魔法少女リリカルなのは√クロスハート (アルケテロス)
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【無印編】
第0話:悲しみの雨で芽吹くモノ


※本作は、『魔法少女リリカルなのは』シリーズの原点たる『とらいあんぐるハート3』の要素を強めた原作改変物です。バトル1割、会話3割、心理描写やその他が6割の予定なので、予めご了承下さいませ。あと、大体のキャラが善かれ悪しかれ、強化されています。

※また、活動報告にて読んでなくとも本編には差し支えない程度の補足や裏話、雑談を載せたり(7話以降ぐらいから)していますので、気になる方はそちらもどうぞ。PC閲覧推奨。ちなみに、タグは保険がてら付けている物も有るので悪しからず。



 格好良くって強いお父さん、“高町士郎”さん。優しくて温かいお母さん、“高町桃子(ももこ)”さん。努力家で見守ってくれるお兄ちゃん、“高町恭也(きょうや)”さん。勉強家で色々と教えてくれるお姉ちゃん、“高町美由希”さん。そして、そんな素晴らしい家族の一員である私――“高町なのは”は末っ子として歳相応に甘え、愛されて育ちましたが、その幸せはそう長く続きませんでした。

 

 切っ掛けは、私が4歳の頃。

 

 お父さんが「危険だが、大切な仕事なんだ」と言っていたボディーガードの仕事で殉職したと伝えられて、何故か棺は空っぽのまま見送ったけれど、その日を境にお母さんはお店の経営に専念するようになり、お兄ちゃんとお姉ちゃんは、お母さんを手伝いつつも鍛錬に打ち込むようになりました。

 

 そして、そういった変化に取り残されてしまった私は、取り敢えず笑顔でいるように努めました。家族に心配されないように。私は独りでも、大丈夫なんだよって。それが、当時の私に出来る精一杯の配慮だったのです。

 

 それから1年が過ぎ、2年が過ぎ去り……。居候の2人が加わった頃には家族の中の重い雰囲気は和らぎ、自然な笑顔や会話も以前のように戻りつつあると言うのに、私はその幸せには慣れず、むしろ空虚な気持ちがどんどん膨らむばかりで、いっそ張り裂けてしまえば少しぐらいは変われたのでしょうか?

 

 お父さんは過去の人で、私達は今を生き、未来へと向かいます。だから次第に遠くなって、記憶でも別れて、薄れて、忘れていくのは極自然な事で、それが普通で道理なのだという事も知っています。しかし、如何しても受け入れ難い事実でした。

 

 もしかしたら、お父さんは生きているのかもしれない。

 

 あの日、棺に入ってなかったお父さんは、きっと今も何処かで生きているのだと。そんな可能性にすがっている小さな私を、私は置いて行けなかったのです。だから、それを確かめられない日々が辛くて、でも何処にも居なかったら如何しようとも怯えたまま追憶と歳月を重ね、私は小学3年生へと成り果てました。そして何故だか、二度目となる転機もまた迎えてしまったのです。

 

 誰もが予想だにしなかった、そんな転機を。

 

 決して、望みはしませんでした。不変の思い、魔法の力、非日常、闘争、誰かの不幸、そして降りかかる火の粉。でも、何時の間にか手にしてしまって、訪れてしまって。だから私は、毅然と立ち向かうしかありませんでした。それしか知らず、そうする事でしか道は拓けないと信じていたからです。これは、そんな少女が描く軌跡を辿る物語。

 

 

 

 『魔法少女リリカルなのは√クロスハート』、始まります。

 

 

 



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第1話:ガール・ミーツ・マジックなの

人物紹介
【高町 なのは】
私立聖祥大学付属小学校3年生。真っ直ぐで、心優しい少女。但し、家族や親友以外には一定距離を置き、他人行儀を貫く一面もある。平凡を自称していたものの……。



Side:なのは

 

 学校からの帰宅途中、幻聴がやけに騒がしかったので其の発生源へ向かうという盛大なフラグを立ててしまった結果、私――“高町なのは”は、少なからず後悔する事となりました。

 

 発生源を求め、公園内の人気の無い場所で出遭ったのは黒い何か。「もしかしなくても、白日夢だったら嬉しいんだけど……」と現実逃避しつつも私は、身体を全力で真横に投げ出しました。直後に傍を通り過ぎる黒い何か。それは進行上の木々を圧し折りながら止まったものの、私への害意は未だに途切れず、再度攻撃してくる事は明らかでした。

 

 一体、これは何なのだろう?

 

 ぱっと見たところ、黒いヘドロの集合体の様でありながら、一抱え程ありそうな太い樹木を簡単に折る質量と加速力を持つ謎物体。こんな物とぶつかれば、トラックに撥ねられるのと同義ですし、ましてや子供の足では逃げ切れる気がしません。まさに絶体絶命の危機。――そんな風に考えていた時が、私にもありました。

 

 その後、何処からともなくやって来た喋るフェレット(もど)きが持つガラス玉と仮契約し、私の中に眠っていた強力なマジカルパワーで謎物体を封印。九死に一生を得るとはこの事でしょうね……。

 

 ええ、はい。もう訳が分かりません。それくらいあっと言う間でしたし、助かりたいが為に分からない物を分からないまま使用して決着がついたので、今後の説明回に期待したいところなのですが、どうもこのガラス玉改め【レイジングハート】曰く、持ち主である“ユーノ・スクライア”という名のフェレット(もど)きの許可が無い限り返答しかねるとの事。そしてその肝心の持ち主は疲労と安堵からか気絶していた為、取り敢えず近くの動物病院に彼ごと預け、私はようやく帰宅する事が出来ました。

 

 

 

 午後7時に。

 

 

 

 結論から述べますと、セーフでした。これまで放課後は、自宅へ直帰する良い子ちゃんで通して来たので当然のように家族達から心配されましたが、「帰宅途中にフェレットを保護した」という美談と共に動物病院から一報を入れていたお陰で何とかなりました。その夜、学校の宿題をささっと仕上げた後は戦闘イベントによる疲労もあった為、迷わず就寝を選びました。夢なら覚めて欲しい。そういう気持ちも、あったのかもしれません。

 

 そんなこんなで翌朝。昨日の折れてしまった樹木等の戦闘痕はニュースで取り上げられる程度には騒ぎとなっており、現実と記憶に齟齬(そご)が無いことを確認しつつ公園管理者への申し訳なさから気が重い朝食を終え、そそくさと学校へ登校しました。

 

 尚、通学バスの中で友人の“アリサ・バニングス”ちゃんと、“月村すずか”ちゃんと合流した際に再度世間話として話題に上がった為、私は少しばかり居心地の悪さを感じながらも、当たり障りの無い応答でその場を何とか凌ぎました。

 

 

 

 此処までは、まだ良かったのです。

 

 

 

 学校に着いて暫くして、テレパシーのような魔法的な何かを受信したのですが、送信者は例のフェレット(もど)きことスクライアさんからで、時間が惜しいとばかりに、これまでの経緯や魔法について色々と説明してくれました。そう……。それは朝の会でも、授業中でも、休み時間でも関係無く、本当に色々と話してくれました。

 

 家事手伝いやゲームで鍛えた並列思考(マルチタスク)が有るとはいえ、長時間に渡って行われるそれは苦行でしかなかったのですが、話を聞くにつれて、彼の抱く危機感の全容が分かってきました。

 

 昨日、謎物体を封印した時は小さな宝石のような何かに変化したのですが、それは『ジュエルシード』と呼ばれる物で、異世界で高度に発達した魔法技術の遺産――『ロストロギア』の一種であるらしく、事象を改変して願いを叶えるような代物との事。

 

 但し、それは人間などが願えば複雑過ぎる思考すら読み取った挙句、大凡(おおよそ)望まぬ方向へと暴走するらしいので然るべき場所で保管してもらう必要があったのですが、その道中に事故または襲撃が起こり、結果として散らばってしまったジュエルシードを回収すべくこの地球へ降り立ったようです。

 

 ちなみに、私の住む海鳴市の近辺にジュエルシードが纏まって落ちたらしく、その数にして21個。既に封印が解けた物が暴走をし始めており、昨日の謎物体はその一例でしかなく、更に襲撃者が存在する場合は何に悪用するのかも分からないので、居ても立ってもいられない。そういった内容でした。

 

 その後、遥かな次元の先にある異世界の話や、魔法の話、発掘を生業とする彼のスクライア一族の話など、向こう側の情報を色々と知る事が出来たのですが、その弊害として心此処に有らずといった感じに見えるようで、担任や友人からも心配され、更に昼休みを一人で過ごすと言って空き教室へ向かった時は、心底不安そうに見送られました。

 

[[それで、スクライアさんは私に如何して欲しいんですか?]]

 

 テレパシーもとい念話の疲れを癒すため、窓越しに遠くの景色を眺めてみましたが、見慣れた平和な町並みが広がっており、私は疲労度が5回復した気分になりました。並列思考の無駄? 多分、ランナーズハイみたいな感じのオーバークロックな限界突破で脳回路的な何かが焼き付いている影響なのかもしれません。ええ、はい。カット。

 

[[お願い出来るのなら、ジュエルシード集めに協力して欲しい。悔しいけれど僕では力不足だし、きっと高町さんの方が、事態を早く収束させる事が出来ると思うんだ]]

[[んー……。それなら、私のお兄ちゃんやお姉ちゃんの協力が必要になりますが、それでも構わないのでしたら手伝っても良いですよ?]]

[[魔法文明の無い世界で、そういった情報を広める事はあまり好ましくはないんだけど……。如何してなんだい?]]

[[如何してって、それは――――]]

 

 そも、スクライアさんが居たミッドチルダなる世界と違って法規制が異なるのは勿論なのですが、特に顕著なのが自立の早さです。スクライアさんの世界では、能力さえあれば年齢を問わずに就職が出来て、そうやって生活が成り立てば一人前として認められるとの事ですが、私が住む地球の日本国では、20歳に満たねば様々な制約が課せられてしまいます。

 

 なので、そういった違いを説明しつつ、ジュエルシード探しは放課後や休日がメインとなる事。そして夜などの遅い時間帯は、大人かそれなりの年長者が同伴でないと咎められる旨を説明したところ、渋々といった感じで了承を得られました。

 

 それから午後の授業を念話混じりに淡々とこなし、帰りの会が終わった頃。アリサちゃんが勢いよく立ち上がり、私の席までやって来ました。表情から察するに、「今日はずっと上の空だったみたいだけど、何か悩み事があるなら友達である私に話してみなさいな」と言わんばかりで、実際そうでした。

 

 ちなみに、“すずか”ちゃんもアリサちゃんを抑える為にそっと付いて来てくれましたが、同様に事情を聞きたいようで、ブレーキ役というよりも加速制御装置として絶妙な加減速をしてくれました。友達思いな親友が二人も居て、私は幸せ者だと思います。

 

「実は、家族会議物の案件を持ち込もうと思っているんだけど、どう切り出そうかなって」

 

 案件の内容までは話さなかったので、若干ずれたアドバイスを貰いつつも「取り敢えず、無事を祈っとくわ」、「早く解決すると良いね」等の応援で送り出され、帰宅。通学鞄を部屋に置き、自宅に併設されている道場へと向かうと、そこでは何時ものようにお兄ちゃんとお姉ちゃんが模擬戦をしていました。

 

 『永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術』――通称、御神(みかみ)流。

 

 そんな名前の古武術をお父さんが修めていた事もあり、今ではお兄ちゃんが師範代となってその後を継ぎ、お姉ちゃんに指導しているのです。一時期は狂ったように鍛錬していましたが、最近は大分落ち着いたようにも見えます。しかしそれでも、二対四本の木製小太刀が風を切り、ぶつかり合う様は凄まじく、超人的な体術も相俟って目まぐるしく繰り広げられる攻防は圧巻の一言です。

 

 私もお父さんの血を引いている筈なのですが、走る事以外はどうもイマイチなので見学と柔軟運動くらいしかやってません。なのである意味、お父さんを近くに感じられる二人が羨ましかったりします。尚、勝負自体はお兄ちゃんの勝ちで終わり、お姉ちゃんはまたしても連敗記録を伸ばしたのでした。

 

「お帰り、“なのは”。ずっと待っていたみたいだが、何か話でもあるのか?」

「“なのは”、お帰り~」

「ただいま。お兄ちゃん、お姉ちゃん。実は、ちょっと折り入った話がありまして……」

 

 言うや否や、魔法発動。多分出来るはずと思いつつ、天使のような羽を背中に展開してみました。結果は、ちょっとディティールが甘くて角ばってしまいましたが、ぶっつけ本番にしては我ながら良い出来だと思います。

 

「魔法少女、始めてみました」

 

 尚、お兄ちゃんの珍しい驚き顔が見れた代償として待っていたのは、とても長い質問攻めと、それよりも更に長い家族会議でした。軽率さは時として仇になる。そう強く実感した瞬間でもありました。

 

 

 



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第2話:結成、非公式海鳴ガーディアンズなの

人物紹介
【高町 恭也】
“なのは”と美由希の兄。真面目な好青年だが、親しい人には悪戯をしたりと御茶目な面も。一般的な趣味としては、盆栽と釣りと昼寝。御神流という剣術の師範代だが、基本的に喫茶『翠屋』で働いている。

【高町 美由希】
私立風芽丘学園高等部2年生で、“なのは”の姉。優しく勤勉な性格で、“なのは”に勉強を教えてくれる良き家庭教師でもある。鍛錬の時以外は眼鏡を着用しており、趣味は読書。恭也と同様に、御神流を修めている。



Side:なのは

 

 あれから、お兄ちゃんとお姉ちゃんの質問攻めを経て、更にお母さんや居候のレンちゃんと晶ちゃんも交えた家族会議で説明し、そして何時の間にか動物病院から脱走していたスクライアさんにも来て貰って説明をして、説明をして、説明をして……。後顧の憂いが無くなってしまいました。ええ、それはもう奇麗さっぱりとです。

 

 少なからず危険なので、お母さんに反対されたらどう説得しようとか。一人で出歩くと補導されるので、お兄ちゃんかお姉ちゃんが同伴してくれないかなとか。そういった心配事はあったのですが、どうも今まで我が儘の“わ”の字すら表に出さなかった私の我が儘を内心では嬉しく思っているようで、単独なら夜の7時、同伴なら夜の10時を目安として帰る事を条件に許可されました。

 

 そして早速、外出する事に。

 

 時刻は夜の9時頃。あまり遠くまで行けませんが、割と近場で反応があったらしいのでそこへ向かいます。メンバーは、私とお兄ちゃんとお姉ちゃん。そしてスクライアさんから借りた【レイジングハート】の3人と1機です。ちなみにスクライアさんは、怪我による不調もあるので御留守番となりました。

 

 見送りの際、スクライアさんは魔法初心者の私と、実力が未知数なお兄ちゃんとお姉ちゃんのコンビに不安を覚えていましたが、私は案外大丈夫なのではと思ってます。出発前に、職質されない程度の装備をしたお兄ちゃんとお姉ちゃんに現状最速の魔力弾を撃ってみましたが、余裕で回避されました。どうも弓矢程度の速度だと、見るまでもなく避けれるとの事。

 

 ついでに魔力弾や防御魔法を試し切りしてもらったのですが、「(とお)せば何とかなりそうだ」という斜め上の返答と共に凄まじい連撃で霧散させたのを見て、改めてお兄ちゃんの非凡さを思い知りました。ちなみにお姉ちゃんも同様にやってみせたので、私が魔法に対して抱きつつあった信用が見事リセットされてしまいました。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 リリカルマジカル以下略。観測地点へ到着後、近くで励起(れいき)状態から暴走状態へと移行しつつあったジュエルシードを発見。直ちに封印・回収しました。てっきり戦闘パートかなと思いましたが、良い意味で肩透かしを食らった結果となりました。

 

「どうやら、上手く行ったみたいだな」

「うん。今回は、だけどね」

 

 実は、前回のジュエルシードも変身後は大した事はなかったのですが、スクライアさん曰く、願いの核となるモノが無い状態での暴走はまだマシな方らしく、人が手にした場合の被害や脅威度は予測不能との事。なのでそうならない様に、早期発見と迅速な対処を心掛けていきたい所存です。

 

「次もそうだと良いね、“なのは”。それじゃ、遅くならない内に帰ろっか?」

「はーい」

 

 ミッションコンプリート。あとは帰って湯浴みして寝るだけ等と考えていましたが、はたと気付きました。そうなのです。放課後の相談と家族会議とジュエルシード回収でやってなかったのですが、宿題という学生の敵がまだ残っていました。内容は大した事はないのですが、貴重な時間が削れる事には変わりません。それが今夜か、翌日の早朝かの違いなだけで。

 

 そして私は今夜を選び、宿題を終えた代償に寝不足な翌朝を迎えました。今後を考えるなら、宿題などの時間配分は考えてやった方が良いかもしれません。

 

「“なのは”ちゃん、なんやフラフラしとるけど、ほんまに大丈夫かー?」

「取り敢えず、白湯を持って来たからまずは1杯。ほら、ぐいぐいっと」

 

 レンちゃんに心配されつつ、晶ちゃんから手渡された湯呑みの白湯を機械的に飲み干した私は、半覚醒状態のまま洗面台で顔を洗い、それから2人が作ってくれた朝食に手を合わせ、食べ終わる頃には無事起動する事が出来ました。

 

「うぅ……。授業で寝ちゃう人の気持ちも分かるような……」

 

 ちなみに今回、初めて夜更かしなるものをやってみましたが、どうもこの“小学生ぼでー”では無理があるようです。残業やら一夜漬けやら、カラオケでオールナイトする人が世の中には居るそうですが、改めて凄いなーと思いました。

 

 それから制服に着替え、心配してくれたレンちゃんが通学バスの乗り場まで付き添ってくれて、乗車後はアリサちゃんとすずかちゃんに問題解決の報告をざっくりして、何時の間にかバスから降りていました。オカシイ。何処か記憶が飛んでいるような……?

 

「“なのは”~、目的地に着いたわよー。ほら、しゃきっとしなさいな!」

「あの、“なのは”ちゃん。眠気覚ましに、飴でも舐める?」

「うん。有り難う……」

 

 それから私は、“すずか”ちゃんから貰った飴を舐めつつ、更にこれ以上の迷惑を掛けない為にも、知覚神経と思考速度を魔法で活性化させる事にしました。これで気分がすっきりして――って、これでは完全に違法ドラッグをキメてる人と同類になるので、昼休みは寝て過ごし、午後の授業では使わないようにしました。如何しても眠くなった時は、ステルス化させた探索魔法を町中に飛ばして、ジュエルシードを探したりして気を紛らわせ、何とか放課後へ。

 

 何時もの私なら、平日は塾や習い事で忙しいアリサちゃん達に別れを告げ、真っ直ぐ帰路に着くところですが、今回は授業中に探知したジュエルシードらしき物の反応を確かめる為、その現場へ少し寄り道する事にしました。

 

 現場である八束神社へと続く石段の前で、応援として駆けつけてくれたスクライアさんと合流。一先ず、山の中腹にある境内を目指して石段を登り「きゃー!!」――もとい駆け上がります。

 

 石段を登り詰め、境内を見回すと気絶している人と、明らかに異形な獣の姿がそこにありました。なので、飛行魔法で地理的優位を取った上で、そこから誘導弾を念入りに撃ち込み、ぴくりとも動かなくなった状態で封印。無事にジュエルシードを回収する事が出来ました。

 

 尚、一連の行動にスクライアさんから「やり過ぎなような……」と若干引いた感じの指摘をされましたが、ジュエルシード等という訳の分からない物は、変に暴走される前に“初見殺し”且つ“先手必勝”の心構えで対処した方がより安全に、そして被害の局限化に繋がるのではと自論を語ったところ、「確かに“なのは”さん程の魔力が有れば、それでやれなくもないんだけど……」と前置きして、色々なやり方を教えてくれました。

 

 隙を突いて攻撃を差し込むやり方。行動を誘って移動先に攻撃を置くやり方等々。どれもゲームでは御馴染みの戦術でしたが、魔法という分野でも似たような事が出来ると気付かされ、不思議なことに胸が高揚感で満たされて行きました。

 

 正直言って、ジュエルシード集めは危険で怖くて、痛い事もその内あるかもしれません。ですが魔法を使うのは本当に楽しくて、もし私のような他の魔導師ともゲームの様に対戦が出来たりしたら、それはもう最高に楽しいんだろうなって。そう思うと、ワクワクが止まらないのです。

 

 そんな訳で、私は更なる技量向上を目指すべくスクライアさんに御教授を願う事にしました。「スクライアさん。デバイス無しで魔法を使うコツってありますか?」――と。

 

………

……

 

 そして帰宅後。夕食やら湯浴みを済ませて、時刻は夜の7時半頃。灯台下暗しとはまさにこの事でしょうか。スクライアさんと練習がてら、デバイス無しで探索魔法――通称“サーチャー”を飛ばしていたところ反応を検知。場所は、私が通う私立聖祥大付属小学校でした。時間帯が時間帯なので、お兄ちゃんかお姉ちゃんのどちらかに同伴して貰おうと思ったのですが、どちらも付いて行くとの事だったので共に現場へ。

 

 お兄ちゃんとお姉ちゃんは、何時ものように軽快な走りで。そして私は、歩幅差がどうしようも無いため魔法で身体強化をして強引に付いて行ってますが、こうして一緒に走ってみると、なかなか如何して楽しく感じます。年齢が離れている事もあり、これまで一緒に何かをするという事は余り無かったのですが、これからはお兄ちゃんとお姉ちゃんの朝のランニングに付いて行くのも有りなんじゃないかなー、と思いました。

 

「あ、お兄ちゃんお姉ちゃん。敷地に入るのは、ちょっと待ってて」

 

 閉ざされた校門を飛び越えようとする二人を呼び止め、意識を魔法構築へと集中させます。

 

「如何した。何かするのか?」

「結界を張って、部外者弾きと被害の局限化を少々。……うん、何とか出来た。如何でしょうか、スクライアさん?」

「申し分の無い出来だと思うよ。ただ、“なのは”さんの戦闘スタイル的にはちょっと狭いかもだけど」

「へぇ……。魔法って何でも有りなんだねー」

 

 そして私達は、夜の学校という学生なら心躍るシチュエーションを大いに満喫したのでした。ちなみに、戦闘自体は角が生えた成人男性サイズの鼠さんっぽいのを「試しにやらせてくれないか?」との事で、お兄ちゃんとお姉ちゃんが撹乱し、共同で切り崩すという大変スプラッタな戦闘となり、やはり魔法には魔法で対処すべきだなと私は現実逃避しつつ、なるべく残骸を見ないようにジュエルシードを封印。その哀れな暴走を終わらせてあげました。

 

 尚、SAN値チェックでクリティカル判定を出したスクライアさんは、発狂とまでは行きませんでしたが、苦悶に満ちた表情で静かに気絶していました。出来れば、私も女の子らしく穏やかな表情で気絶したかったのですが、お兄ちゃんやお姉ちゃんの鍛錬による擦り傷や切り傷などを見慣れてしまった為か、知らず知らずの内に血肉への耐性が付いていたようです。

 

 しかしそれでもやはり、しばらくは肉料理を見たくないなーと少し思いました。

 

 

 

 



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第3話:思うからこそ不満なの

人物紹介
【高町 桃子】
“なのは”の母。高町家の大黒柱で、喫茶『翠屋』の店長。一家を支える為に日々忙しく働いている。明るく、楽しい事が好きで、旅行などの提案は大体この人の発言から始まる。

【フィアッセ・クリステラ】
実質、高町家の一員であり、自他共に認める長女的ポジションのお姉さん。かつて『翠屋』のチーフウェイトレスだったが、現在はイギリスで『クリステラ・ソング・スクール(CSS)』の学園長として経営する傍ら、歌手としても活動している。



Side:なのは

 

 あの惨劇を経て再帰宅後、お兄ちゃんとお姉ちゃんは興奮冷めやらぬのか山へ模擬戦しに向かい、スクライアさんは悪夢にうなされていたので、お兄ちゃんの部屋へと放置。そして私は、シャワーで軽く汗を流してからキッチンでホットミルクを作り、2階の自室へと戻りました。ええ、はい。そうなのです。これは寝る為の準備ではなく戦う為の準備であり、私はこれから学生の宿敵たる宿題と戦わなくてはなりません。

 

 今まで帰宅部だった事もあり、あまり苦には感じませんでしたが、ジュエルシードを集める傍らでやろうと思うと、これが結構煩わしいのです。

 

 ただでさえゆっくり出来ないのに、アリサちゃんや“すずか”ちゃんとメールで遣り取りする時間、家族や晶ちゃんやレンちゃんと話す時間、テレビを見る時間、本を読む時間。そういった贅沢な時間の使い方が出来なくなってしまい、私は平日を学業と塾と習い事で予定を埋めているアリサちゃんと“すずか”ちゃんに、尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。

 

 そんなこんなで宿題終了。ホットなミルクが常温になるまでには終われたのですが、時刻は夜の9時42分。何かをして寝るには時間が足りず、何もしないのでは勿体無いように思える時間です。取り敢えずコップを洗うべくキッチンへと向かうと、そこにはお母さんの姿がありました。どうやら、食卓で帳簿と睨めっこしているようです。

 

「お帰りなさい、お母さん」

「ただいま、なのは。恭也と美由希は何時も通り?」

 

 声をかけると、お母さんは思案中であった筈なのにも(かかわ)らず帳簿から目を離し、仕事疲れを感じさせない笑みで私を温かく迎えてくれました。

 

「うん。もう40分くらい前には出て行ったよ」

「そう。ところで今日、“なのは”は何をしていたのかしら?」

「えっとね、今日は――――」

 

 学校での事、そしてジュエルシード回収での事。それらの事を掻い摘んで話すと、お母さんは私の寝不足を心配したり、お兄ちゃんとお姉ちゃんの行動に呆れたりして、そして最後に「頑張ったのね。あまり無理をし過ぎちゃ駄目よ?」と締めくくって、私の頭を撫でてくれました。

 

 

 

 これだけ、なのです。

 

 

 

 家族旅行をする場合でもない限り、年中無休で喫茶『翠屋』を経営するお母さんとの会話は、朝食時や夜のこの時間帯でもない限り滅多にありません。休日だと昼食時に戻って来る時に会えますが、その短い時間で家事をこなしたり家計簿を見直したりするのであまり話せる事は無く、此処最近は私がジュエルシード回収で忙しい事もあり、話せる時間は益々減っています。

 

 勿論、分かってはいるのです。店を建てた時の借金、商店街の表通りという一等地の借地料、あとは調理機材やら各種設備の維持管理費、食材等の調達費、共に働くスタッフ達の給料となる人件費など本当に色々とお金が掛かる訳で、それをお母さんとお兄ちゃんが支え、今の暮らしが守られているという事も。

 

 なので、お母さんが私の話を聞くことぐらいしか出来ずとも、それだけで有り難いと思っていますし、私も同年代の子達のような親と過ごす休日という物を諦め、こうした僅かな一時を大事にしています。

 

「イエス」

「ふふっ……。“なのは”ったら、フィアッセみたいね」

 

 それから歯を磨いて、ベッドにダイブし、そして翌朝。昨日よりはマシな気だるさと共に起床し、晶ちゃんとレンちゃんが共闘して作った朝食(息が合っても仲は悪いので、喧嘩しながら作るのです)を食べ、何時ものように登校。すると何故か、校門に警察車両が止まっていました。

 

 嫌な予感がして、アリサちゃんと“すずか”ちゃんと共に人が集まっている方へ行ってみると、案の定と言うべきでしょうか。穴だらけとなったグラウンドで、警察の人達が現場検証をしていました。そうです。昨日の惨劇の舞台となったグラウンドの戦闘痕が、どうやら悪質な悪戯として通報されてしまった様なのです。

 

 お兄ちゃん曰く、「御神の剣士の踏み込みは、地を穿(うが)つ」だそうなので、多分その踏み込みが小さいクレーターとなり、そしてジュエルシードの異相体による抵抗もとい攻撃が、大きなクレーター等になっているのでしょう。昨日は暗くて分かりづらかったのですが、最早ロードローラー等の工事用車両が必要なのではと思う程にはデコボコになっていて、私は朝から良心の呵責(かしゃく)に悩まされる事となりました。

 

 そんな訳で午前中は憂鬱な気分で過ごし、午後は社会見学の一環で町へと繰り出しつつ探索魔法でジュエルシードを探したりしましたが特に反応は無く、そして放課後。

 

「で、今日の悩み事は何かしら?」

 

 唐突に、アリサ尋問官からの鋭い追究が始まりました。勿論、“すずか”書記官も一緒です。

 

「最近、変な事件が多くて怖いなーっていう悩み事を少々」

「ダウト。声に感情が篭もってないわよ?」

 

 如何やら、今日のアリサちゃんは一段と手強いようです。とはいえ、正直に伝えても心配させてしまうだけですし、アリサちゃんと“すずか”ちゃんには、何も知らず日常側を満喫して欲しいという勝手な願望もあって、あまり話したくはなかったりします。

 

 そも、魔法とは私の日常に入って来た異物である事には変わりなく、使っていて楽しいとは思いますが、例外的にジュエルシードのような危険な物もあり、知らずに済むのならそれはそれで良いと思うのです。知ってしまえば、きっと関わらずにはいられませんから。

 

「うーんとね……。特に家庭問題とか、私の反抗期や倦怠期とか、実は色恋沙汰とか、学校の成績とか、将来の悩みとか、周囲への不満とか、そういったアリサちゃんや“すずか”ちゃんが想像するような事は、何にも無いよ」

「じゃあ、それ以外で何を困っているのよ?」

「危険物探し」

「そう、それは大変ね。……って、納得するとでも?」

「かなり要約して端折っているけれど、残念ながら曲げようがない事実なのです」

「ふーん……。ところで“なのは”、今度の日曜日なんだけど――――」

 

 納得したのか諦めたのか、アリサちゃんの追究はそれで終わり、話題は御茶会へのお誘いへとシフトしました。ちなみに、アリサちゃんも“すずか”ちゃんも社長令嬢で、私と同じように読書やゲーム等もするのですが、趣味の1つに御茶会というものがあり、基本的にアリサちゃんの家(大豪邸)・“すずか”ちゃんの家(大豪邸)・喫茶『翠屋』(比較対象外)の三箇所で行われていて、今回は“すずか”ちゃんの家で開かれるようです。

 

「あのね、“なのは”ちゃん。今回も、ちょっと遅くなるかもだから……」

「うん。またお兄ちゃんに頼んでみるね」

「あ、ありがとう…」

 

 そして何時ものように遣り取りをし、お互いに薄く笑みを交わし合いました。尚、真相を知っているアリサちゃんからの冷ややかな視線が少し痛かったですが、同志“すずか”との親交を深めたところで本日は解散となりました。私は家へ。アリサちゃんと“すずか”ちゃんはバイオリンの御稽古へ。という訳で、送迎車に乗った二人を見送り、見えなくなるまで待ったところで、私は寄り道がてら危険物探しへと向かうのでした。

 

 どうせなら、危険物よりも硬貨を見つけたいところなのですが、はてさて……。

 

 

~~

Side:アリサ

 

 

「ねぇ、アリサちゃん。本当にあれで良かったの?」

 

 車が走り出してから数分後。平生よりも口数が少ない私に気を利かせたのか、“すずか”が話を振ってくれたのを受け、先程の会話を思い出しつつ言葉にしてみる。

 

「“なのは”が変に強情なのは――――って言うと、まるで駄洒落ね……。こら、そこ笑わないの。とにかく、まともに相談してくれないのは何時もの事だし、何より困っている理由で『危険物探し』って答えが返ってくるなんて、完っ全に予想外よ。あの場は、戦略的に退かざるを得なかったわ」

 

 と言うか、危険物探しで困っている親友にノータイムで的確な助言が出来る人など、この世に存在するのだろうか? 等と言うツマラナイ思考は除外して、更に思考を巡らせていく。

 

 “なのは”が嘘や冗談を好むような性格ではない事ぐらいは知っているので、「危険物とは何かの暗喩であり、理由があってそれを探しているのかもしれない」とまでは想像出来ても、その深刻さまでは推し測れないし、何よりあの説明の仕方では「心配させたくはないけど、関わらないで欲しい」という迂遠な拒絶のようにも思えて、如何しても二の足を踏んでしまう。

 

「多分、核心へ踏み込もうが待っていようが、“なのは”なら教えてはくれるだろうけど、そうじゃないのよ。変な言い方だけど、『危険物探しに付き合って』なんて言ってくれるような、そういう気が置けない仲でありたい。……なーんて思っているんだけど、“すずか”はどう思っているの?」

「私も概ね同意なんだけど、“なのは”ちゃんとは出会ってまだ二年くらいだし、そう焦ることも無いんじゃないかな?」

「そんなものかしら……?」

 

 “すずか”の言う通り、ワインのように歳月と共に深みを増していく付き合い方も有りなのだろう。実際、私の両親がそんな感じで、あんな関係を築ける間柄は羨ましいとも思ってしまう。しかし私は子供で、だからこそ甘いジュースが欲しいのだ。笑い合って、楽しんで、手を取り合って、そんな憂いの無い快活な青春とやらを私は謳歌したい。そう願って止まないのだ、この心が。

 

 

 

 だって大人になれば、それはきっと飲めなくなってしまうのだから。

 

 

 



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第4話:それは、如何しようも無かった出来事なの?

人物紹介
【アリサ・バニングス】
私立聖祥大学付属小学校3年生。“なのは”と“すずか”の親友。明るく竹を割ったような性格で、良くも悪くもズケズケと意見を言うタイプ。そしてやや高飛車でもある。

【月村 すずか】
私立聖祥大学付属小学校3年生。“なのは”とアリサの親友。引っ込み思案で大人しい性格。アリサに憧れ、“なのは”に懐いていて、その関係は何処か危ういようにも見える。



Side:なのは

 

 結局、昨日はジュエルシードは見つからず、本日は待ちに待った土曜日の休日。何時も通りならゆっくりと過ごしたいのですが、未だに危険物が17個も何処かに転がっている訳でして、心置きなく過ごす事など出来そうにありません。

 

「という訳でスクライアさん。転移魔法のイロハを教えて頂きたいのですが……」

「イロハ……? まぁ、転移魔法を教えるのは構わないけど、急にどうしたんだい?」

「もし、スクライアさんと私が手分けをして探している最中に其方で見つけた場合、飛んで行くよりも転移した方が早そうかなって思ったんです」

「なるほど。それじゃあまず、転移魔法の仕組みから説明するけど――――」

 

 そんな感じで午前中は魔法講義に時間を費やし、昼食はキッチンで夕食の仕込みをしていたレンちゃんが出してくれた有り合わせを頂き、さて午後はと考えていたところで、短い揺れと共に嫌な魔力の波長を感じました。

 

「地震……? にしては、ちょう短いよーな……?」

「レンちゃん。私、ちょっと出かけてくるね」

「ほーい。留守番なら任せとき~」

 

 自室に戻って【レイジングハート】を手に取り、スクライアさんと合流して再び階下へ。そして靴を履いて庭へと向かい、セットアップ。演算は【レイジングハート】に任せて現場付近の上空へと転移し、そこから飛行魔法で魔力の発生源へと向かいます。

 

「酷い……」

「多分、今回は人を取り込んだのかもしれないね……。過去の文献にも、似たような事例があったよ」

 

 先行させた探索魔法が映し出した光景は、そう形容せざるを得ない程の有様でした。市街地やビルなどの商業施設を含む一帯を巨大な樹木が囲むように多数出現しており、道路は寸断され、樹木の枝や根が建物を損壊させ、車や施設を貫いていました。これまでの比較にもならない大惨事に思わず目が眩みそうになりましたが、この事態を収拾出来るのは現状私だけなのです。

 

 

 

 ならば、終わらせないといけません。

 

 

 

「何時も通り、封印すれば終わりなんですよね……?」

「それはそうなんだけど、これだけ魔力反応が多いと一体どれが本体なのやら……」

「…………全部、撃ち抜けば良い」

「えっ?」

 

 空中で静止して、【レイジングハート】を砲撃形態へと変形。その場から見下ろすと、そこには異相体の本体候補となる樹木が7つ視界に入っており、互いが互いを結び合うように根で繋がっているのが見て取れます。どんな願いが、ああいう風に歪められてしまったのかは分かりません。興味がありません。ただただ平和を(おびや)かす敵として、早く取り除かなくては……。

 

「レイジングハート、お願い!」

[-Buster sphere. Stand by.-]

 

 願い通り、【レイジングハート】は膨大な魔力を使って魔法陣で組み上げられた球体を六基生成し、それぞれの樹木の直上に配置してくれました。そして私は、一番近い樹木に【レイジングハート】で直接狙いを付けて姿勢を固定し、惜しみなく魔力を注ぎ込みました。全てが終わるように。そう祈りを込めて。

 

「無茶だよ“なのは”さん! それよりも、サーチャーで本体を見つけた方がよっぽど……」

「分かってるよ。それが確実で、負担が少ないって事ぐらい。でもね、――――」

[-《 Divine halo 》-]

 

 七つの光が、樹木を貫く。

 

「――――如何しても、許せなかったの」

 

 それはとても呆気ない終わり方で、この惨状も嘘のように消えてくれれば良いのにと、そう思わずにはいられませんでした。

 

 

 

~~

Side:レン

 

 夕食の仕込みが終わってもーて、他にする事はと縁側で悩んどると、桜色のいかにもーな魔法陣が出現し、呆けたまま見守っていると粒子が人の形を取り始め、やがて“なのは”ちゃんに成りました。これまで喋るフェレットや、魔力弾とかゆーのも見せてもろうたけれども、未だに“なのは”ちゃんが魔法少女となった現実が非現実的過ぎて、どーもイマイチ実感が湧きませんな~……。

 

「お帰りー、“なのは”ちゃん」

「うん……。ただいま、レンちゃん…………」

 

 あ、理由はよー分からんけど、これは放置したらアカン奴や。

 

「“なのは”ちゃん、どないしたん?」

「えっとね……。覆水(ふくすい)(ぼん)に返らないかなーって考えていたの」

「あー、なるほど。そーゆー事なんやね……。くよくよしてもしゃーないし、取り敢えずお風呂入って、ゆっくりして、それから考えてもえーやないんかな? 疲れきっていたら、良い考えなんて出てこないもんやで?」

「うん、それもそうだよね……。そうしてみる」

 

 縁側で靴を脱いで、しっかりと玄関へ靴を収めに行く“なのは”ちゃんの後ろ姿は一見平気そうに見えるものの、むしろ日常動作をなぞる事で心を落ち着かせているようにも見えて、本当はちょう心配なのですが此処はぐっと堪える事にしました。

 

「結局、自分で解決するんやろなぁ……」

 

 泣かず、甘えず。特に不安や不満、恐怖や悲しみといった事は誰にも打ち明けずに抱え込み、そうやって前に進んで行くのが私の知る“なのは”ちゃんという人物像で、子供らしくないし、もっと頼って欲しいなーとは思ったりもするんやけど、それがあの子の性分ならば、もうそれはそれと認めて付き合って行くしか無いのかなと……。

 

 とはいえ、何も出来ないもどかしさと、本当にこれで良いのかという自責の念で身悶えする辺り、私もまだ割り切れていなかったりするんですわ、これが。

 

「早う、御師匠や美由希ちゃんとか、帰って来てくれたらええんやけど……」

「ただいまー、って何を黄昏ているんだよレン。鍋でも焦がしたか?」

「お帰りー、晶。……って御呼びとちゃうわ、このお猿!」

「いきなりキレんなよ、この亀! やんのか!?」

「やっとる場合ちゃうねん! えーから耳かっぽっじって、よー聞け」

 

 気晴らしを兼ねて、口喧嘩を吹っかけながらも事情を説明。すると晶は、見るからに落ち着きを無くし始め、今頃は機械的に身体を洗っているであろう“なのは”ちゃんの事が心配で心配で堪らないといった感じで、「居場所を教えたら、このまま風呂場へ突撃するんやろかこの不審者?」と(ささや)く好奇心を抑え、そろそろ晶を正気に戻すべく(けい)を込めてデコピンを一打。

 

「痛っ?!」

「まぁ、まずは落ち着かんかいお猿。あそこまで意気消沈した“なのは”ちゃんは久々やけど、昔程やないし、きっと大丈夫やって。それよりも、そんな状態の“なのは”ちゃんに配慮させる方があかんとちゃうか?」

「それはそうなんだけどよ……。やっぱり何があったかとか、それを知ってこそ何かしてやれるんじゃないかとか、レンだってそう思うだろ?」

「不本意やけど、ちょう同意したるわ。せやけどな、普段の“なのは”ちゃんを思い出してみ? 不安や不満を誰かに相談しとる様子はあったかいな? 少なくとも、私の記憶にはあらへんで」

 

 普段から日常会話くらいはするし、勉強や料理などの知識や技術の教えを請われる事はあっても、未だにお悩み相談をされた事などは一度たりとして無く。きっと、聞けば何かしら教えてはくれるんやろうけど、その程度の悩みは“なのは”ちゃん的には如何でもいい物でしかなく、余計な御世話として映るのは明白な様に思えた。

 

「多分、無いな……」

「せやろ。んで、そういう人を無遠慮につつくと、次からは更に隠すよーなるとか、そんな悪循環しか生じないと私はそう思うんやよ」

「じゃあ、一体どうするんだよ?」

「どーもせーへん。何時も通りや。気分が落ち込んでいても、食欲をそそるよーな上手いもん作って食わせて、身体から元気にさせる。心身とは不思議なもんで、どちらかが悪うなるともう片方も駄目になるように、どちかが良すぎるともう片方も釣られて良くなるもんや」

 

 まぁ、実際そんなのは本人次第やけど、“なのは”ちゃんと高町家の面々なら乗り越えて行けるやろうし、晶のアホにはこれくらいの説明で丁度ええやろ。

 

「なるほど。たまには良い事を言うな、亀」

「たまにはちゃうで。私の言葉は全て金言や。ほな、さっさと聴講料を払わんかいお猿」

「誰が払うか。ちょっと褒めたからって調子に乗るんじゃねーぞ!」

「へー、“亀”が褒め言葉なんてうち初耳やわ。やはりお猿に日本語は、ちょう難し過ぎたかもしれへんな~」

 

 売り言葉に買い言葉。そして何時もの様に、私達は自然と拳を交わし合うのでした。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 御風呂に入って少しさっぱりしたあと、身体の水気を拭き取ってから服を着て、まだしっとりと濡れている髪をドライヤーでぱぱっと乾かします。長い髪は、それだけで女性のステータスと成り得ますが、それ相応の手間暇がかかる訳でして、更に此処最近の忙しさから時間節約を考えた結果、髪を切れば入浴時間も合わせて短くなるのではと、ふと入浴中に閃きました。

 

 なので、晶ちゃん程のショートカットはともかく、レンちゃん並みのミディアムカットには挑戦してみたいなとは思いますが、そうなると何時もしているツインテール(厳密にはピッグテールという髪型なのだとか)は諦めないといけません。

 

「そこそこ気に入ってはいたんだけど、これも大人への一歩という事で……」

 

 手で髪を隠し、鏡に映るミディアムカット風な自分を視覚情報と脳内補整を組み合わせて想像してみますが、特徴的過ぎるツインテールと、それを結ぶためのリボンが失われた自分は何とも言えない地味さで、清楚と言えば聞こえは良いのですが、やはり背伸びをするからには目線を誘導するための何かが欲しいところです。

 

「カチューシャだと“すずか”ちゃんと被っちゃうし、ヘアピンとかチョーカー辺りが無難な感じかな?」

 

 もしくは、耳たぶを挟むタイプのイヤリングや、伊達眼鏡など。――――と、色々現実逃避をしてみましたが、何時までもどったんばったんと争う音は途絶えそうにありません。きっと何時もの様に、レンちゃんと晶ちゃんが争っているのでしょう。そう、“何時もの様に”。

 

「なら、“何時もの様”に私が止めなきゃだね……」

 

 もう一度、鏡を見てみます。平生なら天真爛漫と評される表情からは程遠いものの、どうにか怒ったふりくらいは出来そうで、仲裁したあとは表情筋も良い感じに解れているかもしれない。そう思える程度には大分マシになっているような気がして、私は知らずの内に苦笑を漏らしていました。

 

「ふふっ、酷い顔……」

 

 その後、笑わせてもらったお礼として二人を拘束魔法で縛り上げ、みっちりと注意しておきました。勿論、“何時もの様に”です。

 

 

 



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第5話:新たな誓いなの

人物紹介
【鳳蓮飛(ふぉう・れんふぇい)】
私立風芽丘学園中等部2年生。通称、“レン”。高町家の居候で、家事と中国武術が得意。晶とは、性格の不一致により非常に仲が悪く、口喧嘩から本当の喧嘩への発展は日常茶飯事。恭也のことを“御師匠”と呼び慕っているが、正確には弟子ではない。

【城嶋晶】
私立風芽丘学園中等部3年生。同じく高町家の居候で、家事と空手が得意。レンとは極めて仲が悪く、事ある毎に勝負を仕掛けているが喧嘩に関しては連戦連敗中である。此方も恭也のことを“師匠”と呼んでいる。尚、弟子ではない。



Side:なのは

 

 一頻(ひとしき)り怒ってみせた後、私は少し晴れやかな気持ちで自室へと戻りましたが、すっかり失念していました。ジュエルシード許すまじ発言を聞いた発掘責任者であるスクライアさんが、どういう風に自責の念を感じるのかを。

 

「申し訳ありません、“なのは”さん。これまでのジュエルシードの暴走、そして今回の被害。本当に、本当に済みませんでした!」

「ええっと……」

 

 フェレットが直立状態から頭を下げるというシュールさと、あまりの言葉の重さにたじたじとなりましたが、私の中でその謝罪に対する思いが次々と溢れて来て、それを何とか言葉に纏めながら返事をする事にしました。

 

「確かに、スクライアさんがジュエルシードを見つけず、そして運ばなかったら今回のような事は起こらなかったのかもしれません。けど、それはもう有り得ない未来でしかなくて、今はただ前へ進むしか無いんじゃないでしょうか?」

「でも……」

「それにね、スクライアさん。あと16個もあるんですよ? そのどれか1つでもこの町を消し飛ばしたり、家族や知り合いに危害を加えたりしたら、私はスクライアさんを許せなくなるかもしれません。だから、その謝罪は受け取れませんし、受け取りたくありません。少なくとも、全てが無事に終わるまでは」

 

 そう、まだ16個もあるのです。全て回収するまでは気が抜けませんし、其処までは如何にか歯を食いしばってでも、付いて来て頂きたいところです。

 

「分かったよ、“なのは”さん……」

 

 それっきり会話は途切れ、何か深く考え込んでいるスクライアさんを部屋に残し、私は携帯電話を片手にリビングへと戻りました。先程まで床に正座させていた二人は何処かへ行ったようで、私は気兼ねなくテーブル上に置いてあったリモコンを独占し、テレビを点けてソファーへと座りました。

 

 とはいえ、決して昼ドラやバラエティー番組を見たい訳ではなく、やっているであろう臨時ニュースを探してチャンネルを次々と飛ばし、それらしいところで手を止めました。

 

「――返し、御伝えします。先程から番組内容を変更して御伝えしている通り、本日の午後1時頃、海鳴市藤見町で広範囲に渡って住宅やビルの損壊を伴う原因不明の被害が発生し、道路も各所で亀裂や隆起が見られるなど、警察や消防からは『地殻変動やテロなどのあらゆる可能性を視野に入れ、調査に当たる』との発表がなされております。また、被害の甚大さから自衛隊による派遣も検討され――――」

 

 何となく予想はしていましたが、事態は最悪な方へと向かいつつあるようです。その後も色々とチャンネルを変えてみましたが、時間が経つと共に目撃証言や証拠写真、果てには証拠映像までもが流れ始め、市街地を飲み込むように高速で成長する樹木や、空から降り注ぐ桜色の光線などがバッチリと映っているのを確認したところで、私はテレビから視線を逸らしました。

 

 それから意を決して携帯電話を開き、お母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃんと次々に電話をかけて安否を確認し、アリサちゃんとすずかちゃんは電話に出れない事が多いので、メールを送って返信を待ちます。

 

「…………やり方、変えなきゃだね」

 

 二人共郊外に住んでいるし、休日は家でペットと触れ合う予定だと聞いていたので大丈夫とは思うものの、やはり心配で。返信を待っている間に、気晴らしを兼ねてジュエルシードの対処法を見直すことにしました。

 

これまでは、封印状態のジュエルシードが発する微弱な魔力を頼りに探し回っていましたが、これだと反応が微弱過ぎて見落とす恐れや、探索に時間がかかってしまう事が難点でした。つまり、受動的では限界があるのです。

 

 なので、これからは能動的な探索もやってみようと思います。音波を出して、その反射音で物の位置を感知するエコーロケーションのように、魔力を飛ばしてその反応を感知する探索方法へと変えるのです。但し、懸念事項が2つ程。魔力を飛ばすので消費魔力が激しいのと、その魔力でジュエルシードが発動する恐れがある事です。

 

 前者は膨大であるらしい自身の保有魔力量で乗り切って、後者は予め結界を張ってからすれば問題は無いとは思うのですが、不測であるからこその不測事態を考えれば考える程に、果たして魔力や体力や気力が持つのだろうかと少し不安になります。

 

 

 

 例えば、敵対勢力という不測事態。

 

 

 

 以前、スクライアさんが一方的に念話で話してきた際に、輸送中の事故か襲撃で散らばったジュエルシードを追って来たと説明していましたが、よくよく考えてみれば【レイジングハート】などの機械を作れるような文明の輸送船が、そう易々と事故に遭った挙句大破するものなのかと。

 

 そう考えてみると、やはり事故の線は薄いように思えます。

 

 杞憂、なのかもしれません。きっと、あんな被害を初めて見たせいで気が動転して、それで心配性になって、悪い事しか考えられなくって、疲れていて、でも誰かに任せる訳にもいかないから私が頑張るしかなくて、だからジュエルシードは全部集めないといけません。それが終わればきっと、元の生活に戻れるのです。今までのように、何時までも平穏な暮らしが――――

 

「出来たら、良いなぁ……」

 

 テレビに視線を戻すと、映像は海鳴大学病院の入口付近の中継映像へと替わっており、救急車が引っ切り無しに負傷者を搬送している様子や、医者や看護師が慌しく対応している様子などを映し出していて、私はなんて酷い物と戦っているのだろうと、ぼんやりとそう思いました。

 

「でもまずは、全部終わらせないと駄目だよね……?」

 

 そうでなければ、望むことも始めることも(まま)ならないのですから。

 

………

……

 

 そしてその日の夜。私は一人で、海鳴市上空の高度三百メートル付近にて佇んでいました。これほどの高度ならば、人目を気にせず魔法を使って探索出来ますし、何よりも一人で居られるのです。空は静かで、星や月は明るく奇麗で、陳腐な表現ですがまるで別世界の様。お兄ちゃんとお姉ちゃんには悪いのですが、今度からはこうして探そうと思いました。

 

「この方が効率的だし、バリアジャケットが無いお兄ちゃんとお姉ちゃんが、万が一にでも負傷する恐れも無くなって、まさに良い事尽くめだよね……。うん」

 

 ただ、少しだけ暇なので独り言が増えてしまうのは難点ですが……。とはいえ、誰かと話したいかと言うとそうでも無かったりします。アリサちゃんと“すずか”ちゃんは安否報告がてら電話してくれて、お兄ちゃんとお姉ちゃんは予定を切り上げ、そしてお母さんは店を早目に閉めて帰って来るなど、皆が私のことを心配してくれました。

 

 だから不安や心残りな事は無く、私はこうして空を飛んでいるのですが、やはりジュエルシードが見つからないと結界を張って探索、無ければ次のエリアへ移動といった作業の繰り返しとなるので、その合間に空中戦闘機動をやってみたり、誘導弾をぐねぐねと曲げて飛ばしてみたりしながら2時間程。

 

 その結果、励起(れいき)前のジュエルシードを1個見つける事が出来ました。今日だけで2個も集められたのは良い事なのですが、まだ15個も不発弾のように何処かへ転がっている訳でして。気が抜けない日々は、まだまだ続きそうです。

 

「目標、自宅。転移」

 

 取り敢えず、本日はこれまで。明日は、“すずか”ちゃん家で御茶会があるので7時に起床して、朝シャワーやら朝食を済ませ、おめかし等をして、更に同時並行してお兄ちゃんにも準備してもらってエトセトラ。

 

 正直、現状の危うさを考えるとそんな事をしている場合ではないのですが、深刻さを認知する以前の招待とはいえ今更断る訳にも行かないですし、折角なので実益を兼ねてその周辺一帯を探索してしまおうと思います。願わくば、何事もなく平和なままで終わりますように。

 

 

 



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第6話:千客万来、月村邸なの

人物紹介
【ユーノ・スクライア】
“なのは”にレイジングハートを渡してからは裏方へと回っており、広域探索魔法によるジュエルシード探索を主にしている。現場では何があるか分からない為、なるべく“なのは”に付いて行こうとするが、折りが悪い事もあってなかなか立ち会えずにいる。


Side:なのは

 

 たとえ昨日に悲惨な事があっても、今日は“すずか”ちゃんの家で御茶会をする日です。十分な睡眠を取ったので目覚めは良く、朝シャワーをして、朝食を適量摂取して、身支度して、朝のニュースをチェックして、お兄ちゃんと一緒に家を出て、バスに乗って移動します。

 

 ちなみに何故、同級生とのお茶会にお兄ちゃんが一緒なのかと言いますと、これには同志“すずか”の姉である忍さんの存在が深く関わっておりまして……。要約すると、忍さんがお兄ちゃんに片思い中なので、その橋渡しをしているのです。しかしながら、私も善意だけでやっている訳ではありません。

 

 お兄ちゃんは、身内贔屓を抜きにして見ても眉目秀麗かつ人格者で、とにかく女性からモテるのですが、そろそろバレンタインデーに貰ってくるお菓子の量が笑えなくなるレベルとなって来ており、お母さんが以前「結婚してくれれば解決するんだけど、恭也ったら剣術一辺倒だし、はたして何時になるのやら……」と悩んでいたので、お兄ちゃんとも面識があって、“すずか”ちゃんからの話で人柄を知っている忍さんがベストかな、と思い立ったのが切っ掛けでした。

 

 それからは、“すずか”ちゃんと共謀して月村家と高町家の合同花見会をしたり、お祭りで鉢合わせするように計らったりと色々やったのが実を結び、かなり良い感じになりつつはあるのですが、如何してもあと一押しが足りないような……? とも思ったりする今日この頃です。

 

 とはいえ、そういった考えはこれまでも、そしてこれから先でも余計な御節介でしかない訳でして、私にとってはこの辺りが引き際なのかもしれません。あとは、忍さんとお兄ちゃんに任せて見守るべきなのでしょうが、やはり来年のバレンタインデーまでには如何にかなって欲しいのが正直な思いです。

 

「……なあ、“なのは”。無理はしていないか?」

「ふえっ?」

 

 そして余計な考え事をしていた弊害でしょうか。お兄ちゃんからの唐突な話しかけにマルチタスクが追いつかず、意図しないエラーが音声として外部出力されてしまいました。その結果、お兄ちゃんはそれを悪い兆候と判断したらしく、心配そうにしながらも話を続けました。

 

「昨日の事件で、死傷者が出た事に負い目を感じているんじゃないかと思ってな」

「うーんとね……。最初は動揺したけど、今はそれ程でもないよ」

 

 未然に防げたかもしれないし、防げなかったかもしれない。でも、それはもうとっくの昔に終わってしまった事で、今となっては如何しようもありません。一応、簡単な治癒魔法ぐらいは使えるので負傷者を治療して回るのも有りなのですが、そうするぐらいなら次の被害を出さない方向へ努力すべきだと思うのです。

 

「だからね。心配しなくても大丈夫だよ、お兄ちゃん」

 

 それっきり、お兄ちゃんは気不味くなってしまったのか無言となり、私も語り尽くしてしまったので同じく無言のまま目的のバス停で降車して、残すは徒歩7分の道程のみとなりました。然れども、そのまま黙って歩いて行くのもまた気不味かったので、気にしていない事を迂遠に伝えるべく手を繋ぐと、お兄ちゃんは照れくさそうにしながらもしっかりと握り返してくれて、私は自然と頬が緩むのを感じました。

 

 しかしながら、この幸せは7分後に月村家筆頭メイドのノエルさんに分断された後、お兄ちゃんはノエルさんと共に忍さんの元へ。そして私は、“すずか”ちゃんの専属メイドであるファリンさんに案内されるがまま、アリサちゃんと“すずか”ちゃんが待つ部屋へと足を踏み入れ――――られませんでした。開き戸なので、ノブを回して押せば開くはずなのですが、何かにぶつかっているらしく上手く開かないのです。

 

「ぬおー」

 

 この特徴的な声は確か……?

 

「ごめんねファリン、“なのは”ちゃん。今、ドルジを退かせるからちょっと待っててね」

「かしこまりました、お嬢様」

「はーい。了解なの」

 

 そうそう、ドルジでした。メインクーンという猫の中でも一番大きくなる種類の子で、その体長は1メートルを優に超え、体重も堂々たる10キロ超え。そんな大人でも持ち上げるのに苦労する猫を、何故か“すずか”ちゃんは軽々と持ち上げて動かすことが可能です。

 

 本人曰く、重心をへそ辺りに密着させて、持ち上げる時は足と背中の筋肉を使えば簡単だよ等と言っていますが、単純に“すずか”ちゃんが力持ちで、コツが如何こうと言う次元では無いような気がします。

 

「お待たせ~。いらっしゃい、“なのは”ちゃん」

「御邪魔します、“すずか”ちゃん」

 

 その後、ようやく入室を果たし、私は“すずか”ちゃんと奥で寛いでいたアリサちゃんにも挨拶して、さて今日は何をと女子トークに花を咲かせるのでした。無論、ついでの目的であるジュエルシード探索も、マルチタスクでしっかりとこなしつつ。

 

………

……

 

「――――それで今、私と“すずか”の両親が大規模なテーマパークを作っているんだけど、水族館とかジェットコースターも設置して、3年後を目処に開園するんだって」

「それにね、VR技術を応用したライブ会場や、アトラクションとかも作るらしいの。楽しみだよね~」

「へー、何だか面白そうだね」

 

 アリサちゃんと“すずか”ちゃんには空返事となって申し訳ないのですが、3年後という大分先のネタバレをされた側としては、わくわく感が目減りしてしまったのと、マルチタスクで処理能力を割いている影響もあって、如何しても返事が疎かになってしまいがちです。

 

 ちなみに現在は、レースゲームで熱い攻防戦を繰り広げた室内から移動して、森が見えるテラス(月村邸周辺の森も、私有地の一部なのだとか)でアフタヌーン・ティーと洒落込んでいます。

 

 テーブル上に置かれたティースタンドに載っているサンドイッチやケーキは、お母さんが作る物と遜色(そんしょく)が無いほどに美味しく、このレベルの物を食べれる我が家の環境は、“すずか”ちゃん達とはまた別の意味で恵まれているのだなと実感したところで、空気を読まないジュエルシードが検知されてしまいました。

 

 無ければ無い方が良かったのですが、見つけてしまった物は仕方がありません。此処は花を摘みに行くと言って2人から離れ、結界を発動させて隔離。それから確実に――――

 

「あっ……」

「うん? ねぇ、“すずか”……。森から光の柱がドドーンって出てるんだけど、あそこって何か仕掛けているの?」

「えっと……。お姉ちゃんが変な実験とかしない限り、あそこには何も無いはずなんだけど…………」

 

 如何やら、遅過ぎたようです。そして程無くして、森から姿を現したのは巨大な猫ちゃんでした。その大きさたるやドルジなんて比ではなく、全高は5メートル程、全長は13メートル程でしょうか。首輪をしているので、月村邸に住まう猫の内の1匹なのかもしれません。それにしても、ジュエルシードの暴走にしては随分と可愛らしいビフォーアフターで、私も少し戸惑っています。

 

「もしかして、アイなの? なんで、そんなに大きくなって……」

「“すずか”、危ないっ!」

 

 名前に反応したのか、小走りで“すずか”ちゃんの元へと駆け寄ってくる猫。しかし大きさが大きさなので、その1歩1歩で詰めて来る距離が凄まじく、このまま飛び込んで来るにせよ、直前で止まってじゃれつくにせよ、危険である事には変わりありません。

 

「封時結界」

 

 なので、後々追究されてしまうかもしれませんが結界で2人を外側へと弾き出しつつ、【レイジングハート】をセットアップ。そして残ったのは私と、御主人を見失って困惑している猫と、展開中の結界へと侵入して来たアンノウンが1人だけでした。

 

 (ひたい)から(ほお)へと走る傷痕が特徴的で、無感情で、金髪で、黒衣で、斧状のデバイスをこちらへと向けていて、一見すると友好的には見えないアンノウン。ですが、僅かな期待を込めて挨拶を試みる事にしました。

 

「初めまして。どちら様でしょうか?」

「……バルディッシュ、行くよ」

[- Yes,sir. -]

 

 こうして、何故か金髪魔法少女バルディッシュさん(仮名)との戦闘が唐突に始まり、私はコミュニケーションの難しさを改めて実感するのでした。猫が月村邸の壁で爪とぎを始める前には終わらせて、それからジュエルシードを封印した後に御茶会を再開したいところですが、果たしてどうなる事やら……?

 

 

 



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第7話:思いと砲撃は一方通行なの

人物紹介
【月村 忍】
国立海鳴大学工学部1年生。“すずか”の姉で、唐変木やら朴念仁と名高い恭也を攻略しつつある恋する女子大生。元々同級生で、席が隣だった事もしばしば有ったとか。機械弄りを得意とし、近年ではマッドな方向に磨きが掛かっている模様。



Side:すずか

 

「アイ……?」

 

 森の方から、随分と大きくなった猫のアイが現れたと思ったら、突然消えてしまって……。私はただ、その現象に困惑する事しか出来ませんでした。何かが起こっている。それだけは確かなのですが、では具体的に如何すれば良いのでしょう? まるで、星の導きを見失った航海士のような気持ちです。

 

「“なのは”ちゃん……?」

 

 そして、アイと共に消えてしまった“なのは”ちゃん。あれから屋敷の周りを探しても、部屋を全て見回っても、一向に姿が見えません。アリサちゃんに手伝って貰っても、ファリンに手伝って貰っても、お姉ちゃんやノエル、恭也さんと総出で探してみても見つかりません。

 

 やはり、これは神隠しか何かなのでしょうか? そんな現象など、本の中だけの出来事だと思っていたのに、まさか本当に起こるなんて……。

 

 荒唐無稽な事であるのは重々承知しています。それでも、“なのは”ちゃんが居ないのは事実で、帰って来てくれるかも分からないのなら、やっぱり探しにいかないと見つけられないような気がするのです。なので森の方も探そうとしましたが、それだけは皆に止められてしまいました。もう何度も屋敷中を探し回って、まだ探しきっていないのは外だけだというのに。

 

 ねぇ、“なのは”ちゃん。今、何処に居るの……?

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 ネオンのように輝く金の光。それに合わせて斧が縦横無尽に風を切り裂き、黒衣の少女とツインテールが舞い踊る。その光景は素人目から見ても大変美しいのですが、距離が近過ぎるというのも考えものです。例えばそう、手を伸ばせば届く距離など。

 

「あの、休戦にしませんか? このままだと千日手ですし……」

[-《 Round shield 》-]

 

 先程までの光景を焼き直すかように円形の防御魔法を展開し、これまた同じように斧による一撃を防ぎます。正面から、横から、頭上から、背後から、真下から。ありとあらゆる方向と手段で繰り出される攻撃を防いでは対話を試みていますが、今のところ成果は芳しくありません。

 

「戦いたくないのなら、ジュエルシードを渡して下さい。そして――――」

[- Form change. Halberd-form. -]

「――――二度と、私の前に立たないで」

 

 少女の意思に呼応したデバイスが変形し、背丈を越すほどに柄が延長され、斧頭だけだった部分に槍頭と鉤爪が追加されたその形状は、名前の通りハルベルトそのもので。それを遠心力や、更に重厚となった魔力刃で威力を上乗せして叩き付けてくるものですから、手数は減っても脅威度は確実に増していると言えます。

 

「ハルベルトっ!」

[- Crusher. -]

 

 そして更に厄介なのが、この近接魔法です。それは堅牢な筈のシールドに亀裂を入れる程の高威力で、このまま耐えるだけでは遅かれ早かれ突破される恐れがありました。

 

 なので私は、対話による平和的な解決は諦め、武力による決着へと切り替える事にしました。大きくなった猫だって、何時までも凶暴にならないという保障は無いので封印しなければなりませんし、無事に戻らないとアリサちゃんや“すずか”ちゃん達を更に心配させる事になります。ですから、やると決めたからには早く終わらせなくては……。

 

「其方の事情は、よく分かりませんが――――」

 

 シールドをわざと爆発させてお互いを吹き飛ばし、此方を見失っている少女をサーチャーで捕捉すると、まずは速度重視のバインドで少女を簡易拘束。そして本命である強度重視のバインドで縛り上げ、砲撃魔法のチャージへと移ります。

 

「取り敢えず、やられた分は返しますね?」

 

 展開される4つの環状魔法陣と、その式に従い砲弾を形作る圧縮魔力。それを見た少女は、射線から逃れるべく必死に拘束魔法を解こうとしていましたが、私はすぐさまトリガーを引き、砲撃魔法を発射しました。もっと色々言いたい事や聞きたい事がありましたが、フルチャージまでに5秒と掛からない仕様だったので、何かをされる前にさっさと照射する事にしたのです。

 

 ちなみに、初めて人に向けて撃った砲撃魔法はバリアジャケットへ奇麗に直撃し、そして物の見事に粉砕&撃墜しました。そう、私は過信をし過ぎたのです。少女の薄そうなバリアジャケットでも、これくらいなら耐えてみせるだろうと。

 

………

……

 

[- チェック終了。魔力ダメージにより気絶しているだけのようです -]

「有り難う。レイジングハート」

[- Don’t worry. My master. -]

 

 あの後、気絶して地面へと墜落する少女を無事にキャッチした私は、心配もそこそこにその場へと寝かし、罪無き子猫を串刺し刑(封印魔法の仕様です)に処してジュエルシードを手早く回収。それから気絶している子猫を抱えつつ、再び少女の元へと戻って【レイジングハート】に診断してもらったのですが、どうやら命に別状は無いようで一安心しました。

 

 それにしてもこの少女。近くでよく見ると、満身創痍(そうい)といって良い程にボロボロです。バリアジャケットが解除されているので私服へと戻っていますが、全身に細長い傷や打撲痕が古傷の上から更に無数に走っていて、お兄ちゃんのように刀傷や銃創が重なり合った物とは、また別のような気がします。私と同じくらいの年頃なのに、一体何があったのでしょうか?

 

「結局、名前も聞けず仕舞いだったけど……」

 

 本来なら敵である以上、興味を持つべきでは無いのかもしれません。けれど、一度でも意識してしまうとなかなか拭い去り難く、同じ金髪のアリサちゃんを何処となく彷彿させるのも、原因の1つであるような気がします。

 

「ごめんね。私、そろそろ戻らないといけないから」

 

 そして私は、後ろ髪を引かれつつもその場を後にしたのでした。それからの事はあっと言う間で、結界の外へと出た私は『神隠し』をされた事になっており、“すずか”ちゃんからの熱い抱擁で絞め潰されそうになったり、アリサちゃんに涙ぐまれたり、大体を察していたお兄ちゃんからは、労わるような視線を送られたりと色々あって……。

 

 

 

 

 

 何故か、お泊りをする流れになりました。

 

 

 

 

 

 あのね、“すずか”ちゃん。明日は平日で登校日で、つまり学校がある日なんだけど、お泊りって最低でも2泊3日くらいじゃないと楽しめないと思うの。それにね、私はお泊りセットなんて何1つ持って来て――――あ、用意してくれたんだ。しかも下着類を含め、アメニティーもばっちりなんだね。なるほどなの。でも、流石に私の通学用鞄とかノートは……。ふむふむ。明日、お兄ちゃんがバス停で手渡してくれる手筈に? ふーん。じゃあ、制服は“すずか”ちゃんから借りる事になるのかな? え、盲点だったけど採用しちゃうの? いやその、“すずか”ちゃんが気にしないって言うのなら、私も気にしないけど…………。

 

 

 

~~

Side:忍

 

 ノエルと共に月見酒をしていると、夜であるにも(かかわ)らず軽快な三連ノックを響かせて部屋に入って来たのは、“すずか”と“なのは”ちゃんの世話を任せていたはずのファリンであった。一段落したら報告するようにと伝えていた為、きっとその件なのだろうと予想し、視線を向ける。

 

「忍お嬢様~、御報告に参りました!」 

「御疲れ、ファリン。“すずか”は、もう寝た?」

「いいえ。“なのは”お嬢様と一緒にベッドへ入ったまま、ずっと御話しをしているみたいですよ?」

「ふーん。何だか妬いちゃうなぁ……」

 

 今宵は満月。私達が、最も不安定になるその日に限って起きた不思議な事件。それは、“すずか”の感情を揺さ振るには十分過ぎる事件だったけれども、幸いな事に当事者だった“なのは”ちゃんを滞在させる事で如何にか落ち着きを取り戻し、そして今度は不安から高揚の方へと切り替わったとの事。

 

 災い転じて福と為すとは、まさにこの事だろう。

 

 今までは揺らぎを不快感として認識し、眠れぬ夜を過ごして来た“すずか”も(ようや)く此方側となったのは喜ばしいものの、私はワインで気を紛らわしているのに、“すずか”は気心の知れた友と存分に語り合い、満ち足りた夜を過ごしている。

 

 何なのだろう、この格差は。そしてこの敗北感は……。

 

 私も、恭也を引き留めれば良かったような? ――――等と、酔いや揺らぎがハーモニクスした大胆な思考が飛び出すも、何故その勇気と勢いが昼間に飛び出なかったのか悔いたところで後の祭り。しかしそんな事よりも、今夜ばかりは可愛い妹の成長を素直に祝おうではないか。

 

「興が乗ったわ。ノエル、ワインをもう一本取って来て。ファリンは、おつまみを追加で」

(かしこ)まりました。忍お嬢様」

「ラジャーです。忍お嬢様!」

 

 そして願わくば、あの子に永久なる月の加護が在らん事を。……なーんてね?

 

 

 



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第8話:束の間の安息なの

人物紹介
【ノエル・綺堂・エーアリヒカイト】
家事から戦闘まで如才無くこなす、クールな月村家メイド長。妹分であるファリンが度々発揮するドジっぷりや、主人や客人に対する慣れ慣れしさに頭を悩ませている。



Side:なのは

 

 ()くる日。私は、“すずか”ちゃんと自身の寝相の良さに感謝しつつ起床すると、ファリンさんに手伝ってもらいながら身支度をし、“すずか”ちゃんと共に優雅な朝食を済ませた後は、手ぶらで普段とは違う通学路を歩み出しました。

 

 ちなみに“すずか”ちゃんから借りた制服なのですが、身長がほぼ同じという事もあって問題無く着ることが出来ました。ただ、使っている洗剤が高町家の物とは違うようで、制服から微かに香るリッチそうな匂いに意識せざるを得ず、少しだけ浮き足立ってしまいます。――――そんな感じでブルジョワ感に浸っていると、先程から何かを話そうとしては躊躇(ためら)い、心の準備をしていたであろう“すずか”ちゃんが漸く話を切り出してくれました。

 

「あのね、“なのは”ちゃん。今更だけど昨日はごめんね……。急にお泊りさせちゃったり、その……、色々とね?」

 

 色々と思い出したのか、気不味そうにしながらも顔を赤らめる“すずか”ちゃん。確かに、色々とありました。力強い抱き締め(ベアハッグ)をされて自分に強化魔法をかけようかなと思ったり、御風呂で丹念に洗われたり洗ってあげたり、パジャマではなくネグリジェとベビードールの二択を迫られたり、驚異的な速度でトランプのスピードをしてみたり、ベッドの中で(むつ)まじく語り合ったりなど。

 

 少しだけ、はっちゃけているような?――と、普段よりも赤みがかった瞳を見ながらそう思っていましたが、如何やらその通りだったようです。

 

「気にしなくて良いよ、“すずか”ちゃん。私も楽しかったから」

 

 魔法を知って1週間も経っていないのですが、あの日からの日々はとても忙しく、そして危険で、取り返しの付かない惨事によって気持ちが落ち込んだりもしましたが、月村邸での御茶会や予定外のお泊りイベントの御蔭で、私の(すさ)んだ心が幾分か(いや)されたような気がします。なので感謝こそすれ、非難する気などこれっぽっちも有りません。

 

「ところで、なんだけど……。この制服、本当にクリーニングに出さないで返しちゃっても良いの?」 

「うん。私の我が儘で引き止めちゃったし、本当なら御詫びって事でプレゼントしたいんだけど、それだと“なのは”ちゃんが困っちゃうでしょ? だから、それでお相子って事で」

 

 結局、「急遽(きゅうきょ)決まったお泊りで、下着や翌日に着る制服はどうするの?」という些細な問題は、新品の下着上下のみならず靴下もプレゼントされ、更には“すずか”ちゃんの予備制服と指定靴も貸してもらう事で解決しましたが、肝心な返却方法については、放課後にファリンさんが“すずか”ちゃんと私を車で迎えに来るので、それに乗って高町家へ移動。そこで、私が昨日着ていた服及び靴と、私が今日着ている制服と靴を交換するというのが現状のプランだったりします。

 

 確かに、物の貸し借りや、精神的に『貸している&借りている』といった状態や認識はトラブルの元なので、早めに解消するに越した事はありませんが、私も年頃の乙女な訳でして……。靴はともかく、半日着ていた制服を洗わずに返すというのは、少しばかり気恥ずかしく思うのです。なので、如何にかならないかなーと思って粘ってはいますが、こうも善意を示されては、此方が先に折れざるを得ません。

 

「えっと…………。それじゃ、なるべく汚さないようにして返すね」

 

 “すずか”ちゃんの中では、如何いった理屈でお相子なのかよく分かりませんでしたが、こうして何気に神経を使う長い1日が始まったのでした。

 

………

……

 

「ヘー……。良いことを聞いたわ」

「アリサちゃん。白い制服にネームペンは、洒落にならないと思うの」

「あら、回したくなっただけよ?」

 

 バス停でお兄ちゃんから通学鞄を受け取り、無事登校後。習い事のため、お泊りに参加出来なかったアリサちゃんから取り調べを受けていた私ですが、制服の件を話し終えると不機嫌だったアリサちゃんの表情が一変し、にっこりと満面の笑みを浮かべたかと思うと、ペンケースからおもむろに取り出したネームペンを指の間に挟み、クルクルと器用に回し始めたのでした。

 

 明らかに、意地悪な事をしてその反応を楽しもうとする意図が感じ取れますが、ペン先の蓋を取っていないので万が一の事は起こり得ませんし、この行為も陰湿と言うよりはじゃれつくような物で、そう考えると微笑ましく思えて来ます。

 

「何かしら、その生温かい視線は…………」

「特に何でも。ただ、上手になってるなーって思っただけだよ?」

「ふーん……。ま、ありがと」

 

 何時も通りの、何気ないやりとり。家族が居て、友達が居て、話し合って、笑い合って、そんな楽しい生活を過ごせるだけで良かったのに……。なのに如何して、こんなにも近くに在るのに、遠いと感じる様になってしまったのでしょうか?

 

 本当に、不思議なものです。

 

 お父さんや、お兄ちゃんやお姉ちゃんの様に、望外とはいえ誰かを守れる力が手に入ったのは喜ばしい事です。そしてその才能があった事も。しかし魔法は、兵器のように、剣術のように、『高機能性遺伝子障害病(H G S)』の人達が使える超能力のようには認知されていない“力”で、一昨日の事件以降に拡散された動画や、写真に対する人々や世界の反応を見ても、混沌としているのが分かります。

 

 知ってしまえば、知られてしまえば、その結果が如何なってしまうのかは想像も付きません。ただこれ以上、荒れ狂う水面に石を投じたくはありませんし、其処から生じた波や飛沫が誰かに掛かって欲しくもないのです。だからその気持ちを通すのであれば、私は日常と非日常の境界線となり、その盾とならねばなりません。

 

 お父さんが、誰かを守る為にそうやっていた様に。お兄ちゃんやお姉ちゃんが、そうやっている様に。少しだけの間、日常の端へと遠退く。それだけで、たったそれだけの事なのです。それだけ、なのに…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから勝手に意気消沈してしまった私は、癖となりつつある広域探索魔法でジュエルシードを探しながら授業を受け、気が付けば放課後になっていました。

 

 勿論、その間に全校集会で一昨日の事件について先生方からの御話しがあったり、昨日出遭った少女がジュエルシードを収集しているのを感知したり、アリサちゃんに悩み事の探りを入れられたりと色々ありましたが、マルチタスクをしている時の会話は未だに不慣れなのもあって、どうも話した記憶が曖昧です。

 

「ねぇ、“なのは”ちゃん。今は、御話ししても大丈夫かな……?」

「大丈夫だけど、如何かしたの?」

 

 ちなみに今は、校門でアリサちゃんと別れ、“すずか”ちゃんと一緒にファリンさんが運転する送迎車に乗って高町家へと向かっています。

 

「うん。大丈夫みたいだね……。あのね、“なのは”ちゃんはアリサちゃんに悩んでないよって言っていたけど、それなら何を考えているのか教えてくれないかな? それとも、私達じゃ駄目なの……?」

 

 そう言われてみると、確かにそう言ったような記憶が朧気にありますが、如何答えたものか……。悩み所です。

 

「んー……。ごめんね、“すずか”ちゃん。ただ何時かは終わるから、それまで待ってて欲しいの。私から教えられるのは、それだけ」

「うんん。此方こそ、無理に聞いちゃってごめんね……」

 

 それっきり、何となくお互い無言のまま自宅へ着いてしまいました。我が家には狭い駐車場しか無いので、“すずか”ちゃんとファリンさんには玄関前で待ってもらって、私は自室で着替えた後、畳んだ制服を手近にあった紙袋へと入れ、二人の元へと戻りました。

 

「お待たせ、“すずか”ちゃん。パッと見た限りだけど、特に汚れてはいなかったよ」

「うん。奇麗に使ってくれてありがとう、“なのは”ちゃん。それとこれ、勝手に奇麗にしちゃったけど、昨日“なのは”ちゃんが着ていた服と靴だよ」

 

 そう言って手渡されたのは、何故だか高級そうなスミレ色のラッピングが施された箱でした。車内にそれらしい物は無いし、トランクにでも仕舞ってあるのかなと思っていましたが、まさかこうやって返されるとは予想もしていませんでした。途端に、手渡してしまった紙袋を申し訳なく思ってしまいますが、それはもう後の祭りです。

 

「それじゃ、また明日学校でね」

「あ、うん……。バイバイ、“すずか”ちゃん。ファリンさんも有り難う御座いました」

「いえいえ~、お気になさらず。また何処かでお会いしましょう、“なのは”御嬢様」

 

 そして二人を見送った後、私は自室へと戻り、何となくベッドへとダイブしました。気恥ずかしさと、気疲れと。とにかく色々な物が圧し掛かってきて、動きたくなくなってしまったのです。

 

「心なしか、羽も元気が無いような……?」

 

 ついでに、魔力源であるリンカーコアの具合をチェックするために、余剰魔力の塊である羽を寝そべったまま展開してみますが、若干色褪せているように感じます。

 

 それにしても、随分と大きくなったなーと沁々思います。初めてお兄ちゃん達に見せた頃は、まだ鴉の羽くらいの大きさでしたが、今では白鳥の羽よりも大きくなってしまって、むしろ邪魔とすら思える程です。

 

「分割って出来るのかな、これ……」

 

 何となくやり始めたこの羽は、【レイジングハート】に頼らず感覚だけで制御しているので、その限界が何処までなのかイマイチ分かりません。ただ、身体の一部のような物ではあるし、やはり何となく出来るだろうなという根拠の無い自信でやってみたところ、あっさりと羽は二対となり、サイズも相応に小さくなりました。

 

「これで良しっと」

 

 このままゆっくりとしたいのですが、ジュエルシード探しや宿題等やらなくてはならない事や、やりたい事は沢山あって、のんびりと過ごす事なんてとても出来そうにありません。それに、あの少女の動向も気になるところです。嗚呼(ああ)、もっと頑張らないと……。

 

 

 



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第9話:向き合う気持ちは本気なの

人物紹介
【ファリン・綺堂・エーアリヒカイト】
家事も戦闘も修行中の身ではあるものの、感情の豊かさではノエルを上回る元気な妹分。但し、フレンドリー過ぎるのとドジなところが一部の者を悩ませているが、本人は全く気にしていない。



Side:美由希

 

 幼い頃から刀を手に取り、振るい続けて来たこの人生。数奇な別れと出会いを繰り返し、数々の戦いを経て守りきれた未来を享受しつつも、私と恭ちゃんはひたすら技を磨き、己を鍛え続けました。何時か襲い来るかもしれない脅威から、大切な人達を守るために。しかし流石(さすが)に――――

 

「魔法は門外漢だよね、私達」

「うむ」

 

 テロで親を亡くしたり、銃弾の雨を掻い潜ったり、ボディーガード中に敵を切ったりもした私達ですが、私の妹はそれらに引けを取らない数奇な人生を歩もうとしていて、姉としてはかなり心配だったりします。既にジュエルシードという物のせいで死傷者が出ており、このまま手を(こまね)いていては被害がもっと拡大するかもしれません。

 

「という訳で、“ユーノ・スクライア”先生を特別講師として御呼びしました~」

「へ……? 相談があるってそういう事だったんですかっ?!」

「まぁ、そういう事だ。宜しく頼む」

 

 なので私と恭ちゃんは、事態解決に向けてどんな協力が出来るのかを知る為に、ユーノ君に助言を求める事にしました。幸いにも切れる事は分かっているので、あとはどう立ち回って行くか。そこを上手く詰めれたらなと思っています。

 

「家族を独りで戦わす訳にはいかんからな」

「私も、恭ちゃんと同じく」

 

 戦いとは無縁だったあの子が、あんなにも頑張っているのです。代わる事が出来ないのなら、せめて支えてあげたい。それが、私と恭ちゃんの偽らざる思いでした。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 私が学校へ行っている間、ジュエルシードがありそうな候補地をスクライアさんが主体となって絞り込み、放課後はその候補地へと赴いてジュエルシードを捜索&回収。最近では、この方法で成果を上げつつありましたが、今日は珍しいことに空振りばかりです。

 

 と言うのもそれは、月村邸で出遭ったあの少女が日中に回収しているからであって、義務教育で学校に拘束されている私や、単独での封印に難があるスクライアさんでは、その後塵を拝することしか出来ないのは当然の帰結ではありますが……。

 

 

 

 さて。

 

 

 

 ジュエルシードという地雷が放つ、微弱な固有魔力波を頼りに探すのが広域探索魔法で、地雷探知機のように特殊な魔力波を放出し、返って来た反応で場所を特定する私の魔法を探知魔法とするならば、ありそうな場所に魔力流を落として強制発動させる少女の凶行は、何と形容すれば良いのでしょうか? 

 

 火遊び? それとも自分で発動させて封印するので、マッチポンプ?――――どちらにせよ、安全性を考慮しない危険な方法だとは思います。

 

「取り敢えず、封時結界を……」

 

 被害局限化のために結界を展開しつつ、そのついでに少女を外側へ弾こうとしましたが、難なく入られてしまいました。そして発動するジュエルシード。どうやら向こうは是が非でも回収する気のようで、既に臨戦態勢です。

 

 私としては無用な争いは避けたいところですし、悪用せずに地球から持ち去ってくれるのならスクライアさんには悪いのですが、それとなく手伝うのも吝かではありません。しかし悪用をしないという確証が無い今、この場には私と危険物と危険人物のみで、平和と安全のためにも看過する訳にはいきません。

 

 とにかく、まずは危険物に対処すべく《 Divine buster 》を照射。向こうも同様の選択をしたようで、お互いの封印砲が励起状態のジュエルシードへと突き刺さり、数秒とかからずあっさりと封印状態へと戻りました。あとは、危険人物が残るのみです。

 

「昨日振りですね」

「……また、私の邪魔をするんですか?」

「それは貴女次第、かな……?」

 

 嫌悪、警戒、畏怖。どちらとも取れる返事でしたが、初めて出遭った時と比べてみると会話に応じてくれたのは良い兆候のように思えます。

 

「私は、ジュエルシードを回収して管理局へ預けたいという理由で動いているんだけど、貴女の行動は、その理由に沿うものなんですか?」

「……………………いいえ。違います」

 

 長い沈黙の後。やっと出て来たのは、か細い否定の声でした。それはつまり、警察と軍隊と裁判所を兼ね備えたような組織に反する、真っ当な理由ではないという自白に他なりません。

 

「そうなんだ……。じゃあ、邪魔させてもらうね」

 

 一触即発の空気――――ではありましたが、私は構えを解いてジュエルシードに被弾防止の為の防御結界《 Round guarder 》を展開し、そして少女が呆気に取られている内に然り気無くバインドも仕掛けてみたところ、何故か緊急回避されてしまいました。勘付いたのか、それとも対策によって感知したのか。どちらにせよ、一筋縄ではいかなくなったようです。

 

[-《 Photon lancer 》-]

[-《 Divine shooter 》-]

 

 応戦と、それに対する応酬の数々。こうして、戦いは激化の一途を辿るのでした。

 

 

 

~~

Side:■■■

 

 "このままではジリ貧である"と思考は訴えるものの、空を埋め尽くすように設置された拘束魔法の層は厚く、幾ら何でもバインド破壊効果を付与した魔力刃だけで簡単に切り抜けれるとは思えないし、隙を見せればあの白い魔導師が直接バインドを仕掛けて来る始末。おそらく、バルディッシュにインストールしたばかりのバインド検知機能の警告音は、鳴り止むこと無く響き続けているのだろうと容易に想像することが出来た。

 

「全く、なんて恐ろしい子なんだい……」

 

 思わず、ぼやいてしまう。これだけの圧を掛けているにも(かかわ)らず、未だに攻撃が1つも通らず、更には魔力消費による疲れすら見せない。その際限の無さを目の当たりにし、御主人様がどれほど“時間稼ぎ”が出来るのか、そして私はその時間で指示を成し遂げられるのか不安が過ぎるものの、もうこう為ってしまっては最善を尽くすのみで、あとはタイミングを見計らって飛び出すしか――――

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 近距離戦を諦めたのか、それとも何かを企んでいるのか。バインドの機雷原を遠巻きにしつつ中距離戦へと切り替えた少女に対応すべく、私も拘束魔法から射撃魔法主体の戦い方へと切り替えることにしました。

 

 用いる弾種は近接信管機能付きの炸裂誘導弾と、ただの誘導弾。それを上手く織り交ぜ、少女を目標としてひたすら追わせているのですが、巧みな空戦機動と精確な迎撃により決定打を欠き、早くも根競べの様相を(てい)してきました。一応、近接信管機能による近距離炸裂でダメージを与えているはずなのですが、少女は尚も力強く飛び続け、何時でも高速移動魔法による強襲が可能な位置を取り続けています。

 

 嫌らしくもあり、参考にもなり。これがゲームであれば感嘆するだけで済みますが、残念ながらこれは現実で、私は痛む良心を押し殺して冷徹に対処し続けるしかありませんでした。

 

「もう、諦めたらどうですか?」

 

 そして炸裂誘導弾と誘導弾だけでなく、高速散弾も射かけるようになってどれ程の時間が経ったのでしょうか。()の少女はよく避け、よく耐え、満身創痍だというのに未だに宙へと佇んでいる。その不退転の覚悟は立派ではありますが、ジュエルシードはまだ何処かに多数落ちていますし、此処にある1つに執着して疲労や負傷したりするのは如何(いかが)なものかと。――――そう思ってしまうのです。

 

[-《 Blitz action 》-]

 

 幾度目となる単調な強襲。高速移動魔法で死角へ飛び込んで来るものの、攻撃の瞬間には加速が途切れるので、その凶刃は実のところあまり速くはありません。

 

[-《 Flash move 》-]

 

 こちらも同様に幾度目かの回避行動を取り、バインドを仕掛けるという作業を焼き直しのように行いますが、今までは高速移動魔法で回避され、更に切り込んで来るなり離脱するなりしていたのに、魔力が底を突き始めたのか飛行魔法だけで離脱しようとしていた為、今度はあっさりと捕まえることが出来ました。簡単に抜け出せぬよう、十重二十重とバインドを重ねつつ、砲撃魔法のチャージへと移ります。

 

「降参か敗北か。どちらか選んで下さい」

「くっ……」

 

 前者には慈悲を。後者には《 Divine buster 》を。そういった暗喩をしてみたのですが悲しいかな、上手く伝わらなかったようです。未だに抵抗の意思を見せるあたり、何がそこまで駆り立てるのか疑問ではありますが、考えるのは終わってからでも遅くはないと判断し、躊躇いがちにトリガーを引こうとしたその瞬間、思わぬ横槍が入ってしまいました。

 

「フェイトを離せ!」

 

 そう言って襲い掛かって来たのは、私と同じくらいの背格好をした赤毛の少女でした。言動から察するに、彼の少女ことフェイトさんの仲間だと思うのですが、砲撃魔法のチャージ中に来られては、まともな対応など出来るはずがありません。ですので、回避がてら赤毛の少女をバインドで拘束し、二人が射線上へ重なるように移動した後、そのまま《 Divine buster 》で二枚抜きをさせてもらいました。

 

「これで終わり、なのかな……?」

 

 辺りに響くのは、【レイジングハート】による圧縮魔力残滓の排出音のみで、魔力ダメージで気絶して墜落した二人をキャッチした音が微かに聞こえたような気もしましたが、それぐらい静かなものでした。一応、周囲をサーチャーで探ってみますが特にこれといった反応は無く、未知なるステルス魔法でも使われていない限り、脅威は排除されたと見て良いように思えました。

 

「一先ずお疲れ様。レイジングハート」

[- No problem. My master. -]

 

 そしてジュエルシードを回収し、これにて一件落着。しかしまだ、フェイトさんと赤毛の少女の処遇を決めるという問題が残っています。選択肢としては、対話か放置か監禁かのどちらかになるでしょうけれども、取り敢えずそれは休憩を挟んでから決めたいと思います。長時間に渡る魔力行使と、慣れぬ戦闘。それによって肉体も精神も疲労していては、良い考えなど浮かばないでしょうから。

 

 

 



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第10話:コミュニケーションは大事!なの

人物紹介
【高町 なのは】:ver.1.10
家族と友達を大切に思う、心優しい小学3年生の女の子。魔法と出遭い、その切っ掛けとなった古代遺産“ジュエルシード”を回収するため、兄や姉のように非日常へと身を投じる事へ。大切なモノは大切にしていきたいと思う性格で、“守る”という事に関しては人一倍真摯である。最近、ある少女を意識するようになった。



Side:フェイト

 

「――――、目覚――――な?」

 

 あ……、れ? なんで私、寝ているんだろう……?

 

「うーん……。まだ、完全覚――はいかな――――だね」

 

 確か、白い魔導師と戦っていたら、あの子が……。アルフが私を助けるために飛び出してくれたんだけど、捕まっちゃって。それから――――

 

「――、レイジン――――。覚醒魔法とかあったり――?」

[-Sorry.――――.-]

 

 それから、(まと)めて撃ち落とされてしまったんだ。

 

「ア…ルフ……、何処……?」

「それはもしかして、このワンちゃんの事かな?」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 初めに掛けるべき言葉は、「お早う御座います」か「こんばんは」か。話す切っ掛けとして、少しでも印象を良くしたいと思ってあれこれ考えていましたが徒労に終わり、何だかよく分からない方向へと転がっていきました。

 

 ちなみに何故か、赤毛の少女が赤毛の子犬になっていたりしますが、【レイジングハート】曰く彼女は“使い魔”というモノらしく、元である動物形態と人間形態のどちらにでも変身可能との事で、如何やら向こうの世界では珍しくもないようです。今は魔力ダメージが深刻なので、治癒効果のある結界の中に入れて様子を見ていますが、未だに目覚める気配はありません。

 

「アルフ……痛っ……!」

「無理をしない方が良いと思います。貴女も、結構ボロボロですから」

 

 我ながら、白々しい台詞だと思います。そうしておきながら、フェイトさんには何ら手当てもしなかったのですから。しかし、回復させたが為に第二回戦開始という最悪な事態は回避出来るので、これはこれでお互いの為となります。

 

「あ、自己紹介がまだでしたよね。私の名前は“高町なのは”です。この国では姓が名の前に来るので、“高町さん”とでも呼んで下さい」

「…………」

「ちなみに無言を貫いた場合、仮称として“バルディッシュちゃん”と呼ぼうと思うのですが、如何でしょうか?」

「…………“フェイト”です。姓はありません」

「では、“フェイトさん”と呼ばせてもらいますね」

 

 身体を起こすだけでも辛いはずのフェイトさんに視線を合わす為、1m程の距離を置いて私もぺたんと座り込みました。ビルの屋上という決して奇麗では無い場所ですが、未だにバリアジャケットを着ているので汚れる心配はありません。

 

「少し、御話ししませんか?」

「敵に話すことなんてありません」

「話すことで、お互いに協力出来るかもしれないのにですか?」

「えっ……?」

 

 フェイトさんのジュエルシード回収方法には幾つか不満はありますが、“回収=地球からジュエルシードの脅威を排除する”という視点から見れば、私が一人でするよりはフェイトさんとの二人態勢が望ましいと思うのです。

 

 それにフェイトさんの回収目的は不明ですが、悪用するにせよ、しないにせよ。締め上げてまで奪おうとは現時点では思えませんし、その辺りの交渉ないし実力行使は管理局にお任せするという算段を付けて、一時保留としています。

 

「実は私、この世界からジュエルシードを持ち去ってくれるのなら、それはフェイトさんでも管理局でも構わないと思っているんです」

 

 ですが今のところ、どちらも信用ならないので半分ずつくらい持っててくれると、保険という意味では有り難かったりします。

 

「……なら何故、私の邪魔をしたんですか?」

「それは勿論、フェイトさんが敵だからです」

 

 そもそも昨日の出来事を鑑みて、一戦も交えずに事が進むとは到底思えなかったのです。魔法には非殺傷設定があるとはいえ、躊躇(ちゅうちょ)無く人へ切りかかれるフェイトさんの思考を常識的に推し量ることなど無理なので、今回は何かされる前に此方から一戦を仕掛けた。――――というのが本当の経緯だったりします。結果としてはこれで良かったのかなとは思いますが、野蛮かつ性急過ぎたことは否めません。

 

「なので、もし良ければ一時休戦して手を結びませんか? 多分、その方が集めるのは早いと思うんです」

「お断りします。私にも、目的がありますので」

 

 嗚呼(ああ)、やはり。しかしながら、これでフェイトさんがジュエルシードを1個でも多く集めようとしているのは分かったので、今後とも何度か衝突が起こりそうだなーと思うと“()()き”してしまいます。

 

「分かりました。それでは、最後に1つだけ聞かせて下さい」

「何でしょうか……?」

「自己申告で構いませんので、ジュエルシードを幾つ回収したか教えて頂きませんか? ちなみに、私は8つです」

「…………4つ」

「なるほど……。情報提供、有り難う御座います」

 

 フェイトさんの言葉を信じるならば、ジュエルシードは残り9個。それは朗報でもあり、悲報でもあり。回収作業は思ったよりも進んでいるようですが、最後の1個まで気が抜けない事には変わりなく、私の夜廻りはもう暫く続くみたいです。グッバイ安眠、ウェルカム寝不足。

 

「左様ならば、これにて――――」

 

 失礼します。と続けて自宅へ直帰しようとしたのですが、フェイトさんが何か言いたげでしたので待つ事に。

 

「…………ミス高町」

「えっと……。はい、何でしょうかフェイトさん?」

 

 “ミス高町”という斬新な呼称のせいか、一瞬反応が遅れてしまいました。敬称の違いなどは、適当に“さん”付けとなるように和訳してしまえば良い気もしますが、【レイジングハート】がそんな風に自動翻訳するという事は、それなりに格式張った表現なのかもしれません。

 

「次に会った時は、叩き切ってみせます」

 

 その口から紡がれたのは、短くも固い決意の言葉。そして、敵意の篭もった視線を向けられた私は返事をすること無く、静かにその場を後にしました。だってそうでもしなければ、堪えきれなかったのです。ああ言ってみせたフェイトさんを前にして、“笑みを浮かべてしまう”。

 

 なんて事は流石に失礼だと思ったので、この様にただ去ることしか出来ませんでした。初めは、髪の色や体躯が似ているだけだと思っていたのに、敵として戦い、そんな眼差しを向けられてしまっては、如何しても想起せざるを得ません。

 

 

 

 かつて、アリサちゃんと喧嘩した日の事を。

 

 

 

 性格や言動などは全く似ていませんが、私を明確に敵視する雰囲気は何となく似ていて、私やアリサちゃんや“すずか”ちゃんは、その喧嘩が切っ掛けとなって繋がる事が出来ました。だからフェイトさんとも、そういった可能性が有るのではないか? という妄想が止め処なく溢れて……。

 

 しかしそれは、おそらく勘違いなのでしょう。もしかしなくても、思い上がりです。喧嘩をして、それから仲良くなった過去があるからといって、戦闘をして友達になれる未来が有るのか如何かは分かりません。ただ、もっと話してみたいと思う気持ちは本物なので、フェイトさんには今後もアプローチをしていきたい所存です。

 

「それなら、もっと邪魔をしないとだね」

 

 フェイトさん目線ではそうするしかないのが心苦しいのですが、なるべく嫌味にならないように気を付けなくてはいけません。脳裏にちらつく、『悪因悪果』の4文字。それだけは避けないと……。

 

 

 

~~

Side:アリサ

 

「む……。また圏外なの?」

 

 海の上から山の奥まで電波が通じるこの御時勢、“なのは”の携帯電話に繋がらないとは如何いう事なのか。もしかしたら、また神隠しに遭って物理的に圏外というオチなのかもしれないけれど、残念ながら其れは笑えないジョークである。

 

「一体何をしているんだか……」

 

 用が無くなった携帯電話をサイドテーブルに置き、ベッドの縁へと腰を下ろす。はぁ……。何だか最近、変な事ばっかりでうんざりしてしまう。

 

 例えば、この町で変な事件が起きるようになってからは、“なのは”の様子も段々と変になって来て。そして昨日はトドメとばかりに、巨大になった猫と“なのは”の神隠し騒動。あまりにも非科学的で、非現実的なことは信じたくないけれども、何か接点でもあるのかと勘繰ってしまいそうになる。

 

 別にそれは、“なのは”に裏があって怪しいとかいう事ではなくて、何か得体の知れない事象にでも巻き込まれているんじゃないか? という心配なんだけれども、昨日の平然としていた表情を思い出すと案外平気そうにも思えてきて、じゃあこの不安だか不満だか分からない感情を何処に投げつければ良いのやら。

 

「んー…………。寝よ」

 

 話したい相手が電話に出ないなら解決の仕様が無いし、“すずか”や誰かに愚痴っても仕方が無く、かと言ってゲームや読書もする気分ではない。そういった経緯も有り、私は『ふて寝』を決行すべく、いそいそと準備に取り掛かるのであった。

 

 

 



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第11話:変わる時なの

人物紹介
【フェイト】
傷だらけの少女。特に額から左頬にかけて走る古傷が痛々しい。謎が多く、目的は不明だがジュエルシードを大量に集めようとしている。バリアジャケットのデザインや言動から冷たそうな印象を受けるものの、“なのは”的には「根は良い子そう」に見える模様。



Side:なのは

 

 激戦と対話を経て帰宅後。リビングを横切り、自室へ向かおうとした時の事です。何故かそこではフェレットと男女が手を繋ぎ、ミステリーサークルを形成しているという摩訶不思議な光景が広がっていました。要するに、スクライアさんとお兄ちゃんとお姉ちゃんが円陣を組み、魔力を循環させているようでした。

 

 気にはなりましたが、宿題と寝支度を手早く済ませたかったのと、邪魔をしては悪いと思ったのでスルーして翌日。朝食後にお兄ちゃんに訊ねたところ、ひょんな事から魔法を体感してみようという話になり、ああなったのだとか。ちなみに結果は、お兄ちゃんもお姉ちゃんも魔法の才能はからっきしだったようです。

 

「まぁ、しかし……。強化魔法とやらを掛けて貰えば、何とかなりそうだ。とは踏んでいるがな」

「何とかって、ナニを?」

「今まで、“なのは”が学校へ行っている間は、ジュエルシードの回収が出来なかっただろう?」

「うん。そうだね」

 

 だからこそ、その時間帯はフェイトさんに御願いして未探索地域で探索して貰いたかったのですが断られてしまいましたし、いざとなれば休学届けを出して探索かなーと考えていたところです。

 

「そこで、だ。俺と美由希とユーノ君でチームを組み、その時間帯での回収に当たろうと思っているんだが……。許してくれるか、なのは?」

 

 許す、許さないで済む話であれば、本当は許したくありません。幾ら強くて速くても、バリアジャケットという防御機構の恩恵を受けられないお兄ちゃん達に万が一があっては、とても悲しくなってしまいます。

 

 しかし、お兄ちゃん達が振るう剣――――御神の剣は、誰かを守るための“力”である事も私はよく知っています。そしてその事に、どれだけ真摯なのかも。きっと、年端も行かない私に危険な事を一任させたくはないのでしょう。もしかしたら、ある種の責任感の発露なのかもしれません。なればこそ、互いの思いやりに折り合いを付けなくては……。

 

「1つだけ、約束してくれたら許しても良いよ?」

「聞こう」

「夕食までにはちゃんと帰って来る事」

 

 “ちゃんと”に言外の意味を込めつつ視線を向けると、お兄ちゃんはしばらく言葉を詰まらせていましたが、「……努力はする」という前向きな回答を以って許してあげる事にしました。

 

「それじゃ、頑張ってね。お兄ちゃん」

「ああ」

 

 そんな感じでシリアスチックな一時を過ごした後、本日の特製弁当(晶ちゃん作)を通学鞄に仕舞っていざ登校。そして何時ものように通学バスに乗り込みましたが、そこでは何故か御機嫌斜めなアリサちゃんが待ち構えており、私への電話が頻繁に繋がらないという指摘に始まり、溜め込んでいたであろう心配とも苦言とも付かない言葉を次々とぶつけて来ましたが、私はそれには反論せず、ただ甘んじて受け止め続けました。

 

 アリサちゃんは此方の事情なんて知りようがありませんし、知って欲しいとも思いませんので、此方の事情を知りもせずに心配したり怒ったりしてもそれは仕方無く、私としては申し訳無く思うのが精一杯の対応となります。

 

「ねぇ、黙ってばかりじゃなくて何か言い返しなさいよ!」

「言い返すも何も、心配してくれて有り難う。としか――――」

「違う! そうじゃなくて……」

 

 珍しく見せた逡巡。しかしそれでも、ちゃんと言葉にして伝えてくれました。

「そんなに、教えたくない事なの……?」

 

 ええ、はい。その通りです。だからこそ、それすらも答えたくありません。

 

「じゃあ教えたら、アリサちゃんは私になってくれるの?」

「それは――――」

「私は、アリサちゃんになれるのかな? ねぇ、“なのは”。そこんとこ、如何思う?」

 

 見る見ると表情を暗くするアリサちゃん。世の中には、こんなにも良心が痛むことを平然とする人も居るらしいのですが、一体どれだけの罪業を重ねれば出来るのでしょうか。私は今直ぐにでも、自分の喉元を貫いてやりたい気分です。

 

「“なのは”ちゃん。止めようよ……」

 

 そして珍しく“すずか”ちゃんに引き止められてしまった私は、相好を崩すことで誤魔化してみましたが、上手く笑えてなかったのでしょう。結局、重苦しい空気のまま学校へと到着し、そのまま朝の会が開始される事態となってしまいました。お陰で本日の教室は、水を打った様にとても静かです。

 

 嫌な言い方をして、嫌な子になって。少しばかりの後悔はあれど、きっとこれで良かったのだと思います。だって実状を知ってしまえば不安しか抱けない筈ですし、それは今まで、ボディーガードの仕事で出掛けるお兄ちゃん達を見送っていた側として、ほぼ確信しています。

 

 知らずに済むなら、それで良い。今まで通りで居てくれるなら、それが良い。

 

 かつてお父さんが、身体中に付いている傷の説明を騙ったように、仕事について曖昧にぼかしたように。そのままで、そうあって欲しい。――――そう思う事が、守りたいって事なのかな? と叙情的に思考を脱線させつつ、私は今日もまた並列思考を開始するのでした。

 

………

……

 

 そして昼休み。捨てられた子犬の様にしょんぼりしているアリサちゃんを見かねた私は、これでもかとスキンシップ――俗に言う“わしゃわしゃ”――を敢行し、ついでに髪を乱した代わりに、私が髪留めに使っていたリボンでツインテールにしてみたところ、フェイトさんの2Pカラーが思った以上の精度で出来てしまいました。

 

 ただ結果として、アリサちゃんの機嫌は直ったもののかなり恥ずかしかったようで、今度は頬を紅潮させたままOKANMURI状態へと移行。

 

 そして放課後になってもそれは尾を引いており、そのままツインテールの状態で“すずか”ちゃんと一緒にバイオリンのレッスンへと行ってしまいました。要するに、借りパクというやつです。そんなこんなで、久々に髪を下ろした状態で通学バスに揺られ帰宅した私ですが、玄関にある姿見に映った自分を見て、そういえば髪を切るつもりだったなと、ふんわり思い出しました。

 

 それから直ぐに、折角なので切ってしまおうと思い立ち、音がするキッチンの方へと向かう事にしました。勿論それは、キッチンを使っているであろうレンちゃんや晶ちゃんを理容師としてスカウトする為で、節約を美徳とする我が高町家では、割と普通の御願いでもあったりします。

 

「ただいまー、お姉ちゃん。晶ちゃん」

「お帰り、“なのは”。如何したの、髪なんか下ろして……?」

「お帰り、“なのは”ちゃん。何かあったのか?」

 

 予想は半分外れで、キッチンに居たのはお姉ちゃんと晶ちゃんの二人でした。そして後者は夕食の準備中なので、依頼は論外。となると、料理人としては戦力外のお姉ちゃんに頼むのが筋というモノです。

 

「えーと……。実は髪を切って貰いたくて、お姉ちゃんに御願いしに来たの」

 

 かなり前略したものの、嘘ではありません。

 

「おっけー。それじゃ、準備はしといてね」

「はーい。……あっ、晶ちゃん。弁当美味しかったよ」

「へへっ、あたぼうよ!」

 

 空の弁当箱を晶ちゃんに渡した後、自室に戻って荷物を置き、そして着替え一式を持って1階の洗面所へと移動し、セットアップ。暫くしてお姉ちゃんがやって来ましたが、何時も以上にざっくりと切る事を知った時の表情はまるで慈母の如しで、きっと変な方向に勘違いしているんだろうなーと無視しつつ、私はじっと鏡の中の私を見守り続けるのでした。

 

 

 

― ― ― ― ― ― ― ― カット ― ― ― ― ― ― ― ―

 

 

 

 さて。レンちゃん並みのミディアムまで髪を切り、洗髪がてら身体も洗って、拭いて、着て、乾かし。最終確認として細かい調整をして貰っていますが、見慣れたはずの湯上り後の髪型がこうも短くなると、新鮮さよりもまず違和感を感じてしまいます。目の前に居る少女は、一体何処の誰なのでしょうか? フーアーユー? フーアムアイ? 

 

「一応、レンちゃんを参考にして切ってみたけど、こんなもん……かな?」

「有り難う、お姉ちゃん」

「どう致しまして。髪質が違うから結構アレンジしたけど、“なのは”的にはどう?」

「似合っているとは思うけど、見慣れないせいかどうも違和感が……」

「だよね~……。まぁ、“なのは”は可愛いから、その内しっくり来るよ。きっと」

 

 そんなよく分からないお墨付きを貰い、これにてカット終了。正直、かつて懸念したように特徴的なツインテールが無くなってしまったので地味な印象を受けますが、その代わりに中性的な格好良さが加わり――――どうなるのでしょう? よく分かりません。

 

「じゃあ、片付けたらお披露目タイムといこっか」

「それはちょっと大仰のような……」

「でも、遅かれ早かれなんじゃないかな?」

「うん。まぁ、そうなんだけどね」

 

 諦観したのも束の間。この後、何故かリビングに家族全員が揃っていたのを見て、私はお姉ちゃんに(たばか)られた事を察するのでした。今度機会があれば、お姉ちゃんの三つ編みをツインテールにしてあげようと思います。

 

 



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第12話:来たる第三勢力なの

デバイス紹介
【レイジングハート】
発掘を生業とするスクライア一族の為に作られたコスト度外視の特注機で、これ1つで魔法に関する訓練プログラムやらシミュレーター機能を完備し、かつ運用面においても管理局が採用している高ランク魔導師用デバイスと遜色が無い程の性能を誇る。凡そ十全に性能を発揮されぬまま、スクライア一族の後進育成や遺跡調査の御供として使われる予定だったものの、偶然にも稀代の担い手である“なのは”と巡り合い、デバイス冥利に尽きる日々を送っている。




Side:なのは

 

「お兄ちゃん。私、そろそろ出掛けるね」

 

 ただ髪を切るだけの筈が、お披露目からのプチ撮影会というよく分からないイベントを経た後に夕食を済ませ、時刻は19時半を過ぎた頃。

 

 何故か戻って来ていたお母さんは、放り出して来た翌日の仕込みをするために『翠屋』へとトンボ帰りしちゃいましたが、お兄ちゃんは御風呂の順番待ちをしているようでソファーに座って黄昏ておりました。ちなみに私はと言うと、何時ものように深夜徘徊へと出掛けるので、その旨を誰かに伝えようと彷徨っていたところです。

 

「相分かった。大丈夫だとは思うが、あまり無茶はするなよ?」

「はーい。行って来まーす」

「ああ、行ってらっしゃい。“なのは”」

 

 お兄ちゃんに送り出されつつバリアジャケットを身に纏い、庭先から目的地付近の上空まで転移魔法でひとっ跳び。それから飛行魔法で距離を詰めつつ――――

 

「フォトンランサー!」

「スティンガーレイ!」

 

 そして何故か、戦闘をしているフェイトさんと誰かさんからは距離を置いて、こっそりと探索を開始するのでした。

 

………

……

 

 探索と観戦を始めて、10分程経った頃でしょうか。存在は感じ取っているのですが、相変わらずジュエルシードは見つかりませんし、戦闘も終わる様子を見せません。

 

 尤も、魔法が乱発されている傍で微弱な魔力反応を探るのは難しく、そして戦闘もフェイトさんが優勢とはいえ、相手も手堅く戦っているようなので決着の見通しは立たずといったところで、なればこそ戦闘を終了させた方が探索が捗るという事ぐらいは指摘されるまでもなく察しています。

 

 しかし、分かってはいても率先してまでしたくはありません。

 

 仲裁をしようにも、私は中立とも第三者とも言える立場ではないですし、肩入れをしようにもフェイトさんに対して否やはありませんが、謎の魔導師を敵に回して良いのか判断が付きかねます。もし仮に、噂に聞く管理局であるならば“長いものには巻かれろ”と古来より日本では伝わっておりまして、それはもう決定的にフェイトさんと敵対する事になります。

 

 なので私的には、さっさとジュエルシードを回収して何事も無かったかのように帰りたいのですが、その肝心なジュエルシードが見つからないので、退くにも退けません。それでも根気良く探し、探して、飛び回り……。それから漸く見つけましたが一足遅く、フェイトさんと別行動をしていたであろうアルフさんによって先に確保されてしまいました。

 

 但し、今なら射線は通っているので、長距離砲撃で撃ち落とすという選択肢もありましたが、果たしてそこまでして得る物なのかと逡巡した結果、敢えて何もせず見送る事にしました。ついでにフェイトさんの離脱を見届けた後、此方も転移魔法でその場を離脱。結局、この日はお兄ちゃん達や私も成果ゼロという結果で、珍しく平穏(?)なままで一日を終えました。

 

 そして翌朝。髪を切った事による一騒動が通学バス車内で勃発しかねましたが、何とか事態を収拾する事に成功した私は、今日も今日とて真面目に授業を受け、それと並行して魔法であれこれしていました。

 

 例えば、【レイジングハート】のシミュレーター機能で戦闘訓練をやったり。はたまたは、スクライアさんと念話で遣り取りをし、ジュエルシードの探索状況やお兄ちゃんやお姉ちゃんの様子を聞いたりなど、とにかく色々です。

 

 正直な話、清く正しく真面目とは言い難いこの並列思考の乱用っぷりではありますが、ちゃんと授業内容は理解していますし、受け答えやノートへの書き写しも不足無く。更に自己弁護するならば、集中しなければどっち付かずとなるだけのなので、一応のところは真面目と言っても良いのでは? と思考してみたりする次第でありますれば。

 

 ………………あれ? 少し、記憶が飛んだような気も……? いやいやまさか、そんな事は……。いえ、『然もありなん』なのでしょうか?

 

「ねぇ、“なのは”ちゃん。そろそろ屋上へ行かないと、アリサちゃん待ち草臥(くたび)れちゃうよ?」

「あっ……。ごめんね、“すずか”ちゃん。直ぐに準備するから」

「うん。待ってるね」

 

 気付けば、時刻は正午。即ち、昼食とお昼休みの時間です。教科書と筆記用具を机の中に仕舞い込み、通学鞄からロッカーに移していた弁当を回収。その後、“すずか”ちゃんと一緒に屋上へと移動します。

 

 ちなみに、屋上は見晴らしの良さから当然のように人気が高く、特に食事時となるとベンチの使用権を巡る何らかの駆け引きが発生しがちですが、アリサちゃんや“すずか”ちゃんに関しては例外的に大丈夫だったりします。

 

 『バニングス』と『月村』。どちらもその名を冠した大企業が有名ですし、ただの同姓だとしても“触らぬ神に祟り無し”を信条とする日本人が好んで触れる筈も無く……。結果として、この小学校内であれば自然と人波が割れ、転じて場所取りが容易なのです。有名税という言葉もありますが、こういう時は便利で羨ましいなと思います。

 

 そして今回も予想通り、屋上へ上がるとアリサちゃんの座っているベンチの周辺だけがぽっかりと空いていて、私と“すずか”ちゃんは其処へ相席すべくコンタクトを試みる事にしました。

 

「お待たせ、アリサちゃん」

「ふーん…………。で?」

 

 しかし待たせ過ぎたようで、アリサちゃんは大層ご立腹の様子。どうやら食事の前に、この立ち込める不機嫌オーラを霧散させないといけないみたいです。

 

「遅参の段、御免なれ」

「現代語訳」

「遅れて来て御免なさい」

「もう一押しね」

「えっ……? もしかして、アリサちゃんの靴を舐めないと駄目なの……?」

「如何してそういう突飛な発想になるのよっ?!」

「何となく、最終的にそうして欲しいのかなと」

「そんなフェティシズムとか持ってないから! あー、全くもう……。許してあげるから食事にしましょ。良いわね?」

 

 このままでは、『高飛車サディスト御嬢様』のレッテルが貼られると危惧したのか、会話は一旦打ち切りとなってしまいました。――――ずっと、こんな風に穏やかで楽しい日々を過ごせるだけで良かったのですが、我が身の如何なる宿運が魔法少女ならしめたのやら……? とてもかなり極めて不思議です。

 

 

 

 それから(つつが)無く午後を過ごし、時は放課後。

 

 

 

 私は、帰りの会が終わるや否や最速で席を立ち、風のように教室を後にして屋上へと向かいました。身体強化をしたお陰か屋上にはまだ誰も訪れておらず、人目はありません。しかし念には念を入れて、結界を展開してから【レイジングハート】をセットアップ。バリアジャケットを身に纏い、座標設定を行いつつ転移魔法を発動させます。

 

 何故、こうも急いでいるのか?

 

 その理由は、お兄ちゃん達が現在進行形でジュエルシードの異相体と交戦しており、今直ぐ向かえば支援が出来ると踏んだからです。尤も、その配慮が無用であった事を知るのも直ぐではありましたが。

 

「何となく察しは付いていたけど、鬼に金棒ってこういう事なのかな……?」

 

 あまり鍛えていない私でも、身体強化の補助魔法を使えば一流の短距離走選手くらいの速度は軽々と出せます。つまり、その域を越えている御神の剣士を強化してしまうと、それは当然のように凄まじい事になってしまいます。

 

 現に二対四刀の斬撃は音を置き去り、それを振るう様子や走る姿も全てが残像で、竜巻も斯くやといった様子です。ただそれでも、御神流を最強たらしめる歩法――『神速』よりは遅く、更にその先にある奥義の『閃』に遠く及ばないあたり、人体の神秘を感じずにはいられません。

 

 尚、お兄ちゃん達に同行していた筈のスクライアさんはと言うと、やや離れた場所から拘束魔法やら補助魔法で二人の戦闘を適宜支援しており、今のところ卒倒する気配は無いように見受けられました。

 

「今だユーノ!」

「はいっ! 『妙なる響き、光となれ――――』」

 

 そして解体が一段落したところでスクライアさんが封印処理をし、戦闘終了。終始羽ばたけずにいた鳥型異相体は、さぞや無念だった事でしょう。

 

 それはさておき。お兄ちゃんとお姉ちゃん、スクライアさんは合流後に互いの健闘を称える等、意気軒昂(けんこう)にして士気上々といった感じで、一人だけ蚊帳の外の私としましては少々羨ましい光景です。基本的に妹として可愛がられる事はあっても、仲間として称え合うなんて事は日常の中では滅多に起こり得ないのですから、尚更そう思ってしまいます。

 

 取り敢えず、このまま去るのも虚しいので、挨拶がてらジュエルシードを【レイジングハート】に格納し、それから帰ろうかなと思った矢先に転移反応を感知。すぐさま砲撃態勢へと移行し、あとはトリガーを引くだけで何時でも直射砲を撃てるように準備します。お兄ちゃん達もそれぞれ臨戦態勢を取る中、転移して来たのはフェイトさんと戦っていたあの魔導師の少年でした。

 

「時空管理局執務官、“クロノ・ハラオウン”だ。君達を調査事案の関係者と見込んで、幾つか質問をさせてもらいたい。宜しいか?」

 

 如何やら、昨日の予想は予想通りだったようです。これでフェイトさんとは、完全に敵対ルートとなってしまいます。『時空管理局』――――それは、ジュエルシードに対する問題解決の光明でもあり、喜ばしい訪れの筈なのに如何してこうも……。

 

 



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第13話:淡紅色が照らすモノ【前編】

人物紹介
【高町 なのは】:ver.1.13
特徴的なツインテールを廃し、さっぱりとした“なのは”。髪型としてはミディアムボブの様な何かで、高町家の中ではレンの髪型が一番近い。髪を切った事により、御風呂時間の短縮と運動における機動性向上の効果が見込まれており、性格や気持ちへの影響はと言うと、周囲の期待や不安に反して然程変化は無いように見える。



Side:なのは

 

「何と言うか、君達は随分と無茶苦茶だな……」

 

 互いの自己紹介と簡単な情報交換を幾つか経た後、クロノさんはその様に総括してくれました。確かに向こうからしてみれば、スクライアさんを除く初心者魔導師と非魔導師の3人が、超危険物であるジュエルシードを積極的に回収している光景は、さながら狂気の沙汰にしか見えないのでしょう。私も正直そう思います。

 

「本当は未登録で魔導師をやったり、魔法が絡む戦闘に非魔導師が介入するのは宜しくないんだが……、事情が事情だ。そもそも君達は被害者でもあるのに、よくぞ行動してくれたと賞賛されるべき立場であって――――」

「つまり?」

「お咎め無し、が妥当だと思われる」

 

 その名裁きにほっとしたのも束の間、そもそも日本国が認知していない筈の武装勢力が振りかざす法など、有って無いような物なのでは? という疑問が新たに浮かびましたが、私はそれを心の奥底へ沈める事にしました。続けるにせよ断つにせよ、関係は良好でありたいですし、話をややこしくしたところで益も無し。なればこそ、クロノさんが言う様に“お咎め無し”が妥当だと思うのです。

 

「有り難う御座います。ところで、私達はこれから如何すれば良いのでしょうか?」

 

 未登録魔導師も非魔導師の介入もアウトであるならば、回収済みのジュエルシードを管理局に引き渡したら、其処でお役御免となりそうな物ですが……。

 

「それについては、艦長自ら説明をなさるとの事だ」

[- 初めまして皆様。時空管理局提督、そして次元巡航艦『アースラ』の艦長、“リンディ・ハラオウン”と申します。どうぞよしなに -]

 

 微細な魔力反応。それと共に空中表示された画面の中に映っていたのは、SFチックな制服を身に纏う妙齢の女性でした。クロノさんと同じ姓、という事は親族の方なのでしょうか? 何処となく、私のお母さんと共通点が多そうな人ですが、それだけに差異の部分が際立ってしまい、違和感が苦手意識へと変わるのに然程時間を要しませんでした。

 

[- さて、それでは手短に……。本来、この様なロストロギアの調査・回収については専門チームを立ち上げ、慎重に執り行うのが常ではありますが、本案件は緊急性が高いと判断し、即応対処をする事にしました。つきましては、本局から増援部隊が到着するまでの間、貴女方には調査及び回収への協力を要請します。勿論、タダでとは言いませんし、何でしたら断って頂いても構いません -]

 

 ビジネスライクな大人の対応。それはそれは、組織に勤める人として素晴らしいとは思いますが正直なところ、この世界における小学3年生に話す内容ではない気がします。能力主義で、就業可能年齢が低い向こう側ならではの視点のズレに対し、私はその差を埋めるべく年長者に助けを求める事にしました。

 

「お兄ちゃん、ヘルプ」

「ふむ……。しても良いが、“なのは”的には如何したいんだ?」

「お手伝いはしたいけど、指揮下に入るのはちょっと不安だなーと……」

 

 いざこざは避けたいので、可能であれば自由行動権が欲しいのです。

 

「承知した」

 

 そしてお兄ちゃんの交渉術と、リンディ提督の大幅な譲歩により、私達は協力の見返りに自由行動権と負傷した際の医療支援を受けられる事となりました。他にも、連絡手段等の細々とした決め事もしていましたが、私は只それを傍聴して頷くだけでした。

 

 大人の会話。――――それは許容範囲が開示されない中で、互いに落とし所を探るような奇妙な会話。探って欲しいのか、して欲しく無いのか。少なくとも、私にとっては面白みも興味も抱けない物だという事は大変勉強になりました。出来れば、末永く無縁でありたいものです。

 

「これで良いのか、“なのは”?」

「有り難う、お兄ちゃん。多分、それで十分かと」

「ふむ……。美由希やユーノは、如何思う?」

「私も、“なのは”と同じく」

「おそらく、大丈夫だと思います」

 

 全会一致となり、それでは解散という雰囲気の中。今まで譲歩の姿勢を見せていたリンディ提督が、初めて此方へと切り返して来ました。断り難い心境を知っていながら、無難な御願いを1つ通す。なるほど。これもまた大人の会話なんだ、と当事者である私はそうぼんやりと考えつつ、クロノさんとの模擬戦に承諾するのでした。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

 この世界に来てからは、本当に驚かされてばかりだ。血が滲むどころか、本当に血を流すほどの努力に努力を重ねて勝ち取った、『執務官』の肩書き。それは師匠である悪魔――――もとい、リーゼ姉妹に魂を売るが如く鍛えてもらったお陰でもあり、ようやく取得した際の魔導師ランクはAAA+へと到達していた。

 

 このランク帯は管理局に所属する魔導師全体の5%にも満たず、また本気で戦えば街が1つ消滅しかねないとも言われるランクであるのに、昨夜出遭った金髪の未登録魔導師は推定AAAランク。これは僕のランクの1つ下に当たるが、戦闘データを収集していけば上下する事も十分有り得る。その程度の誤差でしかない為、油断は元より楽観視など出来もしなかった。

 

 

 

 そして問題の少女、“高町なのは”の場合。

 

 

 

 ()むを得ない事情があったとはいえ、彼女もまた未登録魔導師。と言う訳で、模擬戦がてら魔導師ランクの算出を試みたところ、まさかのS判定を叩き出してしまった。これは僕のランクよりも2つ上のランクに当たり、S>S->AAA+の関係となる。

 

 (もっと)も、この魔導師ランクというものは保有資質や魔力量への評価であり、魔導師としての戦闘力そのものを評価している訳ではないし、彼女の場合は余剰魔力を蓄積している羽も考慮されてのSランク。実質的には同等…………なのかもしれないが、魔力量が多いことによる優位性は語るまでもなく、更にそれを実体験した身としては「認めざるを得ない」というのが正直な感想だった。

 

「しかし、艦長。本当に宜しかったのですか……? 戦力になるとはいえ、指揮系統へ組み込まずに運用するのは些か危険なのでは?」

 

 かつて起きた、“大規模次元震”という人災。幾つもの文明と隣接する次元世界を連鎖的に滅ぼしたそれは、初めは小さな次元震が原因だったとも言われている。そして今回の回収対象であるジュエルシードは、その次元震を容易に発生させる程のエネルギーを蓄えており、更には特異な事象を引き起こす不安定さを兼ね備えるなど、指定遺失物として第一級の警戒が為されるべき危険物である。

 

 故に迅速に、且つ慎重に対処しなくてはならないものの、其処でぶつかるのが人手不足という壁だ。そもそも本艦は巡察任務中であり、次元震を探知しなければこんな辺境の管理外世界まで訪れたりはしないし、それ以前に艦長が先遣隊を買って出てまで進路を変更する事も無かった。

 

 つまりこのアースラという艦は、人員・装備・支援態勢の観点からして不審船の拿捕や遭難者の救助くらいまでは想定していても、長期間に及ぶであろうロストロギアの回収や調査、断続的な戦闘は想定していないのである。そういった事情もあり、此方としては彼女達の協力は有り難い限りだが、もし勝手に行動をされて危険を招いてしまったら……。そんな不安が、如何しても脳裏を過ぎってしまう。

 

「ええ、そうね。確かに危険なのかもしれないわ」

「では何故?」

「言い方は悪いけれど、この世界は第97管理外世界――通称、【地球】。つまり、管理局の法や権威が及んでいない世界なの。果たしてその世界の住人が、『はい。分かりました』と言って素直に従ってくれるかどうか。こればかりは分からないでしょう?」

「だからと言って、野放しにする訳には……」

 

 そう苦言を呈すると、艦長はより一層笑みを深めながら、諭すように真意を語り出してくれた。相変わらず笑顔の裏で何を考えているのか、よく分からない人である。

 

「いいえ、クロノ。私はちゃんと手綱を取っているわ。行かせたい方向へそれとなく誘引し、自主的に歩かせる。これが手綱であり、信頼でもあるの。事件解決への姿勢で誠意を見せ、協力要請で弱みを見せ、逃げ道を提示する事で抵抗感を削ぎ落とし、条件の譲歩で懐の深さを見せる。そんな風に開示して行く事で親しくなり、されど一線を引く事で適度な距離を保ち、持ちつ持たれつ。そうやって手を繋いでいる間は、人は他人を思いやれるモノなのよ。不思議とね……。だから、きっと大丈夫よ。彼女達は裏切らないし、期待に応えてくれるわ。もし裏切るとしたら、それは彼女達の倫理観や常識が優先される状況であるから想定も容易だし、対処も可能。尤も、その辺はアドリブだから不安要素も無くは無いけれど……。まぁ、その辺は何時も通りという事で宜しくね?」

 

 経験則でのみ導かれた滅茶苦茶な根拠と、それに基《もとづ》いた説明と対処法。到底、論理的とは言えないものの、艦長が――――母さんが提督足り得るのは、そういった直感的な思考が(ことごと)く英断だったからであり、つまり今回もまた、そういう事なのだろう。

 

「了解しました」

 

 実際のところ、あまり納得はしていない。いや、するのが難しいと言うべきか。しかしそれでも、目を逸らしてはいけないのだ。そうでなくては上司と部下の関係として、家族として成り立ちはしないと、他ならぬ自身がそう思うが故に“尚の事”。

 

「頼りにしているわよ、クロノ」

 

 取り敢えず、今はただ素直に受け止めておこう。一概に誤りとも言えない現状では、これが正しいという判断など有りはしないのだから。

 

 

 



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第14話:淡紅色が照らすモノ【中編】

人物紹介
【クロノ・ハラオウン】
若くして時空管理局執務官を務める少年。そしてリンディ提督の息子でもある。真面目で堅実な性格だが、師匠であるリーゼ姉妹に可愛がられ、自由奔放なリンディ提督と執務官補佐のエイミィに翻弄された結果、角は取れたものの女性への接し方は残念……、もとい大雑把な対応となってしまっている。



Side:■■

 

 今度こそ、後悔したくはなかった。あの人の様に、あの子が信念に従って真っ直ぐ進むことになったとしても、何も知らず、関わらず、蚊帳の外のまま終わってしまうことだけは如何してもしたくはなかった。煩わしく思われても、嫌われても良い。もう二度と、目を逸らすような事だけは絶対に――――

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

 幾つも失くしてしまった、大切なモノ。それは色()せても尚、大切で。温かみが残っていて。仮令(たとえ)、その瞬間に戻れなくとも手にしていたかったモノ。だから頑張らなくちゃいけない筈なのに、如何してだろう……?

 

 私はまた、“何かを失おうとしている”。

 

 欲しいのに、何かが抜け落ちそうになっていて、それがさっぱりと思い出せずに居る。分からない。何が分からないのか分からない。ぐるぐると思考が停滞し、マルチタスクも絶不調。図らずとも閉ざされてしまい、単一の、思考だけと、なってしまって……。一体、このぽっかりと空いた心は、何なのだろう。このフラフラとした気分は、黒に、冷たさに沈み行くような、この……、コレは……何?

 

 

 

 

 ………………光を見たい。

 

 

 

 

 暗いからこそ、きらきらと輝いて、明るくて、温かい、そんな色の光が見たい。……そうだ。どうせなら、最近見たあの色が良い。可愛らしくて、華やかで、奇麗で、それでいて優しそうな、あの淡紅色を……。

 

「――――っ?!」

 

 ちょっと痛かったけれども、ずっと見ていたいと、何となくそう思えたんだ。

 

「しっ―――て、フェ――!!」

 

 そう思えた。だけど、なんといって、つたえたら――――

 

「今、――室に――――、だか―――――――れよ―――ト!」

 

………

……

 

 目が覚める。それはすっきりとした自然な覚醒ではなく、身体中に纏わり付いた熱に耐えかねてしまったが故の、嫌な目覚め……。(うず)きはするけれども、動けなくはなさそうだった。

 

「くっ……」

 

 珍しくもない。(たま)にある事。それだけに、身体を起こすのも億劫(おっくう)に感じてしまう。鈍く、重く、錆付いてしまったかのように自由が利かない私の身体。包帯の下が酷く痺れ、更なる熱を持ち始めるも、寝惚けた思考を覚ますのには丁度良い痛みで、気分はともかくゆっくりとベッドから立ち上がる事は出来た。

 

 身体を見回し、チェックしてみる。

 

 何となく察してはいたけれど、全身が包帯だらけで、まさに満身創痍といった体ではあるものの同時にこれはアルフによる手当ての成果でもあり、見た目に反して治りが早いのは経験済みなので、心配は無さそうだと判断する。――――これもまた、何時もの事。

 

 そして何時も通りに御礼を言おうとして周囲へ視線を走らせると、手当てや治癒魔法の行使で疲れ切ってしまったのか、アルフは人型のまま床へ横たわり静かに寝息を立てていた。これまで昼夜不規則なジュエルシード回収に付き合わせ、更には慣れぬ対魔導師戦に巻き込んでしまう等の無理が、積もりに積もってしまったのだろう。

 

 本当に、申し訳無いと思う。しかしそれでも頼らざるを得ない私の弱さは、これからもアルフを苦しめるに違いなかった。

 

 そう、だから……。そんな有り様だから、罰が当たるのだ。幾度となく無能の証を刻まれ、罪業は際限なく積み重なるばかり。されど足掻こうともしなければ、おそらく全てが駄目なままで終わってしまう。

 

「頑張らなくちゃ…………」

 

 ミス高町を打倒して、管理局を出し抜き、ジュエルシードを可能な限り集めなくては……。それが私の為すべきこと。私に託されたことなのだから、もっともっと頑張らないと――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、リニスが悲しむんだ。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 さて、大変な事になりました。クロノさんとの模擬戦を終えた後、お兄ちゃん達とはその場で別れて通学鞄や外履きを取りに学校へと戻り、結界&転移でスニーキングを済ませて帰宅した際の時刻は、午後7時をとっくに過ぎていました。

 

 これから御風呂や歯磨き、宿題に睡眠等とすべき事は沢山あるのですが、如何やらその前に、出来上がっているお母さんの相手をしなければいけないみたいです。

 

「ねぇ、“なのは”~。お母さんね、ちゃんとお母さんやれていると思う?」

「んー……。うん、ちゃんとやれていると思うよ」

 

 THE絡み酒。レンちゃんに体よく世話を押し付けられた晶ちゃん曰く、早上がりして帰ってきたかと思えば、貴腐ワインを1時間もしない内に1本空けてこうなったのだとか。こんな事になるのなら魔力をけちらず、先にお兄ちゃん達を自宅へ転移させた方が良かったのかもしれません。

 

「ほんとにー?」

「話で聞いた限りだけど、アリサちゃんや“すずか”ちゃんの御両親よりは余程かなと」

 

 比較対象がおかしいですが、多忙な大企業の社長をやっている親友の御母堂・御尊父方と比べれば、授業参観や運動会にもきちんと来てくれるお母さんは、ちゃんとお母さんをやれているような気がします。

 

 そう思いつつ、御飯を咀嚼(そしゃく)して飲み込みます。ええ、そうなのです。酔っ払ったお母さんによる粋な計らいにより、食事と並行しての一家団欒(?)なのでして、逃げる事が出来ません。ちなみに、晶ちゃんは洗濯物を畳むと言う大儀名分で戦線離脱をしており、暫くの間は孤軍奮闘の見込みです。

 

「ふーん……。ところで、“なのは”。最近帰りが遅いみたいだけど、探し物は順調? 無理はしてない?」

「うん、順調だよ。目処も付いて来たし、無理の方もしていない筈……です」

 

 時速100キロ前後で空中戦闘機動を描き、ハルバードの刃や魔力弾が(きらめ)く戦闘にも慣れつつある。だから無理ではありません。ただ時折、なんで私が戦っているんだろうと振り返って見ては、不思議に思いますが。

 

「じゃあ……、辛いと思ったりは?」

 

 それは…………、如何でしょうか? ほんの数日前は、ジュエルシードによる被害へ胸を痛めた事もありましたが、今となってはジュエルシードを集めていけば被害も無くなり、フェイトさんにも会えるという一石二鳥のような甘い考えが、日に日に増しているのです。

 

 なんと楽観的で、都合が良いのでしょう。

 

 きっと、私は困惑しているんだと思います。おそらく夢でも見ているのかもしれません。だってそうでなくては、探索を行いつつも通学する等の非効率的な選択肢を、選び続ける筈が無いのですから。

 

 つまり、現状の私は“少し変”なのかもと判断を下したところで、「お兄ちゃん達も手伝ってくれているから、それほどでも……」と無難な返事をしておきました。嘘ではありません。しかし本当でもありません。それでも、私自身が前向きになれるのなら。お母さんが心配せずに微笑んでいてくれるのなら、誤魔化し甲斐も有るというものです。

 

「ところでね、お母さん。最近、気になる子が出来たの」

「なになに? もしかして、男の子とか?」

「や、それはないです。フェイトって言う名前の女の子なんだけど、――――」

 

 関連性を持たせつつ、辛気臭い話題から話を遠ざけては逸らし続けて。こうして私は、お兄ちゃん達が帰って来るまでの間、楽しい一時を過ごす事が出来ました。

 

 

 

 宿題という、最大の宿命すらも忘れて。

 

 

 

 あれから、約10時間後でしょうか。睡眠時間としては正味5時間程で、寝たりないと訴える本能を無視して目を開き、携帯電話のアラーム機能を止めて起床します。体調は微妙な感じですが、魔力に関しては好調のようで、昨日消費した分の回復は出来たように思えます。

 

 部屋を出て、階下へと降りて、顔を洗い、短くなった髪を()いて、匂いに釣られるようにリビングへと向かって。なんだか、今日はやけに静かだなと思っていると、そこに居たのは晶ちゃんだけでした。

 

「おはよー、“なのは”ちゃん」

「おはよう、晶ちゃん。レンちゃんや、他の皆は?」

 

 何時もは、カウンターキッチン越しにレンちゃんと“ど突き合い”をしている光景が見られるのですが、本日はその限りではないみたいです。

 

「レンのやつは、『今日は朝市があるから、あとは頼むでー』とか抜かしながら出て行って、桃子さんは仕込みの確認がてら早めに出勤。師匠や美由希ちゃん達は、何時も通り鍛錬にでも行っているんじゃないかな? まだ、戻っては来ていないみたいだけど……」

 

 なるほど。と一頻り納得した後、晶ちゃんと一緒に朝食を済ませ、自室で制服に着替えたり、【レイジングハート】のシミュレーター機能で遊んだりして時間を潰し、通学バスが来る時間帯に間に合うよう家を出て、一路バス停へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしながら、今日この日。私が学校へ辿り着くことは無かったのでした。

 

 

 




Side:■■■■

 今度こそ、失敗する訳にはいかなかった。あの時の様に、あの子を二度ならず三度も失う事など有ってはならず、そしてその失敗を挽回するだけの時間は、私にはもう残されていない……。だからこの一度に全てを賭けて、そして――――



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第15話:淡紅色が照らすモノ【後編】

人物紹介
【アルフ】
フェイトの使い魔。歳相応に幼く、直情径行なところがあるものの面倒見は良い方で、御主人であるフェイトをサポートする為に治癒魔法と拘束魔法に長けている。しかし本人(本犬?)としては肉弾戦が好みの模様。通常は子犬形態だが、必要に応じて子供形態になる。



Side:アリサ

 

 これは、何度目の『また』なのだろうか? そう、『またしても』である。“なのは”に電話が繋がらない。――――という事は、『また』何かが起きているのだろう。具体的には、“すずか”の家で起こった神隠しのような何かが、『また』起こっているのかもしれなかった。

 

「繋がらないわね……。“すずか”の方は、どう?」

「うんん。こっちも駄目みたい……」

 

 何時ものバス停で通学バスが止まっても、“なのは”は乗り込んで来ず。その時点で何かがあったのかと思い、防犯で持たされている筈の携帯電話に掛けてみたところ、例の如く音信不通となってしまった。おそらく、意図的に電源を切っているとは考え難いので、やはり同じようなケースに巻き込まれているのだろうと推測してみたものの、結局のところは其れ止まりである。

 

 不安になっても何ら解決の糸口は無く、“なのは”も何かを知っている筈なのに教えてはくれないので、何もかもが分からない。どうせ、今回もひょっこり戻って来るのかもしれないけれど、ここ最近で起こっている不審な事象は危険度を増しつつあり、関連性が有るにせよ無いにせよ、無事に戻って来て欲しいとは心底思っている。

 

 まったく……。この不安の落とし前は、一体如何してくれようか?

 

 取り敢えず、次の御茶会は家で開くとして、ついでに1泊2日くらいは泊まらせるのも有りだろう。勿論、御風呂には一緒に入るし、ベッドは1つで同衾だ。すずかとは出来て、私とは出来ない道理などは無いのだから、此処までは押し通せる筈だ。それから、夜会用のドレスを着せまくったりして――――

 

 

~~

Side:なのは

 

 古今東西、エネミーシンボルと鉢合わせをしたら即戦闘というのは、様式または典型例として有名なので、不本意ながらもそれに倣って戦闘エリアならぬ結界を張り、変身してバリアジャケットを纏ってみましたが、如何やらそれは私の早合点のようでした。

 

「待った。私は、あんたと戦いに来たんじゃあない。話をしに来たんだ」

 

 そう言って、アルフさんは一瞬光に包まれたかと思うと子犬型から人型へと姿を変え、恐る恐るといった感じで話を続けました。

 

「あんた、以前フェイトに言ったそうじゃないか。ジュエルシードを持ち去ってくれるのなら、それはフェイトでも管理局でも構わないって……。あれは、まだ有効なのかい?」

「ええ、有効ですよ。私からしてみれば、フェイトさんも管理局もどの様にジュエルシードを扱うかは預かり知らぬところなので、この世界や私の親類縁者に被害が及ばなければ構わないと思っています」

 

 そもそもの話。私が管理局に不信感を持っているのが事の発端で、危険物もといロストロギアを封印して然るべき場所で管理をしているとは聞き及んでいますが、見方を変えればロストロギアを蒐集しているだけに過ぎず、果たして悪用をする事無く、その崇高な理念を守れているのか如何かまでは分かりません。

 

 よって、それ故の保険と人手不足解消の為、フェイトさんの回収を黙認しているというのが正しい実状だったりしますが、敢えて注釈を入れずに見送ります。

 

「ならさ……。今回のジュエルシードの回収は、私達に任せておくれよ」

 

 そうアルフさんが言うや否や、遠方で――――臨海公園からもそう遠くはない海上辺りで、幾つもの大規模魔力反応を感知しました。波長からして、おそらくはフェイトさんとジュエルシードによる物。

 

 なるほど。つまりこれは、交渉と足止めなのでしょうか……? 手段としては悪くはないのですが、仕掛け方があまりにも御粗末な気がします。だって探す為とはいえ、魔力流か何かを海に撃ち込んだのでしょうけれども、ジュエルシードを7個も強制発動&暴走させてしまっては、被害ゼロを信じるのは無理があるというものです。なので、急ぎ現場へと向かわざるを得ません。

 

[[“なのは”、こちらクロノ。そちらでも感知していると思うが、緊急事態だ。どうか手伝ってくれないか?]]

 

 そして掛かる支援要請の念話。これで大義名分はバッチリです。

 

[[したいのは山々ですが、現在足止めを食らっておりまして……]]

[[それは承知済みだ。しかし、君なら突破も容易い筈だろう? 期待している]]

 

 しれっと「モニターしているぞ」という暗示に呆然すること暫し。……さて、気を取り直して再考です。アルフさんを魔法で気絶させたり、振り切ること自体は確かに容易なのかもしれません。しかし、力量差を考慮したのでしょう。“話をしに来た”と言うアルフさんに対して、魔法で以って回答するのは少々ナンセンスのような気がします。

 

「アルフさん。暴走中のジュエルシード7個、フェイトさんだけで封印出来ると思いますか?」

「それは…………」

「信じたい。でも、心配ですよね?」

「うっ……。そりゃ、そうなんだけさ……」

「なら、一緒に行きませんか? 今直ぐに向かえば、きっと助けられると思うんです」

 

 こうして不安を煽り、決断を迫ることで強引に同行の承諾を得た私は、短距離転移で現場上空へと移動をしたのですが……。吹き荒ぶ風、舞い上がる波飛沫、猛威を振るう7つの竜巻など、一目で見て近付きたく無いなと思えるくらいの状況でした。

 

………

……

 

「だから、フルチャージして撃ったんです。《ディバインバスター》を」

 

 1つ1つの場面を思い返し、言葉にして。

 

「それで封印されたジュエルシードを僕とユーノ、フェイトとアルフが取り合っている間に、発射元不明の次元跳躍攻撃魔法により本艦のセンサー類が一時沈黙。続く第二撃目が現場へと落ち、結果として僕達が4個、フェイト達が3個のジュエルシードを確保した後に彼女達は現場から逃走し、戦闘は終了。概要は以上となります」

 

 それをクロノさんが引き継いで、リンディ提督へと受け渡し――――

 

「ふむ……。まぁ、取り敢えず4個だけでも守れたのは喜ぶ事にしましょうか。では、30分の休憩を挟んでから再開とします」

 

 このように纏められて、話は一段落しました。ええ、そうなのです。先程まで絶賛反省会もとい検証会の様なものをやっておりまして、丁度終わったところだったりします。戦闘終了から換算すると、あれから(おおよ)そ2時間経ちました。

 

 文字通り、青天の霹靂(へきれき)のような第三者の攻撃魔法により戦闘が終わってしまった為、その戦闘詳報を作成する前の参考資料作りとして、「こうして反省会を開くのが、この艦の習わしなの」と自称アースラのお姉さん事、エイミィさんから教えて貰ったのですが、正直に言って場違い感がもの凄かったです。はい。しかし如何やら、ようやく一息が吐けそうで……。

 

「ちなみに、“なのは”さんとクロノは残るように」

 

 訂正。どうやら、もう少しだけ続くみたいです。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

 艦長の人払いにより、会議室に残ったのは、僕と艦長と、“なのは”の3人のみ。艦内では3番目の序列にあたるエイミィを除いてまで、すわ何事かと思ったものの。始まったのは何とも穏やかな尋問風景――――否、面談のような物だった。

 

 フェイトについて。アルフについて。ジュエルシードについて。管理局について。“なのは”の家族や友人について、“なのは”自身は如何思っているのか? そういった漠然とした質問を淡々と問いかけ、淡々と返って来た言葉を聞く。たったそれだけの、5分にすら満たない短い遣り取りを経て、艦長は彼女を退出させてしまった。

 

「では、今度はクロノに質問します。今までの話や行動を聞いて見た上で、“なのは”さんの事を如何思っているのかしら?」

 

 いや、あれだけで如何と問われましても……。

 

「執務官の目線で言えば、戦力としては大変頼もしい限りなのですが、現場に私情を挟みかねないのが懸念事項だと思っています。そして個人的には、まぁその……。良い子、なのではないでしょうか?」

 

 管理局ですら、ほんの一握りしかいない貴重なSランク魔導師であり、甘さは目立つが行動力と良識は兼ね備えている。故に彼女が望み、努力さえすれば武装局員でも戦技教導官でも、執務官にでもなれるに違いないだろう。

 

「そうね。とっても良い子だとは思うのだけれど、此方側に心を開いていないのがネックなのよねー……」

「確かに言葉遣いは硬いとは思いますが、それは艦長の職責を重んじているからこその丁寧さなのでは?」

 

 そう伝えると、艦長は一瞬遠い目をして何事かを勘案していたようだったが、何か面白い事でも考えついたのだろう。満面の笑みを浮かべつつ、僕にこう告げたのだった。

 

「ねぇ、クロノ。貴方、ほとんど有給休暇を取って無かったわよね? この事件が終わったら、“なのは”さんが通っている学校へ短期留学してみたらどうかしら? きっと勉強になると思うわ」

「……………………はい?」

 

 一体、何が如何してそうなったのか。全く検討が付かないものの、知見を広める為ならばそれも存外悪くはない。――――のかもしれなかった。尚、これが後に甘い考えだったと思い知らされるのは、また別の話である。

 

 

 



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第16話:立ち込める暗雲なの

人物紹介
【エイミィ・リミエッタ】
自称“クロノの右腕”であり、“アースラのお姉さん”。もとい執務官補佐と、アースラの通信主任を務めている。実際のところ、艦内ではリンディ提督とクロノ執務官に次ぐ権限を持つものの、それを気負うことなく明るく自由に振る舞っている。かなりの癖っ毛のため、ブラシとヘアスプレーが欠かせない。




Side:■■■

 

 何と声を掛ければ良いのだろうか? 如何切り出したら、話を聞いてくれるのだろうか……? 何てことは無い。ただそのまま伝えれば良いし、きっと彼女は遺恨も私怨も挟まず淡々と話を聞いてくれて、社交辞令的に返事をしてくれる筈だ。そう信じているのに、僕は如何しようもなく彼女――“高町なのは”――に話し掛けることを躊躇(ためら)ってしまっていた。

 

 いや……。本当は、合わす顔が無いから向き合いたくも無いんだろう?

 

 足が竦んで、息が詰まって、気が張って、尻尾を巻いて帰りたくて。そんな僕なんかよりも彼女はしっかりしていて、強くて、格好良くて、凛としていて。あまりにも惨めで、あまりにも輝いていて。手伝うつもりだった。頑張るつもりだった。贖罪(しょくざい)のつもりだったんだ!!

 

 でも君は、ずっと凄くて……。

 

 きっと、僕が手伝わなくても全てを為し得たに違いないし、そもそも僕が馬鹿な事をしなければ、こんな事にはならなかった筈で……。分かっているさ。君が言ったように「ただ前へ進むしかない」って事ぐらい身に沁みて分かっているとも。だからこそ、如何しても“タダ”では終わらせたくなかったんだ…………。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

「あの、“なのは”さん……」

「もしかして、スクライアさんでしょうか……?」

 

 声のする方へと視線を向けると、そこに居たのは枯れ草のような薄茶色の短髪に、深緑色の瞳を持つ同い年くらいの男の子でした。戦闘や会議の時にもさり気無く居ましたし、もしやと考えなくもなかったのですが、スクライアさんの声を出しているので、これはもう確定的だと思います。

 

「あ、うん。怪我も完治したから、もう良いかなと思って。……えっと、実は恭也さんから伝言を預かっているんだけど――――」

 

 そう前置きをして、律儀に一言一句も違えずといった感じでスクライアさんが諳んじてくれた伝言を纏めると、『学校の方には病気と伝えているので、欠席の件は心配しなくても良い』といった内容でした。

 

 思い返せば、時刻はとっくに10時を回っており、普通であれば登校しなかった児童の安否確認の電話の1つや2つは、保護者の元へ掛かるというものです。それを意地の悪さに定評があるお兄ちゃんが、上手く対処してくれたのは本当に有難い限りで、これがお母さんなら如何なっていた事やら……? 後で、御礼を言わなくてはいけません。

 

「――――伝言は以上です」

「有り難う御座います。お陰で、憂いが1つ無くなりました」

「どう致しまして。それでその…………」

 

 逡巡。そうやって、スクライアさんが何かを言い淀んでいる内にクロノさんが呼びに来て、会議の続きが始まる事になりました。一体、スクライアさんは何を伝えたかったのでしょうか? 表情から察するに、少しばかり気後れしそうな内容である事は推考出来るのですが……。取り敢えず、それはさて置き。今は会議に集中しなければ。

 

「では、引き続き会議を進めましょうか。エイミィ、資料を」

「はい、艦長。今、皆さんの手元のモニターに送信したのは、アースラに対し攻撃魔法を仕掛けて来た犯人と思われる人物の情報です。名前は――――」

 

 ――――プレシア・テスタロッサ。16年前、開発中だった新型駆動炉の稼動実験に失敗し、中規模次元震が発生。その責を負い、地方へと異動したのを最後に足取りは不明。魔導師ランクは条件付きSSSランク。“電気”への魔力変換資質持ち。

 

………

……

 

 これだけ、でした。機密管理上、必要最小限の人に必要なだけの情報を与える『Need to know』の原則からしてみれば十二分過ぎる程でしたが、実際にやられてみると疎外感を抱かずにはいられません。おそらく、リンディ提督の元には完全なデータがある筈。ですが、まぁ……。ただの現地協力者がどうこう思う事では無いかもですね。はい。

 

「それぞれの目的や理由は未だに不明確ですが、今後は“プレシア・テスタロッサ”、“フェイト”及び“アルフ”の3人が協力関係にある事も視野に入れて、行動をしていきたいと考えています。――――ですが、ジュエルシードを全て回収してしまった以上、此方が取れる行動は少なく、後手に回らざるを得ない状況です。もしかすると、既に遠方の次元世界へと逃走している恐れもあります」

 

 此方側で回収したジュエルシードは13個。そして、フェイトさん側(仮定)で回収されたジュエルシードは推定8個で、合計21個。果たして、フェイトさんが望んだ数に達したのか否かは分かりませんが、向こうの拠点を特定出来ていない現状では、確かに此方からのアクションは難しいように思えます。

 

「ですので、確認をしてみましょうか。ねっ、なのはさん?」

「…………ふぇ?」

 

 そして滔々と語られるそれは、とてもとても下策の中の奇策のように思えるモノで。『リンディ提督=賭博師』という図式が、私の中で誕生した瞬間でもありました。あの、クロノさんとエイミィさん。目を逸らさずに助けて頂きたいのですが……。

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

 ツンとした錆の匂い。静電気が走っているような僅かな痺れと、身体の火照り。何となく御風呂に入っているような気がして、このまま嘘に溺れてしまいそうだった。

 

「この役立たずっ!! あれ程の好機を前にして、手に入れたのはたったの3つ。これでは辿り付けるか如何か、分からないじゃないの!!」

「ごめん、……なさい…………」

 

 今日の(しつけ)は、随分と激しい。あの目は、期待を裏切られた目だ。この声は、心底失望してしまった声だ。病魔に(むしば)まれて立っている事さえ辛いはずなのに、烈火の如き怒りが、ドクターの身体に熱を与えている。この(むち)の一振りに、言葉の一句に、一体どれ程の熱が込められているのだろうか?

 

 もう、その熱量が分からない程に浴びせられてしまった私に計る術は無いけれど、きっとドクターは冷え切っているに違いない。白い化粧と、紫色のリップで顔色が分かり辛いものの、何時も通りなら多分そう。……ほら、やっぱり。振るう度にドクターの汗が滝のように流れ落ち、声は乱れに乱れ、やがて“ぱたり”と止んでしまった。

 

 激昂していたとはいえ、あまりにも早い終わり。また、以前よりも更に悪化しているのだろう。切羽詰っていて、時間も残されていないのに、私が不甲斐無いせいで無理をさせてしまって、本当に申し訳ない限りだ。

 

 

 

 謝りたい。

 

 

 

 けれども、ドクターの熱を受けきったこの身体はとても熱くて重くて。一言さえ、満足に伝えられそうになかった。ならば、すべき事は分かっている。意識を落として疲労を回復させ、それからまた頑張らなくては……。

 

 ジュエルシードは、もう何処にも落ちてない。残りの13個は、ミス高町と管理局が持っている。なら、残された道は保管されていそうな巡航艦への強襲? それとも代替品を探すべき? 成功の可能性ってどのくらいだろう……? そして、ドクターがたおれるまでに、まにあう、……のかなぁ…………?

 

「フェイ――――!? ――イト――!! ああ、―――――!」

 

 ごめんね……、アルフ。ちょっと……だけ、やすませてほし――――……

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 アースラの良心かもしれないナンバー2と3に見捨てられた私は、ナンバー1の語りによって手詰まり感を打破するには有効な策かもと思わされた挙句、無意識に了承したところで会議は終了。それから、ナンバー1もといリンディ提督を除く皆で食堂へと移動し、昼食を食べる事になりました。

 

『説得とは、扇動・洗脳の(いず)れかである』

 

 今回は、そんな教訓を図らずとも得てしまいましたが部外者の私ですらこの有様(ありさま)なら、常日頃リンディ提督を支えるクロノさんとエイミィさんは、かなり凄い人なのかもしれません。主に精神的な意味で。――――等と呆けた思考を振り払い、お弁当のおかずであるハムカツを一口含みます。んー……、流石はレンちゃんと晶ちゃん合作のお弁当。正気に戻るのも止む無しの美味しさです。

 

「ふむ……。“なのは”の昼食は、手作り弁当なんだな」

「はい。今日は学校へ行くはずだったので、今食べないと駄目になっちゃうんです」

 

 それを聞いて、申し訳無さそうな表情になるクロノさんでしたが、視線で私の顔と弁当箱を行き来している内に覚悟でも決まったのでしょう。やがて重々しく、非礼を詫びるようにお願いをしてきました。

 

「もし良ければなんだが……、おかずを1つ交換してくれないか?」

「別に構いませんけど、どれが良いですか?」

「あの、“なのは”ちゃん……。私の分も、お願いします!」

「勿論、エイミィさんもどうぞ。スクライアさんは如何しますか?」

「えーと……、僕は遠慮しておくよ。普段、家の方でご馳走になっていたし、これ以上交換したら“なのは”さんの分が無くなっちゃうだろうから……」

 

 そんな感じでおかずを交換したり、航行中の食事が如何にローテーションされ、制限され、嗜好品に乏しく、食べ飽きてしまうのかをクロノさんとエイミィさんに力説されたり、食後に魔法や戦術について語り合ったりと楽しい一時を過ごした後は、明日の作戦に備えて一時帰宅をする事になりました。

 

 ちなみに、明日は金曜日で当然のように登校日なのですが、作戦のため仮病を使わざるを得ず、更に言えば協力して貰うための説得は私自身がしなくてはなりません。この気持ち、何と形容すれば良いのでしょうか……? 中間管理職の気持ち? いえ、何か違うような気も――――と並列思考を無駄に稼動させつつ、何時ものように庭へと転移。バリアジャケットを解除し、隠蔽用の結界を解いた瞬間の事でした。

 

 突如として携帯電話が鳴り響き、通話とメールの不在着信が引っ切り無しに通知されていきました。(たま)らず消音設定にしましたが、バイブレーションが絶えず震動を続け、イルミネーションが点滅を繰り返すこと1分程。通知欄を確認すると、大半がアリサちゃんや“すずか”ちゃんによる物で、後はお母さんからのメールが幾つか。

 

 取り敢えず…………。

 

 庭に立ち尽くしていても仕方が無いので、玄関から入って「ただいま」と帰宅を告げようと思いました。現実逃避……? いいえ、これは戦うための準備です。例えるならばそう、剣士が一足一刀の間合いに入るようなものでして、決して不自然な事ではないのです。ええ、はい。

 

 



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第17話:決闘は夜明け前になの

人物紹介
【リンディ・ハラオウン】
時空管理局提督にして、次元巡航艦アースラの艦長を務める妙齢の女性。直感的な発想が余人よりも優れており、即決即断と独断専行による行動力が最善をもたらし、今の地位へと押し上げた。夫が殉職しており、その分の愛が息子であるクロノへと注がれているものの、皮肉な事にそれが却って親離れを促進させている。尚、この件に関しては勘が冴えないのか、気付く素振りは皆無である。



Side:アルフ

 

 如何して、此処まで残酷になれるのだろうか。傷自体は浅くとも、全身に数十数百ともなれば血だらけになるし、衝撃も伝わるのだから全身打撲となってしまう。それが分かっていて、それでも尚フェイトを痛めつけながらも酷使するのなら、それはもう“人でなし”と言って良い筈だ。少なくとも、優しいフェイトと同じ種族とは思いたくもなかった。

 

 それなのに、フェイトは見限ろうとはしない。

 

 どんなに酷い仕打ちをされても、罵詈雑言を浴びせられても、フェイトはドクターの元から去ろうとはせずに命ぜられるがまま行動して、今もまた傷だらけであるにも(かかわ)らず出撃の準備をしている。

 

 強引にでも止めるべきだ、とは思う……。

 

 手当ては尽くしたものの、ちょっとでも激しく動けば傷口なんて簡単に開いてしまうし、何より体力や魔力を回復させる為の休息時間がほとんど取れていない。だけどフェイトは「これが最後だから」と言って、一向に考えを改めようとはしなかった。

 

 ねえ、フェイト……。私は馬鹿だからさ、フェイトの考えている事がよく分からないよ。こんなに痛い思いをして、傷付けたくないのに誰かに刃を向けて、辛くて楽しくなくて苦しい事ばっかりなのに、如何して逃げようとしないのかがさ……。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

「はぇ……」

 

 メールと電話で親友に嘘を吐き、家族の皆に説明とお願いをし、夕食やら御風呂やらの日常行為を一通り済ませて時刻は21時。明日の博打もとい作戦に向けて、今日は少々早めのベッドインと相成りました。とはいえ、体力は余っているのでなかなか寝付けずにおりますが。

 

 ……………………………振り返ってみれば……。 

 

 たった1週間あまりの間に色々あって頑張って、嫌な事もあったけれど、ようやく終わりを迎えられそうで。なのに少しも嬉しくなくて、悲しくもなく、重く、けれども手放したいとは思えないこの複雑な気持ちは、何と形容すれば良いのやら……?

 

 誤魔化してはいけない。先送りにしてはいけない。一体何なのでしょう。この……、遣る瀬無い思いは。それとも、やり残したような焦燥感? だとしたら私は何を惜しみ、何を悔いて、何を望んで…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――ミス高町……。

 

 

 

 

 

 

 

 

[- Emergency!! -]

「ふわっ?!」

 

 深い眠りから【レイジングハート】の警告音に叩き起こされた私は、矢継ぎ早に飛んで来るクロノさん他多数からの念話と、次々に受信・表示される空間モニターから情報を収集しつつバリアジャケットを身に纏い、まだ薄暗い空を星のように翔けて行きました。

 

 時刻は午前4時8分。

 

 高度を上げれば水平線から朝日を拝めるかもしれませんが、生憎(あいにく)と空は暗雲と魔力流で満ち溢れ、その中心に臨戦態勢で(たたず)むフェイトさんを見る限り、そんな余裕は無いように思えます。尚、フェイトさんからの要望により交渉役は私のみで、クロノさんやスクライアさん等はバックアップとして現場付近に身を潜めているとの事。

 

 えーと…………。如何に目が覚めていようとも、起き掛けで朝食前の低血圧&低血糖の脳の稼働率など高が知れていますが、それでも何とか“挨拶”という選択肢を導き出し、外部出力をしてみました。

 

「お早う御座います、フェイトさん」

「…………ミス高町。貴女に、決闘を申し込みます」

 

 あまりにも唐突な申し出に、並列思考で聞き間違いの可能性を精査してみましたが聴覚や記憶力は正常そのもの。そして、その後に続く言葉もまた(にわ)かには信じ難いものでした。「もし決闘に応じず、または決闘に妨害が入った場合、此方には市街地へ長距離砲撃をする用意があります」など、まさに脅迫そのもので、暫し呆気に取られてしまいました。

 

 らしくない。

 

 今まで隠れるように行動してきたフェイトさん達が、この様な一転攻勢へと出る。つまり、それにはちゃんと意味があって、向こうの状況が変わってしまった事が(うかが)えます。これがフェイトさんの独断行動か、または計画的な陽動なのかはさて置き。

 

 取り敢えず、フェイトさんの方はやる気充分の様子なので、そろそろ此方も構える事にします。本当は、理由も真意も分からず無闇に戦いたくはありませんし、話し合いで解決して仲良く終われるのなら、それに越した事は無いと思います。

 

 でも、ぶつかり合うのを避けていたら、きっと何時までも向き合えないとも思うから……。だからこれは、仲良くなる為の通過儀礼。私とフェイトさんが和解して、それから始める為に必要な1歩なんだ。――――と自己暗示しつつ、「応じます」と返答しました。すると刹那に閃光が煌めき、続いて景色がゆっくりと流れ出して……。

 

「…………えっ?」

 

 

 

~~

Side:■■■■

 

 あの子が、とても悲しそうに私を見つめている。

 もしかして、気付いてしまったのだろうか?

 ならば僥倖だ。そのまま(あわ)れんで、侮ってくれれば良い。

 痛みなんて無い。重みなんて無い。寒くも無い。

 ただ、魔力と意志だけが熱を持ち、私を突き動かしてくれる。

 もっと速く、強く、激しく。

 数多の斬撃を。幾重とも知れぬ魔法の雨を。

 でなければ、私はあの子に到底及ばないのだから。

 もっと、もっとだ……。

 魔力が足りない。演算リソースが足りない。

 酸素が足りない。腕が足りない。

 目が足りない。思考が足りない。

 私が足りない。

 オーバードーズ。オーバークロック。

 足りない。

 まだ足りない。

 ちっとも足りていない。

 これじゃあ、まるで何もかもが足りて――――――――

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

 浮き立つような、何処までも五感が研ぎ澄まされるような、痛みが熱へと変わるような、魔力に底が無くなってしまったかのような、私が私でないような感覚。怖いと思うと共に、何処となくまだ大丈夫だと過信することが出来た。実際のところは、目を背けているだけなのかもしれないけれど。

 

 それにしても、汗が止まらない。

 

 熱が(うごめ)く。血潮と魔力が身体を突き破らんばかりに駆け巡り、害意を乗せた魔法は光となって荒れ狂う。――――だと言うのに、未だにミス高町を落とせない。手堅く、強く、先が読めず。一体、如何したらその守りを打ち破れるのだろうか?

 

 嗚呼、足りない。届かない。壊せない。やはり肉薄して、一点突破するしか術が無い。きっとそうだ。やらなければ、討ち倒さなければ、損耗させなくては……。

 

[- Gale-form set up. -]

 

 トライデント展開。…………心を澄ませ。疾く、速く、鋭く切り込んで行け。痛みなんて無い。吐き気なんて無い。雑音なんて無い。傷口からの出血なんて、焼き塞いでしまえば良い。前へ!! 前へ!! もっと前へ!!

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 速くて、重くて。その上、非殺傷設定も如何やら外れているようで。そんな風に狂っているフェイトさんの攻撃が嵐のように襲い来るも、不思議な事に私はそれが怖いとは思えませんでした。

 

 避けて、受け流して、弾いて、牽制して。

 

 普段よりも人間味が薄いせいか、心理的な作用が少なく淡々とスムーズに対処出来ています。プレッシャー。もしくは、気当たりと言う物は存外影響があるんだなと現実逃避を一段落させたところで、現状確認へと戻ります。

 

 現状はやや優勢。

 

 フェイトさんが夜明け前という時間帯を選び、用意周到に仕掛けてきたのは若干辛かったものの、事前に負っていた傷やら薬物の副作用と思われる症状によって精彩を欠きつつあり、このまま持久戦を強いれば勝利は目前です。

 

 しかしながら、時間が経つに連れて彼女の全身に走る傷が新旧を問わず内出血、または出血していくにも(かかわ)らず攻勢を維持しようとする様には鬼気迫るものがあり、このまま壊れてしまう前に止めなくては、と私の良心が理性に訴えかけているのもまた事実。

 

 持久戦で確実な勝利を得るか、フェイトさんを思いやって今直ぐにでも止めるのか。無論、後悔はしたくないので選ぶのは後者ですけれど、実のところ未だにノープランだったりします。そもそも普段以上の苛烈さで攻め立てられ、動き回られては捕まえる事は元より、確実な一撃を当てる事すら(まま)なりません。

 

 やはり、一撃くらいは敢えて受け止めて、無理矢理にでも拘束するしか手は無いのでしょうか? バリアジャケットがあるとはいえ、リンカーコアへの魔力ダメージを多少なりとも我慢しなくてはなりませんが、時間切れになるよりは余程マシな選択なのではと勘案していると、向こうも勝負を決めに来たのでしょう。

 

 バリアジャケットの形状が、全身に包帯が絡み付くようなデザインが付加された物へと変更され、【バルディッシュ】の形状が三叉槍を思わせる無骨なフォームへと変形しました。そしてフェイトさんはそれを両手で構え、黙すること数瞬……。

 

 

 

 真っ直ぐに飛び込んで来て――――――――

 

 

 



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第18話:星が輝く時なの

 戦いの中でしか、私は貴女を知り得ませんでした。名前や、話し方や考え方。得意とする戦法とか、同い年くらいに見えるとか、それくらいの事しか知らないけれど、優しい人である事は直ぐに分かったんだ。そう分からされて、私はなんて酷い子なのだろうと少しだけ自己嫌悪した事もありました。それでも成し遂げたい約束と、思いがあって……。だからこそ、私は止まる訳にはいかなかったんだ。



Side:フェイト

 

 数にして26発。恐らくそのどれもが誘導性能を持ち、たとえ直撃せずとも至近で炸裂するようにプログラムされた近接殺しの魔力弾。その全てが私を迎撃しようと襲い来る光景は、恐怖よりも先に感動と尊敬の念を生じさせた。

 

 前へ。

 

 上下左右前後と来ようが、ひたすら前へと突き進む。直撃するよりも先に前へ。炸裂するよりも先に前へ。追いつかれるよりも先に前へ。【バルディッシュ】で道を切り開き、バリアジャケットに増設された反応装甲を頼りに、強引に突き破って進んで行く。

 

 もっと前へ。

 

 反応が鈍い。相殺しきれず、被弾が増えて来ている。けれどあと少し、もう少しだけ前へ。もうちょっと、なんだ。何度も出来るとは思わない。何度も通用するとは思えない。だから全身全霊の一撃を、この一度に賭けよう。届け……、届いてっ!!

 

 

 

――――――疾風怒涛《 Blast raid 》

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 思わず、目を見張ってしまいました。速さのあまり制御が追い付かなかったとはいえ、あの誘導炸裂弾の雨を正面突破して刃を突き立てて来るなんて、いやはや敵ながら天晴。好敵手とは斯くあるべし等と思考を逃避させている間に、左手の痛覚を遮断。補強した《 Round shield dual 》に【バルディッシュ】を噛ませつつ、穂先から勢いよく左手を引き抜きました。

 

 溢れ出る鮮血。

 

 シールドが威力を削いでくれた御陰で辛うじて切り落とされませんでしたが、甘く見積もっても全治一ヶ月クラスの重傷で、物凄く痛そうに見えます。……まぁ、それはさて置き。間髪入れずに飛んで来る魔力弾を避けながら、距離を稼ぎます。

 

 …………稼ごうと、思ったのです。

 

 ですが、知らず知らずの内に追い込まれてしまったのでしょう。まんまとトラップゾーンへ飛び込んでしまった私は、抵抗空しく幾重ものバインドで雁字搦めにされてしまいました。無論、それだけで終わる筈も無く、私を取り巻くように凄まじい勢いでスフィアが展開され、魔力がチャージされていきます。

 

 その数、合計38基。

 

 これだけの発射台を用意して1発だけの発射という事は無いでしょうから、1基あたり10発ずつと仮定すれば380発、20発ずつなら760発といったところですが、肝心な連射性能が未知数のため楽観視は出来ません。ですので、念には念を入れて……。

 

「フォトンランサー・エクスキューションシフト!!」

[- Fire. -]

 

 あ、この弾幕はちょっと…………。

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

 万感の思いを乗せ、最後の魔法を放つ。――――刺し通すはずの一撃が左手を負傷させるだけに止まり、それでも諦めずに魔力を使い切るつもりで発動させたのは、奥の手の1つである《 Photon lancer・Execution shift 》。38基ものスフィアで包囲し、毎秒7発、5秒間に渡る全力斉射で合計1330発の魔力弾を撃ち込んだ後、不要となった38基のスフィアで再構成した砲撃魔法《 Spark end 》を放ち、着弾地点付近に漂う魔力残滓ごと対象を爆破する。

 

 この2つの魔法からなる一連の大技が、私が一度に放てる最大の火力だった。

 

 煙は未だに晴れず。けれども、やりきったのだ。ひたすら撃ち込んで、吹き飛ばして。きっと跡形なんて何も無くて、これで終わりなんだと勝手にそう思い込んでしまっていた。否、そうあって欲しいと願ったのだ。

 

 

 

 けれども、彼女は存外平気そうに煙の向こうから現れて――――――

 

 

 

[-《 Restrict lock 》-]

「それじゃ、今度はこっちの番!」

 

 そして気付けば、幾つもの軽い衝撃と共に四肢のみならず全身を満遍なく拘束され、身動きが取れなくなってしまった。しかも器用な事に、反応装甲が欠けている部分を選んでの拘束である。これでは、反応装甲を起爆させて強制解除する事など儘ならないし、そもそも魔力はブラックアウト寸前まで尽きてしまっている。為す術など、もう何も残されてはいなかった。

 

「集え、綺羅星」

 

 そのコマンドトリガーと共に、圧縮魔力の残滓や大気中の魔力が粒となり、彼女の元へと集い始める。全てがキラキラと輝きながら流れを作り、編み込まれるように集束していく様は、言葉に尽くせぬ程に幻想的な光景で……。私は何時しか疲労も痛みも忘れ、ただただ無心に、その様子を目に焼き付けようと見入っていました。

 

「スターライト、ブレイカーーーー!!!!」

[-《 Starlight breaker 》-]

 

 

 

 

 光が満ちる。やがて世界は白へと色を変え――――……………………

 

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

 現地時間0415。“なのは”とフェイトが交戦を始めて5分と少し。先日、“プレシア・テスタロッサ”による物と思われる次元跳躍攻撃があった事や、フェイトの脅迫を鑑みてユーノと共に市街地の防衛へと回っているものの、実際のところその予兆は微塵も感じられないまま遊兵と化した僕達は、“なのは”の奮闘を遠くから見守る事しか出来なかった。

 

「そんな、“なのは”さんが押されているなんて……」

「いや、おそらくフェイトが普段以上に突っ込んで、“なのは”が引いているだけだろう。現に危うげは無いし、もしかしたら暖気運転も兼ねているのかもしれないな」

 

 士官学校時代では非常呼集で叩き起こされた挙句、仮想敵役の魔導師を高度3千メートルで迎撃するというシナリオをこなした身としては、今の“なのは”の心境は察せなくもなかった。

 

 『きつい』のだ、この状況は。

 

 思いとは裏腹に身体が追い付かないというのは、かなりもどかしく感じてしまう。それでも、やらなくてはならないし、やり遂げたい思いが身体を衝き動かす。そして尚更、もどかしく思う。けれども、焦らずに身体を慣らそうとしている彼女を見る限り、そういった心配は杞憂というものだろう。

 

 それよりも気になるのは、この後の事だ。

 

 フェイトは魔力リソースとなる魔力流を準備した上で、夜襲同然の決闘を“なのは”に吹っ掛けている。つまり、勝ちに来ているのだろう。ではその陰で動いているであろうアルフやプレシアは、何を考え行動しているのか? 未だにジュエルシードの収集目的が判明しない中、それだけが懸念事項だった。

 

 現地時間0432。

 

 “なのは”の調子が上がり、フェイトと付かず離れずの接戦を海上で繰り広げるようになった頃、それは静かに起きた。微かに、それでも異常だと分かる空間の揺れ。――――次元震。ジュエルシードを回収しきった今、そう易々と発生しないはずの現象が起こるという事は、おそらく誰かがジュエルシードを発動させたのだろう。馬鹿げている……。次元震がもたらすのは破壊だけだというのに。

 

「エイミィ」

[-はいはい、クロノ君。只今震源地を絶賛割り出し中だよ! だから、もうちょっと待ってね -]

「了解。頼りにしてるよ」

 

 空間モニターの向こう側ではエイミィが慌ただしくコンソールを操作し、艦長が指示を出す様子が伺える。やはり、この決闘は陽動なのだろうか? だとすると、向こうは“なのは”を最大戦力と捉えている事になるんだが……。まぁ、気にするまい。

 

[- 発震源特定! 艦長! -]

 

 そう言って表示されたのは、次元空間を漂う巨大要塞の姿だった。それはモニター越しでも分かる程の威容を誇り、思わず「大物だな」と軽口を叩きそうなる。

 

[- エイミィ、待機中の武装局員に出動命令を。クロノは一旦此方に戻って、二班と共に出動する様に。ユーノさんは、引き続き現場待機をお願いします -]

「了解」

「分かりました」

 

 果たして、あれは震源地であると共にプレシア等の一味も潜んでいるのだろうか? 確証は無い。けれども居れば捕まえ、居なければ次の一手を打つだけである。憶することは無い。気負うことは無い。現場では己を信じ、全力を尽くすのみだ。たったの、それだけなんだ……。

 

「転移、アースラ」

 

 そして転移後、5分と経たず僕を含む第二班の出動が速やかに行われた。『一班が強襲を受け、半数以上が戦闘不能』という凶報と共に。

 

……

………

 

 少しだけ、現実逃避をするとしよう。

 

………

……

 

 “魔導師ランク”という制度がある。これは魔力量の多寡や保有資質によって決まるもので、僕の場合はAAA+というランクだが、実はこのランク帯の平均魔力量以下の魔力量しか持ち合わせていない。つまるところ、運用技術や魔力変換といった保有資質の面で平均以上に優れていれば、僕の様に差し引きプラスの分で上のランクを狙えたりするのだが…………。

 

[- ブリッジ、こちら二班長。負傷者及び魔力切れ多数! この(まま)では空挺堡(くうていほ)を維持できません! -]

[- 落ち着け二班長。一班再編完了! これより戦線に復帰する! -]

[-こちら医療班。流れ弾が多く、重傷者の後送が出来ない。支援を! -]

 

 こういう多勢に無勢という状況では何だかんだで魔力量が物を言うので、「ランク相応の魔力量が欲しい」と思わず無い物強請(ねだ)りをしたくなる。しかし悲しかな。此処数年、魔力量は伸びを見せず、ついでに武装局員の隊長クラスは平均Aランクで、その部下はBランクだ。

 

 要するに、この場には“なのは”の砲撃魔法のように敵を一掃出来る者が居らず、僕は僕で「要塞の駆動炉を停めてね♪(意訳)」という艦長の無茶なオーダーに応える為、先程から単独先行をしているので直接的な支援は不可能である。

 

 ちなみに多勢とは、要塞内に突如湧いた人型魔導兵器の事で、推定100体以上。魔導師ランクで言えばAA~Bランク相当とまちまちで、如何(いか)に知恵と連携で勝ろうとも物量と火力で勝る相手に持久戦を耐えるのは少々分が悪い。

 

 よって、速やかにエネルギー供給源と思われる駆動炉を停止または破壊し、その余勢で次元震を止めたり、あわよくばプレシア等の事件関係者を捕縛しないといけないのだが、残念な事にこの身は1つ。出来れば“なのは”、せめてユーノの手でも借りなければ、それらの達成はとても難しいように思えた。――――主に、魔力と時間的な問題で。

 

[- ふむ……。エイミィ、武装局員への指揮は私が預かります。貴女はクロノと“なのは”さんのナビを優先なさい -]

[- えーと、それってもしかして……? -]

[- 現場で陣頭指揮って事ね。ちなみに、アースラの駆動炉からちょろっと魔力を拝借するから、エネルギーの再配分は任せたわよ? -]

[- デスヨネー。はいっ、精一杯頑張ります! -]

 

 何ともまぁ、人手不足極まれりといった感じの状況になって来たな……。こうなっては1つの失敗が全体への致命的な負荷となりがちなので、此方もエイミィに負けじと頑張らなくては。それに、艦長――母さんが陣頭指揮を執るのだ。執務官として、息子として、惨めな姿など晒せるはずが無いじゃないか。

 

 

 

 さて…………、そろそろ現実を見据えるとしよう。

 

 

 

 敵は推定AAAランクの人型魔導兵器が“残り3機”。対して此方は、これまでの戦闘で疲労困憊(こんぱい)となったAAA+ランクの執務官が1人。何とか駆動炉がある機関室まで辿り着いたものの手厚い歓迎を受けており、そろそろ次元空間の藻屑と消えるか、叩き切られて肉片となるかの二択が脳裏にチラつき始めている状況だ。

 

 尤も、少し後方へと引いて魔力回復に努めれば突破も容易だろう。しかしそうすると今度は、時間が経つに連れて増す次元震を止められない可能性も出て来るのだ。此方を立てれば彼方が立たず、彼方を立てれば此方が立たず。単なる推測で自縄自縛する様は何とも滑稽ではあるものの、こればかりは無理を通さないと上手くいかない現場が悪いとボヤくしかない。――――そう思っていたところに何とも心強く、涙がちょちょ切れそうな叱咤激励が飛び込んで来た。

 

[- クロノ、次元震と空挺堡は私が抑えます。だから貴方は無理をせず、けれども可及的速やかな対処を心掛けるように。良いですね? -]

「イエス、マム」

 

 無茶なオーダーの上に、更なる無理な要望が覆い被さって来る辺り、向こうの慌ただしさが目に浮かぶようだった。それから数秒と掛からず、次元震の振動が遠ざかるように小さくなっていく。これで時間は出来た。作ってもらった。なら次は、今度は此方がやり遂げる番だ。

 

「さてと……」

 

 そして僕は、脱兎の如くその場を後にした。戦闘において魔力切れを起こすという事は任務失敗のみならず、最悪の場合は殉職と特別勲章授与コースであり、『人的資源の損失回避及び全体士気の低下抑制の面から、そういった負の連鎖は断たねばならない』と戦闘教本にもきちんと明記されている。

 

 故に、これは敵前逃亡では無い。再突撃準備の為の後進であり、疑似潰走。即ち、戦略的撤退なのだ。恥じる事は無いし、惜しむ事も無い。ただ悔やむべきは、己の魔力不足と深刻な人手不足のみである。

 

[- もしもーし、クロノ君。こちらブリッジ -]

「如何したエイミィ? 悪いが手短に頼む」

 

 魔力は時間経過と共に自然回復していくが、精神を集中させてリンカーコアを活性化させた方が効率は良いので、あまり気を散らしたくは無かった。エイミィもその辺りを察してくれたのか、内容をかなり端折った上で口早に「助っ人送ったよ! ではまた!」とだけ伝達し、返事を待たずに通信をぶっつりと切ってくれた。

 

「…………いや、それじゃ誰が来るか分からないじゃないか?」

 

 ついでに何時来るか、どう合流するかもだ。――――等と思っていると、床下からやたら高密度の魔力反応を感知。急いで飛び退くと、先程まで立っていた所を掠めるようにピンク色の閃光が天井に向かって突き抜け、程無くして穴の中から見知った人物が飛び出して来た。

 

「えっと……、大丈夫ですかクロノさん? 一応、当たらないように撃ったつもりなんですけど……」

「それは一般的に誤射と見做(みな)される行為なんだが……。まぁ、とにかくだ。君が来てくれて心強いよ、“なのは”」

 

 何時か誤射ネタで、からかってやろう。そう心に刻みつつ、僕は労いと感謝の意味を込めてゆっくりと左手を差し出したのだった。

 

 

 




 戦いの中でしか、私は貴女を知り得ませんでした。名前や話し方、考え方や得意とする戦法。そして同い年くらいに見えるのに、随分と暗い目をしているんだなとか、そんな当たり障りの無い事だけしか知り得なくて……。だから、まずは終わらせようと思いました。全てが如何しようも無く終わってしまえば、貴女は戦いを諦めてくれる。それからやっと会話らしい会話が出来るのだと、そう心から思ったのです。


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第19話:在りし日の追憶、揺蕩うモノ【前編】


 どうか、優しい夢を見れますように。



Side:フェイト

 

 私が最初に目を覚ました時、不思議と記憶らしい記憶は何も持っていませんでした。辺りを見渡すと、其処には容姿が異なる人が二人立っていて、5分程で私の検査を終えると優しそうな人を残して、怖そうな人は何処かへと去ってしまいました。

 

「もう動いても大丈夫ですよ。フェイト」

「フェイ、ト……?」

「ええ、それが貴女の名前です。そして、私の名前はリニスと申します。先程出て行ったプレシア……。ではなくて、ドクターの使い魔です」

「使い魔さん……?」

「はい。人間の様に見えますけど、元はちゃんとした山猫なんですよ?」

 

 そう言ってリニスは、頭上へ乗せるように浅く被っていた帽子を脱いで、一瞬だけ大きな猫耳を出現させたかと思うと、直ぐに消し去ってしまった。……勿体無い。似合っているのだから常に出していれば良いのにと、ぼんやりそう思いました。

 

 

 

 これが、私の最初の記憶。

 

 

 

 それからリニスは色々と世話をしてくれて、食事も、お風呂も、睡眠も、勉強も、遊びでさえ、なるべく付き添ってくれました。たまに、ドクターの世話や研究の手伝いで居なくなる時もあったけれど、それでも一日の大半を割いてくれている事には変わりなく、私はその幸せに溺れ、迷惑にならないように心掛けつつも可能な限り甘えました。

 

 季節は巡る。

 

 夏が来て、秋が来て、冬が来て、また春が来て。その間に、今住んでいる『時の庭園』の事、その周囲の事、更にその外の世界の事や、次元世界の成り立ちや社会常識、そして魔法といった数多くの事を学んだ私はある日、リニスに連れられ初めて外の世界を目の当たりにしました。

 

 其処は片田舎の小さな村ではあったものの、リニスやドクター以外の他人であったり、私以外の大小異なる子供が存在して、同じように生活している。そんな風に、見たり聞いたりした事を知識と擦り合わせて裏付けをし、リニスに補足して貰ったり、携帯情報端末で調べたりしている内に陽が暮れて帰路に着く。そういった生活が暫く続きました。

 

 それから買い物をしてみたり、公共交通機関に乗ってみたりと段階的にコミュニケーションや処世術と言う物を学び、慣れて来ると都市部へ連れて行ってくれたりと、本当に楽しい一時でした。やがて月日は流れ、リニスとのピクニック中に保護した狼をアルフと名付け、更には使い魔として受け入れたその年の秋。ある転機が訪れました。

 

「ねえ、リニス。私に見せたい物って何なの?」

「ふふっ。もうちょっとしたら分かりますよ、フェイト」

「ねぇねぇ、それって食べれる物ぉ~?」

「そうですね……。とっても硬いのは確かです」

 

 そう言って私とアルフの質問をはぐらかしつつ、リニスが案内した先は工房か何かの部屋のようで、滅多に踏み入らない区画にその部屋はありました。色々と見慣れない物ばかりでしたが、取り分けて目を惹くのは作業台に置いてある黒い斧で、よく見るとそれはデバイスのようでした。

 

「これって、もしかしてデバイス……? リニスが作ったの?」

「はい、その通りです。正確にはインテリジェントデバイスで、名は“バルディッシュ”と名付けました。何か、話し掛けてみて下さい」

「えっと……。始めまして、バルディッシュ。私の名前はフェイトって言います」

[- Set up …………complete. Good morning sir. -]

「音声認証良し。これでこの子は、フェイト専用のデバイスとなりました」

 

 驚く私に、リニスは【バルディッシュ】を手に取ると、此方が落とさぬように配慮しつつ手渡してくれました。持てなくは無いのですが、やはり相応に重く、これが武器である事を何となく実感する事が出来ました。

 

「これは貴女の道を切り開き、思いを貫き通すための刃です。そして、闇夜を照らす閃光でもあります。どうか共に成長し、良好な関係を築いていける事を願っています」

 

 その言葉に対して、あの日の私は何と答えたのだろう……? 微笑んでいるのに、何処か憂いを帯びたリニスの表情だけは目に焼き付いている。けれども、それから後のことは余り思い出したくはありませんでした。厳しさを増す訓練。少し怖いリニス。そんな日々が続いたある日、唐突に終わりを告げられたのです。

 

……

………

 

「よく聞いて下さいフェイト、アルフ。貴女達は、とても良い生徒でした。教え甲斐があって、覚えも早く、やる気にも才能にも満ちていて……。教師冥利に尽きる自慢の生徒でした」

 

 …………嫌だ。

 

「そんな貴女達に、2つだけ御願いがあります」

 

 ……嫌だ。

 

「まず1つ目。どうか、ドクターを支えてあげて下さい。あの人は優しくて聡明な方でしたが、それ故に――――」

 

 嫌だ嫌だ嫌だっ!

 

「――――次の2つ目は、簡単な事です。これからもよく学び、よく鍛え、そして何時かは良き理解者を得て、幸せな人生を送って貰いたいのです」

 

 行かないでリニス!!

 

「そう……。たとえ私が、居なくなったとしても」

 

………

……

 

 あの時ばかりは、信じたくありませんでした。リニスが嘘を吐いているんだと、私が悪夢を見ているだけなんだと信じたかった。そう思い込みたかった。けれどもそれは本当の事で、否定しようが無いくらいに現実の出来事で……。私は泣いて、泣き縋って、やがて泣き疲れて眠ってしまって。目を覚ますと、もう何処にもリニスは居ませんでした。

 

 

 

~~

Side:■■■■

 

 ママの帰りは、今日もまた遅くなるようでした。朝早くに起きて御飯を作り、私とリニスを残して仕事へと出掛けた後、日付が変わるまで帰って来ない。そんな日々が、もう1ヶ月以上続いていました。これまでにも度々あったのですが、今回のはとても長くて……。

 

 寂しい。

 

 そんな思いを抱きながらリニスと一緒にお留守番をして、たまに家政婦さんに連れられて公園で運動をしたり、家でテレビを眺めたり、作ってもらった昼食や夕食を食べて、お風呂に入って、歯磨きをして、その後に仕上げ磨きをしてもらい、家政婦さんが帰った後は適当に時間を潰し、それからリニスと一緒に寝て朝を迎える。

 

 こんな毎日が続いて、続いて、ある日の朝。

 

 私は、ママに御願いをしてみました。「昔のように、連れて行って欲しいの」――――と。ほんの2年前くらいまでは、ママに連れられて職場にお邪魔させて貰ったり、併設されている託児所へと預けられていたので出来るはずだと考えたのです。

 

 もし連れて行ってくれるのなら、少なくとも出勤と退勤するまでの移動時間は一緒に居られる。そう思い御願いしてみたところ、その希望は2日後に叶えてくれました。但し、お仕事が午後6時までに終われないようなら、家政婦さんに連れて帰ってもらうという条件付きで残念でしたが、久し振りにママと手を繋いで歩ける喜びは何物にも勝りました。

 

 だから託児所に預けられても、私は平気でした。少しだけでも手を繋げた。少しだけでも話す事が出来た。少しだけでも一緒に居られた。嬉しくて、とても嬉しくて。それに今の仕事が終わったら、私の為に休暇を取ってくれると約束もしてくれたのです。

 

 その時には何を話そう? 何をしようか? 何処へ行こうかな? 

 

 止め処無く溢れてくる思考は勢いを増して、空想は果てしなく広がっていきました。綺麗な花畑を見てみたい。公園や、海や、山や、水族館や、遊園地や、映画館にも行ってみたい。一緒に買い物もしてみたいし、一緒に料理をしたり、一緒にお風呂に入ったりするだけでも良い。ママが居て、私が居て、出来れば其処にはリニスも居て、楽しい時間を過ごせたらなんて考えていると、視界の端で何かが光ったような気がしました。

 

 不思議に思った私は立ち上がり、外がよく見えるように窓辺へと駆け寄りました。すると遠くの方で、雷のような音と共に金色の環が弾けたかと思うと、キーンと耳鳴りがして、視界が真っ暗に――――――…………

 

 

 




 ゆらり、くらり、ふわり。視界が、心が、くるくるぐるぐるぐらぐらと。



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第20話:終焉。崩れ行く思いなの

人物紹介
【リニス】
ドクターこと、“プレシア・テスタロッサ”の使い魔。元々はペットとして飼われていた山猫だが、フェイトの世話係として使い魔にされた。情に厚く、フェイトだけでなくアルフも実の娘のように愛情を注ぎ、教育を施した。短期間ではあったものの二人の魔法の師でもあり、その教えは今も息づいている。



Side:ユーノ

 

 

《 Starlight breaker 》

 

 そう名付けられた恐るべき星の一撃が、フェイトさんを飲み込んだ。――――それはつまり、もしこれが物理破壊設定なら幾千幾万もの人命を都市ごと容易く平らげるであろう魔法が、“たった一人”の意志を撃ち砕くために放たれ、阻まれる事も無く、減衰無しの最高火力を保った状態で直撃した事を意味する。

 

 やり過ぎだと思った。そして同時に、羨ましくもあった。あらゆる手を尽くして戦い続けたフェイトさんに、それを真正面から止めてみせた“なのは”さん。本当に自分勝手で無礼だと承知しているものの、この気持ちは偽り様のない本心だった。そう、僕は……。

 

 

 

 彼女達に、憧れを抱いてしまっていた。

 

 

 

 あんな風に成りたいと、あんな風に成れないからこそ、ああいう風に誰かとぶつかり合ってみたいものだと妄想し、烏滸がましくも羨望したのだ。彼女達の過去も知らず、其処にある思いを汲み取らず、まるで英雄譚を見ているかのような心持ちで。

 

 全く、なんて可笑しな話だろうか……。

 

 これは現実だ。それは唾棄すべき冒涜的思考だ。僕は当事者の一人で、これは今起きている出来事なんだ。傍観者で居られるものか。もっと関わるべきだ。問題を解決しよう。考えなくては! 動かなくては!――――けれども理性が幾らそう叫んだところで、この意識はなかなか拭えそうになかった。

 

「フェイト! フェイト、しっかりっ!!」

 

 切羽詰まった声に、意識が引き戻される。ふと視線を向けると、其処には撃墜されて海中から引き揚げられたフェイトさんが臨海公園の歩道上に寝かされており、何処からか駆け付けて来たアルフさんが必死に呼び掛けながら、フェイトさんのバイタルチェックを。そして“なのは”さんは、その傍らで自分の左手に間接圧迫止血を行いつつ、アースラへ連絡を取っているようだった。

 

 未だに現場待機の指示が解かれていないものの、何か手伝えるかもしれないと思い、三人の元へと飛行魔法で近付く。

 

「嗚呼、これは……」

 

 一目見て、予断を許さない状況である事が窺えた。痙攣、吐血、異常な発汗、呼吸が浅く速く不定期で、唇の色からして体温低下も著しい。如何見ても魔力ダメージや魔力不足、または海水に浸かった事だけが原因とは思えなかった。そう考えていた所に、アースラからエイミィさんの通信が届いて――――

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 そして私はクロノさんへの支援要請に応えるべく、スクライアさんとアルフさんに救護を任せ、巨大要塞の奥へ奥へと突き進むのでした。

 

 正直、フェイトさんの容態が気になって仕方がありませんが、簡単な外傷救護しか出来ない私が居たところで邪魔でしょうし、その鬱憤は人型魔導兵器へと晴らしつつ進んで、飛んで、ショートカットを魔砲で作り、無事にクロノさんと合流した所までは比較的順調だったのです。

 

 しかし、此処で思わぬ問題が。

 

 此方へと差し出された、クロノさんの左手。即ちそれは、握手を求めているのでしょう。地球上でも珍しくないコミュニケーション方法の1つで、感謝や激励などの際に併用される極普通の行動です。ならば、此方も左手を差し出して握手するのが通例なのですが、残念な事に先程フェイトさんに貫かれたばかりでして……。

 

 ええ、当然のように血塗れです。

 

 一応、バリアジャケットを調整して防御フィールド越しに出血箇所の圧迫止血を行っていますし、左手の痛覚も【レイジングハート】の補助によって遮断しているので痛くは無いのですが、視界に入れて気持ちの良い物ではありません。しかしながら、誤魔化すのも無理があるので素直に握り返すと、やはり想定通りに指摘されました。

 

「“なのは”、その傷……!」

「大丈夫です。応急処置は済ませてますので」

 

 痛覚遮断により鈍くなってしまった左手の触覚は、【レイジングハート】にエミュレートして貰う事で疑似的に再現出来ており、筋肉や骨が物理的に断たれて動かない指も防御フィールド越しでマニュピレータのように操作中。そして念の為、鎮痛剤代わりの脳内麻薬を少々過剰に。なので、戦闘をする分には大丈夫な筈です。はい。

 

「……分かった。但し、帰還したら医療スタッフの手当を速やかに受けるように」

「ラジャーです」

「それと前衛は僕が受け持つので、君は無理しない程度に援護を頼む」

「委細承知しました」

 

 その後、余剰魔力をクロノさんに譲渡した後、魔力に物を言わせた強襲で駆動炉を制圧。更に、供給源と思われる高エネルギー結晶体を封印したところで、余剰魔力を溜め込んでいる翼が一対消失してしまいました。昨夜までは三対六枚の翼だったのですが、残すは一対二枚のみ。余裕が失われつつある事に、僅かながら不安を覚えてしまいます。

 

 尤も、駆動炉からのエネルギー供給を断ちましたので、人型魔導兵器や要塞の防衛機能は停止しており、あとは容疑者とジュエルシードの確保をすれば一段落なのもまた事実。きっと大丈夫。上手く行くはずだ。そう信じて私は、クロノさんの後に続いて最下層を目指して行きました。

 

 

 

~~

Side:リンディ

 

[- 艦長、此方クロノ。駆動炉制圧、引き続き任務を遂行します -]

「了解。それでは手筈通りに」

[- イエス、マム -]

 

 クロノからの通信を切り、意識を集中させる。空挺堡(くうていほ)の防衛と、負傷者の後送は完了済み。そして駆動炉からのエネルギー供給が途絶えた次元震は、たった今押さえ込めた。ならば……、あと此方が出来る支援は、言葉を用いた時間稼ぎぐらいであった。空間モニター越しに、プレシアへ投降を呼び掛ける。

 

「此方、時空管理局提督“リンディ・ハラオウン”です。“プレシア・テスタロッサ”、次元巡航艦への攻撃容疑で貴女を逮捕します」

[- それは勝利宣言のつもりかしら……? だとしたら貴女、とても滑稽ね -]

「何が可笑しいのですか?」

 

 まさか、此処から逃げる算段があるというのだろうか? それとも、もう目的は果たされてしまったとでも? あらゆる可能性を考慮し、各種センサー類や前線からの情報を精査していると、プレシアの背後にもう一人――――医療用ポッドの中で浮かぶ、フェイトによく似た幼い少女が映り込んだ。

 

「もしかして、その子は……」

[- そうよ。あんな失敗作とは違う純粋なオリジナル。私が愛するたった一人の娘、アリシアよ -]

「プレシア……。貴女という人は、生命操作技術が禁忌だと知って尚求めたのですか?」

 

 つまり今回の事件は、16年前の事故で死んだ娘を生き返らす為に人道を外れ、此処まで至ってしまったとでも……? そうであるなら最早、正気の沙汰ではない。

 

「死者は蘇りません。たとえ複製したところで、その魂が娘さんの物では無いことぐらい貴女も気付いている筈です」

[- ええ、その通りよ! それでも、縋らずには居られなかった……。私は初め、“魂は記憶に基づく”という僅かな可能性を信じて研究を進めたわ。けれどこの方法では、意志を継がせる事しか出来なかった。分かるかしら? あの失敗作には、アリシアという過去しか宿らなかったのよ! 私が欲しいのはアリシアその物なのに、出来たのはアリシアと思い込んだ人形でしかない。――――だからこそ私は、計画を変える事にした -]

「それが、今回の事件の切っ掛けですか……」

 

 如何して、アリシアを安らかに眠らせる事が出来なかったのだろうか。進んだ科学技術が、発達した魔法技術がプレシアに幻想を抱かせてしまった……? だとしても、魂という神聖不可侵の領域を侵してしまえば人は死から目を背け、生を軽んじる様になってしまう。私は法の番人として、それを赦す訳にはいかなかった。

 

[- けれど残念な事に、それもまた御破算となってしまったわ……。ねぇ、貴女。【アルハザード】を御存知? -]

「御伽噺の範囲でなら、多少は」

 

 異様に発達した技術を持ちながら、次元断層の狭間へと消えてしまった未知の世界。それが【アルハザード】なのだと、遥か昔から真しやかに語り継がれている。尤もそれは、「次元災害で消えてしまった世界をモデルにした、空想上の産物だ」という説もまた根強く、真偽は明らかになっていない。

 

[- なら説明は省けるわね。私は其処に眠る秘術を求め、……っ -]

 

 溢れ出した血と、止まらぬ咳。画面の向こうで彼女が口元を抑えてよろめくも、何とか踏み止まった。吐血を伴う病気は何であれ命に関わる事が多く、顔色を注視してみるとメイクの濃さで分かり辛いものの、死相が浮かんでいるようにも見える。

 

[- 目指そうと、……した。でもあの役立たずは、鍵となるジュエルシードを14個すら集めきれず、計画は頓挫……。全く、最後の最期まで本当に“ツイて”なかったわ………… -]

「プレシア……。今すぐ武装を解除し、投降して下さい。貴女は適切な治療と、法の下の裁きを受けるべきです」

[- 残念ながら、もう手遅れよ…… -]

 

 其処で少しだけ、言葉が途切れる。ただの時間稼ぎのつもりが、プレシアから有益な証言を引き出せてしまった。公人としては、それは喜ぶべき事なのでしょう。しかし私人として、一人の母親としては胸が引き裂かれる思いでした。執念と狂気と家族愛の果てがこの“ザマ”など、あまりにも報われないし救われない。

 

 そう考え込んでいる内に、彼女が新たな魔法を発動させた。それはごく自然に見逃してしまうような所作で、呼び止める間も無く魔法陣が幾重にも展開され、床や壁、天井にも新たな亀裂が走り、要塞の崩壊が加速度的に早まっていく。

 

「貴女、まさか……?」

[- ……さようなら、リンディ提督 -]

 

 やがて大きな音を立てて床が崩れ、プレシアとアリシアは虚数空間へと落ちて行ったのでした。――――こんな筈では無かった。こんな風に彼女を追い込むつもりなんて……。

 

 しかし幾ら悔いたところで、“反応ロスト”の判定が覆ることは無い。此処は非情に徹し、次の最悪を回避しなくてはならなかった。だから私は、思考を潰す。感情を削ぎ落とす。涙を堪え、呼吸を整える。そして努めて平淡に、撤退の指示を下したのだった。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 こうして、今は名も無き事件が終わりを迎えました。結局の所、私とクロノさんは“プレシア・テスタロッサ”さんの元へと辿り着けないまま引き返し、彼女が持っていた8個のジュエルシードもまた、虚数空間の中へと消え失せてしまった様です。

 

 尚、虚数空間とは次元震に伴って発生する吸引力が無いブラックホールの様な物で、落ちれば最後、記録上生還者ゼロ、魔法もキャンセルされてしまうので探し様が無いのだとか。よって今回の件は容疑者“死亡”と見做して処理するのだと、クロノさんが独り言として呟いてくれました。

 

 また、フェイトさんの容体やアルフさんの様子なども呟いてくれたりと結構だだ漏れで、時折愚痴が混じるのは御愛嬌。能力主義であるのは良い事だと思いますが、私より2~3年ほど年上でしかない少年の青春時代が就労によって消費されているとは、何たる事でしょうか。思わず、同情にも熱が入ってしまいます。

 

 閑話休題。

 

 ちなみにフェイトさんは、違法薬物やら限度を超えた魔力運用などの後遺症が心配されましたが、スクライアさんとアルフさんによる応急手当てと、アースラ医療班への迅速な引き渡しが功を奏し、要観察ではあるものの今は回復へと向かっているようです。

 

「肉離れや全身の傷に関しては自然治癒を待つしかないが、意識は戻ったようだ。遠からず独房へと移して、それから次元空間が安定したら本局へと移送する」

 

 ふむふむ。

 

「それと、“なのは”が希望しているフェイトとの面会に関しては、僕が立ち会うという条件付きだが艦長からの承認は得ている。予め、希望日時を伝えてくれると大変有難い」

 

 ほうほう。

 

「…………“なのは”。もしかして、結構疲れているんじゃないか?」

「もしかしなくても、実は割と深刻に……です」

 

 左手の治療後にアースラで遅めの朝食を頂いた結果、緊張がほぐれてしまったのでしょう。満腹感と疲労感と寝不足と血液不足により、もうノックアウト寸前だったりします。

 

「それなら医務室のベッド……は今頃満員だな。そうなると――――」

 

 あっ、此処の机と椅子で仮眠しますので、お構いなく。ではでは……。

 

 

 



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第21話:在りし日の追憶、揺蕩うモノ【後編】

人物紹介
【アリシア・テスタロッサ】
プレシアの愛娘。明るく元気な少女で、人見知りをしないため誰からも好かれる人柄だった。しかし往年、プレシアが多忙を極めていた際にはその溌溂さは鳴りを潜め、心細さを抱きつつも健気に耐えようとしていた。実験中の事故により他界。僅か5年という、あまりにも短い人生であった。




Side:プレシア

 

 最愛の娘、アリシアを喪ってからどれ程経ったのだろうか。涙は枯れた。怒りは冷めた。それでも私は、人形のように日々を生きていた。理由はただ1つ。アリシアを生き返らせる為。

 

 既に脳死状態だと診断されて尚、生命維持装置に繋げて有りもしない奇跡を祈り、死という眠りから解き放つ方法を求め、正道の物だろうと邪道の物だろうと片っ端から調べ尽くす。希望なんて、まるで無い。ただ、それによって時間と資金が浪費されるだけだとしても、私は決してアリシアの死を認めたくはなかった。

 

 そんなある日の事。

 

 稼ぎだけは良い非合法な実験をこなす内に、自らを【無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)】と形容する胡散臭い男と出会ってしまった。あらゆる技術や科学分野において、非常に優秀であると自負する彼は協力者を求めており、私の仮住まいへと押しかけて来たのもその一環なのだと(のたま)い、熱に浮かされたように話を続けた。

 

「生まれてこの方、ずっとボッチという奴でね。やりたい事は多々あれど、この身は1つ。そこで、だ……。君に研究を1つ任せたいのだが、如何だろうか? なぁに、心配せずとも君が興味を持つ物さ。そして比較的容易でもある」

 

 そう言って無造作に渡して来た研究が、記憶転写型の人工生命体複製技術を現代へと蘇らせる計画――――通称、『プロジェクトF.A.T.E』だった。専門外の分野ではあったものの“これならば”と思った事もあり、基礎研究のデータを読み解き、彼の助言や助力を得ることで次第に完成へと近付いて行った。

 

 しかし同時に、違和感も覚えた。何故、これ程の技術が失われていたのか? もし次元世界ごと失われているのなら、その世界は何という名の世界なのか? そしてその世界には、もっと有用な古代遺産が眠っているのではないか?

 

 研究の傍らで調べる最中、抱いた疑問は憶測を呼び、推測へと至り、半信半疑へと変わって、やがて妄信と化していった。失われし都、【アルハザード】。次元空間の狭間へと消えた神秘を求めてしまうくらいには、もう何も残されてはいないと感じてしまったからだ。

 

 結局のところ、完成した『プロジェクトF.A.T.E』を応用しても、アリシアを取り戻すことは叶わなかった。出来たのはアリシアの記憶を持つ他人でしかなく、やはりアリシアの魂は、アリシアの心は、アリシアの身体にしか存在しないのだと強く確信すると共に、新たな方法を模索しようと思い立つのだった。

 

 

 

 次こそは必ず……。

 

 

 

 そう願っていたけれども現実は無情で、何処までも理想を阻み続けてくれた。最早この思いは届かず、次を望める程に私の命は持ちそうにない。だから全てを諦め、終わらせようと決心してしまえば、もう何もかも気に掛ける必要は無かった。

 

 嗚呼、それならば……。良い事を思い付いた。どうせ死んで居なくなるのだ。計画を邪魔してくれた管理局や、“高町なのは”に意趣返しをしてやろう。何が出来るのか。如何すれば上手く行くのか。幾つか試案し、切り詰めた上で、失敗作を呼び出すことにした。

 

………

……

 

 そして今、目障りな者同士を潰し合わせて戦力を削ぎ、『時の庭園』を崩壊させる為の時間稼ぎにも成功した。あとはアリシアと共に、虚数空間へと身を投じれば全てが終わる。――――だというのに、本当にこれで良いのかと少しばかり躊躇ってしまう。

 

 弁を弄するつもりで言葉を交わしたのに、此方が乱されるとは何とも可笑しな話である。思えば、怒りをぶつける相手は居ても、聞かせる相手はこれまで居なかった……。その事実に気付き“なるほど”と飲み下したところで、未練がまた1つ山を成す。けれども、もう如何しようもなかった。此処を墓場と定め、アリシアと共に沈み逝く。それしかない。それだけが、母親としてやれる最後の事なのだ。

 

[- 貴女、まさか……? -]

 

 迷いは一瞬だった。

 

「……さようなら、リンディ提督」

 

 床が崩れ、虚数空間へと放り出される。そして私はアリシアと共に、何処までも何処までも落ちて行き、やがて思考はぷっつりと途切れ――…――…………

 

 

 

~~

Side:■■■

 

「気分は如何ですか、ドクター?」

「………………此処は……?」

「此処は医務室で、より正確にはベッドの上となります」

 

 先程、意識が戻ったばかりのドクターに声を掛けてみると、未だに呆然としているようだった。無理もない。ようやく応急処置を済ませたばかりなのだ。薬の副作用で意識が混濁していても、何ら不思議ではなかった。

 

「そう……。…………迷惑を、かけたわね……」

「そう思うのなら、どうか御自愛して下さいませ」

 

 精神リンクの乱れに気付き、ドクターを探していなければ今頃如何なっていた事やら……。見つけた時には既に倒れており、口元からは少なくない吐血。人造魂魄(こんぱく)の身ではあるものの、心臓が止まりそうな程の衝撃とは正にあの事だろう。

 

「時間が無いのよ……。貴女だって、知ってる……でしょう?」

「はい。存じております」

 

 不治の病に侵され、余命はもう3年と持たないだろうとは聞いています。されど、3年近く残っている寿命を削るように生きるのは、勿体無いと思うのです。死者蘇生の研究を諦められないのなら、捨て切れないのなら尚の事。長く、しぶとく、能率重視で命を使い切る方へと意識すべきではと、烏滸(おこ)がましくも愚考する次第です。

 

「……一体、……何をして…………?」

「過労と不眠の問題を、一発で解決するお薬を投与しているんです。ちなみに、またの名を“睡眠導入剤”とも言います」

 

 そう告げると恨めし気に睨まれてしまいましたが、数分と経たずドクターは眠りの淵へと誘われ、やがて規則正しい寝息を立てるようになりました。こうして寝顔を拝見してみますと、普段の険しい表情が嘘のような穏やかさで、「ずっとこのままで居て欲しい」という勝手な願いが脳裏を過ぎってしまいます。

 

 しかし、叶う事はないでしょう。

 

 きっと貴女は挑み続ける。依るべき記憶を持たず、言葉に“思い”という質量を乗せられない私の言葉では、とても引き止めきれるとは思えません。ですから今の内に、少しだけでも休んで行って下さいませ。貴女が最後の最期まで、夢へと立ち向かって行けるように。そして何時か、この悪夢から目を覚ませるようにと祈っております。

 

「お休みなさい、プレシア…………」

 

 

 




 どうか、良い夢を。






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第22話:訪れた平穏と痛みなの

人物紹介
【プレシア・テスタロッサ】
第97管理外世界で発生した、指定遺失物『ジュエルシード』を巡る次元干渉犯罪の容疑者。違法研究者としての余罪も多々あり、真相究明が待たれる。旧暦時代に放棄された筈の移動要塞『時の庭園』を再稼働させて拠点としていたが、自らの手で崩壊させると共に虚数空間へと消えて行った。



Side:なのは

 

 目を覚ますと、何故だか知らない天井を見上げる形となっていました。不思議に思って周囲を見渡せば、アースラ内の隊員用個室と思われる場所のベッドで寝かされており、【レイジングハート】に事情説明を求めたところクロノさんが寝易い様にと気を利かし、魔法で空き部屋へ牽引してくれたとの事でした。

 

 紳士的で大変有難いのですが、牽引される図が非常にシュールなので素直に背負って欲しかったような、残念なような……?

 

 まぁ、何はともあれ。クロノさんに感謝をして、そろそろ自宅の方にも戻らないといけません。気配察知能力に長けた、お兄ちゃんやお姉ちゃんなら深夜(もしくは早朝)の緊急出動に気付いていると思いますが、お母さんやレンちゃん、晶ちゃんには予定とは違って早めに且つ何も告げずに飛び出したので、今頃は心配している様子が目に浮かびます。

 

[[クロノさん、少し宜しいでしょうか?]]

[[如何したんだ、“なのは”?]]

 

 感度良好。念話に支障は無いようです。

 

[[その前に、まずは御礼の方を……。ベッドへ運んで頂き、有り難う御座いました。とてもよく眠れました]]

[[嗚呼。如何致しまして]]

[[次に御願いなのですが、一度帰宅しても構わないでしょうか?]]

[[ん……? 済まない。まだ伝えてなかったな…………]]

 

 クロノさん曰く、先の中規模次元震や虚数空間の影響で次元空間が歪んでおり、安定するまでは物質転送や次元間通信すら(まま)ならないとの事。ちなみにアースラの観測班からは、あと2日は様子見すべきという進言もあったようです。

 

 えぇ、はい。早くも詰んでしまいました。

 

 もしかしなくても、無断外泊となるので説教は免れないでしょうし、怪我もしてしまった為、それはもう尚更(なおさら)に。あとは音信不通状態なので、アリサちゃんや“すずか”ちゃんの反応も気になるところです。はて? 何やら凄まじい既視感がするような……?

 

 取り敢えず、暫くの間はフェイトさんと何時でも会えるという事で前向きに考え直して、雑念は思考の片隅へと追いやる事にしました。如何しようも出来ない事よりも、如何にか出来る事をやった方が有意義でしょうから。

 

[[申し訳無いが、転送ポートが使える様になるまでは其の部屋で寝泊りして貰いたい。食事は食堂で、なるべく僕かエイミィが付き添うようにするつもりだ。それと、着替えに関してはエイミィが見繕うとの事なので、もう暫く待ってくれ]]

[[了解です]]

 

 それから折角なので、フェイトさんとの面会時間の都合を聞いてみると、仕事の切りが丁度良いという事でトントン拍子で話が進み、10分後にはクロノさんがスクライアさんを連れた状態で迎えに来てくれました。

 

 何故、スクライアさんもなのか? 怪訝(けげん)に思ったのでクロノさんに尋ねてみたところ、暇そうだったので「アルフの話し相手にでもなったら如何だ?」と誘ってみたとの事でした。

 

………

……

 

 そして訪れたのは隔離病室のような場所で、中央のベッドにはフェイトさんが横たわっており、アルフさんがその傍らの椅子に座っていました。今現在、監視役の女性隊員には席を外して貰っているので、この部屋に居るのは関係者のみとなります。

 

「アルフさん。其処を代わって貰っても良いですか?」

「嗚呼、構わないよ」

 

 こうして椅子を譲って貰い、私はフェイトさんの傍らへ。アルフさんは、クロノさんとスクライアさんの元へと向かいました。さて、まず初めは無難に体調でも聞いて、次に魔法に関する雑談とか、色々と話し合いたい等と考えていますと、何時の日かの様に機先を制されてしまいました。

 

「ミス高町」

「はい。何でしょうか、フェイトさん?」

「また……、私の邪魔をしに来たんですか?」

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

 ミス高町が私に会い来るという事は、つまりはそういう事でしか無く、本当はもう邪魔される事など無いと知っていても、溢れ出る言葉は自然と辛辣な物となってしまいました。彼女が為した事は正しく、私が為した事は間違っていて、正義が為されただけだと言うのに虚しくて堪らなかったのです。

 

 リニスから託されていた、『ドクターを支えて欲しい』という願いは果たせず、私は傷が癒えれば(ただ)ちに独房へと移された挙句、本局へ移送された後は法廷で罪と刑期を言い渡され、刑務所で服役する日々を送る事になる。何も出来ず、何も残せないまま、そんな事にアルフも付き合わせてしまうなんて――――

 

 

 

 こんな筈じゃ、無かったのに……。

 

 

 

 ずっと寂しかった。幸せになりたかった。叶うのならば、リニスとアルフと私の三人だけで生きて行けたら、どんなに良かった事だろう。たったそれだけの、有り触れた幸せにすら手が届かないのに、私は何で生きているの…………?

 

「うんん。もう邪魔はしないから、思いっきり泣いちゃっても良いんじゃないかな?」

 

 “泣いちゃっても良い”。如何やら彼女から見た私は、泣き出しそうに見えるようでした。あんなに悪い事をしたのに、そんな事を赦してくれるなんて……。思いもしなかったその言葉は、刃物のように深く沈みこんで来ました。

 

 鋭く。重く。痛みすら覚えるのにとても嬉しくて、苦しくて、受け入れて良いはずが無いのに。抑えていた嗚咽が漏れ出してからは、もう如何しようもありませんでした。

 

「っ…………あぁ……」

 

 思考が更に鈍って行く。今はただ、この熱に焼かれていたかった。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 辛そうだったから、ちょっと(つつ)いてみたら決壊してしまって。私は声を掛けられないまま、フェイトさんの頭を撫でてやる事しか出来ませんでした。本当は抱き締めたいのですが、その心境に至る一因を私が担っているかもしれない自責の念と、怪我に障ると申し訳無いので自重しておきました。

 

 10分程経って、落ち着いた頃。

 

 視線で止めるのも疲れたので、フェイトさんに駆け寄りたがっている挙動不審なアルフさんからは目を逸らし、「それじゃ、またね」とフェイトさんに告げて部屋を後にしました。泣き止んだとはいえ、心情を安定させる為にも日を改めた方が良いと思ったのです。

 

「――――なので、近日中の再面会をどうか宜しく御願いします」

 

 そして、一緒に廊下へと出て来たクロノさんに其の様な御願いをしてみたところ、条件付きの返答を頂きました。

 

「それなら近日と言わず、明日にでも面会が出来るように調整しておこう。……但し、なるべく努力はするが、今後も連日だったり数時間に渡るような面会は難しいという事は承知して貰いたい」

「分かりました。有り難う御座います」

 

 それからクロノさんは、職務へと復帰する為に小走りで何処かへと去って行き、程無くしてスクライアさんが部屋から出て来ました。後の事は監視役の女性隊員が対処するとの事で、目的を無くした私達は、取り敢えずスクライアさんが寝泊りしている部屋へ立ち寄ることにしました。

 

「備え付けの物だけど、『飲み物』をどうぞ」

「有り難う御座います。…………なるほど。これが『飲み物』……」

 

 そうやって差し出された、『飲み物』と無難な翻訳が為された異世界ドリンクを一口飲んでみましたが、色は澄んだ茶色というか紅茶その物ですけど、後味が(ほの)かにミルクティーといった感じで、個人的嗜好としてはミルクと砂糖を足したいところかなーと思いつつ半分程まで飲んだ頃。部屋へと誘って来たスクライアさんが、ようやく話を切り出してくれました。

 

「“なのは”さん、御願いがあるんです……。如何か、レイジングハートを貰って頂けないでしょうか?」

「……(やぶさ)かではありませんが、それってスクライアさんの一存で決められる事なんですか?」

 

 共に戦って来た間柄なので、貰えるのなら欲しいとは思います。しかし、【レイジングハート】は武装隊の方々やクロノさんが持つデバイスとは明らかに一線を画するデバイスで、更にクロノさん曰く私は未登録魔導師です。つまり現状は、無資格で扱っている状態ですし、そもそも【レイジングハート】はスクライア一族の共有財産と聞いておりますので、そう簡単に了承が得られるとは思えません。

 

「確かに、問題は幾つかあります。なので将来的に解決された暁には、受け取ってくれるという確約が欲しいんです」

 

 何故、其処までして受け取って欲しいのでしょうか? 他の人と比べてみて、魔導師として多少は優れているのではと思わない事もありませんが、それは戦闘スキルに限った事だけですし、【レイジングハート】だって性能的に戦闘を考慮されているだけの非軍事品で、本領は別の所にある筈です。

 

 だからこそ、今は戦闘しか“能が無い”私にそんな特別な物を贈られても、宝の持ち腐れとなる事は明らかでした。

 

「…………分かりました。お約束致します」

 

 しかし結局のところ、私はそれを受け入れる事にしました。熱心な申し出を断るほどの確たる理由は無く、丸く治める為にも此方が折れるべきだと思ったのです。

 

 

 

 ところで……。

 

 

 

 今後は一体、如何なるのでしょうか? ふと気付けば何もかも知らない事ばかりで、フェイトさんの処遇や、魔導師として私は登録するべきか否か、それ以前に次元空間を隔てた交流が可能かも分からず、随分と間が抜けていたのだなと自覚しました。

 

 取り敢えず、食事時にはクロノさんかエイミィさんが付き添ってくれるとの事なので、夕食の時にでも尋ねてみようと思います。

 

 

 




Side:■■■

[- 御掛けになった番号は、現在電波が届かない場所に有るか、電源が―――― -]
「ジーザス。やっぱり駄目ね……」



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第23話:それぞれの思惑なの

デバイス紹介
【バルディッシュ】
近距離戦及び中距離戦に特化したインテリジェントデバイス。使い魔として、プレシアから魔導工学の知識を共有しているリニスが作り上げたフェイト専用のデバイスで、対魔導師戦を想定した工夫が随所に見受けられる。取り分け、フレームの強靭性はミッドチルダのデバイスとしては特出しており、近距離戦主体のアームドデバイスと比較しても劣る事は無い。



Side:クロノ

 

「通常なら、次元干渉犯罪に関わった者は無期懲役となるんだが……」

「つまり、フェイトさんは例外になるのでしょうか?」

「詳細は話せないが、そうしてやりたいとは思っている」

 

 夕食時。エイミィと共に、“なのは”とユーノを誘って食堂で喫食をしていると、“なのは”からフェイトの処遇を尋ねられたので、その様に言葉を濁しておいた。

 

 言い方は悪いが、“なのは”は今回の事件における最大の功労者ではあるものの、幾ら配慮をしたところで彼女はあくまでも現地協力者。これ以上の事となれば内部機密の情報を含んで来るので、おいそれと話す訳にはいかなかった。

 

 ただ、それでも彼女は納得してくれた様で、「地球からミッドチルダへ渡航が出来るのか?」だとか、「これまでの様に日常を送っても良いのか?」といった内容の質問へと話は変わり、僕はそれらに対して説明を挟みつつ“可能ではある”と答えて行く。

 

 今後も定期航行が可能となるかは不明だが、彼女の功績を(かんが)みれば一度や二度くらいミッドに招待しても構わないだろうし、魔法文明が無いこの世界では、魔法をみだりに使わない事を条件に、日々を過ごして行くという選択肢も当然ながら存在する。しかし、だ……。彼女の才能を思えば、それは勧め難い選択肢でもあった。

 

 産まれ持った膨大な魔力量と、万障(ばんしょう)を捻じ伏せる戦闘技能。

 

 正に、希代の大魔導師としての資質を持ちながら、こんな次元世界の片隅で生きて行くなど“あまりにも惜しい”と感じてしまう。それは収監されているフェイトもまた同様で、彼女達はもっと大きく羽ばたける筈なのだ。だからこそ、機会を得て知って欲しいと僕は願う。――――こんな人生も、選んで行けるのだと。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 一体、何がクロノさんの琴線に触れてしまったのでしょうか……? ちょっとした質問のつもりでしたが、何時の間にか時空管理局の紹介へと話が()り替わっており、社会授業の様相を呈して来ました。

 

 決して、興味が無い訳ではありません。

 

 しかし日本人的な物の見方で語るのならば、ミッドチルダは未成年者を仕事に就かせる明らかなブラック世界ですし、『大人になる為の猶予期間』――――所謂(いわゆる)、“モラトリアム”を経ずして社会人となる事には、大きな不安と抵抗感を覚えてしまいます。それに、お母さんの後を継ぐ夢を諦めている訳では無いので、魔導師として働くのは次点の候補止まりなのが現状です。

 

 そんな感じで時間は過ぎてしまい……。結局のところ、私は魔導師として登録すべきか否かは尋ねる事が出来ませんでした。また日を改めて、確認したいと思います。

 

 

 

 そして翌日。

 

 

 

 気が遠くなるような夜を経て、私はクロノさんによる立ち会いの下、二度目となるフェイトさんとの面会に臨みました。今までの事、これからの事、伝えたい事、聞きたい事。思う事は多々あれど、やはり迷走していては進む事すら儘ならないので、まずは伝えようと意気込んでいたのですが……。

 

 フェイトさんと向き合って早々、彼女から困惑と疑念の視線を向けられた私は、もしかして緊張を気取られてしまったのだろうかと思い当たり、心を抑え付けてから、努めて冷静に尋ねました。

 

「もしかして、迷惑だったかな……?」

「そうじゃなくて、その…………」

 

 長い沈黙。しかし急かす事は無く、唯々待ち続けました。

 

「如何して、私に気を遣ってくれるんですか……? あんなに酷い事をして、敵だった筈なのに…………」

 

 それに関しては、お互い様のような……。確かに、左手を物理的に切り落とされかけましたが、此方は非殺傷設定とはいえ戦略兵器も斯くやと思われる魔法をぶつけましたし、これまでの撃墜数を鑑みれば、酷いのは此方ではないのでしょうか?

 

「ずっとね、フェイトさんとは仲良くなりたいと思っていたの」

 

 まぁ、それはさて置きまして。本題へと移ります。

 

「えっ……?」

「ジュエルシードは災いでしかない。そう気付いてからは、協力し合って、迅速に回収してしまいたかった。――――初めはそれだけが目的だったんだけれど、戦っている内に会うのが楽しみになって、今は会話する機会が得られて凄く嬉しいと思っている私が此処に居るの。だからもし、フェイトさんが許してくれるのなら……。私と、友達になってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 やっと言えた……。

 

 

 

 

 

 

 言い切ってしまいました。これでもう、後戻りは出来ません。本当は、直感的に惹かれているだけなのに。言葉になんて上手く出来る筈が無いのに。沢山の魔法と、少ない言葉を交わしただけの仲でしか無いにも(かかわ)らず、私は“離れるのが寂しい”から、こうして浅ましくも繋ぎ留めようとして、やったのです。

 

 何と愚かな事でしょう。

 

 我ながら幼稚で拙く、酷い方法だと思います。(もっと)もらしい虚飾を施した、不誠実な告白を考えて考えて考え抜いて、私は事此処に至りました。これが確実だと思ったのです。これがスマートだと妄信したのです。時間が無いのなら、機会が少ないのなら、せめて(くさび)だけでもと足掻いてしまって――――

 

「ミス……。ミス高町は……、……本当に、私なんかで…………良いの……?」

「うん。私は、フェイトさんが良いな」

「ありがとう……。ミス高町…………」

 

 その答えに、私は安堵感と罪悪感で胸が詰まり、張り裂けてしまいそうでした。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

[- ううっ……。二人共、とっても良い子だねぇ……。(;∀;) -]

[- 何故、エイミィの方が号泣しているんだ……? それと僕の感動を返してくれ -]

[- クロノ。女の子は多感なんだから、そっとするかフォローしなきゃ駄目よ? -]

[- ……艦長、それとこれは別問題だと思います -]

 

 艦内であれば、秘匿状態で映像監視が可能である部屋は多々存在する。フェイトが収容されている集中治療室もまた同様で、先程の“なのは”とフェイトの会話風景を上位者権限で覗いていたエイミィと艦長が、何故か僕を巻き込む形でテキストチャット形式による感動の共有――――という名目のガールズトークが為されていた。

 

 テキスト入力自体は、低度なマルチタスクを用いて思考入力するだけではあるものの気が散ることは避けられず、先程の苦言へと至るという訳だ。しかし悲しかな。理論的な話ならともかく、感情的な話に関しては女性陣が秀でており、人数も1対2である。

 

 形勢は不利。そして意地を張る必要も無し。これが、女性の華やかさの源なのだろうと現実逃避を済ませたところで、先程とは違って和気藹々(わきあいあい)と話し合う“なのは”とフェイトを見て微笑ましく感じると共に、同時に申し訳無くも思った。

 

 

 

 幾ら言い繕ったところで、フェイトは重罪人である。

 

 

 

 無論、将来性や再犯性を考慮し、更には生来の不遇さを前面に押し出して減軽措置を求めるつもりだが、保護観察処分、魔力封印、次元世界間の渡航禁止令、社会への無償奉仕、更生プログラムの受講等、多くの制限を受ける事になるだろう。

 

 期間は短く見積もっても、5年から7年程……。艦長も各方面に働きかけるとの事なので、もう少し短くなるかもしれないが、それでも数年単位で彼女達の仲を引き裂かなくてはならないのだ。職務に私情を挟むべきではない。何時だって誰だって、思い通りに為らない事もある。そうと分かってはいても、これは辛い現実であった。

 

 

 

~~

Side:美由希

 

 今日は“なのは”が早朝に家を飛び出してから、2日目となります。昨日は、空気が震えるような突風とは言い難い現象が海鳴市だけではなく世界中で長時間観測され、多少の混乱や被害が生じていましたが、それ以外は特に何事も無く。“なのは”が居ないという異常を除いては、概ね平穏な日常風景が続いていました。

 

「ただいま、レンちゃん。“なのは”は帰って来てるかな?」

 

 昨日から、家族の皆が待ち兼ねている“なのは”の帰宅。おそらく大丈夫だとは思いますが、心配である事には変わりません。だから皆が皆、家へ帰って来る度に誰かへと尋ねたり、“なのは”の部屋を覗いてみたりしています。

 

「おかえりー、美由希ちゃん。“なのは”ちゃんなら、まだ見てへんなぁ……」

「そうなんだ……。御免ね、邪魔しちゃって」

「気にせんでもええよ。うちだって、気になってしゃーないですし……」

「今頃、何しているんだろうね……?」

「さぁ? 案外、宜しくやってんちゃいますかー?」

 

 うん。まぁ、あの強さなら多分何とかなってるような……。そう信じつつ、夕食のメニューやら御風呂の使用状況を聞いて、その場を後にしました。

 

 まずはシャワーを浴びて、夕食を食べて、学業の予習と復習をして、そして夜は恭ちゃんと御神流の鍛錬をして、またシャワーで汗を流したら、身支度を済ませて眠りに就く。そういった一見変わる事の無い日常を送りつつも、その端々に可愛い妹である“なのは”が居ないという非日常は何処か寂しく。一日でも早く、且つ無事に帰って来ることを私は心から願うのでした。

 

 

 

 



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第24話:そして日常への帰還なの

デバイス紹介
【S2U】
質実剛健を旨とするクロノが使用するストレージデバイスで、士官学校への入隊当初にリンディ提督から贈られた物。インテリジェントデバイスとは違い、人工知能を持たないので魔法を発動させる処理速度は秀でているものの、魔法の選択は全て使用者に委ねられており、更に使用者のマルチタスクにも限界はあるので、魔法の同時発動数に関しては如何しても劣ってしまう。ちなみに、デフォルトのシステム音が何故かリンディ提督の声へと上書きされているが、真相は不明である。



Side:なのは

 

 楽しい時間はあっと言う間に過ぎてしまうもので、フェイトさんと話し込んでしまった私は、クロノさんに注意されるまで刻限が迫っている事に気付けませんでした。

 

「それじゃ、またね。フェイトさん」

「うん。名残惜しいけどまた、だね……。ミス高町」

 

 そして部屋を出て、充実感と共に緊張感から解き放たれた私は、小さく安堵の息を吐きました。魔法談義や、お互いの出身世界を紹介し合ったり、好きな食べ物とか場所を聞いたりして、とにかく“当たり障りの無い”部分だけを選んで話題にして来ましたが、何とか話のネタが尽きる事は無く、無事に終わる事が出来ました。

 

 本当は、私の家族や友達も紹介したかったのですが、何と言いましょうか……。やっと築けた関係を壊したくは無いが為に、フェイトさんの琴線に触れるような事はしたくなかったのです。

 

 “プレシア・テスタロッサ”とフェイトさんの関係性、癒える間も無く増える傷に打撲、しかしそれでも盲従するフェイトさんの意志。――――情報が開示されていないので、これは勝手な推測となりますがやはり、『プレシアはフェイトさんのお母さんか、親族なのかな?』と思う訳でして。虐待やら育児放棄等の不穏なワードがちらつく以上、人間関係の話題は控えるという選択肢の他有りませんでした。

 

「クロノさん、今日も有り難う御座いました」

「気にしなくて良い。むしろ、此方が礼を言いたいくらいだ」

 

 罪悪感があるにせよ。連日の面会により良い方へと天秤が傾いてくれたので、その感謝の意も込めて御礼を述べてみましたが、何故かその様に返されてしまいました。

 

「それはつまり、如何いった理由でしょうか……?」

「…………すまない。配慮に欠けた発言だった。うちの医療スタッフがカウンセリングするよりも、遥かに改善している様に見えてな」

 

 嗚呼、なるほど。それでつい、口が滑ってしまったと……。正直なところ、あまり気にはなりませんでした。むしろ、特に制限無く会える理由がそれとなく判明して、すっきりした位です。

 

「気にしないで下さい。私も、フェイトさんには元気になって欲しいですから」

 

 なので、次回の面会日時の相談をしたいと思ったのですが、会話の間隙を突くかのように(もたら)されたエイミィさんからの朗報により、敢え無く御破算と相成りました。その朗報とは、あと数日は掛かると予想されていた次元空間の正常化が思ったよりも早まっているとの事で、もう3時間程待てば地球への転送が可能になるといった内容でした。

 

 それからの3時間は、待ち遠しいと思う間も無く流れて行きました。早めの昼食を食べ、事件解決の功績を称えた賞状を授与され、リンディ提督と御茶会もとい面談をしたりとエトセトラ。最後はリンディ提督とクロノさん、そしてエイミィさんに見送られながら、私達はアースラを後にしたのでした。

 

 ええ、そう。“私達”です。

 

 未だに地球からミッドチルダ間の次元航路が安定していないので、アースラが地球を離れる目途が立っておらず、それまであの艦船で箱詰めとは息苦しいだろうと思った私は、アースラに残ると主張していたスクライアさんを説得し、連れ出すことに成功。そして今に至ります。

 

 大規模な被害が出て、思わず厳しい言葉をぶつけたあの日から、何となく互いに余所余所しくなって――――いえ、そもそも私が他人行儀で接していましたし、あれから効率重視で動いていたので、和解する程の接点も有りませんでしたね……。ともあれ、好感度が低いからと冷遇するつもりは無いですし、これも何かの縁という事で大事にしたいとは思うのです。

 

 尤も、生まれて此の方、同年代の男の子と親しくなろうとは考えもしなかったので、具体的な方策はとんと思い付いておらず、八方塞がり感が否めませんけれども。

 

「スクライアさん。地球を離れる前に、何かしたい事ってありますか?」

 

 転送終了後、私達は人目や監視カメラの心配も無い臨海公園の隅に立っていました。直接、高町家の庭へと出ても良かったのですが、歩きながら話したいという思惑もあって、この場所へと転送させて貰ったのです。

 

「もし、許してくれるのなら……。“なのは”さんと高町家の皆さんに、御礼と謝罪をしたいと思っているんだけど、如何かな?」

 

 如何と聞かれましても、返答に困ってしまいます。確かに以前、全てが終わるまで謝罪は受け取れないといった旨を伝えましたが……。

 

「御礼はともかく、私もスクライアさんも被害者なのに謝罪をするんですか?」

「それでも、僕がジュエルシードを発掘さえしなければ……」

「それも以前、お伝えした通りです。たらればの可能性を持ち出されても、これまでも、これからも何一つとして変わる事は無いんですよ?」

「ごめん……。でも僕は、“なのは”さんみたいに割り切れないんだ…………」

 

 

 

 思い出さない様に目を逸らす事が、割り切っている事になるんでしょうか?

 

 

 

 反論が喉元まで出かかりましたが、何とか(こら)え……。仕切り直すために何か別の話題か、代案が無いかと模索したところ、一件だけピンと来る物がありました。うだうだと考えてしまうのなら、考えられないくらい忙しくしてしまえば良いのです。例えばそう、『翠屋』で社会実習をして貰うなんて事とか。

 

………

……

 

 そんな風に案を煮詰めつつ、歩くこと10分少々。ようやく家の門を潜って、玄関へと到着する事が出来ました。鍵と携帯電話は、家を出る際に持ち出していたので抜かりは無く、【レイジングハート】の格納領域から鍵だけを取り出して開錠、中へと入ります。

 

「ただいまー」

 

 思い返せば、金曜の早朝に家を飛び出し、今は日曜の午後4時頃。であれば、約60時間ぶりの我が家という事になりまして、何ともまぁ……、感慨深いものがあります。ちなみに、パジャマ姿で街中を歩く度胸は無かったので、現在はバリアジャケットの意匠を変更して着込んでおります。

 

「お帰り、“なのは”。意外と大丈夫…………じゃなさそうだね、それ」

 

 玄関へと迎えに出てくれたお姉ちゃんが、包帯でぐるぐる巻きにされた私の左手を見て、その様にコメントをしてくれました。一応、アースラの医療スタッフの方が砕けた骨を組み治し、傷口を塞いでくれたので、割と悲惨な傷痕と神経がズタズタなのを気にしなければ大丈夫ではあります。

 

「でも嫌じゃないから、気にしないで。お姉ちゃん」

「そっか……。ところで、後ろのお連れ様は?」

 

 後ろと言われて振り返ってみますが、其処には先程から沈黙を保っていたスクライアさんのみで……。嗚呼、なるほど。如何やら人間版の方を見たことが無かったので、気付けなかったようです。斯く思う私も、声を聞かなければ分かりませんでしたし。

 

 それから場所を居間へと移して、お姉ちゃんとスクライアさんが話している間に、私は服を着替えるべく自室へと戻りました。

 

 

 

 すると何と言うことでしょう。

 

 

 

 机の上に、見知らぬプリントが山を成しているではありませんか。おそらく、アリサちゃんや“すずか”ちゃんが持って来てくれた物で、お知らせと宿題が半々といったところだとは思いますが、金曜から日曜分の宿題を明日までにする必要がある訳でして、とても休んでなんて居られません。

 

「多分、今日で終われる筈だけど……」

 

 その前に下に降りて、コーヒーやら御菓子やらを調達してから挑みたいと思います。たとえ誤魔化し続けていても、疲労や眠気には限度と言う物がありますので。

 

 

 

~~

Side:リンディ

 

「手応えはまずまず、と言ったところかしら?」

 

 空になってしまった湯呑を片付けつつ、独りごちる。先程まで、御茶会という名目で“なのは”さんの進路希望調査をしてみたところ、魔導師という選択肢にも興味は有るとの事なので、関連する職種の詳細と活躍例を紹介し、布石を幾つか仕込むだけに留めておいたのだ。

 

 

 

 実戦経験済みの暫定Sランク空戦魔導師。

 

 

 

 万年人材不足の管理局からして見れば、“なのは”さんは直ぐにでも活躍して欲しい逸材ではあるものの、彼女には組織への愛着心や所属する事への憧憬(しょうけい)はまるで無く、あくまでも就職先候補の一つ止まり。そんな人物を入局させたところで、依願退職や事故や不祥事で辞めるか、もしくは大成せずに終わってしまう事だろう。

 

 だから私は焦らず、されど興味と意欲を持てる様に仕掛けて行くことを選んだのだった。もっと大きく飛躍が出来る様に、そして如何なる困難へも立ち向かって行ける様に。――――これは御仕着せの願い。傍迷惑な妄想。そうと知りつつも私は、彼女が成人して道を決めるであろう9年後が楽しみで仕方が無かった。

 

「嗚呼……。やっぱり、娘も欲しかったわね~……」

 

 そんな戯言が、ぽつりと零れた。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 宿題を終わらせた後は、夕食を食べながら家族と話をして。御風呂を済ませた後は、“すずか”ちゃんやアリサちゃんと電話で少々やり取りをして……。そうやって一日が終わりを迎え、私は少しだけ安堵していました。ようやく、遠退いていた日常が明日から戻って来るのです。

 

 平和で、穏やかで、温かな時間。

 

 だと言うのに、心がちっとも躍りません。あんなに大切にしていた物なのに、何故なのでしょうか? そして今、私が楽しみにしている事とは…………。

 

「…………………………お休み、レイジングハート」

[- Good night master. -]

 

 寝て。覚めて。それでもこの気持ちが変わらないのなら、きっと“本物”になるのだろう。何となくそんな気はしますが、昨夜から碌に寝かせていない脳味噌では、これ以上の思考は無理だと放棄する事にしました。

 

 その上、アースラの医療スタッフから処方されていた鎮痛剤が良い感じに効き始め、左手の痛みは消え、副作用である睡眠誘発作用も相俟って、とても抗い難いのでして……―――…―………

 

 

 



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第25話:重ねた心に芽生えるモノ

 ふと、こう思ったりもするのです。これは本当に、■■なのかな?――――と。



Side:なのは

 

 携帯電話のアラームが鳴り響いている。それはつまり、朝の6時を告げているという事で、眠りから目覚めて学校へ行く準備をしなければいけません。何時も通りなら寝起きを渋っているところですが、左手が鎮痛剤を求めて疼くので素直にベッドから身体を起こし、部屋を出て階下へと降りました。

 

 その後、家族への挨拶や洗顔や朝食や投薬や身支度を済ませ、『翠屋』の開店時間の都合で出発が早いお母さんとお兄ちゃんを見送り、お姉ちゃんと晶ちゃんは少し遅れて私立風芽丘学園へ、私とレンちゃんはその10分後に家を出ました。尤も、私の行き先は聖祥大学附属小学校で、レンちゃんは私立風芽丘学園なので、道中で別れてしまいますが……。

 

 それから通学バスの停車場所で暫し待ち、やって来たバスへと乗り込んで最奥の席を見遣ると、何時もの様にアリサちゃんと“すずか”ちゃんが其処に座っていて、何故だか懐かしく感じてしまいました。

 

「お早う、アリサちゃん。すずかちゃん」

「おはよー、“なのは”。……で、その怪我は如何したのよ?」

「お早う、“なのは”ちゃん。それ、大丈夫なの……?」

「えっと…………」

 

 取り敢えず、二人の間にある空席へと座ると、程無くしてバスが出発しました。さて、如何言い訳をしたものでしょうか? 「電話で話して無かったけど、実は決闘を少々……」と正直に言ったところで現実味が薄いですし、根掘り葉掘り聞かれたくは無いので、火傷をしたと偽った後は徐々に話題をずらして行き、アリサちゃんや“すずか”ちゃんの休日の話を聞いたり、相槌を打ったりするのでした。

 

 

 

 何時も通りの日常。

 

 

 

 私達が、守った物。何だか何時も通り過ぎて、戦っていた事の方が夢の様に思えてしまいます。でも、あの戦いは実際に起こった出来事で、この左手の傷や痛みが何よりの証なのです。嗚呼、本当に……。日常から遠い所へと来てしまったんだなと、しみじみ思いました。

 

 

 

~~

Side:桃子

 

 本日も、喫茶『翠屋』は大盛況――――ではありますが、時間帯によって客足も客層も変わるのは当然の理で、お昼のピーク時を過ぎてしまえば空席もかなり目立つ様になって来ます。尤も、一息を吐けると言っても午後5時以降は、帰宅中の学生や会社員、そして買い物客も訪れるので、その時間帯に向けてケーキやシュークリームの仕込み等、色々と準備が待っていますけれども。

 

「かーさん、ちょっと良いか?」

「あら、如何かしたの恭也?」

「午後2時に、3名で予約しているハーヴェイ様なんだが……」

 

 珍しく言い淀む、我が息子。ただの予約キャンセルなら、此処まで苦虫を噛んだような顔をする事は無い筈なのだけれど……。もしかして、苦情かしら? とやきもきしている間に考えが纏まったようで、漸く口を開いてくれた。

 

「実は偽名で、“なのは”や俺達が協力していた時空管理局の艦長さんと、その部下なんだ」

 

 えーと……。子供達やスクライアさんから話を聞いているので、大まかに何が起こって、如何終わったのかは知っているけれども、それに関わった別世界の組織の方が何故、偽名を使ってまで此処に来たのか? 確かに、判断に困るところよね。

 

「それに来ているのは二人だけで、最後の一人はかーさんの為に取ったらしくてだな……。如何する? 何なら俺も立ち会うか、代理で対応しようと思うんだが?」

「そうねー……」

 

 多分、大丈夫だとは思うけど、そうやって心配してくれるのなら無碍にする訳にも行かないので――――

 

「私だけで大丈夫よ。その代わり、ホールの方を御願いしても良いかしら?」

 

 其処なら、仕事をしながらでも予約席の方まで目が届くでしょうし、妥協案としては、まずまずだと思うのだけれど。

 

「了解。任された」

「それと、水も三人分宜しくね?」

「承知」

 

 そして私は、厨房のスタッフに30分くらい来客対応をする旨を伝えてから、予約席として押さえてある端のテーブル席へと向かったのでした。

 

 

 

~~

Side:クロノ

 

 1時間程前、唐突に“なのは”の御母堂へ挨拶と謝礼をしに行くから、護衛宜しくねといった旨を艦長に告げられ、言われるが儘に付いて来たのだが……。実際のところ、その内容は想像とは程遠いモノであった。

 

 まず定型的に挨拶を交わした後、艦長は事件解決に協力してくれた“なのは”達の功績を紹介しつつ感謝すると共に、負傷に対する治療と保障の約束、そして功績を鑑みた便宜を図る用意がある事も伝える等々。ただの挨拶や謝礼と言うよりは、負傷した局員もしくは殉職した局員家族の元へ上官が赴く、アフターケアと呼ばれる行為に近しいと思えてしまったのだ。

 

 艦長。貴女は何を考えて、その様な事をしたのですか? そして何故、我々の不備や非を認めずに話を進めたのですか? 何故……?

 

「それは勿論、交流を深める為よ。そして私達は、当時の状況下において最善を尽くしており、不備や非と言った物は存在しないの。分かるかしら?」

 

 分かる筈が無い。仮に、最善であったとしても“なのは”は負傷しているし、彼女が住む世界に被害が出ているのは事実だ。それなのに、此方に一切の不備や非が無いなんて、そんな馬鹿な事が――――

 

「では、もっと噛み砕いて説明をしましょうか……。この件に関して、私や部下達が招いた人災は1つとして無い。つまり私達は、不必要に下げるべき頭や、掛けるべき言葉すら持たない第三者的立場であり、決闘による“なのは”さんの負傷についても、彼女が望んで得た単独行動権により自己責任となる。そして何より、此処は97番目の管理外世界。故意でなければ損害を補償したり、復興を支援する義務も権利も許されてはいないの。法を知悉する執務官なら、これぐらいの事は思い付くのではなくて?」

 

 だからって、何もしない訳には……。

 

「ええ。ですから、“プレシア・テスタロッサ”の悪行は歴史編纂(へんさん)委員会に働きかけて早急に犯罪史へ明記して貰いますし、事前に違法研究の罪で彼女を逮捕出来なかった無能な広域捜査部と、ロストロギア輸送の手配が杜撰(ずさん)だった遺失物管理部に対しては、定例報告会で追究する予定です。――――クロノ執務官。正義でありたいのなら、正しく悪を憎みなさい。そうでなくては、巨悪と戦う以前に心が折れてしまうわ」

 

 違うんだよ、母さん。そんな風に割り切って、悪を断罪するだけの冷たい正義なんて、まるで機械じゃないか……。平生の貴女らしくもない。

 

 確かに、悪は憎むべきだと思う。けれど人々の思いや、被害を顧みない正義など最早ただの私闘でしかなく、其処に大義名分など有りはしないのだ。やはり貴女も、普通を装いながら変わり果ててしまったのですか……?

 

 父さんが殉職した、あの日からずっと。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 本日は、とても平穏に過ぎて行きました。登校し、朝の会を経て午前の授業を受け、お昼休みに会話で花を咲かせ、午後の授業が終われば帰りの会を経て、送迎バスへと乗り込み帰路へ着く。――――そんな“当たり前の事”に違和感を抱いた私は、きっと如何かしてしまったのでしょう。

 

 奇跡も魔法も無い、人体の神秘だけが其処にある世界を生きていたのですから、それは当然なのかもしれませんが、魔法の無い“非日常”という物は白日夢の中を歩いているかの様で、浮世離れとはこの事かと錯覚しそうになります。

 

 このまま、人目を(はばか)らずに飛んで行ってしまおうか。

 

 そんな事を思い浮かべつつも自重して、何事も無く帰宅しました。それから何時もの様に御風呂へ入ったり、宿題をしたり、レンちゃんが作った夕食を食べたり、日課となりつつある魔法の鍛錬でもしようかと思った頃、『翠屋』の店仕舞いを済ませたお母さんが帰って来ました。

 

「お帰りなさい、お母さん」

「ただいま、“なのは”。ちょっと良いかしら?」

「うん。今は大丈夫だよ」

 

 何か手伝って欲しいのかと思い、居間にあるソファーから立ち上がって駆け寄りましたが特にそういう事では無いようで、売れ残り品が入っているであろう手提げ箱を此方へ渡しつつ、1つだけ質問をしてきました。

 

「実は今日、管理局のリンディさんって言う方と御話をしたんだけどね。――――」

 

 要するに、リンディ提督とクロノさん御一行が『翠屋』に電撃訪問をした挙句、私が治療内容の一部である“傷痕の整形手術を断った”という経緯をそれと無く説明したので、お母さんはその事に疑問を抱いてしまったらしいのです。

 

 しかし何故と問われましても、それに関してはお父さんを筆頭に、お兄ちゃんやお姉ちゃん達にも責任の一端が有りまして……。

 

「あのね、お母さん。こういう傷は、名誉の負傷って言うんだよ?」

 

 鍛錬で付いてしまった傷。害意から、誰かを守って付いた傷。試合で避け損ねたり、受け損ねたりして付いた傷。そんな数々の傷を負って尚、直向きに剣士として生きる家族の姿を見て育ったのですから、傷や傷痕に対する忌避感などは全く無く。むしろ敬意を払う対象でもありました。

 

 そんな誇らしい傷が、自分にも付いている。故に、消したくはありませんでした。然れども、相応の痛手と激痛を受けましたので、『傷は増えないに限る』と思う今日この頃です。

 

「“なのは”ったら、其処は士郎さんに似ちゃったのね……。分かったわ。但し、あまり無茶をすると、お母さん泣いちゃうからね?」

「はーい」

 

 その後、クロノさんへ熱烈なラブコール(問い質しの念話)を掛けたのは語るまでもありません。ええ、全く。

 

 

 

 

 

 それから、それから…………。

 

 

 

 

 

 私は、平穏となった日常と非日常の狭間を行き交い、そんな日々を謳歌していました。平日は学業に専念し、双方の都合が良ければ手土産(『翠屋』のスイーツ詰め合わせ)を片手にアースラへ出張して、クロノさんやフェイトさん、そしてアルフさんとも気晴らしの為の模擬戦をしたり、雑談をしたり、時にはエイミィさんやリンディ提督と御茶会をし、またある時はスクライアさんから魔法を教わったり、逆に社会実習がてら『翠屋』での働き方を教えたり等々。

 

 しかしながら、そんな楽しい日々も長くは続かず、遂に別れの日になってしまいました。4月20日、早朝4時半、臨海公園の外周にて。それが、別れの挨拶に指定された日時と場所の為、頑張って3時半には起床して準備し、お兄ちゃんとお姉ちゃん、そしてスクライアさんと一緒に家を出て、指定時間の10分前くらいには到着する事が出来ました。

 

 それから2分も経たない内に魔法陣が出現し、クロノさんとフェイトさん、そしてアルフさんの3人が転移して来ました。尚、その際にクロノさんから苦言が一言。

 

「君ら、少し早過ぎやしないか?」

「その辺りは国民性ですので、如何か悪しからず……」

「なるほど……。理解した」

 

 そんなこんなで予定より早く始まりましたが、開始早々にフェイトさんと私の二人だけとなり、他の人達はやや離れた場所へと離れて行きました。如何やら気を遣ってくれたようです。とはいえ……、別れの言葉を告げるというのは実のところ“初めて”の事でして、何から話せば良いのか戸惑ってしまいます。

 

「ねぇ、フェイトさん。向こうへ行ったら、暫くは裁判で忙しくなるんだよね?」

「うん。それから先は分からないけど……、当分会えないと思う」

「そっか……。寂しくなっちゃうね…………」

 

 一応、手紙やビデオメール等をアースラ経由で送るつもりですし、3ヶ月後にはミッドチルダへ観光がてら、フェイトさんの元へ会いに行く予定ではありますが、どちらもリンディ提督の裁量次第なので胸三寸に納めておきます。

 

「…………ミス高町。君に2つだけ、御願いがあるんだ」

「私に出来る事なら、何なりと」

 

 そう答えると、フェイトさんは髪を結わえている細い黒のリボンを2つ解き、此方へと差し出しました。これはひょっとしたら、ひょっとするのでしょうか?

 

「このリボンは、とても大切な人から貰った物なんだけれども……。預かっててくれないかな?」

「それは責任重大だね……。了解なの」

「ありがとう、ミス高町。必ず取りに行くから……」

 

 両手で丁寧に受け取り、纏め、ポケットの奥へと仕舞い込んだところで、フェイトさんは2つ目の願いを告げる前に1つだけ、不穏な前置きをして行きました。

 

「2つ目は、断ってくれても構わないけれど…………」

「うん。取り敢えず、言ってみてよ」

 

 無理なら素直に断り、無茶で済むのなら応相談となりますが。

 

「君の、ファミリーネームを貸して欲しい」

 

 …………如何やら、応相談の案件みたいです。

 

「えっと……。詳しく御願いします」

「私には戸籍が無くて、更に言うとファーストネームしか無いんだ……。だから、裁判に合わせて戸籍も作る事になったんだけど、名乗るべきファミリーネームはドクターのしか無くて……。それはちょっと、嫌だから…………」

 

 なので、どうせ名乗るのなら“高町”の姓が良いと。此方で名乗るのなら問題かもしれませんが、向こうの世界で勝手に名乗る分には影響無いでしょうし、おそらく大丈夫のような気もします。――――多分、きっと。メイビー。

 

「使っても良いけど……」

「けど……?」

「私からも、2つだけ御願いしても良いかな?」

 

 折角なので流れに便乗して、此方からの要望も通す事にしました。尤も、無理難題を吹っ掛ける訳でも無く、預かったリボンの代わりに私物のリボンを貸すので其れを代用して貰いたい事と、呼び方を変えて欲しいという至って素朴な願いです。

 

「“ミス高町”じゃなくて、例えば“なのは”とか“なのはちゃん”とか……」

「それじゃ……、“なのは”で」

「有り難う、フェイトちゃん」

「“なのは”も、私の呼び方を変えるの……?」

「お友達なら、やっぱり“フェイトちゃん”って呼んだ方がしっくり来るから、こっちにしようかなって」

 

 そも、私にとっての“~さん”は、適切な距離を保ちたい時に使う敬称の1つなので、そろそろ切り替えたいなと思っていたのです。……まぁ、些細な自分ルールでしかありませんが。

 

「ねぇ、“なのは”……」

「如何したの、フェイトちゃん?」

「私も、“なのは”ちゃんって呼んだ方が良いのかな?」

「フェイトちゃんは、むしろ“なのは”だけで良いと思うよ」

 

 その方が多分、カッコカワイイような気がしますし。それから私は、物質転送魔法で自宅から白いリボンを2本取り寄せ、フェイトちゃんの髪を結ってあげました。かつて、私がしていた物よりも髪の量が多く、且つ長いので大変でしたが、その甲斐有って見事なツインテールが出来たところで、別れ時が迫って来てしまいました。

 

 一度集合し、クロノさんの提案で写真を幾つか撮った後、私は名残を惜しみつつスクライアさんに【レイジングハート】を返却しました。2週間足らずの戦いを共にしただけの仲とはいえ、【レイジングハート】は唯一無二の愛機と思える程には頼もしいデバイスでありました。

 

「今まで有り難う、レイジングハート。一緒に戦えて嬉しかったよ」

[- Me too. Thank you so much. -]

「それじゃ、“なのは”さん。長老との交渉が成立したら、届けに行くよ」

 

 果たして【レイジングハート】が、スクライア一族の元で魔導師の育成や作業用に使われるのと、私の様な優れた魔導資質しか持たない子供に使われるという選択肢の内、どちらが最善なのかは分かりませんが、其処は運命の女神――――ではなく、スクライアさんに委ねてみたいと思います。

 

「うん……。ただ、そうじゃなくても偶には来て下さいね、ユーノさん。お兄ちゃんや、お姉ちゃんが寂しがると思いますので」

 

 武人ではありますが、その辺りの感性は人並みですから。

 

「今、僕の名前を…………」

「はて、何の事でしょうか?」

 

 呆然としているユーノさんは、さて置き……。お次は、クロノさんの元へと向かいます。短い間ですが、共闘したり色々と手配してくれたりと、良くして貰った御恩があります。尤も、向こうはそれすらも職務の1つとして割り切るでしょうし、私もあまり気に掛けない様にしているつもりです。

 

「クロノさんには、御健勝と御多幸を御祈りしておきますね」

「他部署に飛ばされそうな挨拶は、勘弁願いたいんだが……」

「ですが、別れの挨拶って大凡その様な内容では……?」

 

 離れていても健康には気を付けてとか、頑張って下さい等々。

 

「まぁ、良いだろう。其方にも、御健勝と御多幸があらんことを。話は変わるが……。艦長から魔法の訓練用や、万が一の護身用にとレイジングハートの代替機となるデバイスを預かっているんだ。如何か、それを受け取って貰いたい」

 

 そう言って手渡されたのは、カード状の待機形態をしているデバイス。名を【ルーンライター】と言うインテリジェントデバイスらしいのですが、提督クラスとなると予備のデバイスの1つや2つは無駄に支給されるそうで、これもその消耗品の内の1つなのだそうです。

 

「ちなみにこれ、その万が一の事態で壊してしまった場合は大丈夫でしょうか?」

「故意でなければ、な。尤も、その場合は君が大丈夫じゃなさそうだが……」

「私も、そうならない事を祈っています。宜しくね、ルーンライター」

[- Nice to me to you. Boss. -]

 

 思ってもみなかった贈り物を頂いてしまいましたが、気を取り直して次はアルフさんの元へ。しかしながら、それ程の深い仲ではありませんし、フェイトちゃんの個人的な友達といった感じの他人(使い魔さん)なので、淡々と済ませて行きます。

 

「アルフさん、向こうでもお元気で」

「ああ、そっちもね。それと、色々と有り難う。あんたには、感謝してもしきれないよ」

「如何致しまして」

 

 そして最後は、フェイトちゃんと向き合いました。別れの挨拶というよりは、再会を祈念する言葉の方が良いかもしれないと思いつつも、やはり寂しさが込み上がってしまって……。言葉にし難い代わりに、何となく抱き着いてみました。

 

「如何したの、“なのは”……?」

「んー……。フェイトちゃん、温かそうだなって」

 

 もうすぐ5月ですが、早朝は冷え冷えとしていますし、何より此処は海風が吹き付けて来ます。不意に人肌が恋しくなったとしても、何ら不思議ではありません。そんな誤魔化しを知ってか知らずか、フェイトちゃんは優しく抱き返してくれました。

 

「それなら、“なのは”の方が温かいよ」

「そうかな……?」

「うん、そうだよ。“なのは”の方が、とっても温かい……」

「ねぇ……、フェイトちゃん。今度会ったら沢山話をして、沢山遊ぼうよ。何処かに行ったり、美味しい物を食べたり、ゲームや模擬戦とか色々と」

「良いね、それ。凄く、楽しみだ……」

 

 思い付きの行動から、ずっとこうしていたい程の幸福感に満たされてしまいましたが、時間が時間なので仕方無く誘惑を断ち切り、フェイトちゃんをやんわりと引き剥がした後は、見送る為に少しだけ距離を置きました。お兄ちゃんとお姉ちゃんは、既にユーノさん達との別れを済ませたようで、如何やら私が最後のようでした。

 

「あ、クロノさん。リンディ提督やエイミィさんにも、有り難う御座いましたと伝えてくれませんか?」

「いや、伝えるまでも無く、多分見ていると思うんだが……」

 

 そう言うや否や、2つの空間モニターが空中へと出現しました。

 

[- あら、分かってるじゃないクロノ。それじゃ、“なのは”さん。また何時か、ね? -]

[- “なのは”ちゃん。何時か休暇取って『翠屋』へスイーツ食べに行くから、その時は宜しく~ -]

「はい。御待ちしております」

 

 空間モニター越しの別れも済ませたところで、フェイトちゃん達の足元で転移魔法が展開され、空色の魔力光がきらきらと輝き出しました。これで、本当に離れ離れとなってしまう……。そう思うと、涙腺が緩んできてしまって自制するのが大変でした。やはり見送るのなら、笑顔のままで見送りたいものですから。

 

「さようなら、“なのは”。きっと何時か、君に会いに行くよ」

「うん。さようなら、フェイトちゃん。――――」

 

 

 




――――またね。



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【幕間編】
第26話:欠け行く非日常なの


デバイス紹介
【ルーンライター】
名前の由来は、インテリジェントデバイスの祖となった試作機“プログラマブル・ルーンライター”より。提督且つ艦長のリンディが前線に出る事は少なく、更に言えばデバイスが無くとも魔力操作に長けた彼女にとって、官給品デバイスは不要の物であった。その為、あっさりと“なのは”へ貸し出される事に……。一応、定期的に整備はされており、性能に関してもカスタム済みなので標準以上となっている。



Side:恭也

 

「それじゃ、ユーノ。達者でな」

「ユーノ君、向こうでも元気でね」

「はい。恭也さん、美由希さん。今まで有り難う御座いました」

 

 そうやって、ユーノ達を見送って暫し。当事者であった“なのは”は、共に戦い、友誼を交わした多くの仲間達を見送ったので、感慨も一入(ひとしお)とは思うものの……。これ以上此処に留まると、登校や出勤の準備にも支障を来してしまう。そんな時間となってしまっていた。

 

「そろそろ帰ろうか、“なのは”」

「うん。そうだね……」

「………………あの~、恭ちゃん。私は?」

「お前は勝手に付いて来るだろう?」

「うぅ……。私も妹なのに……」

 

 妹以前に弟子だからな。優しくすると直ぐにツケ上がるようでは、そう簡単にしてやれる物では無い。それにしても、“なのは”の様子も気になるが、仲裁役が不在である我が家も大丈夫だろうか? レンと晶が、派手に喧嘩していないと良いんだが……。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 悲しいとまでは行かずとも、寂しい別れから始まった朝は何だか時間や概念が狂っているかのようで、朝食は何時も以上に静かでしたし、あの晶ちゃんとレンちゃんが口喧嘩すらせず、並んで登校して行くという幻影を見てしまったような気もします。

 

 そんな変わった朝を経て、ふと気付けば通学バスへと乗り込んでいた私は、当然の様にアリサ捜査官に咎められてしまいました。勿論、その傍らには“すずか”補佐官も一緒です。

 

「それで、また何か有ったの?」

「実は今日、レンちゃんと晶ちゃんが仲良く登校してて……」

「あの二人が? 確かに驚きだけど、其処まで呆然とする程かしら……?」

「身近だからこそ、じゃないのかな? アリサちゃんだって、私が猫嫌いになったら驚くでしょ?」

「なるほど。それは事件ね」

 

 偶にではありますが、アリサちゃんや“すずか”ちゃんが自宅に訪れる事も有りまして、高町家の日常風景でもあるレンちゃんと晶ちゃんの喧嘩は、既に何度か見られてしまっています。『喧嘩する程、仲が良い』――――そんな次元を超越した技の応酬は、某格闘映画の如く凄まじく、アリサちゃんや“すずか”ちゃんがそれを初見した際に、ドン引きしていたのは懐かしい記憶です。

 

 そんなこんなで幾分か平静さを取り戻した私は、授業の傍ら並列思考でルーンライターの取り扱い説明書を熟読し、お昼休みは何時もの面子で過ごして、午後の授業を普通に受けたところで、待ちに待った放課後が訪れました。

 

「バイバイ、“なのは”ちゃん」

「それじゃ、“なのは”。また来週ね?」

「うん。バイバイ、“すずか”ちゃん。アリサちゃん」

 

 二人に別れを告げた後、私は通学バスには乗らず、人気が無い路地裏へと入ったところで結界を張り、バリアジャケットを纏いました。

 

 意匠に関しては、個人差ならぬデバイス差でも有るのでしょうか? レイジングハートの時は、元となった学生服の面影が色濃く残っていましたが、ルーンライターの場合は手甲を始めとした装甲部分が多数追加されており、ゲーム等でよく見かける板金鎧と洋服の中間のような装いとなっていました。

 

「これ格好良いね、ルーンライター」

『Thank you』

 

 それとも、イメージする際にレイジングハートの物が被った結果、より洗練されてしまったのか……。真相は不明ですが、安全性が増す事には賛成なので、結果オーライという事にしておきます。

 

「それじゃ、試験飛行しよっか」

 

 そして私は、帰宅がてらの試験飛行を実施するのでした。垂直上昇、水平飛行、急旋回、急加速、急降下に急停止。たまにクルビットとも呼ばれる宙返りや、180度フックから後方を向いたままの飛行など慣性制御で遊んでみましたが、デバイスによる差は無きに等しいと思いました。

 

 あとは魔法の多重並行処理による負荷や、魔力の圧縮速度や充填可能容量を体感しておきたいのですが、もう間も無く自宅へ到着するので、残りのチェック項目は夕食等を済ませてからと為りそうです。

 

 

 

~~

Side:美由希

 

 学校からの帰り道。慌ただしかった日々は既に遠くへと過ぎ去り、身近だった危機も今では無くなってしまいました。だからこうして、心穏やかに帰宅する事が出来るのですが、1つだけ以前とは変わってしまった事があります。

 

「良いですか、二人共? 必殺技や絶招は、喧嘩で使っちゃいけません。仮令(たとえ)、その場のノリで使いたくなったとしてもです」

 

 それは、“なのは”への思いです。

 

「いや、だってレンの奴が、俺の限定焦がしプリンを勝手に捨てやがったから……」

「いやいや、あれは消費期限が切れとったやろ。むしろ、うちの気遣いに感謝せーや」

「あん? たった2日くらい良いじゃねーか!」

「2日“も”やろ! 衛生的に宜しゅうないわ、このすかぽんたん!」

「【フープバインド】」

「いだだだだっ?!」

「あ痛たたたっ!?」

 

 可愛い妹で、守るべき家族であった“なのは”が、ある日を境に魔法という力を得て、守る側へとなってしまいました。そして今回の事件を経て得られた自信は、今後もきっと、あの子を深みへと衝き動かしてしまう。……何となく、そんな気がするのです。

 

「あの~、“なのは”ちゃん……。お猿の頭に緊箍児(きんこじ)なら分かるんやけど、何でうちも嵌められとるの……?」

「たった今、口喧嘩をしたからです」

「なるほどなー……。御免なさい。とても反省しています」

「…………俺も悪かった。御免なさい」

 

 空を自由自在に飛行し、結界や転移に拘束、射撃や防御も卒無くこなせる。そんな凄い力を手にして平生のままで居られるとは思えませんが、優しく聡明な“なのは”なら、この先も道を誤ることは無いと信じています。

 

「それでは最後に、再発防止策を話し合って下さい」

「次からは、消費期限内にプリンを食べる」

「次からは、消費期限内にプリンを食わす」

「おい、てめーは俺の母さんかよ? ぐあああぁ、頭があああああ?!」

「ほんま、お猿は学……。あー、“なのは”ちゃん。うち、何も言うておらへんよ?」

「それじゃ、レンちゃんは先に解散で」

「あっ、一人だけ狡いぞ亀!」

「さーてさて、誰かさんの分まで夕食の仕込みをせななー」

「無視すんなゴラァ!!」

 

 しかし更なる力を求めたり、助けを求められた時は、躊躇いなく踏み込んで行ってしまう危うさを何処かに秘めているようで、それが末恐ろしいと思ってしまったのです。

 

 果たして、それは私の杞憂なのか、若しくは普段から無意識に感じ取っている危惧なのか……。取り敢えず、これまで以上に見守って行こうと決意しつつ、気を取り直すべく大きな声で帰宅を告げるのでした。

 

「ただいまー! って、うわ……。晶ちゃん、何しているの?」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 あれから、少々の御話しと宿題を始めとした諸々を済ませ、万全を期して再開したルーンライターの機能試験ですが……。

 

 レイジングハートを基準とした場合、ルーンライターは其の7割程度にも満たない性能で、特に魔法の多重並行処理を任せた際の負荷がとても大きく、現状ではフェイトちゃんとの戦闘で多用した“高速誘導弾と炸裂誘導弾の混合弾幕”といった質と量の暴力は、ほぼほぼ不可能に近い。そう判断したところで、私はようやく諦める事が出来ました。

 

 これまで時間が無かったのも事実ですが、私は今までレイジングハートの性能に活かされて来たのです。その現実を受け入れてしまえば、これから為すべき事の方向性は何となく分かった様な気がします。

 

 “並列思考の効率化と多層化”、そして“魔法の記憶化”。その3つを優先しつつ、ルーンライターとも人馬ならぬ『人機一体』を目指して頑張ろうと思ったのでした。

 

………

……

 

 さて、そんな決意から約46時間が経った現在。私は今、誕生日会に参加していました。尤も、私は祝う側の立場であり、主席はレンちゃんと晶ちゃんの二人という組み合わせです。ええ、はい。実はこの二人、普段あれだけ仲が悪いのに誕生日が一緒で、何となく運命を感じてしまいます。ちなみに、年齢に関しては晶ちゃんの方が1歳だけ年上となっており、その差が仲違いを宿命付けているのかもしれません。

 

 まぁ、こんな詰まらない考察は無辺世界にでも捨て置きまして、誕生日の定番曲でレンちゃんと晶ちゃんを祝い、蝋燭の火を吹き消して貰った後はプレゼントを手渡し、御馳走とケーキに舌鼓を打つ。それはそれは例年通りで、とても楽しい誕生日会でした。

 

 

 

 

 

 本当は、色々と考えてはみたのです。

 

 

 

 

 

 魔法を使った文字通りのマジックショーやら、『全国何処でも往復券』なる物を発行して、行きたいところへ転移魔法で送迎する等々。しかし、出会った当初のユーノさんが、「魔法文明の無い世界で、魔法を不特定多数の人に教えるのはちょっと……」といった旨の発言をしていたようなと思い出し、考え直してみました。だってそれは、魔法という神秘を明らかにした結果、これまで何かしらの問題があったと読み取ることが出来るからです。

 

 魔法による技術革新や迫害、人体実験や選民思想エトセトラ。

 

 苦渋を味わった先人達の経験が、教訓として息衝いている。その可能性を考えると、如何しても無闇に使う事は出来ませんでした。そもそもこの地球は、『高機能性遺伝子障害』という先天性の病がもたらした副次的な“力”――――“超能力”を巡って、今まさに身近な前例が築かれつつありますので、明日は我が身である事をひしひしと感じられます。

 

 ですから私も、秘匿する道を選んだのでした。とはいえ、結界を張って魔法の練習もしますし、何かを守る為なら公での行使も辞さないつもりですけれども。

 

 



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第27話:傷痕は、何時か癒えるモノなの?

用語解説
【変異性遺伝子障害】
約30年前から、世界的に流行し始めた原因不明の先天性の病。遺伝子情報が健常者とは異なり、細胞内に珪素が含まれる事を初めとした数々の異常によって、投薬無しでは日常生活に支障を来してしまう。この患者の内、20人に1人の割合で見られる重篤者に対しては『高機能性遺伝子障害(通称:HGS)』と名が変わり、区別されている。HGS患者は“念力”や“読心”といった“超能力”を有しており、能力を最大限に発揮する際には“フィン”と呼ばれる羽が背中に生じるものの、未だ原理解明には至っていない。



Side:なのは

 

 4月24日、火曜日。10時頃の事です。ふと、何かやり残しているような違和感を覚えてしまった私は、授業の合間に空転気味な並列思考に仕事を与え、その正体を探ってみたところ……。今年はまだ、花見をしていない事に気付きました。

 

 そもそも桜の見頃である4月上旬から、私はジュエルシード回収とフェイトちゃんとの戦闘で大層忙しく、家族もその事に理解と協力をしてくれたので敢えて話題にはしなかったのでしょうけれど、仕事の次にイベント事が大好きなお母さんの心情を思うと、心苦しくなってしまいます。

 

 しかしながら、今から花見をするにしても葉桜が目立ってしまう頃ですし、今週末から来週まではゴールデンウィーク期間という事もあり、宿泊施設やキャンプ場の予約は既に一杯な筈で、外泊は困難。更にお母さんの慰労を目的とした場合、楽しくても疲れてしまう遊園地や水族館は避けた方が良いような気もします。

 

 そんな風に、あれやこれやと考えていましたが、お昼休みの時間に“すずか”ちゃんが話してくれた朗報もとい秘密の漏洩により、端無(はしな)くも解決したのでした。

 

 話を要約すると、『“すずか”ちゃんのお姉さん――――忍さんが、お兄ちゃんを誘ってデートをしようと画策していたのですが、何時の間にか高町家と月村家の合同慰安旅行へと計画を変更しており、近い内に招待するかも?』という内容で、忍さんの恋の相談役である“すずか”ちゃんが話を受け、それとなく助言をしたら何故か其処へ落ち着いてしまったとの事。

 

 

 

 そういった経緯と、意図せぬ暗躍もありまして……。

 

 

 

 待ちに待った週末。私達は、“万能”と名高い月村家筆頭メイド長ことノエルさんが運転するマイクロバスに乗り込み、温泉旅館『山の宿』へと向かいました。メンバーは高町家と月村家の面々に、お姉ちゃんと忍さんの友人である那美さんと、言わずと知れたアリサちゃんを含めた総勢12名。予定としましては、一泊二日のプチ旅行となります。

 

 本音を言うならば、久しく会っていないフィアッセお姉ちゃんや、那美さんの相方(?)でもある狐の久遠も来て欲しかったのですが、前者はイギリスに住んでいるので地理的要因に、後者は“ペット持ち込み禁止”という旅館側の規則に阻まれ、残念ながら参加する事は出来ませんでした。

 

 他にも、お兄ちゃんの友達で高町家とも交流が深い勇吾さんも、先約が有るとの事で参加を見送っており、全員集合はまたの機会となりそうです。

 

 まぁ、取り敢えず……。何時までも気持ちを引き摺っていては旅を楽しめないので、移動中の手慰みとして持ち込んだ折り畳み式の将棋に集中しつつ、アリサちゃんを相手に2連勝を決め、“すずか”ちゃんと接戦を繰り広げていたところで目的地に到着。

 

 それから恙無(つつがな)くチェックインをした後、広い御座敷がある部屋へと通された私達は荷物を置いたところで、一時解散と相成りました。とはいえ、単独行動ではトラブルに巻き込まれる恐れがあるので、ある程度の人数で固まって行動するようにと周知されており、皆それを守って集団行動をしているようでした。

 

 

 

 あ、ちなみに私は、即温泉派の集団に含まれています。

 

 

 

 この派閥は、アリサちゃんと“すずか”ちゃん、お姉ちゃんと那美さん、晶ちゃんにレンちゃん、“すずか”ちゃんの従者であるファリンさんも在籍する一大派閥で、とても賑やかなのが特徴です。

 

 その為、これから先を思うと少しばかり気が滅入りそうになるのですが、どのみち6月頃に始まるプールの授業では晒す事になるので、今を避けても益は無し。なので視点を変えて、試験的に見せてみようと思いました。

 

 この左手の傷を私自身が受け入れたところで、他人が同様に受け入れてくれるか如何かなんて、まるで分からないのですから。

 

 

 

~~

Side:すずか

 

 『告白って、どのタイミングですれば良いと思う?』――――事の始まりは、忍お姉ちゃんの恋愛相談から始まりました。

 

 私と姉とでは歳が十も離れており、更にどちらも恋愛初心者なので確たる答えなど持っていない事は承知の筈ですが、それでも頼ってくれたのは嬉しかったので、私は参考になりそうな小説や漫画、ドラマや映画の内容を思い出しつつ、『それならデートへ誘って、日が落ちた頃にでも告白しちゃったら如何かな……?』と至って無難な助言をしたところ、何故か団体温泉ツアーが企画されてしまったのでした。

 

 恐らく、恭也さんが好みそうな事とか、自身が持ち得る私財や伝手を勘案した結果が“これ”なのかもしれませんが、これだけの人数を誘った意図がよく分かりません。二人っきりだと気恥ずかしいので、ならば大勢でという判断なのでしょうか?

 

 もしそうなら、お姉ちゃんの趣味である機械工学やゲームの他に、少女漫画や恋愛小説といった趣味を追加させなくてはいけませんけれども、それはまぁ、後々聞いてから決めるとして……。今は目一杯、温泉を楽しもうと思いました。

 

 ファリンに手伝って貰いながら脱衣所で服を脱ぎ、何も持たないまま浴場へ足を踏み入れると、仄かに硫黄臭がしました。ミルクを吸った雑巾や、腐った卵にも例えられがちな硫黄の香りですが、あまり温泉には含まれていないのか鼻を衝く程では無く、むしろ特別な場所に来たという実感を湧かせてくれて、思わず心が弾んでしまいます。

 

 しかし温泉へと浸かる前に、まずは身体を洗わなくてはいけませんので逸る気持ちを抑え、ファリンが用意してくれた木目調の椅子に座って洗髪を任せていると、少し遅れて入って来た“なのは”ちゃんが私の右隣へとやって来ました。

 

「お待たせー。“すずか”ちゃん、隣座っても良い?」

「うん、良いよ。………………あの、“なのは”ちゃん。その傷って……」

 

 ふと、視界の端に入った“なのは”ちゃんの左手。火傷をしたとは聞いていたものの、予想よりも酷く痛々しい傷痕が出来ていて、思わず目を疑ってしまいました。

 

 それは普段、包帯の下に隠されているので目にする機会はありませんでしたが、こうして実際に見てみると言葉が詰まってしまう程の凄惨さで、手の甲だけかと思いきや、手の平にも同様の傷痕が走っており、まるで赤熱した包丁か何かが突き刺さった痕の様にも見えます。

 

 しかしながら、幸いな事に傷口自体は完全に塞がっており、皮膚の薄くなっている部分が破けるといった心配は無さそうなので、その点では安堵しました。ですが、如何いった経緯でこんな大怪我をしたのか、どの様な方法でこれ程の傷を短期間で塞げたのか、そんな疑問が汲めども尽きそうにありませんけれど、きっとこれに関しても口を噤むのでしょう。

 

 何となく、そんな確信めいた予感がして……。私は拒絶を恐れ、“なのは”ちゃんに問い質すことが出来ませんでした。

 

「やっぱりコレ、気になっちゃうかな……?」

「当然だよ……。だって“なのは”ちゃんは、大切な友達なんだから」

「…………有り難う、“すずか”ちゃん」

 

 言葉はそれっきりで、“なのは”ちゃんはその後黙々と髪を洗い始めました。ちなみに、先程から私の左隣で沈黙を貫いていたアリサちゃんですが、自身の髪を手早く洗い終わるや否や“なのは”ちゃんの元へと赴き、「あんた、随分とやんちゃをしたのね……」等、そこそこ辛辣なツッコミを入れながら背中を洗ってあげたりと、何時もより随分と優しいアプローチを仕掛けていて感心したのも束の間。

 

 唐突に、バストチェックという名目のセクハラを“なのは”ちゃんにし始めたので、私は上げた好感度を僅かに下方修正しつつ、手元にあった洗面器の縁を右手で握り締め、呼吸を1つ。そして意を決した後は、未だに戯れているアリサちゃんの後頭部を目掛け、大きく振りかぶったのでした。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 そして私達は、身体を洗い終わった順に湯舟へと浸かったり、露天風呂の方にも行ってみたりして楽しんだ後は、長風呂を希望するお姉ちゃんと那美さんを残して、脱衣所へと戻りました。それから身体を拭き、着慣れない浴衣に袖を通して、御風呂上がりの瓶牛乳に舌鼓みを打つという御約束を完遂したところで、脱いだ服等の荷物を置きに一路部屋へ。

 

「それじゃ、次は旅館内を探検しに行くわよっ!」

「……ねぇ、“すずか”ちゃん。今のアリサちゃん、やけにテンション高いよね?」

「うん。もしかして、私が強く叩いちゃった所為で…………」

 

 例の凶器はプラスチック製の洗面器であるにも(かかわ)らず、“すずか”ちゃんの妙技によって鈍器じみた打撃音を響かせてしましたし、これはひょっとしたら、ひょっとするのかもしれません。

 

「こら、其処の二人。私を勝手に可哀想な人にしないでよねっ! 大体、今回の旅行は楽しみにしていたんだから、少しぐらい羽目を外したって良いじゃない……」

「はいはい。ツンデレ乙なの」

「ごめんね、アリサちゃん。次は優しくするから」

「あんた達ねぇ……。人の話、聞くつもり無いでしょ?」

 

 そんな感じで意趣返しも程々に、レンちゃんと晶ちゃんとは部屋で別れ、私とアリサちゃん、“すずか”ちゃんとファリンさんの4人で旅館内を探検する事になりました。嗚呼、ちなみに……。左手の傷痕をそれと無く見せびらかした結果ですが、お姉ちゃん以外は程度の差こそあれ眉をひそめたので、今はちゃんと包帯を巻き直しています。

 

 目にする事で気になってしまうのなら、隠しておいた方が両者にとって“ため”になる。――――これは、そう判断した故の対応です。

 

 尤も、これは旅行中だけの対応予定でして、今後は徐々に晒して行こうと思いました。どのみち、包帯で隠そうが隠さまいが目立つことは避けられませんし、一生モノかもしれない傷痕を一生隠すよりは、一生晒した方が気楽ではありませんか。

 

 それに、この傷は特別なのです。これは絆。これは証。若しくは(くさび)。フェイトちゃんが如何思っているのかは分かりかねますが、この傷痕には『思い出深い過去』が刻まれている。だから晒しても如何と言うことは無く、むしろ過去を何度でも思い起こしてくれるので、敢えて見える様にしておきたいという思惑も含んでいます。

 

 さて……、こんな重たい思考をつらつらと連ねるよりも、今は折角の探検パートなのですから楽しまなくては損と言う物です。此処はアリサちゃんを見倣って、私も少し羽目を外してみようかな? と気を緩めてしまったのは失敗だったのかもしれません。

 

 歩き回って、はしゃいで、御馳走を食べて、トランプで大富豪とかして遊んで、久し振りにお母さんとも取り留めの無い話を沢山して。そんな風に充実していたからこそ、些細なミスを犯してしまいました。

 

 

 

 鎮痛剤の飲み忘れ。

 

 

 

 たったそれだけの事ですが、薬の効果が切れると左手が異様な熱と痛みを持ち始め、まるで何かに焼かれているかの様に疼くのです。アースラの医療スタッフの話によると、神経の修復による痛みやら心因性の体感幻覚も合わさっているとの事ですが、ともあれ鎮痛剤を飲み忘れて眠りに就いた場合、当然の如く“激痛による目覚め”が待ち受けております。

 

「やらかしちゃったなぁ……」

 

 起き掛けの鈍い思考に、無遠慮な痛覚、そして止まらない冷や汗という三連コンボには悪態の1つも吐きたくなる程で、ゆっくりと布団から這い出た後、自分のリュックサックから鎮痛剤を手探りで回収、そして静かに部屋を出るという一連の行動さえ、億劫(おっくう)に感じられます。

 

 それでも身体を引き摺るようにして歩き続け、廊下に設置してある冷水器で喉を潤しつつ薬を摂取したところで思考が完全起動を果たし、ようやく平静さを取り戻すことが出来ました。しかし直ぐに薬が効くはずも無く、むしろ明確に認知したことで更に痛みが悪化した様にも感じますが、さりとて非常時でも無いのに“痛覚の遮断”を試みるなんて事は、魔法の乱用に他なりません。

 

 ならば気晴らしに、夜間飛行でもと考えていたところ……。暗闇から、白い小袖(こそで)緋袴(ひばかま)を纏った誰かが近付いて来ました。

 

 『深夜の温泉旅館に、巫女衣装の人物』。字面だけでは和風ホラーな展開ですけれども、見知った衣装ということで既に察しは付いており、その予想は読み通りでした。とは言え、如何して浴衣から巫女衣装に着替えたのかは、皆目見当も付きませんが。

 

「こんばんは、那美さん」

「あっ……。こんばんは、“なのは”ちゃん」

「こんな所で何をしているんですか?」

「私はその…………。ちょっと、見回りをね……」

 

 副業は学生、そして本業が巫女である那美さんが其の恰好で見回りをするという事は、もしや幽霊探しでもしていたのでしょうか? 気にはなりますが、私も魔法少女である事を秘匿している立場ですし、内実については特に深入りしようとは思いません。藪から棒が飛び出すだけで済むならまだしも、蛇が出て来ては困ってしまいますから。

 

「“なのは”ちゃんこそ、こんな時間に如何したの?」

「鎮痛剤が効くまで、ちょっと夜風に当たろうかなーと思いまして」

「あー、そーいう事なんですね。なるほどー……」

 

 左手を少し上げて見せると納得してくれましたが、今度は何かしらを言い淀んでいるらしく、反応を待つこと暫し。3分と経たずに覚悟は決まった様で、平生からの柔和な表情も心做(こころな)しか凛々しく見えます。

 

「あの、もし宜しければ……。御呪いを掛けてみても良いかな?」

「御呪い、ですか……?」

「うん、御呪い。“なのは”ちゃんが嫌じゃなければ、だけどね……」

 

 巫女による【御呪(おまじな)い】。それはそれは、大いに興味を惹かれる響きでしたので気軽に承諾したところ、那美さんは私の左手を両手で包み込み、それから集中したいので目を閉じて欲しいと頼まれ、閉じること十数秒。何かが流れ込んで来る感覚と共に、焼け爛れるような激痛が徐々に緩和され、やがて痛みは“微かに痺れる程度”にまで落ち着きました。

 

 魔法とは似て非なる神秘。

 

 それは実に不思議な体験でしたが、素直に御礼を述べた後は那美さんと共に部屋へ戻り、二度寝を敢行。そして翌朝、包帯を解いて傷痕の様子を確認してみたところ……。外見その物は、R15指定からR12指定へと格下げ出来そうなくらいには治っており、痛みに関しては鎮痛剤の薬効が抜けないと判断し難いものの、此方もかなり良くなっている様でした。

 

 本当なら、喜ぶべき事なのでしょう。どうせ何時かは、癒え行くモノ。しかし、こんなにも早く薄れてしまうとは想定外の事で、何とも言えぬ遣る瀬無さが胸中を駆け巡り、やがて寂寥感となって心へと根差しました。そして囁くのです。糾弾すべき相手は何処かと。

 

 実際のところ、理性ではちゃんと理解しています。最早、済んでしまった事は如何する事も出来ませんし、あの時の那美さんの善意も、それを受け取った私の意思も決して悪い判断では無く、人として当然の範疇でした。ただ私が、傷痕や痛みすら大切にしていたのが仇となっただけで、強いて責めるのなら“自分の心”が妥当のように思えます。

 

 それでも、全てを諦めてしまうには収まりが付かず、ならば痛みだけでもと考えた末に、私は其の日以降、鎮痛剤の服用をぱたりと止めてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに。旅行2日目となる本日ですが、朝から傷心をした為、皆のテンションに付いて行く事が出来ませんでした。また機会があれば、全力で楽しみ尽くそうと思います。

 

 



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第28話:予期せぬ終わりと始まり

人物紹介
【神咲 那美】
私立風芽丘学園高等部3年生、そして『八束神社』を管理する巫女でもある。美由希よりも1つ上の先輩に当たるが、対等な友人関係を築いており、高町家とも交流が深い。おっとりとした性格が災いしているのか、よく転んだり、何かにぶつかったりしている。



Side:■■■

 

 雨、雨、雨。今年もまた、そんな季節がやって来ました。気温は少し肌寒く、本が湿気り、洗濯物は部屋干し不可避に、遠出は困難且つ、近場での買い物すら億劫に感じます。そして何より問題なのは、そういったストレスが積もりに積もって、あらゆる意欲を削いでしまう事でした。

 

「あかん。なーんもする気が起こらへん……。もう、今日の夕食は宅配ピザでもえーやろか……?」

 

 基本的に自炊をする様には心掛けているものの、やはり美味しそうに食べてくれる相手が居なくては虚しさと煩わしさが募るだけで、それに両足が不自由という理由もあって外食にせよ食材調達にせよ、雨天外出は如何しても躊躇いが生じるのです。とゆーわけで、録り溜めしていたドラマを見つつ宅配ピザと野菜ジュースで寂しい夕食を済ませた後は、御風呂で気分転換を図ります。

 

 幸いなことに此の家は、遠戚に当たるロマンス・グレーでダンディな叔父様の手配によって改修工事が完了しており、お風呂は一人でも入浴可能ですし、台所は車椅子でも届く高さで、玄関の段差問題も解消済み。勿論、それ以外の設備においても今のところ不満を感じた事はありません。

 

 只やはり、入浴介助者ぐらいは居て欲しい気もするのですが、独りでやれる事は独りでせななーという拙い自立心の下、叔父様に頼ることはせず今に至ります。そんな故も有り、えっちらおっちらと身体を洗って拭いて、そしてまた時間を掛けて寝間着を纏い、ついでに歯磨き等をした挙句、ようやく自室のベッドへと辿り着いたのは約3時間後の事でした。

 

 その頃には、流石に私も疲労気味で“しんどい”の四文字が脳裏を過ぎるも、本を読むぐらいの体力と時間は残っていたので、そのままベッドで横になりつつ読書を開始。

 

 本のジャンルはファンタジー小説で、内容自体は不治の病に侵された妹を献身的に支える主人公が魔法の本を見つけ、その本に纏わる伝承を頼りに各地を巡って魔物退治をする御話です。話が進むに連れて個性的な仲間と出会い、世界の謎が徐々に明らかにされて、そして最後に仲間の一人が犠牲となり、妹が魔王に攫われた場面でページが尽きてしまいました。

 

 一見すると、これは只のバッドエンドです。しかし、続編を匂わせる終わり方だったので期待は大なのですが、初版発行日を見てみますと極最近の物で、このボリュームの続編が出るとするなら早くて1年は掛かりそうな気がします。

 

「いや無理やろ……。こんなん、先が気になって発狂してまうわ…………」

 

 仲間の尊い犠牲と、主人公の精神的な支えになっていた妹との別離。胸が張り裂けそうな思いとは正にこの事で、一頻り涙を流した後、両親を亡くした自分の境遇とも被っているようにも感じて……。また新しい涙が、頬を伝っては落ちて行きました。

 

 家族が居なくなるのは、悪夢その物です。

 

 一番身近な存在で、話を聞いてくれたり、甘えを許してくれて、時には諭してくれる人が居ないと心にぽっかりと穴が開いているような気がしますし、仮令(たとえ)それを何かで塞いだとしても、傷付いた事実は変わる事なく残り続けます。この主人公は、如何なってしまうのでしょうか? 私のように立ち止まったりはせずに、自ら進んで行けるのでしょうか?

 

 きっと、そうであって欲しい。もっともっと強くなって、魔王へと立ち向かって欲しいと願いつつ涙を拭き、何気なく卓上時計を見てみますと、時刻は午前零時近く。

 

 感情的にも、外の雨音的にも全然寝れる気はせーへんのですが、これ以上は身体に障りそうなので、寝る前に御手洗いと水分補給でもと思い車椅子に乗り込んだところ、前触れも無く本棚に置いていた一冊の本が紫色の光を放ち始め、その異様な光景に思わず動きが止まってしまいました。

 

 元々その本は、書店を経営していた両親が古書を仕入れた際に混じっていた物で、タイトルらしい文章は明記されておらず、その上やけに硬い鎖で固定されて開く事も出来ない禁書じみた本でした。しかし、当時3歳だった私は何故かそれを(いた)く気に入り、私物にしてしまったとの事。

 

 そういった経緯も有り、最近では本棚の隙間埋めとして使っていたところ今の現象に至る訳なのですが、まさか本物の魔導書的な代物だとは露とも思わず、これが彼の有名な『ナコト写本』やら『ネクロノミコン』だったら如何しようという不安で思考が埋め尽くされる中、事態はどんどん進んで行き、気付けば部屋の中に3人の女性と1人の男性が出現しており、最早、常識が通用しない事を何となく察しました。

 

 

 

 さよなら日常。ようこそ非日常。

 

 

 

 こうして、私――――“八神はやて”は無事に人生の転換期を迎え、再出発をする事になりました。御年9歳。不安要素しか有りませんが、どーにかこーにかで頑張って行く所存です。

 

 



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第29話:とある少女と騎士達の一幕

人物紹介
【八神 はやて】
9歳の少女。約1年前の交通事故で両親を亡くし、自身も事故の後遺症で歩行不可能となった。その為、現在は学校への通学を断念しており、自宅でインターネットを介した通信教育を受けている。遠戚である叔父の支援が有るものの、本人の希望で特に介護サービスを受ける事無く、なるべく自立した生活を送れるように努力していた。



Side:はやて

 

「ほーん……。つまり、この【闇の書】とかゆー魔導書に選ばれた私は、666ページ分の魔力蒐集をしたら正式な主として認められて、その御手伝いを『守護騎士』の皆がしてくれるんやな?」

「はい、我等が主。その通りで御座います」

「ふむふむ…………」

 

 あの未曾有の混乱から場所をリビングに移し、何かと片膝を着いて“騎士の礼”をしたがる彼等を椅子に座らせ、話し込むこと1時間程。そして現在の時刻もまた、午前1時を指そうとしていました。正直、睡魔が忍び寄りつつあるので凄く眠いのですが、話を聞けば聞くほどに重要な情報が出て来るものですから、何処で区切ろうか悩んでしまいます。

 

 

 

 例えば、“666”という数字。

 

 

 

 これは“獣の数字”として有名な3桁の数字で、此方の世界では不吉や邪悪の象徴として様々な媒体で用いられており、元々は聖書由来の数字やけれども、仮令これが偶然の合致だとしても気味が悪く、楽観視をしていては何時か足元を掬われるかもしれません。嗚呼、ちなみに。互いの自己紹介は済ませていて――――

 

 皆を纏める凛々しい女性が、“シグナム”。

 荒んだ目をしている女の子が、“ヴィータ”。

 優しそうなお姉さんが、“シャマル”。

 筋骨隆々としたお兄さん(犬耳&尻尾付き)が、“ザフィーラ”。

 

 ――――この4人が私の配下となる『守護騎士』達で、騎士団としての名は『雲の騎士団(ヴォルケンリッター)』。魔法によって作り出された仮初めの生命体で、主要任務は私の御手伝いをしたり、脅威を排除する事らしいのですが、その脅威とは何ぞやと尋ねてみたところ、“主や我らを脅かし、妨げとなる全てが対象”との事で、ちゃんと手綱を握らななーと思いました。

 

 理由としましては、こういった物言いをする方達は人を殺すのが禁忌では無く、あくまでも手段の1つとして割り切っているのが相場で、それから何だかんだで暴走したり改心して行く様式は、夢小説と揶揄される小説体系においては然程珍しくありません。

 

 とは言え、虚構の知識が現実の参考になるかは正直なところ未知数ですが、頼れるモノは己の知識と叔父様だけで、即応可能なのは前者のみ。だから間違っていたとしても、今暫くは突き進む所存です。

 

「ところでな、シグナム。また幾つか質問したいんやけど、その魔力蒐集とやらには期限とか有るんやろか?」

「私が知る限り、無いと記憶しております」

「じゃあ、まだ私に説明していない機能とか付いていたりせーへん?」

 

 そう問い掛けてみると、「少し長くなりますが……」と前置きをされ、延々と語ってくれました。主を選定する機能、旅をする機能、破損個所を復元する機能、蒐集したデータを再現・改変する機能、貯蓄した魔力を運用する機能、盗難防止に関する機能、等々(エトセトラ)

 

 取り分け興味深かったのは“『管制人格』を魔法生命体として生成する機能”で、これは魔力蒐集によって400ページを超えた場合に解除される機能であるらしく、666ページに至らずとも限定的な運用が可能になり、更に全機能を知悉している事から【闇の書】の運用効率が格段に良くなるのだとか。――――要するに、頼もしい仲間を増やせるっちゅー事やね。分かります。

 

 しかし実際のところ、機械の如く【闇の書】の制御下に置かれているであろう彼等から聞きたかったのは、万が一の誤作動や機能不全を起こした際の強制終了やら再起動を可能にする方法だったのですが、面と向かって不躾な質問をする勇気など有るはずも無く、(つい)ぞ語られる事はありませんでした。

 

 

 

 尤も、仮に語っていたとしても私が其れに気付かず、さらっと聞き流している可能性が無きにしも非ずですが。

 

 

 

 その後、取り敢えず寝ようという本能に従って皆に解散令を出し、シグナムとシャマルには両親が使っていた2階の部屋を宛がい、ヴィータは小さいので一先ず私の部屋で同居をさせ、そしてザフィーラには大変申し訳無いのですが、リビングのソファーで一夜を過ごして貰う事になりました。

 

 そうやって、遅蒔きながら眠りに就いた其の日の夜。何とも不思議な夢を見た……ような気がします。銀髪ロングの女性が私の前で片膝を着き、何か大切な事を話していたのですが残念ながら明晰夢の類では無く、何処までも不鮮明かつ朧気で、とても夢らしい夢でした。

 

 それでも悲しみを堪える様な、壊れてしまいそうな表情だけは微かに覚えており、起床後は暫し、アレは何やったのやろかと悩んでいましたが、今日は朝から5人分の食事を作り、服を見繕い、時間になったらリハビリをしに病院へ行ってと予定が目白押しで、ゆっくりしている暇など有りません。

 

「そーいえば、圧倒的に食材不足のよーな…………」

 

 基本的に1人分しか作らないので冷蔵庫の中身は少なく、今朝は食パンを食べる予定だったので炊飯器は空ですし、更に食パンの枚数は残り3枚のみ。結局この日の朝食は、備蓄していた即席麺に乾燥ワカメやら卵を追加した手抜き料理で、何とか其の場を凌ぎました。

 

 昼食の準備は、予定的に無理そうなのでコンビニ飯で済ますとして……。夕食では、ちゃんとした料理を皆に出してあげたいなと思います。

 

 

 

~~

Side:シグナム

 

 今回の旅路は、些か調子が狂ってしまいそうになる。いや……。最早そう思う時点で、私は既に狂っているのだろう。魔法文明の欠片も感じぬ世界に、貧困と戦乱から程遠い生活環境、そして極め付けが純真無垢とすら思える温厚な主。これでは到底、戦働き等は望めそうに無かった。

 

 我等の存在意義は、主が歩み行く王道へと付き従い、その障害を排除する為だけの道具でしかないのに、その“力”を求められずにいるのだ。有り体に言ってしまえば異常事態なのだが、主が“平穏”を求めるのなら、その願いを叶えるのもまた我等の在り方である。

 

 人を殺めず、無闇に原住生物を狩らず、森や町を焼き尽くさず。屍の山と、血の海とは無縁の生活。それはまるで『善良なる人』のようで、酷く滑稽な状況にも思えてしまう。我が身の罪業と宿命を以てして、今更ながら人並みの生活を送れるとは望外の事態でしか無く、本当に望みさえしなかったのだ。

 

 まぁしかし、我等は永遠の旅人であり、現在すらも刹那の一部。これもまた一興として応じるのも、吝かでは無いのかもしれぬな……。

 

「…………あの、我等が主。出来れば其処の、ジーンズなる物を穿いても宜しいでしょうか?」

「どーしたん、シグナム? そのワンピ、肩幅でも合わんかったんかいな?」

 

 ちなみに現在、この世界での活動に相応しい衣服を貸与されているところなのだが、私には何故か可愛らしい衣服ばかりが手渡され、人形の如く着せ替えられていた。実に不思議だ。こういった衣服は、シャマルが着こなしてしまえるのに敢えて試されるとは、如何なる意図が有るのだろうか?

 

「いえ、幅も丈も問題有りません。ただ有事の際には破いてしまうかもしれないので、生地の耐久性が高そうな其方をと考慮しました」

「心配し過ぎやって。それにこれ穿いたら、普通に格好良くなるだけやろ?」

「格好良いかは分かりませんが、いざと言う時には動き易いと思います」

「あんな、シグナム……。古今東西、“ギャップ萌え”は正義なんやで?」

「成程……。御教示、感謝致します」

 

 如何やらこの世界では、意外性を追求する気風があるようだ。――――その後も様々な衣服へと着せ替えられ、最終的に私とシャマルは主の亡き御母堂の衣服を。ヴィータは、主が普段使いしている衣服の一部を貸与され、ザフィーラは体格に合う衣服が皆無だったので、守護獣としての本来の姿である獣形態となる事で解決を図ったものの、今度はそれによって別問題が発生した。

 

 主曰く、大型犬という区分に該当するであろうザフィーラの獣形態は、首輪と手綱と同伴者無しの状態で外を出歩いた場合、野生動物と見做されて治安維持組織へと通報される恐れがあるらしく、そして主の拠点には首輪と手綱の類は無いとの事。

 

 故にそれらを入手するまでの間、ザフィーラには拠点防御を任せ、主が外出する際には残る3人で護衛に当たる事を決めるや否や、早速ではあるがザフィーラを除いた我々と主は、共に拠点を後にしたのであった。

 

……

………

 

 尚、行き先は『海鳴大学病院』という大型医療施設で、今日は其処で再び歩ける様になる為の訓練をするのだと主は出発前から意気込んでいたが、訓練中の様子を見させて頂いた感想としては、その夢が叶うのは当分先の事である様に思えてしまう。

 

 現在の主の身体能力では、両手で手摺りを掴み、その場に数十秒でも立つだけで精一杯なのだ。この調子で回復するとして、まともに歩ける様になるまであと何年掛かるのだろうか? いや、そもそも単独歩行が可能になる日は来るのだろうか……?

 

 

 

 この感情は、「歯痒い」な…………。

 

 

 

 主が“力”を求め、我等を使って頂ければ遠くない内に“真の主”としての覚醒を果たし、飛行魔法や身体強化魔法で如何とでもなる事なのに、自力での解決に囚われているのだから忠言すべきか悩んだものの、仮に断られた場合を憂慮すると、とてもでは無いが容易には言い出せない。

 

 他力を良しとせぬ、生き方。その志は崇高なれど、幼少の(みぎり)からそれを為すのは無謀であり、自ら進んで行うのは蛮勇とも言える。もし、その決意を固めてしまう様な事態になってしまったら……。そんな愚考が纏わり付いて、離れそうになかった。

 

………

……

 

 

 

~~

Side:ザフィーラ

 

「――――以上が、該当する記憶だ」

「ふむ……。事の仔細は理解した」

 

 あれから約3時間。現在、我を除く騎士達と主の一同は予定を済ませ、昼食の為に拠点への帰還を果たしていたが何処か雰囲気が重く、理由を確かめずにはいられなかった。その為、主とヴィータが話している合間にシャマルやシグナムから記憶情報を提供して貰い、時系列毎に再構成を行っていたのが先程の事となる。

 

「ザフィーラ。貴殿から見て、我等が主は如何映る?」

「努力家。そして気負っている様にも見えるが……、何かは分からぬ」

「そうか……。私も同様の意見だ」

 

 そして、これ以上の言葉は無用だと判断したのか、話が途切れてしまった。我は元より、シグナムもまた饒舌とは程遠い武骨者で、同じ内容の会話が続くこと自体が稀である。然れど、話題を切り替えやすいという点では有り難く、此度もまた質問がてら話を替えていった。

 

「ところで、シグナム。シャマルの記憶に()れば、明日にでも全員で出掛ける予定を主殿が立てている様だが、拠点警護の方は如何するつもりだ?」

「シャマルの陣で対応する。余程の事が無い限りは、それで大丈夫な筈だ」

 

 成程。拠点に魔法陣を敷いて陣地化するのであれば、確かに無人であっても問題は無いが……。1つだけ、懸念が残る。

 

「しかし、魔法を使えば管理局が気付くのではないか?」

 

 数代前の主に仕えていた頃から、幾度もの戦戈を交えて来た敵対組織『時空管理局』。それは、主と我等の王道を阻む障害の1つであり、彼等は代を経るに連れてより強大さを増し、今や我等の戦力を凌駕し得る“力”を持っていた。

 

 故に我等は、此方の戦力が整うまでは弱者の策を採らざるを得ず、魔法の痕跡を辿られぬ様に隠蔽もしくは偽装を施し、様々な次元世界へと散らばっては魔力蒐集を行う等、何時しか騎士らしからぬ行動が当たり前となってしまったが、これは決して堪え難い事では無い。

 

 主の喪失や、【闇の書】の破壊という最悪の事態を防げるのであれば、我等は如何なる手段も厭わぬ存在なのだ。だからこそ、危険を冒そうとするシグナムの案には懸念を抱くも、それについてはシャマルが補足をしてくれた。

 

「ええ、なので隠密性を優先した最低限の陣地化となりますが、防犯目的なら十分な性能となる事は保障します」

「了解した。それならば、憂い無く護衛に努めよう」

 

 ちなみに記憶を共有した御蔭で、我が獣形態で出掛ける際に必要となる首輪と手綱の入手時期は、『夕食の調達がてら購入する』という予定を知った為、最早尋ねたい事は何も無く、またしても三者の間には沈黙が訪れようとしていた。しかしそれは、主からの問い掛けにより状況は打開へと至る。

 

「あんなー、ザフィーラ。これから色々と買い出しに行くんやけど、何か食べたい物とか有ったりせーへん?」

「我は……いや、私はこの世界の食べ物には疎く、強いて挙げるならば肉料理となります」

 

 今までの経験上、そのオーダーで不味い物が出た例は極少数なので、恐らく大丈夫だろうとは思うが、はてさて……。

 

「それやったら夕食で、牛肉のソテーと温野菜の付け合わせ、豚汁、唐揚げ辺りを出して無難に様子見やろーか……? ハンバーグという選択肢も捨て難いんやけど、食感で賛否が別れると聞いた事も有るよーな、無いよーな……。取り敢えず、今回は見送りやね…………」

 

 如何やら、主の中では献立がお決まりになった様だ。一体、どんな食べ物を出して頂けるのかは想像が付かないものの、少しばかり楽しみであった。

 

 

 



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第30話:ハレのち曇りなの

人物紹介
【アリサ・バニングス】:ver.1.30
裕福な家庭に生まれた御令嬢。一人っ子なので、教養と共に愛情も存分に与えられた結果、我が儘で高慢な性格となってしまった。尤も、今現在の性格はかなり丸くなっており、“なのは”曰く「ただのツンデレ」と化している。学校では、名実共に学級委員長として君臨するなど早くも頭角を現しつつあるが、親友の“なのは”や“すずか”の前では自重気味。むしろ、――――



Side:アリサ

 

 昨夜、“なのは”と電話で話した時の印象は至って普通だったのに、これは一体如何いう事なのだろうか……?

 

 今朝の“なのは”は、通学バスへと乗り込んで来た時点で目元には薄っすらと隈が出来ており、夜更かしをしていたのは明らかである。しかしながら、気怠そうな素振りは全く無く、どちらかと言えば上の空状態なのに普通を装っている様にも見えて、何だか嫌な予兆だと感じてしまう。

 

 (さかのぼ)ること、一ヶ月ほど前。今日のような何らかの隠し事と、不思議な出来事が続いたかと思えば突発的な体調不良で学校を休んだ挙句、その翌週には利き手である左手に大怪我(治療済み)を負っているにも(かかわ)らず、何食わぬ顔で登校して来たという前歴が有るのだ、此奴は。

 

 それ故に嫌な方向へと思考が飛躍するものの、この状態の“なのは”を問い詰めようとしても曖昧にされてしまうし、最終的には棘のある言い回しで遠ざけようとする為、其処は触れて欲しくない領域なのだろう。ただ真実を知りたいのであれば、何処までも踏み込めば良い。しかし親友で在りたいのなら、相手が望む距離を保たなければならない。

 

 

 

 それを知って、思い知らされて……。

 

 

 

 だからもう、心配だけをする事にした。“なのは”が知らない私の一面が有るように、私が知らない“なのは”の一面も確かに有る。たったそれだけの事なのだ。そして誰だって、人に見せたいのは望ましい自分の姿である。理想的で個性的な、自分らしい自分を見て欲しいと他ならぬ私自身が願うのだから、恐らく“なのは”も『そう』なのだろう。

 

 いや……。『そう』だと思わなくては、私はまた遠からず“なのは”とぶつかり合って、そしてまた嫌な思いをさせてしまうのだ。きっと。

 

 衝突なんて、するもんじゃない。大切な親友だからこそ、すべき時は有るのかもしれないけれど判断を下すには時期尚早で、何よりも二度と間違いを犯したくは無いと考えた末に私は、もやもやとした気持ちを抑えつつも呆れ顔をして見せて、「あんた、また夜更かしでもしたの?」と挨拶がてら言ってやったのであった。

 

 

 

~~

Side:すずか

 

 今朝の“なのは”ちゃんは、寝不足の理由として夢見の悪さを挙げていたのですが、本当のところは如何なんだろうと心配になり、少しばかり考え込んでしまいました。

 

 思い当たる節は色々と有って、例えば私達が通う聖祥大学付属小学校は、上質な教育と環境を与えてくれる反面それなりの学力を示さなくてはならず、その為の筆記テストが結構な頻度で設けられています。

 

 尤もそれは、あくまでも個々人の学力を先生達が確認する為に行われるので、得点順位や名前を掲示板へ張り出すといった事は有りませんが、採点が終われば生徒の元へテスト用紙が返される為、誰が何点であったのかは当人の口や人伝の噂から知る事が出来ますし、最低得点と最高得点も話のネタとしては流れ易く、其処から大凡の平均点を求める事も可能です。

 

 それで、なのですが……。最近、同級生と比較しても実に平均的であった“なのは”ちゃんのテスト点数が格段に良くなっており、その勢いを維持する為に無茶な勉強をしているのではないか? という不安を抱いてしまったが故に、如何しても思考が止まろうとはしませんでした。

 

 訊いてしまえば、解決するかもしれない。

 

 『そう』と分かっていて、何かしらの言葉を返してくれると信じていながらも、杞憂で余計な御世話で、的外れな問い掛けにならないだろうかと怖じ気付いてしまった私は、結局聞けず仕舞いのまま何時も通りの日常を過ごし、そして何事も無く終わらせようと思っていました。

 

「“すずか”ちゃん。次は理科の授業だから、そろそろ移動しなきゃだよ?」

「そう、だったね……。ありがとう、“なのは”ちゃん」

「大丈夫? 私以上に、ぼーっとしているみたいだけれど……」

 

 

 

 

 

 そのつもり、だったのです。

 

 

 

 

 

「……あのね、“なのは”ちゃん」

「うん。如何かしたの?」

 

 しかし何時からか、時折感じていた高揚感が最近では無視できない程に強くなっていて、それが“なのは”ちゃんと一緒に居る時が一番強いと分かってからは、自制する事が難しくなりました。どんな恐怖に対しても足が竦んでしまうのに、未知に対しては何処までも歩み寄りたくなる。そんな私の性分が、理性へと囁きます。

 

 怖い事なんて、しない方が良いに決まっている。それよりも好ましい事を優先すべきなんじゃないかな? この選択肢は間違っていない。きっと大丈夫。“なのは”ちゃんなら、許してくれる筈だよ……? だから、手を――――

 

「手を……」

「手を……?」

 

 ――――繋いでも良い?

 

「繋いでも良い……かな?」

「…………良いよ。“すずか”ちゃんなら」

「ありがとう、“なのは”ちゃん」

 

 繋いだ手と手。其処から伝わる『何か』が身体中を駆け巡り、瞬く間に心を多幸感で満たして行きます。嬉しくて嬉しくて嬉しくて、嬉しくも愛おしい。嗚呼、何と革新的な体験なんでしょう? この不思議で素敵な熱は、決して冷める事は無いように思えました。少なくとも、その様な錯覚を(いだ)いてしまえる程には可笑しな気分になれたのです。

 

 ありがとう。

 

 他に何と御礼を言えば良いのか分からないけれど、こんなにも素晴らしい温もりを分けてくれて、本当に本当に嬉しいの……。ありがとう、“なのは”ちゃん。■■■■■。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 優れた魔導資質に恵まれ、それによって助けられた場面は色々と有るのですが……。正直なところ、睡眠中でも怪しい魔力波を感知する事が可能な資質なんて、特に欲しいとは思ってもいませんでした。恐らく、ジュエルシードの件で過敏になっているだけだと信じたいのですが、感知してしまったからには見過ごす訳には行かず、起床を選択。強引に意識を浮上させて、覚醒します。

 

「うぅ…………。ルーンライター……」

『Good evening.Boss』

「異常報告」

『There is no abnormality』

「そうなんだ……。有り難う」

 

 取り敢えず、ルーンライターでは検知出来ない程の微細な魔力波か、私が勘違いしているだけという事は分かりました。枕元の携帯電話を開いて時間を確認してみますと、時刻は深夜零時を過ぎたばかりで、日付は6月4日。ちなみに平日でもあり、朝になれば学校へ登校しなくてはいけません。

 

「直ぐに、見つかると良いんだけど……」

 

 そう思いつつも、現在地が露見しかねない探索魔法は使わずに、魔力残滓から発生源を特定する探知魔法とでも言うべき魔法で地道に調べて行きます。

 

 ちなみにこれは余談なのですが、どうも私が使っているミッドチルダ式の魔法は、何かを探す魔法に対して【Divine buster】のような魔法発動に関するコマンドトリガーは特に設けてはおらず、ざっくりと探索魔法や探知魔法といった名称で呼び分けているだけで、唯一の例外は目の代わりとなる小型端末(サーチャー)を魔力から生成し、遠隔操作による視認探索を可能とする【Area search】という魔法ぐらいでしょうか? 他は寡聞にして存じません。

 

 まぁ、兎にも角にも……。長い夜になりそうだなと諦め半分、並列思考の暖機運転が終わった事を確認した後は意識を切り替え、探知魔法の行使に没頭するのでした。

 

………

……

 

 そして案の定、秘匿性を重視した探知魔法では魔力波を発した対象を見付ける事が出来ず、そのまま夜明けを迎えたので眠気と戦いながらも登校を果たし、今は“すずか”ちゃんと手を繋いだ状態で理科室へ向かっている所だったりします。

 

 はて、如何して『こう』為ったのやら……?

 

 会話内容は、ちゃんと覚えています。返事をした後、“すずか”ちゃんの不安そうな表情が明るい物へと変わった事も全て記憶しているにも(かかわ)らず、何故あの様な事を願ったのか見当も付かないのです。平生(へいぜい)の“すずか”ちゃんは引っ込み思案な性格で、その上かなりの恥ずかしがり屋さんでもある為、多少なりとも衆目を集めてしまう様なスキンシップは控えめな子。――――そう思っていました。

 

 尤も、女子で仲の良い友達同士なら手を繋いでいる子達は結構居ますし、それらに感化されたとしても何ら不思議では有りませんが……。ともあれ、気分転換にはなりました。

 

 不審な魔力波について相談しようにも、お兄ちゃん達は魔力源の探索に関しては門外漢で、ユーノ君は居ませんし、フェイトちゃんは言わずもがな。クロノさん達は、不定期的に次元世界間の巡回がてら私とフェイトちゃんの文通やビデオメッセージの橋渡しをしてくれるのですが、実は数週間程前に地球を去ったばかりで、次の来航は7月末の予定との事。

 

 つまるところ、魔法に関して頼れるのは己のみと気を張っていた折に現状のイベントが発生し、それによって緊張を好い具合に弛緩させてくれたのが“すずか”ちゃんという訳でして、未だに行動理由は不明ですが感謝の気持ちに(かげ)りはありません。

 

 地に足が着いて。目が覚めて。然れども画期的な打開策は未だに思い付きませんが、一先ず出来る事はやってみよう等と前向きに覚悟を完了した私は、軽い足取りで“すずか”ちゃんをエスコートしたまま理科室へとINしました。……ええ、はい。そうなのです。迂闊にも入ってしまったのです。

 

 ちなみに今は一緒に居ないアリサちゃんですが、交友関係が広い事もあって別の友達と共に理科室へと先行しており、やけに到着が遅い私と“すずか”ちゃんを今か今かと待ち侘びている最中、其処へ私達が仲睦まじく手を繋いで入場したものですから、色々な閾値(いきち)が限界を越えたのかもしれません。

 

 

 

 暴君が君臨しました。

 

 

 

 しかも性質が悪い事に、表面上では何でも無いように装いながらも、言動の端々に不満気な心情を(にじ)ませるものですから非常に厄介で、授業中も休み時間も御機嫌斜めの状態は継続し、改善する兆しが無いまま下校時間を迎えたので気にはなりつつも帰宅を選択。

 

 その後、携帯電話のメール機能を使って何通か遣り取りをして分かった事は、実際のところ怒ってはいないらしく、察せないなら知らなくて良いとの回答を得た私の脳裏には『女心と秋の空』という(ことわざ)が脳裏を飛び交っていました。や、私も女の子ですけれども……。分からない物は分からないのです。

 

 尚それから、メールでの会話が流れに流れ、特に決めていなかった週末の予定がバニングス邸でのお泊り会(一泊二日)と相成りましたので、お母さんが仕事から帰って来たら、向こうへ持って行く菓子折りについて相談と御願いをしたいと思います。

 

 



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第31話:独りぼっちの牙城なの

人物紹介
【高町 なのは】:ver.1.31
ツインテールが無くなって約二ヶ月。左手の包帯は既に解かれているものの、傷痕は尚痛々しい。更に、元から積極的では無かった他者との交友関係が完全に途絶えており、アリサや“すずか”を除く同級生からは空気の様な扱いをされているが、本人は全く意に介していない。最近、気掛かりな事が増えてしまった。




Side:なのは

 

「それじゃ、行って来まーす」

「おー、気ぃ付けてな~」

「行ってらっしゃい、“なのは”ちゃん」

 

 週末。空は生憎(あいにく)の曇り空で、小雨がぽつぽつと降っていましたが予定に変わりは無く、今日からアリサちゃんの家で一泊二日の御泊りです。お母さんは何時ものように仕事で居らず、お兄ちゃんとお姉ちゃんは離れ家の道場で切り合っている頃でしょうから、リビングに居たレンちゃんと晶ちゃんにのみ声を掛けて出発します。

 

 嗚呼ちなみに、月曜日の午前零時に感じた不審な魔力波について、この5日間で調べられるだけ調べ尽くしてみましたが残念ながら空振りとなってしまいました。恐らく、あの日に感じた物は勘違いで、きっと寝惚けていたのでしょう。(ある)いは、自身で貯蓄している余剰魔力が何らかの要因で乱れ、それを誤認した可能性が有るのかもしれません。

 

 故に私は、余剰魔力の有効的な無駄使いとバス代の節約を兼ねた転移魔法により、アリサちゃんの家へと向かう事にしました。

 

 周囲を確認してから結界を敷き、ルーンライターに記録されている転移魔法を複写展開しつつ座標設定と魔力充填を行い、そして最後にコマンドトリガーとして「転移」と呟けば、それから先は為されるが儘です。粒子変換後に転移先で再構成か、若しくは座標置換か。その辺の仕様はよく分かりませんが、魔法の利便性がよく分かる魔法だと思います。

 

 さて……。そうこう考えている内に転移が完了したので、容姿の乱れと荷物の無事を確かめつつ、周辺に誰も居ない事を把握した後に結界を解き、事前に調べた経路を思い浮かべつつ道を歩くこと約3分。(ようや)く、アリサちゃん家の正門前に到着です。

 

 ええ、はい。実のところ、転移魔法で直行した方が早いという事は分かっています。

 

 しかしながら、アリサちゃんの家は“すずか”ちゃんの家にも劣らぬ豪邸でして、当然の如く防犯カメラが四方八方に備わっており、結界から出る瞬間を録画されない様にする為には、人気の無い場所へと転移して其処から歩くのが無難だと考えた結果、この様な方法になりました。少しだけ遠回りですが、結果としてはバスを利用するよりも1時間程の時短にはなっていますし、些末事に気を遣るのは野暮という物でしょう。

 

 それよりも、これから先はアリサちゃんと他愛の無い話をして笑ったり、一緒にゲームをして遊んだり、一時的とはいえ寝食を共にするのです。きっと楽しい筈だ。それだけの筈だ。他の感情が介在する余地なんて、これっぽっちも無い筈だ。

 

 

 

 この時の私は、そんな期待を無邪気にしていたのでした。

 

 

 

~~

Side:アリサ

 

 “なのは”と“すずか”は、私の大切な親友である。現在は、そう断言する事が出来る間柄ではあるものの最初はぎこちなかったし、むしろ不仲になる可能性の方が高かった。

 

 アレは、そう……。私が小学1年生になり、段々と慣れてきた頃の出来事だ。朝食の際に、パパから「実は、アリサと同じ学年に月村家のお子さんが居ると小耳に挟んでね。これも何かの縁だし、挨拶くらいはしておきなさい」と勧められた私は登校するや否や、まず下調べから始めた。

 

 不慣れな新入生が迷わぬ様に、各教室の出入口に掲示されている座席表から“つきむら すずか”の名前を探し当て、更に同姓が居ない事を確認しつつクラスと席の位置を記憶する。その後は、授業を受けながら挨拶の内容や仕方を熟慮し、実際の行動に移したのは昼休みになってからであった。

 

 今にして思えば、その合間で冷静になるべきだったのだろう。

 

 パパが言わんとしていた事は、「顔見知りくらいには為っておきなさい」という程度の意味合いだった筈なのに、何故か私はそれを深読みして「見極めて来なさい」と解釈し、行動へと移していたのだから、当然の如く歪みが生じた。

 

 私は“アリサ・バニングス”で、相手は“月村すずか”。どちらの両親も、其の姓を冠した大企業の重役を務めており、活躍している分野が多少なりとも被っていた事から、私は“すずか”に【商売敵の娘】というレッテルを張り、向こうの子がどんな人物なのか? 格下に見られたりはしないか? 私の敵に成り得るか? そんな事ばかりを思い描いては期待していたからこそ、裏切られた時の失望感は凄まじかった。

 

 ()(てい)に言ってしまうと、かつての“すずか”は人見知りが激しく、今よりも遥かに臆病な性格だった事もあり、私の堂々とした……いや、もしかしたら威圧的とも思える挨拶に戸惑ったのか、小さな声で何事かを言った後に目を逸らし、やがて顔すらも俯かせてしまったのだ。

 

 人と話す時は、目を見て話す。

 

 それが礼儀であると教えられていた私にとって、目を逸らすような行為は大変理解し難く、初めの内は失礼だと指摘して遺憾の意を示すも、“すずか”は委縮するばかり。それに痺れを切らした私は、こうすれば嫌でも視線は上がる筈だと彼女が身に着けていた白いヘアバンドを奪い取る暴挙へ出てしまい、その後はもう散々だった。

 

 たまたま“すずか”と同じクラスで、騒動の仲裁をすべく声を掛けて来た“なのは”の行為に対して私は苛立ち、衝動的に平手打ちを浴びせてしまったのだが、御返しとばかりに此方の頬へ裏拳を叩き込まれ、視界が暗転。気絶から目を覚ました時には、保健室のベッドに寝かされていた。

 

………

……

 

 こうして、私達は最悪な出会い方をしたけれども、互いの非を認めて謝罪を交わし、気拙さも有って距離を置こうとする私を“なのは”が引き留め、“すずか”との仲立ちをしてくれたからこそ今の関係へと繋がっているのだ。

 

 其の恩を思えば、対戦中の格闘ゲームで完膚無きまでフルボッコにされた程度で、そう易々とキレる訳には…………。いや、やっぱりキレよう。幾ら何でも、コマンド入力とタイミングが難しい特殊カウンターからの壁嵌め+打ち上げ空中コンボ+超必殺技=推定15割のオーバーキルとか、そんな酷なことは無いでしょうに。

 

「ああ、もうっ! 少しくらい手加減しなさいよねっ!?」

「えー……。最初から初心者狩りした人が、それを言っちゃうの?」

「そりゃ、惨敗したら言いたくもなるわよ。全く、何でこんなに強いのかしら……」

 

 2週間前に発売されたばかりのゲームで、私は予約購入してから合計8時間程プレイしていたのに対し、“なのは”は今日が初プレイ。しかも、まだ30分程しか遊んでいないのにこの上達っぷりなのだから、ちょっとぐらい愚痴を零すのは許して欲しい。まぁ元々、反射神経や動体視力が重要なシューティングゲームや格闘ゲームが得意な事は知ってたし、やがて私が負け始める事も少なからず予期していた。

 

 ただ、これ程までボロ負けするとは想定外の事態で、このまま続けても一方的に狩られるだけだと察した私は対戦モードを中断し、“なのは”にストーリーモードを最高難易度でプレイさせ、それを私が観賞するというストレスフリーな遊びへ切り替えてみたところ、“なのは”は危な気無く最終ステージまで到達したばかりか、初見である筈のボスを相手に三本先取で三連勝し、見事エンドロールを迎えてしまった。

 

 (けしか)けた私ですら、最高難易度でのプレイは途中で投げ出した程の苦行だったのに、まさか一発でクリアするとは……。

 

 ともあれ、これ程の差が有ると勝負にすら成らないので、今後は協力プレイが出来るゲームや運要素の強いパーティーゲームを取り揃えようと決意しつつ、ふと気になって時計を確認すると、何時の間にか8時を過ぎていた。つまり、私の勘違いでなければ現在は夜の8時過ぎで、そろそろ御風呂に入ったり寝る準備をする時間帯だ。

 

 しかし正直、物足りなさを感じてしまう。

 

 もっと色々やりたかったのに、梅雨時の晴れ間なんて滅多に訪れる筈も無く、結局ゲーム三昧の一日となってしまった。他にやった事と言えば、室内飼いをしている家の犬達を“なのは”と共にモフったり、昼食や夕食を一緒にしたぐらいで、未だに元気が有り余っている。

 

 まぁ、これはこれで楽しかったし、私の我情で“なのは”を振り回すのも気が引ける。だから、今回は此処までにすべきだ。そう判断を下して、されど名残惜しく。やはりと思い、考え直す。そもそも今回の御泊り会で“なのは”だけを招待した事には、私的な意図が絡んでいた。

 

 

 

 “すずか”への意趣返し。大雑把に纏めると其の一言に尽きる。

 

 

 

 今まで私達は、機会や都合や遠慮などの要素によって、私や“すずか”の家に集まりこそすれ宿泊すること無く過ごして来たものの、ざっと二ヶ月程前――――“すずか”の家に“なのは”が泊まった日の翌日。やけに上機嫌な“すずか”から、お互いの時間を共有し合い、一緒に過ごす充実感や喜びを延々と学校で聞かされ、そんなに良いモノなんだと羨ましく思う反面、僅かな妬みを抱いてしまった事が起因になっており、それらが私を現状へと至らせたのである。

 

 さて、そんな内情と幼稚さを秘めつつ“なのは”を招いた時点で、これ以上を躊躇(ためら)うべきだろうか……? それこそ、今更な話でしょうに。(さい)は投げられた。ならば、些事も投げ捨てて楽しまなくては、この鬱屈した思いは晴れそうになかった。

 

「ねぇ、“なのは”。折角だし、一緒に御風呂へ入らない?」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 御風呂に入ってサッパリ気分になったところで、粛々と寝支度に取り掛かります。歯を磨いたり、御手洗いに行ったり、その他にも細々と。

 

 ちなみに、“すずか”ちゃんと同様にアリサちゃんもダブルサイズと思われる大きなベッドを普段使いしているらしく、子供二人で寝ても十分な広さが有るため、私は此方でも一緒に寝る事になりました。……や、否やは有りませんが、少しばかり寝相が気になってしまうのです。仮令(たとえ)、“すずか”ちゃんから「大丈夫だったよ」と太鼓判を押されていても尚。

 

 まぁ、寝相が原因で何方(どちら)かがベッドから落ちたとしても、それはそれで笑い話になりますし、あまり気にしない様にすべきなのでしょう。

 

 

 

 それにしても、今日は楽しい一日でした。

 

 

 

 古今東西のアナログゲームのみならず、初めてのデジタルゲームも幾つかやらせて貰えましたし、並列思考によるフレーム単位の動作解析やら、アリサちゃんが操作するキャラの行動予測をしたり等、色々と遊ぶことが出来ました。勿論、最近有った面白い話や、噂話といった取り留めの無い会話や情報交換も楽しかったのですが、それは平日の学校でも沢山やれるので、あくまでも二の次です。

 

 主目的は、一緒に遊ぶ事。――――そんな風に限られた休日を満喫し、適度に遊び疲れ、心身共に充実したならば、「また学校でね」なんて言って別れるのが今まで通りでした。しかし今回は御泊りで、しかも“すずか”ちゃんと同様にアリサちゃんも夜更かしは得意な方という事もあり、ベッドインしたまま夜会話をする事になりました。

 

 そもそも最初から、そのつもりだったのだと思います。人や犬とのコミュニケーションを生き甲斐としている節さえ有るアリサちゃんが、御風呂から上がった辺りから極端に口数を減らし、就寝する直前なのに神妙な面持ちをしていたのですから、察せない訳がありません。

 

「あのさ、変な御願いをするんだけど……」

「うん。改まって如何したの……?」

 

 おっと、いきなり深刻そうです。

 

「三週間くらい、家でホームステイしない?」

「…………それって、寂しいから?」

 

 こくり。と無言で頷かれ、少しばかり育児怠慢(ネグレクト)の気配が漂うバニングス家の家庭環境に同情しつつも、羨ましいなと思いました。今日聞いた愚痴の中では確か、アリサちゃんの両親はイギリスにある『バニングス建設』の本社の方へ出張中らしく、仕事の関係で帰って来るのは一ヶ月くらい先だとか。

 

 実際にそうだとしても、大凡(おおよそ)の居場所が分かっているなら十分な気もしますし、隣部屋にはアリサちゃんの身辺警護や執事を長年務めている鮫島さんという方が寝泊りしているので、決して放置されている訳でも無いのです。しかし、私がアリサちゃんではない様にアリサちゃんも私ではない為、寂しいと思うのならきっとそうなのでしょう。

 

「でも、週一で御泊りするならともかく、三週間はちょっとね……」

 

 流石に、食事やら個室を三週間も提供し続けて貰うのはアリサちゃんの御両親に悪いですし、それに今度は私のお母さんが寂しがると思うので、長期間の同居生活となれば少しばかり気が引けてしまいます。

 

「ところで、“すずか”ちゃんは呼ばないの?」

「“すずか”は、その……。何時もは頼られる方だし、頼るのは何て言うか……」

「じゃあ、映画観賞会や読書会を主催して、それに招くっていうのは如何かな?」

「ふむ…………。前向きに考えとく」

 

 その後も30分程、途切れ途切れに相談やら愚痴が続いたものの、やはり私の方が睡魔に耐え切れず意識が遠退いて行きました。

 

 一応、やろうと思えば身体操作魔法の応用で意識を覚醒させる事も可能でしたが、無理をする為の魔法は使わないに越した事はありません。それは何故かと考えますと、無理をするのにも限界が有るのです。私はそれを経験し、理解しました。であるからして、本当に無理をしたい時に無理が出来るように、大切に取って置きの――――眠りましょう。寝ます。

 

………

……

 

 そして翌朝。特に何事も無く起床して、身支度を済ませ、鮫島さんが用意してくれた朝食を食べ、忘れ物が無いかを確認し、いざ帰宅しようと気持ちを切り替えた所でアリサちゃんに足止めされるという出来事(イベント)が有りましたが、やんわりと説き伏せてバニングス邸を後にしました。

 

 本音としては、とても嬉しかったです。何故なら魔法少女ではなく、アリサちゃんが知る平凡な少女である“高町なのは”を頼ってくれたのですから、一緒に遊んで、寝食を共にしたぐらいですけど、こんな私でも役に立てたようで何よりだと感じています。しかし変わらずに、遅々として成長せずに留まっていたら、何時かは手を引っ張られることも無く置いて行かれるのでしょう。

 

「それは嫌だなぁ……」

 

 善き親友としての大成を。その為には、もっともっと精進しなくては……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだよね、■■■■?

 

 

 



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第32話:群青色に染まれども【本編】

人物紹介
【月村 すずか】:ver.1.32
アリサと同様に、裕福な家庭で産まれ育った少女。月村忍という10歳も年上な姉の影響や、読書家なのも有って同年代よりも大人びた感性を持つが、内向的な性格が災いして目立つ事を極端に避けていた。しかしある日、革新に足る情動に駆られてからは自発的な行動を心掛け、徐々に変容しようと努力している。



Side:ヴィータ

 

 この日本という国の夏は、暑くて湿気もジメジメしていて、人に成り済ます為の疑似生体機能を起動した場合は熱気が肌に纏わり付き、エアコンやら扇風機という機械が無いと汗が止まらない事を理解した。そして、そんな時に食べる冷たいアイスクリームは格別に美味いという事も知ってしまい、先々週辺りから3日に1つくらいは食べる様になってしまった。

 

 他の将達からは呆れた目で見られているものの、シグナムだって煎餅なら即行で一袋空にするし、シャマルは私よりも頻度は少ないけどケーキ等を食べる時は終始笑顔で、ザフィーラも干し肉(ジャーキー)を味わっている時は尻尾や耳が微妙に動いている。嗜好は違えど、何かしら気に入っている点では同類だと思うんだけどな……。

 

 そんでもって、私達の主――“はやて”の手料理は既製品以上にギガ美味い。

 

 これは皆、同意見である。尤も、私達の感情や五感なんてモノは人らしく設定されているだけで、それが本当に本物の感じ方なのかは分かんねーけど、私達の反応を見て“はやて”が喜んでくれるのなら、紛い物だろうと何ら問題は無かった。主の喜びは私達の喜びで、主の望みは私達が為すべき事。

 

 

 

 

 

 故に、私達の『家族ごっこ』は一月以上も続いていた。

 

 

 

 

 

 別に否やは無いし、両親を亡くした幼い主の願いを無下にする程、私達は戦闘狂ではない。そもそも、戦闘なんて歴代の主へ仕えていた際に幾度と無くやったし、この生活が数ヶ月や数年続いた所で戦闘技術は錆びずに維持される為、気晴らしで模擬戦さえ出来ればそれで十分だ。ただ、まぁ……。初めての平穏らしい平穏を前にして、さて如何したものかと悩みつつはあった。

 

………

……

 

 そんな風に考え始めた7月下旬のある日、“はやて”が珍しい提案をしてきた。これまでは、病院や商店街や市立図書館といった生活や趣味に関する場所だけを訪れていたのに、唐突に「なぁ、皆。今度の日曜、公園に行かへん?」と切り出されたら、賛同するよりも先に疑問が浮かんでしまうのは仕方の無い事だと言えるだろう。

 

「うん? もしかして、ピクニックでもすんのか?」

 

 足が悪くても公園に行くのは自由だし、そう願うのなら可能な範囲で叶えたいとは思う。だが、近隣でなかったりバス停等から遠いと移動が大変なので、ある程度の下調べや計画は必要になってくるため当て推量で訊ねてみたところ、あっさりと否定されてしまった。

 

「ちゃうちゃう。正確には、臨海公園でやっとる大会が目当てなんよ。ほな、これ」

 

 そう言って渡されたチラシを見ると、海鳴臨海公園という場所で昼頃から祭りがあるらしく、その一環として『スポーツチャンバラ』なる競技の大会も開かれるとの事。飛び入り参加が可能で、非殺傷性の柔らかい剣を用いて戦い、3位以内に入れば豪華賞品が貰える等と色々書かれており……。嗚呼、なるほど。

 

「で、どれが欲しいんだよ?」

「んー……。2位のブランド米も欲しいんやけど、やっぱり1位の商品券やね!」

「けどこれって、15歳以上が対象なんだろ? なら……」

「ふむ、私の役目だな」

 

 任せろ。とでも言いたげにシグナムは微笑むが、あれは恐らく苦笑も混じってるな……。容姿の問題で、私が女児の様にしか見えない事についてはもう諦めている。

 

 しかし、この小柄な体型が有ってこそ愛機の【グラーフアイゼン】を最大限に活かせるし、今回の旅路に限っては外見年齢が近い“はやて”とは親しくさせて貰っているのだから悪い事ばかりではない。とはいえ、それは多分ほぼ確実に1つ下くらいの妹に対するような感情だとは思うけれども、(いず)れにせよ守護騎士の中で明らかに特別扱いされているのは私である。

 

 だからこそ、“はやて”から目を掛けられる事が少ないシグナムに機会を譲りたくもあったし、そもそも私の得物は剣ではなく金槌の為、やはり万全を期すならシグナムの方が適していると考えていた折に、自ら申し出てくれたのは非常に有り難かった。

 

「そや。折角やし、勝負服ならぬ勝負浴衣を買いに行こか」

「分かりました。出掛ける準備を致します」

 

 それにしても、スポーツチャンバラね……。危険性を徹底的に排除して切り結ぶとか、児戯以下だろうに。魔法文明が無く、飛び道具の発達によって廃れた近接武器の末路なぞ大体こんなものかもしれんけど、少しだけ憐憫の情を抱いてしまう。ついでに、シグナムの対戦相手にもな。

 

 剣聖と名高い原型から受け継いだ剛剣の術理に、これまでの旅路で得た幾千もの戦闘経験。――――それらの集大成が、今のシグナムを形作っているのだ。魔法を秘匿し、着慣れぬ浴衣姿で、木剣ですらない武器を使おうとも、平和呆けした連中からして見れば正に悪魔のような強さだろう。然れど、シグナムだって“はやて”にドン引きされない程度には手を抜くはずなので、其処は安心して犠牲になって欲しい。

 

 但し、火が着いた場合は知らねーけどな…………。

 

 

~~

Side:恭也

 

 7月下旬。例年通りなら、24時間鍛錬尽くしの山籠もりやら、各地にある武術館や道場巡り等の準備に取り掛かっているところだが、今年に限っては叔母である美沙斗(みさと)さんの伝手で『香港国際警防部隊』の方々と手合わせする事になっている。その為、野宿の準備や宿泊場所の手配が不要となり、香港への出発日まで若干の暇を持て余していた。

 

 だからこそ、なのか。普段は興味の欠片も無い地域の祭りを見物がてら、“なのは”辺りが食べそうな色付き綿飴でも買おうと思い立ち、家を後にする。

 

 会場となっている臨海公園は家からも近く、10分と掛からずに着いてしまうものの敷地が横長で、其処に立ち並ぶ出店から至高の綿飴を見つけ出すには更に20分程掛かりそうな混み具合だったが、通勤ラッシュ時の海鳴駅を思えば苦では無い。そう思いつつ人波に紛れて歩いていると、何故だか違和感を覚えた。祭りの陽気に、剣吞な空気が交ざっているのだ。こうも際立っていると、その発生源が気になってしまう。

 

 

 

 菖蒲(あやめ)色の浴衣に、紅の髪。

 

 

 

 嗚呼もしや、あの女性か……? 不躾にならない程度に観察をしてみると、自然体で在りながら何処から切り込んでも切り返してくれそうな武威を(かす)かに感じる。そして足の運びに、視線の配り方。小さい誰かと歩調を合わせている様だが、目だけは周囲を警戒しており、此方の視線と何度か交差した事から向こうも気付いているのだろう。

 

 だが、これ以上関わるつもりは無かった。悪意を秘めている様には感じないし、仮に何かしらの任務を遂行しているのなら、(いたずら)に注意を引くのは邪魔になる。そう思い、さり気なく進路を変えようとした矢先に、彼女が『スポーツチャンバラ大会受付所』と書かれた看板がある場所で参加申請しているのを見て、少しだけ欲が出てしまった。

 

(仮に“誘い”であれ、元から参加する予定であれ、これは好機かもしれんな……)

 

 妹の美由希を鍛え上げ、自らも完成された御神(みかみ)の剣士へ至るべく努力を重ねてはいるが、元が暗殺剣なのもあって気軽に切り合える相手は数少ない。親友の赤星(あかほし)は剣道家として多忙になってからは疎遠気味だし、美沙斗さんは香港在住なので機会が乏しく、美由希との戦闘は互いに手の内が知れている事から、最近ではカウンター合戦の様相を呈していた。

 

 詰まるところ、此処最近の自分は他の好敵手を欲しており、更なる成長と進化を求めているのだった。そういう意味では、“なのは”を通じて魔法という未知に出会えたのは良い経験となったものの、やはり剣と剣を交えたい気持ちに揺るぎは無い。

 

 (もっと)も、スポーツチャンバラで使う武器とも呼べぬ玩具は、刀身に当たる部分が空気を入れて膨らませる作りなので(しな)る上に柔らかく、重量も軽いので真剣みたいな打ち合いは無理だが、それでも構わなかった。実力の一端でも垣間見えれば十分だし、此方も示せば真っ当な武器での再戦を願える可能性もある。

 

 果たして、鬼が出るか蛇が出るか……。実に楽しみだ。

 

 

~~

Side:シャマル

 

 潮騒(しおさい)と歓声を掻き消すように、風切り音と打撃音が絶えず鳴り響く。シグナムは長剣型の模造剣を鞭の如く振るい、見知らぬ男性は短剣型を二本用いる珍しい双剣使いでしたが、間合いによる不利を感じさせない立ち回りを魅せており、どちらも攻め(あぐ)ねている様子が窺えます。

 

 初めの内は、激化していく戦闘に“はやて”ちゃんが怖がるのではと懸念したけれども、ろ興味深そうに見守っているのを見て、直ぐに杞憂であったと安堵しました。

 

 こんな平和な国の生活圏付近に、あの様な下手人とも成り得る手練れが居たとは意外ではあるものの、根は善人寄りなのでしょう。楽しそうに剣を交わし、周囲に仲間らしき人物が存在しない事から察するに、この邂逅と切り合いは偶然の産物――――だとしたら、今回の旅路は少しばかり末恐ろしいですね……。

 

 仮に、もし次が有るならば、其れは最悪で想定外の“何か”かもしれないと考え出したらキリが無いとは分かっていても、こういった巡り合わせを軽視すれば何事かの前兆さえも見落とすに違いない。そんな漠然とした不安が、如何しても拭えません。

 

「はぇ~……。あれも青春やね、シャマル」

 

 しかし、予期せぬ事を予測するなんて事は希少技能(レアスキル)を以てしても困難に等しく、それよりも有意義な思考の使い方をすべきでは? ええ、全く以てその通りですね。一先ず、警鐘を打ち鳴らす並列思考群を隔離し、努めて無難そうな返事を抽出しましょうか。

 

………

……

 

「青春なのかは分かりかねますが、遊んでいるのは確かかと」

「うん? かなり激しく打ち合っとるのに、まだ全力やないの?」

「はい。本気のシグナムなら、既に切り捨てていますよ」

 

 デバイスや魔法が有りで、徒手格闘も交えるのなら、シグナムが圧倒的に勝つのは疑うまでもない確定事項である。されどルールを順守し、魔法生命体としての性能のみで挑む場合、よく鍛えられた成人女性程度の筋力しかないシグナムでは、凄腕の男性剣士が相手だと如何しても手古摺ってしまいます。

 

 只それ以前に、昨今では中距離主体のミッドチルダ式魔法が主流となり、近距離主体のベルカ式が衰退している最中(さなか)、凄腕の男性剣士と戦う機会など無きに等しく、非魔導師とはいえ貴重な相手に巡り会えたシグナムの心境を思えば、あんな風に戯れたくなるのも何となく分かる様な気がして……。なので私は、静観する事を選んだのでした。

 

 

 

 まぁ、要するに黙認です。

 

 

 

 因みにヴィータちゃんとザフィーラは、試合が長引くのを感じ取ったのか興味が失せたらしく、今は“はやて”ちゃんの身辺警護を全うすべく周囲を警戒しています。(もっと)も、この国の治安であったり、管理局の管轄外である事を考慮すると私だけでも十分ですが、無意味に散開したり時間を浪費する理由は有りませんからね。

 

 それ故に、本物の家族らしく無いんでしょうけれど……。こればかりは私達の人間らしさを追求せねば改善しないので、そこは気長に学習と調整をして行けばそれっぽくなるとは思います。

 

「ええなー。うちも足が良うなったら、あんな風に動けるんやろか?」

「きっと叶いますよ。“はやて”ちゃんが望むなら、遠からず叶えてみせます」

「…………いや、それって【闇の書】が完成せなやれへん裏技の事やろーけど、その為に他人様に迷惑なんて掛けとう無いんよ。そもそも、そーゆーのは自力でやってこそだとシャマルは思わへんの?」

「結果が同じであれば、過程は短い方が宜しいのでは?」

「ほーん……。だからシャマルの家事スキルは、あーなんやね……」

 

 何かを悟った様子で言い淀み、再び観戦へと集中する“はやて”ちゃんでしたが、あまりこの話を続けたくないのか少し不満顔なので、今回は此処までにしておきます。けれども私達が得意とするのは魔法で、難題を手っ取り早く解決させるのも魔法が一番の近道である事は、如何か心に留め置いて下さいね?

 

 私達は文字通り、正しく『人で無し』です。

 

 主の為であるならば、最悪を回避する為であるならば、あらゆる最善を尽くしてみせましょう。仮令(たとえ)、その過程で数多の犠牲と代償が生じようとも、最後に【闇の書】と主さえ居れば何度だって…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………最後?

 

 

 

 

 

 

 

 



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第32.7話:群青色に染まれども【閑話】

人物紹介
【御神 美沙斗】
美由希の実母で、恭也の叔母。とある事件により、当時はまだ赤子だった美由希を兄の士郎に託し、長らく姿を消していた。その為、高町家の家系図は大変ややこしく、高町士郎と高町桃子の血を受け継いでいるのは“高町なのは”のみで、恭也と美由希の間柄は従兄妹同士だったりする。尚、現在は和解済み。

【赤星 勇吾】
恭也の数少ない男の友人。剣道家として生計を立てており、学生時代の頃は恭也や美由希と遊びで打ち合ったりもしていた。しかし最近は疎遠気味で、上位互換に等しいシグナムが現れてしまった為、更なる疎遠が懸念される。



Side:はやて

 

「お帰り、シグナム。少し遅かったよーやけど、何か有ったん?」

「済みません、主“はやて”。実は先程まで、彼の青年と語り合っていました」

「おおっ! それはつまり、あの双剣使いの御兄さんの事やな!?」

 

 結局あの戦いは、素人目では分からない事ばかりでしたが解説役のシャマルによると、千日手だったので御兄さんが態と負けてくれたらしく、最終的にシグナムが1位を取り、2位は運良く上がってきたチャラそうな男性で、3位が例の御兄さんという順でした。

 

「そんで、茶でも誘われたんか?」

「いえ。そんな華やかな物では無く、再戦の約束をした程度です」

「うーん……。それならまぁ、ある意味では健全な付き合いやね…………」

 

 そもそも、乙女回路どころか現代倫理が備わっているかも怪しいシグナムに、恋愛小説的な展開を期待する方が間違いだったよーな……。それ以前に、私の脳内が御花畑なだけである可能性が無きにしも非ずですが、巡回と護衛以外にやりたい事が増えるなら、家長としては快く背中を押してあげたいと思います。

 

 多分、本人達にとっては苦痛じゃないんやろうけど、折角の人型で知性も在るんだから趣味を見つけて遊んだり、楽しんでくれたらなーと密かに願っておりまして、この流れでヴィータやシャマルやザフィーラにも何か影響が有ればと期待してみますが、はてさて……。

 

「健全も何も、彼は男である前に剣士です。ならば、切りたくなるのは当然かと」

「ふむふむ。理屈が謎やけど、納得してるならそれでもええよ」

 

 取り敢えず、再戦の日には御兄さんに渡す菓子折りと、シグナムの弁当を準備せなあかん事は理解しました。あとは、動きやすくて可愛い服を用意するのも追加で。

 

「あー、せや。再戦するのは何時頃なん?」

「翌日の午後1時に合流する予定です。……ところで、何か問題でも?」

 

 

 

 いやいやいや、大問題ですよって。

 

 

 

「あんなぁ、シグナム……。もしや、ジャージ姿で行こうなーんて考えとらん?」

「そのつもりでしたが、変えた方が宜しいのでしょうか?」

「その方がええよ。何てったって、服は鎧やからな」

「服は鎧……。その心は?」

「つまり、他人にダサい恰好を見せたら騎士やなくて、ニート侍としか思われへんよ?」

「…………成程。心に刻みます」

 

 納得して貰ったところで、次は優先順位を付けます。菓子折りは最悪無くても良いから後回し、弁当の献立については多分どーにかなる。となれば、最初にすべき事はトレーニングウェアとインナーの購入やな。幸いな事に、シグナムが勝ち取った商品券も有る事やし、ちと勿体無いけど使ったろ。靴に関しては、有る物で問題無い筈やから……。ま、一先ずはこの方針で行こか?

 

 

~~

Side:美由希

 

「喜べ美由希。手合わせの相手が見つかったぞ」

「えっ……? ああ、えーと……。何か、良い事でも有ったの?」

 

 本日の予定は特に無し。という訳で、リビングのソファーで(くつろ)ぎながら読書をしていたら、脈絡も無しに其の様な言葉が降り掛かって来ました。美しい文学とは真逆である粗野な表現。この場合、「寒暖差で風邪を引きそう」といった形容は適切や否や?

 

 ともあれ、遠慮もせず本の世界から現実へと私を連れ戻した挙句、何故だか闘争心を顕わにしている恭ちゃんは外出先で何をして来たのやら……。そう呆れつつも好意的に許せてしまう辺り、まだ振り切れて無いなーと感じます。もう既に終わってしまった事だから、この未練も捨ててしまえれば楽なんだけどね。まぁ、それはさて置きましょうか。

 

「ひょんな事から素晴らしい剣士と出会ってな、意気投合をして今に至る」

「成程。ところで、その人って女性だったりするのかな?」

「その通りだが、性別なんて二分の一の確率だろう? 特に重要では無いと思うぞ?」

 

 その二分の一で女性の知人ばかりを増やしている人は、何処の誰なんだか……。“なのは”曰く、恭ちゃんは生粋の【フラグメイカー】らしいけれども、この片寄り具合は神掛かっているなと他人事の様に思います。これで件の女性剣士が同年代の綺麗な人なら、恋人である忍さんの心労がマッハになるのは確定です。

 

「ねぇ、恭ちゃん。その人の年齢ってどれ位? あと、手合わせする日は何時なの?」

「恐らく20代前後。手合わせは明日の13時に集まって、山の方でする予定だ」

「……それさ、忍さんにも話しといた方が良いと思うよ?」

「別に、逢引き等では無いんだがな……」

 

 因みに、念の為に容姿や印象も聞き出してみると、「ポニーテールをした美沙斗さんが、普通の大学生をしているイメージに近い」という返答だったので、凛々しくて優しい雰囲気が有る美人さんなんだろうなーと察しました。うん、思いっきりアウトだよ恭ちゃん。

 

「まぁ、何だ……。一応、忍には話しておく」

 

 そして翌日。案の定と言いますか、忍さんと従者のノエルさんが見守る最中、想像以上に美人剣士であるシグナムさんに対して、私と恭ちゃんで交代しつつ竹刀で打ち合う事になったのでした。どっとはらい。

 

 



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第33話:露草色に染まるる夏なの【前編】

人物紹介
【シグナム】:ver.1.33
 八神家の長女。日常的に“はやて”の介助をしたり家事を手伝ったりしているものの、やはり剣を振っている方が性に合っているらしく、暇さえ有れば愛機の『レヴァンティン』と共に自主鍛錬をしている。直感的な即決即断が多く、それが参謀役を悩ませる事もしばしば有るとか。



Side:なのは

 

 私の親愛なる友、フェイトちゃんへ。……って挨拶は、ちょっと堅苦しいかな? と言う訳で、撮り直しがてら編集機能をちょちょいっと。

 

 

[TAKE2]

 

 

 久し振りだね、フェイトちゃん。前回のビデオレターで言ってた、「楽しかった事を教えて欲しい」という要望に御応えする為に、今回も色々と張り切っちゃいました。

 

 因みに見ての通りですが、クロノ君がミッドチルダ製の機材を借してくれた御蔭で、今回から画質やら音質が跳ね上がったりしています。そっちでは当たり前かもしれないけれど、30分程度の映像データが500ギガバイト超えとか、それなら激変も止む無しかなーと……。尚此方の世界では、漸く1ギガバイトの小型記憶媒体が販売された程度ですから、後はまぁ察して頂けると有り難いです。

 

 

[さて。]

 

 

 早速、楽しかった事の映像を流しているものの、これだけじゃ何が何だかよく分からないだろうから説明するね? 一緒に映っている大人の女性が私の御母さんで、青髪の子が晶ちゃん、そして緑髪の子がレンちゃんで、この時は4人で御菓子作りをしていました。パウンドケーキに始まり、シュークリームやショートケーキも作って腕が疲れちゃったけれども、それが美味しさへと繋がるので妥協する事は出来ません。

 

 ところでパウンドケーキの“パウンド”って、4つの材料を1ポンド、つまり1パウンドずつ使って作るからパウンドケーキと名付けられたそうだけど、日本で主に使われている質量単位のキログラムに換算した場合、1ポンドは約0.453キログラムとなるのですが……。うん、すっごく微妙でしょ? だからこそ、ヤード・ポンド法は滅びて欲しいなーと思いました。

 

 

[ 閑 言舌 イ木 是頁 ]

 

 

 時に、何で本格的な御菓子作りをする事になったのかと言うと、御姉ちゃんからの電話が切っ掛けになりまして――――

 

……

………

 

「はい、もしもし?」

「昨日振りだね、“なのは”。ちょっと、時間有る?」

「うん。大丈夫だよ?」

「多分、そっちに忘れ物が有ると思うんだけど――――」

 

 要するに、御姉ちゃんが美沙斗さんに見せようと思っていた写真を自室に忘れたらしく、それを国際郵便で香港まで送って欲しいという内容でした。

 

 通常の手段なら時間も運送料も掛かってしまいますが、魔法少女である私が代行すれば今直ぐにでも持って行けますし、消費魔力は余剰分を使うだけなので負担は少なく、御財布と環境にも優しい。であるならば、活用しない手は有りません。勿論、魔法は最大限に秘匿するつもりですけど。

 

 そんな感じの事を御母さんに力説して、ついでにフィアッセ御姉ちゃんが居るイギリスにも行ってみたいと御願いしてみた結果、御土産用の御菓子作りを手伝う&なるべく御兄ちゃん達と一緒に行動するという約束をした上で、あっさり許可を貰えました。

 

 御母さん曰く、「可愛い娘には旅をさせよ。って言うじゃない?」等と、とてもフワフワした理由で承認したらしいのですが、御菓子作りに関してはガチガチの講師っぷりを発揮し、レシピによる予習から器具や材料の準備のみならず、生地の掻き混ぜ方や温度管理等、様々な事を教わりながら楽しくも難しい御菓子作りは佳境を乗り越え、今は使用した調理器具を洗っている最中です。

 

 

 

 事、此処に至るまで約22時間。

 

 

 

 要するに、昨日の昼以降からは御菓子作りの予習と準備、それから一夜明けてぶっつけ本番という流れは大変だったものの、料理初心者としては頑張った方だと思います。尤も、御母さんと晶ちゃんとレンちゃんの助けが有ってこその成功と完成度ですから、慢心や満足するつもりは有りません。

 

「それじゃ、次は昼食用にサンドウィッチでも作りましょうか♪」

「あっ、桃子さん。俺が材料を出して来ます」

 

 それにしても……、彼此3時間近く御菓子作りをしつつ小休憩を挟んだりもしましたが、如何して御母さんと晶ちゃんが未だに元気なのかが不思議です。元から体力の無いレンちゃんが慢性的な疲労状態へと陥っており、私も魔法で身体強化をしていなければとっくの昔に戦線離脱をしている頃合いなので、大人や体力お化けさんでは色々と違うんでしょうね、きっと。

 

「レンちゃん、大丈夫?」

「そやなー……。多分、昼寝したら何とかなるやろ」

 

 うん。これは経験上、何とかならない気がします。

 

「なら、レンちゃんは引き続き休憩で」

「あっはい。……ちゅー訳やから御猿、うちの分も頼むわ」

「は? なら、片付けは亀が全部やれよ?」

「あん? 空手とかで不在気味な御猿の分、うちが色々やっとるんやけど?」

「それを持ち出すなら、帰宅部の亀が悪いだろ。だから、なよっちいんだよ」

「へー。でもそんなのに連戦連敗しとる御猿って、なかなか惨めやね?」

「良し、表に出ろ。今度こそ勝ってやる」

「まーた直ぐ喧嘩しようとする……。《リングバインド》」

 

………

……

 

 そうそう。余談なんだけど、最近では喧嘩の仲裁用で使った拘束魔法の回数が、3桁目前になってしまいました。その甲斐有って拘束魔法の練度がメキメキと上がったけれども、もう少し仲良くして欲しいなーと妹分としては思うのですよ。それでえーと……。昼食を作って食べた後は、荷物をルーンライターへ量子格納しちゃって、御兄ちゃんに連絡してから香港という外国の都市へ転移魔法で移動を開始。

 

 一応、緯度と経度で適当な座標を決めて、高度は3万3千フィート。つまり、上空約1万メートル付近にしてみました。これには人目が付かないという利点の他に、無意味な自由落下を楽しめるといった私欲が多分に含まれております。フェイトちゃんは、そういう変わった楽しみ方をした事は有る? もし有るのなら、こそっと教えて欲しいです。

 

 

~~

Side:恭也

 

 一般人が出来ない事を出来る様になると、問題にならない範疇(はんちゅう)で使いたくなる。その気持ちはまぁ、分からなくも無い。例えば自分の場合、周囲の気配を探って不審者が居ないか確認したり、忍に声を掛けようとする不埒者へ殺気をぶつけて退かしたり、爪楊枝や竹串を投げてGを処理した事も何度か。

 

 ならば、魔法という超常の力を手にしたマイシスターが空から降って来るなんて事は、本人にとっては当たり前に出来て、使い方としては無難な部類なのだろう。

 

「恭ちゃん、空から女の子が!」

「違うぞ美由希。それは“なのは”を受け止めてから言うべき台詞だ」

「あれ、そうだったっけ……?」

 

 美由希の曖昧なネタに訂正を入れつつ、再び空を見上げる。バベルの塔の如く円筒形の結界魔法が部外者を遮断し、俺と美由希と落下中の“なのは”しか存在しない空間とは、何とも魔訶不思議な気分である。此処はビルの屋上で、下の階層には美沙斗さんを始めとした『香港国際警防部隊』の猛者達が居る筈なのに、その気配が全く無いのだ。

 

 完璧な隔離空間。

 

 応用しようと思えば捕獲や奇襲にも使えそうな魔法だが、果たして“なのは”がそういう荒っぽい事をする職業を選ぶか如何かは…………、まだ分からんな。才能に関しては父さん寄りっぽい節は有るし、人は正義という大義名分が有れば己を切り変える事が出来てしまう。だから“なのは”も、望めば成れるとは思っている。

 

 そんな下らぬ事を考えている内に“なのは”がゆっくりと着地を果たし、変身を解除して私服姿へと早変わりする。飛び散る桜色の魔力光。その光が背中の翼に吸収され、やがて翼自体も消えて行く光景は何度見ても美しいと感じてしまう。

 

「こんにちはー、『翠屋デリバリー』です。御注文の品を御届けに参りました~」

「感謝する。それと済まんな、うちの愚妹が迷惑を掛けて」

「うぅ、御免ね“なのは”……。はい、これ御駄賃」

「えっと……。これは、御母さんに渡せば良いの?」

「いや、それは運んでくれた感謝代だ。“なのは”の小遣いにでもすると良い」

 

 実際に、国際郵便でも早くて3日は掛かる写真を24時間以内で持って来てくれたのだ。その価値を金額に換算すれば、一体幾らが適正なのやら……。取り敢えず、細やかながら俺と美由希で出し合って、遠慮されないであろうと判断した2千円を“なのは”に受け取らせておく。

 

 こういった経験を徐々に積ませる事で、荷電粒子砲と見紛う様な砲撃をせずとも社会貢献は可能である事を知って欲しい。――そんな老婆心からの迂遠なアプローチではあるものの、果たして将来的に影響するかは不明だ。

 

「ところで“なのは”、休憩は必要か?」

「うんん。何時でも飛べるよ?」

「成程……。因みに、転移先はくれぐれも地上で頼む」

「合点承知」

 

 その後、2分程の座標確認やら転移先の周辺確認を済ませた“なのは”が転移魔法を発動させ、視界が歪んだかと思えば日差しが暑い香港から、朝の涼しさが残るロンドン近郊の公園へと降り立っていた。通常の場合、香港とロンドンの時差は8時間だが、日差しの有効活用を目的としたサマータイム制度が有るので、実際のところ香港よりは7時間遅い。

 

 何となく御得感はするが、人が眠気を感じない活動時間なんて高が知れている為、あまり長居するのは時差呆けの観点からも宜しくはないし、“なのは”は日本から来たので更に1時間プラスで8時間の時差だ。故に帰宅する時間を考えれば、英国標準時の午後1時ぐらいが限度だろう。

 

「異常無し、だな。美由希と“なのは”は如何だ?」

「上に同じく」

「魔力が減って少し怠いけど、これぐらいなら大丈夫です」

「なら予定通り、観光と洒落込むか」

 

 フィアッセが指定した時間まで、まだ3時間以上の余裕がある。これなら軽食を摂ってから、異国情緒が溢れるロンドンを散策するだけでも良い時間潰しになる筈だ。ただ懸念事項が1つ有って、東京と比べた場合の犯罪発生率が極めて高く、特に観光客に対してのスリや置き引き等の強盗は百倍を優に超えている。願わくば、何も起こらないと良いのだが……。

 

 



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第33.5話:露草色に染まるる夏なの【後編】

人物紹介
【高町 恭也】:ver.1.33_B
高町家の長男。叔母の伝手で参加していた合同訓練の休息日だろうと、“なのは”発案のイギリス日帰りツアーへ同行する程度には家族想いだが、そこそこ頑丈&元弟子(免許皆伝済みの為)である美由希に対しては雑に扱ったり鍛錬目的の不意打ちをしたり等、剣士想いな一面も。

【高町 美由希】:ver.1.33_B
高町家の長女。初めての環境や見知らぬ人達との合同訓練で、心身共に疲弊しているものの久し振りにフィアッセに会えると聞き、日帰りツアーへの参加を決意。尚、密入国と不法滞在をする事については気にしない様にしている。



Side:なのは

 

 初めてのロンドン! と言う事もあって、時間は少ないですがブリティッシュパイを食べたり、観光名所のビッグベンやキングスクロス駅の9と3/4番線で写真を撮ったりしました。その際、何度かひったくりの現場を見掛けたので犯人を不可視のバインドで転倒させたりした事以外は至って順調で、監視カメラが其処彼処に有るのにやる人はやるんだなと社会学習をしつつも一路『CSS』へ。

 

 因みに、『CSS』は『クリステラ・ソング・スクール』の略称で、日本人的には音楽学校かなと連想しがちですが声楽を主体に教える私塾の様な場所らしく、以前はフィアッセ御姉ちゃんの御母さん――ティオレさんが運営していました。

 

 しかし昨年頃に急病で亡くなってしまって、今はフィアッセ御姉ちゃんが後を引き継いでいます。まぁ元々、フィアッセ御姉ちゃんが日本で暮らしていたのは療養目的でしたし、治ったからにはイギリスへ帰国する日も遠からずといった感じでしたから、あの日々は貴重だったなーと思えます。無論、魔法少女となった現在も貴重では在りますが……。

 

「ねぇ、御兄ちゃん。『CSS』って私塾なんだよね?」

「その様には聞いている」

「一面の御花畑の中に、立派な洋館が建ってるんだけど……」

「この程度なら、海外では珍しくも無いぞ」

「そんな物なのかな……?」

「そも私有地面積なら、山林を含めた月村邸の方がまだ広い」

「や、その基準は可笑しいと思います」

 

 気を取り直して敷地へ入り、受付で用件を伝えるとフィアッセ御姉ちゃんの秘書さんが迎えに来て、案内をしてくれました。途中、綺麗な中庭に有る噴水を見たり、何処かの教室から漏れて来る合唱の声に感心したりしていると着いた様で、久々の対面となりました。

 

 見た目は、至って健康そうです。

 

 茶色に近いブロンドのロングヘアーは艶やかですし、雰囲気は御姉さん度が増しているくらいで気になる箇所は有りません。最後に見た時は、焦燥して痛々しい様子だったので少し不安でしたが、何とか立ち直っている様で安心しました。さて、これで唯一の懸念事項は消えましたから、挨拶もそこそこに本題へと移りませう。

 

「それにしても、恭也と美由希と“なのは”も来るなんて、急に如何したの?」

「“なのは”の提案でな。当時、部外者だったフィアッセを関係者にしたいらしい」

 

 そう言って、御兄ちゃんが上手い具合に話の流れを作ってくれたので、まずは信じて貰い易くする為に余剰魔力の塊である四対八枚の翼を顕現させると、フィアッセ御姉ちゃんの珍しい驚き顔を見ることが出来ました。何だか、初めて見せた時の家族の反応とそっくりで、懐かしい様に思えてもまだ3ヶ月少々……。ええ、はい。懐古するには早いですね。もうちょっと漬けておきます。

 

「まさか……、『高機能性遺伝子障害(HGS)』?」

「一応、分類的には魔法だそうです」

 

 もしかしたら根源では繋がっているのかもしれませんが、その解明はやる気と倫理観に満ち溢れた研究者へ任せるとして、フィアッセ御姉ちゃんに色々有った出来事を掻い摘んで話しました。魔法と出会い、カードではなく石をキャプターしつつ戦って戦って決闘したり、その末に事件を収束させ、新たな友情も紡いだりしてエトセトラ。いやはや、次元断層すら容易に生み出す特級危険物の回収や、寝不足状態での命の遣り取りは金輪際したくないものですよ……。

 

 

 

 でも恐らく、この手が届くのなら私は解決を試みるのでしょう。

 

 

 

 だって、曲がりなりにも出来てしまったのです。だからこそ、問題が起きれば見て見ぬ振りをする事なんて出来ませんし、やらない事で後悔するのは忌避感すら覚えます。より良い未来を。憂い無き明日を。楽しくも平和な日常を。

 

 只それだけを願って止まないものの、此処最近の私は【トラブルバスター】とでも言うのでしょうか? 御兄ちゃんの【フラグメイカー】染みた様々な良縁&善果を引き寄せる体質みたいな何かが励起してて、良縁の他に凄まじい厄介事も憑いて来ている気がするんですよねー……。帰国後、祓い落とせるか那美さんに聞いてみようと思います。

 

 

~~

Side:フィアッセ

 

 “なのは”の話が一段落し、何も無い空間から取り出された『翠屋』のスイーツセットに再度感嘆しつつ受け取ったり、それぞれ近況を語り終えると一瞬の間が生じる。その隙に、折角来たのだからと施設見学を勧めてみたところ“なのは”は戸惑いながらも頷き、美由希と秘書のイリアと一緒に校長室を後にした。

 

 恭也は、女性ばかりの施設を職員同伴とはいえ歩き回るのを遠慮して残ってくれたけれども、別室に控えていたイリア以外は気を遣ってくれたのだろう。高町家の面々は機微に(さと)くても、表情を繕うのは苦手である。そして私もそういう性質(たち)なので、率直に尋ねる方法を選んだのだった。

 

「……恭也」

「うん?」

「“なのは”、かなり無茶したんじゃないかな……?」

 

 父親である士郎さんの――不破の血筋を受け継いでいるとはいえ、“なのは”は桃子さんに似て優しい子だ。喧嘩ばかりしているレンや晶や、暗殺剣を鍛錬や実戦で昇華させている恭也や美由希とも違う守られる側の子。それが、私の知っている“なのは”だ。

 

 けれども、潜在的な資質を開花させて大活躍?

 

 そんなに上手く行く筈が無い。まだ9歳なのに、願いを歪に叶えるという高エネルギー結晶体を制圧しながら回収し、同年代の子と交戦や決闘をして最終的には友達になった等、あまりにも無茶苦茶である。きっと何処かで怪我をしたり、慣れぬ事で苦労した筈なのに、先程の話ではそんな事など(つい)ぞ出なかった。その不自然さが、推測を半ば確信させるに至っている。

 

「俺と美由希も手伝いはしたが……。理由は如何であれ、“なのは”の負担が重くなったのは事実だし、大怪我もさせてしまった。左手の傷には気付いたか? あれは掌から甲にかけて槍状の武器で貫かれ、更に火傷も負ってな。今は大分癒えたとはいえ、あの痛みも運命も、何一つ代わってやれない己の身を恨むばかりだ」

「それは…………。恭也は、悪くないよ……」

「だとしてもだ。反省して、精進すべき余地は多々有る」

 

 そうかな……? 私がHGSで使える《思念操作(サイコキネシス)》や《取り寄せ(アポート)》とは違って大幅に応用が利きそうな魔法に対し、身体能力だけで何とか出来るとは思えないのだけれど……。

 

「あまり、無茶はしないでね?」

「嗚呼。分かっている」

「心配だから、指切りもしよっか」

「子供か俺は? 案ずるな。其処まで馬鹿じゃない」

 

 過去に無茶して、二度も膝を壊した人がそれを言ってもね……。如何か、世の中が平穏無事で在りますように。皆が傷付かず、笑顔で居れますように。そんな事を祈るばかりです。

 

 

~~

Side:なのは

 

 残念な事に時間は有限でして、英国標準時の午後1時は日本だと午後9時に相当し、御兄ちゃん達を香港に送ってから日本へ帰り、シャワーを浴びればもう就寝時間に成ってしまいます。今回は、ほとんど私の話だけで終わりましたが、気軽に往復可能なので別に構わない……筈ですよね? 多分きっと。

 

「今日は有り難う、“なのは”。久し振りに皆と会えて、嬉しかったよ」

「此方こそ、嬉しかったです」

「んー……。以前みたく、もっと砕けても良いのに……」

「それについては……。こう、成長したという事で」

 

 私の精神年齢もそうですが、昔よりもフィアッセ御姉ちゃんの御姉さん指数が増しているので、気軽に「あのね、フィアッセ~」とか幼女っぽく言うのは躊躇(ためら)ってしまいます。

 

「あーあ。向こうに帰ったら夜なんだよねー……」

「それが時差というものだ。(ついで)に、明日からは訓練も控えているぞ?」

「うぅ……。名残惜しや……」

「えっと……。それじゃ、またねフィアッセ御姉ちゃん」

「息災でな」

「ばいばい、フィアッセ」

「うん。またね、皆」

 

 その遣り取りを最後に香港へと転移し、短いイギリス旅行が終わりを告げました。後日、この時期ならオーストラリアや軽井沢で滞在した際に撮った写真をアリサちゃんと“すずか”ちゃんから見せられ、「楽しめたのなら良かったね」的な感想を返すのが恒例だったものの、今回は意図せず参加する事が出来ました。

 

 海外だと違法渡航せざるを得ないのが難点ですけれども、夏休みの話題作りをする分には国内旅行も有りかもしれません。等と楽しく考えていたのも束の間、その考えを改める事件が起こったのでした。あれはそう……、帰国してから2日後の出来事だったと思います。あの一件以来、海鳴市からの遠出は()()く控えようと心に刻みましたね。

 

 

 

 嗚呼、何とも(まま)なりませぬ。

 

 

 



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第34話:あざみし風に憂いを乗せて

人物紹介
【フィアッセ・クリステラ】:ver.1.34
高町家の名誉長女。一時期、海鳴市で療養しつつ『翠屋』で働いていたが、現在は亡き母ティオレの遺志を継いで『CSS』を運営している。漸く仕事も社交も慣れて来たかな?という時期に可愛い妹分による電撃訪問を受け、新たな悩みの種を抱いてしまった。姉なる者の道は険しい……かもしれない。



Side:クロノ

 

 フェイトの裁判や処遇に関する手続きが粗方終わり、後は細々とした申請を行うのみ。全く、随分と時間を(つい)やしてしまったな……。通常の事件なら一月も掛からず処理されるのに、稀に見る重大事件だった事や、フェイトが事件中にやらかした行為によって無罪判決が遠退きそうになるとは、少しばかり肝が冷えた。

 

 取り分け、『違法薬物による身体強化』と『非殺傷設定を解除しての決闘』については問題視されたが、倫理観と道徳心を養う機会の欠如により仕方が無かったという論調で弁護しながらも、嘱託魔導師として一定期間の無償奉仕、行動記録の提供及び監督者との共同生活、更に将来の就職先を管理局関連組織とする減刑策を講じつつ、あまりしたくは無かったが暫定魔導師ランクS+の“なのは”と懇意である=共に入局する可能性を(ほの)めかす事で如何にか無罪を勝ち取り、今に至る。

 

 一応、“なのは”に関する情報開示は本人から事前の了承を得ているし、この展開を見越した上で嘱託魔導師の登録も済ませていた。つまり何ら問題は無いものの、こうした情報はそれなりの立場の人間ならば閲覧可能な為、要らぬ駆け引きを誘発させる恐れが有った。

 

 

 

 Sランク越えの魔導師は、非常に貴重だ。

 

 

 

 昔ならば英雄として、()しくは王として君臨する程の逸材だが、広大な次元世界の秩序と安寧を守る時空管理局にとっては何人居ても足りないぐらいに世界は脅威で満ちている。フェイト自身も、将来有望な魔導師でSランク越えは手堅いだろうけれども、現時点でS+に到達している“なのは”は歴代最強の魔導師へと至るかもしれない。

 

 そうでなくとも、オーバーSランクである。模範的な時空管理局職員ならば、囲い込んだり接点を持ちたいと考えるのが道理だろう。と言うか実際に、リンディ提督もとい母さんが非常に乗り気だし、其れも有って“なのは”とフェイトの文通やビデオレターの頻繁な遣り取りを手助けしたり、ミッドチルダ製の映像機器及び編集機材一式を貸し出す等、現在進行形で恩を売りまくっている。

 

 これを何時もの様に狡猾だと思えたら、どれ程良かった事か……。真相としては、保護観察中のフェイトを(いた)く気に入ったらしい母さんの愛情が暴走しており、その片鱗が“なのは”にも降り掛かっているだけで囲い込みは二の次だ。

 

 女性代表のエイミィ曰く、フェイトの様な無垢に等しい可愛い子を預かったら「守護(まも)らねば!!」と母性本能が活性化するのは当然の事だと力説しており、紆余曲折を経て可愛げなく育った息子としては少々罪悪感を抱くも、あの対象が自分じゃなくて良かったとも思えてしまう。あんな風に愛されていたら、きっと別の誰かへ成り果てたに違いない。

 

 だが劇薬とすら感じる程の愛も、長らく欠けて枯渇していたフェイトにとっては良薬らしく、段々と表情や態度が(ほぐ)れて来たのは喜ばしい事である。そんな吉報を携えて“なのは”の元へ訪れると、挨拶もそこそこに要領を得ない質問を投げ掛けられた。

 

「ところでクロノさん。ミッドチルダでは、運の善し悪しって分かるんですか?」

「唐突だな。【希少技能(レアスキル)】による未来予知なら有るとは聞くが……。何でそんな事を?」

「実はその……。最近、またしても危険な事件に遭遇したので、そういう運命なのかなと」

「ふむ……。時間は有るから、その発端から顛末までを詳細に話して欲しい」

 

 やはり管理外世界でも、文明や技術がそこそこ発達しているなら問題事は付き物だな。内容次第では調査隊を組んで調べるが……。さて、どんな事件なのだろうか?

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 暑さも和らぎ、秋めいた日差しに照らされた喫茶『翠屋』のテラス席。其処でクロノさんと会合している訳ですが、愚痴に付き合わせて申し訳無いと思う反面、魔法を用いた戦闘を行ったので報告がてら一部始終を話す事にしました。

 

――

―――

 

 あれは確か、8月15日の正午過ぎの事でした。那美さんと言う方に御祓いが可能なのかを相談する為、八束(やつか)神社へと向かったのです。

 

 

 

 何故かって?

 

 

 

 ジュエルシードを回収したり、決闘したり、その直後にロボットと戦ったり、謎の魔力反応を感じたり、治安が宜しくない場所だったとはいえ窃盗犯の逮捕に協力したりとか、偶然で片付けるにはあまりにも(やく)い年だなーと思いまして、取り敢えず東洋神秘の一端を知るであろう巫女の那美さんに尋ねようとしたのですが……。

 

 不思議な事に、普段は清閑な八束神社で雷撃やら衝撃波が飛び交う戦闘が行われていたので止むを得ず参戦しました。因みに、戦っていたのは怨念に取り憑かれた【祟り狐】と、那美さんを含む退魔師の方々で、近い内に封印が解ける前兆が有ったので再封印をする予定だったそうです。

 

 まぁ結果としましては、魔法が通用したので拘束後に《 Divine buster 》で弱らせて、退魔師の方々による浄化で怨念だけを完全消滅させました。これにて目出度(めでた)し目出度し。

 

―――

――

 

「……で、最終的に御祓いはしたのか?」

破邪(はじゃ)の光とやらで清めてから、御守りを貰いました」

「そうか……。しかし、これ程までに災難続きだと末が恐ろしいな……」

「あのー、特大フラグを立てるのは勘弁して欲しいのですが…………」

(フラグ)が立つと如何なるんだ?」

「実現する可能性が高まるかもしれません」

「成程。勉強になった」

 

 その後、フェイトちゃんの現状や将来的な見通しについて聞いたり、貸し出した機材やデバイスの調子は如何だと聞かれたりして、それから何時もの手紙とビデオレターを渡され御開きとなりました。そもそもこの会合は大事の前の小事で、管理局地球支部の候補地選びや金策など色々有って結構多忙なのだとか。

 

 なら、怪しまれない様に御注意を。

 

 諜報とかスパイと呼ばれる活動は、日本の場合だと古来より“忍者”と呼ばれる人達が担当しておりまして、情報収集や変装のみならず戦闘も(こな)すらしいですよ?――――そうフラグを立てながら伝えると、クロノさんは懸念事項が増えたせいか溜め息を吐いた後「それは御互い様だろうに」とだけ返して去って行きました。

 

 何とも見事なカウンターです。あまりにも強烈だったのでモフモフな物で癒やそうと考えたものの、身近な動物で一番仲の良かった“くーちゃん”こと久遠(くおん)が例の【祟り狐】だった事も有り、今は嫌われちゃったんですよね……。正確には、《 Divine buster 》によるトラウマが原因ですけど、こればかりは記憶の風化を待つしか有りません。

 

 悲しかな。()れども、あの武力介入によって犠牲が出ずに済みましたし、この程度の代償で済むなら安い物です。ところで《 Divine buster 》でトラウマなら、十倍以上の火力である《 Starlight breaker 》を叩き込まれたフェイトちゃんは大丈夫でしょうか? 返事が少し怖いですが、次回の手紙で聞いてみようと思います。

 

 

 

~~

Side:シグナム

 

「シャマル、“はやて”の容態は?」

「今は気絶だけで済んでいるけど、これが二度三度と続けば如何なるかはちょっと……」

「ならば、早急に対処しなくてはな……」

「ええ、そうね…………」

 

 それは信じ難い出来事であった。古代ベルカの叡智を集結させ、有りと有らゆる安全機能や修復機能を備えている筈の【闇の書】が主を害する等、一端末に過ぎない我々では事前に知る由も無く、その時は訪れた。

 

 我々がその異常に気付けたのは、“はやて”のリンカーコアを対象とした魔力蒐集が自動的に()され、それが原因で“はやて”が倒れてからである。最初は、まさかと思った。次に、何故このような異常が共有記録として残されていないのか疑問を抱くも、全てを知るであろう管制人格へ尋ねるには魔力蒐集で【闇の書】の頁を埋めなければ限定起動も(まま)ならない。

 

 最低でも400頁。

 

 全666頁の、約6割の白紙を埋めるだけの魔力を魔導師や魔法生物から蒐集せねば問題点も解決策も分からず、最悪の場合は“はやて”が衰弱死する恐れがあると判断した我々は、迅速に方針を固めて行動へと移した。

 

 猶予(ゆうよ)期間は不明。出来る限り早く、空白の400頁を埋めるべく後方支援のシャマルを除いた三人で蒐集を行う。但し、時空管理局に拠点を早期特定される事態は避けたい為、近場の巨大な魔力反応からの蒐集は最終段階にて実施する。

 

 

 

 

 

「何故だ【闇の書】? 何が起因となり、我等の主を(おびや)かす……?」

 

 

 

 

 

 懊悩(おうのう)するも、立ち止まる訳には行かない。此処で諦め、(くじ)かれてしまえば“はやて”の命が終わる。それは騎士であり八神家の一員でもある私にとって、如何しても切り伏せたい未来であった。

 

 



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【A's編】
第35話:フィンブルヴェトの訪れ


 冷たい季節がやって来る。

 ある者は待ち遠しく、ある者は例年と変わらずに、ある者は悩ましい冬を迎えるだろう。

 だがそれは、等しく終わる。

 誰もが望まぬ暴走の果てに、全ては闇へ沈むのだ。

 何も為せず、何も残らない。

 そんな冷酷な時が、もう間も無く訪れようとしている。




Side:なのは

 

 11月29日。少し早いものの、商店街や街路樹にイルミネーションが飾り付けられ、デパートや『翠屋』にもクリスマスツリーが設置される様な時期となりました。

 

 つまり、私がクリスマスという繁忙期に臨時店員として駆り出されるまで一月を切った訳ですが、今年からは身体強化魔法が使えるので気楽かなー?と考えながら夜間飛行をしていた折に、見たことの無い結界に引き込まれたかと思うと、普段は静かな【ルーンライター】が異常事態である旨を伝えてくれた為、取り敢えず帰宅コースを外れて、自宅や市街地から距離を稼ぎます。

 

 全く、何が目的なのやら?

 

 此処最近は大人しくしていましたし、フェイトちゃんからの朗報により気分上々な日々を送っていただけなのに、風雲急を告げるとはこの事でしょうか。ところで風雲ではなく誘導弾が飛んで来た場合は、どの様に解釈をすれば良いのか困ってしまいます。

 

 一先ず《 Round shield 》で受け止めるも、直ぐに後悔しました。フェイトちゃんやクロノさんの誘導弾を弓矢とするなら、こっちは投げ槍みたいな感じで結構重いのです。まぁ、よく見ると誘導弾の外観が鉄球その物なので()もあらんと納得しつつシューターでの破壊をと考えた刹那、更に追加となる誘導弾8発と大型誘導弾1発を検知。

 

 仕方無いので奥の手を使って落としましたが、何故だか遠くに居るゴスロリ†ハンマーさん(仮称)の不機嫌さが増している様に感じます。や、キレたいのは此方の方ですよ……。と思うも我慢して、念話による事情聴取を試みました。

 

[[随分な挨拶ですね。御用件は何でしょうか?]]

[[はっ、騎士に《 騎士殺しの風 (ヴィン・デス・リタートゥーエンス)》を使っといてそれかよ。てめぇ、潰されてーのか?]]

[[そんな異名は初めて知りましたし、潰されたくもありません。それで御用件は?]]

[[……黙って叩かれて伸びてろ。あとは勝手にやる]]

[[じゃあ此方は、その短気さを撃ち伸ばして差し上げます]]

 

 んー、まぁこうなるのも予想の範疇(はんちゅう)です。魔導師と言い、自称『騎士』と言い、魔法に自信が有る人達は交戦しないと聞く耳を持たない傾向が有るのかもしれませんねー。そんな訳で、レッツファイトです。

 

 今度は此方が先制して《 Divine shooter 》を16発射出し、相手の出方を窺います。すると、先の一戦で中距離戦は不利だと悟ったのでしょう。防御魔法を張りつつ突っ込んで来ました。得物がハンマーですから、破壊力に関してはフェイトちゃんが大斧形態の【バルディッシュ】を振り回す攻撃と同等か、若しくはそれ以上。

 

 無論、そんな攻撃は当てられたくはない為、後ろ向きで飛びながら相手の後方や側方を誘導弾で脅かし、設置型バインドや流し撃ちが可能な《 Short buster 》で最短経路を塞ぐように迎撃を開始。時には、慣性制御による鋭角なV字(ヴァリアブル)ターンや真横への(ヴァーティカル)スライドで振り切って、翻弄する事も忘れません。

 

「せこい戦い方をしやがって! これだから、魔導師は気に食わねぇんだよっ!」

「不意討ちした人が、それを言っちゃうんですか?」

「うっせぇ! カッ飛ばすぞ、アイゼン!!」

[-《 Raketen hammer (ラケーテン・ハンマー)》-]

「うわぁ……。逆ギレって理不尽だね、ルーンライター」

[-Be careful master-]

 

 何かが弾けた後、敵のデバイスが凄まじい変形を遂げました。先端にはドリル、後端にはロケットブースターが出現し、人機一体となり不規則な軌道を描いて此方へと突撃して来ます。只それでも、ステータスを速度に振った状態のフェイトちゃんと変わらぬ速さですし、この状態だと瞬間移動魔法や射撃魔法も使えないらしく先程よりは逃げやすい様な?

 

 別に撃ち落としても良いんですけど、あの速さに当てるのは一苦労なので暫くは回避に専念&様子見しようと思います。意外と、魔力消費による疲労で血の気が落ち付いて、御話し出来るかもしれませんし……。でもこの人、何となく覚悟完了みたいな鬼気迫る熱意を感じるので、多分望みは薄いです。

 

「さっさと、食らい……やがれっ!」

「それは御免被ります。なの」

[-《 Flash move 》-]

 

 瞬間移動魔法で距離を稼ぐ。その最中、敵デバイスのハンマーと柄の接続部付近にある回転式弾倉らしき物の動作を確認しました。恐らくあの装置が、爆発的な魔力を生じさせているんでしょうね。ところで、装填数を6発と推定した場合まだ3発程は残っている筈なのですが、それを考慮するならあと2分くらい逃げる必要が有ります。ふーむ……。それなら弾幕を浴びせて、中断させる方が手っ取り早いのかもしれません。

 

 気は乗らなくとも、怪我をせず、無事に帰れるように真剣で最適な行動を。これは私を心配してくれる家族の為、友達の為、知人の為にも最善を。――――では改めて、戦闘行動を開始します。

 

 

 

~~

Side:シグナム

 

 ヴィータが先陣を切り、3分と経たずに撃ち合いが50合を越えた。魔力反応からある程度の予想はしていたが、リンカーコアの蒐集対象である魔導師は非常に手強く、相性の悪さも加わり次第に形勢不利となっていた。中距離以上の射程は完全に魔導師の独壇場で、カートリッジシステムの爆発的な魔力供給を用いた肉迫も、バインドや誘導弾に阻まれてしまう。

 

 そして何よりも厄介なのは、貯蔵魔力を活かした出鱈目な軌道の飛行魔法である。恐らく、足元に推進力を発生させる通常の魔力消費量が少ない飛び方とは違い、進みたい方向へ引っ張る様に飛んでいるのだろう。後方や背面に付いても優位とならず、延々と退き撃ちや置き撃ちをされれば攻め(あぐ)ねるのも当然だ。仮に私が先鋒を務めたとしても、戦況の大差は無いと思われる。

 

 しかし、これは“決闘”ではなく“狩り”なのだ。このままヴィータに任せた場合、相打ち上等で叩き込めれば辛勝するにせよ代償は大きくなる。今後も、短期間だが魔力蒐集を行う予定である為、余力は可能な限り残しておきたい。

 

[[行動解析は粗方済んだ。ヴィータ、ザフィーラと連携して魔導師を追い込め]]

[[了解、任せろっ!]]

[[承知した]]

 

 控えていたザフィーラが参戦すると、僅かながら形勢は逆転した。通常なら2対1では簡単に優勢へと傾く筈なのに、魔導師による驚異的な抵抗がその予想を否定する。より速く、より正確に、より苛烈に。古代ベルカ魔法技術の結晶たる我々を上回ろうとする可能性は、敵ながら見事。叶うならば、正々堂々と倒したい相手であった。

 

「済まない。名も知らぬ魔導師よ」

 

 カートリッジを消費し、弓状となった【レヴァンティン】の弦に矢を(つが)えて引き絞る。……我等には目的が有る。騎士の誇りを捨てようとも、成し遂げたい目的が有るのだ。故にこそ、冷徹に役目を果たそう。

 

「我が無念と共に……。翔けよ、隼!」

[-《 Sturm falken (シュトゥルム・ファルケン)》-]

 

 如何(いか)なる手練れであれ、複数人を相手取るなら無理が生じやすい。その間隙を射貫く一矢は、吸い込まれるように魔導師へと届いた。だが、寸前で張られた防御魔法を(とお)したせいで威力は()がれている。あれでは気絶させるどころか、手負いの獣と成るに違いない。

 

「やはり、殺さずに仕留めるのは難しいものだな……」

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 敵の増援で全身鎧の拳闘士が来たかと思えば、更に3人目からの狙撃を貰ってしまいました。不覚以前に無理ゲーなのですが、私は如何(どう)してこうも寄って(たか)ってボコられているんでせうか? もしかしたら前世が極悪人だったり、占いで言う大殺界という時期にでも突入したのかもしれませんけれど、「諦めたらそこで試合終了ですよ?」と某監督も言ってます。大切ですね、不屈の心。

 

 痛覚は遮断して、身体強化魔法の出力を最大限に。貫通してきた弓矢型実体弾を咄嗟に掴んで受け流した左手は、またもや無残な感じになっているので簡易的な止血処置を実施。他にも、実体弾が爆散した影響により全身が痛みますが、まだ戦えなくもないです。

 

「蒐集開始」

「うっ…………、ぁ……」

 

 訂正。未知の魔法…によって、私のリンカーコアから敵が持つ本_デバイスへと魔力を吸い上げられている為、戦闘継続が__になりました。少しでも並列思考が乱れると、意識が痛みに…持って行かれそうな気がします。いやはや、実在しない……臓器みたいな物から激痛を感じる…_は、これ如何(いか)に?

 

「ほう、まだ耐えるか」

「何故……、こんな事を?」

「ある目的の為、とだけ言っておく」

「おい、シグナム。敵に態々(わざわざ)教えんなよ」

「抵抗されるよりはマシだ。それに、私は彼女の奮闘に敬意を表したい」

「……あっそ。じゃ、あとは任せた」

 

 突然現れ…たポニーテールの剣士さんを含め、待ち__ていたのは3人。この調子では、他に…何人か居たとして_不思議ではありませんね。それと抵抗しようにも、魔法による痛覚__が出来ずに内心では(もだ)えている……ので過大評価かと。

 

「これから御前は、魔力を吸収されて気絶する。殺しはしないが、もし再び我等の前に現れるようなら……。腕の一本くらいは覚悟するが良い」

「また、誰かから……奪うん…ですか?」

「必要が有れば、そうするだろうな」

 

 では…、頑張って立ち塞がるのみですよ。3日後には、リンディ__がどんな裏技を使ったのかは怖くて聞けません…けどフェイトちゃんが来日しますし、流刑地よろしく数年間は此処で暮らしてい_との事。確かに、魔法や科学が優れているミッドチルダと比べたら、地球の日本なんて不便な……ド田舎でしょうね。でも…児童労働が当たり前なブラック世界よりは、豊かな人生_験が出来ると思います。

 

 それはさ_置き、フェイトちゃんが1対3で襲われ……かねないのならば、アルフさんと私を加えて3対3、出来ればク__さんや武装局員の方々の…支援も受けたいところです。因みに、ユーノ…さんは考古学者が本業なので戦闘要員には含め_せん。手伝ってくれるのなら、それはそれで…_り難いですけど。

 

「良い目付きだ……。私は『守護騎士』(ヴォルケンリッター)の将、シグナム。御前の名は?」

「っ……。嘱託…魔導師、高町なのは………です」

 

 嗚呼もう。これ以上は……並列思考_解け…__…、

 

「成程。道理で――――」

 

 

 

 

 

 

 

 




「――――よく似ている」




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第36話:気を取り直して行きましょう。なの

人物紹介
【久遠】:ver.2.036
昔々、ある事件によって愚かな人々を恨むようになった妖狐は、やがて『祟り狐』と化した。近代になって漸く封印されてからは生来の善性を取り戻しつつあったが、纏わり付いた怨念はそう簡単には祓えないと思われていた矢先《ディバインバスター》で8割ぐらい消し飛ばされ、解決へと至る。尚、“桜色”と“なのは”へのトラウマが深く刻まれた為、大団円とは言い難い。



Side:なのは

 

――

―――

 

 冷たいし、暗いし、動けない……。

 

 ぼんやりとそう感じます。

 

 熱は無く、光は見えず、血もそこそこ流れたのでしょう。

 

 正直、思考する事さえ“しんどい”のですが、二度寝したら次は起きれない恐れが有るので頑張ります。取り敢えず、魔法でサクっと解決を試みるも無反応。不思議に思い調べてみると、何故だかリンカーコアが酷く損耗しており、これでは魔力運用は難しいなと感じました。じゃあ、どーにかして直さねば……。

 

 祈ってみます。温かい記憶を込めてみます。生存願望も投じてみたものの、これでは生命力と言うか体力の方が先に尽きてしまいそうです。やはり、肉体に血が通うようにリンカーコアには魔力が必要なのかなーと考えていたら、外部から少量の魔力が流れ込んで来ました。これは有り難いですね。半分は修復に当て、もう半分は周囲から魔力を集める為に使います。

 

 はい、当然の如く供給不足に陥りました。ならば、もっと遠くて高くて深い場所からも集めないと早期修復は望めません。体感限度の此岸(しがん)を越えて、更に更に彼方にある魔力を私の元へ…………。

 

―――

――

 

 焦げた臭い。冷たい空気。痛みと熱を持つ全身。リンカーコアからは、溢れんばかりの圧縮魔力が出口を求め彷徨(さまよ)っております。それなら何時もの様にと、翼に形成して貯蔵魔力へ回すも一向に減る気がせず、当分先の予定だった光輪を三重にして後頭部付近へ配置。取り敢えず、これで《 Divine buster 》を無駄撃ちしなくて済みそうです。

 

 落ち着いたところで身体チェックをしてみますが、左手の傷は塞がりこそすれ血を含んでいるので赤黒く、また包帯を巻くか手袋で隠さないと不特定多数の人が体調不良になるかもですね。他にも打ち身や擦過傷、急制動による筋肉痛といった細かい異常は有れども、安静にしていれば遠からず完治するかと。そんな事より、もっと深刻なのは【ルーンライター】の方でして……。外装の(ほとん)どが吹き飛び、内部基盤も融解や破損具合から修復不可能のように思えます。

 

「……ごめんね。有り難う」

 

 多分、無我夢中で引っ張って来た魔力が逆流してショートしたのか、それとも私の安全の為に魔力の一部を逃がしてくれた影響なのか。どちらにせよ、私の所為(せい)で壊れた事には変わりません。

 

 

 理不尽は突然やって来る。

 

 

 そんな事を6年前から知っていて、つい8ヶ月程前には脅かされたにも関わらず、平穏を享受(きょうじゅ)していたが故に斯様(かよう)な結末へと至ったのです。私も、御兄ちゃんや御姉ちゃんみたいに日頃から鍛えていれば、この事態は避けれたのでしょうか? これから先も、頑張れば対抗できるのでしょうか?

 

 分かりません。けれど、万全では有りませんでした。もう後悔したくないなら、諦めたくないなら、甘えを捨てて強くならなくては……。

 

 

 

 

 

~~

Side:フェイト

 

「という感じで、フルボッコにされたのでした。ちゃんちゃん」

「済まない。僕達が、もう少し早く来れれば……」

「気にしないで下さい、クロノさん。悪いのは敵と、私の弱さなんですから」

 

 12月1日。私とアルフ、クロノ、リンディ提督、エイミィを含む次元巡航艦『アースラ』が地球に着いた時点で、最悪は過ぎ去っていた。

 

 時空管理局としては、魔導師襲撃事件の多発を把握していたにも(かかわ)らず情報共有が遅れ、私達がその情報を知ったのは昨日の出発前の事。その後、念の為にと次元空間を通常航行中に【ルーンライター】を介した通信を試みるも反応が無く、直ちに長距離転移で急行したものの既に“なのは”が襲撃されてから36時間以上が経過しており、救援すら出来なかった事を悔やむばかりである。

 

「……誰だって、オーバーAAAランクが3人も襲って来たら厳しいと思うんだが?」

「それでも私は勝利して、平穏な日常を送りたかったんです」

「残念ながら、単純に勝てば解決する様な相手ではなくてな……。エイミィ」

「はいはーい。【闇の書】の情報で良いよね?」

「いや、その前に“なのは”へ機密情報限定閲覧権を付与したい」

「ふーん、なるほろなるほろ……。それだと5分くらい掛かるので、宜しく(そうろう)

「却下。3分で処理しろ」

「唐突な理不尽?!」

「言い回しがイラっとした」

「一理有るけど、それって横暴だと思うなあ!」

「なら、もう少し真面目な言動を心掛ける様に。将来的に、異動先で困るのは君だからな?」

「えっ? 私、クロノ君の専属執務官補佐なんだけど?」

「は? 人事規則上、有り得ないと断言しておく」

 

 けれど、時間の経過は悪い事ばかりじゃない。“なのは”を襲った犯人達は、第一級捜索指定ロストロギア【闇の書】に付属する防衛機構の1つ『守護騎士』である事が判明し、その対策本部を地球に置く事が決定された。

 

 過去30年程、時空管理局は二度も【闇の書】を捕捉したのに破壊や封印すら通用せず失敗を重ねているものの、個人的に用が有るのは『守護騎士』だけだ。全身全霊を懸けて(あがな)わせる。それさえ出来れば、【闇の書】自体は(つい)でに処理できれば十分だと思えてしまう程に、心が荒れ狂って静まらない。

 

「フェイトちゃん」

「うん。如何したの“なのは”?」

「……あまり、私よりも怒らないでね」

 

 

 何故……?

 

 

「“なのは”は、友達が襲われても我慢して欲しいの?」

「フェイトちゃんは、友達が殴り返した相手でも追い打ちするの?」

 

 因みに、フルチャージした《 Divine buster 》を直撃させる程度には遣り返します。――――そう言われると、言葉に詰まる。アレは凄く重い砲撃で、防御魔法越しでも受け止めたくない魔法の1つだ。そんな物をフルチャージで当てた相手に追撃など、下手をすれば致命傷になってしまう。

 

「なら抑えるけど……。その代わり、手加減無しだよ?」

「ラジャーです」

 

 でも、今後は“なのは”だけが戦うなんて事は滅多に無いだろうし、隙を見て《 Halberd crusher(ハルベルト・クラッシャー) 》とかを撃墜前に叩き込む分には大丈夫な筈……。

 

 取り敢えず、あの憎い騎士達をやっつけて、【闇の書】も壊してしまえば平穏になる事が分かっている。それから先は分からないけど、幸せな日々を“なのは”やアルフと、そしてクロノ達とも過ごせたら嬉しいなと思っているからこそ、この怒りとその元凶を切り捨てたくて心が(うず)く。

 

 不快だ。不快で不快で、あらゆる幸せが陰りを帯びる。

 

 こんな物を抱えながら過ごすなんて嫌だ。私はドクター・プレシアみたいに(みにく)くて、怖くて、壊れた人に()るのは嫌だ。楽しい時間を過ごしても、心の底から喜びに浸れないのは嫌だ。気持ちが悪い。許せない……。私達を不幸にする敵が許せない。

 

 

 

 

 

 

 そして私は、そんな私が大嫌いで仕方が無かった。

 

 

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 あれから1時間ほど情報共有や談話をした後、約束の時間が迫って来たので『アースラ』の転移ポータルを経由して移動する事になりました。

 

 目的地は、時空管理局本局の技術部装備課。其処でユーノさんから預かった【レイジングハート】と、フェイトちゃんの【バルディッシュ】に強化改修を施すので、その方向性を打ち合わせするのです。相手だけカートリッジシステムという魔力ブースターが付いていては、1対1だろうと苦戦しますからね。技術で補える不利は、補うのが吉ですよ。

 

 因みに残念ながら、【ルーンライター】は修復不可能という事でデータ取りをした後の破棄が決定していて、元からユーノさんが【レイジングハート】の所有権をスクライア一族から譲り受けて私に譲渡するまでの繋ぎでしたが、愛着は確かに宿っていました。

 

 とても、申し訳無い気持ちで一杯です。なので復讐とまでは意気込みませんが、再戦での勝利と事件解決を()って報いたいと思います。

 

「そう言えば、レイジングハート。ユーノさんは今、如何しているの?」

[-Currently he works in the library.-]

「へー、今は司書さんをやってるんだ?」

[-Yeah.-]

 

 何が起因となったかはさて置き、古代遺跡やら旧文明の探索に明け暮れるよりは平和で収入も安定しているでしょうし、心配事も1つ減った……のかもしれません。機会が有れば、【レイジングハート】を託してくれた御礼と転職祝いをしなくては。そう心に留め置きつつ目的地へ到達すると、白衣を着た眼鏡の御姉さんが待っていました。

 

「御待ちしておりました。改修担当の“マリエル・アテンザ”と申します」

「本日は御世話になります。“高町なのは”です」

「“高町フェイト”です。宜しく御願いします」

 

 あ……。以前、見送りの際に名字を貸した(あげた?)ままでしたね……。別に返して貰うつもりは有りませんが、行く先々で姉妹や親戚と思われるのも考え様です。まぁ、仮に勘違いされたとしても被害は無い筈なので、聞かれない限りスルーする事にしませう。

 

「じゃあ、僕達は別の用件を済ませて来るから、其方が先に終わったら連絡をして欲しい」

「はい、分かりました」

 

 そう言ってクロノさんとエイミィさんとは別れたものの、結果的に連絡をする事は有りませんでした。やはりと言うべきか、マリエルさんは『マッドサイエンティスト』ならぬ『マッドエンジニア』で、作業着や制服だけで十分なのに白衣を着ている人は次元が違ってもそんな感じなんだなと妙な確信を得ましたが、そんな物を得たところでマッドが止まる訳も無く、改修案が次から次へと出て来ます。

 

「いやー、本当に何度見ても素晴らしいですね~。彼等を作った技術者は、拡張性や演算能力の大切さを実によく分かってらっしゃる。特にレイジングハートなんて、この試作カートリッジシステム『ウルカヌス』に、予備弾装とフレームを大量に積んでも格納領域(ストレージ)が67%も余ってしまう。これなら、自律機動防壁や砲撃支援子機のみならず、対空多連装榴弾砲や仮想可変噴進翼や小型魔力炉の搭載だって夢では――――」

 

 あの、“力”は欲しくても戦争をしたい訳ではないんですよ。

 

「えーと……。流石にそれは、過剰戦力だと思うのですが……」

「おっと失礼。最高峰のデバイスと魔導師に出会えて、(いた)く感激してしまいました。これだけの性能と魔導資質と予算が有るなら、色々と出来ちゃうので」

「では、色々と問題にならない程度で御願いします」

 

 一先ず【レイジングハート】の最終兵器化は防げましたが、カートリッジシステムの中では一般的とされる“マガジン”や“リボルバー”や“チューブ”式ではなく、これでも控え目にしたらしい装填数65発の“特注ドラムマガジン”が採用され、(つい)でとばかりにカートリッジの連続消費による魔導師要らずを目指した魔力運用システム『ウルカヌス』とやらの搭載も確定してしまいました。

 

 尚、【バルディッシュ】本体にはリボルバー式の物を組み込むだけという簡素な改修のみでしたが、バリアジャケットの各所に次世代型電磁カートリッジシステム『ヘラウスフォルデルング』を装着させるなど抜かりは無く、また全体的な強化調整は別枠との事。

 

 

 

 

 

 凄く、嫌な予感がします。

 

 

 

 

 

 オーバークロックやらリミッター解除さえも霞む、「こんな事も有ろうかと」といった配慮が生み出す“ナニカ”が仕込まれる様な、そんな気がするのです。今でさえ非殺傷設定が機能しているだけで、威力的には都市の痕跡すら残さない戦略兵器じみた魔法が撃てるのに、更に+αされるのは避けたい所……。

 

嗚呼(ああ)それから、助手を紹介しておきますね。シャーリー、何時までも恥ずかしがってないで挨拶ぐらいはしたら如何?」

 

 そう言われて、物陰からおずおずと出て来たのは同い年ぐらいの眼鏡を掛けた少女で、長い髪と顔付きから御姉ちゃんを幼くした様な印象を受けます。これで何処か恍惚(こうこつ)とした笑顔を浮かべたり、白衣さえ纏っていなければ普通に仲良くなりたいと思いましたけど、取り敢えず様子見を継続です。

 

「は、初めまして……。“シャリオ・フィニーノ”です。精一杯、頑張ります!」

「……この子、“なのは”さんの戦闘映像記録を見てからファンになったみたいで、今朝からずっとこんな調子なんですよ。でも腕は良いですし、仕事も120%ぐらいの勢いで処理していますから御安心を。能力は保障します」

 

 それってファンじゃなくて、心的外傷(トラウマ)で精神が不安定なだけなのでは……? あの殺意が高かった頃の怖いフェイトちゃんと、私の血とか焼けた肉が映っているR18G相当の映像記録を見たら、少しくらい自我が揺らいでも可笑しくは無いかと。しかし、仮にそうであれマリエルさんの抑制装置に為れそうなのは彼女だけですから、頑張って貰うしかありません。

 

「初めまして、“高町なのは”です。早速だけど、シャリオちゃんに1つ御願い事が有りまして……。もし、マリエルさんが突貫からの保身無き零近距離射撃とか、近接用サブアームに、跳弾する魔力弾や、()()()()()()()()()()()()()()()()()等々、そういった堅実とは言い難い魔法や、無くても困らない物を実装しようとしたら阻止してくれませんか?」

 

 余計な物なんて要りません。変な装備や魔法の習熟に時間を割くぐらいなら、得意とする高精度・高速度・中遠距離の戦闘技術を磨いてクソゲーを押し付けた方が強いと思いますし、戦闘はスポーツではないので同じ土俵で戦う必要も無し。あと、技術的に可能っぽい気がする演算予測機能(ゼロシステム)は並列思考の邪魔になりそうなので、念入りに釘を刺しておきます。

 

「分かりました。その様な物は、全力全開で防ぎますね!」

「や、そこは冷静沈着な判断で御願いします」

「了解です。……あっ、それからサインを頂けないでしょうか?」

「サインって、確認用じゃない方かな?」

「はい、宜しければ此方の色紙に――――」

 

 はてさて、如何なる事やら……。色々な意味で、完成の日が待ち遠しいです。

 

 

 



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第37話:テンコート・テンキ

人物紹介
【マリエル・アテンザ】ver.2.037
眼鏡で白衣を着こなすマッドエンジニア。腕は一流だが、ロマンチストなのが玉に瑕。予算と許可さえ有ればデバイスに魔改造を施してリミッターを掛けたり、新装備の構想や実験をしたり等、仕込みに余念が無い。

【シャリオ・フィニーノ】ver.2.037
眼鏡で白衣を着こなすマッドエンジニア其の2。技術面ではマリエルを尊敬しており、実際に助手として貢献できる程の知識と能力を備えているが、性格や思想は一般的な少女と変わらない……筈であった。面影が何処となく、“なのは”の姉である美由希に似ている。




Side:すずか

 

 良くない事が起こっている。――――唐突に“なのは”ちゃんが学校を休んで、音信不通になった前回がそうだった。だからこそ、状況が同様である今回もそうなんだろうなと推察して、ある程度の覚悟と諦観をしていたつもりでしたが、やはり悪い変化が有ると心苦しく感じます。

 

「お早う“すずか”ちゃん、アリサちゃん」

 

 珍しく、通学バスを利用せず早めに登校したらしい“なのは”ちゃんは教室で私達を待っていた様で、見慣れない白手袋を着けていました。

 

「お早う、“なのは”ちゃん」

「お早う、“なのは”。10日振りだけど、また怪我でもしたの?」

「うん。でも、地獄先生よりはマシだから」

 

 そう言いつつ白手袋から左手を抜いて見せてくれましたが、手の中心を貫く縦線の古傷とは別に、手の平を彫刻刀で(えぐ)ったにも(かかわ)らず、新しい皮膚で覆われているとでも形容すべき傷痕が万遍無く走っていて、筋肉と骨が(じか)に見える『鬼の手』と比較されても甲乙付け難い惨状です。

 

「あんたね……。その調子で怪我したら、左腕が遠からず『機械鎧(オートメイル)』になるわよ?」

「流石に、これ以上は無いと思いたいなぁ……」

 

 それから“なのは”ちゃんは、利き手じゃない右手でやる宿題や食事の大変さに、先生方への説明で一々傷を見せる面倒さを滔々(とうとう)と語りましたが、怪我をした経緯については(つい)ぞ触れませんでした。

 

 やがて先生が教室へと訪れ、出欠確認と朝の会が始まって何時も通りの日常が再開するかと思いきや、珍しい事に転校生が居るとの事。その紹介をすべく、先生は黒板に“高町フェイト”と書いた後、廊下で待機していた子を教室へと招き入れます。雰囲気から察するに……、冷淡な性格なのかもしれません。

 

 アリサちゃんよりも色合いが明るい金色の髪、綺麗だけど無機質さを感じる表情と(ひたい)から左頬へ流れる傷痕が特徴的な彼女は、教室全体を一瞥(いちべつ)すると最低限の自己紹介をしました。

 

「“高町フェイト”です。短い間ですが、宜しく御願いします」

 

 馴れ合うつもりは無い。そんな無言の主張すら(にじ)み出てるのに“なのは”ちゃんは平然と拍手をして、釣られるように私達も拍手して彼女を迎え入れたのですが、()しかして従姉妹なんでしょうか? 差し支えが無ければ、休み時間に訊いてみたいと思います。

 

 

 

~~

Side:なのは

 

 実のところ、9月頃の文通では明らかになっていたのですが、フェイトちゃんは条件付き無罪な訳でして、その条件には島流しもとい「地球で5年間は滞在する事」という条件も含まれていました。

 

 ならば、友達の近くが良いという理由で海鳴市に住むことが確定し、日本の法律的に義務教育も有るので、じゃあ友達と同じ【聖祥大学附属小学校】に編入すると決まりましたが例の襲撃で予定が狂い、デバイス改修に機能確認がてら訓練したりで4日間。フェイトちゃんへ日本人的常識やら、校内における暗黙の了解(ローカル・ルール)を教えて更に1日。尤も、私が教えた日は日曜日なのでノーカンですけど、12月2日からの登校予定が7日に()れたのは事実です。

 

 さて。

 

 数ヶ月前からクロノさんが手続きや学習用具等の準備を済ませ、エイミィさんによる情報収集と事前教育が()された御蔭でフェイトちゃんは無事に学校デビューを果たしたものの、魔導師らしい取捨選択と見切りの速さによって現在進行形で孤立化が進んでおります。

 

 私が通う【聖祥大学附属小学校】は私立校なので、普通の小学校の生徒と比べれば同級生達の知性や品性も高いとは思うのですが、自立精神が旺盛(おうせい)なミッドチルダの方々よりは子供っぽさが否めず、何よりも直球で個人情報を訊いてくるのが気になるらしく、困惑しているみたいですね。……只、今のところ念話で救援要請は来ていないので、意外と大丈夫かもしれません。

 

「ねぇ、“なのは”ちゃん。フェイトちゃんは親戚の子なの?」

「親戚で友達だよ。仲良くなったのは割りと最近だけど」

 

 人類皆兄妹という観点で見れば、従姉妹と言えなくなくなくも無いかと。

 

「へ~……。“なのは”も、普通に友達を作れるのね」

「や、結構な紆余曲折が有りました」

「Understood. ……何時かセッティングしてあげるから、普通の交際もしてみなさいな」

「アリサちゃん。友達は作るんじゃなくて、為るものだと思うよ?」

「それは親友や知己でしょ。友達って、もっと簡単な関係で良いんじゃないかしら?」

「まぁまぁ、二人共その辺りで……」

 

 アリサちゃんと“すずか”ちゃんは、容姿やファミリーネームで注目されるので人が集まりやすく、広く浅い交友関係が必然的に多いです。とは言え、そんな浅い関係の人まで友達に含めていたら、身体と時間が足りなくて付き合いきれない様な……。いえ、別に私が気にする事ではありませんね。それを良しとするなら、それはそれで良い事なのです。

 

 時に、無造作に千切っては投げるかの如く塩対応をしていたフェイトちゃんは無事に質問攻めを突破したらしく、同級生達の壁はさっぱりと無くなっていました。休み時間は残り僅かですけど、折角なので声を掛けておきます。

 

「お疲れ、フェイトちゃん」

「うん……。転校生って大変なんだね……。ところで、其方の二人は?」

「“アリサ・バニングス”。“なのは”の親友よ」

「“月村すずか”です。私も、“なのは”ちゃんの親友です」

 

 ひゅー。何故、此処で謎の対抗意識を出したのでせうか。そして“すずか”ちゃんは(そで)を掴まないで下さい。フェイトちゃんの視線がとても痛いです。

 

「……そうですか。(ちな)みに親友であっても、戦友ではないんですね?」

「はぁ? それってゲームか何かの話かしら?」

「部外者には答えられません」

「ふーん……。まっ、仲良くやりましょ。“なのは”の為に」

 

 あのその……。三者共に親友である為、友達の友達と仲良くなれるかは別として喧嘩せずに済めば良いなと願っていましたが、こんな相互不可侵条約もどきの締結は何とも……。けれどコレ、火元が口を挟める事では有りませんよね。沈黙は金なり。

 

―――

――

 

 そして訪れた放課後。体育の授業で、フェイトちゃんと“すずか”ちゃんが風切り音がするくらいの速度でドッジボールを投げ合っていた事以外は至極平和でした。何だかんだ、遠からず馴染めるのでは?

 

 尚、日常における不安要素は解決の兆しが見えて参りましたが、非日常サイドたる魔導師襲撃事件の進展は宜しくないです。回復に努め、準備したところで『守護騎士』(ヴォルケンリッター)の方達やら【闇の書】の所有者を捕捉できなければ、実働組は待機するのみ。個人的な希望としましては、憂い無くクリスマスと年末年始を迎えたいのですが果たして…………。早めに折りたいですね、このフラグ。

 

 そんな風に、内心では()()きしながらフェイトちゃんと帰路を歩いている最中、会話イベントが発生しました。

 

「“なのは”、今日は如何するの?」

 

 此処のところ、と言うかデバイスの改修後から私達は毎日1~2時間程の戦闘訓練を続けており、復讐鬼と形容するには(ぬる)いですけど最近のフェイトちゃんは冷たく、そして悔やんでいるようにも見えます。一応、「悪いのは外敵と運だけ」とは伝えていますが、心にまで響いているかは分かりません。

 

 それはさて置き、管理局が保有する過去の交戦記録によるとベルカ騎士は近距離戦が得意との事。じゃあ、付かず離れずの中距離戦で頑張るしかないですねーと鍛えて(そうら)えども、偶には変化による刺激も欲しくなるのが人情というモノです。実際に、私は欲しくなりました。

 

「連日の中距離戦は飽きてきただろうし、近距離戦でもしようかなと」

「それって……、私が“なのは”を追い立てれば良いのかな?」

「うんん。フェイトちゃんも追い立てられる側だよ」

 

 具体的には、御兄ちゃんor御姉ちゃんに。メイン武器は小太刀という短めの日本刀を二振り使っていますが、武器なら一通り使えるらしいので今頃は模造刀で切り合ってウォーミングアップをしているのではないでしょうか?

 

 いや~……、念の為に経験を積んだ方が良いと考慮したからこそ御願いするに至ったものの、近接戦闘へのはてさて……。(こだわ)りがない私にとっては学べる喜びよりも苦手意識の方が強いです。誰だって手首から先を切り落とされかけたり、爆破されそうになればアウトレンジ・アウトキル、若しくはワンサイド・ゲームを好むようになるのは当然至極の経緯で、今日の訓練は主にフェイトちゃんの近接戦闘技術の向上が目的です。

 

「……よく分からないけど、楽しみにしておくね」

 

 そうクールに決めたフェイトちゃんでしたが、1時間後には我が家の道場で熱心に斧を振るうフェイトちゃんと、使い慣れない筈の長刀で苛烈に攻める御兄ちゃんの姿が其処に在りました。攻防が目紛(めまぐ)るしく入れ替わる様は凄まじく、近接戦闘では回避や防御ばかりの私とは違って楽しそうに見えます。これが日常の延長線上なら、本当に最の高でしたけれども……。

 

 

 

 カットカット。

 

 

 

 先ずは、この訓練を専念して終わらせましょう。もう怪我は勘弁ですからね。その次は御風呂で、またその次は夕食。そうやって淡々と終わらせて行けば、何時かは事件も終わります。反省や反動なんて、最後の次で構いませんよ。

 

「良し、此処まで」

「ふぅ…………。有り難う……、御座いました」

「それじゃ、“なのは”。またやろっか?」

「……宜しく御願いします」

 

 フェイトちゃんと御兄ちゃんが端に寄り、私と御姉ちゃんが中央に出て第3ラウンドが開始されました。因みに今日の訓練は、私とフェイトちゃんで交代しながらあと3試合、つまり計6試合やるとの事。是非とも欲しいですね、無尽蔵の体力。

 

 そんな暢気(のんき)なことを思う並列思考とは別に、現実では御姉ちゃんの攻勢は途切れずに繋がり続け、攻勢一点張りの恐ろしい斬撃が次々と繰り出されます。私自身としましては、フェイトちゃんみたいな足捌きでの回避は自信が無いので、魔法でホバリングして滑るように避けたり【レイジングハート】代わりの(こん)で防いだりしてますが、やはり近距離戦では勝てる気がしません。

 

 強引に突き飛ばしたり、拘束魔法で足止めすれば中距離戦へと移行できるんでしょうけど、記録映像や交戦経験から察するに『守護騎士』(ヴォルケンリッター)の方達って普通に中距離戦が出来る感じなんですよねー……。只、勝率1割以下が5割ぐらいの見込みになるのは差が大きいので、仕切り直しの練習は大事です。

 

「“なのは”、下がるだけじゃなくて前にも出てみろ。初速を殺された剣は、切れ味が良い棒でしかない」

 

 要するに、防御魔法で良い感じにシールドバッシュするなり減速させれば脅威度は下がると。参考になります。そして空気を読んだのか、御姉ちゃんが大上段から長刀を振り下ろしてくれたので、()かさず突撃。……ふむ。確かに受け止めた時の衝撃は減りましたが、魔力による補助が無ければ筋力差で体勢を崩されかねないので、実戦では組み合い厳禁ですねこれは。

 

 そうやって学びを得ながらも今日は過ぎ行き、平和な一日となりました。いやー、明日以降は筋肉痛に悩まされるでしょうから、もしドンパチするなら明々後日から先を期待したいところですが、如何なる事やら……。まぁ、一番良い解決方法は『絶対幸福型終幕装置(デウス・エクス・マキナ)』さんが出て来て、さくっと解決してくれる事なのは言うまでも有りませぬ。

 

 

 



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第38話:新たなる辰星と極光なの【前編】

人物紹介
【高町フェイト】ver.2.038
血筋は繋がっていないのに、“なのは”の従姉妹という事になった複雑な経歴を持つ少女。人との接し方が不慣れで、全く知らない人への対応は素っ気無いが徐々に改善しつつある模様。“なのは”を襲った『守護騎士』には怒りを抱いており、また同様にそんな自分を嫌悪している。



side:なのは

 

 (かつ)て、私が襲撃された時には前兆や予感もフラグも無かった(かもしれない)様に、彼等――『守護騎士』(ヴォルケンリッター)との再会もまた突発的な事態となりました。

 

 12月20日、時刻1925。海鳴市上空300m付近。

 

 夕食も御風呂も済ませ、黙々と宿題を処理している最中に緊急出動要請が掛かり、ドライブ・イグニッション。某技師による過剰なまでの火力信仰によって再誕した【レイジングハート・ヴァルカノーネ】を起動し、転移魔法で現場まで跳んだ頃には管理局による人払いと包囲が完了しており、あとは《 強装結界 》の内部へ閉じ込めた『守護騎士』を拘束または消滅させれば帰宅可能といった状況です。

 

 それにしても、随分と待ちました……。次元世界各地で発生していた類似の襲撃事件情報から割り出した彼等の行動範囲は広すぎる為、【闇の書】に蒐集されていない&保有魔力がそこそこ多い魔導師を餌にして数箇所で網を張っていたのですが、再び此方側へ来てくれるとは好都合と思わざるを得ません。

 

 まぁ別に、復讐したくてウズウズしていた訳ではなく、さくっと仕事を終わらせて帰るなら近い方が良いという人類共通の願いが主でして、襲撃された怨みとか【ルーンライター】が壊れた一因に報復したい気持ちなど、ほんの少しのみですよ。そんな私情はさて置き、念話でクロノさんを呼び出して作戦を確認します。

 

[> クロノさん、プランAの応用で良いんですよね? <]

[> その通りだ。咄嗟の判断は任せる <]

[> ラジャーです <]

 

 プランA。要するに、フェイトちゃんやクロノさんといった餌で『守護騎士』が釣れて、包囲できた場合の作戦です。

 

 フェイトちゃんがシグナムさんを、アルフさんがザフィーラさんを、そして私がヴィータさんを相手する事になっており、相性的に撃破しやすいであろうヴィータさんを落としてから枚数差で優位に立つ。そんな感じの作戦でして、まだ見ぬ後方支援型のシャマルさんという方の相手はクロノさんがするとの事。――しかし、今回はヴィータさんとザフィーラさんの二人しか居ないので、フェイトちゃんとクロノさんは増援対処要員として一時待機となります。

 

 

 

 いやはや、なんと愚直で綱渡りな作戦でしょうか。

 

 

 

 仮令(たとえ)この現状が異例尽くしで、『守護騎士』が一般的な魔導師と比較にならないくらい強く、無茶だろうと主戦力に含める予定だった一般的な武装局員の人達を補助戦力に回せるだけマシだとしても、決してCOOLな作戦とは認め難く……。

 

 けれど仕方が無いのです。これは管理局の自業自得でもありますが、広大な次元世界における治安維持を担っているので人材は常に払底し、優秀であれば保護観察処分中のフェイトちゃんを更生活動がてら実行部隊に組み込んだり、現地協力者でしかない魔導師を主力に据える他無く、正直なところ数と質の暴力が出来ない組織なんて規模縮小&再編すべきなのでは? はい、余計な思考はカット/カットですね。

 

「けっ……。あんだけボコったのに、また戦場に出て来たのかよ?」

 

 おっと。唐突にヴィータさんから舌戦を吹っ掛けられました。つまり今が前哨戦で、戦意十分という覚悟の表れなのかもしれません。そもそも、一度勝っている相手から降伏勧告されても鼻で笑うような気風が感じ取れるので、此処は素直に応じます。

 

「ええ。奮闘空しく、一対三で負けた恥を(しの)んで参りました」

「あ? なら今回は一対一で潰してやっから、今の内に俳句でも考えとくんだな」

「…………ヴィータ。それを言うなら“辞世の句”だ」

「あんた、其処は聞き流してやりなよ……」

 

 ザフィーラさんとアルフさんの強烈な“ツッコミ”により舌戦が中断されたものの、半実体弾がハンマーで叩かれた事によって開戦のゴングが鳴りました。始まって早々、私とアルフさんは散開して距離を稼ぎます。流れ弾とか怖いですからね。当然の措置です。

 

「取り敢えず、最初は驚かそっか?」

[ All right.《 Axel shooter :Barrage 》 ]

 

 惜しみなくカートリッジを6発消費。《 Divine shooter 》よりも貫徹力が強化された魔力弾を24発生成し、追尾して来る半実体弾を迎撃しつつヴィータさんへと思考誘導します。幾つも撃ち落とされ、防がれたとしてもカートリッジを消費して次弾を生成。暫く、行動観察がてらエンドレスの予定です。

 

 尚、カートリッジの弾数に関しましては近距離戦を捨てた代わりに得られたバレルマガジンによって装填数は驚異の65発、そして予備弾倉が19個なので総弾数は1300発。(ちな)みに予備フレームも3組ほど積んでいるので、撃ち過ぎによるフレーム破損が発生しても大丈夫だったりします。

 

 強いて問題点を挙げるとすれば、過剰な火力ぐらいかと。うんうん。これが対人用で戦略兵器じゃないって(のたま)うのなら、管理局が認める本物の戦略兵器とは何なんでしょうね? 全く末恐ろしいですよ……。

 

 さて。

 

 並列思考は穏やかに。対して戦況は凄まじいのですが、思ったよりも苦戦しております。と言うのも、ヴィータさんが制限装置みたいな物を解除しているらしくて、高速回避機動での息切れとか魔力消費による疲労といった隙を一切出さないのです。最初の何発かは近接炸裂設定で魔力ダメージを与えられましたけど、全身を覆うバリア系の防御魔法を展開されてからは嫌がらせ程度にしかなっていません。

 

 なればこそ、強烈な魔力砲撃を。あの日に討ち勝てなかった僅かな後悔と、束の間の安寧に甘えていた幼稚性を吹き飛ばす、とても御機嫌(ハッピー)な祝砲を。嗚呼、聖なるかな。

 

「ディバイン」

[ 《 buster :Sanction 》 ]

 

 4秒足らずの初期チャージを終えた後、【レイジングハートVC】の先端に展開された魔法陣からは《 Divine buster 》が光の奔流となって溢れ出し、断続的なスライド開閉によりカートリッジが絶えず消費されます。そして抽出された純粋魔力と私の保有魔力が交ざり合い、新たな光に成るのです。

 

 途切れぬ照射。

 

 通常ならば、直線状を突き進むだけの砲撃で敵をなぞる。それは距離が開く程に凶悪さを増し、数百メートル先の敵がどれだけ逃げても手元で数センチ動かせば追い付けます。けれど、敵も()る者。堅固な防御魔法と乱数回避で耐えながら降下し、ビルの陰へと飛び込みました。

 

 流石に、封時結界の外側にあれども内在するビルを非殺傷設定の魔法で貫ける筈も無く、直射砲撃を中断して強化魔力弾による直撃狙いの追い込みと、天頂からの遠隔砲撃へシフトしようとしたところで巨大な魔力反応を感知。

 

「轟天爆砕!」

 

 威勢の良い声と共にビルを飛び越え、姿を見せたヴィータさんの手には打撃部位が何十倍にも巨大化したハンマーが握られており、おまけに柄を伸ばしながら此方へと振り下ろして来ました。いやー、古代ベルカの技術力って凄いですね。あの質量がスカスカになりそうな体積で、如何やって破壊力を稼いでいるのか疑問を抱いてしまいます。

 

「ギガント・シュラークっ!!!!」

[ 《 Flash move 》 ]

 

 しかしバインドで拘束されておらず、見た目的にも必殺技じみた攻撃なんて態々(わざわざ)受け止めたくはないので高速移動魔法を使って避けてしまったのですが……。時に、戦闘のプロフェッシュナルである『守護騎士』が無意味な攻撃なぞ繰り出すでしょうか? 答えは悩むまでもなくNOです。

 

 慣性のままに舗装路へ叩き付けられたハンマーが解除され、大量の魔力残滓になったせいで姿どころか魔力反応すらもロストし、その間隙(かんげき)を突くように外部から飛んで来た高魔力貫通弾が《 強装結界 》を破壊。その結果、戦力の合流を許してしまいました。

 

「苦戦しているようだな、ヴィータ。此処からは私が変わろう」

 

 緋色の騎士、シグナム。その傍らに居る翡翠の騎士は、恐らく“シャマル”。これで『守護騎士』が勢揃いした訳ですね。特に嬉しくは無いものの、強いて挙げるなら見えないもう一人を警戒するよりは気楽かなーと前向きに捉えております。

 

「邪魔すんなよシグナム。まだ負けた訳じゃねぇ!」

「大局を見ろ。これは決闘ではなく狩りだ。勝ったところで価値は無い」

「…………それもそうだな。この勝負は預けるぞ、高町ナントカ」

「や、“高町なのは”です」

「ふむ……。少々締まらぬが、仕切り直しと行こう」

 

 そして展開された《 Gefängnis der Magie (ゲフェングニス・デア・マギー)》、またの名を《 封鎖領域 》。魔導師の捕獲に特化したその檻は、先程まで《 強装結界 》の外側に居たフェイトちゃんやクロノさんだけでなく、結界の維持をしていた武装局員12名をも呑み込みました。おやおやおや、この流れは宜しくありません。

 

「ただ供物と成れ、管理局よ。我等の悲願を果たさんが為に」

 

 

 

~~

side:アルフ

 

「全く、あんたどれだけタフなんだい?! まるでターミ〇ーターじゃないか!」

「あの様な我楽多(ガラクタ)と、一緒にするなっ!!」

 

 主人を思う気持ちで負けるつもりは無いけれど、『使い魔』になってから3年少々の私が歴戦の戦闘経験者であるザフィーラを相手するのは分が悪い。初めからそれは覚悟していたし、最新のデバイス&「負けなければ良い」という言質をリンディ提督から貰っていたので何とか戦えてはいる。

 

 正確には、“手加減されているだけ”なんだろうけどねぇ……。

 

 オート・プロテクション機能を始めとした各種アシスト機能で補助されても、一打一蹴の全てが重く速く、どれだけ攻撃しようと怯まない鋼のような肉体と精神と技量を備えた相手と戦うなんて、高町兄姉を思い出して涙が浮かびそうになる。確かに強くなりたいと御願いしたけどさ……、人知を超えて武神へ至らんとするような凄まじい鍛錬や組手をやるなんて想定外だっての。

 

「圧し潰す!」

[ Jawohl (ヤヴォール)]

「痛っ~……。この筋肉ゴリラ! 詐欺狼!」

「口よりも先に、手足を動かせ小娘」

「その発言、そっちにも刺さっていると思うんだけど?」

「フッ……。貴様と違って、それだけ余裕が有る証左だ。問題は無い」

「なら、私の攻撃もノーガードで受けておくれよっ!」

[ 《 Impact rush 》 ]

 

 ともあれ、そんな格上とも言える相手に対して時間稼ぎが出来たところで、戦況は悪化の一途を辿りつつある。そりゃそうだ。フェイト達は別として、私と武装局員が足を引っ張っているのだから。

 

 ザフィーラは、私を相手する片手間に対象を貫いて拘束する攻性バインドや防御魔法で何度か支援しているし、シャマルという騎士が召喚した触手だらけの竜は強敵らしく、既に何人かの武装局員は戦闘不能。彼等を指揮しているクロノはシャマルを相手に手古摺(てこず)っている様で、あれじゃ援護は困難だろう。

 

 フェイトはヴィータと、“なのは”はシグナムと戦っていて忙しく、《 封鎖領域 》を破壊するにはAAA+ランク並みの高火力を叩き込まないといけないので、撤退も(まま)ならず。そうこうしている内に、一人二人と武装局員が落とされては魔力蒐集でリンカーコアが侵蝕される。

 

 どう仕様も無い。

 

 少なくとも私に状況を変えるだけの戦力は無いのだから、仲間を信じて耐えるのみ。フェイトでも“なのは”でも、クロノやリンディ提督でも良い。誰かが何とかしてくれる事を祈りつつ、この堅物野郎を引き付けるべく再び《 口撃 》を仕掛けるのだった。

 

 

 



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第39話:新たなる辰星と極光なの【後編】

人物紹介
【ヴィータ】ver.2.039
八神家の三女、または末っ子。『守護騎士』の中では二番目の実力者ではあるものの、身長的に次女の座をシャマルに奪われてしまった。“はやて”の手料理や、アイスクリーム等の甘味を好んで食べる姿はとても子供らしいが、戦闘になれば荒々しい勇士へと様変わりする。尚、戦闘スタイル的に“なのは”との相性は極めて悪い。

【ザフィーラ】ver.2.039
八神家のペット。一応、長男も兼ねているが「ワンコの方がええな」という“はやて”の要望に沿って主に狼形態で過ごしている。決して犬ではない。『守護獣』としては珍しく全身鎧型のアームドデバイスを使用しており、見た目は何処ぞの聖なる闘士を彷彿させる。原因としては、騎士甲冑を更新する際に“はやて”の邪念が混じったとか何とか。



side:なのは

 

「なかなかやるではないかっ! “高町なのは”!」

「御褒めに預かり、恐悦至極です」

 

 如何してこう……、私の敵になる人達は近接寄りなんでせうか? まともに戦った魔法使いはシグナムさんで4人目となりますけど、この偏向ぶりは将来に不安を覚えてしまいます。私はガンナーで、魔砲使いです。(しか)らば、やはり一番心が(おど)るのは弾幕戦な訳でして、こんな無限に伸びそうな連結刃を振り回す相手よりかは、適度に撃ち合ってくれるフェイトちゃんの方が好感度は高いです。

 

 まぁそもそも、敵は敵なので楽しんでいる暇はありませんよね。かと言って、サクッと勝てるような気軽な相手でもありませんが……。

 

「飛竜一閃!!」

[ 《 Distortion field 》 ]

「ほう……、この技を正面から逸らすとはな。それでこそ、倒し甲斐が有る」

「や、これは魔法が優秀なだけですので」

 

 次元巡航艦『アースラ』でも採用されている防御魔法《 Distortion shield 》の応用でして、魔力消費量が凄まじい代わりに強力な歪曲場を発生させ、あらゆる物理・魔法攻撃を逸らせるらしいのですが誘導弾に対して使ってもUターンされるだけで打ち消せませんし、大体の攻撃は一方向だけを防ぐウォール系の防御魔法やら回避や迎撃で何とかなりますから、正直それでは何ともならない魔力変換資質による炎熱効果付与+広域高速斬撃をしてくる方がヤバイと思います。

 

「抜かせ。此処まで戦える魔導師なぞ、そうそう居らんよ。その実力は誇るべきだ」

「如何致しまして。ところで……、これって勝負だったりしますか?」

「さて、何の事やら? 狩りとは何も、冷酷に仕留めることが全てではない」

「ソーデスネ。Soかもしれません」

 

 彼等の目的は魔力蒐集ですから、蒐集済みの私は邪魔者でしかなく足止めが必要。だから狩る必要は無い……。なるほど、理に適った行動です。

 

「しかし、遊びと思われるのも心外ではある。……故に、奥の手を見せてやろう」

 

 そう宣言するや否や、シグナムさんはカートリッジ・ロードして剣の握りと鞘を近付けると古代ベルカ式不思議機構が発動して融合し、鞘が剣へと変わって両頭片刃剣になりました。両頭両刃剣ならメーネという武器が地球にも有りますけど、それに似ていますね。剣が二倍。何故か剣身の長さも二倍。おまけに、連結刃となって伸びたりする事も想定すれば脅威も二倍。ならば私も幾つか、切り札を使わねばなりますまい。

 

「A.C.S起動」

[ All right.Advanced-Crossover-System,ignition! ]

 

 デバイス側に思考を読み取ってもらうのではなく、思考を共有する。そんな人機一体とも言えるシステムの起動と、余剰魔力の塊である羽と光輪からの供給量を増やしてみましたが、やはり前者の方は慣れませんね……。でもこの戦いで、会得したいと思います。

 

 

~~

side:フェイト

 

 怒りが有った。怨みが有った。“なのは”を墜とした挙句に苦しめた『守護騎士』の全てが憎かった。――――でも、そんな余計な重みを背負ったままで戦える程、このプログラム共は弱くなかった。その現実もまた、苛立ちへと拍車を掛ける。

 

「おらっ、さっさと潰れろ!!」

「そっちこそ、直ぐにバラしてあげる!」

[ 《 Raketen hammer (ラケーテン・ハンマー)》 ]

[ 《 Halberd crusher (ハルベルト・クラッシャー)》 ]

 

 互いの攻撃部位であるヘッドを避けつつデバイスを振るい、その結果として柄と柄がぶつかって組み合う。行動を読まれているというよりも、近接戦ではよくある事だ。これが剣同士なら鍔迫(つばぜ)り合いをしている様なもの。そして此処は空中であるが故に、足場なんて関係無い。

 

 わざと体勢を崩し、地上へ押し込みたくなるように誘導する。敵がそう意気込んだところで慣性制御魔法を併用し、ハルベルト形態の長柄でハンマーの柄を滑らせながら真下に投げ出してやった。

 

 僅かな秒数と、距離を稼ぐ。

 

 敵は、直ぐに前転する事で此方へと向きを変えたがもう遅い。速度が打ち消されたその瞬間を狙って、砲撃魔法を発動させる。

 

「撃ち抜け!!」

[ 《 Plasma Smasher 》 ]

 

 着弾は一瞬。魔力残滓が白煙となって拡散するも、油断せずに高度を上げる。直撃にせよ防がれたにせよ、高がAAA+ランクの魔導師で狩れるような相手なら、【闇の書】なんて第一級捜索指定遺失物として認定される筈がない。仮にも“なのは”を相手に戦えているような敵が、これしきの攻撃でくたばるなんて有り得ないのだ。

 

「おいおい、帽子が焼けちまったじゃねーか……。てめー、死んで詫びろよ」

「死ぬのは御前だ、不良品。狂い果てて爆散するが良い」

[ 《 Tiefroter fliegen (ティーフォーター・フリーゲン)》 ]

[ Gale-fome , set up ]

 

 カートリッジ・ロード。敵の機動性が増して多少の変則機動が出来るようになったようだが、それが如何した? 慣性制御魔法で速度を維持しながら直角に上昇したり、バレルロールしながら背後を向いて射撃する“なのは”と比較するまでもない。恐れるな……。速さだけなら、私の方が優位に立てる。

 

 

 

 試製電磁カートリッジ最大出力。

 身体強化完了。余剰演算領域確保。

 【バルディッシュ】の形状をトライデントに更新。

 《 Brast raid :Tempest 》を選択。

 ネガトロン・カタパルト生成。

 断続加速跳躍、開始。

 

 

 

 それから先の攻防は、一方的なものだった。私が空中を跳ねるように加速しながら切り付け、敵が防ぐ。何度も何度も切り込んで、防御魔法を破ってからは騎士甲冑を切り割き、そして薄っぺらい肌色のテクスチャーすらも傷付けていく。

 

 ほら、やっぱり人じゃない。非殺傷設定でも簡単に傷付き、血が流れず、肉も無い。その身に詰まっているのは、魔力と古代ベルカ時代の神秘だけだ。壊してやる。御前のような、“なのは”を襲う不良品なんて解体して潰して焼き捨ててやる。壊れろ、壊れろ、壊れろっ! この、■■■■■がっ!!

 

「えっ……?」

「てめー、迷ったな? そーゆーのは命取りになるぜ?」

「ぅ…………、はな…せ……」

「蒐集開始」

「ぐっ……ああっ……!」

 

 私は何を、戸惑ってしまったのだろうか……? 思考が纏まらない。直前の事なのに思い出せない。それはきっと、この胸を貫く細腕のせいなのだろう。私のリンカーコアから魔力が吸い上げられ、どんどん弱まっていくのを感じ取れる。

 

 ごめんね、“なのは”。

 

 貴女は私を助けてくれたのに、私は貴女の助けになるどころかまた邪魔になってしまうなんて……。だからせめてもの償いとして、此奴は道連れにするから…………。

 

「フォトン、……バースト」

[ OK,Boss ]

「は? マジかよっ?!」

 

 ほんとうに、ごめんなさい。

 

 

~~

side:なのは

 

 優勢とは断言できなくとも、将棋のように一手一手と王手に向かって近付いている。シグナムさんを手負いにさえすれば、『守護騎士』は退いてくれる筈。……そう思っていましたが、如何やら悠長な考えだったようです。

 

 フェイトちゃんの魔力反応が消失しました。続いて、動揺したアルフさんが視界内で落とされました。クロノさんは疲労困憊で、残っている武装局員はたった二人のみ。何時も遅い、間に合わない、そのくせ後悔する。またしても繰り返してしまう。信頼は甘えなんでしょうか? 余力を残して、不慮の事態に備えておく事は手抜きなんでしょうか? それとも戦況を読めない私が悪い……?

 

 いいえ、敵が悪いのです。悪が卑劣なのです。敵さえ居なければ、誰も戦わず傷付くことはありません。だからこそ、今直ぐ消えて欲しいと願っております。

 

[ 《 Sacred punisher (セイクリッド・パニッシャー)》 ]

 

 聖罰あれかし。【レイジングハート】が其の意思に沿うべく、即座に魔法を組み上げ発動しました。敵性存在5体を捕捉した後、対象の周囲だけに光の砲弾を全自動&無制限に天頂方面から降らし続ける。そんな殲滅魔法です。無論、魔力が尽きれば終わる筈ですけど、不思議なことに尽きる気がしません。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 30秒経過、1分経過、2分経過。

 

 

 

 デカい標的だった召喚竜を消滅させ、味方の元へ行かないように敵の進路を誘導し、時折飛んで来る鉄球やら弓矢みたいな魔力弾を防いだり落としたり等々。短い根競べの末、不利だと悟ったのでしょう。徐々に遠ざかり、撤退して行きました。

 

[ Flame purge. ……Refit complete ]

「御疲れ様、【レイジングハート】」

[ Don't worry. My master ]

 

 いや……、正確には見逃して貰ったのかもしれません。フェイトちゃんはヴィータさんに、アルフさんはザフィーラさんに落とされて戦力外でしたし、クロノさんは武装局員のカバーもしてて撃墜寸前でしたから、私の方に敵意が向いていなければクロノさんも魔力蒐集されていた可能性が有りました。

 

 ええ、はい。

 

 戦っている側で魔力蒐集していたんですよ、【闇の書】が。あの本型デバイス、自律稼働して気絶中の武装局員とかアルフさんから魔力を吸い上げてて、フェイトちゃんは……如何なんでしょうか? 戦闘中は分かりませんでしたが、【レイジングハート】の映像記録を見る限り、蒐集し終わる前にフェイトちゃんの自爆で中断された様にも見えます。

 

 因みにフェイトちゃん含む負傷者の皆様は、一足先に『アースラ』へ転送されました。《 封鎖領域 》さえ無ければ、そういった手厚いサポートをしてくれるんですけどねー。まぁ、不思議なことに結界系は便利過ぎるので、色々と難しいのかもしれませぬ。

 

 ところで、そろそろ転送ポートって空きます……?

 

 12月の寒空にポツンと浮かんでいるなんて、まるで物憂げなヒロインの如しですよ。こんな右目が疼きそうな事よりも、お見舞いとデブリーフィングと宿題をしたいのですが……。(ついで)に、シャワーを浴びて夜食も追加で。それから、御兄ちゃんと御姉ちゃんにも質問をしなくては。

 

 シグナムさんの剣筋、御兄ちゃん達が真似しただけとは思うのですが、何となく似ていました。それはつまり何処かで見た事がある訳でして、御兄ちゃんの女性遍歴から察するに知り合いなのかなと憶測する次第。

 

 

 

 まぁ、もう半ば確信していますけどね。御兄ちゃんの事ですし。

 

 

 

[> 待たせて御免ね、“なのは”ちゃん。転送ポート空いたよ! <]

[> 了解です。今、戻ります <]

 

 エイミィさんからの通信を切り、転移魔法を発動。取り敢えず、今日は短時間で様々なことが有りましたから、答え合わせは明日のイベントに取って置きます。それよりも、フェイトちゃんの容態が気になるところ……。嗚呼、今更ながら不安になって参りました。早く会いに行きませう。

 

 

 



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第40話:収束派生のジャンクション

人物紹介
【シャマル】ver.2.040
八神家の次女。後方支援担当だが、前線でも短距離転移やら魔力で編み出した糸を使って戦闘するなど、殴れるサポーターとして卒が無い。強いて欠点を挙げるなら、レシピ無しで作った料理が不味くなる程度。基本的に“はやて”の補助と護衛をしており、戦場に出て来ることは稀である。



side:なのは

 

「御兄ちゃんに質問です。シグナムさんって、知り合いなの?」

「互いに刃を交わした仲だが……。()しや、今回の敵はそうだったりするのか?」

「イエス、ドンピシャ」

 

 あの激戦から一夜明け、今朝になってから御兄ちゃんへ気掛かりだった質問をしてみましたが、やはり当たっていました。

 

 剣を連結刃として伸ばす前の――所謂、通常形態で何度か切られ掛けた際に剣筋が似ているなと思っていたものの、よもやよもや。……まぁ、今回の事件は【ジュエルシード】の時とは違い、御兄ちゃん達に手伝って貰うことは少なさそうだなーと情報共有を(おこた)っていたので、判明しただけでも吉としませう。

 

「彼女と出会ったのは7月末頃、臨海公園でやっていたチャンバラ大会での事だ」

「ふむふむ」

「その時は浴衣で、後日に手合わせをした時はトレーニングウェアだった」

「という事は、つまり?」

「案外、海鳴市周辺に拠点が有るかもしれないな」

 

 普通なら、そこまで都合が良い事なんて重なりはしませんけど……。此処まで来ると有り得そうなのが怖いですね。

 

「ところで、如何して“なのは”はシグナムと戦う事になったんだ?」

「えーと……。成り行きだけれども、世界を守るために……かな?」

 

 【闇の書】が完成すれば、壊れた『防衛機能』が本格的に稼働してあらゆる脅威対象を排除し、惑星すらも魔力に変換して取り込んでしまうとかとか。因みに、その惑星に住まう生命体も例外ではありません。いやはや、使用者に依存しない自律性が高い人工物ってロマンの塊ですが、こういうSF的にありがちな暴走とか考えなかったのでしょうか?

 

 壊れたにせよ、何者かの改悪にせよ、人手に負えないヤバい物を作るのは控えて欲しいところです。……いえ、だからこそ挑み甲斐が有るのかもしれませんね。ギークでルナティックな、自制無き探求者にとっては。

 

「よく分からんが理解した。それと、シグナム以外にも敵は居るのか? 画像や写真が有るなら、(ついで)に探しておくぞ?」

「じゃあ、メールで画像を送信するので宜しく御願いします」

「うむ。微力を尽くそう」

 

 そう言うと御兄ちゃんは、鍛錬で掻いた汗を流すべく風呂場へ去って行きました。尚、一日の大半を家業である『翠屋』の手伝いやら鍛錬に費やせる御兄ちゃんとは違い、義務教育が課せられている私はこれから学校です。

 

 漫画やアニメの主人公ではありますが、学業と魔法少女としてのアレコレを何とか両立していた“さくら”ちゃんや“どれみ”ちゃんは、御都合主義を除いても凄いなーと感じます。あれをリアルに、時として血塗れになったり苦痛を堪えてえんやこら。んー、私だけ難易度が高くないですか?

 

 異世界召喚させられたのに救助対象がラスボスへと変貌したり、最終兵器に魔改造されて戦う運命を定められるパターンよりは良いんでしょうけど……。それでも、元一般人としては荷が重いと感じます。

 

「“なのは”ちゃん。これ、今日の弁当やで」

「有り難う、レンちゃん。ところで晶ちゃんは?」

「あの猿ぅなら、サッカーの朝練とかで今日は手伝っておらへんよ」

「合点です」

 

 日々は過ぎ行く。されど平穏では(あら)ず。しかし手掛かりは得ましたし、御兄ちゃんが動いてくれるのなら、案外早く見つかるかもしれませぬ。ただ見つけて倒せたところで、【闇の書】とか『管制人格』なる最後の騎士(?)に対してどの様に対処するのか、まだ素案すら聞いてないのでしてー。

 

 取り敢えず、エイミィさんに報告がてら尋ねてみなくては……。ええ、それが良いですとも。多分きっと。

 

 

 

~~

side:恭也

 

 以前、【ジュエルシード】という危険物を巡る事件では助力する事が出来た。そもそも幼い“なのは”に戦って欲しくは無いが、これも不破の血に連なる宿命なのかもしれないな……。

 

 妄想はさて置き、またしても事件に巻き込まれてしまった妹に対し、何か手伝えないかと悩んではいた。近距離戦の指南などではなく、事件解決を早められるような手伝いをしたいと願っていたものの、まさか知り合いが敵の一味とは思わなんだ。理由は如何あれ、優先すべきは家族の安全と幸福である。此処はさくっと見つけて、妹の日常回帰に貢献したいところだが……。さて、何処から探す?

 

 先程まで管理局のエイミィさんと話し合った結果、サーチャーや魔導師の反応が察知されては不味いので、魔力を持たない局員達で海鳴市周辺を捜索するらしいが、あまりにも非効率的だ。かと言ってシグナムとは連絡先を交換しておらず、約束をした時以外で見掛けた事が無いという点から自分や美由希、“なのは”の行動圏内に被らない範囲を挙げたところでキリが無い。

 

 一応、【闇の書】の所有者が人間という事で、誰かしらの護衛付きで行動している=利用者が多いデパートや商店街、若しくは公園やゲームセンター等を探せば見つかると踏んでいるが、最終的には運任せになるだろう。

 

「そうだな……」

 

1:人通りの激しさなら、海鳴駅周辺

2:たまには、病院へと行ってみる

3:普段行かない場所と言えば、やはり図書館

4:何となく隣町で探す

 

「……2にしておくか」

 

 最後に病院を訪れ、整体を受けたのは『香港国際警防部隊』と訓練をした8月以来だ。更に、何処を探しても見つかる可能性が低いと言える現状なら、実益を兼ねつつ探した方が御得感は有る。そういう訳で――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――実にあっさりと、病院のエントランスホールで見つけてしまった。……奇遇だ。そして運命的でもある。相手はシャマルという見知らぬ敵で、驚いた事にレンとよく似た顔立ちの少女を車椅子に乗せて運んでいた。世の中、顔が似ている人物が2人や3人は居るらしいが、意外と居るものなんだな。身近な例で言えば、フィアッセとリンディ提督がそうだった。

 

 しかし発見したところで、見送るのが精々だ。

 

 何せ、見つかれば御の字程度で探していた為、無策かつ無防備。追跡しても良いが、魔法という未知の手段を持つ相手にぶっつけ本番で試したくはない。捕まれば拷問や洗脳、または交換条件を引き出すための捕虜として使われる可能性を考慮すれば、これ以上の欲を出さずとも成果は得ている。故にこそ、此処は素直に諦めるのが吉と言えよう。

 

 そう判断を下し、待合室で待つこと10分。担当医であるフィリスが施術室へと戻って来た。最近、任される仕事が増えたのだろうか? 少しばかり疲労感が(うかが)える。

 

「Hi、恭也。久し振りだね。今日は独りなの?」

「久し振りだな、フィリス。美由希は、大学の講義が有るから置いて来てしまった」

「それじゃ今日は、時間を掛けて念入りに調整しよっか♪」

 

 誰なんだろうな、あの時に2番目の選択肢を選んだ奴は……。痛みには慣れているが、骨や関節の歪みを直す激痛に関しては別枠だ。アレだけは何度やっても慣れそうにない。

 

「……御手柔らかに頼む」

 

 施術後。美由希の予定を電話で聞き出し、スペシャル整体コースで予約してやったのは完全なる余談である。

 

 

 

~~

side:なのは

 

「例の件だが、病院で目撃したぞ」

「もっとkwsk(くわしく)

「シャマルらしき人物と、車椅子に乗った茶髪のレンみたいな女の子を見掛けた」

「…………御兄ちゃん、女性絡みだと何時も凄いね?」

「……不思議な事に、男性絡みが少ないだけだと主張しておく」

 

 学校から帰宅すると、居間で待ち構えていた御兄ちゃんから報告を受けましたが、先にエイミィさんの方から御兄ちゃんの成果を聞いているんですよね。一応、本人からも聞いた方が伝言ゲームのような齟齬(そご)は発生しませんけど。

 

「他に、何か手伝える事は有るか?」

「うーん……。アルフさんを鍛えるぐらい……かな?」

 

 手足を出しても有効打にならず、終始劣勢で落とされたのが悔しかったらしく、《 変身魔法 》による『大人フォーム』を極めるしかないと意気込んでおりました。如何やら、その魔法は等身を伸ばして大人になったり、逆に縮めて子供になったりと出来るようで、普段はフェイトちゃんから供給される魔力を節約する為に小さくなっていたのだとか。

 

 道理で、フェイトちゃんの保有魔力量が少ない訳ですよ。常に2割だか3割の魔力をアルフさん用に取っているのですから、バリアジャケットの防御力や射撃魔法をケチらないと直ぐに魔力が尽きてしまいます。けれども今は、カートリッジ・システムが有ります故……。色々と見直してみるそうです。

 

 尚、フェイトちゃん。本人でも覚えていないトラウマが発動した挙句、動きが鈍ったところをハートキャッチされたらしく、それを修正するために少々“御話し”を行いました。

 

 と言っても、只の精神論ですよ? 『戦闘時に勝つ方法以外を考えない』とか、『誰かの笑顔を守るために戦うべし』とか、『何なら祈ってどうぞ』等々。因みに私が祈るのは、戦場の女神とも言われる砲兵部隊や爆撃機部隊の擬神化存在です。またの名を火力信仰とも言います。

 

「それなら任せろ。御神の剣士でなくとも、《 神速 》を使えるぐらいには鍛えるつもりだ」

 

 私はそれを聞いて、アルフさんの遠い将来を思いながら心の中で十字を切りました。肉体のリミッターを外しても壊れない身体を作り、剣林弾雨すらも(くぐ)り抜けるための動体視力と判断力を神経に焼き付ける。――其処までやって初めて使えるらしいので、道は果てしなく険しいと思われます。どうか、彼女に武運のあらんことを。

 

 

 

 After that.(それから)

 

 

 

 宿題をきっちりと終わらせてから夕食や御風呂が済めば、自室にて日課となりつつある魔力操作を行います。平時なら気分でやったりやらなかったりですけど、今は戦時ですからね。やりたいゲームとか、読みたい本が積もって行きますが仕方無し。

 

 半日足らずで余剰魔力が再充填された羽と光輪を顕現させ、自分の内側へと埋没しつつも外側への干渉も開始します。理想は息をするかの如く、無意識下のコントロールです。前回の戦闘では、脳内分泌物の御蔭で何となく使えていたんですよ。ベルカ風に言えば《 騎士殺しの風 (ヴィン・デス・リタートゥーエンス)》、ミッド風に言えば《 Anti Magi-link Field 》の上位互換みたいな魔法を。

 

 【レイジングハート】曰く、この未知なる魔法には一切関与していないとの事で、感覚を思い出しながら試行錯誤を重ねるしかありません。結構、魔法は科学的に解明・制御されているのかと思っていたんですけどねー。やはり神秘は神秘。奥が深いです。

 

(ささや)き、祈り、詠唱、念じろ……」

 

 桜吹雪に流星群。集めて早し、魔力流。巡り巡りて、天をも(めぐ)らさん――――

 

 

 

~~

side:クロノ

 

 高町の姓を冠する人物は、何かしら恵まれているのだろうか? そう思えてしまうくらいには色々と凄まじい。“なのは”の保有魔力量は言うまでもなく、魔力蒐集されて寝込んでいたフェイトとアルフに余剰魔力を流し込んで勘による《 炉心干渉 》とやらで即退院させ、同じく衰弱なり疲弊していた武装局員24名も現場復帰させた。

 

 尤も、現場と言っても『ミッドチルダ地上本部』での勤務なんだがな……。

 

 昨日の戦闘では、召喚されたAA+ランク程度の竜に苦戦し、高ランク魔導師を含む多人数戦闘であることを差し引いても撃墜数が多過ぎた。要するに彼等では、最早着いて来れない領域なのだ。その為、少数精鋭へと方針が変更され、地上本部に頭を下げて派遣して貰った高ランク魔導師と引き換えに、半年ほど地上勤務を頑張って頂くことになったのだった。

 

 そもそもの話、管理局ですらAAAランク以上の魔導師なんて全体の5%ぐらいしか居らず、Aランクでも優秀と言われるのに全員が推定AAAランク以上で構成された『守護騎士』が可笑しいのである。

 

 ……可笑しいと言えば、“なのは”の兄にあたる恭也さんも同様だ。偶然、事件前にシグナムと知り合って、今度はシャマルと【闇の書】の主であろう少女も捜索開始から1時間少々で見付けている。他にも、身体能力と歩法による瞬間移動や、師匠のリーゼロッテすら敵わないと感じてしまう程の近接戦闘能力も備えているなど、訳が分からない。

 

「クロノ執務官。貴殿は、現場へ出て何年目になる?」

「今年で3年目になります」

「なるほど……。宇宙(うみ)の方も、人材不足が深刻なのだな……」

「耳が痛い話です」

「気にしなくて良い。困った時は御互い様だ」

 

 そんな彼等に対して、地上本部から派遣された“ゼスト・グランガイツ”一等陸尉は常識的で、叩き上げの空戦S+ランクという事もあり親近感が抱ける。(たゆ)まず努力すれば、届くかもしれない。そう思わせてくれる頼もしさが、“なのは”やフェイトから感じられる才気によって崩れかけた自尊心を癒してくれた。

 

「それにしても、『駆除作戦』と被るとは運が悪い」

「仕方ありません。アレは、全力で当たらねば危険ですから」

 

 ゼスト一尉が、地上のエースとして名が上がるように、宇宙(うみ)こと次元航空部隊にもエースが何人かは居る。だが残念な事に今回は、とある次元世界で【蟲】の大群が出現したらしく出払っているとの事。てか、何なんだあの【蟲】は……。単独で次元航行して、重力圏内でも飛行可能、おまけに高出力粒子砲も撃てる攻撃的な大型生物とか直ちに絶滅して欲しい。ただ歌って回遊するだけの美しい【銀河クジラ】を見(なら)え。

 

「だが、此方も重要だ。放っておけば、何時かは『ミッドチルダ』も食われかねん」

「同感です」

「…………本当に、時間稼ぎは2人だけで行うつもりなのか?」

「本命は『管制人格』が取り込まれた後ですから、多少厳しくても余力は残した方が宜しいかと」

歯痒(はがゆ)いな……。幾ら強くても、幼い現地協力者に負担を強いるとは……」

「はい。なので今回限りで、終わらせたいと思います」

 

 その為の戦術デバイスや、戦略魔導砲《 アルカンシェル 》搭載艦も2隻用意した。1隻はリンディ提督が乗艦する『アースラ』。もう1隻は、11年前の【闇の書】事件でも関わっていたグレアム提督が乗艦する同型艦『ケストレル』。そしてグレアム提督の使い魔であり、僕の師匠でもあるリーゼ姉妹も遺憾(いかん)ながら付いて来た。

 

 あとは……、決定打とは言えないがユーノも参加する予定だ。今の前線メンバーは攻撃面に特化しているので、彼には支援要員としての活躍が期待されている。一応、リンディ提督も支援魔法を得意とするが、今回は多段階作戦を統制すべく前線メンバーには含まれていない。まぁむしろ、ジュエルシードの際に前線で陣頭指揮を執っていた状況が異例なのだから、戦力として数えないのが基本である。

 

 

 

 さて。

 

 

 

 やれるだけの準備はやれたと思う。惜しむらくは、恭也さんが見掛けたシャマルや【闇の書】の主らしき少女を非魔法探索で再発見できなかった事ぐらいだが、【闇の書】が暴走状態に入れば何処だろうと探知できる。

 

 其処から先は、【闇の書】が本格的に稼働するまで時間を稼ぎ、『管制人格』が取り込まれた後に出現する【止まらぬ破壊機構(アンストッパブル・ディスラプター)】の体積を短期決戦で削り、凍結魔法による封印が成功した場合は管理施設へ移送する。出来るのなら、【闇の書】の主を保護したいものの……。これまでの主は例外なく取り込まれている為、恐らくそれは叶うまい。

 

 ともあれ最善を尽くそう。それが、父さんへの弔いにも()るだろうから。

 

 

 



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第41話:薄氷の上より、深淵を望む。

人物紹介
『クライド・ハラオウン』ver.2.041
リンディ提督の夫で、“クロノ・ハラオウン”の父親。11年前、次元巡航艦による【闇の書】移送任務中に封印が解けた結果、【闇の書】が再暴走を開始。物理的なハッキングにより、艦船のコントロール権が奪われると判断した為に乗組員は即時退艦させ、自らは残り射撃管制システムへの侵蝕を防いでいた。最後はグレアム提督に懇願し、戦略魔導砲《 アルカンシェル 》の一撃にて【闇の書】と共に消滅、帰らぬ人となった。



side:アリサ

 

 “なのは”の交友範囲は深くて狭い。それは2年間の付き合いで分かっていたし、私や“すずか”が他の子と仲良くなる事は有っても、“なのは”が学友の誰かと親しげに話す光景なんて見た事が無かった。

 

 だから、親戚にあたる“高町フェイト”なる転校生と仲が良いのは意外だったけど、これは喜ばしい変化である。……そう思いたいのに、「こいつは爪と牙を隠しているがライバルだ」等と直感が訴えており、フェイトへの敵愾心(てきがいしん)が拭えずにいる。色味が少し違うだけで、私と同様の長い金髪。私には無い“なのは”との秘密の接点。そして何より、目と目だけで以心伝心しているのが解せぬ。

 

 特に昼食時が顕著で、私や“すずか”が“なのは”と話している最中、相槌を打つべきではない箇所で無意識に首を揺らしたり傾げる動作が度々見られ、その時の目線が少しばかり“なのは”の方へと流れているのだ。“なのは”も、それに応じるかの様な動作をする事から通じてはいるらしい。

 

 若しかして、テレパシー少女なのだろうか?

 

 忍者も居れば、退魔師も居る浮世である為、超能力者が実在したところで不思議ではないけれども……。そんな不思議ちゃんと、一体何処でエンカウントしたのやら。やはり、左手を怪我した頃なのかなと予想してみるが、其処まで至る経緯がさっぱり思い付かない。

 

 てか、また最近休んでいたけどまさか…………ねぇ?

 

 よくある一期では敵で、二期になって味方として強敵に協同対処するようなハリウッド的胸熱ロマンなんて、早々起こり得ないからフィクションなのだ。それと誰よりも平穏や調和を愛する“なのは”に、陰謀だの邪悪への戦いに身を投じるような転機が有るなら、もう少し活発だったり強気な性格になっていそうなものだが、振れ幅こそあれ変化としての成長は見受けられない……ような気がする。

 

「そう言えば“なのは”、今年のクリスマスも御店を手伝うの?」

 

 12月24日はクリスマスケーキの売れ時だ。そして“なのは”の御母さんは喫茶店『翠屋』の店長()つ、デザート作りを得意とする。要するに繫忙期で、去年から“なのは”が手伝っている事情も有って、クリスマスパーティーを共にしたのは一昨年のみである。

 

 子供なのだから、別に働かなくても良いはずなのに何と親孝行な。それはそれとして、私達にも優しくして欲しい。

 

「そーしたいんだけどね~……。今回は別件があるから、多分無理かと」

「りょーかい。フェイトは如何過ごすの?」

「……私も、別件が有るから忙しいと思う」

「はいぃ?」

 

 思わず、警視庁特命係の警部補みたいな声が出た。それはつまり、“なのは”とフェイトが共に別件をするために聖夜を過ごすという訳で、二人で秘密の共同作業を……?

 

「あ、ごめんね勿体振って。単なる雪中行進だよ?」

「ねぇ、待って。小3がやるべき内容ではないと思うんだけどッ!!」

 

 アグレッシブにも程がある。思い直せ。リメンバー・八甲田山。――されど、説得はのらりくらりと(かわ)されて昼休みが終わってしまった。きっと恐らく、天体観測をするための登山で保護者同伴だとは予想するけれども、大丈夫なのだろうか? 平穏無事に、五体満足での帰還を祈るばかりである。

 

 

 

~~

side:すずか

 

 親友は一人だけとは決まっていないし、その中での一番は移ろうモノ。それは当然で仕方が無いことだ。……そう割り切りたいのに、心が苦しい。

 

 趣味の合う友達ができた。

 私よりも、可哀想で寂しい境遇の子。

 物怖じしない良い子だと思う。

 頼ってくれて、とても嬉しく感じる。

 私だけを見てくれる。

 彼女が、私の親友になってくれたら喜ばしい。

 

 見事なまでに、とても不純である。これじゃまるで、捨て猫を愛するかの様ではないか。あの子は、“はやて”ちゃんは庇護されるほど弱々しい存在ではないにも(かかわ)らず、何かしてあげたいと思ってしまう。

 

 この感情は多分、普段から何かをして貰っている側だからこその反動なのかな……? 家ではメイドのファリンが色々と手伝ってくれるし、学校では“なのは”ちゃんやアリサちゃんが主導して引っ張ってくれる。なら、本人へ恩返しすれば良いのだけれど、渡した分以上にまた貰っているように感じて積もるばかりだった。

 

 

 

 そんな時に出会ったのが、車椅子に乗った“はやて”ちゃんである。

 

 

 

 度々利用している町立図書館で見掛けて、高所の本が取れなかった所を見かねて手助けしたのがファースト・コンタクト。正確には、話しかける切っ掛けとして「これ幸い」と思いながら近寄り、目的を果たしたとも言える。過程はともかく、結果的には打算的な行動。けど、叶わぬ願いよりもずっと良い。少しばかりの後ろめたさは、時が経てばすっかりと飲み干せてしまう。

 

 書物によれば、背徳感とはそういうモノ……らしい。

 

 (しか)しながら、想定外の変化が1つだけ有った。同好の士という関係性は非常に心地好く、揺らいでしまったのだ。別に“なのは”ちゃんは気にしないだろうし、“なのは”ちゃんの方が先にフェイトちゃんという新しい子と仲良くしている為、交友範囲を広げたところで負い目を感じる必要はない。

 

 …………ちょっと、違うかな?

 

 この感情を肯定したい訳ではなかった。目を逸らしているだけの、もっと単純な事。――例えば三人組なら、二人が話している時でも交互に待てる。でも四人なら、何だかんだで二人ずつに分かれてしまう。ベンチに座る時だって、端同士が話し合うのも難しい。四角形のありふれたテーブル席なら、対角線上だと遠過ぎる。

 

 貴女が居なければ、“なのは”ちゃんの隣はアリサちゃんと私だけで平穏だったのに。“はやて”ちゃんとの交友が、逃避的妥協なのではと悩みもしなかった筈なのに……。

 

 嗚呼、悪魔が(さえず)る。私達が想い合った3年間に割り込んできた貴女は、一体何を為したのか? あんなに甘えて許されて、羨ましくも恨めしい。しかし邪険な対応をする程、幼稚ではありません。それにフェイトちゃんも、私の友達になってくれる可能性が有るのだから、良い所を探した方が有意義な気がします。

 

「あの、フェイトちゃん。猫ちゃんは……好き?」

「……好きですけど、悲しくなるので見たくないです」

「そうなんだ……。ごめんね……」

「でも、ウルフドッグなら飼っています」

「それって珍しい犬種じゃないの! あんた写真持ってる!?」

 

 唐突に、愛犬家のアリサちゃんから横槍が入り、射角45度でシリアスさんは吹き飛びました。錐揉(きりも)み回転、スピンスピンスピン。あれは致命傷ですね。因果の交差路でまた会いましょう。

 

 

 

 ふぅ…………。

 

 

 

 少し冷静になれました。よくよく考えてみれば、友達グループなんて4人や5人以上も珍しくないですし、これぐらいは我慢して慣れるべきなのでしょう。何せ、このグループは“なのは”ちゃんが中心なんですから、“なのは”ちゃんが望むのならそうでなくては。それに、一番という発想が間違っているのです。“なのは”ちゃんは特別。“はやて”ちゃんも特別。これらの特別は量子力学的に両立し得るため、悩む必要なんてありません。

 

 勿論、アリサちゃんも特別ですよ? 『腐れ縁で、生活水準が近しい理解者』としてですけれども、特別に特別となっております。だってアリサちゃんは犬派で、本来ならば猫派の私とは相容れぬ関係故に、特別な特別という訳です。

 

 

 

~~

side:はやて

 

「何やこれ? ラブコメ染みた波動……でええんやろか?」

 

 冬の寒気による錯覚か、それとも魔法に馴染んできた影響なのか。謎の電波みたいな物を受信してもうたけど、未だに念話すら使えへん身としては判断しかねますNA。そんな事より、明後日はクリスマス・イヴ。うちの子達にとっては初めての冬やから、献立は豪華にしたいところ。

 

 ケーキは注文した。丸焼きハーブチキンも、3羽分を調理する体力&時間が無いので泣く泣く注文した。むむむ……。鍋は最近やったので除外するとして、シチューだと簡単過ぎる。宜しい、ほんならポットパイや。そんでバゲットサンドと、何となく飲みたいのでカボチャスープも追加やな。あとは、サラダの盛り合わせとかフライドポテトも添えるさかいに、多分腹は満ちる筈。

 

 

 

 (もっと)も、一緒に食べれるかは未知数やけども……。

 

 

 

 あれはよく冷える日の夕刻。鍋パしとうなって準備したんよ。具材を切るだけじゃ手抜き過ぎやから、水と昆布と醤油と味醂(みりん)だの愛情だのをブレンドしたスープも作ったのに、シグナム達の帰りが自棄(やけ)に遅い。せやから携帯電話を持っとるシャマルに電話を掛けたのに、圏外or電源切れを告げる自動音声が流れるのみで音信不通。「何が、鍋パーティーじゃあい!」とまでは行かずとも“すずか”ちゃんに愚痴電しとったら御屋敷に招いてくれて、何だかんだで楽しく温かい一時やったなぁ……。がっ、それはそれ。

 

 別に家族だろうと隠し事や自由行動は構わへんけど、首を長~~~~くして待っとる身にもなって欲しい。(こじ)らせたら落ちるで? うちの心が暗黒面(ダークサイド)に。

 

「あー、そや。【闇の書】はん、残りどんくらいになっとるん?」

 

 魔導書なのに、ちょくちょく転移しては帰って来る奇行が気になって管理者権限(仮)で各種ファイルだの行動履歴をちょいちょい確認しとったら、気付いてしもうたんよ。空白だった666(ページ)が埋まりつつある事に。それはつまり、「やらんでええよ」という要望を無視してまでせなあかん事情がある訳で、その事情については心当たりがあった。

 

 8月中旬頃、心筋梗塞でもないのに全身が軋むような激痛で倒れた。――可笑しな話やろ? 足の神経以外は健康的だし、持病もあらへんのに。只、あれ以降に激痛や体調不良といった異常は皆無やった為、恐らくあの後からシグナム達が魔力蒐集とやらで頁を埋めてくれた御蔭だろうと推測している。

 

 そして今日も確認してみれば、新たに7頁分の白紙が埋まっていた。残りは36頁やけど、主を苦しめる仕様または不具合がある魔導書が完成してしもうたら、さて如何なる事やら……。おお、怖や怖や。

 

「直せる物なら、直したいんやけどね……」

 

 どれだけ調べても、ヘルプ機能を使(つこ)うても、最終的に(仮)が取れへんと無理っぽいという結論に行き詰まる。これを作った人達は、飛行機を飛ばしながら電子機器の調整をするような離れ業とか出来たんやろか? どちらにせよ、ユーザーに優しくない辺り開発者側の怠慢と傲慢さが透けて見える。

 

「うちの閲覧履歴を削除。何時も通り、他言無用で(よろ)しゅうな」

 

 【闇の書】が上下に首肯するような動作をして、テーブルの上へと鎮座する。正直、異世界の技術結晶体にパソコン的な指示が通じるかは謎やけど、反応からして大丈夫……と思いたい。

 

 取り敢えず、80頁くらい増えるような大物狩りが無ければクリスマスは普通にやれそうやね。その後はまぁ、今生きているのだってボーナスタイムみたいな物やから、管理者になろうと駄目なら駄目で諦めは着く。最悪の場合、絶命しても構わないとすら考えている。勿論、シグナム達が家族になってくれはったのは嬉しいけれども、やっぱそん中に両親が居らんのは寂しいんよ。

 

 いやでも……、友達に“すずか”ちゃん居るし、続編が出てない小説も有るしで、あと3年くらいは必要やろか? 死ぬにはちと惜しい気がするものの、兎にも角にも【闇の書】が完成せな目途も立たん。

 

「まっ、Dデイ次第やね」

 

 春は遠く、冬は深まる。一寸先すらも見通せぬ闇夜を前に、何となくほろ苦いカフェモカが恋しくなってしまった。

 

 

 



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