英雄王《偽》の英雄譚 (課金王)
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プロローグ

MMORPG『フェイト/ワールドオーダー』

 

数多に開発されたダイブ型ゲーム『PS(プレイヤーステーション)10』の大人気ソフトである。

 

プレイヤーはフェイトシリーズに登場するサーヴァントとなって、あらゆる時代と広大なフィールドで戦い、プレイヤー同士の戦いである聖杯戦争を生き抜く魅力あふれるゲームだ。

彼、坂口(さかぐち) (わたる)もこのゲームに魅了された一人。

 

社会人プレイヤーで、普通のサーヴァントよりも育てるのに数倍の経験値と鬼畜な難易度を誇るギルガメッシュを選択する訓練されたファンであり、安い給料をギリギリまでゲームにつぎ込む数少ない哀れな廃課金プレイヤーである。

 

普通に会社に勤め、好きなゲームに金を溶かす毎日。

 

酒も付き合い以外には飲まないし、ギャンブルもしない。

普通の社会人であり、大麻や危険ドラッグの使用もしていない。

 

だが、そんな彼にあり得ない出来事が発生した。

それは、本当に一瞬の出来事だったのだ。

 

集めた宝具を奪われないように細心の注意を払いつつ、課金アイテムを駆使しながら6時間ほど、ランスロット(バーサーカー)を何度も倒し、激レアスキルをようやく獲得した瞬間。

彼の目の前の空間が裂け、広がったそれは周りの光景とは別の景色を映し出していた。

目の前の光景はまさに荒野の戦場。

 

砲弾と銃弾が飛び交う地獄であった。

 

「また何かのバグか?」

 

このゲームはイベントの度にエラーやバグが発生し、メンテナンスが多い事でも有名であった為、渉は特に気にする事無く、運営に連絡を取る為にコンソール画面を開いた。

 

渉が運営と連絡を取った……その瞬間。

彼は裂け目の中へと引っ張られてしまう。

 

「えー、なんか他のエリアにつながっている感じで…うおっ!?」

 

突然の出来事で、回避も留まる事も出来なかった彼は無抵抗のままに掃除機に吸われる埃の様に裂け目の中に吸い込まれた。

頭から吸い込まれ、そのまま飛び出した彼は顔面から草の生えない地面へと直撃する。

 

「ブヘッ!?」

 

醜い声を出し、顔面の痛み(・・)に悶絶する渉。

 

「いたたた……」

 

痛む顔面を両手で抑えながらゆっくりと起き上がる。

 

「ちくしょう…ベッドから落ちてダイブギアが外れたのか?」

 

片手を顔面から放して、痛みで閉じていた瞳を開ける渉。

顔面の痛みで、ゲームから切り離されたと考えて居た彼は絶句した。

 

「は?ま、まだ、ゲームの中に居るのか?」

 

彼が見ている光景はさっき自分が観察していた裂け目に映っていた光景だった。

銃弾と砲弾が飛び交い、地面に着弾しては大きな音を立てて、土を吹き飛ばす。

 

「は、早く戻らないと!!」

 

ゲームのシステム上絶対にありえないはずの痛みを感じている異常事態に本能が警報を鳴らす。

ここに居てはならないと。

後ろにあるであろう亀裂に向けて、勢いよく振り返る渉……。

 

しかし…。

 

「な…ない?」

 

そこには何もなかった。

裂け目も、さっきまで居たランスロット(バーサーカー)の出現エリアも何もない。

居るのは、血の付いた刀を持ってこちらを見ている一人の侍風の男と青い瞳を見開いたまま、地面に倒れて血を流す軍服を着た金髪の男。

 

そして、そのまま侍風の男と見つめ合っていたのだが、動けない渉に呆れた侍風の男は頭を掻き始め、一人で語り出す。

 

「《次元切り》のマックーサーの残した斬撃から、おかしな奴が出てきやがった……」

 

「…《次元切り》?」

 

「おうよ、このマックーサーっていうアメリカ軍大佐は次元を切り裂き、遠くに移動したり兵隊を呼ぶ事の出来る有名な伐刀者(ブレイザー)だ。

だが……死に間際に放った斬撃で呼んだのが、まさかお前さんのようなおかしな奴とは……。

巻き込まれた感じのお前さんにはワリィが、マックーサーが不憫だよ」

 

今の状況が理解できずにオウム返しで言葉を返す、渉に律儀に答える侍風の男。

彼はため息と共に、憐れむような瞳でマックーサーと呼ばれた男を見つめていた。

 

「で?お前さんはどうするんだい?

アメリカ人みたいな金髪だが瞳は紅く金ぴかな鎧を着ているし…アメリカ兵ではないんだろ?

ヴァーミリオン皇国あたりの人間か?」

 

「ヴァーミリオン皇国?」

 

聞いたことのない国名に首をかしげる渉。

その様子に呆れを通り越して、頭を押さえる侍風の男。

 

「ほ、本気か?小国とは言えそこそこに有名な国だぞ?

まさか、次元の裂け目から出て来た時に頭を強く打ち過ぎたか?

アイツ、勝負の後にとんでもねぇ置き土産を残していきやがった……。」

 

地面を見つめて項垂れる侍風の男。

彼はしばらく戦場で項垂れた後、渉に歩み寄って来た。

 

「とりあえず、日本語がそれなりに堪能みたいだから日本軍が駐屯している安全な所まで運んでやるよ。

それだけ日本語が喋れるなら悪いようにはされないだろ」

 

「に、日本軍?」

 

歩むの腕を引っ掴み、速足で歩き始めた侍風の男の言葉に疑問を浮かべる渉。

それは仕方のない事であった。

渉の居た時代では日本軍は第二次世界大戦の終わった数百年前になくなっており、日本に居る軍隊は国を守る自衛隊だ。

 

伐刀者(ブレイザー)というわけの分からない単語で頭が混乱しているが彼の次に口にした単語で一つだけ分かった事がある。

 

それは……。

 

「おうよ、第二次世界大戦で活躍する最強の日本軍兵士!!

《サムライ・リョーマ》とは俺の事よ!!」

 

そこそこの違いはあれど、タイムスリップをしたらしいという事だ。

 

 

――――。

 

 

第二次世界大戦。

 

日本の勝利となったこの戦争の立役者達が居る。

 

一人は大戦初期にアメリカ艦隊を輪切りにして海に沈めた事で世界にその名前を轟かせた《サムライ・リョーマ》と呼ばれた黒鉄(くろがね) 龍馬(りょうま)

彼が、大戦時中盤のアメリカ本土での戦いでアメリカ軍最強の男《次元切り》と恐れられるマックーサー大佐と三日三晩の戦いを繰り広げ、人の居ない森を荒野に変えたのは有名な話だ。

他の兵士たちは援護射撃だけで精いっぱいだったそうだ。

 

そして、もう一人は《サムライ・リョーマ》の好敵手(ライバル)

 

《闘神》の異名を持つ男 南郷(なんごう) 寅次郎(とらじろう)

自身の存在を大戦終盤まで明かす事なく、アメリカ軍の要人を暗殺し、

自身の正体が感知された後は、戦場にてアメリカ兵を龍馬と共に敵をねじ伏せた。

 

 

そして、《サムライ・リョーマ》がマックーサー大佐との戦いに勝利した時に出会った男。

 

彼が最後の立役者。

 

死ぬ間際に放ったマックーサー大佐の斬撃によって生まれた次元の歪から出て来た金髪に紅の瞳。

黄金の鎧を着た全身が黄金の男。

 

ギルガメッシュ。

 

彼は平和な地で過ごして居たのだが、マックーサー大佐の攻撃により、問答無用で戦場に拉致された非戦闘員だった。

しかも、技の衝撃で彼の記憶の大部分が失われてしまった。

 

彼の状態を見た、我らが《サムライ・リョーマ》は彼を日本軍の駐屯地まで連れ帰り、保護した。

 

そんな彼の優しさに感銘を受けたギルガメッシュは日本軍に志願して、日本軍を爆撃をしようと飛んでいたアメリカ空軍を壊滅させた。

何者も寄せ付けず、一つの動作で百を超える武具が戦闘機を撃墜させる姿はまさに《王者》。

 

彼ら三人こそが我ら日本を戦勝国へと導いた大英雄である。

 

 

…………。

 

 

「である…ではないわ!!このたわけ!!」

 

戦勝から数年。

日本の東京に建てられた豪邸から一人の男の怒鳴り声が響く。

そう、声の主は豪邸の家主にして日本の英雄にされた渉…いや、ギルガメッシュだった。

彼は庭先で読んでいた本を怒りに任せて真っ二つに引き裂き、芝生の生えた地面にたたきつける。

 

「おいおい、気持ちは分からなくはないが人が持って来てやった本を破いて捨てるなよ」

 

そんな彼に苦笑しながら近づき、真っ二つになった本を拾い上げる着物姿の男。

黒鉄龍馬だった。

 

「元をただせば、あんな場所に俺を連れて行った貴様の責任だろう!!大体何が『優しさに感銘した』だ!!

俺の力を知って、協力しなければ処刑すると言って集団の伐刀者(ブレイザー)で取り囲んでいたであろうが!!

あれは、脅迫と言うのだ!!脅迫と!!」

 

そう、保護された彼は調書と一緒に身体測定という名の伐刀者(ブレイザー)の能力テストを受けさせられたのだ。

それに、幸か不幸か、彼の身体能力と魔力はアバターのステータス通りであった。

故に、彼は魔力量ランクAをたたき出し、民間協力者として強面の兵隊達にお願い(・・・)されたのだった。

 

パンピーだった頃の彼には、しばらく夢見に影響するほどのトラウマだったのだ、彼が怒りを覚えるのも無理はない。

 

まあ、そんな彼も戦場に立ち続けたお陰か、度胸やらが色々と付いて軽くギルガメッシュ化もしたようだ。

 

「まあ、それはそれとして、今度3年目の戦勝記念祭をするらしいが……お前さんはどうする?

婚約の申し込みも多いみたいだから、そこで嫁でも探すか?なんだったら手伝うぞ?」

 

大戦が終了したのちに恋人と結婚した龍馬はニヤニヤしながら嫁探しの手伝いを申し出た。

ギルガメッシュには戦勝記念祭にはろくな思い出がない。

それは、記憶がないと公表されている彼に祭りに乗じて自称家族・恋人が殺到したり、婚約を申し込む権力者の娘に毎回もみくちゃにされ、ひどいストレスを抱える事になるからだ。

ギルガメッシュは分かっていてニヤ付く友人の姿にため息を吐いた後、何もない空間に出現した黄金の波紋から空飛ぶ船《ヴィマーナ》を呼び出した。

 

「悪いが、身に覚えのない自称家族や名声や金目当ての女には興味はないのでな。

俺は世界を旅する事にした、故に祭りには参加する気は毛頭ない。

あのアホ総理に伝えておけ」

 

「カッカッカッカ!初めて会った時に比べて面白くなったじゃないか!!

俺も修行の旅に出るつもりだからな。

英雄が二人も居ない祭りなんて、きっと総理大臣の度肝を抜けるぜ」

 

「クックック。そうか、祭りは例年通り全国に放送される可能性が高いからな……。

きっと、テレビを点ければ青筋を浮かべた珍しい総理大臣が見れるだろうよ」

 

お互い、悪戯小僧の様に笑う二人の英雄。

偽物の黄金の王は空飛ぶ船に乗り込み、友である最強の侍は黄金の王を見送った。

 

この日以降、黄金の王である《王者》ギルガメッシュは世界から姿を消した。

 

 



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1話

日本が第二次世界大戦に勝利してから十年以上たった元日の今日。

黒鉄の屋敷から離れた小さな民家には、三人の男達が集っていた。

 

「カッカッカ!いやー、お前さんの道具は本当に面白いな!!

全世界の要人たちが特殊部隊を作ってお前さんを追っているのに、誰も見つける事が出来ないんだからな!!」

 

日本酒の入ったお猪口をグイっと笑顔で煽る初老の男。

日本を勝利に導いた英雄《サムライ・リョーマ》こと、黒鉄(くろがね)龍馬(りょうま)

 

「それで当の本人は数年前から日本で堂々と商売を始め、ちょくちょく俺達の前に顔を出すんだから、(やっこ)さん達が哀れでしょうがないぜ。

正直、俺はお前さんの道具に感心するべきか、お前さんを見つける事が出来ず、毎日のように上司に怒られている奴らに同情すべきなのか分からないぞ」

 

龍馬同様に酒を煽りながら呆れるこの中年は南郷(なんごう) 寅次郎(とらじろう)

第二次世界大戦前に中国で行われた最高クラスの大会である闘神リーグで優勝した怪物である。

 

「俺の知った事か。」

 

躊躇なく一言で切り捨てた金髪の男は自前の黄金の杯で日本酒をチビチビと楽しむ。

そう、戦争が終わった数年後に姿を消した《王者》ギルガメッシュだ。

 

「あー、そういえばアンジェリカとか言う人形に販売させているiPS再生槽(アイピーエスカプセル)だったか?

目玉が飛び出るほどの金額だが、四肢の切断や臓器の損失程度であればたちどころに再生させることが出来るとんでもねぇ代物らしいな…。

騎士連盟の連中が性能に騒いでたぞ」

 

龍馬が顔を赤くしながら、思い出したかのように口にしたiPS再生槽。

それは、ギルガメッシュが立ち上げた会社が出している商品の一つだ。

ギルガメッシュの宝具《王の財宝(ゲートオブ・バビロン)》は長時間のプレイ時間と課金アイテムによって集められた事で世界ランカーにも負けないレベルに到達していた。

しかも、中には他作品とのイベントによって入手可能なコラボアイテムなどが入っており、現代の科学技術でも再現できそうなものが入っている。

 

 

その事を旅行中のふとした事で思い出したギルガメッシュは、すぐさまに日本に帰国。

彼の努力と財力の結晶である《王の財宝》の中にあった科学技術で再現できそうな物をピックアップし、夏の開拓イベントで集めたレアメタルを資金源に使い。

アンジェリカ・エインズワースという自動人形の名前で会社を設立。

そして有名な企業の研究員達を金に物を言わせた引き抜きによって集め、空想上の存在であったコラボアイテムは優秀な頭脳達によって再現され、宣伝と同時に飛ぶように売れた。

 

今では世界屈指の大企業へと成長し、人生を5回繰り返しても使いきれないであろう金がギルガメッシュの懐に入っている。

ちなみに自動人形のアンジェリカは人間だったら余裕で過労死するであろうレベルで働いているらしい。

 

「ったく、羨ましい奴だぜ。

家でぐうたらしているだけで世界中の国から金が湯水のごとく手に入るんだから……

俺だったらおっパブ嬢と酒飲んで、毎日イチャイチャしているぜ」

 

「たわけ、俺は貴様のように商売女なんぞに興味はない。」

 

欲望を酒の匂いと共に吐き出す寅次郎に対し、商売女は興味ないと断言するギルガメッシュ。

そう、彼はサラリーマン時代も現在も立派な童貞であり、好きになった女としか肉体関係は結ばないと決めている。

 

「カッカッカ!まあ、あれはあれでいいもんだぜ。

金を出さなけりゃあ、後腐れなく向こうからさっぱりと縁が切れる。

金の切れ目が縁の切れ目ってな。

若いころは寅次郎と夜の街で派手に遊んだもんだぜ。

まあ、俺は嫁さんに夢中だから、お前さんと一緒で興味の欠片もわかんがな。」

 

一方、元服した頃は大会の賞金などで風俗やキャバクラで遊びまくった黒鉄龍馬は自身の経験を元に笑顔でギルガメッシュに勧めだす。

 

英雄三人でなんとも下品な会話を繰り広げているが、酒の席で行われる中年の会話なんてこんなものであろう。

楽しい時間を過ごした三人は春に会う約束をして、それぞれの自宅へと帰って行った。

 

日本政府から報酬として渡された屋敷を売り払い。

自身の懐に入ってくる金を使って六本木の一等地に建てた西洋風の屋敷。

ここが今のギルガメッシュの自宅である。

 

認識阻害の宝具を身に着けたまま、自宅へと戻って来たギルガメッシュ。

 

大きな玄関扉を開くと二人の女性が出迎える。

 

「お帰りなさいませ。マスター。

優秀な自動人形である私の作った優雅で華麗な食事と、貧相な胸のポンコツ自動人形が洗ったお風呂の準備が出来ております」

 

金髪ドリルで巨乳のメイド服の女性。

ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの容姿と能力…そして声をコピーした自動人形である。

その姿はプリズマ☆イリヤでエインズワースでこき使われていた姿を彷彿とさせ、ギルガメッシュのプレイヤー仲間からは……。

『貴重なアイテムや宝具を燃えるゴミと一緒に捨てられそう』『フレンドリーファイアで殺されそうwwww』などの感想が寄せられている。

 

「それよりもマスター、アンジェリカから《解放軍(リベリオン)》なる組織の資料が届いております。

そこの金ドリ自動人形の作った不味いお食事の前に私が綺麗に仕上げたお風呂でお寛ぎながらご覧ください。

なんでしたら、お風呂に入っている間に不味いお食事を処理して新しい物を作りましょうか?」

 

ルヴィアを押しのけ、ギルガメッシュに資料を渡すもう一体の自動人形は赤い悪魔こと遠坂(とおさか) (りん)のコピー。

黒い髪のツインテールと貧乳がとても印象的だ。

 

「オホホ、品のないポンコツ駄メイドが何か仰っておりますね……。

マスター。明日の朝は丁度、燃えるゴミの日ですので使えない貧乳人形は廃棄処分致しましょうか?」

 

「あらあら、マスターがお疲れなのに無駄に乳のデカい下品な人形が、頭のおかしい事を言い出したみたいですね。

明日までに下品な体を解体して、燃えるゴミに出しておきましょうか?」

 

お互いにメンチを切り合う自動人形達。

彼女たち自動人形は、運営が販売する戦闘をサポートする課金アイテムであり、容姿と能力のカスタマイズが出来、自動人形の中でもランクの高い物ならフェイトシリーズのマスターキャラからコピーする事も可能。

高難易度のアバターを選択した初心者達の強い味方だ。

 

八極拳とプロレス技による近接戦闘と中距離と遠距離から放たれるガンドを含む宝石魔術の爆撃とエネミーに状態異常を与える呪い。

ゲームではコピー達に意思はなく、淡々と命令を実行に移すだけの人形で重宝していたのだが……。

 

「はぁああああああ!!」

 

「うりゃあああああ!!」

 

コピー元と作業効率の為、好感度を上げる為に宝石を貢ぎまくったせいだろうか?

今の様に彼女たちはお互いの手を組み合い、相手の手首をへし折ろうと力を籠める。

そして、彼女たちが力を入れるたびに床がミシミシと悲鳴をあげるのだ。

 

もし、彼女たちをセットではなく片方のみを起動させて居たら、ギルガメッシュは知的好奇心と欲望の赴くままに何処まで人間に近いかを体の隅々まで鑑賞し、弄り倒して居たに違いない。

そして、人間に近い物だと知ったら彼は間違いなく、自室で大人の運動会を開催していたであろう。

 

しかし、幸か不幸かそうはならなかった。

何故なら同時に起動し、ハウスメイドとして仕事を始めた彼女たちであったが……。

 

自分の優秀さを見せつける為にお互いを妨害。

 

掃除を頼んだ部屋がガンドによる銃撃戦によって穴だらけ。

 

料理を頼んだはずがキッチンが宝石魔術によって爆発。

 

終始、これでもかというくらいに醜い争いを続け、屋敷を半壊させたのだ。

 

これにより、ギルガメッシュは彼女たちを『女』ではなく殆ど『人形』として扱うようになったのだった。

ちなみに、破壊された屋敷は彼女たちの魔術により綺麗に修復され、ギルガメッシュの命令により二度と一緒に仕事をする事はない。

 

おかげで、嫌がらせや罵倒はするが、足を引っ張る事のなくなった二人は最高レベルで仕事を完遂し、見事にハウスメイドとしての役割をこなしている。

 

 

「やかましい」

 

何時までも醜い争いを繰り広げる人形達に呆れたギルガメッシュは彼女たちの周囲に門を展開し、黄金の鎖で二人同時にグルグル巻きにして縛りあげた。

お互いに腕が使えなくなり、ミノムシの様に床に転がる。

 

「ああっ!?これが噂のSMですのね!!私はこの後マスターの愛玩人形となり、哀れな貧乳メイドはマスターと私の幸福を祝う祝砲として焼却所に出荷されるのですね!!」

 

「黙りなさいよ、この変態メイド!!でも、マスターの命令ならしょうがないわね……。

マスターがどうしてもって言うなら、マスター専用の愛玩人形になってあげてもいいわよ?

で、でも、この淫乱メイドをキャンプファイヤーの薪にしなくちゃダメなんだからね!」

 

「滑稽ですわ!貴女みたいな取って付けたツンデレ貧乳をマスターが相手にすると思ってますの!?」

 

「黙りなさい!!あんたみたいに胸がだらしなくて頭の悪い女をマスターが相手にすると思っているの!?

マスターの好みは私のような美乳よ!!」

 

天の鎖という最上位にランクインする宝具によってグルグル巻きにされてもなお、醜い争いを止めない二人の人形を無視しながらキッチンに向かうギルガメッシュ。

彼は冷めきったご飯を電子レンジでチンして、資料を見ながら寂しく食べるのであった。

 

 



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2話

魔導騎士制度が日本で発表された。

 

この制度が発表された事により国際魔導騎士連盟の認可を受けた学校を卒業した者に発行される『免許』と『魔導騎士』という立場が与えられ能力の使用を許可する制度である。

これにより認可を受けた学校は七校、各校に在籍している生徒は『学生騎士』と呼ばれ、魔導騎士に必要な知識と技を学ぶことになる。

 

免許が発行されれば当然、持っていない伐刀者(ブレイザー)が能力の使用を行えば法律によって逮捕される。

同時に強力過ぎる力を持つ能力者は入学と同時に禁呪指定を受け、国が認めない限り能力の完全使用を制限される。

 

これらの連盟の動きは、戦場で活躍した英雄クラスの伐刀者(ブレイザー)の力の行使を制限する為だ。

勿論、この制度には非伐刀者には歓迎されたが、一部の伐刀者(ブレイザー)からは大きな反感を買った。

 

こうして、一部の者たちによって設立されたのが《解放軍(リベリオン)》。

彼らの目的は伐刀者(ブレイザー)を選ばれた新人類とし、それ以外の人間を支配する事。

 

そんなテロリスト集団が勢力を伸ばしているらしい。

 

「全く、戦争が終わったと思ったら今度はテロリストか……。

つくづく人間社会とは面倒だ」

 

嘆息を吐きながら資料を読み込んだギルガメッシュは人間社会に対して嫌気がさしてきた。

外に出る時は宝具で認識阻害し、外で戦闘になれば免許がない事で社会的制裁を受ける事になる。

その上、テロリストの登場だ。

 

ギルガメッシュが嫌気をさすのも無理はない。

そこでギルガメッシュは思いついた。

 

《連盟》や《同盟》に属していない国に行けばいいと。

 

翌日、彼は自動人形たちを置いて再び日本を発った。

 

日本を離れたギルガメッシュは己の幸運と勘を信じて連盟非加盟国であるエストニアの田舎であるエーデルベルクへと子供の姿で移住する。

友人たちと会う以外では日本に戻らなくなったギルガメッシュは村人と共に猟に出かけ、畑を耕し、農家としての生活を謳歌していた。

 

村人たちも気さくで、誰もが子供ではあるが力と大人並みの知識を持つギルガメッシュを仲間として歓迎し、苦楽を共にしていた。

 

そんなある日……。

 

「ダイエットに協力して欲しい?」

 

「はい、ギル君なら効率のいい方法を知っていると思いまして……」

 

ギルガメッシュの近所に住む、ぽっちゃりとした礼儀正しい銀髪の少女、エーデルワイスにダイエットの協力を頼まれた。

野菜の収穫期も終わり、彼女の取り巻く環境を知っていたギルは少女の頼みを二つ返事で聞き入れた。

 

甘いものを絶ち、朝早くから行われる長距離のジョギング。

 

ジョギングが終わった後は、彼女の希望によるデバイスを使った実戦訓練。

実戦が一番カロリーを消費すると、女性の伐刀者がテレビで言っていたらしい。

 

彼女の希望で行われる実戦訓練。

そこでギルガメッシュは彼女の才能の一端を垣間見た。

 

「せい!!やぁ!!」

 

王の財宝(ゲートオブ・バビロン)》から彼女に向けてゆっくりと発射される新聞紙やチラシを丸めたゴミ。

それらを体に触れさせる事無く、彼女は流れるように二対の剣テスタメントを使い、すべてを切り捨てているのだ。

剣を握った事のない少女が、見せる動きではない。

 

世界大戦で肥えた眼で見つけた天賦の才。

ぽっちゃりした状態でこの動き……痩せたらどんなに美しい動きを見せるのだろうか?

ギルガメッシュは彼女の動きに心を奪われ、本気で彼女を鍛える事を決意した。

 

「おや?もう限界かな」

 

「はぁ…はぁ……」

 

長距離のジョギングの後に剣を振り続けたエーデルワイスは玉の様な汗を全身にかいて地面に倒れていた。

 

「お疲れ様。限界はなんとなく分かったから、明日からはギリギリで完遂出来るメニューを考えておくよ」

 

ギルガメッシュはバビロンから水を取り出し、彼女に手渡した。

 

「あ…ありがとう…ございま…す」

 

手渡された水を飲み、呼吸をある程度整えたエーデルワイスの様子を見たギルガメッシュは歩いて帰るのは困難と判断し、大人としてケガをさせないように彼女をお姫様抱っこして自宅へと送り届けた。

 

……。

 

さて、ここからは激太りした少女、エーデルワイスの話をしよう。

彼女は数年前までは痩せており、まるで妖精や天使を彷彿とさせる容姿だった。

そんな彼女は周りからは可愛がられ、思春期を迎えた少年達にラブレターや彼女の大好物である甘いものが毎日贈り物として届けられた。

少年たちはただ…甘いものを貰った時のエーデルワイスの笑顔が見たいが為に。

 

そして…悲劇が起きた。

 

律儀で真面目なエーデルワイスは贈り物を残さず食べた。

毎日毎日彼女に恋い焦がれる少年たちから渡される甘いもの。

それらは彼女の体重を著しく増加させた。

 

一番初めに彼女の異変に気がついたのは彼女を心から愛する両親だった。

でも、成長期だと思って口に出す事はなかった。

なにより、美味しそうに甘いものを食べている愛娘に甘いものを取り上げることなどエーデルワイスの両親には出来なかった。

 

エーデルワイス 10歳。

近所にギルという子供が引っ越して来た頃には、天使は堕天。

ぷくぷくとした子豚(ピグレット)へと姿を変えていた。

 

その頃になると、彼女に言い寄っていた少年たちは熱い掌返しを行って彼女をバカにした。

『白銀の豚』『肉と脂肪の女王』『出荷はいつですか?』

男と言う生き物に絶望し、ダイエットを決めた彼女にダイエットの神が現れた。

 

大人に混じって祭りや農作業を行っている子供らしくない子供と有名なご近所の少年ギルである。

 

彼は大人たちの信頼も厚く物知りである事は有名だ。

それに彼だけは太った自分をバカにすることなかった。

故に彼女は勇気を出して、ダイエットの相談を彼にしたのだ。

 

自宅のテレビで知った女性ブレイザーの特集番組で知ったダイエット方法もメニューに組み込んでもらい。

彼女のダイエット生活が始まった。

 

早朝からのジョギングによる有酸素運動。

新聞紙を丸めたゴミをいろんな方向から飛ばしてもらい、それを叩き斬る訓練。

最後に軽いジョギング。

 

初日は途中で出来なくなってしまったが、翌日からは限界ギリギリまでの距離と新聞紙が用意され最後までメニューを消化する事に成功する。

 

そして、倒れてしまっても汗まみれの自分を嫌な顔をせずにお姫様だっこで運んでくれる少年ギル。

そんな紳士で大人な少年ギルに彼女が心惹かれるのは時間の問題であった。

 



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3話

子ギルとなった、ギルガメッシュによるギルブートキャンプ。

それは、彼女の身体能力が向上する度に進化していった。

 

脂肪を燃焼させる有酸素運動に加え、実戦による筋力増強。

魔法のテーブルクロスによる美容と健康、さらに成長促進が考えられた食トレ。

バストアップ体操にヨガ。

 

ギルブートキャンプを始めて一年。

11歳となった彼女の体は激変した。

モデルのようなスラリとした足にくびれたウエスト、バストは地獄先生の生徒と並ぶDカップへと超進化を果たした。

 

彼女は見事に子豚(ピグレット)から天使を超える大天使になったのだ。

そして、周りの少年たちの熱い掌返しが再び、炸裂した。

 

『今まで辛く当たっていたのは、〇〇が命令してきたせいなんだ』

 

『悪口を言っていたのは君に対してじゃない。近所の〇〇に対してだ』

 

などと、意味不明な言い訳を並べ立て、今までの事を謝罪し、あわよくば仲良くなろうと近づき始めた。

さらに、神経の太い少年は激太りする前と同様にラブレターと甘いお菓子を彼女の家のポストへ入れるようになる。

 

当然、エーデルワイスに返事をする気など一ミクロンもなく、ラブレターは冬の暖炉で使う着火剤として細切れにされ、お菓子は未開封な物はご近所の幼児達へプレゼントされた。

開けた痕跡のあるものは中身を確認することなく、すぐにゴミ箱へと投げ捨てられた。

 

再び、美少女の栄光を取り戻したエーデルワイスは大人顔負けのスタイルから、村の独身男性の注目の的になった。

生まれ変わった彼女の姿にロリコンに目覚めた成人男性は少なくない。

 

しかし、エーデルワイスは一人を除いて村の男達に興味を示さなかった。

むしろ、彼以外の男は見た目が変わっただけで、発情する犬畜生にも劣る存在であると彼女は思っている。

 

そんな、お高く留まっているようにも見えるエーデルワイスだったが女子受けは悪くない。

むしろ村の女性たちは尊敬の念さえ抱いていた。

 

彼女の母親を含め、どんどん美しくなっていくエーデルワイスを見て村の女性たちは彼女のダイエットを見学した事がある。

村の女性たち全員が見学に乗じて、ギルに頼めば自分たちも……と考えての見学であった。

しかし、彼女のダイエットはもはやダイエットと呼べる代物ではなく、究極の美と強さを手に入れる為の修行と肉体改造だった。

 

獣が居る山と村を往復し、休む間もなくバストアップ体操と体を整えるヨガ。

 

模擬戦闘に至っては、ギルとエーデルワイスの衝突により地面が抉れ木々が吹き飛んだ。

 

あまりにも衝撃的な光景に自分たちには到底無理と判断した彼女たちは、簡単なバストアップ体操と脂肪を燃やす有酸素運動だけをギルに教えてもらって、大人しく自宅へと帰って行った。

故に、村の女性たちはエーデルワイスの美貌は努力の賜物であり、これからどんどん美しくなるであろう彼女を妬むのは愚かな事だと悟ったのだ

だから、村の女性たちは少女であるエーデルワイスを一人の女性として尊敬し、ダイエットの助言を聞いたり食トレについて語り合うダイエット仲間となったのだ。

実際に効果を体感した彼女の助言によって、上手く行かなかったダイエットとバストアップに成功し、都会での合コンで大勝利。

 

村の若い女性達はイケメンな旦那を捕まえたり、逆玉に成功したりと華々しい戦果を挙げていた。

中には都会で洋服を買っている途中で芸能事務所にスカウトされ、モデルとなった人も居る。

 

以降、ギルガメッシュはダイエットの神として村の女性たちに崇められ、エーデルワイスはダイエットの先生として女性人気を不動な物としたのだった。

 

 

――――。

 

 

ダイエットの神として、時々お祈りとモテない男達に呪詛を吐かれる程度の変化以外は何も変わらないギルガメッシュの生活。

エーデルワイスのダイエットに付き合い、畑仕事をする。

そんな日々の中でギルガメッシュのスマホが自宅で鳴り響いた。

 

スマートフォン、略してスマホ。

これは、地球に住む少年が異世界でスマホを使って美少女ハーレム作るアニメのコラボアイテムをギルガメッシュの会社の研究員が解析し、可能な限り再現した普通の携帯電話である。

発売と同時に最新の固定電話を置き去りに、一大ブームを巻き起こした新商品だ。

 

ギルガメッシュがアラームのなるスマホに気づいて、テーブルから手に取ると……。

着信相手は親友黒鉄(くろがね) 龍馬(りょうま)だった。

久しぶりの親友からの連絡に心躍らせたギルガメッシュは通話ボタンを押した。

 

「やあ、龍馬。お久しぶりです」

 

『……すみません。間違い電話です』

 

親友の久々の会話はわずか数秒で切られた。

まあ、龍馬は彼が子供になっている事を知らされていなかったのだから仕方がない。

全面的に龍馬に伝えていなかったギルガメッシュが悪い。

 

切られてから数回、電話を掛け続け何度も本人証明の問答を繰り返した所でようやく信じてもらえたギルガメッシュ。

彼は一時間を掛けてようやく用件を知る。

 

『実は寅次郎(とらじろう)の奴が才能ある子供を弟子にしたらしいんだよ』

 

「へ~、半端な奴は弟子にしないと公言していた寅次郎がですか……。

それは中々に興味深いですね。

彼も歳ですし、嫁探しから弟子探しに変更したんですかね?」

 

『はっ!中身が中年のてめぇが何を言ってやがる。

家に来たらどんなちんちくりんなガキになっているか拝んでやるぜ!

後、お前には渡したい物があるからちゃんと来いよ!!』

 

用件を伝えるだけ伝えた龍馬は楽し気な様子で電話を切った。

彼の息子も結婚し、孫もプロの魔導騎士として活躍し始めたのに、まだまだ元気な親友に笑みがこぼれるギルガメッシュ。

 

しかし、気がかりなこともある。

渡したいものってなんだ?

 

酒やつまみを送ったり、貰ったりした事はあったが時期は決まっている。

この時期に渡される物が何なのか、ギルガメッシュには心当たりはなかった。

 

少しだけ、頭を悩ませたが当日になれば分かると割り切り、エーデルワイスの為に自主トレメニューの制作に取り掛かった。

 

翌日。

 

エーデルワイスに自主トレメニューを渡した彼は宝具によって光学迷彩が施された、《ヴィマーナ》に乗って黒鉄邸へと訪れた。

 

「お前さん…本当にガキになってるな。

俺はてっきり、変声機か何かで声を変えているもんだとばかり……」

 

「……信じていなかったんですか?」

 

「いや~、最近ドッキリが流行っていてな。

正直、お前さんのも冗談だと思っていた」

 

三人が集合するいつもの別邸で待っていた龍馬はギルガメッシュの姿を見て驚いた。

何と彼はギルガメッシュの悪戯かドッキリの類だと思っていたのだ。

それなのにギルガメッシュ本人が本当に小さくなり、戦場でよく乗っていた空飛ぶ船でやって来たのだ。

これには龍馬もギルガメッシュの言葉が本当だと信じるほかなかった。

 

「せっかく、来る途中で松坂牛をお土産に買ってきたのですが……。

いらないみたいですね」

 

「俺が悪かったって!こんなことで拗ねるなよ。

…見た目だけじゃなくて中身も子供になったのか?」

 

「失礼ですね。精神が肉体に引っ張られているんですよ。

それに…怪しい俺様系の男よりも、品行方正な子供の方が色々と便利なんですよ」

 

ギルガメッシュが言ったように、大人の姿で仮に村に移住しようとした場合。

村人たちは拒否していただろう。

 

よそ者の上に世界的に有名な伐刀者。

小さな村には害悪でしかない。

 

しかし、子供の姿なら向こうが何かしらな事情を村人たちが妄想し、手厚く迎えてくれるのだから手間もない。

村人たちを騙している様なものだが、あの村には様々な知識や宝具によって多大なる恩恵を与えている。

お互いにウィンウィンな関係と言える。

 

それに、自分の事で何かあれば正体を晒して、全ての責任を取る覚悟をギルガメッシュは決めていた。

どんなに村に貢献しようともエーデルワイスを含め村人全員を騙している事には変わらないからだ。

 

余談ではあるが、この後、焼肉パーティ―を楽しんでいた二人の元にもう一人の友人である寅次郎が到着する。

彼は、残り少なくなった肉と小さなギルガメッシュを見て驚いた。

 

もちろん彼が一番に驚いたのは鉄板で焼かれる少なくなった肉であった。

ギルガメッシュについては……もうコイツなら何をしてもおかしくないと開き直ったらしい。

 

 

 



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4話

ほぼ一年ぶりに再会した三人の男達。

彼らは黒鉄家の別邸にあるリビングで自分たちの教え子について語り合っていた。

 

「魔力や身体能力は一切、申し分ないんだが…。

女を弟子にするならムチムチのプリンプリンのボンボーンにするつもりだったんだ。

なのに現実はペタペタのつるんつるんのストンストーンだった。

こういう時、最近の若者はこう言うのだったな…『人生はクソゲー』と」

 

弟子の写真を見せながら、心底残念そうに語る寅次郎(とらじろう)

よほどムチムチの弟子が欲しかったのだろう。

あまりの言い草に写真の弟子が聞いていたら殺されるのではないかと心配するレベルだ。

 

しかし、写真を見せられている男二人は彼の気持ちが理解できないわけでもなかった。

写真に写る女子高生は確かにペタペタのつるんつるんのストンストーンだった。

身長も低く、隣に映る友人だと思われる女子高生の胸辺りまでしか身長がない。

ストレートに言うと完全無欠のロリだった。

ギルガメッシュの弟子であるエーデルワイスと同い年ではないかと疑うレベルだったのだ。

 

まあ、逆にエーデルワイスは小学生とは思えないスタイルになってしまっているが……。

 

「ははは……。写真の彼女には悪いですが、寅次郎の気持ちも分からなくはないですね」

 

「ああ…これは絶壁ならぬ絶望的なスタイルだ。

本当に女子高生か?海外でよくある飛び級じゃないよな?」

 

苦笑(にがわら)いを浮かべながら寅次郎の意見に同意するギルガメッシュと年齢を疑う龍馬。

反応はそれぞれだったが、思う事は大体一緒だった。

 

つるペタよりもボインが好き。

少なくともこの場に居る三人の悲しい男の本音だった。

 

「俺は孫だな。このまま行けば、将来は息子同様に日本騎士連盟の長になるだろうよ」

 

「また黒鉄が長になるんですか……もう一族経営みたいですね」

 

「仕方がねぇさ。周りが弱すぎたり日本騎士連盟の上に立ちたいと思う奴がいねぇからな」

 

続いて話題に上がったのは龍馬の教え子である孫。

孫の青年も寅次郎の弟子と同様に中々に才があるらしい。

龍馬の言葉通りなら、そのうち大きな大会でその名を轟かすだろう。

 

「そういえば、騎士連盟の件でお前さんに渡して欲しいと預かっている物がある」

 

「ああ、そういえば電話で言ってましたね。

渡したいものがあると」

 

「ほれ、騎士免許と禁呪指定認定書だ」

 

連盟の話で思い出したのだろう。

リビングに設置してあるテレビの横に立てかけていた封筒から中身を渡す龍馬。

受け取ったギルガメッシュは途端に顔を歪めた。

 

「うわぁ……。また、面倒な物を……なんですかこれ?禁呪《不特定多数の武器》って?

捨てていいですか?」

 

「一応は持っとけ、お前さんの蔵にでも入れとけば邪魔にならないだろ。

後、不特定多数については文句を言ってやるな。

初めは律儀に戦時中の記録を集めてリスト化していたみたいなんだがな。

正体不明の物が多すぎてこうなったらしい。

まあ、簡単に説明するとだ。

お前さんの盾やら鎖やら、人を傷つける事のない道具なら使っても構わないが、武器の使用はするなって事だ。」

 

「なんですかそれ?

まあ、よほどの事がない限り、戦闘なんてするつもりはありませんからね。

問題はないでしょう」

 

不満は大いにあれど、一応日本には戸籍があるので最低限の縛りはしょうがないと自分に言い聞かせ、ギルガメッシュはため息を吐きながら《王の財宝(ゲートオブ・バビロン)》に免許と認定書を収納した。

 

「話は戻るけどよ、ギルはどうなんだ?弟子は作るのか?」

 

連盟の話を無理やり終わらせ、話を戻したい龍馬はギルガメッシュに弟子談義を振る。

この時、龍馬たちはギルガメッシュに弟子が居るとは知らず、居ないものと思っていた。

故に、弟子自慢でギルガメッシュを煽り、酒の肴に楽しむつもりだったのだ。

しかし……。

 

「ははは。作るも何も、弟子なら居ますよ」

 

「おいおい、本当か?正直、お前が武術を教える姿なんて想像できないぞ。

仮に居たとしても、あんな頭の悪い戦いをする奴に教えられることがあるとは思えん」

 

「戦場じゃあ、遠距離から武器を撃ちまくるか、強力な兵器の火力任せだったからな……。

近接戦闘なんざ数回ぐらいしか見た事ないぞ。

龍馬の言う通り全く想像出来ん」

 

酷い言われようだったが、彼らの言葉は第二次世界大戦を知るものだったら全員が思う事だった。

ギルガメッシュの戦闘はとにかく派手であった。

 

遠くから数多の高ランク宝具を湯水のごとく射出し、編隊を組んだ戦闘機群をすべて撃ち落とし…。

 

地上を進行している軍隊を見つければ、山のように巨大な剣で頭上から圧殺……。

 

山の様な大剣から生き残った者たちは、戦車程の大きさを持つ大剣から放たれる炎によって灰燼に帰された。

 

故に、そんな人物が弟子を取れるとは微塵も思えなかった。

仮に弟子入りした人間が居るとすれば、それは遠距離専門の火力重視の偏った人間だろう。

 

しかし、それは命の掛かった戦場での話だ。

実際のギルガメッシュはこちらの世界に来る前であるが、ランスロット(バーサーカー)を一定数倒す事で得たスキルによって近距離と遠距離の戦闘を難なくこなすオールラウンダーになっていた。

だから、その気になれば三〇無双シリーズのような近接戦闘も出来なくはない。

 

「剣林弾雨を笑顔で駆け抜ける君たちと違って、僕は初めての戦場だったんですよ。

安全な遠距離で徹底的に相手を潰す方針を取るのは当たり前じゃないですか」

 

「まあ、慰安婦も抱けない童貞のヘタレだもんな。

で?実際何を教えてんだよ?

剣か?弓か?それとも槍か斧か?」

 

酔っぱらった龍馬の童貞のヘタレ発言と共に、ギルガメッシュから突如として放たれる殺意にも似た威圧感。

彼は片手に持っていた黄金の杯をテーブルに置いて、鋭くなった紅き双眸を龍馬に向ける。

繊細なお年頃であるギルガメッシュにとっては笑って許す事の出来ない言葉だった。

 

「ははは……。(オレ)が何を教えているか、その身に刻んでやってもいいんだぞ?

雑種」

 

ギルガメッシュから放たれる謎の圧力と共に龍馬の喉元、腹部、股間に向けて囲うように宝具が展開される。

どれもランクEの使い捨て宝具であるが、レベル最大の《カリスマA+》を発動したギルガメッシュが放てばランクC-レベルの威力を叩き出し、発動した周囲の相手にプレッシャーを与えて動きを阻害する。

親友に対するツッコミとはいえ、かなり過剰である。

 

「冗談!冗談だって!!落ち着けよ、な?

ほら、いい酒と肉をこっちも出してやるからさ」

 

「そうだぜギル。即婚のリア充野郎の目玉が飛び出るぐらい、肉を食おうぜ!!」

 

「フン」

 

龍馬たちの慌てぶりを見て満足したらしく、カリスマのスキルを解除し、鼻を鳴らしながらそっぽを向いて、龍馬を串刺しにしようとしていた宝具を蔵にしまうギルガメッシュ。

中身が中年のおっさんになろうとも、男友達の集まりだと若かりし頃と同様にはしゃぐのは異世界であろうと同じだと再確認した瞬間だった。

 

こうして男三人の焼肉パーティーは朝まで続いた。

 

 

 



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5話

焼肉パーティーで胃にダメージを負いながらも笑顔で別れた三人。

彼らは再び、己の生活へと帰っていく。

 

黒鉄(くろがね)龍馬(りょうま)は曾孫が生まれたのを機に引退。

友であるギルや寅次郎(とらじろう)を何かと呼び出しては酒を飲み。

 

寅次郎は弟子を鍛えつつも、孫の様に可愛がり乳と尻の成長を期待している。

 

ギルガメッシュもまた、田舎の村で農業に精を出し、エーデルワイスを鍛える日々を楽しんでいた。

 

そんな中、連盟非加盟国であるエストニアに《同盟》から加盟せよと通達が来た。

国民を争いに巻き込みたくないエストニア政府はそれを拒否。

返事を聞いた《同盟》はエストニアを手に入れる為に軍を編成した。

翌日には進軍を始め、それに呼応するように連盟も軍を派遣した。

 

これから始まる戦争に不安を感じる国民達。

特に怯えたのは都市部から離れた田舎の町や村だった。

 

両軍の戦闘は人口の多い、都市とは離れた場所で行われる。

故に、村や町は巻き込まれる可能性が高いのだ。

 

村や町では先祖代々受け継がれた土地を守る為に残る者。

家族を守る為に、土地を捨てて、安全な都市部へ向かう者に別れた。

 

ギルガメッシュが住んでいる村でも、ほとんどの村人は避難して、残るのは元服を迎えたギルガメッシュとエーデルワイスのみ。

二人は力を持つ伐刀者(ブレイザー)として大人として、村を守る為に残ったのだ。

 

「覚悟はいいか?エーデルワイス」

 

「それを聞きますか?覚悟なら貴方と共に残る時に決めました」

 

ギルガメッシュに認識偽装の力を持つペンダントの宝具を手渡されたエーデルワイス。

美しく成長した彼女は、自分の故郷と愛する男の為に命を賭ける覚悟を決めていた。

ちなみに彼女を愛する両親も彼女の思いを理解し、涙を流しながら再会の約束をして親戚の居る街へと避難した。

 

当然、彼女が村に残った舞台裏を知らない童貞ギルガメッシュは彼女の熱い思いには気づいてはいなかった。

なんと鈍い男だろうか。

元、童貞ボッチサラリーマンは人の好意には鈍かった。

 

エーデルワイスがペンダントを装備した事を確認すると自身も認識偽装のペンダントを首に下げるギルガメッシュ。

 

「さあ、戦場へ行こうか」

 

「はい」

 

本来の姿とはかけ離れた別人となった世界最強クラスの師弟が戦場へと乱入する。

 

 

――――。

 

 

世界最強クラスの化け物が二人もやって来ると知らない連盟軍と同盟軍。

この二つの勢力がぶつかり合う中で二人の学生が戦争に参加していた。

 

一人は禁呪指定の滝沢(たきざわ)黒乃(くろの)

 

二つ名は《世界時計(ワールドクロック)》。

 

時間を操る能力の使い手であり、周囲の時間を止めたり巻き戻したりすることの出来る怪物。

傷ついた兵士の治療を行う為に派遣された。

 

そして、もう一人は寅次郎(とらじろう)の愛弟子。

西京(さいきょう)寧音(ねね)

 

黒乃のライバルにして彼女同様の禁呪指定。

彼女は何の前触れもなく、突然(・・)、腰を悪くしたと訴えた師匠の代わりに戦場に参加していた。

 

二人はお互いがお互いを過剰に意識しているために、試合中に本気の殺し合いを展開。

何度も没収試合を繰り返す問題児であったが、ある光景を見て唖然としていた。

 

「……なあ、チビ。あれはなんだ?」

 

「……知らねぇよデカ女。私が知りたいくらいだ」

 

彼女たちの視線の遥か先……。

そこには……。

 

「フハハハハ!!我が庭を荒らす害虫共よ、疾く失せるがいい!!」

 

三叉槍を持った赤いコートを着たデブが両軍が衝突する戦場の中心で贅肉を揺らしながら軽やかな動きで暴れまわっていたからだ

デブが槍を振るえば大地が裂け、水がわき出し両軍を押し流す。

文字通り、戦場に水を差されたのだ。

 

「おい、デカ女。あのデブを倒さないと戦場が混乱する。

協力しろ」

 

「それはこっちのセリフだチビ女。

しくじるなよ」

 

展開される二人のデバイス。

二人が混沌渦巻く戦場へ参加しようとしたその時、新たな敵が現れた。

 

「あの人の邪魔はさせません」

 

その一言と共に一瞬にして背後を切られて意識を刈り取られる二人。

二人が意識を失う前に見えたのは……自分たちを切ったと思われる二振りの日本刀を持つ着物の女だった。

 

「魔力が大きい人間を優先に狩ったのですが……大した事ありませんね」

 

崩れ落ちた二人をそのままに、力ある伐刀者を高速かつピンポイントに狩り続ける着物の女と着物の女が目立たないように派手な攻撃で敵を翻弄する赤いデブ。

二人の正体はもちろんギルガメッシュとエーデルワイスである。

 

彼らはギルガメッシュの用意した認識偽装の宝具によって別人へと姿を変えていたのだ。

この後、赤いデブと二刀流の着物女は翌日、連盟と同盟の両軍から指名手配を受ける事になった。

 

………。

 

「弱すぎる!!弱すぎるぞ雑種共!!」

 

戦争が始まって数か月。

両軍は結託し、戦争を邪魔する第三勢力である二人の抹殺を試みた。

しかし……。

 

「ふざけんな!!あの槍チート過ぎるだろ!!」

 

「水を操るだけじゃなく大地も操るなんて、どんだけ規格外なんだよ!!」

 

「しかもこっちの攻撃は一切、効いていないとか理不尽すぎる!!」

 

前線でデブガメッシュと戦っている彼らの魂の叫び。

それは仕方がなかった。

ギルガメッシュは高レベルのプレイヤーであり、対魔力の数値も高い。

彼に傷をつけられる人類はこの世界において現時点では存在しないだろう。

 

そして、彼の持つ槍は神装兵器ポセイドンの槍で有名な《海と大地を制する槍(トリアイナ)》である。

この世全ての水を操り、大地を震わし、嵐を巻き起こすポセイドンの象徴。

英霊ですらない、特殊な能力を持っただけの人間が挑むには無謀ともいえる宝具である。

 

「おい!!いい加減に騎士として、正面から戦ったらどうなんだ!!」

 

「馬鹿め!!何故、覇者であるこの(オレ)が貴様らの流儀で戦わねばならぬ!!

無謀と言う言葉を知らぬ愚かな者どもよ。

この我に挑戦したくば、ここまで辿り着いてみせるがいい雑種共!!」

 

デブガメッシュが槍を地面に突くと、地面から水が間欠泉の如く噴き出し、津波となって、両軍をはるか後方へと押し流す。

 

「「「「ぎゃぁああぁあああああ!!!」」」」

 

「フハハハハハハ!!粉砕・玉砕・大喝采!!」

 

水に押し流されている騎士たちを眺め、愉快に笑うデブガメッシュ。

もはや英雄王ではなくカードゲームで有名な社長のようなノリになり始めた。

 

世界大戦を経験した彼に戦場で手加減の文字はないのだ。

 

そして……。

 

「ギル…素敵です」

 

高ランク伐刀者を悉くを切り捨てる彼女はどう見ても悪役の想い人に熱視線を送っていた。

倒した男性伐刀者を踏み台にして……。

 

恋する乙女は意中の相手以外には興味も欠片も示さないのだった。

 

 

 




赤いデブ=ローマ
二刀流の着物女=五輪の書を書いた人



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6話

エストニア戦争 一年目。

 

世界中からエストニアの国民の安否が心配される《連盟》と《同盟》による戦争。

 

現在も憎しみと憎しみが連鎖し、数多の悲劇を生み出す戦場は今……。

 

 

「いいぞー。《紅の豚》!!」

 

 

「今日も楽しいショーを頼むぜ!!」

 

 

「キャハハハ!高ランク騎士の癖にだっさーい!!」

 

 

「俺達の税金を貪る《連盟》と《同盟》のクソ共なんかボコボコにしちまえ!!」

 

 

「《紅の豚》饅頭はいかがですかー」

 

 

 

世界が注目する世界規模のエンターテインメントとなり、殺伐とした戦場は人々の笑いを巻き起こすイベント会場へと変わっていた。

 

 

 

――――。

 

何故こんなことになってしまったのか?

 

それは、デブガメッシュとエーデル武蔵が戦場で暴れ始めた頃に話を戻さなくてはならない。

 

当初、戦争の始まりと同時に世界はエストニアに同情した。

加盟を断った事で《同盟》に進軍され、それを食い止めようとする《連盟》の軍隊による衝突。

さらに、《連盟》と《同盟》という巨大組織の軍に立ち向かう、第三勢力の二人の伐刀者が現れたのだ。

 

所属、名前が共に不明の男女。

 

美しい髪を揺らし、戦場で舞い踊る美しき二刀の女侍。

彼女はその容姿から《サムライ・ガール》または高ランク騎士を気配もなく、あっさり倒す姿から《アサシン》と呼ばれている。

 

 

そして、神秘の輝きを放つ三叉槍を扱い、大地と地下の水流を操る(デブ)

血のように赤いコートを身にまとい、腹と顎の贅肉を揺らしながら両軍の兵士達の攻撃を弾き、槍を振るって両軍をセーフティーゾーンまで押し流したAランク騎士と思われる怪物。

彼はその容姿から《紅の豚》・《鉄壁の贅肉》・《地上最強のデブ》と呼ばれている。

 

戦場は混乱し、大戦を彷彿とさせ、沢山の死者が無造作に転がる地獄になると予想されていた。

 

しかし、そうはならなかった。

 

もちろん、一度は死んだ(・・・)人間や死にかけた人間、体の一部損壊で一時的(・・・)に剣を持てる体ではなくなった兵は続出している。

なのに最終的な死者数とけが人はゼロ。

 

理由は世界を牛耳っているのでは?と噂されるほどに成長した大財閥『ウルク』の女社長、アンジェリカ・エインズワースが両軍に有料で貸し出した沢山のiPS再生槽(アイピーエスカプセル)と学生騎士《世界時計(ワールドクロック)》による治療と時間の巻き戻しのお陰だ。

お陰で、数か月後には混沌とした戦場で死者とけが人が共にゼロと世界中のニュースに取り上げられる事になり、iPS再生槽(アイピーエスカプセル)がもしもの時の為に役立つという有用性の宣伝と学生騎士《世界時計(ワールドクロック)》の活躍は世界に知れ渡る事になる。

 

ただ、このニュースを世界中のテレビで見た視聴者達からは《エストニア戦争》を《なんちゃって戦争》と呼び始めた。

初めは視聴者たちもカプセルや学生騎士が凄いと人類の科学の結晶と学生騎士の才能に感心してニュースを見ていた。

 

しかし、数か月ほど戦争が続くと世界中の…特に《同盟》や《連盟》の加盟国に住む視聴者達の関心は怒りに変わってくる。

もちろん、戦争で死者が出たわけではない。

 

問題はカプセルのレンタル料と戦場で壊れた際のメンテナンスだ。

両軍は百機を超えるカプセルを格安とは言え、毎月億単位の金をウルクに支払っている。

これだけなら毎年、加盟国から徴収する組織の運営資金から出せるし、想定された期間内に落としどころを見つけて戦争を終わらせれば、資金的には問題なしと両軍のトップたちは判断していた。

 

しかし、彼らが計画していた調整できる戦争は計算を狂わせるデブと美女が現れた事によってご破算となった。

 

彼らが暴れまわる事によって、毎日のように数百人規模で行われるカプセルの連続使用。

 

それによるシステムエラーや、痛みで暴れる兵士によって起こる部品の破損。

これらによって積み重なったメンテナンス費が数百億単位となり、レンタル料とセットで両軍は当初の予定になかった巨額請求を毎月されるようになったのだ。

 

値下げ交渉をウルクのアンジェリカ・エインズワースに願い出てみるが失敗。

両組織の交渉人たちは悉く、あしらわれてしまう。

 

これらの出費は税金であり、何の戦果も挙げずにウルクに吸い取られていく事実に危機感を感じたトップたち。

彼らは、この事実の隠ぺいを図るも何故(・・)か数日でマスコミにリークされてしまう。

 

世界に広がった、両組織による数百億単位の出費の隠蔽。

 

この事実が世界にバラまかれた事によって、加盟国の国民達は怒り狂ったのだ。

 

そして、怒り狂った国民の一部は戦場にデモ隊として、軍を罵倒。

それに釣られ、デモ隊に紛れて高ランク騎士をバカにして自尊心を満たすドキュン達。

《連盟》と《同盟》の連合軍には興味ないと、《サムライ・ガール》を応援する為のファンクラブと《紅の豚》の弟子になろうとやって来た太い男達。

そんな人々に商売をする商魂が逞しい商人達。

 

日に日に、戦場にやって来る人々が増えて戦場はついに、《同盟》と《連合》を罵倒して楽しむエンターテインメントとなったのだ。

これにより何が目的だったのか、すっかり分からなくなった事と野次馬達の罵倒で下がる兵士の士気と、さらなる出費を抑える為にゆっくりと減っていく物資。

 

死者は出ないが精神を病む者が続出し、軍から逃亡する兵も増えていく。

なのに、戦争は終わらない。

いや、何かしらの戦果を世界に証明せねば終わる事が許されないのだ。

もし、たった二人の人間に敗戦したとなれば、組織の権威だけではない。

加盟国を守護するという《同盟》と《連盟》の存在意義も無くなってしまう。

 

利益を得るための戦争は利益を求めた組織の首を絞める結果となったのだった。

 

―――――。

 

戦争一年目の今日、装備を外してデブガメッシュからギルガメッシュに戻った彼はパソコンの画面を前にほくそ笑んでいた。

評判と信頼を失墜させて、弱っていく気に入らない組織の連合軍に、個人のネットバンクに毎月振り込まれる巨額の金。

 

予想よりも過剰であったが、おおむね彼の計画通りに事は進んだ。

 

「さて、予想以上に早く組織は疲弊し、金も稼げた。

そろそろ、計画の最終段階に進もうと思うが……お前はどう思う?」

 

『そうですね。マスターの言うように最終段階に進めてもよろしいと思います。

恐らく、これ以上の攻撃は組織の解体と共に世界が混沌とするでしょう』

 

ギルガメッシュを除いて誰も居ない村の自宅。

一人っきりの彼の言葉の後に、パソコンの隣に置いてあるケータイから発生する感情の薄い女性の声。

彼女こそ三人目の高ランク自動人形、アンジェリカ・エインズワース。

 

「そうか…では、さっそく本部で火消しに慌ててる《連盟》と《同盟》トップ共と連絡を取れ」

 

『イエス、マスター』

 

ギルガメッシュの命令を承諾した人形は、簡素な返事と共に電話を切る。

 

「ふん。外伝に忠実とはいえ…本当に感情が薄い人形だ。

あの二人ほどではなくとも、もう少し感情表現があれば……いや、言っても仕方がない事か」

 

スマホの電源を落とし、パソコンの画面を眺めて笑うギルガメッシュ。

 

「ククク…喜ぶがいい、雑種共。

すぐにでも戦争を終わらせる英雄(・・)がやって来るぞ。

まあ、当然ダダでは動かないがな」

 

ギルガメッシュの目的を完遂させる計画の完了まで……あとわずか。

 

 

 

 

「やべえよ……どうなってんだよ…これ?

上手く行きすぎだろ?…胃がいてぇよ」

 

 

 

やけくそ気味で頑張っていた英雄王《偽》の胃が悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 



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7話

※連続投稿です。


バビロンに収納されている回復薬を飲む事で、胃を瞬時に治療したギルガメッシュ。

彼は《連盟》と《同盟》両組織のトップと日本の連盟支部でエストニア戦争の件で会談をする為に日本にやって来た。

 

「お久しぶりです、マスター。

トップの者達は既に会議室に集まっています」

 

「そうか……」

 

支部の玄関でアンジェリカと合流したギルガメッシュは、トップたちが待っている第一会議室へと向かった。

社内地図を頼りに3階にある会議室へとたどり着いたギルガメッシュは扉を開ける。

 

扉を開けると部屋の全貌が視界に入った。

広い室内にある中央の細い長い楕円形のテーブル、奥には巨大なスクリーンが壁に掛けられていた。

そして、卓を囲うように何人ものスーツ姿の者達が座っていた

 

ギルガメッシュから見て右側が《連盟》左側が《同盟》らしく彼らの前には所属と役職が書かれたプレートが置かれていた。

 

部屋に入った事で全員の視線がギルガメッシュとアンジェリカに集まった。

初めは、大戦時の姿から全く衰えていないギルガメッシュの容姿に驚きはしたものの、彼の持つ道具を使ったのだろうと割り切った。

彼らにとって、ギルガメッシュの容姿よりもこれから始まる交渉の方が何倍も大事だからだ。

 

 

彼らの殆どの視線には、まるで地獄にたらされた一本の糸を見るようで『助けてくれ』と彼らの瞳は訴えている。

 

 

彼らはそれほどまでに追いつめられていた。

 

毎日のように鳴り響く本部への悪戯電話。

 

さらなるネタを集めようと自宅に張り込むパパラッチ。

 

そして、ここぞとばかりにネチネチと電話で攻めてくる加盟国。

 

彼らの胃は荒れ、髪も抜け落ちて色々と限界なのだ。

しかし、同情はできない。

全ては自分たちの利益の為に戦争を引き起こした自業自得である。

 

ギルガメッシュは彼らの頭に簡易な黙祷を捧げるとスクリーンの前まで移動し、彼らを見渡しながら口を開いた。

 

「さて……貴様らに集まって貰ったのは他でもない。

条件を飲んで俺を雇うのか雇わないのか?ただ、それだけだ」

 

一方的なギルガメッシュの言葉の中で条件(・・)という単語を聞いて顔を伏せるトップたち。

彼らの使命は何としても条件(・・)を譲歩させる事。

 

しかし、突然ギルガメッシュから放たれる圧力に誰もが顔を伏せてしまったのである。

だが、そんな中で一人だけ、歯を食いしばってギルガメッシュに発言する者が居た。

 

「《王者》ギルガメッシュ……どうか、譲歩してもらえませんか?」

 

戦場経験をそれなりに積んでいた老紳士はギルガメッシュを見つめ、冷や汗を流しながら譲歩を願い出る。

しかし……。

 

「却下だ、こちらは譲る気は一切ない。

こちらの要求が通らないのならば(オレ)は帰らせてもらう」

 

彼の申し出は、ギルガメッシュに容赦なく切り捨てられる。

ギルガメッシュの返答を聞いた老紳士は体を震わせながら怒鳴った。

 

「貴方のシナリオ通りに終戦する事と、禁呪指定の永久破棄は飲めます!!

しかし、『エーデルベルク周辺の領有権の買取と建国を認める』とは無茶が過ぎますぞ!!

それに、領有権の購入と建国などエストニア政府が飲むはずがない!!

国土が少ないエストニアの首を絞める事になる!!」

 

そう、ギルガメッシュが要求する条件はこの三つ。

老紳士の言った二つまでの条件までなら、彼らは喜んで条件を飲んだ。

しかし、三つ目のエーデルベルク周辺の領有権の買取と建国を認める事は世界の秩序を守る組織を自称(・・)するトップとして到底、飲む事が出来ない。

 

「ふん。無茶だと?貴様、誰に向かって言っている?

買取の交渉はすでにエストニアと済んでいる。

貴様ら自慢の紙切れの様に脆い軍隊を相手にするのも、こうして会談すること自体も煩わしいのだ。

さっさと条件を飲むがいい。

別に断ってくれても構わんぞ?

(オレ)は早々に姿を消し、貴様らの大事な組織が潰れてから二匹の賊を狩るだけだ」

 

「なん…だと…?」

 

ギルガメッシュの言葉で驚愕するトップ達。

彼らの反応は当然である。

エストニアはヴァーミリオンと同等の国土を持つ小国であり発展途上国だ。

世界で勝負できる国産品もない。

緑豊かな事だけが取り柄のエストニアにとっては自殺行為である。

 

しかし、領地を失って余りあるそれ以上の恩恵が、かの国には与えられる。

まずは領地の買取金額。

 

両組織から一年以上も搾取した金とギルガメッシュのポケットマネーから出される先進国の国家予算レベルの金。

 

小国であるエストニアも納得する莫大な金額だ。

次に恩恵である関税ゼロとエストニアが領地を手放す一番の要因である留学生制度。

 

ギルガメッシュが建国した際には世界中に支部を持つ、大財閥『ウルク』の本社がアンジェリカの魔術によってギルガメッシュの国へと移動する。

これにより、関税ゼロのお陰でエストニアは最新技術の発信源と呼ばれるウルクの製品を安く購入が出来、留学制度によって将来有望な若者が最先端の工学技術を学ぶ事が出来るのだ。

 

全ては、エストニアの成長と未来ある子供たちが《連盟》と《同盟》の身勝手な命令で戦争へ赴き、命を落とさない未来の為。

エストニア政府は身を切って、自国の未来をギルガメッシュとウルクに投資したのだ。

 

彼らの高潔な覚悟と思いに当てられたせいだろうか?

買取が内定したその日の夜、エストニアの村にある自宅で軽く涙を流しながら親友たちに電話越して熱く語ったのをよく覚えている。

 

ギルガメッシュはサラリーマン時代からそういう話に弱いのだ。

 

当時の事を思い出し、エストニアの事をかいつまんで話し終わると一人の男が体を怒りに震わせながら、下を向いていた顔を上げる。

 

「馬鹿な!!あの小国は世界平和を何と考えている!!

自国の成長?若者の未来?我々はそれを守る為に命懸けで働いているのだぞ!!」

 

顔を上げたのは、ギルガメッシュが宝具で変装するローマの太いセイバーに負けずとも劣らない(でぶ)

唾を卓に飛ばしながらエストニアに対する文句を吠える。

その容姿からはとても、何かを守る為に命懸けで働いているとは思えない。

 

「然り!我々が居なければ第三次世界大戦が幕を開け、解放軍(リベリオン)が暴れる地獄となるのだぞ!!」

 

デブに触発されたのか?トップは口々にエストニアに対する文句を吐き出す。

その光景は醜く、その声は自己中の塊で醜悪。

だが、その醜悪な言葉は止まる事になる。

 

何故なら、彼らの頭部に向けて聖剣に魔剣、槍や斧。

古今東西の武器が黄金の波紋から矛先を覗かせているのだから……。

 

「返答はイエスかノーだ。早くしろ雑種。」

 

もはや家畜…いや、ゴミを見るような目で返答を迫るギルガメッシュ。

もし、トップ達がノーと言えば、彼は躊躇なくトップたちを皆殺しにするだろう。

彼にとって今のトップたちは、利用価値がなければ捨てる汚物に過ぎないのだ。

 

戦装束である黄金の鎧をいつの間にか装備したギルガメッシュの冷徹な紅き瞳を見た老紳士は戦場で経験した事のある命の危機を感じながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「イ…イエス」

 

脅迫されて条件をのんだ形となったトップ達だが、日本支部をギルガメッシュが去っても誰も文句を口にする者は居なかった。

 

この日、世界で最も力を持つ二大組織は一人の男に屈服した。

 

 

 




投稿する度に評価が減っていますが、気にせず投稿。
減る評価に挫ける作者さんが多いそうですが、自分も楽しく、楽しんで読んでくれている読者様の為に不定期更新ながらも頑張ります。


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8話

全ての準備を整えたギルガメッシュは日本にあるウルク本社へとアンジェリカと共に会社の土地にある本社行きの道路(・・・・・・・)を送迎用のリムジンに乗って赴く。

彼が会社の入り口から本社に向かうのは作戦の重要な役割を担う少女と出会うためだ。

しかし、現在の彼はそれどころではない。

大企業に成長していた事はアンジェリカの定期報告とニュース、計画をアンジェリカと話し合う際に知識として知っていたが、実物を見るとあまりも想像からかなりかけ離れており、リムジンの中で唖然としていた。

 

 

――――――。

 

 

大財閥ウルク。

 

初めはギルガメッシュが小遣い稼ぎの為に設立した会社であったが、彼の目が離れて数十年の時が流れた現在は一部を除いた世界中の先進国に支部を持ち、医療・電子工学・農水産・美術・エンタメ・建築と幅広く勢力を伸ばす怪物企業へと成長している。

当然、会社が成長するにつれて建物や土地も大成長を遂げた。

 

土地は東京ドーム何個分?がリアルで聞けるほど広く、会社の土地に入る為のゲートには検問所が幾つも設けられていた。

警備員から会社のパンフレットを渡され、専用のリムジンで広大な土地に入っていくと、それぞれの部署に適した巨大な施設に職員とその家族の為の家やマンションがエリアごとに建設されていた。

さらに土地の中心には仕事で疲れた体と心を癒すレジャーと娯楽施設に体を鍛えるトレーニングジム。

社員の奥様の強い味方、重火器以外は何でも揃っているとんでもないショッピングモールが存在した。

レジャー施設とトレーニングジムは福利厚生でお得な無料チケットが定期的に貰えるが、基本はショッピングモール同様に有料であるらしい。

 

ここはもう、誰もが想像する一般の会社ではなく、全てが揃っている一大都市であった。

 

もちろん、こんな事になったのは窓の外を見て、呑気に唖然としているギルガメッシュが原因だ。

 

アンジェリカは定期的にギルガメッシュに重要な案件のみであるが、会社の報告と雑談(・・)をしていた。

ギルガメッシュ本人はサラリーマン時代に思っていた理想の会社や働き方を口にしていたのだ。

 

会社にレジャー施設が欲しかった。深夜遅くまで残業をするならいっその事、家やマンションが欲しい。

体がなまらないようにトレーニングジムもあったらいいな。

 

農業の片手間で会社をアンジェリカに任せっきりだった為に、特に考える事なくスマホ越しに垂れ流されたギルガメッシュの実現不可能な妄想。

もし、相手がアンジェリカではなく遠坂(とおさか)(りん)やルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトだったら、笑顔で流していただろう。

しかし、アンジェリカは冗談が通じない真面目な人形だった。

 

しかも、最悪な事に彼女には中小企業だった会社を大財閥まで成長させた手腕とギルガメッシュの妄想を現実化させるほどの財力があった。

故に彼女は、雑談(・・)をギルガメッシュの冗談や妄想と捉えるのではなく、実行可能な命令と受け取ったのだ。

 

そう、このとんでもない都市のような会社はギルガメッシュとアンジェリカの単純な認識の違いと言うミスによって生まれたのである。

 

ギルガメッシュがこの都市の様な会社を知ったのは半年前。

エストニア政府との領地買取契約が内定に決まり、日本にある本社をアンジェリカの力でエストニアの何もない土地と置換させる準備を始める際の必要以上の触媒を購入した時の途方もない億単位の金額に魔術を行使する土地の広さ。

 

どれもこれも規格外すぎる数字に誤字か何かの間違いだとギルガメッシュがアンジェリカのプライベート端末に確認を取った事で発覚した。

彼が会談前日に胃を痛めていた原因の一部である。

 

まあ、このミスのお陰でギルガメッシュが計画当初に考えていた何もない土地で本社と研究所からじっくりと都市開発をしていくのではなく。

都市が丸ごと移動する事になったので、開発費用が浮いたのだ。

 

建国する際に解決しなくてはならなかった国民数もエーデルベルク周辺に住んでいた人々だけではなく、本社移設の際に残るか残らないかをアンジェリカに問われた本社で勤務している社員全員が『我々は地球の裏であろうが宇宙の果てだろうが、社長について行く』と日本を捨てて移住を決意。

家族を連れて喜んで日本を捨てると言い切った事で、都市機能を維持できる人数を確保する事が出来た。

 

給料は安い、休日出勤とサービス残業とパワハラが当たり前。

そんな時代の日本企業と仕事に見合った給料と定時帰宅、家族と遊べるレジャー施設と娯楽施設などの設備が揃った楽園のようなホワイト企業。

 

社員全員とその家族が悩むことなく、ついて行くのは考えるまでもない。

 

 

――――――。

 

 

会社の最奥に建設された巨大なオフィスビル。

アンジェリカが働くビルであり、彼女の話によるとメイド二人と共に施された魔術トラップによって要塞化されており、このオフィスビル勤めである証の社員証を持っていない状態で入ると一瞬で捕縛されるらしい。

ギルガメッシュは「俺の知っている会社じゃない」と小さく呟き、何処の部署にでも自由に入れる特別な『ゴールドカード』をアンジェリカから受け取りビルの中へと入って行った。

 

「「お帰りなさいませ!!マスター!!……ついでに社長」」

 

入って来たギルガメッシュとアンジェリカにスーツ姿で挨拶をする見慣れた二人の女性……いや、二対の自動人形。

 

「何故、ここに居る?日本の屋敷はどうした?」

 

予想外の受付嬢の存在に頭を押さえながら二人に問いただす、ギルガメッシュ。

彼の認識では二人は日本の屋敷で放置……ではなく、留守を任せていたはずだ。

そして、ギルガメッシュの質問を聞いて明後日の方向へと目を泳がす二人。

そんな自動人形達の反応に嫌な予感を激しく感じたギルガメッシュはゆっくりとアンジェリカを見る。

 

ギルガメッシュのその動作だけで色々と察した出来る自動人形は、ギルガメッシュの疑問に躊躇なく答えた。

 

「二人のケンカにより、屋敷が大破炎上。

屋敷は我が、優秀な建築スタッフにより完全再現。

特別な宝石を使った強化の魔術により、二人がケンカしても壊れない特別性に仕上がっており、

現在は我がスタッフが屋敷の管理を行い、この二人は建築費用を稼ぐまでの間、我が社でタダ働きをして頂いています」

 

アンジェリカの言葉を聞いて、ギルガメッシュの攻撃力を増加させるスキル『カリスマA+』が発動した。

着ていたライダースーツの様な黒い服も、黄金の粒子が体を纏う事によって太陽神からドロップした太陽の輝きを放つ『黄金の甲冑』へと切り替わる。

 

受付の机に足を掛けてジャンプし、空中で見事な三回転を同時に見せた彼女達はビルの床に両手と両膝を同時について額を床にこすりつけた。

 

「「ご、ごめんなさい(ですわ)―――――――――――!!」」

 

(ギルガメッシュ)に許してもらえるまで、二人の人形たちの土下座と冷や汗は止まらない。

 

 

―――――――。

 

 

ポンコツメイド達を物理言語で説教したギルガメッシュは元の黒いライダースーツに戻り、アンジェリカの案内によってようやく目的の人物が待つ社長室へとたどり着いた。

 

扉を開けると壁側に設置してある巨大な本棚や部屋の最奥にある高級そうなデスク。

中央にはギルガメッシュが会わなくてはならない重要な少女とその親が高級なソファーに座りながら目の前の机の上で一心不乱に絵を書いていた。

 

音を立てて、部屋に入ったのに気づかない絵具に汚れた金髪二人。

 

「サラ・ブラッドリリー、レイオス・ブラッドリリー。一端、手を止めなさい」

 

この親子はウルク美術部門に所属する世界的に有名な天才画家。

幼い娘は「マリオ・ロッソ」というペンネームで活躍し始めた期待の新星にして高ランクの伐刀者(ブレイザー)でとても稀有な能力を持っている。

父親は、生涯を賭けて自身の最高傑作を生み出す事を目標にしている娘にも劣らない才能を持つ、ベテランの画家である。

 

この親子は絵にしか興味がなく、自分の理想の絵を求める求道者であり、金や名声には興味はない。

ならば何故、そんな二人がウルクに居るのかと言えば……単純に絵が思う存分に描けるからだ。

 

彼らが商品用に描いた絵をウルクで販売する代わり、絵描きにとって最高水準の生活を与える事をアンジェリカと契約したからだ。

この契約によって彼らは、二十四時間体制で衣食住の世話をしてもらい、ケガや病気もカプセルで治療され完治不可能だった、生まれつき重い病を患っていた娘もアンジェリカに送られたギルガメッシュのエリクサーによって完治した。

 

そうして、最高水準の生活の中で描かれた絵はウルクがオークションで販売、もしくはウルク系列の美術館で展示され、発生した利益は親子に3割が、残りの7割がウルクへと分けられる。

まあ、二人はお金を必要としないので、アンジェリカが二人の為に個人口座を設立し高額な貯金が出来ているのだが……今までで一度も使われた事はなく、引き落としに必要な通帳やカードをしまった場所や、パスワードさえ覚えていないだろう。

絵以外は基本ダメ人間でウルクに来る前は着替えや風呂にすらまともに入らないダメな親子だ、ウルクが倒産して前の生活に戻ったら早死にするだろう。

 

そんなダメ人間な二人がアンジェリカの言葉に従い、真剣な表情で絵を描いていた表情は一変し、ギルガメッシュとアンジェリカの方へめんどくさそうな顔をしてゆっくりと向ける。

失礼な態度ではあるが一応、自分たちに理想の生活を与えてくれている雇い主なので、言う事は聞いてくれるらしい。

だが…面倒そうな親子の表情は再び、絵を描いていた時の表情へと戻った。

 

その次の瞬間、彼らは背筋を伸ばしてスッっと立ち上がり綺麗な動作でギルガメッシュ達の元へ歩き出す。

そして……。

 

「「……」」

 

無言でギルガメッシュの体をペタペタと触り始めた。

あまりの展開にギルガメッシュが動けない事をいいことに二人はそのままギルガメッシュの服を脱がそうと……。

 

「やめんか!!」

 

上着を脱がされシャツをまくり上げられた瞬間に正気に戻ったギルガメッシュの拳が二人の親子の頭に落とされた。

 

 

 




この作品に評価を付けて下さる皆様に感謝します。
驚くぐらいにいただく高評価や低評価もたくさん来ていますがこの自己中で書いている作品を面白い・つまらないと感じる様々な考えや感性を持っている人が読んでいると思うと嬉しくなりますね。

これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。


あと予告風番外編を作ってみたので気が向いたらどうぞ。
続くかは不明です。

原作;無人惑星サヴァイヴ

タグ;オリ主も登場 台本形式 完全不定期更新 続くのかは作者の気分次第。

本文

ルナ「重力嵐に巻き込まれた私たち7人と1匹は見知らぬ星の島へと漂流した。
巨大なウミヘビに謎の生物。
ここは油断ならないところだけど、生きていく為には食料と水を調達しなくちゃ!!
食料を探しに出かけた私とシャアラは、金髪と黒髪の二人のメイドさんを見つけたの!!
私たち以外にも人間が居た!!と、喜んだ私たちだけど、二人のメイドさんは殴り合いを始めたの!!」

チャコ「な、なんなんや、そのバイオレンスなメイドさんは!?
ルナとシャアラは大丈夫なんか!?」

ルナ「巻き込まれるのは危険だと判断した私達は二人に気づかれないように逃げ出したの!走るのよシャアラ!!諦めないで!!」

次回『つかまっちゃった』


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9話+お知らせとお詫び

ギルガメッシュの振り下ろされた拳に悶える二人のダメ親子。

 

「うぐぐぐぐ」

 

「い…いたい」

 

「いきなり人の服を脱がそうとする貴様らが悪い。

もし、ここに居るアンジェリカだったら…娘はともかく貴様は警察行だぞ」

 

頭を押さえてうずくまる二人に至極当然の話をするギルガメッシュ。

普通ならここで反省するだろう。

しかし、ダメ親子は普通ではなかった。

 

「「分かった。なら、私も脱ぐ(ごう)」」」

 

「ぶち殺すぞ貴様」

 

目の前で父と幼い娘が同時にエプロンをキャストオフ。

二人がシャツにボタンに手を掛け始めた所で再びギルガメッシュの拳が二人に振り下ろされる。

 

「「くぉおおおお!?」」

 

芸術家とは、何処か人間として壊れた人物が有名になる傾向がある。

壊れた人間にしか見えない世界があるのだろう。

しかし、これはあまりにもひどい。

おっさんのヌードなんぞ、みても悲劇しか生まれない。

幼女に至っては逮捕確定だろう。

 

―――――。

 

ギルガメッシュをモデルにしようと勧誘しまくる親子を物理的に黙らせ、ようやく本題に入れたギルガメッシュ。

一時間ほど時間をかけて、サラ・ブラッドリリーに仕事の確認と依頼をするのだが……。

 

「いや」

 

「…は?」

 

と、断られてしまう。

額に青筋を浮かべ、思わずギルガメッシュの口から変な声が出てしまったが、仕方のない事だ。

何故なら、この話は既に承諾されていて今日は彼女の仕事の確認と、仕事で彼女の能力で完成した()の受け取り期日を決める為だったのだ。

決定事項だった仕事を拒否されてしまえば相手が子供であれ、ギルガメッシュのような反応をしてしまうだろう。

 

「仕事はする…でも報酬を変えたい」

 

何処かの指令の様に手を組んで、キラリと瞳をギルガメッシュに固定するサラ・ブラッドリリー。

その姿は犯人を追いつめた刑事にも見える。

幼女の脳の回転は欲望の為に通常の三倍に高まったらしい。

 

「あえて聞くが…その報酬は?」

 

頭に手を抑え、幼女にあえて問いただすギルガメッシュ。

報酬として支払うのならしっかり明言してもらわなければならないし、書類の報酬欄を書き換えなければならないからだ。

 

「貴方をモデルにする」

 

ドヤ顔の幼女の頭をぶっ叩いてやりたい衝動にかられながら、冷静に考えるギルガメッシュ。

この目の前のダメ幼女が計画に参加しなければ、理想の終戦までの成功率は著しく落ちる上にコストも掛かる。

拘束されるのが嫌いなギルガメッシュであるが、ここは涙を呑んで引き受ける事にする。

 

「一時間なら……」

 

「ダメ、最低でも一週間は欲しい」

 

「い、一日はどうだ?お菓子も付けるぞ?」

 

「ダメ、一週間」

 

「他のモデルを探そう。一階の受付嬢はどうだ?

見た目だけ(・・)なら上等だぞ?あの二人の内のどれか一人を選ぶなら、20年でも40年でも……」

 

「貴方に比べたらあの二人はゴミ。一週間」

 

幼女の要求の値引きを図るついでにポンコツメイドのどちらかを押し付けるギルガメッシュだったが、見事に撃沈。

諦めたギルガメッシュは幼女専属のモデルとなった。

 

「では、さっそく触診を……」

 

真剣な瞳でギルガメッシュに迫る父親。

身の危険を感じたギルガメッシュは父親を囲うようにバビロンを展開。

《天の鎖》で父親を拘束した。

 

「は!?な、何だこれは!?」

 

「一週間の間はサラ・ブラッドリリーのモデルになる事を承諾したが…俺は貴様のモデルになるつもりは一切ない!!」

 

「な、なんですと!?サ、サラ!!お父さんも仲間に入れてくれるよな!?」

 

拘束された父親の懇願にギルガメッシュを見つめるサラ。

次に何を言われるか、理解したギルガメッシュは先手をうった。

 

「ちなみに、お前の父親も俺をモデルにするのなら計画にお前を組み込む話はなしにさせてもらう」

 

「はっはっは!サラ、もちろん父さんにも描かせてくれるだろう?

サラは父さんの絵が好きだもんな?」

 

「父さん、グッドラック」

 

「!?クソォォオオオオ!!こんな鎖などぉおおおお!!」

 

娘のファインプレーに一時は喜んでいた父親だが、娘の裏切りに慟哭の声を上げながら華奢な体を全力で使って鎖を引きちぎろうと試みる父親。

そんな父親に目もくれず、娘は絵の構成を夢想する。

幼女には父親に対する愛はあれど、己の探求心を満たす方が大事なのである。

仮に逆の立場だったのなら父親は娘と同じように裏切るだろう。

 

実にそっくりな親子である。

 

「私は諦めん!!諦めんぞぉぉおおお!!」

 

スーツをボロボロにしたメイド二人に連行された父親は本社から離れたウルク美術部の施設で一週間の間は監禁される事となった。

こうして、ギルガメッシュの地獄の一週間が始まった。

 

 

幼い彼女は本名ではなく『マリオ=ロッソ』として活躍する画家。

当然、彼女専用のアトリエがウルク社内の土地に存在するウルク美術部門のオフィスビルに存在する。

 

アトリエに連れてこられたギルガメッシュは彼女と父親を世話する家政婦に見守られながら問答無用にパンツ一枚にされ、触診(・・)される。

その触診は医療特有のものとかけ離れており、濃厚だった。

 

体全体を小さな手でペタペタされるのは当たり前。

匂いや()も検査される。

 

全裸の青年に金髪幼女が小さな舌で一生懸命にペロペロする光景がそこにあった。

日本が誇る?ロリコンな紳士達ならばご褒美だろう。

 

しかし、ギルガメッシュはロリコンではない。

親友たち同様に、色々と育っている女性が好みなのだ。

彼にとっては苦痛と罪悪感が混ざり合った精神的暴力に他ならない。

 

まさに地獄のような一週間を彼はやり遂げた。

全てが終わった時、彼は男性トイレの個室で自由を噛み締めていた。

 

全ては終わったのだと…。

ロリコンに目覚めなくてよかったと……。

新しい扉を開かなくてよかったと……。

自分はまだ、ノーマルなんだと……。

 

彼はギリギリのところで人としての道に踏みとどまり、契約を完了した。

色々と限界な彼に待ち受けるのは計画最終段階のみ。

 

計画に必要な()を受け取ったギルガメッシュはエーデルワイスの待つエーデルベルクへと早々と帰還した。

 

 




英雄王《偽》の英雄譚を楽しみに読んでくださる読者様方。
初めにお詫び申し上げます。
UPした10話の続きを書こうとしたのですが、続きが書けなくなりました。
もちろん、お気に入り登録や総合評価激減したからではありません。

単純に自分の実力不足で自分の妄想する展開を文章化する事が出来なかったからです。

ですので、申し訳ありませんが10話の削除のお知らせとお詫びをさせていただきました。

10話を見て面白いと感じたり感想を書いてくださった読者様、振り回してしまって本当に申し訳ありません。

次回からは書き方を変更し、ストックをいくつか溜めて物語の流れをチェックしてから投稿します。


最後に、この未熟な作者の勝手な都合で沢山の読者様にご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。








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10話

エストニアへと逃げるようにして帰って来たギルガメッシュは、手に入れた者達(・・)を空き部屋に押し込み、リビングのソファーでぐったりと横になる。

ロリコンとドMなんて業が深すぎる性癖の扉は開かなかったが、精神的にだいぶ追いつめられているようだ。

 

そんな彼を見て、一週間モヤモヤソワソワしながら待っていたエーデルワイスは色々と彼に聞こうと思っていたが、彼の体調を優先して聞くのを止めた。

彼女は自身の事よりも好きな男を優先できる良い女なのだ。

 

「どうですか?」

 

「ああ…本当に美味い」

 

疲れた彼の為に母に教わった疲労回復におすすめの温かいスープを作り、自宅から取って来た自家製のパンをギルガメッシュの前に出すエーデルワイス。

料理に釣られたのだろうか?

ぐったりとした体を起こし、エーデルワイスの作ったスープを飲んで家庭の味に癒されるギルガメッシュ。

そして、見た目は若いのに内面同様におっさん臭くなるギルガメッシュを優しい笑顔で見るエーデルワイス。

 

エーデルワイスに母親のように見守られながら、パンとスープを残さず食べたギルガメッシュはエーデルワイスへ感謝し、自室で一人眠る。

この日の夜は少しだけ両親の事を思い出し、ちょっぴりセンチメンタルな気分になるのだった。

 

 

ー翌日ー

 

連盟と同盟の両軍の兵士の為の休暇期間が終わり、戦争が再開された。

休みで体力を回復させた兵士達の表情は明るい。

勿論、体力が回復したからではない。

この、戦争にエストニア政府が雇った『傭兵』が参戦すると世界中に生放送で発表されたからだ。

 

参戦するのは行方不明となっていた日本の英雄、《王者》ギルガメッシュとその弟子。

 

この情報と二人の画像をエストニア政府が発表した際に、同盟と連盟の兵士たちは英雄の参加に喜び、世界は驚いた。

兵士達は勝機を、世界は行方不明だった英雄が昔と変わらぬ姿で現れた事。

そして、何よりも世界が注目しているのは英雄の弟子であるエーデルワイスの実力と世界的に有名な女優すらも霞むその美貌。

 

彼女は世の男達を魅了した事で、『あの娘は誰だ!?王者との関係は本当に弟子か!?』等と色々と騒動になっている。

彼女の登場で一番騒いだのはエストニア戦争の野次馬である《好き好きサムライちゃん》。

略して《SSS》である。

 

彼らはエーデル武蔵である《サムライ・ガール》を信仰する信者たちだった。

強い団結力を持ち、エーデル武蔵の応援の為に自分達が作ったオリジナル応援ソングを歌って踊るファンクラブ。

海外にはエーデル武蔵のフィギュアや僅かに彼女が写った写真からブロマイド制作し、世界に向けて販売をしている。

ちなみに売り上げは、グッズの制作費とエストニア戦争によって村から避難し、仮設住宅に住むことになった村人達に『サムライちゃんが喜んでくれるかも!!』と募金している。

 

人数の規模は日に日に増えていき、今ではファンクラブの会長と幹部クラスが所属する『現地応援班』。

テレビとネットでサムライちゃんの情報がUPされるのを待ち、UPされたら現地に情報を送る『情報班』。

そして、サムライちゃんグッズを制作・販売・募金を行う『グッズで応援班』。

 

肖像権とか色々とダメな事をしている彼らは色々とギリギリだ。

これ以上何かすれば警察がやって来るだろう。

 

しかし、彼等が好きなサムライちゃんの情報を得る為にテレビとネットにかじりついている《SSS》情報班がギルガメッシュとエーデルワイスの情報をキャッチした。

 

『サムライちゃんの敵になるヤ〇チンとビッチだ!!』

 

重度のサムライちゃんファンである情報班の班長は、真っ先に上記の文面と画像を現地のファンクラブ会員にパソコンで一斉送信した。

戦争が再び再開した時、彼等のアイドルであるサムライちゃんに敵対する二人をブーイングし、口汚く罵って物を投げつける事を期待したからだ。

 

しかし、班長の願い通りにはならなかった。

何と、驚くべきことにファンクラブの《にわかファン》達が幹部たちに反逆した事で、内乱が発生したのだ。

 

幹部クラスが二人のアンチを考える中、重度のファンではない現地人の《にわかファン》が幹部クラスの考えるアンチ作戦に反対したのだ。

 

『現地応援班』には幹部クラスを除くと重度のサムライちゃんのファンは居ない。

なぜなら、誰もが彼らの様に自宅警備員という職を捨てたり、有給を取ったり、無断欠勤出来るわけではないのだから……。

よって、『現地応援班』は時間と共に現地の《にわかファン》によって構成され、重度のファンが消えてゆく。

 

この状態を例えるなら、家を大きくする為にリフォームするが、リフォームの度に弱くなっていく欠陥住宅だろう。

 

その、すっかり脆くなった組織は、美しき銀髪美女の画像によって崩壊した。

ファンクラブ(欠陥住宅)は三つの勢力に別れたのだ。

 

平会員の謀反によって、著しく勢力を失った《SSS》。

 

銀髪美女という新風にウハウハする者達と《二人とも愛せばいいじゃない?》という博愛主義者達。

 

 

一つの目的に集まっていた男達がそれぞれの道を歩み出した事で衝突する。

 

論争から始まり、最終的には殴り合いに発展した彼らは戦争による被害を抑える為に、他の野次馬達と共にエストニアの軍隊によって強制退去させられる事になった。

 

 

―――。

 

 

戦場から離れた場所で野次馬達が退去する姿を観察する、黄金の鎧を身にまとうギルガメッシュと戦乙女(ワルキューレ)の様な出で立ちの美しき銀髪美女のエーデルワイス。

 

「まさか、戦争が始まる前から一部で暴動が起こるとは……エストニアの軍もご苦労な事だ」

 

「ええ、全くその通りです。彼らは戦場を遊び場か何かと勘違いしている」

 

彼等はエストニアの傭兵としてアピールする為に小規模であるがエストニア軍の兵士達と行動を共にしていた。

 

「野次馬達を退去させました!!」

 

若い男の兵士が見事な敬礼を見せて報告すると同時に、チラチラとエーデルワイスのへその辺りに視線をさまよわせる。

男の悲しい習性だ。

ギルガメッシュは彼の視線の動きを見なかった事にした。

 

エーデルワイスは彼を道端に転がる石ころでも見るようにチラっと見ただけだ。

 

「そ、それと、緊急報告です。

どうやら……連盟と同盟がゆっくりとこちらに向かって来ているそうです」

 

「なんだと?待機(・・)しているはずではなかったのか?」

 

「はい、こちらが抗議の連絡を入れると……両軍の指揮官が共に『通信機が故障して、間違った命令が伝達されたようだ』と」

 

「チッ。つまらん嫌がらせをしてくれるものだ」

 

「ギル。私が追い返しますか?彼等程度なら大した労力になりません」

 

エーデルワイスの言葉を聞いて顎に手を当てて考えるギルガメッシュ。

彼は十秒ほどそのままで居たが、ニヤリと笑いだす。

 

「よい、(オレ)達が戦う贋作共の力を見るのに丁度よい」

 

「いいのですか?」

 

「ああ、せっかく無傷で戦争を終わらせてやるチャンスを自ら不意にするのだ。

奴らにはまた、メンテナンス料を払ってもらう事にしよう。

それに、一週間の地獄を見た事で得た()達だ。もっと利用せねばもったいない」

 

エーデルワイスとの会話を終えると一瞬だけ幼女との嫌な思い出がフラッシュバック。

ブルリと軽く震えた後、不思議そうなエーデルワイスの視線が突き刺さるが、何事もなかったかの様にパチンと指を鳴らすギルガメッシュ。

これにより、戦場の真ん中に二つのバビロンの門が展開され、展開された門から現れる二人の戦士。

 

エーデル武蔵とデブガメッシュだ。

 

 

「さあ、戦争の再開だ。

せいぜい、金を稼いでくると良い《贋作》共」

 

 

 

 




全ての読者様に感謝して十話を投稿。
前回は、未熟な作者のせいで振り回してしまい申し訳ありませんでした。
感想で応援の言葉をくださった読者様、本当にありがとうございます。

誤字脱字や文章がおかしい未熟な作者ですが、これからも応援よろしくお願いします。


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11話

ギルガメッシュの計画にない動きを始めた同盟と連盟の両軍について現場のエストニア軍から報告を受けたエストニア政府。

政府のトップはさっそく、連盟と同盟の本部に連絡を取った。

電話がつながると電話とつながったスクリーンから二人の人物の姿が映る。

 

「一体どういう事なのです!!貴方達は計画書の内容に賛同したのではないのですか!?」

 

『いや、なに。

ただの手違いだ』

 

『そうとも。我々も困っているのだよ』

 

怒れるエストニア政府のトップの声を涼しい顔で受け止める本部のトップにいつまでも居座る老人たち。

老人たちの余裕の態度に激しく罵った後で、受話器を力の限り床へと投げ捨てたくなる衝動に駆られるがエストニア政府のトップであるジェームズは責任と国民の未来の為に堪えた。

ここでコイツ等に暴言を吐いた所で意味はないのだ。

 

故に彼は手のひらに爪を食い込ませるほど握りしめ、こちらが少しでも有利になるように情報収集を行う事にした。

 

「手違いですか……その手違いで《王者》を敵に回すのですか?

もしや彼の親友達を味方に付けましたか?」

 

『フハハハハ!!あんな年老いた英雄達に、あの化け物が倒せるわけなかろう!

さすが緑豊かな事だけが取り柄のエストニア。

小国(・・)らしい小さな考えですな!!』

 

『いやはや、どうしたらそのような浅い考えに至るのか教えてもらいたいものです』

 

爪をさらに食い込ませて怒りを飲み込むジェームズ。

彼は老人たちから得た情報を整理する。

大笑いするこいつらの余裕は、かの英雄達ではないらしい。

しかし、今現在で確認されている武器では王者に傷をつける事すら叶わない。

Aランクはすべてを暴力でねじ伏せる埒外の存在であるからこそのAランクなのだ。

 

そんな怪物と渡り合えるAランクは世界にそうは居ない。

KOKで活躍する騎士ならば、既にこの戦争に参戦しているだろう。

だったら彼とその親友を除けば……裏の人間。

 

しかも、王者を倒せる可能性を秘めた……いや…まさか…。

 

「まさか……《解放軍(リベリオン)》を雇ったのですか!?」

 

自分の至った考えを老人たちに問うジェームズ。

その問いに老人たちの表情は変わった。

 

『まったく!さっきから何なのだね!?我らは小国のエストニアと違って忙しいのだ!!

これ以上は付き合ってられん!!』

 

『そうだ!!わざわざ電話をとってやったのに無礼な!!我らはこれで失礼させてもらう!!』

 

優位な立場でしか交渉をしてこなかった老人たちの『余裕』と言う名の仮面が剥がれたと同時に怒声と共に、ブツリと切れた電話とスクリーンの映像。

ジェームズは何も映っていないスクリーンを睨み付けると、皮膚が破れた痛みと血が止まらない手をそのままに、ギルガメッシュへ向けてプライベート回線による連絡をとった。

 

 

 

――――。

 

 

 

ジェームズから連絡を受けたギルガメッシュは驚愕した。

嫌がらせは予想していたが、まさかテロリストを利用してくるとは思わなかったからだ

 

電話を切ったギルガメッシュは贋作であるデブガメッシュがテロリスト、もしくは同盟か連盟に敗れる最悪の未来を危惧し、対抗手段をとる。

 

「まさか、出陣の命令を出してすぐにこんな連絡が入るとは……。

ちょうどいい。これがどれだけ使えるか試してみるとしよう……」

 

自分の目の前の空間にバビロンを展開したギルガメッシュを不思議そうに見守る兵士とエーデルワイス。

彼らが見守る中、ギルガメッシュが両手で取り出したのは筒のようにヒモで縛られた7つのスクロール。

 

「スクロール解放。《竜牙兵》」

 

ギルガメッシュが言葉と共にスクロールを前に放り投げると、全てのスクロールのヒモがほどけてすぐに消失した。

スクロールが消失すると駆け出す、デブガメッシュの背後に骨で構成されたゴーレム、《竜牙兵》が70体召喚される。

 

このスクロールは、ゲームに登場する魔女メディアの魔術が封印された低ランクのドロップアイテムだ。

効果は発動者のレベルに応じた強さを持つ、《竜牙兵》を召喚して戦闘のサポートをさせたりアバターにもよるが、宝具発動までの壁にするなどの使い道はある。

ただ、《竜牙兵》が役に立つのは初期までだ。

すぐにジル・ド・レェやアヴィケブロンからドロップされる《海魔》や《ゴーレム》のスクロールにとって代わられ、売っても二束三文にしかならないその場で捨てられる悲しきアイテム。

 

持っているのはビギナーのアバターか、ギルガメッシュの様なコレクター気質のある課金兵、もしくはアバターのレベルに依存する《竜牙兵》を強化アイテムで極限にまでステータスを上昇させて活躍させる奇特な考えを持つ者達のみ。

ちなみに、魔女メディアやセミラミスの召喚する《竜牙兵》は彼女たちの魔術レベルによってステータスが上昇するだけではなく、翼が生え、武具まで装備して戦闘中には厄介な壁としての本領をサーヴァント相手に発揮する事が出来る。

 

「どこまで戦えるか分からないが、壁にぐらいはなるだろう。

進め、《竜牙兵》よ!我が敵を蹴散らし、踏み砕け!!」

 

命令(オーダー)を受けた骨で構成された兵士達はデブガメッシュ達に追従する形で走り出す。

 

「さて、(オレ)達も行こうではないか」

 

「はい、ギル。あなたに勝利を」

 

デブガメッシュ率いる骨の軍団を見送った二人は、形だけの味方である連盟と同盟の連合軍へと駆けだした。

 

 

――――。

 

 

ギルガメッシュが駆け出した頃、戦場近くの森を先行する一団があった。

 

「ようやく…帰れるんだな」

 

「ああ、この戦争……我々の勝利だ」

 

「あの三大英雄の一人である、王者が参戦するんだ、質も量もこちらが勝っている。

もしかしたら今日中に終戦するかもな」

 

「他愛なし」

 

「おい、まだ確定した訳じゃないんだ。

いくら王者が来るからって油断していたら死ぬぞ」

 

彼等の緊張は《王者》の参戦を聞いてから、適度に緩んでいた。

一週間以上前ならば戦場に行くだけで胃が悲鳴を上げていただろう。

なのに、今では軽口を叩いている。

 

そんな男達にイラついているのが二人の学生騎士。

西京(さいきょう)寧々(ねね)滝沢(たきざわ)黒乃(くろの)だ。

 

こいつらは何もわかっていないとプロの騎士達を睨み付ける彼女達。

奴ら…特に、《地上最強のデブ》に至っては本気なんて一回も自分たちに見せてはいない。

こちらは殺す気で戦っているのに、向こうはハエを祓うような動作で自分たちを跳ね退ける。

 

そこに殺気も敵意もなく、あるのは面倒くさいという表情のみ。

《サムライ》に至っては無表情だ。

自分たちに殺す価値はないと言わんばかりに幻想形態で意識を刈り取る。

彼等にとって自分たちとの闘いは作業だと二回目の戦いで確信した。

 

そんな天と地ほど離れている相手に、()勝って(・・・)いる?

馬鹿も休み休み言ってくれ。

数に入らない所か、寧ろ自分たちは《王者》の足手まといにしかならない。

 

いや、そもそも《王者》は西京寧々の師である《闘神》の盟友であり、最強の騎士の一角。

加勢として認識してもらえるか怪しいところだ。

 

「デカ女。アイツらが先走ったら、私は撤退する。」

 

「ほう?虫唾が走るが、同意見だな。

殲滅戦(・・・)が得意な《王者》の居る戦場に行けと言う命令に何の疑問を抱く事なく、目の前で呑気な会話をしている馬鹿共と心中するのはごめんだ。

巻き込まれない内に早々に離脱するさ」

 

二人が先行する一団と少しな離れた後方の部隊に聞かれないよう会話する中、森を抜けて少し先まで進んでいた男達が立ち止まった。

 

「なんだよ……あれ」

 

震える男の声に異常を察知した二人は男達の居る場所まで近づき、寧々と黒乃は目の前の光景に唖然とした。

尋常ではない速度で(デブ)(サムライ)が骸の軍団を率いてこちらに向かって来ているのだ

こうして驚いている間にも距離はどんどん詰められていく。

 

「おいおい…あれはなんの冗談だ?チビスケ」

 

「知らねぇよ……あの女の力じゃないか?デカ女」

 

冷や汗を流しながら、前方の敵を睨み付ける二人。

 

「どうした、逃げないのか?」

 

「はっ!?分かっているくせに聞くんじゃねよ!クソデカ女!!」

 

罵り合いながら、デバイスを展開する二人。

《王者》が居ない上に敵の数と予想以上の速さに逃げ切れないと判断した二人は、自分たちが生き残る為に頭を回して策を思いつく。

生き残る確率を伸ばす効果的な策を思いついた二人だったが、その表情は非常に苛立っており、怒気に溢れていた。

二人がチラリと同じタイミングで互いを見れば、お互いに同じ策を考えていると理解する。

 

本気で何度も殺し合った事で知った、人柄と考え方。

太刀筋に癖。得意な間合いや苦手な間合い。

忌々しい事に自分が生き残るのにはコイツの力が必要だと、彼女達はそこいらの夫婦よりもお互いを理解していた。

 

「ミスしたらぶっ殺すからな!!」

 

「それはこっちのセリフだチビスケ!!私の足を引っ張るなよ!!」

 

二人の策は単純。

殺したい程にムカつくライバルと、共に戦う事だった。

 

生き残る為、二人の学生騎士の戦いが始まる。

 

 

 




次回から戦闘に入ります。

読者の皆様が、面白いと思って頂けたのでしたら幸いです。


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12話

ギルガメッシュとエーデルワイスはぶつかり合う贋作の軍団と魔導騎士達の戦いを遠くにある丘の上で眺めていた。

特に彼の親友の弟子である少女と、その相棒らしき女性の動きは映画のワンシーンの様で見ごたえがある。

二人の戦いぶりを見て、ギルガメッシュは戦場で駆け抜けていた若かりし頃の親友二人の姿を思い出し、ニヤリと笑う。

 

「エーデ。お前はあの二人を見てどう思う?」

 

「……撤退を選択し、距離を徐々に離しながら戦う優れた状況判断や武の才能も魔力も有り、最初に戦場で手合わせした頃に比べれば成長もしました。

彼女達は将来有望な騎士になると思います」

 

小学生の様に見える自分よりも年下の少女と自分よりも背の高い女性の舞にも似た戦いに、見た目の年齢相応の笑顔を見せるギルガメッシュを横目に見ながらエーデルワイスは答えた。

そして、彼女は無自覚に瞳を鋭くし、戦場で戦う二人を見て口にする。

 

「ですが……まだ未熟。彼女達は私や貴方の足元にも及ばない運命の内側に居る存在。

私の相手にすらならないでしょう」

 

心優しいエーデルワイスから発せられた謎の敵意に驚き、わずかながら目を見開くギルガメッシュ。

 

「珍しいな。優しいお前が敵意を見せるのは……。

自分と同じように運命の埒外に至るであろう二人の成長速度に対抗意識が芽生えたか?」

 

「…いえ、そうではありません。

ただ……」

 

「ただ?」

 

「原因は分かりませんが……」

 

 

―――不愉快なのです。

 

 

――――。

 

 

ギルガメッシュが嬉しそうに眺める彼女たちへ向け、少女から女性へと成長途中にあるエーデルワイスの無自覚な嫉妬による敵意が放たれた。

幼い頃からギルガメッシュとのダイエットと言う名の修行と自主練の果てに運命の外側へと至った彼女の敵意。

それは……戦場で戦う彼女たちに届いた。

 

「「ッッ―――――――!!」」

 

デブガメッシュから出来るだけ距離を置きながら、《竜牙兵》を近・中距離で相手にする彼女達は剣気にも似た鋭い敵意を感じ取り、二人は同時に後ろへと下がった。

喉元に剣を突き付けられたような感覚に襲われた彼女たち。

未熟な二人は敵意の主である人物の位置を把握する事は出来なかったが相手の強さの一端だけは感じ取っていた。

 

「ふざけんなァ!!あのデブ以外にもとんでもねぇのが居るじゃねか!!」

 

「お前の言いたいことは分かる!!でも、今は足を動かせ!!

今以上にここから離れるぞ!!」

 

新たなる未知の敵を感知した二人は一分一秒でも戦場から距離を離す為に戦闘を再開する。

西京寧々の持つ、緋色の鉄線から風を扇ぐように放たれる黒い蝶と滝沢黒乃の時を止めて放たれる数十発の弾丸。

彼女たちの舞は激しさを増した。

 

戦況は連盟と同盟にとって最悪の状態となっていた。

西京達の前を先行していた一団は全滅。

杖を持った顎鬚の騎士は逃亡しようと背を向けた後、背中を刺されて死亡。

他愛なしと言っていた短剣を持った騎士は見事なアクロバティックで一撃を避けるも、追撃の二撃目によって頭部を殴られて死亡

物の数秒で全滅。

後方に居た軍も《王者》が居ないことを知って脱走兵が続出。

西京達やBランクの優秀な騎士たちが《竜牙兵》の数を減らしているが旗色はかなり悪い。

 

奮闘していた彼女達であったがそろそろ限界が近い。

 

「《クイック・ドロウ》!!」

 

「《黒刀(こくとう)八咫烏(やたがらす)》!」

 

滝沢黒乃の攻撃により足を止めた《竜牙兵》、西京寧々が緋色の鉄扇に宿った超重力の黒き刀で止めをさす為に、首を横一閃。

首から上を切り飛ばされた《竜牙兵》はガラガラと音を立てて崩れ去り、骨の山を築いた後は粒子となって世界から消えた。

 

「まったく!!骨だけの癖に頑丈過ぎるだろ!!どんだけカルシウム取ってんだ!!

うちにも分けろ!!」

 

「帰ったら牛乳と相談していろ馬鹿者!!何か来るぞ!!」

 

西京寧々のボケにしか取れない発言にツッコミを入れる滝沢黒乃。

 

騎士たちの努力によって《竜牙兵》の数が残りわずかとなった時、地面から触手の様な物が這い出てくる。

その姿は醜悪でその姿を視認した騎士達は嫌悪感から顔を歪ませた。

それは紫色で、タコによく似た触手を持ち悪臭を放つ大きな口を持ったおぞましい怪物。

 

「おいおい……。なんだよ、あのタコとヒトデを合体させたような生臭い化け物は?」

 

「私が知るか。だが、このまま反撃をしなければ、私たちは奴らの餌になるのは間違いない」

 

疲弊した体にムチを打って、再び構えを取る西京寧々と滝沢黒乃。

彼女たち連合と同盟の連合軍の地獄が始まった。

 

 

 

――――。

 

 

醜悪な怪物の登場によってさらに混沌とする戦場。

怪物の正体は、ギルガメッシュの持つスクロールによって召喚された《海魔》である。

ジル・ド・レェの代名詞とも言える魔術である。

 

《海魔》は中位クラスの魔術であるが物理攻撃は《竜牙兵》とさほど変わりはない。

ただ、《海魔》には特殊能力として自己再生能力や相手に毒などのステータス異常を与える力がある。

ジル・ド・レェのアバターを育成し、極める事が出来たならば、時間と強化アイテムなどのコストが掛かるが、ソロで高難易度クエストの代名詞《神の討伐》を達成させる事も出来る。

 

 

そんな、神殺しの可能性を持つ醜悪な怪物が戦場で猛威を振るう。

それはまさに地獄であった。

 

醜悪な姿で騎士たちの心を圧迫し

 

異常状態を与える毒液を所構わず、まき散らして、弱った相手から飛び掛かって食事を始める。

 

血と悲鳴が戦場を支配した。

 

「それで…どうする?デカ女」

 

「この状況で策があると思うか?チビスケ」

 

そして、西京寧々と滝沢黒乃もまた、追いつめられていた。

学生騎士とは思えない多大なる戦果をたたき出した彼女たちだったが、もはや限界。

お互いを背中を預け、醜悪な怪物…《海魔》たちに囲まれていた。

まさに絶対絶命である。

 

「なぁ…お前って男居るって聞いたんだけど本当か?」

 

「……居る。なんなんだ、突然?この状況で男でも紹介しろと言い出すのか?」

 

そんな状況で真剣な表情で、西京寧々は滝沢黒乃にカフェで行われると噂される女子トークのような質問をする。

馬鹿らしい質問であったが、彼女の知らないほど決意に溢れた西京寧々の真剣な表情と声色に答える滝沢黒乃。

もしかしたら、映画の様な最後の会話をしようと言うのだろうか?

 

「そうか……」

 

聞きたかった答えを知った、西京寧々は瞳を閉じた。

そんな彼女の様子に滝沢黒乃は理解が追いつかない。

滝沢黒乃が疑問を浮かべていると、彼女はクルリと反転。

 

「リア充は爆発しろぉぉおおおおおおおお!!!!」

 

「ぐはっ!?」

 

戦場に轟く、魂の叫びと共に放たれる嫉妬の一撃。

彼女のデバイス《紅色鳳(べにいろあげは)》から放たれる超重力のエネルギーを宿した蝶が滝沢黒乃の背中に叩き込まれる。

今は味方であるはずの西京寧々に背中を攻撃された滝沢黒乃は超重量の衝撃に襲われ上空に打ち出された。

 

「リア充は戦場に邪魔なんだよクソボケェ!!テメェは日本に帰って末永く爆発していろ!!

後、男を紹介しろや!!」

 

「チ、チビスケェエエエエエエエ!!殺してやるぅううううう!!!」

 

空を滑空し、呪詛を吐きながら、来た道を戻るライバルを見送った西京寧々はニヤリと笑い、彼女を囲う怪物たちに鉄扇を構える。

その獰猛な表情は、まさに夜叉。

 

「我が偉大なる師!《闘神》南郷(なんごう) 寅次郎(とらじろう)の名に賭けて、貴様らを一匹でも多く地獄へと還してやる!!

…さあ、化け物ども。

 

かかってきやがれぇえええええええええ!!!」

 

両手の鉄扇に重力の黒刀を作り出し、突撃する西京寧々。

自殺にも等しい行為だが、彼女の表情に悲壮も後悔もない。

ただ、恐れずに前へ、前へと進むのみ。

 

―――ジジイ…悪い。

 

うち…先に死ぬわ。

 

でも……後悔はないんだぜ?

 

本気でぶつかれて、本気で殺し合いが出来るムカつくバカ女と好きなだけ暴れられたんだ。

 

ムカつくけど…楽しかった。

 

これがジジイの言っていた友達って奴なのかな?

 

うちは素直な弟子ではなかったけれど……ジジイの友達の話、十分長生きした後にまた、あの世で聞かせておくれよ―――。

 

刃を縦横無尽に振り回し、《海魔》を切り刻む西京寧々。

怪物たちの赤い血を浴びながら、戦い続けたが彼女は敵の物量に負け、仰向けに倒れたその瞬間。

彼女は複数の触手にからめとられようとされていた。

 

西京寧々が終わる、その瞬間。

 

黄金の鎖が全てを縛った。

醜悪な《海魔》もデブガメッシュもエーデル武蔵も、敵はすべて捕縛され、彼女の前に黄金の王と白銀の戦乙女が空から舞い降りた

 

「よくぞ持ちこたえた。

その魂、その不屈ぶり…まさしく現代の英雄にふさわしい女だ。

貴様とその友の武功は賞賛に値する」

 

彼女に賛辞を述べた黄金の王は揺れる空間から薬を出して、彼女に振りかけた。

すると、彼女の傷は全て癒え、体力も消費した魔力もすべてが全快した。

驚きながら体を起こし、体の確認をする彼女を尻目に黄金の王は全ての敵に裁定を下す。

 

「さて、汚物ども。

貴様らはやり過ぎた…疾く、地獄へと堕ちるがいい。」

 

王の…ギルガメッシュが右手を上げて宣言すると、すべての敵に古今東西の武具が突きつけられる。

まさに絶対強者。

一人で国と戦争が出来る最強の英雄。

 

「死ね」

 

手が振り下ろされると武具が射出され、その一撃の元に、すべての敵が爆散。

土ごと敵を吹き飛ばし、クレーターだけを残して、全ての敵は塵に還った。

 

しかし、ギルガメッシュは警戒を解かない。

地面や空、奇襲が出来るであろう場所を見渡し、警戒していた。

 

そして、そんな英雄を森から見ていた《解放軍》から派遣されて来た男は獰猛な笑みを浮かべる。

世界大戦当時のままの戦闘とギルガメッシュの能力を見ていた男は己の勝利を確信したのだ。

自分の能力ならば、奴を殺せると。

 

「戦争当時の資料よりも強くなっていたらと不安だったが……これでようやく復讐が達成できそうだ」

 

《解放軍》は関係ない。

全ては彼の復讐の為にギルガメッシュを殺す。

 

復讐者は今、満を持して姿を現す。

 

 




いつも応援して下さる読者様に感謝を捧げて投稿。
戦闘シーンは難しいですね。
あまり活躍しなかったオリ主とエーデルワイスさんは次回活躍の予定です。

エストニア編が終わったら、連盟と同盟はどうなるのでしょうかね?(白目)

未熟な作者と作品ですが、これからも応援よろしくお願いします。


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13話

作者の都合により、最後の部分を書き直しました。
削除したり投稿したりと、読者様をぶん回してしまい申し訳ありません。



戦場で繰り広げられる《海魔》による蹂躙を見たギルガメッシュとエーデルワイスは突入する頃合いと判断して戦場へと突入。

自分と親友たちの次代を担う英雄の卵達に喜びながら、ギルガメッシュは《天の鎖》と宝具の射出により贋作の軍団を壊滅させた。

 

デブガメッシュもエーデル武蔵も塵に消え、すべてが終わった。

傷ついた連合と同盟の騎士達は水使いの騎士の治癒や現地に運ばれた最新式の移動カプセルによって一命をとりとめた。

 

治療中にカプセル内で暴れ、レンタル中であるカプセルの一部が凹んだりしてしまったが騎士達は気にしない。

全ては自分たちを地獄へと放り込んだ愚かな上司達が膨大なメンテナンス料を払ってくれるのだから。

 

わざと(・・・)カプセル内で暴れる騎士が続出する中、戦場の隅では二人の学生騎士が再会を果たした。

 

「チビスケェエ!!」

 

「ぶふぅ!?」

 

再会そうそうに西京(さいきょう)寧々(ねね)の顔面に滝沢(たきざわ)黒乃(くろの)による鋭い拳が叩き込まれた。

疲弊し、魔力も西京寧々の攻撃によってもたらされた全身の骨折の治療により枯渇寸前とは思えない一撃によって、地面を転がる西京寧々。

その光景は辺りを《解放軍(リベリオン)》を警戒しているギルガメッシュとエーデルワイスはもちろん、他の騎士たちの視線も集めていた。

 

「貴様のせいで日本に帰る前にあの世に旅立つ所だったぞ!!」

 

「い、いやー、そんなに怒んなよ、く、くーちゃん(・・・・・)?」

 

「……おい、なんだその気色悪い呼び方は?」

 

一メートルほど後方に転がった西京寧々だったが、事前に完全回復していたお陰で、すぐに起き上がり、ぎこちない引きつった笑顔で今まで見せた事のないフレンドリーな態度で滝沢黒乃の元へ歩み寄る。

西京寧々の態度もそうだが、今まで自分が呼ばれた事のないあだ名にドン引きする滝沢黒乃。

彼女は未知の化け物を見るような目で彼女を見ると、一歩後ろに下がった。

 

――もしかして強く殴り過ぎてしまったのだろうか?

 

「え、えー?何言ってんだよこのクソ……くーちゃん。

うちら親友(・・)だろ?」

 

親友という言葉を強調しながらドン引きする滝沢黒乃から、これ見よがしにチラチラとギルガメッシュへと視線を動かす西京寧々。

その表情は頬は紅く、初々しさと必死さに溢れていた。

たぶん頬が赤いのはクリーンヒットした滝沢黒乃の拳のせいだけではない。

 

西京寧々がチラチラと伺っている先の人間を見て、何となく察しがついた滝沢黒乃。

彼女は目の前の女のチョロさに呆れた。

少女漫画に登場する、頭がお花畑なヒロインも驚く程のチョロさだ。

 

でも、納得は出来る。

滝沢黒乃は目の前の西京寧々の悲惨すぎる恋愛模様を知っているからだ。

 

例えば……。

 

一年前の秋。彼女は転びそうになったところを学校の先輩に受け止められた事があり、その優しさに一目ぼれした。

相手は三年の先輩。

時期的にもうすぐプロの魔導騎士として活動するための研修と訓練が忙しくなる。

特に、彼はDランクすれすれの学生騎士で努力しなければならない。

だから、彼女は時間を見つけて先輩に一世一代の勝負にでたのだ。

 

『よ、よかったら、あの……。

今度私とお食事でもいかがですか?』

 

彼女の精一杯の勇気。

彼女の勇気あるお誘いに先輩は、身長の低い彼女と視線を合わせて優しく答えた。

 

『えーっと…おままごとは小学校のお友達とやった方ブヘェ!?』

 

小学校のお友達と聞いた瞬間。

西京寧々の乙女のハートは粉々に砕かれた。

あまりのショックで想い人である先輩を殴り倒し、マウントポジションで拳を何度も振り下ろしてボコボコにした挙句にキャメルクラッチを決めてしまう程だ。

 

 

先輩は西京寧々を覚えていない所か小学生と間違えたのだ。

確かに学校指定の制服を着ていたにもかかわらずに軽率な返事をした、その先輩にも非はある。

しかし、彼女の身長はそれほど低かったのだ。

学校指定の制服がコスプレにしか見えないほどに……。

 

先輩が全治一週間以上のケガをカプセルによって一日で治療されて以降、ボコボコにした先輩を思い出し、少しでも大人に見えるようにする為に彼女は原付バイクでの登校を決める。

しかし……。

 

『西京寧々さん…もうしわけありませんが県警が定めた基準よりも身長が……』

 

彼女は教習所でバイクに乗る所か入学を拒否されてしまう。

これによって希望が絶たれた彼女は荒れに荒れて、学校のマドンナとして同級生のみならず上級生からも熱い視線を送られている滝沢黒乃にケンカを売りに行った。

 

それが、彼女と滝沢黒乃のファーストコンタクトであり、滝沢黒乃が彼氏持ちと分かると彼女のボルテージも更に上昇。

にっくきリア充である滝沢黒乃を倒す為に《闘神》に弟子入りする程だ。

 

ぶつかり合う度に成長する彼女達の試合が死合になる没収試合を増やし、二人そろって学園の問題児と呼ばれるようになり男も女も寄り付かなくなった。

クールで彼氏持ちの滝沢黒乃は痛くも痒くもないが、彼氏なし=年齢の西京寧々には大ダメージだ。

 

学生の間は学校の誰もが彼氏は出来ないと認識している。

故に、これは彼女が花の十代で恋が出来るラストチャンスであり、彼女にとって例えライバルの足の裏を舐めてでも、成就させたい想いなのだ。

 

西京寧々の必死な姿に納得すると同時に西京寧々から視線をエーデルワイスに移す滝沢黒乃。

彼女は、エストニアが彼等の参戦が決定した時から二人が恋人同士であるかもしれない…と、流れている噂を知っている。

 

スラっと背が高く、学生騎士で一番スタイルがいいと噂される滝沢黒乃よりも出ている所は出て、引っ込むところは引っ込んでいる美しき戦乙女(ワルキューレ)のような容姿。

対して……。

視線を西京寧々に戻す。

 

特殊な性癖を持つ男が好きそうな、幼い容姿にストンストンストンな幼児体型。

勝ち目はゼロに等しい。

 

「なあ……チビス…西京。

彼はやめておけ。男なら私が神宮寺(じんぐうじ)に頼んで紹介してやる。

な?」

 

「急に優しくなるなよ!!なんだ、その優しい瞳は!!?

もしかしたらワンチャンあるかも知れないだろ!!

これでも……お、男から何度も告白されてんだぞ!!」

 

もちろんその男達は、法治国家において危険な性癖(ロリコン)という業を背負った紳士たちである。

そして、告白した彼らは全員が血で汚れた唇で地面との熱いベーゼをしながら崩れ落ちた。

彼女が自覚している強がりに滝沢黒乃は人生で今までに向けた事のない優しい瞳と声色で目の前の西京寧々の肩をポムっと叩いて語りかけた。

 

「ああ…そうだな。

うん、私が悪かった。

だから…一度冷静になれ、な?

そうだ、今までの事は忘れて一緒に酒を飲もう。

なに、すぐに新しい恋が見つかるさ」

 

「振られる前提で話を進めんな―――――!!!」

 

 

―――――。

 

二人の微笑ましいやり取りを遠くで見ていたギルガメッシュはエーデルワイスに声を掛ける。

 

「なあ…エーデ。もし、国を作ったら建設予定の学校に入学してみないか?

村の女性以外の友達も出来て、楽しいかもしれないぞ?」

 

「では…ギル。貴方も入学してください。

貴方も村の大人達や私以外の友人を作るべきです」

 

「そうか?」

 

「そうです。あなたは確かに英雄で私よりも大人です。

でも……もっと人生を楽しんだらどうですか?

まるで隠居したおじいさんですよ」

 

「か、考えておく」

 

「はい。そして……私はあなたが何処で隠居しようが何処で学生をしようが、どこまでもついて行きます」

 

今までに何度か見た事のあるエーデルワイスの笑顔が今まで以上に美しく感じたギルガメッシュは思わず顔をそむけた。

ここまでストレートな事を言われたのは人生初めての経験だった故に気恥ずかしくなり、戸惑っているのだ。

そして、そんなギルガメッシュに優しい目を向けていたエーデルワイスの視線が移動して瞳が鋭くなる

 

「ギル……敵が来たみたいですよ」

 

「ん?あ、ああ…そのようだな」

 

エーデルワイスの方に顔を戻して、視線の先を見るギルガメッシュ。

彼等の瞳には剣気を辺りに振りまき、一振りの大剣を肩に担ぎながらこちらに向かってくる一人の男の姿が映していた。

 

「やぁ、王者。ここは初めましてと言わせてもらおう」

 

「ほう?ここは(・・・)とは、どういうことだ?

(オレ)は貴様なんぞ知らんが?」

 

一定の距離で立ち止まった男はギルガメッシュの言葉に笑い出す。

 

「クックック、これでも指名手配を受けてるんだが……。

流石は第二次世界大戦の三大英雄様だ。

私の様な小物には興味ないとは……」

 

言葉を区切ると、男の顔から表情が消える。

 

「つれないではないか?貴様が日本軍に肩入れしたせいで、我が一族は英雄から咎人に変わったのだぞ?」

 

男の言葉で、ギルガメッシュは気づいた。

第二次世界大戦で自分が日本軍に加担した事により英雄から犯罪者の如くアメリカ国内で叩かれていた人物の事を……。

 

「貴様…ダムラス・マックーサーの縁者か?」

 

「ああ、そうとも。

私はダムラス・マックーサーの孫だ。

今は《解放軍(リベリオン)》の使徒。《剣聖》のヴァレンシュタインと呼ばれている。

今日は我が人生を困難なものへと変えた貴様を殺す為に来た」

 

表情は消えたまま、ドブの様に濁った瞳をギルガメッシュに向けるヴァレンシュタイン。

正直、あれは戦争でギルガメッシュからしたら逆恨み以外の何物でもない。

 

「復讐か……他には何かやることはなかったのか?」

 

「あいにく、ガキの頃からお前を殺して一族を復興させようと燃える祖母をはじめとする一族達から拷問みたいな修行をさせられてきたからな……。

私はこれ(・・)以外に知らんのだよ。

まあ、その一族を皆殺しにしたのは私なんだがね。

今は、世界を《弱肉強食》の本来の姿に戻す為に活動中だ」

 

ギルガメッシュの質問にスラスラと答えるヴァレンシュタイン。

そして、話は終わりだと言わんばかりに大剣を両手で構える。

 

「弱肉強食…か。

では、貴様が食われても文句はないのだな?」

 

ギルガメッシュの言葉と同時に彼の背後の空中に展開される五十を超えるバビロンの門。

 

「もちろんだ。出来るものならな!!」

 

こちらに向かって走って来るヴァレンシュタインにいつも通りにバビロンの武具を射出するギルガメッシュ。

斧と剣と槍の雨がヴァレンシュタインに向かって降り注ぐ。

しかし、彼に避ける素振りはない。

 

一体何を考えている?

 

疑問に思ったギルガメッシュは念の為に自動防御を行う円盤の宝具を周囲に展開した。

数多の宝具がヴァレンシュタイン目掛けて着弾し、爆炎と土煙を巻き上げる。

 

「奴め…一体何をした?」

 

土煙が巻きあがって数秒。

視界が曇ると煙の中からヴァレンシュタインが五体満足で現れた。

これにはいつの間にか戦闘を観戦していたギャラリーやギルガメッシュも驚いた。

 

「ならば、縛り上げてから殺してやろう」

 

ヴァレンシュタインの動きを封じる為にギルガメッシュはバビロンの門を彼の周囲に展開。

門からは《天の鎖》が射出され、蛇のように獲物を捕らえようとジャラジャラと音を鳴らしながら絡みつく。

しかし……。

 

「すり抜けた…だと?」

 

鎖が巻き付いたにも関わらず、ほんのわずかな動作で鎖から抜け出すヴァレンシュタイン。

これはおかしい。

《天の鎖》は確かに対神専用の宝具ではあるが、ほかのサーヴァントに対してもとてつもなく丈夫な鎖として、しっかりと機能はする。

ギルガメッシュの必勝パターンが通じないと分かったギルガメッシュはスキル《千里眼》を発動する。

これにより、視力が大幅に上昇し、瞳に映る自分よりも格下である相手のステータスを看破する事が出来る。

 

「そうか……そういうことか。」

 

「ギル、私が行きましょうか?」

 

「いや、問題はない」

 

ギルガメッシュの後方に新たに展開する百のバビロンの門。

そこから顔をのぞかせるのは全く同じ朱色の槍。

 

「これで終わりだ。雑種」

 

朱色の槍が射出され、ヴァレンシュタインに殺到する。

 

「はっ、バカが!!武器をいくら変えようと同じっ!?」

 

一番初めにヴァレンシュタインに到達した槍は……。

彼の左手を吹き飛ばした。

 

「ぬぅううううう!?」

 

腕を吹き飛ばされた痛みに耐えながら、残った右腕を使って大剣を盾にして防御に徹する。

全ての槍が射出された後、彼は吠えた。

 

「どういうことだ!?何故、私に攻撃が通った!?」

 

彼の伐刀絶技(ノウブルアーツ)はあらゆる摩擦をなくす絶対防御の力。

一族の人間もこの力によって容易に殺せたし、裏世界と表世界で有名な伐刀者も何人も殺してきた。

この力は彼にとって絶対であり揺るぎない最強の力だったのだ。

 

それが目の前の理不尽に紙切れの様に破られた今、彼の動揺は計り知れない。

 

「別に不思議な事ではないだろう?

貴様の手品が魔力に依存するものであるのなら、ただ魔力を食らって貴様の体を穿てばいい」

 

ギルガメッシュが放った槍はすべてが破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

ギルガメッシュが上位ランクに入りたての頃、多くの輝く顔面を殺処分して対キャスタークラスのサーヴァント用に収集した百の破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)

本家ではありえないゲームアバターならではの一種の嵌め業である。

 

「なるほど……つまり貴様の前では魔力によって行われるすべての防御が無意味ということか?

ふざけ過ぎだぁあああああ!!」

 

遠距離から放たれる超火力の武具に魔力を食らう破邪の槍。

あまりにも無敵すぎる敵にブチ切れるヴァレンシュタイン。

 

戦いを観戦していた騎士達も、彼の意見に同意した。

まさにチートである。

 

「もう、やっていられるか!!私は撤退させてもらう!!」

 

「させると思うか?」

 

大剣によって弾かれた槍も、ヴァレンシュタインの近くに刺さる槍も、粒子となってバビロンに回収されて再びギルガメッシュの背後に展開される

 

「アリスゥウウウ!!」

 

ヴァレンシュタインが怒りの声で叫ぶと同時に彼の影が、彼を一瞬で飲み込んだ。

後に残ったのは吹き飛ばされた彼の左腕と大量の血液がしみ込んだ地面のみだった。

 

こうして、権力者たちが引き起こしたエストニア戦争は終戦した。

 

連盟と同盟の全ての権力者達は加盟国の首脳達の要請により、全ての責任を取らされて解雇。

 

その上、連盟と同盟が背負わされた膨大な借金の一部を背負わされる事により資産のすべてを奪われて破産。

 

彼等は全員、行方不明(・・・・)となった。

 

もしかしたら、ギルガメッシュに腕を奪われた復讐者による八つ当たりで、この世に居ないのかも知れない。

 

そして、彼らが行方不明になると同時にギルガメッシュの建国宣言によって世界最強の国家が誕生した。

 

彼の財によって作られた国家という名の大要塞。

何者にも侵せぬ、絶対国家にして世界で最も文明が進むことが約束された先進国。

 

その国はこう名付けられた。

 

バビロニア

 

 



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14話※リメイク版

エストニアとの契約によって、エーデルベルク周辺の土地はギルガメッシュの領土となった。

エーデルベルク周辺を領土としたギルガメッシュは世界に向けて、建国宣言。

この建国によって、ギルガメッシュは王となり、エーデルベルク周辺地域はバビロニアという国へと変わった。

 

それと同時に、各国の衛星カメラがバビロニアとなった何もない土地に、入れ替わるようにウルク本社が出現したことを観測。

街ほどの広さを誇っていたウルク本社がマジックのように移動した現象に、ウルク本社があった日本をはじめ、世界が驚愕した。

 

世界が驚く方法で誕生したバビロニアの首都は日を追うごとにさらなる発展を遂げていく。

大砲が備え付けられ、バビロニアを囲うように出現した巨大で堅牢な壁。

 

世界中の誰もがバビロニアとギルガメッシュを注目する中、スキャンダルをすっぱ抜く事で有名な週刊誌《センテンス・スプリング》がウルクはギルガメッシュ所有の会社である記事を連載。

あまりにも出来過ぎた展開にネットでは、第二次世界大戦から計画されたギルガメッシュの《建国計画》として広がり、何時しかメディアもそれを取り上げた。

 

これにより、ギルガメッシュは武力のみならず、世界を相手に出来るほどの智謀を持つ《賢王》として認識され、世界からは英雄の中の英雄…《英雄王》と呼ばれるようになり、世界中の権力者達から恐れられた。

 

 

――――。

 

 

さて、建国宣言から数か月の時が流れた現在。

 

バビロニアはウルクの最新技術とギルガメッシュの宝具によって、時代の最先端を順調に突き進む。

 

他国に追従を許さない経済・武力・文明が揃う最強国家バビロニア。

 

曰く、国民の全てを潤す国。

 

その、素晴らしいバビロニア王国にも影はあり、繁栄の背後には犠牲(・・)があった。

 

 

 

「次の会談を行う者の情報収集を怠るな!彼等と世界情勢の情報は新しければ新しい程よい!

情報処理科に更新を怠るなと伝えておけ!!

奴らがこの国の利益のおこぼれに預かろうと考えているのは明白だ。

こちらが働いた分、奴らの口実が一つでも減ると心得よ!!

弱みを見つければ良し!!特別ボーナスと有給をくれてやる!!

エストニアと我が国の為に指を止めるな!!」

 

『はっ!!』

 

首都の中心に建設された宮殿では黄金の青年が玉座で仕事をしている。

バビロニアの王、ギルガメッシュである。

 

この国の国政は王である彼と自動人形を含む、世界から引き抜いた優秀な人材達によって支えられている。

特にギルガメッシュの仕事量はブラック企業すら青ざめる量であり、貫徹は当たり前の日常を過ごして居た。

国の繁栄は彼の犠牲によって成り立っているのである。

 

「秘書部、新しい人材の選別と教育はどうなっている!?」

 

『はっ!!順調に進んでおり、研修も終わってます』

 

「よし!それぞれの得意分野の部署にぶち込んでやれ!!

後、お前はそろそろ有休を使い、家族と存分に遊べ!!許可する!!

代理はルヴィアに任せよ!!」

 

『はっ!!有難うございます!!』

 

優秀なギルガメッシュの肉体とはいえ、彼が国を運営できるほどの能力を発揮しているのには理由がある。

 

ゲームシステムにあった《クラスチェンジ》というスキルだ。

 

クラスチェンジとは、複数のクラス適正を持つサーヴァントが一定のレベルを超える事で与えらえるスキルである。

ジル・ド・レェならキャスターからセイバーへ。

アルトリアならセイバーからランサーへ。

または一般市民であるNPCへの攻撃によってカルマ値を上昇させる事によって習得する《オルタ化》と言うスキルも存在する。

 

ギルガメッシュは《クラスチェンジ》を使用する事によって、戦闘力を大幅に下げる代わりに領土や国を自分の陣地にする事の出来る《陣地作成A》を得た。

これにより、バビロニアを《工房》として設定した彼は魔術を用いて《工房》である、国の情報をゲームの様にパラメーターや詳細を脳内で見る事で、バビロニアの情報を把握し、適切な判断と国の運営を行う事が出来るのだ。

もし、これがなかったらへっぽこな彼は王にならなかったし、恐らく自動人形であるアンジェリカが女王として君臨していただろう。

 

「ええい!!アメリカのポップスターの来訪などアンジェリカに対応させよ!!

この間、完成したアヴァロンスタジアムの使用を許可する!!

空港警備隊とスタジアムの警備はやって来る観光客の為に数を増員させよとエーデに伝えよ!!」

 

『ギルガメッシュ王!エストニアの学生たちの社会見学ですが…』

 

『ギルガメッシュ王!日本の総理大臣が会談を求めています!!』

 

『ギルガメッシュ王!新たに決まったエーデルワイス殿の試合の日時ですが…』

 

『ギルガメッシュ王!《解放軍》と思われるテロリストを確保いたしました!!』

 

『ギルガメッシュ王!中国の国家主席が留学生と人材を送り、企業交友を図りたいと連絡が!!』

 

「やかましい!!順番に報告しろ順番に!!

一から順番に片づけてくれる!!」

 

画面すべてに映る秘書室の職員達の案件を全て解決していくギルガメッシュ。

当然、その表情は疲労の色が非常に濃く出ていた。

 

 

―――――。

 

 

仕事を片付ければ片づけるほどに《幸運A》に因って導き出される必要以上の結果と増える国民達の期待と仕事。

彼は三日ぶりに帰還する事の出来た自室の椅子に座り、テーブルに突っ伏しながら、この負のスパイラルに悩まされていた。

そんな彼に微笑み、ギルガメッシュの為にお茶とおにぎりとデザートの軽いお菓子を夜食に差し出すエーデルワイス。

 

「上手く行っていてもここまで大変とは……。

覚悟していたが、この僅かな期間で国の運営が想像以上に凄まじいものであると痛感した」

 

「確かに、ギルの仕事量は異常だと思います。

でも皆が、貴方の判断によって国が発展した事で生活が楽で楽しいと、国民達と国営に関わる職員達全員が、貴方に感謝していました」

 

ちなみにエーデルワイスであるが、彼女はギルガメッシュの代わりにバビロニアの代表騎士としてKOKに参加。

僅か一年で公式戦最強の世界ランキングトップ騎士、《比翼》のエーデルワイスとして活躍し、バビロニアの軍事部で新兵の教育をしている。

忙しい彼女であるが、ギルガメッシュが帰っているという情報を得ると、今のようにギルガメッシュの為に、彼を労ったり夜食を作るなどして良妻ぶりを発揮。

 

国民とエーデルワイスの両親は二人の結婚を楽しみにしており、どちらが告白するかが国民達の賭けの対象となっている。

ちなみに一番に賭けられているのは『エーデルワイスの告白で結婚』である。

市によっては大穴として『エインズワース社長との結婚』 『遠坂凛とルヴィアの二人を嫁にする』がある。

 

知らないのは本人達ばかりだ。

 

「ギル、そろそろお休みを取ったらどうですか?

いくらギルが、常識外の存在とはいえ、そろそろ限界でしょう。

スカウトした優秀な人達が基本過程を終了しています。

そろそろ、人に任せてみてはどうでしょう?」

 

「……ああ、そうだな。

仕事が忙しすぎて奴らの存在を忘れていた」

 

労わるように肩に手を置くエーデルワイスに言われた事で、新しい人材の事を思い出したギルガメッシュ。

彼は、久々に仕事を休んで親友たちに会いに行く事にした。

 

久々の日本に何気ない会話が出来る数少ない親友たち。

彼等に会う事を決めた彼の顔から若干、疲労の色が消え、食べ始めた夜食がいつも以上においしく感じるのは決して、勘違いではないだろう。

 

 

 

 



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15話

エーデルワイスの言葉と、職員達の頑張りによって休日をもぎ取ったギルガメッシュ。

そんな彼に合わせて、予定を調整してくれた親友たち。

 

三人はいつもの通り、黒鉄家の離れにて世間話に興じていた。

 

――――。

 

酒を飲み、つまみを食い何気ない爺さん達の談笑。

ギルガメッシュはこのなんとも言えない空間に癒されていた。

 

「ところでお前さん…あの娘は連れてこないのか?」

 

「おお、そうだそうだ。

いつになったらお前の弟子を紹介してくれるんだ!!」

 

「ジジイばかりの空間にアイツを連れてこれるわけがないだろう。

あと、寅次郎はKOKで会っただろう」

 

思い出したかの様にエーデルワイスの事を話題に出す龍馬とそれに追従するようにテンション高く話し出す寅次郎。

そして、二人の言葉をバッサリと切り捨てるギルガメッシュ。

 

「まぁ、俺達三人の空間に連れてくるのはどうかと思うが……。

あれだけの美人なら気にならないわけがないだろう。

俺の弟子である孫は可愛げがないし…最近は日本支部の支部長になって暇なんだよ」

 

「俺の弟子は……最近、修行の合間に鬼気迫る表情で牛乳を飲んだり、小魚を食ってる姿が怖くてな……。

最近話も出来ないし、おちょくる事も出来なくてつまらんのだ。

刺激が欲しいぜ」

 

退屈そうな顔の二人。

どうやら刺激に飢えているようだ。

 

「……なら、龍馬ちょうどいい暇つぶしがあるではないか?」

 

チラリと部屋の窓の方に視線を動かすギルガメッシュ。

 

「ん?ああ、最近手合わせをねだっていたからな……。

でもよ、俺はもう年できついんだよ。

もう、かつてのように木刀や刀は振れねぇよ」

 

ギルガメッシュの言葉に反応し、気配に気づいた龍馬も窓の向こうに居る人物に向け、視線を動かす。

確かに龍馬の言う通り、枯れ枝のように腕が細くなってしまった今の状態では手合わせは不可能だろう。

 

「たしか……曾孫の長男坊だったか?

Aランクで黒鉄家と日本の期待の星らしいな。

何度か見た事があって気配は覚えているぞ」

 

寅次郎の言葉が窓の人物に聞こえたのだろう。

窓のすぐ下あたりからガサゴソと音が鳴る。

 

「ふ、曾爺の様子が気になっての行動か……。

随分可愛らしいではないか」

 

曾爺に構って欲しいが、寄ってくることの出来ない龍馬の曾孫を想像して頬が緩むギルガメッシュ。

しかし、曾孫の行動に嫌そうな顔をする龍馬と微妙な顔をする寅次郎。

 

「いやいや、お前さんは見た事がないからそんな事が言えるんだよ。

アレはそんな可愛い性格じゃない」

 

「ああ、あの坊主の目。

お前さんも見たら、そんな事は言えないな」

 

微妙な顔のまま、うんうんと頷く二人。

実に仲が良い。

 

「では……会ってみるか?」

 

龍馬の提案に乗る事にしたギルガメッシュは、()を突きながら歩く友人の後ろについて行く。

家の廊下を渡り、外に出る。

 

するとギルガメッシュ達の目の前に瞳をギラつかせた目つきの悪い着物姿の少年が木刀を構えて立っていた。

 

「俺と勝負しろ」

 

少年の立ち居振る舞いと瞳を見て納得した。

確かにこれは可愛げがない。

少年の瞳は年頃の物ではなく、かつて世界大戦で戦場を駆け回り、最強の名と力を求めた獣。

黒鉄龍馬の瞳を彷彿とさせる。

 

「なるほど…確かにお前の言う通りだったな」

 

「だろ?」

 

少年を見て納得したギルガメッシュに何故かドヤ顔の龍馬。

それにイラついたのだろうか?

少年はギルガメッシュ達に向かって速足で突き進み……。

 

「行くぞ、《英雄王》!!」

 

「ん?」

 

何故かギルガメッシュの鳩尾に向かって突きを放った。

まさか自分に向かってくるとは思っていなかったギルガメッシュだったが、戦場で鍛えられた条件反射で木刀を片手で引っ掴み、少年の顔面に蹴りを入れた。

 

「ぶっ!?」

 

「……あ」

 

手加減したとは言え、英雄の蹴り。

死にはしなかったが、少年は後方へと吹っ飛び一メートルほどゴロゴロと地面を転がった。

全身が土に汚れ、まるで爆死したヤム〇ャのようなポーズで止まった少年。

その姿は中々に痛々しい。

 

「……おいおい、子供相手にやり過ぎじゃね?」

 

「……」

 

龍馬の言葉に冷や汗を流すギルガメッシュ。

彼も、攻撃をされたとはいえ、ボロ雑巾のようになった少年にやり過ぎたと後悔が襲う。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

地面に寝転がったままの少年に不安を覚えたギルガメッシュは恐る恐る少年(ヤ〇チャ)に近づく。

少年(〇ムチャ)に返事はない。

胸が規則正しく、上下に動いている様子から脳震盪で気絶しているようだ。

 

「龍馬…お前の曾孫は一体どういう教育を受けているんだ?」

 

「知らねぇよ……。家は何故か、俺を含めてこんなのばっかだ」

 

少年(ヤム〇ャ)はこの後、黒鉄の使用人たちによって病院へと運ばれる。

使用人たちに運ばれていく姿を見送ったギルガメッシュは、長生きできない一族だと心の底から思った。

 

そして、龍馬によく似た眼をする小さな求道者と出会いは、若い姿のギルガメッシュにとって時代の流れをつよく感じさせられる出来事だった。

 

 



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16話

赤座(あかざ)(まもる)

 

黒鉄家の分家にして現当主。

ブクブクと肥え太り、権力欲が強い男だ。

 

彼はギルガメッシュが王となると同時に大企業の本部を失った事で責任を取らされ、騎士連盟と政府の地位を追いやられた上層部達に成り代わった人間の一人。

 

ある者は日本の未来を託した。

 

ある者は無能を後継者にして背後で操る事にした。

 

そして、赤座の様に責任を世論に追及される前当主をさらなるスキャンダルと御しやすい取り巻き達に金をまき散らし、その地位を奪う者。

 

新しい上層部となった人間達の大半は税金を私欲につかって己の欲を満たす日常を目標に、日本の立て直しを模索していた。

そんな時、騎士連盟の倫理委員長に就任した赤座の元に一本の電話が掛かって来た。

 

内容はギルガメッシュ王が黒鉄本家の天才児である黒鉄 王馬に暴行。

ケガを負わせて病院送りにしたと言うスキャンダルだった。

 

「デュフフフ。来ました来ました……私の時代が来ましたよぉ」

 

「あらあら、嬉しそうね。

何かいい事でもあったのかしら?」

 

お腹の贅肉を震わせ、委員長室で気持ち悪く笑うスーツ姿の赤座と冷たい瞳で赤座に話しかける黒いワンピースを着た女性。

 

「ええ、ええ。

中々、弱点を晒さない化け物が調子に乗って自ら我々に弱点を晒してくれたのです。

嬉しくて小躍りしたい気分ですよ」

 

「そうなの?報告では国政をほとんど一人で担った、頭のキレる化け物と聞いていたけど……。

バカと天才は紙一重ってやつかしら?」

 

「デュフフフフ。お陰で予定よりも早く、貴女方との約束を守る事が出来そうですよ」

 

満面の笑みで笑顔を浮かべた赤座は重い体を立ち上がらせ、杖を突きながら目的の場所へと向かうのだった。

一人、委員長室に残された女はポケットからスマホを取り出す。

 

「アリス、ギルガメッシュは日本に居るわ。

計画通りに出来るだけ引き留めるから上手くやりなさい」

 

『…分かりました』

 

「後……ヴァレンシュタインは元気にしてる?」

 

『片腕を失いましたが、先生は元気です。

毎日、英雄王の恨み節を呟きながら片腕だけで戦えるようになる為の修行をしていますよ』

 

「そう。てっきりあまりの力の差に絶望して、戦えなくなったと思っていたわ」

 

『先生は執念深い人なので、それはないと思います』

 

「じゃあ、頑張んなさいね。

この計画の要は貴方なのだから……」

 

『はい』

 

電話の向こうに居る少年の返事を聞き終えた女は通話を切り、邪悪な笑みを浮かべながら赤座()の元へと向かった。

 

「さあ、英雄王、道化と共に踊り狂いなさい」

 

 

―――――

 

 

「ガハハハ!まあ、気にすんなよ。

家の坊主の耐久値は普通のガキと違ってかなり高い。

ケガも大した事ない、なにも問題はないさ」

 

「そうか?」

 

「おうおう、孫夫婦も『未熟な息子が悪い、寧ろ謝罪しておいてください』と言っていたぞ」

 

「本当に強者が絶対なんだな……この家は」

 

龍馬の曾孫をノックアウトしたギルガメッシュは色々と呆れ、寅次郎は周りの雑音を無視するかの如く、瞑想状態に入っていた。

黒鉄本家の長男が救急車に運ばれた時は、犯人に怒り狂ってかなり騒がしかった家の人間たちも、犯人がギルガメッシュである事を知ると熱い掌返しを見せた。

今では救急車に運ばれた哀れな長男の事は忘れ、盛大に寅次郎とギルガメッシュにごますりをしているのだ。

 

「ささ、龍馬様もギルガメッシュ様も一献いかがですか?」

 

「ほら、寅次郎様の皿が空になってるぞ!!新しいつまみを持ってこい!!」

 

「いやはや、龍馬様も人が悪い。

ギルガメッシュ様と寅次郎様がやって来ているのなら我々にも連絡をくれればよい物を……。」

 

「全くですな。

所でギルガメッシュ様は独身と聞き及んでおりますがお相手はおりますかな?

居ないのでしたら是非、うちの娘など……」

 

「寅次郎様もよろしければ、うちの息子を弟子に……」

 

次から次へと顔を見るだけでもムカムカする連中の相手を右から左に流すように処理していくギルガメッシュ。

もし、長男を病院送りにしていなければ、目の前の黒鉄家の人間たちを半殺しにして、国に帰る勢いだ。

 

久々の休みであるはずなのに、疲れとストレスを溜める一日になりそうだと、軽率な行動を起こした自分を呪いつつも、彼は欲望に忠実な黒鉄家の人間の相手に胃腸を痛めるのだった。

 

 

 



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