ハイスクールD×D ~神殺しの王は赤き龍の帝王となりて王道を征く~ (ガーネイル)
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プロローグ

 戦場のはずれにある木に少年がもたれかかっている。来ている服と顔には斬った者のり血がついている。だが、体のあちらこちらの刃傷がある。少年の傍らには刀がある。しばらくして少年が刀を握り杖のように扱いながら立ち上がろうとするが力が入らないのかそのまま前のめりに倒れこむ。

 

(まだだ……、ここで終わるわけにはいかない……)

 

 それから少年が目を覚ますことがなかった。少年は死後、国に栄華と勝利をもたらした英雄と呼ばれるようになった。

少年は英雄になりたいわけではない。ただ、少年はただ平和な世界にしたかっただけなのだ。

 

 ******

 

 少年は真っ白で何もない空間にいた。少年はそこで何か物語のようなものを映像として見た。

 

――――――

 

 少女は王を決める選定の剣『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』を抜く。それから少女は性別を男と偽り王として生きる。幾つもの戦場を円卓の騎士や兵士と共に駆け抜ける。

 彼女が持つ剣の銘は『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。湖の貴婦人からもらった聖剣である。人が鍛えたものではなく、星が鍛えた神造兵器。人々のこうであって欲しいという願いによって形成された最強の幻想(ラストファンタズム)だ。

 そしていつしか王はこう言われた。『王は人の心が分からない』。そして王はカムランの丘という場所で円卓の騎士であり、息子であるモードレッド戦った。

 戦いは終わり、その後少女はある七日間の夢を見た。それは正義の味方を目指す少年との出会い。その出会いは王の考えを変えた。目を覚ました時、円卓の騎士の一人に『約束された勝利の剣』を湖の貴婦人に返すように頼み、眠りに着いた。

 

 

 少年はまた別のものを見る。それは正義の味方を夢見た男の子のお話し。

 その男の子の始まりは黒い太陽が浮かび、周りは地獄のような光景が広がっているところだった。男の子は一人の男性に助けられる。

 満月の夜、男性は正義の味方になりたかった、と男の子に言う。そして男の子は男性の夢である、正義の味方になることを決める。男の子は男性に憧れのようなものを持っていたのも一つの理由だろう。

 男の子が成長し、少年とあまり変わらない年齢になった頃、彼女と出会う。全ての始まりは二人の男性が戦っているところを目撃したところからだ。それにより始まった時間は彼にとって、とても大切な時間になる。彼は王と呼ばれた少女を愛した。そして彼女も彼を愛していた。

 それから青年になった頃、彼は夢を現実にするために世界を周った。紛争地域や土地が枯れているところを巡っていく。幼き頃、男性と交わした約束を果たすために。

 その中で青年は言った。

「死んでいく人を見たくない。苦しんでいる人全てを助けることは出来ないのか」

 ――――――と。青年が全てを助けようと思っても助けられない人が存在した。当然である。人一人が救える数などたかが知れているのだから。だから少年はより多くの人を助ける手段を実行した。一を切り捨て、九を救うという最も単純で残酷な方法。だが、最も少ない被害で多くを救う方法でもある。

だが、やがて少年は化け物と言われるようになった。そして青年の最期は濡れ衣による死。彼の最期は絞首台の上だった。

 そして彼のことを表す詩が出来た。

体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

血潮は鉄で(Steel is my body)心は硝子(and fire is myblood)

幾たびの戦場(I have created over)を超えて不敗(a thousand bleads)

ただの一度の敗走はなく、(Un known to Death)

ただの一度も理解されない(Nor known to Life)

かの者は常に独り(Have with stood pain)剣の丘で勝利に酔う(to create many weapons)

故に(Yet)生涯に意味はなく(those hands will never hold anything)

その体は(So as I pray)きっと剣で出来ていた(Unlimited Blade Works)

 

――――――

 

 そこで少年が見ていた映像は途切れた。

 少年の意識が再び薄れていく。再び意識を手放し、真っ暗な世界へと落ちて行った。

 

******

 

 少年の魂は輪廻の輪に入り巡っていく。そして少年が新たな生を受けたのは天使・悪魔・堕天使の三つ巴の世界。そして神話が現実のものとなっている世界。そこで少年は風峰(かざみね)和希(かずき)と新たな名を授かる。

 神の悪戯か何なのかは分からない。が、いわゆる前世と呼ばれるものの記憶と死後に見たものの記憶は残っていた。

 

 少年は神話が好きになる。小学生の時から神話や伝記を読み漁った。ちょっと変わった少年として育つ。そして高校二年になった時、祖父のお願いで少年はサルデーニャ島に行く機会があり、単身でイタリアまで行く。全く出来ないイタリア語。少年は拙い英語を使いながら身振り手振りで行き先を伝える。その中で一人の女性と出会う。腰まである赤い髪と同色の服と白い帽子と羽織を身にまとっている。

 

「何かお困りですか?」

 

 女性が発したのはイタリア語や英語ではなく、日本語。和希にとってここで日本語を話せる女性と出会えたのは僥倖だった。

 

「実は爺さんの知り合いにこれを返しに来たんですけど、知り合いの家が分からなくて」

 

 そう言って和希が石板を取り出したとき、世界が変わる。あくまでそれは比喩である。が、現実ではありえないサイズの猪が港付近にいた。ヨットが宙を舞っている。そして暴れだし、近くにある建物の破壊を始める。

 

「あなたは逃げてください。私はあれを止めてきます」

 

 女性は和希にそう告げた瞬間、走って行ってしまう。和希は遅れて女性を追いかける。建物が破壊され、道も荒れている。ちょっとした段差に躓き、倒れてしまう。その反動で石板を落とすが、それを拾った者がいる。それは十歳くらいの少年だが外套で顔から下を隠している。

 

「これはお主のか?」

 

 使っている言葉は古い。だが、今の和希にはそこを気にするだけの余裕はない。和希は少年に逃げることを伝える。

 

「あ、あぁ。早く逃げたほうがいいぞ。なんかでかい化け物がいるし」

「ははっ、面白い」

 

 面白い。そういう少年と一言交わして落ち着きを取り戻す。

 

「面白い? ってか、お前は? 若干日本語も少し古いし」

「我は勝者じゃ。最強にしてあらゆる敵を打ち破る者。敗北というのを味わうのも悪くないと思うてな。古き神々の王を甦らせ、立ち合うてみたが未だ敗北に至らぬ」

 

 和希には何を言っているのかが分からなかった。正確には理解しきれなかった。勝者であり、あらゆる敵を打ち破る者。これを指し示す者がいる。だが、それは神であり、現実にはいないからである。だから頭が混乱する。今の状況も相まって余計思考が追い付かない。

 その時、頭上を何かが通過した。和希が上を向くとさっきの女性が屋根伝いに跳んでいくところだった。

 

「すいません!」

 

 和希の声は女性には届かず去ってしまう。

 

「お主、あの魔女を追ってここに?」

 

 少年は女性が去った方向を見ている。

 

「魔女? いや、爺さんに頼まれてここに来たんだ」

「これを? フッ、フフッ。ハハハハ。よきかな、よきかな。どうやらお主、よき子よき戦士のようじゃ。この盗人がそう言っておる」

 

 少年がそう言った瞬間、遠くから女性の悲鳴が上がった。おそらくさっきの女性だろう。和希が女性の声がした方へ走っていこうとすると少年が和希に話しかける。

 

「行くのか? 戦士よ」

「あぁ。だからそれを返してくれ」

 

 少年は石版を眺める。そしてややあって和希の方へ差し出す。

 

「いいじゃろ。お主に預けよう」

「預ける? 預けようって、これは爺さんの……」

 

 和希が少年から受け取ると後ろから光が発生する。そしてその中心には白馬がいる。

 

「なんだ!?」

 

 そして、石版も白馬と同じように輝きを放つ。あまりの眩しさに和希は腕で目を庇う。光が収まると白馬もさっきまで目の前にいた少年もいなくなっていた。

 

「今のは…………」

 

 そう呟いてから今度こそ、女性が向かった方へ走り出す。暫くすると女性が屋根の上にいるのを見つけ、近くの建物へ入り、階段で登っていく。そして女性が何かに吹き飛ばされる。和希はテラスから身を乗り出して、女性へと手を伸ばす。

 

「届け!」

 

 和希の手はギリギリ女性に届き、手首を掴む。

 

「大丈夫ですか?」

「あなたはさっきの……」

 

 女性を引き上げると巨大な猪が竜巻と思われる何かに包まれる。そしてそれは徐々に強くなる。あまりの強さに目を瞑る。目を開けると何も無かったかのようにいなくなっていた。

 

 

 その後、和希は女性ととも一旦落ち着ける場所に移動する。到着したのは無人駅でそこにあるベンチで座って話をすることにした。

 

「えっと、さっきのは?」

「分かりません。私もあんな大きさの魔獣は見たことないので……。さっきは助けていただいてありがとうございます」

「いえ、あなたが無事でよかったです。……あの、俺は風峰和希って言います。名前を教えてもらってもいいですか?」

 

 和希はまだ女性の名前を知らないことを思い出す。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はアティといいます。えっと和希くんは何でここに?」

「俺は爺さんの知り合いにこれを渡しに来たんです」

「その知り合いのお名前って分かりますか?」

 

 アティに聞かれ、和希は祖父から預かったメモを見て確かめる。

 

「えっと、ルクレチア・ゾラって人」

「あぁ! ルクレチアさんですね。つい昨日までお世話になってましたので案内しますよ、あそこはなかなか変わったところなので」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「はい、それでは行きましょう」

 

 和希はアティに案内され、ルクレチア・ゾラが住む家へと向かう。そこはなかなか辺鄙なところでお昼頃に出発したはずなのに到着したのは日が沈むほんの少し前くらいだった。そして、和希たちの頭上から何者かが声をかける。

 

「猫?」

「そなたらはアティではないか。お昼ぶりだな、そちらの御仁は?」

「俺は風峰和希っていいます。えっと、風峰大智(だいち)の孫です」

「ほう、大智の……。」

 

 門が開き、猫が中に向かって歩いて行く。おそらくついて来いという意味だろう。アティは慣れたように中に入っていく。

 リビングに入るとソファの上でネグリジェ一枚という年頃の男の子には少々過激すぎる格好で横になっている女性がいる。

 祖父の知り合いということでおばあさんが出てくると思ったら待っていたのは妙齢の女性で独特の色香がある。

 

「すまなかったな、自由に魔力が使えると物ぐさになっていかん」

 

 ルクレチアはソファの近くに座っている猫を撫でながらそう言う。

 

「は、はぁ」

「ん? どうかしたか?」

「いえ、失礼も承知ですが、爺さんから知り合いって聞いてたのでその……」

「まぁ、人間と比べれば高齢かもしれないが、まだまだ衰えていないぞ」

 

 

 体を起こし、右足だけを少しだけ上にあげる。

 

「程なく完全な夜だ。この体試してみるか? 少年」

 

 ルクレチアはそう言いながら脚を蠱惑的に動かす。和希は目を反らし見ないようにしている。青少年にはいささか刺激が強すぎるようだ。そこで今まで黙っていたアティが口を挟む。

 

「ルクレチアさん! 和希くんにそんなことしないでください! 教育によくないです」

「だが、アティよ。初心な若者は大抵、色々と持て余しているものだぞ」

「そんなことありませんよね、和希くん?」

 

 ルクレチアはその瞳に悪戯っ気を含めながら、アティは私に同意してくださいますよね? みたいなのを含めた瞳で和希を見る。

 

「別に持て余してはいませんよ」

 

 少し疲れたように和希が答える。

 ルクレチアは怪しげに微笑んだ後、左肩にかかっている肩紐が自然にずれる。その後和希が持ってきた石板に手を伸ばす。座りなおし、肩紐も直す。

 

「プロメテウス秘笈(ひきゅう)か。懐かしいな」

「プロメテウス!」

 

 プロメテウスとはギリシア神話における一柱の英雄神。彼は天界の火を盗み、人類に与えた存在である。愚者と言われるエピメテウスの兄であり、プロメテウスは熟慮する者、先見の明を持つ者などの意味がある。ティターンの一神で兄弟はエピメテウスだけでなく、アトラスやメノイティスがいる。

 

「それをどうするつもりですか?」

 

 今までとは一変してアティが真剣な声音でルクレチアに問う。だが、ルクレチアはそれを容易に受け流す。

 

「さぁ、どうしようか。こんなものがあるとよからぬ輩が集まって困る。出来れば引き取ってほしいものだ。……少年よ、ここに来る間に彼女以外の誰かに会ったか?」

 

 そう聞かれた和希はここに来るまでの道のりを思い出す。色々な人と出会ったが、一番印象に残っている少年がいる。

 

「そう言えば、子供に会った。日本語を話してたんだけど妙に古い話し方をしてたような気がします」

 

 それを聞いたルクレチアはプロメテウス秘笈を和希に投げる。和希はそれを危なくキャッチする。

 

「いいだろう、君にやろう」

「本当ですか!」

 

 神話が好きな和希にとってそれは嬉しいことだった。だが、それに対し、アティが意外にも食ってかかる。

 

「ルクレチアさん! 彼は何も知らない一般人ですよ。それを渡すのは余りにも危険すぎます!」

「だが、神はその石板が少年の手にあることがお望みなのだ。偶然は必然。全ての糸は紡がれていくものだ。分からぬか?」

「分かるわけないですよ!」

 

 そう言ってアティは出ていく。和希はただただ無言で渡されたプロメテウス秘笈を見つめていた。

 



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1.神殺し

 ストックの一つを下しました。
 続けるにしても不定期であることに変わりないのでご了承ください


 ルクレチアは一人でソファの上で寝転って猫と遊びながらつぶやく。

 

「頑張れよ、少年。私が見たところ。お前もまた、大智と同じ才を持っている。……女たらしのな」

 

 ルクレチアとの会話を終え、夜になった。ルクレチアが呟いたことを知らず、和希はアティといっしょにいる。客室で和希のいる日本について話している。

 アティが持っている日本の情報は全て古く現代社会とは無縁ともいえる江戸や明治くらいの知識だった。特に食いついてきた話は学校の話。どのようなことを勉強しているかが気になるとのこと。予想以上の食いつきに和希はなぜこんなことを気にするのか聞いてみる。すると、アティは自分が家庭教師をやっていったこともあり、そういうことには興味がある。という何とも言えない答えが返ってくる。アティが眠りに着くまでそんな時間が続いた。

 

 そして朝、起きた瞬間は晴れていたはずだった。が、突然強い地響きがする。そして雨が降り出す。和希が外に出ると霧がかかっている。

 アティは和希より先に外にいるがいた。が、和希には気付いていない。アティの視線は一定の位置から外れない。和希はその視線の先を見ると巨大な男がいた。そしてアティが男に話しかける。

 

「お待ちください!」

 

 アティの声は届いたらしく、こちらを振り向く。

 

「何だ、人の子の分際で神の前進を止めるとは僭越であるぞ」

「非礼をお許しください。あなたは昔、フェネキア人が崇めた神の王。メルカルト様でございますか?」

「ほぉ。今の世にも古き王の名を知る殊勝な者がいたか。……儂こそメルカルト。かつてこの島。いや、この海全てをしらしめた王者である!」

 

 改めて自ら名乗りを上げるメルカルト。突然雷が飛来し、メルカルトの左腕に直撃する。

 

「雷?」

「サルデーニャ島にはあまり雨は降らないみたいです。ということは……」

 

 和希は雲の合間から何かがいるのを見た。メルカルトも同じものを見ている。

 

「相変わらず器用に姿を変える奴よ。急がねば……」

 

そう言ってメルカルトは再び前進を始める。

 

「和希くんは逃げてください」

「逃げてくださいって。アティさんはどうするんですか!?」

「彼らの争いを止めます。メルカルトさんは地中海で一番強い神様らしいです。そんな彼が本気で戦えばこの島が消えてしまいます」

「でも、どうやって止めるつもりですか?」

「子供たちの未来を守るのが大人の役目ですから」

 

 そう言うアティの言葉と表情は一つの覚悟を持ったものだった。そんなアティに和希は何も言うことが出来なかった。

 

 

 

 

 アティが運転する車には和希も一緒に乗っている。アティは運転しながら和希のことを心配する。

 

「本当に危険ですよ。もしかしたらあなたを助ける余裕がないかもしれません」

「大丈夫です。それくらい分かっています」

 

 そう言いながら和希は今、手に持っている石板。昨晩にルクレチアからもらったプロメテウス秘笈を見る。思い返すのはアティが寝た後にルクレチアと交わした会話。和希がアティと一緒にいる理由の一つ。

 

「そう。神々を欺くトリックスター。人間に炎と英知を与えた英雄、プロメテウス。その力がこれには含まれている。神の権能を盗み、我が物として使える力がある」

「権能?」

「神の能力。力だ。そこには既に神の化身、白馬の力が込められている。詳しいことは言えないがアティは何でも一人で背負い込む性格でな。一般人である少年を巻き込むことに抵抗があるのだろう」

 

 

 和希は確かに何も知らない一般人だ。それでも、和希は他人に事を任せて自分だけ逃げるということは出来なかった。それは前世から来る脅迫観念に近いものかもしれない。でも、例え、何もできないとしても知ってしまったからには無視できない。それに賭けに等しいとはいえ、プロメテウス秘笈が和希の手元にある。それが何かの手になるかもしれないのならそれを使う。そう考えている。

 

「見てください」

「何もいない?」

 

 アティに促され外を見ると車と並走するように大きな鳥が飛んでいる。だが、上空には何も飛んでいない。

 そもそも悪天候の中、影が発生していることがおかしい。

 アティは自分なりの見解を和希に教える。

 

「おそらく、先日の猪と同じですね。昨日は魔獣と言いましたが、正確には神獣ですね。きっと一つの姿になるために集まろうとしているのです」

 

 道が開け、前方にはメルカルトがいる。その傍らには昨日、和希が話をした少年がいる。手を腰に当てながら少年がメルカルトに話しかける。

 

「久しぶりだな、メルカルト」

「待ちわびたぞ……」

 

 メルカルトの声が辺りに響き渡る。そしてメルカルトと和希が同じ名を口にする。

 

「「ウルスラグナ」」

「知ってたんですか?」

「古代ペルシャの軍神にして光の神」

 

 そこまで言って再び、ルクレチアの言葉を思い出す。

 

『強風、牡牛、白馬、駱駝、猪、少年、鳳、牡羊、山羊、そして黄金の剣を持つ戦士。十の化身を持つ常勝不敗の軍神、勝者。これに閉じ込めてあるのはその十の一つ、白馬。ウルスラグナはわざとお前に武器を与え、戦いを楽しもうとしている』

 

 アティは車を止め、先に神々の元へ向かう。和希を遅れて車から出てアティを追いかける。

 一方、ウルスラグナとメルカルトは相対したまま動かない。ウルスラグナが口を開き、メルカルトに話しかける。

 

「以前に立ち合うた時の傷、まだ癒えぬようじゃな」

「フン、儂を蘇らせてまで強者との戦いを望む貴様の思い上がり。手負いを理由に見過ごすわけにもいかん」

「楽しみだ」

 

 そう言ってから挑戦的な表情を浮かべ、右手を上に掲げる。すると、風が巻き起こる。そして上空から駆けてきたのは山羊と鮮やかな赤い鳥。これらが渦巻いた風に飲み込まれ、ウルスラグナの元へと入っていく。

 

「これで残る化身はあと一つ」

 

 そう言ったのが開戦の合図だったのか、メルカルトが右手にもつ棍棒を振り上げる。その瞬間。アティの声が二人の間に届く。

 

「お待ちください!」

「あの魔女は……」

 

 アティは神々に見られながらも恐れることなく胸を張り、言葉を口にする。その胆力とでもいえばいいのか、度胸はなかなかのものがある。

 和希は前世にも似たような女性がいたような気がすると思いながらアティを追いかける。

 アティに言葉を返したのはメルカルトだった。

 

「ふむ、この地はもはや儂らの雌雄を決するための戦場。諦めろ、人間」

「魔女よ、神にあらがわんとする心意気、あっぱれじゃ。が、分を弁えよ」

 

 ウルスラグナがアティの元へ雷を落とす。アティはそれを危なげなく跳躍してウルスラグナが落としていく雷を避け続ける。五発、六発と順調に避けていくが徐々にスパンが短くなり、捌ききれなくなってくる。

 そしてついに直撃コースで避けられない一撃が飛んで来る。和希がアティを抱きかかえ横に飛んで回避する。

 

「和希くん」

「あの時の……」

「こっちだ!」

 

 ウルスラグナが和希を視界に入れる。そしてウルスラグナは和希がつい昨日会った人間の子供だと理解する。

 和希は起き上がりアティの手を取って走り出す。今の緊迫した状況に和希は年上に対して敬語ではなく、普段の言葉遣いが表に出ている。

 和希がアティの手を引きながら走っている間に出てくるのはまたもルクレチアとの会話。

 

『今のお前はその不思議な石板に、神々のいるこの未知な世界に心が躍っている。違うか?』

 

「(そんなの当たり前だろ!)メルカルト! ウルスラグナの白馬の力はここにある。どうだ、手を組まないか? 俺たちを守ればあいつが完全に戻ることはない!」

 

 和希はメルカルトに一つ提案を持ちかける。その提案は上手くいく保障なんてどこにもない。和希にとってこの提案は分の悪い賭けでしかない。

 和希の顔には僅かながら笑みが浮かんでいる。言葉の節々にも挑戦的なところが見受けられる。

 メルカルトは和希の方を無言で見続け笑い始める。

 

「貴様、神である儂を使おうというのか」

「神と取引するなんて初めてだ。でも悪くないと思うんだが、そこのところはどうだ?」

「いいだろう。面白い、面白いぞ人間! フン!」

 

 左手で持つ鉈をウルスラグナに振る。ウルスラグナはそれを軽々と避ける。

 ウルスラグナが和希を見ている。ウルスラグナの顔には笑みが浮かんでいて楽しそうである。メルカルトから視線を外し、和希に狙いを定める。

 

「どうやら我の見立てに狂いはなかったようじゃ。楽しませてくれよ!」

「和希くん!」

 

 そう言ってウルスラグナは再び右腕を上に掲げ、雷を落とす。

 和希は回避の動作も何も起こさない。

 雷が和希に降りかかる前に見えない何かに遮られ、霧散していく。ウルスラグナが視線をメルカルトに戻す。

 メルカルトは笑いながら応える。

 

「神の加護というやつだ。感謝しろよ、人間」

「これからどうするつもりですか?」

「考えてない。なるようになるさ」

 

 ウルスラグナがメルカルトに気を取られている間にアティは和希が次にどうのように行動するかを聞く。それに対し、和希の答えは衝撃的なものだった。

 考えてない。その一言だけだった。でも和希の顔に浮かんでいるのは笑顔。どこにも不安げなものはどこにもない。

 アティはそこに疑問を抱いた。

 

「どうして笑っているんですか?」

「何でかな。自分でも分からないくらいこの瞬間が楽しいんだ」

 

 ウルスラグナの顔には今までより深い笑みが浮かんでいる。戦いというものを心の底から楽しんでいる。

 ただ、その姿は見方を変えれば楽しいことが好きな子供のようにも見える。ウルスラグは今までにないほど大きな声を上げる。

 

「さすが、我の見込んだ子! じゃが、我を負かすにはまだ足りぬ!」

 

 そう言って左手を上に掲げる。次に現れたのは雷ではない。横に薄く光が伸びる。その光が形を帯びていく。そしてその光は黄金の剣になる。

 次の手は打たせないとばかりにメルカルトが右手に持つ棍棒を振り下ろすが、それより早く和希の方へ肉薄していく。メルカルトが棍棒を振り抜いた時にはもうその場にウルスラグナがいない。

 そしてウルスラグナが剣で切りかかろうとするが、神の加護に阻まれる。が、それを切り裂き、徐々に侵入してくる。

 

「何!?」

「忌々しい黄金め!」

「黄金の剣……もしかしてあの剣には神の力や神格を切り裂けるのでは?」

 

 アティが一つの考察を和希に告げる。和希はその考察に納得がいった。ウルスラグナは常勝不敗の軍神。そんな力があっても不思議ではない。

 

「我、敗北を求めたり! 古い王よ、人の子よ、もっと我を楽しませよ!」

「和希くんは逃げてください!」

「秘笈は俺が持ってる。使える手は使えるのが俺なんだ」

 

 アティはルクレチアの屋敷に出る前と同様に逃走を促すが和希は一歩も動かず譲ろうとはしない。和希はまだ諦めていない。

 和希の言葉にアティは怒鳴るように言う。それでも和希の顔にはどこか笑みが浮かんでいる。どんなピンチな状況でも楽しむそんな感じすらする。

 

 

「何を言っているんですか! それでもしダメだったらどうするんですか!?」

「何もしなくても命を落とす。違うか? ならやらないで後悔するよりやって後悔しなきゃ。それに、そんなことしたら俺は、自分が許せなくなる。今まで自分がしてきたことを無駄にしたくないんだ」

「和希くんはエピメテウスみたいな人ですね」

 

 突然言われたことにキョトンとする。だが、自分がそう言われるとは思っていなかった。知っているはずなのにおうむ返しのように名前を繰りかえす。

 

「エピメテウス?」

「愚か者、バカ」

 

 そう言うと、アティは和希の頬に軽く口付けをして和希から距離を取る。

 

「おまじないです。思いっきりやってください」

 

 和希はその言葉に対し、頷いて答える。

 その瞬間、ウルスラグナが和希達にかかっているメルカルトの加護を切り伏せ、ガラスが割れたような音がする。

 それに合わせ、和希は秘笈を前に掲げる。すると、秘笈からは白馬を象っている炎が雄叫びと共にウルスラグナの元へ駆けていく。

 至近距離で白馬の炎に巻き込まれるウルスラグナ。

 

「はああぁぁ!」

 

 和希は叫びながら秘笈を掲げ続ける。神の化身である白馬から発生している衝撃は凄まじい。和希はそれに負けないよう堪えていた。

 白馬が秘笈から出ていき、炎が止まる。ウルスラグナは白馬の炎に包まれている。

 和希は弾かれたように後ろに倒れ、アティが和希の元へ駆けよる。

 

「我自身が、我の化身に負けるにはいかぬ!」

 

 和希は咳き込みながら立ち上がる。その目からまだ戦意は失われていない。和希はボソッと言葉を零す。

 

「盗んだ。アイツの剣を。黄金の剣を!」

 

 その顔は勝利を確信したかのような笑みを浮かべている。そしてその言葉と同時に最初から何もなかったかのようにウルスラグナの手から黄金の剣が消える。

 ただ、盗んだのはいいが使い方が、どうすれば使えるのか和希には分からない。秘笈に込められたわけではないから尚更だ。

 

 

「最後の一手。どうすればいい。どうすれば使える!!」

 

 叫ぶようにそう言う。

 それを無言で見ていたアティはさっきと同じよう和希の元へ近付く。が、さっきとは違い、両手を和希の頬へ添える。和希は少し、困った顔をしている。そしてアティは頬を赤く染め和希にキスをする。

 ただ、それはただのキスではなく、教授の術をかけている。和希の頭の中に改めてウルスラグナの知識が入っていく。

 

 そして太陽の光が昇るのと同時に眩い光が一帯を包み込む。

 世界が変わる。サルデーニャの一部ではない。黄金の大地に無数の剣が生えている。夜空の中に無数の黄金の剣が浮いている。それはまるで黄金の剣で出来た墓標のようだ。和希の手にはさっきまでウルスラグナが持っていたものと同じものが握られている。

 上を向いて宙に浮いている黄金の剣の全てがウルスラグナの方へと向きを変える。その中の一本がウルスラグナに突き刺さり、ウルスラグナの体はさらに炎に包まれる。常勝不敗の軍神、勝者。そう言われる神が人間に負けた瞬間だった。

 

 

 

 その者は覇者である。天上の神々を殺戮し、神を神たらしめる至高の力を奪い取るが故に。

 その者は王者である。神より簒奪した権能を振りかざし、地上の何人からも支配されえないが故に。

 その者は魔王である。地上に生きる全ての人間が彼に抗う程の力を所持できないが故に。

 その者は神殺しの王(カンピオーネ)である。

 




 次から本編に入ります。こんなのアティじゃないも思う方もいらっしゃると思いますがお許しください。サモナイ5のアティ先生しか知らんのです。


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2.それぞれの事情

 最後のストックです。
 また当分投稿できません。
 本編に入るのは今回ですが、中盤より少し後ろ辺りになります。


 ウルスラグナとの戦いを終えた時、和希は霧に包まれた場所で横になっている。どこからともなく響くように声が聞こえる。

 

「エピメテウスと私が残した呪法、愚者と魔女の落とし子を産む暗黒の生誕祭。神を贄として成功する簒奪の秘儀」

 

 和希が目を開くと長いピンク色の髪を二つに分けた幼女がいた。

 幼女は和希が目を覚ましたことも気にせず、顔を覗き込みながら何かの詩を読むような話し方で話を続ける。

 

「つまり、全ての条件が揃ったの。まさに天の采配ってやつね」

「何の話だ」

「まぁ、簡単に言うと貴方は相打ちで神殺しに成功した。あのウルスラグナに」

 

 話が読みこめなかった和希が幼女に何の話をしているのか聞くと、今までの話し方とは打って変わり、元気よく話す。今までの話し方は猫でも被っていたのだろうか。

 ただ、目の前にいる幼女が誰なのかが分からない。

 

「殺した? ってか、あんたは誰だ」

「全てを与える女、パンドラ。あなたはカンピオーネとして生まれ変わるわ。神殺し、王の中の王。カンピオーネ」

 

 

 パンドラが和希に顔を近づけていく。その中で和希の意識はどんどん遠のいて行った。

 和希が目を覚ましたのはルクレチアの家に備えてあるベッド。ぼんやりとした意識の中、ベッドの上で体を起こす。

 遠くを見つめながら何も動かない。おそらくまだ寝起きで頭が働かないのだろう。ややあってようやく動き出す。

 和希は部屋から出ようとフラフラと蛇行しながら歩いて行く。扉を開けるとルクレチアとアティが会話しているところだった。

 

「お、少年。ようやく起きたか、まる二日死んだように寝ていたのだから心配したぞ」

「よかったです、目を覚ましたんですね」

 

 アティは目を覚ましたことに安心したようだが、ルクレチアは普段と何ら変わらない様子で和希に言葉をかける。

 和希はルクレチアから聞いた言葉に一つ引っかかりを覚える。さっき彼女は何と言った?

 ルクレチアは「『まる二日』死んだように寝ていた」と言ったのである。まる二日、つまり和希がウルスラグナと対峙してから二日経過していたのである。

 

「まる二日!?」

「あぁ、そうだぞ。ウルスラグナと戦い、倒れたお前をアティが連れてきてれくれたのだ」

「そう、なのか……。アティさん、ありがとうございます」

「和希くん、敬語じゃなくていいですよ。ウルスラグナと戦っている間もそうだったじゃないですか」

 

 

 アティにそう言われ、思い出す。あの時は必死で気にしている余裕はなかった。だがそれも当たり前である。戦場で余裕を持てる者などいないだろう。余裕でも油断でも持ったら最後。待っているのは『死』だけなのだから。

 アティはそれを知っている。何故なら、彼女は家庭教師である前に軍人である過去を持っているのだから。

 だからこそアティは気になった。たった十六、七の少年がそれを知っていることだった。和希は贔屓目に見てもどこにでもいる高校生に見える。だと言うのに、あの時に和希から感じたそれは普通の十六、七歳の男の子ではない。考えても分からないアティは和希に聞くことにした。

 

「和希くん。あなたに聞きたいことがあります」

「何?」

「あなたは戦場にいたことがありますか?」

 

 アティは改まって和希に質問した内容は戦線に参加したことへの有無。

 和希が戦場にいたかどうか。この世界ということで括れば答えはNoである。だが、前世のことも含めるとしたらYesだ。

 アティが聞きたいのは誤魔化しなどではなく、事実。

アティへの質問の答えは一つだ。

 

「あるかないかで言ったらYes。だが、この世界ではなく、前世。この世界に生まれる前という条件が付く」

「前世、ですか?」

「あぁ。俺は前世で戦場を走り回った。早く戦いを終わらせる。それだけの為にいくつもの戦場を駆け抜けた。相手が強いとか弱いとか関係ない。偽善と言われても構わない。それでも俺は皆に幸せに生きてほしかっただけなんだ。それで無理が祟ったのかな、それで最期は戦場で立ちくらみを起こして致命傷。それでこの世界に転生したんだ。ついさっきまでは普通の高校生だったさ」

 

 アティはその説明で自分が危険でも逃げようとしない和希の人となりをそれなりに理解した。本人は理解していないだろうが、皆が幸せに過ごしてほしいという思いもあるが、格上の敵と戦うのも好きなのだろう。後者のことに関して、恐らく和希は気付いていない。本来神殺しという大きな偉業は心の底から戦いが好きな者にしか達成できないのである。一方、ルクレチアはまだ何かを考えている。そして次はルクレチアが質問した。

 

「ならば、少年。お前が持つその力は何だ? ウルスラグナとは違うまた別の力。想像を現実のものへと昇華する力だ。それも以前から持っていたのか?」

 

 和希でも知りえない未知の力。それを視ることが出来たのはルクレチアの魔女としての持つ力の一端。

 

 

「そんなものは持っていない。使ったことがないからな」

「ならば、一度試してみよ。おそらく最も作りやすいものは剣の類であろうな。自分が今、必要とする剣を思い描くのだ。そして自然と思い浮かんだ言葉を口にしてみよ」

 

 和希は一度頷き、目を閉じる。頭に思い浮かんだものは前世で使い、自分の半身とも言える剣。それが脳裏に色濃く浮かび上がる。

 和希は手を真っ直ぐに掲げ思い浮かんだ言葉を口にする。そしてその言葉は奇しくも守護者、錬鉄の英雄と呼ばれた者と同じものだった

 

投影(トレース)開始(オン)

 

 言葉を紡ぐと同時に和希の手の中に現実のものとして現れる。

 和希とアティは本当に出来たということに驚き、ルクレチアはやはりな、言いたげに納得した顔で頷く。と

 和希が作り出したのは日本刀に近い形状をしていた。

和希は剣を消す為にはどうすればいいのか、悩むがすぐに解決する。

 

投影(トレース)解除(オフ)

 

 そう唱えると剣は何もなかったように消える。

和希に関する一連のことが終わる。すると、アティが「それでは」と言い、自分の過去を話し始める。

 アティもこの世界ではなく、異世界の住人だ。ただ、和希のように転生したわけではない。強いて言うなら異世界訪問だろうか。

 彼女が元軍人であること、今は家庭教師だったこと、そして召喚術というのを使え、過去に何をしてきたかということ。この世界に来てから各地の伝承や神話。一般常識などを調べていたことを伝える。

 和希は神々との戦いのときに発揮していた彼女の身のこなしに納得する。そしてこれからの話になる。

 その中でアティが和希に着いてくると言う話になった。そして和希がいる学校の先生になることのもいいと思ったらしい。

 だが、アティはこの世界で必要な戸籍、国外に出る時に必要なパスポートを持っていない。つまり外へ出る方法はアティの使う召喚術。彼女が中型の竜を召喚し、それに乗る。という方向で話は決まった。

 

 それから一週間の間、和希は二つ目の権能を手に入れる。ケルト神話の神王ヌアダから簒奪した権能である『切り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)』。握ったものは全てを切り裂く魔剣に変化させる。この権能は使用中、右腕がヌアダの義手のように銀色に変わり、切ることに特化した権能である。

 

 サルデーニャの地を離れ、何時間経過したか分からないが、ようやく日本に到着する。

 携帯を見ると春休み最終日の昼だった。和希はアティを案内しながら歩いて行く。アティは初めて見る日本の街並みに興味が尽きないようだった。

 街中にいる人々は和希とアティを羨望の眼差しで見るが、二人は何で見られているか分からず、とりあえず早く家に向かう。

 

「ただいまー」

 

 和希が玄関を開けると奥から妙齢の女性が出てくる。和希の母親である。玄関で和希とアティを目にすると慌てだす。

 それはそうだろう。息子が単身でイタリアに行ったと思ったら女性を伴って帰ってきたのだから。

 

「い、いらっしゃい。か、か、か、和くん。この人は?」

「母さん、落ち着いて。ほら、爺さんの知り合いでルクレチアさんっていただろ。その人の親族で日本に興味があって連れていけって言うから連れてきたんだ」

「え、えぇ。そういうことなのね。和希の母の美奈と言います。よかったら家のようにくつろいで下さい」

「ありがとうございます。私はアティと言います。今日からよろしくお願いします」

 

 美奈が落ち着くのは早かった。最も爺さんの知り合いでその親族ということに納得した部分もあるのだろう。

とりあえず、問題なく和希の家にホームステイすることが決まった。

 この日の夕ご飯は、美奈が腕を振るい豪勢なもので楽しい時間が流れる。アティの部屋は和希の部屋の正面にある。

 元々知り合いが多い和希の祖父がたまに連れてくることがあり、泊まれるために部屋を作ったからだ。

夕飯も終わり、自室のベッドで横になる。すると、二日前のことが浮かび上がってくる。

(これは、あの時の……)

 

 

 黄金の剣を使い終え、和希が倒れている。アティは和希の頭を脚の上に乗っけている。いわゆる膝枕というやつだ。和希が目を覚ますとウルスラグナが宙で燃えている。

 和希が目を覚ましたのに気付き、アティが和希に語り掛ける。

 

「和希くんに教授の術で授けたのはウルスラグナの知識。これが黄金の剣を抜くための鍵のようです。それによって、和希くんは黄金の剣を使えるようになり、黄金の剣でウルスラグナに止めを刺しました」

「見事だ。見事だ、良き戦士よ。勝利の神の権能を簒奪した神殺しよ。何人よりも強くあれ! 再び我と戦う時まで何人にも負けぬ身であれ!」

「ウルス……ラグナ」

 

 そう言ってウルスラグナの身が焼かれて塵になったように消え去る。ウルスラグナは消え、彼が使う十の化身を表している不思議な円盤だけが残り、和希の元まで降りてきて体の中に入っていく。

 この世界で初めて神殺しの王が誕生した瞬間だった。

 

 

 扉がノックされ体を起こす。部屋の外からアティはお風呂が開いたことを伝える。和希は「了解」と答え、脱衣場に向かう。

 私事を全て終わらせ、明日に備えて眠りにつく。

 

 

 

駒王学園正門付近

 

 和希が学校に着くと後ろから声をかける男子が二人いる。それは松田と元浜という名の変態である。

 

「おー、和希! 今日も元気そうだな」

「そう言うお前らはいつも通りだな」

「当たり前だろう。それじゃあ俺たちは行くところがあるからな。またな!」

 

 そう言って走り去っていく変態二人。どうせ彼らは女子更衣室を覗く為なのだろう。和希は一つため息を吐いてから教室に向かう。

 そして神殺しになった弊害というべきか、体質として神を含め、天使や、悪魔。堕天使と言った人外が身近に存在していると体のボルテージが上がっていき、戦いに備えるようになる。

 和希が駒王学園に入った時からボルテージが上がっているのが分かる。この学校に人外がいるという衝撃の事実。

 ……俺はそんなこと知りたくなかった。

 そんなことを思っても後の祭りである。

 

 

 和希が教室に入り、席に着くと本を読む。タイトルは『アーサー王伝説』。なぜ、彼がそれを読むかというのは彼が死んだ後に見たとある少女の一生が関係していた。それ以来、彼はそれを読むようになっていた。そしてその傍らにはもう一冊の本が置いてある。タイトルは『錬鉄の英雄』。これもまたとある少年の一生を描いたものである。

 チャイムがなり、朝礼が始まる。担任が入ってきて一人の少女を呼んだ。入ってきたのは長い黒髪が腰まである。ほとんどが美少女と言える容姿をしている。

 

「天野夕麻です。今日からよろしくお願いします」

 

 教室内にいる男子が色めきたっている。だが、和希は一人、興味はないと言わんばかりに本を読み続けていた。

 

 

 そしてその日の放課後。和希は天野夕麻に呼び出され、近所の公園に来ていた。和希は夕麻に対して警戒している。何故ならカンピオーネの体質が機能しているからである。だからこそ、人外であることが分かり、警戒しているのだ。

 だが、夕麻からの一言は思いがけないものだった。

 

「あなたのことが好きです! 付き合ってください」

 

 和希は人生初の告白を受ける。あまりにも予想外な言葉にフリーズして固まっている。そしてすぐに再起動する。

 

「ごめん。君と付き合うことはできない」

「そう。……なら死んでくれないかしら? 恨むなら物騒な神器をその身に宿したことを恨むのね!」

 

 

 夕麻はそう言って光の槍を和希に向かって投げる。その矢が和希に突き刺さる。普段の和希だったら何の問題はないだろう。だが、こうなるとは思っていない。(おおとり)の化身を使えるだけの時間がなかった。和希は薄れゆく意識の中、ウルスラグナ第八の化身・牡羊(おひつじ)を使う。

 即死でなければ基本的に元通りに戻し復活する化身。もっとも蘇る前に一度死んでから肉体再生させたうえで蘇生させるという形になる。

 夕麻が去っていき、意識を失う寸前紅色の何かが現れたように感じる。が、それが何かまでは和希に理解することが出来なかった。

 

 

 和希が目を覚ましたのは翌日の朝。起き上がろうとしたとき、何か違和感を感じる。体を起こし、違和感の方へ目を向けるとフリーズした。

 何故ならそこには腰まである紅髪の少女が裸で寝ているからである。

 和希は必死に昨日の夜に何かあったか思い出そうとするが何も思い出せず、焦りだけが募る。そして一階からアティの声が聞こえた。

 

「和希くん! 起きてますか?」

 

 そして階段を上がってくる音が聞こえてくる。

 このままじゃまずい。

 そう思って和希は大声で返事をする。

 

「大丈夫、起きてるよ」

 

 和希の頭の中ではサイレンが鳴り響いている。が、現実はどこまでも残酷である。アティはそのまま階段を昇ってくる。

 和希は必死に打開策を練る。

 大丈夫、俺は神を殺せたんだ。これくらい抜け出す策を捻り出すくらい造作もないはずだ!

 

「ならよかったですが、いつ帰ってきたんですか? まだ十六歳なのに深夜まで外にいるのはいただけません。なので話を聞かせてください」

「分かった! 後で話すから!」

「家庭教師の時の感が言っています。それは誤魔化しだと。なので今、直接話を聞きます」

 

 なぜこういう時の女性は妙に察しがいいのだろうか。

 和希は諦めず策を練るがそれは虚しくも無へと帰る。ついにアティが部屋に到着してしまった。ドアノブが回され、開く瞬間がやけにスローに感じた。そしてアティが和希の部屋に入る。

 そしてタイミング悪く紅髪の少女が目を覚ます。

 和希は絶望した。

 アティは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「一体ナニをしてたんですか! 和希くん!」

「誤解だぁぁぁぁ!」

 

 

 朝から風峰家の中ではアティと和希の大声が響き渡っていた。




 今回はここまでです。しばらくしたら投稿します


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3.オカルト研究部×神殺しの王×抜剣者

 自動車学校等々があったとはいえ、1ヶ月かかってる癖に、今回セリフがいつもより多いかもしれません。
 全く思いつかなかった。ちなみに今作の文体はカンピオーネが元です。余談ですね、すいません。
 今回は色々と自信ないデス……。穴だらけかもしれませんが、それはご都合主義ということに…………なりませんかね?


 朝から和希は部屋でアティに正座させられていた。そして紅髪の少女はベッドの上で座っている。

 

「和希くん。未成年の男女が同じベッド。ましてや裸なんて言語道断です。いいですか? …………」

 

 和希に容赦ない言葉をかけるアティ。

 もうやめてくれ、俺のライフはもう0だから!

 完全に折れた和希から視線を外し、次にアティは紅髪の少女へと向き直る。だが、紅髪の少女は態度を改めるつもりはないらしく、ベッドの上で座っている。

 

「それであなたは? 人間ではありませんね? サプレスの悪魔とも少し違う。和希くんに何か用でもあったんですか」

 

 和希に説教している時とは一変して少し攻撃的な態度だ。言葉の節々に棘を感じる。それを受けている少女はアティの質問に対し、少し目の色を変えた。悪魔という単語に反応したのである。

 少女は一度考える素振りを見せた後に何かに納得したかのように頷く。

 

「それなら学校が終わった後に使い魔を送るわ。貴女と和希のことも聞きたいし、お互いに情報交換といきましょう」

「……分かりました。お待ちしています」

(……あれ? 俺の意思は?)

 

 和希の意思は完全に無視される方向で話は着地した。

アティは朝食ができているから和希に制服に着替えて降りてきて、と言ってから部屋から出ていく。

 和希は初めて見たアティの態度に少し驚いている。

 一方、アティの方も何故自分がこうなっているのか分かっていない。ただ、和希が見知らぬ全裸の少女と一緒にいるのを見たとき、自身の中に形容しがたい何かが生まれたのが分かった。

 本当はあそこで説教する必要なんてないはずなのに、そうせずにはいられなかったのである。アティは自分の中にモヤモヤしたものを感じながらリビングに戻った。

 和希は制服に着替えた後、何故か、少女と共にリビングで朝食を摂っていた。左隣にはアティ、右隣に紅髪の少女が座っている。和希は左方からものすごい圧力のようなものを感じながら黙々とご飯を食べる。

 和希はその時のことをこう語る。あんなに生きた心地のしない朝食は初めてだった、と。

 朝食後、和希は簡単に身支度を済ませ、家を出る。そして和希は登校中、初めてその少女に対し、口を開いた。

 

「一体、何のつもりですか? リアス・グレモリー先輩」

「ようやく口をきいてくれたと思ったらそんなこと?」

「そんなことでも俺にとっては重要なことです」

「そうね。そのことについても放課後に話すつもり。あまり、せっかちだと嫌われるわよ?」

「そうですか。あと、余計なお世話です」

 

 朝起きたときはバタバタしているからそこまで気にしなかったが、和希の目の前にいるのは少女の姿をしている何か、だ。それが悪魔の類なのか、夕麻と名乗っていた少女の仲間なのか分からない。ただ、神殺しとしての体質が機能しているのが何よりの証拠だった。

 学校までお互い無口で歩いていく。学校が近づくに連れ、和希達に視線が寄せられていく。和希へと向けられる視線は嫉妬や羨望。憧れや好意と様々なものがある。

和希とリアス。お互い何も話さないが、周りから見るとお似合いの二人なのである。和希は居心地の悪さを感じながら隣を歩いていく。

 昇降口にたどり着いたところでリアスが和希へと言葉を発する。

 

「放課後に使いを送るわ。朝の女性と一緒に来なさい」

「分かった」

 

 和希が頷くのを確認してからリアスは教室の方へと向かっていく。和希は調子が狂うのを自覚しながら教室に向かった。

 

「風峰覚悟!」

「うるせぇよ!」

 

 和希が教室に入るや否や松田と元浜が襲い掛かってくる。和希は二人を一撃で沈めて自分の席に着く。が、ここで一つ不可解なことに気付いた。昨日いたはずの夕麻という少女の席がないのだ。和希は後ろにいる女子生徒に話しかける。

 

「おい、昨日きた転校生は?」

「て、転校生なんて来てないと思うけど……」

「そうか、すまない。ありがとう」

 

 その女子生徒は顔を紅くして俯いてしまう。和希はそれに気づかず、思考の海に潜っていた。いたはずの少女が元々来てないことになっているのだ。和希にとって疑問に抱くには十分だった。

 様々な可能性を出したころには放課後になっていた。和希の元へ金髪の少年がやってくる。

 

「木場、お前か? グレモリー先輩の使いってのは」

「察しがいいね、風峰くん。その通りだよ、それじゃ君の知人と合流してリアス先輩のところに行こうか」

 

 木場と呼ばれる少年のフルネームは木場裕斗。駒王学園において女子生徒の間で和希と共に二大王子と呼ばれているのだが、本人たちはそれを知らない。

 それはそれとして和希がそれに気付いたのは体質が再び強く作用し始めたからだ。学校内では作用しなくなるということはないのだが、ある程度落ち着きを見せていたのである。木場が近づいてきた瞬間、それが活性化し始めたのであれば、十分理由になる。

 和希は立ち上がり、木場と共に歩いていく。周りから黄色い声が上がるが和希はそんなことを気にしない。一方、木場はサービス精神が旺盛なのか手を振って応えている。それにより気絶している人がいるがそれは置いておこう。

 木場と和希はリアスの使い魔に連れてこられたアティと合流し、リアスがいるであろう部屋に向かう。

 しばらくして到着したのは暗く蝋燭の炎で明かりを灯された部屋。そしてこの部屋に入ると同時にさらに戦闘に向けてボルテージが上がっていく。ソファには白髪で小柄な女子生徒がお菓子を食べながら座っている。

 

「彼女は一年の塔城子猫さんだよ」

 

 塔城子猫は人形のようで高校生に見えない容姿から一部の男子と女子全般から「可愛い」と評判で駒王学園の中ではマスコットのような存在である。

 子猫が和希達に気付き、羊羹を食べるのをやめる。

 

「こちらは風峰和希くんと……」

「アティです」

 

 一度会釈をしてから再び羊羹を食べ始める。ここで和希が僅かな水の音に気付く。音源を見るとそこにはシャワールームと思われる部屋があった。

 ……ここは学校の設備の一つだろ。なぜシャワールームがここにある?

 和希が言葉にせずに疑問を呈する。それを知ってか知らずかそばにいる女性がシャワーの中にいる人物に声をかける。

 

「お召し物です、部長」

「ありがとう、朱乃」

 

 木場含め三人は至って当然のような顔をしている。和希とアティは自分たちの常識が間違っているのかと少し不安になっている。

 朱乃、と呼ばれた女子生徒も二人に気付き、近づいてくる。和希の前で立ち止まる。

 

「あなたたちがお客様ですね。初めまして私、副部長の姫島朱乃と申します、どうぞ以後お見知りおきを」

「アティです」

「風峰和希です。こちらこそ初めまして」

 

 姫島朱乃。彼女は大和撫子を体現したような女性である。和希と木場が二大王子と呼ばれているように、朱乃とリアスは二大お姉様と呼ばれている。朱乃もリアスと同じように男女問わず憧れの的にもなっている。

 カーテンが開き、リアスが出てくる。

 

「ごめんなさい、昨日あなたの家にお泊りしたままだったから」

「いえ、気にしないでください。ですが、今後は遠慮してくれると助かります」

「そうね、検討しておくわ。さて、これで全員そろったようね。オカルト研究部はあなたたちを歓迎するわ」

 

 ようやくというべきか、全員が揃い本題に入る。

 

「オカルト研究部は仮の姿。いわば私の趣味のようなものよ。単刀直入に言うわ。朝、そこの彼女が言った通り私たちは悪魔よ。細かいことは後で教えるわ」

 

 和希はそこで特に驚くこともなかった。なるほど程度の認識である。体質上人外であることは気付いていたし、何より和希はまつろわぬ神と戦い、神がいることも理解していたからである。ルクレチア・ゾラとの一件もあるから尚更である。

 そしてリアスは和希とアティを一瞥してから再度、口を開く。

 

「昨日の黒い翼を持った女。あれは堕天使よ。神に仕えし天使でありながら邪な感情を持っていた為、冥界に堕ちてしまった者たち。彼らは人間たちを操りながら私たち悪魔を滅ぼそうとしているの。太古の昔から冥界、人間界で言うところの地獄の果てを巡ってね。堕天使以外にも神の名によって悪魔を倒しにくる天使もいるわ。つまり三竦みの状態なの。ここまで理解できた?」

 

 和希は前世で、アティは元の世界で戦争というものを経験しているから前半はともかく、三竦み云々というのはきちんと理解できている為、すぐに頷く。

 リアスはそれを確認した後、再び続きを言うかと思われたが、和希を一度見てから、ある人物の名前を告げる。

 

「天野夕麻」

 

 その名前に和希は肩を揺らす。アティは反応を示した和希を見る。

 天野夕麻。彼女は確かに存在していたはずである。何故なら和希自身に記憶がある。それに神さえ殺した者が情けない話だが光の槍が和希のお腹を貫通し、一度死んだからである。雄羊の化身を使い生き返ったから問題はないが。

 そして今朝、彼女のことについて聞いたが理由ははっきりしていないままではあるが存在していないことになっていた。

 そんな時に出てきた彼女の名前。普段ならともかく、思わず反応してしまった。

 

「覚えているはずよ、直接的な理由ではないけれど告白を振って殺されたのだから」

「あぁ、覚えているさ。周りが覚えてないのは彼女が堕天使の類だからだと?」

「分かっているなら話は早いわ。その通りよ。周りが覚えていないのは目的を終えたから」

「それは俺を殺すことだったのか」

 

 その言葉を聞いて百点というように深く頷く。

 アティとしては会話を聞いて驚くしかなかった。何故なら彼女は和希が既に二柱の神殺しに成功した王だと知っているから。その話を聞いてアティは和希が雄羊の化身を使ったことも理解した。

 

「そう。堕天使はあなたのその身に宿したものを確認して害があると判断しあなたを殺したの」

「神器だな?」

「特定の人物の身に宿る規格外の力。歴史上に名を残した多くの人物がそれを宿していたと言われていますわ」

「時には悪魔や堕天使の存在を脅かそほどの力をもったものがあると言われているわ。カズキ、そこに立って左腕を上に翳して頂戴。そこで目を閉じて一番強いと感じる何かを思い浮かべて」

 

 和希は言われるままそれを行う。左腕に何かの違和感を感じ取った。剣を作り出した時とは違う何か。曖昧だが、それを感じ取り、きっかけとなる一言を発する。

 

同調(トレース)開始(オン)

 

 すると、和希の腕に籠手のようなものが出現していた。

 

龍の手(トゥワイス・クリティカル)、ね。堕天使はそれを恐れてあなたを殺したようね。とりあえずここまでが昨日の話よ。いわばここまでが前座。ここからが本題よ。昨晩、あなたを生き返らせるためには悪魔に転生させるしかなかった。そのためにこの悪魔の駒(イービルピース)をしようしたのだけれど弾かれてしまったの。そして徐々に傷口が塞がっていった。あなたは一体何者?」

「それはカンピオーネとしての体質のせいだ。カンピオーネの体は良くも悪くも魔術、魔法等を受け付けない。経口摂取のみその限りじゃない。そして人の理から外れた者がいると戦いに備え、体調も万全になっていく。だから天野夕麻やあなたたちが人間でないことは知っていた。それでも死んだのは恥ずかしながら完全に油断していただけだ」

 

 リアスが原因について話す。そしてリアスの質問に対し、和希は事実のまま話す。が、聞きなれない言葉にオカルト研究部の全員が首を傾げる。

 それもそうだろう。この世界において神殺しという偉業を成したのは和希のみ。その言葉自体造語のようなものでもある。もっともカンピオーネの大元の意味はチャンピオンと同じだ。

 祐斗が手を上げ和希に質問する。

 

「ごめん、風峰くん。そのカンピオーネって何か教えてくれるかい?」

 

 和希は話してもいいかという確認の意味を込め、一度アティを見る。アティは頷き、それを確認してカンピオーネとはどういうものかを話す。

 

「カンピオーネは正式な言葉じゃない。多分、この世界だと俺だけだと思う。いわば造語みたいなものだ。カンピオーネはいわば称号のようなものだ」

「称号? あなた、何をしたの?」

「神殺し。カンピオーネとは神殺しの王という意味だ」

 

 和希の口から紡がれた言葉に部員の間に驚愕が走る。

 それは当然のことだろう。ついさっき神器を発動させたばかりの少年がそれよりも前に神を殺したのだと言うのだから。

 リアスが慌てて立ち上がり、質問する。

 

「ちょ、ちょっと待って。神殺しってどういうこと? 普通の人間がそんなこと出来るわけないわ!」

「運よくというのかその時、俺には祖父さんからの使いでプロメテウス秘笈を持っていた。サルデーニャの魔女・ルクレチア・ゾラに返すために。その時、俺は東方の軍神・ウルスラグナと出会った。その時にアティにも出会った。そして秘笈には白馬の化身が封じ込まれていた。翌日の朝、メルカルトと共闘して最後のあがきで秘笈を使い、ウルスラグナが持つ黄金の剣を盗み、アティの教授の術で黄金の剣を使えるようになり、ウルスラグナに止めを刺した。その数日後か数週間後くらいに神王ヌアザと戦った。戦い、勝利した代償に俺は一度死んだ。そして俺はこの身に神から簒奪した権能を宿し、神殺しとして生き返った。堕天使に殺され生き返ったのはウルスラグナ第八の化身・雄羊の力。俺が使える権能はウルスラグナが持つ十の化身とヌアダが有していた全てを斬り裂くことが出来る銀の腕だ」

 

 荒唐無稽な話だと思うけどな。和希は最後にそう言って話を終える。

 予想以上にぶっ飛んだ話を聞いてオカルト研究部メンバーは固まっている。

 それもそうだろう。まさか二柱の神を殺し、その身に神の力を有しているなど誰が考えるだろう。さらにその力で生き返るなど誰が思うだろうか。

 考えがなかなかまとまらずどれくらいの時間が過ぎただろう。ようやくリアスが再起動するがやはり信じ切れてはいない。

 だが、それは当然のことである。いきなりそんなことを言われても信じられないというのが現実だ。

 リアスはその証拠を見せてもらうことにした。

 

「今の話を嘘だとは思わないけれど、やはり信じられないわ。どれでもいい。一つ見せてくれないかしら?」

「そうだな、ここまで来たら隠し事はなし話だ。投影開始。……俺は俺に斬れない物の存在を許さない。ここに誓おう、この剣は全てを切り裂く無敵の刃であると!」

 

 和希は右手に剣を作り出し、そのまま斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)を発動させるための言霊を紡ぐ。それを終えた時、和希の右腕全体が銀で包まれていく。それはヌアダの義手を表すものでもある。

 ここに来てもう一つの力を見せる和希。剣を創り出したことに木場が反応する。

木場としてはまさか和希が剣を使う者だと思っていなかった。

いよいよリアスは頭を痛そうにしながら話し始める。

 

「神の権能に龍の手、その剣は魔剣創造(ソード・バース)で作ったの?」

「魔剣創造かどうかは分からない。理由は分からないけど自分が知っている剣しか作れないからな」

「その件はあとね。最後にアティと言ったわね? 最後にあなたのことを聞いていいかしら?」

 

 和希は元座っていた場所に戻る。アティは分かりました。短く言い、自身のことを話す。アティもまた、単刀直入に物事を進める。

 

「私はこことはまた違う世界から来ました。様々なものが混ざり合う世界リインバウム。周りに機界ロレイラル、鬼妖界シルターン、霊界サプレス、幻獣界メイトルパ。そして名もなき世界。これら五つの世界があります。リィンバウムではサモナイト石と呼ばれる特殊な鉱石にマナを注ぎ込んで四つの世界との通路を開き、召喚対象となる真の名を唱えて誓約によってリィンバウムに呼び出します。召喚に必要なサモナイト石には黒・赤・紫・緑・無色の五種類が存在し、黒がロレイラル、赤がシルターン、紫がサプレス、緑がメイトルパ、無色が名も無き世界の存在をそれぞれ召喚することができます。そのサモナイト石は、世界の地下を流れるマグマに含まれるマナが長い時間をかけて結晶化したものです。本当はもっと過程があるのですがここでは省略しますね。一度召喚に使われたサモナイト石には召喚された存在の真名または紋章のようなものが刻まれ、その存在をサモナイト石が破壊されるか召喚対象の死亡・消滅及び誓約の解除がなされない限り何度でも呼び出すことができます。そして召喚術を用いる者を召喚師、使役対象を召喚獣と呼びます。私は召喚師にあたります。最も、私は抜剣者(セイバー)と呼ばれることの方が多くなりましたけどね。そしてここから先は推測なのですが、私の召喚術が発動したので恐らく、名もなき世界というのがこの世界だと思います。と、こんな感じです」

 

 さすが家庭教師を務めていただけあり、出来るだけ分かりやすく伝えることを考えている。だが、リアスたちからしたら未知の世界のこと。理解するのは難しい。ただ分かるのが自分たちの理解の外だということ。よって一度理解するということを諦める。

 そしてこの場に再び沈黙が流れる。まさか二人とも予想の範疇を超えるとは思っていなかったのだから尚更である。

 リアスは一度溜息をつく。そのあと諦めたように言葉を発する。

 

「それだけ私の知らないことを知っているなら信じられるわ。最後に私のことね」

「それならいい。グレモリーという悪魔がどういうものかは知っている。お前自身のことだけでいい」

「そう。分かったわ。私、リアス・グレモリーはグレモリー伯爵家の長女よ。オカルト研究部の部長でこのグレモリー眷属のキングよ。もしよろしければあなたたちもこのオカルト研究部に入ってもらえないかしら。アティもどう? この学校で教師としても働けるようになるわ」

 

 二人はこの提案に対し、一度考える素振りを見せる。結果的に二人はその提案を受け入れる。

 それを受け入れたところでこの場は解散となった。

 




 今回はここまでです。
 まぁ色々突っ込みたいことや文句があるかもしれませんが許してください。今の自分にはこれが限界なんです。
 それでは。


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4.聖女/英霊/はぐれ悪魔

 お久しぶりです、はじめましての方もよろしくお願いします。3か月前に就活が終わり、ようやく投稿できます。
 さぁ、今回もご都合主義というかつっこみどころが多いかもしれません。特に型月ファンの方にはそう映るかもしれません。作者はFGOしか知らないためそこのところはご容赦ください。
 今回もお楽しみに頂けたらな、と思います。


 リアスたちとの話が終わり、家に帰り、夕飯等々自分のことを済ませた後、和希は自分の部屋で龍の手を出現させる。和希は龍の手に意識を集中させる。すると龍の手は赤く光りだし、和希の手を包み込み始める。そして籠手のようだったものは龍の手そのものに姿を変える。和希はそれに気付かない。何故なら意識はより深いところにあるからだ。

 そこで和希は赤き龍と対峙する。

 

「今回の宿主は今までと違うようだな」

「赤き龍。……ウェールズを象徴する赤いドラゴン、ウェルシュドラゴン」

「俺のことを知っているのか……。その通り、俺は赤き龍の帝王。赤龍帝・ドライグ。これからよろしく頼むぞ、相棒」

「あぁ。よろしく頼む」

 

 短い会話を終え、和希の意識は浮上していく。和希が目を開けると龍の手の変化していることにようやく気付く。

 

「これが本当の姿だったのか」

『相棒が俺に気付いたことにより、龍の手も本来の姿へと姿を変えたのだ』

 

 和希はドライグから籠手に関する情報を得る。

 和希が装着している龍の手の正式名称は『赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)』。十二種ある滅神具の一つ。そして赤龍帝の籠手にはそれに対する存在があるらしい。その中には白き龍が入っていること。歴代の所持者は例外なく戦いを続けてきたという。

 ちなみに赤龍帝の籠手が持つ効果は基本的な龍の手と同じだが、赤龍帝の籠手は持ち主の力を十秒事に倍化させていくという能力を持っている。さらに神器は宿主の想いに応え進化するらしい。

 

「色々教えてくれてありがとな。また分からないことがあったら教えてくれ」

『それくらいお安い御用だ』

 

 和希は赤龍帝の籠手を解除し、眠りについた。

 

*************

 

 翌日の朝。さすがに昨日の今日で隣にリアスがいるということはなかった。朝食を食べに下に降りると既に支度が完了しているアティがいる。普段は朝食を一緒に食べるのだが、今日は違うらしい。

 そのアティ自身、いつになく機嫌がよさそうである。アティの機嫌がいいのは今日から教師として働けるということも一つの理由である。

 さらに奥にある本音のところは和希が普段生活しているところを見られるのが、教師と生徒という差があれど、一緒に過ごせるのが嬉しいのである。

 とにかく、今日は教師として初日であるため、和希より少し早めに家を出なければならないのである。

 というわけで和希が下に降りた時にアティは支度が終わっていてちょうど家を出るところだった。

 

「それじゃあ、和希くん。私は先に行きますね。ちゃんと遅刻しないで来ないとダメですよ」

「大丈夫、分かってるよ」

「それでは行ってきますね」

「あぁ、いってらっしゃい」

 

 和希はアティを見送った後、リビングで朝食を食べてから諸々の支度を始める。

 家を出て学校に向かう途中で見かけない少女を見かけた。

 ブロンドの髪で修道着を着ている。コスプレとかではなさそうだ。どちらかというか本職の人な気がする。佇まいというか雰囲気が本職のそれに近いのではないかと思う。その少女は何か困っているように見える。

 そして基本いい人で困っている人を見かけたらなかなか放っておけない和希は少女に声をかける。

 

「大丈夫か?」

 

 カンピオーネである和希にとって言葉の違いは大した問題にならない。カンピオーネとは便利なもので異国の言葉は全て自動翻訳して耳に入る。よって、話している本人同士のコミュニケーションで困ることはないのである。

 

「この町の教会に赴任することになったのですが少し道に迷ってしまったので……」

 

 遅いが、少女の手には大きめの旅行用のバッグを持っていることに気付く。やはり本職の人だったようだ。和希は学校と逆にある教会に案内するか悩んだが、走ればいいと答えを出して案内することにした。

 

「なるほど、だからシスターの格好をしてるのか。そういうことなら案内するよ」

 

 

 和希は案内ついでにシスターの持っているバッグを空いている手で持つ。

 

「重いだろ? 着くまで俺が持っていくよ」

 

 公道を歩いている時に今まで喋ろうとしなかった少女が口を開く。

 

「親切な方に出会えてよかった。これも主のお導きでございますね」

「きっと君の行いが良いからだよ」

 

 何も知らないシスターだとしてもまさか、自分に神殺しなどといえるわけがない。それに神殺しをしたというのに神に導かれるというのは何とも言えない気持ちになる。

 公園の入り口に差し掛かった時、男の子の泣き声が聞こえてきた。

 それを聞いた彼女は真っ先に大元のほうへと走っていく。

 その後を追いかけるとシスターが少年の傷口に手をかざしていた。彼女の指輪が光だし、傷口をどんどん塞いでいく。その時、赤龍帝の籠手がある部分が疼きだす。だが、それは一瞬のことだった。

 さっきまで少年の膝にあったそれはまるで嘘のように消えている。通常ではありえない奇蹟を起こしたあれが神器であることは理解できた。

 

「はい、傷は無くなりましたよ。もう大丈夫。……すいません、つい」

 

 傷を治した後、チロッと舌を出して謝る。が、和希はそこまで気にしていなかった。

 再び二人は教会に向かって歩き出す。

 

「驚いたでしょう?」

「あ、あぁ。すごい力を持っているんだな、とても優しい力を」

「神様から頂いた素晴らしい力です。……そう、素晴らしい」

 

 前方にある山の麓に建っている教会が見えてきた。

 

「あ、あそこですね」

「おう。この町の教会はあそこにしかないからな。でもあそこに人がいるのは見たことないぞ」

「できればお礼がしたいのですが……」

「ごめん、これから行かなきゃいけないところがあるから」

 

 お礼をしたいシスターとこれから学校に行かなくてはいけない和希。これ以上ここに留まっていると学校に遅刻してしまう。それに今朝、アティに遅刻するなと言われている。和希としてもアティが教師生活を送る一日目に遅刻する気はない。

 

「そうですか……。私はアーシア。アーシア・アルジェントと申します。アーシアと呼んでください」

「そういえば、自己紹介してなかったな。俺は風峰和希。まぁ、呼びやすい呼び方でいいよ」

「なら、カズキさんとお呼びしますね。私、日本に来てすぐにカズキさんみたいな親切な方に出会えて私は幸せです! ぜひお時間がある時は教会にいらしてください。約束ですよ」

 

 ここでアーシアと別れ、真逆に位置する駒皇学園まで走って向かう。神殺しの体になってから和希の基礎体力や基礎的な身体能力は上昇している。

 そのおかげというべきか何とか学校に到着した。教室に着くと周りは新しく赴任してきた先生の話でもちきりになっていた。

 そんな先生の関係者でもある彼は昨日の今日でよくここまで情報が出回っているなと情報を入手した人に脱帽している。だが、そう思うのも最もである。アティがこのクラスの副担任として、また、世界史の教員として働くことになったのは昨日の夕方以降だ。その上、彼らはリアスたちがいる旧校舎にいたのだから。

 そんな周りをおいて担任とアティが入ってくる。

 

「さて、今日から君たちの副担任となる先生を紹介する。自己紹介をお願いします」

「はい。今日から副担任として一緒に生活させていただく、アティです。世界史を担当させていただきます。授業で分からないところがあったら遠慮なく聞きに来てください。またこんな時期からですが、仲よくしてくれると嬉しいです。一年間よろしくお願いします」

 

 いつもと違うアティの姿に和希は魅入っていた。

 アティはいつものような朱色の服ではなく、黒いスーツを着ていたからである。それに普段と違うところといえば眼鏡を着けているところだろうか。今でこそ、眼鏡をかけていないが、昔はかけていた。和希はその頃のアティを見ていないから余計そう感じるのだろう。

 松田、元浜に関しては血涙を流しながら天を仰いでいる。周りの女子はその光景に少し引き気味である。

 朝礼後、たくさんの生徒がアティの元に集まり話をしている。和希はその様子を席から少し嬉しそうな表情を浮かべながらそれを見ていた。

 胸中どんな思いでそれを見ているのかは分からない。でもそれは自分のことのように嬉しいのであろう。だからこそ、微笑んでいるのだ。

 そんな彼の周りにいる女子生徒は今まで見たことのない和希の表情に顔を赤くしていたが、それに気付くことはないのだろう。

 

*************************

 

 そんなことがあって今は昼休み。和希は一人で昼食をとっていた。だが、それはいつものこと。時間をかけずに昼食を取った後、珍しく寝ていた。

 そして神殺しになった時とは違う夢を見る。

 荒れた大地の上にいた。空には歯車が回っている。だが、辺りは砂嵐で見えない。生き物が住んでいける環境ではない。

 砂嵐が晴れる。辺りには無限の剣がまるで墓標のように刺さっていた。強いて言うならウルスラグナ・戦士の化身は相手を殺すための処刑台のように見えなくもない。だが、ここは少し違う。剣の一つ一つがまるで墓標のように、または主を待つ兵士のように。

 そんな荒れ果てた場所に一人の男性がいる。紅い外套に身を包み、浅黒い肌と白い髪はオールバック。目つきはまるで獲物を捕らえんとする鷹のようだった。

 その男に見覚えがあった。それはこの世界に転生する際に見た王となった少女と正義の味方を目指した少年の記憶。両方の記憶に存在した男であり、少年の末路。

男が和希に近づいてくる。

 

「こんなところに客人とは珍しいものだ。小僧とあり方は似ているが異なる存在。して、このような場所に何ようだ」

「気付いたらここにいたとしか言えないよ。エミヤシロウ」

「どこでその名を?」

 

 自分の名を当てられ、静かに警戒の度合いを上げていくエミヤ。一方、言い当てたほうの和希はどのように説明するか悩んでいる。

 信じるかはあなたに任せる。そう言って彼は言葉を紡いでいく。

 

「俺は一度死んだ転生者。転生する前に二つの記憶を見たんだ。選定の剣を抜き王となった少女が少年と出会い、恋をして、自分は間違えていなかったと認識できた。そんな少女の記憶。正義の味方になりたい少年がその少女と出会い、同じように恋をして、大きくなってボロボロになりながらも前に進み続けた男の記憶。そしてその少年はあなたのことだ。俺がいる世界であなたが錬鉄の英雄としての話が存在している。だからあなたのこと。そしてあなたの相棒であった少女の名を知っている。……信じるか?」

 

 和希は自分の知っていることは全て話した。もう話すことはないとエミヤの目を見る。

 お互い、目を逸らさず見合っている。先に折れたのはエミヤだった。エミヤは一度溜息を吐いた後、口を開く。

 

「君が今ここで嘘を言うメリットはあるまい。その話は信じよう。にしてもそろそろ名前を教えてくれてもいいのではないか? 一方的に知られているのはあまりいい気がしないのでな」

「あぁ、すまん。俺は風峰和希だ」

「では、和希。早速だが、聞きたいことがある。というより、君の話をしてくれないか? こんなところに人が来るのは初めてのことでな。それに私が知らない世界の話を聞くのは面白そうだ」

 

 これはいくつもある可能性の一つ。ただ、本来なら実現しない可能性の方が圧倒的に多い。何故なら基本的に風峰和希という人間が転生者であることを前提に存在するのは難しい。それこそ神の意向とでもいえばいいのだろう。そして、このエミヤシロウがこのような対応をするのも可能性の一つだろう。本来だったら邪険にされたり、疑われたりしても何も不思議ではない。初対面の男を信用するほど彼は簡単ではないはずだ。故に無限に存在する存在する僅かな可能性がここだった。それだけの話である。

 

 

 和希は自分の過去を話した。争いを止めるために戦場を駆け回ったこと、その最期。 転生して神話系の本を読んで育ち、異世界の人と出会い、神殺しに成功したこと。堕天使や悪魔が実在していること。最近知った神器のこと。

 特につい最近のことは事細かに話す。

 エミヤが抑止の守護者とはいえ英霊の末端だ。神殺しが無謀でただの人間では成しえないことを知っている。だからこそ彼は驚いた。いくら前世の記憶もあるとはいえ、認識的には人間と変わらないのだから。そこに白馬の化身が封印された石板とメルカルトがあったとしても、それだけで勝てるほど神というのは甘くない。運が良かったのもあるだろうがそれだけで片づけられるものじゃない。

 だからエミヤとしては気になった。和希が持っている力が。

 

「そうか。神殺しに成功した君の力を見せてもらいたいのだがいいか?」

「英雄相手にどこまでできるか分からないが、努力しよう」

「私は正義の味方のなれの果て、英雄などではない」

 

 荒れた大地で距離を置いて向かい合う。

 エミヤが両手に作り出すのは干将(かんしょう)莫耶(ばくや)。呉の刀匠夫妻の名前がそのまま剣に名付けられた名剣。お互いに引き寄せあう特性を持っている。

 一方、和希が作り出すのは自分の記憶でもっとも長く愛用していた剣。それを見たエミヤは少し驚いた表情を浮かべた後、納得した顔をする。

 エミヤはまるで弓の弦を引いているような構えを取る。一方、和希は構えない。あくまえでも自然体である。和希が使うのは無想剣という特別な剣術。一見ただ立っているように見えるが、和希はそこから自由に剣を振るう。

 同時に地面を蹴り接近する。この戦いは互いを知るための戦い。英霊と神殺しの戦いが始まった。

 

*************************

 

 先の戦いはお互いの得物を首元に突き付けたところで引き分けとなった。

 二人は背中合わせで座っている。するとエミヤから会話を持ちかける。

 

「君のその作り出す力に覚えは?」

「分からない。神器ではないと言われたからな」

「そうか、それなら教えよう。その力は私と同じものだ。だからこの世界に来ることが出来た。いいものを見せてくれたお礼だ。私の知っている宝具を全て君に送ろう。固有結界(これ)に関しては君なりの答えを見つけたまえ。それが出来た時、君も使えるようになるだろう。あと、先達として教えよう。必要なのはイメージだ。外敵など存在しない。常に最強の自分をイメージしろ」

 

 そう言い切ると和希の体が薄くなる。

 

「もう会うこともないだろう。君と出会えたのは私にとっていい経験となった。神殺しと戦うなど滅多に出来ない体験だからな」

「それならよかった。そうだ、聞きたいことがあった。セイバーさん。……アルトリアさんのことはどう思ってた?」

「そうだな、愛していると言っても違いない。だが、私なんかでは釣り合わないさ」

「そっか。でもそれを聞けて安心した」

 

 その言葉を残して和希は完全に姿を消す。そのあと、エミヤは誰にも聞こえないような声で呟く。

 

「彼のところに召喚されたら楽しい時間が過ごせそうだ。そう思わないかね、なぁ、セイバー?」

 

*************************

 

 和希が目を覚ましたのは授業が始まる5分前だった。そして目を覚ました時、視界に入ったのは教室内にいる男女が問わずほのぼのとした雰囲気になっているところ。何故こうなっているのか分からず、首を傾げながら後頭部を掻く。

 普段、イケメンの部類に入る和希だが、寝ている時は何故か年齢より幼く見える。中学校の頃からそう見えるようになり、先生にでさえ、それが効いていた。さしずめ、魅了(EX)というところだろうか。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、次の授業が始まるのであった。

 

 

 放課後になり、日も暮れて各部活動が終わりを迎える頃。部室にいると朱乃がリアスに向かってこう告げる。

 

「先程大公より連絡が」

「大公から?」

「はぐれ悪魔討伐の依頼が届きました」

 

 

 リアスたちは陽が沈んだ後の薄暗い森の中にいた。なんでも森の中にある廃墟にはぐれ悪魔がいるとのこと。

 その廃墟に向かう途中ではぐれ悪魔がどういう存在なのかを教えてもらう。

 

「元々は下僕悪魔だったんだ。でもたまに、主を裏切り、または殺して好き勝手しようとする連中がいるんだよ。それがはぐれ悪魔さ」

 

 悪魔側だけでなく、天使や堕天使側もはぐれ悪魔が見つけた次第、殺すようにしている。と告げる。

 それもそうだろう。自ら主に裏切り働き、最悪殺しも働く。その上、好き勝手しながら生きる。これほど危険な存在はいない。見つけ次第、主人や他の悪魔が殺す。それが悪魔のルールであるようだ。

 

「そのはぐれ悪魔さんはこの先の廃屋でおびき寄せた人間を食べていると報告がありました」

 

 廃屋に到着し、そのまま木場が扉を開け、朱乃が先行して中に入っていく。中を歩いきながらリアスが和希に呼びかける。

 

「あなた、チェスは分かるかしら?」

「いいえ、その手のゲームは少し疎いですね。駒くらいは何とかって感じです。アティは?」

「私もこの世界に来て浅いので分かりません。ですが、名前は聞いたことがあります」

「主の私が王。そこから、『女王(クイーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士(ポーン)』。爵位を持っている悪魔はその駒の特性を自分の下僕に与えているの。それを出来るのが昨日言った悪魔の駒。今夜は悪魔の戦いというのを見てもらうわ。最も神殺しをしたあなたには特に利はないと思うけど」

 

 リアスが悪魔の駒に対する概要を教え終わり、広間に着いた時、和希は敵意と殺意を感じ取ることが出来た。体の調子がより良くなっていく。アティも警戒心を露わにし、少しのことも見逃さないよう辺りに目を凝らす。

 その中で広間中に低く声が響き渡る。

 

「人間の美味そうな匂いがするぞ。でも不味そうな臭いもするぞ。甘いのか? 苦いのか? どんな味がするんだ?」

 

 広間の奥。隣の部屋に行けるところから声の主がその姿を現す。上半身は女性のもの。だが、下半身は化け物といえる異形の姿。その醜悪さはまさに悪魔といえるものだ。

 木場、子猫、朱乃がリアスを守るように囲う。木場の手には黒い直剣が握られている。

 リアスはそのはぐれ悪魔に向かい、声を上げる。

 

「はぐれ悪魔バイザー。主の下を逃げ、自分の欲求を満たすために暴れまわる不貞の輩。その罪、万死に値するわ。グレモリー侯爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげる!」

「小賢しい小娘だこと。その紅い髪のようにあなたを鮮血で染めてあげましょうか?」

「雑魚ほど洒落たセリフを吐くものね」

 

 これが、はぐれ悪魔というものか。それが和希の認識だった。異形の体や自身の欲に溺れた瞳。悪魔というものを全く知らない人が見ても悪魔だと認識できる。化け物ではなく、これは悪魔だと、そう思えるほどに彼女は欲に溺れている。バイザーは笑いながら自分の胸を揉みしだく。女性を象徴する二つの双丘。その頂点から魔法陣が現れる。それは敵を攻撃するためのもの。その攻撃が弾丸のようにこの場にいるものを襲う。

 グレモリー眷属はそれを危なげなく回避する。だが、それは和希とアティも同じこと。二人はこの場にいる誰よりも戦いを知っている。自分たちより遥かに格上の相手と戦うこともあった。このような攻撃は児戯にも等しい。

空を切った攻撃は屋敷の壁に当たる。壁は熱で溶かされたように当たった場所だけ溶けて消えている。

 

「これからさっき言った駒の特性を見てもらうわ。祐斗!」

 

 リアスの声に応え、木場が動き出す。それと同時に姿を消す。だが、これは姿を消したわけではない。ものすごい速さで移動しただけだ。その速さは鳳に及ばないまでもかなりの速さである。常人では反応できないスピードだが、二人はそれに反応する。この場で反応できないのはバイザーのみ。

 

「祐斗の役割は騎士。その特性はスピードよ。そして最大の持ち味は剣」

 

 木場の攻撃により異形の腕は切り落とされ、床に落ちる。切り落とされ苦悶の声を上げる。そこに近付き何かしようとするのは子猫。その時、先ほどの苦悶の声から別種の声を上げ異形の上半身から出来たのは口のようなもの。バイザーは近くにいた子猫を食べる。

 

「塔上さん!」

 

 アティは少し焦ったように声を荒げる。バイザーも勝ち誇ったような笑い声を上げているが、リアスの口元はうっすら口角が上がっていた。すると、子猫を捕食した口がミシミシと音を立てる。そして閉じられた口が再び開く。中にいた子猫に傷は一つもない。ただ彼女が着ていた制服が所々溶けて素肌や下着が露わになっている。

 

「子猫は戦車。その特性はシンプル。馬鹿げた防御力と攻撃力。あの程度なら何も問題ないわ」

「……ぶっとべ」

 

 子猫がぼそりとそのまま内部を思い切り殴る。その際、押さえていた歯も一緒に破壊していく。内部からの衝撃は相当強かったらしく、バイザーは成す術なく、飛んでいく。飛んでいった先に立っていた柱も真っ二つにへし折れたことからどれだけの力があったのかが容易に想像できる。

 朱乃が追い打ちをかけるように倒れている悪魔の元へ歩いて行く。その時、切り落とされたはずの腕が動き出し、リアスへと襲い掛かる。

 

「危ない!」

 

 和希は瞬時に剣を造りだし、その腕を切り捨てる。

 

「ありがとう」

「気にしないでください。それより気を抜いちゃダメですよ」

「えぇ、そうね。朱乃」

 

 和希の手を借りて立ち上がったあと、名だけを呼んで指示を出す。

 

「部長に手を出そうだなんてイケない子はお仕置きですわね」

 

 何か少し危ない雰囲気を醸し出す朱乃。両手には雷がほとばしっている。

 

「彼女は女王。王以外の全ての駒の特性を兼ね備えた無敵の副部長よ。魔力を使った攻撃が得意なの、そのうえ彼女は究極のSよ」

 

 最後の情報は本当に必要なのだろうか。

 それが和希の感想だった。和希が軽く引いてる視界の隅で頬を赤く染めながら生き生きとバイザーに攻撃している朱乃を捉える。

 一言で表すなら、とてもいい笑顔をしている。

 これならどうかしら? まだまだいけますわよね? ウフフフフフなどなど、嬉々として攻撃を続ける。

 しばらくしてようやくリアスがストップを入れる。雷撃を喰らっていたバイザーは真っ黒に焦げているがまだ息はある。

 

「朱乃、それくらいにしておきなさい」

「もう終わりだなんて、ちょっと残念ですわね」

 

 本当に残念そうに言う朱乃をよそにリアスは倒れているバイザーの正面に立ち、言葉を投げる。

 

「何か言い残すことは?」

「こ……殺せ」

「なら、消し飛びなさい。王手(チェックメイト)

 

 リアスの正面に大きめの魔法陣が浮かび上がり、そこから黒い魔力がバイザーへと襲い掛かる。黒い魔力は、グレモリー家が持つ滅びの魔力。大本は悪魔・バアルが持っていたとかいなかったとか。

 消し飛ばしたあと、この場には黄緑の魔力光がほんの少し残った後に消え去り、さっきまでの暗闇へと戻る。

 

「これで全部終わったわ。帰るわよ」

「「「はい、部長」」」

 

 はぐれ悪魔退治はこれで終わり。これからいつも通りの生活に戻る。ただ、一つだけ挙げるとするなら、運命の物語は徐々に動きだし始めていた。

 

 




 なんかいつもより文章量が多くなったった。
 それはそれとしてスーツに眼鏡をかけているアティさんは素晴らしいと思うんですが、どう思います? 他にはどんな服装が似合うんでしょうかね、気になります。頑張れ、俺の妄想力!
 そんなこんなで、そろそろアティをヒロインさせてあげたい。……次回こそできると思いたいです。予定は未定とよく言ったものですね。
 あ、本作とは全く関係ないんですけどアルカも可愛いですよね。



 色々と脱線しましたが、これからも作者、作品共々よろしくお願いします。


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5.現れる神父。まさかの再会

 二か月ぶりですね。
 進級する人、就活を始める人、学校を卒業する人、就職する人。この時期はいろいろな人がいますね。
 自分は新社会人になり、今週の月曜から働いています。大変ですが、これからも頑張るのでお付き合いお願いします。


 はぐれ悪魔の討伐をした翌日。和希はオカルト研究部の手伝いをしていた。何でも子猫の召喚がブッキングしてしまったらしい。

 そういうことで和希は徒歩でリアスから教えてもらった依頼主の元へ向かっていた。その家に到着した時、妙な違和感をもつ。だが、神殺しとしての体は反応しない。こんなことは初めてのことだった。

 何かあってもすぐに対応できるよう、警戒しながら家の中に入っていく。家の中は薄暗くなっていて、蝋燭の火と思われる光で照らされている。ただ異臭に顔をしかめる。異臭の下を辿るように歩いて行く。真っ先に到着したのはリビングだった。そしてそこに異臭の原因を発見する。それはこの家主と思われるものの遺体だった。何かで斬られた様だが、断面は焼かれている。つまり異臭は血とその遺体の断面から生じている焦げたような臭いが混ざったもの。

――なんでこんなことになっているんだ。

 和希がそう思った時、誰かがしゃべりだした。

 

「悪い人はお仕置きよ。って昔の聖なるお方の言葉を借りてみました」

 

 椅子に座っていたのは白髪の男性。大人しく話し出したかと思えば、最後は狂気的な表情で和希を見る。今まで接したことのない人種だったため、少し怯んでしまう。

 

「悪魔が来ると思ったら人間ってか。きっと悪魔と繋がりがあると思うんで今からお仕置きしますってな。俺の名前はフリード・セルゼン。とある悪魔祓い組織に所属している少年神父でござんす」

 

――見た目じゃ少年って年でもないだろうよ。

 そう思いながら一挙一動に注意を払う。既に攻撃します発言はもらっている。ただ、いつ動き出すかは向こう次第だ。

 

祓魔師(エクソシスト)か……」

「ご名答。まぁ、悪魔ほどクソじゃないのは確かですわ」

「なら、これはお前がやったんだな?」

「それも正解。悪魔に頼るなんて人として終わってるからな。エンドですよ、エンド。だから殺してあげたんです! クソ悪魔とクソ悪魔に魅入られた人間を殺すのが俺のお仕事なんで」

 

 そう言い切ると右手に光で出来ている剣、左手に対悪魔用と思われる銃を懐から取り出す。そしてそのまま光の剣を和希に突き付ける。

――こいつ、色々イカれていやがる。

 そんなことを思いながら少しずつ距離を取る。

 フリードが何であれ人間である以上、神殺しとしての機能は動かない。どうにかするには全て本来の自分が持っているだけの力だけで何とかするしかない。

 

「今からお前の心臓にこの剣を突き立てて、このイカす銃でお前の頭に必殺必中フォーリンラブ! しちゃいます! いいですか? いいですね、脳内裁判で死刑判決が出ました!」

 

 フリードが和希に切りかかる。和希は短く呪文を唱え、右手に剣を創りだし、鍔迫り合いに持ち込む。

 何もできない人間だと高を括り、油断していたフリードの顔に動揺が走る。そして今度こそ、彼の瞳が和希の顔をしっかりと捉える。

 

「てめぇ、神器持ちだったのか」

「神器ではない、な!」

 

 和希が力で無理やり押しきり再び距離を取る。家の中、しかも家具が置いてあるリビングで大立ち回りをするのは難しい。

 だが、相手には銃がある。無理に近接戦闘を行う必要はない。

 和希には弾丸を斬るような技術はないため、嫌な予感がする方とは逆に避けていく。

 

「いいね、いいね。どんどん逃げちゃってください! まぁ、逃がすわけないんだけど」

 

 その言葉と同時に放たれた弾丸を避けた後、少女と思われる悲鳴がリビングに響き渡った。お互いの動きが止まり、声の主へと視線が注がれる。

 真っ直ぐに下ろしている金髪と濃い緑色の修道着。それは和希が朝であった少女と同じ特徴であった。

 

「おんやぁ、これは助手のアーシアちゃん。結界は張り終わったのかなぁ?」

 

 結界という言葉に疑問を持ったが、この家に近付いた時の変な感じを思い出し納得する。和希がこの家に近付いた時の違和感。それはアーシアが張っていたと思われる結界だったのである。

 アーシアはフリードの言葉には反応せず、ある一点だけに視線が注がれ絶句している。彼女の視線の先にあるもの。それはこの家の持ち主の遺体。彼女の頭は理解が追いついてないようだった。

 

「こ、これは……」

「あぁー、君は素人だったな。これが俺たちの仕事。クソ悪魔に魅入られた人間を始末すること」

「そんな……」

 

 彼女は初めて詳細を知ったのか驚愕している。そしてフリードの先にいる少年が視界に入った。

 

「カズキさん?」

「昨日ぶりだな、アーシア」

「何々? 君たちお知り合い?」

 

 フリードが余計な茶々を入れるがお互い気にしない。

 

「なんでここに?」

「何でと言われると知り合い悪魔の手伝いだな。俺自身はただの人間だけど。まさかこんなところで会うとは思わなかったよ」

「カズキさんが悪魔と知り合い?」

「残念だけどアーシアちゃん。彼は人間だけど悪魔の味方、それは悪魔と同じ。人間と悪魔は相いれません。ましてや僕たち、堕天使様のご加護なしに生きてはいけない半端者ですからな」

 

――堕天使……あの女のことか? それとも他にもこの街にいるのか?

 和希の頭の中はフリードの口から出てきた堕天使というワードに関することで頭の中がいっぱいになる。

 

「とまぁ。そういうことでさっさとお仕事を終わらせるとしましょう。覚悟はOK? ま、無くても関係ないけど」

 

 そう言って和希に再び銃を向ける。ただ、真っ先にそれに反応したのはショックを受けていたはずのアーシアだった。まるで和希を庇うかのように両手を広げフリードの前に立つ。アーシアの瞳にはさっきのショックで涙が浮かんでいる。でも、表情には覚悟のような強いものが浮かんでいる。

 フリードの表情が嬉々としたものから面倒くさそうなものに変わる。

 

「おいおい、マジですか……」

「フリード神父様、お願いです。どうかこの方をお見逃しください。どうかお許しを!」

「君ぃ、自分が何をしてるのか分かっているのかな?」

「例え、悪魔と繋がりがあったとしてもカズキさんはいい人です。それにこんなこと、主がお許しになるはずがありません!」

 

 アーシアにとって和希が悪魔と繋がりがあるかどうかは些細な問題でしかなかった。

 

「あぁ!? 馬鹿こいてんじゃねぇ!」

 

 フリードが光の剣をアーシアに向かって振り下ろす。今、この時においてフリードにとって和希は二の次となった。神父が振り下ろしたそれはアーシアを切らず、修道服だけを切る。それにより、少女の体が露わになる。

 二つに分かれた修道服が床に落ちる前に両手を使い、悲鳴を上げながら体を隠す。

 フリードは一度光の剣を床に突き刺し、恐怖に彩られた表情のアーシアへと向かい両頬を下から掴むようにして持ち上げる。

 

「頭にウジ湧いてんじゃねぇのか、あぁ? 堕天使の姐さんには傷をつけないように念を押されてるけどこれはお仕置きが必要かな?」

 

 そう言って光の剣を床から抜き、次は修道服を縫い付けるように壁に突き刺す。アーシアは手が上になるように動きを止められている為、体を隠すことが出来ない。

 そのままフリードは少し乱暴にアーシアの胸を触る。

 

「穢れなきシスターが神父に思いっきり穢されるってさ、ちょっと良くね?」

「いやぁぁ!」

 

 そしてそのまま顔を近づけ、次の行為に及ぼうとしたとき。

 

「俺のことを忘れてんじゃねぇよ!」

 

 横から和希がおもいっきり飛び蹴りをかます。その蹴りはフリードの横っ腹にクリティカルヒット。割と勢いよく飛んでいく。

 和希は光の剣を抜き、投げ捨る。その後、修道服が使い物になっていないため、アーシアに自分の上着をかける。

 

「ごめんな。あいつが完全に隙を見せるのを待ってたら遅くなっちまった」

「い、いえ。大丈夫です。カズキさんが助けてくれたので」

 

 アーシアは見た目以上に強い娘だ。それが今回の件で和希の彼女に対する印象だった。力は強くないが、それ以上に心が強い。

 

「いててて、不意打ちとは……流石悪魔の味方だな」

「お前が俺を忘れてただけだろ」

「ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。でもいいの? 俺とやりあう? すぐに死んじゃうよ!」

 

 蹴り飛ばされた神父は懐からもう一本光の剣を取りだし、正面に構える。和希はアーシアに危険が及ばないよう彼女から距離を取る。

 ただ、和希としては彼と戦うつもりはない。アーシアを連れてここから脱出するつもりだった。

 ほんの一度だけ攻撃を仕掛けてくれさえすればそれでいい。ただそれは和希自身賭けでもあった。本来神と戦うための力。それが使えるのかどうかが。

 そんな思惑に気付かないフリードは和希に攻撃を仕掛ける。そして和希は分の悪い賭けに勝利した。

 

「汝、羽持てる我を恐れよ。邪悪なる者は我を打つに能わず」

 

 和希が使用したのは第七の化身・鳳。使用者に神速を与える力を持っている。発動条件は弾丸など高速の攻撃を受けること。使用中、周りの動きはスローに見えるため、和希は攻撃が当たるほんの数ミリ前で攻撃を避け、アーシアの前に立つ。

 

「そんじゃ、俺は失礼するぜ。アーシア、しっかり掴まってろよ」

 

 和希はアーシアを抱きかかえ、家から出ていく。自分の家に着くまでそう時間はかからない。家に着いた時。玄関口でアティが立っていた。春とはいえ、深夜帯はまだ少し冷えるのかアティは白いダッフルコートを着ている。

 とりあえず、和希は事情を話し、アーシアを預ける。和希は自分の部屋に戻ってから鳳の化身を解除する。日付が変わる前でよかった。後、数秒遅かったら今日一日は使えず、もしもの時に使えない。

 使った時間は短いが、その反動として激痛が体を襲う。徐々に加速するわけではなく、いきなりトップスピードで動く力。体に負担がかかるのも無理はない。

 ベッドで横になっていると、扉がノックされる。和希はうめき声のような返事をする。それを確認して入ってきたのはアティ。

 彼女はベッドの隅に腰を下ろす。

 

「アー……シア、は?」

「今、服を貸してのでお風呂にいます。今度は何をしたんですか?」

「リアス先輩から……聞いてると思うけど、……塔上の代わりに依頼主の下に行ったんだが、そこで祓魔師に会ってな。……少し……荒事をしてただけさ。アーシアを連れ出すためとはいえ、鳳を使ったのは賭けだった」

 

 アティは心配そうな顔で和希を眺め、息苦しそうにしている彼の頬に手を添える。そのまま言葉を投げかける。

 

「ウルスラグナの時といい、ヌアザの時といい。あなたは無茶をしますね」

「し……、仕方ないだろ。俺にしかできない、ことだから……」

 

 そうやって首を突っ込むのが和希の癖だ。身近なところで泣いている人がいたら率先して何とかする人である。

 アーシアとは今朝知り合っただけだ。それでも彼には関係ない。目の前で乱暴なことをされていたら、何か理不尽なことが起きたなら動かずにはいられない。少女が相手なら尚更だった。

 前世での生き方もあるのだろう。長年やってきたことをいきなりやめることなど誰にも出来ない。むしろ生き方は変わらないだろう。だから彼女は心配だった。彼がそのまま一人で進み、一人で死んでしまいそうだから。前世と同じ最期を迎えてしまいそうだから。

 アティとしては自分をもう少し頼ってほしいと言うのが本音だった。ウルスラグナの時から一緒にいる。ルクレチアの家にいる時に前世での経験や思いを聞いた。話してないだけできっと親しい友人がいたのかもしれない。でも、戦場では一人だった。自分のことを顧みず、終わらせるために一直線。一人ではなかったら死なずに済んだはずの命。だが、それでなければ和希と出会うことは無い。何とも言えない気持ちになる。

 

「今の和希君はそう簡単に死ぬ体ではありません。ですが、私はあなたに傷ついてほしくありません。あなたは神殺しである前に一人の人間なんです。……あなたの身を案じている人が近くに……すぐ傍にいる、ということを忘れないでください」

「分かったよ」

「よろしくお願いしますよ?」

 

 和希が力なく、微笑む。アティは約束ですから、と言って手を放す。そこでタイミングよくアーシアが戻ってきた。

 アーシアも部屋の中に入ってくる。そのあと、二人に向かって頭を下げる。

 

「あの……、服とお風呂を貸していただいてありがとうございました」

「大丈夫ですよ。折角なので明後日は一緒に服を買いに行きませんか? ここに案内人もいるので」

「あっ、……はい!」

 

 嬉しそうにアーシアは頷く。アティが提案をした時、和希は何のとなくだが悟った。 明後日は連れまわされるんだろうな、と。彼女は余程のことがない限り、オカルト研究部に呼ばれることもないことを知っている。だからこそ、そんな提案をしたのだ。

 とりあえず、もう時間も遅いためアーシアはアティの部屋で泊まることになった。必要な分の布団は和希が動けるようになった時に運ぶことになった。

 

 

 

 翌朝、玄関にアーシア、和希、アティの三人がいる。

 

「昨晩はありがとうございました」

「いいんですよ、アーシアちゃん。困ったときはお互いさまですよ」

「……昨日みたいなことがあったら俺の名前を呼んでくれ。必ず助けに行くから」

「はい!」

 

 アーシアが元気に返事をして帰るのを見送った後、支度をしてアティと共に学園に向かう。

 

「アーシアちゃんはいい子ですね。妹が出来たみたいでした」

「明後日が楽しみです。案内よろしくお願いしますね」

 

 アティに知人が増えるのは良いことである。学校に向かっている最中、和希は終始聞き役に徹していた。学園に着いた後、和希は旧校舎に向かうため、別々の行動となる。

 和希は昨晩あった出来事を掻い摘んでリアスに報告していた。

 

「昨日、塔上の代わりに行った契約先で祓魔師と遭遇しました。流れで一人シスターも保護して早朝に返しました。名は伏せてありますが俺が悪魔と関わりを持っているのは知っています」

「そう……。報告ありがとう。言い方が悪いのかもしれないけれど、昨日向かったのが人間のあなたでよかったわ。あなたが悪魔になっていたらなんて考えたくないもの」

「もうご存知かもしれませんが、この町には現在堕天使がいるかもしれません。昨日、遭遇した神父が堕天使の加護が云々ということも言っていました。一応警戒はしておいた方がよろしいかと」

 

 リアスは一度頷いた後、対策をしておく、とそう言う。

 教室に戻った後はいつも通り本を読み、授業を受けるいつも通りの日常。強いて変わった点を言うならば、昨日からアティが世界史の教師として担当していることだろうか。

 ちなみにまだ教師として二日目だが、昼休み頃には教え方が上手で分かりやすいという評判が校内に回り、人気上昇中。元々家庭教師をやっていただけに相手に理解させることはお手の物であるようだ。他の教師もアティには脱帽するばかりだとか何とか。

 放課後、部活動が終了する前にリアスが注意喚起する。この場にはアティと和希がいるため、メンバーが全員揃っているのだからいいタイミングだろう。

 

「今朝、カズキからの報告で堕天使だけではなく、はぐれ神父がいることも分かったわ。先生も私たちと関わりを持っているので十分気を付けてください」

「心配してくれてありがとうございます。私もただで負けるほど弱くないので安心してください。すいません、これから会議があるので失礼しますね」

 

 アティが部屋から出て行ったあと、和希も旧校舎の部室から出ていく。ベースが人間である以上、悪魔としての活動は何もできない。それはアティも同じである。前回のようなブッキングがなかった為、今日も大人しく帰ることとなる。何もないのに何故部室に行くのか。早い話、形だけとはいえ、オカルト研究部である以上部室に行く。というだけである。

 

 

 

 その日の夜。和希が学校の課題をこなしていると控えめに扉をノックする者がいた。 返事をして入室しても問題ないことを伝える。開けた扉からひょっこりと顔を覗かせたのはアティだった。

 

「あ、あの。和希くんは明るい色と落ち着いた色。どちらが好きですか?」

 

 急に何のことだ? と首を傾げながら答える。

 

「うーん、どちらかと言えば明るい色の方が好きかな」

「そうですか、ありがとうございます。それでは宿題頑張ってくださいね。あと、夜更かしはダメですからね。それではおやすみなさい」

「あぁ。おやすみなさい」

 

 一通り、課題をこなしてからベッドで横になり、英霊エミヤから言われた自分なりの答えというものを探す。前世から今までのことを覚えている限り振り返る。だが、共通点がなく、纏まりがなかった。だが、出来事としては昨日の今日。この短時間で答えを見いだせる方がすごいのである。

 また、エミヤやアルトリアへの理解を深めようとするが、転生時に出来事の記録を垣間見ただけだ。ましてや、本人たちがこの場にいるわけでもない。どう頑張ってもそれは出来ない。色々と考えてもそれは想像の域を出ない。

 どちらを選ぶにしても結局は現状手詰まりなのだ。

――ままならないなぁ。

 そんなことを思いながら和希は眠りについた。

 




 一度でいいからアティに心配されてみたい人生だった…………。ただその瞬間、あまりのうれしさで昇天してしまうかもしれない……。
 それに……まだだ。まだ足りない。俺はもっとアティにヒロインさせたいんじゃあああ!! アティさんにはもっと主人公に甘えて欲しいのだぁ! イチャイチャしてほしいんだぁ!!
 しかも、前回なんか変なフラグのようなものを立ててしまったような気がしなくもない。だが、それはそれ。俺が書きたいように書かせてもらうとしよう。
 くそぅ、技術が足りない。これじゃあ、まだまだ…………。


 まぁ、それはそれとしまして月曜から新社会人として働き始めました。生活リズムがガラッと変わったため、なかなか苦労しています。
 色々と大変ですが、不定期ながらも頑張って続けますのでこれからも作者共々作品の応援よろしくお願います。


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6.つかの間の休息。そして

 皆さん、お久しぶりです。どうですか? 新生活が始まった方は慣れてきましたでしょうか?
 GWという大型連休も終わって仕事、もしくは学校という憂鬱な日常の繰り返しに戻りした。
 皆さんは有意義な休みは過ごせたでしょうか? 自分は小説漬けな日々でした。普段は仕事でそんな時間はないので自分にとってなかなかいい時間を過ごせたと思います。

 今回も難産ものでしたので、文章的にも至らぬ点は多いですがよろしくお願いします。
 それではどうぞ。


 和希は先日の約束通り、アティとアーシアとの三人で買い物に出ていた。

 外人である上に、容姿もいい。そんな女性陣は男女問わず視線を集め、注目の的になっている。真ん中にいる彼は、落ち着かない上に周りにいる人(主に男性)から嫉妬の視線を受けていた。

 そんなことに気付かない女性二人は普段はあまり目にすることのない大きなショッピングモール内の所狭しと並んでいるお店に視線を行ったり来たりさせている。

 店先にはとても大きな文字で春物セール! と書かれたポスターやら何やらが張られている。おそらくだが、後一ヵ月もすれば夏物の衣服が店頭に並び始めるだろう。

 

「和希くん!」

 

 意識が少し冒険していたようだが、アティに呼ばれ引き戻す。少し辺りを見渡したらすぐに見つけることが出来た。

 二人の手にはそれぞれが選んだと思われる衣服が握られている。アティの手には白いブラウスと青いロングスカート。アーシアの手には桜色のワンピース。

 二人とも特徴的な髪色をしているから似合いそうな服と言われても難しい。本人が納得しているならいいか、と思いつつアティの服装に対し、声だけ聴くととある人物にしか聞こえない。声が似ていると言うのも考えものかもしれない。

 

「あの、似合っていますか?」

「素直に答えてください」

 

 アーシアとアティで和希に問う。いつの間に試着したのか、アーシアがパステルピンクのワンピースに身を包んでいた。

 手に持っている時はどうかと思ったが実際に着ているところを見てみると似合っていることが分かった。

 アティの持っていた服は、和希にとってとある少年の相棒が着ていた服装という先入観もあり、色々と気がかりだったが、そんなことはない。大人の色気というべきか、本人の落ち着いた雰囲気。それに加え、服の清楚さもあり、どこかの貴婦人のようにも見える。

 

「えっと、とてもよく似合っていると思う」

 

 人差し指で頬を掻きながら答える和希。どことなく、頬は少し紅い。そんな少年のリアクションを見て、褒めてもらうことができた二人は上機嫌になりながらカーテンを閉めて着替え始める。

 ここは何といっても女性服を取り扱っているお店。店内にいる女性客の視線が和希に突き刺さる。居心地の悪さを感じるが二人が出てくるまで我慢する。出てきた二人は迷うことなく試着した服をレジに持っていく。

 会計から戻ってくるのを待っている間に腕時計を見ると十三時二十五分を示していた。戻ってきたところで昼食を食べにファミリーレストランに向かう。

 安いけどそれなりにお腹が膨れる学生の味方である某イタリアン料理店だ。某ハンバーガーの大人気チェーン店でもよかったが、メニューの豊富さではこちらの方が多い。理由としてはそれくらいだ。

 一人一つずつ主食を頼み、その後、数人でつまめそうな食べ物を注文する。もちろん、頼む前にアティとアーシアの二人には信仰している宗教上食べてはいけないものがあるか否かは確認した。

 丁度昼食時だったため、多少混んでいたが、思っていたより早く注文したものがくる。初めての体験にアーシアは困惑していたが、和希が教えながら楽しい時間を過ごした。

 昼食後はみんなで楽しめそうな場所ということで和希はゲームセンターに案内した。今年になってから行ってないが、去年までは松田や元浜と共に遊びに来ていた。彼らと根本的な性格は違うが、ゲームなど遊びの面では多少近いところがあるため、時間つぶしも兼ねてたまに遊びに来ることもあったのだ。

 今回は自分だけではなく三人で楽しめるものがメインになってくる。といっても基本的にこういう場所は多くても二人で出来るの対戦ゲームや音楽ゲームが中心になってくる。だが、和希にとってメインは女性陣だ。だから二人が興味を持ったものをやることにした。

 アティとアーシアは初めて訪れた場所ということもあり、興味深そうに様々なゲームを見ながら店内を歩いて行く。アーシアはクレーンゲームと有名な配工管のおじさんなどキャラを選択してカーレースをするゲーム。アティはプリクラと音楽と難易度を選択し、液晶に映っているお手本と一緒に踊る得点型体感ゲーム。

 クレーンゲーム→ダンスゲーム→レースゲーム→プリクラの順番で進むことにした。初めてのゲームに戸惑いながらプレイする二人に苦笑しながら隣で教えたり、交代で一緒に遊んだりする。

 

「こんな楽しい時間は生まれて初めてでした。アティさん、カズキさん。本当にありがとうございます!」

 

 近くにある公園で休んでいる時にアーシアが二人にお礼の言葉を告げる。

 そして、自分の生まれ、神器を得たきっかけ、何故この街に来たのか。ここに来るまで何があったのかをゆっくりと話す。

 だが、この企画を考えたアティとしてはこの前、酷い目にあったアーシアを励ます、少しでも気を紛らわせることが目的だった。ついでに和希と出かける口実であったりもするがそれはこの際置いておく。

 アーシアとしては語ったことに嘘はない。本当にそう感じたからこそ出たお礼の言葉であり、過去を話したのだ。三人で遊ぶと言うのは初めての体験だから尚更そうしたかったのである。 彼女にとって普通の友達と普通に出かけるのが彼女の夢だったのだ。誰もが持っている普通は彼女にとって普通ではなく、特別なものだった。何故なら彼女に友人はいなかったから。

 持っている者と持たざる者の意識の差だ。持っている者はそれが当たり前だと、普通だとそう思ってしまうものだ。だが、持たざる者からするとそれは特別なことなのだ。あって当たり前、あるのが普通というわけではないのだ。

 言葉を聞いたアティは微笑みながら言葉を返す。

 

「いいんですよ、アーシアちゃん。また三人でこうやって遊びましょう。わたしたちは友達なんですから」

 

 アティにとってアーシアは和希以外に出来た最初の友人。アーシアにとっても和希とアーシアは人生で初めて出来た特別な友人なのだ。

 

「はい!」

「残念ながらそれは無理よ」

 

 このまま行けば丸く収まるのだが、そうはいかない。この場に乱入してくる無粋な者によって妨害される。

 

「レイナーレ様……」

「あなたが……」

 

 つい、先日不意打ちで和希を殺すことが出来た堕天使が、天野夕麻だった存在が公園の中央、水面の上に立っている。アティは改めて堕天使という存在を確認する。彼女はその上で話をするつもりだった。基本的にアティは争い事を良しとしない。だが、必要ならばする。それ以外は可能な限り話し合おうとする。

 アティより早く和希が動き、二人を庇うように前へ出る。

 

「一体何の用だ?」

「あなた、生きていたのね。転生するわけでもない。神器の力かしら?」

「敵にそれを教えるとでも?」

「それもそうね。……アーシア、逃げても無駄なのよ」

「もうあの場所には戻りたくありません! すいません、私逃げ出してきたんです」

 

 それはそうだろう。この前、ゴタゴタがあったばかりなのだ。フリードという男がいるなら、上に報告しないわけがない。その中心に居た人物を外に出すということなどしないだろう。来れないはずなのに来たというのはそういうことなのだ。

 彼女の意思もあり、あの時は一度帰したが、二人の本音としては家で匿いたかった。もう過ぎた事を気にしてもどうしようもない。和希は目の前いる敵に意識を戻す。

 

「で、堕天使が一体何の用だ」

「悪魔とつるんでいる人間が気安く話しかけないでちょうだい。邪魔をするならあの時のように殺してあげるわ」

「もう殺られねぇよ。堕天使如きに負けるたらきっとあいつらに笑われるからな」

 

 和希が脳裏に浮かべるのは二柱と一人。自身に敗北したウルスラグナとヌアザ。そして夢の中で戦ったエミヤシロウ。

 神を殺すことに成功した者がたかが堕天使に敗北したとなれば笑いものだ。それこそ、ウルスラグナは大笑いするだろう。それに彼はアティに言われたばかりなのだ。自分が重症を負えば私が心配すると。ならば心配させるわけにはいかないのだ。

 

 そしてアーシアは人間だ。神器なんてものは関係ない。人智を超える力を持っていたとしても。人間という存在は神殺しが守護するべき存在なのだ。

 

「投影、開始」

「魔剣創造? そんなもので私に勝てると思ってるの?」

 

 和希は長年使ってきた愛刀を複製する。この三竦みの存在はほとんどが勘違いするだろう。実際グレモリー眷属もそうだが、目の前にいるレイナーレも勘違いしている。これは魔剣創造による力だと。

 だが、本質は全くの別物。これは固有結界から零れ落ちたもの。いわば副産物だ。正義の味方がそうであったように。

 彼のメインは固有結界。だが、和希はそれすらサブでしかない。メインは神の権能なのだ。彼は魔術師ではない。神の権能を以て神を殺す王なのだから。

 

「またあの時のように無様に死になさい」

「強化、開始」

 

 レイナーレが光の槍を投擲する。この前は油断していたが今は違う。和希はこれより早く飛んでくる剣を知っている。

 光の槍を弾くことなど容易いことだ。普通なら折れてしまいそうだが、強化された愛刀は堕天使の攻撃で折れるほど軟じゃない。

 

「ねぇ、アーシア。私と一緒に戻りなさい。あなたの持つ『聖母の微笑み』は魔剣創造と比べものにならないくらい希少価値があるの」

「黙れよ。そんなに彼女を戻したいなら俺を殺しきってからにしろ。出来るもんなら、だけどな」

「このクソガキ、もう二度とその舐めた口を聞けないようにしてやるわ!」

 

 レイナーレが先ほどとは比べ物にならないほど大きな槍を作り出す。先程と同様なら問題なかったが今のそれを受けるには強化の魔術だけでは足りない可能性があった。ならばどうすればいいか。彼女がこの変哲もない剣を魔剣と言っていた。ならば文字通り魔剣にしてやればいい。

 

「ならやってみろよ。俺は俺に斬れないものの存在を許さない。ここに誓おう、この刃は全てを切り裂く無敵の刃だと!」

 

 和希の左腕が銀色へと変わって行く。切り裂く銀の腕によりこの場において愛刀は全てを切り裂く魔剣へと昇華をした。

 威力がどんなにあろうと、どんなに壁が厚かろうとこの魔剣の前では紙切れ同然。容易く切り裂く。

 

「な、何なの! その力は!? ……あら?」

「さっきも言ったはずだ。敵には教えないと。攻撃はこれで終わりか? なら――」

「そこを動かないことをお勧めするわ」

 

 自分の力を容易く切り捨てられ動揺したレイナーレだが、一瞬でそれから回復した。 それは何故か。それは何よりも簡単だった。この場にいなかったはずの一般人がそこにいた。

 今一度槍を作ったレイナーレが挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「そこからあなたが攻撃するのと、私が無関係の一般人を攻撃するのと。どっちの方が早いかしら?」

 

 彼女が取った方法は人質だ。和希が動けば先に人質を殺すとそう言っている。

 ウルスラグナの鳳を使えば簡単に行ける。だが、あれは自分に対する攻撃でないと発動しない。風の化身も和希の名を呼ばないと作用しない。それ以前にまだ昼なのだ。まだ半日ある。今、化身を使ったらあと半日は同じ化身を使えない。どの化身も一日一回しか使えないのだから。この後、もしもがあったらを考えると容易に使えないのだ。

 和希は思わず舌打ちする。どうすればいいのかを考える。どちらかを守れば一方を失う。和希にとってこの状況は詰みだ。アティがいても変わらない。人質という存在が大きすぎるのだ。

 膠着状態に入った時にアーシアが口を開く。

 

「レイナーレ様、一般の方を狙うのはやめてください。そちらに行きますから」

「アーシア!」

「和希さん、アティさん。私、今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました」

 

 アーシアは優しい。人が死ぬことは良しとしない女の子だ。だから瀕死の悪魔であろうと関係なく救った。その反面で例え、その後に自分に辛いことが降りかかってもそのことを後悔しない。一種の自己犠牲に近いものを持っている。

 アーシアはアティと和希を追い越し、堕天使の元へと歩みを進める。

 

「いい子ね、アーシア。儀式が終わる頃には悩みや苦しみ、全てから解放されるわ。……それじゃあね、和希くん」

 

 

 

 

 アーシアが連れていかれた日の夜。和希は一人で旧校舎に来ていた。アーシアについて話をしに来たのだ。

 

「リアス先輩。今から堕天使に喧嘩売ってきます」

「何言ってるの!? そんなのダメに決まっているでしょう。あなたは私たちオカルト研究部の身内よ。身内にそんな危険な真似させるわけにはいかないわ」

「死に行きますと言っているわけじゃないんです。救えなかった友人を取り戻しに行くだけなんですから」

「あなたは人間とはいえ悪魔と繋がりを持っている。それは向こうも知っているはずよ。隙を見せれば簡単に殺される。それにその子は元々神側の子。堕天使側にいっただけで私たち悪魔とは相いれないの。分かるでしょう?」

「それくらい分かってます。ですが俺は人間ですが神殺しです。勝手にそう思ってるだけですが、悪魔や堕天使、神という理不尽な力を持った存在から対抗できる俺が人という種を守る。それも神殺しのとしての責務です」

 

 両者一歩も譲らない。いや、譲れないのだ。和希はアーシアの為に。リアスは部員である和希の為に。

 見あってる中、朱乃がやってきてリアスに耳打ちする。朱乃の表情が少し険しい。それを聞いたリアスも同様だ。

 

「大事な用事が出来たわ。私と朱乃は少し外に出るわね」

「ちょっと待ってください、話はまだ……」

「カズキ。あなたに一つ教えておくわ。神器というのは想いの力で動かすの。その力が強ければ強いほど神器はあなたに応えてくれるわ」

 

 リアスはそう言い残して部室から出ていく。結局先ほどの会話は終わらなかった。ならば仕方ない。やはり勝手に行くしかないようだ。だがそれを呼び止めるものがいた。

 

「一人で行くのかい?」

「あぁ、一人でも行くさ」

「確かに君一人でも行けるだろう。だが、無謀だ。君の土台が人間である以上基礎体力を含め全て向こうが上だ。だから僕も行く。部室を出る前に僕たちを見たのは君のフォローをしろという指示も含まれていたからね」

「二人では不安なので私も行きます」

 

 祐斗と子猫もアーシアの救出に参加する意思を見せた。和希は少し懐かしい感覚に襲われる。それはこの世界に来る前の話だ。

――あぁ、共に戦う仲間がいるってこんな感じだったな。

 決してアティを共に戦う仲間として見ていないわけではない。ウルスラグナと戦った時からずっとともにいる。和希にとってアティがいるのは当たり前のことなのだ。

 ずっと二人きりだった戦場。そこに新しく二人入ってきてくれた。今回は三人での戦場。一人多いだけだが、仲間がいる。それだけでも心強いのだ。結局のところ人は一人で生きることなど出来ないのだ。

 昼間の敗因は一人で何とかしようとしたから。あの時、アティに人払いなりをお願いしておけばよかったのだ。

 和希は小さく笑みを浮かべる。

 

「さて、ささっとアーシアを助けて終わらせるか」

 

 三人はアーシアがいる教会へと足を向けた。

 

 

 

 和希達は協会の入り口が見える位置で近辺の様子を窺っていた。人が出入りする様子は全くない。だが堕天使がいるのは分かる。体質が機能し始めたからだ。体の調子が良くなっていくのが分かる。トラップがないのも何となく感じ取っていた。

 

「罠とかなさそうだし。じゃ、堂々と正面から行きますか」

「分かりやすくていいね」

「だろ?」

 

 子猫が協会の扉を蹴り破る。中に入るが異様な静けさがあった。

 祭壇へと進んでいくと手を叩く音が鳴り響く。

 

「やあやあ。感動の再会ですなぁ」

 

 暗闇から出てきたのははぐれ祓魔師、フリード・ヒルゼンだった。

 




 アーシアは原作・アニメ共に一誠に自分の夢?願い?を吐露しました。
 作中でも触れましたが、友人と普通に遊ぶことです。今回、自分なりにかみ砕いて文章にしました。自分なりに普通、当たり前を考えてみました。いまいちちゃんとした答えは出なかったんですけどね。

 そこで少し作者から皆さんへ質問です。
 ぶっちゃけ、自分としてはあまり綺麗事すぎるのは言いたくないんですが、明日が来るのは当然だとそう思っていませんか?
 当たり前のように学校に行く。会社に行く。でもそれって本当に当たり前のことなのでしょうか?
 当たり前の日々、普通の日々。それは環境によって変わってきます。何故なら、紛争地域に行けば戦うのが、もしくは避難するのが当たり前なのですから。そこに住む者は危険が当たり前。平和が特別なんです。明日がくれば万々歳なんです。
 答えを聞かせてほしいとは言いません。
 ただ自分なりに、ほんの少しでもいいから今の当たり前、普通に対して少し考えていてほしいなとそう思いました。
 何にせよ、今日という日はもう二度と来ません。なら一日を後悔しないような楽しい時間を過ごしてみましょう。

 何か、学校の授業みたくなってしまいましたね。正直自分で質問しておいてあれですが、テンションが下降気味になってきましたので話を変えようと思います。
 
 さて、ようやく一巻の終わりが見えてきました。後はフリードとレイナーレをホームランすれば終わりですね。きっと一、二話くらいで終わると思います、きっと、多分。
 これが終わったらようやくフェニックス編です。
 焼き鳥なんてメッタメタにしてやんよ。どんな公開処刑にするかはまだ未定ですけどね。
 アティさんもいつから本格的に原作介入させるか改めて考える必要がありますね。
 
 さ、次回も時間がかかるかもしれませんが、出来るだけ早く投稿したいと思うのでこれからも応援よろしくお願いします。


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7.アーシア救出

 皆さん、お久しぶりです。
 今回も、なかなか微妙な出来のような気がします。ですが、これから徐々に良くなっていくはずです。きっと。

 言い訳でしかやはり、仕事をしながら書くって大変ですね。特にモチベーションの維持が。書きたくても意欲がなかなか湧かない。どのように話を膨らませていけばいいのかアイディアが浮かばない。
 現在もそうですが、結構厳しい状態です。きっとこれからもこのような感じになることは多いと思いますが、応援よろしくお願いします。

 前書きはこの程度にしまして、本編をどうぞ



「やあやあやあ。再会だねぇ、感動的ですねぇ」

「邪魔だ。そこをどけ」

 

 強化の魔術を体全体にかける。そしてフリードへと接近し、全力でぶん殴り、場外まで吹っ飛ばす。

 何事もなかったように祭壇付近にあった地下通路への道を急いで下っていく。目的と思われる場所にはすぐに辿り着いた。何故なら如何にもこの先は大切な場所です。と言わんばかりに重たそうな扉が鎮座している。

 

「塔上、全力でやるぞ」

「はい」

 

 Q.怪力を持つ二人が扉を全力で殴るとどうなるでしょうか?

 A.扉の近くにいる人を含め、多くが犠牲になる。

 

 この一撃により地下にいた神父の三分の一が意識を失う。そして、大広間に入ると同時にアーシアの絶叫が響き渡る。

 今すぐにでも助けに行きたいが和希とアーシアの距離はすぐに縮むものではない。

 そしてアーシアの苦悶の絶叫は苦しい、痛い、助けて。という心の叫びを体現したかのようだった。

 ここは地下だが、地上からの風が入ってくる。そしてアーシアの助けてほしいという思いにより使用可能になる化身が存在する。ウルスラグナ第一の化身・風。

 和希は入り口から姿を消す。そして姿を現すと同時にレイナーレの片腕が切り落とされる。

 レイナーレはありえない出来事の連続に儀式を中断してしまう。

 

「アーシア……。遅くなってごめん」

「カズキさん。……ありがとうございます」

 

 アーシアの額には脂汗が滲み出ている。余程体に負担がかかっていたのだろう。言葉を発することすら辛そうだ。

 和希がレイナーレと向き合う。

 

「昼間の借りとアーシアを返させてもらおう」

「よくも、私の腕を……! もう絶対に許さないわ!」

 

 

 もうお互い引けないところまできた。戦いの火ぶたが切り落とされようとした時にアーシアの救出を確認した木場が大勢の神父と争いながら声を上げる。

 

「風峰くん、撤退だ。今すぐアーシアさんを朱乃さんの元へ。先輩なら回復できるはずだ。僕たちも後から追いつく。だから君は先に!」

「……分かった。ここで死ぬことは魔王(おれ)が許さないからな!」

 

 神父の一人が和希とアーシアの二人を逃がすまいと弾丸を放つ。フリードの時と同じだ。何も知らない神父は鳳の化身を使う条件を満たさせてくれた。

 和希は小さく鳳の聖句を唱える。

 そして代償として後に激しい痛みを伴う。だが、そんなこと和希には関係なかった。 今、何よりも優先しなければいけないのはアーシアだからである。

 アーシアを抱きかかえ、地下を後にする。

 今も苦しそうなアーシアが途切れ途切れに。だが、しっかりとした言葉を和希に投げかける。

 

「カズキさん。私、幸せでした」

「やめろ、それ以上言うな。話しなら後でたくさん聞くから」

 

 階段を駆け抜け、速度のギアを上げ体が反応する方へと急ぐ。

 教会の裏口にリアスと朱乃の二人と三人の堕天使がいた。が、堕天使には見向きもせず、朱乃に回復のお願いをする。

 

「朱乃先輩、お願いします。アーシアを回復させてください。リアス先輩は結界の強化をお願いします。」

 

 朱乃は拙いながらも治癒の魔術をアーシアに使用する。リアスも慣れない結界の強化を行う。

 その間もアーシアは言葉を続ける。

 

「三人で出かけて、楽しいお話しも出来ました。二度とないくらい幸せな時間でした」

「何言ってんだよ。まだこれからだろ。まだ連れていきたいところだってたくさんある。学校にいるやつらにもお前のことを紹介したいんだ。変わったやつらしかいないけど皆、根はいい奴らだからさ」

「カズキさんと同じ国で生まれ、同じ学校に行けたらどれだけ楽しかったのでしょう」

 

 和希はアーシアの手を取り必死に声をかける。ここで切らしたらアーシアがいなくなってしまいそうな気がしたから。

 だが、それ以上に神は、運命は残酷だ。どんなに助けたいと思った存在でも、弱っている存在の命を容赦なく刈り取っていく。

 和希の手からアーシアの手が滑り落ちる。これ以上意味がない。そう言うように朱乃も回復させるのを止める。

 先程まで行われていた儀式はアーシアへの負担が大きすぎた。完全に神器が抜かれたわけではないが。人の体ではそれに耐えられなかった。むしろ本当は、今まで息をしていたのが不思議なくらいなのである。

 だが、それを許容できない。

 あの時、しっかりアーシアを守れていたら、レイナーレを倒していたら。一般人を含め、その場にいた全てを守れたら。

 その後悔が和希の心をいっぱいにする。

 エミヤから問われた質問。その答えは未だ出ていないが、それでも自分の手が届く範囲にいる人は守ろうと。そう決意したはずなのに。

 

――何のための権能だ、魔術だ。何のために彼らから受け継いだ……。例え答えが出ていないとしても。

 

「それでも守るって決めたはずだろうが!」

「だけど、あなたは守れなかったの」

 

 和希の叫びに冷たく、鋭く返したのは先ほど片腕を失ったレイナーレ。

 

「あぁ、そうだよ。だから俺は許せない。昼間にお前を倒さなかった俺を。アーシアを守れなかった俺自身を。今度こそ、お前らをこの場から逃がさず殺しつくす。例え、神がお前らを許そうともそんなことはもう知らない。俺が敵と認識したやつは生きているのなら神だろうが何だろうが殺してやる。……リアスさん。眷属を連れてここから退避してください。お願いします」

 

 リアスは何かを堪えるように溜めて頷き返す。グレモリーの魔法陣が浮かび上がり、アーシアの遺体を含め、その場から姿を消す。

 レイナーレを含めた堕天使四人は嘲笑をあげる。ちょっと魔術を使えるくらいの人間がたった一人で何が出来るのかと。

 何回か力の片鱗を味わっているレイナーレですら、和希が振るうの力は少し特殊くらいの認識でしかない。

 そして、その評価は自らを滅ぼす。

 

 空の雲が晴れ、夜空の中、隠れているはずの、日本の反対側を照らしているはずの太陽が姿を現す。

 

()が元へ来たれ、勝利のために。不死の太陽よ、我が為に輝ける駿馬(しゅんめ)を遣わし給え。俊足にして霊妙なる馬よ。汝の主たる光輪を疾く運べ!」

 

 馬を象っている太陽のフレアが教会へと降り注ぐ。この場所には悪しかいないからこそ使えた力。第三の化身・白馬。

 しかし、神が振る舞うそれはたかが堕天使には過ぎたモノであり、またそれは辺りにも強大な被害をもたらす。

 強大なそれを使う理由。それは自分との決別もある。

 きっと本人も分からないうちに慢心もあったのだろう。神を殺し、守護者とも互角に戦えた自分が負けるわけないと。

 だが、それともここでお別れだ。全てにおいて全力を尽くす。もう何も失わないようにするために。

 

 徐々に白馬の炎が弱まっていく。そして完全に消えた時、その場に残ったのは教会の瓦礫、堕天使の黒翼一枚たりとも残さず殲滅し、まるで隕石でも落下したのではないかと疑うほど大きく陥没した地面。

 そこには虚しさも残らない。ただあるのは後悔だけだった。

 全ての事を終え、鳳の能力を使った代償で体中が痛みを上げているが、リアスたちが待っている学園へと重い足取りで歩き出す。

 旧校舎にたどり着くとリアスが入り口で待っていた。和希に気付き、少し声を張り上げる。

 

「ようやく来たわね。さ、早く行くわよ」

「ちょっと待ってください。行くってどこに行くんですか!?」

「そんなの部室に決まってるじゃない。黙ってついて来なさい。ちなみに拒否権はないわ」

 

 えぇ……、と如何にも不服そうな顔をしながらも引っ張られた腕を振り払おうとしない辺り、拒否するつもりはないらしい。

 部室の前まで来たところで立ち止まる。

 

「少しそこで待っていて。私が許可するまで中に入ってはダメよ」

「はぁ……」

 

 今更部室の中に見られてまずいものがあるわけない。何せ数時間前に来ているのだから。今なら帰れるんじゃないか、と思い始めた時に中から『入っていいわよ』というリアスの声が聞こえて、あまりのタイミングの良さに見られているのではと思いつつ、部室の扉を開ける。

 

「リアスさん、一体何があるんです……か……」

 

 部室に入ってから信じられない光景を目にした。

 その光景に驚愕し、脳がフリーズしたのか扉を開けたまま固まっている。だが、リアスも朱乃も祐斗も、笑顔だった。子猫も普段に比べて僅かだが口角が上がっている。

 

「どう……して……」

 

 やっとの思いで出した声が震える。震えていた声は聞き逃してもおかしくないほど小さかった。言葉を発したいのにそれ以上に感情があふれ出し、言葉にならず、空気を吐き出す音しかでない。

 

「おかえりなさい、カズキさん」

 

 部室に入ってすぐ正面。和希の前に立っていたのは笑顔のアーシアだった。彼女の後ろに立っていたリアスが口を開く。

 

「僧侶の駒を使ってこの子を転生させたのよ。今度こそあなたが守っておあげなさい。あなたの能力(それ)はその為の力なのでしょう?」

 

 失ったモノ、届かなかったモノがすぐそこに立っている。

 一歩一歩、牛のように遅い歩みで進む。そして目の前にいるアーシアを強く抱きしめる。

 

「ごめん。俺は、……俺は、君を助けてあげることが出来なかった」

「いいんですよ。私はカズキさんが助けに来てくれて嬉しかったです。私、悪魔になっちゃいましたけどこれからもお友達でいてくれますか?」

「当たり前だろ……」

 

 そう返した和希の頬には一筋の涙が伝っていた。

 

――――――――――――――――――――――

 

 アーシアを連れて部室を後にする。

 そして家が近づくにつれて家の前に人型のシルエットが浮かび上がってくる。アーシアをフリードから逃がした時と同じだ。あの時と全く同じようにアティが家の前で待っていた。

 

「和希くん、アーシアちゃん、おかえりなさい」

「「ただいま」」

 

 アティは何も言わず、二人を迎えてくれた。きっと言いたいことは多いだろう。何故何も言わずに行ってしまったのか、自分を犠牲にするような真似をしたのか。だが、それを全部押し込め、彼女はそうする。

 アティは和希のブレザーを羽織っているアーシアの手を取り家の中に入れる。そんな二人の後を追って家に入る。

 和希は改めて決意する。アティを、アーシアを、オカルト研究部にいるメンバーを。少なくともそれだけは何があっても守り抜いてみせると。

 

―――――――――

 

 和希は砂嵐の中に立っていた。 

 この光景を見るのは二回目になるだろう。故に何となくここが夢の中だろうと感じた。砂嵐が止むと同時に広がる光景は無数の剣と荒野。そしてそれらの持ち主が声をかける。

 

「二度と会うことはないと思っていたのだがな。それで答えは見つかったのか?」

「……正直まだ分からない。守りたいと思う人はいる。でもそれが何故か分からない」

「そうか。ならばとりあえず進んでみてはどうだ? キミの成すべきことをそのままのキミで。キミは今を生きる人間だ。止まることは許されない以上、キミは前へ進まなければならない」

「そのままの俺で前に進む……」

 

 男の言葉を反芻する。そうだ、彼はいつだってそうだった。前世でも、この世界で神と戦った時もいつだって真っ直ぐに生きてきた。今までもを助けてきた。だが、彼は神殺しという大きな事を成し遂げたことにより、いつも以上に力が入りすぎていたのだ。神殺し・風峰和希ではい。ただの風峰和希として進んでいけばいいだけ。それを失念していた。

 

「そうだな。今まで俺はいつだって前世を含めてただの風峰和希だったはずだ。それを忘れていたのか」

「気付いたのならば行きたまえ。さぁ、時間だ。キミが大切だと思うものをどこまで守りきれるか。それを見せてみろ、風峰和希」

 

――――――――――――

 

 

 朝起きると枕元に一枚のメモが置いてあった。起きたばかりであまり頭は回ってないがそれに目を通す。

 

『アーシアちゃんを連れて先に学校に行ってきますね。遅刻しないようにしっかりきてくださいね』

 

 彼女たちらしい気遣いというか、深い眠りについていた和希を起こすようなことはせず先に向かったようだ。

 時計を見てもまだ時間はあった。一度深呼吸をしてから支度を始める。今回のようにゆっくりとした時間は随分と久しぶりに感じる。アティと出会ったあの日から慌ただしい毎日だったように感じる。

 神と戦い、悪魔の存在を知り、堕天使に殺され、修道女に出会い、外道神父と遭遇し、堕天使を殺した。

 これらは全てこの一か月以内にあったこと。とてもじゃないが、普通の高校生が過ごした時間だとは思えない。最も、神と戦っている時点で普通とは言えないのだろうが、それはそれ。

 閑話休題。

 校門で祐斗と子猫に出会い、一緒に部室へ顔を出すことにした。すると、部室にはリアスとアティ、そして駒王学園の制服を着ているアーシアの姿があった。

 アーシアを連れて先に学園に向かったのはこの案件のこともあったからだ。

 放課後ではなく、朝であるため、少し簡単なアーシアの歓迎会を行う。ようやく訪れた穏やかな時間。

 だが外からそれを視ている存在がそこにはあった。

 




 多少? 結構? 原作とは違う形で一巻を締めさせていただきました。アーシアがなくなるシーンをどう書こうか、レイナーレとの戦いは? 等々多くを悩みました。
 だが敵はこれから徐々に強大(原作主人公にとって)になっていきます。このオリ主の持っている力からしたら大したものではないでしょう。ですが、多少形は違えど話の展開は同じです。なので焼き鳥編でフルボッコにするのは二回戦目になります。もう一度言います。二回戦目になります。かといって一回戦目で手を抜く、大きく負けるというわけではありません。まぁ、ここら辺は楽しみに待っていただけたらなぁと思います。


 ここからは全く関係ない話なのですが、水着ジャンヌ滅茶苦茶欲しい。ちなみにこの前配布された分の石で出てきたのは牛若丸×2、アタランテ(弓)、ニトクリス(術)で諭吉を一枚消費して出てきたのはカルナと牛若丸。
 カルナさん、あなたが来たのは嬉しいが今ではないんだ。今はジャンヌが欲しいんだよ!(血涙)
 十五日になれば給料日。……何円振り込まれたかによって消費する諭吉を考えるとしよう。

 そしてお盆に入る直前に車と事故ったった。ちなみに自分は自転車でした。まぁ、そんなに大きな怪我もなかったので一安心? でしょうか。油断大敵ですね、これからは一層気を付けます。

 あとがきもここまでとしまして、この話を締めさせいただきます。
 次回も引き続きよろしくお願いします。それでは。


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8.不死鳥来たる

 久しぶりの月一更新です。来月も出来るかな……。出来るといいなぁ……。
 まぁ、それはそれとしまして今回から原作二巻に入ります。序盤からなんかもう無茶苦茶というか、全然形になっていないというか、相変わらずご都合主義で腑に落ちない点も多いです。毎度のことながらそんなツッコミどころの多い拙い文章ですが、これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。


 あれからアーシアは和希の家に花嫁修業も兼ねてホームステイという形で同居することになった。その際、リアスが暗示を使い、和希の両親を丸め込んだことには目を瞑る。アティはアーシアと暮らせることを楽しみにしているし、アーシア本人たっての要望であるということも関係している。ただ、この際、増えていく女性率に関して和希は頭を抱えたとか抱えてないとか。

 それはそれとしてアーシア、アティという綺麗所に囲まれながら登校する和希にはモテない男たちや通行人による嫉妬や僻みの視線が集まる。だが、当の本人たちはどこ吹く風。全く気にしていない。

 そんな登校風景から一日が始まり、教師による子守歌を聞き、部活で一日を終える。

 レイナーレの件が終わってから当たり前だった平和な日常に戻った。だが、それも長くは続かない。まるで荒れ狂う波のように荒事が押し寄せてくる。

それもまた突然の出来事だった。

 

「カズキさん、先にお風呂いただきますね」

「お? あぁ、いってらっしゃい」

 

 和希が部屋で一休みしているとアーシアがお風呂に向かう。部屋から出ていくのを見送った後ベッドに寝転がる。それから、間もなく視界の隅に紅い魔法陣が浮かびあがる。それが意味するのはただ一つ。グレモリー眷属の誰かが転移してきたということ。そして、転移してきたのは他の誰でもなく、グレモリー眷属の主たるリアス・グレモリーその人。だが、その本人は思いつめた表情をしている。ただ、ここ最近リアスはずっとこんな感じなのである。

 ただ、起き上がりベッドに腰掛けた状態で固まっている部屋の主の頭の中は混沌としている。

 

「リアス……さん?」

「カズキ。今から私を抱きなさい」

 

 突然、放たれたリアスの言葉に和希は呆けるしかない。察しの悪い和希に焦れたのか止めになりそうな言葉を放つ。

 

「私の処女をもらってちょうだい。大至急よ」

「え、ちょ、はぁ!?」

 

 オブラートに包まれることなく、放たれた言葉はストレートすぎて顔を赤くしながら慌てるしかできない。

 分かるのは青少年には過激すぎる一言だったということだけである。

 リアスは勢いでそのまま和希を押し倒す。

 

「私ではダメかしら?」

「いえ、そ、そういうことではなくてですね。一度落ち着いて話し合いません!?」

「色々考えたけどこれしか方法がないのよ」

「それ、何の方法です!?」

 

 何の脈略もなく、いきなり結論を出されたため、思わずツッコミを入れる。実際どのような問題で、過程を説明されることなく、結論のみ出されたら戸惑うくらいしか出来ないだろう。

 だが、悲しい哉。リアスはそんな叫びにも聞く耳を持たず、自らの制服に手をかけていく。そして下着を外したあと和希の手を取り自分の胸へと押し当てる。

 手を掴まれている本人は自分の許容範囲を超える事態になり、声にならない悲鳴を上げる。脳が急な情報処理に追いつかない。

 振り払おうにも彼本来の優しさがあってかそれが出来ない。

 

「カズキは初めて? それとも、もうアティさんと経験したことあるのかしら?」

「したことないに決まっているじゃないですか!?」 

 

 何をとは言わない。さすがにそこまで察しは悪くない。なんだかんだ言っても彼も年相応の青少年、興味がない訳ではない。まぁ、前世ではこういった色物に割く時間はなかった故にその分が今に来ている可能性もある。ただ、年齢と人生の経験値がイコールではないという点は存在している。

 

「そう。ならお互い初めて同士上手くいかないでしょうけど、最後まで頼むわよ」

「あ、あの……!」

 

 和希が言葉を紡ごうとした瞬間、また別の魔法陣が浮かび上がる。だが、紋様はグレモリーのもの。オカルト研究部の誰かが来たのかと慌てる和希。その反対にリアスは落ち着いていた。最初からそれくらい落ち着いていれば多少話が出来たはずだが、少なくともこの場にはそうツッコミをいれる者は誰もいない。

 

「どうやらここまでのようね」

 

 魔法陣から出てきたのは和希の知るグレモリー眷属の誰かではなくメイド服を着た三つ編みにして一本にまとめた銀髪の女性。見た目通りなら二十代くらいだろう。最も彼女も魔法陣から出てきて悪魔であることが分かっている以上見た目と年齢は一致していないだろう。

 女性がベッドの上にいる二人を見て口を開く。

 

「そんなことをして破談に持ち込もうというわけですか?」

「そうでもしないと、お父さまもお兄さまも私の意見を聞いてくれないでしょう?」

 

 メイドの放たれた言葉の節々からは呆れが含まれている。それに対し、返したリアスの言葉はどこか幼い子供が自分の意見を着て欲しくて駄々をこねる様子を思わせる。だが、このメイドにそんなものは通用しない。

 

「ですが、そのような下賤な輩、その上、ただの人間に操を捧げると知れば旦那さまとサーゼクスさまがさぞお悲しみになるでしょう」

「私が認めている人に捧げて何がいけないのかしら? お兄さまたちを悪く言うわけではないわ。きっとこの子には勝てないわよ。それだけの力を持っているもの」

「どこにでもいる人間のような彼にですか? 面白いことを言うのですね。何はともあれ、あなたはグレモリー家の次期当主なのですから無暗に殿方へ素肌を晒すのはお控えください」

 

 女性は脱ぎ捨ててある上着をリアスの肩にかけた後、視線を和希に移し頭を下げる。

 

「はじめまして、私はグレモリー家に仕えている者でグレイフィアと申します。以後、お見知りおきを」

「ご丁寧にどうも。どこにでもいそうな人間ですが風峰和希と言います。有象無象の人間と思ってくださればいいので、覚えてくださらなくて結構ですよ」

 

 きっとグレイフィアは知らないだけだろう。

 ただそれでも、和希にとって固有結界は、宝具は、特別なモノだ。

 皮肉屋だが、何処か憎めない。誰よりも純粋に正義の味方に憧れ、最期にはその理想に裏切られた紅き弓兵が持っていた、真作の一つ。その一端を託され、宝具を譲り受けている。

 それを馬鹿にされたように感じてそれが悔しかった。だから先ほどの皮肉をそのまま返す。

だが、その名前に聞き覚えのあったグレイフィアの視線が興味深気なものに変わる。どうやら顔を知らなかっただけで名前は聞いたことがあったようだ。

 グレモリー家の者である以上、リアスから聞いていたとしても何の不思議もない。ただ、彼女が家の者にどれだけの情報を話したのかという懸念は存在する。特にウルスラグナの権能は諸刃の剣。切り札である同時に弱点になる可能性がある。使用条件、そして一度使った化身は日にちが変わらないと使えないなどちょっとしたがばれてしまえば簡単に対策を立てることが出来てしまうからだ。いくら十の化身を扱えたとしても決して万能ではないのである。

 

「カザミネカズキ。それではこの少年が……」

「えぇ、そうよ。人間でありながら神殺しに成功し、その力を簒奪した者。グレイフィア、私の根城に行きましょう。話はそこで。朱乃も同伴でいいわよね?」

「『雷の巫女』ですか? 構いません。上級悪魔たるもの傍らに『女王』を置くのは常ですから」

 

 リアスが和希の頬に手を添える。

 

「迷惑をかけたわね、ごめんなさい。貴方の言う通り、一度落ち着くべきだったわね。明日、部室で会いましょう」

 

 リアスはそう言ってグレイフィアと共に魔法陣の中に消えていく。先ほどまでの状態が嘘のように部屋の中に沈黙が訪れる。

 

「あとは和希くんだけですので、早くお風呂に入ってくださいね」

 

 部屋の外からアティの声が聞こえたのは運よく彼女らが部屋から消えた後だった。

 

******************

 

 翌日の放課後。

 和希とアーシア、祐斗。そして途中でアティも合流し四人で部室へと向かう。

 旧校舎に入ると同時に和希とアティは目配せをする。何故なら部室の方からこの中で最も強い気配を感じ取ったからだ。

 

「木場、部室に誰かいる。念のため警戒しておいた方がいいかもしれない」

「分かったよ、カズキ君が言うなら間違いないだろうからね」

 

 部室への扉を開けると今まででも一番機嫌が悪そうなリアス。朱乃は変わらないようでどこか冷たいものを感じる。子猫は関わりたく無さそうに部屋の隅にある椅子に座っている。そして何もなさげに佇んでいるグレイフィア。

 部屋の空気に気圧されたのかアーシアが不安気な表情を浮かべる。アティがアーシアのそれを感じ取ったのか、大丈夫という意味を込めて笑顔で頷く。

 

「先生、含めて全員揃ったわね。部活を始める前に一つ話があるの。実はね」

 

 リアスの言葉が続く前に部室の床に描かれた魔法陣が光りはじめる。そしてグレモリーの紋様が知らないものに変わる。

 隣にいる祐斗が三人に聞こえる声で言葉を漏らす。

 

「――フェニックス」

 

 そして人影が姿を現すとともに魔法陣から炎が巻き上がる。炎の中に佇む男性と思われる影が腕を横に払う。それと共に炎も消える。

 

「人間界も久しぶりだな」

 

 そう言葉を放ったのは着崩した赤いスーツに身を包み、姿を現した男。見た目からの印象はホストの一言に尽きる。その後ろには十五の眷属悪魔が控えている。

 そして男は部屋の中を見渡し、リアスを視界に入れると口角を上げる。

 

「会いに来たぜ、愛しのリアス」

 

 一方、そう言われた方のリアスは半眼で男を見ている。両者の温度差が物凄くある。それはもう天と地ほど差がある。

 これはどこまでいっても一方通行でしかないやつである。だが、男がそれに気付く様子はない。

 

「さて、リアス。早速式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ。何事も早めの方がいいだろう」

「……放してちょうだい、ライザー」

 

 更に機嫌が悪くなるリアスに対し苦笑いを浮かべるだけのライザー。

 説明も何もない状況に焦れた和希がグレイフィアに尋ねる。

 

「グレイフィアさん。この悪魔は誰ですか? そして先輩とはどういうご関係で? 大きな括りでフェニックスということは分かりますが、個人の名前は知らないもので。」

「そうでしたね、失礼いたしました。この方はライザー・フェニックスさま。純血の上級悪魔であり、フェニックス家の三男でございます。リアス様とのご関係は婚約者でございます」

 

 思いがけない関係性に悪魔になったばかりのアーシアと人間二人はただ固まるしかなかった。

 

―――――――――――――――――

 

 

 アティと和希は協力者とはいえ、人間であるため退室した方がいいのでは。ということで部屋から出ようとしたが、グレイフィアやライザー、リアスが構わないということでそのまま部屋の中に残ることになった。

 

 リアスとライザーの会話を掻い摘んで説明するとこういうことらしい。

 リアスは以前からライザーとは結婚したくないと言っているようだ。次期当主である以上、相手は自分で決めるつもり。当初の話では人間の大学を出るまでは自由にさせてくれるということだったようだ。

一方のライザーの言い分としては純血の上級悪魔同士の御家がくっつくのはこれからの悪魔情勢を考えて当然。新しい血も必要だが、純血を途絶えさせるわけにもいかない。そのために自分たちが選ばれたんだと。

 

 これは悪魔同士の話であり和希やアティには関係のない話だ。これに首を突っ込む必要性はどこにもない。だが、リアスは言った。人間の大学を出るまでは自由にしてくれると。紅き弓兵は言った。自分が大切だと思うものをどこまで守れるか見せてみろと。

 オカルト研究部は和希にとって大切な居場所の一つだ。そこにいる人が嫌がっていると言うのならそれを助ける。それを黙って見ているという選択肢は存在していなかった。故に少年は動き出す。

 

「くだらない」

 

 和希が吐き捨てるようにそう言う。

 

「和希くん!」

「ライザーって言ったっけ? まぁこの際御家や名前なんてどうでもいい。リアスさんは俺が大切だと決めた場所にいるうちの一人だ。どうしても彼女が欲しいと言うのなら、俺と戦ってください」

 

 アティの静止を押し切り、和希がライザーの前に立つ。そしてその時初めてライザーは和希を一人物として捉える。

 

「あぁ? 何だ、貴様。ただの人間風情が舐めたことを! 貴様程度、俺が直接手を下す必要がない。やれ」

 

 ライザーは自分の下僕であるうちの一人に攻撃を仕掛けさせる。子猫と同じように小柄で童顔。だが確実に違うのは速さと持っているものだ。彼女は自分の身長以上ある棍を器用に使う。

 通常の人間なら追えない速度だが、和希にはそれが見えている。

 

「その程度の速度なら問題ない」

 

 祐斗ほどの速度はないが常人のそれより速く繰り出される突きや薙ぎを全て紙一重で回避していく。そして牡牛の化身を発動し、胴へと放たれた突きを受け止める。

 少女は掴まれた棍を動かそうとするが一切それが出来ない。それもそのはず。神が使う権能のその一端。それを一介の下僕悪魔が上回ることなど出来はしない。

 

「その程度か。なら、用はない」

 

 和希が拳を握り、少女へと攻撃を加えようとした時、アティが二人の間に割って入る。和希はギリギリのところで拳をずらす。もう少し遅かったら確実に少女ではなくアティに攻撃が当たっていた。

 

「アティさん、一体何のつもりですか?」

「話し合いでは解決できないことがあることも承知です。ですが、今まだ話し合いの途中です。なら、力で解決するのは間違っています。それは少なくとも今ではないはずです。私の言っていることは間違っていますか? 和希くん」

 

 その言葉に何も返すことが出来ない。まだ話し合いの途中であったことは確かであり、そこに割って入ったのは和希のほうである。和希は棍を放し、元の席に戻る。アティはグレイフィアに頭を下げる。

 

「すみませんでした、グレイフィアさん。お話の続きをしてください」

「申し訳ございません。仲裁に入っていただき感謝いたします。ですが、最終手段は先ほどの延長線上です。リアス様が未成年であるため、非公式ではありますが『レーティングゲーム』で決着を付けましょう」

「俺は問題ない。これでも俺は公式のゲームを何回か経験してるし、勝ち星の方が多い。それでもやるのか、リアス?」

「やるわ。あなたを消し飛ばしてあげるわよ!」

「ふん、いいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。だが、こちらが勝った時は即結婚してもらう。そしてそこにいる人間の女ももらっていく」

 

 そう言ってライザーはアティにも手を伸ばす。

 その瞬間、和希の中にある一線が切れた。ただでさえ、先ほどまでリアスに対する発言で腹の虫の居所が悪いのである。普段ならともかく、現状で一線を越えるのは容易なことだった。

彼女が誰かに守らなくてはいけないほど弱くないことは知っている。だが、和希にとってアーシアと同等、いやそれ以上に守りたい存在なのだ。そして戦闘で自分の背中を預けられるのはアティ以外には考えられない。本当は危険とは無縁で安全な日常の中で楽しく生活してほしい。和希にとってアティというのはそれだけ大切な存在なのだ。

 それほどの存在に手を出そうというのだ。全力を以て叩き潰す。

 きっと無理かもしれない、難しいかもしれないと言われるかもしれない。それでもアティという存在にまで手を出された以上、和希は黙って見ているわけにはいかないのだ。

 和希はダメもとでレーティングゲームに参加する意思表示をする。それに対するグレイフィアの反応はやはりというべきか、あまりいいモノではない。

 だが、それを是と言ったのはライザーだった。

 

「俺は構わない。こちらとの戦力差を考えればいいハンデだ。人間一人入れたところで何も変わらんさ」

「……かしこまりました。それではそのように話を進めさせていただきます」

「せいぜい楽しませてくれよ、人間」

「悪魔如きが俺の女に手を出そうとしたんだ。生まれてきたことを後悔させてやる、覚悟しろよ」

 

 グレイフィアが両者に合意を取る。

 両者が睨み合い、緊迫した空気が生まれる。そして先に視線を切ったのはライザーだった。再び視線をリアスへと戻し、言葉を発する。

 

「10日だ。それだけあれば時間があれば多少いいゲームが出来るだろう。俺としては今すぐやってもいいがそれでは面白くないからな。次はゲームで会おう」

 

 そう言い残し、眷属悪魔と共に部室から姿を消す。

 彼らがいなくなった後の部室の中は険悪な空気で包まれていた。

 




 とりあえずこんな感じの回でした。
 使い魔の回はないのかって? それはそのうちやりますとも! ……たぶん、きっと、maybe……。
 
 それはそれとしまして次回もよろしくお願いします


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9.合宿

 すいません、お久しぶりです。待ってくださった方、大変お待たせいたしました。
 いつも通り、会話文が多い上に、指摘点を上げたらキリがない作品ですが、これからも応援のほどどうかよろしくお願いします。

 データを保存してあるUSBメモリが行方不明になった瞬間は焦りましたね……。
 今回は繋ぎ回であるため、あまり面白くないと思います。なので次回はなるべく早めにしたいですが、そこは期待せずにお待ちください。それではどうぞ。


 ライザーとの決闘が決まってからオカルト研究部は合宿という名目で特訓をするために山間部にあるというグレモリー所有の別荘に来ていた。

 十日後とはいえ、その間の授業は一体どうするつもりなのか気になる。だが、結論から述べるなら一般人がいるとはいえ、裏では悪魔が経営しているためどうとでもなるのだ。最も、この場にアティがいる以上、勉強する時間は確実に存在する。だから問題ないと言えば問題ないのだ。

 閑話休題。

 別荘に到着後、少し休憩を挟んだ後に特訓を開始する。朱乃はアーシアと魔術の練習。アティは元軍人という経歴を持っているため、戦術講座ということでリアスに勝つための戦術を叩きこんでいる。

 外では動きやすい服に着替えたイケメン二人が向かい合っていた。

 

「遅くなって悪いな、塔上の特訓方法を一緒に考えていた」 

「大丈夫だよ、僕も今来たばかりだから。……前から和希くんとは剣を交えたいとは思っていたんだ。神殺しさまの胸を貸していただきますよ」

「分かった。……ならば、この神殺しが相手になろう。なんてな」

 

 そして、多少冗談を交えながらお互いの手には馴染みのある愛剣が握られる。

 構える祐斗に対し、和希はあくまでも自然体でいる。祐斗を甘く見ているわけではない。自然体でいることこそが最善なのだ。

 

「いつでもかかってこい」

「行くよ!」

 

 祐斗が足に力を入れ地面を蹴る。常人では出しえぬスピードで目の前にいる男へと接近する。それが一般人なら今から決まるだろう一撃でケリが着く。

 だが、接近戦を仕掛ける相手は一般人ならぬ逸般人。そんな易々と終わるわけはずがないのだ。

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で速度に特化した騎士(ナイト)だが、和希が使う心眼はその速度を容易く捉える。

 頭で理解していても体が追いつかなければ何の意味も持たない。ということはよくあることだが、彼がそんなことになることはまずあり得ない。

 祐斗はその速度を殺さずにそのまま剣を振り下ろす。和希はその攻撃に対し、下から振り上げて対応する。

 剣同士がぶつかり、金属特有の音が響く。

 

「なるほど、駒の特性を生かした攻撃か。いい速度だが、軽い!」

 

 速度に加え、彼なりに力を加えた攻撃を難なくはじき返す。そこで追撃はせずに一度仕切り直す。

 

「次はこちらから行かせてもらう」

 

 祐斗の心臓が存在する場所へと鋭い突きを入れる。祐斗本人は自らの非力さを理解しているため、それを防ぐようなことはせずに回避する。

 だが、この攻撃はこれで終わりではない。そのままそれを横になぎ払う。全く違う動作を続けて行えるのは神殺しとしての強靱な肉体がある故だ。本来ならそれなりの負荷がかかる上に純粋にそこまで強い威力は無い。これが剣ではなく、槍であったなら効率のいい攻撃だっただろう。

 剣を扱う者ならあまりやらないであろう攻撃方法。故にそれは時として有効打になる。

 

「ちゃんと回避するなら後二手くらい先を読むことだな」

 

 和希はそう言いながら自分のジャージを小さく摘んで動かす。

 祐斗としては完全に回避したつもりだった。が、実際はそうではない。その証拠に和希が示したジャージと同じ部分がほんの少しだけ切れて腕から血が流れているからだ。

 

「騎士としての速度を生かした攻撃方法は間違えてない。だけど、今のままじゃただ速いだけだ。だから、ここから先は分岐点だ。このまま速度を生かし、手数のさ。つまり、連撃を主体にするのか、少しずつでもいいから力をつけ、最終的に一撃必殺となりうる剛剣を作り上げるのか。今すぐ決めろとは言わない。ただ頭の片隅に入れておいてくれ。それじゃ、続けようか」

 

 一度仕切り直したところで第二ラウンドが始まる。二人の特訓はまだまだ続きそうだ。

 

 

****************

 

 和希は日が暮れ始める少し前に特訓を切り上げ、一人でキッチンに立っていた。祐斗は疲れたのか、現在は部屋で伸びきっている。キッチンに入る前にアティとすれ違い、夕飯の完成予想時間を伝えたため、完成した頃には皆集まっているはずだ。

 そんなわけで和希がキッチンで何をしているのか。それは夕飯の準備という一点に尽きる。そんなことよりメインをどうするか、である。合宿という面で言うのならばカレーというのが割と鉄板メニューだろう。

 実際、運動部の合宿で夕飯がカレーというのはよくあること(偏見)だ。だが、それではあまりにもありきたり過ぎてつまらない。かと言って面白さを求める必要も無い。ここは堅実に明日以降もまだまだ特訓は続くことを考慮してスタミナ回復やスタミナ増強を促すものにしたい。

 

「さて、どうしたものかな。とりあえず、豚肉を使うのは決定だな」

 

 冷蔵庫から豚肉を取り出しつつ、他に何があるか物色する。物色すること五分。ようやく献立が決まった。

 冷蔵庫から取り出されたのは豚肉、ベーコン、玉葱、ニンニクの芽、サニーレタス、レタス、長ネギ、イカの刺身、ワカメ、カボチャ。

 いつ買ってきて入れた物なのか気になるが気にしない。

 

「サラダ、副菜、メインの順番でいいか。どうせなら他にも作りたいけど多く作りすぎて残すのも嫌だしな。今日は初日だしそんなに豪華じゃなくていいだろう。その前に米を炊かないと色々台無しになるな」

 

 この日の晩ご飯はジャーマンポテト、カボチャの甘露煮、豚肉のオイスター炒め、海鮮風サラダの全四品。

 甘露煮だけは小分けにし、それ以外はそれぞれ大皿二枚使って盛り付ける。

 完成後、ダイニングテーブルまで運ぶと、そこにはメンバー全員が集まっていた。きちんとアティが伝えてくれたようだ。

 

「すみません、お待たせしました。ご飯は各自でお願いします。皆がどれくらい食べるのか分からないので」

「それくらいどうってことないわ。ごめんなさい、本当は私たちが作るべきなのに……」

「どうせなら、謝罪ではなく他の言葉にしてください。俺が好きでやったことなので」

「えぇ、ありがとう」

「どういたしまして。さ、早く食べましょう」

 

****************

 

 晩ご飯を終え、一休み中にリアスが和希に尋ねる。

 

「今日、祐斗と子猫の特訓に付き合っていたけれど二人の実力でどこまでいけそうかしら?」

 

少し考えた後に二人共一定以上の実力があり、不意打ちや犠牲(サクリファイス)など、よほど油断していたか、搦め手という手段を取られない限り負ける可能性が低いことを伝える。

 戦いの場である以上、絶対とは言い切れない。それこそ、誰かが言った言葉がある。『あり得ないなんてことはあり得ない』と。選択し、行動する限り『もしも』の状況というのが必ずと言っていいほどついて回る。故に可能性が低いと言う言葉を選んだ。その後にだけど、と言葉を繋げる。少し言い淀んだ後にしっかりとリアスに真実を告げる。

 それは個人の実力でライザーを倒せるほどの力はなく、グレモリー眷属だけで勝つには誰一人として欠けることなく、ライザーVSグレモリー眷属という状況を作り出すしか方法がないことを。

 その言葉に僅かながら悔しそうな表情も浮かべるが、その後に普段の強気な表情を浮かべる。そしていつもの調子で言うのだ。ライザーなんて消し飛ばしてやると。

 そんな強気な発言に全員笑みを浮かべていた。

 話が一段落話したところでリアスが全く別の話題を振る。

 

「さて、そろそろお風呂に入りましょうか。ここは温泉だから素敵なのよ」

 

 

 当然、男女別で分かれて浴場に入る。祐斗は自分の体を洗いながら和希の体を見ている。

 

「そんなにジロジロ見ても面白い物なんか何もないぞ」

「あぁ、ごめんね。君の体があまりにも傷だらけだったから少し驚いていたんだ。その傷は一体いつから?」

 

 祐斗がそう問いたくなるのも無理ない。つい聞いてしまいたくなるほど、和希の身体は傷だらけだった。

 問いに関してはなんてことないように、何も気にしていないかのようにあっさりと答える。

 

「ヌアダと戦ったときが主だな。たまにアティと模擬戦みたいなことをやるからこの傷が出来たのは全部ほぼ最近だ」

「なんでそこまでするんだい?」

「そうだな……一緒にいて欲しい人たちがいる。俺が誰よりも強くならなきゃその人たちを失うかもしれない。そんなのは御免だ。俺はもう誰も失いたくない。だからこの手が届く距離にいる人たちを助けられるように、守れるように俺は今よりずっと強くなりたいんだ。お前にも夢や願い、達成したいものあるだろ?」

「うん、そうだね……」

 

 そこから特に会話が弾むことなかったが、お互い無言だった時間は決して嫌な時間ではなかった。そして祐斗が再び口を開く。

 

「和希くん、僕はリアス部長の騎士だから。だから、まずは今度の戦いで部長に勝利を捧げてみせる」

「あぁ、いいじゃねぇか。やってみろよ、俺はお前なら出来ると信じてるぜ」

 

 このやりとりを最後にして温泉から出るまで会話をすることはなかった。

 

 悪魔は夜に生きる異族。昼に活動する人間とは真逆の生き方をする。よって夜間も特訓があるのだが、アティはともかく、和希も種族上は人間であるため、夜は眠くなる。そんなにハードな物は出来ないのだ。

 和希は森の中に入り、自らの左手にに意識を集中させる。宿主の力を10秒間で倍。20秒で更にその倍とし、神にさえ届きうる力を持つ赤龍帝の籠手が現れる。

 そのまま目を閉じ、己の意識を籠手へと埋没させていく。

 徐々に音が消えていく。そして見えてくる。荒れ狂う炎が、赤き龍の帝王が。

 

『ほう、もう自らの意識でここまで来ることが出来るとはな。今回の宿主は随分と楽しませてくれそうだな』

「これくらいなら誰でも出来そうなんだけどな」

『残念だが、歴代の中でもそれが出来たやつは少ない。この短い期間で来ることが出来たのはお前が初だ。そしてお前が歴代最強の赤龍帝だろう。ただの人間でありながら神殺しを達成するなど聞いたことがない。神の権能を使う人間と滅神具(ロンギヌス)。面白い組み合わせだ』

「お前、結構おしゃべりなんだな」

『俺は面白いやつと話すのが大好きなのさ』

「なぁ、ドライグ。倍加の力を権能に使ったらどうなると思う?」

 

 ほう。と和希の言葉を聞き少し考え込むドライグ。

 

『今回の件、一部始終はお前を介して全て理解している。それこそ、フェニックスなど瞬殺だ。いや、今現存している魔王ですら瞬殺できる可能性を秘めている。だが、お前の肉体が耐えられるかどうかはまた別の話だ。ヌアダの権能なら限界まで溜めた状態で二回までが限界だろう。それ以上は無理だ。ウルスラグナだと恐らく肉体が負荷に耐えきれない。それこそ、同じ神が相手の時だけ運良く可能になるかどうかだ。それにしても神殺しさえ可能にする力を神の力に使おうするとは本当に面白いやつだ。精々長生きしてくれ、お前のようなやつは最初で最後だろうからな』

「そっか、ありがとう。あと、その点は安心してくれ、簡単に死んでやるつもりは毛頭ないから」

 

 和希はそう言って意識を浮上させる。浮上する間際にドライグが、『いつでも話に来い』とそう言った気がした。

 

「今日やってみようかと思ったけど試すのはまた後日にするか」

 

 そう呟いて部屋に戻っていく。部屋に戻ってから眠りにつくのに時間はかからなかった。

 

――――――――――――――――――――

 

 二日目は悪魔、堕天使、天使の三竦みの座学。各種族に存在する組織やそこの長や役職を持った存在の名前。リアスらオカルト研究部がそれらのことを分かりやすく、アーシアとアティ、和希に教える。簡単な問答をして大体理解できたところで次はアーシアが前に立つ。

 アーシアはついこの前まで修道女だったのだ。悪魔祓いやそれに関することなら一番深く理解しているのは彼女だろう。

 

「以前、私が属していたところでは二種類の悪魔祓いがありました。一つはテレビや映画に出ている悪魔祓いです。神父様が聖書を読み、聖水を使って人体に入り込んだ悪魔を祓う『表側』のエクソシストです。以前、カズキさんもお会いしたことがあります、フリード神父。あの人たちが『裏側』で悪魔である皆さんの脅威となりうる存在です」

 

 そう言ってから脇に置いてあった鞄をごそごそと漁り、何やらたくさん取り出す。出てきたのは聖書や聖水。どれも悪魔にとってダメージとなるものだった。それらの説明を簡単に済ませて簡易的な悪魔祓い講座を終える。最後に前に立ったのは和希だ。

 

「じゃ、改めて俺の持っている力について簡単にですが幾つか説明しようと思います。以前も話しましたが俺が一番最初に簒奪(さんだつ)したのはゾロアスター教の英雄神です。東方の軍神、ミスラの懐刀、常勝不敗の神と呼ばれたウルスラグナの権能です。その数日後に簒奪したのがヌアダの権能となります。あとここから先はオフレコ、この中だけの秘密にしてください。いいですか?」

 

 和希はそう言ってオカルト研究部の面々を見渡す。そしてその言葉に対し、頷いてくれた。彼らを信じていない訳ではない。それでもこれから話すのは自らの秘技に当たるべきもの。可能な限り他人にばれるのは避けたいのだ。

 

「まず、ウルスラグナの権能ですが、これらを使用する際には厳しい条件があります。黄金の白馬だったら民衆の敵にしか使えず、黄金の剣を使う戦士ならば相手のことを理解している必要があります。簡単に言ってしまえばこれらは10の必殺技なんです。だから発動条件も厳しい。そして一日一回しか使えず、再度使用するには日にちを跨ぐ必要があるんです」

 

 ウルスラグナの権能を軽く説明したところでリアスがストップをかける。

 

「カズキは戦士の力を使うには相手のことを理解している必要があると言ったわよね? でもそれって大変なことよね? 何百とある説を全部頭に入れるのと同じなのだから」

 

 伊達にグレモリーの次期当主ではない。そしてリアスの質問に対する答えはYesだ。この時代に通説や俗説は腐るほど転がっている。それらを読む、もしくは口頭で伝えるには膨大な時間が必要となる。

 そして、それらを理解し、紐解いたとき。相手の全てを丸裸にし、神を神たらしめる力をはぎおとす。それが黄金の剣だ。

 ならばそれをどのように行っているのか? まだ、アーシアがいない時だが、和希は言った。自分の体は外部からの魔術は受け付けないと。まさか、自力で行っているのだろうか。

 

「まぁ、どのような手段で得ているかは秘密です。あまり大っぴらに出来ることではないので」

 

 それもそうだ。まさか言えるわけなどない。アティにキスで教授の魔術をかけてもらったなど。下手したら白い目で見られかねないのだから。

 一度気を取り直して続ける。

 

「では、残りの二つについて。まずは以前見せた龍の手(トゥワイス・クリティカル)なんですが、実は滅神具(ロンギヌス)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)でした」

 

 苦笑して右手で頭をかきながら左手にそれを顕現させる。すると、一同が驚愕に満ちた表情を浮かべる。それもそうだろう。ただの龍の手だったと思えば、実は神さえ殺すことが出来るだったのだから。これで驚かないというほうがどうかしている。しかもそれを何でも無いようにさらっと言われたのだからたまった物ではない。

 

「あと、剣を作り出すこの力ですが、魔剣創造(ソード・バース)ではありません。投影魔術と呼ばれる魔術です。本来は想像した物を魔力で編むのでそんな実戦で使えるものなんて作れないんです。ですが俺のこれは異常で、俺が作り出したものは限界が来るか、俺自身が破棄しないかぎり半永久的に存在し続けます。主に剣を作り出すのは一番負担が少ないからです。それにも理由はあるのですが、また後日ということで」

 

 沸いたように出てくる和希の秘密に対し、既にリアスは頭が痛そうだった。そして人が理解の限界に達したときどうするか。それはとある一言を落とし所とするのだ。

 

「カズキだから仕方ないのかもしれないわね」

 

 そう、○○だから仕方ないという一種の諦めに近い物だ。まぁ、実際それは正しい判断ではある。ただの人間でありながら既に神殺しという人ならざる偉業を成し遂げているのだ。最初から自分たちの尺度で測れる人間ではなかったのだろう。いわゆる逸般人なのだから。

 そんなこんなで午前の勉強会を終えたのだった。




 次回かその次辺りにライザー戦に入ると思います。
 また、今回も読んだ後に指摘点は多いと思いますが、そこは重々承知しているので……。
 流れがおかしい、こんなわけがない。など否定的な意見があると思いますが意図的にそうしている場合もありますので、よろしくお願いします。
 

 話がガラリとと変わりますが、八年前の今日はテイルズオブザワールドレディアントマイソロジー3の発売日なんですよね。
 自分がこちら側に走ったきっかけがマイソロ3なんですよね、皆さんはどんな作品がきっかけでこちら側になりましたか?


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10.夜会話×黄金の剣

 お久しぶりです。本当は頑張って平成最後にしたかったんですが、令和最初の投稿になってしまいました。遅くなって本当に申し訳ない。
 今回はいつも以上に書く時間にムラがあったせいか重複しているところとかおかしな点、流れや言い回しがおかしいとかがあると思いますが、どうかご容赦ください
 毎度のことながら色々な点で未熟なのは自分自身がよく分かっているので……。
 二、三話くらい前にライザーとの戦いは二回に分けると言いましたが、何故か一回目でボコってしまいましたので不死鳥編は今回が最終回です。
 それでは未熟作ではありますが、お楽しみいただけたら幸いです。


 合宿を開始してから何日かが経過した。夕飯は女性陣と男性陣が日替わりで作っている。ここでの生活により、和希とアティは今までよりオカルト研究部に馴染んでいた。

 一週間くらい経過した日の夜。ふと真夜中に目が覚めてすぐに寝付けることも出来なさそうだったため、和希は少しだけ歩くことにした。

 

「あら、こんな時間にどうしたのかしら?」

 

 テラスに出たところで赤いネグリジェを着て眼鏡をかけたリアスに声をかけられる。

 満月の下、テラスにいる紅髪の美少女。何とも絵になる組み合わせだ。着ている物が生地の薄いネグリジェでなければもっと良かっただろう。幸か不幸か分からないが、ルクレチアの方が色気が強く出ていたため、和希としては特に意識することがなかった。

 

「ちょっと目が覚めてしまっただけですよ、リアスさんはどうしたんですか?」

「私の方は色々と前準備よ。といっても気休めにしかならないのも確かなのよね」

 

 そう言ってリアスは苦笑を浮かべながら月明かりで読んでいたのであろう本を小さく持ち上げる。

 

「この本は研究された戦いのマニュアルだもの。これを読んでいれば一定の上級悪魔とならある程度戦えるのだけれど、問題はライザー自身にあるのよ」

「家名にも在るとおりフェニックスだから……ですよね」

 

 リアスが懸念しているのは和希が指摘通りだった。

 人の世界では聖獣フェニックスと同名の侯爵である悪魔をフェネクスと区別しているが能力的には同一の物。つまり聖獣フェニックスがそうであるように上級悪魔と称されるフェニックス家も不死性を有している、ということになる。あらゆる攻撃は意味を成さず何度倒しても復活し、操る業火は全てを焼き尽くす。まさに無敵、ある種最強の力と言えるだろう。

 リアスがどこから取り出したのか一枚の紙を和希に渡す。その紙にはライザーが行ってきた公式レーティングゲームの戦績表だった。

 

「八勝二敗。その二敗は懇意にしている家系への配慮。つまり、実質全勝負け無しなのよ」

 

 つまり、リアスたちが戦うのは今のところ負け無しの相手。いくらの今回のゲームが非公式とはいえ、相手が手を抜いてくることはないだろう。勝てば美女二人を手に入れることが出来るのだ。むしろ全力でくるだろう。

 

 

 

「ライザーが婚約者に選ばれた時から嫌な予感はあったの。きっとお父様たちは最初から仕組んでいたのよ、身内同士の戦いになった時、相手がフェニックスなら勝てるわけないと踏んでいたのよ。事実としてレーティングゲームが流行って一番台頭したのはフェニックス家だった。王も参加するこのゲームで不死が如何に恐ろしいものなのか悪魔は初めて知ったのよ」

 

 それはそうだ。不死性を持った敵というのはとてつもなく恐ろしい。

 特に今回の場合、彼の眷属を倒したところでそこに強い意味はない。ただ相手の戦力を削れるだけだ。普通の相手ならばそれは有効。だが、レーティングゲームというその特性上、王も倒さなければならない。王を倒してこそ意味があるのだ。しかし、それは何度でも蘇るライザーに完全勝利するということ。それは容易なことではないのもまた事実。何度でも復活する敵を復活できなくなるまで叩き潰す必要があるのだから。

 

「時にリアスさんはなぜこの婚約に反対なんですか? お家柄そんなに無下に拒否できないのも分かりますけど」

「私は『グレモリー』なのよ」

「それは知ってますよ」

「そういう意味ではないの。私はグレモリー家の人間でどこまでいってもその名前が付きまとう。それが嫌なわけではないの。寧ろこの名前は私の誇り。けれどその名前が私を殺している。誰も私をリアス個人として見てくれない。だからこの世界での生活は充実していたわ。私個人として見てくれるもの」

 

 そう言うリアスの瞳には寂しそうな光が宿っていた。

 和希にはリアスの気持ちが何となく理解できる。前世での自分は今のリアスが置かれている環境に似ていた。

 幾つもの戦場を駆け抜け、自国に勝利をもたらす。自らの意に反して国は勝利をもたらす英雄として持ち上げた。

 何時からだっただろうか。国民が『個人』ではなく『勝利をもたらしてくれる英雄』として見てくるようになったのは。何時からだろう。自室と仲のいい人間以外と付き合いを続けるのが辛いと思うようになったのは。

 和希が前世で『英雄』という看板を背負っていた。だが、リアスは生が続く限り、『グレモリー』という看板を背負いながら生活していくしかのだ。

 

「私はリアス個人として愛してくれる人と一緒にいたいの。それが私のささやかだけど小さな夢。ライザーが愛しているのはグレモリーのリアス。反した想いかもしれないけど私は小さな夢を諦めたくないのよ」

 

 それは少女なら誰もが持っているであろう密かな想い。どこの時代でも、どのような少女でも持っているであろうささやかな願い。

 その想いは、願いは、立場が強ければ強いほど心の内に秘め、それを押し殺さなければならないだろう。でもそれがどれだけ正しくともリアスはそれを持ち続けていたいのだ。どれだけ間違っていようとも、その願いだけは諦めたくないのだ。

 

 

「いい夢だと思いますよ。だからその夢が奪われそうな時は俺を呼んでください。その時は俺が必ず助けに行きます」

「えぇ。あなたのことは信頼しているもの。だからお願いね」

「任せてください」

 

 和希がどのような思いでそう言ったのか分からない。それでもリアスはその言葉を聞いて少し前を見ることが出来るように感じた。

 

 

*******************

 

 

 恙なく合宿を終え、ついに決戦を迎えることとなった。

 グレイフィアの話ではレーティングゲームはバトルフィールドへ転送後に始まるようだった。和希の体は良くも悪くも魔術は受け付けない。それこそ神と同じクラスでないと難しい。和希はとりあえず権能のことは伏せ、体質の問題で魔術は効かないことを伝える。ただ、誰かがピンチになったときアティと共に参加してもよいか。という確認を取る。

 少々時間はかかったがそれで問題ないという許可が下りたため、途中参戦ということで落ち着いた。

 今回のゲームは中継されていて魔王も見ているということが分かり、リアスたちは分かりやすく、闘志がみなぎっていた。

 いよいよ試合が始まり、和希とアティは中継を見ていた。

 

 

「それで、今回は風の化身を使ってあちらに向かうんですね?」

「あぁ、リアスさんにはもしもの時があったら名前を呼んでくれって言ってあるからな。あと、巻き込むような形になってごめん」

「いいんですよ、ウルスラグナの時からの付き合いじゃないですか。それに和希君は私がいないとすぐに無茶するじゃないですか」

 

 和希はアティの少し咎めるような口調で言った言葉に心当たりがあるのか、少し居心地が悪そうに頭を掻く。

 そんな二人の距離はなく、寄り添い合っているようにも見えるくらいだ。

 和希の中にあるのはアティを巻き込んでしまったことへの罪悪感。アティの中にあるのは和希と共に戦うことが出来る喜び。

 元々アティは無茶をしてしまい、仲間に心配されることが多い側だった。彼女もまた、和希と同じように苦しんでる人がいたら無計画に首をつっこむタイプの人間である。そう言う面では当時に比べたらだいぶ良くなった。

 本当はアーシアを救出に行く時だって相談して欲しかった。一声くらいかけて欲しかった。短い時間ではあるがあれほど近くにいたのだから。共に戦ったのだから。だけど和希がそうすることはなかった。それが何だかイタリアにいた時よりも距離が離れてしまったような気がしていた。

 だからここで彼女の方から一つ踏み込んでみる。

 

「一つ、お願いを聞いてくれますか?」

「俺に出来ることだったら」

「それなら、……これから先、あなたが戦うときは私も一緒に戦います。あなたの背中は私が守ります。だから和希君は私を守ってください」

「……分かった。これから先の戦いは背中を預ける。今までのように一緒に戦ってくれ。今回はリアスの未来を、夢を守るために」

 

 そんな二人の会話中に何者かが入ってきた。入ってきたのはリアスと同じ紅髪の男性。その男性から出ている存在感、高貴さはライザーなど足下にも及ばない。

 二人は男性を警戒しているが、男性はそんなことは全く気にしていないかのように話しかけてきた。

 

「キミたちが風峰くんとアティさんかな? 突然押しかけるようなことをしてすまない。私は魔王の一人、サーゼクス・ルシファーだ」

「……魔王様が俺たちに何のようだ」

「妹から聞いたよ、キミは今代の赤龍帝だそうだね。顔合わせを兼ねてぜひその力を存分に発揮して欲しいと言いに来たのだよ。可能なら勝ってしまっても構わない」

 

 和希の内心はサーゼクスという男性が言った言葉の真意をはかりかねていた。

 以前、ライザーは悪魔の未来がかかっていると。リアスの兄である以上今回の婚約を進めたのも関わっているはずだ。それなのに勝ってもよいという。言動の不一致が理解できない。

 

「今回の話が破談になっても構わないと?」

「あぁ、ゲームで決めるのが今回の決まりだからね」

 

 サーゼクスは何でも無いようにそう言う。その時、何か別の言葉が聞こえた。その声は聞き覚えのある声。主は目の前にいる魔王の妹。誇りに思う名前で苦しみ、それでも小さな夢を捨てたくないと言った少女の声だ。

 そんな少女の声が聞こえる。映像からではない。異空間にいるはずの彼女の声が風に乗って聞こえてくる。徐々に強くなる風とより鮮明になってくる声。

 

「その言葉、後悔しても知りませんよ? それではリアスさんの元へ行かせてもらいます」

 

 徐々に強くなっていくその風にサーゼクスは思わず顔をかばう。風が徐々に弱まり、前を見ると目の前にいたはずの和希とアティの姿がそこにはなかった。

 

「彼は面白いね、ぜひこれからも良い関係を築いていきたいものだ」

 

 その言葉は誰にも聞かれることなく、部屋の中に消えていった。

 

***************

 

 

 子猫で犠牲がリタイヤし、祐斗も戦闘後を狙われてリタイヤした。相手の女王、ユーベルーナを追い詰めたがフェニックスの涙によって全快になった相手に痛手を受けしてリタイヤしてしまった。残っているのはアーシアと王である自分だけ。そんな二人しかいない状況でライザーとユーベルーナを倒さなければならない。魔力も底を尽きそうだった。

 

「どうしたリアス! 時間をやってこんなものか! あの小僧は怖じ気づいたか、降参しろ、お前に勝機は無いんだからな」

 

 アーシアが治癒をかけながらリアスはライザーへと滅びの魔力を叩きつける。だが、相手は公式で結果を残すだけの実力の持ち主。

 リアスの心を占めるのは敗北の二文字。アティにせっかく教えをつけてもらえたのに、和希が子猫と祐斗を鍛え上げてくれたのに勝てないのかと。自分はそれほどまでに弱いのかと心が折れそうになる。自分は自分が大切にしたいと思える小さな夢ですら守れないのかと。

 

(皆、ごめんなさい……)

 

 リアスが降参しようとしたその時、和希の言葉がリフレインした。

 

『その夢が奪われそうな時は俺を呼んでください。俺が道を開いてみせます』

(信じていいのよね?)

 

 リアスの中で消えかけていた希望の火が再び灯る。その瞳にはもう一度力が入る。弱気な光が消えたリアスを見てこれで終わらせることにしたのか、ライザーがユーベルーナと共にその業火をリアスとアーシアをめがけ放つ。

 

 

「ここに来て……私たちを助けて。今、あなたの力が必要なの。助けてカズキ!」

 

 その叫びと共に風が吹く。そしてその業火が着弾し、火柱が上がる。

 ライザーは自らの勝利を確信したのか不敵な笑みを浮かべている。だが、リタイヤのアナウンスが一向に流れない。

 そして燃え上がっていた火柱が何もなかったかのように消え去る。

 

「貴様は……!」

 

 火柱が消えるのと共に姿を現したのは何のダメージを受けていないリアスたち。そしてアティを連れて二人を庇うように、守るように和希がライザーと向き合っていた。

 

「リアスさん、助けに……約束を守りに来ました。下がっていてください。アティは向こうの女王の相手をしてくれ。俺があいつをぶっ飛ばす。お礼はいつか精神的に」

「約束ですからね。そしてこれは……勝利の前祝いです。ではもう一戦お願いしますね、女王」

 

 アティは和希と口づけを交わす。普段なら、いや、普段でも絶対に行わない行為。そしてその口づけと共に和希の中にフェニックスの知識が流れ込んでくる。今行っているのは戦士の化身を行使するための前準備。たかが、一悪魔にそこまでする必要性は感じないが、これより行うのは圧倒的なまでの暴力だ

 口づけを交わし終えたあと。アティは軽快に屋根から飛び降りていく。和希はそれを見送った後、改めてライザーと対峙する。

 

「我は言霊の技を以て世に義を顕す。これらの呪言は強力にして雄弁なり!」

 

 地面より現れるのは黄金の剣。本来、これは神に対し圧倒的なアドバンテージを与える化身だ。

 たかが悪魔ごときになぜそこまでするか。これは見せしめの意味を込めている。グレモリー眷属に、リアスに手を出せば自分が黙っていないという牽制でもある。そして悪魔たちは目の当たりにする。彼の力の一端を。

 舞台であるレプリカの駒王学園が書き換えられる。黄金の剣が存在する処刑台へと。

 

「これは……」

 

 呟いたのはライザーかリアスか。初めてこの力を目の当たりにする者からすると思いがけない光景だろう。リアスの後ろにいるアーシアも固まっている。

 これより語られるのは不死性を殺すための力。フェニックスの代名詞である不死を一時的に封じるためだ。

 

「フェニックスは死んでも蘇り、永遠の時を生きる伝説の鳥。涙は傷を、血は不老不死をもたらすといわれていた。寿命を迎えると灰に還り、燃え上がる炎と共に再び生を受ける。これが不死鳥、火の鳥と呼ばれる所以だ」

 

 神話や創作物の中で最も有名で語られるフェニックスとしての特性であり、特徴でもある。そして何事にも源が存在する。

 

「そのルーツはエジプト神話のベンヌが原型だ。太陽信仰のあったエジプトでは毎朝生を受け、夕暮れと共に死に、翌朝再び生き返ると言われていた」

 

 和希は説いていく。神話の時代を。彼らが生まれたであろうずっと前から伝わってきたフェニックスという存在の源を。

 そしてその言葉は剣の切れ味を良くするための砥石のような意味もある。

 

「ベンヌがギリシアへと伝わった際、身体の一部が燃えるような赤だったため、『真紅の鳥』を意味するポイニクスが変形しフェニックスとなった。当然、原型である以上フェニックスと共通するのは不死鳥だということ。そして生と死を繰り返すのは大地の神が持つ特性だ。だからエジプトではラーやアトゥム、オシリスの魂だと考えられていたんだ」

 

 ライザーは襲いかかってくる黄金の剣を自らの炎で捌く。だが、炎は打ち消され、襲いかかってくる黄金の剣はライザーを僅かながら切り裂いていく。

 今し方、語られたのは聖獣フェニックスという存在。永遠の象徴であるそれの大元は神の一部として信仰されていた。だからこそ、というべきなのか。今回の場合、信仰されていたということが何よりも重要なのだ。エジプトからギリシアに伝わる。そこに鍵が隠されていた。

 

「エジプトとギリシアはほぼ地続きだ。当然、他の国にもそれは伝わっていく。それは中東の方にも広がっていった。中東の方は主にヘブライ教を信仰している人が多い。そしてそれは唯一神であるヤハウェを信仰する宗教だ。そしてヘブライ教では過去に信仰されていた異教の神を悪魔として扱う傾向があった。オシリスやアトゥムの魂として考えられていたベンヌと同様にフェニックスも信仰されていた。悪魔フェニックスはヘブライ教が生まれるよりずっと前。古代エジプトからギリシアに伝わってもなお維持された大地の神が持つ不死性。それがお前が持つ不死の力だ!」

 

 黄金の剣は神性をそぎ落とすための武器。その力を一時的に使用不可能にすることなど何の問題も無い。不死性を封じられたライザーは自分の中の力が封じられ、喪失感に似た何かををしっかりと自覚できた。

 

「貴様! 一体何をした!」

「本当は教える義理などないが今回は特別に教えてやる。お前の不死身をこの剣で一時的に封印したんだ。不死性が消えた悪魔などただの悪魔と何も変わらない。もうこの武器は必要ない。お前を倒すにはこれで十分だ」

 

 和希は黄金の剣を消し、左手に赤龍帝の籠手を装備する。

 一歩詰め寄るとライザーは一歩後ろに下がっていく。

 

「どうだ、ご自慢の不死身が封印された気分は。……一方的で個人的な八つ当たりもあるが、リアスが心に受けた痛み。それをお前にも味わってもらう。覚悟しろよライザー・フェニックス」

 

 その静かな怒りと共に放たれたプレッシャーにライザーは息を詰まらせる。公式戦でも格上の敵と戦ったことはある。だが、これほどのプレッシャーを出す敵とは戦ったことは一度も無かった。そしてライザーは和希にある姿を幻視した。その姿を幻視したのは彼だけではない。この中継を見ている悪魔全員が、それを視た。

 

「赤き龍……だと」

 

 この戦いを視ている殆どが赤き龍を幻視した。だがそんな中、リアスとアーシア。そしてリタイヤ後に中継を視ていたグレモリー眷属は別のものを目に映していた。赤い龍がいるのは同じだが、それ以上に印象的なのは龍の背に乗りながら、薄汚れた外套に身を包み、和希と同じ黄金の剣を持った少年。少年の表情は憤怒に満ちていた。守るべきものを穢されたかのように、もしくは自分の不甲斐なさを嘆くかのように。

 

「カズキさん……」

「あなたは……」

 

 そうだ、彼が怒るのは傷ついた人のためだけではない。帰りを待つ者の為に、大切に想っている人のために怒るのだ。

 そのあり方はどこまでもウルスラグナに似ている。彼は正義の神でありながら民衆を守護する神でもあったのだから。ここではない遠い別の世界には彼がウルスラグナと呼ばれていても不思議ではないくらいだ。

 そして和希がライザーの前で立ち止まる。壁際まで追い詰められたライザーは怯えたように、これからの出来事から逃れるように言葉を並べる。

 

「ま、待て! 分かっているのか! この婚約は悪魔の未来に必要なことで人間ごときがどうこうしていいものじゃないんだぞ!」

「んな、こと知らねぇよ。ただ、リアスの笑顔を、願いを奪うっていうなら俺がそれを全部ぶっ壊してやる。悪魔の未来だか、純血悪魔だか知らねぇけどそんなもんでリアスが選ぶ道の邪魔をするんじゃねぇよ!」

『Exprosion!』

 

 五回ほど倍加された力が解放される。たった五回の倍加。それがただの人間だったらたかが知れている。だが、和希は違う。既に人としての理から大きく外れている。

 力量の差は圧倒的。自らが矮小であることを否応なく理解させるほど。その存在感は魔王と同等。いや、それを上回っていると思わせる。

 それだけの力を持った拳が何も躊躇うことなくライザーの鳩尾に叩き込まれる。

 

「く……そが…………」

 

 公式では負け無しといわれたライザーが一撃で意識を飛ばされる。それにより敗北したというアナウンスが流れるが無視し、さらに一撃入れようと手を伸ばすと、蹲っているライザーを庇うように金髪縦ロールの少女が割って入り、和希の前に立つ。気丈に振る舞う少女だが、その足は、身体は僅かに震えている。無理もない。魔王と同等。いやそれ以上の圧力をその小さな体に受けるにはまだ荷が重すぎる。

 フィールドが消えゆく中、和希は力を抜き、背中を向けて言葉を投げかける。

 

「文句を言う奴がいたら連れてこい。魔王だろうが何だろうが全て俺が相手をしてやる。ライザー(そいつ)にトドメは刺さない。お前のなけなしの勇気に免じてな。……じゃあな」

 

 圧力から解放された少女はへなへなとその場に座り込む。ただ仲間の方へと戻って行く少年の後ろ姿を見つめるその視線には僅かに熱が籠もっていた。

 

 *****************

 

 リアスは歩いて戻ってくる和希の元へと駆けより抱きつく。

 

「ありがとう、私たちを守ってくれて」

「これくらいお安いご用ですよ。あなたを守る為なら何度でも戦います」

 

 そう言い放つ和希が浮かべているのは先程までと全く違い、優しい笑みだった。月明かりに照られたその表情は異性ならば思わず見とれてしまうものだった。

 リアスも例に漏れず頬を赤く染める。だが、それも失せ、不安げな表情に変わる。

 

「でも、あんなことを言ってしまってよかったの? もしかしたら悪魔全体が貴方を敵として見なすかもしれないのよ?」

「別に構いません。俺が守りたいと思うものに人も悪魔も関係ありません。リアスさんはオカルト研究部だけではなく、俺にとっても大切な人ですから」

 

 彼にとってリアスという少女はある意味大切な存在なのである。悪魔という人ならざる存在でありながら、その在り方と願いは人と同じ。そして彼女は和希と同じだ。和希がそうであり、これからまたそうなるように、何時如何なる時でも肩書きや名前がついて回る。そうして個として見てくれる人は少なくっていく。

 表には出さないが、心の内に秘めている思い(モノ)は同様のモノだった。

 和希は言葉にこそ出さなかったが共感してくれたことをリアスは何となくだが理解していた。

 そんな人が自分を大切だと言ってくれた時、内側に熱を持った何かが溢れ出す。

 リアスはその衝動に身を任せることにした。ほんの少しだけ背伸びをして口づけを交わす。

 和希はリアスが取った突然のキスに驚いたのか動けずにいた。

 ついさっきまで鬼の如きを発揮していた和希だが、それが嘘のように慌てている。その姿は年相応のリアクションでとてもじゃないが、同一人物とは思えない。他人の空似、もしくは二重人格といわれた方が納得出来そうな豹変ぶりだった。

 

「ファーストキスよ、日本では女の子が大事にしているものよね?」

「え、ちょっ! リアスさん!?」

 

 唇を放した後、強く和希を抱きしめる。それを後ろから見ていたアーシアとアティ。アーシアは頬を膨らませ、アティからは何か黒いオーラが全身からあふれ出ている。

 それに気付いた和希はアタフタしながら弁解を試みるが言葉が出てこない。 

 その光景はちょっとした日常の中でありふれたもので和希が守りたいと思うモノの一つだった。

 

***************

 

 後日、リアスもまた風峰家の転がり込むように居候というか、ホームステイのような形で一緒に暮らすことが決まった。

 ちなみにその話を進めている間、和希はアティに太ももを抓まれている。なお、その際二人とも何もないような顔をしている。が、和希の口元が僅かに引き攣っている。

 

(そろそろ、ジゴロするのをやめたらどうですか?)

(何故、俺が色んなところで女の子を誑してるみたいな感じになってる?)

(違うんですか?)

(違う。そんな事実は一切無い!)

 

 ちょっとしたアイコンタクトでお互いの意思を伝える二人。

 女の子を誑かしたことなどないと主張する和希だが、現実として現在三人、無自覚を含めて五人が和希に好意を向けている。きっとこれからも増えていくだろう。少なくとも五人の内二人は先日増えた為、結果だけ見るならば誑かしたことになるのだろう。

 

(本当ですか? 少なくともリアスさんは和希君に気があるようですが、そこはどのように?)

(それこそ気のせいだ。俺よりいい男なんていくらでもいるんだぞ? それこそ木場だっているんだからな)

(……そういうことにしておきますね)

 

 無自覚タラシである上に自己評価が低い和希。無自覚タラシであるだけでもう厄介だが、自己評価が低いが故に他人の好意に気付かないという案件が発生する。

 とにかく、このままだと話が進まないと感じたアティが渋々引き下がる。

 そんな会話が終わる頃にリアスの話も終わったようだった。その後、リアスが和希に向かい、笑顔を向ける。

 

「これからよろしくね、カズキ!」

 

 それを見て更に力を入れるアティ。苦笑いを浮かべる和希。アーシアはリアスと一緒に暮らせるということが嬉しいようで笑顔を浮かべている。少し混沌とした雰囲気になっている。

 ちょっと離れたところでそれを見ていた祖父である大智が微笑ましいものを見ているような生暖かい目をしながら呟く。

 

「正輝は人タラシだが和希は生粋の女タラシのようだな。これから面白いことになりそうだ」

 

 和希の祖父である大智と父である正輝は男女問わず人タラシであるが、どうやら和希は女性に特化したようだ。それはそれとして、先ほどまでの混沌とした雰囲気はどこへやら。楽しそうな雰囲気に切り替わっていた。

 和希は今度こそ笑顔でどこにでもありふれた幸せな時間が続くことを願った。




 というわけで不死鳥編は終わりです。次回からエクスカリバー編になります。なので今よりFate要素を強めに出来たらな。とは思っています。
 また、今回使ったフェニックスの知識や黄金の剣の活用の仕方ですが少しだけアレンジを加えてみました。急ごしらえだったため、こちらも要勉強ですね。
 課題が多い……。
 また、以前前書きでも述べましたがちゃんと作者なりに考えて書いているので否定的な意見はなるべくお控えしてくださるとありがたいです。如何せん豆腐メンタルなところもあるんで執筆にあたるにも必要以上に時間がかかります。

 と、まぁそんなこんなでまだ大変未熟ではありますが、この作品共々これからもよろしくお願いします。それでは!


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11.新たな始まり

 皆さんお久しぶりです。なんだかんだほぼ一年ぶりになってしまいました。
 一身上の都合によりなかなか執筆時間が取れなかったり、勝手な話ではあるのですがやる気が起きなかったりとなかなか安定せず、完成するまでに時間がかかってしまいました。
 相変わらず不定期ではありますが今後も投稿を続けていこうと思います。
 流れがおかしいなど指摘点が相変わらず多い作品だとは思いますが今後もよろしくお願いします。
 



 ライザーとのゲームが終わってここ数日、女性陣三人による和希争奪戦が勃発することがある。だが、ほとんどが時間によって終了することの方が多い。

 今朝も発生していたが、例に漏れず時間切れで終わった。

 朝食を食べ終わってアティが家を出る前に思い出したように振り返る。

「そろそろ旧校舎全体の清掃が始まるので部活の活動場所をどこにするのか決めておいてくださいね」

 

 そう言い残して家を出て行く。それからしばらくして三人で家を後にする。

 学校に向かう途中でリアスが今朝の部活動をどこにするかということについて話ていた。

 

「カズキとアーシアに一つ相談が相談があるのだけれど、清掃が終わるまでオカルト研究部の活動を風峰家でやりたいと思っているのだけれどどうかしら?」

「私はカズキさんたちが良いのであればそうしたいです」

「俺は構いませんよ。なので家の人さえ大丈夫だったら構いません」

「そう。なら問題ないわね、今日の活動場所は無事に決まったわね」

 

 事前に和希の母である美奈には確認を取っているため、実質和希がOKサインを出せば決定だったのだ。和希があまり友人を家に招くということをしない為、美奈的には断る理由はない。なので嬉々として許可を下ろした

 最も断ったところでどうしてもと言われるだけなので回避しようもない。何十年人気を誇っている某RPGのような展開。いわゆる無限ループというのに足を突っ込むことになるだけなのである。 

 

 

 そんなこんなで迎えた放課後。放課後の活動があるとはいえ、アティは教員であるため学校で自分の作業を進めている最中だ。

 それはそれとしてだ。現在、和希の部屋に集まっているのだが、活動など行っていない。現状行われているのは何故か美奈によるアルバム展覧会。和希の幼少期を中心とした写真を中心に広げられている。

 リアスを始めとした女子部員全員がそれを見てキャッキャッしているのを傍目で見ながら頭を抱えている。

 

「何でこんなになってるんだよ。活動は一体どうしたんだ……」

「まぁまぁ。たまにはこういうのもいいじゃないか」

「やめろ、お前まで見るなよ!」

 

 和希を宥めながらも一緒になってアルバムを見ている祐斗。結局の所、オカルト研究部が知っているのは神殺しの和希なのである。今まで交流が無かったのは当然なのだが、和希が幼少の頃からどのような生活を過ごしてきたのか気になっているのである。

 そしてどの写真にも共通しているところをあげるとするならば、何故か女の子と一緒に写っているものが多いのだ。和希一人だけのものが圧倒的に少ない。男友達と思われる人物もいるのだが、それ以上に異性が多い。どうやら女殺しなところは幼少期の頃からのモノらしい。それらを見てリアスとアーシアは何とも言えない顔をしている。和希は女の人がしていい表情ではないことを伝えようと思ったが、飛び火する可能性を考慮した結果、離れたところで黙っていることにした。

 アルバムを見ていた祐斗が突如真剣な表情を浮かべ、ある一点を見つめている。

 

「ねぇ、和希くん。これに見覚えは?」

 

 そう言いながら写真を指さして和希に問う。考える人よろしく、顎に手を当てながら記憶を掘り返していく。

 

「悪ぃ、思い出せねぇや」

「そうなんだ。これは聖剣だよ」

 

 そう言った祐斗の声音は今までにないくらい真剣なモノ。

――聖剣……ねぇ。

 それに対し、和希はまた新たな厄介事が始まろうとしているのを朧気ながら感じ取り思わず天井を見上げるのであった。

 

 

 ****************

 

 

 来週には駒王学園球技大会が行われる。クラス対抗から始まり、男女別や部活対抗など多様にあり、一日かけて球技に括られる種目を楽しむ日なのだ。

 部活対抗は文化部運動部の区切りはなく入り乱れての戦いとなり、競技種目は当日発表となる。故にどんな種目でも戦えるように幅広く練習する必要があるのだ。

 元々体育会系な所もある和希が体育祭に続き楽しみにしている行事の一つなのである。だから練習も人一倍気合いが入っていた。

 リアスもこの手のイベントが好きなため、練習とはいえ鬼が二人いた。特に和希なのだが、基礎を教えるときは問題ないが実戦形式になった途端、男女問わず本気でやる。本番だったら勝ちに行くため、当然なのだが練習でも遠慮はしない。何という鬼畜ぶりだろうか。鬼のようなコーチはどこにでもいるが、ここまで鬼畜を体現した人間はそういない。

 それでも全体的に戦力向上となるため、文句が言えないのである。

 ライザーと一戦して以来、リアスはより勝利を求めるようになった。だが、この前写真を見て以来、祐斗は身が入っていないようだった。そんな祐斗を見て和希はどう対処するか頭の片隅で考えながら練習を続行した。

 

 翌日の昼休みは昼食後に部室に集まるということになっていた。リアス曰く、最終の打ち合わせだとか。

 昼食を食べ終えてすぐ、松田と元浜が話しかけてきた。

 普段からスケベな二人だが、よく三人でゲーセンに行くくらいには仲がいいのだ。

 

 

「なぁ、今日も部活なのか? 今日くらい前みたいにゲーセン行こうぜ? 早くお前にリベンジしたくて仕方ねぇんだよ」

「そうは言ってもしょうがねぇよ。リアス先輩は本気みたいだし、俺もこういうイベント好きだから手抜きしたくないしな」

「そうだ、お前はそういう男だったよな。ただ、夜道には気をつけろよ?」

 

 突如、眼鏡をくいっと押し上げて話し始める。和希は「何言ってんだ、こいつ?」みたいな表情をしている。

 

「何でも最近、変な噂が流れているからな。裏でリアス先輩や姫島先輩の秘密を握り、放課後は毎日鬼畜エロプレイ三昧の日々。それだけに飽き足らずアティ先生やアーシアちゃんを爛れた性行為の果てに導く淫欲の日々……。二大王子と呼ばれる男が隠している裏には秘めた獣性が隠れていた。みたいな感じのやつ」

「誰だよ、そんなの流したやつ」

 

 ――殺されるぞ、誰にとは言わないが。

 それを言葉にはせず、心の内に秘めておく。何故なら絞めるのは和希本人だからということもある。

 最もそんな噂も普段寡黙な和希の隠された一面として殆どの女子からは何故か好意的に解釈され、一部の界隈ではナニとは言わないがネタになっている。一言加えるとするなら主にBから始まる薄い本が中心である。

 

「ま、俺らが流したんだけどな」

「おう」

 

 犯人はすぐ目の前にいた。

 

「死にやがれ!」

 

 一応長い付き合いであるため、鉄拳制裁でスケベ二人を黙らせる。という方向性に変える。周りもある意味、いつもの光景であることを理解しているので誰一人として関与しない。そして、制裁の方はかなりの威力があったようで床で伸びきっている。

 付き合っていられないといわんばかりにアーシアに声をかける。

 

 

「全く、こいつら本当に……。アーシア、そろそろ時間だけど部室に行けるか?」

「だって、彼氏がお呼びよ?」

 

 アーシアと一緒に昼食を取っている眼鏡女子。桐生藍華が人を弄る時特有のいやらしい表情を浮かべながらそう言う。

 それを聞いたアーシアは真っ赤になって沈没してしまった。

 そこまで赤くなるアーシアを和希は初めて見る。アーシアの予想外の反応に藍華は呆気にとられた表情に変わっていた。

 

「あれ? 二人とも付き合ってるんじゃないの?」

「そんな事実はどこにもない。それに俺よりいい人なんて世の中にはたくさんいるぞ」

「そう? 二人ともいつも一緒にいるから勘違いしちゃった。それこそ、毎日ヤることヤッてるカップルにしか見えないわ。少なくとも親公認で同居してるんでしょ。若い男女が一つ屋根の下ですることと言ったら……って思ったけどアティ先生もいるんじゃ無いわね。後、あんたより良い男なんてなかなかいないわよ。顔良し、器量良し、それに頭も良い。これほどの最良物件どこに転がっているのよ」

「そりゃ、うちにいるんだから仲悪い方が問題だろ。どこってそりゃ世界中だろ。そんなことよりアーシア。早く部室に行くぞ」

「は、はいぃぃ」

 

 後ろで藍華がつまらなそうにしているが特に気にせず教室から出て行く。

――気が動転しまくってるけど部室着くまでに治るのか?

 そう思いながら頭では別のことを想像していた。それがアーシアが彼女だったらというif。生まれ変わった二回目の生。新しい人生であるのだ。全くそういうことを考えたことが無いわけではない。事実としてアーシアは彼にとって守りたい存在であり大切な存在であることは確かだ。

 だが、彼女に好意を持っているのかというと分からない。というのが正直なところだった。なぜならそう言う存在はアーシア以外にもいるからだ。リアス、朱乃、子猫。そしてアティ。

 この中で和希という存在に一番近いところにいるのはアティでその次にアーシアとリアスであろうことは想像に難くない。自分の隣にいるのを想像出来るのはアティだった。それは共に戦場を駆けたからであろう。ほんの少し、他の皆より過ごした時間が長いから。それだけなのである。

 なんだかんだ和希が一番信頼しているのは現状アティなのである。ただその中で誰かと彼氏彼女の関係になることがあまり想像することが出来なかった。

 

 

 部室に到着して扉を開けるとそこには普段見ない人たちがいた。珍しく部室に来ていたのは生徒会長を筆頭にした生徒会のメンバーだった。

 ソファーに座っていたのは生徒会長である支取蒼那。なんでもリアスと朱乃に続いて三番目に人気の三年生だとか。学園内のことにはあまり興味の無いこと和希ではあるが、同級生が騒いでいる人たちのことは覚えている。

 滅多に感じない気配が中から感じたとはいえ、まさか生徒会も悪魔で構成されているようだ。

 朱乃が和希とアーシアに蒼那の裏について簡単に説明する。

 

「この学園の生徒会長、支取蒼那さまの真名はソーナ・シトリー。上級悪魔シトリー家の次期当主さまですわ」

 

 名前について色々とツッコミを入れたい和希だったが、それを棚に上げて以前読んだ悪魔関係の書物に書かれていたことを思い返し、それを確認するように話す。

 

「シトリーというとソロモン72柱の悪魔ですよね。確かゴエティアには60の軍団を支配する序列十二番で位は君主と記された悪魔……で合ってますかね?」

「先の大戦でその軍団は減ってしまわれましたが、その認識に大きな間違いはありません」

「というか蒼那先輩、なんで風峰が来たんですか? こいつ人間ですよね?」

 

 滅多に怒ることなど無い和希だが、ほぼ初対面の人間(あくま)にこいつ呼ばわりされたことにほんの少しだけイラッとした。遠回しにイヤミで返すことにしたが、その前に蒼那が制した。

 

「サジ、お止めなさい。今回は新しく悪魔になったアーシアさんと新入部員である風峰和希くん

と顔合わせするためです。私の眷属なら恥をかかせないこと。それに――」

 言葉を切った蒼那が初めて和希を視界に捉える。

「今のあなたでは風峰くんには勝てませんよ」

「ど、どうしてそう言い切れるんですか? 俺は悪魔で風峰は人間じゃないですか」

「彼が普通の人間でしたらね。彼は赤竜帝の籠手の所持者です。フェニックス家の三男相手に攻撃を全て完封し、勝利しているのですよ。今のサジと風峰くんとの間には少なくともそれだけ、いやそれ以上の差があるのです。どうあがいても勝ち目はありませんよ」

「こいつがフェニックス家の三男を……。俺はてっきり姫島先輩や木場がリアス先輩を助けたものだとばかり……。すまない、風峰。俺は(さじ) 元士郎(げんしろう)。二年で会長の『兵士(ポーン)』だ。よろしく」

「あぁ、よろしく頼む。まぁ、神話の時代ならともかく現代で異形を相手に出来る人間なんて普通はいないだろうからな」

 

 確かに神代にもいたかもしれないがそんなに多く居たわけでは無いだろう。ましてやそれから時代が変わり続け現代へと至った今。和希の言葉通りそれを実行出来る者はまず存在しないだろう。ただ、その言い分だと自分は普通の人間ではないと言っているようなものだった。

 だが、幸いというべきか匙がその発言に対し大きく疑問を持たなかった。

 そんなこんながありつつも無事に新人同士の顔合わせが終了した。

 

 

 ****************

 

 

 閉会直後に雨が降り始めたが、なんとか球技大会そのものは無事終了を迎えた。が、問題が起きたのはその後。最近気の抜けたような態度でいる祐斗に対し、ついにというべきか堪忍袋の緒が切れたようでリアスが叱咤する。だが、祐斗はそれを気にとめる様子は一切無い。少し間を開けて今までの笑顔を浮かべる。ただ、今その笑顔は貼り付けているものにしか見えない。その貼り付けた笑顔のまま言う。

 

「それではもう戻って良いですか? 球技大会も終わりましたし、最近の練習で疲れが溜まっているので夜まで休ませてもらって良いですか? あと、普段の活動も休ませてください。昼間はすいませんでした、どうにも調子が悪かったようです」

 

 そう言って出て行くと部室内を沈黙が支配する。誰も喋らず、動こうともしない。ようやく動き出したのはジャージから普段のスーツ姿に着替えたアティが部室に顔を出してからだった。

 そしリアスがポツポツと話し始めたのは木場祐斗という転生悪魔が生まれるきっかけとなった出来事だった。

 教会が秘密裏に行っていた因子が足りない人間でも聖剣を扱えるようにするための人体実験『聖剣計画』。

 祐斗はその失敗作で教会側が失敗作を全員殺処分することにして死にかけている祐斗をリアスが助けたのだ。

 

 

「それがあいつの原点なんですね」

「えぇ、そうよ。今はぶりかえした聖剣への思いでいっぱいでしょうからしばらく様子を見るわ」

「それでリアス先輩一つ聞いてもいいですか?」

 

 

 リアスが語った聖剣計画。その中にちょっとした聖剣の話もあった。そして祐斗が受けた実験は聖剣エクスカリバー。あの二人の記憶を垣間見てどちらの本も読んだからこそ知っている。

 

「何で約束された勝利の剣(エクスカリバー)が存在しているんですか?」

「それはどういう意味かしら?」

 

 うまく質問の意味が読み取れないのか聞き返すリアスと他の部員。だが、アティだけはその意味を理解し、和希の代わりにリアスの質問に対する答えを返す。だが、そこは教師らしくリアス達自身で答えにたどり着かせるやり方を取る。

 

「リアスさん。イギリス、しいてはブリテンにおいて最も有名な伝説とは何でしょう」

「そうね、アーサー王伝説になるのかしら」

「えぇ、そうです。全ては選定の剣を抜いたことで王となり、騎士王と称えられるようになった話ですね」

「それくらいは知っているわ。一度折れた後、湖の妖精から聖剣を承った。一本目をカリバーン、二本目がエクスカリバーとそう呼ばれ、区別されているのよね?」

「はい、それでは次が最後のヒントです。その伝説の最後、ランスロットと王妃グィネヴィアの関係が発覚し、内乱が起きます。アーサー王の最後はどうなっていますか?」

「内乱を終えた後、アーサー王はアヴァロンへと旅立ち、聖剣は騎士ベティヴィエールによって返還されている!?」

 

 ようやく答えにたどり着き、和希の聞きたいことにたどり着いたリアス達。

 和希はそれに頷き、気になる点を挙げる。

 

「返還されたはずの剣。なぜ、それがあるのか? ということです」

「そしてそれが、教会、もしくは天界の誰かが受け取ったのか? ということかしら」

 

 はい、という言葉と共に首肯する和希。

 

「ですが、理由がはっきりしない今は黙っていた方が良いと思います」

 

 祐斗の聖剣に対する復讐、そして教会サイドが失われた聖剣を所持している理由。

 今もなお、徐々に強く降り続ける雨は祐斗の悲痛な叫びを、またこれからに起こる事態の「」行き先を告げているようであった。





 原作とは少し違う感じで仕上げてみました。書きながらではあるのですが、色々模索中です。

 丁度一年くらい前にシャニマスを始めたんですが、千雪さんとめぐるがドストライク過ぎてやばいです。
 それぞれをヒロインにした作品も書きたい。徐々に書き溜めればいずれ投稿するかもしれません。

 さぁ、話を戻しまして次回はもう少しエクスカリバーについて掘り下げようと思います。それに従い教会の二人組が出てくる感じですかね。
 もうこのように一年も空けるようなことはないように気を付けますので皆さま、今後もよろしくお願いします
 それではまたお会いしましょう


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12.再会/聖剣

 先月ぶりです。月一で更新するのはとても久し振りです。
 前回のあとがきで書いた通りの話になったのではないかと。ただ聖剣に関してはそれほど掘り下げませんでした。さわりだけです。
 それでは前回同様、今回もよろしくお願いします。


 部活動を終え、帰宅。夕飯やお風呂を済ませた後、和希の部屋にアティ、リアス、アーシアを含めた四人で集まり、聖剣関係の話をした後、誰が和希の隣にで寝るかと言う話になったが、アティの一喝により、各自部屋に戻り就寝となった。 

 その日の夜。ドライグの方から和希へと話しかけてきた。

 

『合宿以来だな相棒。この前の試合は実に見事な物だった。歴代最強と言っても過言ではない活躍だ』

「そりゃ、どうも。あいにく最強なんてものには興味はないけどな。……珍しいなお前の方から話しかけてくるなんて」

『まぁ、昼間の続きでさっきの続きだ。お前は特定の異性とは深い仲にならないのか』

 

 ドライグからの思いがけない方向での会話の切り口に思わず黙り込む。

 そんな和希の様子を知ってか知らずかそのまま続ける。

 

『昼間はあの聖女のことを考えていただろう。それにグレモリーとその眷属は悪魔の中でも特別愛情を持っている。リアス・グレモリーは相棒に特別な愛情を持っているように感じる。それだけじゃない。あの聖女や魔術師も同様だ』

「気のせいじゃないのか。それに俺は眷属じゃないからな」

『ククク、今はそれで良いだろう。だが、過去のことを踏まえても色を知っても問題ない年齢であろうよ。そういう体験は早めにしておいた方がいい』

「何だよ。やけに饒舌だな」

『いや、そんなことはない。前も言ったはずだ、本来俺はお喋り好きなんだ。だが、まぁ本題に戻ろう。いつ「白い奴」が目の前に現れるか分からないのだからな。早めに体験しておいて損はないはずだ』

 

 話の後半はともかくとして和希はどうしても流せない部分を聞き返した。

 

「白い奴?」

「あぁ。白い龍、バニシング・ドラゴンだ」

 

 白い龍。そのワードをかつて読んだ本にも出ていたことを思い出す。

 それはアーサー王の原典の一つとされ、イギリスに伝わる古い伝承の中にもその存在にしている。地底に住む侵略民族の象徴となっていた。 

 

『リアス・グレモリーから聞いたかもしれんが神と天使、堕天使、悪魔。これら三者が大昔に戦争したことは知っているな?』

 

 和希が堕天使と接触し、迂闊にも光の矢を刺された後日。話の冒頭でも少しだけ話していたことである。

 和希はそれを肯定し、話の続きを促す。

 

『その時、精霊や妖精、西洋の魔物、東洋の妖怪、そして人間。これらの種族がいずれかの勢力に力を貸している。だが、そんな中でも力を貸さなかったのがドラゴンという種族だ。詳細な理由など今では分からない。だが、どいつもこいつも力の塊で自由気まま。それに加えて我が儘なやつらばかりだ。中にはいずれかの種族に肩入れした奴も居たみたいだが大半は戦争なんぞ知らんぷり。好き勝手して生きていた』

 

 何というトンデモ種族だろうか。和希は正直なところ引きぎみだった。そんな種族とは関わりたくないところではある。だが、残念ながらその身にその関わりたくない種族を宿してしまったのだ。その事実に頭を抱えそうになる。

 それを気にすることなく、ドライグは話を続けていく。

 大戦中に最強クラスのドラゴン二体が喧嘩を始め、三大勢力をぶっ飛ばしながらそれを続けたこと。その後幾重にも切り刻まれ神機に封印されたこと。

 そして――。

 

『封じられた二匹は人間を媒介し、何度も出会い、そして戦ってきた。毎回、一方が勝ち、もう一方が死ぬ。それを長い年月延々と繰り返してきた。まぁ、出会う前に片方が死んで戦わない時もあったがな』

「それが『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の関係か」

『あぁ。今回の宿主はお前さんだった。しかもそれがただの人間じゃなく神殺しを成した者。これは当然ながら初めてのことだ。だから、楽しみにしているのだ。今回はどのようなことになるかな』

「面白いことにはならないと思うぞ。俺はただ皆を守る。その為に全力を尽くすだけだ」

『そこまで欲が少ない者も初めてだ。殆どが俺たちの力に溺れるか、恐れおののくか。どちらにしてもまともな人生を送れたやつはいない』

 

 和希は何となく理解した。特定の異性云々というのは全てここに帰結するのだ。

「大半が白い龍との戦いによって命を落とす」。つまり、その中に、特定の異性を作る前に亡くなった宿主も存在している。ということに他ならない。

 

『元来、俺たちの力は魔王や神を圧倒できる程の力を持っている。今はほど遠い力だが、まぁお前ならどの段階であれ「白い龍」に遅れを取ることはないと思うがな』

「まぁ、あいつらに害を及ぼすならどんな敵であれ容赦なく倒すだけだ」

『本物の神殺しと滅神具。ここまで相性がいいのは今後ないことだろう。これからよろしく頼むぞ、相棒』

「あぁ、よろしく頼む。退屈させないよう頑張るさ」 

 

**************

 

 その日の部活動を終え、家に着いた時。アーシアが足を止めた。彼女の手は和希の制服の袖を掴んでいるが、その手は僅かに震えている。悪魔にしか感じる事が出来ない何かなのか。和希は意識を集中させ、気配を探る。悪魔とも堕天使ともどこか違う気配。その気配は聖に属するもの。つまり、教会か天界、及びそれに関わりがある者が家に居る。

 リアスやアーシアのことがばれたのか。和希は必死に考えを巡らせる。

 その場合、考え得る最悪のシナリオ。それを以前一度目撃している。フリード・セルゼンというキチガイ神父による夫婦の惨殺。そのことが脳裏をよぎる。大丈夫だと思いたい。だが、楽観視出来ない事実があるのも事実だ。

 和希はアーシアを見て一度頷く。和希を先頭にし、アーシアは和希の後ろに隠れるように進む。

 だが、リビングの方に近づくと徐々に談笑している声が聞こえてくる。

 そっとドアを開けてリビングに入る。すると美奈と見知らぬ女性二人が何かを見ながら話していた。

――あの二人は誰だ……?

 

「えっと、母さん?」

「あら、おかえりなさい。どうしたの? そんな怖い顔して」

 

 アーシアは美奈が無事だと言うことも分かり、ペタンと床に座り込んでしまった。

 

「えっと、そちらの二人は一体どちら様?」

 

 だが、和希はまだ気が抜けないでいた。それはツインテールにしている栗毛の女性とメッシュが入り、目つきの悪い女性二人が首から下げている物が関係していた。それは十字架。タイプは違うがフリードが身に着けていた白いマントと同系のローブを身に纏っていることから教会の関係者であることは自明の理だ。

 

「こんにちわ、風峰和希くん」

 

 栗毛の女性が満面の笑みで和希に挨拶する。だが、和希にはその女性に全く見覚えがないため、怪訝な表情を浮かべる。

 

「……はじめまして?」

「あれ? 私のこと覚えてない?」

 

 和希はどう反応していいのか分からないまま、突っ立ていると美奈が一枚の写真を見せる。その写真は祐斗がおかしくなった原因となる写真だった。

 聖剣と共に一緒に写っている和希ともう一人の人物。

 

「この子よ、紫藤(しどう)イリナちゃん。あの時は男の子みたいだったけど、今じゃこんな美人さんになっちゃって、私もビックリしちゃって」

「え?」

「そういうことで、久しぶりだねカズ君。男の子と間違えてたみたいだね。まぁ、確かに勘違いされてもおかしくないくらいヤンチャだったから。でも、お互い見ない間に色々あったみたいだね」

「そうみたいだな」

 

 色々あった。その言葉に一体どれだけの意味が込められていたのか。それは言った本人だけが理解しているだろう。

 そしてそれを和希はその色々の中に後ろで座っているアーシアのことが含まれていることも何となく理解した。

 その後、アーシアを一度部屋に帰し、イリナ達教会サイドともう三〇分ほど談笑した後に帰った。 その後に血相を変えたリアスとアティが帰ってきた。アーシアが無事ということが分かって一安心したようだった。

 

「部活動を終えた後、ソーナに呼ばれていたの。この町に教会関係者が入り込んでいる。しかも『聖剣』を持っているという話をするために。……本当にアーシアも和希も無事でよかったわ」

 

 和希は昨日の夜にドライグが言っていたことを思い出した。グレモリーとその眷属は特別愛情が深い悪魔だと。

 落ち着いた後、話の続きを教えてくれた。

 

「昼間に彼女たちと遭遇したソーナさんの話では、この町を縄張りにしている悪魔――つまり、悪魔としてのリアス・グレモリーさんと交渉したいようです」

「教会の者がリアスさんと?」

 

 敵対関係にあるはずの悪魔と教会がなぜ交渉をする必要性。それか契約なのか、依頼なのか。

 考え始めたらきりが無い。

 

「どういうつもりか分からないけど明日の放課後に彼女たちは旧校舎の部室に来るわ。こちらに対して一切攻撃しないと神に誓ったそうよ。……まぁ、彼女たち、信徒にとって邪悪な存在である悪魔に交渉しに来るくらいだから厄介事であることは確かよ。話ではこの町に訪れた神父が次々と惨殺されているみたい。嫌な予感がするわ」

「神に誓う……ねぇ」

 

 好戦的でどこまでも自己中心的。天上天下唯我独尊を体現したような存在が神であることはこの場に居る和希とアティが良く知っている。

 アティはともかく、和希はとても胡乱げである。アティはそれを察したのか先に釘を刺す。

 

「和希君。私は参加できませんが、喧嘩売るのは駄目ですからね」

「売りませんよ。売られたら買いますけど」

「駄目です!」

 

 和希はその言葉に適当に返事をし、アティの説教が始まるのだった。

 

*************

 

 翌日の放課後。

 リアス含めたグレモリー眷属と協力関係にある和希も部室に集まっている。アティは名義上職員会議という名の集まりにに参加している為不参加である。

 王であるリアスと女王である朱乃。そして教会の二人がソファーに座っている。和希はアーシアと子猫を守るように立っている。

 この場で一番危険なのは祐斗だった。もはや一触即発。何かあれば今すぐにでも斬りかかって行きそうだった。

 話を真っ先に切り出したのは教会側であるイリナだった。

 

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管・管理されていた聖剣エクスカリバ―が奪われました」

 

――約束された勝利の剣が奪われた? そんなことあるかね……。

 和希は呆れを隠せず、思わずため息を吐いた。

 

「和希君、聖剣エクスカリバ―は大昔の大戦で折れたの」

「今はこれがエクスカリバーだ」

 

 髪に緑のメッシュを入れた女性が傍らにおいてある物体に手を伸ばす。そして巻かれた布を取り払う。すると聖に属するオーラが広がる。

 

「大戦で四散したエクスカリバ―。その破片を拾い集め、錬金術によって七本作られた。これはそのうちの一本」

 

 和希はそれを聞いて確信を持った。あれは偽物だと。

 何故なら彼女の剣は、星によって鍛えられた聖剣だ。人々の願いが、祈りが寄り集まって出来たモノだ。それが折れる訳がないのだ。

 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)はあくまで選定の剣。折れたところで不思議ではない。だが、約束された勝利の剣(エクスカリバー)はそうではない。そういう簡単に折れる物、折れて良い物ではないのだ。

 二人の記憶を垣間見ている和希はそれをここにいる誰よりも理解している。

 和希の知識と彼女たちとの聖剣に対する知識の違いが発生しているのはなぜか。原因は和希にある。この世界に転生する際に垣間見た二人の記憶。それは本来余人が決して知ることがない事実であり、現実だ。

 つまり根本的な問題として和希とこの場にいないアティの二人とそれ以外の人ではエクスカリバーという聖剣に対する知識に圧倒的な差が存在しているのである。

 

 

「私の持っているエクスカリバーは、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。七つに分かれた聖剣の一つ。今はカトリックが保管している」

 

 そういって再び布で覆う。一方、イリナの方も紐のような物を取り出す。その紐はまるで意思を持っているかのように動き出す。そして、紐は形を変えて一本の日本刀になる。だが、その刀からも破壊の聖剣と同じオーラが出ている。

 

「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。形を自由自在に変える事が出来るの。こんな風に形を自由自在に変えられるから持ち運びが楽なんだ。エクスカリバーはそれぞれ特殊能力を持っているの。あ、これはプロテスタント側が管理してるわ」

 

 破壊の聖剣の保持者がべらべらとエクスカリバ―の情報を話すイリナにストップをかける。

 

「イリナ……。わざわざエクスカリバーの能力を話す必要はないだろう?」

「あら、ゼノヴィア。信頼関係を築く上では情報の開示は必要よ。それに能力を知られたところでここにいる全員に勝てるもの」

 

 ここにいる誰よりも私たちは強い。そう言っているのだ。

 和希のこめかみに筋が浮かんでいる。今にも切れそうだ。

 だが、それ以上に切れそうなのはリアス・グレモリーの「騎士」である木場祐斗。エクスカリバーに恨みを持っている彼は今までにない表情でイリナとゼノヴィアを睨んでいる。

 

「カトリック教会本部に残っているのは私のを含めて二本。プロテスタントのものも二本だ。正教会も同様だ。残り一本は三つ巴の戦争時に行方不明。各陣営にあるエクスカリバーが一本ずつ奪われた。そして奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだってわけさ」

「この町は出来事が豊富ね。エクスカリバーを奪った犯人に目星は付いているのかしら?」

「あぁ、奪ったのは『神を見張る子(グリゴリ)神を見張る子』。もちろん連中も把握している。グリゴリの幹部、コカビエルだ。それに先日からこの町にエクソシストを派遣していたんだが、全員始末されている」

 

 コカビエル。聖書にも出てくる大物だ。まさかそれにも記されている存在がこんなところまで出張ってくるとは思わなかった。しかも、大戦を生き残るほどの強者。それが出張ってくるのはあまりにも予想外だった。

 だからこそ、というべきか和希は一つ引っかかりを覚えた。異形のモノと対峙したときに起こる気分の高揚感。それほどの大物がこの町に、近くに居るというのなら絶好調と言ってもいいほどだ。だが、それがない。

 つまり町の外に居るのか、それとも気配を隠し、どこかに隠れているのか。ということになる。前者はともかく後者はありえない。仮に気配を隠し、人間に擬態したところで独特の気配までは隠せない。レベルは全く違うが先日のレイナーレやそこにいた堕天使、魔王の女王であるグレイフィアでも違わず気配を察していたのだ。

 先にこっちから仕掛けてコカビエルを倒すにしても、準備が必要だろう。黄金の剣が使えなくとも戦うために前準備はした方がいい。

 和希がそんなことを考えている内に話が進み解決したのかイリナとゼノヴィアが立ち上がり、退室するところだった。が、和希を通り過ぎてアーシアの前で止まる。

 

「風峰和希の家で会った時にまさかとは思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」

 

 魔女。その言葉に反応したのかアーシアが体を震わせる。そして、その言葉は彼女自身にとっても辛いモノだった。

 ゼノヴィアの後ろにいたイリナもそれに気付き頭のてっぺんからつま先までまじまじと見る。

 

「あなたが一時期噂になっていた元『聖女』さん? 人だけでなく、悪魔や堕天使ですら癒やせる能力を持っていたのよね? 流されたのは知っていたけどまさか悪魔になっているとは思わなかったわ」

 

 対応に困っているのかアーシアはオロオロしている。

 イリナは上にここで見たことは言わないという。何故なら元であるとはいえ『聖女』の周囲にいた人に今の状況を話したらショックを受けるからだという。

 その言葉にアーシアはひどく複雑な表情を浮かべる。

 

「しかし、悪魔か。堕ちるところまで堕ちたようだな。まだ、我らの神を信じているのか?」

「悪魔になった彼女が信仰しているわけないでしょう?」

「いや、私はそういうのに敏感なんだ。背信行為をする輩でも罪の意識を感じながらも信仰心を忘れる事が出来ない者がいる。彼女からはそれと同じものを感じる」

「ずっと信じてきたのですからから……。捨てきれないだけです」

「そうか、それならばすぐに斬られるといい。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも我らの神なら手を差しのばしてくれるはずだ」

「待てよ」

 

 ゼノヴィアの行動にストップをかけたのは当然和希だ。

 

「アーシアのことを『魔女』と言ったな?」

「あぁ。彼女はそう言われるだけの存在ではあると思うが?」

 

 和希は知っている。悪魔になる以前のアーシアを。優しさと慈愛にあふれ、他の誰よりも純粋でどんなに辛いことがあっても決して折れない後ろの女の子(アーシア)を。だからこそ、許せなかった。

 

「自分たちが勝手に『聖女』に持ち上げたくせして、少しでも求めるモノと違ったら見捨てるとは神も、教会も随分と勝手なことをするんだな。 どうして、彼女の苦しみを、悩みを理解しようとしなかった!」

「神は愛してくれていた。それで何も起きなかったとすれば彼女の信仰が足りなかったか、其れが偽りだったということだ。それに聖女に友情や愛情を求めたら終わりだ。神からの愛があれば生きていけたはずだ。彼女には最初から『聖女』の資格が無かったというわけだ」

 

 

 ゼノヴィアの答えを聞き届けた和希。こうもハッキリと言い切られると清々しささえ感じた。

  もう聞いていられない、見ていられない。昨日散々アティから釘を刺されたがもう限界だった。アーシアの泣き出しそうな顔を、バラバラにされそうなその心を、これ以上黙って見ているなんてことは出来なかった。

 だから嗤う。無様だと言うように、見下すように嗤う。

 

 

「カズ君?」

 

 初めて見る幼馴染みの笑い方に戸惑いを隠せないイリナと気分が悪そうに表情を歪めるゼノヴィア。

 

 

「お前らにとって神がどれだけ偉大かは知らないし興味もない。でもアーシアに手を差し伸べない神なんだ。その神とやらは教徒を含め、人間のことを虫けら程度にしか思ってないだろうよ」

 

 和希が戦ったのは二柱のみだが、どちらも人間のことなどお構いなし。強敵と雌雄を決することだけを目的としていたのだ。

 ここではない、所謂正史世界では和希と同一に立つ少年は何柱もの神と戦い、同じ結論に至っているのだ。それがどのような神であろうと結果的には一緒なのであろう。

 だが、ゼノヴィアからすると敬愛する神を侮辱されたも同然。ましてや悪魔と同棲しているような男にそんなことを言われて黙っていることなど不可能だった。

 イリナが相方の様子に気付いたのか静止の声をかけようとするがそれよりも早くゼノヴィアが動き、破壊の聖剣を和希へと振り下ろす。

 が、それもすぐに止められる。他の誰でもない和希の右手によって。

 

「なっ!?」

 

 驚愕したのは振り下ろした本人だけではない。イリナやリアスこの場にいる全員がそうだった。

 ゼノヴィアは藻掻くが全く動かない。

 

 

こんなもん室内で振り回すなよ、危ないだろ」

 

 和希は乱暴に掴んでいたそれを放す。その後、ずっと黙っていた後方の爆弾が爆発した。

 

「じゃあ、僕が相手になろう」

「キミは?」

「君たちの先輩だよ、失敗だったそうだけどね」

 

 不敵な表情、殺気を乗せた言葉と共に大量の魔剣が二人へと突きつけられた。




 今回はこんな感じで仕上がりました。
 次回は喧嘩混じりの回になるか、オンリーのどっちかになると思います。
 またなるべき早く更新できるよう頑張るので今後も応援よろしくお願いします。


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13.対決・協力

皆さまお久しぶりです。
プロデューサやらトレーナーやら人類最後のマスターやらをしていたり、モチベーションがなかったりVtuberの配信や切り抜きを見ていて失踪気味ですが、書きたいシーンやこうしてみたいなどのシーンは考えながら仕事して生きています。時間はかかると思いますがこの拙作にしばらくお付き合いください。
 それでは続きです。


 部室であれこれが終わった後、リアス達グレモリー眷属と一種の協力関係にある和希。そして教会から派遣された二人が場所を移す。

 そこは先日行われた球技大会に備え、オカルト研究部が練習場所として使っていた場所だ。

 全員を囲むように紅い結界が張られている。和希とイリナ。少し離れた所に祐斗とゼノヴィアが立っている。そして見守るように他の面々が立っている。教会の二人は白いローブを外し、体のラインがはっきり出た黒い戦闘服になっている。手には得物が握られている。

――どうしたもんかな……。勢いで口出した俺も悪いけどさ。

 時間が経つにつれて冷静になり、どうするか悩む。彼が持つ神殺しとしての力は当然人間相手に使えるモノではない。ということは必然的に『赤龍帝の籠手』と魔術で解決するしかないのである。

 こうなった事の発端は和希のせいでもあるが、その後に祐斗が売った喧嘩をゼノヴィアが買ったからだ。

 

「グレモリーの眷属、先輩とやらの力を試してみるのも面白い。それにそこの男も叩き斬ってやりたいからな」

 

 ということだ。最もあくまでも私的なものとなるため、お互い上には報告しないということで落ち着いた。結果的に旧校舎の近くにある球技の練習場で行うことになったのである。

 そして現在、周りのことを踏まえた結果、朱乃が結界を張ることにはなった。

 リアスは二人に聞こえないように気を遣いながら和希に無茶は避けるように頼んだ後、どちらかが戦闘不能になったら終了ということで同意を得る。

 離れたところで祐斗は既に魔剣を出現させ、いつでも戦えるという様子だった。

 祐斗は不気味な笑みを浮かべている。薄ら寒ささえ覚える。それほどに聖剣が憎いのだろう。

 

「ようやくだ。倒したくて、壊したくて仕方のないモノが目の前にある。まさか、こんなに早く巡り会えるとは思わなかったよ」

「……『魔剣創造』か。神器所有者は頭の中で思い描いた魔剣を作り出す事が出来る。魔剣系神器の中でも特異なもの。……『聖剣計画』の被験者で処分を免れた者がいるかもしれないと聞いたことがある。……キミのことかな?」

 

 ゼノヴィアの問いに答えることなく、代わりに殺気を返す。この私闘はあくまで試合であり、死闘――殺し合いではないのである。

――あいつ、勢い余って殺すなんてことないよな?

 考え得る最悪のシナリオに思わず頭を抱える和希。

 それを見ているイリナが心配そうに声をかける。

 

「えっと……カズ君?」

「あぁ、いや。何でもないんだ。というかこれ、戦わなきゃ駄目か?」 

 今までの自分の行動を全て棚に上げて和希からの提案。今ここで終わるならそれに越したことはないのだ。だが、そうは問屋が卸さなかった。

 

「そうしてあげたいのは山々なんだけどさっきの発言は私もちょっと見逃せないかな。だから大人しく斬られてね!」

 

 イリナは持っている得物を上段から叩きつけるように振り下ろす。和希は咄嗟に籠手を出現させ、それで攻撃を受け止める。

 

「悪いが大人しく斬られるつもりはないんだ。抵抗させてもらう」

 

 太刀筋に粗が目立つが、それなりに戦闘経験を積んでいると理解した和希は彼女の聖剣を籠手で流しつつ、イリナの胴体に蹴りを入れる。

 それを回避するため彼女はバックステップで一度距離を取る。イリナとしては受け止めたところで弾かれると踏んでいた為、和希の技術に驚かされた。

 

「カズくん、もしかして結構戦いなれてる?」

「さて。それは想像にお任せする」

 

 イリナの問いに対し、誤魔化すような返事をする。和希は右手に愛剣を投影し、あくまでも自然体で構える。

 

「なるべく早く終わらせたいからな。今度はこちらから行かせてもらう」

 

 和希は大きく踏み込み左上へと振り上げる。あくまでも正面からの攻撃。最も本気の攻撃であればこの一太刀で終わっていただろう。だが、これはあくまでも人同士の戦い。だが、それでも身体能力が常人よりずばぬけて高いのは変わらない。

 彼女は想定外の速さに虚を突かれ、反応が遅れる。ただ、それでも彼女は教会の戦士の一人。僅かに遅れながらも迎え撃つように聖剣を振り下ろす。通常ならイリナの方がいくらか有利である。

 だが、それすら覆すのがこの男だ。力任せに振り抜く。そのまま腕力に物を言わせ振り下ろし、首元で止める。

 

「終了。この状況でもまだ続ける?」

「これは私の負けだね、降参」

 

愛剣を消し、もう二人の勝負の行方を見守る。ただ、決着がつくのにあまり時間はかからなかった。祐斗の敗北という形で片がついたのである。

 結果的には一勝一敗。今回だけは痛み分けとしてこれ以上のことはしないとゼノヴィアが引き下がった。そして、彼女らは去り際に聞き流せないことを告げて去って行く。

 

 

「白い龍は既に目覚めているぞ」

 

 ドライグとの会話で時々話題になり、赤き龍と対になる存在。

 彼女たちの情報を鵜呑みにするのであれば、それが目覚めているということは顔を合わせる時はそう遠くない未来の話なのかもしれない。

 

*************

 

 教会組とのあれこれが終わった後、研究部一同は部室に戻ってきていた。そして部室の中にはアティが青筋を立て椅子に座っている。アティは和希に座るように指示を出し、向かい合う。

 

「和希くん? あれほど喧嘩を売っては駄目だと昨日言いましたよね。見て無くても分かります。朱乃さんの魔力を感じ取ったので。それで、なんで争い事に発展しているんですか?」

「…………」

 

 和希はアティの質問にはそっぽを向き、答えない。

 初めて見る二人の状況にアーシアはオロオロしているが、事態は一向に進展しない。そんな中、もう一方のほう。リアスと祐斗の二人の会話に進展があったのか、リアスが声を荒げ、祐斗に制止を訴える。

 

「待ちなさい! 私の元を離れるなんて許さないわ。あなたはグレモリー眷属の『騎士』なのよ。『はぐれ』になってもらっては困るの。ここに留まりなさい」

「……僕は、同士達のおかげであそこから逃げ出せた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ」

 

 そう言い残して祐斗は部室から出て行く。

 自分たちのことを棚に上げてそれを見ていた和希たち。だが、祐斗が部室から出て行くとアティは一度咳払いをしてもう一度和希に問い詰める。

 

「もう一度聞きます。どうして、彼女たちと争うようなことになったんですか? 貴方が意味も無くそんなことしないのは理解しています。だからこそ、その理由を聞いているんです」

 

 和希はジッと見据えてくるアティの視線に耐えられなくなったのか、今は落ち着いているアーシアの方をちらっと見てから息を深くはいて言葉をこぼす。

 

「今にも泣き出しそうなアーシアを見てられなかった。ただそれだけ」

 

 子供みたいな理由だから言いたくなかったんだよ。と小さく呟いて和希も部室から出て行く。その後、アーシアがアティに争いに至った経緯を話す。

 イリナ達がアーシアの事を魔女と言った事から始まり、ゼノヴィアが断罪の名目で殺そうとしたときに自分を庇い、和希が割って入り、怒鳴りって口論したこと。そして、そこに祐斗が新たに加わり、争いにまで発展したこと。

 

「そうだったんですね。だから見てられなかった、そういうことだったんですね。相変わらず、言葉が足りないというか、なんというか……」

「でも、それがカズキさんなんです」 

 

 アーシアはこの場に居る中で二番目に一緒に居る時間が長い。だから分かっている。つい先日も見たのだから。外套を身に纏った少年(ウルスラグナ)の姿を。(和希)が怒るのはいつだって誰かの為。その誰かが今回は自分(アーシア)だったことも。アーシアが分かっているのだから当然アティもそれが分からない訳じゃない。彼が怒るのはその人とその人にとって大切なモノが摘み取られてしまいそうな時。先日のリアスの夢、今回のアーシアがずっと信じていたモノのため。

 誰よりも平静を望みながらも何か諍いがあれば自分から真っ先に飛び込んでいく。そんな困った少年にちょっとした想いを馳せてほんの少し苦笑を浮かべるのであった。

 

 そんなあれこれがあった後の夜。和希はリアス達に内緒でとあることをしようと思い、アティに相談を持ちかけた。

 

「珍しいですね、こんな時間にどうかしたんですか?」

「教会側の言っている聖剣の破壊をあの二人と協力しようと思うんだけど、どう思う?」

「理由から聞いてもよろしいでしょうか。アーシアちゃんのことがあるのに何故でしょうか」

「それは順番が違うんだ。本当はあの聖剣を見たその瞬間にでも壊したかった。あの聖剣(エクスカリバー)は、あれだけはそんな簡単に作り出したり、振るったりていい剣じゃない。彼女の剣は、本物の聖剣(エクスカリバー)は人々が『こうであって欲しい』という願いから生まれた掛け替えのないモノのはずなんだ。あんな簡単なモノじゃないはずなんだ」

 

 王となった少女(セイバー)と守護者となった少年(衛宮士郎)の過去を垣間見た和希だからこそ、そう思ったのだ。そんな二人に繋げた物を騙ることがとてつもなく嫌だった。

 

「……分かりました、リアスさんには黙っておきましょう。表立って協力は難しいと思いますが、私も協力させていただきます」

「……ありがとう。早速、明日接触を図ってみるよ」

 

 

*************

 

 そんなこんなで翌日、和希は一人で町へと繰り出していた。とは言ってもどこにいるという当てもない。最初は付近にある教会を探していたが、手がかりも掴めない為、とりあえず人通りが多い場所へとやってきたのだ。

 逆に人通りが多くて見つけることを諦めかけたが案外簡単に見つかった。何故なら先日と全く同じローブに身を包み、金銭を恵んでもらおうとしていれる少女二人組の姿がそこにはあった。

 

「迷える子羊にお恵みを~」

「どうか、天に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉ!」

 

 本人たちとしてはいたって真面目なのだろうが、和希本人からすればそんな姿は想像できなかったし、そんな姿見たくもなかった。何なら今、この場を見なかったことにしてどこかに去ろうとも思いもした。だが……。

 

「なんてことだ。これが超先進国であり、経済大国日本の実態か。これだから信仰心の匂いがしない国は嫌なんだ」

「路銀の尽きた私たちはこうやって慈悲をもらわなきゃ食事も取れないのよ」

「ふん、もとはと言えばお前がその詐欺まがいなその変な絵画を購入するからだろう」

 

 

そんな感じで言い合いがヒートアップしていく。先日ゼノヴィアとは敵対したいえ、流石に幼馴染のイリナのこんな残念な姿をこれ以上、世間に晒したくはなかった為、意を決して声をかけて、とりあえず近くにあるファミレスに入ることにした。

ある程度、予算があるから好きな量を頼んでいいとは言った和希にも非はある。だが、そうは言ってもだ。机がいっぱいになるほど頼むだろうか。

――いや、少しは遠慮ってモンを知らないのか。この二人は……。

 

「うまい! これはうまいぞ!」

「これよ! これが故郷の味よ!」

 

――せめて、親の料理を故郷にしてやれ。ファミレスの味を故郷にするなよ。

 

 飯にがっつけるだけがっついて落ち着いたのか、一息ついてフォークとスプーンを置いた為、これでようやく本題に入る。

 

「単刀直入に言う。聖剣の破壊に協力したい」

 

 和希とゼノヴィアが無言で見合い、沈黙の時間が続く。この三人がいる席が角でよかった。この席だけ異様な空気が漂う。

 

「一本くらいならいいだろう。君は秘密裏で悪魔と協力関係にあるだけで悪魔そのものというわけではない。上に君の協力がバレてもそこまでうるさく言われることはないだろう」

 

 アーシアとのあれこれがあったとはいえ、こんな簡単に許可下りるとは思わなかった為、あっけに取られてしまう。イリナにとってもそれは予想外のリアクションだったのだろう。慌ててゼノヴィアに聞き返す。

 

「ちょっと! 本当にいいの、ゼノヴィア?」

「正直言って私たちだけでは聖剣三本の回収とコカビエルの戦闘は辛い」

「それは分かっているけど!」

「最低でもエクスカリバー3本を破壊。私たちの聖剣が奪われそうなその時は壊せばいい。奥の手を使ったとしても3割あれば良い。最悪の場合全滅もあり得る」

「それでも、それは低くない確率として覚悟して来たはずでしょう」

「そうでな。低くはない。でも高い確率というわけでもない。上層の方からは任務遂行してこいと送り出された。まさに自己犠牲だ」

「それがどうしたのよ、それこそ私たち信徒の本懐じゃない」

「気が変わったのさ。私の信仰は柔軟なものでね」

 

 

自己犠牲と言えば多少は聞こえだけはいいだろう。だが、それを平たく言うのであれば『最悪、死んでしまうのはやむなし。聖剣だけでも破壊してこい』ということだろう。

そしてそれを本懐と言えてしまう教えはどうなのだろう。信徒としてはイリナの言う通り、まさしく正しいのだろう。だが、それは『人』としての在り方としてはとても歪んだものだ。和希の他人本位なところも歪んでいるのだが、『主の意向』として命さえ惜しくないと思えるのも大概だ。だが、この様子だとゼノヴィアは違うようだ。事実、カトリックとプロテスタントでは違いが存在している。この二人は行動を共にしているようだが、所属している派閥がおそらく違うのだろう。

 

「別に悪魔側の力を借りようと言っているわけではない。ただ、ドラゴンの力を借りる。ただそれだけの話だ。上も別に他所から力を借りることを禁じているわけでもないだろう。こんな極東で赤龍帝に出会えたのは予想外だった。主をけなされたことは今でも許せない。昨日は頭に血が上ってしまい、冷静ではなかったが、かなり実力者であることは見れば分かる。それこそ、私とイリナが二人で戦ったところで相手になどなるものか。そんな人間から申し出ているのだ。ここは素直に協力してもらう方がいいだろう。しかも君の古い顔馴染みときている。これも主の導きに違いない」

「じゃあ、この協力関係は成立ってことで」

「あぁ、よろしく頼む。今代の赤龍帝」

 

 ここで一つ話がひと段落したところで情報交換を切り出す。それは祐斗の生い立ちにかかわっている『聖剣計画』のことである。

 どうやらその計画自体は教会側としても最大級に嫌悪される一件。その主謀者は現在、堕天使側と繋がりを持っているようで今ではそちら側の住人らしい。その主謀者の名は『バルパー・ガリレイ』。内部では皆殺しの大司教と呼ばれていたようだ。堕天使を追いかければそこにたどり着くことも分かった。和希はつい先日、アーシアとの一件で遭遇したイカレ神父フリード・ヒルゼンが堕天使と繋がりがあること、現在は不明だが先日までこの町の教会根城にしていたであろうことを教えた。

 この場はこの辺でお開きにし、何かあった時の連絡先を教えようとしたらイリナがストップをかけ、先日家に来た時に美奈から教えてもらったことを告げる。

――いくら知人とはいえ、俺の個人情報ガバガバすぎねぇか!?

 

「今回は助かったぞ、赤龍帝の風峰和希。このお礼はいつか」

「ありがとうね、カズ君。この恩は絶対に忘れないわ」

 

 そんな胸中の和希のことなど、気に取ることもせずゼノヴィアとイリナは席を立ち、そう言って去っていく。

 和希はそれを見送ったあと携帯を取り出し、協力者であるアティに連絡を取る。

 

「とりあえず、OKは貰えた。後、木場のことなんだけど……」

 

 和希はゼノヴィアに教えてもらったことを含めて現状を全て報告する。

 

『それなら、この件には木場君にも入ってもらいましょう。今回のことはあまりにも彼に因縁がありすぎです。聖剣保持者からの破壊承諾に対して思うところはあると思います。ですが、彼が前に進むためには避けて通れない道です。リアスさんたちには私から伝えときます。ですから、木場君のことはよろしくお願いしますよ。』

「分かった、木場のことは任せておけ。今回も誰一人欠けさせはしない」

 

 和希は電話を切った後、祐斗に今回の詳細を伝える。本人からは言葉少なく、一言『分かったよ』とだけ返ってきた。

 この聖剣破壊計画は王と少年(あの二人)のためだけではない。今を生きる木場祐斗という人間の過去。そして

未来(これから)に関わる重要なことであることは間違いないものなのだ。

 




また続きが完成するのに時間はかかると思いますが今後ともよろしくお願いいたします。


それはそれとしてサイレンススズカって良いですよね。

それではまた。


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14.大戦の続きを望む堕天使

 またしてもほぼ一年ぶりの投稿。新しい職ではもうちょっとプライベートの時間を確保できるはず……。部分ごとに時間が空いてるから文章的にも怪しいところが結構多いかもしてないですがよろしくお願いします……。
 流れがおかしいなど指摘点が多い不定期投稿作品だとは我ながら思いますがその点も今後もよろしくお願いします。
 
 それではどうぞ。


 共同戦線を築いてから数日が経過していた。そんな何の進歩もないように進んでいたある日の深夜。和希はとてつもないプレッシャーを感じて飛び起き、外に飛び出る。

 リアスやアティ、アーシアもそれを感じ取ったようで後から外に出てくる。そして家を出た先にいたのは行方が分からないでいたフリード・ヒルゼンその人だった。

 

「やぁ~。久しぶりだね、アーシアたん。あと君もね、カズキ君。もしかしてヤッてる途中だった? ごめんね。空気読めないのが僕ちんのウリなのよ」

 

――ひっぱたいてやろうか、こいつ……。

 

 そんなことを思った瞬間、和希は何かに弾かれたかのように上を見上げる。すると空には十枚に及ぶほどの漆黒の翼を生やした男が月を背にしながらそこにいる。

 黒いローブを身に纏った男。もとい、堕天使は和希より後ろにいる女性、リアスに視線を向ける。そして苦笑を浮かべてから言葉を投げかける。

 

「初めまして。というべきかな? グレモリーの姫君よ。その紅髪は相変わらず麗しいものだな。あの忌々しい兄君を思い出して反吐が出そうなほどだ」

「ごきげんよう、堕ちた天使の幹部――コカビエル。私の名はリアス・グレモリー。以後お見知りおきを。一つだけ付け加えるとするならこの場で政治的なやり取りを望んでも無駄よ」

 

 コカビエル。旧約聖書偽典『エノク書』に現れる天使の一人。後に堕天使となりグリゴリと呼ばれる一団に所属する。堕天使のリストでは四番目に挙げられる程の大物である。

 

「ふん、そんなことに興味はない。こいつは土産だ」

 

 コカビエルが脇に抱えていたものを投げ捨てる。和希はそれを抱きとめる。コカビエルが投げ捨てたそれは傷だらけになっているイリナだった。

 和希が上を見てから一言も発せずにいたのはそれに気づいていたから。

 

「俺たちの根城に来たのでな、それなりの歓迎をした。後、二匹は逃がしたがな」

 

 どうやらその場にはゼノヴィアと祐斗もいたようだが、この様子だとおそらく無事だろう。和希はアーシアにイリナの回復を頼み、共に容態を見ている。が、内心は激情で荒れ狂っている。そんなことなどいざ知らず、コカビエルは喋りだす。

 

「魔王との交渉などまどろっこしいことなどしない。まぁ、妹を犯し、殺せばサーゼクスの激情が俺に向くかもしれない。まぁ、それも悪くはない。だが、それでは物足りない。お前が根城にしている駒王学園を中心に暴れさせてもらう。そうすれば、サーゼクスも出てくるだろう?」

「そんなことをすれば再び三竦みの戦争が始まるわよ?」

「それは願ったり叶ったりだ。エクスカリバーでも盗めばミカエルのやつが戦争をしかけてくると思ったんだが、寄こしたのは雑魚のエクソシスト共と聖剣使いが二人。これではあまりにもつまらん! だから、悪魔であるサーゼクス妹の根城で暴れるんだよ」

 

 今すぐにでもコカビエルをぶっ飛ばしてやりたい思いで溢れ返していた。だが、家の前、しかもこんな町中で戦闘を開始するわけにもいかない。

 ひとまず、コカビエルに関することは一度棚上げしてイリナのことに専念することにした。イリナの呼吸が軽くなったのを確認し、抱え上げて二階の空き部屋に行く。アーシアには押入れから布団を出して敷いてもらう。

 彼女を布団に寝かせたところで気配が弱まったのを感じた。間もなくしてリアスとアティが部屋に入ってくる。

 リアスは今から子猫や朱乃を連れて駒王学園に出向くようだ。そこで和希はアティに着いて行ってもらうことにした。

 和希はもう少しイリナが良くなるまで傍にいてあげたかった。アーシアのことがあったとは言え、和希にとってイリナは幼少期の数少ない友人の一人。今すぐにでも仕返しにコカビエルをぶっ飛ばしてやりたい気持ちはある。だが、とてもじゃないが、彼女のことを放ってまで決着をつけに行く気にはなれなかった。

 全体的にひと段落着いた後にアーシアはリアスを追いかけて駒王学園に向かう。和希は動かず、ずっとイリナの傍で座っている。

 どれ程の時間が経ったのだろうか。数分か、数十分か、数時間か。傍から弱々しいが、しっかりと名前を呼ばれる。

 

「カズ……くん?」

「あぁ……よかった。気が付いて。体、調子の方はどうだ?」

「怪我を治してくれたのはアーシアさん?」

「そうだ。さっきまで一緒にいたからな」

「そっか。会えたらお礼言わなくちゃ。彼女のおかげで体力的には少しだけしんどいけど怪我の方は大丈夫そう」

 イリナはゆっくりと体を起こしながら和希と向かい合う。

 

「ずっと傍にいてくれたの?」

「まぁ、会ってない時間があるとはいえ、小さい頃からの付き合いだからな」

 

 和希は頬を掻きながらそう答えると何とも言えない、もどかしい雰囲気が部屋の中を支配する。そしてそれを誤魔化すように口を開く。

 

「ほら、横になってな。これから忙しくなると思うから」

 

 イリナは言われた通り、体を倒し、目を閉じる。それと同時に和希が立ち上がり部屋から出ていく。扉が閉まりきる直前に小さく呟く。

 

「いってらっしゃい」

「あぁ、いってくる」

 

 まさか、返事が返ってくるとは思ってなかったのもあるが、普段と違う和希の声音に少しドキッとしたイリナだった。

 

*******************************

 

 

 急いで向かった駒王学園には結界を張っている生徒会メンバーとその中で戦っているアティを含めたオカルト研究部の面々とゼノヴィアがケルべロス相手に大立ち回りしている。少し離れた所に宙に浮いている幾何学模様とコカビエルがいる。

 結界に近づくとソーナが和希に気付き、大声を上げる。

 

「風峰くん! カウント3で、一瞬結界解除します。それと同時に行ってください。リアスたちをお願いします! 」

「任されました」

 

 宣言通り、3秒後に結界は一度解除され、和希は走って彼女たちの元へ向かう。すると、捌ききれてない一頭のケルベロスがアーシアの方へ向かうのを目視して、体に強化の魔術を掛け、距離を縮める。

 

「カズキさん!」

「待たせた。……我は最強にして、全ての勝利を掴む者なり。全ての敵と全ての敵意を挫く者なり。故に我は、立ちふさがる全ての敵を打ち破らん」

 

 和希は雄牛の化身を使い、向かってくるケルベロスを受け止める。そして赤龍帝の籠手を纏い、殴り飛ばす。リアスたちが相手をしているケルベロスを目掛けて。

 殴り飛ばされたケルベロスとぶつかったケルベロスは何とも情けない声を上げながら飛んでいく。

 リアスたちは予想外のことに呆気に取られるもこんな事が出来る唯一の人物に思い当たる。

 その人物の名前を呼ぼうとした瞬間、宙の幾何学模様が光りだす。その光が柱となり地面へと降り注ぎ、グラウンド全体へと広がっていく。すると近くにいた人物が声をあげる。

 

「完成した! ついに四本の聖剣が一つに!」

 

 徐々に光が収まっていく。その中心には一本の剣が鎮座している。

 

「フリード! 最後の余興だ。陣のエクスカリバーを使え。その聖剣の力を見せてみろ」

「はいはーい。全く、バルパーのおっさんは人使いが荒くて困っちゃう。素敵仕様になったエクスカリバーでここにいる悪魔ちゃんたちを首チョンパしちゃいましょうかね!」

 

 イカれた笑みを浮かべながら剣を握るフリードに真っ先に近づいていくのは木場祐斗だった。この場にいる誰よりも聖剣という存在に人生を狂わされ、強い恨みを抱いている人物。そんな彼の隣を聖剣の保持者であるゼノヴィアが歩く。

 

「グレモリーの『騎士』。共同戦線は今も生きているのであれば、共にあの聖剣を破壊しよう」

「いいのかい?」

 

 ゼノヴィアからの思わぬ提案に祐斗も驚愕する。一方、ゼノヴィアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「あぁ。最悪、エクスカリバーの『核』さえ回収出来れば構わない。それにあのフリードが使っている時点であれはもう『聖剣』であってそうではない。あれはもう、――ただの異形の剣だ」

 

 そんな会話をバルパーは声を出さずに笑っていた。祐斗は憎悪の籠った瞳をバルパーへと向ける。バルパーはそんな視線など全く意にしていないのか。一人でに語りだす。

 

「私はな、『聖剣』が好きなのだよ。それこそ夢に見るまでに。幼少時代、エクスカリバーの伝記に心躍らせたものだよ。だからこそ、自分に聖剣使いとしての適正がないと知った時は絶望したものだ。だからこそ使える者により強く憧れを抱いた。そして、聖剣を使える者を人工的に作り出す研究に没頭したのだよ。そして完成した」

 

 バルパーは語る。研究の内容を、そして至った結論を。

 聖剣を使うために必要な因子。それを数値で適正を調べた。被験者は全員が必要な数値に至っていなかったという。だからこそ、持っている者から因子だけを抜き取って結晶化する。それを取り込むことで適正ラインまで数値をたたき上げる。

話しながらバルパーは懐から結晶を取り出し、それを祐斗の方へ放り投げる。祐斗が、その友人たちが処分という名目で殺されたのは全てそれの為。

 

「もう実験は、設備さえ整えば量産できる段階まで来ている。まずはコカビエルと共にこの町から。世界中の聖剣を集め、量産された聖剣使いで、ミカエルとヴァチカンに戦争をしかけてくれる。私を断罪した愚か者共に私の研究成果を見せつけてやるのだ」

 

 もう結晶に興味はないのか一瞥もしない。放り投げられた結晶は勢いを失いながらよろよろと祐斗の足元へと転がっていく。

 祐斗はそっと屈み、割れ物を扱うかのように優しく持ち上げる。やるせなさや親愛。様々な感情が混ざりあい、複雑で切なげな表情をしている。

 

「皆……」

 

 今にも消え入りそうな声で呟く彼の頬には一筋の涙が伝う。一滴の涙が結晶に落ちる。すると結晶が淡く輝き、それが校庭全体へと広がっていく。広がった光は集まりだし、徐々に人を模っていき、数人の少年たちが祐斗を囲むように立っている。

 

「あれは……」

「おそらくバルパーの実験で犠牲になった子供たちだと思います。色々な理由はあると思いますが、一番大きな要因はきっと木場君の心の震えがあの結晶に眠っていた魂を解放したのではないでしょうか」

 

 いつの間にか和希の隣に立っていたアティがそう話す。

 この戦いの様々な要因が重なり合い、今のような奇跡が起きているのだろう。

 

「僕は……、ずっと思っていたんだ。僕だけが生きていて本当に良かったのかって。僕よりも夢を持った子がいた。生きたいと思った子がいた。それなのに僕だけが今もこんな平和な時間を過ごして許されるのかって」

 

 祐斗の口から零れるのはずっと口に出せず、奥底で眠っていた想い。それに答えるように歌う。生前に歌っていた歌を。それはつい、先日まで教会に属していたアーシアや今もなお属しているゼノヴィア、和希の家で眠っているイリナにとって馴染みのある『聖歌』。

 

『皆がいれば大丈夫』

『例え、神がいなくても』

『見ていなくても』

『僕たちの心はどんな時だって』

「……ひとつだ」

 

 少年たちは徐々に光へと戻り天へと昇っていく。昇った光は集まり、より大きくなって祐斗に降り注ぐ。それと同時に赤龍帝の籠手に宿るドライグが囁く。

 

『相棒。あの『騎士』は至ったぞ。神器は所有者の想いを糧に変化や進化していくモノだ。だが、その中でも全く別の領域がある。所有者の想いや願い。そういったものがこの世に漂う『流れ』に対して逆らえるほど劇的な転じ方をした時に神器はその領域に辿り着く。それこそが……』

 

 ドライグは楽しそうにその先を呟いた。

 

禁手(バランス・ブレイカー)だ』

 

 祐斗を優しく照らしている光はまさしく、『天からの祝福』と言えるものだった。

 

「バルパー・ガリレイ。あなたを殺さない限り、第二、第三の僕たちのような存在を生み出す」

「ふん、昔から言うだろう。実験には犠牲が付き物だと。この世界の発展は全てそれらの上に成り立っているのだ」

 

 この老人が言っていることは何も間違いはない。バルパーのように人体実験をしているわけではないが、科学者は実験の際に何十、何百というマウスを実験体にしている。何も非人道的なことを含まなければそれは確かに正しいことではあるのだ。

 だが、それが正しいからと言って納得出来るかと言われたらそれは否である。理解できることと納得することは全く別のことだ。

 

「木場、お前が今までしてきたことはきっと無駄じゃない。だから今ここで、亡くなった彼らと共に過去の因縁にケリをつけろ!」

「風峰くん。あぁ、そうだね。……僕は剣になる。彼と共に部長や仲間たちを守る為の剣に」

 

 喋りながら剣を造ろうとする祐斗の周りを光が包み込む。

 

「今こそ、僕の想いに答えてくれ『魔剣創造(ソード・バース)』!!」

 

 その叫びと共に、光は祐斗の中に入り込み、新たな剣を造りだす。その剣は縦で黒と白の二色に分かれていた。

そう、それこそが祐斗の『魔剣創造』が得た新たな力。『魔剣創造』が至った姿でもある。

 

「禁手『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔を有する剣の力、その身で味わうといい」

 

 祐斗は『騎士』の特性であるスピードを最大限生かして接近する。以前のように一撃に懸けるような失態は犯さない。フェイントを混ぜつつ動き、的を絞らせない。

 視線をはずし、視覚外から攻撃をしかける。が、フリードの悪魔祓いとしての感か、戦う者としての予感か。それをしっかりと受け止める。

 

「グレモリーの『騎士』! そのままそいつを抑えておけ。私も切り札を使う!」

 

 ゼノヴィアはそう言って破壊の聖剣を地面に突き立て右手を横に伸ばす。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 そう言葉を紡ぐ彼女の横の空間が歪む。ゼノヴィアは迷うことなく手を捻じ込み、何かを掴んで勢いよく引き抜く。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は開放する。 デュランダル!」

 

 デュランダル。十二勇士の一人、ローランが持っていた言われる聖剣。岩に叩きつけて折ろうとしたが、剣が岩を両断した。というのは有名なエピソードだろう。

 神話や伝説で語られる剣であるならば、エクスカリバーやバルムンク、レーヴァテイン。それらに並ぶくらい有名な剣である。

 真贋はともかく、そのデュランダルをみてバルパーだけは平静を保てず、声を荒げる。

 

「デュランダルだと!? そんなバカな! 私の研究ではデュランダルを扱えるほどの領域には至っていないのだぞ! 完全な適正者、真の聖剣使いだとでもいうのか!?」

「私はイリナやフリード(そいつ)とは違う数少ない天然モノだ。デュランダル(こいつ)は触れたモノは何でも切り裂いてしまう暴君でね。所持者の言うことをろくに聞きもしない。だから、こうして異空間に閉じ込めておかないと危険極まりないんだ」

「そんなのアリですか!? ここにきてのチョー展開。そんな設定いらねぇんだよ!」

 

 フリードはエクスカリバーを構え、殺気を向ける。ゼノヴィアはデュランダルを横に一閃するとガキィンという刃物同士がぶつかる音が響く。   透明な刃が彼女のもとへと襲い掛かったのだろう。その証拠にデュランダルによってバラバラに砕かれた刃が姿を現す。

 それを見てゼノヴィアは思わずつまらなそうに嘆息する。

 

「やはり、所詮は折れた聖剣。脆いものだな」

 

 聖剣としての核が違うのであろう。デュランダルの威力は彼女自身が借り受けている『破壊の聖剣』より大きく上回っている。見えないはずのエクスカリバーを軽くあしらい、砕かれたことにショックを受けたのかフリードの覇気が弱まる。

 祐斗はそれを好機と判断し、接近して聖魔剣を振りぬく。フリードは反射的に残っているエクスカリバーの刀身で受け止めようとしたが、それも虚しく破壊され、聖魔剣により切られる。

 肩から横腹の傷口から鮮血を滴らせながら倒れる。

 

「見ていてくれたかい? 僕たちの力はエクスカリバーを超えたよ」

 

 祐斗のエクスカリバーに対する因縁はここでようやく一つの区切りをつけることが出来たのである。だが、まだ終わってない。元凶がまだそこにいる。

 それを倒してようやくケリが着くのだ。

 

 

*******************************

 

 祐斗たちとフリードのやり取りを見ながら、ただ、ひたすらバルパーは思考に耽っていた。誰にも聞き取れないような小さな声でブツブツと呟いている。

 フリードが倒れ、祐斗がバルパーの方を向くと、まるでタイミングを合わせたかのように大きな声をあげる

 

「そうか! 分かったぞ。反発するはずの聖と魔。それぞれを司る存在のバランスが大きく崩れているのだとすればこの混じり合うという現象にも説明がつく。 つまり、魔王だけではなく、神も――」

 

――死んでいる。

 

 一つの結論に至ったバルパーを光の槍が貫き、最後の部分が声に出ない。バルパーは血塊を吐き出し、地面に伏せる。

この場で光の槍を作れるのは一人しかいない。バルパーを殺したのは他でもない、上空で高みの見物をしているコカビエルだ。この場においてそれ以外の答えは存在しない。

 コカビエルは哄笑を上げながらゆっくりと降りて来る。

 

「バルパー、お前は優秀だった。お前がその答えに辿り着くことが出来たのがその証拠だ。だが、俺はお前がいなくても別に構わん、最初から一人でやれる。さて、そこにいる男。貴様はいったい何者だ。赤龍帝だということは知っている。だが、それだけじゃ説明がつかんことが多すぎる」

「別にお前が気にすることじゃない。今からお前を倒す。だから、教えたところで意味はない」

「ハハッ! 確かにその通りだ。貴様となら良い戦いが出来そうだ」

 

 和希は前に出てコカビエルと対峙する。コカビエルの圧力が増し、全体を支配する。それに呼応するように増した和希の迫力にオカルト研究部の面々とゼノヴィアはまるで心臓を掴まれたかのような感覚に襲われた。

 古の大戦を生き残った堕天使幹部の実力。それを全面に押し出している。だが、そんなものは全くと言っていいほど意に介さない和希は愛剣を手にする。

 一瞬の静寂。そして両者が姿を消す。聞こえるのは剣と槍がぶつかる音。見えるのは衝突によって生じる刃の煌めきが光となって無数に飛び散る。

 

「面白い。面白いぞ、人間! やはり強者との戦いはやめられない!! だが、俺には分かる。まだそんなものではないのだろう。出してみろ、お前の奥の手を!」

 

 強者ゆえの感覚。たった数手合わせただけ。それだけでどんなものかは分からないが、和希が隠している手段があるのを何となく感じ取っていた。

 

 

「……。俺は俺に斬れない物の存在を許さない。ここに誓おう、この剣は全てを切り裂く無敵の刃であると!」

 

 和希の剣を持つ右手が銀色に包まれていく。『斬り裂く銀の腕(シルバーアーム・ザ・リッパー)』を顕現させる。リアスたちは初邂逅の時に目にしているし、合宿の時にどの神から簒奪(さんだつ)したのかを知ってはいるし説明もう受けた。だが、その力を目にしたことはただの一度もない。

だが、コカビエルだけは反応が違った。有り得ないものを目にして、動揺していた。

 

「何故だ。何故貴様がその力を使える!? それはあいつのモノだ。だが、やつを含めた大勢の神は先の大戦で死んだはずだ!」

 

 神は死んでいる。その言葉に最も動揺していたのは戦いを見ていたアーシアとゼノヴィアだ。ゼノヴィアは現在進行形で教会関係者。和希が神殺しであることは聞いた時も正直受け入れ難いものはあったが、アーシアも元々はそちら側に属し、信仰していたのだ。それを聞いて平然としていられる訳がなかった。そして、神の死を聞いて動揺したのはオカルト研究部のメンバーも同じ。

 

――じゃあ、ゾラさんが言っていた『まつろわぬ神』っていうのは本当みたいだ。

 

 まつろわぬ神。それは人が紡いできた神話に背き、自侭に流離う。その先々で人々に災いをもたらす神々の総称。そして、天災などに神の存在を感じ、畏敬の念から名前を得たものが『真なる神』と魔術の世界では言われている。もっともまつろわぬ神を打倒した人間は和希が初めての事である。とも、サルデーニャ島に住んでいるルクレチア・ゾラはそう言った。

『真なる神』と『まつろわぬ神』という呼び方の違いは恐らく人間の魔術世界での話なのだ。だからコカビエルやリアスたちは知らなかったことの方が多いのだろう。

 

「そうだな。強いて言うならその権能を簒奪したからだ」

「権能の簒奪だと!? そうか、あの女の神具によるものか! 面白い。神殺しに成功した人間を見るのは初めてだな。やはり長生きはしてみるものだ。面白いモノを見せてくれたお礼だ。面白いことを教えてやろう」

「面白いこと?」

「あぁ、これは各勢力のトップとその一部しか知らないことだ。先ほどの続きだが、先の大戦で神々は死んだ。だが、同じように先代魔王も死んでいる。残ったのは疲弊しきって神を失った上位天使、魔王全員と大半の上級悪魔失った悪魔。そして幹部以外ほぼ消え去った堕天使。どの勢力も人間に頼らなければ繁栄が出来ない程落ちぶれた。グレモリーといたのならば分かるだろう。悪魔も純血が希少だということが」

 

 以前、ライザーが言っていた純血が貴重云々と言っていたことはこれを知っていたからこそだろう。そして、リアスは現魔王の妹だ。そのことは分かっている。だからこそ、あの婚約でリアスが抱えていた葛藤でもあったのだ。

 きっと先の大戦のあれこれが今日(こんにち)に至るまでの騒動なのだろう。ここにいるコカビエルは和希の家の前で言っていた『願ったり叶ったり』というのは恐らく戦争の続きだ。どんな理由であれ、彼はずっと『三竦みの大戦』に囚われたままなのだろう。

 

「そうか、お前はその大戦に囚われたままなんだな。お前の中で続いている大戦を俺が終わらせてやるよ」

 

 今もなお、戦争の炎に焦がれ、戦いを望む堕天使を楽にするために和希は剣を握りなおす。

 

「さぁ、神殺しよ。お喋りはここまでだ。オレは貴様を殺し、この場にいる者を殺す。そしてあの大戦の続きをするのだ!」

「そうはさせない。俺はこの一撃で全てを終わらせる!」

 

 コカビエルは光の槍を自分の頭上に作り、それを巨大化させていく。和希も剣を上段に構え、右腕を通じて魔力を送り込む。

 

「沈め、神殺しよ!」

 

 コカビエルは巨大な光の槍を和希へと投げつける。和希はそれを迎え撃つように剣を振り下ろす。光の槍をまるで豆腐を切るかのようにスッと真っ二つに切り捨てると同時に剣に纏わせた魔力を衝撃波のように飛ばす。飛ばされた衝撃波をコカビエルは正面から受け、袈裟状に深い傷を負う。地面に叩きつけられるように落ちた堕天使にとどめを刺すために歩いて近づく。

 

「最期に貴様と戦えただけでも良しとしよう」

「そうか……。じゃあな、コカビエル」

 

 神殺しはコカビエルの首に剣を添えて、そっと切り落とす。

 古の大戦で雁字搦めになっていた伝説上の堕天使はここで息を引き取った。そして駒王学園に張られていた結界を突き破り、何者かが現れる。

 

「コカビエル回収の指示が出たが、遅かったようだな」

 

 姿を現したのは全身白の翼が生えた鎧兜に包まれた誰か。先程の声から男であることは分かるが、顔が隠れている為、素顔は分からない。が、コカビエル以上の力を持っていることが分かった和希は目の前の敵に警戒する。

 すると、和希の籠手に埋められた宝玉が光る。

 

『誰かと思えば白いのか』

『何だ、赤いの。起きていたのか』

 

 ドライグが発した言葉とそれに返ってきた言葉。赤と白。それだけで相手がどういう存在か。当代の赤龍帝がそれを何となく理解するには十分すぎる情報だった。

 

「コカビエルを倒すほどの力、そして俺が出てから、その気迫はより増した。いくら疲弊しているとはいえ、今の俺では勝つことは難しそうだ」

「そうか、お前が……」

「何となく分かっただろうが、俺が当代の白龍皇(はくりゅうこう)だ。コカビエルが死んだ以上、ここにいる意味は特にない。だが……いずれ君と覇を競い合うのを楽しみにしているよ」

 

言いたいことだけ言って飛び去っていく白龍皇。コカビエルの打破後、思わぬ乱入者が出てきたが、これで事態の収拾がついたのだ。

 

「終わった……の?」

 

 リアスが呆気に取られたように呟く。それを聞き取った後に権能を解除し、和希は振り返って頷く。オカルト研究部の面々とゼノヴィアの表情に喜色が浮かぶ。各々が事の終わりを喜んでいる傍ら、アティは和希の隣にいた。

 

「お疲れさまでした」

「ホントだよ。この町は短い期間で色々起こりすぎだ。正直、当分ゆっくりしたい」

「そうですね、それでは今度、いつかのお礼をください。よろしくお願いしますね?」

 

――全く。なにが『それでは』だよ。

 

 和希は内心呆れながらもそれに頷く。そして少し離れた所から和希に助けを求める祐斗の声とその喧噪を二人で眺めていた。

 そんなあれこれが起きた数日後の放課後、ゼノヴィアが編入して驚愕したのだった。

 




 というわけでとりあえず、聖剣編は終わりです。数話幕間を挟んだ後にヴァンパイア編に行きたいと思います。
 この先の話で書きたいシーンの構想はちょいちょい出来てるのにそこまでの道のりが遠すぎる。
 そのうち、ウマ娘とかシャニマスの二次創作をきっちり書いてイラストもお願いしてコミケに出してみたいなと思ったり思わなかったり…………。
 まぁ、とりあえずそんなこんなではありますが、またお会いしましょう。それでは。


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幕間.ありふれた出会い

 皆様お久しぶりです。本当はもう少し早く投稿出来る予定だったのですが……。
 それはそれとして、今回はタイトルから分かるように『ありふれ』要素が入ってきます。本当は入れる予定はなかったはずなんだけどなぁ。読んでる作品の影響を受けすぎた……。
 前置きはこれくらいにしてそれではどうぞ。 


 和希がアティと出会い、神殺しに至る前。コカビエル戦の後に知った行方不明となっている友人たちとの出会い。どこにでもあるような、そんなありふれた出会いの話。

 

***************

 

 過去に遡ること二年ほど前。とある大型書店の中。

 宗教や歴史、神話などの本が置かれているコーナーに少年はいた。顔立ちこそ幼いがその少年が後に色んな種族や敵と大立ち回りをする風峰和希その人である。

 そんな彼の右手には既に何冊か本を抱えられている。ひとしきり往復して悩んだ後に彼はそのコーナーから離れる。レジに向かい、本を購入し終えた顔はホクホク顔で満足そうである。そんな彼が帰路に着いた時一件のゲームセンターの前を通ったその時、彼の視界にいかにもヤンチャしていますとのを体現している青年達に絡まれている老人とまだ小学生になっていない位の少年。そして庇うように気弱そうな少年が二人の前で土下座しているのが映った。

 通りを歩く人々は巻き込まれたくないのか素通りしている。触らぬ神に祟り無し。まさにその通りだろう。好き好んで厄介事に自ら首を突っ込む者などそうそういないだろう。

 だが、買い物を終えた和希は一つため息を着いて買った本を路地の隅に置き、青年達の元へと歩いて行く。そして土下座している少年の隣に立ち、青年達を見上げる。 

 

「お前ら何やってんだよ」

「おいおい、坊主。正義の味方気取りか? あんまり生意気な面してると痛い目みるぜ」

 

 小馬鹿にしたように茶髪の青年がそう言う。あまりにもベタと言うべきか、そんなことを宣う彼に少年は真っ向から刃向かう。

 

「子供老人に絡むような人間に負けないよ、俺は」

「「あぁ!?」」

 

 少年の言葉にカチンときた青年が声を荒げるが、そんなものに取り合うことはせず、隣の少年に声をかけ、手を貸して立ち上がらせる。

 

「大丈夫か? 君はそこにいるおばあさんたちと一緒に居てあげて」

「で、でもそれじゃあ、君が!」

 

 土下座をしていた少年が青年達に刃向かおうとする彼の心配をする。だが、そんな心配を余所にニッとした笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫。俺、結構強いから」

 

 そう言ってガラが悪そうな二人の方に向き直る。

 

「良い度胸してんな、坊主。いいぜ、お望み通りボコボコにしてやるよ!」

「恨むなら首を突っ込んできた自分を恨めよ!」

 

 そう言って飛びかかってきた二人の攻撃を何でもないかのように避ける。そして腹パンと蹴りを入れ一撃ずついれて伸した後に路地の片隅に寄せる。

 そして何もなかったように戻ってくる。

 

「おばあさん達は怪我はありませんか?」

「ありがとうねぇ。二人のおかげで孫も無事で済みました。出来ればお礼がしたいのですが・・・・・・」

「いえいえ、お気になさらず。自分が見ていられなかっただけですので。な?」

「う、うん。そうだね」

 

 お礼をしたい老人とそれを辞退する少年二人の構図が出来た後に自分たちの代わりにその分孫にいいものを買ってあげてほしいと言って少年達はその場を後にした。勿論、その際に書店で買った本の回収は忘れずに。

 しばらくして少年達は駅の近くにあったファミリーレストランに居た。注文した後に和希の方から口を開く。

 

「そういえば、流れのままにここまで来たけど自己紹介がまだだったな。俺は風峰和希。中学三年。君は?」

「僕は南雲ハジメ。僕も中学三年だよ。さっきは助けてくれてありがとう」

「気にすんなって。でも、南雲君が土下座なんかしてたんだよ」

「僕のことはハジメでいいよ。土下座してた理由・・・・・・だったよね。えっと、僕も最初は首を突っ込む気なんてなかったよ。あの男の子があの不良達の服を汚しちゃってお婆さんがクリーニング代を渡す所までは見てたんだ。でも財布まで取り上げたのが聞こえてきて体が勝手に動いちゃったんだよね」

 

 結果はあんな有様だけど、と。頬を掻きながら恥ずかしそうにするハジメ。話し終えたところでちょうど注文した商品が運ばれてきた為、話を逸らそうと昼食にありつく。

 和希はそんな彼に微笑ましいものを見るような表情を向けてから昼食に手をつける。ハジメは和希が持っていた購入済みの本が気になっていたようで内容を聞いたハジメは今日一番の興奮を見せていた。

 ハジメの両親はゲームや漫画といったコンテンツで生計を立てている。その影響といえば良いのだろうか、彼自身がオタクというのもあり、神話や伝承、それに登場する生物や武器にもある程度造詣が深い。

 和希は個人的にそういうものが好きなわけでゲームや漫画といった二次元的なコンテンツにしっかり触れることはあまりなかった為、ハジメとの出会いは彼にとっても良いものであったのは確かだった。

 昼食と雑談をほどほどにしてこの日は解散することになった。また今度の休日に一緒にゲームセンターに行こうという約束を交わして。

 

 

 時は進み、数日後の休日。和希はハジメたちを助けたあのゲームセンターの前で人を待っていた。和希が到着して数分後にハジメが到着した。

 

「ごめん、和希くん! もしかして僕が遅刻しちゃった?」

「そんなことないよ。ほんの少し俺が先に着いただけだ。じゃあ、早速入ろうぜ」

 

 和希にとってゲームセンターで遊ぶというのは新鮮なものだった。UFOキャッチャーやガンシューティング、レースゲーム。音楽ゲームに格闘ゲーム。このゲームセンターに置かれている筐体を時間が許す限り遊び倒した。

 ちょうど時計の針が十二時を回った頃。お腹も空いてきたということで前回同様、駅の方にあるファミレスで昼食を取ることにした。

 この時から既にトラブルに愛されていたと言うべきか、そうは問屋が卸さない。駅に着いたまではいいのだが、二人にとって見覚えのある男二人が今回は女の子に言い寄っているのを見てしまった。どこからどう見ても少女達は困っているのが分かる。まだ出会って友人となってから間もない二人だが、アイコンタクトで意思疎通を取る。

 

(どうする?)

(まぁ、ある意味見知った顔な訳で・・・・・・)

 

 二人は一つため息を吐く。なんだがデジャヴだなぁ、などと思いながら歩みを進める。

 

「つい先日ぶりだな、あんたたち」

「「あぁん?」」

 

 ガン飛ばしながら振り返った先に居るのは自分たちを伸した少年と老人を庇った少年。数日前の出来事を思い出し、一瞬で及び腰になる。

 

「「えっと、すいませんでした!」」

 

 あまりにも呆気のない事態収拾に呆然とする四人。和希とハジメもまさかこんなことになるとは思いもしなった。このどうしようもない状況に沈黙が流れ、周りの喧噪だけがこの場を支配する。一刻も何とかしようとハジメが口を開いた。

 

「何もなったようでよかったよ。それじゃあ、僕たちは行く場所があるから」

 

 そう言って和希とハジメは再びアイコンタクトを交わし、この場を離れようとした。だが、思わぬ所からストップがかかる。

 

「あ、あの!」

 

 声を出したのは黒髪をまっすぐに下ろしている少女だ。勢いよく声をかけたのは良いがどう続ければいいのか分からず、口を開いたり閉じたりしている。その隣で濡羽色の髪をポニーテールにしている少女が一つ息を吐いて助け船を出す。

 

「もし、よかったらお礼をさせてくれないかしら?」

「いや、そんなつもりで助けた訳じゃないので」

  

 そう言って立ち去ろうとすると待ったをかけた少女が口を開く。

 

「そ、それじゃあ、友達としてお誘いするのはだめですか? 助けてもらったのにこんなお願いをするのは変だとは思うんですが・・・・・・」

 

 一歩も引こうとしない少女に折れたのはハジメの方だった。

 

「ねぇ、和希くん、駄目かな?」

「・・・・・・分かったよ」

 

 そんな二人の会話を聞いた少女はとびきりの笑顔を浮かべる。

 

「ありがとう、ございます! 私は白崎香織です。隣にいるのが・・・・・・」

「八重樫雫よ。よろしくね」

「えっと、僕は南雲ハジメです。でこっちが」

「風峰和希だ。友人としてということなら堅く苦しいのは無しの方向でよろしく」

 

 ざっとお互い名乗り終え、和希とハジメ的には当初の目的だったファミレスに向かった。そこでの会話で全員が同級生であることが分かったり、数日前の出来事を実は目撃していたということが判明したり、和希とハジメの友人づきあいがそこから始まったという話をした。 そんな会話の中で和希は既に香織がハジメに対して若干の熱を持っていることを察した。自分に対するあれこれは鈍いくせに他人の機微に対しては察しが良すぎるそれは生前のことも相まって既にこの時点で完成していたのである。

 ファミレスを出た後、和希は香織に対して助け船を出すことにした。

 

「そうだ、ハジメ。この後の予定は今度で良いから白崎に予定があるならそれに付き合ってやれよ」

「そうね、南雲くん。香織のことお願い出来るかしら?」

「「えぇっ!」」

 

 ハジメと香織は和希からの思わぬ言葉に動揺する。こんなに驚かれると思っていなかった和希はケタケタと笑いながら、また今度な。とその場を後にする。

 今度は香織と一緒に来ていたはずの雫もそう言って和希の後を追っていく。彼女もまた、香織の想いは知っているのである。

 そんなこの場に残された二人がどんな関係に至るのか。それが分かるのはもう少し先の話だ。

__________________

 

 和希に追いついた雫が質問を投げかける。

 

「香織のこと、知っていたの?」

「いや、知らない。ただ、あいつのハジメを見る目に熱が入っているような気がしたからそういうことか? って思っただけだ」

「そう……。周りのことよく見てるのね」

「普通だよ、それくらい」

「……そういうことにしといてあげる。じゃあ、風峰君。香織の代わりに付き合ってくれないかしら?」

「はい?」

 

 思いも寄らない提案に対し、今度は和希が呆気にとられるのであった。そんな彼の表情を見てクスクスと雫が笑う。

 

「風峰君でもそんな顔するのね、何だか意外な気がするわ」

「一体、八重樫さんは俺を何だと思ってる?」

「そうねぇ・・・・・・。年齢の割には落ち着きがあるから見た目と中身が一致してない中学生、かしら」

 

 雫が人差し指を顎に当てながらそう言う。呆気にとられたままの和希は声にこそ出さなかったが、そう言われたことに対し、内心驚愕した。だが、彼女の言ったことは事実であるため、否定できない。

 それならばと、まるで良いことを思いついたかのようにハッとした顔をしてから雫の前に立ち、手を差し出す。

 突拍子もない少年の行動に雫は怪訝な表情を浮かべる。

 

「じゃあ、俺がお前を守るよ。さすがにいつでも、どこでも。なんて漫画みたいに格好良いこと言えないけどさ。お前が、本当にどうしようもない時は俺が何とかしてやる。約束するよ」

「……何よ、それ。そこまで言うならちゃんと最後まで格好つけなさいよね。でも、ありがとう」

 

 そんなことを言われると思ってもみなかった雫は顔を背けながらもお礼を言って差し出された手を取る。その顔は、熱があるかと聞かれそうなくらいには紅みを帯びていた。

 実は彼女の実家は道場というのもあり、雫もまたかなりの実力者ではある。だが、そんなことを知らずとも、良い笑顔を浮かべながらも、守ると言ってくれた彼の言葉が嬉しかった。数年前から共に過ごし、恋心を抱いた少年にも似たような事を言われたことがある。だが、そんな少年よりも目の前に居る和希の言葉はずっと真っ直ぐで、彼女自身のことを思っていた。

 出会ったのが今日で、そんなに長い時間を過ごしたわけでもない。それでも和希という人間が信用に足るかどうか。どんな人柄であるのか。ハジメからの話もあり、ある程度は理解できたつもりだ。それに彼女自身もまた、年頃の女の子なのである。そういうことを言われて嬉しくないわけじゃない。幼馴染みの少年を想っていた時以上に体の奥底からあふれ出るようなこの熱(想い)は一体何なのか。

 その熱を誤魔化すように走り出す。急に走り出したことに驚くが和希の手が離れることはない。

 

「時間は有限なの。早く行くわよ!」

 

 駆け出しながらそう切り出す彼女の顔は太陽のようにまぶしいものだった。

 

 

 彼女が恋焦がれ、再会を強く望むようになるのはほんの少しだけ遠い未来の話。

 

 

**********************

 

 高校一年から、高校二年に上がる春休み。和希がイタリアに行く数日前。少年は約一年半ほど前に出会った友人、南雲ハジメらと共にカラオケに行こうということで遊びに来ていた。 昼過ぎに駅前の待ち合わせ場所に集合し、目的地に向かう途中、ハジメが和希に声をかける。

 

「和希くん、一つ言いたいこと、というか報告があるんだけど……」

「報告?」

 

 ハジメはそわそわし出し、言い澱む。それに伴いというか、彼の隣を歩いていた香織も釣られて落ち着きがなくなる。そんな二人を見て何となく察したが、黙ってハジメの言葉を待つ。

 

「えっと、あのね。バレンタインからなんだけど白崎さん……じゃなくて香織と付き合うことになったんだ」

「やっとか……。おめでとさん」

「「……え? 和希(風峰)くん、分かってたの?」」

 

 驚かれることもなく、すんなり受け入れられたことに戸惑いを隠せない二人。まだ付き合い始めて数ヶ月しか経っていないのに息が合っているカップルに苦笑しながら口を開く。

 

「まぁ、初めて会ったあの時から白崎がハジメのことを好きなのは分かってたからな。押されるままに付き合うまですぐかなって。こんなに時間がかかるとは思わなかったけどな」

「「そうなんだ……」」

「風峰君もあまりいじめないであげて、香織なりにようやく勇気を出して付き合えたんだから」

 

 まるで手のかかる妹を持っている姉のようなことを言う雫。そんな彼女に、結果的に付き合えたんだからいいじゃん。と抗議を入れる香織。それをぞんざいに扱う雫の姿は端から見ても姉妹のようだった。 

 そして、和希は少し悪い笑顔を浮かべ、白々しい言葉をハジメに投げかける。

 

「あ~あ、それにしてもまさかハジメに恋人が出来るとは思わなかったなぁ」

「だ、大丈夫! 和希君にもすぐに恋人が出来るよ!」

 

 からかわれていると分かっているのだが慌てながら励ますハジメ。なんだかんだ二人のやりとりを聞いていた香織は雫の方にちらっと視線を投げる。投げた視線の先に居る少女は顔を紅くしながらもそっぽを向いている。

 

「そんなことないだろ。まぁ、ただ、そのうち出来ればいいかな」

 

 少女二人の様子に気付かず、和希本人も本気で言った訳ではない為、ハジメの言葉は軽い慰め程度に受け取る。

 ハジメは和希に見えない位置で一喜一憂している少女とそれを励ます少女の姿を見て苦笑するのであった。

 

 目的地にたどり着いて真っ先にマイクを取ったのは香織だった。選曲はハジメの影響もあるのだろうが、がっつりアニソン。意外な選曲に和希は驚くが、雫は事もなさげにしていたため、このことを知らなかったのはこの場で和希だけだった。

 プロ顔負けの歌声を披露する香織が次に使命したのは恋人となったハジメではなく、その隣に座る和希だった。

 

「……俺?」

「うん。だって風峰くんがこういうところに来るのってあんまり想像できないし、ちょっと面白そうだから」

 

 混じり気なくそう言われた和希は曲を入れてマイクを手に取る。まず、ピアノの音が流れ、そこからギターなどの他の楽器隊も入ってくる。表示された曲のタイトルは――――。

 今回、カラオケに行くと言うことで和希が動画サイトで曲を探している時に見つけた歌。その歌詞は転生する直前に見た養父から受け継いでしまった正義の味方という夢を叶える為に奔走した紅い外套に身を包んだ青年のことを幻視せずには居られなかった。

 和希の歌を聞いている三人がその青年の人生を知ることはまずないだろう。だが、その曲調に、歌詞に胸を撃たれた。

 歌い終えた和希はマイクをハジメの前に置く。

 

「和希くんはこの歌のモチーフを知ってるの?」

「どうなんだろうな。俺はただとある人の生き様に似ているなって思ってな。つい覚えちまった。……そんじゃ、次はよろしく」

 

 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎていった。雫がアイドルの曲を歌ったり、和希とハジメが一緒に歌ったり、カップルが一緒に歌ったり、楽しい空間だったが、終わりを迎えるのはあっという間だった。

 和希がイタリアへ出かけることも知っている為、遅くなりすぎない時間で解散した。

 

 その数日後、和希はアティと出会い神殺しになり、休みを終えた後、ハジメ達は行方不明となった。そんな彼らが再会するまで、あと……後の話である。




 こんな感じで締めさせていただきます。次回かその次あたりで本編に戻ろうと思います。
 色々話したいことはありますが、上手くまとまらないので終わろうと思います。
 これからもよろしくお願いします。


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