邪魔をする『アメノカガミノフネ』が狙いでしたから。ギリギリまで粘って、海の底まで潜っていたんです」

「海の底……!」

「……潜水艦が艦隊にいない我が鎮守府では、まず辿り着かない発想ネー。何にせよ、生きててくれてサンキューデース!」

「よかった……! 南雲君、本当によかったっ……!」

「比叡! まだ嬉し泣きには早いネー!」

 

 南雲サダトの戦線復帰に、意気消沈しかけていた艦隊から歓声が上がり――彼女達の眼に、再び火が灯る。

 そんな仲間達の姿を一瞥し。涙を貯めて破顔する比叡を見つめながら、サダトは拳を握り締めた。

 

「……アグレッサーが等身大まで縮みかけている。第1形態まで完全に戻るのも、時間の問題だ。……終わらせよう、ここで!」

「――うんっ!」

 

 彼の呼びかけに応じ、止まらない涙を袖で拭いながら、比叡も元気に溢れた強気な笑みを浮かべる。

 仮面越しに、そんな彼女の姿に微笑を送りながら。サダトは再び一斉砲火の体勢に入ろうとしている全艦隊と共に、最後の一撃に臨もうとしていた。

 

「夕張さん。この力、有り難く使わせて貰います!」

 

 アメノカガミノフネの残骸の上に立ち、アグレッサーと真っ向から向き合うサダト。彼はベルトからワインボトルを抜き取ると、夕張から託されたもう一本のボトルを取り出した。

 達筆で「比叡」としたためられた、和風のラベル。その文字を一瞥しつつ、サダトはベルトにそのボトルを装填した。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

 

 空に響き渡る電子音声。その場違いなほどに軽快なサウンドを、耳にしながら。サダトはベルトのレバーを倒し――ボトルから迸るエネルギーを、全身に循環させて行く。

 

 漆黒の外骨格の全身を巡る、「黄色」のエネルギーライン。その異色の力が彼の全身を駆け巡り――「仮面ライダーAP」の赤いライン部分は、全て黄色に塗り替えられて行った。

 

 さらに、その両腕には戦艦の艦娘が備えている「7.7mm機銃」が装着されていた。高速戦艦「比叡」の武装の一部である。

 

『HIEI! WE'RE GONNA KILL THIS!!』

 

 そして。

 変身完了を告げる電子音声が轟く瞬間、アグレッサーへの集中砲火が始まった。

 

 海を荒らす外敵には、容赦はしない。必ず、この場で裁きを下す。

 揺らぐことのないその決意が形となり、鉛玉や爆弾となり、降り注いでいるようだった。

 

 我が身を守る鎧を全て失ったためか。第3形態の時はあらゆる攻撃を弾いていたアグレッサーも、第0形態となった今は絶叫と共にのたうちまわるばかりとなっていた。

 枯れ木のような身体は爆炎に焼け爛れ、巨大なゾンビのような容貌になりつつある。その、どこか痛ましい姿に――サダトは同じ改造人間として思うところがあるのか。仮面の奥で、苦虫を噛むような面持ちとなっていた。

 

(……終わりにするんだ。今、ここで)

 

 だが、引き金を引くことに迷いはない。今さら助けるには、自分も相手も血を流し過ぎた。ならばせめて、楽に眠らせる。

 それが、サダトが導き出した決断だった。

 

 全艦隊の一斉砲火により満身創痍となり、赤黒く焼け爛れた巨人は。いるはずのない父を探すかのように、首を捻り続けている。

 己の死期を悟ったからこそ、せめて父の胸の中で逝きたいと願っているのかも知れない。そんな考えが脳裏を過る中。サダトは己の迷いを断ち切るように、腕の7.7mm機銃の銃口を向ける。

 

「……もういい。もう、いいんだ」

 

 そして、ベルトのボトルを強く押し込み。ベルトから伸びる黄色のエネルギーを、上半身を通して両腕に充填させて行く。

 その力の奔流が金色の光となり、機銃の銃口に現れていた。

 

『FINISHER! VOLLEY MACHINE GUN!』

「スワリング――ライダーシューティングッ!」

 

 やがて。

 銃口から濁流のように放たれる銃弾の群れが、アグレッサーの全身を抉っていく。蜂の巣を、作るかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トウサ……ン。イッショ、ズット……ズット、イッショニ……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 命の炎を燃やし尽くし、力尽きて沈んでいく巨人の骸。それが完全に視界から消え去る瞬間まで。サダトの銃口からは、連射が続けられていた。

 

 ――この世界には。割戸神親子の居場所など、なかった。自分の世界を捨てたところで、新しい世界に安住の地を見つけることはできないのかも知れない。

 ならば自分は、帰らねばならない。戦うべき悪がいる、守るべき人がいる、あの世界へ。例え、そこに安住の地などないのだとしても。

 

「……」

 

 爆炎と残骸だけを残し、あらゆるものを消し去ってきた仮面ライダーアグレッサー。その暴威が去った今でも、歓喜の声は上がっていない。

 ただ、「終わった」という安堵感だけが、今の彼女達を癒し続けている。その一人である比叡は、じっとサダトの横顔を見守っていた。

 

(……これでもう、死者が振り回されることもない。45年も掛かったけど。汰郎さんはようやく、「眠る」ことができるんだ)

 

 痛ましい巨大な焼死体として、海中に没して行くアグレッサー……もとい、割戸神汰郎。その魂は、果たして故郷に還るのか。この海に、留まるのか。

 それを問うても答えはない。それでもサダトは、ただひたすらに――45年に渡り翻弄されてきた少年の思念に、安らぎが訪れることを願うのだった。

 

「……お休みなさい」

 

 そして、最後にそう呟いて。

 

 変身を解いたサダトは、安心感から腰を抜かしていた比叡に、穏やかな面持ちで手を伸ばす。

 

「……さ、帰ろう。俺達は、まだちゃんと『生きてる』んだから」

「……うん……!」

 

 その手を取り、はにかむ比叡の表情は。憑き物が落ちたかのように、晴れやかな色となっていた。そんな二人を金剛を含む共に戦った艦娘達は、ニヤニヤと厭らしく笑いながら見守っている。

 

『――終わったな。現時刻1345を以て、スクナヒコナ作戦を終了する』

 

 やがて。

 静けさから結末を悟った長門秘書艦の言葉と共に。

 

 仮面ライダーと艦娘の共闘は、終わりを告げるのだった。

 



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最終話 別れと幕開け

 ――194X年8月31日。

 鎮守府波止場。

 

 蒼く澄み渡る夏空の下。南雲サダトの「船出」を祝うこの場には、作戦に参加した全艦隊が集まっていた。その筆頭として、サダトの眼前に立つ長門は澄んだ面持ちで彼と向かい合っている。

 

「短い間でしたが、お世話になりました。……おかげさまで、向こうの世界にも帰れます」

「我々もいい経験を積ませて貰った。深海棲艦ではない未知数の敵との遭遇戦――という経験の有無は、今後の戦術に大きく響くだろう」

 

 桟橋に立つサダトの傍らには、新造されたアメノカガミノフネ2号機が進水している。ボディが修復不可能に至るまで損傷していても、エンジン部の原子炉プルトニウムだけは無事だったのだ。

 一夜漬けで新たに二台目を建造した夕張は今、この場には来ていない。今頃は工廠で爆睡している頃だろう。

 

「夕張さんと、九五式の金型を下さったあきつ丸さんにも、よろしくお願いします」

「ああ、大層感謝していたと伝えておく。……急がねば、次元の裂け目がなくなるぞ」

「はい……では、御元気で」

「……達者でな。海の果てから、武運を祈っている」

 

 長門に促されるまま、サダトは新たな相棒に乗り込んで行く。

 ――昨日の作戦で水平線の彼方に刻まれた次元の裂け目は、時間を追うごとに小さくなっていた。

 

 もたもたしていては裂け目が閉じ、サダトは元の世界に帰れなくなる。

 急がねばならない。彼の居場所は、少なくともここではないのだから。

 

「……」

「比叡、いいんデスカ?」

「……はい。これ以上は……辛い、ですから」

「そう、デスカ……」

 

 長門の後ろで、サダトを見送っている艦隊。その群衆の中で、比叡はどこかものさみしい面持ちで彼の背を見つめていた。

 金剛の問い掛けにも、目を合わせて答えず。彼女は胸元で襟を握り締め、ただ静かにサダトの船出を見守っている。

 

 ――仮面ライダーアグレッサーは滅びた。だが、向こうの世界を脅かしているシェードが完全に滅びたわけではない。

 仮面ライダーGという先輩もいるらしいが、サダトは彼一人に戦いを押し付けられるような利口な男でもない。

 何より向こうの世界には、彼が仮面ライダーになってでも守ろうとしている人がいる。比叡が割って入る余地など、もとよりなかったのだ。

 

(……これでいいの。これで)

 

 赤城や加賀、駆逐艦四人組、妙高型姉妹、瑞鶴。彼と共に戦った仲間達が、歓声と共に手を振る中。比叡は自分の気持ちに蓋をするため、懸命に襟を握っている。

 

 ――その手が、震えた時。

 

 ふと、サダトが振り返った。

 

「……ありがとう!」

 

 彼の口から放たれた、その一言。それはきっと、艦娘達全員に向けられたものなのだろう。

 

 だが、眼差しは。優しげな微笑を浮かべる、彼の視線は。艦娘達の中の、ただ一人へ。

 

 ――比叡ただ一人へ、向けられていた。

 

「……っ!」

 

 交わる視線。高鳴る動悸。目尻に浮かぶ、感情の雫。

 耐え切れない激情の奔流は、彼女を桟橋の端まで突き動かしていく。そんな妹の背中を、長女は満足げに見送っていた。

 

「ばかっ! ……好きっ!」

 

 海上を走り去る、アメノカガミノフネ。その車を駆るサダトに、その叫びが届いたのかはわからない。

 だが、少なくともこの青空には、彼女の告白が轟いている。その後ろでは、艦娘達が暫しあっけに取られた表情で固まり――やがて皆一様に、微笑ましげな面持ちに変わって行くのだった。

 

 頬を濡らす彼女が、真っ直ぐに見つめる向こう。赤い車が、海原の彼方に消えていく。

 自分達が勝利を刻んだ、水平線の向こうへ。

 

 比叡はただ、それを見つめていた。アメノカガミノフネも、次元の亀裂すらも消え去り、眼前の景色が日常の海に戻るまで。

 

 他の艦娘達が踵を返し、解散しても。その時までずっと、見つめ続けていた。

 

 そして、全てが元通りになった――その時。

 彼女の傍らには、妹を見守り続けていた金剛だけが立っていた。

 

「……比叡」

「……はい」

「帰るネー。……私達の、生きるべき世界に」

 

 肩に手を乗せ、諭すように語る彼女は。踵を返すと、いつものような豪快な笑顔で比叡の「帰還」を出迎える。

 

 南雲サダトが自分の世界に帰ったように。自分達もまた、自分達の世界に帰らねばならない。守るべき、平和のために。

 

 ――次元を越えて旅立った彼も、そうしているはずだから。

 

「……はいっ!」

 

 そうしていれば、例え世界が違っていても……どこかで、彼と繋がっていられる。そう、心の奥底で思ったのかも知れない。

 

 比叡は涙を拭い去り、いつものように元気に溢れた笑顔を浮かべて。その拳を、強く握り締めた。

 

 もう、後ろは向かない。これは、前進への一歩だ。

 

「――これが、最後です。これからは! 恋も戦いも、負けませんっ!」

 

 ◆

 

 ――194X年X月XX日。

 鎮守府執務室前。

 

「はぁ〜……緊張するなぁ……」

 

 晴れやかな空。澄み渡る海。艦娘達が守り抜いて来たその景観を知る、一人の少女がこの鎮守府に訪れていた。

 やや垢抜けない面持ちではあるものの、意思の強い眼差しや、華奢な身に隠されたしなやかな筋肉には、戦士としての優れた素養が見え隠れしている。

 アグレッサー事件の際、鎮守府を離れていた提督が上層部に配備を要請していた特型駆逐艦。それが、彼女なのだ。

 

「……よ、よし、行くよっ。……し、失礼しますっ!」

 

 経験の浅さゆえ、緊張が拭えず上ずった声を出してしまう少女。しかし、それでも彼女は勇気を振り絞り、数回のノックを経て執務室のドアを開く。

 

 そして。

 手荷物を隣に置き、精一杯の勇ましい表情を浮かべて。艦娘として生を受け、この世界で生きてきた自分の名を語るのだった。

 

「初めまして、司令官! 吹雪(ふぶき)です! よろしくお願いしますっ!」

 

 艦娘として戦場に立つ者に相応しい、整然とした敬礼とともに。

 

 ――斯くして。

 この世界における、仮面ライダーAP――南雲サダトの物語は終わりを告げ。

 

 特型駆逐艦「吹雪」の物語が、新たに幕を開けるのだった。

 

 これは彼女の数奇な運命と。友情と。戦いの日々を大海原に描く、真の英雄譚である。

 

 ◆

 

 ――2016年9月10日。

 東京都奥多磨町某所。

 

 先月に発生した謎の怪物による大量殺戮。その現場検証と復興のため、警察や自衛隊、報道機関の関係者達が大勢集まっている。

 深夜になっても、彼らはこの世の地獄と化した街に居座り、絶え間無く行き交っていた。例え件の怪物が何者かに倒されたとしても、彼らの戦いは終わらない。

 

「ほら、こっちこっち! ――ちゃん、早く早く!」

「あんっ、待ってったら! ……やだもう、髪が傷んじゃう」

 

 そんな中。生き延びた住民達は、痛ましい惨劇を目の当たりにして――それでも挫けることなく、前を向いて生きようとしていた。生き残った二人の少女が、溌剌とした面持ちで炊き出しの列に並ぼうとしている様子が伺える。

 炊き出しに参加している人も。並ぶ人も。喪うばかりではいられないと、前へ進んで生きていた。

 アグレッサーの暴威を以てしても、彼らの気力を削ぎ落とすことは出来なかったのだ。

 

 ――その景色を、闇夜に包まれた林の中で。二人の男が見つめている。

 

「アグレッサーの生体反応が消えた。……お前の後輩に、討たれたようだな」

「……」

「所詮は量産型の一人。そう侮っていた、我々の落ち度だ。切り札を失った我がシェードに、もはや光明はない」

 

 白髪のオールバックや、皺の寄った顔立ちから、かなりの高齢であることが伺える……が。その男の体は、漆黒のトレンチコートが張り詰めるほどの筋肉に包まれていた。

 厚着でも隠し切れない肉体を持つその男は、懐に手を忍ばせると――小さなUSBメモリを取り出し、隣に立つ青年に手渡す。

 白いジャケットを羽織るその青年はメモリを受け取ると、暫しそれを神妙な面持ちで見つめていた。

 

「これが……例の?」

「そうだ。清山の行き先は、それに記されている。どうするかは、お前の好きにしろ」

 

 アグレッサーの暴走により、東京は半壊。その混乱に乗じ、牢の中に囚われていたシェード創始者・徳川清山が脱獄していた事実が数日前に発覚している。

 警察は清山の捜索とアグレッサーの事後処理に翻弄され、特に警視庁の機能は麻痺に近い状態となっていた。

 

「奴は外国を根城に、新たな組織の立ち上げを目論んでいる。全てに決着を付けたいのなら、すぐに奴を追うしかないぞ」

「……盟友であるはずの徳川清山を、あなたは見放すのか」

「確かに、俺と奴はシェードを創設する以前からの付き合いだ。……だがもはや奴には、この国を強くするというシェード本来の理念はない。今在るのは、目に見える『力』への妄執だけだ」

 

 白髪の男は、どこか哀れむような表情で夜空を仰ぐ。慌ただしい地上とは裏腹に、その空は静かに澄み渡っていた。

 

「組織の在るべき姿を見失った創始者など、後にも先にも害悪にしかならん」

「あなたは違う、と?」

「違う。俺は、シェードが潰えた先の未来を見ている」

 

 男は、青年とは目を合わせず。荒れ果てた街にも、大勢の人だかりにも、視線を向けず。ここではない、遠いどこかを見つめていた。

 

「織田大道も。ドゥルジも、博志も。果ては清山までも。目先の『力』に囚われる余り、我々が目指すべき『未来』を見失った。改造兵士の配備により『武力』を得た強き日本、という景色(ビジョン)を。……そして最後に残った俺も、先は長くない」

「……」

「だが、まだ諦めはせん。俺にはまだ、やるべきことがある」

「……No.0。あなたは、まだ戦いを続けるのか」

 

 怒りとも、哀れみともつかない青年の呟き。その言葉を拾う男は、切れ目の眼差しを彼に向ける。

 

「不服か。……だがどの道、お前に俺は殺せん。俺に戦い方を教わったお前ではな」

「……」

「No.5。どれほど小綺麗な理屈を並べ立てたところで、『勝てば官軍負ければ賊軍』だ。清山の改造技術が流出していなければ、俺達は今でも『官軍』だった。日本政府に生み出され、日本政府に捨てられた俺達はな」

「今さら、何をしたところで『賊軍』の汚名が晴れることはない。No.0、あなたもわかっているはずだ」

「わかっているとも。シェードはあくまで『賊軍』だ。それが覆ることはない。だが、賊軍でもこの国の行く先を導くことはできる」

「……この国の、行く先……」

 

 徳川清山の手で創り出された、この世界における最古の改造人間。「No.0」のコードネームを背負う、その白髪の男は踵を返し、青年に背を向け林の奥へ消えて行く。

 

 ――その影の、さらに向こう。大量の枝や葉で「偽装」された、巨大なもう一つの影が、彼を出迎えていた。

 その実態を、No.5と呼ばれる青年――吾郎はよく知っている。

 

 ティーガーI。通称、「タイガー戦車」。

 戦時中、ナチス・ドイツが率いる陸軍で運用されていた伝説的重戦車である。

 

 しかも、白と赤で塗装されたその車体は、ただの骨董品ではない。シェードの科学力を結集して造られた「火力」の悪魔が、この古びた重戦車の「仮装」の下に隠されている。

 No.0――こと羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)の相棒として、数多の紛争地帯を駆け抜けてきた歴戦の戦車でもあるのだ。

 

「俺はこれから、その行く先を導きに行く。お前はお前で、好きなように清山と決着を付けるがいい」

「――羽柴さん。仮面ライダーを、見くびらないことだ。彼は、あなたが思う以上に強い」

「だろうな。……だから俺も、殺される覚悟で挑む。こいつと共に、な」

 

 羽柴は吾郎の忠告を背に受け。それでもなお、立ち止まることなく重戦車の影の中へと消えて行く。

 老いさらばえながら、死期を悟りながら。それでも戦いを止めない師の背中を、吾郎は完全に見失うその瞬間まで、見届けていた。

 

「――僕も。あなたも。彼も。戦うことでしか、何一つ語れやしない。『力』が人の恐怖を煽り、憎しみを促す。そんなこと、誰だって分かり切っているだろうに」

 

 この戦いを終えた先に、光明は差すのだろうか。その疑問を拭えぬまま、青年も林の中に姿を眩ましていく。

 仮面ライダーと、シェードの。7年に渡る戦いに、決着を付けるために。全ては、守るべき人のために。

 吾郎は再び、旅立つのだった。

 

 ――それから、暫くの月日を経た2016年12月。南雲サダトの戦いは、最後の局面へと向かう。

 




※仮面ライダーアグレッサー
 シェードの改造人間であり、1971年に公害で亡くなった少年「割戸神汰郎」を素体にしている。
 等身大の飛蝗怪人である第1形態、全長20メートルの巨大飛蝗に変わる第2形態、そして全長50メートルの巨大怪人となる第3形態へと段階的に進化。その為の栄養源として人肉等に多分に含まれるタンパク質を摂取する。
 さらに第3形態の状態でエネルギーを充填させると、体内の「次元破断砲」を放射して次元に穴を開け、異世界に渡る能力を持つ。

 これを開発した城南大学元教授の「割戸神博志」は、公害で亡くなった息子・汰郎を生き返らせるため、その遺体をホルマリン漬けにして45年間保存していた。いつか科学技術が人間を蘇らせるほどに発達する時まで、息子の体を守るために。
 しかし2016年になっても科学はそれほどまでの技術には至らず、自身の老いから限界を感じた博志は、シェードの誘いに乗り息子を改造人間として蘇生させることを決意した。

 だが、結果としてアグレッサーとなった汰郎は暴走。公害による汚水で命を落とした生前の記憶から、「綺麗な水に溢れた世界」を求めて、人々を喰らい次元破断砲を放ち、異世界に逃走した。
 自我はほとんど失われ、改造人間として植え付けられた本能のままに行動するが、行動原理の一部には生前の人格や父への愛情も僅かに含まれている。


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第3章 エリュシオンの織姫
第1話 聖女の偽善


 改造人間。

 

 7年前、日本政府により創設された特殊部隊「シェード」の手で生み出された、「人」にして「人ならざる」科学の申し子。

 

 その存在は人々に救いと、破滅を齎した。非人道極まるその所業の功罪は人々を混沌に陥れ、創始者である徳川清山(とくがわせいざん)は、その責任を問われ牢の中へと幽閉されてしまう。

 

 ――2009年1月31日。

 

 開局50周年を迎えたテレビ朝日本社ビルにて、突如謎のテロ組織が踏み込み、ビルが瞬く間に占拠される事件が発生。

 その正体は、「織田大道(おだだいどう)」をリーダーとするシェード残党であった。人質と引き換えに徳川清山の釈放を要求する彼らは、「No.5」と呼ばれる兵士に犯行声明を読み上げさせる。

 

 しかし――彼が改造される以前から恋人関係にあったワインソムリエ「日向恵理(ひなたえり)」の説得をきっかけに、No.5は洗脳から解放され、組織から離反。

 改造人間「仮面ライダーG」に変身し、織田率いるシェード残党の怪人部隊と交戦。これを撃破した。

 

 それから間も無く、No.5のコードネームを捨てた「吾郎(ごろう)」は恋人を残し出奔。人間社会からもシェードからも孤立したまま、人類を脅かす怪人達と激闘を繰り広げることとなる。

 

 ――2016年5月15日。

 

 長きに渡る仮面ライダーGとシェードの戦いも徐々に沈静化を見せ、シェード残党の勢いはかなり弱まっていた。

 

 そんな折、世界中に「シェードに改造された元被験者が生身を取り戻した」という不可思議なニュースが舞い飛ぶようになる。

 それは、改造人間にされた罪なき人々を救う為に外宇宙から来訪してきた、エリュシオン星の姫君「アウラ」の所業だった。

 

 「改造人間を生身の人間に治す」秘術を持つ彼女の存在に目を付けたシェードは、東京まで単身で来日してきた彼女を攫おうと画策する。

 しかしその目論見は、現場に居合わせた城南大学2年生「南雲(なぐも)サダト」によって妨害されてしまった。

 

 生身でありながら、改造人間である戦闘員から少女一人を助け出した彼の手腕にも狙いを定めたシェードは、アウラを匿う彼を急襲。

 敢え無く囚われてしまった彼は、仮面ライダーGをモデルに開発された新型改造人間「APソルジャー」の一員として改造されてしまった。

 

 やがて仮面ライダーGと交戦することになる彼だったが、戦闘中にアウラの呼びかけにより洗脳から覚醒。No.5と同様に、組織への反旗を翻す。

 斯くして「仮面ライダーAP」と名を改めた南雲サダトは、アウラの力で人間に戻ることをよしとせず、仮面ライダーとして彼女を守るために戦うことを選ぶのだった。

 

 ――2016年8月24日。

 

 この「Gの世界」における、第二の「仮面ライダー」が出現して3ヶ月。

 東京都奥多磨町の外れにある、シェードのアジトを発見した南雲サダトは、その地下深くの研究室で飛蝗型の怪人と遭遇する。

 

 その怪人は、人肉を喰らい段階的に成長していく獰猛な肉食怪人だった。撃破に失敗したサダトを残し、アジトを脱出した怪人は東京に住む人々を襲い、破壊と殺戮、そして進化を繰り返す。

 

 やがて体内に蓄えたエネルギーを熱線として吐き出し、次元に風穴を開けた怪人は異世界に逃亡。その後を追い、南雲サダトも異世界へと渡った。

 

 そこで彼は、「深海棲艦(しんかいせいかん)」と呼ばれる侵略者と戦っていた戦乙女達「艦娘(かんむす)」と出会う。

 試練を経て彼女達からの信頼を勝ち取った南雲サダトは、新たな相棒「アメノカガミノフネ」を獲得し、怪人こと「仮面ライダーアグレッサー」との決戦に臨んだ。

 

 死闘の末にアグレッサーを撃破した彼は、艦娘達に別れを告げ元の世界へと旅立つ。彼の戦いは、まだ終わってはいない。

 

 ――そして、それからさらに月日が流れ。

 壊滅状態のシェードは、ついにその最期を遂げようとしていた。

 

 ◆

 

 ――2016年12月2日。

 フランス・ローヌ=アルプ。

 国際刑事警察機構(インターポール)本部。

 

 世界的な犯罪行為に抗するべく1923年に設立された治安の砦。その構成員達は、日本政府の手を離れて暴走するシェードのテロ行為にも目を向けている。

 その非道を追う過程で彼らは、ある重要人物を保護していた。その存在が公になれば、全世界に激震が走るほどの、最重要機密(トップシークレット)を。

 

「……ではどうしても、その人物だけは人間に戻したいと」

「はい。……彼だけは、どうしても」

「そうですか……」

 

 一見すると、窓からフランスの華やかな街並みを一望できるテラスだが。その周囲には無数の隠しカメラによる厳重な監視体制が敷かれている。

 

 彼女――アウラ・アムール・エリュシオンもそれを知ってか、美しい景色を瞳に映しながらも表情は優れない。黒のボブカットを風に揺らす、碧い瞳を持つ絶世の美少女。

 

 異星人、と言われれば信じてしまう。それほどの、地球人からは隔絶された絶対的な美貌を、後ろに立つインターポールの捜査官は神妙に見つめていた。

 

 金色の髪と蒼い瞳。白い肌に、鍛え抜かれた長身の肉体。彫刻作品のように整えられた、天然の美形。

 それら全てを兼ね備えた、アメリカ合衆国出身のインターポール捜査官――ロビン・アーヴィングは、本部から彼女の保護を任されている。齢28歳にして最重要機密を託されるほどの精鋭である彼は、アウラの言葉に深くため息をついていた。

 

 青のライダースジャケットを羽織る彼は、彼女の隣に足を運ぶと諭すように語り掛ける。

 

「――アウラ様。あなたのお力により、大勢の人々が救われたことは事実。私の妹も、あなたのおかげで人間の体を取り戻すことができた。そのことは、深く感謝しています」

「……」

「ですが。先ほどもお話した通り、あなたのお力は危険なのです。これ以上その力を行使されては、我々でもあなたを匿い切れない。……あなたの影響により生まれる粗悪な被験者を、増やすわけにはいかないのです」

 

 ロビンの言葉に、アウラは桜色の唇を噛み締め拳を握り締める。血が滲みそうなほどに力が込められている様から、彼女の憤りの強さが伺えた。

 

 ◆

 

 ――外宇宙の惑星「エリュシオン星」。その姫君であるアウラは、改造人間を生身の人間に戻す秘術を持っている。

 彼女は約1年前からこの星に来訪し、独自にシェードによる改造被験者を治療する旅を続けていた。

 

 それから、半年。元凶の地である日本の東京に足を運んだ彼女は、そこで運命的な出会いを果たしていた。

 己の限界を嘆くあまり、自暴自棄になりかけていた自分を支えてくれる男性――南雲サダトとの邂逅である。

 

 彼との交流を経て、前向きな姿勢を取り戻しつつあった彼女は、再び被験者救済の旅に向かおうと考える。

 ――だがその矢先、シェードにより南雲サダトが誘拐される事態が発生した。アウラの恐れは的中し、彼は改造人間にされてしまう。

 

 だがそれでも、アウラを信じる姿勢を崩さずあくまで味方でいると宣言する彼に、アウラは再び救われた。

 斯くして南雲サダトは「仮面ライダーAP」となり、シェードとの戦いに参加。シェード残党の一人・ドゥルジを打倒した後、彼女の前から姿を消した。

 

 それはまるで、人間に戻そうとする彼女を、拒むかのように。

 それが、人間に戻るよりアウラを守るために戦うことを選んだサダトの決断であることは、想像に難くなかった。

 

 以来、アウラはサダトの行方を捜しながら、行く先々で被験者を治療する日々を送っていた。アグレッサーにより東京が半壊した際も、被災者の炊き出しに参加していた。

 ――そうして、愛する男を探す旅を続けていた彼女の前に。一ヶ月前、インターポールの使者としてロビンが現れたのだ。

 

 彼が語る、異星人の姫君が地球に齎した功罪。――それは、アウラの存在意義を根底から覆すものだった。

 

 ◆

 

 決して完全な生身には戻れない。今の科学力では、そこまでの実現はできない。

 その常識を破るように、次々と生身を取り戻していく被験者達の情報から、各国は水面下でアウラの存在に辿り着いていた。

 

 改造人間を生身に戻せる秘術の持ち主。それが本当なら、その力を手にすることでどれほどの利益が手に入るか。彼女に気づいた誰もが、その利益を追い求めるようになった。

 

 改造人間を元の人間に戻せる。それは即ち、多数の被験者を使わずとも強力な改造人間の研究開発を行えることを意味する。

 すでにシェードのテロにより改造人間の兵器としての商品価値は証明されている。通常兵器をものともしない機械歩兵をリスクなしに大量生産できる力を、強欲な地球人が放っておくはずはないのだ。

 

 だがアウラも、秘術を除けばただの少女というわけではない。彼女は外見こそ華奢だが、「銀河連邦警察」に所属する「宇宙刑事」の一人でもある。

 偉大な先輩「ギャバン」「シャリバン」「シャイダー」のようなコンバットスーツこそ持ち合わせてはいないが、それでも並大抵の人間に容易くどうこうされる女ではない。

 自身を捕らえようと近づく世界各国の工作員をかわしながら、彼女はあくまで被験者救済の旅を続行していた。

 

 しかし。それを受け、世界各国はさらに狡猾な手段に出る。

 

 彼らは自分達の科学力がシェードに及ばないものと知りながら、「シェードに対抗すべく設立した特殊部隊」を標榜し、秘密裏に改造人間部隊の編成を始めたのである。

 当然ながら、その結果生まれるのはシェード以下の科学力で作り出された劣悪な改造人間。兵器としても不良品な上に人間でもない、というシェードの被害者よりも悲惨な状況が続出する事態となっていた。

 

 だが。そうなることは、誰もがやる前からわかっていた。

 改造人間部隊の編成など、そんな悲惨な状況に巻き込まれた被験者への同情を誘い、アウラの身柄を自国の領地におびき寄せるための布石でしかない。

 

 彼らはアウラを手に入れるために、国の為だと信じる自国の民すら玩具にし始めたのだ。

 

 あまりに残酷にして、歪な地球人の所業。その企みに気づいたアウラは、シェード以上に腐り果てた地球人達に絶望し、己の力を呪うようになってしまった。

 改造人間を救う為だけに来たはずの自分が、さらなる悲劇の種を振りまいていた。彼らによって生み出された被験者の嘆きが、彼女の心を暗黒に突き落としたのだ。

 

 ――インターポール捜査官のロビン・アーヴィングが現れたのは、その頃のことだった。

 彼はアウラを匿うとフランスの本部まで護送し、彼女の身柄をICPOの保護下に置くことに成功する。

 

 国際的な警察機構の中枢に匿ってしまえば、各国政府も容易く干渉はできない。アウラの存在は公には認められていないのだから、引渡しの要求など出来るはずもないのだ。

 

 ロビンの任務はこうしたアウラの保護だけでなく、各国政府の策略により生まれた劣悪な改造人間プラントの摘発も含まれていた。

 イリーガルな手段で造られた改造人間の生産工場。その全てを滅ぼすため、彼は世界中を飛び回り工作員を相手に戦い続けてきたのである。

 

 ――そうして、彼を含むICPOがアウラを保護する方針を取ったのは、彼女が未知数の宇宙人であることに由来していた。

 

 「銀河連邦警察」の「宇宙刑事」。それがどれほどの規模であるかは、外宇宙と交信する術を持たない地球人には推し量りようがない。

 だが少なくとも、彼女に危害を加えても外宇宙の勢力がそれに気づかない、という可能性は薄いのだ。アウラを傷付けるようなことがあれば最悪、地球人類ではどうにもならないほどの圧倒的戦力が攻めてくる危険性も考えられたのである。

 

 彼女を捕まえようとしている各国政府は、そこまでは考慮できていない。あるいはできていても、対応次第でどうにでもなると楽観している。

 そんな手合いにアウラの身柄が渡れば、まず丁重な扱いは期待できない。彼らは非道な人体実験に掛けてでも、彼女の力を手に入れるつもりなのだ。

 

 この地球そのものを危機に陥れないためにも、己の利益しか考えない各国政府からアウラを守らねばならない。それがICPOの出した結論なのである。

 

 ――そして彼らは、アウラに故郷の星に帰るように促し始めた。

 

 欲深い人間に正道を説いたところで、何も生み出せはしない。彼女の力が地球上に存在している限り、世界はその力を諦めない。

 これ以上罪のない地球人を苦しめないためには、力そのものを地球上から消し去るしかない。そもそもの原因である彼女自身が地球を去る以外に、事態収束の方法はない。

 それが、彼女の今後に対するICPOの判断だった。

 

 自分が全ての被験者を救おうとしたばかりに、救った人数以上の新たな被験者を増やしてしまった。自分がこの星に来たばかりに、いたずらに悲劇を振りまいてしまった。

 ロビンに潰されたプラント数は数百に及び、各国政府に生み出された被験者は総合すると20000人を超える。対して、アウラが治療した人数は5000に満たない。

 目に見える数字として。アウラは自分の無力さを突きつけられてしまったのだった。

 

 ――そんな折。

 

 テレビで世界各地に報道されていた「仮面ライダー」の活躍が、彼女の耳に入った。

 

 シェードの怪人から人間の自由と平和を守るため、日夜悪と戦い続ける仮面の戦士。シェードと同じ改造人間でありながら、彼らの存在は大多数の民衆から英雄と讃えられている。

 改造人間の人権を脅かす連続殺人犯という見方もあるが、そう解釈しているのは日本の一部くらいのもので、世界各地で被験者問題に苦しむ人々は仮面ライダーを正義の味方として応援していた。

 

 その仮面ライダーの一人には、あの仮面ライダーAP――南雲サダトも含まれている。

 彼は自分が奪った命より、数多くの人々を救い続けていた。怪人を殺め、自分の手を汚してでも、より多くの人々の命を守り抜いていた。

 

 その姿に、アウラはただただ涙する。

 

 生身に戻る機会を捨ててでも、彼は自分を守るために仮面ライダーとなり戦う道を選んだ。自分が、全ての被験者達を救ってくれると信じて。

 

 それに対して、当の自分はその想いに応えられなかったばかりか、余計に被害を拡大させる結果を招いていた。

 

 彼が奪った命以上の人々を救っているのに、自分は救った命以上の犠牲者を出している。

 

 彼は自分を犠牲にしてでも、より多くの被験者が助かることを望んでいたのに。自分は、その大恩を強烈な仇で返してしまった。

 

 最愛の人を、計らずも最悪な形で裏切ってしまったことに、アウラはより深く絶望し自殺まで試みるほどに病んでしまう。

 それに気づいたロビンにより自殺は阻止されたものの、彼女の胸中に渦巻く絶大な罪悪感が拭われることはなかった。

 

 その自殺未遂から一週間が過ぎた今日。

 彼女は、ある決意を固めていた。

 

 例え、愛する彼に裏切り者と呼ばれようと。志半ばで使命を放棄したと糾弾されようと。

 

 この星を去る前に、彼だけは生身に戻す。それが、自分に出来る最後の仕事だと。

 

 ◆

 

「……私が力を行使するリスク。それくらい、分かり切っていることです。それでも、改造されたあの人を置き去りにしたまま帰ることなんて出来ない!」

「アウラ様……」

「私は行きます。例え、私を匿って下さったあなたを殺めてでも」

「……」

「もはや私は、この地球を蝕む災厄そのもの。ならばせめて、悪人として汚名を背負いながら……あの人を救います」

 

 決意の宿った碧い瞳は、ロビンの眼を真っ向から射抜いている。

 それはつい先日まで、絶望と後悔に打ちひしがれていた彼女からは想像もつかない強さを帯びていた。

 それだけで、南雲サダトへの深い愛情と執着が窺い知れる。

 

「……わかりました。私の、負けです。あなたにこれ以上泣かれて、外宇宙に睨まれるのは私も御免ですからね」

「……」

「ただ、約束してください。彼に再会するまで、決して私のそばを離れないと」

「ええ、わかっています。……ありがとう、アーヴィング捜査官。無理言って、ごめんなさい」

「構いませんよ。これで最後だと思えば、ね」

 

 ここまで件の仮面ライダーへの偏愛を拗らせている状態では、もはや説得は不可能。ロビンは長年の経験則からその結論に至り、深く肩を落とす。

 女性経験が豊富な彼は、こうなった女の行動力は口で止まるものではないと熟知しているのだ。

 

(仮面ライダーAP、南雲サダト……か)

 

 アウラから視線を外し、ロビンは青空を仰ぐ。彼はこれから会うことになるであろう仮面ライダーに、思いを馳せていた。

 

(彼がいなければ、私の妹も助からなかったのだろうな。……私にとっても、その恩に報いるまたとないチャンスなのも知れん)

 

 愛する妹を救ってくれた大恩人。そんな彼女をここまで突き動かした南雲サダトの存在は、ロビンにとっても大きなものであった。

 

 ――そして、翌日。

 二人はフランスを発ち、日本へ出発した。

 

 仮面ライダーとシェードの、最終決戦が始まろうとしている戦地へと。

 




 ロビンは当初、昭和特撮っぽく日本人設定で行く予定だったのですが、本作における彼の役どころは「日本を外から見る外国人代表」みたいなところがありますので、思い切ってバリバリの外国人になりました。いや、本来これが正しいんだとは思うんですけどね。


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第2話 仮面ライダーの死

  2009年にシェードの非人道的な人体実験が明るみになり、組織は解体された。

 しかし、それで改造されていた被験者達が元通りになれるわけではない。

 

 身体を人外の兵器にされた挙句、部隊を解体され居場所も奪われた被験者達が路頭に迷い、異形ゆえに人間社会から追放された影響で凶行に走るという、社会問題にまで発展してしまった。

 さらに元隊員だけでなく、シェードに誘拐され改造手術を受けた民間人も、周囲に白眼視され居場所を失う事態に見舞われている。怪人の素体として誘拐されながら、改造人間への適性の低さから半端な改造しか受けずに放逐されていた民間人も、元隊員と同じ問題に直面していたのだ。

 

 これを受けて、政府はただちに改造被験者保護施設を全国各地に設立。

 シェードに改造され、かつ民間人への害意を持たない被験者達を隔離にも近い形で保護することになった。改造人間にも、人権が保障される制度が組まれたのである。

 

 シェードの蜂起から7年が経過した2016年現在で被験者の数は300人を超えており、その保護施設は東京都内に設けられている。

 その役割を担う二つの施設。目黒区の市街地に設立されている(わたり)被験者保護施設と、稲城市郊外の山中に近年設立された風田(かぜた)被験者保護施設の二つには、それぞれ100人以上もの被験者達が収容されている。

 

 保護されている被験者達は税金から捻出された費用で生活しつつ、社会復帰に向けた職業訓練や勉学に励んでいる。特に体力を要する職業において、改造された彼らの肉体は労働力としての効果も期待されていた。

 だが、その期待通りに自らの能力をコントロールできた被験者は一握り。実際のところは自分の力を操り切れず、危険と見なされ社会への復帰が叶わない者が大半であった。

 

 情報化社会である昨今、そうした実情はネットを通して人々に広く知れ渡っている。

 

 テレビで被験者を好意的に取り上げる番組が組まれる一方で、ネット上や一部の週刊誌では被験者へのバッシングが横行していた。

 「税金の無駄遣い」「兵器の体なら某国に特攻して死ね」「人間でもない、ちゃんとした改造人間でもない。なんで生きてるの?」「こんな連中飼う金があるなら俺らに回せよ」。そんな人々の暗澹とした「本音」は、ネットワーク上に深く染み付いている。

 

 人間社会にも、シェードにも、彼らの安らぎとなる居場所はないのだ。仮面ライダーと、同じように。

 

 ◆

 

 ――2016年12月5日。

 東京都目黒区渡改造被験者保護施設。

 

「なんだよ……なんなんだよこいつッ!」

「逃げろ! 踏み潰されるッ!」

 

 日本最大の改造被験者保護施設の一つ。その地で今、未曾有の事態が発生していた。

 

 白昼堂々、市街地の真っ只中。

 突如現れた、数体の量産型フィロキセラ怪人。その猛威に為す術を持たない市民は蹂躙され、鎮圧に挑む警官隊も容赦無く餌食になっていた。

 彼らの肉体から伸びる触手は強靭な鞭となり、人々の体を容易く切り裂いて行く。肉の刃は命乞いも聞かず、淡々と弱者を屠り続けていた。

 

 ――だが、人々を脅かしている災厄は怪人達だけではない。むしろ、彼らは「おまけ」のようなものだった。

 

 白と赤を基調とする塗装。アスファルトに跡を残し、ガードレールもパトカーも人も踏み潰していくキャタピラ。

 一度火を吹く度に、何十軒というビルを灰燼に変えていく主砲。

 外見こそ、ナチス・ドイツ陸軍の重戦車――「ティーガーI」だが。その骨董品同然のフォルムの下に、破壊と殺戮に傾倒した最新技術が投入されていることは誰の目にも明らかだった。

 

 その周りをうろつきながら、手当たり次第に市民も警官も惨殺しているフィロキセラ怪人達は、重戦車の随伴歩兵に過ぎない。

 市民、警官問わず何もかも踏み潰し、破壊しながら渡被験者保護施設を目指して前進しているこの重戦車こそが、この戦場の主役となっていた。

 

「やはり施設を目指してるのか!? 収容者の避難は!」

「まだです! 中はパニック状態で……!」

 

 阿鼻叫喚の生き地獄と化した目黒区。その戦火の渦中で、警官隊はせめて一人でも多くの市民を避難させるべく奮闘していた。

 そんな彼らの勇気も、献身も。重戦車のキャタピラは、虫ケラのように踏み荒らしていく。その惨劇を身近に感じている渡被験者保護施設の人々も、騒然となっていた。

 すでに重戦車は、施設の門前まで迫っている。

 

 ――その時。

 

「……!? おい、あれ!」

 

 幸運の重なりから、未だに生き延びている警官の一人が声を上げる。

 彼が指差した先には――こちらに向かい、爆走している風変わりな一台の車。

 

 現代においては時代錯誤としか言いようのないフォルム。旧日本軍の九五式小型乗用車と見紛う赤い車体は、その形状に見合わない速さで廃墟に囲まれたアスファルトを駆け抜けている。

 

「……ッ!」

 

 その奇妙なマシン――「アメノカガミノフネ」を駆る、一人の青年。

 彼が羽織っている漆黒のライダースジャケット。その襟部に付いているファーが、向かい風に靡いていた。

 赤いグローブを嵌めた手に力が篭り、黒のブーツに覆われた足が強くアクセルを踏み込んでいく。

 

 彼は片手でハンドルを操作しつつ、懐から一本のワインボトルを引き抜いた。矢継ぎ早にそれを、ワインオープナーを模ったベルトに装填していく。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「――変身ッ!」

 

 ベルトから響き渡る軽快な電子音声。それに呼応するように叫ぶ黒髪の青年は、ベルトのレバーを倒してワインボトル――の形を持つ「エンジン」を起動させる。

 

 刹那。青年の全身は漆黒の外骨格に覆われ、全身にワインボトルから迸る赤いエネルギーラインが循環していく。

 金色の複眼を囲う「a」の意匠。胸に装着された「p」を象るプロテクター。その外見的特徴が、彼の実態を物語っていた。

 

 そして――風にたなびく白マフラーが、「歴戦のヒーロー」を彷彿とさせている。さらにマスクや外骨格は、長い戦いによる傷跡を色濃く残しており……装甲が破損している首元や後頭部からは、変身後であるにも拘らず、生身の肌や黒髪が僅かに覗いていた。

 

『AP! DIGESTIF IN THE DREAM!!』

 

 変身シークエンスの終了を告げる、電子音声。鳴り響くその声と共に、青年こと南雲サダトは「仮面ライダーAP」として、地獄と化した目黒区の戦場に現れたのだった。

 

「か……仮面ライダーだ!」

「初めて見た……! お、おい俺達も一旦引くぞ! 巻き込まれたら今度こそ終わりだ!」

 

 時代錯誤の車に乗り、颯爽と駆けつけてきた仮面の戦士。その姿を視界に捉えた警官隊は、これから施設の門前で始まる激戦を予感し、蜘蛛の子を散らすように退散していく。

 

 仮面ライダーAP――サダトは素早くアメノカガミノフネから飛び降りると、赤い「P」の字を模した柄から刃を伸ばす一振りの剣を手に、白マフラーを翻して怪人達に斬り掛かって行く。

 

「――とあッ!」

 

 問答無用の速攻は、怪人達から伸びる触手よりも速く。しなる肉の鞭を裂く剣閃は、瞬く間に怪人の肉体に届いて行った。

 

 それはさながら、患者の体にメスを入れるかのように。

 肉も骨も、紙のように断ち切る剣が肉体を通り過ぎた後は――噴き上がる血飛沫が、その結末を告げていた。

 

「……ッ!」

 

 同胞の死を見せつけられた怪人達が、奇声を上げて次々と躍り掛かる。矢継ぎ早に舞い飛ぶ鞭の連撃が、仮面の戦士に降り注いだ。

 

 しかし、金色の複眼――の奥の瞳に、迷いの色はない。

 

 一撃目の鞭を切り裂いた直後。

 手首を返して逆手に剣を構え、死角を狙う二撃目の鞭を斬る。その隙を突いて左手に巻きついた触手を掴み返し、触手の「持ち主」を力技で手繰り寄せ――頭から叩き斬る。

 自分の肉体の一部を斬られた二体は痛みにのたうち、脳天から両断された一体は苦しむ暇もなく絶命した。

 

 そのまま流れるような剣捌きで、サダトは残る二体を斬り伏せてしまう。まるで、苦しみから解き放つ「介錯」のように。

 

『三体のフィロキセラを無傷で――か。その脆弱な体にしては、上々な戦果だ』

「……!」

 

 そうしてサダトの剣によりフィロキセラ怪人が全滅した後。残された最後にして最大の刺客――白塗りの重戦車から、くぐもった声が響き渡った。

 ノイズが混じるスピーカー音が、死屍累々と骸が転がる戦場に鳴り響く。――すると。

 

「……だが。今のお前では、その背に守られている弱卒と大差ない。その脆弱な改造ボディでは到底、改造人間の真の価値は証明出来んだろう」

「さっきから……何を言ってる」

 

 戦車上部のハッチが開かれ、そこから一人の初老の男が現れた。

 

 白髪のオールバック。皺が寄った顔でありつつも、精悍さを失っていない面持ち。漆黒のトレンチコートを内側から押し上げる、はち切れんばかりの筋肉。

 顔立ちから高齢であることは窺えるが、その長身の体躯は老境という言葉からは程遠い分厚さとなっていた。並の軍人では、こうはいかない。……いや、生身の人間ではこうはいかない。

 

 ハッチから乗り出してきたこの男がシェードの改造人間であることは、誰の目にも明らかだ。

 

 今まで戦ってきたシェードの刺客とは、全く雰囲気が違う異質な男。その得体の知れないオーラに反応し、サダトは素早く剣を構える。

 一方、切っ先を向けられている男は涼しい面持ちで、サダトの方をハッチから見下ろしていた。

 

「貴様は一体、何のためにこんなことを……!」

「――いいだろう、お前には知る権利がある。俺の目的は、ごくありふれた単純なことだ。改造人間の『兵器』としての『商品価値』を証明し、この国に改造人間の必要性を説くこと。ひいては、その過程を以て日本という国を富国強兵へと誘うことにある」

「……!?」

「仮面ライダーAP。お前は、政府に飼われたこの被験者達をどう見る。俺達と変わらない、人間を越えた力を手にしていながらその力を活かす義務を放棄し、あろうことか国の金を食い潰し利権だけを貪っている」

「……」

「大いなる力には、大いなる責任が伴う。だが、改造被験者保護施設で暮らす弱卒共に責任の二文字はない。俺の目的はそういった毒にも薬にもならない者達を排斥し、限りある国家予算を効率的に削減することにある」

 

 老境の男は表情一つ変えないまま、淡々と己の目的を語る。施設で暮らす改造被験者を「弱卒」と言い切る彼の眼を見据え、サダトは拳を震わせた。

 

「……力には、責任が伴う。それは、わかる。けど……俺達は、貴様らに力をくれと乞うた覚えはないッ!」

「誰しも『望んで』力を得ることはない。子が親を選べないように、己も己の力を選ぶことはできない。我々は常に、持って生まれた才能や実力で生きていくことを、この世界から強いられている。お前達が望んだか否かなど、何の意味もない話だ」

「なんだと……!」

「お前は改造人間として優れた適性を持っていた。施設で飼い慣らされている弱卒共にはそれがなかった。その違いに、『望み』の有無は関係なかろう」

 

 施設で暮らしている被験者の中には、元シェード隊員ではない民間人の被害者も大勢いる。そんな、何の罪もない人間までも弱卒と切り捨てる男の姿勢に、サダトはさらに声を荒げた。

 

「……この施設の人達は。貴様らに人間の尊厳を奪われながら、それでもなお『人間』として生きようとしている。貴様らは、そうやって自分の了見だけで、今も生きている人達の命まで奪うのか!」

「俺は単なる道楽で殺しているわけではない。弱卒共の頭が減れば、それだけ連中に割く予算が削減される。さすれば、真に強く正しい者達が然るべき恩恵を享受できるのだ」

「詭弁を……」

「お前にとってはそうであろうな。だが、日本政府はその『詭弁』を選んだらしい。――見ろ」

「……!?」

 

 だが、その横暴にどれほどサダトが怒ろうと、彼は怯む気配もなく話を続けていく。やがて彼が指差した先に視線を移し――サダトは、硬直してしまった。

 

 生き延びたパトカーの運転手や、移動手段を失った警官隊が、うめき声を上げて助けを求めている市民を放置し、我先にとここから離れている。そんな光景が、四方八方から窺えた。

 一時撤退からの立て直しにしては、妙だ。彼らが逃げ始めてから数分が経つのに、増援のサイレン音は全く聞こえてこない。

 

「……もしここが、普通の病院なら。警察署前なら。議事堂前なら。連中も敵わないなりに、あと数時間は粘っていただろうな。……政府にとっても結局のところ、被験者達は邪魔者に過ぎんということだ」

「……!」

「警察も政府の意向を汲んだ上で、撤退命令を出している。生きていたところで、この先役に立つ望みが薄い被験者100人の命より、警官一人の命の方が『重い』のだ」

「……そ、れは……」

「実利主義への傾倒。弱肉強食の肯定。悪くない判断だ。表立って被験者を排除すれば世論や国際社会から誹りを受けるが、シェードのテロで排除された――となれば、待っているのは『同情』。国の癌を切除できる上に融資も期待できるのだ、まさに一石二鳥だろう」

「そんな……!」

「シェードの改造人間に通常兵器は通じず、警官隊は敗走を繰り返してきた。今回も、力を尽くしたが及ばなかった――とされるだろう。この場にいる人間がこれから皆殺しになる以上、市民を捨てて逃げ出したという証拠も証言も――何一つ残らん」

 

 まさにこれから、全員を殺すと宣言する白髪の男。その発言を聞かされた瞬間、サダトの全身から突き上げるような憤怒と殺気が迸る。

 

「させると思うのか……俺が!」

「……加えて。頼みの綱のお前(仮面ライダー)も敗れたとあっては、誰も警官隊を責められまい。それほどの圧倒的な理不尽さが、この『タイガーサイクロン号』の威力なのだから」

 

 その発言を最後に。

 

 男はハッチの下へと潜り込むと、沈黙していた重戦車――タイガーサイクロン号を再起動させる。金属同士が軋み、こすれ合う歪な音と共に、鋼鉄の災厄が再び動き始めた。

 

『仮面ライダーAP。まずはお前を、その脆弱な肉体から解放してやる』

「……ッ!」

 

 スピーカーから響くノイズ混じりの声と同時に、主砲が施設の方に向けられる。すでに、砲弾は装填されているようだ。

 

 剣が届く間合いではないが――射撃できる形態(フォーム)に切り替えている猶予はない。そう判断した瞬間、サダトは施設を庇うように主砲の正面に立つと、ベルトのワインボトルを強く押し込み、エネルギーを右腕へ集中させていく。

 その力の奔流はやがて赤い電光となり、彼の右手に握られた剣に宿った。

 

『FINISHER! EVIL AND JUSTICE OF MARRIAGE!』

「スワリングッ――ライダァッ、ビィィィトッ!」

 

 そして。あらゆるものを切り裂く、必殺の電光剣を逆手に構え。

 一気に振り抜くように――重戦車目掛けて投げつけるのだった。

 

 真紅の矢と化した、電光の剣がタイガーサイクロン号に肉迫する。

 

 その直後。

 

 全てを破壊する重戦車の主砲が、火を吹いた。それはまるで、裏切り者に裁きを下すかのように。

 

 ◆

 

 ――2016年12月5日。

 某国某戦地。

 

 草一つ生えない不毛の荒野。その荒れ果てた地の上では、血で血を洗う争いが日常となっていた。

 何のために戦っているのか。誰のための戦いか。誰も何もわからないまま、それでもこの一瞬を生きるために。

 戦場に立たされた若者達は、今この瞬間も銃を手に戦っている。

 

 ――そんな、この地上を探せばどこにでもあるありふれた戦場の渦中。漆黒の外骨格を纏う仮面の戦士が、一振りの剣を携え戦地となった街を歩いていた。

 砂と廃墟と死体しかない、ゴーストタウン。その中を歩む彼は、「G」の形を持つ柄を握り締め、晴天の空を仰ぐ。

 

 ここではない、遠く離れた故郷を見つめるように。

 

「……」

 

 その刃には。

 

 彼が長年追い続けた宿敵の、血潮が染み付いていた。

 

 彼の戦いは、幕を下ろしたのだろう。「元」を絶った今、これ以上新たな怪人が生み出されることはない。

 

 だが。

 全てが終わったわけではない。

 

 終戦協定が結ばれても、それを知らない兵隊が戦い続けているように。今も、この戦地で若者達が戦い続けているように。

 

 戦火の残り火が、今も戦士の故郷を蝕んでいる。地獄の業火と成り果てて。

 

 しかし、仮面の戦士にできるのはここまで。手の内を知り尽くされている「師匠」を、討つ術は彼にはない。

 だからこそ「師匠」は、己の介錯を「孫弟子」に託したのだ。

 

「……羽柴(はしば)さん。『人間』は、あなたが思うほど脆弱ではない。生きる力は、愛は。あなたの理想には屈しない」

 

 仮面を脱ぎ、空の向こうを見つめる青年。戦士としての殻を捨てた彼は、その想いを故郷で戦う後輩に託していた。

 

「あの子が、きっと。それを教えてくれる」

 

 ◆

 

 ――2016年12月5日。

 東京都目黒区渡改造被験者保護施設跡。

 

 全てが終わったこの街――否、廃墟には。生者は独りしか残されていない。

 ただ独り、生きてこの地に立っているその男は、ハッチを開けて重戦車から降りると、辺りをゆっくりと見渡していた。

 

 悲鳴すら絶え果てた無音の廃墟。ゴーストタウンと化した、目黒区の市街地は閑散としている。

 逃げ出していく警官隊に見捨てられ、それでも懸命に生き抜こうとあらがっていた市民は、皆一様に力尽き亡骸と成り果てていた。炎上を続けるパトカーや路上に横たわる死体の山が、この場で起きた惨劇のほどを如実に物語っている。

 

 ――その災厄の手は、警官隊や仮面ライダーが身を挺して守ろうとしていた、改造被験者保護施設にまで及んでいた。

 

 半人半獣の身でありながら、それでも明日を夢見て人間としての生を追い続けていた、被験者達。彼らの骸は燃え盛る施設に焼かれ、無惨に爛れている。

 元隊員だろうと、誘拐されただけの民間人だろうと、関係ない。女子供も構わず焼き払われ、全てが蹂躙され尽くしていた。

 

「まずは一つ。残るは稲城市の風田改造被験者保護施設――か」

 

 静寂に包まれた廃墟の中。白髪の男の呟きは、この場に強く響き渡る。

 彼はゆっくりと歩み始めると、自分が乗り込んでいた重戦車の正面に立ち――感心するような色を僅かに表情に滲ませ、車体に突き刺さる白刃の剣を見つめた。

 

「……大したものだ。俺のタイガーサイクロン号にここまで傷を付けたのは、No.5を除けばお前が初めてだ」

 

 そう呟く彼が、振り返る先には――血だるまになり横たわる、仮面ライダーAP。

 

 だった「何か」が眠っている。

 

 手足はもがれダルマのようになり、腹には風穴が開いていた。血に濡れ、ひしゃげた外骨格は、もはや原型をとどめていない。

 

「だが、それまでだ。脆弱な『APソルジャー』の性能では、ここまでが限界。如何に訓練を積んだとて、これ以上は――俺を屠るほどには、強くなれん」

 

 瓦礫の上を歩む男は、足元に転がるサダトの腕を蹴り飛ばし。横たわるダルマの傍らに立つ。

 

「お前には、俺の理想の礎になってもらわねばならん。……用があるのは、その脆弱な体ではなく」

 

 そして片手で頭を鷲掴みにして、100kg以上ある外骨格の胴体ごと持ち上げると。ぶらがった胴体と頭を繋ぐ首に――抉り込むような肘鉄を放った。

 

 直後。

 

 男の肘に削り取られた首は、その役目を失い。頭と繋がっていた胴体が、瓦礫の上に崩れ落ちる。

 

 男の手には――僅かな脊椎が付着した、仮面ライダーAPの頭部だけが残されていた。

 

「性能差をものともせず、アグレッサーを倒した……お前自身の『魂』だ」

 

 そして、この日。

 

 仮面ライダーAPは、死んだ。




 登場早々、脊椎ぶっこ抜かれる出オチ系主人公。ヒーローっぽくマフラー巻いても結局彼はこんな調子です。
 ちなみに「首元や後頭部の髪が露出」という外見設定は、仮面ライダー旧1号と「仮面ライダー THE FIRST」の影響から。


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第3話 人間達の決断

 ――2016年12月7日。

 警視庁警視総監室。

 

 日本警察の頂点が居座る、治安維持の中核。その一室に、三人の人物が集まっていた。

 テーブルを隔てて向かい合う彼らは、揃って神妙な表情を浮かべている。周り全てを押し潰すような重苦しい雰囲気が、この一帯に漂っていた。

 

 制服に身を包む精悍な顔立ちの壮年は、警視総監の地位に違わぬ屈強な肉体と壮健な眼差しを持っている――が。その瞳の奥には、深い葛藤の色が滲んでいた。

 

 警視総監番場惣太(ばんばそうた)。彼の向かいのソファに腰掛けるロビンとアウラは、その胸中を慮る一方で――彼が下していた決断に対し、厳しい目を向けている。

 

「それで、この結果ですか」

「……返す言葉も、ない。被害を最小限に食い止めるには、こうするより他はなかった」

「あなたはっ……!」

 

 渡改造被験者保護施設襲撃事件。2日前に起きた、その大量殺人事件において番場総監は、警官隊を途中から全員退却させていた。

 戦線に加わった仮面ライダーAPに戦いを任せ、現場から手を引いていたのである。

 

 敵のテロに乗じて、被験者達を処分せよ。

 それが日本政府の意向であり、警視総監といえど逆らうことの許されない大命であった。

 

 結果として渡改造被験者保護施設は壊滅。同施設の被験者は全員死亡し、テロリストと交戦していた仮面ライダーAPも消息を絶った。

 仮面ライダーまでもがやられた――と判断して差し支えない結果に終わり、警視庁は今も事後処理で騒然となっている。

 

 特に、社会的弱者とされる改造被験者を狙った虐殺行為である本件は衝撃的ニュースとして世界中を駆け巡り、世界各国から哀悼の意が贈られた。

 ――そう、重戦車に乗っていたあの男が言っていた通りに。そしてそれは、番場総監の上に立つ閣僚の目的でもあった。

 

 改造被験者を蔑ろにしては、人道的見地という面から日本は諸外国から猛烈なバッシングを受けることになる。

 すでに政府により創設されたシェードの暴走が原因で、日本は国際社会からの信用を失いつつあった。故に、これ以上の信用問題は回避せねばならなかった。

 

 そうした苦肉の策の中で生まれた改造被験者保護施設だったが、結果は国内からの批判を浴びる的と成り果て、政府もその維持費に頭を悩ませるようになっていた。

 

 そんな折、シェードのテロとして保護施設が破壊され収容者が全員死亡した。それはある意味では、政府にとって僥倖だったのである。

 合法的に予算を食い荒らす被験者を始末できた上、その罪を全てテロリストが被ってくれた。おかげで諸外国からは同情が集まり、融資のきっかけにもなりつつある。

 

 ――そんな情を持たない人面獣心の魑魅魍魎は、治安の要たる警察すらも飲み込んでいたのだ。

 敵も味方も、救い難い俗物ばかり。改めて突き付けられた現実と、やり場のない怒りに苛まれ、アウラは膝に置く両手を震わせる。

 

 一体、何のために地球に来たのか。このような者達を救うことに、如何程の価値があるというのか。

 その葛藤に直面する度、彼女は南雲サダトの貌を思い浮かべては誠意を尽くしてきた。だが、今は心の拠り所だった彼までもが行方知れず。

 

 地獄絵図と成り果てた事件現場からは彼の一部と思しき「部品」も発見されたが、それでも彼女はサダトの生存を頑なに信じ続けていた。

 そうでもしないと自分を保てないほどに、追い詰められている。焦燥や怒りに駆られた彼女の横顔を見遣るロビンは、そう感じていた。

 

「……恥ずかしいとは、思わないのですか! この施設で暮らしていた人達は、皆あなたの御息女のように懸命に生きていたのに!」

「アウラ様……」

「それなのに、こんなの……こんなこと……! あなたの、御息女までっ……!」

「……」

 

 ひとしきり番場総監を責め立てた後。アウラは身を乗り出した姿勢のまま、今度は崩れ落ちるように嗚咽を漏らす。

 

 ――あの事件に対する世論の反応は、当然ながら「表面的には」被験者への悼みとテロリストへの義憤に満ち溢れていた。

 だが、ネット上では重戦車による施設破壊を称賛し、あろうことか今回のシェードをヒーローと讃える者まで現れる始末となっている。

 

 「こいつらのおかげで税金が浮いたぜ! おかげで経済がよくなるな!」「殺してくれて良かった。これでもう化物に怯えずに済むな!」「罪を背負って正義を成し、クソゴミに天誅を下してくれた。仮面ライダーなんかより、こいつの方がよっぽど正義だろ」。

 そんな意見が表立っては言えない「本音」として、世界中を巡っている。そのどす黒い地球人の本質が、アウラの心をさらに責め立てていた。

 

 守るべき人々に、自分ばかりか罪のない被験者まで否定され。とうとう、自分のために戦ってくれていた南雲サダトまで否定されてしまった。

 ただ人々を救うためだけに異星へ足を踏み込んだ少女にとって、苦い思いでは済まされない傷となっている。

 

 そんな彼女の姿を見かねたように、ロビンは彼女の肩に手を当ててソファに座らせる。番場総監は目を閉じ、彼女の叱責に耐え忍んでいた。

 

 ――だが。堪えようとしているのは、彼女の言葉だけではない。

 

 日本政府は事件を受け、警察側と同様に一つの予想を立てた。それは、渡改造被験者保護施設を破壊した犯人は、次に風田改造被験者保護施設を狙うだろう――というものだった。

 

 そして。政府は、彼に命じたのである。

 

 風田改造被験者保護施設の警護に、人員を割く必要はない――と。

 

 同施設は市街地内に設立されていた渡改造被験者保護施設とは異なり、東京都稲城市と神奈川県川崎市の境にある山中に造られている。要は、人里から離れているのだ。

 

 危険と称して人払いさえしておけば、施設に人員を割かなくても実態が漏れることはない。

 漏れるところがあるとすれば同施設の収容者達だが、その口ならテロリストが一人残らず封じてくれる。

 

 警察側の被害を最小限に抑えた上で、残る最後の保護施設を破壊し被験者を全滅させ、予算を削減。さらに国際社会からの同情も買える。その罪は全て、実行犯のテロリスト一人に被せればいい。

 

 政府主導によるその計画――「12月計画(ディッセンバープロジェクト)」は、人を人とも思わぬ「非情」の塊であった。

 

 選りに選って人民を守ることを主命とする警察、その管轄を任されている警視総監にそれを強いるという悪辣さに、アウラは怒髪天を衝く――というほどの怒りを掻き立てられていた。

 そして彼女の怒りは政府だけでなく、言われるままに渡改造被験者保護施設を見捨てた挙句、最後の保護施設にいる被験者達まで見殺しにしようとしている番場総監にも向かっていた。

 

 警視総監としての職務に背いていることだけではない。

 命じられるままに、たった一人の愛娘さえも見放そうとしていたことにも、彼女は激昂しているのだ。

 

 ――数ヶ月前。シェードは番場総監への脅迫として、当時中学2年生だった14歳の娘「番場遥花(ばんばはるか)」を誘拐。警察への見せしめとして、彼女を改造人間にしようと企んだ。

 しかしその企みは、アジトを発見した仮面ライダーAPの乱入により頓挫。改造手術を受けている最中だった遥花は救出され、番場総監のもとへと送り返された。

 

 しかし無傷だったわけではない。右腕一本だけであるが、彼女はすでに改造手術を受けてしまっていた。

 意識が快復しても右腕が元通りになるわけもなく、遥花は脳改造を受けていないためにその力を操り切れず、このままでは危険と判断され風田改造被験者保護施設に収容されることとなったのである。

 

 同施設は渡改造被験者保護施設よりも危険性の高い被験者達を、保護と称して隔離する目的で山中に建てられている。

 一般人の面会が絶対に許されない魔境であり、警視総監である彼も容易くは娘に会えない日々が続いていた。

 

 それでも電話を通して、親子で励ましあい生きてきた。その矢先の――この「12月計画」である。

 

 愛する娘を「国」に見放され、番場総監は無力感に打ちひしがれていた。アウラの言葉は、その胸中を深く抉っている。

 ロビンはそんな両者の様子を、暫し見つめた後。ようやく口を開いた。

 

「――政府の目的はあくまで、被験者全員の抹殺。自衛隊に要請を出しても同じですし、被験者達を施設から逃がせばいいというわけでもない、ということですか」

「政府はシェードの蜂起が原因で、世界各国から睨まれている。そんな中で積極的に被験者達を殺すことは出来ん。……だから理由を付けて警護を外し、テロリストに皆殺しにさせようと誘導しているのだ」

「なるほど。……人道的には腐り果てているが、理には適っている。阻止するには直接テロリストを倒してしまうより他はない、ということですか」

「……そういうことになる。だが、それはもう不可能だ。仮面ライダーGも仮面ライダーAPも、もういない。奴らに対抗しうる人類側の改造人間は、もう誰もいないのだ」

 

 番場総監が言う通り、仮面ライダーGは9月を境に怪人が出現しても姿を見せなくなり、彼に代わって戦い続けていた仮面ライダーAPも、先日のテロで消息不明となっている。

 通常兵器が通じないシェードの怪人に対抗できる仮面ライダーがいない以上、仮に無数の警官を施設の警護に充てたとしても結果は変わらないのだ。

 だからこそ政府も国力を無益に損なわないために、「12月計画」に踏み切ったのである。

 

「――では、やはりなんとしても仮面ライダーを捜し出すしかありませんね」

「……」

 

 そのロビンの発言に、アウラはハッと顔を上げる。番場総監は、彼の言葉に無言で頷いていた。

 

 ――政府は積極的に被験者を抹殺することはできない。つまりテロさえ阻止してしまえば……シェードさえ倒してしまえば、政府はもう被験者に手出しはできないのだ。

 その鍵となる仮面ライダーを捜し出せば、政府に見捨てられた被験者達を救えるかも知れない。

 

 ロビンはアウラの証言を元に作成した書類を、番場総監の前に差し出した。彼はその書類に書かれた、仮面ライダーAPの正体に目を見張る。

 

「南雲サダト……1996年4月3日生まれ、20歳。城南大学医学部2年生。少林寺拳法四段、テコンドー五段。高校時代はテコンドー高校生世界選手権大会で三連覇。……しかし、若いな。こんな若者が今まで、体一つであの怪人達と渡り合ってきたというのか……」

「彼は今年の5月に行方を絶って以来、シェードとの交戦を繰り返しています。先日の事件現場からは彼の部品と思しき物も発見されましたが、『本体』は未だに発見されていません。……仮面ライダーGの行方はともかく。彼が死亡したと判断するのは、些か性急かと」

「わかった。……基本的には最重要機密事項として扱うが、ウチの捜査一課にだけは情報を共有させて欲しい。こちらも手を尽くして、彼を見つけ出す」

「了解しました。そちらの捜査一課には、派生組織『ネオシェード』を壊滅させた優秀な刑事もいらっしゃるとか。……その手腕に、こちらも期待させて頂きます」

 

 政府が被験者を殺すためにシェードを誘導しているなら、こちらもシェードを止めるために仮面ライダーを誘導するしかない。そのためにはまず、仮面ライダーの身柄を確保する必要がある。

 

 そのために動き出そうとしていた番場総監の前に、もう一つの書類がロビンから提示された。

 

「……番場総監。あなたはこちらも知りたかったのでは?」

「……そうだな」

 

 番場総監は二つ目の書類を手に取ると、苦々しい面持ちになる。

 

羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)……1948年8月15日生まれ、68歳。43年前に警視庁を退職、以後行方不明――か」

「現場に残されていたDNA情報が、ICPO本部のデータバンクと一致していました。あの重戦車に乗っていたという男に違いありません」

「羽柴先輩……」

 

 その名前を、番場総監はよく知っている。右も左も分からなかった新人の自分を、厳しくも優しく導いていた憧れの先輩警官――それが彼の記憶に残る、在りし日の羽柴柳司郎だった。

 

 しかし彼は汚職に塗れた警察上層部に絶望して、警視庁を去ってしまった。

 それを受け、若き日の番場惣太は彼のような警官を生まないため、質実剛健たる警視総監を目指して――今に至っている。

 

 正義を守る使命に燃えていた羽柴柳司郎は、シェードのテロリストに成り果て。彼の恩に報いるために正しい警察官僚であろうとした自分は、政府の虐殺計画に加担している。

 

 二人して、かつての理想からは程遠い自分になってしまっていた。その現実と改めて向き合い、番場総監は暫し目を伏せる。

 そんな彼の胸中を慮り、ロビンは彼が口を開くまで静かに待ち続けていた。

 

「……南雲サダト君を、何としても捜しだそう。――この男を、止めるためにもな」

「ええ。――その言葉を聞きたかった」

 

 そして彼は、袂を分かったかつての恩師を止めるべく。意を決して戦う道を選び、ロビンに片手を差し出した。

 その手を握り、日本警察とICPOに協力関係を結んだロビンは、この場で初めて微笑を浮かべる。

 

「……サダト様、どうか……ご無事で……」

 

 一方。アウラは両手の指を絡めながら、窓の外に映る青空を見つめていた。

 愛する男の、行方を求めるように。

 




 ちなみに羽柴柳司郎は本郷猛と同い年。
 原典「仮面ライダーG」の悪役達が「織田」だったり「徳川」だったりしたので、本作のラスボスは「豊臣」で行こうかなー、とも思ったのですが。
 さすがにどストレート過ぎかなー、ということで「羽柴」に決まりました。

 ちなみに今話で登場した「12月計画(ディッセンバープロジェクト)」は、原作漫画版「仮面ライダー」に登場した「10月計画(オクトーバープロジェクト)」を元ネタにしています。この「10月計画」も、日本政府に端を発する計画として描かれていました。


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第4話 異形の右腕

 ――2016年12月7日。

 東京都稲城市風田改造被験者保護施設。

 

 東京都稲城市と、神奈川県川崎市を跨ぐ県境に位置する、山の奥深くにひっそりと建つ保護施設。

 今となっては唯一の改造被験者用の施設となってしまったそこには、先のテロで破壊された渡改造被験者保護施設の収容者よりも危険性の高い被験者が集められている。

 

 能力が強過ぎて制御できていない者がほとんどであり、ここに入れられた者は社会復帰が困難であるとも言われていた。

 そのため専門の職員以外は立ち入ることが許されず、俗世からも離されている。

 

「……」

 

 窓の外から、森の向こうに広がる街並みを見つめる少女。番場遥花も、その一人だった。

 

 セミロングの艶やかな黒髪と、透き通るような色白の柔肌。そしてあどけなくも愛らしい顔立ちは、良家の子女としての気品を滲ませている。14歳としては肉体も発育しており、歳不相応に膨らみ始めた双丘が患者服を押し上げていた。

 

 ――だが、鍵爪のような機械仕掛けの右腕は、人間の手には程遠い。

 改造手術の最中に救出されていなければ、全身がこのようになっていたのかと、少女は右腕を見遣る度に戦慄を覚えていた。

 

(お父さん……)

 

 ゆえに彼女は思案する。いつか、父に会える日は来るのだろうか……と。

 

 ベッドの下に隠されているもう一つの「力」の存在も、彼女の不安を煽っていた。触れてはならない、その禁忌の力から目を背けるように。彼女は窓から窺える自然の景観に、目を向けている。

 

 能力を制御する訓練は続けている。初めは触れるもの全てを弾丸のように吹き飛ばしていたが、今では少し物に触れても亀裂が走る程度に収まっている。

 それでも常軌を逸する膂力であるには違いないが、ここまで力のコントロールに成功しているのは、この施設内では彼女だけだった。

 

 能力制御に失敗した影響で、施設内はあらゆる箇所に亀裂が走り、さながら幽霊屋敷のようになっている。壁に穴が空いているのは序の口で、天井も壁も壊れて部屋そのものが露出している場所まである。

 施設職員もたまにしか顔を出さない上に、業者も危害を恐れて寄り付かないため、今のような状態が続いているのだ。

 

「……!」

 

 ふと。外を見つめる遥花の視界を一瞬、何者かが遮った。

 慌てて窓から身を乗り出して下を見ると、若い男性が地面に倒れ伏している様子が伺える。

 

 飛び降り自殺、だった。

 

 だが、例え不完全でも改造人間。生身なら即死は免れない頭からの墜落でも、彼は即死できず苦しみにのたうちまわっている。

 なまじ生きているがゆえに、終わらない苦しみ。尊厳死という概念から縁遠い環境が生む歪さが、この施設の被験者達を蝕んでいた。

 

「……みんな! バカな真似はやめてっ!」

 

 すぐさま屋上に駆け上った彼女は、先ほど自殺した若者に続こうとしている十数人の男女を、必死に呼び止める。

 だが、誰一人耳を貸す気配はない。一人、また一人と、屋上の端へと歩み寄っている。生気というものが感じられない、虚ろな瞳で。

 

「……うるせぇよ。どうせ俺達ァ助からねぇんだ。一生ここから出られねぇし、行く先もねぇ」

「それに……ニュースでやってたじゃん。目黒区の施設が壊されて、みんな殺されたって。仮面ライダーもやられたって」

「じきにここもブッ壊されて、俺達も殺される。警察だって助けてくれやしねぇよ、今までだって仮面ライダー任せだったし。その仮面ライダーだって、もういねぇんだから」

「そ、そんなことないっ! お父さんは……きっとお父さんは助けてくれるっ!」

 

 そんな彼らに、被験者の中でも最年少の少女は懸命に生きる大切さを訴える。幼くして母を事故で喪った彼女は、残される家族の悲しみというものを身を以て学んでいた。

 だからこそ、このような状況に立たされてなお気丈さを忘れずに生きてきたのだが――「実状」は、そんな健気な少女にさえ牙を剥く。

 

「……へ。助けてくれるから、何だってんだ。家に帰してくれるのか? 人間に戻してくれるのか? 仕事はあるのか? 保証してくれんのか? してくれねぇだろ。散々死にたい目に遭わせておいて、死のうとしたら『死んじゃダメ』? ……ざっけんじゃねぇクソがぁあ!」

「なっ……!」

 

 遥花を怒鳴りつける男性の眼は暗く淀み、濁り果てていた。少女にとっては理解し難い、人間に出来るものとは思えないほどの「眼」。

 闇の奔流そのものと呼べる、その眼差しで射抜かれた彼女は、思わず硬直してしまった。

 

 その隙に踵を返した男性は他の者達と共に、屋上から身を投げて行く。

 

「だ、ダメぇぇええ!」

 

 何がダメなのか。死を選ぶことの何がいけないのか。それはもう、少女自身にもわからない。

 それでも、両親の愛情に育まれた彼女の心は、これを許してはならないと叫んでいた。理屈では止まらない力が、彼女を屋上の端へと突き動かしていた。

 

 滝のように次々と飛び降りていく被験者達。彼らは自らの死を願い、躊躇うことなく身を投じていく。

 頭部への衝撃は即死に至らないだけで致命傷には違いなく、半端な改造人間である彼らは一人、また一人と苦しみながら死んでいく。

 

 ――そんな中、ただ一人。

 

 どこか瞳に迷いの色を滲ませた女性が、屋上の端で立ち往生していた。

 

「あ、う……」

 

 生と死。その境界まで、あと一歩。

 待っているのは「解放」か、さらなる「苦しみ」か。死後の世界を知る由もない彼女は、未知の境地に希望を見るか否かに、揺れていた。

 

「なんだビビりやがって! オラ、もう終わりにすんぞっ!」

「ひっ……いいっ!」

 

 その時。後ろから進み出た男性が、強引に女性を突き飛ばす。

 女性の身体は宙を舞い、男性もそれに続くように屋上の向こうへと飛び出して行った。

 

 望まぬタイミング、望まぬ死。

 

 唐突にそれを突き付けられ、女性の悲鳴が上がる。

 

「きゃあぁあぁあっ!」

 

 重力に吸い寄せられ、地面が近づいてくる。風音が耳周りを吹き抜け、恐怖を煽る。

 もがいても生き延びてもどうにもならないと知りながら、それでも彼女は叫ぶのだった。

 

「間に合って……ッ!」

 

 だが、逃れられない死の運命に、警察官の娘は敢然と立ち向かう。遥花は屋上端に辿り着いた瞬間、改造された右腕の「力」を解放した。

 

 機械仕掛けの右腕――「ロープアーム」に取り付けられた鍵爪は、唸りを上げて彼女の腕から射出されていく。その爪と腕は、一本のロープで繋がっていた。

 一瞬にして、落下して行く女性の胴体に巻き付いたロープは、その身体を地面に激突する直前で食い止める。さながら、墜落すれすれのバンジージャンプのようだった。

 

 だが、助かったのはその女性一人。

 彼女を突き落とした男性を含む、他の被験者達は軒並み、自殺という本懐を遂げていた。

 

「あ、ありがっ……う、ぁ、あぁあぁんっ!」

「……大丈夫ですから。きっと、大丈夫……」

 

 所詮は気の迷いに過ぎず、本気で死ぬつもりはなかったのか。引き上げられた女性は、何歳も年下の遥花にしがみつくと赤子のように啜り泣いていた。

 そんな彼女の頭を抱き締め、母のように労わりながら。遥花は死を選んでしまった人々の骸を……骸の山を、哀しげに見下ろしている。

 その脳裏には、男性が訴えた奇麗事の脆さが焼き付いていた。

 

「……お父さん……仮面、ライダー……」

 

 頼みの綱は、果たして頼れるのか。生きたいと願う自分達に、救いの手を差し伸べてくれるのだろうか。

 

 懸命に、気丈に、前向きに生きる一方で。

 孤独に震える少女は、助けを求める言葉すら飲み込んでしまっていた。

 

 口にすればきっと、この緊張の糸は途切れてしまう。今まで耐え続けていたものに、押し潰されてしまう。無意識のうちにどこかで、その可能性に勘付いていたから。

 

(たす、けて……)

 

 だからせめて、心の内は。

 

 本来の、か弱い少女としての己に生きるのだ。本当の自分を、見失わないために。

 




 話の根幹に漫画版ストロンガーのオマージュが絡んでるので、遥花の能力は当初、電波人間タックルをモチーフにする予定でした。が、「中途半端な改造人間」という要素を強調したかったので、結局こういう感じに。
 ちなみに遥花の外見設定は、艦これに登場した艦娘「山城(やましろ)」と、「アカメが斬る!」のクロメがモデル。当初は「扶桑(ふそう)」をモデルとする姉を登場させる予定もありましたが、登場人物を最低限に抑えるため端折ることに。第3話でアウラが番場総監の対応に憤る場面は、元々そのキャラが務めていました。


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第5話 促された覚醒

 ――2016年12月9日。

 某所。

 

「ここも、静かになったな」

 

 薄暗い、とある研究室。電気一つ付けられていない闇の中で――羽柴柳司郎は、眼前の寝台で眠る「何か」を見下ろしていた。

 暗さゆえに全貌は見えないが、彼は「何か」の実態がわかっているようだった。

 

 ――しかし、それも当然のことだろう。それは、羽柴自身の手で造り出されたモノなのだから。

 

「織田大道も。ドゥルジも、博志も汰郎も。……清山も。最期まで俺に付き合った兵達までもが斃れ、もはやシェードは俺独りになってしまった」

 

 寝台に横たわる自分の作品を撫で、羽柴は独りごちる。

 

「その俺も、老いさらばえた。もはや、我がシェードに未来はない。我々の手で、これ以上新たな改造人間が生み出されることもない」

 

 やがて彼は撫でる手を止めると、背を向けるように踵を返した。その瞳は天井を仰ぎ――その先に在る未来を見つめている。

 

「……だが。俺達が築き上げた『改造人間』という技術を……清山が遺してくれた福音を、潰させるわけには行かん。そのためにも、俺達『改造人間』は絶対に『人間』の手で斃されてはならんのだ」

 

 歩み始めた羽柴は、扉を開け研究室の外へと踏み出していく。――その直前。

 一度だけ振り返った彼は僅かな間、最後の作品を見つめていた。

 

「『改造人間』を斃せるのは『改造人間』だけ。その前提を覆さぬためにもお前には、人柱になって貰う。その暁には、報酬として……」

 

 そして、彼は視線を前に戻して研究室を去り、扉を閉める。次に会う時は敵であると、袂を分かつように。

 

「……この俺の首を、くれてやる」

 

 ◆

 

 ――2016年12月10日。

 某所。

 

「……ハッ!?」

 

 あの瞬間から、目覚めて。

 

 南雲サダトが次に目にしたのは、薄暗い無人の研究室。寝台に寝そべった自分の両腕には、千切れた鎖が巻き付いていた。

 

「……! 俺はあの時……それに、これって……!」

 

 重戦車の砲撃に巻き込まれた瞬間から、自分は確かに意識を失っていた。間違いなく、あの時に自分は死んだものとばかり思っていたが――どういうわけか、まだ生きている。

 あれから施設がどうなったのかはわからないが、自分が敗れた以上……前向きな結果は期待できないだろう。それだけに、最も直撃に近いダメージを受けたはずの自分が生き延びていたことが、不思議でならなかった。

 

 だが驚かされたのは、その点だけではない。

 

 サダトは今、自分が寝ている寝台に見覚えがある。ドゥルジに誘拐され、「APソルジャー」に改造された時にも寝させられていた、改造手術を行うための特殊な設備だ。

 脳改造が不完全だった場合、暴走によって手術が中断されないように、この寝台には改造人間の膂力でも容易に千切れない特別製の鎖が備え付けられている。

 

 その、改造人間のパワーでも破壊できない拘束具が――自分の腕で、無残に千切られてしまっているのだ。

 ほんの、飛び起きた際の弾みだけで。

 

(……意識的に力を入れたわけでもないのに、対改造人間用の鎖がこうも簡単に……!?)

 

 サダトは半信半疑のまま、寝台に両手を着いて力を込める。――水に濡れたダンボールのように、寝台がひしゃげたのはその直後だった。

 明らかに、APソルジャーの……否、今までの改造人間のパワーから逸脱している。

 

(な……んだ、この力は!? それにこの格好……!?)

 

 原因が見えない異常なパワーアップ。その謎が解明されないまま、サダトは自分の身体を見下ろす。

 服装はあの時のままであり、すぐにでも外に出れる姿になっていた。しかも、ガラス状になっている床下には、整備された「アメノカガミノフネ」までこれ見よがしに配置されている。

 

(不自然過ぎる。見たところシェードのアジトのようだけど……人が全然いないし、まるで脱出するよう促されてるみたいだ。罠、か……?)

 

 拘束具を容易く破れるパワー。元通りの服装に、目に見える位置に置かれたアメノカガミノフネ。

 脱出のチャンスには違いないが、些か出来過ぎている。

 

 罠の可能性は非常に高い。考えられそうなのは、アメノカガミノフネにエンジンをかけた瞬間爆発――といったところか。

 

「……」

 

 サダトは訝しむような表情のまま、その力を活かしてガラス床を蹴破り、アメノカガミノフネの隣に着地する。

 そのまま車体のあらゆる箇所を点検したのだが――爆薬に当たるようなものは、最後まで見つからなかった。

 

(なんだ……? 本当に何もないぞ。一体、俺を捕まえたあの男は何が狙いで……)

 

 あの男――重戦車に乗っていた老境の軍人は、「改造人間の商品価値を証明する」という旨を主張していた。

 自分を強化改造した上で逃亡させることが、それに関係しているとでも云うのか――。

 

 答えは見出せず、サダトは暫し思案する。だが、やがて彼は結論を出せぬまま、アメノカガミノフネに乗り込みエンジンを掛けた。

 企みは読めないが、こうして立ち止まっているうちにも被害は拡大しているかも知れないのだ。とにかく今は、すぐにでも外に出て情報を集めるしかない。

 

(……渡改造被験者保護施設がやられた、としたら……次は風田改造被験者保護施設か。あいつは、政府に保護されている被験者を皆殺しにすると言っていた。……なんとしても、止めないと)

 

 仮面ライダーは、人間の自由と平和を守る正義の味方。例え正義が自身の味方でなかろうと、その歩みを止めるわけには行かないのだ。

 例え改造被験者であるとしても、罪のない人であるならば――その人もまた、ライダーが守るべき「人間」の一人なのだから。

 

 ◆

 

 ――2016年12月10日。

 東京都稲城市山中。

 

 アジトの壁を突き破り、アメノカガミノフネが飛び出した先には――夜景が広がる山道が待っていた。

 道無き道と林を超えた果てに辿り着いた、無数の輝き。大都会が創り出すその光の群れに、サダトは思わず目を細める。

 

(ここは……東京の稲城市! 施設のすぐそこか!)

 

 その景色から拾い上げた情報を頼りに、サダトは現在位置を素早く特定し――焦燥を露わに車を走らせる。

 アジトと施設がここまで近いなら、とうに風田改造被験者保護施設も破壊されているかも知れない。あの男がアジトを出払ったタイミングはわからないが、すでにあの重戦車が動き始めている可能性は十分に考えられた。

 

 サダトは頭の中にある地理情報をフル活用し、風田改造被験者保護施設に続く最短距離を走る。道路交通法にはそぐわない走りだが、人命には代えられない。

 

「……ッ!?」

 

 そして、木々の隙間を縫って道無き道を駆け抜け、施設に繋がる山中の一本道に出た瞬間――サダトの眼前を、眩い輝きが襲った。

 舗装された一本の広い道路。並木に囲まれたその道の向こうには――道路そのものを封鎖するかのように、数台のパトカーが横並びになっていた。

 

 警察が、風田改造被験者保護施設への道を完全に封じていたのだ。

 

(警察!? 警察まで施設に集まってたのか! くそっ、こんな時に……!)

 

 彼らは林を突き抜け、あり得ない方向から道路上に飛び込んできたアメノカガミノフネに猛烈なフラッシュを当てている。

 その光を腕で隠しながら、サダトは自分の浅はかさを悔いた。

 

 ――渡改造被験者保護施設が壊滅したなら、警察も次の狙いに予測を立てて網を張っているはず。

 そんな当たり前のことすら見落とすほど、サダトは焦っていたのだ。重戦車の行方を辿ることと、風田改造被験者保護施設の安否だけに思考を奪われていた。

 

(とにかく、一旦逃げて体勢を立て直すしかない! 警察と……「人間」とことを構えるのだけは御免だ!)

 

 この封鎖された道路の向こうにある、施設が無事がどうかはわからない。だが、このまま無理に押し入れば大なり小なり、生身の人間を傷付けることになる。

 今はただ、退くしかない。

 

 サダトはハンドルを切り、反対方向に急速旋回する。そして全力でこの場を離れるべく、アクセルを踏み込――

 

「サダト様ぁあっ!」

 

「……!?」

 

 ――む、瞬間。

 

 決して忘れられない少女の呼び声が、その足を止めた。

 

 幻聴か。罠か。

 

 そんな可能性がある、と危惧しつつも。サダトは思わず、振り返ってしまう。

 

「……ア、ウラ……!?」

 

 そして、彼が目を向けた先――フラッシュの中から。

 

 仮面ライダーとして戦うと決めたあの日に別れで約半年、会うことなど叶わないままだった、あの異星人の姫君が――溢れる涙を堪えることすら忘れて、こちらへ駆け寄ってきた。

 

 涙を流しながら、歓喜の笑みを浮かべる、その笑顔。それは間違いなく、サダトは人間に戻る道を絶ってでも護ろうとした少女。

 

 アウラ・アムール・エリュシオンだった。

 

 ◆

 

 ――2016年12月10日。

 東京都千代田区国会議事堂。

 

 真紅のカーペットを敷く、整然とした廊下を歩く二人の男。

 初老に差し掛かった彼らの一人は、歳を感じさせない筋肉質な体格の持ち主であり、傍らを歩く小太りの男とは比にならない背丈だ。

 

「議員。警視庁の番場総監が、例の保護施設の件で行動を起こしています。――噂では、あなたが手引きしているとの情報も」

「そうか。ま、言いたい奴には言わせておけ」

 

 脂汗を滴らせる小太りの男に対し、長身の男は涼しい表情で堂々とカーペットの上を歩んでいる。

 心配するようなことは何もない、と言いたげな彼だが、小太りの男の顔色は優れない。

 

「ここで本件との関係を明確に否定しなくては、内閣から報復人事を受ける可能性があります。ただでさえ、あなたは現内閣の政敵なのですから」

「政敵……政敵、か。ま、確かに俺は敵だろうよ。国民を私欲で切り捨てる手合いと仲良しごっこをやれるほど、俺は器用じゃねぇからな」

「そんな悠長なことを仰っている場合ではありませんぞ」

 

 まくし立てる小太りの男に対し、長身の男は飄々と薄ら笑いを浮かべる。そんな部下の反応も含めて、楽しんでいるかのような笑いだ。

 

「何をそんなに焦ってる。番場の奴は、パトロールの延長で捜査一課をうろちょろさせてるだけだろうが。直接、施設に警護のための人員を配置させたわけじゃない。あいつは閣僚に逆らっちゃいないさ」

「確かに形式上、施設周辺に警護の任務に就いた警官隊がいるわけではありません。ですが、内閣はいくらでもこじつけるでしょう。必ず番場総監は責任を問われます。その時に、背後にあなたまでいると知られては……」

 

 小太りの男は余裕を崩さない上司に、なおも言い募る。だが彼はその表情のまま、視線を外して穏やかな眼差しで、ここではない遠いどこかを見つめていた。

 

「ICPOもその件の裏を嗅ぎつけてる。今に報復の心配なんてなくなるだろうよ、当の内閣が悪事をバラされ空中分解するんだからな」

「その前にあなたが政界から追放されては、元も子もありません。現内閣の崩壊が先かあなたの失脚が先か……賭けにしてもリスクが高過ぎます」

 

 長身の男はあくまで自分の身を案じて、諫言を繰り返す部下を見つめる。その表情は――自分の政治家生命が消えかかっているにも拘らず。

 

「そんなこと、俺が知るか」

 

 豪快な若者のように、屈託のない笑みに満ちていた。

 




 議員が発した最後のセリフ。昭和ライダーに詳しい方なら、多分通じる……はず。


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第6話 過ち

 ――2016年12月11日。

 警視庁警視総監室。

 

 日本警察の中枢であるこの一室には、四人の男女が同席している。

 警視総監番場惣太。ICPO捜査官ロビン・アーヴィング。異星人の姫君アウラ・アムール・エリュシオン。

 

 ――そして、仮面ライダーAPこと南雲サダト。

 

 シェード最後の一人・羽柴柳司郎の虐殺を巡る問題の対処のため、彼らは一堂に会して顔を付き合わせていた。

 

「……そうか。そうだったんだな」

「サダト様……」

 

 そのためにはまず、情報の共有が優先される。ロビンの口からアウラが置かれていた状況や、改造被験者を巡る社会問題の暗部を聞かされ、サダトは脱力したようにソファに座り込んでいた。

 

 そんな彼の姿に、再会した喜びを噛み締めることさえ叶わず、アウラも胸を痛めていた。そばに寄り添い、慰めたいというのが本音であったが、自分が撒いた災厄のことを思うと、罪悪感から踏み出せない。

 

 己の罪の重さゆえ、何もできず立ち往生していた彼女を横目に見やりながら、ロビンはこの空気を打破するべく言葉を切り出して行く。

 

「実行したテロの内容から見て、次に狙われる対象が風田改造被験者保護施設であることは明白。君も防衛のため駆けつけて来るに違いない、と網を張っていたのが功を奏したということだ。策を練ってくれた捜査一課の(とまり)巡査部長には感謝しなくてはな」

「……警察は、あの男……羽柴柳司郎に対処するつもりはないんですか? ロビンさん」

「対処するつもりはない――か。番場総監の御気持ちを汲むなら、『対処できない』と言うべきだが……君にとっては、同じだろうな」

「……すまない」

 

 サダトの言及に、番場総監も深く頭を下げる。

 本来、何の義務もないはずの彼に戦いを押し付けた上、あまつさえ一部の世論に「改造人間の人権を脅かす大量殺人犯」というレッテルまで貼らせてしまった負い目から、番場総監はその地位に見合わぬほどに威厳を損なっていた。

 

「政府の圧力がある以上、警察も直接事件に介入することはできない。――が、別件をカモフラージュに間接的なサポートに徹することは可能だ」

「というと?」

「稲城市近辺のパトロールと称して、現在捜査一課を山道近くの麓を中心に展開させている。名目上は単なる巡回だから、政府も口は挟まない」

「……」

「……仮に、政府の圧力がなかったとしても警察や自衛隊の装備ではあの重戦車は止められない。一番可能性の高い君に頼らざるを得ないことには違いないだろう。それでも、奴を見つけるための『目と耳』にはなれる」

 

 憔悴した番場総監の姿を横目で見やりながら、サダトはロビンの話を聞き物思いに耽る。

 

 政府が改造被験者を見殺しにするつもりであること。警察もそれに逆らえないこと。――アウラの力を巡る醜い争いで、彼女の救済が水泡に帰していたこと。

 

 何もかもが不条理で、救い難い話ばかり。自分を治すことを最後に、治療を切り上げて星に帰るというアウラの意向にも、反論できない程の有様。

 

 そんな絶望的な状況ではあるが――それでもまだ、抗う人間は確かにいる。

 世の不条理に立ち向かい、戦っている人間が。

 

(……それなら、俺は)

 

 やがて彼はソファから立ち上がると、不安げなアウラの貌を見遣る。

 地球人への愛情ゆえ、その救済のために己の秘術を行使した彼女に待ち受けていた、俗物達の妄執。全ての献身を台無しにする、その行いに傷つきながら、それでもここまで来た彼女の胸中は、察するに余りある。

 元々自分は、彼女を守るために仮面ライダーの道を選んだ。なら、やるべきことは一つ。

 

「……わかりました。索敵はあなた達にお任せします。奴は……必ず、俺が倒してみせる」

「サダト様……!?」

 

 その宣言に、ロビンと番場総監は揃って息を吐き出し胸を撫で下ろす。彼が戦意を喪失した場合、確実に次のテロで大量の死者が出るのだから当然なのだが。

 

 一方で、アウラはこれほどの無情さを突き付けられてなおも戦おうとする彼の姿勢に、驚愕を隠せないでいた。

 

 地球人を救う救世主気取りで災厄を撒き散らした自分のために、彼自身までもが化物扱いされているというのに。自分達の「正義」を、どこまでも「世界」に否定され尽くしたというのに。

 

 ――その眼は、まだ死んでいなかったのだ。

 

「……アウラ」

「……は、はい」

「今まで、君一人に辛いものを背負わせてきて、済まなかった。これは俺自身で決めたことだったけど、それでも君には辛かったんだと思う」

「……」

「本当なら、ここで今すぐにでも終わりにするべきなんだと思うよ。だけど今はまだ、待っていて欲しい。人間に戻る前に、俺にはやらなくちゃいけないことがある」

 

 勇ましくも、どこか儚い。そんな横顔を見つめるアウラは、不安げに瞳を揺らして袖を握り締めた。

 

「でも……でも! 私、正しくなかったんです! 私は人々のためにと、信じてここまで来たけれど……全て間違いだった! 過ちだった! あなたが仮面ライダーになってしまったのも、『過ち』なんです! そんな過ちのために、あなたがこれ以上傷つくなんておかしいっ!」

 

 その手を離さず、アウラは嗚咽と共に訴える。

 自分の行いが過ちだと認めれば、そんな自分を支えるために剣を取ったサダトさえ「過ち」だったということにしてしまう。

 だが、それでも「過ち」のために愛する人を喪うようなことだけは、避けねばならない。それが、アウラの胸中に渦巻く焦燥となっていた。

 

「……アウラ。確かに俺達は、間違っていたのかも知れない。人を守るために戦うことも、改造人間の体に苦しむ人を救うことも。全部、『過ち』だったのかも知れない」

「……」

「けど。君がいたから、救われた命はある。君がいたから、俺が護れた未来がある。振り撒いたのが不幸ばかりだったからって、その『過ち』で救われた少ない幸せまで、否定したくはない」

「……!」

「俺は最後まで戦うよ。君が、今日まで進んできた道を信じて。だって俺が信じなきゃ、君が救ってきた人が生きてることも『過ち』にされちゃうもんな」

 

 南雲サダトを人間に戻す――それを最後に地球人への施術から手を引き、故郷の星へ帰る。それがアウラの選択だった。

 サダトはその決断を責めはしなかったが、今すぐに人間に戻ることを良しとせず。あくまで、シェードを完全に潰して「人類では対処できない、強力な改造人間」がこれ以上増やされない措置を優先する。

 それが、彼にとっての為すべき最後の使命だった。

 

「……ロビンさん、番場総監。羽柴柳司郎を止めるためにも……終わらせるためにも、力を貸してください。『過ち』だけで、俺達の戦いを終わりにしないために」

「是非もない。すでに風田改造被験者保護施設では、現状に絶望した被験者の自殺が相次いでいる。このまま護るべき者がいなくなっては、我々ICPOも正真正銘、張り子の虎だ」

「重戦車の破壊行為をこれ以上看過しては警察のみならず、政府の沽券にも関わる。奴の影響が保護施設に収まる保証など、ないのだから……」

 

 協力を求めるサダトに、ロビンと番場総監も深く頷く。あらゆる物理的障害を打ち破るあの重戦車を阻止するには、仮面ライダーの力を最大限に発揮させるしかないのだ。

 

「捜査一課以外からも、パトロールを増員させよう。彼らに全ての真実は明かせないが、今は一人でも多くの『目』が欲しい」

「実態が見えない仮面ライダーに協力することについて、抵抗のある警官もいるでしょう。――『仮面ライダーは警察が開発した対改造人間用特殊装備であり、機密保持のため警視庁主導のもと事実を隠匿していた』と公表し、世論を仮面ライダーの味方に付けることを進言します。まずは現場の警官に『仮面ライダーは間違いなく味方』であると納得させる必要があるかと」

「そうだな……。現場の警官隊には、私から伝えておく。アーヴィング捜査官には現地での指揮を頼みたい」

「了解しました」

 

 番場総監とロビンは速やかに今後の対応を定め、重戦車の出現に備えるべく動き出す。そんな二人を一瞥した後、サダトはアウラの方に向き直り――微笑を浮かべた。

 

「……な。間違いだけじゃない。正しかったかどうかなんて、まだわからないんだ」

「サダト様……」

「せめて、最後に君に見せたい。シェードがいない――仮面ライダーなんていらない、平和な世界を。絶望だけを背負わせたまま、君を星に帰したくは、ないから」

 

 その口から出た言葉は。アウラが心の奥底で求めていながら、決して口にできない願いでもあった。

 無意味には終わらせない。悲劇だけにはさせない。その確かな決意を秘めた眼差しが、正義を失った聖女を射抜く。

 

 全ての力も肩書きも残らない、ただの少女としての彼女が、その胸で啜り泣いたのは、その直後であった。闇を内に秘め続け、瓦解寸前だった精神は遂に決壊し、濁流のように溢れ出す感情だけが彼女を慟哭させる。

 

 嘆きとも感涙ともつかない、その雫を拭いながら。彼はただ、何よりも護りたかった少女の体を、その胸に抱き寄せていた。

 

 そんな彼らの様子を、金髪の美男子は静かに見守っている。

 

(……妹の恩人である彼らに、私は何一つ報いることが出来なかった。そればかりか……その絆を引き裂こうとまでしている。……この私も含め、救い難い限りだな……人類という生き物は)

 

 人類の平和のために戦っていたはずの彼らは、その人類に裏切られ――それを知りながら今、再び立ち上がろうとしている。

 

 それに対し、大恩があるはずの自分達は全てを知りながら、直接加勢もしないばかりか二人を永遠に引き裂こうとまでしている。

 

 これ以上、愚かな話が果たしてあるだろうか。

 

(だが、それでも私は……こうするより他はないのだ。彼女自身が願った人類の平和のためには、こうするしか……!)

 

 その罪深さを知ってなお、ロビンは是非もなく咎人の道を突き進む。彼女の願いを、在るべき姿に僅かでも近付けるには、これ以外に手段がないのだから。

 

(全ては、我々の弱さ故……。それでも――今は、願うしかない)

 

 番場総監もまた、同じ心境であった。愛する娘を、迫る死の運命から救うため。彼は覇道と知りながら、その道に片足を踏み入れる。

 

(今の我々に出来ないことを……君達がやってくれ)

 

 ◆

 

 ――2016年12月12日。

 東京都稲城市山中。

 

 寒風が吹き抜ける曇り空の下。風を浴びて揺れ動く無数の葉が擦れ合い、さざ波のような音が絶えず林の中に響いている。

 

 その木々に囲まれた地上は落ち葉に覆われ、土に還らんとする自然の摂理が、枯れた葉を無の境地へと導いていた。

 

 ――しかし。その大自然を脅かす侵略者は、唐突に現れる。

 

 落ち葉が舞い、土砂が飛び散り、天を衝くように根と葉が噴き上がる。さながら、噴火のように。

 

 衝撃音と共に地中を破り、外界へ乗り出したその物体――白塗りの重戦車は、キャタピラで地上へと乗り上げて行く。

 その様子はまるで、地の底から蘇った怪獣のようであった。

 

(……いよいよ、この日が来たか。俺が本来の性能を維持出来る、最後の日。今日を生き延びたとしても、俺の命は燃え尽きた蝋燭のように消えゆくしかない)

 

 ハッチを開け、車上から曇り空を仰ぐ羽柴柳司郎は、己の68年に渡る人生を振り返るように、感慨深げに目を細める。若き日に生身を捨てて以来数十年、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として世界各地を転戦してきた彼の躰は、錆び付いた機械のように軋んでいた。

 

(あの小僧の意識が戻るタイミングは予想より少々早かったが……まぁ、いい。おかげで奴も、「新しい体」を慣らす時間を稼げただろう)

 

 やがて彼は、視線を正面に戻す。見渡す限り、木枯らしが吹き荒れる林ばかりだが――この道無き道を突き抜けた先に、最後の標的が待っていることを羽柴は知っている。

 風田改造被験者保護施設。その最終目標を。

 

(あの施設を破壊し、被験者共を皆殺しにすれば、俺の役目もようやく終わる。地獄の底で、清山も待っているだろう)

 

 ――捜査一課を含む警察の厳戒態勢は、羽柴も察知していた。日本政府の圧力に屈することなく、別件のふりをして網を張り巡らせる、この対応。

 羽柴は、かつての後輩が決めた覚悟の強さを、改めて実感していた。

 

(番場。腰抜けだったお前も、ようやく一端になったらしいな。……だが、残念ながら無駄なことだ。いくら策を弄したところで、警察の力では改造人間は止められんよ)

 

 だが、いかに手を尽くそうと警察の対応力では改造人間を止めることは出来ない。ましてや相手は、シェード最古参の古強者なのだ。

 仮に政府の圧力がなかったとしても、施設の命運は変わらなかっただろう。

 

(じきに俺も奴に消されるだろうが、それは施設を潰した後だ。奴も俺を捜し出す前に、俺はやるべきことを――!?)

 

 ――だが。羽柴が想定していたのは、そこまでだった。

 

 仮面ライダーと警察が共同戦線を張っているとまでは、気づかなかったのである。

 

「まさか、な……!」

 

 不敵な笑みを浮かべて、イレギュラーの出現を出迎えた羽柴の視線の先には――アメノカガミノフネに乗り、羽柴と相対する南雲サダトの姿があった。

 さらにその頭上では一機のヘリが上空を舞い、林の中に猛風を巻き起こしている。その中から鋭い眼差しで――ロビン・アーヴィングが、重戦車を射抜いていた。

 

 警察は上空から発見した情報を、ダイレクトにサダトへ伝えていたのである。

 

「……警察と組んでいたとはな。予想以上の回復力といい、つくづく計画を乱してくれる小僧だ」

「……貴様は、もう独りだ。俺も似たようなものだけど……少し、違う」

「そうかも知れんな。して、その違いを如何に証明する?」

「――決まっているだろう」

 

 サダトは、手にしたワインボトルをベルトに装填する。ボトルのラベルには、「比叡(ひえい)」としたためられていた。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

「独りでは届かなかった力。それを、ありったけ叩きつけるッ!」

 

 そして、電子音声と共に。彼はタクトを振る指揮者のように滑らかな動きで、左手の人差し指と中指で「a」の字を描くと――最後に、その指先を顔の正面に立てた。

 

「変身ッ!」

 

 その直後。サダトはベルトのレバーを倒し、ワインボトルから迸る黄色のエネルギーラインを、漆黒の外骨格に循環させていく。

 さらに彼の両腕には、「7.7mm機銃」が装着された。高速戦艦「比叡」の武装の一部である。

 

(比叡……鎮守府の皆。一緒に戦ってくれ!)

『HIEI! WE'RE GONNA KILL THIS!!』

 

 やがて変身シークエンスの完了を告げる音声が、曇り空の彼方へ鳴り響く。白マフラーを靡かせ戦場に君臨する、本来の「APソルジャー」ではあり得ない形状に……羽柴は口元を不敵に緩めた。

 

『シェードのデータにない形状の仮面ライダーか。……面白い!』

「貴様の思い通りにはさせない。全て、ここで終わらせる!」

 

 そして羽柴がハッチの下へ潜り込み、重戦車「タイガーサイクロン号」を起動させる瞬間。サダトもハンドルを握り「アメノカガミノフネ」のエンジンを噴かせる。

 

 最初の改造人間と、最後の改造人間。

 

 天地を隔てる二人の男が、雌雄を決しようとしていた。

 



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第7話 覚悟と銃声

 ――2016年12月12日。

 東京都稲城市風田改造被験者保護施設。

 

 あれからも収容者の自殺が相次いだ同施設内において、今も命を繋いでいる被験者は僅か数名となっていた。

 その一人である番場遥花は、この状況に立たされてなおも、気丈に振舞っている。昨日に父から励ましの電話を貰っていた彼女は、生きる希望を捨てずにいた。

 

「もう、ダメね……私達。なんで……なんでまだ、生きてるんだろう」

「大丈夫よ! あんな戦車一台くらい、お父さん達がきっと何とかしてくれるから……だから諦めないでっ!」

「あなた……元気でいいわね。でも、もう無理に気張ることもないんじゃない? どうせ私達、助かりっこないのよ?」

「そ、そんなのわからないよ! わからないまま、私は諦めたくない!」

 

 死を目前にしてなおも屈しない少女。生き地獄に等しいこの施設の中で、彼女の生気に溢れた眼差しは一際輝いていた。

 

 ――実のところは、遥花自身も深い不安や恐怖に飲まれかけている。それでも、父の言葉を信じて戦うことを、諦め切れずにいたのだ。

 

「……っ!?」

「きゃあっ! 何、一体!?」

 

 だが、シェードの暴威はさらに彼女に試練を課す。全てを穿つような轟音が、亀裂だらけの施設を激しく揺らした。

 地震と誤解しかねないほどの揺れに、さしもの少女も悲鳴を漏らす。

 

 焦燥を露わに、音の行方を辿り窓から身を乗り出す彼女の眼には――けたたましく林の中から噴き上がる爆炎と土埃、そして根元から吹き飛ばされた無数の木が映されている。

 

 しかも。爆発により舞い飛ぶ木の群れは、こちらに向かい降り注いでいた。

 

「みんな伏せてぇっ!」

 

 状況を理解した遥花が、叫ぶよりも速く。木々が崩壊寸前の施設にのし掛かり、あらゆる箇所の亀裂が限界を迎え始めた。

 死を受け入れる態度であり続けても、やはり本心では恐れていたのか。眼前に突如舞い込んできた脅威に、生き残った被験者達は阿鼻叫喚の渦に飲まれる。

 

 崩れ落ちた天井に押し潰され、一人、また一人と命を絶たれ――とうとう生き残りは、遥花を含めて片手の指に収まる人数となってしまった。

 

「く、うぅっ……!」

 

 僅かに生き延びた被験者達も、もはや死期が近いと確信し、逃げ出すどころか床にへたり込んでしまっている。

 立ち上がって走り出さなければ、確実に死ぬ状況だというのに。誰もその場から、動こうとしない。

 

 そんな同胞達の、生気が絶え果てた瞳を一瞥し。遥花は唇を噛み締め、自分の部屋へと一目散に駆け出した。

 崩落して穴だらけになっている床を飛び越し、いつも自分が寝ているベッドの下に手を差し込む。

 

 そこから引き出された手には――金色の複眼を持つ、仮面ライダーGと瓜二つのマスクが握られていた。

 

(……右腕の「力」だけなら、まだしも。この「力」にまで、頼るのは絶対に嫌だった。この異形が、お母さんから貰った体から……遠のいて行くのを感じてしまうから)

 

 左手に抱えたマスクと正面から向き合い、彼女は自分が目を背けてきた「異形の証」と対峙する。

 

 亡き母から貰った体が、悪の手で異形に変えられたこと。

 その事実を右腕以上に強く思い知らせる、この仮面は――遥花にとって何よりも直視し難い「もう一人の自分」だった。

 

(でも……これ以上、何も悪くない人達が死んでいくなんて……絶対に許せない! 許してお父さん、みんなのためにっ!)

 

 だが、それ以上に。

 自分と同じ境遇に思い悩む人々が、絶望のまま死んでいくことの方が。そんな彼らに、何一つできないことの方が。

 彼女にとっての、耐え難い生き地獄なのだ。

 

 少女は勇ましく目元を釣り上げ、表情を引き締める。やがてその覚悟の赴くまま、マスクを被るのだった。

 ――禁忌の力。その境地のさらに向こう側へ、「変身」するために。

 

 刹那。

 

 マスクを中心に閃く紅い光が、少女の肢体を包み込み――全身にぴっちりと密着した黒の外骨格へと変貌していく。

 豊満な胸により内側から押し上げられている「G」の形を描いたプロテクターや、複眼を囲う同じ形状の意匠は、仮面ライダーGと酷似した外見となっていた。

 

 ただ、全ての外見がGと一致しているわけではない。

 

 歳不相応に発育した双丘を含む、彼女の女性らしいプロポーションを露わにしたボディスーツ。頭部を含む体の大部分を、その外骨格や仮面で覆い隠している一方で、ただ一つ露出している口元が、人間としての「番場遥花」を証明しているようだった。

 黒のスーツとは対照的な、口元から窺える雪のように白い肌と薄い桜色の唇が、一際「人間」らしい美貌を強調している。

 

 そんな「改造人間」と「人間」の狭間を彷徨う少女は――仮面の戦士としての「もう一つの名」を、シェードから与えられていた。

 

「みんな、待ってて! もう誰も……誰も死なせないからっ!」

 

 だが、当の少女はその名を知らない。彼女はあくまで、ただの番場遥花として。この戦場に立ち上がるのだった。

 

 「変身」を終えた遥花は素早く病室を飛び出すと、生き残った被験者のそばへと駆け付ける。

 そして、彼らの頭上に迫る瓦礫を、ハサミのような形状に変形した右腕――「パワーアーム」で、粉々に打ち砕くのだった。

 

「……! あ、ぁあ……!」

「みんな、遅れてごめん。仮面ライダーのようにはいかないけど……それでも、みんなは私が守るからっ!」

 

 ――番場遥花はこのマスクを付けることによって「ライダーマンG」となり、手術した腕が電動しアタッチメントを操ることができるのである。

 

 ◆

 

 ――2016年12月12日。

 東京都稲城市山中。

 

 木々をなぎ倒し、矢継ぎ早に主砲を放つタイガーサイクロン号。その猛攻を、並走するアメノカガミノフネは絶妙にかわし続けていた。

 その真紅の車体は絶えず重戦車の巨体に、体当たりを繰り返している。九五式小型乗用車でタイガー戦車を相手にカーチェイスを仕掛けるなど、本来なら自殺行為以外の何物でもない。

 

 ……が、その車体に詰められた圧倒的質量は、タイガーサイクロン号の超弩級の体格にも屈しないほどのパワーを秘めている。

 南雲サダトが異世界で獲得した「大和級の艤装」の質量は、この世界の地球上に存在するあらゆる物質に勝る超重量を誇っているのだ。

 

 主砲の破壊力に対して、「7.7mm機銃」の威力はあまりに頼りない。しかし、アメノカガミノフネによる体当たりは、確実にタイガーサイクロン号を仰け反らせていた。

 機銃による車体へのダメージは軽微であるが、砲撃を掻い潜りながらしきりに繰り返してきた体当たりの成果は、ひしゃげた装甲に大きく顕れていた。

 

『ク……フフ。まさか、そんな小さな車にそれほどのパワーがあったとはな。機銃だけなら何とでもなっただろうが……』

「死にたくなければ戦車を捨てろ!」

『生憎だが、年寄りに死を迫っても脅しにはならんよ。お前に殺されるのは構わんが――それは不要なガラクタを処分してからだ』

「ガラクタだとッ……! それを創り出したヤブ医者風情が、よく云うッ!」

 

 サダトの怒声に怯む気配もなく、羽柴はさらにタイガーサイクロン号を加速させていく。まるで、彼を振り切ろうとするかのように。

 

 急加速で僅かに間合いを離した瞬間。

 後を追うべくアクセルを踏み込もうとしたサダト目掛けて、砲身が後方へ旋回していく。

 

「……!」

『悪いが、先に行く。俺が憎いなら、口先よりもその御立派な機銃で語ることだな』

 

 咄嗟にハンドルを切り、軌道を逸らしたサダトの側を、砲弾が轟音を上げて横切った。その風圧で、白マフラーが激しく揺らめく。

 

 タイガーサイクロン号はその砲撃による反動さえ利用し、さらに加速していく。

 一方、回避行動により僅かにスピードを殺されたサダトは、焦りと共にアクセルをフルスロットルまで踏み込んだ。

 

「くそッ! 俺を殺すより、施設のみんなを殺す方が優先なのか!?」

 

 サダトとしては羽柴を挑発し、注意をこちらに引き付けることが狙いだった。しかし当の羽柴は誘いに乗らないばかりか、逃げるように施設目掛けて爆走している。

 邪魔者の排除より、殺戮を優先しているようだった。仮面ライダーを後回しにしてまで施設の破壊に拘る真意は読めないが、いずれにせよ彼の野望を達成させるわけにはいかない。

 

 サダトも全力でアメノカガミノフネを走らせ、一気に追い上げていく。地形が安定しない林の中を跳ね回りながら、その赤い車は瞬く間に戦車の隣に舞い戻ってきた。

 

『ちっ……聞き分けの悪い小僧だ。なら、まずはその「足」を頂いておくとするか!』

 

 羽柴は一瞬舌打ちした後、砲身をアメノカガミノフネに向ける。妨害を繰り返すサダトへの対処として、その移動手段である車を潰すことに決めたのだ。

 

(――今はまだ計画のためにも、殺すわけにはいかない。まずは、奴の動きを封じねばな)

 

 だが。

 アメノカガミノフネは、その照準を振り切るようにさらに加速し――砲身の回転が間に合わないほどのスピードで、タイガーサイクロン号の斜め前方に回り込んでしまった。

 

『……ほう? 的になりに来るとは、奇特な小僧だな』

(照準は奴の方が遥かに手慣れてる、逃げ回れるのも時間の問題。……それに決定打が打てないまま、この調子でいつまでも走ってたら……奴を施設の目前まで案内してしまう。手を打つなら、今しかない)

(施設に辿り着かれてしまうことを恐れる余り、焦り出したか。あるいは、そう思わせるための演技か。……面白い、ならば乗ってやろうではないか。お前に何ができるか、何が守れるか。この老いぼれに篤と見せてみろ)

 

 だが、ただ撃たれるために正面近くまで追い抜いたわけではない。彼は、早期に決着を付けるべく「賭け」に出たのだ。

 それを知ってか知らずか、羽柴は敢えてその「誘い」に乗り、照準を前方付近で走り続けるアメノカガミノフネに定めた。

 

 ――それから間も無く。タイガーサイクロン号の砲弾が唸りを上げ、撃ち出された。

 

 高速で道無き道を駆け抜ける赤い車を、その破壊の申し子は一瞬にして鉄塊に変える。

 

 命中を告げる爆炎と黒雲が、羽柴の視界を封鎖した。

 

(……この手応え。やはり、あの車は間違いなく撃破したようだな。……見込み違いとは、俺らしくもない)

 

 黒雲の外へ飛び散るタイヤや赤黒い鉄塊を見るに、アメノカガミノフネが破壊された事実は明白。やはり、焦りから出た無謀な行為だったのか。

 

「……フゥ」

 

 計画の邪魔者がなくなったことへの安堵か。これしきのことで「足」を失った南雲サダトへの失望か。あるいは、その両方か。

 羽柴はタイガーサイクロン号の中で、深くため息をつく。

 

 ――その時だった。

 

『FINISHER! VOLLEY MACHINE GUN!』

 

「……なにッ!?」

 

 黒雲の向こうから突如響き渡った、電子音声。その音の「方向」に驚愕し、羽柴が操縦席の背もたれから身を起こす瞬間。

 

 ――黒雲を裂くように。タイガーサイクロン号の正面に、仮面ライダーAPが出現した。両手の機銃を、こちらに向けて。

 しかもその銃口には、すでに黄色いエネルギーが溢れんばかりに集中している。間違いなく、破壊力を一点に集中した「必殺技」の体勢だ。

 

 サダトは撃たれる瞬間にアメノカガミノフネを乗り捨て、爆炎をカムフラージュにしつつ、空中から必殺技でタイガーサイクロン号を撃ち抜くつもりだったのだ。

 

(あの車は、こちらに撃たせて隙を作るための捨て石か。確かに見事な作戦だが――詰めが甘いぞ小僧、タイガーサイクロン号の次弾装填は自動式。次の瞬間にはさしものお前でも――)

 

 だがタイガーサイクロン号の装甲には、サダトの機銃を凌ぎ続けてきた実績がある。

 唯一の脅威だったアメノカガミノフネも破壊された今、これまで通じなかった機銃で必殺技を放ったところで、大した決定打には至らない。

 その攻撃を凌いだのちには、こちらの砲撃が待っている。どのみち、サダトにタイガーサイクロン号を破壊する力はない。

 

 そう、彼は思っていた。その慢心こそが、サダトが狙い続けていた隙であるとは気づかずに。

 

(――!? まさか、狙いは……!)

 

「スワリング――ライダーシューティングッ!」

 

 銃口から溢れ、濁流の如く連射される金色の弾丸。黄金の輝きを纏う鉛の奔流が、流星群となって銃口から飛び続けていく。

 

 その全てが――タイガーサイクロン号の「砲口」へ撃ち込まれていた。細長い筒の奥で、出番を待ち続けていた「次弾」目掛けて。

 

『――ウオォオオオオオォォオッ!』

 

 自動で装填されていた次弾は、砲身の中を突き抜けて車体の中へ入り込んだエネルギー弾で誘爆し、炎上。

 タイガーサイクロン号は内側から火の海となり、中に搭乗していた羽柴を飲み込むほどの爆炎に包まれて行く。

 羽柴の絶叫が車体の中から轟いたのは、その直後だった。

 

「ぐあぁあッ!」

 

 タイガーサイクロン号の起動系統は死んだ。しかし、だからと言って今まで猛進していた超弩級の鉄塊が、急に止まるわけではない。地球には、慣性というものがある。

 

 内側から蒸し焼きにされながら、ただ慣性だけで走る鉄屑と成り果てたタイガーサイクロン号に正面から追突され、サダトのベルトに装填されていたボトルが割れてしまった。

 そこを中心に黄色いエネルギーが外部に漏れ出して行き――サダトは追突された格好のまま、変身を解かれ生身の姿に戻ってしまう。

 

「……あぁあぁあぁああッ!」

『ゴォアァアァアァアアッ!』

 

 そして、互いに絶叫を上げながら。

 

 サダトと羽柴は、その状態のまま林を抜け――風田改造被験者保護施設へと、辿り着いてしまうのだった。

 

「があっ!」

 

 施設の門前に激突した瞬間、サダトは車体から弾き飛ばされ……羽柴を閉じ込めていたタイガーサイクロン号は、跡形もなく爆散する。

 

 爆炎と黒煙が施設周辺を飲み込み、辺り一面は火の海と化した。さらにこの衝撃が影響し、施設の崩壊はさらに進行している。

 

 この世の果てとも言うべき、この地で今。

 

 全ての戦いに、決着が付こうとしていた。

 



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第8話 青空になるまで

 ――2016年12月12日。

 東京都稲城市風田改造被験者保護施設跡。

 

 施設のほとんどが瓦解し、建物としての体裁を成していない風田改造被験者保護施設。その廃墟同然と化した建造物らしきものの近くには、タイガーサイクロン号の残骸が散乱している。

 さらに辺りには火の手が上がり、黒煙が絶えず昇り続けていた。

 

「ぐ、う……!」

 

 その渦中である敷地内の庭園。そこに倒れていたサダトは、混濁しかけていた意識を持ち直して何とか立ち上がる。

 

「……ぬ、ぁ……」

 

 一方、それと同時に――黒ずんだ鉄塊の蓋を開け、羽柴も身を乗り出してきた。

 噴き上がる黒煙の中から現れたその姿は、蒸し焼きにされた影響であちこちが焼け爛れ、さながらゾンビのようになっている。

 

 ボロボロになったトレンチコートを脱ぎ捨てシェード特有の迷彩服姿になった彼は、歪に焼け爛れた面相のまま庭園の上へ降りてきた。

 彼が黒の軍靴で踏んだ草花が焼け落ち、黒ずんだ炭になっていく。彼がそこに存在しているだけで、この地の自然は焼き尽くされようとしていた。

 

 例えるなら、この世の最果て。そんな戦場の中心で再び相対した二人は、満身創痍のまま睨み合う。

 

「……詫びねばならんな。貴様を見くびっていたことに」

「詫びというものを知る頭があるなら、さっさと降伏しろ」

「降伏、か。俺がもし人間だったなら、それも有りだったのかも知れん」

「……」

 

 自嘲するように嗤う羽柴は、懐から一本の酒瓶を取り出した。

 昭和時代の日本酒に使われる、その瓶には――達筆で「八塩折(ヤシオリ)」としたためられている。

 

 それに呼応するように、サダトも懐からワインボトルを引き抜いた。比叡達から貰った力は、先程の追突で失われている。

 もう彼には、この一本しか残されていない。

 

 だが、そのボトルには――「GX」という見知らぬ字が刻まれていた。そんなボトルは、サダトは使ったことがない。

 

 しかし彼は、直感でそれが何の力を秘めたボトルなのかを見抜いていた。

 強化改造され、目覚めたあの日から自分が持っていた、この力。

 

 これこそが、今の自分の「新しい体」の力を完全に引き出す鍵なのだと。

 

「ようやく、俺の餞別を使う気になったか」

「貴様のモノを使うのは癪だが、他にアテもなくてな」

 

 羽柴は迷彩の上着を、サダトは黒のライダースジャケットをはだけて、その下に隠されているベルトを露わにする。

 

 互いのそれは一見同規格のようにも見える形状だが、羽柴のベルトは木製と見紛うようなカラーリングとなっていた。日本酒を模した起動デバイスに合わせたデザインとなっている。

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍。世界は、その真理に対しては実に正直だ。お前に如何程の大義があろうと、ここで俺に屈せば賊軍の徒労に終わろう」

「……終わりじゃない。俺と同じ理想を抱えている人がいる限りは……まだ終わらせない」

「ならば検証してみるか。お前の正義が、いつまで持つか!」

 

 そして両者は同時に、ベルトにそれぞれの起動デバイスを装填した。ワインボトルと酒瓶が同時にベルトに収まり、電子音声が流れ出す。

 

『SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

 

(ワレ)、コレヨリ変身(ヘンシン)セリ。(ワレ)、コレヨリ変身(ヘンシン)セリ』

 

 軽快なサウンドと共に流れるサダトの音声に対し、羽柴の方は野太く重苦しい音声が轟いていた。さながら、怨嗟の声である。

 

 続いて、両者は同時に変身のための動作に入った。

 

 サダトはタクトを振る指揮者のように滑らかな動きで、左手の人差し指と中指で「a」の字を描くと――最後に、その指先を顔の正面に立てた。

 

 一方、羽柴は剣を上段に構えるように両手の拳を天に掲げ、青眼の構えのように顔の正面へゆっくり下ろしていく。

 

「変身ッ!」

 

「……変身!」

 

 その動作が終わる瞬間、二人は「変身」のコールと同時にベルトのレバーを倒した。双方のベルトに装填されているワインボトルと酒瓶が反応し、その内側に秘めたエネルギーを持ち主の全身に循環させていく。

 

 そうして、サダトの全身を漆黒の外骨格が覆い尽くして行く。だが、その姿は従来の仮面ライダーAPからは逸脱した外見に変化していた。

 

 金色の複眼を囲う意匠は師と同じ「G」の字となり、胸のプロテクターは真紅の「X」となっている。さらに両肩には鋭利に突き出た紅蓮の肩鎧が装備され、その左右両端に「A」と「P」の字が刻まれていた。

 風に揺れる純白のマフラーは、その武骨な甲冑姿に見合わない優雅さを漂わせている。

 

 それだけではない。彼の手には、これまで使っていた「P」字型の柄から伸びる片手剣ではなく――「G」の形の柄から伸びた大剣が握られていた。

 「破邪大剣GXキャリバー」である。

 

 ――これこそ、羽柴の手で強化改造された南雲サダトの、「新たな体」の実態。

 「仮面ライダーAP-GX」なのだ。

 

 一方。

 

 羽柴の方も、酒瓶から迸る金色のエネルギーを浴びて真の姿へと変身していた。

 

 曇り空の下に立たされてなおも眩い煌きを放つ、黄金の甲冑。

 黒をスーツの基調としつつ、その暗さと対比させるかのような輝きを持った装甲が、全身の各関節部に装着されていた。

 

 金色のマスクは仮面ライダーGを彷彿とさせる一方で、禍々しく吊り上がっている赤い複眼が、その心中の邪悪さを如実に物語っている。

 

 はち切れんばかりの筋肉で膨張しているその手には、一振りの日本刀が握られており――刀の(はばき)には、「改進刀(カイシントウ)」とう(めい)が彫られていた。

 

 ――これが、シェード最古の改造人間。最後に残った「怪人」、羽柴柳司郎の真の姿。

 「仮面ライダー羽々斬(ハバキリ)」だ。

 

『AP-GX! GO FOR THE TRUTH KAMEN RIDER!!』

 

雲起竜驤(ウンキリュウジョウ)羽々斬(ハバキリ)推参(スイサン)

 

 やがて。軽快な電子音声と呪詛の囁きが同時に、変身シークエンスの完了を告げる。

 

 仮面ライダーAP-GXと、仮面ライダー羽々斬。南雲サダトと、羽柴柳司郎。

 

 この戦場に立つ、二人の剣士の果し合いが始まった。

 

 ◆

 

 ――2016年12月12日。

 東京都稲城市風田改造被験者保護施設跡。

 

 廃墟同然と化した同施設を飲み込む、災禍の炎。その渦中を脱するべく、ライダーマンG――番場遥花。

 彼女は地獄の淵の中で「生」を捨て切れない同胞達を引き連れ、施設の壁をパワーアームで破りながら脱出を目指していた。

 

「だ、だめ……もう、だめよ……!」

「諦めないで! 私も絶対、諦めない……からっ!」

 

 何度も諦めかけた。死んだ方がずっと楽だとは、誰もがわかっていた。

 だが、その合理性を以てしても。生存本能という人間の――生物の遺伝子に刻まれた欲求を、阻むには至らず。

 

 助かる保証などないと知りながら、その足を進ませていた。

 そのあまりにしぶとい生物としての在り方が、功を奏したのか。遥花の一撃に最後の壁が破られる瞬間まで、最後の生き残りから脱落者が出ることはなく。

 

「――だあぁあぁあっ!」

 

 遥花が「変身」と引き換えに救った命は、施設の外へと解放されていくのだった。

 瓦礫と黒煙を突き抜けた先に広がる、火の海。だがそこは紛れもない、施設という檻の外であった。

 

「た、助かったの……? 私達……」

「……あ、あれ……!」

 

 だが、全てが終わったわけではない。

 

 間一髪、崩れゆく施設から脱出した彼らの目には――火に囲まれた庭園の中で剣を交える、仮面の剣士達が映されていた。

 遠巻きにその一戦を目撃した彼らは、揃って息を飲む。

 

 鬼気迫る殺気を互いに迸らせ、切り結ぶ二人の剣士。火がなかったとしても、決して近寄れない圧倒的な迫力が、その空間から放たれているようだった。

 

「……仮面、ライダー……」

 

 その剣士達のうちの、一人。仮面ライダーAPの姿を、遥花はよく知っていた。シルエットこそ少し違うが、人々のために振るわれてきたその太刀筋を、見間違うことはない。

 彼女自身、彼に救われ、ほのかな憧れを抱き続けてきたのだから。

 

(……そうか、そうだったんだ。お父さんが、大丈夫だって言ったのは……こういうことだったんだ……)

 

 父から受けた励ましの言葉。絶対に大丈夫だと言い切って見せた、彼の発言の意味を、遥花はここに来てようやく悟る。

 

 ――警察は、仮面ライダーとの協力に成功していたのだ。だから、父は仮面ライダーをここに連れて来れた。

 だから、父は――大丈夫だと、言い切ったのだと。

 

「よかっ、た……これ、で……みんな……」

「あっ!? ちょ、ちょっと! ねぇ!」

 

 その「答え」に、辿り着いた時。

 ようやく手にした安心感から緊張の糸が途切れてしまい、遥花は変身を解き――意識を手放してしまう。改造人間としての適性こそ過去最高ではあるものの、14歳の女子中学生の体では、変身を維持するだけでもかなりの体力を消耗してしまうのだ。

 

 力無く倒れこんで行く遥花。その小さな体に、周りの被験者達は慌てて手を伸ばすが――その細い肩を抱き止めたのは、彼らではなかった。

 

「あっ……!?」

 

「――御息女の身柄を保護。生存者、他に発見できず。これで……全員かと」

『わかった。……生存者の、救出を頼む』

「了解、しました」

 

 突如現れ、気を失った遥花を受け止めた金髪の美男子。その人物が通信で連絡していた相手は安堵のため息を漏らし、彼に次の指示を送っていた。

 美男子こと、ロビン・アーヴィングの頭上には――火の海を吹き飛ばすように猛風を巻き起こし、この施設跡に近づいているヘリが舞っている。

 

 そこから吊るされたロープを伝い、救助隊員が生き延びた被験者を次々と回収している。「施設の警護」は禁じられているが、「火災現場からの救助」はその限りではない。

 詭弁に過ぎないが、通信先からロビンに指示を送る番場惣太にとっては、それで十分だった。

 

 やがて全ての被験者を救出し、ヘリは最後にロープを掴んだロビンを吊るしながら、遥か上空へ舞い上がって行く。

 

「……南雲君。アウラ様の願いは、君を在るべき『姿』に還すことにある。だから……必ず、生きて帰って来るんだ。君が愛した、織姫のために」

 

 片手一本でロープに捕まりながら。ロビンは見下ろす先の火の海で、剣戟を続ける仮面ライダーに慈しむような眼差しを送る。

 

 妹を救ってくれたアウラ。そんな彼女を地球に繋ぎ止めてくるた南雲サダト。

 彼らに何一つ報いることが出来ない苦しみの中で。

 

 ロビンはせめて、祈る。彼らにとって少しでも、望ましい未来が訪れることを。

 

(サダト様……過ちに塗れた私でも、どうか、あなたの幸せだけは……)

 

 そんな彼を運ぶ、ヘリの中で。か細く白い指を絡ませるアウラもまた、愛する男への祈りを捧げていた。

 

 数え切れぬ上、取り返しもつかない「過ち」を繰り返した今からでも、せめて――その人の幸せだけは叶うように。

 

 ◆

 

 ――2016年12月12日。

 東京都稲城市風田改造被験者保護施設跡。

 

 二人の剣士による剣戟は膠着状態となり、サダトも羽柴も互いに決定打を与えられずにいた。

 

「……計画外の戦闘だというのに、つい熱が入ってしまうな。どこまでも昂らせる男だ、お前は」

「……言っておくが。俺はこれ以上、貴様の計画とやらに付き合うつもりはない。――終わらせるぞ」

「あぁ。――年寄りには、その方が有難い」

 

 だが、もう戦いがこれ以上長引くことはない。

 

 サダトと羽柴は、ベルトに装填されたボトルと酒瓶を同時に押し込み――そこから高まるエネルギーの奔流を、自分の得物に集中させていく。

 

 サダトが逆手に構えたGXキャリバーは、その奔流を浴びて紅い電光を放ち。羽柴が水平に構えた改進刀が、金色の電光を纏う。

 

『FINISHER! LET'S GO RIDER BEAT!』

 

驍勇無双(ギョウユウムソウ)旭日昇天(キョクジツショウテン)気剣体一致(キケンタイイッチ)!』

 

 互いの電子音声が、必殺技の発動を告げ――双方は電光を纏う剣を翳し、雄叫びと共に走り出す。

 

 全てに今、決着を付けるために。

 

「スワリングッ! ハイパァアァアッ、ビィィィイィトッ!」

 

劒徳正世(けんとくよをただす)――桜花(おうか)! 赤心斬(せきしんざん)ッ!」

 

 横一文字の一刀。逆手持ちの大剣。

 

 双方の剣が、電光を迸らせ――激突する。

 

 轟音と衝撃波が嵐の如く吹き荒れ、火の海さえかき消していく。

 

 タイガーサイクロン号の残骸までもが横転し、大地が剥がれ、草木が吹き飛ぶ。

 

 彼らという存在そのものが、嵐となっていた。

 

「おぉおぉおぉおぉおッ!」

 

「ぬ――あぁあぁあぁああッ!」

 

 叫びが。魂からの叫びが、雲を衝き天を貫く。

 

 地を揺らし。

 

 風を巻き起こし。

 

 命を燃やす彼らの絶叫が、神々の怒りの如くこの世界に轟いていた。

 

 その命が――燃え尽きる、その瞬間まで。

 

 ◆

 

 ――それから、どれほどの時が経つだろう。

 

 何もかもが吹き飛び、施設の跡らしき鉄骨だけが残った荒地。その中央に立つ、ただ一人の男は――足元で朽ち果てた老兵を、どこか憐れみを孕んだ眼差しで見下ろしていた。

 

「……」

 

 その老兵の、墓標代わりか。

 

 男は手にした大剣を、体重を預けるように大地へ突き刺す。暗雲から降り注ぐ豪雨は、そんな彼らの全身を絶えず濡らしていた。

 

『長い――旅だった』

 

 それが、老兵が男に残した、最期の言葉だった。それはどんな旅だったのか。その旅で、何を得たのか。何を掴んだというのか。

 今となっては、それを問い掛けることもできない。

 

 瞳孔の開いた眼で、この世界の空を仰ぐ老兵は、何一つ語らず眠る。その表情は、どこか安らいでいるようにも伺えた。

 

「……」

 

 男は片膝を着くと、そっと手を乗せて老兵の瞼を閉じさせる。

 

 死んでしまえば、敵も味方もない。それだけが、彼に残されたただ一つの真理であり、正義だった。

 

(……俺は、生きる。まだ、何が正しいのかも、わからないままだから)

 

 男は立ち上がり、空を仰ぎ続ける。激しく雨に打たれても、その雫を拭うこともなく。

 

 どれほど水を浴びたところで、己の罪は洗い流せぬことを知りながら。それでも彼は、この雲が晴れるまで。

 

 ――荒れ果てたこの世界の果てに、虹が差し掛かる、その時まで。

 

 青空になるこの世界を、見つめ続けていた。

 




 今回出てきて速攻で退場したラスボス変身態。どうしてこうなった……。ちなみにモチーフはゴルドドライブです。

※仮面ライダー羽々斬
 数十年に渡り傭兵として世界各地を転戦していた、シェードの最古参隊員「羽柴柳司郎」が変身した姿であり、日本酒の酒瓶を模したデバイスを介して変身する。専用武器は日本刀であり、その鎺には「改進刀」という銘が彫られている。
 コードネームは「No.0」。「No.5(仮面ライダーG)」のプロトタイプであり、彼の元教官でもあった。旧式ながら新型を手玉に取る技量の持ち主であるが、すでに68歳の老体であり、肉体の「老朽化」が進行しつつある。
 愛車はティーガーIを模した改造人間用重戦車「タイガーサイクロン号」。


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第9話 人類の挑戦

 ――2016年12月25日。

 警視庁警視総監室。

 

「……報告は、以上となります」

「ありがとう。……ようやく、君も肩の荷が降りたな」

「ええ。――いえ、降ろしてしまった。という方が、正しいように思えます」

「そうか……」

 

 平和を掴み取った世間が、復興への景気付けにクリスマスで賑わう中。

 警視総監室で対面している番場総監とロビンは、どこか物寂しげな面持ちで、手にした資料を見つめていた。

 

 ――あの激戦の後。

 

 ロビンはサダトの証言を基に羽柴柳司郎のアジトを発見し、そこで発見した手記から彼の「計画」を明らかにしていた。

 

 改造人間になり、数十年。羽柴柳司郎の身体は既に限界を越え、人工筋肉や装甲の補強では往年の性能が発揮できないほど老化が進んでいた。

 しかも、設備も人材も7年に渡る仮面ライダーとの戦いで消耗しており、この状況を打破する糸口もない。彼はじわじわと老いに力を奪われて行くしかなかった。

 

 だが彼は老い以上に、それが結果として「改造人間が生身の人間に屈する」という事態に繋がることを恐れていた。

 改造人間こそが絶対的な「力」の象徴であると信じて疑わない末期のシェードにおいて、それは自分達のアイデンティティが完全に崩壊することを意味している。

 だから彼は最後の改造人間である自分が、人間に敗れるほどに朽ちる前に、自らを処分することを考えついた。

 自分の衰えが改造人間の価値を落としてしまう前に、自分を超える改造人間を創り出し、自分を倒させる。「改造人間を倒せるのは改造人間だけ」という図式を死守するには、そうするしかなかった。

 

 だが、自分を倒し得るほどのポテンシャルを持った改造人間など部下にはいない。元弟子の仮面ライダーGが相手では、手の内を知り尽くしているせいで決着がつかない可能性もある。

 

 だから彼は量産型改造人間の身でありながら、シェードの切り札だった「アグレッサー」を倒した仮面ライダーAPを、「自分を倒す役」に選んだのである。

 ――仮面ライダーGに導かれ戦士となった、自らの孫弟子を。

 

 その計画通りに、彼は自らの理想の赴くまま渡改造被験者保護施設を破壊。そのテロで誘き寄せた仮面ライダーAPも撃破し、頭脳を持ち帰って肉体そのものを最新型改造人間のボディに挿げ替えた。

 

 あとは日本にとっては不要な風田改造被験者保護施設を破壊して被験者を全員殺害した後、怒り狂うであろう仮面ライダーAP-GXに討たれる。

 それで彼の計画は完成していた。

 

 人間を超えた上位種としての、改造人間の地位を貶める施設の被験者を抹殺し、自らを最強の改造人間に倒させることで、兵器としてのアイデンティティを維持する。

 それが、シェードが潰えた先も改造人間を絶対の兵器として人類に語り継がせるための、羽柴柳司郎の命を懸けた計画だった。

 

 ――改造人間は人類を超越した選ばれし者であり、下等な人間の生殺与奪を左右する権限がある。その者達には持って然るべき地位があり、それを捨てて人間の軍門に下ることは断じて許されない。

 それが、末期のシェードに蔓延していた優生思想。その扇動者だった羽柴は、この思想に基づいて最期まで戦い続けていたのだ。

 

「羽柴柳司郎の優生思想は、決して許されるものではない。……だが、一つの真理ではあるのかも知れん」

「だから誰に許される必要もない地位を、官軍だった頃のシェードに求めていたのかも知れません。――ですが、我々人間には理性というものがある。人間の『体』と『心』を捨てた改造人間にはない、人としての矜恃が」

「心……か」

 

 ロビンの言葉に、番場総監は目を伏せる。政府の圧力に屈するまま愛する娘を見捨てかけていた彼にとっては、何とも耳の痛い単語だった。

 

「我々は、彼に試されているのです。人間の心が、どれほど理性を保てるかを。……この戦いを生き延びた我々には、その試練を制して彼の思想を否定する義務があります」

「君は……出来ると信じるか?」

「信じます。実例なら、ありますから」

「実例……仮面ライダー、か」

 

 仮面ライダー。改造人間でありながら人間の「心」を捨てず、その苦悩を仮面に隠して戦い抜いた戦士。

 その名を感慨深げに呟く番場総監の脳裏には、ある青年の勇ましい横顔が過ぎっていた。

 

「彼らは人の体を捨てた……否、奪われた。しかしそれでも、人の心を失うことはなかった。人体の変調が精神に齎す影響は大きい。にも拘らず彼らはその影響に屈することなく、半人半獣の怪人達と戦い抜いて見せた。彼らは人間として、その心の強さを我々に証明してくれた、生き証人です」

「……」

「彼らのような人間がいるなら……私も、それに懸けて戦います。――魂くらいは、共にありたいから」

 

 胸に拳を当て、己に言い聞かせるようにロビンは厳かに呟く。彼が自嘲するような笑みを漏らしたのは、その直後だった。

 

「……魂、か」

「ふふ。尤も、この言葉は現FBI副長官の受け売りですがね」

滝和也(たきかずや)副長官か……あの人らしい言葉だな。……わかった。ならば、私も賭けてみよう。人類のため、などというお題目で全てを奪われた彼への、せめてもの罪滅ぼしだ」

「ありがとうございます。……遠回りではありますが、ようやくこの世界も前を向けるようになるでしょう」

 

 ――羽柴柳司郎が掲げた、優生思想。

 その理性を捨てた人面獣心の思想に対する人類の挑戦は、未だに続いている。

 

 事件の後、ICPOの捜査で「12月計画」が明るみに出たことにより、当時の内閣は激しく世論に責任を問われ総辞職を余儀無くされた。

 その政治的空白を埋めるべく、総辞職から間も無く城茂(じょうしげる)大臣を筆頭に置く臨時内閣が台頭。シェードのテロによって混迷の時代に立たされた日本を立て直すべく、日夜奔走していた。

 

 一方。事件を生き延びた番場遥花を含む数名の被験者は、日本政府から離れICPO本部に護送されていた。現在はそこで世界各国から結集した研究チームによる、改造人間の能力を無効化する治療を受けている。

 サイバネティクスにおける世界的権威である結城丈二(ゆうきじょうじ)博士の尽力もあり、現在は被験者の能力暴走も沈静化に向かっているようだ。

 

 今では、被験者に対する国民のバッシングも薄まっている。彼らに関する負担を外国が請け負ったことで、非難する理由を失ったためだ。

 ――それに「仮面ライダーとシェードの共倒れ」が周知されたことで、国民感情が安らいだことも大きい。

 

 すでに仮面ライダーとシェードの決着は世間にも知れ渡っており、今では誰もが仮面ライダーの功績を讃えるようになっていた。

 

 だが、それは「仮面ライダーはシェードと相討ちとなりこの世から消えた」と公表されたからに他ならない。ライダーの存命が周知されていれば、その力を恐れるあまり民衆は彼らを「恐ろしい殺人鬼」と糾弾していただろう。

 そのような人間の弱さというものを嫌という程知っているからこそ、番場総監とロビンはそのように公表したのだ。

 

 それに、仮面ライダーが消滅したというのはあながち嘘でもない。

 

 事実、アウラによる最後の秘術により南雲サダトは人間に戻り、現在は「シェードに長らく囚われ、改造人間の適性も皆無だったために労働力として使役されていた」とされ入院生活を送っている。来年には、シェードの拉致から解放された一般人として城南大学に復学する予定だ。

 すでに「仮面ライダーAP」としての彼は、この世にいないのである。

 

 さらに仮面ライダーGも行方不明であり、その居所はICPOの総力を挙げても見つからなかった。彼の恋人だったという女性シェフも消息を絶っており、二人して雲隠れしてしまったものと思われる。

 

 片方は行方知れずとなり、もう片方はすでに改造人間ですらない。仮面ライダーは、確かにこの世界から消え去ったのだ。

 

 だがロビンは、これで良かったのかも知れない――とも考えていた。

 仮面ライダーも怪人もいない世界。それをきっと、宇宙へ帰ったエリュシオンの織姫も願っていただろう――と。

 

(南雲君。君と彼女の絆を引き裂いたのは、我々の不徳の致すところだ。……その罪を贖うことこそ、この時代に生き延びた人間の役目であると、私は信じている)

 

 窓の外から見下ろせば、このような時代の中でも笑い合い、手を取り合い生きている人々の姿が伺える。

 そんな彼らの様子を、ロビンは喜びを噛み締めた面持ちで見守っていた。

 

(だから君にも……どうか、見守っていて欲しい。君達「仮面ライダー」が紡いでくれた、この世界の未来を)

 




※アウラはなぜ遥花達を治療しなかったのか
 改造被験者保護施設は「衛生省(えいせいしょう)」という省庁により設けられている。この衛生省により保護対象として登録された被験者が、国の管理下で施設に入ることができる。遥花も仮面ライダーAPに救出された直後に、衛生省から登録を受けていた。
 こうして国に「改造人間にされた被験者」として登録された彼らが、アウラの治療を受けると「生涯治らないはずの改造体が、不可思議な現象で生身に戻った」という記録が残ってしまう。
 万一、アウラを狙う諸外国にその記録を嗅ぎつけられた場合、彼らの狙いが日本に及ぶことになる。イリーガルな手段を辞さない連中が、日本に足を踏み入れれば何をするかわからない。
 無関係な日本の人々を、アウラの力を狙う勢力から守るためには、遥花達の救済を地球人の科学力に託すしかなかった。そうして、結城丈二を筆頭とする研究チームが組まれたのである。
 ただ、サダトだけは例外だった。彼は公式記録上「5月に消息を絶った行方不明者」でしかないため、衛生省の登録も受けていない上に改造人間にされたという物的証拠もなかった。彼がアウラの治療を受けても問題なかったのは、こっそり人間に戻っても衛生省にバレない身の上だったためである。

 ちなみに、衛生省というネーミングは「仮面ライダーエグゼイド」から。上記の内容を作中にぶち込む余地がなかったので、こちらに記載させて頂きました。ご了承ください。


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最終話 紡がれた未来へ

 ――2022年4月3日。

 大戸島(おおどしま)しばふ村。

 

「はい、これでよし。かけっこもいいけど、あんまり無茶なことするんじゃないよ?」

「オッケー、ありがとね先生! それじゃまた怪我したらよろしくねー!」

「あっ!? も、もう島風(しまかぜ)ちゃんっ、さっき擦りむいたばっかりなのに! 南雲先生、夜遅くにすみません! ありがとうございました!」

「あはは、吹雪(ふぶき)ちゃんも気をつけて帰るんだよ。僕なら、いつでも大歓迎だからさ」

 

 日本列島から遠く離れた孤島にある、小さな村。芋が名産と評判のこの村の中には、一軒の診療所がある。

 そこに勤務している医師「南雲サダト」は、村民から先生と慕われる温厚な青年であった。

 

 彼は今日も、躓いて擦り傷を負った女子中学生に手当てを施しつつ、穏やかな一日を終えようとしていた。部活帰りの中学生達が通りがかる頃には、その日の診察も終わりが近いのだ。

 

「ま、待ってよ島風ちゃん! なんで練習のあとなのにそんなに元気なの〜!」

「早く早く! 私んちまで競争だよ〜!」

 

 手当てが終わった途端、性懲りも無く全力で走り出す親友に手を焼く少女。そんな彼女達の幼気な背中を見送りつつ、彼は澄み渡る月夜を見上げ、朗らかな笑みを浮かべていた。

 

「んー……涼しくていい夜だね」

「――いい夜だね、じゃありません! この島でたった一人のお医者様なんですから、もっとシャキッとしてください!」

「うわぁ! 出たぁ番場さんだぁあ!」

「出たって何ですか人をお化けみたいに!」

 

 すると、背後から突然怒号を浴びせられ、サダトは仰天して振り返る。その視線の先では、黒く艶やかなセミロングを靡かせる一人のナースが、むくれた表情で彼を睨んでいた。

 

 そんな怒り顔でも隠し切れないほどの美貌と、ナース服がはち切れんばかりの巨峰を持った彼女の名は――番場遥花。

 

 約6年に渡る治療を経て、生身の人間と遜色ないレベルまで能力を抑えることに成功した彼女は、人を助けたいという一心から看護師の道に進んでいた。

 また、人間社会に復帰する際「元改造被験者である絶世の美少女」としてマスコミ関係者が殺到したこともあり、周囲の奇異の目やストーカーを避ける目的で、父の生まれ故郷であるこの大戸島で勤務することになったのである。

 

「全く! 南雲先生には、医師としての自覚が足りていません!」

「番場さん、僕としてはそんなにむくれてちゃ可愛い顔が台無しだと思うなぁ。ホラ笑って笑って」

「か、かわっ……!? て、ていうか南雲先生がヘラヘラし過ぎなんですっ! いい加減にしないと本気で怒りますよ!」

「うわぁすでに本気で怒ってる!」

 

 とはいえ、本島から離れた島に移っても「絶世の美少女」であるには変わりなく、ここでも村の若い男達からは絶えずアプローチを受けているらしい。

 だが彼女はその全てを断り、あくまで看護師の職務に集中したいと主張してきた。

 

 ――しかし実のところ、その言い分は村の者達からはあまり信じられていない。彼女はいつも、共に診療所を切り盛りしているサダトの隣にいるからだ。

 たまに村民がその点を指摘する度、彼女は顔を真っ赤にして「私情」を否定するのだが――その反応がさらに、村民達の疑惑を煽っていた。

 

 そういうこともあり、サダトは村民の大部分からは慕われる一方で、一部の若い男達からはあまり歓迎されていなかったりする。

 

「全く……よくそんな調子で医師になれましたね。何で医師になろうと思ったんだか」

「ん? 何で医師に、か……うーん」

 

 遥花が漏らした愚痴に、サダトは顎に手を当て暫し逡巡する。口をついて言葉が漏れ始めたのは、その数秒後だった。

 

「……わからなかったから、かなぁ」

「え?」

「人のため、人のためって言っても……それが本当に人のためになってるかなんて、結果が出るまでわからない。僕自身はそのつもりでも、本当はそうじゃなかった――『過ち』だった。そんなことが、たくさんあった」

「……」

「だから、本当に人のためになることが何なのかを知りたくて……それをずっと追い求めていたら、いつの間にか医者になってた。気がついたら、この白衣を着てたんだ」

 

 普段の間の抜けた雰囲気とは、少し違う。その違和感を肌で感じた遥花は、暫し神妙に聞き入っていた。

 そんな彼女の様子を知ってか知らずか、サダトはすぐにおどけた表情に戻ってしまう。

 

「あはは、なんかごめんね。わけわかんない理由で医者になっちゃって!」

「……今も、『過ち』ですか?」

「ん?」

「この島で、この村で医師を続けていること。私と一緒に、診療所を切り盛りしてること。村のみんなと、笑い合って暮らしていること。先生にとっては……『過ち』ですか?」

 

 だが、遥花の表情はどこか不安げだった。

 宇宙(そら)へ帰った異星人の姫君と、どこか似ているその表情に、サダトはバツの悪そうな面持ちになると――青空を仰ぎ、呟いた。

 

「……まだわからない。その時が来ないと」

「……」

「だけど。きっと『過ち』なんかじゃない。ここに来たこと、みんなに会えたこと。医師でいること。どれも大切なことなんだって、僕は今も信じてる」

「……そっか……そうですよね! 私も、南雲先生と会えてよかっ――い、いえ、なんでもないです」

 

 その言葉に、遥花は不機嫌だったり不安げだったりと曇りがちだった表情を一変させ、華やかな笑顔を浮かべる。すぐに顔を赤らめて言葉を中断してしまったが。

 そんな彼女に、何処と無くあの姫君を重ね――サダトも、穏やかな笑みを浮かべていた。

 

 ……しかし。遥花の視界に、目を光らせてこちらを覗き見る女子中学生達が入り込んだ瞬間。ナースの表情は凍り付き、好転していたムードは一気に瓦解してしまう。

 

「ふっふーん。見ちゃった見ちゃった聞いちゃったー。これは村のみんなに報告しないと!」

「えっ!? 島風ちゃんに吹雪ちゃん!?」

「ご、ごめんなさい遥花さん。立ち聞きする気はなかったんですけど」

「みんなー! 遥花さんが南雲先生とランデブーしたいってー!」

「ちょ、ちょちょちょ! 待ちなさい、こらぁああぁあぁ!」

 

 島風と呼ばれる少女は一目散に村の中を駆け抜けながら、有る事無い事を吹聴して回り出した。吹雪という片割れの少女は必死にペコペコと頭を下げるが、そうしている間も島風の言い触らしは進行している。

 遥花は顔を茹で蛸のように赤らめながら、怒号を上げて島風を追いかけて行くのだった。豊満に飛び出した胸を、激しく上下に揺らしながら。

 

「……ふふ」

 

 そんな彼女達を、遠巻きに見守りながら。サダトは月明りを映す海原から――夜空の彼方へと視線を向け、微笑を浮かべる。この星から遠く離れた、銀河の果てへと。

 

(……アウラ。俺達がしてきたことは、もしかしたら「過ち」だったのかも知れない。でも、その「過ち」の中で見つけた幸せは、ただの間違いなんかじゃない)

 

 その先にある異星――エリュシオン星の玉座に座する、若き女王も。その君主の座から、この蒼い星を見守っていた。

 彼と同じ、穏やかな微笑を浮かべて。

 

(だから俺は、今でも。君に会えてよかったと思ってる。それはこの先もずっと変わらない。君の願いは確かに、この星に届いたんだから)

 

 星を隔て、永遠に別れた織姫と彦星。年に一度も会えない彼らだが――互いが残した絆の深さは、絶えずその想いを繋ぎ続けている。彦星が「剣」を捨て、その手に「メス」を取った、今も。

 織姫がこの星に残してしまった「罪」を彼女に代わり清算するべく、その道へ踏み入った、今も。

 

 それはさながら、脈々と鼓動する「命」のように。

 

 この島に咲き誇る「花」も。夜空を滑るように舞う「鳥」も。頬を撫でる夜の「風」も。煌々と光を放つ「月」も。

 ――その全てに宿る「儚き命」も、彼らの絆を見守っていた。

 

「南雲先生っ! ぼさっとしてないで先生も島風ちゃんを捕まえてくださいっ!」

「え、僕も?」

「さっさと走るっ!」

「は、はいはい。おーい島風ちゃーん!」

「ふっふーん! ここまでおいでー!」

「もぉー! 待ってったら島風ちゃあぁーん!」

 

 そして今日も、南雲サダトは。守り抜いた人々と共に、穏やかなひと時を謳歌するのだ。

 

 仮面ライダーがいないのは、世界が平和である証なのだから。

 

 ◆

 

 ――2022年4月4日。

 東京都稲城市山中。

 

「……」

 

 陽の光が網を抜けるように僅かに差し込む、新緑に包まれた自然の砦。その森の中を歩む一人の男は、神妙な面持ちで道無き道を進んでいた。

 

 金色の髪や蒼い瞳を持つ、壮年の男性。彼は林の奥を突き進む中で見つけた、あるものと対面すると――嘆息するように息を吐く。

 

「……科学に善悪を判断する力はない、善悪を分けるのはいつも人間……か。結城博士の仰る通りだな」

 

 彼の眼前に映る――重戦車と小型乗用車の残骸。かつて正義と悪に分かれ、熾烈な争いを繰り広げたこの二台の車は今、一様に鉄屑として朽ち果てている。

 

 車体のあちこちから苔や雑草、果ては花々まで咲いていた。善悪に分かれていようが、壊れてしまえばどちらもガラクタ――という非情な現実を物語っているようだ。

 

 そしてその現実こそが、正義と悪を分かつものに科学の関与はないのだと訴えている。

 

 シェードも仮面ライダーも、元を辿れば源泉は一つ。人間を超える超人を生み出す科学が、シェードという悪を生み、仮面ライダーという正義を生んだ。

 

 そのぶつかり合いの果てに待っていたのは、共倒れ。対消滅の如く、どちらも残らないこの結末は、人類の進歩を押し留めていると言えるだろう。

 

 だがそれは、争いの虚しさを伝える福音として、残された人類が手にした叡智の一部となった。

 

「……我々は。この戦いを教訓に、前へ進む。君達の骸を、踏み越えて」

 

 この光景から決意を新たにし、男は踵を返して行く。一歩一歩、草木の上を強く踏みしめて。

 

「だから君達は、静かに眠りなさい。もう……誰も、君達を振り回したりはしないから」

 

 教訓を残すために犠牲となり、朽ち果てた二台の車。

 

 雌雄を決するべく激突した二人の男を乗せていた、この二つの鉄塊を一瞥した後――男は正面へ向き直り、前に進んでいく。

 

 もう、振り返ることはない。

 

 立ち去った男の後ろでは――花と草木に彩られた屑鉄達が、永遠(とわ)の安寧を願う様に、今も沈み続けていた。

 二度と醒めることのない、安らかな眠りへ――。

 

 




 本作を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。仮面ライダーAPは、今話にて完結となりました。本作の結末を最後まで見届けて頂き、誠にありがとうございました。

 さて、それでは次回作のお知らせです。来週の11月26日の午後8時過ぎから、新たなオリジナル変身ヒーローもの「フルメタル・アクションヒーローズ」の連載を始めさせて頂くことになりました。レスキュー専用強化服を巡る、ヒーロー達の戦いを描いた内容となっております。機会がありましたら、チラ読みして頂けると幸いです。

 それでは、南雲サダトの旅路を最後まで見送って頂き、誠にありがとうございます。機会があれば、またどこかでお会いしましょう。失礼します。


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外伝 ライダーマンG&ニュージェネレーションGライダーズ
第1話 時代の残滓達


◆今話の登場ライダーと怪人

番場遥花(ばんばはるか)/ライダーマンG
 警視総監・番場惣太(ばんばそうた)の1人娘であり、シェードによって右腕を改造された過去を持つナイスバディな女子高生。ライダーマンGに変身した後は、改造された右腕に様々なアタッチメントを装着して戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は17歳。

明智天峯(あけちてんほう)/ゴールドフィロキセラ
 ノバシェードの首領格であり、金色のフィロキセラ怪人に変身している男。物腰は丁寧だが性格は残忍そのものであり、自分達に刃向かう遥花を抹殺するべく、彼女を因縁の地へと誘い込む。年齢は30歳。

上杉蛮児(うえすぎばんじ)/シルバーフィロキセラ
 天峯の側近であり、銀色のフィロキセラ怪人に変身している男。粗暴かつ野蛮な戦闘狂であり、改造人間としてのアイデンティティに強いこだわりを持っている。年齢は26歳。

武田禍継(たけだまがつぐ)/ブロンズフィロキセラ
 蛮児と同じく天峯の側近であり、銅色のフィロキセラ怪人に変身している男。寡黙で冷徹な人物であり、羽虫を潰すような感覚で多くの命を奪ってきた。年齢は28歳。


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 ――2019年9月1日。

 東京都稲城市風田改造被験者保護施設跡。

 

「ここに居るのは分かってる……! 出てきなさい、ノバシェードッ!」

 

 かつて仮面ライダーAPと、仮面ライダー羽々斬(ハバキリ)の最終決戦が繰り広げられたこの場所に――1台のレーサーバイク「マシンGチェイサー」が駆け付けて来る。真紅に彩られたそのボディには、「G」の意匠が刻まれていた。

 そのバイクに跨っていた1人の美少女は、艶やかな黒髪を靡かせて颯爽と飛び降て来る。彼女の眼前には、文字通り「何もない」更地が広がっていた。

 

「……っ」

 

 かつて彼女――番場遥花(ばんばはるか)を含む改造被験者達を収容していた、風田改造被験者保護施設。それが存在していた頃の記憶が鮮明に甦り、遥花は独り眉を顰めている。

 

「……ふふ、あなたにとっても懐かしい場所でしょう? この地は」

「……! 出たな、ノバシェード! 光学迷彩でかくれんぼだなんて、『シェードの後継者』も子供っぽいことをするのね……!」

 

 ふと、何もかも見透かしたような声が響き渡り。遥花の前に突如、3体もの異形の怪人が現れる。

 両腕から無数の触手を伸ばしているその醜悪な姿は、10年前に初めて観測された個体と同じ、「フィロキセラ怪人」そのものであった。

 

「ハハァッ! 本当にノコノコと追っかけて来やがったぜ、このバカ女!」

「……愚か者め。わざわざ殺されに来るとは」

 

 金、銀、銅。それぞれ3色の体色を持っているフィロキセラ怪人の亜種達は、いずれも下卑た笑みを浮かべて、眼前の遥花を舐めるように見つめている。

 

 金色の怪人「ゴールドフィロキセラ」こと、明智天峯(あけちてんほう)

 銀色の怪人「シルバーフィロキセラ」こと、上杉蛮児(うえすぎばんじ)

 銅色の怪人「ブロンズフィロキセラ」こと、武田禍継(たけだまがつぐ)

 彼らの眼は遥花の真摯な表情を、冷酷に嘲笑っていた。

 

 新時代「令和」を迎え、17歳の女子高生になっていたこの当時の遥花は、確かに3年前よりもさらに女性らしい身体付きに発育している。

 桃色と白のパーカーを内側から押し上げる巨峰と、くびれた腰。絹のような黒髪に、白い柔肌と桜色の愛らしい唇。そして、男の劣情を掻き立てる巨尻。全てが「男好き」する要素に満ち溢れていた。

 

 彼女がいわゆる「半改造人間」であることが周知されている現在でさえ、告白やスカウトが絶えないほどの美貌とプロポーションなのだ。

 警視総監の娘にして現代の「仮面ライダー」、という身の上でなければ、強引な手段で関係を持とうとする男達の影は増える一方だったことだろう。新体操部での練習中や水泳の授業中、邪な視線に完全包囲されたことも一度や二度ではないのだから。

 

「未だに能力無効化の手術を受けていない『仮面ライダー紛い』って奴が、どんなもんかと思って見てみりゃあ……ハハァッ!」

「右腕以外はただの人間、と来たものだ。生身に毛が生えた程度の分際で、正真正銘の改造人間に刃向かおうなどとは片腹痛い。まさか我が同胞達を次々と捕まえているという『仮面ライダー紛い』とやらが、このような小娘だったとはな」

「小娘で悪かったわね……。あなた達のような連中がのさばってたら、この『右腕』も捨てるに捨てられないのよ」

 

 だが、怪人達――特に蛮児と禍継が着目しているのは、世の男を狂わせる「女」としての容姿ではない。右腕以外は生身という、改造人間としての「脆弱さ」を嗤っているのだ。

 それでも遥花は激情に駆られることなく、真っ直ぐな眼差しで怪人達を射抜いている。

 

「……これ以上罪を重ねたら、『身体』だけじゃなく『心』まで引き返せなくなる。今からでも、止めるつもりはないの?」

「ご存知でないようでしたら、教えてあげましょう……番場遥花。そう言って降伏を呼び掛けて来た者達は皆、こうやって殺されているのですよ!」

「……ッ!」

 

 明智天峯――もといゴールドフィロキセラが、しなる触手を鞭のように飛ばして来た瞬間。遥花は軽やかに地を蹴ると、下着が見えることも厭わずミニスカートをはためかせて、颯爽とジャンプする。

 その回避行動を読んでいたゴールドフィロキセラは、触手をさらに激しくしならせ、滞空している遥花の首を狙った。が、彼女は宙を舞っている状態のまま、くの字に仰け反り触手の追撃をもかわしてしまう。

 

 当然ながらその素早さに、改造されている右腕は関係ない。紛れもなく、遥花自身が磨き上げてきた身体能力によるものであった。

 

「ヒュウー! あのバカ女、なかなかイイ動きするじゃねぇか。しかも清楚なツラしてるくせして、随分とスケベなパンティ穿いてやがる」

「今の身体能力……恐らくは新体操で培ったものだろう。女性ならではのしなやかな柔軟性……侮れん動きだ」

 

 鮮やかに触手をかわすその挙動に、シルバーフィロキセラは口笛を吹いている。寡黙な態度を崩さないブロンズフィロキセラも、遥花の運動神経を素直に認めていた。

 仰け反った勢いのまま後方に回転した遥花は、豊満な胸と尻を揺らしながら、体勢を乱すことなく着地する。やはり対話による解決は、困難であるようだ。

 

 ――近年、世界各地でテロ行為を繰り返している武装組織「ノバシェード」。

 3年前に全滅したシェードの後継者を自称している彼らは、正確にはシェードと密接に繋がった組織というわけではない。

 

 元々はシェードに対抗するためとして、世界各国の軍部によって改造人間にされた被験者達の集まりなのだ。シェードの怪人という「本場」の人間兵器には及ばず、それでいて生身の人間ではない。

 そんな最も中途半端な立場であるが故に、適切な処置や支援を得られなかった者達が、寄り集まって生まれた組織なのである。

 

 3年前の戦いでシェードが全滅した後に発足した、城茂(じょうしげる)内閣。その新たな日本政府による主導の元、現在は改造人間の能力を無効化する手術によって、被験者達の社会復帰を支援する動きが広まっている。

 そうした救済の手は日本国内に留まらず、世界各国にも差し伸べられているのだ。サイバネティクスにおける世界的権威・結城丈二(ゆうきじょうじ)博士は、今日も世界中を飛び回っているのだという。

 

 だが、全世界の被験者全てが漏れなくその恩恵に預かれているわけではない。能力無効化の手術を施行できる医師や設備が有限である以上、どうしても「後回し」にされてしまう者達がいる。

 そういった者達は人間社会に溶け込めないまま、無害であることを証明することすら出来ず、改造人間を恐れる人々からの迫害に晒され続けなければならないのだ。その責め苦に耐え切れず、自ら命を絶ってしまうケースも決して少なくはない。

 

 そして、そのような恵まれない者達の中には当然、そのまま時代の犠牲になることを拒む者も居た。

 改造人間であるが故に人間社会に入れず、シェードが滅びた今となっては怪人にもなれない。ならば「新たなシェード」を自分達で創り、そこを安住の地にするしかないのだと。

 

「あなた達は……本当に、それでいいというの」

 

 それが、ノバシェード。令和という新しい時代に取り残され、際限なく悪の道に進まざるを得なくなった者達の、哀しきエデンなのである。

 彼らは自分達の居場所を築くため、人々に助けを求める資格すら、自ら投げ捨ててしまったのだ。

 




 9月5日00:00まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル仮面ライダーを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)


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Ps
 「ウルトラマンカイナ」の時は採用枠に上限を設けていましたが、今回は思い切ってその縛りを取っ払っております。やっぱり皆活躍させたいよねって(*´ω`*)


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第2話 変身、ライダーマンG

「……」

 

 ノバシェードの誕生に纏わる、時代の影。その背景を知るが故に、彼らによるテロの被害を知りながらも、遥花は憎しみに身を落とせずにいるのである。

 

 警視総監の娘という、本来なら優先的に能力無効化の手術を受けられる立場でありながら。現在に至るまでその権利を周囲に譲り続け、シェードによって改造された右腕を今もなお残しているのも。ノバシェードに対する、罪悪感によるものであった。

 彼らの哀しみが止まらない限り、自分もまだ、この「右腕」から逃れるわけにはいかないのだと。故に彼女は「仮面ライダー」に代わり、「右腕」の力でノバシェードの怪人達と戦い続けていたのである。

 

「……あなた達、本当にそれでいいの? こんなことを続けていたら、身体だけじゃなく……心まで怪人になってしまうのよ!?」

「我々にそれ(・・)を求めたのは、あなた達人類の方でしょう? ……いえ、ご理解頂かなくとも結構。我々は誰になんと言われようと、我々のやり方で充足を得るのみですから」

 

 遥花の悲痛な訴えにも耳を貸さず、3人の怪人達は同時に触手を繰り出して行く。3人掛かりともなれば、流石に遥花の身体能力でも避け切るのは難しい。

 通常兵器でも倒せてしまうレベルの劣悪な改造人間が、構成員のほとんどを占めている中で。改造中の突然変異により、本場(シェード)の怪人にも引けを取らない戦闘力を得ている彼ら3人は、ノバシェードのトップ3に恥じない力を持っているのだから。

 

「あうぅッ!」

「オラオラどうだァッ! 俺達3人の改造手術には、シェードの怪人から得た生体データも使われてっからなァ! お前が今まで仕留めてきた劣化レプリカ共とは、一味も二味も違うんだぜェッ!?」

 

 咄嗟に改造された右腕を盾に防御するが、それだけで防ぎ切れるものではなかった。敢えてじわじわといたぶるように飛ぶ触手の連撃は、遥花の柔肌に生傷を与えていく。

 その攻撃は彼女の服さえ剥ぎ取って行き、やがて遥花はあられもない下着姿にされてしまった。艶やかな黒のレースが、彼女の白い柔肌をさらに引き立てている。

 

「そんな状態では戦いにもならないでしょうし、これでおしまいですね。今、とどめを刺してあげましょう」

「……バカ言わないで。私の戦いはまだ、始まってすらいないわ!」

 

 だが、それしきのことでいちいち恥じらっている彼女ではない。ゴールドフィロキセラから放たれた触手の一突きをかわし、遥花は胸を揺らして後方にバック転する。

 その先に停められていたGチェイサーのシートを開き、「仮面ライダーG」の仮面に酷似したマスクを取り出した瞬間。彼女の「戦い」は、第2ラウンドへと突入するのだ。

 

「やぁあぁッ!」

 

 力強い叫び共にマスクを装着した瞬間、遥花の「変身」が始まる。

 

 マスクを中心に閃く紅い光が、彼女の肢体を包み込み。全身に隙間なく密着した、黒の外骨格が形成されていく。

 豊満な胸により内側から押し上げられている「G」の形を描いたプロテクターや、複眼を囲う同じ形状の意匠は、仮面ライダーGに酷似していた。

 

 3年前よりもさらに発育した双丘を含む、圧倒的なボディラインを露わにしているスーツ。頭部を含む体の大部分を、その外骨格や仮面で覆い隠している一方で、ただ一つ露出している口元。

 黒のスーツとは対照的な、口元から窺える雪のように白い肌と桜色の唇は、より「人間」らしい美貌を強調している。この姿こそが、番場遥花という改造人間に与えられた、真の力そのものなのだ。

 

「さぁ、本番はここからよッ!」

 

 ――番場遥花はこのマスクを付けることによって「ライダーマンG」となり、手術した腕が電動しアタッチメントを操ることができるのである。

 




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Ps
 ノバシェードのルーツである「シェード以外に改造された被験者達」がどうして生まれてきたのか、という点については第3章の第1話でも言及されておりまする(´-ω-`)


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第3話 紛い物と贋作

「……ようやく変身してくれましたか。これでようやく、少しはまともな殺し合いになりそうです」

「殺し合い……か。やっぱり、あなた達にとってはそれしかないのね」

 

 遥花ことライダーマンGの勇姿を前に、3人の怪人達もようやく全力で戦えそうだ、と言わんばかりに触手を揺らしている。

 ライダーマンGも勇ましげに、ハサミ状の右腕「パワーアーム」を構えているのだが。彼女が変身してもなお、形勢は圧倒的に不利なままであった。

 

 突然変異という不安定な条件下で誕生した亜種とは言え、3体のフィロキセラ怪人はいずれも、シェード製の改造人間にも匹敵し得るスペックを備えている。対してライダーマンGは改造人間としては極めて不完全であり、女性の膂力では単身で怪人1体を仕留め切るのも難しい。

 これまで対戦してきたノバシェードの怪人達は、シェード製には遠く及ばない劣化品ばかりだったから、ライダーマンGの戦闘力でも辛うじて対処出来ていたのだ。かつての織田大道(おだだいどう)やドゥルジのような、一線級の怪人にも引けを取らないこの亜種達と真っ向から戦っても、勝ち目などないのである。

 

(それでも……それでも、私は……!)

 

 それを肌感覚で理解した上で。ライダーマンGは臆することなく、この3体に立ち向かおうとしているのだ。

 仮面ライダーG。仮面ライダーAP。シェードを倒し、その脅威から世界を救った彼らはもう、この世界には居ない。それでも彼らが残したこの平和だけは、救われた者達の1人として、守り抜きたい。

 その想いが、右腕の力を捨て切れなかった番場遥花の背を、突き動かしているのである。

 

「安心してください、番場遥花。無駄な抵抗さえしなければ、花を労るように優しく殺して――!?」

 

 そんな彼女の闘志を汲むゴールドフィロキセラが、一瞬で決着を付けようと触手を尖らせた――その時だった。

 

「……! あ、あれって、お父さんの……!?」

 

 遥か遠方から砂埃を巻き上げ、こちらに向かって猛進して来る「増援」。その影に気づいたライダーマンGと怪人達が、同時に足を止める。

 ライダーマンGはその「増援」の正体に気付き、思わず声を上げていた。

 

 ――遥花の父にして、現在の警視総監である番場惣太(ばんばそうた)。愛娘が「仮面ライダー」の代わりとしてノバシェードのテロに立ち向かっている中で、彼はとある計画を進めていた。

 

 仮面ライダーG。仮面ライダーAP。シェードの怪人達に敢然と立ち向かい、人類の自由と平和を守り抜いた正義の戦士達。

 彼らの力を強化外骨格の技術によって再現し、令和という新時代を守る「新たな仮面ライダー」を造り出す。その計画の「試作機」を持つ者達が今、この戦場に駆け付けているのだ。

 

 遥花が事前に聞いた話では、正式なロールアウトは来月だったはず。にも拘らず彼らは、Gチェイサーと同じ警察用のスーパーマシンを駆り、ライダーマンGの前に現れようとしている。

 ノバシェードのトップ3が東京に現れたという通報を受けた遥花が、罠の可能性を承知で飛び出したことを知った惣太は、彼らに緊急出動命令を発していたのだ。

 

「あれは……警察が開発を進めているという『贋作』ですか。改造人間ですらない、鎧を着ているだけの人間如きが『仮面ライダー』を騙るとは……なんと嘆かわしい」

「見てるだけでムカっ腹が立つ野郎共だぜ……! ライダーマンGより先に、奴らから始末してらァッ! なぁ天峯、いいよなァ!?」

「賛成だな。……俺としても、奴らの存在には虫唾が走る。先に奴らから仕留めさせて貰うぞ、天峯」

 

 遥花が乗ってきたものと同じ系統のスーパーマシン。それらに乗っている彼らの接近を目の当たりにした怪人達は、揃って忌々しげな声を漏らしている。

 強化外骨格を纏う生粋の人間でありながら、改造人間にも迫る性能を実現していると噂されている彼らの存在は、怪人達のアイデンティティを著しく脅かしているのだ。

 

 より強い憎悪と殺意を滾らせているシルバーフィロキセラとブロンズフィロキセラは、ライダーマンG以上に許し難い存在である「増援」達の方へと向かっていく。

 残されたゴールドフィロキセラは、ライダーマンGから視線を外すことなく、真っ向から彼女と睨み合っていた。

 

「やれやれ……蛮児も禍継も、勝手な行動ばかりで困ったものです。ま、いいでしょう。仮面ライダーの『紛い物』も『贋作』も今日を以て滅び去り、ノバシェードはその雷名を世に轟かせる。そのシナリオには、何の変更もないのですから」

「そうはさせない……! そんなシナリオ、私達が書き換えてみせるッ!」

 

 ノバシェードの打倒。その決意を胸に集まった、ライダーマンGをはじめとする新世代の仮面戦士達(ニュージェネレーションGライダーズ)

 彼らとノバシェードの全面戦争の火蓋が今、切って落とされる――。

 




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 試作機っていう響きイイですよねー。なんかロマンがあって(*´꒳`*)


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第4話 もう、あの時とは違う

◆今話の登場ライダー

道導迅虎(みしるべじとら)/仮面ライダーティガー
 元プロレーサーでもある警視庁の巡査であり、男勝りなスピード狂。仮面ライダーティガーに変身した後は、懐に飛び込み両腕の爪で斬り裂く「ティガーチャージ」を切り札として、接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は24歳。
 ※原案はただのおじさん先生。

翆玲紗月(すいれいさつき)/仮面ライダーパンツァー
 元自衛官の戦車搭乗員であり、3年前にはシェードとも戦っていた姉御肌。仮面ライダーパンツァーに変身した後は、助走を付けて水平キックを放つ「パンツァーストライク」を切り札としつつ、射撃戦主体で戦う。迷彩色のマシンGドロンに搭乗する。年齢は21歳。
 ※原案はゲオザーグ先生。



 警視総監・番場惣太の主導により研究開発が進められてきた、「仮面ライダーの戦力を再現する強化外骨格」。そのプロジェクトには日本の警察機関のみならず、自衛隊やアメリカ軍など、多くの勢力が関わっている。

 改造人間によるテロ行為への対抗手段。それを確立出来ないまま、「仮面ライダー」という一個人のヒーローに依存していた過去から、脱却するために。彼らは知恵と力を合わせ、ついにその理想に最も近しい「試作機」の開発に漕ぎ着けていたのだ。

 

「……いつまでも『お嬢』にばかり、良い格好はさせていられないからね。ロールアウトにはちょっと早いが、私達の出番が来ちまったってことだ!」

 

 その開発計画の発端が、「1日も早く愛娘を『仮面ライダー』の重責から解放したい」、という惣太の親心であることを汲んだ上で。

 ポニーテールの黒髪を靡かせ、遥花と同じ「マシンGチェイサー」を颯爽と乗りこなしている道導迅虎(みしるべじとら)巡査は、「新世代(ニュージェネレーション)」達の先頭を駆け抜けている。彼女に狙いを定めたブロンズフィロキセラは、その鋭利な触手を伸ばして首を切り落とそうとしていた。

 迅虎はスピードを落とすことなく、咄嗟に頭を低くしてその斬撃を回避する。空を切ったブロンズフィロキセラの触手はなおも、忌々しげに彼女の首を付け狙っていた。

 

「おおっとッ! ……元レーサーに速さで勝とうだなんて、ちょっと甘過ぎるんじゃない?」

「『贋作』如きがぞろぞろと……。番場遥花の前に、まず貴様らから血祭りに上げてくれる」

「そう簡単に行くかな? 警察を……人間を、甘く見るもんじゃないよ」

「……ふん、新手か」

 

 だが、ブロンズフィロキセラの注意はすぐに迅虎から逸れてしまう。マシンGチェイサーと同じく、警察によって開発された専用マシンであるスーパーカー「マシンGドロン」のエンジン音が響いて来たのだ。

 迷彩柄に塗装された特殊仕様であるその車は、元陸上自衛官の翆玲紗月(すいれいさつき)が運転していた。元戦車搭乗員でもある彼女は、その巧みなドライビングテクニックでブロンズフィロキセラの触手をかわし続けている。

 

「紗月、変身して一気にカタを付けるぞ!」

「了解ッ!」

 

 だが、バイクや車での体当たりで倒せるような甘い相手ではない。それをよく知っている2人は、遠方から頷き合うと颯爽とマシンから飛び降り、腰に巻いた「変身ベルト」を起動させる。

 

『Ready』

「変身ッ!」

 

 迅虎のくびれた腰に装着されている、「シグナルベルト」。そこから4秒間、レースのカウントダウンを想起させる音の後に、電子音が発生した。

 その直後、迅虎の声が戦場に響き渡る。

 

『Cannonrideball loading!』

「変身!」

 

 戦車を模した専用アイテム「キャノンライドボール」をセットされた変身ベルト「パンツァードライバー」も、流暢な英語音声を発していた。その音声に合わせて叫ぶ紗月の全身が、迅虎と同時に強化外骨格に覆われていく。

 

 やがて完成したのは、生身の人間が装甲を纏うことによって誕生する、新世代の仮面ライダー。

 道導迅虎が変身する「仮面ライダーティガー」と、翆玲紗月が変身する「仮面ライダーパンツァー」であった。

 

「さぁ……私のスピードに、付いて来れるかなッ!?」

 

 ティガーの外観は別世界(・・・)の仮面ライダー……「仮面ライダー1号」のようにシンプルなものであるが、両腕にはそれぞれ1本の長い爪のような刃が装備されている。

 その独特なスタートダッシュのポーズは、ハンミョウを彷彿とさせていた。

 

「3年前とは違うってこと……教えてやるッ!」

 

 パンツァーのベースデザインも、別世界のライダーである「仮面ライダードライブ」の「タイプワイルド」に近い。その両肩と肘、腿、足首の起動輪とその間の転輪には履帯が巻かれており、ボディはカーキ色で統一されている。

 眉間からは戦車の主砲をモチーフとするアンテナが1本伸びていて、複眼部分は戦車の前照灯がモチーフになっていた。絶え間なく引き金を引いているその手には、「パンツァースマッシャー」と呼ばれるレバーアクション式のランチャーが握られている。

 

「ぬぅッ!?」

「いつまでも人間を舐めてると、足元掬われちまうぜ?」

「さっさと投降しないと、火傷じゃ済まなくなっちまうよッ!」

 

 一瞬にして懐に飛び込み、爪による斬撃の嵐を見舞うティガー。パンツァースマッシャーから連射される、小型ミサイルの嵐。

 その両方が同時に襲い掛かり、ブロンズフィロキセラは咄嗟に触手での「防御」に転じてしまう。生身の人間相手に、改造人間が守りに入る。これは、前代未聞の珍事であった。

 

(そうだ……! あの時の私達とは、もう違う! 非力だった、私達とはッ!)

(一握りのヒーローだけに、全てを委ねはしない……! 「仮面ライダー」を、都合の良い神様になんてさせないッ!)

 

 3年前、仮面ライダーAPと仮面ライダー羽々斬の最終決戦が繰り広げられていた時も。仮面ライダーアグレッサーの暴走により、一度は東京が壊滅した時も。

 ただの警察官と自衛官でしかなかった迅虎と紗月は、何も出来なかった。仮面ライダーAPが運命に争う姿を、遥か遠くから見ていることしか出来なかった。

 

 もう、あの時とは違う。

 そんな2人の声なき叫びが、ブロンズフィロキセラを圧倒している攻撃の激しさに現れていた。

 

「調子に……乗るなァッ!」

「あうッ!?」

「迅虎ッ! ……ぐうッ!」

 

 だが。「絶対的な白兵戦能力」という改造人間としてのアイデンティティを揺るがされたブロンズフィロキセラの憤怒は、それすらも上回っていた。

 ティガーの爪を絡め取り、動けない状態で腹部に強烈な蹴りを入れた彼は、ティガーの身体を勢い良く放り投げてしまう。咄嗟にスマッシャーを捨てて受け止めに行ったパンツァーも、巻き添えにされる形で吹き飛ばされていた。

 

「ただの人間に何が出来るかッ! 改造人間とは生身の限界を超越せし『力』の象徴! 単なる強化外骨格で、どうにか出来る程度であってたまるかァッ!」

 

 それまでの冷静さを失い、声を荒げているブロンズフィロキセラの言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのようであった。

 劣悪な改造人間にされ、何一つ救われないまま悪に堕ちるしかなかった同胞達。その死に様を目にする度に、改造人間であることへのアイデンティティを拠り所として、彼は立ち上がって来たのだ。それ故に、自身の境遇を真正面から認めるわけにはいかなかったのである。

 




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 仮面ライダーセイバーも完結し、次週からいよいよ仮面ライダーリバイスが始まりますねー。セイバーお疲れ様! よろしくリバイス!(*・ω・)ノ


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第5話 鉄血の砲火

◆今話の登場ライダー

水見鳥清音(みずみどりきよね)/仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)
 良家出身の「お嬢様」ながら、G-4スーツの装着実験で死亡した自衛官の友人の想いを背負い、装着者に志願した物静かな美女。仮面ライダーG-verⅥのスーツを装着した後は、「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」と呼ばれる一斉砲撃を主体とする射撃戦をメインに戦う。装備ラックが追加されているマシンGチェイサーに搭乗する。年齢は23歳。
 ※原案は魚介(改)先生。



「……お可哀想に。そういうことにでもしておかなければ、ご自分を保つことも出来ないのですね」

「なにィ……!」

 

 そんなブロンズフィロキセラに向けられる、怒りでも憎しみでもない、哀れみの色を帯びた女性の声。その声の主はGチェイサーに跨り、遥か彼方から急接近していた。

 良家の令嬢でありながら、自衛官の友人の「遺品」である強化外骨格を装着している水見鳥清音(みずみどりきよね)。彼女が纏っている「仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)」のスーツは、陸上自衛隊で試験開発が進められていた「G-4」の流れを汲んでいる曰く付きの代物であった。

 

 黄色に発光する両眼。赤と白を基調とする装甲、原型機のG-4よりもさらにマッシブにしたシルエット。右肩に刻まれた、G-6というコードナンバー。その外観からは、中身が優雅な容姿の美女であることなど誰も想像がつかないだろう。

 怪人とされる者達も元を辿れば「人間」であり、特に主力の3人が日本人である以上、「国民」に軍事力を行使することは出来ない。そのしがらみを抱えている自衛隊から、警察権を持ち武力を行使できる警察に特例的に融通されたデータが、この機体の基盤にあるのだ。

 どれほどの屍を踏むことになろうとも、必ずノバシェードを潰し無辜の国民を守り抜く。その鉄血の信念が、G-verⅥというスーツを形成しているのだと言っても過言ではない。

 

「聞こえませんでしたか? ……哀れだと、そう申しているのですよ」

「脆弱な生身の女が……どの立場で物を言っているッ!」

 

 ダウンしているティガーとパンツァーには目もくれず、ブロンズフィロキセラは激昂に身を委ね触手を振るう。G-verⅥのGチェイサーは、その鋭い斬撃を巧みにかわしていた。

 彼女が使用している専用のGチェイサー。その車体の両脇には多目的巡航ミサイル「ギガント改」を搭載するための装備ラックが設けられており、遥花や迅虎が使っている通常仕様よりも、遥かに重量化しているはずなのだが。ブロンズフィロキセラの触手は彼女の愛車に、傷一つ付けられていない。

 

「ぐおぉおッ……!? こ、こんなバカなことがあるものか……! 通常兵器が改造人間に通じるなどッ!」

「通じますわ。……火力においてはもはや、通常兵器の域ではありませんもの」

 

 やがて、彼女のGチェイサーが艶やかなカーブを描いて停車した瞬間。そこから降りて来た彼女は、両手に装備した2丁のガトリング式携行型重火器――GX-05「ケルベロスランチャー」での一斉射撃を開始していた。

 従来の携行火器を遥かに凌ぎ、パンツァースマッシャーにも迫る火力を誇るガトリングガン。それを2丁同時に操るG-verⅥの猛攻は、再びブロンズフィロキセラを後退させていく。

 

「迅虎、紗月。……決めましょう」

「おうとも……!」

「やって、やるさッ!」

 

 その間にようやく立ち上がったティガーとパンツァーが、必殺技の体勢へと移行していく。ブロンズフィロキセラが攻撃に転じる前に決着を付けるべく、G-verⅥも「全火力」を投入する準備に入っていた。

 

「はぁあぁあッ!」

 

 両腕の爪をクロスさせて懐に飛び込み、一気に叩き斬る「ティガーチャージ」。四肢の無限軌道を回転させながら助走を付け、水平キックを見舞う「パンツァーストライク」。

 斬撃と蹴撃。その双方が同時に決まり、ブロンズフィロキセラは激しく吹っ飛ばされてしまう。

 

「お、おのれッ……ぐぅおッ!?」

「……これで、とどめです」

 

 さらに、立ち上がる隙も与えず。G-verⅥは2丁のケルベロスを連射し、ブロンズフィロキセラの装甲を削り取って行く。それと並行して、遠隔操作でGチェイサーを操っていた彼女は、車体に搭載されている2基8門のギガント改を敵方に向けていた。

 その弾頭の群れが飛び出す直前、ケルベロスをロケット弾を発射する「GXランチャー」に変形させた彼女は、ミサイルにロケット弾をぶつけるかのように同時発射する。

 

「うぐわぁあぁあーッ!?」

 

 ミサイル8発、ロケット弾2発。その絶大な火力を一斉に解き放つことで噴き上がった爆炎は、ブロンズフィロキセラの絶叫すら飲み込んでいた。

 「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」と呼ばれる、G-verⅥ最大最強の砲火。その威力はブロンズフィロキセラの変身すら解除させるほどの威力だったらしく、猛煙の中からは武田禍継の姿が現れている。

 

「がはッ! はぁ、はぁっ……!」

「清音、あいつまだ……!」

「大丈夫です、迅虎。……我々も全火力を使い果たしてしまいましたが、あなたもすでに戦闘を続行出来る状態ではないでしょう。人間らしく、降伏なさい」

「これ以上の争いなんて、こっちだって御免なんだからさ……!」

 

 都市迷彩の戦闘服を纏う、ノバシェードの幹部。指名手配書通りの顔を持つその男は、息を荒げて膝を付いている。

 そんな彼に降伏を勧告するG-verⅥ達も、先ほどの一斉攻撃ですでに消耗し切っていた。1人の死者も出さずに決着を付けるには、このタイミングしかない。

 それが彼女達の判断、だったのだが。

 

「……ふっ、くくく。まさかただの人間如きに、ここまで追い詰められるとは思わなかったぞ。確かに俺は、実に哀れな存在だったのかも知れんな」

「何が……可笑しいのですか」

「認めてやると言ってるのだよ。貴様らは人間としては、あまりにも強い。そして俺は改造人間として、あまりにも弱い」

 

 禍継は満身創痍の身でありながら、薄ら笑いを浮かべてなおも立ち上がっていた。その眼にはまだ、諦めの色がない。

 

「人間共の真似をしているようで癪に障るからと、今まで封印してきたこの『力』も……貴様らを認めてしまった今となっては、もはや使用を躊躇うこともない」

「……!? あ、あれはまさか……!」

 

 そんな彼の腰に巻かれていたのは――仮面ライダーGや仮面ライダーAPと全く同じ、ワインボトルが装填された「変身ベルト」であった。

 かつての英雄達を想起させるその規格に気付いた瞬間、ティガーは思わず声を上げる。それと同時に、禍継は歪に口元を吊り上げながら、ベルトのレバーを倒してしまうのだった。

 

「……変身」

「くッ……!」

「させるかァッ!」

 

 その瞬間、ベルトを中心に広がる輝きが禍継を包み込んでいく。不吉な「予感」を覚えたG-verⅥとパンツァーは、GXランチャーとパンツァースマッシャーを同時に撃ち込んでいた。

 それぞれの得物に残されていた最後の弾頭は、やがて禍継を飲み込むほどの爆炎を生み出していく。だが、猛煙の向こうにはまだ、両の足で立っている彼のシルエットが浮かび上がっていた。

 

「やったか!?」

「いえ、彼はまだ……!」

「こうなったら……もう1回ッ!」

 

 すでにGXランチャーも、パンツァースマッシャーも弾切れ。ならばとティガーは最後の力を振り絞り、再び爪を振り上げ猛煙に向かって突っ込んでいく。

 そして何もさせまいと、煙の中に爪を刺し込んだのだが。

 

「な、なんだとッ……!?」

「迅虎……!?」

「どうしたのですか……!?」

 

 その爪から伝わる「感覚」に驚愕し、ティガーはその場で硬直してしまっていた。G-verⅥとパンツァーも、何事かと仮面の下で目を見張っている。

 

「……貴様らもしていることだ。よもや、文句などあるまいな?」

 

 やがて煙が晴れると同時に、禍継の声が響き渡ると。3人の女性ライダーは、同時に瞠目していた。

 

「あ、あれは……!?」

 

 仮面ライダーGと瓜二つの外観を持つ新たな仮面ライダーが。ティガーの爪を、指2本で挟むように受け止めていたのである。

 Gと同一のデザインでありつつも、本来なら赤色である部分が全て銅色に統一されているその姿は、まるでかつての英雄が敵に回ったかのような錯覚と威圧感を齎していた。

 

「お前ら……旧シェードの技術も接収していたって言うのか……!?」

「俺達改造人間が絶対的強者でいるためには、この鎧がどうしても必要だったのだよ。……不本意なことにな」

 

 かつてのシェードが開発していた、仮面ライダーGことNo.5と同規格の外骨格。それを手に入れていたノバシェードの幹部は、軽く指先を捻るだけでティガーの爪をへし折ってしまう。

 

「突然変異により授かった、ノバシェードの奇跡たる俺達の『力』。旧来のシェードが培っていた、外骨格の『力』。その双方が混ざり合うことで、真に最強たる『力』のカクテルが完成する」

「ぐうぅッ!」

「迅虎ッ!」

 

 その「力」で軽く平手打ちされただけで、ティガーは勢いよく吹き飛ばされていた。彼女を咄嗟に受け止めたG-verⅥとパンツァーも、外骨格を得た彼の力に戦慄を覚えている。

 

「俺にこれを使わせた褒美だ。……貴様らには、『実験台』という役職をくれてやる。光栄に思いながら、死ね」

 

 全ての力を使い果たし、ブロンズフィロキセラを打ち破ったG-verⅥ達だったが。武田禍継という男にとっては、これからが第2ラウンドなのである。

 彼が変身する銅色の魔人――「仮面ライダーニコラシカ」は、ここからが本領なのだ。

 




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Ps
 ゴツいアーマーでガチガチに固めてる美女って良いですよね。サムス・アラン然り(*´꒳`*)


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第6話 ドライビング・トランスフォーメーション

◆今話の登場ライダー

鳥海穹哉(とりうみくうや)/仮面ライダーケージ
 警視庁に属する巡査長であり、真っ直ぐな正義感の持ち主でもある熱血刑事。仮面ライダーケージに変身した後は、強烈な飛び蹴り「ジャッジメントストライク」を中心とする徒手空拳で戦う。マシンGドロンに搭乗する。年齢は27歳。
 ※原案はたつのこブラスター先生。

忠義(チュウギ)・ウェルフリット/仮面ライダーオルバス
 アメリカでは騎馬警官として活躍していた父の影響で警察官となった、ハーフの青年。仮面ライダーオルバスに変身した後は、勢いを付けた後ろ回し蹴り「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は20歳。
 ※原案はX2愛好家先生。



「ぐぅうッ!」

「がはッ……!」

「迅虎、紗月……ぐうッ!」

 

 そこからはもはや、戦いですらなかった。力を使い果たしていたG-verⅥ達では仮面ライダーニコラシカに対抗出来るはずもなく、彼女達は次々と倒れてしまったのである。

 最後に残ったG-verⅥもニコラシカに首を掴まれ、ぶらりと宙に吊り上げられていた。

 

「まずは貴様からだ。このまま首をへし折り、一瞬で楽にしてやろう」

「く、うッ……!」

 

 だが、彼女はまだ諦めていない。首を掴まれながらも腕部の装置を操作していた彼女は、相棒のGチェイサーに真横から体当たりさせていく。

 

「がは、げほッ……!」

「……まだ諦めんとは、面白い女だ。ならば冥土の土産に、いいものを見せてやろう」

「……!?」

 

 それでも、ニコラシカの体幹は全く揺らいでいない。G-verⅥの抵抗を嘲笑うニコラシカは、敢えて彼女の首から手を離していた。

 そして、激しく咳き込む彼女の前でGチェイサーの車体を掴み、右手でベルトのボトル部分に触れていく。すると、彼のベルトから発せられたエネルギーが光となり、右手に集中し始めていた。

 

「スワリング……ライダーチョォップッ!」

 

 やがて右手に凝縮されたエネルギーが、光り輝く手刀と化した瞬間。垂直に振り下ろされたその刃が、G-verⅥのGチェイサーをバターのように切り裂いてしまう。

 その際に発生した爆発により、G-verⅥは激しく吹き飛ばされていくのだった。だが、間近で爆風を浴びたはずのニコラシカは平然としている。

 

「きゃあぁあーッ!?」

「……はっははは、見たか人間共! これが本当の『力』! 改造人間の真価というものだッ!」

 

 悲鳴を上げて転がっていくG-verⅥを見遣り、ダウンしたまま動けずにいるティガーとパンツァーに視線を移したニコラシカは、やがて高らかに彼女達を嘲笑う。どんなに熱い思いを胸に秘めようが、結局は物理的な「力」だけが全てなのだと。

 

「さぁ、今度こそ貴様らに確実な死を……!?」

 

 そして、スーツの機能停止により身動きが取れずにいるG-verⅥの方へと歩みを進め、とどめを刺そうとしていた時。

 

「……この期に及んで、ふざけた真似を」

 

 その頭部に銃弾が命中し、火花が散る。何の変哲もないただの銃弾では、改造人間には全く通じないのだが――水を差された怒りを煽るには、十分な効果であった。

 

 拳銃でニコラシカの気を引いていたのは、遠方から救援に駆け付けていた「新手」の警察官。彼は赤を基調とする通常仕様のマシンGドロンを運転しながら、ニコラシカを銃撃していたのである。

 ボンネットに大きく描かれた「G」のイニシャルは、そのスピーディーな挙動に見合う力強さを放っていた。

 

「3人共、待たせたな! 俺達の『調整』もようやく間に合ったぜ!」

鳥海(とりうみ)巡査長……!」

 

 G-verⅥ達の窮地に現れた鳥海穹哉(とりうみくうや)巡査長は、逞しさに満ちた笑みを彼女達に向けつつ、鋭い眼差しでニコラシカを射抜く。そんな彼の登場に、G-verⅥ達も仮面の下で安堵の表情を浮かべていた。

 一方、邪魔立てされたことに静かな怒りを燃やしていたニコラシカの方も、殺意を纏った眼光を彼に向けている。

 

「……次から次へと。貴様らのような存在ほど苛つくものはない……! 楽に死にたくば、抵抗などしないことだなッ!」

「楽に死ねると思ってるような奴が、警察官になんてなるものかよッ!」

 

 ニコラシカは先ほどの手刀で破壊したGチェイサーの残骸を掴み、凄まじい速さで穹哉目掛けて投げ付けていく。Gドロンを急加速させてそれをかわした穹哉の隣には、もう1台のGチェイサーが並んでいた。

 

「穹哉さん、変身だ! やっぱりこいつら幹部格なだけあって、話が通じる手合いじゃねぇッ!」

忠義(チュウギ)……! ……そうだな。無傷で逮捕だなんて、甘い考えで戦える相手じゃない。こっちも腹括るしかないってことかッ!」

 

 アメリカの騎馬警官を父に持つ、忠義(チュウギ)・ウェルフリット。同僚にして弟分でもある彼の提案に乗り、深く頷いた穹哉は腰の「変身ベルト」を起動させる。

 

 最新技術「シフトカー」の力を発現させるシフトブレスに、プリウスに似た「シフトプリウス」を装填した彼は、ベルトにその力を送信した。

 

「変身ッ!」

 

 次の瞬間、ハンドルを握ったまま「仮面ライダー」へと変身していく穹哉の全身が、鋭角的な外骨格に覆われていく。

 別世界のライダー「ダークドライブ」を想起させるその姿こそが、鳥海穹哉のもう一つの姿――「仮面ライダーケージ」なのだ。

 

「さぁーて……俺も行きますかァッ!」

 

 それと並行して、Gドロンの隣を疾走している忠義も、Gチェイサーを飛ばしながら己の「変身ベルト」を起動させていた。

 一定以上の速度を検知することにより作動する「ジャスティアドライバー」は、すでに変身待機状態に移行していたのである。

 

「変身ッ!」

 

 ベルト上部の起動スイッチを押し込んだ忠義が、その叫びと共に飛び上がった瞬間。ベルトを基部として展開されていく装甲が、彼の全身を素早く固めていく。

 

 やがて「仮面ライダー」の力を得た彼が、地面に着地した頃には。すでにその身体は、メカニカルな深紅の装甲を纏う騎士の姿となっていた。

 全身の各部に騎士鎧のような外装や装飾が取り付けられたその外観は、別世界のライダーである「仮面ライダーアクセル」に近しい。

 

「忠義、行くぞッ!」

「オッケー、穹哉さんッ!」

 

 忠義が変身しているその戦士――「仮面ライダーオルバス」が、エンジンブレードを握り締めた頃には。変身を終えたケージもGドロンから降り立ち、臨戦態勢を整えていた。

 

「清音達を随分と痛め付けてくれたらしいな……! 覚悟しろよ、ノバシェードッ!」

「……どんどん余罪ばっかり増やしちゃってまぁ。そんなに長く刑務所に居たいのかい?」

 

 ニコラシカと対峙するケージとオルバスは、各々の得物である拳と剣に、燃え滾るような義憤を宿している。

 

「……罪、か。改造人間たるこの俺を人間の法で裁こうとは、つくづく愚かな蠅共だ」

 

 そんな彼らを冷ややかに見遣るニコラシカも、殺意を纏う拳をバキバキと鳴らしていた。

 




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Ps
 穹哉と忠義の掛け合いについては結構、進ノ介と剛を意識した感じになりました。やっぱりドライブ系となるとそっちに寄っちゃうんですよねー(*´ω`*)


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第7話 仮面ライダーである前に

◆今話の登場ライダー

明日凪風香(あすなぎふうか)/仮面ライダーΛ−ⅴ(ラムダファイブ)
 若くして警部補にまで昇進しているエリート警官であり、女子高生と間違われることも多い「男の娘」でもある青年。仮面ライダーΛ−ⅴに変身した後は、通常稼働の限界以上に出力を高める「オーバーロード」を切り札として戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は25歳。
 ※原案はクレーエ先生。



 番場惣太主導の元、多岐にわたる技術系統から生み出された「新世代」の試作機達。その中には、稼働時間を犠牲に出力を高めている実験機も幾つか含まれている。

 それらは数分にも満たない時間しか戦えないというデメリットと引き換えに、非常に高い戦闘力を発揮していた。

 

「ぐ、ぬぅッ!」

「忠義ッ!」

「はいよッ!」

 

 仮面ライダーケージと仮面ライダーオルバスも、その高出力シリーズの一つなのだ。2人は互いの隙を補い合うように打撃と斬撃を繰り出し、反撃の隙すら与えぬ連続攻撃で、仮面ライダーニコラシカを圧倒している。

 

「む……!」

「おおぉッ!」

 

 突き出されたエンジンブレードをジャンプでかわしたニコラシカが、頭上からオルバスを潰そうとした時には。すでにオルバスの背に乗ったケージが、迎撃の鉄拳を放っていたのである。

 予期せぬカウンターを受けたニコラシカは後方に宙返りしつつ、再び防戦一方となっていた。

 

「……人間風情がここまで俺を追い詰めたこと。その一点だけは、褒めておいてやる」

「そんな余裕ぶっこいでて良いのかい!? 俺達は……この時代のために生まれてきた、『仮面ライダー』なんだぜッ!」

 

 行ける。勢いは確実にこちらにある。

 そう確信したオルバスは、一気に間合いを詰めながらエンジンブレードを再び突き出していた。

 

「……ッ!?」

「貴様らが『仮面ライダー』、だと? この程度でか」

 

 だが、「本気」になったニコラシカの実力はまだ、「底」に至ってはいなかったのである。両拳で挟み込むようにエンジンブレードの切っ先を止めてしまった彼は、反撃の回し蹴りでオルバスの体を吹き飛ばしてしまうのだった。

 

「うごぁあッ!?」

「忠義ッ――ぐぅッ!?」

 

 その光景に気を取られた一瞬の隙を突かれ、ケージも続けざまに殴り飛ばされてしまう。ケージに狙いを定めたニコラシカは、無情な鉄拳の連打を放って来た。

 

「『仮面ライダー』とは母たるシェードすらも穿つ、真に最強たる戦士にのみ許される称号だ。改造人間ですらない貴様らがその名を騙るなど、言語道断と知れッ!」

「ぐあッ!?」

「穹哉さんッ!」

 

 彼が放つ拳打の嵐は、ケージの反応速度すら上回っている。改造人間と生身との間にある、埋めようのない「差」を見せつけるかのような一撃を受け、ケージも激しく吹き飛ばされてしまうのだった。

 

 高出力と引き換えに稼働時間を犠牲にしているケージとオルバスのスーツは、すでに停止寸前の状態に陥っている。このままではニコラシカを倒す前に、2人が先に力尽きてしまう。

 まさしく、絶体絶命であった。

 

「……それは違うぞ、武田禍継」

「なに……?」

 

 すると。けたたましいエンジン音と共に現れた1台のGチェイサーが、颯爽とニコラシカの前に駆け付けて来る。

 ケージとオルバスを庇うような位置に現れたそのバイクには、女子高生と見紛う容姿の美男子(・・・)が跨っていた。2人の上司に当たる警視庁のエリート、明日凪風香(あすなぎふうか)警部補である。

 

「あ、明日凪(あすなぎ)警部補……!」

「人類の自由と平和のために戦う希望の闘士……それが『仮面ライダー』だ。その矜持に、改造人間も生身もない」

「ふん……非力な女子のような面構えをしておいて、何を抜かす。仮面ライダーは『力』だ。全てを破壊しうる絶対的な力を指す『概念』なのだよ」

 

 風香が語る「仮面ライダー」という言葉に込められた意味。それを真っ向から否定するニコラシカは、不遜に鼻を鳴らして彼を嘲笑っていた。

 だが、風香はそんな彼の態度に怒るどころか、逆に皮肉めいた視線を送っている。

 

「……さては貴様、『彼ら』を直に見たことがないな? あの背中を一度でも見たことがある者なら、そんな台詞など吐けはしない」

「なんだと……!?」

「だが、知らないというのならそれで良かろう。……ならば今、ここで教えてやる。『仮面ライダー』とは、こういうものだとな!」

 

 彼はその時すでに。手にしていたトランクケースを、強化外骨格へと「変形」させていた。

 

「変身ッ!」

 

 その叫びと共に、ケース状にされていた外骨格が本来の姿を取り戻し、彼の全身を固めていく。

 別世界のライダー「仮面ライダー1型」のロッキングホッパーを想起させる外観だが、装甲は銀色に統一されている。その両眼は、絶えず緑色の輝きを放っていた。胸の装甲に刻まれた、警察の証となる金のエンブレムは神々しい輝きを宿している。

 

「……このスーツはケージやオルバスよりも、さらに高出力の『大飯食らい』でな。悪いが、早々にケリを付けさせてもらうぞ」

 

 番場惣太の計画から生まれた技術系統の一つである、「Λ(ラムダ)シリーズ」。その最新作に当たる、「仮面ライダーΛ−ⅴ(ラムダファイブ)」が、ついにベールを脱いだのだ。

 

「明日凪警部補……!」

「鳥海、ウェルフリット、さっさと立て。……俺達の手で奴に叩き込むぞ、『仮面ライダー』とは何たるかをなッ!」

「……はいッ!」

 

 彼の変身に鼓舞されたケージとオルバスも、最後の力を振り絞って立ち上がる。Λ−ⅴも加えた3人掛かりの総攻撃が始まったのは、それから間もなくのことであった。

 

「ぐぁ、あッ……!? な、なんだこの威力は……! 貴様ら、それで改造人間ではないというのか!?」

「……貴様にとっては不都合だろうが、その通りだよ」

「そう! 知っての通り、俺達は……!」

「ただの、人間だァッ!」

 

 ただでさえ高出力であるΛ−ⅴの強化システムを、さらに限界以上まで作用させる「オーバーロード」。ごく僅かな攻撃チャンスのために全てを投げ打つその力は、改造人間すらも叩き伏せるほどの威力を発揮している。

 ニコラシカが「力負け」するほどのパワーで、パンチとキックを矢継ぎ早に放つΛ−ⅴ。その猛攻に乗じて再開されたケージとオルバスの連携攻撃も、さらに冴え渡っていた。

 

「ぐはぁああッ!?」

「鳥海、ウェルフリット……行けえぇッ!」

 

 やがて、Λ−ⅴの最後の力を込めた回し蹴りが、ニコラシカを吹き飛ばし。その銅色の装甲に、亀裂を走らせていく。

 それが決まると同時に、エネルギーがついに底を着いてしまったのか。Λ−ⅴは力無く片膝を付き、息を荒げていた。だが、ニコラシカを倒せる可能性を秘めた「仮面ライダー」は彼だけではない。

 

「はいッ! ……決めるぞ、忠義ッ!」

「よぉーし……いっちょやっちゃいますか、穹哉さんッ!」

 

 顔を見合わせ、頷き合ったケージとオルバスが、同時に地を蹴り軽やかに跳び上がる。

 ケージが空中で身体を捻り、飛び蹴りの体勢に入ると同時に――オルバスは滞空しながら上体を翻し、後ろ回し蹴りの体勢へと移行していた。その足裏にある蹄鉄の意匠が、眩い電光を纏う。

 

「はぁあぁああーッ!」

「でぇえぇえーいッ!」

 

 ケージの必殺技、「ジャッジメントストライク」。オルバスの必殺技、「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」。その二つの「ライダーキック」が、唸りを上げてニコラシカに襲い掛かる。

 

「くッ……スワリングッ! ライダァァアッ! チョォップッ!」

 

 ニコラシカも彼らの蹴撃を迎え撃つべく、右手の手刀に全エネルギーを集中させ、居合い斬りの如く水平に薙ぎ払ったのだが。その一閃を以てしても、2人のキックを跳ね返すことは出来なかった。

 

「ぐぉ、あ……あぁあぁあーッ!?」

 

 あまりの威力に、ニコラシカの手刀が弾かれた瞬間。直撃を受けた彼のベルトが、粉々に砕け散ってしまう。

 スーツを維持する基盤となるベルトが破壊されたことで、武田禍継は強制的に変身を解かれていた。

 

 仮面ライダーニコラシカの敗北。仮面ライダーケージと、仮面ライダーオルバスの勝利。その瞬間を見届けていたΛ−ⅴとG-verⅥ達は、揃って安堵の息を漏らしている。

 

 この場にいる、6人の装着者――もとい、仮面ライダー。彼らの死力を以て、今度こそ武田禍継は完全に無力化されたのであった。

 力を使い果たし、もはや戦える状態ではなくなっていた風香は、Λ−ⅴの変身を解くと。同じく元の姿に戻っていた穹哉や忠義と共に、禍継を取り囲んでいく。

 

「……今さら、命乞いなどせん。ひと思いに殺るがいい」

「貴様は何か勘違いをしているようだな。俺達は、貴様らを殺しに来たわけではないのだぞ」

「なに……?」

 

 否応なしに「敗北」の2文字を突き付けられていた禍継は、潔く散ろうと風香達に「介錯」を求めていた。だが風香はそれを否定するべく、穹哉に目配せして「手錠」を用意させる。

 

「武田禍継。ノバシェードを先導し、世界各地のテロ行為に関与した容疑で……お前を『逮捕』する」

「た、逮捕だと……!? 貴様ら、気でも触れたか!? 生身の人間風情が、改造人間を拘束することなど出来るわけがないだろう! そんな戯言を吐いてまで、俺を愚弄したいのか!」

 

 穹哉が発したその宣言に瞠目し、禍継は狼狽した様子で声を荒げていく。そんな彼に対し、風香は淡々とした佇まいで言葉を紡いでいた。

 

「……やはり貴様は分かっていない」

「なんだと!?」

「さっきから聞いていれば、改造人間だの生身だのと……。どうやら貴様は『線引き』がしたくてたまらないようだが、そんなものは存在していないのだよ。少なくとも、現行法においてはな」

「げ、現行法、だと……?」

「分からないなら良いぜ、分かるまで何度でも言ってやる。身体がどれほど化物染みていようが、心まで化物に堕ちようが……それでも、お前らは紛れもなく『人間』なんだ。何を以て『怪人』とするか。その定義が現行法に明記されていない以上、お前らの云う改造人間なんて、どこまで行っても『自称』でしかないんだよ」

 

 風香の説明を捕捉している忠義は、尻餅を付いている禍継に視線を合わせていた。警察官にとっては、改造人間だろうが怪人だろうが、同じ「人間」なのだと訴えるために。

 

「ふざけるな! こんな身体の……こんな力の人間などいるものか! だから俺達はノバシェードに……!」

「誰しもそう思う。……それでもやはり『人間』だから、俺達はここにいる。本当にお前らが、お前ら自身が思っているようなモンスターだったなら、今頃ここにミサイルでも撃ち込んで終わりにしていたところだ」

「……!」

「貴様らでも新聞くらいは読むだろう? ならば分かるはずだ。俺達のように考えている者は、決して少数派ではない。結城丈二をはじめ、貴様らのような被験者達を救おうとしている者達は大勢いる。ノバシェードというテロリストに堕ち、一線を超えてしまった貴様らは確かに、犯罪者として扱うしかない。それでも俺達人類は、貴様らを『人間』と見做して裁くのだ」

 

 あくまで自分を「人間」として扱おうとしている穹哉と風香を仰ぎ、禍継はわなわなと肩を震わせ、目を伏せる。心の底から本気で言っているのだと、彼らの眼が語っていた。

 それ故に、視線を合わせることが出来なかったのである。

 

「……人間共の施設如きで、改造人間を拘束することなど出来るものか。いずれ必ず、凶悪な脱獄犯が現れる。今ここで殺しておかねば、後悔することになるぞ!」

「その時は、また俺達が捕まえてやるさ」

「何十回でも、何百回でもな」

「貴様らは、それでいいというのか。人間の自由と平和を守る、それが仮面ライダーではなかったのか!」

「そうだとも。……だが俺達は仮面ライダーである前に、1人の警察官だ」

「それが甘いってんなら……その甘さこそが、俺達の誇りさ」

 

 例えこの先、どのような未来が来ようとも。仮面ライダーである前に警察官であろうとする彼らは、決して己の信念を曲げることはない。

 

 直に彼らと戦い、敗れた禍継にはそれが痛いほど理解できてしまった。人間として生きようとする道を早々に諦め、ノバシェードに身を委ねた自分では、どうあがいても彼らには敵わないのだということも。

 

「……俺の、負けだ。何も、かもッ……!」

 

 絞り出されたその一言に、風香達は目を見合わせ。やがて無言のまま頷き合うと、静かに禍継の両手に手錠を掛けていく。

 対改造人間用の特殊合金で製造されたこの手錠なら、禍継の膂力でも引きちぎることは出来ない。だが、もしこれが普通の手錠だったとしても、「信念」で敗れてしまった彼が抵抗することはなかっただろう。

 

 ――かくして。ノバシェードの幹部・武田禍継は、組織を率いて多数のテロを起こした容疑で、正式に逮捕されたのだった。

 ただの、人間として。

 




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Ps
 3人で禍継を囲んでる構図が完全にペンギンコラ。


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第8話 戦乙女の剛拳

◆今話の登場ライダー

東方百合香(ひがしがたゆりか)/仮面ライダーアルビオン
 元SATであり、シェードとの交戦経験もあるクールビューティー。仮面ライダーギガントのスーツを装着した後は、巨大な機械腕「ギガントアームズ」からパンチと共に衝撃波を叩き付ける「ギガントインパクト」を切り札に、接近戦主体で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は25歳。
 ※原案はMegapon先生。

熱海竜胆(あたみりんどう)/仮面ライダーイグザード
 警視庁の警部であり、愛する妻と娘達を守るためにノバシェード打倒に立ち上がったタフガイ。仮面ライダーイグザードに変身した後は、真上に蹴り上げた相手に追撃の回し蹴りを叩き込む「イグザードノヴァ」を切り札とする接近戦をメインに戦う。マシンGドロンに搭乗する。年齢は29歳。
 ※原案はカイン大佐先生。

静間悠輔(しずまゆうすけ)/仮面ライダーオルタ
 若手ながら優秀な警官であり、竜胆の片腕として彼のサポートに徹している。仮面ライダーオルタに変身した後は、エネルギーネットで拘束した相手に斬撃を叩き込む「レイスラッシュ」を切り札としつつ、近接戦と射撃戦を臨機応変に切り替えて戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は21歳。
 ※原案はシズマ先生。



「なんだァ? 禍継の奴、あんな人間共に負けちまったのかよ。『仮面ライダー』にやられちまうってんならともかく、生身の連中相手に何やってんだかなァ……」

 

 武田禍継の敗北。その瞬間を遥か遠方から目撃していた上杉蛮児ことシルバーフィロキセラは、深々とため息をついていた。まさか自身と双璧を成す幹部の一角が、人間達に敗れるとは夢にも思わなかったのだ。

 そんな彼も、警察製の外骨格を纏う「仮面ライダー」と交戦中なのだが。対戦相手である仮面戦士の方には視線すら向けず、蠅を払うような感覚で触手を振るい続けている。

 

「私など眼中にない、とでも言うのか……!」

 

 黒のアンダースーツに、下半身を彩る白と金の差し色。上半身を固める、黒を基調としつつもメタリックブルーの差し色が入った装甲。それらは「仮面ライダーイクサ」のバーストモードや、「仮面ライダーG3-X」を彷彿とさせている。

 そんな外観を持つ「仮面ライダーアルビオン」のスーツを纏う東方百合香(ひがしがたゆりか)は、両腕に装備されている巨大な機械腕「ギガントアームズ」を盾にして、ひたすら防御に徹していた。

 

 ピーカブースタイルで触手の乱打を凌いでいる彼女の背後には、真っ二つに切り裂かれた彼女のGチェイサーの残骸が転がっている。その無惨な姿が、シルバーフィロキセラの触手に秘められた威力を物語っていた。

 広範囲に伸びる彼の触手なら、ただ適当に振り回しているだけでもかなりの脅威となる。故に彼はアルビオンを視界にも入れないまま、彼女を圧倒しているのだ。

 

「だがッ……その傲慢さが命取りになるッ!」

 

 無論、このまま何も出来ずに倒れる彼女ではない。防御体勢のまま徐々に間合いを詰めていた彼女は、触手の打撃を凌ぐと「次」が来るまでの僅かなインターバルを狙い、一気に動き出して行く。

 ギガントアームズに内蔵されている機関砲「ギガントガトリング」が火を噴いたのは、その直後だった。大量のエネルギー弾を連射する彼女の奇襲攻撃が、油断し切っていたシルバーフィロキセラの横顔に炸裂する。

 

「んぐぉッ!? て、てめッ……!」

「私の動きを注視してさえいれば、容易く避けられたかも知れんなッ!」

 

 彼がアルビオンの接近に気付いた時にはすでに、巨大な機械腕から放たれる必殺の一撃が決まろうとしていた。

 ギガントアームズ内部のシリンダー状パーツ「インパクトパイル」が、吸引された空気を最大限にまで圧縮している。

 

「はぁあぁあーッ!」

 

 やがて、パンチと共に急速に打ち出された衝撃波は、シルバーフィロキセラの身体を激しく吹き飛ばしてしまうのだった。

 

「ぐおあぁああッ!?」

 

 あまりの威力に、白銀のボディに亀裂が入ると。シルバーフィロキセラはその激痛にのたうちまわり、転倒してしまう。

 

 ――アルビオン自身が言っていたように。いわゆる「パイルバンカーパンチ」とも言える、彼女の必殺技「ギガントインパクト」は高い威力を誇る一方で、非常に大振りな技でもある。シルバーフィロキセラが一瞬でもアルビオンに目を向けていれば、確実に回避出来ていただろう。

 仮面ライダーの真似事をしているだけの人間共など、警戒する必要はない。そんな油断が招いた失態なのだ。

 

「はぁ、はぁッ……み、見たかノバシェードめ……!?」

 

 だが。この一撃だけで仕留め切れるほど、「ヤワ」な存在ではないことも事実であった。

 逆転の一撃を決め、息を荒げながらも勝利を確信していたアルビオンの前で。シルバーフィロキセラは呻き声を上げながらも、すぐに立ち上がって来たのである。

 

「……やってくれるじゃねぇか。てめぇの鎧をひん剥いたら、死ぬまで可愛がってやるから覚悟しろよ」

「くッ……!」

 

 侮っていた相手に一杯食わされた、という屈辱感がさらなる怒りを煽ったのか。シルバーフィロキセラは凶悪な憤怒を帯びた眼で、アルビオンを射抜いていた。

 先ほどのようなチャンスなど、もう与えない。ひ弱な女に生まれたことを後悔するほど、痛め付けてやると。

 

「……! なんだァ、あいつら……」

 

 そんな彼の凶眼と真正面から向かい合うアルビオンが、決死の覚悟でギガントアームズを構えた瞬間。遠方から猛進してくるGドロンとGチェイサーに気付いたシルバーフィロキセラが、忌々しげに視線を移す。

 

「東方、無事か!? ……妻と娘の誕生日だと言うのに、ふざけた真似しやがって。今日ばかりは容赦せんぞ、ノバシェードッ!」

「警部、それは私情というものです。……第一、あなたはいつも容赦していないでしょう」

 

 Gドロンを駆る熱海竜胆(あたみりんどう)警部と、その補佐を務めている静間悠輔(しずまゆうすけ)。2人はそれぞれの愛車から颯爽と飛び降りると、素早くアルビオンを庇うように立つ。

 その2人の腰にはすでに、「変身ベルト」が巻かれていた。

 

「熱海警部、静間君……!」

「怪我はないようだな、東方。……後は任せておけ。静間、変身だ!」

「……了解」

 

 竜胆が装着している「イグザードドライバー」に「ギアカード」と呼ばれるカードが挿入されると、歯車が噛み合った様な金属音が響き渡る。

 悠輔も自身のベルト型デバイス「オルタギアα」に腕時計型デバイス「オルタギアβ」を翳していた。

 

「変身ッ!」

「……変身」

 

 やがて、両者の音声がスイッチとなり「変身」が始まると。装着者の身体に沿った基礎の骨格「アーマーフレーム」が形成され、そこからベルトに内蔵された「アーマー」が展開されていく。

 アルビオンの前に、2人の仮面ライダーが顕現したのはそれから間もなくのことであった。

 

「熱海警部、私は、まだ戦えますッ……!」

「ギガントインパクトを使ったんだろう? アレの反動は生半可じゃないんだ、お前はしばらく休んでいろ。……残りの仕事は、俺達で引き受けてやる。静間、行くぞ」

 

 「仮面ライダープライムローグ」を想起させる外観と紅い装甲を兼ね備えている、熱海竜胆こと「仮面ライダーイグザード」は、黒いマントを荘厳に翻している。

 

「……えぇ。警部の言う通り、東方さんは一旦下がってください」

「その気持ちはありがたいが……奴は今度こそ、本気で私達を仕留める気なんだぞ! あれほど警戒されては、もうギガントインパクトは決められない……!」

「大丈夫です。……俺達も、伊達にこのスーツのテストを任されてきたわけではありません。それ以外にも打つ手はあると、証明して見せます」

「静間君……」

 

 ダークブルーのボディスーツに、各所に金の模様が入った黒いレアメタル製のプロテクター。V字のアンテナを備えたフルフェイスのヘルメットに、左腕に装備された銀色のガントレット。

 そんな「オルタナティブ」を彷彿させる外見を持つ、静間悠輔こと「仮面ライダーオルタ」も。「X」の字を模した専用装備「エクスブレイガン」を携え、静かな闘志を燃やしていた。

 

「……いいぜぇ、じゃんじゃん来な。いたぶれる玩具が増えると思えば、それほど悪くもねぇ話だ」

「東方のギガントインパクトを受けても、お前は何も学んでいないようだな。……生身だと思って、侮っていい相手ではないんだぞ」

「……俺達、『新世代』の仮面ライダーはな」

 

 ボディに走る亀裂も厭わず、薄ら笑いを浮かべて触手を振り回すシルバーフィロキセラ。そんな彼と真っ向から向き合うイグザードとオルタは、勇ましく臨戦体勢に入っていた。

 これからの時代を守り抜いていく、「新世代」の仮面ライダー。その存在意義を賭けて。

 




 9月5日00:00まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル仮面ライダーを募集中です! 本日が募集最終日となりますので、機会がありましたらぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)


Ps
 ギミックマシマシなライダーにも、シンプルなライダーにも、それぞれの良さがあってイイですなぁ(*´꒳`*)


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第9話 銀狼の目醒め

 イグザードのスーツはケージやオルバスのように、高出力の代償として稼働時間が短くなっている。

 それに加え、装着者の肉体に掛かる負担も大きいという、かなりピーキーな仕様なのだ。故に少しでも「中身」の寿命を縮めないように、機体には出力をある程度セーブするための「リミッター」が設けられているのだが。

 

『リミッター3、リミッター2、解除』

「はぁあぁあッ!」

「ハハァッ! なかなかやるじゃねぇか、ガッツがある奴は嫌いじゃねぇぜッ!」

 

 熱海竜胆という男はこの時すでに、そのリミッターを「解除」していたのである。彼ほどのタフネスがなければ、10秒も保たずに気絶してしまうほどの負荷であった。ベルトから「解除」の報せが響くたびに、イグザードのパワーとスピードが飛躍的に高まっていく。

 そんな捨て身の突撃が生む、絶大な威力の鉄拳。その衝撃の乱打を胸板で受け止めながら、シルバーフィロキセラは哄笑と共に触手を振るっていた。

 

 お互い、防御など考慮していない。先に相手を倒した方が勝ちという、極めてシンプルな世界での、削り合いが繰り広げられている。

 

「残念だなァ? てめぇも改造人間だったなら、俺ともイイ勝負が出来てたかも知れねぇのによ」

「……俺達の限界が、この程度だとでも思ってんのか? イイ勝負ってのは、これから始まるんだぜ」

 

 強者の余裕、のようにも見えるが。実際のところは、イグザードの全力はこれが限界だろう、という甘い見立てを根拠にしているだけであった。

 そんな彼の鼻を明かすべく。イグザードは、遠距離からの援護射撃に徹していたオルタに指示を飛ばす。

 

「静間ッ!」

「了解ッ!」

 

 その隙が命取りになると、教えるために。イグザードの指示を受けたオルタは、手にしているエクスブレイガンを瞬く間に変形させた。

 「ガンモード」でのエネルギー弾の連射を中断し、「ブレードモード」での接近戦に切り替えていく。

 

「あァッ……!?」

「……バカめ」

 

 単純な飛び道具だと判断し、飛んで来るエネルギー弾全てを触手で叩き落としていたシルバーフィロキセラは、意表を突かれていた。一瞬で武器としての性質が変貌したエクスブレイガンの光刃に、反応が追い付いていなかったのである。

 

「ぐ、ぬぅッ……!?」

「警部、仕掛けるなら今です!」

「あぁッ!」

 

 「ブレードモード」に切り替わったエクスブレイガンによる斬撃で、シルバーフィロキセラの胸元に火花が散り。その場所から広がる亀裂が、軋む音を立てていく。

 そこへイグザードが渾身の正拳突きを叩き込んだ瞬間、シルバーフィロキセラの大柄なボディは激しく転倒してしまうのだった。

 

「て、てんめぇら……ぬぅッ!?」

「俺達人間を侮り過ぎた……それが貴様の敗因だ。せいぜい、この『痛み』から学ぶがいい」

 

 予測を超えるイグザードとオルタの猛攻に、先ほどまでの余裕を失った銀色の怪人は、苛立ちを露わに立ち上がろうとする。その怒りにより生まれた「隙」が、狙い目であった。

 エクスブレイガンの銃口からエネルギーネットを発射したオルタは、標的の拘束を確認すると。エネルギーを纏ったブレードを構え、一気に接近していく。

 

「ぐおあぁあッ!?」

「警部ッ!」

「おうッ!」

 

 やがて、すれ違いざまに放たれた光刃の一閃で、シルバーフィロキセラを斬り付けた瞬間。イグザードもオルタの「レイスラッシュ」に続き、己の必殺技を放とうとしていた。

 大きく弧を描いて、真上に振り上げられた蹴り脚が。シルバーフィロキセラの身体を衝き上げ、天高く舞い上げていく。

 

「おらァッ!」

「ぐうッ!?」

『リミッター1、解除』

 

 その白銀のボディに走る亀裂が、より大きく広がった頃には。墜落して来る怪人を迎え撃つべく、イグザードは最後の「リミッター」を解除していた。

 彼がこれまで外してきた枷はまだ、全てではなかったのである。仮面ライダーΛ−ⅴの「オーバーロード」にも引けを取らない、超高出力状態での「必殺技」。それが、仮面ライダーイグザードの真価なのだ。

 

「これが真の『全解除』だ……! 遠慮なく味わいなァアッ!」

 

 落下して来たシルバーフィロキセラに炸裂する、渾身の回し蹴り。「イグザードノヴァ」と呼ばれるその一撃は、すでに限界に達していた白銀の生体装甲を、粉々に打ち砕くのだった。

 

「ぐぉあぁああーッ!?」

 

 銀色の破片を撒き散らしながら激しく転倒し、血だるまの敗残兵と化して行く上杉蛮児。都市迷彩の戦闘服を纏う屈強な大男は、誰の目にも明らかなほどに満身創痍となっていた。

 その光景を見届けたイグザードとオルタも、緊張の糸が切れたように片膝を着いている。レイスラッシュとイグザードノヴァの威力に賭けた強襲は、まともに立てなくなるほどの消耗を伴うものだったのである。

 

「はぁ、はぁッ……!」

「こ、れでッ……!」

 

 それでも、確かな手応えはあった。ギガントインパクトにも一度は耐えたシルバーフィロキセラの生体装甲は、今や完全に打ち砕かれている。鎧のダメージを無視し続けていたことが祟り、上杉蛮児本人も重傷を負っている状態だ。

 ギリギリの勝負となったが、辛うじてこちらが競り勝った。この場に居る3人の誰もが、そう信じていたのだが。

 

「……ハハァッ。やるじゃねぇか、お前ら。今のはちょっとばかし……死ぬかと思ったぜ」

「……!」

 

 ふらつきながらも立ち上がって来た上杉蛮児の姿に、その「甘さ」を思い知らされてしまうのだった。彼は額から滴る鮮血も拭わず、なおも好戦的な笑みを浮かべている。

 改造人間故なのか、生来のものなのか。いずれにせよ、常軌を逸したタフネスには違いない。しかもその腰には、禍継が装着していたものと同じ「変身ベルト」が顕れている。

 

「……禍継の野郎が負けた理由も、今なら少し分かるかもな。確かにこりゃあ、ナメては掛かれねぇ連中だ」

「な、なんだと……!?」

「あのベルト、まさか奴は……!」

 

 使うまでもないからと、戦いを楽しむためだけに封印していた「力」。それを改造人間たる自分の中に取り込むことによって発現する、「力」のカクテル。

 

「……変、身」

 

 その歪な混沌すらも愉しむかのように。蛮児は怪しく嗤い、ベルトのレバーを倒してしまう。そのベルトを起点に広がっていく銀色の閃光は、彼の巨躯を瞬く間に飲み込んでしまうのだった。

 

「……ッ!」

 

 その輝きの中から現れた仮面の戦士に、イグザード達は息を呑む。仮面ライダーGに酷似しつつも、原型機の赤い部分が銀色に彩られているその姿は、蛮児本人の荒々しさからは想像も付かないほどの煌めきを放っていた。

 

「んあァ〜……いい具合に『力』が混ざり合ってんなァ。お前ら、あの世で誇っていいぜ? 俺の『変身』を拝めるのは……お前らが最初、なんだからなァ」

 

 そんな「倒すべき仇敵達」の様子を目の当たりにしている、上杉蛮児こと「仮面ライダーギムレット」は。バキバキと拳を鳴らしながら気怠げに首を捻り、完全なる「抹殺」を宣言する。

 一見、隙だらけな振る舞いのようにも見えるが。その仮面の大きな複眼は、3人の獲物を鋭く捉えていた――。

 




 本日を以てオリジナルライダーの募集企画は終了となりました! 本企画にご協力頂いた参加者の皆様、誠にありがとうございます!(*≧∀≦*)
 まだまだ連載は続きますので、どうぞ最後までお楽しみにー!٩( 'ω' )و


Ps
 今日から仮面ライダーリバイスがスタートですな! どんなお話になるのか、今から楽しみでございます(*´ω`*)


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第10話 並び立つ猛者達

◆今話の登場ライダー

◆ジャック・ハルパニア/仮面ライダーUSA(ユナイテッドステイツ)
 在日米軍から出向してきた豪快なタフガイであり、アメリカ軍で開発中のスーツのテストを任されている。仮面ライダーUSAのスーツを装着した後は、最大出力で放つ鉄拳「ライダースマッシュ」を切り札とするインファイトで戦う。マシンGドロンに搭乗する。年齢は38歳。
 ※原案はリオンテイル先生。

上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)/仮面ライダーGNドライブ
 大富豪の御曹司でありながら、警視庁の刑事でもある優雅な好青年。仮面ライダーGNドライブに変身した後は、ダイヤモンドの輝きを纏い高速回転しながらドロップキックを放つ「ブリリアントドロップ」を必殺技としつつ、エネルギー銃を使った遠距離戦で戦う。マシンGドロンに搭乗する。年齢は26歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

本田正信(ほんだまさのぶ)/仮面ライダーターボ
 元白バイ隊員であり、亡き先輩の仇を討つために「2代目」としてスーツを受け継いだ熱血巡査。足裏のエンジンの出力を最大にして放つ回し蹴り「ストライクターボ」を切り札としつつ、接近戦を主体に戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は31歳。
 ※原案はヒロアキ141先生。



 上杉蛮児の「変身」を皮切りに始まった「第2ラウンド」は、一方的という言葉では足りないほどの惨状であった。

 

 仮面ライダーニコラシカこと、武田禍継のような技巧など全くない、シンプルな暴力。ただ力任せに拳を振るい、蹴りを放つだけの粗雑な攻撃。にも拘らず、仮面ライダーギムレットの猛攻はイグザードとオルタを圧倒していたのである。

 2人がすでに必殺技を出し尽くし、消耗しきっているのをいいことに。彼は技とも言えない大振りな鉄拳で、疲れ果てた戦士達を痛め付けていた。

 

「ぐぉあぁあッ!」

「うぐぅッ……!」

「んン〜……圧倒的な力で何もかも踏み躙るこの感覚、たまんねぇなァ。散々俺達を差別して、世界の端へと追いやってきた人間共が今やこのザマ! 感動的だねぇ……」

 

 戦いそのものを冒涜するかのようなギムレットの攻撃に倒れる、イグザードとオルタ。その様子を冷酷に見下す白銀の戦士は、ベルトのボトル部分を捻り、エネルギーを右腕に凝縮させていく。

 

「……じゃあそろそろ、そんな人間共に相応しい最期ってヤツをくれてやるぜ。脳味噌ぶちまけてくたばりなァッ!」

「くッ……! (みやこ)椿(つばき)(さくら)を頼むッ……!」

 

 やがて力強く握り締められたその拳は、辛うじて立ち上がろうとしているイグザードとオルタに向けられていた。2人にはもう、それを回避出来るだけの余力などない。

 イグザードこと竜胆はただ、最愛の妻に娘達の今後を託すことしか出来なかった。

 

「スワリングッ……ライダァアッ! パァァンチッ!」

「……!?」

 

 そして、ギムレットの右腕から放たれる最大火力の鉄拳が、2人を外骨格ごと吹き飛ばそうとしていた――その時。

 

「うぐッ……ぁぁぁああッ!」

「ひ……東方ァッ!」

「東方さんッ!」

 

 2人を庇うように飛び込んで来た仮面ライダーアルビオンが、己のギガントアームズを盾にしたのである。巨大な機械腕すらも一撃で粉砕する鉄拳を真っ向から喰らった彼女は、激しく宙を舞い地面に叩き付けられてしまうのだった。

 あまりの威力に気を失ってしまったアルビオンに駆け寄り、イグザードとオルタは即座に応急処置を始める。その様子を眺めているギムレットは、感心したように口笛を吹いていた。

 

「ヒュウ……完全にぶち殺したと思ってたんだがな。あの女、まぁだ生きてやがるのか。良いねぇ、ちょっとやそっとで壊れねぇ女は嫌いじゃねぇぜ。俺のものにしてや――?」

 

 身を挺して仲間達を守り抜いた、アルビオンこと百合香に興味を示したギムレットは、彼女を手に入れようと静かに歩み出していく。すると、そんな彼の行手を遮るかのように、1台のGドロンが停車して来た。

 そこから降りて来た「新手」の戦士は、メタリックレッドと金色の装甲で全身を固めている。そのシルエットは「仮面ライダーG3」に近しく、アメコミヒーローさながらのマッシブかつヒロイックなラインを描いていた。

 

「……やめときな。お前みたいな乱暴者がタイプな女なんざ、どこを探したって見つかりはしねぇよ」

「あァ? ……なんだァ、てめェ」

 

 在日米軍から出向してきた、ジャック・ハルパニア大尉こと「仮面ライダーUSA(ユナイテッドステイツ)」。アメリカ陸軍での制式採用が検討されている最新式強化外骨格のテストを任されていた彼は、稼働時間の試験も兼ねて、この場に参戦して来たのである。

 そんな彼に「楽しみ」を邪魔されたギムレットは、苛立ちを露わに拳を振るう。だが、その攻撃は彼の掌で容易く受け止められてしまうのだった。

 

「なにィ……?」

「このスーツは高出力と引き換えに、とにかく燃費が悪くてな。……悪いが、お前に女性の扱いを説く時間も惜しいんだ」

 

 彼のスーツは、仮面ライダーΛ−ⅴの「オーバーロード」にも匹敵する高出力を常時(・・)発動している。その力はもはや、正真正銘の改造人間にも全く見劣りしていない。USAが反撃の拳を放った瞬間、咄嗟に防御に転じたギムレットは、衝撃のあまり大きく後退してしまう。

 

「……なので。お前には品のないお前のままで、お縄についてもらう」

「ハッ、笑わせんな。……殺るか殺られるかって世界に、品のイイ奴なんざいるものかよ」

 

 その威力に、仮面の下で冷や汗をかきながらも。ギムレットは不敵に鼻を鳴らし、USAと真っ向から睨み合う。こいつだけは、真っ先に潰さねばならないのだと認識を改めて。

 

「それは違うな、上杉蛮児! いつ如何なる状況であろうとも、品位というものを忘れてはならない! それが『人間』というものだよ!」

「あ、あァ……!?」

 

 そこへ、さらにもう1台のGドロンが駆け付けて来る。そこから颯爽と飛び出してきた1人の青年は、爽やかな笑顔でギムレットの言葉を否定していた。

 大富豪の御曹司でありながら、刑事でもある上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)。数多のライダー開発計画に出資して来た彼自身も、1人の戦士としてこの場に駆け付けて来たのだ。

 

「……遅いぞ、幸路(ゆきじ)。市民を守る警察官たるもの、巧遅より拙速だろう?」

「いやぁ済まないね、ジャック大尉! スーツの調整がようやく終わったのだよ。この遅れは、これからの働きで取り戻させて貰おうか」

 

 アメリカで開発されたUSAのスーツを含む、警視庁以外での開発計画にも莫大な資金を投じている幸路。そんな親友に軽口を叩いているUSAも、仮面の下では頼もしい援軍の到来に頬を緩めていた。

 そんな彼に朗らかな笑みを向ける幸路の後方から、1台のGチェイサーが接近して来る。そこから飛び降りて来た、幸路の部下らしき警察官は、慌ててヘルメットを脱ぎながら上司の側に駆け付けて来た。

 

「幸路さん、調整が終わったからって何の連絡もなしに飛び出さないでくださいよ! 出資元のあなたに何かあったら、俺の首が飛ぶんですから!」

「はっはっは、心配は要らんぞ正信(まさのぶ)! その時は我が上福沢家の財力を以て、再就職先を斡旋してあげようじゃないか! 君には日頃から世話になっているからね!」

「あなたが死んでからじゃ意味ないでしょうが!」

 

 ライダー開発計画に協力しているテスト装着者にして、元白バイ隊員でもある本田正信(ほんだまさのぶ)巡査。「前任者」である白バイ隊員時代の先輩が殉職した後、そのスーツを引き継いだ「2代目」であるからこそ、彼は幸路を死なせまいと声を荒げているのだ。

 もう2度と、大切な者達を失うことがないように。

 

「……よし、その意気だよ正信。では行こうか、共に正義を為すために!」

「言われるまでも……ありませんッ!」

 

 そんな彼の真っ直ぐさを見込み、この戦線に加わる「助っ人」として選んでいた幸路は、USAと頷き合うと。警視庁製の変身ベルト「量産型マッハドライバー」を勢いよく装着する。正信もそれに合わせ、亡き先輩から受け継いだ「ターボドライバー」を腰に巻いていた。

 

「……変身」

 

 ドライバーにシルバーを基調とする「HS(ハイスピード)デッドヒートシフトカー」を装填した幸路が、声を上げた瞬間。瞬く間に構築された外骨格が、その全身を覆い尽くしていく。

 

「変身ッ!」

 

 正信も愛用のドライバーにライダーイグニッションキーを差し込み、エンジンを掛けるように回すことで、「変身」を開始していた。それから間もなく、ギムレットの眼前に新たなる2人の「仮面ライダー」が参上する。

 

「このスーツの正式名称は『GENERATION(ジェネレーション) NOBLESSE(ノブレス) DRIVE(ドライブ)』……即ち、高貴なる運転を重んじる戦士、ということさ。君の運命も、僕の手で華麗に乗りこなして見せよう」

 

 「仮面ライダードライブ」のタイプデッドヒートを想起させる外観を持ち、アーマーとタイヤパーツが銀色と赤に彩られた外骨格。さながら、タイプハイスピードのような高級感溢れるデッドヒート、といった印象を与えているこの戦士こそが――上福沢幸路が変身する「仮面ライダーGNドライブ」なのである。

 

「……先輩の分まで、皆を守り抜いて見せる。それが仮面ライダーとしての、警察官としての俺の任務だッ!」

 

 白を基調としている「仮面ライダーマッハ」を彷彿とさせる外観でありながら、赤を基調とする真逆のカラーリングに彩られている「仮面ライダーターボ」。それが、本田正信が亡き先輩から受け継いだ「力」であった。

 

「さぁて……役者も揃ったことだし、こっちも『第2ラウンド』と行かせてもらおうか。今さら、逃げられるとは思わないよな?」

 

 仮面ライダーUSA。仮面ライダーGNドライブ。そして、仮面ライダーターボ。

 共に並び立つ3人の仮面ライダーは、臨戦態勢でギムレットと睨み合う。そんな「援軍」達の出現に、銀色の戦士は「玩具が増えた」と歪な笑みを溢すのだった。

 

「人間風情の雑魚共が雁首揃えてゾロゾロと……。面白え、試してみろよ! 全員纏めて、鎧ごとミンチにしてやらァアッ!」

 

 それが如何に甘い考えなのかを、知る由もなく。

 




 ギムレット戦もそろそろ次回あたりで決着が付くかと思われます。いやー、思ってたより結構長くなっちゃいましたよε-(´∀`; )
 読者応募ライダーは今後もどんどこ登場してきますので、次回以降もどうぞお楽しみにー!٩( 'ω' )و


Ps
 「稼働時間短いけど高出力だぜ!」→「それのさらに上を行くオーバーロードだぜ!」→「そのオーバーロード状態からさらに必殺技撃っちゃうぜ!」→「常時オーバーロードだぜ!」←今ココ


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第11話 好きにしやがれ

「おおおぉおッ!」

「はあぁぁぁあッ!」

 

 至近距離でのインファイトに特化している仮面ライダーギムレット。その暴君と真っ向から殴り合えるUSAを中心とする「第2陣」の戦いは、一瞬の油断も許されない装甲の削り合いであった。

 ライトブルーカラーの「ルパンガンナー」を想起させる「ダイヤガンナー」。そのエネルギー銃での援護射撃に回っているGNドライブのサポートを受けながら、USAは先陣を切るようにギムレットと拳をぶつけ合っている。さらに彼の攻撃の「隙」を埋めるように、スピードに秀でたターボが牽制の拳打を放っていた。

 

 ダイヤガンナーでの射撃もターボの打撃も、ギムレットの装甲を打ち砕く決定には至らない。それでも彼らの攻撃により生まれる「隙」が、高い攻撃力を誇るUSAに絶好のチャンスを与え続けているのだ。

 

「速攻だ……! 速攻でケリを付けるッ!」

「USAの活動停止まで、残り50秒……! 正信、ターボの回転率を高めたまえ! スーツが暴発する、ギリギリまでッ!」

「もうやってますよッ! 例え暴発したって、俺は絶対に止まりません! こいつを倒すまではァッ!」

 

 唯一ギムレットとパワーで張り合えるUSAは、この中で最も稼働時間が短い。そんな彼が力尽きる前に勝負を決めるには、少ないリソースを「防御」に割かせないようにする必要がある。持てる全ての力を「攻撃」にのみ注がなければ、USA達に勝ち目はないのだから。

 

「チィッ、鬱陶しい奴らだぜ……ぐおッ!?」

「その言葉、我々の奮戦を称える賞賛として受け取ろう! 正信、共に決めようぞッ!」

「了解ッ!」

 

 USAとターボを同時に相手しながら、GNドライブの援護射撃も片腕で跳ね除ける。そんな離れ業を繰り返しているギムレットにも、勝利に繋がる「隙」は必ずあるはず。

 その可能性に賭けたGNドライブは、USAのパンチがギムレットの鳩尾に入った瞬間、ダイヤガンナーを腰に仕舞いながら地を蹴り宙に舞い上がる。ターボもギムレットが突き出して来た拳の上に飛び乗り、「必殺技」の体勢に入っていた。

 

「我が執念の一撃、受け取ってくれたまえッ!」

「先輩の無念は、俺が晴らすッ!」

 

 ダイヤモンドの輝きを纏い、高速回転しながらドロップキックを放つ「ブリリアントドロップ」。足裏に備わるエンジンの出力を最大限に高め、回し蹴りを打ち込む「ストライクターボ」。

 その一撃に全てのエネルギーを注ぎ込んだ彼らの覚悟が、ギムレットの顔面に炸裂する。白銀の仮面に亀裂が走ったのは、その直後だった。

 

「ぐおぉおッ! こ、の……野郎共がァアッ!」

「がはぁあッ!」

「うぁああッ!」

「幸路、正信ッ!」

 

 僅か一瞬でも、意識が飛ぶほどの衝撃。それを自分に与えたのが、所詮は生身と侮っていた人間達だという事実に驚嘆しながら。ギムレットは逆上に身を委ね、全力を使い果たしたGNドライブとターボを裏拳で薙ぎ払う。

 

 激しく吹っ飛ばされ、変身を解除されてしまった幸路と正信は、満身創痍の姿で地面を転がっていた。最後に残ったUSAは2人の身を案じつつも、傷付いたギムレットとの一騎打ちに臨もうとしている。

 

「……とうとう、一対一(サシ)になっちまったなァ? 在日米軍さんよ」

「お前ほどのタフガイなら、もっと正しく生きていける道もあっただろうに……残念だぜ」

 

 稼働時間はすでに、残り20秒を切っていた。間違いなく、次が最後の攻撃となる。それは、彼と対峙しているギムレットも察していることであった。

 

「光栄なお言葉だが……見ての通り、俺ァ馬鹿だ。禍継みてぇに口が回るわけでもねぇし、天峯ほど頭が切れるわけでもねぇ。ただ暴れることしか能のねぇ輩さ」

「そういうお前が生きていくための受け皿が……ノバシェードだったと?」

「ハッ、好きなように思えよ。誰が何を抜かそうが、結局は勝者が『真実』を作る。旧シェードの時だってそうだったじゃねぇか。テロリストを始末するための組織は、いつしかテロリストそのものにされていた……。お前ら人類はこれからもそうやって、体のいいサンドバッグを作り続けてりゃいい」

「なんだと……!」

 

 テロのない世界を願ってシェードを創設していながら、徳川清山(とくがわせいざん)による人体実験を把握出来ていなかったこと。事実が明るみになり旗色が悪くなるや否や、「対テロ組織」として生み出されたはずのシェードを「テロリストそのもの」として糾弾したやり口。

 人類が重ねて来たそれらの「業」をあげつらい、嘲笑するギムレットの言葉に、正信は血みどろになりながらも眉を吊り上げる。だが、彼が反論しようとする前に、ギムレットは「最後の一撃(スワリングライダーパンチ)」を放つ体勢に入っていた。

 

 もはや、どんな言葉も不要。彼の構えが、何よりも強くその姿勢を物語っている。USAもそんなギムレットの意向を汲み、「渾身の一撃(ライダースマッシュ)」を放つべく身構えていた。

 

「さっきも言っただろう? 俺ァ口なんて回らねえ。(コレ)でしか語れねぇ。……だが、それでいいだろう?」

「あぁ。……構わないぜ、俺は」

 

 稼働時間はもう、10秒しか残っていない。だが、それで「充分」であった。

 2人は同時に地を蹴り、残されたエネルギーの全てを、己の右腕にのみ集中させていく。練り上げられ、凝縮された「力」の奔流は、眩い輝きを放ち続けていた。

 

「……ぉおおぉおおッ!」

「スワリングゥウッ!」

 

 踏み込んだ地が裂け、両者の雄叫びが天を衝き。振り抜かれた鉄拳が、空を裂き轟音を立てる。

 

「ライダァァァァアッ! スマァアァァッシュウッ!」

「ライダァァァァアッ! パァァァァァァンチィッ!」

 

 やがて、交差する互いの拳は。双方の腕を掠め、倒すべき仇敵の顔面に炸裂した。

 強烈な衝撃音が響き渡り、両者の仮面が同時に砕け散る。上杉蛮児とジャック・ハルパニアの素顔が露わになったのは、その直後であった。

 

「ぐ、ぉお、あッ……!」

「が、ぁあぁッ……!」

 

 この瞬間、USAのスーツは活動限界を迎え、ただ重いだけの鎧と化してしまう。それと同時に、ギムレットの変身も強制解除されていた。互いの拳をぶつけ合った男達は、力無く膝から崩れ落ちてしまう。

 もはやどちらにも、戦える力は残っていない。それどころか、指1本すらも動かせない状態となっていた。

 

 だが、それで構わないのである。決着なら、もう付いているのだから。

 

「……まだ、足りんか?」

「ハッ……馬鹿、言えよ」

 

 ジャックの言葉を鼻で笑い、やり切ったと言わんばかりの貌で空を仰ぐ蛮児の眼には、もう抵抗の意思はない。そんな彼の様子を見下ろしながら、正信は粛々と手錠を取り出していく。

 今さら、無駄な問答をすることもない。この場での「対話」ならすでに、「拳」で語り尽くしているのだから。

 

「……気は済んだ、ということでいいな? 上杉蛮児、ノバシェードのテロに関与した容疑でお前を逮捕する。これからは馬鹿だろうが阿呆だろうが、口で語ることも覚えてもらうぞ。法廷の前でくらいはな」

「そうかよ。……好きにしやがれ」

 

 しかし、これからはそうはいかない。そんな厳しい言葉をぶつけて来る正信を見上げ、蛮児は観念したような笑みを溢すと、手錠による拘束を受け入れていく。

 その様子を静かに見守っていた幸路は、爽やかな微笑を浮かべながら。彼の健闘を称えるかのような声色で、独り呟いていた。

 

「好きにしているさ。僕達は、いつもな」

 

 そして、イグザード達も見守る中。上杉蛮児の太く逞しい両手首に、手錠の輪が嵌められた瞬間。

 彼も武田禍継と同様に、「人」としての裁きを待つ身となるのだった。

 




 思いの外長引いてしまったギムレット戦もこれにてようやく決着! 次回からはいよいよ遥花の視点に戻り、ゴールドフィロキセラこと明智天峯との最終決戦にスポットを当てていきます。まだ登場していない読者応募ライダーも次回以降からどんどこ登場して来る予定ですので、どうぞお楽しみにー!٩( 'ω' )و


Ps
 これまで空気どころか概念と化していた主人公ですが、次回からはちゃんと活躍する……はず! たぶん!(`・ω・´)


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第12話 ノバシェードの首領格

◆今話の登場ライダー

久我峰美里(くがみねみさと)/仮面ライダーEX(エクリプス)
 幼い頃から正義の味方に憧れていた気さくな人物であり、警視庁の警部でもある男装の麗人。仮面ライダーEXのスーツを装着した後は、高く飛び上がり、高速で縦回転しながらの踵落としで袈裟斬りにする「ヘルスラッシュ」を切り札としつつ、近接戦を主体に戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は28歳。
 ※原案はマルク先生。

薬師寺沙耶(やくしじさや)/仮面ライダーヴェノーラ
 黒バイの幽霊隊員と呼ばれている一方で、潜入捜査官としての顔も持つグラマラスで妖艶な美人。仮面ライダーヴェノーラに変身した後は、蛇腹剣で付けた傷口からバイオナノマシンを投与する「ドラッグハック」を必殺技としつつ、EXをサポートしていく。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は25歳。
 ※原案は黒子猫先生。



 武田禍継。上杉蛮児。ノバシェードの幹部である2人が人類の軍門に降った以上、もはや組織の中枢には明智天峯――ゴールドフィロキセラしか残っていない。

 

「……禍継。蛮児。やはりあなた達も、私を置き去りにして行くのですね。何一つ救われぬまま謂れなき差別に苛まれ、この世を去った同胞達のように……」

「置き去りにされるのが嫌だって言うのなら、あなたも早く降伏しなさいッ! 今からでも間に合――あうぅうッ!」

「誰が好き好んで、己の生き方を自ら否定するのですか。……やはり、あなたはまだ子供だ。世の中というものが、綺麗事では回っていないことを知らない」

「くッ、うぅッ……あぁあッ!」

 

 しかし彼はそれでもなお、戦いを止めようとはしなかった。諦めることなく触手を振るい続けるゴールドフィロキセラの猛攻に、ライダーマンGは防戦一方となっている。

 扇情的なボディラインを露わにしている漆黒のスーツも、すでに傷だらけとなっていた。スーツが裂けた部分からは彼女の珠のような柔肌が覗いており、その瑞々しさがより際立っている。

 

「……確かに、私なんてまだ子供よ。それでも、許しちゃいけないことはあるッ! それくらい、私でも分かってるッ!」

「聞き分けのないまま、身体ばかりが育っている子供は始末に負えませんね。……では、もう一度その肌を晒して差し上げましょうか。今度はもう、隠せるものなどないでしょう?」

 

 それでもなおライダーマンGは抵抗の意思を示すように、右腕のパワーアームを振るい触手を弾いていた。そんな彼女の不屈の姿勢に痺れを切らしたゴールドフィロキセラは、再び彼女を辱めようと、スーツの裂け目に触手を伸ばしていく。

 

「……!」

 

 そこからスーツを一気に引き裂き、彼女が今度こそ抵抗出来なくなるような姿に剥こう(・・・)としていた――その時。何者かによる銃撃で、触手の動きを邪魔されてしまうのだった。

 着弾点から方角を予測したゴールドフィロキセラは、銃撃を受けた方へと咄嗟に視線を向ける。

 

「女の子相手にムキになって、それでよく『世の中』を語れるわね。……あなたの方が、余程『子供』じゃないかしら?」

沙耶(さや)さん……!」

 

 そこには、ライダーマンGを辱めようとしていた彼に静かな怒りを燃やす、グラマラスな女刑事が立っていた。Gチェイサーに跨る彼女の手には、火を噴いて間もない拳銃が握られている。

 黒バイの幽霊隊員と呼ばれている一方で、潜入捜査官としての顔も持つ薬師寺沙耶(やくしじさや)。彼女は、ライダーマンGこと遥花とは旧知の仲なのだ。

 

「沙耶さん、来てくれたの……!?」

「ハァイ、待たせたわね遥花! 私が来たからには、もう大丈夫よ。今のうちに、少しでも身体を休めておきなさい!」

 

 肌に隙間なく密着し、極上のボディラインを露わにしているライダースーツを纏った、規格外にグラマラスな絶世の美女。

 彼女は顔馴染みの少女戦士に妖艶な笑みを向けた後、鋭い眼光でゴールドフィロキセラを射抜いていた。完膚なきまで叩き伏せてやる、と言わんばかりに。

 

「おやおや、随分とお美しい方が来たものだ。あなたもその綺麗な肌を傷物にしたくなければ、大人しく下がっていた方が賢明ですよ」

「あら、見かけによらず優しいのね。……でも、心配はいらないわ。あなた如きが好きに出来るような安い肌なんて、持ち合わせてはいないもの」

 

 そんな自分に呆れた声を漏らすゴールドフィロキセラに対し、沙耶は微笑を浮かべている。だが、その眼だけは全く笑っていない。側から見ているだけのライダーマンGですら悪寒を感じてしまうほどに、彼女の眼は冷たく研ぎ澄まされているのだ。

 やがて彼女は拳銃を腰のホルスターに収めると、おもむろに胸元のファスナーを下ろし始めていく。その白く豊穣な乳房が、ライダースーツから零れ落ちる寸前まで露わにされた時には。はち切れそうな胸の谷間から、ボンテージ型の「変身ベルト」が覗いていた。

 

「……変身ッ!」

 

 やがて、彼女がその一声と共に指先を伸ばした「ポーズ」を決め、ばるんと巨峰を弾ませた瞬間。認証登録されていた動作と声紋に反応した変身ベルトが、眩い輝きを放ち彼女を「仮面ライダー」へと変身させていく。

 

 「仮面ライダーキバーラ」を想起させる外観を持つ女性戦士が現れたのは、その直後だった。キバーラの白と黒の部分に当たる色は反転しており、青い部分は紫紺に統一されている。さらに小悪魔の尻尾や鉤爪付きのガントレットに加え、グリーブ部分にも追加装甲が施されていた。

 鞭の如く一振りの蛇腹剣をしならせている彼女の名は、「仮面ライダーヴェノーラ」。薬師寺沙耶が変身する、バイオテクノロジーの実験機を兼ねたライダーシステムの試作機であった。

 

「沙耶、遥花お嬢様は無事かい?」

「遅いですよ、美里(みさと)警部。危うく先に始めちゃうところでしたよ?」

「済まなかった。このスーツ、旧式なだけあって起動に時間が掛かってしまってね」

 

 さらに、変身した彼女の側にもう1台のGチェイサーが駆け付けて来る。そこに跨っていたのは、中性的なラインを描いたボディを持つもう1人の「仮面ライダー」だった。

 沙耶の上司にして、男装の麗人でもある久我峰美里(くがみねみさと)警部。彼女が装着している「仮面ライダーEX(エクリプス)」のスーツが、ようやく実戦レベルまで運用出来るようになったのだ。

 

 「シャドームーン」に近しいシルエットを持つ、漆黒の装甲と真紅のアンダースーツ。肘と踵に備えられた強化装具の刃。

 その鋭利な容貌からは攻撃的な印象を受けるが、実際は開発計画の最初期に製造された「旧式」なのである。低予算故に装甲が少なく防御力が低いという欠点があり、他の技術系統から生まれた試作機(ライダー)にコンペティションで敗れて以来、倉庫で埃を被り続けていた不遇の鎧なのだ。

 しかし、そんな曰く付きだったこのスーツも。正義の味方を志す美里の相棒として、此度の戦いに使用されることになったのである。装甲の薄さ故の、動作の素早さは本物なのだから。

 

「遅ればせながら、僕達も加勢させて頂きます。お嬢様、よろしいですね?」

「う、うん。美里さん、沙耶さん……気を付けてね!」

「分かってるわ、遥花。あなたの責任感の強さはよく知ってるけど……たまには、お姉さん達にも頼ってちょうだい。私達だって、あなたと同じ『仮面ライダー』なんだから!」

 

 同性でも思わず見惚れてしまうような、長身痩躯の男装の麗人は。仮面越しにライダーマンGに向けて爽やかな笑みを浮かべた後――素早く地を蹴り、肘の刃でゴールドフィロキセラに斬り掛かっていく。

 

「さぁ、僕達の実力……ご覧に入れようか、ノバシェード!」

「明智天峯……お仕置きの時間よ!」

 

 ヴェノーラも同時に蛇腹剣をしならせ、その変幻自在の刃で怪人の触手を斬り払っていた。2人の女刑事が繰り出す、流麗かつ素早い連続攻撃。その斬撃の嵐が、ノバシェードの首領格を激しく責め立てて行くのだった。

 

「……困った方々ですね。自分達の方から、傷物になりに来るとは」

 




 いよいよラスボスこと明智天峯との戦いが始まりましたー! 思いの外長くなってきた今回の外伝も、徐々にクライマックスへと近付いております。まだまだ新ライダーは今後も登場して来る予定ですので、次回以降もどうぞお楽しみにー!٩( 'ω' )و


Ps
 沙耶が胸元のファスナーを下ろす場面は仮面ライダー2号の初変身シーンを意識しておりました。名シーンにして迷シーンですよねーあれ(*´꒳`*)


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第13話 女性の敵

「はぁあぁあッ!」

「とぁあッ!」

「……ちぃッ!」

 

 女性ならではのしなやかで柔軟な挙動と、緩急自在の斬撃。それはゴールドフィロキセラにとっても不慣れなケースだったのか、その煌びやかな生体装甲には、すでに幾つもの傷を付けられている。

 

「同じ女性として君の卑劣な行為は見過ごせないな、明智天峯! 言っておくが僕は、女性の敵には特に厳しいぞ!」

「……全く、次から次へと。私を裁く権利が、あなた方にあるとでも仰るのですか。我々を生きるための闘争に駆り立てた、あなた達のような人類に」

 

 その攻勢を捌き切れず、苛立ちを露わにしているゴールドフィロキセラの触手をかわしながら。EXの肘に備わる刃が閃く度に、金色の鎧から火花が上がっていた。

 それでもゴールドフィロキセラは倒れることなく、EXの細い首に触手を巻き付けようとする。だが、その前にヴェノーラの蛇腹剣によって弾かれてしまうのだった。

 

「そうやって独りで勝手に人間を辞めた気になって、癇癪を起こしてばかりいるから、シェードの真似事に走ろうなんて思ってしまうのよ! 今からでも、落ち着いて周りを見渡してみたらどうなの!?」

「ご覧の通り、私はすでに落ち着いていますよ。だからこそ、戦うしかないと悟ったのです。私が今もまだ人間なのだと仰るのであればなおのこと、人類が積み重ねてきたその闘争の歴史に学ばねばなりますまい。……安住の地は、自ら戦わねば勝ち取れないのだと」

 

 通常の剣ではあり得ない軌道を描き、不規則な角度から斬撃を放って来るヴェノーラの蛇腹剣。その刃を両腕で凌ぎながら、ゴールドフィロキセラは触手を伸ばし、彼女の妖艶な肢体を絡め取ろうとする。

 そうはさせじと放たれたEXの斬撃がなければ、ヴェノーラの豊満な肉体はすぐに囚われ、触手に締め上げられていたのだろう。何度斬り付けても全く動きが鈍らないゴールドフィロキセラのタフネスに業を煮やしたEXは、ヴェノーラと共に「必殺技」を仕掛けるべく地を蹴り、怪人の頭上へと跳び上がる。

 

「やはり、対話で解決しようなどという考えは甘かったようだね。……沙耶、行くよ!」

「了解! 遥花を虐めてくれた分だけ、私達でお礼(・・)してあげましょうか!」

「何を……ぐぬッ!?」

 

 その挙動に気を取られたゴールドフィロキセラが、EXを打ち落とそうと触手を伸ばすよりも速く。ヴェノーラが放った蛇腹剣による刺突が、怪人の生傷に沈み込んでいた。

 相手を体内から破壊するバイオナノマシンを投与し、内側から崩壊させていく「ドラッグハック」。その必殺技が、ついにゴールドフィロキセラの体内に届いたのだ。

 

「こ、このナノマシンは……!」

「改造人間のあなたなら、それすらも克服出来てしまうのでしょうね。……でも、それで十分!」

「僕の一撃を決めるための、決定的な『隙』さえ作れればなッ!」

 

 これまで彼女達が付けて来た傷は、生体装甲の先にある明智天峯の体内に、バイオナノマシンを注ぎ込むための布石だったのである。その効果によって身動きが取れなくなったゴールドフィロキセラ手がけて、EXは高速で縦に回転しながら、踵落としの体勢に入ろうとしていた。

 

「はぁあぁあーッ!」

「うぐぅ、あッ……!」

 

 踵にも備わっている鋭利な刃で、上段から袈裟斬りにする「ヘルスラッシュ」。その一閃は金色の生体装甲を、まるでバターのように斬り裂いてしまうのだった。

 2人の女刑事による、警察官としての誇りを賭けた必殺技。それらを同時に浴びたゴールドフィロキセラは、あまりのダメージについに膝を付いていた。

 

「……明智天峯、君の癇癪に付き合う時間もこれで終わりだ。さぁ、大人しく署までご同行願おうか」

「これ以上痛い目に遭いたくなければ、あなたもそろそろ大人になることね」

 

 これほどのダメージを負ったとなれば、さしものゴールドフィロキセラも戦闘の続行は不可能だろう。そう判断したEXとヴェノーラは、膝を付いている彼を冷ややかに見下ろしながら、降伏を促している。

 

「……ふっ、『大人』ですか。あなた達のような詰めの甘い人種を『大人』と定義されるのであれば……この国が7年間も旧シェードに翻弄されていたのも、当然のことだったのでしょう」

 

 だが、金色の怪人はそんな彼女達を嘲笑いながら。自分を見下している女刑事達に、侮蔑の視線を送るのだった。

 

「なんだと……ぐぁッ!?」

「きゃあッ!?」

 

 その視線と嘲笑に、2人の女刑事が仮面の下で眉を吊り上げた瞬間。

 突如足元から地面を突き破り、飛び出して来た触手によって、彼女達はその首を締め上げられてしまうのだった。ゴールドフィロキセラは膝を付いた姿勢のまま両腕の触手を地中に潜らせ、彼女達の足元に忍ばせていたのである。

 

「あっ、うぁあッ!」

「くぅっ、あぁうッ!」

 

 首に続き、手足も触手に絡め取られてしまった女刑事達は、抵抗する術を失ったまま宙吊りにされてしまう。彼女達の敗北を示すかのように、ヴェノーラの蛇腹剣が持ち主の手を離れ、地面に突き刺さっていた。

 触手による締め上げに悶絶しながらも、仮面の下で驚愕の表情を浮かべているEXとヴェノーラ。そんな彼女達を仰ぐゴールドフィロキセラは、所詮生身の人間などこんなものだ、と言わんばかりに冷たい笑みを溢している。

 

「形勢逆転ですね。……気分は如何です? 自分達が見下していた相手に、良いように囚われた気分は」

「ぐぅ、うッ……も、もう動けるのか……!?」

「私のナノマシンが、こんなに早く克服されるなんてッ……!」

「……確かに、この私の動きを一瞬でも止めたあなたのナノマシンは、かなり厄介な代物でしたよ。禍継や蛮児のボディでは、恐らく耐えられなかったことでしょう。もっとも、ノバシェード最強の改造人間である私なら……ナノマシンの活動を抑え込める抗体の自己精製には、1分も掛かりませんがね」

 

 ゴールドフィロキセラが語る通り、ヴェノーラのバイオナノマシンはかなりの脅威であった。自己再生能力に秀でた彼が相手でなければ、彼女1人で勝負を決めることも出来ただろう。ブロンズフィロキセラやシルバーフィロキセラでは、彼女には到底敵わなかった。

 しかし、外部から受けるダメージのみならず、内部から侵食して来る毒物にも適応出来てしまうゴールドフィロキセラにだけは、通用しなかったのである。EXが付けたヘルスラッシュによる傷も、すでにほとんど塞がっていた。

 

「とはいえ、あなた達には随分と痛め付けられました。……これほど追い詰められるとは、正直予想外でしたよ」

「あぅ、ぐぅうッ……!」

「ぁあっ、あぁあッ……!」

「その健闘を讃え、命だけは助けて差し上げましょう。……2度と刃向かう気が起きなくなるまで、念入りに嬲った上でね」

「さ、沙耶さん、美里さんッ……!」

 

 2人の女刑事が見せた「新世代」の底力を危険視したゴールドフィロキセラは、彼女達の「心」をへし折ろうと、触手の締め上げを徐々に強めていく。まだ体力が回復しきっていないライダーマンGは、苦しむ2人に手を伸ばすことしか出来なかった。

 




 ラスボスなだけあって、ゴールドフィロキセラはブロンズやシルバーよりもちょっとだけ手強いです。ですが、頼もしい新ライダー達もまだまだたくさん控えております。次回からはさらなる読者応募ライダーがどんどこ登場して来ますので、どうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و


Ps
 今のところ主人公だけロクに仕事してないような感じになってますが、ラスボス相手に単騎で粘ってた点を加味して大目に見て頂けると幸いです……(ノД`)


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第14話 ライダーは助け合い

◆今話の登場ライダー

南義男(みなみよしお)/仮面ライダーボクサー
 守られるべき学生である遥花がノバシェードを追い続けていることを快く思っていない、元ボクサーのベテラン刑事。仮面ライダーボクサーに変身した後は、銀色のエネルギーを纏うストレートパンチ「シュリンプストレート」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は43歳。
 ※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。

一二五六三四(ひふごむさし)/ライダーシステムtype(タイプ)-α(アルファ)
 義男の部下であり、言動からものぐさな印象を受けるが、冷静沈着に職務をこなす食えない人物。type-αに変身した後は、再起動時のエネルギーを凝縮させて強烈な一撃を放つ「システム・オーバーホール」を必殺技としつつ、臨機応変に戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は34歳。
 ※原案は板文 六鉢先生。

日高栄治(ひだかえいじ)/パトライダー型式2010番type(タイプ)-000(オーズ)
 六三四と同じく義男の部下であり、助け合いを重んじる朗らかな新人警察官。type-000に変身した後は、足裏の噴射機を利用して飛び上がり、両脚での飛び蹴りを放つ「charging(チャージング) finish(フィニッシュ) type(タイプ) kick(キック)」を切り札としつつ、接近戦で戦う。マシンGドロンに搭乗する。年齢は21歳。
 ※原案はNynpeko先生。



「……!」

 

 すると、次の瞬間。遠方から最高速度で突っ込んで来た1台のGチェイサーが、遥花を後方から抜き去って行き――ゴールドフィロキセラに勢いよく追突する。

 

「ぐうッ!?」

「あぅっ……!」

「うぁあっ……!」

 

 その不意打ちに怪人の姿勢が揺らいだ瞬間、触手の拘束から解放されたEXとヴェノーラの身体が、力無く地面に落下した。度重なるダメージによって気を失ってしまった2人は、ぐったりとした様子で横たわっている。

 そんな彼女達の盾となるように、Gチェイサーから飛び降りた1人の男は、鋭い眼差しでゴールドフィロキセラを睨み付けていた。不意打ちで撥ね飛ばされた金色の怪人も、忌々しげな眼でその男を見据えている。

 

「よ、義男(よしお)さん……!?」

「……全く、見てられねぇぜ遥花。なんだってお前みたいな子供が、命張ってこんな所にまで来なきゃならねぇんだ。……惣太も俺も、情けねぇ限りだぜ」

 

 番場惣太とは旧知の仲であり、遥花のことも幼い頃から知っている、元捜査一課の南義男(みなみよしお)警部。遥花がライダーマンGとして活動していることに難色を示し続けていた彼は、ついに自ら「仮面ライダー」として立ち上がるべく、この戦地に駆け付けて来たのだ。

 さらに、そんな彼をサポートするべく。もう1台のGチェイサーと、Gドロンがこの現場に到着した。そこから素早く降りて来た2人の部下も義男と同様に、すでに「変身アイテム」を用意している。

 

「南警部……総監の御息女が心配なのは分かりますけどね、あんまり1人で先走らないでくださいよ」

「そうですよ警部! ライダーは助け合い、ですよッ!」

「うるせえ! 文句なら容疑者(ホシ)を抑えた後でいくらでも聞いてやる! お前らもさっさと『準備』しやがれッ!」

「もう出来てますよ、俺達なら」

「実を言うと警部待ちですから!」

「……そうかよ! そりゃあ悪かったな!」

 

 義男に次ぐベテランである一二五六三四(ひふごむさし)巡査部長と、新人ながらテスト装着者に認められた日高栄治(ひだかえいじ)巡査。

 彼らにペースを乱されながらも、義男は変身ベルト「シーフードライバー・ポリス」に小型ロボット「コブシャコポリス」を装填する。六三四も腰のライダーシステム転送装置に自身の警察手帳を翳しており、栄治はスマホ状のアイテムに専用のSDカードをセットしていた。

 

「変身ッ!」

 

 やがてその叫びが重なると、3人の刑事に「仮面ライダー」の外骨格が装着されていき――「変身」が完了する。ゴールドフィロキセラの眼前に現れた仮面の戦士達は、直前のやり取りからは想像もつかないほどの気迫を放っていた。

 

「……これより、突入を開始する! ノバシェードの頭は、俺達の手で叩き潰すぞッ!」

 

 両拳に巨大な手甲を装着した、南義男が変身する白銀の拳士――「仮面ライダーボクサー」。その外観は「仮面ライダーナックル」に近しく、頭部の兜は鎌倉時代の甲冑を想起させる荘厳なデザインとなっている。

 

「彼を止めないことには、俺の仕事も減ってくれませんからねぇ。……ちゃちゃっと、片付けちゃいましょうや」

 

 ボディカラーの左右を黒と白に分けている、一二五六三四こと「ライダーシステムtype(タイプ)-α(アルファ)」。その白い右半身は「仮面ライダーG3」を模しており、黒の左半身は「リモコンブロス」の如く多くの歯車が各所にあしらわれている。

 その手には、専用の多目的自動拳銃「マルチシューター」が握られていた。

 

「俺達3人で力を合わせれば、きっと何とかなりますよ! やりましょう、警部! 巡査部長ッ!」

 

 日高栄治が変身する、「パトライダー型式2010番type(タイプ)-000(オーズ)」。その外観は「仮面ライダーオーズ」を想起させるカラフルなものであるが、その一方で生物的な印象を全く感じさせない、メカニカルなシルエットとなっている。

 オーズの「トラクロー」を彷彿とさせる鋭利な爪も、機械としての無機質な輝きを放っていた。

 

「おおぉおッ!」

「……ッ! 烏合の衆がいくら集まったところで、この私にはッ……!」

 

 USAやアルビオンにも劣らない威力を誇る、ボクサーの鉄拳。type-αのマルチシューターから連射される、高速のエネルギー弾。ターボの蹴りすらも凌ぐスピードで振るわれる、type-000の爪。

 それら全てが、一斉にゴールドフィロキセラに襲い掛かったのはその直後だった。互いの隙を補い合い、反撃の暇を与えまいと畳み掛けて来る彼らの猛攻に、金色の怪人は一転して防戦一方となってしまう。

 

「……! バカな、自己再生を可能とする私の生体装甲が……!?」

 

 そんな中。あまりにも激しい彼らの攻撃を浴び続けていたゴールドフィロキセラの装甲が、徐々に崩れ始めていた。その亀裂はまさしく、EXのヘルスラッシュによる「古傷」だったのである。

 ヴェノーラが作ったチャンスに乗じて放たれた、彼女の斬撃。そのダメージはゴールドフィロキセラの自己再生能力を以てしても、まだ塞ぎ切れてはいなかったのだ。

 

「あれは久我峰警部が付けた傷……! 奴の再生は、彼女が与えたダメージに追い付いていないんです!」

「だったら……その再生が間に合わないほどの速度で、一気にケリを付けるしかありませんねぇ。……面倒な相手ですよ、全く」

「よし……! 一二五、日高ッ! この機を逃すな! 一気に仕留めるぞッ!」

 

 通用しない攻撃など、一つもなかったのである。ヴェノーラのドラッグハックがあったからこそ、EXのヘルスラッシュも完璧に決まっていた。そしてそのヘルスラッシュが残した傷痕が、ボクサー達に勝機を齎しているのである。

 

 この長きに渡る戦いに、終止符を打つために。

 




 ライダーは助け合いでしょ! というわけで、ゴールドフィロキセラ戦はもちっとだけ続きます。皆で力を合わせて、ノバシェードをやっつける! そんな今回のお話も、少しずつクライマックスに近づいて来ておりますぞ。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و


Ps
 読者応募ライダー全員の見せ場を書き終えるまで、天峯ボコボコシリーズは続くのです……(´-ω-`)


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第15話 冒涜的な変身

 type-αはマルチシューターから発射する弾を、対象の拘束に適した「ワイヤーアタッチメント」に切り替え、ゴールドフィロキセラの全身にワイヤーを張り巡らせていく。さらに、電流により行動を阻害する「スタンアタッチメント」に換装し、怪人の足止めに専念していた。

 

「……俺の仕事も皆の仕事も、そろそろ終わりにしたいんだよねぇッ!」

「ぐぅッ……!?」

 

 さらに。敢えて一度、スーツの機能をダウンさせた後。

 彼は「再起動」に伴い高まって行くエネルギーを片脚1本にのみ凝縮させ、強烈な回し蹴りを叩き込むのだった。type-αの全動力をその一撃にのみ集中させて相手を討つ、「システム・オーバーホール」。その必殺技が、ゴールドフィロキセラの胸板に炸裂したのである。

 

「この時代に傷付けられた人々に……俺達はこれからも、手を伸ばして行く。お前達にも、手を伸ばす! だから今、負けるわけには行かないんだ……セイヤァーッ!」

「ぐはァッ……!? あなた達のような者が、今になって何をッ……!」

 

 その攻勢に乗じたtype-000は、スロットにセットされたアイテムの画面をタップし、足裏の噴射機を利用して急上昇していく。そこから「タトバキック」の如く、急速に降下するような飛び蹴りを放っていた。

 彼の一撃を浴びたゴールドフィロキセラは一瞬だけ片膝を付くが、己の自己再生能力をフル稼働させ、強引に立ち上がろうとする。だが、その時にはすでにボクサーが「必殺技」の間合いに入り込んでいた。

 

「発端を辿れば、お前達も救われなきゃならねぇシェードの被害者だ。……それでもノバシェードを名乗って牙を剥いちまった以上、俺達はお前を人間として法で裁き、ムショにブチ込むしかねぇ」

「……!」

「だからこそ、せめて人間同士として手を差し伸べるのさ。改造人間は人間じゃない? 知らねぇよそんなこと。お前らはどこまで行っても人間だ。同じ人間なら、化物としてブッ殺すなんて真似は絶対にしねぇし、させねぇ。それが刑事(デカ)ってモンだからなァッ!」

 

 相手を怪物として抹殺するのではなく、人間として叩きのめすため。悪だからと滅ぼすのではなく、同じ人間として扱い、罪を償わせるため。

 ボクサーはその巨大な右腕に銀色のエネルギーを凝縮させ、ゴールドフィロキセラの顔面に強烈なストレートパンチを打ち込んで行く。

 

「ごぉあ……あぁあぁあッ!」

 

 「シュリンプストレート」。その必殺の拳打を喰らったゴールドフィロキセラは激しく吹き飛び、砕けた生体装甲の破片を撒き散らしながら、地面の上を転がって行く。

 

「や、やった……! 義男さん、皆も……すごいっ!」

 

 次に彼が立ち上がろうと上体を起こした時には、すでにその外観は「明智天峯」という「人間」の姿に戻されていた。

 3人の刑事達が全身全霊を込めて放った一斉攻撃により、ゴールドフィロキセラという怪人はついに粉砕されたのである。その瞬間を目撃したライダーマンGは、歓喜に拳を震わせていた。

 

「まさか、こんなまさか……! 類稀な自己再生能力を有する私のボディが、人間の装備で……!」

「確かにその能力は厄介だったよ。……長期戦に持ち込まれていたら、俺達に勝ち目はなかったかもねぇ」

「薬師寺と久我峰……そして遥花が、勝たせてくれたのさ。改造人間だけが、『仮面ライダー』じゃねえってこった」

「さぁ、大人しく投降してくれ。お前さえ降参してくれれば、この戦いもようやく終わるんだ」

 

 ボクサー達もすでに力を出し尽くしてはいたが、天峯の消耗はそれ以上のようだった。自己再生能力が追いつかないほどの強力な攻撃を続けざまに浴びせられ、彼はもはや満身創痍となっている。都市迷彩の戦闘服も、ボロボロに黒ずんでいた。

 

「……投降? ふっ、笑わせてくれますね。今さら私達があなた方の軍門に降ったところで、わざわざ生かす理由などないくせに」

「なんだと……?」

「生憎ですが、私は禍継や蛮児ほど潔くはなれません。それがどれほど醜く、惨めで、誰の同情も得られない悪路であろうとも。そこにしか生きる道がないのであれば、私は進み行くのです」

 

 だが、それでも彼は負けを認めることなく、薄ら笑いを浮かべている。

 そう。武田禍継や上杉蛮児がそうだったように。彼にもまだ、「奥の手」があるのだ。

 

「……!」

「南義男……と言いましたか。あなたの一撃、大変よく効きましたよ。おかげさまで、私の自己再生機能にも異常が出てしまったようです。もう私も、前ほどタフではいられませんね」

 

 傷付いた身体を引きずり、ゆらりと立ち上がる彼の腰には。すでに、これまで猛威を奮って来た旧シェード製のものと同じ「変身ベルト」が装着されていたのである。

 しかもそこに装填されているボトルからは、ニコラシカやギムレットのものとは比べ物にならないほどの禍々しさが漂っていた。ボクサーをはじめとするライダー達が、無意識のうちに身構えてしまうほどに。

 

「ですが、構いません。傷を癒す力など、『これ』を使うと決めた以上はもう必要ないのですから」

「明智天峯! それ以上動くな――」

 

 これから起きること。それを本能的に察したtype-αは我に帰ると、天峯の行為を阻止するべくマルチシューターの銃口を向ける。

 

 だが。その時にはすでに、ベルトのレバーは倒されていた。賽はもう、投げられていたのである。

 

「――変身」

 

 一瞬だった。

 

「ごぁッ……!?」

「ぐぅあッ……!」

 

 天峯のベルトが眩い輝きを放ち、彼の全身を包み込んだかと思うと。その光の膜を突き破るように飛び出して来た「影」が、目にも留まらぬ疾さで拳を振るっていたのである。

 一体、何が起きたというのか。それすらも分からないまま、type-αとtype-000は瞬く間に拳を顔面に打ち込まれ、意識を刈り取られていた。

 

「がぁッ……! は、遥花……に、逃げろッ……!」

 

 辛うじて頭部への初撃を受け止めたボクサーも。間髪入れずに飛んで来た2撃目の拳には反応が間に合わず、鳩尾に痛烈な打撃を受けてしまう。

 それでも遠のいて行く意識の中で、彼はライダーマンGだけでも逃がそうと。気絶するその瞬間まで、自分達を打ちのめした「影」にしがみついていた。

 

「よ、義男さんッ! 皆ッ……!」

 

 仲間達を次々と打ち倒され、再び自分独りとなってしまったライダーマンGは、その光景に戦慄を覚えていた。そんな彼女の目の前を覆っていた光がようやく収まった時、ボクサー達を瞬く間に打倒した「影」の全貌が明らかとなる。

 

「……!」

「これでよく分かったでしょう? 番場遥花」

 

 ――悪と正義の融合(マリアージュ)

 その象徴たる仮面ライダーGの配色は、「悪」の黒と「正義」の赤に2分されていた。

 明智天峯が纏っている外骨格は、そんな彼の外観を忠実に再現しているのだが――黒と赤の色だけが、真逆になっているのだ。まるで、仮面ライダーGという存在の中にある善と悪が、反転してしまったかのように。

 

 それは、かつてこの世界を救った英雄の意匠を、根底から冒涜しているかのような姿であった。赤い鎧を纏う天峯はさらに、外骨格の上から漆黒のマントを羽織っている。

 

「殺し合わずして……私達の戦いを、終えることなど出来ないのですよ」

「……明智、天峯ッ!」

 

 人類の希望たる仮面ライダーGに極めて近しい存在が、本家とは真逆の道へと突き進んでいるのだと、その姿で語るかのように。明智天峯が変身する「仮面ライダーマティーニ」は、不気味な黒いマントを悠然と靡かせていた。

 




 なんとか今話でゴールドフィロキセラ戦も決着……となりましたが、これではまだ終わりません。今となってはもはやお約束とも言えてしまう、第2の変身フェイズに突入となりました。のっけから大ピンチな気配ですが、まだまだ読者応募ライダー達が控えてますからね! 本当の戦いはこれからですので、次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و


Ps
 なんでマティーニだけフィロキセラ形態時の色を引き継いでいないのかと申しますと、そのまんま金色のライダーにしちゃったら本編ラスボスの羽々斬と配色が被っちゃうためでございます(ノД`)


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第16話 若獅子達の矜持

◆今話の登場ライダー

天塚春幸(あまつかはるゆき)/仮面ライダー(ホノオ)
 1年目の新人警察官であり、警察学校時代からスーツのテストに協力していた几帳面な青年。仮面ライダー炎に変身した後は、炎を纏った飛び蹴り「爆炎脚(ばくえんきゃく)」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は20歳。
 ※原案はピノンMk-2先生。

山口梶(やまぐちかじ)/マス・ライダー
 春幸の同期であり、最も量産性を重視した試験機「マス・ライダー」のテスト装着者を務めている新人。マス・ライダーのスーツを装着した後は、拘束用ワイヤーネットガンを駆使してサポートに徹している。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は19歳。
 ※原案は秋赤音の空先生。



 絶対的な疾さと破壊力を以て、ボクサー達を瞬く間に打ち倒した仮面ライダーマティーニ。その脅威を前にしている遥花の窮地にGチェイサーで駆け付けて来たのは、2人の新人警官だった。

 

「南警部、一二五巡査部長ッ! こんなところで寝てる場合じゃないですよ! しっかりしてくださいッ!」

「日高、おい、日高ッ! ……くそッ! 遥花さんは動けますか!?」

「私は大丈夫……! あなた達は早く、義男さん達を安全なところへ!」

 

 まだ1年目の新米でありながら、試作機のテスト装着者に選ばれるほどの素養を持っている、天塚春幸(あまつかはるゆき)山口梶(やまぐちかじ)。彼らは同期のtype-000こと栄治や、警察学校時代の教官だったボクサーこと義男の負傷に強く胸を痛めている。

 

「……天塚!」

「あぁ!」

 

 そんな中でも自分を気遣おうとしている新人達を死なせまいと、ライダーマンGはパワーアームの右腕を構え、マティーニに立ち向かおうとしていた。彼女のそんな勇姿を目にした春幸と梶は、互いに頷き合うと一斉に立ち上がり、ライダーマンGを庇うように前に立つ。

 

「……え? 天塚さん、山口さん! あなた達だけじゃ危険過ぎるわ! 私だって少しは戦えるんだから、無理をしないでッ!」

「無理でもなんでも、どの道あなた独りに戦わせているようじゃあ、俺達は警察官失格ですよ!」

「俺達だって、伊達に南警部にシゴかれてきたわけじゃありませんからね……!」

 

 仮面ライダーボクサーこと南義男でさえ敵わなかったマティーニの力に、元教え子の2人が対抗出来る望みは薄い。それを頭で理解していながらも、彼らは弱きを助け強きを挫く警察官として、引き下がるわけには行かなかったのである。

 少なくとも義男をはじめとするテスト装着者達は皆、遥花の救援を目的に動いて来たのだから。

 

「……このスーツでも、出来ることはあるはずだ。それを証明するためにここに来た以上、俺は逃げるわけには行かないんです!」

 

 梶はすでに、「Masked(マスクド) Rider(ライダー) Mass(マス) Product(プロダクト) type(タイプ) Test(テスト) edition(エディション)」――通称「マス・ライダー」のスーツを装着している。

 これは数ある試作機の中で最も、生産性、生産コスト、整備性等を追求した「万人向け」のスーツなのだ。新人警官の梶でも難なく運用出来ている現状に、その成果が現れている。

 

 ――「ライダープロジェクト」とも呼ばれる、番場惣太主導による新型強化外骨格開発計画。その計画に干渉・参入した勢力が有していた技術は数多の高性能試作機を生み出したのだが、それらはいずれも装着者を選ぶピーキーな仕様ばかりであり、いわゆる「量産型スーツ」のモデルとしては不向きなものが大半を占めていた。

 自らの勢力に帰属する「仮面ライダー」を求める、自衛隊。アメリカ軍。技術を提供した企業群。それらを後押しする様々な政治勢力。地方自治体。その全てが仮面ライダーという絶対的英雄の名声を、我が物にしようとしていたのである。

 しかしそれでは、仮面ライダーを普遍的な存在とする未来を目指した、計画の理念を成し遂げることはできない。そこで惣太は彼らから得た叡智のみを結集させ、最も「使いやすく、増やしやすい」スーツを完成させた。その雛形が、今まさに梶が装着している「マス・ライダー」なのである。

 

 現場で即座に「変身」出来る機構を取り入れ、携帯性の高さを得た「第2世代」のメリットを犠牲に。マス・ライダーのスーツは、最初期に開発された仮面ライダーEXをはじめとする、事前に装着して現場に向かう「第1世代」の運用方法を採用していた。

 

「奴を仕留め切れるかは分からない……だけど、『全力』を叩き込む準備だけは万端だッ!」

 

 そんな梶ことマス・ライダーの隣に立つ春幸も、簡素な外観の赤い変身ベルトを装着している。悪用を防ぐための認証コードを「詠唱」し始めたのは、その直後だった。

 

「地の底に眠りし炎よ、我に仇なす者どもを打ち砕く力を――変身ッ!」

 

 大仰な詠唱を終えた春幸が、地面に拳を叩き付けた瞬間。そこから噴き上がる炎の如き閃光が彼の全身を飲み込み、強化外骨格を形成して行く。

 警察学校時代から義男に才覚を見込まれ、秘密裏にテスト運用を続けてきた「相棒」のスーツが炎の中から現れたのは、それから間もなくのことであった。

 

 「仮面ライダーシノビ」を想起させる、忍者をモチーフとする外観。その全身は猛炎の如き真紅に統一されており、「和製」のスーツであることは火を見るよりも(・・・・・・・)明らかであった。

 EXが第1世代の第1号なら、この「仮面ライダー(ホノオ)」は第2世代の第1号。それ故にシンプルな強さを追求していたこのスーツには、剣や銃に相当する武装がない。だが、徒手空拳でも十分なほどの出力があるのだ。

 その開発目的は、仮面ライダーという存在に対する、ステレオタイプな英雄像の実現にあるのだから。

 

「……遥花さん。南警部達まで倒した奴の力は、恐らく……いや間違いなく、俺達の理解を遥かに超えています。それでも俺達は何としても、奴を止めなきゃならない」

「俺達の全力攻撃で、奴の注意を引き受けます。その間に遥花さんは懐に飛び込んで、奴のベルトを破壊してください。奴の変身機構も仮面ライダーに通ずるものであるならば、その要はベルトにあるはずです」

「確かにそう、かも知れないけど……いくら何でもあいつは危険過ぎるわ! あいつ相手に陽動なんてしたら、天塚さんと山口さんは……!」

 

 静かに腰を落として拳を構える、仮面ライダー炎。拘束用のワイヤーネットガンを手に、マティーニを見据えているマス・ライダー。両者はライダーマンGの制止を耳にしていながら――否、耳にしたからこそ、彼女を守らんと眼前の巨悪に突撃していく。

 警察官でもなければ正規のテスト装着者でもない、番場遥花という1人の「市民」が、それほどまでに危険な相手に挑もうとしているのであれば。なおのこと、引き下がるわけにはいかないのだから。

 

「危険過ぎる……か。だからこそ俺達は、今行かなくちゃならないんですよ!」

「死地に飛び込み『市民』を守る。それが警察官であり、仮面ライダーなんですからッ!」

「くッ……!」

 

 2人の特攻を止められなかったことを悔やみながらも、ライダーマンGも彼らに続いてパワーアームのハサミを構え、マティーニのベルトを狙って走り出して行く。せめて彼らがこれから作り出す絶好のチャンスを、無駄にしないために。

 

「未熟な若造達だけで一体何が出来るというのですか。……いいでしょう、好きにやってご覧なさい。その心が折れるまで、ね」

 

 一歩、若さ故の熱意を武器に挑んで来る者達を嘲笑うマティーニは、仮面の下で冷たい笑みを浮かべていた。その慢心が招くことになる結末など、知る由もなく。

 




 各試作機が色々と個性的な理由についても今話で触れられておりますが、これも秋赤音の空先生から頂いたアイデアがベースになっておりまする。いやはや、作者よりライダー達のことを分かっていらっしゃるのですよ。凄い方なのです、秋赤音の空先生は(´-ω-`)
 そんな先生が考案されたマス・ライダーと、アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!? な仮面ライダー炎の活躍にもご期待ください〜!٩( 'ω' )و


Ps
 恐らくデザイン性を重視してそうなライダーほど企業の関与が強いんじゃないかなーって気がしますね。炎のスーツを造ったのは果たして伊賀なのか甲賀なのか……(゚ω゚)


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第17話 炎の忍者

「明智天峯……俺達が相手だッ!」

「今ここで、お前を確保するッ!」

「……力量差も分からない小僧共が何を囀っているのですか。あなた達如きでは、私に触れる資格すらないと知りなさい」

 

 ライダーマンGの姿を隠す盾となるように、肩を並べ並走する仮面ライダー炎とマス・ライダー。その両者を触れずして仕留めてやろうと、マティーニはボクサー達が乗っていたGチェイサーの車体を片手で掴み上げ、軽々と投げ付けていく。

 近距離から高速で飛んで来る鉄塊。少なくともこれまで相対して来たライダー達なら、回避も防御も間に合わないほどの速度であった。

 

「はぁッ!」

「でぇいッ!」

「……!」

 

 だが、2人の若獅子はこの土壇場で、己の限界を超えて見せたのである。師の仇を討つため、遥花を守るため、そして警察官としての本懐を完遂するため。炎とマス・ライダーは、Gチェイサーの投擲にも見事に反応して見せたのだ。

 両手の甲で。ワイヤーネットガンの銃身で。いなすようにGチェイサーという名の鉄塊を受け流した2人は、そのまま勢いを失うことなく突撃していく。

 

「くぅッ! こんな玩具で私が……!」

「天塚、今だ!」

「あぁ分かってる! 頼んだぞ、山口ッ!」

 

 Gチェイサーの投擲を凌がれたことへの、微かな驚き。その隙を突いてワイヤーネットガンから放たれた網が、マティーニの全身に覆い被さって行く。

 あまりの性能差故か、マス・ライダーが決死の覚悟で撃ち込んだその網も、程なくして破かれようとしていた。だがそれよりも疾く、赤い忍者が拳の届く間合いへと滑り込んで行く。

 

火炎拳(かえんけん)ッ!」

「ぐ……ぬぅあッ!?」

 

 高熱の炎を纏う鉄拳。その一撃をかわそうと、マティーニは力任せにワイヤーネットを引きちぎったのだが――そこから脱出する間もなく、胸板に「ライダーパンチ」を受けてしまう。

 激しく吹っ飛び、地を転がった彼が素早く起き上がった時には。すでに炎も地を蹴って宙を舞い、渾身の「ライダーキック」を放とうとしていた。

 

爆炎脚(ばくえんきゃく)ゥッ!」

「ぐぅお、あがぁッ……!」

 

 矢継ぎ早に炸裂する、赤熱した脚から放たれた必殺の飛び蹴り。その必殺技を浴びたマティーニは漆黒のマントを揺らし、大きく体勢を崩してしまう。

 そんな彼が炎に気を取られている隙に、ライダーマンGは背後に回り込んでいた。その右腕のハサミは、すでにマティーニの変身ベルトを捉えている。

 

「これで……決まれぇえッ!」

「が、あッ……!?」

 

 炎の全身全霊を賭けた2連撃が生んだ、絶好のチャンス。それを活かすべく振るわれたパワーアームの刃が、ついにマティーニのベルトに突き刺さるのだった。

 ベルトから飛び散る火花と噴き上がる黒煙は、確かな「手応え」を物語っている。ライダーマンG達の勝利は、目前に迫ろうとしていた。

 

「……調子に乗るなガキ共がァァアァッ!」

「きゃぁあッ!?」

「遥花さんッ!」

 

 その光明を吹き飛ばすかの如き絶叫が天を衝いたのは、ベルトから黒煙が上がった直後であった。それまでの丁寧な口調から一転して、獰猛な声を上げ始めたマティーニは、怒りのままに後ろ回し蹴りを放つ。

 咄嗟に回避しようと飛び退いたライダーマンGは、その蹴りの「余波」だけでパワーアームのハサミをへし折られてしまうのだった。怒り狂うマティーニの「本気」を目の当たりにした若者達は、その迫力に固唾を飲んでいる。

 

「……諸悪の根源たる旧シェードの技術に縋ってまで、あなた達の抹殺を決意したというのに。この忌まわしき力を借りてもなお、我々は追い詰められねばならないというのですか。何たる不条理、何たる理不尽ッ!」

「こ、こいつ何を……!?」

「もはやあなた達全員の首を並べても、私の苦しみを癒すには足りません。しかしそれすらも叶わぬようでは、我々ノバシェードの痛みも永遠に消え去らない! あなた達全員……迅速なる死罰を以て、その大罪を贖いなさいッ!」

 

 口調こそ戻りかけてはいるようだが、もはや会話が成り立つような状態ではなくなっていた。それほどまでに、仮面ライダーマティーニは――明智天峯は、自分達を追い詰める人間達の「正義」に怒り狂っているのだ。

 人道という普遍的正義の名の下に、改造人間を徹底的に差別して来た人類の業。その犠牲となった大勢の被験者達の無念と、非業の死を知るが故に。

 

「ま、まずい……! 天塚さん、山口さん、下がって! そいつの前に立っちゃダメぇッ!」

「……ぬぁあぁああーッ!」

 

 もはや、なり振り構ってはいられない。そんな胸中を吐露するかの如く、マティーニは戦いの中で擦り切れた黒のマントを投げ捨て、「本気」の反撃に出ていた。

 

「ぐぁあッ!」

「天塚ッ! ……あぐッ!?」

 

 宙を漂うマントがぱさりと地に落ちた時には、すでに炎は頭を掴まれ、マス・ライダー目掛けて投げ飛ばされていたのである。両者の頭部が激突した瞬間、マス・ライダーこと梶の仮面が一瞬で砕け散っていた。

 彼らの反射神経を以てしても反応し切れなかったその速攻に、2人は数秒も経たないうちに意識を刈り取られてしまったのである。マス・ライダーにぶつけられた炎こと春幸も、気絶したことにより変身を強制解除されている。

 

「天塚さん、山口さんッ……! ……明智、天峯ぉおおぉッ!」

「……今までが異常だったのですよ。本来ならば本気になった改造人間に、生身の人間が敵うはずがないのです」

 

 その光景に激昂するライダーマンGは、恐怖も忘れてマティーニの背後に突撃していく。防御も回避も捨て、攻撃にのみ全神経を注ぐ彼女は、破壊されたままのパワーアームを振り上げていた。

 そんな彼女の姿に、仮面の下で口元を歪めながら。マティーニは、ベルトのボトル部分を捻る。そこから右足に伝播していくエネルギーが、禍々しい真紅の電光を纏ったのはその直後だった。

 

「……!」

「そうでなければ……我々が生まれて来た意味など、この世のどこにも在りはしないのですからッ!」

 

 そして、パワーアームの砕けた刃が、マティーニに届こうとした瞬間。赤と黒の怪人は、振り向きざまに右足での回し蹴りを放っていた。

 生存本能に突き動かされたライダーマンGの肢体は咄嗟に「回避」を選び、巨乳を揺らしてくの字に仰反る。だが、それだけでかわし切るには、あまりにも近付き(・・・)過ぎていた。

 

「がッ……!」

 

 真紅の電光を帯びて放たれた、必殺の回し蹴り。その蹴りは、爪先が僅かに仮面を掠めただけで――ライダーマンGのマスクを吹き飛ばしていたのである。

 

 仮面ライダーマティーニが、全身のエネルギーを右足に集中させて放つ「スワリング電光ライダーキック」。その一閃は、直撃さえすれば(・・・・・・・)確実に死を齎す文字通りの「必殺技」なのだ。

 

(……避けた、のにッ……!)

 

 ライダーマンGとしての意匠を失った番場遥花の身体が、衝撃の余波で宙にふわりと舞い上げられた。その瞬間に零した悔し涙を最後に、彼女の意識が途切れてしまう。

 そのまま力無く地面に墜落した彼女の艶かしい肉体は、失神に伴いビクビクと痙攣していた。白目を剥いて昏倒している彼女の精神は今、深い闇の底へと突き落とされている。

 

「……ほうら、ご覧なさい。どんなお題目を掲げようが、力無き正義は無力なのですよ! 正義無き力は暴力? そんなものは弱者が己を保つために捏造した戯言!」

 

 そんな彼女をはじめとする、「人間」でありながら「仮面ライダー」であろうとする者達は皆、マティーニという「正義無き暴力」の前に倒れ伏していた。彼らを冷酷に見下ろすノバシェードの首領格は、人類の奮闘を嘲笑うかのように哄笑する。

 

「力を以て己という正義を実現する我らノバシェードには、人間共の理屈など通用しないのですよ! 法も倫理も、我々をいたぶるためのものでしかないのであれば……我々の世界に、そのようなものは要らないのですッ!」

 

 誰にも救われなかったが故に、外法の世界に希望を見出すしかなかった者達。そんな闇に生きる人々を率いて来た、ノバシェードの筆頭として。マティーニは大仰に両手を広げ、高らかに叫ぶ。

 

 どのような正論を並べ立てようと、やはり最後に立っていた者こそが勝者にして正義なのだと、知らしめるかのように。

 




 ライダーパンチからのライダーキックという黄金コンボの元ネタはもちろん、仮面ライダーブラックの定番フィニッシュからでございます。いやー、一度書いてみたかったのですよ。楽しませて頂きました(о´∀`о)
 マティーニ戦もどんどこ佳境に近づいております。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و


Ps
 最初は仮面ライダーコーカサスこと黒崎一誠のように、何考えてるのか今ひとつわからない得体の知れない悪役……というイメージで書いていた明智天峯も、今となってはなんだか可哀想な奴になってしまいますた(´・ω・`)


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第18話 曰く付きの男達

◆今話の登場ライダー

芦屋隷(あしやれい)/仮面ライダーZEGUN(ゼガン)
 自身が装着しているZEGUNスーツをはじめ、多くのライダープロジェクトに関ってきた科学者である金髪碧眼の美男子。仮面ライダーZEGUNに変身した後は、特殊なカードを介してエネルギーを凝縮させたキックを放つ「ゼガンインパクト」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は25歳。
 ※原案はヲタク大王先生。

森里駿(もりさとはやお)/仮面ライダータキオン
 かつてはノバシェードの尖兵であり、遥花に敗れた後は隷の保護観察を受けつつ実験に協力していた改造人間。仮面ライダータキオンに変身した後は、タキオン粒子をチャージして放つ「ライダーキック」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は25歳。
 ※原案はエイゼ先生。

◆ズ・ガルバ・ジ/仮面ライダーN/G-1
 19年前に警察の手で殲滅されたとされる「グロンギ」の生き残りであり、駿と同じく隷の実験に協力することを条件に保護されている。仮面ライダーN/G-1に変身した後は、右足に力を込めたキックを放つ「G-1キック」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は不詳。
 ※原案は八神優鬼先生。



 ライダーマンGをはじめとする、新世代の仮面ライダー達。彼らはマティーニを筆頭とするノバシェードとの死闘に疲れ果て、その多くが力尽きていた。

 累々と横たわる者達を一瞥しながら、気を失っている遥花の前に足を運んだマティーニは、彼女の息の根を止めようと片足を振り上げる。

 

 するとその瞬間、不意を突くように背後からエネルギー弾が飛んで来た。背を向けながら片腕でその光弾を叩き落としたマティーニは、まだ諦めていない者がいるのかと忌々しげに振り返る。

 彼の眼前には、マシンGチェイサーに跨る金髪碧眼の美青年の姿があった。赤、青、白に彩られたトリコロールカラーの拳銃「ゼガンシューター」を握る青年は、静かにマティーニを見据えている。

 

「……まだ他にも、死にたがりが残っていましたか」

「僕自身も含めて……仮面ライダーとは、そういう連中の集まりだからな。人間という種には、君には理解出来ない力が秘められているのだよ。この僕でさえ、解析しきれないほどの力がな」

「理解出来なくて結構。あなた方が決死の覚悟とやらで絞り出す微々たる力など、改造人間という絶対的武力の前には塵芥に等しいのですから」

「……なるほど、理知的なのは雰囲気だけのようだ。理解出来ないものは見ようともしない、知ろうともしない。そんな無学で怠惰な男には、何一つとして導けはしないよ」

 

 警視庁に属する研究チームの主任としてライダープロジェクトに関わって来た、強化外骨格開発のエキスパート――芦屋隷(あしやれい)。仮面ライダーティガーをプロデュースした巨大企業「筬夢志(おさむし)重工」からの出資を元手に、数多の試作機を開発した天才科学者である。

 彼はマティーニの強大さを知りながらも、共にGチェイサーで駆け付けて来た「曰く付き」の増援を引き連れて、この場に現れていたのだ。隷の「実験」に協力することを条件に仮面ライダーとして生まれ変わった2人の「元怪人」も、ノバシェードの首魁と真っ向から睨み合っている。

 

「やはり人間とは愚かな者ばかりですね。……これほど分かりやすく力の差を示したばかりだというのに、それでもなお戦わずにはいられないというのですか」

「天峯……その人間の軍門に降った者達の1人として、教えてやる。……貴様のそういう驕りこそが、敗因となり得るのだとな」

「……お久しぶりですね、駿。番場遥花に敗れたあなたがまだ生きていたことにも驚きですが、よもやそちら側に付いていようとは。旧シェードに殺された妹によく似ているという、彼女の存在に絆されましたか?」

「番場遥花は……怪人として堕ちるしかなかった俺を、それでも救おうとしていた女だ。俺は、そんな奴に借りを返しに来たに過ぎん」

 

 かつてはノバシェードの尖兵だった、森里駿(もりさとはやお)。ライダーマンGこと遥花に敗れて逮捕された後、隷の元でライダープロジェクトに協力していた彼は、人間の強さを知った怪人の1人としてマティーニに「忠告」していた。

 マティーニの足元で気絶している遥花を見下ろし、苦虫を噛み潰したような表情でかつての上司を見据える駿は、その眼に燃ゆる闘志を宿している。亡き妹の面影を持つ遥花だけは、殺させまいと。

 

遊戯(ゲゲル)にも劣るお前の癇癪を、これ以上放っておくわけには行かんのだ。俺達のような人ならざる者達が、それでもこの世界で生きていくためにはな……!」

「ゲゲル……19年前に初めて存在が確認された古代の戦闘種族『グロンギ』の言葉ですね。彼らは当時の警察が開発した『神経断裂弾』によって全滅したはずですが……まさかあなたは、その生き残りであると?」

人間(リント)の戦士を侮るということは即ち、彼らに敗れた俺達も愚弄している……ということだ。グロンギの誇りを汚す者共を制するためならば、俺は実験動物(モルモット)にも成り下がる」

「ほほう……面白い。他の連中を全滅させた暁には、我々ノバシェードが引き取って差し上げましょう。グロンギの肉体、一度解剖して見たかったのですよ」

 

 2000年に初めて発見された、古代の戦闘種族「グロンギ」。その唯一の生き残りであるズ・ガルバ・ジは、人間の姿でマティーニの前に現れていた。彼も駿と同じ「怪人」に分類される身でありながら、仮面ライダーに与する立場としてこの場に立っているのだ。

 隷の研究開発に従事することを条件に抹殺から免れている彼は、グロンギとしての誇りに賭けてマティーニを倒さんと意気込んでいる。そんな彼の闘志を目にしてもなお、ノバシェードの首魁は彼のことを実験動物としか見ていない。

 

「べらべらと喋るばかりで、そちらから仕掛けて来ないところを見るに。どうやらすでに、エネルギーを温存しなければならない状態にあるようだな。遥花お嬢様達との戦いで、かなり消耗していると見える」

「……だからどうだと言うのです。まさか、今の私ならあなた達でも仕留められると?」

 

 隷をはじめとする、研究チーム出身の新世代仮面ライダー。その立場故、スーツの扱いに最も長けている彼ら3人は、各々の「変身アイテム」を同時に取り出していた。

 

「ここで何を語ろうと、実現出来ねば所詮は机上の空論だ。……僕達の成果物がその結果に届くか否かは、今に分かる! 森里君、ガルバ君! 見せてあげようじゃないか!」

「無駄口を叩くな、芦屋。そんなこと、今さら言われるまでもない……!」

「俺達は初めから、そのつもりでここに来たのだからなッ!」

 

 先頭に立つ隷がベルトを装着し、駿が試作型ライダーブレスを袖から出した時。ガルバもアタッシュケースを内側から変形させ、身に纏う強化外骨格を形成させていく。

 彼らの変身が始まったのは、それから間もなくのことであった。

 

「変身ッ!」

 

 隷がベルト横の前側にある挿入口に専用のカードを差し込むと、その身体中に下から段々とアーマーが装着されていく。

 

GET(ゲット) READY(レディ)?』

「変身……!」

 

 ライダーブレスに携帯電話を模したデバイスを装填した後、機械音声に応じた駿が声を上げた瞬間。彼の全身が、アンダースーツと装甲に包み込まれていた。

 

「……変身」

 

 アタッシュケース状の待機形態からスーツ状に変形した外骨格が、ガルバの全身に張り付くように「鎧」として形成されていく。仮面ライダーとしての姿を得た彼を最後に、曰く付きの男達は全員の「変身」を完了させた。

 

「これまで世界各国の軍や企業の要望に応じて、何着ものスーツを仕上げて来たが……やはり僕にはこれが1番しっくり来るね。なにせ出力だけなら、USAとボクサーにも負けていない代物なのだから」

 

 「仮面ライダーG3」を想起させる外観に加え、額の部品がV字型のアンテナに換装されている「仮面ライダーZEGUN(ゼガン)」。その全身の配色は赤、青、白のトリコロールカラーになっている。

 装着者にして開発者でもある芦屋隷は、そのスーツから漲る最高出力のエネルギーを肌で感じ取り、武者震いしているようであった。

 

「……番場遥花を殺らせはしない。お前の手の内を知らない奴ばかりだと思うなよ? 天峯……!」

 

 黒のアンダースーツの上に装着された、スリムな印象を与えている灰色の装甲。その外観は「仮面ライダーカブト」を想起させるものであったが、頭部の形状は「仮面ライダーヘラクス」を彷彿とさせていた。透き通るような水色の両眼を持つその戦士の名は、「仮面ライダータキオン」。

 隷によって発見された未知の物質「タキオン粒子」を取り入れた実験機であり、超加速機能「CLOCK(クロック) UP(アップ)」の試験も兼ねている、森里駿の専用スーツであった。改造人間である駿でなければその機能に耐えられないとされている、装着者以上に「曰く付き」な呪物なのである。

 

「グロンギとして、リントに与する者として、そして仮面ライダーとして……お前の蛮行は何としても阻止する」

 

 「仮面ライダークウガ」のマイティフォームを基盤としつつ、よりメカニカルで無骨な外観になっている「仮面ライダーN/G-1」。その鎧を纏うズ・ガルバ・ジは、得手とする近接戦に備えるかのように、腰を落として身構えていた。

 

「……数にものを言わせることしか能のない弱卒共が。いいでしょう、やれるものならやってご覧なさい。いい加減、私もうんざりしているところなのですよ!」

「それは良い。……君の心が乱れれば乱れるほど、僕達の勝率も上がるというものだッ!」

「うんざりしているのは俺達も同じだ。奇遇だな、天峯ッ!」

「お望み通り、すぐに終わらせてくれるッ!」

 

 彼ら3人は共に並び立つと、マティーニを仕留めるべく一気に飛び出して行く。「曰く付き」の男達は激しく拳を振るい、蹴りを放ち、力の限り打撃を叩き込み続けていた。己の命ごと、燃やし尽くすほどの勢いで。

 

「はぁあぁあッ!」

「とぁあァッ!」

「ぬッ、むぅッ! ……ふふっ、3人掛かりでその程度ですか! やはり戦闘員としての『質』においては、その目的にのみ特化している改造人間(われわれ)には敵わないようですね!?」

「デカい口を叩いている暇があるなら、さっさと僕達を片付けてみたまえよ! それともしないのではなく、出来ないのかな!?」

 

 そんな彼らを同時に相手取り、その打撃全てに対応し続けているマティーニも、己の全力を使い果たしてでも彼らを討ち取らんとしていた。軽口こそ叩いているようだが、どちらにも余裕は全くないのである。

 

 遥花を含む仲間達を倒されてしまったZEGUNとタキオンとN/G-1には、もう後がなく。彼らの猛攻を必死に捌いているマティーニにも、ほとんど余力が残っていない。この激戦の勝敗が、人類とノバシェードの未来を決すると言っても過言ではないのだ。

 この戦いの終幕は、刻一刻と近付いている。しかしZEGUN達に加勢できる戦力は、もう残っていないのが実状であった。

 

「……んっ、ぅう……!」

 

 暗い闇の底から、目覚めかけている番場遥花を除いては。

 




 今話を以て、ついに全ての読者応募ライダーが登場しました! 果たして最後の戦士達である彼らは、マティーニに打ち勝てるのか。そして遥花はもう一度立ち上がれるのか。この最終決戦も、いよいよクライマックスでございます! 最後までどうぞお楽しみにー!٩( 'ω' )و


Ps
 最近、科学者的なキャラを書こうとするとアグネスタキオンのイメージに引っ張られることが増えて来たような気がします。どけ! 私がモルモットだぞ!(゚∀゚)


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第19話 それでも私は、絶対に諦めない

 番場遥花は、昔の夢を見ていた。

 

 1年前――高校の新体操部に入って間もない頃。持ち前の運動神経を活かした演技で注目を集め、新人大会で華々しいデビューを飾った遥花は、謂れのない中傷に晒されていた。

 

「酷い、酷過ぎる……! こんなのってないよ、ねぇ、遥花っ!」

「……いいの。こうなるかもって予感は、薄々あったから」

 

 練習後、白い柔肌を伝う汗をタオルで拭っていた遥花は、友人と共にネットニュースの記事に目を通していた。身体にぴっちりと密着した桃色のレオタードは、彼女のボディラインをこれでもかと強調している。

 そんな自分の姿に釘付けになっている、男子達の劣情を帯びた視線にも気付かぬ振りをしながら。遥花は憤る友人を宥め、切なげに目を伏せていた。

 

 ――警視総監の娘にして、高校生離れしたプロポーションを誇る絶世の美少女。そして、右腕だけを機械にされている半改造人間。

 そんな「曰く付き」の彼女が真っ当に評価されるはずもなく、ネットニュース上では誹謗中傷の嵐が巻き起こっていたのである。

 

 「怪人紛いが試合に出るな」。「改造人間がなんで人間の大会に居るの?」。そんな声が、一つや二つではなかったのだ。

 中には、彼女のレオタード姿という「女」としての外観にしか興味を示さず、演技の内容には一切触れていないものも散見された。

 

 実際のところ、仮面ライダーAPの介入により改造手術を「中断」されていた遥花は、完全な改造人間ではない。改造された右腕の出力も最低レベルに押さえていた彼女の演技は、紛れもない努力の結晶。生身の身体能力だけで会得したものであった。

 だが、そういった背景を詳しく知っているわけでもなく、「印象」のみで全てを語る大衆には、そんな「真実」など通用しなかったのである。旧シェードに右腕を改造されている。その「接点」だけを取り上げ、危険視する人々の心理が、彼らを中傷に駆り立てていたのだ。

 

 当然、そういった書き込みを削除する動きはあったのだが。すでに「炎上」と読んで差し支えない範囲にまで拡大していた非難の波は、もはや警察でも止められないところにまで来ていたのである。度を越した発言を繰り返した挙句、逮捕されてしまう者達が出てもなお、止まないほどに。

 テレビや新聞をはじめとする大手のマスメディアや著名なコメンテーター達は、口を揃えて遥花の活躍を褒めそやしていたのだが。旧シェードが潰えた今もなお、改造人間を恐れている人々の「生の声」は、その裏で何のフィルターもなく遥花のレオタード姿にぶつけられていたのだ。

 

(……やっぱり私は、どうしたって……)

 

 旧シェードの再来を騙り、世界を騒がせているノバシェード。彼らのテロを阻止するために身体を鍛えようと始めた新体操だったのだが、それですらも難色を示す人々が居るというのであれば、もはや山籠りでもするしかないのだろうか。

 

 そんな考えが脳裏を過ぎり、右腕に力無く視線を落とした時。遥花のその手が、隣の友人に握られた。

 

「……!」

 

 ハッと顔を上げた彼女の視線が、友人の力強い眼差しと重なる。日頃から敬遠と好色の目で見られながらも、ひたむきに努力してきた遥花の姿を知っている友人は、己のか細い手で彼女の右手を握り締めていたのだ。

 

「……私だけじゃないよ、遥花」

「えっ……」

「警視総監の娘だとか、右腕が機械だとか、ライダーマンGだとか……そんなこと、どうでもいい。あんたは誰よりも頑張ってきた、番場遥花っていう『人間』。それが分かってる人は、私だけじゃない。あんたの右腕は、皆を守るための腕なんだってことも、怖くなんかないんだってことも……いつかきっと、皆にも分かる時が来るよ」

「……」

 

 右腕の膂力を知りながらも、友人は恐れることなく遥花の手に指を絡ませている。そんな彼女の切実な訴えに耳を傾ける遥花の頬には、いつしか汗ではない雫が伝っていた。

 

「だから……まだ、諦めちゃダメ。ここで諦めたら、見れたかも知れない未来(さき)も、見えなくなっちゃう。私も、遥花に負けないよう頑張るから……私が勝つまでは、辞めないでよね。新体操」

「……うんっ!」

 

 やがて彼女達は、互いに頬を濡らしながら。豊かな乳房を押し当て合い、抱擁を交わしていた。

 これほど温かな心の持ち主が自分の近くに居てくれるのなら、自分はまだまだ頑張れる。そんな勇気が、遥花の胸に灯ったのである。

 

 ――それから、約1週間後。その友人はノバシェードのテロに巻き込まれ、選手生命を絶たれてしまった。

 それでも彼女は、遥花が試合に出る度に車椅子に乗り、応援に駆け付けている。そんな彼女の諦めない姿は、遥花の心を絶えず突き動かしているのだ。

 

 ノバシェードとの苦しい戦いが、どれほど長く続いても。その友情を頼りに、彼女は立ち上がってきたのである。

 

(……そう、だよね。私……まだ、諦めたくない。諦めたく、ないよっ……!)

 

 再起不能になってもなお、自分を励まし続けてきた友人の想いを背負い。遥花は混濁する意識の中で、地面を掴み上体を起こしていく。まだ、戦いは終わってはいないのだ。

 

「はぁあぁあーッ!」

「ぬぅあぁッ! とぁあッ!」

「てぇえいッ!」

 

 ぼやけた視界の向こうでは、ZEGUNをはじめとする最後の新世代ライダー達が、マティーニとの死闘を繰り広げていた。そこからは、自分が過去に助けた「怪人」の声も聞こえている。

 

(森里、さん……? そっか……あの人も、戦ってるんだ。これからの毎日を生きていく、皆のために……)

 

 自分に亡き妹の影を重ねていた、悲しき怪人。かつてはノバシェードの尖兵だった彼が今、「仮面ライダー」として戦っているその姿に、遥花の心がますます焚き付けられていく。

 気が付けば彼女は、その肉感的な両脚で地を踏み締め、ふらつきながらも立ち上がっていた。額から滴る鮮血を拭い、力強い眼差しでマティーニを射抜いた遥花は、ゆっくりと歩み始めていく。

 

(……私も、行くよ。あの子のために、皆のために。マスクは無くしちゃったけど、それでも今の私は……)

 

 破壊されたパワーアームから別のアタッチメントへと「換装」するべく、己の右腕に左手を伸ばしたのは、その直後だった。

 

「ライダーマンG、だから……!」

 




 本来なら今話辺りでマティーニ戦を終える予定だったのですが、ちょっと長くなりそうだったので今回は遥花の復活パートにのみ焦点を絞ることになりますた。じ、次回こそマティーニとの決着が付くかと思われますので、もうしばらくお待ちくださいませー……:(;゙゚'ω゚'):


Ps
 めっちゃ家柄が良くて正体も知れ渡ってる、というライダーマンGの背景はアイアンマン辺りに近いのかも知れないですね。元から勝ち組で有名人なヒーローは何かと目立つ分、恨みも買いやすいだろうし大変だよなぁ……(ノД`)


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第20話 人間の自由と、平和のために

 ZEGUN、タキオン、そしてN/G-1。

 彼らとマティーニの激闘は熾烈を極めたが、その軍配はノバシェードの側に上がろうとしていた。片膝を着き、満身創痍といった様子で息を荒げている3人の前では、マティーニがふらつきながらも両の脚で地を踏み締めている。

 

「ぐぅ、おぉッ……!」

「はぁッ、はぁ、はぁッ……!」

 

 だが双方とも、一瞬でも気を抜けば倒れてしまいそうなほどに消耗し切っているのも事実であった。一見すれば優位を保っているようにも見えるマティーニだが、その装甲はすでに傷だらけであり、露出している内部機構からは火花が飛び散っている。

 

「く、ふふっ……ようやくご理解頂けましたか? これが、現実なのですよ。例えどれほど優れたスーツであろうと、『生身の人間』の着用を前提とした仕様である以上、その脆弱な肉体でも運用に耐えられる程度の出力に抑えねばならない。難儀なものですね」

「ぐッ……!」

「しかし、我々改造人間にはそのような『枷』など存在しない。駿とグロンギを駆り出して来た点は評価しますが……些か、スーツを着用しての実戦は不慣れだったようですね」

 

 マティーニが語る通り、警察側がこれまで開発してきた試作機はそのほとんどが、生身の人間による運用を前提とした仕様になっていた。中には装着者の負担を考慮し切れていないものもあったが、それでもある意味では「常識的な範疇」だったのだ。

 だが、改造人間の装着を想定しているマティーニのスーツには、そんな最低限の「遠慮」すら存在していない。その根本的な設計思想の違いが、この実戦における明暗を分けていたのである。

 

 現行の技術力では改造人間しか耐えられないとされる「クロックアップ」を導入しているタキオンと、グロンギであるガルバの限界を試すために設計されたN/G-1だけは、その領域に近付けていたのだが。スーツを着用しての実戦経験が足りていなかった2人では、マティーニの技巧には追い付かなかったのだ。

 

(……焦っていたとはいえ、番場遥花如きにライダーキックを使ってしまったのは失敗でした。あれでかなりのエネルギーを消耗してしまいましたし、駿達の戦闘力も想定を遥かに上回っている)

 

 だが、それでも多勢に無勢であることには違いなく。マティーニは懸命に、その傷付いた仮面の下に憔悴し切った貌を隠していた。

 

 マティーニの全出力を脚1本に集中させて放つ「スワリング電光ライダーキック」。その絶対な威力と引き換えに、彼は精魂尽き果てる寸前にまで疲弊しているのだ。

 加えて、決して侮れないZEGUN達との連戦。マティーニはもはや、いつ力尽きてもおかしくない状態に陥っている。

 

(こうなれば多少出力を落としてでも、ライダーキックの再使用を優先するしか……!?)

 

 この状況を打破するには、ライダーキックをもう一度発動出来る状態にスーツを調整するしかない。遥花に向けて放った1発ほどの威力はもう出せないが、ZEGUN達を倒すだけならその程度でも事足りる。

 その可能性に賭けたマティーニは、傷だらけのベルトに手を伸ばし、キックの威力を調整しようとする。

 

「ならば……試してみるかい!? 僕達の底力が、この程度のものかどうかッ!」

「……ッ!」

 

 たったそれだけの僅かな「隙」が、決死の反撃を許すことになるのだった。調整に気を取られていたマティーニがハッと顔を上げた時には、すでにZEGUN達が最後の総攻撃に向けて動き出していたのである。

 

「ぬぅううッ……! とぉッ!」

 

 右足に全ての力を込めたN/G-1は、眩い輝きを纏うその足で助走を付けながら、マティーニ目掛けて疾走していく。地を蹴り跳び上がった彼の右足から、渾身の「G-1キック」が放たれたのはその直後だった。

 

「おりゃあぁああッ!」

「ぐぉお、ぁあッ!」

 

 咄嗟に両腕を×字に組んで受け止めたマティーニは、衝撃のあまり後方に吹き飛んでしまう。そんな彼に追撃を仕掛けるべく、タキオンが動き出していた。

 

「クロックアップ……!」

CLOCK(クロック) UP(アップ)!』

 

 N/G-1に続くように、タキオンもベルトの起動スイッチに触れて「クロックアップ」を発動させていく。

 タキオン粒子を利用したその高速移動は、20カウントしか持たない。彼は残されたその僅かな時間を全て、必殺の一撃を放つための「チャージ」に費やしていた。

 

「俺達の覚悟……この凍てついた時の中で、思い知れ! 天峯ッ!」

 

 時が止まったかのような疾さで、G-1キックの威力に吹き飛ばされたマティーニに追いついたタキオンは、彼の背後に回りこみ回し蹴りの体勢に入る。

 

RIDER(ライダー) KICK(キック)!』

「ライダー……キック! はぁぁあッ!」

 

 そして、クロックアップが終了した瞬間。タキオン粒子を集中させた右足を振るい、最大火力のライダーキックを放つのだった。

 背後から思わぬ不意打ちを受けたマティーニは、回避も防御も叶わぬまま前方に蹴り飛ばされてしまう。

 

「うぐぁあッ!? バカな、いつの間に後ろへ……ハッ!?」

「さすがは我が研究チームの一員だ! 主任(ぼく)のニーズというものを、よく分かっているッ!」

 

 さらに。彼が吹き飛ばされた先ではすでに、「必殺技」の発動体勢を整えたZEGUNが待ち構えていた。

 地を蹴って跳び上がったZEGUNが、ベルト横の後ろ側にあるカード挿入口に発動キーとなる「アビリティカード」を差し込んだ瞬間。彼の右足に、青い稲妻を放つエネルギーが凝縮されていく。

 

「おぉおおーッ!」

「ぐわぁぁあーッ!」

 

 やがて、雄叫びと共にその足で放たれた飛び蹴り――「ゼガンインパクト」が、マティーニの胸板に炸裂するのだった。

 ZEGUN達の魂を賭けた、3連発のライダーキック。その全てを叩き込まれたマティーニのボディから、より激しく火花が飛び散り、黒煙が上がる。

 

「ぐぁあ、あァッ……! お、おのれぇッ……!」

「もう終わりだ、天峯! そのスーツもそろそろ限界だろう。諦めて投降しろッ!」

「限界……? 舐めた口を叩くなッ! マティーニの性能は、まだ……こんなものではないッ!」

 

 激しく地を転がった彼に、タキオンが降伏を勧告する。だが、総攻撃を受けながらも調整を完了させていたマティーニも、まだ諦めてはいない。

 

「とおォッ!」

 

 彼は最後の力を振り絞るように地を蹴って高く跳び上がり、滞空しながら飛び蹴りの体勢に入っていく。足りない出力を補うために、回し蹴りではなく飛び蹴りの姿勢から、ライダーキックを放つつもりなのだ。

 

「なにッ!? バカな、まだあんな力が残っているのか……!?」

「あのスーツ、どこまで装着者の負担を無視すれば……!」

「くッ……! 森里君、ガルバ君! 防御体勢を取るんだッ!」

「防御など無駄ですよ! この高度と角度から放つ私のライダーキックならば、今の出力でもあなた達など骨も残さず吹き飛ばせるのですから……!」

 

 回避は間に合わないと判断したZEGUN達は咄嗟に防御体勢に入ったが、彼らの傷付いたボディではマティーニのライダーキックには到底耐えられない。

 最後に自分1人が立っている未来を夢想し、仮面の下で口角を上げるマティーニは、全身全霊を込めた渾身の蹴撃を放とうとする。

 

「さぁ、あなた達全員……迅速なる死罰を以て、大罪を贖いなさいッ! スワリングッ! 電光ライダァァ、アッ……!?」

 

 そして、人間達の誇りもろとも全てが消し飛ぶ――かに見えた、その時。突如飛び蹴りの体勢が何らかの力によって乱され、マティーニのキックが中断されてしまった。

 何事かと目を見張るマティーニは、違和感を覚えた腰の辺りに視線を落とすと。そこに引っ掛かっていた、「鉤爪」の存在に気付くのだった。

 

「させ、ないッ……!」

「ば、番場遥花……!? 私のライダーキックを受けていながら、もう目醒めたとッ……!?」

 

 その鉤爪を、右腕の「ロープアーム」から伸ばしていた番場遥花が。無防備になっていたマティーニのベルトを捉え、キックを阻止していたのである。

 

「あなた、そのベルトでキックの威力を弄れるんでしょ? ……危ないから、切ってあげるわ」

「……! ま、まさかそのために……おのれぇえッ!」

 

 マティーニに気付かれないまま意識を取り戻していた遥花は、彼がベルトでキックの威力を調整する瞬間を目撃していた。その意図と機能に気付いた彼女は、マティーニが最も無防備になる瞬間を狙い、ロープアームから鉤爪を飛ばしていたのである。

 その鉤爪でベルトを操作することで、キックの出力をゼロにするために。

 

「遥花お嬢様……!」

「番場、遥花……!」

「……確かに、改造人間は今でも差別の対象よ。それでも、私達に(・・・)手を差し伸べてくれる人達はいる! 助けようとしてくれる人達がいる!」

 

 その大胆な賭けにZEGUN達が瞠目する中で。遥花は同じ差別を味わってきた改造人間の1人として、明智天峯という1人の人間を救うべく。鉤爪に繋がれたロープを緊張させ、勢いよく振り回し始めていた。

 それはさながら、ソムリエがグラスを回転させる「スワリング」のように。

 

「だから……そんな人達の思いを踏み躙るようなことだけはッ! 絶対に許すわけにはいかないッ!」

「な、なにを……うぉぉぉあぁあぁッ!?」

 

 体勢を乱された上に激しく振り回されては、鉤爪を解く暇もなく。マティーニは為す術もないまま、高速で空中を回転し続けていた。

 

「スワリングッ……ライダァアァッ!」

 

 やがて、遥花の絶叫と共に回転速度が最高潮に達した瞬間。損耗と圧力に耐え切れずにベルトが破壊され、マティーニの身体が宙に投げ出されてしまう。

 

 平衡感覚を狂わされた今の彼では、まともに受け身を取ることも出来ない。そのまま落下していく彼を、完膚なきまで懲らしめる(・・・・・)べく――遥花は鉤爪をマティーニの仮面に引っ掛けると。

 

「きりもみ……シュウゥートォッ!」

「ぐぁあ……あぁあーッ!」

 

 地面目掛けて、鉤爪と繋がっている右腕を勢いよく振り下ろすのだった。抵抗する暇もないまま、脳天から大地に激突したマティーニの仮面が崩壊し、再び明智天峯の素顔が露わにされる。

 その「変身」が完全に解除され、元の姿に戻された彼が力無く倒れ伏したのは、それから間も無くのことであった。

 

 遥花がこの土壇場で編み出した、「スワリングライダーきりもみシュート」。その一撃を以て、ついに仮面ライダーマティーニという最強の牙城が、崩れ去ったのである。

 




 知る人ぞ知る仮面ライダー1号の最強技「ライダーきりもみシュート」……っぽいようなそうでもないような新必殺技を以て、ついに仮面ライダーマティーニも撃沈! これにて全てのバトルが終了となりました! いやー、長かったですね本当にε-(´∀`; )
 恐らく次回辺りで最終話になるかと思われますので、どうぞ最後の最後までお楽しみにー!٩( 'ω' )و


Ps
 メカコレのプラモにライダーマシンシリーズがあるんですけど、小さくて場所取らないしパーツ少なくて作りやすいしイイですねーコレ(*´ω`*)


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最終話 平和である証

「……なぜあなた達は、今になって現れたのですか」

 

 戦士達の汚れを洗い流すかのように、さめざめと雨が降り始めた頃。全ての力を使い果たした明智天峯は、仰向けに倒れたまま天を仰いでいた。

 そんな彼を見下ろしている遥花、隷、駿、ガルバの4人は、その問いに答えられずにいた。天峯が言わんとしていることを理解しているが故に、掛ける言葉を見つけられずにいたのだ。

 

「かつて某国の外人部隊に属していた私達は、日本人であることを理由に無謀な任務を押し付けられてばかりでした。世界共通の大敵だったシェードのルーツは当時の日本政府にあったのですから、当然のことでしょう」

「……」

「そんな時に当時の政府から、改造手術を受けないかと誘われたのです。シェードに対抗するための改造人間部隊を新設したいと。私達は二つ返事で引き受けました。謂れなき差別に晒されている祖国の名誉を取り戻す、絶好のチャンスなのだと信じて」

 

 独り言のように自らの過去を語る天峯。その言葉の「続き」を知る遥花達は、敢えて遮ることなく静かに見守っていた。吐き出さずにはいられないのだろうと、慮って。

 

「……私達3人の手術だけは、奇跡的に成功しました。突然変異などと言われる程度にはね。しかし……他の者達は皆、誰の得にもならない失敗作にしかなれなかった。シェードの真似事を無理矢理しようとした結果が、あのザマだった」

 

 その頬を伝う雫は、雨粒なのか。涙なのか。それはもう、天峯自身にすら分からない。

 

「私達は軍を抜け、行く先々で助けを求めた。しかし誰もが私達を醜悪な化物と罵り、迫害した。……私達の他にも、そんな『元人間』は大勢居た。シェードが消滅しても、仮面ライダーが世界を救っても、改造された人間達が元通りになるわけでもないのに。世界は勝手に戦いを終わらせて平和の到来を謳い、私達をいない者として扱おうとした。だから被験者達の救済プログラムも大々的な動きにならず、こぼれ落ちる者達が後を絶たなかったのです」

「……それで、ノバシェードか」

「元は単なる被験者同士の自助組織だったのですよ。今のように本物の怪人になろうなどと考える者達なんて、数えるほどもいなかった。……3年近くも見過ごされるようなことがなければ、そのまま平和な集まりでいられたのでしょうね」

 

 かつての構成員だった駿が、その一言を絞り出すと。天峯はまだ闇に堕ちていなかった頃を振り返り、懐かしむように目を細める。

 

「私達は、諦めざるを得なかった。シェードはもういない。人間達の輪にも入れない。無効化手術の順番は、一向に回ってこない。もう、誰にも頼れない。故に、私達が作るしかなかったのですよ。この時代に取り残された改造人間達だけの新組織、ノバシェードをね」

「明智天峯……」

「……そうなる前に、あなた達が我々の前に現れていれば。あなた達が言うように……そんな道に走る必要などなかった。しかし、シェードが生み出してきた科学力を以てしても、時を巻いて戻す術はない。何もかもが、手遅れだったのです。どちらが優勢であろうが、結局私達はこの地で戦う運命だったのでしょう」

 

 自分を打ち倒した遥花と視線が交わった瞬間、彼は観念したように両手を空に向かって突き上げる。その様子を見つめながら歩み出した遥花に、隷はそっと手錠を差し出した。

 

「……遥花お嬢様、これを」

「うん……ありがとう、芦屋さん」

 

 それを受け取った遥花は物憂げな表現のまま、天峯の両手に手錠を掛けていく。

 

「本当……何で、今なのかしらね」

 

 一つでも何かが違っていれば、違う道もあったのだろう。しかし彼らは、ノバシェードという自ら築いた地獄への道に踏み込んでしまった。ならば仮面ライダーとして、警察官として、自分達は責務を果たさねばならない。

 せめて、化物などではなく。あくまで人間として、彼らを人間の法で裁く。それが遥花をはじめとする、この時代の仮面ライダーならではの救済であった。

 

 やがて、駿とガルバに両脇を抱えられた天峯が、やっとの思いで立ち上がった頃には。他の場所での戦いを終えた者達や、意識を取り戻した者達も、この場に集まり始めていた。

 

 仮面ライダーティガー、道導迅虎。

 仮面ライダーパンツァー、翆玲紗月。

 仮面ライダーG-verⅥ、水見鳥清音。

 仮面ライダーケージ、鳥海穹哉。

 仮面ライダーオルバス、忠義・ウェルフリット。

 仮面ライダーΛ−ⅴ、明日凪風香。

 仮面ライダーアルビオン、東方百合香。

 仮面ライダーイグザード、熱海竜胆。

 仮面ライダーオルタ、静間悠輔。

 仮面ライダーUSA、ジャック・ハルパニア。

 仮面ライダーGNドライブ、上福沢幸路。

 仮面ライダーターボ、本田正信。

 仮面ライダーEX、久我峰美里。

 仮面ライダーヴェノーラ、薬師寺沙耶。

 仮面ライダーボクサー、南義男。

 ライダーシステムtype-α、一二五六三四。

 パトライダー型式2010番type-000、日高栄治。

 仮面ライダー炎、天塚春幸。

 マス・ライダー、山口梶。

 

 そして、彼らに拘束されている武田禍継と上杉蛮児。その2人と顔を突き合わせた天峯は、互いに気まずげな表情を浮かべていた。

 

「……一つだけ、聞かせてください。私達は、今でも……人間なのですか?」

「さぁな。……グロンギの俺に言わせれば、どちらも大して変わらんぞ」

 

 やがて、隣に立つガルバからその答えを貰った天峯は。力無く笑みを溢し、天を仰ぐ。

 

「……そうですか。どちらも大して、変わりませんか」

 

 いつの間にか、雨は上がっていたらしい。彼が見上げる青空には、七色の虹が掛かっていた。

 

 ◆

 

 ――その後。明智天峯をはじめとするノバシェードのトップ3は正式に逮捕され、数々のテロ行為を追及していく裁判が開始された。

 

 ノバシェードが創設されるに至った経緯に関する情状酌量もあったが、最終的には世論と検察側が切望した通りに死刑判決が下された。しかし宣告を受けた男達の表情は、まるで憑き物が落ちたかのように晴れやかであったという。

 改造人間という「怪物」として、人間らしい「死」すら許されなかった彼らは。ようやく、人としての一生を終えることが出来るのだから。

 

 一方、司令塔である天峯達を失った海外のノバシェードは、急速に勢いを失い始めていた。その好機に乗じて彼らを全員捕縛するべく、テスト装着者達はスーツを修繕した後、日本を離れ世界各地を転戦した。

 アメリカ、中国、ロシアのような大国だけでなく。アジアやヨーロッパの各国に、南米やアフリカの各地、さらにはオーストラリアに至るまで。ありとあらゆる国に巣食うノバシェードを撲滅するべく、新世代の仮面ライダー達は海を越え、全世界を駆け巡ったのである。

 

 それから約2年後の2021年には、ついにノバシェードが完全に壊滅し、テスト装着者達もその任を解かれた。2022年現在の彼らは一介の警察官として、あるいは1人の人間として、それぞれの日常を過ごしている。

 

 ノバシェードの壊滅という大役を果たした彼らのスーツは、その頃にはいずれも修繕不可能とされるほどにまで損耗しており、ほどなくして「解体」が決定された。今はすでに、マス・ライダーをベースとする制式量産機の部品として再利用される形で、この世から消滅している。

 改造人間の犯罪に対処し、無辜の人々を守る仮面の戦士は、やがて普遍的な存在として社会に浸透し。「仮面ライダー」と呼ばれる英雄像は、遠い過去の伝説として扱われるようになっていた。

 

 さらに天峯達の逮捕を契機に、長らく見過ごされていた改造被験者達の窮状が改めてクローズアップされるようになり。無効化手術を推し進める大々的な動きが、全世界を席巻し始めていた。

 その世論の動きが功を奏し、2022年現在においては全被験者の95%が処置済みとなっている。過去には改造人間として差別されていた者達も、職や家庭を得られる社会。そんな未来はすでに、夢物語ではなくなっているのだ。

 

 この世界にはもう、「仮面ライダー」も「怪人」もいない。しかし、それでいいのだろう。仮面ライダーがいない景色は、世界が平和である証なのだから。

 

 ◆

 

「……ふふっ。顎部分(クラッシャー)を着脱出来るようにして、戦闘中でもカップ麺が食べられるようになったって……何よそれ。芦屋さんったら、相変わらず変な機能ばっかり付けたがるんだから」

 

 ――そして、あの戦いの後。無効化手術を受けて人間と変わりない生活を送れるようになった、番場遥花も。2022年を迎えた今では20歳の新人ナースとして、大戸島(おおどしま)の小さな診療所で平和な毎日を過ごしている。

 

「あははっ……皆も美味しそうに食べちゃってさぁ。まるで部活帰りの男子達みたい。世界を救った『仮面ライダー』としての自覚がないのかしら?」

 

 かつての仲間達からの近況を報せる手紙と写真に目を通していた彼女は、軽口を叩きながらも懐かしむように頬を緩めていた。その豊満な肉体はナース服が張り詰めるほどに成長しており、島中の男達を魅了する色香を纏っている。今の彼女が東京の都心部に繰り出せば、すぐさまスカウトマンに完全包囲されてしまうことだろう。

 

「番場さーん、そこのカルテ取ってもらっていい?」

「あっ、はーい! 先生、今行きますねっ!」

 

 自分を救ってくれた医療従事者達への憧れから、この道に進んだ彼女は1人のナースとして。島に常駐しているただ1人の医師――南雲(なぐも)サダトと共に、島民達の健康を守るべく日々働いていた。

 彼に呼び出され、豊穣な爆乳を揺らしながら慌てて立ち上がった彼女は、カルテを手に敬愛する医師の側へと駆け寄っていく。

 

 そんな彼女が向かっていたデスクに飾られている写真立ては、窓辺から吹き込むのどかな涼風を浴びていた。その1枚に写る22人の笑顔は、今もなお彼女を見守っている――。

 




 今話を以て、外伝「ライダーマンG&ニュージェネレーションGライダーズ」はめでたく完結となりました! 本編最終話にも繋がるラストシーンで締めつつ、この物語の本筋はとうとうこれにて終了となります。いやー……長かったですね。想定よりも大分長くなりました。それでも読了して下さった読者の皆様! 最後の最後まで応援して頂き、誠にありがとうございましたっ!٩( 'ω' )و
 次回はちょっとした番外編をお届けする予定ですので、機会がありましたらそちらもどうぞよしなに(*´ω`*)

 ライダーも怪人もいない世界を築き上げた読者応募ライダー達の頑張りもあり、この世界にもやっと真の平和が訪れた。今回はそんな感じのラストで締めさせて頂きました(о´∀`о)
 「仮面ライダーW」のように仮面ライダーと怪人の戦いはこれからも続く! という締めもイイなーとは思うのですが、拙作においてはやはり、これ以上続けようがないラストにしてスッパリ締めたいという思いがありまして。本作においては、このような結末とさせて頂いておりまする(´-ω-`)

 さてさて、本作はこれで終了となったわけなのですが。出来れば近いうちにまた、新たな読者参加型企画を開催できる機会があればなーと考えております。どんな題材でどんなお話になるかはまだ全然決まっておりませんが、機会がありましたらまたお気軽に遊びに来て頂けると幸いです!(*≧∀≦*)
 ではではっ、今回の読者応募企画にご協力頂いた参加者の皆様! 最後まで読み進めて下さった読者の皆様! 応援誠にありがとうございました! いずれまた、どこかでお会いしましょうー! 失礼しますっ!٩( 'ω' )و


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Ps
 昭和ライダーってしょっちゅう海外に出張するんですよねー。というわけで、読者応募ライダー達にも世界に羽ばたいて貰いますた(*'ω'*)


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番外編 彼らを真に救う者達

 今回はちょっとした番外編になります! ノバシェードの3人のちょっとした過去話になりますぞ〜(о´∀`о)



「きゃあぁあっ!」

「た、助けてぇえっ!」

 

 ――2016年、10月某日。

 東京都内のとある廃工場の中で、幼い少年少女達が悲鳴を上げていた。彼らを狙う漆黒の影が、その小さな身体を飲み込むように伸びている。

 

「ア〜ビアビアビィッ! 泣けど喚けど無駄だガキ共ッ! こんな辺鄙な場所なんざ、誰も来やしねぇよォッ!」

「……」

 

 逃げ惑う彼らを悠然とした足取りで追い回している、シェードの新型改造人間――「シオマネキング」は、独特な笑い声を響かせながら厭らしい笑みを浮かべていた。彼に付き従う3体のフィロキセラ怪人は、そんな上司の背を黙って追い続けている。

 

 この廃工場近くにまで遊びに来ていた子供達は、偶然にもその地下に隠されていたシェードのアジトを発見してしまったのである。そのタイミングでシオマネキングに見つかってしまい、今こうして付け狙われているのだ。

 都心から遠く離れたこの廃工場では、子供の叫び声など誰にも届かない。それを知るが故に、シオマネキングは子供達の無垢な抵抗すら楽しみながら、じわじわと迫るように彼らを追い詰めているのである。

 

「アビアビィ〜……そろそろこの追いかけっこにも飽きちまったなァ。おいお前、その触手で1匹刺し殺せ。逃げても無駄だって現実が理解できりゃあ、ちったァ諦める気にもなるだろ?」

「……シオマネキング様。やはり子供相手に、こんな真似は……ぐァッ!」

「て、天峯ッ!」

 

 彼の意向に逆らったフィロキセラ達の1人は、その場で即座に殴り倒されてしまった。屈強な怪人がたった1発の殴打で転倒する光景に、子供達はますます震え上がっていく。

 

「アビアビィッ! なァ〜にを甘っちょろいこと抜かしてんだアビィッ! ノータリンな人間共の猿真似で生まれてきたお前らに、シェードという居場所をくれてやったのはこの俺様なんだぜェ!?」

「待ってくだせぇ、シオマネキング様ッ! 俺達ァ、こんなことするためにシェードに入ったんじゃあ……ぐわァッ!」

「蛮児ッ! シオマネキング様、お鎮まりください! こいつらはただ……ぐうッ!」

「てめぇらも口答えする気かァ!? おいおい明智ィ、上杉ィ、武田ァッ! てめぇらここで通用しねぇようなら、どこに行ってもおしまいだぜェ!? 何せそんな姿じゃあ、人間として生きていけるわけがねーんだからよォッ! アビアビアビィッ!」

 

 他の怪人達も続けざまに、シオマネキングの左腕にあるハサミで殴り倒されていた。

 金、銀、銅。3色のフィロキセラ怪人達は、実はシェード製の改造人間ではなかったのである。他国の政府によって怪人にされてしまった彼らは、居場所を求めてシェードによる「実地研修」を受けている最中だったのだ。

 

 彼らは生きるためならば悪に堕ち、人類と戦う覚悟を決めていたつもり(・・・)だった。しかし彼らに「最初の任務」として突き付けられたのは、シオマネキングと共に子供達を殺せという内容だったのだ。

 警察や軍隊を相手に戦うのならまだしも、泣いて怯えて逃げ惑う子供を殺すなど、この時の彼らには出来るはずもなかったのである。

 

「……も、申し訳ありません、シオマネキング様。しかし、私達はッ……!」

「アビィ……もういい。だったら特別に、この俺様が『お手本』を見せてやるぜぇ。てめぇら、目ん玉ひん剥いてよぉーく見てなァッ! ちょろちょろ逃げてるガキってのはなァ、こうやって殺すんだよォッ!」

 

 そんな彼らを蹴り付けながら、シオマネキングは不遜な鳴き声を漏らすと。逃げ場を失い、廃工場の隅で震えている子供達に向けて――大量の泡を噴き出そうとしていた。

 無論、それはただの泡ではない。触れた箇所から発火し、対象を焼き尽くすシオマネキングの「必殺技」なのだ。生身の人間が浴びれば、骨も残さず消し炭になる威力がある。

 

「アビアビアビィッ! さぁ、跡形もなく消え去っちまいなァ! 今まで俺様に消されてきた、バカ共のようによォッ!」

「わ、わぁあぁあッ! だ、誰か……誰かぁあっ!」

 

 当然、子供達がそんなものを浴びせられたらひとたまりもない。今日も(・・・)彼の手で、不幸な犠牲者が生まれてしまう。

 この場にいる誰もが、そんな未来を夢想してしまった――その時。

 

「待てぇいッ!」

 

「……アビィッ!?」

 

 けたたましい怒号が廃工場に響き渡り、シオマネキングは思わず泡の発射を中断してしまう。後光のように外の日差しを浴びながら、2人の戦士がこの廃工場へと駆け込んで来たのは、その直後であった。

 

 この「Gの世界」においては「1号」に相当する、仮面ライダーG。そして、「2号」に当たる仮面ライダーAP。

 

「き、貴様らッ……がはぁッ!?」

「ぐはぁあッ!」

「トォ、トォッ!」

「トゥッ!」

 

 彼らという「ダブルライダー」は見張りの戦闘員達を瞬く間に薙ぎ倒し、肩を揃えてここへ駆け付けて来たのだ。

 その勇姿を目の当たりにしたシオマネキングは悍ましい者を見るような目で悲鳴を上げ、子供達は歓声を上げる。

 

「アビアビィッ!? か、かか……仮面ライダー!?」

「ラ、ライダーだぁ!」

「わぁ……ライダーが来てくれたんだぁっ!」

「あれが、仮面ライダー……!?」

 

 彼らを初めて目にした3体のフィロキセラ怪人達も、咄嗟に立ち上がり臨戦体制に突入する。人間の自由と平和を守る希望の戦士にして、シェードの天敵。その生ける伝説達が、ついに目の前に現れたのだから。

 

「君達、よく頑張ったな! 後は僕達に任せてくれ!」

「さぁ、早く逃げるんだ! ここは俺達が引き受けるッ!」

「う、うんっ!」

「ライダー、頑張ってねっ!」

 

 一方、素早く子供達の側にジャンプしたダブルライダーは、笑顔を取り戻した子供達に避難を促していく。仮面ライダーの到来に勇気付けられた彼らは、足を震わせながらも廃工場から走り去ろうとしていた。

 

「アビアビィッ! 明智、上杉、武田ァッ、ガキ共を逃すなァッ!」

「くッ……やるしかないのですかッ!」

 

 そうはさせじと、シオマネキングもフィロキセラ怪人達に指示を飛ばす。怪人達は躊躇いながらも言われるがままに、子供達を追い掛けようとするのだが――先回りしてきた仮面ライダーAPに、行手を阻まれてしまった。

 

「お前達の相手は俺だ! 来いッ! シェードの改造人間ッ!」

「ええい……退きなさいッ!」

「このクソッタレ野郎がァアッ!」

「おぉおおッ!」

 

 仮面ライダーGとシオマネキングが組み合うと同時に、フィロキセラ怪人達も触手を振るい、APに襲い掛かっていく。だがAPはかなりの近距離であるにも拘らず、3人掛かりの触手攻撃を巧みに捌いていた。

 銅色の怪人――ブロンズフィロキセラが飛ばした刺突も、片手であっさりと掴まれてしまう。力任せに引き寄せられた怪人の顔面に、肘鉄が入ったのはその直後だった。

 

「な、なにィッ!? これが仮面ライダーの力なのか……ぐぉあッ!」

「禍継ッ! ……の野郎ォッ!」

 

 仲間を倒された銀色の怪人ことシルバーフィロキセラは、怒りに任せて右腕を振りかぶる。だが、その腕が振り下ろされるよりも遥かに速く、鳩尾に足刀蹴りを突き込まれてしまった。

 

「あッ……が、がァッ……!」

「……なんだ? こいつら……いつもの連中とは、手応えがどこか違う……?」

 

 あまりに強烈な一撃を急所に受けてしまい、シルバーフィロキセラは悲鳴を上げることも出来ずにうずくまっている。一方、これまで戦って来たシェード製の怪人達とは「手応え」が違う彼らに、APは違和感を覚え始めていた。

 

「禍継! 蛮児ッ! くッ……やはり私達のような紛い物の失敗作が、本場のシェード製ですら敵わない仮面ライダーに勝てるはずがッ……!」

「紛い物? 本場……? どういうことだ! お前達はシェードの改造人間じゃないって言うのか!?」

 

 戦慄を覚えるあまり近寄れずにいる、金色の怪人ことゴールドフィロキセラ。彼の呟きに反応したAPは、構えを解いて戦闘を中断してしまう。

 それを、「お前達などいつでも始末できる」という「侮り」と受け取った怪人は、怒りのままに声を荒げていた。

 

「私達はシェードの改造人間などではありませんッ! 彼らに対抗出来るからと政府に唆されて……その誘いに乗ったばかりに、肉体も居場所も失い! こんなことまで、やらされているのですよッ!」

「な、なんだって……!?」

「今まさにあなたがそうだったように! 外の人間達からすれば、私達もシェードの怪人と同類なのですッ! どこに行ってもそうとしか見られないのなら……いっそ、本当にシェードに入ってしまうしか、ないじゃないですかッ!」

「……」

 

 その発言内容に動揺するAPは、暫し逡巡した後、意を決したように顔を上げる。それは明らかに、敵対者に対する姿勢ではなかった。

 

「じゃあ……こんなこと、今すぐにでも止めるんだ。今からでも遅くはない! 怪人であることを拒みたい気持ちが少しでもあるのなら、お前達はまだ人間だ!」

「何を……何を言うのですかッ! 今さら……今さらそんな話、信じられるはずがないでしょうッ!」

「頼む、信じてくれ! 俺の仲間に、改造人間を生身に戻せる女の子が――ぐッ!?」

 

 しかしそんな姿勢を見せることこそが、最大の挑発になってしまったのである。手を差し伸べようとしたAPに返って来たのは、やぶれかぶれの触手攻撃だった。

 その全てを的確に受け流しながらも、予期せぬ反撃を受けたAPは思わず後ずさってしまう。

 

「そんな世迷言を抜かしてまで……私達を愚弄するのですか! そんなに私達が、惨めに見えるのですかァッ!」

 

 頼れない人々から距離を置きたいがために、怪人になろうとしていたゴールドフィロキセラ達にとって。今さら、差し伸べられたその手を取ることは叶わなかったのである。

 よりによって、その相手が人類の希望とされる仮面ライダーだったのだから。なおさら、受け入れるわけにはいかなかったのだ。

 怪人にならなければ生き延びることはできない。その結論に、2人の同胞を巻き込んで来たのだから。

 

「ダメだ天峯、こいつには到底敵わねぇ! ここは一旦退くぞッ!」

「死んで花実が咲くものか! そうだろう!? 天峯ッ!」

「蛮児、禍継……そうですね。やはり私達は、シェードになど与するべきではありませんでした。私達が生きる道は、別にあるッ!」

 

 力任せに触手を振るい続ける彼を見かねてか、シルバーフィロキセラとブロンズフィロキセラは彼の両脇を抑え、引き摺るように撤退を促していく。そんな彼らの説得でようやく我に返ったゴールドフィロキセラは、冷静さを取り戻すと仲間達と共に、足早に廃工場から逃げ去ってしまった。

 

「あッ……!? ま、待ってくれ! 話はまだ……!」

「アビビィッ!? おいちょ、待てよコラお前らァアッ! この土壇場で逃げるとかなんでそんな酷いことすんのォォッ!?」

 

 子供達とは真逆の方向に逃げ去ったことや、シオマネキングを躊躇いなく置き去りにしていく様子も、彼らの言葉に信憑性を与えている。やはり彼らはシェードの改造人間ではなかったのだと、APは改めて確信していた。

 彼の後ろでは部下達に逃げられたシオマネキングが、自身の非道さを棚に上げて喚き散らしている。APはそんな彼の泣き言など意に介さず、何も得られなかった自分の手に視線を落としていた。

 

「……ッ!」

「アビビィッ!」

 

 差し伸べた手は、空を掴むのみだった。彼らを救うことは、出来なかった。だが、今は立ち止まっている時ではない。

 せめて今は、今の自分に出来ることを成し遂げていくしかない。APはその決意を新たに勢いよく振り返り、シオマネキングに渾身のパンチを叩き込む。

 

吾郎(ごろう)さんッ!」

「あぁ! 行くぞサダト君! トォオッ!」

「トォオッ!」

 

 激しく転倒した彼はすでに、Gとの戦いで消耗し切っているようだった。偉大なる先輩の隣で力強く拳を握り締めたAPは、彼と共に地を蹴り宙に飛び上がる。

 そして空中でベルトのワインボトルを捻り、同時に身体を回転させながら飛び蹴りの姿勢に入るのだった。

 

「スワリングゥッ!」

「ライダァアァッ! ダブルッ! キィィックッ!」

「アビビ、ビビィイッ!」

 

 シオマネキングは必死に泡を吹き付けて迎撃しようと試みるが、急速に回転する2人のキックはそんな攻撃など容易く弾き飛ばし、怪人の胸目掛けて突き進んでいく。

 やがて容赦なく炸裂したその一撃が、シオマネキングの身体を激しく吹き飛ばしたのだった。世界の平和を守り抜くために戦い続けて来た男達にとって、発火性の泡など児戯にも値しないのである。

 

「アビビビィ……ァァァァアッ!」

 

 それから間もなく、怪人は奇怪な断末魔と共に爆散してしまう。その光景を見届けたGは、あの3体の怪人を逃してしまったAPをじっと見つめていた。

 

「……彼らから感じていた違和感。君も、気付いていたようだね。サダト君」

「えぇ……すみません、吾郎さん。俺の言葉では、彼らを説き伏せることは出来ませんでした。俺達の他にも、彼に手を差し伸べられる仮面ライダーがいれば……」

「そうだね……でも、それは僕達のような改造人間を増やしてしまうということでもある。僕は、せめて君が最後の1人であって欲しいと願っているよ」

「……はい」

 

 強化外骨格による仮面ライダーの再現を目指す、「ライダープロジェクト」の基礎概念すら生まれていなかったこの当時は、「仮面ライダー」という戦士は改造人間であることが前提となっていた。

 

(それでも……俺は信じたい。彼らにも人として手を差し伸べてくれるような……そんな仮面ライダーが、いつか現れると)

 

 それ故にGとAPは、共に肩を並べて戦う仲間を求めたくとも、求められなかったのである。

 

 ――この後。逃げ出した3人のフィロキセラ怪人達は同じ境遇の被験者達と身を寄せ合い、共に生きていくための自助組織を創設したのだが。

 その組織がやがて「ノバシェード」と呼ばれる業魔の軍団と化すことになろうとは、彼らすら知る由もなかったのである。

 

 そして。そんな彼らに真の救済を齎すことになる、「新世代」の仮面ライダー達の登場は。もうしばらく、先のことになるのだった。

 




 最後まで読み進めて頂きありがとうございました! 共に戦う仲間は欲しいけど自分と同じ境遇の奴が増えるのは嫌だ、というジレンマは改造人間ライダーならではの問題なんですよねー。そこをあっさりクリアしてくる「装着系」の新世代ライダー達の登場は、きっとサダトが1番喜んでたんじゃないかなーって思ってます(о´∀`о)


Ps
 新世代ライダーの多くがサダトより歳上? 問題なし! 筑波洋と沖一也然り、葛葉紘汰と泊進ノ介然り、天空寺タケルと宝生永夢然り! 後輩の方が歳上だったなんて、ライダーではよくあることなので!(*´꒳`*)


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番外編 クリスマス・ライダーキック

 お久しぶりです! 今回はちょっとしたおまけエピソードをお届け致しますぞ! 読者応募ライダー達が海外のノバシェードを追い掛けていた頃のお話になりますー(*´ω`*)



 ――2020年、12月25日。世界各地のノバシェードが司令塔を失い、迷走を始めていた頃。少しずつ「平和」に近付きつつあった世界は、ささやかなクリスマスムードに包まれていた。

 

 艶やかなイルミネーションやクリスマスツリーに彩られた、真冬のニューヨーク。その雪景色を一望できるヴェラザノ=ナローズ橋を疾走する1台のマシンGドロンは、煌々と輝く大都市の夜景を背に、この街に潜む「怪人」を追い続けていた。

 

『そこの改造人間、大人しく止まれッ! 今からでも遅くはないんだ! こちらも手荒な真似は本意ではないッ!』

「そんな話、誰が信じるものかッ! 貴様ら『仮面(マスクド)ライダー』はそうやって……ボス達を誑かして、死刑に追い込んだのだろうがッ!」

『彼らが死刑になったのは、お前達全員を扇動した責任を負わねばならなかったからだ! 末端のお前達まで抹殺する理由なんてこちらにはない! 諦めるんだ、もう戦いは終わっているのだからッ!』

「その手には乗らんぞ、日本の仮面ライダー! 俺はボス達の分まで戦う! それがノバシェードの誇りだッ!」

 

 Gドロンの拡声器から発せられている説得の言葉にも耳を貸さず、中途半端(・・・・)な蜘蛛の能力を得ている怪人は、橋の上を爆走し続けている。彼は強靭な糸を飛ばす能力はあるものの、それを使って自在に飛び回ることまでは出来ないのだ。

 それ故に、前方の柱に絡ませた糸を引っ張ることで助走を付け、高速で走ることしか出来ないのである。そんな「半端者の怪人」である彼にとっては、ノバシェードだけが心の拠り所となっていた。

 

 しかしその組織も、リーダー格を失った今では壊滅状態に陥っている。このニューヨークに隠されていたアジトも暴かれ、彼以外の同胞は全員逮捕されてしまっている状況だ。

 今まさにGドロンで彼を追っている、「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉。彼の活躍によって、ノバシェードのニューヨーク支部は崩壊を迎えようとしているのである。

 

「なぁーにが『ボス達の分まで戦う』だ、この駄々っ子野郎が! だったらチョロチョロ逃げ回ってないで、真正面から掛かって来いよ! あいつら(・・・・)みたいになァッ!」

「な、何ィッ!? 仮面ライダーがもう1人……しかも挟み撃ちだとォッ!?」

『忠義ッ!』

 

 そして。日本から出向してきた仮面ライダーは、彼だけではなかったのだ。

 アメリカ出身という経歴を活かして、この街に派遣されていた「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリット。彼も相棒のマシンGチェイサーに跨り、進行方向を塞ぐように怪人を追い詰めている。

 

「ぬっ、ぬぅう……! ならばッ!」

『そうは……!』

「させるかよッ!」

 

 最高速度に達したGドロンとGチェイサーによる挟撃。それを間一髪でかわして「同士討ち」を狙うべく、怪人は対向車線の方へと飛び移ろうとする。

 だが、その魂胆を見抜いていたケージとオルバスは、それよりも速く「必殺技」の体勢に入っていた。

 

「はぁあぁああーッ!」

「でぇえぇえーいッ!」

 

 超人的なジャンプが出来ない彼がこの窮地を脱するために選ぶ手段と言えば、対向車線への退避しかない。そう看破していた2人は同時に愛車から飛び出すと、マシンの速さを得た飛び蹴りの姿勢を取っていく。

 濃紺のボディを持つケージと、深紅の鎧を纏うオルバス。彼らが放つ「青」と「赤」のライダーキックが、交錯する。

 

「ぐわぁあぁあーッ!?」

 

 やがて、怪人を挟み込むように炸裂した「ジャッジメントストライク」と「FIFTYΦブレイク」の一撃により、ニューヨーク支部最後の1人は呆気なく御用となるのだった。

 

 ◆

 

 その後、慌ただしくナローズ橋に駆け付けてきたニューヨーク市警の警官隊により、蜘蛛型怪人は力無く連行されていた。今回の逮捕を以て、ノバシェードのニューヨーク支部は完全に崩壊したと言っていい。

 無抵抗のままパトカーに詰め込まれて行く怪人の様子を一瞥していた穹哉は、警官達を率いていた壮年の警部と固い握手を交わしている。そんな2人の様子を、忠義は笑みを浮かべて見守っていた。

 

「いやはや、正直言って最初は半信半疑だったのだが……我々が手も足も出なかったあの怪人を、こうもあっさりと仕留められてしまっては認めざるを得ないな。君達の協力に、心から感謝したい。ありがとう、仮面ライダー」

「あなた方の情報提供があったからこその成果ですよ、警部殿。こちらこそ、ご協力に感謝致します」

 

 力強い笑顔で握手を交わした後、穹哉は怪人を乗せたパトカーを見送り、Gドロンに乗り込んでいく。彼に続くように、忠義もGチェイサーに跨りエンジンを掛け始めていた。

 

「君達は……もう、行ってしまうのかね。せめて今夜くらいは、署内のクリスマスパーティーに招待したかったのだが」

「そのお気持ちだけで、私達には十分過ぎるプレゼントですよ」

 

 ニューヨーク支部のノバシェードは壊滅したが、全世界に潜むその勢力はまだ、人類に牙を剥き続けている。全てのノバシェードを撃滅して世界の平和を取り戻すまで、彼らに真の休息は訪れないのだ。

 

 「仮面ライダーティガー」道導迅虎。「仮面ライダーパンツァー」翆玲紗月。「仮面ライダーG-verⅥ」水見鳥清音。「仮面ライダーΛ−ⅴ」明日凪風香。

 彼らは武田禍継との死闘で培った経験を活かし、南米を中心に活動の幅を広げている。

 

 「仮面ライダーアルビオン」東方百合香。「仮面ライダーイグザード」熱海竜胆。「仮面ライダーオルタ」静間悠輔。「仮面ライダーUSA」ジャック・ハルパニア。

 上杉蛮児にも打ち勝った彼らはヨーロッパ各地を転戦し、西洋の地に潜む悪の影を追い続けている。

 「仮面ライダーGNドライブ」上福沢幸路もその中の1人であり、「仮面ライダーターボ」本田正信は今も彼の奔放さに手を焼いているらしい。

 

 「仮面ライダーEX」久我峰美里と「仮面ライダーヴェノーラ」薬師寺沙耶の美女2人組は、インドや中国をはじめとするアジアの各地に潜伏しているノバシェードの残党を追跡している。

 「仮面ライダーボクサー」南義男。「ライダーシステムtype-α」一二五六三四。「パトライダー型式2010番type-000」日高栄治。

 明智天峯にも敢然と立ち向かっていた3人の男達も、人間の自由と平和を守護する「仮面ライダー」として、極寒のロシアを駆け巡っていた。

 

 「仮面ライダー炎」天塚春幸と「マス・ライダー」山口梶の若手コンビも、ノバシェードを撃滅するべくオーストラリア中を旅しているらしい。

 「仮面ライダーZEGUN」芦屋隷。「仮面ライダータキオン」森里駿。「仮面ライダーN/G-1」ズ・ガルバ・ジ。

 仮面ライダーマティーニの脅威とも渡り合っていたその男達も、アフリカ大陸を影から支配していたノバシェードに、正義の鉄槌を下しているのだという。

 

 穹哉と忠義がこうしている間にも、彼らはそれぞれの地でノバシェードの残党を追い、改造人間を巡る因縁を断ち切らんとしている。警察官として、仮面ライダーとして、2人は彼らに続かねばならないと己を律しているのだ。

 

「私達は全世界のノバシェードを壊滅させるまで、立ち止まるわけには行かないのです」

「いつか本当の平和が戻って来たら、その時こそパーティーに混ぜて貰いますよっ!」

 

 穹哉と忠義はその旨を言い残して、警部の前から走り去って行く。橋の向こうに広がる雪景色の中へと消えてしまった2人の仮面ライダーを、壮年の警部はただ見送ることしか出来ずにいた。

 

「……ならばこのニューヨークから、私も祈るとしよう。仮面ライダーの勝利と……人類の平和を」

 

 彼はその場で背筋を伸ばすと、穹哉達が走り去った方向へと敬礼する。今この瞬間も、悪を追って走り続けているのであろう、「仮面ライダー」の背に向けて――。

 

 ◆

 

「……あの警部さん、思ったより良い人でしたねぇ」

「だな。忠義、次の配属先はどこになる?」

「明日凪警部が居るブラジリアですよ。清音さんと紗月さん……それから、昨日までブエノスアイレスにいた迅虎さんも、そこに向かってるって話です」

「ブラジリアか……随分遠いな。ヨーロッパ中を駆け回ってる本田達や、真冬のロシアに行かされてる南さん達に比べれば、まだマシな方かも知れんが」

「ま、どんな国のどんな場所だろうと、さっさと駆け付けてブチのめしてやるだけですよ。……とりあえず今夜は、ニューヨークの街に平和をプレゼント出来たことですし。なかなか悪くないクリスマスだったんじゃないですか? ねぇ、穹哉さん」

「ふっ……あぁ、そうかもな」

 




 今回はたつのこブラスター先生原案のキャラ「仮面ライダーケージ」と、X2愛好家先生原案のキャラ「仮面ライダーオルバス」を主役とするクリスマス回となりました! 海外で活躍する仮面ライダー、という構図はいつか書いてみたいなーと前々から思っておりましたので、作者も大変楽しみながら書かせて頂きましたぞー(о´∀`о)
 ではではっ、この度も読了ありがとうございました! またどこかで皆様とお会い出来る日を楽しみにしておりまするー!٩( 'ω' )و


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Ps
 歴代ライダーが世界各地で活躍してるライスピ第1部ほんとすこ!(*≧∀≦*)


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番外編 タイプγと始祖の怪人 第1話

◆今話の登場ライダー

水見鳥清音(みずみどりきよね)/仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)
 良家出身の「お嬢様」ながら、G-4スーツの装着実験で死亡した自衛官の友人の想いを背負い、装着者に志願した物静かな美女。現在はノバシェードの残党を追い、ブラジルに滞在している。年齢は25歳。
 ※原案は魚介(改)先生。



 

 ――2021年、9月3日。

 明智天峯(あけちてんほう)を筆頭とするノバシェード三巨頭との戦いから2年が経過し、世界は徐々に、そして着実に「平和」を手にしようとしていた。

 

 昨年のクリスマスには仮面ライダーケージこと鳥海穹哉(とりうみくうや)と、仮面ライダーオルバスこと忠義(チュウギ)・ウェルフリットの活躍により、ノバシェード残党のニューヨーク支部が壊滅。

 世界中に散らばった「仮面ライダー」達の手で、全ての残党が撃滅されるのも時間の問題となっていた。

 

(……あそこですか。ノバシェードの潜伏先(アジト)になっているという、元研究所というのは)

 

 その一員としてブラジルに滞在し、現地の残党を追跡していた水見鳥清音(みずみどりきよね)も、この南米に根を張る悪の根源を追い詰めようとしている。

 

 アマゾンの密林に隠された古びた建物を発見した彼女は、遠方から双眼鏡でその様子を観察していた。

 その傍らに停車している専用のマシンGチェイサーは、装備ラックが設けられた物々しい外観となっている。

 

(やはり……今年に入ってから、ノバシェードの構成員達が徐々に手強くなって来ています。その「異変」の秘密が……もしかしたら、あそこに在るのかも知れませんね)

 

 数日前――サンパウロのホテルに滞在中、独りシャワーを浴びていた清音はそのタイミングで、残党による「奇襲」を受けていた。

 一糸纏わぬ、女として最も無防備な瞬間を狙われたのである。

 

 ノバシェードの構成員は半端な能力しか発現していない「怪人未満」が大半であるため撃退は容易だったのだが、「貞操の危機」だったことには違いない。

 不意を突かれ、そのグラマラスな肉体を組み敷かれた時は、歴戦の女傑である清音も「覚悟」を迫られたほどだ。咄嗟に蹴り飛ばすことが出来なければ、今頃どうなっていたことか。

 

 これまでもノバシェードの構成員達から、その豊満な肉体を狙われることは何度もあった。が、彼らは改造人間としてはあまりにも「お粗末」な性能(スペック)であり、基本的には撹乱も撃退も難しいことではない。

 

 明智天峯、上杉蛮児(うえすぎばんじ)武田禍継(たけだまがつぐ)。彼ら3人の強さがあまりにも突出していただけで、ノバシェードの怪人達は本来、その程度の力量なのである。

 そのノバシェードの構成員達の動きが――今年に入ってから、妙に冴えて(・・・)来たのだ。彼らは戦闘員として、確実に「成長」し始めていたのである。

 

(これまで、彼らが私達の動向や拠点を察知出来たことなど無かったのに……。一体、彼らに何が起きているというのでしょうか)

 

 組織の壊滅が目前に迫っている事実に直面したことで、必死に特訓するようになったためか。あるいは、改造人間としての性能を底上げ出来る技術でも得たのか。

 

 いずれにせよ、その原因を突き止めねば今年のうちに平和を取り戻すことは難しくなるだろう。今この瞬間も、力無き人々は改造人間の脅威に震えているのだ。

 

 警察官として、仮面ライダーとして。一刻も早く、その脅威を排除せねばならない。

 

 その思いを豊満な胸の奥に宿し、見張りが居ないことを確認した清音は、素早く腰を上げる。

 そんな僅かな身動ぎだけで、雄の獣欲を掻き立てる安産型の桃尻と爆乳が、ばるんっと弾んでいた。怜悧な佇まいとは裏腹に、その熟れた極上の肉体からは芳醇な女の香りが滲み出ている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「では、そろそろ『ご挨拶』に参りましょうか」

 

 迷彩服を内側から押し上げる、色白の肉体。その透き通るような柔肌を伝う汗が、芳醇な女の香りを漂わせている。

 

 ノバシェードとは無関係な現地の男達からも注目されていた、透明感溢れる清音の肌は――月光を浴び、艶やかな煌めきを放っていた。

 その鋭い双眸は、使われなくなって久しいという元研究施設の建物を、静かに射抜いている。

 

 ◆

 

 戦闘時に清音が着用しているG-verⅥ(ガーベラゼクス)のスーツは潜入捜査には不向きであるため、この場では使用出来ない。

 加えて清音自身の格闘能力は、「同僚」の仮面ライダー達と比べれば低い部類に入る。

 

 そのため極力建物内での遭遇戦を避けるべく、清音はダクトの穴から内部に侵入するルートを選んでいた。

 狭い通路に豊満な肢体を滑り込ませ、彼女はするりと施設内に潜入して行く。

 

(見張りどころか人の気配すら……。いえ、しかし……)

 

 むっちりとした爆乳と桃尻を擦らせながらも、くびれた腰を蠱惑的にくねらせダクト内を進んで行く清音。

 彼女は建物内にも全く見張りの類が見えないことに、言いようのない「不穏」を感じていた。

 

 人の気配は全く感じられない。だが、ここが何も無いもぬけの殻だとも思えなかった。

 奥に進んでも人の姿は見えないが――血の匂いが、徐々に濃くなっていたのだ。

 

「……っ」

 

 やがて、ダクト内から真下の廊下を見渡していた清音の視界に――血みどろの男性の遺体が映り込む。

 その状況を確認するべく、彼女はダクトの外枠を外してするりと廊下に着地していた。着地の弾みで、迷彩服を押し上げる爆乳と巨尻がぷるんと躍動する。

 

 周囲に敵がいないことを確認しつつ、清音は遺体の傍らで片膝を付き、そこから汲み取れる「情報」を観察する。

 白衣を着ているところを見るに、どうやらこの施設の研究者だったようだ。何か鋭利なもので、肉体を袈裟斬りにされたような痕が窺える。

 

 この男性の遺体は、まだそれほど時間が経っていないらしい。身に纏っている白衣は真紅の鮮血に染め上げられているが、体温はまだしっかりと残っている。

 白衣の下に隠されていたセキュリティカードは血で汚れていたが、辛うじてそこに記されていた名前を読み取ることは出来た。

 

(ノバシェードアマゾン支部所属・怪人研究所所長斉藤空幻(さいとうくうげん)……それが、この男の名ですか)

 

 斉藤というこの男の遺体に残された大きな傷跡は、怪人の仕業によるものと考えられる。研究中に暴走事故が起きていた可能性を想定した清音は、鋭く目を細めて薄暗い廊下の先を見据えていた。

 

(……この先のようですね)

 

 斉藤がここで力尽きるまでに遺して来た血の跡と、奥のフロアから漂って来る匂いに誘われるように。

 清音は太腿のホルスターから引き抜いた自動拳銃(ハンドガン)を構えながら、ゆっくりと歩みを進めて行く。血痕を残した張本人の足跡を辿る彼女の足音だけが、この通路に響いていた。

 

 やがて、斉藤のものらしき血痕が――とある一室の入り口で途絶えてしまう。恐らく彼は、この先で致命傷を負ったのだろう。

 

 入り口のドアの向こう側からも、人の気配は感じられない。だが、吐き気を催すほどの血の匂いは、ここから来ていたようだ。

 

「……ッ!」

 

 清音は意を決して、遺体から手に入れたセキュリティカードでドアを開き、自動拳銃を構える。そして、その先に広がっていた「殺戮」の現場に――思わず言葉を失ってしまうのだった。

 




 今回からは仮面ライダーG-verⅥこと水見鳥清音を主人公とする番外編を、全4話の予定でちょっとずつお届けして行きます。現在構想中の新企画にも繋がって行くお話にしたいな〜という思いから、本章を書かせて頂く運びとなりました(о´∀`о)
 本章はシリアス路線であるのと同時に、お色気要素もふんだんに取り込んだエピソードとなっておりますので、その辺りもどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 本章と同じくお色気要素を取り入れたウルトラ系2次創作「ウルトラマンカイナ(https://syosetu.org/novel/136080/)」もどうぞよしなに……_(┐「ε:)_


Ps
 「シン・ウルトラマン」も素晴らしかったですし、「仮面ライダーBLACK SUN」や来年公開の「シン・仮面ライダー」も今から楽しみでありますなぁ(*´ω`*)


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番外編 タイプγと始祖の怪人 第2話

 

 清音の眼前に待ち受けていたのは、文字通りの「血の海」だったのである。先ほどの男性――斉藤空幻と同様に、白衣を纏った者達の無惨な遺体が辺り一面に転がっていた。

 

(全員死んでいる……!? しかもこの傷跡、さっきの遺体と同じ……!)

 

 恐らく元々は、改造人間の研究室だったのだろう。人1人分なら入れてしまいそうな大型の培養カプセルが5個ほど並んでおり、その全てのガラス壁が内側(・・)から突き破られている。

 

 そこで培養されていた「何か」の仕業なのか。この部屋の研究員らしき者達の遺体は、原型を留めないほどにまでズタズタに切り刻まれていた。

 

「……!」

 

 しかも、この一室に築き上げられた死体の山の中には、人間ではないモノまで含まれている。

 

 清音達も戦ったことがあるフィロキセラタイプの怪人までもが、死体の一つとなって転がっていたのだ。深緑の体色を見るに、天峯達のボディとは違う新型の怪人らしい。

 

 恐らく培養カプセルの中で飼われていたのは、この怪人だったのだろう。

 暴走してカプセルを抜け出し、研究員達を惨殺しただけでは飽き足らず、同士討ちまで始めてしまったのか。

 

 地に転がっている4体の怪人は、いずれも互いの触手によって激しく切り刻まれ、事切れていた。

 鞭のようにしなる彼らの触手は拘束だけでなく、斬撃にも使える。その機能により、この死体の山が出来上がってしまったのだろう。

 

 そこまで思い至ったところで。清音はその光景に、どこか「違和感」を覚えていた。

 

「……? あれは……」

 

 その時、この一室を探索していた彼女の目にあるモノが留まる。

 デスクの上に設置されたパソコンの側に、USBケーブルで繋がれたスマートフォンが置かれていたのだ。

 

 デスクもパソコンもフィロキセラタイプの暴走によって無惨に破壊されていたのだが、そのスマートフォンだけは無事だったらしい。画面は割れてしまっているが、タップ機能はまだ生きている。

 

「これは……」

 

 どうやら、パソコンに蓄積されたデータをこの端末(スマホ)に移し、別の潜伏先(アジト)に運ぶつもりだったようだ。その端末内には、この研究室で行われていた「実験」の記録が残されている。

 

 ◆

 

 ――シェードに無理矢理改造された挙句、失敗作として見捨てられ、人間社会からも迫害されて来た我々ノバシェードが、ついに「本物」になる時が来た。天峯様達の生体データの解析に成功した我々は、あのフィロキセラタイプの量産化を実現したのだ。

 

 ――あの忌まわしき旧シェードの織田大道(おだだいどう)こと、原種のタイプα(アルファ)。その遺伝子細胞の突然変異により発現した、天峯様、蛮児様、禍継様のタイプβ(ベータ)

 

 ――そして、培養した彼らの遺伝子細胞を人工的に変異させることにより誕生するタイプγ(ガンマ)。このタイプγならば既存のデータと設備を応用し、我々だけで量産することが出来る。

 

 ――もはや我々は失敗作でも紛い物でもない、本物のシェードそのものとなったのだ。我々を迫害した人類に、その味方をする仮面ライダー共に、それを思い知らせる時が来たのだ。

 

 ――タイプγは攻撃性に特化しており、知性面の強化に掛かるコストをオミットしているため、非戦闘時は専用のカプセルで常に行動を制限しておかねばならない。だがこれで、攻撃力だけならば天峯様達にも匹敵し得る怪人を5体も量産出来たのだ。

 

 ――これからこのデータを、より設備が充実している他のアジトに移し、大量生産する予定だ。愚かな人間共の絶望に歪む顔が、今から目に浮かぶ。これでもう、「始祖怪人(オリジン)」共の手を借りることもない。

 

 ――そもそも私は、最初から奴らのことが気に食わなかったのだ。旧シェードの生き残り風情が、天峯様達に代わって我々に指図するなど、烏滸がましいにも程がある。確かに戦闘のプロ揃いなだけあって、構成員達に対する教導は的確そのものであったが、それとこれとは話が別だ。

 

 ――旧シェードの「No.0」こと、羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)。彼と同時期に徳川清山(とくがわせいざん)の手で開発された、「始祖」の改造人間達。その「年季」に裏打ちされた膨大な戦闘経験に基づく教導が無ければ、無知な民兵でしかなかった我々ノバシェードは、仮面ライダー共に蹂躙される一方となっていただろう。その点は私も認めているし、感謝もしている。

 

 ――が、それだけだ。我々がこのような道に進まざるを得なくなった元凶の産物に、ノバシェードの指揮権まで奪われてなるものか。我々はこのタイプγで奴らを超え、天峯様達の遺志を守り抜くのだ。

 

 ――ノバシェードアマゾン支部所属・怪人研究所所長斉藤空幻。

 

 ◆

 

 

【挿絵表示】

 

 

(タイプγ、それに「始祖怪人」ですか)

 

 この端末に残されていたのは、「タイプγ」と称されるフィロキセラ怪人の開発に携わっていた、斉藤空幻所長の最期の記録だったのだろう。

 その記録を読み終えた清音は、記述の中にあった「始祖怪人」という単語に着目していた。

 

 No.0こと羽柴柳司郎と言えば、旧シェードの創設者である諸悪の根源・徳川清山が1970年代に開発した最初期の改造人間。約5年前、仮面ライダーAPによって打倒された最古の怪人。

 その羽柴と同時期に生み出されたという怪人が、この現代にもまだ生存しているのか。

 

(50年近くも戦い続けて来た歴戦の怪人達が、今のノバシェードのバックに付いている……なるほど、ただの戦闘員でも手強くなるはずですね)

 

 清音にとっては、タイプγの真相以上に深刻な問題であった。斉藤空幻の遺産は同士討ちの自滅に終わったようだが、「始祖怪人」の暗躍は今も続いている。

 

 ならば一刻も早くこの情報を持ち帰り、世界各地の仲間(ライダー)達に報せねばならない。本当の戦いは、これからなのだということを。

 

 ――そのように逸るあまり。彼女は、ある1点を見落としていた。

 

 この研究室に残置されている、培養カプセルの数は5個。

 

 その全てのガラス壁が、すでに破壊されており――地に転がっているタイプγの死体の数は、4体。

 

 死体が一つ、足りていないのだ。

 

「……!」

 

 その事実に彼女が気付き、背後からの殺気に振り返った時にはすでに――潜んでいた最後の1体が、その触手を伸ばしていたのである。

 




 今回はちょっとバイオハザードっぽい探索回となりました。最近になって某有名実況者さんのバイオ実況にハマっていたところ、「そういえば『正義の系譜』っていうバイオ感溢れるライダーゲーがあったなー……」と思い立ったのが本章のきっかけでしたので、この回は作者も結構気に入っておりまする(*´꒳`*)
 次回はちょっと視点を変えて、他の女性ライダー達のことにも触れるお話となります。どうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 本章と同じくお色気要素を取り入れたウルトラ系2次創作「ウルトラマンカイナ(https://syosetu.org/novel/136080/)」もどうぞよしなに……_(┐「ε:)_



Ps
 「正義の系譜」にG3が参戦してたらもう完全にバイオそのものだったろうなぁ(´ω`)


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番外編 タイプγと始祖の怪人 第3話

◆今話の登場ライダー

薬師寺沙耶(やくしじさや)/仮面ライダーヴェノーラ
 黒バイの幽霊隊員と呼ばれている一方で、潜入捜査官としての顔も持っていたグラマラスで妖艶な美人。現在はノバシェードの残党を追い、中国に滞在している。年齢は27歳。
 ※原案は黒子猫先生。

久我峰美里(くがみねみさと)/仮面ライダーEX(エクリプス)
 幼い頃から正義の味方に憧れていた気さくな人物であり、警視庁の警部でもある男装の麗人。現在はノバシェードの残党を追い、インドに滞在している。年齢は30歳。
 ※原案はマルク先生。

東方百合香(ひがしがたゆりか)/仮面ライダーアルビオン
 元SATであり、シェードとの交戦経験もあるクールビューティー。現在はノバシェードの残党を追い、イギリスに滞在している。年齢は27歳。
 ※原案はMegapon先生。

道導迅虎(みしるべじとら)/仮面ライダーティガー
 元プロレーサーでもある警視庁の巡査であり、男勝りなスピード狂。現在はノバシェードの残党を追い、コロンビアに滞在している。年齢は26歳。
 ※原案はただのおじさん先生。

翆玲紗月(すいれいさつき)/仮面ライダーパンツァー
 元自衛官の戦車搭乗員であり、5年前にはシェードとも戦っていた姉御肌。現在はノバシェードの残党を追い、アルゼンチンに滞在している。年齢は23歳。
 ※原案はゲオザーグ先生。



 

 ――その頃、中国の上海(シャンハイ)に設けられた高層ホテルの一室では。

 

「貴様が……仮面ライダーヴェノーラ、だな。散々貴様らに煮湯を飲まされて来た俺達だが、それも今日までだッ!」

「あらあら……ルームサービスを頼んだ覚えはないのだけれど、困ったわねぇ」

 

 仮面ライダーヴェノーラこと薬師寺沙耶(やくしじさや)が、ノバシェードの襲撃を受けていた。彼女も清音と同様に、女としての最も無防備な瞬間を狙われたのである。

 

 つい先ほどまでシャワーを浴びていた彼女はバスタオル姿のまま寝室に足を運んでいたのだが、そこには銃を構えた戦闘員が待ち構えていたのだ。

 

「一応聞いてあげるけど……どうやってこのホテルを突き止めたのかしら? いつもは簡単に撒かれてくれるのに……今日は可愛くないのね、あなた達」

「黙れ、貴様らに教えることなんて無いッ! ……変身装置にも様々な形状パターンがあると聞いてるぞ。何かそのバスタオルの下に隠してるんじゃないだろうな!?」

「あらあら、せっかちな上に誘い文句も下手なのね。そんなにこのタオルを脱がせたいのなら、もう少しその気になれる言い方を考えなさい」

 

 男を惑わす豊満な肉体を辛うじて守っている、たった1枚のバスタオル。その先に隠されているのであろう白い柔肌に思いを馳せ、戦闘員の男は声を荒げていた。

 

 一方、当の沙耶は銃口を突き付けられているというのに全く動じておらず、腕を組んで豊穣な乳房を寄せ上げ、妖艶な笑みを浮かべている。

 

 シャワーを浴びたばかりだというのに、匂い立つような彼女の色香がこの一室を満たしていた。

 スラリと伸びる肉感的な脚はありのままの姿を晒しており、安産型の巨尻と雄の本能を刺激する爆乳は、バスタオルで抑えていないと零れ落ちてしまいそうだ。

 

「でも、そういう自分に素直な子は好きよ。……いいわ、特別に……見せてあげる」

「えっ……!?」

 

 その暴力的なまでの色香と、彼女の言葉に思わず戦闘員が息を呑む瞬間。

 沙耶は自ら胸元に指を掛けると――戦闘員の顔面に向けて、バスタオルを勢いよく脱ぎ捨てた。

 

 絶世の爆乳美女が、文字通り一糸纏わぬ姿になるのと同時に。戦闘員の視界も、純白のバスタオルに覆い尽くされてしまう。

 

「うぉっ……!?」

「――はぁあッ!」

「ごはぁッ!?」

 

 白く肉感的な脚が弧を描き、そのキックが戦闘員の延髄に炸裂したのは、それから間も無くのことであった。

 

「例え改造人間でも、基本構造が人間と変わらないなら『急所』も同じ。……ふふっ、あなた達の場合はなおさらでしょう?」

 

 強烈なハイキックの衝撃により、露わにされた白い爆乳と巨尻がどたぷんっと躍動する。ふわりと弾んだブラウンのロングヘアから、芳醇な女の香りが漂う。

 だが、バスタオルで顔を隠されたまま蹴りを食らってしまった戦闘員に、その「絶景」を拝むことは出来ない。

 

「……続きは、夢の中でね」

 

 その勢いのまま宙を舞うバスタオルをキャッチした彼女は、ハイキックを終えると同時に、己の肉体にタオルを巻き直していた。

 

 雄の情欲を苛烈に刺激する、白く蠱惑的な沙耶の裸身を脳裏に刻む暇もなく。戦闘員の男は、俊速のハイキックで意識を刈り取られてしまったのである。

 そんな彼の哀れな姿に、沙耶は挑発的な微笑を浮かべるのだった。

 

 ――だが、その直後には。ノバシェードに起きている「異変」を目にしたことで、仮面ライダーとしての鋭い顔付きに変わっている。

 2021年に入ってから、ノバシェードの構成員達の練度は異常な速さで向上していた。その「異変」は、仮面ライダーの変身者に対する追跡能力にも現れていたのだ。

 

「……一体何が、彼らをここまで変えてしまったのかしら」

 

 常人の手には負えない脅威度であるとはいえ、元々は旧シェードの「失敗作」の集まりであるノバシェードの構成員達は、正規の戦闘訓練を知らない民兵も同然。仮面ライダーの力を託されたエリート警察官である沙耶達とは、そもそもの地力が違う。

 

 故にこれまでは彼らの追跡を撹乱することも、逆に彼らのアジトを特定して壊滅させることも容易かった。が、今年に入ってからの彼らの「冴え」は、まるで別次元なのだ。

 

 完全に撒いたという油断を誘い、これまでの失敗を逆手に取った彼らは、沙耶の滞在先を特定し、ここまで辿り着いて見せた。しかも、シャワーの直後という無防備なタイミングまで狙えている。

 

「やはり……今のノバシェードには、何かが起きている。その実態を確かめなければ、この戦いに終わりは来ないようね」

 

 明らかに、これまでとは様子が違うのだ。その「異変」はすでに、他国の調査を担当している他の同僚(ライダー)達も目の当たりにしている。

 

 インドで活動している仮面ライダーEX(エクリプス)こと、久我峰美里(くがみねみさと)も。

 イギリスに滞在している仮面ライダーアルビオンこと、東方百合香(ひがしがたゆりか)も。

 コロンビアで残党を追跡していた仮面ライダーティガーこと、道導迅虎(みしるべじとら)も。

 アルゼンチンで活躍している仮面ライダーパンツァーこと、翆玲紗月(すいれいさつき)も。

 そして、ブラジルに身を置いている仮面ライダーG-verⅥこと、水見鳥清音も。

 

 追跡能力が向上したノバシェードの構成員達による、「奇襲」に見舞われていたのである。一糸纏わぬ無防備な姿でシャワーを浴びている最中という、女としての最も大きな「隙」を狙われて。

 

 幸いにもすでに全員がその撃退に成功しているのだが、それらの件は彼女達の認識を大きく改めさせるには十分過ぎるものであった。中には清音のように、虚を突かれて組み敷かれてしまったケースもある。

 

 半端な能力しかない「失敗作」とは言え、「改造人間の男」と「生身の女」なのだ。単純な力勝負に持ち込まれたら、勝ち目は薄い。故に清音も他の美女達も、一度は「覚悟」を迫られることになったのである。

 

 彼女達はいずれも、雄の情欲を誘う蠱惑的な色香を持った絶世の美女であり。その熟れた芳香は、ノバシェードとは無関係な現地の男達も頻繁に惹き付けていた。

 

 その手合いに紛れ込むように、ノバシェードの構成員達は虎視眈々と彼女達の隙を伺い続けていたのだろう。

 男達を翻弄して来た彼女達の濃厚なフェロモンが、却ってピンチを呼び込んでしまったのだ。

 

 間一髪のところで貞操の危機を脱した彼女達だったが、今後もこの手の「奇襲」が来る可能性を想定しなければならない以上、早急にこの「異変」の真相を解き明かさねばならない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ――歴戦の女傑たる彼女達といえど。次こそは、どうなるか分からないのだから。

 




 今回は仮面ライダーヴェノーラこと薬師寺沙耶をはじめとする、他の女性ライダー達のことについて触れる回となりました。バスタオル目隠しキックのシーンは沙耶が1番様になるだろうなーということで、今回は彼女が主役となっております(*^ω^*)
 今回もお色気路線寄りなお話となりましたが、ちゃんと最後は健全に締める予定なのでそこはご安心くださいませ。このエピソードも次回でようやく完結となります。どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 本章と同じくお色気要素を取り入れたウルトラ系2次創作「ウルトラマンカイナ(https://syosetu.org/novel/136080/)」もどうぞよしなに……_(┐「ε:)_



Ps
 本章で男性陣についての話が全然出て来ないのは、戦闘員の練度が向上していてもそれほど影響がないからです。入浴中や寝込みを襲われたところで、彼らなら結局その場でワンパンなので……(´・ω・`)


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番外編 タイプγと始祖の怪人 最終話

 

 そして――アマゾンの密林に隠された、研究施設では。

 

「う、ぐぅうっ……!」

 

 背後から触手による奇襲を受けた清音が、その白い首をきつく締め上げられていた。

 彼女の身体はその力でふわりと浮き上がり、鉄血のクールビューティーも苦悶の表情を浮かべている。

 

 気配を消して物陰から隙を窺っていた最後のタイプγは、知性の欠片も感じられない鳴き声を発しながら、清音の首を触手で締め続けている。さらに他の触手を伸ばす彼は、その先端部を迷彩服の内側(・・)へと滑り込ませていた。

 

「……っ!? ん、ふぅうっ……!」

 

 迷彩服の内側に入り込んだタイプγの触手は、清音の白い柔肌を隅々まで弄ろうとしている。まるで首筋から足の指先に至るまで、余すところなく舐め回すかのように。

 

(こ、このタイプγは……!)

 

 知性は失われても、被験者が本来有していた「本能」は健在なのだろう。どうやら素体となった人間は狡猾である上に、かなりの好色漢でもあったようだ。

 肌全体を這い回るような厭らしい触手の動きに、素体の「性格」が表れている。

 

「ひっ……!?」

 

 その触手の先端部はむっちりとした白い巨尻と、無防備なうなじを厭らしく撫で回した後。そこから二手に分かれ――豊かな二つの乳房に絡み付き、その()に向かおうとしていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「はぁあッ!」

 

 それ以上、許すわけには行かない。清音はその一心で懐からナイフを引き抜き、迷彩服の外に露出している触手にその刃を突き立てた。

 

「く、うっ……!」

 

 鮮血が噴き上がると同時にタイプγが悲鳴を上げ、全ての触手が迷彩服の中から逃げ出して行く。

 迷彩服の内側に残っている粘液の感覚に眉を顰めながらも、触手から解放された清音は息を荒げ、タイプγと対峙していた。迷彩服の下に隠されていたGカップのブラジャーも、白い巨尻に深く食い込んだTバックのパンティも、タイプγの体液でしとどに濡れてしまっている。

 

「はぁ、はぁっ、んはぁっ……!」

 

 思わぬ形で訪れた貞操の危機を切り抜け、自動拳銃をホルスターから引き抜く清音。その扇情的な吐息から漂う甘い女の芳香に、タイプγは再び奇声を発していた。

 まさか異形の怪人にまで「女の尊厳」を脅かされるとは思わなかったこともあり、その頬には焦燥の汗が伝っている。だが、今の反撃で得られたものもあった。

 

(強力な生体装甲を有しているはずのフィロキセラタイプに、私のナイフが通った……! やはり、そういうことでしたか……!)

 

 2009年に織田大道が変身していたタイプαの時点で、フィロキセラタイプのボディは軽火器を受け付けないほどの防御能力を獲得していた。にも拘らず、その発展系であるはずのタイプγには、生身の人間が振るった刃物が通用したのである。

 

 それはつまりタイプγが知性面のみならず、生体装甲の防御力までも犠牲にしている「欠陥品」であることを意味していた。その事実に到達した清音は、妖しく蠢く触手を前に挑発的な笑みを溢す。

 

「……どうやら、『本物』になるには予算が足りなかったようですね?」

 

 その皮肉を口にしても、タイプγの知性では理解出来ないだろう。だが、それで構わない。

 

 すでに「準備」は、整っているのだから。

 

「来なさい――G-verⅥ」

 

 彼女がそう呟いた瞬間。

 研究室の外壁を突き破り、この血の海に飛び込んで来た彼女のマシンGチェイサーが、その質量にモノを言わせた追突でタイプγを撥ね飛ばしてしまう。

 

 清音の眼前を横切るように突っ込んで来たその車体は、滑るように主人の傍らへと停車する。車体の後部に搭載されている大型コンテナが開かれ、彼女の「鎧」が出て来たのはその直後だった。

 

 彼女のGチェイサーには主人の危機に反応し、自動運転で駆け付けて来る機能が設けられているのだ。

 その機能に生命と貞操を救われた清音は、タイプγが追突の衝撃でひっくり返っている間に、コンテナに積まれていた装甲服を手慣れた動きで装着して行く。

 

 そして、タイプγがようやく起き上がった頃には――すでに、「水見鳥清音」の姿はなく。そこには、「仮面ライダーG-verⅥ」の荘厳な鎧姿が佇んでいた。

 

 薄暗い研究室内に黄色の双眸が輝き、その光が赤と白を基調とするマッシブな装甲を照らしている。右肩に記載されている「G-6」のナンバーも、その煌めきに照らし出されていた。

 

 彼女の両腕にある2丁のGX-05「ケルベロスランチャー」は、すでにその砲口をタイプγへと向けている。

 「装着前」である優雅な爆乳美女の姿からは想像も付かない、その荘厳な「装着後」の外観と迫力に、タイプγは弱々しい奇声を漏らしながら逃げ出そうとしていた。

 

「……知性が無いというのは、実に致命的ですね。相手の力量すら、満足に測れないのですから」

 

 仮面の下でそう呟く清音の声色には、憐れみの色すら含まれている。

 その直後に――彼女の両手にあるケルベロスランチャーの弾頭と、Gチェイサーの両脇に搭載された8門のミサイルが、同時に撃ち放たれた。

 

 ――ノバシェードに起きた「異変」の元凶を知った今、もうこの施設に用はない。故にここからは「潜入」ではなく、「戦闘」が主目的となる。

 

 そうなればもはや、装甲が脆いタイプγに生き延びる道はないのだ。織田大道のタイプαや、明智天峯達のタイプβに匹敵する防御力があれば、G-verⅥの一斉射撃にも耐えられたのだろう。

 

 だが、斉藤空幻をはじめとするこの施設の研究者達は、その生体装甲の重要性を軽視した。「本物」になりたいからと成果にこだわるあまり、現実を見ていなかった。それがどれほど愚かな選択であったかなど、知る由もなく。

 

 彼らは最後まで、「本物」になれぬまま終わってしまったのである。無防備な背中に集中砲火を浴びせられ、跡形もなく爆ぜた最後のタイプγのように――。

 

 ◆

 

 G-verⅥの猛攻撃によって、タイプγもろとも研究施設は崩壊。清音がそこから脱出した頃には、すでに夜も明けて快晴の空が広がっていた。

 清々しい大自然の空の下で、一つの事件を解決した余韻に浸りたい気持ちはある。だが、今は立ち止まって良い時ではない。

 

(……「始祖怪人」。まさか、そんな連中が存在していたなんて……)

 

 旧シェードのNo.0こと羽柴柳司郎と同じく、最初期に開発されたという改造人間の生き残り。その老兵達の暗躍を知った今、足を止めることなど出来るはずもない。

 

 仮面ライダーAPですら一度は敗北を喫したというNo.0。彼にも匹敵し得る強敵に、果たして自分達は勝てるのか。

 ノバシェードの構成員達のような「失敗作」とは違う、「本物」の改造人間に勝てるのか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それでも、私達がやらねばならないのです。今は私達が、『仮面ライダー』なのですから」

 

 その不安を振り切るように――清音は崩壊した施設跡を一瞥した後。愛車に颯爽と跨って、走り出して行く。

 

 嵐のように戦って、風のように去る。人類の自由のために戦う、「仮面ライダー」の1人として。

 

 ◆

 

 ――俺だ。やはりお前も目覚めていたか。

 

 ――まさか、仮面ライダーGに倒されたはずの俺達始祖怪人(オリジン)が皆、仮死状態だったとはな。

 

 ――いや、皆……ではないか。清山も柳司郎も、すでにこの世を去っているのだから。

 

 ――シェードが滅び、俺達の知る仮面ライダー達も消え去り、全てが終わってしまった今になって……何の意味があると言うのだろうな。

 

 ――あぁ、分かっている。ノバシェードの連中では、やはりいくら鍛えたところで焼け石に水だ。この時代の仮面ライダー達は装甲服を着ているだけの生身の人間に過ぎんというのに、あの体たらくだからな。

 

 ――お前に言われるまでもない。俺達始祖怪人の存在意義は、改造人間の威力を世に知らしめることだけだ。清山も柳司郎も、そのために己の命を使い尽くした。俺達もそれに続き、然るべき最期を遂げるまでだ。

 

 ――この時代の仮面ライダー達に、俺達を止められるとは思えんが……いずれにせよ、それが出来なければ人類は改造人間に平伏するのみとなろう。

 

 ――最期に試してやろうではないか。令和の世を守る仮面ライダーが、俺達に引導を渡す器となり得るかをな。

 

 ――場所? あぁ、もう決めてある。

 

 ――俺達シェードにとって……仮面ライダーにとって、全ての始まりとなった……あの放送局だ。

 




 本章もこれにて完結となりました! 最後まで本章を見届けて頂き、誠にありがとうございます!(*´ω`*)
 この番外編は「ガールズリミックス」のような女性主体のエピソードをやりたいなー、というコンセプトの元に生まれた物語でした。最後まで楽しんで頂けたのであれば大変何よりでございます(о´∀`о)

 本章に出て来た「始祖怪人」という存在については、現在構想中の新企画の主題にして行く予定となっておりますので、こちらの方も楽しみにして頂けると幸いです。今はまだまだ準備段階なのですが、「シン・仮面ライダー」の公開が始まるまでにはきちんと形にしたいところでありますな(*´꒳`*)
 その時が来るまでしばらく本作の更新はお休みとさせて頂きますが、いずれ新企画を始められるようになる時が来ましたら、またお気軽にお越しくださいませ(*^ω^*)
 ではではっ、読了ありがとうございました! 失礼致しますっ!٩( 'ω' )و

 本章と同じくお色気要素を取り入れたウルトラ系2次創作「ウルトラマンカイナ(https://syosetu.org/novel/136080/)」もどうぞよしなに……_(┐「ε:)_


【挿絵表示】


Ps
 ガッチガチの装甲で全身を固めてるクールな美女って凄くイイなーって思います。サムス・アランとか超好き(*´ω`*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第1話

◆今話の登場怪人

羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)/羽々斬(ハバキリ)
 汚職に塗れていた当時の上層部に愛想を尽かし、1年前に警視庁を退職した元警察官の改造人間。現在は徳川清山(とくがわせいざん)が運営する傭兵会社に所属しており、羽々斬と呼ばれる怪人に変身する。当時の年齢は26歳。



 

 ――これは「仮面ライダー」と「怪人」に纏わる運命を巡る、「最初」で「最期」の物語。

 

 ◆

 

 20世紀後半――その当時、世界は今以上に混沌を極めていた。

 

 第2次世界大戦の爪痕を癒す間も無く、東西冷戦を契機とする数多の紛争が世界各地で巻き起こり、絶えずこの世界を乱していたのである。

 日本国内に限れば、戦争の無い時代だったのかも知れない。だが、その島国を囲む大海を越えた先では――血で血を洗う凄惨な殺し合いが、果てしなく繰り返されていた。

 

 その戦火の波は時として、決して侵されてはならない領域にまで及んでいた。紛争や内戦に加担などしていない無辜の民ですら、否応なしに煉獄の炎に焼かれていたのである。

 

 ◆

 

 ――1974年9月某日。

 アジア大陸、某国森林部ツジム村。

 

 国境線付近に広がる森林地帯の最奥にある、小さな集落。

 争いとは無縁であったはずのその秘境は今、天を衝くほどの業火に飲まれた地獄絵図と化していた。深夜であるにも拘らず、猛炎に照らされたこの森の空は、真昼のように明るい。

 

 老若男女を問わず、殺し尽くされた村人達。彼らは例外なく黒ずんだ焼死体と化し、炎の海に飲まれた村の各所に放り捨てられている。

 その骸を無遠慮に踏み付け、周囲を荒らし回っている歩兵達は、「何か」を血眼で探しているようだった。

 

「おい、見つかったか!?」

「いえ……! 『奴ら』の死体が、どこにもありませんッ!」

「そんなはずがあるか……! 我が軍の砲撃から逃れたとでも言うのか!? 何としても見つけ出せッ!」

 

 彼らが探しているのは、死体。だが、それは村人のものではないのだろう。

 足元に転がる夥しい数の焼死体には目もくれず、彼らは「人であって人ではない」者達の遺体を探し続けていた。

 

「……!?」

 

 すると、自分達のものではない「生者」の気配に気付いた歩兵達が足を止め、一斉に銃口を炎の向こうへと向ける。

 

 陽炎を踏み越えるように現れた黒コートの男が、炎の熱など意に介さず歩兵達の前に歩み出て来た。

 精悍な顔付きを持つ筋骨逞しいその青年は、何人もの兵士達から突撃銃(アサルトライフル)――AK-47を向けられているのにも拘らず、全く怯んだ様子がない。

 

「い……居たぞ、奴だッ! やはり死んではいなかったというのか……!」

「貴様の仲間達はどこだ! 吐かねば撃つぞッ!」

 

 黒コートの青年を見つけた歩兵達の叫びに応じて集まった増援が、彼を一斉に包囲する。

 

 突撃銃で武装した彼らに対し、囲まれている青年の方は全くの丸腰。

 その光景だけで判断するならば、双方の戦力差は圧倒的なのだが――何故か数でも装備でも優っている兵士達の方が、「死」への覚悟に肩を震わせていた。

 

 まるで――自分達の方が、強力な兵器を向けられているかのように。

 

「……貴様らに一つ、『報告』しておくことがある」

「な、なにぃ……!?」

 

 そんな歩兵達を怜悧な眼差しで見渡した後、黒コートの青年は低くくぐもった声で小さく呟く。彼がただ口を開くだけで、歩兵達はびくりと後ずさっていた。

 その様子を見遣りながら、青年は言葉を紡ぐ。声色は静かなものであったが、その奥には深く煮詰まったような怒りと殺意が込められていた。

 

「このツジム村は反政府ゲリラの巣窟である。国家を脅かす反乱の芽を摘むべく、速やかに当該集落を殲滅されたし……それが貴様らの依頼だったが、その『前提』に誤りがあったようだ」

「誤り……!? ふん、このツジム村にゲリラなど居なかったということか!?」

 

 この国の国防軍である歩兵達は、自分達が雇った傭兵である青年の「報告」に怒号を上げる。「反政府ゲリラの撃滅」という依頼に応じてこのツジム村に来ていた青年によれば、そもそもゲリラなど1人も居なかったというのだ。

 

 だが、歩兵達はその報告内容を全く疑っていない。

 彼らは最初から、依頼そのものが「でっち上げ」であることを知っていたのだから。

 

「その通りだ。……やはり貴様ら、初めから承知の上で俺達を送り込んでいたのだな。先ほどの砲撃はさしずめ……俺達への報酬代わりというわけか?」

 

 このツジム村にゲリラなど居ない。であれば早急に村を離れねば、無辜の民間人達が本当に戦闘行為に巻き込まれてしまう。

 

 その懸念を胸に、青年とその「仲間達」が村を去った直後のことだったのだ。国防軍による砲撃と火炎放射が村を焼き、人々を焼き払ってしまったのは。

 そして急いで戻って来てみれば、この地獄絵図が広がっていたのである。この虐殺がゲリラの類ではなく国防軍の陰謀だったことは、正規兵達の存在が明らかにしている。

 

 銃口など意に介さぬまま、青年は焼け焦げた少女の遺体の前に膝を着き、その黒ずんだ頬を撫でている。村に現れた自分達を、何も知らぬまま笑顔で出迎えていた可憐な少女は今、無惨な消し炭と化していた。

 

「そこまで理解しているのであれば……我々の真意などいちいち訊くまでもなかろう。さぁ……楽に殺して欲しくば、さっさと仲間達の居場所を吐け! 羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)ッ!」

 

 「人ではない怪物の身」でありながら、人間と同じように死者を儚んでいる青年――羽柴柳司郎。

 そんな彼の「人間のような姿」に嫌悪感を露わにしながら、歩兵達を率いる隊長格の男が、柳司郎の後頭部に銃口を押し当てる。

 

 ――国籍はおろか、生身の身体すら持たない怪物の分際で、人間の振りなどするな。そう、言わんばかりに。

 

「うッ……!?」

「……人であることを捨てた今、その名で呼ばれるのは『肌』に合わん」

 

 だが、隊長格の男が引き金に指を掛けるよりも速く――柳司郎は背後を取られたまま、銃身を一瞬で掴み上げてしまった。

 

「俺の名は――羽々斬(ハバキリ)だ」

 

 そこから先は、「意趣返し」の蹂躙であった。

 




 11月27日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル怪人を募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 本章はテーマがテーマなのでだいぶシリアスめなお話になりまする……(´・ω・`)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第2話

◆今話の登場怪人

◆コン・ザン/エイトヘッズ
 某国国防軍の陸軍大佐であり、シェードと秘密裏に契約していた柳司郎達の雇い主。国内の治安を脅かす反政府ゲリラに対抗するため柳司郎達に各地の調査を依頼していたが、その裏では独自に改造人間の研究に着手しており、エイトヘッズと呼ばれる怪人に変身する。当時の年齢は45歳。



 

 隊長格の男は、柳司郎が振り向きざまに放たれた鉄拳で頭部を消し飛ばされ、悲鳴を上げる暇もなく絶命。

 AK-47を奪った柳司郎は、続けざまに歩兵達に向けて引き金を引き始めていた。薙ぎ払うような連射が、歩兵達に襲い掛かる。

 

 当然ながら歩兵達も柳司郎を始末するべく一斉射撃を仕掛けるのだが、「人ならざる怪物」である彼の身体は、銃弾の豪雨に晒されても傷一つ付かない。

 対して生身の人間である歩兵達は為す術もなく、1人ずつ眉間に弾丸を撃ち込まれて行った。銃が効かない人間が銃を持てば、そこから先は一方的な殺戮現場と化すのだ。

 

「ぐ、がぁあッ!?」

「ぎゃあぁッ!」

 

 だが歩兵達に、その不条理を糾弾する資格はない。それは彼らがツジム村の住民達に対して行った無差別攻撃と、同じことなのだから。

 

 ――その「蹂躙」は、歩兵達の断末魔が絶えるまで続き。最後に柳司郎の前に現れたのは、ツジム村の疑惑を捏造して柳司郎達の始末を目論んだ、「元凶」の男であった。

 

「……ふっ。さすがは徳川清山(とくがわせいざん)特製の始祖怪人(オリジン)、と言ったところか? だが……単純な腕力と耐久性だけが取り柄とは、随分と芸のない改造人間だな」

 

 日本人としては非常に大柄である柳司郎よりも、さらに優れた体格を持つスキンヘッドの巨漢――コン・ザン大佐。

 

 柳司郎とその仲間達を擁する、徳川清山の傭兵会社と秘密裏に契約し、反政府ゲリラの駆逐に注力していた武闘派の陸軍将校だ。そして、柳司郎達に「ツジム村の殲滅」を依頼した張本人でもある。

 

「……念のため確認しておくぞ、ザン大佐。俺達にこの村の襲撃を命じた時から……全て、織り込み済みだったのだな?」

「これから1人残らず死に絶えることになる貴様らにとって、そんな確認が今さら何になるというのだ。金目当ての傭兵風情が、この期に及んで死ぬ理由を欲しがるのか?」

 

 森という「可燃物」に囲まれた「いかにもな」場所に柳司郎達を誘き寄せ、民間人もろとも焼き尽くそうとした彼の計画は、結果として失敗に終わった。が、彼は凶悪な人型兵器を前にしていながら、不敵な笑みで口元を歪めている。

 

「まぁ良かろう、今日まで共に戦って来たよしみだ……御明察、と言っておいてやる。貴様らの働きで改造人間の有効性が実証された今……国籍を持たず、金次第で付く相手を変える改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)など脅威以外の何者でもないからな」

「実戦データだけ収集し、用が済めば危険だからと排除する……か」

「卑劣と糾弾するか?」

「……いや、自軍の強化を図る上では懸命な判断だ。脅威となり得る危険因子は消すに限る。だが、詰めが甘かったようだな。ここで俺達を屠るには、あまりにも弾が足りていない。貴様らのデータは杜撰の極みだ」

「ふん、運良く砲撃から逃れただけの分際でよく吠えるわ。……その悪運も、ここで尽きるというものよッ!」

 

 研ぎ澄まされた殺意を纏う改造人間に睨み付けられても、ザンが全く怯まない理由。それは、柳司郎達と同様に人であることを捨てていた、彼の肉体にあった。

 獰猛にして冷酷な巨漢が、全身の血管を浮立たせて吼える瞬間。その肉体を内側から突き破るように、八つの頭を持つ蛇の怪人が現れたのである。

 

「……清山のデータを基に、すでに己の肉体を改造していたか。それが貴様の『勝算』である、と?」

「その通りだ。そして貴様らが、用済みとなった理由でもあるッ! この『エイトヘッズ』がなァッ!」

 

 「エイトヘッズ」という怪人としての名を明かしたザン。その八つの首が不規則な挙動で飛び出し、柳司郎の四肢に絡み付いて行く。

 だが、戦車すらひしゃげるほどの力で締め上げられているというのに、柳司郎はうめき声一つ上げていない。彼は涼しい顔で、弾が尽きたAK-47を放り捨てている。

 

 それほどまでに、双方の力量差が「隔絶」されているのだ。

 徳川清山の科学力を以て開発された始祖怪人と、その見様見真似で生まれた贋作怪人とでは、あまりにも性能の地力が違い過ぎるのである。

 

「……こんなものか?」

「なにッ……うぉおおッ!?」

 

 その現実を突き付けるように、四肢に絡み付く蛇頭を振り解いた柳司郎は――そのまま首を掴むと、一気に火の海目掛けて放り投げてしまう。自らが作り出した業火に焼かれながらも、蛇頭の怪人は怒りと屈辱に身を焦がし、その猛火から這い出て来ていた。

 

「この村を滅ぼしてまで得た『成果』が――こんなものかと訊いている」

「……化け物がァア……!」

 

 自分達のアイデンティティを揺るがしかねない、精強なる人間兵器。その力を模倣し、己のものにしたのだと確信していたザンは、嫌悪感と殺意に満ちた表情で柳司郎を睨み付けていた。

 対する柳司郎も、殺戮の対価としてはあまりに粗いエイトヘッズの性能を目の当たりにして、ますます殺意を漲らせている。こんな紛い物のために、この村は犠牲になったのかと。

 

 柳司郎はその殺意に己の運命を委ね、黒コートを翻し――その下に隠されていた「ベルト」を露わにする。その外観は、木製と見紛うようなカラーリングとなっていた。

 

 さらに柳司郎は懐から、「八塩折(ヤシオリ)」としたためられた1本の酒瓶を取り出す。起動デバイスとなっているその酒瓶をベルトに装填した瞬間、怨嗟のような電子音声が流れ出していた。

 

(ワレ)、コレヨリ変身(ヘンシン)セリ。(ワレ)、コレヨリ変身(ヘンシン)セリ』

 

 野太く重苦しい音声が轟く中、柳司郎は剣を上段に構えるように両手の拳を天に掲げ、青眼の構えのように顔の正面へゆっくり下ろして行く。

 

「……変身」

 

 そのコールと同時にベルトのレバーが倒されると、酒瓶型のデバイスの内側に秘められたエネルギーが解放され、柳司郎の全身に循環されて行く。

 

 やがて、身体中に迸る金色のエネルギーを浴びた柳司郎は――黒コートを羽織ったまま、改造人間としての真の姿へと「変身」していた。

 

 火の海の中でも眩い煌きを放つ、黄金の甲冑。黒をスーツの基調としつつ、その暗さと対比させるかのような輝きを持った装甲。

 それらが全身の各関節部に装着されており、金色のマスクと禍々しく吊り上がった赤い複眼も、柳司郎の殺意をこれでもかと表現している。

 

 そして、はち切れんばかりの筋肉で膨張しているその手には、一振りの日本刀が握られており――刀の(はばき)には、「改進刀(カイシントウ)」とう(めい)が彫られていた。

 

雲起竜驤(ウンキリュウジョウ)羽々斬(ハバキリ)推参(スイサン)

 

 やがて呪詛の囁きが変身シークエンスの完了を告げ。紛い物のエイトヘッズの眼前に、真の怪人――「羽々斬(ハバキリ)」が顕現する。

 

「み、認めん……俺は、俺達は絶対にッ! 貴様らなど、認めんぞぉぉおッ!」

「……貴様の認可など、求めた覚えは無い」

 

 その荘厳な姿に、嫉妬と殺意を剥き出しにしながら。醜悪な蛇の怪人と化したザンは、己の敗北を認めまいと羽々斬目掛けて飛び掛かって行く。

 

驍勇無双(ギョウユウムソウ)旭日昇天(キョクジツショウテン)気剣体一致(キケンタイイッチ)!』

劒徳正世(けんとくよをただす)――桜花(おうか)! 赤心斬(せきしんざん)ッ!」

 

 そんな哀れな敗北者に引導を渡すべく、羽々斬が改進刀の刃を振るっていた――その頃。ツジム村を火の海に沈めた下手人達を狙う柳司郎の仲間達は、村の外に展開していた戦車隊を捕捉していた。

 

 卑劣にして冷酷な、弱き人間達に。改造人間達による「裁き」が、実行されようとしていたのである。

 




 11月27日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル怪人を募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 皆様もお察しかも知れませんが、「ツジム」という名前は「無実」の並び替えから来ています。何の変哲もない、ただの集落だったんですもの……(´・ω・`)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第3話

◆今話の登場怪人

山城一(やましろはじめ)/エインヘリアル
 太平洋戦争時、神風特別攻撃隊を指揮していた元海軍将校。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、エインヘリアルと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は70歳。
 ※原案は魚介(改)先生。

◆プリヘーリヤ・ソコロフ/ケルノソウル
 ソビエト連邦から母親と共に亡命する途中で撃たれ、死に瀕していたところを改造手術により一命を取り留めた少女。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ケルノソウルと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は11歳。
 ※原案はリオンテイル先生。

橋部一雄(はしべかずお)/ミサイルイナゴ
 戦後、アメリカ軍兵士と日本人女性との間に産まれたハーフの傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ミサイルイナゴと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は25歳。
 ※原案はダス・ライヒ先生。



 

 

 ツジム村を焼き尽くした煉獄の炎。その災禍を起こした戦車隊は、闇夜に紛れて迫り来る地獄の軍団に何発もの砲弾を撃ち込んでいた。が、人ならざる怪物の群れはその悉くを紙一重でかわし、戦車隊に肉薄している。

 

「馬鹿な……! 奴ら、我々の砲撃から生き延びていたとでも言うのかッ!?」

「ええい、撃てッ! 今度こそあの化け物共を、地獄の底に送り返してやれェッ!」

 

 徳川清山の科学力が生み出した怪人といえど、戦車砲の直撃を受ければタダでは済まない。彼らがツジム村もろとも滅されることがなかったのは、その直前に村を離れていたからに過ぎない。

 

 ――無辜の民間人を戦いに巻き込むわけにはいかない。

 それは人の身を捨てた今でも残されていた、一欠片の良心だったのだろう。その一欠片こそが、彼らの運命を変えていたのだ。

 

 そして、今。炎の海を目の当たりにした始祖怪人達は、最後の一欠片すらも捨て去り――人の体も心も持たぬ、羅刹と成り果てていた。

 生身の人間故に、異形を恐れ。その恐れ故に、蛮行を犯す。そんな人間の醜さの極致を目の当たりにした彼らは、確信を深めてしまったのだ。

 

 弱き人間の心では、力では。何一つ、守れはしない。この世界はどこまで行っても、力だけが全てなのだと。

 

「……生身の人間達ですら、人の心などとうに捨てているというのに。生身を持たぬ我々が、後生大事にそれを持っているのも可笑しな話……か」

 

 戦車隊に高速で迫る、異形の怪人達。その最後尾で同胞達を指揮していた野戦服姿の老兵――山城一(やましろはじめ)ことエインヘリアルは、赤く発光している鋭利な双眸で戦局を静かに見据えていた。

 

 生身の人間とさして変わらぬ外観を持つ彼だが、その「内部」に秘められた人工筋肉と強靭な外装甲は凶悪な怪人そのものであり――隠し切れない「怪物」としての正体が、ブレード状に変形した両手の小指に現れている。

 変身機能を伴わない常時怪人型である彼のボディは実験的に試作されたものであり、後年の改造技術の礎となった、「アーキタイプ」としての側面が強い。

 

 1945年に終結した、太平洋戦争の末期。当時の神風特別攻撃隊を指揮していた海軍将校だった彼は、時代に翻弄された多くの若者達に「特攻」を命じ、死に追いやってきた。

 その「報い」を受ける間も無く戦争が終わり、死に場所を求めて改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)と化した彼は――国防軍の所業に、「人間」としての「最期の怒り」を燃やしている。

 

「……橋部(はしべ)、ソコロフ」


 

 彼は最前線を疾走している2人の部下に対し、最後尾から静かに「報復」を命じていた。

 その指示に深く頷いた2人の怪人は、己の「異能」を戦車隊に向けて行使しようとしている。車内からその気配を察していた戦車兵達は、彼らの悍ましい外観に悲鳴を上げながら砲弾を連射していた。

 

「許せない……! 人でありながら、人の心を捨てるなんてッ! こんなこと、絶対に……!」

 

 人の顔が彫り込まれたカブのような頭部と、その下から生えている青白く細長い無数の腕。

 ケルノソウルという名を冠したその姿は、異形という言葉でも足りない、見る者を震え上がらせる悍ましい怪物そのものであった。

 

 ――が、その正体はプリヘーリヤ・ソコロフという11歳の少女なのである。母親と共にソビエト連邦から亡命する際、追手の銃撃により生死の境を彷徨っていた彼女は、徳川清山の改造手術によりこの力を手にしてしまったのだ。

 

 母親と死別し、生身の身体を失った今でもなお、人間として生きようともがいていた彼女だったが――国防軍の無慈悲な攻撃を目の当たりにした今となっては、もはや人の情すらも残っていない。外観通りの、怪物そのものと化している。

 

「俺達のような傭兵も、あいつらのような正規兵も……皆、生きるために相手を殺している。飯を食って行くために、殺し合っている。……だが、この攻撃にはその程度の『意味』すらねぇッ……!」

 

 人型のイナゴのような外観を持つ怪人――ミサイルイナゴ。

 その姿を持つ橋部一雄(はしべかずお)は、無意味な犠牲を生み出した国防軍の砲撃に煮え滾るような怒りを燃やしている。

 

 戦後、アメリカ軍兵士と日本人女性との間に生まれた混血児だった彼は、謂れなき差別から逃れようと傭兵の世界に身を投じ、徳川清山と出会い――改造人間となった。

 己の存在意義と価値を証明し、この時代を生き抜くために戦っている彼にとって、「命」の消費に見合うだけの「大義」もない殺戮など、決して許しておく訳にはいかなかったのである。

 

「はぁあぁあッ……!」

「行け、イナゴミサイルッ!」

 

 ケルノソウルが、その口から凄まじい火炎を吐き出すのと同時に。ミサイルイナゴは腹部から、イナゴを模した小型ミサイルを大量に連射していた。

 

「ひぃいいっ!? あ、あづい、あづっ……あ、あぁあぁあッ!」

「イ、イナゴ型のミサイルが……大量にッ!? ぎぃ、やぁあぁあぁあッ!」

 

 猛炎に飲み込まれた戦車の中で蒸し焼きにされた戦車兵達の絶叫が、この夜空に反響する。その高熱から逃れようとハッチを開いて身を乗り出した搭乗員達は、一斉に襲い掛かって来る小型ミサイルに肉体を吹き飛ばされ、僅か数秒のうちに無惨な白骨死体と化していた。

 

「せ、戦車隊が……一瞬で、たった2人に……!」

「化け物だ……正真正銘の、化け物だッ!」

 

 反撃する暇など与えない、速攻に次ぐ速攻。その猛襲を浴びた戦車隊は瞬く間に壊滅し、護衛に就いていた歩兵達を戦慄させていた。

 戦車の装甲はそのほとんどが灼熱に溶かされ、搭乗員達もイナゴ型のミサイルで全身の肉を消し飛ばされていた。まるで、イナゴに食い尽くされた獲物のように。

 

「……ええい、お前達怯むなッ! 死にたくなければ撃ち殺せッ! 奴らが来るぞッ!」

 

 それでも、部隊を率いている隊長格の男は士気の揺らぎを律するべく声を張り上げている。例え相手が人智を超えた怪物であろうとも、今さら命乞いなど通じるはずもない以上、戦わねば死あるのみなのだから。

 

「……逃げようとはせぬか。その理由、『誇り』故か『慢心』故か……見定めてやろう」

 

 そんな彼らを冷酷に見つめるエインヘリアルが、静かに呟く頃には。すでに歩兵達の前に現れた改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)達が、「総攻撃」の体勢に入っていた。

 

 もはや、逃げるか否かなど問題ではない。

 肉眼で視認出来る距離まで接近を許してしまった時点で――国防軍兵士達の運命は、決しているのだ。

 




 11月27日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル怪人を募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 ようやく読者応募怪人を出せる段階に辿り着きました。ここからどんどこ怪人達が大暴れして行きますぞー(*^ω^*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第4話

◆今話の登場怪人

速猟豹風(はやかりひょうか)/タパルド
 戦後、イギリス軍兵士と日本人女性との間に産まれたハーフの女傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、タパルドと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は26歳。
 ※原案はただのおじさん先生。

間霧陣(まぎりじん)/カマキリザード
 山城の元部下に当たる神風特別攻撃隊の生き残りであり、戦後の日本に馴染めず連続殺人事件を起こし、死刑判決を受けた元脱獄囚。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、カマキリザードと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は48歳。
 ※原案は神谷主水先生。



 

「……総員、攻撃開始。お望み通り、1人残らず仲間達の元へ送ってやれ」

 

 人の心を捨て、羅刹に落ちた人間兵器――改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)

 その群れが動き出したのは、彼らの背後に立つエインヘリアルが「突撃」を命じた瞬間であった。

 

 首魁の徳川清山、実戦リーダーの羽柴柳司郎に次ぐ、組織の「No.3」である彼の指示に応じて動き出した怪人達は、各々の「異能」を駆使した殺戮を開始する。

 

 それは、国防軍の所業に対する「意趣返し」でもあった。

 無辜の村民を虐殺した彼らに対する、然るべき「報い」を実現させる。ただそのためだけに、彼らはその異能を振るうのだ。

 

「は、速いッ! この女、速過ぎるッ! 弾が……弾が当たらないッ!」

「……遅いねぇ。呆れるほど遅い。あんた達、当てる気あるわけ?」

 

 チーターを模した生体装甲で全身を固めた、獰猛な女傑――タパルドこと、速猟豹風(はやかりひょうか)

 突撃銃の弾雨を掻い潜り、目にも留まらぬ速さで歩兵達の懐に飛び込んだ彼女は、手足の鉤爪で彼らの肉体を矢継ぎ早に切り裂いて行く。

 

「ぐぎゃあぁあッ!?」

「殺し合わなきゃ生きて行けないような世界に居る奴らが……『外』の連中を巻き込むんじゃあないよッ!」

 

 ミサイルイナゴ――橋部一雄と同じく、戦後に生まれた混血児である彼女は、その日本人離れな美貌故に謂れなき差別に晒され、居場所のない人生を過ごしてきた。

 

 そんな彼女が独りで生きて行ける場所は、人種など問われない力だけの世界にしか無かったのである。

 そうして傭兵となり、改造人間となった彼女だからこそ――謂れなき者達を戦火に巻き込んだ国防軍が許せなかったのだ。

 

 だが、いかに改造人間と言えども少人数で大勢の歩兵に挑むからには、多少の被弾は避けられない。すれ違いざまに兵士達の首を刎ね飛ばしたタパルドは、着地に伴う減速の瞬間を狙われ、一斉射撃を浴びてしまう。

 それでも、彼女の生体装甲には傷一つ付かない。その頑強さに痺れを切らした1人の兵士は、勢いよく銃床で彼女の背を殴打する。

 

「ぐおッ……!? こ、この女の鎧は……ぐはぁッ!」

「……汚い手で私に触らないで。『痛い目』に遭うだけだから」

 

 しかし、その一撃は通ることなく――逆に衝撃を跳ね返され、大きくよろけた隙に斬り付けられてしまうのだった。

 タパルドの鎧は反応装甲(リアクティブアーマー)に類する機構も兼ね備えている。生半可な打撃は、逆効果となるのだ。

 

「得意とする接近戦に持ち込んでおいて……背後を取られるとは何事だ、速猟。油断するなよ、速さに特化したお前の装甲は俺達の中では『最弱』なのだからな」

「……ふん、言われなくたって分かってるわ。あんたこそ、さっきから何発も食らってるじゃない。少しは避ける努力もしたらどうなの?」

「俺は良いんだ、お前ほど脆弱な装甲ではないのだからな」

 

 そんなタパルドの「油断」を嗜めているのは、2足歩行のオオトカゲを想起させる凶悪な面相の怪人――カマキリザードこと、間霧陣(まぎりじん)であった。カマキリのような刀状になっている彼の両腕は、暗夜の中でも妖しい輝きを放っている。

 

「……そうだな? 山城大佐」

「あぁ。……お前は昔から、実にしぶとい男だった」

 

 神風特別攻撃隊の生き残りであり、山城一の部下でもあった彼は、戦後の日本に馴染めず連続殺人事件を起こした死刑囚でもある。

 死に場所を求めていた山城と共に徳川清山に拾われ、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)となった彼は、変わり果てた姿で「戦争の続き」を堪能している。

 

「ひぎぁああッ!」

「無抵抗の相手を殺しておいて、悲鳴だけは一丁前だな。……お前達のような輩は、いい加減殺し飽きたぞ」

 

 戦後の混乱に乗じて弱き者達を食い物にしてきた、法で裁けぬ悪人達。そんな者達ばかりを次々と殺して来たカマキリザードにとっては、この兵士達も「同類」であった。

 

 タパルドを遥かに凌ぐ強靭な外皮は、突撃銃の弾丸を何百発浴びてもかすり傷一つ付いていない。

 彼はその弾雨を中を悠然と闊歩し、外観とは裏腹な機動力を活かした踏み込みで、一気に間合いに飛び込むと――両手の刃で、次々と兵士達を斬り伏せて行く。

 

「……ふん。それにしてもティーガーIとは、また随分と懐かしい代物を持ち出して来たものだな」

 

 歩兵達を細切れに切り刻んだカマキリザードは、第2次大戦時から運用されている旧ナチスの重戦車――ティーガーIの現地改修車を「鹵獲」していた。どうやら、ケルノソウルの火炎放射にも耐えられる戦車が1台だけ残っていたらしい。

 

「だが、ソコロフの炎にも耐える防御力については申し分ない。……俺達が『有効』に使ってやろう」

 

 ――国防軍が保有する装備としては最も上等な戦車であるそれは、後に羽柴柳司郎が搭乗する「タイガーサイクロン号」の基盤となる、悪夢の原石であった。

 




 11月27日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル怪人を募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 今日はいよいよワールドカップのドイツ戦ですねー! 頑張れニッポン!(*≧∀≦*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第5話

◆今話の登場怪人

戦馬聖(せんばひじり)/レッドホースマン
 シベリア抑留から生き延びた元日本兵を父に持つ、日系ロシア人の傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、レッドホースマンと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は28歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

福大園子(ふくだいそのこ)/サザエオニヒメ
 環境汚染による疫病で家族と故郷を失って以来、新たな居場所を求めて戦地に身を置いている女傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、サザエオニヒメと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は26歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

◆ブリード・フラナガン/ブレイズキャサワリー
 ブルックリンのスラム街で生まれ育った元ストリートチルドレンであり、ベトナム戦争で瀕死に陥っていたところを徳川清山に拾われた過去を持つ。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ブレイズキャサワリーと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は19歳。
 ※原案はMegapon先生。



 

 カマキリザードによってティーガーIを奪われたことで、国防軍の兵士達はさらに劣勢に陥っていた。が、ケルノソウルの火炎放射による森林火災と猛煙に視界を阻まれている彼らは詳細な戦況を観測することが出来ず、眼前の怪人達にのみ気を取られている。

 

 ここで即座に逃げ出していれば、ほんの数秒は命が続いていたかも知れない。だが彼らはもはや、その道すら見失っていたのだ。

 

「……な、なんだアイツはッ! 馬の怪物……なのか!?」

「くそっ、なんてすばしっこいんだッ!」

 

 2本の脚で戦火の大地を縦横無尽に駆け回り、飛び回る馬型の怪人。

 深紅のボディを持つその怪人は、人間と同じ5本指の手で一振りの両手剣(バスタードソード)を振るい、国防軍の兵士達を翻弄していた。

 

「……おいおい、ノロ過ぎてあくびが出るぜ。ここの軍隊は的になる訓練でもやってんのかい」

 

 レッドホースマンこと、戦馬聖(せんばひじり)

 戦後、シベリアに抑留されていた元日本軍兵士とロシア人女性との間に生まれたハーフである彼は、橋部や速猟と同様に偏見と差別の中で育って来た。

 

 幼少期の頃から異形と謗られて来た彼が、本物の異形――改造人間になることを躊躇する理由など、あるはずもなく。

 徳川清山の手で改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)と化した彼は、長きに渡り醸成されてきた憤怒をここぞとばかりに発露させ、兵士達を両手剣で次々と斬り倒している。

 

「ぎゃあぁあッ……!」

「誰の命だって、軽いもんじゃあねぇ。……それでも使い潰されるしかないってぇなら、せめてそこには『意義』がなきゃあならねぇんだ。……お宅ら、それを考えてみたことがあるのかい?」

 

 だが、少なくともこの頃は無慈悲な殺戮マシーンに成り果てていたわけではない。彼の脳裏にはまだ、亡き両親の無惨な最期が焼き付いていた。

 

 過酷な労働に斃れ、命を落とした父。その悲しみに暮れ、後を追うように病死した母。力亡き命をどこまでも軽んじる、時代という名の暴力。

 それを目の当たりにしながら育って来た戦馬にとって、死に「意義」を持たせることは何よりも優先されなければならない事項の一つとなっていた。両親の死は決して、吹けば飛ぶような軽い事柄ではないのだと、叫びたかったのである。

 

 怪人に堕ちた今でも、そんな想いに縋るように戦って来た彼だからこそ。死に伴う意義すらも踏み躙る国防軍の暴虐に、獰猛な怒りを爆発させているのだ。

 

 ――その頃、他の場所では。サザエを想起させる甲殻状の装甲で全身を固めた怪人を、何人もの兵士達が包囲していた。

 

 だが、突撃銃の連射を浴びてもその装甲には傷一つ付いていない。

 銃弾の嵐に見舞われながらも、サザエの怪人は悠然と炎の戦場を闊歩している。

 

「な、なんだコイツの装甲ッ……! 何発ブチ込んでもビクともしねぇッ!」

「くそッ、だったら手榴弾だ! 皆伏せろォッ!」

 

 ならば、破片手榴弾(グレネード)で吹き飛ばしてやるしかない。そう判断した兵士達の1人が、勢いよく手榴弾を怪人目掛けて投げ付ける。

 怪人の頭部に命中した手榴弾が、その場で爆ぜたのはその直後だった。が、爆発の中から現れた怪人は――全くの無傷。何事もなかったかのように、戦闘を再開している。

 

「お、おい……!」

「嘘だろ……!?」

 

 銃弾どころか、手榴弾すら通じない戦車並みの装甲。そんな強度の鎧がこの世に存在している事実に慄き、兵士達が後退りして行く。

 だが、サザエ型の怪人はすでに彼らに狙いを定めていた。決して逃しはしない、と言わんばかりの冷たい殺気が、その全身から溢れ出ている。

 

「……携行火器で私の装甲を破りたいというのなら、RPG-7を持って来るべきだったな。手榴弾如きが通じると思われるとは、この私も随分と安く見られたものだ」

 

 サザエオニヒメこと、福大園子(ふくだいそのこ)。右腕にサザエの殻を想起させる螺旋状の武器(ドリルアーム)を備えている彼女もまた――時代に翻弄され、改造人間となる道を選んだ1人であった。

 戦後、世界各地で顕在化した工業廃液による数々の環境汚染。それが引き金となった「疫病」は両親の命と、彼女自身の居場所を無慈悲に奪い去った。経済至上主義の風潮が、彼女の未来を殺したのだ。

 

 行く先々で偏見と差別に遭ってきた彼女は、徳川清山の誘いに乗り――改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)としての生き方に、己の存在意義を見出すようになったのである。

 強者の都合一つで、どこまでも弱者は搾取され、蹂躙される。国防軍の暴虐によってその「現実」を思い起こされた彼女は、左手の拳を静かに震わせていた。

 

「我々が望んでこの力を得たように、貴様達は望んで銃を取った。そして、この作戦に加担したのだ。……ならば、その『ケジメ』を付けねばなるまいな?」

 

 改造人間になったこと。殺しを稼業とする傭兵の道を選んだこと。

 全てが己自身の選択によるものならば、その「ケジメ」は己自身で付けなければならない。

 

 その信条に則り、彼女は無慈悲な殺戮に加担した国防軍の兵士達にも、然るべき「ケジメ」を強いるのだった。

 右腕の武器を高速回転させ、一気に兵士達の懐に飛び込んだ彼女は――薙ぎ払うように、その右腕の回転で兵士達の肉体を斬り刻んで行く。

 

「ぐっ、ぎゃあぁああぁあッ!」

「……痛いか? 苦しいか? ならばもっと味わえ、あの村人達の分までな……!」

 

 彼らの断末魔が絶え果てるまで、右腕の回転が止まることはない。抉られた肉体から飛び散る血飛沫と絶叫が、猛火に彩られた夜空を衝く。

 遠方からその状況を目撃していた隊長格の男は、無線機を握る手をわなわなと震わせながら、必死に部下達に指示を飛ばしていた。

 

「くッ……! 貴様ら、奴らとは距離を取って戦え! 飛び道具を使えない連中なら、遠くからッ……!?」

 

 レッドホースマンもサザエオニヒメも、近接戦闘用の武器で戦っている。この近辺に居る怪人達に飛び道具が無いなら、ひたすら距離を取って戦うしかない。

 

 だが、その判断が実を結ぶことはなかった。無線機を握り締めていた隊長格の頬を、何者かの「爪」が掠めて行ったのである。

 

「……飛び道具が、何だって?」

 

 それは、隊長格の位置を補足していた「新手」の怪人の仕業であった。

 青や赤を基調としたカラーリングと、炎を思わせる意匠を持った、2足歩行のヒクイドリ型怪人。その異形の怪物が、鋭い双眸で隊長格の男を射抜いている。

 

 踵に備わっているスパイク状の爪。このヒクイドリ型怪人は、それを射出して遠方の敵を狙い撃つことが出来るのだ。

 

「ヒ、ヒクイドリの怪物……!?」

「確かに俺達の中には、接近戦に特化した連中が多い。だが、それは飛び道具が無いってことじゃあない」

 

 ヒクイドリ型怪人――ブレイズキャサワリーこと、ブリード・フラナガン。

 ニューヨークのブルックリン区にあるスラム街で生まれ育ったストリートチルドレンだった彼もまた、生きるために改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)にならざるを得なかった者達の1人であった。

 

「……使うまでも無いのさ。歩兵同士の白兵戦となれば、俺達に負ける道理などないのだからなッ!」

「え、ええいッ! あの鳥野郎を先に潰せッ! 何としてもこちらに近付けさせるなァッ!」

 

 彼の存在を危険視する隊長格の指示により、兵士達は一斉に銃口をブレイズキャサワリーの方向へと向ける。

 だが、銃弾の雨を掻い潜って兵士達の眼前に飛び込んで来た鳥の怪人は、すでに再生していた踵の爪を薙ぎ払うように振るい、その蹴撃で彼らの肉体を切り裂いてしまう。

 

「ぎゃぁあぁあッ! た、助けッ――!」

「聞こえないなァッ! ……この戦火を振り撒いたお前達が、そうだったようにッ!」

 

 国防軍の兵士達が、ツジム村の悲鳴に耳を貸さなかったように。命乞いする彼らの絶叫に耳を傾けることなく、ブレイズキャサワリーは踵の爪を活かした連続回し蹴りで、兵士達の首を次々と刎ねて行く。

 

 ――スラム街での飢えに苦しむ日々から抜け出そうと、アメリカ陸軍に志願した彼はベトナム戦争で瀕死の重傷を負っていた。そんな彼を発見した徳川清山の改造手術が無ければ、彼はそのまま命を落としていたのである。

 人間の肉体を捨ててでも、何としても生き延びる。その生存本能に従い、これまで戦い続けて来た彼は今――初めて、命よりも矜持を優先していた。

 

 ツジム村の貧しい人々に、かつての己を重ねていた彼は。そのツジム村を焼き払った国防軍への憎悪に燃えているのだ。

 

「ひ、ひぃいッ……! こ、この化け物共がぁあぁッ……!」

 

 その光景に慄き、尻もちを付いてしまった隊長格の男は、脚を震わせながら森の奥へと逃げ出して行く。だが、ブレイズキャサワリーも他の怪人達も、彼を見逃すことはない。

 

 行手を阻む兵士達を1人ずつ、ゆっくりとすり潰しながら。彼らは確実に、砲撃の実行を命じた隊長格の男を追い詰めて行くのだ。

 

 ――然るべき報いを、受けさせるために。

 




 11月27日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナル怪人を募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 ワールドカップ、ドイツ戦逆転勝利! めでたい限りでございますなー(*´ω`*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第6話

◆今話の登場怪人

◆ジョン・ドゥ/トライヘキサ
 某国内で起きている内戦により両親を失った戦災孤児であり、自身も重傷を負っていたところを清山により改造された過去を持つ。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、トライヘキサと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は8歳。
 ※原案はSOUR先生。

紅衛校(コウエイコウ)
 文化大革命の動乱に巻き込まれ記憶を失っている中国出身の少年兵であり、今では自分の本当の名前すら思い出せずにいる。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、紅衛校と呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は14歳。
 ※原案はG-20先生。

波田水過(なみだすいか)/プラナリアン
 交通事故により瀕死の重傷を負っていたところを改造手術で救われて以来、徳川清山に心酔している若手の傭兵。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、プラナリアンと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は21歳。
 ※原案は板文 六鉢先生。



 

「ひ、ひぃっ、ひひぃっ……!」

 

 ブレイズキャサワリーの爪攻撃に恐れをなし、逃走を図る隊長格の男。他の怪人達はその動向を捕捉していながら、敢えて即座に狙おうとはしなかった。

 

 敵に背を向け、部下や仲間を見捨てて逃げ出すような敗残兵など、いつでも殺せる。それに、この一帯を包囲している森林火災から、生身の人間が逃れる術などない。

 ケルノソウルの火炎放射がこの大火を招いた時点から、すでに彼らの「末路」は決まったも同然なのである。故に誰も、わざわざ追おうとはしないのだ。

 

 非力な人間風情が改造人間を侮った瞬間から、勝敗の行方は決しているのだから。

 

「……どうして、戦いを止めない。なぜ殺す。なぜ戦いを続ける。何故だ……何故だ」

 

 10本の角と7つの頭を持つ異形の怪人――トライヘキサことジョン・ドゥも、その判断を下した1人だった。

 この国で生まれ育った戦災孤児である彼は、反政府運動の動乱に巻き込まれ死に瀕していた。彼もまた、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)に成らねば生きられなかったのである。

 

 何故、奪い合うのか。何故、殺し合うのか。その理由を問う暇もなく両親を殺され、その意味を理解する歳まで、人として生きることすら叶わず。彼は運命に翻弄されるがまま、異形の怪物と成り果てていた。

 

 そんな理不尽に対する、煮え滾るような憤怒。その猛火を、8歳の少年の瞳に見た徳川清山は――名無しの死体(ジョン・ドゥ)同然だった彼を改造し、その憤怒を存分に発露出来るだけの「力」を授けたのである。

 

 それが厚意による救命だったのか、体のいい人体実験に過ぎなかったのかは、清山にしか分からない。

 だが少なくともジョン自身は、トライヘキサの力を与えた清山を実父のように慕い――彼の手足となって戦う道に身を投じている。禍々しい人型の獣と化した彼は、清山の尖兵として幾度となく両手の爪を振るって来たのだ。

 

「な、なんだこの化け物……! 10本の角に、7つの頭……!?」

「まるで、黙示録の獣じゃあないか……!?」

 

 そんなジョンことトライヘキサの異様な姿に、兵士達は慄きながらも銃口を向ける。だが、彼らの突撃銃がどれほど火を噴いても、獣の怪人がその歩みを止めることはない。

 

「俺の問いに答えろ……答えないのなら……!」

「う、撃てぇええッ!」

 

 弾雨をものともせず、ジリジリと迫り来るトライヘキサの獰猛な貌が、兵士達の視界を埋め尽くした時。振り上げられた両手の爪が――愚かな侵略者達を、粉々になるまで切り刻むのだった。

 

「が、あぁッ……!?」

「……俺が、『報い』を受けさせる……!」

 

 鮮血に塗れ、然るべきを「報い」を受けた兵士達は、物言わぬ骸となって獣人の足元に倒れ伏して行く。その屍の山を踏み越え、トライヘキサは次の獲物を探し始めていた。

 

 ◆

 

 ケルノソウルが吐き出した火炎は森を焼き、さらに激しく延焼して行く。

 その渦中に取り残された兵士達も周囲から迫る炎熱に危機感を抱いていたが、彼らの退路は重火器で武装した巨漢によって塞がれていた。2mにも及ぶその巨大な背中は、猛炎の輝きを後光のように浴びている。

 

「クソッたれがッ! なんなんだよ、あの巨漢は……! あのナリで、中身はあいつらと同じ化け物だって言うのか!?」

「おい、RPGを出せッ! こうなりゃ1人だけでも道連れにしてやるッ!」

 

 柳司郎のものと同じ野戦服に袖を通しているその巨漢は、一見すれば体格が並外れているだけの「人間」のようだったが。突撃銃の弾雨をものともしていないその姿は、彼もまた「怪人」なのだという事実を雄弁に物語っている。

 

 改造人間に銃弾が通じないというのなら、それ以上の火力で吹き飛ばすしかない。

 そう判断した数名の兵士達は、RPG-7と呼ばれる対戦車用の擲弾発射器(ロケットランチャー)を持ち出して来た。「人間」に向けるにはあまりにも過剰な数発の弾頭が、巨漢目掛けて発射される。

 

「……ぬぅあぁああッ!」

 

 だが、巨漢こと紅衛校(コウエイコウ)は全く怯むことなく雄叫びを上げ、専用の重機関銃の引き金を引いていた。勢いよく乱れ飛ぶ銃弾の嵐は、RPG-7の弾頭を次々と撃ち落として行く。

 

 それでも、1発だけ仕損じた弾頭をまともに喰らってしまったのだが。猛煙の中から現れたのは、無傷のまま重機関銃を握り締めている紅衛校の姿だった。

 外観以上の迫力を齎しているその姿に、対峙している兵士達は揃って震え上がっていた。

 

「ば、馬鹿な……! やはり、奴も改造人間とか言う怪物の1人なのかッ……!?」

「……そんなものか? 俺達を屠るには、まるで『火力』が足りていないな。その程度の武装で改造人間を倒せるつもりでいたとは……片腹痛いわ」

 

 1960年代から中国で巻き起こった文化大革命。その動乱に巻き込まれ、瀕死の重傷を負った幼き少年は、死の淵から蘇るために徳川清山の技術に縋り――鋼鉄のボディを持つ改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として蘇った。

 

 天涯孤独の身であった彼は動乱の傷で記憶を失っており、己の本当の名前すらも分からなくなっている。紅衛校という名も、怪人としてのコードネームに過ぎない。

 

「俺には……俺には、何も無い。本当の名前はおろか、俺が俺である理由さえも。在るのはただ一つ、人ならざるこの『力』のみ」

「な、何を言って……ぐ、ぐぎゃあぁあぁああッ!」

「俺という存在を証明してくれるのは……俺の手によって死ぬ、貴様らの『死』だけだということだ。貴様らの死が、断末魔が、俺の存在を肯定してくれる。この身体の内側を、満たしてくれる……」

 

 故に、今の彼は徳川清山の尖兵として、重機関銃を撃ち続けているのだ。自分という存在の空虚さを、激しい銃声で掻き消し――己の存在意義を確かめるために。

 

 そんな彼が薙ぎ払うように乱れ撃っている無数の銃弾は、1発たりとも外れることなく兵士達の肉を抉っていた。炎の灯りに照らされた血の海が、そこから無尽蔵に広がって行く。

 炎に追い立てられるように紅衛校の前に現れた増援の兵士達は、その光景に青ざめるばかりだった。それでも彼らは何としても生き延びようと、行手を阻む巨漢に銃口を向けている。

 

「さぁ……お前達。お前達が真に撃つべき者に、その銃口を向けるが良い。本当は分かっているのだろう? 殺さねばならない敵が、誰であるか。どこに居るのか」

 

 そんな彼らの方へと向き直った紅衛校は、敢えて重機関銃を下ろすと――まるで演説のように、高らかに声を張り上げた。

 兵士達にとっての抹殺対象である紅衛校自身が、真の敵を撃てと言い始めたのである。

 

 だが、彼の言葉を受けた兵士達が「何を馬鹿な」と一笑に付すことは――出来なかった。

 

「がッ……!?」

 

 明らかに紅衛校のものではない銃弾が、笑い飛ばそうとしていた兵士の喉を撃ち抜いてしまったのである。

 その際の銃声は間違いなく、国防軍の突撃銃が発したものであった。

 

 そう――増援の兵士達の1人が、突然仲間に銃を向けたのである。紅衛校の言葉に操られている、としか考えられないような動きだった。

 

「な、なんだッ!? 今の銃撃は……奴の機関銃じゃないぞッ!?」

「き、貴様、気でも狂ったか!? 敵はあっち――がぁああッ!」

「こっ、この裏切り者がぁあ!?」

「なっ……!? お、おい待てッ! 今のは俺では……ぐわぁあぁあッ!」

 

 そこから先はもはや、「自滅」に向かう一方となっていた。

 猛煙に紛れて仲間を撃った「裏切り者」を特定出来ないまま、疑心暗鬼に陥った兵士達は互いに銃を向け合い、同士討ちを始めてしまう。

 

 その現象は、すぐ近くで兵士達の混乱を目撃していた別の部隊にも起きていた。レッドホースマンも、自分を取り囲んでいる兵士達に挑発的な声を掛け始めたのである。

 

「ふふっ……よぉし、次はてめぇらを操ってやるよ。そら、あいつらを撃っちまいな。遠慮なんかいらねぇぜ?」

「な、なにィ……!?」

「ふざけるな、誰が貴様の言いなりになんか……ぐわぁあぁッ!?」

 

 レッドホースマンの言葉に反発する兵士達だったが、すぐに彼らもその背に仲間達の銃弾を受けてしまっていた。

 紅衛校と対峙していた増援部隊の混沌を目の当たりにしていた他の部隊が、「先手」を打とうとしたのである。それが「誤解」であることなど、知る由もないまま。

 

「あいつらも洗脳されたようだぞ! 撃たれる前に撃ち殺せぇえぇッ!」

「ち、違う! 俺達は操られてなど……ぎゃあぁあッ!」

「ちくしょう……! こうなったら、お前らから殺してやるッ!」

「あぐッ!? 奴ら、撃ち返して来やがった……やっぱり洗脳されてるんだ! やられる前に……やるしかねぇッ!」

 

 同じ国防軍の兵士達であるはずの彼らは、互いに憎しみ合い、銃を向け合っている。最初に同胞を撃った「裏切り者」の行方すら忘れ、彼らは見えるもの全てを敵と認識するようになっていた。

 

「いいぞ……実に賑やかだ。戦場とは常に、こうでなくてはな。この混沌、怒号、断末魔……実に良い。俺の空白に、充足を与えてくれる」

 

 そんな兵士達の混乱を遠巻きに眺めている紅衛校は、満足げな笑みを浮かべて夜空を仰いでいた。レッドホースマンも同様に、兵士達の同士討ちにほくそ笑んでいる。

 

 ――実際のところ。紅衛校にもレッドホースマンにも、他者を操る能力など無い。彼らはただ、ほんの少しの「出まかせ」で混乱を煽ったに過ぎないのである。

 これほど常識外れな怪物ばかりならば、洗脳能力の類も備わっているのではないか。そんな兵士達の不安に付け込んだ、ただのハッタリだったのだ。

 

 最初に兵士達の1人を撃ち、混乱のきっかけを作った「裏切り者」。それは兵士達の中に紛れていた、怪人側の伏兵だったのである。

 彼の発砲から始まった疑心暗鬼に乗じた紅衛校とレッドホースマンは、洗脳能力があるかのように装い、兵士達の「同士討ち」を誘っていたのだ。そして兵士達は、見事なまでにその術中に嵌まってしまったのである。

 

 それが怪人達の策略であることなど知る由もなく、彼らは次々と仲間の銃弾で倒れて行く。紅衛校の隣に立っている1人の怪人は、静かに腕を組んで「同士討ち」の様子を静観していた。

 

「……無様だな。実に無様だ」

 

 この男の「能力」こそが、国防軍兵士に扮していた「裏切り者」の正体だったのである。

 彼が自身の能力で作り出した「分身」が兵士達の中に紛れ込み、混乱の引き金を引いていたのだ。彼の意のままに動く分身が兵士達に向けて放った1発の銃弾が、この「同士討ち」の元凶だったのである。

 

「しかし……私の『能力』を随分と利用してくれたな、紅衛校。その若さで、油断ならない男だ」

 

 全身が漆黒で統一されたマネキンのような姿を持つ怪人――プラナリアンこと、波田水過(なみだすいか)

 分裂能力により無尽蔵に「分身」を作り出せる彼は、自身の能力を利用して大混乱を起こした紅衛校の手腕に嘆息しているようだった。

 

 そんな彼を一瞥する紅衛校は、「頼もしい戦友」の肩を気さくに叩き、重機関銃の再装填(リロード)を始めている。どうやら、先ほどの掃射で弾倉内の弾を撃ち尽くしていたらしい。

 

「礼を言うぞ、波田。おかげで俺も戦馬も、楽に奴らを扇動出来た。そろそろ弾を再装填(リロード)しなければならなかったからな……良い『暇』が出来たというものだ」

「それが清山様のご意志だからな。……私の『力』も命も、あのお方の大望を成就させるためだけに在る。私は所詮、それだけの存在。消耗品だ」

 

 ――1950年代から社会問題として顕在化していた、交通整備の不足に伴う事故の続出。「交通戦争」と呼ばれたその時代に生まれ合わせていた波田は、かつて交通事故で瀕死の重傷を負っていたことがある。

 

 その時に彼を改造手術で救ったのが、当時の徳川清山だったのだ。人として蘇ることは叶わなかったが、彼は命の恩人である清山に忠誠を誓い、自ら改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)に志願していた。

 それも全ては――改造人間の兵器としての有効性を全世界に発信し、浸透させるという清山の「大望」を成就させるため。彼はその野望を叶えるための「消耗品」として、戦場に身を投じているのだ。

 

「……これが本物の『戦争』、か。実に醜く、愚かな所業だ。弱き肉体にその魂を委ねているから、容易く闇に堕ちるのだよ……」

 

 自身が人間だった頃に味わったものとは違う、比喩ではない本物の「戦争」。その惨状を目の当たりにしている彼は、憐れみの色を帯びた声を漏らしていた。

 

 弱き肉体故の、弱き精神。その概念を体現したかのような兵士達の醜態は、彼の目にはより無様に映っているのだろう。

 

 




 本日を以て新怪人募集企画は終了となりました! 参加者の皆様、ご協力ありがとうございます! この特別編の物語はまだまだ続きますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第7話

◆今話の登場怪人

加藤都子(かとうみやこ)/ハイドラ・レディ
 羽柴柳司郎の妻であり、彼と生死を共にするために改造手術を受けた美女。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、ハイドラ・レディと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は24歳。
 ※原案はエイゼ先生。

◆アシュリー・フォール/アルコサソ
 とある国の変革運動で家族を失った孤児であり、男性離れした美貌の持ち主である「男の娘」。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、アルコサソと呼ばれる怪人として戦っている。スリーサイズはバスト71cm、ウエスト59cm、ヒップ73cm。当時の年齢は16歳。
 ※原案は俊泊先生。



 

 隊長格の男が逃走を始めたことで国防軍の指揮系統は大きく乱れ、退却命令を待たずして後退を始める兵士達が続出していた。この森全体が火に包まれている以上、すでに逃げ場など無いのだが、彼らはそれを知らぬまま自らの命を優先しようとしている。

 

 そんな彼らの前に立ち塞がったのは――和装に身を包んだ黒髪の美女。おかっぱに切り揃えたその小柄な女性は、澄んだ眼差しで兵士達を見つめていた。

 

「な、なんだこいつ……!」

「着物の女……!?」

 

 この場には似つかわしくない格好で現れた彼女を前に、国防軍の兵士達は警戒した様子で突撃銃を構えている。

 略奪や暴行に走ることなど珍しくもない普段の彼らなら、女と見るやすぐさま組み敷き、その和装を引き裂こうとしていたところだが。この状況に居合わせている女がまともであるとは思えない以上、油断は出来なかったのである。

 

 そして、その判断は的中していた。彼らにとって何よりも残酷なのは、それが正解だったとしてもどうにもならないことだろう。

 

「皆様、はじめまして。……そして、さようなら」

 

 鈴を転がすような声が響き渡る瞬間、女性は怪人としての姿に「変身」する。

 髪と肌が灰色に変色し、肌は蛇のような鱗状に変異して行く。おかっぱに切り揃えられていた髪は腰まで伸び、髪先は蛇の頭のようになっていた。

 

 羽柴柳司郎の妻にして、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー) の1人でもある加藤都子(かとうみやこ)こと、ハイドラ・レディ。

 

 その悍ましい変異後の「正体」を目の当たりにした兵士達は、自分達の予感が的中していたことを呪い、絶叫と共に突撃銃を乱射する。だが、堅牢な彼女の鱗は銃弾など一切通さない。

 

「柳司郎様と私達に銃を向けたからには……あの村を焼いたからには。あなた方にも、相応の覚悟がおありなのでしょう? 逃げられるとは……思わないことです」

「ば、化け物があぁあぁあッ!」

 

 警察官時代の頃から柳司郎に深い愛情を寄せ、共に地獄に堕ちることも厭わず改造手術に志願した彼女は、蛇の怪人として猛威を振るう。

 

 敵対者に柳司郎との関係を悟らせないため、敢えて旧姓を名乗り。柳司郎が背負う深き業を、僅かでも肩代わりするために。

 怪人と化してでも己の愛に殉ずると決めた彼女は、行手を阻む兵士達目掛けて蛇頭状の髪先を無数の鞭のようにしならせ、矢継ぎ早に伸ばして行く。

 

 その髪先全てが獰猛な牙を剥き、兵士達の喉元に噛み付いた瞬間。牙から注入された猛毒が、兵士達の肉体を内側から殺し尽くして行くのだった。

 

「あ、がが、がぁあっ……!」

「……化け物で結構。それでも柳司郎様は、私を愛して下さった。故に私も……あの方への愛に殉じるのです。この人ならざる命が、絶え果てるその日まで」

 

 恐怖に歪んだ表情を浮かべながら、崩れ落ちて行く兵士達。その骸を一瞥した後、次の「標的」へと目を向けた彼女は――再び無数の蛇頭を、容赦なく差し向けて行くのだった。

 

 ◆

 

 ハイドラ・レディとの遭遇から免れた他の兵士達は、猛火に飲まれつつある森の中を必死に駆け抜け、我先にと戦場から離れようとしていた。隊長格の男も居ない以上、ここに残っても死ぬだけだと判断したのである。

 

「くそッ、くそッ! なんなんだよあいつら、どうしてこんなことになっちまってんだよッ!」

「とにかく走れ! あんな化け物共の相手なんかしてられるかよォッ!」

 

 圧倒的な戦力差を目の当たりにした士気の低い部隊が、その愚行に走るのは火を見るよりも明らかだった。故に彼らの逃走先にも怪人達が待ち構えているのだが、そんなことは知る由もないのだろう。

 

「兵隊さん、助けてぇっ!」

「なっ……!?」

「子供!? なんでこんなところに……!」

 

 その時、木々の影から1人の子供が飛び出して来る。助けを求めて現れたその子供はうるうると涙ぐみ、身を屈めた姿勢で兵士達に泣き縋ろうとしていた。

 ――だが、間違いなくツジム村の生き残りではない。その子供の外観は、明らかにこの国出身の若者のそれではなかったのだ。

 

 膝まで伸びているローズピンクの髪。そのうち後ろ髪の殆どを、黒いリボンで1本の三つ編みにしつつ、残りを肩辺りで外跳ねにしている。左斜め前の一部の髪だけ、白のメッシュが入っており、頭の両サイドにも黒のリボンが結われていた。


 やや吊り目で、瞳の色はダークパープル。長めな八重歯が特徴の、ボーイッシュな美少女……のようにも見える、中性的な美少年だった。後の時代においては、「男の娘」と形容されることもある容貌だ。

 

 しかも、尻の形が浮き出る程のタイトなマイクロミニスカと、臍を露出している扇情的な女装姿。男すら惑わす美貌の持ち主ではあるようだが……どう見ても、まともではない。

 

「ひぐっ、うぅうっ……! ボ、ボク、家に帰る途中でお母さんとはぐれちゃって……いつの間にかこんなところに来ちゃってて、森は燃えてるし怖い怪物がいっぱい居るし……! 怖いよぉ! 兵隊さん、助けてよぉっ!」

 

 そんな()は自分も怪物達の被害者だと主張し、兵士達に保護を求めている。彼らに真っ当な善性があれば、例え見た目が奇抜であろうとも泣きじゃくる子供を見捨てたりはしない。

 

 だが、反政府ゲリラなど居ないことを承知の上で、ツジム村を躊躇なく焼き払えるような連中にその善性を期待出来るはずもなく。彼らは少年を「胸が小さな少女」と誤認したまま鬱陶しげに手を振り、少年の傍らを素通りしようとする。

 

「……ちっ、おいメスガキ! 俺達だって死にたくねぇんだ、撃ち殺されたくなきゃさっさと退けっ!」

「おい、こいつもしかしたらあいつらの仲間なんじゃねぇか!? はぐれたガキにしちゃあ、妙な格好だしよぉ!」

「そ、そんなぁ……! 兵隊さん、助けてくれないのぉ!? ボク何でもするよぉ、靴磨きでも何でもするから、置いて行かないでよぉお!」

「うるせぇクソガキがッ! 退けって……言ってんだろうがッ!」

「あっ……!」

 

 そんな彼らの袖を掴み、引き留めようとした少年の眉間に――突撃銃の弾丸を撃ち込み。兵士達は何事もなかったかのように、倒れた少年を一瞥もせず、その場から走り去ろうとする。

 

「……あ〜あ、残念。対応次第じゃあ、君達だけでも助けてあげようと思ってたのに」

「な、なにっ……!?」

「馬鹿な、確かに眉間に1発……!」

 

 その撃ち殺したはずの少年が、冷酷な声色で静かに呟いたのは、それなら間も無くのことだった。

 

 思わず兵士達が振り返った頃には――そのうちの1人が、首を切り裂かれていた。少年の右手はいつの間にか、鋭い爪を持つ「怪人」のものに変異していたのである。

 その右手から徐々に「変異」が広がって行き、やがて彼の怪人としての正体が露わになって行く。

 

「あ、が……!」

「無垢な子供にまで銃を向けるような連中なら……遠慮は要らないよねぇ? 柳司郎さん」

 

 鮮血を浴びながら、静かに立ち上がった少年――アシュリー・フォールがその言葉を紡いだ頃には。すでにその姿は、アルコサソと呼ばれる怪人のものと成り果てていた。

 先ほどまでは身を屈めていたため、かなり小柄な体格のように見えていたが――怪人に変身しながら背筋を伸ばして立ち上がっている今は、164cmほどはあることが分かる。

 

 アシュリー自身の体格に沿ったボディラインを持つその姿は、柳司郎が変身している羽々斬と同じく、後の時代に現れる「仮面ライダー」と呼ばれる者達に通ずる意匠が見受けられる。

 だが、外骨格の関節各部の筋繊維が剥き出しになっている点やそのディテールは、仮面ライダーに通ずる姿と呼ぶにはあまりにも禍々しいものとなっていた。

 


 臀部上部中央辺りからは蠍の尾を想起させつつも、先端部がラッパ状になっている尻尾が伸びており、その尾はベルトのように腰に巻き付けられている。


 顎部(クラッシャー)は獰猛な野獣を彷彿させる牙が備わっており、後頭部下方にまで外反りが設けられている。そこからは蠍の尾のようなローズピンクの触手が1本だけ、膝まで垂らされていた。

 

 白く優美なマントを羽織っているその姿は、綺麗な外観に殺意を隠した冷酷な狩人という、アシュリー・フォールの人物像を如実に物語っている。

 

「や、やっぱり奴らの仲間だったんじゃねぇかッ! ちくしょう、撃ち殺せぇッ!」

「……仲間さ。だけど、君達は上の命令に従っていただけだったっていう可能性にも賭けていたんだよ。その賭けは、どうやらボクの負けだったようだけど……ね」

 

 その異様な姿を目の当たりにした兵士達は、恐怖に飲まれながらも突撃銃を乱射する。アルコサソは白いマントを翻し、彼らの銃口から放たれる弾雨をその1枚で軽やかに凌いでいた。

 

 後頭部下方の触手先端に備わっている毒針が、兵士達の1人に突き刺さったのはその直後だった。強烈な神経毒によって一瞬のうちに倒れ伏した兵士は、そのまま痙攣するばかりとなっている。

 

 臀部上方の尻尾先端に付いたラッパ状の部分は音波兵器の役割を持っており、腰に巻いた状態から解かれたその兵器は、最大出力の衝撃波で周囲の敵兵達を吹き飛ばしてしまうのだった。

 

「ひ、ぃ……!」

「ば……化け物め……!」

 

 それでも生存していた者達は、腰を抜かしながらも必死に引き金を引き続けている。

 だが、彼らを冷たく見下ろしながら歩みを進めるアルコサソは――腰のベルト状になっている部位のバックル部分から、長い馬上槍を引き抜いていた。

 

 それが、1人も逃さないという意思表示であることは明らかだった。

 

「や、やめっ、助けッ――あがッ!」

「今の1発で、ボクもよく学んだよ。……君達を、もう人間だとは思わない。ボクらと同じ、いやそれ以上の怪物と見做して……相応しい『末路』を与えてあげる」

 

 彼は突撃銃の弾丸を弾きながらゆっくりと距離を詰め、1人ずつ念入りに、その顔面に槍の切っ先を突き立てて行く。罪無き命を軽んじる者達を、尊重する価値などないのだと言わんばかりに。

 

 ――中欧に位置する、とある連邦国家。そこで生まれ育ったアシュリー・フォールが全てを失ったのは、1960年代に母国で起こった変革運動と、それに伴うソビエト連邦軍の軍事介入だった。

 彼もまた、冷戦というこの時代に運命を狂わされた1人だったのである。身寄りを失った彼が独りで生きて行くためには、その美貌を活かして行くしかなかった。

 

 徳川清山と羽柴柳司郎に出会い、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として生きる道を選んだ彼は、怪人アルコサソという冷酷な殺戮者に堕ちるしかなかったのである。

 例えいつか、この殺戮に対する報いを受ける日が来るのだとしても。せめてその時までは、両親の分まで生き抜くために。

 

「……つくづく嫌になるね。ボクら以上に、怪物染みてる奴らを見るのは」

 

 断末魔が終わり、自分の周囲が静かになった頃。殺戮を終えたアルコサソは夜空を仰ぎ、力無くそう呟いていた。

 自分という存在に終わりが訪れるのは、一体いつになるのだろうか――と。

 




 怪人達の多くには当時の時代背景に纏わるバックボーンを設定するようにしているのですが、その過程で近代史を振り返ってみて初めて知った事件とかも結構あったりして、これがなかなか楽しかったりするのです(*^ω^*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第8話

◆今話の登場怪人

間柴健斗(ましばけんと)/Datty
 横須賀で生まれ育った元プロボクサーであり、アメリカ軍兵士を父に持つハーフの巨漢。現在は徳川清山が運営する傭兵会社に所属しており、Dattyと呼ばれる怪人として戦っている。当時の年齢は30歳。
 ※原案はサンシタ先生。

LEP(ロード・エグザム・プログラム)/仮面ライダーRC
 兵員輸送車に内蔵された大型のスーパーコンピューターから制御されている、有線操作式のロボット怪人。現在は徳川清山が運営する傭兵会社で運用されており、仮面ライダーRCと呼ばれる怪人として戦っている。
 ※原案は秋赤音の空先生。



 

 怪人達の手によって繰り広げられている、非力な愚者達に対する制裁という名の殺戮。その惨劇に悲鳴を上げる兵士達の断末魔も、徐々に少なくなって来ていた。

 

 ハイドラ・レディやアルコサソとの交戦を免れた兵士達も、結局は他の怪人と遭遇し、無惨な最期を遂げる運命にあるのだ。その運命から逃げられる者など、1人もいない。

 

「ぐぎゃ、ぁッ!」

 

 真紅の堅牢な装甲で全身を固めている怪人に、頭を掴まれてしまった兵士も。まるでトマトのように、ぐちゃりと頭部を握り潰されていた。

 

 鮮やかな蒼色のまだら模様が浮かんでいる両腕は逞しく肥大化しており、怪人の握力の凄まじさを物語っている。「仮面ライダー」を想起させる青い複眼を持つその怪人は、慄く他の兵士達にその凶眼を向けていた。

 

「……おいおい、張り合いがねぇなァ? そんなことじゃあ、俺の身体には傷一つ付けられねぇぜ?」

 

 ――Dual ability transplant test body、通称「Datty」。それが「二重能力移植試験体」という意味を持つ、この怪人の名であった。

 そのコードネームを背負う間柴健斗(ましばけんと)は、怯える兵士達を嘲笑うような声を上げている。褐色の肌と、短く刈り上げた黒髪を持つ巨漢は、その本来の姿をこの外骨格の下に隠していた。

 

 モンハナシャコのパンチ力とタスマニアキングクラブの握力を移植したこの怪人は、柳司郎をはじめとする怪人達の中でも屈指の格闘能力を持っている。

 当然ながら、接近を許した生身の兵士達に勝ち目などあるはずもない。

 

「ひ、ひぃいッ……!」

「くそッ、奴と正面から対峙するな! 遮蔽物から隙を窺えッ!」

 

 それでも残った兵士達は、この地獄からの生還を諦めてはいなかった。彼らは牽制射撃を続けながら、大型戦車の陰へと逃げ込んで行く。

 ケルノソウルの火炎放射によって内側から蒸し焼きにされ、今は無人となっている大型戦車。事実上の「残骸」とはいえ原型はそのままであり、装甲も健在。怪人の攻撃を凌ぐ遮蔽物としては有効と判断したのだろう。

 

「くっ、はははは……! それで安全な場所に逃げ込めたつもりかァ? いいぜぇ、だったら冥土の土産に面白えモン見せてやるよ」

「な、なにッ……!?」

 

 だが、Dattyはそんな彼らの懸命な「判断」さえ嘲笑している。彼がその肥大化した右腕を構えたのは、それから間も無くのことだった。

 

「そぉお……るぁあぁあッ!」

 

 勢いよく振り抜かれた、改造人間の剛拳。その圧倒的なパワーで繰り出されたアッパーが、大型戦車の巨大な車体を浮き上がらせてしまったのである。

 

 そして浮き上がった車体は、後方に向かって大きく弧を描き――転覆しようとしていた。

 

「せ、戦車が、浮いッ……!?」

「うぁ、ぎゃあぁああーッ!」

 

 あまりにも凄まじいその威力に、呆然としていた兵士達。

 彼らはその動揺故に逃げ遅れてしまい――そのまま転覆した戦車の「下敷き」にされてしまうのだった。

 

 ひっくり返った戦車の底から、血の池が広がっている。その様子を一瞥したDattyは、満足げに鼻を鳴らしていた。

 

「あー……スッとしたぜぇ。ゲス共には似合いの墓標だろう? ……なぁ? 大将」

「ひっ……!? ぎ、ぎいやぁぁあっ!」

 

 陽炎の中で妖しい輝きを放つ、Dattyの青い複眼。その大きな双眸は、すでに隊長格の男を捕捉していた。

 Dattyと視線が交わってしまった隊長格の男は、恥も外聞もなくこの場から逃げ去って行く。その先に居る者を知っているDattyは、敢えて追うことなく彼の背中を見送っていた。

 

「……チッ、最後の最後まで情けねぇ野郎だ。弱い奴ってのは、これだから嫌いなんだよ」

 

 彼は忌々しげな声色で、隊長格の「醜態」に舌打ちしていた。その脳裏には、これまで彼が叩きのめして来た「群れるしか能のない弱者達」の醜い姿が過ぎっている。

 

 ――戦後、横須賀で生まれ育った間柴には父親が居なかった。進駐軍に所属していたアメリカ軍兵士であることしか分からず、彼は実の父親の顔すら知らないまま、母親と2人で生きて来た。

 貧しい暮らし、肌の色。そんな理由で迫害を受けていた彼は、母親が病死するまでひたすら喧嘩に明け暮れていた。

 

 そして天涯孤独となった彼はやがてボクシングの道に進み、プロボクサーとして活躍するようになったのである。

 だが、日本人初のヘビー級世界王者という快挙に届く直前――多くの対戦相手から恨みを買っていた彼は闇討ちに遭い、ボクシングが出来ない身体にされてしまったのだ。

 

 群れるしか能のない、醜悪な弱者達。間柴はそんな連中に、栄光の未来まで奪われたのである。そんな彼の前に現れたのが、徳川清山だったのだ。

 彼の手で改造人間として蘇った彼はもう、プロボクサーとしての表舞台に戻ることはなかったが。「醜悪な弱者達」に然るべき「報い」を受けさせた彼は、悔いることなく改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)の道に身を投じたのである。

 

 上等な料理、酒、女。それらを求める快楽至上主義者にとっては、人間としての尊厳など軽いものだったのである。

 

 どんな生き方であろうと、自分らしく最後まで生きる。それが間柴健斗の生き様であり、死に様なのだから。

 

 ◆

 

「ひぃ、ひぃっ……! どういうことなのですか、ザン大佐……! あの村ごと奴らを砲撃すれば、皆殺しに出来るのではなかったのですかっ……!」

 

 アッパーカットで大型戦車を転覆させた、Dattyの凄まじいパンチ力。その一撃を目の当たりにした隊長格の男は、青ざめた顔で遠くを見据え、ただひたすら走り続けていた。

 自分達に砲撃を命じた上官が、すでに柳司郎の手で討伐されていることも知らずに。彼は必死に胸元の無線機で、ザンと連絡を取ろうとしている。

 

 そんな中、彼の目にあるものが飛び込んで来た。身に覚えのない兵員輸送車が無造作に残置されていたのである。

 

「兵員輸送車……!? 無人のようだが……我が軍の車両ではないな、奴らのものか!? しめた、この輸送車を奪えば奴らの追撃からも逃れられる!」

 

 かつてアメリカ軍で運用されていた、M59装甲兵員輸送車。国防軍では採用されていないその車両が、柳司郎達が所有しているものであることは明白だった。

 幸いにも、この車両から人の気配は感じられない。これを奪えば、炎の海を抜けて戦場から離脱することも出来るはず。

 

「死んでたまるものか、死んでたまるものかッ! 私は何としても、絶対に生き延び――!?」

 

 隊長格の男はその可能性に賭け、藁にも縋る思いで運転席に駆け寄ろうとする。

 だが、その時――突如として車体後部のハッチが開かれ、そこから1人の怪人が現れたのだった。予期せぬところから姿を見せた伏兵に、隊長格の男は声にならない悲鳴を上げる。

 

 別の世界において、「仮面ライダー1号」と呼ばれている始まりの戦士。その外見に酷似しつつも、無機質な鈍色で統一されている機械的なボディ。

 その全身の各部から生えている無数のコードは、ハッチの奥に設けられている巨大なコンピューターに繋がれていた。

 

 そんな外観を持つ「仮面ライダーRC」は、この兵員輸送車の中から静かに外敵を待ち構えていたのだ。

 2年前、徳川清山が旧ナチスの地下基地で発掘した、「古代超文明のオーパーツ」を中枢に組み込んで開発した自律機動システム「LEP(ロード・エグザム・プログラム)」。その頭脳部に当たる大型のスーパーコンピューターが、この兵員輸送車に搭載されている。

 

 仮面ライダーRCは、そのLEPが自己防衛用として操作している人型の外部端末(ロボット)なのである。

 大型故にLEPのスーパーコンピューターは、輸送車に積まなければ動くことが出来ない。そしてコンピューターであるが故に、そのままでは外敵に抗する術がない。

 

 その問題をクリアするために生み出された鋼鉄の番人が今、隊長格の男の前に現れているのだ。

 

「……ヴヴ、ア、ァ……」

「ひ、ひひぃっ!? 奴らの仲間か!? ええい、そこを退けッ! 私は何としても、ここから生き延びるのだァァアッ!」

 

 隊長格の男は無我夢中で突撃銃を連射するが、濁った機械音声を発しているRCのボディには傷一つ付かない。

 その弾薬が尽きるや否や、副兵装(サイドアーム)自動拳銃(オートマチック)をホルスターから引き抜き発砲するも、やはり通じる気配はなかった。

 

 怪人達の中でも特に優れた防御力を持っているRCの装甲は、戦車の砲撃にも耐え得るのだ。歩兵の携行火器など、通じるはずがないのである。

 

「ダ、ダメだ……やはり銃が通じていないッ! に、逃げねば……少しでも遠くに逃げねばぁッ!」

 

 やがて自動拳銃の弾も尽き、隊長格の男は踵を返して真逆の方向へと逃げ出して行く。だが、RCは彼を追おうとはしなかった。

 

「……ん!? 奴が、追って来ない……!?」

 

 否、追えなかったのである。LEPを積んだ兵員輸送車から有線コードで繋がれているRCは、そのコードの長さよりも遠い場所には行けないという欠点があるのだ。

 

 動き自体が鈍重なこともあり、RCは隊長格の男に手を伸ばすのが精一杯となっていた。そんな彼の弱点を思わぬ場面で発見した隊長格の男は、恐怖から解放されたように頬を緩ませる。

 

「まさか、奴の背部に接続されているのは制御コード……なのか!? ははっ、脅かしおって! ならばコードの長さまでしか動けん木偶の坊ではないか! はははははっ!」

 

 有線コードの長さが移動範囲の限界であるなら、それより遠くに離れてしまえば何も出来ない。そんなRCを嘲笑う男の声が、この戦場の夜空に反響していた。

 

 それが致命的な「油断」であることにも、気付かないまま。

 

「ほう? 俺のところまで戻って来るとは、なかなか肝の据わった野郎じゃねぇか。見直したぜ」

「はっ……!?」

 

 気付いた時には、すでに隊長格の男は――背後に立っていたDattyに、後ろ襟を摘み上げられていたのである。

 

 そう、この男はRCから逃れようとするあまり、自らDattyの方に近付いてしまっていたのだ。抵抗する暇もなく宙に浮いてしまった男の脚は、地面に着くことすら叶わなくなっていた。

 

「うぉあぁあッ!? は、離せッ! 離さんかァァッ!」

「そう騒ぐなって、すぐに離してやるさ。……アイツの前に、な」

「ひ、ひぃぃいッ……!」

「お前のガッツを見込んで、第2ラウンドを用意してやろうってんだ。感謝しろよ?」

 

 必死に手足を振り、身体を揺らし、後ろ襟を摘んでいるDattyの手から逃れようとする。だが、兵士の頭を容易く握り潰し、戦車をパンチ1発でひっくり返してしまうDattyの腕力から逃れる術などない。

 

「や、やめろ、私の前にアイツを寄せるなぁあぁぁーッ! 離せ離せ、離してくれぇえーッ!」

「だったら勝てば良いんだよ。何としても生き延びるんだろ? せいぜい頑張りな、大将」

 

 少しずつ近付いて来る、「処刑」までの時間を楽しむかのように。Dattyは敢えてゆっくりと、摘み上げた男の身体をRCの前へと運んでいた。

 

「ヴァ、ァァア……!」

「ひっ、ひぎゃあぁあッ! や、やめろ、やめろやめろ、やめろぉおぉおぉーッ!」

 

 そして、Dattyが後ろ襟から指を離した途端。隊長格の男は、RCの眼前に降ろされてしまうのだった。

 RCの複眼が妖しい輝きを放ち、隊長格の男を冷酷に見据えている。その絶望的な光景が、男の正気を奪い去っていた。

 

「わ、私は……私は絶対に生き延びるんだァッ! ……野郎ォォオッ! ブッ殺してやァァァァアるッ!」

 

 改造人間に敵うはずがないという彼の理性が、生存本能に押し退けられたのか。

 男は半狂乱になりながら、胸元の鞘から引き抜いたコンバットナイフを、RCの額に突き立てていた。錯乱の末に振るわれたその刃は、RCの仮面に触れた途端、無慈悲に砕け散ってしまう。

 

「あ、あぁ、あぁあ……!」

 

 狂気に堕ちる暇すらなく、隊長格の男は最後の武器まで失ってしまったのだ。

 その光景に彼が絶望した頃には――すでに鈍色の怪人は手刀を振り上げ、「処刑」の体勢に入っていた。ナイフを失い、腰を抜かしてしまった男には、もはや抗する術はない。

 

 然るべき「報い」を受ける瞬間が、ついに訪れたのだ。

 

「ラ、イダ、ァー……チョッ、プ!」

「ひぎゃああぁあ――ぁぎゃッ!」

 

 RCが放つ手刀の一閃が、男の顔面を真っ二つに潰し。断末魔と共に、血飛沫が上がる。

 

 その鮮血が天を衝く時――この戦いもようやく、終幕を迎えるのだ。

 




 兵員輸送車にコードで繋がれた仮面ライダー、っていうコンセプトがすでにパワーワード過ぎる。秋赤音の空先生の発想には脱帽でございます(゚ω゚)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第9話

 

 怪人達による蹂躙、虐殺。赦しを乞う暇もなく踏み躙られ、掻き消されていく兵士達の命。

 その断末魔が一つ残らず絶え果て、戦車隊の残骸が朝陽の輝きを浴びる頃。

 

 人間としての最後の尊厳も、誇りも捨てた怪人達は――焼け焦げた森の中で。眩いばかりの陽光を浴びていた。

 

「片付いたようだな」

 

 そこへ、改進刀を携えた羽々斬――羽柴柳司郎も現れる。後光の如くその背に朝陽を浴びて、この場に歩み出た黄金の戦鬼は、その手でザンの首を掴んでいた。

 

 この世の苦痛を味わい尽くしたかのような、筆舌に尽くし難い苦悶の形相。そんな表情のまま絶命しているザンの姿が、国防軍の「過ち」を象徴しているかのようだった。柳司郎は変身を解くと、その首を粉々に踏み潰してしまう。

 

「……これでもう、この国からの出資は得られんな。俺達はまた一つ、居場所を失ったということだ」

「元より人ではない俺達に、安住の地などあり得んさ。……国防軍に粗末なデータを売るくらいだ。恐らくは清山も、『潮時』と判断していたのだろうな」

「……そうだな。俺達は改造人間。人であって、人ではない。人間同士のルールに拘る意味も、必要もない。国防軍との契約自体が非公式のものである以上、向こうもこの件を表沙汰には出来んしな」

 

 先ほどまで、「異形の怪人」として暴虐の限りを尽くしていた傭兵達。彼らの多くはすでに「変身」を解き、柳司郎と同じ野戦服に袖を通した人間の姿に「擬態」していた。

 

 彼らの足元に広がる血の海は、この地で起きた殺戮の苛烈さを如実に物語っている。原型を留めている遺体など、一つも無い。

 

「清山は一足早く国境線を抜けたそうだ。俺達も急ぐぞ。今に国防軍の増援が押し寄せて来る」

「全く……相変わらず、せっかちな男だ」

 

 そんな仲間達は、多くを語ることなく。間霧が鹵獲したティーガーIに乗り込んだ柳司郎や、LEPを搭載した兵員輸送車と共に、この場を後にして行く。

 国防軍に牙を剥く結果となった以上、これ以上この国に留まることは出来ない。

 

 彼らはこれまでも、そしてこれからも。安息の地を持たぬ改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として、世界中を転戦して行くこととなるのだ。

 

 決して楽には死ねない身体で。それでもいつかは必ず訪れる、死の瞬間まで。

 

「……この決着は、気に食わんか?」

「あぁ……奴らは死んだが、勝ったのは俺達ではない。もし、この戦闘に勝者が居るとすれば……それは、俺達を駆り立てたツジム村の住民達だ」

「そうだな……そうかも知れん」

 

 昨夜の死闘が嘘のような、穏やかな朝。

 その陽射しの中を仲間達が進み出して行く中、都子の肩を抱いていた柳司郎は一度だけハッチから身を乗り出すと――少女達が眠る、ツジム村の跡地を一瞥する。そんな彼の胸中を、山城が慮っていた。

 

 生身の人間は、いとも容易く、死ぬ。たった1発の銃弾でも、それ以下の攻撃でも、簡単に死んでしまう。そしてそれは、兵士ですら例外ではない。

 それほどまでに人の身とは脆く、それ故にゲリラ如きを恐れ。徳川清山が売り込んだ改造人間の威力に縋り、どこまでも狂気に堕ちて行った。

 

 健全な精神は健全な肉体に宿る、という古い言葉がある。それは裏を返せば、肉体が惰弱ならば精神もそれ相応の域にしか届かない、ということでもあるのだろう。

 人間は弱い。弱いからこそ歪な力にも縋り、自ら闇に堕ちてしまう。ならばその惰弱な肉体を捨てねば、人は真に強き精神を得られないのではないか。

 

 ――このような惨劇を起こしてまで、粗悪な力に縋るような愚者を、この先も生み出してしまうのではないか。

 生前の村人達が自分達に見せた、屈託のない笑顔を思い返す度に。柳司郎は独り、その歪んだ思想を先鋭化させ、より深化させて行く。

 

「……この国を出たら、清山に提案してみるか」

「提案……? 何をだ」

「奴が計画していた、この会社を原型とする新組織の名だ」

 

 やがて、柳司郎がぽつりと呟いたその一言に反応した戦馬が、何事かと小首を傾げる。その時の彼は、決意に満ちた表情を浮かべていた。

 

亡霊(シェード)。安住の地など無く、彷徨うことしか出来ない俺達にはよく似合う名となろう」

 

 ◆

 

 ――それ以降、約30年間に渡り。徳川清山は柳司郎達と共に世界各地を転戦する中で、自らが運営する傭兵会社の経営を続けながら、蓄積された実戦データを基に改造人間の技術をより高度に発展させていた。

 

 1991年のソビエト連邦崩壊により冷戦は終結を迎えたが、紛争が相次ぐ世界はさらに平和から遠退き、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)が必要とされる場が絶えることはなかった。

 

 やがて2000年代に入り、時代が「対テロ戦争」に有効な兵器を望むようになると。徳川清山はそのビジネスチャンスに乗じて、さらに事業を拡大。

 対テロ作戦に特化した新型の改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)を各紛争地に投入し、その成果と利権を我がものとした。

 

 そして、その莫大な収益を原資に。かつての傭兵会社を前身とする、対テロ組織――「シェード」が誕生するのだった。

 首領の徳川清山と実戦リーダーの羽柴柳司郎を含めた17名の創設メンバー達は、総じて「始祖怪人」、あるいは「No.0シリーズ」と呼ばれ、世界各地の紛争地帯で劇的な戦果を上げたのである。

 

 だが、その栄華も長くは続かなかった。

 組織の実力が証明されてから間も無く、改造人間に関する非人道的な研究の数々が――当時の特捜部を率いていた番場惣太(ばんばそうた)によって、白日の下に晒されてしまったのだ。

 

 それ以前からも、改造手術の実態に迫る情報が出回ることは何度もあった。が、清山の技術は当時の科学の範疇を遥かに逸脱したものであったため、その荒唐無稽さ故に長らくの間、ゴシップ誌にしか載らないUMAの類としか扱われてこなかった。

 

 しかし21世紀初頭から飛躍的に発展した情報社会が、その「誤魔化し」を許さなかったのである。かつてはオーパーツだった概念に時代の理解が追い付いたことで、その概念に「正当な評価」が下されたのだ。

 

 正義の対テロ組織から一転、悪の秘密結社とされてしまったシェードはほどなくして解体。最高責任者の清山は投獄され、政府の追手を退けた柳司郎達も地下に潜ることを余儀なくされた。

 

 その状況に一石を投じたのが、2009年に起きた織田大道(おだだいどう)によるテレビ局占拠事件だったのである。

 織田のテロを呼び水に、世界各地に潜伏していた元シェードの怪人達は続々と蜂起。柳司郎を筆頭とする始祖怪人の面々も、その急先鋒となっていた。

 

 だが、元構成員のNo.5こと「仮面ライダーG」の活躍により、怪人達は次から次へと斃されて行き――彼とほとんど遭遇することがなかった柳司郎を除く始祖怪人達も、戦いの中で敗れ去ってしまうのだった。

 

 そして清山の死後、2016年までただ独り生き残っていた柳司郎も。「仮面ライダーAP」こと南雲(なぐも)サダトとの一騎打ちに敗れ、命を落とし。彼の死を以て、シェードは完全に壊滅した。

 

 ――かに、見えた。

 

 戦いはまだ、終わってはいなかったのである。

 

 シェードの壊滅後。中途半端な能力しか発現せず、社会の庇護下からも零れ落ちた改造被験者達の自助組織は、終わらない迫害に抗うため「ノバシェード」を創設し、人類に反旗を翻していたのだ。

 かつてのザンのような「粗悪な改造人間」が、再び人々に牙を剥いていたのである。

 

 だが、2019年――その首領格だった明智天峯(あけちてんほう)上杉蛮児(うえすぎばんじ)武田禍継(たけだまがつぐ)の3人は、「ライダーマンG」こと番場遥花(ばんばはるか)を筆頭とする新世代ライダー達に敗北。組織の勢いは急速に衰え、シェードと同じ滅びへの道を歩んでいた。

 

 世界各国の軍部や警察組織のみならず、巨大企業「筬夢志(おさむし)重工」をはじめとする企業群のバックアップも得ている彼らと、民兵集団に過ぎないノバシェードでは勝負になるはずもない。

 本来ならば、そのままノバシェードとの戦いは、新世代ライダー達の圧勝に終わっていたのだろう。

 

 だがその時、「不思議なこと」が起きてしまったのだ。

 

 2021年。シェードが壊滅して久しく、その爪痕から生まれたノバシェードも滅亡に瀕していたこの時。

 かつて仮面ライダーGに敗れた始祖怪人達が、「仮死状態」から一斉に目覚めてしまったのである。徳川清山も羽柴柳司郎も死んだというのに、彼らは未だに死に切れずにいたのだ。

 

 傭兵として世界を巡った昭和の時代を生き延び、平成の世で怪人としての死を迎えたはずの彼らは、期せずして令和の現代に蘇っていた。

 そんな彼らに待ち受けていたのは、清山達の死とシェードの壊滅、そしてザンの再来たるノバシェードの存在という無惨な現実であった。目覚めた時からすでに彼らは、全てを失っていたのである。

 

 それ故に。彼らに残された道は、「怪人としての死に様」のみであった。

 蘇ったからといって、この期に及んで人として生きる道など、彼らの中には最初から存在し得ないのである。

 

 ノバシェードに参加した彼らは天峯達に代わる新たなリーダーとして台頭し、戦闘員達の強化を図り、組織の立て直しを目指した。それまで優位に立ち回っていた新世代ライダー達の快進撃が止まったのは、それが原因だったのである。

 

 だが、元が粗悪な改造人間ではいくら訓練を付けたところで、いずれ限界が来てしまう。戦闘員達の強化は新世代ライダー達を多少は苦戦させたが、その程度が関の山であった。

 

 やはり怪人は、仮面ライダーに倒される宿命にあるのか。自分達はどこまでも、亡霊(シェード)に過ぎないというのか。

 それならば、その末路に相応しい舞台を用意せねばなるまい。

 

 その決心に至った始祖怪人達は、ノバシェード最後の刺客として。旧シェードの残影たる始祖怪人として。

 この令和を守る新世代ライダー達に対する、最期の挑戦状を叩き付ける決意を固めたのだった。

 

 ――そして。

 

 その舞台は、全ての始まりとなった場所。かつて織田大道が襲撃した、某テレビ局であった。

 




 始祖怪人のコンセプトは「この世界にとってのデルザー軍団」でございました。……が、内ゲバが日常的だった彼らとは違って始祖怪人の面々は付き合いの長いズッ友同士なので、彼らと対峙する者達は内ゲバには期待出来ないでしょう(ノД`)

 ここからは「タイプγと始祖の怪人」で仄めかされていた通り、始祖怪人VS新世代ライダーという構図で物語が動き出して行きます。初期プロットではこの辺でほぼ最終話手前くらいだったのですが、実際のところはもちっとだけ続きます。次回からは現代の2021年に舞台が移りますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第10話

◆今話の登場ライダー

芦屋隷(あしやれい)/仮面ライダーZEGUN(ゼガン)
 自身が装着しているZEGUNスーツをはじめ、多くのライダープロジェクトに関ってきた科学者である金髪碧眼の美男子。年齢は27歳。
 ※原案はヲタク大王先生。



 

 ――2021年10月7日の夜。

 東京都港区、番場(ばんば)邸。

 

 警視総監・番場惣太(ばんばそうた)の自宅であるこの豪邸では今日、新世代ライダーの1人である鳥海穹哉(とりうみくうや)巡査長の誕生日パーティーが催されていた。

 

 ノバシェードの壊滅がほぼ確定となったこともあり、世界各地に散っていた新世代ライダー達は今日のために久々に全員が帰国・集結し、束の間の休息を満喫していた――その時だったのである。

 

 「最後の戦い」が、幕を開けようとしていたのは。

 

「鳥海君、君宛に誕生日祝いのハガキが来ているぞ」

「え……? 変ですね、番場総監のご自宅でパーティーをするって話はライダーの皆しか知らないはずなのに……」

 

 先ほどこの邸宅に届いたという、自分宛のハガキを持って来た番場の言葉に、穹哉は小首を傾げる。主催者である番場を除けば、今日のパーティーのことを知っているのは同じ新世代ライダーの仲間達だけのはずなのだ。

 

「……ッ!? ノバシェード……!? ふざけやがってッ!」

「ノバシェードだと!? おい鳥海、ちょっと見せてみろッ!」

 

 その答えが明らかとなったのは、ハガキに記載されていた差出人の名を目にした瞬間であった。そこに記されていた名は、この番場邸に集まった全員を戦慄させるものだったのである。

 

 ――鳥海穹哉、誕生日おめでとう。今年こそ「紛い物」は殺す。ノバシェード所属、始祖怪人(オリジン)一同より。

 

 ハガキに書かれたその一文は、事実上の宣戦布告であった。ハガキを見に集まった新世代ライダー達は口々に声を上げ、剣呑な表情を浮かべている。

 

「始祖怪人……! 清音(きよね)さんが南米で言ってた例の奴らのことか……!?」

「なんでノバシェードが俺達のことを……!?」

「ご丁寧に住所まで書いてあるぞ!」

 

 そんな中。新世代ライダー達にとっての「おやっさん」でもある年長者の南義男(みなみよしお)警部は、始祖怪人達が送り付けて来たハガキに「住所」が明記されていることに気付いていた。

 

「……!? ちょっと待ってくれ、この住所ってまさか……!」

 

 罠の可能性を承知の上で、そこに記されていた住所を目にした忠義(チュウギ)・ウェルフリットが声を上げた瞬間――全員の無線機に緊急通報が飛び込んで来る。

 それは、「ノバシェードの武装集団が突如襲来し、テレビ局を占拠した」という衝撃の内容であった。リビングのテレビも、すでにその事態を中継し始めている。どうやら放送局に残っていた多くの職員達が、人質に取られてしまっているらしい。

 

 約12年前――旧シェードの織田大道達によって占拠され、「仮面ライダーG」が叛逆を起こすきっかけとなった始まりの地。

 そのテレビ局が再び、怪人達に襲われてしまったというのである。

 

 そして番場邸に届けられたハガキには、そのテレビ局の住所が記されていたのだ。始祖怪人達から届けられたこのハガキは、犯行の予告状だったのである。

 

「番場総監、これは……!」

「……どうやら彼らも、最後の決着を望んでいるようだな。いつまでも頼り切りで済まないが……もう一度だけ、人類の自由と平和のために戦って欲しい。警察官として、仮面ライダーとして」

 

 かつての「先輩」である羽柴柳司郎と同じ、徳川清山の手で生み出された原初の怪人達。彼らは今も、清山や柳司郎が目指した思想に殉じようとしているのだろう。

 その半世紀近くにも及ぶ長き因縁との決着を、最も信頼出来る部下達に託し――番場は警視総監として、最後の出動を命じる。

 

「無論です、それが俺達の仕事ですから。……よし、行くぞ皆ッ!」

「おうッ!」

 

 そんな彼の決意を汲み、穹哉は気合を入れるべく赤い鉢巻を巻いていた。そんな彼をはじめとする新世代ライダー達は互いに頷き合いながら、番場邸の地下に隠された広大なガレージに向かい始めて行く。

 変身機能を搭載したデバイスを持つ者はその場で変身し、装着式のスーツを持つ者は素早く装甲を身に付けながら、地下のガレージを目指して走る。

 

 そして、ガレージに繋がる巨大な自動ドアが、ゆっくりと左右に開かれた頃には――すでに新世代ライダー達は、ヒーローとしての姿に「変身」していた。

 ドアの先で「主人」を待ち侘びていた愛車に静かに歩み寄り、乗り込んだ彼らは。静かに――それでいて力強く、ハンドルを握り締め、エンジンを始動させる。

 

 やがて、彼らを地上に送り届けるための扉が開かれると――新世代ライダー達を乗せたマシンGチェイサーとマシンGドロンは一気に発進し、夜景に彩られた大都会の道路へと矢継ぎ早に飛び出して行くのだった。

 

 次々とガレージから発進し、現場に急行して行く新世代ライダー達。力強さに溢れたその背を見送る番場は、彼らの勇姿に愛娘の恩人――「仮面ライダーAP」の影を重ねていた。

 

「……昭和だろうが平成だろうが、令和だろうが。時代が望む時、『仮面ライダー』は必ず蘇る。そうだろう? 南雲君」

 

 番場遥花を含む改造被験者達を柳司郎の攻撃から救うため、最後の戦いに立ち上がった南雲サダト。

 新世代ライダー達の背に彼の面影を見出し、番場は独り拳を震わせるのだった。

 

 ◆

 

 始祖怪人、そしてノバシェードとの決着を付けるべく、闇夜のハイウェイを疾走する22人の新世代ライダー達。

 彼らを乗せたマシンGチェイサーとマシンGドロンは、常軌を逸した速度で「事件現場」のテレビ局を目指している。だが、彼らの行く道には他の車両が全く見当たらない。

 

 番場の迅速な指揮により、すでに彼らが通るハイウェイには厳重な交通規制が敷かれていたのだ。

 最短経路で現場を目指すライダー達の進路を切り拓き、超高速でハイウェイを駆け抜けて行く戦友達を見送る現場の警察官達。彼らは皆、その眼差しで彼らを鼓舞している。

 

 ――奴らに目に物見せてやれ、と言わんばかりに。

 

「……」

 

 そんな中――最後尾を走るGチェイサーに跨っていた、仮面ライダーZEGUN(ゼガン)こと芦屋隷(あしやれい)は。自身が手掛けたライダープロジェクトのスーツを纏う仲間達の背中を、神妙な眼差しで見つめている。

 

 彼の脳裏には――刑務所内で死刑執行を待つ日々を過ごしていた、明智天峯と交わした言葉が過っていた。

 生前(・・)の彼と頻繁に面会していた隷は、「仮面ライダー」と「怪人」としてではなく。同じ人間同士として、最期の時間を共有していたのだ。

 

 ――我々3人が装着していたあの外骨格は、本来ならば「APソルジャー」の発展型としてロールアウトされるはずのものだったのです。

 

 ――「APソルジャー」……仮面ライダーAPが誕生したきっかけでもある、旧シェードの残党が推進していたライダータイプの量産計画か。

 

 ――えぇ。その研究が行われていた施設はすでに壊滅していますが、まだあそこには多くのデータが残置されたままとなっています。

 

 ――そこにあるデータを回収すれば……君達が装着していたスーツの構造を解析し、僕達の装甲服にも応用出来る……と。だが、何故そんなことを僕に?

 

 ――私達は……少なくとも自分の中では、身も心も「怪人」になったつもりでいました。けれど、それでもあなた達は……最後まで、人として向き合ってくれた。

 

 ――それは……そうだろう。ただの人間なのだからな。僕達も、君達も。

 

 ――ありがとう、芦屋博士。

 

 天峯達の死刑が執行される前日に交わした、最期の遣り取り。その時の憑き物が落ちたような天峯の穏やかな声色は、彼らが世を去った今も隷の脳裏に深く焼き付いていた。

 

(明智天峯……君は、君達はやはり「人間」だったよ。僕達のような、正義のためとあらばどこまでも残酷になれる人間よりも、よほど「人間」だった)

 

 そして「遺言」通りに旧シェードの地下施設を調査した隷は、天峯達が使っていた外骨格の設計データを入手。

 その情報を解析した彼は、自身のZEGUNスーツを含む新世代ライダー達の装甲服へとデータを応用し、劇的なパワーアップを齎すことに成功したのである。

 

 生身の人間が運用出来る限界までスーツの性能を引き上げた今ならば、羽柴柳司郎と同格であるとされる始祖怪人が相手であろうと、決して引けを取ることはない。

 

 天峯達が「ただの人間」として隷達に託した想いが、力のみを追求する改造人間を超えた瞬間。人間は始祖怪人の主張を退け、脆弱な肉体と精神の克服を証明することが出来る。

 

(……逝ってしまった君達にはもう、見届けることは出来ないが。せめて僕らが君達に代わって、証明して見せるよ。脆弱な肉体だからこそ奮い立つ、人間の勇気というものを)

 

 その明暗を左右する結果が、この戦いの先にあるのだと信じて。隷は天峯達が遺した人間の意地に賭けて、勝利を誓い。Gチェイサーのハンドルを、固く握り締めるのだった。

 




 穹哉宛てに届いたハガキのくだりは、「仮面ライダーV3」の有名な年賀状ネタが元ネタですねー。また、新世代ライダー達の出動シーンは「仮面ライダーBLACK」のOP冒頭が元ネタでした。ゴルゴムの仕業だー!( ゚д゚)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第11話

◆今話の登場ライダー

久我峰美里(くがみねみさと)/仮面ライダーEX(エクリプス)
 幼い頃から正義の味方に憧れていた高潔な人物であり、警視庁の警部でもある男装の麗人。年齢は30歳。
 ※原案はマルク先生。

本田正信(ほんだまさのぶ)/仮面ライダーターボ
 元白バイ隊員であり、亡き先輩の仇を討つために「2代目」として装甲服を受け継いだ熱血巡査。年齢は33歳。
 ※原案はヒロアキ141先生。

上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)/仮面ライダーGNドライブ
 大富豪の御曹司でありながら、警視庁の刑事でもある優雅な好青年。年齢は28歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

水見鳥清音(みずみどりきよね)/仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)
 良家出身の「お嬢様」ながら、G-4スーツの装着実験で死亡した自衛官の友人の想いを背負い、装着者に志願した物静かな美女。年齢は25歳。
 ※原案は魚介(改)先生。

山口梶(やまぐちかじ)/マス・ライダー
 最も量産性を重視した試験機「マス・ライダー」のテスト装着者を務めている新人警察官。年齢は21歳。
 ※原案は秋赤音の空先生。



 

「あっ、ご、ご覧ください! 仮面ライダーです! 警視庁所属の仮面ライダー達が現場に到着した模様ですっ!」

 

 事件現場となった某テレビ局に到着した、22人の新世代ライダー達。上空を飛ぶ何機ものヘリやテレビ局周辺の報道陣が、その勇姿を生中継で実況していた。

 

 その様子をテレビやスマホ越しに見守る人々が、固唾を飲んで戦いの行方を見守る中。各々の愛車から颯爽と飛び降りた新世代ライダー達は、放送局入口前の庭園に素早く駆け込んで行く。

 

「居たぞ……奴らが始祖怪人か!」

「先行していた特殊部隊は……くそッ、もうやられているッ!」

 

 そこは「No.5」こと吾郎(ごろう)が初めて「仮面ライダーG」に変身し、シェードとの死闘を始めた場所だった。そこで待ち受けていた始祖怪人達は、ここは通さんと言わんばかりに身構えている。

 

 その足元に累々と横たわる、重傷を負った警察官達の姿が――ここで繰り広げられていた「蹂躙」の凄惨さを物語っていた。

 

「ぁ、うぅッ……! つ、強い……あまりにも、桁違いだッ……!」

「おい、しっかりしろ! もう大丈夫だ、ここから先は俺達に任せろ!」

「ば、番場総監の試作型を任されていた連中か……!? 気を付けろ、この怪人達の狙いはお前達だッ……! コイツら、局の職員達を人質にしてお前達をッ……!」

「……あぁ、分かってる。用があるのは、俺達も同じだからな」

 

 そこには、マス・ライダーのスーツを装着した精鋭部隊の姿もある。試作量産型とはいえ、「仮面ライダー」の鎧を纏った警察官でも始祖怪人には全く通用しなかったのだ。

 

 彼らの無念を汲んだ新世代ライダー達と、この場に居る数人の始祖怪人達が視線を交わす。すでに両者は、臨戦態勢となっていた。

 

「……来たなァ、仮面ライィダァー……。俺が食らい尽くしてやるぜ」

「ふん……始祖怪人、か。何十年も生きていながら、随分と品のない振る舞いだ。年を重ねれば良いというものではないな」

「ハッ! 怪人相手に品性を求めるとは、ナンセンスな野郎だ」

 

 始祖怪人の一角であるミサイルイナゴは、ライダー達を見つけるや否や「挨拶代わり」の小型ミサイルを連射する。その動きを捉えた芦屋隷(あしやれい)こと仮面ライダーZEGUN(ゼガン)は、ベルトの左側に装備された専用拳銃「ゼガンシューター」を即座に構え、ミサイルの全弾を容易く撃ち落としてしまった。

 

 両手持ち(ツーハンドホールド)で愛銃を構えているトリコロールカラーのライダーを前に、歴戦のイナゴ怪人は下卑た笑みを浮かべている。「本気」を出す前から、勝ちを確信しているかのように。

 そんな2人と同様に、他のライダーや怪人達も各々の「標的」に狙いを定め、殺気を露わにして睨み合っていた。

 

「よく来たねぇ、仮面ライダーの皆。ボクからのお祝い、喜んでくれたかな?」

「……あのハガキは君が書いたのか、アルコサソ。相変わらず、悪趣味なことばかり思い付く子だ!」

「あらあら、これでも君達よりはずぅっと長く生きてるんだけどなぁ〜? ねぇ、久我峰(くがみね)警部」

「外道がッ……!」

 

 マス・ライダーのスーツを装着し、新世代ライダー達よりも先に現場に到着するも、始祖怪人達の威力には手も足も出ず一蹴されてしまった、警視庁の精鋭部隊。

 彼らを見下ろしながら高らかに嗤うアルコサソに、仮面ライダーEX(エクリプス)こと久我峰美里(くがみねみさと)警部は怒りを露わにしている。

 

 ――仮面ライダーGに倒される前の始祖怪人達が、日本各地で猛威を奮っていた頃。

 アルコサソを追っていた美里は、彼の手で当時の同僚達を皆殺しにされていたのだ。47年前、ツジム村で彼に蹂躙された某国の兵士達のように。

 

 12年前の雪辱に燃える男装の麗人は、か弱い「男の娘」を演じていた宿敵との因縁に終止符を打つべく、静かに拳を構えている。そんな彼女の勇ましい姿すら、アルコサソは冷酷に嘲笑っていた。

 

「……お前達に近しい力を持ったマス・ライダーの連中は、すでに始末した。なのに、なぜ貴様らは臆さない。なぜ戦いを続けられるのだ……!」

「シェードの悪夢が続く限り……仮面ライダーは死なん。死んでいった先輩の分まで……俺は戦う。次は貴様が『報い』を受ける番だ、トライヘキサッ!」

 

 始祖怪人達を筆頭とする旧シェードの暴虐。その時代を知る本田正信(ほんだまさのぶ)こと仮面ライダーターボも、敬愛していた先輩の「仇」であるトライヘキサを前に闘志を燃やしていた。

 

「貴様……上福沢(かみふくざわ)財閥の御曹司か。数十年前、工業廃液に汚染された私の故郷を復興させたという……」

「環境無くして人類に未来はない。……当時の復興に尽力していた父の言葉だ。サザエオニヒメ……いや、福大園子(ふくだいそのこ)、君の『過去』はすでに調べがついている。今からでも、戦いを終わらせるつもりは本当にないのか?」

 

 一方、サザエオニヒメと対峙していた上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)こと仮面ライダーGNドライブは、彼女の「過去」を知るが故に投降を呼び掛けていた。

 

 だが、すでに引き返せないところにまで来ていた彼女が、今になってその勧告を受け入れることはない。サザエの怪人は右腕の螺旋(ドリル)を、静かにGNドライブに向けている。

 

「そうか……貴様も全てを知っているのだな、上福沢幸路。今度は貴様が『ケジメ』を付けに来た……ということか」

「……やはり、投降の意思はないのだな。ならば僕は刑事として、仮面ライダーとして、然るべき職務を遂行するのみだ!」

「それで良い。……私はあの人災が遺した悪夢そのもの! 未来を欲するのならばこの私を討ち、悪夢を祓って見せろ! 仮面ライダーッ!」

 

 自身の故郷を救った上福沢財閥。その御曹司である幸路ことGNドライブこそ、「サザエオニヒメ」を終わらせる「執行人」に相応しい。それが、福大園子の決意だった。

 そんな彼女の意思を汲み、GNドライブも悠然と身構える。長きに渡る因縁に、幕を下ろすために。

 

「ほう……どうやらようやく、人間共の『火力』も俺達に追い付いて来たようだな。俺がこれほど昂るのは、仮面ライダーGと戦った時以来だぞ」

「……戦うことでしか己の存在意義を実感出来ないとは、実に哀れですね。私達の手で、今度こそ終わらせてあげます」

「戦うことでしか……? それは違うな、仮面ライダー。俺という存在を証明してくれるのは……俺の手によって死ぬ、貴様らの『死』だけだ。貴様らの死が、断末魔が、俺の存在を肯定してくれる。この身体の内側を、満たしてくれる」

 

 浅黒く筋骨逞しい肉体を、野戦服の下から浮立たせている紅衛校。

 愛用の重機関銃を携えている彼は、水見鳥清音(みずみどりきよね)が装着している仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)の重装備を前に、感嘆の笑みを溢していた。

 

「ならば……満たされぬまま終わる苦しみを、無限に味わいなさい。暗く冷たい、牢獄の底で」

「……言ってくれる。俺好みの強気な女だ」

 

 一方、GX-05「ケルベロスランチャー」を構えているG-verⅥこと清音は、仮面の下で冷たい表情を浮かべている。

 怪人の自己満足になど付き合う気はない、という冷たい「拒絶」が、彼女の怜悧な貌に現れていた。

 

「残念ですが……タイプではありませんね」

 

 透き通るような白い柔肌。むっちりとした安産型の巨尻と、くびれた腰つき。推定Gカップの豊穣な乳房。老若男女を問わず、見る者全てを魅了する絶対的な美貌。

 

 そんな圧倒的なプロポーションを誇るクールビューティーは、その美しさと肉体を荘厳な外骨格で覆い隠したまま、鋭い目付きで獰猛な巨漢を睨み上げている。

 貴様の歪んだ力になど、屈しないと言わんばかりに。

 

「ヴァ……ァア、アッ……!」

「……俺に勝ち目なんて、万に一つも無いかも知れない。それでも……マス・ライダーの1人として、絶対に引くわけには行かないッ……!」

 

 放送局の入り口付近に停められている、兵員輸送車。

 濁った機械音声と共に、そこから現れた仮面ライダーRCと対峙しているのは――精鋭部隊のものと同じ、マス・ライダーの装甲服を纏っている山口梶(やまぐちかじ)巡査だった。

 

 精鋭部隊を拳一つで圧倒し、「格」の違いをマスコミに見せ付けたRCの尋常ならざる膂力は、彼もよく知っている。彼のスーツも隷の改造によってかなり強化されてはいるが、それでもRCとのパワー差は計り知れない。

 

 警視庁の中でも選りすぐりの警察官を集めて編成された、精鋭のマス・ライダー部隊。

 彼らでも全く歯が立たなかった相手に、若手警官のマス・ライダーがたった1人で挑むなど、無謀という言葉でも足りない愚行の極みでしかない。

 

 それでも、彼にはマス・ライダーの「テスト装着者」としての意地があるのだ。

 マス・ライダーの装甲服を纏った者達は皆、RCの拳で叩き伏せられてしまっている。だからこそ、そのRCをマス・ライダーの手で倒し、このスーツの存在意義を取り戻さねばならない。

 

「……お前で証明させてもらうぞ。俺達マス・ライダーは、紛い物なんかじゃないってことをッ!」

「ヴァァァアッ……!」

 

 精鋭部隊の無念を晴らすためにも、自分にテストを託した番場総監の期待に応えるためにも。

 例えどれほど無謀であろうとも、この強敵だけは誰の手も借りずに倒さねばならないのだ。山口梶という男の、意地に賭けて。

 




 昨年の募集企画で初登場した読者応募ライダー達が、1年振りに帰って来ました。作者としても懐かしい顔ぶれでございます。なお作中ではアレから2年経過している模様_(┐「ε:)_


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第12話

◆今話の登場ライダー

◆ズ・ガルバ・ジ/仮面ライダーN/G-1
 19年前に警察の手で殲滅されたとされる「グロンギ」の生き残りであり、芦屋隷の実験に協力することを条件に保護されている男。年齢は不詳。
 ※原案は八神優鬼先生。

天塚春幸(あまつかはるゆき)/仮面ライダー(ホノオ)
 3年目の若手警察官であり、警察学校時代から装甲服のテストに協力していた几帳面な青年。年齢は22歳。
 ※原案はピノンMk-2先生。

薬師寺沙耶(やくしじさや)/仮面ライダーヴェノーラ
 黒バイの幽霊隊員と呼ばれている一方で、潜入捜査官としての顔も持っていたグラマラスで妖艶な美女。年齢は27歳。
 ※原案は黒子猫先生。

日高栄治(ひだかえいじ)/パトライダー型式2010番type(タイプ)-000(オーズ)
 助け合いの精神を重んじる朗らかな新人警察官であり、お人好しな性格ではあるが戦闘力は非常に高い。年齢は23歳。
 ※原案はNynpeko先生。

熱海竜胆(あたみりんどう)/仮面ライダーイグザード
 警視庁の警部であり、愛する妻と娘達を守るためにノバシェードと始祖怪人の打倒に立ち上がったタフガイ。年齢は31歳。
 ※原案はカイン大佐先生。

静間悠輔(しずまゆうすけ)/仮面ライダーオルタ
 若手ながら優秀な警察官であり、普段は竜胆の片腕として彼のサポートに徹しているが、個人としての実力も高い。年齢は23歳。
 ※原案はシズマ先生。

翆玲紗月(すいれいさつき)/仮面ライダーパンツァー
 元自衛官の戦車搭乗員であり、5年前にはシェードとも戦っていた剛毅な姉御肌。年齢は23歳。
 ※原案はゲオザーグ先生。

一二五六三四(ひふごむさし)/ライダーシステムtype(タイプ)-α(アルファ)
 ものぐさな印象を受ける言動が多い一方、冷静沈着に職務をこなす食えない人物。年齢は36歳。
 ※原案は板文 六鉢先生。



 

 すでに「標的」を決めたライダーや怪人達が激しく睨み合う中。

 始祖怪人達の背後からは、黒一色のマネキンのような怪人達が続々と現れていた。

 

 野戦服を纏ったその怪人達はコンバットナイフを握り締め、他の新世代ライダー達の行手を阻んでいる。

 彼らの存在と、その恐ろしさを知るライダー達は皆、仮面の下で剣呑な表情を浮かべていた。

 

「こいつら……『黒死兵』か!」

「やはりここにも出やがったか……! どうやらコイツらの出現も、始祖怪人が絡んでいたようだなッ!」

 

 「黒死兵」。それは今年に入ってから世界各地で出現するようになった、ノバシェードに与する謎の怪人達を指す総称であった。

 

 その物言わぬ漆黒の怪人達は各地域のノバシェード幹部の指示に従い、無言のまま破壊活動を行っていたのである。

 しかもその一人一人が、武田禍継こと仮面ライダーニコラシカにも匹敵するほどの戦闘力を持った、かなりの強敵だったのだ。

 

 神出鬼没であることに加え、個としての戦闘力も高く、世界各地に複数現れることもある。

 時にはたった数人の黒死兵に警察組織が壊滅させられ、都市一つが丸ごと占拠されてしまう事件も起きていた。

 

 その都度、現場となった国や地域に駆け付けて来た新世代ライダー達が、現地の警察組織や自警団らと共に黒死兵達を打ち破って来たのだが。いずれも紙一重の辛勝であり、どこで敗れていてもおかしくない状況だったのだ。

 

「しかも、この数かよ……!」

「ざっと数えても20人は居るぜ……! ハッキリ言って、過去最悪のシチュエーションだ……!」

 

 そんな黒死兵達が、大勢この場に現れている。ただでさえ一人一人が手強いというのに、その怪人達が群れを成しているのだ。

 

 新世代ライダー達も天峯達のデータを得てパワーアップしているとは言え、これでは苦戦は免れないだろう。

 黒死兵に蹂躙された街の住民達が目にすれば、PTSDを発症しかねないほどの光景なのだ。彼らに打ち勝って来た新世代ライダー達にとっても、黒死兵という「個の強さ」に「数の暴力」まで加わったとあっては、プレッシャーを感じずにはいられない。

 

「……コイツら、よほど俺達と遊びたくてたまらないらしいな。ここは俺達で引き受ける、お前達は人質の救出に向かえッ!」

「し、しかし……!」

「始祖怪人達は局内にも潜んでいるはずだ! ここで悪戯に戦力を消耗するわけにはいかない……! 少しでも多く、余力のある奴を先に進ませる必要があるッ!」

「……分かった! 気を付けてくれよ、皆!」

 

 この状況に最も対応出来るのは、黒死兵達とより多く交戦して来た一部の新世代ライダー達だろう。

 

 それを自覚していた者達は自ら黒死兵達の前に飛び出し、漆黒の怪人達と対峙して行く。

 彼らの「力」を肌で感じていた黒死兵達も、自分達の傍らを通り過ぎて行く他のライダー達には目もくれず、倒すべき「強敵」にのみ注目している。

 

「……世界各地の弱者を嬲って回るとは、随分とつまらん遊戯(ゲゲル)が趣味のようだな。俺の手で、もっと楽しい戦いにしてやろう。貴様らに、楽しむ暇があればの話だが」

 

 ズ・ガルバ・ジこと、仮面ライダーN/G-1。

 

「世界中の街を襲って、多くの人を傷付けて……今度はこの放送局、か。もう……ここまでだ。これ以上は絶対に、貴様らの思い通りにはさせないッ!」

 

 天塚春幸(あまつかはるゆき)こと、仮面ライダー(ホノオ)

 

「こんなに大勢で寄って来るなんて……随分とマナーのなってない出待ちね。そんなに『お仕置き』がお望みなのかしら?」

 

 薬師寺沙耶(やくしじさや)こと、仮面ライダーヴェノーラ。

 

「ライダーは助け合い、ですからね……! 俺達皆の力を合わせて、パパッと片付けちゃいましょうッ!」

 

 日高栄治(ひだかえいじ)こと、パトライダー型式2010番type(タイプ)-000(オーズ)

 

「……何度倒されても、学習しない奴らだな。俺達はただの人間だが……ただの人間だからこそ、強いのだということが分からんらしい」

 

 熱海竜胆(あたみりんどう)こと、仮面ライダーイグザード。

 

「分からないなら、それで結構。……そのまま無知で愚かな怪人に、相応しい末路をくれてやる……!」

 

 静間悠輔(しずまゆうすけ)こと、仮面ライダーオルタ。

 

「雁首揃えてゾロゾロと……そんなに『火傷』したいのかい? いいよ……もう一度、私のミサイルで吹っ飛ばしてやる。人間様を無礼(ナメ)た代償は、高くつくよ黒死兵ッ!」

 

 そして翆玲紗月(すいれいさつき)こと、仮面ライダーパンツァー。

 彼ら7名の新世代ライダー達は黒死兵達と睨み合い、他の仲間達を「先」に進ませようとしている。彼らの覚悟を無駄にするわけには行かない以上、残されたライダー達は先に進むしかないのだ。

 

 一方、N/G-1達が黒死兵達の相手を引き受けていた頃。

 独り仲間達の元から離れていた一二五六三四(ひふごむさし)ことライダーシステムtype(タイプ)-α(アルファ)は、放送局の裏手に駆け込んでいた。

 

「……来たか」

 

 そこには、壁に背を預けて腕を組んでいる1人の怪人が佇んでいた。

 

 その怪人は黒死兵達と全く同じ容姿を持った、漆黒のマネキン男だったのだが――他の黒死兵達とは、桁違いの覇気を纏っている。

 

 表の入り口前でN/G-1達が引き受けている黒死兵達とは、武器も装備も同じ。

 だが、全身から滲み出ているそのオーラは、明らかに「別格」なのだ。

 

 野戦服を纏い、胸の鞘にコンバットナイフを納めているそのマネキン男は、ゆっくりと腕組みを解いてtype-αと向き合っている。

 

「やはり……あの黒死兵達にも、全員を指揮する『司令塔(ブレイン)』が居たようだな」

 

 専用の多目的自動拳銃「マルチシューター」を、両手持ち(ツーハンドホールド)で構えているtype-α。彼に対し、マネキン男――プラナリアンは平静を保ったまま静かに口を開いた。

 

「……私を捕捉するとは見事な捜査だ、一二五六三四。いや……ライダーシステムtype-α。その域に辿り着くまでには、さぞかし並々ならぬ努力を積んできたのであろう。称賛に値するぞ」

「いや……生憎、俺は面倒なのが嫌いでな。努力なんて言葉からは、誰よりも遠い男さ。貴様を見付けたのは……単なる『刑事の勘』、という奴だ」

 

 「面倒なことは嫌い」と公言して憚らず、気怠げでものぐさな窓際族の不良刑事。そんな人物像(キャラ)で通って来たtype-αは、口振りとは裏腹な鋭さでプラナリアンを見据えている。

 

 その佇まいは、決して悪を見逃さない質実剛健な敏腕刑事そのものであった。爪を隠すことを止めた鷹を前に、漆黒の怪人は含み笑いをする。

 

「……そうか。ならば天賦の才を秘めていた、ということだな。我々の仲間になっていれば、今頃は柳司郎すらも超える逸材になっていたのかも知れん。面白い男だ」

「よく喋る奴だ。……俺も世界中のあらゆる都市で、黒死兵達と戦って来たが。貴様のようなお喋りな個体など、今まで一度も見たことがなかった。……貴様が『本体(オリジナル)』、ということだな?」

 

 世界各地に出没していた黒死兵。

 type-αを含む新世代ライダー達が倒して来たそれらの個体は、いずれも言語能力を有していなかった。彼らは物言わぬ殺人鬼として、世界中から恐れられていた。

 

 それに対して、黒死兵達と同じ容姿を持つプラナリアンは流暢に喋っている。それは、黒死兵達とプラナリアンの間にある「関係性」を悟らせるには、十分な光景であった。

 

 そう。黒死兵と呼ばれていた漆黒の怪人達は全て、プラナリアンの分裂能力によって大量生産されていた「分身(コピー)」だったのである。

 

 彼は自分の分身である黒死兵達を、世界各地のノバシェード支部に配備し、天峯達が倒れた後も活動していた構成員達を援助していたのだ。

 黒死兵によって都市一つが占拠された過去の大事件も、この男が黒幕だったのである。

 

「ふむ……すでにそこまで察したか、流石だな。実は各国の支部に黒死兵を配備した時も、現地の幹部達から散々文句を言われたのだよ。一言も喋らないし何を考えているか分からない、気味が悪い……とな。しかし私の分裂能力では、戦闘力の数割(・・)を継承させることだけで精一杯でな。言語能力の実装までは終ぞ叶わなかったのだ」

「……その黒死兵達がどれほどの被害を齎してきたか。どれほどの悲しみを振り撒いて来たか、どれほどの血を流させて来たか。俺達は……嫌というほど見て来た。彼らの無念を背負ってしまったからには……死ぬほど面倒だろうが、貴様を見逃すわけには行かない」

 

 type-α――六三四は、黒死兵達による事件を最も多く解決して来たライダーだった。

 そしてそれ故に、彼は最も多くの「悲しみ」を見て来たのである。

 

 黒死兵に街を蹂躙され、帰る家を失った住民達。警察組織の壊滅後も、街を取り戻そうと銃を取っていた抵抗組織(レジスタンス)。組織が崩壊しようとも、職務を全うせんと命を張っていた現地の警察官達。

 

 彼らが流して来た血と涙の記憶は、日本に帰った今もなお六三四の脳裏に深く刻み込まれている。その痛みを知るが故に、彼は殺意にも似た闘志を込めて、マルチシューターを構えていた。

 

 そんな六三四ことtype-αの覇気と、その背景にあるものを察知したプラナリアンは、ゆっくりと胸元の鞘からコンバットナイフを引き抜いて行く。

 

「お前をここに誘ったのは、その怒りか。実に結構。怒りは闘志の原動力となり、その原動力が新たなる闘争を生む。戦争はそうして循環し、我々の生存圏を維持して来た」

「なら……貴様達の生存圏も、この因縁も、今日で全て終わりにする。決着を付けるぞ、始祖怪人!」

「良かろう。……言っておくが、お前達が倒して来た黒死兵達は所詮、私の戦闘力を数割程度しか引き継げていない劣化コピーに過ぎん。オリジナルの私は……少々、手強いぞ」

 

 プラナリアンのその言葉がハッタリではないことは、type-αも肌で理解していた。

 天峯達のデータを引き継ぎ、性能が底上げされている状態とは言っても、そもそもの力量差があまりにも桁違いなのだ。隷には悪いが、「焼石に水」である可能性の方が高い。

 

「あのライダー達もなかなかの手練れのようだが、20体以上の黒死兵が相手とあっては保って10分と言ったところか。私さえ倒せれば、全ての黒死兵も消滅するが……お仲間が死ぬ前に私を倒せるかな?」

「10分か……そんなに要らんさ。俺が貴様を倒すのも、あいつらが黒死兵達を殲滅するのもな!」

 

 それでも、マルチシューターを握るtype-αの眼に、恐れの色はない。彼は躊躇うことなく引き金を引き、プラナリアンとの戦闘を開始して行く。

 

 他のライダーや怪人達が決戦の火蓋を切ったのも、その瞬間であった。技と技、力と力の激突が天を衝く轟音を呼び、死闘の開幕を告げる。

 

 最新鋭の技術で身を固めた新世代ライダーと、最古の力をその身に宿した始祖怪人。

 時代が望んだ者達と、時代に拒まれた者達の果たし合いが始まって行く。

 

「皆、無事でいてくれよ……!」

「立ち止まるな! あいつらのためにも人質を救出し、全ての始祖怪人を倒すんだッ!」

「……あぁ、分かってる! 行こうッ!」

 

 その激戦を横目に見遣りながら、他の新世代ライダー達はテレビ局内に突入し、始祖怪人の気配が漂う上階へと駆け上って行く。

 仲間達に託されたチャンスを、無駄にしないために――。

 




 プラナリアンの分裂能力が便利過ぎて、原案よりだいぶ強くなっちゃった感がありますね。ライダー22人VS怪人15人という、数的なアンバランスを解消する切り札になって頂きました_(┐「ε:)_


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第13話

◆今話の登場ライダー

南義男(みなみよしお)/仮面ライダーボクサー
 質実剛健で情に厚い、元ボクサーのベテラン刑事。年齢は45歳。
 ※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。

森里駿(もりさとはやお)/仮面ライダータキオン
 かつてはノバシェードの尖兵であり、遥花に敗れた後は芦屋隷の保護観察を受けつつ実験に協力していた改造人間。年齢は27歳。
 ※原案はエイゼ先生。

道導迅虎(みしるべじとら)/仮面ライダーティガー
 元プロレーサーでもある警視庁の巡査であり、男勝りなスピード狂の美女。年齢は26歳。
 ※原案はただのおじさん先生。

東方百合香(ひがしがたゆりか)/仮面ライダーアルビオン
 元SATであり、シェードとの交戦経験もあるクールビューティー。年齢は27歳。
 ※原案はMegapon先生。

◆ジャック・ハルパニア/仮面ライダーUSA(ユナイテッドステイツ)
 在日米軍から出向してきた豪快なタフガイであり、アメリカ軍で開発中のスーツのテストを任されている陸軍大尉。年齢は40歳。
 ※原案はリオンテイル先生。



 

 ZEGUN達に屋外の始祖怪人達を任せ、放送局の内部へと突入した新世代ライダー達。階段を駆け上がった彼らが次に辿り着いたのは、報道関係の情報を扱うニューススタジオだった。

 

 吾郎が日向恵理(ひなたえり)のワインを口にしたことで人間としての記憶を取り戻し、「愛」に目覚めた場所。

 その運命的な場所で彼らを待ち構えていた始祖怪人達は、ゆっくりと新世代ライダー達の方へと向き直って来る。

 

「思い出すなァ……。12年前、俺の部下……『ナオヤ』がここで、No.5に殴り倒されたんだ。あの瞬間もしっかり中継されてたからなァ……よォく覚えてる」

 

 織田大道によるテロの現場となっていたニューススタジオ。その床を感慨深げに踏み締めていたのは――Dual ability transplant test body、Dattyだった。

 可愛がっていた自身の部下が、No.5こと吾郎に倒される瞬間。その光景を鮮明に記憶していた剛拳の怪人は、黄昏れるように天井を仰いでいる。

 

「……あんたの試合はガキの頃から再放送でよく観てたよ、間柴健斗(ましばけんと)。もう少し早く生まれてたら、あんたの試合を生で観られてたのに……って、何度思ったか分からねぇくらいだ」

 

 そんな彼の背に声を掛けたのは――南義男(みなみよしお)が変身する、仮面ライダーボクサーだった。

 

 幼少の頃から間柴健斗の試合を観て育って来た彼は、憧れのプロボクサーの変わり果てた姿に、怒りとも悲しみともつかない声を漏らしている。

 自分が生まれる前から、自分にとってのヒーローだった男は今。何としても倒さねばならない、怪人と化していたのだから。

 

 一方、プロボクサー時代の自分を知る者が現れたことに少しだけ驚いたDattyは、興味深げにボクサーの方に振り向いていた。仮面に隠されたその貌はすでに、獲物を見つけた猛獣のそれとなっている。

 

「ほぉ……? 世代でもねぇのに昔の俺を知ってるとは、随分と熱心なファンボーイじゃねぇか。何なら記念に握手でもしてやろうか? 仮面ライダー」

「……いいや、結構。こうなっちまったからには……俺は警察官として、あんたに手錠を掛けるだけさ。ガキの頃、いい夢見させてもらった礼だ……1発KOで終わらせてやる」

 

 Dattyという怪人がこれまで繰り返してきた、凄惨な殺戮の数々。その全ての記録を目にした上でこの場に現れたボクサーは、万感の思いを込めて拳を震わせていた。

 

 憧れの男を超えるため。シェードの悪夢を絶ち、全ての犠牲者達に報いるため。そしてこれ以上、自分のような思いをする者を出さないため。

 南義男は過去を振り切り、Dattyと対峙する。

 

「ハッ……いい歳こいて夢見がちなガキが、拳闘で俺と張り合うつもりか? いいぜぇ、掛かって来なファンボーイ!」

 

 そんな彼の蛮勇を買い、真っ向勝負に乗り出したDattyも。チャンピオンを目指していた頃のフレッシュな感覚に立ち戻り、興奮を露わにして両拳を構えている。

 人生最後のボクシングを、人生最高のKOで終わらせるために。

 

 そんな彼らのすぐ近くでは――髪先を蛇頭に変異させたハイドラ・レディと、森里駿(もりさとはやお)が変身する仮面ライダータキオンが「太刀合わせ」を始めていた。

 

 矢継ぎ早に無数の蛇頭を伸ばし、圧倒的な手数と疾さで攻め立てる蛇の怪人。超加速機能「CLOCK(クロック) UP(アップ)」で回避に徹しているタキオンは、その「小手調べ」を全て紙一重でかわしていた。

 

「……柳司郎様の想いを、ほんの一欠片でもこの世界に遺すため。申し訳ありませんが……仮面ライダーの皆様には、尊い犠牲になって頂きます」

「貴様が羽柴柳司郎の妻だったという、加藤都子(かとうみやこ)か。……歪んだ愛に殉じることしか出来んとは、哀れな女だ。俺がこの手で終わりにしてやる」

 

 相手が全く本気を出していないことを互いに理解していたハイドラ・レディとタキオンは、徐々に攻撃速度の「ギア」を上げて行く。

 妻として、亡き柳司郎の遺志を継ぐ加藤都子としての信念。その気迫を目の当たりにしながらも、同じ改造人間として立ちはだかる森里駿は、哀れな未亡人に「終わり」を齎すべく、その拳を振り上げていた。

 

 一方で、彼らよりも一足早く「トップギア」に突入している者達もいる。

 

 高速移動を得意としているタパルドは、自分と同じ得意分野(アイデンティティ)を持っていた道導迅虎(みしるべじとら)こと仮面ライダーティガーの脅威的な「疾さ」に、薄ら笑いを浮かべていた。

 

「……仮面を被ってても分かるよ。あんた、なかなか良い面構えしてるじゃないか。この私と『速さ』で渡り合うつもりかい?」

「張り合う? ……違うな。『速さ』であんたを、超えるつもりだ」

 

 スタジオ内を超高速で疾る彼女達は、天井も壁も問わず縦横無尽に駆け回り、互いの爪をぶつけ合いながら競い合っている。

 今になって対等な好敵手(ライバル)と巡り会えたタパルドは、「歓喜」の笑みを溢しているのだ。

 

「……ハハッ、面白ぇー女だ! 始祖怪人の私を相手に、随分な自信じゃないか? ビッグマウスもほどほどにしておかないと、『痛い目』見るよッ!」

「ビッグマウスかどうかは、試してみれば分かるさ。元レーサーを無礼(なめ)るなッ!」

 

 互いの爪で命を狙い合っている2人は、設備や照明を破壊しながら、幾つもの火花を置き去りにして駆け抜けて行く。戦場とするにはあまりにも狭いこの空間を、彼女達は一瞬たりとも止まることなく動き回っていた。

 

 そんな2人がスタジオ内を超高速で駆け回る中――その渦中で「余波」の猛風を浴びているブレイズキャサワリーは、東方百合香(ひがしがたゆりか)こと仮面ライダーアルビオンと対峙している。

 

「……まさか、一度は仮面ライダーGに倒されたはずの貴様が、再び私の前に現れる日が来ようとはな。不謹慎を承知の上で言わせて貰うが……柄にもなく、神様とやらにも感謝したい気分だ」

「その声……お前、SATに居た女か。あの時の死に損ないが、仮面ライダーの1人になっていたとは驚きだ」

 

 1990年代に設置された、対テロ特殊急襲部隊「SAT」。その隊員として旧シェードの暴虐(テロ)に挑んでいたかつての百合香は、ブレイズキャサワリーの爪によって大勢の仲間達を喪った過去を秘めていた。

 

「今度こそ……貴様には何一つ奪わせん。貴様が重ねて来た所業の数々に……相応しい『敗北』をくれてやるッ!」

「……命よりも矜持、か。嫌になるぜ、昔の俺を見ているようでなァッ!」

 

 数年前の因縁が、2人を再び引き寄せたのか。剛拳を備えた戦乙女とヒクイドリの怪人は、決着を付けるべく――拳と爪を交わし、「一騎打ち」を開始する。

 

 そして、拳打と蹴撃の応酬が始まった頃。

 悍ましい異形の姿を晒し、この場に現れたケルノソウルは――感慨深げに、仮面ライダーUSA(ユナイテッドステイツ)のスーツを纏うジャック・ハルパニア大尉と相対していた。

 

「逞しくなったわね、ジャック。成長したあなたを一目見られただけでも、ここに来た意味があったわ」

「……ソコロフ。やはり、あんたも蘇っていたんだな」

 

 対テロ組織としての「シェード」が誕生する前からの「旧知の仲」だった2人は、これから果たし合いを始める敵同士とは思えないほどに、穏やかな声色で言葉を交わしている。だが、それは初めのうちだけ。

 ジャックの方は徐々に、深い悲しみと失望、そして怒りを滲ませた声を漏らし始めていた。

 

「未熟な新兵だったあなたが、今や歴戦の仮面ライダー……か。悪戯に長く生きていると、時間の流れも早く感じられるわね。覚えているかしら? 昔のこと」

「……あぁ。18年前のイラク戦争のことは、今でも昨日のことのように覚えている。あんたは……小隊が壊滅して孤立状態になっていた俺を、あの弾雨から救い出してくれた。誰もが化け物だと罵ったあんたの姿が、俺にとってのヒーローだった」

 

 ――2003年に中東で勃発したイラク戦争。当時22歳の新兵だったジャックはその戦地で、傭兵として参加していたプリヘーリヤ・ソコロフと出逢っていた。

 

 異形の怪人(ケルノソウル)に変身した時の彼女の姿は、誰もが化け物だと叫ぶほどに悍ましいものだったのだが。そんな彼女に命を救われたジャックだけは、決してソコロフをそのような眼では見なかったのである。

 

 普段こそ、荒事とは無縁そうな少女の姿だが。一度戦闘が起これば異形の怪物「ケルノソウル」へと変身し、圧倒的な火力で敵を蹂躙する。

 そんな彼女は戦闘においては頼りにされる一方で、化け物と陰で謗られることが当たり前となっていた。

 

 その当たり前が、ジャックには通じなかったのだ。それは、罵詈雑言を浴び慣れていたソコロフにとっても初めての経験であった。

 いつしか2人は、全ての垣根を越えた戦友として信頼し合うようになり。当時のアメリカ大統領による大規模戦闘終結宣言が発表されるまで、この戦争を最後まで生き延びたのだが。その日を境に姿を消した彼女が、次に現れた時は――世界に仇なす「怪人」となっていたのだ。

 

「俺はただの人間だけど、それでもあんたのように強くなりたいと……本気で思っていたんだ。そのあんたが、なんてザマだ……!」

「……これでもあなたには感謝しているのよ、ジャック。あなたと過ごしたあの日々は、まるで人間の頃に戻れたかのような夢心地だった。あなたほど、私という『人間』を肯定してくれた人は居なかった」

「だったらどうして、俺の前から姿を消した! 何故、本物の『怪人』になった! 何故今になって……俺の前に現れたんだ!」

「それは私にも分からないわ。……でも、起きてしまったことに理由を与えることは出来る。私はきっと、あなたと戦うことで……私自身の全てを精算するために蘇ったのね」

 

 ソコロフにとっても、ジャックとの友情が嘘だったわけではない。どこまでも「人間」として向き合おうとしていたジャックの存在は、彼女にただ1人の人間(プリヘーリヤ・ソコロフ)としての思い出を残してくれたのだ。

 それでも。世界が改造人間の恐ろしさを正確に認識し、許されざる存在であると定義した時点で。彼女は、幸せな思い出に浸るわけにはいかなくなってしまったのである。

 

 年を追うごとに急速に発展して行く、情報社会の成長。その様子から、いずれ来る迫害の未来を予測していたソコロフは、ジャックの前から去るしかなかった。

 

 そして今、「仮面ライダー」と「怪人」という相容れない宿敵同士として、ジャックの前に現れたのである。

 全ての思い出を置き去りにしてでも、怪人としての己と決着を付けるために。

 

「さぁ、来なさいジャック。いえ……仮面ライダーUSA。あなた自身が、前へと進むために」

「……分かった。ならば俺が……あんたの全てを、ここで終わらせる。これで最後だ、ケルノソウルッ!」

 

 その想いを汲んだジャックは、仮面ライダーUSAとして。ソコロフことケルノソウルとの決着を付けるべく、その鉄拳を構えるのだった。

 

「この階層の生命反応は……スタジオに居る俺達のものだけだな。人質らしき反応はない」

「ってことは、さらに上の階で監禁されてる可能性が高そうですね……!」

「よし……ここはジャック達に任せる。俺達は上階に行くぞ! 1人たりとも人質を死なせるわけにはいかん!」

「……了解ッ!」

 

 そんなUSA達の背を見届けながら、残った新世代ライダー達はスタジオを抜け、さらに上を目指して階段を駆け上がって行く。彼らなら、この階層の始祖怪人達にも必ず勝てるのだと信じて――。

 




 今回は原案者様繋がりの対戦カードが多めとなりました。ミリタリーな史実ネタを節々に盛り込んでいる点については、メタルギアソリッドシリーズの影響もありましたね。現行ハードに移植してくれないなぁ……(´・ω・`)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第14話

◆今話の登場ライダー

鳥海穹哉(とりうみくうや)/仮面ライダーケージ
 警視庁に属する巡査長であり、真っ直ぐな正義感の持ち主でもある熱血刑事。年齢はこの日で30歳。
 ※原案はたつのこブラスター先生。

忠義(チュウギ)・ウェルフリット/仮面ライダーオルバス
 アメリカでは騎馬警官として活躍していた父の影響で警察官となった、ハーフの青年。年齢は22歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

明日凪風香(あすなぎふうか)/仮面ライダーΛ−ⅴ(ラムダファイブ)
 若くして警部補にまで昇進しているエリート警官であり、女子高生と間違われることも多い「男の娘」でもある青年。年齢は27歳。
 ※原案はクレーエ先生。



 

 仲間達の勝利と全員の生還を信じ、残る3人の新世代ライダー達は、ニューススタジオを抜け出してさらに上階へと駆け登って行く。

 

 数十年にも及ぶ長い年月を掛けて培われ、研ぎ澄まされて来た絶対的な殺気。一段登る度にその気配を強く感じながらも、彼らは決して臆することなく階段を駆け上がる。

 

 階段を走り続けていた彼らはやがて、ガラス壁がある廊下へと辿り着いた。

 そこは、日向恵理を連れて逃避行していた吾郎が、シェード隊員達と交戦していた場所。「愛」に目覚めた彼が、かつての同胞達に牙を剥いた場所の一つだ。

 

「12年前……この廊下で、俺達の部下が命を落とした。コードネームは『ザンキ』。部下達の中でも特に好戦的な男だったが……仲間意識が強く、優秀な奴だったよ」

「よもや俺達まで、この場所で『最期』を飾ることになろうとはな。神や仏が実在するのだとしたら、そいつらほど趣味の悪い連中は居まい」

 

 その廊下で新世代ライダー達を待ち構えていたのは、始祖怪人達の中でも特に戦闘能力が高い精鋭の2人――カマキリザードとレッドホースマンだった。

 

 かつての戦いで部下が戦死した場所に訪れていた彼らは、自分達に引導を渡さんと現れた新世代ライダー達の方へと向き直り、静かに殺気の炎を燃やしている。表面的な佇まいは穏やかなものだが、その眼はすでに凶悪な闘志を宿していた。

 

 だが、それは怪人達に限った話ではない。

 忠義(チュウギ)・ウェルフリットが変身する仮面ライダーオルバスは、エンジンブレードを握る手を震わせ、殺意にも似た闘志を滾らせている。普段から「明朗快活なお調子者」として振る舞っていた彼は今、別人のような殺気を纏っていた。

 

「……そうかい。俺としちゃあ、神に感謝したいぐらいだね。てめぇだけは……俺の手でどうしてもブチ倒したかったからな」

「ほう? ……まさか、お前と再びやりあえる日が来るなんてなァ。ジャスティアドライバーの坊主」

 

 そんな彼の気配と、その腰に巻かれた変身ベルト「ジャスティアドライバー」に気付いたレッドホースマンは、感慨深げに薄ら笑いを浮かべていた。この2人が対峙したのは、これが初めてではなかったのである。

 

 ――番場惣太の主導により、幾つもの強化外骨格(パワードスーツ)を生み出した一大開発計画(ライダープロジェクト)。その成果物の一種だったジャスティアドライバーは、ソロモン72柱の悪魔に因み、72機もの試作機が開発されていた。

 齢19にして、その全てを完成させた狂気の天才女性科学者――一光(にのまえひかる)博士も、試作機を所有していた1人だった。彼女もまた、「仮面ライダーバウル」と呼ばれたライダーの1人だったのである。

 

 そんな彼女と、72機のジャスティアドライバーが脅威になると判断したレッドホースマンは数ヶ月前、全てのドライバーを奪うべく彼女の研究施設を襲撃したのだ。

 始祖怪人という概念を知らぬまま応戦したバウルとオルバスは辛うじて退却させることには成功したが、バウルこと光は無理が祟り、生死の境を彷徨うことになった。元々虚弱体質でもあった彼女にとっては、かなり深いダメージとなってしまったのだ。

 

 そして、その混乱の中で幾つかのジャスティアドライバーを奪われたオルバスは、全てのドライバーを取り返すため、レッドホースマンが指揮するノバシェードの戦士達と戦い続けていたのである。

 奪われたジャスティアドライバーの回収が完了し、光の容態が安定して快復に向かい始めたのが、約1ヶ月前。それまでの数ヶ月間、オルバスを突き動かしていたのはいつも、得体の知れない馬型怪人への憎しみであった。

 

「この数ヶ月で、随分とイキの良い剣士になったもんだ。あの女はそろそろくたばったか?」

「いいや……生憎ながら、もうすぐ退院さ。バウルのスーツはオルバスより遥かに頑丈なんだ、てめぇの剣如きに負けたりはしない。継戦能力には難アリだから、バテるのが少々早いってところぐらいさ。あの博士の弱点なんてよ」

「そいつを聞いて安心したぜ。あの女が要注意だと判断した俺の目に、狂いはなかったってわけだ。あれしきの攻撃でくたばるようなら、俺が恥をかくところだったぜ」

 

 忠義ことオルバスの殺気を真っ向から浴びてもなお、レッドホースマンは涼しげな佇まいで軽口を叩いている。その挑発的な態度に乗せられるまま、オルバスはエンジンブレードを構えていた。

 

「あの女が命を懸けた『意義』は……今のお前を、俺の前まで導くことだったのかも知れねぇな。掛かって来な、坊主。……いや、仮面ライダーオルバス」

「言われるまでもねぇ。……覚悟しな、始祖怪人ッ!」

 

 闘志と剣技を研ぎ澄まし、自分の前に辿り着いたオルバスの勇姿に、レッドホースマンは好戦的な笑みを浮かべていた。

 死に向かい、命を削ることに対する「意義」。彼はそれを、オルバスとバウルに見出しながら――愛用の両手剣を振り上げている。

 

「ふん……どうやら俺の他にも、コイツらに焚き付けられてしまった奴がいるようだな」

 

 そんな彼らの果たし合いを横目に――カマキリザードは、自身を静かに見据えている明日凪風香(あすなぎふうか)こと仮面ライダーΛ−ⅴ(ラムダファイブ)と視線を交わし、蟷螂の如き両手の刃を悠然と構えていた。

 

 女子高生と間違われることもある「男の娘」な風香の体躯は、外骨格を纏っている状態であっても、仮面ライダーとしてはかなり細身に見えている。

 だがカマキリザードは、その鎧を纏っている者の真の力量をすでに看破しており、決して油断出来ない相手であることを理解していた。その「慢心」が感じられぬ刃を前にしたΛ−ⅴは、背後に立つ「最も優秀な部下」に声を掛ける。

 

「……鳥海。ここはウェルフリットと俺に任せて、お前は屋上を目指せ。この上に多数の生命反応がある。恐らく人質は、そこに集められている」

「しかし、明日凪警部補……!」

「心配するな。俺達は勝つ。例え相手が、50年近くの戦闘経験(キャリア)を持つ始祖怪人であろうとも……それでも俺達は、『仮面ライダー』だ。不可能を可能にする力がある者達だ。それを見失うな」

「そういうわけなんで……人質の救出は頼みましたよ、穹哉さん! ありがた〜く、美味しいところ持って行っちゃってくださいッ!」

「忠義……あぁ、分かったッ!」

 

 Λ−ⅴとオルバスの激励に背を押され、鳥海穹哉(とりうみくうや)こと仮面ライダーケージは一気に走り出し――レッドホースマンとカマキリザードの頭上を飛び越えて行く。天井にぶつからないギリギリの高さで跳んだ彼は床を転がりながらも、すぐさま立ち上がって屋上を目指し始めていた。

 だが、2人の始祖怪人は全く意に介さず、自分達が狙いを定めた好敵手(ライバル)にのみ目を向けている。それは、彼らと相対しているライダー達も同様だった。

 

「……覚悟は良いな?」

「……こちらの台詞だ」

 

 カマキリザードとΛ−ⅴが交わした、短いやり取り。それが決戦の火蓋を切る合図となり、この階に集まった戦士達は同時に走り出して行く。

 穹哉ことケージは苛烈な剣戟の音を耳にしながらも、躊躇うことなく階段を駆け上がって行った。屋上で彼を待ち受ける「最恐」の殺気は、もうすぐそこに迫っている――。

 

 ◆

 

 オルバス達と別れ、さらに上階へと駆け上がって行く青の戦士。やがて、最後の扉を抜けて屋上に出て来た彼の視界に、広大な夜景が飛び込んで来る。

 

 そこは12年前、織田大道と対峙した吾郎がシェードに対する叛逆を宣言した始まりの場所であった。

 そして今、屋上の端から人々の喧騒を見下ろしている最後の始祖怪人が――ケージの方へと向き直った。

 

「……俺の部下だった織田大道は、最期の瞬間までシェードに忠実だった。少々、お遊びが過ぎるところもあったが……それでも、嫌いではなかったよ」

「貴様は……!」

 

 そこに佇んでいた野戦服姿の老兵――山城一(やましろはじめ)ことエインヘリアルは、妖しい輝きを放つ紅い双眸で、ケージを見据えていた。彼の傍らに転がっている多くの職員達は、猿轡をされたまま縛り上げられている。

 両手の小指をブレード状に変形させた彼は、その刃を素早く振るい――職員達の縄を全て断ち切ってしまうのだった。目的である「仮面ライダー」が現れた今、「餌」に過ぎない人質など不要なのだろう。

 

「……失せろ。巻き込まれんうちにな」

「ひ、ひぃいぃ……!」

 

 その冷酷な言葉と目付きに震え上がった人々は、我先にとケージの傍を通り過ぎ、下の階へと走り去って行く。その人波が過ぎ去るまで、ケージはエインヘリアルの不意打ちを警戒し、その動向を睨み続けていた。

 

 そして全ての人質がこの屋上から逃げ去り、静寂が辺りを包み始めた頃。エインヘリアルは静かに、逃げ惑う人々の姿を嗤う。

 

「助けに来たお前に対する礼すら忘れ、自分の安全しか顧みない。健全な精神は健全な肉体に宿る……とは、よく言ったものだ。惰弱な人間の身体に相応しい、実に軟弱な精神ではないか」

「まるで自分達は違う、とでも言いたげだな。他人を傷付けて行く道でなければ、生を実感することさえ叶わない貴様達が……どうして人間の価値を測れるというんだ」

 

 徳川清山と羽柴柳司郎に続く、組織のNo.3だった山城一ことエインヘリアル。シェードの理念を体現したかのような彼の言葉に、ケージは「人間」として反論する。

 

「先の大東亜戦争に教わったのだよ。闘争は人間の本能であり、使命でもある。戦わなければ奪われるのみであり、奪われぬためには奪うしかない。我々はそうして生き延びて来たのだ、あの時代からな」

「そんな時代は、もうとっくに終わっている。過ぎ去ってしまった歴史に、いつまでも囚われたままだというのなら……その悪夢を、ここで払う。そのためにも……始祖怪人、貴様を倒す!」

 

 そんな彼の言葉すら嘲笑い、エインヘリアルは静かに両手の刃を構えるのだった。それに呼応するかの如く、ケージも拳を構えて臨戦態勢を取る。

 

「そうだ……それで良い。清山に生み出された我々か。番場に作り出された貴様達か。最期の饗宴、心ゆくまで堪能しようぞ」

 

 ――かくして。始祖怪人の最期を彩る、真の最終決戦が幕を開けたのだった。

 




 あともう1話ほどドラマパートを挟んで、次々回辺りからようやく戦闘パートに入ります。次回からはギュンギュンに展開を早めて行きますのでご了承ください……_:(´ཀ`」 ∠):


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第15話

 

 ――その頃。

 番場邸で独り夜空を仰ぎ、新世代ライダー達の勝利を信じ続けていた番場惣太の元に、一つの緊急連絡が入っていた。

 

『総監! 世界各国の人々からの連絡が相次いでいます! 仮面ライダー達は本当に、あの怪人達に勝てるのか……と!』

「……何も心配はない。彼らにはそう伝えてくれ」

 

 この2年間、仮面ライダー達は世界各地でノバシェードと戦い、その支配から多くの人々を解放して来た。

 彼らの活躍を間近で見て来た各国の人々も、テレビやネットを介してこの最終決戦の推移を見守っていたのだろう。ライダー達の奮闘に居ても立っても居られなくなり、彼らの「ボス」である番場に連絡して来たのだ。

 

 中には大量の黒死兵が暴れている中継映像を目の当たりにして、体調不良を起こした者も居たようだが――彼らはそれでも、自分達のヒーローが命を賭して戦う姿に見入っているらしい。

 僅か数人の黒死兵のために警察組織が壊滅し、都市が制圧されたケースもあったのだ。その黒死兵が大群となってライダー達を襲っているのだから、その脅威を肌で理解している現地民の精神的ショックは計り知れない。

 

 だが――彼らはそれでも、目を離すことなく拳を握り締めて、ライダー達を応援しているのだという。

 

 彼らが案じている通り、ライダー達はかなりの苦戦を強いられている。何せ相手は、世界最古の改造人間である始祖怪人達なのだ。

 単純な戦闘能力はもちろん、その実戦経験の豊富さにおいても「最恐」であることは明白。

 

 新世代ライダー達に故郷を救われ、彼らに少なからず好意を抱いている人々だからこそ、不安や心配も大きいのだろう。

 だが番場は、その現実を踏まえた上で、ライダー達の勝利を確信していた。

 

「……お前もそう思うだろう? なぁ、遥花」

 

 遠方の島で、新人ナースとしての研修を受けている愛娘――番場遥花。ライダーとしての力を失い、ただの少女となった彼女も、同じ気持ちなのだと番場は信じている。

 

 命ある限り、仮面ライダーに敗北はない。それは2年前、ライダー達と共にノバシェードと戦った彼女の方がよく理解しているのだから。

 

 ◆

 

 某テレビ局を占拠した始祖怪人達と、その打倒に動き出した新世代ライダー達。

 彼らの激戦が始まってから数時間が経過した頃――若き戦士達は皆、熟練兵達の圧倒的な力の前に深く傷付き、片膝を着いていた。2年前から格段に強化されたはずの彼らの外骨格は、各部から火花を放っている。

 

「つ、強い……! 僕達だってパワーアップしているはずなのに……もう、改造人間にも引けを取らない域に達しているはずなのにッ……!」

「ハッ、当然だろうよ。基本性能だけが俺達に追い付いたところで、使い手同士の圧倒的な経験値の差はそのままだからな。天峯達のような民兵崩れ共と一緒にされちゃあ困る」

 

 本気のミサイル連射を捌き切れず、弾頭の嵐を浴びてしまったZEGUN。その傷付いた姿を見遣りながら、ミサイルイナゴは不遜に鼻を鳴らしていた。

 

 ――明智天峯達も強力なポテンシャルを秘めた改造人間だったが、元々シェードの戦闘員だったわけではない彼らは、2年前の戦いで新世代ライダー達と対峙した時ですら、自身の能力を持て余していた。

 だが、50年近くも戦い続けて来た始祖怪人達は違う。彼らはその絶大な経験値と、改造人間としての圧倒的な武力を兼ね備えた生粋の人間兵器なのだ。

 

 始祖怪人達の一人一人の戦闘能力は、明智天峯が変身していた、あの仮面ライダーマティーニすらも超えている。

 スーツが格段にパワーアップした程度では、決して埋まらない戦士としての「格」というものがあるのだ。その絶望的な壁を乗り越えない限り、新世代ライダー達に勝機はない。

 

「だが……天峯達も決して雑魚ではなかった。改造人間の力を持て余してはいたが、それでも光るものはあったはずだ。奴らを倒した点については、見事という他ない」

「……誇って良いよ。ボク達が生身の人間をこれほど買うことなんて、本来なら天地がひっくり返ってもあり得ないんだからね」

「ぐっ、う……!」

「あうっ……!」

 

 サザエオニヒメとアルコサソは、新世代ライダー達にその可能性を見出したのか。改造人間としての慢心を見せず、素直にライダー達の潜在能力を評価している。

 だが、サザエオニヒメのドリル攻撃を浴びたGNドライブと、アルコサソの馬上槍で鎧を穿たれたEXには、その称賛に耳を傾けていられる余裕もない。

 

「こんな戦いに……何の、意味があるというんだッ……!」

「意味なら在る。……仮面ライダーよ、今日は何日だ」

「10月7日……? それがどうした!」

 

 意図が読めないトライヘキサの問い掛けに、倒れ伏したターボが声を上げる。その言葉を紡いだのは、近くに居た紅衛校だった。

 

「そう、10月7日。鳥海穹哉の誕生日、という意味だけではない。それが何の日か……お前達に分かるか?」

「……アフガニスタン侵攻が始まった日、ですか」

 

 紅衛校の言葉が意味するものに勘づいたG-verⅥが、傷だらけの装甲服を震わせながら「答え」を口にする。それは2001年に起きた軍事侵攻に纏わる日付だったのだ。

 

「……そうだ。今から20年前の2001年10月7日。『対テロ戦争』の時代に突入した当時のアメリカ軍が、テロの撲滅を目指してアフガニスタンへの侵攻を開始した」

「だから……この日を選んだのか」

 

 放送局の裏手で紅衛校と同じ話をしていたプラナリアンは、自分の前で膝を着いているtype-αに自分達の「意図」を告げていた。

 彼のコンバットナイフを胸に突き立てられたtype-αは、掠れた声を絞り出している。装甲服を容易く貫通した刃先は心臓の手前にまで到達していた。

 

 プラナリアンが使役する黒死兵達と相対した他のライダー達も。RCと対峙していたマス・ライダーも。その圧倒的な力と物量に完封され、力無く倒れ伏している。

 

 それと同じ光景が、放送局内のニューススタジオにも広がっていた。外に居る仲間達と同じ内容を話していたDattyとブレイズキャサワリーは、自分達が打ち倒したボクサーとアルビオンを悠然と見下ろしている。

 

「俺達にとっちゃあ……最高の記念日なんだよ。人類としては、お辛い日かも知れないがな」

「その日こそが、テロリズムとの戦いという新時代の幕開けであり……世界が俺達を、改造人間を欲する真の契機でもあった。少なくともその時代においては……俺達は『必要』とされていた」

 

 彼らの言葉を耳にしていたUSAは、火炎放射を浴びて装甲が黒焦げになった状態のまま、ケルノソウルを睨み上げている。そんな彼の視線を感じていたケルノソウルは、仲間達の言葉を静かに紡いでいた。

 

「……徳川清山のPMCが非公式に、当時の戦闘行為にも介入していたという情報は……父の手記にも残されていた。やはりあの頃も、あんた達は……」

「当然のこと、でしょうね。決して死なない鋼鉄の兵隊。何発撃たれようが、何を撃たれようが決して止まることのない不死身の突撃兵。テロリストという絶対悪を徹底的に屠る、絶対的正義を帯びた暴力の化身。私達はそのように望まれ、活かされたのだから」

 

 彼女の言葉に頷くタパルドとハイドラ・レディも、同様にティガーとタキオンを一瞥している。

 外骨格もろとも胸を爪で貫かれたティガーと、装甲を破られ体内に神経毒を注入されたタキオンが、彼女達の足元に倒れていた。

 

「公式の戦闘記録にこそ残らなかったが……あの日から世界中の軍隊が、私達に注目した」

「彼らは皆……水面下で清山様と交渉し、私達の力を欲したのです。テロに屈せぬ最強の歩兵を、全世界が求めたのです。あれは……そういう時代でした」

「その事業の収益から誕生したのが……あの対テロ組織としてのシェードだったと?」

「アフガンの戦地でテロとの戦いに従事していた貴様達が……今度はテロの象徴とはな。皮肉なものだ……!」

 

 神経毒に全身を侵されながらも、震える手で立ち上がろうとしているタキオンと、タパルドの爪に倒されたティガーが、必死に声を絞り出す。

 その頃――上階の廊下では、オルバスとΛ−ⅴを打ち倒したレッドホースマンとカマキリザードが、忌々しげに呟いていた。

 

「俺達の存在意義はそこから確立され、盤石なものとなるはずだった。……お前達のボス、番場惣太が余計な捜査などしなければな」

「奴はその捜査の功績を認められ、今の警視総監のポストに就いたのだ。……俺達を売った功績で、な。柳司郎の後輩に当たる男だからと、気を許すべきではなかった」

 

 番場惣太への憎悪を語る彼らに対し、満身創痍のオルバスとΛ−ⅴは震える両足で立ち上がり、戦いを続けようとしている。

 それと時を同じくして――他の階や、放送局の外で倒れていたライダー達も、懸命に立ち上がろうとしていた。

 

「……それが、総監の意志を継いだ俺達との決闘を望む理由か? 逆恨みも甚だしいな」

「番場総監が尊敬していたのは、警察を辞める前の……まだ人間としての誇りを捨てていなかった頃の羽柴柳司郎だ。貴様達の知る、『羽々斬』としての奴じゃあない……!」

 

 番場惣太と羽柴柳司郎の関係と過去を知る彼らは、傷だらけになりながらも痛みに屈することなく、勇ましげに吼えていた。

 そして、それと同じ旨の言葉を――屋上でエインヘリアルと戦っていたケージも、叫んでいたのである。彼の言葉を浴びた老兵は、不遜に鼻を鳴らしていた。

 

「……誤解を招いたようで済まないが、これでも奴には感謝しているのだよ。お行儀の良い公認組織のままでは、我々はこの能力の有効性を証明出来ずに朽ちて行くのを待つばかりだったのだからな」

「一体、それで……何が得られるんだ。何が望めると言うんだッ……!」

「得る物も望む物も、今さら必要あるまい。清山と柳司郎が斃れた日から……我々もすでに、死んでいるのだ」

 

 滅びることを厭わぬ死兵の群れ。失うものを持たない怪物達。そんな始祖怪人の有り様を目の当たりにしたケージは、筆舌に尽くし難い怒りに拳を震わせている。

 それは、エインヘリアルと同様の発言を他の始祖怪人達から聞かされていた、各地のライダー達も同じであった。

 

「その屍人が蘇ったことに意味があるとするならば……それは今一度、己の存在意義を示すためであることに他あるまい。我々の時代が始まった、この日にな」

「そんな悲し過ぎる理由で……こんなことを始めたのか!」

「悲し過ぎる? 面白い、この我々を……お前達人間風情が憐れむというのか? これほどの力の差を見せられてもなお……自分達を、憐れむ側と捉えるか」

 

 ケージの慟哭を耳にしたエインヘリアルは高らかに嗤い、両手のブレードを静かに構える。今度こそ確実にとどめを刺す、と言わんばかりに。

 そしてケージも次が最後だと覚悟を決め、拳を構えるのだった。各々の場所で始祖怪人達と対峙している他のライダー達も、同様の決意で攻撃体勢に入ろうとしている。

 

「……良かろう。決して退かぬその理由、『誇り』故か『慢心』故か……見定めてやろう」

「どちらだろうと関係ない……! 俺は……俺達は絶対に諦めんぞ、始祖怪人ッ!」

 

 失うものなど無い、死兵の群れか。守るべきものを背負う、正義の使者か。

 雌雄を決する最後の激突が、始まる――。

 




 次回からは彼らの決着を描く戦闘パートに突入し、そのまま一気に完結に向けて突っ走る予定です。ようやく本章もクライマックスでございますので、最後までどうぞお楽しみに〜(*^ω^*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第16話

 

「威勢が良いのは結構だが、身体の方は全く付いて来てねぇようだなッ! 今度こそ終わりにしてやるぜッ!」

 

 ――放送局入口前の庭園。黒煙と炎に彩られたその戦場の中で、ミサイルイナゴは「とどめ」のミサイル連射を発動していた。

 

 腹部から乱れ飛ぶ無数の弾頭が、獲物を喰らい尽くすべく満身創痍のZEGUNを襲う。

 だがZEGUNは、この土壇場でゼガンシューターを投げ捨てると――腰部から「ゼガンサーベル」という熱線刀剣(ビームサーベル)を引き抜き、ミサイルの信管だけを切り落としてしまった。

 

「なにッ……!?」

「……付いて来なくたっていいのさ。貴様の『データ』なら、もう十分取れているからね……!」

 

 これまで、被弾を覚悟でミサイルイナゴの攻撃を「観察」し続けていたZEGUNは、ようやくその弾道を完璧に見切れるだけの経験則(データ)を得たのである。

 ミサイルを無力化するための手段と、それを実行するための技術が揃った今、恐れるものは何もない。

 

 ZEGUNは矢継ぎ早に飛んで来るミサイルを次々と切り落としながら、傷付いた身体を引き摺るように前進し――ついに、剣が届く間合いにまで辿り着くのだった。

 

「はぁあぁああぁッ!」

 

 出力を最大限に引き上げるための専用カードを差し込み、熱線刀剣のエネルギーが最高潮に達した瞬間。

 ZEGUNはその状態から、ミサイルイナゴを斬り伏せる必殺の一閃「スラッシュサーベル」を繰り出したのだった。

 

「ぐぉあぁああッー!」

 

 超高熱の刃で袈裟斬りに斬られたミサイルイナゴは、体内に残っていた弾頭の誘爆に飲まれ――爆炎に包まれてしまう。

 

 その爆炎と猛煙が過ぎ去った頃には、すでにミサイルイナゴの姿はなく。そこに立っていたのは、煤塗れの野戦服を纏う橋部一雄という1人の人間であった。

 

「……どれだけボロボロになっても、仮面ライダーは諦めねぇってことを俺に思い知らせる。それが……この攻撃の『意味』だったってわけかい」

「残念だが……伊達や酔狂だけで命を賭けられるほど、僕は馬鹿にはなれなくてね。勝てる見込みがあるからこそ、僕はそこに賭けるのさ」

「ハッ……大したもんだぜ、お前らは、よ……!」

 

 ZEGUNの言葉に軽薄な笑みを浮かべた橋部は、膝から崩れ落ち、倒れ伏して行く。

 その光景が、この一騎打ちの勝敗を物語っていた。だが、それを見届ける暇もなく――全身全霊の必殺剣(スラッシュサーベル)で力を使い果たしたZEGUNも力尽き、崩れ落ちてしまうのだった。

 

(……兆候は僅かだったが、間違いない。すでに深手を負っている僕達以上に……彼らの動きが鈍り始めている。やはり、彼ら始祖怪人のボディはもう……)

 

 ――戦いの中に見出した微かな違和感に、一つの確信を覚えながら。

 

 ◆

 

 アルコサソの後頭部付近に備わっている触手と、その先端部に仕込まれた毒針。

 装甲を貫通して打ち込まれたその神経毒は、確実にEXを体内から蝕んでいた――はずなのだが。

 

「ん、はぁっ……! はぁ、あ、んっ……!」

 

 毒性怪人対策として、ライダー達が事前に注射していたワクチンが、その症状を抑え込んでいたらしい。臀部に神経毒を突き刺されていたEXは、アルコサソに対して尻を向けるように前屈みになった体勢のまま、全身を襲う痺れに苦悶の声を上げている。

 それでも――仮面の下で艶かしく頬を上気させていたEXこと美里は、両脚を震わせながらも地を強く踏み締めている。やがて彼女はアルコサソの方へと向き直り、肘と踵から伸びる強化装具の刃を構え直していた。彼女はまだ、戦うつもりなのだ。

 

(人間辞めてるのは、そっちの方なんじゃない……!?)

 

 そんな彼女の、常軌を逸した尋常ならざる「執念」に、アルコサソは驚愕を露わにしている。もし今が変身前の状態だったなら、その可憐な貌を引き攣らせていたところだろう。

 精神が肉体を凌駕することなど、科学的にはあり得ない。その確信を、揺るがされているのだ。

 

「神経毒は間違いなく打ち込んだはずなのに……それでも動けるなんて、ボクらよりも怪物染みてるねぇ!」

「う、ぐ、ぅうぅっ! はぁ、ぁうっ……! そ……そうだとも。僕達は……人間は強いのさ。上辺だけの強さに囚われた、君達のような怪人よりも……よほどねッ!」

 

 臀部上方の尻尾先端に付いたラッパ状の部分。そこから放たれる音波攻撃に一度は倒れ伏し、尻を突き上げながら耳を塞いで苦悶しながらも――気力を振り絞って立ち上がったEXは、両肘の刃で斬り掛かって来た。

 

「甘いッ!」

「ぐぅうぅうッ……!」

 

 飛び道具を持たない彼女に対して有利な間合いを保つため、アルコサソはさらに音波攻撃の「ギア」を上げ――最大出力の衝撃波を放ったのだが。

 

「……とあぁあぁぁッ!」

「なッ……!?」

 

 一度吹っ飛ばされたEXは空中で後転して受身を取り、着地と同時に地を蹴って再び突っ込んで来る。回転の際に向けられた尻に気を取られる暇もなかった。

 予想外の挙動で不意を突かれたアルコサソは、咄嗟に右腕の爪で防御するも、EXの両肘による斬撃を受けた箇所に亀裂が走ってしまった。

 

(なんて馬鹿力ッ……!)

 

 これ以上、EXの攻撃を爪で受けるのは不味い。そう判断したアルコサソは即座に爪を腕部に収納し、バックルから馬上槍を引き抜こうとしたが――間に合わず、側面に飛び込んで来たEXの刃で、尻尾を根元から切り落とされてしまった。

 

「ぐわぁあッ!? あ、あぅうぅう〜っ……!」

「もうその技は使えないねッ……!」

 

 尻を押さえながら悲鳴を上げるアルコサソは俯せで顎を地に付け、ぷりんっと尻を突き上げる体勢になって尻を振り続けながら、痛みに耐えるようにぷるぷると身を震わせている。

 

「貰っ、たァァアッ!」

「こ、のおぉおッ!」

 

 そこまで接近された状態では、馬上槍で再び刺し貫くのも難しい。突き出した尻に追撃を受けそうになっていたアルコサソは、身を翻してEXの両肩を掴むと、顎部(クラッシャー)の牙を開いて彼女の頭を噛み砕こうとする。

 

「ぐぅッ!? う、ぅあぁあっ……!」

(このまま噛み砕いて……ッ!?)

「僕は負けない……! 君にだけは、絶対にッ!」

 

 だが、その牙がEXの仮面を貫通して、美里の頭に届く前に。彼女のパンチを下顎に受け、脳を揺さぶられたアルコサソは大きく体勢を崩されてしまう。

 

「あがぁっ……!?」

 

 その衝撃に仰け反りながらも、なんとかバックルから馬上槍を引き抜いたアルコサソは、追撃の刃を柄で防御しながら、後方に飛び退いて間合いを確保して行く。

 

 ここに来て彼は、この戦いで初めて「後退」したのである。その最大の隙を、EXが見逃すことはなかった。

 

 後ろに下がるという行為は、正面に対する攻撃の勢いを殺すことに繋がる。

 そこに勝機を見出したEXは、牽制のために放たれた触手を肘で斬り払いながら、アルコサソの懐に飛び込んで行く。だが、一方的に攻め立てられるだけの始祖怪人ではない。

 

「ボクのそばに……近寄るなァァーッ!」

「うっ、ぐ、あぁああッ!」

 

 馬上槍の先端から発せられる反重力光波。その妖しい輝きに飲み込まれたEXの身体が、ふわりと浮き上がって行く。

 アルコサソはそんな彼女を弄ぶかの如く、槍の先端を揺らして光波を制御し、EXの尻を持ち上げるようにその身体を何度も空中で後転させていた。

 

「あぅっ、こ、これは……はぁぁぁうっ!?」

「もうお遊戯の時間はお終いだよ、久我峰警部……! そぉおおらっ!」

 

 だが、それは「お遊び」の類ではなく――回転により発生する運動エネルギーを、「衝撃力」に変えるための予備動作なのだ。

 さらにアルコサソは槍の先端を振るい、EXを振り回すように、何度も彼女の身体を空中で往復させて行く。

 

「……でぇえーいッ!」

「がはぁあッ……!」

 

 そして、槍の切っ先が勢いよく振り下ろされた瞬間。それに比例してEXの身体も地面に叩き付けられてしまうのだった。

 全身に亀裂が走った装甲服の惨状と、そこを中心に広がる地面のひび割れが、その威力を物語っている。

 

「ま、まだ、だァアッ!」

「……ふ、不死身なのっ!?」

 

 それでも、EXは立ち上がって来た。そのボディは誰の目にも明らかなほどにボロボロだというのに、彼女はそれでもアルコサソに向かって来たのである。

 

「くッ……! この、死に損ないがァッ!」

 

 反重力光波は連発出来ない。2発目は間に合わない。それでもアルコサソは怯むことなく、刺突が可能な間合いに入った瞬間、馬上槍の切っ先を突き出していた。

 その刃先を払うため、EXはそこに向けて刃の付いた踵でのローリングソバットを放つ。

 

「往生際が悪いなァッ……! 女らしい(・・・・)淑やかさってものがないね、君ッ!」

「……この期に及んで戦う相手に淑やかさを求めるとは、随分と女々しい(・・・・)男だなッ!」

 

 女のような男である「男の娘」。男のような女である「男装の麗人」。

 両者は互いに吼え、それぞれの刃をぶつけ合う。馬上槍の先端と、踵の刃を振るうローリングソバットが激突し――その両方の刀身が、粉々に砕け散る。

 

「やっぱり君は……!」

「どこまでもッ……!」

 

 ――気に食わないッ!

 

 そんな2人の叫びが共鳴する。だが、まだ終わりではない。

 

 EXはその勢いのままアルコサソの頭上に跳び上がり、スラリと伸びた長い脚を振り上げる。残されたもう片方の踵の刃を活かした、踵落としの体勢に入ったのだ。

 

 対するアルコサソも最後の力を振り絞り、白のマントを翻して防御姿勢に移ろうとしていた。密かに再生させた触手の毒針と、右腕から再び伸張させた爪で、起死回生のカウンターを仕掛けるために。

 そして、マントに隠されたその爪の先端部は――妖しい輝きを宿していた。

 

(久我峰警部、君は実に素晴らしい「素体」だ……! 君ほどの戦士なら必ず、最高の「怪人」になれるよ……!)

 

 アルコサソの爪は単なる武器ではなく、人間の肉体を改造する遺伝子操作ビームを発射することも可能なのだ。彼はこれまで、多くのシェード隊員達をその光線で「怪人」に仕立て上げて来たのである。

 

 生身の人間でありながら、始祖怪人である自分をここまで追い詰めた仮面ライダーEX――久我峰美里。

 ただでさえ強い彼女が改造人間の力を手にすれば、一体どれほどの怪物が誕生するのか。数多の改造手術に手を染めて来たアルコサソだからこそ、その可能性に興味を持たずにはいられなかったのである。

 

(さぁ、仕掛けておいで……! 君の刃を凌いだら、その瞬間にもう一度神経毒で動けなくしてあげる! そこから先は、公開改造ショーの始まりさ……!)

 

 触手の毒針で短時間でもEXの動きを止めれば、後は遺伝子操作ビームで即座に彼女を改造することが出来る。

 例えその後、人智を超えた怪物と化した彼女に嬲り殺されるのだとしても、本望だと言える。むしろ、自分の全てを賭けて作り出す最後の怪人になるのだから、それくらいでなければ。

 

 ――EXの底力に魅入られたことで、そのような狂気に囚われていたアルコサソは、白マントの下で妖しく牙を研いでいる。

 

「はぁあぁあぁあーッ!」

「ぐが、ぁあッ……!?」

 

 だが、そのチャンスが彼に訪れることはなかった。

 

 踵落としの要領で、上段から袈裟斬りを放つ「ヘルスラッシュ」の一閃は――白のマントを貫通し、アルコサソの胸を切り裂いてしまったのである。

 カウンターを繰り出す余力など一切与えず、完膚なきまで叩きのめす一撃必殺。その一閃は、毒針も遺伝子操作ビームも出せなくなるほどの、絶大なダメージを齎したのだ。

 

「がっ……は、あッ……!」

 

 必殺の刃を受けたアルコサソは仰向けに倒れ、反撃のために蠢いていた触手も力尽きたようにしなだれて行く。すでに限界に達していた右腕の爪も、粉々に崩壊していた。

 

 尻をEXに向けるような姿勢でひっくり返っていた彼の両足が、一拍遅れて地面に投げ出されて行く。

 この一騎打ちを制した勝者がEXであることを、その光景が如実に語っていた。

 

 やがてアルコサソとしての姿を保つ力も失われ、その外骨格が崩れ落ちた頃には――アシュリー・フォールとしての「正体」が晒されていた。

 

「……ははっ。これが……ボクに相応しい、『末路』と『報い』ってことか……」

 

 変身が解け、ありのままの姿に戻されたことを悟ったアシュリーは、自分の白い手を一瞥して乾いた笑みを零す。

 そんな彼の自虐的な姿を目にしたEXは、力尽きたように膝を着きながらも、仮面の下で切なげな表情を浮かべていた。

 

 やがてEXのボディも限界に達したのか、その外骨格がボロボロと崩れ落ちて行く。

 装着者である久我峰美里の美貌と、汗ばんでいるスレンダーな肢体が露わにされたのは、それから間もなくのことだった。反重力光波を受けた時点で、スーツの耐久力はとうに尽きていたのだろう。

 

 最低限のインナーとスパッツだけに包まれた、引き締まった白い肉体。その珠のような柔肌にじっとりと滲む汗は、彼女の肢体に宿る蠱惑的な香りをむわりと漂わせていた。

 外骨格の内側で熟成されていた、芳しい戦乙女の芳香。その扇情的かつ濃厚な匂いが、彼女の肉体が感じていた極限の昂りと緊張感を物語っている。

 

「……不思議なものだね。ついに君を討てたというのに……期待していたほどの高揚感も無ければ、達成感も無い。在るのは……虚しさと、憐れみだけだ」

「憐れみ? ……ボクがそんなに、惨めに見えるのかい」

「あぁ……今なら分かるよ。君か……君達という存在が、いかに憐れなものだったのか」

 

 12年前の雪辱を果たしたことで、命を落とした同僚達の無念は確かに晴らされた。だが、その先に在ったのは深い憐れみであった。

 アシュリーの弱り切った姿が、そのような気持ちにさせているのか。憂いを帯びた貌を露わにした美里は、あれほど憎んでいたはずの宿敵を切なげに見つめている。

 

 ――始祖怪人達は皆、自ら志願して「怪人」になった者達であり、それ故に己が改造人間であることを誇り、生身の人間達を「弱者」と見做していた。

 

 それは自分達こそが「強者」であらねばならない、という強迫観念にも似た使命感に由来するものだった。人間に絶望した彼らは、その「使命」に未来への希望を委ねなければならなくなっていたのである。

 

 これは、人間の自由と平和を守るためだけの戦いではない。

 人間の強さを信じられなくなっていた彼らに、人間の力で勝つことにより。その使命という名の呪縛から、永遠に解放するための戦いでもあるのだ。

 

 敗北によって己を見失ったアシュリーの姿から、その本質を見出したからこそ。美里は憎しみに染まり切ることなく、彼を憐れむようになったのである。

 

 そんな彼女の表情から、その心の動きを悟っていたアシュリーは――自分に向けられた憐憫の想いを感じ取り、打ちひしがれた表情で夜空を仰ぐ。

 

「本当に……気に食わないよ、君は」

 

 出て来た言葉は、これまで通りの憎まれ口。だが、その表情は――ほんの僅か、救われているようにも見えていた。

 




 ゴツい装甲服からは想像もつかない美女が出て来る演出すこ。サムスがゼロスーツになる瞬間然り(*´꒳`*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第17話

 

 サザエオニヒメの右腕に搭載されたドリル兵器。

 その高速回転を伴う刺突を浴びたGNドライブは、胸の装甲を抉られ一度はダウンしたのだが――上福沢幸路は装甲もろとも肉を斬られたのにも拘らず、鮮血を滴らせたまま立ち上がっていた。

 

「……装甲は確かに砕いたはずだが、まだ立ち上がれるとはな。財閥の御曹司がどれほど意気込んだところで、温室育ちの若造ではたかが知れていると思っていたが……少々みくびり過ぎていたようだ。この私に、ここまで食い下がって来るとは」

「ははっ……ようやく僕についての理解を深めてくれたようだね。ただ……少しばかり、認識のアップデートが足りていないと見える」

「ほう……?」

 

 その尋常ならざるタフネスに、サザエオニヒメが静かに感嘆する一方。GNドライブは傷の痛みなど意に介さず、仮面の下で気障な笑みを浮かべている。

 

「この僕が、食い下がる程度で満足するような庶民派ではない……ということさ。僕達は君達を超え、人間の力を証明するために来たんだ。もう、改造人間の力は要らないのだと!」

「……大きく出たものだな。改造人間を不要と断じれるほど、貴様達人間がご立派なものかどうか……試してみるかッ! 上福沢幸路ッ!」

 

 ドリルで装甲ごと切り裂かれてもなお、衰えない気迫と戦意。その強靭な精神力を糧に吼えるGNドライブに対し、彼の闘志を汲んだサザエオニヒメは容赦なくドリルを向け、GNドライブ目掛けて突進して行く。

 

「はぁあぁあッ!」

「ぬぅうッ!」

 

 その刺突を間一髪かわして跳び上がったGNドライブは、空中で身体を捻ると――ダイヤモンドの輝きを纏い、高速回転しながらドロップキックを放つのだった。

 

「ぐっ、お……!」

 

 必殺の「ブリリアントドロップ」を受けたサザエオニヒメは、想像を遥かに上回る衝撃に驚愕し、思わず数歩引き下がってしまう。

 

 だが、GNドライブが死力を尽くして放ったその一撃でさえ、彼女を仕留め切るには至らなかった。

 ブリリアントドロップが命中した肩部には、小さな「穴」を中心とする亀裂が広がっていた。起死回生を狙って放たれた必殺技でさえ、その程度の傷が関の山だったのである。

 

「はぁ、はぁ、はぁッ……!」

「……ふっ、確かに大口を叩くだけのことはある。だが、貴様の全身全霊を以てしても……私の鎧に穴一つ開けることが精一杯だったようだな」

 

 重傷を負ったままブリリアントドロップを放ったことで、限界を超えてしまったのか。GNドライブは立ち上がることも出来ず、片膝を着いたまま動けなくなっている。

 

 もはや、勝負は決まったも同然と言えるだろう。それでもサザエオニヒメは慢心することなく右腕のドリルを回転させ、GNドライブに「とどめ」を刺そうとしていた。

 

 ――かつて仮面ライダーGがサザエオニヒメと戦った際、彼は終ぞその装甲を破ることが出来ず、戦場となっていた溶鉱炉にライダーキックで突き落とすという力技でしか倒すことが出来なかった。彼でさえ破れなかった装甲を、僅かとは言えGNドライブが突破したのだ。油断など出来るはずがない。

 

「とは言え……この鎧をここまで傷付けたのは、貴様が初めてだ。せいぜいあの世で誇るが良い、上福沢幸路! これで最後だッ!」

 

 猛スピードで迫り来るドリルの刺突。その凄まじい回転音と共に、とどめの一撃がGNドライブを切り裂こうとしていた。

 

「……ッ!」

 

 だが、GNドライブはその状況下でも臆することなく――専用のエネルギー拳銃「ダイヤガンナー」を両手持ち(ツーハンドホールド)で構え、狙い澄ました一閃を撃ち放つ。

 

 そのエネルギー弾は今まで一度も、サザエオニヒメの外殻に通じたことはない。

 この期に及んで、これまで何度も弾かれて来たエネルギー弾に頼っている彼の姿は、サザエオニヒメの眼にはただの「悪足掻き」にしか映らなかった。

 

「無駄な足掻きをッ! そんなエネルギー銃など私には通じなッ――!?」

 

 その油断が、命取りになったのである。

 

 ブリリアントドロップによって開けられた「穴」に飛び込んだエネルギー弾は、そのまま外殻の内側(・・)に命中。

 そしてこれまで通りに弾き飛ばされたエネルギー弾は、絶え間なくサザエオニヒメの体内で「跳弾」を繰り返し始めたのだ。

 

(これは……ッ!? まさか奴はこのために、私の鎧に穴をッ……!?)

 

 ダイヤガンナーのエネルギー弾では、サザエオニヒメの装甲を破ることは出来ない。だが、その外殻に守られた福大園子という「本体」は別。

 それが、GNドライブがこの戦いに見出した唯一の勝機だったのである。そして彼の読み通り、エネルギー弾を外殻の内側に撃ち込まれたサザエオニヒメは、跳弾によって体内を連続で撃ち抜かれてしまうのだった。

 

「ぐわぁあぁああーッ!?」

「……穴一つで十分なのさ。君はまた、認識を誤ったようだね。福大園子」

 

 最後の1発だったエネルギー弾が起こした奇跡。その瞬間を見届けたGNドライブは、絶叫を上げるサザエオニヒメの眼前で、弾切れとなったダイヤガンナーを手放す。

 

 その銃身が地に落ち、ガチャリと音を立てた時。跳弾によって乱れ飛んでいるエネルギー弾を「外」に出すため、変身を解いて外殻を消失させた福大園子は――満身創痍となっていた。

 

 もはや戦闘を続行出来る状態ではないことは、誰の目にも明らかであった。

 全身全霊の必殺技(ブリリアントドロップ)すら凌いで見せた鋼鉄の牙城は、たった1発のエネルギー弾によって脆くも崩れ去ったのである。

 

 鎧に開いていた僅かな「穴」に、寸分の狂いもなくエネルギー弾を撃ち込んで見せた技量と度胸。それは紛れもなく、始祖怪人を超えた人間ならではの底力であった。

 

「ぐ、ふふっ……見事だ、上福沢幸路。これが私の……『ケジメ』、なのだなっ……!」

「あぁ……そういうことだ。落とし前は……付けさせてもらったよ、福大園子」

 

 自分達を超えるという言葉が虚勢の類ではなかったことを証明して見せたGNドライブに、最後の力を振り絞って賛辞を送った福大園子は。一片の悔いも残すことなく、倒れ伏したのだった。

 

 ◆

 

「ぐぅううッ……!」

 

 ただ両脚で立つのがやっとの状態だった仮面ライダーターボは、勢いを増して行くトライヘキサの猛攻に押されるがまま、防戦一方となっていた。

 精神が肉体を凌駕しようとも、やはり根本的な実力差は覆せないのか。両手の爪による斬撃と、10本の角による刺突の嵐を浴び続けた装甲服は傷だらけになっている。

 

「俺は……もう何も失わない。何も失いたくないッ! だからこそ奪い尽くすのだ、奪われる前にッ!」

 

 猛攻に次ぐ猛攻。その果てに両肩を掴んでターボを押し倒したトライヘキサは、ついに「とどめ」を刺そうとしていた。

 7つの頭が同時に大顎を開き、強靭な牙を剥き出しにしている。このままターボこと本田正信の肉体を、装甲服もろとも喰らい尽くすつもりなのだ。

 

 ――かつて彼の「先輩」を殺した時のように。

 

「……そうやって貴様達は、奪い続けて来たんだな。だが、それで貴様達は何を得た! 何か一つでも、失ったものを取り返せたのかッ!」

「……!」

 

 だが、その絶望的な状況下でもなお、ターボは諦めず手を伸ばし――7つある頭のうちの2つを掴み、抗い続けていた。残る5つの頭に両腕を噛まれ、鮮血が噴き上がっても、その力は全く緩んでいない。

 

 そんな彼の雄叫びに、トライヘキサは思わず怯んでいた。

 何も得られず、奪うことだけを繰り返してきた数十年間の人生。その虚しさを抉る彼の言葉が、牙の威力を落とし始めていた。

 

「俺も……貴様の手で、大切な人を喪った。それでも、貴様のようにはなるまいと……この連鎖に抗うと決めたんだ! 俺は貴様とは違う! 俺は……奪わせないために戦うッ!」

「そんなことが出来るものかッ! 人間如きに何が出来るッ! 貴様如きに、何がぁあぁあッ!」

 

 それでも、これまでの人生を無駄にするわけには行かない。それでは、何のために奪い続けてでも生きて来たのか、分からなくなる。

 その慟哭を殺意に変えて、トライヘキサはターボの両腕を食い尽くそうと牙を突き立てる。装甲を破り、肉に食い込んだ牙から噴き出して来る血潮が、彼の視界を覆い尽くしていた。

 

 それ故に彼は、見逃してしまったのである。

 ターボが足裏に備わるエンジンの出力を最大限に高め、必殺の蹴り(ライダーキック)を放とうとしていた瞬間を。

 

(先輩……!)

 

 大量の出血により意識が揺らぐ中、本田正信の精神を奮い立たせたのは――血の海に沈んだ先輩が、「最期」に残した言葉だった。

 

 ――お前なら、必ず出来る。俺は……信じてるぞ。

 

(先輩、俺は、俺はッ……!)

 

 ライダープロジェクトが始まる以前から警視庁で極秘裏に進められていた、強化外骨格開発計画。元白バイ隊員であり、初代テスト装着員でもあった「先輩」は、トライヘキサに喰い尽くされる最期の瞬間まで「後輩」の正信を信じ続けていた。

 彼の死後、「2代目」としてテスト装着員を引き継いだ正信は、開発計画の成果を後年のライダープロジェクトに引き継ぎ、「仮面ライダーターボ」として完成させたのである。

 

「出来る……! 俺になら出来るッ! それを……貴様にも証明して見せるッ!」

「ぐ、おぉッ……!?」

 

 いわばこのスーツは、亡き先輩の想いを受け継いだ正義の聖火。

 その灯火を、この瞬間に燃やし尽くすように――本田正信は、吼える。

 

「はぁあぁあ……ぁああぁーッ!」

「ぐぉぉおあぁああーッ!?」

 

 両腕を喰われながらも、怒号と共に放たれた必殺キック――「ストライクターボ」が、巴投げの要領でトライヘキサの腹部に炸裂する。

 足裏のエンジンによる超加速を得たキックが、異形の怪人を紙切れのように吹き飛ばして行く。その身体は放送局のコンクリート壁に叩き付けられ、深く減り込んでいた。

 

「……こ、これが……俺への『報い』かッ……!」

 

 奪い続けてきた数十年間への「報い」が、その一撃に込められていたのだろう。そう悟っていたトライヘキサの身体は放送局の壁から剥がれ落ち、力無く地面に墜落して行く。

 

 どしゃり、という鈍い音が聞こえた頃には――すでに「黙示録の獣」を想起させる異形の姿はなく。そこには、ジョン・ドゥの姿だけがあった。

 

「生憎、だが……俺の『ストライクターボ』は、どんな体勢からでも打てるのが売りでなッ……!」

 

 その光景を見届けたターボは、事前に用意していた軍用の止血剤で出血を抑えながら、仰向けに倒れている。度重なる負傷と大量の出血により、もはや立ち上がる力も残ってはいなかったのだ。

 通常のキックとは違って脚力や体重移動ではなく、足裏のエンジンが要となる「ストライクターボ」は、体勢を問わずあらゆる状況下で発動することが出来る。その切り札が無ければ、ターボがトライヘキサに打ち勝つ術などなかったのだろう。

 

(先輩……俺は、上手くやれたでしょうか。ターボの役目を……果たせたのでしょうか)

 

 トライヘキサを倒したことで、過去の雪辱を果たすことは出来た。

 しかし、これは私的な復讐に過ぎないのではないか。自分は本当に、「先輩」の遺志を継いだ「ターボ」としての正しい使命を果たせているのか。

 

 そう逡巡する正信の視界に――この世に居るはずのない人間が現れる。それが幻覚であることは、視た本人も理解していた。

 

 ――よくやった。お前は、俺の誇りだ。

 

 その言葉が、幻聴でしかないことも頭では理解していた。しかし本田正信にとっては、それで良かったのである。

 この死闘を制した彼の頬はようやく、憑き物が落ちたように綻んでいたのだから。

 




 トライヘキサ戦のラストについては、ちょっとだけ無限列車編の煉獄さん死亡シーンを意識してました(※ターボはちゃんと生きてますよー!


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第18話

 

 紅衛校と仮面ライダーG-verⅥ。共に重火器を戦闘の主軸としている両者の苛烈な撃ち合いも、最終局面に入ろうとしていた。

 

 ありのままの姿を剥き出しにしている改造人間の巨漢と、屈強な外骨格に身を包む生身の美女。

 全てが対極でありながらも近しい得意分野を持つ2人は、それぞれの得物を静かに向け合っている。

 

「……どうやらお互い、残弾は僅かのようだな。そろそろ……『決着』を付けるとしよう」

「えぇ……私も、あなたの顔はそろそろ見飽きたところですから」

 

 紅衛校の言葉に頷くG-verⅥは、ガトリング形態となっていたケルベロスをロケット弾を発射する「GXランチャー」に変形させる。

 さらに相棒の自動二輪(マシンGチェイサー)を遠隔操作し、車体の両側面に搭載された2基8門のミサイルランチャー「ギガント改」の発射準備を整えていた。

 対する紅衛校も、その筋骨逞しい肉体に巻き付いている弾帯ベルトを握り締め、愛用の重機関銃を構え直している。

 

 それは、「嵐の前の静けさ」だったのだろう。

 僅かな静寂が2人を包み込んだかと思うと――次の瞬間、彼らは同時に動き出したのである。残された最後の「火力」を、1発残らず残らず出し尽くすために。

 

「……ぬぅあぁあぁあぁあーッ!」

「……はぁあぁあーッ!」

 

 互いの絶叫すら掻き消す銃声と轟音の嵐が、この一体を席巻していた。

 紅衛校の重機関銃から解き放たれた凄まじい弾雨は、G-verⅥの重装甲すら徐々に削り取って行く。だが、その弾雨を掻い潜るように飛ぶミサイルも、紅衛校に「とどめ」を刺そうとしていた。

 

 ギガント改から発射された8発のミサイルが紅衛校の胸板に着弾する寸前、2丁のGXランチャーから放たれたロケット弾が飛び――ミサイルと同時に起爆。その爆炎は花のように広がり、紅衛校の全身を飲み込んでいた。

 

 「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」と呼ばれる、G-verⅥの一斉砲火と。紅衛校の持てる弾薬全てを掛けた、最後の一斉射撃。

 双方の死力を尽くした壮絶な撃ち合いは、深く濃厚な硝煙を生み出し――彼らを包み込んでいたその煙が全て晴れた頃には、すでに決着が付いた後となっていた。

 

「はぁ、んはぁあっ、はっ、ぁっ……!」

 

 煙が風に流され、勝負の行方が明かされる。G-verⅥの扇情的な荒い吐息が、彼女の消耗を物語る。

 

「ど、どうだ……! その装甲とて……限界だろうッ……!」

 

 立っていたのは――紅衛校の方だった。

 

 鈍重なG-verⅥでは、「曼珠沙華」を仕掛けながら重機関銃の猛連射をかわすことは出来ず。彼女はその全弾を浴び、装甲を全て削り取られてしまっていたのだ。G-verⅥの全身に走る深い亀裂が、その絶望的なダメージを物語っている。

 

「あうっ……はぁあぁあっ……!」

 

 やがて――重機関銃の弾雨に耐え切れず、力尽きたように瓦解して行くG-verⅥの外骨格。その下に隠されていた絶世の美女が露わにされた瞬間、彼女は艶やかな髪をふわりと揺らして、膝から崩れ落ちてしまうのだった。

 

「はぁ、はぁっ、ん、くっ……!」

「ふ、ふふっ……良い格好だな、仮面ライダー。残念だったが、俺を黙らせるには数発ほど弾が足りなかったようだな」

 

 上気した貌で艶めかしく息を荒げ、女座りの姿勢で両手を着いている爆乳美女――水見鳥清音。紅衛校の弾雨によってG-verⅥの装甲を剥がされた彼女は、その美貌とあられもない姿を晒されていた。

 

 雪のような色白の柔肌。推定Gカップの乳房を包み込む、黒レースのブラジャー。安産型の巨尻にぴっちりと食い込んだ、Tバックのパンティ。鍛え抜かれ、引き締まった腹筋とくびれたウエスト。

 そのほとんどが容赦なく露わにされており、美しい長髪の先が、しとどに汗ばんだ肉体にじっとりと張り付いている。蠱惑的な香りを滲ませる汗が、白い乳房の谷間を伝っていた。

 

 そんな光景を目の当たりにすれば、誰もが紅衛校の勝利を確信するだろう。

 G-verⅥの装甲服を完全に破壊された清音自身も、その決着を受け入れざるを得なくなっていた。2mを超える巨漢の影が、へたり込んだ爆乳美女の身体を覆い隠すように伸びている。

 

 ――だが。「真相」は、違っていたのである。

 

「だが……見事な『火力』、だっ、た……!」

 

 紅衛校は最後に、清音が纏っていたG-verⅥの「火力」を認め――崩れ落ちるように倒れてしまったのだ。その際の轟音が、この戦いの「真相」を告げている。

 

 G-verⅥが重機関銃の弾雨を全て浴びていたように。紅衛校もまた、「曼珠沙華」の全弾を1発残らず全身で受けていた。

 両者の得意分野が同じだったように。鈍重故に回避行動には不向きであるという「弱点」もまた、共通していたのだ。

 

 なまじ体格が優れている分、紅衛校の方がより多くの直撃を受け、ダメージを蓄積させられていたのだろう。

 僅かな差だが――最後の最後で競り勝ったのは、G-verⅥこと清音の方だったのだ。

 

「はぁっ、はぁあっ、んはぁっ……!」

 

 晒された柔肌を衆目から隠すため、紅衛校が着ていた野戦服の上着を羽織った清音は、腰が抜けたように女座りの姿勢から動けずにいた。

 

 鎧を全て削ぎ落とされたことによる「死」への恐怖。その極限の緊張感が、まだ解れていないのだろう。

 激しく肩と乳房を揺らしている彼女は、桃色に染まった肌にじっとりとした汗を伝わせ、蠱惑的に息を荒げている。雄の本能を掻き立てる甘い芳香が、その汗ばんだ柔肌から滲み出ていた。

 

「……最後の瞬間まで、自分が満たされることしか頭にないなんて……どこまでも、哀れな人ですことっ……!」

 

 そんな彼女の双眸に滲む、深い憐れみの色は。闘争の世界でしか生きられなくなった、かつての少年兵を視るほどに、色濃くなっていた――。

 

 ◆

 

 試作量産型のスーツであるマス・ライダーのテスト装着員。

 その「代表」として仮面ライダーRCと対峙している山口梶は、満身創痍になりながらもしっかりと両の足で立ち、超えねばならない宿敵を見据えている。

 

「ヴ、ァア、アァアァッ……!」

「はぁ、はぁッ……! やっぱり、コイツのパワーは次元が違うッ……!」

 

 だが、圧倒的なパワーにモノを言わせる激しい殴打を立て続けに浴びていたマス・ライダーの装甲は、すでに限界に達していた。対して、濁った機械音を発し続けているRCはほとんど消耗していない。

 

 LEPを搭載している後方の兵員輸送車と、そこからRCに繋げられている制御コード。それが仮面ライダーRCの「弱点」であることは梶もすでに看破している。

 だが、いくら鈍重とはいえ易々と敵に背後を取らせるようなRCではない。制御コードの範囲内しか動けないと言っても、彼との接近戦になればマス・ライダーに勝ち目はないのだ。

 

 コードが届かない遠距離からLEPを攻撃しようと試みたこともある。だが距離を取った瞬間、RCは地面のコンクリートを引き剥がして投げ付けて来るのだ。

 その速度と威力、そして精度は凄まじいものであり、遠距離で戦うことも困難となっていた。制御コードの範囲内でしか動けない彼だが、その欠点を力技で補えてしまうほどのパワーがある以上、「弱点」を狙うことも叶わなくなってしまう。

 

 このままでは、疲れ知らずのRCに決定打を与えられず、力で押し切られるのは必至。その前に決着を付けなければ、マス・ライダーは役立たずという結果だけが残される。

 それだけは回避せねばならない。梶はその一心で思考を巡らせ――ある一つの「策」に辿り着く。

 

(……いいや、今さら何を驚くことがある? まともにやり合って勝てる相手じゃないってことくらい、戦う前から分かり切っていたことじゃないか!)

 

 否。それは、今になって辿り着いた「策」ではない。

 

 彼はそれ以前から薄々、その「策」でなければRCには勝てないと気付いていた。

 気付いた上で、気付かぬフリをしていたに過ぎない。

 

 ――どこにでもいる新人警官だった山口梶が、マス・ライダーのテスト装着員として選定されたのは。能力的にも人格的にも尖っている部分が無い、良くも悪くも「平凡」な人間だったからだ。

 「誰もが使える」ことを目指したマス・ライダーを装着する者としては、うってつけのモデルケースだったからだ。

 

 それは他ならぬ梶自身が、誰よりも理解していることだった。自分には特別な資質など何も無い、だからこそ選ばれた。本当に誰でも良かったから、選ばれたのだと。

 マス・ライダーのテスト装着員としての役割を全うするだけならば、それで良かったのだろう。だが、今に限っては違う。

 

 今の梶は、マス・ライダーの存在意義そのものを背負って戦っているのだ。誰でも良い、という程度の役割に甘んじるわけにはいかない。

 「まとも」であることを捨て、「一般人代表」という役割から抜け出さなければ、このRCに勝つことは叶わないのだ。そしてこのまま勝てなければ、未来そのものが閉ざされてしまう。

 

 それだけは許すわけには行かない。それ故に、この勝負から引くわけには行かないのだ。RCを超えた先にしか、マス・ライダーの未来はないのだから。

 

(俺は今まで……恐れていただけだ。分からないフリをしていただけだ。コイツに勝つには、「まとも」でいちゃいけないんだってことをッ!)

 

 その答えに辿り着いたマス・ライダーは――敢えて制御コードの範囲内に歩み出る。そして真正面から、小脇に抱えたワイヤーネットガンの銃口を向けるのだった。

 

「……来なよ、ガラクタ野郎。お望み通りの真っ向勝負だ……!」

「ヴ、ァア……アァアァーッ!」

 

 あまりに無謀な自滅行為。自暴自棄の果てに行き着いた、勝ち目のない無意味な行動。

 これまで交戦して来た人間達の戦闘データから、その「結論」を弾き出したLEPは――愚かな弱者に引導を渡すべく、制御コードを介してRCのボディに「とどめ」を命じる。

 

「ライ、ダァ……パァ、ンチッ!」

「ぐ、うぅうぅッ!」

 

 RCが濁った絶叫を上げ、容赦なく鉄拳を突き出したのはその直後だった。

 その拳が命中する直前、マス・ライダーもワイヤーネットガンの引き金を引き、RCの全身を網で絡め取って行く。

 

 そして、RCの鉄拳が直撃した瞬間。ワイヤーネットガンを握り締めたまま、マス・ライダーのボディは紙切れのように吹き飛ばされてしまうのだった。

 

「うぉおお……あぁあああぁーッ!」

 

 当たり前の結末だと言えるだろう。マス・ライダーの身体は容易く蹴散らされる雑魚のように、空を切って飛んで行く。

 

 ――だが、それだけでは済まなかった。

 

 彼はRCのパンチで吹き飛ばされながらも、ワイヤーネットガンを決して手放さなかったのである。

 その銃口から射出された網は、殴られた後もRCに絡み付いたままとなっていた。

 

 つまりRCは、マス・ライダーとワイヤーネットガンで物理的に繋がった状態のまま、彼を殴り飛ばしてしまったのだ。

 マス・ライダーの装甲服という鋼鉄の塊を高速で吹き飛ばしたことによる、凄まじい圧力。その全てが、RCの身体に絡んだワイヤーネットに掛かっていた。

 

 それほどの衝撃が掛かってもなお、ワイヤーネットが千切れることはなく。RCは自分が殴り飛ばしたマス・ライダーに引っ張られる形になったのだ。

 

 ――全ての制御コードを引き千切られてしまうほどにまで。

 

「……!? ア、ガァ、アッ……!」

 

 始祖怪人の中でも最強と謳われるほどの圧倒的なパワー。それを逆手に取られたRCは、文字通りの「糸の切れた人形」として倒れ伏してしまうのだった。

 

 結果的には、マス・ライダーの作戦勝ちと言えるだろう。だが、その「策」を仕掛けた彼の方も無事では済んでいない。

 

「あっ、ぐっ……うぁあぁっ……!」

 

 ようやくワイヤーネットガンを手放した彼は、仰向けに倒れたまま呻き声を上げており、そこから動けなくなっていた。

 

 自分を殴らせることによって、強制的にRCのボディを制御コードの範囲外に引っ張り出す、というこの作戦。

 これは、山口梶の両腕を犠牲にしなければ成り立たないものだったのだ。

 

 当然ながら、RCの制御コードが千切れるほどの衝撃は、ワイヤーネットガンとそれを握る梶の両腕にも集中する。

 そしてこの作戦を成功させるには、軸となるワイヤーネットガンから手を離すわけには行かなかったのだ。例え、両腕の骨が粉々に砕けることになろうとも。

 

 ――実のところ、梶がこの作戦に出る可能性については、LEPの想定内にも含まれていた。が、これまでのデータからLEPは、彼がその作戦を遂行し切ることはないと判断していたのである。

 

 LEPが過去に対峙して来た人間達は皆、極限状態の先に行き着いた結果、「我が身可愛さ」や「自暴自棄」の感情を殺し切れなくなっていた。

 それらのデータから、LEPは例え梶がこの作戦を実行に移したとしても、途中で衝撃と痛みに耐え切れず、RCの制御コードが切れる前にワイヤーネットガンを手放すだろうと分析していたのである。

 

 脆弱な生身の人間には、惰弱な精神しか宿らない。天地がひっくり返ろうとも、完全なるロボット兵器であるRCがそんな人間に負けることなどあり得ない。

 それがLEPの基礎思考であり、「誤算」の元となっていたのだ。マス・ライダーの性能諸元や、過去の装着者達のスペックは把握出来ても、山口梶という男の精神力までは見通せなかったのである。

 

「……へ、へへっ……! どうだ、案外馬鹿にならないものだろ……!? マス・ライダーはよっ……!」

 

 そして、マス・ライダーの――人間の底力を証明して見せた梶は。砕けた仮面の下で朗らかに笑い、四肢を投げ出すのだった。

 




 えちえちなお色気をお届けした後に熱い男の勝負を描くことで、硬派路線を維持しようという試みでございます(´-ω-`)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第19話

 

 放送局の裏手で繰り広げられている、type-αとプラナリアンの一騎打ち。その戦いは、プラナリアンの勝利という形で幕を下ろそうとしていた。

 

 装甲もろとも貫いてしまうほどの切れ味を持つ彼のコンバットナイフは、type-αの外骨格すらも容易く貫通し、一二五六三四の肉体にまで達しているのだ。なんとか立ち上がった彼の足元には、鮮血の池が広がっている。

 

 それでも戦いを続けようと拳を構えている彼に対し、プラナリアンは感嘆の表情を浮かべていた。

 奪い取ったマルチシューターの銃身を握り潰した彼は、type-αの闘志に応えるかのように静かにファイティングポーズを取る。今度こそ、「とどめ」を刺すために。

 

「……10分が関の山、と思っていたがこれは想像以上だったな。さすがは我々が見込んだだけのことはある」

「ははっ……そうかい、お褒めに預かり光栄だねぇ。あいつらも中々やるだろう?」

 

 黒死兵達の「本体」であるプラナリアンは、分身達の「視界」を観測する能力を持っている。黒死兵と対峙していた他のライダー達も立ち上がっている光景を目にした彼は、想像を上回る人間のタフネスに舌を巻いていた。

 持って10分という見立てを超えた継戦能力。それはまさしく、精神力が肉体の限界を凌駕している状態であった。脆弱な精神でもなければ惰弱な肉体でもない、人間の「可能性」を感じさせる光景だ。

 

「あの人数の黒死兵を相手に、これほど長く持ち堪えているとは想定外だった。……どうやら、装甲服の基礎性能も底上げされていたようだな」

「ご名答。……それでも貴様達の力は、俺達を上回ってるかも知れない。だが、実戦ってのは……それだけで決まるほど単純じゃあないんだぜ」

 

 天峯達のデータを得て強化された装甲服と、そのスペックに胡座をかかない精神性、そして慢心することなく鍛え抜かれた戦士の肉体。それら全てが揃って初めて発揮される、新世代ライダー達の底力。

 

 その一端を垣間見たプラナリアンは、type-αの言葉に頷きながら――真の決着を付けるべく、一気に地を蹴って組み掛かる。彼と組み合ったtype-αも、これが最後だと言わんばかりに力を振り絞っていた。

 

「その通りだ。だが、戦力差を『策』で覆そうにも限度というものがある。竹槍ではどうあがいても、B-29には勝てんようにな」

「……」

「21フィート以内の間合いにおいては、ハンドガンよりもナイフの方が先に命中する確率が高くなる。ましてや我々は、近接格闘戦に特化した改造人間だ。ただの人間と同じように捕まえようと考えている時点で……お前達はすでに『破綻』しているのだよ」

 

 銃器の類がその効果を発揮出来なくなる、ゼロ距離の近接格闘戦。この「土俵」において、プラナリアンは圧倒的な技量を発揮していた。

 格闘術でtype-αを上回っているからこそ、彼は装甲服の先にまでナイフを突き刺せたのである。そのナイフが胸に刺さったまま、その時と同じ体勢に持ち込まれたtype-αのプレッシャーは凄まじいものであるはず。

 

 ――なのだが。彼はこの土壇場でも焦ることなく、飄々とした笑みを浮かべていた。

 

「確かに……スペックも技量も貴様の方が遥かに上だろう。だが俺にあって、貴様にないものがただ一つある!」

「――ぬッ!?」

 

 次の瞬間。プラナリアンの額に頭突きを見舞ったtype-αは、その一瞬の隙に胸から強引にナイフを引き抜く。

 

「貴様にとっての肉眼は、何にも覆われていない『剥き出し』であるということだッ!」

「むぉおおおッ……!? まさか、ここまで死を恐れんとはッ……! 何という男だッ!」

 

 そこから噴き上がった鮮血が、プラナリアンの視界を潰したのはその直後だった。

 type-αは彼の眼を自分の血で潰すために、敢えて刺された時と同じシチュエーションに持ち込んでいたのである。その読み通り、至近距離で鮮血の水鉄砲を浴びたプラナリアンは視界を奪われ、大きく仰け反ってしまう。

 

 その大きな隙が、最初で最後のチャンスだった。

 敢えて一度、スーツの機能をダウンさせたtype-αは――「再起動」に伴い発生する高エネルギーを片脚1本にのみ凝縮させて行く。そして、腰の入った強烈なハイキックをプラナリアンの首筋に叩き込むのだった。

 

「おぉおおぉおッ!」

「ぐぅうぅッ! ぬッ、あぁあッ……!」

 

 type-αの全動力をその一撃にのみ集中させて相手を討つ、「システム・オーバーホール」。その一閃が、プラナリアンの首に炸裂したのである。

 視界を封じられたまま、その必殺技を浴びてしまったプラナリアンは大きくよろけ――怪人としての姿を維持出来なくなり、波田水過としての正体を晒して行く。

 

「くっ、ふふ……! これが我が『戦争』の結末、か……! 見事なり、type-α……!」

 

 そして、ふらつくように後退りしながら、自身の敗北を認めた彼は。自分を打ち倒したtype-αに禍々しい笑顔を向け――力無く倒れ伏したのだった。

 

「ふん……『戦争』、か。随分と、面倒でちっぽけな『戦争』があったものだ」

 

 そんな彼の姿を見届け、崩れるように尻餅を着いたtype-αは――吐き捨てるように呟き、仮面を外す。そして軍用の止血剤で血を止めながらも、勝利の味を噛み締めるように、1本の煙草に火を灯すのだった。

 

 ◆

 

 ――そして、同時刻。放送局の入り口前で黒死兵の群れと交戦していた他の新世代ライダー達は、彼らに起きた「異変」を目の当たりにしていた。

 これまで俊敏な動きでライダー達を翻弄していた黒死兵達だったが、その「切れ」が急に鈍り始めていたのだ。中にはコンバットナイフを落としてしまう者もいた。

 

「……! 見ろ、黒死兵達の動きが……鈍ってる!?」

「一二五さんが『本体』を仕留めたんだ……!」

「よし……行くぞ、皆ッ!」

 

 ライダー達もすでに瀕死の状態だったが、その光景に勝機を見出した彼らは死力を尽くし、最後の総攻撃に動き出して行く。

 この数時間をギリギリのところで耐え忍んでいた彼らは、各々の「必殺技」でこの窮地を打開しようとしていた。

 

「つまらん遊戯(ゲゲル)もこれで終わりだ……! 永遠に眠れ、黒死兵ッ!」

 

 右足に全神経を集中させ、その打点に全ての力を込めた「G-1キック」を放つ仮面ライダーN/G-1。

 

「これでッ……終わりだぁあぁあッ!」

 

 天高く跳び上がり、赤熱する片脚から「爆炎脚(ばくえんきゃく)」を繰り出す仮面ライダー炎。

 

「……『お仕置き』の時間よ、坊や達。せいぜい苦しんで……逝きなさい」

 

 専用の蛇腹剣で付けた傷口に、バイオナノマシンを投与する「ドラッグハック」。その毒性攻撃により、黒死兵達を体内から崩壊させて行く仮面ライダーヴェノーラ。

 

「俺も負けてられませんッ……セイヤァアアーッ!」

 

 足裏の噴射機を利用して飛び上がり、両脚での飛び蹴りを放つ「charging(チャージング) finish(フィニッシュ) type(タイプ) kick(キック)」で、周囲の敵を一掃するパトライダー型式2010番type-000。

 

「数にモノ言わせて、散々好き放題にブン殴ってくれた礼だ……! たっぷり味わいやがれッ!」

 

 真上に蹴り上げた黒死兵達目掛け、渾身の力を乗せた追撃の回し蹴り「イグザードノヴァ」を叩き込む仮面ライダーイグザード。

 

「この一閃で……終わらせるッ!」

 

 エネルギーネットで拘束した黒死兵達を「レイスラッシュ」で纏めて斬り刻む仮面ライダーオルタ。

 

「いい加減に……全員纏めてッ! 吹っ飛んじまいなァァッ!」

 

 そして――四肢に装備された無限軌道(キャタピラ)による助走を得た水平キック「パンツァーストライク」で、残る全ての黒死兵達を片っ端から蹴散らして行く仮面ライダーパンツァー。

 

 彼が最後の力を振り絞って繰り出した、怒涛の必殺技により――放送局の入り口を塞いでいた黒死兵達は、ついに全滅するのだった。ニコラシカ級の戦闘力を持っていた20体以上もの怪人が、たった7人のライダーに敗れ去ったのである。

 

 「本体」のプラナリアンが力尽きた上に、原型を維持することも叶わないほどのダメージを受けた彼らの肉体が、泡となって溶解して行く。その光景を見届けたライダー達が、力尽きたように尻餅を着いたのは、それから間も無くのことだった。

 

「み、道が開いたぞ! 助かるんだ……!」

「は、早く逃げろぉおっ!」

 

 そして、入り口付近の怪人が全て排除されたことで、1Fロビーから先に進めなくなっていた人質達も、ようやく外に出られるようになったのである。

 

 彼らは怪人達が全滅していることを確認するや否や、我先にと放送局の敷地外へと走り出して行く。自分達を救うために死力を尽くした新世代ライダー達に対する謝礼の言葉も、忘れたまま。

 

「あ、あのっ……ありがとうございましたっ!」

「……!」

 

 否――全員ではない。

 人質にされていた多くの職員達が必死に逃げ出す中、1人の女性職員が立ち止まり、近くで胡座をかいていた仮面ライダーパンツァーに深々と頭を下げたのである。

 

 それからすぐに、女性職員はそそくさと走り去ってしまったが。そのたった一言が、ライダー達にとっての、命を賭けるに足る「報酬」となっていた。

 

「ありがとう、か……いいもんだなァ」

 

 去り行く女性職員の背を見送った直後、ダメージの蓄積により変身を強制解除されてしまったパンツァーこと、翆玲紗月。

 彼女は胡座をかいた姿勢のまま、満足げな笑みを浮かべて葉巻に火を灯している。裸同然の薄着姿を恥ずかしげもなく晒している彼女は、その美しい褐色の柔肌に、激闘を終えた者ならではの汗を滲ませていた。雄の本能を煽る蠱惑的な匂いを放つ芳しい汗が、鎖骨から乳房の谷間、そして筋肉質な腹部へと滴り落ちて行く。

 

 誰もが振り返る美貌に、くびれた腰つき。その引き締まったウエストに反した安産型の巨尻と、推定Jカップの爆乳。鍛え抜かれた腹筋の美しさが、彼女のその扇情的なボディラインをさらに際立たせていた。

 プロポーション抜群なその身体を晒け出すように胡座をかいている彼女は、両手を後ろに着いて背を反り、特大の双丘をどたぷんっと弾ませて煙を噴かす。その煙の匂いすら掻き消すほどの濃厚な女の香りが、乳房に滴る汗に滲んでいた。地面に押し付けられた肉感的な巨尻も、むにゅりと形を変えている。

 

「……なーにが弱い身体に弱い精神、だっての。人間、そんなヤワなもんじゃあないよ」

 

 照れ臭そうに微笑を浮かべる紗月は独り、煙を登らせながら放送局を仰いでいた。そこで戦っている仲間達なら必ず、残る始祖怪人達にも「人間の力」を示してくれるのだと信じて――。

 




 翆玲紗月が喫煙者であるという設定は、昨年の企画でゲオザーグ先生から原案を頂いた時点でちゃんと存在していたのですが、ここでようやく演出として回収することが出来ました。前章はほとんど吸ってる暇無かったものなぁ……(ノД`)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第20話

 

 放送局内のニューススタジオ。その空間で繰り広げられた超人達の激闘は、室内の設備を破壊し尽くしていた。

 

 その荒れ果てた室内で熾烈な拳闘を繰り広げていた仮面ライダーボクサーとDattyの「最終ラウンド」も、佳境を迎えている。

 互いにファイティングポーズを取っている両者は、足元をふらつかせながらも最後の一撃を決めようとしていた。

 

「はぁ、はぁッ……!」

「へ、へへっ……やぁるじゃねぇか、ファンボーイ……! この俺を相手にここまで張り合って来るとは、大したタマだ……! 警察なんかより、プロボクサーになってた方が成功してたんじゃあねぇかぁ?」

 

 Dattyよりもダメージが深刻なのか、ボクサーの足取りは彼以上におぼつかないものになっていた。それでもボクサーこと南義男は、その双眸でしっかりと宿敵の姿を射抜いている。

 かつて憧れた相手であり、何としても超えねばならない壁でもある宿敵を。

 

「……もう、なってるさ。俺はプロの刑事……そして、『仮面ライダーボクサー』だからな……!」

「はははッ! なぁるほどなぁ、そりゃあ確かにプロ試験も合格済みだァ! じゃあ……いっちょ試してみるかい? 俺を超えて、チャンピオンになれるかどうかをよォッ!」

 

 そんな彼に引導を渡すべく、Dattyは大きく踏み込み最後のストレートパンチを放とうとしていた。

 戦車すら横転させる彼が全力で繰り出すその一撃は、生半可な威力ではない。これまでボクサーを痛め付けて来たのは所詮、ジャブやフックに過ぎないのだ。

 

 このストレートをまともに喰らえば、ボクサーはその衝撃だけで装甲もろとも首を消し飛ばされてしまうだろう。だが彼は恐れることなく、真っ向から迎え撃つように踏み込んでいた。

 

「おらぁあぁあぁあッ!」

「どぉらぁああぁッ!」

 

 ボクサーはその巨大な右腕に銀色のエネルギーを凝縮させ、Dattyの顔面目掛けて強烈なストレートパンチ「シュリンプストレート」を繰り出して行く。

 

 そして、両者の絶叫がこのスタジオに反響し――激しい衝撃音が響き渡った。クロスカウンターの如く突き出された鉄拳が、相手の顔面に炸裂したのだ。

 

 先にパンチを命中させていたのは――ボクサーだった。渾身のシュリンプストレートを受けたDattyはよたよたと後退り、徐々に間柴健斗としての姿に戻って行く。

 

「……へっ、こりゃあ世界だって狙えちまいそうだぜ。なぁ、ファンボーイ……いや、仮面ライダー……ボクサーッ……!」

 

 自分を超えた、新たなるチャンピオンの誕生を祝うように。ボクサーの勝利を認めた彼は、轟音と共に倒れ込んでしまうのだった。

 そんな宿敵の「ノックアウト」を見届けたボクサーの仮面も、一拍遅れて崩れ落ちてしまう。命中したのはシュリンプストレートの方が先だったのだが、Dattyの拳も僅かにボクサーの顔面に触れていたのだ。

 

 辛うじて接触した程度の衝撃であったのにも拘らず、それだけでボクサーの仮面が崩壊したのである。まともに喰らっていれば、間違いなくボクサーの方が「ノックアウト」されていたのだろう。

 

「悪いが……俺はもう、世界にもチャンピオンにも興味はねぇ。市民の笑顔が……俺のタイトルだからな」

 

 その接戦を制したボクサーこと南義男は、誇らしげな表情を露わにする。何の栄冠(タイトル)も手にしていない一介の刑事である彼は、無冠の覇者としてその拳を天に掲げるのだった。

 

 ◆

 

 ハイドラ・レディの髪先が変異した、無数の蛇頭。それぞれが意思を持っているかのように無軌道に飛び回るその牙を、仮面ライダータキオンは必死にかわし続けていた。

 

 超加速機能「CLOCK(クロック) UP(アップ)」を有しているタキオンの疾さに付いて来れる怪人などあり得ない……はずなのだが。ハイドラ・レディの蛇頭は自動誘導弾(ホーミングミサイル)の如く、ピッタリとタキオンを追跡している。

 

「……タキオン粒子を発見したのは芦屋隷だけだと思っていましたか? 残念ですが、あなたの超加速(クロックアップ)は所詮……私の『後追い』に過ぎません」

「やはりこの女、俺と同じタキオン粒子を……! 道理でクロックアップ状態の俺を、これほど正確に補足出来ているわけだッ……!」

 

 彼女がタキオンと同じ「領域」に達している――即ち「CLOCK(クロック) UP(アップ)」状態にあることは明らかであった。

 芦屋隷がタキオン粒子を発見してタキオンのスーツを完成させたように、彼女もその粒子が齎す超加速能力を獲得していたのである。

 

「同じ? ……失敬な。あなたのような紛い物では所詮20カウントが関の山のようですが……私のクロックアップにはそんな時間制限は無いのです。完全上位互換、と訂正してください」

 

 能力の維持においても、戦闘技能においてもハイドラ・レディの方が遥かに上回っている。対してタキオンは、超加速能力の有効時間が限界に達しようとしていた。

 

「……その長ったらしい能書きも羽柴柳司郎の教えか? どうやら戦士としてはともかく、戦術教官としては3流だったようだな!」

 

 このまま超加速状態が終了すれば、今度こそ確実な敗北が訪れてしまう。タキオンはその結末を回避するべく、最後の「悪足掻き」に出た。

 

「貴様……柳司郎様を愚弄するかァアッ!」

 

 加藤都子が正規の訓練を受けたプロの軍人だったなら、安い挑発と切り捨てていただろう。だが彼女は、柳司郎と生死を共にするためだけに改造人間になった身であり、他の隊員達と比べれば精神面に脆い面があった。

 故に。タキオンが意図的に踏んだ「地雷」を受け流すことだけは、出来なかったのである。

 

 爆ぜるような憤怒を剥き出しにしたハイドラ・レディは、全ての蛇頭を一直線に伸ばしてタキオンを仕留めようとする。

 それは無軌道に動き回っていたこれまでの挙動と比べて、非常に「単調」なものとなっていた。

 

(蛇頭の挙動が一気に単調になった……! 今しかない、この瞬間しかない! 残り3カウントで、奴を倒すにはッ!)

 

 残された僅かな時間と、ハイドラ・レディが見せた微かな隙。そこに光明を見出したタキオンは、真っ直ぐに伸びてくる蛇頭の隙間を掻い潜るように急接近して行く。

 ハイドラ・レディが彼の目的に気付いた時には――すでにタキオンは「間合い」に飛び込み、飛び蹴りの姿勢に入っていた。

 

「し、しまッ――!?」

『3,2,1――RIDER(ライダー) KICK(キック)!』

「ライダー……キック! はぁぁあッ!」

 

 そして、超加速状態が終了する瞬間。タキオン粒子を集中させた右足を振るい、最大火力の「ライダーキック」を放つのだった。

 強烈な轟音と共にハイドラ・レディの身体が吹き飛び、スタジオ内の壁に叩き付けられて行く。

 

「あが、ぁあぁっ……!」

 

 そこから彼女の身体がべしゃりと床に落下した時、すでにその姿は美しい着物姿の女性――加藤都子のものになっていた。

 

「柳司郎、様っ……! 都子は、最期まで……あなた様のッ……!」

 

 羽柴柳司郎を心から愛し、彼と運命を共にする。そのためだけに生きて来た女は、愛した男と共に死ぬことも、その無念を背負って生き抜くことも出来なかった。

 残されたのは、己の無力さへの嘆きだけ。そんな都子の姿を見遣るタキオンは、力尽きたように片膝を着き――変身を解除していた。

 

「……貴様のたった一つの敗因は、自分のために勝とうとはしなかったことだ。俺は俺のために……守りたい者を、守る」

 

 亡き妹の面影を持つ、番場遥花。彼女を守るために戦い抜いて来た仮面ライダータキオンこと森里駿が、この戦いを制した唯一の勝因は――戦う理由の重み、だったのかも知れない。

 




 どのライダーをどの怪人とぶつけるか? という対戦カードの組み合わせについては散々悩んでばかりだったのですが、ボクサーVSDattyに関しては1ミリたりとも迷う余地がありませんでしたね。この組み合わせだけは応募案を貰った瞬間から決まっておりました(*^ω^*)


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第21話

 

 仮面ライダーアルビオンとブレイズキャサワリー。彼らが繰り広げていた拳撃と蹴撃の応酬は熾烈を極めていたが――その勝敗は、ブレイズキャサワリーに軍配が上がろうとしていた。

 脚の爪はただ鋭いだけではなく、何度も射出することも可能なのだ。アルビオンの装甲服は何度もその刃先に穿たれており、見るも無惨な姿に変わり果てている。

 

「はぁ、はぁ、はぁッ……! どうした始祖怪人、私はまだ死んではいないぞ……!」

「……ふん。さっさと諦めてしまえば、悪戯に傷付かずに済んだものを」

「生憎……私は、往生際の悪さだけが取り柄のような女でな……!」

「そうまでして、SATの仲間達の元に逝きたいか? あの時は女だからと見逃してやったが……これ以上無駄な足掻きを続けるというのなら、もう俺も手加減は出来んぞ」

「……そうか、ならば今から後悔させてやる。数年前のあの日、私だけは殺しておくべきだったとなッ!」

 

 それでも彼女は屈することなく、最後の力を振り絞ろうとしていた。そんなアルビオンに引導を渡すべく、ブレイズキャサワリーも「とどめ」を刺そうと片足を振り上げる。

 

 ブレイズキャサワリーの爪は射出が可能であり、蹴りを入れたと同時にゼロ距離で射出することも出来る。パイルバンカーさながらのその一撃をもう一度(・・・・)まともに喰らえば、アルビオンは今度こそ立ち上がれなくなるだろう。

 

 ――だが。女性を殺すことを忌避し、アルビオンこと東方百合香を見逃したことがある彼には、僅かな躊躇いがあった。

 

 彼がまだ、生身の人間だった頃。1970年代、ベトナム戦争に参加していた当時のブリード・フラナガン伍長は、数多の密林で凄惨なゲリラ戦を経験していた。

 その渦中で殺めた女性ゲリラが、撃たれながらも怯むことなく自分に突進し、ナイフで突き殺そうとして来た瞬間が――まさに今、フラッシュバックしていたのだ。

 

 半壊したアルビオンの仮面から覗いている、東方百合香の眼光。その鋭さは、かつてベトナムの戦地で遭遇した女性ゲリラを想起させるものだった。

 彼女を殺害して以来、女兵士と対峙することを嫌って来たブリードは――ブレイズキャサワリーとして生まれ変わってからも、そのトラウマから逃れることは出来なかった。故に彼は数年前、SATを撃退した時も百合香だけは殺せなかった。

 

(忌々しい……! その眼、その眼だ! 死ぬと分かっていても銃を捨てられない、哀しい奴らと同じ眼……! お前がそんな眼をするから、俺はッ……!)

 

 今もなお、そのトラウマを抱えていた彼は――迷いながらも、片足の爪でアルビオンを貫こうと片脚を突き出した。

 だが、その微かな躊躇いが、蹴撃の「切れ」を鈍らせていたのである。

 

 アルビオンの巨大な機械腕から放たれる必殺の一撃は、ブレイズキャサワリーの蹴撃よりも、一瞬速く炸裂しようとしていた。

 機械腕内部のシリンダー状パーツ「インパクトパイル」が、吸引された空気を最大限にまで圧縮する。

 

「はぁあぁあーッ!」

 

 やがてパンチと共に、パイルバンカーの如く急速に打ち出された衝撃波――「ギガントインパクト」が唸りを上げる。

 ブレイズキャサワリーの爪がアルビオンに届くよりも、僅かに速く炸裂したその剛拳が、始祖怪人のボディを穿つ。

 

「ぐおあぁああッ!?」

 

 その一撃が、ヒクイドリ怪人の身体を紙切れのように吹き飛ばし――天井に叩き付けてしまうのだった。力無く床に墜落した彼の姿が、徐々にブリード・フラナガンのものに戻されて行く。

 

「……生き延びようと足掻く力は、お前の方が上だったというわけかッ……! ふっ、なるほど……確かに、往生際の悪い女、だッ……!」

 

 相手を殺してでも生き延びようとする意志が足りなかったがために、トラウマを払拭することが出来なかった。

 それが己の敗因であると分析したブリードは、アルビオンの勝利を認め、乾いた笑みを浮かべている。

 

「んっ……はぁあぁっ! はぁっ、はぁっ、んはぁあっ……!」

 

 そんな彼の前で、力尽きたように座り込むアルビオンも――エネルギー切れによって変身を強制解除され、東方百合香としての姿を露わにしていた。その弾みで安産型の桃尻がぷるんっと躍動し、汗ばんだ肉体から漂う芳醇な色香がむわりと溢れ出して来る。小麦色に焼けた柔肌を晒している扇情的な下着は、男勝りな彼女も1人の「女」であることを物語っていた。

 両手を着いた女座りの姿勢で、扇情的に息を荒げている黒髪の美女は、豊満な乳房をどたぷんっと揺らして憔悴しながらも――凛々しい表情を崩すことなくブリードを見据えていた。鍛え抜かれ、引き締まったウエストに反した爆乳の谷間に、甘い匂いの汗が滴り落ちて行く。

 

「あぁ……そうだとも。私は決して、こんなところで死にはせん。SATの仲間達(あいつら)に持っていく土産話が、全く足りていないのでな」

 

 彼女の凛とした眼に宿る、生き抜こうとする強い意志。その気高さは、かつてのブリード・フラナガンを大きく凌ぐものであった。

 ブリードのトラウマだけが勝因ではない。何度打ちのめされようとも決して屈しない彼女の気高さが、この勝利をもぎ取ったのである――。

 

 ◆

 

 仮面ライダータキオンやハイドラ・レディのような「CLOCK(クロック) UP(アップ)」の類ではない、より純粋な「速さ」を武器に競り合う2人の女傑。

 そんな仮面ライダーティガーとタパルドのデッドヒートも、間も無く決着を迎えようとしていた。タパルドの疾さに付いて行けず、何度も爪で切り裂かれたティガーの装甲服は、すでにボロボロとなっている。

 

「げほっ……! が、はぁっ……!」

「はぁ、はぁっ……! どうやらこのレース、私の勝ちで決まりのようだね! さっさとリタイアしたら? これ以上続けたら……あんた、本当に死んじまうよ!」

「……私は今まで、どんなレースでも最後まで投げたことがなくてね。勝負ってのは、決着が付く瞬間まで諦めちゃあいけないのさ」

「ハッ! 順位ならすでに歴然だと思うけど? 私が上、あんたは下。これ以外の事実が存在するとでも?」

 

 それでも、ティガーの仮面に隠された道導迅虎の眼には、微塵も曇りというものがない。最後には必ず自分が勝つ、そう信じている者の眼であった。

 その瞳の輝きを知らないタパルドは、そんな彼女の奥底に秘められた底力を察することが出来ないまま、彼女の言葉を虚勢に過ぎないと嗤っている。

 

「あるさ……! 私がこれから、貴様を超える! そして私が、このレースを制するッ!」

「口が減らない女だねぇ……! この期に及んで、まぁた『痛い目』を見る気かいッ!」

 

 そんなタパルドに、一泡吹かせるべく。ハンミョウを想起させる独特なスタートダッシュの姿勢に入ったティガーは、弾かれるように一気に飛び出して来た。

 彼女を迎え撃つべくタパルドも爪を振るうが、何度も装甲を削ぎ落とされたことでより軽量化されていたティガーは、タパルドの予測を超える疾さで爪をかわしてしまう。

 

 ――だがこれまで、タパルドの生体装甲にティガーの爪がまともに通用したことなど、ほとんどない。

 反応装甲(リアクティブアーマー)の機構を備えているタパルドの外皮は、限界値以内の衝撃をそのまま相手に跳ね返してしまうのだ。ティガーの爪はこれまで何度も、タパルドの防御機能に弾かれて来た。

 

「甘いよッ! 何度仕掛けても、あんたの爪じゃあ私のは反応装甲(リアクティブアーマー)は――!?」

 

 今度の攻撃もこれまで同様に弾かれて終わり、その隙が彼女の「最期」となる。そうほくそ笑んでいたタパルドだったが――その油断が、命取りとなるのだった。

 

 そこで繰り出されたティガーの爪による斬撃。

 それは、今までの攻撃とは桁違いのエネルギーを発揮していたのである。

 

「でぇえああああぁあーッ!」

 

 両腕の爪をクロスさせて一気に突撃し、懐まで入ったところを一気に叩き斬る。ただそれだけの、シンプルな一閃。

 

 その名も、「ティガーチャージ」。

 彼女の装甲服に残された全エネルギーを集中して解き放つ、唯一にして最大の「必殺技」なのだ。

 

 この技は予備動作も含めて隙が大きく、また大振りであるためかわされやすい。そこで彼女はタパルドの油断を誘うため、敢えてティガーチャージに頼らない通常攻撃を繰り返していたのだ。

 何度弾かれても諦めることなく、無駄な足掻きを続ける。それによって、ティガーの爪はその程度の威力しか出せないのだと誤認させる。それが、全てにおいて優っているタパルドを超える唯一の突破口となったのだ。

 

 そして、その狙い通り。ティガーの爪を侮っていたタパルドは回避しようとはせず、反応装甲(リアクティブアーマー)を利用したカウンターを狙おうとした。

 その結果、ティガーチャージをまともに喰らってしまったタパルドの装甲は、限界値を遥かに超える威力に破られ――そのまま斬り裂かれてしまったのである。

 

「ぐ、が、あぁッ……!?」

「……言っただろう? 私は必ず、貴様を超えるとッ……!」

 

 予想を遥かに凌ぐ斬撃を浴び、ふらふらと後退るタパルド。その威力に瞠目する彼女は、ティガーの言葉に耳を傾ける暇もなく、倒れ伏してしまうのだった。

 それから間も無く、彼女の姿は野戦服を纏う美女――速猟豹風に変異して行く。それに続いて、ティガーも変身を維持できなくなり――道導迅虎の姿に戻ってしまった。男の本能を狂わせる蠱惑的な下着姿と、その抜群のプロポーションがありのままに晒されている。

 

「……は、ははっ……最後に『痛い目』を見るのは、私の方だった、ってわけ、ねっ……!」

 

 レースは終わる瞬間まで分からない。

 ティガーこと迅虎が言い放った、その言葉が意味するものを身を以て体感した速猟は、完敗だと言わんばかりに朗らかな笑みを浮かべていた。

 

「これも……私は言ったぞ。勝負ってのは、決着が付く瞬間まで諦めちゃあいけない、となッ……!」

 

 そんな彼女を見下ろす迅虎も、誇らしげな笑みを零し――くびれた腰に両手を当てて背を反り、胸を張るように豊満な乳房をばるんっと突き出していた。その反動で後方に突き出された桃尻も、ぷりんっと躍動する。

 熾烈な「レース」に昂る肢体が、大量のアドレナリンを分泌していたのか。その蠱惑的なプロポーションを誇る肉体はしとどに汗ばみ、外骨格の内側に籠っていた甘美な女の芳香を、むわりと解き放っている。

 

 圧倒的な力と経験を誇る始祖怪人との、苛烈なデッドヒート。その激闘を制した勝者としての喜びを、扇情的な肉体全てで噛み締めるかのように。

 

 ◆

 

 激戦に次ぐ激戦により、見る影もなく荒れ果てたニューススタジオ。

 その渦中に立つ仮面ライダーUSAのボディも、ケルノソウルの火炎放射によって無惨な黒焦げと化していた。

 

「……もう装甲服も身体も限界のはず。それでもまだ屈しないなんて……強くなったわね、ジャック」

「あんたの前でだけは……そういう俺でいたいからな」

 

 だが、それでも。仮面の下に隠されたジャック・ハルパニアの貌に、諦めの色はない。

 付き合いの長さ故、顔は見えずともその瞳の輝きを察していたプリヘーリヤ・ソコロフも、この程度で彼が倒れることはないのだと理解していた。

 

「どんな状況でも、生き延びるための歩みを止めてはいけない。18年前のあの日、あんたに教わった言葉だ。あの言葉があったから、俺はあのイラク戦争からも生き残ることが出来た」

「……覚えていてくれたのね」

 

 イラク戦争の地獄を経験して来たジャックの言葉に、ケルノソウルは静かに微笑を溢す。その言葉は――幼き日のプリヘーリヤ・ソコロフに、亡き母が遺した最期の教えでもあった。

 ソビエト連邦からの亡命の途中、追撃の銃弾に斃れた母が娘に託した唯一の遺言。その教えは彼女を通じて、USAことジャックにも引き継がれていたのである。

 

「でも、今のあなたが進もうとしている道は、ただ生き延びるためだけのものではないわ。死への恐怖と向き合い、その先に在る活路を見出した者にだけ開かれる道」

「あぁ。俺はもう……自分が生き残ることだけで精一杯だった頃の俺じゃない。俺自身はもちろん、俺の仲間達も誰1人として死なせない。部隊全員で生き残り、全員で勝利を分かち合う。そしてそのためとあらば、火中にだろうと飛び込んで見せる」

「それを実現することで、私の教えを超えて行く。あなたにとってこの戦いは、そのためでもあるのね。……けれどそれは、あなたが思う以上に『茨の道』よ。あなた自身に、火中からも生き延びられるだけの素養が無ければ……そのまま業火に焼かれて終わる」

「全て覚悟の上さ。……行くぞ、ソコロフ。あんたの教えが育てた兵士が、どれほどのものになったか……とくと思い知れッ!」

 

 過去の思い出を名残惜しむような声色での、短い語らいを経て。全ての迷いを断ち切るように、USAは地を蹴ってケルノソウル目掛け突撃して行く。

 

 そんな彼を返り討ちにするべく、ケルノソウルも大顎を開き火炎放射を繰り出そうとしていた。無数の触手を全て床に突き刺し、姿勢制御に注力させている彼女は、次の放射で決着を付けようとしている。

 

 その大顎に充填されて行く灼熱の業火が、これまでとは比較にならない火力であることは、文字通り火を見るよりも明らかであった。

 この猛炎がニューススタジオ内で解き放たれれば、間違いなくこの屋内にいる全員が焼き尽くされることになる。仮に炎そのものに耐えられたとしても、一酸化炭素中毒は必至。

 

 USAは何としても、この火炎放射を食い止めなければならなくなっていた。その使命を理解していた彼は、発射の瞬間を迎えていたケルノソウルに向かって飛び掛かり――渾身の力を宿した右拳を振り上げる。

 

「――ッ!」

「ライッ……ダァァアッ! スマァアァアァッシュウゥウッ!」

 

 そして。最大火力の火炎放射が、ケルノソウルの大顎から爆ぜる瞬間。

 USAは微塵も躊躇うことなく、その大顎に向けて右拳を突き入れるのだった。刹那、大顎から解き放たれた猛炎が装甲もろとも、USAの右腕を焼き尽くして行く。

 

 それでも彼は、決してそこから手を離さない。彼はどれほど右腕を焼かれようとも、ケルノソウルの大顎に「栓」をし続けていた。

 

(発射口を拳で塞いで――!)

 

 そう――USAは自分の右腕を犠牲にケルノソウルの大顎を塞ぐことにより、最大火力の火炎をそのまま彼女の体内へと逆流させていたのである。

 

「あ、がぁあ、あッ……!」

 

 フグが自分の毒で死ぬことはないように、彼女も自分の火炎そのもので死ぬことはない。だが、最大火力の勢いが生む「衝撃」に対する耐性までは、彼女の体内には備わっていなかったのだ。

 

 かくして、「内側」から破壊されたケルノソウルは全ての火炎を自分で喰らいながら――轟音と共に倒れてしまうのだった。

 USAは宣言通り、自分も仲間も死なせることなく、彼女を超えて見せたのである。

 

「はぁ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 だが、ケルノソウルがプリヘーリヤ・ソコロフの姿へと戻った瞬間を見届けた直後。彼も力尽きたように膝を着き、倒れ込んでしまう。無惨に黒ずんだ右腕が、彼の奮闘を物語っていた。

 

「……どうだい。少しは……立派になった、だろう……」

「そうね……もう、教えることなんて……ない、わ……」

 

 その決着を迎えた今となっては、敵も味方もないのだろう。かつての師弟関係に戻ったかのように、2人が交わす言葉の色は穏やかなものとなっていた――。

 




 ケルノソウル戦の決着シーンは個人的にかなり気に入っておりました。これにてニューススタジオの戦闘も全て終了し、この物語も大詰めとなりまする〜_(:3」z)_


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第22話

 

 数多の激闘によって破壊し尽くされたニューススタジオ。そこからさらに上の階にある、ガラス壁に面した廊下では――仮面ライダーオルバスとレッドホースマンによる、苛烈な剣戟が繰り広げられていた。

 

「……ぬぁあぁあぁあッ!」

「はぁあぁあぁあッ!」

 

 激しい金属音と共に、双方の雄叫びが響き渡る。どちらの装甲も傷だらけになっているが、オルバスのダメージの方が特に深いものとなっていた。

 全身から火花が散っているだけでなく、装甲ごと斬られた肉体が鮮血を噴き出しており、彼の足元では絶えず血溜まりが広がっている。レッドホースマンの方も決して無傷ではないが、オルバスの惨状は立っていること自体が奇跡と言えるほどであった。

 

 一見すれば互角にも見える剣戟だが、双方が負っている傷の差を見ればオルバスの劣勢は一目瞭然。レッドホースマンの紅い両手剣(バスタードソード)は、オルバスの血を吸いますます深紅に染まっている。

 このまま戦いが続けば、先に倒れるのはオルバスの方だろう。廊下に広がる血溜まりを見れば、誰もがそう確信する。

 

 ――だが、摩訶不思議なことに。オルバスは戦いが長引けば長引くほど、傷が増えているのにも拘らず、動きが冴えて(・・・)行っているのだ。

 対するレッドホースマンは、ダメージ量においては優位に立っているはずなのに、徐々に動きが鈍り始めている。彼自身がその奇妙な反比例を自覚した瞬間、エンジンブレードの刃が袈裟斬りの要領で、紅い怪人のボディに減り込んでしまった。

 

(これまで散々斬られて来たが……やっと見えて来たぜ、貴様の太刀筋ッ!)

(ダメージは確実に蓄積されているはずなのに、動きが鈍るどころかどんどん冴えて来やがる……! ジャスティアドライバーの力がそうさせているのか、あるいは……!)

 

 戦いの中で、オルバスが劇的な成長を遂げているのは疑いようのない事実であった。であれば一体、その原因はどこにあるのか。

 思考を巡らせるレッドホースマンは一瞬、その「力」の源泉はやはり、装甲服の「核」である変身ベルト――ジャスティアドライバーではないかと考えた。

 

 しかしこの直後、彼はその説が誤りであることを己の痛みで実感することになる。

 

「……ッ!」

「ここだぁあぁあぁッ!」

 

 起死回生を図り、振るわれた渾身の一閃。間一髪でそれをかわし、すれ違うようにレッドホースマンの脇下へと、オルバスの身体が滑り込んで行く。

 

 その勢いが生み出した「力」の流れに、己の身体と刀身の軌道を委ねたオルバスは――弧を描くように、エンジンブレードを振り抜くのだった。

 

 刹那。横薙ぎに振るわれた大剣の刃が、レッドホースマンの背面に沈み込み――装甲もろとも、彼の背骨を叩き斬って行く。

 その一閃が生んだ衝撃は、斬られたレッドホースマンの身体を貫通し、ガラス壁を粉砕していた。

 

「ぐっ、ぉ、お……!」

 

 背骨を斬られた上、そこから吹き込む猛風に体勢を崩されたレッドホースマンは、足元に広がる血溜まりの上をよたよたと彷徨い歩いている。

 決着の行方は、火を見るよりも明らかであった。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 

 対するオルバスも、残心をとる余力もなくエンジンブレードから手を離し、片膝を着いている。止血剤による応急処置を始めてはいたが、すでに彼も意識朦朧となっていた。

 

 そんな彼を見遣るレッドホースマンは変身を維持する力を失い、野戦服を着た長身の美青年――戦馬聖としての姿を露わにしていた。

 素顔を晒した彼は、自身が目を掛けていたオルバスの勝利に、満足げな笑みを溢している。

 

「は、ははっ……どうやら俺の見立て通り、『後者』だったみてぇだなぁ」

「……何の話だ」

「お前のその力がジャスティアドライバーに由来するものか、お前自身が持つ生来のものか……ってことさ」

「俺自身の力……? 何を言ってやがる。俺の力なら、光博士が作ったジャスティアドライバーのおかげに決まってるだろうが」

「ハッ、馬鹿言え。どんなに凄い代物だろうが、機械は所詮、どこまで行っても機械に過ぎねぇ。その使い手がゴミなら、どれだけ大したマシンでもレースには勝てねぇようにな」

 

 ジャスティアドライバーを開発した一光博士。彼女の尽力が力の源だと言い放つオルバスに対し、戦馬はオルバスの装着者である忠義・ウェルフリット自身の「成長」が、この勝負の鍵だったのだと確信していた。

 

 数ヶ月前に一戦交えた時とは、別人のような剣技の冴え。その鋭さを肌で体感した彼は、忠義の弛まぬ努力がジャスティアドライバーの真価を引き出したのだと理解していたのである。

 

「……誰の命だって、軽いもんじゃあねぇ。それでもそいつを賭けなきゃあ、成し遂げられないことがある。だからこそ、せめてそこには『意義』がなきゃあならねぇ。最後に勝つのは、その『意義』をより強く持っている奴だ。だから……お前は勝ったんだ」

「いやに……嬉しそうだな」

「……嬉しいさ。俺達が改造人間の力を世に示さなくちゃならなかったのは、それだけ人間が弱く、愚かな連中だったからだ。そんな奴らが幅を利かせる時代が、ずっと続いていたからだ」

「……」

 

 飄々としながらも、どこか物憂げな戦馬の表情を目にした忠義は、暫し押し黙る。

 長い年月を生きて来た始祖怪人だからこそ、必要以上に人間の醜さを見て来たのだろう。それは彼の貌を目にすれば、容易に想像出来ることであった。

 

 忠義自身も、守るに値するのか分からなくなるような人間達の存在を、知らないわけではない。22年しか生きていなくとも、その程度のことは分かる。

 だがそれ以上に、守らねばならない善き人々が居ることを知っている。だからこそ忠義は仮面ライダーとして、剣を取っているのだ。

 

「信じても……いいんだな? もう……人間は弱くも、愚かでもないのだ、と……」

 

 そんな彼の「勝利」を見届けた戦馬は、憑き物が落ちたような安らかな微笑を零すと。命とも言うべき紅い両手剣を手放し、ふらふらと吸い込まれるように――割れたガラス壁から、地上へと墜落して行く。

 

「……ッ!」

 

 その瞬間を目撃した忠義は、血溜まりの中で独り拳を震わせていた。この戦いを制したのは間違いなく彼であるが、彼自身は自分を勝者だとは微塵も思っていない。

 

「……信じていいぜ。俺も……信じてる」

 

 彼は仮面ライダーである前に、犯人を逮捕しなければならない、警察官なのだから。

 

 ◆

 

 オルバスとレッドホースマンの死闘が繰り広げられていた場所のすぐ近くでは、仮面ライダーΛ−ⅴとカマキリザードが雌雄を決しようとしていた。

 

 全システムを限界以上の出力で強制稼働させることにより、一時的に劇的なパワーアップを遂げる「オーバーロード」。

 その切り札を解き放ったΛ−ⅴは、カマキリザードの強靭な生体装甲すらも穿つほどの膂力を発揮している。そんな彼の絶大なパワーで殴り倒されたカマキリザードも、すでに満身創痍となっていた。

 

「……オーバーロード状態でこれほど叩きのめしたというのに、まだ動けるか。しぶとい男だ」

「生憎だが……俺は、しぶとさだけが取り柄でな。伊達にあの時代を生きてはいない」

 

 神風特別攻撃隊の生き残りであり、戦後も闘争に明け暮れ死刑囚にまでなり、それでもなお今日まで生き延びて来た、筋金入りの「死に損ない」。

 そのタフネスを自負するカマキリザードは、Λ−ⅴの鉄拳で全身の骨を砕かれていながら、不遜に口元を歪め、嗤っている。

 

 一見すればΛ−ⅴの優勢にも見えるこの状況だが、彼の方もオーバーロードの代償として強烈な負荷に晒されており、体力はもはや限界を超えている状態なのだ。

 次の瞬間、どちらが倒れてもおかしくない状況なのである。にも拘らず2人の強者は、その疲弊を決して表に出すことなく睨み合っていた。

 

「何が貴様をそうさせる。何が貴様を駆り立てる。そうまでして貴様が欲するものとは、一体何なのだ」

「欲するものなら、もう手に入っているさ」

「なに……?」

「改造人間の力を世に知らしめ、清山と柳司郎が遺した伝説をこの時代に紡ぐ。俺達はそのための『死に場所』を、この場所に見出したのだ。そしてお前達が俺達の前に現れた時点で……すでに、その望みは果たされたのだよ」

 

 その底なしの闘志はどこから来るのか。そんなΛ−ⅴの問いに答えたカマキリザードの言葉に、「男の娘」が眉を顰める。

 次の瞬間、今度はΛ−ⅴの方が仮面の下で笑みを溢すのだった。

 

「そうか。……それを聞いて安心した」

「……何が言いたい」

「この戦いで何かを勝ち取るつもりも無ければ、生き残るつもりも無い。そんな惰弱な男に負ける理由など無いからな」

「惰弱? 生身の人間風情が言うに事欠いて、改造人間であるこの俺を惰弱と言ったのか」

「その通りだ。俺達仮面ライダーは……いや、全ての人間達は……誰もが『未来』を視て生きている。勝ち取り、そして生き残るために今日を生きている。それは、かつて人間だったお前達にも在ったはずのもの……意志の力だ」

 

 勝利に懸ける執念。その最も肝要な原動力が欠落している者達の闘志など、恐るるに足らず。

 そう発言して憚らないΛ−ⅴは、挑発に乗って両刃を構えたカマキリザードと鋭い眼差しを交わし――同時に間合いを詰めて行く。

 

「……『未来』を渇望する意志の力を自ら捨てた貴様達に、俺達が負けることなど万に一つもあり得ない! これで終わりにしてくれるッ!」

「……どのような御託も『決着』の前には全て吹き飛ぶ! かつては誰もが正義と信じた大東亜戦争が、無様な結末を迎えたようにな! そんな敗北の歴史に生きて来たお前達に……何が出来るッ! 何を守れるッ!」

 

 互いに拳と刃を振りかぶり、双方の命を断ち切らんと全力の一閃を繰り出して行く。この意地を賭けた一騎打ちに、決着を付けるために。

 

 動きは僅かに、カマキリザードの方が疾い。彼の両刃は弧を描き、Λ−ⅴの首を狙う。

 その刃を両拳の甲で受け止めたΛ−ⅴは、鮮血を噴き上げながらも両刃を払い除け、自身の間合いに飛び込んで行った。

 

「ぬ、ぅッ……!?」

「歴史に『結末』など存在しないッ! 俺達の歴史は、この先も続いて行くッ! 『仮面ライダー』も『怪人』も要らない時代に辿り着くまで……俺達人間は、生きるッ!」

 

 自分達が必要とされなくなる、新時代を目指して。Λ−ⅴは剛拳を振るい、全ての力を込めた一撃でカマキリザードの鳩尾を打ち抜くのだった。

 

 カマキリザードの腹部を貫通し、後方に突き抜けた衝撃波が廊下の壁やガラスを粉々に破壊して行く。怪人の骨がバラバラに砕け、トカゲ型の大顎から鮮血が吐き出されたのは、その直後であった。

 

「ごぉ、ぁあッ……!」

「はぁっ、はぁ、はぁっ……!」

 

 生体装甲の防御力など容易く突破する、オーバーロードの鉄拳。

 その一撃に破られたカマキリザードは変身能力を喪失し、野戦服を纏う壮年の戦士――間霧陣の姿を露わにして行く。

 

 一方、Λ−ⅴもオーバーロードの反動で全システムがダウンしてしまい、明日凪風香の姿に戻されてしまうのだった。

 厳つい壮年の男と、可憐な女子高生のような容姿を持つ「男の娘」。先ほどまで死闘を繰り広げていた者同士とは思えない外見の持ち主である彼らは、同時に倒れ伏していた。

 

「ぐっ、ふ、ふふっ……『仮面ライダー』も『怪人』も要らない時代……か。残酷なことを言うのだな」

「……不服か」

「ふっ……いいや、そうでもない。殺しもそろそろ、飽きて来た頃だから、な……」

 

 あまりに長く、あまりに無情な闘争の日々。それがようやく終わる瞬間を、心のどこかで待ち侘びていた。

 それが己の敗因なのだと認めた間霧は、全てのしがらみから解放されたかのように、安らいだ笑みを溢している――。

 

 ◆

 

 時代に望まれた新世代の仮面ライダー達。時代に拒まれた旧時代の始祖怪人達。過去と未来を巡る彼らの最終決戦は、ついに終局へ向かおうとしていた。

 

 新世代ライダーの筆頭として屋上に辿り着いた、仮面ライダーケージ。始祖怪人の暫定リーダーとして、彼を迎え撃つエインヘリアル。双方の命と誇りを賭けた死闘も、決着の瞬間を迎えようとしていたのである。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

「……どうやらお互い、限界のようだな。仮面ライダー……!」

「あぁ……終わらせるぞ、始祖怪人ッ……!」

 

 紅い眼光を妖しく輝かせ、両手の小指から伸びるブレードを静かに構えるエインヘリアル。そんな彼と真っ向から対峙し、両拳を構えているケージ。

 これまで幾度となく拳と手刀を交えて来た彼らは、すでに満身創痍となっている。半壊しているケージの仮面と、戦闘の余波で破壊された周囲のコンクリート片が、その一騎打ちの苛烈さを物語っていた。

 

 一見、野戦服を纏っているだけの老兵にも見えるエインヘリアルだが、その内側は戦うためだけの戦闘マシーンと化している。

 始祖怪人達の中でも特に旧式である、「変身型」に辿り着く以前に開発されていた「常時怪人型」。後年の改造技術の礎となった「アーキタイプ」としての側面を持つ彼のボディは、最も多くの実戦を経験した身体でもあるのだ。

 

 人工筋肉による高出力から繰り出される剛力。硬化能力によって高い防御能力を誇る、肌色の外装甲。それら全てを常時起動させている、生粋の怪人。それがエインヘリアルという男なのだ。

 

「命ある限り……『仮面ライダー』は絶対に、諦めないッ……!」

 

 ――だが、仮面ライダーケージも負けてはいない。これまで幾度となく、彼のブレードに斬り裂かれながらも、彼はその度に立ち上がって来たのだ。

 

 足元に広がる凄惨な血溜まりは、彼の装甲などエインヘリアルの刃には通用していないことを意味している。

 それでも彼は臆することなく拳を振るい、最強にして最古の始祖怪人を、ここまで追い詰めたのだ。

 

 警察官として、仮面ライダーとして、己の職務を完遂する。その鉄血の信念に邁進する彼は、助走を付けて勢いよく地を蹴り――渾身の飛び蹴り「ジャッジメントストライク」を繰り出していた。

 

 ケージの全エネルギーを投入して放たれた必殺技。その全身全霊の一撃を迎え撃つには、小指のブレードだけでは威力が足りない。

 咄嗟にそう判断したエインヘリアルはケージの動きを観測しながら、体内の機械を調整して即座に自身の片脚へとエネルギーを集中させて行く。彼はこの一瞬で、初見の技であるジャッジメントストライクを己のものとしたのだ。

 

「……はぁあぁあぁあッ!」

「ぬぅあぁあぁあッ!」

 

 やがて、ケージの渾身の飛び蹴りが炸裂する瞬間。「剛力」と「硬化」を限界まで引き上げることで、ケージの蹴りと同等の威力を獲得したエインヘリアルの片脚が、ジャッジメントストライクを迎撃する。

 凄まじい轟音と共に激突した両者のキックは、全くの互角。それ故に、「必殺技」に相当する破壊力を持ったキックの衝撃が、双方の蹴り足に襲い掛かるのだった。

 

「あっ、が、あぁああ……ッ!」

「ぬぅう、おぁあぁッ……!」

 

 その代償は決して、軽いものではない。

 同時に倒れ込んだ2人は、悲痛な呻き声を上げてのたうち回っている。必殺級のキックが相殺された結果、その反動がそのまま彼らの片脚を潰してしまったのだ。

 

 ケージとエインヘリアルの片脚は曲がってはいけない方向に折れ曲がっており、誰の目にも明らかなほど、使い物にならなくなっている。どちらが生き残ろうと、もはや2度と戦える身体ではない。

 

「ふぅっ、ふうぅッ……! お、ぉおおッ……!」

「んぬぅうッ、ぉおあぁあぁッ……!」

 

 そのような状態であるにも拘らず、彼らは残った片脚を頼りに立ち上がり、へし折れた足を引き摺りながらも戦闘を続行しようとしていた。エインヘリアルは小指のブレードを展開し、ケージは拳を振り翳している。

 

 互いに血走った眼で相手を射抜き、刺し違えてでも仕留めるという信念を胸に、ズリズリと片脚を引き摺って行く。

 

「俺はッ……俺は、絶対に諦めんぞッ……! そうでなければ、俺はァッ……!」

「……」

 

 その中でエインヘリアルは、半壊しているケージの仮面から覗いている、鳥海穹哉の凄まじい形相を目にしていた。

 

(……鳥海穹哉。やはりお前は……私の全てを否定するために生まれて来たような男だな)

 

 彼の頭に巻かれている「赤い鉢巻」を視界に入れた老兵は、忌々しげに眉を顰めている――。

 

 ◆

 

 仮面ライダーGに敗れた後、約10年以上にも及ぶ仮死状態から目醒めた始祖怪人達。彼らは自分達の状況と世界の情勢を把握してから間も無く、劣勢に陥っていたノバシェードと合流し、組織を立て直して見せた。

 

 その一環として戦闘員達を鍛え上げていた彼らは訓練の成果を「テスト」するべく、新世代ライダー達の身元を調べ上げ、彼らの「家族」を狙うように命じていた。

 しかし番場総監もその可能性については想定しており、ライダー達の弱点を狙おうとした卑劣な作戦は、ほとんどが(・・・・)失敗に終わったのである。

 

 その中で唯一、成功してしまった(・・・・・・)ケースが――鳥海穹哉の家族であった。警視庁の監視網を潜り抜けた戦闘員が、彼の不在を狙って自宅に火を放ったのである。

 

 最愛の妻と小学生になったばかりの息子を喪った彼に遺されたのは、初めての運動会に挑戦した記念にと、息子が学校から貰っていた「赤い鉢巻」だけだった。

 警察官と言えども、常人の精神力ならば心を折られてもおかしくない悲劇。だが彼はそれでも、息子の形見と共に戦いを続けたのである。

 

 彼は誰に対しても悲しみを見せず、何事も無かったかのように振る舞い。憎しみと嘆きを押し殺し、警察官として、仮面ライダーとしての使命に邁進し続けたのだ。その仮面の下に、あるがままの涙を隠して。

 

 先ほどまで番場邸で催されていた彼の誕生日パーティーも、そんな彼の胸中を慮っていた忠義・ウェルフリットの呼び掛けによるものであった。

 いつ妻子の後を追ってもおかしくない状況にある彼を案じ続けていたからこそ、21人の仲間達は気を遣わせないように何も知らない振りをして、あの場所に集まっていたのだ。結果としてその呼び掛けが、この戦いにおいては図らずも功を奏していた。

 

 そして――そんな彼の存在は、エインヘリアルこと山城一の人生そのものを否定していたのである。

 

 76年前の太平洋戦争末期。海軍大佐として神風特別攻撃隊を指揮していた当時の彼は、かつての部下だった間霧陣少尉をはじめとする、多くの若者達を「特攻」に送り出していた。

 その中には、間霧と同世代だった彼の息子も含まれていたのである。アメリカ軍の侵攻を僅かでも食い止めるため、彼はそれが正義なのだと信じて、我が子すらも死地に追いやっていたのだ。

 

 戦後、彼が死に場所を求めていたのは、己の正義を否定されたことだけが理由ではない。息子を犠牲にしていながら、その「報い」を受けることなく生き残ってしまった己が、誰よりも何よりも許せなかったのだ。

 その苦悩の果てに改造手術を受け、怪人に堕ちていた彼にとって――鳥海穹哉の存在は、到底受け入れられないものであった。

 

 己の無力さが我が子を殺したというのに、彼は折れることも堕ちることもなく、むしろその悲しみすらも糧にして前に進もうとしている。そんな鳥海穹哉の姿は、山城一の人生そのものを否定していると言っても過言ではないだろう。

 

 だからこそ。そんな彼こそが、山城一という男を終わらせる「執行人」に相応しい。少なくとも山城自身は、そう考えていた。

 

 そして、その2人がこの戦地で巡り合った瞬間には――こうなる(・・・・)ことはもはや、運命付けられていたのかも知れない。

 

 ◆

 

 ――やがて。よたよたとふらつきながらも、互いの拳と刃が届く間合いに辿り着いた瞬間。男達は最後の力を振り絞り、吼えるのだった。

 

「でぇあぁあッ……!」

「ぬぉおぉあぁあッ……!」

 

 そして2人は、腰が入らないまま拳と刃を振り抜き――互いに空を切る。そのまま胸と胸をぶつけ合った彼らは、激しく息を荒げながら転倒し、力尽きてしまうのだった。

 

「か、はッ、あッ……!」

「ぐっ、はぁあ、ぁッ……!」

 

 数年前に仮面ライダーGとの戦いに敗れ、仮死状態に陥っていた時から。エインヘリアルをはじめとする始祖怪人達のボディは耐用年数をすでに超過しており、かつての性能(ポテンシャル)を発揮し切れないところまで「老朽化」していたのだ。

 5年前、仮面ライダーAPとの最終決戦に臨んだ羽柴柳司郎が、そうだったように。

 

 そして仮死状態から目覚めて間も無く、戦闘行為を再開したことで。止まっていた彼らの時計は再び動き出し――この瞬間、すでに老朽化していたボディがついに限界を迎えてしまったのである。

 

 改造後も生身の部分を多く残していたため、変身前の外見も年相応に老けていた羽柴柳司郎とは違い、変身前の彼らの容姿は47年前からさほど変わっていない。

 

 それは柳司郎と比べて、生身の部分がごく僅かしか残っていなかったためなのだが……その変化の少なさが、「衰え」に対する自覚を妨げていたのだ。

 人間ではないからこそ、己の身体に残されたダメージに対しても鈍感になってしまう。それ故に彼らの多くは、かつて仮面ライダーGに敗れた際に生まれた「古傷」も見落としていた。

 

 もし彼らが、全盛期の能力とボディを維持したまま現代まで生き永らえていたのであれば。新世代ライダー達には、万に一つも勝ち目など無かったのだろう。

 

 だが、例えばの話に意味はない。始祖怪人達の老朽化が極限の域に達したことにより、双方の力量差に揺らぎが生じた。その現実に、変わりはないのだ。

 

 そして、その揺らぎがこの戦いの明暗を分け、新世代ライダー達に勝利を齎したのである。

 

「ぐ、うッ……!」

 

 ケージが辛うじて上体を起こしている一方、全く起き上がれずにいるエインヘリアルの姿が、その証左となっていた――。

 




 次回でいよいよ、本章も最終話となります。最後までどうぞお楽しみに〜!٩( 'ω' )و


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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 最終話

 

 新世代ライダー達と始祖怪人達の死闘は、ついに終焉を迎えた。

 実態としては「相討ち」と呼ぶに相応しい決着を迎えたケースも多かったが、この戦いを見届けた誰もが、「仮面ライダーの勝利」を確信している。それは、直に彼らの強さを体感した始祖怪人達も同様であった。

 

「……強え、な。お前達のような人間達ばかりなら……お前達のような人間が、あの時代にも大勢居れば。俺達改造人間なんざ……初めから必要なかったのかも知れねぇな」

「だったら……もう、いいだろうッ……! もう、終わりにしろッ……!」

 

 かつてはミサイルイナゴと呼ばれ、恐れられていた橋部一雄。憑き物が落ちたような彼の言葉を耳にした芦屋隷は、ボロボロになりながらも降伏を勧告していた。

 

「まさか……肉体を捨てて怪人となったボク達が、鎧を着ただけの……生身の人間に、敗れることになるなんて、ね……」

「芦屋博士のおかげでパワーアップした、僕達のスーツは伊達じゃなかった、ということさ……!」

 

 アルコサソとしての力を失った、アシュリー・フォール。彼の前で膝を着いている久我峰美里は、息を荒げながらも自分達の勝利を確信していた。

 

「……違うな。どれほど強力な外骨格だろうと、その性能に胡座をかくような使い手では遠からず限界が来るものだ」

「所詮……人が造るものだからな。俺達の装甲服も、お前達の身体も」

 

 だが、サザエオニヒメこと福大園子と、トライヘキサことジョン・ドゥは、美里の言葉を否定する。装甲服の性能ではなく、それを纏う人間の力が、この結果を齎したのだと彼らは理解しているのだ。

 

「俺達の攻撃を見切れるようになるまで、お前達の命を繋いでいたのは紛れもなくそのスーツだが……お前達自身の努力と成長が間に合わなければ、宝の持ち腐れで終わっていたところだ」

「やけに……私達のことを、買うのですね」

 

 水見鳥清音は野戦服の上着を羽織った格好のまま、紅衛校の言葉を訝しんでいる。一方、放送局の裏手でも似通った会話が紡がれていた。

 

始祖怪人(われわれ)を倒したからには、妥当な評価だろう。ボディの老朽化を言い訳にするつもりはない。……お前達は確かに、私達を打ち破ったのだ」

「だったら……もう終わりにしろ。戦いはもう……いや、ずっと前から終わっていたんだ」

 

 地に倒れ伏したプラナリアンこと波田水過を見下ろす一二五六三四は、憐れむような眼差しで彼と視線を交わしている。

 さらに放送局内のニューススタジオでも、同様のやり取りが続けられていた。

 

「……脆弱な肉体じゃあ、恐怖に打ち勝てねぇ惰弱な精神しか宿らない。だから人間はその弱い身体を捨てて、強靭な精神を獲得しないと……無益な争いを繰り返してしまう。俺達はずっと……そう信じて戦ってきた」

「それは徳川清山の洗脳だ! 奴の改造手術で……!」

 

 Dattyこと間柴健斗の言葉に、悲しげな声を上げる南義男。彼の叫びは、この荒れ果てたスタジオ内に虚しく響き渡っていた。

 

「……いいえ、違います。私達始祖怪人が造られた当時は、清山様の技術はまだ脳改造にまで着手できる段階ではなかった。私達はずっと、私達自身の意志で戦って来たのです」

「自分自身の意志で選んだ道だからこそ……俺達に負けた事実も、受け止められると?」

 

 ハイドラ・レディとしての力を喪失し、ただの無力な女と成り果てた加藤都子。彼女の傍に立つ森里駿は、憐れむように彼女を見下ろしている。

 

「そうだ。そしてお前達の成長を見て、ようやく理解した。生身という弱い肉体だからこそ、その弱さに由来する恐怖に抗おうとする。そこには……俺達すらも凌ぐ、強靭な精神というものが在る。俺達が、人間としての己を捨ててもなお得られなかったものが……今、お前達の手にあるのだ」

「貴様達が、得られなかったもの……か」

 

 かつてはブレイズキャサワリーと呼ばれ、恐れられたブリード・フラナガン。哀れな敗残兵と化している今の彼を、東方百合香はどこか物憂げに見据えている。

 

「だが、お前達は……あの日の私達と、同じだな。賽の目が出てしまった後になって、現れる。運命を変え得る強さを持っていながら……その分かれ目に間に合うことがない」

「何を言っている……?」

 

 タパルドこと、速猟豹風。彼女をはじめとする始祖怪人達の脳裏に過るのは、47年前に某国で起きた惨劇の記憶であった。その暗澹たる悲劇を知らない道導迅虎は、何事かと眉を顰めている。

 

「気が遠くなるほど……遠い昔のことよ。あなた達が知る必要はないわ」

「もういい……もう喋るな、ソコロフ。続きは病院で聞いてやる。傷が治ったら、そこから先は拘置所だがな」

 

 ケルノソウルとしての力を使い果たし、ただのプリヘーリヤ・ソコロフとして倒れ伏している1人の少女。ジャック・ハルパニアはそんな彼女をこの場から連れ出そうとしていたが、ソコロフは片手でそれを制止している。

 

 一方、ニューススタジオからさらに上の階にある廊下では、立ち上がった明日凪風香が間霧陣に手を貸そうとしていた。

 

「ふっ……面白い奴らだ。この期に及んで、俺達を人間のように扱うとはな。ただの人として接されたのは……もう、何十年振りになるだろうか」

「言葉と心が僅かでも通じ合うなら、どんな姿でも……どんな力があっても、俺達は人間同士だ。そこを譲るつもりはない」

 

 だが、間霧は風香の手を振り払い、手助けを拒もうとする。その意図が読めず、風香は怪訝な表情を浮かべていた。もう戦いを続行出来る力は微塵も残っていないというのに、これ以上抵抗して何になるのか――と。

 

「……お前達は一つ思い違いをしているようだから、教えておいてやる。俺達は、明智天峯達とは違うぜ」

「なに……!?」

「俺達は皆、自らの信念を以て自らの意志で、人間の身体を捨てたのさ。この期に及んで、人間の法に則るつもりなんざ毛頭ねぇ」

 

 一方、割れたガラス壁から墜落した戦馬聖を追い、1階に降りていた忠義・ウェルフリットも。対面した戦馬の言葉に不穏な気配を覚え、眉を顰めていた。

 

 屋上で力尽きたエインヘリアルこと山城一も、鳥海穹哉に対して同様の内容を語っている。穹哉も忠義や風香達と同様に、始祖怪人達の動向を訝しんでいた。

 

「……冷戦の時代でも、アフガンの戦地でも。我々は皆、地獄という言葉でも足りない『惨劇』を毎日のように見てきた」

「東西の代理戦争と……2001年から始まったアフガニスタン紛争のことか」

「そのような時代にも負けまいと、懸命に生きていた者達が皆……愚者の都合一つで、『生贄』にされる。それが……あの世界の『日常』だった」

「……!? おい、待てッ!」

 

 穹哉の予感は、最悪な形で的中しようとしていた。山城は言葉を紡ぎながらも、屋上の淵に向かって動き始めたのである。

 力をほとんど使い果たした状態でありながら、彼は地を這ってでも奈落に進もうとしていた。その後を追うには穹哉の消耗があまりにも激しく、彼はほとんど身動きが取れずにいる。

 

「それから何十年も経つというのに……脆弱な肉体に囚われた愚かな人間共は、それでも過ちを繰り返している。我々シェードという……万国共通の大敵が現れてもなお、だ」

「どこへ……いや、何をするつもりだ!?」

「だから我々は……この命を賭して、お前達の前に現れたのだ。この時代、この世界を脅かす……純然たる絶対悪。最後の『怪人』としてな」

「最後の、怪人……!?」

「……我々は人では無い。故に、お前達が悔やむことはない。お前達がお前達の信念に従ったように……我々もまた、我々の理念に殉ずるのみなのだから」

「ま……待てッ……!」

 

 やがて、淵に辿り着いた山城は穹哉の方へと振り返り、ふっと笑みを浮かべる。自分を打ち倒した「勝者」を見詰める、称賛の眼であった。

 だが、彼が――彼らがこれから行おうとしていることは、穹哉達警察官にとっての「勝利」からは程遠いものである。それを理解しているからこそ、彼は嗤っているのだ。

 

「この決着は……気に食わんか? それなら……我々が『勝者』だ」

「……!」

 

 山城だけではない。他の始祖怪人達も皆、自身に打ち勝った新世代ライダー達の奮闘を讃える一方で、警察官としての「敗北」を突きつけようとしている。

 

 そしてライダー達にはもう、それを阻止出来るほどの力は残されていなかった。最後の最後で、始祖怪人達はある意味においては「勝利」してしまうことになる。

 

「あ、天塚……! 奴ら、自爆する気だッ……!」

「……!? なん、だって……!?」

 

 その「企み」に気付いたライダー達の1人である、マス・ライダーこと山口梶は、仰向けに倒れたまま掠れた声を絞り出していた。

 そんな彼の悲痛な叫びを近くで耳にしたのは、同じく満身創痍となっていた――仮面ライダー炎こと、天塚春幸だった。

 

「ふぅっ、うっ、ぐぅうッ……!」

 

 先ほどまで他のライダー達と共に、黒死兵との死闘を演じていた若手の美男子警察官は、片脚を引き摺りながら「同期」の元へと歩み寄って行く。炎柄のライダースジャケットは薄汚れており、その額からは決して少なくない量の血が流れていた。

 脚の負担を一切考慮せずに出力全開の「爆炎脚」を繰り出していたせいなのか、鳥海穹哉と同様に片脚もへし折れてしまっている。芦屋隷の手によって極限までスーツを強化されていたことが、裏目に出ていたらしい。

 

 それでも何とか自分の近くに歩み寄って来た親友を見上げ、梶は最後の力を振り絞るように声を震わせていた。

 

「聞いてくれ、天塚ッ……! 俺の熱源探査システムによると、奴らは全員『同時』に自爆しようとしている……! 寸分の狂いもなく『同時』に、だ……!」

「同時だって……!? 本当なのか、山口!」

「あぁ……! だが、いくら奴らが最強の改造人間だからと言っても……あれほど損傷している状態なのに、自力でそこまで完璧にタイミングを合わせられるとは考えにくい……!」

「……ということは、全員の自爆装置を外部から一括で管理している『大元』がいる? ……まさか!」

「あぁ、きっとそのまさかだ……!」

 

 梶が被っているマス・ライダーの仮面。そこに搭載されていた熱源探査システムは、始祖怪人達が0.1ミリ秒の狂いもなく、「同時」に高熱を帯び始める瞬間を観測していた。

 仮面ライダーRCの打撃によって半壊している今の状態でも、その機能は辛うじて生きていたのである。

 

 始祖怪人達が全くの「同時」に自爆するつもりだとしたら、その起爆装置を一元的に管理している「頭脳部」があるはず。そんな機能を持ったコンピューターなど、一つしか考えられない。

 

 そして梶の仮面は、そのコンピューターから発信されていた「信号」もキャッチしていた。

 

「ガラクタ野郎を動かしていた、あの輸送車に積まれてるスパコン……! あそこから起爆装置を作動させる『信号』を発信してるんだ……!」

「だったら、あいつを止めればいいんだな……! 分かった、任せてくれッ……!」

 

 両腕の骨が砕けているため、LEPを積んだ兵員輸送車に視線を向けることしか出来ない梶。そんな彼の無念を汲んだ春幸は、片脚を引き摺ってでも輸送車に迫ろうとしている。

 

「死なせて、たまるかッ……! 俺達は仮面ライダーである前に、警察官なんだ……! 犯人を殺すために来たんじゃない、捕まえに来たんだ……! 絶対に、死なせるもんかよぉおッ……!」

 

 何度も転んでは血反吐を吐き出し、それでも息を荒げて必死に立ち上がり、春幸は進み続けて行く。兵員輸送車はもう、目の鼻の先であった。

 

「もう、少し……! もう、少っ……!」

 

 だが、後一歩というところで力尽きたように倒れ伏してしまう。

 彼はまだ前に進もうと指先を地面に引っ掛けていたが、そこから立ち上がるには、余りにも血を失い過ぎていた。

 

 ――そして。

 

「ついに……この時が来たようだな」

 

 戦いに敗れ、「覚悟」を決めた始祖怪人達は――己の内側(・・)から迫り上がって来る「灼熱」を感じながら。最後の力を振り絞るように、震える指先で胸元の無線機に触れる。

 そして、その指先で無線機の周波数を――二通り(・・・)の数字に揃えるのだった。だが、そこから発せられた通信に応答はない。

 

 それはもう、決して届くことのない最期の任務報告。もう繋がることのない、2人の男達に向けた無言のメッセージだった。

 

 所詮、幻に過ぎない。現実の光景であるはずがない。それでも死せる勇者(エインヘリアル)達は、確かに視たのである。

 

 かつて共に、激動の時代を生き抜き――ほんの一足早く、先に逝ってしまった男達の背中を。彼らは、最期に視たのだ。

 

 ――そうか、出迎えに来たのか。お前達はいつも、我々の先を行ってしまうな。いつもながら、せっかちな奴らだ。もう……我々の力は、必要ないのだな。それを、心から信じられる時代が……やっと、来たのだな。

 

「待っ――!」

 

 心の底では人でありたいと願っていた明智天峯達と、心の底から怪人であることを受け入れていた始祖怪人達。その違いが、命運を分けたのだろう。

 

 穹哉達は、「待て」と言い切ることすら出来なかった。

 

 仮面ライダーRCを失ったLEPによる、自爆システムが起動するのと同時に――全ての始祖怪人が、跡形もなく爆ぜて行く。

 数十年にも渡る喜びも、悲しみも、何もかも掻き消して。爆炎の向こうへと、消えて行く。

 

 ミサイルイナゴ、橋部一雄。享年72歳。

 

 アルコサソ、アシュリー・フォール。享年63歳。

 

 トライヘキサ、ジョン・ドゥ。享年55歳。

 

 サザエオニヒメ、福大園子。享年73歳。

 

 紅衛校。享年61歳。

 

 プラナリアン、波田水過。享年68歳。

 

 Datty、間柴健斗。享年77歳。

 

 ハイドラ・レディ、加藤都子。享年71歳。

 

 ブレイズキャサワリー、ブリード・フラナガン。享年66歳。

 

 タパルド、速猟豹風。享年73歳。

 

 ケルノソウル、プリヘーリヤ・ソコロフ。享年58歳。

 

 レッドホースマン、戦馬聖。享年75歳。

 

 カマキリザード、間霧陣。享年95歳。

 

 そして――エインヘリアル、山城一。享年117歳。

 

 彼らは最期まで。人ならざる怪物として、死することを選んだのである。

 まるで徳川清山と、羽柴柳司郎の後を追うかのように。

 

「ば、馬鹿野郎ッ……! それでも、それでも俺達にとって……お前達はッ……!」

 

 半壊した仮面の下で、苦悶の表情を露わにしながら。ケージこと穹哉は、悔しげに地面を殴り付けていた。

 

「ち……ちくしょうがぁあッ……!」

 

 立ち上がることも出来ないほどの重傷を負っている彼に出来ることは、それだけだったのである。それは、始祖怪人達の自爆を許してしまった忠義達も同様であった。

 

「くっ、そ……ぉ、おぉおッ……! 許してくれ、山口ッ……!」

「天塚ッ……!」

 

 兵員輸送車の目前で力尽きていた春幸は、地に伏していたおかげでLEPとRCの自爆に巻き込まれることなく、一命を取り留めている。

 だが、自爆の仕掛けを理解していながら阻止出来なかった彼の表情には、安堵の色など一欠片も無い。そんな彼の苦悩を慮る梶も、痛ましげに目を伏せている。

 

 ――かくして。始祖怪人達は新世代ライダー達に戦士としての「勝利」を明け渡し、警察官としての「敗北」を突き付けた。

 

 そして、組織の最高戦力だった彼らの全滅を以て、ノバシェードの壊滅は決定的なものとなったのである。だが、この戦いには生きた「勝者」など居なかった。

 新世代ライダー達は最後の最後まで、始祖怪人達に警察官として勝利することは出来なかったのである。この戦いの終焉をテレビやネットで見届けていた世界中の人々は、表面上だけの「仮面ライダーの勝利と生還」に沸き立っていたが――その当人達は皆、沈痛な面持ちで俯いていた。

 

 彼らだけではない。中継を通してライダー達を見守っていた番場惣太総監をはじめとする、彼らの理解者達も物憂げに視線を落としている。

 ワシントンから戦いの行方を見守っていた、インターポールのロビン・アーヴィング捜査官。研修先の島から始祖怪人達の死を目の当たりにしていた、番場遥花。その遥花の研修先に居た勤務医こと、南雲サダト。そして――遠い穏やかな地で、静かに暮らしていた吾郎と日向恵理。

 新世代ライダー達が味わっている苦悩と敗北感に理解を示していた彼らは、歓喜の声を上げる他の人々を他所に。中継映像に映されている彼らの姿に、労わるような眼差しを向けている。

 

 そして、苦い決着を迎えた彼らを優しく包み込むように――戦いの終わりを告げる眩い夜明けが、放送局のビルにも差し込んでいた。

 

 「仮面ライダー」と呼ばれる者達も、「怪人」と呼ばれる者達も居なくなる新しい時代。

 これは、そんな2022年に至る直前に起きていた、最後の戦いであった――。

 

 ◆

 

 ――遥か遠くのアジア大陸に在る某国の国境線付近に、今も残されている森林部。その奥深くには、16輪の花々がひっそりと咲き乱れていた。

 

 今となっては誰も居ない、ただ鬱蒼と生い茂る森だけとなっているその場所はかつて、「ツジム村」と呼ばれていた。

 反政府ゲリラを恐れた当時の国防軍の暴走により、滅ぼされてしまった悲劇の村として知られている。

 

 もはや、その悲劇の真実を知る者は数えるほども居ない。それでも、その地に咲く花々は、全ての戦いが終わった今も強く生き続けている。

 

 かつてこの地を襲った無念を噛み締め、全ての業を一身に背負い。激動の時代を「怪人」として戦い抜いた、16人の戦士達のように――。

 

 ◆

 

 ――穹哉さん! 本当なんですか、警察辞めるって……!

 

 ――忠義……あぁ、その通りだ。俺の脚はもう……治らないらしい。日常生活は送れても、犯人を追って走ることは……もう出来ないと言われたよ。

 

 ――そんな……!

 

 ――結城丈二(ゆうきじょうじ)博士の改造手術に頼る手も、考えたことはある。……けど、やっぱり止めにしたんだ。

 

 ――どうして! 脚だけでも改造しちまえば、警察を辞める必要なんて……!

 

 ――つまらない意地にしか聞こえないかも知れないけどさ。俺は、生身(あり)のままの俺でいたいんだ。

 

 ――!

 

 ――俺の一生を賭けて……見せ付けてやりたいんだよ、「あいつら」に。何者でもない、生身の人間だからこその強さって奴を。

 

 ――穹哉さん……。

 

 ――あいつらは自分達を「勝者」と言ったが……死ぬことでしか勝ち取れないものがあるなんて、俺は認めない。俺は……何の特別な力も無いただの人間として、何としても生き延びて……あいつらを超えて見せる。

 

 ――分かりました。だったら……俺もちょっと、休暇を貰います。

 

 ――休暇? どうする気なんだ?

 

 ――決まってるでしょ、アメリカにいる光博士に会いに行くんです。彼女の力を借りればきっと、穹哉さんの脚を元通りに治せる方法だって見つかるはずです。いいや、絶対に見つけてみせる。

 

 ――忠義……。

 

 ――命ある限り、仮面ライダーは絶対に諦めない……でしょう? だから……どうか死なないでくださいね、穹哉さん。

 

 ――あぁ……分かってる。俺はまだ、逝けないよ。あいつらにも……「勝ち逃げ」されたくはないからな。

 





【挿絵表示】


 今話を以て、特別編「仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ」は晴れて完結となりました!
 前章に当たる「ライダーマンG&ニュージェネレーションGライダーズ」の最終話で言及されていた、「ノバシェード壊滅までの2年間」の間に起きていた出来事。その中でも最も厳しい戦いを描いていた本章は、シリアスな題材が物語の主軸にあったこともあり、いささかビターな結末を迎えることになりましたが……読者の皆様、企画参加者の皆様、最後の最後まで応援誠にありがとうございましたっ!٩( 'ω' )و

 始祖怪人の面々は最後の最後まで怪人として戦い抜き、ある意味では「勝利」したまま戦いを終えた形となりましたね。作者としては、これが1番彼らに相応しい落とし所だったのではないかと思っておりまする(´-ω-`)
 ただ生き残ることだけが彼らにとっての勝利の形ではない……という点は、ツジム村を舞台にした前半シナリオの時点である程度仄めかしておりました。そういう価値観をどこかに持ってしまった時点で、彼らの運命はある意味決まっていたのかも知れませんな(ノД`)

 また、この戦いで深傷を負った新世代ライダー達の一部は、穹哉のように警察から退いてるんじゃないかなーと思っております。ラスボスを倒したヒーローは前線から身を引くもの……という作者の性癖が出た結果でございますな。
 特に彼らは拙作においては、G→AP→ライダーマンGを経た「最後の仮面ライダー」でもあるので、なおさらそういう拘りが強くなってしまったと言いますか。この辺の作風はAP本編の頃から全く変わっておりませんねー(´Д` )
 仮面ライダーも警察も辞めた後に始まる彼らのセカンドライフについては……原案者や読者の皆様のご想像に委ねたいと思います。荒事とは無縁な仕事で、穏やかに平和を満喫してるのかも知れませんな(´ω`)

 ではではっ、本章を最後まで見届けて頂きありがとうございました! いずれまた、どこかでお会いしましょうー! 失礼しますっ!٩( 'ω' )و


Ps
 シリーズ全体の最終局面へと向かう前に、大きく時間を遡ったエピソードを挟む……というシナリオ構成については、ちょっとだけMGS3→MGS4の流れを意識しておりました(´-ω-`)


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凶兆編 仮面ライダータキオン&エージェントガール 前編

◆今話の登場ヒロイン

◆ヘレン・アーヴィング
 アメリカ合衆国出身の特務捜査官であり、かつて仮面ライダーAPと共にシェードと戦っていた、ロビン・アーヴィング捜査官の実妹。自分を救ってくれた仮面ライダーを慕い、兄の背中を追う形で特務捜査官となった現在は、ノバシェードのテロを追い続けている。使用銃器はワルサーPPK。年齢は21歳。
 スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。


【挿絵表示】




 

 ――2021年3月23日。北欧の最果てとも呼ばれている某国の首都、「エンデバーランド」。

 曇天の空に見下ろされているこの大都市は今、阿鼻叫喚の煉獄に飲み込まれていた。銃声、悲鳴、そして怒号が鳴り響く街道を逃げ惑う人々の多くは我を失い、パニックに陥っている。

 

「きゃあぁあーっ!」

「に、逃げろぉおっ! ノバシェードだ、ノバシェードの奴らが現れやがったんだっ!」

 

 街中で突如武装蜂起を開始した、人ならざる「改造人間」で編成された愚連隊。「ノバシェード」と名乗る彼らのテロに巻き込まれた人々の絶叫が、街全体に轟いていた。

 

 世間からの迫害と排斥に晒され続け、居場所を持てず彷徨い歩くしかない改造被験者達は、どこにでも居る。そしてどこにでも居るからこそ、彼らは人間達の日常に紛れ込み、牙を研いでいたのだ。

 行き場がないアウトローだけではない。世界各国の正規軍の中にすら、裏でノバシェードと繋がっている者がいる。そのルートを通じて得た彼らの銃器が人々を襲い、この街を狂気の渦に叩き込んでいた。

 

「ほらほらァッ! さっさと逃げないと俺達の弾に当たっちまうぜぇ!? 哀れで脆く、愚かな人間共がよォッ!」

「小突けばくたばる脆弱な雑魚共が、寄ってたかって俺達改造人間を迫害しやがって! その罪はてめぇらの命で精算しやがれッ!」

 

 ノバシェード構成員の証である、独特の野戦服に袖を通した無数の男達。彼らの手に握られた黒塗りの突撃銃(アサルトライフル)――「M4カービン」が火を噴き、無辜の民衆の背中に弾丸の嵐を浴びせている。

 だが、彼らにとっては「無辜」ではない。旧シェードが原因で改造被験者となり、改造人間の「失敗作」として見捨てられた彼らは、人間社会からも存在を拒絶されて今に至っている。

 

 シェードではないというのに、自分達も被害者だと言うのに、誰もそれを認めない。ならば、「本物」になるしかない。そのように追い詰められた彼らの「結論」こそが、ノバシェードという組織に顕われているのだ。

 この世の誰にも、自分達を糾弾する権利などない。正義の名の下に自分達を断罪しようとする者が居るのなら、そいつらこそが真の悪。

 

 その過激な思想に傾倒した彼らに、人間の声など届くはずもなく――制止を呼び掛けた現地の警官隊も正規軍の即応部隊も、瞬く間に蜂の巣にされてしまった。

 失敗作と言っても、それは旧シェードの要求スペックに満たなかったからそう呼ばれているに過ぎない。当たりどころによっては通常兵器の銃弾でも斃れる程度の耐久性ではあるが、やはり運動能力においては人間のそれを遥かに超越しているのだ。

 

 常人の照準速度では到底追い付かない疾さで複数同時に突撃して来る上、急所に当たらなければ命中しても倒れない。そんな超人兵士達が徒党を組めば、並の警察や軍隊ではひとたまりもないのだ。

 仮にも戦闘のプロフェッショナルである軍人達でさえ歯が立たない、改造人間達の愚連隊。その暴走を即座に止められる戦力がこの街に居ない今、逃げ惑う市民達は狩られるだけの獲物でしかない。

 

 その地獄絵図を目の当たりにしている、恰幅の良い1人の男性は、あまりの光景に腰を抜かして震え上がっていた。

 遠方の小都市から出張でこの首都に来ていた、観光都市「オーファンズヘブン」の市長こと、ドナルド・ベイカー。ノバシェードの暴虐に恐れをなした彼は、近くに停車していた黒塗りの高級車の影に飛び込んで行く。

 

(なんなのだ、これは……! これが本当に、現実の光景なのか……! あ、悪夢だ……!)

 

 先ほどまで周りに居たはずの秘書も護衛も、血の池に沈んだ骸と化している。高級車に隠れている自分も、今に発見されて同じ命運を辿るのだろう。

 彼がその覚悟を固める暇もなく――武装したノバシェードの戦闘員達は、高級車の陰で震えていたベイカーの姿を見つけてしまうのだった。

 

「おぉ〜? なんだなんだ、こんなところにもくたばり損ないが隠れていやがったぜぇ」

「ひ、ひぃっ……!?」

「いかにもな上流階級、って感じのオッサンだなァ。ぶっ殺し甲斐があるってもんよ……!」

 

 懸命に生き延びようと足掻いていた者を嘲笑う、常人ならざる改造人間の兵士達。いつしか身体のみならず、心までも怪物に成り果てていた彼らは口角をあげ、容赦なくベイカーの頭に銃口を向ける。

 

 もう逃げられない。自分は間違いなく殺される。そう思い至った彼の脳裏に過ぎったのは――故郷の街に残して来た、自身の家族だった。

 

(あぁ……済まない、皆……! 君達を置いて逝くことになる、非力な私を許しておくれッ……!)

 

 ベイカーが市長を務めている都市であり、彼自身の故郷でもあるオーファンズヘブン。

 そこで暮らしている孤児の少女達は皆、旧シェードのテロによって親兄弟を失った者ばかりだった。ベイカーが家族として迎え入れ、実の娘達のように育てて来た彼女達は今や、街でも評判の美人に成長している。

 

 願わくば、彼女達全員が愛する男と出会い、自分の元から巣立って行く日まで生きていたかった。家族を失い、辛い思いを背負って生きて来た彼女達が幸せになる瞬間を、見届けたかった。

 しかし、それはもう叶わない。自分はもう次の瞬間には、ノバシェードの凶弾に斃れてしまうのだろう。ならばせめて、せめて娘達の幸せを願いながら死んで行きたい。

 

 僅かな時間の間に、その覚悟を決めたベイカーが、きつく瞼を閉じて死の瞬間を待つ。だが、その時が訪れることはなかった。

 

「がはッ!?」

「おごッ……!」

 

 乾いた発砲音と共に頭部を撃ち抜かれ、即死したのはベイカーではなく、彼に銃口を向けていた兵士達の方だったのである。

 

「な、なんだ……!? 何が起きたというのたッ!?」

 

 死を覚悟したベイカーの前に、頭部から血を流した兵士達が次々と倒れ伏して行く。その予期せぬ展開に、ベイカーは腰を抜かしたまま瞠目していた。

 やがて、そんな彼の前に拳銃を携えた1人の美女が駆け付けて来る。黒のスーツに袖を通した北欧系の美女は、艶やかなブロンドのショートヘアを風に靡かせ、鋭い眼差しで拳銃を構えていた。

 

「何だあの女……がぁッ!?」

「ぐはッ!?」

 

 その存在に気付いた他のノバシェード戦闘員達は、彼女を排除しようとM4カービンの銃口を向けるが――彼女の両手に握られた「ワルサーPPK」が、それよりも疾く火を噴く。

 発砲の弾みでばるんっと弾む爆乳は、整然とした黒スーツを内側から押し上げており、今にもはち切れそうになっていた。安産型の巨尻も、破けてしまいそうなほどにパンツの繊維を圧迫している。

 

 グラビアモデルすら圧倒するほどの暴力的なプロポーションの持ち主である、怜悧な爆乳美女。焦燥故に頬から滴る冷や汗から、甘い女の芳香を漂わせている彼女は、正確無比な射撃で戦闘員達の急所を撃ち抜いていた。

 

 やがて近辺の戦闘員達を全員排除してしまった彼女は、周囲を警戒しながらベイカーの隣に座るように、高級車の陰へと滑り込んで行く。素早く弾倉(マガジン)を交換して再装填(リロード)を終えながら、彼女はベイカーに手を差し伸べていた。

 

「オーファンズヘブンの市長、ドナルド・ベイカー様ですね!? 助けに来ました、早くここから逃げましょう!」

「き、君は……!?」

「ノバシェード対策室所属、ヘレン・アーヴィング特務捜査官です。奴らの情報を追ってこの街に来たところだったのですが、一足遅かったようですッ……!」

 

 彼女の名はヘレン・アーヴィング。5年前、仮面ライダーAPと共に旧シェードのテロと戦っていた、ロビン・アーヴィング捜査官の実妹である。

 

 かつて旧シェードに攫われ、改造されそうになっていたところをAPに救われて以来、彼女は旧シェードのようなテロリスト達に負けない「力」を渇望して来た。

 その想いから兄の背を追うように過酷な訓練を乗り越え、ノバシェード対策室の特務捜査官にまで登り詰めたのである。鍛え抜かれ、引き締まっている腰回りに対してあまりにもアンバランスな爆乳と巨尻は、黒スーツにぴっちりと密着しており、彼女のボディラインをあるがままに浮立たせていた。

 

 これまで対峙して来た犯罪者達は元より、共に戦って来た上司や同僚達も生唾を飲むほどの圧倒的な美貌とプロポーション。そのグラマラスな肉体と揺れ動く乳房には、ベイカーも思わず目を奪われていた。

 だが、今はそんなことに気を取られている場合ではない。ヘレンの髪や肌から漂う甘い匂いに惑わされながらも、ベイカーは彼女に促されるまま高級車に乗り込んで行く。

 

 2人を乗せた車両はこの戦地から一刻も早く離脱するべく、エンジンを全開にして急発進していた。巧みなハンドル捌きで行手を阻む瓦礫の山をかわしつつ、ヘレンは街の惨状に唇を噛み締めている。

 

(……私も、やっぱりまだまだ未熟ね。やっと奴らの尻尾を掴んだと思ったのに、このテロを未然に防ぐことが出来なかった……!)

 

 このエンデバーランドに潜伏しているノバシェードの兵士達が武装蜂起の準備を進めている、という情報を掴んでいた彼女は、「応援」を待つ時間も惜しんで街に駆け付けていたのだが。彼女が街に到着した時にはすでに、このテロが始まっていたのである。

 あとほんの少し、情報の入手が早ければテロを未然に防げていたのかも知れない。そう思えば思うほど、自責の念が爆乳女捜査官の豊かな胸を締め付けて行く。

 

(それでも……せめて、この人だけは何としても逃して見せる! 見てて、ロビン兄さん! 仮面ライダーっ!)

 

 だが、いくら後悔しても時間を巻き戻すことは叶わない。それを受け入れられないほど子供ではない。だからこそ、今の自分に出来る最善を尽くさねばならない。

 ヘレンはその一心でアクセルを踏み込み、ハンドルを操って行く。だが、巧みなテクニックで瓦礫だらけの道を走っていたのは――彼女だけではなかった。

 

「俺達ノバシェードから逃げられると思ってんのかァッ!? デカ乳の姉ちゃんッ!」

「やっと見つけたぜぇ! あんただろう!? 俺達のことを嗅ぎ回ってたって言う……特務捜査官ってのはよォオッ!」

「……ッ!」

 

 後方から迫る数台のバイクも、軽やかなジャンプで瓦礫を飛び越して道路を疾走していたのである。ノバシェードの追手が、2人に狙いを定めようとしていた。

 





【挿絵表示】


 今回から、新章となる「凶兆編」の連載がスタートとなりました! 前編・中編・後編の3部作構成となっております(´-ω-`)
 時系列としては前章の「特別編」第10話以降で描かれた、新世代ライダーと始祖怪人(オリジン)の最終決戦が始まる日より、少し前のエピソードとなりますぞ(о´∀`о)

 現在はその辺りの時期を舞台にした、短期連載の読者参加型企画をこっそりと検討中であり、本章はそこに繋がって行く前日譚的なエピソードでもあります。「シン・仮面ライダー」の公開を楽しみにしつつ、まったりと更新して行こうと思っておりますのでどうぞ最後までよろしくお願いします〜(*´ω`*)

Ps
 ちなみに3月23日というのは「SDシン・仮面ライダー乱舞」の発売日でもあります。メディアミックスの豊富さからも、製作陣の「シン」に対する本気さが感じられてワクワクしてしまいますなー(*^ω^*)


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凶兆編 仮面ライダータキオン&エージェントガール 中編

◆今話の登場ライダー

森里駿(もりさとはやお)/仮面ライダータキオン
 かつてはノバシェードの尖兵であり、遥花に敗れた後は芦屋隷の保護観察を受けつつ実験に協力していた改造人間。ぶっきらぼうに振る舞うが、情には厚い。年齢は27歳。
 ※原案はエイゼ先生。

上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)/仮面ライダーGNドライブ
 大富豪の御曹司でありながら、警視庁の刑事でもある優雅な好青年。気障な言動を見せることが多いが、その内側には熱い正義感を秘めている。年齢は28歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

南義男(みなみよしお)/仮面ライダーボクサー
 質実剛健で情に厚い、元ボクサーのベテラン刑事。年長者として新世代ライダー達を支える良き「おやっさん」でもある。年齢は45歳。
 ※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。

熱海竜胆(あたみりんどう)/仮面ライダーイグザード
 警視庁の警部であり、愛する妻と娘達を守るためにノバシェードと始祖怪人の打倒に立ち上がったタフガイ。年齢は31歳。
 ※原案はカイン大佐先生。



 

 数台のバイクに跨り、凄まじい速度で猛追して来るノバシェードの戦闘員達。ミラーでその様子を目の当たりにしたヘレンは、追手の男達が見せる下品な笑顔に眉を顰めていた。

 

「ヒューッ! なんだなんだァ、すんげぇデカ乳な上にかなりの美人じゃねぇか! 俺達のことを嗅ぎ回ってた特務捜査官が居ると聞いて来たが……こりゃあ、思わぬ収穫(・・)だッ!」

「へへっ、こりゃあ聞きしに勝る超弩級の上玉だぜぇ! 俺達と一晩(・・)付き合ってくれたら、命だけは助けてやれるかもなァ!?」

「改造人間の俺達とたぁ〜っぷり遊んで(・・・)……ブッ壊れずに済んだらの話だけどよォッ!」

 

 M4カービンのものとは明らかに違う銃声。死屍累々と横たわる仲間達の死体。そこから即座に状況を理解した他の戦闘員達が、ヘレンとベイカーを乗せた高級車を発見していたのである。ノバシェードの戦闘員達を乗せた数台のバイクは、あっという間にヘレン達の車両に追いついてしまうのだった。

 

「……ッ!」

 

 顔付き通りの下品な罵声を浴びせて来る戦闘員達の言葉に、冷酷な怒りと殺意を露わにするヘレン。

 彼女はギリッと歯を食いしばると、片手でハンドルを操作しながらワルサーPPKをスーツの懐から引き抜いて行く。その弾みでシャツのボタンが弾け飛び、そこの隙間から白い谷間が覗いていた。

 

「しつっ……こいわねッ! ノバシェードの下衆共がッ!」

 

 目の前から迫る瓦礫を、左右に動いてかわしながら。彼女は後方から迫る戦闘員達の眉間に、次々とACP弾を撃ち込んで行く。この状況であっても彼女の銃弾は寸分の狂いもなく、戦闘員達の頭部に命中していた。

 

「ぐぉああッ!?」

「このアマッ……がはッ!?」

 

 それでも辛うじて「急所」からは外れていたようだが――被弾によって体勢を崩し、バイクから投げ出された彼らはそのまま瓦礫に激突し、次々と命を落として行く。その様子を見届けながら、ヘレンは鋭く目を細めて引き金を引き続けていた。

 

(やはり兄さんの情報通りだわ……! 「完成品」の改造人間のみで構成されていた旧シェードとは違って、ノバシェードの構成員は軒並み「失敗作」ばかり! 運動能力こそ超人染みてるけど、急所さえ狙えれば通常兵器でも奴らには通用する!)

 

 人間を遥かに超える力を持った改造人間とはいえ、その界隈においては失敗作とされる程度のスペックしかない。それに加え、戦闘のプロばかりだった旧シェードとは違い、戦闘員のほとんどは民兵上がり。

 能力においても戦闘技術においても、ノバシェードの戦闘員達は旧シェードのそれには遠く及ばない「紛い物」に過ぎないのだ。急所を正確に狙える技量さえあれば、通常兵器でも十分に渡り合える。

 

 その事実を己の眼で確かめながら、彼女は空になった弾倉を車窓から脱落させていた。

 片手でハンドルを握ったままでは、再装填は難しい。そこで彼女は、身体をくの字に仰け反らせることによって、自身の爆乳をどたぷんっと弾ませると――その白い谷間から、次の弾倉を「発射」させていた。

 

(正直、私もあんまりやりたくないんだけど……結構便利なのよね、これッ!)

 

 白い爆乳のたわわな弾みで、その深淵から飛び出して来た弾倉。そこに向かってワルサーPPKのグリップを振り下ろし、空中で再装填を終えたヘレンは、即座に射撃を再開して行く。その鮮やかな再装填と連射により、追手のバイクはほどなくして全滅してしまうのだった。

 

 だが、それで終わりではない。如何に手練れだろうと、たった1人の人間の力で対処し切れるほど、ノバシェードは甘い相手ではない。

 

「……! い、いかんアーヴィング捜査官! 前がッ!」

「えっ……!?」

 

 後部座席から前方を目にしたベイカーが声を上げた瞬間――4人の戦闘員達が、高級車の前に飛び込んで来たのである。

 異様に肥大化した両腕を持つ、「腕力特化型」の改造人間である彼らは、走行中の高級車を真っ向から受け止めようとしていた。

 

「調子に乗りやがってぇえッ!」

「し、しまっ……きゃあぁああッ!」

「うわぁあぁあッ!」

 

 失敗作とはいえ、改造人間は改造人間。その事実を思い知らせるように、高級車の追突を受け止めた戦闘員達は、そのまま力任せに車両を横転させてしまうのだった。

 ヘレンとベイカーの悲鳴すら掻き消す衝撃音と共に、車体が地を転がって行く。その回転が終わった直後、ヘレンは苦悶の表情で車両から這い出ていた。

 

 彼女が立ち上がった弾みで、ぶるんっと乳房と巨尻が揺れる。その躍動に目を奪われつつ、ベイカーも横転した車両から何とか抜け出そうとしていた。

 

「だ、大丈夫ですか市長っ……!」

「あ、あぁ、何とかな……!」

 

 一足早く車両から脱出したヘレンは、地を這ったままのベイカーを車両の下から引き出そうとする。だが、彼女の背後を取っていた戦闘員達は、瞬く間にその豊満な肢体を取り押さえてしまうのだった。

 

「あぐっ!?」

「へへ……仲間達が随分と世話になったみてぇだな? 勇敢な女捜査官さんよっ!」

「ア、アーヴィング捜査官ッ!」

 

 ついに捕われてしまった女捜査官の豊満な肉体に、戦闘員達が下卑た声を上げる。そのグラマラスな肉体を覆う黒スーツが、紙切れのように引き裂かれて行く音が、ベイカーの叫びを掻き消していた。

 

「きゃあぁああっ!? は、離しなさい! 離せぇえっ!」

「俺達をここまで手こずらせるくらいなんだ、もしかしたら改造人間の力で可愛がっても……壊れねぇかも知れねぇなァ?」

「い、いやぁああっ!」

 

 珠のような柔肌を際立たせる黒のブラジャーとTバックのパンティが露わにされ、スーツの内側で熟成されていた濃厚な汗の香りが匂い立つ。そのフェロモンの芳香を鼻腔で堪能する男達は、必死に抵抗しようとするヘレンの肉体を、改造人間の膂力で容赦なく組み敷いていた。

 

「このッ……離しなさいッ!」

「おごぉッ……!?」

 

 穢れを知らない純白の素肌。その瑞々しい全身の柔肌を、男達の厳つい手が無遠慮に這い回る。

 靴まで脱がされ裸足を晒されていたヘレンは、なんとか彼らの手から逃れようと、咄嗟に男の顔面に鋭い蹴りを叩き込んでいた。スラリと真っ直ぐに伸びた、白く肉感的な足。その芳しい足裏が、男の顔面に炸裂する。

 

(これでッ……!)

 

 キックの衝撃により、たわわな乳房と安産型の白い巨尻がぶるんと弾み、芳醇な匂いの汗が飛び散っていた。ピンと伸び切った長い脚は矢のように鋭く疾く、男の顔面に命中している。

 これまでヘレンの身体を組み伏せようとして来た犯罪者達は皆、このキックに意識を刈り取られて来たのだ。美女に目がない同僚の男達も彼女の蹴りの威力を知っているため、迂闊に言い寄ろうとはしないのである。人間の男なら、確実に意識が飛ぶ威力なのだから。

 

 だが、それは生身の人間を相手にしていた時の話でしかない。今ヘレンを組み伏せている戦闘員達は――例え失敗作だろうと、改造人間であることには違いないのだ。人間の常識など、通用しない怪物なのである。

 ヘレンの白い足裏が顔面に減り込んだ状態のまま、蹴りを食らった戦闘員の男は下品な笑みを浮かべていた。まるで、効いている様子がない。

 

「……ひっ!?」

「へへっ……いい蹴りじゃねぇか、ますます気に入ったぜ。その調子でもっと抵抗してくれよ、そうでなきゃあこっちとしても張り合いがねぇ……!」

「そ、そんなところっ……!? や、やめっ……!」

 

 むしろ男はキックという名の「余興」すら愉しむように、ヘレンの優美な足先を隈なく舐め回し、そこから漂う熟成された匂いを鼻腔で味わっている。

 足の匂いを嗅ぎ回り、指の股から足の裏、さらには膝裏にまで舌を這わせて来る男の下卑た顔に、ヘレンはただ慄くばかりだった。足先から伝わって来るぞくぞくとした悪寒が、伸び切った白い美脚を通じてヘレンの背中を走り抜けて行く。その感覚に思わずびくんと仰け反った彼女の白い爆乳が、ぶるんっと弾んでいた。

 

(き、効いてない……まるで効いてないッ! 確実に急所に入ったはずなのにッ! 人間の筋力では、例え急所に当てたとしてもこの程度の威力にしかならないというのッ!?)

 

 顔面を蹴られることすら、圧倒的な優位に立っている彼らにとっては「娯楽」の一つに過ぎないのだ。常人の男なら気絶してしまうような蹴りでも、彼らの感覚では「戯れ」に彩りを添えるスパイスでしかない。

 

 「エリート捜査官」と「失敗作の戦闘員」であろうと、決して埋められない「人間」と「改造人間」という根本的な力の差が、その光景に表れている。一度銃器を取り上げられてしまえば、もはや戦い方でどうにかなる力関係ではなくなってしまうのだ。

 

「あ、あぁあ……!」

 

 全ての抵抗が、相手を喜ばせるだけの「戯れ」で終わる。その絶望感に打ちひしがれたヘレンの白い身体に、男達の浅黒い身体が覆い被さろうとしていた。

 

「おっほ……! やっぱりこりゃあとんでもねぇ上玉じゃねぇか! この乳の張りと柔らかさ、堪んねぇ……! こいつと一晩寝られる金で、戦車も買えちまいそうだなぁ!?」

「でっけぇケツ見せ付けやがって……! このケツで捜査官は無理があるだろうが! それとも……こうして男を誑し込むのがあんたの本領かぁ?」

「や、ぁぁぁあっ……! や、やめっ……!」

 

 容易くブラジャーまで剥ぎ取られ、たぷんと躍動する白い爆乳が露わにされる。先端部を間一髪ガードしているニプレスが、男達の嗜虐心と獣欲を掻き立てていた。

 甘い匂いを閉じ込めていたブラジャーから解放された、白く豊穣な二つの果実。その熟れた双丘からは、濃厚な女の芳香がむわりと匂い立っている。

 

(も、もうダメぇっ……! 兄さん、仮面ライダー、私、もう壊される(・・・・)っ……! 捜査官としての誇りも、女としての尊厳も、全部っ……!)

 

 羞恥に頬を染めるヘレンは必死に両腕で隠そうと暴れるが、ガッチリと押さえ付けられていてはそれも敵わない。その身動ぎに応じてたぷんたぷんとプリンのように揺れ動き、女の香りを振り撒く特大の乳房は、男達の粘ついた視線を釘付けにしていた。

 

「さぁて……そろそろ極上の身体を頂く(・・)としようか。もっと本気で抵抗して見ろよ、特務捜査官殿ッ!」

「……っ!? や、やめなさいっ! そこは、そこだけはぁあっ!」

 

 Tバックの紐に指を掛けた他の者も、そのまま一気にパンティを剥ぎ取ろうとしている。未知の恐怖に晒された哀れな処女(バージン)は、ただもがくことしか出来ない。

 

(あ、あぁ、何ということだ……! 我々のような生身の人間では、彼らを止めることなど出来ないというのかッ……!?)

 

 無論、自力で車の下から抜け出すことも出来ないベイカーでは、彼女を救い出すことなど出来るはずもない。

 

(た、頼む……! 私はもうどうなっても構わん、だから彼女は、彼女だけは……!)

 

 ――このまま自分は、ヘレンが辱められて行く様を見ていることしか出来ないのか。その悔しさに唇を噛み締めた彼が俯いた、次の瞬間。

 

「んっ!? な、なんだてめぇら……どわぁぁああッ!?」

「……!?」

 

 極上の女体に群がる戦闘員達は、背後からぬっと現れた4人の男達に首根っこを掴まれると、そのまま後ろに放り投げられてしまった。2m近くにも及ぶ腕力特化型の巨躯さえ、その男達は軽々と投げ飛ばしていたのである。

 

 ヘレンの前に現れた4人の男達は皆、鋼鉄の装甲服を身に纏い。大きな複眼状の両眼を特徴とする鉄仮面で、素顔を隠していた。

 装甲服のデザインも装備も、何もかもが違う彼らだが、ヘレンは彼らの姿を一目見た瞬間に「理解」する。

 

(こ、この人達は……! この人達が……!)

 

 彼らこそ、自分が本来このテロに対抗するために合流するはずだった「応援」。この時代に現れた、新世代の「仮面ライダー」達なのだということを。

 

「……これでも羽織って、大人しくしていろ。後は……俺達が引き受ける」

「あ、あなた達は……!」

 

 そのうちの1人が、低くくぐもった声を掛けてくる。頭部から伸びた一角を特徴とする漆黒の戦士「仮面ライダータキオン」こと、森里駿(もりさとはやお)。彼は装甲服の上に羽織っていた黒のロングコートを勢いよく脱ぎ捨て、ヘレンの白い身体にばさりと被せていた。

 強く逞しい漢の匂いが滲むそのコートの温もりに、ヘレンは羞恥心もあって頬を赤らめている。コートの裾を握る白い手は、恐怖から解放された安堵感に震えていた。

 

 だが、コートを与えたタキオンは彼女の白く美しい身体を目にしても、全く反応を示さない。男の欲望を強く掻き立てる白い乳房の躍動など意に介さず、ただヘレンを庇うように戦闘員達の前に立ちはだかっていた。

 

「人間の自由と平和を守る。そんな戯言のためにこんなところまで飛ばされて来た、哀れな鉄砲玉だ」

「鉄砲玉って、そんな言い方……! 仲間の方々に対しても、あなた自身に対しても、あまりに酷ではありませんか!?」

「知ったことか、事実だ」

 

 その皮肉めいた白々しい声色と突き放すような言葉遣いに、ヘレンはコートを羽織りながらもムッと眉を吊り上げる。そんな彼女の様子にため息をつくもう1人のライダーは、優雅な佇まいで一礼しつつ、艶やかな声色で語り掛けていた。

 

「済まないね、美しき捜査官殿。彼はどうにも、紳士的な振る舞い……というものが絶望的に不得意なのだよ」

「は、はぁ……」

 

 白銀に煌めくボディと、赤いタイヤ状のパーツを特徴とする「仮面ライダーGNドライブ」こと、上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)。彼の気障な振る舞いに胡散臭さを覚えていたヘレンは、コートで身体を隠しながら桃尻を擦って後退りしていた。

 

「やかましいぞ、上福沢。癪に触る態度しか見せんお前にだけは言われたくない」

「それはいつものことじゃないか。それとも……静かな僕がお好みかい? 森里君」

「……今の発言は撤回する。大人しいお前など気色悪くて敵わん」

「ふふっ、僕に対する理解が一層深まったようで実に何よりだ。面白い男だね、君は」

 

 ノバシェードの戦闘員達から目を離すことなく肩を並べたまま、漆黒と白銀のライダーは軽口を叩き合っている。

 そんな2人の奇妙な距離感に、ヘレンが困惑する中。3人目である銀色のライダーは、両拳に装備された巨大な手甲をぶつけ合わせながら、仲間達の前に進み出ていた。

 

「おいお前ら、揉めてぇなら後にしとけ。俺達はさっさとコイツらを片付けて、『次』の現場に行かなきゃならねぇんだぞ。……ノバシェードの馬鹿共が暴れてる場所は、ここだけじゃあないんだからな」

 

 新世代ライダー達の中でもベテランである、「仮面ライダーボクサー」こと南義男(みなみよしお)。ライダー達の「おやっさん」でもある彼は、腕力特化型の両腕さえ霞むほどの大きな拳を構え、臨戦体勢に入っている。

 

「……それにしても。改造人間、それも腕力特化型の力を生身の女に向けるとは、どこまでも見下げ果てた連中だな。お前達を率いていた上杉蛮児(うえすぎばんじ)も、草葉の陰で泣いているぞ」

 

 そして、4人目となる最後の男がゆっくりと歩み出て来る。全身を固める紅い装甲と漆黒のマントを特徴とする、「仮面ライダーイグザード」こと熱海竜胆(あたみりんどう)警部だ。

 常人には耐えられない負荷が掛かるスーツを平然と使いこなしている警視庁屈指のタフガイは、マントを靡かせボクサーの隣に並び立っていた。威風堂々とした佇まいで戦闘員達の前に立ちはだかった彼は、今は亡きかつての宿敵(シルバーフィロキセラ)の無念を憂い、それ故の義憤に拳を震わせている。

 

武田禍継(たけだまがつぐ)、上杉蛮児、そして明智天峯(あけちてんほう)。彼らには彼らなりの『信念』というものがあったが……今のお前達に、そのようなものは微塵も感じられん。被害者意識を拗らせ、暴力を正当化するお前達のような存在だけは……許すわけには行かん。あの3人のためにもな!」

「……そういうわけだ嬢ちゃん、危ねえからちょっと下がっとけ。巻き込まれたら痛いじゃ済まねぇぜ? 『化け物同士』のデスマッチはよ」

「……っ!」

 

 彼ら4人の逞しい背中に絶対的な頼もしさを感じていたヘレンは、気圧されるままに頷くと、白い巨尻を地に擦り付けながら後方に引き下がって行く。特に「既婚者」である義男と竜胆は、その全身から煮え滾るような「義憤」のオーラを噴出させていた。

 

 先ほどまでヘレンが受けていた数々の辱め。それはノバシェードの暴虐が及ぶ全ての場所で起こり得ることであり、その残党が世界中で蜂起し始めている以上、誰にとっても他人事ではいられないのである。

 ましてやノバシェードの仇敵である仮面ライダーにして、妻帯者でもある義男と竜胆は、常に愛する妻の生命と貞操を狙われる立場にある。さらにどちらの妻も、誰もが思わず振り返る絶世の巨乳美女なのだ。夫の不在を狙うノバシェードに襲われれば、ひとたまりもない。

 

 ライダー達の「ボス」とも言うべき番場惣太(ばんばそうた)警視総監はそのリスクを見越して、日本で夫の帰りを待っている部下達の妻に対しては特に厳重な警備体制を敷いているのだが――それも、絶対と言えるものではない。

 現に、「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉(とりうみくうや)はすでにノバシェードのテロによって、妻子の生命を奪われてしまっている。彼と同じ苦しみを味わうことになる可能性は、ノバシェードが存続している限り永久に付き纏うのだろう。

 

(みやこ)……俺は必ず、お前を守り抜いて見せるぞ。鳥海一家のような惨劇は……何としても阻止せねばならないんだッ! この「仮面ライダーイグザード」……熱海竜胆の誇りに懸けてもなッ!)

 

 かつての同僚でもある最愛の妻、都。日本に残して来た彼女と愛娘達の笑顔が、脳裏を過るたびに。イグザードの鎧を纏う竜胆は拳を震わせ、漆黒のマントを覇気のオーラで靡かせている。全身に迸る凄まじい威圧感はやがて波紋となり、彼を中心に広がって行った。

 

(……鳥海(あいつ)のような思いだけは、もう誰にもさせはしねぇ。そのためにも……こいつらだけは! 迅速かつ正確に、完膚なきまで叩き潰すッ! そうでなければこの俺、南義男に「仮面ライダーボクサー」を名乗る資格なんざねぇッ! そうだろう、本子(もとこ)ッ!)

 

 愛する妻の笑顔を糧にしているのは、竜胆だけではない。巨大な拳をガツンとぶつけ合い、闘志を剥き出しにしているボクサーこと義男も、妻を守ると意気込む1人の夫として、ノバシェードの戦闘員達を鋭く睨み付けている。イグザードの覇気にも全く見劣りしないほどの苛烈なオーラが、その白銀のボディから滲み出ていた。

 

 ――自分達が専用のマシンで駆け付けて来るまで、この一帯に響き渡っていた悲痛な叫び。その悲鳴と、声の主であるヘレンのあられもない姿。義男と竜胆はその光景から、あり得るかも知れない「妻の窮地」を連想してしまっていた。

 熱海都(あたみみやこ)と、南本子(みなみもとこ)。愛する妻達の名を心の奥底から呼ぶ男達は、己の鉄拳を熱く震わせている。穹哉(なかま)と同じ悲劇だけは、繰り返してはならない。このような暴虐は、断固として阻止せねばならないのだと。

 

 一方、新世代ライダー達の登場に一時は怯んでいた戦闘員達は、気を取り直したように吼え始めていた。「お楽しみ」を邪魔された怒りで恐怖の感情を塗り潰した彼らは、相手の実力を推し量ることも忘れて挑み掛ろうとしている。

 

「てめぇら……全員仮面ライダーか! 俺達の『聖戦』を邪魔しやがって……! いつまでもてめぇらの思い通りになると思うなよッ!」

 

 やがて。今回のテロに参加した戦闘員達の「主力」である、腕力特化型の改造人間達が力任せに飛び掛かって来た。その光景に息を呑むヘレンとベイカーは、ただライダーの勝利を祈ることしか出来ない。

 だが、この戦いの行方は実に一方的なものとなっていた。肥大化した戦闘員達の両腕と真っ向から組み合い、力比べの体勢に入った4人のライダー達は――圧倒的に体格で優っているはずの彼らを、「腕力」で押し返している。

 

「な、なんだこのパワー……!? ば、化け物共がぁあッ……!」

「化け物、ね。生憎だけど、人々にとっては僕達も君達もさして変わらないよ。どちらも等しく超人であり……化け物さッ!」

「ぐはぁああッ!」

 

 優雅で紳士的な佇まいとは裏腹なパワーで、腕力特化型の「お株」を奪ってしまったGNドライブは、組み合った姿勢のまま戦闘員の腹部に蹴りを突き入れて行く。その衝撃に吹き飛ばされた戦闘員は、握られたままの両腕を容赦なく引き千切られていた。

 

「な、何なんだコイツ、俺達よりもずっと細っこい癖に――ぐわぁああッ!?」

「……寄ってたかって女を襲うのがお前達の『聖戦』か? 安い大義があったものだな」

 

 パワーを売りにしていた腕力特化型の両手を、力比べの姿勢のまま握り潰してしまったタキオン。彼は激痛に蹲る戦闘員を冷酷に見下ろしつつ、その両手から鮮血を滴らせていた。

 

「がは、あッ……!」

「……今日のところは、軽い『お仕置き』で勘弁しといてやる」

「ちょっとでもその気になったら……すぐに死んじまうからな」

 

 力比べの体勢から逃れようと、強引にボクサーの両手を振り解いた1人は――顔面に軽いジャブを喰らっただけで意識を吹き飛ばされ、昏倒して行く。

 イグザードに無理矢理引き寄せられていた最後の1人も、眉間に頭突きを喰らって気絶していた。かくして4人の腕力特化型は、ライダー達の一撃だけであっという間に再起不能となってしまったのである。

 

 ライダー達はあくまで戦闘員達を「人間」として扱い、悪に堕ちた改造人間が相手であろうと、極力殺害を避けようとしているのだが。彼らと戦った者達は皆、このように刃向かおうとする「心」を殺され、無力化されて来たのだ。

 

「……そういうことだ。聞いているな?」

「ひ、ひひっ、ひぃいいぁあッ……!」

 

 意識を保っている残りの2人は怯え切った表情でライダー達を見上げており、抵抗する意志を根刮ぎ破壊されている。そんな彼らをジロリと一瞥するタキオンは、腰を抜かした戦闘員達の醜態に鼻を鳴らしていた。

 

 もう彼らは2度と、ノバシェードの戦闘員を名乗ることは出来ないだろう。この場で命を奪われることなく、彼らは人としての裁きを受けるしかない。そうなるほどにまで、彼らの心は完全にへし折られてしまったのだ。

 





【挿絵表示】


 装甲服の上に黒コートというタキオン登場時の格好はもちろん、「シン・仮面ライダー」を全力で意識してのものでした。それはそうと、やっぱりおっぱいリロードっていいよね……。次回で本章もラストになりますので、どうぞ最後までお楽しみに〜(*^ω^*)


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凶兆編 仮面ライダータキオン&エージェントガール 後編

◆今話の登場怪人

LEP(ロード・エグザム・プログラム)/仮面ライダーRC
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人として、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)達によって運用されていたスーパーコンピューター。普段は専用の兵員輸送車に搭載されており、その車内から有線操作式のロボット怪人「仮面ライダーRC」を制御している。
 ※原案は秋赤音の空先生。

間柴健斗(ましばけんと)/Datty
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。元プロボクサーの巨漢であり、Dattyと呼ばれる怪人として戦っている。外見の年齢は30歳だが、実年齢は77歳。
 ※原案はサンシタ先生。

福大園子(ふくだいそのこ)/サザエオニヒメ
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた女。真面目で堅物な女傑であり、サザエオニヒメと呼ばれる怪人として戦っている。外見の年齢は26歳だが、実年齢は73歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

加藤都子(かとうみやこ)/ハイドラ・レディ
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた女。今は亡き羽柴柳司郎の妻であり、ハイドラ・レディと呼ばれる怪人として戦っている。外見の年齢は24歳だが、実年齢は71歳。
 ※原案はエイゼ先生。

戦馬聖(せんばひじり)/レッドホースマン
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。現在はノバシェードを影から操る始祖怪人達のNo.3として、仲間達を指揮している。外見の年齢は28歳だが、実年齢は75歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

間霧陣(まぎりじん)/カマキリザード
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。現在はノバシェードを影から操る始祖怪人達のNo.2として、作戦の立案を担当している。外見の年齢は48歳だが、実年齢は95歳。
 ※原案は神谷主水先生。



 

「す、凄い……! ノバシェードの戦闘員達をいとも簡単に! これが……これが、あの噂に名高い『仮面ライダー』なのか……!」

 

 相手の得意分野での勝負に敢えて乗った上で、完膚なきまでに叩きのめし、悪しき心を折る。そんな新世代ライダー達の圧倒的な「力」を目の当たりにしたベイカーは、ヘレンに助け出されながらも感嘆に身を震わせていた。

 

 一方、ヘレンはベイカーと同じ思いを抱えていながらも、兄のようには行かなかった自分の非力さに唇を噛み締め、複雑な表情を浮かべている。それでも危ないところを救って貰った礼は尽くさねばという思いが、彼女の口を開かせていた。

 

「……ご協力には感謝致します。あなた達の助力がなければ、今頃私達は……」

「ふふっ、気にすることはないさ。これが僕達の任務なのだから」

「そういうこった。嬢ちゃんみたいな若者は、俺達が要らなくなった次の時代にこそ必要になる」

「だからこそ……これ以上、無理に首突っ込むのはやめたほうが良い。何事も、命あっての物種だ」

「しかしっ……!」

 

 だが。ベルトを外して変身を解いた幸路、義男、竜胆の3人は気さくに笑い、何事もなかったかのように自分達が乗って来たマシンへと視線を移している。彼らを乗せて来たスーパーカー「マシンGドロン」とレーサーバイク「マシンGチェイサー」は、主人の帰りを待ち侘びているかのようにエンジンを稼働させていた。

 

 優雅な美男子、壮年の熟練刑事、筋骨逞しい精悍なタフガイ。彼ら3人はベージュのロングコートを翻し、この場から立ち去ろうと各々の愛車に向かって歩き出して行く。

 そんな彼らに手を伸ばそうとするヘレンの前を遮ったのは――無骨な表情で彼女を一瞥している黒髪の青年、駿だった。手首からライダーブレスを外していた彼も、幸路達と同様に変身を解除し、本来の素顔を晒していたのである。

 

「南達の言うことには素直に従っておけ。……足を引っ張られては敵わんからな」

「なっ……! 何ですか、失礼なっ!」

 

 仮面が消失し、露わにされた絶世の美貌。その眼差しは氷のように冷たく、色めき立ったヘレンの眼を鋭く射抜いていた。吸い込まれてしまいそうな彼の瞳を目にしたヘレンは、豊かな胸の内でどくんどくんと高鳴っている自分の感情に、ただ困惑している。

 駿が羽織っていた黒いロングコート。その温もりに包まれているヘレンは、そこから漂う彼の匂いに「女」の貌を晒している一方で――素気ない駿の言い草に頬を膨らませ、意地を張っていた。出会って間もない内から失礼なことを言う男に、「一目惚れ」している事実から目を背けるように。

 

「……嫌いです、あなたみたいな人っ……!」

「そうだろうな。俺も、好かれるつもりで戦った覚えはない」

 

 これ以上彼の顔を見ていたら、心がどうにかなってしまう。おかしくなってしまう。

 その焦りもあり、ヘレンはぷいっと顔を背けていた。そんな彼女の横顔に皮肉めいた捨て台詞を投げると、駿も仲間達の後に続き、愛車であるGチェイサーに跨って行く。だが、すぐに発進しようとはせず――彼はおもむろに、黒いレザージャケットの懐から煙草の箱を取り出していた。拘りがあるのか、かなり古い銘柄のようだ。

 

「……上福沢、火をくれ」

「全く、仕方がないな君は」

「森里、煙草も程々にしておけ。健康に悪いぞ」

「改造人間の健康を心配するとはナンセンスだな、熱海。生憎だが、俺の身体は今さらニコチン如きでどうにかなるほどヤワな作りではない」

「俺達にとっちゃあ等しく『人間』だろうが。……1本までにしておけよ、森里。いつまでもここでチンタラしてるわけには行かねぇんだからな」

「……ふっ、それもそうか。今のうちにあんたも吸っておくか? 南」

「いや、俺はやめておく。そろそろ本子(カミさん)に怒られちまいそうだからな」

 

 幸路が持っていたライターで煙草に火を付け、僅かに一服した後。駿は仲間達と共に、愛用のマシンでこのエンデバーランドから走り去って行く。それは約1分にも満たない、彼らにとっての貴重な「休憩時間」であった。

 

 ――今回のテロに投入されたノバシェード側の最高戦力である腕力特化型が制圧された今、彼らでなければ倒し切れない敵はもうこの街には居ない。であれば直ちに、彼らは仮面ライダーの力を必要とする「次の現場」に向かわなければならないのだ。駿達は約2年間に渡り、ほとんど休むことも許されないままそのような生活を続けている。

 駿がわざわざ幸路達を待たせて煙草を吸い始めたのも、「勝手な行動をする者が居たため出発に遅れが生じた」という状況を作り、仲間達の足をほんの僅かでも休ませるための「口実作り」でしかない。どれほど世界中を飛び回ろうと、どれほど疲れ果てようと戦い続けなければならない仮面ライダーである彼らが、それでも1人の人間で在れる微かなひと時。それが、1分足らずの喫煙だったのである。

 

 そんな束の間の休息を終え、旅立って行く仮面ライダー達の背中を、見えなくなるまで視線で追い続けていたヘレンは――切なげな表情を浮かべ、桜色の唇をきゅっと結んでいた。

 

(……本当、嫌いっ……)

 

 それから、間もなく。ライダー達によって無力化された腕力特化型の者達をはじめとする、ノバシェードの戦闘員達は全員が射殺、あるいは逮捕され――このエンデバーランドで発生した武装蜂起は、僅か数時間で鎮圧された。

 

 そして、駿達4人が「次の現場」を目指してこの国を発った後。世界的な慈善活動家として知られているベイカーをノバシェードから守り抜いたとして、ヘレンは某国政府から勲章を授与されたのだが――当の本人は、終始腑に落ちない表情を浮かべていたのだという。

 

 ◆

 

 ――総監。あんたは言っていた。例えどんな時代であろうと、その時代が望めば仮面ライダーは必ず蘇ると。

 

 ――けれど、こうも言った。一つでも多くの命を、笑顔を守ることが、俺達が存在する意義になるのだと。

 

 ――それなら俺は、仮面ライダーなど2度と望まれない時代を作りたい。俺達のような連中を望む必要なんてない、そんな世界が欲しい。

 

 ――だから俺は、好かれない方が良いのだと思う。もし何かの間違いで、俺を好きになる奴が1人でも現れてしまったら。俺のために、一つの笑顔が消えてしまう。

 

 ――いつの日か、俺達が要らなくなる時が来るまでに。1人でも多くの人間が、笑ってその時代を迎えられるように。俺は、俺が不要とされるために戦う。

 

 ――それでも俺を必要だと思う馬鹿が、どこかに居るというのなら。そんな奴は、あんた独りぐらいでいい。それでも構わないだろう? 総監……。

 

 ◆

 

 北欧某国の全土を震撼させた「エンデバーランド事件」。その大規模テロの発生から約半年後の、2021年9月6日。

 某国の極北部に位置するとある工場跡地では、とある怪人が「真の目覚め」を迎えようとしていた。

 

 その地はかつて、軍事兵器の製造を中心としていた大規模な工業地帯だったのだが、旧シェードによって滅ぼされた今となっては見る影もない。

 誰も住む者が居なくなったその極寒の地には、幾つかの廃工場だけが残されている。そのうちの一つの屋内では、1台の装甲車両の「調整」が行われていた。

 

 前世紀の兵員輸送車を想起させる外観を持つその車両の内部からは、バチバチと激しい火花が飛び散っており、薄暗い廃工場を内側から照らしている。野戦服に袖を通した十数名の男女はその車両を取り囲み、「調整」の様子を神妙に静観していた。

 

 ただそこに居るだけで迸る、凄絶な覇気。若々しい姿からは想像も付かないその威風を全身に纏い、彼らは歴戦の猛者さながらの鋭い双眸で、「同胞」の目醒めを待つ。

 そして、輸送車のハッチが開かれた時。その奥から電光と黒煙を帯びて、1人の「怪人」が進み出て来る。その不気味な様相は、地獄の封印から解き放たれた悪魔のようであった。

 

「……戦闘システム、オールグリーン。RC、再起動完了。これより、正規戦力として『始祖怪人(オリジン)』に合流する」

 

 濁った機械音声を発し、「調整」の完了を告げるロボット怪人「仮面ライダーRC」。その機体を車内から制御しているスーパーコンピューター「LEP(ロード・エグザム・プログラム)」は、ハッチの奥から怪しい発光を繰り返していた。

 かつてこの工業地帯を滅ぼした旧シェードの遺物は今日、完全に目醒めてしまったのである。仮面ライダーGとの戦いで破壊された装甲を「補修」した鈍色の鉄人は、赤い複眼から眩い輝きを放っていた。

 

 ――本体であるLEPは早期に再起動していたのだが、その手足とも言うべきRCを戦える状態にするまでには、かなりの月日を要していた。その補修期間がようやく終わりを告げ、最恐最悪のロボット怪人が令和の世に蘇ってしまったのだ。

 半年前のエンデバーランド事件をはじめとする、世界各地で起きた数々の武装蜂起。それらは全て、現地の戦闘員達が自分の意志で起こしたもの――と本人達は思い込んでいるのだが。彼らは皆、他者を扇動する能力を持つ「始祖怪人(オリジン)」達によって裏から誘導され、操られていたに過ぎない。差別からの解放を目指したノバシェードの「聖戦」は全て、RCの「補修」が完了するまでの時間稼ぎとして利用され、消費されていたのである。

 

「ォオォ……」

 

 濁った機械音声を漏らし、妖しく両眼を輝かせるRC。真っ当な神経を持ち合わせている生身の人間ならば、その異様な姿を目にするだけでも本能的に震え上がってしまうだろう。

 だが、そんな悍ましいオーラを纏っている「同胞」の姿を目の当たりにしても。恐れるどころか、薄ら笑いすら浮かべている者がいた。

 

「へっ、ようやく『補修』が終わったみてぇだな。随分と待たせてくれたじゃねぇか、天下のスーパーコンピューターさんよぉ?」

 

 褐色の肌と、短く刈り上げた黒髪が特徴の巨漢――間柴健斗(ましばけんと)。野戦服がはち切れそうなほどの筋肉量を持つその大男は、へらへらと笑いながらRCの額を裏拳で小突いていた。

 

「あーあ、やっちゃったぁ。ボクはどうなっても知らないよぉ〜?」

「……実に愚かな行いだ。ほとほと呆れる」

「ははっ、あいつらしくてイイじゃねぇか」

 

 その恐れ知らずな挑発行為に、周囲の仲間達は様々な反応を示している。呆れる者も居れば、嗤う者、案じる者、静観する者も居る。だが、彼らの脳裏にはある1点の共通項があった。

 

 ――この男は間違いなく、痛い目に遭う。それが間柴の行為に対する、この場に居る全員の共通認識となっていた。

 

「……そこまでにしておけ、間柴。LEP相手に『言い訳』の類は一切通用しない。湾岸戦争の頃、1発誤射した『黒死兵』がバラバラに引き千切られていただろうが」

 

 その「顛末」を予見していた1人である長身の美女・福大園子(ふくだいそのこ)は、腕を組んで豊満な乳房を寄せ上げながら、呆れた様子で口を開く。だが、同胞の忠告にも耳を貸すことなく、間柴はRCの額を小突きながら嗤っていた。

 

「ハハッ、固えこと言うなよ福大。こんなのほんの『ご挨拶』――」

 

 そして、彼が福大の豊満な乳房へと視線を移した瞬間。間柴の「戯れ」を「攻撃」と認識したRCの鉄拳が、彼の横っ面に炸裂する。

 間柴の巨体が紙切れのように吹き飛ばされたのは、その直後だった。空を切る間柴の身体は廃工場の壁を突き破り、外にまで放り出されてしまう。

 

 だが、仲間達は誰も間柴を気遣う素振りを見せない。自業自得だから、というだけではない。「この程度」でどうにかなるような者ではないことを知っているから、心配などする必要がないのだ。

 そんな彼らの見立て通り、間柴はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、何事もなかったかのように起き上がろうとしている。その単細胞ぶりにため息を吐く着物姿の美女――加藤都子(かとうみやこ)は、福大以上に呆れ返っているようだった。

 

「はぁ……相変わらずですね、間柴様は。いい加減、お戯れは怪我の元と学ばれては如何です?」

「……ハッハハハ! そんな必要はねぇぜ、加藤ッ! こういう『ご挨拶』も俺は嫌いじゃねぇからなァッ!」

 

 加藤の苦言も笑い飛ばして立ち上がった間柴は――即座に地を蹴り、RC目掛けて凄まじい勢いで殴り掛かろうとしている。しかもその姿は、青い複眼と真紅の装甲、そして肥大化した両腕を持つ剛腕の始祖怪人「Datty」へと変身していた。

 

 蒼色のまだら模様が浮かぶ巨大な腕を構える怪人が、本気のストレートパンチを打ち込もうとRCに急接近して行く。その殺気をセンサーで感知したロボット怪人も、無謀な挑戦者を真っ向から迎え打とうとしていた。

 

 ――だが、両者の間合いが詰まる直前。その間に飛び込んで来た1人の男がDattyの剛腕と首を掴み、払腰の要領で地面へと叩き付けてしまう。

 

「ご、はッ……!?」

 

 轟音と共に地面に減り込んだDattyの身体を中心に、大きな亀裂が広がっていた。

 予期せぬダメージによって変身を解除され、Dattyこと間柴が苦悶の声を上げている一方で。投げの威力を物語る地割れを目にした仲間達は、ようやく「茶番」が終わったかと鼻を鳴らしている。

 

 間柴を地面に叩き付けて「ご挨拶」を終わらせた男は、銀色の髪を靡かせて不適な笑みを浮かべていた。端麗な容姿を持つその男は、野戦服の上にレッドブラウンのトレンチコートを羽織っている。

 旧シェードの創設メンバーである始祖怪人。その中でも屈指の実力派であり、徳川清山(とくがわせいざん)羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)が死去した今では「No.3」の座に就いている、戦馬聖(せんばひじり)だ。

 

「……止めときなァ、間柴。福大の言う通り、コイツは俺達と違ってユーモアってものが分からねェ。この辺にしておかねぇと、死ぬまで殺り合う羽目になるぜ?」

 

 Dattyに変身した状態の間柴を投げ飛ばした上、体格で勝っているはずの彼をそのまま取り押さえている戦馬は、気さくな声色で最後の忠告を口にしていた。

 一見すると皮肉屋な美男子と言った印象だが、間柴を抑え込んでいるその両腕は、元ヘビー級ボクサーの始祖怪人ですら抗えないほどの膂力を発揮している。

 

 始祖怪人達の中でも最強と恐れられていた、羽柴柳司郎こと「仮面ライダー羽々斬(ハバキリ)」。彼直伝の技で間柴を投げ飛ばした戦馬は、「授業」を受けさせられていた頃の自分を想起させる間柴の姿に、不敵な笑みを溢していた。

 

「へっ……死ぬまで殺り合う、ねぇ。俺としちゃあ、それで一向に構わねぇんだけどなァ。この俺との殴り合いが成り立つ相手なんて、ごく一握りじゃねぇか。そうだろう? 元特殊部隊(スペツナズ)の戦馬さんよォ」

 

 1970年代に徳川清山と出会い、改造人間として生まれ変わるまで。旧ソビエト連邦軍の精鋭特殊部隊で訓練を積んでいた、ロシア系の血を引く生粋の「兵士」。そんな戦馬の技と腕力に冷や汗をかきながらも、間柴は変わらず薄ら笑いを浮かべ、軽口を叩いている。その様子に口角を緩めて手を離した戦馬は、自分と共にこの「ご挨拶」を静観していた「No.2」の方へと視線を移していた。

 

「だったら例の『決戦の日』まで、壁でも殴って待ってるんだな。……ほうれ、『No.2』のお見えだぜ」

 

 彼の視線の先に居たのは、両腕を組んで「ご挨拶」の顛末を見届けていた1人の男。鍛え抜かれた太い腕を組み、威厳に満ちた面相で間柴の暴走を静観していた壮年の古参兵だった。

 

「……その『戯れ』を見るに、基礎動作も申し分ないようだな。これでようやく、俺達全員が真の意味で結集出来たということだ」

 

 現在の始祖怪人達に多くの指示を与えて来た、事実上の「No.2」こと間霧陣(まぎりじん)。スキンヘッドの頭と左眼の眼帯を特徴とする元脱獄囚は、ゆっくりと戦馬達の前へと歩み出して来た。

 

「だが、今のRCがどれほど戦える状態にあるか……『実戦』を通じて検証する必要がある。『決戦の日』までには万全の状態に調整しておかねばならんからな」

 

 一歩地を踏むたびにそこから溢れ出す覇気の威力は、猛者揃いの始祖怪人達の中でも群を抜いている。それほどのオーラを纏っている間霧は、一瞥するだけでRCを輸送車の車内へと引き退らせていた。

 

「実戦だァ? それなら話が早いぜ、この俺が死ぬまで付き合ってやらァ。LEPとしても、やり甲斐のある相手じゃねぇと検証にならねぇだろ?」

 

 だが、恐れ知らずの間柴はその場で飛び起きると、彼相手にも無遠慮に食って掛かる。闘争に飢える巨漢は、相手を問うことなく戦いを渇望し続けていた。そんな彼を右眼でじろりと睨む間霧は、おもむろに野戦服の懐へと手を伸ばしている。

 

「お前にやらせていたら『対消滅』もあり得る。その案は却下だ」

「チッ……じゃあ、どこのどいつにLEPとRCの『試運転』に付き合わせるってんだァ? だいたい、場所はどうするつもりなんだよ。俺達始祖怪人が暴れるには、この廃工場は狭すぎるぜェ?」

「数体の黒死兵で制圧が可能な『実験場』を見繕って来た。そこでLEPとRCの『試運転』を行い、『決戦の日』に向けた運用データの収集を行う」

「実験場、だとォ……?」

 

 間霧が懐から取り出したのは、彼ら始祖怪人が潜伏しているこの某国全体の地図。国境線付近を指しているその地図のある箇所には、赤い丸印が残されていた。

 

「この街だ。正確には、この街の防衛を担当している警察組織と正規軍。こいつらの死体を餌に『仮面ライダー』を釣り、LEPに『前哨戦』を経験させる。……街を制圧するまではお前が指揮を取れ、戦馬」

 

 そこが間霧の云う「実験場」であることは明らかだった。丸印が刻まれている地点の名は、観光都市「オーファンズヘブン」。その地で彼は、「実験」という名の「侵略」を企てているのだ。

 

「へいへい、分かってらァ。……『大佐』といいあんたといい、復員兵崩れのおっさん共は人使いが荒くて敵わねェぜ」

 

 間霧に実行役を命じられた戦馬は気怠げに頭を掻きむしると、スゥッと目を細める。彼の鋭い双眸は間霧だけでなく、その背後からこの状況を見据えている「No.1」の老兵も射抜いていた。

 

「……」

 

 「大佐」と呼ばれるその白髪の男は、間霧と比べれば細身の体躯だが。紅く発光している両眼からは、間霧以上の覇気が滲み出ている。

 腕を組み、仲間達の様子を最後方から無言で見据えている老兵の眼光は、間霧さえ凌ぐほどの迫力と威圧感に満ちていた。

 

 有無を言わせぬ紅い眼力で始祖怪人達を従える、事実上の「No.1」。その気迫を背に浴びる間霧は「かつての上官」を一瞥し、言葉を紡ぐ。

 

「……令和と呼ばれるこの時代に蘇ってしまった以上、俺達は人間共の行いから目を背けることは出来ない。そして俺達が黙って朽ちて行くことを受け入れられるほど、奴らは行儀の良い歴史を見せてはくれなかった」

 

 1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動して来た彼らは、2009年に洗脳から覚醒した仮面ライダーGに倒され、一時的な仮死状態に陥るまで。人類史に残る戦争や紛争が生んだ惨状の数々を、当事者の1人として目の当たりにして来た。

 

 その後。2009年から2021年までの約12年間にも渡る、長い眠りから覚めた時。世界は絶望的なまでに、醜いままとなっていた。

 徳川清山と羽柴柳司郎の死、そして旧シェードの滅亡。その「禊」を以てしても人類は差別と偏見を捨て切れず、残された改造人間達を迫害し、やがてはその愚行に端を発する憎しみの連鎖が、ノバシェードを生み出していた。

 

 そんな「行儀の悪い歴史」を観たからこそ。47年前、ツジム村で起きた悲劇を目の当たりにしたからこそ。間霧を含む始祖怪人達は、敢えてその悪しき連鎖に身を投じているのだ。今の人類が「信頼」に足るか否かを、見定めるために。

 

「だからこそ……死に損なった俺達の眼で確かめねばならんのだ。この世界は本当に、改造人間を必要としなくなったのか。俺達が1人残らず、滅びるべきなのかをな」

 

 そして、彼の宣言から僅か数日後。この計画の実現が、新たなる戦いの物語へと繋がって行くことになる――。

 





【挿絵表示】


 始祖怪人組のイチャイチャで締めつつ、今話を以て凶兆編は完結となりました! 最後まで読み進めて頂き、誠にありがとうございます。次回からは、新たな企画作品となる新章が始まる予定となっております……ので、しばらくの間は充電期間となりまするm(_ _)m
 今はまだ準備段階ですが、なるべく早めに公開まで漕ぎ着ければなーと思っておりますので、どうぞお楽しみに! ではではっ!٩( 'ω' )و


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第1話

◆今話の登場怪人

戦馬聖(せんばひじり)/レッドホースマン
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人であり、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として活動していた男。現在はノバシェードの幹部として、量産型怪人「黒死兵」を指揮している。外見の年齢は28歳だが、実年齢は75歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

LEP(ロード・エグザム・プログラム)/仮面ライダーRC
 旧シェードに所属していた黎明期の改造人間「始祖怪人(オリジン)」の1人として、1970年代から改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)達によって運用されていたスーパーコンピューター。普段は専用の兵員輸送車に搭載されており、その車内から有線操作式のロボット怪人「仮面ライダーRC」を制御している。
 ※原案は秋赤音の空先生。



 

 ――2021年9月10日。北欧某国の小都市「オーファンズヘブン」中央区、市長公邸。

 

 街の中枢に位置するその門前から、破壊し尽くされた街の様子を見渡している1人の男が居た。彼は瓦礫が散乱している眼前の惨状に、満足げな笑みを浮かべている。

 

 本来なら整然とした街並みが広がっているはずの場所は今、無残な瓦礫と廃墟ばかりのゴーストタウンと化していた。その「景色」を作り出した張本人であるが故に、彼は自分の「仕事振り」に喜んでいるのだ。

 

「随分と見晴らしの良い景観になったもんだ。そうは思わんか? 市長さんよ」

 

 野戦服の上にレッドブラウンのトレンチコートを羽織り、艶やかな銀髪を靡かせているその美男子の名は――戦馬聖(せんばひじり)

 「レッドホースマン」のコードネームを持つ旧シェードの生き残りにして、現在のノバシェードを統率している「始祖怪人(オリジン)」の一員である。彼が率いる強力な自律式怪人「黒死兵」の侵略により、この街は壊滅の危機に瀕しているのだ。

 

「き、貴様らぁ……! な、何ということをッ……!」

 

 彼の背後で両膝を着き、縛り上げられているこの街の市長――ドナルド・ベイカーは、恐怖と憤怒が混じり合った表情で戦馬の背を睨み付けている。この某国を代表する有名な慈善活動家にして、世界最優の名医としても広く知られている男だ。

 恰幅の良い体格と優しい顔立ちの持ち主である彼は、故郷である愛する街を破壊された悲しみと怒りに苛まれ、沈痛な唸り声を上げている。

 

 そんな彼の両脇に立っている4人の黒死兵は、感情というものが全く感じられない冷たい視線で、市長の背中を射抜いていた。この街に破滅を齎した漆黒の怪人達は、戦馬のものと同じ野戦服に袖を通している。

 

「ふん、あんな格好で何を粋がっていやがる? 笑わせるぜ」

「俺達がちょっと捻ってやれば、容易く死んじまう脆弱な人間風情がよ」

 

 公邸の内部を占拠している無数の一般戦闘員達も、膝を着いた市長をバルコニーから嘲笑うように見下ろしている。

 「生身の人間に毛が生えた程度」の膂力しかない粗悪な改造人間である彼らだが、徒党を組めばかなりの脅威となるのだ。小銃で武装した彼らの存在も、この街が壊滅した原因の一つなのである。

 

(それにしても、この男……以前に見たことがあるノバシェードの連中とは、明らかに違う(・・)! 覇気、風格、眼力……全てにおいて別格(・・)だ! この男は一体……!?)

 

 そんな悪鬼達に注目される中で。彼は独り、戦馬の背中から迸る凄まじい威風(オーラ)に圧倒されていた。

 実はこの市長が、ノバシェードのテロに遭遇したのは今回が初めてではなかったのだ。

 

 数ヶ月前、出張のため遠方の首都「エンデバーランド」に足を運んでいた際も、彼はノバシェードのテロに居合わせたことがあった。そこへ新世代ライダー達が駆け付けて来たことにより、九死に一生を得たのである。

 その時も彼は、ノバシェードという存在を直に目撃していたのだが。そこで見たノバシェードの戦闘員達は、今にして思えば戦馬が纏う覇気には遠く及ばない程度の「格」であった。

 

 当時は凄まじく恐ろしい存在に見えていたノバシェードの戦闘員達でさえ霞むほどの、圧倒的な迫力。

 その威風を己が物としている自分に戦慄している、市長の視線。それに勘付いた戦馬は、感心したような面持ちで振り返っていた。片膝を着いた戦馬と、市長の視線が交わる。

 

「……ほぉ。俺達と他の雑魚共の違いが分かるとは、なかなか見所のある男だ。俺達の仲間だったなら、使える奴になっていたのかも知れんなぁ?」

「ふざけるな! この街は……『オーファンズヘブン』は決して、貴様らノバシェードなどには渡さん! 例え私の命が尽きようともだッ!」

「威勢の良いことだな。街の警察組織は崩壊し、正規軍の突入作戦も悉く失敗したというのに……まだ他にアテでもあるのか?」

「確かに街は壊滅状態だが……我々はすでに国際刑事警察機構(インターポール)を通じて、『仮面ライダー』に出動を要請している! 2年前に貴様達の首魁を打倒した、日本の精鋭特殊部隊だ! もはや勝ち目はないと思えっ!」

「はっはっは……そうかそうか、実に素晴らしい手際の良さだ。やはりあんたは筋が良い。ちょうどそろそろ……その名前が聞きたかったところだ」

「な、なんだと……!?」

 

 ノバシェードの恐ろしさと、新世代ライダーの頼もしさを知る市長はこの窮地においても気丈な声を張り上げていた。実際に助けられたことがあるからこそ、彼は新世代ライダー達に全幅の信頼を寄せているのだ。

 

 だが、そんな彼が口にした「仮面ライダー」の名に、戦馬は怯むどころか口角を吊り上げる。まるで、それこそが目的であったかのように。

 

「聞いての通りだ、LEP。奴らはじきにこの街に来る。『決戦』の日は近いんだ、これを機に連中の戦術を学習(ラーニング)しておけ。何せ今回の占拠(テロ)は、それが最大の目的(メインディッシュ)なんだからな」

「……!?」

 

 すると。市長公邸の傍からゆっくりと進み出て来た1台の兵員輸送車が、市長の目に留まる。その車両は歪な機械音を奏でながら、戦馬の近くで停車していた。

 

(な、なんだこの輸送車は……! 兵員輸送用の車両のようだが……奴はこれの運転手に呼び掛けたのか……!?)

 

 鈍色のボディを持つ物々しい兵員輸送車に、市長はただならぬ気配を感じて息を呑む。M59装甲兵員輸送車のシルエットを想起させる、その無骨な車両からは、得体の知れない不気味な気配が漂っていた。

 一見すれば旧式の装甲車両のようだが、戦馬が「期待」を帯びた眼差しで一瞥しているそれが、見た目通りの代物であるはずがない。そんな市長の考えを裏付けるように、戦馬は輸送車の車体を裏拳で小突き、気さくな声色で呼び掛けていた。

 

「俺はこれからこの街を脱出し、軍の包囲網をブチ抜いて別の国に向かう。俺達が遊んで(・・・)やらなければならないライダー共は他にも大勢居るからな。それから、この黒死兵達はここに置いて行く。どうせ他の連中では持て余す代物だ、指揮権はお前に譲る」

「な、なんだと……!? 貴様、この期に及んで逃げ出そうというのか!? 仲間達を置き去りにして!」

「敵の頭数が減るというのに怒り出すとは、随分と騎士道精神に溢れた市長様だな。……心配するな、コイツの方が俺よりもずっと良い『仕事』をしてくれる。退屈などさせんよ」

 

 戦馬の口振りから、彼がこのまま街を去るつもりだと知った市長は恐怖も忘れて声を荒げる。踵を返して公邸を去ろうとする戦馬を追うように、市長が立ち上がろうとした、その時だった。

 

「待っ……!?」

 

 市長の声を遮るように、輸送車のハッチが開かれ――その奥から、幾つものコードに繋がれたもう1人の怪人が現れたのである。

 

「ゴオォ、オォオオ……」

 

 だが、その外観は紛れもなく「仮面ライダー」のそれであった。戦馬と同じ始祖怪人の一角とされている、その怪人の名は「仮面ライダーRC」。

 輸送車に搭載されたスーパーコンピューター「LEP」による遠隔操作を介して制御されている、外部端末(ロボット)怪人なのだ。

 

 そのボディは、過去の仮面ライダーGとの戦いで破損した部分を、緑色の追加装甲で補修している現地改修仕様であり。後から足された緑色と、元々の鈍色が織り成す歪なまだら模様は、さながら迷彩色のようであった。

 

「じゃあな、しっかり学んで(・・・)来い。……だが、勢い余って殺すなよ。後の楽しみが減ってしまうからな」

「……任務、了解。これより、『仮面ライダー』迎撃体制に、移行する」

 

 肩越しに戦馬が言い捨てた言葉を「命令」と認識した鋼鉄の怪人が、濁った機械音声で「了解」の意思を示す。その異様な姿に、市長はただ慄くばかりだった。

 

(な、なんなのだ、この鉄の怪人は……!? ただの改造人間ではない……! この輸送車とコードで繋がれているとは、一体こいつは……!? しかも奴は今、「俺よりも良い『仕事』をする」と……! この怪人は街を破壊した黒死兵達(こいつら)や、それを使役していた奴よりも、さらに「上」の強さだと言うのか……!?)

 

 自身が敬愛した新世代ライダー達にも通じる、「仮面ライダー」らしいヒロイックな外観。それに反した不気味なまでの無機質さが、市長の背筋に悪寒を走らせる。

 

(ダ、ダメだ……! あの仮面ライダー達でも、こいつばかりはダメかも知れん……! 私でも分かることだ、この男はハッタリでそんなことを言うほど甘い奴ではない……!)

 

 自分よりも良い「仕事」をする、という戦馬の言葉も、彼を震え上がらせていた。この世の地獄としか思えないような威力を誇っていた黒死兵達でさえ、眼前に立つ鉄の怪人には遠く及ばないというのだから。

 

(……そういえば)

 

 その間に、悠然とその場を立ち去っていた戦馬はふと、未だにこの街で「悪足掻き」を続けている民間の武装集団が居たことを思い出していた。

 だが、街の警察が壊滅し、市長の救出を目指した軍部の特殊部隊も敗走した今。街に残留している黒死兵達やRCの脅威となり得るのは、もはや新世代ライダーしかない。

 

(この街にはまだ抵抗組織(レジスタンス)の類が残っているようだが、所詮は生身の人間……それも、未熟な女子供だ。国民皆兵制度が導入されている以上、そういう連中でも銃器の扱いには心得があると聞くが……まぁ、何の脅威にもなるまい)

 

 正規軍の兵士でもない民兵の集まりが、この状況を動かすことなど万に一つもあり得ないだろう。

 

 それが戦馬聖という男の結論であり――誤算(・・)であった。

 

 ◆

 

 古くから導入されている国民皆兵制度により、この国の人々は老若男女を問わず、銃を取って戦う術を教え込まれて来た。

 だが、強大な敵にも恐れることなく挑める勇気というものは、教育や訓練だけで身に付くものではない。警察組織や正規軍が撃退された今、この街――オーファンズヘブンの人々の心は、折られかけていた。

 

 そんな時に立ち上がったのが、兵役経験者の美少女達によって結成された「オーファンズヘブン解放戦線」だったのである。

 

 国民の義務として、約2年間の兵役を経験して来た彼女達も、兵士として銃器の扱いを学んだ身ではあるが。今は現役の警察官でもなければ、正規軍の所属でもない。その多くは、街で評判の美人……という点を除けば、ごく平凡な民間人ばかりだった。

 

 それでも彼女達は、挫けてしまった街の人々に代わり、このオーファンズヘブンをノバシェードの支配から解放するべく。敗走した正規軍の装備や、破壊された銃砲店の商品を拾い上げ、ゲリラ戦を開始したのである。

 

 ――孤児だった自分達を援助し、学校にも通わせてくれていた「あしながおじさん」である、この街の市長を救い出すために。

 




 3月25日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナルヒロインを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 本章の舞台については、仮面ライダー1号こと本郷猛が欧州でも戦っていたことに因んでのチョイスとなりました。昭和ライダーは軽率に世界中を旅して回ってるんだよなぁ……(´-ω-`)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第2話

◆今話の登場ライダー

鳥海穹哉(とりうみくうや)/仮面ライダーケージ
 警視庁に属する巡査長であり、真っ直ぐな正義感の持ち主でもある熱血刑事。年齢は29歳。
 ※原案はたつのこブラスター先生。

忠義(チュウギ)・ウェルフリット/仮面ライダーオルバス
 アメリカでは騎馬警官として活躍していた父の影響で警察官となった、ハーフの青年。年齢は22歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

本田正信(ほんだまさのぶ)/仮面ライダーターボ
 元白バイ隊員であり、亡き先輩の仇を討つために「2代目」として装甲服を受け継いだ熱血巡査。年齢は33歳。
 ※原案はヒロアキ141先生。

◆ジャック・ハルパニア/仮面ライダーUSA(ユナイテッドステイツ)
 在日米軍から出向してきた豪快なタフガイであり、アメリカ軍で開発中のスーツのテストを任されている陸軍大尉。年齢は40歳。
 ※原案はリオンテイル先生。



 

 ――2021年9月16日。北欧某国の小都市、「オーファンズヘブン」。

 ノバシェードの侵攻によって破壊し尽くされているその街に訪れた4人の男達は、これまで見て来たテロの中でも一際凄惨な光景に眉を顰めていた。

 

 怪人達の暴虐により、壊滅の危機に瀕した街を目の当たりにしたのは今回が初めてではない。が、このオーファンズヘブンに齎された破壊と殺戮は、それらを大きく上回るほどに無慈悲なものであった。凹凸の激しい不安定な道路も、激しい戦闘が起きていたことを物語っている。

 周囲を見渡しつつ、瓦礫をかわして右へ左へと蛇行するように駆け抜け、無惨なゴーストタウンへと辿り着いた男達。彼らはそれぞれの「愛車」から降りると、端正なジャケット姿の上に羽織ったロングコートを翻し、死の街へと歩み出して行く。

 

 人間の自由と平和を守る。その大義を背負って戦い抜いて来た「仮面ライダー」である男達は皆、険しい表情で足元の瓦礫を踏み越えていた。4人を見下ろすこの街の空は、絶え間ない戦闘による猛煙に穢され、薄暗く澱んでいる。

 

「……酷い有様だな。これが本当に、あの観光都市『オーファンズヘブン』なのか……? あのヘレン・アーヴィング捜査官から、街の現状については聞かされていたが……それにしたって、全く面影が無いぞ」

 

 先頭を歩くのは、「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉(とりうみくうや)

 ノバシェードに殺された息子の形見である赤い鉢巻と、青いロングコートがトレードマークとなっている長身の美男子だ。

 

「人口はおよそ9万人。この国の国境線に面している、ルネサンス様式の街並みが特徴的な観光都市。ヘレンさんの話によればそういうこと……らしいですけど、今となっては見る影もありませんねぇ」

 

 その後ろを歩いているのは、「仮面ライダーオルバス」の異名で知られている穹哉の相棒こと、忠義(チュウギ)・ウェルフリット。

 艶やかな金髪と、真紅のロングコートが特徴の派手な色男だ。

 

「アーヴィング捜査官の情報によれば先日、アメリカの偵察衛星が数人の『黒死兵』を捕捉したらしい。……単体でも、パワーだけならニコラシカ級の連中なんだ。ただの警察や軍隊じゃあ、ひとたまりもない」

 

 専用エネルギー拳銃「シャフトブレイカー」を構えながら、彼ら2人の背後を守っている本田正信(ほんだまさのぶ)も、「仮面ライダーターボ」の名を持っている新世代ライダーの一員だ。

 白のロングコートを羽織った美男子は、両手持ち(ツーハンドホールド)で愛銃を構えながら四周を警戒している。

 

「警察組織は一夜で壊滅、街の解放を目指して突入した軍の精鋭部隊も全滅。……そうなることが分かっていたとしても、俺達の到着を待つことはプライドが許さなかったのだろうよ。テロに屈することを嫌う勇敢な市長の存在でも有名な街だったからな、ここは」

 

 正信と共に自動拳銃(オートマチック)を構えて後方の警戒に当たっているのは、このメンバーの中でも最年長であり、豊富な実戦経験を持っているアメリカ陸軍出身のジャック・ハルパニア大尉だ。

 「仮面ライダーUSA(ユナイテッドステイツ)」の名でも活動して来た茶髪の巨漢は、その体躯に相応しいサイズである、迷彩柄のロングコートに袖を通している。

 

 日本での戦いでノバシェードの首領格を打ち破ってからの2年間。組織の残党を撃滅するべく世界中を転戦して来た彼らは、ドナルド・ベイカー市長やインターポールからの要請を受けてこの街に派遣されて来たのだが――4人が辿り着いた時にはすでに、この惨状だったのである。

 

 もはや手遅れだったのか。もうこの街に、生き残っている人間はいないのか。

 その最悪の可能性を意識し始めていた男達が、廃墟に囲まれた通りに足を踏み込んだ――次の瞬間。

 

「――!」

 

 突如周囲から、大量の「殺気」が噴き上がって来たのである。

 その気配に同時に勘付いた4人は即座に臨戦体勢に入り、全方位に拳銃を構えたのだが――もはや、「手遅れ」であった。

 

 4人を囲んでいた四方の廃墟。その全ての隙間から彼らを狙っている無数の銃口が、すでに男達の全身を捉えていたのである。

 下手に抵抗しようとすれば、その瞬間に全方位からの一斉射撃で蜂の巣にされてしまうだろう。歴戦のライダー達すらも欺く高度な潜伏能力に、男達は瞠目するばかりだったが――彼らが驚かされたのは、そこだけではない。

 

 特殊部隊顔負けの立ち回りでライダー達を包囲している、この武装集団は皆――蠱惑的な色香に満ち溢れた、歳若い美少女ばかりだったのである。

 

(この子達は一体……!?)

(……ノバシェードに与しているわけではないようだが、随分なおもてなしだな。これほどの手厚い歓迎は、中東の激戦区でもなかなかお目に掛かれんぞ)

 

 統率の取れた挙動ではあるものの、服装をはじめとした装備全般も使用銃器も年齢層もバラバラであり、正規軍の類ではないことは誰の目にも明らかであった。彼女達が共有しているものと言えば、ライダー達を「敵」と認識していることくらいなのだろう。

 

 この国の正規軍ではないとすると、下手に刺激すれば何を仕出かすか分からない。それに、現地の抵抗勢力(レジスタンス)であるならば協力関係を築けるかも知れない。

 

 本来、この地域で合流するはずだった正規軍の特殊部隊は軍部としての面子に拘るあまり、ライダー達の到着を待たずして突入作戦を決行し、壊滅してしまった。

 正規軍の歩兵部隊が戦意を喪失している今、最も旺盛な士気を維持しているのは、非正規組織である彼女達なのだ。

 

(どう見ても正規の武装組織じゃないな……。やはり、抵抗勢力(レジスタンス)の類か?)

(それも……俺達のことをよくご存知の、ね。見てくださいよ、変身する暇なんて与えねぇって面構えですぜ)

 

 互いの視線を交わし合い、そう判断した4人はそれぞれの愛銃をゆっくりと足元に置き、両手を上げて降伏の意を示す。

 彼らを取り囲んでいた銃口から、ささくれ立つような殺気が消えて行ったのは、それから間も無くのことだった。無用な殺戮を忌避している彼女達の心根が、銃身の揺らぎに現れている。

 

 ライダー達4人を制圧して見せた美少女兵士達は皆、廃墟の影に身を隠しながらも男達を品定めするように観察していた。

 誰もが振り返る美男子揃いであるライダー達だが、彼女達の眼に「色」は一切無い。そこにあるのは、暗澹とした「疑い」の感情のみであった。

 

「……奴ら、見るからに怪しいけど……ノバシェードとは違うようね。もしかしてアレが、ベイカー市長が前に話していた『仮面ライダー』って連中?」

「その割には、随分と頼りなさそうな優男ばかりだな。……いや、1人だけそうでもないのが混じっているようだ」

「どんな奴? ここからじゃよく見えない」

「迷彩柄のコートを羽織ってる大男ですね。身長はおよそ190cm、髪は茶。筋肉モリモリ、マッチョマンの変態です」

 

 この街の市長も全幅の信頼を寄せているという、日本の警察組織を母体とする特殊遊撃要員「仮面ライダー」。その一部である彼らを目の当たりにした美少女達は、自分達に捕まるような連中がこの街を救えるのか、と疑問の声を漏らしている。

 

 すると――そんな彼女達のざわめきを掻き消すように、1人の美少女が豊満な乳房をばるんっと揺らして、身を乗り出して来た。彼女こそが、この武装組織を率いている実戦リーダーなのだ。

 

「さて、と……オーファンズヘブンにようこそ、とでも言えば良いのかしら? 『仮面ライダー』の野郎共」

 

 街の開放と市長の救出を目指して抗い続けている、民間武装組織「オーファンズヘブン解放戦線」。

 その組織を統率している爆乳美少女は、引き締まった腰に手を当て、むっちりとした安産型のヒップをぷるんっと弾ませながら――冷たい眼差しで男達を見下ろしていた。

 

 彼女の愛銃が肩に乗せられた瞬間、柔らかな双丘がどたぷんっと弾み、甘い「女」の芳香が風に乗って宙を漂う。

 シャワーを浴びる暇もなく戦い続けて来た極上の女体には、じっとりとした汗の匂いが染み付いており、男を狂わせる濃厚なフェロモンを生み出していた。

 

 彼女に率いられている他の構成員達も、見目麗しい美少女ばかり。だが、その可愛らしい見た目からは想像も付かない無骨な「愛銃」の存在は、彼女達が只者ではないことを雄弁に物語っている。

 そんな美少女兵士達の様子を目の当たりにした4人のライダー達は、互いに顔を見合わせるのだった。

 

 ――これは一筋縄では行かないかも知れない、と。

 




 凸凹の激しい道を右へ左へ……というくだりは、初代仮面ライダーのOPをちょっとだけ意識しておりました。「シン・仮面ライダー」の初回特報ではしっかり首の動きまで再現してましたねぇ……しゅごい(゚ω゚)
 さてさて。本作では現在3月25日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナルヒロインを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

Ps
 いよいよ「シン・仮面ライダー」が公開となりましたが、最近は荒野行動と仮面ライダーのコラボも話題になっている模様。1号ライダーが豪快に銃ぶっ放してる絵ヅラがめちゃくちゃシュールで草。そう言えば原作萬画版の本郷さん、全方位から蜂の巣にされてましたね……(´ω`)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第3話

◆今話の登場ヒロイン

◆ニッテ・イェンセン
 オーファンズヘブン解放戦線を統率している組織の実戦リーダーであり、174cmの長身と茶髪、エメラルドグリーンの瞳が特徴の勝ち気な美少女。兵役時は精鋭である郷土防衛隊に身を置いていたエリートであり、その当時の経験を活かして解放戦線のメンバー達を率いている。使用銃器はボフォースAk5アサルトライフルと、グロック17。年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト95cm、ウエスト60cm、ヒップ88cm。カップサイズはG。
 ※原案はダス・ライヒ先生。

◆ヴィクトリア・フリーデリーケ・フォン・ライン・ファルツ
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している主力メンバーの1人であり、183cmの長身とポニーテールに纏められた豪奢な金髪、セーラー服に膝丈のスカートが特徴の爆乳美少女。当主の死によって没落した大貴族の末裔であり、孤児となった今でも気位が高い組織のサブリーダー。使用銃器は三十年式銃剣を着剣したNGSW仕様のSIG MCX Spearであり、それとは別にとある「秘密兵器」を用意している。年齢は16歳。
 スリーサイズはバスト110cm、ウエスト70cm、ヒップ99cm。カップサイズはI。
 ※原案はG-20先生。


【挿絵表示】




 

 ノバシェードによって占拠された北欧の小都市「オーファンズヘブン」。その解放を目指して抵抗を続けているという組織に連行された穹哉達4人は、廃墟と化したビルの内部へと足を運んでいた。

 彼らの背に銃口を向けている美少女兵士達は皆、険しい面持ちで歩みを進めている。くびれた腰に対してむっちりと実っている安産型の桃尻が、一歩進むたびにぷりぷりと左右に揺れ動いていた。

 

 彼らが向かった先には、多くの人々が暮らしている難民キャンプが設けられている。侵攻から逃れて来た彼らは限られた食糧を分け合い、身を寄せ合っていた。

 

「ここは……街の住民達の避難先なのか? 見たところ、怪我人や御年配が多いようだが……」

「そう。入院中の家族を放っておけなかったり、怪我や病気で動けなかったりで街から脱出出来なかった人達を、ノバシェードの連中から匿うための秘密基地ってとこ」

 

 暗澹とした人々の貌を目の当たりにし、沈痛な表情を浮かべる穹哉。彼の前を歩んでいるリーダー格の少女――ニッテ・イェンセンは、95cmの豊満な乳房と88cmの巨尻をたぷたぷと揺らしながら、神妙な面持ちで答えていた。

 兵役時は正規軍の中でも精鋭と謳われた「郷土防衛隊」で訓練を受けていた元エリートであり、今ではその当時の経験を活かして解放戦線の戦乙女達を率いている女傑。そんな彼女は艶やかな茶髪を靡かせながら、エメラルドグリーンに輝く双眸で、真っ直ぐに前を見据えている。

 

(……防衛隊の皆の分まで、私は戦い抜いて見せるわ。ベイカー市長は必ず、私達「オーファンズヘブン解放戦線」の力で助け出す……! だからお願い、もう少しだけ……皆の力を私達に貸してッ……!)

 

 テロが発生した直後、初動対応に当たっていた郷土防衛隊は瞬く間に壊滅。その隊員達で構成された突入部隊も黒死兵の前では、無慈悲に嬲り殺されるだけの「獲物」でしかなかった。

 その光景を目の当たりにしていながら。否、目の当たりにしたからこそ。ニッテはかつての仲間達の無念を糧にして、その形見であるAk5とグロック17を武器に、今こうして立ち上がっているのだ。

 

「正規軍は怪人を恐れてここまで救助に来られない。だから現状、君達が守るしかない……ということか。だがそもそも、なぜ君達が銃を取って戦っている? あのドナルド・ベイカー市長の救出が目的だと言うのなら、素直に軍を頼るべきだろう。君達の実力なら、正規軍とコンタクトを取ることなど容易いはずだ」

「……分かってるくせに無駄口を叩かないで。軍はもう、市長も街も半分見捨てかけてる。非正規の武装組織である私達の存在を把握していながら、半ば黙認してるのが良い証拠でしょ。私達の行動が原因で市長が殺されたとしても、それはそれで『枷』が外れたことになる。……そこまで切羽詰まってる連中に、市長の救助まで任せてられないわ」

 

 組織のリーダーとして、常に冷静であろうと努めている彼女だが、愛銃「ボフォースAk5」の負い紐(スリング)を握り締めているそのか細い手は、熱い義憤に震えている。

 174cmという長身の持ち主である北欧系の爆乳美女。そのきめ細やかな白い肌に滲む甘いフェロモンは、硝煙の匂いでも掻き消せないほどの濃さであった。

 

 彼女をはじめとする解放戦線のメンバー達は皆、この難民キャンプの中で絶大な人望を得ているらしく。道行く避難民達は老若男女問わず、ニッテ達の姿を見るなり笑顔で手を振っている。

 彼女達の美貌は前々からこの街でも評判であり、行く先々で男性達から求愛(アプローチ)されることも珍しくはないのだという。もっとも、彼女達の多くは色恋沙汰には興味がないのか、ごく一部を除けば誰とも「深い仲」に発展したことはないのだとか。

 

 そんな彼女達は避難民の人々に対し、華やかな笑顔で手を振り返しているのだが。一方で、ライダー達4人には冷たい視線と銃口を向けていた。避難民達も、得体の知れない余所者である穹哉達に対しては厳しい視線を注いでいる。

 

(……穹哉さん。何つーか……さっきからずっと、男連中からの目線が特にキツいんですけど。俺達って一応、銃口向けられてる捕虜ですよね? 羨ましがられる要素ゼロですよね?)

(そんな扱いですら羨ましがられるくらい、彼女達はこの街の人々から絶大な支持を集めている……ということらしいな。彼女達の勇敢さを鑑みれば、それも当然のことだろう)

(はぁ〜……全く、モテる男は辛いっすねぇ。この子達と連絡先交換するまでに、何丁の銃に囲まれちまうんだか)

 

 特に、若い男達からの「嫉妬」の眼光は凄まじいものであった。殺意を向けられ、銃を突き付けられている立場であろうと、自分達の「憧れの的(アイドル)」である美少女達の側を歩いていることがよほど許せないらしい。

 穹哉と忠義は純粋な敵意とは違う気配に顔を見合わせ、互いになんとも言えない表情を浮かべている。正信とジャックも同様の反応を示しているようだった。

 

「……奴らが突然、この街を襲ってから1週間。たったの1週間でこの有様だ。しかも奴らは市長を人質に取って、莫大な身代金を政府に要求している。警察も軍隊も、奴らには……まるで歯が立たなかった」

 

 組織のサブリーダーである、ヴィクトリア・フリーデリーケ・フォン・ライン・ファルツ。かつてこの国で栄華を極めていた大貴族・ファルツ家の末裔である彼女も、穹哉達に対しては冷たい銃口を向け、敵愾心を剥き出しにしている。

 

 ジャックに愛銃「SIG MCX Spear」の先を向けている彼女もまた、リーダーに決して劣らない絶世の美少女であり。1歩進むたびに110cmという超弩級の爆乳が、たゆんたゆんと躍動していた。

 くびれた腰に反した99cmの爆尻も左右にぷりぷりと揺れ動いており、避難民達の男達は罪悪感を覚えながらもそこから目を離せずにいるようだった。

 

 この某国の王家とも深い血縁で結ばれており、当主の死によって没落の一途を辿るまでは、屈指の大貴族として名を馳せていたファルツ家。その血を引くヴィクトリアの豊穣な肉体にも、某国王家の血が流れているのだ。

 ファルツの血統を次代に紡ぐため、果てしなく扇情的に発達した乳房と桃尻。その熟れた果実の揺れは、男達の本能を苛烈なまでに刺激している。気高く凛々しい顔立ちに反して、その肉体は雄を誘惑するためだけに練り上げられているかのようであった。もはや、淫魔そのものと言っても過言ではない。

 

 由緒正しき名家の血統を継ぐ女ならば、強く逞しい遺伝子をその身に宿して「世継ぎ」を産むのが務め。

 その使命を果たすために大きく膨らんだ安産型の爆尻は、くびれた腰をくねらせて歩みを進めるヴィクトリアの動きに応じ、左右にぷるんぷるんと蠱惑的に揺れ動いていた。未来の「世継ぎ」を育てるために発育したIカップの超弩級爆乳も、谷間の深淵から濃厚な香りを匂い立たせながら、どたぷんっと大きく弾んでいる。

 

「今この街に残っている抵抗勢力など、もはや私達しか居ない。私達がやるしかないのだ。例え、どれほど無謀であっても……な」

 

 そんな彼女は、ファルツ家の象徴である独特のセーラー服と膝丈のスカートを着用していた。腰まで届くほど長く、豪奢な金髪をポニーテールで纏めている絶世の爆乳美少女は、その凜とした眼差しでジャックの大きな背中を射抜いている。

 183cmという突出した長身である彼女は、新世代ライダー達の中でも特に屈強なジャックの体躯を前にしても全く怯んでいない。もう1週間近くはシャワーも浴びておらず、熟成された女の匂いも戦闘服に深く染み込んでいるのだが、そんな状態であってもヴィクトリアの美貌と凛々しさはまるで衰えていなかった。

 

 三十年式銃剣を着剣したNGSW仕様。そんな独自仕様の愛銃をジャックの背中に突き付けながら、爆乳美少女はスゥッと目を細めている。

 

「警察はともかく……軍隊でも歯が立たない、か。人質の奪還を目指した突入作戦が一度失敗に終わったとは聞いているが、未だに戦闘機や戦車を投入してでも……となっていないところを見るに、結局は政府もまだ市長の救出を諦めていないようだぞ」

 

 一方。ジャックはヴィクトリアの殺気を背に浴びながら、今回のテロに対してこの国の政府が「本腰」を上げていない理由を冷静に指摘している。

 

 ――いかに改造人間と言えども、所詮はサイズに対して異様に強力なだけの「歩兵」に過ぎない。防御力に特化した重装甲型の怪人であろうと、戦闘機のミサイル攻撃や戦車の砲撃を立て続けに直撃させれば、撃破することは十分に出来る。

 

 無論、神出鬼没である上に動きも素早い彼らを捕捉し、そこまで持ち込むことも決して簡単ではない。が、周囲への被害を度外視出来るのであれば、結局それが手っ取り早いのだ。かくなる上は、街ごと吹き飛ばして仕舞えばいい。

 

 だが、現時点においてそれは机上の空論に過ぎず、どの国家も改造人間に対してそこまでの過剰攻撃には踏み切れていない。

 今回のようなケースであっても、安易にその手段を選べば国際社会からの非難は免れないからだ。なまじ「その後」を見据えることが出来るだけの知性と余裕があるからこそ、人類はノバシェードのテロに対する有効打を与えられずにいる。

 

 ましてや今回は、多くの孤児を保護して来た慈善活動家としても知られるドナルド・ベイカー市長が人質に取られている状況なのだ。

 世界有数の名医でもあり、国内外を問わず絶大な支持を集めている彼をみすみす死なせるようなことがあっては、ノバシェードを駆逐出来たとしても国際社会からは確実に非難の声が上がるだろう。

 

 故に、安易な殲滅戦になど踏み切れるはずもないのだ。例え、この土壇場であっても。

 





 ちょっとフライング気味ですが、今回は募集キャラ初お披露目回でございます! いわゆる本採用枠となる主力メンバー4名のうち、現時点で採用が決まった2名のキャラが先行登場しております。残りの本採用枠2名の選定ついては……まだ考え中です! 大変魅力的な応募キャラばかりで決めかねておりますので!(`・ω・´)
 そして本作では現在3月25日00:00頃まで、活動報告にて本章に登場するオリジナルヒロインを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

 当初の予定では第3話以降は募集締め切り後に公開して行くつもりだったのですが、「シン・仮面ライダー」を観た勢いでここまで書き上げる運びとなっちゃいました。まだ本採用枠は2名分未決定のままですし、本採用枠以外のキャラも解放戦線の一員としてガンバって頂く予定ですので、どうぞお気軽にご参加ください〜(*´ω`*)


Ps
 「シン・仮面ライダー」、早速観て来ました! まさかアレがアレでああなってああなるとは……! いやはや、色々スゴいライダー映画でしたよ。展開がジェットコースター過ぎて付いていけなかった場面も結構あったので、そこを改めて見返すためにもまた来週観に行こうと思いまする〜_(┐「ε:)_


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第4話

◆今話の登場ヒロイン

◆エヴァ・バレンストロート
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している主力メンバーの1人であり、黒に近い茶髪と蒼い目が特徴の色白な美少女。退役直後、エンデバーランドで起きたテロに遭遇していた生き残りであり、その時の悔しさを糧に市街地戦やCQCの訓練を積んでいた女傑。使用銃器はH&K HK416と、グロック17。年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト82cm、ウエスト58cm、ヒップ85cm。カップサイズはD。
 ※原案は神谷主水先生。

◆レオナ・ロスマン
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している主力メンバーの1人であり、膝上まで伸びている黒から赤へのグラデーションカラーの長髪と深紅の瞳、ショートパンツの軍服と学生服の合の子ような服装が特徴の美少女。一見ぶっきらぼうにも見えるクールな人物であり、余所者に対する警戒心も強い。また、車両の扱いにも長けている。使用銃器はドラムマガジンとM320グレネードを装着したH&K XM8。またヴィクトリアと共に、とある「秘密兵器」を用意している。年齢は17歳。
 スリーサイズはバスト89cm、ウエスト55cm、ヒップ86cm。カップサイズはF。
 ※原案はRerere先生。


【挿絵表示】




 

「当たり前だろう……! 市長は私達のような孤児を本当の子供のように受け入れてくれた人だった……! そんな市長を見殺しになど、出来るわけがない! そんなことを……許すわけには行かない!」

 

 ジャックによって指摘された、今回のテロに対する某国政府の姿勢。その内容を耳にした主力メンバーの一員――エヴァ・バレンストロートは、忠義の背中に突撃銃「H&K HK416」の銃口を押し当てながら、蒼く鋭い目を細めて声を荒げていた。ふわりと艶やかに靡く黒に近い茶髪が、甘い匂いを振り撒いていく。

 誰よりも市長を敬愛している、組織きっての武闘派である彼女は、Dカップの乳房をぷるんっと弾ませながら熱り立っている。むっちりとした85cmの桃尻も、歩むたびに左右に弾んで甘美な芳香を漂わせていた。

 

 彼女は退役直後の3月に、首都・エンデバーランドで発生した大規模テロに遭遇し、一命を取り留めていたのだが。当時の彼女ではノバシェードの戦闘員達にまるで歯が立たず、テロに巻き込まれていたベイカー市長を助けに行くことも出来なかった。

 その時に味わった無力感を払拭するため、彼女は退役後も市街地戦やCQCの訓練を独りで続けていたのである。予備役として大学に通う傍ら、ベイカーのために訓練召集の日当を自身の母校に寄付する日々を過ごしながら。彼女は苦い記憶を糧に、牙を研ぎ続けていたのである。

 

「だけどよ、それもハッキリ言って時間の問題だぜ? 政府としても、諸外国にいつまでも弱腰と見られるのは避けたいところだろう。このまま手をこまねいていたら……」

 

 そんな彼女の様子に、忠義は銃口を突き付けられながらも呆れたような声を漏らしている。戦場では感情的になればなるほど不利になる、ということを肌で知って来た歴戦のライダーとしては、エヴァの振る舞いに危うさを感じずにはいられなかったのだ。

 

 ――忠義の言う通り。人質とされている市長の救出は今、大きな分水嶺を迎えている。

 

 ノバシェードの攻撃により街も警察も壊滅し、最初に出動した正規軍の先遣隊も全滅。さらに人質の救出を目的とした軍の特殊部隊も敗走した今、頼みの綱は「専門家」として協力を要請された忠義達だけなのだ。

 

 すでに街は正規軍により包囲されている状態であり、街を占拠しているノバシェードも容易くは脱出出来なくなっている。だが正規軍としても、簡単に人質ごと吹き飛ばすわけには行かない。

 それでも万一、4人の仮面ライダーでもこの事態を打開することが出来なければ。怪人達から市長を救出することは不可能であるとの判断が下され、街への空爆が始まってしまうだろう。

 

 もちろんそうなれば仮に怪人達を倒せたとしても、この国は国際社会からの苛烈な非難に晒されてしまう。物理的にはこの小都市しか被害を受けていない今回の事件だが、今後の対応次第では国の未来にも関わる重大な危機でもあるのだ。

 

 政府の立場としては、何としても空爆の決行だけは回避したい。だが、テロに屈するわけには行かないのも事実。それに市長の救出を目指していた特殊部隊を失い、面子を潰されかけている正規軍の中には、空爆に意欲的な武闘派も居る。

 

 約半年前。この某国の首都で発生した大規模テロ「エンデバーランド事件」で活躍し、勲章を授与されたこともある女傑――ヘレン・アーヴィング特務捜査官。

 任務のため首都に身を置いていた彼女の説得がなければ、今頃とうに軍部は武闘派の圧力に屈し、空爆に踏み切っていたところだ。

 

 誰もが振り向く絶世の美貌。透き通るような色白の柔肌。引き締まった腰回りに反した特大の爆乳と、安産型の巨尻。そして、エンデバーランド事件の英雄という、圧倒的な名声と発言力。

 その全てを兼ね備えている彼女の言葉は、武闘派の軍人達でも決して無視出来るものではなかったのである。

 

 少しでも長く彼女の匂いを近くで堪能しようと企んだ武闘派の高官達は、エンデバーランド市内の軍事基地内に「交渉」の場を設け、説得に訪れた彼女の美貌と乳揺れに鼻の下を伸ばし続けている。

 すでにヘレン本人からはその意図も見透かされており、呆れ果てたようなジト目で睨まれることも少なくないのだが、そんなことはお構いなしであった。

 

 彼女が常に羽織っている「黒のロングコート」でも隠し切れない抜群のプロポーションは、絶えず高官達の意識と視線を釘付けにしており、空爆への決断を大きく鈍らせているのだ。だが、そんなものは単なる「時間稼ぎ」に過ぎない。

 

 今はヘレンの説得で辛うじて踏みとどまっている状態だが、その説得の根拠となっている新世代ライダー達が失敗すれば、軍部も彼女の言葉に耳を貸すことは出来なくなる。

 武闘派の高官達がヘレンの美貌に魅了されている今のうちに、穹哉達は是が非でも市長とこの街を解放せねばならないのだ。だが、解放戦線の美少女兵士達は彼らの背後関係を察しつつも、猜疑心を剥き出しにしている。

 

「……あなた達『仮面ライダー』が来たのは、それが理由なのですか? 私達の力なんて、信用ならない、とでも?」

「好きに思ってくれれば良い。俺達は、俺達の役目を果たしに来ただけだ」

 

 忠義の言葉に眉を顰める、冷静沈着な組織の頭脳(ブレイン)――レオナ・ロスマンは、正信の背中に突撃銃の銃口を押し当てたまま、冷たい声色で呟いていた。ドラムマガジンとM320グレネードを装着した、突撃銃「H&K XM8」だ。

 色事の類とは無縁、と言わんばかりのクールな佇まいではあるが、その扇情的なボディラインは彼女の戦闘服を内側から激しく押し上げており、Fカップの巨乳と安産型の桃尻で、今にもはち切れそうになっている。彼女の怜悧な美貌と蠱惑的な香り、そして圧倒的なプロポーションに魅了された男の数は、計り知れない。

 

 黒から赤へのグラデーションカラーの髪を膝上まで伸ばし、深紅の瞳を輝かせる美少女。そんな彼女は、ショートパンツの軍服と学生服の合の子ような服の上から、赤いフード付きのジャケットを着用している。

 テロによって実の両親を失い、死に目にも会えなかった彼女の目には、ノバシェードも仮面ライダーも同じ「余所者」に見えているのだろう。正信の背中に銃口をグリっと押し付けながら、レオナは冷たい視線を向けている。

 

「あの子達に連行されてるってことは、あいつらもしかしてノバシェードの仲間なんじゃないのか……!?」

「くそっ……! あんな奴ら、さっさと死んじまえば良いのにっ……!」

 

 組織の主力メンバーである彼女達4人は、スタイル抜群の美少女揃いである解放戦線の中においても、特に絶大な人気を博しているのだ。そのため、難民キャンプの男達は皆、ライダー達4人に凄まじい嫉妬の視線を向けている。

 

 当然、ニッテ達と一緒に居ると言っても連行されているだけなのだが、それでも彼らとしては羨ましくて仕方がないのだろう。

 そんな難民キャンプの男達の視線にため息を吐きながら、穹哉達はニッテ達に促され、最奥の一室に連行されるのだった――。

 





 先日を以て本章の募集企画は終了し、本採用枠4名の内訳も決定しました! 本企画にご参加頂いた皆様、ご協力誠にありがとうございましたm(_ _)m
 惜しくも本採用とはならなかったキャラ案につきましても、今後ニッテ達の仲間であるチョイ役として登場して貰う予定ですので、どうぞ今後もお楽しみに!٩( 'ω' )و

Ps
 今回は凶兆編でヒロインを務めていたヘレン・アーヴィング特務捜査官のことにもちょこっと触れておりました。凶兆編を読んで下さった方ならば、彼女が「黒のロングコート」を羽織っていた理由もきっとお分かりでございましょう……(*´꒳`*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第5話

 

 ――解放戦線の作戦会議室として利用されている、廃墟の一室にて。街の地図や幾つもの銃器が乱雑に置かれているテーブルを挟み、解放戦線のメンバー達と4人の男達が、真っ向から睨み合っていた。

 

「さて……結論から言うけど。あんた達の助けなんて要らないわ。死にたくなかったら、さっさと日本にでも逃げ帰ることね」

 

 無数の銃口に囲まれながらも、全く怯える様子がない4人の男達。彼らと向かい合っているニッテは、組織を代表して明確に「拒絶」の意を示している。

 むっちりとした太腿を持ち上げ、肉感的な足を組んでいる彼女は、冷酷な眼差しで男達を見渡していた。組まれた両腕が豊満な乳房をむにゅりと寄せ上げている。

 

 先ほど穹哉達を包囲していた解放戦線のメンバー達全員が、決して広いとは言えないこの作戦会議室に集結しているためか。シャワーを浴びる暇もなく戦い続けて来た美少女達の瑞々しい肉体に染み付いている、芳醇かつ濃厚な女体の香りが、この一室に充満していた。

 並の男ならこの香りに耐え切れず、理性を溶かされていたところだろう。だが、仮面ライダーとして幾つもの視線を潜り抜けて来た4人の猛者は、極上の美少女達に囲まれているこの状況下でも眉一つ動かしていない。

 

「……余所者が信用出来ないという気持ちは分かる。だが、この街の危機にノバシェードが関わっている以上、もはや君達だけの問題ではないんだ」

「余所者……そう、余所者だ。それも確かにある。だが、それだけが理由ではない」

 

 そのライダー達を代表し、穹哉が真っ先に声を上げる。だが、リーダーの傍らに立つヴィクトリアの声色は冷ややかだった。

 

「……ノバシェードは、旧シェードのせいで大勢生まれた改造被験者達が、迫害から逃れるために結成した自助組織を前身としている。それは、あんた達の方がよく知っているな?」

「あぁ。そして俺達新世代ライダーは、そのノバシェードのテロに対抗するために作り出された。……かつて旧シェードが、対テロ組織として作り出されたようにな」

 

 そんな彼女の意思を継ぐように、エヴァが静かに口を開く。その口振りから彼女達の胸中を察した忠義は、わざとらしく旧シェードの名を口にした。

 次の瞬間、周囲の美少女兵士達が色めき立ち、忠義に対して敵愾心を剥き出しにする。そんな彼女達の反応を一瞥した正信は、確信を得たように目を細めていた。

 

「……本当のところは、そこか。ノバシェードも仮面ライダーも、源流は日本政府にある。だから俺達も信用出来ない……と」

「私達が市長に保護されるまで、なぜ孤児だったのか分かりますか。皆、旧シェードに……日本政府が造った化け物共に家族を殺されました。そしてあなた達、仮面ライダーは……その旧シェードと同じ目的で、同じ国から生まれて来た……! そんなあなた達をどうやって、味方として迎え入れられるとっ……!」

 

 核心を突くような正信の言葉に、レオナがテーブルを叩いて怒号を上げる。その弾みで豊満な乳房がばるんっと弾み、より濃厚な汗の匂いがむわりと広がった。

 だが、彼女がぷるっと乳房を揺らして正信に掴み掛かるよりも先に、ヴィクトリアがその肩を掴んで制止する。振り上げられた拳は行き先を見失い、ゆっくりと降ろされていた。

 

「レン、そこまでだ。……少なくとも彼ら自身に、私達への害意はない。それは分かっていることだろう」

「……っ」

 

 ニッテをはじめとする、4人の主力メンバーだけではない。この作戦会議室に集まっている美少女兵士達全員も、本心では理解している。

 新世代ライダー達は改造人間であることを前提としていない、生身の警察官達が中心となっている遊撃要員であり、旧シェードとは似て非なる存在。このように対立する意味など本来は無いはずであり、むしろ共に手を取り合うべきなのだということを。

 

 だからこそ彼女達は皆、手を上げた穹哉達を撃とうとはしなかった。……が、それでも表立って割り切ることは出来なかったのである。

 ライダー達と協力しなければ、この街を救うことは出来ない。それが分からないほど子供でもなければ、簡単にそれを受け入れられるほど、大人でもないのだから。

 

 迷いを滲ませた表情で互いを見遣っている、解放戦線のメンバー達。そんな仲間達の様子を一瞥したニッテは、暫し逡巡した後――自分達が所有している数少ない軍用糧食(レーション)を、穹哉達の前に放り出すのだった。

 

「……それ食べたら、さっさとこの国から出て行って。そして、全部忘れて。私達が言ったことも、全部」

「……」

 

 それは、難しい立場に居る彼女達なりの「謝意」だったのだろう。乳房と桃尻をぷるんっと揺らし、椅子から立ち上がったニッテは穹哉達から目を逸らすように、Ak5の負い紐を掴み上げていた。

 

 自分達を助けに来た者達に対し、謂れのない罵声を浴びせ、拒絶してしまったことへの罪悪感。その感情を帯びた眼差しが、穹哉達自身に向かうことはなかった。

 だが男達は、そんなニッテの横顔で全てを察し、敢えてそれ以上は何も言わずに、黙って軍用糧食を受け取っている。

 

「……行くわよ、皆。そろそろ、『作戦』の開始時刻だわ」

「あぁ……そうだな。行こう、市長を救うためにも」

 

 その様子を見届けたニッテは、ヴィクトリアをはじめとする仲間の美少女兵士達を引き連れ――次々にこの作戦会議室を後にして行くのだった。

 何人かの兵士は申し訳なさそうに穹哉達を一瞥し、後ろ髪を引かれるような表情で会議室を去っている。正規の訓練を受けていない彼女達ならではの情愛の深さが、その貌に顕れていた。

 

 そして、この一室に取り残された4人の男達は。ニッテが残して行った軍用糧食の箱を見下ろし、戦う決意を固める。

 

「……ジャック。やはり彼女達は、自分達だけで市長を助けに行くつもりのようだな。子供が銃なんて持つべきじゃない……と綺麗事を言うのは簡単だが、彼女達が耳を貸すことは恐らくないだろう。この街を、ノバシェードから解放しない限りは……」

「あぁ。……子供らしい意固地、で片付くほど簡単ではないな。だからと言って、このまま帰るつもりなど毛頭ないが」

「彼女達はさぞかし嫌がるだろうが……ご機嫌取りまで命じられた覚えはないからな」

「じゃ、決まりだな。せっかくあの子達が恵んでくれたんだ、一仕事する前に腹拵えと行こうぜ! ……うげっ!?」

 

 何としても「仮面ライダー」としての任務を完遂し、この街と彼女達を救う。その決意を新たにした男達を代表するように、忠義は軍用糧食の箱を開いた――のだが。

 

 そこから漂う強烈な悪臭に、思わず頬を引き攣らせてしまうのだった。先ほどまでこの部屋を満たしていた美少女兵士達の濃厚な香りすら、一瞬で掻き消してしまうような臭いに男達の表情が即座に曇る。

 

 ――この国の軍用糧食は、世界一不味いということで大変有名なのだ。それでも彼女達はノバシェードの侵略に少しでも対抗するため、この悪臭に耐えて来たのである。

 

「……前言撤回。俺、遠慮しときます」

「お前が始めた流れだろうが……。いつ『次』があるか分からない状況なんだ、食えるうちに食え。日本に帰ったら、銀座の回らない寿司屋に連れて行ってやるから」

 

 そんな解放戦線のメンバー達の、ただならぬ信念の一端を垣間見た忠義は、先ほどまでの威勢をすっかり失ったように蓋を閉じようとしていた。

 その手をガッシリと掴んで阻止した穹哉は、彼女達と同じ「試練」を乗り越えるべきだと判断している。鼻を摘みながら。

 

「な、なぁジャック。これ……なんだか分かる? 固まった重油?」

「……ハンバーグ、だそうだ……?」

「なんでちょっと自信なさげなんだよ! 目を逸らすな! 腹から声出せ!」

 

 その隣で、食べ物なのかも怪しい物体を目の当たりにした正信は、目線を合わせようとしないジャックに食って掛かっている。不味い軍用糧食など散々食べ慣れているはずのジャックですら目を背けているのだから、相当である。

 

 そんな彼らの騒ぎ声が鎮まり、男達が憔悴し切った様子で会議室から出て来たのは――それから約10分後のことであった。戦う前からすでにグロッキー状態となっている彼らだが、それでも足を止めるわけには行かない。

 人間の自由と平和を守る。それが、仮面ライダーの使命なのだから。

 




 今回は新世代ライダー達と解放戦線主力メンバー達による、ちょっとした一悶着回となりました。次回からようやく他の応募キャラ達も出していけると思いますので、今しばらくお待ちくださいませ〜!٩( 'ω' )و


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第6話

◆今話の登場ヒロイン

川上(かわかみ)ティエナ
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、焦げ茶とオレンジが混ざった長髪とネコ科を思わせる鋭い目が特徴の美少女。鍛え抜かれた己の肉体に信を置く正義感の強い女性であり、生まれ持った観察眼で弱い部分を正確無比に撃ち抜くのが得意。使用銃器はブローニングハイパワーMkIIIと、コンパウンドボウ。年齢は19歳。
 スリーサイズはバスト79cm、ウエスト58cm、ヒップ80cm。カップサイズはAA。
 ※原案はX2愛好家先生。

須義本阿須子(すぎもとあすこ)/マミー、バンテージ
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、全身を包み込んでいる包帯と、そこから覗いている黒のロングヘアや包帯を押し上げる巨乳と巨尻が特徴の美少女。テロによる飛行機事故で記憶と家族を同時に失った元日本人旅行者であり、自棄になったかのような捨て身の銃剣突撃を繰り返している。使用銃器は銃剣付きのAKS-74アサルトライフルと、コルトパイソン。年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト85cm、ウエスト62cm、ヒップ94cm。カップサイズはF。
 ※原案は平均以下のクソザコ野郎先生。

◆アロマ・ミュラー
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、金髪のツインテールと青い瞳が特徴の美少女。まだ兵役も経験していない内向的な少女だが、天性の射撃技術と衛生兵としての応急処置能力を持つ。使用銃器はイングラムM10をベースとするG-M01サブマシンガン。年齢は9歳。
 スリーサイズはバスト68cm、ウエスト55cm、ヒップ73cm。カップサイズはA。
 ※原案はピノンMk-2先生。

◆サガ・マーミル
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、明るめなブロンドのボブヘアーに、右目の下から右腕の大部分と右胸部分まで広がっている火傷跡が特徴の美少女。過去のテロで半身に大火傷を負った過去を持ち、後遺症に苦しみながらも同じ孤児である仲間達のために戦い続けている。使用銃器はAKMSUカービン。年齢は13歳。
 スリーサイズはバスト71cm、ウエスト57cm、ヒップ60cm。カップサイズはB。
 ※原案はリオンテイル先生。

◆リエリス
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、青い瞳と金髪で短いツインテールが特徴の美少女。実姉のように慕っている元孤児達の傍に居たいが為に参加している最年少メンバーであり、解放戦線のマスコット的な存在となっている。使用銃器はノバシェードの戦闘員達から鹵獲したエネルギー獣「シェードガン」。年齢は6歳。
 スリーサイズはバスト58cm、ウエスト53cm、ヒップ62cm。カップサイズはAAAAA。
 ※原案は秋赤音の空先生。


【挿絵表示】




 

 市長公邸を目指して、息を殺し街を進む解放戦線の面々。彼女達は可能な限りノバシェードとの遭遇を避け、複雑に入り組んだ住宅街に身を隠しながら潜入を続けていた。

 だが、狭い路地ばかりで迷路のようになっているこの一帯にも、十数人の歩哨が居るらしい。野戦服に袖を通したノバシェードの一般戦闘員達は、突撃銃「M4カービン」を手に辺りを巡回している。

 

「……1番警備が手薄なルートを狙って来たっていうのに、この数か……。私達の人数で、ここをすり抜けるのは難しそうね」

「となれば、仲間を呼ばれる前にここの連中を速やかに殲滅する必要があるな。……あいつらは?」

「すでに準備完了よ。……こちらニッテ。そろそろ仕掛けるわよ」

『オッケー、任せときなリーダー。一気にカタを付けてやるよ』

 

 双眼鏡でその様子を観測していたニッテとヴィクトリアは、無線機(トランシーバー)を通じて仲間達に攻撃開始の合図を送る。リーダーからの指示を受けた1人の美女は、歩哨達の頭上を取れる家屋の屋上から、静かに狙いを定めていた。

 

「……安心しな。痛みなんて、感じる暇も与えないよ」

 

 焦げ茶とオレンジが混ざった長髪を風に靡かせる美少女――川上(かわかみ)ティエナは、ネコ科を思わせる鋭い目で歩哨の1人に狙いを定めると。背中から取り出したコンパウンドボウを引き絞り、戦闘開始の合図となる一矢を放つ。

 

「がッ……!?」

「な、なにッ!? 敵襲か……あッ!?」

 

 その矢に同胞が貫かれる瞬間を目の当たりにした歩哨は、驚愕の声を上げるが。矢の方向に目を向けた瞬間、眉間を2本目の矢で撃ち抜かれてしまうのだった。

 力無く倒れ伏す2人の歩哨。その最期を屋上から見下ろすティエナは、相棒とも言うべき弓を撫で、唇をぺろりと舐め上げている。

 

「ん〜……やっぱり弓はいいねぇ、私の筋肉にしっかり負荷が掛かってるのが分かるよ。銃器の反動も悪くないけど、何かこう……違うんだよねぇ」

 

 筋肉は全てを解決する。その信条故に、筋力がモノを言う武器を愛用している彼女としては、腰のホルスターに提げられているブローニングハイパワーMkIIIより、こちらの方が好みであるらしい。

 同胞達が倒れた際の音から状況を悟り、ティエナの存在に気付いた他の歩哨達は、彼女を撃ち落とそうとM4カービンの銃口を向け始めていた。

 

「あそこかッ! さては抵抗組織(レジスタンス)のガキだなッ!? 取っ捕まえて仲間の居場所をッ……!?」

「……いいのかい? そんな悠長なこと言っててさ」

 

 だが、それこそが付け入る「隙」になっていたのだ。ティエナに気を取られていた戦闘員達は、死角から飛び込んで来たエヴァの接近を許してしまったのである。

 

 ニッテ達主力メンバーをはじめとする他の美少女兵士達は、ティエナの奇襲に乗じて一気にこの場を制圧しようと仕掛けて来たのだ。その1番槍として、戦闘員達の懐に滑り込んだエヴァは、鍛え上げたCQCの技で彼らを矢継ぎ早に投げ飛ばしてしまう。

 大柄な彼らの身体を投げた弾みで、安産型の桃尻がぶるんっと揺れ動いていた。迷彩服の上からでもその膨らみがハッキリと分かるエヴァの巨尻からは、雄の本能を煽る熟成された女の匂いが漂っている。戦士として鍛え抜かれ、引き締まっているウエストからは想像もつかない巨尻は存在感抜群であり、そこにじっとりと滲んだ濃厚な汗の香りが、戦闘員達の鼻腔を擽っていた。

 

「ごっ、はぁああッ!?」

「このッ……! デカ尻揺らして誘ってんじゃねぇぞアマッ……うぐわぁあッ!」

「絶対ブチ殺してやるよ……この野郎ッ!」

 

 住宅地のコンクリート壁や地面に頭を叩き付けられては、改造人間と言えどもタダでは済まない。生身の女であるエヴァの膂力でも、不意を突くことさえ出来れば格闘術一つで戦闘員達を翻弄出来るのだ。ぷりぷりと揺れ動く彼女の桃尻に気を取られた男達は、一瞬のうちに関節を極められ、投げ飛ばされて行く。

 彼女の技によって、コンクリートに亀裂が走るほどの威力で頭部を強打させられた戦闘員達は、次々と膝から崩れ落ちてしまうのだった。その様子に確かな手応えを覚えつつ、エヴァは慢心することなく目を細めていた。

 

「……今でも夢に見るんだよ。あんた達……ノバシェードのして来たことがね」

 

 半年前のエンデバーランド事件で味わった無念を晴らすべく。至近距離の戦闘員数名を瞬殺した彼女は、HK416を構えて残りの戦闘員達との銃撃戦を開始する。

 

「敵襲だッ! 例の解放戦線のガキ共だ、皆殺しにしてやれッ!」

「やるしかない……! 行くよ皆、攻撃開始だッ!」

 

 ニッテを筆頭とする他のメンバー達もそれぞれの愛銃を手に、複雑に入り組んだ住宅街を戦場とする「殺し合い」に身を投じていた。その混乱に乗じて、戦闘員達の背後を取っていた数名のメンバーは、背後から奇襲を掛けて行く。

 

「がは、ァッ……!?」

 

 AKS-74アサルトライフルに着剣されている6kh4の刃が、戦闘員の喉を後ろから貫通して行く。悲鳴を上げる間も無く絶命した戦闘員の後ろには、全身包帯尽くめの女が佇んでいた。

 

「……どうした。ワタシはまだ生きているぞ。殺せるものなら、殺してみろッ……!」

 

 彼女の名は須義本阿須子(すぎもとあすこ)。元日本人旅行者であり、旧シェードのテロによって飛行機事故に巻き込まれて以来、この姿で生きて来た悲劇の女性だ。

 テロへの憎しみ。家族を失った悲しみ。その全てをノバシェードにぶつけようとするかのように、彼女は銃を取ってこの場に立っている。その姿故「マミー」や「バンテージ」と呼ばれ、畏怖されることもある彼女だが、Fカップの巨乳と安産型の巨尻は包帯を内側から押し上げ、これでもかと主張している。

 

 そんな彼女は豊満な乳房と桃尻をぷるんと揺らしながら、無音で敵の背後に忍び寄り、銃剣の一突きで相手の命を奪い続けていた。

 改造人間が相手であろうと躊躇いなく接近戦を挑んで行く彼女の自暴自棄(ヤケクソ)振りには、近くに展開している他の仲間達も心配げな視線を向けている。

 

「マミーさん、危ないっ!」

「ぐはぁあっ!」

 

 その1人である9歳の少女――アロマ・ミュラーは、イングラムM10をベースとする「G-M01サブマシンガン」を連射し、阿須子の背中を狙おうとしていた敵を蜂の巣にしてしまう。

 年齢故に小柄な自身の体躯と、サプレッサーを装着しているため銃声が出ない同銃の特性を活かして、彼女は銃撃戦の弾雨を掻い潜って敵兵の背後に回り込んでいたのだ。後方からも攻撃を受けていることに気付いた戦闘員達に動揺が走り、彼らは四方に散開しようとする。

 

「くそッ……! 解放戦線の奴ら、後ろにも回り込んで来たのかッ!? ただの小娘共なんじゃなかったのかよッ! とにかく公邸の本隊に連絡を……ッ!?」

 

 彼らは撤退しながら、本隊に連絡を取って増援を呼ぼうとするのだが――その前に、容赦なく頭を撃ち抜かれてしまう。

 硝煙が立ち上る銃口を彼らに向けている少女達は、命を奪ってしまった悲しみに肩を震わせながらも、気丈に目の前の「現実」を見据えていた。

 

「……ごめんなさい。私達、ここで足止めされるわけには行かないのっ……!」

 

 13歳の少女、サガ・マーミル。右目の下から右腕の大部分と、右胸部分まで広がっている無惨な火傷跡を持っている彼女は、AKMSUカービンの銃口をわなわなと震わせている。

 旧シェードのテロで家族を失い、自らも右半身に深い火傷を負った彼女は、今も後遺症に苦しめられている。それでも同じ境遇の仲間達を想い、銃を取る道を選んだのだ。

 

 敵とは言え、人の命を奪ってしまった事実に震えながらも。その眼は後悔などないと言わんばかりに、真っ直ぐに前だけを見つめている。だが、仲間達のために幼い手を汚したのは、彼女だけではない。

 

「お、お姉ちゃん達は、私達が守るんだぁっ……!」

 

 ノバシェードから鹵獲したエネルギー銃「シェードガン」から放たれた熱線で、戦闘員の後頭部を撃ち抜いてしまった6歳の少女――リエリス。最年少メンバーである彼女もまた、実姉のように慕って来た孤児仲間達のために、ここまで来てしまった1人なのだ。

 玩具のような外観の銃を握っている姿だけを見れば、年相応のようにも見えるが――今の彼女は紛れもなく、本物の銃を握って戦場に立っている兵士そのものなのである。

 

 戦闘員が補助武器として携行しているこのシェードガンは本来、戦闘員が体内動力源に直結して使用するものなのだが、火力の低さに対して消費するエネルギー量が多く、単なるデッドウェイトになりがちなのだという。
 加えて、徳川清山(とくがわせいざん)が旧ナチス領でLEPを発掘した際に同時に発見した「オーパーツ」をそのままコピーしたため、解析や改良が出来ないらしい。つまるところ、ノバシェードにとっても「お荷物」の銃なのだ。

 

 しかしそんな代物であっても使わなければならないし、6歳の少女であろうとも戦う意志と素質が十分ならば、戦わざるを得ないのだ。オーファンズヘブンという街は今、それが罷り通ってしまう状態なのである。

 

「こ、こんなガキ、共にぃいッ……!」

「ひっ!? ぴゃあああ〜っ!」

 

 改造人間でもない生身の少女に、「お荷物」のシェードガンで倒されるという屈辱に震える戦闘員は、頭を撃ち抜かれながらも最後の力を振り絞り、リエリスに迫ろうとする。

 そのゾンビのような動きに悲鳴を上げる少女は、咄嗟にサガの陰に隠れてしまうのだが――サガのAKMSUが引導を渡すまでもなく、戦闘員は彼女達の眼前で倒れ伏してしまうのだった。

 




 今回からチョイ役枠での採用となった応募ヒロイン達が登場して行くことになります! まだ紹介されていないヒロイン達もこの先どんどこ出て来ますので、どうぞ今後もお楽しみに!٩( 'ω' )و


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第7話

◆今話の登場ヒロイン

◆エレイン・マーケスト
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、艶のないやや長めの黒髪と色褪せた翠色の目が特徴の美少女。基本的に無表情であり口数も少なく、敵に対しては躊躇いなく引き金を引く孤高の女スナイパーだが、仲間に対する情は厚い。使用銃器はマクミランTAC-50スナイパーライフル。年齢は17歳。
 スリーサイズはバスト84cm、ウエスト59cm、ヒップ89cm。カップサイズはC。
 ※原案は妄想のKioku先生。

◆ラングニル・ラーシェン
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、もふもふしたブロンドのショートヘアと、小学生のような短身に反したむっちり太腿が特徴の美少女。オーファンズヘブンを本拠地とする銃器製造会社「Larsen våpen fabrikant(ラーシェン・ファブリカント)」の社長令嬢だった過去を持ち、自身も銃器設計者としての非凡な才能を持っている。使用銃器は50口径のハンドガン「RL-6」を独自にフルカスタムした、LVF RL-6Al12。年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト70cm、ウエスト50cm、ヒップ74cm。カップサイズはA。
 ※原案はただのおじさん先生。

◆スフル・アレイネ
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、ツーサイドの三つ編みに結われた銀色の長髪が特徴の美少女。「オ~ララ~!」が口癖の明るくマイペースな少女であり、銃器の構造に詳しく、仲間達の武器のメンテナンスも行っている。使用銃器は破壊された骨董屋で眠っていたという、音撃管・烈風。年齢は18歳。
 スリーサイズはバスト84cm、ウエスト54cm、ヒップ87cm。カップサイズはE。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。


【挿絵表示】




 

「ち、ちくしょおおおッ……! こんなところで……こんな奴らに、殺られてたまるかぁああッ!」

 

 次々と力尽きて行く同胞達の姿に震え上がった1人の戦闘員は、銃すら投げ捨てて一目散に逃げ出して行く。だが、その背中を屋上から静かに狙い澄ましている狙撃手(スナイパー)が居た。

 

「あ、がッ……!?」

 

 その銃弾に後頭部を貫かれた戦闘員は、何が起きたのかすら分からぬまま一瞬で絶命してしまう。彼を抹殺した美少女狙撃手は、冷ややかな眼差しでその骸を見下ろしていた。

 

「……逃げる敵の背中を撃つ趣味はない。でもこれは、あなた達が散々して来たこと。皆のために……私は、銃を持つ」

 

 マクミランTAC-50スナイパーライフル。その愛銃のボルトを操作して次弾を装填しているエレイン・マーケストは、やや長めの黒髪を靡かせ、色褪せた翠色の眼で戦場の動きを見据えている。

 同じ孤児である仲間達のために銃を取り、自らの手を汚す道を選んだ孤高の女狙撃手。そんな彼女は、人の命を奪うことを臆する暇すら惜しむように、次の「標的」を探してスコープを覗き込んでいた。

 

「よし……今だ皆、突撃ィッ!」

 

 エレインの狙撃を恐れた戦闘員達が、迂闊に攻勢に出られなくなった好機を狙い。ニッテ達は、戦闘員達の「詰め所」となっていた一軒家目掛けて、即座に突入して行く。乳房と桃尻をばるんばるんと揺らして駆け込んで来た絶世の美少女達が、扉や窓を蹴破って続々と侵入していた。

 

「まずい、奴らが……ぐわあぁあッ!」

「く、くそッ! 生意気なメスガキ風情がよくもッ……!」

 

 西洋建築の大きな一軒家。その「詰め所」の屋内から状況を伺おうとしていた残りの戦闘員達は、いきなり突撃して来たニッテ達の奇襲に対応し切れず、次々と蜂の巣にされてしまう。解放戦線の手練れ達にとって、狭い屋内での戦闘となれば急所を外す方が難しい。

 

「ヴィクトリアッ!」

「任せろニッテッ!」

「ぎゃあぁッ!」

 

 ニッテのAk5から放たれた弾雨が、扉ごと向こう側の敵兵を撃ち抜くと。そこを蹴破って突入したヴィクトリアが、Spearに取り付けられた三十年式銃剣を突き出し、生き残った敵の心臓を刺し貫いてしまう。

 その弾みでヴィクトリアのスカートがふわりと浮き上がり、特大の爆尻にみっちりと食い込むTバックのパンティが露わにされていた。スカートの内側で熟成されていた濃厚な女の匂いが、むわりとそこから匂い立つ。「世継ぎ」の出産を使命とするファルツ家の娘としての特濃フェロモンが、きつく食い込んだパンティから振り撒かれていた。だが、銃剣の餌食となった戦闘員にはその絶景を拝むことすら許されない。

 

「エヴァ、今ですッ!」

「サンキュー、レンッ!」

「うぐわぁああッ!」

 

 さらに彼女達の進撃は続く。レオナのXM8に装着されたM320グレネードが壁を爆破し、そこに隠れていた戦闘員達を、エヴァのHK416が瞬く間に殲滅する。絶え間無く火を噴く銃を握る、女傑達の豊かな乳房と桃尻が、反動に応じてぷるぷるっと躍動していた。

 そんな主力メンバー達の猛攻に続き、他の美少女兵士達も各々の愛銃で戦闘員達を瞬殺して行く。続々と屋内に突入して来る彼女達の素早い動きに、戦闘員達は反撃に移る暇もなく翻弄されていた。

 

「あぐッ!? がはぁああっ!」

「ちくしょうッ! 俺達の大義がこんなメスガキ共にッ……うぐあッ!?」

 

 改造人間を差別し、迫害する愚かで脆弱な人間達に天罰を与える。その大義名分を拠り所に活動して来た戦闘員達は、目の前から迫り来る「不条理」に抗う暇もなく、正義の弾丸に斃れて行く。

 そんな彼らの「聖戦」の犠牲にされて来た解放戦線のメンバー達は皆、その言い分に眉を顰めていた。どんな「大義」もテロの口実に成り下がれば、誰の理解も得られなくなるのだから。

 

「君達の大義なんて知ったこっちゃないが……僕の会社と工房を壊したのは許さない。ここはしっかり、『的』として償ってもらわないとねぇ?」

 

 ――オーファンズヘブンを本拠地とする銃器製造会社「Larsen våpen fabrikant(ラーシェン・ファブリカント)」。その社長令嬢だったラングニル・ラーシェンも、戦闘員達の悲痛な叫びを冷酷に切り捨てている。

 

 もふもふしたブロンドのショートヘアを靡かせるその美少女の手には、50口径のハンドガン「RL-6」を独自にフルカスタムした、「LVF RL-6Al12」が握られていた。ロングマガジンを装備し、プラスチック製の外装を取り付けてフルオート仕様となっている同銃はPDWのような外観であり、フォアグリップとホロサイト、スケルトンストック、側部レーザーサイトで完全にフルカスタムされている。

 銃器メーカーの令嬢であり、銃器設計者としての非凡な才能の持ち主でもある彼女の技術と浪漫を詰め込んだ逸品物だ。取り回しの良さと火力の高さを兼ね備えたPDWとしての特性を持つ同銃は、この屋内での戦闘で特に効果を発揮しているらしく、彼女はすでに何人もの戦闘員をこの銃で撃破していた。

 

「自分の工房を取り返したいという理由だけで戦っている僕は、仲間達ほど高潔とは言えないが……それでも、君達の言い分には目に余るものがあるね」

 

 年齢の割には小柄で「つるぺた」な彼女だが、むっちりとした太腿からは成熟した20歳の女性に相応しい濃厚なフェロモンが匂い立っている。もふもふしたブロンドのショートヘアを優雅に掻き上げ、むちっとした白い太腿を見せ付けながら、ラングニルは鋭く目を細めていた。見た目は小学生のようだが、妖艶さすら感じさせる表情と、じっとりと汗ばんだ瑞々しい桃尻から匂い立つ「女」の芳香は、彼女が立派な「大人」であることを雄の本能に教えている。

 

 白衣を翻して、桃尻をぷるんっと揺らしながら愛銃を構えている彼女は、「本社が占領されたせいで銃器を作ることが出来ない」……という極めて個人的な理由で解放戦線に参加しているのだが、ノバシェードの蛮行に対する義憤は本物であるらしい。自身の愛銃だけでなく、仲間達の銃もメンテナンスして来た彼女は、同胞達の活躍を横目に頬を緩めていた。

 

「そーそー。私達の街を壊しておいて、大義だとか何だとか、気取った言い方しないでよね。それ、ただのテロだから」

 

 そんなラングニルの「助手」として、彼女の研究開発をサポートして来たスフル・アレイネも、愛銃を手に倒れ伏した戦闘員達を冷たく一瞥していた。

 ツーサイドの三つ編みに結われた銀色の長髪を靡かせている彼女の手には、「とある鬼が戦いに破れて紛失したもの」と噂されている、骨董品の空気銃「音撃管・烈風」が握られている。オーファンズヘブンの骨董屋で眠っていた同銃をスフルが拾ってメンテナンスした結果、圧縮空気弾を放つ強力な武器として復活したのだという。

 

 好奇心旺盛で、初めて見るモノはとりあえず触ってみるのがモットーだという彼女だからこそ、武器として使いこなせている代物と言えるのだろう。銃器の構造に詳しく、仲間達の武器のメンテナンスも行っている彼女の技量があってこそ、この「烈風」は現代に通じる武器として活用されているのだ。

 


「……フフ、綺麗だぞぉ……僕のRL-6。後でしっかりとお手入れしてあげるからねぇ……」

「よーしよしよし。今日もちゃんと動いてるねぇ、私のトランペット空気銃! 今後もこの調子でよろしくぅ!」


 

 解放戦線の武器装備の開発・管理・整備を請け負う2人の天才技術者は、恍惚の表情で愛中に頬を擦り付けている。近場の敵をあらかた一掃し終えたヴィクトリアとレオナは、そんな2人の様子にため息をついていた。

 

「ラングニル、スフル。愛銃にご執心なのは結構なことだが……『例の物』の調整はどうなっているんだ?」

「最初のプラン通りに行かなかった時は、恐らく私の『愛車』が戦力として必要になります。あなた達の整備じゃないと……『アレ』は、完成しません」

 

 ヴィクトリアとレオナの「懸念」を耳にしたラングニルとスフルは、一度顔を見合わせると同時に胸を張り、「何も問題はない」と言わんばかりのドヤ顔を披露している。Eカップを誇るスフルの乳房はぷるるんっと揺れ動いていたが、ラングニルの貧乳は微動だにしなかった。

 

「オ〜ララ〜……心配させちゃったかな? ごめんねヴィクトリア、レン。実は『アレ』、もうとっくに完成してるの」

「フッ、案ずることはない。君達2人の『秘密兵器(とっておき)』なら、今スフルが言った通り……僕らが先日しっかりと仕上げて、所定の位置に隠してある。必要になれば、即座に呼び出せる状態だ」

「なら良いが……何故完成次第、早急にそれを報告しなかった? 私もレンも、『アレ』が唯一無二の切り札だというのに」

「そう怒るなよヴィクトリア。てぇんさい設計者としては言いたくなるモノじゃないか。『こんなこともあろうかと!』……ってね」

「……相変わらず、困った人ですね」

「そう褒めるなレン! 照れるじゃないか!」

「……」

 

 効率より美学を優先してしまうラングニルの言い分に閉口するヴィクトリアは、レオナと顔を見合わせて同時に深いため息をついていた。そんな2人の様子など意に介さず、ラングニルは無い胸を張って、自身の拘りを最優先にしている。

 一方。彼女達のやり取りを物陰から観察していた生き残りの戦闘員達は、この状況を変えるべく「禁断の手段」に踏み切ろうとしていた。忌々しげにラングニル達を睨み付けている1人の兵士の手には、何らかの起動スイッチらしきものが有る。

 

(ち、ちくしょうがぁあッ……! あいつら、タダじゃ済まさねぇッ……! おい、こうなったら「アレ」を使うぞ!)

(バッ……バカ言えッ! 「アレ」はまともに運用出来たもんじゃねぇ「失敗作」だろうがッ! あんなもん動かしたらッ……!)

 

 そんな自身の選択を咎めようとする同僚の言葉にも耳を貸さず、生き残りの兵士は己の手にある「起動スイッチ」を作動させようとしていた。そこへ、Ak5を構えたニッテが現れる。迷彩服にじっとりと染み付いた女の匂いを全身から振り撒く彼女は、95cmの巨乳と安産型の巨尻をどたぷんっと揺らして、戦闘員達に冷たい銃口を向けていた。

 

「……動かしたらなに? どうせロクでもないモノでしょうけど」

「ひぃいいッ!?」

 

 その冷酷な眼差しに戦闘員の1人が怯える中、スイッチを持っている悪漢は薄ら笑いを浮かべながら――「禁断の生物兵器」を、この場に解き放とうとしている。

 

「へっ……てめぇら、もうお終いだぜ! どれだけイキったところで……生身の人間が! 怪人に勝てるわけねぇんだからなァッ!」

「……ッ!?」

 

 ニッテの銃口に怯えながらも、虚勢を張ってスイッチを起動させる戦闘員。そんな彼の眼前に、両手の触手をしならせる異形の怪人が現れたのは、その直後だった。

 

 一軒家の地下室から飛び出して来た、青緑のボディを持つフィロキセラ怪人。理性が全く感じられない獰猛な仕草を見せるその怪人の出現に、ニッテ達は驚愕と戦慄の表情を浮かべる。生理的な嫌悪感と危機感を煽る怪人の容貌に、美少女兵士達はその瑞々しい肉体に甘い匂いの冷や汗を滲ませていた。

 

「な、何なのコイツ……!?」

「気を付けろニッテ! 街を破壊したあの黒死兵とは違うが……見るからにまともじゃないッ!」

 

 ニッテを庇うように立つヴィクトリアも、得体の知れない怪人の出現に、動揺を隠し切れずにいる。2本の触手をしならせる緑色の怪人は、美少女兵士達の生理的な嫌悪感を煽るには十分過ぎるほどのグロテスクな外観を有していた。

 

 光沢を放つ滑った触手はうねうねと不規則に動き、美少女達の豊満な肉体に狙いを定めている。ぷるんと揺れる乳房や桃尻、ぷっくりとした唇。戦闘服の下に隠された、瑞々しい柔肌。その全てを味わい尽くそうとするかのように。

 

「紹介するぜぇ……コイツの名は、プロトタイプγ(ガンマ)。我がノバシェード屈指のイカれ科学者・斉藤空幻(さいとうくうげん)博士が、南米で完成させた新型フィロキセラ怪人の……『失敗作』だ」

「し、失敗作ですって……!?」

 

 どんなに才能に溢れていようと、所詮は女。その事実を実感させてくれるニッテ達の反応に、戦闘員達はすっかり気を良くしているようだった。

 シェード製高性能怪人の象徴とも言われるフィロキセラタイプとしては、紛れもない「失敗作」。だが、そんな個体でも怪人としての攻撃力だけは本物であり、武装しただけの生身の人間を屠ることなど造作もないのだ。

 

 開発主任の斉藤空幻でも手が付けられなくなっていた「失敗作」を予備戦力の体で押し付けられ、今日に至るまで戦々恐々としていた彼らにとって、これはまさしく「最後の手段」なのである。

 解放戦線が化け物染みた強さだというのなら、本物の化け物をぶつけてやれば良い。その狙い通りの状況を作り上げた戦闘員は、眼前の「失敗作」が何故そう呼ばれているのかも忘れ、威丈高な声を張り上げていた。

 

「あぁ、だがただの失敗作じゃねぇ。防御力と知性を引き換えに、攻撃性をより高めた人型の猛獣だ! コイツは動き出しちまったら、もう死ぬまで止まらねぇ……! そら、見せてやりな出来損ない! てめぇの恐ろしさをこのメスガキ共にッ……!」

 

 次の瞬間。プロトタイプγは「うるさい蝿」を黙らせるかのように――ニッテ達と向き合ったまま、後方に触手を振り抜いていた。

 彼は自分を解き放った戦闘員達を一瞥もせず、その触手で細切れに切り刻んでしまったのである。この一室は一瞬で血の海と化し、その激しい返り血がニッテとヴィクトリアにも降り掛かっていた。

 

「……敵と味方の区別もつかないなんて、確かに失敗作もいいところね……! ヴィクトリア、皆を集めて! 十字砲火(クロスファイヤー)で一気に仕留めるッ!」

「心得たッ! ……各員、この家を出て迎撃体勢に移行しろッ! コイツを我々の手で跡形もなく葬るぞッ!」

「りょ、了解ッ!」

 

 その感触に頬を引き攣らせながらも、即座に状況を把握したニッテとヴィクトリアは、各々の愛銃を連射しながらこの一軒家から退避して行く。プロトタイプγは彼女達の銃撃を触手で弾きながら、ゆっくりと動き出していた――。

 





 今回はさらなる応募ヒロイン登場回となりました。それに加え、本章ならではの新怪人・プロトタイプγが登場しております。
 このプロトタイプγの完成形(?)であるフィロキセラタイプγと、その開発者として名前が出て来た斉藤空幻博士については、番外編「タイプγと始祖の怪人(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)」で詳しく語られています。本章とも結構時期が近いお話なので、機会がありましたらこちらのエピソードもどうぞよしなに〜(о´∀`о)

Ps
 なんだかバイオっぽくなって来ましたな?(※この作品は仮面ライダーの2次創作です


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第8話

◆今話の登場ヒロイン

◆リリエラ・ヤマシロ
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、焦茶色の大きな三つ編みを片側に掛けた髪型と黒い瞳、眼鏡が特徴の美少女。とある始祖怪人を曽祖父に持つフランス生まれであり、爆発物の扱いに長けている。使用銃器はM203グレネードランチャーを装着したM4カービン。年齢は14歳。
 スリーサイズはバスト80cm、ウエスト55cm、ヒップ80cm。カップサイズはE。
 ※原案は魚介(改)先生。

◆カミラ・ヴェサール
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、ライトブラウンのミディアムヘアに青い瞳、ハンチング帽とミリタリーコートが特徴の美少女。明るく爽やかな性格だが、その内面にはテロで家族を失った悲しみが秘められている。使用銃器はサコーM75フィンライト。年齢は18歳。
 スリーサイズはバスト87cm、ウエスト56cm、ヒップ84cm。カップサイズはE。
 ※原案はクルガン先生。

朔夜(サクヤ)・モーリガン
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、茶髪に近い黒髪のウルフショートヘアにターコイズブルーの鋭い瞳、褐色肌が特徴の美少女。寡黙かつクールな性格だが、気高く義に厚い一面もある。使用銃器はM203グレネードランチャーを装着したステアーAUGと、S&WM500。年齢は18歳。
 スリーサイズはバスト85cm、ウエスト56cm、ヒップ82cm。カップサイズはF。
 ※原案はMegapon先生。


【挿絵表示】




 

 銃弾の雨をものともせず、悠々と一軒家から姿を現して来るプロトタイプγ。生理的嫌悪感を煽るそのグロテスクな容貌に解放戦線の面々がどよめく中、十字砲火(クロスファイヤー)の準備を整えたニッテとヴィクトリアは、攻撃開始の合図を発していた。

 

「……よし、配置完了だな!? ニッテ、いつでも行けるぞ!」

「オッケー……! 例えフィロキセラタイプだろうと、私達を止めることなんて出来ないってこと……思い知らせてやろうじゃん! 総員、撃ち方始めぇえぇーっ!」

 

 ヴィクトリアの呼び掛けに応じてニッテが片手を翳した瞬間、解放戦線の全メンバーが一斉に射撃を開始する。

 十字を描くように飛び交う弾丸と榴弾が、一軒家ごと破壊する勢いでプロトタイプγに襲い掛かっていた。発砲の反動でぷるぷると躍動する彼女達の乳房と桃尻から、瑞々しい汗が飛び散って行く。

 

 青緑の怪人は先ほどと同様に、両腕の触手を振るって銃弾を弾いているようだが、あまりの弾雨に「手数」が足りていないのか、徐々に生体装甲を削られ始めている。

 

 ニッテとヴィクトリアしか居なかった時とは違い、今はメンバー全員での十字砲火なのだ。飛んで来る弾の数は、文字通り桁違いなのである。

 このまま数の暴力で磨り潰してしまえば、解放戦線の勝利は固い。だが、それはプロトタイプγが近付いて来る前に彼を仕留められれば、の話だ。

 

 フィロキセラタイプの怪人が持っている両腕の触手は、射程距離が非常に長い。倒し切る前に接近されて触手で攻撃されれば、生身の人間などひとたまりもないのである。改造人間である戦闘員達ですら、一瞬で細切れにされてしまったのだから、なおさらだ。

 

「やっば、これだけ撃ち込んでも止まらないなんて……! アレがリーダーが言ってた化け物ですか……!? しかもアレって、旧シェード製の高性能怪人だって言われてたフィロキセラタイプじゃないですか! ちゃんと私達の弾、通じてるんでしょうか……!?」

 

 その脅威を肌で感じ取っていたリリエラ・ヤマシロは、M4カービンに装着されたM203グレネードランチャーを撃ちながらも、怯む気配を見せない青緑の怪人に戦慄している。

 フランス生まれの眼鏡美少女は、焦茶色の大きな三つ編みを靡かせながら、懸命に引き金を引き続けているのだが――プロトタイプγは全く歩みを止めず、彼女達に迫ろうとしている。

 

 やはり、ただの人間では怪人に勝てる見込みなどないのか。そんな思考が過ぎるリリエラの肩を叩くもう1人の美少女兵士は、懸命に彼女を励ましていた。

 

「それでも、やるしかないよリリエラ! ここで私達がやらなきゃ、誰がベイカー市長を助けに行くの!? 仮面ライダーが来てくれる保証なんてないんだから……私達が腹括るっきゃないじゃない!」

 

 解放戦線のお母さん、などと呼ばれることもある世話焼きな美少女――カミラ・ヴェサール。半壊した銃砲店で見つけた猟銃「サコーM75フィンライト」を撃ち続けている彼女は、リリエラを鼓舞するように爽やかな笑顔を見せている。

 ライトブラウンのミディアムヘアを靡かせ、青い瞳で真っ直ぐに怪人を射抜くカミラは、この状況下でも怯む素振りを見せることなく。ハンチング帽を片手で被り直し、ミリタリーコートを翻していた。

 

 旧シェードのテロにより肉親を失った孤児であるという過去は、解放戦線のメンバー全員に共通している。

 カミラも間違いなくその1人だというのに、彼女は辛い表情一つ見せず、こうしていつも仲間達を励ましているのだ。そんな彼女に母性を覚えるリリエラは、桜色の唇をきゅっと噛み締めている。

 

「カミラさん、この状況でもいつも通りでいられるなんて凄いですね……。私こう見えて、結構ブルっちゃってるんですけど」

「そうでもないよ、私だって怖い。……だけど、死ぬより辛くて怖いこともたくさんある。……私達は皆それを知って、乗り越えて来て、今がある。そうでしょ?」

「……そうかも、ですね」

 

 リリエラにも、薄々分かっているのだ。カミラは努めて明るく振る舞っているが、決して実の両親を失った悲しみを忘れたわけではない。むしろ誰よりも色濃くその記憶を残しているからこそ、その苦しみに飲まれまいと気丈に抗っているのだ。

 そんな彼女の胸中に隠された悲しみを思えば、いちいち怪人如きに怯えている暇などない。リリエラはその一心で気持ちを切り替えると、臆する心を振り払うように、プロトタイプγの凶眼と真っ向から睨み合うのだった。

 

 一方、ステアーAUGに装着したM203グレネードランチャーを撃ち続けていた1人の褐色美女は、自分達の攻撃に確かな手応えを感じ始めていた。だが、その表情に余裕の色は一切なく、むしろ焦燥に染まっている。

 

「見ろ、僅かだが弱り始めてるぞ……! だが不味いな、これ以上の接近を許せば奴の触手がッ……!」

 

 茶髪に近い黒髪のウルフショートヘアを靡かせ、ターコイズブルーの鋭い瞳でプロトタイプγを射抜いている、褐色肌の美女――朔夜(サクヤ)・モーリガン。

 たわわに実ったFカップの乳房を揺らして愛銃を握り締めている彼女もまた、肉親を失った悲しみを知るが故に、親代わりであるベイカー市長の救出に命を賭けている1人なのだが。彼女の奮闘も虚しく、すでに青緑の怪人は触手が届く射程範囲内に到達してしまっていた。

 

「……!? まさか、これほど離れていても奴の触手は届くのか!? いかんッ、皆離れろッ! 奴の動きが変わったッ!」

 

 その状況に危機感を覚えていた彼女が、やむなく攻撃を中断して距離を取ろうとするよりも早く。己の間合いに入り込んでいたプロトタイプγは、解放戦線の予測を遥かに超える速度で触手を伸ばして来たのだった。粘ついた液体を帯びた触手が朔夜の足に絡み付き、瞬く間に捕らわれてしまう。

 

「ひっ……!? きゃあぁっ!」

「しまっ……うわぁあっ!」

 

 ニッテ達の読みを大きく凌ぐ射程距離の長さと、挙動の速さ。それらに翻弄されるがまま、朔夜を含む解放戦線の美少女兵士達は、そのほとんどが一瞬のうちに触手に絡み付かれ、身動きが取れなくなっていた。

 

「不味い、皆がっ……きゃあぁあっ!?」

 

 想像以上に長く伸びて来た触手の動きに驚愕しながらも、ニッテ達主力メンバーはコンバットナイフを引き抜き、仲間達の身体に纏わり付く触手を斬り落とそうとする。だが、そんな彼女達の豊満な肉体も、たちどころに触手に絡め取られてしまうのだった。

 

「ひっ……いぃっ!?」

「や、やめろ、離せぇえっ! さ、さわっ、触るなぁああっ!」

「きゃあぁあーっ!?」

 

 2本しかなかったはずの触手はいつしか何本にも枝分かれして、解放戦線の美少女達の肉体に厭らしく絡み付いている。ウネウネと不規則に蠢くその触手は、凹凸の激しい彼女達の扇情的な身体を、丹念に舐めるように這い回っていた。美少女達の柔肌に滲む汗も、隈なく舐め取ろうとしている。

 南米のアジトで研究されていた、完成版のタイプγがそうだったように。この「失敗作」の素体となった人間も、相当な「女好き」だったのだろう。その気になれば先ほどの戦闘員達のように一瞬で八つ裂きに出来るというのに、敢えてすぐには傷付けようともせず、ニッテ達の柔肌を味わおうとしている。知性を失っても素体の行動原理はある程度記憶しているため、このような挙動になっているのだ。

 

「……っ!? う、うそ、そんなところっ……や、やめろ、やめろぉおっ!」

「いやぁあぁああーっ!」

 

 その悍ましい欲望を反映させている、無数の触手。身体中を這い回るその感触に悲鳴を上げる女傑達だったが、当然ながらプロトタイプγの「拘束」はこれだけでは終わらない。無数に分裂した青緑の触手は、滑った粘液を帯びたまま彼女達の柔肌に纏わり付き、戦闘服の「内側」にまで滑り込もうとしている――。

 




 今回はプロトタイプγとの戦闘シーンを描きつつ、応募ヒロイン達の追加登場回を兼ねたピンチ回となりました。まだ登場していない最後の1人も、次回でトリを飾ってくれる予定ですのでどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

Ps
 作者っていつもそうですね……! フィロキセラ怪人のことなんだと思ってるんですか!


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第9話

◆今話の登場ヒロイン

◆エメラダ・リンネア
 オーファンズヘブン解放戦線に参加している少女兵の1人であり、青紫系の瞳とゆるふわな黒髪のロングヘア、褐色肌が特徴の美少女。争いごとを好まない心優しい女性だが、歳下の少女達を守るために敢えて銃を取っている。使用銃器は壊滅した警官隊の遺品である、炸裂弾や硫酸弾を装填した射程強化型のM79グレネードランチャー。年齢は19歳。
 スリーサイズはバスト99cm、ウエスト60cm、ヒップ96cm。カップサイズはH。
 ※原案はエイゼ先生。


【挿絵表示】




 

「触手が無数に分裂して……!? んっ、はぁあぁあうっ!? そ、そこはっ……!」

「やぁ、あぁあっ……! こ、このっ、離せぇえっ……!」

「ひぃいっ!? こ、こらっ、僕の柔肌にそんな滑った触手をっ……おほぉおっ!?」

 

 戦闘服の内側に滑り込み、その衣服に隠された極上の柔肌を隅々まで舐め回そうとする無数の触手。その不規則で厭らしい動きに、ニッテ達は生理的嫌悪感を露わにして、必死に身をよじって抵抗する。無数の触手を操るプロトタイプγは、その抵抗すら楽しんでいるかのようだった。

 

 戦闘員達を一瞬で殺した時とは違い、今の触手はニッテ達を敢えていたぶるかのような挙動で、その扇情的なボディラインをなぞるように這い回っている。柔肌を直接、執拗になぞられる悍ましい恐怖が、彼女達を襲っていた。

 

「あ、あわわわぁあっ! た、大変だあぁあっ! お姉ちゃん達がぺろぺろされてるよぉっ!」

 

 ただ全員ではなかったらしく、あまりに小柄なため脅威にならないと思われたのか、アロマやリエリスのような幼女達は放置されている。

 リエリス達は大慌てでちょこまかと駆け回りながら、どうにかニッテ達を救出出来ないかと右往左往しているのだが、非力な彼女達ではナイフで触手を斬ることも出来ない。空中に持ち上げられているニッテ達の身体も不規則に揺さぶられているため、銃で攻撃しようとしても誤射の危険性が付き纏う。

 

「リエリス、早く逃げて! コイツに捕まったら……んぉほおっ!? ま、まさかそんなところっ……!? や、やめて、そこはダメぇ、絶対ダメだからぁあっ!」

「ニ、ニッテお姉ちゃんっ! ど、どどどどうしよ〜っ!」

 

 そうしている間にも、戦闘服の内側に滑り込んだ触手は粘液を塗り付けるかのように、ニッテ達の柔肌を隈なく這い回っている。とうとうその先端部は、彼女達のブラジャーやパンティにまで伸びようとしていた。下着の「裏地」にじっとりと染み込んだ特濃の匂いに、本体も触手も興味津々のようだ。

 

「はぁあうっ!? そ、そんなところにまでっ!? や、やめろっ……やめろぉおおっ!」

「いっ、やぁあ、あぁああっ……!」

 

 悍ましい触手に貞操まで狙われていることに気付き、処女(バージン)達の悲鳴がこの一帯に響き渡って行く。ねっとりと柔肌の上を這う触手はついに、下着の隙間にまで入り込もうとしていた。むっちりとした安産型の桃尻を、生殖能力を宿した触手が虎視眈々と狙っている。極上の「雌」を求める「雄」としてのごく自然な欲求が、その蠢きに現れていた。

 

 ――だが、そんな時であろうと。触手の粘液を全身に塗り付けられ、貞操を脅かされながらも、武器を手放すことなく反撃の機会を伺い続ける者達がいた。

 

「妹同然の子達に……よくも、こんな酷い真似をしてくれたわね。……お姉さん、ちょっと本気で怒っちゃったわ」

 

 そのうちの1人である褐色肌の爆乳美女――エメラダ・リンネアは、柔和な青紫の瞳をスゥッと細め、M79グレネードランチャーの銃口をプロトタイプγに向けている。警官隊の遺品を独自にチューンナップして射程を強化している彼女の愛銃は、青緑の怪人を確実に捉えていた。

 

 ゆるふわな黒髪のロングヘアを靡かせ、首に掛けた銀色のロザリオを揺らしている彼女は、白のYシャツの上に茶色のジャケットを羽織り、青系のジーンズや茶色のブーツを履いている。

 その内側に隠された褐色の肌は今、ぬるぬると蠢く触手に這い回られていた。Hカップの爆乳や、60cmのくびれたウエストに反した96cmの巨尻をはじめとする、彼女の美しく豊穣な柔肌全てが今、触手に舐め回されそうになっているのだ。

 

 自身がそのような状況だというのに、彼女はそれでも自分の貞操より、妹分である他のメンバー達のために怒っているのである。

 だが、決して自分の純潔を軽んじているわけではない。それを捧げたいと想う相手がいるからこそ、エメラダは静かな怒りに燃えているのだ。

 

(……いつか「あの人」に、もう一度会う時まで……私は、絶対にっ……!)

 

 ――半年前に起きたエンデバーランド事件。エヴァと同様にその現場に居合わせていた当時のエメラダも、ノバシェードの戦闘員達には歯が立たず、豊満な肉体を組み敷かれ貞操を穢されそうになっていた。

 そこに颯爽と現れ、戦闘員達を蹴散らしてエメラダの窮地を救ったのは――ヘレン・アーヴィングに出逢う直前の「仮面ライダータキオン」こと、森里駿(もりさとはやお)だったのである。

 

 専用のバイクを巧みに乗り回し、黒のロングコートを靡かせて、嵐のように戦い風のように去る。そんなタキオンこと駿の逞しい背中に、強い雄を欲する女の本能を呼び覚まされたエメラダは――それ以来、1日たりとも彼の背中を忘れたことがなかった。

 

 もう一度彼に会いたい。あの仮面の下に隠されている、本当の顔を知りたい。本当の名前を、素顔を知りたい。その人柄も、過去も、全て。

 「仮面ライダー」の1人であること以外は、何も分からない。だからこそ激しく燃え上がる恋心に、人知れず身を焦がして。エメラダは今に至るまでずっと彼を想い、熟れた肉体を持て余す日々を過ごしていたのである。いつも母性的で穏やかな彼女が、裏ではそんな情熱的な恋に燃えていることなど、解放戦線の少女達には知る由もない。

 

「許せないのよ……あなたのような輩は、特にッ!」

 

 そんなエメラダにとって、自分や妹分達の命や貞操を脅かす存在は、例えどれほど強大な敵であろうとも決して許すわけには行かないのだ。全身を触手に絡め取られながらも、彼女は強引にM79を構え、プロトタイプγに一矢報いようとしている。

 

「……あはぁうっ!?」

 

 だが、その前に。M79の銃口が自分に向けられていることに気付いたのか、怪人の触手はエメラダのブラジャーに触れ、その「隙間」に潜り込もうとしていた。ジーンズの下に隠されていたTバックのパンティも、絡み付いてきた触手にずり下ろされそうになっている。このままでは、安産型の褐色巨尻も触手に狙われてしまう。

 その感覚に短い悲鳴を上げるエメラダだったが、それでもM79は決して手放さない。柔肌に触れられた感触に眉を顰めながらも――彼女は動じることなく、引き金に指を掛けるのだった。

 

「……んっ、くぅうっ……!? ちょっと、おいたが過ぎるわね……! いい加減に……くたばりなさいッ!」

 

 次の瞬間、エメラダのM79が火を噴き――その銃口から発射された硫酸弾が、プロトタイプγの顔面に命中する。その弾頭から飛び散った強力な硫酸が、怪人の生体装甲を溶かし始めていた。青緑の外殻がどろどろに溶け落ち、その下の内部組織が剥き出しになって行く。

 

 プロトタイプγの弱点は、フィロキセラタイプの怪人としてはあまりに脆弱な生体装甲にある。それでも通常兵器に対してはある程度の耐性もあったようだが――硫酸によってその装甲も溶かされてしまえば、無防備な内部組織を守るものはもう何もない。

 

 炸裂弾を何発撃ち込んでも怯まないのなら、まずは硫酸弾でその「鎧」を排除する。そのエメラダの読み通り、苦悶の声を上げてのたうち回るプロトタイプγは、完全に隙だらけになっていた。

 

「でかしたエメラダッ! ……よくも好き放題に弄んでくれたな、この化け物がッ!」

 

 ならば、この好機を逃す手はない。その一心でステアーAUGを構え直した朔夜は、返礼と言わんばかりの弾雨を浴びせていた。

 褐色の柔肌を這い回る触手の感覚に苛まれ続けて来た彼女は、積もりに積もった怒りをここぞとばかりに爆発させている。誰にも触らせたことなどなかったFカップの乳房に残る粘液の感触が、その怒りを倍増させていた。

 

「爆ぜて死ね女の敵ッ! 粉々になりなぁあッ!」

「……皆をいたぶってくれたお礼だよ、ありがたく受け取りなッ!」

 

 無論、怒り狂っているのは朔夜だけではない。リリエラのM203グレネードランチャーも、ここぞとばかりに火を噴いている。そんな彼女の傍で触手に絡め取られていたカミラも、怒りを露わにしてサコーM75フィンライトを撃ち続けていた。

 

「今度こそ完全にくたばりなさいッ……! このッ、ド変態クソ野郎ぉおおッ!」

 

 触手に囚われてもなお愛銃を手放さず、虎視眈々と反撃の機会を狙い続けていた彼女達4人は、ここぞとばかりに集中砲火を浴びせて行く。やがて、ニッテをはじめとする他のメンバー達もその猛攻に加勢し、全員の火力を叩き込む一斉射撃が再開されていた。硫酸弾によって装甲を溶かされ、グロテスクな内部組織を剥き出しにされた怪人の全身に、銃弾と榴弾がこれでもかと撃ち込まれて行く。

 生体装甲を失って力尽きたプロトタイプγが完全に沈黙したのは、それから間も無くのことだった。それに伴って触手も自然に消滅し、ニッテ達はようやく滑った触手から解放される。

 

「はぁっ、はぁあっ、んはぁあっ……!」

「た、助かった……! もう最悪、ほんっと最悪……! 戦闘員どころかブラもパンティも、コイツの粘液でびっしょびしょじゃんっ……!」

「ただでさえロクにシャワーも浴びれてないってのにっ……! 殺す、マジで殺すっ!」

「もう死んでるでしょ、諦めな」

 

 絶命後、機密保持のため死体を残すことなく溶解して行く青緑の怪人。その最期を見届けた解放戦線の女傑達は、艶かしく息を荒げて肩と乳房を上下に揺らしていた。全身に滲む濃厚な匂いの汗が、肌に纏わり付いた粘液を落としている。戦闘服の下に隠されている蠱惑的な下着にも粘液を塗り付けられてしまっていたらしく、その滑った感覚に女傑達は揃って眉を顰めていた。

 

 気色の悪い怪物の触手に身体中を舐め回され、下着にまで粘液を塗りたくられる……という人生最悪の体験をしてしまった彼女達の多くは、諸悪の根源たるプロトタイプγに激しい憎悪を向けている。だが、その当事者である怪人のボディはすでに泡と化し、彼女達はこの怒りをぶつける先を見失っていた。

 

 ――だが、それは一時的なものに過ぎない。彼女達はその後すぐに、この住宅街を抜けた先にある市長公邸の方角へと視線を向けていた。

 怒りの矛先に困る必要などないのだ。その憤怒は全て、このテロを引き起こしたノバシェードにぶつければ良いのだから。

 

「……かなり手こずったが、ようやく制圧完了だな。まさか、フィロキセラタイプまで出して来るとは思わなかったぞ……。銃弾を凌げない程度の装甲だったおかげで命拾いしたな、ニッテ」

「そうね。……でも、予定よりもかなり遅れてしまったわ。何とか取り返さないと、市長公邸に辿り着く前に警備を固められてしまう」

「あぁ、急がなくてはなるまい。……皆、私達に立ち止まっている時間はないのだ! そんなクズに構っていないで、直ちに出発するぞッ!」

 

 その一心の下に集まった女傑達が纏まって行く様子を見守りながら、ニッテとヴィクトリアは深く頷き合い、仲間達に出発を指示する。

 プロトタイプγの出現によって戦闘が長期化してしまった上、その怪人を倒すためとはいえ派手に暴れ過ぎてしまった。それに加えて、思わぬ「拘束」で悲鳴まで上げてしまったのだから、これまでのような潜入行動は今後難しくなる。事態を把握したノバシェードが警戒を強化する前に市長公邸に向かわなければ、救出の機会が失われてしまうだろう。急がねばならない。

 

「行こう、皆。まだ……終わりじゃないわ」

 

 これまでの怒りは全て、この先に待ち受けているノバシェードの残存戦力に注ぎ込めば良い。オーファンズヘブンの未来を賭けたこの戦いはまだ、始まったばかりなのだ。

 その意図を込めたニッテの言葉を耳にしたメンバー達は、それぞれの愛銃に次の弾薬を再装填(リロード)しながら、渋々とリーダーの後に続くように歩き出して行く。中には去り際に、プロトタイプγが消えた後に残った泡を踏み付けている者もいた。

 

「……」

「どうした?」

「いや……あいつら(・・・・)、ちゃんと無事にこの街を出られたのかな……って」

 

 そんな中。物憂げな表情で先頭を歩くニッテの横顔を覗き込み、エヴァが小首を傾げる。彼女に声を掛けられたニッテは、後ろ髪を引かれるような貌で、避難民キャンプの廃ビルが在る方角に視線を向けていた。

 解放戦線にとって、今は猫の手でも借りたいほどの苦境だというのに。それでもニッテは、異邦人達をこの戦いに巻き込みたくないという優しさで、新世代ライダー達を遠ざけようとしていたのだ。

 

「……全く。どこまでもお人好しなリーダーですね。まぁ、そんなニッテだから皆も付いて来てくれるんでしょうけど」

「ふっ。創設当初からニッテのことが心配だからと、仲間集めに奔走していたレンが言うと重みが違うな?」

「ちょっ……ヴィクトリア、余計なことは言わないでくださいっ!」

「そう言うヴィクトリアだって、ニッテが解放戦線の活動資金に困った時は、実家のへそくりを叩いてたじゃないか。ファルツ家の数少ない遺産を、さ」

「う、うるさいぞエヴァ! 私はファルツ家に名を連ねる者として、ノブレス・オブリージュを完遂しただけだっ!」

 

 ニッテの優しさに惹かれ、集まり、解放戦線を纏め上げてきた主力メンバー達はきゃあきゃあと言い合いながら歩みを進めている。

 後方を進む他のメンバー達が生暖かくその様子を見守る中、ニッテは微笑を浮かべて愛銃を握り締めていた。

 

(うん……大丈夫。このメンバー達なら、きっと……いえ、絶対に大丈夫。あいつらの力に頼らなくたって、私達なら必ず市長を救い出せるわ。私は、そう信じてる)

 

 それが如何に甘い考えであるかなど、知る由もなく――。

 




 当初の想定よりかなり長引いてしまいましたが、これでようやく全読者応募ヒロインが登場しましたね。ここから先はようやく物語の本筋に突入し、そのままクライマックスまで突っ走って行くことになります(о´∀`о)
 次回は久々にライダーサイドのお話になりますので、どうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 それから現在、ダス・ライヒ先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」では、新たな仮面ライダーと怪人を募集する読者参加型企画が展開されております! 4月16日までとのことですので、皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 グレポンに硫酸詰めたら完全にバイオなんだなぁ(´ω`)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第10話

 

 ――世界一不味いと名高い軍用糧食を何とか食べ終えた、鳥海穹哉をはじめとする4人の新世代ライダー達が、作戦会議室を後にした頃。廃ビルの屋内にあるキャンプで身を寄せ合っていたはずの避難民達は、何故か屋外に集まっていた。

 廃ビルの入り口にある「何か」を見に集まっているらしく、彼らはその「不審物」に訝しげな視線を向け、どよめいている。その様子を遠方から目撃した穹哉達も、何事かと顔を見合わせていた。

 

「なぁ君、一体どうしたんだ? こんなにたくさんの人達が外に集まるなんて、一体何があった?」

「げっ、あんた達まだここに居たのかよ。……まぁいいか。よく分からないけど、いつの間にかこの廃ビルの入り口前に、ヘンテコな『花輪』が置かれてたらしいんだ。しかも、俺達には読めない外国の言葉で何か書かれてるんだってさ」

「は、花輪だぁ……?」

 

 穹哉が避難民の男性に声を掛けると、男性は忌々しげな視線を向けながらも騒ぎの概要を口にする。その奇妙な内容に忠義が小首を傾げる一方で、視線を交わした正信とジャックは足早に「花輪」があるという屋外に向かっていた。

 ざわめく人混みを掻き分け、入り口前に置かれた場違いな現物を見つけた2人は、眉を顰めてその全体像を見上げる。まるで開店祝いに贈呈される物のような、派手な花輪が入り口の傍に立てかけられていた。

 

「これが例の花輪か……? キャンプの人達でさえ知らない物が何でここに……?」

「……! おい本田、これは!」

「なにッ……!?」

 

 すると、花輪に書かれた文字を目にしたジャックが驚きの声を上げる。その声に反応した正信が仰け反るように後ずさった瞬間、花輪に書かれていた文字の全貌が明らかにされる。

 

 ――仮面ライダー諸君、オーファンズヘブンへようこそ。ノバシェードより。

 

 花輪にはその文言が、日本語で書かれていたのだ。そのため、花輪を見つけた避難民達には内容が分からなかったのである。

 自分達がここに居ることが、すでに敵にバレている。その事実を意味する花輪の出現に正信とジャックが顔を見合わせたところで、穹哉と忠義もこの場に駆け付けて来た。彼ら2人も花輪の文字を見た瞬間、戦慄の表情を浮かべている。

 

「ノバシェード……!」

「……この花輪はいつからあった!? おいっ!」

「し、知らねぇよ! 解放戦線の皆があんた達を連れて来た時にはこんなモノ無かった! た、ただ、花輪の近くにこれがっ……!」

 

 一目見た瞬間に花輪の正体に気付いた忠義は、避難民の肩を掴んで勢いよく問い詰める。その凄みに圧倒される避難民の男性は、たじろぎながらも1枚のハガキを忠義に手渡していた。

 そこに記されていたのは、市長公邸の位置を示す住所。そこからこの避難キャンプにまで花輪を送りつけて来たということは、ノバシェードは早い段階から穹哉達の入国を察知していたことになる。

 

(……こんなふざけた真似をするクソ野郎には心当たりがある。まさかこの街にあいつが……!?)

 

 忠義の脳裏を過ぎったのは、かつて一度戦った真紅の馬型怪人(レッドホースマン)の姿だった。忠義に仮面ライダーの力を与えた天才女科学者・一光(にのまえひかる)博士を襲撃し、彼女を死の淵に追いやった因縁の宿敵だ。

 彼女が変身する「仮面ライダーバウル」の力が無ければ、撃退することも叶わなかったほどの強敵。その存在を意識した忠義は静かな憤怒に心を燃やし、ハガキを握り潰してしまう。

 

「……何にせよ、俺達の存在をすでに奴らが掴んでいることだけは確かだ。黒死兵を配備しているのも、最初から俺達の入国を想定してのことだったのかも知れん」

「このままでは俺達よりも先に、解放戦線の連中が黒死兵達に遭遇することになりかねん。彼女達の装備で奴らを仕留めるのは不可能だ、急がなくては!」

「……待って!」

 

 忠義の怒りを察しつつ、穹哉達は出動を急ぐべく自身の愛車がある方向へと走り出して行く。そんな彼らの背中に声を掛けたのは、このテロで家族と離れ離れになってしまった、1人の幼気な少女だった。

 思いがけない相手から呼び止められたことにより、4人の男は思わず足を止めてしまう。自分達に敵意すら抱いていた避難民達の1人が、縋るような視線を向けているのだから。

 

「……せっかく来てくれたのに、いじわるな目で見てごめんなさい。謝るから、だからっ……お姉ちゃん達を助けてっ! お姉ちゃん達だけは、見捨てないであげてっ!」

 

 廃ビルから走り去ろうとした穹哉達の動きを見て、逃げ出そうとしていると思ったのだろう。

 子供でありながら。否、子供だからこそ。少女は素直な願いを叫び、解放戦線を救って欲しいと訴え掛けて来る。そんな少女の前で片膝を着いた穹哉は、優しく彼女の手を取り、静かに――それでいて力強く誓う。

 

「……大丈夫。お姉ちゃん達は、お兄ちゃん達が必ず無事に連れて帰って来るよ。だから君も、キャンプの皆と一緒にここを守っていてくれ。お姉ちゃん達が安心して、ここに戻って来られるように」

「うんっ……! 約束だよ、おじちゃん!」

「あぁ、約束だ。……それと、おじちゃんはやめてね」

「うん、おじちゃん!」

「……」

 

 部分的には伝わらなかったところもあったようだが。ひとまずは安心出来たのか、少女は満面の笑みを咲かせて避難民の方へと帰って行く。

 何とも言えない表情でその背中を見送った穹哉は、生暖かく見守っていた仲間達と共に、愛車に乗り込んで行く。4人の男達を乗せた4台のスーパーマシンが走り出したのは、それから間も無くのことだった。穹哉とジャックが乗る2台のスーパーカー「マシンGドロン」と、忠義と正信が駆る2台のレーサーバイク「マシンGチェイサー」が、同時に急発進して行く。

 

「すでに解放戦線はノバシェードとの交戦を開始しているかも知れん。急ぐぞ!」

「おうッ!」

 

 すでに「仮面」と「鎧」を装着している状態で、愛車を走らせているジャックを先頭に。気を取り直した男達は、破壊されたアスファルトの上を猛烈なスピードで疾走していた。

 そのマシンのハンドルを握る穹哉、忠義、正信の3人は――その腰に巻かれた「変身ベルト」を各々の手段で起動させ、徐々に全身を専用の外骨格で覆い尽くして行く。

 

 ――変身ッ!

 

 「鎧」の展開を終えた彼ら3人の雄叫びが重なった瞬間。義憤に燃える顔を覆い隠すように、男達の頭部を保護する「仮面」が出現する。

 そのシークエンスを経て「変身」を終えた仮面の戦士達は、爆音を上げるマシンと共にこの街を駆け抜けて行く。目指す先は解放戦線のメンバー達と同じ、この街の市長公邸だ。

 

「行くぞ……忠義、本田、ジャック!」

「えぇ、行きましょうおじさん!」

「急ぐぞおじさん」

「抜かるなよおじさん」

「その話一旦置いとかない!?」

 

 人間の自由と平和を守る。その使命を帯びた戦士達はぎゃあぎゃあと騒ぎながらも、弾丸の如く真っ直ぐに戦地を目指して行く。風を切り、エンジンを噴かして爆走する4台のマシンは、すでに最高速度に達していた。

 

 ――鳥海穹哉、忠義・ウェルフリット、本田正信。彼ら3名はベルトを起動させると、「仮面ライダー」に変身するのだ――。

 





 今回は旧1号さながらの変身シーンも挟みつつ、ライダー達の出撃を描いて行くお話となりました。「シン・仮面ライダー」観たら描きたくなるんですよ……この変身シークエンス(*´ω`*)
 さてさて、次回からは再び解放戦線サイドの視点に戻り、いよいよ市長救出作戦が始まります。ようやく物語も本筋に入って来ましたので、今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 それから現在、ダス・ライヒ先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」では、新たな仮面ライダーと怪人を募集する読者参加型企画が展開されております! 4月16日までとのことですので、皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 ご丁寧に住所まで書いてあるぞ!( ゚д゚)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第11話

 

 4人の新世代ライダー達が変身・装着を終えて、それぞれの愛車を爆進させていた頃。

 市長公邸を目視出来る距離にまで接近していた解放戦線のメンバー達は、瓦礫に身を隠すように匍匐していた。彼女達は今、大量の大きな瓦礫が散乱している広い道路に部隊を展開させている。

 

 街中を見回っている数多の戦闘員。約1週間に渡るゲリラ活動の中で、その巡回ルートを完全に調べ尽くしていた彼女達は、警備が最も手薄になる時間帯とルートを事前に弾き出していた。

 ここに辿り着くまでの間、「想定外の強敵(フィロキセラ)」と遭遇して思わぬ苦戦を強いられたこともあったが、それでも誰一人として欠けることなく潜入出来ている。解放戦線の頭脳(ブレイン)であるレオナが、仲間達が持ち帰ったデータを元に完成させた、最も戦闘を回避出来る潜入ルートがあってこその成果と言えるだろう。

 

 ノバシェードの襲撃が始まった時は一介の民間人に過ぎなかった彼女達だが、もし今も正規軍に所属していれば国家を代表する女傑になっていたのかも知れない。その可能性も浮上するほど、彼女達の「才能」は抜きん出ていたのだ。

 

 むにゅりと地面に押し付けられた乳房の谷間や、地に伏せていても存在感を発揮している安産型の巨尻からは、濃厚な女の香りが滲み出ている。彼女の肉体から漂う蠱惑的な色香は、街中に染み渡る硝煙の臭いでも誤魔化し切れないようだ。

 

「……やっぱり居た、黒死兵……! しかも見立て通り、4人全員が揃ってるわ! あいつがこの街を、皆を、市長を……!」

 

 そんな彼女達を率いているニッテは、双眼鏡で公邸の門前に立つ4人の黒死兵を観察していた。

 漆黒のマネキンが野戦服を着ただけ――のようにも見えるこの怪人達が、このオーファンズヘブンを壊滅に追いやった元凶なのである。

 

 その諸悪の根源を改めて目の当たりにしたニッテは、恐怖と義憤が混じり合った眼差しで仇敵を射抜いていた。そんな彼女の隣に伏せていたヴィクトリアは、特大の爆尻をぷりんっと揺らしながら、リーダーの肩を静かに叩く。

 

「ニッテ、冷静になれ。私達の装備では、一般戦闘員の相手がやっとだ。警察や軍隊でも歯が立たなかった黒死兵に、真正面から戦って勝てる道理はない。通常兵器でも通用した先ほどの怪人とは、訳が違うのだぞ」

「……分かってるよ、ヴィクトリア。だから今回の陽動作戦なんでしょ」

 

 当然ながら、警察組織や正規軍の装備でも歯が立たなかった黒死兵に、解放戦線の銃器がまともに通用する可能性は皆無に等しい。だが、彼女達の目的は市長の救出であり、黒死兵達の打倒ではないのだ。

 

 約1週間の強行偵察を経て、敵方の戦力を把握したヴィクトリアとレオナ。彼女達が考案した作戦としてはまず、解放戦線のメンバー達による一斉射撃で黒死兵達の注意を引き付けている間に、主力メンバーの4人で公邸に突入。そして銃弾が通じる一般戦闘員達を制圧し、市長を救出。

 後はこの場を離脱し、街の外に展開している正規軍に市長の救出を伝えれば、作戦終了……という流れだ。

 

 人質さえ取り返して仕舞えば、後は正規軍による爆撃で市長公邸ごとノバシェードを一掃出来る。それに、「地の利」は解放戦線の方にある。

 これから始まる戦闘の轟音で他の戦闘員達が集まって来たとしても、安全圏まで無事にすり抜けられるルートなどいくらでもあるのだ。迷路のように入り組んだ路地裏や下水道などの脱出路は全て、メンバー全員の頭にしっかりと叩き込まれている。

 

 それに正規軍の特殊部隊が撃退された今ならば、ノバシェード側も油断し、解放戦線を過小評価している可能性が高い。その隙を突くことが、この作戦の肝となる。

 銃を持っているというだけの、無力な女子供。そのように侮られている自分達だからこそ、切り開ける道がある。それが、ニッテを筆頭とするオーファンズヘブン解放戦線の希望的観測(・・・・・)なのだ。

 

「私達は、皆を信じて前に進む。だからどうか……皆も、これが最後だと思って力を貸して欲しい。この街をあいつらから奪い返すには、皆の力が必要なの!」

 

 遮蔽物に事欠かない、瓦礫の山。そこに身を隠しながらも、ニッテがメンバー達を鼓舞するように声を張り上げる。じっとりと汗ばんだ肉体から輝かしい汗が飛び散り、豊満な乳房がどたぷんっと躍動する。

 

「市長さえ救出すれば、軍部も本腰を入れてあいつらを攻撃するはずだ。『仮面ライダー』に縋る必要もない。……私達は私達の手で、この街を取り戻す……!」

 

 爆乳を地面に擦り付け、安産型の桃尻をぷりぷりと揺らしながらも、匍匐の姿勢で黒死兵達を睨み付けているヴィクトリア。彼女も主力メンバーの1人として、仲間達にエールを送っていた。

 

「だけど……決して無理はしないこと。皆にして欲しいのは陽動であって、戦闘じゃない。あいつらが近付こうとして来たら、すぐにでも逃げろ! いいな!?」

「私達全員での生還。それが最大の目標であることを……忘れないでください」

 

 周囲に展開している仲間達を見渡しているエヴァとレオナも、乳房や巨尻をぷるんっと揺らして、それぞれの愛銃を構えていた。市長を含めた全員での生還という、最大の目標を叶えるために。

 

「よしっ……作戦開始っ! 行くわよ……皆っ!」

「了解ッ! 皆、必ず生きて帰りましょう! 全員でッ!」

 

 そして、ニッテの合図によって全員が同時に動き出し――市長救出作戦が幕を開けるのだった。黒死兵達の陽動を引き受けているエメラダ達が、たわわに実った乳房と巨尻をぷるんぷるんと揺らし、瓦礫の影から飛び出して行く。

 

 その存在を察知した4人の黒死兵達は、無謀な侵入者達を始末するべく無言でナイフを引き抜き、エメラダ達に向けて投げ付けて行く。

 彼らの正確無比な狙いで放たれた投げナイフは、確実に少女達の急所を貫こうとしていた。だが、天性の才覚を持つ彼女達は間一髪でその刃をかわして行く。

 

「きゃあっ!?」

「ひゃうぅっ!?」

 

 それでも、全員が簡単にかわせたわけではない。黒死兵達の投げナイフが戦闘服を掠めた瞬間、その箇所から美少女達の柔肌が晒け出されて行く。白や褐色の柔肌が露わになると、そこから濃厚なフェロモンがむわりと匂い立っていた。

 乳房や巨尻を覆い隠していた箇所を切り裂かれ、扇情的なブラジャーやTバックのパンティを露わにされてしまった者もいた。それでも彼女達は即座に恥じらいを振り切り、物陰に飛び込んで行く。

 

「んはぁっ、はぁあっ、はぁうっ……!」

 

 何日もシャワーを浴びていない美少女達の柔肌に、極度の緊張による汗が滴り落ちて行く。しとどに汗ばんだ肉体に染み付いた濃厚な女の香りは、遮蔽物越しであっても黒死兵達の嗅覚に届いていた。

 無慈悲な殺戮マシーン達は、遮蔽物に隠れているエメラダ達の命を刈り取るべく、野戦服の内側から次の一振りを引き抜いていた。どうやら彼らは無数のナイフを持っているらしい。

 

「させるかぁあぁあっ!」

「喰らえぇえっ!」

 

 そうはさせじと、別のポイントに配置されていた朔夜や、ブローニングハイパワーMkIIIを引き抜いたティエナ達が、一斉に身を乗り出して援護射撃を開始する。

 黒死兵達が彼女に狙いを切り替えた時には、すでに彼らの足元に投げ込まれた榴弾が炸裂しようとしていた。エメラダのM79をはじめとする、何丁ものグレネードランチャーが同時に火を噴いたのだ。

 

「今だ皆、攻撃開始っ!」

「行けぇえぇっ!」

 

 そこから迸る激しい爆煙に黒死兵達が飲み込まれた瞬間、彼らに狙いを定めたラングニル達の十字砲火が始まる。

 銃撃の反動で乳房や桃尻がぷるぷると振動し、彼女達の香りを掻き消すような硝煙の臭いが周囲を覆い尽くして行く。

 

「えいっ、えいっ! このこのっ……うひゃああ!?」

「リエリス伏せてっ! 頭を出したら危ないよっ!」

 

 メンバー最年少のリエリスも必死にシェードガンの引き金を引き、姉貴分達の一斉射撃に参加しているのだが、飛んで来たナイフに思わず悲鳴を上げてしまう。

 そんな彼女の隣でサブマシンガンを連射しているアロマが、リエリスの頭を掴んで強引に伏せさせていた。

 

 一方。激しい弾幕による猛煙を掻き分け、銃弾の豪雨を浴びながら姿を現した黒死兵達は、足元の巨大な瓦礫を容易く持ち上げると――スフル達目掛けて投げ飛ばして来た。

 

「危なっ……!?」

「……皆、避けて! いつものアレ(・・)が来るッ!」

 

 風を切る轟音と共に迫り来る、大質量のコンクリート片。その巨大な影を目の当たりにしたリリエラ達は生存本能に従い、素早くその場から飛び出して地を転がって行く。

 

 乳房と桃尻を揺らしながら辛うじてかわした彼女達の側では、周囲の建物に激突した瓦礫がさらに甚大な被害を齎していた。あまりの衝撃に崩落して行く建物がさらに多くの瓦礫を生み、砂塵を巻き起こして行く。

 

「……相変わらず無茶苦茶なんだから……!」

 

 建物の崩壊による瓦礫の飛散を、地に伏せて凌ぎながら。銃身を握り締めるカミラ達は、この1週間の中で何度も目の当たりにして来た瓦礫攻撃の威力に、冷や汗をかいている。

 このオーファンズヘブンを破壊し尽くして来た黒死兵達。彼らの尋常ならざる膂力があれば、街を壊すのに爆弾も大砲も要らないのだ。彼らは自らの腕力だけにモノを言わせるこの「砲撃」で、罪なき人々を蹂躙して来たのである。

 

「だけど……それでも! 私達は、絶対に諦めないッ!」

 

 その威力を改めて思い知ってもなお、エメラダ達は臆することなく銃を取り、攻撃を続けて行く。彼女達の目的はあくまで市長の奪還であり、制圧ではないのだ。

 

 黒死兵達を倒す必要はない。ただ食い止めるだけで良い。市長さえ取り戻すことが出来れば、後は正規軍が何とかしてくれる。

 その望みに希望を託し、彼女達は引き金を引き続けていた――。

 




 今回からはいよいよ本筋となる市長救出作戦がスタートとなります。果たしてこの作戦は上手く行くのか、ライダー達は間に合うのか。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 それから現在、ダス・ライヒ先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」では、新たな仮面ライダーと怪人を募集する読者参加型企画が展開されております! 4月16日までとのことですので、皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第12話

 

 エメラダをはじめとする解放戦線の陽動部隊は、十字砲火による一斉射撃で4人の黒死兵を足止めしていた。

 銃弾や榴弾そのものが効かなくとも、あまりにも弾幕が多いと身動きが取れなくなるのだろう。黒死兵達はナイフや瓦礫の投擲で反撃しながらも、その場からほとんど動き出せずにいる。

 

(いい調子だよ皆……! このまま行けば、あの黒死兵4人を素通りして公邸に突入出来る!)

(一般戦闘員は旧シェードの「失敗作」ばかり。改造人間ではあるが、私達の銃弾でも十分に通用する……!)

(市長、待っててください……! 今、私達が助けに行きますからっ……!)

(もう、少し……もう少っ……!)

 

 その銃撃音や爆音を背に、匍匐前進で公邸を目指す4人の主力メンバーは、作戦の進捗に確かな「手応え」を感じていた。

 豊満な乳房をズリズリと地面に擦り付け、安産型の桃尻をぷりぷりと左右に振りながら、彼女達は一心不乱に公邸に近付こうとしている。

 

 このまま行けば、最大の障壁だった黒死兵達の監視を潜り抜けて、公邸に突入出来る。そこまで辿り着いて仕舞えば、残っているのはノバシェードの一般戦闘員のみ。

 通常兵器でも通用する一般戦闘員達が相手ならば、自分達にも十分に勝機がある。市長さえ救出出来れば、もはや自分達は勝ったも同然。

 

 行ける。絶対に行ける。

 彼女達がそう確信した――その時だった。

 

「……!?」

 

 公邸に接近しようとしている4人の侵入者。その存在を察知した黒死兵達が、一斉にニッテ達の方へと振り向いたのである。

 榴弾による爆煙が晴れた瞬間、ニッテ達に狙いを定めて走り出す4人の黒死兵。その挙動を目撃した解放戦線のメンバー達に、激震が走る。

 

「あいつら、ニッテ達に気付っ……!」

「……行かせるかぁあぁああーっ!」

 

 このままでは、リーダー達が狙われてしまう。作戦が失敗してしまう。皆で思い描いた未来が、打ち砕かれてしまう。

 その焦燥に駆り立てられたサガや阿須子達は、近付き過ぎるなというエヴァの忠告も忘れ、一気に走り出していた。黒死兵達の注意を引き付ける、という目的に囚われた彼女達は、彼らの真正面に立ってしまう。

 

「ま、待って! 皆、前に出過ぎちゃダメぇっ! そいつらに近付き過ぎたら、逃げられないっ!」

「こ、このっ、来るな、来るな来るなぁあーっ!」

 

 ニッテの悲痛な叫びすら掻き消すような銃声が鳴り響き、銃弾の豪雨が4人の黒死兵に降り注ぐ。

 だが、正規軍の特殊部隊さえ退けてしまう彼らに、そんな攻撃が通用するはずもない。行手を阻む彼女達から始末しようと、黒死兵達がナイフを振り上げる。

 

「や、やめろぉおおーっ!」

 

 助けに入るには、あまりにも遠すぎる距離だった。それ故にニッテ達は、ただ悲痛な声を上げて手を伸ばすことしか出来ない。

 

 やはり自分達のような非正規兵が戦場に出ては行けなかったのか。全て無謀だったのか。自分達は、無力な子供でしかなかったのか。

 

 ――なぜあの時、素直に「彼ら」に助けを求められなかったのか。あの時に一言、言えていれば良かったのに。ただ、一言。

 

助けて(・・・)っ……仮面ライダー!)

 

 その一言が、言えてさえいれば。そんな声にならない慟哭が、4人の美少女の胸中に渦巻いた――次の瞬間。

 

「……おおおおぉおッ!」

 

 男達の絶叫が、響き渡る。堅牢な外骨格に覆われた仮面の戦士達が、高速の飛び蹴りを黒死兵達の横っ面に叩き込んだのはその直後だった。

 不意打ちの蹴りを頭部に浴びた黒死兵達が、真横に吹っ飛ばされて行く。その光景を目の当たりにした解放戦線のメンバー達は、思いがけない展開に瞠目するばかりだった。

 

「えっ……!?」

「あ、あれって……!」

「仮面……ライダー!?」

 

 美少女兵士達が、口々にその名を呼ぶ。

 あれほど強く拒んでいたのに、来てくれるはずなどないと思っていたのに――彼らは、それでも来た(・・)のだ。

 

 鳥海穹哉が変身する蒼き戦士、仮面ライダーケージ。

 忠義・ウェルフリットが変身する真紅の戦士、仮面ライダーオルバス。

 本田正信が変身する赤と白の戦士、仮面ライダーターボ。

 そしてジャック・ハルパニアが装着する赤と金色の戦士、仮面ライダーUSA。

 

 4人の仮面ライダーはさも当然であるかのように、この戦場に馳せ参じている。さらに彼らは、装甲服の上にそれぞれが愛用していたロングコートを羽織っていた。

 すでに自分達のことを知っているニッテ達に対して言外に正体を知らせ、「味方である」と伝えるための「目印」として利用しているのだ。コートの下から覗いている彼等の「ベルト」が、新世代ライダーの到着という事実を雄弁に物語っている。

 

 予め装甲服を装着してから現地に向かう仕様となっている、第1世代型。その一つであるUSAの腰部に巻かれたベルト「最大出力稼働(オーバーロード)常時展開式初期型」は、スーツにエネルギーを供給する「タンク」の役割を担っている。

 

 現地で変身出来るシステムの導入によって、高い携帯性を獲得している第2世代型のベルト「装着変身機構付次世代改良型」も、ケージ、オルバス、ターボの3人に超人的な身体能力を齎していた。特に、ジャスティアドライバーと呼ばれているオルバスのベルトからは、悪魔(オロバス)の如き力の奔流が滲み出ている。

 

 そんな男達の勇姿に、ニッテをはじめとする解放戦線の美少女兵士達は皆、信じられないという表情を浮かべている。

 

「なんで……!? 私達、助けてなんて頼んでないっ!」

「そうだろうな、俺達も頼まれた覚えはない」

「はぁ……!? じゃあなんで、なんでここまで来たのよ……!」

「ノバシェードの敵、そして人類の味方。それが俺達、『仮面ライダー』だからだ」

「……!」

「他に理由が必要だと言うのなら、君達で好きに決めてくれ。とにかくここは俺達に任せて、先を急ぐんだ!」

 

 そんな彼女達に対し、ケージを筆頭とする4人の新世代ライダーは――黒死兵達に振るう拳を通して、自分達の「答え」を示していた。例え認められることなどなくても、自分達は自分達の使命を完遂するだけなのだと。

 

「……っ! ああもう、分かったわよっ! あんた達こそ、ヤバくなったらさっさと逃げなさいよねっ!」

「皆……ここは仮面ライダー達に任せよう。作戦通りに行かなくなった以上、彼らが黒死兵を引き付けている今しかチャンスは無いッ! 全員で市長公邸に急ぐんだッ!」

「りょっ……了解っ!」

 

 散々自分達を拒絶したはずの解放戦線のために、敢然と黒死兵達に向かって行く4人の新世代ライダー。彼らは勢いよくロングコートを脱ぎ捨てると、一気に地を蹴って走り出していた。

 

 そんな男達の決意を、その戦い振りから汲み取ったニッテ達は互いの顔を見合わせ――迷いを振り切るように、陽動に当たっていた他のメンバーも合わせた「全員」で、公邸に突入して行く。

 

 ライダー達が陽動を引き受けている今ならば、解放戦線のメンバー全員で市長の救出に専念出来る。この好機を逃す手はない。ニッテは確実に目的を達成するべく、ライダー達の参戦を「利用」する判断を下したのだった。

 

「……本当に……気を付けてよねっ……!」

 

 だが。彼女をはじめとする美少女兵士達は皆、公邸に突入する直前――激しい殴り合いを繰り広げているライダー達の方へと振り返り、物憂げな表情を浮かべていた。

 

 全員での生還。その中には、ライダー達のことも含まれているのだと言わんばかりに――。

 




 いよいよライダー達も合流し、バトルもクライマックスに向かい始めております。今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第13話

 

 今年に入ってから世界各地に出没し、その圧倒的な強さで数多の都市を陥落させて来た黒死兵。彼らと幾度となく交戦し、襲われた都市を解放して来たライダー達にとっては、彼らはもはや「慣れた相手」なのだ。

 

 無論、強敵であることに変わりはない。それでもライダー達には、恐れる必要などないと言い切れるほどの「経験値」がある。

 

「ハァッ! トゥ、トゥイヤッ!」

「トゥッ! トォアッ!」

 

 それを裏付けるように。彼らは黒死兵達のナイフを鮮やかな後ろ回し蹴りで払い落とすと、顔面目掛けて強烈な裏拳を連続で叩き込んでいた。

 

「行くぞ皆ッ!」

「おうッ!」

 

 その流れるような連撃に、黒死兵達が大きく仰け反った瞬間。歴戦のライダー達は力強く声を掛け合い、彼らを一掃するべく「必殺技」の体勢に移って行く。

 ケージの掛け声に応じたライダー達は、各々が標的としている黒死兵達に向かって一気に走り出して行った。

 

「はぁあぁあーッ!」

 

 空中で身体を捻り、飛び蹴りの体勢に入ったケージの「ジャッジメントストライク」が唸りを上げ、1人目の黒死兵のボディに炸裂した。

 

「でぇえぇッ……ああぁああァッ!」

 

 滞空しながら上体を翻し、後ろ回し蹴りの体勢へと移行していたオルバスも。足裏にある蹄鉄の意匠に眩い電光を纏わせ、渾身の一撃「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」を2人目の顔面に叩き込んで行く。

 

「ライッ、ダアァアァッ! スゥマアァアァッシュッ!」

 

 エネルギーを右腕の拳に集中させたUSAも、渾身の力を込めたストレートパンチ「ライダースマッシュ」で、3人目の横っ面を殴り飛ばしてしまった。

 

「エクストリーム――シャフトスラッシュッ!」

 

 そして、専用拳銃「シャフトブレイカー」にソードイグニッションキーを装着したターボは。刀剣形態(ソードモード)に変形させた直後に再びキーを捻ることによって刀身にエネルギーを集中させ、4人目の身体を袈裟斬りにしてしまうのだった。

 

 そんな彼の「エクストリームシャフトスラッシュ」が決まり、4人目のボディが二つに切り分けられた瞬間。新世代ライダー達の必殺技を浴びた4人の黒死兵達は、同時に爆散してしまうのだった。

 

「よし……仕留めたッ! 皆、市長公邸に向かうぞ! 先に突入した彼女達が気掛かりだ……!」

「了解ッ……!?」

 

 その爆炎を見届けたケージは自分達の勝利を確信し、ニッテ達の後を追うべく公邸に向かおうとする。そんな彼にオルバスが続こうとした――その時だった。

 

 4人の黒死兵を飲み込んだ爆炎の向こうから――1台の兵員輸送車が走って来たのである。ケージ達の目前で停車したそれが単なる輸送車ではないことは、彼らも本能で察知していた。

 

「M59……? 見掛けはベトナム戦争期のアメリカ軍車両……のようだが、どうやらただの輸送車ではないようだな」

「……ご丁寧なことだ。あちらさんから出向いて来るとは」

「先行した彼女達の生命反応は一つも途絶えていない。……どうやらこいつ、彼女達を素通りして直接俺達のところに来たようだ」

 

 ケージとUSAが険しい声を漏らす一方で、ターボはニッテ達の生命反応に変化がない点に気付き、この輸送車の目的が自分達であることを見抜いていた。

 

「……見てくれは単なる輸送車だからな。恐らく彼女達も、公邸から逃げ出した敗残兵の車だと思って、相手にしなかったのだろう」

「そして真っ直ぐに俺達のところに来たってわけだ? モテる男は辛いねぇ〜、どうやら俺達の魅力は無機物までメロメロにしちまうらしい」

 

 冷静に状況を分析するケージに対し、オルバスは軽口を叩きながらエンジンブレードを構えている。輸送車の車体上部に搭載された重機関銃が、彼ら目掛けて火を噴いたのはその直後だった。

 

「……ッ!」

 

 ライダー達は咄嗟に両腕で防御姿勢を取り、「挨拶代わり」の掃射を凌ぎ切る。銃撃に伴う硝煙が立ち込める中、彼らは蚊が刺した程度にも効いていないと言わんばかりに、ひらひらと手首を振っていた。

 

「……へっ、ブローニングM2か。随分とノスタルジックな代物を持ち出して来るじゃねーか。物持ちの良い奴は嫌いじゃないぜ」

 

 ブローニングM2重機関銃。その銃口から連射された弾丸を防ぎ切ったオルバスは、仮面の下で皮肉混じりな笑みを浮かべている。

 そんな彼らの殺気を敏感に感じ取ったのか――輸送車のハッチが即座に開かれ、そこから仮面ライダーRCがゆっくりと身を乗り出して来た。

 

「……どうやらただのロボット怪人、というわけではないようだが。どんな相手だろうと、ノバシェードの尖兵として立ちはだかるのなら容赦はせん」

 

 その異様な姿と気迫に戦慄を覚えながらも――ケージを筆頭とする4人の新世代ライダーは、剣や拳を構えて臨戦態勢に突入していく。

 

「……標的の4名を捕捉した。これより、『学習(ラーニング)』を開始する」

 

 そんな彼らと対峙することになったRCは、濁った機械音声で独り静かに呟いていた。

 ひび割れたアスファルトの上に降り立った鈍色の怪人は、俯いていた顔をゆっくりと上げ、静かに両手を広げる。その大きな複眼からは、禍々しい輝きが放たれていた。

 

 それは「学習」という名の、「戦闘」を始める合図だったのである。

 

 ◆

 

 ――よぉ、あんたか。なんだなんだ、心配になってわざわざ連絡して来たってのか? ハッ、見かけによらず過保護なんだな。LEPなら今頃、仮面ライダーの坊主達と遊び始めた頃だろうよ。余興としてくれてやった俺の花輪、さぞかし大ウケだったろうなぁ。

 

 ――心配しなくたって、こんなところでブッ壊されるようなLEPじゃねぇよ。そんなことはあんたの方がよく分かってることだろう?

 

 ――47年前、あんたがツジム村で鹵獲したティーガーIの現地改修車。アレを羽柴が「タイガーサイクロン号」と名付けて乗り回すようになってから、アイツは「仮面ライダー羽々斬(ハバキリ)」と呼ばれるようになった。

 

 ――だが、その名で呼ばれた最初の男はアイツじゃあない。あの外部端末(ロボット)は最初から、LEPを積んだ装甲車と併せての運用を前提とする設計で、清山に造られていた。仮面という名の外装で何もかも覆い尽くした、マシンありきのブリキ野郎。だから……「仮面ライダー」の名を最初に与えられた。

 

 ――その「始祖様」が直々に出張っていらっしゃるんだ、ここはドンと構えて見守ってやろうじゃねぇか。あのRCこそが……この世界にとっての、「仮面ライダー0号」なんだからよ。

 




 今回の黒死兵戦で新世代ライダー達がかましていた「後ろ回し蹴り→連続裏拳」のコンボは大野剣友会の殺陣を意識しておりました。アカレンジャーやXライダー、アマゾンのアクションでよく観た動きでございます……(*´꒳`*)
 それから現在、ダス・ライヒ先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」では、新たな仮面ライダーと怪人を募集する読者参加型企画が4月16日まで開催されております! そろそろ締切間近のようですし、皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第14話

 

 その頃、市長公邸の屋内では――入り組んだ廊下や階段等を遮蔽物として活用する、苛烈な銃撃戦が繰り広げられていた。

 突撃銃(アサルトライフル)で武装した一般戦闘員達の猛攻を凌ぎつつ、ニッテを筆頭とする解放戦線の美少女兵士達は、各々の愛銃を手にこの死線を潜り抜けようとしている。

 

「ヴィクトリア、援護(カバー)お願い!」

「任せろッ!」

 

 公邸内廊下の曲がり角に身を隠し、突撃銃の弾雨をかわしているニッテとヴィクトリア。

 彼女達2人は互いの息を合わせ、僅かな「隙」を狙い澄まして物陰から引き金を引いていた。ニッテのAk5とヴィクトリアのSpearが同時に火を噴くと、その銃撃の反動により2人の乳房と桃尻がぷるぷるっと躍動する。

 

「き、貴様らッ……ぐはぁああッ!」

「何をしている!? 相手は生身の人間、それも女子供だぞッ!」

 

 その応射に全身を蜂の巣にされた一般戦闘員達が、次々と倒れ伏して行く。特殊部隊顔負けの立ち回りで突入して来る解放戦線の技量に、彼らは驚愕するばかりだった。

 警察組織や正規軍ですら通用しないノバシェード。そんな圧倒的な「格上」を相手にゲリラ戦を展開して来た彼女達の練度は、もはやただの民兵とは呼べない域に到達しているのだ。

 

「そう……私達は、ただの人間よ。だからこそ、あんた達にはない武器がある!」

「中途半端な改造人間の力に胡座をかき、己の行いを顧みぬ貴様達には……死んでも手に入らない、『勇気』という武器がなッ!」

 

 改造人間としての「与えられた力」に溺れた者達では決して得られない、自らの意志で掴み取った力。人が「勇気」と名付けたその力が、ニッテとヴィクトリアの背を押している。

 

「そう、あんた達のようなクズ共には分からない力……それが私達にはある!」

「だから……あなた達のような輩には、決して屈しないのですッ!」

 

 さらに別の通路から飛び出して来たエヴァとレオナが吼え、その手に握られたHK416とXM8が火を噴く。彼女達の巨尻がばるんっと揺れ、激しい銃声が立て続けに鳴り響き――これでもかと蜂の巣にされた戦闘員達は、敢え無く割れた窓から墜落して行くのだった。

 

 ――だが、精神力だけで本来の力の差を覆せるほど、実戦の世界は甘いものではない。

 

「あぐぅッ……!?」

「小娘共が調子に乗りやがって、何が勇気だ! そんな曖昧なものに縋るしかねぇから、てめぇら人間は弱いんだよッ!」

 

 この通路を制圧した、とニッテ達4人の主力メンバーが僅かに油断した瞬間。

 物陰から飛び出して来た数人の戦闘員達が、瞬く間に彼女達の豊満な肉体を組み敷いてしまったのである。

 

 ――しかも彼らは、ただの戦闘員ではなかった。

 半年前のエンデバーランド事件でも猛威を振るった、「腕力特化型」の戦闘員だったのだ。ヘレン・アーヴィング特務捜査官を追い詰めたあの怪物達が、ニッテ達の前にも現れたのである。

 

「うぁあっ!?」

 

 床に押し付けられた美少女達の豊穣な乳房がどたぷんっと揺れ動き、官能的な呻き声が上がる。彼女達の甘い悲鳴と、たわわな爆乳の躍動に下品な笑みを浮かべた戦闘員達が、その胸元に手を伸ばすのは――必然だった。

 

「い、いやぁあっ! やめろっ、離せぇっ!」

「へへへっ……! 散々イヤらしい匂い振り撒いて、ドスケベな乳とケツばるんばるん揺らしといて……今さら何を日和っていやがるッ!」

 

 解放戦線を率いて来た、強く気高い4人の美少女。

 彼女達の戦闘服が力任せに破り裂かれ、その下に隠された極上の柔肌が晒け出されて行く。衣服の下で熟成されていた芳醇な女の香りを、戦闘員達は鼻腔で堪能していた。

 

 粗悪な「失敗作」とは言え、彼らも改造人間であることには変わりない。鍛え抜かれているとは言っても「生身の女性」に過ぎないニッテ達の腕力で、まともに抵抗出来るはずもなかった。

 並の戦闘員よりも膂力が上の腕力強化型が相手では、エヴァのCQCも通用しない。人間がどれほど鍛えてもゴリラには勝てないように、そもそもの能力値があまりにも乖離し過ぎている。

 

「いやっ、あぁあぁあっ!」

「ハハハッ、良い格好だぜ! 市長の野郎を盾にするまでもなかったなァ!」

「き、貴様ら、ぁあぁっ……!」

 

 彼女達は為す術なく身包みを剥がされ、あられもない下着姿にされてしまうのだった。

 豊穣な爆乳を包むブラジャーも、引き締まったウエストも。安産型の桃尻に深く食い込んでいる、Tバックのパンティに至るまで。これまで一度も男に見せたことなどなかった処女(バージン)達の肉体が、悪辣なテロリスト達の視線に晒されて行く。

 

「や、やめろ、やめろぉおおっ! こっ、このっ……ぐうっ!?」

「改造人間の力で生身の女を可愛がる(・・・・)と、す〜ぐに壊れちまう(・・・・・)のが悩みどころだったんだが……お前らほどのタフな連中なら、一晩(・・)くらいは持つかもなぁ!?」

「こ、殺す……絶対に殺してやるッ……!」

 

 ニッテ達は羞恥に悲鳴を上げながらも、恐怖と恥辱に屈することなく戦闘員達を押し退けようとする。だが、彼らは美少女達のか細い両腕を難なく掴んで床に押し付けてしまった。

 汗ばんだ彼女達の肉体から滲み出るフェロモンを堪能しつつ、彼らは無防備に晒された腋を嗅ぎ回り、その窪みに舌先を這わせて行く。柔肌を這う舌の滑りを敏感に感じ取ったニッテ達の背筋に、ぞくぞくと悪寒が走る。

 

「ひっ、ぃいっ……!?」

「お前ら何日シャワー浴びてねぇんだぁ? ドスケベなメスの匂いがここからプンプンしてるぜぇ〜ッ!」

「う、うるさい! 好きで浴びてないわけじゃ――きゃあぁあっ!?」

 

 さらに彼らは、無遠慮に美少女達の爆乳と桃尻を掬い上げるように揉みしだき、ブラジャーまで剥ぎ取って行く。たわわな乳房がその弾みでたぷんっと弾み、先端部を辛うじて死守している「最後の砦(ニプレス)」まで露わにされた。

 

「や、ぁああぁあっ……! やめっ……!」

「怖がることはないぜぇ、今に皆一緒(・・)になれるさッ! お仲間のメス豚共も全員取っ捕まえて、今日は夜通し『宴』だァッ!」

 

 無論、そこで満足するような甘い連中ではない。残された「最後の砦」を取り払うまでの「余興」すら愉しむかのように、彼らは嗤う。

 

(もう、ダメっ……!)

(ちくしょうがぁあっ……!)

 

 ――壊される(・・・・)。純潔も、尊厳も、魂さえも。

 

 その「瞬間」を、ただ待つしかない状況だった。そんなニッテ達のむっちりとした太腿を、男達が持ち上げて行く。「覚悟」を強いられた美少女達はきつく瞼を閉じ、ピンと伸びていた足指をきゅっと握り締める。

 

 靴まで脱がされ、外気に晒されたニッテ達の裸足から漂う特濃の芳香。その香しい匂いすら男達は鼻腔で愉しみ、足指や足裏から、膝裏にまで舌を這わせている。

 

 幾度となく瓦礫だらけの地を蹴り、数多の困難を踏み越えて来た、扇情的な足先。不屈の象徴とも言うべきその足指にまで、男達は下品な視線を向けて舌先を滑らせていた。尊厳の破壊、という言葉でも足りないほどの冒涜に、ニッテ達は大粒の涙を貯めている。

 彼女達の頭から爪先に至るまでの肉体全てが、匂い立つような色香を振り撒き。男達の獣欲をこれでもかと掻き立てていた。ニッテ達の豊満な肢体に喉を鳴らす彼らは、思い思いにその極上の女体を組み伏せている。

 

「でっけぇ乳とケツ見せ付けやがって……おほっ、張りも柔らかさも堪んねぇ! 娼婦の類でも敵わねえカラダしてやがる……! たぁっぷりと可愛がってやるぜぇっ……!」

「こりゃあ、そこらの女共とは比べ物にならねぇな……! この触り心地最高の乳、揉み応え抜群のケツ! 男を誘うために生まれて来たような、このカラダと匂い! こいつらを一晩中抱ける金で、一体どれくらい稼げるか想像もつかねぇなァ……!」

「仲間達なら他にも居るんだ、明日の朝まで壊れる(・・・)んじゃねぇぞぉ……!?」

「あ、はぁあっ……! い、やぁあっ……!」

 

 そして、欲望の赴くままにニッテ達の柔肌を舐め回していた男達は――乙女の聖域を踏み躙るようにパンティにまで手を伸ばし、恥辱に震える彼女達の乳房に口先を寄せて行く。彼らの滑った舌先が、今度は乳房全体を念入りに味わおうとしていた。

 迫り来る絶望に抗う術はなく、ニッテ達はただ唇を噛み締め、瞼を閉じて「その瞬間」を覚悟するしかない。やがて男達の舌先が、ぷるんと波打つ白い果実の「頂」に触れる。

 

「が、あッ……!?」

 

 ――が。彼らの暴行が、それ以上の「段階」に進むことはなかった。

 

「……なら、その弱い人間にいいようにやられる気分を教えてやる。覚悟しろッ!」

「腕力特化型か……面白い! 僕達の銃弾がどこまで通じるのか、君達で実験させて貰おうではないか!」

 

 この通路に駆け付けて来た他の美少女兵士達の銃弾が、戦闘員達の脳味噌を片っ端から吹き飛ばして行ったのである。ステアーAUGを構えた朔夜と、RL-6を携えたラングニル。真っ先に馳せ参じた彼女達2人はじめとする他のメンバー達も、その乳房と桃尻をばるんばるんと揺らして合流して来たのだ。

 

「こ、このメスガキ共ッ――おごッ!?」

 

 そんな彼女達の肉体から漂う、芳醇にして濃厚な「女」の匂い。何日もシャワーを浴びていない美少女達の肢体に滲む、特濃の芳香。

 その香りを嗅覚で感じ取った戦闘員達は、突入して来る朔夜達を迎撃するべく突撃銃を構えるのだが――引き金を引く前に、予期せぬ方角からの「狙撃」で頭を撃ち抜かれてしまった。

 

「……ジャックポット。これで良い?」

「さっすがリーダー達だねぇ。『女の武器』を駆使してくれたおかげで、楽に狙えたわ」

 

 先ほどの連射で割られた窓ガラス。その向こうに聳え立つ廃墟や木々の中から、スコープの反射光が輝いている。木の葉の陰からは、大きな弓の一部が覗いていた。

 TAC-50スナイパーライフルを持ったエレインと、コンパウンドボウを構えているティエナ。彼女達はじめとする一部の狙撃メンバー達は、ニッテ達の突入に合わせて彼女達と一旦別れ、屋外から戦闘員達を狙える高所に移動していたのだ。

 

 美少女達の肉体に目が眩み、警戒を怠った愚かな男達は皆、彼女達の狙い澄ました1発によって「命」という高い代償を払わされたのである。

 例え腕力強化型だろうと、粗悪な改造人間に過ぎない戦闘員の一種である以上、急所を撃ち抜かれれば即死するしかないのだ。

 

 彼らの哀れな最期を見届け、銃身を下ろした美しきスナイパー達の乳房や巨尻が、その身動ぎに応じてぷるんっと揺れ動く。

 自分達の狙撃によって斃れた男達の屍を、この美少女達は汚物を見るような冷酷な視線で一瞥していた。

 




 今回は久々に腕力特化型の戦闘員も出しつつ、市長公邸に突入するエピソードとなりました。彼女達の最大目標である市長救出まであと少し! 次回もどうぞお楽しみに〜!٩( 'ω' )و
 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第15話

 

 ニッテ達の白く豊満な肉体を組み伏せ、戦闘服をズタズタに引き裂き、純潔を穢そうとしていた腕力特化型の戦闘員達。

 その愚かで欲深い男達は皆、エレインをはじめとする別働隊によるヘッドショットで、痛みを知る暇もなく地獄に叩き落とされていた。そんな彼らの最後を見届けた美しき女スナイパー達は、一仕事終えたと言わんばかりに髪を掻き上げている。

 

「……ん、ふぅっ……」

 

 口先では余裕ぶっていた彼女達だが、内心ではニッテ達の窮地に肝を冷やしていたのだろう。

 その頬から伝う冷や汗が、きめ細やかな柔肌を伝い、豊満な巨乳の谷間へと滴り落ちていた。艶かしい吐息が、そのぷっくりとした唇から漏れ出ている。

 

 長らくシャワーを浴びていない極上の肉体はさらに汗ばみ、乳房の深淵から濃厚な匂いが立ち込めている。雄の本能を掻き立てる特濃のフェロモンが、その柔肌全てからむわりと漂っていた。

 そんなエレイン達に遠方から見守られる中、朔夜達の手を借りて起き上がったニッテ達は、肌を隠すために戦闘員達から野戦服を奪い取っていた。「生着替え中」の彼女達を守るべく、ラングニル達は各々の愛銃を構えて周囲を警戒している。生まれたままの白い柔肌を戦闘服の生地がなぞる、蠱惑的な衣擦れ音だけがその場に響いていた。

 

「あ、ありがとう皆……!」

「危ないところだったね……! でも、もう大丈夫よ。全員揃った私達は無敵なんだからっ!」

「……えぇ、そうね」

 

 やがて着替えを終えた4人は、仲間達に礼を述べながらそれぞれの愛銃を手に取って行く。勝ち気な笑顔を咲かせるカミラの力強い言葉に、ニッテをはじめとする主力メンバー達は自分達の甘さを恥じるように俯き、愛銃の銃身を握り締めていた。

 戦闘員達から奪った野戦服に袖を通した今も、彼女達の頬は羞恥に染まっている。ブラジャーもパンティも破られた今、彼女達の肌を辛うじて隠しているのはその野戦服と、乳房の先端を保護しているニプレスだけなのだ。

 

「あっ、く、ふぅっ……」

「んんっ……はぁうっ……」

 

 サイズが合ってないせいもあり、胸と尻の部分は今にも内側から張り裂けてしまいそうなほどにぴっちりと張り詰めている。野戦服の繊維に生まれたままの柔肌を擦られ、彼女達は頬を染めて甘い吐息を漏らしていた。

 身動ぎするたびに素肌に密着した繊維が、白い生乳と生尻をスリスリと撫でる。そのゾワゾワとした感触に恥じらうニッテ達は、自分達の状況を嫌というほどその身体に教え込まれていた。

 

(こっ、この感じ……めちゃくちゃ落ち着かないっ! こんな状態で戦うって考えるだけで、ヘンな気分になりそうっ……!)

(何という屈辱だっ……! 由緒正しきファルツ家の者が、こ、このような格好でぇっ……!)

(や、やだ……エヴァっ! そんなにこっち、見ないでくださいっ……!)

(……レ、レンの方こそ見るんじゃないよぉっ……!)

 

 もしこの野戦服まで破られてしまえば、今度こそ彼女達のあられもない姿が完全に暴露されてしまうのだ。ニッテ達は互いに頬を赤らめながら恥じらいの表情で互いを見遣り、無意識のうちにくびれた腰をもじもじとくねらせていた。

 

 「乙女の聖域」を本能的に守ろうとしている4人の女傑は、内股になってむっちりとした太腿を擦り合わせている。鼠蹊部にじっとりと染み込んだ濃厚な汗の香りが、そこからも滲み出ていた。

 

 ――何とか貞操の危機を切り抜けることは出来たが。今こうして朔夜やカミラ達が駆け付けて来られたのは、新世代ライダー達が黒死兵の相手を引き受けたことで、陽動に徹するはずだった人員も前線に投入出来たからだ。

 

 もし陽動作戦が成功し、主力メンバー4人が無事に市長公邸に突入出来ていたとしても、ライダー達が居なければ結局は腕力特化型の戦闘員に敗れ、先ほどのように組み伏せられていたのだろう。そこから先の光景など、想像もしたくない。

 

 屋内においては、銃の照準も間に合わないほどの近接戦闘に遭遇する確率も高まって来る。そうなった時に腕力特化型と鉢合わせすれば、基礎体力で圧倒的に劣る彼女達には万に一つも勝ち目がない。一般戦闘員相手ならばCQCで対処出来るエヴァですら、腕力特化型には手も足も出なかったのだから。

 

 それに、腕力特化型に限った話ではない。始祖怪人からの訓練を受けた戦闘員達は皆、銃弾が通じると言っても決して簡単な相手ではないのだ。

 それが分かっていたからこそ、新世代ライダー達は黒死兵達の相手を引き受けていたのである。解放戦線のメンバー全員で、市長の救出に注力させるために。

 

「……何もかも未熟だったのね、私達。きっとあいつらも、それに気付いていたから……」

「何の話だ?」

「ううん、何でもないわ。……行きましょう、皆! 何としても市長を助け出すわよッ!」

 

 自分達は確かに甘かった。だが、それを恥じて立ち止まっている場合ではない。悔いるよりも先に、やるべきことがある。

 

 そう思い立ったニッテとエヴァは先ほどの反省を踏まえて、近距離での遭遇戦に少しでも対応出来るよう、腰のホルスターに収めていたグロック17に持ち替えていた。

 そして朔夜をはじめとする他のメンバー達を率いて、市長が囚われている上階へと駆け登って行くのだった。

 

 ◆

 

 旧シェードのテロによって実の親兄弟を失って以来、解放戦線の女傑達はベイカー市長の保護下で育って来た。そんな彼女達にとってこの市長公邸は「実家」に等しく、建物内の構造も作戦前から熟知していたのだが――それでも、上階までの道のりは決して易しいものではなかった。

 1週間前から公邸を占拠していたノバシェードの戦闘員達はその間、侵入者の行手を阻む「仕掛け」を屋内の至る所に施していたのである。

 

「ああもうっ、また変なロックが掛かってる扉だわ! こんなところでモタモタしてる場合じゃないってのにっ! ……レン、また頼める!?」

「この手の謎解きなら任せてください! ……ふん。こんなモノを公邸中に仕掛けているなんて、私達の侵入を想定していた証ですね。ノバシェードともあろう連中が、なんて大人気ないっ!」

 

 部屋に隠されたヒントを頼りに、暗号を解かねば開かない扉。特定の石板を窪みに嵌めないと、足場が完成しない階段。敢えて床を脆くした、幾つもの落とし穴。

 それら全てのギミックを知恵と勇気と友情で潜り抜け、ニッテ達はベイカー市長が待つ上階を目指している。

 

「……よし! 開きましたよ! 鍵がッ!」

「でかしたッ!」

 

 レオナの頭脳を頼りに数々の「仕掛け」を攻略し、先のフロアへと進み続けて行く解放戦線の女傑達。彼女達は乳房と桃尻を揺らし、くびれた腰を左右にくねらせ、公邸内を駆け抜けて行った。

 

「居たぞぉおぉ! 居たぞおぉおお!」

「解放戦線のメス豚共だッ! 1人残らずブチ殺せぇえッ!」

「ペラペラソォオース!」

 

 そんな彼女達を迎え撃つように現れた戦闘員達の怒号が轟き、銃声が響き渡る。この公邸内には、まだ多くの戦闘員が潜んでいたようだ。市長を無事に奪還することが目的である以上、彼らとの戦闘を避けるわけには行かない。

 

「……ッ! あいつら、ここで待ち伏せていやがったのかッ!」

「こうなったら……全員倒すしかないわねッ!」

「データ収集には最適だねぇ……! 腕力特化型は、何発撃てば死んでくれるのかッ!」

 

 行手を阻む戦闘員達を矢継ぎ早に射殺し、その屍を跳び越えて少女達は進む。ニッテとエヴァはグロック17を、ラングニルはRL-6をC.A.R.システムの要領で斜めに構え、狭い通路から飛び出して来る腕力特化型の眉間を瞬時に撃ち抜いていた。

 格闘戦になれば勝ち目は薄いが、掴まれなければどうということはない。2度も同じような相手に手こずる彼女達ではないのだ。

 

「あがぁッ……! こ、このメス豚共がッ……! 改造人間が、改造人間がこの程度でッ……!」

「いい加減にッ……!」

「くたばりやがれッ!」

 

 顔面を撃ち抜かれながらも辛うじて即死を免れ、苦悶の声を上げる2人の戦闘員。そんな彼らにとどめを刺すべく、ニッテとエヴァは体重を乗せた渾身の回し蹴りを繰り出していた。白く長い彼女達の美脚が勢いよく振り抜かれ、その首を一撃でへし折って行く。

 鈍い衝撃音と共に男達の命が絶たれた瞬間、2人の白い乳房と桃尻は、蹴りの反動でぷるるんっと瑞々しく弾んでいた。

 

「殺せるものなら……殺してみろッ!」

「ぐぉ、あッ……!?」

 

 さらに。メンバー達の中でも特に好戦的な阿須子は、全身の包帯を押し上げる巨乳と巨尻をぶるるんっと弾ませながら、銃剣による鮮やかな刺突で腕力特化型の喉笛を貫いていた。その弾みで顔を隠していた包帯がはらりと落ち、彼女の美しい顔と長い睫毛が露わにされる。

 

 何日も替えていない包帯の下に隠されている、生まれたままの白い柔肌。そこから漂う濃厚な匂いに誘われた悪漢は、邪魔な包帯を剥ぎ取って極上の裸身を拝もうとしていたのだが――どうやら、そんな願いは終ぞ叶わなかったらしい。

 

「……さすがだな、バンテージ。腕力特化型を格闘戦で仕留めるとは」

「コイツらは腕力だけが取り柄。……掴み合いに持ち込ませなければ、そこらの雑魚と変わらない」

 

 戦闘員の屈強な腕が、阿須子の豊満な身体を組み敷くよりも疾く。その鋭い刃先による一閃が、男の命を刈り取ったのである。

 銃剣の扱いにおいてはヴィクトリアの上を行く阿須子ならば、掴まれるよりも先に戦闘員を刺殺出来るのだ。そんな彼女の鋭い銃剣捌きに、共に戦っていたヴィクトリアも感嘆の声を漏らしている。

 

「うぐぁ、あぁあ……!」

「……ハァッ!」

 

 致死量の鮮血を首から噴き出し、屍と化して行く戦闘員の身体を退かすように。阿須子の鋭いハイキックが戦闘員の延髄に炸裂したのは、その直後だった。美しい弧を描いた白く肉感的な美脚が、力尽きた戦闘員の身体を真横に蹴り飛ばしてしまう。

 

 長く優美な脚を振り上げたことによって強調された太腿の付け根からは、特に濃厚な香りが匂い立っていた。蹴りの反動でぶるんっと揺れ動いた巨乳と巨尻からも、雄を狂わせる芳香が滲み出ている。

 寡黙で男性的な佇まいとは裏腹な、女としての極上の色香。全身を覆う包帯姿でも隠し切れないそのフェロモンには、同性のニッテ達も思わずを息を呑んでいた。

 

 それからも怒涛の快進撃は続き――最後の扉を抜けたニッテ達はついに、縛り上げられていたドナルド・ベイカー市長の元に辿り着いたのだった。

 

「おぉ、君達は……!」

「市長っ! 良かった、本当に良かった、ご無事でっ……!」

 

 ニッテ達はぼろぼろと涙を零しながら、親代わりである市長の胸元に飛び込んで行く。クールで在ろうと思いながらも平静を保ち切れず、涙で頬を濡らしていたヴィクトリアは懸命に滴を拭い、市長の拘束をナイフで解いていた。

 

「市長を確保……! 皆っ、市長は……市長は無事だっ……!」

「聞いた!? 市長……無事だって!」

「やったぁあぁっ!」

「……うわぁあぁんっ! よかったよぉおおっ!」

 

 彼女の報せを耳にした後続のメンバー達が、乳房と臀部をたぷたぷと揺らして歓声を上げる。遠方から様子を見守っていた狙撃メンバー達も、ほっと胸を撫で下ろしていた。リエリスは安堵の気持ちからわぁわぁと泣き出してしまい、他のメンバー達にあやされている。

 

 オーファンズヘブン解放戦線はこの瞬間、最大の目標をついに達成したのだ。その喜びをメンバー達全員で噛み締める中、拘束から解放された市長は彼女達の姿や装備、そしてリエリスの泣き声から「これまでのこと」を察し、沈痛な面持ちで首を垂れる。

 

「皆……本当に済まなかった。私達大人が不甲斐ないばかりに、君達のような若者に銃を握らせてしまうとは……!」

「……もういいんです、市長。身寄りのない私達を引き取って下さっていた御恩を思えば、ここで銃を取らないわけには行かなかったんです」

「さぁ、早くここを脱出しましょう! 黒死兵達なら仮面ライダーが抑えてくれています、今のうちに……!?」

 

 そんな彼を労わり、ニッテが肩を貸す。その様子を見守りつつ、レオナが仲間達を率いてこの公邸から脱出しようとした――次の瞬間。

 

「きゃあっ……!?」

 

 公邸に繋がる道路の方角から、凄まじい衝撃音が鳴り響き、この場に居る者達を戦慄させた。

 

「な、なんだ!? 今の轟音は……!」

「もしかして、ライダー達が危ないんじゃあ……!」

 

 新世代ライダー達の身に何かが起きていることは明白であり、朔夜やラングニル達はどよめきながら互いに顔を見合わせている。

 そんな中、ニッテ達と「入れ違い」になる形で公邸から出発していた兵員輸送車の動向を目撃していた市長は、その車内に搭載されていたロボット怪人の仕業であると即座に気付き、わなわなと肩を震わせていた。

 

(あの輸送車はこの子達を無視して移動していた……! まずい、やはりあの怪人はライダー達を狙って……!)

 

 「始祖怪人」という概念までは知らずとも、黒死兵達を指揮していた銀髪の男や、輸送車に積まれていた怪人が「別格」であることを肌で理解していた彼は、新世代ライダー達に迫っている危機の重大さを察し、焦燥に駆られている。

 

「……」

「ニッテ……? どうしたのだ、さっきから黙ったままで」

 

 その一方で。何か思い詰めた様子で、道路の方角を見詰めていたニッテは、ヴィクトリアの言葉を背に受けると――乳房を揺らしながら、ある決心を固めた表情で振り返っていた。

 

「……ごめん、皆。市長を連れて先に逃げて。私……少しだけ、『野暮用』が出来ちゃった」

「ニッテ……」

「あははっ……バカみたいだよね、私。ノバシェードも仮面ライダーもおんなじだーって、散々ぶちまけた後なのにさ。きっとあいつらだって……そう思うよ」

 

 自嘲するように乾いた笑みを零しながら、ニッテはたぷんたぷんと爆乳を揺らし、独りこの部屋を後にしようとする。彼女と同じ決断を下したヴィクトリア達が、行手を阻むように立ちはだかったのは、その直後だった。

 

「……ニッテ。その『野暮用』、私達も一枚噛ませて貰うぞ」

「ヴィクトリア……皆……!」

 

 考えていることは、彼女達も同じだったのである。決意に満ちた女傑達の凛々しい貌と気高い眼差しが、その想いをリーダーに伝えていた――。

 




 ついに市長救出……ですが、まだ1番厄介な相手が残っております。果たして新世代ライダー達の運命やいかに。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 C.A.R.システム(いわゆるジョン・ウィック構え)は「リコリス・リコイル」や「バイオハザードRE:4」等でもよく使われていましたねー。屋内戦となればやっぱり一度は出したいなって思っちゃいます(*´꒳`*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第16話

 

 市長公邸にまで響き渡って来るほどの轟音。それは、仮面ライダーRCの圧倒的なパワーによって、新世代ライダー達が吹き飛ばされた際の衝撃音であった。

 

 公邸に繋がる道路を舞台に繰り広げられているこの死闘において、ライダー達は窮地に立たされている。地を転がりながらも何とか立ち上がっている彼らだが、すでにかなりの体力を消耗しているようだった。

 

 ――死ぬほど不味く、栄養満点なあの軍用糧食(レーション)を口にしていなければ、彼らはこの時点で力尽きていただろう。

 戦闘の轟音を聞き付けた街中の戦闘員達もこの場に駆けつけて来たのだが、彼らは皆、超人同士の潰し合いに巻き込まれる形で全滅していた。LEPにとっては彼らの存在など、路傍の生ゴミにも値しなかったのである。

 

「があっ、はッ……! なんなんだ、この強さ……!」

「黒死兵より強い、なんてレベルじゃねぇ……! こんなレベルの怪人がいやがったのか……!」

「常時オーバーロード状態のUSAのパワーでも、押し負けるとはッ……!」

 

 ケージ、オルバス、USAの3人は、RCの異様な馬力に驚嘆し、わなわなと拳を震わせている。この時の彼らにはまだ知る由もないことだが――RCのパワーと装甲は、始祖怪人達の中でも五指に入るほどの代物なのだ。

 芦屋隷(あしやれい)博士によるスーツの強化改造が完了していない今の彼らでは、そんな相手と真っ向から殴り合うにはあまりにも「力不足」だったのである。

 

 その上、ケージ達はすでに先の黒死兵戦で必殺技を撃ち尽くしている。再使用までの所要時間(クールタイム)も終わっていない今の状態で、RCを正攻法で攻略するなど不可能に等しい。

 

「くそッ……! だからと言って……負けられるかよッ!」

 

 それでもターボは諦めることなく、拳銃形態(ガンモード)のシャフトブレイカーでエネルギー弾を連射しながら突進して行く。

 そして「間合い」に入ったところでソードイグニッションキーを装着し、刀剣形態(ソードモード)に変形させ、一気に斬り掛かった。だがRCは、片腕の手刀だけでその刀身を容易くへし折ってしまう。

 

「折れたァ!? ぐっ、お、あぁああッ!」

「本田ッ!」

「本田さんッ!」

 

 そのまま腹部に拳の乱打を受けたターボは、再び吹き飛ばされて行くのだった。咄嗟に彼の身体を受け止めたUSAとオルバスも、勢いに押されて転倒してしまう。

 

「……学習(ラーニング)完了。これより、攻撃体勢へと移行する」

「な、なに……!?」

「これまでは、攻撃の内にも入らねぇってのか!?」

「ライ、ダー……ファイト!」

 

 だが、それで終わりではなかった。これからが「本番」であると宣告して来たRCは、コードで繋がっている輸送車を前進させると、ケージ達の間合いに自ら飛び込んで来たのである。

 

 常にコードで繋がれているため移動範囲に制限があり、動きも鈍重であるという弱点を持つRCだが。頭脳部であるLEPがRCの動きに合わせて輸送車を動かせば、移動範囲の問題は解決してしまう。さらに出力のギアを最大にすれば、速度と威力を両立させた攻撃も繰り出せるのだ。

 

 首輪を緩められた猟犬は、枷の存在も忘れて獲物を喰らい尽くすのである。

 

「ぐはぁ、あッ……!」

 

 打撃が届く間合いに飛び込んで来たRCの鉄拳は、4人の新世代ライダー達を矢継ぎ早に叩きのめして行く。あまりの衝撃に吐血する新世代ライダー達は、その鉄仮面を自らの血で汚していた。

 横綱相撲、という言葉でも足りない一方的な展開であった。彼らの中では最もパワーが突出しているUSAの拳打でさえ、RCの装甲を僅かに陥没させるのが精一杯だったのである。

 

 何十発というパンチとキックを立て続けに喰らい続けた4人は、憔悴し切った様子で片膝を着いてしまう。そんな彼らを、RCの双眸は冷酷に見下ろしていた。

 

「く、くぅッ……!」

「殺すな、という指示を受けている。これ以降、手加減は出来ない。速やかな退却を勧告する」

「……それで大人しく引き下がってくれるとでも? ハッ、どうやら『学習』が足りてねぇようだな」

「そんな甘い計算で測れるようなものじゃないのさ、俺達仮面ライダーはな……!」

 

 だが、それでもライダー達は屈することなく、自分達の勝利を信じ続けている。人間の戦士達が拠り所にしている「勇気」という概念を理解出来ないスーパーコンピューターは、彼らの解答にある決断を下すのだった。

 

「……第1目標の『学習』は完了。第2目標の遂行は困難と判断。『楽しみが減る』損害についてはやむを得ないと判断し……これより、仮面ライダー4名の『抹殺』を実行する」

 

 極限状態に陥った人間達は、少なからず「我が身可愛さ」や「自暴自棄」の感情を発露させるはず。だが、この4人にはまだその兆候が見られない。

 理解出来ない。この者達は装甲服を着ているだけの「人間」ではないのか。自分達の窮地を自覚出来ないほどに知性が無いのか。理解出来ない。

 

 ――そんな異常(エラー)反応がLEPの計算を乱し、「学習」を阻んでいた。

 この戦闘で人間という種に対する理解からさらに遠退いた彼は、自身の思考回路が故障を起こす前に、「演習」を終わらせるべきだと判断する。

 

 戦馬の指示に反しようとも、この4人はここで「抹殺」せざるを得ない。それこそが最適解であると判断し、ライダー達にとどめを刺そうと躙り寄るRCが拳を振り上げた――その時だった。

 

「――全員突撃ィイッ!」

 

 野戦服に袖を通したニッテ達主力メンバーを筆頭とする、オーファンズヘブン解放戦線の美少女兵士達。愛銃に命を預けた彼女達が、豊満な乳房を揺らしてこの戦場に馳せ参じたのである。

 引き締まった腰を蠱惑的にくねらせ、安産型の桃尻を左右に振りながら、瓦礫だらけのアスファルトを駆け抜けて行く戦乙女達。その手に握られた愛銃は絶えず火を噴き、RCや輸送車のボディに弾丸と榴弾の嵐を叩き込んでいた。

 

「……!?」

「あいつら、何を……!」

 

 市長の護送を任されたサガ、アロマ、リエリスを除く全員が、この場に駆け付けている。黒死兵すら倒せなかった彼女達が、その黒死兵よりも遥かに手強いRCに挑もうとしている光景に、ライダー達は仮面の下で焦燥を露わにしていた。

 

 無論、RCもただ弾丸を浴びているだけではない。取るに足らない相手であると理解しながらも、敵対者は抹殺するべきと判断していた彼は、近くにある巨大な瓦礫を軽々と持ち上げ、彼女達目掛けて投げ付けて行く。

 

「――散開ッ!」

 

 だが、戦乙女達に恐れはない。ニッテの指示に合わせて全員が散開し、瓦礫は誰にも当たることなく地面に墜落する。

 即座に廃墟の影や近くの瓦礫など、多くの遮蔽物に転がり込んだ彼女達は、RCの圧倒的なパワーに気圧されることなく弾幕を展開して行った。残弾全てを撃ち尽くす勢いで引き金を引く彼女達は、その反動で乳房と巨尻をぷるぷると揺らしている。

 

「おい、何をやってるんだ! ベイカー市長の救出には成功したんじゃないのか!?」

「俺達に構っていないで、早くここから逃げるんだ! そんな格好で何をしに来たッ!? 奴の攻撃に巻き込まれたらタダじゃ済まないんだぞッ!」

「言われるまでもなく逃げるわよッ! ……あんた達と一緒にねッ!」

「……!」

 

 解放戦線を率いるリーダーとして、ニッテはライダー達の呼び掛けに対しても猛々しく言い返していた。

 今の彼女達にとって、ライダー達は紛れもない「仲間」なのだ。このまま見殺しにすることなど、出来るはずもないのである。その勇ましさを目の当たりにしたLEPは、解放戦線の美少女達もライダー達に劣らぬ脅威になり得ると判断していた。

 

「約十数名の武装した民兵を捕捉。脅威と判断。これより、当該民兵の抹殺を実行する」

「……いかん! 皆、近くの遮蔽物にッ!」

 

 輸送車の車体上部に搭載されている、ブローニングM2重機関銃。LEPによって制御されているその銃口はヴィクトリア達を執拗に狙い、猛烈な勢いで火を噴き続けている。

 

「くぅうッ!? ……あのブリキ野郎、手加減というものを知らないようですねッ!」

「そりゃあ、ブリキ野郎に人間様の常識なんて通じるわけないだろ……! 皆、気を付けろ! 今さら言うことじゃないけど、アイツはブッチギリでイカれてるッ!」

 

 瓦礫に身を隠してその掃射を凌いでいるレオナやエヴァ達は、弾雨を掻い潜るように遮蔽物から遮蔽物へと飛び込み、輸送車とRCに接近しようとしていた。例え銃弾が頬を掠めても戦乙女達は迷うことなく、慎重かつ大胆に始祖怪人の刺客を包囲している。

 

「市長を救出したら、もう軍部が攻撃を躊躇することもない……! 私達がここを離れたら、すぐにでも空爆が始まる! あなた達を見捨てて私達だけで逃げるわけには行かないんだッ!」

「しかし……!」

「大丈夫っ! 市長からのお墨付きはもう貰ってるんだから! ……仮面ライダーと一緒に帰って来るんだぞ、ってね!」

「君達……!」

 

 ヴィクトリアとニッテの凛とした叫びに、4人のライダー達は拳を震わせる。正規軍でもない少女達が、これほど命を張っている時に――自分達は何をしているのか、と。

 その一方で、ニッテ達の一斉射撃を浴び続けていたRCは、全ての銃弾を装甲で容易く凌ぎ続けていたのだが。五月蝿い羽虫達から始末しようと動き出した途端、苦しむような仕草を見せて後退し始めてしまう。

 

 黒死兵を遥かに上回る防御力を持ち、ライダー達の攻撃さえ軽々と受け止めていたRCが。僅か一瞬とはいえ、ただの銃弾に怯んだのだ。

 

「……!? 奴が後退した……!? 俺達がどれほど攻撃しても、今までビクともしなかったはずなのに……!」

「跳弾……! 奴の装甲が跳ね返した弾丸が、そのまま後方の輸送車に命中しているんだ! いや……正確には、輸送車の車内(・・)に!」

 

 その光景にオルバスが瞠目する中――注意深く状況を観察していたターボが、ハッと声を張り上げる。

 RCがダメージを受けたかのような怯みを見せた時。銃弾は、ライダー達の攻撃によって装甲が陥没した箇所に命中していた。

 

 それ自体に効果は無いのだが――そこから跳ね返った弾丸が、RCの後方からその機体を制御している輸送車の内部へと飛び込んでいたのだ。

 繊細なコンピューターであるLEPを積んでいる車内にまで跳弾が及んだことで、RCの制御にも支障を来していたのである。

 

「俺達の攻撃で僅かに歪んだ装甲が、奴の計算に反した跳弾を引き起こしているんだ……! 奴は自分の装甲で、自分の首を絞めている!」

「……なるほどな。だったら俺達で、もっと歪ませてやりゃあイイってことかッ!」

 

 ライダー達だけでは、RCの守りを突破して本体のLEPに近付くことは出来なかった。だがニッテ達の銃弾なら、RCを擦り抜けてLEPに直接ダメージを与えることが出来るのだ。

 

 輸送車とRCを繋ぐコードは見た目に反して非常に強靭であり、銃弾が命中しても切断は出来ない。コードが繋がっている先の車内は本体のLEPが剥き出しになっているのだが、直接狙える距離まで接近しようにも、重機関銃の迎撃が激し過ぎて近寄れない。

 LEPも車内を直接狙われるケースを警戒しているのだろう。重機関銃の射程外からLEP本体を狙おうとする者に対しては、RCの瓦礫投擲で牽制している。その徹底された防御体勢は、まさに移動要塞そのものであった。

 

 だが、その完璧に見える迎撃システムにも抜け穴があった。それが、予期せぬ角度からの「跳弾」だったのである。

 LEPの弾道計算が及ばない「装甲の陥没による跳弾軌道の変化」は、LEP本体にダメージが通る確率を奇跡的に高めていたのだ。跳弾によるLEP本体への被弾。ニッテ達にその現象を狙って引き起こせるほどの技量は無いが、それでもひたすら撃ち続ければ命中率は上昇する。

 

 しかしニッテ達の弾薬にも限りがある以上、早期に勝負を決めなければならない。彼女達の愛銃が「弾切れ」を起こす前にその確率を僅かでも底上げするには――やはり、少しでもRCの装甲を歪ませるしかない。

 

「これが最後だ……! 彼女達がくれたチャンス、絶対に無駄にはしない! 皆、行くぞッ!」

「……おおッ!」

 

 そして今それが出来るのは、ここに居る新世代ライダー達をおいて他にない。故に彼らは、最後の力を振り絞るように走り出し――総攻撃を仕掛けるのだった。

 





 本章もいよいよ大詰めとなって参りました。果たして新世代ライダー達と解放戦線の少女達は、RCをこの街から追い出すことが出来るのか。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第17話

 

「ゴ、ゴオォオッ……!」

「……はぁあぁあーッ!」

 

 ケージ、オルバス、ターボ、USA。彼らのパンチとキックが絶えず唸り、防御に徹するRCの装甲を歪ませて行く。その歪みがさらなる「計算の狂い」に繋がり――それがまた、予期せぬ跳弾によるダメージへと連鎖する。

 

「いっ、けぇえぇえーッ!」

 

 ニッテ達も弾薬が尽きるまで、自分達が倒れるまで、恐れることなく引き金を引き続けていた。輸送車からの機銃掃射が、遮蔽物から覗いている彼女達の肌を掠めて行く。

 それでも、戦乙女達は怯まない。諦めない。信じると決めた仮面ライダー達に応えるために、彼女達は恐怖に屈することなく撃ち続けて行く。

 

「……ヴィクトリア、レン! 所定の位置に走りたまえ! 今こそ僕達の『秘密兵器』を使う時だッ!」

「ラングニル……! ……そうだな、行くぞレン! 仮面ライダー達にばかり良い格好はさせてはおれんッ!」

「えぇ……分かっていますッ!」

 

 その中の1人であるラングニルが、LVF RL-6Al12を構えながら吼える。スケルトンストックを押し当てた箇所からも伝わって来る銃撃の振動が、彼女の桃尻をぷるぷると揺らしていた。

 そんな彼女の言葉に深く頷くヴィクトリアとレオナは、乳房と巨尻をぶるんぶるんと揺らしながら、一気に遮蔽物から飛び出すように走り出す。その動きに反応した輸送車のM2機関銃が、2人に狙いを定めようとしていた。

 

「やらせるかぁああッ!」

 

 そうはさせじと物陰から顔を出したリリエラが、輸送車目掛けてM4カービンを連射する。白く瑞々しい肉体はじっとりと汗ばみ、歳不相応に実ったEカップの乳房と桃尻が、発砲の反動でぷるんぷるんと弾んでいた。

 通じるとは思っていない。2人を「所定の位置」に活かせるための時間稼ぎだ。そんな彼女の陽動に乗せられたLEPは標的を変更し、機関銃の照準をリリエラに向ける。

 

 だが、その銃口は――火を噴かない。リリエラをロックオンした機関銃は、これまでの苛烈な乱射が嘘のように静まり返っている。

 当のリリエラを含む解放戦線の面々が困惑する中、RCは新世代ライダー達と激しく殴り合いながら、眼鏡を掛けた1人の美少女を一瞥していた。

 

「……『No.1(エインヘリアル)』の遺伝情報を確認。攻撃を一時停止」

 

 14歳という若さからは想像もつかないボディラインを描き、雄の情欲を掻き立てるリリエラ・ヤマシロの扇情的な肉体。その内側に流れている「血」が、反射的に銃撃を止めていたのだ。

 始祖怪人達の現統率者(ビッグボス)、「エインヘリアル」こと山城一(やましろはじめ)。その遺伝情報を受け継いだ「曽孫」であるリリエラの正体に気付いたLEPは、彼女に対して引き金を引けなかったのである。

 

「……!? 見て、奴の動きが止まったよ! 何をするつもりなんだろう……!」

「油断するな! 次の一手を計算している最中なのかも知れん。奴に何もさせるな! 私達の弾幕で抑え込むんだッ!」

「最初っからそのつもりですよぉおッ!」

「誰にも手出しはさせないよぉっ! オ〜ララァァ〜っ!!」

 

 リリエラ自身でさえも知らないその理由を、解放戦線のメンバー達が知る由などない。だが、輸送車からの攻撃が一時的に停止していることだけは確かだった。

 ならば、反撃を躊躇う理由も時間も無い。カミラのサコーM75フィンライト。朔夜のステアーAUG。リリエラのM4カービン。そして、スフルの音撃管・烈風。彼女達の愛銃が一斉に火を噴き、輸送車とRCに弾雨を浴びせて行く。

 

 その間に、ラングニルが示した「所定の位置」である廃墟の裏に駆け込んでいたヴィクトリアとレオナは、そこに隠されていた1台のバイクに乗り込もうとしていた。車体を覆い隠していたボロ布を2人が勢いよく剥ぎ取ると、その全貌が露わになる。

 

 レオナの実父が遺した「形見」である、サイドカー付きの大型バイク。レオナの眼の色のような真紅に塗装されたその車体には、銃器まで装備されている。ラングニルとスフルが共同開発していた「秘密兵器(とっておき)」が、ついにお披露目となるのだ。

 こことは異なる世界の仮面ライダーが乗り回している「サイドバッシャー」に近しい形状を持つ「秘密兵器」は、この廃墟内で主人達を待ち侘びていたのだろう。その力を存分に引き出そうと頷き合うヴィクトリアとレオナは、即座に「準備」に取り掛かる。

 

「よしっ……!」

 

 バイク部分に素早く跨り、たわわに実った巨乳と安産型の桃尻をぶるんっと揺らしたレオナがエンジンを掛け始める中。サイドカー部分に乗り込んだヴィクトリアは、そこに積み込まれていた「機銃」の三脚架を組み立てていた。

 それは明らかに戦闘機の類に搭載されているような大型のものであり、彼女は三脚架をサイドカーの上に立て、発射準備を整えている。取り付けられた長い給弾ベルトが、その殺意の高さを物語っていた。

 

「んっ……!」

 

 さらにヴィクトリアは戦闘員から奪った野戦服をバッと脱ぎ捨て、その白く豊穣な柔肌を全て露わにしてしまう。もしこの場に1人でも男性が居れば、生涯忘れることのない「絶景」を拝むことが出来ていただろう。凛々しく気高い貌で野戦服を脱ぎ去りつつも、純白の裸身を露わにしたヴィクトリアは、その頬を桃色に染めていた。

 110cmという超弩級の爆乳と99cmの爆尻がどたぷんっと弾み、その透き通るような白い肌から濃厚な女のフェロモンがぶわっと匂い立つ。「最後の砦(ニプレス)」だけを残して一糸纏わぬ全裸となった彼女は、サイドカー内に隠されていた「新装備」に手を伸ばしていた。

 

「ふぅっ、んっ……!」

 

 そこに有ったのは、漆黒の強化外骨格。装着者の肉体にぴっちりと張り付く仕様となっている、ラングニルお手製のパワードスーツだった。

 各部位には関節を保護するプロテクターが設けられているのだが、身体全体を覆うスーツの大部分は、肢体に隙間なく密着するボディスーツのような構造なのだ。そのため野戦服の上から着ることは出来ず、下着を破られている状態(ノーパン&ノーブラ)のヴィクトリアは、一度生まれたままの裸体を晒すことになってしまったのである。ヴィクトリアはその外骨格に袖を通して行く中で、暴力的な肉体にみっちりと張り付いて来るスーツの感触に甘い息を漏らす。

 

「んっ、く、ぅうっ……! ふ、うぅっ……!」

 

 白く優美な爪先をピンと立ててスーツに両脚を通し、そこからパンティを穿く要領で一気にくびれた腰へと引き上げる。特大の爆尻に引っ掛かったところで一度深く息を吐き、その純白の尻肉を持ち上げるスーツの特殊繊維を強引に持ち上げると、穿き終えた弾みで臀部(ヒップ)全体がどたぷんっと躍動する。

 

「あっ、んんっ……! くぅ、ふぅうんっ……!」

 

 それと同じ要領で、ぶるるんっと豪快に弾む110cmの超弩級爆乳も、力任せにスーツの内側に押し込んで行く。肉体に完全にフィットさせるための特殊繊維が白く豊穣な乳房をむにゅりと持ち上げ、ボリュームたっぷりな乳肉に食い込む。そこからさらに力尽くでスーツを引き上げ、やっとの思いで爆乳を繊維の内側に収めた瞬間、持ち上げられていた特大の果実がばるるんっと上下に弾んでいた。

 

「んっ……はぁあぁっ……!」

 

 その苦難を経て、ようやくヴィクトリアは黒い外骨格の装着を終えたのだが――今の自分の格好を見下ろしている彼女の貌は、羞恥の桃色に染まっていた。扇情的なボディラインをくっきりと浮き立たせているその姿は、ヴィクトリア自身にとっては裸よりも恥ずかしい格好なのだから。

 

(ラ、ラングニルめぇ……! 動きやすいからと言って、よくもこんな破廉恥な仕様にっ……んんっ! い、いかん……この肌触り、良くない「クセ」になってしまいそうだっ……!)

 

 身動ぎするたびに大きく弾む特大の爆乳と爆尻が、そこから漂う匂いと共にスーツの内側へと閉じ込められて行く。ヴィクトリアの極上ボディにぴっちりと張り付いた外骨格は、彼女の肉体が描く扇情的なラインをありのままに浮き立たせていた。

 もしニプレスが無かったら、余計に際どいデザインになっていたことだろう。爆尻と鼠蹊部にキツく食い込んでいる繊維の感覚も、彼女の羞恥を煽っている。レオナが履いていたショートパンツも彼女の扇情的なヒップラインをむっちりと強調し、鼠蹊部にもきゅっと深く食い込んでいたのだが、このスーツの密着具合はそれ以上だ。

 

 そのあまりに蠱惑的なデザインに対する羞恥心から、頬を染めるヴィクトリアは製作者であるラングニルに対して静かな怒りを燃やしていた――が。単に恥ずかしいと思うこと以外にも「感じるもの」があったのか、彼女は無意識のうちに自分の豊満な肉体をスリスリと撫で回している。

 

 男なら誰もが喉を鳴らす極上のボディラインを、ヴィクトリアの可憐な指先がなぞっていた。もしここにラングニルが居たなら、その様子をニヤニヤと見守りながら写真に収めていただろう。もちろんその直後には、ヴィクトリアに白衣の襟を摘まれて、悪さをした猫のように吊るされていたのだろうが。

 

「よし……行けるっ! じゅ……準備は良いですか、ヴィクトリア!」

「……っ!? あ、あぁ、いいぞ! レン、すぐに出せッ!」

 

 レオナの方も、奪い取った野戦服の下が生まれたままの姿(ノーパン&ノーブラ)であるためか普段の落ち着きがなく、頬が赤い。そんな彼女に背後から声を掛けられて我に返ったヴィクトリアも、目を剥いて耳まで真っ赤にしながら背筋を正していた。特殊繊維を内側から押し上げる爆乳と爆尻が、その弾みでたぷんと揺れる。

 

「行きましょうヴィクトリア、皆を守るためにッ!」

「……あぁ! 行こう、レンッ!」

 

 戦闘機用の大型機銃と、その組み立てを終えたヴィクトリアをサイドカーに乗せて。レオナがハンドルを握る大型バイクがエンジンを唸らせ、急発進する。

 真紅のバイクが廃墟の壁を突き破り、猛スピードで戦場に馳せ参じたのはその直後だった。バイク自体もさることながら、そのサイドカーに積まれた「機銃」は解放戦線の装備の中でも一際威圧感溢れる代物であり、メンバー達の注目を大いに集めている。

 

「これが生まれ変わった父さんの形見、『コマンドバッシャー』と……!」

「我がファルツ家の象徴……『九九式二十粍二号航空機銃五型』だッ!」

 

 そんな仲間達の視線を肌で感じながら、レオナとヴィクトリアは揃って声を張り上げるのだった。彼女達2人を乗せた戦闘用バイク「コマンドバッシャー」はますます加速し、瓦礫の破片が散乱する不安定な路面を難なく走破して行く。

 

(……これで良かったんだよね、父さん。私は信じるよ。皆を守るために……父さんのバイクで、この戦いを乗り切る。それがきっと、正しいことなんだって!)

 

 実の父親が遺した形見を「兵器」に改造してしまった苦しみを乗り越え、レオナはハンドルを握り締めて真っ直ぐに前を見据える。彼女と同じ葛藤を抱えながら機銃を構えるヴィクトリアも、口をきゅっと結んでいた。

 

 ――古くから軍の名門として、この某国の歴史にその名を残して来たファルツ家。

 その名家を率いていた当時の当主は第2次世界大戦時、連合国側に属していた某国政府の方針に従い、高貴なる武官としての「然るべき務め」を果たしていた。それが、ヴィクトリアの曽祖父だったのである。

 

 彼は戦後、旧日本軍の戦闘機に積まれるはずだった機銃を接収。戦利品として持ち帰り、ファルツ家の勝利と栄光を讃える「家宝」とした。それが今、ヴィクトリアが構えている「九九式二十粍二号航空機銃五型」なのだ。

 彼女はかけがえのない仲間達を救うため、断腸の思いで偉大なる曽祖父の遺産を「改造」し、コマンドバッシャーに機銃として積み込む判断を下したのである。

 

 そんな彼女の重い決断と覚悟を汲み取ったラングニルとスフルは、歴史あるファルツ家の象徴とも言うべき「家宝」を改造し、ノバシェードに対抗するための「兵器」として現代に甦らせたのだ。

 ヴィクトリアの身体にぴっちりと張り付いているラングニル製の外骨格も、戦闘機用の大型機銃を取り回すことになる彼女の負担を軽減させ、その身体を保護するためのもの。些か扇情的過ぎるそのデザインも、危険な代物を扱うことになるヴィクトリア自身の動きが、万に一つも阻害されないように……という「機能美」を追求した結果に過ぎない。

 

 共に勝利を誓った解放戦線の仲間として、オーファンズヘブン最高の天才達がその叡智を結集して完成させた、友情の結晶。それがコマンドバッシャーと、サイドカーに乗せられた九九式二十粍二号航空機銃五型なのである。

 

(……ファルツ家の武人たるもの、何を置いても民の幸せを護るためにその力を尽くさねばならない。私も……そう在ります!)

 

 幼い頃、何度も聞かせてもらった当時の武勇伝。その数々を語っていた晩年の曽祖父の顔が、何度もヴィクトリアの脳裏を過ぎる。

 

 後悔などない。後悔などしてはならない。この国を、この国の人々を守るためならば、きっと曽祖父も許して下さるはず。

 そう信じると決めた以上、今はただこの引き金を引くしかない。その悲壮な信念が、ヴィクトリアを突き動かしている。

 

(……父さんの想いも乗せたこのコマンドバッシャーで、必ず皆を守り抜いて見せる。だからどうか……天国から見守っていてください!)

 

 それは実父の遺品を兵器にしてしまったレオナも同じであり、彼女達は各々の葛藤に苛まれながらも、仲間達のために前だけを見つめていた。きっとそれが、「今」を生きている者の務めなのだと信じて。

 




 ようやくここで第7話の頃から言及されていた「秘密兵器」こと、コマンドバッシャー& 九九式二十粍二号航空機銃五型の初お披露目となりました。双方の原案情報を可能な限り拾いつつ、無理なく作中に組み込むために一つのビークルとしてミックスした感じになっております(´ω`)
 果たして彼女達のマシンは仲間達を勝利に導けるのか。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 ヴィクトリアの外骨格については衛士強化装備的なぴっちりスーツをイメージしております。ラングニルが一晩でやってくれました(о´∀`о)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第18話

 

 亡き家族の想いが詰まったコマンドバッシャーと、サイドカーに搭載された九九式二十粍二号航空機銃五型。そのマシンを駆るレオナとヴィクトリアの登場に、苦戦を強いられていた解放戦線の女傑達が沸き立つ。

 

「はぁ、はぁッ……! な、なんだありゃあ……!? 武装バイク……!?」

「あの子達、あんな代物まで用意していたのか……!?」

 

 RCとの熾烈な肉弾戦を繰り広げていた4人の新世代ライダー達も、物々しいモンスターマシンの出現に思わず目を見張っていた。

 

 Hカップの褐色爆乳をばるるんっと弾ませながら、M79の炸裂弾を連射していたエメラダは、戦場を疾走するコマンドバッシャーに目を奪われている。そんな彼女の視線に気付いていたヴィクトリアは、機銃を制御室しながら彼女に向かって軽くウィンクしていた。

 

「コマンドバッシャー……! 完成していたのねっ!」

「待たせたな皆、仮面ライダー! ここからは……我々、オーファンズヘブン解放戦線の反撃だッ!」

 

 そして、ヴィクトリアの宣言と共に。コマンドバッシャー本体に搭載されている2門の機銃と、サイドカーに積まれた九九式二十粍二号航空機銃五型が同時に火を噴いた。

 

 爆音のような銃声がこの一帯に鳴り響き、戦闘機用の大型機銃から20×101mmRB弾が矢継ぎ早に連射される。

 極上の肢体をぴっちりと浮き立たせている外骨格の力で、その反動に耐えるヴィクトリアは、爆乳と巨尻をばるんばるんと弾ませていた。ポニーテールに結われた豪奢な金髪も、風に煽られ大きく揺れ動いている。

 

「くっ、う……ぉおおおおぉおーッ!」

 

 機銃を保持する両腕から全身に伝わって来る、戦闘機用大型機銃の反動。その凄まじい衝撃にも臆することなく、ヴィクトリアはただ真っ直ぐに倒すべき仇敵だけを、凛々しく気高い眼差しで射抜いている。銃身に搭載されたスフルお手製の光学照準器が、狙うべき相手の姿を正確に捉えていた。

 ラングニル製の外骨格が無ければ、今頃は反動でサイドカーから振り落とされていただろう。デザインはともかく、彼女の発明品はヴィクトリアの戦いを大いに助けていた。

 

「……防御体勢に移行。対象を脅威と判断」

 

 解放戦線が保有する重火器の中でも最大の威力を誇る、まさに彼女達にとっての最終兵器(リーサルウェポン)。そんなコマンドバッシャーの一斉射撃はさすがに無視出来るものではなかったのか、銃弾の豪雨を浴びせられたRCは片腕で防御するかのような仕草を見せている。

 

 さらに、強固な装甲を誇る輸送車もその動きを停止させていた。装甲そのものは戦闘機用の機銃にも耐え得るほどの強度なのだが――その装甲を通して「車内」に伝播する衝撃までは、殺し切れなかったのだ。

 

 輸送車自体がどれほど頑強でも、その内側に隠されているLEP本体は精密機器の塊。装甲が破れずとも、着弾点から伝わる衝撃の波紋は、僅かながら内部の本体への「ダメージ」となる。その微かな誤算が、LEPの演算処理を一時停止させているのである。

 

「おおっ! さすがは僕らの最高傑作! 期待以上の火力じゃないかっ!」

「オ〜ララ〜! やっぱり私達、天才中の天才じゃんっ! 行け行け2人共〜っ!」

 

 それほどの火力を発揮しているコマンドバッシャーの活躍振りに、開発者のラングニルとスフルは大興奮している。ラングニルのむっちりとした桃尻と、スフルのEカップの巨乳も、その喜びを表すかのようにぷるんぷるんと揺れ動いていた。

 

 彼女達の愛銃――RL-6と烈風が絶え間無く火を噴く中、真紅の大型バイクは風を切って戦場の街を颯爽と駆け抜けて行く。そのサイドカー部分から機銃を連射しているヴィクトリアの「勇姿」に、ラングニルはにんまりと笑みを溢していた。

 

「どうだねヴィクトリア、僕特製の強化外骨格はっ! 最高の着心地だろう!? う〜ん、特にそのデザインが良いっ! 自分の才能が心底恐ろしいよ……!」

「……ラングニル、貴様あとで覚えていろよッ!」

「ヴィクトリア、余所見している場合ではありません!」

「分かっている! レン、一気に仕掛けるぞッ!」

 

 ヴィクトリアの身体にぴっちりと張り付き、扇情的なボディラインをありのままに浮き立たせている強化外骨格。その「出来栄え」にうんうんと頷き自画自賛しているラングニルに対し、ヴィクトリアは頬を赤らめながら忌々しげに唇を噛み締めていた。

 だが、今はラングニルの嗜好に文句を付けている場合ではない。そんなレオナの指摘に同意し、改めてRCと輸送車に照準を向けたヴィクトリアは、敬愛する曽祖父の遺産で敵を討つべく引き金を引く。

 

「M2機関銃、標的変更。対象を速やかに排除する」

 

 そんな彼女達を「早急に倒すべき強敵」と認識したLEPも、輸送車のM2機関銃を彼女達の方に向けさせていた。

 その銃口の動きを察知した瞬間、レオナは豪快にハンドルを切り、轟音と共にコマンドバッシャーを急カーブさせる。ヴィクトリアもそれに合わせて機銃の向きを変え、引き金を引き続けていた。

 

「そんなものッ……当たりませんッ!」

 

 コマンドバッシャーを狙うM2機関銃の弾雨が、執拗に彼女達を襲う。だが、レオナが操る真紅の大型バイクの加速力は、LEPの予測を大きく上回るものであった。

 元々はただのレーサーバイクだったこの車両も、今はGチェイサーにも引けを取らないレベルにまで「魔改造」されているのだ。ラングニルとスフルが手掛けた「最高傑作」であるコマンドバッシャーは、輸送車からの機銃掃射を最高速度でかわし続けている。

 

「まだまだッ……! 父さんが遺してくれたこのマシンの底力は、まだまだこんなものではありませんよッ!」

 

 マシンの性能だけではない。それを完璧に御しているレオナの技量あってこその疾さなのだ。

 

「貴様の銃撃など当たりはせんッ! 当たるのは……こちらの銃弾のみだぁあッ!」

 

 そんな中でも絶えず火を噴き続けていた、ヴィクトリアの九九式二十粍二号航空機銃五型。その銃口から連射される20×101mmRB弾が、ついにM2機関銃の銃身を破壊した。

 この戦いで解放戦線のメンバー達を何度も苦しめていた、強力な重機関銃。その「一手」が潰された光景に、女傑達が歓声を上げる。

 

「やった……! あのクソ厄介な機関銃が、やぁっとブッ壊れたぜッ! さっすがラングニルとスフルだ、良い仕事しやがるッ!」

「良い傾向……! これで輸送車内の本体も、より狙いやすくなる……!」

 

 瓦礫に身を隠しながら、ハイパワーMk.Ⅲでの牽制射撃を繰り返していたティエナや、TAC-50による狙撃で仲間達の戦闘を支援していたエレインも、思わずガッツポーズしている。それは他のメンバー達も同様であり、笑顔で互いを見遣る彼女達は、この調子で輸送車もRCも仕留め切れると確信していた。

 

 ――それが、若さ故の過ちだったのだろう。もしくは連戦に伴う疲弊が招いた、注意力の散漫だったのかも知れない。

 

「よし、この調子ならッ……!?」

 

 新世代ライダー達を纏めて殴り飛ばしたRCが、足元のアスファルトを砕き割り。その破片を握り締めていたことに、誰も気が付かなかったのだから。

 

「……ッ!? ヴィクトリアッ! 危ないッ!」

「奴の『投擲』が来るぞッ! 今すぐそこから逃げるんだ、ヴィクトリアッ!」

 

 コマンドバッシャーに狙いを定めたRCが、アスファルトの破片を握った手を大きく振りかぶった時。ようやくその動きに気付いたニッテとエヴァが、焦燥の声を上げる。

 

 そんな彼女達の叫びがヴィクトリアの耳に届いた時。RCが握っているアスファルトの破片は、音速を超える超強力な質量弾として打ち出されようとしていた。

 

「あッ――!?」

 

 黒死兵ですら、身の丈を大きく越える巨大な瓦礫を難なく投げ飛ばすことが出来るのだ。

 その黒死兵を遥かに凌ぐパワーを持つRCが、本気のフルスイングで破片を投げ飛ばして来たら。一体どれほどの弾速と衝撃力が生まれるのか、全く想像がつかない。

 

 間違いないのは――コマンドバッシャーが耐えられるような威力では済まない、という点だけだ。

 

「……うぉおおおおぉッ!」

 

 何も考えてなどいない。考えている時間などない。純粋な生存本能に全ての命運を委ねた、条件反射の回避行動だった。

 

 ヴィクトリアが咄嗟にサイドカーから飛び降りた直後。閃光の如く空を切り裂いたアスファルトの破片が、コマンドバッシャーのサイドカー部分を一瞬で吹き飛ばしたのである。そこに積まれていた九九式二十粍二号航空機銃五型ごと、容赦なく。

 

「……ヴィクトリアぁああッ!」

 

 目視出来る速さではなかった。対物ライフルすら遥かに凌ぐ弾速と威力。それを「投擲」で実現して見せたRCの膂力に、レオナをはじめとするメンバー全員が叫び、戦慄する。これが、「本物の怪人」の力なのだと。

 

「……あ、あぁあっ……!」

 

 無論、それは目の前で曽祖父の遺産を――ファルツ家の象徴を破壊されたヴィクトリアも同様であり。彼女は激しく地を転がりながら、バラバラに砕け散って行く九九式二十粍二号航空機銃五型の最期を、ただ見届けることしか出来なかった。

 

 もしあとほんの一瞬、反応が遅れていたら。外骨格もろとも、ヴィクトリアの身体は破片の衝撃によって無惨に砕け散っていたのだろう。仲間達の必死の呼び掛けが、彼女の運命を変えたのだ。

 

(……ありがとう、ございました……! 皆を、守って下ってッ……!)

 

 ラングニル製の外骨格に柔肌を守られながら、激しく地を転がって行くヴィクトリア。その目尻には、曽祖父の遺産が起こした「奇跡」に対する感謝の涙が溜まっていた――。

 





 今回はコマンドバッシャー& 九九式二十粍二号航空機銃五型の奮闘回……となりましたが、惜しくもここでサイドカー部分が機銃もろとも破壊されてしまいました。しかし、解放戦線の心はまだ折られてはいません。まだだ、まだ終わらんよ!( ゚д゚)
 彼女達の戦いはまだまだ続きます。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 MGS3のシャゴホッド戦を思い出しながら書いてました。今でも思い出深い名作中の名作ですなぁ……(*´꒳`*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第19話

 

「がっ……はぁあっ……!」

 

 曽祖父の遺産を失った悲しみに暮れる暇もなく、宙に放り出されていたヴィクトリアの身体がアスファルトの上を転がって行く。瓦礫に背中から激突してようやく停まった彼女は、息を荒げて肩と爆乳を上下に揺さぶっていた。

 

「ヴィクトリアッ!」

 

 外骨格のおかげで怪我一つ無く生還したヴィクトリアの側に、ニッテとエヴァが慌てて駆け寄って来る。

 くびれた腰を左右にくねらせ、巨尻と乳房をぶるんぶるんと揺らしながら駆け付けて来た2人は、倒れていたヴィクトリアの上体をゆっくりと助け起こしていた。外傷こそ無いようだが、それでもあまりの衝撃に身体が動かなくなっているようだ。

 

「……奴め、機関銃を失ったのだから少しは怯まないかッ……!」

「ヴィクトリア、大丈夫!?」

「かなり強く背中を打ったようだけど……!」

「平気だ2人とも、ラングニルの外骨格が無ければ即死だったがな……! だが不味いぞ、このままでは残ったレンが集中的に狙われてしまうッ!」

 

 自身も激突のショックで身体が麻痺している状態だというのに、それでもヴィクトリアは今もなおRCに狙われ続けているレオナの身を案じていた。

 コマンドバッシャーを執拗に狙い、瓦礫を何度も放り投げているRCを阻止しようと、他の解放戦線のメンバー達や新世代ライダー達も総攻撃を仕掛けているのだが――圧倒的な装甲強度を誇るRCは、どこ吹く風と言わんばかりにレオナの命を狙い続けている。

 

「こっちを見ろ鉄屑野郎……! 見ないなら殺してやるッ……!」

「奴め……! 多少ダメージを負ってでも、レンを確実に潰そうとしているなッ!」

 

 AKS-74を撃ち尽くした阿須子はその銃身を躊躇なく放り捨て、巨乳の谷間に忍ばせていたリボルバー拳銃「コルトパイソン」に持ち替えていた。

 白く豊満なFカップの巨乳と94cmの極上巨尻をたぷんたぷんと弾ませながら、マグナム弾を連射している阿須子。そんな彼女の隣で、ラングニルも全弾を使い果たす勢いでRL-6を撃ち続けている。

 

 可愛らしくも肉感的な彼女の安産型ヒップも、銃撃の反動でぷるぷるっと揺れ動いていた。だが、2人の銃撃も全く意に介していないのか、RCは彼女達の銃弾を防ごうともしていない。

 ラングニルの言う通り、ある程度のダメージを覚悟してでも、レオナのコマンドバッシャーを優先的に排除しようとしているのだ。足止めすら叶わない現状に、阿須子もラングニルも悔しげに顔を歪めている。

 

「いかん……! 外骨格を着ていないレンまでヴィクトリアのように放り出されたら、間違いなく即死ものだッ! スフル、リリエラ、カミラ! 一旦ここは任せた、私はレンの援護に向かうッ!」

 

 別の場所からRCと輸送車を狙っていた朔夜も、使用していたステアーAUGとM203グレネードランチャーが弾切れになってしまったらしい。彼女はその銃身を投げ捨てながら、腰のホルスターから大型リボルバー拳銃「S&WM500」を引き抜いていた。

 

「……喰らえぇッ!」

 

 その長い銃身の先にある銃口が火を噴いた瞬間、野戦服の下に隠されたFカップの褐色巨乳がどたぷんっと弾み、安産型の巨尻がぷるんっと揺れる。雄の獣欲を掻き立てる甘い汗の匂いがむわりと漂い、彼女の凛々しい貌を蠱惑的に上気させていた。

 

「りょ、了解っ! 皆、朔夜を守るよっ!」

「朔夜さん、気を付けて下さいねっ!」

「怪我しないで帰って来るんだよーっ!」

 

 マグナム弾を連射しつつ、乳房を揺らして遮蔽物から飛び出した朔夜はレオナの「救援」に向かうべく、桃尻を弾ませてその場から駆け出そうとしている。そんな彼女の移動を援護するべく、スフル、リリエラ、カミラの3人もそれぞれの愛銃を撃ち続けてRCを牽制していた。

 

 一方。幾度となくRCの鉄拳に打ちのめされながらも、死力を尽くして立ち上がろうとしている4人の新世代ライダーは、レオナの窮地に拳を震わせていた。

 

「くそッ、なんて奴だ……! 俺達全員を相手にしながら、それでもあの子を優先的に潰そうとしていやがるッ!」

「……やはり彼女達を守り抜くには、このロボット怪人を何とか黙らせるしかないようだ。まだ一度も実戦で成功したことはないが……『アレ』をやるぞ、皆!」

「あぁ……俺達も今、それしかないと思っていたところだ!」

「迷っている時間はない、行くぞッ!」

 

 血反吐を吐きながらも立ち上がった男達は互いに頷き合うと、ベルトのスイッチを操作して各々のマシンをこの場に呼び出して行く。自動運転で駆け付けて来たGドロンとGチェイサーに乗り込んだ彼らは、RCの周囲を取り囲むように超高速で旋回し始めた。

 

「仮面ライダー!? あいつら、何して……!」

「もしや、レンへの狙いを外させようとしているのか……!?」

 

 その行動にニッテが爆乳を揺らして驚く中、いち早く彼らの思惑を察したラングニルが桃尻を弾ませて声を上げる。レオナに集中している狙い(ヘイト)を外させた上で、RCを確実に食い止めるための「新必殺技」を繰り出すべく、ケージ達はそれぞれのマシンでRCの周囲を走り回っているのだ。

 

「仮面……ライダー……!?」

 

 そんな彼らの勇姿にレオナが瞠目する中。RCを中心に周回を続ける4台のマシンが、最高速度に達する。エンジンから噴き出す猛煙が辺りを包み、RCの視界を塞いで行く。

 

 4人掛かりで怪人の周囲を煙で包み込み、目眩しと高速移動で反撃を封じる「スワリング・ライダー車輪」。その合体技から生まれた猛煙でRCを包み込んだケージ達は、この状況を「起点」とする新必殺技を放とうとしていた。

 

「よし、今だ皆ッ!」

 

 次の瞬間、ベルトのスイッチを操作して全身のエネルギーを両脚に集中させたライダー達が、それぞれのマシンから跳び上がろうとする。

 

「おうッ――!?」

 

 だが、ケージの合図に合わせて全員が両脚に力を込めた――その時。

 

「なッ……!」

 

 ターボのGチェイサーに狙いを定めていたRCが、再びアスファルトの破片を投げ付けて来たのである。

 コマンドバッシャーのサイドカーを一撃で破壊した超音速の破片投擲。それを土壇場で放たれたターボは回避する間も無く、愛車を木っ端微塵に破壊されてしまうのだった。

 

「うぐわぁああーッ!?」

「本田ァァッ!」

 

 新必殺技の発動を目前にして、その基盤となるマシンを吹き飛ばされたターボは、為す術もなく宙に放り出されてしまう。それを目の当たりにしたケージ達は攻撃を中断せざるを得なくなり、仲間の身を案じる叫び声を上げていた。

 

 ――RCは4台のマシンに取り囲まれながらも、スーパーコンピューターであるLEPの演算能力を介して、ケージ達の動きを分析し続けていたのだ。そのデータから彼らが攻撃を仕掛けて来るタイミングを予測し、そこに合わせる形で破片を投擲したのである。

 

 最高速度に達していたGチェイサーの動きを、寸分の狂いもなく把握した上で。視界を猛煙で塞がれている状態でありながら、僅かな空気の流れと駆動音だけでターボの位置を正確に割り出していたのだ。

 

(……なんだと言うんだ、コイツはッ……!)

 

 まさに、戦うためだけに練り上げられた生粋の戦闘マシン。約50年に渡って蓄積されて来た、膨大な戦闘データに基づいたその冷酷な強さに、ケージ達は戦慄するばかりとなっていた。

 そして、Gチェイサーを破壊され宙に投げ出されたターボは、力無くアスファルトの上に落下して行く。だが、1台のバイクがそこに駆け付けようとしていた。

 

「……!?」

「これを使ってください、ライダー! あなたを信じて……あなたに託しますッ!」

 

 レオナのコマンドバッシャーが、滑り込むようにターボの真下へと走り込んで来たのである。先ほどまでの一連の流れから、ケージ達の意図を察していたレオナは、Gチェイサーに代わる「足」を届けようとしていたのだ。

 

「……やぁあああぁーッ!」

 

 自分達のために命を賭け、この街を取り戻そうと戦っている4人の仮面ライダー。彼らの助けになれるならと、覚悟を決めたレオナはコマンドバッシャーから飛び降りてしまう。

 

(私はどうなっても良い……! だからどうか、奴を追い払ってください! 皆を助けてください! 仮面ライダー……!)

 

 咄嗟に空中で体勢を切り替えたターボが、彼女と代わるようにコマンドバッシャーのシートに着地したのは、その直後だった。彼は咄嗟にレオナを助けようと手を伸ばすが、間に合わない。

 最高速度で走りながら運転手を代えるという離れ業をやってのけたレオナは、そのまま宙に投げ出されて行く。外骨格も着ていない生身の肉体が、アスファルトの上に高速で叩き付けられようとしていた――。

 





 新必殺技となる合体攻撃を仕掛けようとしていたライダー達ですが、寸前のところで失敗してしまった模様。そんな彼らを救うべく、レオナがコマンドバッシャーから決死のダイブ! 果たして彼女の運命やいかに。ターボも剣折られたりバイク壊されたりと散々な目に遭っておりますが、次回辺りでこの戦いも決着となりますので最後までどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 阿須子が今回使ったコルトパイソンは初代バイオでもマグナム枠で重宝されておりましたよねー。朔夜が使っていたS&WM500も、バイオ4で「ハンドキャノン」として大活躍しておりました。マグナムリボルバーは大抵どんな作品でも頼りにされてますよねー……(*´꒳`*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 第20話

 

「レンッ!」

「間にッ、合えぇえぇえーッ!」

 

 コマンドバッシャーをターボに譲り渡すため、アスファルトの上に飛び出してしまったレオナ。その光景に声を上げるニッテの叫びを掻き消すように――朔夜が吼えていた。

 

「あうっ……!?」

 

 偵察用オートバイ「カワサキ・KLX250」に跨り、アスファルトの上を疾走していた彼女は、地面に激突する寸前となっていたレオナの身体を間一髪のところで抱き留める。近くに放置されていた正規軍の車両を事前に発見していた彼女は、レオナを救うためにこのバイクを「拝借」していたのだ。

 死を覚悟していたレオナは、自分が褐色巨乳の谷間に顔を埋めていることに気付き、バッと顔を上げる。中性的な美貌で男女問わず多くの者達を虜にして来た朔夜の怜悧な眼差しが、レオナの視線と一瞬だけ交わった。美男子のようにも見える朔夜の顔付きだが、蠱惑的な乳房の温もりと柔らかさ、そして濃厚なフェロモンの香りは、彼女が紛れもなく「女性」であることをレオナの鼻腔に教えている。

 

「さ、朔夜……!?」

「お前達にばかり良い格好はさせんぞ、レン! 私達は……必ず生きて帰るんだ、全員でなッ!」

「朔夜の言う通りよ……! 私達はもう、誰も死なせない! 皆も、市長も……仮面ライダーも! 誰1人……死なせるもんかぁあぁあッ!」

 

 KLX250のハンドルを握りながら、凛々しい笑顔をレオナに向ける朔夜は、RCと輸送車目掛けて片手でS&WM500を連射していた。そんな彼女に負けじと、ニッテ達も最後の力を振り絞るかのように、全方位からの総攻撃を仕掛けて行く。

 その猛攻に晒されたRCは投擲を中断し、防御体勢に移行していた。先ほど失敗した「新必殺技」を今度こそ成功させる、最後のチャンスだ。

 

(……このハンドルとシートに残る彼女の匂いと温もりが、俺を導いてくれる。俺にチャンスを与えてくれる。今度こそ、もう失敗はしないッ!)

 

 破壊されたGチェイサーに代わるマシンとしてレオナから託された、真紅のコマンドバッシャー。そのハンドルを握り締めるターボは、ケージ達と深く頷き合い――再びRCの周りを走り始めて行く。

 

「……今だ皆! トォオッ!」

「トォウッ!」

「トォアアッ!」

「トオォオイヤッ!」

 

 そして、彼ら全員のマシンが最高速度に到達した瞬間。両脚に集中させていたエネルギーを解き放ち、勢いよくマシンから跳び上がったライダー達は、空中で何度も身体を回転させながら飛び蹴りの体勢に移って行く。

 

「ライダー……!」

「……ライダー!」

「仮面ライダー! 行けぇえっ!」

 

 男達の勇姿を仰ぐ解放戦線の女傑達は、祈りを込めて彼らの名を叫ぶのだった。そして、「仮面ライダー」の名を冠する戦士達の飛び蹴りが――4方向から同時に、RCのボディに炸裂する。

 

 ――ライダー・クアドラップル・キィイィック!

 

 その雄叫びが重なり合い、天を衝くような轟音が鳴り響いていた。鬼気迫る修羅の形相を仮面に隠した男達の絶叫が、蹴撃のタイミングを完全に合致させている。

 そんな彼らの「新必殺技」をまともに喰らったRCは、大きくよろめいて後ずさって行く。これまで、どれほどの猛攻を浴びてもビクともしなかった鉄人の牙城が、初めて揺さぶられたのだ。

 

 最高速度に達したマシンによる助走を活かし、運動エネルギーを極限まで引き上げて繰り出すライダーキック。それを4方向から同時に命中させるこの技は、RCのような防御力に秀でた怪人を倒すために、ケージ達が秘密の特訓で編み出したものであった。

 

 例えどれほど装甲が厚くとも、それに守られている内部機構も頑強であるとは限らない。だが、そういった弱点を抱えている怪人は、敢えて後方に吹っ飛ぶことによって衝撃を逃し、ライダーキックを凌ぎ切ることが出来る。

 

 しかし。4方向から同時にライダーキックを叩き込めば、怪人のボディは運動エネルギーの逃げ場を失い、全ての衝撃がそのまま体内へと伝播することになる。

 装甲が破れないなら、その内側を衝撃の波紋で破壊する。それが、「ライダー・クアドラップル・キック」の真価なのだ。

 

「グ……ォオ、ォオォォ……!」

 

 新世代ライダー達の力を結集させた渾身のキックを浴びて、RCのボディが濁った唸り声を上げて大きくよろめいて行く中。輸送車の車内から小爆発が起こり、状況が動いたのはそれから間も無くのことだった。

 

「ダメージの蓄積を確認。これ以上の戦闘続行は危険と判断。……これより、戦闘区域外へと『退却』する」

 

 これ以上の戦闘続行は不可能と判断したのか。RCは迷うことなく、輸送車の車内へと逃げ込んで行く。

 RCのボディが想定以上の「負荷」を受けた上、無防備なLEP本体にも何発かの銃弾を受けてしまったのだ。この戦いを「演習」として終わらせるためにも、ここで引くことが最良だと判断したのだろう。

 

 ハッチを閉じた輸送車が一気にこの場から走り去ったのは、その直後だった。人工知能故に一切の躊躇がない「退却」に、この場の全員が目を剥く。

 

「なッ……! こ、こいつ、逃げる気かッ!」

「まっ、待ちやが、れッ……!」

 

 ケージ達は輸送車を逃がすまいと走り出そうとするも、その思いに反して膝から崩れ落ちてしまう。黒死兵達と戦った後の連戦は、想定以上の消耗を招いていたらしい。

 

 それでも諦めまいと、ライダー達は各々のマシンに再び乗り込もうとしたのだが――先ほどのライダーキックで力を使い果たしてしまったのか、その直前で脚がもつれている。

 彼らが最後の力を振り絞って何とかハンドルを握り締めた時には、すでにRCを乗せた輸送車は捕捉出来ない距離にまで逃げおおせていた。

 

「この期に及んで逃げるつもり……!? 待ちなさいよ、このぉおぉッ……!」

「落ち着けニッテ、深追いは危険だ! ……奴が撤退した以上、この街にもうノバシェードは居ない。勝ったんだ……ニッテ。私達が、勝ったんだ……!」

「……くっ……!」

 

 街を蹂躙したノバシェードの刺客。その最後の1人を取り逃してしまったことに、ニッテは激しく憤り怒号を上げる。そんな彼女を懸命に宥めているヴィクトリアも、絶え難い悔しさに唇を噛み締めていた。

 

 彼女だけではない。ノバシェードの撃退に成功し、オーファンズヘブンの平和を取り戻したというのに――解放戦線のメンバー達は皆、どこか腑に落ちない表情を浮かべている。

 

「……なんとも、逃げ足の早い奴だ。初めから……この場で決着を付ける気などなかったということか」

「くそッ……! いつか必ず、ケリを付けてやるッ……!」

「あぁ……今度こそ、決着を付けねばなるまい。彼女達の無念を晴らすためにも、な」

 

 そんな彼女達の様子を一瞥しているケージとUSAも、同じ気持ちであった。悔しさのあまり地面を殴り付けているケージの肩に手を置いているUSAも、穏やかな声色に反してその拳を震わせている。

 

 ――かくして。新世代ライダー達とニッテ達の共同戦線により、オーファンズヘブンはついにノバシェードの支配から解放されたのであった。

 その報せに市長はもとより、市街に展開していた正規軍や難民キャンプの避難民達も歓声を上げ、平和の到来を噛み締めて行く。だが、その平和を賭けた戦いの渦中に居た者達は皆、物憂げな表情で空を仰いでいた。

 

 硝煙の匂いが風に流され、戦いの嵐が過ぎ去って行く。その果てに訪れた静寂が、この戦いの終わりを穏やかに告げるのだった。

 

 ◆

 

 オーファンズヘブンの市外を包囲していたこの国の正規軍。彼らの中でも「最強」と謳われていた大部隊は、たった1人の怪人によって壊滅的な打撃を被っていた。

 約1週間に渡る戦闘で彼らを壊滅させた真紅の馬型怪人(レッドホースマン)は、街を取り囲んでいた正規軍の包囲網に「大穴」を開けていたのである。それは、「学習」を終えたLEPを脱出させるための「出口」を作る攻撃であった。

 

 その攻撃によって切り開かれた道は、オーファンズヘブンを蹂躙したノバシェードの刺客をみすみす通してしまったのである。だが、肝心のLEPがこの戦いで得たものは、結果的にはごく僅かなものであった。

 

 ――脆弱な生身の人間には、惰弱な精神しか宿らない。天地がひっくり返ろうとも、完全なるロボット兵器である仮面ライダーRCが、そんな人間に負けることなどあり得ない。

 

 LEPはこのオーファンズヘブンでの戦闘行為を通じて、多くの戦術を「学習」したが。それらの根源にある人間の底力――「勇気」というものを理解することは、終ぞ叶わなかった。

 彼は今回の事件で最も学ばなければならなかった「肝心な部分」を、故障を回避するために取り零してしまったのである。だが、彼が見落としていたのはそれだけではない。

 

 ケージを筆頭とする4人の新世代ライダーは皆、接近戦を得意とするタイプばかりだった。

 そんな彼らを真正面から圧倒し、力の限り殴り飛ばすという「成功体験」を「学習」したことで。LEPは後に、思いがけない相手(マス・ライダー)に敗北を喫することになるのだ――。

 





 今回は朔夜の偵察オートバイがここぞとばかりに魅せてくれた決着回となりました。次回辺りで本章も最終話を迎える予定です。どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و
 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 バイク運転しながら片手でマグナム弾連射する褐色巨乳イケメンヒロイン。これがやりたかったんすよ……(*´ω`*)


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北欧編 仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ 最終話

 

 その後。ドナルド・ベイカー市長の救出成功とノバシェードの完全撤退が確認されたことにより、正規軍による空爆は中止が決定された。

 「非情な決断」を下さずに済んだ軍部の高官達と、この国の首都(エンデバーランド)からその情報を耳にしたヘレン・アーヴィング特務捜査官は、揃って胸を撫で下ろしていたのだという。ヘレンの懸命な説得によって生まれた「時間」が、この奇跡を引き寄せたのだ。

 

 だが、これで終わりではない。めでたしめでたし、とは行かない。

 ようやく平和を取り戻すことは出来たが、これからは街の復興に勤しまねばならないのだ。1日でも早くかつての「日常」を取り戻すためにも、戦いが終わったこれからが忙しくなる。

 

 そして――その平和に貢献した4人の新世代ライダー達は、休む暇もなく次の現場へと向かおうとしていた。

 市外へと続く道路の路肩に停車している、4台の車とバイク。そこに集まった絶世の美少女達は皆、出会った頃とは裏腹な暖かい眼差しで、敬愛する男達を見詰めている。

 

「……1日くらいゆっくりして行けば良いのに。これから避難キャンプの皆に私達の勝利を伝えに行くっていうのに、主役が居ないんじゃ話にならないじゃない」

 

 かつて「オーファンズヘブン解放戦線」と呼ばれ、銃を手に自由を勝ち取った戦乙女達。銃を捨て、ごく普通の女性に戻った彼女達を代表し、ニッテは名残を惜しむような声を漏らしている。

 彼女を含むかつてのメンバー達はもう、その手に銃を握ってはいない。ここに居るのは皆、難民キャンプに居た避難民達と同じ「民衆」の一員であった。そんな彼女達を見詰める4人の男は、互いに顔を見合わせ、微笑を浮かべている。

 

「主役ならとっくに間に合ってるだろう? この街の平和を取り戻したのは君達だ。俺達はほんの少し、その手助けをしただけだよ」

「はぁ……あんた達ならそう言うだろうなーって思ってたところよ。つくづく予想を裏切らない連中ね」

「ふふっ、お褒めに預かり光栄だ」

 

 分かり切っていた鳥海穹哉の言葉に、ニッテは腰に手を当てて呆れたような笑みを溢す。彼の言葉を耳にした周囲の元メンバー達も、くすくすと柔らかな笑顔を咲かせていた。青いロングコートを羽織った青年は、そんな彼女達と朗らかに笑い合っている。

 

「……俺達にはまだ、やることがある。このオーファンズヘブンと同じように、ノバシェードに侵略された街は幾つもあるんだ。俺達と同じ『仮面ライダー』は皆、今この瞬間もそこで戦っている。だから俺達も、ここで立ち止まるわけには行かないんだよ」

「だが……私達は、あなた達に何も返せていない。これほど救われたばかりだというのに、私達は、何も……」

「そうかい? ……じゃあ、借りを返すためってことで一つ頼まれてくれよ」

 

 その一方で。責任感の強いヴィクトリアは、大恩ある穹哉達が次の戦場に向かおうとしている時に、何の力にもなれていないことに口惜しさを感じていた。そんな彼女の様子を一瞥した忠義・ウェルフリットは赤いロングコートを翻すと、ある「頼み」を口にする。

 

「知っての通り、俺達は旅から旅の根無草だ。いつまでもこの街には居られねぇ。……だから、この街の復興は君達に任せるぜ」

「……!」

「銃を持って戦うことだけが、街を守るってことじゃない。むしろ銃を捨てられた今日からが、君達にとっての本当の戦いなんだ。……いつか必ず、俺達のような奴ら(仮面ライダー)が要らなくなる時代が来る。その時までに、そんな時代を笑って迎えられるようにしておいて欲しい。それは、君達にしか出来ない」

「……狡いことを言うのだな、あなた達は」

「おぉ、そうさズルいさ。ちょっとズルいくらいじゃなきゃ、俺みたいなのがライダーやってられるわけねーもんな」

 

 感極まった表情で、声を震わせるヴィクトリア。そんな彼女を気遣い、忠義は敢えて道化を演じるかのようにおどけていた。

 そんな彼の言葉を耳にしたレオナは神妙な面持ちで、白のロングコートを纏う本田正信を見詰める。敬愛するヒーローに父の形見を託すと決めた彼女は、コマンドバッシャーのハンドルを握る正信の手に、自身の掌を重ねていた。

 

「……要らなくなる、なんて言わないでください。誰が何と言おうが、あなた達は街を救った英雄なのですよ? こんな状況でさえなかったら、ずっとここに居て欲しかったくらいなのに……!」

「どんな御託を並べようが、俺達の力は最初から戦うために作り出された暴力装置そのものだ。仕方なく兵器になった、このお父さんの形見(コマンドバッシャー)とは違う。役目を終えたらお払い箱。……俺達は皆、そんな未来のために戦っている」

「どうして……!? どうしてそんなことが出来るのですか!? 自分達を要らなくするために戦うなんて……意味が分かりませんっ!」

 

 Gチェイサーに代わる新たなマシンとして、コマンドバッシャーを託された正信の言葉に、レオナが声を荒げる。仮面ライダー達の旅立ちを見送るために集まったというのに、これでは気まずい空気になってしまう……と、周囲のメンバー達はどよめいていた。

 さらに、エヴァもレオナと同じ気持ちだったのか。迷彩色のロングコートを羽織ったジャック・ハルパニアに対して、複雑な視線を向けていた。

 

「……こんな時に言うことじゃないけどさ。自己犠牲、なんて安い言葉で片付けて良いことじゃないだろ……! この街のために戦ったあんた達の正義が、何の理由があって否定されなきゃならないんだ!」

「分からなくて良い。いや……分からない方が良い。戦うということ、殺すということは……いつか必ず、その正当性を見直される時が来る。今は良くても、いつかは許されなくなる時が来る。だからその時が来る前に、人は銃を捨てなければならない」

「銃を、捨てる……」

「そうだ。いつだって最後に笑うのは、君達のような……銃を捨てることが出来た民衆なんだ。いつまでも銃を捨てられなかった戦士は、必ずどこかで報いを受ける。この世界は、そのように出来ている」

「私達は……見直したりなんかしてやらない。仮面ライダーは未来永劫、私達の……この街のヒーローだ!」

「……ありがとう。そう言ってくれる誰かが居れば、それだけで十分だ」

 

 アメリカ陸軍の職業軍人として、仮面ライダーの1人として。これまでの軍隊生活の中で数多くの地獄を見て来たジャックの言葉に、エヴァはただ俯くしかなかった。

 そんな彼女の様子を一瞥したニッテは、深く息を吐き――せめて今この瞬間だけは笑って彼らを見送ろうと、儚げな笑みを浮かべて顔を上げる。その表情を見遣った他のメンバー達も、似たような面持ちでライダー達を見詰めるのだった。

 

「……確かにこの先、そんな時代が来るのかも知れない。それでも私達は皆……あんた達のこと、ずっとずっと大好きだよ。だからその時まで……誰も死なないでよね。いつかまた、元気な姿で……会いに来てよね」

「あぁ、約束する。……それと、最後に一つ言っておきたいんだが」

「ん? 何よ?」

 

 精一杯の笑顔を咲かせて、穹哉達を笑顔で見送ろうとするニッテ達。そんな彼女達の様子を見渡した後、穹哉はニッテに声を掛ける。彼女は何事かと、可愛らしく小首を傾げていた。

 

「……これからキャンプの連中と合流するようだが、それならその前に『下着』を調達しておいた方が良いぞ。いつまでもそのまま(・・・・)では落ち着かないだろう」

「んなっ!?」

「ふぇえっ!?」

 

 その言葉に目を丸くしたニッテ達主力メンバーは耳まで真っ赤になり、咄嗟に乳房を隠すような仕草を見せ、内股になってしまう。穹哉以外の男性陣が彼の言葉に反応していないところを見るに、他のライダー達もすでに気付いていたのだろう。

 野戦服や外骨格に着替えている4人の主力メンバーが皆、下着を付けていない状態(ノーパン&ノーブラ)であることに。

 

「なっ、なな、なぁあっ……!」

 

 その事実を把握した初心な処女(バージン)達は、わなわなと全身を震わせて羞恥に頬を染めている。

 そんな彼女達を見守っていた他のメンバー達は、何とも言えない表情で俯くばかりとなっていた。中には、乾いた笑みを浮かべて目を逸らしている者もいる。

 

「い、いつから気付いていたんだっ……!?」

「君達が公邸から戻って来た時だが」

「最初からですかっ……!?」

「だからあの時言ったんじゃねーか、『そんな格好で何しに来た』ってさ」

「あ……!」

「それに君達4人だけ、突入前とは服装が違っていたからな。何より……揺れ方(・・・)がさっきと違う」

「な、ななっ、なぁあっ……!」

 

 仮面ライダーであり、刑事でもある彼らの「観察眼」が余計な方向に働いた結果であった。性的な関心に基づいているわけでもない、一切の「他意」が感じられない淡々とした声色で「事実」を指摘する男達の言葉に、女傑達はみるみる赤くなって行く。

 少なくとも彼ら4人としては、単純にニッテ達の今後を気遣っての言葉だったのだが――当の美少女達は、羞恥と怒りに身を焦がしているようだ。

 

「……よし、では俺達も行くとしよう。皆、達者でな」

 

 その表情からようやく全てを察した男達は互いに顔を見合わせると、用は済んだと言わんばかりに愛車のエンジンを蒸していた。4人揃って、驚きの白々しさである。

 そして、茹蛸のように赤くなった4人の美少女達が、大噴火の如き怒号を上げる直前で。彼らはしれっと、地平線の彼方に向かって走り去って行く。それはまるで、疾風のように。

 

「……ばかぁああっ! もうっ知らないっ!」

「セ、セクハラ! セクハラだぞ仮面ライダー!」

「しっ、信じられませんっ! えっちっ!」

「やっぱり二度とそのツラ見せんなぁああ〜っ!」

 

 そんな彼らの後ろ姿に、ニッテ達は涙目になりながら精一杯の罵声を浴びせるのだった。最後の最後で乙女の純情を弄ばれ、感謝の想いを素直に告げる機会を逸してしまった彼女達の背中を、他のメンバー達は「やれやれ」といった様子で見守っている。

 

 嵐のように戦い、風のように去って行く。そんな仮面ライダーの生き様を見届けた美少女達を、晴れやかな青空が見下ろしていた。

 

 その空の美しさはもう、戦闘による猛煙に阻まれてはいない。透き通るように優しい、孤児の天国(オーファンズヘブン)そのものであった――。

 

 ◆

 

 ――俺だ。予定通り、LEPの回収も完了したぜ。M2機関銃がオシャカになっちまったりと、ちょっとした「想定外」なこともあったようだが……俺が街を離れた後の「お勉強」は、概ね有意義なものだったらしい。

 

 ――あぁ。コイツの「補修」には随分と時間が掛っちまったし、その試運転もまだだったからな。「決戦」までにさっさと慣らし(・・・)ておく必要があったってわけだ。

 

 ――RCの「補修」が終わるまでの間、現代の武器装備その他諸々は随分とアップデートされていたようだからなァ……。銃器も、戦術も……仮面ライダーに至るまで。何もかもが変わっちまっていた。

 

 ――その変化を短時間でキッチリ「学習」させるための「実験場」としちゃあ、オーファンズヘブンはうってつけだったわけだァ。街の規模も保有戦力も、LEPに余計なダメージを負わせない程度に「学習」させる上では丁度いい塩梅だったしなァ。

 

 ――現代の白兵戦に精通している警察、軍隊、抵抗組織(レジスタンス)のメスガキ共。そして、仮面ライダーの坊主共。全員揃って、LEPの「お勉強」に付き合わせちゃって申し訳ないねぇ。まさかあいつらも、今回のテロが単なる「演習」だったとは思いもしねぇだろうよ。

 

 ――それもこれも全部、あんたの計画通りだったってわけだなァ。いや、あんたの背後から俺達を指揮している「大佐」のご意向ってところか?

 

 ――しっかし、間柴(ましば)の野郎は連れて来なくて正解だったぜぇ。お堅いコンピューターのLEPですら、手加減を諦めてたくらいだ。アイツに任せてたら勢い余りまくって、楽しみが減るどころじゃ済まねぇところだったよ。

 

 ――10月7日。その「決戦の日」だけが、俺達の「意義」を教えてくれる。そうだろう? 間霧(まぎり)少尉さんよ。

 

 ◆

 

・1945年8月

 日本政府がポツダム宣言を受諾したことにより、太平洋戦争が終結。旧日本軍の人体実験に従事していた徳川清山(とくがわせいざん)元軍医大尉はこの直後、「決して死なない鋼鉄の兵士」に関する研究を開始。

 

・1964年8月

 アメリカ軍によるベトナム戦争への軍事介入が本格化。混乱に乗じて現地に単独潜入した清山は、両軍の戦闘データの収集を開始。その過程で、現地で破棄されていたM59装甲兵員輸送車を奪取する。

 

・1972年5月

 清山、旧ナチス軍の地下基地跡からオーパーツコンピューター「LEP(ロード・エグザム・プログラム)」を発掘。これを解析した結果、「決して死なない鋼鉄の兵士」の研究が大幅に進行。「改造人間」の基礎概念を構築する。

 

・1972年12月

 清山、奪取したM59装甲兵員輸送車を大幅に改造。同車両にLEPを搭載し、外部端末となる仮面ライダー0号こと「仮面ライダーRC」を完成させる。

 

・1973年4月

 羽柴柳司郎(はしばりゅうじろう)、警視庁から退職。日本を出奔後、間も無く清山と出逢い実験体に志願。改造人間「羽々斬(ハバキリ)」となる。これ以降、清山は多くの「同志」を集めて改造人間による傭兵会社を設立する。

 

・1974年9月

 アジア大陸某国森林部の集落「ツジム村」で大規模な虐殺が発生。それが軍部の謀略によるものと看破した柳司郎達「始祖怪人(オリジン)」は、虐殺を実行した国防軍の実働部隊を殲滅。部隊を統率していたコン・ザン大佐を抹殺し、国外へと脱出した。

 

・1981年1月

 ツジム村で鹵獲したティーガーIの現地改修車をベースとする、改造人間専用車両「タイガーサイクロン号」の初期型が完成。運用を任された柳司郎はこれ以降「仮面ライダー羽々斬(ハバキリ)」と呼ばれるようになり、タイガーサイクロン号は彼自身の手により何度も改良された。

 

・1991年12月

 ソビエト連邦の消滅が正式に宣言される。これ以降も世界各地では紛争が頻発し、清山の傭兵会社は戦地の裏で暗躍を続ける。

 

・2001年10月

 アメリカ軍、アフガニスタンへの侵攻を開始。これ以降、対テロ戦闘に有効な兵器の需要が高まり、清山の傭兵会社も全世界の紛争地帯で活躍。各国政府軍との秘密裏の契約を経て、多額の資金を得る。

 

・2009年1月〜12月

 清山の傭兵会社を前身とする対テロ組織「シェード」が日本政府によって正式に創設されるが、柳司郎の元後輩である番場惣太(ばんばそうた)の告発により組織は解体。その後間も無く、残党勢力による第1次某テレビ局占拠事件が発生。その中で元構成員の吾郎(ごろう)が「仮面ライダーG」に覚醒する。彼の活躍により残党勢力は劣勢に陥り、柳司郎を除く15体の始祖怪人が仮死状態となる。

 

・2016年5月〜12月

 城南大学の学生・南雲(なぐも)サダトが改造手術を経て「仮面ライダーAP」に覚醒。柳司郎を打倒し、シェード残党を完全に壊滅させる。彼と共闘していた仮面ライダーGも清山を打倒し、恋人と共に俗世間から姿を消した。

 

・2017年1月〜2019年8月

 シェード壊滅後も改造被験者達に対する差別と偏見が相次ぎ、当事者達による自助組織は徐々に過激路線へと先鋭化。新組織「ノバシェード」の創設に発展し、再び改造人間によるテロ行為が頻発した。これに対処するべく、警視総監・番場惣太の娘である番場遥花(ばんばはるか)は「ライダーマンG」と名乗り、戦闘を開始。惣太も娘を守るべく、警視庁を中心とする新世代ライダー開発計画に着手。同計画には警視庁の他、各企業や自衛隊、アメリカ軍等が参加。最終的に22機の試作機がロールアウトされた。

 

・2019年9月

 遥花ことライダーマンGが、ノバシェードの首領格である3体の怪人と対決。惣太の計画により誕生した新世代ライダー22名も現場に合流し、首領格3体の確保に成功。その戦いを最後に遥花は第一線から退いたが、22名の新世代ライダー達はその後もノバシェードの残党を追い続けた。

 

・2019年10月〜2020年12月

 ノバシェードは首領格を失ってからも世界各地で散発的にテロ行為を続行。新世代ライダー達は全世界に散らばり、各地のノバシェードを追撃。この期間にも様々な怪事件が発生したが、その悉くが多種多様な「仮面ライダー」達の活躍によって解決される。

 

・2021年1月

 仮死状態に陥っていた15体の始祖怪人が覚醒。新世代ライダー達によって壊滅寸前となっていたノバシェードと合流し、事実上の指導者として彼らを統率し始める。これによりノバシェードの組織力は大幅に向上。

 

・2021年3月

 北欧某国の首都「エンデバーランド」で大規模なテロが発生。特務捜査官ヘレン・アーヴィングと、「仮面ライダータキオン」こと森里駿(もりさとはやお)を含む4名の新世代ライダーにより、発生から僅か数時間で鎮圧される。事件に巻き込まれたドナルド・ベイカーも無事に救出された。

 

・2021年5月

 エンデバーランドの復興作業が終了。これ以降も北欧某国の近辺ではノバシェードによるテロ行為が頻発したが、新世代ライダー達によりその全てが鎮圧された。

 

・2021年7月

 アメリカ合衆国のノースカロライナ州に位置するジャスティアドライバー研究施設「ニノマエラボ」が、始祖怪人「レッドホースマン」の部隊に襲撃される事件が発生。同施設の最高責任者である「仮面ライダーバウル」こと一光(にのまえひかり)博士をはじめとする、ジャスティアタイプの仮面ライダー達が事態の対処に当たる。

 

・2021年8月

 銃器製造会社「Larsen våpen fabrikant(ラーシェン・ファブリカント)」が新型ワイヤーネットガンを開発。開発主任を務めたラングニル・ラーシェンの手から、量産試作型スーツ「マス・ライダー」のテスト装着者である山口梶(やまぐちかじ)巡査に提供される。

 

・2021年9月

 「仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)」こと水見鳥清音(みずみどりきよね)巡査、南米の研究施設で始祖怪人に関する資料を発見。その後間も無く、北欧某国の観光都市「オーファンズヘブン」でテロが発生。「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉(とりうみくうや)巡査をはじめとする新世代ライダー4名は、ニッテ・イェンセン率いる「オーファンズヘブン解放戦線」と協力し、街を占拠していた「仮面ライダーRC」の撃退に成功する。人質にされていた市長のドナルド・ベイカーも、新世代ライダーの援護を受けた解放戦線により無事に救出された。

 

・2021年10月

 完全に覚醒した始祖怪人15体による、第2次某テレビ局占拠事件が発生。出動した新世代ライダー22名との総力戦に発展し、15体全員が自爆。またこの戦いにより、新世代ライダーのうち数名が再起不能の重傷を負う。

 

・2021年12月

 ノバシェード、組織として完全に崩壊。新世代ライダー22名も装着者の任を解かれ、全ての対怪人戦闘が終了となる。それに伴い全スーツの解体が決定され、マス・ライダーをベースとする制式量産機もアメリカを中心に全世界でロールアウトされた。オーファンズヘブンの復興作業も完了し、「オーファンズヘブン解放戦線」の元メンバー達は復興の象徴として称賛され、その功績が大々的に報じられる。

 

・2022年1月〜12月

 改造被験者の能力を無効化する手術が世界的に行われ、全被験者の95%が処置を終える。これにより、人間と変わらない生活を送れるようになった被験者達の社会復帰が本格化。「オーファンズヘブン解放戦線」の活躍がドキュメンタリー番組として全世界で放送され、メンバー全員が世界的なアイドルとして認知される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・2023年3月

 忠義(チュウギ)・ウェルフリットの要請を受け、ドナルド・ベイカーが来日。元解放戦線メンバー達からの寄付とベイカーの手術により、再起不能とされていた鳥海穹哉、本田正信(ほんだまさのぶ)、ジャック・ハルパニアの3名が奇跡的な完治を遂げる――。

 





 今話を以て、北欧編「仮面ライダーRC&レジスタンスガールズ」もようやく完結となりました! 解放戦線の活躍により、オーファンズヘブンにもようやく平和が訪れましたぞ〜(о´∀`о)
 今回は「オリジンモンスターズ」第10話以降で描かれた最終決戦の前日譚に相当する、「新世代ライダー達が海外でノバシェードと戦っていた頃」のお話となりました。この後すぐにライダー達は日本に帰国し、某放送局で始祖怪人達とのケッチャコを付けることになります。読者の皆様、企画参加者の皆様、最後の最後まで応援誠にありがとうございましたっ!٩( 'ω' )و

 本章を構想し始めた時の初期設定ではアメリカが舞台だったり、完全オリジナルのボスキャラが登場する予定だったりと、今の形とはかなり細部が異なっておりました。
 世界各地で猛威を振るっていた……という黒死兵の設定を再利用することは最初から決めていたのですが、「どうせなら始祖怪人を連れて来て最終決戦に向けた前哨戦を!」ということで、秋赤音の空先生原案の仮面ライダーRCに来てもらう形となりました。個人的には輸送車の設定と併せてかなり気に入っている怪人だったので、作者としても楽しませて頂きましたよー(*´ω`*)

 それから現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年を舞台としているこちらの作品では、個性豊かなオリジナルライダーや怪人達が登場しておりますぞ! 皆様も機会がありましたら、是非こちらの作品もご一読ください〜(*^▽^*)

 ではではっ、本章を最後まで見届けて頂きありがとうございました! いずれまた、どこかでお会いしましょうー! 失礼しますっ!٩( 'ω' )و


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Ps
 たなか えーじ先生に有償依頼で、解放戦線の主力メンバー4人を描いて頂きました! 左からヴィクトリア、ニッテ、レオナ、エヴァとなっております。たなか先生、この4人をカッコ良くデザインして頂きありがとうございますー!(*≧∀≦*)


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女湯編 エージェントガール&レジスタンスガールズ 前編

◆主な登場ヒロイン

◆ニッテ・イェンセン
 オーファンズヘブン解放戦線を統率していた元リーダーであり、174cmの長身と茶髪、エメラルドグリーンの瞳が特徴の勝ち気な美少女。兵役時は精鋭である郷土防衛隊に身を置いていたエリートであり、その当時の経験を活かして解放戦線のメンバー達を率いていた。年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト95cm、ウエスト60cm、ヒップ88cm。カップサイズはG。
 ※原案はダス・ライヒ先生。

◆ヴィクトリア・フリーデリーケ・フォン・ライン・ファルツ
 オーファンズヘブン解放戦線に参加していた元サブリーダーであり、183cmの長身とポニーテールに纏められた豪奢な金髪、セーラー服に膝丈のスカートが特徴の爆乳美少女。当主の死によって没落した大貴族の末裔であり、孤児となった今でも気位が高い。年齢は16歳。
 スリーサイズはバスト110cm、ウエスト70cm、ヒップ99cm。カップサイズはI。
 ※原案はG-20先生。

◆エヴァ・バレンストロート
 オーファンズヘブン解放戦線に参加していた元主力メンバーであり、黒に近い茶髪と蒼い目が特徴の色白な美少女。退役直後、エンデバーランドで起きたテロに遭遇していた生き残りであり、その時の悔しさを糧に市街地戦やCQCの訓練を積んでいた女傑。年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト82cm、ウエスト58cm、ヒップ85cm。カップサイズはD。
 ※原案は神谷主水先生。

◆レオナ・ロスマン
 オーファンズヘブン解放戦線に参加していた元主力メンバーであり、膝上まで伸びている黒から赤へのグラデーションカラーの長髪と深紅の瞳、ショートパンツの軍服と学生服の合の子ような服装が特徴の美少女。一見ぶっきらぼうにも見えるクールな人物であり、かつては余所者に対する警戒心も強かった。年齢は17歳。
 スリーサイズはバスト89cm、ウエスト55cm、ヒップ86cm。カップサイズはF。
 ※原案はRerere先生。


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 ――オーファンズヘブン解放戦線と仮面ライダー達の活躍によって、ノバシェードから街が解放された日の夜。

 

 解放戦線の元メンバーである極上の美少女達は、他の避難民達と共に正規軍との合流を果たし、街の外に設けられた新たなキャンプ地に身を寄せていた。これから街を復興させて行くにしても、まずは戦いの疲れを癒さなければ始まらない。

 

 そこで。ニッテ達は大きなテントの中に設けられたシャワー室で、1週間ぶりに全身の汗や埃を洗い流すことになるのだった。これまで入浴も出来ずに戦い続けた彼女達は、ようやく心身共に癒せるひと時を得られたのである。

 

 一糸纏わぬ裸身を湯煙の中に晒し、熱いシャワーを浴びる絶世の美少女達。彼女達は1週間に渡る戦いの日々を噛み締めるように、そのひと時を堪能し――生まれたままの姿で恍惚の笑みを咲かせていた。

 

 瑞々しい柔肌に浴びせられるシャワーが、溜まりに溜まったもの全てを根こそぎ洗い落とし、彼女達の美しい身体をさらに磨き上げて行く。生まれたままの素肌に伝う雫の温もりに、戦いから解放された美少女達は至福の笑顔を向け合っていた。

 

 豊満に実った乳房、引き締まった腰、むっちりとした桃尻。その扇情的なボディラインをなぞる雫が、柔肌に纏わり付いていたものを綺麗に落とし、本来の美貌と色香をより露わにして行く。

 

「はぁー……生き返った、ってこういう気持ちのことを言うのね。これまでのこと全部、綺麗さっぱり流れて行く感じ……」

 

 解放戦線のリーダーとして、仲間達を率いて来たニッテ・イェンセン。彼女が両手で艶やかな茶髪を掻き上げると、95cmの白い爆乳がぶるんっと揺れ動いていた。

 

「1週間ぶりのシャワー……か。これほどの喜び、なかなか味わえるものではないな。街も無事に解放され、1人も欠けることなくこの至福を享受出来るのだ。我々解放戦線にとって、これ以上の快勝は無かろう」

「やめなヴィクトリア、解放戦線はもう解散したんだ。私達はもう、何者でもない。今はただ、ごく普通の女として……このひと時を堪能しようじゃないか」

 

 サブリーダーのヴィクトリア・フリーデリーケ・フォン・ライン・ファルツ。切り込み隊長のエヴァ・バレンストロート。彼女達も一糸纏わぬ白い裸身で熱いシャワーを受け止め、その温もりに頬を緩めていた。

 110cmという規格外の大きさを誇るヴィクトリアの爆乳と、85cmにも及ぶエヴァの巨尻がぶるんっと揺れ動き、2人の美女は恍惚の表情を浮かべている。

 

「そうですね……。仮面ライダーが居なくなったこの街に今必要なのは、解放戦線としての私達じゃない。私達の手は銃だけじゃなく、復興のための道具だって握れる。彼らの分まで……私達のこの手で、力を尽くすしかないのです」

 

 解放戦線の頭脳として仲間達に尽くして来たレオナ・ロスマンも、生まれたままの白い裸身でシャワーの熱を堪能し、うっとりと目を細めている。89cmの白い巨乳と、86cmものサイズを誇る安産型の巨尻。その豊満な実りの上を、熱い雫が伝っていた。

 

「……そうだったな、レンの言う通りだ。我々には銃を取ること以外にも出来ることが、やるべきことがある。その新たな使命を果たすためにも……今はエヴァの言うように、英気を養うとしよう」

「それはそうとさ……ヴィクトリア、あんたまた乳がデカくなってない? うっわ、重っ……母乳10ℓくらい溜まってんじゃないの? 私の銃より重いんじゃん。肩凝りもエグそー……。しかも、ケツまでこんなにデカいのに張りもあるとか反則じゃない?」

「な、なぁっ……!? い、いくら何でもそこまでの重量ではない……んんっ! というかエヴァ、んぅっ、気安く私の身体に触るなと何度も言っているだろうっ! そんなに揉んでも母乳など出んぞっ!」

 

 レオナの言葉に神妙に頷いていたヴィクトリアだったが、下から掬い上げるように超弩級の爆乳を揉みしだいて来たエヴァの言葉に、思わず顔を真っ赤にしてしまう。99cmの白い爆尻をさわさわと撫で、その張りのある柔らかさに瞠目するエヴァは、無遠慮にヴィクトリアの全身をスリスリと撫で回していた。

 

「ん、あっ、はぁあっ……! こ、こらっ、やめんかエヴァっ! ミルクなど出て来んと何度も……あはぁうっ!」

「うっは、柔らかっ……重っ……! なんか触ってるだけで変な気分になって来そう……!」

「何してるんだか、全く……」

「一緒に入浴する時はいつもアレですね、あの2人……」

 

 そんな彼女の厭らしい手つきに顔を赤らめるヴィクトリアは必死に抵抗しているのだが、格闘戦の達人であるエヴァの拘束から逃れるのは、体格で優っている彼女の膂力でも容易ではないらしい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ニッテとレオナが「またやってる」と言わんばかりの呆れた表情で一瞥する中。2人は上擦った甘い声を漏らしながら、ひたすら互いの豊満な肉体を密着させ、石鹸で滑った肢体を絡み合わせていた。彼女達が身動ぎするたびに、シャワーを浴びる白い果実がぶるるんっと弾んでいる。

 

「わぁーい、シャワーだシャワーだ! 気持ちいい〜っ!」

「1週間振りだぁあ〜っ!」

 

 もちろん、1週間振りのシャワーを堪能しているのはニッテ達主力メンバーだけではない。

 年少メンバーであるリエリスとアロマ・ミュラーも、石鹸で泡塗れになりながら、久々のシャワーに大はしゃぎしていた。ようやく戦いの日々から解放された少女達は、歳相応の笑顔を咲かせている。

 

「こらリエリス、アロマ! 2人ともはしゃぎ回るんじゃない、滑ったら危ないぞ!」

 

 そんな彼女達の面倒を見ながら一緒にシャワーを浴びている朔夜(サクヤ)・モーリガンも、その一糸纏わぬ褐色の裸身で、熱い雨を受け止めている。85cmの豊満な乳房と安産型の巨尻が、シャワーを浴びてぷるぷると弾んでいた。

 

「ふぅっ……まさか、こんな日が来るなんて……思わなかったな……」

「ほんとほんと! あぁー……最っ高……!」

「んーっ……この感じ、本当に久々だよねぇ! ちゃんとシャワー浴びれたの、いつ振りだろうっ……!」

 

 右半身の大きな火傷跡にもシャワーの温もりを浴び、リラックスした表情でこのひと時を堪能しているサガ・マーミル。そんな彼女の隣で共にシャワーを浴びているリリエラ・ヤマシロとカミラ・ヴェサールも、白い乳房と桃尻を揺らして華やかな笑みを浮かべていた。

 

「あー最高っ! 街は取り戻せたし市長も無事だしシャワーも浴びれたし、もう言うことナシだなぁっ!」

「……でも、大変なのはこれから。街は破壊されたまま。明日からは復興作業が始まる……」

 

 筋肉質でありながらも、女性らしいラインを描いている裸身を晒し、最高温度のシャワーを堪能している川上(かわかみ)ティエナ。そんな彼女の隣で熱い雨を浴びているエレイン・マーケストは、89cmの爆尻をぷるんっと揺らして神妙な表情を浮かべていた。

 

「んなことは明日から考えりゃ良いんだよ! 無事に皆で生き残れた今を楽しめなきゃ、損だぜエレイン!」

「……ティエナはティエナで、能天気過ぎ」

 

 真面目過ぎる彼女の細い肩に手を回したティエナは、生まれたままの白い胸を彼女の乳房に擦り付け、豪快に笑っている。

 そんなティエナの底抜けの明るさに救われたのか。エレインは悪態をつきながらも、押し当てられた乳房から伝わる彼女の温もりに、人知れず微笑を浮かべるのだった。

 

「ふぅっ……不思議なものだね。ただのシャワーだというのに、あの1週間を思うとこれ以上ない至福のひと時であるかのように感じられる」

 

 つるぺたの幼女体型でありつつも、むっちりと実った74cmの桃尻を揺らして。ラングニル・ラーシェンはその白い裸身で熱いシャワーを受け止めながら、感慨深げに呟いていた。

 一見すれば10代半ばの少女のようにも見える彼女だが、出産に適した安産型のラインを描いている彼女の桃尻は、立派に子を産める1人の成人女性であるという事実を雄弁に物語っている。

 

「そりゃあ、皆であんな思いをしながらやっとの思いで掴み取った勝利の報酬なんだもん! 最高に気持ち良くて当たり前っ!」

「最高の報酬……か。ふふっ、客観的に見た僕達の功績に比べれば、シャワーなんて安いものだが……案外、的を射ているのかも知れんな」

 

 そんな彼女の隣で87cmの桃尻をぷりんっと揺らしているスフル・アレイネは、ラングニルの頭をワシワシと掻きむしりながら快活に笑っている。敬意というものが足りない助手の手癖にムッとなりながらも、ラングニルは彼女の言葉に穏やかな笑みを溢すのだった。

 

「……どうやら、ワタシはまた死に損なったようだな。今度こそ……死ねるかと思ったが」

 

 そして。全ての包帯を脱ぎ去って極上の女体を晒し、その生まれたままの白い身体で1週間振りのシャワーを浴びている須義本阿須子(すぎもとあすこ)は。85cmの巨乳と、94cmの爆尻をなぞる熱い雫の感触を味わいながら、独り暗澹とした表情を浮かべていた。

 

「そう……それなら、いつかその時が来るまで精一杯生きるしかないわね。あなたが死にそうになった時……お望み通りに放っておいてくれる人なんて、この街には1人もいないけど」

 

 そんな彼女の過酷な生い立ちと、それ故の「生き方」を知っているエメラダ・リンネアは、共に熱いシャワーを浴びながらそっと彼女の隣に寄り添っている。

 99cmの特大爆乳と、96cmもの安産型爆尻。そんな2大凶器を誇る極上の褐色ボディを持つ絶世の美女は、阿須子の頭を抱き寄せ、自身の乳房をむにゅりと押し当てていた。

 

「……ふんっ……」

「うふふっ……素直じゃないわね。あなたって、昔からそう」

「知った風な口を……」

「実際、知ってるもの。何年の付き合いだと思ってるのかしら?」

 

 白い巨乳と褐色の爆乳が形が変わるほど深く密着し、豊満に実った白と褐色の極上女体が、生まれたままの姿で隙間なくみっちりと絡み合う。石鹸の滑りによってぬるぬると擦れ合う2人の豊満な肉体が、淫らなコントラストを描き出していた。

 エメラダの母性的な温もりと、褐色爆乳の柔らかさに触れた阿須子は、同性すら虜にする彼女の囁きに頬を染めながらも、恥ずかしそうに顔を背けている。そんな阿須子の様子に、エメラダも優しげな微笑を溢すのだった。

 

 ◆

 

 ――やがて。シャワーを浴び終えたニッテ達が、正規軍から支給された作業服姿でテントから出て来ると。出入り口の前で「見張り」を務めていた1人の美女が、朗らかな笑顔で彼女達を出迎えていた。

 夜空と月明かりが、その絶対的な美貌を艶やかに照らし出している。同性の胸すら高鳴らせる彼女の蒼く美しい双眸は、ニッテ達を優しげに見つめていた。

 

「あら皆、お帰りなさい。どうだったかしら、1週間振りのシャワーは」

 

 明らかに「男物」である漆黒のロングコートを羽織っている、金髪ショートヘアの爆乳美女。透き通るような白い柔肌に眩い月光を浴びている彼女は、「テントの内側」に思いを馳せていた正規軍の男兵士達に睨みを利かせ、一糸纏わぬニッテ達の裸身を守り続けていたのである。

 

 艶やかなブランドの髪。雪のように白い肌。蒼く澄み渡っていながら、刃のような鋭さも秘めた瞳。ぷっくりとした桜色の唇。どのような芸術家でも再現し切れないであろう、整い尽くされた目鼻立ち。その絶世の美貌もさることながら、彼女のグラマラスな肉体は見る者達の視線を男女問わず集めるほど蠱惑的なものであった。

 ロングコートの下に着ているスーツやパンツを内側から苛烈に押し上げている、超弩級の爆乳と爆尻。その特大の果実は整然とした黒スーツでも全く押さえ込めておらず、今にもはち切れてしまいそうなほどに繊維を緊張させている。次の瞬間には破けてしまいそうなほど張り詰めているが故に、その淫らな曲線はぴっちりと衆目に晒されており、その「絶景」を目にした誰もが、スーツの内側に隠された彼女の柔肌に想いを馳せていた。

 

 色事の類には興味が一切無い、と言わんばかりの怜悧な佇まいではあるが。その首から下にある豊満な肉体は、彼女の「女」としての価値をこれでもかと主張している。ロングコートでも隠し切れていないその色香に、キャンプ地の男達は常に目を奪われているようだ。腰のホルスターに収められている自動拳銃「ワルサーPPK」の銃身が見えていなければ、誰も彼女を特務捜査官(・・・・・)だとは思わないだろう。

 

 雄の欲望を具現化したような、淫らに弾む豊穣な乳房。丈夫な子を産むことに秀でた、安産型のラインを描く特大の臀部。

 戦うために鍛え上げられ、細く引き締まっている腹筋と腰回りに対して。その膨らみはあまりに大きく、身動ぎするたび上下左右にぶるんっと弾み、その淫靡な揺れで男達の視線を絶えず惹き付けている。彼女の白く扇情的な柔肌から分泌される、濃厚にして芳醇な女のフェロモンは、スーツやロングコートにもじっとりと染み付いていた。夜風に流されて男達の鼻腔に届けられたその匂いも、彼らの理性を狂わせているようだ。

 

「アーヴィング捜査官……!」

 

 半年前の「エンデバーランド事件」で活躍し、政府から勲章まで授与された女傑。そして、ノバシェード対策室所属の特務捜査官でもあるこの国の英雄――ヘレン・アーヴィング。

 

 そんな彼女がテントの出入り口で目を光らせていたからこそ、ニッテ達も心置きなくシャワーを堪能出来ていたのだ。この某国の誰もがその名を知っている英雄と改めて対面し、湯上がりのニッテ達は思わず背筋を正してしまう。

 





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 今回は新世代ライダー達と別れた後のニッテ達の様子を描いた、北欧編の後日談になります。凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)でヒロインを務めていたヘレン・アーヴィング特務捜査官も久々に登場しており、次回は彼女にスポットを当てて行く予定となっております。前編、中編、後編の3部作構成となっておりますので、どうぞ次週の中編もお楽しみに!٩( 'ω' )و
 本編第3章で色々と動いていたロビン・アーヴィング捜査官もそうでしたが、「ライダーに次ぐ戦闘力を持った体制側の協力者」ってめちゃくちゃ動かしやすくて便利なキャラなんですよねー。凶兆編からは妹のヘレン捜査官がそのポジションを担っておりますな(*´꒳`*)

 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! AP世界の2020年を舞台としているこちらの作品では、ルーキー時代のヘレンも仮面ライダーの1人として登場しております。他にも様々なライダーや怪人達が登場する大変賑やかな作品となっておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 ヘレンが凶兆編で使用し、現在も装備しているワルサーPPKはジェームズ・ボンドの愛銃として有名ですが、実は峰不二子もたまに使っておりました。彼女みたいに太腿に装着してみるのも良かったかも知れませんなー(*^ω^*)


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女湯編 エージェントガール&レジスタンスガールズ 中編

◆主な登場ヒロイン

◆ヘレン・アーヴィング
 アメリカ合衆国出身の特務捜査官であり、かつて仮面ライダーAPと共にシェードと戦っていた、ロビン・アーヴィング捜査官の実妹。自分を救ってくれた仮面ライダーを慕い、兄の背中を追う形で特務捜査官となった現在は、ノバシェードのテロを追い続けている。使用銃器はワルサーPPK。年齢は21歳。
 スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。

◆エメラダ・リンネア
 オーファンズヘブン解放戦線に参加していた少女兵の1人であり、青紫系の瞳とゆるふわな黒髪のロングヘア、褐色肌が特徴の美少女。争いごとを好まない心優しい女性だが、歳下の少女達を守るために敢えて銃を取っていた。年齢は19歳。
 スリーサイズはバスト99cm、ウエスト60cm、ヒップ96cm。カップサイズはH。
 ※原案はエイゼ先生。


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 ノバシェードがオーファンズヘブンから撤退した後、避難民の救援に駆け付けて来た正規軍部隊。その隊員である男兵士達も、ニッテ達の突出した美貌と色香には釘付けになっていた。

 中には救援にかこつけて彼女達に手を出そうとした結果、部隊に同行していたヘレン・アーヴィングに股間を蹴り上げられた者も居たくらいだ。もし彼女が救援部隊に志願していなかったらニッテ達は今頃、無防備なシャワー中に思わぬ「夜襲」を受けていたのかも知れない。

 

 自分達の美貌とプロポーションをある程度自覚しているからこそ、そのリスクを常に考慮せねばならなかったニッテ達にとって、ヘレンの存在は大きな助けとなっていた。

 エンデバーランド事件の英雄を前に、獣欲塗れの蛮行に走れる「勇者(ヘンタイ)」など居ない。仮に居たとしても、ヘレンの鮮やかなハイキックによって即座に沈められていただろう。対策室の同僚達も慄くほどの威力を誇るヘレンの蹴りは、常人が耐えられるようなものではないのだから。

 

「……さ、最高でしたっ! ありがとうございます、アーヴィング捜査官っ!」

「ふふっ、それは良かったわ。この国は軍用糧食(レーション)こそ最悪だけど、入浴設備のクオリティは他国からも評判が良いのよね。私も結構気に入ってるの」

 

 ヘレンの言葉に満面の笑みを咲かせ、互いに笑顔を向け合うニッテ達。その様子に微笑を浮かべるヘレンの前に進み出たのは、褐色の極上ボディから甘い色香を漂わせているエメラダだった。

 

「本当に生き返るような気持ちだったわ。ありがとう、ヘレン捜査官。あなたもずっと『見張り』ばかりで疲れるでしょう? 私が代わるから、あなたもどうかしら」

「そうね……それなら、お言葉に甘えて私も一浴びして来るわ。ありがとう、エメラダさん」

 

 年齢も近く、どこか他人とは思えなかったエメラダからの申し出を快く聞き入れ、ヘレンは自身もシャワーを浴びようとテントに向かって行く。その瞬間、周囲の男兵士達はギョッと目の色を一変させていた。整然とした軍服姿の男士官達も、思わず足を止めている。

 

 106cmもの超弩級爆乳と、98cmという極上の爆尻をぶるんっと揺らしているあのヘレン・アーヴィング捜査官が、テントの布1枚の向こう側でその白い裸身を露わにする。この国の男達が揃って喉を鳴らし、いつか必ず手に入れてやると意気込んだ極上の女体が、あのテントの中で生まれたままの姿になる。スーツの上からでもはっきりと主張されているあの爆乳が、くびれた腰が、はち切れそうなあの爆尻が、一糸纏わぬ姿となる。

 

 その情報を聞き付けた周囲の男兵士達は、一斉にテントの方に注目するのだが――今度はエメラダの双眸から放たれる鋭利な殺気が、彼らを制していた。さらに、ニッテ達が続けざまに放った冷酷な眼光が、欲深な男共を完膚無きまでに黙らせている。

 

 そんなニッテ達の圧倒的な気迫を目の当たりにしたヘレンは、仮面ライダーと共に街を奪還したという「オーファンズヘブン解放戦線」の底力を垣間見ていた。

 彼女達が居るなら、この街は何の心配も無い。そう確信させてくれるニッテ達の目力に微笑を浮かべるヘレンは、そのまま気兼ねなくテントに向かおうとするのだが――そんな彼女の背中を、エメラダが呼び止めた。

 

「あ、そうだ……今上がったばかりだから、この夜風だと湯冷めしちゃいそうなのよね。……その黒コート、ちょっと借りても良いかしら?」

「……えぇ、どうぞ。『男物』だからサイズは合わないと思うけど……それで良いなら」

 

 ヘレンが常に羽織っている、漆黒のロングコート。男性用のサイズであるそれを求めたエメラダは、意味ありげに目を細めていた。

 そんな彼女の「経歴」を知っているヘレンは、その申し出が意味するものを表情から察し――無骨で無愛想な無頼漢(仮面ライダータキオン)を愛してしまった女同士として、苦笑を浮かべる。お互い苦労するわね、と言わんばかりに。

 

 やがて、彼女から黒コートを受け取ったエメラダはすぐさま袖を通し、その匂いと温もりに至福の笑顔を咲かせている。そんな彼女の表情を目にした周囲の男達は、狙っていた女がすでに「誰かのモノ」になっていた事実を悟ると、脳を破壊されたかのように両膝を着くのだった。

 

 ◆

 

 エメラダに黒コートを預けて「見張り」を任せたヘレンは、艶やかな唇から甘い吐息を漏らしつつ、熱いシャワーを生まれたままの姿で受け止めていた。

 透き通るような白い柔肌はありのままに曝け出され、その豊満な肢体に暖かな雨が降り注いでいる。熱い雫は蠱惑的な女体を上からなぞるように滴り、凹凸の激しいボディラインをその動きで描き出していた。

 

「んっ……はぁっ……」

 

 最近、Jカップのブラジャーでもきつく感じ始めたほどの爆乳。第一線の特務捜査官として鍛え抜かれ、引き締まっているくびれたウエスト。安産型のラインを描き、むっちりと実っている超弩級の爆尻。

 そんな彼女の扇情的過ぎるボディラインを暖かな雫が伝い、その白く瑞々しい柔肌の汚れを落としている。一糸纏わぬ極上の女体が、このテントの中で完全に露わにされていた。

 

「はぁ、ん……」

 

 恍惚の表情で背中を弓なりに反らせて、どたぷんっと弾む豊かな果実を前方に突き出し、その胸で熱い雨を受け止めるヘレン。そんな彼女の透き通るような白い裸身は、さながら一つの芸術作品のようですらあった。

 両手を後ろに組んだ彼女の腋は無防備な窪みを曝け出し、突き出された爆乳が淫らに揺れ動く。背中を反ったことで後ろにぷりんっと突き出される格好になった白い爆尻も、蠱惑的な曲線を描いていた。男兵士達が夢想している以上の「絶景」が、このテント内に曝け出されている。

 

 

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 未だに男を知らない処女(バージン)だというのに、その完成され尽くした極上の女体と色香は、雄の欲望を具現化した淫魔の域にすら達していた。そんな彼女が、ただ1人の男に懸想している事実を知る者はいない。

 

(……仮面ライダータキオン、森里駿(もりさとはやお)さん……)

 

 高温の雨を、白く豊満な裸身に浴びながら。ヘレンは独り、うっとりと目を細めている。愛する男を想う彼女の優美な手は、無意識のうちに蠱惑的な肉体をスリスリと撫で回していた。下からたゆんっと掬い上げるように白い爆乳を揉み洗い、全身を淫らな手つきでなぞり上げると、特大の爆尻に指先を滑らせる。

 

「はぁあぅっ……」

 

 戦うために鍛え抜かれ、細く引き締まっているウエスト。そのくびれた腰は、強く逞しい雄に媚びる1匹の雌の如く扇情的にくねり、安産型の爆尻をぶるんっと躍動させていた。そんな彼女の脳裏には、甘く切ない「初恋」の記憶と共に――かつて味わった「屈辱」の過去が過っている。

 

 半年前の「エンデバーランド事件」で、自分は街を救った英雄と持て囃され、政府からは勲章まで授与されたが――何のことはない。

 「仮面ライダータキオン」こと森里駿。彼をはじめとする新世代ライダー達の助けがなければ、自分は何も出来ずノバシェードに屈服していた。彼が羽織っていた黒コートに袖を通すたびに、その当時の記憶は何度も鮮明に蘇って来るのだ。

 

 もう2度と、あんな屈辱を味わってはならない。弱いままの自分では、例え彼と再会出来たとしても、想いを告げる資格など無い。その前に自分はもっと、強くならなければならない。

 その一心で自分を鍛え直したヘレンは、あれからの半年間で多くの事件を解決し、幾つもの功績を挙げて来たのだが。それでもまだ、タキオンこと駿の背中には遠く及んでいない。少なくとも彼女自身は、そう認識している。

 

(……かつてはマス・ライダーのバリエーション機まで託されていたこの私が、なんてザマなのかしら。情け無いったら、ないわね)

 

 新人の頃から多くの現場で活躍し、一時期はマス・ライダーの派生機を任されたこともあったエリート捜査官としてのプライドは、あのエンデバーランド事件で粉々に打ち砕かれていたのである。極め付けは、今回の「オーファンズヘブン事件」だ。

 

(私……まだまだ未熟なのね。あれからも懸命に戦い続けて来たけど……まるで届いていない。まるで……足りていない)

 

 今回のテロにおいては空爆を食い止めるための交渉――つまりは時間稼ぎが精一杯で、現場の対応は「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉(とりうみくうや)巡査をはじめとする、新世代ライダー達に任せ切りになってしまっていた。

 挙句、民間人の抵抗組織(レジスタンス)に頼らなければ解決の糸口を掴むことすら出来なかったのだ。ノバシェード対策室の特務捜査官として、不甲斐ないとしか言いようがない。

 

 ――5年前の2016年。兄であるロビン・アーヴィング捜査官を脅迫するための材料として、旧シェードに誘拐され改造手術を受けさせられた時。

 脳改造が完了する直前で仮面ライダーAPに救助された当時のヘレンは、その後間も無く「異星人の姫君」の秘術によって生身の身体を取り戻し、人間社会に何事もなく復帰することが出来た。だが、あの頃の恐怖と絶望は今も彼女の胸中に深く刻み付けられている。

 その苦しみと過去を克服し、前を向いて生きて行くために、敢えて兄と同じ捜査官を志したというのに。自分はまだ、何も成し遂げられていない。あの日憧れた仮面ライダーAPの背に、全く届いていない。

 

 これまで経験して来た戦いの中で、「仮面ライダー」の名を冠する多種多様な戦士達の勇姿を、幾度となく目撃して来た。時には、彼らと肩を並べて共に戦うこともあった。

 だが、彼らに比べて自分はあまりに非力であり、その劣等感を払拭出来る機会は終ぞ巡って来なかったのだ。

 

(けれど……だからこそ私は、前に進まなければならないのよ。こんなことで、立ち止まってなんか……いられない)

 

 だが、そうだからと言って腐っている場合ではない。非力と無力は、似ているようで違うのだ。己の弱さを思い知らされたからと言って、足を止めてはいられない。今回の失敗を少しでも取り返すためにも、解放戦線の少女達には然るべき支援を届けなければならない。

 そして今度こそ、ノバシェードを挫く特務捜査官としての務めを果たさねばならないのだ。その決意を新たにしたヘレンは、気を引き締めた表情でシャワーを止め――近くに掛けてあったバスタオルを身体に巻く。

 

(解放戦線の子達が、あれほど頑張っていたのだから……私がいつまでも腐っているわけには行かないものね。……そういえば……)

 

 その時。ふと、ニッテ達の功績について兵士達が話していた内容が脳裏を過ぎる。彼女達はさながら、「マルコシアン隊」の再来のようだと兵士達は口々に語っていた。その単語を思い返したヘレンの表情が、暗澹とした色に染まる。

 

(……マルコシアン隊、か)

 

 約12年前、旧シェードによる大規模テロからこの某国を救った英雄達の部隊。ニッテ達がその再来だと語っていた兵士達の言葉に、ヘレンは何故か切なげな表情を浮かべていた――。

 





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 今回は前話と同様に、お色気要素となるシャワーシーンがメインとなりました。ヘレンのサービスシーンは今話だけでなく、彼女が主役兼ヒロインを務めた凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)でも描かれております。次回はラストで触れられた「マルコシアン隊」についても言及しつつ、本章のラストシーンに向かって行きますので、どうぞ次週の後編もお楽しみに!٩( 'ω' )و

 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! AP世界の2020年を舞台としているこちらの作品では、ルーキー時代のヘレンも仮面ライダーの1人として登場しております。さらに今話で名前が出て来た「マルコシアン隊」に関する人物も……!?(゚ω゚)
 他にも様々なライダーや怪人達が登場する大変賑やかな作品となっておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 本作でも「アナザーメモリ」でも結構美味しい役割を貰えているヘレン捜査官。作者的にも扱いやすいえちえちキャラなので大変重宝しております。彼女の新たな活躍は「アナザーメモリ」の方で描かれておりますので、気になる方は要チェックであります!(`・ω・´)


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女湯編 エージェントガール&レジスタンスガールズ 後編

◆主な登場ヒロイン

真凛(マリン)・S・スチュワート
 ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、かつてはヘレン・アーヴィングの同僚にして師匠のような存在だった日系アメリカ人。気高く凛々しい才色兼備の女傑だが、独断専行が災いして1年前に対策室から追放されており、現在は消息不明。裏社会で暗躍する女探偵として名を馳せている……という噂もあるが、真相は定かではない。年齢は28歳。
 スリーサイズはバスト116cm、ウエスト62cm、ヒップ105cm。カップサイズはK。


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 かつて、この某国が旧シェードに侵略された時。改造人間が相手であろうと臆することなく立ち向かい、多くの国民を守り抜いた英雄達が居た。

 

 その名も「マルコシアン隊」。約12年前の2009年当時、陸軍最強の武人と謳われたジークフリート・マルコシアン大佐が率いていた精鋭部隊だ。彼らが命を賭して旧シェードの攻撃に抗ったからこそ、この国は今も独立国家として存続しているのである。彼らは正しく、救国の英雄なのだ。

 それ故に彼らの奮闘は今もなお、この国の歴史に深く刻み込まれている。人の身でありながら怪人の脅威に屈することなく抗った、豪傑達の英雄譚として。

 

 ――だが、その戦いでジークフリートを除く隊員は全滅。唯一生き残った彼は改造人間に対する憎悪を募らせ、行き過ぎた言動を見せるようになった。

 やがて彼は軍部に危険視され、退役を余儀なくされた。表向きは右眼の負傷に伴う勇退であったが、それは事実上の「追放」だったのだ。首都のエンデバーランドに在る国立中央公園には、今も彼の銅像が聳え立っているのだが、国民はその張本人の「末路」を知らぬままであった。

 

 その後の彼が辿った「末路」を、ヘレンはよく知っている。この国の人々が今も英雄だと信じている男が、軍部を追放された後に迎えた「末路」を。

 

(……あの子達がもし、銃を捨てることが出来ずにいたら。戦いから解放されていなければ。いずれは、あの男のようになっていたのかも知れない。最後の最後まで戦いに取り憑かれていた、あのジークフリート・マルコシアンのように……)

 

 仮面ライダーGと仮面ライダーAPの活躍によって、旧シェードが滅亡した時。ジークフリートが矛を収め、憎しみを捨て去ってさえいれば。彼は名実共に、今も絶対的な英雄としてこの国の軍部を率いていたのかも知れない。彼がこの国に残っていたなら、今回のテロも早期に解決していたのかも知れない。

 だが、そうはならなかった。ジークフリートは憎しみに囚われるあまり軍部から追放され、絶対的なカリスマ性を持っていたマルコシアン隊の消滅に伴い、軍部の勢いも大きく衰えた。その結果、この国の正規軍は全盛期の頃から大幅に弱体化し、ノバシェードのテロを阻止出来なくなっていたのだ。

 

 かつての救国の英雄は、真相を知る上層部にとっての触れてはならない禁忌の存在(アンタッチャブル)となり。その追放と引き換えに、正規軍はかつての精強さを失った。その判断の代償は、あまりに重いものだったのである。

 そんな窮地からこの国を実質的に救ったのが、ニッテ達――「オーファンズヘブン解放戦線」だったのだ。それを思えば、彼女達がマルコシアン隊の再来と呼ばれたのも、頷けることではあった。だが、ヘレンはその現状を良く思ってはいなかった。

 

 人の身でありながらノバシェードを退けたことで、マルコシアン隊の再来と呼ばれるようになったニッテ達だが。彼女達はマルコシアン隊とは違い、誰一人欠けることなく生き延びることが出来た。そして銃を捨てたことにより、闘争に生きる道からも解放された。

 この分かれ目が彼女達の運命を大きく変え、より良い未来に繋げて行くのだと、ヘレンは確信している。彼女達は、滅びに向かっていたマルコシアン隊の再来などではないのだと。

 

(何より……そんなことを「彼ら」が望むはずがない。「娘」の幸せを願わない「父親」なんて、居るはずがないのだから)

 

 ジークフリートの部下として旧シェードに立ち向かい、命を散らしたファルツ中佐。バレンストロート大尉。ロスマン中尉。そして、イェンセン少尉。彼らは皆、優秀な軍人であると同時に1人の父親でもあった。

 彼らの忘れ形見となった愛娘(ニッテ)達の幸せこそが、父親としての本望であると信じるならば。最後の最後で銃を捨てることが出来た彼女達の決断は、最大限に尊重せねばならない。マルコシアン隊の隊員達が遺した孤児達の未来が、悲惨なものであってはならない。

 

 その一心でニッテ達を出迎えた時から、ヘレンは独り固く誓っていたのである。彼女達のような子供が、もう2度と銃など握らなくても良い未来を築かねばならないのだと。

 

 ――そんなヘレンの決意は、彼女自身の「過去」にも関わっていた。ジークフリートの顛末は、彼女の「先輩」だったとある女性捜査官のそれを想起させるものだったのである。

 

(行き過ぎた正義の意志と力は、ジークフリート・マルコシアンや彼女(・・)のように、望まれない未来を引き寄せてしまう。……ライダー達もその恐ろしさを理解していたから、あの子達に銃を捨てさせたのね)

 

 かつての「先輩」だった、ノバシェード対策室の()特務捜査官――真凛(マリン)・S・スチュワート。新人時代のヘレンに近接格闘のイロハを教えた「師」とも言うべき存在であり、ヘレン以上の美貌と抜群のプロポーションを誇る才色兼備の女傑であった。

 水中からの潜入任務を得意とし、槍術においても右に出る者がいない、対策室きっての武闘派。そんな彼女の「容姿」は特務捜査官とは到底思えぬほど妖艶であり、その匂い立つような色香は娼婦のそれすらも遥かに凌いでいた。もはや、淫魔そのものと言っても良い。

 

 長いまつ毛に、鋭くも蠱惑的な眼差し。整い尽くされた目鼻立ちに、扇情的な甘い吐息を吐き出すぷっくりとした唇。同性であるヘレンでさえ、思わず生唾を飲んでしまうほどの色香の持ち主。男を狂わせる魔性のフェロモンを、瞳から、唇から、そしてその身体から振り撒く対策室最強の()エース。それがヘレン・アーヴィングの知る、真凛・S・スチュワートという女であった。

 

 ウェーブが掛かった黒髪のロングヘアに、スラリとした180cmの長身。規格外の存在感を誇り、身動ぎするたびにどたぷんっと弾む、116cmのKカップという超弩級の爆乳。そんな巨大な果実に対し、鍛え抜かれ細く引き締まっている62cmのウエスト。そのくびれからは想像もつかないほどに大きく膨らみ、むっちりとした安産型のラインを描いている105cmの爆尻。

 そんな扇情的過ぎる肢体と熟成された女の芳香は、敵味方問わず多くの男を虜にしていた。敵として対峙したノバシェードの戦闘員達も、共に戦う仲間である対策室の同僚達も、真凛の美貌と肉体には釘付けだったのである。その視線はヘレンに対しても同様であったが、真凛の身体から滲み出る甘く芳醇な香りは、ヘレン以上に強く男達の鼻腔を擽っていたのだ。

 

 雄の本能を狂わせる特濃のフェロモンを隅々から振り撒く、白く豊穣な極上の女体。そのグラマラスな肉体をより淫らに彩る青のチャイナドレスは、サイズが小さかったのかそのボディラインにぴっちりと張り付き、今にも破けそうなほどに張り詰めていた。肢体の激しい凹凸をありのままに浮き立たせるドレス姿を見た男達は皆、その薄布の下に隠されている生まれたままの姿を絶えず想像させられていたのだという。さらに、その裾には太腿を露わにする深いスリットが入っており、そこから強調される肉感的な美脚は特に濃厚な色香を纏っていた。

 20代後半という、女として最も「脂が乗っている」時期。その熟れた肉体に備わる豊穣な乳房は男達の視線と欲望を誘い、妊娠・出産に最適な極上の爆尻は、子孫繁栄という使命を帯びた雄の本能を苛烈に焚き付けていた。彼女が華麗なハイキックを繰り出すたびにドレスの裾が舞い上がり、露わにされるTバックのパンティ。特大の尻肉にむっちりと食い込んだその「絶景」から、目が離せる男は居なかったのだという。

 

 だが、高潔でプライドが高い彼女は終ぞ誰の物にもならなかった。対策室の同僚達ばかりか、上流階級の有力者達からのアプローチも呆気なく袖にしていた真凛は、世界的なヒーローとして支持を集めている新世代ライダーの美男子達にさえ興味を示さなかった。彼女の心と身体を手に入れられるのは、全てにおいて彼女を凌ぐ「強く逞しい雄」だけなのだろう。

 真凛に目を付けていた一部のノバシェード戦闘員達も、虎視眈々と彼女の肉体を手に入れようと目論んでいたのだが、その悉くが惨敗に終わっている。ヘレンの鋭い蹴りは対策室の間でも恐れられているのだが、その技術を彼女に伝授した真凛の脚技はそれ以上なのだ。チャイナドレスによって露わにされた白い美脚。そこから繰り出される真凛のキックは、仮にも改造人間である戦闘員でさえ、当たりどころによっては一瞬で気絶させてしまうほどの威力なのである。

 

 ――人を捨ててまで得た力が無ければ、何も出来ない。それじゃあ、初めから人間じゃないのと何も変わらないわよ。あなたもそう思うでしょう? ヘレン。

 

 下衆な悪党達に向けて吐き出される、あの冷酷な皮肉。凶悪な怪人達を妖艶に射抜く、凛々しくも蠱惑的な眼光。獣欲塗れの男達に包囲されても、決して怯まぬ気高い勇姿。そして、ノバシェードの戦闘員すら一撃で昏倒させる鋭い蹴り技の数々。そんな「師匠」の背中は今も、かつての「弟子」であるヘレンの記憶に深く焼き付いている。

 

 ――あなたのように、純粋で真っ直ぐな眼をしている子は好きよ。そういう子にこそ、平和な世界を謳歌して欲しいのよね。彼らのような汚物が全て駆逐された後の、清らかな世界を。

 

 その強さと気高さが、改造人間達に対する苛烈な「憎悪」に由来していることを、ヘレンは本人から聞かされていた。約12年前の2009年頃、当時16歳だった真凛は優れた身体能力に目を付けられ、旧シェードに誘拐されていた。しかしその後間も無く、改造人間の適性が無いことが発覚し、当時の傘下にあった人身売買組織に売り払われたのだという。

 両親を殺され自身も拐われた挙句、後からその価値も無かったと言われ、美貌と身体だけは金になるからと犯罪組織に売り渡されたのだ。これほど人間の尊厳を破壊する行いが、かつてあっただろうか。その後、「買い手」の慰み者にされる寸前で隙を見て逃げ出し、レスキュー隊に保護され生還した真凛は、やがてノバシェード対策室の特務捜査官にまで登り詰めたのである。

 

 両親の復讐。未来の被害者達の救済。混じり合う正義感と復讐心の赴くまま、旧シェードの再来を騙るノバシェードへの憎悪を原動力に、彼女は12年に渡る鍛錬の成果を存分に発揮していたのである。彼女が普段から身に付けているチャイナドレスも、犯罪組織を通じて闇の有力者に買われた際に着せられたものを、敢えてそのまま使っているのだという。その日に味わった恥辱の記憶を、憎しみの炎を、決して忘れないために。

 

 ――待って、真凛! あなた、本当にこれでいいの!? 対策室を辞めてしまうなんてっ……!

 

 しかし。その女傑は己の正義に固執するあまり、上層部の命令に背いてでもノバシェードの追跡に執着し続けるという、ジークフリートにも通じる危うい一面を秘めていた。その結果、最も多くの成果を挙げた対策室のトップエースでありながら、約1年前に命令違反の累積が祟り「追放」されてしまったのである。

 

 ――ヘレン。私はもう十分、好きにさせて貰ったわ。短い間だったけど、思うがままに自分の正義を貫けた。あなたも、あなたが信じるもののために戦いなさい。

 

 ――真凛っ……!

 

 ――あなたの正義なら、きっと皆に認めて貰えるわ。あなたを鍛えた私が保証してあげる。達者でね、ヘレン。

 

 自分を鍛えてくれた恩人が、自分よりも遥かに優秀だった特務捜査官が、戦いの中で孤独な「正義」に染まり、対策室から立ち去って行く様を目の当たりにしていたからこそ。ヘレンは誰よりも、その危うさを肌で理解していたのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(……真凛。良くも悪くも(・・・・・・)……あなたには教わってばかりだったわね)

 

 その真凛・S・スチュワートは対策室を去って以降、ジークフリートと同様に消息を絶っている。現在は裏社会で探偵業を営んでいる……という噂もあるが、真相は定かではない。

 真凛と言えば最近、約12年前に彼女を買っていた(・・・・・)という有力者が汚職容疑で逮捕されたのだが、その決め手になった証拠は「匿名」で警察に届けられていたのだという。しかも、警察が有力者の自宅に踏み込んだ時にはすでに、その張本人は何者かに股間を蹴り潰され気絶している状態だったらしい。だが、探偵になったという真凛との関連性は不明だ。ヘレンはただ、彼女が今もどこかで無事に生きていることを祈るしかなかった。

 

「んっ……ふぅっ」

 

 そして。白く豊満な裸身をなぞる滴を隅々まで拭き終えたヘレンは、師匠(マリン)の影響で穿き始めたTバックのパンティに白く扇情的な美脚を通し、むっちりとした尻肉に深く食い込むように引き上げて行く。今となってはすっかり癖になってしまった、その「密着感」に甘い吐息を漏らしつつ、薄布の両端から手を離した彼女はふと顔を上げ、ある一つの「点」に思考を巡らせていた。

 

(……それにしても、気掛かりだわ。ケージ達からの報告によれば、最後の怪人は妙に鮮やかな動きで街から撤退したという話だけれど……)

 

 穹哉達が最後に戦った、始祖怪人(オリジン)の一角・仮面ライダーRC。そのロボット怪人が見せた不可解なまでに迅速な「退却」は、報告を受けたヘレンにも「嫌な予感」を齎していたのである。最近キツくなって来たJカップのブラジャーのホックを留めながら、彼女は独り眉を顰めていた。白く豊穣な乳房の肉が、ブラの裏地を張り裂けそうなほどに強く圧迫して行く。

 

 ――異様に強力な怪人の出現は、今回のオーファンズヘブン事件に限った話ではない。約2ヶ月前の2021年7月頃には、アメリカ合衆国のノースカロライナ州に設けられていた研究施設が、得体の知れない強豪怪人(レッドホースマン)達により襲撃される事件も起きている。そこは、新世代ライダー達とは異なる枠組みの「仮面ライダー」の研究が進められている施設であった。

 ソロモン72柱の悪魔に近しい名を冠し、「ジャスティアタイプ」とも呼称されている72機の特殊な仮面ライダー。その外骨格の鍵となる変身ベルト「ジャスティアドライバー」。そして、それら全ての開発を件の研究施設で進めていた稀代の天才女科学者・一光(にのまえひかる)博士。彼女の命と、彼女の「作品」全てを狙っていた強豪怪人達も、恐らくただの構成員ではない。

 

一博士の研究所(ニノマエラボ)を襲ったという怪人達も、今回のロボット怪人と同じく……他の構成員達とは何かが違う。しかもその件にも、オルバスが出向いていた。こんな短期間で2度も戦わせるなんて、自分達との交戦経験を与えているようなものじゃない……)

 

 ジャスティアシリーズ第55番機「仮面ライダーオルバス」。公安機関に正式に「貸与」されたその外骨格を運用している忠義(チュウギ)・ウェルフリットは、同じジャスティアタイプの仮面ライダー達の中でも特に豊富な実戦経験を持ち、今回のオーファンズヘブン事件の解決にも貢献している。そして、約2ヶ月前のノースカロライナ研究所襲撃事件の当事者でもあった。

 

 2度に渡る謎の強豪怪人の出現。その両方の事件が新世代ライダー達の活動圏内で、それも僅か2ヶ月の間に起きている。まるでライダー達に、自分達との戦いを慣れさせて(・・・・・)いるかのように。これを単なる偶然と言い切るには、あまりにも不気味であった。

 

(あの襲撃事件といい、今回の件といい……腑に落ちないわね。もし今回のテロ自体が、ライダー達との決着を目的としていない「小手調べ」なのだとしたら……次こそはきっと、かつてないほどに激しい戦いになるわ。私達の力では、足手纏いにしかならないほどに……)

 

 その「嫌な予感」が的中していた事実が明らかになるのは、この日から約3週間後の2021年10月7日。

 東京の某放送局を戦場とする、新世代ライダーと始祖怪人の最終決戦が勃発した時であった――。

 

 ◆

 

 そして。エメラダの「見張り」のおかげで気兼ねなくシャワーを堪能し終えたヘレンは、ニッテ達に支給されたものと同じ作業服に着替え、独り夜風に当たっていた。月夜の下に吹き抜ける涼風が、ヘレンの肢体を包む漆黒のロングコートをふわりとはためかせている。

 

「あっ……」

 

 解放戦線の仲間達と肩を組み合い、夜の祝宴を楽しんでいた最中。そんなヘレンの姿を見つけたニッテは、豊かな乳房と桃尻をばるんばるんと弾ませながら、黒コートを靡かせていた彼女の背中に駆け寄って行く。

 

 彼女の気配に振り返った金髪美女の爆乳も、その弾みでどたぷんっと揺れ動いていた。祝宴の喧騒から遠く離れた場所で、独り夜空を仰いでいた絶世の美女。その怜悧な美貌に息を呑むニッテは、緊張した様子で口を開く。

 

「……あ、あのっ! アーヴィング捜査官っ!」

「ヘレンでいいわ、ニッテさん」

 

 今や国民の誰もが知っているエンデバーランドの英雄を前に、上擦った声を上げてしまうニッテ。そんな彼女の緊張を解そうと、ヘレンは穏やかな佇まいで声を掛ける。

 ヘレンはすでに、ニッテも自分やエメラダと同じ、「仮面ライダーを愛してしまった女」であることを見抜いていた。それ故に、ニッテが問おうとしていることを表情から察し、静かに言葉を待っている。

 

「……ヘレンさんは……受け入れられますか? 仮面ライダーが……その、要らなくなった世界なんて」

 

 そんなヘレンの前で力無く俯き、ニッテはか細い声を絞り出す。気丈な振る舞いで解放戦線を率いていた頃からは想像もつかない、弱々しい声だった。

 その言葉に暫し沈黙した後、ヘレンはぷっくりとした艶やかな唇を開き、答えを口にする。それはニッテにとって、思いもよらないものであった。

 

「そうね……半々、ってところかしら」

「半々?」

「嫌だと思う気持ちもあるし……楽しみに思う気持ちもある。不思議よね」

「楽しみ、ですか……?」

 

 仮面ライダーが居なくなった世界を楽しみだというヘレンの言葉に、ニッテは困惑と悲しみの表情を浮かべる。「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉に惹かれていたニッテにとって、それは決して容易に受け入れられる言葉ではなかった。

 

「私はいつか、会ってみたいのよ。戦士ではなく、1人の人間として生きられるようになった彼らに。きっとそれが……私が1番に知りたい、本当の彼らだから」

「本当の……」

 

 だが、ヘレンの言葉は仮面ライダーとして戦い抜いて来た者達を否定するものではなく。むしろ、彼らの仮面の下にある素顔を求めての言葉だったのである。

 

「それともあなたは、カッコ良く戦ってくれる戦士としての彼らじゃないと嫌なのかしら? 仮面ライダーじゃなくなった彼らなんて、頼りなくてカッコ悪い?」

「そ、そんなことないです! 私だって知りたい……! あいつらのこと、もっとちゃんと知りたいんですっ! あいつら、戦いが終わった途端にロクに休みもしないで行っちゃうんですからっ……!」

「そうね……その気持ち、痛いほど分かるわ。それなら……いつの日か、嫌というほど知りに行けばいい。彼らが守り抜いてくれたのは、そういう『自由』なのだから」

「自由……」

 

 嵐のように戦ったかと思えば、風のように去ってしまう。そんな仮面ライダーの生き様に散々困らされた女の1人として、ニッテに深く共感していたヘレンは、彼女の細い肩を抱き寄せると――95cmの巨乳に、106cmの爆乳をむにゅりと押し当てる。たわわな果実が密着し、その隙間からは極上のフェロモンが匂い立っていた。

 彼女の口から紡がれた「自由」という言葉を噛み締めるニッテは、愛する男がこの救いようのない世界で戦い続けて来た意味を考え、神妙な面持ちで目を伏せる。

 

「かつて、正規の対テロ組織として創設された旧シェードがそうだったように……正義の意味なんて、時代の流れでいくらでも変わる。けれど、何を選ぶかという『自由』だけは、例えどんな時代だろうと、どんな正義があろうと犯されてはならない。だから彼らは人間の正義ではなく、『自由』を守るために戦って来た」

「……」

「私達人間には選ぶことが出来る。何が正しいかではなく、何が望ましいかで考える『自由』がある。それは重い責任を伴うことだけれど……その責任なくして、人は人として生きて行くことは出来ない」

 

 何が正しいか、何を選ぶかという「自由」。それを当然の権利として享受出来る尊さに気付かされ、ハッと顔を上げたニッテは――やがて、「決意」に満ちた表情に染まって行く。

 仮面ライダーが命を賭して守り抜いた「自由」を、決して壊されてはならない。戦いが終わった後も、この世界で生きて行く自分達が、何としても守り通して行かねばならないのだと。

 

「あなた達ならきっと、選べるわ。本当に正しいかどうかは問題じゃない。それが正しいと、胸を張って心から信じられること。その道を選ぶ『自由』を行使すれば、きっとあなた達は望んだ未来に向かって行ける。私も、そう信じてるわ」

「は……はいっ!」

「……そうよね、真凛」

「え? ヘレンさん、何か言いました?」

「ふふっ……別に、何でもないわ」

 

 そんなニッテの貌に微笑を浮かべるヘレンは、彼女の肩を抱いたまま踵を返し、共に祝宴の輪へと歩み出して行く。

 リーダーのニッテが戻って来たことに加え、国民的英雄のヘレンまで参加して来たことにより、祝宴の喧騒はさらに賑やかなものになって行くのだった――。

 

 ◆

 

 ――そして。新世代ライダー達とノバシェードの戦いが終結を迎えてから、さらに約2年が過ぎた2023年6月頃。南雲(なぐも)サダトと番場遥花(ばんばはるか)の婚約が正式に決まったこの時期、かつて新世代ライダーとして世界各地で戦っていた男達は、人生における大きな転換期を迎えていた。

 

 かつて「仮面ライダーボクサー」と呼ばれていた南義男(みなみよしお)警部と、「仮面ライダーイグザード」こと熱海竜胆(あたみりんどう)警部の2人は、共に「仮面ライダー」として戦っていた男達のために、東京の高級ホテルを借りて「婚活パーティー」を催していたのだ。

 ノバシェードとの戦いが終わり、仮面ライダーとして戦うことも無くなったのだから、そろそろ結婚の素晴らしさというものを仲間達に教えてやりたい。そんな2人の思惑から始まったこの婚活パーティーには、身を固めるどころか恋人すら作っていなかった「独り身の男達」が集められていた。

 

 元新世代ライダーである男性陣の多くは、このパーティーにはあまり乗り気ではなかったのだが、義男と竜胆の熱意に押し切られてしまったのである。一方、彼らの名声に釣られた「お相手」の女性達は、ノリノリでこのパーティーに参加しようとしていた。

 

 ところが。パーティー当日になって突然、その女性達が全員「一身上の都合」とだけ言い残し、参加を辞退してしまったのである。そして、彼女達に代わって席に座っていたのは――華やかなドレスに袖を通した、絶世の美女達であった。

 本来の参加者達よりも遥かに見目麗しい美女達が来たのだから、普通なら手放しで喜ぶ場面だったのだろう。だが、その顔触れを目にした男達は絶句し、青ざめていた。

 

 そう。参加予定の女性達を無言の圧力で引き下がらせ、取って代わるようにパーティーの席に着いていたのは――かつて「オーファンズヘブン解放戦線」のメンバーとして銃を取り戦っていた、あの女傑達だったのだ。

 この約2年間で、かつて街を救った鳥海穹哉、忠義・ウェルフリット、本田正信(ほんだまさのぶ)、ジャック・ハルパニア以外のライダー達とも出逢っていた北欧の女傑達は、それぞれの想い人を見つけていたのである。

 

 元解放戦線メンバーの一部である彼女達は、交友関係にあった新世代ライダーの女性陣からこのパーティーの開催を聞き付け、はるばる某国から飛んで来ていたのだ。しかもその中には元メンバーだけでなく、ヘレン・アーヴィング捜査官の姿まであった。

 自分達の預かり知らぬところでコッソリ身を固めようとしていた意中の男達に対し、強く美しい女傑達は華やかな笑顔を向けていたのだが――その眼は、全く笑っていなかった。それはまさしく、絶好の獲物を捉えた「捕食者」の眼だったのである。

 

 元より、期待に胸を膨らませて来たわけではない。それでも、かつて仮面ライダーとして世界を救った男達は皆、心の底から叫ばざるを得なかったのだという。来なきゃ良かったと――。

 





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 今回はヘレン視点から、かつての「英雄」や「先輩」のことを振り返りつつ、未来に希望を持とうとする姿勢を描いた後編となりました。奔放な師匠と生真面目な弟子……という真凛とヘレンの関係は、クワイガンとオビワンに近い感じだったのかも知れませんな。ニッテとの絡みも含めて、最後まで楽しんで頂けたのであれば何よりであります(о´∀`о)

 地の文で語られていた通り、この女湯編から僅か3週間後には、特別編第10話(https://syosetu.org/novel/128200/80.html)以降で描かれた最終決戦が始まることになります。さらに特別編第15話(https://syosetu.org/novel/128200/85.html)では、かつて新世代ライダー達に救われたことがある世界中の人々が、その決戦の様子をハラハラしながら生中継で見守っていたことが語られているのです……が、実はその中にはヘレンやニッテ達も含まれておりました。
 凶兆編、北欧編、女湯編で描かれて来た北欧某国での物語は、この第15話の冒頭で触れられていた内容の一部だったのです。特別編第12話(https://syosetu.org/novel/128200/82.html)でチラッと触れられていた、黒死兵数体に街が占拠された事件というのは、オーファンズヘブン事件のことでもあったわけですな。その一件と同じように、黒死兵に襲われた街の人々が仮面ライダーに助けられたり逆に助けたり……というドラマが世界中の至るところで繰り広げられていたのだと思って頂ければ。
 ここまでかなり長くなってしまいましたが、本エピソードも最後まで見届けて頂き誠にありがとうございました〜!٩( 'ω' )و

 ……ちなみに。元解放戦線メンバーの中でも特に血の気が多い阿須子やティエナ辺りは多分、生中継の途中からライダー達のピンチに我慢出来なくなって、武器を持ち出して日本に駆け付けようとしてたんじゃないかなーと思ってます。そして当然の如く空港で止められてしまうの巻……(´-ω-`)

 それから現在、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」が連載されております! AP世界の2020年を舞台としているこちらの作品では多くの読者応募キャラが活躍しており、ルーキー時代のヘレンも仮面ライダーの1人として登場しております!(*≧∀≦*)
 さらにヘレンだけでなく、今話で名前が出て来たジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますぞ。改造人間に対する差別思想を抱き、軍部を追放されてしまったというかつての英雄。ヘレンの口から言及されていた彼の「末路」とは? その内容が描かれて行くことになる「アナザーメモリ」の物語は必見です。もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

 さらに! 現在はX2愛好家先生も新たな3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を公開されております! 北欧編でも活躍していた仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、悪魔に近しい名を冠したライダー達に纏わるベルト「ジャスティアドライバー」を巡る独自の物語が展開されております! 拙作でも度々存在が語られていた、そのドライバーの開発者である天才女性科学者・一光博士もこちらの作品で本格的に登場しております(*^ω^*)
 北欧編で描かれたオーファンズヘブン事件の約2ヶ月前に当たる2021年7月が舞台となっており、今話でヘレンが触れていたノースカロライナでの襲撃事件の内容が、この作品で詳細に語られております。今話で存在が明かされた真凛・S・スチュワートも、読者応募キャラの1人としてこの物語に登場してくれる予定です! 気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)


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Ps
 ヘレンを登場させることになった最初のきっかけは「仮面ライダーSPIRITS」のアンリエッタ・バーキン捜査官でした。金髪色白美人エージェントが嫌いな人居る!? 居ねえよなぁ!?( ゚д゚)


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暗躍編 真凛・S・スチュワートという女 前編

◆主な登場ヒロイン

真凛(マリン)・S・スチュワート
 ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、ヘレン・アーヴィングの同僚にして師匠のような存在だった日系アメリカ人。気高く凛々しい才色兼備の女傑だが、独断専行が災いして対策室から追放されてしまい、それ以降は裏社会で活動する女探偵として独自にノバシェードを追っている。青いチャイナドレスによって強調された白い太腿には、投擲用のダガーナイフを装備している。当時の年齢は27歳。
 スリーサイズはバスト116cm、ウエスト62cm、ヒップ105cm。カップサイズはK。



 

 ――2020年7月某日。公安機関「ノバシェード対策室」に所属する特務捜査官だった真凛(マリン)・S・スチュワートが、対策室を去ってから約1ヶ月が過ぎていた頃。

 彼女が担当するはずだった事件の捜査はこの時期から、「後輩」に当たるヘレン・アーヴィング捜査官が引き受けるようになっていた。かつては対策室最強とも謳われていた女傑は組織に適応し切れず、後進にその座を譲らざるを得なかったのである。

 

 だが、特務捜査官としての地位と権限を失おうとも彼女のやることに変わりはない。むしろ組織という枷が外れたことにより、かつての女傑は水を得た魚――否、「人魚」のようにノバシェードを追い続けていた。

 

 ◆

 

 北欧某国の首都・エンデバーランドの東部に隣接しているギルエード山地。その山岳地帯の地下深くに隠されていたノバシェードの怪人研究所は、かつて対策室最強と恐れられた「女傑」の潜入を許していた。施設内部に繋がっていた地下水路から侵入して来た女豹は、研究所を警備していた戦闘員達の死角に忍び込んでいたのである。

 

 ――薄暗い研究所の最深部。その一室には、カツンカツンというハイヒールの足音が響き渡っている。扇情的な青いチャイナドレスを纏う絶世の爆乳美女は、その豊穣な果実と安産型の爆尻をたぷんたぷんと揺らしながら、静かな足取りで歩みを進めていた。

 

 くびれた腰を左右にくねらせ、蠱惑的に足を運ぶ彼女の足元には、多くの男達が呻き声を上げて倒れ伏している。意識が混濁している彼らの視界に辛うじて映っているのは、スリットが深く入ったドレスによって強調された、白く肉感的な美脚であった。

 

「ぐっ……ば、馬鹿な……! 俺達は改造人間なんだぞ……!? なんでこんな、ただの人間如きにィッ……!」

 

 旧シェードの失敗作とはいえ、曲がりなりにも人間を超えた力を持っているはずの改造人間。そんな自分達が生身の人間、それもたった1人の女に敗れている事実を受け止め切れず、男達は痛み以上の苦しみに悶えている。

 そんな彼らを一瞥する妖艶な女探偵――真凛・S・スチュワートは、ウェーブが掛かった黒のロングヘアを靡かせ、哀れな戦闘員達を冷たく見下ろしている。凛とした美貌をより艶やかに彩る冷酷な眼光が、男達を真っ直ぐに突き刺していた。

 

「……改造人間と言っても、所詮は生身の人間よりはほんの少しだけ丈夫という程度の粗悪品。旧シェードにとっては売り物にもならない程度の失敗作なのだから、当然でしょう?」

「貴様ぁああッ……! 必ず殺してやるッ! その身体を隅から隅まで嬲り尽くして、女に生まれたことを後悔させてやるぅうッ……!」

 

 氷のように冷たく、それでいて艶やかな真凛の美貌。その怜悧な貌に反して彼女の肉体は凄絶なほどに扇情的であり、チャイナドレスを内側から押し上げる特大の爆乳と爆尻は、僅かに身動ぎするだけでぷるぷると揺れ動いていた。

 

「そう、それは楽しみね。それが叶うだけの力があなた達にあれば、の話だけど」

「ぐぅうぅッ……!」

 

 その白く豊穣な肉体からは濃厚な女のフェロモンが滲み出ており、この狭く薄暗い研究室は、彼女の肢体から漂う芳醇な匂いで充満している。そんな色香に惑わされ、油断し切っていた男達は皆、彼女の華麗なハイキックでノックアウトされてしまったのである。

 

(……なんなんだ、この女の蹴りは……! 大した威力でも無いはずなのに、身体に力が入らなくなる……!)

(仮面ライダーでもない生身の女如きに、何故俺達が……! これが対策室最強の特務捜査官と名高い、真凛・S・スチュワートだというのかッ……!?)

 

 例え改造人間であろうと元が生身の人間である以上、人体の「急所」は共通している。

 顎を横薙ぎに蹴られて脳を揺さぶられてしまえば、たちどころに平衡感覚を失い、まともに立つことも出来なくなる。その弱点を顧みず、力任せに真凛の肉体を組み敷こうとした男達は、相応の報いをその身で味わう羽目になったのだ。

 

「真凛・S・スチュワート……! 貴様だけは絶対にタダでは済まさんッ……! 貴様の同僚達も家族も、皆殺しにしてくれるッ!」

「……その手の口説き文句は対策室に居た頃もお約束だったけれど、いい加減聞き飽きて来たわね。語彙力まで同じ。よほど教養に恵まれなかったのかしら」

「き、貴様ぁあぁーッ! 我々ノバシェードを……舐めるなァァッ!」

 

 だが。人の身と引き換えに得た改造人間としての力が、生身の人間1人にすら通じない現実など、並の精神力で受け止められるはずもなく。微かに余力を残していた最後の1人は真凛の挑発に乗り、ふらつきながらも彼女目掛けて襲い掛かろうとしていた。

 

「その上……堪え性もない。つくづく救えないわね」

 

 無論、そんな緩慢な動きで彼女を捕らえられるはずもない。真凛は敢えて柔肌に触れられる寸前まで引き付けると、そこから勢いよく優美な背を仰け反らせ、細くしなやかな両手を後方から地に着ける。

 

「んっ……!」

 

 その弾みで、豊満な乳房がどたぷんっと弾む瞬間。後方倒立回転の要領で振り上げられた真凛の白い美脚がピンと伸び、鮮やかな弧を描いて男の下顎を爪先で蹴り上げてしまうのだった。

 衝撃の反動で特大の爆尻がぶるるんっと揺れ動き、下から顎を打ち抜かれた男の身体が浮き上がって行く。ドレスの裾が倒立によってふわりと舞い上がり、その下に隠されていた「絶景」が露わになる。

 

「……残念、ハズレよ」

「ごはぁァッ……!?」

 

 だが、顎を蹴り上げられ天を仰いでいた男に、その「絶景」を拝める瞬間は訪れなかった。蹴りによって一瞬身体が浮き上がっていた彼はドレスの()を目撃する暇もなく、仰向けに倒れ込んでしまったのである。

 

 妊娠・出産に最適な安産型のラインを描いた、白く豊穣な極上の爆尻。その白い実りに深く食い込み、雄の興奮を掻き立てる匂いを振り撒いていたTバックのパンティ。そんな「絶景」を目にすることも出来ないまま、男は大きな物音と共に転倒していた。

 

「女の誘い方がなってないわね。……あぁ、だから力に拘るのかしら?」

 

 その様子を見届けた真凛は体勢を立て直して素早く立ち上がり、「悪足掻き」を仕掛けて来た男をはじめとする戦闘員達を見渡している。すでに全員が戦闘不能となっていたが、彼女の眼に慢心の色は無い。

 

 ――そこには、他者を慈しむ優しさの色も無かった。彼女の白く優美な手は、スリットにより強調された太腿に伸びている。

 

「誇れるモノが自分の中に無い男に限って、単純な暴力に縋る。改造人間だろうと生身の人間だろうと……下衆の思考回路は変わらないものね」

 

 その肉感的な脚に装備されたダガーナイフの白刃は、研究室の電灯に照らされ妖しい輝きを放っていた。

 





 今回は前話で初めて存在が明かされた、ヘレンの先輩である真凛・S・スチュワートに改めてスポットを当てるお話となりました。本来ならこのお話も女湯編の内容に差し込むつもりだったのですが、ちょっと長くなりそうだったのでこちらに分けることになりますた。次回の中編に続きまするm(_ _)m

 X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛が読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになる……と思われますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年を舞台としているこちらの作品では多くの読者応募キャラが活躍しており、真凛の後輩であるヘレンも仮面ライダーの1人として登場しております!(*≧∀≦*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 バイオRE:4のエイダも大変えちえちだったのですが、それはそれとして彼女の衣装についてはオリジナル版のチャイナドレスを推したい(´ω`)


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暗躍編 真凛・S・スチュワートという女 中編

 

 真凛の白く肉感的な太腿に装備されている、数本のダガーナイフ。その鋭利な刃は妖しい輝きを放ち、己の存在を刀身の光沢で主張している。

 

 カツカツとハイヒールの音を鳴らし、引き締まった腰を左右にくねらせて歩み出す真凛。その蠱惑的な足取りによってたぷたぷと揺れ動く爆乳と爆尻が、倒れ伏している男達の視線を惹き付けていた。チャイナドレスの深いスリットにより強調されている、スラリと伸びた白い美脚も、男達の獣欲を掻き立てている。

 

 その下に隠されたTバックのパンティから漂って来る、芳醇な女の香り。その芳香が男達の鼻腔を擽り、目を血走らせていた。ヒールによってピンと伸びている優美な爪先も、彼らの目を引いている。真凛の肉体から滲み出る甘い匂いは、そこからも滲み出ていたのである。

 

 この極上の女体を思うがままに組み伏せ、隅々まで丹念に味わい、嬲り尽くせたなら。この美しくも憎たらしい高慢な貌を、屈辱と恥辱に歪ませることが出来たなら。一体、どれほどの征服感を得られただろう。他の女を辱めた時とは、比べ物にならないほどの快感を得られたに違いない。

 

 この期に及んでも、そんな途方もない妄想が男達の脳裏に過ぎっている。つい先ほど、その妄想を現実にしようと彼女に襲い掛かった結果、全員纏めて呆気なく返り討ちにされたばかりだというのに。

 

(……改造人間という人の身に余る力を得た者達は例外なく、その精神を試される。得た力に溺れ、悪に堕ちるか。その力に飲まれることなく、人で在ろうとするか。この男達の場合は……抗う気すら無かったようね)

 

 それほどまでに、男達の判断力を狂わせる真凛の色香は「劇薬」なのだろう。

 これまで幾度となく命と貞操を狙われ、その両方の危機に直面して来た真凛は、この男達の粘つくような視線にもすでに気付いているようだった。欲望に塗れたケダモノ達を冷たく一瞥する彼女の眼に、情けの色は微塵も無い。

 

(ただの人間でも……いえ、人間だからこそ堕ちる者はどこまでも堕ちる。それを思えば……例外なく精神を試される改造人間がこんな連中で溢れ返るのも、ある種の「必然」なのかも知れないわね)

 

 11年前、旧シェードによって両親を殺され、犯罪組織に売り飛ばされた時だけではない。対策室の特務捜査官になってからも、そういう(・・・・)危険は何度も味わった。新世代ライダー達の助太刀が無ければ、その危険を乗り切ることは出来なかっただろう。

 

(ノバシェード対策室最強の特務捜査官。そう呼ばれていた私でさえ、怪人達に敗北(・・)しかけたことは何度もあった。改造人間の力には、それだけの不条理がある)

 

 頼もしい有望な後輩(ヘレン・アーヴィング)の助けが無ければ、確実に屈服(・・)していた場面もあった。改造人間の暴力がどれほど理不尽であるか。ただの人間がどれほど非力であるか。真凛は己の人生を通して、それを嫌というほど「肌」で理解して来た。

 

 だからこそ。何があっても、何をされても決して屈しないために。そんな理不尽に負けないために、特務捜査官として戦い続けて来たのだ。その地位を失ったところで、今さら改造人間達との戦いから降りるわけには行かないのである。

 

(悪に堕ちた改造人間は、人の姿と知性を持った猛獣に過ぎない。そして、猛獣相手に人間の道理は通用しない。ならば私達人間も、相応の「作法」を以てそれを制するのみ)

 

 その苛烈な信念を、豊満な胸の奥に宿して。彼女は露出している太腿に装備していたナイフを引き抜くと、その切っ先を容赦なく男達に向けていた。足を止めた瞬間、彼女の爆乳と爆尻がぶるんっと上下に弾む。

 

「例え兵器としては欠陥品でも……やはり改造人間は改造人間。その厄介な力は決して軽く見ていいものじゃない。だから……『相応の措置』を取らないとダメね?」

「なっ……!?」

 

 刃を向けてくる真凛の眼は、脅しのそれではなく。ただ淡々と標的の命を奪わんとする、殺し屋の色を湛えていた。その眼を見た戦闘員達は戦慄し、青ざめる。

 

 この女は、自分達をこの場で全員殺すつもりなのだと。

 

「ま、待て! 待ってくれ! た、確か貴様は対策室の特務捜査官なんだろう!? 俺達を捕まえることが任務のはず……!」

「……だから命だけは助かる、とでも? 当てが外れたわね」

「待っ――!」

 

 真凛がすでに対策室を去ったフリーの女探偵であるとは知らず、命乞いを始める男達。彼らの言葉を遮る冷酷な一言と共に、真凛は男達の喉首にナイフを投げ付けるのだった。

 

「ぎゃあっ……!」

「や、やめっ……がっ!」

 

 矢の如く飛ぶ刃が彼らの急所に突き刺さり、鮮血の飛沫が上がる。だが、遠距離からナイフを投げている真凛にその返り血が降り掛かることはない。彼女の足元だけが、血の海に染め上げられて行く。

 

「……人であることを捨てておいて、まるで人間のような悲鳴を上げるのね」

 

 その眼にも、所作にも躊躇は無い。まるで流れ作業のように迷い無くナイフを投げる彼女は、畜生にも劣る汚物を見る眼で、死に行く男達の最期を見届けていた。

 

「き、貴様ァッ! それでも特務捜査官か!? 無抵抗の相手にこんな真似をッ……!」

「そう言うあなた達は、無抵抗の人間に情けを掛けたことが一度でもあるのかしら。そんな記録を読んだ覚えは無いのだけれど」

「あ、『悪魔』めぇッ……!」

「ふふっ……あなた達からそんなことを言われるとはね。褒め言葉として、ありがたく受け取るわ」

 

 やがて、最後の1人が悔し紛れに恨み言を吐き出すのだが。真凛はそんな彼からの罵声すら、「褒め言葉」と称して嗤っていた。

 

「あがッ……!」

「……じゃあね。おやすみなさい」

 

 それから間も無く、その男の首にも刃が突き刺さり――この研究室一帯が、赤く血塗られて行く。戦闘員達の全滅を見届けた真凛は乳房を揺らして踵を返すと、デスクに残されていたノバシェードの作戦計画書に目を通していた。

 

「ノースカロライナのジャスティアドライバー研究所……『ニノマエラボ』、ね」

 

 そこには、変身ベルトの一種である「ジャスティアドライバー」に関する情報が記載されていた。どうやらこの施設の構成員達はここで作った怪人を使い、ジャスティアドライバーの研究施設「ニノマエラボ」を襲うつもりだったらしい。

 

(「彼」の戦闘記録は何度も読ませて貰ったわね。仮面ライダーオルバス……悪魔(オロバス)に近しい名を冠した「ジャスティアタイプ」の適合者、か)

 

 ジャスティアドライバーといえば、新世代ライダーの一員である「仮面ライダーオルバス」こと忠義(チュウギ)・ウェルフリットが使用しているベルトの名称だが、実はジャスティアドライバーを介して変身する仮面ライダーは彼1人ではないのである。

 

 稀代の天才女科学者・一光(にのまえひかる)。彼女が開発した、ソロモン72柱の悪魔――に近しい名を冠した仮面ライダーは「ジャスティアタイプ」と呼ばれ、番場惣太(ばんばそうた)総監が推進していた開発計画とは枠組みが異なっている。そのジャスティアタイプはオルバスを含め、なんと72機も存在しているのだ。

 

 だが、ドライバーに適合した人間でなければまともに扱えず、警察組織の装備として運用するにはあまりにもピーキーな仕様となっている。

 そのため身分や出自を問わず選抜されたオルバス以外のジャスティアライダー達については、その行動内容について疑問視されることも少なくないらしい。彼らの活動に関する記録は、真凛も対策室時代に資料で読んだことがある。

 

(……あの資料に誤りが無いのであれば、悪魔にあやかった名前に相応しい働き振りよね。番場総監主導の成果物(ニュージェネレーション)と比べて、メディアへの露出が少ないのも当然……か。到底、表社会にお見せ出来る代物じゃないもの)

 

 第55番機のオルバスが現役警察官の忠義に委ねられているのも、番場の計画に加わることによって研究開発の「大義名分」を得るためだという話もある。ノバシェードが諸悪の根源であることは疑いようのない事実だが、一光という人物も決して清廉であるとは言えないらしい。

 

「ソロモンの72柱を想起させる『悪魔』のドライバー……か。ふふっ、私のような人間にはおあつらえ向きかも知れないわね?」

 

 正義の味方を自称するには、あまりにもその道から外れ過ぎている。そんな一博士に対して思うところがあったのか、真凛は自嘲するような笑みを溢しながら――この研究所の「自爆機能」を作動させていた。

 

「さて、と……それじゃあ、綺麗に『お掃除』しておきましょうか」

 





 今回は前話に引き続き、真凛・S・スチュワートに改めてスポットを当てるお話となりました。この暗躍編は今話辺りで締めるつもりでいたのですが、なんかかんやと色々加筆してたら微妙に長くなってしまいましたので、次回の後編に続きまする……_:(´ཀ`」 ∠):
 本来はこの暗躍編の内容自体も、女湯編でのモノローグでサラッと流す程度にするつもりだったのですが、いざ書いてみると筆がちょっと進んでしまいまして……。次回こそちゃんと終わるはずですので、最後までお付き合い頂けると幸いです(>人<;)

 また、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛が読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインとなりますぞ〜!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカであり、時系列としてはこの暗躍編から約1年後の時期に当たりますね。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、多くの読者応募キャラが活躍しており、真凛の後輩であるヘレン・アーヴィング捜査官も仮面ライダーの1人として登場しております(*^ω^*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 10年近く前からニコ動で公開されてる、旧バイオ4のナイフ縛り動画を久々に観てました。接近戦ではナイフの方が速い……(´-ω-`)


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暗躍編 真凛・S・スチュワートという女 後編

 「シン・仮面ライダー」の上映もそろそろ終了ですね……。たくさんの興奮と感動を、ありがとうございました……m(_ _)m



 

『自爆装置が作動しました。全構成員は直ちに避難してください。繰り返します。自爆装置が作動しました。全構成員は直ちに――』

 

 研究所の自爆機能を作動させる時限装置。機密保持のために用意されていたそのシステムを躊躇なく作動させた真凛は、けたたましい警報が鳴り響く中、侵入の際にも使っていた地下水路に再び潜り込んでいた。

 そして暗く冷たい水の中を恐れることなく泳ぎ続け、施設からの脱出を果たしていたのである。研究所の地下水路は、山地の近くに位置する滝壺に繋がっていたのだ。

 

「んっ……はぁあっ! ……んはぁ、はぁんっ……! ここしか潜入ルートが無かったとはいえ……良い気分じゃないわね。ブラもパンティもずぶ濡れだわ……」

 

 じっとりと濡れそぼり、ボディラインにぴっちりと張り付いた青のチャイナドレス。その衣装の下に隠された、扇情的な黒い下着。

 淫らなその形がくっきりと浮き出るほどずぶ濡れになったまま、水路を通じて滝壺から浮上した真凛は、息を荒げながらも地上の森林部へと生還していた。水面から顔を出し、滝壺の淵に辿り着いた真凛は、艶かしく息を荒げている。

 

「はぁ、んはぁ、はぁっ……!」

 

 白く透き通るような肌に黒髪が張り付いたまま、上気した貌で水面から這い出る彼女は、ぷっくりとした唇から甘い吐息を漏らしていた。その肢体をなぞる水滴が、彼女の肉体を彩るように蠱惑的な光沢を放っている。

 

「ふぅっ、んっ……」

 

 長い後ろ髪を優美な両腕で掻き上げると、その仕草によって露わにされた白い腋の窪みから濃厚な匂いがむわりと漂って来る。扇情的なY字を描く鼠蹊部とその箇所は、肌と肌が常に密着しやすい。そのため、肉体から分泌される汗の香りがより強く染み込むのだろう。

 無防備に晒された真凛の両腋からは、特に濃く熟成された女の芳香が滲み出ていた。雄を誘うためだけに在るかのようなこの香りまで戦闘員達の鼻腔に届いていたなら、彼らはより早く理性を失っていたに違いない。

 

「んっ……ふぅっ、はぁっ……はぁっ……」

 

 長時間の素潜りという過酷な運動を経た肉体は淫らに汗ばみ、そのきめ細やかな肌からは濃厚なフェロモンを漂わせていた。微かに息を荒げている彼女の頬は桃色に上気し、悩ましい吐息が唇から溢れ出ている。

 さすがの彼女でも、水中からの脱出は容易ではなかったのだろう。妖艶な唇から漏れ出る吐息は甘く扇情的であり、きめ細やかな肌を伝う水の滴りは、真凛のボディラインをなぞるように伝っていた。凹凸の激しい極上の女体。その隅々から滲み出る魔性の色香が、全身からぶわっと匂い立っている。

 

「……待たせたわね」

 

 そして地上への脱出を果たした彼女は、滝壺の側に停めていた愛用のバイクに視線を向け、腰をくねらせるように歩み始めていた。青基調のボディと丸型のヘッドライトが特徴の大型クラシックバイクが、主人(マリン)の帰りを待ち侘びていたようだ。

 チャイナドレスに深く入ったスリットにより、露わにされている白い美脚。そのスラリと伸びた長い脚が素早く振り上げられ、バイクのシートを跨いで行く。蠱惑的なY字を描いていた鼠蹊部と下腹部がシートの上に密着すると、ロングヘアの黒髪がふわりと靡き、爆乳と爆尻がどたぷんっと弾んでいた。

 

「んんっ……!」

 

 颯爽と跨ったシートを通じて肉体に伝わる、熱いエンジンの鼓動。その獰猛な振動が、そこにぴったりと密着している下腹部と鼠蹊部を通じて、真凛の背筋をゾクゾクと突き抜けて行く。気高く凛々しかった真凛の怜悧な美貌が、恍惚の色に染まる。それはシートに跨り、エンジンを掛け始めてからすぐのことだった。

 

「あぁ、はぁっ……」

 

 バイクの車体から広がって行くエンジンの熱さが、水で冷えた真凛の肉体をじわじわと暖めていた。彼女が対策室時代から愛用しているこのバイクは、マシンGチェイサーに次ぐ馬力を秘めた「特別製」なのだ。

 対策室を去り、特務捜査官の権限を失った今となっては「違法改造車」でしかない、曰く付きのスーパーマシン。そんな代物の車体に積まれている規格外のエンジンは、シートを通じて真凛の下腹部に獰猛な「熱」を伝えている。

 

「はぁんっ……!」

 

 やがて、天を衝くように迸るエンジンの「熱」。下腹部から脳天に向かって突き抜けて行くような、その熱く逞しい「昂り」に真凛は甘美な声を上げる。ゾクゾクと背筋を走るエンジンの脈動を感じ、彼女はうっとりとした様子で瞼を閉じていた。

 真凛の優美な背はくの字に仰け反り、艶かしく開かれた唇から蠱惑的な吐息が漏れて来る。命を預けるに値する、獰猛なまでに逞しいエンジンの躍動。その熱く雄々しい胎動が下腹部に伝わる瞬間、真凛は愛車の鼓動を味わうように引き締まった腰をくねらせていた。

 

「はぁ、ぁあっ……!」

 

 さらに艶かしく、悩ましい声が溢れ出る。前方に突き出された特大の乳房はどたぷんっと揺れ動き、後方に突き出された安産型の桃尻もぶるんっと弾んでいた。どうやらエンジンの勢いも、「本調子」に達して来たらしい。Gチェイサーに次ぐ加速を引き出せるモンスターマシンは、完全に目醒めたようだ。

 

「……んっ、ふぅっ……今日も良い調子だわ。その意気で、最後までお願いね」

 

 シートから伝わる熱いエンジンの鼓動。その燃え滾るような熱気が伝播した下腹部に、恍惚の微笑を向ける真凛は、チャイナドレス越しにその箇所を白い指先でそっとなぞっていた。うっとりと細められた双眸は、熱に浮かされたように濡れそぼっている。むわりと汗ばむ白い肉体からは濃厚なフェロモンが匂い立ち、真凛の肢体も愛車と同様に熱を帯び始めていた。

 

 本来の体温が取り戻され、熱く桃色に染まり行く柔肌。その隅々から滲み出る瑞々しい汗が真凛の肉体を淫らに彩り、極上の色香を全身に纏わせて行く。

 エンジンの躍動に合わせて乳房と桃尻が弾むたび、輝く汗が柔肌を舐めるように滴っていた。スリットによって強調される白い太腿から、ピンと伸びたハイヒールの爪先まで滴り落ちて行く汗の雫が、長くしなやかな美脚を厭らしく撫でている。

 

「……次は地獄で逢いましょう」

 

 そのままエンジンを全開にした真凛は、ハンドルを強く握り締めると――山地の方へと振り返る。これから自爆する研究所と運命を共にするノバシェードの構成員達は、その遺体すら残らないのだ。

 そんな彼らへのせめてもの手向けとして、真凛は妖艶な唇を僅かに開き、小さく呟いている。いつかは自分も、同じ地獄に堕ちるのだと。

 

 やがて彼女は愛車と共に、猛スピードで山地から走り去って行く。研究所を跡形もなく焼き尽くす爆炎の業火が、天を衝く轟音と共に外の世界へと噴き出したのは、それから間も無くのことであった。研究所の自爆機能が、ついにタイムリミットを迎えたらしい。

 

 猛烈な馬力で砂塵を巻き上げながら、森林部の山道を疾走する真凛の後ろでは、激しい爆炎が凄まじい勢いで広がっていたのだが――その猛火が彼女の背中に届くことはなかった。

 

「ふふっ……生憎だけど、私はまだ死ねないのよ」

 

 すでに最高速度に達していた青いクラシックバイクは容易く爆炎から逃げ切り、主人を「安全地帯」に連れて行ってしまったのである。

 

 ◆

 

 その後――ギルエード山地で起きた謎の爆発事故に対応するべく、現地の警察隊と消防隊が緊急出動していた。

 黒煙を上げる山岳地帯を目指して、慌ただしく森林部を駆け抜けて行く無数のパトカーと消防車。その様子を遥か遠方の崖上から見下ろしていた真凛は、愛車に跨ったまま鋭く眼を細めていた。

 

(救国の英雄と謳われたジークフリート・マルコシアンが軍部を去ってから11年。大衆から絶大な支持を集めていたカリスマ的存在を失ったこの国の情勢は、長い間不安定なままになっていた。現政権に移行してからは安定に向かい始めているようだけれど、今でも治安が劣悪な地域は多い。……なるほど、ノバシェードの隠れ蓑にはうってつけだったようね)

 

 11年前の2009年に起きた、旧シェードの改造人間達による侵略行為。その魔の手から祖国を守り抜き、救国の英雄と称賛されたジークフリート・マルコシアン大佐が陸軍を去って以来、この某国は長きに渡る混迷期を迎えていた。その長期的な混乱を利用し、ノバシェードの構成員達はこの国に紛れ込んでいたのだろう。

 

 首都近くの山地にまで大規模な研究所を構えていたくらいなのだから、それ以外の至るところにもアジトを隠している可能性がある。軍や警察の監視が満足に機能していない地域も少なくないこの国ならば、身を潜められる場所など幾らでもあるのだ。

 

(けれど……無意味だわ。どんな国に逃げ込もうと、どこで息を潜めようと……この私から逃げられはしないのだから)

 

 だが、例えこの国の眼がどれほど曇っていようと、自分は決してノバシェードの影を見逃すつもりはない。特務捜査官としての地位や権限が無くなろうと、関係ない。

 自分が真凛・S・スチュワートという女である限り、この戦いから手を引くつもりはない。それが、彼女自身の信念であった。

 

 ――あ、「悪魔」めぇッ……!

 

(……悪魔、か)

 

 バイクのハンドルを握り直した瞬間、死に際に自分を「悪魔」と糾弾した戦闘員の呪詛が脳裏を過ぎる。

 その言葉を敢えて否定せず、むしろ「褒め言葉」として受け止めていた真凛は、自嘲するように口元を緩めていた。乾いた笑みが、唇の動きに現れる。

 

(確かに私はもう……「悪魔」にしかなれない。けれど、「悪魔」であっても正しいと信じる道のために戦うことは出来るわ)

 

 己の正義を通すためなら、正道から外れることも厭わない。そんな「矛盾」を背負って戦う決意を新たにした真凛は――踵を返すようにハンドルを切り、森の奥深くへと走り去って行く。その行方を知る者は居ない。

 

(せめてあなただけは、私よりは「利口」に生きなさい……ヘレン)

 

 ノバシェードの改造人間とあらば、一欠片の情も持たない冷徹な女傑。そんな彼女の胸中に残された数少ない良心は、生真面目で実直な「後輩」への思慮のみであった。

 

 自分の跡を引き継ぐヘレンのために真凛が「餞別」として譲り渡した(・・・・・)、ワルサーPPK。その愛銃を手にノバシェードと渡り合っているヘレンは、真凛の分まで今も懸命に怪人犯罪を追い続けている。

 

 どれほどこの手を血で汚しても、彼女のことを忘れた日はない。だからこそ真凛・S・スチュワートという女は、彼女には出来ないことを代わりに全て引き受けているのだ。

 

 いつかヘレン・アーヴィングを守り抜き、幸せにしてくれる男が現れるその日まで、彼女の命が続くようにと――。

 





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 今回は前話及び前々話に引き続き、真凛・S・スチュワートに改めてスポットを当てるお話となりました。思いの外長くなってしまいましたが、暗躍編もこれにてようやく完結となります。このお話も最後まで見届けて頂きありがとうございました! 今回はいずれ仮面ライダーになる……かも知れない彼女のために、申し訳程度のバイク要素を盛り込んでおります。山を爆破されたり首都でテロ起こされたり観光地を占拠されたり、この国踏んだり蹴ったり過ぎる……(´・ω・`)
 ちなみに、新世代ライダー達のGチェイサーはヒロイックで近未来的なレーサーバイクというイメージですが、真凛の改造バイクはかなりレトロなイメージですね。「カリオストロの城」で峰不二子が乗っていた、トライアンフ・ボンネビルに近い感じかもですなー(*´꒳`*)

 現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛が読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインとなりますぞ〜!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカであり、時系列としてはこの暗躍編から約1年後の時期に当たりますね。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、真凛の後輩であるヘレン・アーヴィング捜査官も仮面ライダーの1人として登場しております……(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらに今話で触れられていたジークフリート・マルコシアンも本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 ※ただバイクに跨ってエンジン掛けてるだけの健全な場面です。びちょ濡れドレス⭐︎


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暗闘編 ヘレン・アーヴィングという女 前編

◆今話の登場ヒロイン

◆ヘレン・アーヴィング
 ノバシェード対策室の若き特務捜査官であり、真凛(マリン)・S・スチュワートの跡を引き継いだ新進気鋭のアメリカ人美女。元同僚であり師でもあった真凛の分まで、ノバシェードを追い続けている才媛。使用銃器はワルサーPPK。当時の年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。



 北欧某国の東部に位置するギルエード山地。首都の近くであるその山に隠されていたノバシェードの怪人研究所が、真凛(マリン)・S・スチュワートによって爆破されてから、すでに数時間が経過していた。

 夜明けを迎えた森林地帯には現地警察や消防隊が駆け付け、辺り一帯は完全に封鎖されている。朝陽に照らされた現場に立つ警察官や消防官達は、緊張を隠し切れない様子で周囲の調査を進めていた。

 

 幸い、山地のアジト入り口から噴き出していた炎による火災は、僅か1時間程度で消し止めることが出来た。だが、アジトの入り口は落石で塞がってしまったため、何も知らずに来た警察官達はまだ事態の真相に辿り着けずにいる。

 山地を揺るがし、人々を混乱に陥れた謎の大爆発。その真相が判明していない内は、緊張を途切れさせるわけには行かないのだ。現場の最前線に立つ名も無きプロフェッショナル達は皆、固唾を飲んで辺りを見渡している。

 

 そんな現場の状況に変化が現れたのは――漆黒のスーツに袖を通した、1人の特務捜査官が合流して来た時だった。真紅のレーサーバイク「マシンGチェイサー」に跨り、この現場に颯爽と駆け付けて来た絶世の美女。それが「噂の美人捜査官」であると知った男達は、早速彼女の美貌に釘付けになっていた。

 

 ショートに切り揃えられた豪奢な金髪。凛とした眼差しに色白の柔肌。気高さに満ちた蒼い瞳と怜悧な美貌は、超一流の女性捜査官としての気品に満ち溢れている。一方で、その肉体は豊穣という言葉では足りないほどにグラマラスであった。雪のように白い柔肌から滲み出る甘いフェロモンは多くの警察官達の鼻腔を狂わせており、ぷっくりとした艶やかな唇も彼らの劣情を強烈に煽っている。

 

 内側から黒スーツを押し上げ、今にもはち切れそうになっている超弩級の爆乳と爆尻。その特大の果実は引き締まった腰に反してあまりに豊満であり、警察官達はその極上のボディラインに思わず生唾を飲み込んでいた。

 僅かに身動ぎするだけでぶるんっと揺れ動き、106cmのJカップという圧倒的なサイズをその弾みで主張する、張りのある大きな乳房。妊娠・出産に適したラインがくっきりと浮き出ており、丈夫な子を産める肉体であることを周囲に見せ付けている、むっちりと膨らんだ安産型の桃尻。雄の欲望を叶えるために生まれて来たようなその肉体は、捜査関係者達の注目を余計に集めていた。

 

「……現場から発見された、このネジ。これは生身の箇所と機械の箇所を結合する際に使われる、改造人間の部品の一つだわ」

 

 現場の警察官や消防官達の視線を惹き付けていた彼女の名は――ヘレン・アーヴィング。ノバシェード対策室の新人特務捜査官であり、後に「エンデバーランドの英雄」と呼ばれることになる若き女傑であった。彼女の美貌と色香に男達はたまらず鼻の下を伸ばし、その豊満な肉体を隅々まで舐め回すかのような粘ついた視線を注いでいる。

 そんな彼女が現場から発見した、1本のネジ。それがノバシェードの関与を裏付けているのだという彼女の主張に、屈強な黒人である現地警察の警部は眉を顰めている。ヘレンの唇や胸元に不躾な視線を向けながら、彼は訝しむように目を細めていた。

 

「つまり……この事態にはノバシェードが噛んでるって言うのかい。対策室の特務捜査官殿」

「現場の焼け跡から発見されたこの型は、1980年代まで徳川清山(とくがわせいざん)が改造人間に使用していたモノだわ」

「1980年代だと? 奴が旧シェードを創設したのは確か、11年前の2009年だろう。そんな昔に使っていたネジなんて使い物になるわけ……おい、まさか」

「察しの通りよ、警部。このネジは確かに黎明期の頃から、改造人間の部品として重宝されて来た。それでも2000年代以降においてはさすがに型が古過ぎて、簡素な量産型にしか使われなくなって行った……」

 

 ノバシェードの構成員達の多くは、旧シェードの改造被験者であるとされている。そして彼らは皆、旧シェードの要求スペックに満たない「失敗作」ばかりであった。

 改造人間にも、ただの人間にもなり切れない最も中途半端で不安定な存在。そのような「異物」を受け入れられるゆとりを持たない人間社会との衝突、差別、迫害は必至であった。その結果が招いた悲劇の数は、対策室の人間でなくとも肌で理解している。

 

 旧型の部品だという改造人間のネジが、この場で発見された。それが意味するものに辿り着いた警部は、救いようのないこの世界への諦観を胸に、朝陽の空を仰ぐ。手元のネジに視線を落としているヘレンもまた、そんな彼の胸中を声色から察していた。

 

「そんな旧型をあてがわれた挙句、『失敗作』としてお払い箱にされた。……ここに居たのは、そういう奴らだったってことか」

「ノバシェード構成員の遺体からは、95%以上の確率でこのネジが検出されている。どんな経緯でこんなことが起きてしまったのかはまだ分からないけれど……ノバシェード絡みであることだけは間違いなさそうね」

「となると……例の『仮面ライダー』って奴らがノバシェードを山ごとブッ飛ばした……ってところか? 救世主だか何だか知らねぇが、他所様の国でヒーロー面して好き勝手暴れ回りやがって……」

 

 この山地にはノバシェードが潜伏していた。ならば、ここがアジト諸共吹き飛ばされた原因は何なのか。そこに思いを巡らせる警部の脳裏には、世界各地を転戦しているという「仮面ライダー」の存在が過っていた。

 首領格が倒れてからも世界中で散発的にテロを起こしているノバシェード。そんな彼らを打倒するべく、全世界を駆け巡っているのだという22人の新世代ライダー。その者達がこの地に現れていたのではないかと勘繰る警部は、忌々しげに焼け焦げた地表を睨み付けている。

 

 世界各地からヒーローと称賛されている新世代ライダー達だが、彼らに対して懐疑的な視点を持っている人々も決して少なくはない。ライダーの力を信用しない現地警察が協力を拒んだ結果、被害が余計に拡大してしまったケースもある。

 

「いいえ、彼らはこの件には関わっていないわ。現在活動している22名の新世代ライダーのうち、この某国に滞在していた者は1人も居なかった」

 

 だが。ぷっくりとした桜色の唇を開き、ヘレンは警部の推測を否定していた。現地入りする前から対策室本部と連絡を取っていた彼女は、新世代ライダーが今回の件に関与していないことを予め確認していたのだ。

 

「仮面ライダーの仕業じゃねぇとしたら……残る線は構成員同士の仲間割れかぁ? 何もかもが吹き飛んじまった今となっては、迷宮入りかも知れねぇが……何にせよ、傍迷惑なモンだぜ。あのジークフリート・マルコシアン大佐さえ健在だったらなぁ……」

 

 扇情的で艶やかな唇から紡がれる彼女の言葉にため息を吐き、警部は力無き人々の嘆きを代弁するかのようにぼやくと、独り踵を返して行く。かつて旧シェードの侵略からこの国を守り抜いた「英雄」の名を呟く彼は、諦念を露わに空を仰いでいた。

 

(ジークフリート・マルコシアン……11年前、旧シェードの侵攻を防いだと言われている救国の英雄……か。確かに彼が居なくなってから、この国の情勢は不安定な時期が長く続いていた。きっと、そこをノバシェードに付け入られたのね)

 

 11年前の2009年に起きた、旧シェードによる軍事侵攻。その脅威からこの国を救った伝説の英雄――ジークフリート・マルコシアン大佐は、消息を絶った今もこの国の象徴的な存在として祭り上げられている。

 

 首都・エンデバーランドの国立中央公園に聳え立つ銅像をはじめ、ヘレンは至るところで彼の勇姿を描いた作品を目にして来た。政府官邸の壁に大きく描かれた肖像やポスターのデザイン、さらには教科書の表紙にまで彼の姿が題材として使われている。ここまで来ると、見ない方が難しい。それほどまでに、ジークフリートの存在感は絶対的であった。

 灰色の野戦服を纏う筋骨逞しい肉体。猛獣を想起させる暗い茶髪に、右眼を覆う黒い眼帯。勇ましく精悍な顔立ち。そんな屈強な軍人だったというジークフリートの雄々しい姿は、この国における「正義」の象徴(シンボル)として民衆に広く知られている。

 

 それほどのカリスマ性を持っていたジークフリートが姿を消してから、すでに11年。消息を絶って間もない頃よりは情勢も安定化しつつあるようだが、それでも彼が健在だった頃と比べて治安が芳しくないことには違いない。

 混乱期の尾を引いているこの小国は、ノバシェードの潜伏先としてはうってつけだったのだろう。英雄の喪失による国の不安に付け込まれた結果、このような事態に繋がってしまったのだとヘレンは推測する。

 

(……「仮面ライダー」の仕業、か……)

 

 かつての英雄の名を呟きながら、この場から立ち去って行く警部。そんな彼の背中を見送ったヘレンは、何か思うところがあったのか――数少ない遺留品であるネジに視線を落とし、独り目を細めている。

 

 彼女の脳裏には新世代ライダー達ではなく、その枠に居ない「悪魔の力を持つ仮面ライダー」達の存在が過っていた。

 

(「仮面ライダーオルバス」こと、忠義(チュウギ)・ウェルフリット。彼と同じ「悪魔」の力を持ったジャスティアライダー達なら、アジト一つを潰すことなんて容易いのかも知れない。けど、彼らがこの国に入国していた形跡も見つかっていない……)

 

 自我を持つ「コア」を搭載した、特殊な変身ベルト「ジャスティアドライバー」。そのベルトに選ばれた適合者は、新世代ライダーの一員である「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリット独りではない。ソロモンの悪魔に近しい名を冠した仮面ライダーは、彼の他に何人も居る。

 

 22名の新世代ライダー達とは異なる枠組みで活動している適合者達――「ジャスティアライダー」。彼らは忠義とは違い、各国政府や警察機関との連携を前提にしておらず、「独自のやり方」でノバシェードを追撃している。さらに目的はおろか、ライダーになる前の素性すら不明な者もいるらしい。

 大衆からヒーローとして称賛されている新世代ライダー達とは違い、アウトローな手段も辞さない「影」のライダー。そんな彼らの詳細な動向はノバシェード対策室ですら完全には掴めておらず、ヘレン達は毎度のように彼らが戦った後の事後処理に追われているのだ。

 

 そのため対策室本部の室長達からは、ある意味ノバシェード以上に厄介な存在だとも言われていた。番場惣太(ばんばそうた)の管轄下ではないジャスティアライダー達の動きは非常に読みづらく、彼らにとっても悩みの種なのだろう。

 

 天才女性科学者・一光(にのまえひかる)博士によって開発された72機のうち、幾つかのドライバーはすでに適合者達の手に渡っており、彼らは各々の「やり方」で各地のノバシェードを打倒している。決して清廉とは言えない彼らの「やり方」を危険視する各国政府からは苦情の声が絶えないようだが、光はその悉くをのらりくらりとかわしているようだ。

 彼女としてはドライバーの運用データ収集が最優先であり、ジャスティアライダー達の素行を制御するつもりなどないのだろう。新世代ライダー以上に活動内容を疑問視されやすい彼らのうちの誰かなら、この山地をアジトごと吹き飛ばすくらいのことはしていても不思議ではない。

 

 だが、2020年現在の時点で存在が確認されているジャスティアライダー達が、この国に入国していた可能性に繋がる痕跡は残っていなかった。オルバスこと忠義を含む、悪魔の力を秘めた影のライダー達ですら、今回の爆発事件には関与していなかったのである。

 

 であれば、警部の言う通り構成員同士の内紛が原因だったのか。3名の首領格を欠き、彼らに代わる指導者も確立されていない今のノバシェードならば、それもあり得るのかも知れない。

 だが、ヘレンの胸中には未だに強い違和感が残されている。それが真相だと断じるには、まだ早い。そんな根拠のない直感が、彼女の胸の内に強く引っ掛かっている。

 

「う、うわぁあぁぁあっ! な、なんだこいつぅううっ!?」

「……!?」

 

 ――その時だった。警部が踵を返し、歩き去った方向から悲鳴と怒号、そして銃声が響いて来る。ヘレンはハッと顔を上げると腰のホルスターから拳銃を引き抜き、素早くその場から駆け出していた。緊張に汗ばむ肉体から淫らな雌の匂いが漂い、特大の乳房と桃尻がばるんばるんと揺れ動く。

 

「ウグァ、アァッ、アァオオオッ……!」

「ひ、ひぃいっ! こ、こいつ明らかにイカれてるっ! 間違いねぇ、こいつ怪人だぞっ!」

「まっ……まさか、本当にここはノバシェードのアジトだったのかぁあ!」

 

 この現場で起きた異変の発生源。それは、瓦礫で塞がっていたアジトの入り口であった。

 崩れた岩石の隙間から這い出て来た瀕死の戦闘員が、改造人間としての最後の力を振り絞り、警察官達に襲い掛かっていたのである。地獄の底から甦った悪魔のような唸り声が、その一帯に響き渡っていた。

 

「ヨクモ、ヨクモオレタチヲ……! コロシ、テヤル……! コロシテヤルゥウッ……!」

 





 今回は暗躍編の後編で描かれた爆発オチの後、現地調査に来ていたヘレンを主人公とする後日談……的なおまけ回となります。次回の後編ではヘレンの戦闘シーンが久々に描かれる予定ですので、どうぞ最後までお楽しみに(о´∀`о)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの暗闘編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、ヘレンも仮面ライダーの1人として登場しております。今回彼女がバイクで登場したのはそれが理由だったり。結構美味しい役回りを貰っておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていたジークフリート・マルコシアンも本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 ヘレンが真凛から貰ったワルサーPPKは、言わずと知れたジェームズ・ボンドの愛銃。64版ゴールデンアイは我がアオハルでございます(*^ω^*)←※バチクソ弱い


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暗闘編 ヘレン・アーヴィングという女 後編

 

「ウグォアァアッ……! アノオンナ、アノオンナノセイデェッ……! コロス、コロスコロス、コロシテヤルゥウッ……!」

 

 爆炎に焼かれた人工皮膚は醜く爛れ、内部の機械が幾つも露出している。機械と生身が歪に混じり合った人体模型のような、醜悪極まりない戦闘員の姿は、さながら生ける屍(ゾンビ)のようであった。山地のアジトが跡形もなく吹き飛ぶほどの爆炎を浴びて、なおも辛うじて生き延びていた個体が居たのである。

 旧シェードの元被験者である「失敗作」の他、その技術を模倣・流用した各国政府製の「粗悪品」も含まれているノバシェードの構成員達だが――中にはごく稀に、高いポテンシャルを秘めた「突然変異体」が含まれているのだ。かつて組織を率いていた明智天峯(あけちてんほう)上杉蛮児(うえすぎばんじ)武田禍継(たけだまがつぐ)の三巨頭がそうだったように。

 

 自分達を破滅に追いやった真凛・S・スチュワートに対する限りない憎悪。その絶大な怨恨は、肉体を凌駕するほどの精神力を齎していたらしい。彼女に対する憎しみだけで動き、全ての理性をかなぐり捨てた正真正銘の「怪人」は、白目を剥いて全方位に殺意を向けている。

 

「コロス、コロ、ス、コロスゥウッ……!」

 

 強烈な怨念を帯びた唸り声が、その迫力をさらに引き立てている。人外の怪物にしか出せない、悍ましい迫力。そんな圧倒的なプレッシャーが、対峙する警察官達を襲っていた。

 

「け、警部っ! あ、あの化け物……! 間違いありません、ノバシェードの改造人間ですっ! アーヴィング捜査官が言っていた通り、ここは奴らのアジトだったんですよぉっ!」

「ちっくしょうがぁ……! 心底気に食わねぇが……全部、特務捜査官殿の言う通りだったってことかよッ! 撃て撃てぇッ! 怪物相手に遠慮なんざ要らねえ、市民に被害が出る前に撃ち殺せぇッ!」

「こ、この、このぉっ! 俺らのそばに近寄るなァァーッ!」

 

 その異様な姿に動揺する警察官達は、即座に発砲を開始していたのだが――改造人間としての耐久性は辛うじて健在だったのか。生き残りの戦闘員は斃れることなく、その身を引き摺るように警察官達に迫ろうとしていた。

 

「ひ、ひぃあぁあっ! 来るな、来るな来るなぁぁあっ!」

「コロ、スゥッ……! ヒトリデモ……ミチヅレニィッ……!?」

 

 やがて、弾切れを起こした警察官の目前に死に損ないの戦闘員が迫る。乾いた銃声が響き渡り、戦闘員の頭に1発の銃弾が命中したのは、まさにその瞬間であった。

 

「……生憎だけど。死ぬのはあなた独りよ」

「と、特務捜査官殿っ……!」

 

 真凛・S・スチュワートから受け継いだヘレンの愛銃――「ワルサーPPK」が火を噴き、急所の脳を撃ち抜いたのである。鋭く目を細め、両手持ち(ツーハンドホールド)で拳銃を構えていた女傑の銃弾が、戦闘員の凶行を間一髪のところで阻止したのだ。発砲の反動で、彼女の爆乳と爆尻がどたぷんっと揺れ動く。

 

「ゴッ、ガァッ……!」

「た、助かった……!?」

 

 銃口から放たれたACP弾が戦闘員の脳髄を貫いた瞬間、血飛沫が上がり身体が痙攣する。警察官の喉首に伸びていた戦闘員の両手は、そこでようやく止まるのだった。

 

「ゥオォッ、オォオッ……! コロス、トクムソウサカン……コロスゥウッ……!」

「……!? この男、まだっ……!?」

 

 だが、それで終わりではなかった。経験が浅いヘレンの狙いでは1発で仕留め切れなかったのか、またしても死に損なった戦闘員はヘレンに狙いを定め、彼女ににじり寄ろうとする。

 元特務捜査官の真凛に対する憎悪を原動力としているこの男は、現役捜査官であるヘレンにも執着していた。彼女に命を救われた警察官の言葉が、新たなピンチを呼び込んでしまったのである。

 

「あれでも死んでないのかよ!? 絶対頭をブチ抜いたはずなのにっ!」

「……くそったれがぁ! お前らボサっとすんな、とにかく撃ちまくれっ! 特務捜査官殿をこんなところで死なせたりなんかしたら、俺達の面目丸潰れだろうがぁっ!」

「う、うおぉおおっ!」

 

 警部をはじめとする他の警察官達はヘレンを守ろうと発砲を再開するが、戦闘員はどれほど蜂の巣にされても止まる気配が無い。もはや、生ける屍そのものであった。

 恐らく、このアジトの番人を任されていた耐久性特化型の個体だったのだろう。彼は刺し違える勢いで、ヘレンを縊り殺そうと両手を伸ばしていた。その暗澹とした殺気を浴びせられたヘレンは、拳銃を構えながらも僅かに後退る。じっとりとした汗が滲む彼女の肉体からは、濃厚な雌のフェロモンが溢れ出ていた。

 

(……本来なら、一旦ここは退くべき。だけど……!)

 

 このタイプを確実に制圧するならば、一旦退いて体勢を立て直すのが定石。だが、周りの警察官達も実戦経験が少ない者ばかりだったのか、耐久性特化型のタフネスに腰を抜かし、逃げることも出来なくなっている。

 

(死なせはしないわ……! 誰一人、死なせないッ!)

 

 ここで自分だけ逃げ出そうものなら、今度こそ警察官達の中から犠牲者が出てしまう。周囲を見渡し、そこまで思いを巡らせたヘレンの判断は迅速だった。

 

「……はあぁああッ!」

 

 内部機械が露出している大腿部を撃ち抜き、体勢を崩した戦闘員が片膝を着く瞬間。勢いよく地を蹴り、敢えて自ら飛び込むように急接近したヘレンは――位置が低くなった戦闘員の顔面に、渾身のローリングソバットを叩き込むのだった。

 

 地を蹴って跳ぶ瞬間、張りのある極上の爆乳と、妊娠・出産に適した安産型の巨尻がどたぷんっと豪快に弾む。その僅かな滞空時間の中で、一瞬だけ背を向けた時。戦闘員の眼前にぶるんっと突き出された無防備な桃尻が、彼の視線を誘っていたのだ。1秒にも満たない刹那。その微かな「隙」が、戦闘員の反応を遅らせたのである。

 

「ゴッ、ガァッ……!?」

「……悪いわね。『足が滑った』わ」

 

 弾丸の如き疾さで振り抜かれたヘレンの長い脚がピンと伸び、その足裏が瞬く間に戦闘員の頭部に減り込む。あまりの衝撃に鈍い音が上がり、戦闘員の首があらぬ方向に折れ曲がる。

 目の前に一瞬、これ見よがしに突き出された極上の巨尻。雄の本能を煽る安産型のラインを描き、たわわに弾むその膨らみと、そこから滲み出る淫らなフェロモン。そんな「絶景」と「匂い」に、僅かでも気を取られてしまった。それが、この戦闘員の「死因」となったのである。

 

 くびれた細い腰を空中で捻りながら、鮮やかな弧を描いて振るわれた美脚。その白く優美な脚は華奢な印象とは裏腹に、かなりの破壊力を秘めていたらしい。瀕死の状態だったとは言え、ノバシェードの戦闘員である男の首すら一撃でへし折ったのだ。並の人間なら、間違いなく即死ものである。

 そして、彼女の華麗な蹴りが命中した瞬間。濃厚な女のフェロモンを帯びた汗が輝き、ヘレンの柔肌から飛び散って行く。怜悧で鋭い顔付きに対して、その汗の香りはあまりに淫らだ。どんな高級娼婦でも敵わない絶対的な色香が、黒スーツに押し込められた極上の女体から滲み出ている。

 

「ォ、ゴッ……! コロ、シ……!」

 

 優雅でありながらも凄まじい威力を秘めていた、ヘレンのローリングソバット。その反動で、彼女の豊穣な爆乳と安産型の巨尻がばるんっと弾む瞬間――戦闘員の身体は糸が切れた人形のように、力無く倒れ伏したのだった。確認するまでもない。この戦闘員の命はたった今、確実に刈り取られたのである。

 蹴りを終えて華麗に着地した瞬間、再び爆乳と巨尻がぶるんっと上下に揺れ動く。普段なら周りの男達は、その果実の躍動に目を奪われているところなのだが。今回ばかりは皆、戦闘員の首をへし折った蹴りの威力に注目していた。

 

(……あなた仕込みのこの蹴りが、皆を救ってくれたわ。ありがとう、真凛)

 

 例え改造人間だろうと、脳を潰せばそれ以上は何も出来ない。それがかつての師である真凛の教えだった。その教訓を見事に実戦で活かしたヘレンは、周囲の人間を死なせることなくこの戦闘員を黙らせてしまったのである。

 白い柔肌にじっとりと染み込む甘い汗の香りが、彼女の豊満な肉体から漂っていた。ぷるぷると揺れる豊かな乳房と桃尻からは、特に甘く扇情的な匂いが滲み出ている。第一線の特務捜査官として鍛え上げられ、細く引き締まっている腰回りに対して、その膨らみはあまりに大きい。内側から押し上げられている黒スーツの繊維は限界まで張り詰めており、今にもはち切れそうになっている。

 

「す、すっげぇ……! なんつぅ威力の蹴りだよ……! アイツの首をへし折っちまうなんて……!」

「……あの姉ちゃんの方が、よっぽどバケモンじゃねぇか。へっ、心配して損したぜ」

 

 そんな彼女がこの一瞬で見せ付けた、鮮やかな蹴り技と威力。そして臆することなく改造人間にも立ち向かう勇気に、周囲の警察官達は息を呑み、畏敬の眼差しを向けていた。当初はヘレンに対して懐疑的な視線を向けていた警部も、「仲間」の無事に安堵して頬を緩めている。

 

 当初は彼女が現場に現れた時から、仕事終わりに連絡先を聞き出そうと狙っていた警部達だが、今となっては誰もそんなことは考えられなくなっていた。下手な真似をすればあの蹴りが飛んで来る。そのリスクを承知で強引に迫れる度胸など、並の人間にあるはずもない。

 

 掌には到底収まり切らない豊穣な爆乳に、安産が確約されている極大の巨尻。雄の本能を挑発する妖艶な唇に、濡れそぼった蒼い瞳。そして雪のように白く、きめ細やかな柔肌。あの美貌と肉体を手に入れられる男が居るとしたら、心底羨ましい。妬ましい。それが警部達のシンプルな感想だった。

 

「……」

 

 一方、警察官達を守るためとはいえ生き残りの戦闘員を殺害してしまったヘレンは、最適解とは言えない自身の行いを悔いている。自嘲の笑みを溢して俯く彼女の貌は、戦いを制した「勝者」のそれではなかった。

 

(咄嗟のこと、とはいえ……重要参考人を殺害してしまった。捜査官失格ね、私)

 

 まともに対話が成り立つ状態ではなかったとはいえ、この件の重要参考人となり得る唯一の生き残りを始末してしまったのだ。これで完全に、真相を究明するための手掛かりを失ってしまった。

 警察官達を守るための判断そのものに後悔は無い。だがそれでも、「もっと上手くやれたのではないか」という悔いが頭から離れないのだ。

 

(……これで一件落着。だけどやっぱり……あなたのようには行かないわね)

 

 ふと、脳裏を過ぎるのは――かつての同僚にして親友、そして師匠のような存在だった先任捜査官。彼女ならば、もっと効率的に対処することが出来たのではないか。そう思わずにはいられなかった。

 

 真凛が対策室を去ってから、約1ヶ月。ヘレンは彼女に代わってノバシェード関連の捜査に没頭し続けていたが、1日たりとも彼女を忘れたことは無かった。師匠であり、先輩であり、同僚であり、姉のような存在でもあった唯一無二の親友。そんなかけがえのない存在を、忘れられるはずがないのだ。

 せめて彼女の分まで、特務捜査官としての務めを全うしたい。その思いを胸に事件を追う日々を過ごしているが、やはり「彼女が居れば」という気持ちを捨てることは出来ずにいる。

 

「……泣けるわ」

 

 今回の耐久性特化型戦闘員も、彼女ならば死なない程度に手加減して無力化することも出来たのだろう。警察官達を守ろうとするあまり、本気の蹴りで首をへし折ってしまった時の嫌な感覚は、まだ片脚に残っている。ヘレンは独り、自分の非力さをぼやいていた。

 

(それでも……今は、失ったものを数える時間も惜しい。今はただ、前に進んで行くしかない。その分だけ、きっと救える命がある)

 

 だが、その気持ちを抱えたままでも今は戦わねばならない。居なくなった人間にいつまでも縋っていては、成長など出来るはずもない。

 何より、自信の無さを理由に足を止めていては、その間に人が死ぬ。それこそノバシェード対策室の特務捜査官として、あってはならない失態なのだ。

 

(……それで良いのよね? 真凛)

 

 そんな師の教えを心の奥底で唱えつつ、ヘレンはゆっくりと顔を上げ――朝陽に彩られた森林地帯の景色を見つめる。決意に満ち、凛としている彼女の貌は、一人前の特務捜査官に相応しい気高さに溢れていた。

 






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 今回は前回に引き続き、現地調査に来ていたヘレン視点での後日談的おまけ回となりました。このお話も最後まで見届けて頂きありがとうございます!(о´∀`о)
 真凛に色々仕込まれたヘレンの蹴り技は凄い! という設定はこれまで何度も作中で触れられていたのですが、その設定が明確に活きてる場面って実はそんなに無かったんですよねー。凶兆編で腕力特化型に1発かました時は大して効いていませんでしたし。今回はちゃんと彼女の蹴りの威力をカッコ良さげに表現出来たので、作者としてもホクホクでございました(*^ω^*)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの暗闘編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、ヘレンも仮面ライダーの1人として登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていたジークフリート・マルコシアンも本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 仮面ライダーバルキリーの装動が欲しいなーと思って近場のハードオフやプラモ屋に立ち寄ったところ、物欲センサーが働いたのかゼロワンやバルカンはすぐ見つかったのにバルキリーだけまるで見つからず。泣けるぜ……(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)


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陰謀編 穢れた正義と堕ちた英雄 第1話

◆今話の登場ヒロイン

◆ヘレン・アーヴィング
 ノバシェード対策室の若き特務捜査官であり、スタイル抜群で才色兼備なアメリカ人美女。元同僚であり師でもあった真凛(マリン)・S・スチュワートの分まで、ノバシェードを追い続けている。使用銃器はワルサーPPK。当時の年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。

◆ミルヴァ・ミルヴェーデン
 北欧某国の国営メディアを代表する人気女性アナウンサーであり、抜群の美貌とスタイルを誇る色白の美女。国民から広く愛されているアイドル的な存在であり、自分の容姿には強い自信を持っていたのだが……。当時の年齢は22歳。
 スリーサイズはバスト98cm、ウエスト63cm、ヒップ100cm。カップサイズはI。

真凛(マリン)・S・スチュワート
 ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、ヘレン・アーヴィングの同僚にして師匠のような存在だった日系アメリカ人。気高く凛々しい才色兼備の女傑だが、独断専行が災いして対策室から追放されてしまい、それ以降は裏社会で活動する女探偵として独自にノバシェードを追っている。青いチャイナドレスによって強調された白い太腿には、投擲用のダガーナイフを装備している。当時の年齢は27歳。
 スリーサイズはバスト116cm、ウエスト62cm、ヒップ105cm。カップサイズはK。


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 怪人犯罪の対処を専門とする特殊公安機関「ノバシェード対策室」。その組織が誇る、新進気鋭の特務捜査官ヘレン・アーヴィング。彼女の華麗な活躍により、ギルエード山地に出現した戦闘員が駆逐され、現地の警察官達は絶体絶命の窮地から脱することが出来た。

 だが、これは次なる戦いへと繋がって行く「始まり」に過ぎない。2020年、7月某日。その日の夜から放送されたニュース番組によって、この北欧某国の平穏は大きく揺るがされてしまったのである。

 

「ご覧ください、こちらが爆発事故が起きた現場となっております! こ、これは酷い……! 広範囲に渡る火災の痕跡があり、事件の凄惨さを物語っております……!」

 

 ギルエード山地で発生した謎の爆発事件は、ノバシェードの内部抗争によるものとして国営メディアで報じられていた。現地に駆け付けた報道陣が凄惨な焼け跡や、戦闘員の遺体を包んだ袋にカメラを向ける中、緊迫した面持ちでマイクを握っている女性アナウンサーの姿が生中継で映されている。

 

「こ、ここがノバシェード戦闘員が出現したという地点のようですが……凄まじい火災の痕があちこちに見受けられます……! これほどの痕跡が残るほどの爆炎を浴びて、なおも生き延びていたということなのでしょうか……!? 恐ろしい耐久性です……!」

 

 艶やかなプラチナブロンドの長髪を靡かせ、白い手指を震わせながらもマイクを握っている色白の美女――ミルヴァ・ミルヴェーデン。Iカップの巨乳と100cmの巨尻を誇る、国営メディアでもトップクラスの人気を誇る女性アナウンサーだ。

 

 国民から広く愛されている人気アナウンサーである彼女だが、どうやらこの仕事を引き受けたことを心底後悔しているようだ。すでにヘレンや現地警察らによって、この一帯の安全は確保されている状態なのだが――恐怖という感情は、理屈だけで払拭出来るものばかりではない。

 

(く、来るんじゃなかったこんなとこぉおお〜……! あぁでもっ、こぉんなに可愛くて美しい私が頑張ってる姿が観たいんだって、視聴者の皆が言ってるんだからっ……! 国営メディアのトップ人気アナウンサーとして、私がこの取材から逃げるわけにはぁあ……! あぁでも、やっぱり超怖いぃいっ……!)

 

 何しろ相手は改造人間という、人外の怪物なのだ。噂の「仮面ライダー」達も側に居ないのだから、次の瞬間には訳も分からずいつの間にか殺されているかも知れない。その可能性がゼロではない限り、戦いが終わったからといって安心など出来ないのである。

 人間は未知というものを最も恐れる生き物なのだ。それ故にミルヴァは、その極上の美貌を恐怖と緊張で引き攣らせているのである。今にも顔に出てしまいそうな後悔の念を押し殺し、プロ根性を頼りに歩みを進めている彼女は、プルプルと震えて涙目になっている。

 

 プラチナブロンドのロングヘア。濡れそぼった翠色の瞳。ぷっくりとした艶やかな唇に、整い尽くされた目鼻立ち。くびれた腰に対して、むっちりと実っている豊満な乳房や桃尻。タイトスカートから覗いている、肉感的で白い美脚。

 そんな美貌とスタイルを活かし、国営メディアを代表するトップアイドルに登り詰めたミルヴァだが、どうやらその華々しい経歴が裏目に出てしまったようだ。恐る恐る歩みを進めている彼女の乳房と桃尻も、怯えた小動物のようにぷるぷるっと揺れ動いている。

 

「落ち着いてください、ミルヴェーデンさん。仮面ライダーに比べれば頼りないかも知れませんが……我々が責任を持って保護しますから」

「は、はいぃっ……」

 

 ミルヴァを慮り、傍に寄り添うように同行しているヘレンも、周囲を警戒するように青い双眸を鋭く細めている。金髪のショートヘアを靡かせ、豊穣な乳房と桃尻をたぷんたぷんと弾ませながら、彼女はミルヴァの隣を静かに歩んでいた。くびれた腰を左右にくねらせて歩いている彼女の動きに合わせて、極上の桃尻がぷるぷると揺れ動いている。

 

「……」

 

 ヘレンの腰のホルスターに収められた「ワルサーPPK」は、いつでも引き抜ける状態になっていた。夜道を照らしている彼女のライトも逆手で構えられており、有事の際は即座に拳銃を持つ手を下から支える体勢(ハリエス・テクニック)に移行するつもりだ。ぷっくりとした妖艶な唇は彼女の緊張を表すように、きゅっときつく結ばれている。

 

(……あの戦闘員が最後の生き残りなのは間違いない。だけど、そもそもノバシェードの潜伏先がこの山地だけとは限らない。アジトが吹き飛んだ上にこれほどの騒ぎにまで発展してしまったのだから、奴らもなかなか手は出して来れないはずだけど……その「常識」を過信するのは危険ね)

 

 ミルヴァを守るように、彼女の隣を歩んでいる彼女の爆乳と巨尻も、地を踏むたびにぶるんぶるんと弾んでいる。緊張に汗ばむ彼女達2人の白い柔肌からは、雄の鼻腔を擽る甘いフェロモンが匂い立っていた。

 しとどに濡れた2人の美女から滴り落ちる汗の雫。そこから漂う芳醇な女の芳香は、彼女の全身から滲み出る色香をより際立たせていた。そんな中、夜の森に怯えるミルヴァがヘレンの方に寄ろうとするあまり、2人の豊かな乳房がスリスリと擦れ合ってしまう。

 

「はぁっ、ぁんっ……!?」

「んぅうっ……!? す、すみませんアーヴィング捜査官、私ったらっ……!」

「……い、いえ、お気になさらず」

 

 豊穣に実った極上の乳房。その「頂」が擦れ合った感覚に、思わず上擦った声を漏らしてしまうヘレンとミルヴァ。同時に甘い吐息を漏らし、雌の声を上げてしまった2人は互いに上気した貌を見合わせると、気まずそうに顔を背けてしまう。

 じっとりと柔肌に滲む2人の瑞々しい汗が、月明かりを浴びて淫らな光沢を放っていた。そこから漂うヘレンの扇情的な香りに、ミルヴァは(自分の身体から滲み出るフェロモンを棚に上げて)どきどきと胸を高鳴らせていた。

 

(はっ、えっ、何今の感触!? めっちゃくちゃ柔らかっ! 完ッ全にマシュマロ! 確実に人をダメにするおっぱいだったじゃん、触り心地気持ち良すぎっ! しかも汗の匂いエッロォオオ! 現場で初めて会った時からずっと思ってたけど、この人ほんとに捜査官なの!? どちゃくそえっちな匂いが全身からムンムンしてるんですけど!? は!? 馬鹿なのエロの化身なの!? こんなの女の私でも鼻の下伸ばしてクンカクンカしたくなるんですけど!? うっわやっべ、この人の谷間に顔面突っ込んで深呼吸してぇえ〜!)

 

 そんなミルヴァの高鳴りは、やがて男顔負けの獣欲に発展し、彼女は血走った眼でヘレンの体を舐め回すように凝視し始めている。その胸中は、見目麗しい絶世の美女……の皮を被ったおっさんと化していた。もはやこの女が怪人と言っても過言ではない。

 

 自分自身も男の獣欲を掻き立てる容姿を持った美女だというのに、ミルヴァは100cmの巨尻をふりふりと揺らしながら、ヘレンの美貌と肉体に夢中になっている。安産型のラインを描いている彼女の巨尻からも、濃厚なフェロモンが滲み出ていた。

 

(ていうか……肌白っ! ぷるっとしてる唇もエロッ! ドスケベおっぱいとでっかいエロケツにばっかり気を取られてたけど、私より肌白くね!? 超絶すべすべじゃね!? うっほやっべ、めっちゃしゃぶり付きて〜! ホテル連れ込んで身体中隅々までめちゃくちゃに舐めしゃぶりてぇ〜!)

 

 ミルヴァ自身も全身から甘く芳醇な色香を振り撒いており、ヘレンにも劣らぬ濃厚なフェロモンをその肉体から絶えず分泌しているのだが。彼女はヘレンの柔肌から溢れ出る特濃の芳香に、げへげへとだらしなく鼻の下を伸ばしていた。

 

 幸い、2人ともカメラに背を向けて森の中を歩いているため、ミルヴァの表情は映っていない。カメラが映しているのは、安産型のラインを描いている2人の桃尻。左右にぷるんぷるんと揺れ動いている、その膨らみの躍動だけだ。

 

(ぐっへへぐへへ! 乳も匂いもケツも唇も全部たまんねぇ〜!)

 

 それはそれで問題なのだが、今回に限ってはそれで良かったのである。この時のミルヴァは女性アナウンサーどころか、人がしてはいけない顔になっていたのだから。妖精のようだと評されて来た彼女の美しい顔は今、妖怪のそれと化している。

 

(……彼女、ノバシェードが関わっている現場に来たのは初めてなのね。頑張って平静を装っているようだけれど、身体中が緊張で汗ばんでいる。私が守ってあげないと……!)

(おっほちっけぇ! ドスケベな匂いムンムンで最高ッ! もうガチ恋距離でしょコレ! やっぱ吸っちゃおっかなぁ、もっと近くでスーハースーハーしちゃおっかなぁ!)

 

 自分の美貌に自信を持っている彼女でも、ヘレンの凛々しい姿には惹かれずにはいられなかったのだろう。だが、当のヘレンはミルヴァの胸中など知る由もないまま、真剣な表情で辺りを見渡していた。

 

「……ミルヴェーデンさん、さっきから凄い汗ですよ。本当に大丈夫ですか?」

「は、はひっ!? だだ、大丈夫ですアーヴィング捜査官っ! だからもっとその匂いを……」

「匂い?」

「あ、あぁぁいやいやいや! 焼け跡の臭いが凄いな〜って! あはは、あはははは……!」

 

 そんな彼女の凛々しい双眸で真っ直ぐに射抜かれたミルヴァは、一瞬で顔を元通りに切り替えていた。彼女はだらだらと滴る淫らな汗で全身を濡らしながら、頬を赤らめてぐるぐると目を泳がせている。脳内の内容がバレた瞬間に社会的な死が確定する以上、ミルヴァとしてはただ必死に隠すしかないのだ。

 

 幸いなことに、彼女の爛れた欲望は辛うじて露見することなく、生中継は粛々と進められている。人気アナウンサーとしてのプロ意識がそうさせているのか、ミルヴァはあくまで現場の様子に緊張しているだけ……という()で、しとどに汗ばんだ美貌をテレビの視聴者達に披露していた。

 

 ◆

 

 ――そんな彼女達の様子を映した中継映像は、ノバシェードの脅威が身近に迫っている事実を全国民に訴えるには、十分過ぎるインパクトだった。首都・エンデバーランドの住民達をはじめとするこの某国の人々は皆、人ならざる怪物の存在を意識せざるを得なくなり、大いにどよめいている。

 

「お、おい、ギルエード山地ってここから結構近いじゃねぇか……! 大丈夫なのかよ……!?」

「ははっ、ビ、ビビり過ぎだろ。ノバシェードがそんな、そこら中にいるわけ……ないだろうが……!」

「だっ、だよなぁ……!?」

 

 首都のバーで陽気に酒を飲んでいた若者達も、動揺した様子で顔を見合わせていた。こんな事態でさえなければ、ヘレンとミルヴァの美貌やスタイルに湧き立っているところなのだが、今回ばかりはそれどころではないらしい。

 

「おいっ! ノバシェードの内部抗争とはどういうことだ!? このオーファンズヘブンは大丈夫なんだろうな!?」

「わ、私共に仰られても……!」

 

 現場から遠く離れた、ルネサンス様式の街並みが特徴の観光都市「オーファンズヘブン」。その市内に設けられていた、60階建ての超高級ホテルを利用している宿泊客達も、例外ではなかったようだ。

 各部屋をはじめとする様々なフロアに設置されたテレビからこのニュースを知った上流階級の者達は、ホテルマン達に不安をぶつけ始めている。この国は本当に大丈夫なのか、と。

 

「……騒々しいわね」

 

 ――だが、その宿泊客達の中でただ独り。何一つ動じることなく、我関せずと言わんばかりの佇まいで、この夜を過ごしているミステリアスな美女が居た。

 

 ウェーブが掛かったロングヘアの黒髪を靡かせる、蠱惑的な爆乳美女――真凛(マリン)・S・スチュワート。彼女は青く扇情的なドレスを翻すと、悠然とした足取りで自室のシャワールームへと消えて行く。

 スルスルと響いて来る、衣擦れの音。その音は、彼女が「生まれたままの姿」になろうとしている事実を雄弁に物語っていた。

 





 今回からは、暗躍編と暗闘編で描かれた爆発事件の後日談をお届けして行きます。当初の予定では1話完結で纏めるつもりだったのですが、書き終わってみると結構長くなってしまいまして……。全4話に分けて投稿して行く予定となりました。3部作にも収まらんとはこのドラブの目を以てしても……(´-ω-`)
 ちなみにミルヴァは元々、ビビりながら一言二言喋って終わるはずのモブキャラだったのですが……なんだか味気ないなーと色々加筆した結果、想定外のバケモンになってしまいました。どうしてこうなった……? 次回は真凛のシャワーシーンから始まりますぞ。おまけ回からのさらなるおまけ回……みたいなマトリョーシカ状態で恐縮ですが、このお話も最後まで見届けて頂けると幸いですm(_ _)m

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの陰謀編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、ヘレン・アーヴィング捜査官も仮面ライダーの1人として登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 特別編「仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ」以降のシナリオ作りに当たり、作者が影響されまくっていたメタルギアソリッドシリーズが、マスターコレクションになってSwitchに登場するとの発表ががががが……! この瞬間を待っていたんだー! 皆! メタルギアは良いぞ〜!(*゚∀゚*)


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陰謀編 穢れた正義と堕ちた英雄 第2話

◆今話の登場ライダー

森里駿(もりさとはやお)/仮面ライダータキオン
 元ノバシェード構成員であり、「ライダーマンG」こと番場遥花(ばんばはるか)に敗れた後は芦屋隷(あしやれい)の保護観察を受けつつ、実験に協力していた改造人間。ぶっきらぼうに振る舞うが、情には厚い。当時の年齢は26歳。
 ※原案はエイゼ先生。

忠義(チュウギ)・ウェルフリット/仮面ライダーオルバス
 アメリカでは騎馬警官として活躍していた父の影響で警察官となった、ハーフの青年。明朗快活でお調子者だが、真っ直ぐな心根の持ち主でもある好青年。当時の年齢は21歳。
 ※原案はX2愛好家先生。



 

 観光都市・オーファンズヘブンの市内に建設されている高級ホテル。その最上階のスイートルームに滞在していた絶世の美女――真凛・S・スチュワートは、ギルエード山地の怪人研究所を爆破した後、このホテルに「帰還」していたのだ。

 

「ふぅっ……」

 

 彼女は緊迫した様子のニュース映像を一瞥もせず、独りシャワールームに身を置いている。一糸纏わぬ裸身で熱いシャワーを浴びている彼女の肉体は、あまりに豊満であり――妖艶だった。彼女の姿を一目見た男達が、幾度となく拝みたいと切望した「絶景」が今、この一室で露わにされている。

 

「んっ……はぁ、あっ……」

 

 彼女は熱いシャワーを白く豊満な裸身で受け止め、悩ましい声を漏らしている。ウェーブが掛かった黒のロングヘアを両腕で掻き上げ、無防備な腋の窪みを晒している彼女は、白く優美な背中を反り、特大の爆乳をどたぷんっと前方に突き出していた。ぷっくりとした扇情的な唇からは、淫らで蠱惑的な吐息が溢れ出ている。

 

「ふぅっ、んぅっ……」

 

 普段から愛用しているKカップのブラジャーも無いというのに、釣鐘型の白く豊穣な乳房は全く形が崩れておらず、瑞々しい張りを維持していた。掌には到底収まらないサイズを誇るその爆乳は、1mを優に超える域にまで達している。

 牛のような……という例えでも全く足りないほどの、圧倒的な迫力だ。道行く男達は皆この果実に目を奪われ、釘付けにされていたのである。ツン、と存在感を主張しているこの果実の「頂」を、ぜひ拝みたいと。

 

「はぁっ、あぁ……」

 

 熱い雫はその柔肌の上から滴り、釣鐘型の曲線をつつ……となぞっている。その感覚に甘い声を漏らす真凛の顔は淫らに上気しており、乳房から伝わる熱によって白い頬が桃色に染まろうとしていた。心地良いシャワーの温もりが、乳房の柔肌を通して全身の隅々に伝播して行く。生まれたままの豊穣な裸身が、甘い熱を帯びて行く。

 

 一方、116cmという圧倒的過ぎるその爆乳に対して、62cmの腰回り(ウエスト)は細く引き締まっており、苛烈なまでに鍛え抜かれている。それは彼女が娼婦の類ではなく、戦うための鍛錬を積んで来た「戦士」であることを証明していた。

 

 乳房の谷間や、ツンと主張している果実の先端(・・)から滴る雫が、その無防備な腹部へと落ちて来る。鍛え上げられた腹筋、臍、さらにその下の下腹部や、鼠蹊部、足の付け根。肉体の曲線をなぞるように滴り落ちて行く雫は、その扇情的なラインを舐めるように伝っていた。

 

「はぁ、う……」

 

 だが、彼女の細いウエストの下では、安産型のラインを描いた105cmの爆尻がその存在感をこれでもかと主張している。広い骨盤によって成り立つ、妊娠・出産に適した極上の桃尻。後方にたぷんっと突き出されているその膨らみは、丈夫な子を何人でも産める極上の女体であるという事実を過剰なまでに見せ付けていた。

 

 背中を反って豊満な胸を張っている分、その爆尻の曲線は余計に強調されている。1m以上という規格外のサイズを誇るその膨らみは、遺伝子を残そうとする雄の本能をより直接的に刺激するラインを描いていた。引き締まった腰回りによって圧倒的な迫力を誇示しているこの桃尻は、例え最高級の娼婦であっても真似出来ないだろう。

 

「はぁ、ぁんっ……」

 

 雄の本能を強烈に刺激する、極上のボディライン。その曲線をなぞり、滴り落ちて行く無数の雫が、戦いに疲れた彼女の肉体を癒している。その温もりに蠱惑的な吐息を漏らす真凛の貌は、穏やかに安らいでいた。釣鐘型の豊穣な乳房も、安産型の爆尻も、シャワーを浴び続けたことによる甘い熱に浮かされていた。

 

「んっ、はぁ……」

 

 やがて彼女はゆっくりと瞼を開き、シャワーの温もりを全身で堪能しつつ、うっとりとした様子で恍惚の表情を浮かべている。その白く優美な手指は、扇情的なラインを描いている生まれたままの姿を、艶めかしい手付きで撫で回していた。きめ細やかな柔肌の上を滑る指先の動きに合わせて、妖艶な唇から甘い声が漏れ出て来る。

 

「あぁ、はぁあ……ぁあっ……」

 

 首筋、鎖骨、乳房、腋、二の腕、下乳、脇下、下腹部、鼠蹊部、太腿、脹脛、膝裏。熱い雫と彼女の指先が蠱惑的な裸体を隈なく洗い、「戦い」の汚れを落として行く。

 あまりに豊穣で妖艶な肉体を這い回る手指は、淫らな軌道を描いて白い裸身を隅々まで清めていた。身体中から汚れが落とされて行く至福の悦びに、真凛はうっとりと目を細めて、引き締まった腰を淫らにくねらせている。

 

 シャワー室のドアの向こう側では、そんな彼女のあられもないシルエットが映し出されており、凹凸の激しいボディラインがありのままに晒されていた。180cmという長身の持ち主である彼女の裸身。その淫らな曲線が、余す所なく映し出されている。

 

 身動ぎするたびにぶるんぶるんと揺れ動く、釣鐘型の爆乳。くびれた腰に対して、むっちりと大きく膨らんでいる安産型の巨尻。そんな彼女の淫らな裸身が、影の形としてくっきりと浮かび上がっているのだ。悪意のある男がこの光景を目にしたら、堪らずドアを開けて彼女に襲い掛かっていただろう。

 

 このホテルで彼女の美貌と肉体を目にした従業員や男性客達も皆、彼女の容姿には釘付けになっていたのだ。男好きする、などという言葉では到底足りない圧倒的かつ絶対的な色香の暴力。改造人間という人外の怪物が犇めいているこの時世ならば、淫魔(サキュバス)の怪人だと言われた方が納得する者すら居るだろう。

 そんな彼女の肢体に喉を鳴らす男達は、何度も彼女にしつこく言い寄ろうとしていたのである。その容姿から娼婦の類だと誤解していたのか、彼らのアプローチは強引なものばかりだった。金と権力で女を意のままにして来た男達にとって、激しい凹凸によって淫らに強調された真凛の肉体は、まさに極上の獲物だったのだろう。

 

(どこの国に行っても変わらないわね、ああいう真似を働く連中は。……自分の力に溺れ、己を顧みることを忘れた人間は、皆等しく闇に堕ちる。それは改造人間だろうと、生身の人間だろうと変わらない。当然よね、どちらも結局は人の身に過ぎないのだから)

 

 そんな男達の悪質な「付き纏い」に辟易しつつ、真凛は彼らには決して見せることのない豊満な裸身で、熱いシャワーを受け止めている。しつこく絡んで来る程度ならば、まだ紳士的な部類なのだ。中には彼女の細い肩やくびれた腰、むっちりとした白い太腿に手を回し、スリスリとその箇所を撫で回した挙句、そのまま特大の乳房や桃尻にまで手指を滑らせようとする男もいた。そんな不埒な連中の足には漏れなく、ハイヒールの踵が突き刺されたのは言うまでもない。

 

(……そろそろ、活動拠点をこのホテルから移す頃のようね。周りの男も、どんどんしつこくなる一方だし……)

 

 彼女はそんな男達を全く相手にしておらず、あらゆるアプローチを袖にしている。それでも諦め切れないほどの絶対的なフェロモンが、彼女の肉体からは絶えず滲み出ているのだ。彼女がこのホテルからチェックアウトするまで、恐らく男達の執拗な「求愛」が止まることはないのだろう。

 

「……んっ、ふぅっ……」

 

 やがてシャワーを終えた彼女は身体を拭き終えると、バスタオル姿のままリビングへと足を運ぶ。そこは大きなガラス窓から街中を一望出来る、最高級の一室だった。

 くびれた腰を左右にくねらせ、乳房と桃尻をぶるんぶるんと揺らしながら、彼女はソファーにゆっくりと腰を下ろす。全ての仕草が、男の獣欲を挑発する女の色香に満ち溢れていた。バスタオルに押し込められた極大の爆乳は深い谷間を作っており、その深淵からは特に濃いフェロモンが滲み出ている。

 

「んっ……」

 

 スラリと伸びた白く肉感的な美脚を組み、むっちりとした太腿を強調するような姿勢でスマホに手を伸ばした真凛は、その画面に表示された「映像記録」に目を細めている。

 それは、世界各地のノバシェードを追撃している新世代ライダー達の様子を映した、防犯カメラの映像だった。そのカメラの録画データをハッキングによって入手していた彼女は、果敢に戦う仮面ライダー達の勇姿をじっくりと眺めている。

 

(1年前の戦いで初めて本格的に実戦投入された彼らだけど、すでにかなりの経験値を得ているようね。「ライダーマンG」と共に明智天峯(あけちてんほう)達を倒した時からそれほど経ってはいないのに、動きが随分と洗練されている……)

 

 2019年9月1日。その日に起きたノバシェード首領格との戦い以降、22名の新世代ライダー達は全世界に散らばり、ノバシェードの残存勢力を駆逐するべく世界各国を転戦している。組織の首魁だった明智天峯との戦いを最後に、戦線を離脱してしまった「ライダーマンG」こと番場遥花(ばんばはるか)。彼女が抜けた穴は非常に大きいものだったが、新世代ライダー達は見事に彼女の分も各地のノバシェードを撃破して見せている。

 そんな彼らの名声は今や世界中に轟いており、「仮面ライダー」という英雄の名は、この時代の正義を象徴する代名詞となっていた。そのうちの2名の戦いを記録していた映像の一つに、真凛の目が留まる。どうやら、数日前の映像記録のようだ。

 

『ハァッ! ヌゥンッ、トゥイヤッ!』

『トゥッ! トゥアッ!』

 

 その映像は、とある工場内での戦闘行為を映していた。通路の至る所に記されている「火気厳禁」という注意喚起は英語で表記されている。どうやらこの工場は、英語圏の国のどこかに在る施設のようだ。そこでは2人の新世代ライダーが、ノバシェードの戦闘員達と交戦している。

 

(……ジャスティアタイプ第55番機、「仮面ライダーオルバス」。そして……元ノバシェードの改造人間という、新世代ライダー屈指の要注意人物……「仮面ライダータキオン」か。オルバスの変身者は忠義(チュウギ)・ウェルフリット、1999年生まれの21歳。タキオンの変身者は森里駿(もりさとはやお)、1994年生まれの26歳。2人とも、新世代ライダー達の中でも特に多くの戦果を挙げている期待のエースね)

 

 深紅の騎士を彷彿させる外観を持ち、エンジンブレードを振るっている「仮面ライダーオルバス」こと忠義(チュウギ)・ウェルフリット。黒と灰色を基調とする引き締まったボディと、カブトムシを想起させる一角が特徴の「仮面ライダータキオン」こと森里駿(もりさとはやお)。その2名は狭い通路や階段で、戦闘員達を相手に激しい接近戦を繰り広げていた。

 

『ウェルフリット、手こずっている暇はないぞ! すぐに次が来るッ!』

『分かっ……てらァッ!』

 

 ジャスティアドライバーに秘められた圧倒的なパワーで、ノバシェードの戦闘員達を圧倒する力のオルバス。改造人間の膂力を巧みに使いこなし、最低限の挙動で確実に相手を仕留めている技のタキオン。両者は何人もの戦闘員達を相手に、怯むことなく刃と拳を振るっていた。

 少々珍しい組み合わせだが――この時は、彼ら2人が「ダブルライダー」だったようだ。

 





 今回も前回に引き続き、暗躍編と暗闘編の後日談を描いた小話となりました。今回は真凛のシャワーシーンが描かれた他、タキオンとオルバスが久々に登場しております。次回はこのライダー2人の戦闘シーンが描かれる予定ですので、どうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの陰謀編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、ヘレン・アーヴィング捜査官も仮面ライダーの1人として登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 バイオハザードのCG映画最新作「デスアイランド」が公開されておりますねー! 私も早く観に行きたいですなぁ(*^ω^*)


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陰謀編 穢れた正義と堕ちた英雄 第3話

遥花「頑張ってるあの子を応援するわよっ!」
駿「だが、自分の力で成し遂げなければ……」
忠義「意味ねーんじゃねーか?」

ライダーマンG「だから元気をフルチャージよ! ビタミンC!」
タキオン「ビタミンB!」
オルバス「着色料保存料ゼロ!」

ライダーマンG&タキオン&オルバス「元気ハツラツ! オロナm――(強制終了)」


 

 ――仮面ライダータキオンの従兄は、日本政府の諜報機関で活動していた元捜査官だと聞いたことがある。その人物がタキオンに直接、ノバシェード関連の情報を提供することも少なくないらしい。

 

(仮面ライダーを陰ながら助けている元捜査官……か。ふふっ、どこか他人事には思えない話ね)

 

 「家族仲が良いのは結構だが、公的手続きを介さない情報のやり取りは慎んで欲しいものだ」……という上司の愚痴は対策室に居た頃、何度も聞かされた覚えがある。恐らくこの件も、その従兄の情報がきっかけだったのだろう。

 

『……フンッ!』

『ぐッ!? がッ……!』

 

 超加速機能「CLOCK(クロック) UP(アップ)」を駆使しているタキオンの動きは鮮やかだ。一瞬のうちに戦闘員の背後に回り込むと、痛みを感じさせる暇も与えないまま頭を掴み、首をへし折って即死させている。

 

『……先に地獄で待っていろ』

 

 ある意味、慈悲のある「処刑」と言えるだろう。死に行く戦闘員を見下ろすタキオンの仕草は、どこか哀愁を感じさせるものがあった。

 

『せっかくの長物も、この狭い通路では使いづらいようだな! 覚悟しろ仮面ライダーッ!』

『くそっ、こんな奴らにッ……!』

 

 一方、エンジンブレードを振りづらい狭いエリアでの戦いには慣れていないのか、オルバスの方は少しばかり手を焼いているようだった。

 並外れたタフネスを誇る、耐久性特化型戦闘員との戦いは初めてなのだろう。最後の生き残りを相手にしている彼の動きには、普段の冴えが無い。

 

『こうなったらッ!』

『……! ウェルフリット、待て!』

 

 その焦りが、「判断ミス」を招いたのか。オルバスは「必殺技」に相当する最大稼働スキル「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」を発動させると、前蹴り(ケンカキック)の要領で片脚を振り、戦闘員の胴体に命中させてしまう。

 

『喰らえッ……!』

『ぐッ……はぁあぁあーッ!?』

 

 オルバスに蹴られた戦闘員の身体が吹っ飛び、地を転がった彼のボディが白熱化して行く。爆発の前兆だ。耐久性特化型戦闘員は、胴体部分に限界以上の衝撃を受けると、自爆機能が作動してしまうのだ。

 

『いかん……!』

 

 しかし、ここは危険物が満載の火気厳禁エリア。この場で戦闘員が爆散すれば、どれほどの被害が出るか分からない。その危険な兆候を察知した瞬間、タキオンが動き出す。

 

『……クロックアップ!』

CLOCK(クロック) UP(アップ)!』

 

 刹那の時を駆け抜ける、クロックアップ機能。そのポテンシャルが全開になった瞬間、それを報せる電子音声が鳴り響く。

 次の瞬間、オルバスからエンジンブレードを奪い取ったタキオンは、戦闘員の背後にある壁を一気に切り裂いていた。円形に切り抜かれた壁の向こう側には、「外」の景色が広がっている。

 

『外の空気でも吸っていろ』

 

 そしてタキオンは、白熱化した戦闘員の身体を瞬く間に掴み上げると、力任せに工場の外まで放り投げてしまうのだった。円形に切り抜かれた壁の穴から、戦闘員の身体が外に飛び出した瞬間、そのボディが木っ端微塵に爆散する。

 

『ふぅっ……』

 

 爆発のタイミングが遅れていたから良かったものの、一歩間違えれば工場内の危険物に引火し、大惨事になっていたところだ。

 だからタキオンも派手な必殺技に頼らず、地味だが確実な手段で戦闘員達を仕留めていたのだろう。引火の恐れがない「外」での爆散を見届けたタキオンは、ベルトを操作してクロックアップ状態を解除している。だが彼は、勝利を喜ぶ気配もなく拳を握り締めていた。

 

『……ウェルフリット、何を考えている! ここでお前の最大稼働スキル(フィフティーファイブレイク)は使うなと言ったはずだ!』

 

 腕輪型変身装置(ライダーブレス)のスイッチを切って変身を解除したタキオンこと森里駿(もりさとはやお)は、この一帯の制圧を確認した後、自分の制止を聞かなかったオルバスに激しい剣幕で詰め寄っていた。

 

 黒と灰色を基調とするノースリーブの特殊戦闘服を着用している、黒髪黒目の怜悧な美男子――といった容姿だが、その爽やかな顔立ちに反した険しい表情からは、無骨な印象を受ける。

 ノースリーブによって露出している筋骨逞しい腕は、改造人間ならではの強靭な膂力を物語っていた。軟派な男を嫌うヘレンの趣味に「どストライク」な、「男らしい男」といった佇まいだ。

 

『す、済まねぇ森里(もりさと)……! コイツら、これほどしぶといとは……!』

 

 腰のジャスティアドライバーを外し、変身を解除したオルバスこと忠義(チュウギ)・ウェルフリット。

 金髪碧眼の色白な美男子である彼は、赤と黒を基調とするノースリーブの特殊戦闘服を着用していた。筋肉質でありながらも、しなやかに引き締まった白い腕が露わになっている。いわゆる細マッチョという印象だ。恐らく、女性からは特にモテるのだろう。

 

『……たかが戦闘員、とはいえ奴らも改造人間なんだ。迂闊な真似はするな』

『あ、あぁ……』

 

 駿の叱責を受けた彼は我に返ったようにハッと顔を上げると、沈痛な表情で俯いていた。普段は明朗快活な彼も、この時ばかりは自分を責めずにはいられなかったようだ。

 本人としては、それほど必死だったのだろう。だが、忠義が撃破した戦闘員の爆散音はすでに外に響いてしまっている。無かったことには出来ない。尤も、そんなつもりは毛頭無いのだろうが。

 

『……ZEGUN(ゼガン)、聞こえるか。こちらタキオン。このエリアの制圧は完了した、今のところ負傷者は出ていない』

『……』

 

 忠義の表情に眉を顰めた駿は暫し逡巡した後、左胸に装着していた無線機に手を伸ばす。この件を報告するつもりなのだろう。忠義は何も言えず、ただ俯いていた。

 

『それと……俺のライダーキックで戦闘員1体が爆散した。さっきの爆音はその時のものだ。幸い、施設内に引火はしていない』

『えっ、ちょ……森里、あんた!?』

『皆まで言うな、始末書は今日中に仕上げておく。ではこれより、オルバスを連れて帰投する。オーヴァー』

 

 だが駿は、通信相手の「仮面ライダーZEGUN(ゼガン)」こと芦屋隷(あしやれい)に対して、事実とは異なる内容を伝えていた。そのことに驚きの声を上げる忠義に、隷との通信を切った駿はジロリと鋭い目を向けている。

 

『森里、どうして……!?』

『……俺は現役警察官のお前とは違って、立場上は芦屋に雇用されている下請けの民間協力者(モルモット)だ。しかも元ノバシェード構成員という、新世代ライダー最悪の汚点。今さら何を仕出かそうが、落ちるような評判などハナから持ち合わせていない』

『だからって……!』

 

 どうやら、忠義のキャリアに傷が付くことを懸念しての判断だったようだ。理由を言われても納得し切れない様子の忠義に対し、駿は諭すような声色で言葉を紡ぐ。

 

『ウェルフリット。人間を超えた力を持つ俺達仮面ライダーは、常に奴らと「表裏一体」なんだ。一歩間違えればその瞬間、俺達は怪人と何ら変わらない存在になる。特に……悪魔に近しい名を背負っているお前達「ジャスティアライダー」の多くは、政府の後ろ盾すら持っていないんだ。俺達より自由であればあるほど、個々に課せられたその責任も重くなる。そういう業を背負っている』

『……!』

『人の手で再現された「紛い物」とはいえ、悪魔の力を正義に使う……という生き方は、決して生易しい道のりではない。だからこそお前達は、俺達以上に正しく在らねばならないんだ。万に一つも、由来通りの悪魔になどならないために。そのことを忘れるな』

 

 悪魔に近しい名を背負っているジャスティアライダーだからこそ、芯まで悪に染まらぬよう己を厳しく律しなければならない。特に、政府や警察に与しているわけではない忠義以外のアウトローなライダー達は、その庇護を得られない分、余計に多くの敵を作りかねない立場にある。

 

 故にその力を行使する責任はある意味、新世代ライダー達よりも遥かに重い(・・)。自由と責任は表裏一体。それは政府に属する新世代ライダーだろうが、アウトローなジャスティアライダーだろうが、本質的には変わらない。だからこそ、正しく在ろうとする意思を忘れてはならないのだ。

 

『……あぁ。ありがとな、森里』

 

 そう諭す駿の言葉に、思うところがあったのか。忠義は納得し切れない己の心を押し殺すように、瞼を閉じて深く頷いている。そんな彼に頷き返しながら、駿はこの場を後にしようと踵を返していた。

 

『……それに、お前のようなお調子者にはこの方が「良い薬」だろう? ふふっ』

 

 だが、肩越しにニヤリと意地悪な笑みを浮かべる駿は、忠義をからかうように口角を吊り上げていた。普段は仏頂面しか見せない彼にしては、珍しい表情だ。

 言い寄って来る女達には淡白だが、慕って来る子供には優しい……という傾向があると聞いた覚えはあるが、どうやら忠義は彼にとって、可愛い弟分に近い存在であるようだ。接し方が親戚の子供に対するそれである。

 

『んなっ!? タ、タチ悪いぃ〜……!』

『さ、Gチェイサーを停めていた場所に戻るぞ。帰ったらコーヒーの1杯でも奢れ』

『分かってるよっ!』

 

 一方、忠義は複雑な表情で地団駄を踏んでいる。問題を起こした自分自身が始末書を書くより、自分の失敗で他人が始末書を書かされている方が、忠義のような性格の人間には堪える(・・・)。そんな駿の考えにようやく気付いた忠義は、やり場のないもどかしさを全力で顔に出していた。

 

 ――この戦闘の映像記録は、ここで終わっている。森里駿と忠義・ウェルフリット。2020年現在における彼らの技量と人柄を、この映像から観測していた真凛は、蠱惑的な微笑を浮かべていた。

 

(……忠義・ウェルフリット、か。良くない噂が絶えないジャスティアライダーだけど、こういう子も居るのなら……あながち、そう悪いものでもないのかも知れないわね)

 

 映像から垣間見える駿の人柄に優しげな笑みを溢している真凛は、挫けることなく成長しようとする忠義の人格についても、好感を持っているようだった。

 そんな時、真凛のスマホから独特な着信音が鳴り響いて来る。その画面に表示された人物の名前に、彼女は眉を顰めていた。どうやら、あまり話したい相手ではないらしい。

 

(さて、と……そろそろ、「彼」に事の顛末を報告してあげようかしら)

 

 それでも、無視するわけには行かないようだ。やがて彼女は、スマホの画面に指先を滑らせ――「ある男」との通話を始める。

 

「……私よ。この国に潜伏しているノバシェードの構成員達は、ギルエード山地の地下に怪人研究所を建設していた。確かに、あなたの情報通りだったようね」

『ふん、私の話を僅かでも疑っていたのか? つくづく癪に触る女狐だな、スチュワート』

 

 通話先に居るのは――ギルエード山地に隠されていた怪人研究所の存在を突き止め、真凛にその情報を流していた張本人。

 

 この男こそが。怪人研究所を潰した彼女を陰から動かしていた、真の黒幕だったのである。

 





 今回も前回に引き続き、暗躍編と暗闘編の後日談を描いた小話となりました。今回は久々となるライダー達の戦闘シーンが描かれております。ライダーの戦闘シーンが久々……仮面ライダーの小説としてどうなんだそれは……(ノД`)
 ちなみに、今回出て来た駿と忠義のノースリーブ戦闘服はリバイス劇場版で五十嵐3兄妹が着ていたものをイメージしておりました。この陰謀編も次回で完結する予定ですので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの陰謀編から約1年後の時期に当たりますね。さらに、今話の冒頭でちょこっと触れられていた、森里駿の従兄も読者応募キャラとして登場する予定です。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、ヘレン・アーヴィング捜査官も仮面ライダーの1人として登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 昭和ライダーの殺陣は「そんなとこで殴り合いします!?」って感想に尽きるシーンがとにかく多い。クッソ狭くて危ない通路や階段でのバトルの多いこと多いこと(ノД`)


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陰謀編 穢れた正義と堕ちた英雄 最終話


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 たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いた、ヘレンと真凛のツーショットになります! 2人ともえちえちのむちむちで大変素晴らしい……! たなか先生、誠にありがとうございました!(*≧∀≦*)



 

 扇情的なバスタオル姿のまま、謎の男との通話を始めた真凛。そこで彼女の視線はようやく、ギルエード山地での爆発事件を報じるニュース映像に向けられる。緊張に震えているミルヴァを気遣い、その隣に寄り添っている頼もしい後輩(ヘレン・アーヴィング)の背中が、彼女の目に留まっていた。

 

『ニュースを見たぞ。随分と派手に暴れたようだが……仮面ライダー共にやらせたのではないだろうな?』

「それが嫌だから、直接この私に情報を流したのでしょう? 新世代ライダー達でも、ジャスティアライダー達でも、ノバシェード対策室でもなく……この私に」

『……』

「心配しなくても、そんな無粋な真似はしないわ。……その様子だと、よほど彼らに借りを作りたくないようね。今となっては祖国の危機より自分の面子……ということかしら? 番場(ばんば)総監直轄の新世代ライダー達や、公安機関の対策室だけならともかく、アウトローなジャスティアライダー達まで毛嫌いするなんて。やってることの割には、意外と潔癖なのね?」

『……口を慎め、スチュワート。改造人間は非情なる殺戮兵器だ。決して存在すら許してはならぬ悪魔の産物だ。そのような連中にすら情けを掛けている連中に、救国の名誉などくれてはやらん。それだけのことだ』

「ふふっ、相変わらずの差別主義ね。あなたのそういうところ、最高に反吐が出るわ。祖国がこんなことになっているというのに、『軍事顧問』だからと言って『例の組織』から離れようともしない。かつての英雄も、随分と堕ちたものね。あなたの部下達も、草葉の陰で泣いてるわよ」

 

 通話先から響いて来る、低く威圧的な男性の声。その威厳溢れる声色に対しても全く物怖じすることなく、真凛は挑発的な微笑を浮かべていた。湯上がりの裸身から滲み出る甘く濃厚なフェロモンが、外観以上の色香を齎している。

 ギルエード山地にノバシェードのアジトが隠されているという情報は、通話先の男が真凛個人に流していたものだったのだ。彼女はこの男から得た情報を利用し、アジトを壊滅させていたのである。

 

『改造人間の悍ましさを知らぬ貴様如きに我が信念は理解出来まい。ファルツ中佐の無念も、バレンストロート大尉の怒りも、ロスマン中尉の苦しみも……イェンセン少尉の痛みも。貴様のような浅ましい女には、到底分からぬことだろう。この「任務」が終われば、貴様を我が「組織」に招致するつもりでいたが……どうやら、貴様にその資格は無かったようだな』

「任務? 笑わせないで。あなたは頼んでもいない情報を勝手に寄越して来ただけ。そして私はそれを勝手に利用した、それだけのことでしょう? 何も頼まれた覚えは無いわ。押し付けがましい男はモテないわよ」

『……やはりどうあっても、我々と組むつもりはないのだな。貴様の諜報能力は我が「組織」も高く評価していたのだが……残念だ。今は改造人間共の殲滅に専念せねばならぬ故、貴様如きに構っている暇はないが……全てが終わった後は「覚悟」しておけ』

「あら、何を覚悟しろと言うのかしら?」

 

 真凛が肉厚たっぷりの太腿を組み直した弾みで、超弩級の乳房がばるんっと躍動する。あとほんの僅かで、バスタオルから極上の果実が零れ落ちてしまいそうだ。その谷間の深淵からは、男達を狂わせる芳醇な香りが溢れ出ている。ピンと伸びた優美な爪先や足裏からも、濃厚な雌のフェロモンが漂っていた。

 

『せいぜいこれからは、背中(・・)に気を付けることだな。我々の存在を知った貴様を見逃すつもりはない。後悔しながら犯され、嬲られ、躾けられ、雌奴隷として一生を終えるがいい。貴様の熟れた身体は良い「商品」になるからな』

「……そう、それは楽しみね。期待しているわ、大佐(・・)

 

 その皮肉めいた不穏なやり取りを最後に、男との通話は終わる。スマホに視線を落としていた真凛はやがて、乳房と桃尻をぶるんっと弾ませながら立ち上がり――ガラス窓の前に足を運ぶ。オーファンズヘブンの夜景を映し出しているそこからの絶景に、彼女は蠱惑的な微笑を浮かべていた。

 

 いずれ貴様の尊厳も貞操も穢し尽くし、徹底的に破壊し尽くす。そんな残酷な宣告を受けたところだというのに、彼女は微塵も動揺している気配がない。その手の脅しなど、とうに慣れ切っているのだろう。

 数多の男が生唾を飲み、手に入れようと目論んだ彼女の肉体はまだ、誰の物にもなっていない。それはこの先も変わらないのだという絶対的な自信が、その不敵な笑みから滲み出ている。

 

「……んっ」

 

 やがて踵を返した彼女は胸元に手を伸ばし、するりと足元にバスタオルを落として行く。特大の爆乳がどたぷんっと放り出され、むっちりとした安産型の爆尻が完全に露わになる。彼女を欲する男達が何度も夢見て来た、一糸纏わぬ極上の裸身が今、この部屋に曝け出されていた。

 

 白く透き通る柔肌から、雄の本能を誘う濃厚なフェロモンが滲み出る。無防備に曝け出された彼女の豊穣な裸身は、「雄の欲望」をテーマにした芸術品のようですらあった。くびれた腰を左右にくねらせ、豊満な爆乳と爆尻をたゆんたゆんと弾ませながら、彼女は極上の裸身を露わにしたまま歩き出して行く。

 

 そのまま彼女は足を止めることなく、リビングに置いていたアタッシュケースに手を伸ばし――その中から、極薄のパンティを取り出していた。Tバック状のその下着に白い両脚を通した彼女は、ゆっくりとその紐を引き上げて行く。

 安産型の白い爆尻。その熟れた尻肉が紐に持ち上げられ、むにゅりと形を変える。下から掬い上げられるように盛り上がっていた白い尻肉は、くびれた腰部分にまで紐が引き上げられた瞬間、重力に引かれてどたぷんっと上下に弾んでいた。

 

「ぁんっ……」

 

 下腹部と桃尻にみっちりと食い込み、素肌に密着して行く感覚。そのフィット感に思わず甘い吐息を漏らした真凛は恍惚の表情を浮かべ、腰紐から指を離していた。

 あまりに深く食い込んでいるそのパンティは、丸出しにされたままの尻肉に隠されており、下着としての役割を果たしているのかさえ疑わしい。だが、これが真凛にとっての「勝負下着」なのである。

 

「はぁ、あんっ……」

 

 次に取り出されたKカップサイズのブラジャーも、同様だった。116cmという特大の乳肉すらとっぷりと収める、オーダーメイドの黒い生地。その裏地から乳房に伝わるフィット感にも、真凛は至福の息を漏らしている。重力感溢れる釣鐘型の白い生乳。その特大の果実を掌で持ち上げ、カップに収まるように整える際にも、彼女は淫らな吐息を吐き出していた。

 

「……ふぅっ」

 

 尻肉に深く食い込むTバックの感触と、乳房を包むブラジャーのフィット感に、蠱惑的な笑みを浮かべる真凛は――この街を離れ、次なる「戦い」に臨むべく。トレードマークとも言うべき青いチャイナドレスへと、白くしなやかな手を伸ばしていた。どうやら、身体も服も「整備」は万端のようだ。

 

(……本当、良い趣味ね)

 

 このチャイナドレスは、旧シェードに娼婦として売り飛ばされた際に着せられたもの。彼女自身にとっては、屈辱と恥辱の象徴でもあった。だが、戒めとして纏い続けているこの衣装こそが、彼女にとっての「戦闘装束」なのだ。

 忌々しげに眉を顰めながらも真凛は敢えて、このドレスに袖を通して行く。16歳の頃から着続けているこの衣装はサイズが全く合っておらず、真凛の豊穣なボディラインがくっきりと浮き出るほど張り詰めていた。深く入ったスリットからは、Tバックの腰紐が覗いている。

 

 そんな扇情的過ぎる格好のまま、むわりと匂い立つ白い素足をハイヒールに収めた彼女は、アタッシュケースを手にこの部屋を後にして行く。くびれた腰を左右に振り、乳房と巨尻をぶるんぶるんと揺さぶって歩く彼女の姿は、廊下ですれ違う男達の粘ついた視線を一身に集めていた。

 その全てを意に介することなく、彼女は威風堂々とした佇まいで歩みを進めている。熟れた雌のフェロモンが、その全身からむわりと漂っていた。極上の身体を周囲に見せ付けるように歩む彼女は、挑発的な笑みを浮かべている。

 

「……生憎、乱暴でガサツな男は好みじゃないのよ。捕まえられるものなら、捕まえてみなさい。ジークフリート・マルコシアン」

 

 凛々しく気高い彼女の双眸は、迷いの無い色で真っ直ぐに前だけを見つめていた。

 この国の象徴たる「救国の英雄」が敵に回ろうとも、決して自分を止めることは出来ない。そんな自信に満ち溢れた彼女の眼は、元特務捜査官としての輝きを宿していた。

 

 例えこの先、彼女の正義がどれほど血で穢れようとも。その歩みに、躊躇いは無いのだろう――。

 

 ◆

 

 ――同時刻、日本のとある廃工場。薄暗い闇に包まれたその屋内には、数十人の男女が集まっていた。年齢、性別、体格、服装、人種。何もかもがバラバラであり、外見から彼らの共通項を見付けるのは非常に難しい。

 だが、ただ一つ明確に似通っている部分がある。眼だ。暗澹とした憎しみの炎。負の感情が凝縮され、熟成された殺意の業火。その灯火を宿した双眸が、彼らが共有している唯一の要素となっていた。

 

「……女狐め」

 

 そんな彼らを背に、真凛・S・スチュワートと通話していた大男――ジークフリート・マルコシアン大佐は、先ほどまで通話に使っていたスマホを木っ端微塵に握り潰していた。髭を蓄えた精悍な貌は、静かな殺意に満ち溢れている。45年の人生に裏打ちされた熟年の闘志が、その眼に宿されていた。

 灰色の野戦服を纏う筋骨逞しい肉体。猛獣を想起させる暗い茶髪に、右眼を覆う黒い眼帯。かつては北欧某国における「正義」の象徴(シンボル)として名を馳せ、歴史にその名を刻んだ伝説の英傑は、闇に堕ちた左眼で天井を仰いでいた。

 

 改造人間に深い憎しみを抱き、その殲滅を目指して活動している過激派組織。彼らはその中枢メンバーであり、ジークフリートはこの組織における「軍事顧問」を務めているのだ。組織を率いるリーダーである青年は、スマホを破壊したジークフリートの様子から全てを察したのか、彼の背後から静かに声を掛ける。

 

「……真凛・S・スチュワートをこちらに引き込むことは出来なかったようですね。元特務捜査官である彼女の能力は、我々も評価していたのですが……残念です」

「あの女には元より、大した期待などしておらん。……それに元捜査官と言えども、今の奴は対策室から追放された一匹狼に過ぎん。仮に敵に回ったところで、我々を止めることなど出来はしない」

 

 リーダーの言葉に不遜に鼻を鳴らし、背を向けたまま言葉を紡ぐジークフリート。威厳に満ちたその背中は、歴戦の元軍人に相応しい鬼気迫る覇気を宿していた。そんな彼の背を一瞥したリーダーは踵を返し、背を向け合いながら再び口を開く。

 

「彼女も言っていたようですが……ギルエード山地の件、あなたが動いても良かったのですよ」

()の国は……彼の国の政府は私を捨てたのだ、もはや未練などありはしない。……スチュワートに情報を流したのは、私なりの最後の手向け(・・・)だ」

「……なるほど。祖国は捨てても、部下達の無念は忘れない。国ではなく、人の為に起つ。あなたはそういう男でしたね」

「国というのは、土地を指すのではない。そこに根付く文明、文化、人、心。その全てが揃うことで、初めて国という概念が生まれる。私にとっての祖国はもう、あの地ではない。私の祖国はもう、私の心にしか無い」

 

 リーダーと視線を交わすことなく、ジークフリートは独り拳を握り締める。国を追放され、居場所を失い、それでも祖国と亡き部下達を忘れることなく戦い続けて来た孤高の武人。そんなジークフリートの背中を、リーダーの青年は肩越しに見つめていた。

 

 約11年前の2009年。旧シェードとの戦いで多くの部下を失い、自身も右眼を奪われたジークフリートは、改造人間に対する差別意識を剥き出しにした危険人物と化していた。そんな彼を御することが出来なかった某国政府は、「救国の英雄」であるはずの彼を追放するしかなかった。それがどれほどの過ちであろうと、他に選択肢など無かったのである。

 だが故郷を追われてもなお、ジークフリートの胸中に宿る憎悪の炎が絶えることはなかった。むしろ祖国を追放されて孤独になったことにより、彼の差別意識はより苛烈に先鋭化されてしまったのである。民衆に迫害され続け、孤立を深めていた改造被験者達の自助組織が過激思想に染まり、やがてノバシェードと化してしまったように。

 

「だからこそ私は己の心に従い、この組織こそが第2の祖国であると定めたのだ。……さぁ、訓練を始めるぞ。聖戦の日は近いのだからな……!」

「……あぁ」

 

 もはや、その歩みが止まることはないのだろう。そう遠くない未来、「仮面ライダー」によって討たれるその時まで。彼は躊躇うことなく、復讐鬼に堕ちた同志達と共に、破滅の道へと向かい続けていた――。

 






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 今話で陰謀編も完結となりました。このお話も最後まで見届けて頂きありがとうございます!(о´∀`о)
 真凛とジークフリートの関係性については、バイオ4のエイダとウェスカー(もしくはクラウザー)みたいな感じで、互いに利用し合いながらほどほどの距離感でのお付き合いを……というイメージだったのですが、いざ実際に書いてみたらめちゃくちゃ露骨にバチバチしてる感じになっちゃいました。プロット通りには行かないものですなぁ……(ノД`)
 ジークフリートは「改造人間の殲滅」という自身の悲願を果たした後、自分達の秘密を知っている真凛を捕まえるつもりでいましたが、結局その前に「仮面ライダー」に倒されてしまったのです。ジークフリートを倒したライダーとは何者なのか。ジークフリートはどのように敗れたのか。気になる方は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」を是非チェックしてください〜!(*⁰▿⁰*)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの陰謀編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は↑で紹介した通り、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、ヘレン・アーヴィング捜査官も仮面ライダーの1人として登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらに今話でチラッと顔見せしていたジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 いよいよ令和ライダー第5作「仮面ライダーガッチャード」の新情報が公開されましたね! 今回のライダーはカードを操る「錬金術師」とのこと。どんな物語になるのか今から楽しみでありますなー(*´꒳`*)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第1話

◆今話の登場ライダー

◆ヘレン・アーヴィング/マス・ライダー軽装型
 ノバシェード対策室の若き特務捜査官であり、才色兼備なアメリカ出身の白人美女。量産試作型外骨格「マス・ライダー」のバリエーション機である軽装型の強化服を着用しており、自動小銃「GM-01スコーピオン」による射撃を得意とする。当時の年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。



 

 ――ノバシェード対策室が保有している、専用の大型輸送トラック「マス・トレーラー」。

 そのコンテナ内に設けられた白く無機質な格納庫(ロッカー)に、1人の爆乳美女が足を運んでいた。艶やかなブロンドの髪をショートに切り揃えた彼女は、蒼く透き通るような眼差しで眼前の「新装備」を見つめている。

 

「……今回ばかりは、これ(・・)を着るしかないようね」

 

 白く透き通る柔肌と、同性すら息を呑む絶世の美貌。鋭い眼光で真っ直ぐに対象を射抜く、知的で怜悧な佇まい。

 まさしく「鉄の女」という言葉が相応しい女傑――なのだが、その肉体は最高級の娼婦すら及ばないほどの、圧倒的な「色香」に満ち溢れていた。彼女の生真面目過ぎる人柄を知っている人間でなければ、とても処女(・・)であるとは信じられないだろう。

 

 黒い整然としたスーツを、内側からはち切れそうなほどにまで押し上げ、緊張させている豊穣な爆乳。特務捜査官として鍛え抜かれ、細く引き締まっている腰。妊娠・出産に最適なラインを描いている、安産型の巨尻。

 

「出来ることなら……あまり頼りたくはなかったけれど。この『力』に頼らずに奴らに勝てるほど……私はまだ、強くはない」

 

 そんな扇情的過ぎるプロポーションの持ち主である彼女は、くびれた腰を左右にくねらせて淫らに果実を揺らしながら、ゆっくりと「新装備」の前に足を運んでいた。引き締まった腰がくねるたびに、豊満な爆乳と巨尻がぷるんぷるんと躍動している。

 

「……だから、これは仕方ないの。……仕方ないのよ」

 

 やがて、その「新装備」――ボディスーツ状の強化服の前で足を止めた彼女は、暫し逡巡した後。意を決したように顔を上げると、胸元のネクタイに白く優美な手指を絡ませ、シュルシュルと外して行く。

 ぷっくりとした桃色の唇を開き、言い訳のような言葉を並べる彼女だったが。その頬は甘く紅潮し、倒錯的な感情に染まり始めていた。決して、これから始まる「装着作業」に期待(・・)しているわけではないのだと、自身に言い聞かせているかのように。

 

「……んっ」

 

 ネクタイを外すだけでは終わらない。彼女はなんと、その場で黒スーツを脱ぎ始めていた。シャツやパンツが彼女の足元に落ち――白く豊穣な肉体を際立たせる、蠱惑的な黒い下着姿が露わにされて行く。男ならば誰もが生唾を飲み込む抜群のスタイルが、ありのままに曝け出されていた。

 

「んっ……!」

 

 黒スーツだけではない。白く瑞々しい爆乳を包む、扇情的な黒レースのブラジャーも。むっちりとした尻肉に深く食い込み、豊満な実りを際立たせていたTバックの黒パンティも。蠱惑的な衣擦れ音と共に、スルスルと脱げ落ちて行く。

 ブラジャーのホックがパチンと外れ、極薄のパンティが芳しい裸足の足元に滑り落ちた瞬間――その「裏地」に染み込んでいた濃厚な雌の匂いが、むわりとこの一室に漂っていた。きめ細やかな純白の柔肌。その隅々から滲み出る芳醇なフェロモンが、彼女の美貌と淫靡な肉体美に扇情的な彩りを添えている。

 

「ん、ふぅっ……」

 

 やがて美女は透き通るような白い裸身を、文字通り露わ(・・)にしてしまう。これから装着する強化服に肉体を完全にフィットさせるため、彼女は下着すら脱ぎ去らねばならないのである。ツン、と主張している白く豊穣な乳房の先端(・・)が、彼女の頬を桃色に染める「羞恥」の感情を物語っていた。

 

 張りのある曲線を描いた、106cmという超弩級の爆乳。引き締まった細い腰つきとは裏腹に、むっちりと実った98cmの爆尻。その凹凸の激しい女体が一糸纏わぬ姿となり、透き通るように白い裸身の隅々から、芳醇なフェロモンが匂い立って来る。

 彼女の絶世の美貌と、極上の身体付きを一目見た男達が必ず一度は夢想した、白く瑞々しい「生まれたままの姿」がここに在った。

 

「全く……! 機動性を損なう無駄な隙間(デッドスペース)を徹底的に削減して、極限まで『軽量化』させるためだからって……どうしてこんな仕様にっ……!」

 

 やがて彼女は一糸纏わぬ全裸のまま、壁に掛けられていた純白の強化繊維に手を伸ばして行く。彼女が今回使用する装備は、肉体に隙間なくぴっちりと密着する、ボディスーツ状の特殊強化服なのだ。そのため下着を一切身に付けていない状態(ノーパン&ノーブラ)で「装着」しなければ、本来の機能性を発揮出来ないのである。

 

「んっ……ふ、うぅっ……!」

 

 艶やかな爪先をピンと伸ばして、伸縮自在な強化繊維に、スラリと伸びた長い美脚を突き入れる。彼女はそのままパンティを穿く要領で、一気に細い腰へと生地を引き上げようとしていた。だが、安産型の巨尻まで繊維を引き上げたところで、むにゅりとそこに引っ掛かってしまう。だが、ここで諦めるわけには行かない。

 

「はぁ……んっ!」

 

 一拍置いた後、彼女は白く瑞々しい極上の尻肉を、強引に持ち上げてスーツ内に半ば無理矢理押し込んで行く。やや力任せに穿き終えた瞬間、豊満な桃尻はどたぷんっと大きく波打っていた。

 

「くふぅうっ……! んっ、はぁあっ……!」

 

 股間のY字を際立たせている鼠蹊部の線と、豊満に膨らんでいるヒップラインに、張り詰めた繊維がキュウッと容赦なく食い込んで来る。彼女はその刺激的な圧迫感に頬を染め、ぷっくりとした桜色の唇を悩ましげに開き、淫らな吐息を漏らしていた。

 

「あっ、はぁあっ……!」

 

 なんとか巨尻までは強化繊維の内側に収めることが出来た。だが、大きな「峠」はまだ残っている。彼女は先ほどと同じ要領で、Jカップという規格外の爆乳も、力任せにスーツの内側に押し込もうとしていた。

 すでに限界近くまで伸び切り、パツパツに緊張している強化繊維が豊満な乳房を下からむにっと持ち上げ、はち切れそうなほどに乳肉に深く食い込んで行く。巨尻の時よりもさらに険しい「峠」を前に、スーツの生地が悲鳴を上げる。今にも内側から裂けてしまいそうなほどにまで、胸全体の生地がギチギチに張り詰めていた。

 

「くっ、う……うぅうんっ……!」

 

 それでも彼女は力技で繊維を無理矢理引っ張り上げ、白い爆乳を辛うじてスーツの内側に押し込んでいた。張りのある瑞々しい果実は繊維の内側に閉じ込められた瞬間、弾けるように上下にばるるんっと揺れている。

 

「はぁ……んっ……」

 

 その弾みに恍惚の表情を浮かべる美女は、無意識のうちにうっとりと蒼い瞳を細めていた。背徳的な感覚に打ち震える「雌」の顔を露わにしながら、彼女は自身の肢体に張り付いた強化繊維の感触を確かめるかのように――凹凸の激しい極上の女体を、自らのか細い手指でスリスリと撫で回していた。

 

「んっ、ふぅうっ……うぅっ……」

 

 これもまた、無意識なのか。艶めかしく左右にくねっている細い腰の動きは、彼女が「倒錯的な悦び」を覚え始めた事実を雄弁に物語っている。つい先ほどまで、凛々しい顔付きで強化繊維を見つめていた女傑の姿だとは到底思えない、淫らな姿であった。

 

「んっ……はぁっ、あぁあっ……! もうっ、ただ着るだけで一苦労だわ……! 私でさえこれだけ苦戦するのなら、真凛(マリン)なんて絶対に着られなかったじゃないっ……!」

 

 そんな「未知の感覚」に打ち震えながらも、我に返った美女はようやく強化繊維の「装着」を終える。その貌は羞恥の桃色に染まっていたが、今は「裸よりも恥ずかしい格好」に恥じらっている場合ではない。

 身体の線がくっきりと強調されたボディスーツ姿という、気高く誇り高い処女には特に耐え難い恥辱。そうであっても、対策室の装備としてはこの極薄スーツが最も「高性能(ハイスペック)」なのである。

 

(……こ、こんなのほとんど裸みたいなものじゃないっ! いえ、むしろ裸より恥ずかしいっ……! 真凛が着てたら大変なことになっていたわ……!)

 

 凹凸の激しいボディラインをありのままに浮き立たせているその姿は、彼女の「生まれたままの姿」を想像させるには十分過ぎるものとなっている。それでも、今はこのスーツの力を頼りにするしか無いのだ。

 この扇情的なデザインは、新世代ライダー達が着用している専用外骨格のスペックに少しでも追い付くために、対策室が数多の「研鑽」を重ねた結果なのだから。

 

「んっ、く……ふぅ、んっ……」

 

 巨尻や鼠蹊部にキツく食い込んで来る感覚に甘い吐息を漏らしながらも、彼女は「最後の仕上げ」として、スーツの上に用意されていた「白銀の鉄仮面」を手に取っていた。その仮面はまさしく、山口梶(やまぐちかじ)巡査をはじめとする警察官達が着用している、量産試作型外骨格――「マス・ライダー」と同一の規格だったのである。

 

「……やって見せるわ、必ず」

 

 「軽装型」と呼称されているこのボディスーツ状の強化繊維は、装甲を極限まで削ぎ落とすことによって機動性のみを追求した、マス・ライダーのバリエーション機なのだ。そんな新型装備をぴっちり(・・・・)と装着した彼女は、決意に満ちた凛々しい表情で仮面を装着して行く。

 

「……よしっ!」

 

 全ての装着作業を終えた、金髪碧眼の爆乳美女――ヘレン・アーヴィング捜査官。彼女はこの瞬間、「仮面ライダー」に極めて近しい量産試作型(マス・ライダー)の一種である、「軽装型」の装着員となったのだ。

 

 壁面に固定されていた専用の自動小銃「GM-01スコーピオン」に手を伸ばした彼女は、その白い銃身を細く優美な手指で握り締める。仮面の下に凛とした貌を隠している彼女が、スコーピオンを腰部に装着した瞬間――その弾みで、強化繊維内に押し込められた爆乳と巨尻がぷるんっと揺れ動いていた。

 

「……マス・ライダー軽装型、装着完了! ヘレン・アーヴィング、これより出動するわ……!」

 

 「戦闘準備」を完了させた彼女は踵を返し、踵を返して行く。くびれた腰を左右にくねらせ、乳房と桃尻をぷるんぷるんと揺らしながら歩み出して行く彼女は――その蠱惑的な挙動とは裏腹に、気高く凛々しい眼差しで前だけを見つめていた。

 

 ◆

 

 それから約数時間後の、2020年7月下旬深夜。北欧某国領海内に位置する絶海の孤島――「シャドーフォートレス島」では、かつてない「異常事態」が発生していた。

 

 冷戦時代、西側のミサイル基地として利用されていたこの要塞島に、「裸より恥ずかしい格好の侵入者(ヘレン・アーヴィング)」が現れたのである。人知れずノバシェードのアジトと化していたシャドーフォートレス島は、対策室の介入によって瞬く間に戦場と化してしまったのだ。

 

『侵入者を発見! 直ちに侵入者を排除せよ! 繰り返す、侵入者を発見――!』

 

 けたたましい緊急警報が、薄暗い地下要塞の全域に鳴り響く。その要塞に配属された野戦服姿の兵士達は、物々しい重火器を構えながら、この地に現れたという「侵入者」を全力で排除するべく通路を疾走していた。

 そんな彼らの喧騒を背にしている、この要塞の「司令官」は――独り静かに、とある格納庫へと足を運んでいた。重量感溢れる彼の足音と、2m近い巨躯から迸る荘厳な覇気は、すれ違う兵士達を戦慄させている。漆黒のマントで身体を覆い尽くしている彼の歩みは、外見以上の迫力に満ちていた。

 

「司令! ノバシェード対策室の特務捜査官が、このシャドーフォートレス島に潜入していた模様です! 痴女としか思えない破廉恥な格好でありながら、かなりの戦闘力を有しているとのこと……!」

「恥知らずの変態女とはいえ、奴の実力は侮れません……! 初動対応に当たっていた部隊はすでに全滅ッ……! 我々もこれより現地に向かいますッ!」

「……うむ。我々の『計画』はまだ発展途上の段階なのだ。ここで対策室や新世代ライダー共に邪魔されるわけには行かん。如何なる手段も厭わず、確実に排除するのだ。……好きに嬲って(・・・)も構わんぞ。お前達も長いこと、『女日照り』だろうからな」

「ハ……ハッ、了解しました!」

 

 その途中、声を掛けて来た幹部クラスの男達に対して一瞥もせず、司令官の男は淡々と「命令」を下している。ヒグマのような巨漢である彼の威圧感に圧倒されつつ、「命令」を受けた男達は各々の部下を引き連れてこの場を後にしていた。

 

 そんな彼を見送ろうともしないまま、司令官の男はズシンズシンと重厚な歩みを進めて行く。やがて彼は「ICBMR」と記載された自動ドアを開き、広大な格納庫の最奥へと辿り着いていた。そんな彼の眼前には――全長約3mにも及ぶ、巨大な鉄人が佇んでいる。

 

 額からV字に伸びる2本のアンテナ。凶悪に吊り上がった複眼状のツインアイ。そして、昆虫の牙を想起させる顎部装甲(クラッシャー)

 禍々しい印象ではありつつも、その鉄人の貌は明らかに「仮面ライダー」の普遍的なイメージを模している。しかしその攻撃性を剥き出しにしたデザインは、到底「ヒーロー」と呼べるものではない。さながら、破壊を司る邪神像のようであった。

 

「……新世代ライダーでも、ジャスティアライダーでもない。この私の『スパルタン』こそが……唯一無二。真の『仮面ライダー』となるのだ……!」

 

 その鉄人の巨体を仰ぐ司令官の男は、身体を覆っていた黒マントをばさりと開きながら、太く逞しい両腕を広げている。開かれたマントの下には、白銀を基調とする重厚な強化外骨格が隠されていた。彼自身は紛れもない「人間」なのだが――狂気に歪んだその笑みは、どんな「怪人」よりも悍ましい邪悪さに満ち溢れている。

 

 ◆

 

 ――今から約11年前。新世代ライダー達やジャスティアライダー達よりも遥かに早く誕生していながら、その存在を抹消された影の仮面ライダー達が居た。

 その「最後の残滓」が今、この現代に甦り。人類に仇なす怪人として、人々に牙を剥こうとしている。存在を疎まれ、消された者達が集まるこの北欧の孤島――シャドーフォートレス島で。

 





 今回からは、陰謀編の後日談となる新章をお届けして行きます。えちえちなお色気要素も絡めつつ、全7話予定での週1更新で進めて行く予定です。完結する頃にはガッチャードが始まっちゃいますね……。現在構想中の新エピソードにも繋がって行くエピソードになる……と思われますので、このお話も最後まで見届けて頂けると幸いですm(_ _)m
 マス・ライダー軽装型は「銃で戦うぴっちりスーツのブロンド美女」であるゼロスーツサムスの影響を受けまくりながら書かせて頂いておりました。今回は装着シーンのみとなりましたが、次回からはちゃんと戦闘シーンが始まりますので、どうぞ今後もお楽しみに!(о´∀`о)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」では、私原案の真凛・S・スチュワートが読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、今話から登場したマス・ライダー軽装型もガッツリ参戦しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 ヘレンは恐らく相当なむっつりではないかと思われます。それもかなり倒錯的なレベルの……(´-ω-`)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第2話

◆今話の登場ライダー

忠義(チュウギ)・ウェルフリット/仮面ライダーオルバス
 アメリカでは騎馬警官として活躍していた父の影響で警察官となった、ハーフの青年。明朗快活でお調子者だが、真っ直ぐな心根の持ち主でもある好青年。天才女性科学者・一光(にのまえひかる)博士が開発した仮面ライダーオルバスに変身する。使用銃器はM1911。当時の年齢は21歳。
 ※原案はX2愛好家先生。



 

 ギルエード山地での爆発事件から、さらに数週間が過ぎた――2020年7月下旬の夜。北欧某国の領海内に位置する、絶海の孤島「シャドーフォートレス島」は、島全体を飲み込むほどの戦火に包まれていた。燃え盛る激しい炎が、暗夜の空を照らしている。

 

「撃て撃てぇッ! あの変態女を生かして帰すなァッ!」

「確実にこの場で仕留めるんだッ!」

 

 だが、それはノバシェードの襲撃を受けてのことではない。むしろこのシャドーフォートレス島こそが、ノバシェードの根城となっていたのである。その情報を聞き付け、島に訪れたノバシェード対策室の特務捜査官を排除するための砲火が、島そのものを焼き払わんとしているのだ。

 

「……まさか、あのタレコミが事実だったとはね。願わくば、イタズラであって欲しかったわ」

 

 島の至るところに設置されている機関銃や大砲に狙われている、件の特務捜査官――ヘレン・アーヴィング。遮蔽物に身を隠している彼女は自動小銃「GM-01スコーピオン」を握り締め、白銀の仮面(・・・・・)の下で苦々しい表情を浮かべていた。

 

 軍部が保有する海上要塞である、このシャドーフォートレス島の兵士達は、密かにノバシェードと繋がっている。その匿名での情報提供(タレコミ)を受け、ちょうど某国に滞在していたヘレンがこの島の調査に訪れたのだが――そこで待ち受けていたのは、「口封じ」を目論んだ兵士達による「手厚い歓迎」だったのである。

 最悪なことに、情報通りの事態がこの島で起きていたのだ。「この情報は確かめる価値がある」という捜査官としての直感を信じ、この島に潜入していたヘレンは仮面の下で冷や汗をかいている。

 

 万一(・・)の場合に備えて彼女が事前に着用していた、純白の新型強化服――「マス・ライダー軽装型」。このスーツが無ければ、間違いなく今頃は蜂の巣にされていたのだろう。装甲を極限まで削ぎ落とし、機動性のみを追求した彼女の新型スーツは、通常の量産試作型(マス・ライダー)とは比較にならない移動速度(スピード)を発揮出来るのだ。

 

(……裸より恥ずかしい格好だけど、この軽装型を用意しておいて正解だったわ)

 

 そんなバリエーション機を纏っている彼女の扇情的なボディラインは、極薄の白い強化繊維によってくっきりと浮き出ており、凹凸の激しい極上の女体にぴっちりと隙間なく密着している。僅かに身動ぎするだけでぷるぷると揺れ動く特大の爆乳と巨尻は、当然この戦闘の中で激しくばるんばるんと躍動していた。細く引き締まった彼女の腰つきが、その豊満な果実をより蠱惑的に際立たせている。

 

「はぁ、はぁっ、んはぁっ……!」

 

 圧倒的に不利な状況下。そこに立たされたヘレンの肉体は密閉されたスーツの内側でしとどに汗ばみ、淫らな雌のフェロモンを噴き出している。一切の無駄なく身体にフィットさせるため、下着を一切身に付けていない状態(ノーパン&ノーブラ)でこのスーツを着用している彼女は、蠱惑的に息を荒げていた。

 

 ――そんな中、ヘレンの脳裏にある過去の記憶が蘇る。それは決して思い出したくない、恥辱の過去であった。

 

(……こんな恥ずかしい思いをしたのは、あの時(・・・)以来ね。アレ(・・)よりも破廉恥な格好をすることになるなんて、思いもしなかったわっ……!)

 

 数ヶ月前――当時の「先輩」だった真凛(マリン)・S・スチュワート捜査官とバディを組んで活動していた頃。ノバシェードに攫われた女性達が、戦闘員達との「結婚式」を挙げさせられるという、極めて卑劣な事件に直面したことがあった。

 同じ女性としての義憤に燃えたヘレンと真凛は現場を抑えるため、囚われた女性達が着せられていたものと同じ「ウェディングドレス」を纏い、現地に潜入していたのだが――そのドレスは非常に露出度が高く、2人の扇情的な肉体を強調するデザインとなっていたのである。

 

 胸元をぱっくりと大きく開き、白く豊穣な谷間を露わにしている――だけではない。鼠蹊部に食い込む白パンティとレースのガーターベルトが、2人の白く肉感的な美脚を際立たせていたのだ。ウェディングドレスとは名ばかり。女性の尊厳を踏み躙るために用意された、あられもない恥辱的な衣装だったのである。人を人とも思わぬ鬼畜の所業。ヘレンも真凛も、その屈辱的な格好には怒りを隠せずにいた。

 

 だが結局、潜入は失敗に終わってしまった。他の女性達とは比べ物にならない美貌とスタイルの持ち主だったヘレンと真凛は早々に見破られ、2人揃って組み敷かれてしまったのである。彼女達の突出したプロポーションと、全身の柔肌から滲み出る濃厚なフェロモンが仇となったのだ。それでも間一髪、新世代ライダー達の武力介入により、彼女達は事なきを得た。

 彼らの到着が間に合っていなければ、ヘレンも真凛もその場で「純潔」を散らし、名実共に戦闘員達の「花嫁」にされていたのだろう。戦闘員達の前で両膝を着かされ、「誓いのキス」をさせられそうになった瞬間は、ヘレンにとっても真凛にとっても人生最大の汚点だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 それでも新世代ライダー達の助太刀によって状況を覆した後は、事件の首謀者に「痛みを伴う相応の裁き(ゴールデンボールキック)」を与えたのだが――その時のことは、ヘレンにとっては思い出したくもない恥辱の記憶。紛うことなき、「黒歴史」そのものであった。

 あの時に着る羽目になったウェディングドレス(のようなモノ)よりもさらに恥ずかしい格好が、この世に在るとは思いもしなかった。そしてあの時とは違って――真凛はもう、そばには居ない。このシャドーフォートレス島には今、ヘレンしか居ないのだ。

 

(……確かに形勢は不利。だけど私達対策室は、新世代ライダー達は、ジャスティアライダー達は常に……そんな状況の中を生き延びて来た! 今さら、恐れてなんかいられないッ!)

 

 だが、どれほどの窮地に立たされていようと。背中を預ける「先輩」が居なくなった今、ノバシェードの脅威から無辜の市民を守れるのは自分しか居ない。いつまでも、対策室を去った真凛の影に縋ってはいられないのだ。

 

「……掛かって来なさいッ!」

 

 気を取り直したヘレンは、己の弱さを振り切らんとする勢いで遮蔽物から飛び出すと、猛烈な速さで地を駆けながらスコーピオンを連射し始めていた。くびれた腰を左右にくねらせ、地を踏むたびに安産型のヒップラインが波打つように揺れる。

 妊娠・出産に適した極上の巨尻がぷるんぷるんと弾み、男達の視線を惹き付ける。彼女が引き金を引く度に、発砲の反動でたわわに実った乳房が大きく弾んでいた。

 

 そんな彼女を狙う銃弾が仮面を掠め、その後ろで砲弾が爆ぜる。それでもヘレンは怯むことなく戦場を駆け抜け、正確無比な射撃で矢継ぎ早に戦闘員達を撃ち抜いて行った。

 

「がはぁッ……!」

「そんな馬鹿な、相手はたった1人! それも量産試作型(マス・ライダー)……のような装備を着ているだけの女だぞ!? 現役軍人たる我々が、あんな女1人にぃッ……ぐほぁッ!?」

 

 機関銃や大砲の射手、さらには遠方から狙っていた狙撃手まで撃ち抜かれ、戦闘員達の迎撃体勢が徐々に乱れて行く。ノバシェードの構成員であり、現役の陸軍兵士でもある彼らは組織内においてもかなりの戦闘力を有しているはずなのだが――ヘレンは彼らの弾雨すらも、紙一重の動きで切り抜けていた。

 

(改造被験者であるために祖国からも疎まれ、この島に左遷されていた兵士達……。確かに現役の軍人というだけあって、狙いも正確ね! だけど……この軽装型の移動速度は、それだけで攻略出来るほど鈍くはないのよッ!)

 

 上下左右に乳房と桃尻を弾ませ、くびれた腰をくねらせながら、ヘレンは遮蔽物から遮蔽物へと素早く駆け込み、スコーピオンを撃ち続けている。行く手を阻む戦闘員達を撃ち抜きながら前進する彼女は、徐々に島の中枢に位置する要塞内部に近付こうとしていた。

 

「死ねぇッ! 対策室の変態女ッ!」

「……ッ!」

 

 そうはさせじと、物陰から飛び出して来た戦闘員の1人が至近距離からコンバットナイフを振るう。その刃先をスコーピオンの銃身で受け流したヘレンは、即座に身体を捻って華麗なハイキックを繰り出していた。

 

「……はぁあッ!」

 

 スラリと伸びた優美な美脚が一気に振り抜かれ、風を切り裂いて行く。長い脚がI字開脚のように大きく振り上げられ、鼠蹊部に強化繊維が深く食い込んでいた。無防備に「開帳」された股間が周囲の注目を集める中、流麗な蹴りが戦闘員の延髄に炸裂する。

 

「ぐほぁッ!?」

 

 戦闘員の悲鳴と鈍い衝撃音が、彼女のハイキックの威力を雄弁に物語っていた。その一撃に意識を刈り取られた戦闘員の身体が力無く倒れ、ヘレンの爆乳と巨尻が反動でぶるんっと揺れ動く。最前線に立つ特務捜査官として鍛え上げられ、細く引き締まっている筋肉質な腰つき。そのくびれによって際立つ長い美脚はピンと伸び、戦闘員の首に命中していた。

 

「……舐めやがって! その窮屈そうな強化服ひん剥いて、女に生まれたこと後悔させてやらァッ!」

「くッ……!?」

 

 だが、伏兵は彼1人ではなかったようだ。もう1人の戦闘員がヘレンの懐に飛び込み、ナイフによる斬撃を何度も繰り出して来る。先ほどの男よりもさらに手練なのか、今度はヘレンも防戦一方となっていた。掌には到底収まらない張りのある爆乳と、安産型の瑞々しい巨尻が、彼女の回避行動によってばるんばるんと躍動している。

 

(さすが現役軍人、接近戦も一流ね……! だけど、私だって負けるわけには行かないッ!)

 

 それでも、機動力に特化した軽装型のポテンシャルならば十分に対応出来る。その確信を胸に「反撃」に転じたヘレンは、一瞬の隙を突いてナイフを叩き落としていた。

 だが、先ほどのようなハイキックを繰り出すには間合いが近過ぎる。かといってスコーピオンによる殴打では隙が大き過ぎるし、発砲しようとしても銃口を掴まれてしまう恐れがあった。

 

 ならば、と。ヘレンは敢えて真正面から戦闘員に飛び掛かり――がぱっと股間を大きく開くと、彼の頭部を肉感的な太腿で挟み込んでしまう。そのまま股間をむにゅりと敵の顔面に押し付けた彼女は、戦闘員の首を太腿で完全に固定していた。

 

「んがぁっ!?」

「これで……どうっ!?」

 

 扇情的なラインを描く鼠蹊部と股間。顔面に伝わる柔らかなその感触と、芳醇な雌の匂い。それを愉しむ暇など、戦闘員には無かった。彼の頭を太腿で挟み込んだヘレンは、そのままくびれた腰を勢いよく捻り――フランケンシュタイナーの要領で、戦闘員の脳天を地面に突き刺してしまう。

 

「ぐ、が……!?」

「……効くでしょ?」

 

 傍目に見れば「役得」だが、喰らっている本人は何が起きているのかも分からぬまま、意識を刈り取られてしまったのである。強烈な「幸せ投げ」にダウンした戦闘員は、そのままピクリとも動かなくなっていた。

 

「さぁ、次は誰ッ!?」

 

 戦闘員が昏倒したのを確認した後、即座にスコーピオンを構え直したヘレンは次の敵を仕留めるべく、再び乳房と桃尻を揺らして走り出して行く。左右に腰をくねらせて戦場を駆ける彼女の果実が、上下左右にばるんばるんと躍動していた。

 

 ――かつての冷戦時代。西側陣営のミサイル基地として開発されていたこのシャドーフォートレス島は、非常に重要な拠点とされていた。

 だが冷戦終結後、核兵器が全て解体されてからは戦略的価値が大きく低下。海上要塞とは名ばかりであり、現在は左遷という形で「島流し」にされた「訳アリ」の軍人達が集まる、「流刑地」と成り果てている。

 

 人々から疎まれ、追放され、忘れ去られた者達を封じ込めるための影の要塞(シャドーフォートレス)。そんな場所に押し込められ、隔離され、鬱屈とした日々を過ごしていた元被験者の軍人達。

 彼らがノバシェードに与するようになったのも、ある意味では必然だったのかも知れない。ヘレンとしても、そんな彼らに対する同情が無かったわけではない。それでも無数の重火器を向けられてしまった以上、撃ち返すしかないのである。

 

「……どこまで撃たせれば気が済むのよ、あなた達はぁあッ!」

 

 悲鳴にも似た慟哭が天を衝き、スコーピオンの銃口が火を噴く。その銃弾に撃ち抜かれた戦闘員達の断末魔が、この島に響き渡る。

 誰も救われない、勝利者など居ない無益な戦い。それは銃声と爆音が耐え果てるまで続いていた――。

 

 ◆

 

 ――同時刻。シャドーフォートレス島上空を飛行している1機のヘリが、燃え盛る戦場に接近しようとしていた。闇夜を照らす激しい猛火。その赤い輝きに、パイロットの男性は飄々とした佇まいで口笛を吹いている。

 

「ヒューッ……! おいおい見てみろよ忠義(チュウギ)! 対策室のお嬢様、一足先におっ始めてるみたいだぜ! 清廉そうな顔してるくせに、ヤることが派手だねぇ……!」

 

 ヘリの男性パイロット――マイクは陽気な声を上げながら操縦桿を握り締めている。一方、忠義と呼ばれた金髪碧眼の美男子は、悪魔の力を宿した変身ベルト「ジャスティアドライバー」をその腰部に装着していた。

 

「……しっかし、まさかあの情報提供(タレコミ)通りの事態が起きてたとはな……。この国の軍部も政府も、領海の管理が杜撰過ぎるぜ。島ごとノバシェードのアジトにされてたことに、1年近くも気付かなかったままだなんて……」

 

 赤と黒を基調とする、ノースリーブの特殊戦闘服。その繊維に袖を通している美男子は、開かれたヘリのドアから「降下」しようとしている。彼の背中に、パラシュートは無い。古い銘柄の煙草を咥えている彼の蒼い瞳は、真下の島を静かに見下ろしている。

 

「さぁな。案外……上の連中も、分かってて泳がせてたのかもよ?」

「泳がせるって、何のためにそんなこと……」

「そんなこと俺が知るかよ。……明らかなのは、俺達がブッ飛ばすべきクソ共があの島に居るってこと。お前にとっちゃそれだけで十分じゃねぇのか?」

「ハッ……言えてるぜ」

 

 「仮面ライダータキオン」こと森里駿(もりさとはやお)から餞別にと貰っていた、稀少な煙草。その1本から立ち昇る濃厚な煙が、夜風に流されて行く。最後の一服を終えた「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットは、胸の携帯灰皿にその吸い殻を収め、ドアの縁に手を掛けていた。

 

「森里のダンナから貰ったって言うそれ、後で俺にも1本くれよなぁ。今じゃなかなか生産されてないプレミアものだろう?」

「だったら後でちゃんと迎えに来いよ、マイク。この前みたいに、弾切れだから『便所行き(トンズラ)』……ってのはナシだぜ?」

「ハッ……それならそっちこそ、モタモタしてないでさっさとお姫様を助けに行くんだな。……鳥になって来い! 幸運を祈るぜ(グゥッドラァック)!」

「……おうッ!」

 

 そして、マイクとのそのやり取りを最後に。忠義は前方に体重を預け――そのまま夜空に身を投じて行く。パラシュートを持たず、猛烈な勢いで落下して行く彼は空中で身体を大の字に開き、腰のジャスティアドライバーにその「風」を集めていた。

 

 彼のドライバーは一定以上の「速度」を検知することによって、変身機能が作動する仕組みになっている。普段なら専用バイクのマシンGチェイサーでその加速を得ているところなのだが、行き先が絶海の孤島となれば、この方が「疾い」のだ。

 

「……ッ!?」

「新手だッ! 対策室の新手が来たぞッ!」

「対空機銃用意ッ! 撃ち落としてやれッ!」

 

 だが、ノバシェード側もマイクのヘリに気付かないほど間抜けではない。彼らはヘリから急速に降下して来た忠義を撃ち落とそうと、地上から機関銃を連射している。かなり古い年代のものを使っているようだが、それでも正常に稼働している銃器だ。当然、1発でも当たれば即死ものである。

 

「対策室の相手で忙しいだろうに、サービス精神旺盛だなッ……!」

 

 忠義は落下しながら空中で身体を捻り、紙一重のところで対空砲火をかわす。まだ彼のジャスティアドライバーは、変身に足る「速度」を検知していない。変身機能が作動する前に蜂の巣にされては、本末転倒だ。

 

「……!」

 

 地上が近付くに連れて、忠義を狙っている機関銃の周囲も鮮明に見えて来る。戦火に照らされた機関銃の近くには、弾薬を運搬するための大型トラックが停まっていた。

 そのトラックの燃料タンクに目を付けた忠義は、高速で落下しながら太腿のホルスターに手を伸ばす。そこから引き抜かれたのは、1丁の拳銃――「M1911」。アメリカ軍に制式採用されて以来、70年以上も使われて来た45口径の自動拳銃だ。

 

(見てな……親父)

 

 アメリカの騎馬警官として活躍していた父の影響を受けて以来、どの現場に赴く時も必ず携行して来た傑作拳銃。そんな「相棒」を手にして不敵な笑みを溢した忠義の銃口は、燃料タンクの位置を正確に捉えていた。

 確かな信頼性と威力故、長きに渡り重宝されて来た名銃。その歴史を誇らしげに語っていた父への憧れ。忠義はその憧憬を胸に、重く無骨な引き金に指を掛ける。

 

「……こっちもサービスしてやるよ。盛大な『花火』でな」

 

 刹那。大口径の銃口が火を噴き、強力な.45ACP弾が空を裂く。夜空を閃いた1発の銃弾が、トラックの燃料タンクに突き刺さり――そこから爆ぜた猛炎が、機関銃もろともその一帯を根刮ぎ焼き払って行く。火だるまと化した戦闘員達は地面に転がり、身体に付いた火を消そうとのたうち回っていた。

 

「うぐわぁぁあッ!」

「あ、熱い、熱いぃぃいッ!」

 

 改造人間そのものに銃弾が通じるケースは限られる。だが、ただ銃弾を当てるだけが実戦の勝ち方ではない。並外れた身体能力に胡座をかいた「超人擬き」を倒す方法など、いくらでもあるのだ。

 

「爆発だと!? 一体何が起きたッ!?」

「奴め、トラックの燃料タンクに……ッ!」

 

 予期せぬ事態に動揺した周囲の兵士達が、対空砲火の手を緩めたのはその直後だった。そして、彼らの手が止まった瞬間。ジャスティアドライバーがついに、一定の「加速」を検知する。

 

来たな(・・・)……! 変身ッ!」

 

 やがて、激しい衝撃音が響き渡ると。その震源地から噴き上がった猛煙を掻き分けるように――真紅の騎士が、この戦場に降臨した。大型刀剣「エンジンブレード」を携えた仮面ライダーオルバスが、ついに変身を完了させたのである。

 

「……変わり映えのねぇ戦闘員の群れ。そろそろ飽きたが……付き合ってやるか」

 

 自身を迎え撃とうと、小銃を手に迫り来る戦闘員達。彼らを眼前に、エンジンブレードの峰を肩に乗せた真紅の騎士は――仮面の下で、軽くため息を吐いていた。「多勢に無勢」という、本来なら絶望的であるはずのこの状況ですら、彼にとっては見飽きた(・・・・)景色なのである。

 




 今回も前回に引き続き、シャドーフォートレス島での物語をお届けして行きます。ちなみにシャドーフォートレス島という名前はMGS1の舞台「シャドーモセス島」と、MGS3終盤の舞台「グロズニィグラード(=「恐るべき要塞」)」をミックスさせたネーミングが由来となっておりました。次回もお色気要素アリの戦闘シーンになりますので、今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は、今話から参戦した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めているのですが、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、マス・ライダー軽装型もしっかり参戦しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 作者のせいでどんどんトンチキセクハラ集団と化して行くノバシェードの巻(´-ω-`)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第3話

◆今話の登場ライダー

◆アレクサンダー・アイアンザック/仮面ライダーSPR-30ミサイルスパルタン
 北欧某国の陸軍中将であり、かつては陸軍最強の精鋭特殊部隊「マルコシアン隊」を配下に置いていた人物。現在は絶海の孤島である海上要塞「シャドーフォートレス島」に左遷されており、自身の野望のために密かにノバシェードと繋がっていた。仮面ライダーのシルエットを想起させる試作強化外骨格を着用しており、銅色の仮面と白銀のボディが特徴となっている。当時の年齢は56歳。



 

「はぁ、んはぁっ、はぁあっ、はぁっ……!」

 

 ――戦闘開始から、どれほどの時間が流れただろうか。夜空を照らしていた戦火が燃え尽き、激しい戦闘行為による黒煙ばかりが立ち昇る中、全ての戦闘員達を「射殺」したヘレンはスコーピオンの銃口を下ろし、淫らに息を荒げていた。

 

「はぁっ、はっ、はぁあっ、んはぁあ……!」

 

 上下に動く肩の動きに応じてJカップの爆乳がぶるんぶるんと揺れ動き、スーツの内側で熟成された汗の匂いが仮面の隙間から漏れ出て来る。白銀の仮面の下では、絶世の美女が白い頬を桃色に上気させていた。

 

(……せめて、安らかに眠りなさい。もう2度と、こんなことに手を貸さなくても良いように……)

 

 増援の足音は聞こえて来ない。銃声も爆音も途絶え、島中から向けられていた殺気も消えた。どうやら、この島に居たノバシェードの戦闘員達はほぼ(・・)全滅してしまったようだ。悪に堕ちるしかなかった陸軍兵士達の無念を憂い、ヘレンは息を荒げながらも鎮魂の祈りを込め、片膝を着いている。

 

「自ら手を下しておいて善人気取りか? 対策室の手先」

「……ッ!?」

 

 するとその時、低くくぐもった男の声が響いて来る。咄嗟にその声に反応したヘレンは爆乳と巨尻をぶるんっと揺らして素早く立ち上がり、振り向きざまにスコーピオンを構えた。

 彼女が銃口を向けた先で佇んでいたのは――物々しい装甲服に身を包んだ、初老の巨漢。要塞内部の入り口前に立ち、銅色の鉄仮面を小脇に抱えている、2m近い屈強な大男だった。その身に纏っている漆黒のマントが、彼の威圧感をより高めている。

 

「あなたは……!」

「どうやって我々の存在に勘付いたのは知らんが……量産試作型(マス・ライダー)如きでこの島を壊滅に追いやるとは、さすがは対策室の若きエース……と言ったところか? 特務捜査官殿」

 

 老齢であることを感じさせる口周りの白髭に対して、その筋骨逞しい体躯はヒグマのようであり、精強な軍人としての覇気に満ち溢れている。その身に纏っている白銀の外骨格も、彼の巨躯に相応しい荘厳さを感じさせていた。

 

「……この島の兵士達全員がノバシェードに与していた。ということはやはり、あなたが黒幕だったのね……! シャドーフォートレス島司令官、アレクサンダー・アイアンザック中将ッ!」

 

 スコーピオンの銃口を向けながら、仮面の下で険しい表情を浮かべるヘレン。そんな彼女の「推理」を認めるかのように――初老の巨漢こと、アレクサンダー・アイアンザック中将は不敵な笑みを露わにする。

 

 約11年前の2009年。この某国を襲った旧シェードの怪人軍団を退け、救国の英雄となった「マルコシアン隊」。

 その部隊を指揮する司令官だった彼は現在、このシャドーフォートレス島に「左遷」されていたのだ。隊長であるジークフリート・マルコシアン大佐を除く部隊の全滅。その責任を問われた彼も、ここに「島流し」にされていたのである。

 

 アイアンザック自身は改造被験者ではないのだが、ノバシェードに与するには十分過ぎる恨みを抱えていたのだろう。祖国のために尽力した結果がこの仕打ちとあらば、世界を恨むのも当然と言える。近しい境遇を抱えてこの島に来た部下達に感化され、ノバシェードに参加することも、彼なりには必然だったのかも知れない。

 

「……その通りだ。奴ら(ノバシェード)資金援助(おかげ)で、私はあの計画(・・・・)を復活させるための足掛かりを得た。そして私の計画は、奴らにとっての絶大な戦力となる。良きビジネスパートナーなのだよ、奴らは」

「あの計画……!?」

 

 何らかの「含み」を持たせた台詞を吐き、ヘレンを困惑させるアイアンザック。彼が銅色の鉄仮面を被り、マスク上部と顎部装甲(クラッシャー)を手動でガシャンと閉鎖した瞬間、大きく丸い二つの複眼が赤く発光する。

 

「……!? その姿は……!」

 

 頭部から伸びる2本のアンテナに、丸い複眼状のツインアイ。そして、バッタの口元を想起させる顎部装甲。

 全体的な印象こそ、荘厳かつ禍々しい怪人のそれであったが――鉄仮面のデザインはまさしく、「仮面ライダー」を想起させるものとなっていた。

 

(「SPR-30」……? 型式番号のようだけれど、一体何の……?)

 

 その異様な外骨格の外観に、ヘレンは仮面の下で瞠目する。胸部装甲に記載された「SPR-30」という型式番号も気掛かりだ。

 どことなく仮面ライダーGを彷彿とさせる顔付きでありつつも、全身に打ち付けられたリベットや直線的な各部のラインからは、「無理矢理似せて造られた偽物」という印象を受ける。腰部のベルトはエネルギータンクの役割を担っているのか、時折怪しげな電光を放っていた。

 

「お前が何かを知る必要はない。お前が知るべきなのは……ここで死ぬという己の運命、ただそれのみだ」

 

 だが、アイアンザックはその詳細を語ろうとはしない。彼がヘレンの抹殺を宣言する瞬間、その腰部のベルトから蒼い電光が迸る。

 彼が纏う白銀の外骨格が、「戦闘体勢」に移行したのだ。最大限の勢いで稼働し始めたベルト型のエネルギータンクが、猛烈な電光を放っていた。

 

 その凄まじい放電が、ベルトのバックル部分から弾け飛んだ直後――激しい電撃によって着火された黒マントが瞬く間に炎に包まれ、アイアンザックの外骨格を容赦なく飲み込んで行く。だが、その重厚な鎧は猛火に包まれてもなお、白銀の輝きを保ち続けていた。

 

「闖入者よ……このシャドーフォートレス島の土となるが良い」

「うっ……!」

 

 やがて彼は、己を覆っていた陽炎を突き破るように歩み出して来る。ズシン、ズシンと響き渡る足音。地面に走る亀裂。ベルトのバックルから迸る電光を纏い、炎を掻き分け、大地を踏み締める白銀の鉄人。その圧倒的な重厚感と荘厳な迫力に、ヘレンはスコーピオンを構えながらも仮面の下で冷や汗をかき、思わず後退りしてしまう。その僅かな「怯み」を、アイアンザックは見逃さない。

 

「ぬぅんッ!」

 

 彼は消し炭と化して行く黒マントを破り捨てながら、一気に地を蹴ってヘレンに襲い掛かって行く。勢いよく振るわれた白銀の剛腕が、ヘレンの首を狙っていた。その巨躯からは想像もつかないスピードで迫る腕は、空を裂く轟音を響かせている。

 

「……はぁッ!」

 

 その初撃を咄嗟にかわしたヘレンは大きく跳び上がり、空中からスコーピオンを連射した。フルオート射撃の反動で、超弩級の爆乳と巨尻がぶるるんっと揺れる。

 頭上からの銃撃を浴びせられたアイアンザックは、片腕でその弾雨を難なく振り払っていた。外観に違わぬ圧倒的な防御力を目の当たりにしたヘレンは、くびれた腰を捻って華麗に着地しながらも、焦燥の汗をかいていた。その滴がボディスーツの内側に染み込み、淫らな匂いをより濃厚に熟成させて行く。

 

「その程度が限界か!? 対策室ッ!」

「……ッ! まさか、そんな新型外骨格まで用意していたなんて……!」

「新型……? ハッ、馬鹿を言うな! これは『骨董品』だ、お前達の装備に比べればな!」

「なんですって……!?」

 

 初めて目の当たりにした外骨格を「新型」と呼んだヘレンの言葉を否定する、「骨董品」というアイアンザックの発言。その言葉に驚くヘレンの眼前に、アイアンザックの剛腕が再び迫って来た。

 

「むぅんッ!」

「……はぁッ!」

 

 照準は間に合わない。咄嗟にそう判断したヘレンは後方倒立回転跳びの要領で、爆乳と巨尻をぷるるんっと弾ませながら弓なりに仰け反り、ラリアットを回避する。そして回転の際に振り上げた長い美脚で、アイアンザックの下顎を勢いよく蹴り上げたのだが――銅色の鉄仮面には、傷一つ入っていない。

 

「……ッ!?」

「ふん、今の蹴りは攻撃のつもりだったのか? やはりその強化服……機動性と引き換えに、少々軽く(・・)し過ぎてしまっているようだな」

 

 堅牢で無骨なアイアンザックの外骨格に対して、極限まで装甲を削っているヘレンの軽装型はあまりにも「軽い」。その特性が裏目に出てしまったのか、アイアンザックには全く効いている気配が無かった。

 

「くっ……それなら、これはどうかしらっ!?」

 

 だが、相性の良し悪しだけで勝負が全て決まるわけではない。そんな師匠(マリン)の教えを胸に地を蹴り、爆乳と巨尻をばるんっと揺らして跳び上がったヘレンは、先ほど戦闘員を昏倒させた「幸せ投げ」を仕掛けようとしていた。空中に跳びながら、両脚を大胆にがぱっと開いた彼女は、アイアンザックの頭を太腿と股間でむにゅりと挟み込んでしまう。

 

「これで終わりよッ――!」

 

 銅色の鉄仮面がむっちりとした太腿によって固定され、アイアンザックの視界がヘレンの股間で封じられた。そのままくびれた腰を大きく捻ったヘレンは、一気にアイアンザックの身体をフランケンシュタイナーの要領で投げ飛ばそうとする。

 

「――えっ!?」

 

 だが。アイアンザックの頭を挟み込んだまま身体を大きく傾けたヘレンは、それ以上動けなくなっていた。なんと彼はヘレンの太腿で頭を挟まれたまま、脚力と首の筋肉、そして体幹だけで耐え抜いていたのである。

 

「……こんな児戯で私を倒せるとでも思ったのか? 随分と甘く見られたものだ。一つ言い忘れていたが……『救国の英雄』と言われているジークフリート・マルコシアンは、この私が直々に鍛え上げた『弟子』なのだよ。奴にあらゆる戦闘技術を叩き込んでいたこの私に、小娘如きの技など通用せん」

 

 ヘレンの投げを耐え、踏ん張っているアイアンザックの片足。その足元からはミシミシと亀裂が走っており、彼の外骨格が誇る並々ならぬ馬力(パワー)を物語っている。全体重を乗せたヘレン渾身の「幸せ投げ」は、アイアンザックの力技で阻止されてしまったのだ。

 

「そ、そんなっ……!」

「……だが。『軽さ』が売りの強化服にしては、なかなかの威力だな。私と、この『スパルタン』でなければ耐えられなかっただろう」

「うっ……!?」

 

 アイアンザックの外骨格――「スパルタン」の並外れたパワーに慄く暇もなく。ヘレンの肉厚たっぷりな太腿が、彼の両手でガッチリと掴まれてしまう。今度は逆に、彼女の方が逃げられなくなっていた。

 

良いもの(・・・・)を見せてくれた、せめてもの礼だ。苦しむ暇もなく……楽に殺してやる」

「えっ……ちょっ、待ちなさっ、きゃあぁあぁあっ!?」

 

 そのまま逆にヘレンの身体を持ち上げたアイアンザックは――彼女の股間に鉄仮面を埋めたまま、パワーボムの要領で彼女の後頭部を地面に叩き付けてしまうのだった。

 あまりの衝撃に、その着地点から亀裂が走る。大地を砕く轟音が、この一帯に響き渡る。

 

「……あ、がっ……!」

 

 絶大な破壊力によって仮面を破壊され、金髪のショートヘアと青い瞳を持つヘレンの美貌が露わになる。仮面を失ったことにより、彼女の汗ばむ肉体から滲み出る甘いフェロモンも、外に漏れ始めていた。未だに男を知らない処女(バージン)でありながら、その肢体から漂う淫靡な色香は最高級の娼婦すら遥かに凌いでいる。

 

「あっ、ががっ……!」

 

 驚愕の表情を浮かべたままぷるぷると痙攣している彼女は、大股をがぱっと下品に開いた「でんぐり返し」の体勢のまま、しばらく身動きが取れなくなっていた。夜空に向かってぶるんっと突き出されている安産型の巨尻も、ヒクヒクと小刻みに震えている。

 

「はっ……はへっ……!」

 

 ぷっくりとした唇を大きく開き、犬のようにだらしなく舌を突き出している彼女の貌は、汗に塗れて淫らに上気していた。口元に張り付いたブロンドの髪先も、その淫靡な表情に彩りを添えている。

 まるで――圧倒的な「雄」の膂力に組み敷かれ、屈服させられた「雌」のようであった。何人でも産める極上の巨尻を、アイアンザックに向けて無防備に突き上げているヘレンの姿は、「完全敗北」を宣言した雌そのものだったのである。

 

「はぁあ、ぉ、おおっ……!」

 

 恥辱に塗れた無様な格好だが、今の彼女は自分の姿勢すら正しく認識出来なくなっていた。何しろ並のマス・ライダー装着員ならば、確実に首の骨が折れて即死しているところなのだ。

 ましてや防御力を犠牲にしている軽装型の装着員では、到底耐えられるはずがない。アイアンザックの宣言通り、本来なら仮面ごと頭部を粉砕され、苦しむ暇もなく即死していた場面なのである。

 

「……ふむ」

 

 しかしヘレンは無意識のうちに最適な「受け身」を取っていたのか、痙攣はしていても骨折すらしていなかった。パワーボムの威力に悶絶しているということは、その程度の「余力」は残していることも意味している。

 

「あはぅっ……!」

 

 「でんぐり返し」の姿勢から足を下ろして仰向けの状態になった彼女は、まだ辛うじて意識を保っている。その並外れたタフネスと運の強さには、殺すつもりでパワーボムを繰り出していたアイアンザックも密かに感嘆していた。

 

「……? この小娘の顔、眼と髪の色……。まさかお前は……」

「あっ、ぐ……うっ……!」

「いや……そんなはずはないな。それにしても、今の一撃で完全に仕留めたつもりだったのだが……装甲を削ぎ落とした軽装型の割には、随分としぶといではないか。だが……それも終わりだ」

 

 だが、乳房と桃尻を揺らして倒れ込んだ彼女に対する慈悲など、アイアンザックは一欠片も持ち合わせていない。露わになったヘレンの美貌にどこか「引っ掛かるもの」を感じながらも、彼は躊躇う素振りもなく、仰向けに倒れて苦悶の表情を浮かべている彼女の頭を踏み潰そうとしていた。

 

「ぬッ……!? 何者だッ!」

「……よう、待たせたな」

 

 だが、次の瞬間。真横から襲い掛かって来た「殺気」に反応したアイアンザックは、咄嗟にその場から飛び退いてしまう。ヘレンの窮地に駆け付けて来た「真紅の騎士」――仮面ライダーオルバスが、このシャドーフォートレス島に馳せ参じたのだ。

 





 今回も前回に引き続き、シャドーフォートレス島での物語をお届けして行きます。今回は本章のボス敵を務める、アイアンザックの本格登場回となりました。彼がヘレンの前に現れる場面については、MGS2のソリダス登場シーンを意識しておりました……。次回からはこの戦いに新世代ライダーの1人も加わり、よりバトルもヒートアップして行きます。今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は、本章でも活躍している「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めているのですが、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、マス・ライダー軽装型も参戦しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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 ガッチャードのデザイン、王道さと奇抜さが程よく同居しているような感じで、個人的にもかなり好みだったりします。カッコ良く動いているところを早く見てみたいですなぁ(*'ω'*)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第4話

 

 ヘレンの頭を踏み潰す寸前で足を止め、咄嗟にその場から飛び退いたアイアンザック。彼が立っていた場所目掛けて、飛び蹴りを放つように現れたのは――深紅の鎧を纏う「仮面ライダーオルバス」だった。

 

「待たせたな、アーヴィング捜査官! ここからは俺に任せてくれ……!」

「う、うぅ……あ、あなたは……仮面ライダーオルバス……!? どうしてここへ……!」

「匿名でのタレコミが来たのさ。この島が、ノバシェードの根城になってるってな……!」

「あなたのところにまで……!?」

 

 予想だにしなかった新世代ライダーの登場に、混濁していたヘレンの意識も徐々に回復して行く。ふらつきながらもなんとか上体を起こした彼女に、オルバスは素早く手を差し伸べていた。

 

「……お互い、誰かに転がされてここまで来ちまったってことなんだろうな。だが、ノバシェードが居るって事実が変わらねぇなら俺達のやることは一つだ。そうだろ?」

「……えぇ、そうね!」

 

 オルバスこと忠義(チュウギ)・ウェルフリットの手を借りて起き上がったヘレンは、ようやく「持ち直した」らしい。彼女は毅然とした表情でアイアンザックをキッと睨み付け、片膝を着いた射撃姿勢でスコーピオンを連射する。

 忠義の元にも届いていたというタレコミ。それが誰の仕業なのかは定かではないが――今は、この得体の知れない強敵を倒して島を制圧するのが先決だ。

 

「よぉし……行くぜぇッ!」

 

 そんな彼女の判断を汲んだオルバスはスコーピオンでの援護射撃を背に、エンジンブレードを振り上げながら一気に走り出して行く。アイアンザックはスコーピオンの銃弾を片腕で凌ぎながらも、オルバスを迎え撃つべく拳を構えていた。

 

「仮面ライダーオルバス……! まさか、新世代ライダーにしてジャスティアタイプでもあるお前が来るとはな! どうやってこの島の実態を突き止めたのかは知らんが、これは僥倖だ……! 私の計画の成果を証明する上で、これ以上の相手はいないッ!」

「計画、だぁ……? 一体何が狙いなのかは知らねぇが……ロクでもないことってだけは間違いなさそうだなッ!」

 

 新世代ライダーの一員である現役警察官にして、一光(にのまえひかる)博士の成果物――ジャスティアドライバーの適合者でもある忠義。そんな彼が変身するオルバスに狙いを定め、アイアンザックが鉄拳を振るう。

 だが、ヘレンの射撃に気を取られていた彼の拳打は微かに精細さを欠き、オルバスの顔面を掠めるのみであった。その一瞬の好機に乗じて、深紅の悪魔はエンジンブレードを突き出して行く。

 

「でぇぁあッ!」

「ぐぉおッ……!?」

 

 アイアンザックは咄嗟に重心を後ろに倒し、仰け反るように斬撃をかわす。だが、真っ直ぐに伸びたエンジンブレードの切っ先は、胸部装甲の一部を斬り飛ばしていた。スコーピオンの銃弾を何発撃ち込まれても傷一つ付かなかったアイアンザックの外骨格に、大きな亀裂が走る。

 だが、勝負はまだ終わってはいない。

 

「……ぬぇえいッ!」

「くッ!?」

 

 斬撃のダメージに苦悶の声を上げながらも、アイアンザックはその場に踏み留まり、背部に隠し持っていた刀剣を引き抜いていた。オルバスの腕が伸び切る瞬間を狙っていたアイアンザックは、横薙ぎに刀剣を振るってエンジンブレードを弾き飛ばしてしまう。

 最も厄介な「得物」さえ弾いてしまえば、本体など恐るるに足らず。そう判断したアイアンザックは一気に、己の刀剣で斬り掛かるのだが――オルバスは颯爽と上に跳んで斬撃をかわしていた。

 

「条件が同じなら勝ち確、ってか?」

「ぬぅッ!?」

 

 アイアンザックの頭上を取ったオルバスは、彼の頭頂に両手を乗せると、側転の要領で大きく足を広げて彼の背後にくるりと着地する。即座にアイアンザックの腰に両腕を回したオルバスは――自分より遥かに大きなアイアンザックの身体を、ジャーマンスープレックスで後方に叩き付けるのだった。

 

「とぉあぁあッ!」

「ごあっ、はッ……!?」

 

 弧を描くように放り出されたアイアンザックの巨体が、シャドーフォートレス島の大地に後頭部から墜落する。あまりの衝撃による轟音が天を衝き、地面に激突したアイアンザックの鉄仮面に亀裂が走っていた。

 その仮面が減り込んでいる地面も大きくひび割れており、ジャーマンスープレックスの威力を雄弁に物語っていた。あまりのダメージに痙攣するアイアンザックの手から、刀剣が滑り落ちて行く。

 

「……イイの入ったろ」

「ぬぐ、ぁあッ……!」

 

 アイアンザックの腰を抱き締めながら弓なりに仰け反り、その巨体を真後ろに突き刺したオルバス。彼の技を受けた巨漢の老将は「でんぐり返し」の格好のまま、再び苦悶の声を上げている。技を仕掛けたオルバス自身は預かり知らぬことだが、この光景は先ほどの戦いでヘレンが受けた「恥辱」に対する、ある種の「意趣返し」のようであった。

 

「……ぬがぁあァッ!」

「うおっ……!」

 

 だが、これだけで完全に敗北するアイアンザックではない。彼は両腕で地面を押し上げるように、その体勢から力任せに脱出していた。ジャーマンスープレックスのホールド状態から力技で逃れたアイアンザックは、オルバスやヘレンに対して距離を取るように後ずさっている。

 

「……さすがだな、仮面ライダー……! この『コアフォーム』の装甲を一撃で抉った上に、300kg以上もの外骨格を軽々と投げ飛ばすとは。だが……この程度では、私を止めることは出来んぞッ!」

「あっ、ちょっ……!? 待ちやがれッ!」

「逃がさなっ……あうっ!」

「アーヴィング捜査官っ!? くそっ……!」

 

 やがてアイアンザックは破壊された胸の辺りを抑えつつ、逃げるように要塞内部へと走り去って行く。そんな彼を追うべく、オルバスとヘレンは走り出そうとしていたが――ヘレンは先ほどのダメージが響いたのか、足がもつれてしまっていた。彼女にオルバスが気を取られている間に、アイアンザックは足早に姿を消してしまう。

 

「はぁっ、はぁあっ、んはぁあっ……! ごめんなさい、ウェルフリット巡査……! 奴の攻撃、思ってたより効いてたみたいっ……!」

「謝ることなんかねぇよ、アーヴィング捜査官。あんたが1人でこの島をほとんど制圧してくれたおかげで、俺は全く消耗せずにここまで来られたんだ。そのうち、救援のヘリも来る。あの爺さんは俺に任せて、あんたはここでゆっくり休んでいてくれ」

「……ありがとうっ……!」

 

 片膝を着き、乳房と桃尻を揺らしながら、扇情的な甘い吐息を漏らしているヘレン。彼女の肢体にぴっちりと張り付いたスーツの内側では、激しく消耗している肉体から滲み出る芳醇な汗が、白い裸身をじっとりと濡らしていた。

 くびれた腰に反して大きく実っている特大の爆乳と、安産型の巨尻。その豊穣な果実は淫らに汗ばみ、スーツに閉じ込められた内側で芳醇な香りを熟成させている。仮面を破壊されたことによって、その汗の匂いがスーツの内側から僅かに漏れ出ていた。オルバスも仮面を装着した状態でなければ、彼女の肉体から漂う特濃のフェロモンに気を散らされていたところだ。

 

「さぁて……逃がさねぇぞ爺さんッ! 待ちやがれッ!」

 

 ヘレンの肩を軽く叩き、休息を促した後。オルバスは地面に突き刺さっていたエンジンブレードを引き抜き、要塞内部へと一気に突入して行く。ヘレンはそんな彼の背を、複雑な表情で見送っていた。

 

「……」

 

 ――その頃。遥か遠くからヘレン達の様子を見つめている、1人の美女が妖艶な笑みを浮かべていた。青いチャイナドレスのスリットによって露わにされた白い美脚が、月光に照らされ淫靡な輝きを放っている。凹凸の激しいその肉体からは、芳醇な女のフェロモンが隅々から滲み出ていた。

 ウェーブが掛かった黒のロングヘアは夜風に靡き、フレグランスな甘い香りを周囲に振り撒いている。ドレスを押し上げる釣鐘型の豊満な爆乳と、くびれた腰つきに反した特大の爆尻も、極上の色香にさらなる彩りを添えていた。尻肉にきつく食い込んだTバックのパンティは、ドレスの上からでも分かるほどに彼女のヒップラインを浮き立たせている。

 

「……ふふっ」

 

 月明かりの下で妖しく微笑む、蠱惑的な謎の美女。彼女はぴっちりと肢体に張り付いたチャイナドレスを翻し、その場から静かに立ち去ろうとしていた。引き締まった細い腰を左右にくねらせ、豊穣な乳房と安産型の桃尻をたぷんたぷんと上下に弾ませながら、踵を返した彼女は闇の向こうに消えて行く。その白く優美な手に、何らかの重火器らしきものを握り締めたまま――。

 

 ◆

 

 それから、僅か数分後。要塞内部に残っていた戦闘員達の妨害を斬り払いながら猛進撃していたオルバスは、薄暗い最深部の一室までアイアンザックを追い詰めていた。冷たい壁を背にしたアイアンザックはようやく足を止め、オルバスと真っ向から対峙している。

 

「……とうとう追い詰めたぜ、アイアンザック中将。あんたの計画ってのが何だったのかは知らねぇが……そろそろ年貢の納め時らしいな?」

 

 軽装型を装着したヘレンを圧倒していたアイアンザックの外骨格。その性能はかなりのものだったようだが、それでも数多くの死線を潜り抜けて来たオルバスの敵ではなかった。このまま正攻法で戦い続ければ、オルバスのパワーが競り勝つのは目に見えている。

 アイアンザックもそれを肌で理解しているのか、先ほどのように拳を構えようとはしなかった。だが、その仮面の下に隠された双眸に諦めの色は無い。むしろここからが「本番」なのだと、彼の目が訴えている。

 

「ふっ……そうか、知らんか。やはり……お前達でさえ知らんのだな。私の……『スパルタン計画』を」

「スパルタン計画、だと……?」

「知らないというのなら、それも良かろう。……今すぐに教えてやる! この下(・・・)でなァッ!」

 

 一瞬のうちに殺気を剥き出しにしたアイアンザックは、白銀の剛腕で地面を殴り付け、部屋の底を破壊してしまう。足場を自ら殴り壊して「大穴」を開けるという彼の暴挙に瞠目する暇もなく、オルバスは彼と共に、この部屋の真下に隠された「地下格納庫」へと落下してしまうのだった。

 

「おわぁあぁあッ!? ……く、くそッ! あの野郎、一体何を考えてッ……!?」

 

 咄嗟に空中で体勢を切り替えたオルバスは何とか着地に成功する。だが、顔を上げた彼の眼前には――さらに驚くべき光景が広がっていた。

 オルバスが降り立ったこの広大な地下格納庫には、さらにもう1機の強化外骨格が佇んでいたのである。それはアイアンザックが着ていたものよりも、さらに禍々しい外観を持っていた。しかし、驚くべき点はそこではない。

 

「な、なんだよこりゃあ……! こんなデカブツ、一体どうする気なんだ……!?」

 

 アイアンザックが着ていた鎧よりも、さらに大型なのだ。全長はおよそ315cm。並の人間が扱うような代物とは到底思えないサイズだ。その胸部装甲には、「ICBMR」という謎のイニシャルが記載されている。背面には超大型の刀剣が装備されており、両腰部や両脚部、側頭部には単装砲まで搭載されていた。

 そんな大型外骨格の巨躯を仰ぐオルバスの眼前で、その胴体部に位置するハッチが開かれる。どうやら、このハッチの内側がコクピットになっている構造のようだ。その中から現れたのは――先ほど床を殴り砕いていた、あのアイアンザックだった。

 

 ただでさえ大柄なアイアンザックは、元々装着していた外骨格の上に、さらに巨大なアーマーを「二重」に纏っている。より凶悪になった大型外骨格の面相は、見た目以上の迫力を見せていた。崩落の混乱に乗じて、彼はさらに強大な外骨格を「重ね着」していたのである。

 

「……これこそ、我が『スパルタン計画』の最高傑作。仮面ライダーSPR-30こと、『ミサイルスパルタン』の真の姿……『フォートレスフォーム』だ」

「……どの辺が『ミサイル』なのかは知らねぇが、随分と物騒なマトリョーシカだな。そいつがあんたの切り札ってことか?」

「半分は、な。私の計画はまだ完成には至っていない。このミサイルスパルタンの真価を発揮するには、もう一つのピースが必要なのだよ」

「へぇ……? どうやら、あんたの計画は志半ばで頓挫することが確定しちまったようだな。完成前から俺達に見つかっちまったからにはよッ!」

 

 速攻で決着を付けるべく、オルバスは一気に距離を詰めてエンジンブレードを振るう。しかし彼の刃がアイアンザックに届くよりも速くハッチが閉じられ、切っ先が弾かれてしまった。厚く強靭な巨人の装甲は、エンジンブレードも通さないほどの硬度であるようだ。

 

「ちっ……! 見掛け倒しであって欲しかったぜ!」

「御期待に添えず何よりだ。……そう言えば先ほど、どの辺が『ミサイル』なのだと言っていたな。教えてやろう」

 

 並外れた防御力に舌打ちしながらオルバスが後退した瞬間、歪な駆動音と共に起動したミサイルスパルタンが、全身の装甲を展開して行く。両肩、胸部、大腿部、爪先、頭部の装甲。それら全ての装甲によって隠されていた、ミサイルポッドが露わにされた。さらに後方の壁面から伸びて来た2本のロボットアームが、巨人の両腕部に大型ミサイルランチャーを取り付けて行く。

 

「……あぁ、そういうこと?」

 

 仮面の下で頬を引き攣らせたオルバスが、乾いた笑みを浮かべた瞬間――全門から一斉に発射されたミサイルの大群が、彼目掛けて一気に襲い掛かって来る。猛烈な爆炎がこの地下格納庫を照らしたのは、その直後だった。

 





 今回も前回に引き続き、シャドーフォートレス島での物語をお届けして行きます。今回はオルバスの戦闘シーンが中心となりました。本章だけ何でこんなにプロレス路線なのかと言いますと、作者が最近キン肉マン読んでたからです。テリーマンのテーマいいよね。ちなみに装動のゼロワンを縮尺の基準にした場合、エントリーグレードのゼロワンはだいたい3m超えくらいのガタイになります。フォートレスフォームの体格設定はそこから取りました(←※自宅のプラモから話を考えるタイプ
 いよいよ姿を現し、ヘレンを圧倒していたミサイルスパルタン。本章のボスを務める彼の実態は次週で明かされる予定ですので、次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は、本章でも活躍している「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めているのですが、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、マス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 バイオ4のベリィだと音が出ない方が即死級の威力だったりする。今回のジャーマンはちょっと打ちどころがイマイチだったのかも知れませんな(ノД`)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第5話

 

 広大な格納庫を火の海に変える、ミサイルスパルタンの一斉射撃。全身に内蔵されていた無数の小型ミサイルが容赦なく乱れ飛び、両腕部の大型ミサイルランチャー、さらには各部に搭載された単装砲も火を噴いていた。その上、両手のマニピュレーターまで単装砲に変形させ、その砲身からも砲弾を連射している。

 そんなミサイルスパルタンの一斉砲火を辛うじて回避していたオルバスは、深紅の鎧を煤で汚しながらも、熱で歪んだコンテナの影に身を隠している。その遮蔽物から鉄人の巨躯を覗き込むオルバスは、仮面の下で冷や汗をかいていた。

 

「……そういやぁ、さっきそのデカブツのことを『仮面ライダー』とも呼んでいたな? 随分と悪趣味な当てつけじゃねぇか。それに、そんな図体じゃバイクにも車にも乗れやしねぇぞ。そのデカブツのどの辺が『ライダー』なんだ?」

「ふっ、無知とはやはり罪なものだな。我々がノバシェードと繋がっていた……という単純な事実以外は何も知らぬままここに来た、ということか。良かろう、冥土の土産に教えてやる。スパルタン計画のこと……そして、このミサイルスパルタンの価値というものをな」

 

 コンテナの影に背を預けたまま、ミサイルスパルタンの精神を乱そうと挑発の声を上げるオルバス。そんな彼の言葉に鼻を鳴らすアイアンザックは、オルバスを探すように辺りを見渡しながら、ミサイルスパルタンの巨体を操縦していた。

 

 ――やがて、彼の口からスパルタン計画の実態が語られる。

 

 約11年前の2009年。仮面ライダーGと旧シェードの戦いが始まってから間も無い頃、当時の北欧某国では早期に「仮面ライダーの力を再現した新兵器」を開発する計画が始まっていた。当時のアイアンザックが主導していたその「スパルタン計画」は、番場惣太(ばんばそうた)総監の新世代ライダー開発計画より10年も早く、Gの再現を目指していたのである。

 

 だが、当時の絶望的な技術不足もあって計画は難航。最終的にはGそのものの完全再現は諦め、様々な追加装備(オプション)による一芸に特化させた「試作機」を多数配備することにより、「総合的」にGの戦力を再現するという方針に決定された。

 その成果物たる試作外骨格(プロトタイプ)の運用をアイアンザックから命じられていたのが――ジークフリート・マルコシアン大佐率いる、伝説の英雄部隊。某国陸軍最強の精鋭陸戦部隊である、「マルコシアン隊」だったのである。

 

 しかし、所詮は未熟な技術で強引に急造した粗悪な模造品。スパルタン計画によって開発された試作機のほとんどは旧シェードの怪人達には通用せず、マルコシアン隊は彼らとの戦いで壊滅してしまった。人知れず誕生していた仮面ライダー達は、そのまま人知れず戦火の彼方に消え去ったのである。

 辛うじて侵攻を退けることには成功したものの、隊長のジークフリートを除く全ての隊員は戦死。スパルタン計画の試作機も全壊し、上層部を納得させられるだけの成果を挙げられなかった同計画は凍結・抹消となった。そして、この計画に自らの威信を賭けていたアイアンザックも失脚し、シャドーフォートレス島に左遷されてしまったのである。

 

 それから約10年間、アイアンザックは自分の尽力を否定した全てに対する激しい恨みを募らせながら、落伍者達の「流刑地」であるシャドーフォートレス島の司令官を務め続けていた。ところが1年前、そんな彼の元にノバシェードの研究者達が現れた。彼らは絶海の孤島で燻っていたアイアンザックに、スパルタン計画の「再生」を持ち掛けて来たのである。

 「圧倒的な暴力」が大金になる商売は、この世界の何処にでも在る。その「商い」で巨額の資金を蓄えていた死の商人達(ノバシェード)ならば、アイアンザックのスパルタン計画を蘇らせることも容易だったのだ。

 

 スパルタン計画が「無かったこと」にされ、仮面ライダーとして認められることもなく消え去ってから10年が過ぎた頃。番場惣太の主導により、世に出ることになった新世代ライダー達。一光博士によってロールアウトされた、ジャスティアライダー達。彼らの華々しい活躍を報じるニュースの数々は、アイアンザックの尊厳をこれ以上ないほどにまで傷付けていた。

 

 ――本来なら、世間からヒーローと称賛されていたのは、私のスパルタンシリーズであるはずだったのだ。なぜあんな、10年も後から出て来た連中が認められて、私の計画が認められないのだ。

 

 そんな鬱屈とした思いを抱えて来たアイアンザックにとっては、ノバシェードの提案こそが最後の希望だったのである。彼らへの全面的な協力を条件に資金援助を受け、密かにスパルタン計画を再始動させたアイアンザック。彼は自分を認めなかった全ての人間達に対する報復として、かつて机上の空論(ペーパープラン)のままで終わっていた「悪魔の兵器(ミサイルスパルタン)」の建造に着手していた。

 

 かつては予算不足という理由から、開発に漕ぎ着けることすら叶わなかった幻のスパルタン。それが二重外骨格という特性を持つミサイルスパルタンだったのだが――この兵器の真価は、それだけではなかった。

 過剰なまでの防御性能を追求した理由は、ただ敵の攻撃に耐えるためだけではなく、「遥か上空からの降下」に適応するためでもあった。このミサイルスパルタンは、敵地の頭上(・・・・・)からのミサイル弾幕で攻撃対象を焦土にするための兵器なのである。

 

 弾頭部にミサイルスパルタンを搭載して目的地に射出する、大型ロケット「ブースターサイクロン号」。その推進力を借りて世界各地の都市へと迅速に降下し、対改造人間用ミサイルによる絨毯爆撃で全てを灰にする。大都市一つを殲滅し得るその絶対的火力を以て、人類に仇なす存在を根刮ぎ消し去る。

 それが「Inter Continental Ballistic Masked Rider」――「ICBMR」。あるいは「大陸間弾道仮面ライダー」の別名を持つ、ミサイルスパルタン本来の運用方法であった。そのためのブースターサイクロン号を建造する場所として、元々ミサイルサイロとして利用されていたシャドーフォートレス島の施設は、まさに「うってつけ」だったのである。

 

 すでにミサイルスパルタン本体は完成。後はブースターサイクロン号の開発資金を得れば、同機は全世界に対してスパルタン計画の存在を知らしめることが出来る。

 世界中のどこにでも駆け付け、嵐のように戦い、圧倒的な武力を以てシェードを駆逐する。そんな仮面ライダーGの「一面」だけを完全に再現した悪魔の鉄人が、世界中に牙を剥くことになるのだ。

 

 ――その計画の全貌を聞かされたオルバスの手が、義憤に震える。ギリギリと握り締められたエンジンブレードの刃先が振動する。「仮面ライダー」という英雄の名に泥を塗る最悪の存在に対し、忠義・ウェルフリットは静かな闘志を燃やしていた。

 

「……弾道ミサイルのドタマに乗せてブッ飛ばす仮面ライダー、だと……? それでGの再現……? 笑えねぇぜ、全く笑えねぇ……! 『仮面ライダー』って存在を、単純な力でしか測れねえような奴が! 軽々しくその名前を使ってんじゃあないぜッ!」

「今の話がおふざけに聞こえるか? 私は本気だ。私は11年前のあの日、現場の中継を観ていた。日本の放送局前に現れた仮面の戦士が、異形の怪物達を矢継ぎ早に斬り捨てるあの光景を。そして誓ったのだ、必ずあの力をモノにして見せるとな!」

 

 オルバスの怒号を耳にしたミサイルスパルタンが、ついに彼の位置を捕捉する。単装砲が火を噴くと同時に全身の装甲が展開され、その全てのミサイルポッドから大量の誘導弾(ミサイル)が連射された。乱れ飛ぶ弾頭の嵐が、オルバスに襲い掛かる。

 

「くッ……! それで造ったのがそのデカブツかよ! どうせ怪人を街ごと全部焼き払うつもりだって言うんなら、そんな回りくどいことしてないで最初から爆薬たっぷりのミサイルでも造っとけ!」

「ただの弾道ミサイルでは改造人間を倒せても、国際社会からの非難は免れん。……何事も物は言いよう。『体裁』が大事なのだよ。仮面ライダーという救世主を、必要とされる場所に送り届ける……という『体裁』がな」

「詭弁を……!」

「それをジャッジする権利などお前には無い。ミサイルスパルタンが詭弁の化身となるか否か……その答えを『検証』するのも我が計画の目的なのだからな」

 

 オルバスが身を隠していたコンテナは一瞬で消し飛び、そこに居た深紅の騎士は間一髪のところで地を転がって回避する。屋内で戦っている今は「手数」をある程度セーブしているようだが、全弾を撃ち尽くす勢いならば都市一つを殲滅出来るほどの火力なのだ。新世代ライダーと言えども、まともに喰らえばひとたまりもない。

 

「そのために俺達を……新世代ライダーやジャスティアライダーを倒して、自分の成果物(スパルタン)こそが『本物』だと言いたいってわけか! こんなやり方で俺達と張り合おうったって、誰もあんたのことなんか認めちゃくれねぇよッ!」

「認めるさ。絶対的な力を目の当たりにすれば、人は否応なしに認めざるを得なくなる。『正義』とは常に、『力』の後に付いて来るものなのだよ。かつての我々がそうだったようにな!」

「だったら……あんたを信じて最期まで付き合った、マルコシアン隊の連中はどうなる!? そいつらは皆、あんたが造ったスパルタンシリーズとやらに命を賭けていたんだろう!? (カシラ)のあんたがこんなことをしていたら、そいつらだって浮かばれねぇよ!」

「この私が奴らの弔い合戦をしている……とでも思ったのか? これは奴らへの復讐でもあるのだよ。腐った政府や軍の上層部だけではない。私のスパルタンシリーズを一つ残らず台無しにした挙句、私の顔に泥を塗り、こんな僻地にまで追いやったのは奴らの失態だ!」

「……!?」

 

 ミサイルスパルタンの周囲を全速力で疾走し、誘導弾や砲撃の猛雨を掻い潜りながら、爆炎を背に疾るオルバス。彼は一縷の望みに賭けて、アイアンザックの良心に訴えようとしていた。だが、彼の身勝手極まりない思考回路はオルバスの想定を大きく超えていたようだ。

 

「マルコシアン隊が旧シェードに完勝さえしていれば、私のスパルタン計画は大々的に認知され、賞賛され、歴史に記録されていたのだ! だのにスパルタンシリーズを開発した私の功績は抹消され、試験装着者(モルモット)に過ぎなかったマルコシアン隊の下らん自己犠牲ばかりが称賛されている……! ジークフリート・マルコシアン! あの無能な愚図の木偶の坊が私の人生を狂わせたのだッ! 無駄な犬死にで私の名誉を貶めた、奴の部下共も纏めて同罪だァッ!」

「……ッ! あぁハイハイ、そうかよ分かったよ分かった分かりました! あんたの良心にほんのちょっとでも期待した俺がバカだったぜ! いちいち他人のせいにしてなきゃ自我すら保てねぇってんなら、頭冷えるまで失神してろッ!」

 

 アイアンザックの傲慢な物言いに怒りを露わにしながら、オルバスは再びコンテナの影に飛び込む。そこを走り抜けた先からオルバスが飛び出して来ると予測したミサイルスパルタンは、ミサイルポッドの照準をその座標に向けていた。

 

「ぬッ……!?」

 

 だが、予測通りにコンテナから飛び出して来たのはオルバス本人ではなく――彼が(デコイ)として放り捨てていたエンジンブレードだった。

 

「……俺達を倒すって息巻いてる奴が! こんな古い手に引っ掛かってんじゃねーよッ!」

 

 そのフェイントに反応が遅れた隙を突き、反対側の影から飛び出したオルバスが急接近して行く。彼はコンテナに飛び込んだ瞬間、エンジンブレードを投げ飛ばしながら体勢を切り返し、真逆の方向に駆け出していたのだ。

 

「おのれッ!」

「その図体じゃ……遅過ぎんだよッ!」

 

 ミサイルスパルタンも即座に狙いを切り替えようとするが、ここまで来ればオルバスの方が速い。最大稼働スキルを発動した深紅の騎士は地を蹴って跳び上がり、勢いを乗せた後ろ回し蹴りを繰り出そうとしていた。「懐」に入り込まれたミサイルスパルタンはそんな彼を迎え撃つべく、単装砲形態になっていた両手をマニピュレーターに再変形させる。その手指で背部の超大型刀剣を引き抜き、そのまま一気に振り下ろして来た。

 

「はぁあぁああッ!」

「ぐはっ、あ……!?」

 

 だが、オルバスの必殺技に相当する「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」は、アイアンザックの予測を遥かに上回る破壊力を秘めていた。超大型刀剣を真っ向からへし折った後ろ回し蹴りは、そのまま勢いを殺されることもなく、ついにミサイルスパルタンの胴体部に炸裂する。先ほどの斬撃とは桁違いの衝撃に襲われ、胴体部ハッチは木っ端微塵に破壊されていた――。

 





 今回も前回に引き続き、シャドーフォートレス島での物語をお届けして行きます。ミサイルスパルタンの実態やアイアンザックの目的も明かされ、本章もいよいよクライマックスに差し掛かって来ましたねー。第1話に出て来た「ICBMR」という単語の時点で、色々と察しておられた方もいらっしゃったのではないでしょうか。この戦いも佳境に入って来ましたので、次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و
 ちなみにミサイルスパルタンの設定は、「メタルギアソリッド・ポータブルオプス」に登場した弾道メタルギアをベースにしておりました。作者的にも思い出深い作品なのでございます(*´꒳`*)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」はオルバスが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、マス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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 ミサイルスパルタンの型式番号である30という数字は、実在の大陸間弾道ミサイル「ミニットマン」の型番「LGM-30」から取っておりました。電車に乗る仮面ライダーも居れば飛行機に乗る仮面ライダーも居るのだから、ミサイルに乗る仮面ライダーもそのうち現れる……のかも?(´ω`)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 第6話

「ぬぅうぅッ……!? まさか、これほどとはッ……!」

 

 オルバスのFIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイクによって外装の一部を破壊され、コクピット内を剥き出しにされたアイアンザックは、仮面の下で驚愕の表情を浮かべていた。遥か上空からの降下にも適応出来る頑強な装甲が、たった1発のキックで破壊されてしまったのである。

 

 ――絶対的な力を目の当たりにすれば、人は否応なしに認めざるを得なくなる。そんな彼自身の言葉が、皮肉な形で跳ね返って来た結果であった。だが、彼はまだ諦めてはいない。

 

「うぐッ!?」

「……まだだぁぁあッ! まだ終わってなぁあぁぁあーいッ!」

 

 コクピットを剥き出しにされた無防備な状態であるにも拘らず、アイアンザックは怯むことなく戦闘を続行しようとしていた。力を使い果たしたオルバスの身体を両手で捕まえた彼は、そのまま装甲を開いてミサイルを撃ち込もうとしている。

 ミサイルスパルタンの両手が、爆炎に巻き込まれることも厭わないつもりなのだろう。3m級の鉄人はオルバスの身体を捕まえながら、最後の一斉発射を繰り出そうとしていた。

 

「く、くそッ……こんな近距離で大量のミサイルを直撃させたら、あんたもタダじゃ済まないはずだぞ! ハッチが壊れてる今の状態でそんなことになったら、剥き出しのコクピットに居るあんたまで……!」

「ふん、臆したか仮面ライダー! 私は今さら死を恐れるつもりなどない! 死よりも耐え難い11年を過ごして来た私にとって、一瞬で終わる死など極楽も同然よッ!」

「し、始末に追えねぇ爺さんだぜッ……! そういうガッツはもうちょっと世の中のために使ってくれよなッ!」

 

 オルバスはなんとか拘束から逃れようと懸命にもがくが、最大稼働スキルによって力を使い果たした今の状態では、ミサイルスパルタンの剛腕から逃れる術などない。まさしく、絶体絶命の窮地であった。

 

「……その通りね! 正しく在ろうとする気持ちを失った力は、ただの暴力! そんなものに、私達は絶対に屈しないッ!」

「あっ……アーヴィング捜査官ッ!?」

 

 しかし次の瞬間、鈴を転がすような美声がこの一帯に響き渡って来る。その声の主であるマス・ライダー軽装型ことヘレン・アーヴィングが、最後の力を振り絞ってこの場に駆け付けて来たのだ。上階の大穴から地下格納庫の様子を覗き込んでいた彼女は、「降下」の準備を始めている。

 

「はぁッ!」

 

 腰部のベルトから射出されたワイヤーを部屋の壁に固定した彼女は、そのワイヤーを伸ばしながら急降下して来る。アイアンザックのパンチによって空けられた大穴に飛び込み、この格納庫まで舞い降りて来た彼女は、滑り込むように現れながらスコーピオンを構えていた。

 

「ははははははッ、馬鹿な女だ! コアフォームにさえ手も足も出なかったお前に何が出来る!? そんな豆鉄砲がこのフォートレスフォームに通用するものかッ!」

 

 だが、基本形態(コアフォーム)にすら通じなかったスコーピオンの銃弾が、より頑強な外装を得た要塞形態(フォートレスフォーム)に通用するとは到底思えない。そんなオルバスの懸念を肯定するかのように、アイアンザックも嘲笑の声を上げていた。

 

「……さぁ、それはどうかしらッ!」

 

 だが。仮面を失ったヘレンは余裕の笑みすら浮かべて、スコーピオンを片手で構えている。そして彼女が引き金を引き、単発(セミオート)で放たれた銃弾が閃くと――その弾丸は、アイアンザックの胸を容赦なく貫いたのだった。

 

「な、にッ……!? そんな、馬鹿な……!」

「あっ……!?」

 

 予想だにしなかった結果に、アイアンザックもオルバスも仮面の下で瞠目する。彼女はコクピット内に居るアイアンザックの胸を銃撃したのだが――その着弾点は、オルバスがエンジンブレードで装甲を斬り飛ばした箇所だったのだ。

 

 FIFTYΦブレイクによって胴体部のハッチは壊され、その中に居たアイアンザック本人も、エンジンブレードの刃で胸部装甲の一部を破壊されている。つまりその一点だけは、スコーピオンの銃弾でも通じる状態になっていたのだ。ヘレンはそんな極小の弱点を、正確無比な射撃で撃ち抜いて見せたのである。

 

「……私達を侮ったこと。それがあなたの敗因よ、アイアンザック」

「ぐ、はぁあぁッ……! おっ、のれぇえッ、対策室の雌犬がぁぁあ……! あのまま無様に恥辱を晒し、屈服しておれば良かったものをッ……!」

 

 銃弾を撃ち込まれた胸部から鮮血が噴き上がる。その胸を抑えながら苦悶の声を上げるアイアンザックは操縦を乱し、ミサイルスパルタンの巨躯を大きく揺らめかせていた。その弾みで鉄人の手から解放されたオルバスが、地を転がってその場から離れて行く。

 

 壁に背を預けた巨大な鉄人(ミサイルスパルタン)は、全身から火花を散らしていた。どうやら、アイアンザックの身体を貫通した銃弾が大型外骨格の内側(・・)で跳弾し、内部機構の異常を引き起こしていたらしい。どれほど頑強な鎧であっても、内側からの攻撃には耐えられないのだ。

 

「……許さん、許さんぞ貴様らぁあッ……! こうなれば残る全弾を撃ち尽くし、この島諸共全てを吹き飛ばしてくれるッ!」

「……ッ!? そうはさせるものですかッ!」

 

 だが、このままで終わるアイアンザックとミサイルスパルタンではない。身体中から火花を発しながらも、巨大な鉄人は軋む両腕を前方に翳し、全てのミサイルを一斉に発射しようとしていた。

 街を灰にするミサイルスパルタンの全火力が解き放たれれば、オルバスもヘレンも島自体も、火の海の中へと消えて行くことになる。そうはさせじとヘレンは再びスコーピオンを構えるが――引き金を引いても、銃口に反応か無い。

 

「弾切れ……!? こんな時にッ! オルバス、あなたの最大稼働スキル(フィフティーファイブレイク)は!?」

「生憎、まだ充填期間(クールタイム)が終わってねぇ……! ちくしょう、こんなところでッ……!」

 

 残弾が尽きたヘレンはオルバスの方へと視線を移すが、戦闘を続行出来る力を使い果たしたのは彼も同じだったようだ。片膝を着いている深紅の騎士は、悔しげに拳を震わせている。

 このままでは2人とも助からない。何か手を打たなければ。そう思考を巡らせていたヘレンの眼前に――あるものが飛び込んで来る。この状況を打開し得る「それ」は突然、ヘレンの目の前に「落下」して来たのだ。

 

「……っ!? こ、これは……!」

 

 スコーピオンに対応した兵器として設計されている、ノバシェード対策室が保有する装備の一つ――「GG-02サラマンダー」。スコーピオンの銃身に装着することで、グレネード弾を発射出来るようになるカスタムパーツだ。

 新世代ライダーの1人である「仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)」こと、水見鳥清音(みずみどりきよね)。彼女が運用しているギガントやケルベロスランチャーと比べれば、火力の面では大きく劣る。しかし、そうであるからこそ。大量のミサイルを搭載しているフォートレスフォームへの誘爆を避けつつ、そのパイロットであるアイアンザックのみを確実に「制圧」出来る。今のミサイルスパルタンに対しては、最も有効な装備だ。

 

「どうしてこれがこんなところに……!?」

 

 そんな対策室の装備がなぜ、こんなところに落ちて来たのか。その答えを求めて、破壊されている天井を見上げたヘレンは――驚愕の表情を露わにしていた。

 

 ウェーブが掛かった艶やかな黒のロングヘア。

 身体にぴっちりと張り付き、扇情的な曲線を浮き上がらせている青のチャイナドレス。

 深いスリットから覗いている、スラリと伸びた白く長い美脚。

 肉感的な太腿と、ハイヒールによってピンと伸びている艶やかな爪先。

 戦士として苛烈に鍛え抜かれ、細く引き締まっている、くびれた腰つき。

 ヘレン以上に豊穣な「実り」を見せ付け、ドレスを内側からはち切れそうなほどに押し上げている、釣鐘型の爆乳。

 妊娠・出産に最適なラインを描き、何人でも産める身体であることをその膨らみで主張している、安産型の爆尻。

 むっちりとした桃尻に深く食い込み、豊満な白い尻肉を露わにしているTバックのパンティ。

 そして――この遠距離からでも匂って来る極上のフェロモンと、妖艶に微笑む口元。

 

(うそ……!?)

 

 顔こそハッキリとは見えていないが――その圧倒的過ぎるプロポーションは、見間違えようがない。同性すらも惑わせる、このフレグランスな女の香りは間違いない。男の本能を狂わせ、獣欲を煽るために生まれて来たかのようなその肢体と色香は、どんなに高級な娼婦でも決して真似出来ないのだ。その絶対的な美貌とフェロモンは、「長い付き合い」だったヘレン自身がよく知っている。

 

(真、凛っ……!?)

 

 夢か、幻か。「大穴」の淵からヘレン達を見下ろしている謎の女は、真凛・S・スチュワートを想起させる姿だったのである。その人物が、上階からサラマンダーのパーツを投げ落としていたのだ。

 





 今回も前回に引き続き、シャドーフォートレス島での物語をお届けして行きます。「仮面ライダーガッチャード」の放送開始が迫る中、本章もとうとう次回で最終話となりますので、最後までどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」はオルバスが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場してくれる予定です。彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、マス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 バイオ感ある展開だし、ここは定番のロケランっぽくギガントやGXランチャーの方がいいかな……という案もありましたが、仮面ライダーG-verⅥと装備が被るのでサラマンダーの方をブン投げて貰いました。G-verⅥこと水見鳥清音は番外編「タイプγと始祖の怪人(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)」で主役を務めておりますので、彼女のことが気になる方は要チェックですぞ〜(о´∀`о)


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孤島編 悪魔の鉄人と気高き処女姫 最終話


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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストを、ここぞというところで再掲……! ヘレンと真凛をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございます……!m(_ _)m



 

(あの青いチャイナドレスはまさか……!? ……いいえ、今は奴を仕留めるのが先決。そういうことよね、真凛!)

 

 突如ヘレンの目の前に現れた、チャイナドレスの美女。あれは自分の心の弱さが見せている幻なのか。それとも本当に、自分が知っている真凛・S・スチュワートなのか。

 今は、それを確かめていられる状況ではない。もし本当に真凛本人だったのだとしても、今はミサイルスパルタンの打倒を優先しろと言うだろう。

 

(幻影でもなんでもいい……! 真凛! 今だけでも、私に力を貸してッ!)

 

 僅かな逡巡の果てに、その結論に辿り着いたヘレンは――意を決したように凛々しく気高い貌を露わにする。眼前のカスタムパーツを手に取った彼女は、即座にスコーピオンの銃身下部にそれを装着し、サラマンダーを完成させていた。

 

 ――そうよ、ヘレン。あなたはそれで良い。

 

 謎の女が、人知れずそう呟くと同時に。グレネードランチャーとして生まれ変わった愛銃を構えたヘレンは、その砲口をミサイルスパルタンの胴体部に向ける。狙いはもちろん、諸悪の根源たるアイアンザックだ。

 

「……このミサイルスパルタンは我が計画の成果物(スパルタンシリーズ)の中で、最も仮面ライダーGの戦力に近付いた最高傑作なのだッ! 私の研究こそがッ……絶対なのだァアァーッ!」

 

 かつてシェードを圧倒し、「正義」と「力」の象徴となった仮面ライダーの再現。スパルタン計画にも、新世代ライダー開発計画にも共通しているその目的に、最も近付いたのは自身の最高傑作(ミサイルスパルタン)なのだとアイアンザックは叫ぶ。

 

 そんな彼と真っ向から対峙するヘレンは――憔悴しながらも、挑発的な笑みを浮かべて引き金に指を掛けていた。まるで、真凛が乗り移ったかのように。

 

「……生憎だけど。『仮面ライダー』からは、あなたが1番遠い(・・)のよッ!」

 

 そんな彼を永遠に黙らせる、必殺のグレネード弾。サラマンダーの砲口から飛び出したその1発が、容赦なくミサイルスパルタンの胴体に――アイアンザックに炸裂する。

 発射の反動により、ヘレンの爆乳と巨尻がどたぷんっと揺れ動き。ブロンドのショートヘアが靡く瞬間、スーツの内側で汗ばんだ彼女の肉体が、その隅々から芳醇な雌の匂いを滲ませる。操縦者を「爆破」された鉄人が力無く斃れたのは、その直後だった。

 

「ぐぅおぉおあぁあぁああッ……! か、めん、ライダァァアッ……! その名は私のぉおぉッ……!」

 

 地に倒れ伏したミサイルスパルタンの巨大な腕は軋みながらも動き続け、ヘレンとオルバスを捕まえようとする。だが、その手指が彼らに届くことはなかった。

 うつ伏せに倒れ、ミサイルスパルタンの巨躯に押し潰されたアイアンザックは、そのまま最愛の傑作と運命を共にすることになったのである。そんな彼の最期を見届けたヘレンとオルバスは、複雑な表情を浮かべて立ち上がっていた。

 

『自爆装置が作動しました。全構成員は直ちに避難してください。繰り返します。自爆装置が作動しました。全構成員は直ちに――』

「なっ……自爆ですって!?」

「アイアンザックの野郎、俺達を道連れにしようってのか! どこまでも往生際の悪いッ!」

 

 その時、突如この一帯にけたたましい警報が鳴り響いて来る。どうやらアイアンザックの死に反応して、自爆装置が作動するシステムが設けられていたようだ。万一新世代ライダー達に敗れたとしても、タダでは死なないという執念によるものなのだろう。

 とにかく、この場に留まっているわけには行かない。オルバスとヘレンは来た道を引き返して要塞から脱出するべく、アイアンザックが開けた「大穴」を見上げていた。

 

 すでに謎の女は姿を消していたが、ヘレンが降下前に固定していたワイヤーはまだ上階に繋がっている。これを利用しない手はないだろう。

 

「私のワイヤーなら安全に上まで登れる。さぁ、私に掴まって!」

「……お、おう!」

 

 ワイヤーの固定が十分であることを確認しつつ、ヘレンはオルバスに向けてか細い手を差し伸べる。凹凸の激しいボディラインが露わになっている軽装型のスーツを一瞥したオルバスは、躊躇いがちにその手を取り、彼女のくびれた腰に腕を回していた。

 

 鎧越しである以上は感触など分からないのだから、ヘレンの爆乳がむにゅりと密着して来ることなど、気にする必要はない。そもそも迅速にここから脱出しなければならない場面なのだから、いちいち気を取られてはいられない。この状況を鑑みれば、容易に頭で理解出来ることだ。

 

「……まるっきり意識されないってのも、それはそれでなんかイヤだな……」

「何か言った?」

「別に!」

 

 それでも、「健全な男子」であるオルバスこと忠義の本心としては――当のヘレンが全く気にする素振りも見せない点について、思うところがあったのか。彼はどこか腑に落ちない表情を浮かべながら、ヘレンの身体を抱き寄せていた。

 

 ◆

 

 そして、アイアンザックが開けた「大穴」から上階に登った2人は、残された力を振り絞って要塞内部を走り抜けて行く。疲弊し切った身体を引き摺るように、入り口前まで足を運んだ2人を待っていたのは――1機のヘリコプターだった。

 

「待ってたぜぇお2人さん! エスコートの準備は万全だァ、早いところ乗ってくれッ!」

「おうっ、待たせたなマイク! アーヴィング捜査官、行くぜ!」

「ええっ!」

 

 オルバスこと忠義を乗せて来たヘリが、2人を暖かく出迎えていたのである。共に幾つもの事件を解決して来た「相棒」である、ヘリの男性パイロット――マイクに手を振り、オルバスは高度を下げた機内に素早く跳び乗って行く。彼の手を取ったヘレンも、それに続いて何とかヘリに乗り込むことが出来た。

 

「マイク、急いでくれ! もうすぐ島が吹っ飛ぶ!」

「おいおいマジかそりゃあ!? どんなサプライズだよ、今日は俺の誕生日じゃないぜぇ!? ……それなら超特急で出発しなきゃなぁ、2人ともしっかり掴まってろよッ!」

「えぇ、お願いっ!」

 

 2人の搭乗を確認したマイクは彼らの言葉を待つまでもなく、一気に高度を上げて全速力でその場から飛び去って行く。シャドーフォートレス島を飲み込むほどの爆炎が要塞内部から噴き上がったのは、それから僅か1分後のことであった。

 

「……っはぁ〜! 今日の俺達、過去最高にツイてるぜぇ……!」

「あぁ……全く、最高だ」

 

 ミサイルスパルタン用の予備弾頭をはじめとする島中の爆薬が、自爆装置によって一気に誘爆したのだ。あとほんの少し離陸が遅れていたら、マイク達も島と運命を共にしていたのだろう。その光景を見届けたマイクとオルバスは顔を見合わせ、共に安堵の息を漏らしていた。

 

「ふぅっ……今回ばかりはさすがにダメかと思ったぜ。そういやぁ、アーヴィング捜査官はそのスーツ脱がないのか? 随分汗だくじゃねぇか」

「……私にここで裸になれって言ってる?」

「あぁ……そういうタイプのスーツか。悪い、今のはナシだ」

 

 間一髪のところで窮地を脱したことを実感し、変身を解除したオルバスこと忠義。彼は素顔を晒しているヘレンと共に、深く息を吐いて背凭れに身体を預けて行く。水平線の彼方からは朝陽が登り始めており、眩い陽光が彼らを照らし出そうとしていた。

 

「……帰ったら1杯やろうぜ、マイク。今日ばっかりは、飲まなきゃやってられねぇよ」

「おう、それなら場所は俺に任せとけ。良い店知ってんだ」

「ハッ、それを聞いてロクな店に当たった試しが無いんだが?」

「今度は間違いねぇよ、マイク様の眼を信じなぁ」

「信じてるさぁ、パイロットとしての眼だけはな」

 

 赤と黒を基調とするノースリーブの特殊戦闘服を着用している、金髪碧眼の色白な美男子。そんな正体を露わにした忠義は朝陽に視線を向けながら、疲れ果てた表情を浮かべてマイクと軽口を叩き合っていた。

 

「……しっかしアイアンザックの野郎、最後の最後まで人騒がせな奴だったぜ」

「本当、間一髪だったわね……。それにしても、このサラマンダーは一体……?」

 

 一方、ヘレンは何故かあの現場に落ちていたサラマンダーのパーツに視線を落とし、訝しげな表情を浮かべている。そんな彼女の手元に気付いたマイクは、あっと驚いたように声を上げていた。

 

「あっ!? おいおいアーヴィング捜査官! そのサラマンダー、あんたが見付けてくれてたのか!? 対策室の武器庫からサラマンダーのパーツが盗まれてたってんで、あっちじゃ大騒ぎになってたんだぜ!?」

「え……!?」

「監視カメラの映像を細工されてたせいで、誰が盗んだのかも分からなかったって話だが……ひとまず回収には成功したってことだな! さすがはアーヴィング捜査官だぜぇ、ミサイルみてぇなオッパイだけが取り柄じゃないってことだなっ!」

「むっ……ちょっと、失礼ねっ!」

 

 マイクの無遠慮な発言に眉を顰め、ヘレンは抗議の声を上げ始めていた。そんな彼らを乗せたヘリは、水平線を艶やかに彩る朝陽を浴びながら、出発地点であるこの某国の首都(エンデバーランド)を目指して大空へと飛び去って行く。

 

「……ふふっ」

 

 海面を漂う水上バイクに跨り、その様子を見上げていた1人の爆乳美女は――蠱惑的な笑みを浮かべながら、ハンドルに白く優美な手指を絡ませていた。青い扇情的なチャイナドレスは、その豊満な肢体にぴっちりと密着している。

 安産型のラインを描いた極上の爆尻は、シートにむにゅりと押し付けられ淫らに形を変えていた。エンジンが始動した瞬間、推定Kカップという超弩級の爆乳がどたぷんっと揺れ動いている。細く引き締まった腰つきに対してあまりに豊穣な果実が、ぷるぷると弾んでいた。

 

 忠義とヘレンにシャドーフォートレス島の情報を流し、古巣(・・)である対策室の武器庫からサラマンダーを「拝借」し、ヘレンの窮地に駆け付けていた謎の美女。彼女は空の彼方に飛び去ったヘリを見送った後、真逆の方向へと水上バイクを切り返し、水飛沫を上げて海原の向こうへと走り去って行く。

 

「……これからも進み続けなさい、ヘレン。あなた自身が信じる道を。あなた自身が信じる、正義のために……」

 

 自分達はそれぞれ違う「道」に進んで行くしかないのだと、「最愛の弟子」に示すかのように。妖艶な微笑を浮かべる爆乳美女こと真凛・S・スチュワートは、大海の果てに向かって旅立つのだった――。

 

 ◆

 

 ――私です。アイアンザックは「虎の子」のミサイルスパルタンを撃破され、死亡しました。ヘレン・アーヴィングは仮面ライダーオルバスと共に、無事に島を離脱しております。

 

 ――しかし、シャドーフォートレス島は自爆装置の作動によって焦土と化しています。ミサイルスパルタンも失われ、ノバシェードはますます衰退の一途を辿ることになるでしょうが……ヘレン・アーヴィングの功績を証明し得る物的証拠も残ってはいないでしょう。アイアンザックが完成させたミサイルスパルタンを横取りしつつ、彼女に王族(・・)としての「箔」を付ける……というあなたの目論見通りには行かなかったようですね。

 

 ――あら、あなたともあろうお方が何を驚かれるのでしょう。もしや……この私が何も知らないまま、あなたから提供された情報を対策室とオルバスに流していた……とでも? アイアンザックは気付きかけていたようですし……私もとうに知っているのですよ。本人達ですら知らない、彼らの……アーヴィング兄妹の正体を。

 

 ――1980年代にこの国で起きていた、王位継承争い。その政争の中で当時の第2王子は、第1王子派による暗殺から逃れるため、合衆国政府(ホワイトハウス)の手を借りてアメリカに亡命された。そして、アメリカ人としての国籍を得た()第2王子の新たな名は……アラン・アーヴィング。

 

 ――2人の子宝に恵まれたそのお方は、大恩あるアメリカに報いるため、旧シェードの蛇型怪人(ハイドラ・レディ)に暗殺されるまで……合衆国政府直属の特務捜査官として、命の限り尽力されていた。

 

 ――そして、彼が遺された2人の兄妹。ロビン・アーヴィングとヘレン・アーヴィングは、亡き父上の無念を背負って捜査官となり。妹のヘレンは奇しくも、任務としてこの国に還って来た(・・・・・)。……数奇な巡り合わせがあったものですね。

 

 ――40年前の政争のことは、あなたも深く悔いておられたのでしょう。故に弟君(・・)の「忘れ形見」を、1人でも王族として迎え入れようとお考えになった。そのための「箔」を付けさせるために……アイアンザックの計画を察知していながら、マス・ライダー軽装型が完成するまで敢えて彼を泳がせていた。

 

 ――しかし、それは決して許されることではありません。彼女はあくまでヘレン・アーヴィングという1人の人間。ご自分が「お世継ぎ」に恵まれなかったからといって……あなたの独り善がりな「贖罪」に、彼女を利用させるわけには行きません。

 

 ――あなたの思惑があろうと無かろうと、彼女はこの先も特務捜査官として戦い続けるでしょう。それが結果として、この国を守ることにも繋がります。しかしそれはヘレン・アーヴィングという一個人の矜持であり、この国の王族としてではありません。どうか、それだけは忘れないで頂きたい。

 

 ――過去に囚われているあなたに、彼女の将来を決めさせはしません。ゆめゆめ、お忘れなきよう……国王陛下。

 






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 今回でとうとう、シャドーフォートレス島を舞台にした孤島編も完結となりました。しぶとくしつこいアイアンザックとの戦いも終わり、ようやく事件もひと段落。しかしこれはノバシェードとの戦いのほんの一部に過ぎず、忠義とヘレンはこの先も厄介な事件に立ち向かって行くことになるのです……。その辺りのことは、これまで公開されてきたエピソード群で描かれております。機会がありましたら、他のエピソードもぜひご一読くださいませ〜( ^ω^ )
 ちなみに、それほど本筋に関わることでもありませんでしたが、今話はヘレンのちょっとした「正体」が判明するお話でもありましたねー。彼女が初登場した凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)で、いきなり勲章まで貰っていたのはこういうことだったわけですなー。国王陛下的には「真凛にはああ言われたけど、やっぱ弟の娘なんだもん!」という心境だったのでしょう。本章第2話でマイクが冗談半分で言っていた「分かってて泳がせてた」説が丸々大正解だったわけですな。ともあれ、本章も最後まで見届けて頂き誠にありがとうございました!٩( 'ω' )و
 余談ですが、今話ラストで登場した「アラン」という名は「宇宙刑事ギャバン」に登場した宇宙刑事の名前から取っておりました(*´꒳`*)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」はオルバスこと忠義が主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ! 今話に登場したヘリパイロットのマイクも、この作品の第1話に登場しております!(о´∀`о)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの孤島編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。さらに今話で初登場したマイクも美味しい(?)ポジションを貰っておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も連載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、本章の主役であるヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、マス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 本章を書き始めたきっかけは最近のバイオCG映画「デスアイランド」でした。アクション満載で面白かったのですよ〜(*^ω^*)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第1話

◆今話の登場ライダーと登場ヒロイン

◆アレクサンダー・アイアンザック/仮面ライダーSPR-30ミサイルスパルタン
 北欧某国の陸軍中将であり、かつては陸軍最強の精鋭特殊部隊「マルコシアン隊」を配下に置いていた人物。現在は絶海の孤島である海上要塞「シャドーフォートレス島」に左遷されており、自身の野望のために密かにノバシェードと繋がっていた。仮面ライダーのシルエットを想起させる試作強化外骨格を着用しており、銅色の仮面と白銀のボディが特徴となっている。当時の年齢は56歳。

◆ミロス・ホークアイザー/仮面ライダーSPR-27スナイパースパルタン
 北欧某国の陸軍少佐であり、旧シェードの元改造被験者でもあった狙撃手。現在は絶海の孤島である海上要塞「シャドーフォートレス島」に左遷されており、自身の死に場所を得られる機会を求めてノバシェードと繋がっていた。仮面ライダーのシルエットを想起させる試作強化外骨格を着用しており、青い仮面と漆黒のボディが特徴となっている。当時の年齢は32歳。

忠義(チュウギ)・ウェルフリット/仮面ライダーオルバス
 アメリカでは騎馬警官として活躍していた父の影響で警察官となった、ハーフの青年。明朗快活でお調子者だが、真っ直ぐな心根の持ち主でもある好青年。天才女性科学者・一光(にのまえひかる)博士が開発した仮面ライダーオルバスに変身する。当時の年齢は21歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

真凛(マリン)・S・スチュワート
 ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、ヘレン・アーヴィングの同僚にして師匠のような存在だった日系アメリカ人。気高く凛々しい才色兼備の女傑だが、独断専行が災いして対策室から追放されてしまい、それ以降は裏社会で活動する女探偵として独自にノバシェードを追っている。青いチャイナドレスによって強調された白い太腿には、投擲用のダガーナイフを装備している。当時の年齢は27歳。
 スリーサイズはバスト116cm、ウエスト62cm、ヒップ105cm。カップサイズはK。



 

 ――2020年7月下旬深夜。北欧某国領海内に位置する海上要塞「シャドーフォートレス島」は、凄絶な戦場と化していた。

 この当時、ノバシェード対策室所属のヘレン・アーヴィング捜査官が、裸より恥ずかしい格好(マス・ライダー軽装型)でこの島に潜入して来ていたのである。島中に鳴り響く警報、轟音、爆音、銃声。その全てが、ノバシェード構成員の巣窟と化していたこの島を脅かしている。

 

『侵入者を発見! 直ちに侵入者を排除せよ! 繰り返す、侵入者を発見――!』

 

 緊急警報のアナウンスが薄暗い地下要塞の全域に鳴り響き、野戦服姿の兵士達が物々しい重火器を構えながら、通路を慌ただしく走り抜けて行く。そんな彼らの喧騒を他所に、独り悠々とした佇まいで歩みを進めていた「司令官」は――ある1人の若き将校と相対していた。

 

「……ホークアイザー少佐、どこに行くつもりだ。侵入者の始末に向かえと、私は確かに命じたはずだぞ」

 

 2m近い巨躯と荘厳な覇気を纏うアレクサンダー・アイアンザック中将。この島の司令官である彼は漆黒のマントを靡かせ、眼前の将校を鋭く射抜いている。「侵入者」ことヘレン・アーヴィングの抹殺に動いている他の兵士達とは真逆の方向に歩み出していた将校に、彼は訝しげな視線を向けていた。

 

「えぇ。今まさに、その『侵入者』の始末に向かっているところです」

「なに……?」

 

 一方、195cmという長身の持ち主である若き将校――ミロス・ホークアイザー少佐は、アイアンザックの迫力を前にしても涼しげな微笑を浮かべている。その全身は青と黒を基調とする強化外骨格に覆われており、彼が小脇に抱えている仮面(マスク)は、アイアンザックが纏っている旧時代の遺物(スパルタン)と同じ意匠が施されていた。

 さらにその背中には、身の丈を超えるほどのサイズを誇る大型の特殊狙撃銃が装備されている。ボルトアクション式レバーの存在が窺えるその狙撃銃は、持ち主の鎧――「スナイパースパルタン」と同じ青基調に塗装されていた。

 

 ――約11年前の2009年に起きた、旧シェード北欧支部との武力衝突。その戦場において歴史に名を刻むほどの活躍を果たした、この北欧某国の象徴たる絶対的な「英雄」が居た。アイアンザックの元弟子にして部下でもあった、ジークフリート・マルコシアン大佐だ。

 彼が率いていた最強の陸戦部隊「マルコシアン隊」は、当時の陸軍が開発した試作強化外骨格「スパルタンシリーズ」の鎧を纏い、旧シェードの怪物達に敢然と立ち向かったのだという。だが、その戦いで部隊は隊長のジークフリートを除き全滅。スパルタンシリーズの試作機全ても大破し、開発計画の責任者だったアイアンザックはこのシャドーフォートレス島に左遷された。

 

 そして唯一生き残ったジークフリートも、「エンデバーランド事変(・・)」と呼ばれたこの戦いの後に退役し、消息を絶った。それから約10年後――すなわち今から約1年前に当たる、2019年頃。旧シェードの改造被験者達による自助組織を前身とする武装集団・ノバシェードは、明智天峯(あけちてんほう)を筆頭とする首領格3名を新世代ライダー達に倒され、混迷の時を迎えていた。

 そんなノバシェードの混乱を抑えつつ、幹部格の1人として組織の一部を纏めていた天才科学者――斉藤空幻(さいとうくうげん)は突如、このシャドーフォートレス島で燻っていたアイアンザックに接触して来たのである。無知な世界にスパルタンシリーズの真の素晴らしさを教えてやらないか、と。そんな悪魔の誘いに、アイアンザックは容易く乗せられてしまったのだ。

 

 そして、この島で開発されたのが――アイアンザックが夢に描いたまま、机上の空論(ペーパープラン)となっていた「ミサイルスパルタン」。そして旧シェードとの戦いで一度は破壊された試作機の一つに当たる、「スナイパースパルタン」だったのである。

 ミサイルスパルタンの基本形態(コアフォーム)に当たる外骨格はアイアンザックの物となり、スナイパースパルタンの外骨格はホークアイザーの鎧となっている。旧時代の外骨格を装着している2人の男は、一触即発の空気の中で視線を交わしていた。

 

 艶やかな銀髪を靡かせる絶世の美男子。そんなホークアイザーの左眼に装着された漆黒の眼帯と、その周りに残っている深い傷跡は、彼が歩んで来た戦いの歴史を強く物語っている。だが、そんな彼の飄々とした佇まいに、アイアンザックは眉を顰めていた。

 

「……対策室の手先の他にも、この島に潜り込んで来たネズミが居たというのか?」

「司令もご存知の通り、この島のレーダーやソナーは老朽化が著しく、我々に言わせればほとんど使い物になりません。……『私の眼』でなければ、見逃してしまうところでしたな」

「……」

「あぁ、ご心配には及びません。部下達にはすでに、これも司令の指示であると伝えております。……あなたの目が『節穴』だとは、誰も思ってはおりませんよ」

 

 眼帯に覆われた左眼を指差しながら、ホークアイザーは冷ややかな微笑を浮かべてアイアンザックの傍らを通り過ぎようとする。そんな彼を鋭く睨み付けたアイアンザックは懐から水平2連銃を引き抜き、真横を通ろうとしたホークアイザーのこめかみに銃口を突き付ける。

 しかし銀髪の美男子は、動じることなく右眼でちらりとアイアンザックの方を見遣っていた。撃てるものなら撃ってみろ、と言わんばかりの態度にアイアンザックの青筋が浮き立つ。

 

「……貴様のそういう、何もかも見透かしたような『眼』が気に食わん。旧シェードの玩具にされていた敗北者が、偉そうな口を叩きおって。その旧式外骨格(スパルタン)を貴様に預けたのは間違いだったようだな」

「おやおや……こんなところを兵に見られては混乱の元になるのでは? 司令官たるもの、大局を見誤ってはなりませんな」

「……その侵入者とやらを片付けたら、直ちに前線の部隊と合流しろ。私の命令は絶対だ……いいな」

「えぇ……もちろんですとも」

 

 いけ好かない存在ではありつつも、その「実力」はアイアンザックも認めているのだろう。彼は忌々しげにホークアイザーを睨み付けながらも2連銃を下ろし、そのまま重々しい足音と共に立ち去って行く。黒マントを靡かせるその後ろ姿を見送った後、ホークアイザーも彼とは真逆の方向へと歩み出していた。

 

「……奇遇だな、司令。俺も……あんたの存在が昔から気に食わない」

 

 やがて、不敵な笑みを浮かべて本性を露わにした彼は。左眼を覆っていた眼帯を剥ぎ取り、道の端へと投げ捨てながら――通路の先にある出口へと向かって行く。眼帯が外された左眼は妖しい輝きを放っており、その瞳には照準線(レティクル)を想起させる模様が刻まれていた。

 

 ◆

 

「……変わり映えのねぇ戦闘員の群れ。そろそろ飽きたが……付き合ってやるか」

 

 島の海岸線付近に位置する、対空機銃等が設置されているエリア。その地点に降下した仮面ライダーオルバスこと忠義(チュウギ)・ウェルフリットはエンジンブレードを手に、迎撃に現れた兵士達を次々と切り捨てていた。燃料タンクへの引火による大火災に飲み込まれた戦場。その地獄絵図に、兵士達の断末魔が轟いている。

 

(……仮面ライダーオルバス。新世代ライダーの一員であり、ジャスティアタイプの運用も任されている期待のホープか。なるほど、奴の性格にはぴったりのキャンプファイヤーというわけだ)

 

 ホークアイザーが通路から出た先は、その火災現場を観測出来る山の斜面であった。専用の大型狙撃銃を担ぎながら、闇夜の山林へと足を運んだ彼は、双眼鏡の役割を果たしている左眼の能力で、オルバスの戦闘を遠方から観測している。彼が最初に「目視」で発見したヘリコプターは、すでに島から一旦離れてしまったようだ。

 

 通常、狙撃手は観測手との2人1組で行動するものなのだが、彼は旧シェードに改造された左眼の能力により、観測手の役割もある程度こなしながら任務を遂行出来るのだ。左眼だけを改造された元被験者である彼もまた、人間社会に拒絶されこの島に流された「厄介者」の1人なのである。

 

 そして左遷された先でアイアンザックと出会ったことが、彼にとっての最大の「契機」となってしまった。この島に配属された陸軍部隊とノバシェードの癒着を経て「再始動」されたスパルタン計画。その本命であるミサイルスパルタンとは別に「再生産」されたのが、今まさにホークアイザーが装着している旧式外骨格――「スナイパースパルタン」なのだ。

 

(……だが、少々目立ち過ぎたな。派手な火災のおかげで暗視装置を使うまでもなく、お前の姿がよく見える。俺に死に場所を与えてくれる相手はどうやら……お前ではなかったらしい)

 

 胸部装甲に「SPR-27」と記載されている、青と黒の外骨格。その鎧を纏っていたホークアイザーは鉄仮面を被り、顎部装甲(クラッシャー)を手動でガシャンと閉鎖する。すると緑色の右眼と赤い左眼が妖しく発光し、全身から蒸気がブシュウと噴き出て来た。腰部に巻かれた、エネルギータンクの役割を持つベルトも眩い電光を放ち、外骨格の「起動」を報せている。

 赤い左眼は前方に突き出たスコープ状となっており、ホークアイザーの能力をさらに補強する機能が備わっているようだ。装着前よりもさらに高い倍率でズーム出来るようになった彼の眼は、激しい戦闘を繰り広げているオルバスの姿をハッキリと捉えている。

 

(仲間を大勢()ってくれた礼だ。お前のような派手好きには不似合いな、呆気ない死をくれてやる)

 

 背中に装備していた大型狙撃銃を構えたホークアイザーは、左眼でオルバスの動きを観察して風の流れを読みつつ、右眼で狙撃銃のスコープを覗き込む。ホークアイザー自身の技量と改造人間としての能力を活かし、彼はオルバスの頭部に狙いを定めていた。

 

「……ッ!?」

 

 だが、死に場所を求める孤高の狙撃手は引き金を引くことなく――その場から飛び退いてしまう。彼が身を隠していた茂みに、数本のナイフが飛んで来たのだ。

 

(奴以外の侵入者が他にもッ……!?)

 

 仮面の内部に搭載されたAI補助機能による索敵能力。その範囲外から投げ込まれた刃に、ホークアイザーは瞠目する。ナイフが飛んで来た方向から即座に「伏兵」の位置を推測した彼は、素早く狙撃銃を構えるが――怪しげな影はそれ以上の疾さで、山林を駆け抜けていた。

 だが、その姿は見逃していない。ウェーブが掛かった艶やかな黒髪に、扇情的な青いチャイナドレス。スリットから覗いている白く肉感的な美脚に、ふわりと舞い上がった裾から窺えるTバックのパンティ。そして規格外の大きさを誇る超弩級の爆乳に、細く引き締まった腰つき。むっちりと実った安産型の爆尻。

 

(あの女、間違いない……! 対策室から除名されたのではなかったのか!? なぜ奴がこの島にッ……!)

 

 ノバシェード対策室きってのエースと恐れられていた、最強の特務捜査官――真凛(マリン)・S・スチュワート。その存在をノバシェードから知らされていたホークアイザーは、予期せぬ「第3の侵入者」の出現に驚愕していた。

 対策室から追放されたという情報はブラフだったのか。それとも、個人的な恨みでこの島に来るほどの狂人だったのか。いずれにせよ、このまま野放しにしておくわけには行かない。彼は素早く標的(ターゲット)を切り替え、真凛の影に狙撃銃を向ける。

 

「んはぁっ、はぁっ、はぁんっ……!」

 

 一方、真凛は何らかの重火器らしきものを背負っているためか、僅かに呼吸を乱していた。豊満な爆乳と爆尻をばるんばるんと弾ませ、くびれた腰を左右にくねらせながら山林の中を走り抜けて行く彼女は、その柔肌から淫らな匂いの汗を散らしている。

 

「……これで一つ『貸し』よ、仮面ライダーオルバス……!」

 

 海中からこの島に潜入していた彼女の肢体はじっとりと濡れそぼっており、チャイナドレスの生地がぴったりと柔肌に張り付いている。その凹凸の激しいボディラインはありのままに浮き出ており、爆乳と爆尻の躍動をこれでもかと強調していた。

 

(……オルバスを助けようとしたのがお前の運の尽きだったな、スチュワート。その背中の重火器が命取りだッ!)

 

 そんな真凛の背中に照準を合わせたホークアイザーは、重火器ごと撃ち抜こうと引き金に指を掛ける。「GG-02サラマンダー」のカスタムパーツであるこの重火器には、強力なグレネード弾が装填されている。ホークアイザーの銃弾が命中すれば、誘爆は避けられないだろう。

 

(終わりだッ――!?)

 

 だが、またしても彼は狙撃の好機を逃してしまう。仮面に搭載された索敵能力が、さらなる「侵入者達」の存在を感知したのだ。そのセンサーが反応したということは、「侵入者達」は索敵範囲外からナイフを投げて来た真凛よりも、さらにホークアイザーの近くに居ることを意味している。

 

(新世代ライダーが4人、だと……!? まさか、スチュワートがこの島の情報を奴らに……!? くそッ、味な真似を……!)

 

 しかもセンサーの表示によれば、その数は4人。その上、全員が「仮面ライダー」だというのだ。どうやらホークアイザーが居る山林の斜面を下った先にある海岸線から、この島に上陸して来ていたらしい。

 このまま真凛を狙撃すれば、銃声と爆炎で間違いなく4人にこちらの存在がバレてしまう。そうなれば、旧型外骨格であるスナイパースパルタンの防御力では、火力で押し切られてしまう可能性が高い。改造人間とは言っても、左眼以外は生身。それにスパルタンシリーズの基本性能は、新世代ライダー達の最新式外骨格には遠く及ばない。発見されて接近戦に持ち込まれれば、まず勝ち目は無いだろう。

 

(ならばッ……!)

 

 となれば。真凛とオルバスを一旦見逃してでも、今は間近に迫ろうとしている4人の新世代ライダーを始末せねばならない。ホークアイザーは再び標的を変更し、この島に上陸して来た侵入者達に狙いを切り替えるのだった。

 

「……悪いわね。こんなところで死なせてはならない子がいるのよ」

 

 そんなホークアイザーの様子を横目で一瞥しつつ、真凛は小さく呟く。対策室の武器庫からサラマンダーを盗み出し、この島に単独潜入していた彼女は、オルバス以外のライダー達にも島の情報を流していたのだ。

 事前にこの国の現国王から、このシャドーフォートレス島の全情報を渡されていた真凛は、ホークアイザーのことも最初から熟知していたのである。そのため、ホークアイザーに対抗出来る見込みのあるライダー達にも、この島に来るように仕向けていたのだ。

 

「……大丈夫よ、あなた達ならきっと勝てるわ。そのために、私が呼び寄せたのだから……」

 

 自分の目的に「利用」される形になった4人のライダーに対して、何とも思っていないわけではない。それでも王族の血を引く姫君であり、大切な後輩でもあるヘレンを救うためには、手段を選んではいられなかったのだ。

 憂いを帯びた表情を浮かべながらも、真凛は迷いを振り切るように前を向く。そのまま乳房と桃尻をたぷんたぷんと弾ませながら、彼女はホークアイザーが通っていた通路の入り口に飛び込んで行った。そんな彼女の様子を横目で見遣りながら、ホークアイザーは忌々しげに侵入者達の方へと視線を移す。

 

(……いいだろう、こうなれば1人残らず片っ端から始末して行くだけだ。まずは貴様達から血祭りに上げてやるぞ、仮面ライダー!)

 

 斜面の上に立っているホークアイザーは、下から登って来る新世代ライダー達よりもかなり有利な位置に居る。ここからの狙撃戦で、自分が負ける要素などない。その確信を胸に、ホークアイザーは再び愛銃を構え直すのだった。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話からは、孤島編(https://syosetu.org/novel/128200/130.html)で描かれたシャドーフォートレス島事件の「裏側」を描く夜戦編が始まります! 仮面ライダーオルバスやヘレン・アーヴィングを密かに援護していた真凛・S・スチュワートの行動に改めて触れつつ、ミサイルスパルタン戦の裏側で繰り広げられていた、スナイパースパルタンと新世代ライダー達の戦いを描いて行きます。全10話くらいの予定ですぞ(´-ω-`)
 真凛の活躍は暗躍編(https://syosetu.org/novel/128200/121.html)でもお色気マシマシに描かれておりますので、彼女が気になる方はこちらのエピソードもどうぞよしなに。次回からは新世代ライダー組の仮面ライダーターボ、仮面ライダータキオン、仮面ライダーGNドライブ、仮面ライダーG-verⅥの4人が登場しますので、今後の展開もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 あ……ありのまま最近起こったことを話すぜ! 旧バイオ4のアナザーオーダーを意識した本章を書き始めたら、RE:4でセパレートウェイズが配信されていた……!((((;゚Д゚)))))))


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第2話

◆今話の登場ライダー

本田正信(ほんだまさのぶ)/仮面ライダーターボ
 元白バイ隊員であり、亡き先輩の仇を討つために「2代目」として装甲服を受け継いだ熱血巡査。当時の年齢は32歳。
 ※原案はヒロアキ141先生。

森里駿(もりさとはやお)/仮面ライダータキオン
 元ノバシェード構成員であり、「ライダーマンG」こと番場遥花(ばんばはるか)に敗れた後は芦屋隷(あしやれい)の保護観察を受けつつ、実験に協力していた改造人間。ぶっきらぼうに振る舞うが、情には厚い。当時の年齢は26歳。
 ※原案はエイゼ先生。

上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)/仮面ライダーGNドライブ
 大富豪の御曹司でありながら、警視庁の刑事でもある優雅な好青年。気障な言動を見せることが多いが、その内側には熱い正義感を秘めている。当時の年齢は27歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。

水見鳥清音(みずみどりきよね)/仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)
 良家出身の「お嬢様」ながら、G-4スーツの装着実験で死亡した自衛官の友人の想いを背負い、装着者に志願した物静かな美女。当時の年齢は24歳。
 ※原案は魚介(改)先生。



 シャドーフォートレス島の「外周」に当たる、闇夜の海。島から噴き上がる爆炎に照らされたその海上を、4台の水上バイクが水飛沫を上げて走り抜けていた。

 

 新世代ライダーのために開発された、赤と白を基調とする新型特殊船舶「マシンGクルーザー」。その小さな船体に見合わぬパワーを発揮している4台の水上バイクは、この島に「呼び寄せられた」仮面の戦士達を運び、シャドーフォートレス島を目指して爆進している。

 だが、彼らの行手を阻む無数の機雷は不規則に海面を漂っており、易々と島には近付けないようになっていた。水上バイクを駆る4人の新世代ライダー達は巧みにハンドルを切り、その機雷を左右にかわしながら島に向かっている。

 

「ちくしょうッ……! 何なんだ、この機雷の数はッ……! これじゃあ島に辿り着くまでに夜が明けちまうぜ! もうあの島は火の海だっていうのにッ!」

「……ふふっ、分かりやすくて良いじゃないか。ここまでして隠し通したかった何かがある……ということだよ。知的好奇心を擽る素晴らしいアトラクションじゃないか」

「この機雷……やはりノバシェード製か。妙に具体的な内容だった、あのタレコミ通りだ。あの島に何かがある……それだけは間違いなかったようだな」

 

 情熱的な熱血漢。優雅な好青年。冷静沈着で寡黙な無頼漢。そんな3人の美男子達は、それぞれのGクルーザーを乗りこなして華麗に機雷をかわして行く。

 筋骨逞しい二の腕を強調している、ノースリーブの黒い特殊戦闘服。その装備を纏っている彼らは、鋭い双眸で遠方のシャドーフォートレス島を射抜いていた。

 

 熱血漢と好青年の腰部にはすでに変身ベルトが巻かれており、無頼漢の手首にも変身用のライダーブレスが装着されている。戦闘準備は万全のようだ。彼らの先頭を走っている4台目のGクルーザーも、すでに最高速度に達していた。

 

「……本田(ほんだ)巡査の言う通りですわ。現場があれほど切迫している状況だというのに、このままでは島への到着が遅れる一方です。……やむを得ません。こうなればGクルーザーを犠牲にしてでも、上陸を強行するしかありませんわ。皆様、直ちに『変身』してくださいまし」

 

 4台目のGクルーザーに跨っている、このチームの紅一点。すでに無骨な重鎧で全身を固めている彼女は、鉄仮面の下から「強行突破」を提言していた。言葉遣いこそ丁寧だが、その振る舞いに反してかなり豪快な性格の持ち主であるようだ。

 

「やっぱり……それしかないよなッ!」

「ふふっ、それじゃあ帰りの船はあの島から失敬するとしよう!」

「……相変わらず、危険な女だ」

 

 彼女の後方を走っている男達に、反対する気配は無い。彼らは「やはりそう来たか」と言わんばかりに不敵な微笑を溢すと――それぞれの変身ベルトを起動させていた。

 

 熱血漢の腰に装備された「ターボドライバー」にライダーイグニッションキーが装着され、好青年の腰部に巻かれた「量産型マッハドライバー」に、HS(ハイスピード)デッドヒートシフトカーが装填される。

 

GET(ゲット) READY(レディ)?』

 

 さらに、無頼漢の手首に巻かれたライダーブレスに、携帯電話を模したデバイスが装填された瞬間。ブレス本体から、「準備完了」を告げる機械音声が響き渡って来た。

 

 ――変身ッ!

 

 男達の眼に躊躇いの色は無い。紅一点を乗せた先頭のGクルーザーが、弾丸の如く機雷の海に飛び込んで行った瞬間――男達は同時に叫び、「変身」を開始する。

 

 眩い輝きに包まれた彼らの全身が、人類の自由と平和を守護する「新世代」の鎧で固められて行く。その鎧が完全に構築され、最後に彼らの頭部が強固な鉄仮面で覆われた瞬間――男達を乗せたGクルーザーが、機雷の海に突入する。

 

 猛烈な爆音と共に、天を衝くほどの水飛沫が噴き上がり。水上バイクだった残骸が四方八方に飛び散ったのは、その直後だった。

 

 ◆

 

 海岸線からシャドーフォートレス島に上陸し、この島の調査に訪れた4人の新世代ライダー。彼らは海上の移動に使用していた水上バイク「マシンGクルーザー」を機雷で爆破されながらも、泳いでこの島に辿り着いていた。

 

「くそっ……まさか島の外周全部に、機雷があれほどバラ撒かれていたなんて。しかもあの機雷全てに、ノバシェードのマークが刻まれていた……。どうやら森里(もりさと)の言う通り、あのタレコミが正しかったみたいだな」

 

 その1人である熱血漢――「仮面ライダーターボ」こと本田正信(ほんだまさのぶ)。彼は愛用のエネルギー拳銃「シャフトブレイカー」を両手持ち(ツーハンドホールド)で構えながら、腰を落とした姿勢で慎重に山林の中を歩いている。赤を基調とする仮面の戦士は、白いマフラーを靡かせていた。

 

「僕達に情報を流したのが誰かは分からないが……それは後でゆっくり調べるとしよう。今は、この島のノバシェード構成員を逮捕するのが先決だ」

「すでに島中が賑やか(・・・)になっているようだな……。俺達よりも先に、この島に来ている『先客』が居たらしい。それも恐らく、同じ目的のな」

 

 ターボの後に続き、山林の中をゆっくりと移動している好青年――「仮面ライダーGNドライブ」こと上福沢幸路(かみふくざわゆきじ)。無頼漢――「仮面ライダータキオン」こと森里駿(もりさとはやお)

 彼ら2人も鋭い眼光で辺りを見渡しながら、低い姿勢で山の斜面を登っている。黒と灰色のボディという無骨な外観を持つタキオンに対して、煌びやかな銀色の装甲を輝かせているGNドライブ。そんな彼の手には、専用のエネルギー拳銃「ダイヤガンナー」が握られていた。

 

「であれば……私達も急ぐ必要がありますわね。『先客達』と合流出来れば、協力関係を構築出来る可能性もあるでしょう」

 

 そして、先頭を進んでいるこのチームの紅一点――「仮面ライダーG-verⅥ(ガーベラゼクス)」こと水見鳥清音(みずみどりきよね)は、顔を上げて遠方の爆炎を見遣っていた。自分達の同僚であるオルバスが大暴れしていることも知らないまま、この島に来ていた彼女の両腕には、2丁のGX-05「ケルベロスランチャー」が装備されている。

 

 赤と白を基調とする重厚な装甲を纏った彼女の勇姿は、「荘厳」の一言に尽きる。「G-6」と刻まれた右肩をはじめ、その全身は頑強な鎧で固められていた。そんな重鎧の下に、スタイル抜群な絶世の美女の肉体が隠されているなど、並の人間ならば想像もつかないことだろう。

 推定Gカップの豊満な巨乳に、細く引き締まった腰つき。そのくびれに対して、むっちりと大きく実った安産型の桃尻。透き通るような白い肌に、艶やかな銀髪。そして、氷のような青い瞳と怜悧な美貌。そんな彼女の扇情的な肢体が、この無骨な重鎧に隠されているのだ。

 

「……ん、ふぅっ……」

 

 鎧の内側でじっとりと汗ばんだ彼女の白い柔肌からは、芳醇な女の香りが濃厚に熟成されている。重鎧の中に閉じ込められている彼女の身体から滲み出る甘い匂いは、時間が経つごとにますます淫らに煮詰まり、成熟して行く。過去に生身の状態でノバシェードの戦闘員達に組み敷かれた際は、文字通り身体中にむしゃぶり付かれそうになったこともある彼女の熟れた肢体は、スーツの中でしとどに汗ばみ、さらにその香りを淫らに育てていた。

 頭から首筋、鎖骨に乳房、二の腕や腋下、くびれた腰から大きく膨らんだ巨尻に肉感的な太腿、膝裏に脹脛、さらには足指や足裏、爪先に至るまで。その白く瑞々しい肉体の隅々からは水見鳥清音という極上の女の匂いが分泌され、スーツの内側で特濃のフェロモンとして醸成されている。

 

 冷静沈着で知的な佇まいとは裏腹に、スーツ内に隠された豊満な肉体から滲み出ている淫らなフェロモンは、淫魔(サキュバス)すら裸足で逃げ出すほどの域に到達している。密閉された外骨格の中で熟成された汗の香りはあまりに扇情的であり、特に汗が溜まりやすい乳房の谷間や腋、鼠蹊部のラインには濃い匂いが染み付いている。

 

「……それはそうなんだけどさ。何でよりによって、元ノバシェードの森里(コイツ)が来たんだよ。言っておくが、俺はお前のことなんて助ける気は無いからな」

「あぁ、好きにしろ。お前のような単細胞の助けなど、ハナから期待していない」

「な、なんだとっ……!」

 

 一方、ターボ達の間にはどこか不穏な空気が漂っていた。敬愛していた先輩を旧シェードに殺された過去を持つターボは、元ノバシェードであるタキオンの存在を完全には認めていなかったらしい。今は同じ新世代ライダーであるとはいえ、かつては敵同士だったのだ。その過去に纏わる不信感というものは、簡単に拭えるものではないのだろう。

 そんな彼に対しても不遜な態度を隠さないタキオンとの関係は、決して良好とは言えないものであった。犬猿の仲……のようにも見える2人のやり取りに、GNドライブとG-verⅥはため息を吐いている。感情的になりやすいターボの一面には、2人共普段から手を焼いているのだ。

 

「やれやれ……君達は相変わらずだねぇ」

「……作戦行動中に私情を挟む言動は謹んでください、本田巡査。そのようなことでは……!? 巡査、危ないッ!」

 

 だが、次の瞬間。斜面を登った先から襲い掛かって来た「殺気」にハッと顔を上げたG-verⅥが、咄嗟に後ろに手を伸ばしてターボ達を突き飛ばす。斜面の遥か先から飛んで来た1発の銃弾が、彼女の胸を貫いたのはその直後だった。

 

「……うぁあっ!」

「水見鳥ッ!? ……うおッ!?」

 

 G-verⅥの短い悲鳴と予期せぬ事態に、思わずターボが声を上げる。それから間髪入れず、即座に状況を把握したGNドライブとタキオンが、ターボの首や肩を掴んで近くの茂みに引き摺り込んで行った。彼らはしばらく前から、遙か遠方の狙撃兵(スナイパースパルタン)に狙われていたのである。

 

「ノバシェードの狙撃か……! しかも、G-verⅥの装甲を一撃で貫通するほどの威力! どうやら彼ら、かなり強力な弾丸を使っているようだね……!」

「う、うぅっ……! あっ、はぁうっ……!」

「水見鳥! すぐ助けにっ……おい、離せ森里ッ!」

「……阿呆(あほう)、それが奴の狙いだと分からんのか。敢えて急所を外して救助の見込みがあると思わせ、お前のような単細胞を釣り出して始末する。ノバシェードの狙撃兵がよく使う手だ」

「しかも……僕達が今まで見て来た奴らとは比べ物にならない精度だね。恐らく、ノバシェードの戦闘員達にこの戦術を教えた張本人だよ。……はっきり言って、かなり手強い」

「な、なんだと……!? じゃあ、水見鳥をこのまま放ったらかしにするっていうのかよッ! 森里、幸路さんッ……!」

 

 茂みの中に身を潜めたGNドライブが冷静に前方を観察する中、呻き声を上げているG-verⅥの救助に向かおうとしているターボの肩を、タキオンがしっかりと捕まえていた。しかしターボは彼らの話を聞かされてもなお、苦悶の声を漏らすG-verⅥから目を離せずにいる。

 

「……本田。俺達はここに何をしに来た。全員でノバシェードに勝利し、生きて帰るために来たのではないのか?」

「……っ! だったら……!」

「正信、落ち着くんだ。……僕達は一度も、水見鳥君を見殺しにする……なんてことは言っていないよ」

「幸路さん……!?」

 

 慎重に前方を見渡しながら、GNドライブとタキオンは静かにターボを諭している。そんな彼の様子を、倒れたまま見つめていたG-verⅥは、か細い声を絞り出していた。

 

「……本田、巡査っ……! 私のことなら心配無用ですっ……! この程度の傷、自力で止血出来ますからっ……!」

「……! 水見鳥ッ!」

「あなたも……警察官なら、仮面ライダーならっ……決して、見失ってはなりませんっ……! ご自身の、為すべきことをっ……!」

「為すべき、こと……俺の……」

 

 茂みの陰からG-verⅥの姿に声を震わせるターボは、彼女の言葉を反芻しながら拳をギュッと握り締める。激情に任せていては、この戦いを制することは出来ない。そんなG-verⅥの訴えに心を動かされたのか、ターボはそれ以上声を荒げることなく、斜面の前方へと視線を移すのだった。

 

 ◆

 

(よし……仮面ライダーG-verⅥを最初に仕留められたのは大きいぞ。奴の火力でこの山林を焼き払われるようなことがあれば、俺の位置も簡単に炙り出されていたからな。最も恐るべき強者こそ、真っ先に始末せねばならない。後は……超加速能力(クロックアップ)を持っている仮面ライダータキオンだな。後は奴さえ倒してしまえば、残りの2人など容易く料理出来る)

 

 一方。初撃でG-verⅥの胸を撃ち抜いた後、じっくりと時間を掛けてターボ達の動向を観察していたホークアイザーは、コッキングレバーを引いて排莢と装填を済ませながら、次の標的であるタキオンへと狙いを定めようとしていた。ノバシェードを介して新世代ライダー達の能力情報を得ていたホークアイザーは、タキオンの脅威度も熟知していたのである。

 

(……特にあの仮面ライダーターボは、G-verⅥが狙撃された直後にかなり狼狽えていた。古今東西、ああいう直情的な馬鹿が1番狩りやすい。次の動きが簡単に読めるからな)

 

 それに対して、脅威となる能力や飛び道具を持っていないGNドライブやターボに対しては、歯牙にも掛けていない。ダイヤガンナーもシャフトブレイカーも、今の位置からでは全くの射程圏外。特に、感情任せな言動を見せたターボはホークアイザーにとって、最も恐るるに足りない「雑魚」なのだ。

 

(お前達の次の行動は分かっている。まずはGNドライブのエネルギー拳銃で牽制の弾幕を展開し、その間にタキオンが超加速能力でこちらに接近。加速能力にモノを言わせて奴が俺の位置を探っている隙に、ターボがG-verⅥを救助……といったところだろう。最も厄介なタキオンさえ仕留めてしまえば、後の連中など虱潰しに消して行けばいい。……いつまでもお前達に付き合ってはおれんのだ、さっさと終わらせてもらうぞ)

 

 最初の狙撃から、すでにかなりの時間が経過している。島の奥に潜入した真凛や、兵士達を蹴散らしていたオルバスも、この後すぐに追撃して仕留めなければならない。そんなホークアイザーとしては、いつまでもターボ達に手こずっているわけには行かない。

 その僅かな「焦り」が彼の胸中に滲んだ瞬間――彼の読み通り、茂みから飛び出したGNドライブがダイヤガンナーを連射し始めていた。長い膠着状態を打破するように現れた彼は、素早く地を転がりながら豪快にエネルギー弾を撃ち放つ。自分を狙ってみろ、と言わんばかりに。

 

「森里君、今だッ!」

「任せておけ、上福沢ッ!」

CLOCK(クロック) UP(アップ)!』

 

 ホークアイザーの狙いを撹乱するように乱れ飛ぶ、エネルギー弾の嵐。その混沌に乗じてベルトのスイッチに触れたタキオンが静寂を破り、閃光の如き疾さで山林の斜面を駆け上がって行く。

 だが、タキオンの加速はいつまでも続くものではない。制限時間内に狙撃手を見付けられなければ、撃たれに行くも同然の「博打」なのだ。

 

(どこだ、どこに居るッ……!)

 

 刻一刻とタイムリミットが迫る中、G-verⅥが撃たれた位置から遥か先の地点に辿り着いたタキオンは、懸命に周囲を見渡し狙撃手の位置を探る。相手は現役の狙撃兵であり、戦闘のプロ。如何にこちら側の能力が優れているとしても、簡単に勝てる相手ではない。

 

「……ッ!?」

 

 やがて、タイムリミットが残り2秒を切った瞬間。突如島の岸壁が崩壊し、激しい爆炎が噴き出して来る。今現在、要塞内部で繰り広げられているオルバスとミサイルスパルタンの激闘。その「余波」によって、島の岩壁が内側から吹き飛ばされていたのだ。

 

(……見付けたぞ。前方約450m、2本の木に挟まれた茂みの奥ッ!)

 

 島の外壁に開いた大穴から噴き出す、猛烈な炎。その獰猛な煌めきが、山林に潜む狙撃銃のスコープを照らし――ついにその反射光が、タキオンの目に留まる。咄嗟に全力で地を蹴ったタキオンは、弾丸の如き速さでホークアイザー目掛けて突進した。

 

(俺を見付けたか。だが……勝負を急ぐあまり、こちらに直進(・・)して来たのが不味かったな……!)

(……!? まさかこの狙撃手、超加速(クロックアップ)状態の俺が視えてッ……!)

(捉えたぞタキオン、お前の速さも見切ったァッ!)

 

 だが、ホークアイザーの左眼に秘められた超人的な動体視力は、人智を超えた速さに達したタキオンの動きすら把握していたのである。タキオンがホークアイザーを見付けた頃にはすでに、狙撃銃の引き金に指が掛かっていたのだ。

 しかもこの瞬間、タキオンはホークアイザーに殴り掛かろうと地を蹴って跳び上がっており、僅かに滞空している。これでは狙われていることに気付いても、左右に避け切ることが出来ない。

 

CLOCK(クロック) OVER(オーバー)!』

「うぐわぁあッ!」

 

 それでもタキオンは急所への被弾だけはかわそうと、強引に身体を捻るのだが――その瞬間、ついに「タイムリミット」が訪れてしまう。超加速(クロックアップ)状態の解除を報せる電子音声が響く瞬間、タキオンの脇腹が対怪人用強化弾に貫かれていた。

 






【挿絵表示】

※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話からは、新世代ライダー4人とスナイパースパルタンの戦いが始まりました。今話に登場したターボは北欧編(https://syosetu.org/novel/128200/97.html)、タキオンとGNドライブは凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)、G-verⅥは番外編(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)でそれぞれメインを張っておりました。彼らの活躍が気になる方は各章もぜひご一読ください〜(*^ω^*)

 ちなみにホークアイザー本人が言っていた通り、彼にとって最も厄介な存在だったのは、最初に撃たれたG-verⅥでした。彼女の火力で山林から炙り出された瞬間、クロックアップ待ちのタキオンが爆速で殴りに行って即ゲームセット……なんて呆気ない展開も十分あり得ましたからね。だからホークアイザーはG-verⅥを行動不能にするまでは、真凛を撃つわけにはいかなかったのです(´ω`)
 狙撃兵が敢えて敵をすぐには殺さず、助けに来た味方を釣ろうとする……という展開は「フルメタルジャケット」や「メタルギアソリッド」の影響によるものでした。エグいっすよねこのやり方。汚いなさすが狙撃兵汚い。次回は一旦視点を変えて、要塞内部への潜入を果たした真凛の動向を描いて行きます。えちえちでお色気なアクションシーンも盛り込んで行けたらなーと思っておりますので、どうぞ次回もお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 ジョジョ3部のンドゥール戦とか好き。敵も味方もヒヤヒヤしながら思考を巡らせてる頭脳戦ってやっぱりイイですよねー。ちなみに、本章に登場して速攻で爆ぜた「Gクルーザー」は拠点攻略用重攻撃モビルアーマーのことではありませんのでご了承ください……(><)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第3話

 ――しばらく時を遡り。G-verⅥがホークアイザーに狙撃され、山林の斜面を舞台にした戦闘が始まる直前の頃。要塞内部の奥深くへと潜入していた真凛は、騒然となっている兵士達の視線をかわしながら施設内を探索し、島内の状況を調べ始めていた。

 

「ぐ、がッ……!?」

 

 闇に紛れ、要塞内部に残っていた警備兵の背後に忍び寄る真凛。彼女は素早い動作で、白くか細い腕を兵士の身体に絡ませると――むっちりとした太腿に装備されていたナイフを引き抜き、瞬く間に首を掻き切る。何が起きたのかも分からぬまま事切れた兵士は、糸が切れた人形のように崩れ落ちていた。

 

「……お休みなさい。永遠にね」

 

 背後からピッタリと兵士の背中に密着し、その最期を見届けた真凛は、冷たく別れを告げている。兵士の背中にむにゅりと押し当てられ、淫らに形を変えていた張りのある豊満な爆乳。その釣鐘型の巨峰は、膝から崩れ落ちて行く兵士の背中に先端(・・)を軽く擦られ、甘美な刺激を受けていた。ぷっくりとした真凛の妖艶な唇から、扇情的で艶やかな吐息が漏れる。

 

「……あっ、はっ……ぁんっ……!」

 

 青いチャイナドレスの中で淫らに汗ばみ、熱を帯びる極上の白い乳房。その熟れた果実は兵士の背中から離れると、ぶるんっと弾んで本来の釣鐘型に戻って行く。ほんの一瞬とはいえ、先端(・・)が擦れた際の淫らな感覚に思わず上擦った声を漏らしてしまった真凛は、気を取り直すように毅然とした表情でキッと振り返り、周囲を見渡していた。その動作で、乳房と桃尻がばるんっと揺れ動いている。

 

(ヘレンのところにはオルバスが向かっているはず。彼が間に合っていれば良いのだけれど……私も急がないとね)

 

 どうやらアイアンザックはミサイルスパルタンの基本形態(コアフォーム)に当たる外骨格を装着し、要塞の外に出向いてヘレンのマス・ライダー軽装型と対決しているらしい。入り組んだ要塞内部の情報を収集しながら、独り薄暗い通路を進む真凛は、やがて異臭が漂う奇妙な一室に辿り着いていた。

 

(ここは……倉庫? でも、この嫌な臭いは……)

 

 一見すると物資を積載しておく倉庫のようにも見えるフロアだが、生物的な異臭が漂うこの部屋に辿り着いた真凛は不穏な気配を感じ、眉を顰めている。そんな彼女を見下ろすように設置されていたモニターが発光したのは、その直後だった。

 

「……!」

『ふふっ……シャドーフォートレス島へようこそ。真凛・S・スチュワート君』

 

 白衣に袖を通した中年の男性が、モニター越しに不敵な笑みを浮かべて真凛を見下ろしている。モニターの光に気付き顔を上げた真凛は即座に彼の「正体」に気付き、鋭く眼を細めていた。モニターに映し出された白衣の男は、悪名高いノバシェードの研究員だったのである。

 

『やはり君も、この島の裏側を嗅ぎ付けていたようだね。対策室を除名されてもなお、我々を付け狙うとは見上げた正義感だ。かつては、対策室最強の女傑……と恐れられていただけのことはある』

「……なるほど。この島の兵士達がノバシェードの思想に汚染されていたのは、あなたの仕業だったのね。ノバシェードの現幹部にして、組織における怪人研究の第一人者……斉藤空幻(さいとうくうげん)

 

 剣呑な面持ちでモニターを睨み上げる真凛に対し、斉藤空幻と呼ばれた男は冷たい微笑を浮かべている。1年前にアイアンザックと接触し、資金援助とスパルタン計画の復活を持ち掛けていたのは、この男だったのだ。

 

 明智天峯(あけちてんほう)上杉蛮児(うえすぎばんじ)武田禍継(たけだまがつぐ)。ノバシェードの首領格だった彼らを失った後、斉藤は約11年前に旧シェードの怪人軍団と「相討ち」になっていたという、スパルタンシリーズのポテンシャルに目を付けていた。

 そこで彼は、スパルタンシリーズの開発責任者だったアイアンザックや、この島に「左遷」された兵士達を取り込むことで、天峯達の敗北により減衰していた組織の軍事力を補おうと目論んでいたのである。そして彼の狙い通り、このシャドーフォートレス島に配属されていた全ての陸軍兵士達が、ノバシェードの尖兵と化していたのだ。

 

『汚染? ふっ、人聞きの悪いことを言う。私は人間社会から追放され、島流しにされていた哀れな彼らに「生き甲斐」を与えたのだよ。その上、この島に多額の資金を提供し……11年前に凍結・抹消されていた旧時代の骨董品(スパルタンシリーズ)を現代に蘇らせてあげたのだ。いくら感謝しても足りないぐらいではないか?』

「そうやって差別を受けている改造被験者達の弱みに付け込み、闘争心を煽り、テロリストに仕立て上げる。……実に下劣な発想ね。あなたを『怪人』たらしめているのは改造された身体ではなく、その腐った心根よ」

『ふふっ……はははっ、対策室から除名された雌豚がどの口でほざくか。……そんな君の相手に相応しいゴミ共がそこに居る。存分に楽しんでくれたまえ』

 

 斉藤の魂胆をすぐに見抜いた真凛は、冷淡に彼の思想を否定する。そんな彼女の言葉を冷たく笑い飛ばしながら、斉藤は真凛が居る倉庫を指差していた。

 

「……っ!?」

『そのフロアに上手く忍び込めたつもりでいたのだろうが……君はすでに、囚われの身となっていたのだよ』

 

 すると――フロア内の物資の陰から、無数の「虫」がゾロゾロと這い出て来る。だが、そのサイズは明らかに普通の虫のそれではない。人間、それも成人男性ほどの体格を持った、異様に巨大な虫であった。どの個体も、全長180cmはある。

 

『私はフィロキセラ怪人の量産化を視野に入れた研究も進めていてね。その実験の「失敗作」は凶暴な奴らばかりで、私も処分に困っていたのだよ。そこで……アイアンザック中将には、そいつらの「世話」を頼んでいたのさ。多額の資金援助や、スパルタン計画の復活と引き換えに……ね』

「……いくら貰っても割に合わないわよ、こんな連中の『世話』なんて」

 

 真凛がその異様な怪物の群れに瞠目する一方、斉藤はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。彼が「失敗作」と呼ぶ謎の虫達は、フィロキセラ怪人の類だとは到底思えない容貌だ。フィロキセラ怪人というよりは、その遺伝子の源流とされるブドウネアブラムシがそのまま巨大化したような姿に見える。

 

「……良い趣味だわ。反吐が出る」

 

 青緑の体色に知性が感じられない双眸、針状の口、そして人間の男性のような形状である6本の手足。どれを取っても生理的嫌悪感しか湧かない、グロテスクな外観だ。

 しかも真凛の肉体に「欲情」しているのか、彼らは真凛の肢体をねぶるように観察し、下卑た悪漢のような挙動まで見せている。そんな虫の仕草に嫌悪感を露わにする真凛は、露骨に怪訝な表情を浮かべていた。

 

『本来、産業廃棄物に与える名など無いのだが……敢えて呼ぶなら、「フェイリアγ(ガンマ)」とでも言おうか。そいつらは君のような肉付きの良い雌豚が特に好物でね。どうやら彼らも、大いに湧き立っているようだ。罪な女だねぇ、君も』

「……自分で出した生ゴミくらい、たまには自分で処理しなさい。ズボラな男はモテないわよ」

『ふっ、言えている。では君が死んだ後、ゆっくりと部屋の掃除でもしよう。さよならだ、美しく哀れな()捜査官殿』

 

 その冷淡なやり取りを最後に、モニターの映像がプツンと切れた瞬間。通信の終了を合図に動き出した大量の虫――フェイリアγが、一斉に真凛目掛けて襲い掛かって来る。彼女は即座に華麗なバック宙で初撃の針をかわし、先頭の虫にナイフを投げ付けていた。

 

「……ふッ!」

 

 チャイナドレスのスリットから覗く白い太腿。その美脚に装備されていたナイフが、瞬く間に虫の頭部に突き刺さる。改造人間とも呼べない文字通りの「失敗作」は、そんな攻撃にも耐えられなかったのか、ひっくり返るとモゾモゾともがき苦しみ、そのまま絶命してしまう。

 

「……ちっ、数が多過ぎるわ!」

 

 だが、フェイリアγの脅威は個々の戦闘力ではなく、その圧倒的な数にある。一斉に羽ばたきながら真凛を付け狙う虫の大群。そのうちの1匹が、真凛を組み伏せようと前脚を広げて飛び掛かって来た。

 

「はぁッ!」

 

 その殺気に反応し、地を蹴って空中で身体を捻る真凛。彼女はその回転による遠心力を乗せた後ろ回し蹴りで、襲い掛かって来たフェイリアγを華麗に蹴り飛ばしてしまう。蹴りが炸裂した瞬間、釣鐘型の爆乳と安産型の爆尻が反動でどたぷんっと弾み、ウェーブが掛かった黒髪のロングヘアが艶やかに靡いていた。ピンと伸び切った白く長い扇情的な美脚が、瑞々しい汗を飛び散らせている。

 

 後ろ回し蹴りを終えて颯爽と着地した瞬間、チャイナドレスの裾がふわりと浮き上がり、Tバックのパンティが深く食い込んだ極上の桃尻が露わになる。その膨らみをはじめとする柔肌からは、淫らな雌の匂いが滲み出ていた。そんな真凛のフェロモンに引き寄せられるように、虫の大群はますます彼女に集まって来る。

 

「……ッ!」

 

 迫り来るフェイリアγの大群。その無数の針と前脚をかわしながら、爆乳と爆尻をばるんばるんと弾ませ、ひたすら倉庫内を駆け回る真凛。彼女はやがて、倉庫の隅で折り重なっている無数の腐乱死体を発見する。どうやら、この虫達の餌食となった女性兵士達の「成れの果て」であるようだ。

 

(惨過ぎる……! アイアンザックはミサイルスパルタンのために……斉藤に言われるがまま、こんなことまでッ……!)

 

 女性兵士達の遺体は身体中の体液を吸い尽くされたのか、まるでミイラのように痩せ細っている。フェイリアγの生態について何も知らされないまま、アイアンザックの命令によってこの部屋に送り込まれていた彼女達は、用意していた食事もろとも虫の大群に貪り尽くされて(・・・・・・・)しまったのだ。

 

「……万死に値するわ」

 

 ミサイルスパルタンの開発に執着していたアイアンザックは、ホークアイザーの預かり知らぬところで、これほどの所業を繰り返していたのである。激しくもがき苦しみながら命を落として行った彼女達の壮絶な死に顔は、その苦痛の凄まじさを如実に物語っている。その凄惨な現場を目の当たりにした真凛は、険しい表情を露わにしていた。

 

「ごめんなさい、ちょっと借りるわよッ!」

 

 犠牲者達の骸が握っていた自動拳銃(ハンドガン)――「スプリングフィールドXD」を拾い上げた真凛は、振り向きざまに連続で発砲する。乾いた銃声が倉庫内に響き渡り、何匹もの虫が墜落して行った。だが、同胞達が何匹殺されてもフェイリアγの群れは怯むことなく、真凛に向かって殺到して来る。

 

「くっ……!」

 

 いかに1匹が雑魚であっても、これでは多勢に無勢。これまで余裕綽々といった佇まいで虫達を翻弄して来た真凛の表情にも、焦燥の色が滲み始めていた。自身の姿を捕捉している真正面の数匹を拳銃で撃ち落とした彼女は、発砲と同時に物陰に飛び込み、残りの大群の視界から一時的に逃れる。

 

「はぁっ、んはぁっ……! 斉藤も厄介な置き土産を残してくれたわねっ……!」

 

 数に物を言わせて襲い掛かって来る、フェイリアγの大群。斉藤の刺客である彼らの羽音に眉を顰めながら、真凛は淫らに息を荒げながらも物陰から虫達の挙動を観察していた。真凛を見失った彼らは不規則に飛び回り、「極上の獲物」を探し回っている――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今回は要塞内部への潜入を果たした真凛にスポットを当てた、ちょっとお色気なアクション回となりました。今話に登場した斉藤空幻はこのシャドーフォートレス島事件の真の黒幕とも言うべき存在ですが、実は彼はこの夜戦編から約1年後の出来事を描いた番外編(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)にも、「死体」として登場しておりました。水見鳥清音が彼を発見した頃にはすでにズッタズタに切り刻まれてたんですよねー。真凛に対して散々余裕ぶっこいてた彼ですが、約1年後には自分が造った怪人「タイプγ」にムッ殺されてしまうのです……(ノД`)
 ちなみに北欧編(https://syosetu.org/novel/128200/97.html)にもプロトタイプγというタイプγの「失敗作」が登場しておりましたが、今話に出て来たフェイリアγはそれ以前に作り出されていた、「もっとダメダメな失敗作」だったりします。プロトタイプγは物凄いおバカではあるものの、一応怪人としての形は最低限保ってましたが、フェイリアγの方はもはや人型ですらないので……(´・ω・`)
 余談ですが、今話で真凛が使っていたスプリングフィールドXDは、バイオ4では「ブラックテイル」という名前で登場しておりました。次回は巨大虫の巣窟と化したこの倉庫からの脱出パートとなります。どうぞ今後もお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 今話からはちょっと更新時間を変えてみますた。真凛のお色気描写を何度も書き直していて更新が遅れてしまいまして……_:(´ཀ`」 ∠):


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第4話

 

 凶悪な人造巨大虫、フェイリアγ。その巣窟と化した要塞内部の倉庫に誘導された真凛は、かつてない窮地に陥っていた。

 

「……来た道から出るのは難しそうね」

 

 真凛がこの倉庫に入る際に通った出入り口の辺りには、すでに無数の虫達が徘徊している。来た道を戻って逃げるのは難しいだろう。別のルートからこの倉庫を脱出しなければならない。

 

「……っ!?」

 

 ――そんな考えを巡らせる真凛の虚を突くように。彼女の背後から1匹のフェイリアγが飛び掛かって来た。その気配を悟った真凛は反射的に振り返り、拳銃を構えようとする。だが、フェイリアγの前脚の方が僅かに速かった。

 

「あうぅっ!?」

 

 凶悪な巨大虫は4本の前脚で、真凛の身体を真正面から捕えて行く。予測を凌ぐ速さでくびれた腰と細い両腕を掴まれた真凛は瞠目し、そのまま為す術なく仰向けに組み敷かれてしまった。

 

「あんっ……!」

 

 押し倒された弾みで、張りのある爆乳と爆尻がぶるんっと揺れる。背負っていたサラマンダーのカスタムパーツで背中を押し上げられていた彼女は、仰向けのまま優美な背中を仰け反らせ、豊満な乳房を自ら突き出すような格好になっていた。

 

(……っ! 不味い、こんな雑魚にこの私がっ……!)

 

 不意を突かれた真凛は必死に身を捩って抵抗するが、フェイリアγの腕力は常人のそれを遥かに超えている。いくら失敗作と言えども、改造人間の実験体には違いない。

 

「んっ、んんっ……! 離しな、さいっ……!」

 

 真凛がどれほど腰をくねらせ、乳房を左右にぶるんぶるんと揺らしてもがいても、彼女の腰と両腕を押さえ込んでいる虫の前脚はビクともしなかった。そして、ついに捕えた極上の獲物を味わおうとするかのように――フェイリアγはゆっくりと、針状の口を真凛の胸元に向ける。

 

「あ、ぁあぁっ……!」

 

 これまで、あらゆる窮地を華麗に乗り切って来た真凛の表情にも――焦りと恐怖の感情が滲み出ていた。

 そんな彼女を嘲笑うように、フェイリアγは勢いよく真凛の胸元を針で貫こうと、前脚を伸ばして身体を大きく浮き上がらせて行く。これでとどめを刺してやると、言わんばかりに。

 

「……!」

 

 真凛の胸元目掛けて針状の口を突き入れるべく、大きく身体を浮かせて勢いを付けようとするフェイリアγ。しかしその「予備動作」が、彼にとっての「命取り」となっていた。見開かれていた真凛の双眸が、獲物を見付けた狩人のように鋭く細まって行く。

 

(脱出するには今しかない……!)

 

 身体を浮かせたことによって、真凛と虫の身体の間に一瞬生まれた大きな隙間。そのスペースに折り曲げた膝を滑り込ませた真凛は、そこから一気に白い美脚をピンと伸ばし、フェイリアγの胴体に強烈な前蹴りを叩き込む。

 

「……退きなさいッ!」

 

 その衝撃に乳房と桃尻がばるんと弾み、虫の身体が後方に転倒して行く。即座に立ち上がった真凛は怒りのままに拳銃を構え、怒涛の連射でフェイリアγを蜂の巣にしてしまうのだった。しかしその際の銃声で、今度は彼女を見失っていた他の虫達に気付かれた。

 

「……ああもう。こんな数、いちいち相手にしていられないわね……!」

 

 自分を見付け、一気に押し寄せて来る虫の大群。その光景に冷や汗をかく真凛は弾切れとなった拳銃を投げ捨てながら、即座に踵を返してこの倉庫を後にして行く。フェイリアγの群れを避けなければならない以上、来た道を引き返すことは出来ない。

 

 倉庫を通り抜けた先にある通路を目指し、真凛は必死に走る。細く引き締まった腰を左右にくねらせ、張りのある乳房と桃尻をばるんばるんと上下に揺らしながら、彼女は次の通路へと素早く踏み込んだ。

 

「……!」

 

 ――だが、そこにも斉藤の罠が仕掛けられていた。決して広いとは言えない一本道の通路。その両脇の壁からは、あらゆるものを容易く両断する熱線(レーザー)が照射されていたのである。蜘蛛の巣のように不規則に張り巡らされた熱線の網が、侵入者である真凛を細切れにしようと迫り始めていた。

 

「あらあら……派手なアトラクションね。いつからこの島はテーマパークになったのかしら?」

 

 それでも、真凛が動じることはない。冷や汗をかきながらも、彼女は余裕の笑みを浮かべながら敢えて真っ直ぐ突き進み――軽やかに地を蹴って熱線の網に飛び込むと、紙一重で潜り抜けて行く。

 

 その流麗な身のこなしは芸術的ですらあり、さながら新体操の演技のようであった。サラマンダーのパーツを袈裟懸けの負い紐(スリング)で背負っている状態でありながら、彼女の身体は熱線に掠りもしていない。

 

「……! 速いッ……!」

 

 やがて――最後の罠である横一文字の熱線が、超高速で迫って来る。並の侵入者なら、反応することすら叶わず首を切り落とされているところだが、これしきの罠に敗れる真凛ではない。ノバシェード対策室最強と謳われた彼女の身体能力は、伊達ではないのだ。

 

「……はぁあッ!」

 

 ベリーロールの要領で熱線を飛び越えて行く彼女は、芳しい足の爪先をピンと伸ばすと、優美な背中を弓なりに仰け反らせ、爆乳と爆尻をぶるんっと淫らに弾ませている。最後の熱線も華麗にかわした真凛は、空中で回転しながら軽やかに着地すると、そのまま滑り込むように罠のエリアを突破してしまうのだった。

 

 だが、彼女を追い掛けているフェイリアγの大群には、熱線をかわせるだけの能力も知性も無い。考え無しに網に向かって飛び込んで行った虫の群れは、そのまま熱線の刃によって細切れにされ、瞬く間に「全滅」してしまうのだった。

 

「……サイコロステーキの出来上がり。良かったわね、アイアンザック中将。もう『世話』は必要なさそうよ」

 

 肩越しに彼らの最期を見届けた真凛は、皮肉混じりに呟くと――そのまま通路の奥へと進んで行く。やがて辿り着いたのは、要塞の外。マス・ライダー軽装型の強化服を纏うヘレンが、この島の兵士達と激戦を繰り広げていたエリアだ。

 

(……さすがは私が見込んだ子達だわ。良い仕事振りね)

 

 遥か遠方では、要塞内部に退却して行くアイアンザックと、その後を追うオルバスの様子が窺える。オルバスの後ろには、片膝を着いて息を荒げているヘレンの姿も見えた。

 

「さぁて……逃がさねぇぞ爺さんッ! 待ちやがれッ!」

「……」

 

 エンジンブレードを手に、真正面から要塞内部へと乗り込んで行くオルバス。そんな彼やヘレンの様子を、真凛は遠方から静かに見つめていた。

 青いチャイナドレスのスリットによって露わにされた白い美脚が、月光に照らされ淫靡な輝きを放っている。凹凸の激しいその肉体からは、芳醇な女のフェロモンが隅々から滲み出ていた。

 

 ウェーブが掛かった黒のロングヘアは夜風に靡き、フレグランスな甘い香りを周囲に振り撒いている。ドレスを押し上げる釣鐘型の豊満な爆乳と、くびれた腰つきに反した特大の爆尻も、極上の色香にさらなる彩りを添えていた。汗ばんだその白い柔肌からは、絶えず芳醇な雌の匂いが滲み出ている。

 

 尻肉にきつく食い込んだTバックのパンティも、ドレスの上からでも分かるほどに彼女のヒップラインを浮き立たせていた。妊娠・出産に最適な、広い骨盤。その骨格によって成り立っている彼女の白い爆尻は、子を産むことに適した極上の女体であることを、これでもかと主張している。

 

「……ふふっ」

 

 月明かりの下で妖しく微笑む真凛。彼女はぴっちりと肢体に張り付いたチャイナドレスを翻し、この場から静かに立ち去ろうとしていた。その途中、彼女は懐から一つの通信機を取り出し、耳元に寄せる。そこから聞こえて来たのは、新世代ライダー達の緊迫したやり取りだった。

 

『ノバシェードの狙撃か……! しかも、G-verⅥの装甲を一撃で貫通するほどの威力! どうやら彼ら、かなり強力な弾丸を使っているようだね……!』

『う、うぅっ……! あっ、はぁうっ……!』

『水見鳥! すぐ助けにっ……おい、離せ森里ッ!』

『……阿呆(あほう)、それが奴の狙いだと分からんのか。敢えて急所を外して救助の見込みがあると思わせ、お前のような単細胞を釣り出して始末する。ノバシェードの狙撃兵がよく使う手だ』

「G-verⅥが被弾……か。向こう(・・・)も大変ね」

 

 ターボ達のマスクに内蔵された通信機能。そのシステムを介した会話内容を傍受していた真凛は、スゥッと鋭く目を細めている。どうやらターボ達は、ホークアイザーにかなり苦戦しているらしい。

 

(……G-verⅥが初撃で行動不能にされた以上、残るメンバーでこの状況を打破するにはタキオンの超加速能力(クロックアップ)に頼るしかない。けれど……敵の正確な位置を掴めていないまま闇雲に加速しても、無駄な消耗で終わる可能性がある。負傷者は恐らく、彼女1人では済まないわね)

 

 通信機越しに聞こえて来る、切迫した雰囲気の会話。その内容に聞き耳を立てる真凛は、この後に起きるタキオンの負傷まで「予測」していた。

 一通り傍受を終えた彼女は通信機の無線周波数を操作しながら、豊満な爆尻を左右に振って再び歩き出して行く。とある「組織」に通信を飛ばした彼女は、爆乳と爆尻を淫らに揺らしつつ、優雅な足取りで歩み続けていた。

 

「……特殊救命部隊(ハイパーレスキュー)、聞こえるかしら? 喜びなさい、とびっきりの緊急事態よ」

 

 世界を股に掛ける特殊救命部隊。その指令室と通話している真凛は、引き締まった細い腰を左右にくねらせ、豊穣な乳房と安産型の桃尻をたぷんたぷんと上下に弾ませながら。踵を返して遠方のヘレンに背を向け、そのまま闇の向こうに消えて行く。その白く優美な手で、サラマンダーのカスタムパーツを握り締めたまま――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今回は前話に引き続き、要塞内部への潜入を果たした真凛にスポットを当てた、お色気なアクション回となりました。次回は再びホークアイザー戦の視点に戻り、ようやく彼との決着を付けるエピソードとなります。どうぞ今後もお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。今話ラストでチラッと触れられたハイパーレスキューもこちらの作品で活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 バイオシリーズのレーザートラップって華麗にかわしてるイメージが強いけど、初出の映画版だと大変エゲツない結末なんですよね〜……。子供の頃に地上波放送で観ちゃって、結構なトラウマになった思い出(´Д` )


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第5話

 

 真凛が特殊救命部隊(ハイパーレスキュー)との通信を始めてから、しばらくの時が流れた頃。シャドーフォートレス島の「裏手」に位置する、山林の斜面では――ホークアイザーと新世代ライダー達の戦いが、決着の瞬間を迎えようとしていた。

 

「ぐおぉおおっ……!」

 

 ホークアイザーの目前にまで接近していたタキオンは最悪のタイミングで超加速(クロックアップ)状態を解除されたことにより、真っ向から狙撃銃で撃ち抜かれてしまった。彼の身体は脇腹を撃たれて体勢を崩したまま、地面を削るように転倒して行く。

 

「……ふっ」

 

 苦悶の声を上げて地を転がるタキオンの姿を見届けたホークアイザーは、勝利を確信したようにすっくと茂みから立ち上がり、茂みから己の姿を露わにする。そんな彼を睨み上げるタキオンは、悔しげに地を這っていた。

 

「惜しかったな、仮面ライダータキオン。如何にお前の加速能力が優れていようと……制限時間内に距離を詰め切ることが出来なければ、俺の狙撃の方が疾い……ということだ」

「……ぐっ、あっ……! ……勝ちを確信した途端にノコノコと出て来るとは、随分な自己顕示欲だな。狙撃兵失格だ……!」

「ふん、減らず口を叩ける元気は残っていたようだな。急所への命中だけは辛うじて回避したようだが……今度こそ、とどめを刺してやろう」

 

 再びコッキングレバーをガチャンと引き、薬莢を排したホークアイザーは悠々と次弾を装填する。そしてタキオンとの一騎打ちという「賭け」に勝利した己の強運を祝うように――彼の頭部に狙いを定め、引き金を引こうとしていた。

 

『待ちたまえ、ホークアイザー少佐! そんな連中より、君には殺すべき相手が居るだろう!』

「……その声は斉藤か。俺の邪魔をするな」

 

 するとその時、ホークアイザーのマスク内に通信が飛んで来る。その聞き覚えのある声は、このシャドーフォートレス島をノバシェードの思想で染め上げた元凶――斉藤空幻のものだった。タキオンへのとどめに水を差す彼の叫びに、ホークアイザーは仮面の下で眉を顰める。

 

『真凛・S・スチュワートが私の罠を突破して、島の中枢に向かっている! 直ちにあの雌豚を追い、始末するべきだ! 君の力なら簡単だろう!?』

「……まだこの男にとどめを刺していない。それに他のライダー共も残っている。逃げる敵ならばともかく、俺を潰す気でいる連中に背を向けるほど愚かになった覚えはないぞ」

『ええい、その外骨格のための資金を提供してやったのは一体誰だと思っている!? つべこべ抜かしてないで私の命令通りに動け!』

 

 スパルタン計画の復活や、そのための資金提供など、この島の兵士達にとっては大恩ある存在。そんな斉藤空幻だが、言葉巧みに他者を利用する彼の人格は、ホークアイザーが最も忌み嫌うものであった。斉藤の傲慢さと狡猾さは、出会った当初からホークアイザーには見抜かれていたのである。

 その斉藤からの指図を当然のように拒むホークアイザーだが、当の斉藤は聞く耳を持たない。真凛に軽々と罠を突破されたことでプライドを傷付けられたのか、彼は冷静さを欠いて声を荒げていた。捜査官でもなくなった流浪の女探偵1人に出し抜かれた屈辱は、かなりのモノであったらしい。

 

「……ならばアイアンザック中将にそう伝えるんだな。確かにお前には少なくない借りがあるが、あくまで出資者(パトロン)であって上官ではない。直接指図される謂れはない」

『出来ればやっている! 彼とは現在、通信が繋がらんのだ……! 何が起きているのかは分からんが、とにかくさっさとあの女を消せ! そのスーツに幾ら出してやったと思っているんだ!?』

「……」

 

 通信越しに喚き散らす斉藤の声に、ホークアイザーはこめかみに青筋を立てる。言いたい放題に言わせつつも、決して従う姿勢を見せないホークアイザーは、再びタキオンに狙撃銃の狙いを定めようとしていた。ライダー達との決着を優先している彼にとって、上官でもない一科学者の戯言など、ノイズでしかないのである。

 

「いちいちお前に言われずとも、こいつらを始末したらすぐに追う。それと……」

『なんだ!?』

「……一度くらい、口より先に手を動かせ……!」

 

 やがて、静かな怒気を込めた呟きと共に。ホークアイザーは斉藤との通信を一方的に切断し、無益な会話を終わらせてしまう。無様に喚いて他人の行動に口を挟む前に、己に出来るベストを尽くせ。そんなホークアイザーの憤怒が、短い一言に顕れていた。そしてタキオンの頭部目掛けて、ホークアイザーは今後こそとどめの1発を撃ち放とうと、引き金に指を掛ける。

 

「させるかぁあぁッ!」

「……なにッ!?」

 

 だが、その直前。ホークアイザーの眼前を遮るように、エネルギー弾の嵐が襲い掛かって来た。タキオンの後に続くように直進して来ていたターボが、ホークアイザーの近くにまで接近していたのだ。

 ライダー達にとっての「切り札」なのだと思っていたタキオンは、ターボを突入させるための「囮」だったのである。

 

(仮面ライダーターボだと……!? 奴め、あれほど動じていたのに……G-verⅥの救助より俺の排除を優先するとはッ!)

 

 唯一、自分の予測から外れた動きを見せたターボの登場に、ホークアイザーは意表を突かれ瞠目する。そんな彼目掛けて真っ直ぐに突撃しながら、ターボはシャフトブレイカーのエネルギー弾を連射していた。

 

(……だが、詰めが甘いな。確かにかなり近付かれてしまったようだが……まだ奴との距離は約300mもある! タキオンの窮地に焦るあまり、俺を牽制しようとエネルギー銃を撃ち始めたのだろうが……その銃の有効射程距離では、正確に俺に命中させることは不可能ッ! これだけの距離があれば、俺の狙撃は十分に間に合うッ!)

 

 それでもホークアイザーは平静を保ち、巧みな身のこなしでエネルギー弾をかわしながら、再び狙撃銃を構え直して行く。ターボはエネルギー切れを起こしたシャフトブレイカーを投げ捨て、全力疾走で突っ込んでいた。

 

「……おおぉおぉおッ!」

「なに……!? 馬鹿な、あの機能は……!」

 

 狙われていると分かっていても構わず突撃して行くターボは足裏のエンジンを全開にして、必殺技「ストライクターボ」を発動させて行く。本来ならその状態での回し蹴りで相手を仕留める技なのだが――まだホークアイザーとの間には、かなりの距離がある。

 

 こんな遠距離で必殺技を発動させても、届くはずがない。仮にホークアイザーの狙撃をかわして、ストライクターボが命中する距離まで近付けたとしても、その頃にはすでにエネルギーが切れているだろう。

 

(……ふっ、愚かな。勝負を急ぐあまり、勇み足で必殺技を発動させたのだろうが……この距離ではお前のキックなど届くはずがないだろう!)

 

 そんな彼の無謀としか言いようがない行動に対し、ホークアイザーは仮面の下で余裕の笑みを浮かべ、悠然とした佇まいでスコープを覗き込んでいる。彼の眼にはターボの行動が、悪足掻きにしか映らなかった。

 

(さぁ、眉間を撃ち抜いて一瞬で楽に――!?)

 

 その慢心が、命取りとなった。スコープを覗いた先に居たターボは、ホークアイザーの予測を遥かに上回る速さで接近していたのである。タキオンのような加速能力など無いはずだというのに、ターボはそれまでとは比べ物にならない速度でホークアイザーに急接近していたのだ。

 

(なッ……!? 馬鹿な、ターボにそんな能力は無いはずだッ! 一体これはッ……!?)

 

 予想だにしなかったターボの速度に、ついにホークアイザーの平静が崩れる。焦燥を露わにしながらもスコープを覗き続け、ターボの動きと状態を観察していた彼は、即座に速さの理由に気付く。

 

(な、何ィィィッ……!? 奴は己の必殺技(ストライクターボ)で「敵」ではなく……「地面」を蹴っているッ! 本来、敵に直接ぶつけるための衝撃を……「攻撃」ではなく、「移動」に使っているのかッ!?)

 

 ターボはストライクターボのエネルギーを宿した両脚で、地面を蹴って全力疾走していたのだ。敵に当たれば一撃必殺となる威力の蹴りを移動に応用すれば、生み出される速度は従来の比ではない。

 

「……ふん、あの阿呆が」

 

 タキオンの加速能力にも肉薄するほどの速度を得たターボは、人型の弾丸と化して風を切っていた。その勇姿を目の当たりにしたタキオンは、脇腹を抑えながらも仮面の下で不敵な微笑を溢している。全て、「作戦通り」だと言わんばかりに。

 

 この使用方法は、フィロキセラ怪人のような近接戦闘タイプの相手と戦う場合、これ以上ない「悪手」となる。相手の間合いに飛び込んだ時点でストライクターボの効果時間が切れるのだから、せっかくの火力が無駄になってしまうのだ。

 

 しかし、基本性能においては旧型の外骨格に過ぎず、新世代ライダー達には遠く及ばないスナイパースパルタンに対しては、唯一無二の有効打となる。接近戦に秀でていたフィロキセラ怪人とは逆で――近付くことさえ出来れば、どうとでも「料理」出来る相手なのだから。

 

(ええいッ、もう急所でなくても良いッ! タキオンのように、身体のどこかにさえ当たれば良いッ! とにかく早く、早く1発をッ……!)

 

 焦燥のあまり、「狙う」という狙撃手としての本懐すら見失ったホークアイザーが、とにかく引き金を引こうとする。

 

「うぉおおおおおおーッ!」

 

 だが、その指先よりも僅かに疾く。ついに彼の眼前に辿り着いたターボが、雄叫びと共に鉄拳を振るう。唸りを上げて振り抜かれたその一撃が、青い鉄仮面に炸裂した。

 

「ぐが、ぁッ……!」

 

 必殺技と呼べる威力ではない、ただのパンチ。他の怪人相手ならば軽いフックにしかならない、力任せな打撃。だがスナイパースパルタンの貧弱な装甲に対しては、その程度の攻撃でも形勢を覆す「決定打」となる。

 

「うぉおるらららららららぁあぁあーッ!」

 

 ストライクターボの加速を得た真紅の剛拳は、スナイパースパルタンの仮面を一瞬で粉砕していた。それだけには留まらず、ターボは仲間達の想いと怒りを込めた鉄拳の乱舞を繰り出して行く。

 

「ぐわあぁあぁあぁあーッ!」

 

 頭部を除く全身に拳打の嵐が打ち込まれ――やがて勢いよく吹き飛ばされたホークアイザーの身体が、無数の木々を打ち倒して行くのだった。

 

「が、がはっ……!」

 

 木々を薙ぎ倒しながら徐々に減速して行く彼の身体は、岩壁に叩き付けられようやく完全に停止する。一瞬にして満身創痍となったホークアイザーの身体が、ずるりと地面に滑り落ちて行く。誰の目にも明らかな、完膚なきまでの「ノックアウト」だった。

 

(……こんな、こんな馬鹿なッ……! 奴はG-verⅥが撃たれた時、誰よりも激しく取り乱していたはずだ……! あの狼狽は、俺の意表を突くための芝居だったのか……!?)

 

 仮面を破壊され、怜悧な美貌を露わにされたホークアイザーはわなわなと身体を震わせ、己の双眸で自身を打ち倒した男を射抜く。彼が露わにしている驚愕の表情は、「信じられない」という剥き出しの感情をありのままに際立たせていた。

 

(いや……俺の眼に狂いは無い。奴は間違いなくあの時、冷静さを欠いていた。奴は……この僅かな時間の中で、俺の予測を超えるほどにまで「成長」していたのだッ……!)

 

 岩壁に背を預けたまま身動きが取れなくなっていた彼は、ターボの勝利と成長を認めざるを得ないという現実を、己の身体で思い知らされていた。自分は紛れもなく、雑魚と侮っていたこの男に敗れたのだと。

 

「……ふふっ。見事、と言うより他ない、なッ……!」

 

 全てを見透かしたつもりになっていた自分こそが、最も重要なことを。最も警戒せねばならなかった相手を、見落としていた。

 

 そんな結果に自嘲し、ホークアイザーは独り寂しげな微笑を浮かべる。その様子を神妙に見つめるターボは、仲間達と共に掴んだ勝利を噛み締めるように、真紅の拳をギュッと握り締めていた。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話はスナイパースパルタン戦の決着を描いたエピソードとなりました。「カラーリングが反転している仮面ライダーマッハ」というのがターボの外観設定なので、白から赤になったマッハ……というのが私の中のターボ像でした。そこで、赤と言えば仮面ライダー2号……というイメージから、今回はライダーパンチで締めることに。王道のライダーキックなら孤島編でオルバスがやってくれてますからねー(*^ω^*)

 ちなみにスナイパースパルタンは旧式というだけあってスーツ自体の基礎スペックはかなり低く、同レベルの使い手同士でステゴロになったらマス・ライダーにも勝てません。ホークアイザー個人の技量と狙撃銃の威力で何とかなってたようなものなので、近付かれたらソッコーで詰むのです……(ノД`)
 ただ、スナイパースパルタンだけが特別紙装甲……というわけではなく、この時代では「型落ち」であるスパルタンシリーズの防御性能は、他の試作機でも(新世代ライダー組から見れば)さして変わりないです。真正面からオルバスとやり合えていたミサイルスパルタンの方がむしろ異常だったりします。次回からは再び真凛視点に移って行きますので、今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 M.S.Gのニュースナイパーライフルを掌動サイズの仮面ライダーに無理矢理持たせるとめちゃくちゃデカい感じになる。スナイパースパルタンの狙撃銃はそれくらいのサイズというイメージです(←自宅のプラモ等から話を考えてるタイプ


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第6話

 

 ――仮面ライダーターボが繰り出した渾身の鉄拳により、スナイパースパルタンの鉄仮面が粉砕された頃。サラマンダーのパーツを背負って要塞内部を駆け抜けていた真凛は、地下最深部へと繋がるドアを発見していた。

 

「あそこね……」

 

 そのドアの前では、深緑の特殊強化服を纏う2人の若い歩哨が、剣呑な面持ちで周囲を見渡している。彼らの手には、ドラムマガジン式の黒い専用ライフルが握られていた。そのライフルは普通の小銃と比べてかなり銃口が大きく、強化服を着た状態での使用を前提とした専用の銃火器であることが窺える。今の混乱に乗じて、要塞の奥に乗り込もうとしている侵入者――真凛のような存在を想定しての装備だろう。しかし真凛の脳裏には、引っ掛かるものがあった。

 

(私の動向が読まれている……? 斎藤空幻の仕業ね……)

 

 あまりに「配置」がピンポイント過ぎるのだ。他の持ち場にいた兵士達の多くは、裸より恥ずかしい格好の侵入者(ヘレン・アーヴィング)上空から来た赤い騎士(仮面ライダーオルバス)の対処に駆り出されたというのに、あの2人はまるで真凛がここに来ると分かっていたかのような位置に立っている。真凛は、彼らが斎藤による差し金だと看破していた。

 

「しかし……クランツ曹長。本当にあの斉藤博士の言う通り、ここに例の侵入者が来るのでしょうか……? 確かにここは重要なエリアですが、島の裏手から来たという連中なら今頃、ホークアイザー少佐が始末しているでしょうし……。アイアンザック中将に万一のことが起きる前に、我々も本来の持ち場に戻るべきではありませんか?」

「ミルド軍曹、余計なことを気にするな。俺達が考えるべきなのは、この島を守り抜くこと……それだけだ。あの男は確かに胡散臭いところもあるが……俺達が斃れて奴に得があるとも思えん。罠でもない限り、使える情報は使う……それだけだ。……司令とも一向に連絡が繋がらんこの状況下で、無闇に動き回るのも得策とは言えんしな」

 

 真凛の読み通り。クランツ曹長とミルド軍曹という2人の兵士は、斎藤から齎された情報を頼りにこのドアの警備に当たっていたのだ。彼らは斎藤に対する疑いを抱えながらも、基地の防衛という最大の任務を果たすべく、ドアの入り口前で警戒を厳にしている。そんな彼らの様子を、真凛は物陰から神妙な面持ちで観察していた。

 

「……見張りは2人。どうやら、素直に通らせてはくれなさそうね」

 

 いずれにせよ、他の迂回路を探している時間は無い。ならば、やることは一つだろう。通路の陰から様子を窺っていた真凛は鋭く目を細めながら、チャイナドレスのスリットから覗く白い太腿に指先を滑らせる。

 

「……はぁッ!」

「がッ……!?」

 

 そのか細い手指に握られたナイフが閃いた時、ミルド軍曹の眉間にその刃が突き立てられた。一瞬のうちに物陰から飛び出した真凛が、爆乳と爆尻をばるんっと揺らしてナイフを投げ飛ばしたのだ。

 

「なッ……ミルド軍曹ッ!? き、貴様ァッ!」

(他の兵士達とは装備が違う……。どうやら、スナイパースパルタンの余剰部品を使った特殊強化服を着ているようね。けど、頭部を防護出来ていないなら同じことよ)

 

 先ほどまで隣に立っていた部下が、悲鳴を上げる暇もなく事切れる。その瞬間を目の当たりにしたクランツ曹長は、闇に紛れて真っ向から急接近して来た真凛に銃口を向けようとしていた。この専用ライフルの火力なら、生身の人間など一瞬で赤い霧と化す。しかしそれよりも遥かに疾く、真凛は地を蹴って大きく跳び上がり、専用ライフルの射線をかわしてしまう。

 

「……はぁッ!」

 

 空中に跳び上がった真凛はそこで、くびれた腰を一気に捻る。次の瞬間、大きな弧を描くように振り抜かれた彼女の白い美脚が、専用ライフルの銃身を横薙ぎに蹴り付けていた。華麗にして優雅な回し蹴りが、クランツ曹長の銃に命中する。

 

「ぬ、ぁッ……!?」

「……ここまで近付かれては、せっかくの火力も宝の持ち腐れね?」

 

 チャイナドレスのスリットによって際立っていた、肉感的な長い脚。そのリーチを活かした空中回し蹴りが炸裂した瞬間、衝撃の反動によって真凛の爆乳と爆尻がばるんっと揺れ動く。確かな「手応え」を得た真凛は、妖艶な笑みを溢していた。

 一方、銃を蹴られて僅かによろめいたクランツ曹長の動きには、大きな「隙」が生まれていた。その好機に乗じて、一旦着地した真凛は即座に再び跳び上がり、クランツ曹長の「頭上」を取る。

 

「なッ、にィッ……!?」

「これで……終わりよ」

 

 ジャンプの際にチャイナドレスの裾がふわりと舞い上がり、真凛の白い美脚と――むっちりと実った安産型の桃尻が、頭上を取られたクランツ曹長の視界を覆ってしまう。Tバックのパンティが深く食い込んでいる彼女の白い巨尻は、その豊満な二つの桃を露わにしていた。

 

(ま、不味いッ……! この女……出来る(・・・)ぞッ!)

 

 だが、驚愕の表情でその「絶景」を仰ぐクランツ曹長には、見惚れていられる暇など無かった。専用ライフルの銃身を横薙ぎに蹴られた衝撃で、僅か一瞬でも姿勢を崩された彼は、真凛に対して致命的な「隙」を晒してしまっていたのである。

 

「むがッ……!?」

「……お休みなさい。永遠に、ね」

 

 濃厚な雌のフェロモンを匂い立たせている真凛の股間が、クランツ曹長の顔面にむにゅりと押し付けられて行く。その瞬間――肉感的な白い太腿に挟み込まれた彼の首が、凄まじい力で締め付けられていた。

 

「ぐむぅうッ! むぐぅあぁあ……!」

「……っ! 思ったより、しぶといっ……!」

 

 その締め技は完璧に極まっており、並の人間ならば意識を失うどころか、首がへし折れていたところだ。しかし「失敗作」の元被験者とはいえ、このクランツ曹長も改造人間。このまま簡単に倒れはしない。

 

 すでに意識は混濁しており、身体にもほとんど力が入らなくなっている状態だが、彼はそれでも懸命に抗おうとしている。身体を痙攣させてふらつきながらも、彼は両の足で床を踏み締めていた。

 本来、生身の人間に過ぎない真凛と、強化服を着た改造人間であるクランツ曹長との間には、凄まじい膂力の差があるのだ。クランツ曹長の方が気を失う寸前の状態になってようやく、両者の力の差が「拮抗」したのである。

 

「むぐ、ぐぅッ……!」

「……あはぁっ!? あ、はぁぅっ……! ご、強引なスキンシップねっ……!」

 

 視界を塞がれたクランツ曹長は気絶寸前の状態でありながらも、両手で勢いよく真凛の爆尻を鷲掴みにして、彼女を引き剥がそうとする。むっちりとした桃尻に沈み込んだ彼の指が、その桃の形を淫らに変えていた。

 

「んっ、くぅうっ……はぁああっ……!」

 

 予想外の反撃に思わず上擦った声を上げてしまった真凛は、妖艶な唇を悩ましげに開き、優美な背中をくの字に仰け反らせている。頬を上気させた彼女の豊満な肉体がしとどに汗ばみ、その匂いが特に濃く熟成されている股間が、クランツ曹長の顔面に擦り付けられていた。

 

(このまま組み敷かれたら、勝ち目がないっ……!)

 

 キツく唇を結んだ真凛の表情に、僅かながら焦りが出る。不意を突けば倒せる相手であるとはいえ、戦闘が長期化して単純な力勝負に持ち込まれれば、簡単に組み伏せられてしまう。そうなれば、もはや彼女に逃れる術はない。改造人間の膂力で、女としての尊厳を穢し尽くされてしまうだろう。

 

「いい加減にっ……落ち、なさいっ……!」

「むぐぅお、ぉおッ……! ミッ……ミルド軍曹のぉおッ、かた、きィィッ……!」

 

 そうなる前に勝負を付けなければ、今度こそ(・・・・)彼女は完全に、ノバシェードに心身ともに「屈服」させられてしまう。それだけは許すわけには行かない。真凛は力の限り太腿でクランツ曹長の首を締め付け、意識を刈り取りに掛かる。

 

「むごぉおおッ……! き、さまだけはァアッ……!」

 

 対するクランツ曹長もTバックのパンティに指を掛け、無我夢中で真凛を引き剥がそうとしていた。ミルド軍曹の敵討ちに燃える彼は、意識が遠退く中でも真凛の桃尻からは決して手を離さない。

 

(強化服のせいだけじゃない……! この男、精神力だけで肉体の限界を越えようとしているっ……! 改造人間といっても所詮は人間の延長に過ぎないのだから、私の締め技で落ちないはずがないのにっ……!)

 

 真凛の太腿は完全にクランツ曹長の首を極めており、もはや彼の身体は本来の膂力の0.1%程度も発揮出来ない状態となっている。だがそもそも、「強化服を着た改造人間」と「生身の人間」の間には、隔絶された力の差というものがある。

 強化服の力を借りたクランツ曹長の腕力は、この状態であっても完全には無力化し切れていなかったのだ。どれほど首を絞められ抵抗力を奪われ、力の差を覆されようとも、彼は諦めず最後まで抗おうとする。

 

「……っ! んっ、くぅうぅ、んんぅっ……! 見上げた復讐心、ねっ……!」

 

 パンティがずり下ろされて行く中で、真凛の白い爆尻も「丸出し」にされて行く。それでも真凛は怯むことなく、クランツ曹長の顔面に下腹部を密着させたまま、その首を太腿で締め続けていた。彼の頭部が真凛の太腿と股間で密閉され、その視界が暗黒に包まれる。

 

「んっ、くぅうっ……! あぁああっ……!」

 

 さらに大きく真凛の背が仰け反り、太腿や鼠蹊部、膝裏からじっとりとした汗が滲み出て来る。ウェーブが掛かった黒のロングヘアが振り乱され、肩甲骨を寄せて正面に突き出された豊満な爆乳が、だぷんっと躍動する。熟れた肉体から噴き上がる汗の滴が、その白い柔肌をなぞっていた。

 

「ごぉお、ぉおッ……あ、あぁッ……! おの、れ、ぇえッ……」

「んはぁあっ、はぁっ、はぁっ、んぁあっ……!」

 

 このせめぎ合いを最後に制したのは――真凛だった。ついに意識を手放したクランツ曹長が膝から崩れ落ち、ゆっくりと倒れ伏して行く。その様を見届けながら床の上に降り立った真凛は、淫らに息を荒げながら汗ばむ乳房と桃尻を揺らしていた。

 

「はぁっ、はぁんっ、はぁあっ、んぁあっ……!」

 

 チャイナドレスを押し上げる規格外の肉体は、よりじっとりと深く汗ばみ、芳醇な雌の匂いを分泌している。荒い呼吸で肩を上下させている真凛の貌は扇情的な色を帯びており、寄せられた眉と悩ましげに開かれた唇、漏れ出る甘い吐息が、彼女の「消耗」を物語っていた。

 

(……今のは、かなり……危なかった(・・・・・)わね)

 

 歴戦の元捜査官である彼女といえども、クランツ曹長のしぶとさは予想外だったようだ。汗に塗れた豊満な肉体から滴り落ちる滴が、長く優美な白い美脚を舐めるように伝っている。

 ぷっくりとした艶やかな唇に張り付いた髪先。生尻(・・)が露わになるまでずり下がっているパンティ。それらの「乱れ」が、彼女が感じていた「焦り」を証明していた。

 

「……寝付きの悪い子。さすがは現役の陸軍兵士ね。並の構成員よりもずっとしぶといわ」

 

 ずり下がっていたTバックのパンティを引き上げ、桃尻にしっかりと食い込むように穿き直しながら。ようやく息を整えた真凛は、昏倒したクランツ曹長を怜悧な面持ちで見下ろしている。食い込みを直す指先の動きに応じて、安産型の巨尻がぷるぷると揺れ動いていた。

 

「んっ……」

 

 Tバックのパンティが隙間なく「フィット」した瞬間、その心地良さにピクンッと反応した細い腰が淫らにくねる。引き締まった腰つきに反した、豊満な爆乳と爆尻もぶるんっと弾んでいた。

 

「……? このドア……セキュリティロックが掛かってるわね。厄介な……」

 

 やがて気を取り直した彼女は、開かれたドアと向き合う。だが、一向に開く気配がない。恐らく、何らかの方法でロックを解除しなければならないのだろう。だが、クランツ曹長やミルド軍曹の強化服を漁っても、解除に繋がる鍵らしきものは見つからない。

 

(不味いわね……急がないとヘレン達が……!?)

 

 このままでは、ヘレンのところにサラマンダーのカスタムパーツを届けられない。そんな焦りが真凛の脳裏を過った途端、突如ドアが何事もなかったかのように開かれた。戦闘の影響によるセキュリティシステムの誤作動なのだろうか。いずれにせよ、このまま進むしかない。

 

「……どういう仕組みなのかは知らないけど、随分と気まぐれなドアね。待っていなさい、ヘレン。すぐに行くわ……!」

 

 サラマンダーのパーツを背負い、真凛は乳房と桃尻を揺らして一気に走り出して行く。このドアの開放が他者からの干渉(ハッキング)によるものであることを、彼女はまだ知らない――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話は再び真凛視点に戻り、彼女のお色気アクションシーンに焦点を当てるお話となりました。真凛の前に立ちはだかる門番として登場したクランツ曹長とミルド軍曹ですが、当初は鋏が武器の「ロブスタースパルタン」という輩が彼らの役割を担う予定でした。いくら旧型だからといって、仮面ライダーの外骨格着てる奴が生身の人間相手にサシで負けるのは流石に……ということで、ちょっとレベルダウンして今の設定に落ち着いた感じですね。いつかこの設定もどこかで再利用出来たらなぁ……と思います(´Д` )
 何とか(色んな意味で)ギリギリの勝負を制した真凛。ヘレンも孤島編ではいわゆる「幸せ投げ」を披露していましたが、そのヘレンに戦闘技術を教えていたのは彼女ですからね。同じような技が出来ないはずがないのです……。しかし、彼女の活躍の裏では何者かによるハッキングが行われていた模様。次回はその辺りの真相に迫るお話になりますので、次回以降もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 アイアンザックは万一のことがあるかもと思われていて、ホークアイザーの方は負けるかもとは全く思われてない。もうこの辺に人望の差が出てる(´・ω・`)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第7話

◆今話の登場ヒロイン

一光(にのまえひかる)
 アメリカ合衆国・ノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」の最高責任者。仮面ライダーオルバスをはじめとする72機のジャスティアタイプを開発した若き天才科学者であり、掴みどころのない飄々とした佇まいを見せるマッドサイエンティスト。非常に身体が弱い美少女であり、普段は専用の車椅子で移動している。当時の年齢は18歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

亜灰縁(あくいえん)
 アメリカ合衆国・ノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」の研究員であり、ジャスティアタイプのテスト装着者も務めていた才媛。光とは公私共に深い付き合いがあり、彼女の方針に苦言を呈しながらも忠実に従っている。白衣を纏った怜悧な美女であり、物腰は落ち着いているが言葉のチョイスはかなり辛辣。当時の年齢は20歳。
 ※原案はX2愛好家先生。



 

「なぜだあぁあぁあッ!?」

 

 真凛の行手を阻んでいた自動ドアが、謎の「誤作動」によって開かれた頃。ノバシェード・アマゾン支部の怪人研究所では、1人の男が怒号を響かせていた。研究員らしき白衣を纏っているその男は、シャドーフォートレス島の状況を映したモニターを感情任せに殴り付けている。

 

 アマゾンの密林に隠されたこの施設に設けられている、薄暗い怪人研究室。その閉鎖的な空間を、モニターの怪しい光だけが照らしていた。その光はモニターを殴っている白衣の男だけでなく、彼の背後に並び立つ大型の培養カプセルも照らし出している。

 

『グ……ガ、ァ……』

 

 カプセルの内部で培養されている怪人の実験体は、今にも動き出しそうな不気味さに満ちていた。そのカプセルの下には、「フィロキセラ・タイプγ(ガンマ)」と記載されている。知性のない眼をギョロギョロと動かしていた実験体は、自分の生みの親である白衣の男の背中をジッと見つめていた。

 

「なぜだァッ!? 死に損ないのクズ兵士2人をあのドアの前に行かせて……さらにドア自体にもロックを掛けたはずなのにッ! なぜあのドアが開いたのだッ!? あそこのセキュリティシステムに異常など無かったはずだァッ……!」

 

 この地からシャドーフォートレス島の施設運用に干渉していた白衣の男――斎藤空幻は、予期せぬ事態に激しく声を荒げていた。自分が仕掛けた罠を真凛に軽々と突破された挙句、ホークアイザーからも冷たく見放された彼は、意地でも真凛を排除してやろうと策を弄していたのだ。

 

 ヘレンやオルバスを迎撃するために動こうとしていたクランツ曹長とミルド軍曹を呼び止め、自動ドアの前で見張りをするように仕向けていたのも彼だ。彼は2人に真凛を始末させるために、スナイパースパルタンの余剰部品から造った特殊強化服を与え、真凛の進行ルート上に配置していたのである。

 

「おかしい……絶対におかしい……! こんなこと、起こり得るはずがないのだ……! 私以上の頭脳を持つ別の何者かが、この島のセキュリティ権限を奪い取りでもしない限りはァッ……!」

 

 しかし結局は、クランツ曹長もミルド軍曹も真凛によって倒されてしまった。その上、真凛からは絶対に解除出来ないようなロックを施していたはずの自動ドアは、何らかの「異常」によってあっさりと開かれてしまったのだ。自分の目論見が悉く破綻して行くこの事態に、斎藤は頭を抱えて唸り声を上げている。

 

「……!? ま、まさか……!」

 

 その時。自分自身が口にした「あり得ないこと」を反芻した斎藤が、ハッと目を見開いて顔を上げる。自他共に認める天才である彼が、それでも「自分以上」と認めざるを得ないほどの頭脳を持った人物。それに対するただ一つの心当たりが、彼の脳裏に「正解」を与えたのだ。

 

 ◆

 

 ――同時刻。アメリカ合衆国のノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」。人里から遠く離れたその研究所で暮らす1人の美少女は、愉悦に満ちた笑みを浮かべて一つのモニターと向き合っていた。

 

「……ふふっ」

 

 そこには斎藤が見ていたものと同じ、シャドーフォートレス島の状況を映した映像が流されている。白衣を羽織り、メカニカルな車椅子に腰掛けたその美少女は、悪戯が成功した子供のような微笑を零していた。薄暗い研究室の中で輝くモニターの発光が、掴みどころのない妖艶な美貌を映し出している。

 

「この手の『イタズラ』で遊んだのは久しぶりだねぇ……。斎藤空幻も今頃、私の干渉(ハッキング)に気付いた頃かな?」

 

 彼女の名は一光(にのまえひかる)。この研究所の所長にして、全72機ものジャスティアドライバーを開発した若き天才科学者であった。彼女が斎藤のコンピュータを一時的に乗っ取り、シャドーフォートレス島のセキュリティシステムに干渉していたのだ。

 

 自分の存在を追跡出来なくするプログラムを組んだ上でのハッキングだったが、斉藤ならば自分の干渉にも勘付いているだろう。そこまで看破した上で、光はニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべている。それが分かったところで、この如何ともし難い実力の差はどうにもならないだろう? と言わんばかりに。

 

「それにしても、あの元捜査官……確か、真凛・S・スチュワートと言ったかな。なかなか見所があるじゃないか。どうやら、彼女に一泡吹かせたくて堪らなかったようだが……ふふっ、泡を吹いたのは自分の方だったようだねぇ。斎藤空幻」

 

 そして光の興味は今、シャドーフォートレス島の最深部を目指す真凛に移っていた。ノバシェード対策室の元特務捜査官であり、対策室から除名された後も独自にノバシェードを追い続けている女探偵。そんな酔狂な女傑の動向を、ハッキングした監視カメラの映像で観測している光は、目を細めて薄ら笑いを浮かべていた。

 

(……水場の多いシャドーフォートレス島の内部を、これほど澱みなく進んで行ける潜入技能。水陸両用の42番機(ウェペル)を任せる適合者候補としては、理想的な人材かも知れないねぇ……)

 

 機雷が大量に撒かれている島周辺の海中を、人魚の如く鮮やかに潜り抜け、単独で要塞内部の奥地にまで潜入するという卓越した身体能力。その技能は、光が開発したジャスティアタイプの一つ――「仮面ライダーウェペル」の適合者に相応しいものであった。しかし、そんな彼女の隣に立つ「側近」は、訝しげな面持ちで真凛の姿を観察している。

 

「……確かに、彼女の技能には利用価値があるかも知れません。が、度重なる命令違反によって対策室から追放された問題人物です。……正直言って、お勧めしませんよ」

「ふふっ、それくらいの方がどんな化学反応が起こるか楽しみじゃあないか。期待の適合者候補と、『私の仮面ライダー』が今まさに、凶悪な鉄人から世界を救おうとしている……。実に興味深いヒーローショーだと思わないか?」

 

 光の隣から苦言を呈している、白衣を纏った知的な美女――亜灰縁(あくいえん)は、光の奔放な振る舞いに深くため息を吐いていた。横顔を一瞥するだけで、光の思惑を容易く見抜くほどの「深い付き合い」があるようだが、彼女の性格にはいつも手を焼いているのだろう。

 

「いつもながら、貴女の感性には呆れるばかりですね。そう遠くないうちに地獄に堕ちるのではないかと」

「おやおや、これは手厳しい。……だが、地獄に堕ちるべきなのは私だけではないさ」

 

 呆れ果てたと言わんばかりにため息を吐く縁の反応を前にしても、光は笑みを崩すことなくモニターを見つめている。ジャスティアライダー達の中でも彼女が特に気に掛けている、「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットは今まさに、ミサイルスパルタンの要塞形態(フォートレスフォーム)と雌雄を決しようとしていた。

 

「……ふゥン?」

 

 ハッキングした監視カメラの映像から、オルバスとミサイルスパルタンの死闘を「観戦」している光。彼女は口元こそ愉悦の笑みを見せているのだが――戦いの行方を見つめる鋭い双眸は、全く笑っていない。

 

(……2009年に凍結・抹消されていた、人類初の仮面ライダー量産計画。そんな「スパルタン計画」から生まれた最後の鉄人……ミサイルスパルタン、か……)

 

 約11年前の2009年。この北欧某国の英雄――ジークフリート・マルコシアン大佐が率いていた「マルコシアン隊」によって運用されていたという、スパルタンシリーズ。あまりにも誕生が早過ぎた、その鋼鉄の鎧は全て、旧シェードとの戦いで跡形も無く消え去ったのだという。

 

 光もそれらの存在は、僅かな記録……の残滓でしか知らない。そもそもスパルタンシリーズ自体、その戦いの後に軍部の公式記録からもほとんど抹消されている、幻の存在なのだ。分かっていることと言えば、当時生産された試作機のほとんどが、現代の新世代ライダーやジャスティアライダーのスペックには遠く及ばないものだったということくらいだ。

 

 その未熟な鎧で戦火に身を投じ、愛する国や人々のため、勝ち目のない戦いに飛び込んで行った当時の装着者達が、どんな思いで死地に赴いていたのか。そんなこと、知る由もない。それに、今さら知ったところで意味はない。だが、想像することくらいは出来る。

 例え歴史に記録されずとも、仮面ライダーとして認められずとも。スパルタンシリーズの鎧を纏って旧シェードに立ち向かった戦士達は、己の命を燃やし尽くし、見事に使命を完遂した。すでに役割を終えた彼らも、彼らの鎧も、静かに眠るべきなのだろう。

 

 しかしアイアンザックは己の野望のためだけに、眠っていたはずのスパルタン計画を墓から掘り起こし。死んで行った部下達の思いを踏み躙るかのように、ノバシェードという悪魔以下の畜生共に魂さえ売り渡した。

 

(……それだけのことをしてまで、造り上げたのがこの木偶の坊? つまらないねぇ。実につまらない)

 

 戦火に散ったマルコシアン隊の英霊達に対して、これ以上の冒涜はないだろう。とはいえ、ジャスティアドライバーの適合者を探すためなら如何なる手段も問わない光自身も、決して清廉であるとは言えない身だ。アイアンザックの姿勢そのものに文句を付ける気はない。

 力を求めて悪魔に魂を売る。それも1人の狂気を厭わぬ科学の探求者(マッドサイエンティスト)としては、共感出来る部分であった。だが、そんな光としても。アイアンザックと、彼が生み出したミサイルスパルタンは単純に「気に食わない」のだ。

 

(……気に食わないねぇ。あぁ、実に気に食わない)

 

 悪魔に魂を売るのは結構。しかしそこまでするからには、相応の成果物を完成させなければ「費用対効果」が得られない。売った魂の割に合わない。未熟なオルバス1人に手こずっているミサイルスパルタンに、そこまでの「値打ち」があるとは到底思えない。

 

 しかし当のアイアンザックは、自分の理想が実現したと言わんばかりの高笑いを響かせている。悪魔に魂を売ってまで完成させた巨人がこの程度(・・・・)であり、当の本人はそのレベルの低さに気付いてもいない。そんなアイアンザックの姿は、光をこれ以上ないほどにまで「不愉快」にさせていたのだ。

 

(……私は特に好かないのだよ。こういう白ける真似をする輩が、ね)

 

 彼女が斎藤のコンピュータをハッキングして真凛を助けたのは、ミサイルスパルタンと戦っている忠義を救うためだけではない。アレクサンダー・アイアンザックという男の「程度の低さ」が、同じ科学者として、ただひたすらに気に食わなかったのである。

 

(そういうわけだから……さっさとそいつを黙らせてくれたまえよ、私の仮面ライダー)

 

 それが彼女なりの正義感によるものなのか。あるいは、単なるいつもの「気まぐれ」なのか。それは、彼女自身にしか分からない。専用車椅子の肘掛けに体重を預けた瞬間、光の乳房がぷるんと僅かに揺れる。

 その気怠げな姿勢のまま、彼女は冷ややかな眼差しでアイアンザックの「末路」を見届けようとしていた。オルバスの鎧を纏う忠義に対しては、「期待」の熱を帯びた視線を注いでいた彼女だが――ミサイルスパルタンの方には、焼却炉に送られた生ゴミを見るかのような眼を向けている。

 

『マルコシアン隊が旧シェードに完勝さえしていれば、私のスパルタン計画は大々的に認知され、賞賛され、歴史に記録されていたのだ! だのにスパルタンシリーズを開発した私の功績は抹消され、試験装着者(モルモット)に過ぎなかったマルコシアン隊の下らん自己犠牲ばかりが称賛されている……! ジークフリート・マルコシアン! あの無能な愚図の木偶の坊が私の人生を狂わせたのだッ! 無駄な犬死にで私の名誉を貶めた、奴の部下共も纏めて同罪だァッ!』

『……ッ! あぁハイハイ、そうかよ分かったよ分かった分かりました! あんたの良心にほんのちょっとでも期待した俺がバカだったぜ! いちいち他人のせいにしてなきゃ自我すら保てねぇってんなら、頭冷えるまで失神してろッ!』

 

 そして、光と縁が人知れず見守る中。アイアンザックの身勝手さに怒る仮面ライダーオルバスが、最大稼働スキル「FIFTYΦ(フィフティーファイ)ブレイク」を発動させようとしていた――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話は前話ラストで起きていたハッキングの真相に迫るお話となりました。これまでのエピソードでも度々名前が出ていた、ジャスティアドライバーの開発者こと一光。彼女の助力が真凛の暗躍に繋がっていたのですねー。一方、そんな彼女に目論見を潰された斎藤空幻は、アマゾン支部にある自分の研究所内でグギギとなっております。本章から約1年後の物語である番外編(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)の舞台にもなっている施設ですね。この1年後、自分の作品であるタイプγにムッ殺されることになるとは夢にも思うまい……(ノД`)

 今話に登場した光と、その側近とも言うべき亜灰縁。彼女達2人は後述の3次創作「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」で本格的に活躍しておりますので、この機会にぜひご一読ください! 次回からはホークアイザーを打ち破ったターボ達の視点に戻って行きますので、今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。今話に登場した一光と亜灰縁も主要人物として本格的に登場しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 光の元ネタ……一体何ネス何オンなんだ……(゚ω゚)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第8話

 

 一光のハッキングによって開かれたドアを突破し、要塞の最奥を目指して走り続ける真凛。彼女はついに、オルバスとミサイルスパルタンが対峙していた最深部に辿り着き――地下の格納庫に繋がる「大穴」を発見していた。

 

「……! ヘレン、オルバス……!」

 

 この要塞の最深部に相当する、ミサイルスパルタンの専用格納庫。そのエリアに繋がる「大穴」から噴き上がって来る猛烈な爆炎が、そこで繰り広げられている戦闘の激しさを物語っている。鋭く目を細めつつ、その大穴の淵に駆け付けた真凛は、そこから真下の格納庫エリアを見下ろしていた。

 

「弾切れ……!? こんな時にッ! オルバス、あなたの最大稼働スキル(フィフティーファイブレイク)は!?」

「生憎、まだ充填期間(クールタイム)が終わってねぇ……! ちくしょう、こんなところでッ……!」

 

 格納庫で無遠慮に暴れ回る、ミサイルスパルタンの要塞形態(フォートレスフォーム)。その巨大な鉄人と対峙しているヘレン・アーヴィングのマス・ライダー軽装型と仮面ライダーオルバスは、どちらも武器や必殺技を使い果たしてしまったらしい。

 一斉射撃を繰り出そうとしているミサイルスパルタンに対し、彼らは決定打となる攻撃を繰り出せずにいた。このままでは2人とも、鉄人の砲火によって消し飛ばされてしまうだろう。

 

(待たせたわね、ヘレン。お節介な元先輩からの、ちょっとした餞別よ)

 

 だがもちろん、このまま黙って2人の様子を眺めている真凛ではない。彼女はこうなった時のために、「古巣」の武器庫からサラマンダーを失敬して来たのだから。

 

「……はぁッ!」

 

 背負っていたサラマンダーのカスタムパーツから負い紐(スリング)を外し、真凛はその「切り札」を勢いよく「大穴」の淵から放り投げる。この戦いに終止符を打つ最終兵器が今、ヘレン達の前に舞い降りようとしていた――。

 

 ◆

 

 拳が先か、弾が先か。その紙一重の一騎打ちを制し、ホークアイザーを打ち倒した仮面ライダーターボ。彼は岩壁にもたれ掛かっているホークアイザーが戦闘不能となっていることを確認し、近くに倒れていた仮面ライダータキオンの側に駆け寄って行く。肩を貸して「仲間」を助け起こすターボの様子からは、かつての軋轢など微塵も感じられなくなっていた。

 

「……おい森里、生きてるか?」

「ふん、改造人間の俺がこの程度でくたばるものか。……俺を助ける気など無かったのではないのか?」

「何の話だ? もう忘れたよ」

「……ふっ。やはり単細胞だな、お前は」

 

 互いに不敵な笑みを向け合い、軽口を叩き合い。ターボの肩を借りて立ち上がったタキオンは、脇腹を抑えながらも両の足で地を踏み締めている。自分や周りから何と言われようと、身を挺して囮役を完遂して見せたタキオンの献身を目の当たりにして、ターボも考えを改めたのか。2人の間にあったわだかまりは、いつの間にか霧散していた。

 

「やれやれ……共に死線を潜り抜けても、あの2人は相変わらずか。参ったね、水見鳥君」

「……でも、前よりは良好な雰囲気のようですわ。これくらいで丁度いい……ということなのでしょう。彼らにとっては」

 

 そんな2人の様子を遠巻きに見届けていた仮面ライダーGNドライブも、傷付いた仮面ライダーG-verⅥを横抱きの要領で抱え上げていた。顔を見合わせた2人は安堵の息を漏らし、仮面の下で微笑を溢している。どうやら、G-verⅥの止血も完了していたらしい。

 

「ふっ、くくく……これでは、司令のことを笑えんな。節穴は……俺の方だったということか……」

「……! お前……!」

 

 そんな中、合流して行く新世代ライダー達の様子を眺めていたホークアイザーが小さく呟く。そのか細い声を聞き付けたターボが振り返った時、孤高の狙撃手は憑き物が落ちたような微笑を浮かべていた。ようやく己が探し求めていた「死に場所」を見付けたのだと言わんばかりに。

 

「……お前達の勝利だ。さぁ、好きなように嬲り殺すが良い。それが、敵に捕えられた狙撃兵の宿命というものだ。今さら逃げも隠れもせん。それが出来るような状態ではなくなったからな」

「……」

「俺の死に場所も、ようやく見つかった。もう、悔いは無い。さぁ……一思いに()れ」

 

 戦場で多くの兵士達を一方的に殺害した狙撃兵は、ただの歩兵よりも遥かに多くの憎しみを一身に集める。そんな狙撃兵が敵の捕虜となった時は――筆舌に尽くし難い「地獄」が始まるのだと言われている。

 

 その覚悟を決めた上でターボ達に挑んだホークアイザーは、然るべき「裁き」を受ける時が来たのだと、達観した様子で瞼を閉じる。だが。彼の前に立ったターボは怒りを露わにしないばかりか、冷静な佇まいで片膝を着き、彼の両手に手錠を掛けていた。

 

「……午前4時29分、被疑者を確保」

「なに……? どういうつもりだ、仮面ライダーターボ。この期に及んで、俺に情けでも掛けようというのか。テロリストに堕ちたこの俺を……!」

「お前達の道理なんざ知ったことか。俺達は仮面ライダーであり……警察官だ。無抵抗の相手を手に掛けるような、殺し屋になった覚えは無い」

「……そういうことだ。楽に死ねるとでも思ったか? 残念だったな」

 

 激情に流されることなく、仮面ライダーという名の特務警官として粛々と職務を遂行しようとするターボ。そんな彼の行為に声を荒げるホークアイザーに対し、脇腹を抑えたまま立っているタキオンは不遜に鼻を鳴らしていた。

 彼らの言葉に瞠目するホークアイザーは、自分が戦っていた相手の「強さ」を目の当たりにすると――打ちひしがれた様子で脱力し、乾いた微笑を溢す。

 

「……俺の負けだな、何もかも……」

 

 その敗北宣言を経て、この戦いが真の決着を迎えた――直後。突如、このシャドーフォートレス島全体が激しい揺れを起こし、ライダー達の体勢を乱し始めた。予期せぬ地震にターボやタキオン達は顔を見合わせ、何事かと目を見張る。

 

「なっ……何だ、この揺れは一体っ……!?」

「……自爆装置だ。どうやらお前達の仲間が、俺達の司令(ボス)を倒してしまったらしいな。あと数分で、この島全てが焼け野原と化すぞ」

「何だって……!?」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で辺りを見渡したホークアイザーの言葉を受け、ターボ達に緊張が走る。彼の発言が脅しの類ではないことは、島中から飛び出す火柱や地震の激しさが証明していた。

 まさにこの瞬間。真凛・S・スチュワートからサラマンダーを託されたヘレン・アーヴィングの一撃がミサイルスパルタンを撃破し、シャドーフォートレス島の自爆装置が作動していたのだ。島全体が丸ごと焦土と化すほどの爆炎を呼ぶ、機密保持と証拠隠滅のための機能。そのカウントダウンが、ついに始まってしまったのである。

 

「不味いな、それなら早く脱出しないと……!」

「……お前達。その装甲の水滴を見るに……途中で機雷に船を壊された後、泳いで上陸して来たのだろう? 爆発の範囲は島の外にまで及ぶ。いくら最新式の外骨格と言えども、泳ぎでは到底逃げ切れんぞ」

「じゃあどうしろってんだ!?」

「……これを、持って行け」

 

 ターボが詰め寄る中、ホークアイザーは手錠を掛けられたまま最後の力を振り絞るように懐へ手を伸ばし――何らかの「鍵」を地に落とした。乗り物のエンジンを起動させるキーのようだ。その鍵を目の当たりにしたGNドライブが、仮面の下で目を丸くする。

 

「これは……?」

「俺の旧型外骨格(スナイパースパルタン)のために開発されていた、専用哨戒艇の起動キーだ。哨戒艇と言っても、最高時速は500kmを超えるモンスターマシン。並の人間が乗っても、そこまで加速する前に振り落とされてしまうところだが……お前達なら問題なく乗りこなせるはずだ」

「その船はどこにありますの?」

「この斜面を海岸線まで下り、右手沿いに回り込んだ先の洞窟に隠してある……。その船の装甲なら、島の外周に撒かれた機雷など問題にもならん」

 

 鍵を拾い上げたGNドライブに対し、ホークアイザーは脱出の「切り札」となる自分専用の船の存在を伝える。G-verⅥの問いに答えながら船の位置を指差す彼の手は、力無く震えていた。もはや、自力でまともに動けるだけの力も残っていないのだろう。

 

「海岸線から右手沿い……!? かなりの距離じゃないか! 間に合うかどうか……」

「諦めるな仮面ライダー、お前達の足なら必ず間に合う。……この俺を打ち破った男が、情け無いことを言うな」

「……あぁ、そうだな。よし、それならお前も一緒に……っ!?」

「それに……心配など要らん。俺が……間に合わせて(・・・・・・)やる」

 

 そんなホークアイザーを連れて島を脱出しようと、ターボは手を差し伸べるが――彼はその手に応えようとはしなかった。「間に合わせる」というホークアイザーの言葉が意味するものに、ターボが気付くよりも速く。肩部のスイッチに触れた彼の全身は、眩い輝きに包み込まれていた。

 

「……! よせぇッ!」

 

 いち早くホークアイザーの意図に勘付いたタキオンが、咄嗟に地を蹴って手を伸ばそうとする。だが、もはや手遅れだった。

 

「……『仮面ライダー』の名は……俺達には、過ぎたものだったようだ。お前達に……返、す……」

 

 微笑と共に、ホークアイザーが最期(・・)にそう呟いた瞬間。青と黒の外骨格が、激しい閃光と共に爆ぜる(・・・)。やがて、その衝撃波がライダー達全員に襲い掛かるのだった。彼らは為す術もなく吹き飛ばされ、その勢いのまま斜面を転げ落ちて行く。

 

「うわあぁあぁあっ!?」

「きゃあぁあっ!」

 

 地震によって体勢が崩れていたところで至近距離での爆発を受けたターボ達の身体は、姿勢を立て直すこともままならず、木々を薙ぎ倒しながら猛烈な勢いで海岸線まで滑落して行く。爆発の勢いを乗せたその滑落は、ライダー達の走力すら凌ぐ速度に達していた。

 

 超加速能力(クロックアップ)もストライクターボも使い果たした今の彼らでは、例え全力で山を駆け降りたとしてもこれほどの速さで斜面を下ることは出来なかっただろう。スナイパースパルタンの外骨格を「自爆」させたホークアイザーは、文字通り命を賭して、ターボ達を島の海岸線まで「間に合わせた」のだ。

 

「ぐうぅうッ……!」

 

 木々との衝突により、少しずつ滑落の速度が落ちて行く。そんな中で海岸線が見えて来た瞬間、ターボ達は両膝と両手で地面を削りながら全力で「減速」し、辛うじて海に飛び出す直前のところで停止することが出来た。あと僅かでも遅れていたら、島の外周を漂う機雷に頭から突っ込んでいたところだ。

 

「……ッ!」

 

 すると、その時。何とか立ち上がったターボの頭上に、一つのネックレスのようなものが落下して来る。咄嗟に片手でキャッチしたそれは――「MILOS(ミロス) HAWKIZER(ホークアイザー)」という名が刻まれた、認識票(ドッグタグ)だった。

 爆炎に焼け爛れたその「証」を握り締めたターボは独り、声にならない慟哭を上げる。だが、今の彼には悲しんでいる暇もない。島が爆炎に飲まれる瞬間は、刻一刻と近付いているのだ。

 

「……立ち止まるな、本田。奴が命と引き換えにしてまで俺達に望んだことは……一体何だ?」

「あぁ……分かってる。行こう、森里」

 

 人知れず嗚咽を漏らすターボの肩を叩き、他のライダー達と共に走り出して行くタキオン。そんな彼の後に続き、ホークアイザーの遺言を頼りに脱出用の船を探すターボは、一度だけ斜面を見上げ――炎が立ち昇る光景を仰いでいた。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話は新世代ライダー4人と、スナイパースパルタンの死別を描いたエピソードとなりました。自分の「死に場所」を見付けてしまった彼は、こうなるしかなかったのですなぁ……。ハカイダーやヴァルバラドのようなカッコいいライバルキャラを目指して書いていた彼ですが、早くも退場となってしまった模様。彼から脱出船の鍵を託されたターボ達は、果たして無事にこの島から出られるのか……次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 ライダーに倒された悪者はしめやかに爆発四散。これもお約束ですもんねー……(´・ω・`)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第9話

◆今話の登場人物

東方駿介(ひがしがたしゅんすけ)
 世界を股に掛ける特殊救命部隊「ハイパーレスキュー」の隊長。例えどんな相手であろうと救える命は救う、という己の信条に忠実な人物であり、そのためならば世界中のどこにでも駆け付けるストイックな青年。新世代ライダーの一員である「仮面ライダーアルビオン」こと東方百合香(ひがしがたゆりか)の実兄に当たる。当時の年齢は29歳。
 ※原案はMegapon先生。

(たつみ)・D・(じん)
 駿介の部下である、世界を股に掛ける特殊救命部隊「ハイパーレスキュー」の副隊長。粗野で飄々とした印象を受けるニヒルな男だが、隊長である駿介の信念に対しては忠実に従い、これまで数多の現場で救護活動に奔走して来たベテランのレスキュー隊員。当時の年齢は34歳。
 ※原案はX2愛好家先生。



 

「あったよ……船が! 船を見付けたよ、皆ッ!」

「上福沢、でかした!」

 

 島の外周を回るように先頭を走っていたGNドライブは、ついにホークアイザーが言っていた洞窟を発見する。その奥に隠されていた青基調の特殊哨戒艇――「マリンプロテクターサイクロン号」は、新世代ライダー達を待っていたかのように海上に佇んでいた。

 

「よし良いぞ、出せッ!」

「任せたまえよッ!」

 

 その船体を目の当たりにしたGNドライブ達は即座に飛び乗り、素早くエンジンを始動させて行く。ホークアイザーの言葉通り、この船は並々ならぬ苛烈な駆動音と共に、凄まじい勢いで走り出していた。青い船体が海を切り裂き、大海原を疾走する。

 

「くっ……! 皆、振り落とされるなよッ!」

「さ、殺人的な加速ですわっ……!」

 

 海を掻き分け海上を爆走する特注の哨戒艇は、ライダー達を乗せて瞬く間に洞窟の外へと飛び出して行く。ほんの10秒程度で最高速度に達した船体は、機雷の爆炎すら一瞬で突き抜けていた。手摺りや甲板にしがみ付くライダー達は、振り落とされないように必死に堪えている。

 

「あうぅっ……!」

「水見鳥ッ!」

 

 船の移動速度自体もかなりのものだが、そこに機雷の爆発による衝撃も加わっているのだ。ホークアイザーが言っていた通り、並の人間なら容易く振り落とされてしまっていたのだろう。4人の中では最も腕力が低く、負傷者でもあるG-verⅥは手摺りから手指を滑らせてしまい、船上から転げ落ちそうになっていた。

 

「ぐっ、ぅおおぉッ……!」

「水見鳥、森里ッ! 2人共頑張れッ! もうッ……すぐだッ!」

 

 そんな彼女の腕を咄嗟に掴んだタキオンは、脇腹の痛みに顔を顰めながらも懸命に耐えている。やがて彼も力尽き、手摺りから手を離しそうになっていたのだが――その寸前でターボがタキオンの肩を掴み、事なきを得ていた。

 

「……! 皆、見ろ! シャドーフォートレス島が……!」

「あ、あぁ……!」

 

 そして。彼らを乗せた青い船が海上を駆け抜け――島から遠く離れた海原にまで辿り着いた頃。ついにタイムリミットを迎えた自爆装置が、その時を迎えた。

 

 シャドーフォートレス島全域を飲み込むほどの爆炎が天を衝き、朝陽が昇る空を眩く照らし出して行く。ようやく安全圏に辿り着いたマリンプロテクターサイクロン号は、そこでエンジンを停止させていた。

 

「ふぅっ……! 皆、無事かい!? まさしく間一髪だったねぇ……!」

「あぁ、全員ここに居る。……まさか、最後の最後で敵に助けられるとはな。俺達もまだまだ、ということか」

「んはぁっ、はぁっ……!」

 

 その光景を目の当たりにしたライダー達は、この船が無ければ自分達の命は無かったのだということを肌で理解する。舵を取っていたGNドライブの呼び掛けに対し、タキオンは安堵の息を漏らしながら己の未熟さを自嘲していた。一方、G-verⅥは喋る余裕も無かったのか、女座りの姿勢で悩ましく息を荒げていた。

 

「……」

 

 そして――ミロス・ホークアイザーという男の確実な「死」を実感したターボは仮面を外し、憂いを帯びた貌を露わにしていた。赤い仮面を小脇に抱えたターボは、手元に残されたホークアイザーの認識票に視線を落とし、物憂げな表情を浮かべている。朝陽に照らされた彼の赤い外骨格が鮮やかな光を放ち、首に巻かれた白いマフラーが海風に靡いていた。

 

「……いいや。あの時のアイツは……敵なんかじゃなかったさ」

「……あぁ、そうかもな」

 

 タキオンに言われた通り、立ち止まってなどいられない。例え悲しみながらでも、自分達が警察官であり仮面ライダーである以上、この戦いの旅から降りるわけには行かない。

 ターボはその宿命を胸に刻み、タキオンが溢した「敵」という言葉を否定する。仮面を外して素顔を露わにしたタキオン自身もまた、ターボの呟きに静かに頷いていた。

 

「……」

 

 その一方で。ターボの背中を見つめるGNドライブの脳裏には、ホークアイザーが最期に残した言葉が過っていた。

 

 ――「仮面ライダー」の名は……俺達には、過ぎたものだったようだ。お前達に……返、す――

 

 あの言葉が何を意味していたのかは、今でもハッキリとは分からない。だが、仮面ライダーを想起させるあの外骨格の形状を見れば、ある程度の事情を推し量ることは出来る。彼らは自分達を超えた存在に――この時代の仮面ライダーになろうとしていたのだろう。

 

「……馬鹿なことだよ。『仮面ライダー』はなろうと思ってなるものじゃない。その力で何を為すか。何のための力か。……大切なのは、それだけさ」

「ですが……『仮面ライダー』の名は、ますます重くなってしまいましたわね。彼らの屍を超えて行くことになった以上……私達は、決して道を誤ってはならない。『仮面ライダー』であるということには……それだけの責任がある。それを肝に銘じなければなりませんわ」

「……あぁ。俺達がライダーでいるっていうのは……そういうことなのかもな」

 

 悲しげにそう呟くGNドライブは、ターボの手元に残されたホークアイザーの認識票から目を背けるように踵を返す。G-verⅥも同じ気持ちだったのだろう。彼女も仮面の下で苦い表情を浮かべ、唇を噛み締めていた。その言葉に頷くターボは、涙を堪えるように空を仰いでいる。

 

 決して世間に肯定されることなく、全世界から絶対悪として断罪されるしかないノバシェード。その一員に堕ちながらも、最後には己の死に様よりも大切なものを見付けたホークアイザーという男。

 

 そんな彼の最期を目の当たりにしたからこそ。ターボはせめて自分達だけでも彼らの真実を覚えていようと、認識票を独り握り締めている。朝陽の輝きを浴びたマリンプロテクターサイクロン号は、その青い船体を華やかに煌めかせていた。

 

「……!」

 

 ――すると、遥か彼方からヘリのローター音が響いて来る。

 その音に顔を上げたターボ達の視線の先には、数機の救助ヘリの姿があった。世界を股に掛ける特殊救命部隊「ハイパーレスキュー」。その所属機であるヘリが、ターボ達を乗せたマリンプロテクターサイクロン号に接近していたのである。

 

「あれは……ハイパーレスキューの救助ヘリですわね」

「あぁ……どうやら、誰かがここに手配してくれていたようだね。しかし、一体誰が……?」

 

 その機影に安堵するGNドライブはG-verⅥの言葉に頷きつつも、あまりに素早過ぎるハイパーレスキューの動きに「引っ掛かり」を覚えていた。

 今回の調査任務は極秘のものであり、新世代ライダー達の中でもごく一部の者しか知らなかったはずなのに、何故彼らはこれほど早くここに来たのか。まだこの場に居る誰も、救援など要請していないというのに。

 

「あの船がそうか……! 救えるうちに救うぞ、(たつみ)!」

「はいはい、分かってるよ隊長」

 

 そんなGNドライブの疑問をよそに、マリンプロテクターサイクロン号の頭上に移動した数機の救助ヘリは、迅速な動きでレスキュー隊員をロープで降下させて行く。ヘリからのリペリング降下で船上に舞い降りた2人の男は、負傷者であるG-verⅥとタキオンの元に素早く駆け付けて来た。

 

 どちらも鍛え抜かれた屈強な肉体の持ち主であり、特に「隊長」と呼ばれた黒髪の青年は、「絶対に救う」という苛烈なまでに強い意志を宿した瞳で、2人の負傷者を見つめている。その精強な眼差しは、多くの修羅場を潜り抜けて来た「歴戦」の重みを感じさせるものであった。

 

「ハイパーレスキューの隊長、東方駿介(ひがしがたしゅんすけ)だ。匿名の通報があってここに来たのだが……信じて正解だったようだな」

「同じく、副隊長の(たつみ)・D・(じん)だ。……どんな奴とやり合ったのかは知らねぇが、あんた達がこんな傷を負うなんて……よっぽどやべぇ事件(ヤマ)だったらしいな」

 

 ハイパーレスキューの隊長、東方駿介。彼の戦友にして、副隊長でもある巽・D・仁。そんな組織のツートップが直々に出向いて来たところを見るに、彼らも今回の通報内容を重く見ていたらしい。彼らの迅速かつ的確な応急処置を受けながら、タキオンやG-verⅥ達は顔を見合わせていた。

 

「……匿名の通報だって? あんたが来たということは、百合香(ゆりか)……アルビオンからの通報だと思ったんだが」

「いや、俺達も妹からは何も聞かされていない。妹なら今まさに、別の現場でノバシェードと戦っているところだ。……匿名の通報など珍しくもないが、素人には知り得ない情報を幾つも出して来た女性が居てな。悪戯の類ではないと思って来てみれば、この事態……というわけだ」

「幸い、2人とも急所は外れていたみてぇだな。弾もとっくに抜けてるから、摘出の必要もない。しばらくは入院生活だが……なぁに、心配は要らねぇ。あんた達の回復力なら、すぐに現場復帰出来るさ」

 

 ターボの問い掛けに対し、G-verⅥとタキオンの傷を処置している駿介達は静かにそう答えている。新世代ライダーの一員である、「仮面ライダーアルビオン」こと東方百合香(ひがしがたゆりか)。彼女の実兄である駿介が来たということは、同僚の百合香が自分達の身を案じて通報したのではないか……とターボは推測していたのだが、どうやら彼女が駿介達を呼んだわけではなかったようだ。

 

「東方君が通報したわけではない……。では一体、誰が君達を……ハイパーレスキューをここに……?」

「さぁな。……間違いないのは、俺達は傷病者であれば誰であろうと助けに行く。それだけだ。あんた達新世代ライダーだろうが……ノバシェードだろうがな」

「そういうこった。俺達ハイパーレスキューは、そういう(・・・・)連中の集まりなんでね」

 

 GNドライブのその呟きに対し、答えを出せる者は居ない。それでも駿介と巽は迷うことなく、ただ真っ直ぐに己の使命に邁進している。この状況の「真相」を知るただ1人の女傑は水上バイクに跨り、マリンプロテクターサイクロン号の遥か後方から、駿介達の様子を見つめていた。

 

「……」

「どうした?」

「……いや」

 

 その女傑の気配を直感で察していた駿介は、鋭い顔付きで一瞬だけ振り返る。だが巽に声を掛けられた後、すぐに気を取り直すように処置を再開していた。

 誰の思惑が絡んでいようが、誰に利用されていようが関係ない。どんな相手であっても、ハイパーレスキューの隊員が死に瀕している命を見捨てることはない。例えそれがノバシェードの構成員であろうとも、その一点に揺らぎはないのだ。

 

「……そうね。あなたはそういう男よ、東方駿介」

 

 決して揺らぐことのない信念に従い、己の使命に邁進する駿介。そんな彼の逞しい背中を遥か遠方から見守っていた真凛・S・スチュワートは、1台の水上バイクに跨ったまま自嘲するような笑みを溢している。戦いの中で手を汚して来た自分とは「対極」であるとも言える、東方駿介という男。そんな彼の背は真凛にとって、このシャドーフォートレス島を照らす陽光よりも遥かに眩しいものだったのかも知れない――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話は島からの脱出回。スパルタン計画を巡るドタバタでめちゃくちゃになっていたシャドーフォートレス島からも、ようやくおさらばです。しかし敵として戦ったスナイパースパルタンことホークアイザーに対しては、ターボ達にも色々と思うところがあった様子。この先に待ち受けている「最大の戦い」に向けて、彼らはこれからますます成長して行くことになります(※特別編の後半(https://syosetu.org/novel/128200/80.html)を参照
 そして、本章も次回でようやく最終話。当初は今話辺りで完結の予定だったのですが、もちっとだけ続きますぞ。次回は再び真凛視点に戻り、彼女の脱出の様子も描かれて行く予定です。最後までどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。今話に登場したハイパーレスキューの東方駿介と巽・D・仁も本格的に活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 「仮面ライダー」と名付けるからには何とか対応マシンの設定は出したい……と思っていた作者としては、ブースターサイクロン号やマリンプロテクターサイクロン号は外せない存在でした。「アナザーメモリ」で読者応募ライダー達を全員デンライナーに乗せて、「仮面ライダーなのにマシンが無い問題」を一気にクリアしたダス・ライヒ先生の発想には感服しましたね。そ……ッッそうきたかァ~~~ッッッライヒ先生ッッ( ゚д゚)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第10話

 

 ――ターボ達の脱出成功から、遡ること数分前。要塞最深部の格納庫で繰り広げられていたミサイルスパルタンとの戦いも、ついに決着の瞬間を迎えていた。

 

「……生憎だけど。『仮面ライダー』からは、あなたが1番遠い(・・)のよッ!」

 

 マス・ライダー軽装型の強化服を纏う、ヘレン・アーヴィングが撃ち放ったサラマンダーの一撃。そのグレネード弾が、アイアンザックを乗せたミサイルスパルタンの要塞形態(フォートレスフォーム)を、完全に撃破したのである。

 

「ぐぅおぉおあぁあぁああッ……! か、めん、ライダァァアッ……! その名は私のぉおぉッ……!」

 

 爆炎に飲まれ、倒れ伏して行く鋼鉄の巨人。そこから響いて来る無惨な断末魔は、燃え滾るような憎悪に満ちていた。しかしその憎しみが仇敵に届くことはなく、巨人はそのまま消し炭と化して行く。機体を動かしていたアイアンザック諸共、その巨躯は地獄の業火に焼き尽くされていた。

 

「……」

 

 サラマンダーのカスタムパーツをこの場に届け、ヘレンとオルバスの頭上から決着の瞬間を見守っていた真凛・S・スチュワート。彼女は「後輩」の勝利とアイアンザックの最期を見届けた後、素早い足取りでこの島からの脱出を図っていたのだが――まだ要塞内には、僅かな生き残りの兵士達が居たらしい。

 

「待てェッ、侵入者めッ! こうなれば……貴様だけでも道連れにしてやるッ!」

「むしゃぶりつきたくなるような、甘ったるい雌の匂い撒き散らしやがって……! このままただで……ただでくたばって、たまるかぁあぁあッ!」

 

 豊満な乳房と安産型の桃尻をばるんばるんと弾ませ、くびれた腰を左右にくねらせながら通路を駆ける真凛。そんな彼女を地獄の道連れにしようと、己の死期を悟った兵士達は狂気を宿した瞳で極上の爆乳美女を射抜き、その優美な背中を追い掛けている。

 スラリと伸びた長い美脚を際立たせるハイヒールが床を蹴るたびに、その反動で超弩級の爆乳と爆尻がたぷんっと大きく揺れ動く。そんな彼女の白く瑞々しい柔肌から滲み出る、雄の獣欲を煽る淫らな雌のフェロモンが、兵士達の鼻腔を挑発していた。

 

 脱出を目指す真凛を発見した兵士達はコンバットナイフを手に、彼女の背中を追い続けている。薄暗い通路を駆け抜けて行く彼らは、何度も地震に体勢を崩されながらも執拗に真凛を追い、殺意を込めた刃を閃かせていた。弾切れになるまで銃を乱射し、その銃身を放り投げて真凛を猛追する彼らの双眸は、苛烈な殺気で血走っている。

 

「……しつこい男は嫌われるものよ。覚えておきなさい」

 

 そんな彼らを肩越しに一瞥する真凛は、知的な眼を細めて忌々しげに呟いていた。裏社会の女探偵として生きて行くということは、対策室に居た頃とは違い、組織(バック)の援護を一切受けられない……ということでもある。

 

(捕まるわけには行かないわね。私はもう、独り(・・)なのだから)

 

 それが意味するものを、真凛は己の肌で理解していた。対策室時代に一度味わった「悪夢」が脳裏を過ぎった瞬間、怜悧な貌が僅かに歪む。今でも払拭し切れていない「屈辱の記憶」は、呼び起こされる度に真凛の「プライド」を傷付けているのだ。

 

(……っ。忘れたい記憶ほど、よく残る(・・)のよね)

 

 現役の特務捜査官として、とある潜入任務に就いていた時。一瞬の隙を突かれてノバシェードに捕らえられた真凛は、身体中を隅々(・・)まで念入りに調べ尽くされ、屈辱と恥辱に塗れた「尋問」を受けたことがあった。その時に味わった痛みと辱めは、今も彼女の身体(・・)がはっきりと覚えている。

 

 ――や、やめなさいっ……! そっ、そこはっ……んぁあぁあっ!? あはぁあぅっ!

 

 ――へへっ……通信機はどこだァ? 女って奴は、何かと隠し場所が多いモンだからなァ……しっかり探さなきゃならねぇ。特に……あんたみてぇな、男を手玉に取ろうってタイプには容赦しねぇ。隅から隅まで、徹底的(・・・)に調べ尽くしてやる……! ほらほら、へばってる暇なんて与えねぇぞ乳牛女ァッ!

 

 ――んぉおおっ!? ぉおっ、おっ……も、もうやめっ……! はぁあぁあっ!

 

 ――斉藤空幻博士が貴様のために拵えた特製の媚薬だ、痛みすら心地良いだろう? 並の女なら、今頃は自我を破壊され廃人になっているところだ。頑丈な女に生まれてしまったことを後悔するんだな。仲間の居場所、組織の情報……全て吐くまで「尋問」は続く。無駄な意地を張って、壊れる(・・・)まで可愛がられたいか? さっさと屈服(・・)して、楽になった方が良い。

 

 ――かはぁっ、んはぁっ、んっ、はぁ、はぁあっ……! だ、誰、がっ……!

 

 ――やれやれ……ここまでたっぷり可愛がられても、まだそんなツラが出来るなんて驚きだぜ。あんたも強情だなァ。つまらんプライドなんざドブに捨てて、楽になっちまえばどうだ? 最近対策室に入ったっていう、あんたの後輩……アーヴィングとか言ったか。あの爆乳女なら呼び付けても構わねぇぜ? 女日照りなウチのケダモノ共も、喜ぶだろうからなァ。

 

 ――はぁっ、んぁっ、はぁあぁっ……ふ、ふふっ。黙って聞いていれば……随分とヘレンのことを甘く見ているようね。彼女は私よりも遥かに優秀な捜査官よ。その程度のことも知らないようでは、彼女に足元を掬われるのも時間の問題ね。もうすぐこのアジトも、仮面ライダー達に見つかるわ。

 

 ――あァ……!?

 

 ――今のうちに、減刑狙いの方便でも考えておいた方が賢明よ。ふふっ……まぁ尤も、あなた達の残念な頭では何も捻り出せないでしょうけど。むしろ何も喋らない方がマシかも知れないわね。「馬鹿の考え休むに似たり」、よ。

 

 ――なんだと、このクソアマァッ……! 散々ケモノみてぇな声で無様にヒィヒィ啼かされてた雌豚の分際で、デカい口を……! どうやらまだまだ「躾」が足りてなかったみてぇだなァッ!

 

 ――うふふっ……脅し文句まで似たり寄ったり。よほど教養が足りていないのね。脳に割く栄養まで、その筋肉に吸われているのかしら?

 

 ――こいつッ……! 全身汗だくになってやがるくせに、なぁに余裕ブッこいてんだッ! もう許さねぇ、今すぐブッ壊してやるッ!

 

 ――落ち着け、この女豹は最後の最後まで油断ならんぞ。こうして囚われの身になっている今も、虎視眈々と逆転の隙を窺っているに違いない。ノバシェード対策室最強の特務捜査官……真凛・S・スチュワートを甘く見るな。いいか、失神する寸前まで徹底的に責め続けろ。策を練る暇を与えるな。思考を巡らせる時間も無いほど、激しく……念入りに可愛がってやれ。

 

 ――……っ!

 

 ――言われるまでもねぇ……! この女には散々煮湯を飲まされたんだ、「尋問」の本番はこれからよ! さぁ、まだまだ存分に楽しませて貰うぜぇ!? あんたが完全に屈服して、俺達の奴隷に成り下がるまでなぁあぁッ!

 

 ――うっ、あぁあっ、あぁあぁあうっ!? あっ、はあぁっ、あっあっあぁっ、あぁあぁあぁあああーっ!

 

 嬌声にも似た、あられもない悲鳴。為す術もなく玩具にされ、憎むべき敵に弄ばれている無様な姿。そんな自分の醜態が脳裏に蘇り、真凛は口元を歪ませる。

 

「……くッ」

 

 新世代ライダー達や後輩(ヘレン)の救援が無ければ、あのまま下衆な男達に全身を嬲り尽くされ、忌むべき男達に心から「屈服」させられていたのだろう。最終的にはライダー達に救われ事なきを得たが、いつノバシェードに「敗北」してもおかしくない状況だった。

 

 ノバシェードによる苛烈な拷問。その責めに屈し、男達に媚びるようになった自分の姿。そんな幻覚こそが、自分の在るべき姿なのだと何度錯覚しかけたことか。文字通り、正気の沙汰ではない。しかし確かにあの時の自分は、ノバシェードの奴隷に堕とされかけていた。

 

 特務捜査官としてのキャリアが長く、数多の死線を潜り抜けて来たベテランの真凛でさえ、あと一歩で心が「陥落」していたのだ。その手の「経験」が無いヘレンの身体では、ひとたまりもなかっただろう。

 彼女が焦ってスタンドプレーに走ることなく、ライダー達を引き連れて真凛を助けに来たのは正解だった。独断専行の常習犯だった真凛では、そうは行かなかっただろう。やはり、彼女は「優秀」だ。

 

(……屈しないわ。私はもう2度と、誰にも屈服(・・)しない……!)

 

 しかし今の真凛はもう、その救援に繋がる力を持った組織に身を置いてはいない。万一、捜査官の身分を失った自分が再び捕まるようなことがあれば、今度はどんな目に遭うか。どれほどこの身体を、丹念に味わうように嬲り尽くされるか。

 

「んっ……はぁ、あぁっ……!」

 

 想像もしたくない。したくないのに、熟れた身体はあの痛みと火照りを思い出してしまう。下腹部が疼き、乳房の()が甘く熱を帯びる。じっとりと汗ばんだ白い肉体は僅かに桃色に染まり、柔肌から滲み出る濃厚なフェロモンが、芳しい匂いを振り撒く。

 

「……ッ! 来客に対して不親切な設計ね……!」

 

 その時、真凛の眼前に大きな「落とし穴」が現れる。どうやら通路の床が一部崩落し、約30mもの距離がある「大穴」が生まれてしまったようだ。しかし、この奈落を避けて倒れる迂回路はない。このままでは、兵士達に追い詰められてしまう。

 

「……はぁッ!」

 

 無論、為す術もなく殺される彼女ではない。真凛はチャイナドレスのスリットから覗く白い太腿に手を伸ばし、そこに装備されていたナイフを引き抜く。そして、大穴の真上に位置する通路の天井に切っ先を向け――柄のスイッチを押し込んだ。

 

 すると、柄から勢いよく「射出」されたナイフの刃が、狙った先の天井に深々と突き刺さった。その刃と、真凛が握っている柄は強靭なワイヤーで繋がっており――刃を引き寄せようと柄の内部で猛回転するワイヤーの動きが、逆に真凛の身体を軽々と持ち上げてしまう。

 

「なっ……!?」

「……楽しかったわ。たまには、追いかけっこも悪くないわね」

 

 やっとの思いで追い付いた兵士達が瞠目する中、真凛は皮肉に満ちた微笑を彼らに向けながら、地を蹴って空中に飛び出して行く。刃を引き寄せようとするワイヤーの力を利用し、大穴を飛び越えて行く真凛。

 そんな彼女の背中を、兵士達の多くは指を咥えて見送ることしか出来ずにいた。天井に刺さった刃に向かって戻ろうとするワイヤーが、弧を描いて真凛の身体を奈落の向こうへと運んで行く。

 

「ただのナイフではなかったのか……!」

「まずい、このままでは……!」

「……逃すかぁあぁッ!」

 

 だが、立ち尽くすばかりだった兵士達の中でただ1人。真凛の抹殺を諦め切れず、無謀を承知で大穴に向かってジャンプする男が居た。

 先ほど真凛に気絶させられていた、クランツ曹長だ。彼は特殊強化服のパワーを頼りに、勢いよく地を蹴って真凛の背中に飛び掛かって行く。彼女に殺された、ミルド軍曹の仇を討つために。

 

「貴様の命だけは……刺し違えてでも貰って行くぞぉおおおッ!」

「……!」

 

 その殺気を悟った真凛はハッと目を剥いて後方を見遣るが、空中では身動きが取れない。逆手持ちで振り下ろされたナイフの刃が、彼女の背中目掛けて一気に振り下ろされる。

 

「……っ!」

 

 しかし、クランツ曹長のナイフが真凛の柔肌を傷付けることはなかった。紙一重のところで刃は空を切り――僅か1枚の黒い薄布(・・・・)だけが、振り抜かれた刃に纏わり付いていたのである。その紐のような布には、濃厚な雌のフェロモンがじっとりと染み付いていた。

 

「なっ……!?」

「……惜しかったわね。それは『残念賞』よ」

「ちっ……ちくしょおおおぉおぉッ!」

 

 妖艶に微笑む真凛に見送られながら、底の見えない奈落に墜落して行くクランツ曹長。悲痛な断末魔と共に、永遠の闇に消えて行く彼の手には、最期までナイフが握られていた。

 

「はぁっ……!」

 

 その刃に絡み付いていた「残念賞」――Tバックの黒パンティを一瞥つつ。前方に向き直った真凛は華麗に宙を舞い、大穴を越えた先へと軽やかに着地して行く。その瞬間、超弩級の爆乳と安産型の爆尻が、どたぷんっと豪快に弾んでいた。

 

「……今度こそさよならよ。次は地獄で逢いましょう?」

 

 そのまま彼女は追っ手を振り切るように、素早く通路の先へと走り去って行くのだが――勢いでふわりと舞い上がったドレスの裾からは、白くむっちりとした生尻(・・)が僅かに覗いていた。

 

「ク、クランツ曹長が……そんな……!」

「……く、くそぉおお……!」

 

 取り残された兵士達が、その極上の「桃」を記憶に刻んだことは言うまでもないだろう。大穴を超えた先にまで、彼女の身体から滲み出る芳しい雌の匂いが漂っていた――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今話からは真凛視点での脱出回。本章のクライマックスは彼女のお色気アクションシーンで飾る形となりました。やっぱり彼女は書いてて楽しいですねー。えちえちな女スパイからしか得られない栄養がある。そしてやたらとしぶとかったクランツ曹長とも、これにて真の決着となりました。色々と危ないピンチが続いておりましたが、後は島を出るだけですね。ノバシェードが変な新兵器とか新薬とか持ち出して来た時はだいたい斎藤空幻のせい(´-ω-`)

 本来は今話こそ最終話にするつもり……だったのですが、書き上がってみると結構長くなってしまったことに加え、新たに書き足したいシーンも浮かんで来てしまいまして。誠に勝手ながら、本章の真の最終話は次回に持ち越しとなりました。今度こそ次回で終わる……はず! ですので、最後までどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。本章に登場したハイパーレスキューの東方駿介と巽・D・仁も本格的に活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 ヘレンと一緒に捕まって尊厳破壊ドレス着せられたこともあるし、1人だけ捕まって媚薬盛られたこともある。抜け目ないように見えて、真凛も結構ツメが甘い方なのかも知れません。


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 第11話

 

 クランツ曹長をはじめとする敗残兵達の群れ。その追撃を振り切り、薄暗い通路を走り続けていた真凛は、海岸線に隠された洞窟に辿り着いていた。白く長い脚を止めた瞬間、釣鐘型の爆乳と安産型の巨尻がばるんっと弾む。

 

「この洞窟は……」

 

 ここはスナイパースパルタンの専用マシンである、マリンプロテクターサイクロン号が配備されているはずの場所だ。しかしこの洞窟にその船は無く、ノバシェード製の水上バイクが残置されているのみとなっていた。

 

「……さすがは私が見込んだ仮面ライダー達ね。期待通りの働きだわ」

 

 その光景を目の当たりにした真凛はここで起きていたことを一目で見抜き、不敵な笑みを浮かべる。引き締まった腰を左右にくねらせながら、ノバシェード製の水上バイクに跨った彼女は即座にエンジンを起動させ、島の外を目指して急発進して行った。その反動で特大の爆乳と爆尻が、ばるんっと上下に躍動する。

 

「それじゃあ私は……気楽に脱出させて貰おうかしら?」

 

 彼女を乗せた水上バイクは機雷に遭遇することなく一直線に海上を駆け抜け、爆発が及ばない遠洋にまで到達していた。すでに夜が明けていた空は眩い輝きを放っており、真凛が辿り着いた海面を鮮やかに照らしている。

 

 ターボ達を乗せたマリンプロテクターサイクロン号が、進路上の機雷を蹴散らすように「爆進」していたおかげで、後に続く形となった真凛の水上バイクは安全に脱出出来ていたのだ。シャドーフォートレス島が爆炎に飲み込まれたのは、それから間も無くのことであった。

 

「……ふふっ」

 

 煌びやかな朝陽に照らされる中、真凛は水上バイクに跨りながら大空を仰ぐ。日の出と共に飛び去って行く1機のヘリを見上げながら、彼女は穏やかな微笑を浮かべていた。ヘレンとオルバスはそのヘリに乗り、間一髪のところで島を脱出していたのだ。

 

(どうやら皆、無事に脱出出来たようね。少々アクシデントはあったけれど……目的は達成された。悪くない結果ね。パンティは取られたけど)

 

 去り行くヘリを仰ぎ、微笑む真凛。そんな彼女の遥か前方では、マリンプロテクターサイクロン号が穏やかに海上を漂っている。

 密かに傍受していたターボ達の会話内容から、G-verⅥの負傷を察知していた真凛は、事前にハイパーレスキューを手配していたのだ。船の方へと視線を移した真凛は、蠱惑的な微笑を溢している。

 

(……良い「宣伝」になりそうでしょう? お人好しなハイパーレスキューさん)

 

 ハイパーレスキューの隊長である駿介は、「傷病者はノバシェードでも救う」という信念に基づいて活動している。その姿勢はノバシェードに憎悪を向ける者達からは疎まれることも多く、彼らは新世代ライダー達と比べて、政治的な理解や援助を受けにくい立場にあった。

 

 絶対的なヒーローとして世間に周知されている新世代ライダー達を救う……という今回の救助活動は、そんなハイパーレスキューに対する社会からの評価を大きく向上させる、「プロパガンダ」としては最適なのだ。その「宣伝」も、真凛の目的に含まれていたのである。

 

(あなた達には、今後もしっかりと働いて貰う必要があるわ。大局が見えていない権力者の連中に、あなた達のような「精鋭」が潰されても困るし……ね)

 

 ノバシェードを忌み嫌う真凛から見てもハイパーレスキューは精鋭揃いであり、彼らが精力的に活動出来る状況であればあるほど、自分も他のライダー達も生存率が大きく上がる。そう見込んでいた真凛は、駿介達にもシャドーフォートレス島の情報を流し、ターボ達を助けに行くように仕向けていたのである。

 

 かつては、ノバシェードの男達による恥辱の「拷問」を味わったことがある真凛。そんな彼女としても、憎きノバシェードにまで救いの手を伸ばす駿介達に対しては、少なからず思うところがある。だが、だからといって私情で「非効率」な判断を下すことはない。使えるものは何であろうと、誰であろうと「使う」のが彼女のやり方なのだ。

 

「……そうね。あなたはそういう男よ、東方駿介」

 

 そして、真凛の思惑通り。駿介達は情の厚さを利用される形で、この島の近海に急行していたのである。しかしそこには、無理解な権力者達にハイパーレスキューを潰させないため……という別の理由も絡んでいた。

 

(日の当たる光の道……私には縁の無い世界ね)

 

 それが駿介達への好意によるものなのか、ハイパーレスキューに利用価値があるからなのか。真凛は妖艶な微笑を浮かべながら、マリンプロテクターサイクロン号からヘレン達を乗せたヘリへと、再び視線を移す。

 

「……これからも進み続けなさい、ヘレン。あなた自身が信じる道を。あなた自身が信じる、正義のために……」

 

 蠱惑的な笑みを溢す真凛はハンドルに白い手指を絡ませ、独りエンジンを再始動させて行く。青い扇情的なチャイナドレスは、その豊満な肢体にぴっちりと密着していた。安産型のラインを描いた極上の生尻(・・)は、シートにむにゅりと押し付けられ、淫らに形を変えている。

 

(さぁ……次の「獲物」はどこかしら?)

 

 エンジンの躍動に応じてKカップの爆乳がどたぷんっと弾んだ瞬間、彼女を乗せた水上バイクは大海の果てへと旅立って行く。その行先を知る者は居ない――。

 

 ◆

 

「ふゥン……ようやく終わったようだねぇ。随分と、長い夜だったじゃあないか」

 

 夜明けと共に爆発の瞬間を迎え、草一つ残らぬ焦土と化したシャドーフォートレス島。その惨状を映像越しに観測していた一光は興味を失ったかのように、車椅子を反転させてモニターに背を向けていた。

 

「オルバスの力なら、真夜中のうちにアイアンザックを始末出来ていたはずです。彼がまだ未熟だったのか、スパルタンシリーズのスペックが想定を超えていたのか……あるいは、その両方か。いずれにせよ、彼にはもっと成長して貰わねばなりませんね」

 

 亜灰縁も彼女に続き、冷淡な佇まいで踵を返す。その弾みで、白衣を内側から押し上げている彼女達の膨らみ(・・・)が、ぷるんっと揺れていた。極上の美少女達の柔肌に宿る甘い匂い。その芳香が僅かに漂うこの薄暗い研究室は、静寂に包まれている。

 

「……これでミサイルスパルタンも、スナイパースパルタンも消滅。一度は滅び損ねたスパルタンシリーズも、今度こそ完全な終焉を迎えたようだねぇ」

「えぇ。……オルバスもまだ成長途上ではありますが、今回の戦闘でさらに経験値を積めたことでしょう。それに……」

「あぁ……真凛・S・スチュワート。彼女の働き振りはなかなかのモノだった。……そろそろ君も、認めざるを得なくなったのではないかな?」

 

 光の興味は、オルバスやヘレンを陰から援護していた真凛に移っていたらしい。彼女の言葉に目を細めながら、縁はデスクに置かれていたジャスティアドライバーの一つを手に取る。それはジャスティアタイプの42番機「ウェペル」のベルトだった。

 

「……別に、貴女の判断に口を挟むつもりはありません。単に気に食わなかった、というだけのことです」

 

 優れた潜水能力を持つ真凛ならば、水陸両用という特性を持つウェペルの鎧を使いこなせるかも知れない。そんな期待に胸を膨らませている光とは裏腹に、真凛の経歴から滲み出る「我の強さ」に眉を顰めている縁は、怪訝な表情でモニターに映る彼女の姿を見つめていた。

 

「あぁ……なるほど。君とはあまり相性が良くなさそうなタイプだからねぇ」

 

 縁の横顔を一瞥する光は、腑に落ちたという様子で口元を緩めている。彼女の艶やかな唇はモニターの光を浴び、扇情的な光沢を放っていた。まだ18歳という若さではあるが、モニターに照らされた蠱惑的な美貌は、底知れぬ妖艶さを湛えている。そんな彼女の吸い込まれるような瞳が、再びモニターに向けられた。

 

「しかし……スパルタンシリーズ、ねぇ。11年前の『エンデバーランド事変』で滅びたというマルコシアン隊は……あんな粗雑な玩具で旧シェードの侵攻を退けたというのだから、信じ難い話だ。その計画の最高傑作(ミサイルスパルタン)でさえあの程度だったのだから、当時生産されていた他の試作機なんて、なおのこと酷いモノばかりだったろうに……」

「……どんなに優れた外骨格でも、使い手の実力が伴わなければ宝の持ち腐れ。それは逆も然り、ですからね。いくら優秀な装着者を用意出来ても、肝心のスーツの性能が劣悪では……」

「あぁ。それに……『失敗作』の寄せ集めに過ぎない今のノバシェードとは違って、当時の旧シェードは『正規品』ばかりの精鋭集団だったはずだ。そんな怪物達を、スパルタンシリーズ如き(・・)で撃退した陸軍兵士達……か」

 

 11年前の北欧某国で起きたという、旧シェードと陸軍の武力衝突「エンデバーランド事変」。その激戦の中で散って行ったマルコシアン隊の兵士達は、劣悪な性能(スペック)のスパルタンシリーズで、旧シェードの怪人達に立ち向かっていたのだという。

 

 愛する故郷のため、人類の未来のため、決して勝ち目のない戦場に飛び込んで行った彼らが、もし今も健在だったなら。この時代の仮面ライダーとして、再び立ち上がる未来もあり得たのかも知れない。

 

「……会えるものなら、私も会ってみたかったよ。さぞかし面白い戦闘データが取れただろうに」

 

 しかし、どれほど科学が進歩しようとも時は巻き戻せないし死者は蘇らない。ならば、こんな仮定の話にも意味は無いのだろう。スパルタンシリーズに対しては冷淡だった光だが、その鎧を着ていた当時のマルコシアン隊に対しては思うところがあったのか――今度はどこか名残惜しげに、モニターに背を向けていた。

 

「死ねば会えるのでは? あぁ、貴女では死んでも会えませんね。人類のため命を賭した彼らなら、今頃は天国に居るのかも知れませんが……貴女は間違いなく地獄行きなので」

「……君の言葉は常に辛辣だねぇ」

 

 相変わらず容赦のない部下の言葉に眉を顰めながら、光は次の研究に向けて動き出して行く。他のジャスティアドライバーを任せる適合者候補も、これから見付けて行かなければならない。

 

「まぁいい、済んだ話は終わりにして『次』の仕事に取り掛かろうじゃないか。時間は有限なんだからねぇ」

「自分で振っておいてそれですか、全く……」

 

 失われたものにいつまでも囚われていられるほど、彼女達は「暇」ではないのだから――。

 






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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 新世代ライダー達を陰ながらサポートしていた真凛も、無事に島を脱出! この島での戦いも、これでようやく終幕となりました。しかしライダー達にとっての本当の戦いは、まだまだこれからだったのです……。というか真凛もヘレンもカッコ良くキメてる感は出してるけど、島を出る頃にはどっちもノーパンなんだよなぁ……(ノД`)

 そして、今話を以て今度こそ完結……のはずだったのですが。本当、申し訳ありません。ラストシーンを盛りに盛りまくってたら、またしても想定より長くなっちゃいましたので、さらに分割して次回に持ち越すことになりました! すみません〜今度こそ終わるはずでしたのに〜!(>人<;)
 終わる終わる詐欺みたいなことになってしまい恐縮でありますが、本日中には何とか最終話を公開したい……と思いますので、もうちょびっとだけお待ちくださいませ……m(_ _)m

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ!(*'ω'*)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。本章に登場したハイパーレスキューの東方駿介と巽・D・仁も本格的に活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 タキカフェの遠慮がない距離感良いですよね(*'ω'*)


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夜戦編 蒼き女豹と仮面の狙撃手 最終話


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※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをさらに再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 長かった本章も今話でようやく完結! 今回は孤島編〜夜戦編全体のエピローグ的な回であり、ちょっと早めのクリスマス回でもありますm(_ _)m


 

 そして、シャドーフォートレス島の戦いからさらに数ヶ月が過ぎた2020年12月25日。クリスマスの聖夜を迎えていたアメリカ合衆国・ニューヨークでは、雪に彩られたヴェラザノ=ナローズ橋を舞台に、新世代ライダー達の激闘が繰り広げられていた。

 

 ノバシェード・ニューヨーク支部に属する最後の刺客である、蜘蛛型改造人間。その怪人を捕らえるべく、2台のライダーマシンがナローズ橋を疾走している。マシンGチェイサーとマシンGドロンが、「失敗作」の怪人を挟み撃ちにしようとしていた。

 

「そこの改造人間、大人しく止まれッ! 今からでも遅くはないんだ! こちらも手荒な真似は本意ではないッ!」

「チョロチョロ逃げ回ってないで、真正面から掛かって来いよ! あいつら(・・・・)みたいになァッ!」

「ライダー共め……『挟み撃ち』だとォッ!?」

 

 「仮面ライダーケージ」こと鳥海穹哉(とりうみくうや)と、「仮面ライダーオルバス」こと忠義(チュウギ)・ウェルフリット。彼ら2人の愛車は対向するように走り、蜘蛛型怪人を「挟み撃ち」の要領で追い詰めている。一方、怪人は2人のライダーを「同士討ち」で仕留めるべく、衝突するギリギリのところで真横に飛び退こうとしていた。

 

「ぬっ、ぬぅう……! ならばッ!」

「そうは……!」

「させるかよッ!」

 

 だが、その程度の浅い策に踊らされる2人ではない。彼らはそれぞれの愛車から素早く飛び出しながら、空中で身体を捻り「必殺技」を繰り出す体勢に入っていた。

 

「はぁあぁああーッ!」

「でぇえぇえーいッ!」

「ぐわぁあぁあーッ!?」

 

 濃紺のボディを持つケージと、深紅の鎧を纏うオルバス。彼らが放つ「青」と「赤」のライダーキックが、聖なる夜に交錯する。その「挟撃」を浴びた怪人の絶叫が、ニューヨークの夜空に轟いていた。

 それは、ノバシェードのニューヨーク支部が完全に「壊滅」したことを意味する悲鳴。平和の到来をこの街に知らせる、悪の断末魔であった。

 

「……何ですって? ケージとオルバス以外の『仮面ライダー』が、このニューヨークで目撃されている……?」

 

 一方、その頃――ニューヨーク市のマンハッタン区内に位置する、ノバシェード対策室本部の高層オフィスビルにて。

 クリスマス休暇を返上する勢いで事務作業に没頭していたヘレン・アーヴィングは、オフィスに掛かって来た緊急電話の内容に眉を顰めていた。レディーススーツを押し上げる釣鐘型の爆乳が、その弾みでたわわに揺れ動く。

 

 同僚の男性達からの「誘い」を全て袖にして、世界各地の事件を調査し続けていた彼女は、クリスマスの聖夜だろうとお構いなしにノバシェードの足跡を辿り続けていたのである。彼女の眼前に置かれているノートパソコンの画面には、無数の調査データが映し出されていた。

 

「そんなはずはないわ。他の新世代ライダー達は全員、他の現場に散っているはずよ。どうせあなたのことだから、市警に配備された試作量産型(マス・ライダー)と見間違えたのでしょう? 馬鹿なこと言ってないで、今夜くらいは家族と一緒に居てあげなさい。あなたが担当していた事件の記録なら、私が代わりにチェックしておくから」

 

 家族愛に溢れている、既婚の同僚男性。そんな彼から掛かって来た緊急電話の内容にため息を吐きながら、ヘレンは一方的に通話を切ってしまう。自分のことより「家族サービス」を優先しろ、と言い切る彼女はガチャリと受話器を置き、目の前のキーボードを叩きながら不遜に鼻を鳴らしていた。

 

(……数ヶ月前のシャドーフォートレス島事件。あれは確かにノバシェードが関連した事件ではあったけれど、実態としては「某国陸軍の暴走」と呼ぶ方が適切な状況だった。スパルタンシリーズ……あんなモノが密かに存在していたなんて、今でも信じられない)

 

 そんな彼女の脳裏に過ぎるのは、数ヶ月前に経験したシャドーフォートレス島事件の光景。そこで目の当たりにした「惨状」は、今も彼女の記憶に深く焼き付いている。ミサイルスパルタンの凶悪な巨体を思い出すたびに、ヘレンは独り眉を顰めていた。

 それに、ギルエード山地で起きた謎の爆発事件も、実質未解決のままとなっている。どうやら()の国を巡るノバシェードとの悪縁は、まだまだ断ち切れないようだ。

 

(それにしても……彼が担当していた事件は、あまりにも惨過ぎるわ。市街地に潜んでいたノバシェードが何者かに襲撃され、現場が血の海になっていたなんて……)

 

 シャドーフォートレス島事件やギルエード事件だけではない。実は同時期に別の市街地でも、ノバシェードのアジトが突然何者かに襲撃されるという怪事件が起きていたのだ。しかもその事件には新世代ライダーも対策室も一切関与しておらず、捜査官達が現場に到着した頃には、すでに凄惨な血の海が広がっていたのだという。同僚が担当していたその事件の記録に目を通すヘレンは、あまりの内容に剣呑な表情を浮かべていた。

 

 可憐な巨乳美少女が、悍ましい「悪魔の仮面ライダー」に変身する瞬間を見た。その怪物が血の海を作り上げた。そんな荒唐無稽な目撃情報も上がっている。普通なら、居合わせた者達の錯乱が生み出した幻覚の類と断じているところだ。しかし、超常的な怪人達と常に対峙する立場にある対策室としては、簡単に無視するわけには行かない。

 

(ノバシェードに苛烈な攻撃を加えているという「悪魔の仮面ライダー」……。恐るべき存在は、ノバシェードだけじゃない。それ以外の何かが、確実に動き出している……)

 

 ギルエード山地での爆発事件といい、この怪事件といい。シャドーフォートレス島で見た、真凛・S・スチュワートの幻影といい。新世代ライダーでも対策室でもない謎の存在は間違いなく、「裏」で動き始めている。対策室の捜査網でも捕捉し切れないほどの「何か」が、水面下で蠢いている。その「影」を肌で感じていたヘレンは、表情を強張らせていた。

 

(あの北欧某国の英雄……ジークフリート・マルコシアン大佐が属していた過激派組織なら、すでに仮面ライダー達によって壊滅させられている。しかしあの組織が潰されてからも、各地で奇妙な事件は起き続けている……。やはり……新世代ライダーや私達以外の誰かが、ノバシェードと戦い続けているのね。それも仮面ライダーと同等、あるいはそれ以上の力を持った誰かが……!)

 

 今から約4ヶ月前となる、2020年8月某日。その頃には、改造人間の殲滅を掲げていた過激派組織が、とある仮面ライダー達の手によって壊滅させられていた。北欧某国の英雄であるジークフリート・マルコシアン大佐が、軍事顧問を務めていたという組織だ。その組織が潰えた今も、得体の知れない「影」は世界各地で見え隠れしている。気を許してはならない相手はノバシェードだけではないのだと、ヘレンは独り気を引き締めていた。

 

「……」

 

 そんな彼女は再び、同僚が担当していた怪事件の記録に目を通して行く。この事件が周囲に残した「爪痕」の深さを知るヘレンは、悔しげに口元を歪めていた。

 

(例の襲撃事件の現場を目撃した捜査官のほとんどは、PTSDを発症して現場への復帰が困難になっている。……確かに、ノバシェードの敵だというのなら私達と利害は一致しているのかも知れない。けれど……その巻き添えで多くの人々を傷付けているのなら、私達はそれを許すわけには行かないわ)

 

 一見すればノバシェードを攻撃している、頼もしい味方のようにも見えるが。その実態は不明瞭であり、こちら側に何らかの2次被害が及んでいるケースさえあるのだ。人類の秩序を重んじる特務捜査官の立場として、如何なる事情があろうとも彼らの行動を許容するわけには行かない。

 

 それが悪魔の力を模した凶戦士(ジャスティアライダー)の仕業であることなど知らないヘレンは、キーボードを叩きながら独り静かに特務捜査官としての正義感に燃えていた。ジャスティアタイプ32番機「アスモデイ」。その力で殺戮の限りを尽くした「仮面ライダーアスモデイ」こと暁月(あかつき)レイラの恐ろしさを知らぬまま、ヘレンは神妙な面持ちで事件の記録を調べ続けている。

 

 一光(にのまえひかる)博士の助手にして側近でもある、亜灰縁(あくいえん)。彼女による情報操作さえ無ければ、ヘレンはとうにアスモデイの実態と暁月レイラの動向を突き止めていたのだろう。だが、この件に限ってはこれで正しかったのだ。もし真相を知ったヘレンがレイラを捕まえようとしていたら、彼女は間違いなく一瞬で返り討ちに遭っていた。

 例えレイラ自身に殺意が無くとも、アスモデイのパワーなら「マス・ライダー軽装型」の強化服など紙切れも同然。ヘレンは自らの正義感に殺され、無惨な肉塊と化していたに違いない。縁としては単に不都合な真実を隠蔽したに過ぎないのだが、それが結果としてヘレンの命を救うことにも繋がっていたのである。

 

(「悪魔の仮面ライダー」……そんなもの、私は認めない。「仮面ライダー」は人間の自由と平和を守護する、スーパーヒーローの称号なのよ。それをこんなっ……許せないわ、絶対に)

 

 仮面ライダーAPに救われて以来、「仮面ライダー」という称号を神聖視して来たヘレンにとって、アスモデイの凶行は到底許せないものだったのだろう。どんな理由があろうと、ノバシェードの敵であろうと、人類の味方ではないというのなら容赦はしない。そんな愚直なまでの高潔さが、蒼い双眸に顕れている。己が「幸運」によって生かされている身であることを知らぬまま、ヘレンは真っ直ぐな瞳でノバシェード関連の事件を調査し続けていた。

 

 ――だが。そんな彼女の真後ろ。1枚のガラス壁を隔てた先に建っている、隣のビルの屋上では。

 

「へへ……ついに見つけたぜ、ヘレン・アーヴィング。あのシャドーフォートレス島を壊滅させた張本人ッ……!」

 

 ケージやオルバスの眼から逃れていたノバシェード構成員の生き残りが、ヘレンの後頭部を狙って狙撃銃を構えていた。どうやら同胞である蜘蛛型怪人の暴走に乗じて、ここまで忍び込んでいたらしい。

 

「この距離なら外す方が難しいぜ……! 仮面ライダーでもねぇ雌豚の分際で、俺達ノバシェードに楯突くとどうなるか……その命で思い知らせてやるッ!」

 

 シャドーフォートレス島を壊滅させた張本人であるヘレンも、ノバシェードにとっては憎い仇敵の1人なのだ。構成員は憎悪を込めた眼差しでヘレンの頭部に狙いを定め、引き金に指を掛けている。

 改造人間用に強化された狙撃銃の威力なら、対策室製の防弾ガラスなど簡単に貫通する。ヘレンは何が起きたのかも分からないまま、冷たい骸と化すだろう。その光景を現実のものとするべく、構成員は指先に力を込め、引き金を引こうとする。

 

「くたばりやがれ、乳牛女ッ――!?」

 

 そして――それよりも疾く。狙撃銃を構えていた構成員は悲鳴を上げる間も無く、物言わぬ骸と化した。

 

 突如真横から突き出された「三叉の槍」が、彼の頭部を真横から貫いたのである。あまりの速さに、構成員は声も出なかった。

 

 まるでヘレンに対して行われようとしていたことが、そのまま返って来たかのようであった。蒼と銀の装甲を纏う、女性型の「仮面ライダー」。その「刺客」に頭部を貫かれた構成員は断末魔すら上げられず、身体を持ち上げられていた。

 

「……」

 

 その時。先ほどの同僚の言葉が気になっていたヘレンは、Jカップの爆乳をぶるんっと揺らして後ろへと振り向く。しかしその頃には構成員の遺体も、女性型のライダーも忽然と姿を消していた。

 やはり気のせいだったのか――とため息を吐くヘレンは、乳房を弾ませて正面のノートパソコンに向き直って行く。まだ誰にも触らせたことがない釣鐘型の爆乳が、たわわに揺れ動いていた。

 

「……皆、疲れているのね」

 

 そんな独り言を呟くヘレンが、再びキーボードを叩き始めた頃。すでにビルから飛び降りていた謎の女性ライダーは、対策室のオフィスビルを路上から見上げていた。彼女の手に握られた三叉槍には、構成員の遺体が突き刺さったままとなっている。

 

「そういうあなたも働き過ぎよ、ヘレン」

 

 女性ライダーは優しげな声色でそう呟きながら踵を返し、雪景色の彼方へと歩み去って行く。引き締まった腰を左右にくねらせて、釣鐘型の爆乳と安産型の巨尻をぶるんぶるんと振って歩くその動きは、雄の獣欲を掻き立てる「色香」に満ち溢れていた。

 

 蒼と白銀を基調としている強化外骨格。人魚の悪魔(ウェパル)を描いた紋章が刻まれている右側の胸部装甲をはじめ、その身体の各部は煌びやかな装甲に守られている。しかしそれらのプロテクターに対して、アンダースーツはあまりにも薄い(・・)

 装着者自身の規格外(・・・)なボディラインがくっきりと浮き出てしまっており、乳房や桃尻の曲線(・・)がこれでもかと露わになっている。引き締まった腰をくねらせて一歩進むたびに、超弩級の乳房と安産型の桃尻が、たゆんたゆんと上下に弾んでいた。くびれた腰つきが、極上の果実の存在感をより際立たせている。

 

 ヘレンが装着していた「マス・ライダー軽装型」の強化服も、装着者の身体にぴっちりと張り付く扇情的な仕様になっていたが。この外骨格のアンダースーツは、それ以上にボディラインの強調が際どい(・・・)。隙間なく肢体に密着させるため、下着を付けていない状態(ノーパン&ノーブラ)であることは明らかだ。

 胸部装甲が無ければ、乳房の先端部が色々な意味で危ないことになっていただろう。もはや、裸より恥ずかしいという次元すら超えている。ボディペイントと見紛うほどの「極薄」なのだ。このような状態になるまで「重量」を削ぎ落として機動性を追求したスーツだからこそ、先ほどの速さを発揮していたのだろうか。

 

 さらに――三叉の槍を携えたそのライダーの腰部には、オルバスのものと同じ「ジャスティアドライバー」が装着されていた。この外骨格もオルバスと同様に、ソロモン72柱の悪魔を模した力を宿しているのである。

 ジャスティアタイプ42番機「ウェペル」。そのコードネームを持つ「仮面ライダーウェペル」は、くびれた腰を左右にくねらせ、扇情的な足取りで歩み続けている。細く引き締まった腰つきが、特大の爆乳と巨尻の膨らみを際立たせていた。

 

「私も……そろそろ、次の『仕事』に戻るとしましょうか。新しい『依頼人(クライアント)』を失望させないように……ね」

 

 その外骨格を纏う女傑――真凛・S・スチュワートの双眸は、冷たく鋭利な闘志を宿している。ジャスティアタイプの開発者・一光という新たな「雇い主」を得た彼女は、優雅な歩みで「次」の戦場を目指していた。聖夜の贈り物(クリスマスプレゼント)として光から託されたジャスティアドライバー。そのベルトに適合している真凛の肉体は、すでに「悪魔の力」に魅入られていた。

 

「さぁ……今度は誰で、この『力』を試そうかしら?」

 

 仮面の下で、蠱惑的な笑みを溢す真凛。妖しく微笑む彼女の手に握られた三叉槍はすでに、悪しき改造人間の血に汚れていた。かつて味わった「恥辱」の苦しみさえ糧にした彼女は、串刺しにされている男の呆けた死に顔を仰ぎ、嗜虐的な微笑を浮かべている。

 

 やがて、得物に纏わり付いた血を振り払うように。彼女は三叉槍をビュンと真横に振り、構成員の遺体を吹き飛ばしてしまった。その弾みで、スーツを押し上げる爆乳と巨尻がぶるんっと左右に揺れる。

 歩道脇のゴミ捨て場に叩き付けられた遺体は力無く横たわり、その骸の血がこの場の雪景色を赤く染め上げていた。文字通り、路傍に打ち捨てられた生ゴミのような扱いだ。

 

 ――約1年前。自分達のアジトに潜入していた真凛を捕らえ、媚薬漬けにした上で苛烈な「拷問」を加えていたノバシェードの構成員達。その数少ない「生き残り」だった男は、見るも無惨な死体と化して転がっている。一度は真凛の肉体を徹底的に「調教」し、「屈服」する寸前まで追い詰めたこともある因縁の男。そんな彼は、かつて自分が堕としかけた女に一瞬で抹殺されてしまったのである。

 

 そんな哀れな暗殺者の末路を、一瞥もせず。真凛ことウェペルは三叉槍の柄を背中に装着すると、眼前に停められていた青いボディの愛車(クラシックバイク)に跨り、この場から走り去ってしまう。眩い輝きを放つ丸型のヘッドライトが、彼女の行先を照らし続けていた。

 

 規格外の馬力を物語るように、車体のマフラーから猛炎が噴き出す。ノバシェードが滅びる日まで、彼女の旅が終わることはない。彼女がバイクを降りる時は、世界が平和になった時なのだから――。

 

 ◆

 

 その後。シャドーフォートレス島やニューヨーク支部の壊滅を受けてノバシェードの残存勢力はますます衰退し、組織はより弱体化されて行った。戦いの終わりは近い。間も無く悪の組織は滅び、世界を股に掛ける闘争の日々は仮面ライダーの勝利によって幕を閉じる。

 誰もがそう信じていた。疑いもしなかった。だが、翌年の2021年1月――ライダー達の完勝で終わるはずだったこの戦いに、恐るべき新風が吹き抜けたのである。

 

 約半世紀に渡り戦乱の世界に身を置き続けて来た、最恐にして最古の怪人軍団。旧シェードの創設にも携わっていたとされる、15体の始祖怪人(オリジン)

 長い仮死状態から覚醒した彼らがノバシェードとの合流を果たしたことにより、新世代ライダー達の戦いは新たな局面を迎えようとしていたのだ。

 

 ――そうして、ノバシェードとの戦いが激化の一途を辿る中で。悪のダークライダーとして戦史から消え去ったスパルタンシリーズは、「過去の遺物」として忘れ去られて行く。

 

 全ての原点たる「仮面ライダーG」の覚醒から始まった、2009年。その激動の時代に生まれ合わせ、スパルタンシリーズと共に死地に赴いていたマルコシアン隊。彼らこそが、初めて「人間」でありながら「仮面ライダー」として改造人間に立ち向かっていた、「始まり」のヒーローだったというのに。その真実を知る者はもう、数えるほども残っていない――。

 






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 夜戦編もこれにてようやく今度こそ完結! 本章を最後まで見届けて頂き、誠にありがとうございました! 当初は孤島編における真凛の行動にのみフォーカスを当てる感じの構想だったのですが、せっかくならオルバス以外の新世代ライダー達も出したい……! ということでホークアイザー戦を盛り込んだりと、色々寄り道しまくりな物語となりました。
 結果として当初の想定を遥かに超えた話数となってしまいましたが、楽しんで頂けたのであれば何よりです。本章も最後まで応援して頂き誠にありがとうございましたm(_ _)m

 今話で描かれた仮面ライダーウェペルの登場シーンは、番外編「クリスマス・ライダーキック(https://syosetu.org/novel/128200/66.html)」と連動した内容になっており、こちらのお話の「裏側」を描いたものとなっております。新ライダーの顔見せといえば、冬映画あるあるネタの一つ。スタッフロールで「仮面ライダーウェペル:???」となっているアレですね。それも絡めた、ちょっと早めのクリスマス回だと思って頂ければ……(^^;)
 ギルエード事件の時はジークフリート・マルコシアン。シャドーフォートレス島事件の時は北欧某国の国王。そして、ウェペルのベルトを貰ってからは一光。事あるごとに「雇い主」をコロコロ変えてる真凛ですが、多分この先もこういう感じで根無し草の旅を続けて行くんだろうなーと思っております。本作にとっての峰不二子、あるいはエイダ・ウォンですな(´ω`)

 現在公開されている範囲内での時系列としてはこの後、ヘレンが初登場した凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)、斎藤空幻の末路が明かされる番外編(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)、市街地戦が舞台の北欧編(https://syosetu.org/novel/128200/97.html)と続き、最後には始祖怪人達の過去と、彼らとの最終決戦を描いた特別編(https://syosetu.org/novel/128200/71.html)へと向かって行くことになります。機会がありましたら、こちらのエピソード群もどうぞよしなに(>人<;)

 ちなみに現在は、新たな読者参加型企画を準備しているところでして。その新章の舞台は、この夜戦編から11年前の2009年。これまで何度も作中で触れられていたマルコシアン隊と、彼らを率いていた若き日のジークフリート・マルコシアンにスポットを当てた、いわゆる過去編エピソードとなります。本編の第1章に繋がって行く「始まりの物語」であり、作者的にはかなーり重要なお話になるかなーと思っております。
 まだ全体のプロットを組んでる途中なのでいつ頃から始められるかは分かりませんが、いずれは形にしたいなーと思っておりますので、今後もどうぞお楽しみに。出来れば、仮面ライダーG&ディケイド生誕15周年となる来年の1月頃には始めたいなーと思っております。ではではっ!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女が変身する「仮面ライダーウェペル」の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ! さらにこちらの作品では、今話で名前が出て来た暁月レイラこと「仮面ライダーアスモデイ」も本格的に登場しております。彼女が起こしたという殺戮事件の詳細も明らかに……!?(゚ω゚)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。時系列としてはこの夜戦編から約1年後の時期に当たりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。本章に登場したハイパーレスキューの東方駿介と巽・D・仁も本格的に活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 「皆……疲れているのか……」


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聖夜編 悪魔の影と騎士の絵本 前編

◆今話の登場人物

◆ビリー・ケンド
 ノバシェード対策室のベテラン特務捜査官であり、ニューヨーク市警から対策室に抜擢されたマグナムリボルバーの名手。真凛(マリン)・S・スチュワートとは同期であり、彼女が対策室を去ってからもその身を案じ続けている人情家。「仮面ライダーアスモデイ」こと暁月(あかつき)レイラが起こした殺戮事件(https://syosetu.org/novel/316771/9.html)の捜査を担当していた。使用銃器は.44マグナム弾を撃てるようにカスタムされた専用のコルトパイソン。当時の年齢は29歳。

◆モリー・ケンド
 ビリーの愛娘であり、ヘレンと真凛を姉のように慕っている可憐な美少女。まだ幼いが利発であり、ヘレンと真凛の事情を悟りながらも心配を掛けまいと涙を堪えていた。新世代ライダー達のファンでもあり、ケンド家には彼女が描いたライダー達の絵が飾られている。当時の年齢は9歳。

◆ヘレン・アーヴィング
 ノバシェード対策室の若き特務捜査官であり、真凛・S・スチュワートの跡を引き継いだ新進気鋭のアメリカ人美女。元同僚であり師でもあった真凛の分まで、ノバシェードを追い続けている才媛。使用銃器は真凛から譲り受けたワルサーPPK。当時の年齢は20歳。
 スリーサイズはバスト106cm、ウエスト61cm、ヒップ98cm。カップサイズはJ。



 

『……何ですって? ケージとオルバス以外の『仮面ライダー』が、このニューヨークで目撃されている……?』

 

 ――2020年12月25日。仮面ライダーケージと仮面ライダーオルバスが逃走中の蜘蛛型怪人を撃破し、ノバシェードのニューヨーク支部を壊滅させていた頃。

 ノバシェード対策室の本部が設置されている高層オフィスビルで、独り事務作業に没頭していたヘレン・アーヴィングは、同僚の特務捜査官から掛かって来た電話の内容に眉を顰めていた。

 

『そんなはずはないわ。他の新世代ライダー達は全員、他の現場に散っているはずよ。どうせあなたのことだから、市警に配備された試作量産型(マス・ライダー)と見間違えたのでしょう? 馬鹿なこと言ってないで、今夜くらいは家族と一緒に居てあげなさい。あなたが担当していた事件の記録なら、私が代わりにチェックしておくから』

 

 新世代ライダーの一員ではなく、対策室のデータベースにも無い謎の「仮面ライダー」。そんな得体の知れない影が、ニューヨーク市内で目撃されている。その荒唐無稽な内容にため息を吐くヘレンは、取り付く島もなく一方的に電話を切ってしまう。

 

「おい、待てよヘレン! 本当なんだって! 俺も目撃者達の写真を確認したが、フェイクの痕跡なんて無かったんだ! あれは間違いなく――って、ちょっ!? ああクソッ、アイツ切りやがった!」

 

 その電話の相手だった同僚の男性――元ニューヨーク市警のビリー・ケンド捜査官はスマホを握り締めたまま、困り果てた様子で声を荒げていた。口髭を蓄えた、筋骨逞しい強面の色男だ。彼は同僚(ヘレン)の身を案じるように、自宅の窓から外の夜景を見上げている。

 

 マンハッタン区の住宅街に位置する一軒家で、家族と共にクリスマスの夜を過ごしていたビリー。彼は目撃者達から寄せられた情報をヘレンに報せようとしていたのだが、どうやらまともに相手にして貰えなかったようだ。パーティーを楽しんでいた彼の妻子も、心配そうにその様子を見守っている。

 

「あなた、ヘレンは何て……?」

「馬鹿なこと言うなってさ。全く、最近のアイツには参ったよ。独りで思い詰めてどんどん突っ走ってしまう。先輩(マリン)の悪い癖が移っちまってるみたいだ」

 

 ヘレンの友人でもある妻の言葉に、ビリーは深々とため息を吐く。問題行動の累積が原因で対策室から除名され、行方を眩ましてしまった元同期――真凛(マリン)・S・スチュワート。彼女のことを気に掛けていたビリーは、その後輩であるヘレンの今後も案じている。

 

(シャドーフォートレス島の時だって、かなり危うい捜査だったはずだろうに……無茶なところばかり真凛に似やがって。その上、俺が担当していたあの事件(・・・・)の記録まで見ようだなんて……心配するなっていう方が無理な話だぜ)

 

 「仮面ライダーアスモデイ」こと暁月(あかつき)レイラが数ヶ月前、北欧某国で起こしていた凄惨を極める殺戮事件。その捜査を担当していた彼は当然、悍ましい「現場」の惨状を目の当たりにしていた。

 

 地面を染め上げる夥しい鮮血と、漂って来る強烈な血の匂い。その光景と死臭は、今もビリーの脳裏と嗅覚に深くこびり付いている。同行していた同僚達の多くは、この事件に直面したことで精神に深い傷を負い、今も現場に復帰出来ていない。

 それほどまでに酷い事件の記録を、自分に代わってチェックしているヘレンの心労を思うと――否応なしに胸が締め付けられてしまう。

 

(ヘレン……)

 

 このような世の中だからこそ、少しでも家族と共に過ごせる時間を大切にしなければならない。そうと頭で理解していながらも、ビリーはヘレンの胸中に胸を痛め、眉を顰めていた。

 

「パパ……ヘレンと真凛、今年はパーティー来れないの……?」

「あ、あぁ……ごめんな、モリー。2人は、その……今はちょっとお仕事が忙しいんだ。寂しい思いをさせてしまって、済まないと思っている。だがどうか、分かってあげて欲しい。これも……世界の正義を守るためなんだよ」

 

 一方。父の背中を寂しげに見上げる幼い少女――モリー・ケンドは、去年のクリスマスにヘレンと真凛から貰ったクマのぬいぐるみを抱き締め、幼気な瞳を潤ませていた。父に心配を掛けたくないという気持ちと、胸に募る「寂しさ」が鬩ぎ合っているのだろう。

 

 彼女は父と肩を並べている新世代ライダー達のファンでもあるらしく、リビングの壁には彼女が描いた仮面ライダータキオンや、仮面ライダーオルバスの絵が飾られている。自分達の仕事に理解を示し、応援してくれている愛娘の瞳に、ビリーは苦々しい表情を浮かべていた。

 

「私……2人に、会いたかった……元気な姿、見たかったな……」

「あぁ、そうだよな……パパも同じ気持ちさ。いつか平和になったら、その時はまた……昔みたいに、皆で遊ぼう。真凛も、ヘレンも一緒だ」

 

 頻発にケンド家に遊びに来ていたヘレンと真凛は、モリーにとっては歳の離れた姉のような存在だったのだ。そんな2人がこの場に居ない寂しさが、その可憐な貌に顕れている。愛娘の涙を目の当たりにしたビリーは悲しげに眉を寄せると、片膝を着いて我が子を優しく抱き締めていた。

 

「……うん、分かってる。パパもヘレンも真凛も、今は……悪くて怖い人達から、皆を守るために戦ってるんだよね」

「モリー……」

「だからね、パパ。私、来年もずっと良い子にしてる。そしたら、またサンタさんにお願いするの。今年はちゃんと、皆揃ってパーティーしたい……って」

「あぁ、あぁ……そうだな、来年はそうしよう。大丈夫だ、サンタさんはきっと叶えてくれる。その頃にはきっと、世の中も平和になってる。真凛だって……絶対、帰って来るさ」

 

 幼いなりにも、ヘレンと真凛の事情を気遣っているのだろう。モリーは涙を堪えるように唇をきゅっと結び、来年のクリスマスに想いを馳せていた。そんな愛娘の姿に胸を打たれたビリーは、口髭を擦り付けるようにモリーに頬擦りしている。

 

(……真凛。例え離れ離れになっても……俺達は仲間だ。そうだよな……?)

 

 対策室の一員として、共に幾つもの死線を潜り抜けて来た、かつての同期。そんな真凛の行方に思いを馳せるビリーは、愛娘を抱き締めながら遠い眼差しで窓の向こうを見つめていた。

 脳裏に過ぎるのは、屈託なく戦友達と笑い合っていられた日々。人ならざる怪物達(ノバシェード)との戦いの中だからこそ輝く、仲間達との思い出。それが少しずつ「遠い過去」になって行く感覚に、ビリーは寂寥感を覚えていた。

 

「……ん?」

 

 するとその時、ビリーのスマホから着信音が鳴り始めた。画面に表示されたのは――ニューヨーク市警に居る飲み仲間の名前だ。今はそれどころではないのに、とため息を吐きながら、ビリーはその通話に出る。

 

「なんだお前か、一体どうし……なにッ!?」

 

 そして――思いもよらぬ「殺人事件」の発生に、驚愕の声を上げるのだった。

 

 ◆

 

 対策室の本部がある高層オフィスビル。そのすぐ近くにある路傍のゴミ捨て場に、ノバシェード構成員の死体が遺棄されているというのだ。

 

「これは……」

 

 パトカーのサイレン音が辺りに響き渡る中、通報を聞き付けた警察官達がゴミ捨て場に集まっている。市警時代の仲間達と共にその現場に急行していたビリーは、死体に残されていた凄惨な傷跡に眉を顰めていた。特務捜査官としての「勘」が、警鐘を鳴らしているのだ。これは只者の仕業ではない、と。

 

「ビリー! モリーのことは大丈夫!?」

「あぁ心配要らない、ウチのカミさんが付いててくれてる!」

 

 そこに、ビリーが着ているものと同じトレンチコートを羽織ったヘレンが、ブロンドのショートヘアを靡かせて駆け付けて来る。あまりの「豊満さ」故にコートの前を閉められなかったのか、100cmを超える釣鐘型の豊満な爆乳は、ばるんばるんと上下に揺れ動いている。

 

「悪かったな、ヘレン。せっかく家族の時間を作ってくれてたってのによ」

「いいえ、気にしないで。それより状況は……?」

「……見ての通りだ、酷いもんだぜ」

 

 周囲を警戒していた現場の男性警察官達が、ヘレンの美貌とスタイルに思わず目を奪われる中。屈託ない様子で「戦友」と合流したビリーは、彼女と共に現場を確認し始めていた。

 改めて死体を目の当たりにしたヘレンも、死体の様子に思わず顔を顰めている。片膝を着いて死体の状況を確認する2人の捜査官は、共に鋭く目を細めていた。

 

「確かに……これは間違いなく、ノバシェードの戦闘員だわ。改造人間の兵士を、一体誰が……!?」

「見ろよ、側頭部に等間隔で並んだ3箇所の刺し傷がある。まるで真横から、三叉の槍(トライデント)でブッ刺されたような傷跡だ」

 

 死体に遺されていた「外傷」は、頭部にある3箇所の刺し傷のみ。それ以外には傷らしい痕跡はなく、着衣の乱れもほとんど見られない。つまりこの構成員は、衣服が乱れるほど動く暇もなく――まともに戦う暇もなく、何者かに殺されたのだ。

 

「……改造人間の戦闘員を、抵抗する機会も与えずに一瞬で刺殺……か。当たり前だが、只者の仕業じゃねぇ。並の腕力と武器じゃあ、改造人間の頭部をブチ抜くなんて不可能だからな」

「使い手の技量、膂力……それに武器。どれを取っても、『仮面ライダー』に匹敵し得るものであることは間違いなさそうね。しかも現場の足跡を見るに……『実行者』は女性型の外骨格を使っていたようだわ」

 

 兵器としては「失敗作」であるとはいえ、人間を遥かに超えていることには違いない、ノバシェードの改造人間。その身体を持つ構成員が、為す術もなく一撃で即死させられている。

 それが意味するものを察していたビリーとヘレンは、互いに顔を見合わせ、眉を寄せていた。雪の凹みから足跡の特徴を看破していたヘレンは、透き通るような碧眼を鋭く細めている。

 

「……使われたのは三叉の槍。女性型の外骨格らしき足跡……。やはり、ケージとオルバスの装備ではないわね。それに、彼らからの報告にもこの件は含まれていなかった」

「あぁ、それにあの2人はそろそろニューヨークを出た頃だが……コイツは死後1時間も経ってない。まず彼らの仕業じゃあないな」

「じゃあ、まさか本当に……あなたの言っていた『仮面ライダー』が……!?」

 

 ケージでもオルバスでもないのなら、「可能性」は大きく絞られる。ネット上でも話題になっていた、新世代ライダーとは異なる謎の「仮面ライダー」。それが単なる都市伝説の類ではなかったのだという事実に、ヘレンはついに辿り着こうとしていた。

 

「……!?」

 

 だが、その時。ヘレンとビリーの背後から――凍て付くような「風」が吹き抜ける。その寒気が季節のせいではないことを、2人は捜査官としての直感で悟っていた。これは絶大な力を持った存在が放つ、「殺気」の風なのだと。

 

 さらに。

 

 ――止めた方が良いですよ。これ以上、悪魔(わたし)達の世界に「深入り」するのは。

 

 そんな得体の知れない女性の声が、2人の耳元で囁かれた――ような気がした。聴覚を通り越して、魂に直接語り掛けて来るような声だ。その声の「近さ」は到底、幻聴の類と言えるようなものではない。

 鈴を転がすような澄んだ声は、確かに2人の耳に残っている。優雅さと冷たさを兼ね備えた、悪魔の声。そして、僅かに漂う女のフェロモンに混じる、コーヒーの香り。その波紋が、2人の「芯」に伝播していた。

 

「……ッ!」

「ぬッ……!」

 

 次の瞬間、2人はトレンチコートを翻して腰のホルスターに手を伸ばし、それぞれの愛銃を引き抜く。ヘレンはワルサーPPK、ビリーはコルトパイソン。

 それらの愛銃を振り向きざまに構えた2人は――誰も居ない空間に銃口を向けていた。周りの警察官達は何も感じなかったのか、ヘレンとビリーの挙動に困惑している。

 

「ビリー、今っ……!」

「お前も聞こえたか、ヘレン……!」

「さっきの声は一体……!?」

 

 だが、先ほどの女性の声を確かに聞いていたヘレンとビリーは、戦慄の表情で拳銃を構え続けていた。鼻腔に残るコーヒーの匂いと女の芳香が、幻覚の類ではないのだと確信させる。今の「殺気」を背後から放って来た声の主を探すように、2人の銃口はクリスマスの夜に揺らめき続けていた。

 

「ヴ……ヴゥ、ガァ、アァアァッ!」

「……ッ!?」

 

 すると次の瞬間、死亡していたはずの構成員が白目を剥いて起き上がって来た。この構成員も、ギルエード事件の時にヘレンが遭遇したものと同じ――「突然変異体」だったのだろう。理性を失った怪物は獣のような雄叫びを上げ、無軌道に暴れ始めていた。

 






【挿絵表示】

※たなか えーじ先生に有償依頼で描いて頂いたイラストをまたしても再掲! ヘレン・アーヴィングと真凛・S・スチュワートのツーショットになります。改めて、彼女達2人をカッコ良く描いて頂き誠にありがとうございました……!m(_ _)m

 今回は、番外編「クリスマス・ライダーキック(https://syosetu.org/novel/128200/66.html)」と連動している夜戦編の最終話(https://syosetu.org/novel/128200/148.html)の「直後」を描いた小話となりました。
 あまりにも元ネタが露骨なビリー捜査官をゲスト主人公に据えつつ、ノバシェード対策室の人間模様をちょっこし掘り下げたクリスマス短編となっております。物語は明日の後編に続きますぞ(*^ω^*)

 本来なら前話が今年最後の更新となる予定だったのですが、やっぱり「クリスマス回」ならこの時期にやった方が良いだろう……と思いまして。キリの良い話数で締めて来年からの新章に繋げたかったこともあり、前話に引き続いてのクリスマス回となりました。さすがに本作も来年の新章で真の完結を迎える……んじゃないかとは思いますが、書ける限りは書いて行きたいところであります(´-ω-`)

 現在公開されている範囲内での時系列としてはこの後、ヘレンが初登場した凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)、斎藤空幻の末路が明かされる番外編(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)、市街地戦が舞台の北欧編(https://syosetu.org/novel/128200/97.html)と続き、最後には始祖怪人達の過去と、彼らとの最終決戦を描いた特別編(https://syosetu.org/novel/128200/71.html)へと向かって行くことになります。機会がありましたら、こちらのエピソード群もどうぞよしなに(>人<;)

 また、前章のあとがきでお伝えした通り、現在は新たな読者参加型企画を準備しているところでして。その新章の舞台は、この聖夜編から11年前の2009年。これまで何度も作中で触れられていたマルコシアン隊と、彼らを率いていた若き日のジークフリート・マルコシアンにスポットを当てた、いわゆる過去編エピソードとなります。本編の第1章に繋がって行く「始まりの物語」であり、作者的にはかなーり重要なお話になるかなーと思っております。
 まだ全体のプロットを組んでる途中なのでいつ頃から始められるかは分かりませんが、いずれは形にしたいなーと思っておりますので、今後もどうぞお楽しみに。出来れば、仮面ライダーG&ディケイド生誕15周年となる来年の1月頃には始めたいなーと思っております_(:3 」∠)_

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、夜戦編(https://syosetu.org/novel/128200/137.html)等で暗躍していた私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女が変身する「仮面ライダーウェペル」の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ! さらにこちらの作品では、夜戦編で名前が出て来た暁月レイラこと「仮面ライダーアスモデイ」も本格的に登場しております。彼女が起こしたという殺戮事件の詳細も明らかに……!?(゚ω゚)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。今話の聖夜編から、さらに年が明けた後のお話になりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。夜戦編に登場したハイパーレスキューの東方駿介と巽・D・仁も本格的に活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編(https://syosetu.org/novel/128200/130.html)で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 バイオ1プレイ当時、ジル編のバリーが頼もし過ぎてなかなかクリス編に挑む踏ん切りが付かなかった思い出(´ω`)


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聖夜編 悪魔の影と騎士の絵本 後編

◆今話の登場人物

亜灰縁(あくいえん)
 アメリカ合衆国・ノースカロライナ州に位置する大規模研究施設「ニノマエラボ」の研究員であり、ジャスティアドライバーの開発者・一光(にのまえひかる)博士の助手を務めている怜悧な美女。ジャスティアライダー達の問題行動が露見しないように情報を陰から操作し、対策室の捜査を密かに撹乱していた。当時の年齢は20歳。
 ※原案はX2愛好家先生。

◆???/仮面ライダーマレコシアス
 ジャスティアドライバーの適合者であり、新世代ライダー達とは異なる枠組みで暗躍している「ジャスティアライダー」の1人。数多の実戦を経験して来た元傭兵であり、「冬来たりなば春遠からじ」を座右の銘とするミステリアスな女性。狼と聖職者をモチーフとするジャスティアタイプ35番機「仮面ライダーマレコシアス」を任されている。当時の年齢は25歳。
 ※原案はアルキメです。先生。



 

「こいつッ! ……はあぁッ!」

「ガァア……ァアッ!」

 

 突如蘇り、背後から立ち上がって来た構成員。その影に気付いたヘレンは、咄嗟に後ろ蹴りを繰り出す。

 条件反射で振るわれた長い美脚が、構成員の腹部に直撃した。その反動で、釣鐘型の爆乳と安産型の巨尻がどたぷんっと弾む。

 

「ウゴォアァ、アァッ……!」

「……ッ! こいつ、まだッ……!」

 

 真凛に鍛え上げられたヘレンの蹴りは、並の人間なら一撃で昏倒する威力だ。しかし、突然変異を起こしたこの構成員を仕留めるには至らなかったらしい。

 彼女の蹴りで吹っ飛ばされ、地を転がった構成員は、近くに居た警察官達に襲い掛かろうとしていた。

 

「う、うわぁああ! こ、こいつまだ生きてっ……!」

「う、撃て撃てぇえっ!」

「なっ……こ、こいつ効いてないのか!? 銃で撃たれてるのに、何で止まらないんだよっ!」

 

 改造人間の「失敗作」ばかりが集まっているノバシェードにおいて、並々ならぬポテンシャルを有している数少ない個体。その一つだった構成員は、生ける屍(ゾンビ)のような挙動で警察官達に迫ろうとする。警察官達も咄嗟に拳銃で応戦するが、動揺しているせいで狙いが定まっていないのか、急所を外し続けていた。

 

「皆、危ないから下がって! ここは私達、ノバシェード対策室が引き受けるわ!」

「こういう輩の相手は……俺達の方が『専門』だからなァッ!」

 

 だが、ノバシェード対策室の特務捜査官達は違う。即座に振り返ったヘレンとビリーは、凶悪な貌でこちらに迫って来る構成員に怯むことなく、冷静に愛銃を構え直している。ヘレンのワルサーPPKは眉間を、ビリーのコルトパイソンは心臓を狙っていた。

 

「ガァ、アッ……!?」

 

 すると、その時。「赤い炎」と「蒼い氷」が突如視界に飛び込み、2人の眼前で爆ぜた。次の瞬間、構成員の身体が2度に渡り「痙攣」し、足を止めてしまう。まるで、何者かに「狙撃」されたかのような動きだ。

 

(……ッ!? 今のは何だッ!? しかも、奴の動きが……どういうことだ……!?)

(分からないけど……狙うなら今しかないわねッ!)

 

 何が起きたのかは分からないが、これは確実に構成員を仕留められる最大の好機。決して外すわけにはいかない。ヘレンとビリーは互いに頷き合いながら、それぞれの愛銃の引き金に指を掛ける。

 

「ビリー!」

「分かってる、心臓は任せろッ!」

 

 その直後、2人の銃口が同時に火を噴く。狙い澄ました一撃は二つの急所を瞬時に撃ち抜き、このゴミ捨て場を再び鮮血で染め上げていた。

 

「ヴガァアッ、ァッ……!?」

「……俺達からのささやかな『クリスマスプレゼント』だ。ありがたく味わいな、化物野郎」

 

 ノバシェードに対抗するため、「禁じ手」である.44マグナム弾を使用出来るようにカスタマイズされている、ビリー専用のコルトパイソン。

 その火力は、「失敗作」の改造人間が相手なら十分に通用するのだ。今度こそ確実に「とどめ」を刺された構成員は、2人に向かってもがくように両手を伸ばし、膝から崩れ落ちて行く。

 

「悪魔だろうと何だろうと……私達は、絶対に退かない」

「あぁ。……それが俺達、ノバシェード対策室だからな」

 

 2人の呟きは、自分達に「忠告」して来た「声」に対する宣戦布告でもあったのだろう。毅然とした表情で構成員の「最期」を見届けたビリーとヘレンは、静かに愛銃をホルスターに収めていた。2人の鮮やかな早撃ちに、周りの警察官達も息を呑んでいる。

 

(それにしても、さっきの構成員の動き……あれは間違いなく……)

(えぇ……あれは確かに、誰かに撃たれた時の動きだった。それも……この雪の中で、銃声が聞こえないほどの遠距離から……連続で2発。まさか、さっきの「声」の主の仕業なの……?)

(構成員がぐらつく直前、俺達の前に飛び込んで来た「炎」と「氷」……あれは何かの見間違いなんかじゃねぇ。一体、何がどうなっていやがる……!?)

 

 一方。ビリーとヘレンは、自分達にチャンスを与えた構成員の「異変」に思考を巡らせていた。あれは明らかに、どこかから「狙撃」された時の挙動だった。

 

 しかし、警察官達が狙撃手を呼んだという情報は入っていない。ケージもオルバスも、長距離から狙撃出来る装備など持っていないはず。何より――視界が悪くなっているこの雪の中で、銃声も聞こえて来ないほどの遠距離からの狙撃など、並大抵の技量では到底不可能だ。

 

 ならば先ほどの「異変」は、何者の仕業だったのか。視界に飛び込んで来た「赤い炎」と「蒼い氷」は、一体何だったのか。その真相を探し求めるように、ビリー達は警戒を解くことなく、鋭い眼差しで周囲を見渡し続けていた。

 

「……」

 

 ――そんなヘレン達の様子を、遠く離れたビルの屋上から静かに見つめている、1人の女性が居た。風に靡く長い髪からは、艶かしい女のフェロモンが振り撒かれている。

 しなやかな曲線を描いた優美な肉体を白衣に包む、絶世の美女。その白く瑞々しい柔肌から滲む甘い匂いが夜風に流され、マンハッタンの空に漂っていた。

 

 黒と白が入り交じり、腰まで伸びているロングヘア。その長髪を夜風に靡かせている彼女は、白く艶やかな手指で耳元の髪を掻き上げ、宝石のような瞳を鋭く細めている。その鋭利な眼差しは、氷のように冷たい。

 

「……まぁ、この程度の『忠告』で引き下がるほどお利口な方々ではありませんよね。あなた方……ノバシェード対策室は」

 

 彼女の名は、亜灰縁(あくいえん)。悪魔の力を持つ影の戦士――ジャスティアライダー達の背後に立つ、闇の研究者であった。1杯のホットコーヒーを嗜んでいる彼女は、特務捜査官達の諦めの悪さにため息を吐いている。

 

「……」

 

 そんな彼女の隣に立っているもう1人の人物も、ヘレンとビリーを穏やかな佇まいで見据えていた。鉄仮面に隠されているその表情は冷たくもあり、優しげでもある。

 

 「狼」と「聖職者」を想起させる意匠を持った外骨格を纏っている、謎の人物。彼女(・・)もまた、悪魔の力を宿したジャスティアライダーの1人だ。

 2本の鋭い牙を彷彿させる独特の顎部装甲(クラッシャー)。赤と青に輝くマスクアイ。十字型のフェイスシールドに、関節部各所に装着された十字型のパーツ。深青色のラインが走る、赤紫を基調とした流線形の外殻。白い模様が入れられている。布形状の腰部装甲。

 

 狼の如き荒々しさと、聖職者のような洗練さ。相反するその二つが混じり合った姿形は、悪しき力を正しき道のために振るう、「仮面ライダー」の生き様そのものを体現しているかのようであった。

 

「……射撃の精度、反応の速さ、体術の冴え、躊躇の無さ。確かに、戦闘技術は申し分無い。けれど……直前まで奴の『変異』に気付けなかった詰めの甘さは致命的だ」

 

 仮面の下から、くぐもった女性の声が響いて来る。それは、数多の戦場を潜り抜けて来た元傭兵としての分析。そして、改造人間の力を己の肌(・・・)で思い知って来た戦士としての、忌憚のない意見だった。

 

 弱者は戦場に立つべきではない。戦場の弾雨は全て、戦士である自分が全て受け止める。その確固たる信念に基づき、ノバシェードと戦って来た彼女としては、ビリーとヘレンは放って置けない存在だったのだろう。

 

「ハッキリ言って、彼らではこれ以上の戦いには付いて来れないだろう。彼らは……これ以上、()に出て来るべきではない」

 

 彼女の両手に握られている、十字架型の2丁拳銃。その銃口から放たれた「炎」と「氷」のエネルギー弾が、変異した構成員を遠方から「狙撃」していたのである。人知れずヘレンとビリーを手助けしていた彼女は、2丁拳銃をくるくると回転させて腰に収めながら、静かに踵を返していた。

 

「一応聞きますが、その動作に何の意味が?」

「……『カッコイイ』だろう?」

「はぁ……相変わらず理解に苦しむことを言いますね、マレコシアス。遊んでいる暇があるのなら、あなたも直ちに動いてください。数時間前、ワシントンD.C.でコブラ型怪人が確認されたとの情報が入っています」

 

 彼女の背中を流し目で見遣る縁は、桜色の艶やかな唇を開き、ため息混じりに「次」の出動命令を告げる。どうやら、ノバシェードの構成員達は他の都市でも暗躍しているらしい。扇情的な唇をコーヒーカップに寄せる彼女は、冷ややかな眼差しで「マレコシアス」という戦士の背中を射抜いていた。

 

「世間はクリスマスだというのに、ノバシェードも働き者だね。了解、すぐに向かう」

 

 縁の冷たい声を背に受けた仮面の戦士――ジャスティアタイプ35番機、「仮面ライダーマレコシアス」。彼女は縁の指令に頷きながら、颯爽とビルの屋上から飛び降りて行く。軽やかに地上に降り立った彼女の眼前には、路肩に停められた1台のオートバイがあった。

 

 狼の頭部を模したフロントカウル。その()に十字架の紋章が刻まれている、専用のオフロードバイク「ヴォルフクロッサー」。赤紫を基調とするその愛車に跨ったマレコシアスは、ハンドルを握り締めエンジンを始動させていた。車体後部のマフラーが火を噴く瞬間、彼女を乗せたマシンはマンハッタンの道路を勢いよく走り抜けて行く。

 

「……冬来たりなば、春遠からじ。いつか春が来ると思えば……この風も悪くない」

 

 全身で冬の風と雪を浴び、仮面の下で頬を緩めるマレコシアス。彼女は次の戦場を目指し、聖夜の大都市を駆け抜けて行く。規格外の馬力を誇るヴォルフクロッサーは、瞬く間に最高時速の500kmに到達していた。その行き先を知るのは当人と、同質の力(ジャスティアドライバー)を持った悪魔達のみであった。

 

 常軌を逸するヴォルフクロッサーの加速。その疾さが齎す猛風は、路傍に捨てられていた新聞紙を舞い上げている。その紙面には、新世代ライダー達の功績を綴る記事が載せられていた。

 

「さぁ……行こうか、ヴォルフクロッサー。私達にはまだ……やるべきことがある」

 

 連日のようにメディアで報じられる、新世代ライダー達の華々しい活躍。その裏側で、人知れず悪魔の力を振るう闇のジャスティアライダー達。彼らの「暗躍」はまだ、始まったばかりなのである。

 

 ◆

 

 ――その頃。クリスマスパーティーがお開きとなったケンド家の寝室では、ベッドの温もりに包まれたモリーが寂しげな表情を浮かべていた。

 そんな愛娘の側に寄り添うビリーの妻は、愛おしげな表情でモリーの頬を撫でている。僅かな灯りが、壁に飾られた新世代ライダー達の絵を照らしていた。

 

「パパとヘレン、大丈夫かな……。真凛みたいに……居なくなったり、しないよね……?」

「大丈夫よ、パパもヘレンもとっても強いんだから。……さ、そろそろ寝ましょうか」

 

 真凛の失踪を察しながらも、父に心配を掛けまいと口を噤んでいたモリー。その頭を優しく撫でるビリーの妻は、娘を寝かし付けようとしていた。

 しかしモリーの視線は、今年のクリスマスプレゼントである1冊の絵本へと向けられている。11年前の2009年頃に発売されて以来、密かに人気を集めている「隠れた名作」らしい。

 

「ねぇ、ママ……あの絵本、読みたいな」

 

 ヘレンがこの日のために用意していたその1冊は、モリーが以前から欲しがっていた絵本なのだ。ヘレンからの贈り物だと察していた彼女は、少しでも「姉代わり」になるものを近くで感じていたかったのかも知れない。

 

「……そうね、そうしましょう。せっかくのクリスマスプレゼントなんだから」

 

 そんな愛娘の胸中を悟っていたビリーの妻は、モリーの小さな身体を抱き寄せながらゆっくりと絵本を開く。そこに描かれていたのは――友との悲しい別れを経験しながらも、その友の願いを叶えようとする勇敢な騎士達の御伽話だった。

 

 ◆

 

 むかしむかし、とおいくに。そこには、くにをまもるゆうかんなきしたちがいました。

 

 あるとき、ひとりのきしがいいました。「ぼくは、このくにをまもれるつよいちからがほしい」。けれどそれは、とてもおそろしいのろいのちからのことだったのです。

 

 ほかのきしたちはもちろんだいはんたい。それでも、そのきしはちからをもとめてたびだってしまいました。

 

 そして、そのきしは、おそろしいすがたのひとくいおにになってかえってきたのです。きしは、なかまたちのこともわからなくなっていました。

 

 なかまたちはおどろき、かなしみ、おにになったきしをやっつけてしまいます。

 

 くにをまもれるつよいちから。それをほんとうにもっていたのは、のろいになんかたよらない、このくにのきしたちだったのです――。

 






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 皆様、メリークリスマス! 今回は前回に引き続き、番外編「クリスマス・ライダーキック(https://syosetu.org/novel/128200/66.html)」と連動している夜戦編の最終話(https://syosetu.org/novel/128200/148.html)の「直後」を描いた小話となりました。ビリー捜査官をゲスト主人公に据えた聖夜編もこれにて完結となりまするm(_ _)m
 さらに今話は、後述の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」で本格的に活躍する予定の「仮面ライダーマレコシアス」が先行登場するという、冬映画あるあるな小ネタ回でもありました。果たして彼女はこれからどんな暴れっぷりを見せてくれるのか……それは今後の「Imitated Devil」を参照ですぞ!(*´ω`*)

 現在公開されている範囲内での時系列としてはこの後、ヘレンが初登場した凶兆編(https://syosetu.org/novel/128200/94.html)、斎藤空幻の末路が明かされる番外編(https://syosetu.org/novel/128200/67.html)、市街地戦が舞台の北欧編(https://syosetu.org/novel/128200/97.html)と続き、最後には始祖怪人達の過去と、彼らとの最終決戦を描いた特別編(https://syosetu.org/novel/128200/71.html)へと向かって行くことになります。機会がありましたら、こちらのエピソード群もどうぞよしなに(>人<;)

 また、前章のあとがきでお伝えした通り、現在は新たな読者参加型企画を準備しているところでして。その新章の舞台は、この聖夜編から11年前の2009年。これまで何度も作中で触れられていたマルコシアン隊と、彼らを率いていた若き日のジークフリート・マルコシアンにスポットを当てた、いわゆる過去編エピソードとなります。本編の第1章に繋がって行く「始まりの物語」であり、作者的にはかなーり重要なお話になるかなーと思っております。ちなみに、今話ラストの絵本は来年の新章にも出て来ますぞ(´ω`)
 まだ全体のプロットを組んでる途中なのでいつ頃から始められるかは分かりませんが、いずれは形にしたいなーと思っておりますので、今後もどうぞお楽しみに。出来れば、仮面ライダーG&ディケイド生誕15周年となる来年の1月頃には始めたいなーと思っております_(:3 」∠)_

 ではでは皆様、改めてメリークリスマス! そして、今年も1年間お疲れ様でした! 来月からは(恐らく)本作最後となるオリジナルライダー募集企画が始まりますので、来年もどうぞよろしくお願い致します! 良いお年を〜っ!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が連載されている3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」は仮面ライダーオルバスこと忠義・ウェルフリットが主人公を務めており、夜戦編(https://syosetu.org/novel/128200/137.html)等で暗躍していた私原案の真凛・S・スチュワートも読者応募キャラの1人として登場しております! 彼女が変身する「仮面ライダーウェペル」の活躍はこちらの作品がメインになると思われますので、真凛に興味を持ってくださった方々は要チェックですぞ! さらにこちらの作品では、夜戦編で名前が出て来た暁月レイラこと「仮面ライダーアスモデイ」も本格的に登場しております。彼女が起こしたという殺戮事件の詳細も明らかに……!?(゚ω゚)

 さらには、今話でチラッと顔見せしていた「仮面ライダーマレコシアス」も、この作品で本格的に活躍してくれる予定となっております! 冬映画あるあるな先行登場を果たした彼女は、果たしてこの先どんな活躍を見せてくれるのか!? その全貌を、こちらの作品で是非ともご確認ください!(`・ω・´)
 物語の舞台は2021年7月頃のアメリカ。今話の聖夜編から、さらに年が明けた後のお話になりますね。これまでのお話で幾度か言及されていた、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。夜戦編に登場したハイパーレスキューの東方駿介と巽・D・仁も本格的に活躍しておりますので、気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も掲載されております! AP世界の2020年8月頃を舞台としているこちらの作品では、数多くの読者応募キャラ達が所狭しと活躍しており、孤島編(https://syosetu.org/novel/128200/130.html)で活躍していたヘレン・アーヴィング捜査官も登場しております。結構美味しい役回りを貰っておりますし、孤島編の主役だったマス・ライダー軽装型も活躍しておりますので、彼女に興味を持って頂いた方々におススメですぞ(*´꒳`*)
 もちろんヘレンだけでなく、多種多様なライダーや怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっております! さらにこれまでのお話で度々触れられていた、ジークフリート・マルコシアン大佐も本格的に登場しておりますので、皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)


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Ps
 マレコシアスが走り去る場面は「シン・仮面ライダー」のラスト辺りを意識しておりました。彼女がこれから倒しに行く相手が「コブラ型怪人」なのもその一環ですね(*'ω'*)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第1話

◆今話の登場ライダー

◆ジークフリート・マルコシアン/仮面ライダーSPR-01プレーンスパルタン
 北欧某国の陸軍大佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」を率いている隊長。屈強な肉体と暗い茶髪が特徴の勇猛な軍人であり、部下達からの信頼も厚い。陸軍が仮面ライダーGをモデルに開発した試作強化外骨格を着用しており、灰色の仮面とボディが特徴となっている。当時の年齢は34歳。

◆ヴィルヘルム・フリードリヒ・フォン・ライン・ファルツ/仮面ライダーSPR-02ランチャースパルタン
 北欧某国の陸軍中佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の副隊長。豪奢な金髪と蒼い瞳が特徴の高潔な軍人であり、名門ファルツ家の現当主としての誇りをその一身に背負っている。陸軍が仮面ライダーGをモデルに開発した試作強化外骨格を着用しており、黄色の仮面と両肩のミサイルランチャーが特徴となっている。当時の年齢は30歳。

◆ニコライ・イェンセン/仮面ライダーSPR-03キャリバースパルタン
 北欧某国の陸軍少尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。叩き上げのベテラン軍人であり、周囲からも頼りにされている部隊のムードメーカー。陸軍が仮面ライダーGをモデルに開発した試作強化外骨格を着用しており、緑色の仮面と大型の刀剣が特徴となっている。当時の年齢は28歳。

◆エドガー・バレンストロート/仮面ライダーSPR-04ジェットスパルタン
 北欧某国の陸軍大尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。冷静沈着に振る舞おうとすることが多いが、実際は誰よりも情に厚い。陸軍が仮面ライダーGをモデルに開発した試作強化外骨格を着用しており、青色の仮面と背部の飛行ユニットが特徴となっている。当時の年齢は29歳。

◆レオン・ロスマン/仮面ライダーSPR-05シールドスパルタン
 北欧某国の陸軍中尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。部隊の中でも最年少であり経験も浅いが、ここぞというところで勇気を発揮する好青年。陸軍が仮面ライダーGをモデルに開発した試作強化外骨格を着用しており、赤い仮面と円形の盾が特徴となっている。当時の年齢は25歳。



 

 むかしむかし、とおいくに。そこには、くにをまもるゆうかんなきしたちがいました。

 

 あるとき、ひとりのきしがいいました。「ぼくは、このくにをまもれるつよいちからがほしい」。けれどそれは、とてもおそろしいのろいのちからのことだったのです。

 

 ほかのきしたちはもちろんだいはんたい。それでも、そのきしはちからをもとめてたびだってしまいました。

 

 そして、そのきしは、おそろしいすがたのひとくいおにになってかえってきたのです。きしは、なかまたちのこともわからなくなっていました。

 

 なかまたちはおどろき、かなしみ、おにになったきしをやっつけてしまいます。

 

 くにをまもれるつよいちから。それをほんとうにもっていたのは、のろいになんかたよらない、このくにのきしたちだったのです。

 

 ――これは、今から15年くらい前に発売された絵本の概要だ。国を護る力を欲した騎士が呪いに染まって悪に堕ちてしまい、怪物になってしまう。その怪物になったかつての友を倒し、本当に国を護って見せたのは、呪いの力になんて頼らなかった騎士達の方だった。そんな、わりとありがちな話だ。

 

 ただ、児童向けの絵本にしちゃあ結構踏み込んだストーリーだったこともあって、当時は結構人気だったらしい。今でも、小さな子供が居る家庭には大抵置いてあるって聞く。もう2024年だってのに、変わらねぇところは変わらねぇもんだ。

 

 そんなこの絵本なんだが……最近、妙な噂を耳にした。聞くところによるとこの絵本の作者は昔、大きなテロが起きてたっていうあの国(・・・)に居たらしいんだ。しかも、実は元軍人なんだとか。だからもしかしたら、この絵本の内容は作者の「実体験」が元になってるんじゃないか……ってことらしい。

 

 根も葉もない与太話なんて、ネットのどこにでもあるもんだが……その国(・・・)で起きてたデカいテロってのも、ちょうど今から15年前のことなんだよなぁ。もしかしたら、もしかするのかも知れん。

 

 この絵本のタイトルにあった主人公の名前も、ひょっとしたら……「そういうこと」だったのかもな。ええと、タイトルは確か――

 

 ◆

 

 ――21世紀初頭。ソビエト連邦の崩壊に伴う冷戦終結後も、世界各地では紛争やテロが多発するようになっていた。当時の日本政府はこの事態に対処するべく、対テロ組織「シェード」を各地に派遣。彼らは紛争地帯やテロの現場で多大な戦果を挙げ、全世界にその名を轟かせていた。

 

 しかしそれらの成果は全て、シェードの創設者である徳川清山(とくがわせいざん)の主導によって進められて来た、非人道的な洗脳や人体実験があってこそのものだったのである。「改造人間」と呼ばれるその歪な存在を、社会は許容することが出来なかった。

 

 ほどなくして、シェードは解体。人体実験の首謀者だった徳川清山は逮捕・収監され、亡霊(シェード)は闇に葬り去られることとなった。しかし、力を持て余した人外の怪物達が、それで終わるはずがなかったのだ。

 

 2009年1月。日本の某テレビ局が、シェードの復興を目論む残党達によって占拠されるという事件が起きた。徳川清山の解放を要求する彼らは、現場に居合わせた人々を人質に取ってしまったのである。

 テロを撲滅するために作られた組織が、今度はテロ組織そのものとなってしまった。しかも、人外の力は今も彼らの手の内にある。その凄惨な事実に人々はただ戦慄し、恐怖するしかなかった。

 

 そんな中。シェードの戦闘員である「No.5」こと吾郎(ごろう)は、恋人・日向恵里(ひなたえり)のワインをきっかけに清山の洗脳から解放されていた。突如シェードを裏切った彼は、かつての同胞達に対して宣戦を布告。残党達を率いていたフィロキセラ怪人こと織田大道(おだだいどう)を倒し、シェードに対して反旗を翻した。

 

 そして恋人の前から姿を消した吾郎は、孤独な愛の戦士「仮面ライダーG」として戦い抜く決意を新たにしたのである。

 

 この世界の「物語」は、ここから始まったのだ。

 

 ――そう。この輝かしい英雄譚は、ほんの「序章」に過ぎない。人間の自由と平和を懸けた戦いの歴史は、始まったばかりだったのだ。

 


 

-祝・仮面ライダーG生誕15周年-

 

仮面ライダースパルタンズ

 


 

 2024年現在から、遡ること15年。

 

 2009年7月某日――北欧某国首都、エンデバーランド中央区。その地はこの国の命運を左右する、「決戦の場」となっていた。

 優雅な西洋風の建築物に彩られていた、かつての大都市。そこは破壊の限りを尽くされたゴーストタウンと化しており、廃墟ばかりが建ち並ぶこの一帯には、まるで生気というものが無い。

 

 長期間に渡る戦闘により立ち昇る大量の硝煙と爆煙。その暗澹とした猛煙が空を覆い、この街が「地獄」と化した事実を物語っている。先ほどまでは街中に轟いていた民衆や兵士達の怒号や悲鳴も、今となってはほとんど聞こえて来なくなっていた。

 無事にこの場から逃げ切ることが出来たから、という理由なのは少数派だ。大半は物言わぬ骸と成り果て、この破壊し尽くされた大都市の至る所に放置されている。暗雲に太陽の輝きを奪われた死の街。それが、この当時のエンデバーランドだった。

 

 この街の――この国の防衛を託された「最後の希望」たる英雄達も例外ではない。この某国の陸軍が開発した、戦闘用強化外骨格「スパルタン」を纏って戦っていた精鋭の陸軍兵士達も、その多くは鎧ごとバラバラに砕け散っている。

 

 ――約半年前、日本の某テレビ局で起きた「シェード」によるテロ行為。その大事件を皮切りに世界各地で発生した改造人間による破壊活動の被害は、この国にも及んでいた。

 

 シェードに仇なす赤き仮面の戦士(仮面ライダーG)を再現するべく、アレクサンダー・アイアンザック中将によって始動された「スパルタン計画」。その成果物たる試作外骨格を試すには、ある意味絶好の機会でもあった。が、その結果はあまりに残酷であり、無残なものだったのである。

 

 突如この国に襲い掛かり、大規模な侵攻を開始したシェード北欧支部の改造人間軍団。その暴威を阻止するべく出動した軍隊は、瞬く間に敗走。僅か1日で首都にまで攻め込まれ、救国の希望を背負って出動した「スパルタン」の戦士達も惨敗を喫した。

 この国は、たった一つのテロ組織に完敗したのである。それはもはや、誰の目にも明らかであった。

 

 シェードの改造人間である「No.5」こと吾郎(ごろう)が「仮面ライダーG」に目覚め、組織に反旗を翻してから約半年。日本各地のシェード基地はGの活躍によって次々と殲滅され、世界の平和は「仮面ライダー」と呼ばれる正義のヒーローに委ねられるようになっていた。

 

 だが、それだけの力を持った絶対的な英雄(スーパーヒーロー)はこの当時、彼独りだったのだ。如何に強い力を持っていようと、たった独りの人間が全ての悲劇を食い止めることなど出来るはずもない。日本以外の世界各国で活動を開始したシェード怪人の脅威に対し、世界はまだ有効な対処法を確立出来ずにいた。

 

 この北欧某国も、その一つだった。この国に、真の「仮面ライダー」は居ない。居るとすれば、その力の再現を目指した発展途上の粗雑な模造品(スパルタン)のみ。だが、この当時の技術力ではGの再現など出来るはずもなく、最終的にロールアウトされたのは、モデルとは似ても似つかない強化外骨格の兵士達であった。

 

 Gに遠く及ばないスペックを補うため、モデルには無かった武器装備(オプション)を付け足すことで、少しでもGの戦闘力に近付こうとしていた「欠陥品」の数々。そんなものは所詮、「本物の改造人間」の敵ではないのである。Gのようにその場で変身することも出来ない、単純な手動着脱式。その程度の技術で作られた成果物で、人外の怪物に敵うわけがなかったのだ。

 

 戦場となったこのエンデバーランドの各地には、シェードの戦闘員やスパルタンを装着した陸軍兵士達の死体が累々と横たわっている。狙撃戦に特化した試作機の一つ(スナイパースパルタン)を装着していた兵士も、無惨な骸と化していた。だが、その中に幹部級怪人の骸は一つも無い。

 

 しかもシェード側より、陸軍側の方が目に見えて死者数(・・・)が多い。最後の希望を託されたスパルタン達ですら、その多くは数人掛かりで1人の戦闘員を仕留めるのがやっとだったのである。

 「Gの戦力の再現」という本来の最終目標に最も近付ける大型特殊外骨格(ミサイルスパルタン)の開発計画が予算不足で頓挫した以上、ここまでが限界だったのだ。国内の悪党や猛獣に対しては無類の強さを誇っていたスパルタンシリーズも、そのほとんどはシェードには通用しなかったのである。

 

「……まだ戦える者は居るか」

 

 だが。そんな絶望的な状況の中にいながら、なおも希望を捨てずに戦い続けようとする者達が居た。スパルタンの鎧を纏う僅かな生き残り達は、この国を脅かす邪悪な侵略者に一矢報いるべく、「最後の突撃」を敢行しようとしていたのである。

 例え「仮面ライダー」とは言えない「紛い物」の鎧であろうと、この力で為せることはまだ残っているのだと信じて。

 

「俺はこれより、この国の軍人としての最期の務めを果たす。そんな馬鹿に付き合える大馬鹿者だけが、俺の後に続け」

 

 全ての試作外骨格(スパルタン)の基盤となっている第1号機こと、「SPR-01プレーンスパルタン」。

 灰色の鉄仮面とボディを特徴とする、その先行試作機(プロトタイプ)を纏っている男――ジークフリート・マルコシアン大佐は、生き残った部下達に「最後の命令」を下している。それは到底作戦などと呼べるものではない、無謀の極みであった。

 

 異世界の戦士「仮面ライダーガッチャード・スチームホッパー」のシルエットを想起させる堅牢な外骨格は、すでに満身創痍という言葉でも足りないほどにまで深く損傷していた。その首に巻かれた、彼のトレードマークである漆黒のマフラーも、長く激しい戦闘によってボロボロに擦り切れている。

 

 スパルタンシリーズの試験運用をアイアンザックから任されていた、陸軍最強の精鋭部隊――「マルコシアン隊」。それは、陸軍屈指のエリート部隊「郷土防衛隊」からさらに選抜された、選りすぐりの戦士達ばかりで構成された、この国の「希望」そのもの。

 その隊長である彼は、頭部のマスクを開いて精悍な顔を露わにしている。暗い茶髪と逞しい口髭が特徴の、荘厳な美丈夫だ。遮蔽物となっている巨大な瓦礫に背を預けたまま、彼は他の生き残り達に声を掛けている。

 

「……愚問ですな、隊長(ボス)。我らマルコシアン隊が敵前逃亡など、万に一つもあり得ぬこと。このヴィルヘルム、地獄の果てまで共に参ります」

 

 そんな彼の呼び掛けに真っ先に応えたのは、このマルコシアン隊の副隊長であるヴィルヘルム・フリードリヒ・フォン・ライン・ファルツ中佐だ。

 豪奢な金髪と蒼い双眸を輝かせている絶世の美男子である彼は、代々続く名門「ファルツ家」の現当主でもある大貴族。この国の王族にも連なる高貴な血統を継ぐ、王位継承候補の1人でもある男だ。

 

 しかし彼は由緒正しき血を引く者だからこそ、将来の地位よりも現在(いま)の誇りを重んじている。王族にも近しいファルツ家の現当主だからこそ、ジークフリートに仕える副官として、貴族に相応しい行い(ノブレス・オブリージュ)を果たさねばならない。

 

 ここで命を賭けられぬ者に、民草の上に立つ資格などない。その信念を帯びた蒼い瞳が、ジークフリートの双眸を射抜いていた。

 そんな彼が装着している第2号機「SPR-02ランチャースパルタン」の仮面とボディは黄色を基調としており、両肩には物々しい多弾頭ミサイルランチャーが搭載されている。特殊部隊の戦闘服を想起させるスーツのシルエットは、「大量発生型相変異バッタオーグ」に通じるものであった。

 

「王位を継ぐ資格もある大貴族のセリフとは思えんな。平凡な家に生まれた俺とは違って、お前の死はこの国にとっての絶大な損失なんだぞ。何故そこまで俺に付き合う?」

「私はファルツ家の当主ですが、その前にあなたの副官なのです。独りでも立ち上がらんとする隊長(ボス)を捨て置いて……それで私に一体、当主としての何を誇れと?」

「……ふっ、お前はそういう男だったな」

 

 ヴィルヘルムはジークフリートに追従する意思を宣言すると、片手でカシャンとマスクを閉鎖していた。どうやら、彼の決意は固いようだ。それは当然、他の生き残り達も同様であった。ランチャースパルタンと同じ系統の鎧を装着した3人の部下達は、毅然とした表情で隊長を見つめている。

 

「そうですぜ、隊長。俺達皆、隊長を信じてここまで付いて来たんです。死んで行った奴らも皆……隊長のためなら死ねるって、最期まで信じてたんですよ。この期に及んで、日和ったこと言わないで下さいや」

 

 ニコライ・イェンセン少尉。一兵卒からの叩き上げで士官まで登り詰めたベテラン隊員であり、部隊のムードメーカーとして隊員達からも愛されていた男だ。彼が装着している第3号機「SPR-03キャリバースパルタン」は緑色が基調となっており、背中に装備した大型の刀剣は煌びやかな輝きを放っている。

 

「我々は皆、一心同体。死ぬ時は皆、共に同じ戦場で死に行くのです。先に逝った同志達のためにも……我々は最期まで、栄えあるマルコシアン隊としての務めを果たさねばなりません」

 

 エドガー・バレンストロート大尉。ファルツ中佐と共に部隊の規律を正していた事実上のNo.3であり、冷静沈着な佇まいを心掛けている男だ。しかしその実、誰よりも熱くなりやすい人間だということを部隊の誰もが知っている。第4号機「SPR-04ジェットスパルタン」を装備している彼の仮面とボディは青基調となっており、背部の機械翼による飛行能力が最大の特徴なのだ。

 

「……僕も同じ気持ちです。確かに死ぬことは怖い。だけどそれ以上に怖いのは、死ぬまでに何も果たせないことなのです。自分がここまで生き残っている意味を、死んだ仲間達に証明したい。その機会だけは奪わないで下さい、隊長!」

 

 レオン・ロスマン中尉。士官学校出の「お坊ちゃん」なエリート士官であり、そのため実戦経験も少ない最年少隊員なのだが、ここぞというところでガッツを見せる男だ。彼が装着者を担当している第5号機「SPR-05シールドスパルタン」は仮面とボディが赤で統一されており、腕部に装備された円形の盾が最大の特徴となっている。

 

「……よりによって、お前達までもが地獄の付添人になってしまうとはな。運命の神様という奴は、よほど俺達のことが憎たらしくて堪らないようだ」

「家族のことなら心配要りません。皆、覚悟ならとうに決めております」

「そうでなけりゃ、マルコシアン隊なんてやってられませんからねぇ」

 

 ジークフリートの悲嘆に暮れた呟きに対して、マスクを開いた部下達は気丈な笑みを向けている。ヴィルヘルムを含む部下達の一部は、ジークフリートに忠実な軍人であるのと同時に――1人の「父親」でもあったのだ。幼い愛娘が居る部下達を死地に連れて行かねばならない現実に、ジークフリートは独り嘆息する。

 

 だが、それでもやらねばならないのだ。自分達がこの現実から目を背けた瞬間、故郷たる祖国はシェードに屈してしまうことになる。自分達が逃げ出せば、もう戦える者は誰も居なくなる。ここに仮面ライダーは居ないのだから――今この戦場に立っている自分達が、仮面ライダーに代わるしかないのだ。

 

「……命令を出したのは俺だ。責任は取らなければな」

「えぇ、無論」

「そう来なくっちゃな!」

 

 ジークフリートの重い一言に深く頷き、ヴィルヘルムをはじめとする部下達は、決意に満ちた表情で互いに顔を見合わせる。隊長と共に立ち上がった彼らの外骨格は、その多くがすでに激しく損傷しているのだが、彼らの双眸に躊躇いの色はない。

 足りないスペックを個々の装備と技量(スキル)で補い、ここまで生き延びて来た者達は今、その「悪運」を使い果たそうとしていた。そうでなければ生身の人間が、文字通りの「人外」であるシェードの改造人間達に立ち向かえるはずもないのだから。

 

「……皆、覚悟を決めろ。ここからが我々の逆襲だ! マルコシアン隊、『変身(セッタップ)』ッ!」

 

 ジークフリートの「号令」と共に、仮面を被り直した全隊員のマスク上部と顎部装甲(クラッシャー)がガシャンと閉鎖された。隊長を筆頭とする生き残りのスパルタン達は、最後の「攻撃体勢」に移ろうとしている。彼らの仮面に備わっている大きな丸い複眼が、戦闘準備の完了を意味する妖しい輝きを放っていた。

 

 マスクの閉鎖により「変身」が完了したことで、その全身の各関節部からはブシュウと蒸気が噴き出している。エネルギータンクの役割を果たしているベルトのバックルからは、眩い電光がバチィッと放たれていた。そして彼らの視線が、近場に倒れている何台もの大型バイクへと向けられる。

 

 丸型のヘッドライトと深緑のボディを特徴とする、マルコシアン隊専用の大型アメリカンバイク「スパルタンハリケーン」。激しい戦闘によって転倒していたその車体を起こした戦士達は、それぞれの愛車に跨ってエンジンを噴かし始めて行く。

 クラシカルな外観を持つ深緑の車体は、すでに血と煤に塗れていた。だが、ハンドルを握る彼らの眼に恐れの色は無い。彼らの鋭い双眸は、遥か前方の敵方に向けられている。

 

 狙うは、この巨大瓦礫の遥か向こう側で破壊活動を繰り返している改造人間軍団。その悪鬼の群れを率いている、指揮官級の怪人だ。

 例え改造人間の軍団には敵わずとも司令塔さえ撃破出来れば、少なくともシェード側の命令系統には混乱が生じる。その隙に、国民の避難と攻撃部隊の再編までの時間を稼ぐことが出来る。その僅かな時間のための「捨て石」となるのが、マルコシアン隊に残された最期の使命なのだ。

 

「では……皆、地獄で逢おう!」

「……了解」

 

 もはや、戦士達には一欠片の躊躇もない。愛する祖国と国民を守り抜くべく、自ら捨て駒となる道を選んだ偉大なる指導者(ビッグボス)を筆頭に。仮面の戦士達は全速力でスパルタンハリケーンを走らせると、瓦礫の斜面を一気に駆け登る。

 そして豪快なエンジン音を上げ、天高く跳び上がるのだった。彼らの闘志を物語るかのように、スパルタンハリケーンのマフラーからは激しい猛炎が噴き出している。

 

「マルコシアン隊、突撃だッ!」

 

 それはまさに、マルコシアン隊の運命を決定付けた、地獄への片道切符だったのである。

 エネルギータンクの役割を果たしている、スパルタンシリーズのベルト「高電圧スパルタンドライバー」。そのバックルから迸る熱い電光は、消えかけた蝋燭の火が放つ最期の輝きだったのだろう。

 

 命の輝きを眩い電光に変えて、死地を疾る仮面の戦鬼達。彼らを乗せた深緑のオートバイは、突き出された戦槍(ランス)の如く敵方に迫る。

 この国の未来。そして、彼らの背後に居る大勢の力無き人々。その全ての命運を懸けた、マルコシアン隊最期の突撃――「サンダーランス作戦」が決行された瞬間であった。

 





 あけおめ&ことよろ&今話から新章開幕! 本章はこれまでのエピソード群で度々触れられていた、北欧某国の英雄部隊「マルコシアン隊」のお話に焦点を当てた過去編になります。本編第1章にも繋がって行くお話なので、作者的には結構重要なエピソードだったり。本章も最後までどうぞお楽しみに!(*^ω^*)

 そして、仮面ライダーG&ディケイド生誕15周年おめでとうございます〜! あの日の特番でGやディケイドに出会った時の衝撃は、今でも忘れられません! 今でこそライダー勢揃いという画を見る機会は結構多いのですが、当時としては平成ライダー達が映像作品でズラリと並ぶ光景なんてなかなかお目に掛かれないものでしたからね〜!(*≧∀≦*)

 さらに2024年1月30日00:00頃まで、活動報告(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=307134&uid=131291)にて本章に登場するスパルタンシリーズのオリジナルライダーを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 エクスペンダブルズの新作楽しみですな〜!(*'ω'*)ワクワク


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第2話

 

 ふと、戦士達の脳裏にある景色が過ぎる。死地に飛び込まんとする瞬間に彼らが観たそれは、ある種の「走馬灯」だったのかも知れない。

 

 浮かび上がって来るのは、この戦いから数日前のこと。エンデバーランドの陸軍基地で、スパルタンシリーズの運用実験を繰り返していた頃の景色だ。自分達の勝利を心から信じ、勇ましく笑い合っていた時の光景が、ジークフリート達の目に浮かんでいる。

 

 ――その日の戦闘訓練を終えたマルコシアン隊が演習場から基地に帰還し、隊員達が専用の格納庫内にスパルタンハリケーンを停めた後。深緑の愛車から降りた彼らは、強化外骨格(スパルタン)の上に羽織っていた暗緑色のライダースジャケットをおもむろに脱ぎ始めていた。

 小銃(ライフル)を咥えた猟犬(ハウンド)部隊章(エンブレム)。その独特なマークが胸に描かれている本革のライダースジャケットが、スパルタンハリケーンの車体にバサリと被せられて行く。

 

 そんな中、レオン・ロスマン中尉は仮面だけを外したまま、じっと手元の写真を見つめていた。そんな彼の背中に声を掛けたヴィルヘルム・フリードリヒ・フォン・ライン・ファルツ中佐は、写真に映されていた少女の笑顔に頬を緩めている。

 

「なんだロスマン中尉、また娘の写真か」

「あっ……ファ、ファルツ中佐!」

「隠さなくても良い。愛する家族との思い出を、戦場に赴く勇気の糧とする……それは私も同じだからな」

 

 死地に立つ兵士だからこそ、帰りを待つ家族のことを忘れてはならない。それを信条とするヴィルヘルムも、レオンと同じ気持ちだったのだろう。彼も腰部のベルトから1枚の写真を引き抜き、部下(レオン)に見せている。

 そこに映されていたのは、立派な馬の上に跨っている1人の美少女。豪奢な金髪を靡かせる、溌剌とした笑顔が眩しいヴィルヘルムの一人娘――ヴィクトリアだった。

 

「これ、ヴィクトリアお嬢様ですか? 凄いじゃないですか、まだ4歳なのに乗馬も出来るなんて!」

「ふっ……乗馬と言っても、騎馬警官殿の前に乗せて貰っているだけだがな。この写真は合同訓練のためにアメリカに赴いていた頃、ニューヨーク市警のオネスト・ウェルフリット警部殿に娘の面倒を見て貰っていた時のものだ。『馬に乗ってみたい』とうるさかった娘の我儘にも、彼は快く付き合ってくれていた」

「お嬢様の後ろに跨ってる人がそうなんですか? 凄く精悍で、美丈夫って感じの人ですね……」

 

 ヴィクトリアの後ろで馬の手綱を握っている、ニューヨーク市警の騎馬警官――オネスト・ウェルフリット警部。艶やかな金髪と蒼い眼を輝かせている、非常に端正な男だ。ヴィルヘルムもかなりの美丈夫なのだが、彼の美貌はそれ以上だとレオンは感じている。

 

「あぁ、彼は素晴らしい騎馬警官だったよ。聞くところによれば、彼にはもうすぐ10歳になる息子が居るらしい。確か名は……忠義(チュウギ)、と言ったかな? 奥方の愛真(あいま)殿に似て、かなりの美形に育っているそうだ。父親譲りの傑物に育てば……いずれはヴィクトリアの花婿候補にもなれるかも知れんな」

「い、今からもう縁談の話ですかぁ……? さすがに気が早過ぎるんじゃ……」

「準備も心構えも、早過ぎて悪いことはない。君の愛娘(レオナ)も、いずれはロスマン家に相応しい男を選ぶことになるのだ。父親とは、そういう覚悟を迫られるものだよ」

「あはは……僕にとってはまだまだ遠い話ですよ」

 

 今は幼い愛娘も、いつかは立派な大人の女性に成長し、恋や愛を知る時が来る。だが、レオンは頭で理解していてもどこか受け入れ切れないのか、ヴィルヘルムの言葉にも苦笑を浮かべていた。

 娘の幸せを願う父親としてはやはり、「将来の結婚相手」というものには苦々しい感情が湧いてしまうものなのである。それを堂々と受け止め切れるほどの度量はまだ、レオンには足りていなかったようだ。

 

「よぉーし良いねぇ、決まってるねぇ! そいじゃあ、もう1枚撮っとくかぁ!」

 

 一方その頃、ニコライ・イェンセン少尉をはじめとする何人もの隊員達は、訓練が終わったというのに外骨格を脱ごうともせず、お互いをカメラで撮り合っていた。時にはポーズを決めたり、笑いながら肩を組み合ったり。彼らは和気藹々とした雰囲気の中で、スパルタンの鎧を纏う自分達の勇姿を写真に収めようとしている。

 だが、現時点においてスパルタンシリーズは「軍事機密」であり、おいそれと記録媒体に残していい代物ではない。個人的な撮影など、もってのほかだ。部隊の中でも人望が厚いニコライが率先して軍規に違反しているこの光景に、エドガー・バレンストロート大尉は露骨に眉を顰めていた。

 

「おい、イェンセン少尉。お前達も、そこで一体何をしている」

「おっ、バレンストロート大尉! いやぁ、戦いが無事に終わったら娘のニッテに見せてやろうかなぁって思いましてね! 大尉もどうです? エヴァお嬢ちゃんも喜びますよぉ!」

 

 ジェットスパルタンの鎧を装備したまま、ツカツカと歩み出て来たエドガー。彼の注意を受けたニコライ達は、バツが悪そうな表情を浮かべて撮影を中断――しないどころか、むしろ満面の笑みを浮かべながら、彼まで巻き込もうとしていた。

 どこまでも破天荒な部下の振る舞いに、エドガーは深々とため息を吐いている。アメリカ陸軍との合同訓練で知り合ったジャック・ハルパニア少尉も血気盛んで型破りな人物だったが、ニコライはそれ以上だったようだ。

 

「イェンセン少尉……それにお前達も、『軍事機密』の意味が理解出来んのか? まだ政府はスパルタン計画の公表を決めておらんのだぞ。軍の成果として報道するか否かは実戦の成果を見て決める、とな。その前からそんなことをして、外部に漏れでもしたらどう責任を取る気だ」

「要は勝てば良いってことじゃないっすか。それなら心配要りませんよ、俺達マルコシアン隊はこの国最強の精鋭部隊なんです。俺達は勝つ。そんで政府もスパルタンのことを国中に報せる。そして俺達はカッコいい写真を土産に家族の元へ凱旋! 最高のシナリオじゃないっすか!」

「……お前の楽観主義は確かに隊の士気向上に貢献している、それは認めるがな。俺は意地悪で言っているのではないんだぞ。精鋭部隊の中でも特に人望のあるお前が率先してこんなことをしていたら、隊の風紀に関わると言っているんだ」

「いやだなぁ大尉殿! 人望があるなんてそんな、褒めても何も出ませんよぉ!?」

「……お前という奴は全く……」

 

 調子の良いことばかり口にするニコライの声に、周りの隊員達も同調したように笑い声を上げている。部隊のムードメーカーである彼の存在が、このマルコシアン隊の結束を支えていることは間違いない。だが、そうであるからこそ、彼が無茶をやり始めた時はいつもエドガーが手を焼くことになるのだ。

 

 今回はどのように説き伏せたものか。そう頭を悩ませるエドガーの肩をポンと叩いて、1人の大男がニコライ達の前に進み出る。その大男に対しては、怖いもの知らずなニコライ達も畏敬の視線を注いでいた。

 絶対的なカリスマ性を以て、このマルコシアン隊を率いている――ジークフリート・マルコシアン大佐だ。彼はその巨躯とは裏腹に、エドガーの背中を優しく押している。

 

「バレンストロート大尉、お前も行って来い。愛娘(エヴァ)の誕生日も近いのだろう? 何か一つでも、思い出になるものを用意してやれ」

「大佐、しかしそれでは……!」

「……今度の戦いばかりは何が起こるか分からん。何しろ相手は人間であることを捨てた、正真正銘の『モンスター』だ。アイアンザック中将と、このスパルタンシリーズの性能を疑っているわけではないが……万に一つも『心残り』があってはならんからな」

「大佐……」

 

 「万が一」の時は、ニコライ達が撮っている写真が自分達の存在を証明する「最期の記録」になることも考えねばならない。言外にそう告げるジークフリートは後悔だけはないようにと、エドガーの背中を押しているのだ。

 重い覚悟と責任を背負っている隊長の横顔に思うところがあったのか、エドガーは食い下がることが出来ずにいる。どこか憂いを帯びたジークフリートの横顔が意味するものを、エドガーはすでに察していた。

 

 ――数ヶ月前。アレクサンダー・アイアンザック中将が主導するスパルタン計画が秘密裏に始動し、マルコシアン隊の各隊員に試作外骨格が配備された頃。この部隊の創設にも携わっていた「最古参」の陸軍将校が、謎の失踪を遂げるという怪事件が起きていた。

 ジークフリートの元同期であり、マルコシアン隊の戦術教官でもあったその将校は、今の隊員達にとってもかけがえのない「師」であった。しかし現在に至るまでその行方は知れておらず、シェードに暗殺されたのではとも噂されている。将校クラスの失踪となればかなりの大事件なのだが、アイアンザック中将をはじめとする軍の上層部は混乱を恐れてか、事件から数ヶ月が過ぎた今もこの件を公表していない。

 

 改造人間に兵器としての価値を見出していたその将校は、シェードの技術を我が軍にも取り入れるべきだと進言していたらしい。一度はその件で、ジークフリートと激しい口論になっていたこともあった。もしかしたらそのことが原因で、シェードに目を付けられてしまったのかも知れない。

 

「……」

 

 共に幾つもの死線を潜り抜け、現在のマルコシアン隊を創設したその将校は、ジークフリートにとっては紛れもなく無二の親友だったはず。その親友をこのような形で失った彼の心傷は、察するに余りある。

 ジークフリートの横顔からその片鱗を感じ取ったエドガーは、何も言えずに口を噤んでいた。そんな部下の配慮を知ってから知らずか、ジークフリートは不敵な笑みを浮かべてエドガーの背を押していた。お前はもう何も心配するな、と言わんばかりに。

 

「皆も聞いての通りだ。今日だけは特例中の特例として、大目に見てやる。万一、上にバレた時は俺のせいにしていい。家族や友人、恋人のためにも、最高にカッコいい1枚を撮っておけ。ただし写真1枚につき、俺にワイン1本だ。安物は許さんぞ?」

「ヒューッ! さっすが俺達の隊長(ボス)だぜぇ、話が分かるゥ〜! ささっ、大尉もこっち来ましょうよぉ! こんなチャンス今日だけなんすからぁ!」

「……1枚だけだぞ」

 

 にこやかにエドガーの手を引き、撮影会に巻き込んで行くニコライ達。そんな彼らに渋々と付き合いながらも、微かに頬を緩めるエドガー。その様子をレオンとヴィルヘルム、そしてジークフリートは、穏やかな表情で見守っていた。

 

 例えこの先、どんなことが起きたとしても。どれほどの犠牲を払うことになろうとも。自分達の選択に、決して悔いなど残さないようにと――。

 

 ◆

 

 ――そして、物思いに耽っていた戦士達が我に返る瞬間。彼らを乗せたスパルタンハリケーンは豪快なエンジン音と共に、大きく跳び上がっていた。丸型のヘッドライトから眩い光を放ち、この努力と尽力の地(エンデバーランド)の全てに、己という存在を見せ付けるかのように。

 

「……! あの模造品共、まだ全滅していなかったのか!」

「コンタクトッ! 5時の方向、バイクッ! 数はッ……不明ッ!」

「撃てッ! 奴らを近付けさせるなッ!」

 

 天を衝くようなジャンプの轟音に反応したシェードの戦闘員達は、即座に対怪人用突撃銃(アサルトライフル)を構えて引き金を引く。戦車の装甲にすら容易く風穴を開ける、強力な弾丸。その豪雨が、ジークフリート達に襲い掛かって来た。

 たった1機でも、装甲車程度なら容易く撃破出来る鋼鉄の超人兵士。そんなスパルタンシリーズでさえも、改造人間が振るう絶大な力の前では、生身の歩兵と大差ないのだ。改造人間が扱うことを前提としている大火力の銃器で攻撃されれば、為す術なく蜂の巣となるしかない。

 

「……やらせるかぁあッ!」

 

 愛車のハンドルを捻り、先頭に出るまで加速したのはレオンことシールドスパルタンだった。彼は仲間達を弾雨から守る傘となり、マルコシアン隊に襲い掛かる弾丸を腕部の盾で受け止めている。

 彼が跨っているスパルタンハリケーンも、戦闘員達の注意を引くように猛煙を上げて疾走していた。その煙は仲間達の姿を眩まし、迎撃に当たっている戦闘員達を困惑させている。シールドスパルタンの愛車には、煙幕を噴霧・拡散する機能が搭載されているのだ。

 

「ちッ、小賢しい奴め……!」

「ならばお望み通り、あの盾野郎から潰してやる! 総員、奴に全弾を集中させろッ!」

 

 扇状に広がる猛煙の中に消え、姿が見えなくなって行く無数のスパルタンハリケーン。その影を見失った戦闘員達は、煙の発生源であるシールドスパルタンの車体に狙いを集中させていた。

 猛烈な弾雨がシールドスパルタンの盾に襲い掛かり、徐々にその鉄壁が崩れ落ちて行く。やがて盾が完全に破壊されると――無防備になったシールドスパルタンの赤いボディが、愛車共々蜂の巣にされるのだった。

 

「あ……が……!」

 

 全身から鮮血が噴き上がり、だらりと身体が後方に傾いて行く。そんな彼の動きにバランスを崩されたスパルタンハリケーンが、ふらふらと蛇行していた。

 

(大佐、皆……後は、頼みます)

 

 そして、薄れ行く意識の中で――血に汚れた手をドライバーの腰部に伸ばしたシールドスパルタンは、そこから1枚の写真を取り出して行く。紅い髪を靡かせる可憐な少女が、写真の中で華やかな笑顔を咲かせていた。

 

「レ、ン……!」

 

 5歳になったばかりの愛娘、レオナ。そんな彼女の愛称である「レン」の名を呟く、シールドスパルタン――レオン・ロスマンは、最期に笑っていた。仮面の下で血に溺れながらも、彼は愛娘の笑顔に釣られるように、頬を緩ませている。

 もう一度、この写真を撮っていた頃ような、平穏な日々に戻りたかった。そんな儚い願いを胸に抱き、彼はゆっくりと瞼を閉じて行く。彼を乗せたまま、蜂の巣にされたスパルタンハリケーンが爆炎の彼方に消えたのは、それから間も無くのことであった。

 

 シェードとマルコシアン隊。改造人間と生身の人間。双方の間にある、絶大な力の差。その隔たりを物語るには、十分過ぎるほどに残酷な光景だ。

 この世でただ1人の父親が、愛する娘のために命さえ投げ打っても――まるで時間稼ぎにもならない。どれほど崇高な信念を抱いて死を賭しても、運命の神は奇跡を与えてはくれなかったのだ。

 

「ふん、あのザマでNo.5の再現だと? 笑えぬ冗談だな。シェードの改造人間は皆、生身の人間如きには決して到達出来ぬ『高み』に居るのだ」

「たったの半年、それも人間の軍隊如きが急造した玩具など、紛い物と呼ぶことすら烏滸がましい。所詮は劣化レプリカにも値せぬ、粗雑な鉄屑――!?」

 

 あまりにも呆気なく、爆炎の中に散ったシールドスパルタン。その最期を嘲笑うシェードの戦闘員達は、猛煙に紛れて飛んで来た無数の弾頭に目を剥いていた。咄嗟に防御体勢に入った彼らの周囲に、大量の小型ミサイルが着弾して行く。

 次の瞬間、その一帯は凄まじい爆炎に飲み込まれるのだった。シールドスパルタンが振り撒いていた煙幕に紛れ、その中から両肩のミサイルを連射していた伏兵――ランチャースパルタンは、その光景に声を張り上げる。

 

「……よくやったぞロスマンッ! お前が託してくれたこの好機、決して無駄にはしないッ!」

 

 スパルタンハリケーンから降り、両脚で地を踏み締めている黄色の鉄人。彼は腰部に装備されていた棒状の姿勢制御装置(スタビライザー)を地面に突き刺し、地面に根を張ったかのようにその場から動くことなく、ミサイルを連射し続けていた。

 ランチャースパルタンの多弾頭ミサイルは「手数」こそかなりの量だが、1発当たりの威力は対戦車戦を想定している程度のものでしかない。シェードの戦闘員達に対しては、ほんの時間稼ぎにしかならないのである。

 

「……さぁ、掛かって来るがいい侵略者共ッ! このヴィルヘルム・フリードリヒ・フォン・ライン・ファルツが相手だッ!」

 

 それを承知の上で、ランチャースパルタン――ヴィルヘルムは、文字通り命を賭しての「陽動」を引き受けていた。スパルタンハリケーンという高速での移動手段を自ら捨てた彼は、自身の生存率よりもミサイルの命中率を優先しているのだ。

 

「死にたがりがァア……! 貴様もすぐに後を追わせてやるッ!」

「くそったれ……! 万一ここを突破されて『グールベレー』が投入されるようなことになれば、俺達の面目は丸潰れだッ! 何としても仕留めろッ!」

 

 己を的にしろと言わんばかりに大仰に両腕を広げ、両肩部のミサイルを矢継ぎ早に撃ち放つランチャースパルタン。「皆殺し」を命じられた戦闘員達が、そんな彼を放置するはずもなく――数多の銃口が、彼1人に向けられる。

 

隊長(ボス)、どうかご武運をッ! そして……ヴィクトリアよ! この父からファルツの血統を受け継ぎし我が娘よ! 例えこの先、どれほどの困難に見舞われようとも……決して挫けることなく! 諦めず! 己の宿命に誇りを持ち、最後まで生き抜くのだッ!)

 

 間も無く自分は、部下(レオン)の後を追うことになる。その死期を悟りながらも、ヴィルヘルムは眼前に広がる無数の銃口から目を逸らすことなく、真っ向から双眸を輝かせていた。

 そんな彼の脳裏に過っていたのは敬愛する隊長(ジークフリート)と、4歳の愛娘――ヴィクトリアの笑顔だった。自身に向けられた数多の銃口が火を噴く瞬間、愛する者達の笑みが浮かんだヴィルヘルムの頬が、微かに緩む。

 

 その仮面の内側が赤い血で水没し、ランチャースパルタンのボディが砕け散る瞬間まで。ミサイルの連射が、止まることはなかった――。

 





 早速、マルコシアン隊から2人も犠牲者が出てしまった模様……。しかしここまで来ておいて、今さら怯んではいられません。彼らはまだまだ死地に向かって全力疾走して行きます! 次回もお楽しみに!(`・ω・´)
 余談ですが、仮面ライダーGが使っていたバイクは「THE NEXT」版ハリケーンの流用だったそうです。スパルタンハリケーンというネーミングはそこから来ておりました(´ω`)

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Ps
 装甲服の上にジャケットやコートを羽織ってる姿って、シブい感じが出てカッコいいなーって思います。シン・仮面ライダー然り(*´ω`*)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第3話

 

 シールドスパルタンこと、レオン・ロスマン。ランチャースパルタンこと、ヴィルヘルム・フリードリヒ・フォン・ライン・ファルツ。彼らの犠牲と引き換えに得た僅かな「時間」が、この戦局を大きく揺るがしていた。

 スパルタンハリケーンによる煙幕噴霧に、ランチャースパルタンのミサイル弾幕。それらの相乗効果によって戦場を飲み込んだ強烈な猛煙は、戦闘員達の視界を大きく撹乱していたのである。

 

「ええい、人間風情が味な真似をッ……! 早く奴らを止めろッ! ここを突破されて『グールベレー』の手を煩わせてみろ、俺達まで粛清されるぞッ!」

「こんな古臭い浅知恵がいつまでも通じると思うな……! 各員、視覚機能を赤外線(サーマル)モードに切り替えろッ!」

 

 だが、単純な目眩しだけで簡単に突破出来るほど、改造人間の歩兵部隊は甘い相手ではない。彼らは両眼の機能を操作し、赤外線での可視化を試みていた。これにより、スパルタンシリーズのボディから発せられる「熱」を発見するつもりなのだ。

 その目論見通り、ジークフリート達の熱源を探ろうとしていた戦闘員達の目に、高速で動く一つの物体が留まる。バイクの形状であることから、移動中のスパルタンハリケーンと見て間違いない。戦闘員達は互いに頷き合うと、一斉に銃口をそちらに向ける。

 

「……!? 待て! バイクに乗っている奴がいない!」

「バイクがひとりでに走っている……!?」

 

 だが、引き金を引く直前。そのシルエットが「人を乗せているバイク」ではなかったことに気付き、戦闘員達は咄嗟に銃口を下げてしまう。彼らが見つけたバイクは、乗り手(ライダー)が居ないまま走っている無人状態だったのだ。

 一体、このバイクに乗っていたはずの人間はどこに消えたのか。戦闘員達はこの直後に、己の身体でそれを思い知ることになる。

 

「ぬうっ……!? 空爆!? 上から爆撃だッ! 各員、衝撃に備えろッ!」

「そんな馬鹿な……! この国の航空戦力は先に潰したはずだッ!」

 

 突如、彼らの頭上に大量の小型爆弾が降り注いで来たのである。1発ごとの威力はさほどでもないようだが、それでも戦闘員達が防御に徹さなければならないほどの「手数」だったのだ。

 

「……!? なん、だと……!」

「上空からの爆撃能力……!? そういうのもあるのか!」

 

 やがて――空を仰いだ戦闘員達の目に、人型の「熱源」が留まる。翼のような飛行ユニットを背部に搭載した青色の鉄人兵士こと、ジェットスパルタン。その姿を、ようやく捉えたのである。

 

「……先に逝った、友の分まで……! 必ずや大佐を、貴様らの指揮官の元まで送り届けて見せるッ! 人間の力と覚悟……篤と思い知れッ!」

 

 その鎧を纏うエドガー・バレンストロートは、戦闘員達の頭上からけたたましく吼える。冷静沈着という名の仮面はとうに剥がれ、そこには仲間達の死に慟哭する、1人の男の「素顔」があった。

 

(ロスマン中尉、よくやってくれた……! ファルツ中佐、ありがとうございました……! 後は任せたぞ、皆ッ! 何としても、ジークフリート大佐を奴らの首魁の元へ……!)

 

 ジェットスパルタンの両翼に搭載された小型爆弾。その全てを戦闘員達の頭上に振り撒き、彼は敵方の注意を自身に集めようとしている。この爆弾で倒せる、などと思ってはいない。それでも彼は大佐を、仲間達を前に進ませるため、先に逝ったレオンとヴィルヘルムに続こう(・・・)としているのだ。

 だが、彼の爆弾投下を浴び続けた戦闘員達は多少の損耗はしているものの、戦闘不能にまで陥った者は1人もいなかった。ジェットスパルタンの姿を捉えた戦闘員達は示し合わせるように、同時に銃口を空に向ける。

 

「……ふん。頭上を取れば勝てるとでも思ったか? 笑止! まさか拡散式の小型爆弾まで使って来るとは思わなかったが……この程度の火力では我々は殺せんぞ!」

「だが……文字通り爆弾を抱えている貴様自身に対しても、そうとは限らない。……その意味が分かるな?」

「くッ……!」

 

 ジェットスパルタンの両翼にはまだ、何発もの爆弾が積まれている。それは改造人間であるシェード戦闘員達に対しては足止め程度にしかならなかったが、開発元である陸軍にとっては決して低い火力ではない。

 つまり、この状態で両翼を撃たれて誘爆を引き起こされれば、ジェットスパルタンにとっては致命傷にもなり得るのだ。その「事実」を指摘する戦闘員達の言葉に冷や汗をかき、ジェットスパルタンは回避行動に移ろうとするのだが――改造人間達の超人的な動体視力から、逃げられるはずがなかった。

 

「……うぐわぁあぁああーッ!」

 

 地上から放たれる一斉射撃。その凄まじい弾丸の嵐から、逃れられるほどの速度は出せなかったのである。両翼を撃ち抜かれたジェットスパルタンは、そこに積まれていた爆弾の爆発に飲み込まれると、火だるまと化して地上に墜落して行く。

 そんな彼の身体から逃れるように――幼い少女の姿を写した1枚の写真が、ひらりと風に舞って飛び去っていた。間も無く8歳の誕生日を迎える、一人娘のエヴァを写した「お守り」の写真であった。

 

「エ、ヴァ……! 父さんは、父さんは必ずお前を……!」

 

 守り抜く、という言葉は紡げなかった。誘爆による猛炎に飲み込まれ、肉も骨も焼き尽くされながらも、エドガーは風に攫われて行く写真に手を伸ばそうとする。そんな彼の手が止まったのは、彼の頭部が脳天から地面に直撃した瞬間であった。

 瞬く間に噴き上がり、燃え広がり、周囲を包み込んで行く爆炎。その渦中に消えたエドガーの身体は、もう原型も留めていない。彼の元から離れた1枚の写真だけが、唯一の遺品となってしまっていた――。

 

 ◆

 

 甚大な犠牲を払いながらも、決して立ち止まることも振り向くこともなく、敵将の首だけを目指して戦場を駆け抜けて行くマルコシアン隊。その動向を察知していたシェード強襲部隊の前線指揮所には、かつてない「緊張」が走り始めていた。

 

「……人間共め、往生際の悪い……!」

 

 指揮所に集結している「上級」の戦闘員達は、そこに設置されたレーダーの動きに眉を顰めている。彼らは皆、他の戦闘員達と同じ野戦服を纏っているが――食屍鬼(グール)を描いた暗赤色のベレー帽が、並の戦闘員達とは異なる「次元」の住人であることを示していた。彼らの袖には、その怪物をモチーフにした部隊章が縫い付けられている。

 

「……あの鉄屑共、ここぞというところで嫌な底力を見せて来たな。これほどの進行速度ならば、指揮所(ここ)に到達するのも時間の問題だぞ」

「奴らの外骨格は装甲強度こそたかが知れているが、一部の連中の火力と運動性能に関しては馬鹿にならん。甘く見れば俺達とて、タダでは済まん相手だ」

「万一、奴らが俺達の肉体をも穿てる火力を持っているとすれば……殺傷能力においては事実上、『互角』ということになる。俺達は奴らの装甲など軽く貫けるが、奴らもそうであるならば条件は実質同じだ」

「つまり、どちらが先に『決定打』を与えられるか。その『技術』のみがモノを言う、ということだな。ふっ、まるで西部劇(ウエスタン)の早撃ち対決だ」

「しかし敵方の数も確実に減っている。こちらの被害もすでに当初の予測を遥かに越えている状況だが……先に全滅するのは、間違いなく奴らの方だ」

「だが、楽観視は出来んぞ。開戦当初の話ならばともかく……あの無謀な突撃が始まってからは、まだ3人程度しか()れていない。あれほど残っている連中を今から殺し切るのは……些か、骨が折れるぞ」

 

 所詮は未熟な科学力で造り出された粗悪な紛い物。そう侮っていたスパルタンシリーズの陸軍兵士達が、この土壇場で予期せぬポテンシャルを発揮し始めている。

 窮鼠猫を噛む、とはまさにこのことか。このまま奴らの勢いに押されていては、この指揮所に辿り着かれるのも時間の問題。そこに思い至っている上級戦闘員達は、今後の戦局を巡って口々に言い合っている。

 

「まさか『No.5』……『仮面ライダーG』どころか、改造人間ですらない者達を相手に俺達が動くことになろうとはな。百里の道は、九十九里をもって半ばとす。事実だけに、嫌になる言葉だ」

 

 簡単に倒せる相手だという「認識」を改め、静かに目を細めている上級戦闘員達のリーダー格。鋭く吊り上がった彼の「眼」は、楽な狩りではなくなったという現実を正確に見定めており、先ほどまでの「慢心」の色も消え失せていた。彼らを舐めていては、足元を掬われる。その事実を把握したリーダー格の眼光に、油断の2文字は無い。

 

 この指揮所に集まっている上級戦闘員達は皆、並の戦闘員よりも遥かに高度な改造を施されている特殊な兵士だ。織田大道(おだだいどう)のような異形の怪人に自力(・・)で変異する能力こそ無いが、個々の戦闘力は非常に高い。

 全身を変異させるほどの異能が無いため、カテゴリー上は「戦闘員」と呼称されてはいるものの、実際の戦闘力においては並の幹部怪人を大きく上回る。それどころか、シェード上層部の近衛である「黒死兵」さえ凌駕するとも言われているのだ。

 

 そんな上級戦闘員達は、一斉に後方へと振り返る。彼らの視線の先に居るのは、幹部怪人達の中でも上位に位置する「強者」であった。上級戦闘員達をさらに凌ぐ、暴力の化身。その者はまるで人間のような背格好で、優雅に佇んでいる。

 

「……硝煙で空が曇っているな。これでは、この戦地で散華した亡霊(シェード)達も天には昇れん。ならば、如何なる御霊も等しく地獄に堕ちるしかない。我々には似合いの空だな」

 

 上級戦闘員達の前に立つ、端正な黒スーツを纏った1人の大男。黒いボルサリーノハットを被り、後ろに手を組んで佇んでいる彼は、上級戦闘員達に背を向けたまま暗雲の空を仰いでいた。

 

 この大男こそが、今回の事件における最大の黒幕。シェード北欧支部の大部隊を率いて、このエンデバーランドを火の海に変えた諸悪の根源。そして、この指揮所に居る上級戦闘員達を含めた全ての戦闘員を統率している、前線指揮官であった。

 

「……彼らのうち、私の元まで辿り着く者が1人でも現れようものなら。北欧支部最強と謳われたお前達の面目は丸潰れだな? 隊長」

「そのようなことは万に一つもあり得ないということを、これから証明して見せましょう。我々……『グールベレー』の真価を以て」

 

 上級戦闘員のみで構成された、シェード北欧支部最強の精鋭戦闘集団「グールベレー」。

 その隊長を務めるリーダー格の男は暗赤色のベレー帽を被り直し、指揮官の背中を鋭く睨み付ける。ベレー帽に描かれた食屍鬼のエンブレムが、指揮官に狙いを定めているかのようだった。

 

 ――今回の侵攻を決定したのは、この指揮官をはじめとする組織の上層部だが。具体的な作戦内容を立案し、実行に移したのはグールベレーであり、スパルタンシリーズのほとんどを潰したのも彼らだ。

 いわば彼らこそがこの街を焼き尽くした張本人であり、エンデバーランドの市民やマルコシアン隊にとっては直接の「仇」。この事件における、もう一つの黒幕と言える存在なのだ。

 

「一応聞いておくが……この期に及んで、『祖国』に対する同情が芽生えたのではなかろうな。我が組織の改造技術……その力の優位性を祖国に証明し、この国を生まれ変わらせる。そのためにシェードに参加したというお前の初心に……迷いは無いのだな?」

「愚問ですな。この国は悪戯に変化を恐れ、改造人間という純然たる『力』を無策に拒絶している。それでは時代に取り残され、いずれは他国に食い潰されてしまうでしょう。正義と平和は、それを担保し得る武力によってのみ守られる。真に強い祖国を取り戻すためならば、私はかつての部下が相手であろうと容赦はしません。そのための『グールベレー』なのですから」

「その言葉が虚勢に終わらぬことに期待しよう。……行きたまえ」

「……仰せのままに」

 

 やがて、指揮官の冷徹な言葉を合図に。グールベレーを率いる隊長の男は、踵を返して指揮所から立ち去って行く。他の隊員達も彼の背を追うように、続々と歩み出していた。

 

「身の程知らずな勇者達を、俺達なりの『作法』でもてなしてやるとしよう。……行くぞ、お前達」

「……了解」

 

 向かう先は、マルコシアン隊の「死に損ない」達が待ち受けている最前線。人類の誇りを背負い、真っ向から迫り来る彼らを迎え撃つべく――彼らはベレー帽の鍔に指を掛け、殺意に満ちた眼光を研ぎ澄ませていた。

 

「……ジークフリート、俺はお前達とは違う。それが正しいことであるか否かは……お前達の『戦果』で証明して見せろ」

 

 その戦場に続く道を往く中で。グールベレーを率いる隊長は、かつての友の名を呟いている。どこか寂寥の感情を滲ませるその声色は、今生の別れを予感している男の声であった。

 

 ◆

 

 マルコシアン隊はすでに主力メンバー5人のうち、3名が戦火の中に散ってしまった。だが、残る隊員達はそれでもなお振り向くことなく前だけを見据えて、スパルタンハリケーンを走らせている。

 

 隊長を含め、1人でも多くの隊員をこの先に送り届ける。敵方の指揮官を倒せるだけの戦力を、一つでも多く届かせる。幹部クラスの怪人さえ倒せれば、自分達はどうなっても構わない。隊員達はその想いと覚悟を一つに、各々の愛車を真っ直ぐに走らせていた。

 

 ――そんな中。プレーンスパルタンことジークフリートをはじめ、残っている全隊員が前方から迫る無数の「殺気」を感知する。いずれも、これまで遭遇して来た他の戦闘員達とは比べ物にならないほどに強烈な覇気。間違いなく、ただの戦闘員ではない。

 

「……ッ! 隊長……!」

「どうやら……まだ俺達を進ませてはくれないようだな」

 

 ついにシェードも、自分達の進撃を阻止するための「切り札」を解禁したのだろう。そう確信した隊員達は仮面の下で剣呑な表情を浮かべ、プレーンスパルタンの背に声を掛ける。先頭を走るスパルタンハリケーンに跨り、廃墟の街を駆ける隊長は神妙な貌を仮面の下に隠し、厳かに呟いていた。

 

「……隊長、ここは俺達が引き受けます。先を急いでください、この戦いを少しでも早く終わらせるために」

「ニコライ、隊長の護衛は頼んだぞ。お前と隊長を除けば、ちょうど『奴ら』との頭数は互角になる。足止めは俺達に任せておけ」

「お前達……」

 

 ジークフリートのプレーンスパルタンと、ニコライのキャリバースパルタン。その2人を除けば、前方から迫る「切り札」の数と、こちらの残りの戦力数は互角になる。そこに勝機を見出した隊員達は、キャリバースパルタン独りに隊長の護衛を託し、最恐の刺客――グールベレーの相手を引き受けようとしていた。

 

「……隊長、迷ってる暇はありませんぜ」

「あぁ。……皆。その命を懸けた勝機、確かに貰い受けたぞ」

「えぇ……隊長、ご武運を」

「次は地獄で会いましょう」

「お前達も……な」

 

 無論、この期に及んで躊躇うことなどありはしない。この突撃に志願した時点で、覚悟を問う意味などありはしないのだ。プレーンスパルタンとキャリバースパルタンは顔を見合わせ頷き合うと、即座に部下達に「別れ」を告げ、ハンドルを切る。

 

 2人を乗せたスパルタンハリケーンは残りの隊員達と別れるように、廃墟に挟まれた路地の奥へと飛び込んで行った。前方から接近して来る新手がそこに向かおうとする気配は無い。どうやら向こうも、この「果し合い」に応じるつもりでいるようだ。

 

「……奴ら、隊長を狙う気は無いらしい。先に俺達から殺したくてウズウズしているようだな」

「好都合だ、話が早くて助かる」

 

 その動向に口角を吊り上げた隊員達は、それぞれの「獲物」に狙いを定めてハンドルを切り、己の死に場所へと愛車を走らせて行く。散り散りに走り出した無数のスパルタンハリケーンが、マフラーから猛炎を噴き。「覚悟」を決めた勇士達を、最期の戦場に送り届けようとしていた。

 

「……思い上がった怪物共に、人間様への礼儀というものを教えてやるぞ。俺達なりの『作法』でな!」

「了解ッ……!」

 

 マルコシアン隊とグールベレー。双方の意地を賭けた決闘が、灰燼と化したこの街で始まろうとしている。吹き荒ぶ向かい風を胸部装甲で受け止め、荒野を(はし)る仮面の戦鬼達。

 

 誰が為に、という問いなど無用。彼らは皆、敬愛する隊長と。己が使命に全てを委ね、死地へと赴くのだ。戦う術を持たぬ、全ての人々のために――。

 





 さらなる犠牲者が出てしまい、部隊の主力メンバーはジークフリートとニコライのみとなりました。さらにシェードの方も、虎の子のグールベレーを緊急投入。こうなったら、まだ力を温存していた読者応募ライダー達に何とかして貰うしかありません(`・ω・´)
 というわけで、次回の第4話からはいよいよ応募キャラ達が登場して行きます! 最初に登場するトップバッターは果たして誰になるか……次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 そして2024年1月30日00:00頃まで、活動報告(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=307134&uid=131291)にて本章に登場するスパルタンシリーズのオリジナルライダーを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 グールベレーの隊員達は一応「戦闘員」という枠組みですが、実際はヘタな幹部怪人よりもめたくそ強い激イカれ集団です。ノーマル戦闘員がザクならコイツらはアクトザクです。


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第4話

◆今話の登場ライダーと登場怪人

◆バイル・エリクソン /仮面ライダーSPR-06バレットスパルタン
 北欧某国の陸軍2等兵であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。元不良でもあるボクシングの達人であり、直情的な熱血漢。彼が装着するバレットスパルタンは、機動性を重視した軽量型の機体であり、部隊のパーソナルマークを刻んだシールド兼用ガントレットが特徴となっている。当時の年齢は16歳。
 ※原案は幻の犬@旧名は赤犬先生。

◆アビス・ランバルツァー
 シェード北欧支部最強の戦闘集団「グールベレー」の隊長であり、かつてはジークフリートと共にマルコシアン隊を創設した元陸軍大佐。マルコシアン隊の元戦術教官でもあり、当時よりも遥かに過酷な訓練を現在の部下達に課している。改造人間の優位性を祖国に知らしめ、その力の必要性を認識させるために軍部から失踪し、シェードに参加していた。ジークフリートに匹敵する圧倒的な戦闘技術に、改造人間の膂力も加わっている最恐の強敵。当時の年齢は35歳。



 

 ――男が強くなろうとする理由なんて、いつも単純なものだ。俺もそうだった。

 

 10年前に隊長(ボス)達に拾われるまで、俺はどうしようもない札付きの悪ガキだった。そんな俺が心を入れ替えようなんて思い始めたのは……俺が育った孤児院の隣に住んでいた、3歳年上の姉貴分が居たからだ。

 俺は心底、彼女に惚れ込んでいた。彼女に見合う男になりたかった。だから俺は、俺を強くしてくれる隊長達に喜んで付いて行った。その先は案の定、地獄だったけど……後悔はない。だって、10年経っても彼女は俺を待ってくれていたんだから。

 

 マルコシアン隊の皆が、この恋路を応援してくれたおかげで……俺も変われた。歳も階級も上の皆に散々囃し立てられながら、彼女を初めてのデートに誘った時のことは……今でも昨日のことのように覚えている。

 隊長達に拾われてからもずっと、周りに反抗してばかりのやんちゃ小僧だったけど……もう違う。これから俺は、恋人として彼女を守り抜いて行くんだ。その日々を、未来を、10年鍛えたこの拳で切り開くんだ。

 

 ――そう、心から信じていたんだ。

 

 何度呼び掛けても、笑い掛けても、何も応えてくれない。俺を見つめてくれない。そんな彼女の骸を抱き締めた、この日までは。

 

 ◆

 

 エンデバーランド中央区。その区内に位置する孤児院も他の建物と同様、無惨に破壊し尽くされていた。その跡地に辿り着いた1台のスパルタンハリケーンが停車し、エンジンの鼓動を止める。

 

「ここは……」

 

 深緑の愛車からゆっくりと降りた、第6号機「SPR-06バレットスパルタン」――バイル・エリクソン2等兵は周囲を見渡しながら、かつての「故郷」に足を踏み入れていた。「仮面ライダージャンヌ」のようなスマートな印象を与えるその装甲は赤一色に統一されており、シールドを兼ねている両腕のガントレットには、マルコシアン隊のパーソナルマークである猟犬(ハウンド)のエンブレムが刻まれている。

 

「……」

 

 ベルトを操作して仮面をガシャンと開き、素顔を露わにした彼は、その端正な貌に寂寥の感情を滲ませていた。この孤児院で育った彼は10年前にジークフリート()に引き取られて以来、兵士としての訓練を受けて来た。幼少期の思い出が詰まった故郷が、恋人(・・)の生家が破壊し尽くされている光景に、かつての孤児は拳を震わせている。

 

「やはり……ここに来たのはお前だったか、バイル」

「……!」

 

 その時――低く重厚な男の声が響いて来る。声が聞こえた方向に振り返ってみれば、そこには「見慣れた背中」があった。食屍鬼(グール)を描いた暗赤色のベレー帽に、シェード仕様の野戦服。その姿を見れば、シェードの戦闘員であることは一目で分かる。

 

 だが、その野戦服を纏っているのは――ジークフリートと共に自分を引き取り、10年もの時を一緒に過ごして来た、もう1人の「父親」だったのである。筋骨逞しい肉体を持つ、身長210cmはあろうかという大男。その巨漢はゆっくりと振り向き、鋭い眼差しでかつての教え子を射抜く。

 

「俺とジークフリートが、お前をこの施設から引き取って……もう10年になるか。時の流れは早いものだな。幼く無力だったお前の姿は、今でも昨日のことのように覚えている」

 

 見間違えるはずもなかった。数ヶ月前に消息を絶ち、行方不明となっていたマルコシアン隊創設メンバーの1人。ジークフリートの同期にして、マルコシアン隊の戦術教官だった陸軍将校。そして、ジークフリートと共にバイルを育て上げた「もう1人の父親」。

 

 北欧某国陸軍所属、アビス・ランバルツァー大佐。その男こそが、シェード北欧支部精鋭部隊「グールベレー」を率いていた「隊長」だったのである。

 自分達マルコシアン隊を苛烈に鍛え上げていた鬼教官が、シェードに寝返っていた。薄々予感していた中、その現実を改めて目の当たりにしたバイルは、静かに唇を噛み締める。夢であって欲しかった。しかし、これが現実なのである。

 

「……あまりに迅速で無駄のない侵攻。この街の……この国の軍部の弱点を知り尽くしているかのような攻撃。もしかしたら……とは、薄々思ってたんだ。隊長(ボス)も、皆も……俺も」

「ほう、どうやら最低限の『勘』は働いていたようだな。その落ち着きを見るに、嘘ではないようだ」

「それでも……誰1人、それ(・・)を口にはしなかった。隊長達も、俺も……最後の最後まで、あんたを信じたかったからだ」

 

 懐から取り出した、亡き恋人の形見であるペンダント。その遺品に視線を落としながら――最後の確認をするかのように、バイルは感情を押し殺して言葉を紡ぐ。そんな彼の様子を神妙に観察しながら、ランバルツァーは丸太のような太い腕を組み、鋭く眼を細めている。

 

「そうだろうとも。俺も、お前達ならそうだろうと信じていた。だから……この作戦は『上手く行った』のだよ」

「……ッ! ランバルツァー大佐、あんたはどうしてッ……!」

「……お前達もその身で十分思い知っただろう。シェードの改造技術は素晴らしい。この力を我が軍に取り込むことが出来れば、我々の国は真に強き国家へと生まれ変わる。誰も侵略など出来ん、最強の国となるのだ。人間を超えた改造人間……その力の前には、スパルタンシリーズなど足元にも及ばん」

「そのために……これだけのことをしたというのか。人間としての身体どころか、心まで捨てちまったのか。そんなことを言ってる、あんたが……!」

 

 以前から、ジークフリートとランバルツァーは改造人間の是非について何度も対立していた。あくまでも人間としての矜持に拘るジークフリート。全ては「力」の後に付いて来るのだと譲らないランバルツァー。双方の口論は絶えず続き、隊員同士でもその話題で議論になることがあった。

 その過去を思えば、ランバルツァーがこれほどの暴挙に出ることも、ある程度は予想が付いたのかも知れない。しかしその可能性が脳裏を過っても、それを口にすることは誰にも出来なかったのだ。ジークフリートでさえも、それだけは口に出来なかった。

 

「破壊と創造は常に表裏一体。俺の信念を理解出来なかったお前達に、俺が伝えたかったものを示すには……『現象』を以て説くより他はないと判断した。そして事実、お前達はここに辿り着くまでに多大な犠牲を払って来た。ヴィルヘルム、エドガー、レオン。お前達に人間を超えた力があれば、奴らが死ぬこともなかったはずだ」

「……ッ!」

 

 ランバルツァーが隊員達に課していた、苛烈なまでに厳しい訓練の数々。それら全てが祖国に対する深い愛国心があってこそのものであったことを、隊員達も肌で理解していた。そうであるからこそ、これほどまでに歪んでしまった彼の姿に、バイルは無言のまま怒りを露わにしている。

 

 国を愛するが故に軍人となった男が、祖国に力を齎すためだけに怪物に堕ちる。これほど皮肉なことはないだろう。破壊を伴わなければこの国に未来はない。その結論に至ってしまった師父の言葉に、ペンダントを懐にしまったバイルは鋼鉄の拳を握り締める。

 

(……大佐。あんた、変わったよ……!)

 

 最愛の恋人を奪い。仲間達を裏切り。故郷を破壊し。自分から全てを奪い去った、かつての父。そんなランバルツァーを睨み上げるバイルの双眸は、殺意にも似た憤怒の色で満たされていた。

 

「とはいえ……ここまで大勢生き残っていたのは想定外だった。スパルタンシリーズの性能限界など知り尽くしていたつもりだが……どうやらお前達は俺が居ない間に、そのスーツの性能を限界以上にまで引き出す術を編み出していたようだな」

「……」

「だが……俺が育てた『グールベレー』には勝てん。かつてお前達に課したものよりも、遥かに過酷な訓練を乗り越えた奴らだ。人間の限界を超えた改造人間が、さらに俺の戦闘技術を継承すればどれほどの域に達するか……想像出来んお前達ではなかろう。人間を超えた者だからこそ到達出来る、真に強き兵士……それが今の我々だ」

 

 シェードに寝返ったランバルツァーが新たに創設したグールベレー。それは、マルコシアン隊の隊員達が経験したものよりも、さらに苛烈な訓練を潜り抜けて来た猛者の集まりなのだ。

 生身の人間では到底耐えられないような訓練でも、改造人間の身体能力なら最後まで付いて行くことが出来る。その訓練の中で獲得した戦闘技能は、人間の集まりに過ぎないマルコシアン隊のそれを遥かに超えているのだ。

 

 同じ師の元で育った、いわば兄弟のような関係であるマルコシアン隊とグールベレー。しかしそこには、肉体のスペック差という絶大な違いがある。超人的な身体能力という下地を持った上で、同質の訓練を経験しているグールベレーはまさしく、マルコシアン隊の「完全上位互換」なのだ。

 

 当然、まともに戦えばマルコシアン隊に勝ち目などない。条件が同じであるならば、生身の人間が改造人間に敵うはずがない。しかしその現実を頭で理解していながら、バイルは一歩も退くことなく、鋭い顔付きでランバルツァーと対峙している。

 

「……『兵士』とは、血の通った人間がその責務を背負うからこそ『兵士』たり得る。人間であることを捨て、ヒトの形をしているだけの『兵器』に成り下がったあんた達に、俺達マルコシアン隊は……絶対に負けない」

 

 その宣言と共に、ボクシングのファイティングポーズを取るバイル。そんな彼の構えが完成した瞬間、仮面上部と顎部装甲(クラッシャー)がガシャンと閉鎖され、「変身(セタップ)」が完了する。外骨格の各部から噴き出す蒸気が、戦闘開始の狼煙を上げていた。

 例え相手が、自分達の全てを上回っているのだとしても。人間としての誇りという最大の武器を持つ自分達が、改造人間の暴威に屈するわけには行かない。この国を、この国で暮らす人々を想えばこそ、ここで退くわけには行かない。愛した人が願った平和を、取り戻すためにも。

 

 ――その想いは、別々の場所でグールベレーの隊員達と対峙している、他のスパルタンライダー達も同様であった。彼らは皆、自分の「上位互換」を相手に真っ向から宣戦を布告し、各々の戦いを始めている。

 

「ふん、それがジークフリートの教えか。奴のそういう無駄な潔癖さが、この事態を招いたということがまだ分からんようだな。……いいだろう、ならば最期の『稽古』を付けてやる。掛かって来るがいい」

 

 そんな元教え子達の勇姿を前に――ランバルツァーは口元を歪め、獰猛な笑みを浮かべていた。バイルことバレットスパルタンが見せたものと同様のファイティングポーズを取る彼は、真っ向から「愚息」の挑戦に応じようとしている。

 

「『例え全世界が絶望したとしても、お前達だけは最後まで諦めるな』。……これは、あんたの教えだ」

「……俺は、お前達の教育を誤ったようだ。出来もしないことを教えてしまった」

 

 マルコシアン隊とグールベレー。命と誇りを賭けた最期の一騎打ちが、始まろうとしていた。

 





 いよいよ読者応募ライダー達の登場回! まずはバレットスパルタンにトップバッターを務めて貰いました。果たしてライダー達はかつての師・ランバルツァーと、彼が作ったグールベレーを超えられるのか。次回以降もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 そして2024年1月30日00:00頃まで、活動報告(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=307134&uid=131291)にて本章に登場するスパルタンシリーズのオリジナルライダーを募集中です! 機会がありましたら、ぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 今話におけるバレットスパルタンVSランバルツァーと同様、他の読者応募ライダー達の対戦相手は「上位互換」のグールベレー隊員となります(´-ω-`)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第5話

 

 ――遡ること数ヶ月前。スパルタン計画の本格始動に伴い、その装着者に相応しい「新隊員」を求めるようになったマルコシアン隊は、某国各地の郷土防衛隊基地から有望な軍人を募り始めていた。

 

 そんな中。とある若手の軍人達から「打診」を断られたジークフリートは、戦術教官のアビスや副官のヴィルヘルムを引き連れ、その者達が居る辺境の陸軍基地へと足を運んでいた。

 

 雄大な自然が広がるギルエード山地。その山奥の遥か先――国境線付近に位置する、郷土防衛隊第4基地。そこは防衛隊の中でも特に気性の荒い古強者達が集まる、「叩き上げ」の巣窟であった。

 

 どこを向いても屈強で強面な古参兵達ばかりであり、ナイフのように鋭いその双眸が、積み重ねて来た「年季」の濃厚さを物語っている。しかしそんな彼らも「視察」に訪れたジークフリート達に対しては畏敬の眼差しを注ぎ、背筋を正して敬礼していた。

 

「ここが荒くれ者が集うと言われている、郷土防衛隊の第4基地ですか……。なるほど、確かに威勢の良い連中ばかりのようですね」

 

 筋骨逞しい古強者達を一瞥しながら、基地内を闊歩するヴィルヘルムは鋭く目を細めている。敬愛するジークフリートからの「打診」を断ったという不届者がよほど気に食わないのか、すでにご機嫌斜めのようだ。

 そんな副官の横顔を見遣るジークフリートは、悠々と歩みつつ葉巻を燻らせていた。やがて彼は、静かに口を開く。

 

「ヴィルヘルム。この基地に旧くから根付いている『慣習』を知っているか」

「慣習……でありますか?」

「『星の数より勝ちの数』。階級が上というだけで『実力』が伴っていない上官など、この基地においては人権すら無い畜生も同然……ということだ」

「アビス大佐……それはつまり、『階級』が正しく機能していない……ということでは?」

「その通り。だからここでは、古参の叩き上げ連中ばかりが幅を利かせている。『星』の数が多いだけのキャリア組……特に士官学校を出て日が浅い新任士官(ひよっこ)共は、真っ先に『洗礼』を受けるのがお決まりなんだそうだ」

 

 第2次世界大戦の頃から、この基地に深く浸透している「慣習」。その存在を知らないヴィルヘルムの疑問に答えたのは、彼の隣を歩くアビスだった。

 先の大戦における激戦区の一つだったこの基地は、かつて無能な上官の指揮により壊滅しかけたことがあったのだという。それ以来この地には、先鋭化された実力主義が根深く染み付いているのだ。実際に相手を制した「勝ち」の数は、上辺だけの「星」の数よりも遥かに大きな「価値」があるのだと。

 

「……それが、『地獄の第4基地』と噂されている理由でありますか。実に愚かな考えですな。指揮官と兵士とでは、求められる能力の『種』が異なるのは当然。仮にも我が軍のエリートである郷土防衛隊の軍人が、そのようなことでは……」

「お前の言うことは正しい。だが正しいだけでは、命を預ける理由としては足りんということだ。……そこのお前、例の連中(・・・・)をここに呼び出せ」

「ハッ!」

 

 アビスの口から語られた「慣習」に苦言を呈するヴィルヘルム。そんな彼を嗜めながら、ジークフリートは1人の兵士に声を掛けていた。自分の「打診」を断った軍人達を呼び出せ、という命令を受けた巨漢の壮年兵士は背筋を正して敬礼し、弾かれたように走り出す。

 

 その兵士が基地内の隊舎に駆け込んだ時――薄暗い居室の奥では、複数の若い男女の士官達が悠々と寛いでいた。陸軍最強と名高い英雄(ジークフリート・マルコシアン)が「視察」に来ているというのに、彼らは意にも介さず各々の時間を過ごしている。

 

 居室内に設けたハンモックに寝そべっている者も居れば、窓辺やソファに腰掛け、読書を嗜んでいる者も居る。中には、気怠げに煙草や葉巻を燻らせている者まで居た。「名ばかりの英雄」など知ったことではない、と言わんばかりの傲慢不遜な佇まいだ。

 

「お、お休みのところ失礼します! 例の……ジークフリート・マルコシアン大佐がお見えになられましたッ! 全員、直ちに出頭せよとの命令でありますッ!」

 

 ジークフリートの全身から迸っていた、荘厳な覇気。今目の前に居る、若い士官達から放たれている強烈な重圧(プレッシャー)。その両方に押し潰されそうになりながらも、巨漢の壮年兵士は背筋を正して声を張り上げている。

 

「……命令、ね。そう、伝達ご苦労様」

 

 鋭い眼光で壮年兵士を射抜く、若い士官達。その中の1人である、長身の美女がそう呟くと同時に、全員が素早く立ち上がり――「5階」の窓から躊躇なく隊舎の外へと飛び出して行く。

 

「トォオッ!」

 

 漆黒のライダースジャケットを翻し、迷いなく高所から飛び降りた士官達。彼らは壁を蹴って宙を舞い、空中で華麗に一回転していた。そのまま地を転がって受け身を取った彼らは、勢いを殺すことなくジークフリート達の前へと素早く駆け付ける。

 

 尋常ならざる身体能力を、これでもかと見せ付けるかのように。彼らは動き出してから10秒足らずで、「上官」の前に馳せ参じていた。

 

「ジュリウス・カドラリス大尉以下6名、出頭致しました」

 

 ジークフリート達の前に瞬時に現れた、ジュリウス・カドラリス大尉をはじめとする数名の士官。彼らは僅かな乱れもなく一列に並び、背筋を正して敬礼している。

 

「……っ!」

 

 5階から飛び降りてもかすり傷一つ無く、華麗に受け身を取れるほどの身体能力。それほど激しく動いても、汗一つかかず息も切らしていない基礎体力。その尋常ならざるフィジカルには、「打診」を断ったというジュリウス達に対して否定的だったヴィルヘルムでさえ、思わず息を呑んでしまう。

 

 一方。ジュリウス達の整然とした姿に敬礼を返しながら、ジークフリートとアビスは厳かに口を開いていた。

 

「ご苦労。……俺は『マルコシアン隊』の隊長、ジークフリート・マルコシアン大佐だ。非番のところ、急に呼び出して悪かった。今日は折り入って、お前達に聞きたいことがあってな」

「マルコシアン隊への配属。その『打診』を断った理由を改めて聞かせて貰いたい」

 

 そんな2人からの問い掛けに、ジュリウスは背筋を正したまま神妙な面持ちで声を上げる。

 

「その理由なら、すでに先日お伝えしております。若輩の身である我々では、栄えあるマルコシアン隊の隊員としてはあまりに力不足。ジークフリート大佐の名誉を汚さぬためにも、辞退が最善と判断致しました」

「……士官学校を上位の成績で卒業していたお前達が力不足? それではウチの部隊には若い連中が1人も入れないな。年寄りばかりが集まった『精鋭部隊』など、笑い話にもならんぞ」

「そういう無駄かつ不利益な『忖度』が、俺達は1番嫌いでな。立場が邪魔だというのなら、こちらから命じて(・・・)やる。腹を割って話せ」

「……」

 

 ジュリウスの口から告げられた、尤もらしい表面上の「理由」。その内容に眉を顰めたジークフリートとアビスは、真意を聞き出そうと「覇気」を露わにする。そんな彼らの眼光と真っ向から向き合うジュリウス達は互いに一瞥し合い――やがて、飄々とした佇まいを見せ始めた。

 

「……では、命令通り遠慮なく。『実力』が不確かな上官の元では働けない、ということであります」

「き、貴様らァッ……! ジークフリート隊長やアビス大佐に対して、なんたる無礼なッ!」

「あぁ失礼致しました中佐、そういう(・・・・)ご命令でしたので」

「ぬぁあにをぉおぉおぅッ!?」

 

 本性を露わにしたジュリウス達の態度に、ヴィルヘルムは般若の形相で殴り掛かろうとする。そんな彼を片手で制しながら、ジークフリートはジュリウス達を神妙な眼で見渡していた。

 

「自分で言うのもなんだが、俺達は陸軍の中でもそこそこ名が通っている方でな。それでは『実力』の証明にはならない、ということか?」

「……大佐の方がよほどご存じでしょう。この国の軍部はとにかく、そういう『ハッタリ』が大好きなのですよ」

「広報映えしそうな見掛け倒しの木偶の坊に、でっち上げの『伝説』を貼り付けただけ。そんな張子の虎を俺達は何人も見て来たし、そいつらも今や名実共に俺達の部下だ」

「こんな辺境の基地にノコノコ出向いて来たってことは……あんたは違う、ってことを証明してくれるんだろう? 期待しても良いんだろうな?」

「こ、こんの不敬極まりない無礼者共がぁあッ……! ジークフリート隊長ッ! アビス大佐ッ! やはりこんな奴らをマルコシアン隊に入れるなど、私は断固反対ですッ! 部隊全体の士気に関わりますッ!」

 

 屈強な叩き上げの兵士達を従えている、若手の士官達。彼らの慇懃無礼な態度に、ヴィルヘルムは怒髪天を衝く勢いで怒り狂っていた。しかし、当のジークフリートやアビスは涼しい顔で顔を見合わせている。彼らは怒るどころか、ジュリウス達の「活きの良さ」に喜んですらいた。

 

「……期待して良いか、だと? もちろんだとも。お前達が望む方法で『実力』を証明してやる。何が得意だ? 言ってみろ」

「私は剣術です」

「俺は格闘術だ。ここの連中は全員それで黙らせた」

「小銃の分解結合、そして射撃だな」

「よし、片っ端から全部やるぞ。すぐに準備しろ、俺達も着替えて来る」

「了解!」

 

 ジークフリートとアビスからの提案に、ジュリウス達は嬉々として応じていた。彼らは2人に敬礼した後、踵を返して素早く「腕試し」の準備に取り掛かって行く。そんな若者達の背中を、ヴィルヘルムは忌々しげに睨み付けていた。

 

「全く、あの無礼者共が……! 今度という今度ばかりは、お2人の考えには賛同しかねますぞ! あんな礼儀知らずな連中を我が隊にスカウトしようなどと……!」

「ヴィルヘルム、さっき言った『慣習』のことを覚えているか?」

「『星の数より勝ちの数』、でしょう? それが何だと仰るのですか!」

「この基地に居る連中は全員、その『慣習』の通り徹底的な実力主義だ。そういう連中を、あいつらはすでに『ここのやり方』で黙らせている。士官学校を出て5年も経ってないような、ケツの青い若造共が……だ」

「……っ」

「実力主義の叩き上げ連中が、士官学校を出たばかりのお坊っちゃん共に心から服従している。それはつまり……地獄とまで言われた第4基地の荒くれ者達が、『洗礼』どころか『返り討ち』にされたということだ」

「無論、本来ならあり得ないことだろう。だが奴らは、その不可能を可能にしたんだ。国の威信を賭けたスパルタンシリーズを任せるからには、それくらいは軽くこなせる奴らじゃないとな?」

 

 苛立ちを露わにしているヴィルヘルムに対し、ジークフリートとアビスは不敵な笑みすら浮かべている。男達の鋭い双眸は、才気に溢れた若獅子達への「期待」に輝いているようだった。

 

 ――そして、その後。全ての得意分野でジークフリートとアビスに完敗し、高慢な鼻っ柱を叩き折られたジュリウス達は、マルコシアン隊への「配属」が確定してしまうのであった。

 





 今回はバレットスパルタンに続き、「地獄の第4基地」から抜擢されていた若手士官達のチラ見せ回(も兼ねた回想シーン)となりました。読者応募キャラとして登場する(=現時点で生き残っている)若手の尉官達は軒並みここから来た荒くれ者ばかり。次回からは現在の時間軸に戻り、戦闘シーンに移って行きますので今後もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و

 そして2024年1月30日00:00頃まで、活動報告(https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=307134&uid=131291)にて本章に登場するスパルタンシリーズのオリジナルライダーを募集中です! そろそろ締め切りも近いので、機会がありましたらぜひお気軽に遊びに来てくださいませー(о´∀`о)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 「荒くれ者が集う吹き溜まりでの仲間集め」とかいう鉄板シチュいいよね……。ちなみに私はスターウォーズEP4でハン・ソロと出逢う場面とか好きです(*'ω'*)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第6話

◆今話の登場ライダー

◆ジュリウス・カドラリス/仮面ライダーSPR-16サムライスパルタン
 「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍大尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。非常に我の強い剣術の達人であり、機体のテストより自身の剣技を追求する無鉄砲な女傑。彼女が装着するサムライスパルタンは元々「ガジェットスパルタン」と呼ばれる換装素体型の機体であり、多岐に渡る装備を状況に応じて使い分けるのが本来の運用方法なのだが、本人の意思により超振動刀剣「サムライソード」と超振動装甲「サムライアーマー」で構成された7番目の装備のみを使い続けている。当時の年齢は23歳。
 ※原案は魚介(改)貧弱卿先生。



 

 バレットスパルタンとランバルツァーの一騎打ちが始まった頃。時を同じくしてエンデバーランドの各地では、マルコシアン隊のスパルタン達がグールベレーとの戦闘を開始していた。自分達の「完全上位互換」である超人達を前にしても、彼らは臆することなく敢然と立ち向かっている。

 

「良い……良いわグールベレー! この血肉を削ぎ落とし合うような闘い……この滾り! 私は……こういう果し合いがしたかったのよッ!」

 

 グールベレーの戦闘員と交戦している、第16号機――「SPR-16サムライスパルタン」の鎧を纏うジュリウス・カドラリスもその1人であった。未だに稼働している市内の製鉄所。その施設内で戦闘員と刃を交えている彼女は、かつてない強敵との殺し合いに心を躍らせていた。

 

「さぁ……もっと、もっとよ! 血反吐吐くまで戦って、私を楽しませて見なさいッ!」

 

 仮面の下で狂気の笑みを露わにしている彼女は、高周波ブレードの一種である超振動刀剣(サムライソード)を巧みに振るい続けている。溶鉱炉の真上に位置する狭い鉄製の足場を舞台に、彼女は戦闘員との剣戟を繰り広げていた。

 

 本来この外骨格は、「アームドアーマー」と呼ばれる多様な追加装備を状況に応じて使い分ける「ガジェットスパルタン」という換装素体型であり、黒基調のアーマーの各部には武装マウント用の取付部(ハードポイント)が備わっている。

 さらに両肩には黒と金のツートンカラーで塗装された裃型の追加アーマーが装備されており、その外観はさながら和の要素を取り入れた「仮面ライダーリュウガ」のようであった。

 

「あの『主任』からはまた、『テスト装着者としての自覚を持て』……なんて言われるんでしょうけど! 兵器として最も肝要なのは……相手に勝つことなのだから! しょうがないわよねぇえぇッ!?」

 

 彼女は独自の拘り(・・)で、この近接戦特化の装備のみを使い続けている。それは、命を間近で削り合うような殺し合いがしたい……という倒錯的なものであった。

 物理ダメージを減じる超振動装甲(サムライアーマー)の副作用で何度も吐血しながら、彼女はなおも歓喜の笑みで刃を振るい続けている。これまでも散々聞かされて来た「開発主任」からの「小言」など、意にも介していない。

 

「はぁあぁあッ!」

 

 狂気を剥き出しにした振る舞いとは裏腹に、その太刀筋は流麗であった。まさに、達人の剣術と呼ぶに相応しい一閃。その閃きが、グールベレーの戦闘員を絶え間なく攻め立てている。しかし戦闘員の方も、同系統の高周波振動大剣(ヴァイブロブレード)でその悉くを受け流していた。

 

「狂人め……貴様のような人間、我々でなくても生かしては置けぬわッ! この場で細切れにしてくれるッ!」

「……ッ!?」

 

 しかも――サムライスパルタンの斬撃を払い除けた瞬間。彼は背面に隠し持っていた「2本目」を引き抜き、虚を突くように振り抜いて来る。

 咄嗟に身を引いてかわそうとしたサムライスパルタンの腹部装甲が、その一閃でぱっくりと切り裂かれていた。超振動装甲(サムライアーマー)と言えども、その防御力を上回る高周波ブレードで斬られてはひとたまりもないのだ。

 

「ふふっ、この鎧を簡単に切り裂いちゃうなんて……ますます昂るわ」

「気に召したようで何よりだ。ではもっと楽しませてやろうッ!」

「……!?」

 

 さらに戦闘員は、2本の剣の柄同士を連結させることによって双刃刀を作り上げ、変則的な軌道で斬り掛かって来る。柄の両端に備わる高周波ブレードを巧みに回転させながら距離を詰めて来る戦闘員に対し、今度はサムライスパルタンが防戦一方となっていた。

 

「随分とユニークな機能が付いてるのね……! 男のロマン、ってヤツ?」

「敵を仕留めるための『拘り』をそう呼ぶのなら、貴様と同じだ。尤も……『実力』は雲泥の差だがなッ!」

 

 単純に「手数」が優っているだけではない。双刃刀を巧みに使いこなす戦闘員の剣術は、サムライスパルタン――ジュリウスの技量とほぼ互角なのだ。そこに改造人間の膂力も加われば、サムライスパルタンはより劣勢となってしまう。

 

「く、うぅッ……!」

 

 防御に徹していた彼女は徐々に後退して行き、ついには溶鉱炉を背にした位置にまで追い詰められていた。あらゆるものを焼き尽くし、溶かしてしまう溶鉱炉。その熱気を背にしたサムライスパルタンは、仮面の下で汗だくになっている。

 

「……くっ、ふふっ……うふふっ……! うふふのふ……!」

 

 だが、それは暑さや焦燥が理由ではない。血湧き肉躍る闘争への悦びが、彼女の肉体に滲む汗に表れているのだ。絶体絶命の窮地に立たされていながら、仮面の下で愉悦の笑みを浮かべている彼女は、喜びを噛み締めるように愛刀の柄を握り直している。

 

(こんなものではないわ……あの時(・・・)に味わった緊張感は、こんなものではない……!)

 

 この土壇場で脳裏を過ぎるのは、走馬灯……などという綺麗なものではない。数ヶ月前、第4基地でジークフリートと剣を交えた時に味わった、身を焦がすような緊張感。その時の、魂まで燃え尽きてしまいそうなほどの滾りと、昂り。

 

(まだね……! まだよ……! まだ私は、こんなにも渇いている! この剣技を、枯れ果てるまで使い尽くせるような戦いに……飢えているッ!)

 

 それらを思えば、これほどの死地であっても。まだ、「足りない」のだ。ジュリウス・カドラリスという女を徹底的に打ちのめし、心を折るには、あまりにも「足りていない」。その渇きが、飢えが、仮面に隠された狂気の笑みに現れている。

 

「……ここまで追い詰められて、なおも折れぬか。やはり貴様は……危険過ぎるッ!」

 

 そんなジュリウスことサムライスパルタンの狂気を、戦闘員も察知していたのだろう。彼は圧倒的な優位に立っていながらも、慢心することなくとどめの一閃を繰り出そうとしていた。

 双刃刀を勢いよく振り回す彼は、サムライスパルタンを溶鉱炉に突き落とそうと肉薄して来る。だが、双刃刀の切っ先がサムライスパルタンに届く前に――

 

「ありがとう、嬉しい褒め言葉だわ」

「なにッ……!?」

 

 ――彼女はなんと、愛刀を上方に放り投げてしまう。さらに自ら、足場から飛び降りようとしていた。

 

 一見すれば、戦うことも生きることも放棄した自殺行為。戦闘狂(バーサーカー)としか思えない彼女の振る舞いからは、想像もつかない選択だ。

 

(なんだ、奴は一体何をッ……!?)

 

 この行為には、何か「裏」があるのではないか。そう睨んだ戦闘員が、彼女の「真意」に気付きかけた瞬間。溶鉱炉に向かって飛び降りた……かのように見えたサムライスパルタンの両手が、足場の()を掴む。

 

「はぁッ!」

 

 その勢いを利用して、縁にぶら下がった状態から身体を前に振ったサムライスパルタンは、足場の裏面(・・)を蹴り上げて穴を開けていた。彼女はその穴から飛び出すように、一瞬で戦闘員の背後に回り込んでしまう。

 

「なッ、にィィィイッ!?」

 

 鉄製の足場の下側(・・)を通って戦闘員の背後を取るという奇策。その不意打ちに虚を突かれた戦闘員が振り返ろうとした瞬間、先ほど上方に放り投げられていたサムライスパルタンの愛刀が、持ち主の手元に落下して来る。

 

「ぬッ……あぁああッ!」

 

 そうはさせるか――と言わんばかりに、戦闘員は振り向きざまに双刃刀を振ろうとする。だが、その切っ先よりも。愛刀の柄を掴み、居合の構えを取ったサムライスパルタンの方が、僅かに疾い。

 

「――お先(・・)

 

 それが、戦闘員が耳にした最期の言葉となった。互いに振り向きざまに放った一閃。その一太刀は、サムライスパルタンの方が()だったのである。真横に振り抜かれた高周波ブレードの刃が、戦闘員の上半身と下半身を瞬く間に両断して行く。

 

「あ、がッ……!」

 

 断末魔を轟かせる暇もなかった。真っ二つに切り分けられた彼の身体は、そのまま力無く溶鉱炉に向かって墜落して行く。その最期を見届けたサムライスパルタンは勝利を確信し、静かに踵を返していた。

 

「……ふふっ。あなたの言う通り……『実力』は雲泥の差だったようね?」

 

 振動機能を切った愛刀を腰に納め、サムライスパルタンはゆっくりと製鉄所を後にして行く。そんな彼女の後ろでは、溶鉱炉に落とされた戦闘員の遺体が跡形もなく消し去られようとしていた。

 

 ――互いに敵を倒すための「拘り」を持っていた2人。その明暗を分けたのは、「武器」か「技」か、という違いだったのだろう。

 いくら武器の性能に拘ったところで、使い手の技量が伴わなければ最大の成果には繋がらない。ただその一点においては、サムライスパルタンの方が僅かに優位だったのだ。

 

 例え性能面においては「完全上位互換」なのだとしても、その力を振るう「技」の違いには大きな「可能性」が秘められている。

 

 マルコシアン隊を去ったランバルツァーでは知り得ない、隊員達が自らの手で密かに練り上げていた「技」。改造人間の力に頼らない、生身の人間としての努力だからこそ辿り着ける領域。カタログスペックには決して含まれない、計算では測れない不確定な要素。

 

 ただ、それのみが。圧倒的に不利な状況に立たされているマルコシアン隊に与えられた、唯一無二の「勝機」なのだろう――。

 




 本章のキャラ募集企画にご参加頂いた皆様、ご協力誠にありがとうございました! 今話からはいよいよスパルタン達の戦闘シーンが始まって行きます! 次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 ブラ=サガリは剣戟にて最強!(`・ω・´)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第7話

◆今話の登場ライダーと登場人物

◆アレクシス・ユーティライネン/仮面ライダーSPR-17ソニックスパルタン
 「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍中尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。将来を期待されていた元体操選手であり、優れた身体能力の持ち主。彼が装着するソニックスパルタンは高速機動での接近戦に特化した機体であり、腕部に装備された高周波ブレードが特徴となっている。当時の年齢は22歳。
 ※原案はmikagami先生。

明智天峯(あけちてんほう)
 北欧某国陸軍の外人部隊に所属していた上等兵。シェードの創設者・徳川清山と同じ日本人であるという理由で差別を受けており、上官からの無謀な抗戦命令によりエンデバーランド市内に留まっていた。当時の年齢は20歳。



 

 すでにエンデバーランド市内のほとんどは死の廃墟と化しており、市外への脱出が叶わなかった一部の市民達は各地の避難所に身を寄せ、息を潜めて今日の命を願っていた。

 しかし高度な生体探知能力を持つシェードの戦闘員達は、ただ生きたいと願っているだけの無力な民間人達を容赦なく発見し、命乞いの暇すら与えず手を掛けて行く。女子供だろうと、そこに情けは欠片も無い。

 

 それは、何人もの避難民達が身を寄せ合っていたショッピングモールも例外ではない。マルコシアン隊のスパルタンシリーズに目を付けていたグールベレーの1人が、その地に集まっている避難民達を発見していたのだ。

 ヒラ(・・)の戦闘員にすらほとんどの人間は手も足も出ないのだ。幹部怪人級の戦闘力を持つグールベレーの隊員に襲われれば、無論ひとたまりもない。彼らの視界に捉えられた瞬間、力無き人々の運命は決してしまうのである。

 

「ハァ、ハァッ……!」

 

 だが、無力な人間でありながらその運命に抗おうとする者が居た。血だるまになりながらも小銃を手放すことなく、身を寄せ合い肩を震わせている避難民達の盾となっている一兵卒の青年。彼は何度もふらつきながら、それでもグールベレーの隊員と真っ向から睨み合っている。

 避難先のショッピングモールでグールベレー隊員と遭遇してしまった避難民達。彼らの護衛という無謀な任務を愚直に遂行せんとする青年は、血に濡れた手で小銃を構えながら、一歩も退くことなく戦い続けようとしていた。

 

「……諦めろ小僧。ここに来た鉄屑の男(スパルタン)ならすでに始末した。生身の兵士1人で何が出来る? どのみち皆殺しには変わらないが……何か言い残す時間くらいはくれてやっても良いのだぞ」

 

 そんな青年に哀れみの視線を向けるグールベレーの隊員は、腕部に装備された鎌状の刃を向け、最後の情けを掛けていた。激しい戦闘によって破壊し尽くされたショッピングモール内には、大量の血痕が残されている。

 この場所で彼と戦っていたマルコシアン隊のスパルタンは、すでに敗北していたのだ。グールベレー隊員の背後に積み上げられた瓦礫の山。その隙間からは、彼に敗れた戦士の片腕がはみ出ている。辺りに広がる夥しい血の海が、戦闘の苛烈さを物語っていた。

 

 自分達にとっての最後の希望となるはずだった、スパルタンシリーズの戦士。その希望の象徴ですら、このグールベレー隊員には一歩及ばなかったのである。そんな絶望的な光景を見せ付けられているというのに、一兵卒の青年はそれでも抗うことを止めない。

 

「貴様達の施しなど受けるものか……! 私達人間は決して、貴様達などに屈しはしないッ……!」

「強情な人間だ。貴様……徳川清山様と同じ日本人だろう? 最初から無駄な抵抗などしなければ、そのよしみで助けてやったものを……」

「……ッ!」

 

 徳川清山。シェードの創設者であるその名を耳にした青年は、ギリッと歯を食い縛る。この惨劇を招いた諸悪の根源、というだけの理由ではない。彼と同じ日本人であるという事実は、この国で暮らしていた青年にとっては非常に重い意味を持っていたのだ。

 

「……私達はその徳川清山のせいで差別され、こんな無茶な任務を押し付けられた。これほどの災厄を起こした日本人の1人なのだから、せめて最期はこの国のために死ねと言われた」

「ほう。ならば貴様は、そんな下衆な連中のために死にに来たということか?」

「私達だって……そんな理由で死にたくなんかない! だけど……それでも! だからこそ(・・・・・)! 謂れなき迫害に! 謂れなき攻撃に晒されている人達を……見捨てるわけには行かないんだッ!」

 

 シェードの創設者と同じ日本人であるという理由での差別。その理不尽に晒されていながら、青年は自分と同じ「弱き人々」を守るため――小銃を連射する。激しい銃声に反応してか、瓦礫の山に埋まっていたスパルタンの腕がピクリと動いていた。

 しかし、所詮は生身の人間が扱う通常兵器。グールベレー隊員の肉体に並の銃器が通用するはずもなく、傷一つ付けられないまま弾薬が尽きてしまうのだった。

 

「……その心意気、嫌いではない。ならばせめて、苦しむ暇もなく……一瞬で死ね」

「うッ……!」

 

 それは、彼なりの情けだったのだろうか。グールベレー隊員はツカツカと青年の前に歩みを進め、首を刎ねようと腕の刃を振るう。苦しむ暇を与えないよう、介錯するかのように。

 

「……!?」

 

 だが、次の瞬間。グールベレー隊員の背後に積まれていた瓦礫の山が突然弾け飛び――その下に埋められていたスパルタンシリーズの戦士が、仮死状態から覚醒する。半死半生の身でありながら息を吹き返して来た彼は、疾風のように地を駆けてグールベレー隊員の眼前に現れる。

 

「……!」

 

 そして、腕部に装備された高周波ブレードで、グールベレー隊員の刃を受け止めてしまうのだった。鮮血に塗れた無惨な姿になってもなお、その闘志は健在だったのである。

 

 スパルタンシリーズ第17号機――「SPR-17ソニックスパルタン」。その外観は、「仮面ライダーゼロワン・シャイニングアサルトホッパー」をベースとしている。

 鎌状の腕部高周波ブレードは、「仮面ライダーオーズ・ガタキリバコンボ」のものを想起させるシルエットだ。背中には「仮面ライダーファイズ・ブラスターフォーム」のバックパックを彷彿させるスラスターが搭載されており、全体的にガンメタリック基調となっている。

 

「……まさか、シェードの改造人間と気が合うとは思わなかった。君の心意気、僕も嫌いじゃないよ」

 

 その外骨格を纏うアレクシス・ユーティライネン中尉は、グールベレー隊員の刃と鍔迫り合いしながら、優しげな声色でそう呟いていた。ひび割れた仮面の隙間からは吐血が漏れ出ており、立っているのもやっとであることは火を見るより明らかなのだが、仮面に隠された彼の双眸は今もなお苛烈な闘志に燃えている。

 

「あ、あぁ……アレクシス中尉ッ!」

 

 そんなアレクシスことソニックスパルタンの勇姿に、一兵卒の青年は感極まった表情を露わにしていた。この地獄に現れた希望のヒーロー。その復活劇に、避難民達も歓声を上げている。

 

「貴様……あれほど痛め付けてやったというのに、まだ立ち上がって来るか。死に損なったというのなら、そのまま寝ていれば良かったものを」

「そのはずだったんだが、彼に叩き起こされてしまってね。こう騒がしいと、おちおち寝てもいられない」

 

 一方、高周波ブレード同士の鍔迫り合いに持ち込まれたグールベレー隊員は、忌々しげに口元を歪めていた。そんな彼に不敵な笑みを向けながら、ソニックスパルタンはさらに強く刃を押し込んで行く。一体この外骨格の、この人間のどこにこんな力が残っていたのか。グールベレー隊員は、ただ驚愕するばかりとなっていた。

 

「ア、アレクシス中尉、お怪我は……!」

「良い目覚ましをありがとう、上等兵。君の名前は?」

「あ、明智天峯(あけちてんほう)……であります!」

「明智か、良い名だ。それでは明智上等兵、命令を伝える。避難民達を守り抜き……何としても生き延びろ!」

 

 一兵卒の青年こと、明智天峯上等兵。その名前を耳にしたソニックスパルタンは、仮面越しに優しげな笑みを向け――上官としての「命令」を告げる。グールベレー隊員の刃を斬り払い、スラスターを噴かして明後日の方向に飛び出したのはその直後だった。

 

 避難民達の側からグールベレー隊員を引き離すためなのだろう。その狙いを見抜いた上で、グールベレー隊員は敢えて誘いに乗り、ソニックスパルタンを追うように背部のスラスターを噴かしていた。彼の背面にも、超高速を齎すバックパックが装備されているのだ。

 

「……ふん、良いだろう。ならばもう一度寝かし付けてやる。今度こそ健やかに永眠しろ」

「出来るかな? 君の疾さならもう掴んでいる」

「掴めたからなんだと言うのだ。所詮人間の身では、反応が追い付いても身体の方が付いて来れないだろうッ!」

 

 ショッピングモール内を超高速で翔ぶ、2人の超戦士。彼らは各々のスラスターを噴かしながら、破壊された施設内を猛スピードで駆け抜けている。基礎性能でソニックスパルタンを上回っているグールベレー隊員は、徐々に追い付き始めていた。

 

「いいや……付いて行ける。僕と、このソニックスパルタンならッ!」

「……ッ!?」

 

 だがそこで、グールベレー隊員にとっても予想外の事態が起きる。「最大稼働状態」となったソニックスパルタン。その装甲色が深紅に赤熱し、胴体の突起部分に設けられた排気口から蒸気を吐き出し始めたのだ。

 

「……ぉおおぉおぉあぁああッ!」

「なッ……!」

 

 その疾さは、もはや音速。そう形容して差し支えないほどの速度であった。生身の人間が装着する外骨格で出して良い疾さではない。文字通りの、殺人的な加速だ。そのあまりの速度に驚愕するグールベレー隊員は、一気に距離を離されてしまう。

 

(この俺が……引き離されたッ!? 俺と同じ超高速に到達するために……リミッターを外したというのか!? 速さを得るためだけに命を削るとは……なんたる酔狂ッ!)

 

 ヒトであることを捨てた改造人間であるが故に、到達出来る領域。そこにヒトの身であるスパルタンが踏み込んで来た事実に、グールベレー隊員は戦慄する。だが、ソニックスパルタンの方もかなり苦しい状態に陥っていた。

 

「がッ、ふッ……ぅうぉおおぉおッ!」

 

 仮面の隙間から噴き出る吐血が、後方を翔ぶグールベレー隊員に降り掛かる。グールベレー隊員はその血を拭いながら、ソニックスパルタンの様子を観察していた。

 

 どうやらこの超加速はやはり、装着者にかなりの負荷を強いるものだったようだ。このまま無理に翔び続ければ、グールベレー隊員の方から何か仕掛けるまでもなく、ソニックスパルタンの全身は文字通り「空中分解」することになるだろう。

 

(……ふっ、良いだろう。貴様といい、あの小僧といい……人間の意地というものも、なかなか捨てたものではなかったようだな。ならばこの俺も……最期まで付き合ってやろうではないかッ!)

 

 ソニックスパルタンことアレクシス・ユーティライネン。「小僧」もとい、明智天峯。彼らの「意地」を目の当たりにしたグールベレー隊員は、不敵な笑みを浮かべて口元を吊り上げる。

 

 接近戦を避けて相手が自滅するまで粘れば、簡単に勝てる戦いだ。しかし、そんな方法で勝ってもスパルタンシリーズという「悪足掻き」の否定にはならない。完全なる勝利を以て人間達の心を折らねば、この戦いに意味はない。

 

「ぬぅあぁああぁあぁあッ!」

 

 その結論に至ったグールベレー隊員は――自らもリミッターを解除し、音速に迫る疾さに到達する。彼も全身から血を噴き出し、狂気を剥き出しにしてソニックスパルタンに追い付こうとしていた。

 

(どうだ……! 俺の加速能力は貴様の「完全上位互換」ッ! 貴様がいくら命を削ろうとも、俺が同じ土俵に上がりさえすればその差は簡単に埋められるッ! 人間にしてはよく足掻いたが……俺の勝ちだッ!)

 

 血だるまになりながらもソニックスパルタンに追い付いて行くグールベレー隊員。彼は血走った眼で「宿敵」の背を射抜きながら、腕部の高周波ブレードを作動させていた。この刃で今度こそ決着を付けてやる。その研ぎ澄まされた殺意が、刃の唸りに現れていた。

 

 ――だが。ソニックスパルタンに同様の色はない。それどころか彼は落ち着いた様子で、チラリと「宿敵」の方を見遣っている。仮面に隠されたその口元は、ニヤリと歪んでいた。

 

「良かったのか? そんなに疾くなってしまって」

「……!?」

 

 その言葉の意味を、グールベレー隊員が理解するよりも早く。最高速度に達したソニックスパルタンは、ショッピングモールの行き止まり――施設内の壁に激突しようとしていた。

 

(バカな……! 戦いもせずに死ぬ気かッ!?)

 

 普通に考えれば、頭から激突する前に左右どちらかに避けるはず。その際に減速した瞬間が、絶好の「隙」となる。それがグールベレー隊員の狙いだったのだが、ソニックスパルタンはそのまま行き止まりの壁に突っ込もうとしている。

 

「ぐッ……あぁあぁあッ!」

 

 すると、激突の瞬間。その場で後方に宙返りするように、突然体勢を反転させたソニックスパルタンは、急速な「逆噴射」を始めようとしていた。

 これまでの超加速による殺人的なGを真っ向から浴び、その絶大な圧力に全身の骨を軋ませながらも――彼は、「真逆」の方向に飛び出したのである。

 

「なッ――!」

「――でやぁあぁあぁあッ!」

 

 そんな彼の「暴挙」に反応する暇もなく。最高速度に達していたグールベレー隊員の腹部に、超高速の飛び蹴りが炸裂する。あまりの衝撃にグールベレー隊員の身体がくの字に折れ曲がり、彼の口から鮮血が飛び出した。

 

「ご、ぁ……!」

 

 周囲の瓦礫が、衝撃波によって吹き飛ばされて行く。その轟音を耳にする暇もなく、グールベレー隊員の視界が歪んで行く。彼の肉体が、内側からバラバラになって行く。

 

(超加速状態のまま、一切減速することなく壁に激突し……その壁を蹴って「反転」したのか……!? リミッターを外した俺の速度を……衝撃力の向上に「利用」するためにッ! なんたる狂気……! 自壊も死も、何一つ恐れぬ狂人の所業だッ!)

 

 自滅を厭わぬ捨て身の特攻。それは生還を前提とするグールベレーの隊員達では、例え思い付いても決して実行することのない禁じ手。しかしマルコシアン隊は、躊躇なくその手段を選んで来る。その勝利に対する貪欲さが、基礎性能の差を上回ったのだ。

 

「……はぁあぁあぁあーッ!」

 

 さらに、ソニックスパルタンの攻撃はこれだけでは終わらない。彼はこの飛び蹴りの反動を利用して再び真逆の方向に飛び、さらに壁を蹴って2度目の蹴りを繰り出す。そしてその蹴りが炸裂した瞬間、「次」の一撃に向けて動き出して行くのだ。3度、4度。5度、6度。敵が力尽きるまで、この連撃は続く。

 

「うぐぉあぁあぁあッ!」

 

 周囲の壁を足場に利用し、何度も飛び蹴りを繰り返す「バウンディングダンス」。その猛攻を浴び続けたグールベレー隊員は、全身の骨を容赦なく打ち砕かれて行くのだった。そして、飛び蹴りの連鎖に終止符を打つ「とどめ」の一閃が、彼の首に迫る。

 

「であぁあぁあッ!」

 

 ソニックスパルタンの雄叫びと共に、唸りを上げて迫り来る腕部の高周波ブレード。その刃を振るうソニックスパルタンは、空中で身体を回転させてさらに威力を高めながら、「とどめ」の一閃――「スピニングスライサー」を繰り出すのだった。

 

「がッ――!」

 

 瞬く間に振り抜かれたその刃は、刹那のうちにグールベレー隊員の首を刎ねてしまう。それは先ほど、グールベレー隊員が天峯の首を斬ろうとしたことに対する、意趣返しのようであった。驚愕の表情のまま斬り飛ばされたグールベレー隊員の首が、力無く宙を舞う。

 

「ぐっ、ふ、ふふ……寝かし付けられたのは、俺の方だったということか……!」

「……それが君の言う、健やかな永眠というものだ」

 

 首だけになり、力尽きて行くグールベレー隊員が、最期にふっと口元を緩めた時。首を失った彼の身体が、瓦礫の上に墜落して行く。その「最期」を見届けながら、ソニックスパルタンもゆっくりと着地していた。

 

「す、すごい……! あれが噂の……マルコシアン隊の仮面ライダー……!」

 

 マルコシアン隊の勝利を目の当たりにした避難民達は、その光景に歓声を上げる。そんな彼らの声を背にしていた天峯も、畏敬の念を込めた眼差しで、ソニックスパルタンの勇姿を見つめていた。

 





 今回はソニックスパルタン回。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 「謂れなき迫害に晒されている人々を放ってはおけない」。自分も被害者側だった明智天峯の根っこには、ずっとこれがあったわけですな(´・ω・`)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第8話

◆今話の登場ライダーと登場人物

◆ガルス・ショウグレン/仮面ライダーSPR-11アサルトスパルタン
 「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍少尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。士官らしからぬ不良軍人だが内面は情に厚く、口には出さないが常に周囲を気に掛けている。彼が装着するアサルトスパルタンは、索敵・電子戦用に製造された試作機「エレクトロニックスパルタン」を戦闘用に装備転換した機体であり、レドーム等の電子装備や脚部のホバームーブユニット、「試製対改造人間用マイクロウェーブガン」が特徴となっている。当時の年齢は25歳。
 ※原案は X2愛好家先生。

上杉蛮児(うえすぎばんじ)
 北欧某国陸軍の外人部隊に所属していた1等兵。明智天峯と同じく謂れなき差別に晒され、上官からの無謀な抗戦命令によりエンデバーランド市内に留まっていた。当時の年齢は16歳。



 

 市外への脱出が間に合わず、各地の指定避難所に身を寄せるしかなかった避難民達。彼らの行き先の一つである教会もまた、マルコシアン隊とグールベレーによる「決闘」の舞台と化していた。

 

 教会の屋上で激しく交戦している、スパルタンシリーズの戦士とグールベレーの隊員。彼らの激戦による轟音は、絶えず教会内に響き続けている。

 その凄絶な衝撃音や振動に怯えながら、避難民達は出入り口の前で必死に身を寄せ合っていた。中には、教会内に聳え立つ巨大な十字架に祈りを捧げている者もいる。

 

 可能であれば、すぐにでもこの場から離れるべきなのだろう。だが、シェードの一般戦闘員達が大勢跋扈している表通りに迂闊に飛び出せば、格好の的にされてしまう。外の恐ろしさを知っているからこそ、逃げるに逃げられない。そんな絶望的な状況に、避難民達は悲痛な表情を浮かべていた。

 

「くそッ……! マルコシアン隊の英雄達が命張って戦ってるって時に……俺は何で、こんなにも無力なんだよッ……!」

 

 一向に希望が見えず生気を失って行き、体調を崩して行く避難民達。そんな彼らの窮状を見つめながら、悔しげに歯を食いしばる若き少年兵――上杉蛮児(うえすぎばんじ)1等兵は、獰猛な眼で天井を睨み付けていた。

 

 彼も明智天峯と同じく、日本人であることを理由に無謀な任務を押し付けられた1人なのだ。それでも彼は腐ることなく、己に課せられた役割を完遂しようと拳を震わせている。

 

「……俺の命なんて賭けたところで、カスほどの価値も無えのかも知れねーけどなぁ……! だからって、ここでブルってて良いわけねーだろうがッ……!」

 

 シェードの改造人間に普通の銃器など通用しない。それをすでに嫌というほど思い知っていた彼は、持っていた小銃を放り投げ、上階に続く階段を駆け上がって行く。

 例えどれほど無力であろうと、この状況でジッとしていることなど出来ない。そんな人柄である彼は、無謀を承知でマルコシアン隊に助太刀するべく、屋上に向かおうとしているのだ。

 

 一方、その屋上では。マルコシアン隊のスパルタンとグールベレーの隊員が、一進一退の攻防を繰り広げていた。小銃型のマイクロウェーブガンを携えている両者は、互いにマイクロ波を撃ち合いながら激しく動き回っている。

 

「ふん……いつまでつまらん小競り合いを続けるつもりだ、鉄屑。別に俺は構わんが……早くカタを付けねば、近くに居る人間共の身体が持たんぞ?」

 

 不遜な佇まいで鼻を鳴らすグールベレー隊員は、自分達の足下で怯えている避難民達への「影響」に言及する。ここの避難民達に起き始めている体調不良は、ストレスだけが理由ではなかったのだ。彼らが照射し続けているマイクロ波の「余波」も、避難民達の健康被害に繋がっていたのである。

 

「……」

 

 グールベレー隊員と対峙しているスパルタンシリーズ第11号機――「SPR-11アサルトスパルタン」。その仮面の戦士もそれを意識してか、「試製対改造人間用マイクロウェーブガン」の銃口を僅かに下ろしてしまう。だがグールベレー隊員はその隙を狙い、容赦なくマイクロ波を撃ち込んで来た。

 

 無論、そのまま喰らうアサルトスパルタンではない。彼は脚部のホバームーブユニットによる高速機動で、相手のマイクロ波を回避して行く。バックパックに接続された、傘のように頭を覆うレドーム。両肩部、腰部に搭載された電子戦用レーダー。後腰に装備された小型大容量エネルギーパック。それらの重装備を抱えていながら、彼は素早く軽やかに屋上を滑り、マイクロ波をかわしている。

 装甲色が銀から都市迷彩に変わった「シャドームーン」……のようにも見える外観だが、各部に搭載された電子戦用の装備によって、そのシルエットは似ても似つかないものとなっていた。

 

 この機体は本来、索敵及び電子戦用に製造された試作機「エレクトロニックスパルタン」だった。しかしシェードに対抗するべく、単騎での戦闘力を高める方針に転換された結果、「アサルトスパルタン」として生まれ変わったのである。今のこの機体は、戦うために生み出された闘争の申し子なのだ。

 

「……偉ぶってる割には、随分とセコいことを言うじゃねぇか。散々見下して来た『ただの人間』相手に、真っ向勝負で勝てる自信も無ぇか?」

 

 その外骨格を纏うガルス・ショウグレン少尉はやむなくマイクロ波を撃ち返しながら、嫌味たっぷりに呟く。第4基地きっての不良士官だった彼は、その肩書き通りの悪態を露わにしている。

 だが、その視線は度々足元の先――避難民達の方へと向けられていた。どれほど不良と言われようと、彼も国民を守るために銃を取った軍人。苦しんでいる人々を放っておくことなど出来るはずもないのだ。

 

(……このままマイクロ波の撃ち合いが長引けば、俺が平気でも下に居る避難民達が耐えられねぇ。だが俺がこの勝負から降りたところで、奴はお構いなしに照射を続ける。……流れを変えるしかねぇってこったな)

「この俺と対等に渡り合える機動力と火力……確かに、人間風情にしては上出来だ。しかし、所詮は付け焼き刃の技術で急造された鉄屑。ここまでが限界だったようだな」

「……」

 

 思考を巡らせるアサルトスパルタンに対し、高慢な態度を見せるグールベレー隊員。その佇まいを冷ややかに睨み付けるアサルトスパルタンは、嘲笑うような笑みを溢していた。

 

「……黙って聞いてりゃあ、随分と自分を卑下するじゃねぇか。そういうことは思っていても口にするものじゃないぜ? 東洋には『言霊』って概念があるが……ネガティブな言葉は、自ずと悪い結果を引き寄せちまうもんだ」

「卑下だと? 解せんな、なぜそうなる」

「だってお前……さっきからずっと、自分は鉄屑以下(・・)ですって言ってんだぜ?」

 

 それは、自分の方が格上(・・)であることを前提とする言葉だった。その侮辱に青筋を立てるグールベレー隊員は、マイクロウェーブガンを向けながら一気に突撃して来る。

 

「……口の減らない男だッ!」

「お宅の教官は教えてくれなかったのか? 無駄な怒りは目を曇らせるってよッ!」

 

 相手の怒りを誘って「隙」を引き出したアサルトスパルタンは、仮面の下で不敵な笑みを浮かべながら、ホバーユニットで鮮やかに地を滑る。その挙動に翻弄されるグールベレー隊員は、マイクロウェーブガンで捉える前に背後を取られてしまった。

 

(速いッ……! しかもホバー移動では奴の動きが読みづらいッ……!)

 

 単純な移動速度ならグールベレー隊員の方が僅かに上。しかし自分の足で移動する彼とは違い、アサルトスパルタンはホバーユニットの推力で動いている。そのため、足の動きを見て次の行動を予測することが通常よりも困難なのだ。

 

「……こいつは授業料だぜ」

 

 敵方のマイクロ波を紙一重でかわしながら背後を取ったアサルトスパルタンは、装備を「試製対改造人間用バズーカ」に切り替え、その砲口をグールベレー隊員の背に向けた。間髪入れず引き金を引き、特製の弾頭を撃ち放つ。

 

「ありがたく喰らいッ――!?」

「――喰らうのは貴様だァッ!」

 

 だが。バズーカ系統の装備を持っていたのは、グールベレー隊員も同じであった。しかも「上位互換」である彼の武器の方が、弾速も上。振り向きざまにバズーカを構えたグールベレー隊員は、瞬く間に迎撃の1発を撃ち放って来る。

 その弾頭はアサルトスパルタンが撃った砲弾と激突し、苛烈な爆発を引き起こしていた。先に撃ったのはアサルトスパルタンの方だが、弾頭はグールベレー側の方が遥かに速い。そのため、より強い衝撃を浴びせられたのは――アサルトスパルタンの方だった。

 

「ぐわぁあぁあッ!」

 

 爆炎に飲み込まれ、バズーカを手放しながら吹き飛ばされて行くアサルトスパルタン。戦う前からすでに満身創痍だった彼の鎧はさらに深く傷付き、もはや戦闘機能を維持していること自体が奇跡と言える状態となっていた。仰向けに倒れた彼を冷たく見下ろすグールベレー隊員は、不遜に鼻を鳴らしてとどめを刺そうとしている。

 

「ぐ、うぅッ……!」

「ふん、手こずらせおって。……最期の情けだ、神に祈る時間くらいはくれてやる。祈りが届けば、願いを叶えてくれるかも知れんぞ?」

「……へっ。それじゃあ、お言葉に甘えて祈らせて貰おうか。てめぇがさっさとくたばりますように、ってよ」

「最期まで……口の減らない男よッ!」

 

 どれほど追い詰められても悪態が止まないアサルトスパルタン。そんな彼を今度こそ完全に黙らせるべく、グールベレー隊員はナイフを引き抜き、彼の喉首にその刃を突き立てようとする。まさしく、絶体絶命であった。

 

「……!?」

 

 その時、アサルトスパルタンの視界に人影が映り込む。グールベレー隊員の背後――教会の鐘がある高台。そこによじ登ろうとしていた1人の少年兵が、アサルトスパルタンの目に留まったのだ。

 

(あいつ……確かこの下に居た、上杉とかいう外人部隊の……!?)

 

 その少年兵の正体は、この教会の中に居た上杉蛮児。彼はアサルトスパルタンを救うため、無謀を承知でここまで登って来ていたのだ。さらにその手には、アサルトスパルタンが先ほど手放したバズーカが握られている。

 

 改造人間に対抗するために開発された、スパルタン用の特製バズーカ。それを生身の人間が使おうものなら、どれほどの「反動」が襲い掛かって来るか。並の人間なら、容易く想像が付くことだろう。

 

 だが、上杉蛮児という男にその常識は通用しない。並の人間を遥かに上回る体力を持ち、なおかつ並の人間よりも遥かに馬鹿な彼は、「アサルトスパルタンを救う」ことしか頭にないのだから。

 

「喰ッ、らえぇえぇーッ!」

「なっ……!? ぐぉあぁあぁあッ!?」

 

 スパルタン用のバズーカを軽々と構えた彼は、そのままグールベレー隊員の背に弾頭を直撃させてしまう。生身の人間が外骨格ありきの武装を使う事態など想定外だったのだろう。予期せぬ攻撃を背に受けたグールベレー隊員はナイフを落とし、背中を押さえてのたうち回る。

 

「ごへぇっ!?」

 

 一方、あまりの「反動」に吹き飛ばされた蛮児は教会の鐘に頭をぶつけてしまい、盛大な音色をこの空に響かせていた。そして、そのまま目を回して昏倒してしまう。

 

「ふ、ふへへ……ざまぁ、みやがれぇ……!」

「あのガキ、無茶しやがって……! 外骨格も着ないでスパルタン用のバズーカを撃つなんて、死ぬ気かよッ……!」

 

 その様子を見届けたアサルトスパルタンは彼の身を案じながらも、最後の力を振り絞って立ち上がって行く。こうなってしまったからには、恐らく彼もグールベレー隊員のターゲットにされてしまっただろう。彼に危害が及ぶ前に、勝負を付けなければならない。

 

「ぬぁああッ……! と、取るに足らん兵卒の小僧にこの俺がぁあッ……!」

「……だが、悪くない働きだぜ新兵(ルーキー)。いや……上杉蛮児1等兵ッ!」

 

 背中の肉を抉られながらも、何とか体勢を立て直したグールベレー隊員。彼は憎悪に満ちた眼で蛮児を睨み付け、気絶している少年兵に引導を渡そうとしていた。

 アサルトスパルタンは、その「隙」を決して見逃さない。蛮児を救うべく、この戦いに決着を付けるべく。グールベレー隊員が落としたナイフを拾い上げ、一気に飛び掛かった。

 

「ぬぐぅうぅッ!? こ、このくたばり損ないがッ……!」

「生憎だが、マルコシアン隊はそんな馬鹿ばっかりなんでねッ……!」

「ぐぅううぅッ……!」

 

 グールベレー隊員を仰向けに押し倒し、馬乗りの体勢に持ち込んだアサルトスパルタンは、逆手持ちのナイフをグールベレー隊員の胸板に突き立てようとする。対するグールベレー隊員も彼の腕を掴み、刺突を阻止しようとしていた。

 

 両手でナイフを握り締めるアサルトスパルタンは、全力で体重を乗せて刃を突き込もうとする。その構えは奇しくも、神に祈る信徒のようであった。

 しかし単純な膂力は、グールベレー隊員の方が遥かに上。アサルトスパルタンの奮戦虚しく、ナイフを握る腕は徐々に押し返されようとしていた。

 

(……く、ふふっ、やはり所詮は人間共が拵えた急造機……! この程度の膂力、俺の腕力なら簡単に押し除けられるわ……! どこまで行っても貴様達人間は、俺達の領域には決して届かぬということよッ……!?)

 

 だが。グールベレー隊員が勝利を確信した、その時。彼が背中を預けている屋上の一部に亀裂が走り、崩れ落ちようとしていた。

 2度に渡る弾頭の爆発が影響しているのだろう。まるでグールベレー隊員を地獄に堕とそうとするかのように、屋根が崩れ始めて行く。

 

「ぬッ……うぅッ!? や、屋根が崩れッ……!?」

「どうやら……『天罰』が降る時が来たようだぜッ!」

「なんだと……!?」

 

 その事態を察したアサルトスパルタンは仮面の下で不敵な笑みを浮かべ、その場から飛び退いて行く。そんな彼を追い掛けようと、グールベレー隊員も身を起こすのだが――彼が立ち上がるよりも先に、屋根の一部が完全に崩壊してしまった。

 

「うぐぉおおぉおッ!?」

 

 まるで、地獄へと続く落とし穴のようであった。べキリ、という鈍い音と共に屋根の一部が崩れ、グールベレー隊員の身体が墜落して行く。

 無論彼は、教会の高さから落ちたというだけで死に至るような、柔な改造人間ではない。だが彼が落ちた先は、教会内に聳え立つ巨大な十字架の真上(・・)であった。その先端は槍のように鋭利だ。

 

(十字架の先端……!? い、いや大丈夫だ! 強固な外皮を持つこの俺の肉体が、あんなものに貫かれるはずがッ――!)

 

 彼自身が考える通り。「強固な外皮」を有している彼の肉体ならば、十字架の先端程度で貫かれることなどない。十字架の方がへし折れてしまうだろう。

 

 だが、それは彼の肉体が――彼の背中(・・)が、「外皮」を維持していればの話。対改造人間用バズーカで背中を撃たれ、外皮どころか肉まで吹き飛ばされている今の彼では、十字架の先端程度(・・)にも耐えられない。

 

「がぁ、はッ……!? こ、こんなッ……馬鹿なぁあッ……!」

 

 ヒトであることを捨て、ヒトの理から外れた愚かな怪物。その肉体は地獄に落ち、十字架によって容赦なく貫かれてしまう。

 背中から十字架の先端に墜落し、刺し貫かれてしまったグールベレー隊員。彼は人間兵器である自分が、兵器ですらない存在によって倒された事実に驚愕しながら、絶命して行く。

 

 その瞬間を目の当たりにした避難民達は、グールベレーの戦闘員が「神の裁き」を受けている光景に、ただただ圧倒されるばかりとなっていた。幸い、出入り口の前に集まっていた彼らは屋根の崩落に巻き込まれずに済んでいたらしい。

 

「……てめぇの言う通りだったな。今日の神様は気前がいい」

 

 一方。グールベレー隊員の「最期」を屋上から見下ろしていた、アサルトスパルタンことガルスは、仮面を外して神妙な表情を浮かべていた。力に溺れた改造人間を憐れむ彼は独り、愛用の煙草を燻らせる。そこから立ち昇る煙はまるで、天に旅立つ霊魂のように空の彼方を目指していた。

 




 今回はアサルトスパルタン回。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 教会ステージといえばクライマックスヒーローズ。昭和ライダーが実装されてからは2号やシャドームーンばっかり使い込んでたなぁ……(*´꒳`*)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第9話

◆今話の登場ライダーと登場人物

◆カイン・アッシュ/仮面ライダーSPR-18スザクスパルタン
 「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍少尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。一見明るくフレンドリーな好青年のようだが、自身が認めた仲間達以外に対しては非常に冷酷。彼が装着するスザクスパルタンは、背部に装備している羽根型の武装「ブリューナク」による高速機動を実現している機体であり、専用ライフル型変形武装「クラウソラス」が特徴となっている。当時の年齢は23歳。
 ※原案は八坂志貴先生。

武田禍継(たけだまがつぐ)
 北欧某国陸軍の外人部隊に所属していた2等兵。明智天峯や上杉蛮児と同じく不条理な差別に遭い、上官からの無謀な抗戦命令によりエンデバーランド市内に留まっていた。当時の年齢は18歳。



 

 瞬く間にエンデバーランドを火の海に変えたシェードの猛攻は、多くの人々に避難する暇すら与えなかった。そのため現在も、都市の各地では逃げ遅れた人々が身を寄せ合っている。

 市内の総合病院が抱えていた患者達も例外ではない。侵攻が起こる前から入院していた彼らは、避難はおろか事態の把握すら間に合わず、戦火の中に取り残されてしまったのだ。

 

 そんな無力な人々にさえ、シェードの上級戦闘員は容赦なく牙を剥く。その非道に怒りを燃やす若き少年兵は、大勢の仲間達を惨殺されながらも決して怯むことなく、小銃を構え続けていた。

 

「……シェードの外道共がッ! ここは病院なんだぞ……! 貴様達は人間の身体はおろか、心まで捨てたというのかッ!」

 

 少年兵こと武田禍継(たけだまがつぐ)の怒号が天を衝く。病院の入り口を背にして銃を構える彼は、ここから先は一歩も通さぬと言わんばかりの気迫を放っていた。そんな彼を冷たく睨むグールベレー隊員は、事切れた兵士の死体を投げ捨てながら静かに口を開く。

 

「物事の正邪は常に強者が決めるものだ。貴様達が『外道』と呼ぶ我々シェードがこの地球の覇者となれば、それこそが『王道』となる。無駄な足掻きなど止め、地獄の果てでその行く末を見届けるが良い」

 

 翼型の飛行ユニットを背部に装備している、暗赤色のベレー帽を被った屈強な戦闘員。彼は手にした専用のライフルを禍継の眉間に向け、容赦なく引き金を引く。乾いた銃声が、この一帯に響き渡った。

 

「……ッ!?」

 

 だが、グールベレー隊員の凶弾が少年兵に届くことはない。その瞬間に飛び込んで来たスパルタンの戦士が、己の身を盾にして禍継を守り抜いたのだ。

 

 2枚の翼のようにはためいている、思念操作式武装「ブリューナク」。その飛行ユニットを背部に装備しているスパルタンシリーズ第18号機――「SPR-18スザクスパルタン」は、すでに満身創痍となっている。だが、その仮面の下に隠された鋭い双眸は今もなお、倒すべき「敵」に対する殺意に満ちている。

 

 黒と白を基調とするそのボディは「仮面ライダーデルタ」を想起させるカラーリングだが、全体のシルエットは「仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム」に近しい。さらに頭部の装甲は、「仮面ライダーカリバー」を彷彿させる形状だ。その手に握られた専用ライフル型変形武装「クラウソラス」は、戦火に照らされ妖しい輝きを放っている。

 

「……地球の覇者ぁ? 今時そんなセリフ、アクション映画の悪役でもなかなか口にしないってのに。シェードの脳改造ってのは、現実とフィクションの区別も付かなくなるらしいな」

 

 その外骨格――スザクスパルタンを纏う美男子ことカイン・アッシュ少尉は、傷だらけの身を引き摺りながらもグールベレー隊員を冷たく嘲笑する。すでに一度、目の前の改造人間に叩きのめされている彼だが、その眼光には恐れなど微塵も無い。

 まだ勝負は終わっていない。第2ラウンドはこれからだ。そう言わんばかりに立ちはだかるスザクスパルタンを前に、グールベレー隊員は忌々しげに口元を歪めている。そんな彼の表情を目にしたカインも、仮面の下でにやりと口角を吊り上げていた。

 

「……まだくたばっていなかったか、羽根付きの鉄屑。ならば今度こそ、地獄の底に叩き落としてくれるッ!」

「病院ではお静かに……って注意書きが読めないのか? ハッ、学の無い野郎だッ!」

 

 背部のブリューナクを展開したスザクスパルタンがクラウソラスを構えた瞬間、グールベレー隊員は両翼を広げて彼の頭上を飛び越し、病院内に滑り込む。そんな彼を追い、スザクスパルタンもブリューナクの推力を全開にしていた。

 

「カイン少尉ッ!」

「武田2等兵、今までよく頑張った! 患者達のことは俺に任せなッ!」

 

 禍継の叫びに突き動かされ、瀕死の身でありながらも立ち上がったスザクスパルタン。彼は自分の意識を呼び覚ました勇敢な少年兵に笑いかけながら、ブリューナクの翼を広げてその場から飛び去って行く。病院内の狭い廊下を高速で翔ぶ彼を目にしたグールベレー隊員も、飛行ユニットの速度を上げ始めていた。

 

「任せろ、だと? 随分と威勢の良いことを言っているようだが……何度戦っても同じだ。先ほど貴様を叩きのめした時と、何ら変わらん状況ではないか。考え無しの蛮勇は無能にも劣る大罪と知れ」

 

 病院内を翔びながら自分を追って来るスザクスパルタンに対し、グールベレー隊員がほくそ笑む。実はこの状況は、先ほどスザクスパルタンが叩きのめされた時と全く変わらないシチュエーションなのだ。

 先刻、グールベレー隊員にこの病院内まで逃げ込まれたスザクスパルタンは、患者達を巻き込みかねないことから撃ち返すことが出来ず、一方的に叩きのめされてしまっていた。その時を「再現」してやろうと嗤うグールベレー隊員は飛行しながら振り返り、専用ライフルを構えようとする。

 

「……好きなだけ吠えてな。ただし、心優しい俺から一つ忠告しておいてやる。これがさっきと同じシチュエーションだと思ってると、痛い目に遭うぜ?」

「……ふん、減らず口だけは一丁前だな。道化め」

 

 だが、敢えて(・・・)同じ状況に飛び込んだスザクスパルタンはグールベレー隊員を睨み、冷たく笑っていた。その得体の知れない「余裕」に眉を顰めつつも、グールベレー隊員は静かに照準を覗き込む。何度も急速にカーブしながら、2人は病院内の廊下を縦横無尽に翔び続けていた。

 

(……いくら大口を叩こうが、高火力の飛び道具が持ち味の奴では手も足も出せまい。こんなところで「本気」を出せば、すでに半死半生の患者達は確実に流れ弾で死ぬ。俺がこの病院から離れない限り、奴には万に一つも勝ち目は無い)

 

 入院している患者達はほとんど自力では身動きが取れない。無論、そんな状態の人間がこの戦闘に巻き込まれたらひとたまりもないだろう。つまりグールベレー隊員がこの病院を戦場にしている限り、スザクスパルタンは患者達全員を人質に取られているも同然なのだ。

 

 強化されたグールベレー隊員の肉体すら貫通し得るクラウソラスの火力は、確かに脅威だ。しかしその火力も、発揮出来なければ意味はない。そしてスザクスパルタンに、この状況で発砲する覚悟などあるはずがないと、グールベレー隊員は見誤る(・・・)

 

(いくら俺の肉体を穿てるほどの火力であろうと、撃てなければ宝の持ち腐れ。さぁ、撃てるものなら撃ってみろ。俺を脅すためのつまらん挑発行為で、守るべき民間人を犠牲に出来るのならな。どうせ貴様はどれだけ大口を叩こうと――)

 

「――撃って来れない、とでも思ったか?」

 

 グールベレー隊員が引き金に指を掛けた瞬間。スザクスパルタンもクラウソラスの銃口を彼に向ける。その銃身は、より多くの「手数」で相手を攻め立てる「ガトリングモード」に変形していた。

 

「……なにィッ!?」

 

 よりにもよって、周囲への被害を最も度外視している形態。その銃身の形状にグールベレー隊員が驚愕した瞬間――クラウソラスの銃口が容赦なく火を噴き始めていた。

 

(馬鹿な、撃って来ただと!? この狭い病院内で! 奴め、ついになりふり構わなくなったか! 患者達のことは任せろ、などと部下に言っておきながら結局はこんなもの……! やはり奴も惰弱な人間よッ!)

 

 豪雨の如き弾丸の嵐。その猛攻に晒されたグールベレー隊員は平静を乱されながらも、不規則に飛び回り紙一重で弾丸をかわし続ける。しかし完全に避け切ることは出来ておらず、被弾した飛行ユニットからは黒煙が漏れ始めていた。

 

「うぐぅうぅッ……!?」

「撃てちゃうんだよなぁ、これがぁあッ!」

 

 狭い廊下の中では、ガトリングの掃射を避け切ることなど不可能。だが、患者達の安全を顧みるならそんな乱暴な手段など取れるはずがない。その目論見が破綻したグールベレー隊員を嘲笑いながら、スザクスパルタンは敵の背中目掛けて矢継ぎ早に銃弾の雨を叩き込んで行く。

 

(……どういうことだ。奴がこれほど苛烈な弾幕を張っているというのに、患者達の悲鳴も断末魔も聞こえて来ない……! まさか、この男……!?)

 

 一方。完全に意表を突かれたグールベレー隊員は、被弾箇所が増えて行く状況に焦燥を覚えながらも、しきりに辺りを見渡していた。巻き添えも厭わぬ凶行だというのに、周囲からはそれを感じさせる悲鳴が全く聞こえて来ないのだ。

 

 それが意味するものにグールベレー隊員が気付いた瞬間、スザクスパルタンことカインが仮面の下でふっと笑う。彼はクラウソラスを構えながら、指先で自身の頭をコンコンと叩いていた。

 

「……『仲間』のことを覚えておくのは得意でね。この病院内のどこに患者が何人居るか……そしてどの位置と角度なら、派手にブッ放しても射線に一切巻き込まないか。もう全部、(ここ)に叩き込んであるのさ」

「なん、だと……!?」

 

 病院の構造。患者達の位置。座標。その全てを先ほどの「第1ラウンド」の中で記憶していた彼は、クラウソラスの火力が及ぶ範囲を理解した上で発砲していたのだ。自身の武器の威力も、周囲の状況も熟知したからこその「凶行」だったのである。

 

(……奴は今まで、「撃てなかった」のではない……! 敢えて「撃たなかった」のだ……! 何も出来ずにただ翔んでいるだけであるかのように見せ掛けながら、施設内の全域を脳内に完全記憶(マッピング)するために……!)

 

 患者達の度外視など、とんでもない。むしろ患者達を守りながら確実にグールベレー隊員を仕留めるために、スザクスパルタンはこの瞬間を待っていたのだ。

 

「ふふっ、なるほど……! やるではないか、人間の分際でぇッ!」

 

 1発の火力に秀でた「マグナムモード」に変形したクラウソラスが、さらに勢いよく火を噴く。その一閃を辛うじてかわしたグールベレー隊員は、不敵な笑みを浮かべて体勢を切り返し、自身の専用ライフルを刀剣型に変形させていた。

 そして、飛行ユニットの推力を使い尽くす勢いで、スザクスパルタン目掛けて一気に突進し始める。スザクスパルタンことカインを、命を賭けて斃すに値する好敵手(ライバル)と認めた彼は、人質作戦という小細工を捨てて真っ向勝負に打って出たのだ。

 

「ハッ、いつまで上から目線でモノ言ってやがんだ? 病院まるごと人質にしなきゃあ、俺を半殺しにも出来なかったようなクズがよぉおぉッ!」

 

 無論、スザクスパルタンとしてもこの一騎打ちに応えないわけには行かない。彼はクラウソラスを刀剣型の「大剣モード」に変形させ、ブリューナクの推力を全開にする。互いに飛行ユニットの翼を広げた戦士達は、最高速度に達しながらすれ違いざまに刃を振るった。

 

「ぐぅッ、おあぁあッ……!」

「……考え無しの蛮勇は無能にも劣る大罪、だったか? それじゃあ、その『罪』に相応しい『罰』をくれてやらなきゃな」

 

 この一閃を制したのは、スザクスパルタンだった。大剣モードのクラウソラスに斬り裂かれたグールベレー隊員の身体が力無く墜落し、廊下の床を削りながら減速して行く。

 ガトリングモードの連射を浴び続けたことで、飛行ユニットを損傷していたグールベレー隊員の方が、僅かに安定性を欠いていた。その紙一重の差が、明暗を分けたのだ。

 

「……ぬぅああぁああッ!」

 

 無論、このままでは終わらない。グールベレー隊員は血みどろになりながらも立ち上がり、刀剣型の専用ライフルを構えて猛進して来る。

 そんな彼に「とどめ」を刺すべく、スザクスパルタンは両脚にエネルギーを集中させて行く。地を蹴って飛び上がった彼の両脚は、白い電光を帯びていた。

 

「はぁあぁあぁああッ!」

「うぐぉおあ、あぁああーッ!」

 

 空中で身体を捻り、何度も回転しながら繰り出す必殺のキック「サガ・スピノル」。突き出されたその両脚を胸に受けたグールベレー隊員は、断末魔の雄叫びを上げて吹き飛ばされてしまうのだった。事切れた彼の骸は病院の壁を突き破り、敷地の外へと墜落して行く。

 

「か、勝った……! カイン少尉が、勝ったんだ……!」

 

 その光景を病院の外から目撃していた禍継は、両手を震わせて歓喜する。仲間達の骸を抱く彼の頬に、感涙の雫が伝っていた。無謀な任務に身を投じて来た自分達の戦いは、「無駄な足掻き」などではなかったのだと、ようやく実感出来たのだ。

 

 一方、キックを終えて着地したスザクスパルタン――カインは仮面を外し、見目麗しい素顔を露わにする。壁に開けた穴から病院の外へと降り立ち、1本の葉巻を取り出した彼は一息つくように煙を立ち昇らせていた。

 

「……貴様らシェードが何を抜かそうが、何を為そうが。『外道』はどこまで行っても……『王道』になんてなれはしねぇさ」

 

 大の字に倒れ伏しているグールベレー隊員。その骸を冷たく見下ろしながら葉巻を燻らせるカインの眼は、どこまでも冷たい。

 人の身も心も捨てた怪物には、その死を悼む者さえ居ない。そんな冷酷な事実を突き付けるかのように、彼は骸に背を向ける。まだ、この戦いは続いているのだから――。

 

 ◆

 

 ――同時刻、シェード強襲部隊の前線指揮所。その「本拠地」に独り残っている指揮官の男は、指揮所のテント内で戦局の推移を「観察」していた。

 

 椅子に腰掛け長い脚を組み、紅茶を嗜みながらレーダーの動きを見つめている黒スーツの男。彼は直属の配下であるグールベレーの動向を神妙に静観している。

 鋭く眼を細める彼の目前では、レーダー内の光点が次々と消失していた。それはグールベレー隊員達の「戦死」を意味する現象であった。指揮官の男はその光景を前に、深々とため息を吐く。

 

「……デルタマンめ。圧倒的な優位に立っていながら、格下相手に翻弄された挙句……この始末か。あの木偶の坊をグールベレーに招いたのは失敗だったようだな」

 

 スザクスパルタンに倒された隊員――「デルタマン」の死を悟った指揮官の男は、低くくぐもった声で部下の失態を嘆いている。マルコシアン隊との戦いで戦死したグールベレー隊員は、これで4人目。本来ならば、万に一つもあり得ない数字だ。

 

(いや……デルタマンだけの問題ではない。高周波双刃刀(ヴァイブロダブルブレード)のアルファマン、超加速スラスターのベータマン、高出力マイクロウェーブガンのガンママン。いずれもグールベレーの中では、下から数えた方が早い雑魚ばかりではあったが……それでも、陸軍の産物(スパルタン)にここまでしてやられるとはな)

 

 部隊の中(・・・・)では最下層(ワースト)に位置する弱卒とはいえ、敗れた隊員達も並の幹部怪人を遥かに凌ぐ実力者だったのだ。その隊員達がこうも次々と、短時間のうちに倒されている。

 

 人間を超えた「兵器」そのものである改造人間。その中でも「精鋭」とされているはずのグールベレー隊員が、鎧を着ただけの生身の人間に過ぎない未熟な鉄屑(スパルタン)に連敗しているのだ。これは、改造人間という概念の存在意義(アイデンティティ)にすら関わる由々しき事態であった。

 

(グールベレーの中でも上位に位置する「真の精鋭達」は、まだ何人も残っている。だが万一、これ以上の被害が出るようなことになれば……今回の侵攻作戦を完遂出来たとしても、「あの方々」の怒りを買う事態にもなりかねんな)

 

 このままでは、戦果を期待している上司達――シェードの創設メンバーだという「あの方々」の不興を買ってしまう。いや、間違いなくそれどころでは済まされないだろう。最悪、責任者に対する「極刑」もあり得る。

 表情こそ平静を保ってはいるが、その内面にはグールベレーの不甲斐なさに対する憤怒の色が滲み始めていた。特に、元マルコシアン隊でもあるランバルツァーに対する不信感は、より根強くなっている。

 

(……隊長。まさかとは思うが、あの「切り札」を……「ブリアレオス」を発動するようなことにはなるまいな……?)

 

 紅茶を飲み終えた直後。空になったティーカップを握り砕いた指揮官の男は、デスクに置かれていたボルサリーノハットを被りながら立ち上がり、テントの外へと歩み出す。

 

 追い詰められたグールベレーが「切り札」を解禁する可能性だけではない。彼らが敗北し、指揮官である自らが直々に動かねばならない事態も想定せねばならなくなったのだ。

 

「……楽しませてくれるではないか、人間共め」

 

 人ならざる面妖な顔を持つ指揮官の男は、剣呑な面持ちで暗雲の空を睨む。そんな彼の背後では、再びレーダー内の光点が消失しようとしていた――。

 





 今回はスザクスパルタン回。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 スザクスパルタンの元ネタの一つがフェネクスということでしたので、ナラティブネタをひとつまみ。撃っちゃうんだなぁこれが!(*⁰▿⁰*)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第10話

◆今話の登場ライダー

◆リーナ・ブローニング/仮面ライダーSPR-13アサシネイトスパルタン
 「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍少尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。元欧州最速のスプリンターであり、家族や友人達、恋人の仇を討つために軍に入った過去を持つ。かつては明るい性格だったが、今は口数も少なく、笑顔を見せることもない鉄の女となっている。彼女が装着するアサシネイトスパルタンは、手足に装備された強力な電磁石で壁や天井に張り付き縦横無尽に駆け回る暗殺特化の機体であり、強化された脚部が特徴となっている。当時の年齢は19歳。
 身長は168cm、体重53kg。スリーサイズはバスト93cm、ウエスト58cm、ヒップ89cm。推定カップサイズはG。
 ※原案はカイン大佐先生。



 

 スザクスパルタンが戦っていた総合病院からさらに遠く離れている、エンデバーランド市内の美術館。その施設内に生存している(・・・・・・)人々の姿はほとんど無く、荘厳な姿の彫像をはじめとする美術品の数々が残置されている静寂の空間となっていた。

 

 照明の多くが破壊されているこの美術館内には、明かりも僅かしか残っていない。明滅を繰り返す微かな光明に照らされている館内の通路は、不気味な静けさに包まれている。

 

 勇ましい表情の女戦士を表現した彫像の勇姿も、この空間の中では見た者の恐怖を煽る無機質さに満ちていた。剣を構えた姿勢で造られていた彫像の手からは石の剣が滑り落ちており、何も持たぬ女戦士の像がその場に佇んでいる。

 

 ――そんな中。この薄気味悪い暗闇の中で、幾つもの彫像達の物陰に身を隠す1人の戦乙女が居た。

 美しい素顔を鉄仮面に隠している彼女の名は、リーナ・ブローニング少尉。暗殺及び隠密活動に特化した、スパルタンシリーズ第13号機――「SPR-13アサシネイトスパルタン」の運用を任されている、「地獄の第4基地」出身の新任少尉だ。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……!」

 

 息を荒げる彼女は自分を狙う「敵」の姿を探すように、しきりに辺りを見渡している。その弾みで、最小限(・・・)の外骨格を押し上げる豊満な乳房がぶるんっと大きく揺れ動いていた。

 

 「仮面ライダーギルス」を想起させる外観でありつつも、その漆黒の外殻は無機質な機械であることを強調したディテールとなっている。細く引き締まった腰部に装着された4本の鞘は、対改造人間用の高周波ナイフを仕込むためのものであり、それとは別に高電圧の鉄鞭も装備されていた。

 

 闇に紛れ、相手の不意を突き、仕留める。そのための装備だけを揃えつつも装甲を最小限にまで切り詰め、「当たらなければ問題無い」という認識の元で開発されたスーツなのだ。唯一重点的に強化されている脚部に、その意向が現れている。

 

 そして――そのような設計であるが故に。極限まで装甲を削ぎ落として「軽量化」されている彼女の外骨格には、装着者であるリーナの肉体にぴっちりと「密着」する仕様の強化繊維が使用されているのだ。

 

 かつては最速のスプリンターと謳われた彼女の肉体は、ウエストこそ細く引き締まっているのだが。58cmというくびれた腰つきに対し、安産型のラインを描いた89cmの桃尻と――推定Gカップの巨乳は、豊満な実りをこれでもかと主張している。極薄の強化繊維は、その蠱惑的な肉体の曲線をくっきりと浮き上がらせていた。

 

(んぅっ……もうっ、また大きく(・・・)なってる……! このスーツ、ほんとに私の身体に合わせてるんでしょうね……!?)

 

 最後に測った時には93cmを記録していた彼女の乳房だが、恐らくさらに「成長」しているのだろう。むっちりと実った瑞々しい巨乳と、出産に適した曲線を描く蠱惑的な桃尻。その2箇所の圧迫感に眉を顰めながらも、リーナは鋭い眼差しで周囲を観察していた。

 

 第4基地の荒くれ者達も思わず喉を鳴らした極上の肉体。その豊満な肢体は、隙間なく柔肌に密着している強化繊維を内側から容赦なく押し上げ、抜群のプロポーションを露わにしているのだ。

 自分のタイムが落ちた元凶である、たわわに実った釣鐘型の果実。そのずっしりとした張りのある重量感を疎ましく思いながらも、リーナことアサシネイトスパルタンは鋭い眼光で辺りを見渡し、「敵」の気配を探っていた。

 

(それにしても……さすがは改造人間、その中でも上位の連中、ってところかしら……! まさかこの私が、ここまで追い詰められるなんて……!)

 

 この美術館の中で彼女が対峙している、グールベレーの刺客。その上級戦闘員が装備していた武器はいずれも、アサシネイトスパルタンのものを遥かに上回る性能を持っていたのだ。加えて、本人の格闘能力もリーナを遥かに凌いでいる。

 

 ほぼ全てにおいて「上位互換」である強敵を前に、防御力が貧弱である彼女は身を隠しながら隙を窺うしかない状況となっていたのだ。しかし隠密行動においても敵の方が上手なのか、アサシネイトスパルタンは未だにグールベレー隊員の姿を見つけられずにいる。

 

「……!」

 

 ――だが。敵方はすでに、彼女の正確な位置を捕捉していた。アサシネイトスパルタンがハッと顔を上げた瞬間、弧を描くように振り抜かれた高電圧鉄鞭が襲い掛かって来る。

 

 咄嗟にその場から飛び退いた彼女は両脚の電磁石で壁に張り付き、そのまま天井へと駆け登って距離を取ろうとする。よもや地面ではなく、壁を走っているとは相手も思わないだろう。

 

「……ッ!?」

 

 だが、壁に両脚を付けている彼女の動きまで見えているのか、敵の鞭はそのまましなるように追い掛けて来た。その光景にアサシネイトスパルタンが瞠目する瞬間、グールベレー隊員の嘲笑うような声が響いて来る。

 

「ふっ……隠密特化の機体が標的を見失うとは、所詮三流の産物だな。俺の目には見えずとも、貴様の動きは手に取るように分かるぞ。その外骨格の『熱源』が、貴様の居場所を教えてくれているからなッ!」

「何ですって……!?」

 

 すでに位置は見抜いている。その事実を突き付けるかのように、壁を走るアサシネイトスパルタンを睨み上げていたグールベレー隊員は、鉄鞭を握る手を真横に振り抜いていた。

 

「くぅッ……!?」

 

 その動きに追従するかのように、高電圧の鉄鞭が鋭くしなり、アサシネイトスパルタンに襲い掛かる。無論、彼女の貧弱な装甲でまともに喰らえばひとたまりもない威力だ。

 アサシネイトスパルタンは咄嗟に壁を蹴り、宙返りで鉄鞭をかわす。くの字に大きく仰け反った彼女の豊満な乳房が、上下にぶるんっと弾んでいた。そして軽やかに地面に着地する瞬間、その弾みで乳房と桃尻がばるんっと躍動する。

 

(間違いない……! 奴は肉眼で私を視認出来なくても、私の外骨格(スパルタン)の「熱源」を探知する能力を持っている! これじゃあ、いくら身を隠してもッ……!)

 

 アサシネイトスパルタンの推測通り、グールベレー隊員の眼には標的の「熱源」を探知する機能が搭載されている。これではいくら暗闇に身を隠しても、すぐに発見されてしまうだろう。

 焦燥と消耗で息を荒げる彼女の肢体が、強化繊維の下でしとどに汗ばむ。身体に完全にフィットさせるため、下着を一切身に付けていない状態(ノーパン&ノーブラ)である彼女の裸身は、若く瑞々しい女のフェロモンをスーツの下で濃厚に熟成させていた。

 

 だが、どれほど追い詰められようと彼女もマルコシアン隊の一員。彼女はこの危機的状況の中であっても戦意を折られることなく、その双眸を鋭く研ぎ澄ませていた。そんなアサシネイトスパルタンの姿に、グールベレー隊員は眉を顰めている。

 

「はぁ、んはぁっ……!」

「……ふん、気に入らんな。これほど力の差を見せられても、まだそんな眼をしているのか。こういう往生際の悪い兵士ほど、下手に見逃せば厄介な死兵と化す。貴様のような奴は、早々に始末せねばならんッ!」

 

 この状況でもなお折れないアサシネイトスパルタン。そんな彼女に業を煮やしたグールベレー隊員は、とどめの一撃で彼女を葬ろうと鉄鞭を振るう。

 だが、乳房と桃尻をばるんっと揺らして跳び上がったアサシネイトスパルタンは、2本の高周波ナイフを投げ付けながら闇の彼方に飛び込み、行方を眩ましてしまった。

 

「むッ……!?」

「……死兵? 私達に勝ち目なんてない、とでも言いたげね。死ぬのはあんた達の方よ、シェードの改造人間ッ!」

 

 高周波ナイフの投擲を紙一重でかわすグールベレー隊員に対し、アサシネイトスパルタンは勇ましく吼えながら姿を消してしまう。そんな彼女の背中と巨尻を見失ったグールベレー隊員は、不遜に鼻を鳴らしながら己の「眼」で再び彼女を捉えようとしていた。

 

「……また闇に紛れたか、無駄なことを。俺の高電圧鉄鞭は貴様のモノより遥かに威力は上。対して貴様の軟弱な装甲では、一度でもまともに受ければ即死は免れない。加えて、俊敏性も俺の方が上回っている。貴様の外骨格(スパルタン)が最も得意としているであろう一撃離脱戦法も、この俺には通じん。つまり、速さでも攻撃力でも防御力でも俺に劣る貴様には、万に一つも勝ち目はない……ということだ」

 

 何度姿を消そうとも、アサシネイトスパルタンの外骨格が発する「熱源」を辿れば、彼女の位置は即座に探知出来るのだ。グールベレー隊員にとっては、彼女の奮闘など無駄な悪足掻きでしかないのである。

 

「そして……何度姿を消そうとも。貴様が外骨格無しでは戦えぬ『人間』である限り、ヒトを超えた改造人間たる我々を超えることなど不可能なのだよッ!」

 

 彼がアサシネイトスパルタンの位置を捉えたのは、それから間も無くのことであった。勇ましい姿の彫像達が並んでいる場所。そこに彼女が居ると睨んだグールベレー隊員は、振り向きざまに鉄鞭を振るう。

 

「……捉えたァッ!」

 

 装甲の薄い外骨格など容易く貫通し、装着者を一瞬で丸焦げにしてしまう威力の高電圧。そのエネルギーを帯びた鉄鞭が、ついにアサシネイトスパルタンの腕に巻き付いた。姿こそ暗くて見えないが、確かにその「手応え」がある。

 

「ハハハッ! 俺の勝ちだぞ鉄屑め、黒焦げになるが良いッ!」

 

 自身の勝利を確信したグールベレー隊員の嘲笑が、暗黒に包まれた美術館内に響き渡る。アサシネイトスパルタン――その装着者に終焉を齎す、必殺の電撃。その凄絶なエネルギーが、彼の鉄鞭から流し込まれようとしていた。

 





 今回はアサシネイトスパルタン回……の前編。お色気描写を盛りまくってたらちょっとだけ長めになっちゃいましたので、彼女のお話は次回にも続きます!(>人<;)

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 多分第4基地に来たばかりの頃はリーナが1番セクハラされてたし、リーナが1番そいつらをボコボコにしていたのでしょう……(ノД`)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第11話

 

「ハハハッ! 俺の勝ちだぞ鉄屑め、黒焦げになるが良いッ!」

 

 美術館内で繰り広げられている、アサシネイトスパルタンとグールベレー隊員の激闘。その渦中でアサシネイトスパルタンの「熱源」を捉えたグールベレー隊員は、敵方の腕に自身の高電圧鉄鞭を絡み付けていた。

 

 ただでさえ装甲が貧弱なアサシネイトスパルタンでは、この鉄鞭の電撃から装着者を守り切ることなど不可能。鞭から迸る電流は瞬く間にスーツを貫通し、装着者であるリーナを黒焦げにしてしまうだろう。この時点で、グールベレー隊員の勝利は確定しているも同然だ。

 

「……ぬぅッ!?」

 

 だが、それとほぼ同時に。アサシネイトスパルタンの方から投げ放って来た鉄鞭も、グールベレー隊員の手首に絡み付いて来たのだ。

 次の瞬間、互いの鞭から放たれる高電圧の電流が、双方の全身に襲い掛かって来た。想定外の事態に、グールベレー隊員は瞠目する。

 

「ぬぐぅうぅうッ!? 避けもせず相討ち覚悟とはッ……! やはり往生際の悪い死兵というものは、どこまでも厄介な輩よッ……!」

 

 威力の面でもグールベレー隊員側の方が上であるとはいえ、アサシネイトスパルタン側の鉄鞭もかなりのエネルギーを有しているのだ。鉄鞭を握る手から全身に迸る苛烈な電撃に、グールベレー隊員は苦悶の声を上げる。

 

(……おかしい、なぜ断末魔が聞こえて来ない! そして、なぜ奴はいつまでも電撃鞭を手放さない!?)

 

 その一方で。自身の電撃を浴びていながら攻撃の手を止めないアサシネイトスパルタンに、グールベレー隊員は驚愕の表情を浮かべていた。

 

 こちらの攻撃が先に届いたというのに。攻撃自体の威力もこちらが上だというのに。闇の向こうから鞭を振るって来たアサシネイトスパルタンは、斃れることなく電撃を続行しているのである。

 

 1発でも喰らえば即死しかねないほどの薄い装甲だというのに、なぜ立っていられる。なぜ、まだ死んでいない。なぜ鞭を手放さない。相手のスペックからは想像もつかなかった事態に、グールベレー隊員は激しく動揺していた。

 

(こんなバカなッ……! 奴の薄い装甲なら、とうに装着者は感電死しているはずだッ! 精神が肉体を凌駕したとでも……!? それとも、死してなお鞭を握り続けているのかッ……!?)

 

 例えスーツ自体が戦闘機能を維持しているとしても、その内側の装着者は確実に丸焦げになっているはず。だというのに、彼女からの電撃は今もなお続いているのだ。まるで、命を持たぬ者が彼女の鎧を纏っているかのような、不気味な現象であった。

 

(い、いかんッ……これ以上は……俺の方が、保たんッ!)

 

 何にせよ、このまま電撃の浴びせ合いが続けばこちらの身が持たない。こちらの鞭の方が威力が上とはいえ、向こうの鞭から流れて来る電圧も侮れない火力なのだ。これ以上意地の張り合いを続けていたら、こちらが先に丸焦げにされてしまう。

 

 そう判断したグールベレー隊員は、やむなく鞭を握る手を引き、攻撃を中断してその場から飛び退いて行く。それによって敵方の電撃から解放された彼は、深く息を吐いて体勢を立て直そうとしていた。

 

(……? なんだ、この匂いは……)

 

 すると、その時。グールベレー隊員の鼻腔が不自然な「匂い」を感知する。この美術館には似つかわしくない、蠱惑的でフレグランスな香り。

 

 その芳香が彼の嗅覚を刺激した瞬間――この一帯に鮮血が飛び散る。

 

「がッ……!?」

 

 首筋に走る冷たい激痛。その感覚に瞠目するグールベレー隊員は、足元に滴る自身の血を目の当たりにして、戦慄の表情を浮かべていた。先ほどまで鼻腔を刺激していた甘い香りが、血の匂いで塗り替えられて行く。

 

 背中に押し当てられた柔らかな果実(・・)の感触に意識を割く暇もない。グールベレー隊員の足元に広がる血の池は、ますます広がっていた。そんな彼の背後から、冷酷な囁きが響いて来る。

 

「……改造人間のくせに情け無いわね。散々見下していた人間よりも先に、音を上げるなんて」

 

 その声の主は、リーナ・ブローニング。仮面越しのくぐもった声ではない。素顔を晒している時だからこそ響く艶やかな美声が、グールベレー隊員の聴覚に流れ込んでいた。彼女は闇に紛れてグールベレー隊員の背後に回り込み、3本目の高周波ナイフで仇敵の首を掻き切っていたのである。

 

 白く豊満な乳房をむにゅりと背中に押し当てながら、すらりと伸びるしなやかな美脚で相手の身体に絡み付き、挟み込む。決して逃すまいと、柔肌を擦り付けるように隙間なく密着する。そして何が起きたのかも悟らせぬまま、一瞬のうちに頚動脈を切り裂いたのだ。

 

「き、きさ、まッ……!? 馬鹿な、いつの間にッ……! ぬぅあああッ!」

「ふッ……!」

 

 リーナの囁きを聞かされたことでようやく事態を飲み込んだグールベレー隊員は、首元の傷を抑えながら力任せに彼女を振り解く。その膂力に逆らうことなく、彼の背を蹴って飛び退いたリーナは、軽やかな宙返りを披露していた。

 蝶の如く鮮やかに翔ぶ彼女は再び空中でくの字に仰け反り、乳房と桃尻を弾ませて優雅に着地する。ぷるんっと揺れ動く果実の動きに目を奪われたグールベレー隊員は、リーナの「あられもない姿」に目を剥いた。

 

「な、にィッ……!?」

 

 リーナは、アサシネイトスパルタンの外骨格を纏っていない状態――即ち、全裸(・・)だったのだ。明滅を繰り返す僅かな灯りだけではほとんど見えないが、恐らく今の彼女は一糸纏わぬ姿となっている。

 

 薄暗い空間の中でも微かに見える、透き通るような白い柔肌。サイドテールに纏められた茶色のロングヘア。仮面に隠されていた鋭い双眸。口元の八重歯。この暗さでは僅かしか見えていないが……それは間違いなく、リーナ・ブローニングという女の、「生まれたままの姿」そのものなのだろう。

 

 強化繊維の中に密閉され、熟成されていた甘く濃厚な汗の匂い。彼女の瑞々しい柔肌から分泌されていた、特濃のフェロモン。外骨格から解き放たれたその香りが、グールベレー隊員の鼻腔を擽っていたのだ。

 

(奴が……外骨格を着ていない!? ではまさか、俺が相手にしていたのは……!)

 

 装備を脱いだリーナが背後に回り込んでいた。しかし自分は先ほどまで、確かにアサシネイトスパルタンの位置を捕捉していたはず。それらの状況が意味するものに勘付いたグールベレー隊員は、ハッと顔を上げて振り返る。

 

「……!?」

 

 明滅する灯りが一際強い光を放ち、彼に「タネ」を明かしたのはその直後だった。

 

 グールベレー隊員の眼前に立っていたのは、女戦士の彫像。本来なら石の剣を構えているはずのその像は、アサシネイトスパルタンのスーツを纏い、鉄鞭を握らされていたのである。先ほどまでグールベレー隊員が電撃を浴びせていたのは、この彫像だったのだ。

 

(女戦士の彫像……! まさか奴は俺の探知を欺くために、自分の外骨格を彫像に着せていたのかッ!? 目論見を看破されていたら、完全な無防備になるというのにッ……! なッ、なんという愚かな博打をッ……!)

 

 リーナは先刻、グールベレー隊員の前から姿を消した直後にアサシネイトスパルタンのスーツを脱ぎ、女戦士の彫像に自身の外骨格を装着させていた。スーツの熱源を探知出来る相手の能力を逆手に取り、彫像と外骨格を(デコイ)に使っていたのである。

 

 そして鉄鞭を振りながら、その柄を彫像の手に握らせていたのだ。本来、女戦士の彫像は石の剣を持っている姿勢で造られていた。その剣だけが脱落している状態だったため、そこに鉄鞭の柄を差し込み、持たせることが出来ていたのである。

 

 その隙に自身は高周波ナイフを手に、グールベレー隊員の背後に忍び込んでいたのだ。欧州最速のスプリンターと謳われた彼女の俊敏性があってこその作戦だったのだろう。だが、危険な賭けだったことに変わりはない。

 グールベレー隊員はリーナを見失っても、すぐにアサシネイトスパルタンの熱源を感知し、電撃鞭を振るって来ていた。もしこの作戦が間一髪間に合っていなければ、リーナ自身も彫像もろとも電撃を浴び、即死していただろう。鞭を持たせたリーナが彫像から手を離す瞬間に、敵側の電撃が始まっていたのだから。

 

「こ、こんなッ、こんなことで改造人間たる、このッ、俺がぁあッ……!」

 

 あまりにも(色々な意味で)大胆な彼女の奇策を前に、グールベレー隊員はわなわなと肩を震わせる。すでに大量の血を流している彼の身体には、もう戦える力など残っていない。

 それでも改造人間の力なら、非力な生身の女くらい簡単に縊り殺せる。その一心でリーナの裸身を組み敷こうと迫る彼だが、一歩踏み出すその足も力無く痙攣していた。それはまさしく、消え行く蝋燭の火が放つ最後の輝きなのだろう。

 

「……改造人間だろうと素体(ベース)が人間なら、頸動脈を斬られて生きていられる奴はいない。どんなに強がっても、あんた達は結局……私達と変わらない、ただの人間なのよ」

「ふ、ふざけッ……る、なァッ……! 俺はぁあ、俺達はぁあッ、人間を、超えッ……!」

 

 超人であることにアイデンティティを見出している改造人間にとって、「ただの人間」というリーナの言葉は究極の尊厳破壊であった。その冷たい言葉に激昂するグールベレー隊員は、彼女の白く豊満な乳房に震える手を伸ばす。

 

「ぐっ……ぉおおッ、おぉおおッ……!」

「……っ」

 

 張りのある釣鐘型の巨乳に、彼の指先がついに届く。亡き恋人にも許したことのなかった、穢れなき果実。その透き通るような純白の柔肌に、改造人間の指が吸い付くようにむにゅりと沈み込む。だが、そこまでが限界だった。

 乳房の曲線をなぞるようにその指先が滑り落ち、彼の身体は崩れ落ちるように倒れて行く。血の池に沈んだ彼はすでに、物言わぬ骸と化していた。そんな敗北者の死体を、一糸纏わぬ鉄の女は冷酷に見下ろしている。

 

「……言ったでしょ? 死ぬのは、あんた達の方だって」

 

 鋭い双眸を細めるリーナは、茶色のサイドテールを靡かせて踵を返す。豊満な巨乳と安産型の桃尻をたぷんたぷんと弾ませ、細く引き締まった腰を左右にくねらせて歩みを進める彼女は、彫像から自身の外骨格を剥がし始めていた。

 

「……これ、まだ着れるんでしょうね?」

 

 ごく短時間とはいえ、強力な電撃を浴びていたアサシネイトスパルタンのスーツはかなり激しく損傷していた。特に黒い強化繊維はかなり大きな穴が空いており、このまま装着すればかなり際どい姿になるだろう。

 だが、使える物は最後まで使い尽くさねばならない。そんな隊長(ボス)の教えを実践するべく、眉を顰めるリーナは深々とため息を吐きながら優美な爪先をピンと伸ばし、強化繊維に足を突き入れて行く。

 

「んぅっ……!」

 

 間髪入れず、パンティを穿く要領で一気に細い腰へと生地を引き上げる。むっちりと実った安産型の巨尻に引っ掛かってしまうが、ここで手こずっている場合ではない。強引に尻肉を強化繊維の内側に押し込み、そのまま一気に豊満な乳房もスーツの内側に収めて行く。

 

「……あぁもう、最悪だわ。『主任』のお小言は確定ね」

 

 なんとか装着を終えたリーナだったが、その感想は「最悪」の一言だった。ただでさえボディラインが剥き出しになっている扇情的な外観だというのに、所々が破けていて白い肌が露出しているのだ。「最低限の装甲」が思わぬところで仇となったらしい。開発主任からの「お小言」を予感したリーナは、深々とため息を吐いている。

 

「さて、と……『あっち』は上手く行ってるかしら。他の皆もどうなってるか分からないし……急がないと!」

 

 だが、それだけを理由に作戦行動を躊躇うなど言語道断。鋼鉄の女傑は鉄仮面を被り直し、足早に美術館の外へと走り出して行く。外から響いて来る戦闘の轟音が、この館内を絶えず揺るがしていた。

 この近くで戦っている「仲間」との合流を果たすべく、彼女は乳房と桃尻を揺らして地を蹴る。美術館前の屋外で別のグールベレー隊員と戦っている「仲間」の咆哮が、彼女の聴覚に届き始めていた――。

 





 今回はアサシネイトスパルタン回の後編。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 変わり身の術と言えば忍者(?)の定番。ワザマエ!(`・ω・´)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第12話

◆今話の登場ライダー

◆ヨハンナ・ヴィルタネン/仮面ライダーSPR-08クラッシャースパルタン
 「地獄の第4基地」から選抜された北欧某国の陸軍少尉であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。士官学校を出てから1年も経っていない新任少尉だが非常に自信家であり、それに見合う実力も兼ね備えている。彼女が装着するクラッシャースパルタンは、他のスパルタンシリーズよりも大型に見えるほどの重装甲を有している機体であり、左腕のパワーアームや右腕のパイルバンカー、両脚のキャタピラレッグなどが特徴となっている。当時の年齢は24歳。
 ※原案はMegapon先生。



 

 アサシネイトスパルタンことリーナが、美術館内の戦いでグールベレー隊員を仕留めていた頃。その施設の外側でも、マルコシアン隊とグールベレーの激闘が繰り広げられていた。

 強力な武装を持つパワーファイター同士のぶつかり合いは周囲に轟音を響かせ、戦闘に巻き込まれた美術館の外壁を破壊し続けている。辺りには巨大な瓦礫が散乱しており、この一騎打ちの激しさを物語っていた。

 

 ――だが、やはり。あらゆる面においてスパルタンシリーズの基本性能を凌駕しているグールベレー隊員は、全員かなりの強敵であるようだ。

 無骨で巨大な接近戦用装備を持つ、ベレー帽の戦士。その仇敵を前に、同系統の装備で身を固めている外骨格姿の戦乙女は、度重なる激突を経て満身創痍となっていた。スパルタンシリーズ第8号機――「SPR-08クラッシャースパルタン」は、すでに大破寸前だ。

 

 全身を黒基調の装甲で固めているその勇姿は、接近戦に特化した重武装で固められている。頭部は「仮面ライダーシーカー」のものとなっており、上半身部分は「仮面ライダーグリス・パーフェクトキングダム」を想起させる形状となっていた。さらに下半身はキャタピラレッグを装備した「仮面ライダーバース」を彷彿させる形状であり、それ以上に重厚な装甲で保護されている。

 

 他のスパルタンシリーズと比べても比較的大型であり、その背中には2本1対のサブアームが搭載されている。だが、重装甲だからといって鈍重というわけではない。両脚のキャタピラレッグによる走破性ならば、瓦礫が散乱しているこの場でも問題なく高速移動出来るのだ。

 

 そして、何より特筆するべきは両腕に装備された重武装。「仮面ライダーグリスブリザード」のものを想起させる左腕のロボットアームは、戦車の装甲さえ一撃で破砕するほどの威力を持っている。さらに右腕には、「ツインブレイカー」を大型化したような形状のパイルバンカーまで装備されているのだ。どちらの武装も、シェードの改造人間に通用し得るほどの破壊力を秘めている。

 

「……やっぱ、頭まで弄られてる改造人間じゃあ……人間様の芸術は理解出来ない、ってこと? ここまで来ると哀れなものね」

 

 そんなクラッシャースパルタンの装着者であるヨハンナ・ヴィルタネン少尉は、劣勢に立たされてもなお仮面の下で薄ら笑いを浮かべていた。圧倒的なパワーを誇るクラッシャースパルタンさえ凌ぐグールベレー隊員の力を前にしても、彼女の心は全く折れていない。

 

 歴史ある美術館だろうと無遠慮に破壊し、瓦礫の山に変えようとしている無粋な輩。そんな仇敵を嘲笑するヨハンナの笑みは、仮面で表情が見えずとも伝わっていたのだろう。彼女と対峙しているグールベレー隊員は、忌々しげに眉を顰めている。

 

「ふん……今まさにくたばりかけている鉄屑風情が、減らず口を叩くな。パワーアームもパイルバンカーも俺のモノの方が威力は上。貴様に何の勝ち目があるというのだ?」

 

 そう語るグールベレー隊員の屈強な両腕にも、大型の重武装が取り付けられていた。左腕のパイルバンカーと右腕のロボットアームは、クラッシャースパルタンのものと比べて非常に鋭角的で禍々しいシルエットとなっている。

 

 その上、彼女の装備と比べて僅かにサイズも大きい。この装備には、クラッシャースパルタンの武装をさらに上回るパワーが秘められているのだ。最大の持ち味を「力」でねじ伏せられてしまっては、勝ち目などないと考えるのが普通だろう。

 

「勝ち目、勝ち目勝ち目……いい加減、聞き飽きたわ」

「なに?」

 

 だが、その上でもクラッシャースパルタンは――ヨハンナ・ヴィルタネンは諦めない。彼女は散々叩きのめされた直後だというのに、それでも威風堂々とした佇まいでグールベレー隊員と対峙している。右腕のパイルバンカーを相手に突き付けながら、彼女はその勇姿で徹底抗戦の構えを示していた。

 

「生身の人間では、改造人間に決して勝てない。そんなこと……何度も言われて来た。その下馬評を覆すために来た私達に対して、随分とナンセンスなことを言うのね」

「……ふふっ、なるほど。まだその任務を果たせると、心のどこかで信じているということか。良かろう、ならば今度こそ……その『芯』を叩き折ってくれる」

 

 何度叩き伏せても、外骨格が中破するまで追い詰めても、なおも食い下がって来るクラッシャースパルタン。そんな彼女の「意地」を目の当たりにしたグールベレー隊員は、命を絶たぬ限り永久に止まらない相手であることを認識し、不遜に鼻を鳴らす。なんと愚かで面倒な相手なのか、と。

 

(ちッ……イプシロンマンめ、くたばりおったか。あんな華奢な女1人に倒されるとは、グールベレーの風上にも置けぬ弱卒よ。どうやら、あの乳牛女も俺が始末せねばならないようだな)

 

 このグールベレー隊員はすでに、美術館内でアサシネイトスパルタンと交戦していた同胞――「イプシロンマン」の戦死を察知していた。彼はちらりと美術館の入り口を一瞥し、忌々しげに舌打ちしている。

 

(……そういえばあの乳牛女、館内に飛び込む前にこの鉄屑に何か手渡していたな。ふん、まぁそんな些末なことはどうでも良い。全員殺せば、それで済む話よ。「死に恥」を晒した弱卒の分までな)

 

 自分の対戦相手(クラッシャースパルタン)と比べてかなり華奢な印象だった、黒仮面の乳牛女(アサシネイトスパルタン)。そんな彼女に不覚を取った同胞の不甲斐なさに、この上なく呆れ果てているようだ。こうなった以上、「死に恥」を晒したイプシロンマンの尻拭いも済まさねばならない。

 

 そのためにもまずは、クラッシャースパルタンを今度こそ確実に黙らせる必要がある。グールベレー隊員は勢いよく地を蹴って彼女に迫り、己の得物を構えていた。キャタピラレッグが無くとも機動性を維持できるほどの膂力を持つ彼は、凄まじい轟音と共に左腕のパイルバンカーを突き出して来た。

 

「ぬあぁあぁあッ!」

「はぁあぁあーッ!」

 

 2人の絶叫が天を衝く瞬間、クラッシャースパルタンも右腕のパイルバンカーで迎え撃つ。スパルタンシリーズの外骨格さえ容易く貫通する、グールベレー隊員の刺突。その一閃が、クラッシャースパルタンの右腕から繰り出された一撃によって辛うじて受け流された。

 

「それがどうしたァッ!」

「……!」

 

 だが、キャタピラレッグを持たないグールベレー隊員には、クラッシャースパルタンには無い身軽さがある。彼はパイルバンカーでの攻撃を受け流(パリィ)された瞬間、地を蹴ってクラッシャースパルタンにドロップキックを叩き込む。

 

「うがぁあッ……!?」

 

 その衝撃によってクラッシャースパルタンの胸部装甲がついに崩壊し、そこに隠されていたヨハンナの豊満な乳房が露わにされてしまう。扇情的な黒のブラジャーに包まれた白い果実が、ぶるんっと淫らに躍動していた。リーナよりもさらに大きい98cmの爆乳が豪快に弾み、その存在感と甘い匂いをこれでもかと主張している。

 

「こんっ、の、くらいでぇええッ!」

 

 それでもヨハンナことクラッシャースパルタンは構うことなく、キャタピラレッグの履帯を前方に向けて急速回転させる。その猛烈な稼働によって地面が削られ、後ろに吹っ飛ばされかけた彼女の機体を減速させていた。

 

「ぉおおぉおおッ……!」

 

 その猛回転によって噴き上がる土埃が、はだけられた白い胸元から滲み出る濃厚な女のフェロモンを掻き消して行く。しかし次の瞬間、土埃を突き破るようにグールベレー隊員が飛び込んで来た。

 

「……ッ!」

「今度こそ……くたばるがいいッ!」

 

 グールベレー隊員の右腕に装備されたロボットアームが、クラッシャースパルタンの頭を握り潰そうと迫って来る。クラッシャースパルタンは、自身の左腕にあるアームでその鉄腕を掴み、間一髪のところで攻撃を阻止していた。

 

「んぐぅ、うぅうッ……!」

 

 だが、単純なパワーにおいてクラッシャースパルタンのものを大きく上回っているグールベレー隊員のアームは、そのまま彼女の頭にジリジリと迫りつつあった。

 まともな力比べでは、クラッシャースパルタンことヨハンナに勝ち目はない。恐怖を煽るように少しずつ迫って来る敵方のアームを前に、ヨハンナは仮面の下で冷や汗をかく。

 

「うっ、ぐぅうッ……! こんの、化け物がぁあッ……!」

「ふっ……この期に及んで負け惜しみか? やはり惰弱な人間の『芯』などその程度が席の山。これで終わりだッ!」

 

 このままでは力技で押し切られ、頭を握り潰されてしまう。そんな窮地に立たされてしまった彼女を嘲笑いながら、グールベレー隊員はさらにロボットアームを強く押し込み、彼女の頭を掴もうとする。

 

「……ッ!」

 

 だが、ここで諦めるヨハンナ・ヴィルタネンではない。彼女は絶体絶命のピンチに陥りながらも、仮面の下で鋭く目を細めると――グールベレー隊員との力比べを続けながら、密かに背面のサブアームを稼働させていた。

 

(……私の「芯」は、こんなものじゃない。本当の勝負はここからよ……!)

 

 クラッシャースパルタンの背部には、サブアーム用の機関銃も搭載されているのだ。背中に隠している「隠し武器」を使えば、グールベレー隊員の意表を突いて体勢を立て直すことが出来る。そこに勝機を見出したヨハンナは、仮面の下で不敵な微笑を溢していた。

 

 だが――そんな彼女のサブアームを一瞥するグールベレー隊員も、ニヤリと薄ら笑いを浮かべている。彼はすでに、ヨハンナの目論見を看破していたのだ。

 

(甘いな……背部のサブアームに装備した機関銃でのゼロ距離射撃を狙っているのだろう? だが、それに類する装備も俺の方が上回っている! よく粘ったが……貴様の「芯」とやらもこれまでよッ!)

 

 クラッシャースパルタンの「上位互換」である彼の背部にも、2本のサブアームを搭載したバックパックが装備されている。その「隠し腕」に備え付けられている機関砲も、クラッシャースパルタンの武装を上回る火力を持っているのだ。

 

 全てにおいて「凌駕」している自分には、どんな小細工も通用しない。その無慈悲な現実を思い知り、己の無力さを噛み締めながら死んで行け。

 そんな意図を含んだ冷笑と共に、グールベレー隊員のサブアームが動き出す。それと同時に、クラッシャースパルタンのサブアームも「不意打ち」を狙って蠢いていた。

 

「死ねぇえいッ……!?」

 

 自身の勝利を確信したグールベレー隊員が吼える。だがその直後、彼の表情は驚愕と戦慄に染まった。彼のサブアームに搭載された機関砲は、火を噴くこともなく静止する。

 次の瞬間。彼の口から鮮血が飛び散り、その足元に赤い血溜まりが出来上がる。素早く広がって行く血の池が、出血の量を物語っていた。

 

「……知ってる? 接近戦なら、銃よりナイフの方が速いのよ」

 

 サブアームを突き出したクラッシャースパルタンことヨハンナが、仮面の下でほくそ笑む。

 彼女の「隠し腕」が握っていたのは、背部に備え付けられていた機関銃ではなく――アサシネイトスパルタンの武器である、高周波ナイフだった。彼女にとっての「隠し武器」とは、そのナイフのことだったのだ。

 

 美術館での戦いに入る直前。アサシネイトスパルタンことリーナは、クラッシャースパルタンに自身の武器を1本手渡していたのである。だから彼女は美術館内での戦いで、4本ある鞘の中から3本のナイフしか使っていなかったのだ。

 もちろん高周波ナイフは本来、クラッシャースパルタンの武器ではない。それ故、事前にランバルツァーから彼女の能力を知らされていたグールベレー隊員でも、この「奥の手」に気付くことは出来なかったのである。

 

「な、ん、だとッ……!? バカな、貴様の外骨格にそんな武装は無かったはず、だッ……!」

 

 近しい戦場で命を預け合う仲間同士だからこそ出来る連携。同胞を「弱卒」と切り捨てる非常さ故、その秘策に敗れたグールベレー隊員は、血を吐きながらもクラッシャースパルタンに迫ろうとする。

 

「……生憎だけど、私の『芯』は簡単には折れないわ。私は……私達は、離れていたって独りではないものッ!」

 

 無論、クラッシャースパルタンに容赦はない。彼女はグールベレー隊員にとどめを刺すべく、その胸をパイルバンカーの一閃で貫くのだった。強烈な一撃はグールベレー隊員の胴体に風穴を開け、その反動ではだけられたヨハンナの爆乳がばるんっと弾む。

 

「ぐぉおぉおぉおッ……! バカなッ……この、我々がッ、グールベレーがぁあッ……!」

「……ふん」

 

 彼女の「介錯」に斃れたグールベレー隊員は、地に伏せながらも震える手を伸ばし、クラッシャースパルタンの足首を掴もうとするが……その手が届くことはなかった。その末路を、クラッシャースパルタンは冷酷に見下ろしている。

 

「……助太刀は要らなかったようね。流石だわ」

 

 そして、事切れた彼の手が血溜まりに沈んだ後。満身創痍のアサシネイトスパルタンが、ようやくこの場に駆け付けて来る。強化繊維の節々が破かれ、白い肌が露出している彼女の姿は実に蠱惑的であった。仮面を脱ぎ、見目麗しい素顔を露わにしたリーナは、茶色のサイドテールを優雅に靡かせている。

 

 そんな彼女の方を見遣るクラッシャースパルタンも、サブアームで仮面を取り外してヨハンナとしての素顔を露わにする。艶やかなブロンドの髪をポニーテールに纏めた碧眼の美女は、預かっていた高周波ナイフを持ち主に見せながら、不敵に口元を緩めていた。

 

「助かったわ、リーナ。そっちも上手く行ったようね」

「当然。人間の底力を舐めているような連中に、私達が遅れを取るはずがないもの」

「えぇ、言えてるわ。……こいつらの上官はどうやら、1番肝心なことを部下達に伝えていなかったようね」

 

 隣に立つ戦友と微笑を向け合い、互いの裏拳をコツンとぶつけ合った後。ヨハンナとリーナは冷たい眼光で、グールベレー隊員の骸を見下ろしている。仇敵の手で露出させられたヨハンナの爆乳からは、熟れた女の甘い匂いが滲み出ていた。

 

表面上の性能差(カタログスペック)だけで相手の力量を決め付けるものじゃないわ。特に……『絶対に諦めるな』と教えられて来た私達を相手にするのなら、ね」

 

 そして、ヨハンナが呟いたその言葉を最後に。踵を返した2人は豊満な乳房を揺らして、自身の愛車(スパルタンハリケーン)の元へと歩み出して行く。まだ戦いが続いている以上、彼女達も足を止めるわけには行かないのだ。

 

 ◆

 

「……ところでリーナ、その格好なんとかならない? 見てるこっちが恥ずかしいんだけど」

「今のあんたにだけは言われたくない。人一倍ガサツなくせに一丁前な下着(ブラ)付けてんじゃないわよ」

「何よ、そんなに羨ましいの? あんたの外骨格って、装甲が薄過ぎて下着もまともに付けられないんだもんねぇ」

「それ以上何か言ったら、その無駄に色っぽい下着(ブラ)剥ぎ取るわよ」

「あははっ、別にいいわよ? その時はあんたもひん剥いてやるから」

 





 今回はクラッシャースパルタン回。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 接近戦ならナイフの方が速い。バイオ4とMGS3に教わりました( ^ω^ )


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第13話

◆今話の登場ライダー

◆エドゥアルド・オリクルカム/仮面ライダーSPR-07リペアスパルタン
 北欧某国の陸軍技術中佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。スパルタンシリーズの製造を担当していた開発主任であり、自身も外骨格を纏い前線に加わっている武闘派。彼が装着するリペアスパルタンは、古代遺跡から発掘されたオーパーツを基盤に「修復」された機体であり、極めて強度の高いブレストプレート状の胸部装甲が特徴となっている。また、両肩部には煙幕射出装置(スモークディスチャージャー)を搭載している。当時の年齢は44歳。
 ※原案はリオンテイル先生。

◆ガーベッジ・オャスン/仮面ライダーラビッシュスパルタン
 北欧某国の陸軍曹長であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。エドゥアルドと共にスパルタンシリーズの開発に携わっていた整備兵であり、戦友達を1人でも生き残らせるために即興の外骨格を組み上げて戦線に加わっていた。彼が装着するラビッシュスパルタンは余剰部品を使って即興で開発された急造機であり、胸部に仕込まれた2基目のスパルタンドライバーが特徴となっている。当時の年齢は59歳。
 ※原案は秋赤音の空先生。



 

 激化の一途を辿るエンデバーランドの市街地戦。その戦場から脱出するべく、生き残った市民達は市外に繋がる列車に乗り込み、駅のターミナルを後にしていた。だが、大勢の避難民を乗せたその車両は、グールベレーの隊員に捕捉されていた。

 

 指揮官から「殲滅」を命じられている彼らには「人道」の2文字など通用しない。グールベレー隊員にとっては避難民達を乗せた列車など、獲物を乗せて動く棺桶に過ぎないのだ。

 しかし、列車の襲撃を目論んだグールベレー隊員は、未だに1人も殺せていない。自身の狙いを察知し、スパルタンハリケーンを走らせて来たマルコシアン隊の妨害を受け、一騎打ちに持ち込まれたのである。

 

 市外を目指して線路を走る列車。その車両の上で対峙するグールベレー隊員と、マルコシアン隊のスパルタン。両者の決闘は熾烈を極めたが――やはりここでも、「上位互換」であるグールベレー隊員が優勢となっていた。

 

「ふふっ……威勢よくこの車両に飛び乗って来た割には、大した腕ではなかったようだ。さては貴様、本職の兵士ではないな?」

 

 緑色のブレストプレート型胸部装甲を装着している、グールベレー隊員。彼は同色の鋼鉄手甲(ガントレット)を眼前に突き出し、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。暗赤色のベレー帽を被った屈強な軍人。その双眸は、目の前で片膝を着いているスパルタンの戦士を冷たく見下ろしていた。

 

「……」

 

 彼と対峙しているのは、スパルタンシリーズ第7号機――「SPR-07リペアスパルタン」。スパルタン計画の基礎技術にも活かされた、古代遺跡からの発掘品(オーパーツ)を再利用した試作機だ。当時発掘された、胸部のみのパワードスーツらしき残骸をベースに、スパルタン計画の試作機として可能な限り修復(リペア)されたものであるため、その名を冠している。

 

 その外観はシンプルに形容するなら、「仮面ライダーストロンガー」の頭部のみを「仮面ライダー1号」のものに差し替えたような姿だ。SPARTAN(スパルタン)を意味する「S」の一文字が刻まれている、真紅のブレストプレート。その胸部装甲はかなりの硬度であるらしく、激しく傷付いていながらも未だに原型を保っている。苛烈な肉弾戦の中で何度激しく殴打されても、この鎧だけは砕かれずにいるのだ。

 

「……ふん。たかが技術屋風情(・・・・・)を相手に、随分と手こずっているようだな? グールベレーとやらの程度も底が知れるというものだ」

 

 この外骨格を纏うのは――マルコシアン隊の技術顧問でもあり、全スーツの開発・整備を担当していた、開発主任のエドゥアルド・オリクルカム技術中佐だ。彼は自ら発掘した古代技術を投入したこの機体で、今回の作戦に参加していたのである。

 

 「上位互換」であるグールベレー隊員に何度叩きのめされ、片膝を着いても、仮面に隠された彼の双眸から闘志の火が消えることはない。不敵な笑みすら浮かべて立ち上がる彼と向かい合い、グールベレー隊員は鋭く眼を細めている。

 

「貴様の装甲……やはり、事前に仕入れた情報通り。いや、それ以上の硬度だな。その装甲に秘められた古代技術を入手すれば、我らシェードの改造人間はさらに飛躍的な進化を遂げられる。渡して貰うぞ、在るべきところへな」

 

 グールベレーをはじめとするシェード北欧支部が今回の侵攻を企てたのは、改造人間の優位性を証明するためだけではない。以前から確保目標としていた、エドゥアルドの古代の胸部装甲(オーパーツ)を奪取することも目的に含まれていたのだ。その使者であるグールベレー隊員はリペアスパルタンの胸部装甲に視線を移し、手甲を装着した拳をギリッと強く握り締める。

 

「在るべきところなら間に合っている。この力は、この国を……この街を。ここに生きる人々を護るために在るものだ。貴様らの道楽に付き合わせるためのものではない」

 

 一方、グールベレー隊員に対して拳を構えているリペアスパルタンも、そのファイティングポーズで徹底抗戦の意志を示していた。どれほど傷付いても屈することのない、鋼の意志。その姿勢を目の当たりにしたグールベレー隊員は、非力な人間の悪足掻きを嗤い――拳を構え直していた。

 

「ふん、良かろう。ならばこの列車に居る人間共を殺し尽くし、その存在意義を根底から否定してやる。……目障りな貴様を黙らせた後でなッ!」

「……言ったはずだぞ。貴様らの底など知れているとなッ!」

 

 刹那。リペアスパルタンは足元を蹴り、一気にグールベレー隊員の懐に飛び込んで行く。その挙動を見切っていたグールベレー隊員も、迎え撃つように鉄拳を振るっていた。エンデバーランドからの脱出を目指す列車の上を舞台に、男達の拳闘が始まる。

 

「ぬぅッ! とぉあぁあッ!」

「ぬぁああィッ!」

 

 互いに次の一手を読み合い、渾身の鉄拳を交錯させる。迫り来る拳撃をスウェーでかわし、反撃の1発を繰り出す。その応酬は長く続いたが――先に一撃を叩き込んだのは、「本職」の戦闘員であるグールベレー隊員だった。

 

「ぬぅおぁあッ!」

 

 弧を描くように繰り出されたフックが、リペアスパルタンの胸部に炸裂したのである。グールベレー隊員の体重を乗せた渾身の一撃。その苛烈な衝撃を浴びた瞬間、これまで如何なる攻撃にも耐え抜いて来た胸部装甲が、ついに破損する。

 

「ぐッ、ぉあッ……!」

 

 鋭利な破片が散らばった程度の「小破」とはいえ、古代の超技術から生み出されたリペアスパルタンの胸部装甲が、ついに破られてしまったのだ。その衝撃は装着者であるエドゥアルド自身にも及び、彼は仮面の下で血を吐きながら後退してしまう。

 

「ぐお、ぉッ……! まさか、この装甲がッ……!?」

「……並の幹部怪人では破壊出来なかっただろうな。だが俺達は、そんな領域などすでに超越しているグールベレーの戦闘員だッ!」

 

 シェード北欧支部最強の精鋭であるグールベレー隊員が、その隙を見逃すことはない。彼はリペアスパルタンが数歩引き下がった瞬間、一気に間合いを詰めて全力のストレートパンチを叩き込む。

 

「ぐはぁあぁあッ!」

 

 さらに激しく殴り飛ばされたリペアスパルタンは、車上を何度も転がり倒れ伏してしまう。その衝撃に車内の避難民達は悲鳴を上げ、身を寄せ合っていた。彼らの声を耳にしながらも、グールベレー隊員は悠然とした足取りでリペアスパルタンに近付こうとする。

 

「……貴様が発見したその装甲は確かに脅威だ。我々が確保目標の一つと定めるほどにな。だが、脅威となるのはその胸部装甲のみ。『最強の盾』がある、というだけだ」

「ぬ、うぅッ……!」

「だが俺には、貴様の装甲をも穿てる『最強の矛』があり……その鎧に限りなく近しい装甲も身に付けている。まさしく、『矛』と『盾』を兼ね備えた完全上位互換ということだ」

 

 防御力の面で僅かに優位に立っているというだけ。それ以外の要素で劣っている以上、貴様に勝ち目はない。そう告げるグールベレー隊員は、リペアスパルタンの頭を掴んで無理やり立ち上がらせる。ダウンなど許さない、と言わんばかりだ。

 

「冥土の土産に覚えておくのだな。真に最強たる『盾』は……最強の『矛』をも兼ねるのだということをッ!」

「……ッ!」

 

 そして、今度は頭部を破壊しようと鉄拳を振るう。だが、このままとどめを刺されるリペアスパルタンではない。彼は渾身の力でフックを繰り出し、グールベレー隊員の鉄拳をいなしてしまう。

 その隙に相手の胸板を蹴り付けた彼は、反動を活かして拘束から逃れ、華麗に宙返りしていた。空中で一回転しながら着地したリペアスパルタンは、その衝撃をバネに足元を蹴り、全身全霊を込めたストレートパンチを突き入れる。

 

「ぬぅッ……ぉおおッ!」

「……こッ、のッ……人間如きがァッ!」

 

 しかし、グールベレー隊員の胸部装甲はこの攻撃にさえ耐えてしまう。「最強の矛」ではない拳では、この緑色の鎧を貫通することは叶わないのだ。リペアスパルタンの鉄拳を胸板で受け止めた彼は、間髪入れず相手の胸部にカウンターパンチを叩き込む。

 

「ぐ、ぉあッ……!」

 

 その一撃をまともに喰らったリペアスパルタンは、再び片膝を着いてしまうのだった。仮面の顎部装甲(クラッシャー)から、エドゥアルドの吐血が溢れ出す。しかし彼はそれでもなお、立ち上がろうとしていた。そんなリペアスパルタンの姿を、グールベレー隊員は冷酷に見下ろしている。

 

「……確かに貴様は大した奴だ。その古代の超装甲(オーパーツ)ありきとはいえ、この俺の攻撃をここまで耐え凌ぐとは。だが……どこまで行っても、やはり貴様自身はただの人間。苦しむ時間が僅かに延びただけだったようだな」

 

 例え胸部装甲の硬度がどれほど優れていても、装着者自身の耐久力が貧弱では意味が無い。その面においても、エドゥアルドという男が脅威であるということは、このグールベレー隊員も理解していた。

 

 だからこそ、この男はここで始末しておかねばならない。その判断に至ったグールベレー隊員は緑色の手甲を振り上げ、今度こそリペアスパルタンの頭部を殴り潰そうとする。

 

「……!?」

 

 ――しかし、次の瞬間。彼の視界の端に、「新手」の影が映り込んで来た。リペアスパルタンがこの列車に乗り込んで来た時のように、1台のスパルタンハリケーンがここまで追い掛けて来たのである。

 

「いいや……違うッ! 主任が延ばした時間の値打ちは、そんなもんじゃねえッ!」

「なにィ……!?」

 

 スパルタンハリケーンに跨り、咆哮を上げて迫り来る壮年の男。そんな思わぬ「増援」の出現に、グールベレー隊員は瞠目する。しかし彼が特に驚いたのは、そこではなかった。

 

 増援の男――ガーベッジ・オャスン曹長が装着していたのは、スパルタンシリーズの外骨格と呼ぶにはあまりにも「粗末」な鎧だったのだ。「大量発生型相変異バッタオーグ」を想起させる外観でありつつも、その装甲は前面にしか装着されていないものだったのである。

 

「余剰部品で組み上げた即興のガラクタでも……使い道はある。そいつを証明してやるよ! 主任が作ってくれた、この時間でなァッ!」

 

 シェードによる襲撃が始まった直後、基地に残されていた余剰部品を組み上げて急造された即興品――「ラビッシュスパルタン」。

 正式名称も型式番号も持たず、案山子(ダミー)用の装甲板で造られたこの機体を纏うガーベッジは、リペアスパルタンをはじめとする仲間達を1人でも生き残らせるために駆け付けて来たのだ。

 





 今回はリペアスパルタン&ラビッシュスパルタン回の前編。このバトルは次回にも続きますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 第6話や第11話で、ジュリウスとリーナが言及していた開発主任とは、もちろんエドゥアルドのこと。第4基地組は特に問題児ばかりですし、彼も色々苦労していたのでしょう……(´・ω・`)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第14話

 

「オャスン、お前ッ……!?」

 

 自分と同じ整備班に所属しているはずの部下が、主任である自分でも知らない装備を着てこの場に駆け付けている。その信じ難い光景に瞠目するリペアスパルタンことエドゥアルドに対し、ラビッシュスパルタンことガーベッジは仮面の下でニカッと笑っていた。

 

「すみませんねぇ、主任……! (カシラ)のあんたが命張ってるってぇ時に、俺達だけ尻尾巻いて逃げろだなんて……そんな命令、バカ正直に聞けるわけがねぇんだよッ!」

 

 自分達にとっての(カシラ)であるエドゥアルド主任を救うため、ガーベッジをはじめとする整備班のメカニック達が即興で組み立てたラビッシュスパルタン。その出来損ないの鎧を纏い、ガーベッジは上官に向かって勢いよく吼える。

 

「……馬鹿者がッ……!」

 

 そんな彼の姿を前に、エドゥアルドは仮面の下で複雑な表情を浮かべていた。もはや、今さら逃げろと言っても彼が聞くことはないのだろう、と。

 

 開発主任のエドゥアルドがリペアスパルタンを装着して戦場に赴いたのは、少しでも戦力を増やして部下達が退避する時間を稼ぐためでもあった。そんな上官の真意を理解した上で、素直に従えるほど「利口」なメカニックなど、マルコシアン隊の整備班には1人も居なかったのである。

 

(……全く。マルコシアン隊はこんな奴らばかりだな)

 

 仮面の下で、エドゥアルドはふっと頬を緩める。脳裏を過ぎるのは、開発主任である自分の言うことを全く聞かなかった問題児達。その中でも一際手を焼いた、精鋭の若手士官――ジュリウス・カドラリス、アレクシス・ユーティライネン、ガルス・ショウグレン、カイン・アッシュ、リーナ・ブローニング、ヨハンナ・ヴィルタネンの6名だった。

 

 ――カドラリス! ガジェットスパルタンは「換装」がウリの機体だと説明したはずだぞ! いい加減、サムライソード以外の装備も使え! これでは試験運用にならんだろうが!

 ――お言葉ですが主任、兵器は効果が実証されて初めて兵器たり得るのです。この剣が実戦においては最も有用……ならばこれこそが正しい運用と言えるのでは?

 

 ――ユーティライネン! また高周波ブレードを豚の解体に使ったな!? あれは肉切り包丁ではないんだぞ!

 ――す、すみません主任……。糧食班の皆が手間取っていたようだから、つい……。

 

 ――ショウグレン! 先ほどの乱暴な動きはなんだ! あまりに前に出過ぎている! エレクトロニックスパルタンは索敵用の機体だと言っただろう!

 ――すいませんねぇ主任、俺にはこういう使い方が性に合ってましてねぇ。文句なら、俺にコイツを任せた隊長(ボス)にどうぞ?

 

 ――アッシュ! 俺が指定した範囲の外までは飛行するなと何度言えば分かる!? その外骨格が軍事機密であることを理解していないのかッ!

 ――うるっさいなぁ、どうせこれから大々的に公表するんだから別にいいでしょ! それに、飛べるところまで飛ばないと性能限界も見えて来ないでしょうが! それって、試験運用として大事なコトなんじゃないですかぁ!?

 

 ――主任。なんでこのスーツ、こんなに身体のラインが出てるんですか。正直、裸より恥ずかしいんですけど?

 ――ブローニング。それは以前にも説明した通り、軽量化を最優先した結果だ。……こら、オャスン! あと、そこのお前達! そんな目で俺を見るんじゃあない!

 

 ――ヴィルタネン! いい加減、サブアームで飯を食うのをやめろ! 行儀が悪いぞ!

 ――これも動作点検の一環ですよぉ。手足のように動かして見せろって言ったのは主任ですよぉ〜?

 

(……まぁ。あの跳ねっ返り共に比べれば大したことはない、か)

 

 ジークフリートとランバルツァーが「地獄の第4基地」から選抜して来たと言う、6人の若獅子達。彼らの無鉄砲振りに比べれば、ガーベッジの行動など可愛いもの。

 そう思えば、いちいち怒ってもいられなくなるというものだ。危険を顧みずこの場に駆け付けて来たラビッシュスパルタンの勇姿に、エドゥアルドは呆れたような笑みを溢していた。

 

「……なんだ、その不細工な急造機は……! よもや、そんな装備でこの俺に挑む気ではあるまいな!? 愚弄が過ぎるぞ、惰弱な人間風情がァッ!」

「おーおー、事実とはいえ好き放題に言ってくれるじゃねぇの。見てくれ通りの鉄屑以下(ラビッシュ)で済まねぇが……この俺とも遊んで貰うぜぇ、シェードの戦闘員さんッ!」

 

 一方、見るからに正規品ではないラビッシュスパルタンの姿を目の当たりにしたグールベレー隊員は、自身のプライドに傷を付けられたためか憤怒を露わにしている。

 そんな彼の様子に口角を吊り上げながら、ガーベッジは挑発的な声を上げていた。彼が装着するラビッシュスパルタンはスパルタンハリケーンから列車に飛び移り、そのまま車上に着地する。

 

「そんな愚劣極まりないガラクタでッ! 本職の兵士ですらない人間如きがッ! グールベレー隊員であるこの俺に立ちはだかるとは、なんたる侮辱ッ! 万死でも足りぬわァッ!」

 

 どこかぎこちない身のこなしから、装着者のガーベッジが「兵士」ですらないことも見抜いたのだろう。グールベレー隊員はラビッシュスパルタンの存在自体を「侮辱」と見做し、真っ先に始末しようと殴り掛かって行く。

 

 だが、その激昂が、先ほどまでの技の冴えを鈍らせていた。怒りに我を忘れるあまり、グールベレー隊員の拳撃が大振りになっていたのである。それこそ、兵士ではないガーベッジでも見切れてしまうほどに。

 

「あぁそうかい! 生憎だが、俺の命は1個しか無いんでねェッ!」

 

 彼が装着するラビッシュスパルタンは身を屈めて鉄拳をかわし、その姿勢をバネにして低姿勢からのタックルを繰り出す。相手が平静を欠いていなければ簡単にかわされていたような、単純な体当たりだ。しかし今のグールベレー隊員にその技を見切ることはできず、まともに喰らってしまう。

 

(……ッ!? なんだ、この速さッ……! 油断していたとはいえ、この俺が仕損じるとはッ……!)

 

 タックルの瞬間にラビッシュスパルタンが見せた、想定以上の加速。その動きに思わず眼を奪われたグールベレー隊員は、ラビッシュスパルタンの胸部にもう一つのスパルタンドライバーが装備されていたことに気付く。2基のドライバーによる高出力が、予想外の加速力を齎していたのだ。

 

「ぐぅッ!?」

「……さしものあんたも、たまげただろう? 全ては……『この瞬間』のためだけの『仕掛け』よ」

「仕掛け、だと……!?」

 

 ラビッシュスパルタンことガーベッジの意図に、グールベレー隊員が勘付いた瞬間。ラビッシュスパルタンの胸部と腰部に取り付けられたドライバーが青白い電光を放ち、過剰(・・)に輝き始めた。

 

「ここの車両は、避難民達の荷物を詰め込んでるだけの無人。そして、連中が居る車両からは1番遠い最後尾だ。……ちょっとやそっと爆ぜた(・・・)くらいじゃあ、誰も死にやしねぇ。『爆心地』に居る2人以外は、な?」

「……! オャスン、よせッ!」

 

 このままでは確実に、オーバーロードによる「自爆」が起きてしまう。それこそがガーベッジの――ラビッシュスパルタンの目的だったのだ。その意図を察したリペアスパルタンは咄嗟に手を伸ばし、部下を制止しようとする。

 

「……ぬぅうぉおおおッ!」

「ぐっ、うぉ、おおぉおッ!?」

 

 だが、爆発に至る直前というところで――グールベレー隊員は力任せにラビッシュスパルタンを引き剥がし、そのまま投げ飛ばしてしまう。2基のドライバーによる高出力は、幹部怪人でも完全に拘束出来るほどの膂力を発揮していたはずなのだが、グールベレー隊員の底力はそれすらも上回っていたのだ。

 

「ぐぁああッ!」

「オャスンッ!」

 

 列車の外に投げ出されかけていたラビッシュスパルタンを間一髪受け止めながら、リペアスパルタンは辛うじて体勢を立て直す。一方、グールベレー隊員は自身に油断があったことを恥じるように、拳を震わせていた。

 

「……ただの身の程知らずかと思っていたが、なかなか味な真似をしてくれる。だが……自爆を完遂するには、俺を抑え込めるだけの『出力』が足りなかったようだな……!」

「く、くそったれがッ……!」

 

 2基のドライバーを使ってもなお埋まらない力の差。その圧倒的な格の違いを見せ付けられ、ラビッシュスパルタンは悔しげに肩を震わせている。そんな彼の肩を軽く叩きながら、この間に息を整えていたリペアスパルタンはゆっくりと立ち上がる。ここから先は任せろと、その背中が語っていた。

 

「……オャスン、お前の意地は理解した。どうせ今さら逃げろと言っても聞かんのだろう? ならばその命、この俺に預けておけ。お前がその命を使う時は……今ではない」

「主任……!」

「ふん、まるでまだ勝ち筋があるかのような口振りだな。貴様達はたった今、天が齎した千載一遇の勝機を逃したのだぞ? もう先ほどのような不意打ちなど通じん。それでどうやって俺に勝つつもりだ」

 

 必勝の信念を纏い、再び宿敵と対峙するリペアスパルタン。ラビッシュスパルタンがその背中を見送る中、グールベレー隊員は手甲を嵌め直しながら不遜に鼻を鳴らしていた。

 

「……勝機というものは天の采配で巡って来るものではない。自らの尽力によって手繰り寄せ、掴み取るものだ。上級戦闘員ともあろう者が、そんなことも分からんとはな。なまじ身体だけが人間を超えたばかりに、『心』が付いて来ていないと見える」

「……安い挑発が好きな男だな。いいだろう、敢えて乗せられてやる。自分の大口を後悔しながら……死んで行けッ!」

 

 この絶望的な状況でもなお、こちらを煽って来るリペアスパルタン。彼の挑発に敢えて乗ったグールベレー隊員は勢いよく足元を蹴り、真っ向から殴り掛かる。

 すると次の瞬間、リペアスパルタンの両肩部に搭載された煙幕射出装置(スモークディスチャージャー)から、凄まじい勢いの猛煙が飛び出して来た。列車が進んでいる方向――風上側に立っていたリペアスパルタンが放つ煙幕は、瞬く間にグールベレー隊員の視界を覆い尽くしてしまう。

 

(煙幕だと? この期に及んで小賢しい真似を……。選ばれた存在たる我々に、下らない目眩ましが通じるとでも思っていたのか)

 

 だが、グールベレー隊員の双眸に動揺の色は無い。眼が見えずとも標的の「熱源」を探知出来る彼は、煙の中ですれ違ったリペアスパルタンの動きを的確に捉えていた。

 

(……確かに、奴の動きは素早い上に無駄がない。これから飛んで来る奴の拳をかわすことは難しいだろう。だが、どのみち奴の貧弱な拳ではこの俺の装甲を貫くことは不可能。敢えて1発殴らせて「隙」を作らせてしまえば、あとは俺のカウンターでケリが付く。人間にしては上出来な戦士だったが……貴様もこれまでだ!)

 

 相手の狙いを熱源の動きから推測し、背後からの奇襲を狙っていると判断した彼は、振り向きざまに体重を乗せたフックを繰り出そうとする。今度こそ、その首を吹き飛ばしてやると言わんばかりに。

 

「それで背後を取ったつもりか! このような児戯に等しい玩具で歯向かおうなど、片腹ッ――!?」

 

 だが。勝利を確信し、煙の中で拳を振るったグールベレー隊員は――瞠目と共に吐血していた。わなわなと全身を痙攣させる彼の胸板は、リペアスパルタンの手によって貫かれている。先ほどはリペアスパルタンの拳を全く通さなかった緑色の胸部装甲が、完全に破壊されていたのだ。

 

「が、はッ……!? こッ……こんな、馬鹿なッ……!」

 

 一体、何が起きたのか。その真相が明らかになったのは、煙幕が風に流され視界が晴れやかになった時であった。突き出されたリペアスパルタンの手には――先ほどの拳闘で砕かれた鎧の破片が握られていたのである。

 

(こ、これは……先ほど俺が砕いた、奴の鎧の破片ッ!? 奴はただ俺の背後に回ろうとしていたのではなく……この破片を拾おうとしていたのかッ……!?)

 

 戦いの中で車上に散らばっていた、リペアスパルタンの胸部装甲の破片。エドゥアルドはその鋭利な「刃物」を手に入れつつ、相手に狙いを悟らせないために煙幕を使っていたのだ。

 背後に回り込む動きを見せた(・・・)のも、相手のミスリードを狙ってのこと。煙幕など無意味と侮ったグールベレー隊員は、まんまとその術中に嵌っていたのである。

 

「……貴様の拳は俺の鎧を穿てる。だが、貴様の装甲は俺の鎧には強度の面で一歩劣る。それで完全上位互換だと? 笑わせる」

「が、はァッ……!」

 

 古代技術から生まれたリペアスパルタンの胸部装甲。その強度はグールベレー隊員にとっても脅威だったが、それ自体は攻撃に使える「武器」ではない。ならば、その「最強の盾」を「最強の矛」に変えさせればいい。

 

 リペアスパルタンの真の狙いは、そこにあった。敢えてグールベレー隊員に鎧を破壊させ、その「脅威となる硬度」を持った破片を武器にする。グールベレー隊員でも一目置くこの鎧から出来た刃なら、必ず通用する。それが、リペアスパルタンが見出した「勝機」だったのだ。

 

「冥土の土産に覚えておくのだな。真に最強たる『盾』は……最強の『矛』をも兼ねるのだということを」

 

 それは、先ほどの拳闘の中で言われた言葉の意趣返しであった。鎧の破片でグールベレー隊員の胸板を装甲ごと貫いたまま、リペアスパルタンは横薙ぎに腕を振るう。グールベレー隊員の身体は、その勢いで車両の外に放り投げられてしまった。

 

「ぐぉおあぁあッ……! ぐぅっ、ふぅうッ……ふ、ふふっ……み、見事ッ……!」

 

 投げられた際に、グールベレー隊員の身体から緑の胸部装甲が剥がれ落ちて行く。鎧を失った彼は満足げな笑みを浮かべながら、超高速で地面に叩き付けられ――激しく転がって行った。身を守る鎧も破壊された以上、改造人間だろうとその衝撃には耐えられないだろう。

 

 その最期を車上から見届けたリペアスパルタンは踵を返し、ラビッシュスパルタンに肩を貸して助け起こして行く。仮面越しに神妙な面持ちで見つめ合う2人は、やがてエンデバーランドの方角へと視線を移していた。ゆっくりと仮面を外し、素顔を晒したリペアスパルタン――エドゥアルドは、艶やかな金髪を風に靡かせている。

 

「……まずは1人、ですなァ。主任」

「この車両を安全圏まで送り届けたら、直ちに街に戻り仲間達と合流する。……逃げるなら今のうちだぞ」

「ハッ、相変わらず野暮なこと言いますねぇ。ここまで来たら付き合いますよ、地獄の果てだろうとね」

「だろうな。お前に利口さを期待した俺が馬鹿だった」

 

 無論、ラビッシュスパルタンことガーベッジに引き下がるつもりはない。そんな部下の蛮勇にため息を吐きながらも、リペアスパルタンは静かに歩み出して行く。まだあの街で戦っているであろう仲間達との、再会を果たすために。

 

 ◆

 

「……それにしても、コイツらもせっかちですよねぇ。もう何年か待っててくれりゃあ、改造人間とも十分に渡り合える兵器を開発出来てたってのに」

「いや……何年も待つわけには行かなかったさ。奴らにとっても……俺達にとってもな」

「どうしてです? ハッキリ言って、今のスパルタンシリーズでは奴らのスペックにはまるで追い付いてない。『進化』に時間は必要でしょうよ」

「お前の云う『進化』に時間を掛けるということは……それだけ戦いが長引いているということだ。改造人間との戦いを、俺達以外に押し付けてはならない。この業を……『次の世代』に遺してはいけない」

「……なるほど、それもそうですなぁ。確かに、こんな馬鹿げた役割……俺達以外にやらせてたまるかってんだ」

 





 今回はリペアスパルタン&ラビッシュスパルタン回の後編。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 列車の上での殴り合いとかいうアクション映画あるあるシチュ。ギャングビーストのステージとかでも見かけますよねー(*´ω`*)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第15話

◆今話の登場ライダー

◆エリック・ツィカーデ/仮面ライダーSPR-09ノイジースパルタン
 北欧某国の陸軍中佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。「お洒落」であることを追求する享楽的な人物であり、自らが求める華々しさのためならば死をも厭わない狂気のオネエ。彼が装着するノイジースパルタンは、超音波による攻撃を主体とする特殊な機体であり、シアン色のギター兼斧型武器「ノイジーアックス」が特徴となっている。当時の年齢は30歳。
 ※原案は黒崎 好太郎先生。



 

 リペアスパルタンとラビッシュスパルタンがグールベレー隊員を撃破し、避難民達の列車を守り抜いていた頃。エンデバーランドの市内では、マルコシアン隊とグールベレーの戦闘がますます激化していた。

 

 観客がいない無人の劇場も、その舞台の一つとなっている。大規模なオーケストラのために設けられたこのホールでも、スパルタンとグールベレー隊員の「一騎打ち」が繰り広げられているのだ。

 

「イヤッハァァッ! 最初はシケた街かと思ってたが……この劇場は良いねェッ、気に入ったァアッ! 俺様のアツいサウンドがホールの隅々まで響き渡ってるぜぇえ〜ッ!」

 

 その舞台に立っているグールベレー隊員は、スポットライトに照らされながら狂気の笑みを浮かべ、愛用のエレキギターを掻き鳴らしている。だが、それはただのギターではない。戦斧のような刃が備わっている、戦闘用のギターアックスであった。

 

 さらにその胸部には超音波破壊砲が装備されており、そこからは周囲の壁を破壊するほどの強力な衝撃波が発生している。この破壊音波により、劇場内の座席や内装は無惨な姿に変わり果てていた。

 

「……まー。俺様に万雷の拍手を送るべきボケ市民共がここに居ないってのは……ちょっとばかし残念だけどなァ?」

 

 一通りの「演奏」を終えた後。グールベレー隊員は表情を一変させ、つまらなさそうに辺りを見渡している。襲撃当時、この劇場内に避難していた民間人達はすでに別の場所に退避していたのだ。もし彼らの移動が遅れていたら、この破壊音波によって甚大な人的被害が発生していたに違いない。

 

「……」

 

 陽気さと残忍さを兼ね備えた、やや特殊なグールベレー隊員。そんな彼を前にしているスパルタンシリーズの装着者は、仮面の下で剣呑な表情を浮かべていた。

 

「……随分と品性の無い騒音ねぇ。あなた、ちっとも『お洒落』じゃないわ」

 

 ドスの効いた声でそう呟くのは、屈強な男性軍人でありながら女性の言葉を使う「オネエ」――エリック・ツィカーデ中佐だ。彼が装着するスパルタンシリーズ第9号機「SPR-09ノイジースパルタン」は、すでにかなり損傷している。それでも彼は諦めることなく、眼前の仇敵を打倒するべくこの舞台に立ち続けていた。

 

 その外観は「魔進チェイサー」をベースに、右半身をシルバー、左半身を迷彩色に塗装したような姿だ。胸部には開閉式の超音波破壊砲が搭載されており、彼の手にはシアン色のギター兼斧型武器「ノイジーアックス」が装備されている。音波攻撃を増幅させる「ギターモード」と、超振動の刃を搭載した「アックスモード」の2形態を持つ専用兵器だ。

 

 彼は自身のものと同質の武装を持つグールベレー隊員を相手に、この劇場内で苛烈な「一騎打ち(セッション)」を繰り広げていたのである。だが、他のグールベレー隊員達の例に漏れず、この相手もスパルタンシリーズの「上位互換」に相当する装備を持っている。超音波破壊砲同士の撃ち合いにおいては、すでに一度競り負けている状況なのだ。

 

「へっ。俺様に近付けもしねぇ『下位互換』の鉄屑風情が、デカい口を叩きやがる。……俺様の破壊音波を増幅させてくれるこの劇場内じゃあ、てめぇに勝ち目はねぇ。そいつは散々思い知ってるはずだぜ?」

 

 「演奏」の音がより大きく反響するこの大ホール内においては、彼らが放つ超音波も通常時を大きく上回った威力となる。その「恩恵」を受けているグールベレー隊員は高らかに笑い声を上げ、ノイジースパルタンを露骨に見下していた。

 

「増幅の恩恵を受けているのはアタシも同じよ。……あなたの音楽はたっぷり聴かせて貰った。2度と聴きたくないくらいにね。そろそろ……『お開き』にしてあげるわ」

 

 しかしそれは、「同質」の武装を持っているノイジースパルタンにも言えること。彼は胸部の超音波破壊砲を展開しながら、ノイジーアックスをギターモードに変形させる。

 先ほどの撃ち合いは破壊砲単体のみでの小競り合いだったが、次は音波を増幅するギターも使用する「必殺技」。この撃ち合いで、確実に決着を付けようというのだ。その姿勢を前にしたグールベレー隊員も、好戦的な笑みを浮かべている。

 

「ハッハハハ! おいおい、まるで正義のヒーローみてぇな口振りじゃねぇか! 俺様もお前も、自分の『音楽』を兵器に利用してる兵士! どんな御託で飾ったところで、結局ただの人殺しだろうがよ!」

「……」

「勝ち目が無いからってカッコ付けに走るのは止めな! もっと自分に素直になれよ……! 自分の想いをビートにするのがアーティストの仕事だろう!?」

「……アタシはあなたとは違うわ。人殺しを厭わない音楽に美学を見出すことはない。観客が居ないこの舞台だからこそ、刻めるビートがある。アタシの音楽の価値は、アタシが1番よく知っている。だから……万雷の拍手も必要ない。あなたとのつまらない『セッション』も……これまでよ!」

「……やれやれ、これが『音楽性の違い』って奴かァ? 仕方ねぇ、だったらせめてもの情けだ。お前の最期に相応しい、激アツなフィナーレをくれてやるぜッ!」

 

 この「一騎打ち(セッション)」に終止符を打つ。その「宣戦布告」に対して闘志を剥き出しにしたグールベレー隊員も、胸部の破壊砲を展開しながら愛用のギターアックスを構えていた。

 

 音がより強く反響するこの大ホール内で。音波攻撃に特化したスパルタンとグールベレー隊員が、最大出力の破壊音波を飛ばし合う。その衝突が齎す破壊力は、これまでの小競り合いとは桁違いの領域となるだろう。間違いなく、内装が吹き飛ぶ程度では済まない。

 

「それは……こっちのセリフよッ!」

「おぉおらぁあぁあッ!」

 

 だが――各々の音楽に「美学」を見出した2人の男に、躊躇いの色は無い。彼らは互いに吼え、全力の音波攻撃「ノイジープレッシャー」を繰り出すのだった。双方の胸部に搭載された破壊砲が強烈な衝撃波を放ち、互いのギターが奏でるパンクロックが、そのエネルギーを増幅させる。

 

「ぐぅうッ……うぅうッ!」

「ハハハッ、確かに『お開き』が近いようだなァッ! お前の破壊音波もなかなかの威力だが……俺様のビートの方が遥かにアツいッ! これで終わりにしてやるぜッ!」

 

 双方の「音楽」が齎す絶大な衝撃波は、この一帯に存在するもの全てを根刮ぎ吹き飛ばし始めていた。しかしこの壮絶な競り合いの中で、ノイジースパルタンは少しずつ押され始めている。

 やはり単純な性能面においては大きく上回っているグールベレー隊員の方が、真っ向勝負では優位となるのだろう。自身の勝利を確信した彼は、ノイジースパルタンを嘲笑いながらさらに「出力」を上昇させて行く。

 

「もっと、もっと出力をッ……!」

「おおお……!? 良いねぇ良いねぇ、そういう往生際の悪さは嫌いじゃねェッ! 燃え尽きる蝋燭が、最期に輝きを放つが如くッ! 死に際だからこそ捻り出される、アツく激しい命のビートッ! そいつを刻み込み、壮絶にくたばるッ! 最高にロックじゃあねーかァッ!」

 

 だがノイジースパルタンも、このまま負けるつもりは無い。彼は猛烈な衝撃波に押されながらも両足を突き刺すように地を踏み抜き、身体を無理矢理固定させている。

 ここで引き下がるくらいならば、死の瞬間まで「音楽」を奏で続ける。その意志を姿勢で示しているノイジースパルタンの勇姿に、グールベレー隊員は目を剥いて歓喜していた。これこそが、自分が追い求める「ロック」だと言わんばかりに。

 

「生憎だけど……アタシはあなたのロックに付き合ってられるほど暇じゃないのよ。この劇場も……そう言ってるわッ!」

「なにィッ……!?」

 

 だが、ノイジースパルタンの狙いは別のところにあった。突如、この大ホールが天井から崩れ始めたのである。彼の言葉にグールベレー隊員がハッと顔を上げた瞬間、巨大な瓦礫が嵐のように降り注いで来た。

 

(劇場が……崩れるッ!? しまった、俺様としたことがアツくなり過ぎてッ……!)

 

 当然と言えば当然だろう。あまりに強力な衝撃波を飛ばし合っていれば、「下位互換」のノイジースパルタンよりも先に、莫大なエネルギー同士の衝突など想定していないこの劇場自体が保たなくなる。ノイジースパルタンが全力攻撃の撃ち合いを仕掛けて来たのは、これが狙いだったのだ。

 

「うぉおおぉおおッ!?」

 

 大質量の瓦礫で生き埋めにされようものなら、グールベレー隊員といえどもタダでは済まない。彼は焦燥に駆られながらも咄嗟にその場から退避し、劇場の外へと飛び出して行く。やがて凄まじい轟音や猛煙と共に、この劇場は無惨な瓦礫と化して行くのだった。

 

「……ふぅっ。危ねぇ危ねぇ、もう少しで劇場もろともくたばっちまうところだった。増幅された破壊音波を敢えて全力でぶつけ合わせ、劇場そのものを崩壊させることによって相討ちを狙う……か。へっ、見上げた根性じゃねぇか。敵ながら、悪くねぇロックンロールだったぜ」

 

 瞬く間に崩落し、瓦礫の山と成り果てた劇場跡地。その惨状を前にしたグールベレー隊員は冷や汗を拭いつつも、自身の勝利に薄ら笑いを浮かべていた。この崩落では奴も生きてはいまい、という考えがその表情に現れている。

 

「さぁーてと、奴の死体を確認したら他の連中と合流ッ――!?」

 

 だが。ノイジースパルタンの残骸を見つけ出そうと、瓦礫の山に近付いた――次の瞬間。その瓦礫を内側から突き破るように飛び出して来たノイジーアックスが、グールベレー隊員の胸部に勢いよく突き刺さる。

 

 すでに近接戦闘用のアックスモードに変形していたノイジーアックスは、グールベレー隊員の胸部に装備された破壊砲もろとも、その胸の奥深くに突き刺さっている。これでもう、グールベレー隊員は攻撃の要となる破壊砲を使うことが出来ない。

 

「が、はッ……!? お、お前、まだッ……!?」

「……ダメじゃない、勝手に演奏を止めたら。まだ……アタシ達の『セッション』は終わっちゃいないのよ?」

 

 鮮血を吐きながら、驚愕に打ち震えるグールベレー隊員の眼前に。満身創痍の血だるまと化したノイジースパルタンが、瓦礫の山を押し除けるように現れる。彼の真の狙いは劇場の崩落そのものではなく、それによって油断したグールベレー隊員が隙を見せる、この瞬間だったのだ。

 

 ノイジースパルタンのノイジーアックスやグールベレー隊員のギターアックスには、対象にギターを突き刺して破壊音波を直接叩き込む「一撃必殺」が存在する。

 グールベレー隊員は、多少の性能差など簡単に覆せるその切り札(ジョーカー)の威力を警戒し、これまでノイジースパルタンとの接近戦を避けていたのだ。その「危惧」が、ついに現実のものとなってしまったのである。

 

(劇場の崩壊を誘ったのは、自分ごと生き埋めにして俺様を倒すためじゃあなく……単なる布石でしかなかったってぇのかッ!? コイツの真の狙いは、至近距離からの直接攻撃……! 全ては、俺様を「間合い」に誘い込むまでのメロディを描いた楽譜……! ロッ、ロックンロールにも程があるぜッ……!)

 

 もし。あとほんの一瞬でも早く、グールベレー隊員がノイジースパルタンの狙いに気付いていれば。「上位互換」のギターアックスで、この不意打ちも切り払えていたのだろう。

 だが、どれほど基本性能が上回っているとしても。不意を突かれたことによって反応が一瞬でも遅れれば、その攻撃をかわし切ることは不可能となる。刹那の一手が、この勝負の明暗を分けたのだ。

 

 そして――ここまで近付くことさえ出来れば。ノイジーアックスを突き刺す段階まで到達出来れば。グールベレー隊員と言えども、致死量の破壊音波から逃れることは出来なくなるのだ。

 

「さぁ……あなた好みの、激アツな『フィナーレ』よ」

 

 仮面の下で微笑を浮かべるノイジースパルタンは、相手に突き刺したノイジーアックスを容赦なく弾き鳴らし。相手に直接流し込んだ破壊音波を――その体内で「反響」させる。

 「エレクトロフィナーレ」と呼ばれるこの必殺技は、音波だけでなく電撃まで引き起こし。技を仕掛けているノイジースパルタンまで感電させながら、グールベレー隊員の肉体を、「内」と「外」の両面から破壊して行く。

 

「が、ぁあぁあッ……! こ、こいつは、ロック……だぜッ……! もっと、もっと聴かせてくれよ、お前のアツいビート、をッ……!」

 

 その「一撃必殺」によって、全身から鮮血を吹き出したグールベレー隊員は、血に塗れながらも狂気の笑みを浮かべ、ノイジースパルタンににじり寄る。ノイジーアックスを突き刺されたまま、彼は「最高のロック」を魅せてくれたノイジースパルタンの両肩を掴むが――そこまでが限界だった。

 

 その体勢のまま事切れた彼は、崩れ落ちるように倒れ伏して行く。そんなグールベレー隊員の最期を、ノイジースパルタンは冷酷に見下ろし――歩み始めて行く。そこからはもう、一瞥することもなかった。

 

「……言ったでしょ。あなたのロックに、付き合ってる暇はないのよ」

 

 傷付いた身体を引き摺るように、彼は劇場前に停められていた自身のスパルタンハリケーンへと歩み寄って行く。まだ仲間達が死力を尽くして戦っている今、自分1人が足を止めている場合ではないのだ――。

 





 今回はノイジースパルタン回。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 今回はノイジースパルタンの能力に合わせて、ちょっと変わり者なグールベレー隊員が登場しました。多分グールベレーの中でも相当浮いてたんじゃないでしょうか、彼……(´ω`)


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第16話

◆今話の登場ライダー

◆ノルト・マグナギガ/仮面ライダーSPR-12ゾルダスパルタン
 北欧某国の陸軍少佐であり、精鋭陸戦部隊「マルコシアン隊」の隊員。かつては弁護士でもあった金にがめつい悪徳将校であり、その悪評を知る市民達からは蛇蝎のように嫌われている。しかし皮肉屋な一方で情に厚い一面もあり、それを知る一部の者達からは一目置かれている。彼が装着するゾルダスパルタンは、重火器で全身を固めた射撃戦特化の機体であり、専用の高火力アサルトライフルやロケットランチャーが特徴となっている。当時の年齢は37歳。
 ※原案は ダス・ライヒ先生。



 

 ノイジースパルタンが劇場跡地を去り、スパルタンハリケーンに跨ったリペアスパルタンとラビッシュスパルタンが、エンデバーランドに向けて引き返し始めた頃。

 

 そのエンデバーランド市内の消防署は、グールベレー隊員の襲撃によって戦火に飲まれようとしていた。火の海と化したこの一帯に身を置く消防士達は、危険を顧みず消化活動に奔走している。

 

 街に取り残された市民が1人でも居る以上、彼らにこの街から逃げ出すという選択肢は存在し得ないのだ。そんな彼らの奮闘を遠目に見遣っているスパルタンシリーズの戦士は、仮面の下で苦々しい表情を浮かべている。

 

「おいおい……。目に付くものは軍事施設であろうとなかろうとブッ壊す、っていうあんた達の行動方針は分かり切ってたけどさぁ。人命救助してるだけの連中を積極的に攻撃するってのは……ちょいと露悪が過ぎるんじゃあない?」

 

 スパルタンシリーズ第12号機「SPR-12ゾルダスパルタン」の装着者である、ノルト・マグナギガ少佐。

 元弁護士の悪徳将校であり、市民からも「何故あんな男がマルコシアン隊に」と非難されている彼だが――そんな彼にとっても、シェードの蛮行は許し難いものであった。軽口を叩いているようで、その声色には静かな「義憤」が滲んでいる。

 

 彼が纏うゾルダスパルタンの外観はその名の通り、「仮面ライダーゾルダ」を想起させるものであった。しかし、より機械的な印象を与えているそのフォルムは、この外骨格が単なる「兵器」に過ぎないことを強調している。

 専用のアサルトライフルやロケットランチャーを携行しているその姿は、まさしく「兵士」。戦うために生み出された、鋼鉄の闘士そのものである。

 

「……ふん、この期に及んで敵に情を期待するのか? 陸軍屈指の精鋭部隊と聞いているが、随分と軟弱なことを言う。我々の破壊目標は、この街全てだ。銃を持つ者であろうと、そうでなかろうと……例外ではない」

 

 対するグールベレー隊員は、ゾルダスパルタンのものよりもさらに大型のロケットランチャーを背負っていた。この消防署を瞬く間に火の海に変えた、悪魔の兵器。その巨大な砲身を軽々と構えながら、ベレー帽の巨漢は不遜に鼻を鳴らしている。

 

「この消防署に居る連中が、我々の視界に入って来た。破壊する理由など、それだけで十分よ。無論、俺の前に立ちはだかって来た……貴様もな」

「……ははっ、こいつは参ったね。穏便に手を引いてくれるなら、事が終わった後の『弁護』くらいはしてやろうかと思ってたんだがな。ここまで救いようがないんじゃあ、何億積まれても割に合わない」

 

 人間社会の道理など我々には通じない……と言わんばかりに。グールベレー隊員は消防士達の懸命な消化活動を一瞥し、冷たく嘲笑する。そんな彼を冷ややかに見遣るゾルダスパルタンは、元弁護士ならではの軽口を叩いていた。その冷たい皮肉さえ、グールベレー隊員は鼻で笑う。

 

「ふっ……言うに事欠いて、この俺に情けでも掛けるつもりでいたのか? 軟弱な人間風情の貴様が? ……面白い冗談だッ!」

 

 口先だけの雑兵など物の数ではない。鋭く吊り上がったグールベレー隊員の双眸が、そう叫んでいるかのようだった。彼は身の丈を超えるほどのロケットランチャーを構え、数発の弾頭を連射する。

 

 消防署を瞬く間に半壊させ、何台もの消防車を破壊し、この一帯を火の海に変えた砲弾だ。まともに喰らえば、ゾルダスパルタンとてタダでは済まない。

 

「……ッ!」

 

 1発でも迎撃に失敗すれば、周囲で活動中の消防士達は確実に爆炎に巻き込まれてしまう。多数の死傷者が出る事態を回避するべく、ゾルダスパルタンも素早くロケットランチャーを構え、向かって来る敵方の弾頭に自身の砲弾を撃ち込んで行く。

 

 次の瞬間。天を衝くほどの轟音と共に、幾つもの大爆発が巻き起こる。その爆炎は、爆心地に近いところに立っていたゾルダスパルタンを紙切れのように吹き飛ばしていた。

 

 一方、同じ衝撃を受けたはずのグールベレー隊員はアスファルトを踏み砕き、常軌を逸した両足の膂力で耐え忍んでいる。圧倒的な武器の火力。爆風をものともしない防御力。あらゆる面において、ゾルダスパルタンを凌ぐ「上位互換」の力を見せ付けていた。

 

「ぐっ、ぉおおッ……! ははっ、こりゃあ参った……! 桁違いの火力じゃないのッ……!」

 

 衝撃のあまりロケットランチャーを手放してしまったゾルダスパルタンは、激しく吹き飛ばされ地を転がり、血反吐を吐いて倒れ伏してしまう。

 

(……ははっ。やっぱり俺、弁護士なんて向いてなかったんだなぁ。こんなのっ……全然、合理的じゃないッ……!)

 

 だが。煤と血に塗れた満身創痍の身となりながらも、彼は死力を尽くして立ち上がろうとしていた。ニヒルな皮肉屋を気取ってはいるが、その傷だらけの勇姿は誰よりも熱い闘志に満ちている。

 

「ふっ、今頃理解したか。だが、もう遅い。俺の挑戦を受けた以上、貴様が生きてこの場から逃れる術はないのだ」

 

 だが、グールベレー隊員に攻撃の手を緩める気配はない。彼は煤まみれとなった半死半生のゾルダスパルタンを嘲笑いながら、再びロケットランチャーを構えて「とどめ」を刺そうとする。

 

「さぁ、今度こそ木っ端微塵に――!?」

 

 だが、その引き金に指が掛けられた瞬間。彼の眼前を突如、猛烈な水流が横切って行く。その思わぬ「奇襲」に瞠目したグールベレー隊員は、水をかわそうと咄嗟に砲口を持ち上げて射撃を中断してしまった。

 

「……!?」

「ノルトッ!」

 

 その挙動にゾルダスパルタンがハッとなる中、1台の消防車がこの戦地に駆け付けて来る。そこから迅速に飛び降りて来た数人の消防士達は、ゾルダスパルタンに肩を貸して彼を助け起こしていた。

 

「おい、立てるか!? しっかりしろッ!」

 

 生身の人間の膂力で、100kgを優に超えるスパルタンの身体を持ち上げるのは至難の業。しかし彼らは消防士としての意地に賭け、ゾルダスパルタンを半ば強引に立ち上がらせていた。

 

「……危ないなぁ、生身の人間がこの戦闘に首突っ込んで来るんじゃないよ。どんなに威勢が良くたって、あんた達が来ても足手纏いでしかないんだからさぁ」

「ふん、お前こそ何を勘違いしている! ……俺達はただ、この火災を鎮めるために来ただけだッ! 誰が弁護士崩れなんぞに手を貸すものかッ!」

「はっ……あぁ、そうかい。じゃあ、そういうことにしておいてやるよ」

 

 助けられてもなお悪態を止めないゾルダスパルタンに怪訝な表情を向けながらも、消防士達はあくまで「人命救助」という自分達の使命に邁進している。だが、彼らがゾルダスパルタンに手を貸したのはそれだけが理由ではない。

 

 先ほどゾルダスパルタンが、自分達を守るために危険な行動に出ていたことは彼らも理解していたのだ。ゾルダスパルタンことノルト・マグナギガという男は口が悪いだけ(・・)の男であることを、消防士達はよく知っていたのである。

 

 「女遊びで散財した」と周りに吹聴しながらも、自身の稼ぎを密かに孤児院や病院への寄付に充てる。「自分は金にがめつい」と豪語しながらも、真摯な相手ならば割りに合わない依頼でも引き受ける。ノルト・マグナギガが「そういう男」であることは、とうに知られてしまっているのだ。

 

「ふん、外野のゴミ共が文字通りに水を差しおって。ならば……この決闘を阻んだ罪は、その命で精算して貰おうか」

 

 一方、グールベレー隊員は消防士達の姿を忌々しげに睨み付けていた。専用のロケットランチャーを構え直した彼は、ゾルダスパルタンよりも先に始末してやろうと彼らに照準を合わせている。

 

「……ッ!」

 

 その動きに勘付いたゾルダスパルタンは、傷付いた身体を押して専用のアサルトライフルを引き抜いた。グールベレー隊員の武装に対しては全くの火力不足だが、今はこの副兵装に頼るしかない。

 

(……嫌だねぇ。俺もすっかり、隊長(ボス)に毒されちゃったかな)

 

 例え弁護士崩れだ、悪徳将校だと謗られようとも。マルコシアン隊のスパルタンシリーズが市民を見殺しにするわけには行かないのだ。その信念をジークフリートから受け継いでいたノルトは、己の甘さを自嘲する。

 

「……おいあんた達、さっさと逃げな。あっちも随分とお怒りのようだしね」

「し、しかしノルト……!」

「あんた達が死んだら、誰がこの街の火を消してくれるんだ? あいつらに火元ごと更地にでもして貰うか?」

「ちっ、やっぱり嫌な奴だよお前は! ……死ぬなよ、絶対!」

「そりゃそうでしょ、俺だってやだよ。湿っぽい(・・・・)のも……ね」

 

 ここは俺に任せて、お前達は逃げろ。悪態の中にそのメッセージを込めたゾルダスパルタンは、アサルトライフルを構えながらグールベレー隊員と再び対峙する。そんな彼の意思を汲み取った消防士達は、精一杯の声援を送りながら退避して行く。

 

 そして、彼らが完全に退散するのを待たず。グールベレー隊員はゾルダスパルタンもろとも消防士達を消し飛ばそうと、再びロケットランチャーの引き金を引いていた。

 

「この俺の邪魔をしておいて、生きてここから逃げられるとでも思ったか? 言ったはずだぞ、この決闘を阻んだ罪はその命で精算して貰うとな!」

「おいおい、相手は俺じゃなかったの? 一つ忠告してやるよ、浮気性は火傷の元だってな!」

 

 1発の弾頭が唸りを上げ、消防士達が乗り込んだ消防車に迫る。その軌道を視線で追いながら、ゾルダスパルタンは素早くアサルトライフルを構え、引き金を引いていた。乾いた銃声が断続的に鳴り響く中、無数の弾丸が空を裂く弾頭に襲い掛かる。

 

(あぁ全く……割りに合わないッ!)

 

 そのうちの1発が、ついに弾頭の側面に命中する。次の瞬間、勢いよく爆ぜた弾頭は周囲に猛烈な爆風を浴びせるのだった。直撃こそ免れたものの、その圧倒的な爆発力は消防車の車体を簡単に横転させてしまう。

 

「うわぁあぁあッ!」

「ノ、ノルトぉおッ!」

 

 車内にいた消防士達が悲鳴を上げる中、ゾルダスパルタンことノルトも爆煙の中に消えて行く。自分達の消防車が激しく転倒する中、それでも戦友(とも)の身を案じる男達の絶叫が響き渡っていた――。

 





 今回はゾルダスパルタン回の前編。果たして爆煙に消えた彼の運命やいかに……。ではでは、次回もお楽しみにっ!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 ノルトの人物像はなるべく元ネタに沿うように心掛けてはいるのですが、あの飄々としている佇まいはなかなか再現出来ない……。あの人がいかに独特な存在だったか、改めて思い知りました……_:(´ཀ`」 ∠):


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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第17話

 

 絶大な爆発に飲み込まれ、猛煙の中に消えてしまったゾルダスパルタン。その行方を探すように、消防士達は横転した消防車の車内から戦況を見つめていた。

 

「ノ、ノルトッ……!」

 

 これほどの爆風を再び浴びてしまったとなれば、今度こそ彼が立ち上がることは叶わないかも知れない。そんな不安が、消防士達の脳裏を過ぎる。

 

 先ほどグールベレー隊員が撃ち放った砲弾は、全ての敵を一撃で殲滅するために拵えられた「特別製」だったのだろう。これまでの弾頭をさらに上回る超火力は、辺り一帯が猛煙に包まれるほどの大爆発を引き起こしていた。

 

「……ふん、跡形もなく消し飛びおったか。この俺を相手に随分と持ち堪えていたが……ここまでだったようだな」

 

 爆風と猛煙を胸板で浴びながらも、仁王立ちを維持しているグールベレー隊員。彼はゾルダスパルタンを完全に見失ったまま、敵が完全に「粉砕」されたのだと判断する。

 

 直撃すれば仮面ライダーGの装甲さえ穿てると言われた「特別製」の弾頭ならば、爆風だけでも生きてはいられまい。それが、彼が下した結論だった。

 

 ――そして、次の瞬間。彼はその結論が致命的な「誤り」であることを思い知らされる。

 

「……ッ!?」

 

 暫し時が経ち、暗黒の猛煙が晴れ始めた直後。グールベレー隊員の全身を飲み込むような水流が、覆い被さるように降り掛かって来たのである。僅か一瞬、彼の身体と装備が「水没」したかのような水量であった。

 

「なんだ、この量の水はッ……!?」

「……ははっ、笑っちまうなぁ。自分が起こした爆煙で目の前が分からなくなるなんてさ」

「な、なにィッ……!?」

 

 何事かと瞠目する中、「死んだはずの男」の声が響き渡り、グールベレー隊員は戦慄の表情を浮かべる。煙が晴れた先には――「死」の半歩手前まで傷付いたゾルダスパルタンが立っていた。

 

「よう……頭は冷えたかい。今日は暑いからねぇ、涼しくて気持ちが良いだろう?」

「ノ……ノルトぉ! お前、無事だったのかぁ!」

「馬鹿野郎ッ、死んだかと思ったぜ……!」

 

 大きく両足を開き、腰を落としている射撃姿勢。その構えを見せつつ、仮面の下で薄ら笑いを浮かべているゾルダスパルタンの手には、専用のロケットランチャー……ではなく、消防車用のホースが握られていた。彼の背中を目の当たりにした消防士達は、横転した消防車の車内で歓声を上げている。

 ゾルダスパルタンは先ほどの大爆発による爆風を浴びながらも、彼は煙に紛れて消防車の近くにまで駆け寄っていたのだ。このホースによる放水での「奇襲」が彼の目的だったのだろう。

 

「貴様……まだ生きていたのか。しかし、随分と馬鹿な真似をしたものだ! 不意打ちが目的ならば、この隙に自慢のランチャーを撃ち込んでおれば良かったものをッ! 今度こそとどめを刺してやる、この『特別製』の砲弾でなぁあッ!」

 

 だが、強力な水圧程度で倒せるほど甘い相手ではない。猛烈な水流にも耐えて見せたグールベレー隊員は、ゾルダスパルタンを今度こそ消し飛ばそうと、2発目の「特別製」を込めたロケットランチャーを構える。

 

「……ッ!?」

 

 しかし――引き金を引いた直後。相棒とも言うべき砲身に起きた「異常」に、グールベレー隊員は目を剥いた。先ほどの「水没」により、彼のロケットランチャーが動作不良を起こしたのだ。

 

(弾が……出んッ!? 奴はまさか、俺のランチャーを「水没」させて故障させるために放水をッ……!?)

 

 例えグールベレー隊員自身がどれほど頑強でも、彼の武器まで同じとは限らない。

 先ほど消防車が放水しながら突っ込んで来た時、グールベレー隊員が水を避けるように砲口を動かしていたことから、ゾルダスパルタンはその「弱点」を看破していたのだ。

 

(……湿っぽい(・・・・)のは嫌なんだよねぇ。分かるよ、俺も同じ(・・)だからさ)

 

 ――自身のランチャーにも有るその「弱点」は、こちらの「上位互換」であるというグールベレー隊員でさえも克服出来ていなかった。それはゾルダスパルタン自身が、己の武器を知り尽くしているからこその着眼点であった。

 

「……ふざけた真似をッ! この程度で俺のランチャーが使い物にならなくなるとでも思っているのかッ!」

 

 だがどちらのロケットランチャーも、この程度のアクシデントで使用不能となるような欠陥品ではない。グールベレー隊員は砲身に取り付けられたレバーを掴み、砲身内に詰まった水を取り除こうとする。

 

「思っちゃいないさ。……だが、すぐには(・・・・)撃てない。それで十分なんだよ、俺にとってはね」

「……!」

 

 しかし、黙ってその様子を見ているゾルダスパルタンではない。彼はグールベレー隊員がレバーを引くよりも速く、足元に転がっていた自身の専用ロケットランチャーを担ぎ上げる。

 

 ――ゾルダスパルタンがわざわざ不意打ちのチャンスを「水没」に使ったのは、グールベレー隊員が「反撃出来ない時間」を少しでも作るためだったのだ。

 

 1発撃ち込んだ程度では、耐久性でも上回っている彼は倒し切れない。初撃でそのカードを切って自分の居場所を明かしてしまえば、そこから先はただの撃ち合いとなる。そうなればこれまで通り、火力の差で押し切られてしまうだろう。

 

 グールベレー隊員を「下位互換」のロケットランチャーで仕留めるには、「視界外からの不意打ち」という絶好のチャンスを消費してでも、一方的に砲撃出来る猶予を捻り出さねばならなかった。

 

(稼げてほんの数秒。だが、その数秒は……俺にとっちゃ十分過ぎるくらいさ)

 

 だからこそゾルダスパルタンは、敵が自分を捕捉していない千載一遇の好機を、「ランチャーによる直接攻撃」ではなく「水没による一時的な無力化」に使ったのだ。そしてその狙い通り、グールベレー隊員は砲身内の排水作業という「一手」の遅れで、こちらに撃ち返せなくなっている。

 

「今のあんたじゃあ、もう俺のランチャーは止められない。ほんの数秒でも、そのご自慢の相棒が死んでる今なら……ね?」

「……ぬぅううッ! 味な真似をぉおッ!」

 

 数秒にも満たないその「一手」が、この勝負の明暗を分けたのだ。レバーを引き、排水作業を終えたグールベレー隊員が砲身を構え直すと同時に――ゾルダスパルタンのランチャーから、2発の弾頭が連射された。

 

(速くッ……速く「1発」をッ! 「1発」でも奴に撃てば……「1発」でも間に合えば、俺のぉおッ!)

 

 ゾルダスパルタンの執念を込めた2発の弾頭が、唸りを上げてグールベレー隊員に肉薄する。空を裂いて迫り来るその轟音に焦りを覚えながらも、グールベレー隊員は無駄のない迅速な動作で砲口を固定し、ゾルダスパルタンに照準を合わせる。そして引き金に指を掛け――

 

「くたばッ……!」

 

 ――引く、直前。彼の砲口に飛び込んで来たゾルダスパルタンの弾頭が、砲身内に込められた「特別製」の弾頭に激突する。

 

 その「邂逅」が齎す凄絶な爆炎は、これまでの爆発を遥かに超える、究極の化学反応であった。

 

 ゾルダスパルタンが放った1発目の弾頭が、グールベレー隊員のロケットランチャーの砲身内(・・・)に飛び込んだことによる、弾頭同士の誘爆。この激突が招いた壮絶な爆炎は、グールベレー隊員の肉体を瞬く間に焼き尽くしていた。

 

「うっ、ぐッ、ぉああぁあぁああーッ!」

 

 灼熱の業火に飲み込まれ、断末魔を上げる巨漢。しかし、これだけでは終わらない。

 

 苛烈な爆炎によって「外皮」を焼かれ、かつての耐久性が失われた彼の肉体に、2発目の弾頭が直撃したのである。さしものグールベレー隊員も、無防備な状態ではこの砲撃には耐えられない。

 

「バカ、なッ……! こんな、こんな下位互換の鉄屑風情にッ……一騎打ちの勝負でッ! この、俺がぁあッ……!」

「おぉ……! やった、あいつやりやがった! ノルトが勝ったんだ!」

「へへっ……! やるじゃねぇか、あの弁護士崩れ! 今度ばかりは1杯奢ってやらねぇとなッ!」

 

 2発目の着弾によってバラバラに砕け散り、無惨な肉片と化して行く中で。グールベレー隊員は己の死を認められぬまま、敗北者として事切れて行く。その首は壮絶な死に顔を晒したまま、ゾルダスパルタンの足元にゴロンと転がって来た。ゾルダスパルタンの勝利を確信した消防士達は、消防車の中で歓喜の声を上げている。

 

「……悪いけどさぁ。一騎打ちだと思ってんの、そっちだけなんだよね」

 

 一方。ゾルダスパルタンは独り、死力を尽くして戦った仇敵の凄惨な姿を憐んでいるようだった。彼は足元の首を一瞥した後、満身創痍の身体を引きずりながら、踵を返して背を向ける。消防車の中に取り残されている消防士達を助け出そうと、車内に手を伸ばし始めた彼はもう、振り返ることはない。

 

 戦いに勝利することだけが存在意義となっている人間兵器にとって、己の死に様を見せ物にされることは最大の屈辱となる。だからこそ、その骸を視界に入れまいと、ゾルダスパルタンは背を向けているのだ。

 

「……分かるよ。誰だって……カッコ悪いところなんて見られたくないよねぇ」

 

 今はそれだけが。彼に掛けられる、せめてもの情けなのだから――。

 





 今回はゾルダスパルタン回の後編。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
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Ps
 劇場版ガンダムSEED、3回くらい観に行ってました。そういえばゾルダの人ってカラミティの人でもあるんですよね……。砲撃系に縁のあるお人だ……(*´꒳`*)


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